読者参加型SS スーパーロボット大戦 無限戦争 (ダス・ライヒ)
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第一弾 生贄たち
歪んだ理想郷


スパロボの闘争大好きおじさん、ヴィンデル・マウザーが自分と戦争大好きな人たちの為に作った世界の紹介だよ~。


 永遠の闘争。

 それは、地球連邦軍特殊任務実行部隊「シャドウミラー」の指揮官、ヴィンデル・マウザーが提唱する平和によって人々を腐敗させないための処置。あるいは戦士たちの楽園。

 だが、彼が求める闘争は腐敗に活を入れるための小規模なテロや内乱では無く、大規模な総力戦、即ち全面戦争レベルであり、腐敗どころか待っているのは崩壊である。

 しかし、ヴィンデルはその自己満足と自己陶酔の永遠なる闘争にこだわり、自身にとっての理想郷作りの為に数々の反乱を起こすも、結局は平和を願う者たちか、強大な力を持つ者によって敗れ去る。

 

 そのはずだった…。

 混沌の神であるゴッド・カオスは、ヴィンデル・マウザーの世界に混乱しかもたらさない自分勝手で自己満足な理想に目を付け、ありとあらゆる世界を混乱をもたらすために彼を復活させたのだ。

 復活したヴィンデルは、ゴッド・カオスの加護を受け、様々な世界で自身の理想である「永遠の闘争」を実現させるために火種をばらまき、戦争を起こさせることに成功する。

 いくつかの世界では、平和を守ることを志す者たちの手によって事前に阻止されるか止められたり、強大な力を持つ支配者の世界では返り討ちにされた。

 

 いくら平和を願う者たちの力や、強大なる支配の力に何度負けても、己の野望を諦めないヴィンデルではない。

 自身を蘇らせたゴッド・カオスにヴィンデルは、戦争状態の世界を融合させると言う狂気の計画を提案し、かつて四つの世界を不安定に融合させ、混沌の世界を生み出した悪魔の兵器「時空振動弾」を彼に与える。

 この混沌をもたらす悪魔の兵器を入手したヴィンデルは、己の理想郷である「永遠の闘争」を生み出すべく、戦争状態の幾つかの世界を融合させようと起動させる。

 

 これを秩序の女神であるポーラが、指を咥えて見ているわけではない。直ぐに争いの絶えない混沌の世界を生み出そうとするヴィンデルに対し、自身が蘇らせた戦士たちで討伐隊を編成し、即刻差し向けた。

 ヴィンデルは自分の野望を阻止するための討伐隊が来ることを予想しており、策を巡らせて討伐隊を迎え撃つ。

 討伐隊はヴィンデルの野望を阻止しようと全力で攻撃したが、その思いは空しく、彼の狂気に思える抵抗に阻まれ、時空振動弾は作動してしまう。

 時空振動弾はありとあらゆる戦争状態の世界を融合させるようにヴィンデル自身の手で調整を受けおり、正常に稼働した時空振動弾は標的に設定した世界を次々と巻き込み、彼の理想郷である永遠なる闘争の世界を誕生させた。

 彼の野望を止めるために差し向けられた討伐隊は、時空振動弾の余波に飲み込まれ、全員が消息を絶った。

 

 かくして、自身の野望を実現したヴィンデルは、その自分だけの理想郷で永遠なる闘争を楽しみ、あるいは人類を腐敗させないための戦争を起こす為に影より暗躍し続けた。

 

 

 

 融合世界「永遠の闘争」。

 ヴィンデル・マウザーの作り上げたその世界では、彼の暗躍によって未だに争いが続いていた。

 様々な世界、思想の違う高度な科学力を持つ国家間に統一政権、無法者たちがいきなり一の世界に集められたのだ。当然ながら混乱は巻き起こり、全面戦争へと突入。戦国時代に突入するかに見えたが、各勢力は互いに同盟を結び、多国籍軍を結成した方が敵対勢力に対抗できると判断した。

 先んじて同盟を結び、多国籍軍を編成したのは宇宙側の国家間であった。彼らの共通の敵は地球に住まう勢力であり、エリアンを含める種族間や思想を問わずに惑星やコロニー国家群による同盟を結成。その名も自由惑星同盟。地球を敵とする惑星やコロニー国家間を中心とした勢力である。*1

 人為的に遺伝子の組み換えで誕生したコーディネーターと呼ばれる人々が住むコロニー国家であるプラントが、最初に惑星ヘルガーンにて誕生した国家であるヘルガストと同盟を結んだことから始まり、そこから続々と宇宙人勢力や地球統一政権からの独立を目指すコロニー国家群が参加。残党勢力であるジオン残党やコヴナント残党、その他諸々を含め、アストラギウス銀河のバララント連合軍までが参加し、一大勢力となる。

 

 この一大宇宙勢力である惑星同盟軍は、思想の違いで互いにいがみ合い、未だに連携も出来ていない地球勢力に対し、同盟軍は初の大規模反抗作戦である「地球侵攻作戦」を展開。地球勢力はそれぞれ独自に迎撃を行うが、単独であったために圧倒的物量を前に敗退を繰り返し、やがては地球から叩き出されてしまう。*2

 宇宙連合軍に地球より叩き出され、ようやくのところで連合軍を結成した人類軍であったが、連合艦隊は足並みが揃わず、勢いに乗った同盟軍艦隊によって太陽系までからも追い出されてしまう。

 太陽系からも追い出された地球勢力は、なし崩しに母星より離れたアルファ・ケンタウリ星系の農業惑星ヴェクタに身を寄せる。

 アルファ・ケンタウリ星系もまた同盟軍の脅威に晒されており、決して安全とは言い難かったが、同盟軍に対抗すべく、人類軍はようやくヴェクタでまとまった連合軍を結成。その名も地球連邦統合政府。通称、統合連邦、連邦軍である。*3

 コヴナントより脱したエイリアンのエリート(サンヘイリ)族より元コヴナント海軍の艦隊運営を担っていた人員を、彼らの母星であるサンヘイリの現政権の軍事支援を条件に軍事アドバイザーとして呼び寄せ、強力な宇宙艦隊の編成に成功する。*4

 その強力な艦隊を手に入れた連邦軍は、主力である宇宙軍のみならず、奪還のための地上軍に更なる増強を行い、太陽系奪還に向けての反抗作戦の準備を着々と進める。

 

 無論、地球を返還する条件で自治独立を勝ち取ろうと画策していた同盟軍が反抗作戦の兆しを見逃すはずがなく、惑星ヘルガーンの衛星軌道上に艦隊を集結させ、連邦艦隊が集結している惑星ヴェクタに大攻勢を仕掛けるが、太陽系を戦場にしたいヴィンデルは事前に連邦側に情報を流しており、容易く撃退できた。

 同盟軍のヴェクタ侵攻艦隊迎撃にはセル・ヴァダム艦隊も参加しており、同盟軍宇宙艦隊は戦力回復の為、暫くは防衛戦闘行動を余儀なくされる。

 

 侵攻軍の撃退に成功し、同盟軍の太陽系防衛にも支障を与えることに成功した連邦軍は、バララント軍と同じアストラギウス銀河のギルガメス軍との同盟を結び、更に戦力を拡大させ、兼ねてより準備していた太陽系奪還作戦を決行。破竹の勢いで太陽系の大部分の奪還に成功し、遂には念願の地球奪還にまでこぎ着けるも、同盟軍の決死の抵抗に遭い、地球の半分程度しか解放できなかった。

 そこから何度か攻勢を仕掛けるが、永遠の闘争を求めるヴィンデルの手により何度も失敗し、地球での戦いは膠着状態となり、戦争は彼の理想の所為で泥沼化した。

 

 膠着状態は一年にも及び、地球環境の悪化と膠着状態を打破するため、連邦軍は狂気とも思える作戦を実行する。

 その作戦の概要を手に取るように分かっていたヴィンデルは、更なる戦争激化と自分にとって目障りな者を始末するのに利用すべく、画策し始める。

*1
通称、惑星同盟軍。あるいは同盟軍

*2
なぜ地球勢力が連合軍を結成しなかったかは、秦の支配者であるヴィンデルの暗躍の所為である。

*3
戦争を長期化させるために、ヴィンデルが工作していた。

*4
連邦宇宙軍でサンヘイリ等によって編成された宇宙艦隊は、ゼル・ヴァダム艦隊と名付けられた。名前は艦隊幹部に訓練を施したサンヘイリの現政権のリーダーであるアービターの本名に由来する。




キャラ募集の受付は、活動報告にて行います。


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サイクロプス

ネタバレ。
開幕、闘争大好きおじさんウキウキ。


「ほぅ、中々面白いことを思い付く。半径十キロメートルを電子レンジの中身にするとは。ふむ、使えそうだ」

 

 闘争を好む自分にとっては理想郷、他人にとっては歪んだ地獄のような世界を生み出した元凶であるヴィンデル・マウザーは、自分の牙城より連邦軍の狂気染みた作戦を知り、興味を示した。

 

「腐った者どもや目障りな者たちを消すのに好都合だな。でっ、どれほど居るのだ?」

 

『あぁ、お前の言っていた者どもは全て配置している。無能な味方ほど、脅威の物は無いからな。それに都合の悪い連中も配置済みだ。守備軍の主力はコロニー連合軍(UCA)の第6軍と地球連合軍第十一軍、ギルガメス軍第十三軍の三つだ。人員は使い捨て前提だよ』

 

 自分にその作戦を知らせた連邦軍の高官に対し、どれほどその基地に、自分が嫌いな腐敗した高官や目障りな者たちが配置されているのかを問う。

 これに高官はヴィンデルが言う者たちは全て配置しており、上にとって都合の悪い人間も配置していると答えた。更に守備軍の主力は、使い捨て前提の人員で編成された部隊であることも告げる。

 

「人員の身元を調べたが、どいつもこいつも、その年齢になるまで働かなかった怠け者共か。まさに使い捨てに相応しい物よ」

 

『親のすねかじり共は、各コロニーの行政に無理を言わせて家から引っ張らせた。優秀な兵士が前線で戦っているというのに、こいつらは何故かのうのうと生きている。お前も許せんだろう?』

 

「許さんよ。私の理想郷に、そのような人間はいらん。存在を許す者は、闘争を求める者のみ。怠け者は死すべき存在なのだ」

 

 自分の世界には、戦わない怠け者の存在は許さないと、ヴィンデルは険しい表情を浮かべながら答えた。

 ここは彼の理想郷、永遠の闘争の世界。闘争を拒む者、闘争に参加しない者の存在は許されない。闘争を求める者こそが、存在を許される世界である。それが、ヴィンデルの理想郷のルールで、実に歪んだ世界だ。

 

『他にも、特殊隠密作戦に従事させていた傭兵部隊を含めた用済みな者、軍規違反者、懲罰部隊などを入れ込んでいる。総兵力数は、ざっと三百六十万と言ったところか。これなら、宇宙人共に罠だと感付かれずに済む。戦略的には大損害であるがな』

 

 そう語るヴィンデルに、高官は顔をしかめながら、生贄にした三つの守備軍の他にも、用済みの傭兵部隊や軍機違反の常習犯、懲罰部隊を編成に組み込んだことを伝えた。

 編成を聞いていたヴィンデルは、他にもいると判断して、それも生贄の編成に加えろと告げる。

 

「なに、人員は他にもいる。そう言えば、異世界より迷い込んできた女どもは?」

 

『あぁ、イブ人とかいう女だけの種族の難民か? そいつらは、受け入れ先を今…』

 

「生贄にしろ。そいつ等は、この我が理想郷に腐敗を持ち込みに来た害虫だ。一人残らずだ」

 

『おいおい、彼女らには役割が…』

 

「貴様、誰のおかげでその地位に就いていると思っている? 私の言うことにせねば、どうなるか分かっているな?」

 

『わ、分かった…! その難民船団も編成に組み込もう…! お前には、感謝しきれんことをしてもらったしな…』

 

 異世界より来た女性だけの種族の難民も、生贄の編成に加えろというヴィンデルに、彼女らに将兵の性処理をさせようと考えていた高官は異議を唱えるが、彼は彼女らが自分の理想郷に腐敗を持ち込んできた害虫であると言って、その高官を脅す。

 ヴィンデルのおかげで今の地位に就いている高官は真っ青になり、彼の機嫌を損ねて今の地位を奪われることを恐れ、脅しに屈して難民船団も守備隊の編成に加えた。

 こうして、防衛戦のシナリオがヴィンデルの思い通りとなる中、特殊な設備で自爆させられる基地より、出撃した艦隊がある情報を入手していたので、高官にそれを問い合わせる。

 

「して、あの基地より逃げ出した艦隊が居るな? 出撃した艦隊は地球連邦宇宙軍第十七艦隊、最近編成されたばかりの艦隊か。兵員は敗残兵と新兵の集まり。艦隊提督はホワイト中将。貴様、知らなかったのか?」

 

『っ? 初耳だ。おそらく、ホワイト中将の独断だろう。すまない』

 

「貴様には特に期待はしていない。おそらく、自分が抹殺されたことに感付き、自分だけ逃げようと出撃したのだろう。だが、想定済みだ。コロニーレーザーで消してやる」

 

『こ、コロニーレーザー!? そんな物、私は聞いていないぞ…!?』

 

「貴様の知る必要はない。貴様は、私の言う通りにすれば良いのだ」

 

 出撃した艦隊の指揮官が、自分の抹殺する予定の連邦軍の将軍であった。無論、これもヴィンデルは想定しており、自分の手ごまである連邦軍の高官が知らないコロニーレーザーと言う戦略兵器で始末しようと画策していた。

 それも聞いていなかった高官は慌てたが、ヴィンデルは知る必要が無いと告げ、問いかけて来る彼を無視して通信を切った。

 次にヴィンデルは、コロニーレーザーを所持する惑星同盟軍にコンタクトを取るため、同盟軍の高官に連絡を取る。

 

「私だ。コロニーレーザーの充填率はどうか?」

 

『お、お前か!? 今は戦闘中だぞ! 充填率はまだ発射段階ではない。それにUNSCとISAの連合艦隊に、味方の艦隊が乱戦状態に持ち込まれている。例え撃てるとしても、射線上に味方がいるのだ。撃てるわけがない!』

 

 連絡に出た同盟軍の高官は、そのコロニーレーザーの司令官であったのか、戦闘中であることを告げる。彼もまたヴィンデルのおかげで今の地位に就いているのか、通信を切らずに、連邦軍の攻撃を受け、充填率もまだ撃てる状態では無く、撃てるとしても射線上に味方がいるので撃てないと答えた。

 だが、ヴィンデルはそんなことを気にするタマではない。冷酷で闘争を好む彼は、充填が完了次第、コロニーレーザーを今から言う座標に撃てと命令する。

 

「味方が居るだと? フン、それがどうしたのだ。今から送る座標に、照準を向けよ。貴様の昇進を約束しよう」

 

『なに、撃てというのか!? いくらお前が背後に居るとはいえ、味方艦隊も消し飛ばした同盟軍内での私は…』

 

「案ずるな。私の手に掛かれば、貴様の不始末などどうとでもなる。大体、五十パーセントほどになってから発射するのだ。それで十分に後からやって来る増援艦隊も消せよう。分かったな?」

 

 今から言う座標とは、消す予定のホワイト提督の艦隊だ。同盟軍のコロニーレーザーを使い、彼を消し去ろうと言うのだ。

 味方を撃てば、同盟軍内での地位が危ぶまれると高官は断るのだが、ヴィンデルがその件に関しては、自分の力でどうとでもなると言って、彼を従わせた。

 

『わ、分かった…! 私の昇進、頼んだぞ…!』

 

「なに、貴様に味方を殺させるのだ。それくらいの地位は約束してやる」

 

 昇進を約束させ、コロニーレーザーを発射させることができたヴィンデルは、通信を切ってからあの高官もそろそろ潮時であると判断し、始末するために刺客を送ることを決断する。

 

「奴も潮時か。さて、刺客を送り、奴を始末するか。下手に生き残られて、私の元に嗅ぎつかれては面倒だ。この私の理想郷の維持の為にな…!」

 

 こうして、世界を腐敗させないため、否、自分だけの理想郷を維持する為の裏工作を終えた。

 

 

 

 一方、上の都合で切り捨てられたとは知らず、中国南西部にある中国旧人民海軍の最大拠点であった海上基地を、大規模な改装工事を行った連邦軍の大規模な基地にて、来るであろう同盟軍の大規模攻撃に備え、防衛線の構築が行われていた。

 

「ポイントアルファに第81MS連隊の配備を急げ!」

 

「ぼさっとするな! いつ敵が来てもおかしくないんだぞ!!」

 

「クソったれ、最新鋭機とUNSC、ISAの隊を全部どころか、他の精鋭部隊も引き抜きやがって! おかげで守備隊は、ひよっことロクデナシしかいないじゃないか!」

 

 基地はかつてそこを保有していた海軍の如く、慌ただしかった。

 情報でここも攻撃される可能性が高く、いつ敵が攻めて来るか分からないのだ。なのに軍上層部は、反抗作戦の為に熟練の将兵揃いのUNSC陸軍と海兵隊、ISA陸軍、その他諸々の精鋭部隊を、基地の守備軍より引き抜いたのだ。

 上層部が代わりに寄越したのは、碌な実戦経験も無い将兵で編成された部隊であり、数こそは多い物の、実戦経験のある将兵にとっては不安でしかない。敵を有利に迎え撃てる位置に各守備隊を配置し、実戦経験の低さを工夫で補うしかない。生贄にされるとは知る由もない司令官は、その防衛配置に悩まされる。

 この慌ただしさを、かつては巨大な宗教の軍隊であったコヴナント軍に属していたエリート(サンヘイリ)族の宇宙人、ブル・ヴィンは同じく出向していた同族らと共に眺めていた。

 

「まるで内戦中の我が母星のようだ。地球での戦いは直ぐに終わると思っていたが、向こうにも我らと同じ軍事顧問がいるようだ」

 

「はい。早くこの惑星での戦いを終わらせて、サンヘイオスへと帰りたいものです」

 

 地球での戦いが長期化したことが、敵側に自分らのような軍事顧問が居ると言うヴィンの言葉に、副官のサンヘイリは早く母星であるサンヘリオスへと帰りたいと愚痴をこぼした。

 彼らの母星はこの地球ではない。遠く離れた星系にあるサンヘイリと言う惑星だ。そこは地球よりやや過酷ではあるが、慣れれば越したことは無い。

 現サンヘイリの政権のリーダーで、サンヘイリ族で最も名誉のある戦士であるアービターより指示を受け、軍事顧問として連邦軍に同行したヴィン達遠征隊であるが、地球に来て半年以上経っても、連邦軍からの帰国の許可どころか、サンヘイリからの迎えも来ない。

 長引く戦闘で次々と同胞たちが数々の戦場を共に戦ってきた散っていく中、まだ人類と対立していたコヴナント戦争時代より戦ってきた歴戦錬磨のヴィンでも、他のサンヘイリと同様に疲弊している。帰りたいと愚痴をこぼした副官と同じ気持ちである。

 

「だが、この戦闘が終われば、サンヘイリ(くに)へと帰れるように取り計らってくれるそうだ。皆の者、あともう少しで帰れるぞ」

 

「おぉ、懐かしの我がサンヘイリへ…! これは生き延びねば…!」

 

「やりましょう隊長! 侵略者共の将の首を土産にして、サンヘイリへ凱旋しましょう!」

 

 この基地での防衛戦が終われば、故郷へ帰れるように手配してくれると連邦軍の将官が自分に告げたので、ヴィンはそれを部下たちに告げた。

 もう直ぐ故郷へと帰れると分かった彼らの士気は上がり、戦士族としての誇りを胸に、この防衛戦を生き延び、戦果を土産に故郷へ凱旋しようと奮い立つ。

 だが、彼らは知らない。その連邦軍から生贄にされていると言うことを。歴戦の戦士であるヴィンでさえ、故郷に帰れると思っており、自分たちが基地の守備隊と同じく生贄にされるとは思ってもみなかった。

 

「なんだ、あのでっかい船は?」

 

「マクロスだよ。SDF-1って名前だ。軍艦だけど、まるで難民船だな」

 

 基地の守備軍とサンヘイリと同様、敵の戦力の大部分を奪う為の生贄にされた事など思っても居ないコロニー連合軍(UCN)所属のMSパイロットであるリュウ・パーシー中尉は、外から見える巨大な宇宙船、SDF-1マクロスを見て、同僚にあれは何だと問うた。

 これに事情を知っている同僚は、その船はマクロスであると答え、難民船であると告げた。

 ちなみに、リュウが乗るMSは、地球連邦軍ではガタ落ち機体であるジェガンJ型である。

 

「難民船? あんなの、聞いたことも無いぞ。何処の世界のだ?」

 

「異世界だよ。異世界から、こんな戦争だらけの世界に逃げ込んで来たんだとさ。女だけの種族って話だぜ」

 

「女だけか…」

 

 マクロスに乗っている大部分は異世界より逃げてきた難民であり、それも女性だけの種族であると聞かされたリュウは、いやらしいことを考えていた。

 それが顔に出ており、考えていることが分かった同僚は、マクロスに行くのは止めておけと告げる。

 

「おい、あの船は売春宿じゃねぇぞ。あれも俺たち守備軍の所属だ」

 

「あれも友軍だって? 難民船なのに」

 

「この戦闘が終わって防衛に成功すれば、受け入れ先を見付けてやるそうだ。ちなみに、バルキリーとかいう三段変形する戦闘機や、MSのパクリみたいなデストロイドを戦力として保有している。伊達にここまで来たわけじゃねぇな」

 

 あのマクロスが守備軍の戦力であると聞かされ、驚いたリュウはその理由を聞けば、防衛用の可変戦闘機やデストロイドと呼ばれる兵器を多数保有していることを知らされた。

 

「なるほど、あれは空母だったのか。護衛艦は何処にいっちまったんだろうな?」

 

「さぁな。あれだけの戦力で大勢の難民を守れるんだ。必要ないんだろうな」

 

 マクロスが巨大な空母であると分かったリュウは、護衛艦が何処に行ったのかを口にすれば、同僚はバルキリーなどの強力な兵器を搭載していることから、居ないんじゃないかと答え、彼もその言葉に納得して煙草の箱を取り出し、一本取り出して口に咥えた。

 

 

 

 生贄にされる地上の守備軍の将兵が知らない巨大な地下深部の空間にて、上向きにパラポラアンテナ九基ほど設置されていた。

 

「異常なし! システム正常!」

 

「サイクロプス、設置完了しました」

 

「ご苦労。後は同盟軍が、この基地に十分に入り込むのを待つだけだな」

 

 アンテナが正常に稼働することを確認した技術士官は、サイクロプスと呼ばれる特殊な自爆システムの使用を判断した将官に伝える。

 この深部にある地下空間は、時の旧中国共産党が更なる海洋進出を図るべく、海軍戦力の主力となる艦艇や潜水艦を造船する為に人為的に掘られ、建造された施設であったが、今は中国共産党は存在しない。現在の所有者は統合連邦軍である。

 同盟軍に地球全土が占領された際は、再び海上戦力強化の為に造船ドックとして使われたが、連邦軍に取り戻されて以降、造船ドックとして使われず、自爆システムを設置する設備として使われている。

 サイクロプスを設置するには打って付けの空間であり、戦局打開のために、この基地が選ばれたのだ。

 尚、サイクロプスと言うのは、パラポラアンテナをギリシア神話に登場する怪物である一つ目巨人のサイクロプスにちなんで名付けられた。概要は簡単に説明するなら、巨大な電子レンジだ。発動した範囲内にいる生物は体内の水分が蒸発し、内部から爆発するように破裂する。例えるなら、トウモロコシの乾燥した粒が、加熱されてポップコーンのように破裂する感じである。

 

「まずは油をひき、粒が十分に集まったところで、一気に強火で加熱だ。余りに強過ぎて焦げてしまうが、まぁ、食べる気にはなれんな。エイリアンや遺伝子改良を加えた粒など」

 

 そう言って将官は遠隔差動装置を見ながら、サイクロプスの作動をポップコーンの調理に例えた。

 

「さぁ、準備が完了次第、我々は撤収だ。遠隔差動装置に異常はないな?」

 

「はっ、三度も確認しました。正常に稼働します」

 

「ご苦労。では、ポップコーンを食べながら、同盟軍(つぶ)が十分にこの基地(フライパン)に溜まるのを待つとしよう。まさに一石二鳥だな、腐った食材も償却できるのだから」

 

 悪い笑みを浮かべながら、将官はサイクロプスの準備が完了次第、基地より撤収することを部下に伝えた。

 安全な範囲から、粒に例えた同盟軍がフライパンであるこの基地に集まるのを待ち、サイクロプスを作動させるために…。




現在、活動報告にてキャラクターを受付中!

人間ポップコーンにならないので、ご安心を!


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コロニーレーザー

まだ募集キャラは登場いたしません。

幼女戦記より、ワンキャラのデグ様が参戦します。それとガンダム最強の金髪、クルーゼも登場。


「難民の救出ですか」

 

「はい、我が同胞たちはあの歪んだ世界で戦わされようとしています。一刻も早く、救出する必要性があります」

 

 ヴィンデルの脅威が及ばない異世界にて、マクロスに収容されている難民であるイヴ人救出を、二度目の転生を迎えたターニャ・フォン・デグレチャフは、目前の椅子に腰かける彫刻のような高貴な女性より命じられた。

 ターニャの体系は、一度目の転生と同じく幼児体系のままだ。そんな彼女が身に着けている軍服は、ナチス政権下のドイツ国防軍の空軍用将校用勤務服を纏っている。

 直立不動状態を取り、命令を聞き取る中、難民が居る場所の詳細を聞く。

 

「それで、難民らが居る場所は?」

 

「これをご覧ください。どうやら、この旧海軍基地を改装した拠点にて、その保有戦力の為に防衛戦力に組み込まれてしまったようです」

 

「なるほど。マクロスキャノンが撃てますからな」

 

「マクロスキャノン? なぜ知ってるのです?」

 

「独り言です」

 

 難民の居る場所があのサイクロプスが仕掛けられた基地であると分かれば、ターニャはマクロスは主砲であるマクロスキャノンが撃てるから戦力に組み込まれたと口にした。

 それを一度も口にしていない高貴な女性は、なぜ知っているのかをターニャに聞いたが、彼女は生前の知識を隠すために独り言だと言って誤魔化す。

 ちなみに、ターニャはその基地にサイクロプスが仕掛けられていることを知らない。

 

「して、配置された防衛区は…敵の攻撃が最も集中する場所ですな。おそらく、受け入れ先を見付けてやると言われて、敢えて応じた」

 

「はい、その通りだと思います。酷い話です。おそらく売春を強要されたのでしょう。そして、矢面に立たされた。あのような残虐な世界から、一刻も早く同胞達を救わねば」

 

 目前の高貴な女性は自分の身を心配せず、ただヴィンデルの歪んだ理想郷に迷い込んだ同胞たちの心配ばかりしていた。

 

「(このお花畑め、やるのは私だぞ。少しは私を心配しろ)」

 

 内心、花畑のような思想を持つ高貴な女性、イヴ人を見下しつつ、自分の身を心配しろと言う。前の世界もそんな感じであり、所属していた参謀本部より、体の良い駒使いとされ、各地を配下の部隊と共に転戦していた。

 二度目の転生は待遇は良かったが、扱いは前の参謀本部と同様であり、酷いことに使える部隊の規模は大隊規模に抑え込まれている。しかも人員は、同胞を危険に晒したくないという理由で、使い捨ての人間である。イブ人は自分を監視する為に配属された士官一人。優秀であるが、融通が利かないのが難点だ。

 

「それで、帰りはマクロスに乗って帰宅で?」

 

「そうなりますね。フォールド航行、もし使えればこの世界へ帰投できますが、あの状況で修理ができるとは思いません。念のため、使用可能な艦隊を同伴させましょう」

 

 あの難民を乗せたまま戦闘を強制されているマクロスで、この世界へ帰投するのかを問えば、ターニャの上官である高貴なイブ人は、長距離航行システムが使えればと答えた。故障している可能性も考慮し、システムが使える艦隊を念のために付近に配置すると告げる。

 帰りが十分な準備がしていることが分かれば、ターニャは命じられた任務を遂行するべく、準備を行うために退室すると言って脇に挟んであった軍帽を被り、彼女に向けて敬礼した。

 

「ありがとうございます。ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐、任務に邁進して参ります!」

 

「作戦の成功を祈りますわ」

 

「では、これにて失礼!」

 

 作戦の成功を祈るとの言葉を賜り、それからターニャは後ろ向き、彼女の豪華な執務室を後にした。

 部屋の出入り口の左右の脇にはStg44と言う古めかしい突撃銃を持った白い派手な軍服を着た二人の衛兵が控えており、ターニャがドアを開けて出ていけば、脇を締めて直立不動状態を取る。ターニャが部屋から十分に離れた後、元の脇を解いて主君の警護を続ける。

 綺麗に掃除された廊下を歩く中、あのヴィンデルの歪んだ理想郷の世界の、基地の防衛線の布陣を見て、まだ男だった時のあることを思い出す。

 

「(あの布陣、何処かで見たような気がするな。確か、中学生の時に見ていたガンダムSEEDの…なんだったかな…?)」

 

 あの布陣を見て、転生する前の男で、中学生の頃に見ていたアニメのことを思い出したが、あまり良く見ていないために思い出せなかった。むしろ、それが正解だと言うことは、基地内部に侵入するまで、ターニャは気付くことは無かった。

 

 

 

 ところ変わり、ヴィンデルの歪んだ理想郷の宇宙にて、コロニーレーザーを破壊せんとする統合連邦側のUNSCとISAの両海軍の連合艦隊と、それを守る同盟軍宇宙艦隊との激しい攻防戦が行われていた。

 UNSCとISAの連合艦隊の編成は、それぞれの既存のフリゲート艦と駆逐艦、巡洋艦、通常の艦載機やMSなどの機動兵器を搭載するための空母を合わせ、五十隻以上の大艦隊であった。

 対する防衛側の同盟軍艦隊の編成は、フリゲート艦や駆逐艦数十隻、巡洋艦九隻に戦艦三隻、空母六隻と言う同盟宇宙軍艦隊の標準的な編成だ。だが、巡洋艦の三隻はザフト軍のローラシア級である。連合艦隊も、MSや機動兵器を搭載できる艦艇を欲してか、アイリッシュ級巡洋艦六隻、アレキサンドリア級巡洋艦八隻を含んでいた。

 艦載機である機動兵器は、連邦軍がジェガンD型とJ型、ジャベリン、105ダガー、バスターダガー、ダガーL、ウィンダム、クランシュ、量産型ヒュッケバインMk-Ⅱ。同盟軍はギラ・ズール、RFドムにRFゲルググ、バタラ、ゲイツR型、ザク・ウォーリア、ドラド、ダナジンと言う物。

 既に両軍の艦隊は乱戦状態へ突入しており、両軍の無数の兵器の残骸が宇宙空間に漂っている。それでも、両軍は諦めることなく、攻防戦を繰り広げている。

 

「充填率は?」

 

「四十五パーセントです! あと五分ほどで、十分発射可能!」

 

「五分か…! 気を付けろ、敵はまだいるかもしれんからな!」

 

 十分に発射できるまで五分は掛かると、技術士官より知らされて分かった高官は額に汗を浸らせた。

 コロニーレーザー周辺には、最低限の戦力が残っているが、敵の数は多いので、何隻かがコロニーレーザーを破壊するために、本隊を囮にして攻撃してくる可能性がある。だが、この高官はヴィンデルに刺客を向けられていることを知らなかった。

 

「っ!? レーダーに反応! UNSC海軍の駆逐艦、当コロニーレーザーに接近中!」

 

「UNSCの駆逐艦だと!? MACガンを撃ち込まれるぞ! 撃たれる前に撃沈しろ!!」

 

 UNSCの駆逐艦が接近していることを知らされた高官は、直ちに撃沈しろと叫んだ。

 彼が慌てるのは、UNSCの殆どの戦闘艦艇にはMACガンと呼ばれる強力なコイルガンを搭載している。故にフリゲート艦でも、コロニーレーザーを容易く撃破できる火力を有しており、例え一隻の駆逐艦でも十分に脅威なのだ。

 

「あんなデカい船一隻に何をしておる!? 早く撃沈せんか!」

 

「敵戦が速く、照準が合いません!」

 

「MS隊を展開させろ! 駆逐艦一隻如き沈めろ!」

 

 たかが一隻の駆逐艦を沈められない友軍艦隊に対し、高官は怒鳴り散らして、MSによる迎撃を命じる。

 これに応じてブレイズウィザードを装備したザク・ウォーリア四機編成の小隊を送り込み、高速で接近してくるUNSCの駆逐艦を沈めようと接近するが、駆逐艦は搭載していたエールストライカー装備の105ダガー四機を展開する。

 同じ換装機能を持つMSと遭遇したザク小隊は、コロニーレーザーに接近しようとする駆逐艦を沈めようとするが、ダガーに阻まれて向かえない。

 

「セクター小隊、敵艦載機に阻まれて苦戦中!」

 

「味方に当たっても構わん! 何としても沈めろ! 充填率は!?」

 

「もう少しで五十パーセントです!」

 

 そのままMACガンを撃ち込まれると思った高官は、味方ごとコロニーレーザーを撃とうという暴挙に出た。

 だが、コロニーレーザー破壊を命じられた決死隊の駆逐艦は、何処から来た全方位ビーム攻撃で艦載機諸とも全滅した。全方位ビーム攻撃を行った機体、それもガンダムタイプのMSは、迎撃に向かっていたザク小隊の前に姿を現す。

 

『な、なんだお前は!? 所属と姓名を名乗れ!』

 

 全方位ビーム攻撃を行ったとされる発射機を数機ほど本体に戻したガンダムタイプは、こちらにビーム突撃砲を向けるザク・ウォーリアのパイロットの要請に応じる。

 

「ザフト軍クルーゼ隊の隊長、ラウ・ル・クルーゼだ。搭乗機はZGMF-X13Aプロヴィデンス。こう言えば分かるかな?」

 

『CP、そのクルーゼとか言うのはザフト軍に存在するか? 機体もだぞ』

 

 要請された通りに所属と姓名を名乗るクルーゼなる仮面の男に対し、パイロットはコマンド・ポストに確認を行う。

 だが、そんな男とそのプロヴィデンスガンダムなる機体は、同盟傘下のプラントには存在しなかった。自軍に存在しない者と分かれば、パイロットは直ぐに敵と見なして発砲する。

 

『なに、存在しない? よし、死ね!』

 

「そうか。私はこの世界には存在しないのか」

 

 敵に銃口を向けられ、更には存在しないとまで言われたクルーゼは、ほくそ笑んで自分を包囲していたザクを、プロヴィデンスガンダムのドラグーンシステムで一掃した。

 

「セクター小隊、全滅!」

 

「なにっ!? 速すぎるぞ! あのガンダムを撃ち落とせ!!」

 

 クルーゼのプロヴィデンスガンダムの存在を知らされた同盟軍高官は、直ちに撃墜を命じる。

 コロニーレーザーを目掛けて高速で迫るプロヴィデンスに、数々の同盟軍機や迎撃用に待機させていたリオンと呼ばれる戦闘機に手足を生えた機動兵器を向かわせる。レーダーに映る無数の反応とモニターに見える無数の敵機を見たクルーゼは、動ずることなく、逆にこの状況を楽しんでいた。

 

「存在しないのであれば、派手にやらせてもらおう」

 

 そう言って目前の無数の敵機に向け、オールレンジビーム攻撃であるドラグーンシステムを使ってビームのカーテンを作り上げ、大多数の敵機を撃墜した。無数の爆発の連鎖が巻き起こる中、クルーゼはビームのカーテン攻撃を生き残り、攻撃を仕掛けて来るコヴナント軍のセラフ級戦闘機に対して関心の声を上げた。このセラフ級戦闘機は、シールドを持ち合わせているのだ。

 

「ほぅ、シールド付きの戦闘機か。ドラグーンの攻撃を耐えるとは、中々の物だ。だが…!」

 

 編隊を組んで攻撃してくるセラフを褒めつつ、クルーゼはドラグーンの集中砲火を全方位から浴びせ、一瞬のうちに編隊を全滅させる。

 

「だが、余り長くは持たないようだな。さて、本命に向かうとしよう」

 

 セラフのシールドがそれほどの耐久力を持っていないことを見抜き、クルーゼは向かってくる敵機を破壊しながら、一隻の同盟軍の駆逐艦を沈めた後、コロニーレーザーの格納庫に強行着陸を行った。

 自分の機体を破壊しようとする物全てを破壊し、それからコクピットハッチを開けて内部へと侵入する。当然ながら、侵入してきたクルーゼを殺そうとする警備部隊や保安隊も出て来る。しかし、クルーゼの身体能力も高く、一瞬にして制圧されていく。

 

「ぬぉぉぉ!」

 

「ビームの剣か。ビームサーベルのようだが…」

 

 生身での圧倒的強さを持つクルーゼに対し、同盟軍側のサンヘイリ族はエナジーソードを抜いて斬りかかるが、あっさりと避けられて背後に回られ、首元にナイフを刺されて息の根を止められる。

 

「ふむ、貰っておくか。このエリートにはもう必要もない物だ」

 

 仕留めたサンヘイリよりエナジーソードを奪えば、それと拳銃を使って次々と自分を迎え撃つために現れる同盟軍の将兵らを殺し続け、コントロールルームまで迫る。

 コントロールルーム近くまで迫ったところで、自棄を起こした小柄な体系を持つグラント(アンゴイ)族の兵士が、両手に起動させたプラズマグレネードを持って特攻してくる。

 

「う、うわぁぁぁ! 一緒に死ねぇぇぇ!! ぶげっ!?」

 

 同盟軍の兵士の首をエナジーソードで斬り落としたクルーゼに、特攻を仕掛けるアンゴイであったが、間合いに入った瞬間に蹴飛ばされ、逆にコントロールルームのドアを破壊されるのに利用される。

 破壊されたコントロールルームのドアから爆風が巻き起こる中、クルーゼは敵が混乱している内に侵入して、中に居る高官を除く全員を手に持ったライフルで射殺した。それから怯えている高官に向け、銃口を向ける。

 クルーゼが来たことに驚いた高官は、彼の存在を知っていたのか、驚愕した表情を浮かべる。

 

「お、お前は…!? クルーゼ!? な、なぜ貴様がここに…!?」

 

「私が来たと言うことは、お前が要済みだというサインだ」

 

「そ、そんな! 私は何も、何も喋っていないぞ!? こ、ころさ…」

 

 自分が来たことを知って命乞いをする高官に対し、クルーゼは同情することもなく、ヴィンデルから用済みであるサインであると語り、彼に向けて何の躊躇いもなしに引き金を引いて射殺した。

 ヴィンデルがその高官を始末するために送り込んだ刺客は、クルーゼであったのだ。ヴィンデルの命令通りに高官を始末したクルーゼは、もう十分に撃てるほど充填したコロニーレーザーの発射準備に取り掛かる。

 

「時間通りだ。さて、ホワイト中将。貴方にもご退場願おう」

 

 発射準備を完了したクルーゼは、照準を基地から独断で脱出したホワイト中将の艦隊に狙いを定め、発射ボタンを押した。

 十分にエネルギーを充填したコロニーレーザーは、その巨大な砲口より高出力のビームを発射する。射程圏内に居た連邦や同盟の両軍の艦艇や艦載機はビームに飲み込まれて消し炭となり、照準に定めたホワイト中将の艦隊に向けて飛んでいく。

 

 

 

 コロニーレーザーより発射された高出力のビームが、自分に向かっていることを知らないホワイト中将は、宇宙空間に上がって安堵しきっていた。

 

「ふぅ、私も用済みであったとは。だが、これで安心だ。これほどの数、奴の刺客も容易に近付けまい」

 

 艦隊の旗艦であるラー・カイラム級の艦橋内で、安心しきっていたホワイト中将であったが、レーダー士官からの知らせで、自分を消し去るビームが迫っていることを知らされる。

 

「なに、前方より高出力ビームがこちらに来る? 本当かそれは?」

 

「何の騒ぎだ?」

 

「前衛の戦隊より、高出力のビームが当艦隊に接近中との報告が」

 

「まさかそんなはずはない。あのコロニーレーザーは、UNSCとISA海軍の連合艦隊が担当しているのだ。発射されること無く、破壊されるのが…」

 

 前衛の艦艇より、コロニーレーザーのビームが接近していることを知らされたホワイト中将であったが、UNSCとISAの連合艦隊の実力を信じ込んでおり、発射されることは無いだろうと思っていた。

 だが、現実では発射されており、既に回避しきれないほど、艦隊を飲み込むビームが迫っていた。それを、レーダー士官は慌てた表情で知らせる。

 

「高出力ビーム、当艦隊に接近中! 直ちに回避! 回避だ!!」

 

「な、なにっ!? 発射されたというのか! コロニーレーザーが!?」

 

「回避運動! 面舵一杯!!」

 

 その知らせに、ホワイト中将は顔を青ざめさせた。

 必死に回避を命じる艦長であるが、間に合わず、ホワイト中将の乗艦は巨大なビームに僚艦共々飲み込まれた。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

「まさか、これも想定の範囲内だというのか!? ヴィンデル・マウザー!!」

 

 自分を消そうとするヴィンデルの名を叫びながら、ホワイト中将はコロニーレーザーのビームに飲み込まれて消滅した。

 かくして、このコロニーレーザーの連邦宇宙軍第十七艦隊の攻撃を合図に、サイクロプスが仕掛けられている基地への、惑星同盟軍の九百万と言う大兵力を投入した侵攻作戦が開始された。




次回より、募集されたキャラが登場します。

まだまだ募集中ですので、気軽にご投稿してくださいませ。
受け付けは、活動報告にて。


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大規模防衛戦その1

辻凪(つじなぎ)あやめ
マブラヴの世界より来た日本帝国軍の女性衛士。階級は少尉で所属は傭兵部隊。
この世界には、G弾投下のショックでやって来た。乗っているのは、77式戦術歩行戦闘機F-4J撃震。
機体がビーム兵装も持たないため、二級戦部隊に配置される。
原案はリオンテイルさん。

グリムリパー・ハルパニア
プロトタイプのブーストテッドマン。既に使い物にならない状態であり、使い捨て前提で基地に配置された。
本人は使い捨てにされたとは、思っていない。
機体はフォビドゥンガンダム。
こちらもリオンテイルさん。

ラナ
地球連合軍に属する19歳の伍長。
元エアレーサーで双子アイドルの姉の方。アイドルやりながらエアレーサーをしており、軍に徴兵された。
問題行動ばかり起こしており、軍上層部に双子揃って囮にされてしまう。
搭乗機はスピアヘッド。

ロナ
地球連合軍に属する19歳の伍長。
姉と同じく元エアレーサーでアイドル。実は男である。なんで女のように見えるかは、姉と母の所為である。
それでも姉が大好きであり、同じくエアレーサーをしていた為に軍に徴兵される。
当然、姉と共に問題行動を起こしていたので、囮にされた。
搭乗機はスピアヘッド

ターニャ・フォン・デグレチャフ
知るぞと知る最強の幼女で、生前が人事課に属する冷酷なサラリーマン。
二度目の転生を迎えたデグ様であり、記憶も存在Xの策略により受け継いでしまっている。
前の世界で死んだが、存在Xに対する信仰心を持たないと言う理由でまた幼女にされ、また軍人にされる。しかも、危険な地域で活動を主任務とする特殊部隊の長をやらされている。
イブ人と言う女性だけの種族として転生されており、更にはその中でも特殊な人種である「ロリータ」と言う生涯幼女な人種にされ、存在Xに死ぬまで幼女であることを強いられてしまった。


 コロニーレーザーでホワイト中将の宇宙艦隊が消滅したのを合図に、サイクロプスが仕掛けられた基地の衛星軌道上にて、同盟軍の大規模な降下部隊を載せた艦隊が集結し、搭載していた大量の降下艇やポッドを次々と目標へと投下していく。

 対策のための連邦艦隊が布陣を敷いていたが、圧倒的な数を前に全滅する。

 それはさながら、大量に落下してくる隕石のようであったが、地表を破壊する物ではなく、侵攻部隊を展開させる物であった。

 宇宙のみならず、地下や海上、海中からも恐ろしい数の同盟軍の侵攻軍が基地に殺到してくる。

 三方より攻撃を受けた囮にされた基地の守備軍は、その多過ぎる数の敵侵攻軍を前に、混乱状態に陥っていた。

 

「何なんだこの数は!?」

 

「こんなに出て来るなんて! 情報部は何やってんだ!?」

 

「とにかく迎撃部隊を出せ! 出せるもの全部だ! 傭兵共も出せ!!」

 

 守備軍本部は有象無象に来る敵部隊に混乱する中、迎撃部隊の展開を命じた。

 既に敵部隊の攻撃は行われており、先に発進したセイバーフィッシュやスピアヘッド、ロングソード戦闘機を初めとする迎撃戦闘機部隊の半数が、ミサイルやビーム攻撃で撃墜された。

 

「あんなんで私たちに戦えって言ってたの!? 正規軍のくせして! バルキリー隊は直ちに展開! デストロイド隊は所定の位置にて迎撃! いつものことよ! 生き残るわよ!!」

 

 正規軍は混乱する状況下であるが、難民を載せているマクロス級のイブ人の部隊は、幾度も似たような状況を経験しているためか、臨機応変に対応していた。

 敵が集中する方に配置され、マクロス級がデカ過ぎる所為か、同盟軍のリオンの大群が迫ってきた。直ぐにVF-1系統やVF-11系統を初めとするバルキリーで編成された迎撃部隊が、それを迎え撃つ。取りこぼした分は、マクロス級の対空砲火で対処する。凄まじい数のリオンが落とされているが、同盟軍は退くこともせず、その大規模な戦力を投入してくる。

 

「死ねぇ! エイリアン共が!!」

 

 それぞれ実戦経験のある部隊が臨機応変に対応する中、出撃を命じられた傭兵部隊も出動する。

 

『早く行け、コンドーム! 邪魔だぞ!!』

 

「またコンドーム呼ばわりなんて…! 辻凪あやめ、撃震、出撃します!」

 

 管制官より酷い蔑称を呼ばれたのは、この中では異質の存在である戦術機に乗る辻凪あやみは出撃した。

 そんな蔑称で呼ばれるのは、彼女が来ている衛士強化装備の所為である。戦術機に乗るためには、この装備を身に付けねばならない。その衛士強化装備は薄く、身体のラインが諸に出る物であった。

 事情を知らないこの世界の者たちは、それをコンドームや避妊具と言い、挙句にあやめを売春婦呼ばわりした。傷ついたあやめであるが、ヴィンデルの歪んだ理想郷には身寄りもないので、傭兵として生きていく他なかったのだ。

 出撃したあやめは、圧倒的物量で迫る同盟軍を見て、前の世界で見たBETAと呼ばれる自分の地球を侵略してきた宇宙生物のことを思い出す。

 

『敵は何機いるんだ!? うわっ!?』

 

「何よこの数…!? まるでBETAじゃない!」

 

 無線機より味方の兵士の悲鳴が聞こえる中、あやめはBETAを思い出しながら、地上や空から迫る無数の敵機に向けて突撃砲を放つ。何機かは撃破できたが、焼け石に水であり、倒しても撃ち落としても同盟軍の機動兵器や戦車、航空機は湧いて出て来る。あやめはそれに恐怖した。

 味方も奮闘しているようだが、圧倒的な敵を前にして、戦線を後退するばかりだ。レーダーを見れば、敵が来る方は赤い反応で埋め尽くされ、青く反応する味方の数が徐々に減っている。

 

「俺は! 失敗作じゃない! 最強の兵士だ!!」

 

 上空では、無数のリオンにディンやバビなどの空戦用機動兵器を相手に暴れ回っているフォビドゥンガンダムに乗るブーストテッドマンのグリムリパー・ハルパニアは、自分が失敗作でないことを叫んでいた。

 だが、この基地は既に爆破する予定であり、彼は守備軍と同じく生贄として配置されているとは思っていない。上層部よりそう信じ込まされているからだ。

 

「死ねぇ! エイリアン共! お前たちは、このグリムリパーが駆逐する!!」

 

 そうとは知らず、ハルパニアのフォビドゥンはその全ての兵装を駆使して無数の敵を相手に暴れ回っている。既に十機以上は落としていたが、敵軍は怯むことなく数の多さを生かして包囲している。

 その横を阿吽の呼吸のような二機のスピアヘッドが通過し、コヴナント軍のバンシー軽戦闘機の編隊を機関砲で一掃した。

 

『あのガンダム凄いね! 姉さん!』

 

「えぇ! 乗ってみたいとは思わないけど!」

 

 妹ではなく、弟であるロナにハルパニアのガンダムは凄いと言われた姉であるラナは、乗ってみたくないと返し、照準に合ったヘルガスト軍のエイタックを空対空ミサイルで撃墜する。

 

「私はあの難民が乗ってるバルキリーってのに、乗りたいんだけどね!」

 

『あれはロボットに変形するけど、戦闘機だからね! 僕もさ!』

 

 撃墜してから本当はバルキリーに乗りたいと言えば、弟のロナもバルキリーに乗りたいと言う。ロナは姉のことが好きなのだ。

 双子は軍に入る前は、エアレーサーをやりながらアイドルをしていた。だが、状況が悪化してエアレーサーの腕を軍が目を付けたのか、双子を軍に徴兵した。

 腕の良さから最新鋭の変形型MSに乗る候補に上がっていたが、問題行動ばかり起こすので、候補から外され、軍上層部の怒りを買って生贄としてこの基地の守備軍に配置された。腕前は凄いが、エースには敵わない。

 機動兵器の攻撃を避けつつ、リオンを共同で撃破してから、セラフ戦闘機に襲い掛かったが、シールドで機関砲による機銃掃射は防がれてしまう。

 

「あぁ! シールド持ち、うざい!」

 

『せこいよね!』

 

 シールドで自分たちの攻撃を防がれたことに、ラナは悪態を付き、ロナは姉の背後を取ろうとするリオンをミサイルで撃墜して、セラフ戦闘機はせこいと口にした。

 

「凄い数だ! こっちに何機か回せないのか!?」

 

『回せるわけないだろ! 現状の戦力で対処しろ!』

 

「で、出来るのか…!? この数を…!」

 

 ジェガンJ型に乗り、同型に乗る部下たちと共に迎撃に出たリュウであったが、無数の敵機を見て怖気づく。

 彼の小隊が担当する地区には、とてもではないが対処しきれない数の同盟軍参加勢力の戦闘車両にザウート、バクゥが迫って来る。対してこちらの戦力はジェガン四機にUNSCから給与された旧型のスコーピオン戦車二個小隊、同じく旧型のライフル類を装備した歩兵一個小隊だ。敵歩兵は連隊規模が迫ってきている。そんな戦力で、どう対処しろと言うのか。

 

「だ、駄目だ! 後退の許可は!?」

 

『後退だと!? 退くんじゃない! 航空支援を受けたければ、敵の航空機でも落としておけ! アウト!!』

 

「そ、そんな…!」

 

 後退の許可は出ないのかとコマンド・ポストに問えば、退くなと言われた。いくら航空支援を受けられるとは言え、あの数を抑えられる物じゃない。

 幾度かの実戦を経験して中尉にまで昇進しているリュウは逃げようと思ったが、他の部隊のことを考え、十五分以上はこの区画を耐えてみようと判断し、防衛している全ての部隊に通達する。

 

「みんな聞け。現状の戦力で対処するしか無くなった! 十五分ほどこの区画の防衛を維持する! 十五分後には、後退だ! 分かったな!?」

 

 そう防衛している部隊に言った後、リュウは前に出て押し寄せて来る同盟軍に向けてビームライフルを、僚機と共に撃ち始めた。

 

「クソっ、何と言う数だ! このままでは圧し潰されるぞ! 右舷はどうか!?」

 

 自分たち専用に改造した量産型ヒュッケバインMk-Ⅱで、防衛戦に参加したヴィン等サンヘイリ族も、有象無象の敵軍を迎撃していた。

 ギラ・ドーガやジンをプラズマガンで撃墜したヴィンは、部下に右舷の友軍部隊の様子を問う。

 

『駄目です! 通信に反応なし!』

 

『左舷は混乱状態の模様!』

 

「ぬぅ…! このままではこちらも包囲される! 後退せねば!」

 

 自分たちの右舷に居る友軍部隊は既に壊滅しており、通信機より反応がない事でそれが分かった部下は、直ぐにヴィンに報告する。左舷の方を見ていた部下も、そこに居る味方は混乱状態に陥って立て直しが不可能と判断し、上官にそれを報告した。

 左右が既に敵の手に落ちたと分かったヴィンは、ここで維持していては包囲されて壊滅させられると判断して後退を選択する。

 いくら自分らが強かろうと、味方があの様では数の暴力で磨り潰されるだけである。

 

「第二防衛ラインまで後退だ! そこで補給を行い、再び防衛戦を再開する! 我に続け!!」

 

『了解!』

 

 ヴィンの後退命令に従ったサンヘイリ族のサンヘリオスの剣の戦士たちは、プラズマライフルを撃ちながら第二防衛ラインまで後退した。

 

 

 

「海上の方は良く持ちこたえている…陸の方は第二防衛線まで後退か」

 

 基地より十キロメートルは離れたところで、戦闘の様子を測距儀で見ていたターニャは海上の防衛線は暫く持ち堪えれると判断し、陸は第二防衛線まで後退したことを確認した。

 上司より難民の救助を命じられ、この世界へ配下の部隊を連れて来たターニャは、偽装を施して待機している部隊を見る。彼ら彼女らでは、あの激戦区を潜り抜け、マクロス級まで辿り着くのは不可能と思う。

 目標であるマクロス級も見付けたが、敵が集中している区画で戦闘を行っているため、そこに辿り着けても、流れ弾で大部分が脱落するかもしれない。それに連邦軍の守備軍の布陣が、何処かで見たような気がする。それを見たターニャは、まるで自爆兵器を使う為の囮のような気がしてならない。その不安は合っているが、ターニャは思い出せない。

 

「まるで囮のようだが…うーん、何だっけかな…?」

 

 必死に思い出そうとするが、思い出せない。

 とにかく、基地に何か仕掛けられているかもしれないので、ターニャは部下たちに自分一人で確認してくると伝える。

 

「基地内に潜入する。お前たちはそこで待て。信号弾を挙げたら、あのマクロス級と合流しろ」

 

「逃げるつもりか?」

 

「何を言う? 帰還の手段は大尉が握っておるのだろう。逃げるつもりなら、真っ先に貴公を殺している」

 

 基地内に単独で潜入すると言うターニャに対し、監視員の大尉は逃げるつもりかと問う。これにターニャは、逃げるなら真っ先にお前を殺していると答え、浮遊してから左腕に装着している電子機器を操作を行う。

 言い忘れていたが、ターニャは生前も今も魔導士と呼ばれる兵科である。魔導士と言う兵科について、詳しい話を大分省くが、簡単に言えば魔法を使い、空を飛べたり出来る戦闘ヘリと言ったところだ。

 元の世界ではもう戦闘ヘリが普及した頃には消えてしまった兵科であるが、イブ人の残党勢力では現代の科学力を使ってかなりの進化を遂げていた。

 魔導士の必要な演算宝珠と呼ばれる装備は大きかったが、様々な世界の科学力で小型化に成功し、更には攻撃力も防御力も繁栄期よりも恐竜的進化を遂げている。ターニャもこれが前に生きていた時にあればと口にした程だ。その性能は訓練不足の魔導士でも、熟練の魔導士以上の動きが出来る程で、前の世界の魔導士が出来なかったことを殆ど出来る物だ。

 

「さて、基地に侵入して、何があるか見て来るか」

 

 ターニャはそう言ってから左腕の電子機器を操作し、自身の姿を消した。前の世界で限られた者しか出来なかったステルス迷彩である。

 最新技術を施した演算宝珠に導入された機能の一つであり、レーダーにも映らないので、容易に幽霊になれることからゴーストと呼ばれた。使用可能時間は一時間程度で、敵前逃亡を防ぐために味方のレーダーには映る仕様となっている。

 その機能を使い、完全に姿を消したターニャは、激しい攻防戦が繰り広げられている基地へと飛んでいった。




提供順に登場させて頂きます。

SEEDを視聴したことがあるデグ様は、果たして人間ポップコーン回を思い出せることが出来るのか…!?

キャラ募集はあと四日で締め切るよい。


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大規模防衛戦その2

ジョウ・エグザ
地球連合軍に属する寡黙な若手パイロット。階級は少尉。
情に厚く、傷付いた仲間を見捨てずに手を差し伸ばす。
搭乗機はダガーL(ジェットストライカー装備)

リューゴ・バーニング
エースパイロットの父を持つ連邦軍の若きパイロット。階級は准尉。
猪突猛進な熱血漢で才能に溢れるが、非常に無鉄砲な性格。
搭乗機はヘビーガン
両者とも原案はオリーブドライブさん。

リンネ・ネハーン
眼鏡を掛けた連邦軍に属するパイロット。階級は伍長。
元々軍医であるが、同盟軍に拉致された上官を助けに無断でMSに乗り込み、失敗した挙句に味方の被害を出したので、伍長に降格された。監視員が付いている。
搭乗機はジェムズガン

パーア・プリン
地球連合軍に属する頭のおかしくて自分勝手なおじさん。階級は中佐。
射撃の腕前はネームド級であり、七つの大罪を擬人化したような性格をしている。
搭乗機はジムスナイパー
両者とも爆雷地獄97さん原案。

ゼルム
本名不明の傭兵。ATであるスコープドックに好んで乗っているため、最低野郎(ボトムズ)と呼ばわれている。
しかし、傭兵としては一流である。
搭乗機はスコープドック(ネイビーカラー)に、ガトリング搭載のパックを付けた物。

ジャン・L(ラック)・フェイローン
コロニーの為に尽力しているUCA所属の中尉。
理想の上司だが、上司と部下には恵まれていない中間管理職。
搭乗機はストライクダガー(ジンの突撃銃二挺持ち)
両者とも影騎士さん原案。


 ターニャが良く持ちこたえていると言っていた海上の方でも、崩壊の危機が迫っていた。

 同盟軍の侵攻軍の数は、現状の戦力ではとても迎撃しきれず数ではなく、前衛の艦艇が何隻が沈んでいる。出撃した機動兵器部隊も、出撃した数の半数以上の数の残骸が海に浮かんでいる。

 基地の防衛艦隊の編成はミサイルフリゲートにミサイル駆逐艦と言う物だ。ビーム兵装も備えている。これほどの兵装を持ってしても、圧倒的な物量で迫る同盟軍の侵攻は食い止められない。

 

「残っているのは、俺とこいつだけか…!」

 

 ジェットストライカーを装備したダガーLに乗るジョウ・エグザ少尉は、被弾して動いていない同型機を抱えつつ、迫りくるディンなどの敵機に向けてビームカービンを撃って撃墜した。

 属する大隊と共に出撃して防衛戦を行っていたジョウであるが、彼と抱えている被弾した僚機を除き、全滅していた。

 そんな被弾している僚機を抱えているジョウのダガーLに、同盟軍は容赦なく追撃を掛けて来る。サブフライトシステムの類に乗ったギラ・ドーガが、味方のドートレスフライヤーを、ビームトマホークで切り裂いてから襲ってきたのだ。

 

「手負いでも逃してくれないのか…!」

 

 迫るギラ・ドーガに対しジョウはビームカービンで撃つが、シールドで防ぎながら迫って来る。友軍機を抱えながらの戦闘なので、回避行動が取れず、懐まで接近を許してしまう。

 ビーム・トマホークの間合いまで来たギラ・ドーガは、直ぐにそれを振り下ろして敵機の飛び道具を切り裂いた。直ぐにジョウは下がり、爆風で自分を見失っている敵機に向け、腰のビームサーベルを抜いて突いた。

 爆風が晴れれば、自分が突いたビームサーベルは敵機の胴体に突き刺さり、直ぐにサーベルを引き抜いて下がる。

 

「こっちにも!!」

 

 下がりながらサーベルを戻し、こちらに向かってくる戦闘爆撃機の編隊を確認したジョウは、ジェットストライカーの空対空ミサイルポッドを発射して一掃した。

 その直後に、連邦軍のヘビーガンが飛び出してくる。

 

「馬鹿かあいつ!? そこのヘビーガン、戻れ!」

 

 単独で敵機に突っ込んでいくヘビーガンを目撃したジョウは、それに乗るパイロットを注意したが、聞く耳持たずであった。

 

「死にやがれ! エイリアン共!!」

 

 単独で突っ込むヘビーガンのパイロットの名は、リューゴ・バーニング准尉。エースパイロットの父を持つ若き連邦軍のパイロットだ。猪突猛進な熱血漢で才能に溢れるが、非常に無鉄砲な性格をしている。

 故に単独で突撃を行い、味方を困らせている。

 そんな彼はサブフライトシステムの類に乗ったジンに体当たりを行い、落下していく敵機にビームライフルを何発も撃ち込んで撃破した。次に飛び掛かって来るダナジンに、素早く抜いたビームサーベルで突き刺し、更に切り裂いて撃破する。

 

「全く、化け物ばかりだな! お前らはよ!!」

 

 聞こえていない敵機に向けてそう吐けば、次なる敵機に襲い掛かる。

 敵部隊の注意は完全にリューゴのヘビーガンに向いているため、ジョウは敵の攻撃が集中しているマクロスへ迎えると判断し、直ぐに実行に移した。

 

『オラオラ! 来やがれ! エイリアン共がァーッ!!』

 

「チャンスだ…! 待っていろ、もう少しで助かるからな!」

 

 リューゴのヘビーガンが続々とくる敵機と交戦する中、ジョウは損傷した僚機を抱えながらマクロスへと全速力で向かった。

 

「くっ…! なんて数! これだけの戦力で本当に対処しろと言うの!?」

 

 リューゴのヘビーガンが多数の敵機を相手に暴れ、ジョウが損傷した味方機を抱えてマクロスへ向かう中、ジェムズガンに乗る眼鏡を掛けたパイロットであるリンネ・ネハーンは、モニターを埋め尽くすほどいる敵機に畏怖していた。

 

『ネハーン伍長! 何を呆けている!? 逃げると銃殺刑だぞ!』

 

 下がろうとするリンネのジェムズガンに対し、同型機に乗る監視員がビームライフルを向けたが、地上より来たビームを背後から受けて撃墜された。

 

『おわぁぁぁ!?』

 

「もう突破されたの!?」

 

『すまん、誤射した。照準が敵機と被ってしまってな!』

 

 監視員が乗るジェムズガンが地上からの攻撃で撃墜されたことで、もうそこまで突破されたと思ったリンネであったが、味方の誤射であった。

 味方機を誤射して言い訳をするジムスナイパーのパイロットは、パーア・プリンと呼ばれる階級が中佐の男であり、19歳の入隊時から地球連合軍に居るが、敵味方の区別がついていない。それに階級が中佐なのは、無差別に敵味方を撃っても任務は成功させているからである。数々の任務を成功させているだけであって、射撃の腕前は一流に当たる。

 そんな危険な男が乗るジムスナイパーは敵味方構わず高出力ビームライフルによる狙撃を行い、何機かを撃墜していたが、リンネの方にもビームが飛んでくる。

 

「何するの!?」

 

『そんなところに居るからだよ! オバハン!』

 

「なんですって!」

 

 危うく誤射され掛けたリンネはパーアに文句を言うが、当の男は彼女が気にしている歳のことを言って怒りを逆なでする。

 

『な、なんだこいつは!?』

 

 そんなパーアが乗るジムスナイパーは突如となく地中から現れたローカストのベルセルクに襲われ、MSですら粉砕するその腕力でバラバラに破壊された。

 

「歳のことを言うからよ!」

 

 地底人の怪物に襲われたパーアに同情することなく、自分の気にしていたコンプレックスを言った罰だと告げ、リンネは次にジェノアスを粉砕していたベルセルクに挑み、ビームサーベルで切り裂いた。

 余りの硬さに衛生兵期のレーザー攻撃が必要であったベルセルクであるが、MSのビーム兵器には敵わず、あっさりと切り裂かれて無力化された。

 

『グラントウォーカーノ巨人ダ!』

 

『ロケットランチャーヲ…』

 

「死ね! 地底人共!!」

 

 ローカストのドローンの一団に対し、リンネは容赦なくビームを放って消し炭にした。

 

「クソっ、なんでこうなるんだ!?」

 

 搭乗機をバラバラにスクラップにされたが、辛くも生きていたパーアは急いで基地へと逃げていた。

 

 

 

「凄まじい攻撃だな。後どれほど持ちこたえられるんだ?」

 

 ステルス迷彩を使い、基地の出入り口付近の接近に成功したターニャは、一度ステルス迷彩を解いて物陰に隠れた。

 ゲートが近くにあるのか、同盟軍の攻撃が集中しており、防衛についている連邦軍の部隊が猛攻に晒され、次々と撃破されていく。

 

『隊長! 隊長!? うわぁぁぁ!!』

 

『う、うわぁぁぁ! 止めてくれぇぇぇ!!』

 

『嫌だ! 家に返してくれ! 頼む! あぁぁぁ!!』

 

 守備についていたコロニー連合(UCN)軍のジェガンJ型やストライクダガー、スコープドックは次々と撃破されており、ゲートを突破されるのも時間の問題であった。

 だが、ターニャにとっては好都合だ。この混乱に乗じて、基地内に潜入することができる。ゲートが敵のミサイル攻撃によって破壊された直後、潜入しようと思い、ステルス迷彩を起動しようとしたが、背中にガトリングパックを背負ったネイビーカラーのスコープドックがゲートより飛び出してきた。

 

「情けない奴らだ。まぁ、着任してまだ日が浅い連中だからな」

 

 そのスコープドックに乗る本名が不明な傭兵ゼルムは、背中のガトリングと手にしているヘビィマシンガンでゲートに突入してくる同盟軍機の迎撃を行う。

 一気にゲートに突入しようとした同盟軍部隊はたった一機のスコープドックに次々と撃破されており、屍の山を築く一方だ。MSのジンとは言え、集中砲火を受けては一溜りもなく、蜂の巣となって地面に倒れた。

 

「あれは、ボトムズという奴だったかな? 全く、色々と出過ぎて思い出せんな」

 

 単独で無数の敵機の前進を阻むゼルムのスコープドックを見て、基地に仕掛けられたサイクロプスのことをターニャは思い出せない。更にそこへ、ジンの突撃砲を二挺持ったストライクダガーがゲートより飛び出してくる。

 

「ボトムズ野郎! 大丈夫か!?」

 

『ジャン・L(ラック)・フェイローン中尉か? 上司と部下は何処へ行った?』

 

「死んだよ。馬鹿な突撃をしてな!」

 

『そうか。俺たちだけで持ちこたえられるか、それが問題だ』

 

 飛び出してきた二挺のマシンガン持ちのストライクダガーを見て、乗っている人物に気付いたゼルムはその名を口にする。

 UCAに属するジャン・L・フェイローンは、搭乗機であるストライクダガーが両手に持っているそのマシンガンで、上空より飛来してくる同盟軍の航空戦力に向けて対空砲火を行う。

 その弾幕に数機以上が撃墜され、空からも近付けぬと判断した同盟軍の航空部隊は下がり始める。ちなみに彼は理想の上司のようで、属する部下たちや上司の辞書には突撃しかないようで、反撃の突撃をして全滅したようだ。

 傭兵と将校が守るゲートは鉄壁の守りを誇っており、同盟軍の前進は止まっていた。しかし、二人の注意は完全に同盟軍に向いているので、ターニャはステルス迷彩を起動してその隙にゲートへ侵入を試みる。

 

「なんであれ、チャンスだ!」

 

 直ぐにターニャはゼルムとジャンが守るゲートへ彼らに気付かれることなく潜入し、基地の内部へ入り込むことに成功した。

 基地内へ潜入すれば、自分に気付かず、同盟軍の迎撃に必死になる守備軍の将兵らの必死の声が嫌でも聞こえて来る。

 

「第一防衛ラインは完全に陥落したぞ!」

 

「第二防衛ラインは何処まで持ち堪えられる!?」

 

「知るか! とにかく増援が来るまで持ち堪えるんだよ!!」

 

「増援っていつ来るんだよ!?」

 

「そんなこと、俺が知るか! とにかく耐えろ!」

 

 大分混乱しているようだ。一体どこから命令が来ているのだろうかとターニャは気になり、受話器で連絡を取っている将校の近くに立って話している内容に耳を傾ける。

 

「なにっ!? 海上の第一防衛ラインが陥落しただと!? マクロスはどうなんだ!? まだ耐えてるだって!? 連中も下がらせろ! 奴らが落ちたら、こっちも持たんぞ!! とにかく司令部から何が聞こえてる? 何ぃ!? 臨機応変に対応しろだけが返って来るだけ!? くそっ、どうなってんだ!?」

 

「(ふむ、どうやら何かの囮にされているようだな。では、確かめてやろう)」

 

 内容は基地の司令部からに問い合わせても、臨機応変に対応しろと返って来るだけと言う物だったので、ターニャは更に詳しい状況を理解するため、司令部まで侵入しようと基地内の奥まで更に進んだ。




キャラ募集は、残り二日だよん!


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大規模防衛戦その3

ステパン・ルスラーノヴィチ・ドラグノフ
地球連合軍(ユーラシア連邦)に属する准尉。
戦車エースであり、MS六機を戦車で撃破した経歴を持つ。だが、戦争犯罪を犯した友軍に対する攻撃を行ったため、軍法会議に掛けられ、抹殺の為に基地の守備軍に配属させられる。
搭乗機は陸戦強襲型ガンタンク改
原案は黒鷹商業組合さん。

ティムキン
元レストラン店員のパイロット。荒事は苦手で臆病であるが、常に周囲を警戒して危機察知能力が高い。敵を倒すよりも、自分と仲間の生存力を上げるためにサポートに徹する。
搭乗機は複合装甲シールドを装備したGキャノン

エメルダ
面倒見が良いムードメーカー。戦場でも仲間を励まし、後方から支援する。
搭乗機はアデルマークⅡ・スナイプカスタム
両者とも原案はkinonoさん。

カルマ・フォルセティ
物心ついた頃に傭兵である義父に拾われ、義父に倣って傭兵になった青年。
戦場ではいつも先陣を切っており、搭乗機の必殺技であるジェットマグナムを多用する。
搭乗機は量産型ゲシュペンストMk-Ⅱ

ジークハルト・クリーガー
祖父の代からMSパイロットをしている地球連邦軍に属する少尉。
面倒見の良い性格で、非常に勘が良くて反応速度に優れている。
搭乗機はジェムズガン
両者とも原案はmikagamiさん。

ゲル・スラオム
サンヘリオスの剣に属する航空隊の兵士。
過去にコヴナント戦争に参加しており、敵前逃亡者を親の仇のように憎んでおり、自分の手で抹殺しないと気が済まない性格をしている。
ここに来ても敵前逃亡者を同族のみならず人間も殺しているため、注意を受けていた。
搭乗機はバンシー
原案はスノーマンさん。


 ターニャが基地内にある司令部へと潜入を試みる中、地上では既に退役である陸戦強襲型ガンタンクを改造し、防衛戦に参加していた地球連合軍に属するステパン・ルスラーノヴィチ・ドラグノフは、無数の敵機を相手に奮闘していた。

 

「全く! 愛車を潰されてこいつに乗って戻ってくれば、さっきより数が多いじゃないか!!」

 

 コクピット内で煙草を咥え、機体の両手に持って居るガトリングガンを乱射するステバンは、先ほどより敵の数が増えていることに悪態を付く。

 第一防衛ラインまでは、リニアガン・タンクに乗っていたステバンであるが、撃破されて脱出し、このガンタンクに乗って第二防衛ラインに戻って来たのだ。

 周囲に居る敵を片付けた後、機体を突撃砲形態に変形させ、後退する友軍部隊とは逆方向の前線へと向かう。

 

「潰されるーっ!」

 

 突撃砲形態を取りながら突き進む陸戦強襲型ガンタンクに、群がるグラント(アンゴイ)族は逃げるが、逃げ遅れた数体は無限軌道で潰される。

 

「退けっ! グラント共が!!」

 

 ステバンは真下に居るアンゴイ族を潰しながら敵部隊に向け、一門から二門にした220ミリキャノンを撃ち込んだ。狙ったのは、海上より上陸してきたザフトの水陸両用MSであるゾノだ。威力は二門に増えて絶大であり、一撃で撃破した。

 次に僚機である水陸両用機であるグーンを撃破し、機体を変形させて再び両手に持ったガトリングガンで、上陸してくる敵部隊や航空部隊に向けて乱射する。

 この一帯の防衛区画は、ステバンのガンタンクの奮闘によって暫くは持ちそうだ。

 

「あのおっさん、一人で大丈夫か!?」

 

 ビームを受け付けないほどの大型のシールドを装備したGキャノンに乗るパイロットであるティムキン上等兵は、旧式なのに関わらず、単独で防衛戦を行っているステバンを見て、自分らも加勢した方が良いんじゃないかと問う。

 元々レストランの店員で荒事は苦手な臆病であるが、自分から軍に入隊しており、常に周囲警戒を行って危機察知能力も高い。戦闘も敵を倒すよりも、自分や仲間の生存を優先してサポートに徹している。その為に、彼が乗るGキャノンのシールドは複合装甲で厚いのだ。

 

『だったら行けば?』

 

「えっ!? なら援護してくださいよ!」

 

 その言葉にティムキンより階級の高い女性パイロットが呟けば、彼は援護してくれと頼む。ティムキンは敵の攻撃を防ぐのに手一杯であり、とてもステバンの所には向かえない。

 ティムキンの頼みに応じてか、狙撃用にカスタマイズされたアデルマークⅡに乗るエメルダ軍曹は、上空のバビを狙撃で撃墜してからステバンの周りにいる敵を貫通性の高いスナイパーライフルで狙撃し始める。

 彼女の狙撃による援護が行われる中、ティムキンはステバンのガンタンクの前に出て敵の攻撃を防ぐ。

 

「准尉、大丈夫です?」

 

『なんだ? 邪魔をしに来たのか?』

 

『何言ってんです? 助けに来たんですよ!』

 

『いらんわ! 良いからお前たちも下がれ!』

 

 ステバンのガンタンクの周りにいる敵を狙撃して撃墜したエメルダは無事かを問えば、彼は邪魔をしに来たのかと問う。いらぬ世話であったらしく、エメルダの代わりにティムキンが助けに来たと答えれば、ステバンは自分に構っていないで後退しろと言う。

 

「そんな旧式の戦車見たいなMSで、意地なんて張ってる場合ですか? 私が援護してあげるから、准尉も下がってくださいよ!」

 

『こいつのシールドは頑丈です! 自分が盾になりますから! あんなにバカスカ撃って、弾なんか残ってないんでしょう?』

 

『ちっ、お前たちが言う所為でもう弾切れ寸前だ。補給の為に後退する。死ぬなよ!』

 

「死ぬっかっての」

 

 エメルダの説得にステバンは答えなかったが、目の前に立って敵の攻撃を防いでいるティムキンが両手のガトリングガンが弾切れであると言えば、彼は残弾を確認する。彼の言った通り、ガトリングガンは弾切れ寸前であった。二人からの説得に対し、ステバンは補給の為に後退すると言って従う。

 従ってくれたステバンに二人は旧式機の後退を援護しつつ、補給所まで後退した。それと同時に、一機の旧型機とも言うべき量産型ゲシュペンストMk-Ⅱが横を通過し、敵部隊に向けて突撃を行う。

 

「うぉぉぉ! ジェットマグナム!!」

 

 その機体に乗るパイロット、カルマ・フォルセティは機体の必殺技である左手のプラズマを使った格闘武装「ジェットマグナム」を使い、一機の敵機を殴り潰し、続けて二機目を潰して最後に三機目も撃破した。直ぐにマシンガンを撃って後退しようとするが、前に出過ぎたのか、包囲されてしまう。

 

「しまった! いつもの癖で前に出過ぎた!」

 

 自分の突撃癖で敵に包囲されてしまったことで、カルマは背後の敵に突撃を行おうとしたが、攻撃されて近付けない。そんな彼の包囲されたゲシュペンストを、面倒見の良いパイロットが乗るジェムズガンが救援に入る。

 ビームを撃ちながら近付き、カルマ機の背後に居る敵機を追い払えば、そのジェムズガンに乗る面倒見の良いパイロット、ジークハルト・クリーガー少尉は早く下がれと無線機で告げる。

 

「そこの旧式機! 早く下がるんだ! 援護する!!」

 

『おっ、すまねぇ! あっ!?』

 

 ジークハルトは早く下がるように言えば、カルマは礼を言って下がろうとした。そんな時、ジークハルトのジェムズガンの真下よりRFザクが飛び掛かって来る。

 これに気付いたカルマは真下より迫るRFザクのことを知らせようとしたが、彼が気付くよりも早くジークハルトは気付いており、コンマ単位で真下にビームライフルを構えてビームを撃ち込んで撃墜する。

 

『あ、あんた…反応速度が高いんだな…!』

 

「生まれながらさ。妙に感覚が鋭くてね。とにかく、早く離れよう。次はこうはいかない」

 

『それもそうだな。二度目があるとは限らない』

 

 余りの反応速度の速さにカルマが驚く中、ジークハルトは生まれついての能力であると答え、二度目が無いと言って彼と共に後退した。

 

 

 

 一方で基地内へと潜入したターニャは、気付かぬミスを犯していた。そのミスは並の人間なら気付かぬ小さい木葉であったが、運悪くそれに気付く者がいた。サンヘイリ族のゲル・スラオムである。

 現サンヘリオスの剣所属で元ステルス兵であり、完全に幽霊へとなれるターニャが落とした木の葉で、彼と言うか彼女の存在に気付いたのだ。同盟軍も保有するバンシーに乗っており、味方に誤射され、修理を兼ねた補給中にその見落とす木の葉を見付けて気付いたようだ。

 

「敵前逃亡者だな!」

 

 ステルス装備を持った連邦兵など防衛戦に参加しているはずがないが、ゲルは敵前逃亡者を親の仇のように憎んでおり、自分の手で抹殺しないと気が済まない。即座に敵前逃亡者と決め付け、ターニャの追跡を始めるためにバンシーより歩兵装備を取り出す。

 

「待っていろ、臆病者。俺の手で殺してやる!」

 

 歩兵装備を身に付けたゲルは前線へ戻るよりも、敵前逃亡者の抹殺を優先し、ターニャを追跡する。

 戦闘種族であるサンヘイリ族に追跡されているとも知らないターニャは、魔力を節約するためにステルス迷彩を解き、物陰に隠れた。

 

「魔力は節約せんとな。さて、司令部まで少しと言ったところか…」

 

 物陰に隠れ、左腕に装着している機器で現在地を確認し、目指す司令部まであと少しくらいだと分かった。位置を確認している彼女の背後から、ローカストのドローン二体が銃口を向ける。

 

「動クナ。小サイグランドウォーカー」

 

「敵ノ司令部マデ案内シロ」

 

「っ? ギアーズ・オブ・ウォーのローカストか。さて、どうしようか」

 

 ローカストに絡まれたターニャは、どうするかと思って考えた。銃口を向けられているにも関わらず、どうして落ち着いているかは、容易く殺せるからである。直ぐに殺さない理由は、周りの連邦兵に自分の存在を気付かせないためだ。

 前世も今も頭の良いターニャは直ぐに対応策を思い出し、それを迷わずに実行する。それは、泣き叫ぶ幼女であった。銃紐で抱えられた45口径拳銃弾を使用する釘打ち機のような外見を持つTDIベクター短機関銃が吊るされており、胸にナイフのホルスターを付けた予備弾倉を収めている弾帯ベストを身に付け、右腰にはグロック36自動拳銃を収めたホルスターを付けている。

 こんな武装をした幼女が居るわけがない。知能の低いドローンでもそれが分かり、互いに向き合って数秒してから、ターニャに銃口を向けた。

 

「うわーん! お母さんとお父さんが居ないよ~!」

 

「煩イグランドウォーカーダ」

 

「殺シテシマオウ」

 

「あぁ、そうなるか。仕方がない」

 

 ターニャも泣き叫ぶ幼女の真似が通じるはずがないと分かっており、直ぐに彼女は両手に魔法を込め、二体のドローンを素早く撲殺した。魔力で腕力を上げており、ターニャの魔法拳を受けたドローンはバラバラに砕け、一瞬にして原形を留めない肉片と化す。辺り一面が血塗れとなり、ターニャにも返り血が飛んでくるが、魔法を使って防いでいた。

 

「これで潜入がばれるのも時間の問題だな」

 

 自分が潜入した痕跡を残してしまったターニャは、ステルス迷彩を起動させてから司令部へと進んだ。物陰よりゲルに追跡されていることを知らずに。

 

「うわぁぁぁ! ママ! ママ!!」

 

「痛い! 痛い! 俺の足は!? 俺の足は何処だ!?」

 

「腕の感覚が…! 私の腕が…!」

 

「(救護所か。いや、野戦病院と言ったところだな)」

 

 司令部を目指し徒歩で進んでいれば、救護所と言うか、野戦病院と化している区画へと辿り着いた。

 手足を失ったり、大火傷を負ったなどの重傷の将兵らが主に運び込まれており、そこで応急処置を受けている。助かる見込みのない者は、一ヵ所に集められてモルヒネを投与されていた。つまり、安楽死させているのだ。

 衛生兵や軍医に治療を受けている者たちが叫ぶ中、似たような光景を見て慣れ切っているターニャは平然と通り過ぎる。一方で彼女を追跡しているゲルは、呼び止めを食らっていた。

 

「エリート! お前は駄目だ!」

 

「うぉ!? 何をする!?」

 

「(なんだ? まぁ、良いか)」

 

 追跡を行っていたゲルは衛生兵に阻まれて進めなかった。その声はターニャにも聞こえていたが、彼女は気にすることなく司令部に向かった。




ドローン「貴様のような幼女が居るか!」

ターニャ「そうか。マジックパンチ!」

ドローン「あべし!」

なんか凄い速さで書けた。これも提供してくださる方々のおかげかな?
キャラ募集は明日で終わりだからね。


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大規模防衛戦その4

ルビー・ヘルナンデス
陽気で人懐っこい性格の孤児院出身の曹長。常に敬語口調で話す。
結構ドライであり、連邦軍を辞めて傭兵になろうかと考えている。
搭乗機はヘビーガン

アルヴィナ・ウラジーミロヴナ・パヴロヴァ
ルビーの相方的な存在。物事の本質を見抜く洞察力を持ち、気遣いができる性格であるが、寡黙である。
搭乗機はGキャノン
両者とも原案は山ノ下に更科さん

ユキチ・アラザキ
元ヤクザもんで、組ごと傭兵部隊にした型破りな組長さん。近接戦闘が得意と言うかそれしかしない。
仁義に厚く親分はであるため、組員は納得している。
搭乗機は再生品F-4J。

タコスケ
稼働歴三年のAI。自我が芽生え始めており、会話も可能。
機械であるため、合理的な思考回路を持って居るために人の感情は理解できない。
近接戦闘が得意であるらしい。おまはん、アラザキ組のもんか?
搭乗機はスコープドック
両者とも原案は緑ネコさん

リウス・モラム
サンヘリオスの剣に属するエリート。ヴィンと同じく歴戦錬磨の戦士。
車両・航空機の操縦技術に優れており、機動兵器が供給されても車両に乗り続けた。
ヴィン等のサンヘリオスの剣の遠征隊が基地に配置されたのは、多分こいつの所為?
搭乗機はレイス
原案はスノーマンさん。

エイリフ・バーライト
スーパーパイロットでコーディネーターな准将。
生前の記憶も持っており、和平派と呼ばれる小さい派閥の出世頭。
搭乗機はドクターイエローの量産型F91
原案は秋赤音の空さん。


 ターニャが司令部へと着々と進める中、海上では第二防衛ラインの半分まで敵の突破を許し、最終防衛ラインのメインゲートは上空からの敵の攻撃を受けていた。

 守備艦隊は既に半数近くが同盟軍の水陸両用MSにより沈んでおり、残りはメインゲート近くを守っている数十隻の艦隊だけだ。

 

「こうなるんだったら、早く連邦軍を辞めるべきでしたよ!」

 

 友軍機のジェガンJ型やセイバーフィッシュ、ドートレスフライヤー、ダガーL、スピアヘッドなどがやられていく中、ヘビーガンに乗るルビー・ヘルナンデス曹長は基地の守備軍に配属される前から連邦軍を辞めるべきだったと毒づく。

 陽気な人懐っこい性格で、危機的状況下でも軽口を叩くほどタフなメンタルを持ち、誰に対しても敬語で話すが、孤児院出身である。

 その孤児院は拾った孤児を兵士として要請する機関の施設であり、一度養成を終えた多くの仲間たちが戦場に投入され、散って行くのを何度も見ており、死生観はシビアかつドライであった。

 仲間が居たからこそ今日まで辞めるつもりは無かったが、今は辞めなかったことを後悔している。

 

「なら今から逃げたら?」

 

『冗談を! 敵前逃亡犯として即銃殺刑ですよ!』

 

 同僚であり戦友であるGキャノンに乗るアルヴィナ・ウラジーミロヴナ・パヴロヴァ曹長に言われたルビーは、ヘビーガンの腰のグレネードランチャーでヘルガスト軍の戦闘機を撃墜しながら、逃げれば殺されると返した。

 アルヴィナはルビーとは正反対な性格であり、冷静沈着で物事の本質を見破る洞察力を持っている。

 幼少期よりなんと工作部隊に属しており、実戦で過ごした期間はルビーより長い。mた甘さも捨てており、敵に回った仲間でさえ躊躇なく仕留めるという判断もするが、根は優しく、気遣いができる一面もある。

 そんなアルヴィナの乗るGキャノンは、敵機に対して的確なダメージを与えられる部分に背中の二門のガトリング砲を撃ち込んで撃破する。これに続いてルビーもアルヴィナと同じやり方で、敵機にビームライフルを撃ち込んで撃破した。

 

「アルヴィナ、後ろから来ますよ!」

 

『気付いてる!』

 

 敵機の撃破後に即座に周囲警戒を行うルビーは、アルヴィナに背後からディン三機迫っていることを知らせた。彼女が知らせるよりも前に来ていることに気付いたアルヴィナは、直ぐに機体両腕に装備されたビームガンを連射して三機ともハチの巣にした。

 三機の撃墜を確認した後、ルビーが自分のGキャノンの背中に自機のヘビーガンの背中を合わせようとしたので、何の真似かと無線で問う。

 

「何の真似?」

 

『こうすれば、お互いにカバーできるでしょ? 一石二鳥って奴です』

 

「鬱陶しい…」

 

 背中合わせをしたのは、互いの背後を守るためであると答えるルビーに対し、アルヴィナは鬱陶しいと口にする。だが、それでも腐れ縁のルビーに合わせ、向かってくる敵機の迎撃を続けた。

 

「とぁーっ!」

 

 ルビーとアルヴィナが上空で敵部隊を食い止める中、押され気味の地上では、ユキチ・アラサギが乗る戦術機のF-4Jが雑多な旧式機と共に、圧倒的な数を誇る同盟軍の侵攻部隊相手に奮闘していた。

 彼が乗るF-4Jはあやめと同じ世界から来た物であるが、スクラップ場で破棄されていた物を回収して再利用した物だ。足りない部分を別の部品で補っているために、元の形を保っているのは頭と胴体くらいである。ユキチの参加の者たちも、似たような改造機で戦闘を行っていた。

 ユキチ率いる旧式機の一団はアラサギ組と呼ばれる元ヤクザであった。何を考えてか、八代目であるユキチは組を傭兵部隊に転進させたのだ。仁義に厚い親分肌であるため、組全員がついて来たが、抗争とは違う地獄のような戦場で何十人もの組員が惨たらしい死を迎えに行き、何人か辞めてしまう。それでもユキチは傭兵家業を辞めることなく、中古品の機動兵器やスクラップを集め、機動兵器部隊を編成して今日も続けている。

 尚、ユキチは剣術の名手であって射撃武器を持たず、長刀を使った近接戦闘ばかりをしている。それに戦術機に乗るのに必要な衛士強化装備を着ていない。別の機動兵器のコクピットブロックを組み込んでいるのだ。

 

「食らえや!!」

 

 そんな型破りなユキチは有象無象に出て来る同盟軍機を長刀で斬り捨てて行けば、傘下の組員が乗る再生機動兵器がグフ・イグナイテッドのスレイヤーウィップで切り裂かれて撃墜された。

 

『組長! 組長! うわぁぁぁ!!』

 

『あぁぁぁ! 熱い! 熱いぃぃぃ!!』

 

「お、お前らぁ!? 許さんぞテメェらァ!!」

 

 続けざまに、組員たちが乗る再生機動兵器が次々と撃破される。最後にブルート(ジラルハネイ)が乗るザク・ファントムが持つグラビトンハンマーで叩き潰されれば、ユキチは無謀にもそのザク・ファントムに斬りかかる。

 

『組長、援護! 援護スル!』

 

 そんな組長であるユキチを援護すべく、タコスケと呼ばれるAIを搭載しているスコープドックは、ヘビィマシンガンを組長のF-4Jの背後から襲い掛かろうとする敵機を撃って援護する。

 ユキチとザク・ファントムの格闘船が始まる中、タコスケも近接戦闘を行うべく、ローラーダッシュを行って敵ATであるファッティーに接近し、アームパンチをお見舞いした。アームパンチを行った際に、空薬莢が腕の排出口より排出される。火薬を使ってパンチの威力を上げているのだ。

 

『アームパンチ! アームパンチ!』

 

 連呼しながら二発目である右拳を打ち込めば、敵ATは倒れて動かなくなった。コクピットの胴体がへこみ、乗っている操縦者が圧殺されたのだ。タコスケは空かさずに周囲警戒を行い、空襲を掛けて来る敵航空機に対して対空射撃を行う。

 

「何処へ行く気だ!?」

 

『何処って? 最終防衛ラインですよ! もう第二防衛ラインもお終いだっての! 貴方も、最終防衛ラインまで退かないと、殺されますよ!』

 

「もうそこまで落ちているのか!? なんて情けない!」

 

 同じく地上で量産型ヒュッケバインMk-Ⅱに乗って防衛戦を行っていたブル・ヴィンは、後退するリュウのジェガンJ型の肩を掴み、直接通信で何処に行くのかと問い詰めた。

 61式戦車やリニアガン・タンク、その他諸々の戦闘ヘリや戦闘車両が敵の攻撃で破壊されていく中、リュウは第二防衛ラインはもうお終いだと答え、部下たちを引き連れて最終防衛ラインまで後退していく。

 そこまで突破を許した連邦軍に情けないと嘆くヴィンの量産型ヒュッケバインMk-Ⅱに、バクゥの攻撃が迫っていた。

 

「危ない隊長!」

 

『っ!?』

 

 そんな上司を助けるべく、レイスと呼ばれる戦闘車両に乗るリウス・モラムは、上司を殺そうと迫るバクゥに向けてレイスのプラズマ砲を発射して撃破した。

 

『すまん、俺としたことが。情けない』

 

「いえ、あのバクゥとか言うのがすばしっこいだけです。それよりも早く後退を!」

 

 戦闘車両に乗る部下に助けられたヴィンは、直ぐにリウスに礼を言う。これにリウスはリュウの言う通りに早く後退した方が良いと助言すれば、ヴィンはそれに従う。

 

「あぁ、そうした方が良さそうだ。あのマクロス級の者たちも後退するであろう。我々PT隊が殿を務める。お前たちは先に退け!」

 

『はっ!』

 

 自分を含めたPTに乗る者たちが殿を務めると言えば、リウスはそれに従ってレイスと共に最終防衛ラインまで後退した。

 彼はヴィンと同じく歴戦のサンヘイリであり、勇敢で義理堅い性格の戦士だ。車両と航空機の操縦技術が優れており、コヴナント戦争時では様々な車両を乗りこなしていた。戦争後のサンヘリオスの内戦では、人類側の支援によって機動兵器が供給されたが、リウスは乗らずに戦争時代に乗っていたレイスに乗り続けた。人類に対しては、指揮官以外に敬意を持っている。

 追撃を掛けて来る敵を迎撃しつつ、最終防衛ラインまで後退していく中、逃げ遅れたスタンディングトータスやダイビングタートル、ドートレスなどを初めとした様々な友軍機が連続で破壊された。それらを一掃したのは、旧ジオン軍で運用されていたアッザムである。しかも改良型のRFアッザムだ。

 

「なんだあの玉ねぎは!?」

 

 スコーピオン戦車隊が防衛している個所まで後退したリュウは、初めて見たRFアッザムを見て驚きの声を上げる。

 このRFアッザムを撃破する為、セイバーフィッシュやスピアヘッド、ロングソード級戦闘機、Gキャノン、ジェットストライカー装備のダガーLなどが向かっていったが、他の機体と共に放たれるビームで撃墜されるばかりであった。

 

「不味いぞ! 防衛戦が!」

 

 あれに攻撃されれば、最終防衛ラインが滅茶苦茶にされると危惧したヴィンは自分だけで破壊しようと思ったが、ここに来て思わぬ援軍が現れた。それを見たヴィンは、驚きの声を上げる。

 

「あれは瞬く雷光!」

 

 それは量産型F91であった。機体の塗装はドクターイエローカラーで、乗っているエイリフ・バーライトは、生前と同じような経験を思い出す。

 

「あの時に似ている…! 俺が整備不良のジンで、捨て駒にされた…!」

 

 その時の苦い経験を、全天周囲モニターに映る戦闘を見て思い出しつつ、自分を落とそうとしてくる敵機をビームライフルで撃墜する。

 撃墜した後に接近戦を仕掛けて来る別の敵機に対し、左手で素早く抜いたビームサーベルで胴体を切り裂いてから、一番高い火力を誇る背部のウェスバーを起動させ、RFアッザムの撃破に向かう。

 向かってくる黄色い量産型F91に、敵がただ指を咥えて待っているはずがなく、僚機と共にビーム攻撃を行う。だが、地上に居る連邦軍がエイリフを援護しないわけがない。直ぐにヴィンが率先して援護射撃を始めた。

 

「あのガンダムを援護しろ! 撃ちまくれ!!」

 

 ヴィンが指示すれば、部下たちもそれに続き、地上で戦っている者たちもエイリフを援護する。この援護射撃で向かってくる量産型F91をRFアッザムと護衛部隊は迎撃しきれず、ウェスバーの強力なビームを撃ち込まれる。

 

「RFアッザム撃破! この間に最終防衛ラインまで後退しろ!」

 

 RFアッザムを撃破した後、エイリフは後退命令を命じる。それに合わせて地上や空の部隊は彼の指示に応じ、最終防衛ラインの防御を固め始めた。

 

 

 

「うわぁぁぁ! 違うんだ!! ネットじゃあんな書き込みをしたけど、僕は愛国者なんかじゃない! あれはただ格好つけるためで…! そう思ってただけなんだ! なのになんで徴兵されなきゃならないんだ! 僕は運動も成績も、学校なんて碌に行ってないのに! なんで愛国者だと決めつけるんだ!? 僕は、僕は戦争なんかに行きたくないのに!!」

 

 基地内に潜入し、司令部を目指す中、ターニャは恐怖して恐慌状態に陥っている兵士と遭遇した。

 その兵士とうっかり遭遇してしまったが、当の兵士はあんな状態なので、他の兵士に知らせることもできない。聴いていれば、彼は引きこもりであるらしく、ネットで軍事や愛国的な発言が原因で、強制的に徴兵されてしまったようだ。

 無論、ターニャは殺さない。下手に殺せば、かえって敵に自分の存在を知らせることになる。もうバレているが、ターニャは気付いていない。

 他にも似たようなのが居た。まだ着任したばかりの新兵ばかりであるらしく、初陣があんな激戦では、死の恐怖の余り精神が破壊されてもおかしくは無い。彼らの叫び声が部屋中に響き渡る中、ターニャは気にせずに司令部を目指す。前の世界でも経験したことがあるからだ。慣れてしまっている。

 

「薬物の類は投与していないようだな。前はやっていたが」

 

 目前の発狂している兵士らに対し、ターニャは薬物の類で抑えていたことを思い出す。

 投与された兵士たちはそれ以来、服用し続けることで発狂することも無かったが、生き残って戦後は中毒症状を起こして新しい社会問題となっていた事だろう。だが、ターニャは戦争が終わる前に死んでしまったので、どうなったか知らない。

 中には逃げ出したい余り、拳銃自殺までする者が居たが、ターニャは驚くことなくその中を進み、司令部に続く通路まで歩いた。

 

「門番か。なんで宇宙の戦士に出て来るパワードスーツを着ているんだ? 一体何を守っている?」

 

 司令部へ続く通路の出入り口には、二名の番兵が立っていた。それもただの番兵では無い、機動歩兵と呼ばれる最強の歩兵科である。

 機動歩兵は専用のパワードスーツを身に付けた歩兵であり、その戦闘力は戦車一個小隊兼戦闘ヘリ一機以上とも言われている。二年にも渡る専門や戦闘訓練を受け、精兵として戦場に投入される。この最強の歩兵に同盟軍は脅威とみなしており、見付ければ機動兵器が来るまで待てと言う規定が出るほどだ。

 

「だが、機械の塊だ。これならやれるな」

 

 そんな最強の歩兵が二人も居るので、機動歩兵が登場する小説を読んだことがあるターニャは電子機器を一時的に機能を停止させる手榴弾をポーチから取り出し、それを二名の機動歩兵が守る分厚いドアに向かって投げた。

 

『なんだ?』

 

 ドアに何かが当たって音が鳴ったため、ヘルメットの集音機でそれを聴き取った機動歩兵は手榴弾が当たった方を見る。

 

『なんだこれは? うっ!?』

 

 もう一人も気付いて落ちている手榴弾を見た機動歩兵はそれを取ろうとしたが、手榴弾は起動して電磁波を放ち、機動歩兵のパワードスーツの機能を停止させる。

 

「スーツがお釈迦になった! 敵襲だ! 速く脱げ!!」

 

 動けなくなった機動歩兵は強化服が死んだと勘違いし、それを想定した訓練を思い出し、手動でパワードスーツを急いで脱ごうとするが、ターニャはヘルメットを取った瞬間を見計らって二名に音速の速さで近付き、魔力を込めた手刀を素早く二名の項に打ち込んで昏倒させた。

 普段は味方に回収されるまで脱がないように言われているが、ここは戦場ではないので、彼らは脱いでしまったのだ。

 

「よし。これで司令部に到着だ」

 

 二名の機動歩兵を無力化したターニャはドアの電子ロックに端末のハッキング機能を使って開き、司令部までの通路を開いた。通路に銃を構えながら突入し、誰かいないか確認するが、司令部まで続く通路から人の気配が全くしない。これにターニャは不審に思う。

 

「…静か過ぎる。誰も居ないのか?」

 

 余りにも人の気配がしない。人間を探知する魔法を使ってみたが、気配どころか人もいない。ただネズミが居るだけだ。隠れ居ている可能性も考え、素早く司令部へ突入すれば、部屋はもぬけの殻であった。レーダー手や通信手どころか、指示を出す指揮官も居ない。守備軍に対する指令は、繰り返し命令が出るようにプログラムされている。返答もまた同じであった。

 

「どうなっている? これほどの基地なのに司令部には誰一人いない。自動で指令を送信しているプログラムがあるだけではないか」

 

 もぬけの殻の司令部に突入し、それに驚いたターニャは何を企んでいるのか調べるべく、手近にある電子機器を操作する。

 

「サイクロプス…? まさか…!」

 

 危機を操作する中、気になるワードを見付けたターニャはそれの詳細を調べる。その内容を見たターニャは、学生時代に見ていたアニメの衝撃的なシーンを思い出した。

 

「思い出したぞ…! サイクロプス…! ガンダムの人間ポップコーンではないか! 半径十キロは電子レンジ! 守備軍は敵の主力軍を誘き寄せるための囮! クソっ、そのまま過ぎる!」

 

 完全に思い出したターニャは、この基地にサイクロプスが仕掛けられていることにようやく気付いた。守備軍は敵の主力軍を誘き寄せるための囮であり、守備軍が全滅して同盟軍が基地内に雪崩れ込んだところで、安全圏に逃げている司令官らは基地の破棄を兼ねてサイクロプスを作動させるだろう。そうなれば、半径十キロメートル圏内に居る全ての生命体は、もれなくポップコーンの如く弾けるだろう。

 

「宇宙世紀の連邦軍にHALOのコヴナント軍やKILLZONEのヘルガスト軍、ギアーズ・オブ・ウォーのローカストなんかが居て思い出せなかったが、この世界が色々とごちゃ混ぜになっているスーパーロボット大戦な世界であることは分かったぞ。さて、ムウ・ガ・フラガの如く脱出…」

 

 前々前世に知っている作品がごちゃ混ぜになっていたことで、ここに来るまでサイクロプスのことが思い出せなかったターニャは、直ぐにマクロス級に乗って脱出しようとした。

 だが、ここに来て彼女に気付かれずに追跡していたゲル・スオラムに阻まれる。

 

「逃がさんぞ、敵前逃亡者め! ここで俺が裁いてやる!」

 

「エリート!? こんな時に相手をしている場合ではないのに!」

 

 立ちはだかるサンヘイリに対し、ターニャは突破する覚悟を決めた。




一人強過ぎる奴がいるな。

次回は大脱出戦と、ガンダムの五飛とレイズナーのゴステロ様が参戦かな?


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脱出せよ その1

ゴステロ様
蒼き流星SPTレイズナーに登場するグラドス軍の大尉。
とても軍人とは思えない行動ばかり取り、グラドスの恥とも言われている。死んだと思っていたら、サイボーグとなって復活する。なんで様付きなのは、滅茶苦茶なキャラだから。
搭乗機はダルジャン


張五飛(チャン・ウーフェイ)
新機動戦記ガンダムWに登場する主役の一人。
身体能力も含め我が凄く強い奴で、単独で基地を吹き飛ばすヒイロに次いでぶっ飛びキャラ。
GN電池と同じく、五人の中ではハブられることが多い。スパロボでは「ズール皇帝こそ正義だ!」と言う迷言を発し、ネタ扱いされた。
搭乗機はアルトロンガンダム(EW版)


「俺のエナジーソードを受けて見ろ!」

 

 エナジーソードを起動させ、突き刺そうとしたゲルであったが、突如となく彼の腹部から大男の拳が飛び出してくる。

 

「グっ!? こ、これは…!?」

 

 背後より攻撃を受けたゲルは、最後の力を振り絞って自分の背後に居る者へ攻撃しようとしたが、首を飛ばされて息絶える。

 ゲルの背後から拳を突き立て、首を撥ねたのは中国の少林拳のような僧侶の格好をした初老の男であった。

 ターニャはその人物も知っている。前々前世で、留学先の同級生がやっていた格闘ゲームに登場するキャラクターであったのだ。

 

「貴様は…シャン・ツン!? なんで格闘ゲームのキャラまで!?」

 

「その口ぶり、どうやら二度も転生を繰り返しているようだな。左様、我の名はシャン・ツン」

 

 知識があるターニャが名を口にすれば、目前の初老の男はシャン・ツンと名乗り始める。先のゲルの腹に拳を突き刺したのは、シャンの技である。

 その名も邪心胎拳(じゃしんたいけん)。様々な人物に変身し、その技を使うことができる。

 シャン・ツンはこの変身術を使い、数々の計略を図り、数々の人物を謀殺、もしくは殺めてきたのだ。

 そんな危険な老人と思わぬ場所で遭遇してしまったターニャは、シャンを突破して脱出を図ろうとするが、機動歩兵を無力化した際に使用した手榴弾の効果が残っていた。

 

「フハハハ、その機械を無力化する手投げ弾の所為で、思うように機能が働かんようだな」

 

「ちっ…! これを連邦軍や同盟軍に知らせるつもりはない。見逃してくれないか?」

 

 戦闘を行っている両軍には、サイクロプスのことを知らせないと言ったが、シャンがそれを素直に聞き入れるつもりは無かった。理由は、二度の転生を行っている魂であるからだ。

 

「そう言って見逃すと思っておるのか? 逃がす訳が無かろう。我とクァン・チーとの死の同盟の同盟関係に基づき、貴様の魂も貰い受けるぞ」

 

「なんとクァン・チーまでいるのか!? ド外道同盟ではないか! なんで私の魂が必要なんだ!?」

 

「二度の転生を行った魂は珍しい物よ。そのような魂、見逃すのは惜しい物。あの破滅思考の男の誘いに試しに乗ってみれば、こんな掘り出し物と出くわすとはな!」

 

 クァン・チーまでいることに驚くターニャに対し、シャンは二度の転生を行った魂を手に入れるためであると答えた。

 どうやら、ヴィンデル・マウザーの誘いでこの世界に同盟関係であるクァン・チーと共に来ていたようだ。戦争が絶えず起きているので、誘いに乗った理由は恐ろしい量の魂が回収できるからだろう。

 自分が知る強敵にターニャが恐れおののく中、シャンは彼女のことを知っているのか、嫌っている神に泣いて助けを請えと高笑いしながら告げる。

 

「フハハハ! 貴様の嫌う神に泣いて助けを請えば、助けてくれるかもな!」

 

「フン、誰があんな奴に助けを請うか! 貴様を惨殺して脱出してくれる!」

 

「面白い事と言う! 流石は二度の転生を行った魂だな! では、もらい受けるぞ!」

 

 この挑発に対しターニャは殺してでも脱出すると返せば、シャンは攻撃を行う。

 話している間にターニャの身に付けている演算宝珠は回復しており、戦闘可能な状態であった。彼が放った三つの骸骨型の炎を避け、蹴りを入れ込んだが、シャンは自分の知る戦士の姿に変身してそれを防いだ。

 

「ちっ! 変身術は卑怯な!!」

 

「フッ、貴様は昇進と保身の為に、どれほどの人間を犠牲にしたか覚えておるのか?」

 

「っ!? 言うなっ!!」

 

「ハハハ! 精神もやや退行しているようだな!」

 

 変身術を卑怯だと罵れば、シャンはそれに怒ることなく、逆にターニャの今まで自身の為に犠牲にしてきた者たちを覚えているのかと問うた。これにターニャが逆上する中、シャンは攻撃を避けながら更に煽って来る。

 目前の変身術を行うシャンが、直ぐに自分から冷静さを奪うために煽っていることに気付いたターニャは、懐より取り出した煙幕手榴弾で煙幕を張って敵に自分の動きを探られないようにした。

 

「ほぅ、冷静なのは確かなようだ。だが、このシャン・ツンから逃れる事など不可能よ!」

 

 煙幕で敵から自分の動きを隠したターニャであったが、シャンは敵の熱源を探れる生物に変身し、逃れようとする彼女を探す。

 直ぐに見付けたが、ターニャはシャンが自分を見付けられる生物に変身することを見越しており、スタングレネードを投げて目晦ましを行った。

 

「うっ! 目晦ましか! 小癪な!」

 

 強い光を受けたシャンは変身を解き、自動小銃を使う兵士に変身して司令部から逃げるターニャに向けて銃を撃ったが、一発も当たることなく逃がしてしまう。

 

「フッ、この我より逃げおうせたか。だが、この基地よりから容易には脱出できんぞ…! 我だけでは無いからな…!」

 

 司令部より逃げたターニャに向け、シャンは自分以外にも刺客が居ることを得意げに告げた。シャンが言った後、彼の背後より複数の人影が姿を現す。

 シャンが手を翳して無言で指示を出せば、その複数の人影はターニャの追跡を始めた。

 浮遊魔法を使い、全力で通路を逃げるターニャであったが、シャンはこれを予期してか、基地を守る連邦軍に知らせていた。

 

「っ!? 子供が!」

 

「奴は子供じゃない! 撃て!」

 

「そこまで織り込み済みと言うことなのか!」

 

 目前から飛び出し、自分が子供の姿なのに対して躊躇いもなしに撃って来る四名の警備兵に対し、ターニャは手にしているベクター短機関銃を撃ち込んで殺傷した。

 それから全力で突き進み、遭遇する連邦兵や地中を掘って侵入してきたローカストを片付けつつ、外へ続く通路へ素早くターンを決めて曲がり切る。後少しで外へ続く通路に差し掛かろうとした時、通路の天井が敵の攻撃でも受けたのか、崩れ去って塞がれてしまう。

 

『おっ!? いたぞ! 撃ち殺せ!!』

 

「爆破している時間は無い! 他を!」

 

 塞がれた瓦礫を爆破しようと思ったが、自分の位置が特定されているのか、スコープドック三機がヘビィマシンガンを撃ってくる。爆破している余裕は無いと判断し、弾幕を避けながら三機のスコープドックを魔力で貫通力を高めた弾丸でパイロットだけを撃ち抜き、三機とも無力化して突破した。

 

「俺のアサルトライフルで死ねぇ! クソ餓鬼が!!」

 

「ヘルガストまで入って来ている! ローカスト共の仕業か!」

 

 三機を無力化し、他にもあった方へ向かう中、防衛線を突破したのか、あるいは地中より侵入してきたヘルガスト兵の一団に遭遇する。彼らもまたターニャを発見次第即時抹殺命令を受けているのか、手にしている小火器を撃ってくる。

 その弾幕をシールドで防御しつつヘルガスト兵の一団に短機関銃を乱射しながら接近し、数名を撃ち殺した後、素早く抜いたナイフに魔力を込め、三人のヘルガスト兵の首を切り飛ばす。

 

「うぉ!? うわぁぁぁ!!」

 

 血が噴き出る中、畏怖しつつも銃座で殴り掛かって来るヘルガスト兵のガスマスクに向け、魔力を込めた強烈な蹴りを入れ込んで頭部を破壊した。

 

「人狼擬きが!」

 

 死後痙攣を起こしているヘルガスト兵の死体に向けてそう吐きつつ、ターニャは格納庫に滑り込んだ。

 

「わっ、わぁぁぁ!!」

 

「助けて! 助けあぁぁぁ!?」

 

「止めろ! 止めてばはっ!?」

 

 格納庫に辿り着けば、既に同盟軍の侵入を許しているのか、整備兵たちが敵軍の歩兵に虐殺されていた。ある者は逃げるも直ぐに撃ち殺され、ある者は火炎放射器で焼き殺され、ある者は投稿の意思を示すも、無情にも撃ち殺される。

 付近に居たターニャは隠れることなく、素早く再装填を終えたベクターで敵兵が持つ火炎放射器のタンクに狙撃すれば、数名を巻き込んだ爆発を起こして火炎放射兵は火達磨となる。ターニャの存在に気付いた同盟軍の歩兵らは直ぐに応戦する。

 

「グランドウォーカーダ!」

 

「死ねぇ! 小さい悪魔!!」

 

「頭を吹き飛ばしてやる!」

 

「主よ、我が目前の敵全てを退けたまえ」

 

 手にしている小火器を乱射してくる同盟軍の歩兵らに対し、ターニャはシールドを張って全ての攻撃を防御しつつ、素早く詠唱したマルチショットで全員を撃ち殺した。

 

「バンシーもあるのか。だが、戦闘機の方が良さそうだな」

 

 敵を全て排除した後、格納庫にある機体の中にゲルが乗っていたバンシーがあることに驚いたが、ターニャは人間が使う戦闘機が良いと口にした。

 セイバーフィッシュやスピアヘッド、ギルガメス軍の戦闘機などがある。そのどれかにしようかと迷っている最中に、シャン・ツンが放った追手が襲ってくる。

 背後より殺気を感じ取ったターニャは素早く横に移動して躱す。飛んできた攻撃は、鉄を溶かす溶解液であった。戦闘機を溶かした溶解液を放ったのは、トカゲ型の緑色な獣人だ。無論、ターニャが知るゲームのキャラであった。

 

「レプタイル!? なんでお前も居る!?」

 

「シエァァァ!」

 

 またも知っているゲームのキャラに襲われたターニャは、レプタイルが放つ溶解液を躱しながら反撃するが、道中の敵兵とは比べ物にならない程に緑色の獣人は強く、得意な接近戦を挑んでくる。

 

「こいつに溶かされるのは、御免だ!」

 

 ゲームで知っているターニャはレプタイルの鋭い爪による攻撃を躱しつつ、別の戦闘機に乗ろうとするが、どれも溶解液で破壊されるか、鋭い爪で切り裂かれてしまう。空中浮遊して逃げ回るターニャを、長い舌で捕まえようとするレプタイルであるが、素早く抜いたナイフで舌の先を切り付けられ、余りの痛さに舌を急いで戻す。

 

「キエァァァ!?」

 

「今だ!」

 

 相手が痛みで怯んでいる隙に、ターニャはまだ無事なバンシーに飛び乗った。動かし方は良く分からないが、動かせそうな戦闘機は全てレプタイルに破壊されてしまった。これしかないのだ。

 

「ポップコーンにされてたまるか!」

 

 とにかく相手が回復して襲ってくる前に、動かすしか無いと判断したターニャは機器を適当にする。そのおかげか、バンシーを起動することに成功した。

 

「シャァァァ!」

 

「動いた! こんなところは、おさらばだ!」

 

 バンシーを動かしたターニャはレプタイルの攻撃を操縦桿を動かして避け、格納庫に入り込もうとするギラ・ドーガに向け、プラズマキャノンを発射して撃墜した。

 それからフルスロットルで格納庫の外に飛び出し、敵の攻撃を避けながら目標であるマクロス級まで向かう。だが、ここでも敵の攻撃は続こうとしている。F-4Jに乗る辻凪あやめが、ターニャが乗るバンシーの撃墜命令を受けたのだ。

 

『こちらCP、周囲の友軍機に通達する! 先ほど基地より出撃したバンシーを撃墜しろ! あれにはスパイが乗っている!』

 

「あのバンシーを? 敵味方識別装置(IFF)には友軍の反応が…」

 

『良いからお前は命令に従え! 誰のおかげでお飯が食えると思っている!?』

 

「こっちが傭兵だからって…! 了解!」

 

 コマンドポストより出された命令に、ザウートを長刀で仕留めたあやめはこの命令に疑問を抱くのだが、黙って従えと怒鳴られ、突撃砲をマクロス級へ逃げようとするターニャのバンシーに向けて対空射撃を行う。

 

「ちっ、変なのが私に向かって攻撃してくる! シャン・ツンめ、連邦の指揮官に変身して命令を出しているな!」

 

 あやめのF-4Jが攻撃してくるのは、シャンの仕業であると決めたターニャは攻撃を避けながらマクロスへ向かう。他にも命令を受けた者がいるらしく、ジェガンJ型に乗るリュウやストライクダガーに乗るジャン・L・フェイローンもターニャが乗るバンシーを攻撃してくる。

 

「あれにスパイが! 逃がすな!」

 

「落ちろ、落ちろ!」

 

「クソっ、バンシーでは!」

 

 ビームライフルと二挺の突撃銃の弾幕により、バンシーは避けきれずに被弾する。そこへ更にカルマ・フォルセティの量産型ゲシュペンストMk-Ⅱが、とどめの一撃であるジェットマグナムを繰り出す。

 

「ボーナスは、頂きだぜ!」

 

 この攻撃を避けきれず、ターニャが乗っていたバンシーは撃墜された。だが、ターニャは魔導士だ。直ぐに脱出して生身の状態でマクロスへと向かう。撃墜したバンシーより、幼い少女が飛び出してきたことに、全員は驚きの声を上げる。

 

「こ、子供!?」

 

 最初に声を上げたのは、バンシーを撃墜したカルマであった。

 

「な、なんで子供が飛んでるんだ!?」

 

 次に偶然目撃した再生型F-4Jに乗るユキチ・アラザキが声を上げる。

 

「十代くらい子がどうして!?」

 

『わっ!? 子供だ!』

 

『マジっ!? しかも飛んでる!?』

 

 続けてリンネ・ネハーンが声を上げれば、近くで交戦していたティムキンやエメルダも空飛ぶターニャを目撃して声を上げた。

 そんな自分の姿を見て驚く一同が固まっている隙に、ターニャは全速力でマクロスへと飛ぶ。ターニャの姿を見て呆気に取られている一同は、見間違いかと思って目を擦っていた。その隙にターニャは彼らを引き離す。

 

「子供!? 錯覚か?」

 

 途中、エイリフ・バーライトが乗る量産型F91の隣を通り過ぎたので、全天周囲モニターに映ったターニャを錯覚と思い始める。そんなエイリフに、シャンの刺客が迫っていた。

 全高十メートルほどの紫色の機体が、エイリフの量産型F91に迫って来る。連邦とも同盟軍とも違うこの五メートルは低い未確認機に対し、エイリフはビームライフルを向けて何者かと問う。

 

「何者だ? IFFを我が軍にしない場合は撃墜するぞ!」

 

『へへへ、俺はテメェを殺しに来たのよ!』

 

「な、何ッ!?」

 

『フハハハ、死ねぇ!!』

 

 何者かと問えば、シャンよりエイリフに向けて送られた刺客は殺しに来たと堂々と答えた。驚きつつも直ぐに臨戦態勢を取るエイリフに対し、マルチフォームであるダルジャンを駆るゴステロは、好きな殺人を行うべく、機体の左腕のシールドから突き出ているメタル・クローを繰り出してくる。

 これを躱したエイリフは空かさずに反撃するが、エースである自分に差し向けられたゴステロの技量は高く、ビームを躱しながらレーザーを発射するレーザード・ガンで反撃して来た。

 

『どうしたァ!? 和平派の出世頭はその程度かァ!?』

 

「なんなんだこのマシンは!? MSやPTよりも速いぞ!」

 

 MSやPTよりも速いゴステロのダルジャンに、エイリフは必死に操縦桿を動かして抗うが、敵の方が強かった。

 

『ズタズタに切り裂いてやるぜ!』

 

「しまった! うわぁぁぁ!!」

 

 接近され、ダルジャンのレーザー・パズソーがエイリフの量産型F91の装甲を切り裂いた。胴体に振るわれた為、コクピットには届かなかったが、爆発した機器の破片がエイリフを襲う。

 ダルジャンのレーザー・パズソーで切り裂かれ、量産型F91は火を噴きながら墜落していく。幸いエイリフは生きていたが、重傷を負っていた。直ぐにヴィンの量産型ヒュッケバインMk-Ⅱがエイリフの救出に向かう。

 

「この者に死んでもらっては困る…!」

 

 損壊した量産型F91より、ヴィンは負傷したエイリフを機体の手で慎重に取り出す。和平派であるエイリフは、サンヘイリの剣やアービターにとって必要な人物の一人なのだ。

 彼を救出した後、ヴィンは救護所へと向かう。一方でエイリフを仕留めたゴステロはターニャの追跡を行うが、連邦のみならず、同盟軍からも攻撃を受けて妨害される。

 

「ちっ、こんなに多いとこっちまでポップコーンになっちまう! 潮時だな!」

 

 自分に向けて攻撃してくる敵機の数が多いことで、ここで戦っていてはサイクロプスに巻き込まれると判断し、ゴステロは早々にサイクロプスの範囲内より離脱する。

 突然の乱入者に一度は混乱した戦場であったが、数秒もしない内に元の状況へと戻った。激戦の空を駆けるターニャは、ゴステロの乱入を知らない内に、マクロスへと到達することに成功した。

 

「よしっ!」

 

 マクロスまで辿り着けば、信号弾を撃って今の部下たちをマクロスへ集結させる。この信号を合図に部下たちは潜伏先よりステルス迷彩を起動させてから飛び出し、マクロスを目指して飛翔する。

 甲板に降り立ち、邪魔な同盟軍機を砲撃術式を込めた弾丸で一掃してから、イヴ人の国家の軍隊でかつて使われていた合言葉をドアを叩きながら必死に叫ぶ。この合言葉は、ブリーフィングの時に上司より伝えられた物だ。

 

「リヒト! リヒトっ!!」

 

『っ?』

 

 ターニャは必死に叫んでいるが、分厚いドアの向こう側に居るイブ人の将兵は、何を言っているのか分からないでいる。その国家が滅んで二百年余りの年月が過ぎているため、若い者たちは彼女が叫んでいる合言葉を知らないのだ。

 

『シャッテン! 何者だ? 何故それを知っている?』

 

 数秒ほど経つと、合言葉が分かるベテランの兵士が聞き付け、返しの言葉を言って警戒する。同胞を拷問して聞き出したと疑っているようだ。自分を疑うイブ人のベテランの兵士に、同胞の頼みで助けに来たと答える。

 

「敵じゃない! むしろ助けに来た! 私は同胞だよ! 速く入れて艦長に会わせてもらいたい! 大至急に!!」

 

『…銃を向けるなよ。向けた瞬間、貴様を射殺する!』

 

 ターニャを疑いつつも、他の世界の同胞達が助けに来たことを信じて、ベテランの兵士はドアを開けた。分厚いドアが開かれれば、G36突撃銃を構えた若い女兵士たちが銃口を向けていた。無理もない事だ。その前に立つベテランの兵士は、ターニャの姿を見て驚く。

 

「ロリータ族? なんでここに?」

 

「これで分かったか? なら早く艦長へ。同胞達からの手紙を持っている」

 

「分かった! こっちだ!」

 

 自分たちには居ないロリータ族と呼ばれる小柄な同胞を見て驚くベテランの兵士と二名の若い兵士に対し、ターニャは同胞であることを証明すれば、そのベテランの兵士は彼女を艦橋まで案内した。

 これでマクロスとその難民はこの戦場より脱出する事となる。だが、それを見す見すと許すシャンではない。ターニャがマクロスに乗り込んだのを確認したシャンは、マクロスと難民たちを敵前逃亡者と見なして攻撃するよう連邦軍の将軍に変身して命令を出そうとしたが、彼が予期していた乱入者が現れる。

 

「むっ、あれはアルトロンガンダム! 張五飛(チャン・ウーフェイ)め、嗅ぎ付けたか!」

 

 空を見上げ、この戦場に降り立ってくるガンダムタイプのMSを見て、シャンは直ぐにそれに乗る者の正体を見抜く。

 いきなり現れ、双方の機動兵器数機を一瞬にして撃破したアルトロンガンダムに乗るパイロット、張五飛は交戦を続ける双方に向けて勧告する。

 

「止めろ貴様たち! この戦いは正義など無い無意味な戦いだ! 更なる憎しみを呼び起こす前哨戦に過ぎん! このままでは取り返しのつかんことになる!!」




ごめんね、エイリフが余りにも強くてね…。


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脱出せよ その2

プレイヤー部隊

旗艦:アウドムラ
艦長:ハヤト・コバヤシ
ゲスト:ライデン(モータルコンバット)
搭載機
アルトロンガンダム
アカツキ(オオワシ装備)
ラファエルガンダム
ガンダムキマリスヴィタール
VF-1S ロイ・フォッカースペシャル
バーグラリードック
レイズナーMkⅡ
レーバテイン
他多数

リオンテイルさん、誤字報告サンクス!


 いきなり現れ、攻撃してきた挙句にこの戦いは無意味だと叫ぶ張五飛(チャン・ウーフェイ)のアルトロンガンダムに対し、周囲に居た連邦軍や同盟軍は武器を向ける。

 

「いきなり出て来て、無意味だなんだの…! 意味の分からんことを言いおって!」

 

 そんな五飛に向け、陸戦強襲型ガンタンク改に乗るステパン・ルスラーノヴィチ・ドラグノフは、連装砲をアルトロンガンダムに向けて放つ。

 飛んでくる砲弾に対し五飛は見えているかのように避け、反撃せずに基地の防衛を止めてサイクロプスの効果範囲より逃げろと説得する。

 

「これを見て、お前たちは敵を誘き寄せるための囮だと言うのを理解できないのか!? このままでは死ぬぞ!」

 

 そう訴える五飛であるが、いきなり出て来て無意味だの囮にされている等を言っても、相手を混乱させるばかりだ。証拠であるデータをこの戦場に居る全機体に受信しているが、これを見て信じろなど、到底できない問題だ。

 

「俺たちを混乱させるために言っているのか?」

 

 専用のスコープドックに乗るゼルムはヘビィマシンガンと背中のガトリングを浴びせながら、五飛は自分たちを混乱させる為に来たと考える。彼がそう思うのも無理もないだろう。送られたデータを見たが、ゼルムは似たようなことで騙されたことがあるので、警戒している。

 

「奴は味方か? 敵なのか? CP?」

 

 同じくその場所に居るジェムズガンに乗るジークハルト・クリーガーは、コマンドポストに五飛のアルトロンガンダムを攻撃して良いのかと問う。

 このジークハルトからの問いにシャン・ツンは、彼らに五飛を攻撃させるため、基地司令官に変身して命令を出す。

 

『こちら当基地司令官のジェイロー・キッチマン元帥だ。あのガンダムタイプのMSは敵である! 当基地のデータを送っているが、それは我が軍を混乱させるための偽情報である! 直ちに撃墜せよ!』

 

 無論、本物の基地司令官は既に潜水艦で基地を脱出している。それを知らない彼らは、シャンが化けていることも知らず、アルトロンガンダムを命令通りに攻撃し始めた。

 

「撃墜! 撃墜!」

 

 タコスケが乗るスコープドックはその命令に応じ、同じく応じて攻撃するジークハルトと共にアルトロンガンダムの攻撃を始める。

 

「死ねや!」

 

 F-4Jに乗るユキチ・アラザキもそれに加わる。

 彼だけではない。リュウ、辻凪あやめ、リンネ・ネハーン、ジャン・L・フェイローン、ティムキン、エメルダ、カルマ・フォルセティが五飛のアルトロンガンダムに集中砲火を浴びせる。

 

「奴の口車に乗るな! 死ぬんだぞ!!」

 

『意味の分からないことを言うな!』

 

 この集中砲火に五飛は攻撃を止めるように避けながら言うが、既に敵であると認識されており、誰も聞かなかった。

 自分の話を聞かないのであれば、力尽くで聞かせようと判断し、五飛はアルトロンガンダムのドラゴンハングを使う。

 

「ならば、力尽くで言い聞かせてやる!」

 

『うわっ!?』

 

 飛んでくるドラゴンハングに、ティムキンはGキャノンの複合シールドで防いだが、余りのパワーの強さに怯んでしまう。

 やられた同僚に近付けまいと、エメルダは自分が乗るアデルマークⅡ・スナイプカスタムでアルトロンガンダムを狙撃しようとするが、照準を合わせた瞬間に敵機が飛んで消え、接近を許してしまう。

 

『ひっ!?』

 

「女か。俺は女を殺さん!」

 

 一瞬にしてビームトライデントの刃を刺されたが、五飛は倒した敵機のパイロットが女だと分かった途端、とどめを刺さずに刃を抜いてアデルマークⅡの両足と両腕を素早く切断して戦闘力を奪った。

 達磨状態にされた自機より、エメルダは急いで脱出する。それを援護するべく、ジャンは攻撃を加えたが、ドラゴンハングによる倍返しを受ける。

 

「うわぁぁぁ! あっ、死んでいない…!? だが、機体はお釈迦だ! 脱出する!」

 

 勢いよく射出されたドラゴンハングは胴体を貫くと思っていたが、頭部を突き破っただけであった。頭部のメインカメラがやられてしまえば、碌に戦闘が出来ないので、ジャンは機体から脱出する。

 ジャンのストライクダガーを撃破した五飛のアルトロンガンダムはその場から飛び上がり、上空より攻撃してきたディンとバビの編隊を素早く撃破してからリュウのジェガンJ型に、先ほどの同盟軍機数機を切り裂いたビームトライデントを振り下ろそうとした。

 

『うわぁぁぁ!? 来たぁ!!』

 

「フン、弱い者が戦うな!」

 

 怯えて碌に反撃しないリュウに対し、五飛は彼の機体を破壊することなく蹴りを入れ込んで地面に叩き付けた。

 ステバンの陸戦強襲型ガンタンクの連装砲が再びアルトロンガンダムを狙うが、五飛はそれを読んでいて躱し、ガンタンクを仕留めようと近付く。

 

「狙いが良い! 兵士としては優秀だ! だが、俺の敵ではない!」

 

『クソっ! ガンダムめ!』

 

 近付いてくるアルトロンガンダムに対し、ステパンは両手のガトリング砲を撃ちながら後退する。

 ガンダリュウム装甲を持つアルトロンガンダムには通じないが、怯ませることに成功した。集中砲火を浴びせるステパンに続き、まだ戦闘が可能な一同は五飛のアルトロンガンダムに攻撃を浴びせる。だが、これほどの数にも関わらず、未だに仕留められない。

 あれだけの数を投入して五飛のアルトロンガンダムを斃しきれないことに業を煮やしたシャンは、グリムリパー・ハルパニアが乗るフォビドゥンガンダムを差し向ける。

 

「これほどの数にも関わらず一機を倒せんとは。やはり目には目を歯には歯を、ガンダムにはガンダムを! ハルパニア中尉、あのガンダムタイプを攻撃しろ! お前が優秀であることを証明するのだ! 他は邪魔にならんように、迎撃配置に戻れ!」

 

 基地司令官に変身して命令しているため、一同はそれに応じて元の迎撃配置に戻った。下がっていく連邦軍機を見て、五飛は強敵を差し向けたと判断して警戒する。

 

「下がる…!? 俺に見合う者を差し向ける気か! その者ですら、都合が悪ければ生贄と言うことか! やはりこの世界の連邦政府は悪だ!!」

 

『死ねぇぇぇ!!』

 

 優秀な者ですら生贄とする連邦政府を悪と表し警戒する中、空より飛来してきたフォビドゥンガンダムに乗るグリムリパーは、標的のアルトロンガンダムに向けて誘導プラズマ砲フレスベルグを放つが、装甲越しより殺気を読み取っていた五飛はそれを躱す。空かさずにグリムリパーは機体の可動式レールガンを展開し、回避行動を取るアルトロンガンダムに向けて撃ちまくる。

 凄まじい弾幕に五飛は怯むことなく、ドラゴンハングによる反撃を行う。フォビドゥンガンダムの特徴であるエネルギー偏向装甲はビーム以外防ぐことができないので、衝撃で吹き飛ぶ。

 

『ぐぁ!?』

 

「そのガンダムの特徴は既に知り尽くしている! 俺のナタクにはビームは得物だけだ!」

 

 自分のガンダムにはビームは近接兵装のビームトライデントのみであると言った後、怯んでいるフォビドゥンガンダムに向けてバックパックのスラスターを吹かせて飛翔し、ビームトライデントで切り裂こうとするが、相手は強化されたパイロットが乗るガンダムだ。直ぐに姿勢を安定させ、刺突用スピア付きの大鎌を振って来る。無論、敵機を知り尽くしている五飛なので、それすらも躱す。

 

「無駄だ! その間合いも知っている!」

 

『うわぁぁぁ!!』

 

 鎌を躱した五飛は自機のビームトライデントを素早く振るい、グリムパーのフォビドゥンガンダムを切り裂いた。バラバラに切り裂かれたグリムリパーは、断末魔の叫びを上げながら機体と運命を共にした。

 

「あの反応、ブーステッドマンか。戦うために改造された挙句、捨て駒にされた。それを知らずに死ねたお前は、ある意味では幸せなのだろうな」

 

 戦わされるために拉致され、改造された挙句に死んだグリムリパーに、五飛は憐みの言葉を掛けた。

 

 

 

「みんな、急いでくれ! 戦闘はもう始まっている! 優勢なのは、同盟軍の方だ!」

 

 サイクロプスの情報を得て、連邦軍の企みを防ごうとする一団の姿があった。

 その者たちはガルダ級超大型輸送機であるアウドムラを移動拠点としており、かなりの数の機動兵器を搭載していた。

 中にはガンダムタイプ三機を初め、マクロスに乗るイヴ人らの難民たちを守る同じVF-1バルキリーやスコープドックの改造機であるバーグラリードックが居る。他には十メートル級の機動兵器が二機ほど確認できる。

 アウドムラの艦長であるハヤト・コバヤシは、既に発進している者たちに、急いで基地へと向かうように指示する。同時に同盟軍が優勢であり、基地を脱出した連邦軍の基地司令官やその幹部たちがサイクロプスを起動させる危険性があることも伝える。

 

「ヴィンデルやシャン・ツンの企みを、何としても阻止せねばならん! あの悪魔のような装置が起動すれば、更なる憎しみが呼び起こされ、シャン・ツンやクァン・チーは一千万以上もの魂を吸収し、更なる力を得てしまう!」

 

 アウドムラの艦橋にて、ハヤトやブリッジクルー達とは違う編み笠に和装と言った服装の男、ライデンはヴィンデルを初め、シャン・ツンとクァン・チーの企みは阻止せねばならないと口にする。

 彼は神であり、ゴッドカオスやヴィンデルの野望である永遠の闘争を阻止すべく、秩序の神ホーラや自身の権限で生き返らせた戦士たちと共に立ち向かったが、一歩及ばずに敗退した。

 今ここに居る者たちは、ゴッドカオスやヴィンデルと戦うためにホーラが召集した戦士たちであり、ライデンが各地に散らばっていた彼らを再び集結させた者たちでもある。かなりの戦力であるが、ゴッドカオスとヴィンデルとの戦いの時より少ない。集結の最中にサイクロプスの情報が入り、集まった戦士たちだけで向かっていた。

 五飛のアルトロンガンダムも彼らと同じ戦士であるが、サイクロプスの情報を知った途端、単独で基地に先行したのだ。大規模な戦闘に単独で向かうなど自殺行為であるため、彼らは徒党を組んで基地に向かっている。

 

「五飛は単独でHLVを使い、基地の中心部辺りに降下したようだ。今現在、連邦軍と同盟軍と交戦状態だ。全く無茶なことをする」

 

「彼は一人で戦うことに固執している。速くせねば、装置にやられてしまうだろう」

 

「世話の焼ける奴だ。もう少しで基地だ、脱出した後、説教をしないと」

 

 五飛の単独行動に、ハヤトとライデンは頭を悩ませているようだ。ことが終われば、五飛を説教するとハヤトが言った後、レーダー手は自分らの進行方向に敵影が待ち受けていることを報告する。

 

「レーダーに反応! 敵部隊です! 機種はモビルドールのビルゴ多数! ドーべンウルフ一機!」

 

「なんだと!?」

 

「ヴィンデルかシャン・ツンだ! 我々が来ることを予期していたのだ!」

 

 レーダー手からの報告で自分らの進行方向に大部隊が布陣していたことにハヤトが驚く中、ライデンは動きを読まれていたと口にする。

 ライデンらを待ち受けていた無人機であるビルゴ部隊と、唯一の有人機であるドーべンウルフに乗るパイロット、ラカン・ダカランは腕組みを解いて操縦桿を握り、笑みを浮かべる。

 

「フフフ、来たか。ここから先は通行止めだ! 行けィ! 人形共!!」

 

 ラカンが指示を出せば、背後に控えている大量のビルゴは、アウドムラの隊に向けて右手のビーム砲を撃ち始めた。ラカンのドーべンウルフも、ビームライフルを本体に繋げ、メガ・ランチャーとして発射する。

 

「沈めェーッ!!」

 

 この高出力のビーム弾幕に、先行していた部隊は回避行動を行う。間に合わないアウドムラでは、アンチビーム爆雷を急いで発射するようにハヤトは指示を出す。

 

「アンチビーム爆雷発射!」

 

 ハヤトの素早い指示でアンチビーム爆雷が発射され、ビームの一斉射による撃沈は免れた。直ぐにハヤトは次の指示である対MD(モビルドール)戦闘を出す。

 

「次が来るぞ! 対MD戦闘用意! 奴らのことだ、無人戦闘機ゴーストを配置している可能性がある! 空戦隊はそれに警戒するんだ!」

 

 この指示に応じ、VF-1Sに乗るロイ・フォッカーや空戦用装備を施したアームスレイブのレーバテインに乗る相良宗介(さがら・そうすけ)はアウドムラ周辺を飛び、ハヤトが警戒する無人戦闘機ゴーストに警戒する。ラファエルガンダムに乗るティエリア・アーデ、金色のMSのアカツキに乗るカガリ・ユラ・アスハも警戒した。

 SPTであり、可変機能も備えるレイズナーMkⅡに乗るアルバトロ・ナル・エイジ・アスカも、ハヤトの指示通りに無人戦闘機群よりアウドムラを守るべく警戒しようとしたが、ゴステロのダルジャンからの攻撃を受ける。

 

『エイジ! エイジぃぃ!! 死ねぇぇぇ!!』

 

「ゴステロ!? 奴もここに居たのか!」

 

 レーザー攻撃に対して回避行動を取り、機体を戦闘機形態から人型形態に変形させたエイジはレーザーで撃ち返す。

 

『テメェをぶち殺すために、また生き返ったぜ!』

 

「やはり、クァン・チーの仕業か!」

 

『ご明察よ! あの御方に生き返らせてもらった俺様は、また人殺しが出来るようになって感謝してるぜ! フハハハ!!』

 

「あんな男に感謝だと!? あいつは他人を良いように利用して、用済みになれば使い捨てる奴だぞ!」

 

『はっ! あの御方に利用されたそいつがアホなことよ!』

 

 憎い相手であるエイジを見付けたゴステロは、クァン・チーの妖術によって蘇ったと自ら語る。そして大好きな人殺しをまた出来るようにしてくれたことに、自身を生き返らせたクァン・チーに対して感謝しているとも告げる。

 クァン・チーの悪行をライデンより聞いていたエイジは利用されているだけだと言うが、当のゴステロには通じなかった。エイジがゴステロと交戦している間に、無人戦闘機AIF-9Vゴーストがアウドムラに襲い掛かる。

 

「ビーム兵器主体の機体など!」

 

 ナノ・ラミネーター装甲を有するガンダムキマリスヴィタールに乗るガエリオ・ボードウィンは、キリコ・キュービィが乗るバーグラリードックの援護を受けつつ、大多数のビルゴに接近してドリルランスを使って蹂躙を始めた。

 数十機以上がドリルランスを振るわれてバラバラに砕けていく中、ラカンが駆るドーべンウルフが強力なビーム砲で止めに入る。怯んだガエリオのキマリスヴィタールは機関砲を撃ちながら後退し、自機に群がって来るビルゴを近接兵装で一掃する。

 その後、ビームサーベルしか持たないのに、ビームに対抗を持つヴィタールに対して近接戦闘を敢えて仕掛けて来るラカンに、ガエリオはこの歪んだ世界を認めるのかと直接通信で問い詰める。

 

「グっ! なぜ貴様はこの歪んだ世界を認める!?」

 

『歪んでいる? 歪んでいるのは貴様らの方では無いか? 戦いもせずに逃げ、脇から見ているだけの者どもの為に戦う貴様らの方が』

 

「そんな考えが歪んでいる証拠だ!」

 

 ヴィンデルの永遠の闘争の世界を認めるのかと問うガエリオに対し、戦えない、戦いもせずに逃げる者たちの為に戦うそちらの方が歪んでいるとラカンは返した。

 この返答に怒りを覚えたガエリオは機体の刀を抜いて斬りかかるが、ラカンの技量は高く、躱されて蹴りを入れられ、地面に叩き付けられたところでバックパックに搭載されているミサイルを撃ち込まれる。

 

「ビームは防げても、この距離のミサイルは防ぎ切れまい!」

 

『その程度で!』

 

 時期に向かってくる十二発ものミサイルに対してガエリオは、倒れた機体を回転させて躱し、機関砲による反撃を行う。この機関砲による反撃にドーべンウルフは回避行動を行い、しぶとい相手にラカンは苛立ちを覚える。

 

「ちっ、しぶとい奴!」

 

 舌打ちしてから、ラカンは機体の腕部ユニットをガエリオのキマリスヴィタールに向けて射出した。

 ライデン率いる戦士たちがヴィンデルやシャンの放ったラカンの部隊に抑えられる中、連邦軍が守る基地では、その内部まで同盟軍の侵攻を許していた。




他の方々の募集されたキャラも登場する予定でしたが、思ったより五飛やラカンにガエリオ、エイジの尺が長くなってしまったため、次回の出番になってしまった…。


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脱出せよ その3

前回に言っていたキャラクターを登場させます。


 ライデンやハヤトらがラカンとMD部隊に足止めされる中、この地域の防衛を担っていたマクロスが、ターニャや部下たちを回収してから戦線から勝手に離脱し始めた。しかも、敵陣の方へ進んでいく。これは敵前逃亡である。

 

『姉さん、マクロスが!』

 

「勝手に前進? どういうこと!?」

 

『そんなの、僕が知るわけないでしょ』

 

 付近で防衛戦を行っていたスピアヘッドに乗ってロナは、マクロスが敵陣に向けて前進しているのを目撃し、それを姉に報告した。リオンに機関砲を撃ち続けて撃墜した弟と同じ戦闘機に乗るラナは、どうして前進していることに驚きの声を上げる。

 一度補給し、他の部隊に合流して防衛戦を行っていたジェットストライカー装備のダガーLに乗るジョウ・エグザやヘビーガンに乗って単独で暴れ回るリューゴ・バーニングも、それを目撃していた。

 

「なんで前進している? ここの防衛は、あの艦が無いと支えられないんだぞ! CP、あの艦は何か言っているのか!?」

 

『なんだぁ? 俺と同じく暴れ回るつもりか? 獲物は寄越さんぞ!』

 

 ジョウは何でマクロスが前進しているのかをコマンドポストに問い、リューゴは自分の獲物を横取りするつもりかと慌て始め、随伴しようと向かい始める。

 補給を終えて前線に戻ってきたヘビーガンに乗るルビー・ヘルナンデスも、Gキャノンに乗るアルヴィナ・ウラジーミロヴナ・パヴロヴァもそれを目撃しており、敵前逃亡では無いかと疑う。実際、そうであるが。

 

「あれって、敵前逃亡ですよね? 撃ち落とします?」

 

『現状の兵装では無理。同盟軍に任せるのが妥当』

 

 敵前逃亡なので、ルビーがマクロスを沈めるのかと問えば、アルヴィナは質量が大き過ぎるので、現状の兵装では撃沈は困難だと答え、同盟軍の集中砲火に任せるのが妥当だと答える。

 

『だ、駄目だ! 抑えきれない! 突破され…』

 

『なんでマクロスが離れるんだ!? あいつ等、一体どうかしたのか!?』

 

『後退を! 後退の許可を! わぁぁぁ!!』

 

「俺の獲物を横取りする気だろう」

 

 無線機からは友軍の将兵の悲鳴が聞こえる中、リューゴが駆るヘビーガンはマクロスに随伴しようと前進を続ける。途中で邪魔な敵機が前に出て来るが、リューゴの技量は高いので、反射的に前に出た数機をビームライフルで撃墜した。

 

「これで何機目だ? もう腹いっぱいだぜ!」

 

 敵機数機を撃破した後、リューゴは数えるのが面倒になったと口にしつつ、マクロスの近くまで来たが、ここに来てグフイグナイテッドの近接攻撃を側面より受け、マクロスに激突した。

 

「うわぁぁぁ!? クソっ、死ねるかよ!」

 

 激突した後、まだ動く左手で甲板を掴み、コクピットのハッチを緊急パージして機体より脱出する。そのままマクロスに飛び付いて張り付き、被弾して空いた穴に入って艦内に退避した。

 

『こちらCP、司令部よりあれは敵前逃亡艦と認定された。直ちに撃沈せよとのことだ。まぁ、同盟軍が勝手にやってくれるだろう。お前たちは基地の防衛に専念しろ』

 

「撃沈しろだと? なら、俺はここで戦死だ」

 

『はっ? 何を言ってんだお前』

 

「ジョウ・エグザは、ここで死んだ」

 

『何っ!? 貴様も敵前逃亡か! 各機、エグザ機を…』

 

 負傷した戦友を載せたまま前進しているマクロスを撃沈しろとの命令に対し、仲間を見捨てられないジョウは自分は戦死したと口にする。

 再編の際に組み込まれた僚機のパイロットが意味を問う中、ジョウは自分はここで戦死したと答えてからマクロスへと向かった。直ぐに今の上司がジョウを敵前逃亡犯として処罰するように告げたが、同盟軍の攻撃によって隊長機と他多数が撃墜される。

 ルビーもアルヴィナもジョウの行動を見て、辞めようと思っていた統合連邦を辞める機会だと判断して後に続いた。

 

『なんでついてくる? お前たちも敵前逃亡犯になるぞ』

 

「連邦を辞めるには、良い機会ですので。貴方と一緒にあのマクロスに乗ります」

 

『右に同じく』

 

『フン、勝手にしろ』

 

 ルビーが乗るヘビーガンとアルヴィナの乗るGキャノンが随伴してきたので、ジョウが訳を問えば、連邦を辞めるにはいい機会だからついて来たと彼女らは答えた。

 これにジョウは了承して、共にマクロスへと向かった二人だけではない、ラナとロナも統合連邦を辞めたかったようだ。

 

『お前たち、何をしている!? 速くそこの敵前逃亡者を撃墜しろ! 聞いているのか!?』

 

 ジョウ達の後ろに付けば、しつこく撃墜しろと言ってくるCPに対し、ラナは無線機のチャンネルを切ってついて来て良いかと問う。

 

「私たちも一緒に良いかな? あのマクロスが前進したってことは、何かあるようだし」

 

『何か裏があるみたいだからね。行って確かめないと』

 

 ルビーとアルヴィナの機体が兵装を向ける中、ラナに続き、ロナはマクロスの前進に何かあると思って姉に続いたと答えた。思わぬ援軍に、ジョウは敵前逃亡者になると告げる。

 

「お前たちも敵前逃亡になるぞ」

 

『敵前逃亡? もう良いかな。徴兵されて、勝手気ままにやったらこんな激戦区に放り込まれたし』

 

『明らかに僕たちを殺そうとしているからね。もう統合連邦は辞めて、バルキリー乗りに転職しようと思うんだ』

 

「勝手な理由だな。まぁ良い、勝手に来い。途中で撃墜されても助けないぞ」

 

『ありがとさん!』

 

 これに二人の姉弟は統合連邦軍を辞めてバルキリー乗りに転職すると答え、ジョウが承諾してその後に続いた。彼らが編隊を組んでマクロスに向けて飛ぶ中、進行方向より無数の同盟軍機が彼らに向かってくる。

 

「来るぞ! 各機、編隊を崩すな!」

 

『了解!』

 

 目前に立ちはだかる多数の敵機に対し、彼らは臆することなく、マクロスを目指すために挑んだ。

 凄まじい弾幕に晒される中、彼らは躱しながら反撃を行い、一機、また一機と落としながら進んでいく。ルビーが背後の敵機を撃破し、アルヴィナのGキャノンがガトリング砲を撃ちながら進む中、VF-1JバルキリーとVF-1Aの編隊が現れ、自分らを攻撃していた敵部隊を一掃した。

 

『あんたら何? 追撃?』

 

 敵部隊を一掃した後、編隊長が乗るVF-1Jがバトロイド形態に変形してからジョウのダガーLに触れ、直接通信で追撃なのかと問うてくる。これにジョウは、そちらに合流したいと返答する。

 

「そちらに合流したい! 貴官らがなぜ前進して突破を図る理由も知りたくて」

 

『変な気ね。まぁ良いわ、突破を手伝いなさい!』

 

『あっさり受け入れましたね。何かあるかも』

 

『可能性大』

 

 そのジョウの返答に、編隊長は合流を容認して襲い掛かる同盟軍機の迎撃に向かった。

 ルビーはあっさりと自分たちを受け入れたことに、何か裏があることを言えば、アルヴィナは大いにその可能性があると言う。これにアナはこの地獄のような場所から離脱できるなら、何でもいいと答える。

 

「なんでも良いんじゃないの。ここから抜け出せるなら」

 

『そうだね。上層部は僕らのことを囮にする気だし』

 

 弟のロナも姉と同意見であった。どうやら、自分らが全滅確定の囮にされている気付いたようだ。それで連邦軍を辞める気になったらしい。その後、彼らはマクロスの難民部隊と共に突破を図ろうと奮戦した。

 

 

 

 リューゴを初め、ジョウ、アナとロナ、ルビーにアルヴィナがマクロスと合流する三十分前、先にマクロスに乗船し、手紙で信用されて艦橋まで来ていたターニャは艦長にサイクロプスのことを報告する。

 尚、部下たちはマクロスに収容されており、あの激戦区にも関わらず、誰一人欠けることなくマクロスに辿り着いていた。これにはターニャも、生前の二〇三大隊以上だと舌を巻いた。

 

「そんな…! 嘘でしょ…? 約束では、この防衛戦を我々の勝利にすれば、受け入れ先を…」

 

「言っておきますが、今述べた情報は、私が基地内に潜入して入手した情報です。基地司令部に問いたたしても無駄ですよ。既にもぬけの殻です」

 

 自分らの種族では下であり、魔法が取り柄だけでのロリータより聞かされた言葉に耳を疑うマクロスの艦長であったが、そのロリータ族であるターニャの言葉は、数百年も生きるイヴ人以上の説得力があった。更にターニャは基地内で撮影した写真を見せ、自分らが守る基地の司令部は、自分らを置いて既に逃げ出したことを伝える。

 

「え、援軍が…」

 

「援軍など来ませんよ。あなた方は敵を誘き寄せるための餌だ! そして守備隊は全滅し、頃合いを見た司令部は破棄を兼ねて基地の地下奥深くに仕掛けられたサイクロップスを作動させる。それが彼らのシナリオです。全く、疑いもせずにこんな命令に従うなど。守備軍の編成を見れば、直ぐに分かるはずですが」

 

 編成からして、上層部の目論見が同盟軍の主力軍の壊滅させるのが目的の囮であることも伝えれば、艦長は顔を青ざめさせ、どうすれば良いのかと参謀を見る。艦長に見られた参謀は暫し悩んだ後、ターニャにこの場合どうすれば良いかを聞く。

 

「使者殿…ここは…」

 

「聞くほどのことか? 既に分かっているはずだ。敵陣を突破し、基地より半径十キロメートル以内まで逃げるのだ。この地点に貴官らを迎えるための艦隊が待機している! 出迎えの艦隊は救出に来るような勇気は持ち合わせていない。こちらから、向かうしか無いのだ!」

 

「あの数を現状の戦力で…!」

 

「とても無茶だわ! 包囲されて潰される!」

 

 敵陣を突破して逃げる他ない事をターニャが伝えれば、マクロスの乗員らは包囲されて袋叩きに遭うと返して突破を断る。幾らマクロスとはいえ、あの数の突破は至難の業である。突破しなければ、サイクロプスに巻き込まれてしまう。

 

「それしかないのだ! 私の隊が前衛を務める。貴官らは、左右や後方より来る敵を一掃すれば良い」

 

「…分かりました。これを他の友軍に伝えても?」

 

 自分の魔導士隊が前衛を務めるとターニャが説得すれば、艦長は難民や他の船員たちの生存を賭けて従った。それと他の守備軍にこの事実を伝えるべきかどうかを問えば、ターニャはそれを却下する。理由は、基地の守備軍が敵の注意を引いてくれるからである。

 

「何を言います。守備軍が基地を死守してくれるおかげで、こちらに戦力が向いていないのですぞ。それをみすみす不意にするなど…一緒に心中するおつもりか?」

 

「確かに! 我々イヴ人を奴隷にしていた人間共なんかの為に、死ぬ必要性なんてありません!」

 

 このターニャの言葉に、イヴ人らの乗員らは納得した。自分らと同じく捨て駒にされた事は同情するが、先祖たちが人間に奴隷にされていた過去を思い出し、心中など馬鹿らしいと思ったのだ。若い乗員が納得して言えば、艦長を含めるイヴ人らは同意して突破に賛成する。

 

「そうですね。我々イヴ人を囮にした連邦政府の為に、戦う必要性はもうありません。これが分かっていれば、この戦闘で戦死した同胞たちは、死なずに済んだのに。では、デグレチャフ中佐殿。安住の地への案内、お願いします」

 

「その意気です。安住の地への道は、険しいですぞ。戦力はどれくらい残っているのです?」

 

 艦長の決断を褒めた後、ターニャはどれくらいの戦力が残っているのかを問う。これに参謀は、現状の戦力を機器で確認してから答える。

 

「八十パーセント程が残っています。戦力を集中すれば、十分に突破は可能かと」

 

「そうか。では、マクロスキャノンやフォールド航法は? 撃てないので?」

 

 次にマクロスキャノンと超光速航行装置の使用状況を問えば、ターニャが思った通りの答えが返って来る。

 

「マクロスキャノンは撃てません。フォールド航法も修理中で、完了には三日を要します」

 

「なるほど、だから撃たないのか。では、私が代わりにやるしかないな。とにかく、他の隊に悟られないように。敵前逃亡と見なされるので」

 

「了解。全艦及び出撃中のバルキリー隊並び防空部隊に通達! 我、突破を決断。持ち場を離れ、直ちに集結せよ! 他の隊には知らせるな!」

 

 どちらも修理中であることが分かれば、ターニャはその代わりを務めると答えた。同時に突破を他の守備軍に悟られないように告げ、突破口を開くべく、再び激戦の空へ出撃する。ターニャが出て行った後、艦長は防衛戦闘を行っている全部隊に集結命令を出した。

 

 

 

「あの巨大戦艦が敵陣に前進している! まさか突破する気か!?」

 

 エイリフ・バーライトを救出して付近の救護所へと運び、機体から降りたブル・ヴィンは、自分から遠目の方で防戦していたマクロスが前進しているのを見て驚きの声を上げる。

 ターニャが艦長を説得し、戦力を集中させて突破させた頃のようだ。マクロス前方に展開している同盟軍部隊はターニャ率いる魔導士部隊によって掃討されつつあり、その開いた突破口を目指してマクロスが前進した。

 これに同盟軍は左右側面よりマクロスに襲い掛かろうとするが、側面に展開していた艦載機に抑えられていた。これにジョウ達も加わって、防御が鉄壁となっている。

 ヴィンの声でマクロスが基地より離れようとしているのを知ったエイリフは、遂に基地に何らかの自爆装置が仕掛けられていることに気付く。流石にサイクロプスとは思っていないが、守備軍の人員編成で、ようやく確信に至ったようだ。

 

「そうか。我々は餌か…」

 

「なに、餌だと? どういう意味なのか?」

 

 気付いたエイリフが朦朧とする意識の中でつぶやく中、ヴィンはどういう意味なのかを問う。

 

「おそらく、何らかの自爆装置が基地の地下奥深くに仕掛けられている。同盟軍はこの基地の攻略に地球にある戦力の大半を投入している。上層部は戦力を奪う為に、我々は生贄にされたのだ」

 

「これほど重要な拠点なのに、守備軍の編成にUNSCとISAが無く、徴収兵や敗残兵、懲罰部隊に傭兵、そして我々だけなのは、我々を囮にする気だからか!」

 

 エイリフの答えに、事実を知ったヴィンは怒りの余り、近くの壁に拳を打ち付けた。軍事顧問として従事し、戦った者に対する敬意がこの仕打ちは、流石に怒りを覚える。同時に、エイリフは上層部にとって都合の悪い人間も、基地の守備軍に組み込まれていることを伝える。

 

「それに上層部にとって都合の悪い一部の将兵も含まれている。それが私だろう。和平派は、ブルーコスモスやこの戦争を陰で操る者にとって目障りなことこの上ない」

 

「我々も都合の悪い者の方へ含まれてるのだろうな…! でっ、どうする? 脱出するのか? すれば、我らは敵前逃亡者だぞ」

 

 これにヴィン等サンヘイリ族も含まれていると言えば、脱出するかどうかを聞いてきた。

 脱出を選べば、自分らは敵前逃亡者として追われる身となるだろう。しかしここに留まっていれば、サイクロプスの餌食となる。生き残る選択肢は、当然の如く前者しかない。

 

「脱出だよ、私もまだ死にたくないのでな。私の命令に従う者だけを、出来る限り連れて行こう。おそらく攻撃されるだろう。エリート族の者たちは?」

 

 当然の如く前者を選んだエイリフはヴィンに脱出するのかを問えば、上層部の自分たちに対する仕打ちに怒りを覚えるサンヘイリオスの剣の遠征隊隊長は、脱出すると答えた。

 

「当然だ、我々も脱出する。故郷へは、同盟軍より艦を奪って帰ることにしよう」

 

「決まりだな。では、無線機で志願者を募る。ペリカンを用意させる。貴官らは?」

 

「52式、お前たちで言えば、ファントムで脱出する。既に呼び寄せた。脱出の準備だ! モラム、重装備は捨てて行け!」

 

 サンヘリオスの剣も脱出すると答えれば、無線機の受話器を持ったエイリフはどのような手段で問うと、ヴィンは兵員輸送機であるファントムで脱出すると答えた。それを伝えるため、無線機で副官に伝え、ここを守るレイスに乗るリウス・モラムに脱出するとことを伝える。

 

「さて、何人従うんだ…? こちらエイリフ・バーライト准将だ。守備軍将兵全員に聴いてもらいたいことがある…」

 

 無線機の受話器を握りながら、エイリフは何人従ってくれるか不安になりつつも、基地より脱出する志願者を募り始めた。




次かその次で終わる予定です。

さて、次の舞台…IS世界にでもしようかな…?


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脱出せよ その4

次で、完全に脱出いたしまする。

※リオンテイルさん、誤字報告サンクス。


 自分らが囮にされていることに気付いたエイリフ・バーライト准将とブル・ヴィンは、基地の防衛を放棄して脱出する事を決断した。

 その際にエイリフは、共に脱出する志願者を無線機で募る。脱出は基地の防衛を放棄し、敵前逃亡者となり、追われる身となるので、従う者は殆ど居なかった。無論、彼らは後に同盟軍の猛攻で散るか、サイクロプスの自爆で死亡することになるが。

 

 従ったのは以下の通り。

 リュウ・パーシー中尉

 辻凪あやめ少尉

 リンネ・ネハーン伍長

 パーア・プリン中佐

 ゼルム

 ジャン・L・フェイローン中尉

 ステパン・ルスラーノヴィチ・ドラグノフ准尉

 ティムキン上等兵

 エメルダ軍曹

 カルマ・フォルセティ

 ジークハルト・クリーガー少尉

 ユキチ・アラザキ

 タコスケ

 他の脱出に賛同した将兵複数

 

 リウス・モラムはサンヘリオスの剣の遠征隊全員がヴィンの指示で脱出しているので、その中には含まれていない。同じくゲル・スオラムは、戦死したと判断された。

 尚、ラナ伍長、ロナ伍長、ジョウ・エグザ少尉、リューゴ・バーニング准尉、ルビー・ヘルナンデス曹長、アルヴィナ・ウラジーミロヴナ・パヴロヴァ曹長は先にマクロスに合流したので、含まれていない。

 脱出部隊はマクロスに合流した方が良いと判断し、まだ海上に居るマクロスを目指して飛び立った。

 

「いくつかの部隊が集結している? ようやく気付いたか。殿は任せろ!」

 

 負傷したエイリフと他の負傷兵を載せて飛ぶペリカン輸送機数機と、ヴィンの量産型ヒュッケバインMk-Ⅱと同型機数機を護衛に飛ぶファントム数機を見て、アルトロンガンダムで両軍を相手にしていた張五飛(チャン・ウーフェイ)は、ようやくサイクロプスが仕掛けられていることに気付いたと判断し、その例としてか、殿を務める。

 サイクロプスに気付き、脱出を図ろうとするエイリフらに気付いたシャン・ツンは、直ちに脱走兵の始末を命じる。

 

「気付いたようだな。だが、逃さん! 前将兵に通達! バーラント准将とその共謀者共は脱走を図ろうとしている! 直ちに処罰せよ! 裁判などいらん!!」

 

 基地司令官に化けて指示を出せば、付近で同盟軍と交戦していた連邦軍部隊は、基地より脱出を図ろうとするエイリフたちに攻撃を始める。

 ジェガンJ型やドートレス、ストライクダガー、スコープドックが脱出しようとするエイリフたちを攻撃する中、五飛のアルトロンガンダムはドラゴンハングを放ち、数機を一度に撃破した後、空高く飛んで数機の前に立ち、驚いている敵部隊に向けて容赦なくビームトラインデントを振るい、全機を切り裂く。

 爆発の連鎖が巻き起こる中、シャンは並のパイロット、それも防衛側の連邦では勝てないと判断する。

 

「やはり守備軍の雑兵では歯が立たんか。なれば、優勢な同盟軍にやらせるまでよ」

 

 同盟軍にエイリフ等と五飛を排除させることを決めたシャンは、連邦軍の基地司令官から同盟軍の将官に変身し、攻撃側の同盟軍部隊に指示を出す。

 

「こちらベッデ・ウマン中将だ。敵将官が脱出を図ろうとしている! 直ちに排除せよ!」

 

 この指示が出されれば、同盟軍の将兵らは何の疑いもなしにエイリフたちを攻撃し始める。

 雨あられの攻撃に、何機かが被弾して落ちていく。その激しい攻撃で、リュウが乗るジェガンJ型は左腕を喪った。

 

『うわぁぁぁ!!』

 

「なんで攻撃してくるのよ!? 主目標は基地でしょ!」

 

 ジェムズガンに乗るリンネはビームシールドを張って攻撃を防ぎながら、自分らに攻撃を集中してくる同盟軍に文句を言う。彼らの主目標は基地であって、逃げようとする自分たちではないはずなのだが、これはシャンの指示であり、その指示を出している者をエイリフたちは知らない。否、知る由もない。

 地上の脱出部隊も攻撃が集中し、そこでもリュウと同じように被弾する物が続出する。ユキチ・アラザキのF-4Jが足を破壊されて身動きが取れなくなった。

 

「ぐぁ!? あ、足をやられた! 脱出する!!」

 

『援護! 援護!』

 

『了解、回収する! しっかりと掴まれ!』

 

 足をやられたユキチはまだ動く右手の火器で、自分の機体の足を破壊した敵機を撃破した後、無線機で上空の脱出部隊に報告する。それを受け、まだ人を乗せられるペリカンが降下し、ユキチを回収した。その援護はタコスケが乗るスコープドックが行う。

 ユキチを回収し終えれば、ペリカンを撃墜しようと迫りくるリオン数機を、カルマ・フォルセティが駆る量産型ゲシュペンストMk-Ⅱがジェットマグナムで迎撃を行い、迫ってきた全機を撃墜する。

 

「畜生が! お前らの目標は基地だろうが!」

 

 そう文句を言いつつ、再び先陣を切って邪魔な敵機の掃討を続けた。

 

「クソっ! この集中砲火じゃ、シールドが持たない!」

 

『泣き言を言うな! 俺だって言いたい!』

 

 一方で、負傷兵と機を失ったパイロットたちを乗せたペリカンやファントム等の脱出部隊を、ジークハルト・クリーガーのジェムズガンと一緒に護衛する特殊なシールドを装備したGキャノンに乗るティムキンは同盟軍の集中砲火にシールドが持たないと弱音を吐く。これにジークハルトも言いたいと言うが、マクロスに合流するまで耐えるほか無いと言ってミサイルを撃ち込もうとするセラフ級戦闘機に二発のビームを撃ち込んで撃墜する。

 

『一体、俺たちが何をやったって言うんだ? これほどの戦力を割いてくるなんて』

 

「そんなもん、俺が知るかってんだ! このワン公が!!」

 

 地上で先行するネイビーカラーのスコープドックに乗るゼルムは、目前の数機の敵機をガトリングガンとヘビィマシンガンで一掃してから同盟軍が執拗に自分たちを追撃してくることに疑問を口にすれば、改造された陸戦強襲型ガンタンクに乗るステパン・ルスラーノヴィチ・ドラグノフはバクゥを含める数十機の敵機を両手のガトリングガンと連装砲で一掃し、知らないと答える。

 

「もう限界、弾が! それに推進剤も! どうやら、機体を棄てる時が来たようね…!」

 

 辻凪あやめが乗るF-4Jは、歴戦の戦闘で弾薬を損耗していた。これ以上戦闘を続ければ弾切れを起こし、推進剤もほとんど残っていない。それが無くなれば、機体を放棄する他ないと判断する。

 手練れ等が乗るそれぞれの機体が群がって来る同盟軍機を迎撃する中、輸送機の上方で警戒するブル・ヴィンの量産型ヒュッケバインMk-Ⅱに、サブフライトシステム(SFS)に乗ったRFドムが迫っていることを、ヘルガスト軍の戦闘機を撃墜したファントムのガンナーを務めていたリウス・モラムが知らせる。

 

『隊長、真上に敵機!』

 

「そんなに我々を始末したいのか! 黒幕は!!」

 

 リウスの知らせでビームセイバーを持って迫りくるRFドムに対し、ヴィンはそのビームの刃を躱してから執拗に自分らを殺そうとしてくる黒幕に対する怒りを燃やしつつ、機体のエナジーソードを抜いて敵機のコクピットに突き刺した。コクピットを突き刺されて機能を停止した敵機を、別の方向から仕掛けて来るディンに向けて投げ付け、左手で素早く持ったエナジーガンを撃ち込んで纏めて撃破する。

 

「余程、あの者たちが鬱陶しいようだな!」

 

 地上で彼らの背後を守る五飛も、連邦から同盟軍に変わった追撃部隊の迎撃に追われていた。

 何機落としても次から次へと湧いて出て来る。同盟軍に制圧された区画を進む度に、その数は増える一方だ。サイクロプスの効果範囲内であるが、基地より離れれば連邦軍機は残骸ばかりとなり、目に見える全ての敵機は同盟軍の物と変わる。

 

「さて、基地は後どれくらい持つか…!」

 

 揺れるペリカンの兵員室にて、担架の上で横たわるエイリフは基地の守備軍がどれくらい持つかどうか心配する。

 守備軍が全滅し、基地が完全に同盟軍の手に落ちれば、予め基地より脱出していた上層部はサイクロプスを起動する事だろう。それまでにマクロスと合流し、基地から半径十キロメートルより離れられるかどうかが勝負だ。

 果たして、彼らは脱出できるのだろうか?

 

 

 

「なんでこんなに来るんです!?」

 

『この船、大きいから』

 

 一方で、ヘビーガンに乗ってマクロスで突破戦を行っていたルビー・ヘルナンデスは、マクロスに落としても切りがなく群がって来る敵部隊に文句を言う中、Gキャノンに乗るアルヴィナ・ウラジーミロヴナ・パヴロヴァはマクロスが大き過ぎるからと口にする。

 それでも包囲して襲ってくる敵部隊を迎撃する中、海上から撃ってくるRFズゴックやグーンを仕留めたアルヴィナのGキャノンの背後より、SFSのグゥルに乗ったブレイズウィザード装備のザクウォーリアがヒートホークを持って迫る。それに気付いたルビーは、直ぐに来ていることをアルヴィナに知らせる。

 

『アルヴィナ! 背後から敵機が!!』

 

「っ!? キャァァァ!」

 

 気付いたアルヴィナはその敵機を迎撃しようとしたが、振り向く前に背中を切り裂かれ、マクロスの上に墜落した。

 

「私は…まだ…生きてる…!」

 

 撃墜されてマクロスに墜落したアルヴィナであるが、幸い生きており、自力で脱出して甲板で迎撃を行っていたイヴ人の将兵らに回収された。

 

「アルヴィナ! よくも!!」

 

 アルヴィナを撃墜して自分も落とそうとしてくるザクウォーリアに対し、仲間の仇討ちに燃えるルビーが急速接近して体当たりを行い、素早く抜いたビームサーベルで胴体を切り裂いて撃墜した。

 

「くっ、どれくらい持ちこたえられる!?」

 

 手練れが乗るGキャノンが脱落して戦力が低下する中、ジェットストライカー装備のダガーLに乗るジョウ・エグザは、同盟軍の圧倒的な物量を前に撃墜されていくVF-1バルキリーやVF-11サンダーボルトを見て突破できるかどうか不安になる。

 ビームカービンで何機か撃墜するも、敵軍は湧いてくるかの如く増える一方だ。既にマクロスの甲板の上は、撃破された両軍の航空機や機動兵器の残骸で埋め尽くされている。それが生身で迎撃戦をする歩兵たちの姿を隠すのに役立っているが、まだ熱を持って爆発する可能性がある物があるので、返って被害が拡大する恐れがある。

 

『駄目だ姉さん! 機関砲が十秒で撃ち切ってしまうくらいしか残ってない! ミサイルも全弾撃っちゃったよ!』

 

「こっちも機関砲はカラカラで、ミサイルは一発だけ! あっちの船は補給とかしてくれるのかな?」

 

 スピアヘッドに乗り、敵機を機関砲で撃墜したロナは同じ機体に乗る姉のラナに弾切れ寸前であることを伝える。これにラナは落ち着きながらマクロスは自機の補給を行ってくれるかどうか疑問を抱く中、弟のロナの機体にグフイグナイテッドが接近し、ヒートロッドでエンジン部を攻撃する。

 

『うわっ!? いつの間に!』

 

「えっ!? ロナ!? うちの可愛い弟に、何をしてるの!!」

 

 この予想外な攻撃に、エンジン部に被弾したロナは直ぐに脱出する。弟を撃墜されたラナは冷静さを失い、ミサイルを弟のスピアヘッドを撃墜したグフイグナイテッドに撃ち込んだ。

 放たれたミサイルにグフイグナイテッドは回避しきれずに命中したが、撃墜には至らず、直ぐに後方へと下がっていく。撃墜されて脱出したロナは、パラシュート降下でマクロスの甲板の上に降り立ち、パラシュートを外してから急いで船内へと避難した。その様子を、ラナはキャノピー越しで確認していた。

 

「良かった、無事で…! さて、どうするかな…」

 

 弟の生存を確認した後、スピアヘッドの全ての兵装を使い尽くしたため、マクロスを見た。どうやら、まだ残っているバルキリーがあると睨んでいるようだ。

 

「主よ、目前の障害を取り除きたまえ!」

 

 前衛に立ち、部下の護衛を受けながら強力な爆裂術式を唱えていたターニャは、素早く詠唱してそれをマクロス前方に群がっている同盟軍部隊に向けて放つ。マクロスキャノンには劣るが、半分以上の威力であり、前方に展開していた同盟軍部隊は消滅した。

 

「す、凄い…!」

 

「呆けてる場合か! 敵はまだ居る! 各員、基地から十キロメートルは離れるまで油断するな!!」

 

「は、はい!」

 

 護衛を行っていた魔導士はターニャが唱えた爆裂術式で多数の敵部隊が消滅したことに驚くが、幼い上司に言われて気を取り戻し、尚も向かってくる敵機の迎撃に当たる。

 あれほど強力な爆裂術式を撃ち込んだのにも関わらず、同盟軍は怯むことなく過剰な物量をマクロスに差し向けて来る。これには流石のターニャでさえ、弱音を吐いてしまうほどだ。そう言っても、生前も何度か吐いたことがあるが。

 

「まだ来るのか…! あれほどの損害、撤退命令が出るほどだぞ!? それ程の物量を投入していると言うことか!」

 

 同盟軍が投入した戦力は、先ほどの爆裂術式の損害が軽微と思えるほどの物とターニャは判断する。それでも、生き残って任務を全うするためには戦う他に無かった。

 

 

 

 その頃、同盟軍の攻撃開始前から基地より脱出していた基地司令官や連邦軍の上層部、UNSCとISAを含める他多数将兵を乗せた潜水艦の船内では、もう十分にサイクロプスの効果範囲内より抜け出せたのか、事情を知っている士官らは安心してサイクロプスのことを話していた。

 

「本当か? その話」

 

「あぁ、本当だよ。あの基地は囮だ。優等生組な俺たちは運が良い」

 

 潜水艦の倉庫内で話しているため、聞こえないと思っているようだ。その話は近くで体育座りしている連邦海軍に属する女性士官、マリア・フレッチャーに聞こえており、彼女は耳を澄ませた。

 

「守備軍は確か…」

 

コロニー連合軍(UCA)第6軍と地球連合軍、ユーラシア軍も含むな。地球連邦の地上軍の…なんだたっけ? それとギルガメス軍の地上第十三軍だ。それらを合わせて三百二十万で、敗残兵に懲罰部隊と傭兵部隊を合わせた四十万を足せば、兵力は三百六十万ってところかな。まぁ、使い捨て前提だな」

 

「使い捨て? 三百万だなんて大損じゃないか。戦線縮小ものだぜ」

 

「あぁ、UCAの第6軍の殆どは引きこもりだよ。お前の故郷の言葉で言えば、親のすねかじりって奴だな。ネット右翼ってのもある。各コロニーでネットで右翼的な書き込みをしてる奴を集めたって話だ」

 

「ネット右翼?」

 

「政治ネタをネットで検索して調べて、それを知って自分らが学者より偉いと思ってる奴らさ。食うために士官になったお前には信じられない話だろうな」

 

 このUNSC陸軍とISA陸軍の士官の会話から、引きこもりと言う言葉を聞いて、マリアは自身が自宅の部屋に引きこもっていた時期を思い出した。自分と同じ境遇の者たちが徴兵されたのかと思ったが、マリアはネットで右翼的な書き込みをした経験は一切ない。現実を見たくないと思って敬遠していた。彼らの話からして、そんな書き込みをしていた者たちが徴兵されたそうだ。

 

「やれやれ、羨ましいもんだぜ。俺なんて引きこもることすら出来ないほど貧乏だったんだぞ。親に養ってもらって、好き放題できるなんて凄い贅沢だよ、全く!」

 

「俺は中産階級出身だけどな。その手の書き込みがある掲示板を親父に見られたら、こんな書き込みをする奴は、どの時代も負け犬だって言ってたよ。それで頑張って、今はUNSC陸軍の将校さ。連中も頑張れば、士官くらいにはなれると思うんだがね」

 

「それをやらず、現実から逃げてるからそうなったんだろ。話が逸れたな。それで、引きこもりやら都合の悪い連中の守備軍が守る基地に何が仕掛けられてんだ?」

 

 話が逸れたのか、ISAの陸軍士官は話を戻せと言う。これにUNSC陸軍士官は勿体ぶらず、サイクロプスのことを口にする。

 

「サイクロプスだよ。俺は電子工学専門じゃねぇから良く分からんが、基地の半径十キロメートルを馬鹿でけぇ電子レンジの中身にするそうだ。それを浴びせられた俺たち生物は、ポップコーンの粒のように弾けるそうだ」

 

「人がポップコーンの粒のように弾けるだって? 想像しただけでもキツイぜ。吐き気がしそうだ」

 

「だから俺たち優等生組を先に脱出させたんだよ。ご丁寧に基地司令官殿も司令部スタッフ達と共にこの潜水艦にご乗船されてる。もう基地はエイリアン共の手中に収まってる頃だ。今頃、起動作業に入ってる頃だ」

 

 都合の悪い者たちと聞いて、マリアはあの守備軍にラナとロナの二人が配置されていることを思い出した。マリアは二人がアイドルだった時代の頃からのファンであり、軍に徴兵された際は奇跡だと思ったが、まさか始末されるとは思っても見なかった。直ぐに話していた士官たちに、その話は事実かどうかを問い詰める。

 

「あの、そ、その話って…?」

 

 小声で話していたが、自分らの話を聞かれた二人は驚いた表情を見せた。




最後に出てきたマリア・フレッチャーは、次の章で出そうかな?

次回でこの章の最終回となります。


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サイクロプス、起動

レイズナーのOP風味に。

「傍観者より報告。サイクロプス、目覚めの時と」

「俺の名はエイジ、アルバトロ・ナル・エイジ・アスカ!」

「安全圏まで急げ! そこで迎えの艦隊が救援に来る!」

「この犠牲で、我らが母星である地球奪還が叶うことを…!」

「青き清浄なる世界の為に…!」

デ、デデーン♪


「追い付いた! こちらファルコン、貴官と合流したい! 収容を求む!!」

 

 同盟軍の執拗な追撃を受けながらも、マクロスに届く距離まで辿り着いたエイリフ等の脱出部隊は無線機で収容を求めた。

 上空の部隊がマクロスに追いつく中、地上の部隊の方では海の中を移動できないため、止まってしまう。同盟軍の追跡部隊が迫る中、五飛のアルトロンガンダムがそれを押し止める。

 

「ちっ、ペリカン、俺たち地上組を運べるか?」

 

 もう少しで脱出できると言うのに、機体が海の方へ移動できないので、ステパンが代表して問えば、ファルコン以外のペリカンのパイロットは無理だと答えた。

 

『駄目だ! そんな馬鹿でかい戦車を運べるほど、こいつは万能じゃない! 三機以上があればの話だがな!』

 

「まぁ、MSで運ぶってのも手だが…俺の為に防空戦力を割くのは得策じゃねぇ。やはり、爆破する他ないか」

 

 この陸戦強襲型ガンタンクを運ぶには、ペリカンが最低でも三機は必要であると言う答えが返ってくれば、ステパンはMSやPTに運ばせる手を思い付いたが、そのためにペリカンやファントムなどの脱出部隊の護衛を減らすのは申し訳ないと思い、自機を爆破することに決定した。

 一方でゼルムのスコープドックカスタムは、戦闘力が半減したリュウのジェガンJ型の残った右腕に抱えられており、向かってくる敵機の迎撃を行っていた。

 爆破準備をしている最中、リュウのジェガンJ型に抱えられているゼルムのスコープドックを見て、ステパンはATのような小型な機体は良いと愚痴をこぼす。

 

「たくっ、ATってのは良いもんだな! おい、誰か乗せてくれ!」

 

 爆破準備が終わった後、ステパンはまだ乗せられるファントムに搭乗させて貰った。タコスケのスコープドックも弾薬が切れたあやめのF-4Jに抱えられ、マクロスに合流せんと飛ぼうとする。

 殿は五飛のアルトロンガンダムが務めてくれており、地上からの追撃はペリカンやファントムには届くこと無かった。

 一方でエイリフ等が収容の許可を求められたマクロスでは、少しでも脱出の際に戦ってくれる兵員を欲しているマクロスの艦長はそれを受け入れた。

 

「こちら弥栄(やさか)、ファルコンの収容を受け入れることを許可する。その代わり戦ってもらうけど、良いかしら?」

 

『当然だ。まだ動ける負傷者と手の空いた者を銃座に回そう。戦闘可能な機体もある!』

 

 戦闘は可能かと問うてくるマクロスの艦長に対し、エイリフ等ファルコンは自分らについて来た者たちの戦闘は可能であると答えた。

 乗艦の許可が下りれば、直ぐに脱出部隊ファルコンはマクロスへと直行した。その後をヴィン達が敵と交戦しながらついていく。マクロス側が寄越したVF-1バルキリー一小隊の加勢を受けつつ、先に負傷兵や戦闘可能な人員を乗せたペリカンやファントムが着艦していく。

 次にリュウのジェガンJ型やあやめのF-4J戦術機が着陸すれば、降ろされた二機のスコープドックは甲板へと回り、デストロイドと共に防空戦に参加する。

 

『その機体、戦闘可能?』

 

「俺のは右腕が…」

 

『そう、ならライフルは持てるのね。砲台代わりになってちょうだい』

 

「了解」

 

 リュウはマクロスの管制官から戦闘は可能かと問われれば、まだ残っている右腕を見て可能だと答えた。これに管制官は墜落してきた連邦軍機より回収したビームライフルを使うように指示を出し、リュウはそれに応じて同型機のライフルを取り、砲台代わりとなって防空戦に参加する。

 

『その戦術機は?』

 

「戦術機…!? 知ってるんですか!?」

 

『貴方、異世界より迷い込んだ淵ね。でも、今は話している暇はないわ。戦闘は可能?』

 

「弾薬も推進剤もありません…すみません!」

 

 戦術機と言われた際、あやめは自分の世界のことを知っているのかと思わず聞いてしまったが、今は話している場合では無いと一蹴され、戦闘が可能かどうかを問われる。これにあやめは弾薬も無く、推進剤も枯渇寸前であることを偽ることなく答えた。それが分かれば、管制官は機体から降りて、こちらが用意した予備の機体であるジムⅡに乗るように指示を出す。

 

『そう、ならばRMS-179ジムⅡに乗りなさい。何か思い入れがあるようね。残して置いて上げるわ』

 

「っ!? ありがとうございます!」

 

 予備機に乗れと言われ、前の世界の機体を棄てる他ないと思っていたが、管制官の配慮によって残されることとなった。その配慮にあやめは感謝しつつ、機体から降りて用意されたジムⅡに乗り込む。機体を喪った、あるいは放棄した者たちもマクロス側が用意したジムⅡに乗り込み、防戦に参加していた。

 

「なんだあいつ等? こちらフェアリーリーダー。弥栄、何故か連邦軍が合流している。どういうことか?」

 

 前方でマクロスの突破口を配下の部隊と共に開いているターニャは、同行する連邦軍の部隊が居ることを艦長に問うた。

 ターニャは脱出に合流した連邦軍の将兵が、蜂起してマクロスを乗っ取りかねないと懸念してだ。

 

『戦力が低下して来た為に迎え入れました。地下に仕掛けられた物に気付いた者は、迎え入れなければ、突破は出来ませんよ?』

 

「そうですか。では、安全圏まで脱出した後、連邦の脱走兵共の処遇について協議しましょう」

 

 この問いに艦長は戦力補充に持って来いだったので受け入れたと答えれば、ターニャは後でシージャックを起こそうとする彼らに対する処遇を後でやると言って、戦闘に戻った。

 

 

 

『こちら第72戦車大隊! 我、余剰戦力無し! 繰り返す、我、余剰戦力無し! 救援を求む!!』

 

『第12防空隊応答せよ! 第11防空隊並び第13防空隊の通信途絶! 空は敵だらけだ! 誰か残っていないのか!?』

 

『こちら最終防衛ライン! 突破された! 突破されたぞ! もう維持が出来ない!! 助けてくれ!!』

 

 ターニャ等のマクロスと合流したヴィン等がサイクロプスの範囲内から必死で逃げようとする中、生贄にされたことを知らず、命令を守って防戦していた連邦の各参加勢力の部隊であったが、既に壊滅寸前であった。

 防衛線当初、総兵力数三百六十万も居た防衛軍であったが、惑星同盟軍の地球方面軍の総力を挙げた攻撃により、既に六十万以上に下回っていた。もう完全に防衛線は壊滅しきっており、基地内部は既に同盟軍の侵攻部隊が雪崩れ込んできている。

 マクロスの方へ差し向けた戦力は余剰の方であり、完全に基地は機能不全に陥っていた。内部では捕虜を取らない同盟軍の残虐性を知ってか、死に物狂いで抵抗する将兵たちが居る。だが、彼らは上層部が作動させるサイクロプスの効果範囲内に敵の主戦力を引き付けるための囮であることを知らない。おそらく、死んでも知る由もないだろう。

 こうして、その守備軍の全滅確定の報告は、範囲内より脱出していた上層部を乗せた潜水艦に齎された。

 

「艦長、傍観者より報告。サイクロプス、目覚めの時と」

 

 通信手が同盟軍の侵攻を受ける基地を監視していた隠密部隊との暗号通信を受信し、それを潜水艦の艦長へと報告する。暗号通信を聞いた艦長は、直ちに伝令にそれを上層部に報告するように命令する。

 

「そうか。伝令、直ちにこれを報告しろ」

 

「イエッサー!」

 

 伝令は敬礼してから艦橋を出て上層部らが居る士官用の居住区へ向かい、会議室で待っている上層部らにそれを伝える。

 会議室は士官、それも左官以上の階級の者ばかりであり、会議室の出入り口を守っているのは兵では無く下士官クラスの兵士達である。中央に座り、コーヒーを飲みながら伝令を聞いた司令官は、サイクロプス作動装置を見た。会議室の中には、シャン・ツンが化けていた基地司令官の姿もあった。

 

「目覚めの時か。そろそろ頃合いですな」

 

「早いな。情報では、同盟軍は九百万と言う大兵力を持って基地を攻撃したそうだな。三百六十万では二日も持たんのか?」

 

 伝令を聞いた作戦参謀が頃合いだと口にすれば、司令官はあれほどの大兵力の守備軍なのに、たった一日で既に全滅寸前なのはどうしてなのかと情報参謀に問う。

 

「守備軍の殆どは徴兵されて訓練を終えたばかりの新兵、否、微集兵と言った方が良いでしょう。傭兵と懲罰部隊の集まりです。敵軍はこの作戦の為に、主力軍の大半を投入したようで」

 

「それなら、三百六十万の元を取れるな。一気にこちらに戦局が傾くぞ。これで地球奪還の悲願が叶う」

 

「反抗作戦日は今のところ未定ですが、既にUNSCとISAの主力部隊を集結させております。機動歩兵、ODST、各参加勢力の精鋭部隊も集結並び編成が終わり次第、いつでも大規模攻勢に参加可能です」

 

「うむ、完璧だ。これで地球から、あの忌々しいエイリアン共を一匹残らず放り出すことができる」

 

 これに情報参謀は資料を見ながら同盟軍は主力軍の大半を基地攻撃に投入したと答えれば、司令官は三百万以上の元が取れる戦果になると豪語する。それに続き、もう一人の地上軍の将官は大規模反抗作戦に必要な戦力を集結させていることを告げた。

 同盟軍の地球方面軍の戦力を奪い尽くし、更には奪還のための反抗作戦も用意されていることを知り、司令官は上機嫌になって地球奪還の悲願が叶うと思い始める。それは、ヴィンデルの気分次第なのだが。

 

「では、そろそろ作動準備に入るか。用意しろ」

 

 地球奪還の時が叶うと分かった司令官は、サイクロプス起動準備を装置を持って居る士官に命じた。

 

 

 

「後どれくらいで脱出できる!?」

 

 一方でまだサイクロプスの効果範囲内に居るマクロスとターニャ等は、必死で群がって追撃してくる同盟軍機を迎撃していた。纏めて数機を追尾魔法で仕留めたターニャは、後どれくらいで脱出できるのかとマクロスの艦長に問う。

 

『もう少しです! もう少しで効果範囲内より抜けられます!』

 

「それまで持ちそうにないぞ!!」

 

 もう少しで抜けられると答えたが、ターニャは部隊の被害状況で抜けられる前にやられると叫ぶ。

 敵の数は基地より離れれば離れる程に増えており、周りを埋め尽くすくらいに増えていた。基地の方を見れば、もう連邦軍は壊滅寸前なのか、爆発と砲火の数は時間が経つごとに減っている。もう脱出していた上層部が、いつ作動させてもおかしくない状況だ。

 おそらくシャン・ツンとその手下たちは既にテレポートの類で脱出している頃だろう。ターニャはそう思いながら、生き残るために目に見える敵機を落とし続けた。

 

「これ、凄いね!」

 

『うん! やっぱりバルキリーは最高だったね!』

 

 ターニャが必死に敵を倒し続ける中、ラナとロナは予備のVF-1Aバルキリーに無断で乗り、敵機を落とし続けていた。流石に人型のバトロイド形態は無理であるが、鳥人間形態のガウォーク、戦闘機形態のファイターの操縦は完璧である。既に両者合わせて二十機相当の敵機を落としている。

 

「こんな博物館送りの旧式機に乗せやがって! 畜生が!!」

 

 一方でヴィンやエイリフ等より先にマクロスに乗艦したリューゴ・バーニングは、ジムⅡに乗せられて対空砲代わりに敵機を迎撃していた。一機を落としてからリューゴは旧式機に乗せられたことに対する悪態を付く。

 バルキリーを駆るラナとロナを始めたその上空では、ダガーLに乗るジョウ・エグザ、ジェムズガンに乗るリンネ・ネハーン、同型機に乗るジークハルト・クリーガー、ヘビーガンに乗るルビー・ヘルナンデス、Gキャノンガードカスタムに乗るティムキン、量産型ゲシュペンストMk-Ⅱに乗るカルマ・フォルセティ、量産型ヒュッケバインMk-Ⅱに乗るブル・ヴィンが防空戦を行っている。

 専用のスコープドックに乗るゼルムとタコスケは対空射撃を行っていた。機体を乗り換えたあやめと、機体を喪ったエメルダ、ジャン・L・フェイローン、ステパン・ルスラーノヴィチ・ドラグノフはリューゴと同じく予備機のジムⅡに乗り込み、対空砲代わりをやっている。パーア・プリンとリウス・モラムは、対空迎撃型のデストロイドであるディフェンダーに乗り込んで防空戦に参加していた。

 負傷したエイリフ・バーライトとユキチ・アラザキは他の負傷兵たちと共にペリカンの機内で寝かされている状態である。各々が脱出の為に死力を尽くす中、マクロスの艦橋に一機の同盟軍機であるバクトの接近を許してしまう。

 

『敵機がブリッジに!?』

 

「なんだと!? クソっ、間に合わん!!」

 

 バクトの接近を知らせた艦長の言葉にターニャは急いで戻ろうとしたが、そこからでは間に合わなかった。

 もうマクロスはやられるとその場にいる誰もが思っていたが、ここに来てターニャが属する組織ではない救援が現れた。ラカン等に足止めされていたアウドムラ隊より派遣されたエイジが乗るレイズナーMkⅡである。

 

「レイ、V-MAXIMUM発動!!」

 

『レディ!』

 

 エイジがそのシステム発動を機体AIであるレイに命じれば、レイズナーMkⅡは機動性を高め、蒼き流星となってマクロスの艦橋へ攻撃しようとするバクトの元へ飛んでいく。

 蒼き流星の名の通りに凄まじい速さであり、数秒単位でバクトの元へたどり着き、体当たりを仕掛けて攻撃する前に弾き飛ばした。この光景を見ていた者たちは茫然とする中、自身専用のSPTであるレイズナーMkⅡに乗るエイジは、マクロス上空の方へ飛んでいき、基地を攻撃する同盟軍や防衛する連邦軍に向け、地下奥深くにサイクロプスが仕掛けられていることを無線機の全チャンネル放送を使って知らせる。

 

『俺の名はエイジ、アルバトロ・ナル・エイジ・アスカ! 同盟軍並び連邦軍の全兵士たちに告げる! あの基地には恐ろしい自爆装置が仕掛けられている! 今まさにそれが作動しようとしている! 直ぐに半径十キロメートル内より離れなければ、あなた方は強いガンマ線を浴びせられて破裂してしまう! 聞こえているなら直ぐに基地から十キロメートルは離れるんだ!!』

 

 そうエイジは両軍の将兵に必死に訴え掛けたが、返ってきた答えはビームであった。どうやら五飛と同じく、でまかせを言っていると認識されているらしい。

 

「なぜ攻撃するんだ!? このままでは本当に死ぬんだぞ!!」

 

「フン、誰も聞かんよ。今更来たところで、我らの目標は既に止められんのよ!」

 

 攻撃を受けるエイジは必死で両軍の兵士にサイクロプスのことを伝えるが、遠くで見ているシャンの言う通り、聞く者は誰も居なかった。それを知って逃げている者たちは、ターニャとマクロス、ヴィンとエイリフくらいである。

 

「奴らは既に俺たちの言うことを聞く者は居ない。残念ながら、この者たちと脱出する他ないのだ!」

 

『くっ! せっかく突破して来て、助けようとしたのに…!』

 

 基地からエイリフとヴィン達の脱出の殿を務めた五飛のアルトロンガンダムがマクロスへ合流し、エイジに双方の将兵にはもう伝わらないことを告げた。

 これにエイジは歯を食いしばりながら悔しがり、マクロスや自機に攻撃してくる同盟軍機の迎撃を行う。エイジは殺さないようにしており、自分やマクロスを攻撃してくる敵機に対しては、戦闘力を奪う程度に済ませていた。無論、脱出させるために、エンジン部やスラスターなどは破壊していない。

 エイジのレイズナーMkⅡや五飛のアルトロンガンダムの増援を得たマクロスは、サイクロプスの有効範囲内より楽に脱出することに成功した。

 

『基地より半径十キロメートル以内より脱出に成功!』

 

「油断するな! まだ敵の追撃は続いている! レイズナーやガンダムが居るからって安心するな!」

 

 通信手は基地より十キロメートル離れたことを全員に知らせたが、敵の追撃はまだ続いている。それをターニャが追撃機を撃墜した後に伝えれば、全員が気を引き締める。

 

『基地から連邦軍の反応途絶! 全滅したか、降伏した模様!』

 

『発動の時は近いな!』

 

「安全圏まで急げ! そこで迎えの艦隊が救援に来る!」

 

 基地より着々と離れていく中、もう基地に居る連邦軍は全滅したのか、基地の抵抗が殆どなくなっていた。サイクロプスの発動の時は近い。マクロスのレーダー手からの知らせで分かったヴィンが言えば、ターニャは安全圏まで行くように伝えた。やがて基地の抵抗が無くなれば、地下の奥深くに仕掛けられたサイクロプスの発動を知らせる報告が、レーダー手よりなされる。

 

『っ!? 基地地下奥深くに高エネルギー反応! これは…!?』

 

「おそらくサイクロプスだろう…! クソっ、止められなかった…!」

 

 レーダー手からの報告でサイクロプス発動が分かれば、エイジは止められなかったことを悔やんだ。

 報告から数秒後、基地の地下奥深くに仕掛けられ、作動したサイクロプスは強力なマイクロ波を有効範囲内に放った。

 

 

 

 サイクロプス起動開始数分前、潜水艦内の会議室にて、起動開始前に安全装置を解除し終えた将官二人は起動キーを鍵穴に差し込み、同時に回すために互いの顔を見る。

 

「この犠牲で、我らが母星である地球奪還が叶うことを…!」

 

「青き清浄なる世界の為に…! 3、2…1…!」

 

 一人は母星である地球の奪還を願いを込めて。もう一人は青き清浄なる世界の為に。互いに似た願いを込め、同時に息を合わせてキーを回し、サイクロプスを起動させた。

 起動の電波は直ぐに基地の地下奥深くに仕掛けられたサイクロプスに届き、それを受信したサイクロプスは起動し、誘き寄せられた惑星同盟軍の主力軍と残っている連邦軍の守備軍に向け、無差別に生物の体内の水分を過熱・沸騰させ、燃料や弾薬も過熱させるマイクロ波を浴びせた。




尺が長くなりましたので、ここまでです。

サイクロプスの描写は、次回からになります。


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生贄たちの行く末

今回で生贄たち編は終わりです。

リオンテイルさん
黒子猫さん
オリーブドライブさん
爆霊地獄₹97さん
影騎士さん
黒鷹商業組合さん
kinonoさん
mikagamiさん
山の下に更科さん
緑ネコさん
スノーマンさん
秋音色の空さん

キャラクターをご提供いただき、ありがとうございました!


 潜水艦で脱出していた上層部が起動させたサイクロプスは強力なマイクロ波を発し、周囲の生物の水分と連邦や同盟が使う兵器の燃料や弾薬類を過熱し始めた。

 言うなれば、基地の半径十キロメートル内が巨大な電子レンジと化したのだ。有効範囲内に居る全ての生物と兵器は、電子レンジの中に入れられた物と同じく加熱され、沸騰していく。

 

「なんだ、モニターの様子が? それに機器も?」

 

 ヘルガスト軍のパイロットが乗るRFズゴックのモニターがマイクロ波の影響を受け、ノイズが走り始める。そればかりか機器にも影響が出て機能を停止していた。サイクロプスが発動したとは知らず、その兵士の体内の水分が沸騰し、水蒸気が全身の皮膚を身に付けている衣服共々突き破って爆発した。

 例えるなら、身体が破裂したのだ。基地より半径十キロメートル内に居る者たちが、その兵士と同じく次々と破裂して死んでいく。

 まるで沸騰して破裂するポップコーンの粒のように。

 人型兵器を初めとした各種兵器も、搭載されている燃料と弾薬の所為で次々と爆発する。辺り一面がマイクロ波によって地獄絵図と化す中、基地にある各種の機材は爆発していき、基地全体は崩壊する。搭乗者が破裂し、機器が死んで動かずに基地内部に佇んでいた兵器の残骸は、上から落ちて来る残骸の下敷きとなって爆発する。

 海上でも有効範囲内に居た艦艇や潜水艦、水陸両用MSも地上や基地内部の将兵や兵器群と同じ末路を辿り、爆発して海と共に蒸発していく。有効範囲内の海は蒸発して水蒸気となっていた。海を喪った台地には、連邦軍の艦艇と同盟軍の潜水艦の残骸が横たわっている。水陸両用の機動兵器も同様だ。

 サイクロプスが自身の効果で自壊するころには、有効範囲内に居た全ての生物と兵器が破壊され、物言わぬ残骸と化していた。

 

「フハハハ! 凄い、凄いぞ! 数千万以上の魂が我が肉体に染み渡るッ!! 全盛期の我に戻っておるッ!!」

 

 サイクロプスで死亡した数千万の魂を、基地の遥か上空で吸収したシャン・ツンの肉体は全盛期の頃まで戻っていた。白髪は無くなり、見る見るうちに若返っていく。その様子をシャンは歓喜し、高笑いを始める。これがシャンの目的であり、大量の魂を得て若返るためにこの世界の影の支配者であるヴィンデルと手を組んだのだ。

 隣にいる同盟者であるクァン・チーもその魂を吸収しており、更なる力を蓄えている。その手先であるラカン・ダカランと無人機軍団を前に、足止めを受けていたアウドムラ隊を率いる雷神の神ライデンは、それを見てシャン・ツンとクァン・チーの死の同盟は強大な力を得たと認知する。

 

「遅かったか…! これでシャン・ツンとクァン・チーは更なる力を得る事となる…! この戦い、益々我らの不利となる!!」

 

「貴方が言うのなら、やはり戦力の立て直しが必要のようだ。展開中の各部隊に通達! 撤退だ! 直ちに撤退して合流ポイントに向かう! 敵の追跡には十分に注意しろ!」

 

 ライデンの言葉に、戦力の立て直しと増員が必要と感じた同じく艦橋に居たハヤト・コバヤシは、展開中の各部隊に命じて撤退を命じた。それに応じてアウドムラより発艦していた部隊は母艦に帰投し、戦士たちの集結拠点へと撤退する。

 

『逃げる気か!? 逃がさんぞ! 皆殺しだ!!』

 

「追撃は不要だ。主君の元へ撤退する」

 

『なにぃ!? 今なら皆殺しに出来るんだぞ!?』

 

「なら貴様をここで殺してやろう。それが嫌なら、命令に従ってもらう」

 

『ちっ、エイジは取り逃がす、奴らには手を出せねぇ! 全くついてないぜ!』

 

 彼らを足止めしていたラカンは追撃を行わず、追撃をしようとするゴステロを脅して共に主君であるシャンの元へ無人機軍団と共に帰投した。

 

 

 

「全く、とんでもない者を連れてきましたね。我々はあの人間たちを受け入れるつもりは無いのですが」

 

 サイクロプスの有効範囲より脱出し、待機していた救援艦隊に合流したターニャとマクロスの難民部隊、そしてヴィン等脱出部隊は救援艦隊の提督より叱責を受けていた。

 この救援艦隊の人員は全てイヴ人で構成されており、艦艇編成は八百メートルサイズのマクロス級を旗艦にして、マクロスより四分の一サイズのマクロス・クォーター級三隻、護衛空母二隻にフリゲート六隻、難民の受け入れに備えた輸送艦を含める数隻と言う目立つ物だ。*1

 話を戻し、救援艦隊の提督より代表して叱責を受けているのは、難民船のマクロスの救出を命じられたターニャである。この叱責にターニャは、ヴィンやリューゴにエイリフ等は勝手にやって来たと答える。尚、エイジと五飛は既に離脱している後である。

 

「小官に言われましても、勝手について来たのは彼らの方です。追い払いますか? それともここで全員銃殺刑にします?」

 

「追い払う? 何を言うんです! 彼らが居なければ、我々難民団は全滅しておりました! 彼らを我々神聖百合帝国軍の義勇兵か労働者として受け入れる義務があると思います!」

 

 ターニャは提督に答えた後、ヴィン等を初めとする連邦軍の脱走兵らを追い払うか銃殺刑にするかと問えば、難民船の艦長はそれに強く反対し、彼らを自軍に迎え入れるべきだと説く。

 確かに彼らにはもう帰るところはない。正式な発表での彼らは、あの基地で戦死したことになっていることだろう。だが、ターニャはサンヘイリ族の件を考慮しており、彼らが故郷に帰りたい余り、船を乗っ取りかねない危険性を告げる。

 

「迎え入れる? あの脱走兵の集団にはエリート族が居るのですぞ。シージャックを起こす危険性がある。人間ではない彼らを牢屋にでも入れて置けば良いのでは?」

 

「貴方ね!」

 

「もういいです。とにかく、そのエリートと言う異星人は我らに忠誠を誓うことは無いでしょう。彼らが忠誠を誓わずに故郷へ帰りたいと願うならば、それなりの働きをさせるまでです。とにかく、今は難民たちを我が艦隊の輸送艦に収容し、一刻も早く安全なノイエ・ラントに送り届けるべきです」

 

 目前のターニャと難民船の艦長は口論を始めようとしたので、提督はそれを止めた。サンヘイリ族が故郷へ帰りたいと願うなら、それを条件に仕事をさせると告げ、今は難民たちを送り届けるのが先だと言った。

 次に、ヴィン等サンヘイリ族を除くリュウやエイリフ等をどうするかの課題に入る。

 

「さて、人間の脱走兵の集団についてですが。迎え入れるべきかどうかは、上層部に決めさせます。貴方の判断では決められませんよ?」

 

 脱走兵である彼らを迎え入れるのは、上層部の判断に任せることを提督が伝えれば、艦長は黙ったままであった。ターニャもその件に関しては黙秘を貫いている。理由は単に面倒だからである。

 

「では、難民たちを輸送艦に乗艦させ次第、数隻の護衛艦を付けてノイエ・ラントへ帰投させます」

 

 脱走兵の集団の件は上層部の判断に任せれば、提督はようやく帰れると思っているターニャに向けて新しい指令を伝える。

 

「デグレチャフ少佐、貴方には我々と共にまだこの世界でやって貰わなければならないことがあります」

 

「なんですと…!?」

 

 この新たな指令にターニャは驚愕の表情を見せた。その任務とは…?

 

 

 

 サイクロプス発動後、自身の牙城にてその威力を映像より見ていたヴィンデル・マウザーは笑みを浮かべていた。

 

「これで同盟軍の地球方面軍の戦力の大半は消し飛んだな。いや、破裂したと言うのが正しいだろう。この一つ目の巨人の目覚めが、新たな戦いの狼煙となる」

 

 ヴィンデルはサイクロプス発動が新たな戦いの狼煙となると断言した。

 事実、連邦軍はこの自爆装置発動を自軍では無く同盟軍の新兵器による攻撃だと主張しており、連邦の勢力圏内の自軍や自国民の戦意向上を図っている。

 逆に同盟軍は味方をも巻き込んだ卑劣な自爆攻撃だと主張しているが、地球方面軍の損害は到底回復不能な状態であり、士気低下は免れない。瓦解するのを防ぐため、方面軍司令部はやもえず戦線縮小を行うだろう。

 この機会を逃す連邦軍では無い。既に大規模反抗作戦の為の戦力の終結を終えており、後は装備を整えてから攻勢を始める。これも全て、ヴィンデルの思惑通りである。

 

「地球での戦いは、この大規模反抗作戦で一旦終わるだろう。次は太陽系の争奪戦が始まる。それも楽しみであるが、今はあのISと言うパワードスーツがどれほどの戦闘力を持ち合わせているのか興味が湧いた」

 

 地球での戦いは同盟軍の敗北に終わると予想し、次は太陽系の争奪戦が行われるとも予想したヴィンデルであるが、今の彼の興味はIS、インフィニット・ストラトス*2と呼ばれるパワードスーツの方にあった。

 左手に画面の映像にはそのISと言うパワードスーツを纏った少女が映っており、同じISを纏った少女と交戦しているのが分かる。

 

「どれほどの戦闘力であるか見極める必要性がある。場合によっては、特機(スーパーロボット)以上かもしれん。メイソン騎士団の奴らにでも探らせるか」

 

 ヴィンデルはISの戦闘力を見極め、従来の機動兵器を上回るスーパーロボットと同等の物と判断すれば、自分の楽園であるこの世界に新兵器として連邦や同盟の双方に投入させるつもりだ。それとISの存在する世界にも戦争を起こすつもりでいる。

 その戦闘力を図るべく、ヴィンデルはISのある世界と行き来できる勢力であり、思想は違えど、自分と同じように腐敗した現政権を打ち倒すと言う目的で結成されたメイソン騎士団にコンタクトを取った。*3

 このメイソン騎士団はワルキューレと呼ばれる数々の世界を植民地と言うか支配している軍事勢力に属している軍閥であり、様々な並行世界や異世界に介入して戦争を引き起こせるようになった彼にとって異世界で初めて同盟を結んだ組織である。

 当のメイソン騎士団はヴィンデルをどう思っているか不明であるが、敵方の軍閥であるアガサ騎士団*4に被害をもたらす兵器を供給してくれるので、体の良い同盟者と言ったところだろう。彼らとコンタクトをする際にヴィンデルはシャドウミラー*5と名乗って接している。

 

「聞こえるかモーリック十三世よ。私だ、ヴィンデルだ。貴殿に話がある」

 

 メイソン騎士団にISの鹵獲とそれが存在する世界に戦争を起こさせるべく、映像通信に映る赤と黒の鷲の紋章を背景にして玉座にふんぞり返っている黒髭で王冠を被った大男、モーリック十三世とコンタクトを取った。

 

『何ようであるか、ヴィンデル。余はアガサの者共を叩き殺すので忙しいのだ。もっとも、(けい)が面白い兵器を余の軍団に寄越すなら別だが』

 

「無論、送ろう。貴殿には世話になっている。要件はISと言う兵器の鹵獲だ。それに戦争も起こして貰おう」

 

 モーリック十三世は不機嫌に何ようかと問えば、ヴィンデルは自分の世界の兵器を供給することを条件に、ISの鹵獲とそれが存在する世界で戦争を起こすように告げる。既にISを知っているようで、モーリック十三世の表情は更に不機嫌になる。

 

『IS? アガサの者共がVA(ヴァルキュリア・アーマー)と呼んでおる女しか着用できん鎧だな。既にその手は試したよ、アガサの者共の抵抗を受けて失敗した。次に発明者にMSやKMF(ナイトメアフレーム)*6を装備した騎士を差し向けたが、どう言うわけかたった一人に壊滅させられた。ただの小娘一人にだ』

 

 既にIS鹵獲を試していたが、敵方のアガサ騎士団の抵抗を前に失敗した。次の手段であるISの開発者である篠ノ之束(しののの・たばね)を誘拐すると言う手段に出たが、機動兵器であるMSやKMFをもってしても、彼女の異常な身体能力を前に返り討ちにされた。

 束と言う開発者に、ヴィンデルは即座にシャン・ツンやクァン・チーのような超人の類で認識する。

 

「超人か。貴殿らの騎士の力をもってしても、敵わぬ相手と言うわけか。では、対策として配下の超人を派遣しよう。バニッシュトもな」

 

『バニッシュト? 何者ぞ?』

 

「貴殿らと似たような軍勢さ。楽しみにしているが良い」

 

 ヴィンデルが自身の配下の超人たちを束対策の為に派遣すると約束した後、モーリック十三世はバニッシュトなる部隊について問う。これにヴィンデルはメイソン騎士団と同等の者たちであると答え、楽しみにしていろと答えた。

 

「以上だ。では、頼んだぞ」

 

『我がテロウィン家では、我らに援助を惜しまぬ者の願いは、出来るだけ叶えろと耳にタコができるくらい言われておる。卿の願い、叶えてしんぜよう』

 

 自分の家訓に応じて、援助してくれるヴィンデルの要望は出来るだけ叶えると約束したモーリック十三世は映像通信を切った。

 

 かくして、ヴィンデルの策略により、新たな戦いが平和な世界で起ころうとしていた。

 

 

 

 視点は宇宙へと脱出し、新しい任務を実行しようとするイヴ人の救援艦隊へと戻る。

 

「諸君らに問う。諸君らが我らイヴ人の為に戦い生き残るか、それとも拒否して冷たくて暗い宇宙に放り出されるか。どちらを選ぶ?」

 

 艦隊旗艦のマクロス級艦内のブリーフィングルームにて、作戦参謀は集められた者たちに向け、奴隷として働かされているイヴ人の救出作戦に参加するかどうかの意思を問う。

 

 集められたのは以下の通り。

 リュウ・パーシー

 ブル・ヴィン

 辻凪あやめ

 ラナ

 ロナ

 ジョウ・エグザ

 リューゴ・バーニング

 リンネ・ネハーン

 パーア・プリン

 ゼルム

 ジャン・L・フェイローン

 ステパン・ルスーラノヴィチ・ドグラノフ

 ティムキン

 エメルダ

 カルマ・フォルセティ

 ジークハルト・クリーガー

 ルビー・ヘルナンデス

 アルヴィナ・ウラジーミロヴナ・パヴロヴァ

 ユキチ・アラザキ

 タコスケ

 リウス・モラム

 エイリフ・バーライト

 その他脱走兵多数

 

 サイクロプスより生き延びた者たちが集められた彼らは、己の実力を見せるために生きてイヴ人に従属するか、宇宙に放り出される選択を迫られていた。

 この件に関し、ヴィンは生き延びた部下たちを見て、母星であるサインヘリオスに帰れると言う選択肢はないかどうかを問う。

 

「少し質問したい。良いか?」

 

「なんだ?」

 

「作戦に参加し、貴官らの同胞らを救出すれば、我らサンヘイリ族に母星に帰れる船を用意してくれるのか?」

 

 その問いに対し、作戦参謀はヴィンを睨みつつ約束は守ると答える。

 

「用意してやろう。救出が成功すればの話だ」

 

「成功すればだと? 無論、成功させるとも。大船に乗ったつもりでいろ」

 

 自分らの実力を疑う作戦参謀に対し、ヴィンは自信満々に成功させると告げた。

 

「他の者たちはどうか?」

 

 サンヘイリ族以外の人間たちに問えば、彼らはもう自分たちは戦死認定されていると判断して、イヴ人に忠誠を誓うと宣言する。

 

「もう我々は戦死している身です。あなた方に忠誠を誓います」

 

「自分も」

 

「僕も」

 

「私も!」

 

 次々と傘下に入ると言ってくる脱走兵たちに対し、作戦参謀は狙い通りであると思って作戦に参加するかどうかを改めて問う。

 

「では、作戦に参加するのだな。では、歓迎しよう。手土産に、我らが同胞を搾取し、性奴隷にする悪鬼共が住まう星より救出するのだ!」

 

『はっ!』

 

 こうして、サイクロプスより生き延びた生贄たちはイヴ人救出のための作戦に参加することを決めた。ヴィン等サンヘイリ族は忠誠を誓わなかったが、母星に帰ることを条件に作戦に参加することとなった。

 その後、彼らは救援艦隊が用意した機動兵器に乗り込み、自分らが忠誠を誓った、あるいは故郷へ帰るために多数のイヴ人が奴隷とされている惑星に向けて出撃した。

*1
全部合わせて二十隻。難民のマクロス級を含めれば、二十一隻。

*2
ATよりも小型で、重力下であろうが鳥のように自在に飛び回れる。だが、女性しか纏えない。

*3
メイソン騎士団はモーリック・テロウィンと言う人物によって結成された。

*4
王党派の騎士団。メイソン騎士団と敵対する理由は、正式な継承者であるダヌム・アルゴンに王にするため。

*5
かつて自分が指揮していた部隊。隊員は手駒である。

*6
ATと同等のサイズであるが、機動力はKMFが遥かに高く、装備によって空中戦も可能。




次回はご提供された未搭乗キャラクターが登場する番外編を投稿したいと思います。

そんで次回のキャラクター募集に関しては、募集開始日は未定ながら、舞台は巷で話題なインフィニット・ストラトスの世界となっております。

気軽にご参加くださいませ~


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異世界の騎士たち

ルリ・マナシキ
UCN所属の特務少佐な少女。基本的に真面目だが、かまってちゃんで感情的。異性が苦手でオカルト好きで趣味は占い。
搭乗機はストライクEガンダム(エールストライク装備)。
キャラクター提供は爆霊地獄₹97さん。

ガンダルフ(チャペル)・メイフェザー
地球連邦軍に属する軍医でありパイロットであるラテン系のおっさん。
元ティターンズ所属であり、ニュータイプと言う物。ブルーコスモスにも入っている。
搭乗機はバイアラン・カスタムⅡ(バイオセンサー搭載でサイコフレームが組み込まれている。両腕部に海ヘビを仕込んでいる。原型機と同じくモノアイ仕様)
キャラクター提供は黒鷹商業組合さん。


『こちらUCA海軍所属第66防衛要塞! 現在、謎の勢力による攻撃を受けている! 救援を!!』

 

 統合連邦軍の主要拠点がある銀河系にて、コロニー連合軍(UCN)所属の要塞化された小惑星が謎の勢力による攻撃を受けていた。

 この小惑星は一個宇宙艦隊を駐留出来る施設を内部に建築出来る程の大きさがあり、包囲されても籠城していれば数か月以上も持つはずだが、謎の勢力の装備を前に小惑星の守備軍は一方的にやられている。

 

「なんだこいつ等!? ビームが効かんぞ!」

 

 ジェガンJ型に乗るUCN軍のパイロットは、ビームの効かない青色のMSと思われる機体を見て動揺する。

 ビームの効かない青色のMSの名はグレイズ。ガエリオ・ボードウィンが駆るガンダムキマリスヴィタールと同じ世界のMSであり、量産型の類だ。

 このグレイズもナノラミネート装甲を持っており、ビームの殆どを受け付けず、質量弾を何発も撃ち込む必要がある。グレイズもナノ・ラミネート装甲が普及した事もあり、実弾兵器主体だ。汎用性も高く、様々な型や派生型もある。

 ビームが効かないことに、どうやって斃すか迷っているそのジェガンに対し、背後よりグレイズが迫り、左手に持っている斧で真っ二つに切り裂いて撃破する。

 

「クソっ! 何なんだこいつは!?」

 

 ストライクダガーに乗るパイロットは同型の僚機と共に剣を持って接近してくるグレイズ・リッターと呼ばれるグレイズの近接特化型に撃つが、乗っているパイロットの技量は高く、容易く躱されて懐まで近付かれ、僚機共々右手に握られた剣で切り裂かれる。

 このグレイズ・リッターは宇宙に関わらずマントを羽織っており、左腕にはジェガンくらいのサイズの盾がマウントされている。

 

「マントなんぞ付けやがって! ビームが効かんならミサイルだ!!」

 

 そんな名前の通りに騎士のようなグレイズ・リッターを見たジェガンJ型に乗るパイロットは、シールドのミサイルを同型の僚機と共に回転しながら放つ。続けて隊長機であるジェガンR型がビームサーベルを抜き、左腕のグレネードを撃ちながら接近する。

 これにグレイズ・リッターのパイロットもとい騎士は剣を左腰のマウントに戻し、腰の実弾ライフルに取り出して自分に向かってくるミサイルを迎撃するが、R型の接近を許してしまう。

 R型のビームサーベルが振り下ろされる中、グレイズ・リッターは左腕に装備されている盾を前に突き出して打撃攻撃(シールドバッシュ)を行い、敵機であるR型を怯ませた。敵機が体勢を立て直す前に右手のライフルを何発か撃ち込み、無力化させる。

 まだ二機のJ型が残っていたが、グレイズの発展型であるレギンレイズが持つ実弾ライフルで一機が撃墜され、残る一機はライフルの銃身に付けられたブレードで切り裂かれて撃破された。

 

「すみません、ラック・ロスガルド卿」

 

『ミッチェル・ガーランド! 貴公、なぜアルゴン王より授かったZZ(ダブルゼータ)ガンダムに乗っておらん!?』

 

「はっ! ZZでは過剰な火力であり、施設内に被害が…」

 

『馬鹿者! いつ敵の援軍が現れるか分からんのだぞ! フェドリッド号に戻り、ZZに乗り換えろ!!』

 

「了解!」

 

 レギンレイズにはグレイズ・リッターに乗るミッチェル・ガーランドの上司に当たるラック・ロスガルドなる人物が乗っており、ラックはミッチェルに向けて母艦に戻り、本来の搭乗機に何故乗っていないのかを問うた。

 これにミッチェルはZガンダムの発展型であるZZガンダムでは火力が過剰であり、小惑星基地の施設を破壊しかねないと答えるが、敵の増援が来るかもしれないと言うことで、乗り換えの命令を受けて母艦に戻った。その母艦はアーガマ級強襲揚陸艦の発展型であるネェル・アーガマ級で、艦名はフェドリッドである。

 命令に応じたミッチェル機が戻る中、グレイズ部隊からの攻撃を受けているUCA軍の小惑星基地の防衛施設は次々と破壊されていき、付近で防空戦闘を行っていたサラミス改級巡洋艦一隻はグレイズの放ったライフルで艦橋を破壊され、やがて撃沈された。

 同じく防空戦闘を行っているネルソン級戦艦もバズーカ類を装備したグレイズによって撃沈され、最後に残っていたUCA軍の巡洋艦が撃沈されれば、要塞周囲の抵抗は完全に沈黙する。残っているモビルアーマーのメビウスはジェノアスⅡと共に撃破されるか、抵抗を辞めて謎の青いMS部隊に投降する。

 

『要塞周辺の抵抗なし! フェドリッド、直ちに入港せよ!』

 

 要塞周辺の敵影な無くなれば、母艦であるネェル・アーガマ級に要塞の宇宙港に入港するように指示を出す。これに応じて後方より艦載機を支援していたネェル・アーガマ級であるフェドリッドが前に出て、制圧された宇宙港に入港し、要塞内部の抵抗を予見してか、連邦や同盟軍が使うATと同サイズの機動兵器であるKMF(ナイトメアフレーム)を展開する。

 

「な、なんだこの小さいのは!? ATか!?」

 

 内部で抵抗を行っているジェガンM型に乗るパイロットは知っているATよりも高い機動力で迫るKMFに驚く中、KMFであるサザーランドに撃破される。他にもショートヘビィマシンガンやエネルギー砲などを装備したスコープドックが迎撃に出たが、ATよりも素早いKMFの前には的同然であった。

 要塞内部が次々とKMF部隊に制圧されていく中、要塞周辺に連邦軍の増援が現れたのか、周辺で警戒していたグレイズ部隊はそれを目撃する。

 

「来たな…! 先の連中よりは手応えはありそうだ!」

 

 ライフルの再装填を終えたグレイズのパイロットは、こちらに向かってくる量産型ヒュッケバインMk-Ⅱやジャベリン、ウィンダム、クランシェと言った増援部隊に対し、要塞の守備隊に物足りなさを感じており、それよりも手応えはあると感じて他のグレイズや高機動型のシュヴァルベ・グレイズと共にスラスターを吹かせて迎撃に向かった。

 

 

 

 一方でMSのグレイズ類を装備した謎の騎士団からの攻撃を受ける友軍の小惑星要塞の救援に向かう増援部隊では、先に出撃した第一波とは違う二つのMSが出撃しようとしていた。

 

「なんでバイアランが居るんだ? もうガタ落ちだぞ」

 

「知るかよ。あいつも出せって命令だよ」

 

 ISA所属の宇宙巡洋艦のハンガー内にて、カタパルトに乗って出撃するかつてティターンズとして運用されていたバイアランのカスタム機、カスタムⅡを見て管制要員は見て思った疑問を口にする。

 あれに乗っているパイロットの名はガンダルフ・チャペル・メイフェザーと言う大男であり、ジークハルト・クリーガーと同じニュータイプの類である。かつてティターンズに所属し、戦犯として裁かれるはずであったが、部隊を掌握して今はブルーコスモスに所属している。殴り合えば、人は分かり合えるのがモットーらしい。コヴナントのブルート(ジラルハネイ)を一発のパンチで倒したようだ。

 その為か、彼が乗るバイアラン・カスタムⅡの両手にはナックルが装備されている。それに元になった改造機よりも手が大きい。

 

『ガンダルフ、バイアラン・カスタムⅡ! 出撃する!!』

 

 改造されたバイアランに乗るガンダルフは、出撃すると言ってから第二派として出撃した。

 次のカタパルトには量産機ばかりが目立つ機動兵器群の中で、珍しく高性能機が立っている。その機体はストライクガンダムの発展型であるストライクEだ。それに乗っているのは、ルリ・マナシキと言う十五歳の少女である。

 

「なんであんな嬢ちゃんがガンダムなんかに乗ってんだ? 伝説の再現か?」

 

「そんなの、俺は知りませんよ」

 

 ウィンダムのコクピット内に乗ろうとするパイロットは整備兵になんでルリのような少女がガンダムに乗っているのかを問えば、彼は知らないと答える。エールストライクパックを装備されたストライクEに乗るルリ・マナシキは、管制官に出撃すると言ってから母艦より出撃した。

 

「UCN海軍所属、ルリ・マナシキ特務少佐。ストライクE、出撃します」

 

 そう言ってから彼女が乗るストライクEはカタパルトによって母艦より射出され、同じく出撃したガンダルフのバイアランや第二派の部隊と共に、蒼い騎士団のグレイズ類と交戦する第一波の元へ向かった。

 

「さて、今回の連中は殴り合っている最中にのびないだろうな?」

 

 第二派の中で異質の存在であるバイアランを駆るガンダルフは、分かり合いと言う殴り合いの最中に敵が先に倒れないかどうかを心配し始める。どうやら、あの青い騎士団と分かり合うつもりのようだ。

 

「今回の敵、ビームが効かないとかどうこう言ってたけど、向こう側の連中が下手糞なだけじゃないの?」

 

 先の真面目ぶりは何処へやら、コクピットで一人になったルリは急に不真面目となり、救援を要請した友軍、それも自分が所属する同僚たちを馬鹿にし始めた。そんな異質な二人がISA部隊の第二派と共に第一波と合流しようとする中、第一波が数で劣るグレイズ部隊に苦戦を強いられているのが二人の目にも見えた。

 

『なっ、なんだこいつ等!? うわぁぁぁ!!』

 

 実弾に対し強い装甲を持つウィンダムでさえ、騎士たちが駆るグレイズを前に苦戦を強いられていた。その後、三機のグレイズの攻撃で沈む。

 高速機動で敵を翻弄しているはずのクランシェは、戦闘機形態から人型形態に変形してドッズライフルによる攻撃を行ったところで、いつの間に背後に回っていたシュヴァルベ・グレイズが左腕より放ったアンカーに囚われ、ランスを胴体に突き刺されて撃破された。

 他の量産型ヒュッケバインMk-Ⅱやジャベリンも同様であり、連邦内で精鋭に当たるISAのパイロットでさえ、青い騎士の技量を前には敵わぬようだ。

 

「っ!? バイアランにストライクガンダム! 面白い奴だ!」

 

 ジャベリンをメイスで殴り倒して撃破したグレイズのパイロットは、ガンダルフのバイアランとルリのストライクEの存在に気付き、他の僚機と共に手応えのある敵機と共に接近する。

 

「見たこともないMSだな! なら、殴り合い(たいわ)の時間だ!!」

 

 向かってくる三機のグレイズに対し、ガンダルフは対話を果たすためにライフルの攻撃を避けながら接近した。

 

「接近戦をする気か!?」

 

『我らアガサ騎士団に、そんなビーム主体の機体で!』

 

『俺のメイスで叩き潰してやる!』

 

 ライフルの弾幕を躱しながら接近するガンダルフのバイアランに対し、グレイズに乗るアガサと呼ばれる騎士団に属する騎士たちは左腰の近接武器を持つ。

 彼らの言う通り改造されたとは言え、バイアランはビーム主体の機体だ。ビームをほぼ無効化するナノ・ラミネート装甲を持つグレイズには、当たった個所に何発も撃ち込まねば撃破は困難だ。両腕のビームを撃ちながら接近してくるバイアランに対し、グレイズのパイロットはメイスの間合いに入ったところでそれを振り下ろしたが、躱されて頭部にナックル突きのパンチが見舞われた。

 

『ぐぉ!?』

 

「さぁ、異邦者(エトランゼ)たちよ! 分かり合おうぜ!!」

 

『ビームサーベルを抜かずに殴っただと!? どういうことだ!?』

 

 機体のビームサーベルを抜かずに殴って来るガンダルフのバイアランに対し、他の二機のグレイズに乗る騎士たちは驚きの声を上げる。

 そんな機体に合わない戦い方をするバイアランの背後より、接近したグレイズは左手に持つ片手斧を振り下ろそうとしたが、小回りの利かない大型MSのはずのバイアランは避け、胴体を殴って吹き飛ばす。

 

『バイアランの反応速度じゃないぞ!?』

 

『何を仕込んでいるんだ!?』

 

 元の機体とは思えぬ反応に、またも騎士たちは驚く。ガンダルフがニュータイプであり、彼が乗るバイアランにはバイオセンサーとサイコフレームが組み込まれ、凄まじい反応速度を見せるのだ。

 

「なに、未知なる者と対話するのだ! これくらいの装備、しても文句は言わせんぞ!!」

 

 そう自分の権限で組み込ませたバイアランを駆るガンダルフは、両腕部に仕込んである海ヘビを使い、ライフルを撃とうとするグレイズに向けて高圧電流を流し、パイロットが苦しんでいる隙に、巨大な拳を敵機の胴体に打ち込んだ。

 胴体部分は強い拳を打ち込まれ、コクピットはその衝撃で潰れ、中に居た騎士は圧殺されて死亡した。操縦者を喪ったグレイズは、そのまま宇宙空間を漂う。

 

「身のこなしが速い! 流石はガンダムタイプ!」

 

 次にルリのストライクEと交戦しているグレイズのパイロットは敵機の余りの機動力の高さに、形状が自分らの世界でも伝説となっているガンダムタイプであるからか、舌を巻いた。

 ライフルを敵機の予測地点に撃つが、トリガーを引いた瞬間にルリは避けてビームライフルを撃ち込む。だが、ナノ・ラミネート装甲なので通じない。ビームサーベルなら押し付けて撃破可能だ。フェイズシフト装甲を持つストライクEにも、質量弾の殆どは効かないが。

 

「同盟軍のエイリアンより上手いね! ビームが効かない変な四角いの!」

 

 ライフルを躱しながらルリは今まで戦ってきた同盟軍のパイロットよりも腕がいいと褒め、機体のエールの機動性を生かして一気に接近し、敵機が対応するよりも早く素早く高出力にしたビームサーベルを抜いて斬り込んだ。

 

『そ、装甲が!? うわぁぁぁ!!』

 

 高出力のビームサーベルを数秒ほど当て続けられたナノ・ラミネート装甲は耐え切れず、そのまま胴体を切り裂かれて撃破された。ビームの効かない敵機に有効性を見出したルリは、直ぐにそれを母艦の戦闘指揮所に伝える。

 近接戦が得意なパイロットが駆るグレイズに接近して、高出力のビームサーベルを斬り込むなど、この場でガンダルフかルリくらいしかできない芸当であるが。

 

「ビームサーベルが有効ね、エネルギーは結構食うけど。CIC、こちらマナシキ。敵機には高出力のビームサーベルが有効。繰り返す、ビームサーベルが有効!」

 

『よくもジーブルを!』

 

 それを伝えた後、ルリは仲間の仇を取りに来る別のグレイズの対処に回った。それを遠目から見ていたレギンレイズに乗るロスガルドは、ZZガンダムに乗り換えたミッチェルに対処するように命じる。

 

「やはりガンダムは強い! それもフェイズシフト装甲を持っているな。ガーランド、奴の対処はお前に任せる! ガンダムにはガンダムだ!!」

 

『了解!』

 

 上司であるロスガルドの命に、分離状態のZZガンダムに乗るミッチェルは応じて三機の分離状態に分かれている機体を一つに合体させた。ミッチェルが乗るコア・ファイターが中央になり、上から上半身の部分がコア・ファイターと合体し、下からは下半身がコア・ファイターの下に繋がる。そして三つの航空機は人型となり、頭部のアンテナがV字に展開する。これが、ZZガンダムである。

 ZZガンダムは宇宙世紀のガンダムであり、宇宙世紀も混じっている多次元世界であるこの世界にもデータがあるようで、合体して姿を見せたZZガンダムを見て、その場に展開しているISAのパイロットたちは驚きの声を上げる。

 

『あ、あれは!?』

 

『だ、ZZ、ZZガンダムだ!』

 

『なんで、あんな奴がここに居る!?』

 

 データを見てガンダムの伝説を知っている精鋭兵たちが驚く中、グレイズを殴っていたガンダルフもZZガンダムの姿を見て、驚きの余りその手を止める。

 

「だ、ZZだと!? まさか、ジュドー・アーシタが乗っているのか!?」

 

 ガンダルフもZZガンダムを知っており、合体してポーズを取るZZガンダムを見て、かつて乗って戦乱を終わらせた者の名を口にする。

 

「あんなでっかいガンダム…! あれと戦えって言うの!? 私、死ぬじゃん!」

 

 ルリもZZガンダムをデータでなら知っているようで。自分のストライクEでは勝てないと判断する。

 

「数が多いな。ハイ・メガ・キャノンを使う! 全機、射線上から退避してくれ!!」

 

『聞いたな!? 全機、射線上から退避だ!』

 

 その連邦軍が恐れるZZガンダムに乗るミッチェルは、機体頭部に備わっているハイ・メガ・キャノンを撃つべく、友軍機に退避するように連絡を送る。それに合わせ、ロスガルドは率先して交戦していた僚機に指示を送り、自身もハイ・メガ・キャノンの射線上から退避する。

 

「何をする気だ!? まさか…! ハイ・メガ・キャノンか!」

 

 複数のグレイズが自分より離れたのを確認したガンダルフは、ZZガンダムがハイ・メガ・キャノンを使うことに気付いた。ZZの伝説を知っているガンダルフは直ぐに、射線上より退避するようにルリを含めるこの場に展開しているISA部隊に伝える。

 

「全機退避だ! あのガンダムは強力なメガ粒子砲を使う!」

 

『けっ! ガンダムが何だってんだ! 所詮はMSの一種だろうが! だったら撃つ前にぶっ潰してやる!!』

 

 何機かはガンダルフの指示に従ったが、数人はガンダムの伝説を信じておらず、ハイ・メガ・キャノンを撃とうとするZZガンダムを撃破しに向かう。無論、ZZガンダムにはグレイズやシュヴァルベグレイズ、レギンレイズが護衛についており、直ぐに阻まれてしまう。

 

「ハイ・メガ・キャノンチャージ完了! 発射!!」

 

 その間にハイ・メガキャノンのチャージが完了し、ミッチェルは敵が多い場所に向けて発射した。

 頭部のV字アンテナ中央にある発射口より発射された強力なビーム砲は、射線上に居る多数のISA所属の機動兵器を消し炭にした。予め退避していたガンダルフのバイアランは無事であり、ルリのストライクEは射線上に居たにも関わらず、咄嗟の判断で躱すことに成功する。

 

「マジで無茶苦茶なガンダムじゃん…!」

 

 数十機の友軍機を消し飛ばしたハイ・メガ・キャノンの威力を見て、ルリはその兵装を持つZZガンダムに恐怖した。

 

 

 

 その頃、奴隷にされたイヴ人救出の為に出撃したサイクロプスより生き延びた脱走兵たちは、イヴ人の武装勢力に取り入るため、サンヘイリ族等は故郷であるサンヘリオスに戻るために出撃していた。

 イヴ人の奴隷たちが収容されている惑星の衛星軌道上には、かつてコヴナントで傭兵をやっていた宇宙人であるジャッカル(キグ・ヤー)族で構成された艦隊と迎撃用無人衛星に守られている。

 艦隊の編成はサラミス改級巡洋艦にムサイ改級軽巡洋艦、チベ改級戦艦、ドレイク級護衛艦、ローラシア級巡洋艦と言うかつてのコヴナント海軍では運用していない艦艇ばかりだ。それに艦載機はバンシー軽戦闘機とセラフ級戦闘機があるものの、数が足りないのか、MAのメビウスやリオンの空間戦機であるコスモリオン、ガトル戦闘機、ドートレスにジェニスと言った旧型機ばかりである。

 対するイヴ人の武装勢力は何処かの軍事勢力より横流しであるバルキリーのVF-25メサイアシリーズを使っており、その性能差は天と地の差が開き過ぎていた。故に衛星軌道上の戦闘では、キグ・ヤーたちの守備隊は一方的に撃墜されまくっている。もはや虐殺だ。

 

「凄まじいな。戦わされているキグ・ヤーたちが可哀そうに見えて来る」

 

 衛星軌道上での戦闘を見ていたブル・ヴィンは、一方的に撃破されていくキグ・ヤーたちが乗る戦闘機や機動兵器、艦艇を見て哀れに思う。

 そんなヴィン等が乗る降下艇は惑星へと降下し、目標であるイヴ人の奴隷たちが囚われている施設の付近に着陸した。降下艇は二十メートル級の機動兵器を十分に収容できるほど大きく、空いたハッチより脱走兵らが乗る機動兵器が飛び出す。

 

 出撃したメンバーは、ヴィンを含めて以下の通り。

 リュウ・パーシー 搭乗機:イオ・フレーム・獅電(しでん)。以降、獅電と表記。

 ブル・ヴィン 生身で出撃。

 辻凪あやめ 搭乗機:戦術機F-4J

 ラナ 搭乗機:VF-11Cサンダーボルト

 ロナ 搭乗機:姉と同じく

 ジョウ・エグザ 搭乗機:獅電

 リューゴ・バーニング 搭乗機:同型機

 リンネ・ネハーン 搭乗機:同型機

 パーア・プリン 搭乗機:同型機

 ゼルム 搭乗機:スコープドック(ガトリングカスタム)

 ジャン・L・フェイローン 搭乗機:獅電

 ステパン・ルスーラノヴィチ・ドグラノフ 搭乗機:同型機

 ティムキン 搭乗機:同型機

 エメルダ 搭乗機:同型機

 カルマ・フォルセティ 搭乗機:量産型ゲシュペンストMk-Ⅱ

 ジークハルト・クリーガー 搭乗機:獅電

 ルビー・ヘルナンデス 搭乗機:同型機

 アルヴィナ・ウラジーミロヴナ・パヴロヴァ 搭乗機:同型機

 ユキチ・アラザキ 搭乗機:同型機

 タコスケ 搭乗機:ヘキサ・フレーム・ジルダ

 リウス・モラム 生身で出撃。

 エイリフ・バーライト 搭乗機:指揮官型グレイズ

 

 ラナとロナが乗るVF-11Cが先陣を切り、防衛線を引いていたキグ・ヤーで中心に編成された地上の守備隊に向けてミサイル攻撃を行い、複数の地上兵器を破壊する中、宇宙より降下してきたVF-25と同じく横流しされたVF-31ジークフリート各シリーズが二人よりも倍の数を撃破する。乗っているのはVF-25シリーズと同様、イヴ人のパイロットである。

 

「ずるい! あんなに良いのに乗って!」

 

『前に出過ぎだって! 姉さん!!』

 

 余りの高性能差にラナが嫉妬する中、ロナは前に出ないように無線で姉を抑える。

 地上でもイヴ人が戦術機の高性能機にあたる機体である不知火にEF-2000ユーロファイター、F-35ライトニングⅡに乗っているため、流石のあやめも我慢できずに文句を漏らしてしまう。

 

「機体は返してくれるのは良いけど、あの人たちだけ高性能機はずるいわ。しかも不知火って…!」

 

 イヴ人が乗る戦術機にあやめが文句を言う中、前面に押し出されている獅電に乗る者たちはナノ・ラミネート装甲のありがたさを痛感する。

 

「流石ナノ・ラミネート装甲だ。ビームなんて屁じゃないぜ」

 

『この機体があれば、同盟軍なんて押し戻せたのに』

 

『これならもっと前に出ても大丈夫そうだ!』

 

『余り過信しない方が良さそうだ』

 

 最初にリュウがナノ・ラミネート装甲の防御力の高さに舌を巻けば、リンネは獅電が連邦軍にもあれば、同盟軍を押し戻せたと口にする。次にリューゴはこれなら突出し過ぎても大丈夫だと過信し、ジョウは余り過信するのは良くないと言う。

 

『あんたは獅電に乗らないのかい?』

 

「…」

 

『止しな。そいつは乗り慣れた機体が良いのさ』

 

 同じく獅電に乗るジャンは、乗り慣れたスコープドックで戦闘を行うゼルムに乗らないのかと問えば、代わりに同じく獅電に乗るステパンが乗り慣れた機体の方が良いと答える。

 

「こいつは凄いな。Gキャノンより良いぞ」

 

『その代わり、盾だけどね!』

 

 ティムキンとエメルダも同じ獅電に乗っており、基地での戦闘に乗っていた機体よりも良いと言い始める。だが、イヴ人の盾のように前面に出されているので、ロングレンジキャノンを持った獅電に乗るエメルダは愚痴をこぼす。

 

「ジェットマグナム! やっぱりゲシュペンストだな!」

 

『あまり無理はするなよ!』

 

 ゼルムと同じく乗り慣れた機体である量産型ゲシュペンストMk-Ⅱに乗るカルマはジェットマグナムでリーオーを撃破した後、やはり乗り慣れた機体が良いと口にする中、獅電に乗るジークフリートより注意を受ける。

 

「盾にされているのは気に入りませんが、機体は良いですね」

 

『生き残って結果を残せば、待遇も良くなる』

 

 ルビーとアルヴィナは盾にされていることが気に食わなかったが、機体は良いとだけ口にする。

 

「なんでお前だけ良さそうな機体に乗っているんだ」

 

『気ニシナイ!』

 

『私のはザクタイプのような指揮官型なのだが…』

 

 二名を除いて他の者たちと同様に獅電に乗るユキチは、なんでタコスケは自分たちとは違うスペックが良いジルダに乗っていることを疑問にすれば、搭載されているAIは気にするなと答える。これに続いてエイリフは、アガサ騎士団らが乗っていたグレイズの指揮官型に乗せられていることを疑問に思う。准将だからであろうか。

 イヴ人の武装勢力より供給された機動兵器に脱走兵たちが乗ってナノ・ラミネート装甲や高性能ぶりに舌を巻く中、サンヘイリ族の方は生身で出撃しており、車両を装備しているはずのキグ・ヤーの傭兵部隊を圧倒していた。

 隊長であるヴィンと共に出撃したリウスは、かつてコヴナント軍で運用されていたスペクター軽輸送車両をキグ・ヤーたちより奪っていた。

 

「隊長! 乗ってください!」

 

「スペクターか。まだ現存していたとは」

 

 キグ・ヤーをエナジーソードで仕留めたヴィンは、リウスが奪ってきたスペクターを見てまだ現在していたことに驚く。それからスペクターに乗り込み、奴隷収容所までの一番乗りを果たそうとする。

 

「こんなに楽な物とはな。脱走するか裏切ると思っていたが。どうやら見誤ったようだ」

 

 脱走兵とは違う別方向より降下し、別の方面より自分の部隊と共に進軍していたターニャは、脱走兵らの予想外の戦闘力の高さに舌を巻く。彼らが敵を引き付けてくれるおかげで楽に進軍ができ、なおかつ収容所まで近付くことができたのだ。

 

「では、急ぐか。行くぞ、諸君。奴隷解放だ!」

 

『はっ!』

 

 サンヘリオスの剣の遠征隊が収容所に突入したところで、ターニャとその魔導士部隊は一気に畳み掛け、防衛線を蹂躙して収容所内へと突入した。

 収容所内にもまだ抵抗する敵部隊が居たが、外の守備隊であるキグ・ヤーほどの実力は無く、あっさりと片付いてしまう。余りの手応えの無さに、少々呆れかけたターニャであったが、ブルート(ジラルハネイ)族の部隊が現れ、自分らに突っ込んでくる。

 

「ジラルハネイだ!」

 

「何故ジラルハネイがここに!?」

 

「ブルートだと! 奴隷商人共が雇った傭兵か?」

 

 サンヘイリ等がジラルハネイの襲来に驚く中、ターニャはここの奴隷商人が雇った傭兵だと思いながらも、強力な魔弾を浴びせて倒していく。

 獅電等を中心に編成された脱走兵部隊にもジラルハネイの部隊が現れ、そのジラルハネイ等が乗っている機体は同じナノ・ラミネート装甲を持つガルム・ロディやスピナ・ロディであった。ジラルハネイ好みの改造が施されて火力も高いようだが、脱走兵たちの実力にイヴ人の武装勢力の統率力や航空支援の前には敵わず、何の戦果を挙げられぬまま全滅してしまった。

 

「よし、ブルート共は全滅した。輸送艦を付近に着陸させてください」

 

 最後の一人になっても、グラビトンハンマーを持って抵抗してくるジラルハネイを無慈悲に撃ち殺したターニャは無線機を使って司令部に収容所を制圧したことを知らせ、奴隷たちを収容するための輸送艦を付近に着陸させるように要請した。

 こうして、脱走兵たちのイヴ人の武装勢力に取り入るための入隊試験は合格へと終わり、サンヘイリ達は母星へ帰るための船の調達に成功した。




前半は没キャラ&アガサ騎士団登場回で、後半は募集キャラのダイジェストです。

これで皆々様がご提供してくださったキャラクターの出番は終わりです。皆さま、本当にご提供くださり、ありがとうございました。
またの登場は、自分の気分次第でございますので、すみませんが期待しないでください。

では、またの募集企画でお会いしましょう。


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IS 青の騎士と赤の騎士たち
ISの世界へ


勢力紹介

アガサ騎士団
中世チャンバラFPSゲーム「Chivalry: Medieval Warfare」に登場する勢力の一つ。リーダーはアルゴン十七世。
青の金の十字架がトレードマークであり、敵方の赤の騎士団であるメイソン騎士団と対立している。
この多重クロスSSでは束を守る条件でISの製造法を取得しており、独自にISを製造できる。無論、束さんが作った物ではないので、色々と機能が無くなっている。
オリジナルと同様に女性だけしか動かせないので、ヴァルキュリア・アーマーと呼んで正式採用している。
ついでにMSやKMF、本編には出ないがゾイドも装備品の一部として所有している。
それと敵方のメイソン騎士団と同じく、ワルキューレと言う使い回しの軍事勢力に属している。

メイソン騎士団
アガサ騎士団と同じゲームに登場する赤い騎士団。
赤と黒がトレードマークで、サイバトロンの赤組と同様に血の気の多い奴が多く、敵より切り落とした首を持って雄叫びを上げる野蛮な連中。民のことを人民と呼ぶので、思想がやや共産主義臭い。
所有兵器についてはアガサ騎士団と同様だが、ISは持って居ない。
ISの科学力に目を付け、それを奪いにIS世界に攻めて来る。ついでにヴィンデルと裏で組んでいる。

登場人物紹介

エルネスティーヌ・アルゴン
アルゴン王の血を引くアガサ騎士団に属する女性騎士。アルゴン王の命により、IS世界の領主をしている。
青い髪をしているので、何処かのハーフである。それと何処かの歌う防人にやや容姿が似ている。
ISの適性率が高く、束さんに気に入られ、第四世代のIS「青騎士」をプレゼントされる。
めちゃんこ強い女騎士である。


 IS、インフィニットストラトス。

 それは、篠ノ之束(しののたばね)が無限の可能性がある宇宙での活動に向けて開発したマルチフォーム・スーツである。

 開発当初は誰にも見向きもしなかった傑作であるが、「白騎士事件」を気に従来の兵器を凌駕する性能を持つことから、本来の宇宙空間での運用よりも、軍事兵器として注目を集めてしまう。

 これに反発してか、それとも腹いせなのか、束はISを女性以外動かせないようにしてしまった。

 

 その結果、世界で地下活動程度に過ぎなかった女尊団体が表舞台に姿を現すようになり、奇妙な男女平等であった世界は徐々に女尊男卑へと変わっていくこととなる。

 更に最強であるISが女性にしか動かせない結果に世界各地の男性優位団体の多くは反発し、遂には開発者である束の親族に対するテロ行為まで発展する。

 それだけに留まらず、今度は無差別テロにまで発展し、ある男尊女卑的国家では、IS破壊を名目に隣国に対して侵略行為にまで及んだ。

 

 ISを巡っての世界大戦まで発展するかと思われたが、奇跡か異世界の勢力がISに興味を示したおかげか、その危機は回避される。

 世界大戦の危機を救ったのは、異世界、それも数々の世界を統べる軍事勢力ワルキューレの軍閥の一つ、アガサ騎士団であった。

 

 青と十字架の金の紋章を持つアガサ騎士団は、元々はワルキューレの一部隊に過ぎなかったが、甲冑に加工しやすく、銃弾すら防ぐ高い防御力を誇る特殊合金が発見された際、それらを使って伝統の騎士を復活させた。

 今の彼らは太古の先祖たちと同じように、戦場に赴く際は甲冑で身を包み、敵と戦う際は剣を持って敵に挑む。

 その敵とは、赤と黒の鷲の紋章を持つメイソン騎士団である。彼らもまた軍閥の一つであり、アガサ騎士団と同様に騎士を復活させ、騎士団創設の意味を思い出し、数千年ぶりにアガサ騎士団と剣を交えたのだ。

 

 メイソン騎士団との六度目の抗争に新たな兵器を欲したアガサ騎士団はISに目を付けたのだ。

 無限の可能性を秘めて名付けられたその女性しか扱えぬ兵器に、アガサ騎士団は状況を打開する鍵となる希望を抱き、その世界と接触を図った。

 IS世界は世界大戦勃発の危機的状況であったが、ISを欲するアガサ騎士団の介入によって世界大戦の危機は過ぎ去った。

 その際にアガサ騎士団は世界の平和維持を約束することを条件に、水面下で各国の政府機関に対して研究用にISの幾つかのコアと開発者の束より製造技法を譲渡、その世界をアガサ騎士団の領地の一つとすることを持ちかけた。

 断った際に、アガサ騎士団は所有する機動兵器による武力制圧を辞さないことを通達すれば、各国はそれに応じて騎士団はISを製造法と共に手に入れることに成功した。

 束の方は流石に無理であったが、直接本人と交渉を行い、自分を独占しようとする国家より身を守る条件でアガサ騎士団に協力することを承諾し、どの国も未だ手に入れていないISコアの製造方を騎士団に明かして庇護下に入る。

 独自にIS製造することに成功したアガサ騎士団であったが、オリジナルと同様に女性しか纏えず、それを知ったアガサ騎士団の騎士団長であるアルゴン十七世はISの名称をVA(ヴァルキュリア・アーマー)に変え、主に配下の女性騎士のみに与えた。

 

 戦力に組み込んだ際に初の実戦投入は華やかな戦果を飾り、実際に纏って戦闘を行った騎士からは好調であったが、ISことVAが状況を打開できたのは極僅かな期間だけであった。

 VAは所有するモビルスーツやナイトメアフレームを超える機動力を持ち、絶対防御と言う高い防御力を有していたが、敵対するメイソン騎士団の威力はそれ上回る以上に高く、対応策を見出されてしまい、やがて騎士が嫌う小型さや高い機動力を生かした奇襲攻撃とMSなどの十八メートル級では移動が限られる閉鎖空間での戦闘以外に通じなくなった。

 だが、そのISが有するオーバーテクノロジーはメイソン騎士団の目を引く物であり、メイソン騎士団はISの鹵獲でその科学力を手に入れようとしたが、アガサ騎士団の抵抗を前に失敗を重ねた。

 再び膠着状態となる中、メイソン騎士団はアガサ騎士団が必死の抵抗を受けて多大な犠牲を払いながらも、ISが生まれた世界を見付け出すことに成功した。

 

 

 

 ISが誕生した世界のある島にて、赤の騎士団であるメイソン騎士団の着陸した大型輸送機より、MSのグレイズ四機やKMFのサザーランドが甲冑を身にまとった騎士たちと共に後部ハッチより飛び出してくる。

 この島に大型輸送機で強行着陸したメイソン騎士団の目的は一つ、ISの開発者である篠ノ之束の拉致である。メイソン騎士団はISが持つテクノロジーを欲しており、力尽くで束を拉致しに来たのだ。

 束の秘密研究所とされる場所を包囲したメイソン騎士団はその場に留まり、使者が形ながらの自分らの主君であるモーリック十三世の書状を読み上げる。

 当の拉致の対象である束は、呑気に殺気立った赤い騎士たちの前に出て来る。まるでこの状況が分かっていない様子だ。子供のように無邪気な彼女を見て、血の気の多い騎士たちはフルフェイスの兜越しより睨み付ける。

 

「ISの開発者、タバネ・シノノに告げる! 我らメイソン騎士団の王であられるモーリック・テロウィン十三世より貴殿の召集令が出ている! アガサ騎士団と同じく我らメイソン騎士団の為にヴァルキュリア・アーマーを作るのだ。それなりの報酬は約束されている。モーリック王のお気に召されば、騎士身分も与えられよう。応じぬ場合は、分かっているな?」

 

 自分らの主君であるモーリック王の書状を読み上げた使者は、束に拒否権がない事を伝える。殺気立った騎士たちが獲物である槍や剣に斧を携え、いつでも殺せると言う合図を呑気な束に送っている。

 並の人間であれば、この重圧に耐え切れずにメイソン騎士団の招集命令に応じることだろう。だが、束は天災との異名を取るマッドサイエンティストだ。少女のように使者の書状を取り、それを物の数秒で読み終えれば、彼らの前で主君の書状を破り捨てた。

 

「な、なにっ!?」

 

「それが、どういう意味か分かっているのか!?」

 

「貴様…っ!」

 

 主君の書状を破り捨てた女に対し、メイソン騎士団の面々が怒りを燃やす中、束は笑みを崩すことなくメイソン騎士団の為にISを作らないことを告げる。

 

「束さんは赤いナイトさんたちの為にISは作らないよ。だって、完全に人殺しに使う気じゃん。あんたら」

 

 あの子供のような無邪気から一変、恐ろしい表情へと変貌した。その殺気は周囲のメイソン騎士団の騎士たちよりも上回り、血の気の多い騎士団らは思わず額に汗を浸らせる。

 

「そうか。ならば、無理やり拘束する! 掛かれっ!!」

 

 自分らの協力を断る束に対して使者は無理やり拘束するしかないと判断し、周囲の騎士たちに拘束を命じた。

 

『おぉーっ!』

 

 使者の指令に応じ、数名の重装備の騎士たちが一斉に束に飛び掛かったが、彼女の蹴りを受けて一名が吹き飛ばされた。か弱い女性の蹴りで思いはずの騎士が吹き飛ばされたのを見て、残りの騎士たちは思わず距離を取ってしまう。

 

「な、なんだこの女は!?」

 

「甲冑を纏った騎士を吹き飛ばしたぞ!?」

 

「ぬぅ…! なんだこの女…! 能力者か!?」

 

「へぇ…ちょっと痛いな」

 

 目前のウサミミカチューシャと胸元の開いたデザインのエプロンドレスと言うファッションの女に、赤い騎士たちは恐れ戦き、自分らの知る能力者の類と認識した。騎士に殺す勢いで見舞った蹴りで対象が生きていることに束は少し驚きながらも直ぐに対策を見出し、片手剣と盾を持つ騎士にその対策を実施する。

 

「食らえぃ!」

 

 対象を気絶させるために片手剣を横にして振り下ろした騎士であったが、束は左腕だけにISのような絶対防御だけを纏い、剣を弾いた。その騎士が怯んだところで、束は右手に兎の手を纏って騎士に向けて振った。束が右手に纏った兎の手は鋭利な爪が付いており、騎士が身に付けている甲冑を容易く切り裂くほどの切れ味だ。その鋭利なカギ爪で切り裂かれた騎士は血を噴き出しながら地面に倒れる。

 

「し、シルバリー合金が!?」

 

「切り裂かれただと!?」

 

「普通の甲冑なら、今の蹴りで死んでるけど。こいつ等の甲冑はそのシルバリー合金で出来てるんだ。青のナイトさんたちに教えてもらって良かった」

 

 銃弾すら弾くほどに硬く、従来の鎧よりも軽いシルバリー合金と呼ばれる物質を使った甲冑を容易く切り裂いた束が持つ兎手のカギ爪に騎士たちは驚く。束は自分を保護しているアガサ騎士団にシルバリー合金のことを聞いておいて良かったと、同じ合金で出来たカギ爪を見ながら思う。

 この場において無敵に近い自分らの甲冑を切り裂いた束に恐れ戦く中、隊長の一言で再び攻撃する。

 

「怯むな! 敵は女一人だぞ!!」

 

 再び殺気立った赤い騎士たちが襲い掛かる中、束は向かってくる騎士たちをシルバリー合金で出来たカギ爪で殺し続ける。辺り一面に血や斬り落とされた腕や脚が散乱し、束に挑んだ騎士たちは数えるくらいにまで減っていた。

 たかが女一人。そう侮ったメイソン騎士団の拘束部隊であったが、結果は予想を覆る物であった。これだけの損害を受けて捕らえられずに帰るなど、騎士のプライドが許さない。束が抵抗の際に使ってくるとされる無人IS対策の為に用意していたKMFのサザーランドを投入する。

 

「く、クソっ! ナイトメアフレーム隊、ネット弾を発射しろ!!」

 

 使者からの指示に応じ、サザーランドは束捕縛用のネット弾を発射しようとしたが、ここに来て無人ISのゴーレムが現れる。

 

『うわぁぁぁ!!』

 

『た、隊長! 例の無人ISです!!』

 

「グレイズを前に出せ! MSなら潰せる!」

 

 一機のサザーランドがゴーレムによって破壊される中、隊長は最終手段であるMSのグレイズを投入した。KMFのサザーランドを圧倒するゴーレムであるが、十八メートル級のMSであるグレイズには敵わず、あっさりと撃破される。

 その様子を見ていた返り血まみれの束は、ナノ・ラミネート装甲を持つMSは自分以外のISでは敵わないと納得する。

 

「通りで青いナイトさんたちが私に第四世代を作れって煩い訳だね。納得だわ」

 

『これで貴様の抵抗は無意味だ! 大人しく投降しろ!!』

 

 最後のゴーレムが指揮官型のグレイズの重いバトルブレードによって破壊された後、それに乗る騎士は拡声器で束に投降を迫る。

 だが、この世界はアガサ騎士団の領地の一つだ。敵方のメイソン騎士団の存在を知れば、直ぐに青の騎士が駆け付けて来る。やって来たのは、束が特別にこの世界の領主の為に作ったIS第四世代機の一つ「青騎士」を駆るエルネスティーヌ・アルゴンである。彼女は前述したようにIS世界の領主であり、アガサ騎士団の主君であるアルゴンの血を継ぐ者にして、それに属する女性騎士の一人である。

 

『馬鹿が! ISがMSに勝てる通りは無い!』

 

 上空より飛来してくる青いISに対し、ISがMSに勝てないと思っているグレイズの騎士は、機体の射撃兵装である120mmライフルを撃ち込んだ。

 MSでの対IS用訓練を受けている騎士であるが、エルネスティーヌが駆る第四世代のISは従来のISの機動力を上回る物であった。第三世代機なら当たる対空射撃を青騎士は避けながら接近してくる。

 

『避けたっ!? 最新の第三世代機でも当たる攻撃だぞ!』

 

 迫りくるこの世界の領主が乗る青騎士が自分の知るISでないと分かれば、騎士はバトルブレードを抜き、援護射撃を行う僚機と組んでそのISに接近戦を挑む。僚機のグレイズがライフルで援護射撃を行い、動きを牽制する中、バトルブレードを持つグレイズはスラスターを吹かせ、僚機が援護射撃で追い込んだ青騎士に向けて巨大なブレードを振り下ろす。

 

『絶対防御を叩き潰すバトルブレードだ! いくら速かろうが、これで!』

 

 そのバトルブレードは先ほどのゴーレムと同様にISの絶対防御を叩き潰せる近接武器であり、第四世代機の青騎士でも受ければ一溜りもない。だが、それを纏うエルネスティーヌは青騎士の性能を熟知しており、振るわれたバトルブレードを躱し、素早く右手に出した両手剣をグレイズの胴体に向けて振るった。

 

『躱した!? だが、ナノ・ラミネート装甲にはそんな物…』

 

 ナノ・ラミネート装甲を持つグレイズにはそれが効かないはず、そう思っている騎士であったが、それが彼の最期の言葉となった。

 青騎士の主武装である宝剣のような外見で文字が刻まれている両手剣「アガサ」はナノ・ラミネート装甲を容易く切り裂き、真っ二つにされたグレイズは地面へと落下していく。ナノ・ラミネート装甲を持つMSを先方も使わずに撃破したISを見て、メイソン騎士団の騎士たちは驚愕する。

 

「馬鹿な!? 姑息な手を使わない限り、ISがMSを倒せるはずが!」

 

「あの剣、何で出来ている!?」

 

 ナノ・ラミネート装甲を切り裂く青騎士の両手剣のアガサはどういう合金で出来ているのかと疑問に思う中、そのISを駆るエルネスティーヌは答えることなく自分は領民を守るために来たと告げる。

 

「領民を守るのが領主としての務め! アルゴン王よりこの地を統治を任された以上、エルネスティーヌ・アルゴンは貴様らメイソン騎士団の好きにはさせぬ!」

 

『腐り切ったアルゴンの娘が、ふざけおって! 予備のジンクスⅢ隊、エルネスティーヌを討ち取れ! 七機で掛かれば、いくらあの者であろうと!』

 

 これにメイソン騎士団の束捕縛部隊は怒りを燃やし、予備戦力である太陽炉を搭載したMSであるジンクスⅢ四機を投入してエルネスティーヌを討ち取ろうとする。

 地上から残ったサザーランドと共に対空射撃を行う隊長機を含めるグレイズ三機と空より仕掛けて来る四機のジンクスⅣの挟撃に対し、エルネスティーヌは慌てることなく左手からクロスボウ型のライフルを取り出し、空から仕掛けて来るジンクスⅣの対処に回る。

 クロスボウ型のライフルはビームであり、連射は高くない物の、ジンクスⅣのGNシールドを容易く貫通出来る程であった。一機や二機が被弾し、爆散して搭載されている赤い粒子を上空に巻き散らす。

 残った二機は右手に持つGNランスで青騎士を貫こうと接近するが、躱されてアガサの錆となる。切り裂いたジンクスⅣが爆散するよりも前にスラスターを吹かせて最後の一機に接近し、続けざまに切り裂いて撃破した。

 

『ISの火力ではないぞ!?』

 

 予備のジンクスⅣ四機が瞬く間に撃墜されたのを見た残る二機のグレイズは、青騎士の火力はISの比ではないことを知る。四機のジンクスⅣを仕留めたエルネスティーヌは恐ろしい速さで地上へ降り、残る三機のグレイズを両手剣のアガサで切り裂いて撃破した。

 

『く、クソっ! 退けるか!!』

 

 頼みのMS隊を全滅させられても、メイソンの騎士たちの戦意は挫けず、蛮勇に等しく挑んでくる。だが、MSと言う脅威が無くなれば、束の秘密研究所より二機のISが飛び出してくる。一つは束が娘のように可愛がっているクロエ・クロニクルが駆る黒鍵。もう一つはエルネスティーヌより束の護衛を命じられた少女騎士リーラ・マルティーノが駆る第三世代ISもといVAのダヌム・アルゴン。現れた二機のISに、メイソン騎士団の捕縛部隊は成す術も無く壊滅し、やがて最後の一人がダヌム・アルゴンの手で討たれる。

 最後の輸送機は逃げようと離陸しようとしたが、エルネスティーヌに続いてやって来たアガサ騎士団の部隊に投降する。周囲の安全が確認できた後、エルネスティーヌは束の前に着地し、纏っている青騎士を解除して待機状態であるアガサと言う名の剣に戻して腰の鞘に刀身を収めた。

 その後に束がエルネスティーヌに抱き着き、助けに来てくれたことを感謝する。束は彼女のことに興味があるようで、それでアガサ騎士団にISの製造法を伝えたのだ。その反面にメイソン騎士団を嫌っている。

 

「エーちゃん! 助けに来てくれるって分かってたよ!」

 

「篠ノ之博士、先のメイソンの者共は貴方一人でも壊滅できたのでは? 私が来たのは部下と領民を守るためと、最悪の事態に備えてです」

 

 抱き着きながら感謝する束であるが、エルネスティーヌは彼女一人でもメイソン騎士団の捕縛部隊を壊滅させられることを知っており、突き放してから助けに来たのは部下と領民であるクロエを守ることとと、最悪な事態に備えて来ただけと答える。

 自分を助けに来たのではないと答えるエルネスティーヌに対して束は機嫌を悪くし、アガサ騎士団の為に作らないと駄々を捏ねる。

 

「フン! じゃあもう作ってあげない!」

 

「篠ノ之博士…!」

 

「領主殿、ここは…」

 

 駄々を捏ねる束に対し、エルネスティーヌは呆れる中、領主である彼女を補佐する女性秘書は嘘でもいいから助けに来たと言うように耳打ちする。

 

「はぁ、この世界の領主エルネスティーヌ・アルゴンは貴方様が拵えた我が甲冑の青騎士を身に纏い、その御身を助けに参りました。遅れて申し訳ございません、篠ノ之束殿」

 

「うん、そうだよ。エーちゃんは束さんの騎士なんだからね! リーちゃんは可愛いから許すけど、エーちゃんが護衛の方が良いかな? ちーちゃんは忙しくて来られないって言うし」

 

「私も領主として忙しいので。それなら、我が城に来れば…」

 

「嫌! 束さんは自由に研究したいの!」

 

 助けに来たと嘘をついた後、遅れてきたことに謝罪の言葉を述べれば、束は機嫌を良くして護衛をリーラからエルネスティーヌに変えて欲しいとまで無邪気に言う。

 これにエルネスティーヌは自分の城に来れば良いと言うのだが、束は自分のしたい研究しかしないと言って断る。我がままで身勝手な束にエルネスティーヌは呆れつつも、何故この世界を知らないはずのメイソン騎士団が来たことが気になったらしく、メイソン騎士団に情報を漏らしたのかと問う。

 

「そんなことより、何故この世界にメイソン騎士団が? この世界の情報は正規軍でも限られた者しか知らないはず。彼らに居場所を伝えたのでは?」

 

「うーん、そのことは束さんには分からないんだ。それに伝えてないし。赤いナイトさんたちは何で束さんを見付けられたんだろう? エーちゃん調べてくれる?」

 

「無論、調べます。これ以上、我が領地を土足で荒らすなどあってはならないことです」

 

 束はメイソン騎士団に情報を漏らしていないと答え、調べてくれないかと頼む。これにエルネスティーヌは言われなくても調べると答えた。

 

 アガサ騎士団とメイソン騎士団の抗争は、この平和なIS世界にも及んだ。




第二部のキャラ提供、受け付けているぞ!


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ルリ、ISで戦う

ルリ・カポディストリアス
うちの使い回し貧乳小柄超絶美少女。ピンク色が混じった腰までと届く長い金髪。
マリマリのの都合でIS世界に来ており、IS学園に預けられている。
いきなりルリの面倒を見させられるようになった織斑千冬は「うちは保育所じゃない」と愚痴をこぼすほど。
可愛いと言う理由だけで束に気に入られ、第四世代のISを与えられている。
専用のISの名は「マギア・コリツィ」。
魔法少女のような外見で、武器はロッド一本と言う物。ただし、これは初期状態である。

知恵早戸(ともえ・はやと)
自称、女尊男卑と戦うテロリスト。性格は漫画版ゲッターロボの神隼人。
自前でテロ組織を立ち上げ、IS学園襲撃を計画している。メイソン騎士団より支援を受けているようだ。
搭乗機はASのサページ

甲兎(こうと)
鬼滅の刃の世界よりやって来た鬼。闇に潜みつつ殺人を働いていたが、良くある殺人事件として片付けられていたので、今の時期になるまで放置されていた。
それを良いことにしていたが、アガサ騎士団に発見され、編成された討伐隊に追い詰められている。
必殺技は血鬼術・紗甲(しゃこう) 血で巨大化してKMFのガレスになる。
提供はリオンテイルさん。巴武蔵枠です。


 第四世代のISを持つ者で現在判明しているのは、ISの発明者である篠ノ之束の妹、「紅椿(あかつばき)」を持つ篠ノ之(ほうき)、彼女が興味を持つこの世界の領主であり、王家の血を引くエルネスティーヌ・アルゴンの「青騎士」だ。

 だが、束はもう一機の第四世代のISを開発していた。そのISを使うのはルリ・カポディストリアス。彼女はこの世界の人間ではない。否、人間と言うべきか、どうか分からないが、アガサ騎士団と同じく異世界より来た少女である。

 そんな彼女に束が第四世代のISを与えた理由は至極単純、可愛いからである。それだけで興味を持ち、ルリに束はそのIS「マギア・コリツィ」を与えたのだ。

 束よりマギア・コリツィをプレゼントされたルリは、IS学園の練習場で嬉しさの余り空を飛び回ったが、最初にISを動かした織斑千冬より注意を受け、彼女よりISをイロハを受けた。

 何故ルリがIS学園に居るかは、とある事情で預けられているからである。ルリの幼さに千冬は手を焼いていたが、飲み込みは意外と早く、手足のように動かせるまでに至る。だが、まだ初期状態のままだ。

 千冬はルリが戦闘は行わないと思っているので、待機状態のマギア・コリツィを持たせたままIS学園からの外出を許可した。

 同じ異世界の者と、交戦するとは思わずに。

 

 

 

 IS学園の人工島が見える日本本土の廃坑の校舎にて、反IS思想と女尊男卑に対する抵抗を掲げるテロ組織の者たちが会合を開いていた。

 

「諸君、我々は女尊男卑の象徴たるISを打倒すべく、IS学園を襲撃する…! 織斑千冬を殺害し、奴の首を高らかに掲げようじゃないか…!」

 

 そのテロ組織のリーダーである知恵早戸(ともえ・はやと)は、幹部や構成員らに自分らの敵であるIS学園襲撃を宣言した。

 IS学園襲撃は千冬の弟である織斑一夏が初めてISを動かした日よりも計画されており、本格的かつ具体的で、実行の為の装備や事前調査も既に済んでいた。

 後は夜を待っての実行あるのみであったが、組織に入って日の浅い四名は計画を聞いて尻込みをしてしまい、脱退を申し出る。

 

「す、すみません…! 僕たちIS学園を襲撃するなんて…無理です…!」

 

「お前たち、遊びで我々のグループに参加したのか? ネットで見せたやる気はどうした?」

 

 尻込みして脱退を申し出る四人に対し、早戸は恐ろしい表情を浮かべながら彼らを睨み付け、遊びで武力闘争に参加したのかと問う。

 

「あ、あれは…その、匿名性と言うか…日頃の、恨みです…」

 

「ノリですよ…ノリ…まさか本気でIS学園を襲撃するなんて…!」

 

「なるほど、匿名性を盾にあれこれ書き込んでいた臆病者か。ネットであれほど女を見下し、蔑んでいた男たちが、いざ現実では何の値打ちも無いカスだったとは」

 

 自分の組織に入ったのは、女性に対する日ごろの恨みであり、まさか警備が厳重なIS学園を襲撃するとは思っても見なかったようだ。

 組織の古参の者や中堅の者は早戸の狂気的な計画に対する覚悟は出来ていたが、日の浅い彼らにはその覚悟は持てなかった。そんな彼らを、無事に解放する早戸ではない。古参や中堅の中に怖気付く者が出かねないので、見せしめの為に許しを請う彼らをこの場で粛正する。

 

「ゆ、許してください! 僕たちはただ女子校や会社を襲うと思いまして! お願いです! 許してください!!」

 

「ふん、お前たちは強姦目的で我々のグループに参加したのか。それに許せだと? 我々の掟を破り、その上に我々の秘密を聞いて許せると思うかっ!?」

 

 IS学園では無く、女子校や民間の女性専門の店等を襲うと思い、思っていたのと違うと分かれば脱退を申し出て、許しを請う四名の新入りに早戸は怒りを覚え、一人の顔の皮を素早く取り出したポケットナイフで剥いだ。

 

「目だ。耳だ。鼻!」

 

 手前の一人の顔の皮を剥いだ続けざまに、二人目の目を潰し、三人目の耳を削ぎ落とし、最後の四人目の鼻を千切り取った。

 四人はまだ息のあり、余りの激痛にうめき声を上げていたが、古参や中堅らを怖気付かせないために早戸は彼らの息の根を止めた。

 

「良いか? この俺の計画を汚す者は誰であろうと許さん。例えお前たちでもだ。我々で、女より世界を奪い返すのだ!」

 

 この粛正により、古参と中堅は二度とリーダーの早戸に逆らわないようにした。

 最後にいま世界の支配層である女性より、自分たち男性たちが作り上げた世界を奪還すると宣告すれば、組織の構成員らの士気は向上した。士気が向上したところで、早戸は自分らを陰から支援する組織より供給された兵器の名を記した書類を構成員らに見せる。

 

「さて、我々を支援してくれるスポンサーより、面白い兵器が提供された。その名はAS(アームスレイブ)、機種はサページと呼ばれるカエルが二足歩行しているようなロボットだ」

 

「これは…! これでISを倒せるんですか?」

 

「馬鹿を言うな。こいつのスペックでは戦車や戦闘ヘリどころか、二十ミリ口径の機関砲で武装した装甲車にすら勝てん。歩兵のRPGでも撃破は可能だ。勝つには森林地帯や市街地、視界が遮られる場所に誘い込む他に無いな」

 

 自分らを支援する組織よりASのサページを提供されたことに、古参の一人はISに勝てると思ったが、リーダーである早戸は機体の性能を理解して勝てないと答えた。そればかりか、戦車や戦闘ヘリにすら勝てないと言う。

 余り役に立たない物をスポンサーより渡されたことに構成員らは落胆したが、早戸は使い方次第ではISに勝てるかもしれないと口にする。

 

「だが、使いようによってはISに勝てるかもしれん。このASと言うのは、奴らが支援している各世界の抵抗組織に供給されているようだ。機種はそれぞれバラバラだが。ISを小破させたと言う記録もある。表では公になっちゃいないがな。それに学園はASの襲撃など夢にも思っていない。電撃戦で行けば、我々は勝てるかもしれんぞ」

 

 IS学園はASによる攻撃を想定していないので、電撃戦で攻めれば勝てると早戸が言えば、構成員の者たちは自信を取り戻した。早戸はIS学園での電撃的攻勢を既に計画済みであり、それを見た高セインらは彼の作戦なら必ず成功すると思ってのことだ。

 

「では、襲撃は予定通りの時刻に行う。各員、万全の状態で結構せよ。解散!」

 

 襲撃の手順や脱出の手段についての説明を一通り伝えたところで、早戸は作戦会議の解散を宣言した。

 

 

 

「ち、畜生が! なんで鬼殺隊みたいな連中がこの世界に居るんだ!?」

 

『待て! この怪物め!』

 

 その頃、街中ではルリと同じ異世界より来た者がアガサ騎士団の怪物退治専門の討伐隊に追われていた。彼の名は甲兎(こうと)、アガサ騎士団の怪物退治専門の討伐隊が追う理由は彼が異世界の怪物だからだ。

 ルリが来るよりも百七十年ほど前にこの世界に来ており、自分の天敵である武器を持つ討伐隊が居ないことで、好き放題に殺していたが、前世の失敗を踏まえて不定期的に人を殺めていた。なぜ人を殺すかは、血を摂取するためと生きるためである。

 アガサ騎士団がこの世界に来ても、自分に対してノーマークであったためにいつもの栄養摂取(吸血行為)をしていたが、メイソン騎士団が破壊工作やテロ組織支援を行ってからアガサ騎士団は異世界の物に対する警戒を一層強くしたために、甲兎はあっさりと見付かってしまった。こうして討伐隊を編成され、追われているのだ。

 

「それに日輪刀の材料似た物で出来た刃物を持ってやがる! 格好も違う! 何なんだこいつ等は!?」

 

 甲兎の言う通り、追ってくる騎士の格好を見て戸惑う。当然だ。この現代社会に頭にグレートヘルムを被り、甲冑の上から青いサーコートを羽織って剣や槍を持って追い掛けて来るのだ。幾ら鬼である甲兎でも、これを見て戸惑うのも無理はない。

 追い掛けて来る五人の騎士の討伐隊に壁際まで追い込まれた甲兎は他に逃げ道が無いか探すが、討伐隊の計算通りに追い詰められたらしく、逃げ道は無かった。

 

「追い込んだぞ、怪物め! さぁ、これで袋の鼠だ!」

 

「この国には、こういう状況に対して言う(ことわざ)がある。年貢の納め時だってな!」

 

「ちっ、西洋の騎士がなんで日本に居るんだ!?」

 

 追い詰められた甲兎は、なぜ日本に西洋の騎士たちが居ることに疑問を抱き始める。甲兎を追い詰めた騎士たちは得物を向けつつ、ゆっくりと向かってくる。

 

「このまま朝日まで待ち、日の光で貴様を焼いても良いが、それでは幾百もの怪物を討ち取って来た剣の錆にはならぬ。このまま仕留めてくれる!」

 

「クソっ、こいつを使う他ないか…!」

 

 両手剣を持って向かってくる討伐隊の隊長に対し、甲兎は自分で禁じていた奥の手を使うことにした。

 

「何を企んでいるか知らんが、貴様の最強伝説も今宵で終わりだ! 覚悟せよ!!」

 

「終わりは、貴様らの方だァーッ!!」

 

 向かってくる隊長に対し、甲兎は自分の身体を右手で思いっ切り突き刺し、大きな傷口を作ってそこから大量の血を吐き出させた。これを見た騎士たちは驚き、自決を選んだのかと思い始める。

 

「な、なんだ!? 自決か!?」

 

「フン、死ぬ前に討ち取ってくれる!」

 

 一見、自決に見えるこの甲兎の行動に、隊長は彼が死ぬ前に自分の得物である両手剣を力一杯に標的に向けて振り下ろした。

 

 

 

「女子大生三人とエッチしてたら遅くなっちゃった。帰らないと、千冬先生に怒られちゃう」

 

 一方、外出許可を得てIS学園の外に出ていたルリ・カポディストリアスは、早めに沈んでいく太陽を見て早くIS学園に帰らなければならないと家路を急いでいた。

 外出した理由はルリが言ったとおりであるが、ここでは割愛しておく。そんな彼女は家路を急ぐ余り、鬼である甲兎討伐の為に封鎖されていた区画に気付かぬ内に入ってしまった。更にそこへ、強靭な姿と化した甲兎が現れる。

 その姿の名は血鬼術・紗甲(しゃこう)。自分の血で人型の大鎧を身に纏い、能力の全てを底上げする。

 この血の大鎧を纏った甲兎は容易く討伐隊の五人の騎士たちを血祭りに上げたのだ。偶然にも遭遇した絶世の美少女であるルリを次の標的にして。

 

「…何、これ?」

 

 突然、目の前に騎士の兜が転がって来たので、それを見たルリは何が起きているのか理解できないでいた。更に理解できない物である甲兎が彼女の目の前に現れた。

 

『おぉ? 随分と可愛い嬢ちゃんじゃねぇかぁ。血が美味そうだのぅ~。酷い目に遭ったが、それが帳消しになるくれぇのごちそうだぜぇ!』

 

 見付けた甲兎はルリを美味たる得物として捉えた甲兎は、涎を垂らしながら彼女に襲い掛かる。襲い掛かって来るナイトメアフレームのガレスに似た巨大な鬼を前に、何が起きているか理解できていないルリはただ茫然としていた。

 その時、ルリの右手は自然と待機状態のマギア・コリツィに伸びていた。それが強く握られれば、ルリの全身は光に包まれる。余りの光の強さに、甲兎は怯んでしまう。

 

「うぉ!? な、なんだァ!?」

 

 突然に光った美少女に、甲兎は思わず顔を両手で多い、眩い光から守る。それから数秒後、自分の専用ISである魔法少女のような外装であるマギア・コリツィを纏ったルリが光の中より現れる。

 

「あ、IS!? な、何でこんなところに!? だ、だが、この血鬼術・紗甲なら!」

 

 相手がISの搭乗者であることが分かった甲兎であったが、自身が最強と自負する血鬼術・紗甲なら倒せると思い、マギア・コリツィを纏ったルリに向けて強力な拳を見舞う。

 

「あれ? 私、生きてる?」

 

 マギア・コリツィを纏い、助かったルリであったが、ISを纏ったことに疑問を抱いており、注意が散漫となって甲兎から来る攻撃に対応できなかった。そのまま甲兎の攻撃を受けて吹き飛ばされるも、ISの絶対防御のおかげで大したダメージにはならない。

 

「きゃっ!?」

 

「な、何ッ!? 分厚い鉄板ですら貫く拳だぞ!? 雑誌とかで読んだ絶対防御とかいう奴か! ならば、ラッシュでぶち破るまでよ!」

 

 絶対防御で対象が生きていた為に慌てる甲兎であるが、この分厚い鉄板ですら貫く拳を連発すればいずれは破れると判断し、ルリが対応するよりも前に接近してラッシュを見舞った。

 

「しゃしゃしゃしゃしゃしゃ! しゃしゃしゃしゃーッ!!」

 

「えっ!? 何っ!? わっ!?」

 

 甲兎の奇妙な掛け声と供に、紗甲の恐ろしい威力を誇る拳が連続で繰り出される。これに未だ状況が出来ていないルリは、ある程度は躱すことができたが、躱し切れずに何発かを受けてしまう。

 

「(反撃される前に、殺し切らねば! こちらが()られる!!)」

 

 ルリを追い込む甲兎であったが、ISとの戦闘は初めてだ。最初に見たときはヤバいと思っており、あれと戦えば流石に紗甲と言えど負けると認識している。甲兎はルリが反撃に出る前に、絶対防御を破って殺そうと言うのだ。

 

「(一体、何発ぶち込めば絶対防御は破れるんだ? もし朝まで掛かったら…! えぇい、考えるのは後だ! 今は全力で殺し切る!!)」

 

 絶対防御がどれほどの拳を見舞えば破れるかどうか甲兎は知らない。自分を殺す光である太陽が昇る朝まで掛かるだろうと考えると、更に冷静さを失うので、今は拳をマギア・コリツィに叩き込むのに集中した。

 一方的に攻撃されているルリの方は、まだ碌な戦闘訓練を受けておらず、ただ攻撃を受ける一方だ。それに彼女が纏うマギア・コリツィの色は何処か暗い。そう、まだ搭乗者に馴染んでいない初期状態なのだ。ルリは形態移行(フォームシフト)するまで完熟操作を行っていない。簡単に言えば、碌に慣れていない武器で、手練れと戦っているのだ。

 

「しゃぁぁぁーッ! どうだ!? くたばったかァ!?」

 

 息が切れるまで拳を打ち込んだ甲兎は、吹き飛んだマギア・コリツィを見てルリが死んだかと思っていた。だが、絶対防御は破れておらず、半分以上しか減っていない。

 ISに関して雑誌を立ち読み程度しか読んでいない甲兎はまだルリが動いていることに驚愕しており、なんで生きているのかをルリに問い詰める。

 

「生きている!? なんで生きているんだこの餓鬼ィーッ!?」

 

「絶対防御だよ。今ので半分くらい減っちゃったけど。今ので分かった気がする」

 

「は、半分だとォ…!? クソぉ! 破るのに太陽が昇っちまうじゃねぇか!! ふざけやがって! チートかよ!」

 

 問い詰められたルリは絶対防御が半分減っただけと言えば、甲兎は怒りの余り自分の弱点である太陽のことを口に出してしまった。敵が太陽の光が苦手だと分かれば、ルリは朝まで粘れば良いと思い始める。

 

「太陽…? 太陽が弱点なんだね! じゃあ、朝まで頑張れば…」

 

「朝までェ~? 馬鹿が! テメェなんぞ、太陽が昇るまで生きてるわけねぇだろうが!!」

 

 うっかり自分の弱点を口にしてしまった甲兎であったが、太陽が昇るまでに絶対防御を破って殺し切れば良いので、全力の攻撃をマギア・コリツィに浴びせる。

 朝まで粘ろうと攻撃を躱すルリであるが、甲兎の攻撃は先よりも苛烈であり、またも一方的な攻撃を受ける羽目となる。

 

「そんな調子で太陽が昇るまでなぁ、生きられるわきゃねぇだろうがぁーッ!!」

 

 全く自分の攻撃を見切れていないルリに対し、甲兎は太陽が昇るまで生きれる訳がないと告げる。再び攻撃を受け続けるルリは余裕を見せて攻撃してくる甲兎に対し、思わぬ反撃を行う。

 

「ぐぉ…!? 金的攻撃だと!? だが、余り効かないんだよぉーッ!!」

 

 紗甲と化した甲兎に対し、金的攻撃を行ったのだ。だが、鬼である甲兎には余り効かず、怒りの反撃を受けて再び吹き飛ばされてしまう。

 またも吹き飛ばされたルリであったが、ここで専用のISであるマギア・コリツィに変化が起こる。その予想外の出来事に、甲兎は攻撃を止めてしまった。

 

「うわっ!? 光ったぞ!?」

 

 ルリがISを纏った際に見せた眩い光に怯み、何かの攻撃と思って防御していた甲兎であったが、それはマギア・コリツィが彼女に馴染んだ形態に移行した際に発生した光であった。

 マギア・コリツィの色彩は生き生きして愛らしい物となり、形状も丸みを帯びてより魔法少女っぽくなっている。最初に纏った際に無かった武器が増えている。それは愛らしいデザインのロッドであった。背部のウィングは天使のようなデザインとなっている。

 自分に似合うような形の第一形態に一次移行(ファーストシフト)したマギア・コリツィに、ルリは驚きながらも自分を一方的に攻撃していた甲兎に勝てるような気がしてきた。

 

「これなら…勝てる気がする…!」

 

「進化した!? 色も形も少し変わっている…!? だがな、それでこの紗甲に勝てると思っているのかァーッ!?」

 

 一次移行したマギア・コリツィを纏ったルリが勝てる気がすると口にしたので、あれだけ一方的に自分にやられていた少女にコケにされたと思い、甲兎は怒りの攻撃の拳を打ち込もうと接近する。

 

「その余裕ぶっこいた顔を泣きっ面に変えてやるよォ! 泣けェ! 喚けェ! 命乞いをしろォ!! 泣きじゃくりながら死んで行けェーッ!!」

 

 恐ろしい笑みを浮かべながら拳を振り下ろしてくる甲兎に対してルリは、鬼である甲兎に対する太陽の光を生成しようとしていた。

 普通、ISに太陽を生成するような機能は無い。むしろ不可能である。がっ、ISの開発者である篠ノ之束が自ら作り出したマギア・コリツィなら可能である。束はこのISにアガサ騎士団やそれを傘下に収める軍事組織ワルキューレより失敬した技術を組み込んでいるのだ。よって、ルリはロッドに太陽の光とは行かなくとも、紫外線を生成することに成功した。

 紫外線を生成した能力は単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)に近いが、それは第二形態から発生する物で違うのだ。どうやら束は試験的に魔法技術をISに組み込んだようだ。

 

「っ!? なんだこの光は!? まさか…! 紫外線だとォ!? ぬぁぁぁぁ!!」

 

 ISの力を使って紫外線を生成したルリに驚く甲兎であったが、既に躱せない距離から放たれていた為に逃れることができず、大量の紫外線を浴びて灰と化していく。太陽光に近い紫外線を浴びて消えていく中、甲兎はこの世界でも自身が最強でなかったことに落胆しながら消えた。

 

「そんな…! 日輪刀が無い上に鬼殺隊も無惨も居ないこの世界じゃ…俺は最強じゃ…無かったのか…!」

 

 そう最期の言葉を口にした後、甲兎は完全に灰となって消えた。血の大鎧を纏っていた甲兎が消えて立っていた跡には、彼が身に付けていた衣服と腕時計を初めとした所持品だけ残っていた。

 束より貰ったISであるマギア・コリツィを第一形態まで進化させ、隠されていた魔法を使って甲兎に勝利したルリは勝ったことが信じられず、両膝を地面につけて呆ける。

 

「勝った…? 勝ったよね…? でも、疲れた…眠い…」

 

 甲兎との戦いはルリにとってかなりの疲労であったのか、彼女はその場に倒れてしまった。




キャラクター受け付けは二日後の25日で募集を締め切ります。参加はお早めに。

リオンテイルさんの甲兎を、ルリのIS覚醒の為に倒してしまったけど…良いのかな?


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もう一人の鬼

シャオリー・カーン
IS世界の領主であるエルネスティーヌを補佐する女軍師。
嘘をつかず、並大抵のことなら受け入れる心の広い天才的戦術家。どんな時でも笑っていられる。サイコパスではない。
技量も高く、トールギスも乗りこなせる程であるが、統率の為なら手段を選ばぬ冷酷な判断もすることもある。
搭乗機はトールギス
キャラ提供は緑ネコさん

源吾妻(みなもと・ごさい)
平安時代末期の世界よりやって来た女武人。
アガサ騎士団に属しているのだが、源氏武人スタイルを貫いているメッチャ浮いてる人。
エルクゥと言うエイリアンの血を受け継いでいる混血児。簡単に言えば、やったら強くて再生するが、暴走する。
あんまり戦い過ぎると、完全にエルクゥになって人間に戻れなくなる。
搭乗機は打鉄。
キャラ提供は山の下に更科さん


 メイソン騎士団より篠ノ之束を守ったエルネスティーヌ・アルゴンは、フランスの南西部にある自身の居城に部下と共に帰還していた。

 城の広いバルコニーに直接帰還したエルネスティーヌは、そこで待っていた自分を補佐するために主君のアルゴン王が派遣した軍師シャオリー・カーンが複数のメイドと共に出迎える。

 

「お帰りなさいませ、ご領主様」

 

「ただいま、カーン卿」

 

 バルコニーに足を付けたエルネスティーヌに向け、出迎えたシャオリーはメイドたちと共に頭を下げる。

 専用ISである青騎士を解いて待機状態である宝剣にしたエルネスティーヌは、自分が城に戻ってきたのと同時にやって来た少女の従者にそれを預け、メイドが着せる上着を羽織った。

 

「何か報告は?」

 

「マクゴナガル卿とロスガルド卿、ガーランド卿を含めた遠征隊が帰還しました」

 

「そうですか」

 

 上着を羽織ったエルネスティーヌにシャオリーは、ミッチェル・ガーランドが属する遠征隊が帰投したことを知らせれば、報告を受けた彼女は素っ気なく答えた。

 エルネスティーヌとミッチェルは同期である。同じ師の元で騎士のイロハを学び、心身を鍛え、剣術を含めた機動兵器操縦等の技術を学んで立派な騎士となったのだ。

 その同期の帰還だと言うのに、喜ばずに自室へと向かうエルネスティーヌにシャオリーはどうして喜ばないかと問う。

 

「どうしてそう素っ気ないのです? 貴方の同期ではありませんか。それにこの世界のラビアンローズ級ドック艦にフェドリッド号がドッキングしているのですよ。今なら長距離通信で彼と話せますよ」

 

「ガーランド卿も遠征で疲れている。例え領主と言えど、遠征より帰還したばかりの騎士に休息を与えず、単なる顔合わせの為に呼び出すなど」

 

「全くお堅い領主様」

 

 帰還したばかりのミッチェルに、ただ久しぶりと言うことで呼び出すなど出来ないとエルネスティーヌは答えた後、剣を持った従者と共に自室へと入った。

 これにシャオリーはお堅い領主だと口にした後、甲冑では無く身に付けているドレスを揺らしながら会議室へと向かう。

 数十分後、ISスーツから動き易い執務服に着替えたエルネスティーヌはシャオリーと他の重鎮たち、秘書に護衛の騎士たちが待つ会議室に現れ、メイソン騎士団がどのような手段で束の秘密研究所の居場所を見付けたのかを調べるように指示を飛ばす。

 

「皆の者、メイソンの賊共が我が領地に許可も無く土足で入ったことは知っているな? 奴らは我が領民であるタバネ・シノノノを拉致しようと侵入したのだ。篠ノ之博士の研究所は、アルゴン王よりこの領地を任されている私しか知らぬこと。それが奴らに知れ渡ってしまった。無論、このエルネスティーヌ・アルゴンは漏らしておらぬ。このアルゴン家の血を引く者として誓おう。前置きが長くなった。領主命令を諸君らに告げる。メイソン騎士団が篠ノ之博士の秘密研究所の場所を突き止めた経緯を調べるのだ」

 

 メイソン騎士団に束の秘密研究所を知られたのは自分の所為ではないことを会議室の部下たちに強調しつつ、エルネスティーヌはその指示を自分の部下たちに告げた。

 それに応じ、会議室の者たちは領主であるエルネスティーヌが返って来るまで収集した情報を報告した。

 

 

 

「ヴィンデルか? 何の用だぁ?」

 

『久しいな、アトリオックス。貴様に頼みがあって連絡を取った』

 

 バニッシュトと呼ばれるジラルハネイを中心に構成された武装組織の総帥アトリオックスに、ヴィンデル・マウザーは映像通信で連絡を取っていた。

 アトリオックスのバニッシュトはUNSC海軍の孤立した部隊の奇策によって大損害を被り、戦力の再編を行っていた。それを自前の情報網で知ったヴィンデルが協力を申し出て、自身の配下に加わることを条件にバニッシュトを以前よりも倍の戦力に拡大することを約束した。

 結果、ヴィンデルによって提供された様々な兵器とコヴナント海軍で運用されていた戦闘艦やCAS級強襲空母を供給されたバニッシュトは以前とは比べ物にならない程の戦力を有したが、その代わりに永遠の闘争を望む男の手駒となってしまった。

 まだ演習しか行っていないバニッシュトであるが、ヴィンデルは実戦を行わせるべく、総帥のアトリオックスに命令を出す。

 

『新生バニッシュトの初の実戦の機会を与えよう。ある者と…』

 

「あぁ、ちょっと待て。副業で失敗した部下を血祭りに上げるところだ」

 

「ゆ、許してください…! あいつらが強過ぎて…!」

 

 ヴィンデルの命令にアトリオックスは、自身の得物であるグラビティ・メイスで処刑すると言って遮る。

 その部下は人間で、ターニャを始めとしたイヴ人救出艦隊に襲撃されて壊滅した奴隷収容所の所長であり、部下と補助の為に配置されていたジラルハネイの部隊を見捨てて自分だけ逃げたのだ。

 これにアトリオックスは激怒し、こうして処刑しようと言うのだ。

 

「言い訳は許さん! 役に立つと思って拾ってやった恩を仇で返しやがって! お前の声なんぞもう聴きたくないわ!」

 

 命乞いをする人間の部下に対し、アトリオックスは怒り任せに自身の得物を振り下ろし、その部下を始末した。

 返り血塗れのアトリオックスは、ヴィンデルにどのような命令なのかと問う。

 

「でっ、何の用だ大将? つまらん要件なら、聞かんぞ」

 

『聞いていなかったのか? この私によって再編された新生バニッシュトに、初の実戦の機会を与えてやろうと言うのだ』

 

「おぉ、それは助かる。俺も含め、部下共は戦いたくてウズウズしていた所だ。もちろん、役立ちそうな物は奪っても構わんな?」

 

 自分だけ逃げた部下を血祭りに上げるのに夢中になっていたアトリオックスは、何の用で連絡してきたと映像通信の画面に映るヴィンデルに問えば、彼は新生バニッシュトに初の実戦の機会を与えると答えた。

 再編中は派遣した少数の部隊以外に全く戦闘はしてこなかったので、憂さ晴らしに暴れたいアトリオックスは大いに喜ぶ。それと略奪もして良いかと聞けば、ヴィンデルは喜んでそれを許す。

 

『もちろんだとも。派遣先は異世界だ。その世界の案内人をこちらに寄越している。この座標へ迎え。流石に分かってると思うが、殺してはならんぞ? 向こうはどうなっているか、私でも殆ど分からんな。貴様のバニッシュトを援軍だと思っている』

 

「見知らぬ場所で戦うか…面白い物が見付かりそうだ。そいつ等と協力して、久しぶりの戦争を楽しもう。では、全艦隊の出撃準備を始める」

 

『別に略奪しても構わんが、余りやり過ぎるなよ?』

 

「フン、善処しよう」

 

 案内人を殺さない、それと向こうの世界でやり過ぎるなと釘を刺した後、ヴィンデルはバニッシュトとの無線連絡を切った。

 自分を陰で支援し、再編の済んだ自分の軍勢の実戦の機会をくれるヴィンデルに、アトリオックスは少し疑いつつも、彼の指令に応じて部下たちに出撃の準備を命じる。

 

「総員、喜べ! 久しぶりの実戦だ! 直ちに旅支度を済ませろ! 出撃するぞ!!」

 

『おぉーっ!!』

 

 久しぶりの実戦の機会に、バニッシュトに属するジラルハネイやサンヘイリ、その他諸の種族たちは雄叫びを上げて出撃準備を始めた。

 

 

 

 異世界の鬼である甲兎の討伐に向かった五名の騎士からの連絡が途絶えた為、第二世代のIS「打鉄」で調査に向かったアガサ騎士団のIS操縦者二名は現場に急行し、その鬼によって惨殺された五名の遺体を発見する。

 

「ひ、酷い…! 一体どんな化け物が…?」

 

 五名の惨たらしい遺体を発見した一人目のIS操縦者は、悍ましいその死に方に思わず吐き気を覚え、口を抑える。覚悟していたが、これは何度見ても慣れぬ光景だ。それに五名とも、甲冑を身に着けているにも関わらず、巨人に潰されたような傷跡が残っている。無論、紗甲となった甲兎の仕業だ。

 もう一人のIS操縦者である源吾妻(みなもと・ごさい)は、五名の討伐隊の遺体を一目見るだけで彼らが討伐に向かった怪物であると見抜く。

 彼女は平安時代末期より来た女武人であり、どんな経緯かこの世界にやって来た。属しているアガサ騎士団は中世欧州であるが、彼女は源氏武人スタイルを貫いている。

 

「おそらく、討伐対象であろう。このような所業、あ奴しか考えられぬ!」

 

 見ず知らずの自分を拾ったアガサ騎士団の騎士たちを惨殺した甲兎に対し、怒りを燃やす吾妻であったが、その吾妻は既にルリに倒された後であった。そうとは知らず、吾妻は身に纏っているISを使って上空を飛び、甲兎を探す。

 

「見付け…ん? なんだあの小娘は!?」

 

 仲間の仇を取るために甲兎を探す中、ISを纏って交戦し、甲兎の苦手な紫外線を駆使して見事に倒して疲弊して倒れたルリを吾妻は発見した。

 直ぐに現場に着陸して、ISの機能を使って辺り一帯を捜索する。数分もしない内に、僚機が甲兎を見付けて吾妻に知らせる。

 

「見付けた! どうやら、この焦げた跡が付く前に居たのが、例の討伐対象らしいわ。そうなると、そこのISスーツを着てる子が…!」

 

「倒したと言うのか!? このような華奢な少女が!?」

 

 同僚からの知らせに、吾妻はルリがあの甲兎を倒したと知って驚きの声を上げる。

 無理もないだろう。自分から見れば、華奢な少女が怪物を倒したのだから。それに彼女らはまだ戦いの一部始終を見ていない。

 

「どうやら本当らしいわ。ここであの子のISと、そこの焦げ跡になる前の怪物と戦った痕跡が残ってる。これから調べれば、分かることだわ。さぁ、早速報告を…」

 

 ルリが甲兎を倒したことを信じられない吾妻に同僚は周囲をスキャンして事実であると改めて言えば、それを更に証明するために本部に報告の連絡を入れようとした。

 その時に吾妻は人成らざる者の感覚で同僚に迫る脅威を感じ取り、それから同僚と寝込んでいるルリを守った。

 

「何っ!?」

 

「…どうやら、その少女が斃した怪物よりも、もっと恐ろしい物が我らを狙っているらしい」

 

 吾妻の左腕は、同僚を狙った攻撃の所為でズタズタになっていた。ISである打鉄を纏っているにも関わらず、骨が見える程に潰されている。どうやらルリと自分らを狙う敵は、対IS用か、絶対防御を貫く装備を持っているようだ。

 その攻撃が来た方向を吾妻は見て、即座にライフルを持って攻撃が飛んできた方向へ向けて発砲する。風に左右されないビームが狙った方向へと飛んでいく中、攻撃を行った者はそれを躱し、吾妻らの前に着地して姿を見せる。

 

「…ロボット!? この世界の物じゃない! 異世界の物!?」

 

「並々ならぬ相手だ…! おそらく、討伐対象の怪物を遥かに上回る強さ! とても、勝てそうにも無いが…!」

 

 自分らを襲った正体は、謎のロボットであった。サイボーグと言うべきか。その風貌は忍者のようであるが、右肩より見えるキャノン砲が、忍者かどうかの認識を混乱させる。

 そんな忍者か戦闘用サイボーグか分からぬ相手にただならぬ気配を感じ取った吾妻は、同僚に自分が時間を稼いでいる間に逃げるように告げる。

 

「貴殿は逃げよ。あのカラクリの相手、この源吾妻が務める!」

 

「一人じゃ無理だわ。私も…」

 

「否! 拙者一人で十分! 貴殿はその少女を連れ、援軍を連れてまいれ! その間にあのカラクリを拙者一人で抑えて見せる! 行け!」

 

 これに一人では無理だと言う同僚に吾妻は援軍を連れて来るように説得し、彼女にルリを連れて離脱させることに成功する。

 

「必ず連れて来るわ! それまでに死なないでね!」

 

「約束は出来ぬが、善処はしよう!」

 

 ルリを抱え、離脱しようとする同僚にあのサイボーグ忍者が攻撃を行ったが、吾妻の打鉄が抜いた刀に右肩のキャノン砲を破壊されて妨害される。

 その隙に同僚は必ず援軍を連れて来ることを約束し、吾妻がサイボーグ忍者を抑えている間に寝込んでいるルリを抱え、空を飛んで離脱した。邪魔者が居なくなったところで、吾妻は自分の本懐を遂げるべく、ISを解除して自分の奥底に眠る血を解放する。

 

「さて、貴様なら存分に戦えそうだ…! 内に眠る我が血が求めるようにな!」

 

 ISを解除した吾妻に驚くサイボーグであったが、変貌した彼女の姿を見て、直ぐに胸部に搭載されたミサイルコンテナを展開して撃ち込む。全弾撃ち込んでのミサイル攻撃であるが、吾妻はその全てを自分の太刀で抜いて破壊し、サイボーグ忍者に接近する。

 人間離れした速さで迫る吾妻にサイボーグ忍者は近接戦闘に備えるために右腕から高周波ブレードを展開し、彼女が振り下ろす斬撃を防いだ。二つの刃が互いにぶつかり合い、双方が一旦距離を置けば、また接近して互いの刃をぶつけ合う。そこから斬り合いが始まった。

 平安時代末期の太刀と高周波ブレードの打ち合いの毎に火花が散り、甲兎とは違う別の鬼と、機械化された忍者との激しい死闘が繰り広げられる。

 一進一退の膠着状態が続く中、それを打開しようとしてか、サイボーグ忍者は目よりレーザーを鬼となった吾妻に向けて放つが、彼女は異常な再生速度を持っており、撃ち込んでも再生してしまう。そこを付け込まれ、サイボーグ忍者は胸部を斬られた。

 

「中々やるな、カラクリ! だが、拙者はまだ満足しておらんぞ!!」

 

 胸部を斬られたサイボーグ忍者はスラスターを吹かせて一旦距離を置き、斬られた胸部の損傷具合を調べ、戦闘に支障がない事を確認する中、吾妻はまだ満足していないと言って追撃を仕掛ける。

 今度は自分が持つ放電能力で刀に電流を帯びせて斬りかかるが、サイボーグ忍者は自分の回路をショートさせる危険性がある電流攻撃を仕掛けてくると判断し、回避に専念しながら左手の掌より火炎放射器を放射して焼き殺そうとする。

 炎をもろに受けた吾妻は火達磨となるが、構わずにサイボーグ忍者に体当たりを仕掛け、転んだところで電流を帯びた刀で突き刺そうとするが、敵はスラスターを吹かせて躱した。それから左腕より出した手裏剣を火達磨となっている吾妻に向けて放つ。凄まじい火傷を負っている吾妻であるが、再生能力のおかげか死に至らず、飛ばされた手裏剣が幾つか突き刺さるも、戦闘に支障は無かった。

 

「この程度では、拙者は殺せぬぞ!」

 

 全身が大火傷を負っているにも関わらず、戦闘力も落ちていない吾妻にサイボーグ忍者は腰の折り畳み式レーザーライフルを展開し、右腕のブレードを仕舞ってから撃つが、女武人は見えているかの如くそれを躱して斬りかかって来る。

 これを躱そうとしたサイボーグ忍者であるが、吾妻の刀を振るう速さは先よりも速くなっており、左腕を斬り落とされてしまう。

 

「グゥゥ…! うぅぅ!」

 

 左腕を斬り落とされたサイボーグ忍者は目晦ましの閃光弾を地面に叩き付け、ステルス機能を使って姿を消した。

 離れた距離から様子を伺う中、鬼となった代償か、それとも本能に呑まれてしまったのか、火傷より再生した吾妻は我を失って暴れ始めていた。これ以上の戦いは無理だと判断し、サイボーグ忍者は撤退を選んだが、暴走した吾妻はステルス機能を使っている大将の存在に気付き、襲い掛かって来る。

 

「グァァァァ!!」

 

 獣のような叫び声を上げ、見えているかの如く斬りかかって来る吾妻にサイボーグ忍者はステルス機能を解き、右腕のブレードでそれを防ぐ。

 片腕で鬼の斬撃を防ぐサイボーグ忍者であるが、暴走状態となった吾妻の力は凄まじく、いくらサイボーグと言えど、いずれは倒されることだろう。そう思って左足を何度も刀を振って来る吾妻の脇腹に叩き込んだが、痛みすら忘れて暴走している鬼には通じなかった。

 向こうの刀の刀身が先に根を上げて折れたが、暴走している吾妻は関係なしに振って来る。閃光弾を使おうとするが、使おうものなら吾妻の左腕による拳が打ち込まれ、目晦ましを封じられる。

 

「アァァァ!!」

 

 やがて防ぎ切れなくなり、高周波ブレードの刀身に残っている折れた刀が突き刺されば、吾妻は左手をサイボーグ忍者の胸部に突っ込んだ。

 内部より破壊されようとする中、サイボーグ忍者は肉を切らせて骨を切ると言うことわざを知っていたのか覚えていたのか、敵に情報を渡さぬための自爆装置を作動させた。それから動く限り吾妻を抑え込み、共に心中しようとする。その最中にサイボーグ忍者はこの世界で収集した情報を同じく活動している仲間に渡すべく、背中より情報を収めた超小型ポッドを射出した。

 

「グァァァ! うぅぅ!!」

 

 張り付いた敵を剥がそうとする吾妻であるが、敵は動き続ける限り彼女を抑え付ける。

 数秒後、作動していた自爆装置は作動し、吾妻はその再生力が追い付かないほどの爆発に呑まれ、最期の相手としたサイボーグ忍者と共に消滅した。

 吾妻は闘争本能の赴くままに暴走状態で意識を失った状態で、死を迎えることになった。余りにも酷い最期であるが、全力で戦える相手と戦うことができた吾妻にとっては幸せな最期かもしれない。

 

 

 

 吾妻がサイボーグ忍者の自爆に巻き込まれ、共に消滅した後、サイボーグ忍者が放ったこの世界の情報を収めたポッドを射出したので、付近に信号をキャッチした装備が違うサイボーグ忍者がそのポッドを回収した。

 

「フォックスがやられたか…」

 

 拾ったポッドを回収したサイボーグ忍者は、自爆したサイボーグ忍者の名前を言って自分の身体の収納スペースに収める。もう一体のサイボーグ忍者が現れ、任務を続行するかどうかを問う。

 

「サイラックス、任務を続行するか?」

 

「無理だ、セクター。先の騒ぎのおかげで、この世界の連中の警戒が強まった。特殊なレーダーで我々の反応を察知するかもしれん」

 

「そうだな。連中のISが動いている。我々の装備では、二機が限界だ」

 

 黄色いサイボーグ忍者であるサイラックスに、赤い忍者サイボーグであるセクターは任務を続行するかどうかを問う。

 これにサイラックスは仲間のサイボーグ忍者が吾妻と共に自爆した周辺で、ルリを連れて離脱した打鉄の操縦者が呼んだアガサ騎士団の応援部隊が慌ただしく動いており、いくらこの二人が強くても、多数の敵に囲まれる危険性がある。それにアガサ騎士団のISではなくVAが何機か飛び回っている。

 飛び回っているアガサ騎士団のVAを見たセクターは、今の装備では複数のVAと戦うのは難しいと判断し、撤退が妥当であると認識する。

 

「撤退するか無いだろう。データ収集も十分だ」

 

 セクターが撤退を提案したので、サイラックスはそれに応じて左腕の機器を操作し、亜空間への入り口を召還する。二体のサイボーグはその亜空間の入り口に入り、この世界より撤退した。




山の下に更科さんより提供された死亡枠である源吾妻さんも、難しいので、ここでリタイアとなりました。

それと最初に後方枠のシャオリーさんもちょっとだけ登場。
ヘイロー・ウォーズ2の最強のブルートで賊の総帥であられるアトリオックスさんもご登場です。

次回も皆様より提供されたキャラクターが登場予定です。


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異邦への調査

クルワルド・ピースブレイク
アガサ騎士団所属の謎多き天才科学者。束と認識がある。
自分が認める程に嫌な奴であるが、根が優しくて面倒見が良くてサポートしてくれる。
情報収集能力も高く、ヴィンデルについての情報を持って居ることから、アガサ騎士団によるヴィンデルの歪んだ理想郷への調査は、クルワルドのおかげ。
容姿はミリアルド・ピースクラフトであったが、あんまりチート過ぎるので、作者の意向により、新ゲッターロボの安倍晴明に差し替えられた。
搭乗機はガンダムアクエリアス
キャラクター提供は山の下に更科さん

ゴリ・ロッグハート
アガサ騎士団に属する外見が「ハンター×ハンター」のゴレイヌな騎士。ゴリラが渾名。
前ではマテリアが使える設定だが、ここでは難しいので念能力も使えないえげつねぇ弱体化したゴレイヌにされた。でも、三人分の耐久力はある。
搭乗機はヴィンセント・ウォード・カスタム
キャラクター提供は緑ネコさん

ユウ・アオバ
アガサ騎士団に属する日系の騎士。宇宙での初陣でグレイズを破壊された際、偶然に流れ着いたメイソン騎士団の宇宙戦闘艦より保管されていた偽F91ことシルエットガンダムをかっぱらうと言う大挙を成す。
戦いには負けたが、メイソン騎士団の顔に泥を塗ったと言う功績でそのままシルエットガンダムのパイロットとなる。
搭乗機はシルエットガンダム

ジョン・セイバー
アガサ騎士団のMS隊隊長。ユウの上官。
ユウを保護した騎士であり、彼を立派なアルゴン王に忠誠を誓う騎士に育て上げた。
結婚願望があるのか、任務がてらに嫁探しをしている。
搭乗機はシュヴァルベ・グレイズ
ユウとジョンのキャラクター提供はエイゼさん

版権キャラ

アトリオックス
ヘイロー・ウォーズ2に出てきたタルタロスを超える最強のブルート。
全盛期のコヴナントが斃せなかったバニッシュトの総帥であるが、部下の頭が悪過ぎる所為で、UNSCのはぐれ部隊を倒せない。てかそのはぐれ部隊が強かった。

シップマスター
アトリオックスを始めとしたブルート族が船を碌に動かせないので、代わりに動かしているエリート族の人。名前は不明。
コヴナントに離反したアトリオックスに同調してついて来た。

ヴォリドゥス&パヴィウム
DLCに出てきたバニッシュトの幹部の兄弟。アホ。
身長が小さくてモヒカン頭の単細胞がヴォリドゥスで、上下二本にクローが付いたシールドを持って居る。
身長が大きくて禿で、右手に腕部装着型ロッドガンを持ち、シールドを左手に持ってる奴がパヴィウム。慎重な性格であり、ジラルハネイらしくない。
面倒ごとを起こしたので、アトリオックスの近くに居る。

ライザ・エンザ
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ第二期に出てきたギャラルホルンの青年将校団のリーダー。
この二次創作ではメイソン騎士団の派遣部隊の隊長である。

ベン・ウッダー
機動戦士Zガンダムに出てきたティターンズの将校。手段を選ばぬ軍人。
この二次創作ではメイソン騎士団の派遣部隊の副官を務めている。


 惑星同盟軍の勢力下にある星系にて、影より支援するヴィンデル・マウザーより援軍を用意すると言って迎えに来たメイソン騎士団の派遣艦隊は、指定された座標に到着していた。

 メイソン騎士団の派遣艦隊はアマルテア級宇宙戦艦を初め、僚艦二隻にカリスト級巡洋艦、ハーフビーク級戦艦一隻と言う編成だ。

 彼らが待っているのは、アトリオックスが率いる新生バニッシュトの遠征隊である。

 

「隊長、そろそろ約束の時刻でありますが…」

 

「ぬぅ…! 遅い! 我らの異種族の同志は本当に来るのか!?」

 

 派遣艦隊旗艦のアマルテア級戦艦の艦橋にて、副官のベン・ウッダーに問われたライザ・エンザは約束の時刻となっても一向に現れないアトリオックスのバニッシュトに苛立ちを覚えていた。

 ここはメイソン騎士団にとって未知の世界だ。それにこの星系の支配者である惑星同盟軍にいつ狙われてもおかしくない。

 ここに来るまでに、ライザの派遣艦隊は幾つかの同盟軍の部隊と交戦している。最初は六隻以上はあった派遣艦隊の数は、長引く戦闘の所為で今は四隻となっていた。

 ちなみに、ヴィンデルが同盟軍に話を通しているはずだが、派遣されたライザの艦隊はモーリック十三世よりそれを聞かされておらず、同盟軍と交戦してしまっている。

 かなりの犠牲を払って指定された座標に来たにも関わらず、一向に来ないバニッシュトにライザが苛立つのも無理は無かった。その犠牲は、自分の誤判による物だが。

 

「こちらはかなりの同志を喪っておるのだ! クソっ、アガサの者共の罠でなかろうな!?」

 

「そんなはずはありません。彼奴等にあんな真似は出来ませんよ」

 

「私も分かっている! 奴らに協力している部隊かと思うが、こんな所で仕掛けて来るはずがない!」

 

 苛立つ余り、敵方のアガサ騎士団の罠では無いかと疑うライザに対し、ウッダーはアガサ騎士団にはそんな手は使わないと告げる。これにはライザも分かっており、こんな見知らぬ場所では仕掛けて来ないと怒鳴り返す。

 これにウッダーが若い上司に内心苛立つ中、レーダー手が見知らぬ機影が来たことを知らせる。

 

「っ!? レーダーに反応! 識別に該当する物なし!」

 

「敵襲か!? スクランブル…」

 

「いや、命令書に書いてあった絵の船だ!」

 

 その知らせにライザは敵襲と誤判する中、ウッダーは命令書にある絵の船だと告げる。

 彼らに渡された命令書に描いてあった船の絵とは、バニッシュトの旗艦であるCAS級強襲空母であった。船体が五千メートル以上もある巨大な宇宙船を前に、ライザを始めとした何名かの騎士たちは驚愕する。

 

「な、なんて巨大な船だ…!」

 

「マクロス級よりもデカいぞ…!」

 

「移民船か!?」

 

 CAS級強襲空母を見た騎士たちは、自分らの知るマクロス級よりも大きいと驚く。メイソン騎士団や敵方のアガサ騎士団が属するワルキューレに、CAS級のような巨大な宇宙船は長距離移民船しかないのだ。

 そんなコヴナント海軍の巨大な船より、それに乗っているバニッシュトの総帥アトリオックスからの映像通信がライザの乗艦に来る。

 

「前方の巨大船より映像通信! これは、我々メイソン騎士団しか知らぬ暗号通信です!」

 

「なに? 繋げ!」

 

『あぁ、もしもし? お前が我らバニッシュトを異界の戦場に案内する使者か?』

 

「怪物だぞ…!」

 

「そ、そうだ! 我々が貴官ら異種族の同志を迎えに来たものだ!」

 

 良く見える位置に設置してある画面に映し出されたアトリオックスの風貌に艦橋内にいる騎士たちが驚く中、その異種族の同志とやらに問われたライザは答える。

 

『そうかい。では、連絡船でうちの船に来い。その船は、息苦しそうだ』

 

 映像越しよりアマルテア級の艦橋は狭いと感じたアトリオックスは、自分の船まで来るように告げる。これにライザはウッダーを見れば、副官は行くべきだと無言で告げる。

 

「分かった。貴官の船に行こう!」

 

『是非ともそうしてくれ。人間の船の艦橋は狭くて敵わん。ガイドビーコンを出して置く』

 

 このアトリオックスの要望に、ライザ等は連絡船で彼の母艦に行くことを決めた。

 

 

 

 バニッシュトとメイソン騎士団の派遣艦隊が合流したその頃、付近の惑星にはガーランド達とは違うアガサ騎士団の調査部隊が降下し、周辺を捜索していた。調査隊はKMF九機と九十人の騎士で編成され、辺りを調査している。

 

「えげつねぇな…」

 

 降下した調査隊の隊長であるゴリ・ロッグハートは、周囲に広がる人間味や同情心も欠けた光景を見て言葉を漏らす。

 その光景とは、皆殺しにされた同盟軍の基地であった。周辺には同盟軍の将兵たちの死体が転がっており、空薬莢や銃弾の跡があちらこちらに残っていることから、戦闘が行われた事を物が立っている。だが、防衛側の同盟軍の将兵らは投降を許されず、略奪者たちに皆殺しにされたようだ。基地に集積されていた物資が残らず奪われている。

 

「どうやら、略奪があったようですな」

 

「んなもん、見れば分かるぜ。辺りが死体だらけだ。この死体が持って居た銃も全部奪われてやがる。ここを襲った連中は、恐ろしくてヤベェ奴らだ」

 

 副官が略奪があったようだと言えば、ゴリは見れば分かると言って、基地を襲って壊滅させた者たちは恐ろしく強く、そして残忍であると口にする。

 

「あっちの、司令部の方を調査しよう。メイソン騎士団の連中が使っている登録にねぇ兵器の出所が分かるかもしれねぇ」

 

 次にメイソン騎士団が使う自分らアガサ騎士団やワルキューレのデータには無い兵器に関する情報を得るべく、ゴリは黒煙を上げる司令部を指差しながら調査すると言って二名を連れて調査に向かった。

 基地の電源の設備は生きておらず、何処も開けっ放しであった。司令部に入ったゴリが辺りを見渡す中、随伴する二名の騎士は兜の側頭部左右に付いた小型のライトを付け、周囲を照らす。この司令部でも死体だらけであり、空薬莢と血痕が残っている。

 

「ひでぇ事しやがるぜ。現地の住人か?」

 

 司令部の惨状を見て、ゴリはこの基地を襲って同盟軍の将兵を虐殺したのは現地の住民による報復では無いかと思い始める。

 司令部の奥まで進む中、ライト付き兜を被っている騎士は目前より何かが迫っていることを隊長であるゴリに知らせる。

 

「隊長、前から何かが…!」

 

「なんだって? 暗くて良く…」

 

 その知らせにゴリは暗くてよく見えないと言った途端、巨大な拳が彼の顔面に向けて飛んできた。

 暗闇の中で飛んできた右拳にゴリは避け切れず、諸に顔面に受けてしまい、余りの威力に外まで吹っ飛んでしまう。殴り飛ばされたゴリに二名の騎士は思わず振り返って叫ぶ。

 

「隊長!!」

 

「くそっ! なんだ一体!?」

 

 凄まじい勢いで吹き飛ばされたゴリの身を案じる中、もう一人の騎士は腰の剣を抜いて警戒する。自分らの上司を出入り口まで殴り飛ばした正体は、遅れて剣を抜いた騎士をシールドの上下二つのクローで抉り殺し、気付いて斬りかかろうとした二人目の騎士を素早く腰から抜いたハンマーで殴打して壁に叩き付け、とどめの一撃を素早く叩き込んで殴り殺した。

 一方で吹き飛ばされたゴリは何事も無かったかのように起き上がり、殴られた頬を抑えてその痛みで声を上げる。

 

「い、いてぇ~! 一体何が起きてんだ?」

 

「隊長、ご無事ですか!?」

 

「大丈夫だ、俺は三人分頑丈だ。それより、ミグとガリオは?」

 

 無事を問う部下に対してゴリは自分が頑丈なので大丈夫と返し、随伴した二名の部下の身がどうなっているのかを問う。

 

「応答しろ! 隊長は無事だぞ! どうした!?」

 

 これに直ぐに部下は無線機を内蔵しているガントレットで問うが、応答は返ってこない。それもそのはず、司令部内部に潜んでいた何者かに二人とも殺されたのだから。

 二名の騎士を殺害した正体が姿を現す。その正体は小柄のジラルハネイ族であり、更に一人腕部装着型のロッドガンを右腕に付け、左手にシールドを持った者が増えている。これに騎士たちは直ぐに戦闘態勢を取る。

 

「あいつらが、俺の部下をぶっ殺した奴か!」

 

「戦闘態勢! ナイトメアフレームは直ちに発砲しろ!!」

 

 自分の二人の部下を殺したのが、あのジラルハネイであると分かれば、ゴリは腰の剣では倒せないと判断し、自分のKMFであるヴィンセント・ウォード・カスタムに向かって走る。

 それを援護するべく、副官は待機している射撃兵装を持つ六機のサザーランドや二機のヴィンセント・ウォードに攻撃を命じた。残る騎士たちは得物を持って構え、弓やボウガンを持つ者たちはKMFと共に射撃を行う。

 その攻撃に、二名のジラルハネイは盾で攻撃が止むまで防ぎ続ける。

 

「やったか!?」

 

 自分の機体に乗ったゴリは二名のジラルハネイを肉塊へと変えたと思って、その死を確認したが、敵は健在であった。

 

「同盟軍の奴らかと思ったが、まさか変な連中だとはな。油断するなよ、ヴォリドゥス!」

 

「珍しい物が揃ってるべ~! 略奪してえぇかぁ~? パヴィウムぅ?」

 

「まぁ、ボスより言われてねぇが、皆殺しにするなよ!」

 

「略奪だべぇ~!」

 

 盾とエネルギーシールドのおかげで健在であった二名のジラルハネイは、見慣れぬアガサ騎士団の騎士たちを見て珍しがる中、スキンヘッドのジラルハネイのパヴィウムが慎重に当たるように言う中、小柄のジラルハネイのヴォリドゥスは略奪して良いかと問う。

 これに自分らの上司であるアトリオックスの機嫌を損ねないなら許可するとパヴィウムが言えば、ヴォリドゥスは突っ込み始める。それと同時に二人の背後から多数のジラルハネイが姿を現し、ヴォリドゥスと共に突撃を行う。

 

「生きてるぞ!?」

 

「なら撃ちまくれ!!」

 

 生きていて突っ込んでくるヴォリドゥスに驚く騎士たちに対してゴリは攻撃命令を出し、自分も突っ込んでくるジラルハネイに向けてライフルを撃ち込む。

 

「側面から攻撃だ!」

 

「なんだと!?」

 

 ヴォリドゥスとジラルハネイに集中砲火を浴びせる調査隊の側面より、付近に息を潜めていたバニッシュトの兵団が飛び出して襲ってくる。攻撃を受けて倒れる味方を見た騎士が叫ぶ中、ゴリは気付いて側面より現れたサンヘイリやジラルハネイを攻撃する。彼らの中には改造されたATも含まれていた。

 

「さて、俺も仕事をするか!」

 

 集中砲火を受けるヴォリドゥスにパヴィウムは右腕に装着したロッドガンを発射し、弓兵等を数名ほど纏めて吹き飛ばす。ロッドガンの威力に騎士たちが驚く中、サザーランドの照準が自分に向いたところで盾を構え、マシンガンによる弾幕を防ぎつつロッドガンで反撃した。

 ロッドガンを受けたサザーランドは爆散した。KMFすら破壊するロッドガンの威力にゴリは驚き、最近になって増えているヴァルキュリア・アーマー並みであると口にする。

 

「なんだあの威力は!? ヴァルキュリア・アーマーかよ!」

 

 パヴィウムのロッドガンの威力に驚く中、側面より来たブルート・チョッパーをゴリは手持ちの射撃兵装で次々と撃破した。その次に上空より迫るバンシーを撃ち落とす。

 数機を撃ち落としたところで、ヴォリドゥスは弾幕を突破し、周囲に居る騎士たちを片手で扱えるほど小さいグラビティハンマーで次々と叩き殺し、挙句にサザーランドですら破壊する。余りの強さのヴォリドゥスに、放置しておけば調査隊が全滅すると判断したゴリは小柄なジラルハネイの対処に回る。

 

「あいつもVA並じゃねぇか! これ以上殺されてたまるか!」

 

 腰の剣を抜き、暴れ回るヴォリドゥスにゴリは立ち向かった。

 

「おぇ? オデに挑む気かぁ~? 返り討ちにしてやんべぇ!」

 

 向かってくるゴリ専用のヴィンセント・ウォードに、ヴォリドゥスは最初の斬撃を盾で防ぎ、ハンマーで反撃しようとした。だが、最初の一撃を生身で防いだヴォリドゥスに驚いたゴリは思わず下がってしまい、その反撃は躱された。

 

「なんだこいつは!? 生身でKMFの攻撃を防いだぞ!? クソっ、なんだってんだ!」

 

 生身でVA以上の戦闘力を誇るヴォリドゥスに、ゴリは戦意を挫かれそうになる。そんなゴリにパヴィウムのロッドガンの攻撃が迫るが、何とか躱すことに成功する。

 

「とんでもない所に来ちまったぜ! こいつ等とやり合うには、MS以上の奴が必要だ! 全員聞こえるか!? 撤退だ! 撤退するぞ!!」

 

 余りにも強過ぎる二体のジラルハネイに、このままでは勝てないと判断したゴリは、調査隊に撤退命令を出した。それに応じ、エナジーソードを持つサンヘイリと剣で斬り合っていた騎士は応じ、撤退命令を伝達した。

 

 

 

「ほぅ、貴様が案内人か?」

 

 付近の惑星でアガサ騎士団の調査隊と幹部のヴォリドゥスとパヴィウムによる交戦が行われる中、バニッシュトの母艦の艦橋内に案内されたライザとウッダー等はその広さと自分らの先を行くほどの技術力に茫然としていた。

 そんな彼らに、バニッシュトの総帥であるアトリオックスは、ヴィンデルより聞いていた案内にであるかを問う。

 

「そうだ! 我々が貴殿を案内しに来た派遣艦隊の者だ!」

 

 アトリオックスからの問いに、ライザは怯えつつも意気揚々にそうだと答えた。アトリオックスは警戒心が強いウッダーが隊長だと思っており、答えたライザに驚いた。

 

「ん? なんだ、この青臭いのが隊長か。俺はてっきり、その隣の老けた人間かと思ったが」

 

「き、貴様…!」

 

「そんな事はどうでもいい。速く新しい戦場へ案内してくれ。部下共が我慢できずに、正規軍の基地を襲っちまった」

 

 怒りを露にするライザを軽くあしらったアトリオックスは、部下であり幹部でもあるヴォリドゥスとパヴィウムの部隊が勝手に同盟軍の基地を襲ったことを知らせた。

 それを聞いたライザとウッダーはバニッシュトは野蛮な組織であると認識する。バニッシュトを自分らの領内に連れて行けば、彼らは略奪を始めることは間違いなしだ。だが、敵方のアガサ騎士団の領内に居れてしまえば、存分に暴れてくれる。使い様によっては、強力な戦力である。

 その有望なる戦力をこちらの陣営に入れるべきと判断したウッダーは、早速バニッシュトの案内を行おうとライザを押し退けて告げる。

 

「なんと野蛮な…」

 

「それは置いておき、貴官らを案内せよとモーリック王より申し付かっている。貴殿を見れば、存分に我らの敵であるアガサ騎士団をあの世界より放逐できると私は見ている。それに異世界は貴殿らにとっては大変珍しく、役立つ物で溢れている。どうだ、来ないか?」

 

 押し退けられたライザは静かに怒るが、ウッダーはこれが最善であると表情で黙らせ、IS世界での略奪をバニッシュトに許可してやる気を出させようとした。

 向こうでは存分に略奪を働いても構わないと言われたアトリオックスは、異世界には略奪物が沢山あると思ってウッダーの誘いに応じた。それにヴィンデルより新生バニッシュトの初の実戦を行えると聞いているので、俄然に行く気になっていた。

 

「良いだろう。貴様らの敵の領地で好き勝手出来るなら、我らバニッシュトの本望である。それに戦いたくてウズウズしている」

 

「それは助かる! モーリック王もお喜びになろう! それと敵は手強く、貴殿の軍団の兵が幾人か戦死する可能性があるが…」

 

 やる気であるアトリオックスが行くと言えば、ウッダーは自分らの思い通りの展開となったことに喜んだ。ウッダーは敵のアガサ騎士団が手強いことを告げたが、強い敵なら尚更戦ってみたいとアトリオックスは答える。

 

「フン、戦とはそんな物だ! 手強いなら尚更で、是非とも戦ってみたくなる。おっと、言い忘れていたが…」

 

 強い敵との戦いを所望するアトリオックスが意気揚々と答える一方で、ライザらに言い忘れていたことを思い出し、それを彼らメイソン騎士団らの使者に伝えた。

 

「アガサ騎士団だったか? そいつらの鼠がこの辺を嗅ぎまわっていてな。今し方、幹部の配下の隊が近くの星で戦闘をしているようだ。それに、お前らを尾行していたのも居る。気付かなかったか?」

 

「…なんだと!?」

 

「真か!?」

 

 それは、幹部の兄弟が戦っているアガサ騎士団のゴリが率いる調査隊との交戦であった。更にアトリオックスは、ライザ等の派遣艦隊を隠れながら追跡していたアガサ騎士団の艦隊も居ることを伝えた。

 自分らが追跡されていることに気付いたライザらは驚き、ウッダーは事実であるかと問い詰める。

 

「真も何も、大真面目で本当のことよ。気付かなかったのか? まぁ良い、アガサ騎士団とやらがどれほどの強いか試す機会だ。グラント共に攻撃させろ!」

 

 アトリオックスはそれが事実であると答え、アガサ騎士団の実力を測るべく、潜伏させているMSに乗ったアンゴイの部隊に攻撃するように命じた。

 アガサ騎士団に追跡されていることに、アトリオックスに聞かされるまで気付かなかったライザ等も追跡された失態を帳消しにすべく、自分たちも出撃すると答える。

 

「なら、我々も出撃する! ウッダー、母艦に戻るぞ!」

 

「うむ、お前たちメイソン騎士団の実力も測らんとな。いいぞ」

 

 自分らが共に戦列を組むメイソン騎士団の実力も測るべく、アトリオックスは下船の許可を出した。

 

 

 

「なんて巨大な船だ…!」

 

『あれがCAS級強襲空母、バニッシュトの旗艦だ』

 

 その頃、メイソン騎士団の派遣艦隊の隠密に追跡し、姿を隠しやすいデブリ帯で監視を行っていたアガサ騎士団の追跡隊は、ライザたちと同じくCAS級強襲空母の大きさに驚いていた。周辺を警戒しているシュヴァルベ・グレイズに乗るパイロットで、MS隊の隊長であるジョン・セイバーは臆してしまう。

 コヴナントの巨大空母がバニッシュトの旗艦であることを、ガンダムアクエリアスに乗るパイロットであるクルワルド・ピースブレイクは伝える。なぜ知っているかは、クルワルドが情報収集に長けており、天才科学者だからである。

 

『隊長、いつ仕掛けるので?』

 

「馬鹿か。あんなデカい船、何機の機動兵器が乗っているか分からん。それに、極力戦闘は避けるように厳命されている。我々はただ見たことを記録し、それをアルゴン王に報告すれば良い」

 

 シルエットガンダムに乗るパイロット、ユウ・アオバがいつ仕掛けるのかと問う中、ジョンは今の戦力ではバニッシュトと交戦は出来ないと返し、自分らの任務は追跡で監視が任務であると言った。

 その青年が乗るシルエットガンダムは、メイソン騎士団より初陣のユウが偶然に流れ着いた宇宙船より盗んで来た物であり、勝利したメイソン騎士団の顔に泥を塗るため、アルゴン王と騎士団の団長と幹部らは彼に奪ったガンダムに乗ることを許可した。以降、シルエットガンダムはユウの乗機となっている。

 

『セイバーの言う通り、少数であれに仕掛けるのは愚策だ。返り討ちにされるのがオチだ』

 

『…腹立つな、こいつ』

 

『何か言ったか?』

 

『いや、何も』

 

 クルワルドは仕掛けるのかと言ったユウを小ばかにするような言い方をすれば、腹が立つとつい言ってしまう。これにクルワルドが何か言ったのかと問う中、ユウは何も言ってないと答える。

 

「はぁ、こんなところに見合いの相手が…」

 

『スルガより各機に報告! 付近の惑星に調査に向かったロッグハート隊が未確認の敵と交戦中! 奇襲による戦力半減で撤退を開始した! 付近に展開中の隊は警戒せよ!』

 

「感付かれたか? それとも…? 全機、警戒しろ! 何か来るかもしれん!」

 

 バニッシュトとメイソン騎士団の派遣艦隊との接触を監視する中、母艦であるアーガマ級強襲揚陸艦よりゴリの調査隊がバニッシュトに襲われたことを知らせる無線連絡が入る。

 それを聞いて自分の結婚願望を口にしている暇は無いと判断したジョンは、直ちに周辺に展開している部下たちに警戒を命じた。

 周辺にカメラを向け、レーダーに目を配りつつ何処から敵が来るかどうか警戒する中、同盟軍の巡洋艦の残骸の近くに居たグレイズが、MSが隠れられるほどの残骸や隕石の中より飛び出してきた重装甲のMSであるマン・ロディ数機に襲われ、撃破された。

 

『隊長! うわぁぁぁ!!』

 

「くそっ、隠れてやがったか!」

 

『敵襲だ! 敵襲!!』

 

『こいつ等、何処から出てきた!?』

 

 友軍機の一機が隠れていた数機の敵機に纏わり付かれて破壊されれば、ジョンは自分の部下を数機がかりで殺したマン・ロディとの交戦を始める。

 その直後に簡易MSであるドラッツェが飛び出し、右腕に装備されたコヴナント製のブラスター兵器でグレイズやレギンレイズに襲い掛かる。そのドラッツェに乗ってるのも、アンゴイである。

 味方が混乱する中、シルエットガンダムに乗るユウは即座に応戦して、何機かのドラッツェを撃ち落としていく。ガンダムアクエリアスに乗るクルワルドも応戦して、マン・ロディ二機をヒートロッドで撃破した。

 

「俺たちに気付いたのか…?」

 

 マン・ロディをランスで串刺しにして撃破したジョンは、メイソン騎士団かバニッシュトが自分らの存在に気付いたと思い始める。後者の方が先に気付いたのだが。

 こうして、アガサ騎士団の追跡隊とメイソン騎士団とバニッシュトの同盟軍による交戦の火蓋が切って落とされた。




次回から本格的な戦闘に入りまする。ではでは。

それと次の更新は、来年になるかも。


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アトリオックス

間に合ったぜ!

これで今年最後の更新です。

ご提供されたキャラは引き続きの登場となります。

リオンテイルさん、誤字報告サンクス!


 宇宙のデブリ帯でアガサ騎士団の追跡隊がバニッシュトのアンゴイで編成された斥候隊と交戦が行われている頃、メイソン騎士団のモーリック十三世が居る牙城にて、新しい戦力を投入すると、王自身が玉座の間に集まった幹部たちに告げた。

 

「あ、あの赤鬼(せっき)十三騎士を編成されたのですか!?」

 

「なんと恐ろしい! こちらの戦力は拡大しますが、我らの騎士が何人巻き添えを食うことか!」

 

「流石にモーリック王の決定と言えど、これには反対だ!」

 

 モーリック十三世の十三人に準えた部隊の編成に、騎士団長と幹部らは反対の声を上げる。

 赤鬼十三騎士なる部隊は、彼らメイソン騎士団にとっては恥ずべき物であるようだ。その歴史を知る幹部らはモーリック王の決定に反対する。

 決定に反対する幹部らに対し、モーリック十三世はアガサ騎士団を倒すには、この方法しかないと玉座の間に集まる幹部らを説き始める。

 

「卿らが反対の声を上げようと、アガサの者共を倒すにはこの方法しかないのだ。それにメイソン騎士団の信条では、弱者は強者に仕える義務がある。余の決定に卿らが拒む道理は無い」

 

「ですが、赤鬼十三騎士は我らメイソン騎士団に災いをもたらす存在! 仇となるのでは!?」

 

「それは余が召喚士に命じてこの世に集めさせた者どもを見て判断するが良い。もう既に隣の部屋に居る。玉座の間へ入ることを許す。入ってまいれ」

 

 メイソン騎士団の古参である赤いサーコートを着たクリフ・ジャンパーと言う幹部が赤鬼十三騎士は自分らに災いをもたらすと言うが、モーリック十三世は聞く耳を持たず、その十三騎士等を見て判断しろと返した。

 反対する幹部らを少し信用させるべく、モーリック十三世は配下の召喚士に命じてこの世に召還した者たちを玉座の間に入れる。

 

「ほぅ、これがメイソン騎士団の幹部共か。どいつもこいつも、腐ったような眼をしている」

 

「なんだと!? 貴公、勝負せよ!!」

 

 青い服を着た金髪の男が、幹部らを見るなり無礼な言葉を発すれば、怒った幹部の一人が腰の剣を抜こうとする。

 

「ふん、この程度の安い挑発に乗るとは。案外メイソン騎士団も大したことは無さそうだな!」

 

「若造め! ここが玉座の間で無ければ、血祭りに上げている所だ!」

 

 白髪の青年がメイソン騎士団を侮辱するような発言をすれば、クリフは場を弁えて殺すと怒鳴る。

 他の者たちも自分等メイソン騎士団を馬鹿にするような目線で見ており、派手な格好の男は更に幹部らを煽り立てるような発言を行う。

 

「おぉ、怖い怖い。これが騎士団の幹部とは思えんな。どいつもこいつも、血の気が多くて、とても山賊にしか見えんよ」

 

「ぬぅ…! 王よ! この者ども、追い払うべきでは!?」

 

「はっはっはっ、威勢が良いわ! 無礼ではあるが、強者であることは間違いない。既に二名ほど件の世界へ送っておる。今は十人しか居らぬが、三人目は向こうに到着予定ぞ。後に赤鬼十三騎士全員も投入する。されば、彼奴等に地獄を見せるであろう」

 

 この煽りに追い出すべきだと主張するクリフに、モーリック十三世は聞かずに赤鬼十三騎士はアガサ騎士団に地獄を見せると豪語した。

 赤鬼十三騎士は十人しか居らず、残り三名は姿を見せていない。既に二名は現地のIS世界に居り、アガサ騎士団に対する破壊工作を行っている。もう一人はアトリオックスであり、現地に合流する予定である。

 その赤鬼十三騎士のメンバーは以下の通り。

 

 一人はEXAMの騎士ニムバス・シュターゼン。

 二人目はジオンの暴走戦士マレット・サンギーヌ。

 三人目はブリタニアの吸血鬼の異名を持つルキアーノ・ブラッドリー。

 四人目は本編に出て来る客将で、バニッシュトの総帥アトリオックス

 五人目はオウギュスト・ギダン

 六人目はガリー・ダン

 七人目はクダル・ガデル

 八人目はレヴ・クラフチェンコ

 九人目はレッドベレーの隊長カーネル大佐

 十人目はレッドショルダーのインゲ・リーマン少佐

 十一人目はメルキアの銀狐のギャルビン・フォックス

 十二人目はショカン族の王子ゴロー

 十三人目もとい十三隻目は戦艦大和

 

 他にも補欠が居るが、予備戦力であるので、玉座の間への入場は許されなかった。

 メイソン騎士団のこの戦力に投入により、IS世界での戦いは激しさを増すことであろう。

 

 

 

 視点は、宇宙のデブリ地帯におけるアガサ騎士団の追跡隊とバニッシュトのアンゴイで編成された斥候隊との交戦に戻る。

 

「その動き、阿頼耶識システムだな。通りでグラント風情がそんな機動を取れるわけだ」

 

 ガンダムアクエリアスに乗るクルワルドは、並のパイロットではない機動力で迫るアンゴイが駆るドラッツェやマン・ロディを見て、アンゴイが阿頼耶識を使って動かしていると見抜き、ドーバーガンやヒートロッドで自分に向かってきた全機を仕留めた。

 

「通りで動きが速い訳だ! 全機、固まれ!」

 

 ドラッツェを撃破したシュヴァルベ・グレイズを駆るジョンは、クルワルドの解析に舌を巻きつつ、配下の隊に固まって迎撃するように告げる。

 敵のマン・ロディに纏わり付かれ、近接用の武器で攻撃されているシルエットガンダムに乗るユウは、纏わり付いた敵機に蹴りを入れ込んで至近距離からウェスバーを撃って撃破し、友軍機に合流する。

 

「なんですか、こいつ等? マン・ロディなんかを使って」

 

『おそらく斥候か何かだ。少なくとも、メイソン騎士団の奴らじゃない』

 

 上司が乗るシュヴァルベ・グレイズに機体の左手で触れたユウは、ドラッツェやマン・ロディに乗って襲ってくるアンゴイがバニッシュトの斥候であることを知らないのか、ジョンに問えば、分からないがメイソン騎士団の者ではないと答える。

 残りの敵を撃破しようとしたが、その敵部隊は信号弾が上がったのと同時に撤退してしまった。

 

「退いた…?」

 

『油断するな! こいつ等、威力偵察か何かだ! 直ぐに本隊が来る!』

 

 シルエットガンダムのビームサーベルで特攻を掛けてきたドラッツェを仕留めたユウは、敵が退いたのを見て撤退したのかを思ったが、ジョンの本隊が来るとの声に、臨戦態勢を即座に取る。

 ジョンの言う通り、メイソン騎士団のゾロアットやジンクスⅢ、アヘッド、グレイズを伴ったバニッシュトの本隊がやって来る。

 本隊はスピナ・ロディやガルム・ロディ、ガーリオン、量産型アシュセイバー、エルアインスなどの機体で編成されていた。

 

『メイソン騎士団だ! 奴らが来たぞ!!』

 

「あれがバニッシュトの機動兵器だな。その中にワルキューレの領内で使われた兵器もある。やはり、出所はこの世界か!」

 

 ジョンがやって来た本隊の中にメイソン騎士団のMSが含まれていると言えば、クルワルドはワルキューレの世界に投入された機動兵器の出所が分かったと判断して、向かってきたメイソン騎士団とバニッシュトの本隊との交戦を始める。

 

『見付けたぞ! この盗人め!!』

 

「あっ、お前は!?」

 

 シルエットガンダムに乗るユウがジラルハネイが乗るガーリオンをビームライフル三発を撃ち込んで撃墜した後、ライザが乗るアヘッドが迫って来る。無線機より聞いたことのある声がすれば、直ぐに粒子ビームを躱して反撃する。

 

『そのガンダムは! 私が乗るはずだった機体なのだぞ!? 返せ! この盗人!!』

 

「これはアルゴン王より乗って良いと許可が下りたガンダムなんだ! それに、これはもうアガサ騎士団の物だ!!」

 

『ふざけたことを言うな! この盗人が!!』

 

 返せと無線機から叫んでくるライザに対し、ユウはアルゴン王より許可をもらって乗っていると返せば、火に油を注いだの如く、アヘッドに乗る若い隊長は怒ってビームを撃って来る。

 

「さっきの斥候とは段違いだ! こいつ等、プロだ!!」

 

 一方でシュヴァルベ・グレイズに乗るジョンは、先の斥候とは大違いのジラルハネイが駆る二種類のMSや、この世界の機動兵器の動きに翻弄されていた。メイソン騎士団のMSは何とかなるものの、バニッシュトのパイロットたちは演習を何度も行っており、何機かの友軍機が撃墜されていた。

 

「アガサ騎士団もこの程度か。メイソン騎士団もな!」

 

 アガサ騎士団がバニッシュトとの機動兵器部隊に苦戦する中、ガンダムアクエリアスに乗るクルワルドの実力を過小に評価しつつ、メイソン騎士団のゾロアットやジンクスⅢを次々と撃墜する。

 彼の配下のトーラス部隊も、アガサ騎士団のグレイズよりも多くの敵機を撃破していた。だが、戦況はアガサ騎士団が不利であり、このまま戦闘を続けてはいずれか全滅する。部隊長であるジョンに撤退を進言した。

 

「部隊長、撤退するべきだ。このままでは、母艦もやられてしまうぞ」

 

『あぁ、この世界の連中とメイソン騎士団がつるんでいることは分かった! 全機、母艦へ帰投だ! ゴリ達も収容されている頃だろう!』

 

 クルワルドの進言に、ジョンは従って配下の部隊に撤退を命じた。

 それに応じて、メイソン騎士団やバニッシュトとの交戦を止めてアガサ騎士団の追跡隊のグレイズやレギンレイズが撤退を始める中、ユウのシルエットガンダムもその列に加わろうとするが、怒り心頭のライザが逃してくれるはずがない。

 

『逃げる気か!? 貴様!!』

 

「逃げるも何も、ここで戦ったら死ぬからな!」

 

『殺してやるぞ! 各機、奴を囲め!』

 

「嘘だろ!?」

 

 シルエットガンダムのユウが余ほど許せないのか、ライザは僚機のグレイズに命じて彼のガンダムを包囲させた。

 

『包囲された! 誰か、助けてくれ!』

 

「ちっ、仕方ない」

 

 包囲されたユウのシルエットガンダムは孤立して撤退が遅れそうになるが、そんな彼を見兼ねたのか、クルワルドは救援に向かう。バニッシュトのガーリオンやスピナ・ロディが妨害してくるが、ガンダムアクエリアスの性能や随伴のトーラス部隊には敵わず、返り討ちにされるだけであった。シルエットガンダムを包囲していたグレイズ数機を落とし、突破口を開けば、ユウは直ぐに開いた突破口を進んで包囲から脱出した。

 

『あ、ありがとう! まさか、あんたに助けられるなんて…!』

 

「フン、貴重なガンダムを失っては、こちらが困るのでな! それより、まだ来るぞ!」

 

『ふざけるな! ガンダムが二機揃って!!』

 

 思わぬ人物に助けられたことにユウは戸惑いながらも礼を言うが、クルワルドはガンダムを喪えば自分の立場が危ういから助けたと返す。包囲を突破したシルエットガンダムを、ライザは執拗に僚機やバニッシュトと共に追撃してくる。

 その執拗に追撃を掛けて来るライザに対しユウは機体の機動性能をフルに生かして粒子ビームを躱し、左手にビームサーベルを抜いて斬りかかるアヘッドに、自分のビームサーベルを抜いて立ち向かう。

 僚機はシルエットガンダムを狙おうとする中、クルワルドは配下のトーラス部隊と共にこれを阻止して一対一の状況を作り出す。尚、ユウはクルワルドに助けられていることを知らない。

 

『死ねぇーっ!!』

 

 サーベルで斬りかかるライザのアヘッドに対して、ユウは斬られる瞬間に操縦桿を動かして躱し、敵機の胴体に抜いたビームサーベルの刃を叩き込む。

 

『な、何ッ!? うわぁぁぁ!!』

 

 胴体を切り裂かれ、ビームの刃がコクピットにまで届いたライザはビームに焼かれて死亡した。半分に言ったところでユウはビームサーベルを仕舞い、直ぐに撤退する部隊の列に向かう。

 

『隊長がやられた!』

 

『撤退だ! 撤退しろ!』

 

 メイソン騎士団は隊長であるライザがやられたことで、全機が追撃を止めて撤退した。だが、バニッシュトは以前に撤退する追跡隊を追撃してくる。

 

『奴ら、後退しません!』

 

「どうやら、あのアヘッドが隊長ではないらしい。全機、気を抜くな!」

 

 レギンレイズが追撃を仕掛けて来るガルム・ロディをライフルで仕留め、バニッシュトが後退せずに仕掛けてくると言えば、ジョンはバニッシュトにとってライザのアヘッドは隊長機では無いと答え、エルアインスをライフルで撃墜した。

 損害を気にせずに突っ込んでくるバニッシュトにアガサ騎士団の追跡隊は疲弊する中、遠くの方でネオ・ジオンのMSであるサザビーが見ていた。

 そのサザビーはバニッシュトの好みに改造されまくっており、盾はバニッシュトのデザインとなり、腰にはグラビティメイスが固定されている。ファンネルは搭載されていないが、コヴナント製のシールド発生装置が備わっている。それに乗っているのは、バニッシュトの総帥であるアトリオックスである。

 

「さて、ヴィンデルより貰ったこのおもちゃの性能、奴らで試させてもらうぞ!」

 

 自分専用のコクピット内にて、アトリオックスは機体の性能をアガサ騎士団の追跡隊で試すべく、操縦桿を動かしてスラスターを吹かして撤退する追跡隊を追った。

 

 

 

 母艦であるアーガマ級強襲揚陸艦やヴァージニア級多目的輸送艦四隻、ハーフビーク級戦艦で編成された艦隊に帰投したジョンら追跡隊はそこで補給を受けていた。

 

「補給急げ! 敵はまだ追撃してくるぞ!」

 

 母艦であるアーガマ級に帰投したジョンはまだバニッシュトが追跡してくるので、補給を急げと整備兵や甲板要員に告げる。

 事実バニッシュトは艦隊まで追撃してきており、アーガマ級やハーフビーク級が敵の追撃部隊に向けて艦砲射撃を行っている。それに数も増えている。艦隊目当てで追撃してきたようだ。グレイズやジムⅢなどで編成された追跡艦隊の警戒部隊が迎撃に出ている。

 

「艦隊の略奪が目的か? はぐれ部隊にやられた分際で」

 

 ガンダムアクエリアスの補給を受けているクルワルドはバニッシュトが大損害を被った経緯を知っており、それの補充目的でやっているのかと口にする。

 そんな中、補給を終えたクルワルド傘下のトーラスたちが補給を終えて先に出撃し、ゴリら調査隊を乗せた降下艇が母艦のハーフビーク級に帰投した。直ぐにゴリは無線連絡で、この世界から撤退するように告げる。

 

『こちら調査隊のゴリ・ロッグハートだ! この世界はヤベェぞ! 部下の半分を化け物に殺されちまった! それに奴らは尋常じゃねぇくらいに強ぇ! 皆殺しにされるぞ!!』

 

「もう分かってるっての!」

 

 この無線連絡にジョンは、補給を終えた機体で出撃してからもう分かったことだと答える。彼らも、バニッシュトに襲われたのだ。

 追撃してくるバニッシュトの部隊を各自が迎撃する中、専用のサザビーを駆るアトリオックスが追跡隊の本隊に迫る。

 

『十二時方向より、新手が接近! 速い!? 敵機の四倍以上の速度で我が方へ接近中!!』

 

「敵の総大将か!?」

 

 シルエットガンダムでバニッシュトの追撃隊を迎撃するユウは母艦のレーダー手よりアトリオックスの接近を知り、敵の総大将が来たと口にする。事実、サザビーに乗るアトリオックスはバニッシュトの総大将である。

 目に映るアガサ騎士団の機動兵器部隊に、アトリオックスはどの程度の実力なのかを問う。

 

「さぁ、こいつの慣らし運転のついでに、お前たちの実力を測らせてもらうぞ! アガサ騎士団!!」

 

 凄まじいGを物ともせず、アトリオックスは全開でアガサ騎士団の弾幕の中へ突っ込んだ。アーガマやヴァージニア級、ハーフビーク級より砲火が集中するが、搭載しているシールドの所為でダメージすら与えられていない。

 

「VAの絶対防御か!?」

 

 ISのような絶対防御となっているアトリオックスのサザビーに、砲火に加わっていたシュヴァルベ・グレイズに乗るジョンは驚きの声を上げる。

 集中砲火を物ともせず、アトリオックスは自機に砲火が止んだところで接近戦を挑んでくるグレイズを、自前で作り上げた実弾をカノン砲で撃破した。そのカノン砲の威力はナノ・ラミネーター装甲を持つMSを容易く貫通できるほどだが、使用弾頭は希少金属を用いており、無駄撃ちは出来ない。

 

「試射ついでに撃ったが、凄い威力だ。このサザビーとやらでないと、右腕が吹っ飛んじまうな」

 

 サザビークラスのような重MSでなければ、衝撃で右腕が破損するとアトリオックスは口にした後、サザビーのビームライフルに持ち替え、続けざまに挑んでくるグレイズを迎え撃つ。

 

『な、なんだあのサザビーの強さは!?』

 

『改造されている! 各機、油断…』

 

「呆けている場合か! 敵を目の前にして!!」

 

『レッツリー隊長!? わぁぁぁ!!』

 

 挑んだ四機のグレイズが全て撃墜され、アガサ騎士団の騎士たちは驚愕するが、アトリオックスはそんな彼らに容赦なく近付き、素早く抜いたグラビティメイスを叩き込んで隊長機のグレイズを撃破した。続けざまに僚機に接近し、同様にグラビティメイスを叩き込んで撃破する。

 友軍機を落とされたことで、ハーフビーク級より発進した四機のジンクスⅣがアトリオックスのサザビーに迫るが、二機が腹部の拡散ビーム砲を受けて一機に撃墜され、もう一機はビームライフルで撃破される。残る一機はトランザムを使い、三倍となった機動力でサザビーに挑む。

 

「トランザムと言う奴か! だが、三倍速くなった程度で俺のサザビーは倒せん!!」

 

 目にも止まらぬ速さで攻撃してくるジンクスⅣに対し、アトリオックスのサザビーは物ともせず、ビームサーベルを抜いて高速で接近してくる敵機に備える。

 ジンクスⅣに乗る騎士は一撃離脱戦法で仕留めようとしたが、数多の戦場を潜り抜けてきたアトリオックスはその手を読んでおり、刺突を躱して敵機が通ると予想される方向に向け、ビームを撃ち込んだ。

 

「俺なら、そこに向かう」

 

 当たらぬであろうと場所に向かって撃っているのだが、敵機のジンクスⅣはそこに吸い込まれるように向かっていき、被弾して青い粒子を巻き散らしながら爆散していった。トランザムシステムを有するジンクスⅣですら撃破するアトリオックスのサザビーに、アガサ騎士団の騎士たちは恐れ戦き始める。

 

『な、なんて強いんだ!?』

 

『か、勝てるわけがない…! トランザムを持ったジンクスですらこの有様とは…!』

 

「どうした? 俺の部下共を虫けらのようにぶっ殺しまくっているお前たちが、らしくないぞ!」

 

 自分を見て茫然としているグレイズ・リッターなどのアガサ騎士団に対し、アトリオックスは聞こえぬ喝を入れる。

 これに自分たちの機体の性能でしか、あのサザビーに立ち向かえないと判断したユウとクルワルドは、味方が撤退する時間を稼ぐために挑む。

 

「やはりガンダムでないと!」

 

『あのサザビーには勝てん!』

 

 ビームを撃ちながら接近してくるシルエットガンダムやガンダムアクエリアスに、シールドを解かれたアトリオックスは盾で防ぎながら自分に挑んでくる彼ら二人に敬意を表す。

 

「ほぅ、骨ある奴が残っていたか! ならば敬意を表し、存分に叩き潰してくれる!!」

 

 そう言ってライフルを腰のラックに付け、グラビティメイスを抜いてビームを撃ちながら接近戦を挑もうとするユウのシルエットガンダムに構える。

 

「接近戦だと思わせて…! ウェスバーだ!!」

 

 機体の高い機動性能を生かし、一気にサザビーまで接近したユウは、自身の必殺技である至近距離でのウェスバー射撃を行おうと、懐まで接近して撃とうとしたが、アトリオックスの方が速く、グラビティメイスを振り下ろされた。

 

「何っ!?」

 

 ウェスバーの射撃を止め、左腕のビームシールドで防いだユウであったが、グラビティメイスの威力は高く、吹き飛ばされてしまう。

 

『ユウ!!』

 

「な、なんて威力なんだ…! 機体が…!」

 

 吹き飛ばされたユウのシルエットガンダムを抱え、回収したジョンは無事であるかどうかを直接通信で問う。機体の左腕は完全に潰れており、胴体にまで達していたが、幸いビームシールドのおかげで大事には至らなかった。

 続けてサザビーにクルワルドのガンダムアクエリアスが挑む。彼がアトリオックスに使うのは電子戦である。ウィルスをサザビーに流し込もうと言うのだ。

 

「シルエットですらあの様か! ならば機体にウィルスを流し込み、ハッキングか機能不全にするまで! 時間を稼げ!!」

 

 電子戦闘でアトリオックスのサザビーを機能不能に陥れるべく、クルワルドは配下のトーラス部隊に時間を稼ぐように指示を出した。それに応じ、六機以上のトーラス部隊はサザビーに陽動戦闘を行うが、アトリオックスは全ての攻撃を躱しつつ、一機をライフルで撃破した。

 

「小賢しい! 部下に時間稼ぎをやらすか!」

 

 一機をライフルで撃破した後、腹部の拡散ビーム砲で三機を一気に撃破する。一機はシールドのクローで潰され、もう一機は蹴りを胴体に入れ込まれ、とどめの強力な蹴りを受けてパイロットは圧死する。

 

『うわっ!? あぁぁぁ!!』

 

「クソっ、せっかく調達した人員が!」

 

『妙なウィルスを流し込まれる前に、叩き潰してくれる!!』

 

 時間稼ぎをしてくれるトーラス隊が撃破されたので、クルワルドは応戦するが、サザビーは躱しながら向かってくる。

 そんなアトリオックスの冷静さを欠かせるべく、クルワルドは手に入れた情報を駆使して彼を煽り始める。端末を操作しながらやるのだ。ある意味で超人である。

 

「アトリオックスと言ったな? お前のデータを調べさせてもらったぞ。UNSCのはぐれ部隊相手に、まんまとはめられて大損害を被ったらしいな?」

 

『貴様、それがどういう意味か、分かっているのか!?』

 

「分かっているから煽るのだ! 旗艦を乗っ取られ、挙句に撃沈させられた飛んだマヌケだとな! それに部下のコントロールも出来ん、腕っ節だけのブルートだと!!」

 

『ぬぁぁぁ! 許さん!!』

 

 このクルワルドの煽り作戦は成功し、アトリオックスは激高して猛攻を仕掛けて来る。

 ビームライフルと拡散ビーム砲による凄まじい攻撃であるが、クルワルドはそれを躱しつつ端末を操作しながらサザビーのハッキングを継続する。同時に行うクルワルドの技量は恐ろしい物だが、彼の疲労はすさまじい物であった。

 やがてウィルスがサザビーのメインコンピューターに流れ込めば、機能不全を起こして停止した。

 

『う、動かん!? なんだ一体!?』

 

「間一髪だったな…! それにしても恐ろしい、ただのブルートではない。ここは、早めに始末しておいた方が…」

 

 間一髪のところでアトリオックスのサザビーは停止した。もう少し敵が動いていれば、クルワルドは死んでいた。

 余りのアトリオックスの強さに恐怖したクルワルドは今ここで始末すべきと判断し、ドバードガンを動かないサザビーに向けたが、レーダーに機体がシールド発生装置と共に稼働したとの反応が見える。

 

『っ!? 生きているだと!? 馬鹿な! ウィルスは流し込み、機体のメインコンピューターを停止させたはず!?』

 

「保険は掛けて置かなくっちゃな。それにセキュリティー対策もしっかりしておかんと、前と同じようになっちまう」

 

 動くはずもないサザビーが動いたことに驚きを隠せないクルワルドは慌てて攻撃するが、シールドで防がれてしまう。あのバニッシュト最大の損害でアトリオックスは学んでおり、同じ目に遭わぬように機体に高度なセキュリティーを掛けていたのだ。これにより、サザビーは回復することに成功したのだ。

 

「さぁ、反撃開始だ! 煽った分、仕返しさせてもらうぞ!」

 

『おのれェ! たかが低能ブルートの分際で!!』

 

 反撃に出ようとするアトリオックスに対し、再びハッキングを仕掛けようとするクルワルドでったが、同じ手は自分が下に見ているジラルハネイには通じず、一気に両腕をグラビティメイスで叩き潰され、胴体を蹴り込まれて拉げ、更に頭部を左手で掴まれて握り潰される。

 

「ば、馬鹿な!? 一体どんな改造を!?」

 

『知りたいか? なら、あの世で待ってろ!』

 

 どんな改造を施したのかと思わず聞いてくるクルワルドに対し、アトリオックスは先にあの世で待ってろと言ってとどめを刺そうとしたが、彼が咄嗟に張った閃光弾を受けて目晦ましを食らう。

 敵機が目晦ましを食らっている間にクルワルドは機体が動く限り動き、母艦へ何とか帰投することに成功する。母艦に帰投するころにはガンダムアクエリアスはボロボロの状態であり、修復にはかなりの時間を要する損傷であった。

 

「ぬぁ!? 知りたいんじゃないのか…?」

 

 逃げたクルワルドに、アトリオックスは知りたいと思っていたようだ。

 

「早く撤退だ! あいつに皆殺しにされるぞ!!」

 

『セイバー卿の言う通り撤退だ! あいつはヤバすぎる!!』

 

 一方で母艦に帰投することに成功したジョンは撤退しろと怒鳴り散らし、追跡艦隊の提督はそれに応じて撤退命令を出した。

 数分後、ただ敵の撤退していくのを見ていたアトリオックスに、部下と再編を終えて駆け付けたメイソン騎士団の部隊は追撃しないのかと問う。

 

『ボス、なんで追撃しねぇんで?』

 

『なぜ見ているのだ!? エンザ卿の仇討ちをせねば!』

 

「いや、楽しみは最後に取っておくものだ。戦争は向こうで楽しもうじゃねぇか」

 

 略奪の為の追撃を進言する部下たちとライザの仇討ちを行おうとするメイソン騎士団の派遣艦隊に対し、アトリオックスは続きは向こうの世界ですると言ってから、母艦へと帰投した。




ジャイアントロボの十傑集やるろ剣の十本刀のような十人的な組織を出してみました。
ぶっちゃけ、ディエス・イレの獣殿が率いている十三人と同じ人数ですが。それに比べると、三人くらい除いてあんまり強くない奴ばかりです。それと補欠もおります(笑)。


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地球へ

沙和依玖(さより・いく)
エログロ百合ロボアクションアニメ「戦え!! イクサー1」に出て来るクトゥルフの科学力のデータを元に製造された人造超人兵士。
発見したマッドサイエンティストに製造され、冷酷で残虐非道な殺戮マシンにされる所であったが、アガサ騎士団が研究所に踏み込まれ、改造されることは無く、更に養子に取られて騎士となる。
本家イクサー1と同じ性格で上品な口調で精神は高潔。強さはそのままだが、テレパシーやら空間転移、シンクロが出来ない。その分、イクサービームは火力が増している。
加納渚が必要ないくらいに、存分にパワーが発揮できる。
キャラ提供は山の下に更科さん

一文字ゆきな
IS学園一年生の凄いスタイルの女子高生。誰とでも敬語で話す。
学園から出ると、ナンパされそうなほど容姿とスタイルが凄いが、当の本人は関心がない。
誰とでも分け隔てなく接するので、一夏や箒と良好な関係を保っている。
技量の高いため、現生徒会長の更識さんら代表候補生たちの信頼が厚い。
搭乗機はISの打鉄

グラディス・アームストロング
IS学園一年生で、金髪碧眼の暴力的なスタイルを持つJK。凄まじい巨乳ぶりであるのか、良くボタンが弾け飛ぶ。
誰に対してもフレンドリーなので、一夏たちとの関係性は良好的。腕前も代表候補生並。
ちなみに、制服の下に星条旗ビキニを着けている。更にその下には、破れたとき用のニップレスまで。
搭乗機はISのラファールリヴァイブ
両者ともキャラ提供はオリーブドライブさん

同志
名前も素性も分からない中年男。非合法工作員である。
外見は中年男であるが、中身はサイボーグである。完全主義者であるために脳も機械となっている。大義の為にロボットと成り果ててしまった男か女か分からん奴。
必要に応じて外見と言うかボディを変えるために、同志と言う名前以外にない。
大義に基づき、IS世界の不穏分子にASやATなどを流しまくっている。
搭乗機はASのゴブリン
キャラ提供は秋音色の空さん

敦賀千雨(つるが・ちさめ)
千冬に憧れ、IS学園に入学したJK。奪刀術・千刀流の使い手。
剣道部に入っていたが、茶道部の顧問が千冬と聞いて、兼任する形で入部し、ストーキングを始める。ただし、その度合いは嫌がられない程度。だが、束の如く千冬の私物をコレクションしている。
専用機にしているラファールリヴァイブは刀オンリーで、専用のISスーツを持って居る。そのスーツがとても…。
戦闘スタイルは二刀による受け流しと最小限の動きで回避しながら接近し、刀を地面や部屋中に刺す代わりにラピッド・スイッチと連続で短距離IBを駆使した、全方向からの切り刻みを得意とする。
搭乗機はラファールリヴァイブ(接近戦仕様)

宇崎愛
IS学園の整備科に属する高1JK。千雨の幼馴染。
小さいころから千雨と一緒なので、受け流すくらい余裕で機械いじりが趣味。
援護射撃と砲撃戦が得意であり、専用ISスーツも千雨と同じ物を…しかも制服はアリス仕様に改造している。
専用機にしているISには、応急処置の為の整備工具を仕込んでいる。
搭乗機はラファールリヴァイブ(砲撃戦仕様)
両者ともキャラ提供は黒子猫さん

※リオンテイルさん、誤字報告並び修正サンクス!


 エルネスティーヌの命を受け、遠征隊が調査を行った世界へもう一度調査を行うために、メイソン騎士団のライザ・エンザの派遣艦隊の追跡を行ったジョン・セイバー率いる追跡艦隊であったが、バニッシュトの待ち伏せを受けた。

 最初に待ち伏せを受けたのは付近の惑星への調査に向かったゴリ・ロッグハートの地上調査隊であり、突然の奇襲に大損害を被り、次に襲撃を受けた宇宙の部隊はユウ・アオバのシルエットガンダムが半壊、クルワルド・ピースブレイクのガンダムアクエリアスは大破した。他のMS隊の損害も多大であり、再編が必要であった。

 二つの最大戦力を喪った追跡艦隊は追い込まれ、もう一押しで全滅寸前であったが、アトリオックスの気紛れで撤退することが出来た。

 視点は、メイソン騎士団やヴィンデルに狙われているIS世界へと戻る。

 

 

 

「同志諸君、揃ったな。では、大義の為にASを諸君らに授けよう」

 

 IS世界の中国のとある某地にて、人里離れた廃墟で同志と呼ばれる中年男性が、中国内に潜む反IS勢力のテロリストたちを集めて会合を行っていた。

 彼らの目的はその名の通り、ISの破壊である。その為の兵器であるASを、同志と呼ばれる中年男は目前に集まるテロリストたちに供給すると宣言する。

 

「それでISに勝てるのか?」

 

「いや、性能的には勝てない。勝つには知恵を絞る必要がある」

 

 ASでISに勝てるのかと聞いてくるテロリストの幹部に対し、同志は性能的には勝てないと答えた。

 ISにASで勝つには戦略を練るほか無いのだ。だからこそ、民衆の支持を得る事が出来ず、卑劣な手段しか取れないテロリストにASが渡された。

 そう告げる同志であるが、大半は納得できずにいた。

 

「もっと強力な兵器を渡してくれるかと思ったら、歩兵がロボットになっただけの奴か。聴いて損した!」

 

「南米のジャブローとかいう所に行くか? 暗号通信によれば、そこで兵を募集しているらしいぜ。そこなら、ASよりマシな兵器があるはずだ」

 

 同志がテロリストたちに提供するASは不評であり、兵員を募集している南米にあるジャブローと呼ばれる拠点に集結した方が良いと言い始める。

 ジャブローのことを同志も知っており、IS世界に対する一大反抗作戦が準備されているためか、会合に参加しているテロリストたちにそのための陽動作戦を行ってもらいたいと頼む。

 

「諸君らがジャブローを知っているなら尚更だ。今、この世界に対する反抗作戦を準備しているが、場所を探られれば計画は水の泡だ。その為に諸君らにはASを使った陽動作戦をやってもたいたい」

 

「だから俺たちにASを渡したのか? 生還の望みは?」

 

「ある。その為に共産主義者(コミュニスト)達にもASを提供した。政治、人種、思想問わずに大義を持つ者たち全てにも提供している。陽動作戦を始めるためにな」

 

 ASを渡したのは、大規模反抗作戦の陽動の為と説明すれば、一人は生還の見込みはあるのかと問う。

 これに同志は嘘を付きつつ、陽動作戦の為に他の思想を掲げるテロ組織にもASを供給したことを明かした。IS打倒と言う共通の目的の為に、共同戦線を張るのだ。

 

「共同戦線か。勝利後のことも考えねばならんぞ?」

 

「それが世界の正しい流れだ。流れは正常に動かさねばならない。大義の為に…!」

 

 仮にISに勝利した後の現状をどうするのかと聞いてくる参加者に対し、同志はそれこそが世界の正常な流れであると説いた。

 それが正常な流れであると言う同志であるが、新たな争いの火種となってしまうのだが。

 

「正常な流れか。フン、IS打倒後は第三次世界大戦でも起きそうだな!」

 

 争い事が正常なる流れであると説く同志に対し、参加者の一人はIS打倒後は第三次世界大戦に突入すると皮肉を言う。

 IS打倒後の議論で論争が始まろうとする中、見張りが襲撃を知らせる。

 

「大変だ! 奴らが、奴らがここを突き止めた! 襲撃してきやがった!!」

 

「何ぃ!?」

 

「嗅ぎ付けられたか。同志諸君、ASの訓練を受けた搭乗者らが時間を稼ぐ。その間に、脱出するのだ」

 

 見張りの知らせに同志は襲撃されることを予想しており、ASの訓練を受けたテロリストたちが時間を稼いでいる間に会合の参加者らに脱出を命じた。

 

 

 

 同志と言う謎のテロリストの会合の場所を発見し、襲撃を行ったのは、この世界を守護するアガサ騎士団であった。

 襲撃を行ったのは、その騎士団に属する一人の少女である。そんな少女が生身で暴れ回り、迎撃に出たテロリストが乗る十数機のASサベージを何機も撃破していた。

 

「よくもまぁ、あんなのを養子にしたな。サヨリ卿は」

 

「なんでも、クトゥルフとかなんとか言う種族の科学力で作った人造兵士だろ」

 

「悪の科学者がそれを我らの領内で大虐殺を起こすために作ったようだが、我らアガサ騎士団の正義の前に倒れた。倒したサヨリ卿は、殺人兵器に改造される前のその人造兵士を養子に取り、依玖と名付けたそうだ」

 

「それがあの依玖か。マシン戦士イクサー1と呼ぶべきだな」

 

 ASを手から出した光線で撃破した少女の活躍ぶりを、遠目から戦いぶりを見ていた騎士たちは彼女のことをイクサー1と呼んだ。

 彼女の本名は養子にした騎士の名を取って沙和依玖(さより・いく)であるが、アガサ騎士団の騎士たちは彼女をその高潔さと人知を超える戦闘力からマシン戦士イクサー1と呼んでいる。人造兵士であるのだが、依玖のことを戦士と呼ぶのは彼女に対する騎士たちの敬意である。マシンは余計であるが。

 

『貴方たち、何をしているのです!? 速く包囲を!!』

 

「おっ!? 分かった! 直ちに包囲しろ!」

 

 無線機より依玖の上品な叱りの声が響いて来れば、騎士たちは会合場所から逃亡しようとするテロリストの捕縛に向かった。包囲網を敷くのはサザーランドを始めとしたKMFだが、何名かは馬で包囲網に向かっていた。

 アガサ騎士団の包囲網が敷かれる中、衣玖は二機目のサベージを、右手に握るレーザーブレードことイクサーソードで胴体と四肢を素早く切り裂く。切り裂かれた個所から操縦していたテロリストの顔が見え、自分を恐怖の眼差してい見ている。

 

「ひっ、ひぃぃぃ!?」

 

「無抵抗な者は殺しません、降伏しなさい」

 

「は、はい!」

 

 自分を見て悲鳴を上げるテロリストに依玖は投降を呼びかけた。無抵抗な者を彼女は殺さないのだ。彼女の呼びかけに応じたテロリストは無駄な抵抗を止め、後続の対テロ部隊に投降した。それから直ぐに三機目に掛かり、三機目の戦闘力を奪い、無力化する。

 

「やはり、実戦経験も無い者が乗ったサベージではこんな物か」

 

 サベージに似たASであるゴブリンに乗る同志は、実戦経験の無いテロリストが乗るサベージでは衣玖に勝てぬと判断する。もっとも、依玖が強過ぎるのだが。そんな強過ぎる依玖に対応するべく、次々とやられるサベージ部隊の元へ向かう。

 

「っ? サベージ? いや、ゴブリン! 何故テメリア軍のASが!?」

 

 四機目を撃破し、残り半分となったところで出て来た同志が乗るゴブリンが迫ってきた。自分ら側の陣営についているテメリア軍のASが来たことに、依玖は驚きつつもライフルの弾幕を躱しつつ、イクサービームを発射する。

 通常のAS乗りなら撃破されているはずだが、同志の肉体が機械であってか技量は高く、躱しながら射撃を行ってくる。それを浮遊して躱し、上空から発射するが、同志も躱してすかさず反撃してくる。

 

『ど、同志!?』

 

「下がれ、同志たち! 今は奴の相手をしている場合ではない! 下がって包囲網の突破に専念しろ! 奴は私が抑える!!」

 

『はっ!』

 

 依玖と交戦を開始した同志は、遮蔽物に隠れ、残存するサベージ部隊に他のテロリストたちと共に包囲網の突破を命じる。それに応じてサベージ部隊は依玖の対応を同志に任せ、包囲網の突破に向かう。

 

「包囲網に行く気!? 逃がさない…!」

 

 包囲網の突破に向かうサベージ部隊に対し、依玖は追撃を掛けようとしたが、同志のゴブリンに封じられた。

 

「大義の為、やらせはせん!」

 

「このゴブリンに乗る者、中々の強敵ですね…!」

 

 同志が乗るゴブリンを突破しなければ、包囲網を敷く仲間たちの救援には向かえないと判断した依玖は再びイクサーソードを抜き、ライフルを構える敵機に構える。

 相手が空かさずにライフルと頭部機関銃を撃った瞬間、依玖はその弾幕を掻い潜りながらイクサーソードで切り裂こうとしたが、ゴブリンは蹴りを仕掛けて来る。その並の人間を容易く殺す蹴りを躱し、イクサービームで反撃を試みようとするも、同志の追撃で不発に終わる。

 

「強い…!」

 

『貴様、人造兵士か。なぜ人間ばかりの騎士団に居る?』

 

「貴方こそ、なぜ平和を乱そうとするのです?」

 

 動きから依玖を人造兵士と見抜いた同志はアガサ騎士団に居る理由を問えば、彼女は平和を乱すようなテロ行為を行うのかと問い返す。

 

『これも、世界を正常な流れに戻す大義の為!』

 

「そんな大義、認めません!」

 

 質問を質問で返してきた依玖に対し、同志は大義であると答えて頭部の機関銃を撃ち込んで来た。それを躱しつつ依玖はイクサービームを撃ち込む。飛んでくる光線を躱そうとした同志であったが、回避する間もなくライフルを持つ右腕に命中して右腕を破壊されてしまった。戦闘力が低下したゴブリンで、依玖と戦っても負けるだけだと判断した同志は機体を棄てる。

 

「戦闘力低下…! やむをえん、機体を棄てるか。既に時間稼ぎは十分だ!」

 

 後の作戦の為、機体の自爆装置を作動した同志はジェットパックを背負い、脱出装置を作動させてからゴブリンを棄てて脱出した。

 

「逃げる! なら、機体は!?」

 

 脱出した同志を見た依玖は直ぐに機体が爆発することを察し、空を飛んで逃げようとするゴブリンに乗っていた搭乗者を追おうとしたが、機体の爆風で吹き飛ばされてしまう。

 

「くッ、逃げられましたか」

 

 無傷であったが、同志を見失ってしまう。

 この捕縛作戦は人造超人兵士である依玖の投入によって、複数のテロリストの捕縛に成功したアガサ騎士団であったが、同志が訓練を施したサベージ隊によって半数以上を取り逃してしまった。

 

 

 

 ところ変わり、吾妻の犠牲もあってIS学園に無事に帰れたルリであったが、先の戦闘を行った甲兎戦に関する事情聴取を受けていた。

 図鑑に無い怪物と討伐に対し、万全な準備を持って甲兎に挑んだ討伐隊だが、秘儀の紗甲は予想外であり、精鋭の五名は圧倒的な力を前に倒された。五名の戦死者を出し、救援のISことVAの吾妻らが救援に向かったが、その紗甲を纏った甲兎は覚醒したルリのIS「マギア・コリツェ」の予想外の技の前に文字通り消え去った。

 そのことをルリは覚えており、捜査官に話したが、にわかには信じてもらえなかった。

 

「貴方がその鬼を、紫外線で倒したなんてこと、信じる? それと戦死したゴサイ・ミナモト卿については?」

 

「その人のことは知らないよ。あの鬼か怪物みたいなのを倒した時にもう眠くなって、寝ちゃったから…」

 

 自分の身に起こったありのままを話すルリに対し、これ以上の情報は聞き取れないと判断した捜査官は、事情聴取を取り止めた。

 

「はぁ、話にならないわ。とにかく、貴方のISは篠ノ之博士が作ったISだわ。それも第四世代の。これで聴取を終わります」

 

「やった!」

 

 面倒な尋問が終わったところで、ルリは意気揚々に出て行った。

 当てに成らなさ過ぎるルリの情報では、甲兎の情報や鬼となって暴走し、自爆に巻き込まれた吾妻のことは分からないと判断した捜査官は、それを衛星電話でシャオリーに報告する。

 

「カーン卿、あの保護対象の少女の情報は当てに成りません。現場検証が妥当かと」

 

『そうですか。源卿を巻き込んで自爆した相手の正体が分かると思いましたが…どうやら、現場で調べるしかありませんね。ご苦労様です』

 

「申し訳ございません。あの子がもう少し賢ければ…」

 

『過ぎたことは仕方ないですわ。それより、わたくしも立ち会いますので』

 

「分かりました。では」

 

 ルリの情報が当てに成らなさ過ぎ、吾妻を巻き添えに自爆した相手の正体を掴めないシャオリーは現場検証が妥当と判断し、現場検証に立ち会うと告げた。確認した捜査官は了承し、電話を切る。

 退屈な事情聴取より解放されたルリはISの訓練ができるアリーナへ向かおうとする途中で、千冬に呼び止められる。

 

「おい、良いのか?」

 

「終わったよ」

 

「そうか。なら、部屋に戻って…」

 

「いや、ISで訓練する。アリーナ借りれる?」

 

 聴取より返ってきたルリに保護者に何も言わなくともいいのかと聞く千冬に対し、彼女は何も言わなくても良いと答えた。部屋に戻れと言う前に、ルリはアリーナでISの訓練を行うと告げる。これに千冬は昨日の一件が真実であると分かった。

 ここは直ぐに部屋へ戻して休息を取らせるところだが、そんなに疲れておらず、やる気に満ちているので、ルリにISとアリーナの使用の許可を出す。

 

「…!? 良かろう。ただし、一時間だ。直ぐに部屋に戻り、夕食までにシャワーを浴びろよ?」

 

「うん、分かった!」

 

「何があったかしらんが、無下には出来んな」

 

 意気揚々とアリーナへ向かうルリに、千冬は笑みを浮かべる。

 ルリの方は昨日の甲兎との戦いで己の未熟さを知り、昨日の自分より更に強くなろうと鍛錬を始めたのだ。千冬はルリの目を見てそれが分かったので、アリーナの使用を許可したのだ。

 良き訓練相手が必要だと思い、ルリと同じアリーナを使用する一文字ゆきなとグラディス・アームストロングを呼び止め、彼女と共に訓練を行うように指示する。ちなみに、二人のバストサイズは、束の妹である箒以上の物である。

 

「ちょうどいい時に来たな、お前たち。カポディストリアスと訓練を行え。良い練習相手になるぞ?」

 

「えっ? でも、彼女のISは第三世代ですよ? 相手になるんでしょうか?」

 

「相手が悪過ぎますよ、織斑ティーチャー。私たち的にされちゃいマース」

 

「そうならん為にもやれと言っている。第二世代でも、戦い方次第では第三世代と渡り合える。連携を取るんだ。お前たちの技量なら、対等にやれるだろ?」

 

 ゆきなとグラディスはルリのISが自分たちよりも性能が上だと知っているので嫌がるが、千冬に連携を取って当たれば良いと論される。

 

「分かりました。ですが、負けたら貴方の所為ですからね!」

 

「そうです。ぼっこぼこにされたら、織斑ティーチャーの所為です!」

 

「そうならんように、鍛えたのは私なのだがな」

 

 二人の技量と連携ならルリのISと戦えると言う千冬に、負ければ彼女の所為だと言うゆきなとグラディスはアリーナへと向かった。次に自分の背後にいつの間にかいる敦賀千雨(つるが・ちさめ)にも、ルリの練習相手になるように告げる。

 

「お前も行け、鶴賀。千刀流を使うには持って来いの相手だぞ」

 

「あれ、気付いていらしたのですか? あの私に挨拶しなかった子が、やる気を出したことに喜ぶ貴方の顔がとても…」

 

「それ以上は言わない! 千雨ちゃん!」

 

 これに千雨はルリの成長ぶりを喜ぶ千冬が母親のようだと口にしようとしたが、幼馴染である宇崎愛に言う前に口を抑えられる。

 

「うー! うぅー!」

 

「ごめんなさい! 千雨ちゃんが!」

 

 口を抑えられている千雨は幼馴染の愛の手を振り張ろうとするが、変なことを言うかもしれないと言う理由でまだ抑えられている。そんな彼女らに、千冬はルリの訓練に参加するように告げる。

 

「それは良い。何を言おうとしたかは、大体察しが付く。それとお前も行け。宇崎」

 

「あっ、はい! 分かりました!!」

 

「えっ、あのカポディストリアスさんのISと? 幾ら千冬先生の指示でも無理です! 絶対に無理です!! ちょ、離して! 愛ちゃん!」

 

 千冬の指示に愛は応じ、千雨を連れてアリーナへと向かった。

 専用気持ちではないにせよ、ルリは四人の実力者が駆るISと戦うことになった。昨日の一件でどれほどの成長を遂げたか確認すべく、千冬もルリが居るアリーナへと向かう。

 

「さて、昨日に何があったにせよ。どれほど成長したか見てやろう。いずれ、一夏の奴ともな…」

 

 千冬は事前に束からルリ専用のISであるマギア・コリツェのことを聞いており、いずれか自分の弟で唯一男でISを動かせる一夏と戦わせ、互いに競い合って腕を磨かせようと思いつつ、アリーナへと足を運んだ。




新年から三日目で初投稿です。明けましておめでとうございます。

色々とあったが、何とか書き上げたぞ!

今回より台詞だけですが、オリーブドライブさんと黒子猫さんが提供してくださったキャラクターを出しました。
戦闘の方はISのアニメ版と同じく次回からです。

さて、次は誰を出そうか…?


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作戦名、流星

ガリア・パーリライト
アガサ騎士団に属する若き騎士。アガサの領地であるIS世界を敵対するメイソン騎士団より守るため、愛機のグレイズ・リッターで馳せ参じる。
搭乗機はグレイズ・リッター

アルベルト・ケーニッヒ
アガサ騎士団に属する中年のおっさんの隊長格。
外見で侮られるが、そこそこの実力の持ち主。
搭乗機はジンクスⅣ(指揮官機)
キャラ提供は秋音色の空さん

リオンテイルさん、誤字報告サンクス


 アリーナの使用許可を得て、ルリは更衣室へと向かう中、ゆきなやグラディス、千雨、愛の四名が更衣室へと入って来た。入って来た四人の女子生徒に対し、ルリは教わった通りの挨拶を行う。

 

「こんにちはー!」

 

『こんにちは』

 

 挨拶してきた自分等よりも二つか三つは年下の少女に向け、彼女らも挨拶を行う。それから互いのロッカーを開き、ISスーツに着替え始める。

 

「す、凄いスーツですね…」

 

「ワォ!? とってもセクシーね!」

 

「えっ、貴方たちの方も凄いじゃん。主に身体が」

 

 千雨と愛のISスーツを見て、ゆきなとグラディスは驚きの声を上げる。それはとてもでは無いが、十代の少女に着せて良い物なのかと疑うデザインだ。対するゆきなとグラディスも、スーツのデザインは普通であるが、身体のラインが諸に出るために余りのスタイルの良さで本当に少女なのかと疑ってしまうほどだ。

 

「下とか見えてるのかな? それとあっちの二人、ヤバすぎだね。今度お姉ちゃんたちに着てもらおうかな」

 

 ゆきなとグラディスの余りの胸の大きさにルリは下が見えてないと言いつつ、千雨と愛のISスーツを自分が知る女性たちに着せてみようかと思い始める。

 着替えも終わり、いざアリーナへと出れば、ルリは専用のISである待機状態のマギア・コリツェを取り出し、起動させて纏う。

 ルリ以外の者は専用のISを持って居ないので、学園の生徒らは貸し出されているISを纏い始める。

 ゆきなは打鉄でグラディスはラファールリヴァイブだ。後の二人はグラディスと同じラファールリヴァイブであるが、千雨は打鉄の刀を出来る限り積んだ接近戦仕様にしており、愛はそれを支援するための砲撃戦仕様にしている。

 打鉄とラファールリヴァイブは第二世代であり、第四世代ISのマギア・コリツェの相手になりなさそうだが、ルリの相手は技量の高いIS搭乗者だ。手強い敵となろう。

 

「さぁ、誰から行くデース?」

 

「一番手は私から行きましょう」

 

 グラディスが一対一の模擬戦にすると相談もせずに決めると、一番手を志願したのは打鉄の搭乗者であるゆきなであった。

 

「では、私はセカンドでーす」

 

「私は三番目」

 

「じゃあ、私は最後で」

 

 一番手がゆきなと決まれば、続けてグラディスが二番手、千雨が三番手、最後は愛と言う形となる。

 

「では、行きます!」

 

「ふむ!」

 

 声を掛けてから向かってくるゆきなの打鉄に対し、ルリは掛かって来いと言わんばかりにロッドを構えた。彼女もまたロッド以外の武器を持たないルリのマギア・コリツェに配慮してか、刀を抜いて接近戦を挑む。彼女の大きな胸は動きで、激しく揺れていた。

 刀の届く距離まで来たゆきなの打鉄に、ルリはその斬撃をロッドで防ごうとしたが、それはフェイントであり、身体に下から来る刀身を当てられて一本取られてしまう。

 

「あれ?」

 

「あっ、ごめんなさい。ついうっかり」

 

「強いね」

 

 防ごうとした瞬間に刀身を下に向けて当てたゆきなは、いつもの癖でやってしまったと謝罪する。

 

「それじゃあ、セカンドは私でーす! ライフルはいりませんか?」

 

「いらない。撃ったこと無いし」

 

「そうですか。遠慮なしに来て良いですヨ!」

 

 次はラファールリヴァイブの搭乗者であるグラディスの出番であり、射撃武器を持たないルリにライフルを渡そうとするが、彼女は慣れない武器は持たないと言って断る。

 これにグラディスは遠慮なしに着て良いと答え、手にしているライフルをルリのマギア・コリツェに向かって撃ち始める。ルリはこれを躱しつつ、グラディスのラファールリヴァイブに接近を試みる。

 一旦離れて空を飛べば、グラディスも追撃を行うために上空に飛び始める。それがルリの狙いであった。彼女は下方よりグラディスを狙う為に、わざと空を飛んだのだ。

 

「一文字さんと同じように、下からならあの胸で見えないはず!」

 

 空を飛んでグラディスを誘ったのは、あの大きな胸なら下が見えないと思ったからだ。下方に潜り込んだマギア・コリツェに、グラディスは迎撃するために下を向こうとするが、その速度は遅れる。

 

「今!」

 

「甘いです!」

 

 相手が撃つ前に接近しようとしたが、グラディスがいつの間にか取り出していたISサイズのハンドガンをルリの身体に当てていた。

 

「下が見えないと思って掛かりましたね。残念! 貴方が私を飛ばせ、下から来た時点で、その手で来ると分かってましたよ」

 

 ルリはまたも敗北した。その敗因は相手の外見で、下から見えないと思い、下方から攻めるために空を飛ばせたことだ。それを理解したグラディスは、ルリに自分を飛ばせた時点で予想は付いていたと明かす。

 

「はーい、ルリちゃん。次は私だよぉ~?」

 

「よろしくお願いします!」

 

 三番手は千雨だ。ISスーツの露出度から、ルリはあの技が有効と判断する。模擬戦の開始同時に甲兎戦に使った紫外線を出し、相手を怯ませようと思ったが、紫外線を生成する間に千雨の剣術が炸裂してルリは気付かぬ間にやられていた。

 千雨のラファールリヴァイブは両手に打鉄の刀を持っており、いつの間にかルリのマギア・コリツェの背後に回っていた。本気を出し過ぎ、高速で斬撃を繰り出して一本取ってしまった千雨はルリに向けて謝罪した。

 

「ごめん、相手が第三世代だから本気出しちゃった」

 

「あれ? 私の負け? あっ、シールドが減ってる」

 

 謝罪した千雨の剣術は、奪刀術・千刀流と呼ばれる物だ。彼女の戦闘スタイルは二刀流による受け流しと最低限の動きで回避しながら標的に接近し、刀を地面や部屋中に刺す代わりにラピッドスイッチと連続で短距離IBを駆使した全方向からの切り刻みを得意としている。

 その高速な機動を行うためにラファールリヴァイブの装甲を軽量化しており、何を考えてか、乳輪や股間だけを隠した全身網タイツのようなデザインのISスーツにしている。軽量化できない部分を補う為だろうか。

 高速機動で斬撃を繰り出す千雨の剣術の前に敗北したルリは機体のカメラで彼女の動きを見ていたが、自分では見切れないほどの速さであった。

 最後は砲撃戦仕様のラファールリヴァイブの愛である。

 

「よろしくね、ルリちゃん」

 

「うん、お願いします」

 

 最後こそは勝とうと思ってか、ルリは愛の砲撃戦仕様のラファールリヴァイブに急接近した。

 

「速攻でやられないよ!」

 

 だが、牽制用のアサルトライフルで動きを止められ、動きを止めたところでグレネードランチャーを撃ち込まれる。

 間一髪で回避したルリであるが、愛は空かさずにミサイルを撃ち込んで彼女に反撃の隙を与えない。更に上昇して上に逃げたところで、ルリのマギア・コリツェが愛の狙撃ライフルの照準器に重なろうとしていた。愛はこのチャンスを逃すことなく、トリガーを引いた。

 発射されたビームはルリのマギア・コリツェに命中し、最後の愛に破れた。ルリの全敗だ。

 

「もうちょっと、ジグザグに動いた方が良いかな」

 

「あぁ、勉強になる」

 

 全敗したルリに、愛はもう少しジグザグに動いて相手に狙いを定めさせないようにした方が良いと助言する。その後からゆきな、グラディス、千雨がルリに対して戦闘スタイルのアドバイスを行い、彼女の無駄過ぎる動きを出来る限り改善させた。

 これにより四名から一勝を取ることが出来た。模擬戦を千冬が見ていたのか、四名と戦えと拡声器を使って提案する。

 

『昨日の出来事で第一形態になったかは知らんが、今度は四人同時に相手にしてみろ。敵は一人で来るとは限らんからな』

 

「えぇ、無理だよ。一人に勝つのに精一杯だもん」

 

 その千冬の提案は四人の実力者たちから動揺の声が上がる。

 幾ら自分等より高性能で専用機とは言え、愛らしいルリ一人に四人掛かりで戦えなど、やや大人げないとも思える。

 

「四人掛かりでって…?」

 

「なんだか、大人気ない気が…」

 

「リンチみたいじゃん、千冬様」

 

「流石にこれは…」

 

 専用気持ちでも、第二世代四機ならあっさりと勝ててしまうので、大した勉強にならないと思うが、昨日の一件で千冬はルリが何かと交戦して勝ったと見抜いていた。今度一人で戦う場合に備え、生き残るために鍛え上げるべきだと判断し、敢えてルリに四名と戦うことを提案したのだ。

 流石に異世界の怪物である甲兎と交戦したなどとは、夢にも思わないが。

 

『まぁ良い。それなら、お前たちがそれほど実力は無いと言うことなるが』

 

「言いましたね? では、四人でやりましょう!」

 

『よし、配置に着け!』

 

「待って! 私まだ…」

 

 少し煽れば、彼女らは侮られていると思い、千冬の提案に乗った。直ぐに四人とルリは四対一の配置に着き、千冬の模擬戦開始の合図を待つ。これに反対の声を上げようとしていたルリだが、四人のやる気を見てやるしかないと判断して諦める。

 四人から受けた数十分間のレクチャーでルリはややIS戦に慣れたが、四対一の戦闘など初めてだ。だが、弱いままではいられないので、ルリは第二世代のIS四機との戦闘に備えた。

 

 

 

「おぉ、ガーランド卿! 久しぶりだな!」

 

「そちらもだ、パーリライト卿!」

 

 一方、遠征より帰還してアガサ騎士団の宇宙基地であるムーンベース1に駐在していたミッチェル・ガーランドは、遠路遥々このIS世界に来たガリア・パーリライトと久し振りの挨拶を行い、再会を祝してハグする。

 離れてから、どうしてIS世界に居るのかとミッチェルはガリアに問う。

 

「貴殿はどうしてここに?」

 

「なに、騎士団と自称する赤い殺人鬼どもを懲らしめに来たのよ! 我が愛機のグレイズ・リッターで、連中のマシンをスクラップにしてくれる!」

 

 ガリアとミッチェルは旧友であった。その級友からの問いに、ガリアはIS世界を狙うメイソン騎士団を懲らしめる為に来たと意気揚々に答える。

 

「相変わらずだな、貴殿は。私はこれから地球へと降りるのだが。貴殿の方は?」

 

「いや、行かない。何せ後から行くからな。行くことになるのは、戦勝を祝う宴であるが」

 

「どうやら、何か大きい作戦があるようだな。先に地球に待っているぞ」

 

「そちらもな!」

 

 ガリアに共に地球へと行かないのかと誘えば、彼は後から行くと答えた。これにミッチェルは地球の何処かの拠点に衛星軌道上からの降下作戦があると判断し、敢えて言わずに先に待っていると告げて旧友と別れた。

 ミッチェルが地球行きの連絡艇へ続く通路へと進む中、ガリアは作戦室へと足を運ぶ。その途中に同じく作戦室へと向かう騎士の一団と合流する。彼らも作戦に参加する者たちだ。彼らは隊長クラスであり、自分の率いる部隊を代表して来たのだ。その中には調査より帰還したジョン・セイバーの姿もあった。他にはアガサ騎士団が属する軍事組織ワルキューレの左官クラスの将校が何人か見える。

 全員が揃ったところで、参謀による作戦の説明が行われる。

 

「では諸君、流星作戦に対する概要を説明する」

 

 参謀は部屋を暗くし、背後の大きな画面に地球の南米大陸を映し出す。この流星作戦に参加する騎士と将校らは、丸で囲まれている地点に宇宙から降下するのだ。降下地点であるアマゾンを棒で示しつつ参謀は説明を始める。

 

「諸君らがこの地点に降下してもらう。降下地点にはメイソン騎士団が支援する反乱分子の一大拠点がある。あの地球のシャオリー・カーン軍師殿の友人がもたらした情報だ。女史曰く信用に値する。そのまま降下すれば、対空砲や対空ミサイルの嵐に晒されるが、安心しろ。地球では先行してガリア第一機甲軍に属する二個機甲師団と第三機械化騎兵旅団、第六機械化騎兵旅団によるコロンブス作戦が展開される。諸君らが降下する頃には、敵対空陣地は沈黙している頃だろう」

 

 降下地点の標的にされたアマゾンにあるIS世界の反乱分子の一大拠点を、シャオリーカーンの″友人″が見付けたことを告げた後、地球ではコロンブス作戦と呼ばれる対空陣地破壊作戦が先行して行われることも伝えた。降下部隊がアマゾンに降下する頃には、コロンブス作戦によって敵対空陣地は沈黙している見通しであると豪語する。

 

「我が降下部隊にも、宇宙軍から協力する部隊が来てくれている。その名も機甲師団シュラクだ。総勢九十五機による降下で、地上の百五十機の戦術機やMSを含めた地上軍と合流し、数による制圧戦に移行し、戦術機やMSは通れん基地内部にKMF部隊を突入させ、一気に沈黙させる。この作戦の成功の暁には、反乱分子は抵抗力を喪い、あの世界は暫し平和となろう」

 

 更に自分ら降下部隊にも協力する部隊も居るので、作戦は必ず成功すると言っても過言ではないと豪語した。アマゾン基地制圧の暁には、IS世界の反乱分子は抵抗力を喪い、世界に暫くの平和が訪れるとも言う。

 その言葉を信じ、アガサ騎士団の騎士たちは良いと無言で頷いたが、軍人らはそう簡単に上手く行くのかと言う疑問符を抱く。

 アガサ騎士団はかつてはメイソン騎士団共々ワルキューレの一部隊に過ぎなかったが、シルバリー合金で出来た鎧で武装して以降、先祖返りをしてしまって殆どが騎士道精神を愛する武人となってしまった。故に軍人はおらず、この物量作戦が成功する物だと思っている。

 それから暫く参謀は説明した後、自分が用意したメモの全てを作戦に参加する騎士や軍人たちに伝えれば、何か異議は無いかと問う。

 

「以上だ。作戦は今日より三日後に開始される。さて、何か説明は無いかね?」

 

 作戦は三日後に開始されることを勧告してから周囲を見渡し、自分の作戦に対して異議を唱える者がいないかどうかを見渡す。軍人の方は言いたげであったが、参謀が騎士な為に何を言っても聞きそうにないので、敢えて質問せずに黙っていた。

 その意味も分からず、自分の立てた作戦が何も問題がないと周囲が認めたと思って、自信満々に解散を命じる。

 

「意義が無いと言うことは、何も問題は無い訳だ。では、解散」

 

 解散が命じられれば、騎士と将校たちは作戦室から続々と出て行った。騎士たちは作戦はもう成功したつもりでおり、成功後のパーティーは何が良いかと会話を弾ませる中、協力する宇宙軍部隊の将校らはあの参謀が居なくなったところを良いことに、矛盾点や問題点を口々に言っていた。

 

「あの女共め…!」

 

「止せ、パーリライト卿。事実だ」

 

「だが、セイバー卿。我々の立てた作戦をコケにされては!」

 

「それでも、協力してくれる彼女らと事を起こすのはまずい。ここは辛抱だ」

 

「ちっ、騎士道精神も分からぬ無法者どもめ!」

 

 宇宙軍の将校らに文句を言おうとするガリアをジョンはこれからの事を思って止めた。ここで友軍部隊とトラブルを起こせば、作戦時に支障をきたしかねないからだ。

 それをジョンの目を見て理解したガリアは舌打ちし、苛立ちながら自分の部屋へと戻っていった。ジョンもその後に続いて自室へと戻っていく。

 地球への連絡船に乗るために無重力状態の宇宙港に着き、許可証を持って連絡船に乗る列に並んでいたミッチェルの方は、列の中にゴリ・ロッグハートの姿があることに気付き、彼の渾名を言って読んでみる。

 

「ゴリラか?」

 

「ゴリラじゃねぇ! てっ、お前か、ガーランド卿!」

 

 ゴリラと呼ばれ、反応したゴリはミッチェルが居る方へと振り返る。ミッチェルはゴリとも顔見知りであるのだ。

 

「久しぶりだ、ロッグハート卿。貴殿も地球行の連絡船に乗るので?」

 

「そうだ。久しぶりに森と都会の空気を吸いにな。人気の無い惑星の荒地にはうんざりだ」

 

「その頬はそこで?」

 

「あぁ、そうだ。おっかないゴリラ見てぇな奴にぶっ飛ばされた。今頃になって痛くなってきやがる」

 

 久しぶりの会話でミッチェルに頬に張っているガーゼの事を問われたゴリは、彼にあの世界の惑星調査の出来事を話した。

 

「大変だな。我々の知らない世界では、恐ろしい怪物がごまんと居るようだ」

 

「それも恐ろしい奴らだ。腹立たしいが強いピースブレイクに全治三週間ほどの重傷を負わせ、ユウのシルエットガンダムをオーバーホールが必要なくらいぶっ壊しやがった。そんな恐ろしい奴が、ここにも来るかもしれねぇな」

 

「あのZZガンダムが必要になるかもしれない」

 

 ゴリの体験話でバニッシュトの恐ろしさを知ったミッチェルは、連絡船に積み込まれている自分のZZガンダムを見て、アトリオックスが来ればあれに乗る必要があると口にする。

 数秒後、順次連絡船に乗っていく中、騎士とは思えぬ男が六人の部下を伴って連絡船の艦長と相談しているのが見えた。

 

「なんだあの男。何処の貴族か? それとも宇宙軍の士官か?」

 

「いや、あの連絡船の護衛部隊の隊長だ。名前はアルベルト・ケーニッヒ。名前負けした風貌だな。それにあんな形だが騎士だよ」

 

「我々に協力する宇宙軍の士官じゃないのか」

 

 連絡船の艦長と相談しているアルベルトを見て、前の騎士に聞けば話してくれた。ミッチェルはアルベルトをアガサ騎士団の騎士では無く、宇宙軍の士官だと思っていたが、騎士だと分かった際には驚く。どう見ても彼の体系は騎士の物とは思えないのだ。伴っている部下も、ミッチェルはアルベルトが騎士と分かるまで宇宙軍の将兵と思っていた。

 

「行くぞ」

 

 艦長との相談が終われば、アルベルトは部下たちを連れて自分の機体まで飛んでいった。その機体がある方向に視線を向ければ、七機のジンクスⅣが見える。既に整備が済んでおり、いつでも出撃可能な状態だ。

 

「我が騎士団の所属マークがついている。嘘ではないな」

 

「貴方、乗らないんですか?」

 

「失礼、乗船する」

 

 アルベルトの護衛部隊のジンクスⅣのマークがアガサ騎士団の物であると分かれば、ミッチェルはあの小柄の中年男を自分と同じ騎士であると認めた。ジンクスⅣを見ている間に自分の出番が来たのか、受付の士官が呼べば、ミッチェルは気付いて手荷物を持って乗船する。

 

『全行程クリア! 地球行き定期連絡船、これより出航する』

 

『了解、出航を許可する。メインゲートオープン! 安全な航海を!』

 

『なぁに、護衛が居る。隕石の一つや二つ、問題ない。メインエンジン始動! 出航する! 付近の者は道を開けろ!』

 

 乗客の全員乗船と荷物の積み込みなどの全行程が完了すれば、艦長は計器類を確認して異常が無いと判断し、無線機で管制官に出航すると連絡する。

 出航の許可が下りれば、メインエンジンを始動して地球行きの連絡船は宇宙港から出港した。それから地球を目指して指定の航路を進む。その後からアルベルトの護衛部隊のジンクスⅣが出撃し、連絡船に張り付いて周囲警戒を行った。

 

「着くまで十二時間程か。そのまま寝ておくか」

 

 窓から見える暗い宇宙の景色を眺めつつ、ミッチェルはシートに腰を下ろし、目的地に着くまで仮眠を取ることにした。

 六時間後に、思わぬ敵と交戦する事とは知らずに…。




次回も未登場の提供キャラを出す予定です。

四対一の戦闘は…次回になっかな…?


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集結するテロリストたち

阿賀野漣(あがの・さざなみ)
第二IS学園の教師。元日本代表候補。
第二IS学園がスイスで開設し、そこに千冬が派遣される予定であったが、本人が断ったために代わりに派遣されている。
生徒たちを失望させないためか、千冬の言動をトレースしたかのような喋り方をする。だが、私生活は本人より完璧で実力が劣るので、真似はしなくて良いと言われている。
いうなれば代用品である。
搭乗機は打鉄
キャラ提供はリオンテイルさん

クローディア・オセロット
真紅の長髪で冷やかな目を持ち、ガスマスクを着けている。
マスクは発音を補助するための小型拡声器であり、これを着けている理由は家督争いで毒を盛られた為。
家督争いが終わって以降、精神が歪んでかなり残忍な性格となっている。
搭乗機はシュナンジュ
キャラ提供はマルクさん

スカーフェイス
バットマンに出て来るヴィランじゃない方の女テロリスト。
顔もスカーフェイスと同じく顔の右半分に大きな傷跡を持っている。
ISに悪感情を持たず、女尊男卑の方に持って居るため、無差別に殺したりしないタイプ。
冷徹に徹しているが、根は優しいので部下たちからの信頼は厚い。
搭乗機はZy-98シャドウ(ストライクガンダムはテロ組織で扱うのは無理があり過ぎるので、ASに変更しました)
キャラ提供はエイゼさん

ゲラドルド
名前が世界一かっこいいおっさんに似ているが、全くの真逆なテロリスト。
かつては人間兵器と呼ばれていた傭兵だが、ISの登場により廃業してしまう。
自身をテロリストに陥れたISを一番憎んでおり、メイソン騎士団に誘われてASを受領し、IS学園襲撃を企むテログループに参加する。
搭乗機はサベージ
キャラ提供はオリーブドライブさん

ローザ
男としては身長が低すぎ、一見女性と見間違うほどのテロリスト。
過去に女性たちから玩具として改造された経験があり、その所為でISを憎むようになり、外見とは裏腹に悍ましい性格へと変貌する。
もうちょっと詳しい事となると、ちょっと危ないのでここまでに。
搭乗機はKMFの月下
キャラ提供は黒子猫さん

佐奇森神矢(さきもり・しんや)
ゴットアーマーことGAを開発した悪の天才科学者。
その束に匹敵するほどの自身の才能に呑み込まれたのか、神を自称している。
GAは火力面においてISを完全に超えていたが、搭乗者の危険性が高く、それに地球環境をさらに悪化させるために不採用にされる。
白騎士事件でISが世界的に認められ、GAが危険な代物と認定された為、自身を否定された神矢はこれに怒り、前々より計画していた新世界計画を実行に移す。
その計画とは、地球人口を十億人まで削減し、自分の楽園を作り上げることである。無論、その世界の神は自分である。


 ルリが四人のIS学園の生徒と四対一の模擬戦を行い、ミッチェルが地球行きの定期連絡船に乗り込んで向かう中、メイソン騎士団もIS世界への本格的な攻撃を始めるため、遠征艦隊を出撃させていた。

 メイソン騎士団の遠征艦隊の旗艦は、ドゴス・ギア級大型宇宙戦艦「モーリック」である。

 

「モーリック号、発進!」

 

「全艦、我のフラッグに続け!」

 

 艦橋で艦長が発進を命じれば、艦隊の提督はビームフラッグと呼ばれるビームの旗を出す装置のスイッチを押し、その旗に複数のカリスト級巡洋艦やアマルテア級戦艦、ハーフビーク級戦艦、ドロス級宇宙空母一隻、他補助艦複数に続くように無線機で指示を出す。

 総勢四十隻以上もの宇宙艦隊が異世界へと続く超巨大ゲートに向かって進み、そこからIS世界へと転移した。

 その遠征艦隊には、あの赤鬼十三騎士の十名が乗艦していた。乗艦しているのは旗艦のモーリックである。

 

「赤鬼十三騎士の実力、このマレット・サンギーヌが証明してやろう」

 

 転移の最中、モーリック艦内のハンガーにて、十三騎士の一人であるマレット・サンギーヌはIS世界のアガサ騎士団に仕掛けようとしていた。

 そのマレットに賛同してか、クダル・ガデルも同調する。

 

「あたいも行こうじゃないか。ウォーミングアップ代わりにな」

 

「フン、勝手にするが良い。クローディア・オセロットの隊に加われ」

 

 二名が赤鬼十三騎士団の実力をメイソン騎士団の者たちにも見せ付けるべく、先にIS世界のアガサ騎士団に仕掛けると言えば、攻撃隊の指揮官であるクリフ・ジャンパーは許可を出した。

 マレットとクダルは十三人の中でも上位に入るほどの危険さであるため、彼らを抑え付けられる指揮官が率いる隊に入れた。クリフはクローディア・オセロットと言う真紅の長髪で冷やかな目を持ち、ガスマスクを着けた騎士を呼び出す。二名が入るのは彼女の隊である。

 クローディアは実家の家督争いに巻き込まれ、その所為で声を失い、身に着けている専用のマスクでないと喋れないのだ。

 

「貴殿にこの二名の乱暴者の指揮を任せる。自分に服従せぬ場合は、斬り殺して構わん!」

 

『御意に』

 

 クリフの指示に応じたクローディアはマスクの小型拡声器で返事を行い、自分の艦艇へと戻っていった。その後をマレットとクダルは続いた。

 

 

 

『あれが、例のISか?』

 

 IS学園に視点を戻し、四対一の戦いの映像を見たテレビ電話の女性はルリのマギア・コリツェを見て、あれが束が自ら作り出したISだと千冬に問う。

 

「そうだ、あの天災が作ったISだ。作った理由は、ルリが可愛いからだそうだ。あいつらしい理由だな。妹の件も含めて」

 

 テレビ電話の映像に映る女性の名は阿賀野漣(あがの・さざなみ)。スイスにある第二IS学園の教師である。

 永世中立国であるスイスの第二IS学園は、欧州の候補生や専用機持ちの為に今から三年前より開設し、そこに第二回モンド・クロッソの一件で織斑千冬はドイツ軍のラウラ・ボーデヴィッヒが属するIS部隊を訓練するために在籍していた。

 だが、初の男性適用者であり、自分の弟である一夏の件で日本のIS学園に戻り、代わりに元日本代表候補で現教師であった漣が第二学園に派遣された。

 異国の学校に派遣された実力者であった漣は千冬の真似をして、彼女のような言動を心掛けていたが、何より私生活が本人より完璧すぎることや実力がやや劣っていることで、真似をしなくても良いと言われる始末だ。

 だが、漣本人はまだそれをやっており、千冬の前でもトレースしたかのような言動をしている。

 

「それと、いつもその口調か?」

 

『いえ、これは…その…』

 

「お前はお前だ、自分のままで行け。私の真似などしなくて良い」

 

『はい…』

 

 自分の真似などせず、真似をしている本人から自分のままでいろと指摘された漣はそれに応じた。

 

「少なくとも、日常生活では私に勝っているんだ。変に私になりきらんで良い」

 

『分かりました。話を戻しますが、やはり…』

 

「そうだ。カポディストリアスが乗っているISは、間違いなくあいつが作ったコアで動いている。それに第四世代機だ。全く、一機あるだけでも問題だと言うのに…」

 

『なんと、あれも篠ノ之箒の紅椿(あかつばき)と同じ第四世代機…流石に二機はまずいのでは?』

 

 漣が話を戻し、ルリのマギア・コリツェについて問えば、千冬は箒のISと同じ第四世代機であると答えれば、テレビ電話越しの彼女は盗聴されていないか確認する。

 第四世代機はこのIS世界のどの国家も開発に成功したことは無い。アガサ騎士団はどの国よりも先にISを独自に生産することに成功し、第三世代機を実戦配備レベルにして量産化に至ったが、第四世代機の開発には成功していない。第四世代機は一応は持っているものの、それも束が作った物である。唯一作れるのは、ISを生み出した張本人である束のみである。

 まだ国家群が第三世代機の実験段階なのに、第四世代機の存在は戦争に発展する可能性がある。それ程危険な代物が二機も預かることになった千冬の苦労は、相当な物だ。

 

「こっちには盗聴器は仕掛けられていない。そっちは?」

 

『こちらも』

 

「流石は永世中立国だな。安全と分かったところで、あの戦いぶり様をどう見る?」

 

 盗聴器が仕掛けられていないことを双方とも確認すれば、千冬は漣にどう見えるかと問うた。

 現在、ルリのマギア・コリツェはゆきなとグラディス、千雨、愛の四人と交戦している。流石に四対一は厳しいらしく、ルリが防戦一方となっている。第二IS学園の漣はこの戦いぶりを見て、自分の思ったことを答える。

 

『流石に四対一では、分が悪いですね。いくら第四世代機でも、四機の第二世代機の相手は厳し過ぎます。それにあの四機に乗っているのは、うちのような専用機持ち達に匹敵するほど。それにあの第四世代機に乗っているのは日の浅い操縦者。負けるのは時間の問題ですよ』

 

 千冬に問われた漣はルリの動きと四人の動きを見て分析し、第四世代機に乗るルリの方が負けると答えた。確かにルリはISを動かしてまだ日が浅い。それに相手をする四人は専用機を任された搭乗者に匹敵するほどの持ち主だ。幾らルリが四名より一本取ったところで、四人同時相手では厳し過ぎる。

 

「そちらに匹敵するほどか。あの四人、それを聞いたら喜ぶぞ。確かに防戦一方だな。負けるのは時間の問題…」

 

『第四世代機が光った!?』

 

 千冬も漣の言う通りだと思っていたが、余りに追い込まれ過ぎたのか、ルリのマギア・コリツェが光り始めた。

 

「まさか、形態移行(ファームシフト)!? この状況でファースト…!? いや、二次移行(セカンドシフト)したのか!?」

 

 テレビ電話で見ていた漣が驚く中、千冬はルリのマギア・コリツェがセカンドシフトしたことに驚く。今日で見たマギア・コリツェが甲兎との一件でファーストシフトしたことに驚いていたが、四対一の模擬戦でセカンドシフト、つまり第二形態に移行したことに千冬は更に驚愕した。

 それを間近で見ていた四人は攻撃を止め、第二形態となったルリのマギア・コリツェを見て、観戦室に居た千冬と同じように驚く。

 

「まさかの進化!?」

 

「この状況で、フォームシフトですか!?」

 

「あぁ、ずるい! ずるいよ専用機持ち! てっ、なんで進化すんの!?」

 

「なんか、ヤバそう…!」

 

 突然の形態移行に四名は恐れ戦く。攻撃を止めた四機のISにルリはなんで攻撃を止めたか理解できず、千冬に自分のISがどうなっているのかを問う。

 

「あれ、なんでみんな攻撃を止めてるの?」

 

『今の自分を見て分からんか? セカンドシフトしたんだぞ!』

 

「えっ? あっ、本当だ。なんか、色々と付いてる!」

 

 千冬の指摘でルリは自分の専用ISであるマギア・コリツェが第二形態へ移行していることに気付き、驚いていた。武装もロッド一本からかなり増えており、サブマシンガンや実体剣を初め、中でも一番強力なのがオールレンジ攻撃が可能な遠隔無線誘導型の武器であるビット十基と言う物であった。

 武装が増え、更なる戦闘が可能となったマギア・コリツェに喜んだルリは固まっている四人を見て、その力を試さんとする。

 

「ねぇ、試して良い? 良い?」

 

「えっ…!? あの、続けても…?」

 

『続けろ。負けても減点はしない』

 

「そんな無茶な…!」

 

「千冬様、ドS過ぎ!!」

 

「実験体だよ…」

 

 試して良いのかと問うルリに、千冬は四名にそれを何のペナルティを科さないから命令する。四人は断ろうとしたが、ルリは千冬の許可が下りたので、直ぐに攻撃する。

 

「ちょっと、待ってください!」

 

 打鉄に乗るゆきなは第二形態となったマギア・コリツェのサブマシンガンによる弾幕を避けつつ、まだ承認してないと言うが、ルリは容赦なく攻撃を浴びせて来る。これにラファールリヴァイブに乗るグラディスはライフルを撃ってミサイルを撃つ同型機に乗る愛と共にゆきなに接近するルリを引き剥がす。

 

「やるしかないですね!」

 

「こうなれば、お仕置きだァー!」

 

「千雨ちゃんに同感!」

 

 先にルリが仕掛けたので、四人は戦うしかないと判断し、模擬戦を再開した。

 

「こっちも!」

 

 愛の援護を受けながら近接戦を挑もうとする千雨に、ルリは新しい武装の洋式の剣を抜き、二刀流で仕掛ける彼女の斬撃を防いだ。

 

「教えてもらった通りにやるね! ルリちゃん! でも、これならどうだ!!」

 

 マギア・コリツェに蹴りを入れ込み、自分から引き剥がした後、追撃を掛けようとする。直ぐに持ち直したルリはサブマシンガンを接近してくる千雨のラファールリヴァイブに撃ち、ブレードを弾き飛ばしたが、彼女はそれに備えてブレードを二振りも出してくる。

 

「甘いね! 私は千刀流だよ!」

 

 新たに出したブレードで挑んでくる千雨にルリは驚きつつも躱して距離を取るが、それがグラディスと愛の狙いであり、雨のような弾幕が来る。これを躱し切れずに受けたが、シールドの残量はまだあった。とどめにゆきなの打鉄にブレードが振るわれる。

 

「とどめです!」

 

 とどめを刺されそうになったが、ルリは咄嗟の判断でビットを選択して使用した。彼女の意思で飛ばされたビットはとどめの一撃を振るわんとするゆきなの打鉄にビームの嵐を浴びせ、シールドの残量を零にした。いつの間にかシールド残量が零になっていたゆきなは驚き、仲間の攻撃に巻き込まれないように退避する。

 

「シールドゼロ!? 一体何が!?」

 

「ビットです! セシリアのブルーティアーズより小さいですが、原理は同じデス!」

 

「それは攻略済み!」

 

 グラディスはルリが使った十基のビットによる弾幕と分析し、イギリスの代表候補生であるセシリア・オルコットのブルーティアーズの武装と同じ物と思い、千雨や愛と共に仕掛ける。

 

「そこっ!」

 

「ビットの操作に夢中になってる間に切り刻む!」

 

 ビットをグラディスと愛が引き付けつつ、動かないであろうルリのマギア・コリツェに千雨が接近し、ブレードで切り刻もうとしたが、標的は気付いてサブマシンガンで迎撃してくる。その反撃は予測通りであり、グラディスと愛にルリを攻撃させようとしたが、マギア・コリツェのビットはまだ彼女たちを攻撃していた。

 

「えっ!? 動いてる!? どうして!?」

 

「やぁ!」

 

 ルリが動いているのに、ビットがまだ動いていることに驚いた千雨は思わず動きを止めてしまう。その隙をルリは逃さず、素早く抜いた剣で千雨のラファールリヴァイブを素早く切り、シールド残量を零にした。シールドが零になった千雨は、ゆきなと同様に離脱する。

 

「ビット展開しながら動けるなんてずるくない!?」

 

「ごめんなさい」

 

 離脱しながらビットを展開しているのに動けることに千雨が文句を言う中、ルリは謝罪してから残りのグラディスと愛を倒しに攻撃を集中した。グラディスの方にビットを集中させ、ルリは支援型の愛を先に倒すことにし、マシンガンで敵の動きを止めつつ接近する。愛はそれから逃げようとしたが、逃れきれずに剣で斬られてシールドを零にされる。

 

「ごめん! やられちゃった!」

 

「残りはミィだけですか!? ジーザス!」

 

 愛がやられたとの無線連絡を受け、ビットの嵐に呑まれていたグラディスはやがてビームの集中砲火を受けてシールドを零にされた。

 こうして、四名を圧倒的な性能差で倒したルリのマギア・コリツェは地面に着地し、第二形態の初陣での勝利を祝して万歳を行う。

 

「勝った! 勝った!!」

 

 この初陣と言うか、模擬戦での勝利にルリは喜んでいたが、千冬は恐れを抱いていた。

 

「ビットを展開しつつ動けるとは…! どの国でも実現していない物だぞ…! また何かの実験をしているのか、あいつは…!」

 

 ビットを操作しながら動くなど、ブルーティアーズでは出来ないことをやったマギア・コリツェに、千冬は直々に作った束がまた何を企んでいるのかと疑う。確かにあの性能は異常である。自分の弟の一夏の白式と箒の紅椿以上だ。

 あれを封印するべきかどうかと、テレビ電話の映像に映る漣を見る中、アリーナ中央に着地していたルリが倒れた。どうやら、ビットの展開の同時行動は多大な負担を掛けるようだ。直ぐに模擬戦相手の四人がISから降りて近付き、介抱を始める。

 

「ビット展開との同時行動は、カポディストリアスに多大な負担を掛けるようだな。きっちりと教えてやらんと。少し待っていろ」

 

『はっ!』

 

 倒れたのを見た千冬はビットを展開しながらの戦闘は控えさせるべきだと判断し、自分も降りてルリの元へ向かった。

 

 

 

「良く来た同志たち。そろそろ仕掛ける頃合いだ」

 

 日本本島のどこかにある秘密の地下施設にて、依玖より逃れた同志は早戸を含むテロリストたちを集め、IS学園襲撃を企んでいた。

 

「よくもこれ程の人材を集めた物だな。ここに連中が来れば、俺たち一網打尽だぞ」

 

「心配はない、同志知恵。我々を支援する者たちが居る」

 

「冗談だ。仕掛けるんだろ? あの女尊男卑の象徴たるIS学園に」

 

 早戸が同志の呼びかけて集まった顔ぶれを見て、踏み込まれたら一網打尽にされると冗談で言ったが、同志はメイソン騎士団のおかげで発見されることは無いと答える。それを聞いた早戸は安心し、仕掛けるのかと問えば同志は無言で頷いた。それに合わせ、この場に集結したテロリストたちは覚悟を決めたり、下賤な笑みを浮かべる。

 

「ほう、遂に仕掛けるのか。あの憎き女どもの巣に…! 存分に楽しませてもらうぜ!」

 

 巨漢のテロリストであるゲラドルドは下賤な笑みを浮かべ、舌なめずりを始める。かつての彼は人間兵器と呼ばれていた有名な傭兵であったが、ISの登場により廃業に追い込まれた。

 自身の居場所を奪ったISを憎むようになり、メイソン騎士団の誘いに敢えて応じて同志を通じてASのサベージを受領した。IS学園を襲撃すると聞いて、同志の招集に応じたのだ。無論、ゲラドルドは存分に復讐する。

 

「止しな、あそこのお嬢ちゃんたちは女尊男卑には染まってない」

 

「ほぅ、珍しい。女テロリストか。共産主義者か?」

 

「アカじゃないさ。私の目的はISの打倒さ」

 

 ゲラドルドの発言に異議を唱えた女テロリストの名はスカーフェイス。顔右半分が大火傷を負っているのが特徴であるが、この場に集まっている狂人達とは違い、真面な方である。

 この社会においては珍しい女テロリストの存在に、早戸は共産主義者であるかどうかを問えば、スカーフェイスは否定してIS打倒が目的であると答えた。

 

「打倒なら、乗っている女を僕なりのやり方で倒しても構わないよね?」

 

「男か女か分からん奴だ。何者だ?」

 

「僕かい? 僕はローザだよ? こんな形だけど、男さ」

 

「ローザ? あぁ、あの異常者か。まさかあの動画の投稿者がここに居るなんてな…!」

 

 スカーフェイスの発言に、一見少女に見える者が反応した。性別を確認するために早戸が問えば、彼ことローザは男と答える。ゲラドルドはローザと聞いて、ネットで見付けた危険な動画の投稿者がここに居ることに驚く。

 

「おや、僕の動画の視聴者がこんなところに。嬉しいね」

 

「最高の動画をありがとよ! おかげで息子がお世話になってるぜ!」

 

「…異常者め」

 

「最低ね」

 

 これに早戸はゲラドルドとローザはこの中で一二を争う異常者と判断して警戒する。スカーフェイスも同様であった。同志は無表情のままだが。

 

「同志ラースが必要であるが、彼は獄中の身だ。彼の救出は同志佐奇森(さきもり)にやってもらう。それと同志佐奇森と同志ラースには第二IS学園を襲撃してもらう事となっている」

 

「なんで捕まっている? 俺の知っている情報では、隠居の身のはずだが?」

 

「復讐だ。彼は復讐を企てたが、この世界を陰で支配する勢力に捕まり、テロリスト専門の収容所に収監されている」

 

 重苦しい空気にも関わらず、同志は他にも誘う予定のテロリストが居たことを明らかにした。何人かは名前を知っており、どうして捕まっているのかと早戸は問う。その問いに同志はラースが復讐を企て、アガサ騎士団に事前に防がれてテロリスト専門の収容所に収容されたと明かす。

 その次に、この中で一番危険な存在とも言える男が映像から挨拶を行う。

 

『あぁ、皆さん初めまして。新世界の神、佐奇森神矢(しんや)だ。この神の下で戦えることを光栄に思うが良い』

 

「大丈夫か、こいつ?」

 

「大丈夫だ。だが、この中で一番頼りになる」

 

 神矢が神を自称しているので、呆れた早戸は同志に大丈夫なのかと問う中、彼はこの中で一番頼りになると答える。

 テロリストの中で一番危険な存在である佐奇森神矢は天才科学者であるが、自身が開発したGAことゴッドアーマーは束が開発したISと似ていた。違いは破壊力はISを上回り、使用するエネルギーは核エネルギーである。ブラックボックスとなっているISコアより動力源が分かっているので、安全であるが、搭乗者の安全が全く確保されておらず、それに精神汚染もあるために地球に対してクリーンなISが採用された。

 これに怒りを覚えた神矢は束に対して裁判を起こしたが、訴えは退けられ、逆に危険な兵器を作り出した悪の科学者として扱われて学会を追われた。これに束に対する怒りは増し、神矢は前々から計画していた物を実行に移す決意をし、地下活動に身を投じてテロリストとなったのだ。その計画とは、自分が神となって自分に都合の良い世界を創生する事である。ヴィンデルと似たような物である。

 他にも色々なテロリストが居たが、ここは割愛しておく。自己紹介が済んだところで、同志はIS学園襲撃の手順を説明し、メイソン騎士団より派遣された先兵たちの紹介を始める。

 

「以下の手順で学園の襲撃を行う。それとスポンサーより先遣隊が派遣されている。彼らだ」

 

 同志が紹介したのは、赤鬼十三騎士として召喚された四名であった。宇宙ではマレットとクダルが先行して攻撃するなら、地上ではこの四人が先行して攻撃する。

 

 一人目はオウギュスト・ギダン

 二人目はガリー・ダン

 三人目はレヴ・クラフチェンコ

 四人目はギャルビン・フォックス

 

「彼らの出撃準備が整い次第、学園に対する襲撃を開始する。同志諸君らは、直ちに出撃準備を行ってくれ。夜中に襲撃を開始する」

 

 メイソン騎士団より派遣された十三騎士の四名の紹介を終えた同志は、集まったテロリストたちに出撃準備を行うように指示してから会議を解散した。




次回もまた出す予定です、エタって来ていると指摘されたので(汗)。


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復讐鬼ラース

ラース
元軍人で特殊部隊員であり、残りの余生を過ごしていたが、娘夫婦を白騎士事件で無くし、更に数年後には残された妻や孫まで失う。
復讐に走ったが、元同僚らはアガサ騎士団に売られ、実行前に捕まってシベリアの収容所に送られてしまう。実は…。
元の設定はISアンチ物主人公臭が凄まじかった為、かなり変更されてもらった。ごめんなさい。
搭乗機はゴッドアーマー「ラース」
キャラ提供はkinonoさん

リオンテイルさん、誤字報告サンクス。


 テロリストたちによるIS学園襲撃が計画される中、ロシアのシベリアにあるテロリスト専門の収容所が、謎の勢力による襲撃を受けていた。

 

「クソっ、なんだこいつ等!?」

 

『ISなのか!? 男が乗ってるぞ!』

 

 人が訪れない地域にある収容所であるのか、MSが配備されていた。だが、旧式のジム寒冷地仕様機や量産型ガンキャノン、量産型ガンタンクであり、謎の勢力が使うISに似た兵器に圧倒されていた。

 そのISに似た兵器には織斑一夏のように男が乗っているが、乗っている男たちの表情は狂気に染まっており、恐ろしい攻撃を仕掛けて来る。

 

「殺す! 殺す! 殺す!!」

 

『うわぁぁぁ!? は、離れろ! ワァァァ!』

 

 ISに似た小型機動兵器に取り付かれたジム寒冷地仕様機のパイロットは腕を動かして振り払おうとするが、狂人が乗った小型機動兵器は止まらず、胴体を抉って乗っていたパイロットを殺した。

 他の機体も的の小さいISに似た小型機動兵器を相手に奮戦するも、ISを上回る火力を前に撃破されるばかりであった。

 

『クソっ! 畜生!』

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

『わっ!? うわぁぁぁ! アァァァ! た、助けてくれぇぇぇ!!』

 

 量産型ガンキャノン三機が群がる小型機動兵器に取り囲まれ、互いの背中を合わせて抵抗するも、機体を抉られて撃破される。

 

「増援は!? 増援はまだか!?」

 

『なんだ、この赤い肩の連中は!?』

 

 三種のMSの他に、ASのサベージも収容所に配備されていた。MSも含めてパイロットたちは元ロシア連邦軍の職業軍人たちであり、アガサ騎士団に雇用されている状況だ。

 そんなサベージに乗るパイロットたちも、右肩を赤く染めたスコープドックの集団に襲撃を受け、MSの救援を要請していたが、MS隊はIS擬きに襲われ、壊滅状態に陥っている。

 対してサベージ隊に襲い掛かる赤肩のATのスコープドック集団はIS擬きよりも統制が取れており、その組織的な攻撃で警備兵らが乗るサベージを圧倒していた。乗っている人間は元軍属のようだ。

 

「い、嫌だ! 俺は死にたくない! うわぁぁぁ!?」

 

 数秒足らずでサベージ隊は壊滅し、生き残った一機はライフルを棄てて逃げ出したが、ローラーダッシュで一気に追い付いた一機のスコープドックのアームパンチを打ち込まれ、パイロットは圧殺された。

 最後に抵抗していた量産型ガンタンクがスコープドックの無反動砲による集中砲火を受けて沈黙すれば、残っていた警備兵らは抵抗することも無く、AK-74M突撃銃やRPG-29対戦車無反動砲を捨てて収容所より逃げ出した。

 追撃しようとしたスコープドックであったが、赤いベレー帽を被り、右目に眼帯を付けた顔面傷だらけの指揮官は無線機の受話器で追わないようにと指示を出す。

 その指揮官の名はカーネル。元アメリカ陸軍の特殊部隊レッドベレーの指揮官で、現メイソン騎士団の赤鬼十三騎士の一人だ。

 尚、レッドベレーはISの登場によって解散している。カーネルの指揮下でATに乗って戦っているのは、元レッドベレーの隊員たちである。

 

「放っておけ! この広いシベリアで、人里に着くなどほぼ不可能だ。直ちに歩兵隊と共に内部の掃除に当たれ! GA隊は撤収せよ!」

 

『はっ!』

 

 アメリカ製の装甲指揮車両より指示を出すそのカーネルに、スコープドック隊はヘビィマシンガンの銃口を下げ、歩兵部隊と共に収容所内部の掃討に向かう。

 

「うるせぇぞ! まだ殺したりないんだよぉ!!」

 

 スコープドック隊より撤収を命じられたGA、その名もゴットアーマー隊は反発する。これを予想していたのか、カーネルはこれからやって来る自分の上官に連絡を取る。

 

「神よ、タイプワンの搭乗者が反発しております。どうしましょうか?」

 

『爆破しろ。代わりが幾らでも居る』

 

「了解。リモコンを」

 

 反発して逃げていく警備兵らにビームを撃ちまくるGAに、カーネルの上司は爆破命令を出した。それに応じてカーネルは部下よりリモコンを取り、安全装置を解除してからスイッチを押してそのGAを爆破した。

 

「04、爆破確認。放射線反応、探知されません」

 

「引き続き掃討を継続しろ。″ラース″の確保が最優先だ」

 

 部下からの報告で爆破したGAより放射線が出ていないことを部下が報告すれば、カーネルはラースと呼ばれる囚人の確保を優先するように命じる。

 前回述べた通り、GAは核エネルギーで動いている。破壊されれば放射能を巻き散らし、環境を汚染する。この場に居る者たちが放射能で汚染されてしまうが、開発者である神矢の用意した特別な自爆装置ならそれを巻き散らすことなく爆破できる。

 カーネルが神と言った上司は、GAの開発者である佐奇森神矢の事だ。今は神矢の下で、元レッドベレー指揮官としての手腕を振るっている。彼の元に集まったのは元隊員達だけでなく、ISの登場によって人員削減を理由に軍を除隊させられた将兵らやゲラドルドのような傭兵たちも含まれている。

 彼らの属する軍隊の名はゴッドアーミー。神を自称する神矢の私設武装組織から名付けられた。

 数分もしない内に実戦経験豊富な将兵や傭兵たちによって収容所は制圧され、囚われていたテロリストたちは解放されてゴッドアーミーの指揮下に入る。

 収容所を制圧した後に神の如くの風貌を持つGAを纏った神矢が降り立ち、カーネル等は軍隊式の敬礼を行う。

 

「制圧しました。神様。例の男の安全も」

 

「ご苦労。では、戦士を迎えに行こう」

 

 神矢を神と慕うカーネルは、ラースの確保に成功したことも知らせれば、彼は気を良くしてその男が囚われている区画まで歩いて向かう。

 階段を下り、最も危険なテロリストを収容している地下の最下階まで到達すれば、ラースの牢のドアを開けていた部下が出迎えの敬礼を行う。

 

「あれがラースと言う男です。本名は…」

 

「そんな物は良い。これからあの老人は人間を超越し、神の戦士となるのだ。この神の手によってな」

 

 本名を言おうとするカーネルに神矢は自分の手駒として使うので、ラースのままで良いと言って彼に近付き、自分の戦士にならないかと誘う。

 

「…何者だ?」

 

「おい、聞こえているか。私は神だ。私の戦士となって戦わないか?」

 

「冗談は止せ。もう私に存在価値は無い」

 

 神を自称する男の誘いに、ラースは自分にはもう存在価値が無いと言って断る。

 ラースは本名ではない。元軍人でしかも特殊部隊員であるが、神である神矢には関係ない事だ。彼をここまでに追いやったのは神矢自身であるのだから。恐ろしいことに、神矢はそれを全く覚えてもいない。

 

 元々は余生を過ごしていた老人であったが、娘夫婦を白騎士事件の影響で無くした。否、白騎士事件では亡くしていない。GAが危険な代物と暴露した助手がラースの娘の夫であった為、怒り狂った神矢は彼を妻や旅客機の乗員諸共に事故に見せ掛けて殺害する。ISが軍事転用化されると、ラースの娘夫婦を白騎士事件の被害者に仕立て上げたが、偽造と見抜かれて計画は破綻した。無論、ラースは自分の娘とその夫を殺したのは神矢であると気付いていない。

 ラースは怒ったが、真犯人が神矢であることには気付いておらず、孫の為に自制していた。しかし数年後、孫は事故に遭って亡くなってしまう。孫の命を奪ったのは女尊男卑思考が強いIS委員会の幹部であった為、自分の不注意であったにもかかわらず、孫が悪いと言って賠償金すら払わなかった。

 これに目を付けた神矢はラースを復讐に嗾けるべく、彼の妻と家を暴徒に放火させ、女尊男卑思想の者たちの仕業に仕立て上げる。神矢の目論見通り、ラースは復讐に走ったが、ここに来て誤算があった。ラースに武器や装備を提供しようとする者たちは彼を裏切ったのだ。更にアガサ騎士団が介入した時期であった為、実行前にお縄となってしまい、ラースは極寒の地のシベリアに送られた。

 

 神矢がシベリアの収容所を襲撃した理由は、ラースを自分の手駒とする為である。ラースがこんなことになったのは、神矢自身の所為でもあるのだが、当の彼は覚えていないどころか、気にも留めない。

 

「存在価値が無い? なら与えてやろう。お前に復讐の武器をくれてやる。条件は私の新世界の創生に協力することだ」

 

「復讐…?」

 

「そうだ、この腐り果てた世界に対する復讐だ! この神がその機会をお前に与えるのだ! どうだ、やらぬか? それともここで…」

 

 選択は二つ。この神を自称する狂った男の要望に応じるか。断ってここで朽ち果てるか。

 ラースが選んだ選択は、前者であった。彼は自分の総てを奪ったISに復讐すべく、神矢のGAを纏った。当の張本人が目前に居ることなど気付かずに。

 纏ったGAの名は「ラース」。彼には相応しいGAである。

 

「良いだろう。お前の手駒となってやる! 私の総てを奪ったISに復讐する為にな!」

 

「素晴らしい! それでこそ私の戦士に相応しい! さぁ、一緒にあのクソ兎が作った世界を破壊しようぜ!」

 

 優秀な手駒を手に入れた神矢は目的である第二IS学園を襲撃すべく、シベリアの収容所を後にした。

 

「そうだ、第四世代機はチートだったな。あっちの襲撃隊が可哀そうだ。少し楽をさせるために囮を出さなくっちゃな」

 

 収容所を後にした神矢はISの第四世代機のことを思い出し、囮を出すと口にして端末を操作した。それは、後に分かることである。

 

 

 

『敵機接近中! 乗員は直ちに宇宙服を着用せよ! 繰り返す! 敵機接近中!!』

 

 地球へと向かう連絡船の船内で、けたたましい警報が鳴り響いた。その警報で飛び起きたミッチェル・ガーランドは窓から外の様子を見て、接近している敵機を見ようとする。

 

「我らの勢力圏内で敵襲だと! 何処だ!?」

 

 窓から連絡船の対空砲が向いている方やアルベルト・ケーニッヒが率いるジンクスⅣで編成された護衛部隊が向かっている方向を見て、何処の敵が仕掛けて来たのかを見ようとするが、乗務員に止められる。

 

「直ちに宇宙服を! 船体が被弾し、宇宙に放り出されるかもしれません!」

 

「いや、出撃だ! 私は荷のMSのパイロットである!」

 

「えっ!? お待ちを!」

 

 乗務員はもしもの場合に備えて宇宙服を身に纏うように言ったが、ミッチェルは自分の宇宙服と言うかパイロットスーツを取り出し、連絡船の荷物であるZZガンダムに乗って戦闘を行うべく、座席を飛び出した。

 格納庫へ向かい、自分のZZガンダムの固定を解除するように指示を飛ばしている整備班長に命じる。

 

「固定を解け! ガンダムを出す!」

 

「はっ!? 出撃命令など…」

 

「良いから解け! 別働隊が来るかもしれん! 解かんとぶち破るぞ!」

 

「ZZガンダムの固定を解け! 死ぬぞ!!」

 

 このミッチェルの無茶ぶりに班長は戸惑うが、彼は脅しを掛ければ彼は応じてZZガンダムの固定を解くように命じた。

 固定が解かれる中、ミッチェルはハッチを開けてコクピットに飛び込み、機体を起動させて同じく運び込まれていた専用大型ビームライフルを取って、格納庫のハッチが開くのを待つ。ハッチが開くまでの間、ヘルメットの無線機を起動させて外の様子を伺う。

 

『こいつ等、メイソン騎士団だ!』

 

『なんでこんなところに!? ここは俺たちの勢力圏だぞ!』

 

『シナンジュも居る! 回避に専念しろ!』

 

『あのアヘッド、速い!? それに緑色のカエルも!』

 

「シナンジュ? カエルだと? どうやらメイソンの奴ら、新手を投入したようだな」

 

 無線機よりアルベルトの護衛部隊が交戦しているメイソン騎士団の編成が分かったところで、ミッチェルは機器を操作しながら機体が正常に動くことを確認した。

 

「各部異常なし。ハッチオープンを確認。これより出撃する!」

 

 ハッチも開いたところで、ミッチェルはZZガンダムを動かし、連絡船より出撃した。

 交戦の最中、連絡船からZZガンダムが出たのを確認したクローディアの隊のゾロアットに乗るパイロットは、背中のビームキャノンを撃とうとする。

 

「連絡船からMS!? 援軍か!」

 

 ビームキャノンを撃ち込んだが、ミッチェルはそれを躱してビームライフルで反撃する。放たれたビームは避けられ、ゾロアットは両肩のビームストリングを展開して攪乱しようとする。

 

「そのデカい図体なら、ビームストリングで!」

 

 展開されたビームストリングに大型機のZZは被弾したが、戦闘に全く支障が無いので、ビームストリングを展開していたゾロアットを二発目のビームで撃破した。

 

「食らったが、問題は無い!」

 

 それからもう一機を撃破した後、アルベルト隊の救援に向かった。

 クローディアやマレット、クダルを含めるメイソン騎士団のMS隊と交戦しているアルベルト隊は赤鬼十三騎士の内二人、部隊長の強さに圧されていた。増援も来ているが、やられるばかりだ。

 

「は、速い!? これがガンダムタイプか!」

 

 ジンクスⅣに乗るパイロットはクローディアの駆るシナンジュに翻弄され、そのままビームサーベルで胴体を切り裂かれて撃墜された。

 

『少しはやるようだが、このマレット・サンギーヌの敵ではない!』

 

「こ、こいつ! わっ!?」

 

 アヘッドと交戦していた増援部隊のグレイズのパイロットはライフルを躱しながら接近するマレットの技量を前に、二振りのGNトマホークで切り裂かれて撃破された。

 

「フハハハ! 騎士ってのはこんなもんかい!?」

 

『なんだこいつは!? ギャア!』

 

 続けざまにグレイズ二機をハンマーで撃破したガンダム・グシオンに乗るクダルは、笑いながら三機目の胴体にハンマーを打ち込み、乗っているパイロットを圧殺する。

 増援部隊の他にワルキューレ宇宙軍のM1AアストレイやバルキリーであるVF-171も駆け付けていたが、恐ろしく強い三名を前に撃破されるばかりだ。同じく救援に駆け付けたミッチェルは、前に出て来た敵機であるジンクスⅢを左手で抜いた大型ビームサーベルで切り裂いて撃墜してから、どちらを先に仕留めるべきか確かめる。

 

「パトロールの救援も駆け付けているようだが、あの有様では全滅は必然だ。まずは、あのカエルを倒すか。ナノ・ラミネート装甲は厄介だ」

 

 先に仕留めるのはクダルのグシオンと決め、ミッチェルはサーベルを仕舞ってからその敵を仕留めるために接近する。近付いてくるZZに気付いたクダルは、VF-171のコクピットを素手で潰してから迎え撃つ。

 

「ガンダムフレーム! あいつに似ててムカつくッ!! 潰すッ!!」

 

 ZZガンダムを見たクダルは、かつて自分を殺したガンダムと何処か似ていることに腹を立てたのか、スラスターを吹かせて全力で襲ってくる。ハンマーを振り下ろし、自分を文字通り叩き潰そうとしてくるクダルのグシオンに、ミッチェルはビームライフルを撃つが、外見とは裏腹に高機動で迫って来る。

 

「速いな! 相当な手練れが乗っているか! なら、これは躱し切れまい!」

 

 攻撃を躱して迫るクダルのグシオンに、ミッチェルは機体背部のミサイルランチャーを撃ち込む。このミサイル攻撃にクダルは頭部の信号弾を使って躱し切る。

 

『んなちゃちなミサイルで、このクダル様を倒せると思っているのかァ!?』

 

「信号弾をフレア代わりにした!?」

 

『バラバラに吹っ飛べェ!!』

 

「くっ!?」

 

 信号弾をフレア代わりにしてミサイル攻撃を躱したミッチェルが驚く中、ミサイルの爆風から抜け出したクダルは一気に接近し、機体胸部に搭載された四門の400ミリ口径砲をZZに向けて撃ちこんだ。

 近距離より放たれた強力な弾頭にミッチェルは素早く反応して両腕で防いだ。爆風が巻き起こる中、両腕の中で右腕が動くことを素早く確認してからライフルを手放してハイパービームサーベルを抜き、グシオンに向けて振り下ろす。

 

「フン、これで吹っ飛び…グェ、アァァァ!?」

 

 先の近距離からの砲撃でZZを仕留めたと思っていたクダルであったが、当のZZは左腕が動かなくなった程度で、まだ戦闘は可能な状態であった。振り下ろされた長いハイパービームサーベルのビームの刃で機体を切り裂かれ、乗っていたクダルはビームで焼かれた。

 グシオンが完全に停止したのを確認すれば、ミッチェルはサーベルを戻し、ライフルを手に取って損傷した機体で戦闘を続行する。

 

「アルゴン王に申し訳の無いことをした。だが、敵はまだ残っている。同胞を助けねば!」

 

 授かったZZを損傷させたことを申し訳ないと思いつつ、ミッチェルは仲間たちを助けるべく、近付く敵機を迎え撃つ。

 

『手負いのガンダム! 倒すには苦労しないな!』

 

 友軍機と交戦しているZZガンダムを見たマレットはM1AアストレイをGNトマホークで切り裂いて撃破し、乱戦状態を抜け出してミッチェルを仕留めに掛かる。向かってくるマレットのアヘッドに、ミッチェルは気付いてまだ動く右手に握るビームライフルで迎撃するが、クダルと同じく避けながら接近してくる。クダルのグシオンとは違い、カスタマイズされたアヘッドであり、かなりの高機動で接近してくる。

 

「左腕が死んでいるな! 左から攻めればお前は終わりだ! ガンダム!!」

 

 左腕が動かないことを一瞬で見抜いたマレットは生前のガンダムにやられたことを思い出し、ライフルに持ち替えて左側から攻めを開始する。即座に対応に回るミッチェルであるが、クダルのグシオンより受けた400ミリ口径弾のダメージが残っており、対応が遅れて右足にビームを撃ち込まれて破壊される。右足を喪ったZZはバランスを取るころが難しくなる。

 

『右足が!?』

 

「はっはっはっ! ただでは殺さんぞガンダム! じわじわと嬲り殺しにしてくれる!!」

 

 生前の恨みの余り、マレットは直ぐに撃墜せずに嬲り殺しにすることに決めた。背面に回ってビームを撃ち込み、損傷個所を増やし、相手を恐怖に陥れんとする。

 

「その頑丈さが仇だ! 怯えながら死ね!」

 

『直ぐにZZを仕留めろ、サンギーヌ。奴は…』

 

「煩いぞ! 俺は勝手を許されているのだ!!」

 

 ZZを嬲り殺しにする為に直撃させること無くビームを撃ち続けるマレットはクローディアより忠告を受けるが、無視して嬲り殺しを続ける。ZZが危険な存在であることを理解しているクローディアであるが、マレットはガンダムを嬲り殺しにすることに固執し、話を全く聞かない。

 

「仕方ない…」

 

『動きを止めた!? 今なら!』

 

 上司であるクリフ・ジャンパーより殺害命令を受けているので、その命令を実行する時期であると判断してライフルをマレット機に撃ち込もうとしたが、アルベルトに妨害される。

 動きを止めたことが仇となったのだろう。アルベルトが駆るジンクスⅣが放った粒子ビームでビームライフルを破壊されたクローディアは、直ぐに下がってシールドのグレネードランチャーを撃ち込んで牽制する。

 

「悲鳴を上げながら、死んで行けぇーッ!!」

 

 クローディアに殺された掛けたことも知らず、マレットはパイロットの悲鳴を聞くために二振りのGNトマホークを抜き、動きを止めたZZに斬りかかった。だが、それはミッチェルの狙いであった。

 

「来たな。コアブロックシステムは正常に動いている。チャンスは一度だ」

 

 斬りかかるマレットのアヘッドにミッチェルはコアブロックシステムが正常に稼働することを確認してから、解除ボタンに指を添える。二振りのGNトマホークで切り裂くために横に振った瞬間、ミッチェルはタイミングを見計らってボタンを押した。

 

『死ねぇぇぇ! ガンダムゥ!!』

 

「今だ!」

 

 刃が迫った瞬間にミッチェルがボタンを押せば、ZZは下半身を捨てて上半身だけで上昇し、マレットの斬撃を躱した。

 

『躱しただと!?』

 

「つぁぁぁ!」

 

 驚く相手が反撃に出る前にミッチェルはハイパービームサーベルを抜き、マレットのアヘッドを切り裂いた。

 

『グァァァ!? ガンダムに! またガンダムにこのマレットが!? このマレット・サンギーヌがァ!?』

 

 ハイパービームサーベルで切り裂かれたマレットのアヘッドは撃墜には至らなかったが、戦闘不能となって彼の叫びと共にその場を漂っていた。胴体を切り裂かれた為、乗っていたマレットは重傷を負ったに違いない。

 

「撤退する!」

 

 マレットがやられたのを確認し、アガサ騎士団の更なる増援を確認したクローディアは、この場で戦い続けていれば包囲されると思って撤退を選択する。彼女のシナンジュが信号弾を撃撃って合図を出せば、彼女の部下たちはこれに従い、撤退を開始する。戦闘不能となったマレット機は、ゾロアットに回収されていた。

 戦闘が終わったところで、ミッチェルはヘルメットを脱いで一息つく。

 

「この状態では、始末書どころか、謹慎を命じられるな」

 

 この戦闘で負ったZZの損傷は始末書どころでは済まないほどの物であり、ミッチェルは謹慎処分が下されると思って頭を抱えた。

 

「何機残っている?」

 

『はっ、自分を含めて四機であります。二機が撃破されました』

 

「二機か…!」

 

 戦闘が終了したことを確認したアルベルトは、残存機を部下が報告した。アルベルト隊はこの戦闘で二機の僚機を喪ったのだ。

 

「よし、撤収する。ガーランド卿のZZも回収するのだ」

 

 残存機も分かったところでアルベルトは撤収を命じれば、損傷したミッチェルのZZも回収も忘れないように告げた。




第二IS学園勢、次回に出そうかな?


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第二IS学園襲撃!

メリア・パターソン
第二IS学園に属する高校二年生のアメリカ国籍の女子生徒。
アングロサクソン系の長身でスタイルも良い。専用機持ちであり、射撃戦を得意としている。
実はあのゲームの主人公の子孫である。
搭乗機は第三世代IS メダル・オブ・オナー

クリスティーナ・ヴェンツェル
ハンガリー国籍の二年生。長い銀髪を三つ編みにしている。淡白な性格。
専用ISカーミラは隠し腕四本で赤い水晶体を結成し、中に閉じ込めた敵からエネルギーを奪い取る単一能力を持って居る。
だが、燃費は悪いし捕らえるのに苦労する。
搭乗機は第三世代IS カーミラ
キャラ提供はマルクさん

マデリーヌ・ランス
アメリカ国籍の三年生。銃火器を愛するトリガーハッピー
専用ISザ・カーニバルはガンダムヘビーアームズ改と言うべきくらいの重装備で、一個師団以上の弾幕を誇る。
そんなにぶっ放すと、弾が底を尽きるので、単一能力「兵器庫」で継続能力を上げている。
搭乗機は第三世代IS ザ・カーニバル
キャラ提供はkinonoさん

アリアチェール・ハルパニア
イギリス国籍の二年生。日本のサブカル大好きで、変な関西弁で喋る。
専用ISはセシリア・オルコットのブルーティアーズと同じだが、BT兵器主体である。簡単に言えば、武装増加版ブルーティアーズ。
搭乗機は第三世代IS ブルーティアーズ五号機
キャラ提供はリオンテイルさん

クランティ・ヴィング
インド国籍の一年生。空色の瞳を持ち、身長は高め。性格は大人びて優しめであるが、甘い物には目が無い。友人たちからはクランとの愛称で呼ばれている。
インドの小さな村の出身であり、IS適性が高かったので村と家族の為に第二IS学園を志願した。
専用ISチャマック・ターラーは珍しく全身装甲であり、重装甲でスラスターを増加して無理に高機動にしている。ゴーレムⅠに似ている。
搭乗機は第三世代IS チャマック・マーラー
キャラ提供は妄想のkiokuさん

ヴィルヘルミナ・アーベントロート
ドイツ国籍の一年生。ラウラ・ボーデヴィッヒの「シュヴァルツェ・ハーゼ」所属で、似ている。小柄な体系にも関わらず、胸が大きい。
専用ISであるシュヴァルツェア・フランメはシュヴァルツェア・ツヴァイクベースであり、突撃仕様。言うなればアルトアイゼン。
搭乗機は第三世代IS シュヴァルツェア・フランメ。
キャラ提供はmikagamiさん


 アガサ騎士団による南米への掃討作戦の開始日が迫り、日本の第一とスイスのIS学園を同時に襲撃すると言う神矢たちテロリストの連合軍による作戦が決行されようとする中、箒やルリの第四世代のISを誘き寄せるべく、日本海で囮作戦が遂行されていた。

 それは、かつて大日本帝国海軍で艦隊決戦主義の下に建造された超弩級戦艦「大和」を使い、付近を航行する船舶を無差別に攻撃すると言う物であった。

 尚、戦艦大和はメイソン騎士団十三騎士の一人と言うか、一隻である。神矢の手によって復活したのだ。

 

「よーし、派手に暴れろ! この女尊男卑の世界を、大艦巨砲主義で打ち倒すのだ!!」

 

 メイソン騎士団に協力する部隊であるレダニア軍より派遣されたスキンヘッドの騎士であるアリアス・モマはMAであるザムザザーを駆り、隣で航行している戦艦大和に無差別攻撃するように指示していた。

 戦艦大和の乗員はメイソン騎士団の騎士でも無ければ協力しているレダニア軍の将兵たちではなく、日本の元引きこもりや他人をネット上で女性に対する中傷をしてきた男達だ。それも右翼的で過激な書き込みをしてきた者ばかり。国粋主義者も含まれていた。

 

 IS登場から三年余りで起きた政権交代の新政権による政策で、彼らは引きこもっていた家を追い出され、社会復帰の訓練を強制的に受けさせられていた。これには徹底的な配慮がなされており、殆どは心を入れ替えて社会復帰を果たしたが、一部では徐々に女尊男卑へと変わっていく社会に不満を持つ者が居たのも事実だ。

 そんな者たちはメイソン騎士団や工作員である同志に甘言で誘われ、こうしてかつての日本の誇りであり、帝国海軍の大艦巨砲主義の象徴たる戦艦大和に乗艦し、この世界に抗うことなく受けいれた愚か者たちを抹殺していた。

 

 どうやって専門知識もネットで拾ってきただけの者たちがこの戦艦を動かしているかは、悪の天才科学者である神矢の手によってかなり簡略化されているからだ。素人でも容易に動かせる程で、船のエンジンの整備を行う技師らや航海に必要な知識を持つ航海士も必要なく、全てコンピューターが行っている。

 時代遅れの大艦巨砲主義と最新の科学力が混ざり合った混血戦艦とも言うべきだろう。三門の主砲である45口径46センチ三連装砲の旋回速度は、大戦中の比較にならない程に上がっており、連射速度も十秒は速まっている。しかし、速力はその巨体ゆえか、当時と同じままだ。

 

 そんな最新の科学力で航行する戦艦に乗せられている彼らは囮にされていることにも気付かず、アリアスの扇動されるがまま周辺を航行する船舶を無差別に攻撃する。

 無差別攻撃を阻止せんと立ち向かったロシア海軍や韓国海軍もとい朝鮮統一王国海軍の艦艇すらだ。戦艦を一撃で轟沈させる対艦ミサイルでさえ、最新の科学で蘇った戦艦大和には無意味であった。

 全ては第四世代のISを持つ箒かルリを誘き寄せるための物であり、更に誘き寄せようと、大和の乗員らに朝鮮半島に向かうように指示を出す。その目的は都市部に向けての無差別砲撃である。

 

「もう少し、派手にやる必要があるな。ならば、都市部にあの巨砲で砲撃するまでよ! 戦艦大和の諸君に告げる。諸君らの憎き朝鮮半島に住む民族に対し、鉄槌を下す時が来た! 諸君らも理解していよう、あの半島に住む者たちに、どれほどの苦汁を飲まされて来たことか! 今や我々に媚び諂っているようだが、諸君ら日本人に対する数々の所業、その過去の罪は決して消えん! 今こそ、この大和魂が宿る戦艦で奴らに、否ッ! 世界の為に制裁を下すのだ!!」

 

『おぉーッ!!』

 

 かつてのネット上の対立を持ち出し、更に掻き立ててやれば、大和に乗っている男たちは興奮して湧き立ち、速度を最大である27ノットまで速めた。

 

「フン、まるで念願のおもちゃを貰った餓鬼のようだ」

 

「隊長、民間人が多く住む都市部を砲撃するのはやり過ぎでは?」

 

 ザムサザーの操縦室内にて、速度を速め、都市部を砲撃せんとする大和を見たアリアスは、その戦艦に乗る者たちを玩具を貰って燥ぐ子供と表する。

 そんな彼に向けて、砲手である部下は都市部の無差別砲撃はやり過ぎではないかと問う。これにアリアスは自分等はこの世界の住人ではなく、やるのは自分たちでは無いと答えた。

 

「馬鹿か貴様、我々はこの世界の住人ではない。それに我々が虐殺をするわけではなく、この世界の住人がやるのだ。我々はただ奴らにおもちゃを与え、その背中を押したまでよ」

 

 このアリアスの答えに、部下たちは黙った。別に自分たちが虐殺するのでは無く、この世界の住人がやるのだからただ扇動しているだけで良いのだ。それが自分らの任務である。

 戦艦大和に随伴するレダニア軍部隊は、IS学園を襲撃するテロリストたちを支援するための陽動が任務である。引き付けるのは前に述べた通り箒かルリの第四世代のISだ。そのどちらかが来て、大和と交戦させるのがレダニア軍の目的だ。

 だが、これは後の作戦における威力偵察に過ぎない。つまり、テロリスト組はIS学園の防衛配置を確かめるための生贄なのだ。ただし、神矢のゴットアーミーとラースが襲撃するスイスの第二IS学園の方は本気であるが。

 

「同志、兎は出たか?」

 

『こちら同志、兎は確認できず』

 

「これだけ暴れてもまだ出て来ないか。各員、引き続き空や海中より止めに入る雑魚の掃討を続けろ。遭遇する船舶は民間船であろうと沈めろ。生き残った死にぞこないを始末するのも忘れるなよ? それと兎の相手は大和にさせる。我々はその護衛である雑魚の相手だ」

 

 警戒態勢を取るアリアスはテロリストたちにIS学園を襲撃と言う名の威力偵察をさせる同志に連絡を取り、第四世代ISの二機の内のどれかが出撃したのかを聞いたが、同志からは確認が取れないと返って来る。

 これにもっと無差別にやる必要があると判断し、大和周辺に展開中の部下たちに告げた。

 

 

 

 日本海における戦艦大和の出現の驚愕は、直ぐにIS学園にも及んだ。

 それもそのはず、朝鮮半島に向けて航行している大和の映像は動画サイトで生中継されており、生徒たちはそれに釘付けとなっていたが、生中継は直ぐに中断される。だが、また別の動画サイトで中継映像が流し出されると言うイタチごっこと化している。

 

『ルリ・カポディストリアスさん、ジェーン・コンティさんがお呼びです。職員室まで来てください』

 

 生徒たちが大和が動画サイトに生中継されている映像に釘付けになる中、その動画サイトにスマホでアクセスしようとしていたルリを呼び出す放送が流れた。直ぐにルリは職員室まで行って、そこで待っているジェーン・コンティと呼ばれるスーツ姿の金髪の白人女性と合流する。

 職員室はあの大和の映像で騒がしくなっており、教師や職員らは慌ただしく動いていた。ジェーンと合流したルリは、何の用で呼び出したのかを問う。

 

「なに?」

 

「ここでは話せないわ。向こうに…」

 

「いや、ここで話してもらうぞ」

 

 待っているジェーンに連れられ、関係者以外立入禁止区画まで行こうとするルリを、教師である千冬は呼び止める。

 

「何ですか織斑さん? 今は忙しいのですが」

 

「二日前の一件といい、この子に何をさせる気だ? まさかあの…」

 

「色々と事情がありまして」

 

「今ここで話さねば、どうなるか分かっているな?」

 

 千冬はジェーンが軍人であると見抜いており、ルリに何の戦闘をさせるのかと聞いたが、彼女は全く答えようとしない。これに千冬は力尽くでも聞くような姿勢を見せれば、ジェーンは折れて千冬の同行を認めた。

 

「はぁ、ならば一緒に来てください。来れば分かります」

 

 これに従い、千冬はジェーンとルリと共に立入禁止区画までついていった。

 立入禁止区画は千冬がIS学園に来る前からあり、長年学園に努めている職員や教師でさえ入ったことが無い区画だ。千冬が保管している未登録のISコアを保管している場所とは反対側にあり、彼女でさえ入ったことも無い区画だ。入れるのは、ラウラ・ボーデヴィッヒを除く軍属の者だけである。

 区画の門番はライフルを携帯した女性兵士であり、民間人である千冬の姿を見るや否や、即座に止めに入る。

 

「ここからは軍属以外の方はお断りです。引き返して…」

 

「私が許可するわ。彼女の入室を」

 

「ですが、規定では…」

 

「責任は私が取るから、速く」

 

 これにジェーンは自分が責任を持つと言えば、門番は嫌々ながらも従って千冬を区画の中に通した。

 区画は誰もおらず、守っている意味が無いと思うくらいの物であったが、ある一室に入ればようやく人が居た。千冬の入室にそのカチューシャを付けた女性兵士は怪しむ中、ジェーンが説明すれば椅子に座って彼女を見張る。一室は壁一面くらいの大きな画面が備わっており、後は椅子と机くらいな物だ。

 部屋を暗くすれば、画面に人の顔が映し出される。かなり大きかったため、四名は驚いた声を出す。

 

『なんだその顔は?』

 

「余り大きな顔で出たので…」

 

『そうか。では、何故この部屋に民間人が居るのだ? ここは軍属以外立入禁止なはずだぞ』

 

 画面に大きな顔で映し出された人物は海軍の将官であった。拡大したまま映像に出た為か、その部屋に居る彼女たちを驚かせてしまったのだ。直ぐに画面を縮小して民間人であるはずの千冬がここに居ることを問う。

 

「閣下、私の判断で入れました。いずれは入られると判断したので」

 

『何? そんな理由で入れたのか? まぁ良い、それよりもそこのお嬢さんのVAにやって貰いたくて呼んだ。呼んだ理由は分かるな? これだ』

 

 これにジェーンが自分の責任で入れたと答えれば、今は一刻を争う事態なので、海軍の将軍は第四世代のISの専用機を持つルリに、戦艦大和撃沈命令を出す。

 

『我ら海軍の船乗りの伝説の船である大和の撃沈だ。現在この大戦中に沈んだはずの戦艦は日本海で暴れ回っておる。軍艦や民間船問わず、無差別に攻撃しておるのだ。我々も直ぐに手を打ったが、大和の護衛にはレダニア海軍の部隊がついており、海や海中、空からの攻撃は撃退されておる。もう秘密裏に処理することは不可能だ。そこで、VAを投入することを決断した』

 

「VA? まさかカポディストリアスに、大和を攻撃させるのか? そちらにも第四世代のISがあるはずだが」

 

『そうだ。現時点で最高性能のVAを持っているのはおたくの生徒とカポディストリアスの二機だけだ。あんな危険な代物に、ご領主様をわざわざこの極東に呼ぶわけにはいかん』

 

 ルリに攻撃命令を出した将軍に、千冬はエルネスティーヌの専用ISである青騎士を出せば良いと言うが、画面に映る彼は領主である彼女に呼び出すのは無礼であると返した。

 何故ルリに攻撃させるかは、彼女のISを接収しないことが条件と掃討作戦の為であると告げる。

 

『何故カポディストリアスに攻撃させるか疑問に思っているようだな。理由は二つある。第四世代のISの接収をしないことだ。もう一つは明日に行われる掃討作戦に支障を来すからだ。あの大和は我々の掃討作戦に揺さぶりを掛けるために用意した物であろう。戦力を割かせるつもりであろうが、その手に乗るわけにはいかん』

 

 将軍はこの大和の出現は明日に行われる作戦に対する妨害活動と睨んでおり、その手に乗らないために作戦参加の部隊の戦力を割かず、ルリに大和を撃沈させるつもりであった。こちらを睨み付けて来る千冬に対し、将軍は予備にしている戦力を随伴として出すと告げる。

 

『だが、安心しろ。予備戦力のセルベリア・ブレス陸軍大佐のVA一個連隊を随伴させる。これで存分に大和と戦えるぞ』

 

 九十機以上のVAが随伴するとは言え、戦艦大和に単独で挑めと言うのだ。幾ら高性能なISに乗る幼気な少女に、それは無茶過ぎる難題である。そのVA連隊に大和を攻撃させれば良いと思った千冬はルリを作戦に参加させまいとしたが、将軍はそれが分かっており、そればかりかISを絶対的な強さを見せ付けるチャンスであるとも告げる。

 

『その連隊にやらせれば良いと思っているだろうが、それでは駄目だ。奴ら、あの戦艦大和にISを破壊させ、神話を崩壊させるつもりだろう。だが、ISの不敗神話の完成にも繋がる。これはチャンスなのだ。あの事件の当事者である君にも理解しているな?』

 

「白騎士事件の再来をあの子にやらせるのか…! あんたは!」

 

『そうだとも。委員会には既に話は通してある。委員会は期待しているぞ? では、ここで話している間にも、付近を航行する船が撃沈されているかもしれない。私はその対応に当たらねばならん。出来れば早急に出撃したまえ』

 

 ISを出す必要性を告げた将軍に、千冬がかつての白騎士事件の再現をルリにさせる気なのかと怒り心頭に問えば、画面の向こう側の男は彼女の態度に眉をひそめることなく自信満々に答えた。

 それに出撃許可は委員会も承認していると告げ、ルリに向けて急いで出撃するように言ってから映像通信を切った。

 その後、ジェーンはルリに出撃準備をするように告げる。

 

「聞いたわね、カポディストリアスさん。直ちに出撃準備をしなさい。十分後に迎えが来るわ」

 

「待て。幾ら委員会が許可を出しても、彼女の同意が…」

 

「行くよ、先生。あれ、私にしか止められないんでしょ?」

 

 自分を無視して出撃準備をルリに迫るジェーンに千冬が異議を唱えるが、当の守ろうとしている少女は既に行く気でいた。

 彼女の代わりにと言うが、先の福音(ゴスペル)暴走事件とは違い、生身の人間が相手だ。弟の一夏や箒を含めるこの学園の専用機持ち達を出すわけにはいかない。かといって、ルリに人殺しをさせるわけにはいかない。自分で行こうとした千冬であったが、ルリに止められる。

 

「なら、私が…!」

 

「駄目だよ、先生。みんなの為に居なくちゃ。これは私がやらなきゃ駄目なの。多分、その為にあのISがある。それに一夏君たちにこんなことをさせちゃ駄目だし」

 

 ルリは千冬の気持ちを理解しており、彼らに人殺しをさせるつもりは無かった。甲兎と交戦したことがある自分が行かなければならないと言う使命感に駆られている。

 

「じゃあ、行ってくるね」

 

 行ってくると言って部屋を退室したルリの背中を、千冬はただ見守ることしか出来なかった。

 

 

 

 ところ変わりスイスの山奥にある第二IS学園では、神矢率いるゴットアーミーの襲来を知らせる警報が鳴り響いていた。

 第二IS学園は日本の第一IS学園開設から二年余りで永世中立国のスイスで開設された第二のIS学園だ。尚、スイスにはIS委員会の本部もある。開設された場所は、自然の要塞とも言える山奥にある築百年以上の大きな屋敷を改装工事を行い、学校として利用している。山奥であるためか、生徒と職員の数は日本のIS学園の半分以上で、保有ISも半分である。ただし、守備戦力は人口島の学園より高い。

 制服のデザインは本場と同じであるが、黒一色であり、専用機持ちの数は多い。日本のIS学園開校が四月な所為でもあり、ここには主に九月開校形式の国家の代表候補生が集まる。この学園に通う生徒らは、所謂エリートたちであるのだ。

 

「避難訓練?」

 

 古い洋築の学園内の中庭で鳴り響く警報に、アメリカの代表候補生であるメリア・パターソンは同じ国の代表候補生であり一学年上のマデリーヌ・ランスとの会話を中止し、空を見上げた。

 

「予定にないけど」

 

「避難訓練じゃないわ、本物の空襲よ!」

 

 マデリーヌが端末を取り出し、予定表に今鳴っている警報がない事を伝えれば、近くを通り掛かったスイス人の教師が本物であると叫ぶ。鳴るはずのない空襲警報に、中庭に居る生徒たちは不安がる中、設置された拡声器より落ち着いて避難するように告げる放送が流れる。

 

『空襲警報が発令されました! 生徒の皆さんは教師や職員の誘導に従い、落ち着いて退避豪へ避難してください! 学園は必ず我がスイス陸軍と空軍が守ります! 皆さんは落ち着いて、教師や職員の指示に従って退避豪に避難してください! 繰り返します』

 

「皆さん! 退避豪はこっちですよ!」

 

 避難を促す放送が行われる中、出て来た職員の誘導に従い、生徒たちは退避豪へと向かう。日本にあるIS学園とは違い、生徒の人種は様々だ。

 長い銀髪を三つ編みにしたハンガリー国籍の二年生であるクリスティーナ・ヴェンツェル。

 同じ二年生で、アイルランド連合王国ことイギリス国籍のアリアチェール・ハルパニア。

 インド国籍の一年生で空色の瞳を持つクランティ・ヴィング。

 ドイツ国籍でラウラ・ボーデヴィッヒと同じドイツのIS特殊部隊「シュヴァルツェ・ハウゼ」に属する小柄な体系なのに関わらず、胸が大きいヴィルヘルミナ・アーベントロート。

 その他にオセアニアからアジア、中東、アフリカ、西欧に東欧、ロシア、北米に南米と言う多国籍な生徒たちは職員の誘導に従って避難豪へと向かって早歩きで向かう。誘導を行う教師や職員の中には、阿賀野漣の姿もある。

 避難が順調に進む中、一人の伝令が息を切らしながら入って来た。

 

「急げ! 防衛線が突破された!! 正体不明機が来るぞ!!」

 

 この叫びで生徒たちの動きが慌ただしくなり、SG550突撃銃を持って警護に当たっていた女性の警備兵たちは生徒たちを守る形で展開し始める。その中にはISを展開する教師や職員も居た。

 警備兵らが上空に向けて銃口を向ければ、向けている方向より数機のゴットアーマーことGAが姿を現す。男が乗るIS、否、似て異なる物であるGAを見た生徒や教師、職員に警備兵らは茫然とする。

 

「IS…?」

 

「男が、乗ってる…?」

 

「イチカ・オリムラ以外に?」

 

 驚くのは無理もない。女性だけしか乗れない、男なら織斑一夏以外しか乗れないはずのISを、男が乗っているのだから。だが、それはISではない。佐奇森神矢が作り出した悪魔の兵器、ゴットアーマーである。

 

「女だァ…! 女が沢山いるぞォ…!」

 

「より取り見取りだァ…! やりたい放題だァァァ!!」

 

 眼下に見える第二IS学園の者たちを見たGAを纏っている搭乗者らは、狂気的な笑みを浮かべながら彼女に襲い掛かった。




ここで戦艦大和登場です。

こんな形で出してごめんね。でも撃沈はしないとだけ言っておく。炎上させない為にね…。

次も未登場キャラを出す予定です。


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IS学園、襲撃!

ディアス・プラフォード
アガサ騎士団に属する濃紺のウルフへアーで、釣り目の騎士。
戦闘技術は高い物の、快活で子供っぽい性格、よく喧嘩する不良騎士である。お酒が大好き。
操縦技術が荒っぽく、壊し屋の異名を持ち、ヴィンセントを取り上げられる。
でも、地上戦が得意なので、気にしていない。
乗機はKMF グロースター
キャラ提供はマルクさん

ニコライ・パニューク
アガサ騎士団に属する背が低い騎士。
重装甲のカスタマイズを施したKMFのガレスに搭乗し、防衛戦や敵陣突破の一番槍を務めることもある。
機体唯一の武装はオハンと呼ばれる音波攻撃であり、脳が存在する生物に頭痛のような強い不快感を与え、動きを止めると言う物。
効果範囲を狭めべることが可能であり、狭ければ狭いほど効果は増し、ゼロ距離ならば敵機を内部から破壊することが可能。
搭乗機はガレスの改造機オハン
キャラ提供はkinonoさん

イメージ戦闘BGM
https://www.youtube.com/watch?v=DTCbqckx8vU

リオンテイルさん、誤字報告サンクス!


 スイスの第二IS学園の襲撃が始まる中、夜中である日本のIS学園襲撃も、予定より二時間遅れで始まろうとしていた。

 ルリの第四世代のISであるマギア・コリツェとその持ち主を乗せた輸送機が引き返せないくらいまで待っていたのだ。

 これは同志だけが知っており、当然のことながら二時間も待たされた早戸達は苛立っていた。

 

「もう二時間も待っているぞ! ここに来て怖気づいたか!?」

 

 早戸は苛立つテロリストたちを代表して、双眼鏡でIS学園の様子を見ている同志に文句を言う。これに同志は今がその時であると答え、宥めさせた。

 

「大丈夫だ。今、厄介な物が飛び去って行った。攻撃するのは今がチャンスだ」

 

「やっとか。もう既に準備ができている。一時間前に攻撃しようとする奴が居たのでな。抑えるのに苦労した」

 

「これも誤差の範囲内だ。さぁ、大義の為に攻撃だ」

 

「そうだな。では、その大義とやらをやることを皆に知らせに行く。それとお前との付き合いは、これっきりだ」

 

 攻撃を開始することを伝えれば、早戸は不満ながらも怒りを抑え、襲撃を知らせると言ってから、共闘はこれが最後であるとも告げた。

 同志もそのつもりである。無論、テロリストたちは強行偵察をやらされることは知らされていない。

 

「あぁ、私もだよ。同志知恵。後の大義の為に、他の者たちと同様に犠牲になって貰うぞ」

 

 知らせに行った早戸が声の聞こえない距離まで行けば、同志は後に行われる作戦の為の犠牲となれと呟き、襲撃の為に自分の機体がある倉庫まで向かった。

 

 

 

 一方で戦艦大和の撃沈に向かうルリは、輸送機の船内でISスーツに着替えている最中にこの世界の領主、エルネスティーヌ・アルゴンからの無線連絡があるとの知らせを受けた。

 着替えてから上着を羽織り、通信室まで行って彼女からの連絡に答える。

 

「代わりました。カポディストリアスです」

 

「はい」

 

『この世界の領主、エルネスティーヌ・リーディエット・ビルギット・アルゴンだ。貴殿が、あの古の戦艦大和の撃沈の命をおびた少女か?』

 

「はい、ルリです」

 

 通信手が出たと答えれば、ルリは受話器を持ってエルネスティーヌの声を聴く。本人かどうかを問えば、ルリは本人であると答えた。

 本人の確認が取れれば、エルネスティーヌは新しい指令を告げる。それは大和の撃沈ではなく、鹵獲命令であった。

 

『では、貴殿に新しい任務を伝える。大和は撃沈せず、鹵獲せよ。既に貴殿は撃沈命令を受けているが、私の権限で鹵獲に切り替えた。軍とIS委員会はISことVAの強さの為に撃沈に拘っているが、VAを前に屈服した戦艦でも十分に効果はある。貴殿は大和の戦闘力を奪えばいいのだ。あれを撃沈するのに、米海軍は五十機相当の艦載機を投入したも言える』

 

 変更の命令を受けたルリは少々困惑するが、エルネスティーヌは撃沈よりも戦闘力を奪うことが簡単であると説き、ISを前にして戦闘不能で屈服した方でも絵になるとも言う。

 事実、ルリのマギア・コリツェは大和を撃沈出来る程の火力は秘めていない。十基のビットによるオールレンジ攻撃であれば、大和の戦闘力を奪うことなど造作もないだろう。

 それに大和の造船方法は失われたままであり、実物とも言えるこの戦艦の出現は造船方法を解明するチャンスだと判断したのだ。無論、命令変更は船舶関連の団体からの要望からである。

 

『理由はあの戦艦の謎を解明したい。これは私ではなく、世界船舶連盟と言った団体からの要望だ。受け入れてくれるな?』

 

 団体からの要望であると明かした後、ルリに命令変更を受諾するかどうかを聞けば、彼女は応じると返事をした。

 

「うん。そっちの方が楽そうだし」

 

『助かる。軍は対艦装備を持ったVA連隊を派遣しようとしているが、それ等には貴殿の援護をやらせる。それと朝鮮半島の領民たちは大和が近付いてくることなど知らん。あの巨砲の射程距離に入り、その砲声が響き渡れば…どうなるか理解でいるな?』

 

 セルベリア・ブレスなる女性が指揮するワルキューレのVA連隊は援護に回すと告げ、朝鮮半島の避難は全く出来てないことを告げた。つまり、彼らは大和が自分たちを吹き飛ばそうとしていることを知らないのだ。大和の主砲の射程距離内に半島沿岸の都市や村が入る前に、決着を付けろと言うことだ。

 こう話している間にも、大和は半島に近付きつつあるので、射程距離内に入るまで決着をつける必要がある。時間との戦いだ。

 

『貴殿に無理な難題を申して済まない』

 

「分かった。頑張る」

 

『本当に済まぬ。では、頼んだぞ…!』

 

 無理な難題を頼んで謝罪するエルネスティーヌに、ルリは頑張ると答えれば、領主の女性は期待の言葉を掛けてから通信を切った。

 

「後で何かお礼して貰わないと」

 

 そう呟いてから、ルリは貨物室へと走った。急いで大和を止めるために。

 

 

 

 これが威力偵察だとは同志や十三騎士の派遣された四名以外しか知らず、襲撃を開始したテロリストたちは、荷台が大き過ぎる大型トラック二台でIS学園がある人工島に侵入しようとしていた。

 人工島へと続く連絡橋前の検問所で偽造された許可証を見せ、人工島に入り込んで内部で暴れる手順となっている。MSに乗っているオウギュストとガリーは、海中から侵入することになっている。

 襲撃は早戸が計画したIS学園襲撃を同志が下地にして、更に強力な物となっている。早戸は不満であったが。

 

「通って良し」

 

「夜分、ご苦労さんです」

 

 偽造許可証が見破られずに済んだことで、テロリストたちはIS学園内部に侵入することに成功した。

 内部で直接の破壊活動は、今まで受けたことが無いのか、それともIS学園を襲撃するテロリストが居ないと言う固定概念があったのか、碌に荷台も確認せずに検問の彼女らは通してしまった。

 

「島が騒がしくなったら、奴ら慌てふためくだろうな」

 

「どうやら、俺たちが最初のようだな」

 

 早戸は自分等を通した警備兵を見てほくそ笑み、ゲドラルドは自分たちが最初にIS学園を襲撃したテロリストであると呟く。

 彼らよりも前に幾度かIS学園は襲撃を受けているのだが、同志以外に彼らは知らない。彼らは最初にIS学園を襲撃した勇気あるテロ集団だと思っているようだ。蛮勇だと言うべきだが。

 だが、検問の兵士はただの馬鹿ではない。受け取った許可証が偽造の物だと分かり、直ぐに連絡を入れた。警報が鳴り響き、検問所に居た警備兵らは連絡橋を渡る大型トラックを撃ち始める。

 

「ちっ! 感付きやがったか!」

 

「なんでバレたんだい!?」

 

「勘の良い奴か優秀な認識装置があるようだな! 運転手、飛ばせ! RPGをぶち込まれるぞ!!」

 

 撃たれて自分の機体まで退避したゲドラルドが気付かれたと言えば、スカーフェイスはなぜ許可証が偽造だと気付いたのかと問う。その許可証の偽造は本物に近く、プロですら認識が困難な物だ。それに気付いたと言うことは、機械を使ったと言う事である。

 銃弾の次は対戦車ロケットが飛んでくることを予想した早戸は、運転手に学園本島まで飛ばすように叫ぶ。封鎖されるかもしれないのだ。

 この間にテロリストたちとギャルビンやクラフチェンコは自分の機体に乗り込み、起動させて本島を真っ直ぐに目指す。

 自分たちしか持って居ないはずのASやKMFを見たIS学園の守備隊は驚くが、直ぐに対戦車ロケットランチャーであるカールグスタフm3を用意し、対戦車徹甲弾を装填して撃ち込む。

 

『うわぁぁぁ! 熱い! 熱いぃぃぃ!? あぁぁぁ!!』

 

「馬鹿が! そいつは無敵のロボットじゃないんだ!!」

 

 一機のサベージが飛んでくるロケット弾を受け、一撃で大破した後に炎上してパイロットが悲鳴を上げる中、早戸はジグザグに動きながら向かえと指示を出し、ライフルや頭部機関砲を撃ちながら前進する。

 

「吹き飛べ!!」

 

 早戸と同じ機体に乗るゲドラルドは、重機関銃を備えた機関銃陣地に向けて機関砲クラスのライフルを撃ち込んで排除した。弾薬箱に当たったのか、凄まじい爆発を上げてかつては兵士だった肉塊が宙を舞う。

 

「アハハハ! 死ね! 死ねぇぇぇ!!」

 

 KMFの月下に乗るローザはその高速性を生かし、一気に島に上陸してロケット砲を準備している兵士らを機体のライフルで吹き飛ばす。KMFのライフルも機関砲レベルだ。当然ながら標的にされた人間は挽肉と化す。

 

『リーダー! 俺たちと同じのが!』

 

「連中も持って居たって事かい!」

 

 人型ASであるZy-98シャドウに乗るスカーフェイスは、サベージに乗る部下より自分たちと同じASやKMFを敵が投入したことを知らせた。ASはM6ブッシュマスターで、KMFはローザと同じ月下だ。軍事施設らしき場所がある方向よりやって来た。敵の倍返しの反撃によりテロリスト側の脱落する機体が続出する。

 部下を含めたテロリストたちが駆るASや旧式KMFが撃破される中、スカーフェイスは一機のM6をライフルで撃破した。だが、敵の数は増える一方であり、追い詰められていく。

 

「こうなれば、居住区に逃げて生徒を人質にするほかないな!」

 

 味方機が次々とやられていく中、早戸はこうなった時の予備の計画である生徒を人質に取ると言う手に出る。人質を取るため、生徒や職員、教師の寮がある居住区へと向かうように指示を出す。

 

「居住区へ向かえ! そこで人質を調達する!」

 

『何っ!? あたいはそれには反対だよ!』

 

「四の五の言っている場合か! さっきからあの同志やらロシア人、いけ好かないキツネ野郎が居ない上、上陸部隊も未だに姿を見せていない! 妙な感じがする!」

 

 人質を取る算段に出ると言えば、スカーフェイスは反対の声を上げる。彼女はそれに断固として拒否していたが、早戸は襲撃の開始と同時に姿を消した同志やギャルビン、クラフチェンコについて言及する。

 彼らは早戸の計画を利用し、IS学園の威力偵察を行っているのだ。同志とギャルビン、クラフチェンコの隊は軍事施設方面へと向かっている。

 

『そう言やぁあいつ等は何処に行きやがったんだ?』

 

『姿が見えないね。まさか逃げたり?』

 

『じゃあ、あたいらは何の為に!?』

 

 無線機より早戸の言及にゲドラルドとローザが反応すれば、スカーフェイスは何の為にこの学園に襲撃を仕掛けたのかと怒鳴る。ここで早戸は姿を見せない者たちが軍事施設方面へと向かったのをレーダーで確認する。

 

「ちっ、そう言うことか。ならば、俺たちは俺たちで勝手にやらせてもらおう」

 

『おい、なんだ? 説明しろ!』

 

「好きにやれって事だ! 居住区へ急げ!」

 

 早戸は何かあると睨み、同志のASであるゴブリンに発信機を仕掛けておいたのだ。読み通り同志等は軍事施設方面へと向かった。自分たちは囮にされたと早戸は気付いた。流石に威力偵察であると見抜けないが。

 ゲドラルドの説明を求める無線連絡に、早戸は好き勝手にやれと言って居住区へと向かうように急かした。直ぐに島中にサイレンが鳴り響き、出て来るASやKMFが増える。それに合わせてか、オウギュストとガリーのMS隊が島に上陸し、学園の守備隊を混乱させる。

 

「も、MS!? バルキリーと戦術機を要請して!」

 

 オウギュストのドライセンとガリーのゾノ、その他である複数のドライセンにリーオーを見た指揮官は、無線兵に戦術機部隊を要請するように命じた。

 上陸したオウギュストとガリーのMS部隊は、自分らを見て右往左往するASやKMFの守備隊を攻撃し始める。これにより守備隊が混乱する中、これに乗じて早戸らは移住区に辿り着くことに成功した。

 

『連中、居住区へ向かったぞ』

 

「予想通りだ。同志フォックス、同志クラフチェンコ、我々はここの威力偵察を行う」

 

『了解した。暫くは持ちこたえるだろう』

 

 専用ATシルバーフォックスに乗るギャルビンが早戸を始めとしたテロリストたちが居住区へ向かったと言えば、同志は予定通りであると答え、Zy-98シャドウに乗るクラフチェンコと共に威力偵察を行う。

 軍事施設の防衛は周辺施設とは比べ程にならないほど固く、随伴しているクラフチェンコの部下が乗るASが次々と撃破されていく。同じく威力偵察を行う為に上陸したMS隊の被害も増えていた。

 

「流石に見られては困るか」

 

『抵抗が激しい! 次へ移動だ!!』

 

 味方機の残骸に隠れた同志は凄まじい抵抗を行ってくる守備隊に何かあると睨む中、オウギュストは被害が大きかったのか、別の方へと移動し始めた。無線機より彼の声が聞こえて来る。

 別の場所で威力偵察を行うギャルビンは、向かってきた月下を左手に持つ火器で仕留めた。仕留められた月下は脱出装置が作動し、背後の壁に射出されたコクピットブロックがぶつかって地面に落ちる。コクピットブロックよりパイロットが出て来て逃げ出そうとするが、ギャルビンは逃すことなく脱出した彼女をATの右手で捕まえた。そのまま握り潰そうと言うのだ。

 

「は、離して!」

 

「フフフ…!」

 

 必死に抵抗する女性パイロットを掴む右手を徐々に強める操作をするギャルビンは、紛れもないサディストであった。生前もバトリングと呼ばれるATを使った試合で、敗北した選手を今のように握り潰すと言うパフォーマンスで観客を沸かせた事がある。苦痛に歪む相手の顔がそれほど堪らないのか、彼は蘇ったこの世界でもそれを行っているのだ。

 

「がっ…! グぅ…!? あぁ…」

 

 胴体を強く握られた彼女は、血を吐きながらそのまま息絶えた。これにギャルビンは大変満足であり、身に着けたゴーグルより見える女性の死に顔を眺めていた。

 

「まぁ、女ならこの程度で死ぬか。さて、任務にっ!?」

 

 死亡した女性パイロットを見て、前の男の選手の事を思い出していたギャルビンであったが、背後が疎かになっていたのか、背後から接近してきたグロースターのランスに貫かれて死亡した。

 

「後ろが疎かだぜ、銀色野郎」

 

 爆発寸前のスコープドックより素早くランスを引き抜き、距離を取ったグロースターに乗る騎士、ディアス・プラフォードは基地内で威力偵察を行う同志等の迎撃に向かった。

 このディアスは壊し屋の異名を持ち、元々はヴィンセントに乗っていたが、荒い操縦で何度も壊してしまい、仕舞には上官より取り上げられてしまった経緯を持っている。だが、代わりに乗っているグロースターは彼に合っており、元より地上戦が得意なので適切とも言える。

 

「グロースターだと!? アガサ騎士団が常駐したと言うのか!」

 

 体格で勝るリーオーをグロースターで倒したディアスの腕前を見たガリーはIS学園にアガサ騎士団が常駐していたことに驚きつつ、搭乗しているゾノのビーム砲で自分に向かってくるそのグロースターの迎撃に移った。

 

「ゾノか。当たらんぜ!」

 

『ちっ! 友軍機が! 間が悪い!!』

 

 無数に飛んでくるビームを躱しつつ、ディアスは二機のZy-29に向かう。友軍機が居ることを確認したガリーは、直ぐにビームを撃つのを止めた。この間にディアスはランスで一機を串刺しにし、もう一機を素早く抜いた剣で切り裂いて撃破する。

 

「フン、やられたか! 吹き飛ばして…うっ!? なんだこの頭痛のような不快感は!? 頭が…痛い!!」

 

 邪魔が居なくなったところで、ガリーは再びビームを撃とうとしたが、頭痛のような不快感を受け、更には本物の頭痛まで来て操縦どころではなくなる。

 その攻撃を行ったのは、KMFのガレスを防御特化に改造し、音響兵器オハンを装備したオハンに乗る騎士、ニコライ・パニュークであった。

 彼の機体は防衛戦と敵陣突破に適しており、脳を持つ全ての生物に頭痛のような不快感を与える音波兵器を装備しており、効果範囲を狭ければ狭いほどに効果は増す。その威力は敵機を内部から破壊する程である。

 

『よーし、一気に接近して内部から破壊してしまえ!』

 

「了解! オハン、出力増強!」

 

 通常のガレスに乗る隊長より指示を受けたニコライはオハンの出力を高め、ガリーが乗るゾノを内部から破壊しようとする。

 

「グワァァァ! 頭がァ! 頭がァァァ!! ワァァァ!!」

 

 音響攻撃を集中されたガリーは、苦しみながら機体と共に運命を共にした。

 

「ギャルビンとガリーがやられたのか!? まさかアガサ騎士団が常駐していたとは!」

 

『まさか騎士団が居たとは。だが、計画に支障はない』

 

 迎撃の為に出て来た戦術機のF-15Jを撃破したドライセンに乗るオウギュストは、ギャルビンとガリーがやられたのを見て、アガサ騎士団が居たことに驚いていた。同志はその情報を手に入れていなかったようだが、この想定外には備えており、威力偵察を続行する。

 

『うわぁぁぁ!』

 

『上空より戦術機複数! それにバルキリーも!?』

 

「もう半分か。それにバルキリーのお出ましか。だが、まだ肝心なところが!」

 

 その間にも威力偵察を行う友軍機は撃破されて続け、更にはバルキリーまで来たので、味方の被害は拡大する。だが、肝心な場所のデータは取れていないので、同志は乗機のゴブリンを巧みに動かしながら威力偵察を行う。

 別の方を偵察しているクラフチェンコも、生前に行っていた荒事や特殊作戦の経験でASを動かしながら威力偵察を行っていたが、ディアスやニコライの妨害を受け、余り情報は入手出来ていないようだ。

 

『うぇ!?』

 

「戦闘機動車か!」

 

 一方で居住区へ向かい、そこで人質を取ろうとしていた早戸達テロリスト組はようやく辿り着いた物の、戦車レベルの砲塔を搭載した装甲車二両に阻まれていた。

 戦闘機動車はASを破壊するだけの火力を備えており、移動しながらの攻撃で三機のサベージを撃破した。これに早戸やゲドラルドはライフルを撃って一両を撃破する。残り一両はローザーが乗る月下が高速移動しながら近付き、手にしている刀で切り裂いて撃破した。

 

「本当に人質を取るのかい?」

 

『当たり前だ! もう俺たちには子の手しかないんだからな!』

 

「条件がある。誰も殺すな、犯すなだ!」

 

『俺は善処するが、他の連中が応じるとは思わんがな!』

 

 本当に人質を取るのかと、スカーフェイスは接近してきた守備隊の月下を高周波ナイフを突き刺して撃破してから早戸に問う。この問いに早戸はそれしかないと答え、スカーフェイスは人質の生徒や職員、教師を殺さず、それも強姦しないなら応じると告げる。

 だが、ゲドラルドやローザ、その他諸々のテロリストたちがスカーフェイスの条件に応じるとは思えない。それを早戸はカールグスタフm3を持って自分らを攻撃しようとしてくる対戦車兵を殺しながらスカーフェイスに伝える。

 

「そう。なら、殺すさ」

 

『おいおい、無駄に戦力を減らすなよ』

 

 スカーフェイスも分かっていることだ。ならば殺すまでだと早戸に言えば、彼は不快な声色で戦力を無駄に減らすなと注意した。そんな時に早戸が乗るサベージが、居住区にある生徒用の寮から高速で出て来たISに撃破される。

 

『なにっ!? うわぁぁぁ!!』

 

「リーダー!? うわっ!?」

 

 驚きの声を上げる早戸のサベージを撃破したのは、唯一ISを動かせる男性である織斑一夏が乗る第三世代IS「白式」であった。唯一の白式の武装である雪片弐型に斬られたにも関わらず、早戸は死んでいなかったが、リーダー格を失ったテロリストたちは混乱し、続けて現れたラウラ・ボーデヴィッヒの専用IS「シュヴァルツェア・レーゲン」の大型レールカノンで二機ほどが撃破された。

 

『ISだ! ISが出て来たぞ!!』

 

『ISがなんだ! こっちはロボットがあるんだ! ぶっ潰してやる!』

 

『引っぺがして犯してやる!!』

 

「馬鹿! ASじゃISに勝てない!!」

 

 ISを見たテロリストたちはASがあれば勝てると思い、スカーフェイスの静止の声も聞かずに無謀にも挑んでいった。ASは場所を選ばない二足歩行型兵器であるが、戦車や戦闘ヘリ、戦闘機には勝てない。場合によっては歩兵のロケットランチャーですらやられる可能性がある。先ほどのテロリストたちがそうであったが、今の彼らはそれが分かっていなかった。

 セシリア・オルコットのブルーティアーズや鳳鈴音(ファン・リンイン)甲龍(こうりゅう)、シャルロット・デュノアのラファールリヴァイブ・カスタムⅡと言った専用機持ちたちが出てくる中、テロリストたちは勝てると思って挑み、そして返り討ちに遭う。

 一機はブルーティアーズのスターライトmkⅢの狙撃でやられ、もう一機は龍咆(りゅうほう)と呼ばれる衝撃砲で吹き飛ばされ、ラファールリヴァイブ・カスタムⅡのガルムと呼ばれるアサルトカノンで撃破される。

 

『うわっ!?』

 

『何故だ!? なぜ勝てないんだ!?』

 

 彼らはASをISに勝てる兵器だと思っていたようだ。早戸の部下たちはそれを理解し、ISが出て来た瞬間に逃げていたが、他のテロリストたちはサベージや安価なASのスペックを理解しておらず、ISに勝てる兵器だと思ってこの襲撃に参加したようだ。

 KMFに乗っている者たちも同様であり、第三世代KMFであるグラスゴーに乗っていた者たちは、続けて現れた篠ノ之箒の第四世代ISの紅椿の雨月(あまつき)から放たれるレーザー攻撃で複数が戦闘不能に追いやられる。

 ゲドラルドもISに勝てると思っていたようだが、次々にやられる味方を見て勝てないと判断し、外道な手段を取る。

 

「畜生、ISに勝てるんじゃねぇのか! なら、この手を使うまでよ!」

 

 彼がとった行動とは、破壊されたASやKMFより脱出した仲間を盾に取ることであった。ISの操縦者たちは人を殺したことが無いと思っており、ゲドラルドが一人のテロリストを掴んで彼らに見せ付ければ、一夏たちは攻撃を止めた。人を殺してしまうと思っているからだ。

 

「面白いね! じゃあ僕もその手で行こうかなァ!」

 

 背後より追撃を掛けて来る守備隊と戦っていたローザも、ゲドラルドが取った卑劣な行動は憎きISを倒せる手段と判断し、機体を棄てて逃げ出した仲間を掴んでISが居る方へと向かった。

 当然、その行動は仲間からの反感を買う。それを見たスカーフェイスは激怒し、ゲドラルドとローザを撃破しようとライフルを向けた。

 

「あいつ等!」

 

『リーダー、上!』

 

「っ!?」

 

 処断することは敵わず、上空より現れたバルキリーであるVF-11Cサンダーボルトのガンポッドによる機銃掃射を受け、スカーフェイスは反撃する間もなく戦死した。バルキリーのがんポッドより放たれた弾頭は装甲を容易く貫き、それを受けたスカーフェイスは息絶え、操縦者が息絶えたZy-98は糸が切れた人形のようにその場に倒れ込む。

 

『リーダー!? リーダー!!』

 

「わぁぁぁ!?」

 

 リーダーを喪ったスカーフェイスの部下たちは彼女の死を悲しむ暇もなく上空のバルキリー隊の機銃掃射やミサイル攻撃で次々と撃破され、やがては殲滅された。




前回、登場した第二学園の方々は次で戦闘する予定です。


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ゴットアーマー

キュラソー
第二IS学園に通う南アフリカ国籍の女子生徒。人目に隠れてマリファナを吸っている。
専用ISブラックウィドウは空戦と電子戦特化型ISで、その機動性は第四世代を超えるとも言える。ただし、その分武装が貧弱である。
乗機は第二世代IS ブラックウィドウ
キャラ提供は黒鷹商会組合さん


 スイスの第二IS学園のみならず、日本のIS学園の襲撃も行われる中、戦艦大和撃沈命令ではなく、鹵獲命令を受けたルリは、上海より発進したセルベリア・ブレス率いるVA連隊と合流し、朝鮮半島へ向かう大和を阻止しに向かう。

 

「フン、出て来るのはテメリアかガリアの雑魚ばかりか」

 

 大和を防御するザムザザーに乗るアリアスは撃沈に向かってくるのがアガサ騎士団ではなく、協力しているテメリアやガリアの部隊ばかりと呟く中、レーダーに新たな反応が映る。

 ルリのマギア・コリツェとセルベリア・ブレスのVA連隊だ。特殊なレーダーを使っているので、直ぐにアリアスは本物とアガサ騎士団製のコアを見分ける。

 

「この反応…!? 大部分は模造品だが、その中に本物の反応がある! 来たか! 総員、対VA戦闘用意!! 本物は大和と戦わせるために追い込め!」

 

 本物の反応がルリのマギア・コリツェと分かれば、アリアスは指揮下の部隊に指示を飛ばした。

 これに合わせ、大和周辺で戦闘を行っていた艦上戦闘機のシーキックやナイキックと呼ばれる可変戦闘機、SV-52可変戦闘機などが散会して向かってくるVA連隊の対処に当たる。

 対するセルベリア・ブレス率いるVA連隊は第三世代ISに当たるダヌム・アルゴンのワルキューレ仕様であるノルドだ。セルベリアはドライ・シュテルンと呼ばれる改良型に乗っている。

 先に突っ込んだシーキックが次々と撃破される中、ルリのマギア・コリツェとセルベリアのドライ・シュテルンが突破してくるのが見える。

 何機かのシーキックやナイキックが撃破されて行き、SV-52はファイター形態からガウォーク形態へと変形を取り、ガンポッドで迎撃するも、ルリのマギア・コリツェのビットで撃破される。

 

「あの純正、サイコミュを搭載しているのか!? 下手に接近するな! 紛い物を省くだけで良い! 奴は大和に向かわせれば良いんだ!」

 

 続けざまにバトロイド形態へ変形し、ビットに夢中になったSV-52がマギア・コリツェのサブマシンガンで撃破されれば、アリアスは配下の部隊にルリの相手はするなと指示を飛ばす。

 この時、邪魔な雑魚を片付けたセルベリアは自分のVAが持つ騎兵用の槍を取り出し、それを大和へ向けて撃とうとしたが、気付いたアリアスは直ぐにザムサザーの防衛装置を使う。

 

「っ!? 電子リフレクターシールド展開!」

 

「何故です?」

 

「良いから黙ってやれ!」

 

 部下たちは気付いておらず、何故やるのかと問えば、アリアスが怒号を飛ばせば従ってザムザザーを前掲状態にして陽電子リフレクタービームシールドを展開させた。

 

「沈め!」

 

 アリアスの予定通り、ドライ・シュテルンの槍から強力なビーム砲が放たれ、射線上に居たレダニア軍の機動兵器は次々と撃破されていく。

 やがてビームが大和に向かって飛んでいけば、直ぐにリフレクターシールドを展開しているザムザザーが防御し、大和の撃沈を防いだ。

 

「こんなことで、沈められれば意味は無いからな」

 

『た、助かった…!』

 

「安心している場合か! 純正のISの相手に集中しろ!」

 

『ぜ、全部の敵機を引き受けてくれるんじゃ…』

 

「バカ者が! 女から世界を取り戻したければ、我々に頼らないでお前たちだけでやれ! その戦艦が何のためにある!?」

 

 助かった大和の乗員たちは安心しきる中、アリアスが喝を飛ばした。これに乗員たちは応じ、ルリのマギア・コリツェに集中し始める。

 

「ちっ、厄介な!」

 

「戦艦どうする?」

 

「済まないが、お前だけでやるしかない。他は多数の敵機の相手で手一杯だ。あの怪物は私が引き受ける。お前は任務を全うしろ」

 

「うん」

 

 アリアスの目論見通り、ルリは戦艦大和を戦闘不能にすべく、高速で接近する。セルベリアは自分もそれに加わるつもりであったが、ザムザザーが居るのでその対処をしなくてはならない。

 ルリのISが大和に向かう中、アリアスは自分のザムザザーに接近してくるセルベリアのドライ・シュテルンに備えた。

 

「本物は大和に行ったか。では、我々は模造品の相手だ!」

 

 狙い通りにルリが大和の方へ行けば、アリアスはセルベリアの対処に当たった。

 

 

 

 時間は遡り、神矢のゴッドアーミーによるスイスの第二IS学園襲撃が行われる直前まで戻る。人目のない場所でマリファナを吸おうとしていた南アフリカ国籍の学生であるキュラソーは、学園内に響く敵襲を知らせるサイレンで吸おうとしていたマリファナを捨て、自分の専用ISブラックウィドウを纏った。

 分類としては第二世代に当たるブラックウィンドウであるが、機動性は第四世代ISより勝る。しかし機体性能に振り分けた所為か、武器は量子化できていない。手にしているIS用アサルトライフルとミサイルが武器だ。航空支配と電子支配と言う空戦と電子戦特化型のISであるため、戦闘には不向きである。

 急いで飛び出したキュラソーであったが、既にゴッドアーミーのGAが学園に到着し、避難中の生徒たちに襲い掛かろうとしていた。

 

「ちっ、なんでこんな場所に!」

 

 このスイスの山奥にある学園を襲撃する謎の勢力に対し、キュラソーは狂人が乗るGAと交戦を始める。

 

「俺は転生者だァ! 最強の主人公だァ! 神様から貰った能力だァ!!」

 

「こいつ、何言ってんの!?」

 

 狂ったように自分を主人公だと思っているGAの操縦者に、キュラソーは困惑しつつもライフルで攻撃する。向こうもISと同じシールドを保持しているのか、当たった弾では落ちなかった。

 

「シールド持ち!? あれもISなの!?」

 

「神から選ばれた俺は最強だァ! 死ねぇぇぇ!!」

 

 シールドがあることに驚くキュラソーのブラックウィドウに、GAの操縦者は突撃してくる。そんな突撃を行うGAに、自分の専用ISのザ・カーニバルを纏ったマデリーヌ・ランスが両手のダブルガトリングガンと胸部ガトリングガンによる一斉掃射を行う。

 凄まじい弾幕であり、火力ではISを勝るGAとは言え、防御面においては恐ろしくISより劣るためにシールドの残量はあっという間に底をついて操縦者は蜂の巣となった。

 

「オエアァァァ!? 俺は最強、なの…に…」

 

「大丈夫ですか? 南アフリカの人!」

 

「凄い火力、助かったわ」

 

「さぁ、久々にぶっ放せる機会だ! ヒャッホー!!」

 

 キュラソーが礼を言えば、マデリーヌはこの機に乗じて日頃の鬱憤を晴らすために背中の高射砲にミサイルを続々とやって来るGAに向けて乱射し始める。

 

「単一仕様能力の兵器庫があるから、弾は問題なーし! いぇやァァァ!!」

 

「そんなに乱射しないで! こっちに当たるって!」

 

 景気良く派手に撃ちまくるマデリーヌに対し、専用IS「メダル・オブ・オナー」を纏うメリア・パターソンは注意する。その後でM1918 BARに似たライフルを回転しながら笑いながら突っ込んでくるGAに撃ち続ける。

 

「ウエハッハッハッ! 犯すぅ! 女犯すぅぅぅ!!」

 

「この下品な奴! 死ねぇ!!」

 

「ごえっ!? うぅ…」

 

 何十発も撃ち続ければ、GAのシールド残量は切れて搭乗者は蜂の巣となって死んだ。操縦者を失ったGAは落下していく。

 

「死んだ…私が殺した…!? でも、まだ来る!」

 

 ここで初めて人を殺めたメリアは吐き気を覚えたが、敵はまだ来るので、M1A1バズーカに似たロケットランチャーを取り出し、笑い声を上げながら突っ込んでくるGAの迎撃に当たる。

 GAは核エネルギーで動いているため、下手をすれば核爆発させる可能性がある。他の者にGAを対処させているキュラソーは、機体の電子戦装備を使って見抜いた。

 

「あのIS見たいなの、核で動いてるじゃない!? 全機に通達! 下手に破壊しないで操縦者だけを殺して!」

 

 直ぐにこの場で戦う全ての専用機持ちやISを纏う者たちに告げれば、それに応じてGAの操縦者に攻撃を集中する。

 だが、その大半は人を殺めたことのない少女たちだ。人を殺すのに抵抗を覚えている。だが、GAを核爆発させずに無力化するのは、シールドを破って操縦者を無力化するしかない。

 

「核で動いとるって!? しかも操縦者を殺せ!? 気絶させるだけで、済まへんかな!」

 

 セシリアと同じブルーティアーズを専用機とするアリアチェール・ハルパニアは奇妙な関西弁で驚きつつ、殺さずに済むかどうか、試しに原型機から四基増設されたビットを使い、レーザーとミサイルによる攻撃でシールドを削り取り、持って居るライフルの銃座で操縦者を殴って気絶させた。

 操縦者が昏倒したGAは機能を停止したかの如く落下していく。この手を思い付いたアリアチェールは直ぐにこの場で戦っている者たちに殺す必要は無いと告げた。

 

「全機に通達しまっせ! 殺す必要はないんや! シールド削り取って、気絶させるだけでええねん!」

 

「なら、近接戦闘で済む!」

 

 それを聞いたクランティ・ヴィングは、自分の専用IS「チャマック・ターラー」が得意としている近接戦闘で死を恐れずに突っ込んでくるGAを叩き始める。両腕に搭載された腕部攻撃補助武装のウルカ・フィンド、所謂パイルバンカーで迫りくるGAに左腕のを打ち込んだ後、右腕の二発目を打ち込んで操縦者を気絶させる。

 次にランス型の武器であるチャンディーカ・ブハラを取り、それを次に突っ込んできたGAに打ち込んでシールドを解除させ、左手のパイルバンカーを打ち込んで操縦者を気絶させる。

 

「うひゃひゃひゃ! 女だァ! 女ァァァ!!」

 

「ちっ、笑い方が怖いのよ!」

 

 笑い声を上げながら突っ込んでくるGAの操縦者に、専用IS「カーミラ」を纏うクリスティーナ・ヴィンツェルは巨大な十字剣を叩き込み、シールドを削り取って左手に持った騎兵槍の柄を打ち込んで操縦者を気絶させた。その次に電磁ワイヤーを他のISに掴み掛ろうとしたGAに打ち込み、電流で操縦者を気絶させる。

 一方でシュヴァルツェ・ハーゼ所属のヴィルヘルミナ・アーベントロートは、左腕のガトリング砲でシールドを削り取った後、右腕の固定型エネルギーブレード「シュトースツァーン」で操縦者を切り裂いてGAを無力化した。続けてシュタール・ハーゲルと呼ばれる大型クレイモアを取り出し、それでGAとの戦闘を再開する。

 

「流石は専用機持ちだな! クソっ!」

 

 一方で第二世代ISの打鉄を纏って戦闘を行う阿賀野漣は苦戦を強いられており、狂人が纏うGAから繰り出される攻撃を躱すのに精一杯であった。そんな彼女を助けるべく、キュラソーは精密射撃を行ってGAのシールドを削った後、とどめのミサイルを撃ち込んで撃破した。

 

「助かった!」

 

「先生、そのISじゃ多分勝てないと思うよ」

 

「そうかい。でも、逃げられないんだ。特に生徒を放って先にな」

 

 礼を言う漣に対し、キュラソーは第二世代の打鉄じゃ勝てないと言う。だが、漣は教師なので例え不利だとしても、生徒を放って逃げるわけには行かないと答え、苦戦している専用ISを纏う生徒を助けに行く。

 最初のGAによる攻撃で学園内に居た軍の部隊の半数がやられたが、専用機を持つ生徒たちの加勢のおかげかどうにか持ち堪えている。キュラソーのブラックウィンドウによる電子戦の成果もあり、核で動くGAを一機も爆破させずに無力化出来ている。続々とやって来る増援にもその情報を伝えているので、学園の防衛戦を突破したGAを全て排除できそうだ。

 

「学園内に辿り着いたGA隊、損害多数! このままでは全滅します!」

 

「クソっ、なんでパクリ如きにやられるんだ!? この神が作ったのが本物なんだぞ!」

 

 GAこそが本物で、ISが偽物であると思っている神矢は防衛戦を突破して学園内に突入したGA隊が壊滅状態の報を聞き、苛立ちを覚え始める。

 現在、第二IS学園守備隊の防衛線はスコープドックの改良型を中心としたゴッドアーミーと十三騎士の一人であるインゲ・リーマン率いるレッドショルダーの連合部隊を何とか足止めしている状況だ。その隙を付かれてか、ATより危険であるGAに突破され、学園内に侵入を許してしまっている。何とか対処している守備隊であるが、GAの対処に向かわせたバルキリーや戦術機は呆気なく撃破され、学園内への侵入を食い止められない。

 だが、量産タイプのGAの防御力の低いこともあり、学園の戦力で何とか対処できている。それにアガサ騎士団やワルキューレの基地も近い事もあり、増援も続々と来ている。逆に攻め込んだゴットアーミーは損害を増やすばかりだ。

 後の作戦のことを考え、無駄な損耗を控えるためにゴットアーミーを指揮するカーネルは神矢に撤退を進言する。

 

「神よ、敵は次々と増援が来ており、このままでは包囲されます! リーマンの隊が撤退の許可を求めております! ここは戦力のことを考え、撤退を…」

 

「馬鹿が! 神の軍隊だぞ!? この神にクソ(あま)どもに背中を見せて退けというのか貴様は!?」

 

「ですが…」

 

「なら、ラースを投入する! 奴のクレイジーパワーは頂点に達している! 奴らなら専用機持ちとは言え、圧倒できる!!」

 

 撤退の進言を跳ね除けた神矢は虎の子のラースを投入することを決定した。ラースはISを自分の総てを奪った元凶と思っており、出撃を待っている。カーネルは次の攻勢に備えて彼を温存しておきたかったが、神の神矢の言う事を聞かねばならぬと判断し、その意向に従う。

 尚、クレイジーパワーとは、GAの性能を高めるパワーの事である、操縦者の狂気度でGAは更なる狂暴性を増すのだ。つまり、恐ろしく狂った者がGAを纏えば、味方からも恐れられる狂戦士(バーサーカー)となるのだ。

 

「はっ! 直ちにラースを投入します!!」

 

「そうだ! この神の作った鎧が、あの紛い物のISを撃ち滅ぼすのだ!!」

 

 神矢の意向通りに出撃したラースは、周囲の敵を無視して真っ直ぐに第二IS学園を目指す。自分の総てを奪ったISとその関係者たちを抹殺しに…。

 

 

 

「伝令! 伝令!!」

 

 北欧のブナ屋敷で攻撃目的の情報収集を兼ねた茶会を行っているシャオリー・カーンの元に、伝令の騎士が慌ただしく訪れた。慌ただしくドアを開け、シャオリーの元へ向かう伝令の騎士を見たメイドたちは驚き、呼び止めることなく彼を茶会の会場までの侵入を許してしまう。

 

「何事です?」

 

 ドレス姿で高価な椅子に腰かけ、紅茶をスコール・ミューゼルと呼ばれる女性と楽しんでいるシャオリーは、慌ただしく入って来た伝令の騎士に何事かと問う。向かい側の席に座るスコールは、隣に立つロングヘアのオータムを無言で止める。

 茶会を邪魔した伝令の騎士は片膝を床に付け、頭を下げて謝罪しつつ、シャオリーからの赦しの言葉が来るまで待つ。

 

「おっ、ご婦人方、これは失礼を!」

 

「何ですか、申してみなさい」

 

「あぁ、これは。一大事でございまする。お聞きくだされ!」

 

 赦しの言葉が来れば、伝令は神矢らゴットアーミーによるシベリアの収容所の襲撃から日本海における戦艦大和の出現、討伐に向かったルリ不在を狙ったIS学園の襲撃、スイスの第二IS学園の襲撃の報をシャオリーに知らせた。

 

「では、作戦を…」

 

「それには及びませぬ。最初のシベリア収容所襲撃は既に敵は立ち去った後でありましたが、スイスに姿を現し、現在掃討中であります。日本海における戦艦大和はカポディストリアス殿が対処に当たり、現在の所は圧勝です。日本のIS学園は敵の数が思ったより少ないのか、決着が着きましょう。第二IS学園も掃討戦に移行しつつあります」

 

「なるほど。三か所の襲撃は現状の戦力で対処ができ、作戦に支障は無いと言う事ですね。では、なぜ知らせたので?」

 

「ガーランド卿の指示でございます。ガーランド卿自らが対処に当たると申され、作戦参加の隊から戦力を割く必要は無いとの事です」

 

 その報を聞いたシャオリーは作戦を中断しようとしたが、伝令はそれらの対処は現状の戦力で可能だと答えた。次になぜ知らせたのかとシャオリーが問えば、伝令は自分に報告を命じたミッチェル・ガーランドが対処に当たるから作戦を中止するなと答える。

 

「ガーランド卿が対処に当たるのですか。なら安心はできますが…」

 

「カーン殿、安心なされよ。ガーランド卿はZZが無いとはいえ、最高性能のKMFであるランスロットに騎乗なされました。事態は収束に向かいつつあります。カーン殿は作戦に全力で取り組んでくだされ」

 

「そうですか、なら、頼みましたよ」

 

 もしもの対処を考えようとするシャオリーに対し、伝令はミッチェルを信頼しろと告げれば、彼女は領主の同期を信頼した。

 

「では、自分はこれにて失礼!」

 

 立ち上がった騎士はシャオリーに向けて頭を下げ、そのままブナ屋敷を後にする。伝令の騎士が立ち去った後、シャオリーは席に戻って茶会を再開した。

 

 

 

 もうじき戦闘が終わると思われた第二IS学園であったが、ラースの投入により状況が一変した。

 最初はまた狂人が乗ったGAだと思っていたが、そのGAを纏う老人は他の狂人とは別格であり、挑んだ増援のVA「ダヌム・アルゴン」三機が一瞬にして撃破された。

 

「嘘…?」

 

「あ、ISが一瞬で…!?」

 

 ISはIS以外に破壊できない。そう思っていたISの適正者たちであったが、ラースのGAはその常識を覆した。ラースのISに対する憎悪となりふり構わぬ狂気度で強化されたGAは、向かったアガサ騎士団のVAを容易く引き裂いたのだ。

 

「ISは…破壊する…! その関係者は…全て抹殺だ…! 俺の総てを奪ったISは…! ISは…!!」

 

 目前に見えるVAを含む全てのISを憎むラースは、手近に居たメリアのメダル・オブ・オナーに襲い掛かる。

 余りの速い攻撃であるが、生徒に標的を定めたラースに気付いた漣はメリアを守るために高速機動で彼女のメダル・オブ・オナーを突き飛ばした。突き飛ばされたメリアは何が何だか分からなかったが、漣の血が顔に付着してようやく理解する。

 

「せ、先生…?」

 

「こいつは危ない…! 逃げるんだ…!」

 

 ラースの繰り出した絶対防御を貫通するナイフに突き刺された漣は、全員に向けてこの老人が纏うGAから逃げるように告げる。これに一部を除くISを纏っている者たちがラースから逃げるように行動を始める。

 自分を見て逃げるISにラースは次の標的として定め、殺そうとするが、教師の言う事を聞かない専用機持ちたちは立ち向かう。

 漣に助けられたメリアは礼なのか、ナイフを突き刺しているラースに閃光弾を装填したバズーカを撃ち込んで目晦ましを行った後、怯んでいる隙に漣を抱えて離脱した。その次にマデリーヌを始めとした専用機持ちたちは一斉攻撃を行う。

 

「逃がさんぞ! ISぅ!!」

 

「メリアが逃げるまで一斉射撃! ファイヤー、ファイヤー!!」

 

 マデリーヌの指示の元、追撃を掛けるラースに向け、専用機持ち全員が一斉攻撃を行った。近接戦闘武装しか持って居ないクリスティーナとクランティは、重傷を負った漣を抱えるメリアの援護に回る。

 

「やった?」

 

 他の専用機持ちを含め、マデリーヌやヴィルヘルミナと共にラースを射撃武器で攻撃していたアリアチェールはこの攻撃で倒れたと思っていたが、標的にしていたGAは無傷であった。

 あの一個師団規模の火力を耐えたラースのGAは、クレイジーバリアと呼ばれる狂気度によって発現されるISで言えば絶対防御で守られており、無傷であった老人のGAは周囲の第三世代ISを瞬きする間に戦闘不能にし、マデリーヌやヴィルヘルミナ、アリアチェールのISすら一瞬で倒す。

 

「な、何が起きて…!?」

 

 戦闘不能にされたが、他のISを含めて絶対防御で助かったマデリーヌは何が起こったのか理解できずにいた。そんな彼女のザ・カーニバルを完全に破壊して殺そうと怒りと狂気に駆られたラースが近付く中、クリスティーナの第三世代ISであるカーミラが止めに入る。

 

「この鮮血の処女(ブラッディ・メイデン)で、吸い尽くしてやる!!」

 

 カーミラの肩と腰の装甲に収納されている四本の隠し腕から真紅の水晶体を作り出し、そこにラースを閉じ込めてエネルギーを吸い尽くそうとしたが、その単一仕様能力は欠点が多すぎた。あっさりと避けられ、強烈な蹴りを頭に受けて地面に叩き付けられて昏倒する。

 クリスティーナがやられる中、彼女にとどめを刺させない為にクランティがラースに挑んだ。インドの第三世代ISの接近に気付いたラースは攻撃を避けるが、それはクランティのフェイントであった。

 

「貰ったっ!!」

 

 左腕のウルカ・フィンドのパイルバンカーをラースに向けて撃ち込んだのだ。躱せない距離から撃ち込んだため、ラースは避け切れず、クレイジーバリアが何故か発動せずに生身の胴体に受けてしまった。

 

「死んだ?」

 

 致し方なく殺したと思ったクランティであったが、狂気度でラースは全く痛みを感じておらず、倍返しの拳をチャマック・ターラーに打ち込んで彼女を戦闘不能に陥れた。

 

「たった八分で十数機の第三世代が…」

 

「さっきの狂人とは違い過ぎる…!? あのジジイが本命なの!?」

 

 数十分前で出現し、たった一機で状況を一変させたラースのGAは第二IS学園の各国家が誇る専用機持ち達を戦慄させた。

 

「ISぅ…! 全て、全て抹殺だァ…! 貴様ら全員、貴様ら全員皆殺しだァ!!」

 

 自分を恐怖の目で見るISの搭乗者らに対し、ラースは怒りと憎しみ、そして狂気が入り混じった表情を浮かべながら襲い掛かった。




次で大和と決着を付けさせ、IS学園の戦闘を終わらせ、第二も終わらせて行こうかな。


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決着はまだ…

決着ですが、まだ終わりではありません。

リオンテイルさん、誤字報告サンクス。


 スイスの第二IS学園での戦闘で投入されたラースは状況を一変させ、ゴットアーミーを優勢に戻した。

 それと同時刻、戦艦大和無力化の為、日本海へと向かったルリは自身の専用IS「マギア・コリツェ」のビット攻撃を駆使し、大和の戦闘力を奪っていた。

 例えISとは言え、四個師団以上の砲撃力を誇る主砲である46センチ砲を受ければ一溜りも無いが、それが全く当たることなく撃てない距離まで接近され、こうして一方的にやられているのだ。

 

「しゅ、主砲が! 46センチ砲が全て!?」

 

「ほぼ全ての兵装がやられてる!? 駄目だぁ! 勝てない!!」

 

 現代に蘇った大和を艦橋で指揮する艦長は、マギア・コリツェの十基のビットで次々と破壊される兵装を見て改めてISには勝てないと痛感していた。他の乗組員たちもそれを見ており、戦意を喪失して冷たい日本海に飛び込む者が続出している。

 その光景はセルベリアのドライ・シュテルンを抑えていたザムザザーに乗るアリアスにも見えており、大和が叶わぬと分かれば逃げ出す彼らに怒りを覚える。

 

「大和、想定よりも早く戦闘不能となっております!」

 

「えぇい、貴様らそれでも日本男児か!? 船を置いて逃げ出すなど!!」

 

 砲手からの知らせで、大和から逃げ出す船員たちを見て怒りを覚えるアリアスは、戦闘指揮を取りつつ空いている配下の部隊に敵前逃亡者を処断するように告げる。

 

「アリアスだ! 予備部隊、出撃しろ! 戦闘を行う前に海に飛び込んだ敵前逃亡者共を銃殺するのだ!」

 

『はっ!』

 

「全く、まさかこんなにも碌に抵抗が出来ないとは。やはり時代遅れの戦艦だ。予定を早め、離脱する他ないな」

 

 予備部隊を出撃させ、敵前逃亡者を抹殺するように指示した後、予定より早く撤退する他ないと周りを見て判断した。

 熟練の指揮官が予定を早める程、ルリのマギア・コリツェの戦闘力が高過ぎたのだ。それにフリゲートやミサイル駆逐艦を始めとしたイージス艦が集まって来ており、これ以上この海域に留まっていれば包囲殲滅される可能性もある。それを踏まえての判断だ。

 大和の艦長とも言える人物が、逃げ出そうとする船員たちを押し退けながら自分だけ助かろうとする姿を見て、もう大和は戦えぬと判断する。

 

「船員よりも先に船長が逃げ出すとは、碌な子孫に恵まれんかったなあの船は」

 

 艦長が海に飛び込んだところで、予備部隊が到着。予備部隊はSV-52を中心に編成されており、アリアスの指示通りにルリのマギア・コリツェを無視して陸地まで泳いで逃げようとする大和の乗員らを射殺し始める。

 

「えっ、何やって…」

 

『構うな! お前は大和を無力化しろ!』

 

「えっと…うん!」

 

 目前で海に飛び込んだ乗員らがレダニア軍のバルキリーによって射殺されていく中、ルリは助けようとしたが、アリアスのザムザザーと交戦しているセルベリアは大和を優先しろと告げ、彼女は言われた通りに大和の無力化を行う。

 

『止めろ! 止めてくれぇ!!』

 

『嫌だ! こんなの聞いてない! うわぁぁぁ!!』

 

「あの人たち、可哀想」

 

 大和の甲板に降り立った後、レダニア軍によって虐殺される脱出した乗員たちを見て、ルリは可哀想と呟く。

 この大和が戦闘可能状態であった頃は、半島の住人たちを虐殺せんとしていたが、今ではその力を幼気な少女が操るISに奪われ、哀れにも自分らに力をくれた者たちによって虐殺されている。

 その影響か、海は真っ赤に染まっていた。大和によって撃沈された後、虐殺された軍や民間問わずの船舶の船員たち、止めに入ったテメリア・ガリア軍部隊の将兵、それと交戦したレダニア軍の将兵、最後に大和より逃げ出し、味方であるはずのレダニア軍に虐殺された乗員たちの血が赤に染め上げたのだ。

 

『生存者、掃討完了!』

 

「よくやった。そろそろ頃合いか。信号弾発射! 全部隊に通達、直ちに当海域より離脱せよ!」

 

 大和より逃げ出した全員の始末を終えた部隊より報告を聞けば、アリアスは全部隊に交戦を止めて直ちに撤退するように指示を出した。

 撤退を知らせる信号弾がザムザザーより発射されれば、VAと交戦していたレダニア軍は撤退を開始する。セルベリアのドライ・シュテルンと交戦していたアリアスも、自身が殿となりながら後退する。

 

「撤退したか」

 

「追います?」

 

「いや、良い。それより大和はどうなっている?」

 

 撤退する敵部隊をセルベリアは追跡せず、大和の制圧に向かったルリにまだ抵抗する者が居るかどうかを問う。

 

『残っている人はいるけど、みんな敵意は無いみたい』

 

「そうか。では、海軍の部隊が来るまでこの場で待機だ。艦内に爆弾が仕掛けられている可能性があるからな」

 

 ルリより大和は制圧したも同然であるとの返答が来れば、セルベリアはこの海域の確保を配下の部隊に命じた。

 こうして、日本海における戦艦大和はISとVAによって制圧された。

 大和に乗っていた者たちは、対艦巨砲主義の復活と旧来の男性権威主義の復活に燃え、ISを男の象徴たる戦艦大和で打倒しようと試みたが、逆に世界中に醜態を晒した。

 如何に大艦巨砲主義が時代遅れの思考であるかを露呈し、更にはISの戦闘力の高さを知らしめてしまう。

 ISで前大戦の最強の戦艦を倒し、その戦闘力の高さを世に知らしめたい者たちの思惑通りの結果で終わった。

 

 

 

「卑怯だぞ!」

 

「助けてくれ!!」

 

『馬鹿が! 卑怯もくそもあるか! これが戦争って物よ!!」

 

 一方、ルリのマギア・コリツェ不在でテロリストたちの襲撃を受けていた日本のIS学園では、テロリストたちは制圧されつつあった。

 劣勢と判断したサベージに乗るゲドラルドは、一夏たちが人殺しが出来ないと睨み、脱出するために乗機より脱出した仲間のテロリストを左手で掴み、盾にしながら逃げようとしていた。

 

「仲間を人質に? 馬鹿め! そんな手が私たちに通じるはずが…」

 

「待てラウラ! 人が死ぬ!」

 

「テロリストだぞ! 死んで同然だ!」

 

 ラウラは撃とうとしていたが、人が死ぬのが我慢ならない一夏が止めた。ラウラは軍人であるので人を撃つことに躊躇いも無いが、軍人ではない一夏たちには人を撃てない。シャルロットは震えた手でライフルを構えたまま、引き金を引けないでいる。

 

『はっはっはっ! ほらっ! 撃ってごらんよ! この人も死ぬことになるけどね!!』

 

「うわぁぁぁ! 嫌だ! 死にたくない!!」

 

「なんて卑劣な! お前に人の心はあるのか!?」

 

 箒とセシリアと交戦しているローザも、乗機の月下の左手に仲間を掴んで盾にしており、人を殺すことに抵抗を覚える彼女らを煽っている。そんな手段を使って心が痛まないのかと問う箒に、ローザは右手に持った機関銃を撃ちながら答える。

 

『人の心がある? そんな物、当に捨てたさ! 君が脱いで僕の所に来たら、この人を解放してあげても良いかな~? あっはっはっはっ!』

 

「くぅ…! なんて下品な!」

 

「人質さえ居なければ、あんな奴には!」

 

 下品な答えで返してくるローザに、箒はあの人質さえ居なければ紅椿で容易く倒せると悔しがる。

 既に残っているのはゲドラルドのサベージとローザの月下であるが、両者が取った生身の仲間を盾にすると言う手段で攻撃できずにいる。

 

「よし、この区画のデータを収集する。データの解析を…」

 

『た、隊長…!』

 

「っ!? 警戒しろ!」

 

 ゲドラルドとローザが一夏たち相手に踏ん張る中、Zy-98に乗るクラフチェンコの隊は軍事施設内のある区画に侵入し、データ収集を図ろうとしたが、僚機のサベージが謎の攻撃によって行動不能になった。

 直ぐにデータ収集を止め、各機が警戒すれば、謎の攻撃を行った正体、更識楯無(さらしき・たてなし)専用機で第三世代型ISであるミステリアス・レイディが姿を現す。

 

「データ照合、ミステリアス・レイディか」

 

「あら、見たことも無いロボットにロシア人? 向こうの人たちは助けに行かなくって?」

 

 データを照合してミステリアス・レイディと確認すれば、楯無はクラフチェンコにゲドラルドたちを助けに行かないのかと問う。

 

「フン、現地の連中は使い捨てだ。助ける義理は無い」

 

「酷い人たち。情報通りね。なら、遠慮なしに!」

 

 クラフチェンコは助ける義理は無いと答えれば、楯無は遠慮なしにナノ・マシンで出来た水による攻撃を始めた。機体の単一仕様能力超広範囲指定型空間拘束結界である「沈む床」を発動し、周辺に居た敵機を拘束する。データを見ていたクラフチェンコは自分だけ飛び、その拘束結界より抜け出して反撃を行う。

 

『き、機体が!? 隊長!!』

 

「データは見ている。単一仕様能力とやらだな?」

 

「自分だけ逃げるなんて。本当に酷い人ね」

 

「何とでも言え。お喋りしている暇があればな!」

 

 回避行動を取る楯無が挑発する中、クラフチェンコは執拗な攻撃を続ける。その流れ弾が味方機に当たっているが、クラフチェンコは気にせずに周りを気遣いながら戦う楯無を攻撃する。

 

『うわぁぁぁ!? 隊長! 自分らがまだ居ります! 攻撃を止めてください!!』

 

「なんて酷い人、味方とか関係ないのかしら?」

 

「お姉ちゃん!」

 

「簪? 気を付けて! こいつ、仲間ごとやるわ!」

 

「分かった!」

 

 攻撃を躱しながら反撃する楯無の元に、第三世代型ISの専用機である打鉄弐式を纏った更識簪(さらしき・かんざし)が駆け付けた。楯無の妹である。駆け付けた簪は機体の背中の連射型荷電粒子砲で追い払った後、姉からの警告を聞く。二機の第三世代ISが来たところで、分が悪いと判断したクラフチェンコは撤退を判断する。

 

「ちっ、第三世代が二機も! 分が悪すぎる! だが、十分なデータは収集した! 撤退する!」

 

 撤退を判断したクラフチェンコは拘束されている部下を見捨て、閃光弾を発射して更識姉妹の目を潰した。その間にクラフチェンコは施設から脱出し、脱出ポイントまで急ぐ。

 

「この、逃がさない!」

 

「待ちなさい! 無理をすることは無いわ。後は軍人さんたちにやって貰いましょう」

 

 逃げるクラフチェンコに簪は機体最大の武装である四十八発ものミサイルを発射する山嵐を使おうとしたが、楯無に止められた。

 学園内に忍び込んだテロリストたちが千冬や守備隊の者たちに倒されるか囚われていく中、軍事施設の外の情報を集めているMS隊の被害も馬鹿にならなくなり、紫色の戦術機である武御雷と交戦していたドライセンに乗るオウギュストは、機体の右腕を長刀で斬られたところで退き時であると判断する。

 

「クソっ、あの紫色、強過ぎるぞ! もう偵察なんぞ出来るか! 撤退する!」

 

 僚機も殆どが落とされており、最後は自分だけになるのは御免だと判断したオウギュストは斬りかかって来る武御雷に目晦ましの攻撃をした後に、合流ポイントを目指して撤退した。

 これに続いて、残っているMS隊も撤退を始める。随伴していた部下を全て失いながらも威力偵察を行っていた同志のゴブリンは、ディアスのグロースターとニコライのガレス・オハンを始めとするKMF部隊に追い詰められていた。

 

「もう私だけか」

 

『そうだ! 観念しろ!』

 

『後はお前だけだぜ!』

 

 壁際に追い詰められ、左腕を破壊された同志のゴブリンは投降を呼びかけるディアスとニコライの言葉を聞かず、残った右手にあるライフルで抵抗したが、避けられた。

 

『ちっ、無駄に抵抗するんじゃねぇ! ぶっ殺すぞ!?』

 

「くっ、脱出も不可能。もうここまでのようだ…」

 

 ライフルの弾丸を躱したディアスはランスでゴブリンの右腕を刺し、戦闘力を奪った。ニコライは音響兵器であるオハンをいつでも作動させられるように待機し、他のサザーランドやヴィンセントを始めとするKMF隊は射撃兵装を構えて待機している。

 

「だが、既にデータは収集した…! 大義の為、このデータを新たな私に託す…!」

 

 追い詰められた同志は脱出は不可能と判断し、IS学園の軍事施設のデータが入ったカプセルを脱出ポイントに向かった味方に向けて放ち、自爆装置を起動させた。

 

「っ! 何か飛ばしたぞ!?」

 

『野郎、この期に及んでまだ!』

 

 ニコライが同志のゴブリンがカプセルを飛ばしたのを確認すれば、ディアスはとどめを刺そうとする。だが、ニコライは同志が自爆を狙っていると分かり、直ぐに下がるようにこの場に居る全員に告げた。

 

「俺の後ろに隠れろ! 奴は自爆を狙っている!」

 

『なにっ!?』

 

 大盾と重装甲のガレスに乗る騎士が叫べば、ディアスと他のKMFは同志のゴブリンより離れた。十分に離れられないKMFは、大盾を構えたガレス・オハンの後ろに向かう。ディアスのグロースターも一緒である。

 数秒後に同志のゴブリンは自爆し、周辺を爆風が襲う。追い詰めたアガサ騎士団のKMF隊はニコライが気付いたことにより、関節に異常が出る程度で済んだ。

 同志も居なくなったテロリスト、もう戦っていると言えばゲドラルドとローザくらいであり、未だに一夏たちと交戦を続けている。

 この間にATのダイビングビートルで編成されたゴットアーミーの少数部隊が上陸しており、早戸を含めた回収できる限りの戦闘で負傷したテロリストたちを回収していた。

 

「まだ戦闘を行っている者が居りますが」

 

「時期にやられる。俺たちはそれの回収だ」

 

 潜水艇にテロリストたちを乗せる部下からゲドラルドとローザはどうするのかという問いに、部隊長はいずれやられるので、それから回収すると答えた。その言葉通り、ジェーンが乗るジムⅢのビームライフルによる狙撃を受けてゲドラルドのサベージの両足が破壊される。

 

「うぉ!?」

 

 両足が破壊されたところで機体はバランスを崩して倒れ、、ゲドラルドは思わず叫んで盾にしていたテロリストを手放してしまった。続けて高速で動き回るローザの月下の足を、ジェーンは狙撃してバランスを崩させる。

 

「ぐっ!? クソぉ!!」

 

 ローザも同じく盾にしていたテロリストを離したが、まだ抵抗しようとしていた。ゲドラルドも同じであったが、急行していたバレットM99対物ライフルを装備した狙撃班による狙撃で戦闘不能に追い込まれる。

 まだ諦めることなく、二名は機体から脱出して逃げ出そうとする。

 

「くそっ、機体が!」

 

「クソっ、クソクソクソ! こんなところで終わってたまるか!!」

 

 脱出した二名はAKS-74u突撃銃を持って逃げ出そうとするも、狙撃班による狙撃でゲドラルドは足を吹き飛ばされ、ローザは右腕を吹き飛ばされる。それを見計らってか、ゴットアーミーの回収班は狙撃対策として煙幕を張りながら回収に向かう。

 狙撃で呆けていた一夏たちも確保に向かおうとするが、回収部隊が同時に閃光弾を放ったために目晦ましを受け、ゲドラルドとローザは回収されてしまう。

 

「クソっ、逃げられた!」

 

 煙幕を巻かれながらも追跡したが、煙を晴れる頃には回収部隊に逃げられた後であった。ジムⅢのコクピット内で、ジェーンは逃げられたことを悔しがる。

 かくして、IS学園の襲撃は防衛側の勝利で終わった。だが、IS学園を守るアガサ騎士団は知らない。これがメイソン騎士団による威力偵察であると言う事を。

 

 

 

 日本のIS学園の戦いも終わる頃、スイスの第二IS学園の戦闘は終わりそうになかった。GAを纏ったラースの所為である。

 世界中が誇る実力者たちが集う第二IS学園の守りは固く、代表候補生として在籍している生徒たちも圧倒的な強さを誇っていた為、並の人間が纏ったGAは無力化されるばかりであった。これに神矢は自分の最高傑作であるGAを、自分の盗用であるISに倒されるのが我慢ならないのか、最高の適正者であるラースを投入したのだ。

 結果は第二IS学園の代表候補生たちを圧倒し、状況を一変させた。これに神矢は大変ご満足であり、ラースのGAに搭載されたカメラを見て興奮する。

 

「良いぞ! そのまま引き裂け! ぶち殺すんだ!!」

 

 興奮する神矢であったが、カーネルは後の作戦に備えてか、ラースが注意を引いている間に撤収すると告げる。

 

「神よ、後の作戦の為にここは撤収いたしましょう。ラースが注意を引いている間に」

 

「なに? もう少しで勝てると言うのに。ちっ、分かったよ。ラースをあいつらにぶつけることができなくて残念だな」

 

 カーネルからの提案に神矢は不満気であったものの、後の作戦を楽しむことにし、撤収に応じた。

 ゴットアーミーの撤収の為に囮にされ、見捨てられたとは知らずに未だに戦っていたラースは、戦闘に復帰して自分に挑んできたメリアのメダル・オブ・オナーを返り討ちにする。

 

「きゃっ!?」

 

 吹き飛ばされ、地面に叩き付けられたメリアは吐血し、気を失いそうになる。そんなメリアにとどめを刺そうとラースが急接近したが、キュラソーのブラックウィドウに邪魔をされる。

 ミサイルやライフルによる牽制であるが、ラースのGAのバリアによって封じられ、標的が一気にキュラソーに代わる。凄まじい勢いで迫って来るラースに対し、キュラソーはライフルを撃ちながら高速で後退するも、敵は速過ぎた。

 

「嘘でしょ!?」

 

「ISぅぅぅ!!」

 

 叫びながら怯まずに接近してくるラースに、キュラソーは思わず射撃を止め、老人が纏うGAが放つ打撃を受けた。ブラックウィドウの絶対防御は働いたが、着用者のダメージは軽減できず、強い打撃を受けて血を吐いた。

 キュラソーにもう戦闘力が無いと判断してか、ラースは第二IS学園を破壊しようと迫る。

 

「来たっ!?」

 

「撃て! 近付けるな!!」

 

 向かってくるラースに対し、学園を守備する兵士たちは手にしているライフルで撃ちまくる。無駄ではあるが、それでも女性兵士たちは学園の教師や職員、生徒たちを守るために戦う。まだ避難していない教師や職員、生徒が居るのだ。命を懸けて怒りに囚われたラースに挑む。

 

「まだ、避難が終わって…ない!」

 

 そんな彼女らを守るため、キュラソーは学園に向かうラースに再び挑んだ。理由は学園を守る兵士たちと同じだ。

 学園に向かうラースは近い距離に居た足を挫いた生徒を抱えて必死に走る職員に標的を定め、叫びながら突っ込む。兵士たちがそれを妨害しようとライフルを撃つが、バリアの所為で全く意味がない。

 

「ISに関わる者すべてが敵だァァァ!!」

 

「それは止めなさいよ!」

 

 もはや見境が無いラースにキュラソーはブラックウィドウの機動力を生かして急接近し、ISを纏っていない生徒を抱える職員に対する攻撃を妨害した。だが、それが彼女の最期であった。

 邪魔をしたキュラソーに怒りを覚えたラースは、手刀で彼女の腹に貫いた。その手刀は弾丸のように速く、GAの火力の高さも相まって絶対防御を貫通してキュラソーまで達したのだ。腹を貫かれたキュラソーの目から徐々に生気が無くなり、武器を持つ手が緩んで手放してしまう。

 

「こんな…最期だ…なんて…!」

 

 素早く手刀を引き抜かれたキュラソーは、最期の言葉を言いながら息絶えた。その後、キュラソーを殺したラースは固まっている生徒を抱えた職員に目を向け、殺そうと視線を向ける。

 殺すためにラースは殺そうと生徒を庇う職員に手刀を放とうとしたが、KMFのランスロット・エアキャヴァルディーに乗ったミッチェル・ガーランドがようやくの所で到着する。メーザーバイブレーションソードでラースの手刀を防いだ。

 

「意思は引き継ごう。VA乗りよ」

 

「貴様ァ…何者だァ…!?」

 

「私はアガサ騎士団に属する騎士、ミッチェル・ガーランドだ。ご老体、いくらVAが憎いとはいえ、見境が無さ過ぎるぞ」

 

 キュラソーの意思を引き継いで職員と生徒を庇ったミッチェルは、何者かと問うラースに対して自己紹介を始める。ミッチェルは幾らISが憎いとはいえ、ISの関係者だからと言って殺しにかかるラースを咎める。これにラースは怒りを覚え、ミッチェルのランスロットに襲い掛かる。

 

「貴様もISの関係者か! 殺してやるっ!!」

 

「ぬぅ、なんだこのパワーは!? あのアーマーには何が搭載されている!?」

 

 恐ろしい速さで迫るラースに防戦一方となる。ミッチェルはGAを知らないのだ。救援に駆け付けて早々にあっという間に左腕を捥がれ、殺されそうになる。

 

「うぉ!?」

 

「貴様も死ねぇぇぇ!!」

 

「死ぬわけには行かん!」

 

 乗機の左腕を引き千切り、全力で殺しにかかるラースにミッチェルが剣を振るって応戦するも、GAはそれを避けて執拗に攻撃してくる。

 

「しまった!?」

 

「グアァァァ!!」

 

 剣の刀身を折り、手刀で貫かんとしてくるラースにミッチェルは死を覚悟したが、MSのジムⅢが彼のGAを捕まえた。

 

「ラッセル・アドラーか!?」

 

『この老人の処理は、情報畑の俺に任せてもらおう!』

 

 ラースを捕まえたジムⅢに乗るのは、顔の右側に大きな傷があるサングラスを掛けた男、ラッセル・アドラーであった。彼の願いで同行とジムⅢの搭乗を許したミッチェルは命拾いをした。アドラーはラースについて知っており、それで彼と対抗するつもりのようだ。

 

「ついて来て良かったよ。シベリアの収容所が襲われ、そこを襲った連中がスイス学園を襲撃したとなれば、この老人を出してくる可能性は高かったからな!」

 

 暴れ回るラースを必死に操縦桿を動かして抑えつつ、アドラーはラースに対して真実を伝える。

 

「聞け! 俺も人のことは言えんが、爺さんよ! その危険なアーマーを渡した奴があんたの仇だ!!」

 

 この言葉にラースはアドラーが戯言をほざいていると思ってジムⅢの両手を破壊し、コクピットのハッチをこじ開けて乗っているアドラーを殺そうとしたが、彼は怯えることなく自分の頭に叩き込んだ真実を伝える。

 

「うぅ…! お前の娘夫婦を殺したのは白騎士事件の流れ弾じゃない…佐奇森神矢だ! あんたの娘さんの旦那は奴の助士だったんだ。ゴットアーマーとか言う危険な代物が採用されなくなったのは、娘さんの旦那が学会に知らせたおかげだ。その所為で神矢はぶちキレ、娘夫婦さんを乗っていた飛行機ごと吹っ飛ばしちまったがな!」

 

 娘夫婦を殺した正体は神矢であると分かったラースは、アドラーを殺そうとしていた手を止めた。敵が止めたところで、アドラーは更にラースに真実を話す。

 自分の残された妻と家を焼いたのは女尊男卑主義者では無く、自分を利用しようとした神矢の仕業であることなどを、そしてそれすら忘れていることも告げる。

 

「これが真実だよ、ラース。奴のことだ、もうそんなことは忘れているだろう。どうする、俺を殺して奴の道具のままでいるか? それとも…?」

 

 真実を更に突き付けるためにアドラーは、懐に仕舞っていた資料をラースに見せる。これを見たラースは正気にでも戻ったのか、固まったままアドラーが見せた資料を見て真実であることを確かめる。

 もう一押しなのか、アドラーはラースに向けて自分を殺して神矢の道具のままでいるか、逆に自分を散々利用した挙句に捨て駒にした神矢を殺すかどうかを問う。

 思わず死を覚悟するアドラーであったが、怒りが別の所に向いたラースは前者を選択してこの場を立ち去った。

 命懸けの賭けに勝ったアドラーは安心してシートに横たわる。真実を告げても、嘘だと思って殺される可能性があったからだ。そんな彼の元にランスロットに乗ったミッチェルが来る。

 

「どういう魔法を使ったんだ?」

 

「なに、調べ上げた情報だよ。奴に話したのは全部真実だ。おたく等は伝えなかったのか?」

 

「…私は管轄外だ」

 

 ミッチェルはどういう魔法でラースを退けたのかと問えば、アドラーは煙草を咥えながら調べ上げた真実の情報を伝えただけであると答えた。火を点けて一服し、紫煙を吐いてから何故その情報をラースに伝えなかったのかを問う。

 この世界のことはミッチェルにとって管轄外であり、彼が知らないと答えれば、アドラーはそうだったと納得して再び一服する。

 

「そうだった、お前さんはこの世界ことはまだ知らなかったな。いや、済まない。悪いのは収容所の奴らだ。奴らがあの事実を伝えていれば、ラースは神矢の道具にはならなかった」

 

 納得して一服しつつ、あの真実を伝えなかったこの世界の騎士たちが悪かったと口にする。あの真実を伝えておけば、神矢の誘いを断っていた所であり、真の仇である彼に一矢報いたはずだ。

 そうであれば、第二IS学園の被害は軽く済むか無く、キュラソーは死なずに済んだだろう。だが、今さら思ったところで、キュラソーは帰ってこない。タイムマシンでもない限り、真実を変えられないのだ。

 

「追跡すべきか?」

 

「いや、また敵襲があるかもしれない。警戒すべきだ。それにラースを信じておけ」

 

 一服しているアドラーに、ミッチェルは追跡すべきかどうかを問えば、サングラスの工作員は敵襲を警戒して追跡するなと告げた。

 第二IS学園を襲撃するのは、ゴットアーミーだけでは無いのだ。それに真実を知ったラースが仕損じるとは思えないとアドラーは信じている。彼の言葉に応じ、ミッチェルは復讐に燃えるラースが神矢を討ち取ることを信じて警戒に当たった。




今回は黒鷹商会組合さんご提供のキュラソーが戦死です。次回でラースも戦死予定。


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流星作戦発動

セラエル・ドリーデ
作戦終了後に、お見合い相手と結婚の予定を控えている女騎士。
乗機はレギンレイズ
キャラ提供は秋音色の空さん

済まんがチョコは無い。


 殺そうとしていたアドラーより真実を告げられ、真の仇である神矢を殺すために拠点に撤収するゴットアーミーをラースは追跡する。

 自分等が撤退する為に置いてきたラースが追ってくることに気付いたカーネルは、主である神矢に伝えることなく撃破を命じる。

 

「ラース、我が方を追跡してきます!」

 

「気でも狂い過ぎたか? GA一個分隊で始末しろ!」

 

 この指示に応じてゴットアーミー、それも元レッドベレー隊員が纏うGA一機と狂人四名が追跡するラースの始末に向かう。

 

「ラース! 今すぐ戻れ! 戻らねば殺すぞ!!」

 

 特製ヌンチャクを持った分隊長が警告したが、ラースは聞かずに本当の仇である神矢を殺しに向かう。警告を聞かなかったため、分隊長は命令通りにラースを僚機と共に殺しに掛かる。

 

「どうやら呆けたようだな! やれぃ!!」

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

 分隊長の指示通りにGA四機がラースを殺しにかかったが、あっさりと返り討ちにされてしまう。断末魔を上げて四機のGAがバラバラにされる中、分隊長は特製ヌンチャクでラースに挑む。

 

「たわばっ!?」

 

「クソっ…! 俺の特製ヌンチャクを食らえぃ!!」

 

 ヌンチャクを急接近してくるラースに向けて振るったが、避けられて顔面に手刀を突き刺され、断末魔を上げて死亡する。

 

「ぐえ!?」

 

 向かってきた五機のGAを撃破したラースは、一気に防衛線を突破して神矢の元に辿り着く。当の神矢は動揺するどころか、回収部隊に命じて回収させら早戸やゲドラルド、ローザがGAに適正に値するかどうかを調べていた。

 

「貴様か…! 俺の、俺の総てを奪ったのは…!?」

 

 朦朧とする意識の中で、狂気に抗いながらラースは神矢に自分の娘やその夫、妻や孫を殺したのはお前なのかと調べ回る神矢に問い詰める。隣に居るゴットアーミーの面々はいつでもラースを殺せるように構えを見せ、マッド軍曹と呼ばれる大男はGAを纏う。

 ラースに凄まじい殺意を向けられているにも関わらず、神矢はあろうことか何のことだか分からないと答える。

 

「何の話かさっぱり分からないな。お前は神の戦士なのだ。戦士は神の言う通りにしていればいい」

 

「…何!?」

 

「総てを奪った? はて、何のことやら…」

 

「とぼけるな! 俺の、俺の娘とその夫を癇癪で殺し! 挙句に俺を利用するために、妻と孫を焼き殺したんだろ!?」

 

 アドラーより聞いた真実を問うラースに対し、神矢はため息をつきながら知らないと再度告げる。

 

「はぁ、だから知らないな。お前は騙されてるんじゃないのか? この神が、お前に嘘を付くはずが…」

 

 知らないと答え、挙句にアドラーに騙されていると逆に問えば、自分の総てを奪った根源にラースは我慢できずに襲い掛かる。

 神を守るため、GAを纏ったカーネルやマッド軍曹らが止めに入る。だが、怒りでパワーアップしているラースに弾かれるばかりだ。

 

「貴様ァ…! 何処まで人を弄べば気が済む!?」

 

「人を弄ぶ? おいおい、私は神だぞ? 人の生殺与奪を持って居るんだ。人をどうこうしようが、私の勝手だ」

 

 神矢に近付いたラースは何処まで人を弄べば気が済むと怒り心頭に問えば、当の神を自称する科学者は憐れむ気持ちも無いどころか、自分に歯向かうお前が悪いと言わんばかりな態度で答える。

 そんな神矢を殺そうと手刀を振るおうとするが、ここに来て間が悪いことに神を自称する科学者はラースの娘の夫のことを思い出した。

 

「思い出したぞ。あんた、あいつの妻の親父だな? 名前は忘れたが同然の報いだ。なんたってこの神の作り出した神聖たる兵器を侮辱したからな! 学会にチクらなければ死なずに済んだ物を。こうなったのも全部おたくの娘さんの旦那の所為だからな! 恨むのは筋違いだぞ!」

 

 GAの危険性を学会に知らせることなく、そのままなら神矢は助手である彼を殺すことは無く、ラースの娘も死なずに済んだと言い、挙句に恨むのはその夫であると告げる。余りにも身勝手だ。助手がGAの危険性を知らせていなければ、地球は地獄よりも恐ろしいことになり、彼の判断は正しかったのだが、自分の最高傑作を不採用にされた事が神矢にとっては屈辱だったようだ。

 身勝手な言い分を続ける神矢に、怒りの余りラースは遂に我を失い、彼を全力で殺そうと手刀を放つ。

 

「もう我慢ならん! 俺と一緒に死ねぇぇぇ!!」

 

「フン、この神に逆らうか。なら、神罰を下そう!」

 

 全力で殺しにかかるラースに神矢は動じることなく、自分を殺しに来るGAに向けて指を鳴らした。すると、ラースのGAは見る見るうちに塵となっていく。ラースは自分の身体を見て、塵になっていくことが分かり、動揺を覚えて攻撃を止める。

 

「おぉ…!? おぉぉ…!」

 

「教えてくれよ。自分が塵になっていく様を」

 

 身体が徐々に塵となっていき、全く動けないなったラースは両手を見て動揺する中、神矢は身体が塵になっていく感想を聞くために、わざわざ近付いて視線を合わせながら問う。

 目前で興味津々に聞いてくる神矢に対し、身体が塵となる前にラースは殺そうとするが、その手は届くことは永遠に無い。もうじき塵となって消えるからだ。

 

「おっと、喋れないんだったな。この神に逆らわなければ、塵にならずに済んだ物を。全く、これほど適性率の高い奴はそう居ないが…おっと、三人居たんだったな」

 

 徐々に消えるラースを見て、神矢はGAに高い適正率を誇る人間を失うことを残念がるが、日本のIS学園を襲撃していた三名のテロリストの事を思い出す。

 早戸、ゲドラルド、ローザのことだ。襲撃前に調べており、その三名がGAに高い適正率を出していた。つまり老人のラースは不要と言う事である。それを神矢はラースに告げる。

 

「つまり用済みなんだよ、爺さん。逆らわなければ、死ぬまで使ってやった物を。全く、愛やら何やらとか言うのが邪魔なんだよ。さて、貴重なデータをありがとな」

 

 身体が塵となろうとも、以前に自分を睨み付けて来るラースに向け、神矢は貴重なデータをくれたことに感謝しつつ立ち上がり、三名をどう自分の手駒にするかどうかの検討を始めた。

 その数秒後、ラースは完全に塵となり、この世から消滅した。

 

 

 

 翌日、襲撃の件があったにも関わらず、流星作戦は予定通りに決行された。

 事前に南米大陸に接近していた作戦参加の艦隊は反乱分子が潜んでいるとされる拠点に攻撃を敢行し、上陸部隊を展開させる。陸からも進軍が開始されており、完全に拠点を包囲している。

 その作戦参加の艦隊の中に、シャオリーが乗艦しているペガサス級強襲揚陸艦「ブルーベース」もあり、そこから彼女が指揮を執っていた。次々と部隊が上陸していく中、敵も少しは抵抗しなければならないと判断してか、迎撃部隊を展開させて来る。

 

「予定通り、対空陣地を破壊します。敵陣地に向け、艦砲射撃開始!」

 

「全艦隊、艦砲射撃開始!」

 

 艦隊の上で飛んでいるブルーベースより、シャオリーは艦砲射撃を命じれば、真下の艦隊は主砲にロケット、ミサイルなどを発射して上陸部隊を支援する。

 敵迎撃部隊はこの艦砲射撃で壊滅状態に居たり、アガサ騎士団とそれに協力する部隊で編成された上陸部隊は殆どの抵抗を受けずに上陸することに成功した。

 

「上陸部隊、無事上陸成功! 橋頭保を確保しました!」

 

「では、対空ならび砲撃陣地の破壊を! もうじき、宇宙より友軍が降下してきますよ!」

 

「はっ!」

 

 部隊が上陸して橋頭保を築いたことを知らせれば、シャオリーは予定通りに宇宙から降下してくる部隊の為、対空陣地の破壊を命じた。

 

 

 

『全機、八分以内に発艦せよ!』

 

 流星作戦の為、衛星軌道上付近に集結した降下部隊を搭載した艦隊は、南米に降下させる部隊の発艦を急いでいた。

 作戦参加の艦艇の一つであるネェル・アーガマ級やアーガマ級強襲揚陸艦など、機動兵器を搭載できる艦艇より続々と大気圏再突入用装備を身に着けたMSが発艦していく。護衛機はその装備を身に着けず、周囲を警戒している。

 

「セラエル・ドリーデ、出撃します!」

 

 大気圏再突入用のグライダーに乗ったレギンレイズに乗るセラエル・ドリーデと呼ばれる女性騎士は、管制官に出撃すると言ってから母艦より出撃した。ユウ・アオバやジョン・セイバーも同型のレギンレイズに乗っており、グライダーに乗って出撃している。KMFは降下艇に搭載されており、地球の降下地点を目指して前進している。

 一番目立つ機体に乗る騎士が編隊の中心となり、自分の家紋を目印としてビームフラッグで上げ、集結の中心になるように無線で指示を出す。随伴している宇宙軍のシュラク隊も、そのビームフラッグを目印に集結しつつあった。

 

『降下部隊、我が家紋の元に集結せよ!』

 

 ビームフラッグを上げる目立つ機体に乗るのは、ガリア・バーリライトのグレイズ・リッターだ。アガサ騎士団の青であり、彼の性格上なのか、かなり目立つ色合いだ。

 

「予定通りだな。敵の襲撃も…」

 

『六時方向より敵艦隊確認! 各機、警戒しろ!』

 

「来たな! 赤い殺人鬼どもめ!!」

 

 順調に編隊の集結が進むが、これをメイソン騎士団が見過ごすはずがない。直ぐに降下部隊の集結を妨害する艦隊を送り込んでくる。艦隊旗艦であるネェル・アーガマ級強襲揚陸艦からメイソン騎士団の宇宙艦隊の出現の報を聞いたガリアは、その方向へカメラを向ける。

 映像に映ったのは、ドゴス・ギア級宇宙戦艦「モーリック」号を旗艦としたメイソン騎士団の主力宇宙艦隊だ。現れて早々にアガサ騎士団の宇宙艦隊と交戦を開始し、艦載機を素早く展開してくる。だが、一番大きいドロス級宇宙空母が居らず、それに何隻か居ない。

 艦載機の幾つかはアガサ騎士団と協力する宇宙軍の機甲師団「シュラク」と同じく大気圏再突入用装備を施しており、降下部隊を追撃するつもりだ。

 敵も同じ大気圏再突入用装備をしていることに気付いた護衛部隊は突破させないように攻撃を集中するが、敵もそれを予想してか、友軍降下部隊から敵を守る為に攻撃を強めて来る。

 

『突破された! 降下部隊、警戒せよ!』

 

「突破を許したのか!? 各員、来るぞ! 応戦しろ!」

 

 ガリアが指示を出すよりも前にシュラク隊のガンイージやガンブラスター、獅電は襲ってくるメイソン騎士団のグレイズやジンクスⅢ等に応戦する。双方の降下部隊による交戦の火蓋が切って落とされた。

 

「敵機撃破!」

 

 護衛部隊を突破してきたジンクスⅢを撃破したセラエルは、次に襲い掛かる同じ敵機にライフルを撃つ。ユウやジョンも交戦を開始し、近付く敵機を何機か落としていた。

 

「死ねぇぇぇ!」

 

 ガリアも向かってきた敵機であるレギンレイズをナイトブレードで胴体を突き刺し、動かなくなるまで刺し続ける。やがて動かなくなれば、刀身を引き抜き、無力化された敵機をそこらに放り出す。

 数分以上も交戦を続けていれば、もう降下地点に辿り着いたのか、地球の引力に引かれ始める。それでも交戦は続き、大気圏再突入用装備を展開することなく地球へと落下する機が続出し始める。

 

『機体温度急上昇! も、燃える!? 助けてくれ!』

 

『助けて! ワァァァ!!』

 

「えぇい! 奴ら、どれほどしつこいんだ!?」

 

 展開することなく突入してしまい、大気圏の熱で焼かれる味方機のパイロットの悲鳴が無線機より聞こえる中、執念深く追撃してくるメイソン騎士団にガリアは苛立ちを覚えつつ、ライフルで急接近してきたグレイズを撃った。撃たれたグレイズはバランスを崩し、地球の引力に引かれ、そのまま熱に焼かれながら地球へと落下していく。

 限界まで交戦し、先に突入限界点まで行った双方の機体は大気圏再突入用のバリュートを展開して地球へと降下する。セラエルのレギンレイズも限界点に達したのか、交戦を止めて突入に集中する。

 

「大気圏、突入!」

 

 ギリギリまで敵機と交戦していたガリアも突入に集中することにし、敵機を蹴り上げ、バリュートを展開して地球へと降下した。敵も交戦を止め、装備を展開して地球へと降下していく。敵機と近い時点で降下する羽目になった機体は交戦を続行しており、何機かが爆散しながら落下していた。

 やがて大気圏を突破して成層圏を抜ければ、双方はそれぞれの目標へ向け自由落下で降下する。アガサ騎士団の降下部隊は対空陣地のある方へ。メイソン騎士団の追撃隊は友軍の陣地へと。

 

 

 

「は、激し過ぎる…! 本当に呼び戻さんで良いのか?」

 

 攻撃を受けているジャブローの内部では、元裏世界の支配者たちや元亡国企業の幹部、総帥等が攻撃に怯えていた。

 既に防衛線は崩壊し、上陸部隊はジャブロー付近まで侵攻しつつある。丁度その時に対空陣地もほぼ制圧され、アガサ騎士団の降下部隊が敵方のメイソン騎士団の追撃隊と共に降下してくる。

 これに幹部等は攻撃前に出撃させた部隊を戻すように言うが、同じ場所に居るメイソン騎士団の騎士やレダニア軍の将校らは冷静に対処する。

 

「呼び戻さなくてよい。予定通りに作戦は進んでいる」

 

「そうだ、もうじき到着し、攻撃が開始される。我々は囮を務めれば良い」

 

「ふ、ふざけやがって! 話していた内容と違うじゃねぇか! 俺たちの手に世界を取り戻してくるんじゃないのか!?」

 

 自分らが怯えているにも関わらず、他人事のように対処している騎士や軍将校らに、最初に言っていた事とは違うと言って騎士に掴み掛ろうとする。騎士は素早く剣を抜いて掴み掛った男を切り裂き、この世界の裏世界の元支配者たちに脅しを掛ける。

 

「黙っていろ。作戦は順調通りに進行している。ヒステリックな女のように、騒ぐんじゃない!」

 

「それに我々の予想では、このジャブローへの攻撃はIS学園攻撃後の報復攻撃のはずだった。なのにこの攻撃は速過ぎる。昨日、攻撃隊が出撃したばかりにこれだ」

 

 一人殺して黙らせれば、ジャブローへの攻撃が速過ぎるとレダニア軍の参謀は口にする。これに相応し、椅子にふんぞり返っている騎士はこの中にスパイが居ると口にし始める。

 

「参謀殿の言う通り、間者が居るとしか思えんな。それも、この世界の者たちの誰か…」

 

「わ、我々を疑っているのか!?」

 

 スパイと疑われてか、この世界の者たちは抗議の声を上げる。騎士と参謀は既にスパイが誰か分かっており、騎士はその人物に向けて剣先を向ける。

 ジャブローの所在をアガサ騎士団に送っていたスパイは、義眼を付けた元亡国企業の幹部であった。

 

「既に目星は付いている。お前だ」

 

「な、何を言っている!? 私がスパイ等と!」

 

「その義眼、かなりの技術が使われているな。その義眼がここの所在を送っているようだ。つまりスパイはお前だ」

 

 剣先を向けられた義眼の男は自分はスパイではないと言うが、参謀は彼が着けている義眼からジャブローの所在と情報が漏れていたと判断する。

 

「な、なにっ! 私の義眼がここの情報をだと!? 馬鹿なことを抜かすな、この義眼はただの…」

 

「知らずにスパイにされていたのか。もう手遅れだ」

 

 もう攻撃されているので手遅れと判断してか、騎士はその義眼の男の首を撥ねた。首を撥ねられた男の身体は床に倒れ、残っている者たちは怯える。

 何故ならこの場に居るメイソン騎士団とレダニア軍の人数が増えているからだ。それに手には武器が握られており、ここに居る自分たち以外の人間を殺すつもりでいる。

 

「まだスパイがいるかもしれない。念のために調べないとな…」

 

「し、調べる!? こ、殺す気じゃないか!」

 

「あぁ、お前たちはもう用済みだ。なに、その出番が回って来たことだ。気にすることじゃないだろう?」

 

 殺そうとする異世界の者たちを見て、彼らは逃げようとするが、既に出入り口は固められており、もう逃げられない。かつて裏世界を牛耳り、人を弄んでいた者たちは、自分たちが殺してきた者たちと同じように弄ばれて殺された。

 

 

 

「さて、どれくらい降りれるか」

 

 大気圏再突入に成功し、ジャブローに降下中のガリアはどれほどの味方が降りられるかどうか疑問に思う。

 対空機関砲や地対空ミサイルなどの射程距離まで降りれば、それらは飛んでくることは無かった。代わりに来たのは、バルキリーであるSV-52数機だ。ミサイルを発射し、何機かのアガサ騎士団かシュラク隊の機を落としていく。

 数は少なく、容易に迎撃できる物であった為、反撃を受けてあっという間に全滅した。それからはジャブローへと簡単に降下できた。

 

「抵抗が少な過ぎる。妙だな」

 

 地上に降りたジョンは余りの抵抗の少なさに疑問を抱く中、迎撃に出て来たリーオーを撃破する。作戦は順調に進行している。恐ろしいまでに順調なくらいにだ。抵抗は想定よりも弱すぎ、予定が早まってしまっている。

 それに拍車をかけるように出て来る迎撃機は、リーオーや旧式のデストロイド、ASのサベージやM6と言った物ばかりであり、自分らに対抗できる機体を持って居るレダニア軍は、状況が悪くなれば友軍を助けることなく直ぐに後退している。追撃してきたメイソン騎士団の部隊も同様である。

 他にも通常兵器が幾つかあるが、どれも安価な旧型の物ばかりで、的のように潰せる。罠ではないかと疑うほどだ。

 

『なんだ、こりゃあ? つまらないくらいに侵攻できるぞ』

 

「何か妙だ。もう友軍の上陸部隊と連絡を取れてしまっている」

 

 ドラゴスを撃破したユウが無線機で簡単すぎると言えば、ジョンは上陸した味方の隊と予定より早く合流してしまったことで、罠だと疑い始める。

 その疑念を抱きつつ地上の抵抗を殆ど排除すれば、セラエルの隊が地下へと続く入り口を見付けたと無線で告げる。

 

『こちらソード1、地下へと続くルートを発見! KMF隊が到着次第、その支援の為に突入します!』

 

『こちらCP、気を付けて行け。敵は地下で我々を迎え撃つかもしれん』

 

「もう地下まで突破したのか。つまらん戦よ、あの殺人鬼どもの追跡隊は何処に消えたんだ?」

 

 その無線連絡を聞いたガリアは余りの敵の脆さに酷く落胆し、周囲のジャングルを見ながら自分らを追って降下してきた追跡隊を探した。

 赤外線に切り替えて探すも、何処にも赤いグレイズタイプやレギンレイズ、空を飛ぶジンクスⅢにアヘッドも居ない。まるで最初から居なかったようだ。

 

『予定より早いが、敵の抵抗はほぼ排除した。KMF隊全機、テメリア並びガリア軍のAS隊と共に地下へ突入せよ! 敵MSの抵抗も予想される。MS隊も随伴せよ!』

 

 地上の抵抗が無くなれば、本部は地下への突入を命じた。これに応じ、地上に居る殆どの部隊は地下へと突入し始める。

 彼らはまだ知らない。このジャブローが囮であると言う事を…。




ジャブローも囮です。本命は次回辺りで分かるかな…?


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本命はIS学園!

マルアリア・カーン
アガサ騎士団に属する女騎士。騎士団内で創設されたVA第一連隊の長。
乗機はVA「ダヌム・アルゴン」

今回の回はグロ注意です。

リオンテイルさん、誤字報告サンクス。


 地上の抵抗を排除し、ジャブローの地下にまで侵攻したアガサ騎士団の制圧部隊であったが、罠だと疑わせないためか、地下にまで後退したメイソン騎士団とレダニア軍の部隊は抵抗する。

 だが、それは限定的な物であり、敵の勢いが凄くなれば即座に後退をする。ジャブローに集めた傭兵やテロリスト、今の社会に反感を抱いて志願した者たちを見捨てて。

 

「まるで空き家じゃないか」

 

 迎撃に出たドートレスタンクをライフルで破壊すれば、全くの抵抗の無さにグレイズ・リッターに乗るガリアは落胆する。

 実際、自分らと真面にやり合える敵戦力は分が悪くなれば直ぐに後退するばかりで、相手になるのは未熟なパイロットが乗る性能の低い物ばかりだ。ガラクタを相手にしていると言っても過言ではない。

 

「敵部隊、更に後退! KMF隊と共に追撃します!」

 

『了解、気を付けろ! 何を企んでいるか!』

 

 地下の掃討も厄介な敵が後退してくれるおかげで順調に進む中、セラエルは後退するメイソン騎士団とレダニア軍の追撃に入ると本部に告げ、追撃に入る。

 無論、これが罠であることをセラエルは気付いていない。彼女はそのまま追撃戦に移行するサザーランドやグロースターを中心としたKMF隊に随伴する。

 追撃されているレダニア軍所属のASのアルカンシェルにヴァルキュリアシリーズのシグルーンは真面に抵抗せず、後退するばかりだ。そんな後退するばかりの敵軍を追跡していれば、急に真面に抵抗し始めた。どうやら本部に到達したようだ。

 遮蔽物となる岩場に隠れ、抵抗の度合いを見てセラエルは増援を要請する。KMF隊も同様に隠れ、手持ちの射撃兵装で応戦していた。

 

「敵本部を確認! ですが、抵抗が激しくて接近できません!」

 

『VA隊ならびMS隊を送る! 制圧は目前だ! 頑張れ!』

 

 VAとMSの増援が来ると分かれば、セラエルは乗機であるレギンレイズの130ミリライフルでシグルーンを一機の頭部を撃ち込んで無力化させる。

 数秒後にVAのダヌム・アルゴンが到着し、更に複数のグレイズの増援がやって来た。増援がやって来るなりレダニア軍は撤退してしまった。

 最も、真面目に抵抗したのは本部に居た自軍の参謀とメイソン騎士団の騎士の撤収、罠を仕掛ける時間稼ぎの為であり、増援が来る前にそれが終わったので、もうここに留まる理由は無いのだ。取り残された現地徴用の将兵で構成された部隊はまだ抵抗しているが。

 このメイソン騎士団とレダニア軍の撤退の報告は全部隊になされ、警戒するようにと作戦本部から伝えられる。

 

『全部隊に通達。敵メイソン騎士団とレダニア軍は撤退! だが、現地徴用の者で構成された部隊は未だ抵抗している。注意されたし。それに罠の可能性も高い。十分に警戒せよ!』

 

 その報告を聞いたセラエルは放棄された本部に向かい、まだ何か残っているか調べるべく、機体から降りる。他の騎士や歩兵隊も共に本部内へと突入し、本部内に敵が残っていないか探索する。

 

「こちらセラエル・ドリーデ、本部内へ突入。残兵は見当たらず」

 

 右手に剣を持ち、左腕のガントレットに内蔵された無線機で報告しつつ本部内を探索する。本部は自分ら以外に誰もおらず、ただ現地徴用か傭兵、その他諸々の反乱分子の死体が転がっているだけだ。

 つい先ほどまで騎士と参謀らが居た部屋に警戒しながら突入すると、思い掛けない物が突入したセラエルたちを出迎える。

 

「ひっ!?」

 

「く、首だ…! しかもこの並べられた首、掃討作戦から逃れた連中だぞ!」

 

 一人が驚いて尻もちを着けば、騎士は自分等を出迎えたのがどれも知っている物だったのか、驚きながら思い出す。

 突入した彼らを出迎えた物とは、かつてアガサ騎士団が来るまでは世界を牛耳っていた裏世界を含める者たちの晒し首であった。丁寧に並べられ、顔は突入した者たちを出迎えられるように向いている。彼らは殺された後に首を切断されたようで、首が並べられているテーブルの後ろでは、首のない多数の死体が転がっている。

 そんな恐ろしい光景を目にしたセラエルは口を抑えつつ、何か残って無いか調べるように指示を出した。

 

「まだ何か残っているはず! 直ちに調査を!」

 

「は、はっ!」

 

 セラエルの指示に応じ、配下の騎士や将兵らは部屋中を捜索する。無論、この部屋で虐殺を行っていた者たちは死体と罠以外に残していない。その罠は、首のない死体から見付かった。

 発見したのはMP5A5短機関銃を持つ女性兵士である。彼女は爆弾解除に関する訓練は受けておらず、不用意に死体に触れ、仕掛けられた罠、即ち爆弾に気付くことなく触れた。気付いた時はもう遅く、信管は作動していた。

 

「ばくっ…」

 

「えっ…?」

 

 気付いた女性兵士が叫んだが、セラエルが気付いてそこに視線を向けた時は既に爆発した後であり、彼女は周りの者たちと共に爆風に呑まれて消滅した。

 死体に仕掛けられた爆弾はかなり強力な物であり、わざわざ違和感を覚える位置に仕掛けられていた。仕掛けた数は六つ以上であり、本部が丸ごと吹き飛ぶほどであった。

 それに呼応してか、ジャブローの地下各地で仕掛け爆弾が爆発し、地下内に突入したアガサ騎士団や協力するシュラク隊、テメリア軍、ガリア軍の部隊は被害を受ける。取り残されたこの世界の者たちで編成された部隊も爆発に巻き込まれて壊滅した。彼らは敵に大損害を与えるための生贄であったのだ。

 

「うぅ…図られた! 奴らの目的はこれだったのか!」

 

 落盤から何とか抜け出したガリアは、機体から這い出てジャブローが罠であったと気付き、図られたことを悔しがって地面を拳で叩いた。

 このジャブローは本命を隠すための囮であったのだ。メイソン騎士団もジャブロー攻撃は予想外であったが、これを利用して本命より目を逸らさせることに成功した。

 して、その本命とは、日本のIS学園の総攻撃である。

 

 

 

 本命であるIS学園総攻撃を敢行すべく、メイソン騎士団と総帥アトリオックスが率いるバニッシュト軍団による地上、海上、空、宇宙からの四方向同時攻撃が開始された。

 宇宙では、メイソン騎士団の主力宇宙艦隊には姿が無かったドロス級宇宙空母がIS学園に向けて降下部隊を展開させている。艦隊に合流したCAS級強襲空母も降下艇を含める降下部隊を僚艦と共に展開していた。

 この流星群のような降下部隊は地球に大気圏再突入を行い、IS学園に向けて一直線に降下していく。

 気付いたアガサ騎士団のパトロール艦隊が妨害砲撃を加えたが、その守りは厚く、一隻の降下艇の撃沈も叶わなかった。

 空からはガウ攻撃空中空母、ガルダ級大型輸送機、ウラル級大型輸送機などを始めとした空中艦隊が攻撃を行う。無論、MSやKMF、バルキリーなどを多数搭載しており、それを惜しまなく展開してくる。ジンクスⅢやアヘッドなどの飛べる機体はそのまま出撃しているが、ゾリディアやグレイズ、レギンレイズなどはベースジャンバーに乗って出撃する。一瞬にして空を埋め尽くさんばかりの数となった。

 海上のベーリング級空母や潜水母艦からも続々と艦載機が出撃しており、総攻撃に相応しい数と化している。海中も魚の群れのようにキャンサーやパイシーズ、スペルビアジンクス、モビルアーマーのトリロバイトが学園を目指して航行している。

 

「行くぞ! モーリック王の為に!!」

 

『おぉぉーッ!!』

 

 海上と上空から凄まじい数の攻撃部隊が迫る中、地上でも同様の数の部隊がIS学園に向かっていた。

 一人のメイソン騎士団の騎士が乗るグレイズ・リッターがシンボルが描かれた旗を振れば、同型機やグレイズ・シルト、グレイズの装甲強化型であるパンツァー、レギンレイズなどが先行して突撃を行う。KMFのサザーランドやグロースター、上空のヴィンセントも物凄い数だ。

 それだけではない。ヴィンデルより供与されたSPTのブレイバーやMFのソロムコが空を覆い尽くすほどに飛んでいる。騎士団の後からは多数のSPTのドトールやMFのガンステイドが続いている。

 これで宇宙からの降下部隊も含めれば、過剰なまでの総攻撃である。そこにモーリック十三世が召喚術を使って蘇らせた赤鬼十三騎士や予備戦力も加わる。完全に落とす気だ。

 連絡橋の検問所は大挙して襲ってくるメイソン騎士団によって瞬く間に制圧され、大群は橋を伝ってIS学園を目指してくる。

 

『敵襲! 敵襲!! 民間人は直ちに最寄りのシェルターに避難! 戦闘員は直ちに配置に着け!』

 

 無論、IS学園の守備隊がこの尋常じゃない数の敵に気付いており、直ぐに防衛体制に移行する。再び鳴り響いた警報に、職員や教師、生徒たちは不安を覚えるが、銃を持った女兵士たちに促されてシェルターに押し込まれる。

 民間人の避難が行われる中、IS学園の軍事施設の方では、各施設が要塞に変形し始めた。これには事前の威力偵察を行っていたオウギュストは驚き、思わず戦列を離れようとする。

 

『防衛施設が要塞に変形したぞ!? どういうことだ!?』

 

「お、俺は知らん! 基地が要塞に変形するなど!」

 

『逃げる気か? 逃げるのなら、このニムバス・シュターゼンが容赦せんぞ!』

 

 対空砲やビーム砲、ミサイル発射台などを展開して要塞へと変形する軍事施設に先行した部隊が瞬く間に壊滅していく中、オウギュストは逃げようとするが、頭部がやや大きいイフリート改に剣先を向けられる。

 

「ちっ、分かった。逃げはせん! だが、味方に背中を向けられては真面に戦えん!」

 

『やる気があるなら、逃げようとするな!』

 

『まっ、自分の命が大事だからな』

 

 ニムバスの脅しにドライセンに乗るオウギュストは文句を言いながらも大人しく戦列に戻れば、専用KMFのパーシヴァルに乗るルチアーノ・ブラッドリーは命が惜しいからと呟く。

 他のクラフチェンコや補充員のヌメリコフ、元ジオン軍のグール隊と共に、赤鬼十三騎士団は頑強に抵抗するIS学園へと突撃を行う。何機かが脱落していくが、損害に構わず突撃を敢行した。

 

 

 

『MS並びバルキリー、戦術機、VA隊は直ちに出撃! これは演習ではない! 繰り返す、演習ではない!!』

 

 施設内でこの放送が繰り返し流れる中、IS学園の守備隊に属するパイロットたちは直ちにハンガーへと急ぐ。更衣室でパイロットスーツを着込み、それぞれ専用の装備を身に纏えば自分の機体まで素早く走り、コクピットに飛び乗って機体を起動させる。その速さは数秒単位だ。このスクランブル発進の為に何度も訓練を行っている。

 学園ぼ防衛に回されたばかりのアガサ騎士団の隊であるVA連隊の長、マルアリア・カーンもダヌム・アルゴンを纏い、直ちに出撃して押し寄せる敵部隊の迎撃に向かう。

 

『HQ、敵の数は?』

 

『想定不明、更に敵の数は増加中。各機、フォーメーションを維持しつつ防戦せよ。こちらの増援も急行中!』

 

「これほどの数、持ち堪えれるの?」

 

 本部ですら想定不可能の数に、マルアリアはどれほど持ち堪えられるかどうか疑問を抱き始める。数えるのが馬鹿らしく見える数だ。それにデータに無いSPTやMF、異世界より持ち込まれた多数の機動兵器もある。

 圧倒的な物量で迫る敵機であるエリアーズを落としつつ、マルアリアは配下の連隊と共に指定された防衛区画を維持する。彼女の連隊が展開している区画は海上であり、ミサイルフリゲート艦やミサイル駆逐艦などのイージス艦の艦隊と共に防戦していた。バルキリーであるVF-11Cサンダーボルト一個大隊も加わっている。

 要塞へと変形した軍事施設や守備隊の奮戦により、未だに学園本島には一機の敵機の侵入を許してはいないが、この防衛線の突破の為に動員された赤鬼十三騎士とバニッシュト軍団がおり、彼らと対峙している防衛線に穴が開きつつあった。

 

「CP、防衛を維持できない! 敵に手練れが…」

 

 戦術機の不知火で本島より迫る大群の対処に当たっていた衛士は、二本のヒートサーベルでジムⅢやカットシーを落としていくニムバスのイフリート改を見てそれをコマンドポストに報告したが、その途中で一気に接近されて撃破される。

 他にもオウギュストのドライセンやルチアーノのパーシヴァル、クラフチェンコのZy-98、ヌメリコフのスコープドック、グール隊のザクⅢが突撃を行って防衛線をズタズタにする。

 

「ほらほら、大事なのは命だろぉ!? 逃げろぉ! 命が無くなるぞぉ!!」

 

 ルチアーノは乗機のパーシヴァルを巧みに動かし、目に映る敵機を落としながら守備隊に自分から逃げるように叫ぶ。そんな恐れ戦く守備隊に畳み掛けるように、クラフチェンコやヌメリコフ、グール隊が一気に雪崩れ込んで来る。

 即座にその知らせは四方八方より迫る敵部隊を迎撃している要塞本部に伝えられた。

 

「第一防衛ラインを突破した敵部隊が居ます!」

 

「予備の戦術機大隊を回して!」

 

「了解! ベルンハルト少佐、指定されたポイントへ急行してください! 敵部隊が突破しつつあります!」

 

『了解した! シュヴァルツェ大隊はそちらに急行する!』

 

 レーダー手からの報告で分かれば、司令官は直ちに予備に控えているアイリスディーナ・ベルンハルト少佐率いる戦術機大隊を回すように指示を飛ばす。

 これに応じ、戦術機のEF-2000タイフーンで編成されたアイリスディーナのシュヴァルツェ大隊が赤鬼十三騎士が暴れる防衛区に急行する。彼女だけでなく、紫色の武御雷も向かっていた。

 現れた紫色の武御雷に交戦経験があるオウギュストは驚いたが、今度はこちらが圧倒的なので、部下と共に現れた敵の増援を迎え撃つ。

 

「あ、あの色は!? だが、こちらの数は圧倒的だ! 各機、奴をやるぞ!!」

 

 オウギュストの指示で同じドライセンやバウ、グール隊のザクⅢは戦術機部隊を迎え撃った。

 

「またか! しかもなんだあの数は!?」

 

 昨日の襲撃で付近の基地に移動していたディアス・ブラフォードは総攻撃の報を受け、ニコライ・パニュークと共に増援部隊として来れば、尋常じゃない数の敵を見て唸る。

 誰が見ても唸るほどの数だ。これにニコライは臆したが、ATのようにローラーダッシュをしながら襲ってくるSPTのドトール数十機に乗機の専用ガレスの装備で対処する。グロースターに乗るディアスもレーザーの弾幕を浴びせて来るドトールと交戦を開始する。日本列島でも戦闘が行われた。

 

「くっ、数が多い!」

 

 学園本島に上陸しようとするグレイズ各種を阻止していた山吹色の武御雷に乗る篁唯依(たかむら・ゆい)は、余りの数の多さに乗機が握る長刀の耐久を気にした。

 ナノ・ラミネート装甲を切り裂けるほどの特注品の戦術機用長刀であるが、彼女が乗る武御雷の足元には十数機のグレイズの残骸が転がっている。それでもグレイズは何度でも上陸しようと海から出て来る。他の機体も奮闘しているも、有象無象に湧いてくる敵機の対処に追われている。

 

「一人でやるしかないか…!」

 

 大斧で斬りかかるグレイズ・リッターの斬撃を躱し、胴体に長刀を打ち込んで無力化してからこの区画は自分一人で維持する他ないと判断する。

 一人で戦い続けようとする唯依の元に、思わぬ援軍が現れた。それは一文字ゆきなの打鉄にラファールリヴァイブを纏ったグラディス・アームストロング、鶴賀千雨、宇崎愛だ。勝てないグレイズ相手に挑む。

 

「っ! 学生か!? どうして!?」

 

『私たちだけ避難するなんて!』

 

『ISが何のためにあるかご存じで?』

 

 連携を取ってグレイズに挑みつつ、ゆきなと千雨はISを纏える自分らが逃げる訳にはいかないと唯依に答える。

 これに呼応してか、学園の専用機持ちたちが勝手に出撃して侵攻してくるメイソン騎士団と交戦を始める。止めようとしたが、敵の数は守り切れない尋常じゃない数であり、猫の手も借りたいくらいの現状だ。守備軍司令部は致し方なく彼らの参戦を認める。

 一夏たちが迎撃に向かったのは、学園の真上より接近してきたSV-52の大編隊だ。長距離兵装を持つISを纏う者たちは直ぐに接近中の敵大編隊に向けて放ち、何機かを撃ち落とす。散会したSV-52各機は向かってくるISを見て驚く。

 

『データ照合! 専用機だぜ!?』

 

『専用機持ちだと!? 俺たちやられるぞ!?』

 

『馬鹿が! 相手はただの餓鬼だ! 囲んでやっちまえ!』

 

 自分等に向かってきたのが専用機持ちだと分かった途端に逃げ出そうとする部下たちを編隊長が止めれば、彼らは数の多さを利点にして一夏たちに襲い掛かった。

 

 

 

 IS学園に対する本格的な総攻撃に対し、エルネスティーヌは直ぐに周辺の基地に増援に向かうように指示を出した。自らもミッチェルやゴリなどの部下を率いて日本のIS学園の救援に向かっていた。

 帰る途中であったルリにもIS学園の総攻撃の報が知らされ、VAノルドを纏った依玖、セルベリアのVA部隊と共に専用ISであるマギア・コリツェを纏って急行する。

 日本本島まで差し掛かった際にメイソン騎士団の刺客による妨害を受ける。それは勢いよく弾丸の如く投げ出された岩石による投石であった。

 

「っ!? 止まって!」

 

 自分らを狙って投げ出された岩石に気付いた依玖は静止命令を出し、救援部隊を止める。彼女の指示通りに止まったルリとセルベリア等は直ぐに索敵を行い、次なる岩石による投石を行う標的を見付ける。

 投石を行っていたのは、赤鬼十三騎士の一人であるショカン族の王子ゴローである。四本腕で巨漢に等しい体格を持つショカン族の腕力で、細かく砕いた岩石を機関銃のように連続して投石を行っていた。この雨あられの岩石に一機も脱落機は出なかったが、足を止められてしまう。

 少しでも急ぐべく、衣玖はイクサービームをゴローに向けて放つ。このビームにゴローは投石を止めて避け、知らないであろう彼女らに向けて名乗り始める。

 

「俺はショカン族の王子ゴロー! モーリック王の命において貴様らの足止めを仰せつかった! だが、皆殺しにして良いとも言われている! 覚悟するが良いッ!!」

 

 本命は足止めであるが、皆殺しにして良いと言われたので、ゴローは空高く飛翔して衣玖に襲い掛かる。これに衣玖は対処しつつ、援護攻撃を行おうとする救援部隊に先に向かうように指示を出す。

 

「こいつは私が足止めします! 皆さんはIS学園に!」

 

「了解した! 行くぞ!」

 

「えっ、でも…」

 

「ここで時間を割いているわけには行かない。行くぞ!」

 

 ゴローを抑えるから行けと言う衣玖の指示にセルベリアは従って部下を伴って行こうとしたが、ルリは後ろめたさを覚えてか、動かなかった。それをセルベリアは彼女の手を取って無理やり引っ張って連れて行く。

 

「むっ? 逃げる気か! 行け、キンタロー!!」

 

 衣玖に自分を対処させ、残りは救援に向かうつもりであったと気付いたゴローは、直ちに配下のショカン族の戦士たちを追撃に向かわせる。王子の命で出て来たショカン族の戦士らはルリ達の追跡を行い、VA一機を撃墜しようと飛び掛かったが、ある戦士たちに邪魔をされた。

 それはライデンの命を受け、ヴィンデルの野望を阻止しに来たリュウ・カンとクン・ラオである。リュウの拳で一名が吹き飛ばされれば、クンが投げた刃を仕込んだ防止による投擲で数名のショカン族の戦士が惨殺される。

 

「うぉぉ!? き、貴様等! 何者だ!?」

 

 虎のような模様を持つショカン族の戦士が名を問えば、リュウとクンは名乗り始める。

 

「神に仕えし拳法家、リュウ・カン!」

 

「同じく武闘家クン・ラオ!」

 

 名乗り始めた神に仕える二人の武闘家に対し、ショカン族の戦士らは怯まずに挑む。

 

「おのれ、ここまで邪魔をしに来たか! 八つ裂きにしてくれるわ! やれぃ!!」

 

 向かってくるショカン族の戦士らに対し、リュウは戸惑っているルリ達に早く向かうように告げる。

 

「この者たちは我々が抑える! 君たちは早く学園に!」

 

「何が何だか知らんが、助かる! 行くぞ!」

 

 突如として現れた超人レベルの二人に、セルベリアは礼を言いながらIS学園の救援へと向かった。




次回は激戦になる予定です。


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激戦は学園を焼いて…前編

GIジョーの劇場版アニメを参考にしております。


 ルリとセルベリアが到着した頃、日本のIS学園における戦闘は更に激しさを増していた。

 次々と出て来るメイソン騎士団の攻撃部隊に防衛線は持たず、遂には本島へと上陸を許してしまう。

 だが、ここからが本番であり、上陸したメイソン騎士団の騎士たちは学園の教師に阻まれる。その教師の名は織斑千冬であった。

 

「グワーッ!」

 

「おぉ、あの女は…!?」

 

「チフユ・オリムラだ!」

 

 甲冑を身に纏った騎士が吹き飛んで気絶すれば、残りの騎士や兵士たちは戦闘装備を身に纏って自分らに立ち向かう千冬に臆し始める。

 

「仮装して大勢でうちの学校に押し寄せるとは…! 学際はまだだぞ! 貴様ら!」

 

 大太刀を握り、自分らを睨み付ける千冬に得物を持つ手を振るわせる騎士たちであるが、隊長の一声で戦意を取り戻す。

 

「怯むな! 奴は一人、討ち取って名を上げろぉ!!」

 

『おぉーッ!!』

 

「有象無象に向かってくるか! 無事で帰れると思うなよ!」

 

 立て直して集団で襲い掛かるメイソン騎士団の騎士たちに対し、千冬は全力で迎え撃つ。

 千冬の助士である山田真耶は専用IS「ショウ・オブ・マスト・ゴーオン」を纏い、背後から迫ろうとする騎士をサブ・マシンガンで撃って援護する。

 楯無と簪もそれぞれ専用のISを纏って防戦に参加しており、押し寄せる大群に対処していた。

 

「何処にすれば良い?」

 

「お前は上空の生徒たちの加勢に向かえ。私は向こうの増援に対処する」

 

 辿り着いたルリは何処に行けば良いのかとセルベリアに問えば、彼女は一番安全そうな一夏たちの救援に回るように指示を出し、自分は敵が多い場所の対処に回る。

 ルリは言われた通りに多数のSV-52と交戦している一夏たちの救援に向かい、マギア・コリツェの十基のビットによる攻撃で集団戦術で苦戦していた彼らを救出する。

 

「大丈夫?」

 

「ルリか、助かったよ!」

 

 救出しに来たルリに対し、一夏は礼を言えば、次なる場所へ向かおうとする。

 

「あっちも大変そうだ。みんな、行けるか?」

 

「あぁ。私は何も問題…」

 

「上からまた来る!」

 

 激戦区を見た一夏がまだ戦闘が可能かどうかを問えば、ラウラは問題ないと答える。その直後にシャルロットは直上より敵の増援が来たことを知らせる。これに一同は臨戦態勢を取り、向かってくる敵の増援に備えた。

 やって来たのはバルキリーのVF-27ルシファーであり、ガンポッドによる凄まじい弾幕を浴びせて来る。これを散会して応戦しつつ、各個撃破されないように固まろうとするが、VF-27はSV-52とは比較的にならない性能を有しており、ルリが居ても劣勢に追い込まれる。

 

「こいつ等、速いぞ!」

 

「さっきのより速過ぎ! 何なのもう!」

 

「ISじゃ勝てるかどうか分からないよ!」

 

「とにかく離れるな! 各個撃破されるぞ!」

 

 ガウォーク形態を取り、包囲して追い込んでくるVF-27に各々が抵抗するが、一機も撃破できない。ルリがビットを展開しようとするも、敵はそれを狙ってか、ルリのマギア・コリツェに向けて攻撃を集中してくる。

 

「テァァァ! くっ!」

 

 これを阻止しようと箒は自分に背中を向けているVF-27に斬りかかろうとするが、自分を狙っている敵機が数機以上も居り、集中砲火を受ける。凄まじい弾幕であるが、第四世代の性能のおかげか、何とか一夏の元へ戻ることができた。箒の紅椿を確認したレダニア軍所属のVF-27のパイロットは、彼女が捕縛対象であることを思い出し、それを本部に報告して指示を仰ぐ。

 

「例の捕獲対象を確認。本部、指示を請う。オーバー」

 

『確認した。直ちに捕獲せよ! 他は潰して構わん! アウト!』

 

「了解。各隊に通達、標的を確認した、直ちに捕獲せよ。他は潰せ。オーバー」

 

 本部より箒の捕縛と一夏たちの排除を命じられたパイロットは指示を出し、攻撃を強める。これに再編を終えたSV-52が加わり、真面に反撃ができなくなる。

 

「なんだ!?」

 

 防戦一方となる中、アガサ騎士団側の増援が到着して自分らを集中攻撃していた部隊が攻撃され、一時退散していく。助けに来たのはVF-31カイロスで編成されたバルキー隊であり、勝手に戦闘に参加した一夏たちに戻るように無線で促す。

 

『あんた等、なんで勝手に戦闘に参加してるの!?』

 

「なんでって、ISに乗れる俺たちがやらなくてどうするんです!?」

 

「そうだ。ISはこの世界で最強の…」

 

『馬鹿! 戻りなさい! 学生が出る幕じゃないの!』

 

「分かりました! 学園に戻ります!」

 

 促してくる女性の編隊長に対し、一夏はISを動かせる自分らが逃げる訳にはと言うが、剣幕に圧されて大人しく学園の方へと戻った。

 一夏たちが離脱した戦闘空域は後からやって来たVF-31等のバルキリー隊が引き継ぐ。無論、ここで大人しくしている一夏たちでは無い。学園内に宇宙からの降下部隊やバニッシュトの増援を受けて侵入しようとするメイソン騎士団の部隊の迎撃を行う。それらの敵を楯無達が抑えているからだ。

 

「あら、一夏君たちじゃない。どうしてここに?」

 

 学園に突撃を掛けるバニッシュトの車両部隊を簪と共に一掃した楯無は降りて来た一夏たちに気付き、なぜ避難していないのかと問う。

 

「生徒会長も戦ってたんですか?」

 

「生徒を守るのが生徒会長の務めだわ。それに、見たことのないのがぞろぞろと突っ込んで来るわ」

 

 生徒会長も避難せずに戦っていたことに一夏は驚き、楯無はそれが会長の務めだと答え、バニッシュトの使う兵器を見て呟く。彼女らはまだバニッシュトを知らないのだ。

 バニッシュトに属する各星人らは怯まず、搭乗する車両や機動兵器の大群で学園に雪崩れ込まんと突っ込んでくる。一夏たちの他に守備隊の機関銃部隊や対戦車部隊も居るが、敵の数の方が圧倒的に多く、IS組が頑張らなければ守り切れないだろう。

 

「数が多いね。誰か呼ぶ?」

 

「猫の手も借りたいところだけど、私たちだけでやるしかないわね」

 

 ルリがビットで敵の前列をほぼ一掃するも、敵は減ってないどころか増え続けている。これにルリが楯無に増援を呼ぶかどうかを問う。何処も手一杯なので、彼女は自分等のみでやるしかないと判断し、使える全ての手を使って防戦に当たった。

 

「バニッシュトとかいう連中、たかが餓鬼が守る防衛線を突破できんとはな! だが、こちらの方が突破できそうだ!」

 

 そんな絶望的な防衛区画を支える中、武御雷に敵わぬと判断したオウギュストが、一夏たちが支えている防衛区画にやって来た。

 迫るオウギュストのドライセンに対し、一夏と箒が対処に回る。

 

「あのデカい一つ目のロボット、やります!」

 

「私も行きます!」

 

「それじゃあ僕も!」

 

 箒に負けじとシャルロットなどが防戦を離れてついていこうとしたが、楯無に止められる。

 

「二人で十分だわ! でも、対処できる?」

 

「やるしかないでしょ!」

 

 シャルロットたちを止めた楯無はドライセンを止められるのかの問いに対し、一夏はやるしかないと答えて向かった。

 スラスターを吹かせて学生らが守るエリアに接近するドライセンに乗るオウギュストは、近付いてくる一夏の白式と箒の紅椿を見てほくそ笑む。自分が乗るのはMSで相手が二機のISだからだ。男がISに乗っている事と捕縛対象の箒が向かってくる事に少々驚いたが、関係ないと言って戦闘態勢を取る。

 

「ン、VAとやらか。男が乗っていることに驚きだが、捕獲対象のホウキ・シノノノが居るぞ。ツキが回って来たな! 小僧は殺し、小娘は攫わせてもらう!」

 

 ツキが回って来たと判断したオウギュストは、一夏の白式に向けて左腕のビームハンドガンを撃ち込んだ。撃墜するつもりの攻撃であり、これを浴びせられた一夏は必死に回避行動を取る。

 オウギュストから見れば鬱陶しい限りだ。余りの当たらなさに、彼は機体のバックパックに装備されたトライブレードを使って仕留めようとする。

 

「えぃい、的が小さすぎて当たらん! トライブレードで切り裂いてくれる!」

 

 それを言った後にバックパックのトライブレードを二つほど放ち、一夏を殺そうとしたが、白式の雪片弐型で一つが呆気なく破壊されてしまう。

 この間に箒の紅椿がドライセンに向け、雨月の刺突を放ってレーザー攻撃を浴びせる。これにオウギュストは驚きつつも、何とか躱し切って箒に向けてビームハンドガンを撃つ。

 シールドで防がれてしまうが、流石に連続して受けるのは不味いと判断してか、箒は回避行動を取り、一夏と共に反撃してくる。

 

「クソっ、大人の男を舐めやがって! この餓鬼どもが!!」

 

 MSのドライセンが大き過ぎるのか、二人の放つ射撃兵装の攻撃に次々と被弾する。装甲の暑さによって撃墜には至らないが、その度に機体が揺れ、オウギュストを苛立たせた。

 そのままオウギュストは機体のビームランサーを使い、手近に居る一夏の白式を着こうとするが、これも躱されてしまう。何度突いても躱され、箒の紅椿にも躱される。次にビームトマホークに切り替えて振り回すも、苛立った攻撃は読まれているのか、これも躱された。

 

「鬱陶しい! これほど苛立った奴は初めてだ!」

 

 動き回って自分の攻撃を躱す一夏と箒に対し、更に苛立ったオウギュストは攻撃を速めるも、躱されるばかりで彼から更に冷静さを奪う。

 そんなオウギュストにルリのマギア・コリツェが迫る。一時バニッシュトの侵攻部隊を後退させることに成功したのだ。向かってくる新たな第四世代のISに対し、オウギュストは左腕のビームハンドガンを撃って迎撃する。

 

「また来たか! こいつも速いぞ!?」

 

 オウギュストは二人から一旦距離を取ってルリを迎撃するが、彼女のマギア・コリツェは躱しながら接近してくる。その次にビットを全て展開し、オウギュストのドライセンを追い込んでくる。

 

「足を狙って!」

 

「あぁ!」

 

 またも距離を取ろうとするオウギュストであるが、ルリはMSの巨体を支える大きな足を一夏と箒に要請する。今のオウギュストは冷静さを欠いており、一夏と箒の存在をすっかり忘れていた。この生じた隙を二人は逃すことなく素早く接近し、両足をブレードで容易く切断した。両足を切断されたドライセンは地面に倒れ掛けたが、バックパックのスラスターを吹かして何とかバランスを保つ。

 

「畜生が! この俺がこんな餓鬼ども相手に!」

 

 地上で両足をやられたMSなど役に立たない木偶の坊であるので、オウギュストは戦場から離脱しようとしたが、ルリが突っ込んできた。既に躱し切れない距離まで迫っており、オウギュストは叫び声を上げる。

 

「やぁぁぁ!」

 

「う、うわぁぁぁ!? 助けてくれぇぇぇ!!」

 

 実体剣の剣先を向けながら突っ込んでくるルリのマギア・コリツェを見たオウギュストは助けを呼んだが、誰も来ることは無く、ドライセンの装甲ですら貫通する剣による突進で機体を貫かれ、脱出が間に合わずに機体と共に運命を共にした。

 融合路を爆発させること無く倒すことに成功し、それを終えたルリはビットを自機に戻す。

 

『誰かいない? 人手が足りないわ! 誰でも良いの!』

 

 ビットを戻したところで、何処からかの救援要請が求む声が耳に着けているヘッドフォンから聞こえて来た。これにルリは一夏の方を見れば、彼は行けと告げる。

 

「ここは俺たちだけで十分だ。他に回ってくれ」

 

「うん、わかった」

 

 一夏の言葉に応じ、ルリは救援要請を求める区画へと飛んでいった。

 

 

 

 日本のIS学園における戦闘が一夏たちや守備隊、その増援によって拮抗する中、メイソン騎士団の増援が到着した。

 バニッシュトのアトリオックスの本隊と佐奇森神矢率いるGAやスコープドッグターボカスタムにブラッドサッカー等のAT、M9A2ガーンズバックで編成されたゴットアーミーだ。これに赤鬼十三騎士のカーネル大佐とインゲ・リーマン少佐が加わっている。

 

「GA全部隊はソロムコ隊と共に突撃せよ! 我が方も突撃だ! 神の為に!」

 

 カーネルの指示の下、先に狂人らが駆るGAがソロムコの大群と共にIS学園への突撃を掛ける。その後に自身もGAを身に纏い、身体中に狂気のエネルギーを感じつつガンステイド等の地上部隊と共に突撃を敢行した。

 

「あれがゴットアーマーとやらか。あんなアーマーは身に着けたくない物だな!」

 

 本隊と共に降下したアトリオックスは、専用機であるサザビーカスタムに乗り込む前にGAを見て、あれを身に着けたくないと口にする。

 事実、あれを身に纏えば、二度と普通に戻ることは叶わない。何故なら搭乗者の人体のあらゆる場所にコードが突き刺さっているからだ。あれを見て真面な神経の持ち主なら、GAを纏おうなどと思わないだろう。

 自機に乗り込んだアトリオックスは、先行して降下した部下に戦況がどうなっているかを問う。

 

「先遣隊、状況はどうなっている? あそこの建造物から火の手が見えんぞ」

 

『敵の抵抗激しく、前進できぬ状況であります!』

 

「なら抵抗の浅い所を探せ! もしくは十字砲火が来る場所だ! そこが一番脆い所でもある!」

 

 抵抗が激しくて戦況が拮抗していると言う返答が来れば、アトリオックスは抵抗の浅い個所か十字砲火の激しい場所を攻撃しろと指示を出す。

 

「出撃だ! 本隊は俺に続け!」

 

 それから本隊と共に出撃し、交戦しつつ抵抗の浅い個所を探し回った。

 アトリオックスのバニッシュト本隊と共に出撃したのと同時にようやく到着した神矢は、学園の様子を見てこれだけの戦力を投入しているにも関わらずに陥落していないことに落胆する。

 

「なんだ、これだけの戦力を投入しているにも関わらず、まだ落とせんのか?」

 

「例の三名を投入しましょうか?」

 

「おいおい、あれはまだ調整中だ。それにこの神が自ら出撃するのだ。勝利は確定する」

 

「はぁ…」

 

 まだ陥落しないIS学園にカーネルとは違う副官は例の三名を投入するべきかと問えば、神矢は自ら出撃するので必要ないと答え、自分が作り上げたGAを纏う。

 そのGAは他の者たちが纏う物とは違い、神聖感があるデザインであり、まさに自らを神と自称する神矢の性格を表している。数々の実験、と言うか生贄で得られたデータを元に作られているのか、コードを人体に突き刺す必要性は無いようだ。

 神の名に相応しいデザインの神々しいGAを纏った神矢は空高く飛翔し、自分等に抵抗を続ける学園を見下す。

 

「さぁ、世界よ。この神の下に跪くのだ…!」

 

 両手を広げて神の如くの態度を取れば、向かってくるアガサ騎士団のVAに向けて右手を翳した。その掌より光線が発射され、一撃でVAを吹き飛ばす。当然、纏っていた騎士は粉々だ。

 神矢のGA「新たなる神」にVA隊は一度怯んだが、VF-11Cサンダーボルトの援護を受けて再び挑んでくる敵部隊に彼は嘲笑う。

 

「ほぅ、今の攻撃で怯えずに向かってくるとは。余程の愚か者らしいな。なら、神に逆らう愚かさを、その身をもって知るが良い!」

 

 自分に向かってくる敵部隊に対し、神矢は神の如く振る舞い、彼女らを自分専用のGAの圧倒的な力を持って滅した。

 この間にもメイソン騎士団の増援が続々と到着しており、クローディア・オセロットやベン・ウッダーの隊も到着し、IS学園に向けて他の隊と共に突撃を行っていた。

 圧倒的な物量を持って学園に迫るメイソン騎士団とバニッシュト、ゴットアーミーに対し、守備隊は臆することなく防戦を継続する。

 戦いは激しさを増すばかりであった。




キートン山田「後半へ続く」

後、三話くらいで終了する予定です。


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激戦は学園を焼いて…後編

終わらせる気になったのは、モチベが低下して来たからです…。


 IS学園における戦いは、アトリオックスのバニッシュトと神矢のゴットアーミーの増援により、戦況は攻撃側のメイソン騎士団に傾いた。

 専用に改造したMSであるサザビーを駆るアトリオックスが、圧倒的な力を持って学園の防衛線を突破したからである。

 

「フン、異世界の機動兵器とやらはこんな物か? それにこの世界は持って居る物ばかりでつまらん! ISとやらは例外であるがな」

 

 乗機の性能と圧倒的な力を持って複数のジムⅢや不知火を撃破し、機体の足元に倒れるそれらの残骸を見ながら落胆したアトリオックスは、このIS世界の物が全て持って居る物ばかりで更に落胆する。

 彼のいる世界では旧世紀の物ばかりだ。無いとすれば、ISくらいな物である。これにアトリオックスはヴィンデルに対し嫌悪感を覚える。

 

「ヴィンデルの奴め、俺をこの世界に向かわせるために出まかせを言ったな。ISのコアとやらを手に入れれば、もう帰らせてもらおう。お前ら、続けぃ!!」

 

 向かってきたバルキリーのVF-117の編隊や不知火一個小隊を瞬く間に粉砕しつつ、アトリオックスは部下を率いて学園内へと突入した。

 一応ながら随伴歩兵は居るが、学園内に展開する歩兵部隊の待ち伏せ攻撃で阻まれており、アトリオックスに随伴できなかった、向かってくる敵機を撃破しながら進むアトリオックスのサザビーに、学園内の建造物で待ち伏せを行う対戦車班はカールグスタフm3対戦車火器を標的に向けて発射する。

 

「っ! 随伴歩兵はどうした!?」

 

『敵歩兵部隊に阻まれ、前進できません!』

 

「ちっ、ネズミの始末もやらねばならんのか!」

 

 攻撃を受けたアトリオックスは対戦車班をシールドで建物ごと粉砕しつつ、随伴歩兵がどうしたと問えば、その随伴歩兵部隊は抵抗が激しくて来られないと答える。

 速くこのつまらない任務を終わらせたいアトリオックスは単独で進むことにして、未登録のコアが保管されている区画へと進軍する。歩兵部隊や対戦車火器の車両などが妨害するも、アトリオックスのサザビーには傷一つも付けられない。彼の性格を反映したカスタマイズがされているからだ。

 唯一対抗できるMSや戦術機、AS、KMF、VAが挑むも、サザビーカスタムの圧倒的な性能の前に屍を晒すだけであった。

 

「ほぅ、単機で防衛線を突破するとは。あのエイリアンやるじゃないか。あそこから行くとするか」

 

『あっ!? おい! 待て!! ぐわっ!?』

 

 アトリオックスが防衛線に穴をあけたのを見たKMFのパーシヴァルを駆るブラッドリーは、持ち場を放棄してそこへ直行した。静止の声を出すグレイズに乗った騎士が居たが、紫色の武御雷の長刀で切り裂かれて撃破される。

 

「ブラッドリーめ、持ち場を放棄するとは! 騎士の風上にも置けん奴!」

 

 紫色の武御雷の随伴する色が違う同型機と交戦中のニムバスは、持ち場を放棄してアトリオックスが明けた穴に向かうブラッドリーに怒りを覚える。

 そんな時にニムバスのイフリート改がルリのマギア・コリツェの攻撃を受けて被弾する。上を取られているが、ニムバスには関係のない事だ。鬱陶しさを覚えたニムバスはスラスターを吹かせて機体を飛翔させる。

 

「えぇい、鬱陶しい奴! 引きずり降ろして細切れにしてやる!」

 

 自分に向かって飛んでくるイフリート改に、ルリの反応は遅れた。

 

「来たっ!?」

 

『反応が鈍いな! 戦場に出たことを後悔するがいい!』

 

 反撃を行おうとするルリであるが、ニムバスの言う通りに鈍すぎた。もう既にヒートソードの間合いに入られており、それが振り落とされようとしていた。これにルリは剣では無く、何故かロッドを構えた。

 

「ロッド? だが、既に遅い!」

 

 ロッドを構えたルリに呆気にとられながらも、止まることなく機体のヒートソードを振り下ろしたが、ロッドの先端に取り付けられた宝石より強力な光が発せられ、モニター越しより伝わる眩い光にニムバスは思わず目を背けてしまう。

 

「ぐわっ! 目潰しか!? うぅ!?」

 

 目晦ましを受けたと思ったニムバスであったが、それはMSですら吹き飛ばす強力な衝撃波であった。光と同時に吹き飛ばされたニムバスのイフリート改は地面に叩き付けられ、コクピット内に伝わる衝撃で思わず吐血してしまう。

 

「かはっ! 小娘め…! 許さん!!」

 

 身体を強打したはずだが、ニムバスは吐血するほどの痛みを物ともせずに上空のに居るルリのマギア・コリツェに接近しようと立ち上がる。

 そのままジャンプして再度ルリを細切れにしようとするが、邪魔な敵を排除し終えた四機の武御雷がニムバスのイフリート改に迫る。それに気付いたニムバスはルリを放置し、武御雷の対処に回る。

 

「足止めも出来ん奴らめ!」

 

 自分に背中を見せたニムバスに、ルリは空かさずにビット攻撃を行うとしたが、大量のソロムコやGAがやって来たためにそれの対処に追われる。

 

「美少女だァ! 美少女だァァァ!!」

 

「犯すぅぅぅ!!」

 

「何こいつ等!?」

 

 雄叫びを上げながら突っ込んでくる多数のGAに、ルリは十基全てのビットで対応する。

 GAはISほど防御力は高くなく、変幻自在のオールレンジ攻撃であるビットの掃射で次々とソロムコと同様に撃墜されていく。だが、GAを纏った男たちは狂人であり、死を恐れずに欲情する容姿であるルリに一直線に突っ込んでくる。

 

「アァァァ!!」

 

「怯まない!?」

 

「もっと撃ちなさい!」

 

 数十機も撃破したのに怯まずに突っ込んでくるGAにルリが驚いて攻撃を止める中、後退したマルアリア・カーンは攻撃を継続しろと檄を飛ばす。

 これにルリは正気に戻り、再びビット攻撃を行う。その攻撃にサブ・マシンガンを加え、制圧力を増させる。マルテリアのダヌム・アルゴンで編成されたVA隊の攻撃も加わり、GAとソロムコの大群の進撃を押し止める。

 

「クソっ、これだけの戦力を投入しているのにまだ突破できんのか!?」

 

 増援として投入された旧ソ連製大型戦車に随伴しているASのZy-98に乗るクラフチェンコは、大量の戦力を投入しているにも関わらずに突破できないことに苛立ちを覚える。

 彼が担当する区画は唯依の武御雷やゆきなの打鉄、グラディス、千雨、愛のラファールリヴァイブ、不知火にKMFの月下等の部隊が担当しており、強固な防衛線でメイソン騎士団とガンステイドの部隊は前進できないでいる。

 

「やもえん、強行突破するか」

 

 凄まじい防衛線にクラフチェンコは強行突破しかないと判断し、ブレイバーとソロムコ、レッドショルダーのインゲ・リーマン少佐の隊の到着と同時に突撃を行った。

 

『来るぞ! 構えろ!!』

 

「なんて数…!」

 

 援軍の到着と同時に数に任せた物量で突撃を敢行するクラフチェンコと大型戦車に唯依が構えろと無線機で叫ぶ中、ゆきなは突っ込んでくる敵の数に思わず逃げ出したくなる。

 グラディスと千雨、愛も同様であるが、ここで退けば学園は蹂躙されるので、地上に降りて迎撃を開始する。地上の敵部隊が防衛砲火によって次々とスクラップになっていくが、突撃の中心となっている大型戦車の正面装甲はMSやIS等のビーム攻撃を弾く特殊なコーティングが施されており、戦車に隠れられるくらいのサイズのATが下がっていく。隠れられない程に大きいグレイズやレギンレイズ、ドトール、ガンステイドは撃破されるばかりだ。

 空を飛んでいる敵部隊はハエの如く落とされていく。それでも敵部隊は数に任せて突っ込んでくる。やがて接近戦ができる距離まで来れば、大型戦車の背後よりリーマンの専用スコープドッグと数機の随伴機、ブラッドサッカーが飛び出し、手にしているヘビィマシンガンを浴びせる。

 

「こいつ等何者!? しかも包囲速過ぎだって!」

 

 接近してきたスコープドックに刀による斬撃を食らわせようとした千雨であったが、避けられてしまう。そればかりかあっという間に包囲され、四方八方よりヘビィマシンガンやミサイルを浴びせられる。

 

「千雨ちゃん!」

 

『人の心配をしている場合か!』

 

「っ!?」

 

 包囲された千雨を救おうとした愛だが、援護用の狙撃ライフルを構えた瞬間にリーマンのグレードアンテナとパイルバンカーが装備された専用スコープドッグが迫る。

 止めに入ろうとした月下を流れるように左腰のガトリング砲で仕留め、右腕に装備したパイルバンカーの打ち機に脚に装着している杭を装填し、地に足をつけている愛のラファールリヴァイブに高速で接近する。気付いた愛は直ぐに飛ぼうとしたが、リーマンに随伴している三機の赤い肩で重装備のスコープドッグがそれを阻止した。

 

「この!」

 

『フン、甘いな』

 

 接近してくるリーマンのスコープドッグに対し、シールド・ピアースで対処しようとした愛であったが、敵は百戦錬磨の兵士だ。あっさりと避けられてパイルバンカーを打ち込まれて吹き飛ばされる。

 

「きゃぁぁぁ!」

 

「愛!? このぉぉぉ!!」

 

 絶対防御が働いたために愛は無事であったが、流石に衝撃波までは相殺しきれず、強い衝撃で気絶してしまった。彼女がやられたことに怒りを覚えたグラディスはラファールリヴァイブの最強装備とも言える二門の25ミリ七連砲身ガトリング砲を撃つが、既にリーマンは射線より離脱していた。代わりにガンステイド四機が撃破された。

 そんな冷静さを失ったグラディスに三機のブラッドサッカーが高速で迫り、連続してアームパンチをお見舞いする。三発のアームパンチを受けたグラディスは衝撃の余り、昏倒してしまう。

 

「NO…!」

 

「グラディスちゃん! このぉ、邪魔だ!!」

 

 仲間を倒されたことに腹を立てたゆきなは強引に包囲を突破し、駆け付けようとするが、彼女の元にもパイルバンカーを持つリーマン機が迫りくる。

 

「次は奴だ! 援護しろ!」

 

 ブレードで友軍機を切り伏せながら向かってくるゆきなの打鉄に迫るリーマンは随伴する僚機に指示を出しつつ、的を絞らせないようなジグザグな動きで接近する。

 

「やぁぁぁ!」

 

「動きが見え見えだわ。小娘め」

 

 怒り心頭にブレードで斬りかかるゆきなに、リーマンは確実に勝ったと判断してフェイントを掛けようと操縦桿を強く握った。

 あの斬撃を躱し、右腕のパイルバンカーを打ち込むだけ。リーマンはそう思ってほくそ笑んでいたが、それが彼の最期の思考であった。パイルバンカーの間合いにゆきなが接近したところで、躱して打ち込もうとしたところで、撃ち込まれたビームで乗機を狙撃され、リーマンが機体と共に訳も分からずに爆散した。

 

「うわっ! なんだ!?」

 

 その言葉を最期に、リーマンは機体と共に運命を共にした。彼のスコープドッグを攻撃したのは、エルネスティーヌの第四世代型の専用IS「青騎士」である。増援が到着したのだ。

 リーマンを仕留めた青騎士はアガサに持ち替え、周辺の敵を瞬く間に一掃する。レッドショルダーのATも立ち向かうが、圧倒的な青騎士の性能の前に撃破されるばかりだ。

 

「メイソンの連中よりも動きが良い。だが!」

 

 KMFのランスロットに乗ったミッチェルも地上に降り立ち、レッドショルダーとの交戦を開始する。

 連携を取ってこちらの動きを抑え込もうとするスコープドッグやブラッドサッカーに対し、ミッチェルは機体の高機動を駆使して躱し切り、手にしている両手剣で次々と斬り捨てる。

 

「負けてられない!」

 

 千雨もミッチェルが乗るランスロットの剣裁きを見て闘志を燃やし、千刀流を駆使して次々と斬り始める。敵機は手練れであるが、千雨の思い切った行動で意表を突かれてか、戦闘力を奪われていた。尚、千雨は一人も殺していない。

 

「レッドショルダーがやられているだと!? なんてことだ!」

 

 大型戦車に随伴するクラフチェンコは赤鬼十三騎士の一人であるリーマンが斃され、レッドショルダーが苦戦しているのを見て臆し始める。

 そこで逃げようと思っていたが、救援に駆け付けたアイリスディーナが駆る戦術機のEF-2000タイフーンの滑走砲による砲撃を受け、要である大型戦車を破壊される。戦車まで破壊されたクラフチェンコはこれ以上戦うのは不可能と判断し、撤退を開始する。

 

「クソっ、戦車までが! ちっ…!」

 

 撤退すると判断したクラフチェンコは未だに交戦しているメイソン騎士団を見捨てて自分だけ逃げようとしたが、唯依の武御雷が彼の乗っているZy-98の背後に迫る。

 

「逃がすか!」

 

『何っ!? うわぁぁぁ!!』

 

 反撃をする間もなくクラフチェンコは唯依のブレードに切り裂かれ、そのまま絶命した。

 

「もうやられたのか!? 不甲斐ない奴らめ!」

 

 次々と倒されていく同じ赤鬼十三騎士にニムバスは苛立つ。そんな彼も数秒後にその仲間入りを果たしてしまう。

 相手をしている紫色の武御雷は左手に持つ突撃砲をニムバスのイフリート改に向けて撃ちながら接近し、右手の長刀を振り下ろそうとしてくる。これにニムバスは牽制射撃と見抜いて動くことなく、両足のミサイルランチャーを発射した。全弾発射したが、武御雷は跳躍ユニットを駆使して躱しながら接近してくる。僚機の支援なしに近接戦闘に挑んでくる武御雷に、ニムバスもそれに応えてか、両手のヒートブレードの熱を上げる。

 

「このジオンの騎士に接近戦を挑むか。よかろう、その武士の誇りに答え、私も剣で答えてやる! 行くぞ!!」

 

 ブレードを構えながら向かってくる紫色の武御雷にニムバスも機体のスラスターを吹かせ、接近戦で応えて斬りかかる。

 互いの剣が重なり合い、そのまますれ違えば、先に武御雷が地に膝をつく。これでニムバスのイフリート改が勝利したと思われていたが、結果は違った。

 

「ぐっ…! 見事…!」

 

 ニムバスのイフリート改が敗北したのだ。彼の機体はブレードで胴体を斬られて大破する。

 これによって軍事施設内に侵攻したメイソン騎士団は敗退し、残りは学園の方へ侵攻した隊と共に居るバニッシュトとゴットアーミーのみだ。

 

「学園の方の制圧を急ぐ! 続け!」

 

 上空の敵機群をある程度片付けたセルベリアは、ここは残りの部隊に任せ、学園の防衛する部隊の加勢に向かった。ルリもその後へと続いた。

 

 

 

 赤鬼十三騎士四名が倒れたことで軍事施設周辺や沿岸地帯の迎撃が落ち着いた頃、学園ではアトリオックスとブラッドリー、カーネルが率いるレッドベレー、神矢が猛威を振るっていた。

 

『お前が、織斑千冬か?』

 

「形が違う小型ロボット…ただ者ではないな」

 

 千冬を殺そうと戦っていたメイソン騎士団の騎士とサザーランドごとパーシヴァルのミサイルシールドで攻撃して全滅させた後、彼女に本人であるかを問う。これに千冬はブラッドレーをただ者ではないと判断し、突き刺さっている刀、大太刀を構え、質問を質問で返した。

 

「味方を攻撃したのか、貴様は?」

 

『味方…? あぁ、地に伏しているこいつ等か。そいつ等は放っておいて、俺のパーシヴァルの攻撃を躱し切るとは良くやるな。褒めてやるぞ』

 

「味方を殺したんだぞ、貴様。罪悪感は無いのか?」

 

『はぁ、また質問か。自分を殺しに来た雑兵どもを気遣うとは、つくづくと甘い女だ。そんなお前の大事な物は何なのか、聞かせてもらうとしよう』

 

 これを挑発と捉えたブラッドレーは答えることなく、逆に挑発してやろうと思って自分の攻撃を避けた千冬を褒める。千冬もその手には乗らず、味方を攻撃したブラッドレーに罪悪感が無いのかと問う。

 また質問で返してきた千冬にブラッドレーは飽きたのか、ため息をつきながら太腿部に内蔵された二門のハドロン砲を発射した。放たれるエネルギー弾に千冬は自身の身体能力で躱しつつ斬り込もうと接近する。

 

「ほぅ、中々すばしっこい奴だ。KMFのハドロン砲攻撃を躱すとは。そうでなくては面白くないんだがな!」

 

 人とは思えぬ速度で接近してくる千冬にブラッドレーは闘争心を刺激されてか、彼女との死闘を楽しんだ。両肩のスラッシュハーケンを放つが、千冬はこれを躱してワイヤーを切り裂く。

 

「ハハハ! 面白い女だ! なら、これはどうだぁ!?」

 

 スラッシュハーケンのワイヤーを切り裂いて自分に接近してくる千冬に、ブラッドレーはパーシヴァルの接近戦で虚を突くための物であるヘッドハーケンを放ったが、放たれる直前に気付いた彼女はこれを紙一重で躱す。

 

「ぐっ!?」

 

 虚を突く攻撃を避けて次なる攻撃を仕掛けようと一旦距離を取る千冬だが、ブラッドレーは容赦なく追撃を行い、四連クローで壁に彼女を叩き付け、ルミナスコーンと呼ばれるドリル型エネルギー武器を展開し、いつも敵に対して行っている質問を行う。拘束を解こうとする千冬であるが、KMFの拘束は全く解けない。

 

『ヘッドハーケンを躱したことは褒めてやるぞ! そんなお前に質問する。お前の大事な物は何だ…? 答えは、命だろうが!!』

 

 狂気的な笑みを浮かべつつ、ブラッドレーは分かり切った答えを出しながら標的を掴む四連クローの出力を上げたが、虚を突くような答えが千冬の口から出される。

 

「一夏…!」

 

『なに? 一夏…だと…!?』

 

 これから殺す相手の口より、自分が思っているのとは違う答えが出たことにブラッドレーは虚を突かれ、四連クローを握る手を緩めてしまう。その生じた一瞬の隙を千冬は逃すことなく、四連クローを力強く蹴りを入れ込んで破壊し、拘束から逃れた。

 

「なっ、なにっ!?」

 

 虚を突かれた隙にKMFを拘束を解いた千冬の馬鹿力に、ブラッドレーは驚愕して離れてしまう。そこが彼の敗北へと誘う。

 

「馬鹿な!? 貴様は! 貴様は自分の命が惜しくないのか!?」

 

「私の大事な物は、私の弟であり、唯一の肉親である一夏だ!!」

 

「ほざけぇぇぇ! 大事なのは、自分自身の命だろうがァァァ!!」

 

 大事なのは自分の命よりも弟である一夏であると叫ぶ千冬に対し、ブラッドレーは得物をやられながらも残った左手に持つミサイルシールドで攻撃したが、彼女はそれを超人的な身体乗る良くて躱しつつ自分の得物を力強くパーシヴァルに突き刺した。

 刀身は装甲を貫き、コクピットがあるブロックまで到達して乗っているブラッドレーを串刺しにする。串刺しにされたブラッドレーは貫かれた個所より流れ出る自分の血を見て、自身の命が失われていくことを悟る。

 

「グァァァ!? 命が…! 俺の命が…尽き…る…!」

 

 その言葉を最期に、ブラッドレーは息絶えた。

 

「はぁ、はぁ…! これで最後だと良いが…」

 

 ブラッドレーを何とか倒した千冬は息を切らし、床に膝を付けながらこれが最後であってくれと頼んだ。だが、事はそう上手く運ばない。山田真耶の駆るラファールリヴァイの残骸が千冬の目の前に投げ出された。

 

「っ!? 山田先生! 大丈夫か!?」

 

 投げ出されてきた真耶の無事を確かめる千冬に、近付いてくる者が居る。その者の名は佐奇森神矢。ISとは似て異なる物、ゴットアーマーの開発者であり、その才能に自惚れて神を自称する束よりも危険な男だ。

 

「あぁ、心配するな。そいつは生きてるよ。全く、ISと言うのはしぶとくて鬱陶しい。この神の攻撃に耐えるとは。まぁ、今楽にしてやる。お前共々な」

 

「貴様…!」

 

 自分の助士を嬲った神矢に、千冬は怒りを燃やす。対する神矢も煽り立てるように挑発し、纏めて殺すと宣言した。

 

 

 

「例の物は回収できたな。さて、ずらかるとするか」

 

 一方のアトリオックスは、学園に秘蔵されていたISコアの入手に成功していた。彼が率いるバニッシュト本隊に立ち向かった機動兵器はことごとく倒され、屍を晒している。

 機体から降りてコアを回収したアトリオックスは再びサザビーに乗り込み、離脱しようとしたが、更識姉妹による妨害を受ける。

 

「ただでここから出す訳には行かないわ! 怪物さん!」

 

「春雷! 山嵐!」

 

 楯無のミステリアス・レイディの単一能力である沈む床で拘束され、そこから簪の打鉄弐式の春雷の荷電粒子攻撃に山嵐の多連装ミサイル攻撃による弾幕が浴びせられる。これにミステリアス・レイディの蒼流旋の四門のガトリング砲が加わる。

 随伴していたバニッシュトの部隊は耐え切れずにやられてしまうが、アトリオックスのサザビーはコヴナント製のシールドが内蔵されており、その弾幕を耐え抜き、挙句には気合で沈む床の拘束を解いてしまう。

 

「ぬァァァ! シールドはこちらにもある! それにちゃちな拘束技もこの俺には効かんわッ!!」

 

「嘘ッ!? 沈む床(セックヴァベック)を気合だけで!?」

 

「IS以上のシールドまで内蔵してるの!?」

 

 余りの常識を逸脱したアトリオックスに、更識姉妹はただ驚愕するばかりだ。そんな姉妹にアトリオックスは容赦なく、MSサイズのグラビトンメイスを振るう。

 

「次の小細工はさせんぞ!」

 

「なら、ミストルテインの槍で!」

 

「私が時間を!」

 

 メイスを躱した楯無は諸刃の剣であるミストルテインの槍でしか対抗できないと判断し、後ろへ下がり始める。その時間稼ぎの為に簪が前に出たが、接近戦ではアトリオックスの足元には及ばなかった。

 

「きゃぁぁぁ!」

 

「簪!? もう許さないわよ!」

 

 全く手も出せずにメイスを打ち込まれて気絶した簪を見て、楯無は怒りを覚え、アトリオックスにミストルテインの槍を打ち込もうとする。だが、相手は歴戦錬磨のジラルハネイ。捨て身の特攻を見破られ、妹と同様にあっさりと倒されてしまった。

 

「かはっ!?」

 

「身内をやられ、怒りに任せた捨て身の特攻か。ここは連れて逃げるのが正解だ」

 

 妹共々に床に叩き付けられて気を失っている楯無にアトリオックスは告げた後、そのまま学園を後にしようとしたが、ここへ一夏の白式が奇襲を仕掛けて彼のサザビーの左腕を斬り落とす。

 

「っ!? 貴様は…? ヴィンデルが連れて帰れと言っていた人間の小僧か!」

 

「これ以上、誰も傷付けさせやしない! お前を倒す!」

 

 現れた一夏に対し、アトリオックスはヴィンデルが出来れば連れて帰れと言っていた織斑一夏であると思い出す。

 

「少し長いしたところで、おまけもついてくるとは。小僧、先の奇襲は見事だぞ。それに免じて、俺も生身同然で勝負してやる」

 

 自分のサザビーの左腕を斬り落とした一夏に対し、アトリオックスはその奇襲の仕方を褒め、それに免じて生身での戦いを挑むと告げる。

 

「人間じゃない…!? 宇宙人か!?」

 

「宇宙人を見るのは初めてか、小僧? 何もこのMSとやらに乗ってるのが、人間ばかりではないぞ」

 

「あんた、そのロボットに乗らなくて良いのか? ISと生身でやるだなんて、千冬ねぇ以外ありえないだぜ」

 

 自分の姿を見て驚く一夏に対し、アトリオックスはMSに乗っているのは人間だけではないことを告げる。生身で挑むと言うアトリオックスに、一夏は気遣うような言葉を投げ掛ける。だが、当の本人はやる気であった。

 

「フン、相手を気遣うとは。甘い小僧め! むしろ、俺が手加減をしてやってるんだ。遠慮なしに来い!!」

 

「なら! どうなっても、知らないぞ!」

 

 アトリオックスはむしろこっちが配慮していると言えば、一夏は挑発されたと思って雪片弐型を叩き込もうと接近した。対するアトリオックスもグラビトンメイスを構えて迎え撃つ。IS学園における戦いは、最終局面へと移行していた。




決着は次回に持ち越しになっちまった…。

まだ何人か死んで無いのが居ますが、次回で戦死する予定です。


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新世界の神 佐奇森神矢

「僕が新世界の神となる!」


 織斑一夏対アトリオックス、織斑千冬対佐奇森神矢と戦いで最終局面を迎える中、ジェーン・コンティがグレイズの改良型であるアードラを駆ってグール隊のザクⅢを次々と撃破していた。

 

「クソっ! たかが一機のMSに!!」

 

 ただ一人ヘキサ・フレームのMSであるユーゴーに乗るグール隊の隊長であるクロードは、僚機を次々と120ミリライフルや特殊合金で出来たシールドクローで撃破するジェーンのアードラに向け、大型ビームライフルを乱射する。

 無論、全く当たらず、逆に接近されてアードラが腰より抜いたナイトブレードを頭部にあるコクピットに突き刺されて戦死した。

 

「うごぁ!?」

 

 上面から来たブレードの刃に圧し潰され、クロードは圧死する。

 

「味方は!? 味方は何処だ!?」

 

 盾にしている部下を探しているスコープドッグライトアーマーに乗るヌメリコフであったが、その盾は既に全滅していた。

 単独となったヌメリコフは逃げる他無く、新しい盾となる味方を探している内に、ラウラの専用ISであるシュヴァルツェア・レーゲンによる攻撃で機体諸共始末される。

 

「う、うわぁぁぁ!?」

 

「今の奴、仲間を盾にする奴だったな。いい気味だ」

 

 部下を盾にするヌメリコフにラウラは何の同情をすることなく、次なる標的を探して上昇する。

 次の犠牲者はクローディア・オセロットとベン・ウッダーであった。先に後者であるウッダーの方が犠牲者となった。彼が乗るアヘッドが、セシリアのブルーティアーズMkⅡや鈴の甲龍、シャルルのラファールリヴァイブⅡの連携の前に苦戦していた。

 

「えぇい、たかが子供如きに!」

 

 子供が纏っているISに、一方的にやられるウッダーは苛立ち始める。連携を取って攻撃している三名は相手の動きをよく読み、火力が貧弱ながらも一機のMSを追い込んでいた。

 

「的が近過ぎて当たらん! ビームサーベルすら当たらんぞ!」

 

 右手にビームライフルを持ち、左手にビームサーベルを持って応戦するウッダーであるが、ISが速く動いて的を絞らせず、挙句にサーベルを振るっても距離を取って攻撃してくる。

 彼女らの連携で更にウッダーが苛立つ中、マルアリアのダヌム・アルゴンが接近し、手にしている高出力のビームライフルを彼のアヘッドに向けて放つ。

 

「学生たち、邪魔だ!」

 

『なにっ!? うわぁぁぁ!!』

 

 マルアリアが叫べば、交戦していた三人はウッダーのアヘッドより離れる。三機のISに翻弄されていたウッダーはマルアリアの接近に気付かず、そのまま彼女が放ったビームによって乗機を撃墜されて戦死した。

 ウッダー機を撃墜したマルアリアは、動じているセシリアに鈴、シャルルを放って続けて様にクローディアのシナンジュに僚機を伴って攻撃する。

 

「牽制射撃!」

 

『了解!』

 

 サブフライトシステムに乗ってこちらを檄檄してくるシナンジュに対し、マルアリアは僚機らに牽制射撃を命じ、接近戦に長けた面々と共に突撃を行う。

 だが、相手はアトリオックスのサザビーを超えるとも言える高性能機のシナンジュだ。一瞬にして接近したマルアリアを含めたダヌム・アルゴンが、シールドにマウントされたままのビームアックスの薙ぎ払いによって撃破される。

 

「あぁぁ!」

 

 唯一生き残れたのはマルアリア機だけであった。敵機数機を纏めて振り払ったクローディアは、シナンジュの拡張性に過ぎれるビームライフルの下部にバズーカを装着し、左側面より襲い掛かるVF-11Cサンダーボルトに向けて撃ち込んで撃破した。

 続けて別の敵を倒そうとするクローディアのシナンジュの背後より、箒の紅椿の空裂(からわれ)の斬撃が迫る。

 

「いやぁぁぁ!!」

 

 声を上げながら斬り込んできた為、気付いたクローディアはシールドで防いだ。だが、相手は純正の、それも篠ノ之束が妹の為に作ったISであり、模造品のVAとは訳が違う。シールドは避けてしまうが、クローディアの判断は早く、直ぐに距離を取ってライフルを腰のラックに装着し、即座にビームサーベルを抜いて反撃に出る。

 

「うわっ!?」

 

 流石にビームサーベルを受け切れないのか、箒は思わず避けてしまった。これを逃さず、クローディアは追撃の一手を箒に向けて振り下ろさんとしたが、ここに同じ第四世代型のISである青騎士が迫る。

 

「まだ終わらん!」

 

『っ!?』

 

 そのISを纏うエルネスティーヌの声に、直ぐにクローディアは標的を彼女に変えたが、刺突は避けられ、両手剣のアガサを胴体に叩き込まれた。

 アガサの切れ味はナノ・ラミネート装甲を容易く切り裂くほどであり、クローディアのシナンジュは両断される。コクピット近い部分を斬ったために脱出は間に合わず、クローディアは最期を悟りながら機体と運命を共にした。

 

『お父様、お母様…』

 

 ガスマスク越しで親の名を口にしながら、クローディアはシナンジュの爆発の炎に呑まれた。

 クローディアの敗北と同時に、軍事施設方面や学園付近に展開していたメイソン騎士団の部隊は撤退を開始する。残るは学園方面に居るバニッシュトとゴットアーミーのみだ。

 

「学園に侵入した賊がまだ残っている! 行くぞ!!」

 

『了解!』

 

 エルネスティーヌの指示で、まだ戦闘可能な部隊は学園に居る敵部隊の掃討に向かった。

 

「一夏が心配だ。私も…」

 

『いや、お前は我々と来てもらおう』

 

「っ!?」

 

 最後となった箒も他の者たちと共に向かおうとしたが、何者かに専用機の紅椿諸とも拉致されてしまった。近くには味方は居らず、それにやや守備隊は混乱しているので、誰も箒が攫われたことを気付かなかった。攫ったのは無論、メイソン騎士団の手の者である。

 束の妹が攫われたことも知らず、戦闘可能な部隊は学園への掃討に向かってしまった。

 

 

 

 IS学園における戦いの最終局面となっている千冬対神矢、一夏対アトリオックスの対決は、学園側の不利となっていた。

 

「ハハハッ! どうした、どうした? 初のIS適正者はその程度の実力か?」

 

「グッ…! こいつ、近付けん!」

 

 GAの開発者である神矢との戦いでは、アガサ騎士団より譲渡された代用品のVA「青武者」を纏って戦う千冬であったが、開発者が直々に纏うGA「新たなる神」に近付けずにいた。

 そのGAを纏う神矢はひたすら刀を持って斬りかかって来る千冬を全く動くことなくあしらうだけで、余裕を浮かべながら攻撃に対処している。まるで自分が負けるとは思っても見ない様子だ。

 

「やはり代用品では…!」

 

「言い訳か? たくっ、どれほど強いかと思ったらこの程度か。遊びにもならん。もっとも、人形如きがこの神に敵うとは思ってもないがな」

 

 ISの模造品であるVAでは、神矢のGAには歯が立たぬと千冬は判断する。対する神矢はあの千冬が自分に敵わぬと知れば、自惚れたような言葉を吐いて彼女を苛立たせる。

 

「イラつく奴だ…! 何が神だ? 聞いていて反吐が出る。お前のGAとやらが採用されないのは、お前自身の所為じゃないのか?」

 

 自分を神だと思い、全てを見下すその態度に我慢できなくなった千冬も本音を漏らしてしまう。同時にGAが採用されなかったのは、開発者自身に問題であったことを指摘すれば、自意識過剰の神矢の癪に障ったのか、彼の表情が殺気立った物に変貌した。

 

「貴様…! この神を愚弄したな…!? 道楽で生かして置けば付け上がりおって…! 神罰を下してやる!」

 

「自意識過剰過ぎる神様だな!」

 

「ほざけ! この神が創造する新世界に、貴様の居場所は無い!!」

 

 更に煽り立ててやれば、神矢は怒り心頭に千冬に突っ込んでくる。これが千冬の狙いであったが、彼が纏う新たなる神の力は想像を上回る物であった。

 

「何だこのパワーは!? ISとは比べ物にならない!?」

 

「フハハハッ! 身の程を知れ! この人形風情め! 貴様はこの神の前で敗北する運命(さだめ)なのだッ!!」

 

 恐ろしいパワーに苦戦する千冬に対し、神矢は彼女を人形と表しながら恐るべき連撃を放ち、自分に敗北する運命と告げる。

 無論、千冬はその運命に従ってやる義理は無い。抗うために刺突による一太刀を神矢に振るう。

 

「そんな運命、私は認めない!」

 

「うぐっ!?」

 

 運命に抗う千冬の一太刀が、GAのクレイジーバリアを貫通して神矢の身体に届いた。傷は浅かったが、彼のプライドを傷付けることは成功した。

 人形風情と見下していた千冬に、神である自分の身体に傷を付けられた神矢は激怒し、倍返しの反撃を行う。

 

「この神の、この神の身体に傷を付けたなァ!? 人形の分際でこの神をぉぉぉ!! 許さん! 許さんぞ貴様ァァァ!!」

 

「かはっ…!?」

 

 怒りを燃やす神矢の倍返しの手刀はVAの絶対シールドを貫き、千冬の腹に届いた。手刀を突き刺された千冬は血を吐き、神矢が突き刺した右手を引き抜けば、床に崩れ落ちるように倒れる。倒れた彼女の身体より、血だまりが広がり始める。

 千冬を倒した神矢は高笑いし、自分が最強であり、神であると動かない彼女に告げる。

 

「どうだ!? この神である佐奇森神矢こそが最強なのだ! 貴様は人形の分際でこの神に逆らい、敗北したのだ! 俺に逆らうこと事態が間違いであり、悪なのだ!!」

 

 彼の勝利を祝福する者も居なかったが、自分を愚弄した千冬に勝った神矢は上機嫌であり、碌に生死を確認せずに学園を後にし始める。

 

「さて、残りは篠ノ之束だ。この人形の出来損ないの弟の方は、あのアホなエイリアンが始末するだろう」

 

 一夏の方は見下しているアトリオックスが始末するだろうと胡坐をかき、自身の計画遂行の為に自分のアジトへと帰投する。

 

「どうした!? それでもISを初めて動かし、世界を変えた女の弟かァ!?」

 

「くぅ…! 本当に生身かよ!?」

 

 姉である千冬が神を自称する悪魔のような男に負けたことも知らず、一夏はアトリオックスと死闘を繰り広げていた。

 第四世代型までアップグレードされた白式を纏う一夏であるが、相手のアトリオックスは生身でありながらISを上回るような戦闘力で追い込んでくる。もしISを纏っていなければ、一夏は体格で勝るアトリオックスに捻り殺されていた事だろう。そのアトリオックスも自分の世界の古代宇宙科学文明であるフォアランナーの科学力の恩賞が無ければ、ISに無惨に敗北していたはずだ。

 両者には超科学的な恩恵があり、それでこの戦いは成立している。どちらにそれが無ければ、僅か数秒ほどで終わっていた事だろう。

 

「小僧! 俺が生身だから手を抜いているのかァ!? 踏み込みが甘すぎるぞ!!」

 

「あんたが強過ぎるだから!」

 

「そんな言い訳をするな!」

 

 余り攻めてこない一夏に苛立ったアトリオックスは、自分が生身だから手を抜いているのかと問えば、相手の少年はそちらが強いからだと答える。

 その答えを無茶苦茶にも言い訳と判断したアトリオックスは、グラビトンメイスを恐ろしい速さで連続で叩き込む。この尋常でない機関銃のようなメイスによる打撃を一夏は受け切るのは不可能と判断し、ISと白式の機動力を持って躱し続ける。

 今度は避けてばかりの一夏に、アトリオックスは更に苛立ち始める。

 

「貴様、戦う気が無いのか!? 反撃せんか!」

 

「無茶を、言うなァァァ!!」

 

 自分より遥かに強く、挙句に無茶苦茶なアトリオックスに一夏も怒りを覚えたのか、もしもの時に備えて温存していた白式の第二形態へ移行させた。その光で目晦ましを行い、相手が怯んだ隙に反撃の一撃を見舞う。

 この一連の一夏の流れを、アトリオックスは一旦距離を取った後に褒める。

 

「ほぅ、変身の光で目晦ましを行い、体勢を立て直す前の一撃。見事だ。四年か五年ほど鍛錬すれば、姉貴を超えるような最強の戦士になれるぞ、小僧。この俺が保証するんだ、誇るが良い!」

 

「ありがとよ、エイリアンのおっさん。でも、なる気は無いぜ!」

 

 四年か五年ほど修行を行えば、最強の戦士になれると言うアトリオックスに対し、一夏はなるつもりは毛頭ないと突き返した。いま戦うのは、大切な日常を守るため。それを捨てて戦士になるなど、今の一夏には考えられないことだ。だからこそ、自分に戦うことを強制するアトリオックスが許せなかった。

 

「ちっ、褒めてやった物を! その才能、ここで潰してくれる! だが、最後にお前の全力をこの俺にぶち込むことを許可してやる! 殺すつもりで来いッ!!」

 

「殺す気で…? 俺に人殺しをやらせるのか!?」

 

 殺す勢いで全力を叩き込めと言うアトリオックスに、殺人に対する抵抗がある一夏は動揺した。この間に一夏は戦闘行為を行ったが、誰一人殺していない。

 

「そのつもりで言っている! やらんと言うなら、部下に命じて貴様の身内や仲間全員を殺すぞ!!」

 

「千冬ねぇや箒、セシリアや生徒会長たちを殺すだと…!? そんなの、させるかっ! 絶対に!!」

 

 殺人に対する抵抗を覚える一夏に対しアトリオックスは、やる気を出させるために部下に命じてこの学園の者たちを殺すと脅した。大切な者たちを傷付けることに怒りを覚えた一夏は、白式の単一仕様能力である零落白夜(れいらくびゃくや)を発動し、雪片弐型を変形させてエネルギーの刃を形成させた。そのエネルギーの刃を、一夏はアトリオックスに向けて振り下ろそうと、雄叫びを上げながら斬り込む。

 

「うぉぉぉ!!」

 

「来いッ!!」

 

 振り下ろされんとするエネルギーの刃に、アトリオックスはバリア機能を持つフォアランナーの遺産で出来た希少金属を使用したシールドを構えた。

 やがて刃が振り下ろされれば、シールドを前に出して防ごうとした。だが、零落白夜の力は想像を上回り、フォアランナーの科学力とめったに取れない希少金属で出来たシールドが切り裂かれたのだ。これにはアトリオックスは驚愕するしかなかった。

 

「シールドが!?」

 

 シールドが破壊されれば、直ぐに回避行動を取ろうとするアトリオックスであるが、既に一夏は弐撃目の体勢に入り、逃すつもりは無いようだ。既に間に合わない距離に入られているので、アトリオックスはグラビトンメイスを打ち込んだが、一夏の二撃目で弾かれてしまう。

 盾と武器を失ったアトリオックスはとどめの一撃を入れ込まんとする一夏の斬撃に対し逃れられないと判断、何をどう考えてか、真剣白刃取りで受け止めようと両手を構えたのだ。

 怒りで冷静さを失っている一夏は容赦なく斬撃を叩き込む。これをアトリオックスはエネルギーの刃を両手で受け止めた。アトリオックスの両手がエネルギーの刃に触れた瞬間に爆発を起こし、辺り一面に爆風が巻き起こる。

 

「殺した…?」

 

 脅しに怒り、諸刃の剣とも言える零落白夜の一撃をアトリオックスに見舞い、殺してしまったと思っていた一夏であったが、煙が晴れた途端に見えた光景に絶句する。

 それは、血塗れのアトリオックスが生きて零落白夜の一撃を真剣白刃取りで防いでいたのだ。

 

「っ!?」

 

「貴様…踏み込みが…甘いぞ…!」

 

 並の人間、否、ジラルハネイなら死んでもおかしくない出血量であるが、このジラルハネイは異常であり、生きている。意識は朦朧としているが、まだ立っている。

 そんなジラルハネイであるアトリオックスは、最後の力を振り絞ってか、渾身の頭突きを殺すことに無意識に躊躇した一夏の白式に叩き込んだ。

 

「躊躇したなァァァ!!」

 

 この怒りの頭突きは絶対防御を貫通し、それを受けた一夏の白式は吹っ飛んで壁に激突する。一夏は何が起こったか分からないまま、アトリオックスの頭突きで気絶した。傍から見れば死んでいるように見えるが、ISのおかげで生きている。その頭突きを食らわせたアトリオックスも気を失い、床に倒れ込んだ。一夏とアトリオックスの対決は、相討ちと言う形で幕を終えた。

 倒れ込んだアトリオックスの元に遅れてやって来た親衛隊たちが近付き、倒れている自分らの総帥を見て驚きの声を上げる。

 

「嘘だろ! 総帥が血塗れで倒れているぞ!?」

 

「刺されても撃たれてもピンピンしてた総帥だぞ!? ありえねぇよ!」

 

「一体どうなってんだ!?」

 

「担架を持ってこい! 早く運び出せ!」

 

 不死身とも言える自分らの総帥が、倒れていることに親衛隊の者たちは動揺を隠せない。直ぐに担架を持ったジラルハネイたちが急行し、瀕死のアトリオックスを載せて運び出そうとする。

 付近に倒れている一夏に対しては、バニッシュトの面々は既に死亡していると判断して気にも留めなかった。今は自分等の総帥をここから運び出して脱出する事が優先であるからだ。

 

「あそこでぶっ倒れてる人間の餓鬼は!?」

 

「ほっとけ! どうせ死んでるだろ! 今は総帥を治療するのが先だ!」

 

 その言葉通り、一夏を放ってバニッシュトは倒れたアトリオックスを連れて撤退した。

 

 

 

 千冬と神矢の戦いは後者が圧勝し、一夏とアトリオックスとの対決は相討ちと言う形で幕を終える中、自分の拠点へと帰ろうとする攻撃軍に、守備隊の追撃が行われる。

 

「こちらが退けば、追撃か。後は任せるぞ」

 

「はっ!」

 

 神矢は追撃を掛ける学園守備隊に対し、カーネルに食い止めるように指示を出した。これに応じ、カーネルは応じて配下の部隊に撤退の支援を行わせる。つまり迎え撃つのだ。

 

「おっ、丁度いいぞ! 目標は達成したんだ! この隙に乗じて撤退するぞ!」

 

 瀕死のアトリオックスを護送するバニッシュトは、カーネルのゴットアーミーが守備隊と交戦している間に先に撤退を始めた。メイソン騎士団も目標を達成しているので、協力するレダニア軍と共に撤退を開始している。

 対する追撃を行う守備隊を指揮するエルネスティーヌは、専用の第四世代型IS「青騎士」を駆って、迎え撃とうと展開してくる赤い肩のスコープドッグとM9A2ガーンズバック、GAを次々と撃破していく。

 

「ここまでしておいて、ただで逃げられると思うな!」

 

 そう言って自分を止めようと向かってくる敵機を斬り斃すか、左腕に装着したクロスボウ型ビーム砲で仕留めつつ、撤退しようとする連合攻撃軍を追撃する。

 

「なんて強さだ! うわっ!?」

 

 M9に乗るレッドベレーのパイロットは余りのエルネスティーヌの青騎士の強さに驚き、思わず下がってしまう。この臆した行動が裏目に出て、後続のセルベリアのドライ・シュテルンに撃破される。

 後続を得て損耗しきった連合攻撃軍に更なる損害を与えるエルネスティーヌの追撃隊であったが、勢いはここで止まってしまう。

 

「来たぞ! 捕えろ!!」

 

 少佐階級を持つレッドベレー隊員が纏うGAは、銅製の鞭を持って傘下の同様の武器を持つGAに指示を出してエルネスティーヌの青騎士を捕えて動きを止めた。

 

「しまった!?」

 

「電流攻撃、やれぃ!」

 

 銅製の鞭で捕らえられたエルネスティーヌは振りほどこうとするが、六機による拘束は中々解けない。相手を拘束している内に少佐は高圧電流を流すように指示を出し、エルネスティーヌに高圧の電流を流し込む。

 

「グァァァっ!」

 

「そのまま感電死させろ!」

 

 高圧電流による痛覚で叫び声を上げるエルネスティーヌをそのまま感電死させようとしていた少佐等であったが、後続を止めるはずの部隊は予想よりも早く壊滅し、ルリのマギア・コリツェのビットで高圧電流を流していたGA数機が一機に撃破された。

 電流と拘束が解けたところで、逃げようとする少佐のGAを、エルネスティーヌは逃さずに両手剣を振るい降ろす。

 

「うわぁぁぁ!?」

 

 敵に背を向け、撤退する味方に追いつこうとした自分に迫る両手剣の刃に少佐は叫び声を上げながら盾に両断されて絶命した。

 続けて追撃を掛けようとしたが、少佐の時間稼ぎが功を奏したのか、味方の撤退は成功した。長時間の戦闘で披露していた彼女らも、これ以上の追撃は戦力を減らすだけだと判断し、追撃を断念する。

 

「くっ、限界か。だが、私の領地からは逃しはしないぞ!」

 

 撤退する連合攻撃軍に向け、エルネスティーヌは補給と再編を済ませた後に、彼らの集結地点を叩くと言ってから、他の者たちと共に撤収した。

 

 

 

 IS学園での戦闘が終わり、数時間後、メイソン騎士団やレダニア軍、バニッシュトとゴットアーミーの連合攻撃部隊は集結地点にされている神矢の秘密研究所に集結していた。

 ここに探ろうと付近を捜索していたテメリア軍の部隊を一人残らず抹殺し、今は逆襲の為に仕掛けて来るアガサ騎士団に備えて再編を行っている。勝手に自分の部屋として使っているモーリック王の元へ、特殊工作員の同志が戦闘の混乱に乗じて攫った篠ノ之箒を連れて来る。なぜ箒を攫ったかは、束に対する人質である。

 尚、バニッシュトは総帥アトリオックスが瀕死の重傷を負ったため、再編と治療の為に元の世界へ帰り、戦列を離れる事となった。もう任務を全うしたので、残る必要も無いのだ。

 

「も、もモーリック王よ…た、た束のい、妹、箒を連れて参りました…」

 

「ご苦労、もう休んでよい。貴公の働き、誠に大義であった」

 

「あ、ありがたき…幸せ…」

 

 玉座に座るモーリック王の前に拘束した箒を差し出した同志は戦闘の際にかなりの損傷を負っていたのか、自分の命じられた任務を全うした後に機械の身体から煙が吹き始める。

 自分の身を挺してまで任務を全うした同志に対し、モーリック王は真に大義だと労いの言葉を掛けた。この大義に全てを捧げてきた同志は嬉しかったのか、今まで無感情だった表情に笑みを浮かばせ、幸せそうにこの世を去った。

 その後、王の護衛部隊が同志の残骸を片付け、代わりに箒の拘束を実行する。その箒に対し、本人であるかどうかをモーリック王は確認の為に問う。

 

「貴様がIS職人、タバネ・シノノノの妹君か?」

 

「姉さんに用があって私を攫ったのか!? ならば姉だけを狙えば良い! 私、いや、私たち家族はあいつとは関係ない! 巻き込むな!!」

 

 姉の所為で自分が攫われたことを理解した箒は怒り、自分とその家族を巻き込むなと訴えるが、モーリック王は聞くことも無く、専用のISである紅椿をやり玉に挙げ、あの束に家族愛があると指摘した。

 

「本人であるかどうかその態度で分かる。貴様は姉を嫌っているようだが、彼奴には身内に対する愛がある。貴様の専用IS、紅椿が何よりの証拠。違うか?」

 

 自分の誕生日プレゼントとして紅椿を貰ったことを指摘された箒は今までの束の行動を思い出し、助けに来ないと言うが、モーリック王は兵器を作らせるために人質として攫ったと答える。

 

「くっ…! だが、姉さんが私を助けに来るなど、万に一つだ。助けになど…」

 

「否、我がメイソン騎士団は貴様を人質として捉えたのだ。貴様を人質として、彼奴に我が騎士団に兵器を作らせる。アガサの者共を血祭りに上げる兵器をな。彼奴は条件を呑むしかあるまい。貴様に紅椿とやらを渡した後、一連の行動を見る限り、姉君は貴様を余程大事にしているようだ」

 

 更に一連の行動による情報で、束が箒のことを気にしていると見抜いた。これを箒は実験にされていると否定する。

 

「実験の間違いだ!」

 

「頑なに否定するか。だが、大事な実験体を救うために、従うしか無かろう」

 

 例え実験体にされているとしても、大事なのは変わりないので、要求に従うとモーリック王は断言した。これに近くで立ち聞きをしていた神矢は異議を唱える。その異議は自分のGAが、ISよりも優れていると言う至極簡単な理由だ。彼にとっては、自分のGAを認めさせるこの上ないチャンスだ。

 

「少し失礼。あんな欠陥品に拘るより、この神のゴットアーマーこそが格段に優れている! 破壊力はGAが上だ! あんな欠陥品のISに拘る必要はない! そこの小娘など、輪姦して殺してしまえば良いんだ!!」

 

 いきなり出て来て、自分のGAこそが最強だと言う神矢に対し、メイソン騎士団の面々は腰の剣を取ろうとする。これにモーリック王は無言で手を翳して黙らせ、GAを採用しないことを伝える。

 

「貴公、かなりGAに拘っているようだが、あれは危険だ。虫も殺せぬ気弱な者が、狂暴な殺人鬼に変貌する。それに一連の戦闘記録から見るに、冷静な判断も取れず、ただ破壊欲求に駆られ、全てを破壊し尽くすまで暴れ回るまさに狂戦士の鎧よ。そんな物を、我がメイソン騎士団に採用するわけには行かんな。そればかりか、何処も採用せぬとは思えぬわ」

 

 このモーリック王の意見は最もであった。GAはまさに狂戦士の鎧だ。ISより生産性と火力が優れているとはいえ、自我を保って戦い続けられる者などそうは居ない。いずれかは暴走し、味方にも被害を及ぼす嫌悪される存在となることは確実である。

 そのモーリック王の指摘に対し、神矢は適性率が低い者が悪いと答える。そればかりか、低い者は消耗品だと言い始め、自分の選民思考を語り始める。

 

「黙れ! 適性率が低いからそうなる! 低い者は消耗品なのだ! この神が認めた選ばれた者だけが生き残ればいい! それがこの世界のルールなのだ!!」

 

「…呆れて物も言えんわ」

 

 神矢の偏った選民思考を聞き、モーリック王は呆れた。同時に自分の陣営においておけば、何を仕出かすのか分からないので、この一件が終わり次第、神矢を排除することを検討しておく。これにはメイソン騎士団の者たちも同様であった。神矢は紛れもなく危険すぎる男である。

 

「まぁ良い、アガサの者共がいずれ逆襲に来るであろう。貴様のGAとやらの性能、その戦で示して見せよ」

 

「良い判断をしたな、あんた。なんたってGAこそが最強だからな!」

 

 一旦は検討するフリをして、神矢をあしらってこの部屋から自主的に退出させた。無論、神矢もモーリック王の態度で自分を抹殺する気であると見抜いている。だが、彼は最初からことが終わり次第にメイソン騎士団を排除するつもりであった。今までは利害が一致していたから協力していたのだ。

 

「あいつ等も同じか。ならば、神として神罰を下してやるまでよ!」

 

 そう自分の研究所に我が物顔で居座るメイソン騎士団に向け、ことが終わり次第に始末すると決め、決戦の為に残していた例の三名の調整に向かった。




何ともジェラル星人なみに回りくどいやり方になってるモーリック王ェ…!

取り敢えず、後一話で終わると言ってましたが、この分だと二話分が必要になりそう…。

でも、頑張って終わらせてきます。


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神の牙城 前編

うん、次回で終わりだ。


「なんで俺たちを外すんだ!?」

 

 IS学園での戦闘で負傷した一夏は、自分たちを報復と箒奪還を兼ねたアガサ騎士団の攻撃部隊に加えないことに抗議した。

 彼はアトリオックスとの戦いで相討ちとなり、昏倒していて自分の姉である千冬が神矢との戦いに敗れ、集中治療室に入れ込まれるほどの重傷を負ったことを意識を取り戻してから知った。

 

「君たちの気持ちは理解できる。だが、諸君らは学生の身だ。先の防衛戦は仕方ないとして、攻撃作戦に参加することは許されんのだ。学生なら勉学に励め」

 

 自分等も攻撃部隊に加えろと抗議する一夏たちに対し、代表して対応に当たるミッチェルはこれ以上の戦闘参加は許されないと返した。

 

「なんだと? 私はこの中で唯一の軍人だぞ。私の権限で許可が…」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだったか? 済まんが、君の属する軍隊の上層部が出撃禁止命令を出しているようだ」

 

「なんだと…!?」

 

 これに軍人であるラウラも抗議の声を上げるも、ミッチェルは部下より聞いたドイツ軍の出撃禁止命令を出していることを彼女に伝えた。それを聞いた彼女は無線機を取り出し、本当かどうかを問い質す。

 

「ほ、本当だ…! 何故…?」

 

「ここだけが襲撃を受けたわけではない。永世中立国スイスの第二IS学園も襲撃を受けたのだ。現在、専用機持ち全員の外出禁止命令が出ている。この本校も含め、先の襲撃の件で生徒の保護者達が家に帰らせろと電話で怒鳴っている。各国の代表候補生は、安全が確認されるまで学園のシェルターに収容しろとそれぞれの政府機関が要請している。つまり、君たち学生は学校から出るなと言う事だ」

 

 出撃禁止命令が出されていることをラウラが知れば、ミッチェルは追い打ちを掛けるように生徒の保護者達が帰宅を求めていることや、各国の代表候補生に対し、その出身国の政府より安全が確認されるまで学園のシェルター避難させるよう要請を出していることを明かす。

 

「安心しろ。ホウキ・シノノノの救出は我々アガサ騎士団が行う。諸君ら学生はこの学校で待っていろ」

 

「でも貴方達だけじゃ…」

 

「これ以上の我儘は聞かん! 良いから学生は従え! 分かったな!?」

 

 救出は自分たちアガサ騎士団が行うから待っていろと言うミッチェルに、一夏が食い下がらなかったが、彼はこれに怒鳴りつけて部下と共に攻撃部隊の元へ向かった。

 

「私どうするんだろう?」

 

「貴方も居残りよ」

 

 大和討伐に呼び出されたルリも攻撃部隊に加えられると思っていたが、ジェーンに居残りと言われて大人しく従う。

 自分等だけ置いて行かれた一夏たちは悔しがる。これほど自分たちの学園を滅茶苦茶にされ、黙って待っていることなどできない。それに一夏は姉である千冬を傷付けられている上、幼馴染である箒まで攫われた。

 幾ら死んでいないとはいえ、姉をあれだけ痛め付けた男の排除と幼馴染の救出を今まで知らなかった騎士団に任せるなど出来ない。

 

「千冬ねぇをあんだけ痛め付けられて、黙って待ってられるか!」

 

 一夏が両拳をぶつけて怒りを露にする中、自室へ戻ろうとするルリの元に見掛けない青年が声を掛ける。

 

「やぁ、君が勇者の子かな?」

 

「?」

 

 見たことも無い青年に声を掛けられたルリは、思わず首を傾げる。その青年はルリのことを勇者だと言っていた。直ぐに一夏や警備の者たちが青年を取り押さえに来る。

 

「ちょっと、あんた。どさくさに紛れて何言ってるの?」

 

「あぁ、火事場泥棒みたいな事をして済まないと思っているよ。だが、今は彼女が必要なんだ! 来いッ! ブレン!!」

 

 拳銃の銃口を向けるジェーンに対し、青年は謝罪してからルリを抱え上げ、謎のロボット兵器を呼び出してそれの元へ全力疾走する。股間部にあるコクピットらしき場所にルリを抱えながら飛び乗れば、追ってくる警備兵たちより逃げるため、それを飛翔させる。

 

「何なのあの機体!?」

 

 ルリを攫った青年が乗る青色のロボットは十二メートルくらいの大きさで、手にはライフルらしき物が握られている。だが、機械と言うか生命体に近い。知らぬ者が見れば、ロボット兵器と見間違うだろう。

 そのロボットは最小限の動きでスクランブルのバルキリーの攻撃を躱し、あっという間に学園の防衛圏内を離れた。戦闘が去ったところで、青年は追撃から逃れたロボットを褒める。

 

「良いぞブレン。もう追って来ない」

 

「誰なの?」

 

「僕は伊佐未勇(いさみ・ゆう)。今乗ってるのがブレン。アンチボディとも言われている。中身は違うが、君の知っているASってのと同じかな。いきなり攫って悪かったね」

 

 褒めた後、ルリは青年に何者かと問えば、青年こと伊佐未勇は自己紹介を行う。同時に乗機のブレンの紹介し、攫ったことを謝罪する。

 

「君にやって貰いたいことがあって、手荒な真似をした。でも、あの恐ろしい兵器をこの世界から無くすには、君の力が必要なんだ」

 

「何すれば良いの?」

 

「そこは理由を聞くべきだと思うけど、説明しなくて助かる。着いたら分かる事さ。あの少女たちの力も借りなくちゃならない」

 

 攫ったのはルリにやって貰い事があってのことだと勇が言えば、彼女は何も聞かずに何をやらせるのかと聞いてくる。通常なら訳を問う所を聞かないルリに対し、勇は呆れながらも付けば分かると答える。それに一夏たちの力も必要だと言った。

 それにルリは首を傾げる中、勇のブレンは拿捕された戦艦大和がある港に降りた。不審な物が降りて来たのだ。当然ながら警戒され、銃を持った警備兵たちに包囲される。

 

「な、なんだこのロボットは!?」

 

『乗っている者は、両手を上げて出てこい!』

 

 驚きの声を上げる警備兵たちだが、指揮官が降りて来いと拡声器を使って叫ぶ。これに勇は応じ、ルリと共にブレンを降りた。

 

「あの戦艦に向かって走るんだ…!」

 

 降りた勇はルリに大和へ向かって走れと小声で指示を出す。それに応じ、ルリは大和へ向かって走り出した。これには警備兵たちは慌て、捕まえようとする。

 

「なんだ!?」

 

「捕まえろ!」

 

 捕まえようとする警備兵たちであるが、ルリは俊敏で素早く、その小柄な体格の所為もあって捕まえられず、大和の甲板まで侵入を許した。甲板まで辿り着いたルリは大和に手を振れる。

 

「何の光!?」

 

 ルリが大和に触れた瞬間、船体全体が光り始めた。

 

 

 

「目標視認!」

 

「あそこがこの世界におけるメイソン騎士団共の牙城です」

 

 その頃、IS学園より出撃したエルネスティーヌの隊とシャオリー・カーンのジャブロー攻撃隊が合流し、神矢の秘密研究所がある島へ報復攻撃を敢行しようとしていた。

 ペガサス級強襲揚陸艦ブルーベースの艦橋に居るエルネスティーヌは、部下より聞いて配下の部隊に攻撃指令を出す。

 

「アルゴン王より賜ったこの領地で、牙城などと…! 平和を乱し、少女を攫った連中に容赦はせん! 全軍、攻撃開始!!」

 

 この指令に応じ、領主であるエルネスティーヌ配下の攻撃部隊は神矢の秘密研究所に総攻撃を開始した。

 研究所はかつて旧ソ連軍の基地があった島を利用しており、かなりの防衛力も持って居たが、怒りに燃えるアガサ騎士団の総攻撃の前では、瓦礫の一部となるだけであった。だが、その防衛設備の類は囮である。

 準備砲撃を終えたところで、アガサ騎士団とテメリア・ガリアの連合部隊が島に上陸してくる。上空はバルキリーやVAが飛び回っている。

 

「赤鬼共め! 何処に隠れている!?」

 

 上陸艇より飛び出し、一番乗りしたグレイズ・リッターに乗るガリアは、周囲にライフルを向けて敵は何処だと叫ぶ。

 この攻撃兼救出作戦に参加した者たちは以下の通り。

 

 ミッチェル・ガーランド 乗機ランスロット

 ラック・ロスガルド 乗機レギンレイズ

 ガリア・バーリライト 乗機グレイズ・リッター

 ディアス・ブラフォード 乗機グロースター

 アルベルト・ケーニッヒ 乗機ジンクスⅣ

 ニコライ・パニューク 乗機オハン(ガレス・カスタム)

 ゴリ・ロッグハート 乗機ヴィンセント・ウォードカスタム

 ユウ・アオバ 乗機レギンレイズ

 ジョン・セイバー 乗機グレイズ・リッター

 

 イクサー1 乗機ノルド

 セルベリア・ブレス 乗機ドライ・シュテルン

 アイリスディーナ・ベルンハルト 乗機EF-2000タイフーン

 

 歴戦の騎士たちであり、上陸した彼らは先陣を切って周囲を索敵する。

 

「そちらは見付かったか?」

 

『いや、赤鬼の一匹も見当たりませんよ! 血達磨の死体すらない!』

 

「上空からは何か見えるか?」

 

 先行したニコライにミッチェルが問えば、彼は死体すらないと答える。次に上空から何か見えたかを、旋回しているVAを纏うセルベリアに問う。

 

『敵影無し。罠かもしれません』

 

「一杯食わされたか?」

 

 敵影がない事で、ミッチェルは騙されたと思い始める。そんな時に、ユウが地下へと続くルートを見付けたとの無線連絡が入る。

 

『地下へ続くルートを発見!』

 

『赤鬼共め、地下に逃げ込んだか! 全員、奴らを駆り立てるぞ!』

 

「どうやらそこに居るようだな。では…」

 

 ユウの知らせにガリアが反応する中、ミッチェルも地下に突入してメイソン騎士団との決戦を行おうとしたが、多数の敵の出現を知らせる警報がコクピット内に鳴り響く。

 レーダーを見れば、自分らを包囲する形で敵が出て来た。メイソン騎士団のグレイズタイプ多数にレギンレイズ、ジンクスⅢやアヘッド、サザーランド、グロースター、ヴィンセント、ガレスなどが何処からともなく飛び出してくる。

 

『待ち伏せだ!』

 

「畜生、罠か!」

 

 いきなり飛び出して奇襲を掛けて来るメイソン騎士団に、アガサ騎士団と連合軍の上陸部隊は次々と倒されていく。これに素早くディアスは対応し、側面より仕掛けてきた同型機をランスで串刺しにした。

 奇襲を仕掛けてきたのはメイソン騎士団だけではない。SPTやMF、ATやASなどを装備したレダニア軍も何処からともなく現れ、島に上陸したアガサや連合軍を攻撃し始める。その中にはあのGAまで居た。

 何機かが斃されてしまったが、直ぐに対応して何とか立て直した。だが、彼らを恐怖のどん底へと叩き落す物が出て来る。

 

『うわぁぁぁ!!』

 

『な、なんだこのデカいのは!?』

 

 グレイス二機がバラバラにされ、上空のブレイバーやソロムコの対応に当たっていたカットシー数機が撃ち落とされた。それらを撃ち落としたのは、大きな足を持つ大型のグレイズであった。

 

『フハハハッ! MSと一体化したこの俺を、もはや誰にも止められん!!』

 

 そのグレイズに乗る、否、一体化したのは宇宙でミッチェルに倒されたはずのマレット・サンギーヌであった。あの損傷でマレットは生き延びたが、パイロット処か戦士として復帰することは叶わない程の重傷であった。そんな彼が選んだのは、阿頼耶識システムによるMSとの一体化である。

 名付けてグレイズ・マレットとなった彼は、狂気的な笑い声を上げながら目に見える物すべてに襲い掛かる。

 

『グレイズ・マレット! 我々は味方だぞ! 何をする!?』

 

『戦う者全てが俺の敵だ! 死ねぇぇぇ!!』

 

 無差別攻撃を行う殺戮者となったグレイズ・マレットに、友軍機は止まるように言うが、今の彼には聞こえなかった。

 投入されたのは見境なく攻撃するマレットだけではない。神矢が秘密兵器として回収していた早戸、ゲドラルド、ローザも投入されたのだ。

 

「ハハハ! これは俺の力だァ!!」

 

 GAを纏い、適性率の高さの所為で完全に一体化してしまった早戸は暴走し、右腕の一体化したドリルでVAを次々と撃破していた。GAと融合してしまった早戸は元の外見を殆ど留めておらず、怪物のような物となっている。元は冷静沈着なテロリストであったが、脳内にまで浸食が及んでいるのか、完全に正気を失っており、影も欠片も残っていない。

 

「死ねぇ! ヒャハハハ!!」

 

 左手のアームでVAの操縦者を握り殺した後、目に見える物全てに襲い始める。

 

「ぶっははは! 人間兵器の復活だァ~! 俺は生き返ったぞォォォ!!」

 

 ゲドラルドも早戸に負けぬくらいに浸食が進んでいるどころか、完全に怪物となっていた。GAと融合したことにより全身から銃身や砲身が生えており、人間兵器と言うか銃の怪物と化している。身体中より生えている銃口より無数の弾丸と砲弾を発射し、敵味方関係なしに無差別に攻撃を加えている。以前の彼よりも更に狂暴と化していた。

 

「お、女ァ! 女犯すゥ! 犯すゥゥゥ!!」

 

 ローザに至っては、もはや原形を留めぬ怪物となっていた。少女のように愛らしい姿であったローザだが、今のGAと融合した彼は性器を思わせるような卑猥な怪物と化している。

 

「な、何よこいつ!?」

 

「距離を取れ! こいつは危険すぎる!!」

 

「女だァ! 女がいっぱいだァァァ! アッハッハッハ!」

 

 恐ろしい笑い声を上げながら襲い掛かり、数機のVAを一瞬で撃破したローゼは、まだまだ居る女性だけが乗ったVAを見て更に興奮して触手などを生み出しながらVA隊に襲い掛かる。このローザに臆するVA隊の者たちに対し、セルベリアは適切な指示を出して交戦するように指示を出す。バルキリーなどもローザを止めようとするが、圧倒的な戦闘力を前に撃墜されるばかりだ。

 

「こ、これでは…!」

 

『この間に地下に突入しろ! 我々でメイソン騎士団の幹部共を捕えるんだ!』

 

「この混乱状況でか!?」

 

 戦闘は敵味方構わず攻撃する四名の所為で混乱しており、向かってきたサザーランドを撃破したミッチェルは退却する他ないと考えるが、ガリアは突入命令を続行した。これにはミッチェルも反対の声を上げる。

 

『注意が本隊に向いている間に、我々が奴らの頭を抑えるのだ! 四の五の言っている場合ではない! 俺は行くぞ!!』

 

「ち、そうするしかあるまい! この場に居るものは全員、奴に続け!」

 

 ガリアは暴走している四体が味方に向いている間がチャンスだと言えば、ミッチェルは否が応でもそれを理解する。それに応じ、こちらに来る少数の敵と交戦している付近の者たち全員についてくるように指示を出した。

 その指示に応じてか、ラック、ディアス、アルベルト、ニコライ、ユウ、ジョンの機体がガリアやミッチェルの後へ続いた。

 

 

 

 ルリが大和に触れたと同時期、またIS学園に新たな侵入者が姿を現した。それはスペースシャトルであり、かなり大型タイプだ。二度目の侵入ともあり、凄まじい対空砲火がそのスペースシャトルに集中している。

 スクランブル機などから攻撃を受けているスペースシャトルより、威嚇攻撃を止めるように求める無線連絡が管制塔に来る。

 

『こちらスカイリンクス航空! 直ちに攻撃を止めてくれ! 吾輩は敵ではない!』

 

「なら離脱しなさい! これ以上近付くなら撃墜するわよ!」

 

 敵ではないと言うスペースシャトルであるが、所属が分からない航空機を着陸させるほどIS学園では無い。敵でないなら引き返せと言うが、シャトルはIS学園を目指して飛び続ける。

 

『強硬手段に出るしかないな。スカイリンクス、ハッチを開けろ!』

 

『な、何をする気だ相良宗介君!? 野蛮な行為は止めたまえ!』

 

『こうしなければ連中は回収できん! 無理やりこじ開けるぞ!』

 

『それはたまらん! 吾輩の内部から穴を開けるんじゃない! 分かった、今開ける!』

 

 乗っている者が苛立ってか、ハッチを上げるように脅した。それに応じ、スペースシャトルの側面ハッチが開かれる。そこから飛び降りてきたのは、ASであるARX-8レーバテインだ。降りて来るなり対空砲火を行っていた月下を無力化させ、更には一気に避難中の生徒に近付き、手持ちの火器の砲口を向けて脅しを掛ける。その速さは僅か五秒であった。

 

『直ちにスペースシャトルへの攻撃を止めろ! さもなければ、ここの生徒たちを射殺する! 五秒数える。五…!』

 

『ッ!? 攻撃中止! 繰り返す、攻撃中止!!』

 

 拡声器を使い、生徒たちに銃口を向けながら脅せば、守備隊はスペースシャトルへの攻撃を中止した。

 攻撃を止んだ後、スペースシャトルは学園へと着陸すると思いきや、ドラゴンのような形に変形し、四本足を地に着けてレーバテインのパイロットである相良宗介を叱り始める。

 

「相良宗介君! なんて野蛮な行為だ! しかも人質を取るだなんて!」

 

「スカイリンクス、時間が無い! 今から名前を読み上げる者は、あのスペースシャトルに変形するドラゴンに乗り込め!」

 

 宗介を叱るスカイリンクスと呼ばれるスペースシャトルに変形するドラゴンのような怪獣に対し、少年は時間が無いと言って生徒たちに対して名を読み上げる者は乗るように指示を出す。

 抗議の声を上げる生徒も居たが、宗介の強硬手段によって黙らされ、名前を呼ばれた生徒たちはスカイリンクスの方へ向かう。名前を読み上げられたのは、防衛戦において戦闘を行っていた一夏たちであった。

 

「あの…一体…?」

 

「良いから乗れ! 他の生徒たちを殺すぞ!」

 

「は、はい!」

 

 なぜ自分たちを攫うのかを問う一夏に対し、宗介は他の生徒を殺すと脅して無理やりスカイリンクスの方へ向かわせた。自分たちを選んだ理由を、代わりにスカイリンクスが答える。

 

「済まなかったな。しかし吾輩たちには君たちの力が必要なんだ。訳は吾輩に乗ってから話そう。トランスフォーム!」

 

 スカイリンクスは無理やり連れて行くことを謝罪しつつ、スペースシャトルにトランスフォームすれば、一夏たちを乗せた。それから宗介を乗せれば、IS学園を後にした。

 それと同時期に、スイスの第二IS学園より志願者を乗せた無所属の輸送機が、スカイリンクスが目指す場所へと向かっていた。




遂にトランスフォーマーを出しちゃったよ。

次回で終わります。早回しになっちまうかと思いますが。


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神の牙城 後編

ごめん、終わりそうにない(汗)。


 佐奇森神矢の秘密研究所がある島に攻撃を行ったアガサ騎士団であったが、MSと一体化したマレット・サンギーヌ、GAと融合した知恵早戸、ゲドラルド、ローザの四名による暴走で苦戦を強いられていた。

 上陸部隊の三分の一は奇襲攻撃と四名の暴走によって壊滅しており、残りは暴走している四名を必死に止めようと集中砲火を浴びせている。

 暴走状態の四名の視界に入っていなかったミッチェル等はガリアの先導の下、少数で地下に突入し、次々と出て来るメイソン騎士団の機動兵器と交戦していた。

 

「フン、取りこぼし風情で我らメイソン騎士団と戦おうなどと!」

 

 メイソン騎士団のクリフ・ハンガーが駆る大剣を持ったレギンレイズと複数の同型機やグレイズタイプ、その他諸々のKMFに阻まれ、前進できないでいる。

 クリフのレギンレイズが振るう特殊合金の大剣で、突撃を行った三機のグレイズが一瞬にしてバラバラにされる。この強大な敵に、ミッチェルたちは後退り始める。

 

「クソっ、いくらランスロットとはいえ、手練れが乗るレギンレイズ相手では…!」

 

 ランスロットに乗るミッチェルは他の騎士たちと同様に後退る。そんな青い騎士団に対し、赤い騎士団のレギンレイズやグレイズ・シルト等のMS隊は包囲して徐々に追い詰める。

 

『畜生、ヴィンセントなら!』

 

『迂闊に飛び出すな! バラバラにされるぞ!』

 

 追い込んでくるメイソン騎士団に対し、ディアスは飛び出そうとするが、ジョンに止められる。

 

「なら、オハンで!」

 

 これにニコライは、自分専用のガレスの装備である音響兵器オハンを使って状況を一変させようとする。

 

『総員、耳を塞げ!』

 

「オハン、発動!」

 

 ニコライがオハンを使用すると言えば、ミッチェルは全員に耳を塞ぐように指示を出した。

 彼の専用機であるガレスより音響兵器オハンが発動されれば、追い込んでくるメイソン騎士団の機動兵器の動きが止まる。広範囲に設定しているために威力は半減してしまい、クリフには効かなかった。

 

「えぇい! たかがラッパ程度でこの俺は止まらんわ!!」

 

『な、なにっ!?』

 

 音波攻撃に耐えつつ、クリフは一気にニコライのガレスに接近し、その大剣を振り下ろす。音波を当てられにも関わらずに動いているクリフに驚きつつも、振り下ろされる大剣を専用大型シールドで防ごうとしたニコライであったが、大剣は専用シールドを切り裂くほどの切れ味であり、機体ごと切り裂かれてしまう。

 

「うわぁぁぁ!?」

 

 刃がコクピットに達する前に、ニコライは乗機を棄てて脱出した。そのまま腰の剣を抜き、甲冑を身に纏って戦場に出ている騎士たちと合流する。接近してきたクリフのレギンレイズに、連射式ライフルを持つユウ機や他の機体が撃ち込んで下がらせる。

 

「一機潰してやったぞ! このまま全員、一気に血祭りに上げてやるわ!」

 

 下がったクリフは機体の空いている左手でミッチェル等に指差し、次は一気に全員を血祭りに上げると宣言した。

 

 

 

 地下に突入したミッチェルたちがクリフの隊に阻まれる中、地上の方ではエルネスティーヌが専用ISである青騎士を纏って出撃し、四体の暴走者と交戦していた。

 

『死ねぇぇぇ!!』

 

「ドリルハリケーン!!」

 

 MSと一体化したグレイズ・マレットのバトルアックスの斬撃を躱せば、早戸のドリルによる刺突が繰り出される。それも躱した瞬間に、ゲドラルドとローザの攻撃がエルネスティーヌの青騎士に迫る。

 

「ぶっははは! ハチの巣だぜぇぇぇ!!」

 

「女ぁ! やらせてよぉ! やらせろよぉぉぉ!!」

 

「くっ、いつまで持つ!?」

 

 ゲドラルドの無数の銃火器や大砲などの弾幕を躱し切った後、それを物ともせずにローザから繰り出される触手を両手剣「アガサ」で切り裂いた。空かさずに左腕のボウガンで手近に居る卑猥な怪物に反撃するが、身体が引き下がることを覚えているのか、躱されてしまう。

 その次にまたグレイズ・マレットと早戸のドリル攻撃が始まり、碌に反撃も出来ず、エルネスティーヌはいつまで持つことが出来るかと弱音を吐く。

 

『領主様! 我々も!」

 

「お前たちは来るな! この異常な者たち、お前たちでは敵わん!」

 

『ですが!』

 

「良いからお前たちはメイソンの者たちに集中しろ! こいつ等は私が引き付ける!」

 

 領主であるエルネスティーヌを助けようと、MS隊やVA隊が加勢しようとするが、彼女は自分以外ではあの四体には敵わないと判断して断る。彼女が暴走状態の四体を引き付けているから、アガサ騎士団はメイソン騎士団と真面に応戦できているのだ。それをエルネスティーヌは崩したくはなかった。

 そんなエルネスティーヌの要望に反し、増援なのか、紫色と山吹色の武御雷二機がグレイズ・マレットと交戦を始める。

 

「貴公たち!?」

 

『流石にこのMS相手では、厳しかろう!』

 

『領主は三体の相手を!』

 

 これにエルネスティーヌは驚くが、流石にグレイズ・マレットの相手は厳しかった。負担が減ったところで、エルネスティーヌは三体のGAに集中する。

 

「こいつで、あの暴走野郎諸とも…!」

 

 そんなエルネスティーヌを早戸やゲドラルド、ローザ諸とも消し炭にしようと、大型ビーム砲を構えるグレイズが居た。照準を青騎士に定め、エネルギーのチャージが十分になったところで、彼女を狙うメイソン騎士団の騎士は引き金を引こうとしたが、撃つ前にビーム砲を撃たれた。撃ったのはVAのドライ・シュテルンを纏うセルベリアだ。

 

「領主はやらせん!」

 

『うっ、うわぁぁぁ!?』

 

 セルベリアの放ったビームに撃たれた大型ビーム砲は持っていたグレイズを巻き込むほどであり、そのグレイズに乗っていた騎士は機体共々消滅した。

 

『誰か! 包囲されている! 助けてくれ!!』

 

「無理だ! 抵抗激しく突破できない!」

 

 エルネスティーヌが三体のGAと交戦している間、地下に突入したガリアの要請に応じ、部隊と共に救援に向かおうとする戦術機EF-2000タイフーンに乗るアイリスディーナであるが、抵抗が激しくてとてもでは無いが向かえない。先行して向かった小隊はスクラップと化していた。

 

 

 

「見よ、ホウキ・シノノノよ。貴様を救わんと、アガサの者共が足掻いておる」

 

「私の為にそんな…!」

 

「これ以上、アガサの者共の死を見たくなければ、姉に余の配下となるように請うのだ」

 

 柱に拘束した箒に、モーリック十三世は配下のメイソン騎士団によって倒されていくアガサ騎士団の映像を見せ、姉である束に自分の配下になるように請えと告げる。

 自分の為に犠牲となるアガサ騎士団の騎士たちの姿を見て、箒は悲しんで映像の右手に映る姉の束に向けてモーリック王の要請に応じるように頼む。

 

「姉さん頼む! あの人たちの為に、この男の言う事を!! これ以上、私の為に死んでほしくない!」

 

 これ以上、自分の為に死んでいく者たちを見て堪らなくなり、必死に映像の向こう側に居る姉に頼む箒であるが、当の束は眉一つ動かさず、表情を崩さない。まるで他人事のように、アガサ騎士団の騎士たちが散って行く様子をただ見ている。

 この束の態度にモーリック王は鼻で笑い、やはり思っていた人間であると確信する。つまり束を冷酷な人間だと見たようだ。

 

「フッ、他人の死に様を見て何も感じぬとは。冷徹な女よ。では、身内が傷付けられても冷静でいられるかどうか、試してみよう。ジョーンズ、娘の指を切れ」

 

「御意」

 

 自分の身内を傷付けられても、応じぬかどうか試すべく、モーリック王は部下に箒の指を切るように命じた。これに応じて短剣を抜いた部下が箒の腕を掴み、指を切り付けようと必死に抵抗する彼女の腕を抑え込み、浅い切り傷をつける。その様子を見ていた束の余裕の表情が崩れる。

 

『…何の、つもりかな?』

 

「ほぅ、どうやら血が通っておるようだ。今度は、指を切り落としてみてようかの…」

 

『っ!?』

 

 妹である箒を傷付けた部下を睨み付ける束に対し、モーリック王は血が通っていると確信して今度は指を切り落とすように命じた。それに束は驚いた表情を見せ、怒りを露にする。その反応を逃すことなく、モーリック王は束に畳み掛けた。

 

「十秒だ、十秒ごとに貴様の妹の指を一本ずつ切り落とす。直ぐに応じれば、妹は傷付かずに済むぞ?」

 

「ひっ…!? い、いや…!」

 

『…』

 

 十秒経つごとに指を切り落とすと脅せば、束が動揺したような表情となった。どうやら、箒が自分の所為で傷付くことにかなり動揺を覚えているようだ。当の箒も震え、思わず姉の方を見てしまう。

 妹の怯え切った表情を見た束はモーリック王の要望に応じるしかないと思い、その首を縦に振ろうとする。だが、すっかりと指を切り落とされることに怯え切っている箒は、自分の所為で何の罪も無い、あるいはメイソン騎士団と対立する人々が死んでいく事を思ってか、勇気を振り絞って応じるなと叫ぶ。

 

「応じるな!」

 

「な、何を!?」

 

「応じるな姉さん! こいつ等は、ISを兵器としか見ていない! 戦争の道具にするつもりだ!!」

 

「ぬぅ、恐怖の余り血迷ったか! ジョーンズ、指の一本を切り落とせ!」

 

 ISを兵器としか見ていないと叫んだ箒に、そんなことを言うとは思わなかったモーリック王は意表を突かれてか、部下に早く指を切り落とすように告げる。部下が応じて箒の右手を掴み、小指を短剣で切り落とそうとしたが、モーリック王が居る部屋に伝令が慌てて入って来る。

 

「ほ、報告いたします!」

 

「何だ!?」

 

「わ、我が方のデータに無い機体の集団がこちらを攻撃しております!!」

 

「何っ!? 真か!?」

 

「真でございます! み、見知らぬ兵器がアガサの者共を援護しておりますぞ!」

 

 伝令の正体不明の勢力による襲撃の報告に、部下の一人が現場の映像を映せば、そこには伝令の言った通り、メイソン騎士団を攻撃する謎の勢力の機体が映っていた。

 それは一夏たちを収容し、現場に駆け付けてきたスカイリンクスたちだ。これにモーリック王が驚愕し、直ちにメイソン騎士団の秘密兵器を用意するように部下に命じる。

 

「ホークスを用意せよ! 決戦である!!」

 

『はっ!』

 

 一夏たちを乗せたスカイリンクス等がスイスの第二IS学園の者たちを乗せた戦隊と合流し、アガサ騎士団を援護する中、自身の計画を遂行準備を行っている神矢は戦闘音が鳴り響く方向に視線を向ける。

 

「外がやけに騒がしいな。だが、関係はない。これより世界は、この神の手によって創り変えられるのだ」

 

 何が来ようと、この神の計画には支障を来すことは無い。

 そう思う神矢は自身の計画を実行するため、機器を操作してほくそ笑み始める。もうじき、世界を自分の思い通りに創り変えるのだから。

 

「これより変革、否、創生の時なのだ。この神によって、新たなる世界は誕生する!」

 

 それを新しい世界と表し、神矢は操作を終えた。自分の作り上げた最強の兵器であるGA(ゴットアーマー)を纏い、自分が調整していたマシンに乗り込む。

 

「これから世界を創造する。お前たちは、この神聖なる儀式の邪魔をする無礼者どもを始末しろ」

 

「はっ、仰せのままに」

 

 配下のカーネル等に命じれば、神矢は自分の世界の最終調整に入った。

 

 

 

 アガサ騎士団の増援として現れた一夏たちとスカイリンクス等は、今までアガサ騎士団を圧倒していたメイソン騎士団らに向けて攻撃を開始する。

 

「スカイリンクス航空、ただいま参上! 赤い乱暴者共の退治は任せておけ!」

 

「あ、あれは!?」

 

「IS学園の生徒たちだ! スイスの第二も居るぞ!?」

 

 スカイリンクスがISを纏った一夏たちを降ろし、戦闘形態に変形してメイソン騎士団らを攻撃すれば、学園に居るはずの生徒たちが加勢したことにアガサ騎士団の騎士たちは驚きの声を上げる。

 増援としてやって来たのは以下の通り。

 

 IS学園

 織斑一夏 専用IS白式

 セシリア・オルコット 専用ISブルー・ティアーズ

 鳳鈴音 専用IS甲龍

 シャルル・デュノア 専用ISラファールリヴァイブⅡ

 ラウラ・ボーデヴィッヒ 専用ISシュヴァルツェア・レーゲン

 一文字ゆきな VAダヌム・アルゴン

 敦賀千雨 VAダヌム・アルゴン

 

 第二IS学園

 メリア・パターソン 専用ISメダル・オブ・オナー

 クリスティーナ・ヴィンツェル 専用ISカーミラ

 マデリーヌ・ランス 専用ISザ・カーニバル

 アリアチェール・ハルパニア 専用ISブルー・ティアーズ5号機

 クランティ・ヴィング 専用ISチャマック・ターラー

 ヴィルヘルミナ・アーベントロート 専用ISシュヴァルツェア・フランメ

 

 これらの増援により、戦況はアガサ騎士団の方へと傾いた。

 

「やりますわよ!」

 

「OK! やったるで!」

 

 セシリアとアリアチェールは武装は違うが、同じISのブルー・ティアーズのビット攻撃を行い、KMFやSPT、MF隊を圧倒する。

 

「ミーナ、援護する! 突撃しろ!」

 

「了解!」

 

 ラウラは射撃兵装で援護しつつ、同じ隊のヴィルヘルミナに突撃を命じる。これに応じ、突撃仕様のシュヴァルツェアを纏うヴィルヘルミナは援護を受けつつ突撃を行い、グレイズにシュトースツァーンを斬り込み、転倒させて無力化させる。

 

「第二の人たち、行くわよ!」

 

「了解、続くわ!」

 

「先行します!」

 

 鈴が共に突撃を掛けるから援護をしてほしいと言えば、クリスティーナとクランティは応じた。先に全身装甲のISを纏うクランティが先行し、攻撃を引き受ける。

 攻撃対象は二機の武御雷を圧倒しているグレイズ・マレットだ。鈴の甲龍の放った衝撃波で怯ませた後、クリスティーナの騎乗槍で刺突を行い、クランティのウルカ・フィンドを叩き込んで転倒させようとする。

 

『ぬぅ!? 小物の分際で!!』

 

「今だ!」

 

「はぁぁぁ!!」

 

 自分からすれば小物であるISに攻撃され、怒り狂うマレットは周辺に両肩の砲を乱射するが、当の三機は既に離脱していた。乱射によって発生した爆風で、攻撃のチャンスと見た紫色の武御雷に乗る御剣冥夜(みつるぎ・めいや)、山吹色の武御雷に乗る唯依、VAのドライ・シュテルンを纏うセルベリアの同時攻撃を行う。

 冥夜の斬撃で右腕を斬り落とされた後、次に唯依の斬撃が胸部に炸裂する。その次にセルベリアのVAの槍の突きが、胸部に入れ込んだ亀裂に突き刺さり、グレイズ・マレットは激しい損傷を受けた。

 

『グァァァ!? こんな劣等種共に!!』

 

「息の根を止める!」

 

 これほどの攻撃にも関わらず、撃破に至らなかったが、宗介のレーバテインによるとどめが入る。彼は機体の機能であるラムダ・ドライバを使い、右手に溜め込んだオカルトパワーをグレイズ・マレットに叩き込み、内部爆発を起こさせて撃破した。

 

『うわぁぁぁ!? なんだこれは!? 一体なに…』

 

 自分が爆発していく事を理解できないマレットはそれに恐怖しつつ、機体と共に大爆発を起こして完全に消滅した。

 

「あの三体をやるよ! 僕に合わせて!」

 

「イエッサー! オープンファイヤー!!」

 

「了解!」

 

 シャルルはマデリーヌとメリアに、エルネスティーヌを攻撃する早戸とゲドラルド、ローザに砲火を集中すると言って、射撃兵装主体の彼女らと共に一斉射を浴びせる。ガトリング砲に連装砲、ミサイルと言う雨あられな攻撃に、三体の暴走体は動きを止める。巻き込まれそうになったエルネスティーヌはそれに気付き、素早く退避していた。

 そんな過剰な攻撃が済んだ後、VAであるダヌム・アルゴンを纏うゆきなと千雨が、ゲドラルドとローザに接近する。彼女らは接近戦を仕掛けようと言うのだ。

 

「ぐぇあぁぁ…むごっ!? 女だぁ!」

 

「醜くて下劣な奴、もう容赦はしません!」

 

 先に仕掛けたゆきなは自分の姿を見て興奮し、無数の銃身や砲身を出したゲドラルドに嫌悪を覚え、その弾幕を躱しながら急接近し、とどめの一撃を打ち込んだ。

 

「もうあなたは、人間じゃない!」

 

「おがぁぁぁ! 俺が!? この俺が!? し、死ぬっ!? 死ぬのかァァァ!? がァァァァ!」

 

 ゆきなの容赦のないとどめの一撃はゲドラルドを両断し、まだ息のある彼は自分が死ぬことを理解できずに息絶えた。

 

「あっひゃひゃひゃ! 女だ! 女だァァァ!!」

 

「きもっ! しかも触手とか! そんなエロゲーに出て来る化け物は退治!」

 

 次にローザと対峙する千雨は、卑猥な怪物より放たれる触手を剣の二刀流で切り裂きながら接近する。それからローザの周囲を回り、彼の周りに触手による攻撃を躱しながら無数の刀を突き刺し、千刀流の準備を終える。

 全ての刀を地面に突き刺し終えれば、ラビット・スイッチと短距離IBを駆使した全方位からの切り刻みを行い、ローザを切り刻んでいく。

 

「あれ? あれれ!? 僕が!? 僕が切り刻まれていく!? なんでぇ!? なんでぇぇぇ!?」

 

「マジで化け物じゃん。でも、これで終わり!」

 

「くぇぇぇぇ!?」

 

 自分が切り刻まれていくことを理解できずにローザは混乱するが、千雨の放った最後のとどめの一撃で細切れにされ、それから彼女が最後に置いた爆発型手榴弾で完全に消滅した。

 

「最後は、貴様だァァァ!」

 

「このアマァ! 死ねぇぇぇ!!」

 

 最後に残った早戸に、エルネスティーヌは容赦なく両手剣を叩き込もうと接近する。これに合わせ、早戸もドリルを突き出して彼女を突き殺そうと迎え撃つ。早戸の方が早く、ドリルの先端がエルネスティーヌの青騎士に炸裂するところであったが、彼女はそれを寸でのところで躱した。

 

「フン、なにっ!?」

 

「やぁぁぁぁ!」

 

「うわぁぁぁ!?」

 

 両手剣アガサを奇怪な怪物となった早戸に叩き込み、彼を両断した。両断された早戸は爆発して完全に死亡する。

 四体がやられたことにより、メイソン騎士団の士気が下がり、思わず敵前逃亡をしそうな者が出そうになるが、指揮官の声で何とか崩壊は免れる。

 

「う、うぅぅ…」

 

「逃げるな! 防衛に集中しろ!!」

 

 崩壊は避けられたものの、隙が生じたので、アガサ騎士団はそれに乗じて一気に突撃を行う。

 

「敵が怯んだぞ! 突撃しろ!!」

 

『アーガーサァァァ!!』

 

『アルゴン王、万歳!!』

 

 士気を取り戻したアガサ騎士団は一斉に突撃を行い、大挙して地下施設へ続く出入り口の方に殺到する。これを止めようとするメイソン騎士団であるが、アガサ騎士団の勢いはすさまじく、一気に突破されてしまう。

 だが、出入り口の方の抵抗は凄まじく、突撃した騎士たちは次々と無数の方かの前に散って行く。一夏の白式もその場に居たが、無数のSPTやMFに阻まれて前進できない。

 

「くそっ、なんだこの数!?」

 

 無数の敵機に応戦する一夏であるが、一向に減ることなく攻撃を受け続ける。

 そんな彼らに、第二の援軍が現れる。それは、戦艦大和に触れたルリだ。勇のブレンも同伴している。

 

「あの出入り口に一斉砲撃だ!」

 

「大和ちゃん、お願い!」

 

「了解、大和型戦艦一番艦、大和! 押して参ります!」

 

 勇がルリに指示を出せば、マギア・コリツェを纏う彼女は海上に浮いている大和撫子のような風貌を持つ美女に向けて砲撃の指示を出す。その美女は左右に戦艦の主砲のような物を纏っており、砲口を出入り口の方に向け、一斉にそれを放った。

 

「主砲、効力射! 撃てぇぇぇ!!」

 

 凄まじい砲声が鳴り響き、砲弾が出入り口を守るメイソン騎士団に降り注げば、凄まじい弾着音と共に抵抗していた敵は吹き飛んだ。

 

「何が何だか知らんが、今がチャンスだ! シュヴァルツェ大隊、突撃!!」

 

 その美女の砲撃を理解できなかったが、アイリスディーナはそれをチャンスと捉えて配下の大隊と共に突撃を行った。後から一夏たちやアガサ騎士団も突撃を行う。

 

「外の敵は吾輩らに任せてくれ! 君たちは突撃だ!」

 

「分かった! 行くぞ!」

 

 続々と地下へと突入していく中、スカイリンクスが外の敵は任せて欲しいと言ったので、勇はそれに応じてルリと共に地下へ突入した。砲撃を行った大和なる美女も、スカイリンクスと共に残っている残敵の掃討に当たる。

 

 

 

「後は貴様だけだ!」

 

 先に地下に突入したミッチェルはクリフに阻まれ、既に残りは彼のランスロットのみであった。残りは乗機を撃破され、生身で殺しに来るメイソン騎士団の騎士たちと死闘を繰り広げている。

 

「あぁ! ガーランド卿が!?」

 

 小柄な体系で斧を持って殺しに来る騎士の鎧の隙間に短剣を突き刺して殺したニコライは、ミッチェルのランスロットがクリフのレギンレイズに圧倒されているのを見てやられてしまうと思ってしまう。アルベルトも慣れぬ剣術で応戦しつつこれを見て、こちらが負けると思ったが、ここに来て援軍が現れた。

 

「っ! 敵の増援か!?」

 

 現れた敵の増援にクリフは驚いたが、ミッチェルのランスロットを蹴ってアガサ騎士団の増援に挑もうとする。

 だが、先行していたのは勇のブレンであり、クリフの大剣による攻撃をバイタルジャンプと呼ばれる分身に似たアンチボディが持つ能力で躱し、背後に回り込み、ブレンバーとブレンブレードによる二刀流で敵のレギンレイズを切り裂く。

 

「ブレンバー二刀流!」

 

『なにっ!? うわぁぁぁ!』

 

 連続の斬撃によってクリフのレギンレイズは無力化され、そのまま地面に倒れ込んだ。

 

「なんだあの機体は?」

 

『援軍であることには変わりない! 行くぞ!』

 

 増援と合流したミッチェルはやって来た増援に勇のブレンが何なのかを問うが、相手は味方であることには変わりないと言って奥深くへと突撃した。ミッチェル等もそれに続き、一気に箒のいる部屋まで到着する。

 

「箒!」

 

「一夏!」

 

『おのれ!』

 

 囚われた箒を見付けた一夏がその名を叫ぶ中、サザーランドに乗り込んだメイソン騎士団の騎士がスラッシュハーケンを放ち、白式を捕えた。そのまま右手に持った剣で白式を切り裂こうとしたが、共に突撃したイクサー1によって撃破される。

 

「織斑さん、篠ノ之さんを!」

 

「ありがとう!」

 

 イクサー1に礼を言ってから一夏は箒の拘束を解き、脱出しようとする。だが、ここでモーリック王が用意させていたホークスと呼ばれるメイソン騎士団の決戦兵器が来る。

 

「あ、あれは!?」

 

「ホークスだ!?」

 

 メイソン騎士団の紋章として使われている鷹型の兵器に、アガサ騎士団の機動兵器は次々と倒され、更には冥夜と唯依の武御雷、アイリスディーナのタイフーン、セルベリアのドライ・シュテルンですら瞬く間に倒される。一瞬にして十数機を倒したホークスはロボット形態に変形し、右手に剣を持って付近に着地した。

 

「余の計画を無茶苦茶にしおって! 皆殺しにしてくれるわ!」

 

「モーリック十三世だな!? このミッチェル・ガーランドが討ち取る!」

 

 十五メートルほどのロボットに変形したホークスに対し、ミッチェルはランスロットの両手剣を構えて挑む。しかし敵は決戦兵器。最強のKMFと言えるランスロットは手も足も出ずに撃破される。

 

「ぐわぁぁぁ!?」

 

『ハハハ! その程度のおもちゃでこのホークスに敵わぬわ! せめて貴様らの決戦兵器を持ってくることだな!』

 

 ホークスの性能は決戦兵器とも呼べるほどに圧倒的であった。これにアガサ騎士団らは再び怯むが、一夏たちは臆せずに挑もうとする。

 

「お前が大将だな!? 俺がやってやる!」

 

『フン、身の程知らずの小僧め。返り討ちにしてくれるわ』

 

『いや、ジジイ。お前の出番はこれまでだ』

 

『っ! 何奴!?』

 

 一夏が倒してやると言えば、モーリック王はそれを華で笑う。いざ、一夏が突っ込もうとした瞬間、新世界の創造の調整が終えた神矢がここで姿を現す。

 

「あ、あれは…!?」

 

「なんだこれは!?」

 

『跪け、下等生物共! 貴様らは神の前に居るのだ!』

 

 脱出したミッチェルが驚きの声を上げれば、神矢は跪けと叫ぶ。無論、応じる者はいない。邪魔をされたモーリック王は神矢に挑む。

 

「神だと? ふざけたことを抜かしおって! 貴様から始末してくれるわ!」

 

『愚か者め。いや、ボケが進み過ぎたか』

 

「ほざけぇぇぇ!!」

 

 自らを神と自称する神矢に対し、怒りに燃えるモーリック王は超高速移動で迫り、剣で切り裂こうとしたが、神を自称する男が纏う巨大な機体は動くことなく、メイソン騎士団の決戦兵器ホークスを吹き飛ばした。

 

『ぬわぁぁぁ!?』

 

「ほ、ホークスが!?」

 

『ハハハッ! あの程度で最終兵器か! 否、この神の前ではただの木偶に過ぎんのだ! さぁ、新世界を創造する前に、掃除を行おうか!』

 

 ホークスをいとも容易く吹き飛ばした神矢は、集まったアガサ騎士団や一夏たちに向け、新世界を創造するための掃除を行うと宣言した。




色々と退場しました。次回で本当に最後となります(汗)。


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新世界創造

これでもう終わりです。

オリーブドライブさん
マルクさん
黒子猫さん
秋音色の空さん
kinonoさん
リオンテイルさん
エイゼさん
妄想のkiokuさん
mikagamiさん
黒鷹商会組合さん

キャラ提供して頂き、ありがとうございました!


 神を自称する男、佐奇森神矢が新世界を創造すると発したことに、集まっていた一同は戦慄した。

 メイソン騎士団の決戦兵器ホークスを一瞬にして片付け、その圧倒的な神の如き強さを見せた神矢に、一夏たちは臆することなく挑もうとする。

 尚、メイソン騎士団はモーリック王の回収の為に撤退した。

 

「何が神だよ! お前みたいな奴が、神なんかであるはずじゃないだろ!」

 

『姉弟そろってこの神を愚弄するか…! だが、貴様程度に振るうこの神ではない! 戦士たちよ! あの小僧を始末しろ!!』

 

 一夏に姉の千冬と同様に否定された神矢は苛立ったが、神としての威厳を保つべく、配下の者たちに命じて始末を命じる。

 それに応じてGAを纏ったゴットアーミーの面々が一夏の始末に向かう。カーネルを初め、マッド軍曹、バッカムなどのレッドベレーの面々が一夏たちに襲い掛かる。

 

『死ねぇぇぇ!!』

 

 マッド軍曹とバッカムがニードルナイフによる弾幕を浴びせるが、一夏たちはこれを躱して反撃を行う。

 だが、相手は完全戦闘用に開発されたGAだ。それに纏っているのは戦闘のプロたちであり、反撃を躱して倍返しの弾幕を浴びせる。

 

「ぶははは! 小娘共め! そんな攻撃は当たる物か!!」

 

「戦闘のプロなら、こちらにもいるぞ!」

 

「ん!? たわば!?」

 

 一夏たちの反撃を笑うマッド軍曹に、青騎士を纏うエルネスティーヌは凄まじい速さで接近し、両手剣で彼を惨殺した。

 

「マッド軍曹が!? なんて女だ!」

 

「神を守護する軍団の兵はその程度か? 笑わせてくれる!」

 

 マッド軍曹を一撃で倒したエルネスティーヌは神矢の軍隊はその程度かと挑発する。これに腹を立てたカーネルは、直ぐに一斉攻撃を開始する。

 

「えぇい、調子に乗りおって! 全軍、攻撃せよ!!」

 

 カーネルの怒号でゴットアーミーの総攻撃が開始される中、エルネスティーヌは的確に指示を出す。

 

「あの神を自称する者の攻撃はお前たちに任せる。あの軍隊の相手は我々が行う! 各員、時間を稼げ!」

 

『はっ!』

 

 この指示に応じてアガサ騎士団はゴッドアーミーとの戦闘を開始した。神矢と対峙することになった一夏たちはこの敵をどう倒すかと迷うが、やらねば世界の危機は去らないと判断し、戦闘を始める。

 

「迷ってる暇はない! やるぞ!」

 

 射撃兵装を持つISは、ルリのマギア・コリツェのビット攻撃を合わせた集中砲火を行うが、神矢のGAには通じない。紅椿を纏った箒は一夏の白式を始めとする近接組と合流して追撃を行うも、ブレード攻撃も通じなかった。

 

『ハハハ! 無駄だ! この新世界は何の攻撃も受け付けんのだ!』

 

「なんてシールド!?」

 

「私の単一仕様を使った超弾幕が通じないなんて…!?」

 

『所詮、ISはその程度なのだ! この神の作り上げったGAの火力を見よッ!!』

 

 シャルルが攻撃が効かないことに驚き、マデリーヌの単一仕様を使ったありったけの弾幕が通じないことに驚けば、神矢は倍返しの反撃を行う。それは無数のビームによる反撃である。ありったけのビーム弾幕に、数機が躱し切れずに被弾してしまう。やられたのは、ラウラとクリスティーナだ。

 

「キャァァァ!」

 

「うわぁぁぁ!」

 

「隊長!?」

 

 隊長がやられたことに、ヴィルヘルミナは動揺し、その次に神矢のGAより放たれた無数の拳によるパンチを躱し切れず、命中して吹き飛ばされる。

 

「あぁぁ!」

 

「ミーナ! このぉぉぉ! 落ちろぉぉぉ!!」

 

 同じ学校に通うクリスティーナとヴィルヘルミナがやられたことに腹を立てたマデリーヌは、メリアやシャルルと共に神矢に向けて火力を集中させる。幸い、倒れた者たちは生きていたが、戦闘に復帰できる状態では無い。

 今までの火力では不足と思ってか、クランティは自分専用ISの最大火力である「ギャラティック・アブヒサラン」を使うしかないと判断。チャマック・ターラーの外部装甲の殆どを外し、ランス型近接武器「チャンディーカ・ブハラ」に排した装甲を付け、エネルギーチャージを始める。

 

「撃つから援護を!」

 

「了解ですわ!」

 

「分かったで!」

 

 クランティが援護を願えば、セシリアとアリアチェールが応じ、攻撃して神矢の注意を引く。それに動じて一夏たちも神矢を攻撃し、クランティに攻撃が来ないようにする。

 だが、その陽動を軍人であるアガサ騎士団と交戦中のカーネルが見抜き、神矢に報告せずに自分等だけで攻撃を始める。

 

「むっ? エネルギーチャージをしているISが! 三機ついてこい! 残りはそのまま対処せよ!」

 

 四機で編隊を組み、クランティを攻撃しようとするが、それに気付いたルリはマギア・コリツェの十基のビットを放ち、三機を一気に仕留めた。

 

「むぅ!」

 

「おっ!? 一気に三機のGAを! あれが篠ノ之博士の自ら作り上げたISか! だが、乗っているのは素人! この俺は殺せんぞ!」

 

 一気に三機を撃墜したルリに驚きつつも、動きが素人同然であるためにカーネルは戦闘のプロである自分は殺せないと言って、彼女の攻撃を避けながらライフルの単発での反撃を行う。

 特殊部隊を出ているカーネルの射撃は正確であり、ルリは当たるばかりで、彼女が撃つサブマシンガンは全く当たりもしない。それにカーネルには超能力があるのだ。

 

『フハハハ! 無駄だ! この俺は超能力者でもあるのだ! 貴様の攻撃は手に取るように分かる! たとえ全方位の自在な攻撃でもな!』

 

 ルリのビットによるオールレンジ攻撃を避けた後、カーネルは体長が五メートルもある男となって彼女の前に姿を現す。無論、この姿は幻影であるが、GAを纏ったおかげで彼の超能力も強化されている。気配を消す能力もISのセンサーを騙せる程になっているのだ。ルリが攻撃した瞬間に大男となったカーネルの幻影は消え去る。どこに居るのかと目で探した瞬間に、ルリの背後よりカーネルは攻撃した。

 

『ド素人め、対応は遅いわ! それでよくも我が神に逆らおうなどとした物だ! そんな鈍間な貴様なんぞ、直ぐにこの俺が殺してくれる!』

 

 攻撃されて被弾した後、ルリはカーネルが来た背後より剣による反撃を行ったが、既に相手は気配を消して何処かに潜んだ後であった。ルリの余りの対応の遅さにカーネルは呆れており、直ぐに殺すと気配を消しながら宣言する。

 ルリはその宣言に次は自分を殺しに来ると確信し、両目を瞑ってセンサーの感知度を上げる。感度を上げたところで、センサーすら騙すことが出来るカーネルの気配を感じ取れない。

 

「センサーに反応なし。なら、あの訓練を…」

 

 しかしルリは周りの危害、あるいは殺気を感じ取るようにする訓練を受けたことがある。その感じ取る訓練を思い出し、背後から来るカーネルが出す殺気を察知した。

 

「そこっ!」

 

「っ!? な、何ぃ!?」

 

 カーネルが攻撃を仕掛ける前に出した殺気を察知することに成功したルリは瞬間的に背後を振り向き、剣で彼を攻撃した。身体を切り付けられたカーネルは自分の殺気に気付いたことに驚きつつも、直ぐに後退して体勢を立て直す。

 

「まさか殺気を感じ取ったと言うのか!?」

 

『エネルギーチャージ完了! 撃つから射線上に居る人は離れて!!』

 

 ルリがカーネルと交戦している間に、クランティがエネルギーのチャージが完了したことを無線で知らせた。IS専用の無線連絡であるためにGAには聞こえず、カーネルはルリが離れたことに見抜けなかった。

 

「逃げる気か! 次は必ず仕留めてやる!」

 

『発射!』

 

 逃げようとするルリにカーネルが追撃に入った瞬間、クランティはギャラティック・アブヒサランを発射した。

 

「フラッシュ!」

 

「うっ!? し、しまった!」

 

 追撃を掛けて来るカーネルに、ルリはマギア・コリツェの単一仕様能力「魔法」を使って目晦ましを行い、相手が体勢を立て直す前にビットによる追撃を掛け、ビーム砲の方へ突き飛ばした。

 ルリは狙ってやったわけではない。たまたま蹴った方向へクランティの放った高出力ビームがあっただけだ。

 放たれたビームはバッカムを含め、多数のGAを呑み込んで撃破していた。アガサ騎士団の方は巻き込まれる前に退避している。カーネルもそのビームに呑まれ、身体が徐々に消滅していく。

 

「う、うがぁぁぁ!? はばぁ! はべべべ!?」

 

 断末魔を上げながらカーネルが消滅した後、高出力ビームは真っ直ぐと神矢に向かっていく。命中すれば大規模な爆発が起こり、巨大なGAを纏う神矢を覆い隠すほどの煙が巻き起こる。

 

「やったか!?」

 

 アリアチェールは神矢を撃破したかと思い、思わず口にしてしまった。

 あれ程の高出力ビームだ。あれを受けて撃破できずとも多少の損傷を負わせているはず。皆がそう思っていたのだが、煙が晴れた後に現れた神矢の新世界は全くの無傷であった。

 

『おい、聞いていなかったのか? この新世界はあらゆる攻撃も受け付けないと!』

 

 この新世界はあらゆる攻撃を受け付けない。

 そう言った神矢は全体攻撃を行い、その場に居る多数のアガサ騎士団の騎士たちと日本にスイスのIS複数を戦闘不能に追い込んだ。全体攻撃を避けられたのはわずかだ。

 

『きゃぁぁぁ!!』

 

「セシリア! 鈴! シャルル!?」

 

「一文字と敦賀もやられた!? 第二ISは全滅!?」

 

 一夏、箒、ルリ、エルネスティーヌ、イクサー1、勇、相良は避けられたが、セシリアに鈴、シャルル、ゆきな、千雨は全体攻撃を避け切れずにやられてしまった。メリア、マデリーヌ、アリアチェール、クランティは同じく全体攻撃にやられ、第二IS学園のメンバーは全滅してしまった。アガサ騎士団の突入部隊はエルネスティーヌとイクサー1しか残っていない。尚、倒されたメンバーは生きている。

 

『なんだ、まだ残っているのか? まぁ良い、所詮は残りカスだ! この神の裁きを受けよ!!』

 

「あの敵、手強すぎます!」

 

「分かっている! だが、ここで我々が引き下がれば、奴は世界を自分の思うがままに作り替えてしまう! 何としても止めるぞ!」

 

 続けざまに神矢は残った者たちに対して追撃を掛ける。攻撃を避けつつ、イクサー1は手強すぎると言えば、エルネスティーヌはここで自分たちが下がれば、この世界に未来はないと思い、決死攻撃を行う。その後を一夏たちも続いた。

 高い火力を誇る兵装を持つレーバテインは背中の165ミリ榴弾砲(デモリッション・ガン)を持ち、ラムダ・ドライバを起動させて構え、神矢の新世界に向けて放つ。

 

「アル! デモリッション・ガンを使う!」

 

『了解、ラムダ・ドライバ起動!』

 

 165ミリ榴弾砲の発射はかなりの反動を有しており、ASが持てる代物ではない。しかしレーバテインはラムダ・ドライバと呼ばれるあり得ないシステムを搭載している。そのおかげで長距離タイプでも発射は可能である。

 箒やイクサー1、勇のブレンと同じく神矢に向けて放てば、恐ろしい発射音と共に砲弾が新世界に向けて飛んでいく。だが、それすら神矢の新世界を破壊できない。クランティの放った強大な高出力ビームが全くの無傷であったように。

 

『何をするかと思えば、単なる悪足掻きか! ならば反撃させてもらおう! 刮目しろ! これが神の反撃だ!!』

 

 全くの無傷である新世界は、強大な反撃を行った。その反撃は全てを破壊尽くすほどの光線であったが、レーバテインのラムダ・ドライバやルリのマギア・コリツェの単一仕様能力の魔法で動けない者たちは守られる。

 

『小賢しい奴らめ! 魔法などで神罰を凌ぐとは!』

 

「今のうちに誰か動けぬ者たちを回収しろ! 巻き込まれてしまう!」

 

「吾輩に任せろ! スカイリンクス航空、ただいま救援活動に入る!」

 

 一夏と共に突撃を掛けるエルネスティーヌは、倒れて動けない者たちの回収を命じる。それに応じ、スカイリンクスが回収に向かう。乗っている者たちの力を借り、手際よく戦闘不能状態の者たちを回収していき、数秒足らずで地下に突入した生存しているメンバー全員を回収する。

 

「回収完了! 援軍も来る! 健闘を祈るぞ!」

 

『助かる、機械獣よ!』

 

「獣ではない! 吾輩は空飛ぶ山猫、スカイリンクスだ!」

 

『すまぬ、山猫よ』

 

 スカイリンクスが回収を完了すれば、エルネスティーヌは礼を言う。この際に獣と言ってしまったために、彼から訂正を求められた。無論、直ぐに訂正した。それから大和を加えて戦闘を再開し、神矢の新世界に連携攻撃を行うが、全く効果が無い。全ての攻撃が終われば、新世界より凄まじい反撃が始まる。

 

「うわぁぁぁ!」

 

「ブレンが!?」

 

『ハハハッ! なんの兵器か知らんが、所詮はこの新世界には通じんのだ!!』

 

 無数の巨大な拳を全方位に放つと言う弾幕に、勇のブレンは躱し切れずに被弾して戦闘不能となる。更に新世界は海上に居る大和に島の瓦礫や残骸による爆撃を行い、戦闘不能に追い込んだ。

 

「キャァァァ!」

 

『まさかあれが戦艦大和か? 冗談は止すんだな! さぁ、次は貴様だ! 未知の科学力の人形!!』

 

 海上の大和を倒せば、神矢はイクサー1にターゲットを絞った。これに対してイクサー1はイクサービームを放って応戦するが、全ての攻撃を跳ね除ける新世界には通じない。

 

「私の全てを…!」

 

『そんな時間を、この神が与えると思ったか!』

 

「えっ!? あぁぁぁ!!」

 

「イクサー1!? おのれ、この怪物が!!」

 

 攻撃が通じず、イクサー1は神矢の新世界の恐ろしい攻撃を躱し切れずに吹き飛ばされた。仲間を次々と倒していく神矢に怒りを燃やし、全力の斬撃を行うエルネスティーヌであるが、全く通じない。そればかりか、自分を怪物呼ばわりしたことに腹を立てた神矢の怒りの反撃で重傷を負う。

 

『怪物だと…!? この神を、怪物と罵るか! この無礼者がぁぁぁ!!』

 

「ぐぅ!? がはっ…!」

 

 絶対防御を貫通した刃に腹を貫かれたが、エルネスティーヌはまだ戦意を失っていない。彼女に向けた怒りで生じた隙に、相良と一夏、箒は斬撃による攻撃を行った。

 先に一夏と箒が斬り付けた後、相良のレーバテインがラムダ・ドライバを使った攻撃で行う。非常識には非常識をと言ったところだろうか。

 AS用散弾銃を弾切れまで撃って捨て、対戦車ダガーで切り裂き、刃が折れるまで斬り付ければ165ミリ榴弾砲を至近距離から放ち、左手に溜め込んだラムダ・ドライバの収束エネルギー弾を直接打ち付ける。この機体の負荷を無視した攻撃により凄まじい爆発が起こり、新世界のシールドを打ち破って直接ダメージを与えられたが、結果は撃破に至らず、神矢を怒らせる程度であった。

 

「なにっ!?」

 

『貴様ァ!? この新世界に傷を付けたなァァァ!!』

 

『敵より強烈な反撃が…』

 

「ぐわぁぁぁ!!」

 

 神矢の反撃はレーバテインのAIであるアルの予想を遥かに上回り、相良は避け切れずにこの攻撃を受けて戦闘不能となった。相良が倒されたことで、次なる攻撃をルリが行うも、神矢の新世界には敵わず、吹き飛ばされるだけである。そんな神矢に休む暇も与えず、一夏は白式を第二形態に移行させ、単一仕様能力の零式白夜を打ち込んだ。

 結果はレーバテインのラムダ・ドライバ同様、神矢の新世界に傷を付けることに成功したが、撃破に至らない。自分のお気に入りに続けざまに傷を付けた一夏に対し、神矢は千冬をやったのは自分だと告げる。

 

『なんだお前か。お前の姉貴は、この神の怒りを買って敗北したんだ!』

 

「あんたが、あんたが千冬ねぇをやったのか!? 許さねぇぞ!!」

 

『許さないだと? 人形風情がこの神に逆らうなどおこがましい! 同じ人形であるお前もなァ!』

 

 この神矢の発言に怒りを燃やす一夏は二撃目を入れようとしたが、入れる前に新世界の腕に捕まれ、強力な攻撃を受けて一夏は昏倒した。

 

「一夏ぁ! 貴様!!」

 

『ハハハ、姉弟そろってこの神に逆らうからだ! 人形如きが人間の真似なんぞして、更には逆らうとは! お前もだ! この神の神聖なる計画をぶっ潰しやがって!!』

 

 倒れた一夏に気を取られ、箒は仇を取ろうと突っ込んだが、神矢は束の妹である彼女に逆恨みとも言える憎しみをぶつけて来る。

 

「計画を潰した!? 何を言っている!?」

 

『お前は身内なのに知らんのか!? この神の計画を欠陥品のISを世界に認めさせるために盗み、挙句にこの神のゴットアーマーを除け者にしたお前の姉貴だ!! ふざけやがって! あいつが計画を盗まなければ、今頃はこの神が統治する新世界となったはずなんだ!!』

 

「っ!?」

 

 逆恨みとしか思っていなかったが、怒り狂う神矢よりとんでもない真相が明かされた。

 それは白騎士事件の真相が、なんと神矢の世界征服の計画を束が盗んだ物であったことだ。むしろ束が世界を救ったと言うべきだろう。元の神矢の計画は大変身勝手な物で、世界を滅ぼし、自分の思うがままに作り替える物であったのだ。

 GAを採用しなかった世界に対する復讐を兼ねた計画であり、ハッキングしたミサイルで世界の主要機関や首都を破壊した後、無秩序となった世界でGAを纏って神の如く君臨し、逆らう者を皆殺しにして支配する計画であった。

 

「姉さんがあんなことをしていなければ、今の私たちは無かったのか…!?」

 

 真相を知った箒は固まり、姉があのマッチポンプのような計画を実行していなければ、核の炎に焼かれていたか、無法者たちに犯されて殺されていた事だろう。

 

『畜生が! お前ら姉妹の所為だ! 許さねぇ! レイプしたって気が済まねぇ! お前をぶっ殺してその首を姉貴に見せ付け、それからあのクソ兎を許しを請うまで嬲り、串刺しにして焼いてやる!!』

 

「なんと下劣な…! お前のような男が、神であるはずが無い!!」

 

 真相を明かした神矢は更に怒り狂い、憎い相手の妹である箒に向けてISを一撃で破壊できるほどの強力な攻撃を行った。そんな攻撃から箒を守るべく、まだ動く青騎士を纏うエルネスティーヌは最後の力を振り絞って盾となる。結果は守り切れなかったが、箒は死なずに済んだ。エルネスティーヌは瀕死状態となってしまったが。

 

『はぁ、はぁ…! ちっ、邪魔をしやがって! まぁ良い、アガサかなんだか知らんが、纏めてこの世界ごと滅ぼしてやる。それからあいつが生きていたら、嬲り殺してやるか。姉貴も一緒にな!!』

 

 全ての敵を倒し終えた神矢は新世界を浮上させ、一気に大気圏を抜けて地球の衛星軌道上まで上昇した。

 

『さて、新世界の構成に入ろうか。まずは各国の主要機関を焼き払い、今の世界を破壊する。それから各地の負け犬や引きこもり共にGAを配布し、選別を行う。GAの攻撃より生き延びた者がこの神の世界の住人だ。これで人口は五億まで減らせるだろう。さぁ、今こそ創造…なんだ!?』

 

 後は世界を破壊し、自分の思うがままの世界を創造するまで。

 そう思っていた神矢であったが、何処からともなく攻撃を受けた。直ぐに神矢はレーダーを見て何処から敵が来たかを調べる。

 

『何処からの攻撃だ!? レーダーに反応なし? 連中の宇宙艦隊はメイソン騎士団の艦隊と交戦中だぞ!? 一体何処に…!?』

 

 探している間に、自分を攻撃した正体が姿を現した。それはマギア・コリツェを纏ったルリであった。なんと新世界に張り付き、ここまで追ってきたのだ。

 

『宇宙空間にISだと!? いや、ISは元々宇宙用の強化スーツだ。宇宙に出ることは可能だが、その様子だと、宇宙用の装備は施して居ないようだな?』

 

 宇宙空間に出て来たISに驚く神矢であったが、ISが宇宙用に開発されたことを思い出し、更にはマギア・コリツェが宇宙用の装備をしていないことを見抜いた。

 彼の言う通り、ISは宇宙用に開発された強化スーツであるが、地球では兵器に転用されているために宇宙装備は施されていない。故にルリは宇宙に長く留まることは出来ず、数分の内に酸素が切れ、凍り付いてしまうだろう。

 

『フン、脅かしやがって。どうせ後数分しか動けんのだろう。赤子の手をひねるより楽なことだ』

 

 ルリの様子はとても苦しがっているようだが、未だに自分に対する敵意を向けている。そんな彼女の様子を見ていた神矢は無駄な抵抗だと鼻で笑い、一撃でルリを殺そうと無数の拳を飛ばした。

 長く宇宙に留まれないルリはそれを躱し、相討ち覚悟でビットを展開しながら突撃してくる。自分の一撃を躱したルリに神矢は驚きつつも次なる迎撃を行い、マギア・コリツェを近付けまいと弾幕を張る。

 

『なにっ!? だが、後一分だろう! 凍り付いて死ぬか、この神の神罰を受けて死ね!』

 

 後一分ほどで敵は動けなくなる。

 そう判断する神矢はルリが動けなくなるまで攻撃を行い、やがて彼女の動きが鈍くなり、更には凍り付いて動かなくなった。

 

『はっ! 無駄な抵抗だったな! 全くこの神を煩わせやがって。さぁ、続きと行こうか』

 

 相手が動けなくなったところで、神矢は碌に調べもせず、凍り付いたルリを放置した。

 その後に、信じられないことを宇宙に漂うルリが起こすことも知らずに…。

 

 

 

「ねぇ、起きて! ルリちゃん起きてよ!」

 

 宇宙空間で凍り付いて動かなくなったルリは死んでおらず、謎の空間にて篠ノ之束に起こされていた。

 その空間は真っ青でほぼ何もない世界。そんな世界に意識があるルリは束に起こされ、周囲を見渡してここは何処だと彼女に問う。

 

「ここ、何処?」

 

「マギア・コリツェの中かな? いっくんの白式と同じって事になるかな。こっちから質問するけど」

 

 起こされたルリの問いに束はマギア・コリツェの中だと適当に答え、彼女に質問を行う。

 

「どうしてあの力を使わなかったのかな? あの力使えば、神とか言っちゃってるあいつを直ぐに倒せるのに」

 

 束はルリに神矢を倒せる力を秘めていると言うのに、その力を使わないのは何故かと問う。この問いにルリは顔を暗くしながら答える。

 

「それは…お姉ちゃんが使うなって言うから…」

 

「ふーん、でも、いま使うべきじゃないの? ルリちゃんがその力を使わない所為で、束さんの世界の住人たちが傷付いちゃってるんだよ?」

 

「えっ? でも…」

 

 ルリはお姉ちゃんと言う人物から使うなと言われているから使えないと答えた。これに束はいま使うべきだと説くが、彼女は頑なに使おうとしない。

 そんなルリに、束は強硬手段に打って出る。お前の所為で私の世界が滅んだと、彼女に向けて言ったのだ。

 

「そう、ならルリちゃんの所為だね。ルリちゃんがその力を使わない所為で、束さんたちの世界は滅んじゃった」

 

「っ!? それは駄目! それはいけないこと…!」

 

「だったら、使わないと。何かを守るためなら、そのお姉ちゃんって人は許してくれるよ」

 

 束の手段は成功であった。ルリはこの世界を守るべく、力を使う決心をした。自分の所為で一つの世界が滅びてしまえば、その罪悪感に苦しんでしまうからだ。

 守るために力を使うことで束は姉なる人物は許してくれると後押しすれば、ルリは立ち上がって自分に封印されていた力を解き放った。

 

 

 

 現実に戻り、凍り付いて宇宙空間をただ彷徨うだけだったルリのマギア・コリツェが光り出し、強力なエネルギーの反応を感じ取った神矢は慌て始めた。

 

『な、なんだこの反応は!? まさか、この状況で進化したと言うのか!?』

 

 直ぐにルリのマギア・コリツェに視線を向け、更なる進化を行う前に破壊してしまおうと、新世界の全力をそのISにぶつける。だが、謎のバリアに守られて全く通じない。

 

『なんてバリアだ! この新世界の攻撃を受付んだと!? 私の知らない物が内蔵されていたのか!?』

 

 新世界のあらゆる攻撃を受け付けないバリアに、神矢は更に慌てふためく。神として振舞っていたが、今の神矢には怒り狂ったようにその姿は見られない。ただの慌てふためく男だ。

 一方で進化を終えたマギア・コリツェは、全く違う姿をしていた。ビットの数も増え、右手には剣が握られ、左手には盾が付いている。それを纏っているルリも急成長を遂げ、身長が二十センチほど伸びた美少女となっていた。

 どうやら、ルリの封じられていた力とマギア・コリツェの単一仕様能力が合わさって、究極の進化を遂げてしまったようだ。おまけに宇宙空間を平然と動いている。

 

『原形を留めぬ進化だと!? そ、それがどうしたと言うのだ!? 所詮ISは欠陥兵器! この神の作り上げたゴットアーマーと新秩序を創造する新世界に敵う物か!!』

 

 進化を終えたところで、神矢はバリアが無くなったと判断して新世界の全身全霊の攻撃を行う。地球を一撃で粉砕するほどの攻撃であるが、究極進化したルリのマギア・コリツェには全く通じない。

 その全力攻撃の最中、ルリのマギア・コリツェは一切動くことなく全ての攻撃を跳ね除け、更には三十基に増えたビットで神矢の新世界を包囲し、一斉攻撃を行う。レーバテインのラムダ・ドライバや白式の零式白夜しか効かなかった新世界のバリアが容易く貫かれる。

 

『ば、馬鹿な!? 百発の核兵器に耐えるシールドだぞ!? それを容易く貫くだとォ!?』

 

 次々となる警報に、神矢は目前のルリに対して恐怖を抱く。そのルリは右手の剣を動くことなく振るえば、刀身より斬撃が飛んで新世界に向けて飛んでいく。これを無数の拳で防ごうとする神矢であったが、拳が斬撃に触れた瞬間に消滅していく。やがて新世界に斬撃が届けば、新世界は真っ二つに斬れて大爆発を起こした。

 この大爆発で神矢は死亡したかに思えたが、GAを纏って脱出していた。今の状況ではルリに勝てぬと判断し、再起を図ろうとしている。だが、ルリは逃がさない。直ぐに神矢の目前に瞬間移動する。

 

「くそっ! なんだあいつは!? だが、この神は諦めんぞ! 今に見ていろ、そんな物は…うわっ!?」

 

 逃げる自分の目の前に現れた神々しいISに、神矢は裏返った声で驚いてしまう。目前に居るマギア・コリツェに、神矢は騙し撃ちを仕掛ける。

 

「わ、悪かった! この俺が悪かったよ! 許してくれ! 頼む!」

 

 先ほどの神を自称する男とは思えぬ命乞いだ。だが、それは騙し撃ちである。これにルリは何の警戒もせずに近付き、拘束しようとしたところで、神矢は槍を突き刺す。

 

「馬鹿め! 死ね!!」

 

 狙い通り刺さったが、それは幻であった。これに驚いた神矢は直ぐにルリを探したが、もう既に手遅れであった。周囲にビットが展開しており、謎の陣形を描いている。

 

「く、クソっ! 何処だ!? っ!? なんだこれは!? 何をする気だ!?」

 

 動揺しきっている神矢に対し、ルリは何も答えることなくビットを回させる。それは神矢を封印ずる術式であった。見る見るうちに神矢はルリが取り出した小さな容器に向けて吸収されて行く。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!? この神を! この神を封印するのかァァァァ!? 止めろぉ! 止めてくれぇぇぇ!!」

 

 悲鳴が聞こえているが、ルリは全く聞くことなく封印術を続ける。やがて神矢がGAごと容器に吸収されれば、ルリは手にしている容器のふたを閉め、それを何もない宇宙空間に向けて手放した。

 

「自分のやってきた事を反省するなら封印は解かれるよ。罪を認めて反省したら、ね…」

 

 冷たい宇宙空間を漂う神矢が封印された小さな容器に向け、ルリは自分の罪を認めれ反省すれば、封印は解かれると告げた。

 だが、常に自分が正しいと思っているあの神矢が自分のやって来た罪を認めるだろうか?

 認めないだろう。そればかりか自分を肯定し、神である自分がやって来たのだから決して間違っていないと答えるはずだ。それを分かっていて封印したなら、ルリは彼に死よりも地獄な罰を与えたことになる。

 

「さぁ、帰らなきゃ。みんなが待ってる」

 

 この世界の脅威を封印したルリは、真下に見える地球に向けて降下した。

 待っている者たちの元へ帰るために…。




この後エピローグでも投稿しようかな…。

これでIS編は終わりです。皆さま、ご提供いただきありがとうございました!

次も募集する予定なので、お楽しみに。


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IS編エピローグ

前半はエピローグ、後半はデグ様がファイテックスを纏って、なろう系世界を蹂躙します。


 佐奇森神矢の新世界との死闘を終え、ルリのマギア・コリツェは地球に帰ってきた。

 究極進化の影響か、地面に降り立った瞬間にマギア・コリツェの究極形態は解除され、更には纏っていた者であるルリまでに影響が及んだ。

 

「っ!? まさか死んだのか…!?」

 

 島に集まっていて生存者を探していたエルネスティーヌやミッチェルを始めとした者たちは、ルリの全身が光って彼女が死んだと思ったが、結果は予想に反する物であった。

 

「ふぇ? なんでちさくなってんの?」

 

「それはこっちが聞きたい」

 

 マギア・コリツェが強制的に待機状態へ移行すれば、ルリの身体は四歳ほどの幼児となっていた。

 その訳を利き手を包帯で釣っているミッチェルが聞きたいと言って、空いている左手で救援活動を行っている他の騎士を呼ぶ。

 この戦いでアガサ騎士団は投入した戦力の七割を失い、次に攻撃を受ければ一溜りも無かったが、敵方のメイソン騎士団は既に撤退しており、もうここで戦闘は起きることは無い。

 身に着けていた衣服が身体に合わなくなったルリに毛布を被せ、救援にやって来た女性兵士に彼女を抱えさせた後、ミッチェルは領主であるエルネスティーヌの容態を補佐を務めている労連の騎士に問う。

 

「ご領主殿の容態はどうか? 篠ノ之を庇って重傷と聞くが」

 

「昏睡状態でありますが、応急処置のおかげか、お命に別状はございませぬ」

 

 補佐の騎士が答えれば、隣に立つ騎士は本国より増援が来ており、メイソン騎士団は仕掛けて来ないと聞いても居ないのに口にする。

 

「それとアルゴン王の命により、本国より増援が来ております。メイソンの者共は王を探すのに躍起ですので、仕掛けてこぬかと思います」

 

「一先ずは安心と言う事か。では、救援活動と回収が済み次第、撤収だな」

 

「勝手に戦闘に参加した学生たちの処遇はどうするので? 民間人の身でありながら、あそこまで勝手に来られるのは…」

 

「怪我が治るまで病室にでも閉じ込めて置け。それが処罰だ。それに我々の武装闘争に巻き込んでしまったからな」

 

 戦闘が起きることは無いと判断すれば、ミッチェルは救援と回収活動が完了次第に撤収すると言う。これに頭に包帯を巻いた騎士が、勝手に戦闘に参加した一夏たちはどうするのかと問うてくる。

 これにミッチェルは怪我が完治するまで病室に閉じ込めて置けと答えてから、同僚たちと共に宇宙に帰ると告げる。

 

「では、私はロスガルド卿たちと共に宇宙へ帰る。後は頼んだぞ」

 

「はっ!」

 

 後は頼むと言ってから、松葉杖をついているロスガルドや車椅子に座らされているガリア、その車椅子を押している軽傷のユウ、左手を負傷しているジョン等と共に宇宙港へと向かう輸送機に向かった。

 後の一夏ら学生たちはそれぞれの母国の病院へと移送されていく。重傷を負ったエルネスティーヌは、自分の居城がある方へと移送された。

 かくして、IS世界でのアガサ騎士団とメイソン騎士団の武装闘争は幕を終えた。

 

 

 

「モーリック王よ! 無事でありますか!?」

 

 その頃、神矢の新世界に吹き飛ばされたメイソン騎士団の決戦兵器ホークに乗っていたモーリック十三世は、捜索隊のメイソン騎士団の者たちに回収されていた。

 コクピットのハッチを開け、無事を問うてくる騎士に対し、モーリック王は戦況がどうなったかを問う。

 

「よい! それより、戦況はどうなっておる? 我が方の勝ちか?」

 

「い、いえ…それは…!」

 

「その反応、我が方の負けか。ぬぅ、アガサの者共にしてやられるとは…!」

 

 騎士の返答に困った反応で、モーリック王はこの世界の戦いで敗北したと察した。

 

「だが、今はくれてやろう。この次の戦い、勝てぬと思うなよアルゴンよ! 本国へ帰投する! 余に続け!!」

 

『はっ!』

 

 敗北を知ったところでモーリック王はホークが動くことを確認すれば、本国への撤退することにし、捜索隊にそれを命じた。

 ホークを鷲の形態へと変形させ、捜索隊を率いて本国への帰路へ着いた。

 かくして、アガサ騎士団とメイソン騎士団との戦いは今も続く。どちらかが倒れるまで…。

 

 

 

 ISコア、ゴーレムの物であるが回収に成功したアトリオックス率いるバニッシュト軍団は元の世界へと帰投した。拠点へ帰投した包帯だらけのアトリオックスは、ヴィンデルにコアを回収したことを特殊な通信機で報告する。

 

「例のISコアとやらは回収したぞ。おかげで、また戦力の大半が減ったがな」

 

『ご苦労。戦力の方は直ぐに補填できる。今は戦争中だ、脱走兵など幾らでも居る』

 

 報告したアトリオックスにヴィンデルは労いの言葉を掛け、損失した戦力は戦争中に発生する脱走兵たちで補填できると口にする。

 

「フン、使えればな。そう言えばあの世界にはゴットアーマーとか言うのがあったが、あれの方が良いんじゃないか? あれの方が男も乗れるし、お前みたいな闘争心溢れる戦闘狂にもなる」

 

『ゴットアーマー? GAのことか。既にテストはしてある』

 

「ほぅ、既にご存じか」

 

 その脱走兵がバニッシュトで使えればとアトリオックスは口にしつつ、IS世界で見た神矢の作り出したGAことゴットアーマーをヴィンデルに進めた。当のヴィンデルは既にGAを知っていたらしく、既に試験運用を進めていたようで、試験運用の結果をアトリオックスに告げた。

 

『あれは欠陥品だ。あれを作った者の選民思考が強過ぎてな。二十一世紀の地球で試験運用をしたが、一日も経たないうちに着用者の大半が暴走し、地球を死の星に変えた。戦闘力は高いが、制御できる着用者は殆ど居ない。奴には悪いが、不採用だ』

 

「やはり欠陥品か。そう言えば、あの人間はかなり危険な奴だったな」

 

 試しに二十一世紀の地球で試験運用をしたところ、一年どころかわずか一日程で地球を市の星に変えた。その結果、ヴィンデルはGAに不採用の烙印を押したのだ。

 そこでヴィンデルは女性しか纏えないが、自分の知るフォアランナーに近い技術で作られたISに目を付け、それを持って帰れとアトリオックスのバニッシュトにIS世界への派遣を命じた。

 できれば唯一ISを纏える男性である織斑一夏も攫ってきて欲しかったが、帰ってきたアトリオックスとバニッシュトの損害を見て仕方ないと判断し、ISコアを手に入れたことでヴィンデルは満足した。

 

『まぁ、ISコアを手に入れればそれで良い。私が保有するフォアランナーの技術と掛け合わせれば、男でも纏うことが出来よう。ISの絶対防御があれば、我々は更に戦力を強化できるだろう』

 

「我々か。俺たちはお前の飼い犬になった覚えが無いがな」

 

『私が拾わねば、お前たちバニッシュトは再編成に更なる時間を要したであろうに。早急に人を回す。変な気を起こすなよ? 起こせば、どうなるか分からん奴ではない』

 

「十分に承知している。このアトリオックス、恩を仇で返すジラルハネイではない。引き続き、再編には協力してもらうぞ」

 

 ISコアをフォアランナーの技術と掛け合わせれば、更なる戦力を強化できると豪語するヴィンデルに対し、いつの間にか一党にされていたアトリオックスはそれになった覚えはないと言う。

 これにヴィンデルは自分が拾わねば、バニッシュトは再編すら叶わなかったと牽制しつつ、変な気を起こさぬように忠告した。完全にヴィンデルのことを信用していないアトリオックスであるが、戦力再編には彼の協力は不可欠であるため、決して奪ったりはしない事を約束した。

 こうして、ヴィンデル・マウザーの戦力は着々と強化されていくのであった。

 

 

 

 決戦から翌日、IS学園に戻ったルリの体格はまだ幼児のままで、中庭で遊んでいた。昼間に遊んでいるため、休憩時間の学生らが時より来て、一人で遊んでいる愛らしいルリを見て微笑んでいる。

 

「ルーリちゃん、こんちはー。マギア・コリツェを見せてちょ」

 

「うん、はい」

 

 人気が無くなったところで、ルリの元に篠ノ之束が何食わぬ顔で彼女に声を掛け、待機状態のマギア・コリツェを見せるように告げる。束に驚くことなくルリは待機状態の自分専用のISを渡し、彼女が褒美として出した菓子を頬張る。

 なぜマギア・コリツェを取ったかは、神矢との戦いで得たデータを収集する為である。特殊な端末で待機状態のマギア・コリツェのデータを全て収集すれば、それをルリに返す。

 

「ありがとね。ルリちゃんのおかげで、束さんのISは更なる進化を遂げられるよ」

 

「しんか…?」

 

「そう、進化。じゃあ、また会おうね」

 

 ルリのマギア・コリツェのデータは束にとって大変有益な物であった。これに束は礼を言いつつ、おかげでISは更なる進化を遂げられると言ったが、ルリはそれを理解できなかった。

 

「バイバーイ、ルリちゃん」

 

「うん、またね」

 

 何も理解できないルリに説明することなく、束は何食わぬ顔で立ち去って行った。当のルリは束が来たことを誰にも知らせもせず、彼女から貰った菓子を再び口にした。

 

 

 

「コントロール、こちらサラマンダー。Bー13を制圧、我が方の損害は皆無。オーバー」

 

 IS世界とは違う別の世界では、イヴ人の武装勢力の下で戦うターニャ・フォン・デグレチャフはその世界の武装勢力を配下の隊と共に制圧していた。

 なぜ制圧するかは、ここをイヴ人の入植地とすべく、ターニャは上司の命令を実行しているに過ぎない。ターニャの大隊も含め、一個師団と一顧航空隊相当の戦力が投入され、碌な抵抗力も持たないこの世界を侵攻している。現地の反乱軍も一緒だ。

 イヴ人の侵攻軍と敵対している世界の軍隊は男尊女卑を掲げる勢力であり、ロボットのような兵器を保有していたが、イヴ人の侵攻軍が運用するバルキリーや戦術機はそれらを遥かに上回る性能であったがために虐殺同然であった。かつて存在していた神聖百合帝国軍に倣った侵攻である。

 今のターニャは特殊な背中にウィングが搭載された高い科学力で作られた鎧、その名もファイテックスを身に着けており、小柄な体格が二メートル以上になっている。色は銀色だ。

 

『こちらコントロール、第7装甲師団隷下の第19装甲連隊の戦区の制圧が遅れているようだ。サラマンダー、支援に行けるか?』

 

「こちらサラマンダー、戦闘継続可能。直ちに支援に向かう。アウト」

 

 本部より支援命令が来れば、ターニャはそれに応じて背中のウィングを展開させ、部下に支援に向かうことを知らせる。

 

「各サラマンダーユニットに通達。第19装甲連隊に支援が必要だ。行くぞ」

 

「えっ? 制圧したばっかですぜ。何人か残していくべきでは?」

 

「後続が来る。ぼさっとしてないでついてこい」

 

 ターニャと同じようなファイテックスを身に着けた若い兵士が残骸を調べながら維持しないのかと問えば、彼女は後続の部隊に維持を任せれば良いと答え、要請があった区画へと飛んでいった。その後を同じファイテックスを身に着けたターニャの部下たちが続く。

 彼女らが身に着けているファイテックスは元々違う世界の物だが、イヴ人の武装勢力が残骸を回収して解析し、完全なコピーに成功した。更に改良を加え、戦闘魔導士の強襲装備として制式化した。

 改良の結果、性能は本家よりも大幅に優れ、実戦経験の無い新兵でも不意打ちなら戦車や戦闘ヘリ一個小隊を瞬時に撃破可能である。発見された状態では一瞬でファイテックス共々スクラップであるが。

 そんな高性能な鎧を身に着けた魔導兵一個大隊を率いるターニャは支援要請があった区画に到着し、指揮車から指示を出している連隊長と合流して状況を問う。

 

「連隊長殿、状況はどうなっているので?」

 

「サラマンダーね。敵軍は民間人を盾にしながらこちらを押し返しているわ」

 

「敵軍が守るべき国民を、盾にして反撃に出ているですと?」

 

 連隊長より状況を聞いたターニャは彼女が言ったことが本当であるかどうかを確かめるべく、戦闘が起こっている方にヘルメットの双眼鏡機能を使って覗いた。

 イヴ人の機甲連隊の連隊長の言う通り、敵軍が女子供を盾にしながら反撃していた。対峙するイヴ人の歩兵や戦車、ASのM9A2ガーンズバック、戦術機のEF-2000タイフーンが民間人が迂闊に攻撃できず、一方的に敵軍に撃たれている。

 これにターニャは双眼鏡機能を解除し、連隊長に戦闘に巻き込まれたと言い訳が出来るので、攻撃しろと告げる。

 

「あれがなんです。言い訳がつくでしょう。多少の巻き込みなど…」

 

「何を言うの? 我々は解放軍なのよ。民間人の被害は最小限に留めろと軍団長より厳命されているの。貴方たち魔導士なら、敵軍だけ狙えるでしょ」

 

「我々は便利屋ではありませんぞ。こちらにも被害が…」

 

「良いからやりなさい!」

 

「たく、無茶を言う」

 

 このターニャの提案に連隊長は激怒し、自分等は解放軍だから出来ないと返して敵軍だけ倒せと無茶を言う。

 出来ないことでは無いが、かなり難度の高い方法だ。これにターニャは悪態を付つくも、部下を率いて民間人を盾にする敵軍だけを排除すべく、現場へ急行する。

 現場へ到着すれば、敵兵士らとロボット兵器が女性や子供などの民間人を盾にしつつ、撃てずにいるイヴ人の歩兵部隊や戦車、機動兵器の類に一方的に攻撃している。状況を打破しようと接近した戦闘ヘリはロボット兵器によって撃墜されており、墜落した残骸が黒煙を上げている。二機ほどが撃ち落とされた時点で、戦闘ヘリはここから退避したようだ。

 

「大隊長殿、どうするので? 民間人ごとやるので?」

 

「馬鹿を言うな。こういう時こそ、我々魔導兵の力の見せ所だ。各員、精密射撃術式で、敵将兵のみ撃ち抜け」

 

「精密射撃術式? 敵からかなり撃たれますぜ!」

 

 若い男である部下か民間人ごとやるのかと問えば、ターニャは精密射撃術式で敵将兵のみを撃ち抜くと答える。精密射撃術式を敵の射線が通る空でやると聞いた部下の一人が、これに異議を唱える。

 

「貴様、何の為にファイテックスを身に着けていると思っている? それとも貴様が敵の注意を引くのか? シュルツ大尉」

 

「じょ、冗談じゃありませんぜ! 連中の集中砲火を受けたら、この鎧ごとお釈迦だぜ! 先のは撤回して、指示に従います!」

 

「ならば防御術式を張りながら狙撃だ。こんな茶番、十秒で済ませるぞ」

 

『了解!』

 

 異議を唱えたシュルツと呼ばれる男性魔導士に、囮をしてくれるのかと問うと、身の危険を感じた彼は猛烈に断る。シュルツが拒否して指示に応じれば、ターニャは全員に精密射撃術式を行いつつ、防御術式を展開させるように指示を出してから先陣を切り、民間人を盾にする敵軍の前に姿を晒す。

 ターニャとファイテックスの集団を見た敵軍は、怯え切っている守るべきはずの民間人を盾にしつつ彼らに集中砲火を浴びせる。

 

「侵略者共だァ! ぶち殺せ!!」

 

「なんだこいつ等、軍隊じゃないのか? 守るべき国民を盾にするなど」

 

 集中砲火を防御術式で防ぎつつ、ターニャは自分等に向けて民間人を盾にしながら撃って来る敵軍を見て、本当に軍隊かどうかを疑う。それもそのはず、制服を着た賊にしか見えないのだ。

 精密射撃術式と防御術式の同時展開は少し疲労を感じるが、この手を使わねば、上官らに何を言われるか分かった物ではない。物の数秒で精密射撃術式の照準は眼下の敵兵全てに重なれば、即座に術式を発動して敵兵のみを狙撃する。これにファンタジー風味なデザインのロボット兵器に乗るパイロットらは混乱する。

 

『ほ、歩兵が!? 歩兵だけがやられたァ!? 畜生が!!』

 

 随伴歩兵がやられ、民間人らが逃げ出したところで、自棄を起こしたパイロットは民間人を手にしている木製の小銃のようなライフルを乱射しようとする。だが、撃つ間もなく、バトルアックスを持ったファイテックス兵が迫り、二機が一瞬にして無力化される。

 

『く、クソっ! メタルジャイアントは無敵じゃねぇのか!?』

 

 ロボット兵器の名を口にしながら、この場から逃げ出そうとするパイロットであるは、乗機は既にファイテックス隊員に取り付かれており、コクピットのハッチをこじ開けられ、中に侵入して来たファイテックス隊員に頭部を掴まれる。

 

「ひっ!? あが!? あばば…」

 

 頭部を掴まれたパイロットは抵抗するが、ファイテックスはパワードスーツでもあり、成人男性の頭部を握り潰す腕力を発揮できるのだ。頭部を掴まれたパイロットはそのまま握り潰され、乗っていた乗機は動かなくなる。

 

「へっ、悪党にはお似合いの死に方ってな」

 

 敵パイロットの頭部を握り潰したファイテックス隊員は、礼を言う地上の民間人らに手を振る。お礼を貰うために地上へ降りようとする隊員であるが、ターニャに首根っこを掴まれて戦闘に戻される。

 

「な、何をするんで!?」

 

「何をしているユーゴ・ブラウス中尉。ここは戦場だぞ? そんな物は後でしろ!」

 

「そんなこと言われなくとも、悪党どもは残らずぶち殺しますんで!」

 

「威勢のいい奴め」

 

 首根っこを掴まれたユーゴはターニャの手を払い除け、戦闘に戻った、これにターニャは特に咎めることなく、残っている敵を掃討する。

 敵の航空隊はバルキリーで編成された航空隊のおかげで既に壊滅状態であり、殺虫剤を吹き付けられた蠅のように落ちている。後は楽に制圧は進むと思っていたターニャであるが、本部から自分に向けて緊急指令が入る。

 

『こちらコントロール、サラマンダー・リーダー。貴官に指名だ。第11装甲旅団戦区にこの世界の支配者が出現。第9装甲旅団の損害が拡大し、更には敵の士気が上がっている。貴官は単独で敵司令官機と交戦し、撃破せよ。撃破すれば、敵は戦意を喪失する』

 

「こちらサラマンダー・リーダー、ネガティブ! 第11装甲旅団の戦力だけで何とかならんのか?」

 

『敵司令官機は圧倒的な戦闘力を誇っている。これ以上の損害は作戦の継続に影響する。サラマンダー・リーダーは直ちに指令を実行されたし。オーバー』

 

「ちっ、了解! こちらサラマンダー・リーダー、全ユニットをこの場に残し、指令を実行する! アウト」

 

 作戦本部より単独で敵司令官機を撃破しろとの命令に、ターニャは一度だけ異議を唱えるも、これ以上の損害は作戦に影響すると言われて仕方なく従う。直接作戦本部からの指名に、ユーゴは共に敵司令官を討ち取りに行きたいと申し出る。

 

「大隊長殿、作戦本部よりご指名で? 俺も連れてってくださいよ。悪党どもの大将を討ち取るんでしょ?」

 

「全く貴官は、一度死なねば分からんようだな。奴は私しか対応できんよ。ブラウス中尉は残りと共に掃討戦をやっておけ」

 

「ちっ、勲章物だったのによ! 実力のない自分は、雑魚の相手をします!」

 

 ユーゴの要望をターニャは蹴れば、若い士官は悪態を付きながら指示通りに掃討戦に向かう。他の部下たちも掃討戦を続けているのを確認すれば、敵司令官機に蹂躙される味方を救うべく、ターニャは現場へと急行した。

 現場へたどり着けば、無線機より司令官機に襲われている友軍の救援を要請する連絡がひっきりなしに聞こえて来る。どの声も必死であり、自分が倒さなくてはならない敵がどれほど脅威なのか彼女らの声を聴いて嫌でも分かってしまう。

 

『こちら戦車大隊! 壊滅状態! 負傷者多数で戦闘続行不可能! 至急、増援を請う!』

 

『こちら第2戦術機大隊、残像機は当機のみ! 助けて!!』

 

『司令官機の随伴機もかなりの戦闘力だ! 友軍機が次々と撃墜されている! こ、こちらにも来る!』

 

「随伴機も居るのか。厄介な」

 

 無線機より随伴機も居るとの情報を得たターニャは、ヘルメットの双眼鏡機能を使って友軍部隊を襲う司令官機とその随伴機を確認する。

 司令官機はまるでロボットアニメの主人公機のようなデザインであるが、やっていることは悪役そのものだ。戦術機やAS、戦車などの通常兵器部隊を圧倒し、次々と撃破している。挙句に脱出したパイロットや搭乗員を殺害していた。女性的なデザインを持つ随伴機も同様である。

 

「やってることが外道級の悪役だぞ。これ以上の被害を出さぬため、一気に殲滅するか」

 

 司令官機とその随伴機の蛮行を目にし、これ以上の被害を防ぐためにターニャは収束砲撃術式を使用した。

 エレ二ウム九五式は無いが、専用のファイテックスがそれを上回る火力を引き出してくれるため、背中のランチャーを構えた。魔力をランチャーに集中しつつヘルメットの機能で司令官機と随伴機全機にロックオンすれば、十分に魔力が溜まったことを確認する。

 

「エネルギー充填率百パーセント。ファイヤー!」

 

 充填率が完全であることを確認すれば、マルチロックオンしている全て敵機に向けて収束砲撃術式を発射した。彼女が構えるランチャーの砲口より発射された魔弾は分散し、狙ったそれぞれの標的に向けて飛んでいく。

 飛んできた追尾型の魔弾に司令官機の随伴機らは避け切れず、次々と被弾して撃破されていく。司令官機とヒロイン的なデザインの随伴機には躱されたが、鬱陶しい数機を撃破することに成功した。残る二機に集中するのみだ。

 随伴機をやられたことに腹を立ててか、ヒロイン的デザインのロボット兵器がターニャに向かってくる。これにターニャはビームの弾幕を軽やかに躱してから腰の剣を抜き、接近してきたそのロボット兵器に構える。ロボット兵器は剣を振り下ろしてターニャを切り裂こうとしたが、彼女は斬撃を躱し、剣を縦に振るってロボットを両断した。

 真っ二つに割れたロボットの胸部辺りから人間の血が飛び散る。そこへ視線を向ければ、一際美しい女性がロボットと一緒に両断されていた。司令官機に乗る正妻と言った所だろう。

 

『お前ぇぇぇ! 俺のハーレムとメイドをぶっ殺した挙句、俺の嫁まで殺しやがったなァァァ!!』

 

「俺のハーレム? どうせトロフィー感覚で集めた女だろう」

 

 その美女が乗っていたロボットが爆散すれば、今度は激怒した司令官機が襲ってくる。自分のハーレムとメイドたち、正妻を殺したターニャに激昂し、恐ろしい弾幕を浴びせて来る。

 この弾幕をターニャは剣を腰の鞘に戻してから躱しながらのランチャーで反撃するが、敵の司令官機は装甲が厚く、弾かれてしまう。倍返しの反撃がくる中、左手で閃光手榴弾を握り、急接近してくる司令官機に投げ付ける。

 敵機の頭部に当たった瞬間に手榴弾は爆発し、眩い光が発生する。ターニャは対閃光防御のバイザーを展開して光から目を守るが、司令官機に乗る男はその光を諸に浴びてしまう。

 

『うわぁぁぁ!? 目が!? 目がァァァ!!』

 

 強烈な光を浴びて視界を失った男は混乱し、彼が乗るロボット兵器は周囲にビームを乱射して敵を近付けまいとする。乱射されたビームは自分の参戦で士気を取り戻した味方に及び、彼らは自分の大将の攻撃で次々とやられていく。

 

『り、リオン様!? どうかお止めください! 地上には我々がおります!!』

 

『くそっ! 何処だ!? 来るな! 来るなァァァ!!』

 

「ふん、英雄失格だな。坊や」

 

 彼を慕う味方が止めてくれと叫んでいるにも関わらず、それでも味方を殺し続ける司令官機に対し、安全な距離に居るターニャは英雄失格と言ってとどめの一撃を浴びせた。

 構えたランチャーから強力な収束型砲撃術式の魔弾がビームの如く放たれ、ビームは司令官機を貫通した。ビームで射抜かれた司令官機は地上へと落ちていき、落下した瞬間に大爆発を起こし、キノコ雲を上げる。

 司令官機がやられたことで、敵軍の士気はガタ落ちして戦意を喪失した。

 

『り、リオン様がやられた…!?』

 

『駄目だ! 勝てる訳が無い!』

 

『敵軍、司令官機を撃墜されたことにより戦意喪失。各ユニット、無用な攻撃は控えよ。敵は投降している』

 

 司令官機が倒れた瞬間に敵軍は戦意を喪失して反撃を中止し、一斉にイヴ人の武装勢力に投降し始める。これにターニャはランチャーを担ぎ、戦闘が終わったことを実感して一息ついた。

 

「やれやれ、手間を掛けさせてくれたな」

 

 ヘルメットを左手で脱ぎ、黒煙を上げる眼下の地上を見て呟く。

 この戦いは侵略者側のイヴ人の武装勢力が勝利し、侵攻された男尊女卑の世界はターニャ等イヴ人の支配下に置かれた。

 

「あの司令官機に乗る男、転生者だな。存在Xと関りがあるか調べるために、生かしておくべきだったか?」

 

 近くの高い建造物に腰かけたターニャは司令官機の残骸を見て、あれに乗っていた男は転生者であると見抜き、自分をこのような状況に陥れた存在Xと関りがある者では無いかと疑ったが、殺してしまったので聞くことも出来ない。

 

「まぁ、殺してしまったから仕方がない。こちらサラマンダー・リーダー。各サラマンダー・ユニット、基地に帰投せよ」

 

 そのことを後悔しつつ、ターニャはヘルメットを被り、部下たちに帰投することを無線連絡で告げた。それから続々と後続部隊が現れ、勝利して支配したこの大地に降りて来る。空はたちまちイヴ人が使う航空兵器や降下艇、落下傘部隊に覆われた。

 前の支配者の旗を切り落とされるか破り捨てられ、かつて存在していたイヴ人の国家の旗が掲げられる。百合が描かれた国旗が掲げられ、あるいは高い場所に上がった旗手がそれを振っていた。




今回はとにかく色々とあった…。

募集すれば、鬼滅の刃の鬼が来るわ、複アカで投稿していた奴が居るわ、終わるのに四か月も掛かっちまうわで。

次回も直ぐに始めようかと思ってます。

さて、今川大戦にするか、このまま継続するか、どっちにしよう…。


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リターン・ブリティッシュ
地球破壊作戦


今回は時間を地球奪還後に巻き戻して、コロニー落しをやろうかと思います。

三輪防人
闘将ダイモスに登場する極端な軍事至上主義者で、邪悪な味方であり、スパロボのフリー素材。この作品では長官でなくとも、元帥と言う高い立場にある。
相変わらずの極端ぶりであり、連邦側につかない中立の立場を取る勢力を敵と見なしており、その攻撃を躊躇うことが無い。


 サイクロプスの発動で惑星同盟の地球方面軍に大損害を与えた連邦軍は、立て直す前に予め準備していた一大反抗作戦「地球解放」を敢行し、物の見事に同盟軍を地球より放逐することに成功した。

 地球に僅かながら取り残された同盟軍の残存部隊は投降するか、ヤケクソに抵抗して掃討された。

 念願の地球奪還が叶い、士気が向上する連邦軍は、太陽系全土から同盟軍を排除すべく、次なる攻勢作戦を実行して次々と太陽系に居る同盟軍を駆逐していく。

 次々と多大な犠牲を払って奪ってきた領土が奪還されていくのが我慢ならない同盟軍は、狂気の反抗作戦を実行しようとしていた。

 

 その名もコロニー落し。

 かつて宇宙世紀の初の大戦「一年戦争」にて、ジオン公国軍が早期終結の為、緒戦にコロニーを質量兵器として転用し、地球の連邦軍本部ジャブローに落とそうとした恐るべき作戦だ。

 敵対するコロニーサイドを襲撃してコロニー一基を奪い、それをジャブローに落とそうとしたジオン軍であるが、結果は連邦軍艦隊の決死の抵抗に遭って失敗。だが、地球に落下するコロニーは止まらず、そのまま落着して地上に甚大な被害をもたらした。

 以降、コロニーの質量兵器としての転用は条約によって禁止されるが、戦争終結後も二度に渡ってコロニーは地球へと落とされた。

 

 戦争終結の手段を奪い返された怒りが収まらない同盟軍は、この恐るべきコロニー落しを、それも十倍以上の数で実行すべく、自分らや連邦にもつかない中立のコロニーサイドを襲った。

 当然、反対の声もあったが、上層部は反対する者を左遷し、強引に作戦を実行するのであった。

 

 

 

『よ、止せ! 我々は中立だぞ!!』

 

「そう言って我々の背中を突くつもりだ! 右側のコロニー群にバグズを放て! 中央群にはコヴナント軍、左側はヘルガスト軍を向かわせ、コロニーを確保せよ!」

 

 作戦はその場にいた戦力だけで実行された。中立サイドの代表が中立だから攻撃は違反だと叫ぶが、同盟宇宙軍の司令官は優勢な連邦側に着くつもりだと看破し、人間を殺すことを躊躇わない昆虫型生物アラクニドバグズや多種族の異星人で構成されるコヴナント軍、惑星ヴェクタに恨みを持つヘルガスト軍を向かわせる。

 右側のコロニー群の方へ解き放たれたバグズの大群は、コロニー内に居る住人を次々と虐殺していく。これにコロニーの防衛軍は応戦するも、圧倒的数のバグズに敵わず、虐殺される一方であった。

 中央のコロニー群に侵攻したコヴナント軍に対しても、市民軍を含めた抵抗は行われたが、実戦経験で勝るコヴナント軍の敵では無く、瞬く間にバグズに襲われた右側と同様の末路を辿る。違いがあるとすれば、ジャッカル(キグ・ヤー)族やブルート(ジラルハネイ)の略奪がある程度だろう。

 

「殺せ! コロニーの奴らは全て殺せ!!」

 

 左側を担当するヘルガスト軍もまた実戦経験の無い防衛軍を蹴散らし、コロニーの住人たちを虐殺し始めた。惑星ヘルガーンに住むヘルガスト軍の将兵等に、無抵抗な十人を射殺する躊躇いは一切ない。彼らは過酷な環境で生きているのだ。整った環境に住むコロニー住人もヘルガストの敵であり、将兵たちは憎しみを込めて逃げる住人たちの背中に、躊躇いも無く引き金を引き、略奪を始める。

 この中立のコロニーサイドにおける虐殺は連邦宇宙軍にも届いており、即座に三輪防人元帥率いる艦隊が駆け付ける。だが、連邦艦隊の目的はコロニー住人の救出では無かった。

 旗艦より同盟軍の虐殺行為を見ていた三輪は、とんでもない命令を出す。

 

「クソっ、コロニーを質量兵器に転用するつもりか! そうはさせんぞ! 核攻撃隊、出撃せよ!」

 

 まさにどっちもどっちである。

 レイシストである三輪が自分らの側に立たない中立を掲げるコロニーサイドの住人を助けるはずが無く、鋭いのか、または偏見でそうなったのか、同盟軍の狙いがコロニー落しであると見抜き、利用されるコロニーを破壊するために核攻撃を命じたのだ。

 彼の配下にはアースノイドやブルーコスモス、中立の立場を取る人々に嫌悪感や敵対心を抱く将兵も多く、誰も止めることは無かったので、その命令は即座に実行されてしまった。

 続々と艦艇より核ミサイルが発射され、多数の核ミサイルを搭載したMAメビウスと核ミサイルランチャーを搭載したMSウィンダムが護衛機と共に続々と発艦していく。

 

「哨戒機より緊急連絡! 現れた連邦軍艦隊より核攻撃を確認!」

 

「なんて奴らだ! 同じ人間だぞ! だが、コロニーを失うわけにもいかん! 何としても守り抜け!!」

 

 自分らの作戦目標に気付かれた同盟宇宙軍の連合艦隊であるが、臨機応変に対応し、即座に応戦する。

 右側の方へ三輪の艦隊が現れた為、右側のコロニー群は情け容赦ない核攻撃で、僅かな生き残りと多数のバグズ諸ともデブリ群へと変えた。

 残りの中央側には同盟軍が到達しており、核ミサイル攻撃の迎撃を行うも、三輪は最初から中立のコロニーサイドを殲滅する気であったのか、大量の核ミサイルを持ち込んでいた為、迎撃が間に合わず、中央のコロニー群も被害を被った。辛うじて形は保っているが、全てが使い物にならなくなる。それと中央側に展開した同盟軍部隊の損害も、馬鹿にならない物であった。

 

「鬼畜共が! 何としても左舷はやらせるな!」

 

 これ以上コロニーを破壊されてしまっては、作戦に支障が出るのか、同盟軍は決死の覚悟で核攻撃隊の阻止に入る。右側のコロニー群は艦隊の核ミサイル攻撃の射程外であり、確実に仕留めるためにメビウスやウィンダムを送り込んでいた。だが、同盟軍の抵抗は激しく、搭載している核ミサイルが誘爆して全滅してしまう。

 

『だ、駄目だ! うわぁぁぁ!!』

 

「ピースメーカー隊並びクルセイダー隊全滅!」

 

「クソっ、第三次核攻撃は!?」

 

「核ミサイル、全て撃ち尽くしてありません!」

 

 核攻撃隊が全滅した報告を受けた三輪は、艦隊による更なる核攻撃を命じたが、副官より残弾が無い事を知らされる。この報告に、三輪は八つ当たりに付近の物へ拳を叩き付ける。核ミサイルが無いこの艦隊では、コロニーサイドの殲滅は叶わぬのだ。

 

「お、おのれぇ! これも全て中立などと言う立場を取った日和見主義者共の所為だ!!」

 

 コロニー落しの調達の為、中立のコロニーサイドを襲って住人を無闇に虐殺した同盟軍も悪いが、それを阻止するためとはいえ、救出もせずに核攻撃を行った三輪は自分の事を棚に上げ、中立の立場を取ったコロニーサイドが悪いとヒステリックに叫ぶ。

 

「閣下、ここは一度退かれて他部隊を集結させ、この地点でコロニー群を迎撃した方がよろしいかと…」

 

「化け物共や植民地惑星の甘ったれ共の手を借りねばならんのか! まぁ良い、決着はそこでつけてくれるわ!!」

 

 首席参謀からの別の迎撃作戦の提案に、過激な言動でありながらも了承した三輪は、艦隊を引き上げた。

 

「敵艦隊、撤退しました。しかし、奴らの攻撃でコロニーの七割を喪失。これでは地球は…」

 

「何を言う。まだ三十基は残っておる。残り三十基のコロニー内に出来る限り核を搭載し、地球へ叩き落すのだ! それで地球は人が住めなくだろうよ!」

 

 同盟軍の虐殺と連邦軍の最悪な核攻撃のおかげで、中立のコロニーサイドは全滅した。だが、住人が皆殺しにされたコロニー三十基が残っており、地球を破壊するのにはいささか数は少ないが、核を満載させればそれなりの被害をもたらすことが出来るので、同盟軍は作戦を続行した。

 

 

 

 同盟軍のコロニー落し作戦を聞き付け、核攻撃と言う凶行に踏み切った三輪は直ちに地球へと引っ越し途中の統合連邦軍総司令部へ報告し、事態の重要性を説いた。無論、核攻撃の件に関しては、既に同盟軍に虐殺された後であったと嘘を付いていた。

 報告を終えた後、艦隊の全戦力を持って玉砕覚悟でコロニー落しを阻止しなかった件に関して問い詰められたが、十分な戦力が足りなかったと言い訳して処分を免れた。

 事態を重く見た総司令部は直ちに地球圏に居る全ての宇宙軍や宇宙海軍を含める宇宙戦力に集結司令を出し、コロニー落しを仕掛ける同盟軍艦隊の迎撃作戦を開始した。

 地球圏に居る連邦宇宙軍や海軍の艦隊が指令に応じ、迎撃ポイントへと続々と集結する。

 

 一年戦争の緒戦に行われたブリティッシュ作戦の悪夢が、この世界において、十倍以上で再現されようとしていた…。




惑星同盟「ワシが真に願ってやまぬものはただ一つ!! 紅蓮の炎に焼かれて消える地球そのものだーっ!!」

まぁ、同盟軍は木星帝国の兵器も運用しているからね。

活動報告にて、参加者を募集しますね。


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コロニー落しを阻止作戦

インフィニティ級戦艦「インフィニティ」
HALO世界において、人類が誇る最強の宇宙戦艦。
全長5694.2mで全高は833.3m、横幅1041.2mと言う馬鹿でかい戦艦で、グレンラガンを除けば、主人公勢力母艦では最大の大きさを誇る。
十隻以上の575mはあるストライデント級フリゲートを収容でき、人類最強の兵士であるスパルタンⅣが連隊規模で常駐している。
体当たりで散々人類を苦しめて来たコヴナント軍の巡洋艦を粉砕するほどの重装甲とシールドを持ち、艦砲や対空砲もハリネズミの如く配置され、エンジンも異星人由来の物も使っているので、スーパーロボット作品とタメを張れるチート戦艦。

元々はコヴナント戦争において大日本帝国海軍の大和よろしく決戦兵器か、人類存続の移民船として極秘裏に海軍情報局(ONI)によって建造されていたが、完成する前に戦争が終わった。
だが、宇宙海軍のフラッグシップの為に建造は続行され、フォアランナー由来の技術をふんだんに使われている。
建造中に反乱軍に占拠されるなど不幸に見舞われたが、撃退して無事に就役する事が出来た。同時に次世代のスパルタンであるスパルタンⅣの部隊も配備され、訓練と並行して初の実戦任務に就いた。
その後、海軍の戦力が回復しきれていないこともあって、何度か重要な事件の間に居た。

この作品では二台目艦長のラスキー大佐で、スパルタンⅣやⅡとⅢの生き残りを含めたスパルタン部隊を保有している所為か、引っ張りダコのように各地を転戦している。

ジェムソン・ロック
元ONI工作員のスパルタンⅣ。HALO5の主人公の一人である。
スパルタンⅣのチームの一つ、ファイアーチームオシリスのリーダー。
搭乗機はエクスバインガンナー

エドワード・バック
オシリスに属する元ODSTのスパルタンⅣ。見た目が若いが、立派な四十のおっさん。コールドスリープの所為である。
様々な激戦を生き延びてきた男であり、頼れるナイスガイ。
搭乗機はエクスバインガンナー

ホリィ・タナカ
オシリスに属するスパルタンⅣ。電子機器に詳しい。
故郷はコヴナント軍のガラス化攻撃で不毛の地となり、三年間も救援が来るまでその地で生き延びてきた。
搭乗機はエクスバインガンナー

オリンピア・ヴェイル
オシリスに属するスパルタンⅣ。言語学が高く、異星人の言語にも詳しい。特にサンヘイリの文学に詳しい。赤いアーマーが特徴。
他の隊員と比べると、実戦経験は乏しいが、訓練成績は極めて優秀である。
搭乗機はエクスバインガンナー

オリキャラ編

ミカ・グレナー
十九歳のスパルタンⅣ。
戦後にUNSC海軍に入隊し、スパルタンⅣとなった少年。コヴナント戦争中、マスターチーフに助けられたこともあり、スパルタンになることを決意し、スパルタンⅣ計画に志願した。
民間からの志願であり、多くが採用試験で落とされるが、ミカは無事に合格することに成功し、晴れてスパルタンⅣになれた。実戦経験は無い。
HAOL4のスパルタンオプスに登場するガブリエル・ソーンの弟分。
搭乗機はガンダム試作三号機(復元機)デンドロビウム。操縦者。

レイナ・パープル
ミカと同じく十九歳のスパルタンⅣ。
彼女も同じ民間からの志願者であり、奇跡的に合格してスパルタンⅣになれた。
無論、ミカと同じくなったばかりなので、実戦経験は無い。
搭乗機はガンダム試作三号機(復元機)デンドロビウム。火器管制官。


 中立コロニーサイドが同盟軍に襲撃された後、連邦軍はコロニーの住人を救出せず、核攻撃を行ってサイドを壊滅させた。

 だが、全てを破壊できず、コロニー三十基は予定通りに同盟軍に確保され、大量の核を満載され、多数の同盟軍艦隊を護衛にして地球へと向かっている。この全てのコロニーを地球へ落し、地球を壊滅させるために。

 

 同盟軍の狂気のコロニー落しを阻止すべく、連邦軍も地球圏に居る全ての部隊と艦隊に集結命令を出し、迎撃ポイントに展開させていた。

 地球最強と謡われる全長五千メートル程を誇る巨艦インフィニティ級スーパーキャリアー「インフィニティ」にも召集令が届き、補給を終え次第、ただちに地球圏へと急行した。

 

「奴ら、正気か!? コロニー三十基を地球へ落すなんて! しかも核を満載してか!」

 

 インフィニティの艦橋内にて、同盟軍が核を満載したコロニー三十基を地球へ落すと聞いて、トーマス・ラスキー大佐は驚きの声を上げる。宇宙世紀の一年戦争の緒戦であるコロニー落しのことは記憶で見た程度であるが、それを三十倍の規模でやる同盟軍の狂気に驚きを隠せないのだ。

 三十基どころか、十基のコロニーが地球へと落ちれば、地球は小惑星帯になりかねない。一基でも死の星へと変えかねない程の核を搭載しているのだ。絶対に阻止せねばならない。

 

「そうならない為に、ONIはデンドロビウムと言うMS用装備を補給品として送って来たわ」

 

 後方でふんぞり返り、自分等を毛嫌いして激戦区へと送り込む連邦軍の上層部を守らねばならないことが気に入らないラスキーとスパルタンたちであるが、地球には守るべき民間人が居るので、絶対に阻止しなければならない。

 スパルタン部隊の指揮官であるサラ・パーマー中佐は、海軍情報局のONIがデンドロビウムと呼ばれる兵器を、補給品と共に送り込んできたとラスキーに端末を見せる。

 

「物凄いデカいMS、いや、モビルアーマーだな。こんな物を大戦後に作っていたのか」

 

『データによれば、デラーズ紛争と呼ばれる戦役で運用された拠点防衛用MSだそうです。中にオーキスと呼ばれるMSを収容し、そのオーキスで本体と各兵装を操作します。ですが、記憶からは抹消されたようです』

 

「抹消されたのか。いわく付きの兵器らしいな」

 

 端末を見た艦内AIのローランドが、デンドロビウムが記録より抹消された兵器であると言えば、元ONIのジェイムソン・ロックが会話に入って来る。歴史より抹消されたデンドロビウムは、元情報工作員であるスパルタン・ロックの興味を引いたようだ。

 その曰く付きの兵器であるデンドロビウムことガンダム試作三号機は、ローランドが解析した通りデラーズ紛争の終結後に一号機や二号機共々歴史より抹消された。この記録を聞いたロックは、元工作員の感で連邦軍の不祥事を隠す物だと推測する。

 

「記録から見るに、そのデラーズ紛争で連邦軍は世間には言い表せない程の不祥事を起こしたようだ。最後の北米の穀倉地帯のコロニー落下事件を見れば、明らかにテロリストか、ジオン残党勢力によるコロニー落しを阻止するために、デンドロビウムことガンダム試作三号機が使用されたようだな。確証はないが」

 

 コロニー落下事件に隠された真実を自分なりに解析したロックは、ガンダム試作三号機が持ち出された経緯からして、ジオン残党勢力によるコロニー落しによる物だと推測する。当たってはいるが、当の言い当てた本人は単なる仮説であると捉えていた。

 

「まっ、そんな時間はないでしょう。そのデンドロビウムと言う兵器に誰を乗せるんです? これほどの火器の数、操縦者と火器管制を含め、二人のスパルタンが必要だ」

 

 当時の連邦が覆い隠したがる真実のことはさておき、ロックはそのデンドロビウムに誰を乗せるのかと問う。それにパーマーは既に人選は決めていると答えた。

 

「それに関しては、決まってるわ。もしかして、乗りたかったの?」

 

「いや、露払いに専念します」

 

 人選を既に決めていることを伝え、乗りたいのかと問えば、ロックは露払いに専念すると即答する。

 

「とにかく、いかなる手段を用いてコロニー落しは絶対に阻止しなければ。各自、持ち場に戻って補給が終わるまで準備しておくように」

 

 艦長のラスキーが解散を命じれば、ブリッジクルー以外の各々は艦橋を出てそれぞれの持ち場へと向かう。

 一方で巨大なMS、否、モビルアーマーと言うべきだろう。デンドロビウムが運び込まれたインフィニティの格納庫では、ミサイルやロケット弾などが左右のコンテナに装填されていた。

 

「なんだありゃ。補給ユニットかミサイルポッドか?」

 

 スパルタン・バックことエドワード・バックは、デンドロビウムの左右の巨大なコンテナを見て、新しい補給ユニットかミサイルポッドなのかと、無重力状態で装填作業する整備兵らに問う。

 

「いえ、MS用の装備です。アームド・オーキスと言います」

 

「これがMS用の装備? MAの間違いじゃねぇのか?」

 

 デンドロビウムのコンテナがMS用装備であると答えれば、バックはMAではないのかと疑問に思う。その巨大な弾薬庫のような装備を纏うMSことガンダム試作三号機は、付近に置かれて調整を受けていた。

 

「おっ、ゲーセンにありそうな奴だな。どんなゲームだ?」

 

 近くにはシミュレーション用の設備が置かれており、そこで二人のスパルタンⅣが操作訓練を受けていた。それに興味を示したバックはそこへ飛んでいく。

 

「シューティングゲームか? 俺に代われ、高得点を叩き出してやる」

 

「これシミュレーションシステムよ。デンドロビウムの」

 

「なんだ、訓練用かよ」

 

 ゲーム機だと思っているバックであるが、スパルタン・ホリィことホリィ・タナカに注意され、つまらなそうな表情を浮かべる。

 

「展開が遅いわ。それじゃ死ぬわよ」

 

「こいつ、反応が遅いんですよ!」

 

「機体の所為にしない! もっと早く対応して!」

 

「は、はい!」

 

 そのゲーム機と思われた訓練用シミュレーターでは、二名のスパルタンⅣが同じスパルタンであるオリンピア・ヴェイルの猛特訓を受けていた。

 艦橋でパーマーが言った通り、デンドロビウムは二名のスパルタンで運用されることになっていた。それも先週着任したばかりの新米だ。操縦者を担当するのはミカ・グレナーで、火器管制はレイナ・パープルだ。回避と火器の展開が遅いとオリンピアに注意され、再び戦闘シミュレーションを始める。

 

「こいつ等、先週ここに着任したばかりの新米(ルーキー)共じゃないか。なんでこいつ等にあんなデカ物を? 俺たちの方が適任じゃないのか」

 

 二名の新米スパルタンⅣがデンドロビウムを担当することに、バックは不満なようだ。本当は乗りたいだけだが、経験の無いスパルタンが出来るかどうか心配である。

 

「これは中佐の決定よ。このルーキーが確実にコロニーを破壊できるように、私たちがフォローしないと」

 

「子守か。ODST時代では散々やったが、スパルタンは初めてだ」

 

 スパルタン部隊の指揮官であるパーマーの決定とオリンピアが言えば、バックは納得する。彼は熟練の兵士であり、スパルタンⅣになる前は降下軌道兵(ODST)所属だった。新兵は何人か見てきたが、スパルタンは初めてなようだ。

 コロニー落し阻止の訓練が艦内で行われる中、補給を終えたインフィニティはスリップスペースエンジンを吹かし、助走の為に加速してから地球圏へとワープした。

 

 

 

 連邦軍最強の宇宙戦艦インフィニティが他の救援要請に応じた艦隊と共に地球圏へと急行する中、向かってくるコロニー群を迎撃すべく、連邦軍の宇宙軍と海軍の連合艦隊が展開していた。

 地球防衛軍の司令部は地球ISAの防衛用宇宙ステーションに設置され、そこから地球にやって来た各勢力の司令官たちが指揮を執っている。多種多彩な艦艇が展開し、迎撃用の陣形を取る中、核ミサイルを撃って中立サイドを壊滅させた三輪防人は、臨時編成の艦隊の指揮を上層部に命じられた。

 

「こ、このワシに無駄飯ぐらいの徴収兵や敗残兵、懲罰兵共の艦隊の指揮を…!」

 

 三輪はこの艦隊の指揮を命じられたことに不満を抱いていた。臨時編成艦隊は急遽編成された物であり、主な人員はサイクロプスで生贄にされたと同様の徴収兵、壊滅した宇宙軍艦隊や部隊の敗残兵、脱走兵や軍規違反者であった。練度も無いの言わずもかな、全ての人員は地球出身者では無いので、士気は低い。三輪が苛立つのも無理はない。そればかりか、三輪の艦隊の配置は真正面である。

 なぜ三輪にこんな配置をするのかは、核ミサイルを勝手に持ち出した挙句、全弾撃ち尽くしてもコロニー落しを阻止できなかったからだ。言わば罰であるが、三輪にとってその処分は不服であった。

 絶対防衛線が張られるが、防衛線は敵の中を引くための囮である。敵のコロニー護衛艦隊の注意が防衛線に向く中、四方八方からコロニー破壊、もしくは奪還用の艦隊が強襲を掛け、コロニー落しを阻止する寸法だ。その為、なるべく派手に注意を引かなくてはならないのだ。

 

『地球防衛艦隊に告げる! 敵はコロニー落しの悪夢を再現しようとしている! 各員、総力を持ってコロニー落しを阻止せよ!! 死力を尽くすのだ!!』

 

 総司令部より絶対阻止命令が出される中、防衛用に配置されたステーションや空母より続々と艦載機が発艦した。




応募、活動報告でお待ちしております。


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絶対防衛線

名前:マリア・フレッチャー
性別:女
年齢:25歳
階級:少佐
所属:連邦宇宙海軍 第1艦隊
乗艦:連邦主力艦「ロバート」号
概要:元引きこもりであるが、更生教育で連邦宇宙海軍の士官となり、主力艦の艦長にまで上り詰めた才女。

名前:クラウド・マーベリック
性別:男
年齢:24歳
階級:不明
所属:スパルタン
乗機:ストライクノワールガンダム
概要:元海兵隊員のスパルタンⅣ。スパルタンⅣ計画に志願し、見事にスパルタン・クラウドになった。別に大剣使いで元ソルジャーでは無い。


 核を満載したコロニー三十基が地球へと迫る中、連邦軍は同盟軍の威力偵察部隊が来るなり、一斉に砲撃を命じる。

 

「敵威力偵察隊、接近!」

 

「MS隊を直ちに向かわせろ! 一人も生かすな! 皆殺しにしろ!!」

 

 警戒に当たっていたサラミス改級巡洋艦三隻の内一隻のヴォルザーの艦橋にて、レーダー手が同盟軍の威力偵察部隊の接近を報告すれば、艦長であるギブソンは誰一人逃すなと命じた。それに合わせ、予め母艦より発艦していたジェガンJ型十二機は、同盟軍の威力偵察部隊に襲い掛かる。

 敵の数と配置を調べるために無茶な偵察を実行していた同盟軍の部隊は応戦しつつ、連邦軍の防衛線の情報を収集していた。だが、時間が経つにつれて駆け付けて来る連邦軍機は増え、包囲殲滅を恐れてか、偵察隊は数分もしない内に威力偵察を切り上げ、本隊の方へと撤退する。

 

『ち、逃げたか!』

 

『幾ら情報が漏れたんだ?』

 

『知るか。今度は大群で突っ込んてくるぞ。後はニートや脱走兵共に任せて、俺たちは下がろうぜ!』

 

 背中を見せる敵機が射程外に逃げたことで、追撃しようとしたジェガンのパイロットは悪態を付く。次は本隊が突っ込んでくると判断し、三輪の艦隊に任せ、母艦と共に元の配置へと下がる。

 ヴォルザーと僚艦二隻が艦載機と共に警戒任務から別の配置へと向かう中、コロニー落しの為に進路を開く同盟軍の突破部隊が前進する。その数は進路を確保するので多く、四個艦隊であり、搭載する艦載機は無数に等しい。

 

「敵、およそ四個艦隊、突っ込んできます!」

 

「左舷に右舷、まだ撃つなよ! 十分に引き付けてから一斉射だ!」

 

 防衛用宇宙ステーションの戦闘指揮所(CIC)にて、同盟軍の艦隊が進路確保の為に押し寄せて来たと報告がくれば、宇宙・海軍連合艦隊司令官は引き寄せてから一斉射を浴びせると言って、撃つなと命令する。

 宇宙軍の艦隊が隊列を組む中、殆どが大型艦の海軍の艦隊は、宇宙軍よりも射程距離が長い火器を備えている為、先に一斉射撃を始める。

 

「敵艦隊全て、MACキャノンの射程圏内に入りました!」

 

「全艦、直ちに一斉射! 何としても、コロニー落しを阻止するのだ!!」

 

 MACキャノンを主砲とする艦艇が多いUNSC海軍の太陽系艦隊は、敵艦隊が十分に射程距離に入ったところで、一斉射を始めた。地球の危機と聞いて現役復帰したテレンス・フッド卿の怒号と共に一斉射が命じられば、傘下の地球防衛艦隊と第2艦隊の陣形を組んだ巡洋艦や駆逐艦、フリゲートは一斉にMACキャノンを斉射する。

 コヴナント戦争中、コヴナント海軍の艦艇のシールドを突き破るのに小型艦なら三発以上を撃ち込む必要性があったが、技術の進歩によりフリゲートと言った小型艦でも、ステーションのMACキャノン以上の威力を有していた。そのおかげか、進路確保の為に突っ込まされた同盟軍艦隊は損害を与える。

 

「UNSC海軍、先行する敵四個艦隊にMACキャノンによる掃射を開始! 四十パーセント以上を撃破!」

 

「おぉ!? 我がISA海軍も遅れるな! 直ちに対艦ミサイルによる攻撃開始! コロニー連合軍(UCA)の連中にも知らせろ!!」

 

「はっ!」

 

 UNSC海軍が先行する敵艦隊に損害を与えたことを知れば、ISA海軍の地球防衛艦隊も負けじと、指揮下に置いたUCA海軍の艦隊に攻撃するように指示を飛ばした。地球出身者が多いISA海軍の地球艦隊の士気は旺盛だが、UCA海軍の艦隊の将兵等はコロニーや別の惑星、星系の出身者が多く、地球圏に居ると言うだけで呼び出され、母星でも無い地球を死守しろと言われ、その士気はイマイチだ。

 

「ISA海軍地球艦隊より入電! 俺たちにも攻撃しろってよ!」

 

「死に掛けの星なんぞの為に、俺たちに死ねって言うのか!」

 

「そう怒るな、お前たち。それより給料分の仕事しろ。地球防衛の成功にボーナスが出ると思ってな!」

 

「はいはい。対艦ミサイル照準、敵艦隊へ!」

 

 やる気の無いUCA海軍の将兵等はボーナスの為に、無理にやる気を出してISA海軍の地球艦隊に続いて敵艦隊にミサイル攻撃を開始した。だが、敵も馬鹿では無い。

 

「ISA並びUCAの艦隊よりミサイル攻撃!」

 

「ミノフスキー粒子散布!」

 

 敵艦隊のミサイル攻撃に対し、同盟軍の艦隊はその攻撃を回避するため、通信機器やレーダー、誘導兵器と言った精密機能を著しく低下させるミノフスキー粒子をばら撒いた。これによりミサイル攻撃中心のISAとUCA海軍の艦隊の攻撃は大した損害は与えられなかった。

 

「ミノフスキー粒子、散布されました!」

 

「くそっ、高価な対艦ミサイルを! レールガンによる攻撃へ移行せよ!」

 

 殆どの高価な対艦ミサイル数百発を無駄にされた地球艦隊の提督は苛立ち、以降は艦砲射撃による攻撃にするように指示を飛ばす。

 

「敵艦隊、ミノフスキー粒子散布! 対艦ミサイルが照準不能! レーダーに障害!」

 

「旗艦ウィリアム・ハルゼー号より入電! 各艦、艦砲射撃による一斉射後、艦載機を展開せよと!」

 

「直ちに一斉射! 撃て!!」

 

 連邦宇宙海軍の第1艦隊の主力艦の一隻、ロバート号の艦橋にて、砲術長とレーダー手がミノフスキー粒子の影響で機能が低下したことを知らせれば、通信手は旗艦より艦砲射撃終了後に、艦載機を展開させろとの命令を艦長に伝えた。

 ロバート号の艦長とは、あのサイクロプス発動より逃れることに成功したマリア・フレッチャーであった。あの後、どういう経過は不明だが、新米の艦長に昇進したようだ。艦隊旗艦からの命令に、マリアは命令通りに行動するようにブリッジクルーに伝える。それに応じ、ロバート号のブリッジクルーらは命令を実行し、隊列を組んでいる僚艦と共に敵艦隊へ艦砲射撃を開始する。

 凄まじい勢いで先行させた同盟軍の四個艦隊が被害を負う中、コロニーに張り付いている本隊は助ける素振りも見せず、敵艦隊の配置を見極めていた。

 

「先行させた四個艦隊、戦力の五十パーセントを喪失!」

 

「正面の艦隊、動きなし!」

 

「遠距離攻撃で一方的に殴るか。このまま前進だ! 全艦突っ込め! コロニーの一つでも地球へ落せば、我々の勝利だぞ!!」

 

 味方の損害も気にせず、同盟軍のコロニー落し部隊の指揮官は傘下の数千隻の大艦隊に突撃を命じた。三十基はあるコロニーと共に、損害に構わず地球へ向けて突撃する。一基でも地球へ落せば、自分たちの方が勝ちなのだ。

 地球へ向けて大挙して押し寄せるコロニーと同盟軍艦隊の動きは、後方にある地球ISA海軍の宇宙ステーションの司令部に知らされる。

 

「敵艦隊、コロニーと共に地球へ向けて前進!」

 

「や、奴ら正気か!? 直ぐに核弾頭を!」

 

「いや、阻止限界点までまだ距離がある! 臨時編成艦隊を突っ込ませろ! 傭兵共もだ!!」

 

「了解!」

 

 コロニーが突っ込んでくる事を聞いて恐れおののく将官らに対し、司令官は三輪の艦隊と傭兵部隊にコロニーへ突撃するように命じた。乱戦状態にするのが目的であろうが、狂気の同盟軍が味方の損害など構わぬだろう。

 

「閣下、我が艦隊に突撃命令が! 艦砲射撃終了後、艦載機発艦と共にコロニーへ突撃せよと…!」

 

「わ、ワシに死ねと言うのか…! やらねば、殺すと言うのだろ!? 艦砲射撃終了後、艦載機と共に前進! だが、突撃は艦載機のみだ! 分かっているな!?」

 

 命令を受けた三輪は顔を真っ青にしながら命令を実行するが、突撃は徴収兵と敗残兵、懲罰兵のみにしていた。他者に愛国心を押し付ける過激な三輪であるが、ここに来て臆してしまい、自分から見れば「犬以下」や「畜生共」に「敵前逃亡者」と罵る者たちを身代わりとしたのだ。

 

「全艦載機、直ちに発艦! そのままコロニーに向けて前進! 少しでも逃げる素振りを見せる奴が居れば、裁判なしの敵前逃亡罪として処罰しろ!!」

 

 艦砲射撃終了後、艦載機は続々と出撃する。徴収兵や敗残兵、懲罰兵等が乗る機体はどれも大量生産機ばかりだ。特にパブリクや133式ボール、ドータップ、MAのメビウス、アーマード・トルーパー(AT)のスコープドッグはもはや消耗品としか言いようがない。MSはドートレス、ストライクダガー、シャルドール改と言う有様であるが、マシとも言えるだろう。その中に大型MAであるザムザザーが紛れていた。

 

「突っ込め貴様ら! 懲罰兵はこの任務を終えれば正規軍に戻れるぞ!!」

 

 そんな機動兵器に乗せられた徴収兵や敗残兵、懲罰兵らは無理やり出撃させられ、コロニーに向けて突っ込まされる。同盟軍とは比べ物にならない程の物量であるが、パイロットの練度がバラバラな上、特に徴収兵は碌な訓練もされずに前線に投入されている為、同盟軍将兵が駆る機動兵器に次々と的の如く落とされていた。敗残兵と懲罰兵は何とか奮戦しているが、敵機の殆どの性能を上回った機種が多く、性能差で圧倒されてやられるばかりだ。

 

『のわぁぁぁ!!』

 

『ネットでただ書き込んだだけじゃないか! なんでこんな目に!? アァァァッ!!』

 

『い、嫌だ! 僕は、僕は死にたくない!!』

 

 次々と三輪の艦隊の艦載機が同盟軍の激しい抵抗に遭って撃破される中、一人の徴収兵が乗るストライクダガーが戦列を離れようとしていた。無論、敵前逃亡者を逃すはずが無い。

 

「戦列より離れる友軍機を確認! 徴収兵のストライクダガーのようです!」

 

「敵前逃亡者か! 撃墜しろ!」

 

 随伴するザムザザーに乗る将兵等は艦載機部隊の監視を行っているらしく、敵前逃亡者を見付けるなり、援護すべきその四本の足に付いている単装砲を撃ち込む。機長の指示の下に撃ち込まれた単装砲は、戦場から逃げようとしていたストライクダガーを撃墜した。

 

『敵前逃亡は銃殺罪だぞ! 分かっているな!?』

 

「う、うわぁぁぁ!!」

 

 ザムザザーに乗る機長に敵前逃亡は死罪であると言われれば、逃げ道は無い事を知った徴収兵等は敵陣に突っ込む。それも損害に構わず、恐怖を狂気に変えての突撃だ。

 

「そうだ! 死にたくなければ敵陣に突っ込め! 生き残りたければ、敵を殺すのだ!!」

 

 言う通りにコロニーに向けて突撃するので、機長はもっと突撃するように言った。

 

『なんだこいつ等!? いくら落としても怯まないぞ!』

 

『クソっ、何だってんだ! うわぁぁぁ!?』

 

 死をも恐れずに突っ込んでくる徴収兵らが乗る機動兵器の大群に、同盟軍のパイロットは恐怖する。一機のドートレスが大破寸前になるが、逃げれば殺されると思い、付近のRFザクに張り付いて道連れにする。

 かくして、連邦・同盟の双方の機動兵器による激しい乱戦が繰り広げられる中、三輪艦隊の左右に展開する宇宙軍と海軍の艦隊も艦載機を展開した。消耗品のように前に出される傭兵部隊の後へ続くように、母艦より続々と発艦した機動兵器の大群が続く。セイバーフィッシュやロングソード、ブロードソード級と言った戦闘機も混じっているが、機動兵器の機種は三輪艦隊よりマシである。

 MSはジェガンJ型やヘビーガン、Gキャノンを初め、ジャベリン、ダガーL、アデルマークⅡと言った現行機が揃い、PTの量産型ヒュッケバインMkーⅡと装備には恵まれていた。その後方には、ドトーレス・ネオやウィンダム、クランシェと言った最新鋭機が続いている。同盟軍もまた増援を送り込んでおり、前線はたちまち大乱戦と化した。

 激戦に遅れる形で、両脇をスタルワート級フリゲート二隻で固めたUNSC海軍の最新鋭艦であるオータム級巡洋艦のカタパルトから、ガンダムタイプのMSであるストライクノワールが出撃する。

 

「スパルタン・クラウド、出撃する!」

 

 スパルタン・クラウド、本名クラウド・マーベリックは自機と共に母艦より出撃した。

 彼はコヴナント戦争後にUNSC海兵隊に入隊した若い海兵隊員であり、スパルタンに憧れてスパルタンⅣ計画に参加。見事にその夢を果たしたのだ。地球奪還作戦がスパルタンとして初の初陣であり、数十名の同期が散って行く中、彼は見事に生き延びて見せた。

 今回もまた生き延びて見せるべく、他のガンダムタイプと共に出撃した同じスパルタンⅣ達と共に、激戦区へと飛び込んでいく。

 

 

 

 コロニー落し阻止の攻防戦が繰り広げられる中、月面基地では連邦軍の増援艦隊が次々と発艦していた。だが、連邦宇宙海軍の艦隊とカロン級フリゲート八隻で編成されたUNSC海軍の戦闘団はコロニーとは違う方向へと向かっていた。他にも数十隻の艦隊が違う方向へ向かっているのが見える。

 どうやら本隊がコロニーの敵護衛艦隊の注意を引きている間に、核を満載したコロニー三十基を破壊するようだ。その証拠に宇宙海軍の艦隊にはパワードスーツを身に纏った機動歩兵一個師団が満載されている。八隻のフリゲートにも軌道降下強襲兵(ODST)一個旅団が満載されており、共同任務であることが分かる。

 本隊が派手に同盟軍のコロニー落し部隊を引き付ける中、コロニー群の側面から展開すべく、奇襲部隊は亜光速ワープを行う。

 

 この共同作戦が成功するかどうかは、神のみぞ知る。



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ドラ息子傭兵と廃棄兵器

名前:δⅢ(デルタスリー)
性別:無し
年齢:製造から50年ほど
階級:二等宙兵
所属:宇宙海軍
乗機:メカキングギドラ
概要 球状の本体、モノアイに浮遊式の手を持つ人工知能搭載のパイロット。製作者以外に新たに制作出来ず、死亡したゆえに後続機は存在しない。乗る機体は実験で生み出された物を更に改造した物。操作の複雑さから常人では脳の処理が追いつかない。旧式機械なので感情表現はしない。
メカキングギドラは生体部分が残っていたが、この作品に登場するのは全てがメカ部分になっている。

名前:デア・テゾーロ  本名は ニアルカ・イーノ
性別:男
年齢:23
階級:中佐 金で買った
所属:宇宙海軍
乗機:キングジョー
概要:表向きは連邦の大商会。裏では勢力問わず取引する闇商人のどら息子。機体を操るのはクローンであり、本物はクローンが死んだら起きた事を追体験する そのスリルが楽しい。
金髪で全身宝石を飾っている。顔は一応変えた上で更に仮面で隠す。死んだら別のクローンを他に送るなどして経験だけは豊富。才能もあるが所詮はゲーム感覚で必死さが無い。クローンも死んでも次が作られるからと死線を遊び半分で楽しんでいる。
キャラ提供はケツアゴさん

名前:BC07013T(B型生体CPU第7ロット13番試験体)
性別:男性ベース
年齢:2歳
階級:少尉(書類上)
所属:地球連合軍
乗機:ザムザザー
生体CPUをより効率化する試行錯誤の一つとしてスパロボ世界のあちこち混ざった超技術を活用して「脳だけのクローンを教育する」という形式で生産された生体CPUの一基。
この第7ロットでは遂に実用レベルの性能まで至ったものの、費用対効果では従来型生体CPUやAI無人機とは比較にならない程悪く、維持コストも従来型より悪い事から以後の研究は中止されている。
遊ばせておいても無駄に保存コストがかかるので、在庫処分も兼ね残存している同タイプの生体CPUはザムザザー等に搭載されて最前線に配置されている。
尚、同型のCPU三体がぺルグランデと呼ばれる試作MAにも搭載されている。
キャラ提供はリオンテイルさん


 同盟軍の狂気のコロニー落しを阻止するため、激しい攻防戦が繰り広げられる中、傭兵部隊もまた最前線に投入された。

 

「ちっ、報酬を払うのが面倒くさくなって殺しに掛かったか! それでも俺は死なねぇぜ! なんたってそこに居るのはクローンだからな!!」

 

 異質で本来は存在しないはずの機体であるキングジョーを駆るデア・デゾーロこと本名エアルカ・イーノは、連邦軍が報酬を絞って自分らを殺しに来ていると見抜く。だが、キングジョーに乗るこのデアはクローンであり、残り四名も顔は違うが、同じクローンである。

 デア本体は遥か後方の裏取引で入手したステルスフリゲートの艦橋に居る。本体とクローンとの見分けは容易だ。なんせクローンは顔が違っているのに何故か仮面で隠し、本体は金髪で全身宝石で飾った派手な服装だ。

 経験と才能はデアだが、ゲーム感覚であり、死線を遊び半分で楽しんでいる。この地球の危機でさえ、彼にとってはゲームにしか過ぎない。

 

「地球の危機を救う。なんてヒーローなゲームだ! さぁ、行くぜ! 地球を救いにな!」

 

 安全圏なステルスフリゲートよりデアはクローン五体が乗るキングジョーを激戦区へ前進させた。数ある多彩な平気な中で、キングジョーだけが異質を放っている。他の傭兵らはキングジョーの姿を見て、驚いていた。

 

「化け物まで居るぞ! どうなってんだぁ?」

 

 否、キングジョーだけで無い。あのデアでさえ目を丸くする物があった。その名はメカキングギドラ。キングジョーと同じく、この世界には存在しないはずの巨大マシンだ。

 乗っているのは、いや、搭載されているという表現が正しいだろう。δⅢ(デルタスリー)は、通常の人間では動かせないメカキングギドラを操り、敵陣へと突っ込んでいく。

 なぜ正規軍である宇宙海軍がこの兵器を投入したのかは、出撃の五時間前に遡ろう。

 

「こいつも出すのか!?」

 

「あぁ! 出せってよ! なんでも試験艦隊も駆り出されているだとよ!」

 

 宇宙海軍の月面基地兵器試験場にて、メカキングギドラの発進作業が行われていた。

 地球の危機と分かってか、連邦軍は総力を挙げて地球を守ろうとしていた。その際に出せる物は出せと言う命令が地球圏全域に出されたのか、このメカキングギドラも廃棄を兼ねた出撃が命じられた。他にも試作兵器が無人機やAIを搭載されて放出するかのように出されているが、どれもメカキングギドラには及ばない。

 他の宇宙軍や同じ宇宙海軍の基地から続々と艦艇が発艦し、一部がコロニーの側面攻撃へ向かい、大部分が本隊の方へ向かって行く中、メカキングギドラと試作兵器の群れは増援艦隊の方へ続いた。

 

「とにかくまぁ、盾にはなるだろうよ」

 

 現時刻に時間を戻せば、デアはメカキングギドラはその巨体ゆえに有効な盾になると判断し、自身のクローンらが駆るキングジョーを後方へつける。

 傭兵部隊より前に出た試作機の集団は、真っ直ぐとコロニー目掛けて前進する。続々と正規軍もコロニーに向けて突撃しており、戦闘は激化の一歩を辿っていた。当然、異質なメカキングギドラの存在は同盟軍の注目を集めた。

 

『な、なんだあの馬鹿でかい怪物は!?』

 

『奴らの新兵器か!?』

 

 全高140メートルものメカキングギドラを戦場で見て、驚かぬ兵士は居ない。何せ味方にすら驚かれる代物だ。そんなメカキングギドラが前に出て、三つの首から引力光線を放てば、数十機もの同盟軍機が宇宙の藻屑と化した。

 その引力光線の威力は、シールド持ちのコヴナント海軍のCPV級重駆逐艦も容易く撃沈出来る程であり、シールドを持たない艦艇は光線に当てられて次々と轟沈して行く。

 

「へへっ、やるじゃねぇか! だったらこの俺様も楽しむとしよう!」

 

 メカキングギドラの暴れぶりを見たデアも興奮し、怪光線を乱射しながら次々と同盟軍機を撃墜していく。チベ改級重巡洋艦に接近すれば、その巨大な右腕で真っ二つに叩き割った。

 

「良いねぇ! この生きるか死ぬかと言う空気、たまんねぇぜ! うっかりイっちまいそうだぁ!!」

 

 襲い掛かる敵機を次々と撃墜しながら、ステルスフリゲートの艦橋でデアは絶頂に近い幸福を覚える。彼にとって戦場は性行為より勝る物であるようだ。そのまま高揚感に身を任せ、敵機を光線で破壊し、敵艦を体当たりするか、腕や脚で叩き割って撃沈する。三輪の艦隊を含めた味方も巻き込んでいるが、デアは全く気にすることなく暴れ続ける。

 

「クソっ、非常識共め! ならばこちらも非常識だ!!」

 

 メカキングギドラとデアのキングジョーが暴れ回る中、コロニー落し作戦の指揮官は非常識な手段に出た。

 それは怪獣とも言える巨大兵器やMAの投入であった。指揮官の鶴の一声で、DDS級空母よりその巨大兵器群が発艦する。どれもメカキングギドラ以上に異様な姿だ。

 

「高エネルギーの反応を確認、敵の巨大兵器と断定」

 

 メカキングギドラに搭載されたδⅢは、同盟軍の巨大兵器群の接近を確認した。

 

「な、なんだこいつは!?」

 

 デアを驚かせたMAとはエレファンテだ。象の鼻のような物はビームキャノンであり、様々な方向へビームを撃つことが出来る。それにビットを五基装備しており、オールレンジ攻撃も可能だ。一機だけでなく、十機以上も現れた為、これを見た連邦軍は呆気に取られて一瞬だけ動きを止めた。

 

「けっ、正規軍の連中が呆気に取られやがって! こんなもん、キングジョーの怪光線で一撃だぜ!」

 

 一瞬だけ対応が遅れる正規軍に対し、デアは直ぐにエレファンテ十機に対応する。コヴナント艦の軽巡洋艦クラスのシールドなら貫通する怪光線を撃ち込んで撃破を試みたが、エレファンテのIフィールドはコヴナントの技術も合わさってさらに強化されており、怪光線を完全に防いでしまった。

 

「な、何ッ! 一体一体が巡洋艦か空母以上のシールドだっていうのか!?」

 

 自機ご自慢の怪光線が弾かれたことに、デアは驚きを隠せない。だが、デアにとってこの展開は何度も経験している。

 

「なんてなぁ! こういうのは白兵戦で挑むのが効果的よ!!」

 

 直ぐに落ち着きを取り戻し、エレファンテに接近戦を仕掛けた。向かってくるキングジョーに対し、五機のエレファンテらは合計二十五基のビットを展開してオールレンジ攻撃を仕掛ける。四方八方から来るビーム攻撃に、デアは慌てることなくキングジョーの分離機能を使って躱して見せた。

 

「オールレンジ攻撃は、そっちの十八番じゃないぜ!」

 

 敵のオールレンジ攻撃を躱したデアは、キングジョーの分離機能を使ったオールレンジでの反撃を行う。ただ、分離して分威力が下がっているので、エレファンテに対した損害は与えられない。それでも想定の範囲内であり、デアは閃光弾を放って敵機に目晦ましを食わせた後、四つに分離したキングジョーを合体させ、手近な距離に居るエレファンテに接近し、白兵戦を仕掛けた。

 

「遅いぜ!」

 

 接近してくるキングジョーに対し、迎撃のビームやビットを展開するエレファンテであるが、間に合わずに蹴りで叩き潰された。

 

「ふぅ、やっと一機か。後四機は流石の俺でも厳しいぜ…!」

 

 エレファンテを撃破したデアであるが、あと四機も残っている。これに安全圏に居る本体もクローン越しから伝わる緊張感に額に汗を浸らせ、ビームの雨を躱しながら接近した。

 

「損傷率二十パーセント、戦闘に支障なし」

 

 メカキングギドラにも敵巨大兵器群が襲い掛かっていた。向かってきたのはRFアッザムにグランザム、ノーティラスと言ったメカキングギドラに負けぬゲテモノだ。尚、三機のエレファンテもメカキングギドラに攻撃を行っている。

 

「敵MAには通常の引力光線では貫通出来ず。スーパー引力光線を使用する」

 

 エレファンテのシールドが自機の引力光線を受け付けないと分かれば、三本の首からの同時引力光線の使用に踏み切った。攻撃を受けながら照準をエレファンテ三機に定め、三つ同時にスーパー引力光線を発射する。

 スーパーの名の通り、通常の引力光線より威力が数倍以上強化されており、編隊を組んで襲い掛かるシールド付きのセラフ級戦闘機複数を容易く撃破し、更には巡洋艦以上のシールドを持つエレファンテ三機を撃破した。尚も発射は続き、RFアッザム二機とノーティラス三機を撃破した。

 

「左頭部、破損。戦闘力七十パーセントにまで低下」

 

 だが、その代償は大きく、左の首がスーパー引力光線の発射に耐え切れずに爆発してしまった。戦闘力は大きく低下したが、δⅢはプログラムされた通りに戦闘を継続する。

 

 

 

「えぇい、まだ突破できんのか!? 次の廃棄分を投入しろ!!」

 

 廃棄を兼ねて出撃させたメカキングギドラなどの試作機群やデアを初めとする傭兵部隊を送っても、コロニーに取り付けないことに業を煮やした宇宙ステーションに設置された司令部は、新た試作機と廃棄分を投入した。その命令を受け、宇宙ステーションのハンガーから続々と廃棄処分を兼ねた“者”が乗っているザムザザーが続々と出撃する。

 ザムザザーに搭乗、否、搭載されているのは脳だけのクローンであり、名前こと製造ナンバーはB型生体CPU第7ロット13番試験体(BC07013T)。同じ脳だけのクローンが搭載されたザムザザーのと編隊を組めば、プログラムされた通りに敵陣へと突っ込んでいく。

 B型生体CPUパイロットが廃棄された理由は費用効果が従来の生体CPUとAI無人機より比較にならないほど悪く、維持コストも悪い事から研究は中止され、保存コストもかかるために処分を兼ねてこの戦いに投入されたのだ。

 自我を持たぬ脳だけのクローン等は、防衛司令部が出した命令に背くことも何の疑念も抱くことなく、命令通りにコロニー群に突撃していく。

 

『ぺルグランデ、発進!』

 

 同型のCPU三体、否、三つの脳が搭載されたペルグランデと呼ばれるMAも、廃棄を兼ねて出撃した。このペルグランデもまた、メカキングギドラやキングジョーに劣らぬほどの異様な外見を持っている。

 

「なんだ、あのまきびしのような奴は!? デカいぞ!」

 

 接近してシールドのビームクローでジェガンJ型を切り裂いて撃破したゲイツのパイロットは、複数のザムザザーと共に現れたペルグランデに驚く。他の僚機と共に対処に当たるが、ペルグランデが展開したドラグーンシステムと呼ばれる三基のオールレンジ攻撃で僚機共々撃破された。

 

「こいつ! よくもジャスコーを!!」

 

 オールレンジ攻撃で更に味方機が落とされていく中、激高したパイロットが駆るガナーザクウォーリアは、高エネルギー長距離ビーム砲を撃つが、BC07013Tが搭載されたザムザザーの陽電子リフレクタービームシールドで防がれ、別のザムザザーが放った単装砲を何発も放たれて撃破される。

 

「こいつ等、Xラウンダーか!?」

 

 バタラに乗るパイロットは、ペルグランデやBC07013Tのザムザザーによって次々と撃破されていく友軍機を見てXラウンダーと思うが、その実態を知れば、連邦を糾弾する事だろう。叶うはずも無く、纏めて撃破される複数のコスモリオンの後を追うように、付近の味方機と共にBC07013Tが搭載されたザムザザーの複列位相エネルギー砲で撃破される。

 圧倒的性能を誇るB型生体CPU搭載MAであるが、その全てが採算に合わぬ維持費の問題で破棄が決定した物だ。この戦いが最初で最後の活躍となる。例え戦果を挙げても、倫理観の問題で正規の将兵等の活躍に塗り替えられるだろう。

 そんな事を理解、否、理解できないB型生体CPU等は、命令された通りにコロニーへの突破口と陽動の為、敵陣深くへと突撃する。哀れな徴収兵や懲罰兵、敗残兵と傭兵たちと共に…。




なんか、怪獣決戦になってね?


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ドーントレス&ロックサイト&メバロー

名前:サマンサ・ウィンフレッド・ハットン
性別:女性
年齢:24
階級:中佐
所属:連邦宇宙軍
乗機:ドートレス改(宇宙仕様)
概要:連邦軍所属のMSパイロット。
堅実な戦闘スタイルと優秀な指揮能力を持ち、隊長としても充分な能力を持つ。
知る人ぞ知る名パイロットとして多少名が売れており、渾名は「コーク・スクリュー」、或いは「ドーントレス」
そこそこ理知的で冷静な対応が可能で、退く選択も行えるが些か自分の命を軽視する事が多く、時折自ら殿をかって出ようとする場面が多い上相討ち上等の攻撃をたまに仕出かす。
キャラ提供はただのおじさんさん

名前:ティアンナ・ロックサイト
性別:女性
年齢:21
階級:中尉
所属:連邦宇宙軍
乗機:セイバーフィッシュ
概要:連邦軍に所属している凄腕の戦闘機パイロットであり、鋭い切れ目が特徴の爆乳美女。
怜悧かつ勇猛な女傑であり、どのような相手であっても臆することなく突撃して行く。類稀な美貌とプロポーション故に多くの男性軍人から言い寄られているのだが、その悉くを袖にしているらしい。
キャラ提供はオリーブドライブさん

名前:ソディック・メバロー
性別:男
年齢:44歳
階級:大尉
所属:UNSC海軍 月面艦隊
乗艦:カロン級軽フリゲート「艦番452771‐8579」
概要:非本流で非出世コースを歩んでいた、普通に才能の無い凡人。
艦数のかさましの為に昇進して艦長が宙に浮いていた新造艦を受領したばかりなので、まだ艦名がついておらずロット番号で登録されている。
キャラ提供は秋音色の空さん


 δⅢが搭載されたメカキングギドラとデアのキングジョー、B型生体CPU部隊が同盟軍のMA部隊と怪獣映画の如く激戦を繰り広げる中、コーク・スクリューやドーントレスの渾名を持つサマンサ・ウィンフレッド・ハットンが駆る自分専用に改良したドートレス改が、母艦より出撃した。

 

「サマンサ・ハットン、出るぞ!」

 

 出撃した二挺の90ミリマシンガンを装備したサマンサのドートレス改は、そのまま多数の僚機と共に前線へとスラスターを吹かせて向かう。

 

『そんな機体で大丈夫か? もっと良い機体があるんだぞ』

 

「煩いぞ。私はこれで良いんだ。速く退け! 死にたいのか!?」

 

 他の機動兵器が続々と出撃していく中、空母にて旧式戦闘機であるセイバーフィッシュで発艦しようとする女性パイロットに管制官はそれで良いのかと問う。これに長身とは言え、とても軍人とは思えないスタイルを持つティアンナ・ロックサイトは良いと答え、周りにいる整備兵等に退くように叫んだ。

 キャノピーを締めれば、大き過ぎる胸の上からシートベルトを締め、操縦桿を握ってエンジンを吹かせる。

 

「ティアンナ・ロックサイト中尉、セイバーフィッシュ、発進する!」

 

 管制官に発進すると言えば、管制官はカタパルト射出ボタンを押し、ティアンナのセイバーフィッシュを母艦より発艦させる。無重力でも強いGが掛かるが、ティアンナは耐え抜いて続々とコロニーへ向かう同型機の大群に合流する。

 セイバーフィッシュの大編隊の上方に展開するISA海軍のジャベリンやドートレス・ネオ、ウィンダム、クランシェらを初めとした混成部隊の一機が、ティアンナのセイバーフィッシュを見て呟く。

 

「凄いおっぱいだな。本当にパイロットなのか?」

 

 ジャベリンのパイロットが全天周囲モニターでキャノピー越しから見えるティアンナの胸を見て言えば、同僚が見せるように告げ、それに応じて同僚の機体に無断で撮った彼女の写真を見せる。

 

『おい、見せろ。うぉ、凄ぇおっぱいじゃねぇか! 一体どこの部隊に居る!?』

 

「セイバーフィッシュからして宇宙軍だな。お偉いさんの愛人じゃないのか?」

 

『後で声を掛けてみるか! 宇宙軍のヘボ共には勿体ないぜ!』

 

 ティアンナを宇宙軍将校の愛人と言うパイロットに対し、同僚は戦闘後に声を掛けると言って、激戦区へと意気揚々に向かって行った。もっとも、彼女の性格からして、断れるのがオチであるが。

 

『敵機、一時方向より多数!』

 

『こいつ等、やってることが分かってるのか!? コロニー落しなんだぞ!!』

 

「奴らの企みを阻止することが、連邦が我らに与えた使命なのだ! 第22大隊、行くぞ!」

 

『了解!』

 

 先行して敵と交戦している量産型ヒュッケバインMkーⅡで編成されたUCA海軍の部隊が苦戦する中、サマンサは自分の大隊と共に敵集団に突撃した。

 自機のドートレス改が両手に持つ90ミリマシンガンを撃ちながら突撃し、コスモリオンやギラ・ドーガ、ジン、ジェニス、ガフラン等を立て続けに撃破していく。そんな彼女のドートレス改の背後より、RFドムがビームバズーカを撃ち込もうとしたが、僚機のドートレスがビームライフルを撃ち込んで撃破する。

 

『大隊長! 余り突出しないでください!』

 

「スマン、前に出過ぎた!」

 

 自分の背後を守ってくれた部下に礼を言った後、単独で行動し、一番友軍機を撃破しているクラウダに果敢に挑む。

 ビームのみならず通常の実弾兵器を一切受け付けない重装甲を持ち、挙句に高い機動力を誇るクラウダに、専用に改造した程度のドートレス改で挑むなど無謀に等しい。機動性を多数のスラスターで補っている為、噴射口を狙えば確実に撃破できるが、広い宇宙空間で高速起動する敵機の噴射口を狙うなど、容易ではない。

 

「スラスターの噴射口にさえ当たれば!」

 

 エリートですら恐れるクラウダにサマンサは全く恐れることなく挑み、90ミリマシンガンの弾幕を浴びせる。この弾幕はクラウダには通じないが、動きを止めることには成功した。クラウダのパイロットが弾幕に驚き、防御に徹してしまったのだ。

 

「90ミリの弾幕、受けて見ろ!」

 

 その隙にサマンサは90ミリマシンガンを撃ちながら接近し、スラスターの噴射口を狙える位置まで接近すれば、直ぐにそこへ弾幕を行ってクラウダを撃破する。

 

「流石に、クラウダの相手は厳しいか」

 

 ようやく一機のクラウダを撃破したサマンサは、二挺の90ミリマシンガンの弾倉を切り替え、戦闘を継続する。

 

「な、なんだこいつ!? 本当に博物館送りなのか!」

 

 ヘルガスト海軍の戦闘機に乗るパイロットは、ティアンナが駆るセイバーフィッシュが味方のバクトを撃破したのを見て、本当に博物館送りの代物であるかどうかを疑う。

 

「この角度なら当たるはずだ。落ちろ!」

 

 突出したムサイ級巡洋艦に狙いを定めたティアンナは、セイバーフィッシュの対艦ミサイルを撃ち込んだ。発射されたミサイルはムサイの動力源がある区画へ命中し、物の見事に轟沈させる。その後、あのヘルガスト軍の戦闘機が編隊を組んで、ムサイを沈めたティアンナに襲い掛かる。

 

「よし! うっ!? だが、私は決して屈しないぞ! この命が続く限りな!」

 

 性能では圧倒的に勝るヘルガスト軍の戦闘機の編隊からの機銃掃射を避けつつ、ティアンナは機首の25ミリ機関砲を撃ちながら反撃した。

 

「こんな博物館送りに!? うわぁぁぁ!」

 

 非力とも思われるが、ティアンナは凄腕の戦闘機乗りであり、機銃掃射で一機を撃墜することに成功した。そのまま交戦を続け、攻撃をよけつつ一機、更に一機と撃墜し、三機の戦闘機の撃墜に成功する。

 

「こんなガラクタに! 死ねぃ!」

 

 サンヘイリ(エリート)が乗るRFグフが右腕からヒート・ロッドを打ち出して捕まえようとするが、気付いたティアンナは操縦桿を巧みに動かし、ヒート・ロッドから逃れた。

 

「負けるか! ハァァァッ!!」

 

 これにRFグフは左手のフィンガーバルカンで撃墜しようとするも、彼女が駆るセイバーフィッシュはやや被弾するが、怯まずにミサイルランチャー全弾発射による反撃を行う。発射されたミサイルはRFグフに全弾命中、胴体にミサイル全弾を受けたRFグフは大爆発を起こして塵となった。

 

「クソっ、無理をし過ぎたか! こちらセイバー4、母艦へ帰投する!」

 

 RFグフの撃破に成功したが、流石に息切れが近いため、ティアンナは母艦に帰投すると言って戦列を離れた。

 

 

 

「アーチャーミサイル、弾種対艦、撃て!」

 

 連邦と同盟、双方の機動兵器がぶつかって乱戦状態となる中、UNSC海軍の地球防衛艦隊は太陽系艦隊提督であるフッド卿の指揮の下、正面以外から奇襲を仕掛ける別動隊の陽動の為、正面から総攻撃を仕掛けていた。コロニーを死守する敵艦隊の注意を引くべく、オータム級重巡洋艦は対艦ミサイルを発射して数隻の敵艦を沈める。

 

「僚艦、MAC、発射ァ!!」

 

 更に注意を引くべく、コロニーを破壊する勢いである一隻のマラソン級重巡洋艦は僚艦のパリ級重フリゲート五隻と共に艦首のMACキャノンを撃ち込んだ。

 だが、コロニー群の正面は、コヴナント軍の超大型空母であるアサルトキャリア数隻が横一文字隊形を取って防御しており、シールドもコヴナント戦争時代より強化されているのか、周辺の艦を破壊した程度にしかならない。それからレーザーの雨あられの反撃が行われ、数隻のフリゲートと駆逐艦が沈む。

 

「て、敵機接近! 多数!!」

 

「た、直ちに迎撃! 迎撃だ!」

 

 地球艦隊の右側に展開する月面艦隊にも、同盟軍の機動兵器の大群が迫っていた。同じ傘下に加わっている月面艦隊は関数こそ揃ってはいるが、半数以上がかさましであり、その中のカロン級軽フリゲートは艦名すらまだついていない新造艦ばかりであった。

 処女航海も終えていない上に艦名すら付いていない新造艦のカロン級軽フリゲート「艦番452771‐8579」の艦長ソディック・メバローは44歳で元々主計課の中尉であり、かさましの為に大尉に無理やり昇進させられ、挙句にその艦の艦長に任命されてしまった。一応、実戦はコヴナント戦争時代で経験しているが、カロン級の事は主計課として乗った程度で殆ど分かっていない。殆ど素人に近いし、乗員も昨日着任したばかりの経験の無い者ばかりだ。

 そんな寄せ集めのような乗員らを率いることになってしまった元主計課のソディックは、50ミリポイントディフェンスガンと呼ばれる自動対空機関砲で、向かってくる無数の同盟軍機の迎撃を慌てふためきながら命じた。AIで操作されている為、練度が全くない火器管制でも、カロン級に近付いて来る敵機やミサイルの迎撃は容易に行えているが、搭載されている十二基では迎撃が間に合わず、被弾箇所が増えていく。

 

「左舷に被弾!」

 

「船体下部にも被弾! だ、ダメージコントロールを!!」

 

「僚艦、ご、轟沈しました!」

 

「う、うわぁ…!?」

 

 艦載機のダガーLを全機展開しているにも関わらず、徐々にソディックのカロン級の被害は増す一方だ。そればかりか、僚艦のカロン級一隻が敵機の猛攻に耐えられずに轟沈した。僚艦も艦載機のダガーLを全機展開しているが、パイロットも着任した新米であったらしく、艦共々壊滅してしまう。その僚艦を沈めた同盟軍機の集団は、別の似たような境遇の乗員たちで構成されたカロン級を襲うか、ソディックのカロン級を襲い始める。

 

「て、敵機! 更に増加!」

 

「迎撃、間に合いません! なんでこっちに来るんだ!?」

 

「ひっ、ヒィィィ…!?」

 

 次々と来る悪い報告に、乗員らと同じく艦長であるソディックも恐慌状態に陥り始める。十二基の自動対空機関砲では間に合わぬ敵機が襲い掛かる中、その窮地を救うためにスパルタンが駆るガンダムとPTが到来する。

 ストライクノワールガンダムを駆るスパルタンⅣであるクラウド・マーベリックが、ソディックのカロン級の救援に来たのだ。

 

『大丈夫か? あぁ…』

 

「た、助かった! アンタは命の恩人だ!」

 

 周囲の敵機を僚機と共にデュエルガンダム用グレネードランチャー付きビームライフル二挺で一掃した後、無事を問うクラウドであるが、艦名は船体に描かれていないために分からない。助けられたソディックはただ礼を言うだけで、艦名すら言わなかった。ロット番号で言うのは面倒だからだろう。

 そんなクラウドたちの元に新手が現れ、プルディエルとヴェルデバスター、ロッソイージスと言ったガンダムタイプやゲシュペンスト・タイプS、ビルドシュバイン、ビルドビルガー。ビルドラプター、ビルドファルケンに乗るスパルタンⅣ等は直ちに対処に当たる。

 

『また来るぞ!』

 

「とにかく、あんた等は下がれ! あの動きからして素人丸出しで邪魔だ!」

 

『は、はい!』

 

 敵機動兵器部隊の集団と交戦を開始する中、クラウドはソディックを初めとしたカロン級の戦隊の動きが素人その物であるため、邪魔になるので実戦慣れしている戦隊の方まで下がるように告げた。これに応じ、ソディックが属するカロン級数隻で編成された戦隊は、敵の攻撃を冷静に対処している駆逐艦を旗艦とした戦隊の方へと下がり始める。

 

「さて、ここは俺たちだけで耐えるか…!」

 

 向かってくる同盟軍機の集団に対し、クラウドはストライクノワールのストライカーに装備されたレールガンを展開して放ち、二挺のビームライフルも撃ちながら僚機と共に対処した。

 一機、二機、三機と続けて撃破していけば、背後から接近してくるグフイグナイテッドにビームライフル二挺を叩き付けて怯ませ、ビームブレイドで叩き切って撃墜する。

 

「ハァァァッ!!」

 

 そのグフイグナイテッドを叩き切った後、ビームナギナタで近接戦闘を仕掛けて来るRFゲルググにもう一振りのビームブレイドを左手で抜き、斬撃を防いでから右手に握るビームブレイドで胴体を切り裂いた。




今回は一人一名様の方々の応募キャラを出しました。

次回もまた続きます。


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英国訛りとアメリカ訛り

名前:ハーバート・サザーランド・エジャートン
性別:男
年齢:48歳
階級:大佐
所属:連邦宇宙軍第7機動艦隊
乗艦:ドゴス・ギア級宇宙戦艦「ジョージⅤ世」
概要:現存する連合王国貴族サザーランド公爵。第二次世界大戦、バトル・オブ・ブリテンを戦い抜いた偉大なるジョージⅤ世の名をいただく船に座乗できたことを光栄に思っている。機動艦隊旗艦の座乗者として一撃奇襲による浸透殲滅ドクトリンを掲げるが、持久戦や砲戦も普通にこなせる。
冷静沈着で、相手の心を深く鋭く抉るブリカス仕草はお手の物。なお、極稀に味方にもクリーンヒットする模様。

名前:スコット・ナジマ
性別:男性
年齢:28歳
階級:中尉
所属:連邦宇宙軍第7機動艦隊
乗機:ジェガンR型(ハイパー・バズーカ追加装備)
概要:日系アメリカ人。北米や日本など極東戦線、また月面での戦闘による活躍で、義勇兵から中尉にのし上がった。恐ろしくポジティブシンキングで今まで支給された乗機をぶっ壊してでも大戦果をあげ、それを良しとするある意味危ない性格。そのため、今回の同盟軍のコロニー落としまでは警備部隊に左遷されたが、緊急招集を受けた。乗機はこれで3機目。
いつもアメリカの行進曲「星条旗よ永遠なれ」を流して操縦するほどの愛国者。
キャラ提供は神谷主水さん


 同盟軍による狂気のコロニー落しを阻止するべく、連邦軍が決死の防衛戦を展開する中、全長630メートルを誇るドゴス・ギア級宇宙戦艦「ジョージⅤ世」を旗艦とした連邦宇宙軍第7機動艦隊は、全艦艇を以てISA海軍の艦隊と共にコロニーへと突撃する。

 ウィンダムや量産型ヒュッケバインMk-Ⅱを展開しながら進むISA海軍艦隊の主力艦は、宇宙軍のどの艦艇より遥かに大きく、ジョージⅤ世の真上を強引に通る。その主力艦の艦長は退くように事前連絡を行う。

 

『そこの宇宙軍のアホ、退けェ! ミンチにされてぇのかァ!?』

 

 ジョージⅤ世の真上を通ろうとする主力艦、正確には戦隊旗艦であるが、数ばかりな宇宙軍を見下しており、艦長はチンピラのような口調で退くように告げる。これにジョージⅤ世の艦長、連合王国貴族の公爵の位を持つハーバード・サザーランド・エジャートン大佐は不快感を示す。操舵手は船体のどの部分にもぶつからないように、船体を下げる。

 

「奴らめ、碌に公用語を話せんのか? 我が艦隊の連中と言い、英語は公用語ではないのか?」

 

 ISA海軍の恫喝染みた事前連絡に、エジャートンは自分の艦隊の人員も含め、碌に公用語である英語を話せないのかと文句を言う。彼の言う英語は英国訛りであり、それが起源であるのが、連邦政府が定めた英語はアメリカ訛りであって、英国訛りは田舎者だと馬鹿にされる。故にエジャートンを慕う者は居ない。

 

「真上のラルフISA海軍第四戦隊、敵艦隊と交戦開始!」

 

「MS隊を発艦させますか?」

 

「うむ、出せ。宇宙軍の威信を見せよ!」

 

「はっ、MS隊発進! 僚艦も直ちに艦載機を発艦させよ!」

 

 レーダー手が逐一状況を報告する中、副官がMS隊を発艦させるかどうかをエジャートンに問うてきた。これにエジャートンは、艦橋の窓から見える戦闘の光を見ながら出撃を命じる。副官は応じ、艦長兼提督の命令を僚艦にも伝える。

 

『各小隊、順次発艦せよ! 繰り返す、順次発艦せよ!』

 

「了解! ステイツ小隊、発進する! 退かねぇと吹っ飛ばされっぞ!!」

 

 エジャートンの命令が艦内のみならず僚艦にも伝達される中、ジョージⅤ世のハンガー内でも発艦命令が伝達され、MSジェガン等の装備した各小隊は続々と出撃していく。UNSCやISA、UCAには劣るドゴス・ギア級であるが、それでもハンガー内はかなり広く、五十機以上のMSを搭載可能だ。

 そんなMS小隊の一つであるステイツ小隊の隊長スコット・ナジマは、乗機のジェガンR型の両足をカタパルトに固定させ、勢いよく打ち出されて出撃した。

 スコットはまだ第7機動艦隊に着任したばかりであるが、熟練のパイロットだ。その証拠に彼の乗機であるR型は改造が施され、背中にはハイパー・バズーカ一門がマウントされている。

 転属前は地球の各戦線を義勇兵として転々としており、大戦果を上げていたが、支給された機体を尽く破壊して来たばかりに警備部隊に左遷された。熟練のパイロットなので緊急招集を受け、ジョージⅤ世のMS隊に配置転換されて今に至る。

 

『隊長、また星条旗よ永遠なれっすか?』

 

「当り(めぇ)だ、俺は真の愛国者(パトリオット)よ! これで自由惑星同盟を自称するクソエイリアン共に自由を教えてやるのさ!」

 

 一緒に配置転換された部下より鼻歌の事を問われれば、スコットは真の愛国者であると答え、自由惑星同盟に自由を教えてやると豪語する。その言葉通り、スコットはR型専用のロングバレルビームライフルで、ISAの機動兵器部隊と乱戦している同盟軍機を狙撃する。一発目は外れたが、二発目は命中し、三発目で貫通されて撃破される。撃破したのはドラドだ。

 

「一機撃破! やっぱりアメリカと言えば火力だな! ヒャッホーイ!」

 

 敵機を撃破したスコットはテンションを上げ、更に二機目に狙いを定め、二発を撃ち込んで撃破する。

 

「チビのゴーグル野郎め、ファックしてやるぜ!」

 

 二機目を撃破したスコットは空かさずに三機目の小型MSであるデナン・ゾンに狙いを定め、牽制に頭部に装備されたバルカンポッドを撃ち込む。バルカン砲を撃ち込まれたデナン・ゾンはビームシールドを張って防ぐ中、続けざまにシールド内蔵式四連装ミサイルランチャーを発射。爆発で発生した煙で相手の視界を塞いだ後、ビームライフルを乱発して敵機の片足を破壊した。

 

「ケツの穴にロケット弾だ! 逝っちまいな!」

 

 そこから敵機の真下へ回り込み、背中のハイパー・バズーカを撃ち込んだ。片足を損傷していたデナン・ゾンはそれに気付かず、股間部にバズーカより発射されたロケット弾を受けて大破する。デナン・ゾンが爆発する中、スコットのジェガンはバズーカを背中へ戻し、ライフルに切り替える。

 

「へっ、自由の味はどうだい!」

 

 そう言ってから次なる敵機に狙いを定め、ビームライフルを連発して撃破する。

 

『おい、宇宙軍のクソ野郎! そいつは俺の獲物だぞ!?』

 

「うるせぇ! テメェが手こずってるからよ、俺様が頂いたんだよ! このノロマ!!」

 

 その敵機はISA所属のウィンダムが狙っていた獲物であるらしく、そのウィンダムに乗っていたパイロットからスコットのジェガンにクレームの無線連絡が来る。これにスコットは映像越しから文句を言う友軍機のパイロットに向けて中指を立て、手間取ったお前が悪いと侮辱して次なる敵機を狙う。

 

『や、野郎! ふざけやがって!』

 

『止せ、アンカー4-2! 戦闘中だぞ!!』

 

『ちっ! 後で覚えてやがれ!!』

 

「へっ、宇宙軍だからって舐め腐ってるからよ! 海軍(ネイビー)共が!!」

 

 スコットに激怒したISA所属のパイロットは彼のジェガンにビームライフルを向けるが、僚機の同じ機体に乗るパイロットに注意されて戦闘に戻る。大人しく戦闘に戻るISA所属のウィンダムらに、スコットは挑発で返し、狙ったゲイツを撃破した。

 

「主砲、十一時方向の敵艦に照準。撃て!」

 

 ジョージⅤ世のエジャートンもスコットに負けに劣らず、奮戦していた。連装型メガ粒子砲を斉射し、既に三隻の敵艦を撃沈している。

 

「ローラシア級、轟沈を確認!」

 

「フフフ、伊達にこのバトル・オブ・ブリテンを生き抜いたジョージⅤ世の名を持つ船を任されてはおらんのだよ」

 

 戦果報告にエジャートンはほくそ笑む。彼は出身地の英雄の名を持つこのドゴス・ギア級を任されたことを光栄に思っている。それは溺愛に近く、傷付けさせない為に僚艦と艦載機だけを前に出し、射程の長さと火力の高さを生かした砲撃戦を展開した。一撃奇襲による浸透殲滅ドクトリンを掲げているが、このコロニー落し阻止作戦は大規模な艦隊戦になるため、自分の艦が傷付かないような戦法を取っている。

 巧みな対応で戦闘を有利に進めていく中、ジョージⅤ世の射線にISA海軍のフリゲートが重なってしまうと言う報告が砲術長から来た。

 

「艦長、主砲の射線に友軍のISA海軍のフリゲート、ボストン号が…」

 

「ボストンには警告してから十秒後に撃て。言うことを聞かねば撃って構わん」

 

「で、ですが…」

 

「何をしている? 私の命令が聞こえてなかったのかね? 警告後、主砲斉射。直ちに実行したまえ」

 

 この報告に、エジャートンは警告してから撃てと告げるが、砲術長は戸惑いの表情を見せるが、気迫に圧されて逆らえず、命令を実行する。

 

「はっ! ISA海軍所属フリゲート艦ボストン号へ、貴官は我がドゴス・ギア級宇宙戦艦ジョージⅤ世の射線に入っている。十秒以内に回避行動を取らねば、貴官は我が艦の砲撃に巻き込まれる。直ちに射線より退避せよ」

 

『何っ? 俺たちごと吹っ飛ばすってのか!? ふざけんじゃねぇ! こっちは乱戦やってんだぞ! そう簡単に抜けられるか!!』

 

 当然、海軍所属のフリゲートは直ぐに応じられるはずも無く反対するも、エジャートンの命令を聞いていた砲術長は艦砲射撃のカウントダウンに入る。

 

「十、九、八、七」

 

『や、野郎! この件は戦闘後に報告するぞ! 覚悟するんだな宇宙軍のクソ共!!』

 

「ボストン、射線上から退避」

 

「フン、こちらの戦闘領域に勝手に入っておいて抗議とはな。そちらの方が悪いだろうに」

 

 カウントダウンの声を聴いて本気だと分かったISAのフリゲートの艦長は後で抗議すると返し、ジョージⅤ世の射線上から退避する。同盟軍機と乱戦していた艦載機も同じく離れていた。普通なら問題だが、悪いのは我が物顔でエジャートンの艦隊の戦域に入って来たISAの戦隊の方であった。故にエジャートンが何の罪悪感どころか、鬱陶しく思っているのはその為だ。カウントダウン後にジョージⅤ世の艦砲は一斉射され、標的にしたムサカ級巡洋艦を撃沈した。

 

「ムサカ級に命中、轟沈を確認!」

 

「引き続き、索敵を継続せよ。ISA海軍の奴らが邪魔のようだが、一切気にせずに撃て」

 

 標的にした敵艦の撃沈を確認すれば、エジャートンは引き続き戦闘を継続するように指示を出した。

 

 

 

 連邦軍の宇宙軍と宇宙海軍の連合艦隊による攻勢が同盟軍のコロニー落しの護衛艦隊に圧力を加える中、月面やその他の小惑星基地より発進した各奇襲部隊は、ワープでコロニー群の左右のみならず、上方や下方、背後に回っていた。

 コロニー群の上方に出現したストライデント級重フリゲート「ゆうぎり」を旗艦としたスタルワート級軽フリゲート艦七隻を中心としたUNSC海軍の奇襲部隊である戦闘団は、全速力でコロニー群に突進する。この攻撃は他の奇襲部隊と同時に行われており、下方にワープで出現したあの月面基地より発進したカロン級フリゲート八隻の戦闘団もコロニー群に全速力で向かっていた。搭載しているODST一個旅団を展開し、コロニーの何基かを制圧するのだ。

 機動歩兵一個師団を満載した連邦宇宙海軍の艦隊もコロニー群左側面と背後にワープし、そこから目指しているが、宇宙軍もまた右側面に艦隊を展開しており、同じくコロニー群を目指して全速力で向かっていた。これを同盟軍は、前面に展開する多数の連邦艦隊に集中しているため、気付かずにいた。



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連邦軍の猛攻

名前:シヅキ・カザナミ
性別:男
年齢:23
階級:少尉
所属:連邦宇宙軍
乗機:105ダガー エールストライク
概要:連邦宇宙軍に所属するMSパイロット。
臆病な性格でその性格が災いしてかたまに仕事を押し付けられることが多い。
そのせいか、あらゆる技術が鍛えられ、MS操作や修理、説明、訓練相手などなんでもござれの秀才となった。
その為か、注目の的にされている事なっていることを本人は少し嫌がっている様子。

名前:ホラン・タカツキ
性別:男
年齢:56
階級:中佐
所属:連邦宇宙軍 第十一艦隊
乗艦:マゼラン改級戦艦「ヤナギ」
概要:連邦宇宙軍所属「ヤナギ」の艦長。
戦績より仲間の命を優先する人柄で、艦のクルーやパイロットには厚い人望を持っている。それ故の救助作業で大きな貢献をした。
まわりの人間がどう疎ましくされようが邪魔だろうが、文句なら自分に言え、という程の熱い性格の持ち主。
本人の口癖は「あいつらの帰る場所を無くすなよ!」である。
キャラ提供はわかものさん

名前:フェリクス・アグネット
性別:男
年齢:28
階級:大尉
所属:連邦宇宙軍
乗機:クランシェ
概要:連邦のMSパイロット。向かってくる敵に恐れることない度胸と人望を持つ茶髪の男。
出撃の際は自ら危険な戦場に突っ込んでは、機体をボロボロになるまで戦い生還するほど悪運の強い一面もある。
キャラ提供は団子狐さん

名前:メト・リーカロイ
性別:男
年齢:20歳
階級:曹長
所属:連邦宇宙海軍
乗機:スコープドッグ宇宙戦仕様
概要:楽観的な性格のチャラ男。
片っ端から同僚の女性に声をかけるタイプで、現在3股中。この戦いに生きて帰ったなら逃げられない修羅場が待っている。
キャラ提供はリオンテイルさん


 コロニー落し阻止の為、前面に展開する宇宙軍・海軍の連合艦隊を囮に前面以外より各奇襲部隊が接近する中、囮である前面に展開する本隊は同盟軍の注意を自分たちに引き付ける為、更なる攻勢を強めていた。

 

『第三派、直ちに発艦せよ!』

 

「し、シヅキ・カザナミ少尉! 出撃します!」

 

 宇宙軍の大型空母より第三派が出撃しようとしていた。シヅキ・カザナミが乗る105ダガーもその一機であり、ストライカーシステムを搭載する105ダガーはエールストライクを装備し、複数の同型機と共に出撃した。

 

「フェリクス・アグネット、クランシェ出撃する!」

 

 その後より可変MSのクランシェの編隊が、飛行形態のまま出撃する。その中には、フェリクス・アグネットが駆るクランシェもあった。

 

「凄い攻勢だな。本腰を入れているのか?」

 

 エールストライカー装備で出撃したシヅキは、モニターから移る埋め尽くすほどの第三派の数で、防衛線を突破してコロニー落しを阻止するのかと思う。どうやら、自分たち本隊が囮であることを知らされていないようだ。

 

「旗艦マッケンジーより司令! 第十一艦隊全艦、前進せよ!」

 

「うむ、前進! 僚艦と歩調を合わせろ! 各員、警戒態勢に移行しろ! いつでも撃てるようにしておけよ!」

 

 予備戦力として本陣の地球ISA海軍防衛ステーションに待機していたラーカイラム級戦艦を旗艦とした宇宙軍第十一艦隊にも、前線への移動を命じられた。

 これに応じ、第十一艦隊所属のマゼラン改級戦艦「ヤナギ」は、艦長のホラン・タカツキの指揮の下、左右と上方、下方に展開する数十隻の僚艦と歩調を合わせ、陣形を組みながら前進する。前線へと向かう中、かなりの被害を受けた艦隊が後退して来た。どうやら、ホランが属する艦隊がその艦隊の代わりをするようだ。

 

「酷い被害だな。救出作業はしなくて良いのか?」

 

『ヤナギ、勝手に戦列を離れるな! 救出作業は後方の奴らに任せれば良い!』

 

「…了解!」

 

 火を噴きながら後方へと下がるクラップ級巡洋艦やネルソン級戦艦を見て、ホランは救出作業はしなくて良いのかと問うが、属する戦隊の隊長より後方に任せろと言われ、仕方なく承諾する。後退する艦の中には持たずに爆発す感もあり、脱出艇の何隻か救援に来た味方艦に収容されていた。その後、戦隊長の言う通りに本陣の方で救援活動が行われる。

 

「まもなく戦闘宙域に入ります!」

 

「よし、艦載機発進! 本艦も戦闘態勢に移行! あいつ等の帰る場所を無くすなよ!」

 

 レーダー手が戦闘宙域に近付いたことを知らせれば、ホランは搭載機の発信を命じ、全乗組員に戦闘態勢に移行するように指示を飛ばす。艦長の命令に応じて搭載機であるジェガンJ型が続々と発艦していく。それと同時に、シヅキの105ダガーも戦闘宙域に入り、決死の防衛を行う同盟軍艦隊と交戦を開始する。

 

「これ、押し付けじゃないんですかね!?」

 

 余りの攻撃の激しさに、シヅキはエールの高機動を駆使して回避機動を取りながらビームライフルで応戦する。慌てている割にはその動きは熟練の物であり、RFザクの胴体を撃ち抜いて撃破する。更に接近戦を挑んでくるシグーの斬撃を躱し、素早く抜いたビームサーベルで胴体を切り裂く。

 

『そこのダガー! こっちを援護してくれ!』

 

「ひっ!? ま、また押し付け…え? 援護ですか? 了解!」

 

 その腕前を見込まれてか、苦戦するヘビーガンとGキャノンの小隊から救援要請を出された。これをシヅキはまた押し付けだと思っていたが、援護要請だと分かり、サーベルを腰に戻してライフルに持ち替え、直ぐに現場へと向かう。途中、コスモリオンとセラフ級宇宙戦闘機の編隊が一撃離脱戦法を仕掛けて来る。

 

「うぉ!? これじゃあ援護できない!」

 

 連続攻撃を受け、撃ち返すこともできず、シヅキが防戦一方となる中、それがクランシェに乗るフェリクスが目撃したのか、直ちに救援に入る。

 

「クランシェの機動力なら!」

 

 変形状態で救援に入れば、ビームバルカンの掃射でコスモリオン数機を撃墜する。セラフ級はシールドがあるため、撃墜には至らず、直ぐにプラズマ弾で反撃してくる。これを躱しつつ、フェリクスは機体を人型形態に変形させ、右手に握るドッズライフルを空かさずに撃ち込む。

 ドッズライフルの威力は凄まじく、シールドを持つセラフ級を一撃で撃墜するほどであった。それを更に二発、三発と立て続けに撃ち込み、セラフ級の編隊を全滅させる。

 

『あ、ありがとうございます!』

 

「速く行け! 救援が待ってるぞ!」

 

『りょ、了解です! 大尉殿!』

 

 助けられて礼を言うシヅキに対し、フェリクスは直ぐに向かえと告げる。これに応じ、シヅキは通信映像で敬礼で返してから通信を切り、邪魔をしてくる敵機を撃破しながら救援を要請した正体の元へ向かう。

 

「さぁて、度胸のある奴はついてこい! あの敵の艦隊を沈めに行くぞ!!」

 

『応よ!』

 

 背後から来た敵機を素早くシールドから抜いたビームサーベルで切り裂き、戻してから度胸のある者たちに敵艦隊へ突撃すると告げ、ライフルを取ってから機体を飛行形態に変形させ、敵艦隊へと突撃する。

 これに応じてか、複数の同じクランシェとキャノンウェアを装備したアデルマークⅡ、ドッペルンホルン連装無反動砲装備のダガーL、Gキャノン、ジェガンJ型がフェリクスの後に続いた。

 

『各艦、一斉射!!』

 

「主砲斉射! ()ェーッ!!」

 

 他四隻のマゼラン改級戦艦と横一文字隊形を取るヤナギの艦長ホランは僚艦に合わせ、敵艦隊へ向けて連装型メガ粒子砲を放つ。他にも横一文字隊形を取るサラミス改級巡洋艦やアレキサンドリア級重巡洋艦、アイリッシュ級戦艦、ネルソン級戦艦を初めとした第十一艦隊所属艦も主砲を放っていた。

 この一斉射で数隻の敵艦を撃沈させ、同時に何機かの敵機を落とすことに成功した。更には艦隊攻撃へ向かうフェリクス等の支援にも繋がり、コロニーを防衛する同盟軍艦隊は正面の本隊に完全に集中する。

 

『ありがとう! 支援に感謝…』

 

『うわぁ!? 敵の攻撃が!』

 

「こ、こっちに集中してるって言うですかぁ!?」

 

 ヘビーガンとGキャノンの小隊を救ったシヅキであったが、ホランが属する第十一艦隊が艦砲射撃を集中した為、同盟軍の防戦が激しくなった。それを現すように、助けたヘビーガンとGキャノンが撃破される。自機に向けて飛んでくるビームの弾幕を躱しつつ、シヅキはビームライフルで撃ち返しながら敵の射線上から退避した。

 

 

 

『各部隊、前進だ! 損害に構わず、前進せよ!』

 

 攻勢を強めているのは宇宙軍艦隊だけではない。宇宙海軍の艦隊も攻勢に打って出た。

 

「クソっ、生きた心地がしねぇ!」

 

 母艦より大量に展開される十二基の小型バーニア備えた宇宙戦用ミッションパック「ラウンドムーバー」装着したスコープドッグに乗るメト・リーカロイは、生きた心地がしないと毒づいていた。

 ATは生産性と汎用性を優先したために気密性もさほどないため、操縦者は耐圧服を着なくては、宇宙では活動できない。胸にぶら下がっている生命維持装置が操縦者、またの名を「最低野郎(ボトムズ)」の宇宙や空気の無い空間での命綱だ。

 だが、メトが毒づいた理由はそれではない。女性問題の方である。彼は片っ端から気に入った同僚の女性に声を掛けており、現在は三人の女性と交際している。いわゆる三股だ。

 気付かれないようにしているメトであるが、このコロニー落し阻止作戦の二日ほど前に三股を知られてしまい、例え生きて帰れても修羅場は免れない。その三股騒動は他のボトムズたちも知られ、メトは孤立無援の状態であった。

 

『けっ、何が生きた心地がしねぇだ! 俺の女を取った罰だ! 死んじまいな!』

 

『そうだ三股野郎、ここがお前の墓場だ! ハッハッハッ!!』

 

「抜かせ! 揃いも揃って、ブサイクな癖して笑いやがって! 女運がねぇテメェらなんかに、俺の気持ちが分かるかってんだ!」

 

 当然、同僚たちから妬まれており、メトは常に背後を気にしていた。

 ATのコクピット内にモニターなどの設備は無く、耐圧服のヘルメットに付いてあるゴーグルが唯一の視界なので、装甲越しから殺気を感じ取らねばならない。感じられるかどうか怪しい物だが。

 

『貴様ら何をしている!? 速く前進せんか!!』

 

「ちっ、弾避けじゃねぇか! 了解、メト・リーカロイ曹長、前進します!」

 

 言い争っている間に、無線機より上官からの怒号が聞こえ、メトは他の同僚らと共にコロニー群に向けて前進した。

 ATの大群の左手にはギルガメス軍の戦闘機や戦闘爆撃機のコア・ブースター、右手にはバリエントにアデルマークⅡの集団が見える。数の方はスタンディングトータスMk-Ⅱを含めるATの方が多い。もっとも、消耗前提であるが。

 

『敵機より攻撃!』

 

『うわぁぁぁ!!』

 

「始まりやがった…!」

 

 交戦地域へと入れば、直ぐに友軍機と乱戦していた敵機がメトが居るAT集団に襲い掛かって来た。前方に居たスコープドッグ数機が一瞬にして宇宙の藻屑と化す。操縦者の悲鳴が無線機より聞こえる中、メトは自機の右手に握られたヘビィマシンガンで攻撃してくるRFザクを攻撃する。

 ATの火器の威力は本体の脆さに反して非常に高く、瞬く間にRFザクは蜂の巣と化して爆散する。重装甲のRFドムやドムトルーパー、ダナジンもスコープドッグのヘビィマシンガンや無反動砲を撃ち込まれるだけで、宇宙の塵と化していた。シールドを持つ機体も雨あられの攻撃で瞬く間に塵と化していく。

 

『敵AT接近! 応戦せよ! 応戦…』

 

「将校が簡単にくたばりやがって! オラァァァ!!」

 

 士官が乗るスコープドッグも、指示を出している間に敵ATであるファッティーが放ったロケット弾の弾幕に切り裂かれて撃破された。無線から聞こえる指示が途中で途絶えたことで、メトは簡単に死に過ぎだと文句を言いつつ自機の火器で不用意に自分の射線に入ったファッティーを撃破した。

 

「うぉ!? なんで乱戦状態になってんだ!」

 

 不用意に射線に入ったファッティーを撃破したメトであったが、敵ATが単機や少数でこちらに挑んでくるはずが無く、連隊規模で突っ込んできたようだ。既に乱戦状態と化しており、誤射も発生するほどの激戦区と化していた。わずかな時間で数百のAT乗り(最低野郎)達が宇宙の戦場で散って行く中、メトは生き延びるために必死に操縦桿を動かし、向かってくる敵機を照準に捉え次第にトリガーを引き、撃破していく。

 

『た、助けてくれ!』

 

『火が!? 火がぁ! わぁぁぁ!!』

 

 無線機から同僚や友軍の兵士たちの断末魔の叫びが聞こえるが、今のメトは自分が生き残る事しか頭に無い。息を切らし、自分に襲い掛かる敵機を攻撃して撃破している。AT乗りは、自分の身を守るので精一杯なのだ。

 

「っ!? はぁぁぁッ!!」

 

 メトの背後よりファッティーが近接攻撃を仕掛けるが、彼は何とか殺気に気付いて躱すことに成功した。敵機が追撃してくるのは確実なので、即座に空いている機体の左腕のアームパンチを敵機の胴体に打ち込む。薬莢を使った強い打撃(パンチ)は敵機の装甲を容易く貫通し、操縦者を圧し潰した。操縦者が死亡したファッティーは、そのまま暗い宇宙空間の中を漂い、流れ弾に当たって爆散した。

 

 幾千、幾万もの命が散ろうとも、この戦いは続く…。



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後方部隊の危機

名前:ゴルドリー
性別:男
年齢:18歳
階級:少尉
所属:地球連合軍
乗機:レイダーガンダム

名前:ヴィクトーリア・ヴィルヘルミナ・フリーデリーケ・フォン・ティルピッツ
綴り:Victoria Wilhelmina Friederike von Tirpitz
性別:女
年齢:26歳
階級:(技術)大佐
所属:連邦宇宙軍地球圏艦隊所属
乗艦:ガリア級高速工作艦アカシ
概要:ガリア級高速工作艦の主任設計技師である。ロンド・ベルに付いていける工作艦を設計するなどその腕は優れているが、流石に某真田さんの様に某星間文明が作り出した艦載型大量破壊兵器をちょっとしたヒントだけで開発する事は出来ない。

名前:フリードリヒ・ヴィルヘルム・ペーター・フォン・ハノーファー
性別:男
年齢:57歳
階級:大尉(下士官からの叩き上げ)
所属:連邦宇宙軍独立モビルスーツ第1087聯隊第7大隊B中隊中隊長
乗機:ジェガンG-17
ジェガンG型を近代化改修した機体の一つで、工作艦などで運用する為にマニピュレーターを器用にしたもの。改修の主任設計技師はフォン・ティルピッツ技術中尉(当時)。
実はジェガンシリーズで最も手先が器用な機体である。熟練者が扱えばニ◯リで売っている様な木製の組み立て式家具を組み立てることが出来る程。
搭載武器はビームカービン。何故なら母艦にはそれしかMS用武器を積んでいないから。
母艦:高速工作艦アカシ
概要:サイド3出身のジェガン乗り。宇宙歴0100年にジオンが自治権を返納した際に連邦宇宙軍に編入された。よくジジイと自称する。
キャラ提供はG-20さん

名前:ラウラ・アスタロト
性別:女
年齢:19
階級:中尉
所属:宇宙海軍(連合からの出向)
乗機:エールカラミティガンダム
概要
技術の進歩により改良を施された生体CPU。ブーステッドマンとエクステンデッドの合の子のような性能。
基本的に誰を相手にしてもぶっきらぼうな話し方をするが、上官からの指令には従順であり、人付き合いもできなくはないのでそこまで悪目立ちすることはないが、生まれと育ちの為か完璧を自身に求めすぎる傾向にあり、作戦の遂行にどうあっても必要とあれば自分自身すらも捨て石にすることを厭わない。
キャラ提供はRerereさん


 連邦宇宙軍と宇宙海軍の連合艦隊が奇襲を行う別動隊の為に猛攻を行う中、その後方では、損傷した艦の修理を行うガリア級高速工作艦を含める工作艦の艦隊が、前線から退避してくる味方艦の修理に勤しんでいた。

 ガリア級高速艦の一隻であるアカシに、大破したサラミス改級巡洋艦が収容され、修復が行われる。

 

「損傷したサラミス改級を直ちに本艦に収容! 直ちに修理開始!」

 

 全長九百メートル、全高二百五十メートルのガリア級の艦内に大破したサラミス改級が収容されれば、その艦長であるヴィクトーリア・ティルピッツ技術大佐の指揮の下、修理作業が行われる。

 修理されるサラミス改級より続々と負傷した乗組員たちが降りてくる中、艦内設備は直ちに修復作業に入る。他の艦艇も同時に行われているようだが、中破以上は船外で修復作業が行われているようだ。

 もしもの時に備えてか、周辺にはダガーLのビームカービンを装備した旧式のジェガンG型が複数展開している。

 

『こちらUNSCヴィクトリア! 当艦は大破状態! 修復を求む!』

 

「海軍は海軍の方へ! うちにスタルワート級軽フリゲートを修理する設備は無い!」

 

 工作艦でも大型艦艇ばかりの宇宙海軍には見劣りするが、それでも良くやっていた。自分らの方へ入って来た海軍のフリゲートに対し、ヴィクトーリアは設備が無いと言って追い返す。

 他のガリア級工作艦も含め、まだ修理できる戦闘艦を優先的に出来る限り修復していく中、その安全地帯に同盟軍の後方攪乱部隊が迫る。

 

『ミーティア、リフトオフ!』

 

 後方攪乱部隊はコヴナント海軍のCPV級駆逐艦二隻とフリゲート艦三隻で編成されており、旗艦の駆逐艦は船体にMS埋め込み式戦術強襲機「ミーティアユニット」が固定ワイヤーで船体に固定していた。連邦軍の警戒網に入る前に、固定ワイヤーを解除し、ミーティアを出撃させる。

 ミーティアのコアユニットはフリーダムでもジャスティスでも無く、量産機であるゲイツRだ。それに乗っているパイロットはザフト軍の者ではなく、異星人のエリート(サンヘイリ)族のウルトラ階級の戦士である。

 

「コヴナント帝国崩壊の要因、地球! その罪、三十の火矢によって焼かれて償え!!」

 

 パイロットはコロニー三十基を火矢に例え、操縦桿を動かし、意気揚々にミーティアのスラスターを吹かせ、ガリア級工作艦の艦隊に突撃した。かなりの速度が出ており、並の人間なら気を失いそうなGが掛かっているが、サンヘイリ族は人間より体格が優れた戦闘民族なので問題はない。

 後続のセラフ級戦闘機やRFゲルググ、ドムトルーパー、ギラーガ、レリオンを突き放してしまい、単機で工作艦の艦隊に襲い掛かる。一応ながら警戒はしていたジェガンG型とドートレスは、高速で迫るミーティアに驚く。

 

『な、なんだこの速度は!?』

 

『味方か?』

 

『いや、データに無い! て、敵だ!!』

 

「遅いわ!!」

 

 高速で迫るミーティアに驚く哨戒機は咄嗟の判断が出来ず、ミーティアの両側面ビーム砲を撃ち込まれて撃破される。そのビーム砲は連射力に優れており為、一瞬にして数機の哨戒機が撃墜された。

 

「正体不明機、高速で当艦隊に接近!」

 

「哨戒機六機、反応途絶!」

 

「なんですって!?」

 

 ミーティアの接近は工作艦アカシに乗るヴィクトーリアにも知らされた。他の艦艇もミーティアの接近に気付き、直ちに対処に入るが、ヴィクトーリアが属する艦隊は戦闘部隊ではなく支援部隊であるため、その対応は遅く、損傷したサラミス改級を修理していたガリア級工作艦の一隻が、ミーティアの高出力ビーム砲を撃ち込まれて撃沈される。

 

「サンクトペテルブルク、轟沈!」

 

「直ちに迎撃! 迎撃!!」

 

 目前に居た一隻の轟沈を見たヴィクトーリアは慌てながら迎撃を命じる。護衛のレパルト級ミサイルフリゲートやドレイク級護衛艦などがミーティアを止めようとミサイルの弾幕を浴びせるが、白色のアーマーを身に纏うサンヘイリが駆るミーティアはそれら全てを機動力を以て躱し切った。

 

「フハハハッ、踏み込みが甘いわ!」

 

 ミサイルの弾幕を躱し切ったミーティアは、倍返しの一斉射を浴びせようとそのシステムを起動する。

 

「纏めて吹き飛ぶが良い!」

 

 照準器に映る敵機や敵艦を限界まで照準し尽くせば、一度停止してから一斉射を放った。ビームとミサイル、それにゲイツR本体の両腰に装備されたレールガンの一斉射は、照準された敵機全てを撃破した。

 幸い照準を免れたジェガンG型に乗る老パイロットであるフリードリヒ・ヴィルヘルム・ベーター・フォン・ハノーファーは驚愕する。何せ九十近い味方の反応が一瞬にして消えたのだ。驚くのも無理はない。

 

「こ、これがわしの初陣だというのか…!?」

 

 年齢は六十に誓い退役軍人レベルの大尉であるフリードリヒは、実戦がこれが初めてであるため、ミーティアが初陣の相手になるとは思わず、ただ震えていた。

 

『ちゅ、中隊長! 指示を!!』

 

「あっ、直ちに応戦! や、奴を、奴を止めろ!」

 

 同じく実戦経験の無い部下にどう対処するかを問われれば、フリードリヒは震えながらも応戦を命じ、ミーティアに手にしているビームカービンを撃ち込む。だが、コヴナントの技術で強化されたミーティアにはシールドが施されており、ビームカービンの火力では全く通じない。

 

『び、ビームを受け付けません!』

 

「シールドか…! とにかく撃ち続けろ! 工作艦への接近を阻止するんだ!」

 

 ビームカービンを受け付けないことに浮足立つ部下等に対し、フリードリヒは碌な武器を持たない母艦を守るために、ミーティアの注意を自分らに引き付ける為、全く効かないビームカービンを撃ち続ける。

 

「えぇい、鬱陶しいコバエ共め! 貴様らから始末してくれる!」

 

 ミーティアに乗るサンヘイリはこれを鬱陶しく思ってか、高出力ビーム砲の砲身から巨大なビームソードを出し、それでビームカービンを撃って来るジェガンを切り裂く。

 

「護衛部隊、戦力の三十パーセントを喪失!」

 

「敵の新手が接近! 後方攪乱部隊の模様!」

 

「本部に救援を! 本艦は修理を継続しつつ後退!」

 

 護衛部隊や味方がミーティアと遅れてやって来た敵の後方攪乱部隊に次々とやられていく中、アカシの艦長であるヴィクトーリアは本部救援を要請し、修理を継続しながら後退するように命じた。

 

「なにっ、我が後方に敵の攪乱部隊だと!? もう来たのか! 温存してある生体CPU共に対処させろ!」

 

 後方部隊が敵の攪乱部隊によって蹂躙されて報告を聞いた本部の司令官は、予備戦力として温存している生体ブーストテッドマンとエクステンデッド等の生体CPUに対処を命じる。

 それに応じ、生体CPUが乗るガンダムタイプを搭載したアガメムノン級空母が二隻のドレイク級護衛艦と共に工作艦の艦隊の救援に向かう。海軍にも生体CPUが居るのか、それを乗せているISAの駆逐艦一隻も救援に向かっていた。

 

『MS隊、直ちに発艦!』

 

「ゴルドリー、レイダーガンダム。出るよ」

 

 他の搭載機であるデュエルダガーやバスターダガー、ウィンダムが続々と出撃する中、フォビドゥンガンダムやカラミティガンダム、レイダーガンダムに乗る生体CPUも出撃する。

 

『搭載機、直ちに発艦せよ!』

 

『生体CPU、直ちに発進しろ!』

 

「ラウラ・アスタロト、カラミティ、出るよ」

 

 ISAの駆逐艦からも、カラミティガンダムの改良型であるエールカラミティガンダムが出撃する。乗っているのはブーストテッドマンとエクステンデッドの融合体であるラウラ・アスタロトだ。指令が下れば、ラウラは直ぐに母艦より出撃した。

 救援部隊が艦載機を展開する頃には、乱戦状態になっていた。無論、苦戦しているのは工作艦などの後方部隊だ。ミーティアのみならず、後方攪乱部隊はサンヘイリ族で構成されており、練度も戦闘力も高い相手に、後方部隊では荷が重すぎて相手になりもしない。

 

「ん、新手か!?」

 

『死ねぇぇぇッ!!』

 

 ガリア級工作艦の僚機と共に轟沈させたRFゲルググに乗るサンヘイリは、生体CPUの接近に気付き、直ぐに対処に回るが、後方のパイロットとは違って生体CPUは戦闘力が高く、飛行形態のレイダーガンダムの口から放たれたビーム砲で一機が撃破される。

 それに狂暴であり、熟練と言うか無秩序な攻撃に戦闘のプロ集団である後方攪乱部隊のサンヘイリ達は戦慄を覚える。

 

『こ、こいつ等ガンダムだ! スパルタンか!?』

 

『なんて無秩序な!?』

 

『例のブーストテッドマンだかエクステンデッドか!?』

 

「死ねよ顎割れ共ォ!!」

 

 ガンダムに乗っているので、スパルタンだと思うサンヘイリ達であるが、ゴルドリー等は生体CPUであるため、無秩序な攻撃を仕掛け続けている。機体を人型形態に変形させたゴルドリーは、機体の左手に持った破砕球を打ち出す。

 飛んでくる破砕球にサンヘイリ等が駆る機動兵器らは散会し、包囲して叩こうとするが、ゴルドリーと同じ生体CPUが乗るカラミティガンダムやフォビドゥンガンダムの妨害を受け、三機が撃破される。

 

「落す…!」

 

 エールカラミティガンダムを駆るラウラは、味方の工作艦を次々と仕留める敵機に向け、両肩のミサイルポッドを全弾撃ち込んでからショルダーキャノンを飛行モジュールのガトリング砲を放ち、躱し切れない三機の敵機を撃破した。

 それから胸部の高出力荷電粒子砲を放ち、更にもう一機の敵機を撃破し、複合兵装アドラーをライフルモードにして、応戦してくる敵機に対処する。

 

「接近戦に持ち込めば!」

 

 ギラーガに乗るサンヘイリは、ギラーガスピアのビームの刃を鎌状にして斬りかかるが、エールカラミティは接近戦も行え、両腕に装備されているビームナイフで接近戦を仕掛けたギラーガを切り裂いた。

 

「接近戦も対応しているのか!?」

 

 砲戦型のMSだと思っていたカラミティガンダムにサンヘイリは驚く。接近戦仕様のソードカラミティは知っていたようだが、エールカラミティについては知らなかったようだ。そんなラウラが駆るエールカラミティの背後よりRFゲルググがビームナギナタで斬りかかるが、複合兵装アドラーをハンマーモードに切り替え、鋭く尖った先端を胴体に叩き込んで乗っていたサンヘイリを圧し潰した。

 

「あれはガンダム! スパルタンか! 否、動きからして生体CPUとか言うスパルタンの出来損ないか! だが、あの存在は作戦に支障を懐のは必然! こんな雑魚共の相手をしている暇は無い!」

 

 この光景はフリードリヒのジェガン部隊を蹂躙していたミーティアにも見え、生体CPUの排除を優先するため、ジェガンのビームカービンの攻撃を無視してそこへ向かう。

 

『アスラロト中尉、ミーティアユニットの排除を優先しろ! 他は宇宙軍にやらせておけ!』

 

「了解。ミーティアの排除に向かう」

 

 ドムトルーパーをアドラーのライフルモードで撃墜したラウラのエールカラミティに、ISA海軍司令部よりミーティアの排除命令が下った。この命令にラウラは否応どころか、何の疑念も抱かずに従い、ミーティアの元へ向かう。既にミーティアは宇宙軍の生体CPU部隊と交戦していた。量産型F91やネオガンダムの混成であり、性能と火力で勝るミーティアと互角であった。もっとも、ミーティアが単機であるのが要因であるが。

 

『死ねぉやァーッ!』

 

『荒っぽいが、中々やる!』

 

「見付けた…!」

 

 その宇宙軍の生体CPU部隊と交戦するミーティアを見付けたラウラは、誤射を気にすることなく胸部の高出力荷電粒子砲を撃ち込んだ。



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試験艦隊、突撃!

名前:カースティ・サージェント
性別:女
年齢:26歳
階級:技術少佐
所属:連邦宇宙海軍 試験艦隊
乗艦:オリオン級ミサイル母艦(オリオン級空母をベースとしたミサイル艦)
概要:技術者の父に影響されて自分も技術者になった技術士官で同じ技術者を纏めるチームリーダーでも有る。
普段は新技術の開発や実験・既に有る機体や艦の別アプローチによる延命や再設計の為のデータ収集をしている(要は軍の金で量産や正規化する予定の無い試作品を好きに創って遊んでる集団)。

名前:セオドア・フォラント
性別:男
年齢:31歳
階級:少佐
所属:連邦宇宙海軍 試験艦隊
乗機:ラッシュデストロイ
概要:言わばデストロイガンダム版のソードカラミティ。
頭部の牽制用機関や胸部の3連装大口径ビーム砲・陽電子リフレクター発生器以外の全武装・変形機構・ドラグーンシステムを廃止、代わりに各所に追加のスラスターやビーム・バリアーを追加することで、複雑化したシステムの簡略化・スリム化も含めた機動力の向上・制作費や期間の削減した。
そしてどこぞの馬鹿共が「原機の弱点で有る懐に潜り込まれたときの脆弱性克服」の名目でビーム・バリアーで全身を覆い各所のスラスターを全開にきりもみ回転しながら相手に突撃し質量で叩き潰し突進攻撃が導入された。
キャラ提供はkinonoさん


 工作艦の艦隊が居る後方にも戦火が及ぶ中、三十基のコロニー群の正面以外から連邦軍の別動隊が襲い掛かった。先に攻撃したのは、スタルワート級軽フリゲート七隻を率いるストライデント級重フリゲート「ゆうぎり」だ。

 

「コロニー群、MACガンの射程内に捕捉!」

 

「MACガン、照準! 僚艦にも打電!」

 

 MACガンの射程距離まで来れば、ゆうぎりの艦橋内で若い艦長は砲術長にMACガンの照準を定めるように命令を下す。高速航行のままなので、砲術長はぶれる照準を必死に定めようとする。AIのサポートがあるが、それでも高速航行での照準は難しい。

 

「クソっ、無茶言ってくれるぜ! 高速航行でMACを撃てだなんて!」

 

 照準を必死に定めながら文句を言う砲術長であるが、コロニー三十基を地球に落とされれば確実に滅亡するので、何とか照準を定めた。

 

「捉えた!」

 

()ぇーッ!!」

 

 照準が合ったことを砲術長が言えば、艦長は直ちに発射を命じた。ゆうぎりの艦首よりMACガンが発射される。僚艦であるスタルワート級軽フリゲートもそれに合わせてMACガンを発射した。コイルガンより放たれた八発の劣化ウラン弾芯は、コロニー群の上面で警戒していた艦艇を引き裂いた。

 

「うぉ!? やはり正面の本隊は囮か! 正面に回した第9機動艦隊を戻せ!!」

 

 この奇襲攻撃はコロニー落し部隊は予見していたが、正面の敵本隊の攻撃が苛烈であるために来ないと思っていた。だが、連邦軍は地球防衛に躍起になっており、こうして奇襲部隊を送り込んできたと言うわけだ。

 当然、奇襲部隊はゆうぎりの戦闘団だけでない。反対側からはODST一個旅団を満載したカロン級軽フリゲート八隻の戦闘団、右側からは宇宙軍艦隊、左側と背後からは機動歩兵一個師団を満載した連邦宇宙海軍艦隊が来ていた。

 この想定の範囲内を超える奇襲部隊の到来に、コロニー落し作戦の旗艦兼司令部として使われているCSO級超大型空母のCICは、かなりの動揺を覚える。

 

「敵奇襲部隊、更に出現! 囲まれています!!」

 

「包囲されただと!? 奴ら、どれだけ戦力があるのだ!」

 

 予想外の奇襲部隊の数に、指揮官は動揺を覚えるが、何としてもコロニー三十基を地球に落とすために付近に配置している予備戦力も含め、死守命令を出す。

 

「なんとしても死守しろ! 戦力の大半は正面だ! 数は決して多くないぞ!! 返り討ちにするのだ!!」

 

 指揮官は正面の攻撃が激しい事で、連邦の奇襲部隊の数は少ないと判断した。事実、奇襲部隊の数は正面で猛攻を仕掛ける本隊より少ない。その為、奇襲を受けた艦隊は直ぐに予備戦力の部隊と合流して、奇襲部隊の対処に当たる。

 

「敵艦隊、反撃してきます!」

 

「ヒビキ、轟沈!」

 

「なんとしてもコロニーに張り付け! 何としても、ODSTをコロニーに降下させるんだ!」

 

 この激しい反撃で、ゆうぎりの僚艦であるスタルワート級軽フリゲートの一隻が轟沈した。これにゆうぎりの艦長は何としてもコロニーにODSTを降下させると言って、被害に構わずコロニーに取り付こうと前進する。コロニーの真上まで来れば戦闘団を散会させ、それぞれの目標のコロニーに到着すれば、外壁を官報で破壊してからODST一個大隊を降下させる。

 

「ODST、直ちに降下!」

 

 その艦長の号令と共に、ODSTの一個大隊がコロニーに向けて艦砲で空いた外壁の穴に向けて射出される。ODSTの隊員は降下ポッドに入っており、その数は数百基ほどだ。だが、ODSTの降下ポッドは二個中隊分である。

 スタルワート級軽フリゲートに搭載されているODSTの大隊は三個中隊編成で、二個中隊の編成は降下要員と兵員型ワートホグ十台だ。その残り一個中隊の編成はODST仕様の量産型ヒュッケバインMkーⅡだ。降下兵の装備は共通だが、機動兵器中隊は大隊によってまちまちだ。ジェガンだったり、ダガー、アデルマークⅡ、あるいはビルドシュバイン、特殊作戦用装備のスコープドッグの中隊もあった。

 一隻失って七個大隊しか降下できなかったが、それでも膠着状態を打破するための精鋭部隊であり、コロニー内に残っていた敵の守備隊を返り討ちにするなど容易だ。

 

「GO、GO、GO! 制圧しろ!!」

 

 何人か犠牲は出ているが、かなりの練度を誇るODST隊員らはMSかPT、AT中隊のどちらかの援護を受けながら迎え撃ってくる敵を排除しつつ前進する。

 

「ODST降下後、直ちに離脱!」

 

 カロン級軽フリゲートの戦闘団もコロニーに到達すれば、艦砲で外壁を破壊し、空いた穴に向けて搭載しているODSTをコロニーに向けて降下させる。ゆうぎりとは違って二隻を失っており、六個大隊しか降下できないが、降下に成功しただけで上々だ。降下したODSTの大隊の編成はゆうぎりとほぼ同じである。コロニー内に降下したODST等は敵を制圧しながら前進し、コロニーのコントロールルームを目指す。

 これで、十三基のコロニーを奪ったも同然だ。尚、ODSTの大隊を降下させた各フリゲート艦は、敵の攻撃を受けない為に早期に戦闘宙域から離脱している。戦闘後に回収する予定だ。

 

「コダイ戦闘団とマルダー戦闘団の各ODST旅団、コロニーへの降下に成功! 順次制圧中の模様!」

 

「我が軍の第4機動歩兵師団も降下させろ! 損害に構わず突っ込め!!」

 

 ODST二個旅団が三個大隊を失いながらもコロニーの降下へ成功すれば、機動歩兵師団を満載した宇宙海軍の艦隊と宇宙軍の艦隊は損害に構わずコロニーへの突撃を敢行する。これに同盟軍は決死の抵抗を行うが、双方の艦隊は損害に構わず前進しており、機動歩兵を満載した宇宙海軍の主力艦の何隻かがコロニーの外壁に突っ込むか、真上に到着して機動歩兵を展開させる。

 一隻あたり二個大隊を搭載しており、全員のアーマーが生産性重視のフェーズ3アーマーとはいえ、七百人と数は多く、フェーズ1やフェーズ2譲りの機動性を駆使してコロニー内を飛び回り、配置されていた同盟軍の守備隊を蹂躙する。

 宇宙軍の艦隊も防衛線を突破し、コロニーの外壁を突き破って突入すると、艦内に乗せていた歩兵部隊を展開した。その中には工作艦であるガリア級も含まれていた。

 

「敵軍、コロニーに突入後、歩兵部隊を展開!」

 

「コロニー内に居る守備隊より救援要請!」

 

「こ、これでは、作戦が…!」

 

 奇襲部隊の損害を無視したコロニー内への突入に、作戦司令部は動揺を覚えていた。時間が経つごとに次々と報告される悪化する状況に、司令官は頭を抱える。

 地球を崩壊させるには、核を満載した十基以上のコロニーが必要だ。それがいま無力化されるか、奪われたりしている。九基以下でも人が住めなくなる被害を与えられるが、連邦軍は一基たりとも落とさせず、最悪な場合は核を使ってでもコロニー全基を破壊するだろう。

 

「ディ、ディビニダドを出せ…! もう出し惜しみは無しだ…っ!!」

 

「りょ、了解…!」

 

 このまま通常の戦力のみで対処していれば、作戦失敗は確実。そう判断した作戦司令官は、神の如き姿と圧倒的威圧感を持つMAディビニダドの出撃を命じた。

 CSO級大型空母の上面甲板に増設されたハッチより、十機以上のディビニダドが姿を現す。連邦軍のザムザザーやデストロイガンダムよりも巨体で、質の悪いことに過剰なまでの核武装が施されている。

 神の名を持ちながら、動く大量破壊兵器とされるデストロイガンダムよりも遥かに野蛮な兵器だ。当然、連邦軍はディビニダドの存在を知っており、翼を生やした白い巨体を見た宇宙軍は恐怖した。

 

「あ、あれはディビニダド…! まさか、奴らは十機も作っていたのか…!?」

 

 核の名を持つ動く核爆弾、またの名を破壊神の異名を持つディビニダドが戦場へ姿を現せば、戦況は同盟軍に傾いた。

 ディビニダドの大型や中型メガ粒子砲のみならず、両翼に搭載されたファンネルの数は多いため、あっという間に奇襲部隊が展開した機動兵器部隊を壊滅させた。そんな武装を持つディビニダドが一機のみならず十機はいるのだ。更にシールドも備わ手防御力も高く、奇襲部隊は何も出来ず、撃破されるばかりだ。もはや虐殺である。

 

「な、なんなんだこの様は!? あ、悪夢だ…!」

 

 コロニー外に展開した宇宙海軍の主力艦は、瞬く間に消えていく味方の反応とディビニダドの圧倒的な戦闘力を前に、絶望するばかりであった。その後、絶望する艦長が乗る主力艦に別のディビニダドが迫り、巨大な腕の手刀を艦橋に突き刺した。

 

『うわぁぁぁっ!? 化け物だァァァッ!!』

 

 外の奇襲部隊が蹂躙された後、コロニー内にディビニダドが入り、機動歩兵やODSTの掃討を始める。内部には重力があるはずだが、地球を破壊する目的で作られたMAであるディビニダドは重力下でも動ける設計となっており、内部に突入した双方は外の奇襲部隊と同じく蹂躙されるばかりであった。

 

 

 

「き、奇襲部隊…離脱したコダイ戦闘団とマルダー戦闘団を除き、全滅です!」

 

「コロニー群の周囲に高熱源反応…いや、この数値は…か、核だ…! 核反応です! 敵巨大MAよからです!!」

 

「照合データ確認、MAディビニダド!」

 

 奇襲部隊全滅の報告は直ぐにISA海軍のステーションにある司令部に伝えられた。奇襲部隊を全滅させたのが、ディビニダドと分かり、指揮官を初めとした司令部は動揺する。かつて地球を滅ぼそうとした木星帝国の総統、ドゥガチが駆るMAだ。それが今また地球を滅ぼしに来ている。動揺しない訳が無いのだ。

 

「でぃ、ディビニダドだと…!?」

 

「や、奴ら、再生させたのか…!」

 

 司令部が動揺する中、ディビニダドの出現で戦況は同盟軍に傾きつつある。その圧倒的な戦闘力を前に、猛攻を行っていた連邦軍艦隊が蹂躙されているのだ。

 

「第5軌道艦隊、壊滅状態!」

 

「三輪元帥より救援要請!」

 

「ディビニダド、更に前進!」

 

 この状況を打破するには、いち早く対応しなければならない。そこで司令部は更なる戦力の投入を決定した。

 

「こうなれば、全戦力を投入するしかない…! 予備戦力を投入しろ! 試験艦隊と現存するスパルタン全ても投入せよ!」

 

 司令部は温存する全予備戦力の投入を決定した。命令と共にデストロイガンダムを含める全予備戦力はコロニーに向けて前進する。その中には戦力として不安定な試験艦隊と地球圏に駐屯する全てのスパルタンも含まれていた。

 

『サージェント少佐、君も直ちに出撃したまえ!』

 

「分かりました技術大将殿! カースティ・サージェント技術少佐以下、オリオン級ミサイル母艦の全乗員、出撃します!」

 

 試験艦隊の提督である技術大将の指示で、試験艦隊は前線へと向けて出撃した。その中の一隻、UNSC海軍のオリオン級空母をベースとしたオリオン級ミサイル母艦は、フリゲート艦無人突撃艇やサラミス改級防空特化などの奇天烈な艦艇で編成された艦隊の後へ続く。試験艦隊が運用する機動兵器も珍妙な者であり、それを見た同盟軍は驚きの声を上げる。

 

「な、なんだあいつ等は!?」

 

 ディビニダドを前にしてコロニー落しの進路を確保しようと前進する左翼側に展開した同盟軍は、試験艦隊の出現に思わず足を止めた。敵が一瞬足を止めたのを見逃さず、オリオン級ミサイル母艦の艦長、カースティはミサイルの一斉射を浴びせる。

 

「あの化け物がこっちを向いていない隙に、ミサイル一斉射!」

 

 カースティの指令が下れば、ミサイル母艦に改装されたオリオン級のありとあらゆる場所に増設されたアーチャーミサイルの発射口より、雨あられなミサイルが同盟軍に向けて発射される。その数は実に数千発以上。この無数のミサイル攻撃に、同盟軍は迎撃するよりも回避行動を優先した。

 

『な、何だこのミサイルは!? ヌワァァァッ!!』

 

「うわぁぁぁッ!? た、助けてくれぇぇぇ!!」

 

 無数のミサイルに同盟軍の機動兵器は回避行動を取るが、躱し切れるはずが無く、次々と被弾して大破していく。あのディビニダドでさえ、ミサイルを迎撃しきれずに防御に徹するほどだ。発射されるミサイルの中には在庫処分用の試作品も含まれており、不発弾もあれば、大爆発を起こす物もあった。この試作品も含める過剰なミサイル弾幕は、左翼側の同盟軍の前進が一時的に停止する。

 

「撃って撃って撃ちまくれ! どうせ倉庫を圧迫する試作品! 残弾からにして帰るわよ!」

 

 艦橋内にいるカーティスは、ミサイルを撃てるだけ撃ちまくるように叫ぶ。試作艦隊は武器庫の古いミサイルも含め、試験場や実験場にある処分に困ったミサイルを大量に搭載している。

 上層部はどうせ処分するなら敵軍に向けて使った方が良いと判断してだろう。いや、地球が危機なのでそこまで考えるほど余裕はない。とにかく、使えるならなんでも使うほど切羽詰まった状況なのだ。

 

「あのミサイル艦を沈めろ! 何としても前進するのだァ!!」

 

 だが、試験艦隊に敵軍全体の前進を止めることは出来ない。左翼の援護の為、中央の一部の部隊が試験艦隊に襲い掛かった。

 早速ミサイル攻撃を敢行する駆逐艦戦隊であるが、カーティスはこれに備え、両翼に複数の主砲やミサイルを全て取っ払って機銃だらけにしたサラミス改級巡洋艦を展開させており、対空弾幕で対艦ミサイル全弾を迎撃する。

 

「ハーハハハッ! うちは試作機に再設計機にデータ収集機などで構成された艦隊! 誰が読んだかトイボックスフリート! 他と同じ体様が通じるとは思わないでよね!!」

 

 自分らを始末しようと迫る同盟軍に向け、カーティスは自分の艦隊を自慢しながら告げる。事実、試験艦隊の戦法は従来の連邦艦隊の物ではなく、不気味だ。

 無人突撃艇に改造された旧式のフリゲート艦五隻がミサイルに続いてディビニダドに向けて突撃。迫り来る五隻の無人突撃艇にメガ粒子砲やファンネルで迎撃するディビニダドであるが、艦首にビームシールドを張っているために中々撃沈出来ず、五隻中、三隻しか撃沈出来なかった。残り二隻はミサイルの如くディビニダドにビームラムを展開しながら突撃し、一隻は手刀を叩き込まれて轟沈するが、最後の一隻は胴体にビームの刃を突き刺した。

 

「でぃ、ディビニダドが!?」

 

 突撃した最後の突撃艇一隻に串刺しにされたディビニダドは、そのまま機能を停止する。

 

「こ、こいつはデストロイか!?」

 

 試験艦隊が凄いのは改造艦艇だけでない。頭部機関砲や三連装大口径ビーム砲以外の射撃兵装を取っ払い、代わりに馬鹿でかいビームサーベルで武装し、スラスターと全身にビーム・バリアーを纏ったデストロイガンダム、その名もラッシュデストロイガンダムがコロニーを守る同盟軍に向けて単独で突っ込んでいた。

 

「たくっ、こいつは超大型作業機体だって言うのに」

 

 これの何処が作業用機体だというのか。ラッシュデストロイに乗るセオドア・フォラントは悪態を付きながら、敵陣に向けて突っ込んでいた。

 

「奴は単独だ! プラズマ砲の一斉射で叩き潰せ!」

 

 セオドアの目前に展開するチベ改級重巡洋艦二隻を含めるSDV級重コルベット艦四隻は、迫り来るラッシュデストロイに向けて一斉射撃を行う。プラズマ砲を含めるビームによる一斉射を浴びせられたが、ラッシュデストロイは各所に増設されたスラスターで上がった機動力で全て躱し切る。

 

『な、なにっ!?』

 

「デカ物だからってとろいと思ったか? 残念ながら、高機動型だ!!」

 

 巨体に似合わぬ機動力で一斉射を躱し切ったラッシュデストロイは、敵が次なる対策を講じる前に、ビーム・バリアーを全身を覆い、各所のスラスターを全開にきりもみ回転しながら敵艦隊に突進する。回転しながら突っ込んでくるラッシュデストロイに対し、同盟軍の艦隊は展開させた艦載機と共に迎撃を行うが、ビーム・バリアーの所為で貫通出来ない。

 

「うぉぉぉっ!!」

 

 セオドアのラッシュデストロイは敵艦隊を回転突撃の質量で叩き潰した。その威力はすさまじく、艦載機は衝撃波だけでバラバラに吹き飛び、シールドが標準装備されているコヴナントのコルベット艦でさえ叩き潰してしまうほどだ。シールドを持たないチベ改は原形を留めない程の状態と化していた。

 

「うぅ~ッ! 無重力とはいえ、回転突撃は目が回るぜ!」

 

 回転が終わった後、セオドアは目を回して吐き気を覚えるが、何とか我慢して周囲を索敵する。この回転突撃は無重力だからこそ出来る技であり、重力下で行えば、セオドアの身体はバラバラになるだろう。

 

「っ!? あの化け物か! 敵さん、作業用機体相手に必死だな…!」

 

 そんな索敵を行っているセオドアのラッシュデストロイに、次なる敵が襲い掛かる。それはディビニダドだ。先ほどのラッシュデストロイの回転突撃を脅威と判断してか、ディビニダドを寄越したのだ。

 ディビニダドのメガ粒子砲攻撃を躱したセオドアは、敵も必死になっていると分かり、操縦桿を強く握った。

 

「ならば、やってやるまでよ!」

 

 覚悟を決めたセオドアは、ラッシュデストロイの胸部の三連装ビーム砲を放ち、ディビニダドとの死闘を開始した。




スパルタンも登場予定でしたが、次回にします。


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スパルタン、出撃

名前:ガッツ・ツキシマ
性別:男
年齢:31
階級:大尉
所属:スパルタン
乗機:デンドロビウム
概要:前コヴナント戦争で大多数が戦死したスパルタンⅢの生き残りの一人。
彼が乗るデンドロビウムのコアユニットはガンダムAEG-1。
キャラ提供は団子狐さん

名前:ビリー・ハワード
性別:男
年齢:41歳
階級:少佐
所属:スパルタン
乗機:ディープストライカーカスタム
概要:この上なくロマンを追求する奇特な男で、ロマンのためという理由のみでスパルタンⅣ計画に率先して志願した。
豪快(悪く言えば大雑把)で明るい性格で、その気質から慕うの部下も多い。趣味は映画鑑賞。
【ディープストライカーカスタム】
今回の作戦の為に整備員たちに無理言って改造させたカスタム機。コアユニットは正規品のガンダムAEG-1。
リミッターを外し、機体本体と武装、各部ジェネレーターの出力を限界ギリギリまで高め、更に新たな武装として、新型の対巨大目標用高性能ミサイルを各部に装備した。
〈弱点〉
・元々ピーキーな機体を短期間で無理に改造した為に機体バランスが大きく悪化、小回りが一切利かず、同じ機動兵器を相手にした戦闘がほぼ不可能
・機体の負荷が凄まじく、一回の作戦で十中八九機体がオシャカになる。
キャラ提供はrararaさん


 常軌を逸した試験艦隊の投入でも、コロニーは止まらない。

 これに焦る連邦軍の地球防衛本部は、スパルタンの予備戦力の投入を決定する。

 UNSC海軍所属のMS空母に搭載されたスパルタンの予備戦力は、前コヴナント戦争で多数が死傷したスパルタンⅢの残余と新規のスパルタンⅣの混成だ。スパルタンⅣの教官職であるはずのスパルタンⅢのジュンも含まれており、教え子らと共に出撃しようとしていた。

 

「お前ら、スパルタンとかガンダムタイプに乗ってるからと言って英雄になろうと思うなよ!」

 

 コロニー落し阻止の為に倉庫で誇りを被っていたディープストライカーに乗ろうとするスパルタン・ジュンは、教え子らや同期、後輩のスパルタンⅣ等に良い装備を貰っているからと言って英雄行為はするなと告げる。

 事実、彼は前コヴナント戦争で先輩に当たるスパルタンⅡや同期のスパルタンⅢ等の死を見て来た。後輩のスパルタンⅣの教官職に着いたのも、その悲劇を繰り返さないためである。

 尚、ディープストライカーはSガンダムのバリエーションの一つであり、アーガマ級のメガ粒子砲ユニットを右肩に装備した狂気の追加装備だ。当然ながら巨体であり、デンドロビウムも含めUNSC海軍の主力空母で無ければ収容できない。

 

「了解だ、スパルタン・ジュン」

 

 それに応えるように、ジュンと同じスパルタンⅢであるガッツ・ツキシマことスパルタン・ガッツは、デンドロビウムのコアユニットであるガンダムAEG-1に乗り込む。

 

「これがスパルタンとしての初陣になっちまうとはな…!」

 

 年齢は四十代で元地上軍の少佐であるビリー・パワードは、ロマンを追及すると言う理由でスパルタンⅣに参加し、見事にスパルタンとなった異色な男だ。そんなスパルタン・ビリーは今回の為に整備兵等に無理を言って改造したディープストライカーに乗り込む。そのコアユニットはガッツと同じAEG-1だ。

 ビリーのディープストライカーの何処か改造されたと言えば、リミッターは解除され、新たな武装として対巨大目標用高性能ミサイルが各部に装備されている。

 無論、無茶な改造で機体のバランスは大きく損なわれており、小回りが一切効かず、同じ機動兵器との戦闘はほぼ不可能だ。それに加え、負担も凄まじいので、出撃できるのはこの作戦限りだ。

 他のスパルタンの面々も各々の機体に乗り込み、母艦より出撃しようとする。

 

「ノーブルリーダー、スパルタン・ジュン。ディープストライカー、出撃する!」

 

 かつての所属していた部隊名を名乗ったジュンは、僚機のエクスバイン・ガンナー三機を率いて出撃した。

 

「イーグルリーダー、スパルタン・ガッツ。デンドロビウム、出撃する!」

 

 デンドロビウムに乗り込んだガッツも、僚機を率いてジュンのチームに続いて出撃する。

 

「ビリー・パワード、ディープストライカーで出る!」

 

 続けて専用のディープストライカーに乗ったビリーも出撃した。

 

「ん、あのデカ物は予備部隊か!」

 

 二挺拳銃のようにショートビームライフル二挺で戦闘を行うストライクノワールに乗るスパルタン・クラウドは、ジュンのディープストライカーやガッツのデンドロビウムを見て、予備部隊が出撃したと認識する。その光景は、損害を無視しながら阻止限界点まで突き進もうとする同盟軍にも見えており、直ぐに対応してくる。

 

『連邦軍の巨大MA部隊だ!』

 

『奴ら、こんな物までかくしてやがったのか! ぶっ潰せ!』

 

 アクシリオやソステード等の支援機に乗った同盟軍の様々な型の混成MS部隊は、カングリジョと呼ばれる蟹に似たMA複数と共にスパルタン部隊の増援を叩きに向かう。

 カングリジョは編隊を組み、左半身に詰め込んだメガ粒子砲をジュンらスパルタンの増援部隊に浴びせた。凄まじい高出力にビームの雨であるが、スパルタンたちが乗るMA染みたMS用装備にはIフィールドと呼ばれるビーム・バリアーが搭載されており、それでバリアーを持たない機動兵器を守った。

 

「び、ビーム・バリアーだ!」

 

 ビームで防がれたことに驚くカングリジョのパイロットに対し、ジュンはコアユニットのAEG-1の右手に握られたスマートドッズライフルで狙いをつてから引き金を引く。

 

「邪魔すんじゃねぇ! このカニ野郎が!!」

 

 邪魔をしてくる事に苛立つジュンが放った高出力ビームは、カングリジョの右半身を貫き、そのMAを撃破した。カングリジョの右半身には、左半身の大型メガ粒子砲を発射するための大型ジェネレーターが搭載されているのだ。そこを高い火力の武器で撃ち抜かれれば、カングリジョは呆気なく大破する。

 

『おのれ、ならば接近戦で!』

 

「ちっ、こいつに接近戦は!」

 

 弱点を見抜かれて次々と撃破される味方機に、残りのカングリジョは左右の蟹の腕によるクローで叩き潰そうと接近してくる。ジュンはディープストライカーが接近戦が苦手なことに気付き、回避行動を取ろうとしたが、そこはデンドロビウムを駆るガッツと追い付いた随伴機に窮地を助けられる。

 

『ガッツ!』

 

「あんまり前に出過ぎるなよ、ジュン! このデカ物は思ったより小回り効かねぇんだ!」

 

 接近戦を挑んだカングリジョを、デンドロビウムの大型ビームサーベルで切り裂いたガッツは、ジュンに前に出過ぎないように注意しながら、残りのカングリジョを随伴機と共に掃討していく。

 

『敵MS、一個大隊接近中! 嬉しくないな!!』

 

「そうかい! ならばこいつだ!!」

 

 邪魔なカングリジョを掃討し終えたスパルタン増援部隊に、後続の敵MS一個大隊が迫る。これにガッツはデンドロビウムのウェポンコンテナに搭載されたマクロミサイルコンテナを射出し、一気に掃討しよとする。右のコンテナより射出された三角柱状のマイクロミサイルコンテナは、一面三十六発、三面合わせて百八発の小型ミサイルを乱射する。

 

『み、ミサイル多数!』

 

 広範囲に放たれる多数の小型ミサイルに、増援部隊の排除に向かった同盟軍のMS大隊はかなりの被害を被る。残った残敵には、ジュンが駆るディープストライカーのスマートドッズライフルと、ガッツのデンドロビウムの本体のAEG-1のドッズライフルの掃射を受け、更なる損害を与える。

 

「くそっ、機体が安定しねぇ!」

 

 この残敵掃討戦に、ビリーのディープストライカーカスタムを加わるが、機体が更にピーキーさ故にスマートドッズライフルの照準が定まらず、三発も撃ち込んでようやく一機と言った所だ。

 随伴機の援護もあってか、自分たちの排除しに来たカングリジョ一個中隊とMS一個大隊の掃討は完了し、直ぐにコロニーへと向かう。

 

「これ、突破できるか…?」

 

『いくらこのデカ物でも、この激戦区は…』

 

『派手な花火は嫌いじゃねぇが、汚ねぇ花火になるのは御免だぜ」

 

 当然ながら、コロニー周辺は先と比べ物にならない程の激戦区であった。奇襲部隊をディビニダドに全滅させられた連邦軍は躍起になってコロニー落しを止めようと無茶な突撃を繰り返しているが、士気が上がった同盟軍に押し返される一方で、逆に阻止限界点まで着々と進まれている。

 常識を逸脱する兵器を満載した試験艦隊が敵の一翼を抑え込んでいたようだが、それ程長く押し止める訳が無く、押され始めている。スパルタンが加わったところで、状況が好転しそうにもない。

 

『どうする? 俺たちが加わっても大して変わりそうにねぇが』

 

『ロマンじゃねぇな、こいつは負け戦になりそうだ』

 

「こういう状況はリーチで経験済みだ。だが、ひっくり返してやる! 今の俺たちには出来るはずだ!」

 

 苦戦している友軍を見て、ガッツにビリーは自分たちが加勢したところで、大して変わりそうにないと苦言を漏らすが、リーチでの撤退戦を経験しているジュンは、今の自分たちなら状況を覆せると信じ、右肩のアーガマ級大型メガ粒子砲の照準を敵艦隊に定め、引き金を引いた。

 ただアーガマ級やアイリッシュ級の主砲を転用してさかさまに付けただけだが、対コヴナントの戦訓でシールドを貫通できるほどの火力を有しており、コロニーの盾になるように展開していたCRS級軽巡洋艦一隻の動力を撃ち抜き、一撃で撃沈した。

 

『へっ、こいつさえあれば! コロニー落しなんて!』

 

「フッ、ロマンだな! この為に改造したディープストライカー、俺も行くぜ!!」

 

 一隻の千メートル級の巡洋艦を沈めたジュンのディープストライカーが全速力でコロニーを目指す中、ビリーも影響されてか、リミッターを外した大型メガ粒子砲を撃ち込んだ。威力はジェネレーターの出力を限界ギリギリまで高めているために凄まじく、貫通力を現行の技術力で強化したプレーンに近いジュンのディープストライカーとは桁違いであり、火力は他の巡洋艦に劣るが、防御力はシールド無しでも高いRCS級装甲巡洋艦を貫いてしまうほどだ。

 

「もう砲身が焼きついたのか!?」

 

 流石に強化し過ぎた所為か、撃てるのは一発限りであり、ビリーは直ぐに右肩に着いた砲身が焼きついている大型メガ粒子砲を外し、各部に装備した対兄妹目標用高性能ミサイルを撃ち込むため、ジュンの後に続く。

 

「露払いは任せろ! イーグルチーム、一斉射!!」

 

 敵も当然ながら、接近してくるスパルタンチームの排除にコルベットやフリゲートの混成と機動兵器多数を仕向けて来る。これにスパルタン・ガッツ率いるイーグルチームは、露払いの為に一斉射を行う。

 ガッツが駆るデンドロビウムは左右のウェポンコンテナに搭載されたミサイルコンテナや各部対艦用ミサイル、右腕の大型メガ粒子砲を放てば、僚機も続いてフル装備していた火器を一斉に放った。ビームとミサイルの弾幕は接近する敵部隊に命中し、爆発の連鎖を巻き起こす。シールド付きのコヴナント軍のコルベットやフリゲートは耐えているようだが、対シールド用ミサイルも放たれているためか、耐え切れずに轟沈する。

 

「よし、全員突っ込め!」

 

 そんな爆発の連鎖の中を、ジュンのノーブルチームとビリーのディープストライカーカスタムが飛び込む。

 

『スパルタンが進路を開いたぞ! 後に続け!!』

 

『おぉーッ!!』

 

 ガッツのイーグルチームが開いた敵陣の穴に、付近の手の空いた一般将兵等の連邦軍部隊が続く。宇宙軍のみならず、宇宙海軍のスタルワート級軽フリゲートを含める部隊も続いた。




キリが良いのでここで投稿。これで全員かな?

次回でコロニー落し編、最終回となります。


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阻止限界点

ケツアゴさん
ただのおじさんさん
オリーブドライブさん
神谷主水さん
わかものさん
団子狐さん
kinonoさん
G-20さん
Rararaさん
秋音色の空さん
リオンテイルさん

ご応募いただき、ありがとうございました。


 コロニー落しを行う同盟軍の切り札、ディビニダドの投入によりコロニー群の阻止限界点まであと少しであった。

 その阻止限界点までにコロニーが一基でも達すれば、連邦軍は地球の核の冬の阻止の為、他の核弾頭と共にシヴァ核弾頭の大量使用をするつもりだ。

 このシヴァ核弾頭はかつてコヴナント戦争において、UNSC海軍が緊急事態において使用した。時には艦隊規模での使用を行い、惑星一つを敵艦隊諸とも消滅させたほどだ。

 

『コロニーが阻止限界点まであと三十分を切った。アースガーディアン隊、出撃待機を』

 

 シヴァ核弾頭ミサイルを搭載したロングソード級迎撃機や砲戦仕様のスタークジェガンを含める海軍の核攻撃隊がもしもの時に備え、同じく核攻撃を行う艦隊と共に待機している。無論、死守するための護衛機である多数のドートレス・ネオやウィンダム、クランシェも一緒だ。他にも核ミサイルを搭載したマルチランチャーを装備したウィンダムの編隊が、待機しているのが見える。

 

 無論、必死にコロニーを止めようとする味方が居ても、阻止限界点まで達した時点で発射される。即ち、地球を守るための致し方無い犠牲だ。

 だが、阻止限界地点でコロニー全てを核攻撃で全て破壊しても、その残骸などが地球に落下し、地上への被害は計り知れないだろう。

 

 そうはさせない為に、前線の連邦軍将兵は損害に構わず、必死にコロニーへと喰らい付こうとしていた。

 

「クソォォォッ! こんな化け物が出て来るなんて聞いてねぇぞォ!!」

 

 キングジョーを駆るデアは大型MAであるエレファンテを何とか全滅させたが、新手として現れたディビニダドに苦戦していた。ディビニダドはエレファンテとは段違いであり、たった一機でデアのキングジョーを圧倒している。

 分離機能と高い火力を活かした戦法でディビニダドに猛攻を仕掛けるが、威圧的な外見を持つディビニダドは光の巨人と戦った経験があるキングジョーでさえを上回る性能を有しており、苦戦を強いられていた。

 

「畜生が! こんな戦場、楽しくもなんともねぇ!」

 

 遊び半分でこの戦いに参加したデアであるが、いざ自分が不利になると不機嫌となり、逃げだそうとする。

 

「もう止めだ、こんな戦場! 楽しくもなんともねぇ! 未来のねぇ玉っころなんざに、大枚はたいたキングジョーを無駄に出来るかってんだ!!」

 

 ディビニダドに操っているキングジョーが圧倒されて大破状態となれば、デアは操っているクローンに命じて戦場からの離脱を命じるが、それを逃がすディビニダドではない。直ぐに追撃を行い、フェザーファンネルでハチの巣にした挙句、大型メガ粒子砲を撃ち込んでキングジョーを破壊してしまった。

 

「おい、嘘だろ!? こいつを調達するのに一体どれだけ掛かったと思ってんだ畜生が!! 本体の俺様が親父に、親父に殺されちまうよォ…っ! どうしてくれんだよ全く…!」

 

 キングジョーがディビニダドに何の反撃も出来ず、破壊されてしまったことに、遥か後方のステルスフリゲートの艦橋に居るデア本体は、大枚をはたいて作ったキングジョーが破壊されたことに落胆し、表向きは連邦の大商人、裏では闇商人の父親に殺されると嘆き始める。

 

「機体損耗率五十パーセント。離脱開始…離脱ではなく、緊急プロトコルに従い、コロニーへの自爆攻撃を開始。残るエネルギーをスラスターに回し、コロニーへの自爆攻撃を敢行!」

 

 お気に入りのキングジョーを破壊されて嘆く本体のデアを他所に、メカキングギドラのδⅢもディビニダドと交戦していた。同格の巨体と交戦したメカキングギドラも圧倒されており、δⅢは機体が限界なことを悟って離脱ではなく、コロニーへの特攻を開始した。

 δⅢが操るメカキングギドラは既に戦闘が出来る状態ではなく、首も一つしか残らず、本体も修復不可能なほどの損傷を負っていた。搭載AIは離脱ではなく、もしもの際に埋め込まれたプロトコルに従い、特攻を選んだのは無理もないだろう。

 

「奴め、特攻する気か!? 全力で阻止するのだ!!」

 

 引力光線を吐くのを止め、特攻を始めたメカキングギドラに対し、同盟軍は集中砲火を行うが、δⅢは一切の躊躇もなく標的にしたコロニーに向けて前進し続け、やがて厚い防衛線を突破し、攻撃を受けながらもその標的を目指す。

 

「自爆シークエンスを開始。自爆まで十秒。十、九、八、七…」

 

 標的まで目と鼻の先となれば、δⅢは自爆シークエンスを開始。そのままメカキングギドラが目標のコロニーに接触する頃には、自爆までのカウントはゼロになる。半壊どころか、原型を留めない程ボロボロとなったメカキングギドラは、標的のコロニーを巻き込んで自爆、いや、特攻してコロニーの一基を完全に破壊した。

 

「目標のコロニーに接触に成功。本部に成果データを送信」

 

 δⅢが自爆の寸前に、成果データを本部に送信していた。それがδⅢの最後の遺言であった。

 

「コロニーが一基落ちたぞ! 誰かは知らんが、良くやった!」

 

 乱戦状態の中で、接近して来た同盟軍機を二挺の90ミリマシンガンでハチの巣にドートレス改に乗るサマンサは、メカキングギドラが特攻で沈めたコロニーを見て歓喜する。優勢ながらも、コロニーを一基落された同盟軍のコロニー落し部隊は動揺しており、動きが乱れた。その隙を逃さず、連邦軍は再び猛追を掛ける。

 

「奴らの動きが乱れたぞ! 後に続けジョーンズ!」

 

 サマンサもコロニーに押し寄せる友軍と共に自分の大隊を率いて続いた。自機が先頭に立って、接近してくる敵機に対し、マシンガンを乱射しながら前進する。

 

「くぅ、やはり限界か! 脱出する!」

 

 その後へ続こうとするティアンナであったが、戦闘機であるセイバーフィッシュでは限界であったのか、同盟軍の猛反撃に合って撃墜されてしまう。無論、コクピットの部分には命中していないので、ティアンナは直ぐに脱出した。

 

「さて、回収艇は…あれに乗せてもらうか…!」

 

 脱出して宇宙空間を彷徨う事となったティアンナだが、運良く宇宙海軍のロングソード級迎撃機に回収してもらう事が出来た。停止してハッチを開ける海軍のパイロットが出したロープに掴まり、大型戦闘機の機内に避難させてもらう。その際にロングソードの乗員たちは、ティアンナのプロポーションを見て驚いた表情を浮かべていた。

 

「艦長、前に出なくて良いんですか?」

 

「ば、馬鹿! 俺たち見たいな素人が前に出たら、迷惑だろ! 俺たちは、僚艦と共に旗艦の護衛をやっていれば良いんだ!」

 

 大多数の宇宙軍と海軍の連合艦隊がコロニーに向けて突っ込む中、艦名の無いカロン級軽フリゲートの艦長であるソディックは、中破して工作艦から修理を受けるオータム級重巡洋艦の近くに艦を停泊させ、他のカロン級やスタルワート級軽フリゲート、ハルバート級駆逐艦、ジェガンJ型、ダガーL、アデルマークⅡ等の艦載機と共に警戒に当たっていた。

 余分の艦が何隻かコロニーの方へ援軍として向かう中、乗員の一人に向かわなくて良いのかと問われる。これにこの戦いで自分の艦長として技量の無さを痛感したソディックは、その乗員を叱り付け、自分らの任務が旗艦の護衛であると告げる。

 

「敵MA、我が艦隊の艦載機と僚艦を破壊しながらこちらに接近!」

 

「えぇい、こんな所に居られるか! 直ぐに後退しろ! あんなのが相手では、このジョージⅤ世が沈んでしまう!!」

 

 別の戦闘宙域では、あれほど余裕であったエジャートンはディビニダドの接近を知り、慌てながら溺愛するドゴス・ギア級宇宙戦艦「ジョージⅤ世」を後退させるように指示を飛ばす。

 エジャートンの第7機動艦隊とISA海軍の艦隊の戦域は、ディビニダドの到来によって同盟軍側が優勢であり、押されていた。味方を次々と撃破しながら迫るディビニダドに恐怖し、エジャートンは僚艦を盾にしてでも必死にジョージⅤ世と共に後方へ逃げようとしていた。

 

「ウォォォッ! あんなのに負けてたまるかぁ!!」

 

 エジャートンですら逃げようとするディビニダドに果敢に挑む者が居た。それはジェガンR型を駆るスコットだ。多数の友軍機を蹂躙するディビニダドにビームライフルを撃ちながら接近し、そこへバズーカを撃ち込む。

 

『あ、あいつ! 正気か!?』

 

『やられちまうぞ!』

 

 ディビニダドに単独で挑むスコット機に、ISAの者たちは無謀だと言っていた。当然だ、一個艦隊を単独で蹂躙するほどの性能だ。二級戦レベルのジェガンR型で挑むのはおかしい。

 

「クソっ、なんで死なねぇんだ!? 不死身かぁ!!」

 

 勢いでディビニダドに挑んだスコットであるが、自分の攻撃が全く通じないことに動揺を覚える。それでもスコットは果敢に挑み、ディビニダドに攻撃を続ける。

 蚊ほどの攻撃と見て、全くスコットのジェガンR型に見向きもせず、連邦軍の艦艇を沈め続けるディビニダドであるが、流石に鬱陶しいと思ってか、メガ粒子砲を撃ち込んでくる。飛んでくるビームを紙一重で躱したスコットは、自分の方にディビニダドが見ているのが分かり、武者震いを起こす。

 

「こ、怖ぇ~! だが、俺が鬱陶しいと思ってるってことだ!」

 

 武者震いではあるが、恐怖を感じているのは事実だ。これにスコットは勇気を出し、再びビームライフルを撃ち込もうとした瞬間、この無謀な戦いに参加する者たちが現れた。

 同じ宇宙軍であるシヅキのランチャーストライカーに換装した105ダガーと救援に来た第十一艦隊のホランが指揮するマゼラン改級戦艦「ヤナギ」、フェリクスのクランシェだ。スコットに影響されてか、救援に来たのだ。ヤナギの艦砲射撃とシヅキのランチャーストライカーのアグニによる砲撃が行われた後、フェリクスのMS形態のクランシェと複数の僚機による一斉射が行われる。

 

「あいつを野放しにするな! 砲身が焼き付くまで撃ち続けろ!!」

 

 ホランの号令の下、ヤナギの全主砲はディビニダドに高出力のビームを撃ち続ける。

 

「こいつを破壊しないと、俺やみんなが…! それまで、持ってくれよバッテリー!」

 

 アグニを撃ち続ける105ダガーに乗るシヅキは、バッテリーの残量を気にしながらディビニダドを撃ち続けた。

 

「なんとしてもこの怪物は破壊するんだ! 度胸を見せろ、お前ら!」

 

 シヅキに続き、フェリクスもドッズライフルを撃ちながら多数の友軍機に砲火を絶やすなと号令する。

 この思わぬ援軍に、ディビニダドはあらゆる兵装を使って薙ぎ払おうとするが、士気の高い彼らは怯むことなく、同盟軍機を排除しつつありったけの砲火を叩き込む。これに逃げようとしていたエジャートンのジョージⅤ世も加わった。

 

「味方の援軍が来たぞ! 今がチャンスだ! 主砲一斉射! 被害妄想症候群のナチス共をぶち殺せェ!!」

 

 先ほどの怯えぶりは何処へやら。味方の増援で気を取り直したエジャートンはジョージⅤ世を戦列に戻し、ヤナギと同じくディビニダドや突っ込んでくる同盟軍に砲火を浴びせる。

 

「騎兵隊の到着だァ! 派手に潰れろ! このモンスターめェ!!」

 

 援軍を得て喜ぶのはエジャートンだけではない。スコットも大いに喜び、自機のありったけの火力をディビニダドにぶつけた。

 多数の敵軍にディビニダドを前面に押し立てていた同盟軍部隊はかなりの被害を出し、やがてはそのディビニダドもスコットやエジャートン、シヅキにホラン、フェリクス等の猛攻の前に敗れ、搭載している核爆弾に引火して大爆発を起こす。その爆発は周囲の同盟軍機や艦艇を巻き込み、突撃部隊にかなりの被害をもたらした。

 

『ヒャッハー! 独立記念日だァーッ!!』

 

『おぉ、核爆発だ…!』

 

『核を搭載しているとは…! 我々の核攻撃を非難する立場では無いな! 同盟軍!』

 

『あんな物、コロニーと同じく、一機たりとで地球へは落としてはならんぞ!』

 

 ディビニダドが破れたことにより、同盟軍の突撃部隊は総崩れとなった。

 だが、彼らは攻撃の手を緩めない。ディビニダド一機でも、地球に核の冬を到来するほどの被害をもたらすのだ。それは核を満載しているコロニーも同様である。

 

「とにかく、コロニーに向かうぞ! 行くぞ!」

 

『応よッ! 自由を名乗るクソエイリアン共は根絶やしだぜ!』

 

『なんて野蛮な…!』

 

 フェリクスの号令の下、各機動兵器部隊はコロニーへの突撃を再開した。

 

『我が艦も行くぞ! 艦載機に続け!』

 

「わ、私は下がるぞ。予備として控えねばならんからな! 我が艦隊の損害は再編が必要だ!」

 

 ホランのヤナギも僚艦に続けてコロニーへと突撃する中、エジャートンのジョージⅤ世は後方へ下がるのであった。

 

「おい、なんで私のジョージⅤ世は修理できんのだ!? 中破しているのだぞ!!」

 

『貴方の艦は自力で修復できます! そちらで対処して!』

 

「くっ、なんて女だ! 私の船は傷だらけなんだぞ!」

 

 エジャートンの艦隊が下がったのは、ガリア級高速工作艦で編成された工作艦隊だ。そこにはヴィクトーリアのアカシも居り、大破した味方艦の修理を行っていた。そこにエジャートンのジョージⅤ世も来たが、自力で直せると言われ、激怒する。

 

「ふぅ、コロニーはこっちに来ないだろうな…」

 

 初の戦闘を終え、無事に生き延びたフリードリヒは、コロニーがこちらへ来ないことを祈る。

 

「えぇい、こんなスパルタンの出来損ない共に!」

 

 一方でヴィクトーリア等が先ほどまで居た後方地帯では、同盟軍の後方錯乱部隊と生体CPU達との決着が着こうとしていた。

 ゲイツRをコアユニットとしたミーティアとの戦いにエールカラミティガンダムで挑んだラウラは、敵機の両腕に装備された高出力ビーム砲二門を複合兵装アドラーのハンマーモードで破壊し、相手の懐に入り込み、そのハンマーを本体へと叩き込もうとした。

 

『ただで死ねるか!』

 

「…無駄」

 

 ハンマーを叩き込まれる前にサンヘイリのウルトラ階級の戦士は、ゲイツRの両腰に装備されらレールガンを展開して至近距離から撃ち込もうとしたが、あっさりと躱されてハンマーを本体に叩き込まれてしまった。当然、振り落とされたハンマーはシールドを貫通するほどの威力であり、それがコクピットがある胴体に叩き込まれたので、乗っていた戦士は叩き潰された。

 

「目標、撃破…」

 

『補給後、直ちにコロニーに突撃する部隊と合流しろ』

 

「了解」

 

 ミーティアを撃破したラウラは、他の生体CPU等と共にそのまま母艦へと帰投した。

 

「不味いわね…! 予想はしてたけど、やっぱりアレを使わないと…!」

 

 一翼を一時的に足止めしていた試験艦隊であるが、遂に限界を迎え、逆に押されつつあった。ありったけのミサイルを撃ち尽くした試験艦隊に、同盟軍は反撃して来たのだ。次々と撃破されていく僚艦や艦載機を見て、オリオン級ミサイル母艦の艦長であるカーティスは、温存してあったある物を使う決断をする。

 

「僚艦、次々と轟沈!」

 

「こちらにも敵MAが!」

 

「迷ってる暇は無さそうね…! 秘匿ミサイル、コロニーに向けて発射!」

 

 もう一機のディビニダドによって防空特化型のサラミス改級が次々と沈められていく中、カーティスのオリオン級ミサイル母艦にもディビニダドが迫り、撃沈しようとメガ粒子砲を撃ち込んでくる。ディビニダドに取り付かれれば、全長800メートルのオリオン級とで沈むのは時間の問題なので、カーティスは迷っている暇は無いと判断し、奥の手の秘匿ミサイルを使うように指示を出した。

 

「で、ですがあれは…!」

 

「良いから使いなさい! 使わぬ後悔よりも使ってからの後悔よ!」

 

 部下より反対されたが、カーティスは使わぬよりも使ってからの後悔と言って、秘匿ミサイルをコロニーに向けて撃ち込んだ。その秘匿ミサイルは、MSの融合炉を使った核ミサイルであり、それなりの数を用意してあった。それをカーティスは全弾コロニーに向けて撃ち込み、二十九基中、三つのコロニーの破壊し、周辺の二基のコロニーを巻き込み、五基の破壊に成功する。

 

「こ、コロニー三基、いや、五基の破壊を確認!」

 

「死なば諸ともってね!」

 

 苦し紛れに放った核ミサイルが五期のコロニーの破壊に成功したことで、カーティスの後悔は無かった。そのまま艦橋まで迫ったディビニダドによって、艦共々殺されると思っていた。だが、救援に駆け付けたスパルタン・クラウドのストライクノワールガンダムに救助される。

 

『試験艦隊、大丈夫か!?』

 

「あぁ、軍法会議に掛けられる…」

 

 無事を問うクラウドに、カーティスは答えることなく秘匿ミサイルを無断で使用した件で、軍法会議に掛けられると項垂れた。

 そのオリオン級ミサイル母艦を襲っていたディビニダドは、クラウドを初めとするスパルタンたちの猛追で撃破される。クラウドらも無事では済まなかったが、脅威は確実に取り除かれつつあった。

 

「ぬぉぁぁぁッ!!」

 

 更にディビニダドは数を減らす。ディビニダドのフェザーファンネルなどの攻撃で半壊のラッシュデストロイを駆るセオドアは、まだ生きているスラスターをフルに稼働させ、残っている右手に握られた機体サイズのビームサーベルで切り裂こうと接近する。

 接近してくるラッシュデストロイにディビニダドはフェザーファンネルを全基展開して撃破を試みるが、半壊状態でもビーム・バリアーと高機動力が健在のラッシュデストロイは物ともせず、サーベルの間合いまで接近すれば、直ぐに巨大なビームの刃をディビニダドに振り降ろす。

 

「無駄だァ! 逝けェェェッ!!」

 

 これにディビニダドは至近距離からのビームを撃ち込み、撃破しようにもビーム・バリアーの無い状態でも一撃の撃破は困難を極める。そこが分かっているセオドアは雄叫びを上げながらサーベルを振り降ろし、ディビニダドの巨体を両断した。

 胴体を切り裂かれ、内蔵している核融合炉まで切り裂かれたディビニダドが核爆発を起こそうとする中、セオドアのラッシュデストロイは直ぐに安全圏まで離れ、そこからディビニダドの核爆発を見守る。

 

「あぁ、ボロボロだ…! 直せっかな、こいつ」

 

 ディビニダドを撃破した後、セオドアは半壊して動けるのが奇跡なラッシュデストロイの損傷状況を見て、直せるかどうか頭を悩ます。

 

「退けっ! 邪魔だぁ!!」

 

 残り二十四基となったコロニーに、ジュンやガッツ、ビリー等のスパルタンとUNSC海軍の混成部隊は損害に構わず、付近の所属の違う友軍部隊を指揮下に収めながら突っ込んでいた。ディープストライカーを駆るスパルタン・ジュンは、アーガマ級メガ粒子砲を撃ち込み、進路上の邪魔となる敵艦を撃沈する。

 

「畜生! クソォォォッ! ずぁぁぁッ!!」

 

 UNSCやISAと同じ宇宙海軍であるため、スパルタンと他の混成部隊の指揮下に入れられたメトは、乗り換えたばかりのスコープドッグで周辺から次々と押し寄せる同盟軍機に向け、ヘビィマシンガンを乱射していた。消耗品の如く破壊されていくスコープドッグで、乗機を撃破されながらも無事に生き延び、また戦っているメトは強運の持ち主に違いない。

 生き延びたとしても、別の地獄が待っているわけだが、今のメトにそれを考えている暇は無い。ただ向かってくる敵を撃ち落とし、この戦いに生き延びる事が先決なのだ。それしか頭に無いメトは、向かってくる敵機を撃破しながら味方の前進を支援する。

 

「左舷に敵MA!」

 

「えっ、キャァァァ!?」

 

 突撃部隊に合流した連邦宇宙海軍の主力艦「ロバート」号に乗る艦長であるマリアは、レーダー手の報告でディビニダドが自分の方に迫っていると知り、悲鳴を上げる。ディビニダドに目を付けられたら、沈んだも同じだ。それが分かったマリアであったが、大破寸前のザムザザーがディビニダドに突っ込む。

 そのザムザザーに乗っているのは、否、搭載されたBC07013Tだ。守るべきぺルグランテはディビニダドと相討ちで破壊されており、どうしようかさえ考えられない脳だけのクローンは、最大の脅威であるディビニダドへ特攻と言う決断に至ったのだ。

 向かってくるザムザザーに気付いたディビニダドはフェザーファンネルを展開して撃破を試みるも、自分の命も省みないBC07013Tはダメージを受けても目標へただ向かい、やがて激突して大破する。

 上層部の予想通り、BC07013Tを初めとした廃棄処分予定の生体CPU等は目標を達成し、見事にこの戦いで全滅した。

 

「とどめだァ!!」

 

 BC07013Tに特攻されたディビニダドはまだ生きていたが、スパルタン・ガッツの駆るデンドロビウムの大型ビームサーベルで胴体を切り裂かれ、真っ二つにされて撃破される。

 

「爆導索で!」

 

 瀕死のディビニダドを撃破した後、ガッツのデンドロビウムは本機の機動力を生かして敵機雷原突破用の兵装を敵集団に向けて投げ付け、多数の敵を撃破して突破口を開く。その開いた穴からビリーのディープストライカーカスタムが突き進む。

 

「ウォォォッ! こいつでぇ!」

 

 射線上に敵機が居ないのを確認すれば、ビリーはディープストライカーカスタムの各所に装備された対巨大目標用高性能ミサイル全弾をコロニーに向けて撃ち込んだ。

 発射された六発の巨大目標用のミサイルは、標的にしたコロニーに向かって行き、周辺に張り付いている護衛艦に六発中、一発が迎撃されて破壊されたが、残り五発はコロニーに命中し、その名の通り見事に目標を破壊した。爆発で生じた破片は周囲の敵機と敵艦、それに六基ほどのコロニーを巻き込んだ。残り十三基だ。

 

「コロニーの破壊をまた確認! 残り十三基!」

 

「突撃した友軍より報告! デストロイガンダム数十機による攻撃で更にコロニーの撃破に成功! 残り九基です!」

 

「よし、このまま!」

 

 地球防衛本部として使われているISA海軍の軌道ステーションで、次々と来るコロニー破壊の報告に上層部や司令官は歓喜する。だが、それは長くは続かない。残り九機となったところで、突撃部隊は息切れを起こしたのだ。

 

「突撃した宇宙軍並び海軍、被害が拡大中!」

 

「戦力半減! 各艦隊、増援を要請中! このままでは全滅します!」

 

 決死の覚悟で敵陣に突っ込んだ宇宙軍並び海軍の連合艦隊であったが、同盟軍のコロニー落し部隊と同じく息切れであった。それでも、コロニーは九基も生きており、地球を破壊できなくとも、確実に生命が存在しない死の星に変える事は可能だ。

 

「し、司令官…!」

 

「むぅ、突撃した全艦隊に、玉砕してでもコロニーの破壊を命じるしか…!」

 

 次々と来る芳しくない状況の報告に、司令官は地球防衛に参加した全艦隊に玉砕命令を掛けてでもコロニーを破壊する他ないと判断し、その司令を出そうとした。地球を守るためなら致し方ない犠牲だと思い、固唾を飲みながら玉砕命令を出そうとした司令官であるが、ここで援軍が到着する。

 それは、UNSCのみららず、連邦軍で最強と謡われているインフィニティ級戦艦一番艦「インフィニティ」であった。

 

 

 

「やっと着いた! 全艦戦闘態勢! これより我がインフィニティはコロニー群へ突撃し、全てのコロニーを破壊する! 我々の到着まで耐え抜いた彼らの犠牲を無駄にするな!!」

 

 コロニー群の後方にワープで現れたインフィニティ級戦艦は、艦長であるラスキーの号令の下、コロニー群に向けて巨艦の腹に抱えたストライデント級重フリゲート十隻とスパルタンチームを展開しながら突撃する。大分急いでいたようだが、地球圏から離れていたために遅れたようだ。

 

「こ、後方にインフィニティ出現!!」

 

「なんだと! インフィニティは地球圏から離れた場所に居るんじゃないのか!?」

 

 インフィニティ出現の報告を聞いた同盟軍は慌てふためていた。インフィニティは彼らの言う通り、地球圏から離れた距離に居た。地球への救援が間に合わないと思っていた同盟軍であるが、フォアランナー由来のエンジンを使うインフィニティは、こうして同盟軍の予想を裏切ってコロニーが阻止限界点まで目と鼻の先に迫った時期に現れた。

 

「突っ込んできた連邦の奴らは現状の戦力で構わん! インフィニティに集中だ! 何としても奴らを、奴らを全力で止めろォーッ!!」

 

 人類最強の部隊として名高いインフィニティに対し、同盟軍は残る余剰戦力を全てぶつけるが、コヴナント戦争中の決戦兵器として、戦後のUNSC海軍復活の象徴として建造された全長五千メートルの巨艦は止められない。ディビニダドが搭載している核ミサイルを放つが、シールドで容易く防がれてしまう。

 

「うわぁぁぁ!」

 

「核ミサイル、船首に命中! シールドの二十パーセントを喪失!」

 

「怯むな! 艦にコロニーを突っ込ませるだけを考えろォ! 行けェ!!」

 

 核ミサイルですら止められない巨艦であるが、艦内に凄まじい振動が伝わる。それでも、ラスキーは怯まずに目前のコロニーへ艦を全速力で向かわせる。迫り来る巨艦は、進路上全ての物を圧し潰しながらコロニーへと向かう。あれほど強力であったディビニダドでさえ、インフィニティの巨艦に轢かれて叩き潰される。

 

「面舵! 面舵ィ!」

 

「間に合いません!」

 

「ワァァァッ!?」

 

 インフィニティの進路上にある全て物は、轢き潰されるだけだ。そのままインフィニティはコロニーへと突っ込んで巨体と速力の勢いでコロニーを圧し潰した。続けて二基目や三期目と突っ込んだり、単独でコヴナント軍の一個艦隊とやり合えるほどの火器を撃ち込んで潰していく。

 

「我々はMAのディビニダドをやる。ファイヤーチーム、行くぞ!」

 

 展開した十隻のストライデント級重フリゲートは、同じく展開されたスパルタンチームと共にコロニーへの攻撃を始める。エクスバイン・ガンナーを駆るスパルタン・ロックは、自分のチームを率いてディビニダドの排除に向かう。同レベルな化け物との交戦経験があるファイアーチームにとって、ディビニダドは手強い相手では無かった。数々の経験が、インフィニティやスパルタンⅣのファイヤーチームを最強部隊として成長させたのだ。

 一機目のディビニダドを落とせば、次のディビニダドの排除に向かう。他のスパルタンチームも、三チーム掛かりでディビニダドやその他のMAの対応に当たっていた。

 

「先輩たちが抑えている間に!」

 

「えぇ! 私たちはコロニーを!!」

 

 復元されたガンダム試作三号機をコアユニットとしたデンドロビウムを駆るスパルタンⅣのミカとレイナは、ストライデント級二隻と共にコロニーの排除に向かう。ストライデント級の援護を受けつつ、二人のスパルタンが駆るデンドロビウムはマイクロミサイルコンテナを全基発射し、慌てて自分らの迎撃に向かう同盟軍部隊を一掃する。

 

「レイナ、コロニーデストロイヤーを!」

 

「えぇ!」

 

 爆発の連鎖が巻き起こる戦場の中を駆け抜ければ、コロニー破壊用のミサイルを発射した。そのコロニーデストロイヤーと呼ばれるミサイルは、標的にしたコロニーに向かって飛んでいき、一撃でコロニーを破壊する。それを何発かウェポンコンテナに搭載しており、撃てる限り撃ち込んでコロニーを破壊し続ける。展開されたストライデント級にもコロニーデストロイヤーが搭載されており、インフィニティが向かえない場所にあるコロニー破壊の方に展開されたストライデント級がそれを撃ち込み、コロニーを破壊していた。

 

「プラズマダイバーミサイル発射!」

 

 阻止限界点まで突き進むコロニーに向け、インフィニティはシヴァ核弾頭の代わりの奥の手として搭載していたプラズマダイバーミサイルを発射した。発射されたそのミサイルは、最後のコロニーに向けて飛んでいき、命中してコロニーを見事に破壊した。残るコロニーも、連邦の連合艦隊による決死攻撃やストライデント級のミサイル攻撃で沈んでいき、ディビニダドもスパルタンや決死隊による攻撃で全滅する。

 こうして、連邦軍の決死攻撃やインフィニティの予想外の出現により、同盟軍による狂気のコロニー落し作戦は失敗した。コロニーとディビニダド全滅の報告を聞いたコロニー落し作戦の指揮官は、茫然として膝から崩れ落ちる。

 

「お、終わった…! 俺は終わりだ…!」




これで終わりです。

参加者の皆様、ご応募いただき、ありがとうございました。

次はエピローグの後、次の企画へと移りたいと思います。


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コロニー落しの失敗

さて、ガルダーゴンの前に移動しなくちゃ…

今週のネタバレ。

ラスキー「シルバー、チャリオッツッ!!」


 同盟軍の起死回生と言うか、地球破壊を目的としたコロニー三十基による狂気のコロニー落し作戦は、連邦軍の決死の抵抗と人類最強の船であるインフィニティの出現によって失敗した。

 作戦を玉砕覚悟で達成しようとした同盟軍艦隊は、成功の要であるコロニーとMAのディビニダドを失い、敗走状態であった。

 

「地球を破壊せんとした極悪のエイリアン共を一人残らず逃すなァ! 皆殺しだぁ!!」

 

 あれほど我が身可愛さに震えていた三輪であるが、連邦軍や優先になった途端にいつもの極右軍人に戻り、自軍の勢力圏内へと逃げる同盟軍艦隊の追撃に入る。宇宙軍・宇宙海軍の連合艦隊は既に疲弊しきっているが、三輪に無茶を言われ、何隻かがなけなしの追撃を仕掛ける。だが、命令に従わぬ艦隊は幾つかあった。

 

「三輪元帥より追撃命令が来てますが?」

 

「俺たちは核攻撃隊だぞ? 追撃は不要だ。それより核弾頭に安全装置(セーフティー)を掛けろ。その後に、友軍の救助活動だ」

 

 後方で待機しているまだ元気な宇宙軍と海軍の核攻撃部隊に、三輪の追撃命令が出たが、彼らは無視して核弾頭に安全装置を掛け、味方の救助活動に向かう。

 

「この状況で追撃命令? 無視しろ! こちらは被害甚大なんだ! 出来る訳が無いだろ!」

 

 三輪の命令を無視するのは、後方で控えているまだ元気な核攻撃隊だけではない。コロニー落し阻止で消耗しきった宇宙軍部隊も無視して、後方へと下がり始める。追撃できる程の弾薬やエネルギーなど持ち合わせていないのだ。

 

「フッド卿、三輪元帥より追撃命令が出されていますが…」

 

「そんな下らん命令など無視しろ! 動ける艦艇は、動けん艦艇の乗員の救助活動だ! 手足のある機動兵器もそれを手伝え! 損傷の激しい機体は放棄しろ! 人命を優先だ!!」

 

「はっ!」

 

 UNSC海軍地球防衛艦隊の旗艦である戦艦と言って良いほどの武装を誇るヴァリアント級超巡洋艦の艦橋内で、提督であるフッド卿が三輪の命令を一蹴し、傘下の動ける全ての艦艇に救助活動を指示していた。

 

「このヴァリアントにも病院船として使っても構わん! 所属を問わず、敵兵でも出来る限り多くの人命を救出するのだ!」

 

『アイアイサー!』

 

 フッド卿は敵味方所属を問わず、人命優先で自分の座乗艦も病院船として使っても構わないと告げた。この人道的な命令に、海軍の将兵等は従い、敵味方問わず、フッド卿指揮下の艦隊は、後方で控えている病院船と言った支援艦などを動員して救助活動を行う。

 

『な、何をする!? ISA!!』

 

『うるせぇ! エイリアン共なんぞ助けるんじゃねぇ! こいつ等はコロニーの住人を皆殺にしたんだぞ! 生かして置けるか!!』

 

 この人道的な救助活動に、異議を唱える者が居た。怒りに囚われて逃げ遅れた敵兵らを虐殺する連邦の兵士も居り、敵味方問わず救助活動を行う海軍所属のジェノアスⅡが、大破したジンに近付こうとした瞬間、同じ海軍のISA所属のドートレス・ネオがそのジンを撃破してしまった。

 これを自衛用に持っていたドッズライフルを向け、止めるように告げるが、宇宙軍所属のジェガンJ型やストライクダガーと言った機体は、逃げ遅れた同盟軍機を破壊し始める。

 

『や、止めろ! 降伏してるだろ!?』

 

「エイリアンの捕虜なんざいらねぇんだよ!」

 

 逃げ遅れた同盟軍機が武器を捨てて降伏するも、興奮状態のGキャノンのパイロットは聞かず、手にしているライフルで撃ち抜き、続けて取り残された敵機と敵艦に攻撃し始める。行動不能になった機体もその対象だ。

 地球を破壊するほどのコロニー落しが余ほど頭に来たのだろうが、これは流石にやり過ぎである。

 

「止めろお前ら! こいつ等は戦意を喪失してるんだぞ!? これ以上戦う必要が何処にあるってんだ!?」

 

 エネルギーを使い果たしたディープストライカーから通常のガンダムAEG-1に換装したスパルタン・ジュンは、戦意の無い敵軍に襲い掛かる友軍を止めに入るが、スパルタンでも、怒りに燃える味方を止めるのは至難の業であった。

 これに作戦が失敗し、敗走状態の友軍が虐殺されているのを見た同盟軍の作戦指揮官は、ある決断をする。

 

「ぬぅ、この状況打破の作戦を失敗した私にできる事はただ一つ…! このCSO級大型空母を殿とし、一隻でも多く、後の戦局の為に生存させるのだ!!」

 

 後の戦いに備え、味方を少しでも有利にすべく、一隻でも多く自軍勢力内に戻すため、自分の艦を囮にするという物であった。インフィニティの五倍近くの全長を誇り、コロニーほどに大きく、コヴナント海軍最大のCSO級大型空母なら、損耗した連邦軍の追撃艦隊を止めるのは容易だ。

 

「インフィニティにも追撃命令? こっちはコロニーに三基も突っ込んだんだぞォ! もうシールドも船体も限界だ! 展開されたストライデント級重フリゲート十隻とスパルタン部隊も同様になッ!! 追撃は現状の戦力でやれ! 以上ッ!」

 

 問題は人類最強の戦艦であるインフィニティであるが、流石にコロニー三基に突っ込んで船体は無事では済まないのか、決死隊と同様に限界であった。展開されたストライデント級重フリゲート十隻とスパルタン部隊も同様で、補給を必要とする程であった。

 

「どの隊も、追撃命令を拒否してます!」

 

「どいつもこいつも、ワシの命令を断りよって! 敵は馬鹿でかい戦艦か空母か良く分からんのが一隻だ! 叩き潰してしまえ!!」

 

「あ、あれはCSO級大型空母です! 一隻でも我が宇宙軍艦隊と渡り合う事が…」

 

「黙れェ! 敵は手負いなんだぞ! ここで大人しく返せば、敵は有利になる! 奴らを全て潰さねば、後の戦局に大きく影響する! やるのだ!!」

 

 副官がCSO級大型空母が相手であるというが、三輪は手負いの敵と見て聞かず、無理に追撃命令を出した。

 

『とっ、突破できない! うわぁぁぁっ!!』

 

 当然、三輪の追撃艦隊はインフィニティの五倍ほどの巨大空母を前に返り討ちにされた。

 コヴナント戦争時代、UNSC海軍にとって一隻でも脅威であったCSO級大型空母は、士気の低い三輪の追撃艦隊を、艦載機も出さずに搭載火器で圧倒したのだ。機動力を誇る機動兵器ですら、その弾幕を前に近付けずに撃破されるばかりだ。艦艇も同様である。

 

「あ、あんな馬鹿でかい空母か戦艦か分からん手負いの艦に、追撃艦隊が…!」

 

 決死のステルス攻撃でようやく撃沈出来たCSO級大型空母だというのに、それを真正面から全長五百メートル以下の艦艇の艦隊が雁首揃えて挑んで勝てるはずが無く、溶けるように艦載機と共に次々と破壊されていく。次々と破壊されていく味方に、三輪は慌て様にISAかUCAに救援を要請する。

 

「な、何たる様だ! ISAかUCAは!? なぜ要請に応じない!?」

 

「双方、損耗が激しく応じられないと…!」

 

 この三輪の無茶な要請に応じる者は居なかった。せっかく生き延びたのに、無駄に強力な手負いの敵を追撃して死ぬなど馬鹿げているからだ。

 一方でCSO級大型空母が殿を務める間、同盟軍の残存艦艇は安全圏への退避に成功し、同盟軍の勢力圏内へワープしていく。最後のアサルトシップが安全圏へ向かおうとする中、作戦指揮官は乗員と部下等に退避を命じる。

 

「よし、ここまで来れば! お前たち、直ちに搭載艦で退艦しろ! 乗れぬ者は脱出艇で退艦し、我々を待ってくれているアサルトシップに拾ってもらえ! 後は私一人でやる!」

 

「はっ! 閣下がくれたお命、無駄にはしません! 失礼!!」

 

 この退艦命令に、部下たちは従って脱出艇やCSO級大型空母が搭載している駆逐艦やフリゲートに乗って退艦していく。だが、何名かが残っていた。金色のアーマーを身に纏うCSO級大型空母の艦長であるサンヘイリと、彼を慕う数名のサンヘイリの乗員たちである。

 

「サンヘイリの艦長、私につき合うことは無いぞ!」

 

「これは私の船だ! この船と運命を共にするのが我が誉! コロニーほどではないが、この船を地球へ落せば、核何発分かのダメージを与えられるはず!」

 

「我らも続きます! 艦長殿!」

 

『我々も!』

 

「お、お前たち…!」

 

 同盟軍の残存艦隊を脱出させるため、このCSO級大型空母に地球へ落そうとしていた。艦長が出した提案に、作戦指揮官は涙して了承。数名の志願者と共に彼らは地球への特攻を開始した。

 

「奴がこっちに突っ込んでくるぞ!」

 

 覚悟を決めた作戦指揮官とそれに同伴する艦長らが乗るCSO級大型空母が、全速力でこちらに突っ込んでくるのを見た連邦軍は退避行動を取る。その進路が、地球へと向かっているのを気付いたのは、数秒後であった。

 

「いかんッ! 奴は地球へ突っ込むつもりだッ! あの馬鹿でかい船でも、コロニーほどではないが、確実に地球にはダメージを与えられる! 集中砲火して沈めろォ!!」

 

 最初に気付いたのはラスキーであった。直ぐにありったけの艦砲射撃を行うが、インフィニティより五倍の大きさはある巨大空母を撃沈するのは困難だ。他の艦艇の攻撃もあるが、それでも五倍近くは大きい敵艦に致命傷を与えられても、撃沈には至らず、防衛司令部として使われている地球防衛ステーションまでの接近を許す。

 

「CSO級、こちらに接近!!」

 

「全火砲を集中しろ! 地球に落としてはならん!!」

 

 シールドが消え去り、全体が燃え盛りながら地球に突っ込んでくるCSO級に対し、ステーションに搭載されたありとあらゆる火砲が火を噴く。これほどの攻撃にも関わらず、巨艦故に撃沈には至らないが、決死攻撃の甲斐もあってか、防衛ステーションを避けられた。

 このまま地球への落下コースへと入ったCSO級であるが、落ちたとしても地球に対してダメージは与えられないほど船体は削られ、原型を留めていない。これに大気圏の熱が加わり、船体を更に焼き尽くしていく。

 

「オォォォッ! 地球が、地球が燃えているぞォ!! 作戦は成功だァ! 自由惑星同盟の勝利だ! 自由惑星同盟万歳! 万歳!!」

 

 燃え盛る艦橋内にて、同行した艦長を含める乗員たちは攻撃で死亡し、残った作戦指揮官は地球が燃え盛る幻影を見て、勝利と万歳を叫びながら焼け死んだ。

 その後、大気圏を突破したCSO級の残骸は何もない荒野に突き刺さり、作戦に参加し、戦死した全ての同盟軍将兵の墓標となった。

 

 この同盟軍の狂気のコロニー落し作戦における激戦は、双方、夥しい数の戦死者を出して幕を下ろした。

 だが、戦争はまだ終わらない。これからも、連邦と同盟の双方は大地を染め上げる程の血を流しながら戦い続けるのだ。それを脇から見て楽しむ男の為に…。

 

 

 

 それから時は流れ、連邦と同盟の双方は惑星ガルダーゴンの周辺を決戦場とした。

 宇宙では両軍の凄まじい数の艦隊が互いにぶつかり合い、爆発の連鎖が巻き起こる。消えてはまた現れるその光が、命が一つか、多数の命が消える瞬間だ。

 地上でも上陸した連邦軍の大群に対し、同盟軍の決死の抵抗によって、大地が染まるほどの血が流されている。枠線全土とその周辺は、瞬く間に地獄絵図と化した。

 

「お前のうめき声を聞かせてみろ…!」

 

 この宇宙での決戦において、ドートレス・ネオに乗り換えたサマンサ・ウィンフレッド・ハットン宇宙軍中佐は、両腕のビームガンで複数の敵機を撃破した後、ビームサーベルを抜き、重MSであるクラウダの攻撃を躱し切り、スラスターの噴出口にサーベルを突き刺しながら告げる。

 

「このコスモグラスパーなら、お前たちには負けん!」

 

 同じくセイバーフィッシュから、宇宙用戦闘機であるコスモグラスパーに乗り換えたティアンナ・ロックサイト大尉は、搭載火器の中口径キャノン砲や旋回式ビーム砲で複数の敵機を撃破しつつ、元となったスカイグラスパーと同じくランチャーストライカーを装備し、アグニやミサイル、バルカン砲などで更に敵機や敵艦を撃破していく。

 

「くそ、逃げたツケが激戦区送りか! このジョージⅤ世に近付けるなよ! 僚艦にもそう伝えろ!!」

 

 乗艦はドゴス・ギア級宇宙戦艦「ジョージⅤ世」のままのハーバート・サザーランド・エジャートン少将は激戦送りになった事に腹を立てつつ、傘下の艦隊に自分の艦に近付けないように指示を出す。これに応じ、彼のジョージⅤ世の火砲と僚艦に艦載機は、近付いて来る敵機や敵艦に猛攻を浴びせる。

 

「コロニー民をジェノサイドしやがるテメエらクズはな!八つ裂きにしてブリテンのクソッタレ紅茶と一緒にボストンの海に放り投げてやるんだよ!」

 

 多連装ミサイルポッドのストライカーを装備したウィンダムに乗るスコット・ナジマ大尉は、両腰からスティレット対装甲徹甲入弾を投擲して狙った敵機を撃破した後、ミサイルポッドランチャーを複数の敵機に向けて放ち、何機かを撃破する。

 

「止して下さいよ…俺は戦いが怖いですが、死ぬのが怖いから…戦ってるんです」

 

 誰かと会話しているソードストライカー装備の105ダガーを駆るシヅキ・カザナミ中尉は、近付く敵機を対艦刀で切り裂きながら答える。

 

「その考えを忘れるな、若造。守ることも大事だが、生きることも忘れるなよ」

 

 その近くには艦砲射撃と対空砲火を行うマゼラン改級戦艦「ヤナギ」が居り、艦長のホラン・タカツキ大佐はシヅキに生きる事を忘れるなと言いつつ、周囲に目を配る。

 

「クランシェカスタムの機動力を恐れるが良い!!」

 

 クランシェカスタムを駆るフェリックス・アグネットは、乗機のクランシェカスタムの機動力を生かし、飛行形態で一機を撃破した後、人型形態に変形し、敵艦の艦橋にビームサーベルを突き刺す。

 

「例え、デンドロビウムじゃなくたってな!」

 

 アルトアイゼン・ナハトを駆るスパルタン・ガッツことガッツ・ツキシマは、右腕に装備されたパイルバンカーであるリボルビング・ステークで重装甲の敵機を貫き、直ぐに引き抜いて爆発から離れる。

 

「正式採用型に不満だけど、ミサイル弾幕は出来るわ!」

 

 廃艦の流用とは言え、正式採用されたオリオン級ミサイル艦の艦長を務めるカースティ・サージェント技術中佐は、正式採用艦に不満を漏らしつつも、各所に装備されたアーチャーミサイルによる弾幕で、味方艦隊の前進を支援する。

 

「あれがあればな…」

 

 セオドア・フォラント中佐は、地球防衛戦で乗っていたラッシュデストロイが不採用にされた事に不満を漏らしつつ、いま乗っているソードカラミティガンダムの両手に握られたソードで、近付いて来る敵機を切り裂き続けていた。

 

「修理急いで! 次が来るわよ!」

 

 修理艦隊所属のヴィクトーリア・ヴィルヘルミナ・フリーデリーケ・フォン・ティルピッツ技術大佐は、ガリア級高速工作艦「アカシ」に収容した味方艦の修理を急ぐように急かしていた。

 

「これで良いぞ! 次!」

 

 同艦隊所属のフリードリヒ・ヴィルヘルム・ペーター・フォン・ハノーファー大尉は、自機のジェガンG17型の器用さを活かし、損傷した味方機動兵器の修理を行う。

 

「これが今回の作戦…無茶過ぎない?」

 

 乱戦に身を置いた生体CPUのラウラ・アスタロトは、自身の駆るエールカラミティガンダムを駆り、乱戦状態の中で襲ってくる敵機の攻撃を躱し、複合兵装アドラーのハンマーを叩き込んで撃破する。

 

「このロマンを体現したPT(パーソナルトルーパー)! まさに俺向きの機体よ!!」

 

 PTのシュッツバルトを駆るスパルタン・ビリーことビリー・パワードは、両肩のツイン・ビームカノンや両手の三連マシンキャノンを乱射しながら多数の敵機を撃破していた。

 

「我々は後方部隊の護衛が任務だからな! 前に出るだなんていうなよ!」

 

 後方で同型の僚艦と共に護衛するカロン級軽フリゲート「アース・ヴィクトリー」の艦長であるソディック・メバロー少佐は、部下たちに前に出るなと言わないように注意する。艦共々、ソディックは正式に部隊に配置されたようだ。正規の艦長となった彼は、偉そうに似たような境遇の部下たちに指示を出していた。

 

「クソっ、後ろか撃たれるんじゃないだろうな…?」

 

 メト・リーカロイ准尉は乗っている宇宙用ミッションパックを装備したスコープドッグの安全性の無いコクピット内で、後ろから撃たれるんじゃないかと震える。性懲りもなく、またも同僚の女性に声を掛け、何名かと同時につきあっているようだ。

 

「レイ、援護を!」

 

『OK、ミカ!』

 

 ビルドビルガーを駆るミカ・グレナーとビルドファルケンを駆るレイナ・パープルの両スパルタンⅣは、スパルタン・クラウドが駆るストライクノワールガンダムに続き、味方の進路を開くために敵陣へと突撃した。

 

 

 

「この前は親父に半殺しにされたって言うのに! 全く散々だぜ! 畜生が!!」

 

 ガルダーゴン決戦の少し前、とある辺境の地にて、デア・テゾーロ、本名ニアルカ・イーノは自分のクローン数名と共にある部隊と交戦していた。

 異世界のMSであるガルム・ロディやスピナ・ロディと言ったロディフレームにクローンたちを乗せ、デア自身はヘキサ・フレームのジルダに乗って指揮を執っている。普段はクローンに任せて後方で戦闘をゲーム感覚で味わっているデアであるが、その装置と訃ねは地球での一件で父親に取り上げられ、本体である自分が直接クローンに指示を飛ばさねばならない。

 しかもこの任務は、父親直々の命令であった。断れば殺されるのは確実なので、デアは仕方なく従っている。

 そんなデアの部隊に襲い掛かったのは、戦術機のF-22Aラプターを中心とした所属不明の部隊であった。ナノ・ラミネート装甲を持つロディ・フレームやヘキサ・フレームとは言え、ステルス性と高い機動力を合わせたF-22の奇襲攻撃で、何機かが関節部を撃たれて行動不能にされている。

 

『だ、誰か助けてくれ! うわぁぁぁ!!』

 

「状況が悪過ぎるぜ! ここは、逃げた方は良さそうだな!」

 

 他にもデアと同じくこの任務に就いている傭兵部隊も居るが、F-22の奇襲攻撃によって次々と撃破されるばかりだ。これにデアは自分だけ逃げようと思い、クローンを置き去りにして自分だけ逃走し始める。

 

「俺は一方的に殺されるのは大っ嫌いなんだよ! こんなの、生きるか死ぬかの問題じゃねぇ! 虐殺だ!!」

 

 そう言って逃げるデアのジルダであるが、目前からF-22が現れ、突撃砲の弾幕による雨を浴びせる。

 

「グアっ!? これ以上は装甲が!」

 

 ナノ・ラミネート装甲といえど、何発も実弾を撃ち込まれれば塗装が剥げ、瞬く間に貫通して撃破されるだろう。それだけは避けるために必死に逃げるデアであるが、ステルス部隊が逃すはずが無く、突撃砲下部に搭載された滑空砲の砲身を向けられる。

 

「っ! 嘘だろ…!?」

 

 滑空砲がこちらを向いたのを画面越しに見たデアは、初めての死を覚悟した。




次は、デグ様の戦闘団と二周年記念だな…。


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シークレットウェポン
古代兵器を探せ


今川大戦は先送りして、本編の第四回目に入るよ。

活動報告にて、キャラクターを受付中。気軽にご投稿してください。


 ターニャ・フォン・デグレチャフが属するイヴ人の武装勢力「帝国再建委員会」はかつて自分たちの植民地であった世界を再び手中に収めた。

 そこに後から住んでいた者たちの抵抗を排除し、再建委員会がその世界を再占領した理由はただ一つ。かつての自分たちの″忘れ物″を取りに来たのだ。

 今の統治者をターニャが殺し、抵抗する残党が投降したところでその忘れ物を探したが、何処にも無かった。

 統治者が乗っていた司令官機こそが忘れ物であると思われていたが、忘れ物に対する資料は帝国軍の武装解除前に殆ど処分されてしまったのか残っていない。わずかに残された資料で統治者の搭乗機は忘れ物であることは否定された。

 

 では、忘れ物は何処に行ったのであろうか?

 

 その行方は投降した前の統治者の側近たちが知っていた。

 拷問染みた聴取によれば、既に忘れ物はこの世界には無く、ある者たちによって異世界に運び出されていた。ある者たちは別のイヴ人の武装勢力とは違い、異世界より来た武器商人の男たちであった。武器商人等は統治者と取引を行い、多数の兵器と交換で忘れ物を受け取ったのだ。

 それを知った委員会は情報部を総動員し、忘れ物の行方を探った。

 

 

 

「一か月の後方勤務はどうだった? 中佐」

 

 帝国再建委員会が制圧した世界で、一か月にも渡る後方勤務はどうだったかを問う委員会の軍事司令官に呼び出されたターニャは、優雅な生活であったと答える。

 目前の彼女はもちろんイヴ人であり、二百年以上も生きて今も現役の将官だ。イヴ人の寿命は五百年以上。だが、百年は生きたイヴ人はそうは居ない。大体百年以内に病気か事故、戦闘で死ぬ。目前のイヴ人は、二百年以上生きた大変貴重な存在。しかも帝国がまだあった頃は師団長で、末期には五万の兵力を率いる軍団の指揮官であった。

 見た目は二十代後半の女性にしか見えないが、これでもれっきとした司令官なのである。

 

「はい、とても優雅な物でした。部下の練度も上がり、補充の人員も使えるようになりました」

 

「結構、そんな貴官に新しい任務だ」

 

「…どのような任務で?」

 

 部隊の練度も上がったことを伝えれば、司令官はターニャに新しい任務を告げる。

 これにターニャは息を呑み、また危険な場所へ派遣されると思って覚悟し、任務内容を心して聞く。

 

「貴官は聞いたことはあるな、忘れ物、いわゆる古代兵器についてだ。情報部が遂にその所在を掴めたのだ」

 

 忘れ物、かつて存在していた神聖百合帝国の最終兵器、通称「古代兵器」の所在が掴めたとターニャに向けて情報部の報告書を渡しながら告げる。

 渡された資料に目を通したターニャは、その古代兵器を回収する任務であると即座に理解した。また危険な場所へ行かされるのだと。

 

「場所は…あの世界か」

 

「そうだ。貴官が同胞たちを救い、人間の義勇兵を見付けた世界だ。よもやあの世界に古代兵器があるとは思いもしなかった。何の因果か…」

 

 あの世界。そう、ヴィンデル・マウザーの歪んだ理想郷と化したあの戦争しかない世界だ。

 そこでターニャは同胞のイブ人たちを救い、上の都合で消されそうになった連邦の将兵たちを義勇兵として迎え入れた。そこに古代兵器が持ち出されていたのだ。司令官の言う通り、ターニャも何の因果かと思う。

 

「今回は同盟軍。しかも最前線ではありませんか。前より厳しいですぞ」

 

「だが、貴官以外にこなせる者は居ない。全うできるイヴ人は、貴官と貴官の部下だけなのだ」

 

「傭兵を雇うと言う考えはありませんかね?」

 

 前より厳しいと言えば、司令官はターニャとその部隊しか出来ない任務であると告げる。要はこれ以上イヴ人を減らすような真似はしたくないのと、出来るイヴ人がターニャたち以外居ないと言う物だ。

 これにターニャは傭兵を雇うと言う考えはないのかと指摘する。その指摘に対し、司令官は難色を示す。どうやらイヴ人以外が信用できないようだ。

 

「その考えは私の脳裏にあった。だが、前に裏切られた経験があってな、なるべくイヴ人にしようと思っている。古代兵器の所在を知らせたのは、我々が飼い慣らしている人間の情報員であるが」

 

「そこは人間ですか。その様子だと、他にもありそうですな」

 

「鋭いな、貴様。そうだ、この古代兵器の所在の特定は、モンターク商会と呼ばれる者たちの協力もあったのだ」

 

「モンターク商会?」

 

「貴官が知らないのは無理もない。表向きは真っ当な企業を謡う怪しげな商会だが、取引すれば有益な情報をくれる」

 

 傭兵を信用できない理由は一度裏切られた苦い経験があるからだと話す司令官だが、情報収集に当たる情報員は人間であった。

 そこは人間なのかとツッコんだターニャは、まだ他にありそうだと口にすれば、司令官は顔をしかめ、モンターク商会の存在を明かす。

 どうやら、そのモンターク商会がターニャの回収部隊の支援をしてくれるようだ。案の定、司令官は支援してくれるのがモンターク商会であると資料を渡しながら告げた。

 

「そのモンターク商会とやらが、貴官の回収部隊の支援をしてくれる。貴官は我が偽装輸送艦でこの合流地点に向かい、そこで代表者と接触するのだ」

 

 彼女が指で示した場所は連邦軍の勢力圏内の惑星だ。そこが合流地点となっている。

 そのモンターク商会とやらが本当に信用できるかどうか怪しいが、目前の女性が信用に値する商会であると表情で訴えている。ここで逆らうのは自分の昇進に影響するかと思い、敢えて言わずに従った。

 

「詳細は明日のブリーフィングで説明する。それまで英気を養うが良い」

 

「了解であります」

 

 色々と不満があり過ぎる任務だが、前の世界と同様に安全なる後方勤務をするために従い、敬礼してから司令官の執務室を後にした。

 

 

 

 一方で連邦軍は、帝国再建委員会がかつて自分たちの物だった古代兵器がある惑星に大攻勢を仕掛けようとしていた。

 その惑星の名はガルダーゴン。同盟軍が太陽系に進出するに的確な位置しており、同盟軍が一度ここを失えば、太陽系に対する侵攻は二度と不可能となり、防戦一方となってしまう。逆に連邦軍はそこを抑えれば、同盟領に侵攻する足掛かりとなる。故に連邦軍は太陽系奪還以上の戦力を投入した。

 作戦に投入される総兵力数は八百万以上。艦艇は四万隻以上であり、連邦軍所有艦艇の半数に当たる。航空機と機動兵器を合わせた総数は七十万機以上と連邦軍にとってかなり大博打な大規模攻勢だ。

 無論、失敗すれば連邦軍は防戦に立たされる羽目となる。故になんとしても成功させなければならない。この為に連邦軍はUNSC海軍旗艦インフィニティ級スーパーキャリア一番艦インフィニティと二番艦エタニティ、大型MAデストロイガンダム搭載用の為に新たに建造した三番艦ロゴスを投入する。滅多にない史上最大の投入だ。

 既に艦隊の集結は済んでおり、後はガルダーゴンに雪崩れ込むのみである。

 

 この連邦軍のガルダーゴンに大規模攻勢の兆しありとの情報を得た同盟軍は、それらを迎え撃つべく宇宙軍全艦隊の七割の集結を急がせた。移動可能な宇宙要塞も出来る限り移動させ、連邦軍の大攻勢に備えた。

 かくして、連邦と同盟の双方の宇宙軍による史上最大の宇宙艦隊戦の火蓋が切って落とされようとしていた。

 

 

 

 ガルダーゴン攻略作戦に参加すべく、艦隊に合流しようとしていたインフィニティ級スーパーキャリア一番艦インフィニティのハンガーに、多数のコンテナが運び込まれていた。

 

「なんだ、今回の作戦の為の装備か?」

 

 続々と運び込まれてくるコンテナに、元軌道降下強襲歩兵(ODST)であり、現スパルタンⅣである白人男性のエドワード・バックは、コンテナの運び込みを指示している乗員に話し掛ける。

 

「えぇ、コンテナの中身は…」

 

「ガンダムよ、バック」

 

 元ODSTであるスパルタンⅣのバックに話し掛けられた乗員はコンテナの中身を言おうとしたが、スパルタンⅣの指揮官であるサラ・パーマー中佐が代わりに中身を答えた。彼女もまたスパルタンⅣであり、バックと同じく志願してスパルタンⅣとなったのだ。

 中身を聞いて驚いたバックは、このインフィニティにも運び込まれているデストロイガンダムの予備パーツなのかと問う。

 

「ガンダムだって? あのデストロイガンダムとか言う馬鹿でかいMSですか?」

 

「いえ、十五メートルから二十メートル以上のガンダムよ。まぁ、バーゲンセールって所かしら?」

 

「ガンダムに乗りたがってる奴らが集まって来るぜ」

 

「ガンダムのバーゲンセール。まるで闇市だな」

 

 バックの問いにサラは通常MSサイズのガンダムであると答え、この運び込まれてくるガンダムをサラはバーゲンセールだと例えた。その例えに、黒人男性のスパルタンⅣ、ジェムソン・ロックは闇市であるとも言って入って来る。

 彼もまたバックやサラと同じくスパルタンⅣに志願した者であり、スパルタンになる前は海軍情報局(ONI)の工作員であった。元工作員であるロックはこのインフィニティに多数のガンダムが搬入されるのが何か裏があると睨み、上官であるサラに理由を問う。

 

「闇市? 物騒だな、ロック」

 

「これだけのガンダムがインフィニティに運び込まれるのには理由がある。中佐、ONIはなんと?」

 

「それについてはロック、在庫処分セールだよ。つまり廃棄処分が決定したのを、インフィニティに運び込んできたのさ」

 

 サラの代わりにこのインフィニティの艦長、トーマス・ラスキーがロックの問いに答えた。

 彼が明かした次々とガンダムが運び込まれる理由は廃棄処分であり、それをラスキー艦長は在庫処分セールに例える。つまり予備パーツも無い機体が次々と運び込まれているのだ。一度戦闘を行い、戦闘で損傷すれば二度と修理できず、武器弾薬を喪失すれば補充も出来ない。

 どのガンダムも顔こそは似ているものの、実際は中身も外見も違うので、共食い整備も出来ない。このガンダムたちは一度の戦闘で使い捨てられる為に、インフィニティに配備されたのだ。

 一度の被弾せずに戻れば良いのだが、兵器は一度戦闘を行えば何処かに支障を来す物。何度も戦闘を行っていれば、そのうち何処か壊れて搭乗者に危害を及ぼす。現地改装にも限度があり、それに達すれば破棄するしか無くなる。

 

「なんだよ、使い捨て前提か。まさにインスタントガンダムってところだな」

 

「それにしても、よくもこれだけ集められましたな。中には連邦軍の物でないのもある。出所は?」

 

 在庫処分セールと聞き、バックはそれらのガンダムをインスタントガンダムと表した。

 完全に使い捨て前提であるが、ロックは見知らぬガンダムが多数あるので、サラにそれらのガンダムの出所を問う。

 

「それが向こうは何も言ってこなかったわ。あれは何だと言っても、連中は何も答えなかったわ。倉庫にあったのをインフィニティに押し付けたようね」

 

「やれやれ、残り物に福があることを期待するしかないか」

 

 サラはONIに聞いても出所すら答えなかったとロックに返せば、バックは残り物に福があることを祈った。次にパックはガンダムのパイロットは決まっているのかを問う。

 

「それで、パイロットは決まってるので?」

 

「それについては、君たちスパルタン次第だ。どれでも好きなのを選ぶと良い。速い者順だ」

 

「なら、一番良い物を選ぶとするか」

 

 ラスキーから返ってきた答えに、バックは一番早く良い物を抑えて置こうと思い、ガンダムがある方へと向かった。

 

 

 

 連邦軍の大規模攻勢作戦の準備が着々と進む中、戦略上価値のない宙域にワルキューレの遠征艦隊の姿があった。ニ十隻以上の艦隊の旗艦は、第一型マクロスとマクロス・クォーターの中間に位置するマクロス級戦艦だ。

 突如となく自軍の制宙圏内に現れた所属不明の艦隊に対し、連邦宇宙軍は早急に艦隊を向かわせ、撃退する構えを見せる。無論、向かわせた艦隊は攻勢作戦から外された者たちで編成されており、練度はおそらく低い。未知なる地域に向かうワルキューレの遠征艦隊の相手にはならないだろう。

 そんな雑魚のような連邦軍艦隊でも応援を呼ばれれば厄介なので、遠征艦隊は直ぐに対処せねばならない。遠征艦隊の旗艦のハンガーより、バルキリーであるVF-25Fメサイア一機が発艦する。そのVF-25はトルネード・パックと呼ばれる専用の装備が施されており、更に戦闘力を上げている。

 

『各員、相手は雑魚とは言え集まって来られれば厄介だ。早急に撃退せよ』

 

 遠征艦隊の提督からの指令のアナウンスが響く中、先に発艦準備を済ませていたVF-25はエンジンを吹かせて暗礁宙域へと飛び立った。自由に飛び回れるようになったそのVF-25に乗るパイロットは腰のホルスターに忍び込ませていた音楽機器を取り出し、同時に持って居たコネクトを無線機に差し込み、再生ボタンを押して自分の好きな曲を再生した。




現在、参加者を募集中。詳しくは、活動報告にて。


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白い戦乙女

マリ・ヴァセレート
金髪碧眼の美女。そんで巨乳。ロリコン。
うちのチートキャラ。この手のキャラの主人公は何故か好感が持たれるのだが、周りが真面なので好かれていない。
ある任務のために呼び出され、ワルキューレに戻らされた。
搭乗機はVF-25Fメサイア トルネード・パック、VF-31Jジークフリード、VF-31F、ヴァイスリッター改良型。

モンターク
モンターク商会と言う会社を営む謎の仮面の男。
その正体は、鉄血のオルフェンズを全話見た者にだけ分かる…。
この章ではヴィンデルの戦争工作によって被害を被った為に、その報復の為にやって来た。
搭乗機はνガンダム ダブルフィンファンネル装備

ヴァースキ
インド神話の神の名前を名乗る野獣のような風貌の男。
思いっきりヤザン・ゲーブルであるが、本人は否定している。
搭乗機はファリド家所有のガンダムフレーム(阿頼耶識未搭載)

戦闘イメージBGM「射手座☆午後九時Don’t be late」
https://www.youtube.com/watch?v=oiEy1gj93GQ


『ちょっと貴方! なに音楽掛けてるの!?』

 

 出撃した直後、勝手に音楽を再生したそのVF-25Fメサイアのパイロット、マリ・ヴァセレートに隊長機型であるVF-25Sに乗る編隊長は注意する。

 だが、当のマリは注意を無視してコクピット内に流れている音楽の歌詞を鼻で歌うだけで全く聞きもしない。これに編隊長は呆れる中、旗艦の戦闘指揮所よりマリには構うなとの連絡が来る。

 

『こちらデルタコマンド。ウルフママ、チーターには構うな。ライセンス持ちだ』

 

『ライセンス持ちって…勝手に編隊を乱されては困るんですが』

 

『こちらから離れるように指示する。ウルフチームはいつも通りにやれ』

 

『掛けるなら、ランカちゃんのが良かったのに』

 

 戦闘指揮所はマリがライセンス持ちなので、指揮下には置けないと告げる。抗議してくる編隊長に対し、指揮所はマリに編隊から離れるように指示を出すと言って納得させる。

 編隊長は最後に文句を言った後、黙り込んだ。それから戦闘指揮所は、マリのVF-25に編隊から離れるように指示を出す。

 

『こちらデルタコマンド。チーター、編隊より距離を取れ。支障が出るそうだ』

 

「こちらチーター、了解」

 

 マリはその指示に従い、単機で敵迎撃部隊に突撃する。これには編隊を組んで敵と交戦するはずだった編隊長は驚きの声を上げる。

 

『単独で!? 何考えてるの!?』

 

『ウルフママ、放っておけ。ライセンス持ちだ!』

 

 このマリの異常な行動に、戦闘指揮所は無視するように告げる。その異常な行動を取るマリは、迎撃態勢で展開しているセイバーフィッシュやMAのメビウスに向け、マイクロミサイルを発射する。

 先に撃ったのはマリであるが、敵方の連邦軍は警告も威嚇射撃もしていない。する前にマリが撃ったのだが、彼女が撃つ前に数秒ほど警告を行う時間があった。だが、連邦軍はしなかった。

 連邦軍もワルキューレの遠征艦隊を攻撃するつもりであり、警告などする気は無かった。所属不明の艦隊を全滅させてしまえば、向こうが先に撃ったと言い訳が出来るからだ。

 そんな粗暴な辺境方面の連邦軍のスクランブル部隊に対し、マリは先制攻撃を仕掛ける。

 

『っ!? 撃って来たぞ!』

 

『馬鹿な!? こっちが先に捉えてるんだぞ!』

 

 こちらの射程外より飛んでくる無数のマイクロミサイルに連邦軍機は対処できず、次々と被弾して大破していく。

 

『一気に十五機も!? 何なんだあのミサイルは!?』

 

 十五機ものセイバーフィッシュやメビウスが撃墜されたことで、連邦軍のスクランブル部隊は混乱する。混乱する敵部隊にマリは容赦なく攻撃を浴びせ、更に数機を撃墜した。これで残りは九機となった。

 

『す、凄い…!』

 

『あいつだけで良いんじゃないですか?』

 

 三十機以上は居た連邦軍のスクランブル部隊を九機まで減らしたマリの凄さに、編隊長と他のパイロットらは唖然とする。その中のパイロットの一人が、マリ一人で十分では無いかと口にするほどだ。そんな彼女は機体をガウォーク形態に変形させ、右手に持ったガンポッドで残った九機を数秒足らずで掃討した。

 先行したスクランブル部隊が全滅したとの報を聞いた後続のMSやATなどで編成された第二派は臆し始める。一分ほどでスクランブル部隊が壊滅したのだ。無理もない。

 

『先行したスクランブル部隊が全滅だと!? 僅か一分でか!』

 

『一体、何だというんだ!? 俺たちは最強民族の子孫だぞ!?』

 

『こちらの数が多いんだ! 敵はたかが一機! 一斉射で潰せェ!!』

 

 味方が全滅したが、この連邦軍の隊は最強であった民族の子孫であることを鼻にかけ、数の多さを生かしてマリのVF-25に突っ込む。編隊を組んだジェガンJ型が先に突っ込み、宇宙戦装備のスコープドッグやドートレス、ストライクダガーが無反動砲を放つ。凄まじい攻撃であるが、マリは見えているかの如く機体をファイター形態に変形させ、それらを軽やかに躱した。

 並のパイロットなら避けられない攻撃を、いとも容易く躱すマリに対し、連邦軍のパイロットたちは戦慄する。辺境に追いやられた自分らの前に現れた敵が、圧倒的な技量を持つパイロットだから。

 

『あ、あの攻撃を避けたのか!?』

 

『あ、ありえねぇ! ガンダムでミンチになる攻撃だぞ!?』

 

『怯むな! こっちの数が多いんだ! 囲んじまえばこっちの…』

 

『た、隊長!? うわぁ!? こっちに来る!』

 

 戦意を砕かれ掛けた味方を励ますように指示を出すジェガンR型に乗る隊長機が撃墜されれば、大多数の機動兵器部隊は混乱し、接近してきたマリに次々と狩られていく。一機、また一機とガンポッドや機首の機関砲で撃墜されていく中、一機のジェガンがマリのVF-25の真上を取り、ビームサーベルで串刺しにしようとする。

 

『上を取ったぞぉ! 死ねぇぇぇ!!』

 

 ビームサーベルを突き刺したパイロットでったが、マリはこれに気付き、機体をバトロイド形態に変形させ、サーベルの突きを最小限の動きで躱してガンポッドを敵機のコクピットがある腹部に突き刺した。ガンポッドを突き刺されたジェガンは機能を停止し、機能を失ったジェガンよりガンポッドを引き抜き、背後を取ったストライクダガー三機に素早く振り向いて乱射する。凄まじい連射速度で放たれる機関砲弾に三機は蜂の巣にされて爆散した。

 真下よりドートレスが二機ほど迫って来たが、これもマリに見抜かれて撃破された。これに敵部隊は更に混乱して戦意を失い始める。

 

『い、一機で十数機を…!?』

 

『化け物だ! 奴は化け物だァァァ!!』

 

『お、おい! 逃げるな! 置いて行かないでくれ!!』

 

 マリの圧倒的な技量とVF-25の性能の高さを前に、連邦軍の部隊は無秩序な撤退を始める。そんな敵部隊に遅れてやって来たVF-25の編隊が容赦なく追撃を掛け、逃げる敵機の背中を容赦なくガンポッドやミサイルを撃ち込む。

 

「あーぁ、つまんない」

 

 友軍部隊が敵部隊を追撃する中、マリは追撃に加わらず、先ほど戦った敵部隊に物足りなさを感じ、味方が居るにも関わらず、艦砲射撃を掛けて来る連邦艦隊に目を向けた。

 

「あいつ等、やっちゃおうか。うざいし」

 

 艦砲射撃を避けつつ、機体をファイター形態に変形させ、単独で敵艦隊に突貫した。

 流石に単機で敵艦隊とやり合うなど無茶であるのか、編隊長機から静止の無線連絡が聞こえて来るが、マリは無視して攻撃を躱しながら向かうだけだ。

 

『チーター! 単独で敵艦隊とやり合うだなんて無茶だわ! 直ぐに止まりなさい!』

 

 その声を無視しつつ、マリは敵艦隊に向けて旋回式二連装対艦ビーム砲を手近な敵艦に向けて放つ。狙われたのはドレイク級フリゲートだ。一発で轟沈する。やられたドレイク級の近くに居たドートレスも、ついで代わりに撃破された。

 主砲では対処できない距離まで接近してきたマリのVF-25に対し、サラミス改級巡洋艦やネルソン級戦艦、バルトーク級巡洋艦、アガメムノン級空母などで編成された連邦艦隊は、ハリネズミのような対空弾幕を行い、悪魔のような強さを持つバルキリーを近付けまいとする。ミサイルを放つが、躱されるだけで全く意味は無い。

 

『撃てぇ! 撃ちまくれぇ!! 奴を近付けるなァ!!』

 

 艦隊の過剰なまでの対空弾幕は展開している艦載機の133式ボール、ジェガンJ型、ドートレス、ストライクダガーを巻き込むほどであり、僚艦にも当たるほどであった。

 そんな弾幕にも関わらず、マリは見えているかの如く躱し続け、旋回ビーム砲を敵艦の弱点に直撃させて次々と撃沈していく。人間では出来ない離れ業だ。これによって爆発の連鎖が起こり、敵艦隊に攻撃しようとしていた編隊は思わず動きを止める。

 

『何…これ…!?』

 

『艦隊ですらこの様なんて…!』

 

 艦隊に攻撃しようとしていたVF-25編隊はアーマード・パックやスーパー・パックなどの装備していたが、全機がバトロイド形態やガウォーク形態に変形してたかが一機のバルキリー相手に壊滅していく敵艦隊を見て茫然としていた。

 

『い、嫌だ! ワレ戦意無し! 離脱す!』

 

『ま、待ってくれ! 俺も、俺も離脱…』

 

 次々と撃破されていく僚艦を見て戦意を失った敵艦隊の二隻ほどが勝手に逃げ出すが、マリが逃すはずが無く、残っているマイクロミサイル全弾を撃ち込まれて二隻諸とも撃沈される。

 

『わぁぁぁ!? 降参する! 降参する!! 撃たないでェ!』

 

 最後に残った旗艦に乗る提督は降参すると言ったが、マリは聞こえてこなかったかのように、機体をバトロイド形態に変形させ、弾切れのガンポッドを腰に付けてから左腕のシールドの対装甲ナイフを抜き、それを艦橋に突き刺した。振り下ろされたバルキリーサイズのナイフで提督は真っ二つに切断され、ナイフで抉られた個所から空気が漏れ出し、そこから無事であった乗員たちが宇宙に放り出されていく。

 とどめにマリは一旦距離を置いてから旋回式ビーム砲を、艦橋を失っても対空弾幕を続ける敵旗艦に向けて撃ち込んで完全に轟沈させた。

 

「まっ、こんな物か」

 

 敵艦隊は壊滅させたが、マリはやり過ぎた。流石に戦闘指揮所や現場の戦闘部隊の隊長より叱責を受ける。

 

『チーター、誰がそこまでやれと言った? ライセンスを剥奪されたいか?』

 

『あんた、やり過ぎよ! いくらライセンス持ちだからってこれはあんまりよ! あんまり!!』

 

 そんな叱責の声が無線機より続々と聞こえて来るが、当のマリには全く聞く耳を持たず、残弾を確認してから母艦へと帰投した。

 

「こちらチーター、帰投する」

 

『帰ったら説教よ! 分かったわね!?』

 

 帰投すると報告したマリに、説教すると編隊長が言っていたが、彼女が応じるかどうかはそれは別の話だ。

 

 

 

「どうだね、ヴァースキ君。彼女の実力は?」

 

 ワルキューレ遠征艦隊に随伴する自衛用の武装を付けた武装商船の艦橋で、銀髪のカツラが付いた奇怪な仮面を被る男は、金髪のリーゼントと浅黒い肌の野獣のような男にマリの実力はどうだったかを問う。

 

「けっ、気に入らねぇぜ。あの女がインチキ染みて強いなんてな」

 

 これにヴァースキと呼ばれる男は、マリの実力が気に入らないと答える。彼は女子供が戦場に出て来ることが気に食わない男なのだ。マリが自分を上回るような実力を見たヴァースキは、余計に気に食わなくなる。それにあのマリの自分勝手な態度だ、当然の反応である。

 そんなヴァースキに、仮面の男が正真正銘の本物の実力であると付け足す。

 

「君がそう思うのは無理もない。だが、彼女の実力は本物だ。機体の性能をフルに引き出し、そればかりか、機体が悲鳴を上げる程ついて来られないほどの反射神経だ」

 

「なら、余計に気に入らねぇぜ。でっ、あのインチキ女を今回の落とし前に連れて行くんです、モンタークの旦那?」

 

 本物だと言う自分の上司に、ヴァースキは余計に気に入らないと答える。そんな上司に、ヴァースキはマリを落とし前と呼ばれる攻撃に連れて行くのかと問う。

 

「無論、連れて行くさ。彼女が居なければ、この艦隊は圧倒的物量の前に磨り潰される。彼女は我々の女神なのだよ」

 

「…おっかない魔女の間違いだろ」

 

 これに連れて行くと上司は答える。

 彼らモンターク商会はこの世界から送られてきたヴィンデルの別の並行世界での戦争工作による攻撃を受け、被害を被った。ワルキューレもヴィンデルの戦争工作の被害を受けており、利害が一致して報復の為に歪んだ理想郷へと来たのだ。単なる報復攻撃ならマリは必要ないが、ワルキューレにはある狙いがあって、彼女をライセンス持ちとして招集したようだ。

 そんなマリを自分たちの女神と表するモンタークに対し、ヴァースキは魔女の間違いだと指摘する。事実、マリは魔女に間違いない。

 

「君からはそう見えるか。では、被害の請求でもしに行こうか」

 

「まぁ、あんたから貰ったガンダムの慣らし運転でもするかな。それと音楽はいらんぞ」

 

 ヴァースキからマリはそう見えると言えば、モンタークは艦橋を後にした。その後をヴァースキは続き、貰った機体の慣らし運転がてらに出撃すると口にする。目標が近いから出撃体勢に入ったのだ。

 彼らが艦橋を後にすれば、ワルキューレの遠征艦隊がエステバリスと呼ばれるロボット型機動兵器を展開して警戒態勢に入る。展開させた後から、マリが乗るVF-25Fと、攻撃隊のVF-25の編隊が母艦に帰投してくる。

 一度補給を終えた後、その目標に攻撃を仕掛けるために…。




現在、活動報告にて参加者募集中。

詳しくは、活動報告にて。


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炎のバラ騎士団

ガンダ・ダイール・ドルゴン
かつてワルキューレ内に存在していた炎のバラ騎士団に属していた騎士。臨時騎士団長を名乗っている。
だが、属している炎のバラ騎士団は「魔女狩り事件」を起こし、騎士団長は処刑され、取り潰しに追い込まれる。残った騎士たちは辞めてるか激戦区に送られて殆どが戦死したかに見えたが、一部は残党となって生き延びていた。
ガンダは騎士団復活を図るべく、生き延びた騎士団員たちを纏め、ヴィンデルの歪んだ理想郷の世界へ逃走を図る。
搭乗機はグレイズ・リッター、ロッソイージス

炎のバラ騎士団残党
かつてはワルキューレに存在していた騎士団であるが、「魔女狩り事件」を引き起こしたことで、その責任として取り潰しが決定し、騎士団長は処刑となった。
残った騎士等は戦争の前線、それも激戦区に投入されて全滅したかに見えたが、生き残った者もおり、それらが集結して残党となって活動する。
何処からか帝国再建委員会が狙う「古代兵器」の情報を掴み、騎士団再建の為に、ヴィンデルの世界でガンダムを集めている。
主な装備、ジンクスⅡ、グレイズシリーズ、ゲイレール、サザーランド。

イメージ戦闘BGM「恋はドッグファイト」
https://www.youtube.com/watch?v=_KY8nwqItFA


 ワルキューレの遠征艦隊とモンターク商会の報復部隊とは違う別の連邦軍の勢力圏内の惑星にて、その惑星にある基地が謎の武装勢力の襲撃を受けていた。

 

「なんだこいつ等!? 同盟軍か!?」

 

 同盟軍の襲撃かと思っていたが、襲撃してくる武装勢力はグレイズやゲイレール、KMFのサザーランドを使っていた。それだけではない。換装可能な太陽炉搭載型MSのジンクスⅡや、同じエンジンを積んだガンダムスローネと呼ばれるが三機のガンダムが見える。

 連邦軍のスコープドッグやドートレス、ストライクダガーでは太刀打ちできない相手であった。それに騎士の技量も重なり、次々と撃破されるばかりで碌に反撃も出来ない。

 

『フン、手応えも無い!』

 

「所詮は愚民の軍隊だ。我々炎のバラ騎士団の相手では無いのだ」

 

 グレイズのメイスを胴体に叩き付けられて倒れるドートレスを見た騎士が余りの手応えの無さを鼻で笑う中、赤いバラ騎士団を名乗る襲撃部隊の隊長であるガンダ・ダイール・ドルゴンは、連邦軍を愚民の軍隊と侮る。

 そんな彼が駆るグレイズ・リッターはビームライフルを乱射するストライクダガーに接近して右手に握る剣を振るって切り裂き、自分らにビームサーベルで接近戦を挑むもう一機のストライクダガーの突きを躱し、剣を胴体に突き刺して無力化させる。

 

「馬鹿め、我々に接近戦を挑もうなどと。愚民風情が片腹痛いわ!」

 

 接近戦を挑んだストライクダガーのパイロットを罵り、引き抜いて倒れたストライクダガーを蹴り付ける。

 上空の太陽炉MS隊が連邦軍の航空部隊を片付ければ、ガンダの地上部隊本隊は蛮勇にも挑んでくる車両部隊を容易く片付けた。逃げる将兵も居たが、騎士たちは容赦なく機体の手にしているライフルを撃ち込んで虐殺する。

 

『愚民どもの兵士共、全滅です!』

 

「よし、ガンダムを奪うぞ! 仕えそうな機体も直ぐに回収だ! 直ぐに運び出せ!」

 

『はっ!』

 

 部下の敵が全滅したとの報告に、ガンダは基地に保管されているガンダムタイプのMSを奪うように指示を出す。それに応じ、輸送機が着陸し、基地の格納庫を徹底的に破壊して使える機体を奪っていく。

 彼らはガンダムタイプの奪取が目的であり、それらのMSを見付ければ、優先的に運び出して輸送機に積み込む。

 なぜ炎のバラ騎士団がガンダムを奪うかは、ある目的があるからである。伝説のMSであるガンダムを揃えれば、その目標は達成できるようだ。

 

「ほぅ、このガンダム。良い出来ではないか。このガンダムはこの私の搭乗機とする! サマナ、貴様にこのグレイズ・リッターを授けるぞ!」

 

「騎士団長殿、ありがたき幸せであります!」

 

 ロッソイージスと呼ばれるイージスガンダムの発展型を見たガンダは気に入り、このガンダムを自分の搭乗機と決める。乗らなくなったグレイズ・リッターを、一人のスキンヘッドの騎士に授けた。

 

「ガンダムタイプ並び稼働可能なMS、全て搬入完了しました!」

 

「よろしい。では、撤収するぞ。奴らも呼び戻せ!」

 

『貴様ら! 何をしている!?』

 

「っ!? 奴ら、街を攻撃しているぞ! どういうことだ!?」

 

 用が済めば撤収を始めようとしたが、ガンダムスローネタイプに乗る三名のパイロットは人格に問題を抱えており、近くの街に襲い始めた。無線機より聞こえるジンクスⅡ隊の騎士の怒号で、ガンダムスローネアイン、ツヴァイ、ドライの三機が街を攻撃していることにガンダは気付き、止めるように無線機の受話器を持って告げる。

 

『貴様ら何をしている!? 勝手な行動はするなとあれほど言っただろ!?』

 

 無線機で注意するガンダであるが、三名のパイロットは止めない。

 

『食い足りねぇんだよォ! なんだあの雑魚共は!?』

 

『弱過ぎて話にならねェ! もっとマシなのは居ねぇのかァ!?』

 

『全くですよォ。だからこうして、憂さ晴らしをしているのですよォ!』

 

 連邦軍の基地の守備隊が手応えが無いと言う理由だけで、三人は街を襲い始めたのだ。

 街の住人は殆ど避難しており、三機は無人の街をただ破壊しているだけだ。避難誘導を行っていた連邦軍の部隊が居たが、機動兵器などは一切装備しておらず、的のように落とされていく。

 

「どうします、奴らを棄て置きますか?」

 

「悔しいが、我ら炎のバラ騎士団の復活にはあの獣共の力が必要だ。何としても連れ戻せ。全く、あんな奴らの手を借りねばならんとは!」

 

 副官からの問いに対し、ガンダは炎のバラ騎士団復活の為にはあの三体の獣が必要であると近くの物に拳を叩き付けながら答える。彼らにとって悔しいことに、あの三名の実力は本物であるのだ。粒子の残量が無くなると、ガンダムスローネは勝手に母艦へと引き上げていく。もう気が済んだのか、粒子が無くなったのだろう。

 

「ガンダムスローネ、母艦へと帰投中!」

 

「勝手に帰りおったか! まぁ良い、我々も帰投する! 撤収だ!」

 

 部下があの三機が帰投したと報告すれば、ガンダは撤収を命じた。これに応じ、基地で警戒していた炎のバラ騎士団の部隊は速やかに撤退した。

 炎のバラ騎士団がガンダムを集める理由は、ターニャが属する帝国再建委員会が狙う古代兵器を手に入れるためである。

 彼らが何処からか古代兵器の情報を得たのかは定かでは無いが、争奪戦が予想される。

 

 

 

 自分等と同じワルキューレの者がこの世界で暴れ回っている事など知らず、遠征艦隊とモンターク商会の連合部隊は、自分らの目標に攻撃を仕掛けようとしていた。

 その目標とは放棄された宇宙要塞である。資源衛星を利用した要塞であるが、戦争によって傷付き、放棄されている。だが、そこには警備のための艦隊が居る。艦艇がバラバラの非正規軍である。

 

『敵艦隊補足』

 

『第一波バルキリー隊、補給が完了次第、直ちに出撃せよ!』

 

 そんな艦隊が守る宇宙要塞に、ワルキューレの遠征艦隊とモンターク商会の連合部隊は攻撃に出る。

 左頬が赤くなっているマリは補給が終わった自分のVF-25Fトルネード・パックに乗り込み、機体を起動させて先に出撃する。それと同時に、エステバリスと言うATより全高が二メートルは大きい機動兵器が展開される。

 

「旦那、バエルは使わなくて良いのか?」

 

「今回バエルは必要ない。フィンファンネルを増加したνガンダムの方が適任だ」

 

「それもそうか。多数の敵と戦うには打って付けだ」

 

 モンターク商会の武装商船のハンガーにて、ヴァースキーがガンダムバエルと呼ばれるガンダムタイプのMSを指差しながら乗らないのかと問えば、部下に上着を渡し、自分の機体に向かうモンタークは乗らないと答える。今のハンガーは無重力状態であり、多数の整備士が慌ただしく動いている。

 ガンダムバエルの装備が両肩のレールガンと腰の二振りのバエルソードしか無いと分かったヴァースキーは、モンタークが飛んでいった方にあるνガンダムが適任であると認識する。そのνガンダムは六基のフィンファンネル十二基に増産しており、多数の敵と戦えそうだ。

 そのガンダムにモンタークが乗り込めば、ヴァースキは彼が用意したガンダムフレームと呼ばれるガンダムタイプのMSのコクピットに乗り込む。ヴァースキーはパイロットスーツを着ていたが、モンタークは着ていない。あのカツラ付きマスクは付けたままであるが。

 それぞれが機体に乗り込めば、整備士たちは即座に退避して宇宙服を身に纏う。エレベーターに二機のガンダムが乗れば、そのまま外へ上がっていく。

 

『進路クリア!』

 

「了解した。νガンダム、発進する」

 

 νガンダムがカタパルトに両足を着ければ、管制官は進路上に何もない事を乗っているモンタークに知らせる。それを受けたモンタークは機体のスラスターを吹かせて出撃した。次にヴァースキーが乗るガンダムフレームが両足にカタパルトを着け、出撃許可の合図を待つ。ヴァースキーが乗るガンダムは彼の好みの武装が施されている。許可が下りれば、直ぐに発信してモンタークのνガンダムに合流する。

 二機のガンダムは先行し過ぎているマリのVF-25に合流し、モンタークは彼女のバルキリーに向けて無線連絡を行う。

 

『ご一緒してよろしいですかな? お嬢さん』

 

「勝手にすれば」

 

『では、こちらも勝手に』

 

 随伴して良いのかと問うてくるモンタークに対し、マリは勝手にしろと答え、彼も勝手に彼女のバルキリーに随伴する。ヴァースキーもそれに同行した。

 流石に先行し過ぎていることは旗艦にも分かっているのか、マリに向けて停止命令が出される。

 

『チーター、先行し過ぎるな。随伴機を待て』

 

「こちらモンターク商会のモンタークだ。コマンドポスト、随伴はバルキリー二個中隊で十分だ。チーターと共に我々が先陣を切る。随伴の中隊は、我々が撃ち漏らした敵機の掃討をすれば良い」

 

『はっ? なぜ商会が…』

 

「貴官らが不審に思うのは無理もない。だが、その方がやり易い。貴官らは背後から迫る連邦軍の艦隊の対処を」

 

『了解した。自力で対処せよ』

 

 コマンドポストに対してモンタークは自分とマリ、ヴァースキーの三機、バルキリー二個中隊で十分と言えば、コマンドポストは直ぐに疑念をぶつけた。

 これにモンタークは味方が少ない方がやり易いと答えて説き伏せ、遠征艦隊の背後より迫る連邦艦隊の対処に当たるように指示を出す。それにコマンドポストは渋々応じて、二個中隊の身を彼らに回した。

 

「この程度の敵、私たちだけでは物足りないくらいだよ。随伴のバルキリー二個中隊、貴官らは我々の撃ち漏らした敵機の対処を。無理に援護する必要はない」

 

 現状の戦力で対処しろと言うコマンドポストに、モンタークは目前の非正規軍艦隊では物足りないと口にし、随伴してくる二個中隊に無理に援護する必要はないと告げる。

 

『えっ? 我々は…』

 

『俺たちの自由にさせろってことだ! だろ? 旦那』

 

「ヴァースキー氏の言う通りだ。貴官らは我々の取りこぼしを潰してもらえれば良い。下手に前に出られては、誤射する可能性がある」

 

『何を勝手な…!』

 

 このモンタークからの指示に言い返そうとする随伴部隊をヴァースキーが黙らせた。野生染みた男に二名の中隊長は臆する中、モンタークは返って邪魔だと告げた。余りの言い草に二名の中隊長の一人は腹を立たせる。その反応を見たモンタークは、背後を気にする必要があると察した。

 そんなギスギスした空気の中、黙っていたマリは突然音楽を掛け始める。これにモンターク以外の者たちは驚きを隠せない。

 

『な、なんだこの甘ったるい音楽は!? お前かァ!?』

 

『今度はランカちゃん!? さっきの詫びのつもり!? いくら私でも!』

 

『貴様、ここを何処だと思っている!? そんな甘ったるい小娘の曲なんぞ掛けおって! 戦場だぞ! 今直ぐ消さんと、先に貴様から始末するぞ!?』

 

 ヴァースキーが音楽を掛けたのがマリだと気付けば、背後の艦隊の対処に回る編隊長は自分の好きな歌手の曲を掛けた彼女に、先のお詫びのつもりかと問う。流れて来る曲にヴァースキーは腹を立ててか、消さなければ先に始末するとマリに怒鳴る。敵方の方にも聞こえており、非正規軍の艦隊は混乱していた。

 

「なんだこの曲は!?」

 

「どうなっている!?」

 

「全ての軍用周波数に流れています!」

 

 敵艦隊が混乱する中、怒るヴァースキーに対してモンタークはなだめた。

 

「落ち着け、ヴァースキー。これが彼女のやり方だ。嫌なら彼女の機体のチャンネルを切れば良いだけのことだ」

 

『ちっ、命拾いしたな! だが、次は許さんぞ!?』

 

 モンタークはマリの勝手な行動を許したのだ。自分のクライアントからの要望に、用心棒であるヴァースキーは容認して次は殺すと警告する。自分の身勝手な行いを許すモンタークに対し、マリは礼の言葉も無く自分の気を引くためかと問う。

 

「私の気を引くため?」

 

『フッ、それは無い。我々も勝手にやっているのだ。君も勝手にするが良い』

 

「あっ、そう。じゃあ、私が一番乗り」

 

 マリからの問いにモンタークはその気は無いと答えた後、自由にやるようにと言えば、彼女は先手であるマイクロミサイル攻撃を行う。自分等を捕え、攻撃してくる非正規軍の戦闘機や機動兵器を合わせた数機は一瞬にして撃破される。だが、先の正規軍である連邦軍とは違い、元軍人である者が多いのか、直ぐに散会して反撃してくる。

 その反撃をマリは躱しつつ、曲を聴きながら流れるように敵機を次々と撃破していく。この様子をモンタークは舌を巻き、自身も負けじと自機に接近してくるギラ・ドーガをビームライフルの連発で撃破した。

 

「ほぅ、流石は。だが、私も負けてはいない。フィンファンネル!」

 

 二機目を撃破しながらマリの戦闘力の高さに感心しつつ、モンタークは念じて乗機であるνガンダムの背部に備え付けられた十二基のフィンファンネルを展開し、目に見える迎撃の為に展開してくるギラ・ドーガやジン、ゲイツを撃破する。爆発の連鎖が起こる中、あっという間に半分まで減らされた敵部隊は慌てて後退する。

 

『もう半分も!?』

 

『なんだこいつ等!?』

 

『後退しろ! 増援部隊と合流して、包囲して叩くんだ!』

 

「逃げる気かい!?」

 

 七十二機製造されたガンダムフレームの一つ、シャックスを駆るヴァースキーは後退する敵部隊を追撃する。実弾式ライフルを背中を見せる敵機に撃ち、瞬く間に三機を撃破した。更には海ヘビを使い、たまたま当たった逃げようとするジンに電流を流し、機能を停止させる。機能を停止したジンは、ガンダムシャックスの実体剣に突き刺されとどめを刺された。敵機に留めの一突きを行ったガンダムシャックスの姿は、さながら悪魔のようだ。

 機能を停止したジンより剣を引き抜き、増援と合流して反撃に出る敵部隊に単機で突っ込む。それをモンタークのνガンダムが援護した。突出した僅か三機の敵に、非正規軍の迎撃部隊は壊滅状態に陥る。

 

「凄い…」

 

『あの人もそうだけど、あの二機のガンダムも…』

 

『っ!? 敵機側面より接近!』

 

 次々と敵機を撃破するマリとνガンダムにガンダムシャックスの戦闘力の高さを見て、後からついてくるVF-25中隊とVF-31中隊は自分たちが必要ないと思っていたが、左右よりそれぞれ一隻のローラシア級と艦載機のゲイツが二個中隊に仕掛けて来る。直ぐに彼女らは戦闘態勢を取り、散会して戦闘を行う。

 非正規軍艦隊の方までマリ等が達しようとしたところで、後方より迫る連邦軍の艦隊がワルキューレの遠征艦隊を捕えたのか、艦砲射撃を加えて来る。

 

「後方より連邦艦隊! 艦砲射撃来ます!」

 

「回避行動しつつ、各個に反撃!」

 

 レーダー手が連邦艦隊の出撃を知らせれば、提督は直ちに反撃するように命じた。

 かくして、遠征艦隊を加えた二度目の戦闘が始まった。




キャラ募集は活動報告にて受付中!


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奴隷商店を破壊せよ

名前:アンナ・スターリング
性別:女
年齢:26歳
階級:大尉
所属:ワルキューレ遠征艦隊
乗機:VF-31Cジークフリード スーパーパック
ワルキューレの遠征艦隊に属する女性パイロット。

名前:エレイン・ヘラー
性別:女
年齢:22歳
階級:曹長
所属:ワルキューレ遠征艦隊
乗機:VF-25Aメサイア ミサイルパック(アーマードパックの亜種。機銃を外しその分ミサイルを増強した装備)
お嬢様口調で話す女性パイロット。のんびり屋で人当たりの良い性格。
キャラ提供はkinonoさん

名前:ソフィア・パラダールク
性別:女
年齢:22歳
階級:少尉
所属:ワルキューレ遠征艦隊
乗機:RVF-25
電子戦担当のパイロット。「さね」など口調が古めかしい。一人称は「あ」で、他人には殿を付ける。もしくは階級。相方も居る。
キャラ提供はリオンテイルさん

名前:アカリ・ナナホシ
性別:女
年齢:20
階級:少尉
所属:ワルキューレ遠征艦隊
乗機:エステバリス(パーソナルカラーは黄色)
ショートヘアの黒髪に褐色肌の女性。明朗快活な性格で八重歯が特徴のボクっ娘。
キャラ提供はマルクさん

名前:アーリィ
性別:女
年齢:27
階級:大尉
所属:ワルキューレ遠征艦隊
乗機:エステバリス(フィールドランス装備)
スラリと貴公子繕としたお姉様。 射撃戦も熟せるが遠征中で弾薬にも限りが有る為、自分の分の弾薬も近接戦が苦手な部下達へ回し、自身は囮役も兼ねてフィールドランスによる近接戦特化で縦横無尽に突撃して行き、部下達が止めを刺し易い様に敵の体勢を崩して行く戦法を取る事が多い。
キャラ提供は黒子猫さん


 前方ではマリのトルネード・パック装備のVF-25Fメサイアとダブルフィンファンネル装備νガンダムに乗るモンターク、ガンダムシャックスのヴァースキー、VF-25中隊とVF-31中隊が宇宙要塞を守る非正規軍艦隊と交戦する中、ワルキューレの遠征艦隊本隊は、背後より迫る連邦軍の艦隊との艦隊戦に突入した。

 

「あんなふざけた曲を垂れ流す奴など、さっさと倒せ! 鬱陶しくてかなわん!」

 

 連邦軍、コロニー連合軍(UCA)海軍の旗艦である巡洋艦の艦橋内で、提督は自分等にとっては鬱陶しい曲を垂れ流すマリのVF-25Fを撃墜するように怒鳴る。これに応じ、UCA軍はワルキューレの遠征艦隊に対する攻撃を強めるが、遠征艦隊は実戦慣れしており、散会し始める。

 

「敵艦隊、散会する模様!」

 

「何っ!? 散会させるな! 逃げようとする敵艦に砲撃を集中しろ!」

 

 艦隊が散会しようとしていることを副官が知って報告すれば、バラバラになって包囲されると思い、提督は逃げようとする艦艇に集中するように命じた。

 離れようとする艦艇に艦砲射撃が行われる中、射線上に入っていないUCA軍のジェガンやヘビーガン、Gキャノン、バリエント、ダガーL、アデルマークⅡは前方に展開するバルキリー部隊と交戦を開始する。

 連邦軍、正確にはUCA海軍は初めてワルキューレと戦うことになる。当然、彼女らが運用する機動兵器の詳細は海軍の将兵らは知らない。展開されたファイター形態のVF-25やVF-31を見て、人型兵器を持たない軍隊と捉える。

 

「なんだ? 戦闘機じゃねぇか」

 

『へっ、これなら俺たちだって!』

 

『戦闘機相手なら楽勝だぜ!』

 

 ファイター形態の高性能バルキリーに対し、海軍のパイロットたちは戦闘機と勘違いした。早速攻撃を行うが、機動性の高さでただの戦闘機では無いと判断する。

 

「速いぞ!?」

 

『パイロットは平気なのか!?』

 

 攻撃を躱したことで、パイロットらは驚きの声を上げる。中には人が耐えられない機動で躱したことで、パイロットは平気なのかと口にする者まで居る。

 そんなUCA軍のパイロットたちに対し、アンナ・スターリングはVF-31Cジークフリードのスーパーパック装備で僚機と共に反撃に出る。

 

『アンナ、まずは雑魚共を!』

 

「了解! 食らいなさい!」

 

 長機のVF-31Fに乗るパイロットの指示で、二機のVF-31Aカイロスと共にマルチパーパスに搭載された無数のミサイル攻撃を行い、一瞬にして数機の敵機を撃墜した。爆発の連鎖が巻き起こり、四機のバルキリーによって一個中隊規模の機動兵器が撃破されたことに、UCA軍のパイロットは驚愕する。

 

『み、味方機が一気に十三機も!?』

 

『畜生、なんだってんだ!?』

 

『四機の戦闘機で!?』

 

 余りの現実味の無さにパイロット等が驚愕する中、アンナのVF-31Cは近付けまいと迎撃してくるGキャノンの弾幕をガウォーク形態に変形して回避し、更に一気に接近してバトロイド形態に変形して両腕のシールドより出したアサルトナイフで切り裂いて撃破する。更には両腕のミニガンポッドで手近な敵機に撃ち込み、続けて二機のMSを撃破した。

 前衛を務めるVF-31Fは三機のMSを両腕のミニガンポッドと背中のマルチコンテナに収納されたビームガンポッドで仕留めている。恐ろしいほどの戦闘力だ。

 

『敵雷撃機部隊、視認!』

 

『こんな暗礁宙域に! あの艦隊の奴だな!』

 

『今なら気付いていない! やるなら今だぜ! 行くぜ!!』

 

 UCA艦隊の右側面の暗礁宙域にて、警戒に当たっていた部隊は側面を突こうとするVF-25シリーズの編隊を確認した。こちらに気付いていないと見るや、待機しているジェガンJ型やバリエント、アデルマークⅡで編成された部隊は奇襲を仕掛ける。

 

「な、何ッ!?」

 

『偽装は完璧なはずだぞ!? うわぁ!』

 

 だが、既に気付かれており、上方より奇襲を仕掛けようとした部隊は凄まじい機銃やビーム攻撃を受けて壊滅状態となる。気付いたのは、VF-25の電子戦仕様であるRVF-25が居たからだ。尚、最初から襲撃されることは織り込み済みだ。

 

「編隊長殿、上方のデブリ群から敵機が更に来るさね!」

 

『エスコートチーム、バトロイド形態に変形して迎撃!』

 

 RVF-25の操縦席の後ろで後部座席の電子機器を操作するソフィア・パラダールクは、編隊長にレーダーを見て敵の増援を報告する。これにガウォーク形態で迎撃中のアーマード・パック装備のVF-25Sに乗る編隊長は、爆装した攻撃機隊の護衛戦闘機部隊であるVF-25AとFにバトロイドでの迎撃命令を出す。

 それに合わせ、護衛部隊のVF-25がバトロイド形態になって情報から来る敵機の迎撃に当たる中、ソフィアは下方からも数十機の敵機が来ることを確認した。

 

「おっと、()たしらの下から来るなんて、スケベな連中さね! 下方からも敵機、来る! 曹長殿、吾たし等も迎撃さね!」

 

「了解!」

 

 下方からの敵機の接近を護衛部隊に知らせた後、ソフィアはパイロットに命じて自分等もバトロイド形態に変形させ、ガンポッドによる迎撃を行った。

 

『こちら魚雷、敵艦隊への攻撃コースに突入!』

 

 彼女の電子戦のおかげで攻撃機部隊の被害は一切なく、敵艦隊への攻撃コースに入ることに成功した。

 

『二時方向より敵雷撃機複数、本艦隊に接近中! 全艦、直ちに迎撃せよ! 迎撃せよ!』 

 

 攻撃隊の接近にUCAの艦隊も気付いており、艦隊護衛に着いているスコープドック隊と共に直ぐに攻撃機隊に向けて艦砲射撃や対空ミサイルなどの攻撃を行う。凄まじい弾幕であるが、全く当たらず、放った対空ミサイルも全て護衛のVF-25の編隊に迎撃されてしまう。

 

「ターゲットロックオン! 対艦、マイクロ含めてミサイル全弾発射ですわ!」

 

 ミサイル攻撃特化のミサイル・パックを装備したVF-25Aに乗るエレイン・ヘラーは、同装備の僚機と共に敵艦隊に向けてミサイルを発射した。

 数千発の大小のミサイルが艦隊に向けて放たれ、それぞれ設定した標的に向かっていく。その無数のミサイルに対し、艦隊は敵機の迎撃を止めてミサイルの迎撃に集中する。対空砲やありとあらゆる手段を用いて迎撃を行うも、全てを撃ち落とすことは叶わなかった。

 数十隻も居たUCA海軍の艦隊は、ミサイル攻撃によって壊滅状態に陥る。ミサイル攻撃を生き延びた艦隊は直ちに撤退を始める。

 

『こちら第99戦隊! ワレ戦闘不能! 所有艦艇の大半が沈んだ!』

 

『こちら巡洋艦アルテミス! 救援を求む!』

 

『畜生、何なんだ!? 誰か! 誰か居ないのか!?』

 

「誰ですの、敵艦の通信を傍受しているのは?」

 

 無線機よりミサイル攻撃を受けて生き延びた敵艦隊の悲鳴が聞こえて来るので、エレインは誰がこんな通信を傍受したのかと文句を言う。

 

『全機、撤退するわよ。艦隊が敵の増援に襲われてるわ』

 

 その後、攻撃機隊は連邦軍の増援に襲われている遠征艦隊の救援に向かった。

 

『ロボットに変形する戦闘機はUCAの連中に任せ、俺たちは艦艇をやるぞ!』

 

 UCA海軍が壊滅状態に陥る中、そうとは知らないISA海軍の機動襲撃部隊のドートレスⅡとウィンダム、量産型ヒュッケバインMkⅡの混成部隊はワルキューレの遠征艦隊に襲い掛かる。ISAの部隊の接近に対しワルキューレの遠征艦隊は艦砲射撃を行い、エステバリス隊に迎撃に向かわせる。

 艦砲射撃の合間を縫って出て来る小型機動兵器であるエステバリスを初めて見たISAの将兵らは、アガサ騎士団のKMFと交戦した連邦宇宙軍と同じ反応を見せる。

 

「ATかっ!?」

 

 先陣を切るウィンダムに乗るパイロットは驚きつつも、右手のビームライフルで撃墜しようとするが、小型ゆえに容易く避けられ、フィールドランスと呼ばれるランスを持ったエステバリスに胴体を突き刺されて撃破される。そのエステバリスに乗るパイロット、アーリィ大尉は続けて二機目のウィンダムに攻撃したが、防御をされる。だが、それは態勢を崩させるための攻撃であり、僚機のエステバリスが一斉射を行って撃破する。

 

「クソっ、グーク野郎なんかに!」

 

『なんて連携だ!』

 

『接近して捻り潰せ!』

 

 小型のエステバリスに苦戦する羽目となったISAのパイロット等であるが、部隊長の指示で再び攻勢に出る。この攻勢に数十機のエステバリスは連携を取りながら迎撃行動を行い、地道にISAの襲撃部隊を消耗させていく。

 

『畜生、こんな奴らに…!』

 

『っ!? 敵戦闘機、こちらに来る!』

 

「エステバリス隊、無事!? 援護に回ります!」

 

 UCA軍の残存部隊を撃滅したVF-31の隊が現れ、量産型ヒュッケバインMkⅡを撃破する。この増援にISAの襲撃部隊は浮足立つ中、黄色のエステバリスに乗るアカリ・ナナホシは機体の特殊防御、ディストーションフィールドを展開しながらドートレスⅡに体当たりを行う。

 

『おぉ!? なんだァ!』

 

「ディストーションアタック!」

 

 八重歯と褐色肌が特徴なアカリは自分を見て驚愕するドートレスⅡに、体当たりの技名を叫びながら突っ込む。本来、ディストーションフィールドは防御機能なのだが、攻撃の転用は可能である。その攻撃を受けたドートレスⅡは砕け散り、黄色のエステバリスは爆発を背景に勝利のポーズを決める。

 

「僕の勝ち!」

 

 そのポーズを取った後、アーリィと共にISAの襲撃部隊との戦闘を継続する。

 

『うわぁぁぁ! ば、馬鹿なッ!?』

 

「お前たちが私に勝つことは無い。何故なら、我々の方が強いからだ」

 

 アカリと同じディストーションアタックで二機のウィンダムを撃破したアーリィは、ISAのパイロット等に向けて自分らに勝てる通りは無いと告げる。

 その間にアカリのエステバリスはアーリィの背後より二刀流のビームサーベルで切り刻まんと接近するドートレスⅡを撃破し、更に数機の僚機が二機の量産型ヒュッケバインを集中砲火で撃破した。

 

「ミサイルだけでは無いですのよ!」

 

 艦隊護衛に戻ったエレインはミサイルパックをパージして機体をバトロイド形態に変形させ、ガンポッドで対艦装備のISAの戦闘機を迎撃する。続々とUCA海軍の艦隊を撤退に追い込んだVF-25メサイアが戻って来るので、分が悪いと判断したISAの襲撃部隊は攻撃を断念して撤退を開始した。

 

『クソっ、何なんだこいつ等!? 撤退だ!』

 

『各機、追撃は不要! 補給に帰投し、次に備えよ!』

 

 信号弾を挙げれば、ISAの襲撃部隊は素晴らしい練度で撤退を開始する。これを彼女らは追撃せず、ただ母艦へと帰投する。

 

 

 

「な、なんてこった…! この程度の数の敵に…!」

 

 要塞を守る非正規軍艦隊の提督は、自分の艦隊がたった数機の敵に壊滅状態にされている現実を受け止められずにいた。

 敵はマリのVF-25Fトルネード・パック、モンタークのνガンダム、ヴァースキーのガンダムシャックス、それとVF-25中隊とVF-31中隊だ。ただそれだけの数の敵に、防衛線はズタズタにされ、要塞にまで接近を許している。そんな放心状態の彼に、部下はそれらの敵の接近を知らせる。

 

「敵可変戦闘機、本艦に接近中!」

 

「迎撃だ! 迎撃しろ! 連邦軍は何やってるんだ!?」

 

 放心状態な提督に代わり、艦長は迎撃命令を出す。彼らが乗る船はUNSC海軍の退役したマラソン級重巡洋艦だ。護衛には同じ海軍で運用されていたコルベット艦二隻が居るが、トルネード・パックの旋回式対艦ビーム砲で二隻諸とも瞬く間に撃沈される。

 

「護衛のコルベット艦、全滅!」

 

「敵機、来ます!」

 

「MSやPTは何処に行ったんだ!? 呼び戻せ!」

 

「敵機、か、艦橋に来ます!!」

 

「うわぁ!?」

 

 二隻のコルベット艦が一瞬で撃沈されたことで、艦橋内はパニックに陥る。そんな恐慌状態のマラソン級重巡洋艦に対し、マリは無慈悲に機体をバトロイド形態に変形させ、ガンポッドの砲口を向けて放った。

 凄まじい弾幕によって艦橋に居た者たちは機関砲弾によってズタズタに切り裂かれ、後から来る爆炎に呑み込まれた。艦橋を破壊されても、まだマラソン級は対空砲やMACキャノンを撃ち続けていたが、ギラ・ドーガやゲイツをビームサーベルで切り裂いて撃墜し、三機のコスモリオンを流れるように撃破したモンタークのνガンダムのフィンファンネルのとどめを受ける。

 

「とどめは私がやろう。ファンネル!」

 

 モンタークに念じられたファンネルは巨大なマラソン級にビームの嵐を見舞い、轟沈させた。

 手近な敵機を鋭利な尻尾で串刺しにして無力化し、フェンダーライフルでローラシア級巡洋艦を轟沈させたガンダムシャックスに乗るヴァースキーは、自分の上司の戦果を褒める。

 

「旦那、これくらい強くなけりゃ、用心棒も必要ないか?」

 

『ファンネルの使用は本体に影響する。君の護衛が無ければ、真面に運用できんよ』

 

「そりゃそうだな。さて、敵さんは逃げ出したぞ」

 

 自分はいらないんじゃないかとぼやくが、モンタークはファンネルの使用は本体に隙を生じさせると言って必要だと返す。それにヴァースキーが納得する中、彼は要塞から多数の貨物船が出て来るのを確認した。どうやら要塞に居る者たちは放棄して逃げ出そうとしているようだ。直ぐにマリは遠征艦隊に向け、要塞に陸戦隊の突入を要請する。

 

「邪魔者は片付けた。艦隊本部、直ちに陸戦隊を突入させて。私は逃げた船を追う!」

 

『チーター、補給に帰投しろ。後続がそれを…』

 

「煩い!」

 

 要請したマリに遠征艦隊は補給に戻るように言うが、彼女は無視して逃げた貨物船を追撃する。

 機体をファイター形態に変形させ、一気に追い付けば、護衛のコスモリオンやサラミス改級を次々と撃破し、数隻の貨物船のエンジン部を機首の機銃で撃って航行不能にさせる。

 なぜ貨物船を撃沈しないかは、そこに奴隷が乗っているからである。事前に遠征艦隊は攻撃目標にした放棄された宇宙要塞が、奴隷商店にされていることを知っているのだ。マリはそれが分かっているので、貨物船を敢えて撃沈しなかった。

 

「ち、畜生が! なんだあいつは!? 撃ちまくれ!」

 

「それでは奴隷を乗せた貨物船に…」

 

「うるせぇぞ! 奴隷なんぞ、そこらの難民共を攫えば補充できる! 良いから撃つんだよ!!」

 

 金色の大型補給艦に乗る奴隷商店のボスは、単独で暴れ回るマリに恐れをなし、味方ごと撃つように命じた。部下がそれに抗議するが、無理にでも撃たせた。これに合わせ、護衛艦も味方ごと接近してくるマリのVF-25Fに集中砲火を浴びせる。

 雨のような艦砲射撃で奴隷商人の護衛機や護衛艦が破壊されていく中、マリはそれら全てを躱し切るが、その流れ弾が一隻の貨物船に当たろうとしていた。流れ弾のコースに気付いたマリは直ぐに貨物船の前に機体を向かわせ、ガウォーク形態の左腕のシールドで流れ弾を防いだ。だが、敵は自分が動きを止めたこと良いことに集中砲火を強める。

 

「へへっ! あの野郎、動きを止めたぜ! 直撃コースだ! 撃ちまくれぇ!!」

 

 味方の貨物船がマリの後ろに居ることも気にせず、艦砲射撃を集中した。凄まじい攻撃にVF-25Fは悲鳴を上げ、やがて左腕は耐え切れずに爆発する。

 

「あいつ等…!」

 

 防御手段を失い、飛んでくる攻撃にマリは死を覚悟したが、咄嗟の所でモンタークのνガンダムのフィンファンネルが貨物船と自分の目の前にバリアを築き上げる。

 

『いくら不老不死とはいえ、宇宙空間で死に続けるのは生き地獄だろう』

 

「あんた…」

 

『この程度で惚れぬことはご承知済みさ。さぁヤザン、最後は君に上げよう』

 

『けっ、バラしやがって! だが、ありがたく頂戴するぜ!』

 

 駆け付けてマリと奴隷を乗せた貨物船を守ったモンタークは、自分に好いてもらう為にやったためでは無いと彼女に答え、ヴァースキーことヤザン・ゲーブルに最後の仕上げを託した。

 自分の正体を晒されたことに腹を立てつつも、最後の仕上げを任されたヤザンは、ガンダムシャックスを駆って奴隷商店のボスが乗る金色の大型補給艦に襲い掛かる。

 護衛艦のドレイク級護衛艦やムサイ改級軽巡洋艦が撃ってくるが、ヤザンの技量の前では無に等しく、ジンにギラ・ドーガやゲイツ、コスモリオンは流れるように次々と撃破され、護衛艦も撃沈され、最後はボスの大型補給艦のみとなる。

 

「護衛艦、護衛機とも全滅!」

 

「う、うひぃぃぃ!? 全力で逃げろォ!!」

 

「駄目です! 追い付かれます!」

 

「キャァァァ!?」

 

 部下より護衛部隊の全滅を知らされ、ボスは全力で逃げるように告げたが、ヤザンのガンダムシャックスから逃れることは叶わず、手にしているフェンダーライフルで直撃を食らって撃沈されるかと思った。だが、それをマリは旋回式対艦ビーム砲を撃ち込んで妨害する。

 

「貴様ァ! この俺を撃ったのか!?」

 

『馬鹿! やるなら艦橋だけ!』

 

「挙句に指図しやがって! 先に貴様を…」

 

『ヤザン、彼女の言う通りにしろ』

 

 自分を撃ったマリは謝罪せず、罵りながら艦橋だけを破壊しろと指図してくる。これに今度こそ許せなくなったヤザンは、フェンダーライフルはマリのVF-25Fに向けたが、モンタークからの指示で言われた通りに艦橋を破壊しに向かう。

 

「ちっ、気に入らんが、言う通りにしてやる!」

 

 対空弾幕を躱しつつ、ヤザンはマリの言われた通りに艦橋へ接近し、実体剣で艦橋を切り裂いた。MSサイズの剣を叩き込まれた艦橋は完全に潰れ、補給艦は後からやって来たエステバリス隊に対空砲を全て破壊されて完全に制圧された。

 こうして、奴隷商店として運用されていた放棄された宇宙要塞における戦いは集結した。




次回から残りの遠征メンバーを出す予定。

キャラ募集は今日中です。急いで活動報告に向かうんだぞォ!


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包囲網を突破しろ

名前:アリエル・ナァロ
性別:女
年齢:21
階級:少尉
所属:ワルキューレ遠征貫艦隊
乗機:VF−31A カイロス
遠征艦隊所属のパイロット。水色でポニテをしている。怒るときは口調が丁寧になり、笑顔になる。
キャラ提供はわかものさん。

名前:マユ・アイゼナッハ
性別:女
年齢:18歳
階級:少尉
所属:ワルキューレ遠征艦隊
乗機:VF−31A カイロス
遠征艦隊の新人パイロットであり、経験が浅く感情的になりがち。かなりの巨乳の持ち主。
キャラ提供はオリーブドライブさん。

名前:マルメルール・ダウル
性別:女
年齢:20歳
階級:少尉
所属:ワルキューレ遠征艦隊
乗機:エステバリス
母艦の防衛担当の1人。死亡枠。
キャラ提供はリオンテイルさん。

名前:メルア・ドリメー
性別:女
年齢:18
階級:伍長
所属:ワルキューレ遠征艦隊
乗機:VF-31A カイロス
実戦が初の新兵。ドジっ娘だが、高性能バルキリーを任されているので、それなりの実力はある。
キャラ提供は秋音色の空さん。


 奴隷商店にされていた放棄された宇宙要塞を制圧したワルキューレの遠征艦隊は、そこの設備や資材を使い、戦闘で受けた損傷個所の応急処置を行っていた。

 モンターク率いるモンターク商会の武装商船に、後からやって来たハーフビーク級戦艦三隻とハンマーヘッド級揚陸艦四隻、輸送艦六隻の合計十三隻の艦隊が合流する。

 

「准将、いえ、総帥殿。護衛に馳せ参じました!」

 

石動(いするぎ)か。まさか君が来るとは」

 

「そこの獣には、総帥を任せられないので」

 

「誰が獣だ! この腰巾着が!」

 

 連絡艇でやって来たのは、モンタークの事を総帥と呼ぶ石動・カミーチェである。総帥としての顔を持つ組織の副官の来訪に驚く中、石動はヤザンに護衛は任せられないから来たと答え、彼を怒鳴らせる。

 彼がやって来た理由は総帥と呼んでいるモンタークの護衛では無く、制圧した宇宙要塞に収容されていた奴隷を回収するためだ。ワルキューレもそれが目的であり、収容されている奴隷たちの中に、自分らの世界から連れ去られた住人たちの回収が目的であった。無論、住人を攫って奴隷にしたのは、ヴィンデルの手の者である。

 

「今はこのモンタークとしての顔では無く、アグニカ・カイエルを継ぐ者、マクギリス・アグニカ・ファリドとして、ここの奴隷たちを導かねばならぬと言う事か」

 

 石動と総帥としての顔の組織の参上に、モンタークは商会としての顔である仮面を取る。

 仮面を取ったモンターク、否、金髪でエメラルドグリーンの瞳を持つ男はその正体をここに居る者たちに明かす。その名もマクギリス・ファリド。彼はヤザンや副官の石動と同じく転生者であり、数千万の軍勢「アグニカ・カイエル」の総帥である。

 彼の正体を見たワルキューレ遠征艦隊の女性将兵らは頬を赤らめ、美男子の姿に目を奪われる。マリの方は会った時から分かっていた様子で、特に驚いた様子を見せなかった。

 

「さて、奴隷たちを迎えに行こうか。彼らの中から、我が軍に志願する者が居るかもしれないからな」

 

 素顔であるマクギリスとなった彼は石動やヤザン、自分に従事する部下たちと共に奴隷たちが集められている区画へと足を運んだ。

 集められた奴隷たちに向け、自分の軍勢に誘う為の演説を行うのだろう。マリはそう思いながら、遠征艦隊旗艦にある自分の部屋へと戻る。マクギリスの美男子ぶりに、ワルキューレの将兵らは彼が率いるアグニカ・カイエル軍に鞍替えしようかと思い始める。

 

「ねぇ、入ってみる?」

 

「えっ? でも…」

 

「金髪の方は怖いけど、ほら、副官の人もイケメンだし」

 

 通路を進んでいれば、マクギリスや石動の話をする将兵や水兵に遭遇する。マリはマクギリスのアグニカ・カイエル軍を新興宗教勢力と認識していた。

 

「宗教じゃん、あれ」

 

 アグニカ軍の事を宗教団体と表した後、マリは外に見えるアグニカ軍の装備を見た。先のハーフビーク級やハンマーヘッド級に、艦載機のMSは小型タイプであるリグ・シャッコーだ。かなりの高性能機であり、ビームシールドを装備している。ガンダムタイプに似た外見と武装はとてもシンプルであるが、かなりの戦闘力を有したMSである。

 そのリグ・シャッコーはアグニカ軍ではかなり配備されているらしく、作業用以外は全てリグ・シャッコーだ。

 

「かなり危ないんじゃないの、あの宗教団体」

 

 リグ・シャッコーなどを見て、マリはアグニカ軍は危険と判断した。

 

 

 

「国籍不明艦隊、放棄された要塞へ集結中!」

 

「いきなりわしの領分に現れて好き放題やった挙句、あんな場所に集まりよって! ただでわしから逃げれると思うなよ!」

 

 一方、自分の領域内で好き放題やった挙句、味方の艦隊を二つとも壊滅状態にまで叩き、挙句にお気に入りにしていた奴隷商店を占領したワルキューレの遠征艦隊とアグニカ軍に、軍閥のリーダーである連邦宇宙軍の大将は激怒していた。

 既に要塞周辺を軍閥下の三個艦隊で包囲しつつあり、好き放題暴れて奴隷たちを回収して逃げ出そうとする遠征艦隊とアグニカ軍の艦隊を包囲撃滅するつもりだ。

 連邦軍は同盟軍の太陽系進出を阻止するための大規模攻勢作戦準備の為、こんなことをする余剰戦力がないはずだが、ここを牛耳る宇宙軍大将の軍閥は大規模攻勢作戦に軍閥ごと外され、予備戦力どころか投入戦力には組み込まれていないようだ。だからこうしてアンノウンである遠征艦隊とアグニカ軍に戦力を向けられるのだ。

 三つの内二つの艦隊は既に包囲陣形についているが、残りの一個艦隊の配置は遅れているようだ。これを知った旗艦に乗る宇宙軍大将は激怒する。

 

東京(トーキョー)から来る第19艦隊、配置が遅れているぞ!? 何故こうも遅いのだ!?」

 

「第19艦隊は再編されたばかりの艦隊です。構成人員には敗残兵や強制的に徴兵された新兵が多く、かなりの練度不足です」

 

 配置遅れに激怒する大将に対し、参謀はその艦隊の人員は敗残兵と徴兵された兵士で構成されて練度不足であると返答する。これに激怒した大将は、自分の管轄下にある惑星トーキョーに居るUNSC海軍所属のコロニー船「スピリット・オブ・ファイヤ」を動かせないことに苛立ちを覚える。

 

「ちっ! スピリット・オブ・ファイヤはなぜ動かせんのだ!? 惑星トーキョーの横浜ドックに居るのだろ!? トーキョーはわしの管轄のはずだぞ!」

 

「あれは我が軍閥下では無く、ガルダーゴンに対する攻勢作戦の予備戦力でありますので。我らには動かせません」

 

「上層部の連中め、アンノウンの艦隊が自分らの領域で暴れ回っているにも関わらず、太陽系の方が大事か!」

 

 スピリット・オブ・ファイヤはガルダーゴンの大規模攻勢作戦の予備戦力なので、動かせないと参謀が答えれば、大将は更に苛立つ。もっとも、この宙域は連邦と同盟、双方にとって戦略的価値が無い宙域であり、五個艦隊、合わせて百隻以上も駐留させている連邦軍が異常なのであるが。

 そんな宙域に現れたワルキューレの遠征艦隊とアグニカ軍の艦隊に対し、連邦軍は圧倒的物量で包囲殲滅を敢行しようというのだ。

 

「とにかく、我らでやるしかありません。これでも過剰だと思いますが」

 

「わしの面子に関わるのだ! 過剰であるか! 行くのだ!!」

 

 二個艦隊で十分な敵を三個艦隊で包囲殲滅はやり過ぎだと言う参謀に、大将は面子の問題と言って無理に従わせた。

 

 

 

 連邦軍に包囲されていることは、既にワルキューレの遠征艦隊とアグニカ軍は知っていた。双方とも包囲を突破する準備を済ませており、後は実行するだけだ。

 遠征艦隊はまだ攫われた住人の数が揃っていないため、引き続きこの世界で捜索を続ける。回収した住人とその他の奴隷たちを乗せた艦艇は自分らの世界へ返すつもりだ。一方でマクギリスのアグニカ軍はモンターク商会としての任務があるために、惑星トーキョー方面に脱出しようとしていた。その為に石動たちの戦闘艦隊を呼び寄せたのだ。奴隷たちを乗せた輸送艦の方は、同じく回収した遠征艦隊の艦艇と共に脱出する。

 

「戦略上価値が無いため、配置されている戦力は二個艦隊程度かと思ったが、まさか後三個艦隊まで居たのか」

 

「大規模作戦で戦力をかなり取られたと思っていましたが、まだあんなに余剰戦力があったとは。連邦軍の物量には驚きです」

 

 アグニカ軍宇宙艦隊の旗艦のハーフビーク級の作戦室にて、包囲陣形で動く連邦軍艦隊の数を見たマクギリスは想定外の数に驚きの声を上げる。石動も大規模作戦があり、自分等小物に対して回す戦力は殆どないと思っていたようだが、その数の多さに連邦の物量の凄さを知った。

 既に包囲突破の作戦は練っているが、予想をはるかに上回る敵戦力の多さで磨り潰されそうだ。そんな時に、マリがある作戦があると映像通信でマクギリス等に告げる。

 

「遠征艦隊旗艦より映像通信。我が艦にです」

 

「映せ。彼女らの意見も聞かねば」

 

『ねぇ、教祖さん。作戦があるんだけど』

 

「教祖だと!? 貴様!!」

 

 意見を聞くために映像通信を開くようにマクギリスが指示すれば、マリは彼を教祖と呼んで包囲を突破する作戦があると告げる。自分らの慕うマクギリスを教祖呼ばわりしたマリに、参謀や部下らが激怒する。それをマクギリスは手を翳して黙らせ、マリの安い挑発に乗ることなく作戦の内容を聞く。

 

「君に打開策があるというなら是非とも参考にさせて頂こう。話したまえ」

 

『えぇ。数ばかりのあいつ等に、私のお気に入りの曲を聞かせようかと思って』

 

「フッ、ライブでも行おうという気か? 君なら注目するだろうな」

 

 自分のお気に入りの音楽を包囲しようとする連邦艦隊に聞かせる。そんな冗談なことを告げるマリに、マクギリスは鼻で笑って注目するだろうと冗談で返す。これにマリは違うと答え、事の真意を伝える。

 

『違うっての! あいつ等の通信システムをハッキングしてウィルス流し込んで音楽を聞かせるの。大音量で』

 

「あれをやるのか? それだと、こちらのシステムにも障害があると思うが」

 

『大丈夫よ、私だけだから。そすれば、敵は混乱するでしょ?』

 

「敵の通信システムをハッキングするのか。だが、敵は軍隊だ。それなりのセキュリティーやファイアーウォールを構築している。ハッキングして突破するのはそれなりの時間が掛かりそうだが」

 

 通信システムにハッキングして連邦艦隊の連携を崩すというマリの策に、マクギリスは敵は軍隊だからかなりのセキュリティーを持って居ると告げる。これにマリは余裕だと答えた。

 

『えっ、楽勝だけど? さっき試しにやったけど、あいつ等のセキュリティー、滅茶苦茶ダメダメだし』

 

 あの艦隊のセキュリティーの突破は余裕だったと自信満々に答えるマリに、マクギリスはタイミングを彼女の同意を得ずに決める。

 

「そうか。では、タイミングは戦闘開始で遠征艦隊の先遣隊が敵艦隊と接触してからだ。我が方は遅れている艦隊と対峙する。君は遠征艦隊の前面に展開する敵艦隊を撃滅するが良い」

 

『はっ?』

 

 勝手に決められた映像の向こう側に居るマリは不満を抱きつつも、戦闘を開始して敵艦隊が戦闘陣形に展開するのが妥当だと、考えれば嫌でも分かるのでそれに同意した。

 

『分かったわよ。あんたのタイミングで始めるわ』

 

 その意向を伝える言葉をマクギリスに言った後、彼女は勝手に通信を切った。

 

「勝手な女だ。ワルキューレは彼女を抑えられないのでしょうか?」

 

「あの手の女性は抑えるより、好きにやらせた方が有利に事を運んでくれることがある。我々も彼女の作戦を実行しようでは無いか」

 

「はっ! 総員、第一種戦闘配置だ!」

 

 石動はマリの勝手な行動ぶりを見て、ワルキューレは彼女を抑えられないのかと不満を漏らす中、マクギリスは勝手にやらせた方が良いと答え、戦闘配置に向かった。

 

 

 

 三つの連邦艦隊の包囲陣形が展開される中、ワルキューレの遠征艦隊では、発艦準備が進められていた。

 

『各中隊、直ちに機に搭乗せよ! VF-31ジークフリードはアーマード・パックを装備! 繰り返す!』

 

 遠征艦隊のマクロス級艦内でアナウンスが響き渡る中、慌ただしく走るパイロット等は自分の機に飛び乗る。

 

『エステバリス隊は直ちに発進! 艦隊防空に従事せよ!』

 

 エステバリスも発進の準備が進められており、艦隊防空の為にバルキリーよりも先に発進する。

 

「マルメルール・ダウル、発進します!」

 

 自分が属するエステバリス中隊と共に、マルメルールは自機に乗って出撃する。既に連邦艦隊は艦載機を発艦させており、凄まじい数の艦上航空機やMS、AT、PTなどがワルキューレの遠征艦隊に向かってくる。味方艦隊の射線上から離れているのか、連邦艦隊は射程距離内に居る敵艦に向けて直ぐに艦砲射撃を行う。

 狙われたのは先遣隊の三隻であり、既に艦載機を出撃させていた。マルメルールはその先遣隊の方のエステバリス中隊に属している。先遣隊は二つほどで、攫われた住人や奴隷たちを乗せた輸送船団を守る本隊の砲撃を逸らすために展開された。案の定、辺境の連邦艦隊は先遣隊の方に砲火を集中している。

 

「バルキリー隊ならびエステバリス隊発進後、トランスフォーメーションに移行! マクロスキャノンで突破口を開く!」

 

「了解。バルキリー隊並びエステバリス隊発艦後、直ちにトランスフォーメーションに移行せよ!」

 

 遠征艦隊の提督は旗艦のマクロス級戦艦をロボット形態の強行型に変形させるように命じる。艦長は命令を復唱してバルキリー隊やエステバリス隊すべてが発艦した後に、マクロス級を強行型に変形させるように命じる。マクロスキャノンは搭載している反応弾に次ぐ艦隊の最大火力であり、一気に多数の敵を強力なビームで焼き払うことができる。

 ただし、変形には時間が掛かり、その間に船体の防空手段が使えないので、僚艦と艦載機に守ってもらう必要性がある。マリの敵艦隊にハッキングして混乱させる策は、マクロスキャノン発射後の混乱に乗じて行うようだ。

 

『バルキリー隊、直ちに発艦! 発艦後、エステバリス隊と共に艦隊防空に従事せよ!』

 

「こちらアンナ・スターリング大尉。バーミリオン小隊発進します!」

 

 アナウンスが響く中、小隊長となったアンナは傘下の三機の小隊機と共に出撃する。

 

『二番機アリエル・ナァロ、行きます!』

 

『三番機マユ・アイゼナッハ、行きます!』

 

『よ、四番機メリア・ドルメー、行きますぅ!』

 

 バーミリオン小隊二番機のVF-31Aカイロスに乗るアリエル・ナァロは水色のポニーテールが特徴の女性で、同型の三番機マユ・アイゼナッハはかなりのスタイルの少女、隊の中で一番階級が低い四番機のVF-31Aに乗るメリア・ドルメーは慌てながらも、小隊長機であるVF-31Cジークフリードに乗るアンナに続いて出撃する。

 

「バルキリー並びエステバリス隊、全機出撃しました!」

 

「全艦トランスフォーメーション!」

 

 小隊が出撃した後にはもう全てのバルキリーやエステバリス隊は出撃しており、その報告を受けた艦長は、艦隊旗艦を強行型に変形させる。既に連邦宇宙軍艦隊の艦載機、セイバーフィッシュにメビウス、ジェガンJ型、ドートレス、ストライクダガー、ジェノアスⅡの大群は遠征艦隊に接近しており、艦隊の対空砲火に晒されていた。マクロス級戦艦が強行型への変形する中、連邦軍の艦載機の大群は襲い掛かる。

 

「なんて数ですの!? 大攻勢中の軍隊の数じゃありませんわ!」

 

 スーパーパック装備のVF-25Aメサイアに乗るエレインは機体をバトロイド形態に変形させ、ミサイルを撃ち、ガンポッドを撃ちながら有象無象に出て来る連邦軍機を見て驚きの声を上げる。一機や二機を落としたところで、全く減ることなく大挙して押し寄せて来る。

 

「レーダー中敵だらけさね! 味方を探すのが面倒だよ!」

 

 電子戦型のRVF-25に乗って索敵するソフィアはレーダー中が敵の反応を示す赤だらけなことに、味方を探す方が面倒だと文句を言う。パイロットは回避に専念している。

 

「ライフルを持っても、この数は厳し過ぎる!」

 

 艦隊防衛に着くエステバリスに乗るアーリィは得意なフィールドランスとライフルを持って迎撃していたが、数の多さに弱音を吐いてしまう。

 

「こんなにいらないっての!」

 

 やや好戦的なアカリでさえ、この数の敵の相手は嫌がっていた。その割に三機ほどは撃墜しているが、数は減ることは無い。

 先遣隊に襲い掛かるロングソード級戦闘機の大編隊にマルメルールのエステバリスは迎撃しきれず、連続して攻撃してくる機関砲弾の嵐に呑まれて他の僚機と共に撃破された。

 

「避け切れない! キャァァァ!」

 

 三機のエステバリスと共に、それに乗っていたマルメルールは爆発の炎に呑まれた。その間にも敵の艦載機群と敵艦隊が前進し、包囲網を縮めて来る。

 

「まだ変形は終わらないの!?」

 

『後二分!』

 

『キャァァァ!? た、助けて!!』

 

『メリア、いま行くわ!』

 

 アンナは複数の敵をミニガンポッドやコンテナパックの武装で数機の敵機を撃墜し、まだトランスフォーメーションは完了しないのかと文句を言う。その間に小隊隷下のメリア機が、ロングソード級戦闘機やセイバーフィッシュに追い回される。彼女を助けるべく、マユは邪魔なジェノアスⅡを撃破してから救出に向かう。

 

「なんですか、有象無象に寄って集って邪魔をして! 頭に来ましたよ!」

 

 仲間の救援に駆け付けようとしたが、複数のヘビーガンやダガーL、アデルマークⅡに邪魔をされて笑みを浮かべながら怒り、VF-31Aのありとあらゆる火器を使って撃破し続ける。

 無数の敵機に遠征艦隊が苦戦する中、艦隊旗艦のマクロス級戦艦は強行型へのトランスフォーメーションを完了し、マクロスキャノンの発射体制に移った。

 

「トランスフォーメーション、完了!」

 

「直ちにマクロスキャノン発射体制に移行! 照準、敵艦隊!!」

 

 副長が強行型への変形が完了したことを知らせれば、提督は直ちにマクロスキャノンの発射体制に移行するように命じる。これに応じて砲術長は敵艦隊に照準を向け、エネルギーチャージに掛かる。これにも時間が掛かるので、防空隊は無数の敵相手に艦隊を死守せねばならなくなる。この間に次々とバルキリーやエステバリスは圧倒的な数の敵に被弾するが撃墜される。

 

「トーキョーより来た第19艦隊、配置に着きました!」

 

「よし、そのまま包囲して殲滅しろぉ!」

 

 連邦艦隊の旗艦にて、惑星トーキョー方面より遅れて来た艦隊が配置に着いたとの報を聞き、勝利を確信した提督は一気に包囲殲滅を命じる。遅れて来た艦隊は、トーキョー方面に脱出しようとするアグニカ軍の艦隊と交戦を開始する。

 それと同時にマクロスキャノンのチャージが完了したのか、直ぐに発射しようとする。

 

「チャージ完了!」

 

「直ちに発射! 射線上に居る友軍機は直ちに退避せよ!」

 

 報告を聞き、提督は射線上に居る味方に警告しつつ、マクロスキャノン発射を命じた。砲術長が発射トリガーを引き、強行型に変形したマクロス級戦艦はマクロスキャンを敵艦隊に向けて発射した。

 限界までチャージされた凄まじいエネルギーが砲口より発射され、真っ直ぐと連邦艦隊に向かっていく。射線上に居た連邦軍機はそのエネルギーに呑み込まれて次々と消滅していく。殆どの物を消滅させるエネルギーが向かっていくことに気付いた艦艇は退避行動を行うが、難十隻かは逃げきれずに消滅する。

 

「高エネルギー体、当艦に向けて接近中! 三十秒後に本艦に命中します!」

 

「馬鹿者! 回避だ、回避を急げ!!」

 

 旗艦でも退避命令を出し、直ちに操艦手が回避行動をするために舵を切る。エネルギー体は旗艦付近に居る護衛艦数隻を襲い、内三隻を轟沈させて二隻を大破させた。残りは小破で済み、旗艦の方は中波で済んでいる。これを直ちに頭を打った通信手は報告する。

 

「護衛のマシタ、レッドストーン、ル・ジュン轟沈! ウラジミール、マン・ギルー大破! 残りは小破か中破です!」

 

「本艦は中破で済んでおります! 戦闘継続可能!」

 

「うぅ、残存艦艇はどうなっている!?」

 

 報告を聞き、大将は自軍の艦隊の被害はどうなっているかを問う。これに頭から血を流している提督は参謀に聞いて被害状況はどうなっているかを聞き、それを上司に報告する。

 

「当第13艦隊の三分の一は消滅! 第23艦隊の被害は最小! 第19艦隊は敵別働艦隊と交戦中! 包囲陣形に支障なし!」

 

「よーし、一気に叩き潰してやるっ! 行けぃ!」

 

 提督より自軍の損害は包囲に支障なしとの報告を聞けば、大将は一気に遠征艦隊の始末に回る。だが、その瞬間に大音量の音楽が艦内に響き渡る。

 

「うわぁぁぁ!? 耳が!」

 

「な、なんだこの曲は!? 一体だれがやっておる!?」

 

「当艦隊と第23艦隊、第19艦隊にも同様の事態が発生! 連携が取れません!」

 

 大音量で耳をやられた通信手が慌ててヘッドフォンを外す中、大将はこの大音量が何者かの仕業なのかを問い詰める。直ぐに別の通信手が報告し、同様のことが他の艦隊でも発生していることを知らせる。どうやらマリがハッキングに成功し、自分の曲を連邦艦隊全体に聞かせているようだ。

 無線連絡を妨害された連邦艦隊は連携が真面に取れなくなり、マクロスキャノンで受けた損害の部隊再編もままならなくなる。マリの狙い通り、連邦艦隊の包囲陣形は崩れつつあった。




次回で包囲網を突破します。

味方間の無線連絡が大音量で妨害されたら混乱するだろうな…。


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私はトーキョーへ行く

名前:マリンダ
性別:女
年齢:24
階級:騎士団の情報員
所属:炎のバラ騎士団
乗機:ブリッツガンダム(EWAC仕様)
炎のバラ騎士団残党の情報員。一番下の孤児の為に街娼として働き、盗みを繰り返していた。
盗みの最中に炎のバラ騎士団に見付かり、捕まって非合法な情報員に仕立て上げられる。騎士団が壊滅して残党と化した後も大事な孤児たちを人質に取られ、情報員として働かされている。
キャラ提供は黒子猫さん。

イメージ戦闘BGM「Valkyrie Attack!」
https://www.youtube.com/watch?v=csJrBtDdezs


 無線連絡を大音量で妨害された連邦艦隊は真面な連携が取れず、再編も出来ずに大混乱に陥る。

 

『一体なんて言ったんだ!? 聞こえない!』

 

『後退はこっちが先だ! 馬鹿、先に行くな! ぶつかる!』

 

『こちらヴォルフスブルク! 当艦の被害は甚大だ! 道を開けてくれ! なんで塞ぐんだ!?』

 

『どうなってる!? もう一度言ってくれ! 聞こえない!』

 

『指示をくれ! どうすりゃあ良いんだ!?』

 

 多数の連邦軍機や艦艇が、マリの通信網のハッキングによって大混乱に陥っていた。真面な無線連絡も取れず、衝突する機や艦艇が続出した。

 そんな大混乱の敵艦隊に対し、ワルキューレの遠征艦隊は包囲網から脱するために容赦なく攻撃を仕掛け、一挙に脱出しようとする。

 この状況を作り出した元凶であるマリはハンガーまで向かい、そこで予備機として保管してあるVF-31Jジークフリードに飛び乗る。装備は専用のアーマード・パック装備だ。強行突破のための反応弾を四発も積んでいる。

 自動でハッチを操作して開けば、エンジンを始動させてスラスターを全開に吹かせ、一気に戦場となっている宇宙へと飛び出す。この発艦については遠征艦隊側にも伝えており、マリはトーキョー方面へと行くアグニカ軍の方へ邪魔する敵機を撃破しながら向かう。

 増槽を着けているため、反対側に向かうアグニカ軍に十分に追いつく。

 

「チーター、アグニカ教団の方へ向かいますが?」

 

「放っておきなさい! 我々は突破が最優先だわ!」

 

 反応弾を搭載して向かったマリに対し、レーダー手はどうするかを問えば、提督は放っておけと答え、敵の包囲の突破が先であると告げる。

 それに同意すれば、遠征艦隊は混乱状態の敵艦隊に突撃を仕掛け、面白いように敵機や敵艦を沈めていく。敵艦隊は無線連絡を大音量で妨害されている所為で真面な反撃が出来ず、一方的に撃たれるばかりだ。

 

『敵だ! 敵が撃ってきている! なんで反撃しない!?』

 

『えっ! なんだって!?』

 

『聞こえないぞ!? 指示は! 指示はどうした!?』

 

『被弾した! 着艦許可を願う! 聞こえないのか!?』

 

 このように敵の混乱した無線連絡が聞こえ、彼らは的の如くワルキューレの遠征艦隊に撃たれて撃破されていく。やがて艦隊は先遣隊と合流し、マクロスキャノンを撃たれて再編に手間取っている敵艦隊の旗艦の辺りにまで進出する。

 

「特機に変形した敵戦艦を筆頭に、敵艦隊が我が方に接近中!」

 

「何をやっておる!? 早く迎撃しろ!」

 

「僚艦は直ちに迎撃しろ! 聞こえんのか!? クソっ、なんだこの音楽は!?」

 

 レーダー手が強行型に変形したマクロス級戦艦を筆頭に突破を図る遠征艦隊の接近を知らせ、大将は直ぐに指示を出すが、大音量の音楽の所為で反撃しない僚艦が居り、提督は怒鳴りつける。

 

「進路上に敵旗艦!」

 

「直ちにダイダロスアタック!」

 

「左舷、ダイダロスアタック!」

 

 そんな敵旗艦に対し、遠征艦隊提督はダイダロスアタックと呼ばれる強行型の左腕をぶつけろと言う指示を出せば、直ちに強行型のマクロス級戦艦は左腕を敵旗艦に突き刺そうと急接近する。突撃してくる巨大なロボットに、千メートル級戦艦である敵旗艦は猛反撃を行う。凄まじい弾幕であるが、既に遅過ぎた。

 

「わぁぁぁ!?」

 

「て、敵巨大特機、当艦に突撃します!」

 

「何とかしろぉ!!」

 

「回避だ! 直ちに回避行動を取れ!!」

 

 艦橋から見える強行型状態のマクロス級戦艦の突貫に参謀や提督、大将らが悲鳴を上げる中、旗艦は主砲やミサイルなどありったけの攻撃を行うが、止められずに左腕を突き刺され、そこからデストロイドのロケット攻撃やミサイルが一斉に撃ちだされる。マクロス級戦艦が左腕を引き抜き、元の艦艇状態に戻りながら包囲網を抜ける隷下の艦艇群に合流すれば、連邦艦隊の旗艦である千メートル級戦艦は内部爆発を起こして轟沈する。

 これに連邦艦隊は更に混乱する中、追撃能力を奪うために爆撃機型バルキリーであるVB-6ケーニッヒモンスター三機が対空砲を撃っているだけの敵空母に向け、シャトル形態からデストロイド形態に変形して強行着陸を行う。VB-6はかなりの重量であり、甲板で移動対空砲となっていたスコープドッグやドートレスを圧し潰し、両腕の対艦ロケットランチャーを空きっぱなしのハンガーへ撃ち込んで大惨事を起こさせる。

 空母の抵抗を奪った三機のVB-6は、上部四門の長距離レールキャノンを混乱して真面に動けない敵艦隊に向けて三機揃って一斉射を行い、敵艦隊への追撃能力を奪った。更にVF-25やVF-31等のバルキリーは搭載しているミサイルを統べて撃ち込み、連邦艦隊に更なる被害を与える。

 

『だ、駄目だ! 我が艦隊戦闘不能! 繰り返す、我が艦隊は戦闘不能!』

 

『助けてくれぇ! 聞こえてるか!? 誰かぁ!!』

 

 残存する連邦艦隊の悲痛な無線連絡を横目に、ワルキューレの遠征艦隊は脱出に成功した。

 

『あの、チーターが敵陣に取り残されていますが…?』

 

「前に誰か聞いたような気がするけど、放っておきなさい。どうなろうが知ったことではないわ」

 

 ガンポッドやミサイルを撃ち尽くしたマユは隊長機のVF-31Cに乗るアンナに、敵中に残っているマリはどうするのかを問えば、放っておけと答えて帰投した。

 専用のエステバリスに乗るアーリィも、ライフルの補充の為に母艦へと帰投する。RVF-25に乗るソフィアは、同じ電子戦機であるVF-31Eと共に引き続き周囲警戒を行う。

 

 

 

 一方でアグニカ軍の方へ何故か向かったマリは目前に見える敵艦や艦載機を撃破しつつ、トーキョー方面に向かう艦隊に合流しようとしていた。

 

「邪魔っ!」

 

 進路上邪魔となる敵艦隊に対し、マリは搭載している反応弾全てを躊躇いもなしに撃ち込んだ。

 

「飛んでくる大型ミサイル、高熱源反応確認!」

 

「撃ち落とすんだ!」

 

「間に合いません!」

 

 反応弾は核兵器に匹敵する程の威力であり、進路上に展開していた連邦艦隊と多数の艦載機は四発分の反応弾の爆発に呑まれて消滅する。強引に突破した彼女は機体をファイター形態からバトロイド形態へ変形させ、ミサイルやビームをまだ残っている敵機に撃ちまくり、大多数の敵機をまたも撃破した。

 ある程度の敵機を落とせば、マリは機体をファイター形態へ変形させ、トーキョー方面から来た連邦艦隊と交戦するアグニカ軍の艦隊へと合流する。

 

「遠征艦隊のチーター、我が方に合流!」

 

「なんのつもりでしょうか?」

 

「私に惚れた…いや、古代兵器に関して興味が湧いたようだな。食えん女だ」

 

 武装商船を守るように前進するアグニカ軍の艦隊の旗艦を務めるハーフビーク級の艦橋内にて、レーダー手はマリのVF-31Jジークフリードの合流を知らせる。

 石動はマリの不審な行動に疑念を抱く中、マクギリスは自分等が支援している帝国再建委員会の古代兵器に興味を示したと思う。本当にそうであるかを問うべく、マクギリスは敵の追撃隊と交戦するマリのVF-31Jに向けて無線連絡を行う。

 

『ヴァセレート嬢、少し良いか?』

 

「なに? 忙しいんだけど」

 

 音楽を聴きながら戦うマリは、無線連絡で聞いてくるマクギリスに耳を傾ける。その間にも敵の追撃機が限りなく来るが、今のマリは話を聴きながらも対処できる。

 

『忙しいところ済まない。我々に同行するというのは、君も古代兵器を知っていると言う事だな?』

 

「…そうだけど? なに、取られるのが怖い?」

 

『君に取られるのが怖いか。フン、怖くはないさ。こちらにはバエルがある。我が軍の参謀らは欲しがっているがな』

 

 マリが思った通りに古代兵器を狙っていることを明かせば、マクギリスは自分にはバエルがあるのに、参謀らが古代兵器を欲しがっていると答える。バエルだけでは不安がる参謀らの意見はもっともであるが、マクギリスはバエルこそが最強であると思っており、余り興味が無さそうだ。

 

『古代兵器の性能は未知数だ。君の帝国の、いや、帝国再建委員会はその忘れ物を取り戻すのに固執している。作った自分らでさえ存在を忘れていた物にな。あれに関する資料は、帝国崩壊後に殆ど破棄されたのか、兵器リストには存在していたとしか記されていない。そんな物が何か分からぬのに、参謀らは強大な力があると思って欲しがっている。何なのか知らぬが故だろう』

 

 次々と来る敵機を撃破しつつ、マリはマクギリスの古代兵器に関する考察を聞く。事実、古代兵器に関する資料は殆ど残されていない。ただ実在していたと言う事だけだ。その兵器を作った帝国の女帝であったマリでさえも、資料を見るまで全く知らなかった。マクギリスの方は古代兵器について知っていると思ってマリに聞いているのだが、当の本人は知る由もないので、そのことをヘビーガンを撃破してから彼に告げる。

 

「言っとくけど、わたし知らないから。あんたは知っていると思ってるけど」

 

『そうなると軍部か総統府の独断か。調べた通り、飾りの皇帝であった君に知らなかったのは無理もない。残党らと接触したが、君は死んだことになっているそうだ。無理も無いか、君は自分の帝国を…』

 

 古代兵器を知らなかったことを伝えれば、マクギリスは帝国に対して調べた通り、マリが飾りの皇帝であったので知らないのは無理も無いと判断する。そんな彼女に対し、マクギリスはマリの帝国の残党らが死んだことにしていると伝え、挙句に余計なことまで口にしてしまう。

 これに腹を立てたマリは無線を切り、マクギリスのハーフビーク級戦艦に接近する敵部隊をわざと見逃し、撃沈されるように仕向ける。

 

「敵機複数接近! 当艦にです!」

 

「チーターはなぜ撃墜しない!? そこに居るだろう!」

 

「どうやら彼女の癪に障ったようだな…」

 

「ヤザンを呼び戻せ! 総帥が危険だ! 僚艦にも打電しろ!」

 

 レーダー手が複数の敵機接近の報告に、艦長はマリのVF-31Jがその敵部隊を迎撃しなかったことに驚きの声を上げる中、マクギリスは彼女の癪に触れたと表情を強張らせる。

 向かってくる敵部隊は対艦キャノン砲装備のダガーLやアデル・キャノンの混成部隊だ。必死の対空弾幕を避けながら有効射程距離まで近付いてくる。石動や艦の乗員らは必死にこれらの脅威の排除に専念するが、あの部隊を排除できるマリは全く手を貸さない。

 

「敵機半数撃破! まだ残ってます!」

 

「まだヤザンは来ないのか!? 総帥、もしもの場合に備えて…」

 

「すまなかった。君の事情も知らないで」

 

 敵部隊の接近に艦内が慌ただしくなる中、マクギリスはマリに向けて謝罪した。これに一同は驚き、その数秒後に旗艦に接近中の敵部隊を全て撃ち落とした。

 

「チーターが敵部隊を撃破しました!」

 

「総帥が謝罪しなければ助けないのか? あの女は」

 

 敵部隊を撃破して艦橋の前まで来たマリのVF-31Jに、石動は苛立ちを覚える。マクギリスはそんな彼女に何も言わず、敵艦隊を突破するように命じる。

 

「マージィ、アーケストラ並び各艦に打電、敵艦隊を突破しろ。艦載機はその護衛に」

 

「了解! 自分も直ちに出撃します!」

 

 そのマクギリスの指示に従い、艦長は僚艦に彼の指示を伝達する。石動はヤザンが戻らないことで、自分が旗艦を守るほか無いと判断して出撃する。それ程にマリが信用ならないのだ。

 指示に応じて敵艦隊にアグニカ軍の艦隊が突撃を仕掛ける。目前の連邦軍艦隊は数が多いが、再編されたばかりで練度は低く、対するアグニカ軍は総帥のマクギリスが居る為に士気が高く、練度も高くて装備の質も高い。実戦経験が豊富な者も多い。

 そればかりか連邦軍艦隊は通信網にマリのハッキングでまだ立ち直っておらず、次々と撃破されるばかりだ。挙句に逃亡する者まで出ていた。これを必死で抑えようとするが、逆に撃破される。総崩れになっていた。

 

「敵軍、総崩れです!」

 

「よし、一気に突破しろ!」

 

 敵が総崩れになったとの報告を受け、マクギリスは突破を命じた。それに応じてアグニカ軍は総崩れ状態の連邦艦隊に襲い掛かり、碌な反撃も取れない敵を蹂躙して一気に包囲網を突破した。

 

『ワレ追跡不能! 戦闘継続困難! 繰り返す! ワレ追跡不能! 戦闘継続困難!!』

 

 突破された連邦艦隊は碌に追跡できず、ただトーキョー方面に逃げるアグニカ軍の艦隊を見ていた。

 

 

 

 この戦略的価値のない宙域で、正体不明勢力であるワルキューレの遠征艦隊とアグニカ軍の連合艦隊が圧倒的物量を誇る連邦艦隊と交戦し、その包囲網を見事に抜け出した。

 正体不明勢力がうろついていることなど知らず、UNSCの植民地コロニー惑星の一つ「トーキョー」では、ターニャら特務魔導大隊を乗せた帝国再建委員会の偽装貨物船が軌道エレベーターの宇宙港に入港しようとしていた。

 

「こちら貨物船ノイエ・ラント。スカイツリー港湾管理局、本船の入港許可を求む」

 

『こちらスカイツリー軌道エレベーター港湾管理局。貨物船ノイエ・ラント、現在地にて待機されたし。連邦宇宙軍第49戦隊が先に出航する』

 

 港湾管理局の管制官に入港の許可を問う偽装貨物船だが、管制官は先に連邦宇宙軍の八隻以上もの軍艦が出航するので、その場で待機しろと命じられる。これに応じ、その場で待機すれば、クラップ級巡洋艦やマゼラン改級戦艦、サラミス改級巡洋艦で編成された八隻もの艦隊が偽装貨物船の前を我が物顔で近くを通過していく。

 中には衝突寸前まで近付く艦艇もあり、そこを退けと言う態度を取る連邦軍の艦艇に偽装貨物船の艦橋内は緊張した空気になる。全てが通り過ぎれば、管制官より許可証を提示する連絡が無線機から聞こえて来る。

 

『ノイエ・ラント、放心状態の所悪いが、許可証を求む。聞こえてるか?』

 

「えっ、はい。直ちに送信します」

 

『確認した。先の連邦艦隊に驚いているようだが、これも戦争なんだ。我慢してくれ。許可証を確認した。入港を許可する』

 

 許可証を提示するように求められた偽装貨物船は、精密に偽造された許可証を管制官に送信する。それを確認した管制官は先の連邦艦隊の態度を代わりに謝罪しつつ、入港許可を出した。

 

「どうも。ご苦労様です」

 

 それに応じて偽装貨物船は礼を言いつつ、軌道エレベーターの宇宙港に入港する。宇宙港の大半は軍籍の船で占められており、準備が完了次第に出航する軍艦が見える。艦内の窓からそれを見ていたターニャは、何かの攻勢作戦の為の物であると見抜く。事実、出航する連邦軍艦艇は大規模攻勢部隊に合流するために出航しているのだ。

 遠くの方の軍用宇宙ドックでは、三千メートルはある巨大なコロニー船「スピリット・オブ・ファイヤ」が最新式の艤装が行われている。同時に物資の搬入も進められているようだ。

 

「何かの大規模攻勢のようだな」

 

「まもなく入港いたします。変装してください」

 

「了解した」

 

 宇宙港に入港するとの知らせを受け、ターニャはトーキョーへ入るための変装を行う。付近で待機している大隊の隊員らも変装するために着替え始めた。

 偽装貨物船が宇宙港へ入港する中、ステルス機能であるミラージュコロイドを使って宇宙港に侵入する不審なMSが居た。

 

「こちら盗人、探知されずに侵入成功」

 

『了解した。傍受される恐れがある。以降、無線連絡は行われない。盗人は引き続き、軍事施設を調査せよ』

 

「了解、調査を続行します」

 

 戦闘装備を極力外し、完全に潜入装備となったブリッツガンダムに乗るマリンダは上司の指示に応じて宇宙港に潜入した。

 

「みんな、待っててね。お姉ちゃんが稼ぐから…!」

 

 完全に擬態化したブリッツガンダムのコクピット内にて、マリンダは機器の邪魔にならないスペースに張った写真に写る幼い少年少女らに向け、必ず幸せにすると誓った。




活動報告にて歩兵枠を募集中~。

次回は惑星「トーキョー」でドンパチでもすっかな。


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惑星トーキョー

名前:バシュロ
性別:男
年齢:45歳
階級:兵士長
所属:炎のバラ騎士団
乗機:ゲイレール
魔女狩りを率先して行ってきた赤ひげのデカいおっさん。ゲスであるが、実戦経験は豊富である。
臨時団長からの指示を受け、トーキョーに部下たちと共に潜入した。
キャラ提供はオリーブドライブさん

オリキャラ
名前:アーデルトラウト・ブライトクロイツ 通称アーデ
性別:イヴ人(女性しかいないので)
年齢:107歳
階級:少佐
所属:特務魔導大隊 副大隊長
武器:HK G36Aアサルトライフル、ワルサーP99ハンドガン
二度目の転生を果たしたターニャ・フォン・デグレチャフが率いる特務魔導大隊の副隊長にして副官。
ヴィーシャ越えのスタイルの持ち主であり、身長は176センチの金髪ロングヘアー。ターニャ曰くヴィーシャほど有能じゃないが、程よく有能。だが、監視役。
帝国崩壊後に生まれ、育った環境が残党軍であったためにイヴ人至上主義者であり、常にイヴ人を優先させると言うターニャにとって痛い悪癖を持っている。
副官であるが、もはやイヴ人的思想の持主ではないターニャの監視役と言って良い。

名前:マリナ・ティファ・イトウ
性別:イヴ人
階級:中尉
所属:帝国再建委員会情報部潜入捜査第一課
武器:SIG P232自動拳銃
外見がFF7のティファにそっくりな人。だが、身長が170センチで胸がやや大きいので、若干違う。でもコスプレしたらそう見える。
情報部からの指示でモンターク商会とコンタクトすべく、惑星トーキョーに潜入している。


 惑星トーキョー。

 その星はUNSCのコロニー惑星の一つだ。入植は宇宙大航海時代に行われており、発見したのは日系で編成された移民船団であるため、日本の首都である東京にちなんでトーキョーと名付けられた。

 植民地惑星の特徴としては造船能力の高さであり、大反乱時代ではUNSCと反乱軍との戦争に巻き込まれ、一時期は戦場となっていたが、コヴナント戦争前には元の状態になるまで復興し、更には戦争に巻き込まれなかったと言う幸運さを持っていた。

 戦争時代はその造船能力をフルに使い、UNSCの宇宙戦力の補充に従事した。地球が陥落した際は、奪還作戦の為の拠点となる予定であったが、トーキョーは戦場になることなく終戦を迎えた。

 この戦争では戦略上、価値のない宙域に位置してか、連邦軍の数ある造船所に過ぎず、同盟軍からも狙われること無くコヴナント戦争と同じく、連邦軍の戦闘で損失した艦艇を修理するか造船している。

 

 そんな惑星トーキョーに、三つのグループと一人が支配者である連邦の目を盗んで来た。

 一つ目は支援部隊と合流するために偽装貨物船でトーキョー入りを果たしたターニャ・フォン・デグレチャフ率いる特務魔導大隊。

 二つ目はターニャのガルダーゴン潜入の支援を行うモンターク商会の仮面を被るマクギリス・ファリド一行。

 三つ目はガンダムを奪いにトーキョーへ潜入した炎のバラ騎士団。

 一人は気紛れにマクギリス等と行動を共にするマリ・ヴァセレート。

 

 人知れず訪れた彼らが、この戦争とは無縁の平和のような惑星に被害をもたらすとは、支配者である連邦はまだ知らない。

 

 

 

「どうかね、数十年ぶりのトーキョーの様子は?」

 

 惑星トーキョーのUNSC海軍の基地の一つ、ヨコハマ鎮守府の司令室に居る海軍将官は、目前の左官の初老の男に対し、久しぶりのトーキョーの景色はどうかを問う。

 

「私が研修時代の時に訪れた頃と全く変わっておりませんな」

 

「そうだろう、わしが少尉の頃からそうだ。反乱時代でも戦場になったが、あまり被害も出ていない。その上にコヴナント戦争では一度も戦場になることが無かった。連中からすれば、遠すぎたんだろう。幸運の星さ」

 

 上官からの問いに、海軍大佐であるジェームズ・カーターは自分の若い頃から変わってないと答える。これには上官も同意見であり、自分が少尉時代から特に何も変わっておらず、大反乱時代でも大した被害は出なかったことや、コヴナント戦争ではコヴナント軍の侵攻方面からかなり遠かった為、巻き込まれずに済んだことを踏まえ、幸運の星と表する。

 そんな事よりも、上司はカーター等スピリット・オブ・ファイヤが生きていたことに驚いたと生き証人である彼に告げる。

 

「それよりもわしが驚いたのは、貴官らスピリット・オブ・ファイヤが戻って来たことだ。最初は幽霊船では無いかと疑ったが、まさか生きて帰って来るとは…! おかげで除籍処分を撤回せねばならなくなったぞ」

 

「はっはっはっ、私の顔を見た将校らは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてましたよ。我々が幽霊に見えたのでしょうな」

 

「そうに違いない。わしも全く同じだったさ。死んだと思ってた連中が生きてて、コヴナントのはぐれ部隊と交戦し、生きて我がUNSC海軍と合流したことなど」

 

「さしずめ、冒険小説のような事ですな。まさかそれをこの身で体験するなんて」

 

 死んだ者が生きていた。上司とそれを笑い話のように語りつつ、カーターは自分等が眠っている間に変わった情勢に驚きを隠せないことを告げる。

 

「しかし、我々が眠っている間にアルカディアが陥落し、更にはリーチまで陥落していたとは…」

 

「貴官が驚くのは無理もないな。あれは地獄の撤退戦だった。挙句に地球まで侵攻されたが、寸でのところで奴らが内部分裂をしたおかげで助かったよ」

 

「エリート族が味方になったことに驚きを隠せませんな。ここで言うなら、浦島太郎になった気分です。それにまた戦争とは…」

 

 真剣な表情になりながらカーターは自分等が眠っている間にコヴナント戦争が終わり、新たな戦争である統合連邦と惑星同盟との戦争が始まっていたことに落胆を覚える。

 コヴナントのはぐれ部隊と言うか離反部隊であるバニッシュト軍団との戦いを上司に話した後、新たな艦載AIのイザベルのおかげで助かったが、上司はAIに対して表情を曇らせる。直ぐにその訳をカーターは問う。

 

「AIと聞いて表情が暗いようですが、何か?」

 

「あぁ、貴官は知らんだろうが、数か月前にAIの反乱があってな。公式的にマスターチーフはMIAとなった。だが、彼はサンヘリオスで生きている」

 

「良く聞くスパルタンⅡの一人ですな。今の我々には彼が必要と思えますが…」

 

「貴官の言う通りだ。だが、他の同盟連中は気に食わんようでな。特に連邦とブルーコスモスとやらは奴を化け物呼ばわりしている。我々UNSCには英雄なのにな」

 

「過ぎたる力は恐れられると言いますが。まさかこれ程とは…」

 

 全く知らぬカーターにこれまでの経緯を上司は話しつつ、彼に新しい任務を告げる。

 

「さて、世間話はこれまでにして、帰還して早々に悪いが、海軍司令部よりスピリット・オブ・ファイヤに任務だ。大規模攻勢作戦の予備戦力として、第6連合艦隊と共にガンダーラへ向かえ。詳細は貴官の端末に送っておく。後で確認してくれ」

 

「ジェームズ・カーター海軍大佐、受け取りました。本当に我々を全滅したことにせんと言う陰謀が見えるようですが?」

 

「安心しろ、貴官のスピリット・オブ・ファイヤは後方配備だ。補給艦として、作戦に参加する我が軍の機動兵器の継続支援に当たれ」

 

「色々と変わり過ぎて、この老体が覚えられるかどうか不安ですが、私のスピリット・オブ・ファイヤの乗員を含め、一丸となって任務に邁進して参ります!」

 

 自分の端末に新しい任務内容を確認すれば、自分等を本当にMIAにしたがっているのではないかとカーターは上層部を疑う。これに上司はそんな意図はない事を伝えた。カーターはこの上司とはアルカディアにおいて共に戦った経験があるので、信用しつつ任務に乗員共々邁進することを敬礼しながら誓った。

 

「うむ、健闘を祈るぞ。カーター大佐」

 

「なに、直ぐに終わらせて見せますとも。家族に生存報告をせねばならんので」

 

 上司も立って敬礼で返せば、カーターは笑みを浮かべてガンダーラの戦いを早く集結させると言って退室した。

 

 

 

「なんだここは? まるで東京ではないか」

 

 鎮守府にてスピリット・オブ・ファイヤの艦長ジェームズ・カーター大佐が新しい任務を受領して自分の船に戻る中、惑星トーキョーの光景を見たターニャは前々世にある記憶を思い出す。彼女こと彼が見た光景そのものであった。トーキョーの都市は2010年代の頃を再現しているようだ。

 余りにも生前の光景に、ターニャは一瞬で見飽きてしまう。どうもこうにも、この惑星の都市はサラリーマンとしての自分の記憶そのものなのだ。違うとすれば、軌道エレベーターがあったり、排気ガスが一切ない事だが。部下の方は珍しがっており、イヴ人の方は高層ビル群に茫然としている。イヴ人の法律では、高層ビルのような建造物は法律上で禁止されているのだ。*1

 

「おい、任務中だぞ」

 

「その言動にも注意ですよ」

 

 ターニャは高層ビル群を見て珍しがる部下たちに対し、任務中であることを注意すれば、黒のロングヘアーの女性が身を屈めながら言動に注意するように告げる。

 

「貴官は?」

 

「伊藤真里菜(まりな)です。周囲には注意ですよ、中佐さん」

 

「(FF7のティファにそっくりだな。胸はあれより大きい気がするが。ミドルネームはティファじゃなかろうな)」

 

 目の前の女性、それも現地の案内人が自分の知るゲームのキャラにそっくりだったため、ターニャはそのことを思い出しつつ現地で合流する予定のモンターク商会の者がどこに居るかを問う。

 

「それでティファ、じゃなくて伊藤さん。私たちの案内人はどこに居るの?」

 

「こっちよ。後、貴方たちはツアー客ってことになってるから」

 

 言動に注意しつつ問えば、真里菜はターニャ等の大隊はツアー客であると答え、彼女らをモンターク商会が待つ場所へと案内した。道中の目に映る光景に部下たちは目を取られがちだが、生前にその光景を見たことがあるターニャは一切興味を示さない。副官のアーデルトラウト・ブライトクロイツは周辺に見える高層ビル群に、いつまでも度肝を抜かれている。

 行軍訓練の所為で統制の取れた二列横隊で歩いているために目立ち、隊員らは真里菜によりもっとバラバラになって動けと注意を受ける。そんな状態で一同はモンターク商会が指定した合流場所である施設へと辿り着く。

 商会の使者がターニャ等を見付ければ、現地の案内人である真里菜に合図を送った。その合図に真里菜は指定された合図を送り、ツアー客を装うターニャ等を施設へと案内する。

 

「皆さん、こちらですよ~」

 

 真里菜が旗を振れば、ターニャ等はそれに従って屋内へと入っていった。そこで待っていたのはモンターク商会としての仮面を着けたマクギリスと用心棒のヤザン、姿の見えない石動の代わりに白髪の青年が壁に背もたれしている。彼もヤザンと同じ用心棒である。付近の座席には興味津々でついて来たのか、スマホのような物を弄っているマリが座っていた。

 

「そこのお嬢さん方、こちらへ来て座りたまえ」

 

「はい。さぁ、行きましょうか」

 

「(あの胡散臭い仮面、ロリコンか?)」

 

 モンタークとしての仮面を被るマクギリスはターニャ等を手招きした。これに応じてターニャはマクギリスを警戒しつつ、真里菜や副官のアーデルトラウトことアーデと共に彼の据わる席へと向かう。途中、白髪の青年の側を通れば、急に口を開いた。

 

「あんた、転生者だろ?」

 

「っ!?」

 

「デカルト・シャーマン、挑発するのはやめたまえ」

 

「…フン」

 

 デカルト・シャーマンなる青年はターニャを転生者だと見抜いたのだ。それをマクギリスが注意すれば、彼は大人しく引き下がる。真里菜とアーデは全く意味が分かってないが、三名がマクギリスの向かい側の席へ座れば、彼は知らないはずの自分の前世の事を喋り始める。これには流石のターニャも黙ってはいられなかった。

 

「転生する前の光景を、二度の転生を得て見た感想はどうかね?」

 

「…貴様! まさかかと思うが…!」

 

「中佐、貴様!?」

 

 自分の過去を見抜いたマクギリスに対し、ターニャは隠し持っていた拳銃の銃口を彼に向ける。それに反応して店に居た者たちが一斉に大隊メンバー等に各々の得物を向け、近くに居るヤザンは懐に隠してある銃口をターニャに向ける。真里菜とアーデも混乱しながらも、隠し持っている銃を敵に向けていた。まさに一色触発状態であるが、マリは呑気にスマホのような端末を弄っているだけだ。

 

「馬鹿ばっか」

 

 マリが一言発した後、マクギリスは銃口を向けられているにも関わらず、動じることなくターニャに敵でないと告げる。

 

「癇に障ったか? 我々はここで諸君らと事を構えるつもりは無い。それに私は君が憎むXの刺客でもない、同じ転生者だよ。隣の男と白髪の男もね」

 

「証拠は?」

 

「あるさ。我々は自由意志でここに居る。それと神が何の因果で我々を現世に呼び戻したかは分からん。気紛れか、この世界の支配者を殺させるためか。そんな議論はしている暇はない。ONIが来るぞ、銃を下したまえ」

 

 証拠はあるのかと問うターニャにマクギリスは自分は存在Xの刺客でないと証明し、海軍情報局(ONI)の存在をほのめかして双方に銃を下させた。それに応じて一同が銃を下して平然を装って席に座る中、ガンダーラに対する潜入手段を相談を始める。

 

「さて、照会と行こうか。我々は君たちノイエ・ラント組合の要望に応じ、仮装パーティーの衣装を提供するモンターク商会だ。要望通りに衣装と小道具一式は揃えた。そのパーティーにどうか、我々も参加させてくれまいか?」

 

「パーティーの参加ですか? えぇ、まぁ…衣装と小道具はそちらで負担するなら構わないですが」

 

 ガンダーラへの潜入を仮装パーティーに例えて双方は相談を行う。ONIに盗聴されている恐れがあるため、店内で堂々と話す訳にはいかない。

 そんな相談を行っている際にマクギリスは自分たちの潜入の同行を求めた。古代兵器に興味を示してのことだ。これに怪しんだターニャであったが、真里菜が負担するなら同行しても構わないと返す。ターニャからすればあり得ないことだが、潜入用の装備一式はモンターク商会が用意しているので、異議を唱えれば何をしでかすか分からない。

 ターニャから見れば、マクギリスはそう見えるのだ。仕方なくターニャは了承すれば、マクギリスは感謝の言葉を述べる。

 

「どうも、感謝いたします。我々も少し息抜きが必要でしてね。たまには別の誰かを演じるのも悪くないかと」

 

「ですね。きっと、素敵なパーティーになりますよ」

 

「私もそう思います」

 

 自分等を盗聴していると思われるONIに気付かれぬよう、仮装パーティーを装った段取りの相談を行う中、マリは飽きていたのか、勝手に店を出ていこうとする。

 

「おい、楽しいパーティーの準備なんだぜ。勝手に出ていくなよ」

 

「…」

 

「自分勝手な女だ」

 

 デカルトに止められたマリだが、無視して出入り口まで向かう。そんなマリはわざとターニャとマクギリスが座る席の側を通り、ターニャに向けてある言葉を投げ掛ける。マリもターニャが転生者であることを見抜いているのだ。

 

「おっさんが幼女とか、キモ」

 

「(望んで幼女になったわけじゃないぞ)」

 

 自分の前世が男だったことを引き合いに出すマリに、わざわざそれを言いに来たのかとターニャは怒らせないように心の中で文句を言う。ターニャの部下たちと言えば、緊張しながら注文した菓子類を食べていた。

 

 

 

「盗人、ここに英雄機ガンダムがあるんだな?」

 

 ブリッツガンダムで先に潜入していたマリンダが後続の炎のバラ騎士団残党らを迎え入れた後、赤い髭が特徴的な巨漢バシュロは彼女が示した基地に、本当にガンダムがあるのかと問う。

 他にも数名の部下たちが潜入していたが、バシュロ含めた残党らが乗っているMSは全て旧式のゲイレールである。ナノ・ラミネート装甲とは言え、旧式のゲイレールなので、トーキョーの守備隊と交戦するのはかなり厳しい。だから脱出を兼ねたガンダムを奪うのだ。他にも後続が来る予定だ。

 

「そうです。この基地にガンダムが保管されていることを確認しました。運び出しているようですが…」

 

「反抗作戦とやらの為に、衛星軌道上のドッグにある船に積み込むつもりだな。フン、愚民風情の軍隊が英雄機ガンダムを使おうなど反吐が出るわ」

 

「そうだ、ガンダムは我々栄光ある騎士に相応しい機体だ!」

 

「愚民共よりガンダムを取り挙げましょう、隊長!」

 

 マリンダより情報を得たバシュロ等は、基地を襲撃してガンダムを奪い取るつもりであったが、騎士の上司である赤髭の巨漢は宥める。

 

「落ち着け、貴様ら。ガンダムは陽動作戦が始まってからだ」

 

「陽動作戦? 一体…」

 

「貴様は知らんでいい! 貴様は我々が命じたことをしていれば良いのだ!」

 

 騎士たちを宥めたバシュロの陽動作戦と言う言葉に、マリンダは何のことだと問うたが、巨漢に頬を打たれた。情報員の女を卑下するバシュロは、血気盛んな騎士たちに段取りを守れと告げる。

 

「手筈通り、残りの同志たちが来て全員が集まり、陽動作戦が実行された際にガンダムを取りに行く。それまでは全員、武器を磨いておけ! 分かったな!?」

 

『はっ!』

 

 騎士たちはバシュロの言われた通りに自分の機体の整備に向かった。打たれたマリンダは、バシュロを睨み付けないように顔を背けている。

 バシュロの言う事では、後続の騎士たちもガンダムを奪うためにトーキョーに降りて来るそうだ。全員が集まれば、炎のバラ騎士団残党に協力する組織が、ガンダム奪取の陽動作戦を展開するようだ。

 それと果たして陽動作戦とは何か? それは、次回に明かされる…。

*1
尚、城の類は法律上問題ない。




キャラの募集は明日で終わりです。

次回から死亡枠(?)が多数登場します。


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トーキョーウォーズ

名前:ルビー(コードネーム)
性別:男
年齢:30代前後
階級:不明
所属:炎のバラ騎士団
乗機:ガンダムヴァサーゴ

名前:サファイア(コードネーム)
性別:男
年齢:30代前後
階級:不明
所属:炎のバラ騎士団
乗機:ガンダムアシュタロン
両者とも炎のバラ騎士団の汚れ仕事専門の騎士。双子のようにそっくりであるが、血の繋がりは無い。
汚れ仕事を担っていた者は居たようだが、騎士団解体後はこの二人以外生き残っていない。
キャラ提供は黒子猫さん。

名前:カルネ・ヴィットリオ
性別:男性
年齢:24
階級:上等兵
所属:ISA歩兵隊
武器:M82アサルトライフル
眼鏡が特徴のイタリア系。歩哨、2日後運良く長期休暇を貰い故郷へ帰る予定の兵士。
キャラ提供はスノーマンさん。


 ヴィンデル・マウザーが支配する違う世界の地球の戦場。

 中華人民共和国のの首都である北京の地下深くにある施設にて、ある戦争が集結しようとしていた。

 

「やったぜ! これで共産主義も終いだァ!!」

 

「七億以上の女は俺たちの物だぜェ!」

 

 戦争を終結させたのは、中国と交戦していた日本国だ。この日本国は我々が知る日本とは違い、軍事国家であるようだ。身に着けている戦闘服は、武士の甲冑のようなデザインである。

 周辺には人民軍の将兵の死体が転がっており、その全てが引き裂かれて無惨な状態となっている。彼らを惨殺した日本軍の将兵らは好戦的で残忍で、投降した者を面白半分に殺す者まで居る。ここまで残忍になったのは、投薬された薬物の所為だろう。

 

「おい、女は何処だ? ここはアカが大量に逃げ込んでんだろ? 愛人の百人や千人は居るはずだ」

 

「探してくる。確か無線でアカを見付けたと連絡があった。奴らに女を取られるかもしれん。速い者勝ちだからな」

 

「あぁ、頼むぞ。やられてないのを頼む」

 

 更には女性まで求めている。もはや略奪者だ。そんな彼らを他所に、黒い鎧を身に纏った白人の金髪男性がコントロールルームへと向かう。

 そこには、突入してきた日本軍の将兵たちに惨殺された国家主席の無惨な死体が転がっている。青い瞳を持つ白人男はその死体を踏みながら操作機器の前に立つ。

 

「全く、世界を巻き込もうとは。とことん質の悪い奴だぜ、このアカの親玉はよ」

 

「ほんとだぜ。夢が叶わなかったら、誰にも渡さないってか? けっ、とんだ悪の親玉だぜ」

 

 白人男が操作機器の前に立つ中、付近に居る二人の兵士は原形を留めていない死体に唾を吐きつけつつ、世界を巻き込んで死のうとした国家主席を罵る。既に物言わぬ死体であるが、今の将兵らには全く配慮も欠片も無い。おそらく、人の心も忘れ掛けているだろう。

 世界を巻き込んで滅ぼうとしていた中国の最終兵器は、起動前に国家主席が殺されたので、起動することなく終わった。それに興味を示してか、白人男が見ている。

 

「あんた、何やってんだ?」

 

 操作機器の前に立った白人男は、周囲の者たちに知らせることなく急に機器を操作し始めた。キーボードを打つ音を聞いた付近の兵士が、何をしているのかを白人男に問う。

 彼は答えることなく操作し続け、目前の大画面に中国語で起動を意味する言葉が表示された。この白人男が世界を巻き込む最終兵器を起動させたのだ。それに気付いた兵士たちは直ぐに止めるように白人男に告げる。

 

「あ、あんた何やってんだ!? そんな物を起動させるんじゃねぇ!!」

 

「何を考えてる!? 早く止めろぉ!!」

 

 必死に訴え掛ける兵士達であるが、白人男は操作する手を止めない。

 

「畜生が! 何か変だと思ったらこれが目的か! 死ねぇ!!」

 

 警告しても止めないので、兵士は白人男を手にしている日本刀で殺そうとした。だが、白人男は刃を振るう前にその兵士を殺害する。味方を殺した白人男に、兵士たちは即座に得物を向ける。

 

「ガイスト! 貴様なにをしているのか分かっているのか!?」

 

「何をしている? 俺はお前たちの下らん理想などに興味はない。次は俺のゲームを始める番だ」

 

「貴様、何を言っているんだ!?」

 

 次は俺のゲームを始める。

 そのガイストと呼ばれる白人男が出した理由に対し、怒りを覚えた将兵たちは一斉に飛び掛かったが、瞬く間に皆殺しにされた。辺り一面が将兵らの血で赤く染まりあがる中、ガイストは兜越しより画面を見て、笑みを浮かべた。

 

「さぁ、第二ラウンドと行こうか」

 

 ガイストが喜びながら呟いた後、人民軍の最終兵器が世に解き放たれた。彼はその最終兵器と戦いたくて、敢えて解き放ったのだ。所属する日本軍のことなど気にも留めずに。

 こうしてガイストは、自分の望み通りに最終兵器に挑んだ。極限状態の戦いを求めて。

 

 

 

 トーキョーで別動隊によるガンダム強奪作戦が展開される中、ガンダは自分ら炎のバラ騎士団残党を支援している者たちと映像通信で密会を開いていた。

 そこの通信映像の画面に映るのは、額がやけに長いジャマイカン・ダニンガンと呼ばれる男である。ガンダらに対し、ジャマイカンは高圧的な態度を取る。

 

『貴様たちはガンダムを集めているようだな?』

 

「はっ、英雄機ガンダムがあれば、古代兵器を手に入れられる可能性が高いので」

 

『ふん、たかがMSの一種に拘るとは。私が供与した兵器はどうしたのだ? 十分な数を送ったであろう』

 

「それに関しましては、惑星トーキョーの能無しや文無し、不良、ごく潰し共にガンダム奪取の陽動作戦の為に渡して参りました」

 

 高圧的な態度でガンダム奪取に拘る理由を問うジャマイカンに対し、ガンダはガンダムは英雄機であるからと答える。これにジャマイカンは下らない拘りと鼻で笑い、自分が供与した兵器はどうしたと問い詰めた。

 これにガンダは、ジャマイカンより貰った兵器を陽動作戦の為に集めたトーキョーの社会的底辺や放浪者、反社会的な人間に渡したと答える。これにジャマイカンは激怒した。

 

『この落ち武者風情が! クジャン公の恩恵を溝に捨てるような真似をしおって! 何を考えておるのだ!?』

 

 画面越しで激怒するジャマイカンに対し、ガンダは供与した兵器を使い捨て同然な扱いをしたことを詫びつつ、その兵器らの低性能ぶりに正直な意見を述べる。

 

「その無礼を詫びよう。だが、恩恵と言うならば、あの御方は我々敗軍の兵たちに鉄くず同然の物は恵まぬはず」

 

『貴様、落ち武者の分際でクジャン公がお恵みになった兵器に文句を付けるのか? だが、一回目は大目に見てやろう。今度このような真似をすれば、どうなるか分かっておろうな?』

 

 自分らが供与した兵器に謝罪しながらも文句を言うガンダに対し、ジャマイカンは叱責したが、一度目は許してやると思い、二度目は無いと釘を刺した。

 これにガンダは供与された兵器を溝に捨てるような真似をした無礼を、代わりに謝罪してくれないかとジャマイカンに頼む。

 

「承知している。我らをお拾いになったクジャン公には感謝をしている。だが、余りにも不服するぎるのだ。その無礼を貴殿が代わりに謝罪してくれまいか?」

 

『そのつもりだ。全く、貴様ら落ち武者共を拾ったクジャン公の心情はどういった物か。作戦は上手くやるのだぞ?』

 

「無論だ。このガンダ、クジャン公に拾ってもらった恩義、必ず果たす。騎士の誓いだ」

 

『その騎士の誓いが、必ず晴らされることを願っているぞ? 落ち武者共』

 

 貰った兵器を棄てるような真似をした分、必ず成功させるとガンダが約束すれば、ジャマイカンは不機嫌な表情を浮かべながら嫌味を言いつつ映像通信を切った。

 嫌味たっらしい男が映る画面が消えれば、ガンダは抑え込んでいた不満を吐き出す。

 

「何が恩恵だ。我々を捨て駒にする魂胆が見え見えだ!」

 

 付近の物に八つ当たりし、ジャマイカンに対する不満を漏らしながらガンダは通信機を操作してトーキョーでガンダム奪取の作戦を進めるグループとコンタクトを取る。通信映像に映し出されたのは、瓜二つの二人の男であった。

 

『臨時騎士団長殿』

 

『何ようであるか?』

 

「ルビー、サファイア、作戦はどうか? 私が指定した奴らに兵器を渡したか?」

 

 その双子のような男たちに、ガンダは作戦の状況を問う。この問いに二人は阿吽の呼吸のように答える。

 

『軌道エレベーターにガンダムを搭載した輸送隊を発見』

 

『これより攻撃を開始する予定。兵器配備は既に完了』

 

「ふむ、よろしい。それに輸送部隊を確認したか。陽動作戦開始と同時に襲撃し、ガンダムを奪うのだ。その後にバシュロ隊を支援せよ」

 

『了解』

 

 状況を双子のような二人に確認すれば、ガンダは二名に次なる指示を出して通信を切った。次にガンダは陽動作戦を行う部隊に連絡を取り、陽動作戦の開始が出来るかどうかを問う。

 

「陽動部隊、作戦は開始できるか?」

 

『はっ、いつでも可能です。連中、この星を破壊し尽くす勢いであります』

 

「ふっふっ、それでよい。この星の防衛軍はそいつ等の対処に追われるだろう。煽るだけ煽って、脱出するのだぞ?」

 

『了解であります』

 

 盗聴されるのを恐れ、指示を伝えて短く切った。

 

「あの長頭め! 我々を落ち武者呼ばわりしおってからに! 古代兵器を手に入れれば、試射目標にしてくれる!」

 

 それから自分らを落ち武者と侮り、捨て駒にしようとするジャマイカンに対する怒りを吐き出したガンダは、古代兵器を手に入れた暁には彼を試射目標にすると決めた。

 

 

 

 ガンダム奪取の陽動作戦の為、トーキョー内の社会的底辺の男たちにジャマイカンより供与された兵器の配備を終えた実行部隊は、作戦決行の士気を上げるべく、隊長がそれらに乗る者たちに向けて演説を行っていた。

 

『社会的底辺の諸君! 諸君らから金銭などの全てを搾取し、のうのうと暮らす者達への復讐の時が来た! 同時に諸君らが奪われた物を取り戻す時でもある! 奴らは諸君らからありとあらゆるものを搾取し続けた挙句、それを当然の物と思って何も思わずに笑って日常を過ごしている! とても許せぬ奴らだ! 諸君らが日々の苦しみを訴えても、奴らは嘲笑い、蔑むばかりである! 吐き気を覚える程だ! 我ら炎のバラ騎士団はこのトーキョーで苦しむ諸君らを助けるべく、諸君らに奴らに対抗するための武器を授けに来たのだ! それが諸君らが乗っている兵器である!』

 

 陽動作戦部隊長の士気向上の演説は、社会的底辺の者たちの心に響いていた。彼らはあたかも炎のバラ騎士団が、自分たちの為に立ち上がってくれた正義の騎士団だと思い込んでいる。実際はガンダム奪取の陽動作戦の為の時間稼ぎであり、それが済めば彼らは用済みである。そんなことを知らず、兵器を与えられた社会的底辺の者たちは盛り上がっていた。

 そんな彼らの使う兵器は、旧ザクやリーオー、ヘリオン、リアルド、アンフ、ティエレン等を始めとした旧式のMS群、モビルワーカー、サベージだ。これらはジャマイカンより供与された兵器であり、騎士団が不満を持つのは当然であった。数は残党の構成員より多いため、炎のバラ騎士団残党はトーキョーの社会的底辺の者たちに供給することにしたのだ。

 目標は陽動の為にもちろんながら都市部であり、そこに住む者たちに無差別攻撃を仕掛けるのだ。このために集められた社会的底辺の者たちは報復攻撃だと思い込んでいる。

 

『さぁ、諸君! 奪われた物を取り返しに行こう! 搾取して作られた全て物を破壊しよう! 諸君らを搾取している者たちを殺そう!』

 

『うぉーッ!!』

 

 演説の締めを決めれば、部隊長は拡声器を投げ捨ててグレイズ・リッターに乗り込む。この演説で士気向上し、彼らに乗せられた者たちは勢いよく出撃していく。騎士団が乗るグレイズやゲイレールも出撃する中、部下が部隊長に市街地にガンダムの輸送部隊を確認したとの報告を行う。

 

『隊長、市街地の幹線道路にガンダムの輸送隊を確認しました。数は五機ほど』

 

「フン、我々にもガンダムが巡って来たな。よし、それも奪うぞ! 虫けら共が手を出すようなら殺してしまえ!」

 

『はっ!』

 

 報告を聞いた部隊長が自分らにもガンダムが巡って来たと思えば、彼は集めた者たちがガンダムを攻撃するようなら殺せと言って出撃した。

 隠し地下倉庫より出撃した陽動部隊は、味方以外の目に見える物全てに攻撃を行う。いきなり現れた鋼鉄の集団に市民らは演習場へ向かう現地に駐屯する連邦軍だと思い込んでいたが、自分らを攻撃してきたためにパニックを起こし、逃げ惑い始める。

 

「うわぁぁぁ!? 反乱軍だぁ! 反乱軍が攻めて来たぞぉ!!」

 

 かつて反乱軍との戦闘が行われていたことを思い出した中年男性は喚き散らし、周辺に居る人々を押し退けて自分だけ逃げようとする。陽動部隊が無差別攻撃を行い、目に見える老若男女を殺傷し続ける。この様子を見ていた部隊長らは、陽動部隊を扇動して更に無差別攻撃を過激化させる。

 

「はっはっはっ! 良いぞ、もっと殺せぇ! 派手に暴れろぉ! 女子供も殺すんだぁ!!」

 

 高笑いしながら自分もビルや逃げ惑う人々に攻撃を行い、多数の人々を殺傷する。慌てて都市警察が所有する旧式のジェノアスが出て来たが、炎のバラ騎士団残党が保有するグレイズやゲイレールに歯が立たず、撃破されるばかりだ。

 次に本土防衛部隊の民兵や民警で編成された郷土防衛部隊が投入される。装備は払下げとなったスコーピオン戦車にウルヴァリンハーフトラック、ミサイルランチャーを搭載したワートホグだ。スコープドッグもあるが、MSは旧式の武器であるマシンガンを持つドートレスくらいしかない。

 

『敵戦闘車両部隊並びMS隊を確認! ATも補足!』

 

「正規軍か? いや、あの装備と動きは郷土防衛隊だな。叩き潰してしまえ!」

 

 部下からの報告で郷土防衛隊の接近を知った部隊長は、傘下の陽動部隊に攻撃を命じる。ジェノアスと言った装備しか持たない警察とは違い、重装備を持った郷土防衛隊は陽動部隊を倒していたが、炎のバラ騎士団残党相手では実戦慣れしていないが為に、次々と撃破されていく。

 

「うわぁぁぁ!?」

 

「だ、駄目だ! 軍だ! 軍を要請しろ! 俺たちじゃかなわん!!」

 

 実戦経験豊富な騎士を相手に蹂躙されてばかりな郷土防衛隊は、所有するMSのドートレスが全て撃破されれば、軍の出動を要請する。自分らの装備では、炎のバラ騎士団残党や狂気じみた社会的底辺の者たちに敵わないと判断したのだ。

 かくして、コヴナント戦争や今次大戦においても平和な星であったトーキョーの都市は炎に包まれた。

 

 

 

「おい、街の方から火が見えるぞ!」

 

 炎のバラ騎士団残党と社会的底辺の者たちが乗る機動兵器群に襲われている都市部の近くを通ったISAの輸送部隊は、都市から火が出ているのを目撃した。

 直ぐに移動を中止し、護衛部隊は直ちに周囲警戒に当たる。あと二日で長期休暇を貰えるカルネ・ヴィットリオ上等兵も輸送車の随伴車両である四駆乗用車から降り、M82A1アサルトライフルの安全装置を解除して警戒に当たった。

 

「たく、あと二日だってのによ! 一体なんだぁ?」

 

「俺に聞かれたって分からねぇよ。多分、反乱軍だろうな」

 

「俺たちはUNSCじゃないってのにな」

 

 楽な任務だと思っているカルネは文句を言いつつ周辺を警戒する中、同僚は都市部を攻撃しているのが反乱軍だと答える。その答えは間違っており、異世界より来た騎士団残党と徴用された現地人の部隊に都市が襲われている。

 そんなことを知らず、数機のガンダムを輸送するトレーラーを護衛している指揮車では、都市部で戦う郷土防衛隊から救援要請の無線連絡が聞こえて来る。

 

「郷土防衛隊より救援要請だ。どうする?」

 

「どうするって、俺たち輸送部隊だぞ? 護衛の奴らを向かわせるのが愚策だ。陽動の可能性がある」

 

 無線手が救援に向かうかどうかを問うが、指揮官は自分らが輸送部隊であり、反乱軍がこちらを狙っている可能性があると言って護衛部隊も出さないと答える。

 彼らはISAであり、UNSCとその統治に反抗する反乱軍との問題に首を突っ込む義理は無い。それにUNSCの陸軍や空軍が防衛に十分なくらいの部隊が駐屯している。例え同じ地球で共に戦う勢力でも、助ける義理は無いのだ。

 

「それにここには連中の陸軍や空軍の部隊が駐屯しているんだ。奴らに任せれば良い」

 

 指揮官がそう言えば、無線手は納得して救援要請を無視した。その時に、歩哨を担当していたカルネと同僚は何者かに首を撥ねられる。

 

「っ!? て、敵だァーッ!!」

 

 カルネの首が地面に落ちたが、余りにも速く斬り過ぎた為に首だけ数秒ほど生きていた。同僚の方は根元から血を噴き出して死んでいるが。カルネたちをやったのは、ルビーとサファイアである。

 

「ちっ、速く斬り過ぎたか」

 

「だが、問題はない」

 

 二名の歩哨を殺害したルビーとサファイアは、首だけになったカルマの叫びで気付いて自分らに向かってくるISAの護衛部隊に対し、二人の首を撥ねた剣で挑む。

 護衛部隊はライフルやライトマシンガンで武装しており、明らかに二人の方が不利に見えるが、二人には随伴部隊が居り、彼らが護衛の機動兵器部隊を片付けていた。護衛の機動兵器はここが安全地帯だと思ってか、スコープドッグやダガーLだけだ。対する騎士団はグレイズやレギンレイズ、KMFのサザーランドである。

 

『こちら第24輸送部隊! 正体不明の敵勢力に攻撃されている! 救援を請う! 繰り返す! 救援を請う!!』

 

 ルビーとサファイアに護衛や輸送部隊の将兵らが次々と殺され、騎士団のMSやKMFに機動兵器部隊が撃破される中、指揮官は付近の部隊に救援要請を出したが、先の友軍の救援要請を無視したように、誰も応じることは無かった。ガンダムを輸送する各輸送部隊が襲撃を受けているのだ。

 ガンダムを保管している基地も炎のバラ騎士団残党の襲撃を受けている。この安全と思われていたトーキョーへの攻撃に、駐屯する連邦軍は混乱状態に陥っていた。

 

「くそっ、何だこいつ等は!? うがっ!?」

 

「畜生が! 死ねぇぇぇ!!」

 

 味方が次々と惨殺されていく中、ISAの兵士はライトマシンガンを迫るルビーとサファイアに向けて乱射する。その弾幕を二人は掻い潜り、同時にマシンガンを乱射する兵士を同時に斬って殺害した。

 

「フン、他愛もない」

 

「では、戦利品を頂くとしよう」

 

 MSやKMF隊と共闘し、ISAの輸送部隊と護衛部隊を壊滅させたルビーとサファイアは、戦利品であるガンダムを取りにトレーラーに向かった。

 

「この野郎!」

 

 トレーラーに身を潜め、待ち伏せしていた兵士が居たが、双子のようなルビーとサファイアに拳銃を撃つ前に殺害される。その残党も後から来た騎士たちに皆殺しにされた。戦利品(ガンダム)を見たルビーとサファイアは、自分らに打って付けのガンダムであると舌を巻く。

 

「このガンダムはまさに」

 

「我らの為にあるような物」

 

 彼らが乗機として選んだガンダムは、ヴァサーゴとアシュタロンであった。

 ルビーがヴァサーゴに乗り込み、サファイアはアシュタロンに乗り込む。二人が乗った二機のガンダムは起動し、トレーラーから立ち上がる。他の騎士たちも輸送されていたガンダムに乗り込み、起動させて立ち上がらせる。

 

「こちらバラの花びら、種子を受け取った。繰り返す、種子を受け取った」

 

『了解した。直ちに雌しべに戻れ』

 

「了解」

 

 ガンダムの奪取に成功したことをルビーが回収部隊に知らせれば、回収部隊は暗号を使って座標に来るように指示を出す。その返答をサファイアが行えば、ガンダムを奪った炎のバラ騎士団残党は指定座標へと向かった。




ごめんなさい、作品が違うので殺す相手を変えました。

それと黒子猫さん、最終形態はやり過ぎなので、奪った物にしてごめんなさい。


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ガンダムを奪取しろ

レッドチーム
コロニー船スピリット・オブ・ファイヤに配属されたスパルタンチーム。
ジェローム指揮下の元、ダグラス、アリスの三名で編成されている。戦闘力は高く、サンヘリオスの近衛兵多数を三名で排除している。
バニッシュト軍団との戦いでジェローム以外は戦闘不能に陥ったが、スピリット・オブ・ファイヤがUNSCを含める連邦軍と合流して戦闘復帰した際、残り二名も現場に復帰した。
現在はスパルタンⅣ式訓練や機動兵器訓練を受けている。

ジェローム 乗機:AEG-2ガンダム・スパルタンウェア
ダグラス 乗機:AEG-1ガンダム・同じく
アリス 乗機:AEG-1ガンダム・同じく

名前:金田慎太郎
性別:男
年齢:28歳
階級:少尉
所属:UNSC陸軍 トーキョー防衛軍
乗機:ダガーL


 平和と思われていた惑星であるトーキョーの都市で戦闘が行われる中、その戦闘が起こっている都市に偶然にもターニャとマクギリスも居た為に巻き込まれてしまう。

 直ぐに遮蔽物となる場所へと隠れ、暴れ回る社会的底辺の者たちが乗る機動兵器らの様子を伺う。目に見える物全てに攻撃を加えているので、自分らも攻撃されるかもしれない。

 

「無茶苦茶な攻撃だな」

 

「一体、何処の連中だ? 無差別攻撃では無いか。おまけに統制も無い。誤射が起こるぞ」

 

 店から出たマクギリスは無茶苦茶な無差別攻撃を見て呟く中、軍人としてのターニャは統制の取れない陽動部隊の攻撃に、誤射が起きると指摘する。これに副官であるアーデは、服の下に着ている魔導士用戦闘服の機能を使おうとするが、ターニャに止められる。

 

「何をする!?」

 

「馬鹿か貴様! 迂闊に正体を晒すな!」

 

「このままでは俺たちもやられますよ!?」

 

 止めたターニャに対し、俺たちを殺す気かと部下たちは抗議する。実際、あの旧式機動兵器集団はこちらに近付きつつある。パニックになって逃げ惑っている市民らは、手当たり次第に撃ち殺された。

 モビルワーカーの強力な機関砲であるため、狙われた市民は一瞬で肉片と化している。これを見た部下たちは自分らにも撃ち込まれていると思い、恐慌状態寸前になり掛けている。真里菜もこの状況は初めてなのか、不安そうな表情を浮かべていた。

 そんなターニャたちの部下を見たマクギリスは、隠し持っていた小型無線機を使って石動とのコンタクトを取る。

 

「石動、私だ。無差別攻撃に巻き込まれた。迎えは送れないか?」

 

『現在、港は封鎖されており、迎えに行けません。すみません、総帥殿』

 

「こちらに連邦軍は来ないと言うのに、封鎖の方は手が速いな。自力で脱出する。ONI対策に持っておいた閃光手榴弾が役に立つ」

 

『では、健闘をお祈りします』

 

 小型無線機で石動が迎えに行けない状況になっていると知れば、部下に持たせておいた大量の閃光手榴弾を手に取る。

 

「目を瞑り耳を塞ぎたまえ。やられるぞ」

 

 短く会話を終えて小型無線機を懐へ仕舞えば、閃光手榴弾の安全栓を抜き、警告してから敵機動兵器集団に向けて投げる。マクギリスの警告に全員が耳を塞いで目を瞑った。

 三個ほど投げた為、凄まじい光と音が鳴り響き、敵機動兵器集団は眩い光で混乱して周囲に手兵装を乱射する。目をやられたらしく、混乱しているようだ。誤射まで発生している。

 

『うわぁぁぁ!?』

 

『や、止めろォ! 撃つんじゃねぇ! このオタクがァ!!』

 

「同士討ちが始まったな。今の内だ、急ごう」

 

 閃光手榴弾三個で敵が同士討ちを始める中、マクギリス等は急いでその場を離れる。ターニャ等も護身用に持って居る拳銃を取って警戒しつつ、石動が居る宇宙港に向かうマクギリスの後へ続く。

 

「おぉ、あんたら生き残りか!? 早くこっちへ来い! 反乱軍のMSやMWに殺されちまうぞ!!」

 

 旧日本軍のケピ帽を被り、払下げのM5Cアサルトライフルを持つ民兵は、他の民兵たちと共に身を挺しての避難誘導をしている最中、マクギリス等を発見してこちらに来るように叫ぶ。足止めの為か、対MS用ロケット弾を搭載したワートホグ数両が出て来る。

 拳銃を持って居れば怪しまれるためか、ターニャ等は拳銃を懐に戻し、民兵たちの避難誘導に従い、厳重に民兵たちに守られた地下鉄へと入っていく。

 

「これで少しは安心だな」

 

「君たちはここにいたまえ。私は四人を連れて彼女を探しに行く」

 

「あの女を探しに行くのか? 放っておいた方が良いんじゃないのか?」

 

 避難民が集まる地下鉄に入り、一息安心する中、マクギリスはヤザンやデカルト、他二名を含める四名を引き連れてマリを探しに行くと言い出す。これにターニャは放っておけと言うが、マクギリスはONIを排除するチャンスであると返す。

 

「いや、彼女の力は必要だ。それに我々を突け狙うONIを排除できるチャンスでもある」

 

 そう言ってマクギリスは残りを残し、四人の部下を連れて出て行った。マリを探すと言う目的もあるが、混乱に乗じて襲撃してくるONIの刺客を排除することを兼ねてである。意気揚々と民兵を押し退けて出ていくマクギリスと四人を見て、ターニャはことが終わるまで避難所に避難しておこうと判断する。

 

「では、我々はここでことが終わるまで待機だな」

 

「どうして? 我々は民間人を…」

 

「馬鹿か貴様、我々はこの世界にとって異物だ。地上の馬鹿共は、現地の軍隊に任せれば良い。我々は善良の市民らしく、ここへいれば良いのだ」

 

 ことが終わるまで避難すると言ったターニャに対し、戦える自分らが市民と同じく避難するのはおかしいのではと異議を唱える。その部下に今の自分らが善良な市民であると説き、避難民の振りをしてことが終わるのを待った。

 

 

 

 無差別攻撃はスピリット・オブ・ファイヤの艦長、ジェームズ・カーター海軍大佐が居るヨコハマ鎮守府にも及んだ。

 

『そこの所属不明機! 止まらんと撃つぞ!』

 

 警備を担当するUNSC陸軍のジェムズガンは、向かってくる社会的底辺の者たちが乗る旧式機動兵器集団に向けて警告したが、彼ら無視して攻撃してくる。ジェムズガンの左右に居たジェノアスⅡ二機が被弾し、一機は胴体をビームで撃たれて大破して二機は左腕を破壊される。撃ってきた敵に対して、残った警備のMSは発砲する。

 

「う、撃ちやがって! ぶっ殺してやる! こちらズール1-2、敵襲だ! 現状の戦力では対処不能! 直ちに増援を請う!!」

 

『了解した! 直ちに増援を送る!!』

 

 ジェムズガンに乗るパイロットは増援を要請しつつ、ビームシールドを展開しながら応戦するが、数が多すぎるために後退したジェノアスⅡと共に雨のような攻撃で撃破される。

 

「大佐、敵襲です! 避難を!!」

 

「どうやらそのようだな。レッドチームを呼ぼう。付近の訓練場に居る」

 

 慌てた海軍の士官がカーターに報告すれば、彼は全く慌てずに対処する。報告した士官は事務職であるのか、実戦経験は無い。逆に実戦経験豊富なカーターは、いつものように対処の指示を出す。そんなカーターに、ある陸軍士官は軌道エレベーターに向かうように言ってくる。

 

「カーター海軍大佐殿、直ちに軌道エレベーターに移動をお願いします」

 

「馬鹿を言え。この状況下で鎮守府を出るなど自殺行為だ。付近には私の船のスパルタン、レッドチームが居る。諸君らはやがて来る彼らと共に敵軍に対処するんだ」

 

 この状況で鎮守府を出ることを支持する陸軍士官にカーターは自殺行為と返し、的確な指示を飛ばす。彼の指示のおかげか、鎮守府を防衛する陸軍の一個機甲師団は向かってくる旧式機動兵器部隊を次々に撃破していく。

 これに経験の浅い師団長は驚き、海軍将校で艦長なのに敵軍との陸戦の仕方を知っていることに驚く。敵の方は軍事訓練も受けていない社会的底辺の者たちであるのだが。

 

『あの爺さん、本当に海軍の艦長か? 海兵隊の指揮官じゃないのか?』

 

「す、凄いぞ! 海軍のジジイは艦長なのに、奴の指示で敵が面白いように倒れていきやがる!」

 

「攻撃してくる鉄くず集団は、スコーピオン戦車や戦闘車両、ホーネット戦闘ヘリ部隊で対処可能です! これなら、スパルタンのレッドチームを待たずして勝てますよ!」

 

「あぁ! この戦況だと、スパルタンは過剰だな! 隷下の対機動兵器部隊と車両並びVTOLだけで十分だ! 予備戦力第56MS旅団の投入の必要も無い!」

 

 鎮守府の師団本部を兼ねた戦闘指揮所(CIC)にて、師団長はカーターの指示通りにすれば、敵が面白いように撃破されていくので、参謀はMSに乗った彼ご自慢のスパルタンのレッドチームは不要だと息巻く。これに師団長は同意し、予備戦力のMS旅団の投入が必要も無いと判断する。

 戦況はこちらが有利に働いていると思われていたが、いま攻撃している旧式機動兵器を社会的底辺の者たちに与えたのは炎のバラ騎士団残党だ。直ぐにバシュロ率いるゲイレールとジンクスⅡの混成部隊が鎮守府を襲う。

 

『こちらガーディアン3-1! 敵正体不明機複数接近中! 直ちに迎撃を開始する!』

 

「側面攻撃か? 所詮は鉄くずとガラクタ、博物館送りのジャンク品の集まりだ! 中身ごとスクラップにしてしまえ!」

 

『いや、ビームが効かない!? だ、駄目だ! 押されて…』

 

「東防衛区の第三大隊からの通信途絶!」

 

「予備戦力を投入しろ! 敵別動隊だ!」

 

 東の方面を防衛しているMS隊より報告を受け、鎮守府を攻撃している旧式機動兵器集団と思い、師団長は叩き潰せと言ったが、敵はゲイレールとジンクスⅢで編成された炎のバラ騎士団残党のバシュロ隊であり、瞬く間に大隊本部がやられてしまう。

 通信手からの報告を受け、師団長は直ちに予備戦力であるMS旅団の投入を命じる。

 本命の登場にCICが慌ただしくなる中、カーターが部下を伴って入って来る。これに師団長は提督が居る避難豪へ入るように告げる。

 

「海軍が何の用だ? この鎮守府の提督と一緒に退避豪に入らんか!」

 

「いや、苦戦して居るようでしてな。この老人の知恵を貸そうと思いまして」

 

「地上戦が得意な艦長か! 東方面より侵入した敵は一個大隊と二個中隊の小規模戦闘団程度だ。一個旅団で包囲して殲滅する」

 

 カーターがサポートしに来たと答えれば、師団長はその必要はないと答える。東方面より侵入して来たバシュロ隊は、MS一個旅団を投入して数の多さを生かして殲滅すると告げた。だが、レーダーではUNSC陸軍のMSの反応が次々と途絶している。

 

「レーダーを見たところ、苦戦しているようですが?」

 

「ぬっ!? たかが一個か二個大隊程度の数だぞ! 何をやっているか!?」

 

 反応が次々と途絶していることをカーターに指摘されれば、師団長は交戦中の旅団に怒号を飛ばす。

 鎮守府を守る機甲師団は訓練は済んでいるが、実戦経験の無い新兵を始めとしたパイロットが多く、実戦経験豊かな炎のバラ騎士団残党に苦戦を強いられていた。数の多さではいずれ勝てるだろうが、そこまでに至るには一個旅団ほどの機甲戦力が失われているだろう。

 これにカーターは素早く事態の終結と街への救援活動に十分な戦力を温存すべく、通信機を借りて衛星軌道上の宇宙ドックに艤装中のスピリット・オブ・ファイヤに、ODSTに増援を要請する。

 

「な、何を!?」

 

「通信機を借りるぞ。スピリット・オブ・ファイヤ、私だ、カーター艦長だ。ODSTのPT小隊をこちらに要請する。降下地点はヨコハマ鎮守府庭園だ」

 

「海軍が何をしている!? 我々陸軍で十分と言っているだろうが!」

 

「ここで無駄に戦力を浪費するのは惜しいと思いましてな。それにここで手間取っていては、街への救援が更に遅れる事となる。星を守るのが陸軍の仕事とは思いませんかね?」

 

 勝手に応援を要請するカーターに怒りを覚えた師団長は腰の自動拳銃を抜きかけていたが、幾度かの地上戦を経験している海軍の艦長の説得に、何も言い返せなかった。

 

『ビームシールドが!? ぎゃっ!』

 

『くそっ、何だあの赤い粒子を巻き散らすMSは!? 地上のビームが効かないMSも強いぞ!』

 

徹甲弾(AP)だ! APを騎士擬きにぶち込め! なにっ! 無い!? だったら持って来い!!』

 

「くっ、勝手にしろ!」

 

「鎮守府は海軍の基地でもありますからな。海軍も防戦に参加するのも当然の事。それと閣下、私の独断を許可していただき、ありがとうございます。つきましては、早期に解決いただきます」

 

 次々と出される隷下の無線連絡に、師団長はカーターの独断を許した。これにカーターは師団長に礼を言ってから、降下してくるODSTのパーソナル・トルーパー小隊の指示を行う。

 

 

 

「こ、こいつら! 実戦慣れしてやがる!」

 

 鎮守府内で交戦するジェノアスⅡに乗るUNSC陸軍のパイロットは、ジグザグに機動しながら襲い掛かるゲイレールにビームライフルを撃ち込むが、その全ては躱され続けていた。同じ機体の僚機も撃つが、敵機は全く当たらず、逆に新手のゲイレールのライフルを撃ち込まれて撃破される。

 上空のジンクスⅡの対処に当たるジェムズガン隊も同様であり、ジンクスⅡの支援型の砲撃でビームシールドごと貫かれ、近接型の大型ソードで切り裂かれて撃破されるばかりだ。通常型も強く、粒子ビームによる攻撃で動きを止めている間に、支援型の高出力ビームや近接型の大型ソードで切り裂かれて撃墜され、押され気味である。

 

「フン、所詮は愚民の軍隊か。まぁ、高い授業料を払った甲斐がある物よ」

 

 ハルバートをストライクダガーの胴体を叩き込んで撃破し、それを引き抜いて柄を肩に担いだゲイレールに乗るバシュロは、UNSC陸軍のパイロット等に手応えの無さを感じる。

 最も、自分らがこうして余裕に敵機を撃破できるのは、強力な火力を持つ戦闘車両で編成された機甲師団の主力を社会的底辺の者たちが乗る旧式機動兵器集団に引き付けさせているからだ。残党がこの戦法を思い付いたのは、騎士団解体後に自らが味わった経験が元である。自分らが受けた屈辱を、何も知らぬ哀れな者たちに、炎のバラ騎士団残党はやらせているのだ。

 

「しゅ、主力部隊はまだ来ないのか!? やれるぞ!」

 

『まだだ! まだ突っ込んできやがる!』

 

「くそっ! クソォォォ!!」

 

 次々とやられていく味方機を見て、救援は来ないのかと主力部隊は正面から突っ込んでくる敵部隊の対処に追われて向かえないと返す。これに救援を要請したパイロットは、向かってくるゲイレールに向けてビームを乱射する。

 彼が乗るストライクダガーのビームライフルでは、ゲイレールのナノ・ラミネート装甲は貫通することも出来ない。そればかりか避けられ、バトルアックスを叩き込まれそうになる。迫るゲイレールのバトルアックスに、パイロットは悲鳴を上げながら両手で無意味な防御姿勢を取る。

 

「うわぁぁぁ!? あっ、あれ…?」

 

 パイロットは死を覚悟していたが、自分を殺そうとする炎のバラ騎士団残党のゲイレールは集中砲火を受けて撃破されていた。そのゲイレールを撃破したのは、カーターがスピリット・オブ・ファイヤより要請したODSTの量産型ヒュッケバインMk-Ⅱ四機で編成されたPT小隊だ。

 彼らが乗る量産型ヒュッケバインは降下軌道強襲兵(ODST)仕様と呼ばれる改良機であり、無駄な装飾は可能な限り外され、敵地に降下しても長期間の戦闘が出来るようにされている。その為に外見も大幅に代わり、18メートルも大きくなったODSTの隊員のようだ。武装も信頼性の高い実弾仕様が多い。

 

「こちらジャイアントチーム、現場に到着。艦長、レッドチームはまだか?」

 

『もうじきこちらに来る。味方の被害を最小限にとどめてくれ』

 

『こっちはデビュー戦なんだぜ? いきなりビームも効かない連中と戦わされるなんてな』

 

 降下して四機がかりでゲイレールを撃破した小隊長は、ガンダムに乗るレッドチームはまだかとカーターに問う。これにカーターはもう暫く掛かると答えれば、まだMSでの実戦経験の無いODST隊員は文句を口にする。

 

「無茶はいつもの事だろう。さぁ、ロボットアニメの始まりだ。主人公になるぞ!」

 

 文句を言う部下にそう言い返せば、ODSTの量産型ヒュッケバイン四機は炎のバラ騎士団残党と交戦する。手始めに実弾のライフルを手近なゲイレールに撃ち込む。それも四機で一機を狙う。この集中砲火にゲイレールは持たずに撃破された。

 

『なんだあいつ等は?』

 

『フン、ここの連中より手応えはありそうだ! やるぞ!』

 

 邪魔な雑魚を片付けたゲイレールの一団は、ODSTの量産型ヒュッケバインに襲い掛かるが、彼らの高い連携を前に一機、また一機と戦闘不能かコクピットに集中砲火を受けて撃破される。ODSTは連携を取る一方で、炎のバラ騎士団残党は連携を取らずに挑んでいる。各個撃破されるばかりだ。

 

「お、おのれ! 愚民風情め! 群れおってからに! ついてこい!」

 

 上空を飛ぶジンクスⅡも優先的に支援型が落とされて行き、接近型は通常型と同様に落とされていく。これに怒りを覚えたバシュロは、複数の僚機を連れてODSTに挑む。援軍に助けられたUNSC陸軍は、ODSTの連携の高さに驚いて棒立ち状態であったが、その彼らに注意されて反撃に出る。

 

「す、凄い…!」

 

『突っ立つな! お前らも連携してやれ!』

 

「ヘル・ジャンパー共に言われなくとも!」

 

 この注意に、陸軍も威信を見せる為に連携を取って炎のバラ騎士団残党に反撃する。思わぬ反撃に練度では勝るが、数には劣る残党たちは下がり始める。

 

『愚民の分際で! ごわっ!?』

 

「こいつら、硬すぎる! レッドチームは!?」

 

『いま来たところだ』

 

 バズーカを持つゲイレールに、ODSTの量産型ヒュッケバインは専用のナイフをコクピットに突き刺して無力化する。それと同時にレッドチームはまだかと問えば、カーターは来たと答えた。

 

「あ、あれはガンダム!?」

 

『しかも三機も!?』

 

 カーターの報告と同時に現れたのは、ガンダムAEG-2一機とガンダムAEG-1二機による三機編成の小隊であった。これに奪取する予定だったガンダムの登場に、残党らは驚きの声を上げる。

 上空に飛ぶレッドチームのリーダー、ジェロームが乗るAEG-2は航空機形態の可変状態で上空のジンクスⅡ数機を撃ち落とし、人型形態になってからも更に複数のジンクスⅡを撃ち落とす。

 近接特化型のタイタスウェア装備のAEG-1に乗るダグラスは一機のゲイレールを力で踏み潰して、近くのもう一機にビームニーキックを食らわせ、とどめに大きな腕のビームラリアットを行って撃破する。

 最後にアリスが駆るノーマルのAEG-1はハンドガン型のドッズガンで相手のゲイレールの動きを封じ、そこから素早く切り替えた二刀流のビームサーベルで胴体に叩き込んで力尽くで両断した。

 このスパルタンⅡの三名が駆る三機の圧倒的なガンダムの戦闘力の高さに、炎のバラ騎士団残党は戦慄を覚える。

 

『な、なんて強さだ…!』

 

『上空のジンクスⅡ隊は、可変機のガンダム一機にやられている…!?』

 

『こ、これが英雄機ガンダム…!』

 

 戦慄を覚え、思わず戦うことを止めてしまう炎のバラ騎士団残党であったが、隊長のバシュロの喝の一声で戻り、周囲の敵を放置してレッドチームのガンダムに全機で襲い掛かる。

 

「呆けとる場合か! この馬鹿者共が! 一斉に掛かれぇ! 奴らは三機だァ!!」

 

『パイロットだけを殺し、機体だけを奪い取れば!』

 

『うぉぉぉ!!』

 

 バシュロの声で戦意を取り戻した地上のゲイレールと上空のジンクスⅡの部隊は、三機のガンダムに雄叫びを上げながら攻撃する。これにレッドチームは冷静に対処する。

 多数のジンクスⅡに包囲されたジェロームのAEG-2は機体の高機動を生かして攻撃を躱し、反撃で次々と撃破していく。重力下の惑星のこの軌道はパイロットがGで死亡しそうだが、乗っているジェロームはミニョルアーマーを纏っているので、何ともない。支援型を優先的に排除して、仕掛けて来る近接型の大型ソードを紙一重で躱して、両手に握った二振りのビームサーベルを高速で振って切り裂いた。

 切り裂かれたジンクスⅡの残骸が雨のように降る中、ダグラスのAEG-1タイタスは、次々と斬りかかるゲイレールを機体の巨大な手足で薙ぎ倒していく。タイタスのパワーはナノ・ラミネート装甲のゲイレールを捻り潰すほどで、剣や斧にメイスと言った近接武器で向かったゲイレール六機が無惨に横たわっている。

 更に大振りのハルバートやハンマーを振り下ろさんとする四機のゲイレールに対し、ダグラスは右肩のビームショルダーを展開させ、ビームタックルを行って四機とも強大なパワーで押し潰した。

 

「これならいけそうね」

 

 一方でダグラスと同じナノ・ラミネート装甲のMSを相手にするアリス機はビーム兵器主体の為に苦戦を強いられていたが、破壊したゲイレールのナイトブレードを取り、一気に形勢を逆転させる。切り裂いた敵機より手放されたメイスを左手に取って打撃を与え、コクピットにブレードを突き刺して更に無力化せる。

 引き抜いて背後より迫る敵機に対処する中、次々とやられていく味方に業を煮やしたバシュロは、怒り狂ってアリスのAEG-1に襲い掛かる。この様子を、ODSTの者たちはただ見ていた。

 

「俺たち必要か?」

 

『街に行く準備でもするか』

 

 自分らが加勢する必要はあるかと問う中、同僚は街の救援に行った方が速いと答え、一同はそれに応じて街への救援に向かう。

 

「何故だぁ!? 何故わしがこんな目に遭わねばならぬっ!? くワァァァ!!」

 

 ODSTやレッドチームの登場に計画の何もかもが狂ったバシュロは、半狂乱になりながらアリス機に襲い掛かったが、そんな彼がスパルタンが駆るガンダムに勝てるはずが無かった。落ちている槍を拾ったアリス機はそれをハルバートを振り下ろさんとするバシュロのゲイレールの胸部に突き刺す。突き刺されたが、ゲイレールはまだ動いており、ハルバートを振り下ろす。

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

 目前のガンダムと刺し違える覚悟で向かったバシュロであったが、既にアリスは槍から手を放しており、奪ったナイトブレードをコクピットに突き刺した。大男はMSサイズの刀身に突き刺され、血を噴き出しながら息絶える。

 

「な、何故だ…!? なぜ愚民如きにこの騎士であるわしが…!?」

 

 自分が愚民と罵る者が乗るガンダムに敗れたことを理解できず、バシュロは息絶えた。

 彼のゲイレールが最後であり、上空のジンクスⅡもジェロームのAEG-2一機に全滅させられていた。鎮守府を攻撃した炎のバラ騎士団残党を全滅させたレッドチームは、それを司令室に居るカーターに報告する。

 

「こちらレッドチーム、敵部隊の殲滅完了」

 

『ご苦労。補給の後、街に急行してくれ』

 

「了解。補給後に街の救援に向かうぞ!」

 

 カーターより補給後は街に救援に迎えとの指示を受け、レッドチームは補給の間に休息を行った。

 

 

 

 市街地では未だに戦闘が続いていたが、各連邦参加勢力の救援によって暴徒染みた旧式機動兵器集団は制圧されつつあった。

 だが、炎のバラ騎士団残党にガンダムは奪取され、そればかりか各勢力は友軍であるUNSCの街に一切の配慮などすることなく、都市部を破壊する勢いで旧式機動兵器集団を攻撃していた。

 

「畜生、あいつら無茶苦茶しやがって!」

 

 ダガーLに乗るUNSC陸軍所属の金田慎太郎は、街の被害など構わずに攻撃する友軍部隊を見て苛立ちを覚える。ジェットストライカー装備のウィンダムやバリエントに乗る友軍のパイロット等は容赦なくミサイルを放ち、数件ほどのビルを倒壊させて敵機を撃破している。思わず撃ちたくなるほどだ。

 

「ここが俺たちの街だと思っているのか、あいつらは!」

 

『連中、敵を倒すことしか考えてないのか?』

 

 市街地の被害に配慮しない友軍に慎太郎らが苛立つ中、炎のバラ騎士団残党に与するリーオーやイクナトカスタム、サザーランドが襲い掛かる。上空のホーネットがミサイルで迎撃を試みるが、躱されてリーオーのマシンガンの対空射撃で撃ち落とされる。これにダガーLに乗る慎太郎らは警戒し、直ちに迎撃体制に移る。

 

「来るぞ!」

 

 ビームカービンをスコーピオン戦車と共に撃ち込むが、イクナトカスタムやサザーランドの高機動の前では躱されるばかりであり、一気に接近戦に持ち込まれて撃破されてしまう。

 

「うわぁぁぁ!?」

 

 慎太郎機もビームサーベルを抜く暇も無くイクナトカスタムに撃破されたが、彼は無事であった。陸軍のダガーLを撃破したイクナトカスタムを隊長機とした部隊は、止まっているガンダムを載せたトレーラーを守る部隊に襲い掛かる。

 トレーラーを守る護衛部隊のジェガンJ型は近付けないようにビームライフルを乱射するが、両側面よりスラッシュハーケンを使ってビルを伝って攻撃してきたサザーランドの攻撃を受けて小破し、イクナトカスタムのとどめの攻撃を受けて護衛部隊は全滅する。

 

「クソっ! なんだこいつ等は!?」

 

 最後に残った複数のスコープドッグに乗る兵士らは周辺にヘビィマシンガンを乱射するも、あっさりとサザーランドに避けられ、数機はマシンガンでハチの巣にされ、残った三機はブレードに斬られてやられた。

 

「う、うわぁぁぁ!」

 

 撃破された機体より奇跡的に助かったパイロットは逃げ出すが、イクナトカスタムより降りた高貴な男のゴールドメッキの自動拳銃であるルガーP08に撃ち殺される。逃げるパイロットを撃ち殺したイクナトカスタムの男は拳銃を腰のホルスターに戻し、トレーラーに積まれたガンダムを見て大変満足になる。

 

「フム、この私に似合うガンダムだ。では、このガンダムは私が…」

 

「あんたに似合わないから」

 

「っ! 何者だ!?」

 

 トレーラーの上に横たわるガンダム、ウィングガンダム アーリータイプを見た高貴な男はそれを自分の乗機にしようとしたが、突如となく聞こえた女の声に動揺を覚え、拳銃をホルスターから抜いて警戒する。

 彼が周囲を見渡している間に、ヒロイックで天使のような翼を持つガンダムのコクピットにマリが近付いていた。直ぐに高貴な男は部下に命じてマリに拳銃を向ける。

 

「貴様、誰が乗って良いと言った? それはこのドグナリフが…」

 

「分からないの? あんたみたいな叩き出された貴族には似合わないっての」

 

「この女、いい加減に! ふあっ!? 私の部下が一斉に死んでいる!?」

 

 マリに気付いた高貴な男は拳銃を向けつつ、部下に拘束するように命じるも、彼女が部下の一人の眉間をいつの間にか握っていた拳銃で撃ち抜けば、残りの部下たちは同じように一斉に眉間から血を噴いて死亡した。

 

「おのれ、この魔女め! 死ね…し、ししし、しばぁぁぁ!?」

 

 これに驚いた高貴な男はルガーP08をマリに向けて引き金を引こうとしたが、全身から茨が生え始めて死亡した。

 邪魔者を排除したマリはウィングガンダム アーリータイプのコクピットに座り込み、機体を起動させて立ち上がらせた。




今週はHALO:WARSだな。AEGタイタス好きです。

次回は誰も応募しなかったウィングガンダム(EW版)が暴れ回ります。


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海軍情報局(ONI)

名前:キュルイゼン
性別:男
年齢:不明
階級:不明
所属:ONIセクション0課
乗機:バーグラリードッグ
ONIセクション0所属の隊員。ブラボーチームリーダー。

名前:ライゼル・ラント
性別:男
年齢:30
階級:不明
所属:ONIセクション0課 アルファチーム
乗機:ガンダムF90 Fタイプ
ガンダムタイプのMSで編成されたアルファチーム所属の隊員。
キャラ提供はわかものさん。

名前:ドリス・ドール
性別:女
年齢:29
階級:特務大尉
所属:ONIセクション0課 チャーリーチーム
乗機:ダークダガーL

名前:ダリル
性別:男
年齢:25
階級:特務軍曹
所属:ONIセクション0課 チャーリーチーム
乗機:ダークダガーL

名前:ケイン
性別:男
年齢:23
階級:特務伍長
所属:ONIセクション0課 チャーリーチーム
乗機:ダークダガーL

名前:ジェナード
性別:男
年齢:22
階級:特務伍長
所属:ONIセクション0課 チャーリーチーム
乗機:ダークダガーL
概要:四名ともチャーリーチーム所属の隊員。ドリスをチームリーダーとしている。
キャラ提供は黒子猫さん。

版権キャラ

M.D.Sガイスト
バイオ原理と言う物で生み出された生体兵器「マッド・デンジャラス・ソルジャー」、通称MDSによって生み出された兵士。
連邦政府が統治している惑星ジュラの内戦の早期終結の為に生み出された兵士であるが、余りの凶暴さにジュラ正規軍は他のMDS共々ガイストを宇宙流しの刑に処される。
ガイストにとって戦いとは人生でゲームであるので、常に極限状態の戦闘を求めている。それ故に惑星一つの文明を滅ぼしたことも。
OVA装鬼兵M.Dガイストより登場。


 視点はガイストが居る世界に戻り、世界を崩壊させる中国の最終兵器を目覚めさせた彼は、その最終兵器が世界を焼くのをただ見ていた。敵も味方も関係なく、最終兵器である七体の龍は口から吐く炎で焼き払う。

 そんなガイストが被る兜に内蔵された無線機より、日本国の首相からの叱責の連絡が来る。

 

『お、お前ぇぇぇ! 自分が何をしたのか分かっているのかぁ!? 俺の、いや、日本による世界統治をぶち壊しやがったんだぞォォォ!!』

 

 鼓膜が破れるような声量でガイストを叱責する首相であるが、当の彼はなんとも思っていない。ただ目前で世界を焼く龍と戦いたくてウズウズしている。あれと戦うことに喜びを感じているのだ。

 

『数週間のうちに終わると思ってた地球のがん細胞の朝鮮半島如きに一年も掛かり、挙句に中国のシナ共との戦争が六年以上も掛かってる! 挙句に今は龍が空を飛んで人間や街を焼き払ってる! 全部お前の所為なんだぞガイストッ!! お前が俺の言う通りに動かない所為だ!!』

 

 その間にも首相は、ヒステリックな金切り声でガイストを叱責どころか、何もかもが終わりに近付いていると喚き散らす。

 事実、この惨状は全てガイストの所為でもあるが、彼は何の責任も考えてない。今のガイストはあの世界を焼いている龍に向いているのだ。無線機より聞こえて来る首相の金切り声は、ガイストにとっては雑音でしかない。

 

『聞いてるのかガイストぉ!? 約束が違うじゃないかぁ! 俺を日本国を再軍備化して大国にすることを条件に、お前の望み通りに戦争を起こしたんだぞ!? 俺も滅茶苦茶強いお前が日本の敵を全部やっつけてくれると思って、お前の言う通りに宣戦布告したんだぁ! それをなんでお前は世界を滅ぼすんだァ!? 話が違い過ぎるぞぉ!!』

 

 首相の言葉通り、日本国がアメリカやロシア、中国と同等どころか上回る軍事力を持った要因はガイストにあった。

 いきなり首相となる前の中年男の部屋に、ガイストが突如となく姿を現したようだ。彼は中年男を日本国の首相とする条件として、自分が好む戦争をすることを望んだ。

 

 再軍備化して直ぐの戦争はやや厳しいが、ガイストの異常すぎる戦闘能力を見て、彼は日本国をアメリカを抜く最強の軍事国家となることが夢では無いと判断し、彼の条件を呑んで日本国を物の見事に世界最強の軍事国家に成長させた。殆どガイストが一人で戦っていたが。

 交戦国となった大韓民国、朝鮮民主主義共和国、ロシア連邦をガイストは一人で屈服させた。ロシアは休戦条約を結んだだけだが、今の交戦国である中華人民共和国を倒したところで、攻めるつもりであった。

 

 だが、ガイストはこの世界の戦争に飽きてしまい、こうして自分が望む極限状態の戦闘が出来る中国の最終兵器を目覚めさせたわけだ。

 彼の好奇心で目覚めた七体の龍は、次に交戦する予定だったロシアやアメリカ、資源目的で占領するつもりであったアジア諸国、首相が性的目的で侵攻するはずであった欧州、交戦するつもりもない中東、アフリカなどを口から吐く業火で焼いている。

 焼かれる大勢の人々の断末魔が辺り一面から聞こえて来るが、ガイストは何の罪悪感も感じていない。それどころかいつあの世界を焼く龍が攻撃してもいいように、笑みを浮かべながら戦闘準備を進めていた。彼は常に極限状態の戦闘を求めているのだ。

 

『全部お前の所為だ!? 分かっているのかァ!? あぁん!?』

 

「お前のつまらんゲームは飽きた。これから俺のゲームを始める」

 

『げ、ゲームぅ!? お、お前ェ! この状況をゲームと思っているのかァ!? リセット出来ねぇんだぞぉ!』

 

 ようやく首相に返答したガイストの言葉は、信じられぬ物であった為に血管がはち切れそうな勢いで怒鳴りつける。この状況をゲームに例えたガイストは、全く気にすることなく戦闘準備を進め、それが出来れば満足したかのような笑みを浮かべる。

 自分の野望をつまらないゲームだと評したガイストに、首相は更なる怒りをぶつけようとしたが、彼のいる日本国首都である東京にも龍が現れ、その大都市を呑み込む炎に焼かれる。

 

『お前は悪魔だ! この世界を滅ぼす…ギャァァァ!! 熱い! 燃える…』

 

「豚が焼かれたか。さぁ、ゲームと行こうか!」

 

 業火で焼かれた首相の悲鳴の後に通信が途切れた後、ガイストは自分に向かってくる龍に笑みを浮かべ、自分のゲームを始めるために槍を持って龍に挑んだ。

 

 

 

 視点を惑星のトーキョーに戻し、ヒロイックな彩色のウィングガンダムに乗り込み、起動させて立ち上がらせたマリは、目前に見えるリーオーに向けて両肩のマシンキャノンを頭部のバルカン砲と共に放った。

 

『乗っているのはご主人殿ではない!? うわぁぁぁ!!』

 

 翼を広げて立ち上がったウィングガンダムに、乗っているのは自分らの主人では無いかことに驚き、部下たちが乗るMSやKMFは蜂の巣となって大破する。

 

『主の仇だ! 死ねぇぇぇ!』

 

 仇を取ろうと迫る他の敵機に対し、マリはシールドを取ってビームサーベルを抜いて対処する。近接戦闘用武器で斬りかかるイクナトの斬撃を躱し、胴体を切り裂き、二機目のイクナトを縦に半分に切り裂いて撃破した。

 一気に二機の敵機を撃破した後、こちらを巻き込む勢いでジェットストライカー装備のウィンダム編隊のミサイル攻撃が始まり、直ぐにシールドをを構えてミサイルを防ぎ切る。機体の装甲も含め、ミサイル攻撃を凌ぎ切れば、近くに置いてある専用バスターライフルまで下がり、それを手に取って上空のウィンダム編隊に向けて撃つ。

 

『高出力ビーム接近!』

 

『な、何ッ!? うわぁぁぁ!?』

 

 バスターライフルの威力は凄まじく、ウィンダム編隊はビームに呑み込まれた。このバスターライフルの過剰なまでの威力に、マリは都市部に居る人々のことを考えて危険すぎると判断する。

 

「これじゃあ、街を吹き飛ばしかねない。なら…!」

 

 街を吹き飛ばしかねないと判断したマリは、直ぐに機体の変形操作を理解し、それを実行して上空高く飛翔する。バード形態となったウィングガンダムに、セイバーフィッシュやフライマンタ、ジェット・コアブースター、スピアヘッドなどの連邦軍機は奪われた物と判断して攻撃してくる。

 

『上空にアンノウン!』

 

『敵だ! 多分、奪われたガンダムだ!』

 

『撃墜許可は出ているんだ! 各機、ミサイルを撃ちまくれ! 街の被害に構うな!』

 

 街の被害に構わずに、攻撃してくる連邦軍機の大編隊に対し、マリは飛んでくるミサイルを全て躱しながら機体をMS形態に変形させ、再びバスターライフルを放ち、航空機編隊の背後に居る空中戦艦や空中空母ごと消滅させる。

 

『なんだこの威力は!? ワァァァ!!』

 

 上空で爆発の連鎖が巻き起こる中、マリは、街の被害を気にせずに上空で戦う連邦軍と炎のバラ騎士団残党を見付け、それらを制圧するために機体をバード形態に変形させ、戦闘空域に向かう。

 高速で移動する最中に、ウィングガンダムを敵と認識した連邦軍機より執拗に攻撃されるが、大した腕も無いので容易に振り切れた。ジェットストライカー装備のダガーLにウィンダム、バリエント、ジェムズガン、ヘビーガンとGキャノン、アデルマークⅡ、エリアーズ、ジンクスⅡと言った集団に向け、マリは容赦なくバスターライフルを放って双方の大部分を消滅させる。

 バスターライフルの最大発射数は三発であるが、マリはシールドに予備バッテリーを搭載していることを知っているので、機体のMS形態に変形させてバッテリー交換を行い、再びバスターライフルを横に振りながら発射して上空の部隊に更なる被害を与える。

 

『あのガンダムは敵だ! 撃たれる前に落とせ! 落とすんだ!!』

 

 完全にマリを敵と認識した連邦軍はUCA海軍の巡洋艦一隻を差し向け、街を焦土に変えるようなミサイル攻撃を行うが、それらはウィングガンダムのバスターライフルの前に消滅する。更には巡洋艦まで届き、高出力ビームで撃ち抜かれた巡洋艦は、真っ二つに折れて地面に落下していく。

 巡洋艦すら仕留めたマリは、街の離れた先にビッグ・トレーなどの地上戦艦の艦隊を見付け、そこにバスターライフルを照準を向ける。街ごと敵を砲撃するつもりだと認識したのだ。

 

「て、敵機! こちらに照準を向けております!!」

 

「な、何をしておる!? 我が地上艦隊も主砲を撃て!」

 

「それでは街の味方や市民が…!」

 

「構わんッ!!」

 

 副官の反対に対し、地上軍指揮官は砲撃を命じる。その指示に応じ、ビッグトレーやヘビィ・ホーク級陸上戦艦、テンザン級陸上戦艦、ハンニバル級陸上戦艦と言った地上戦艦が雨あられと砲撃を行うが、マリが放ったバスターライフルで放った砲弾が消滅させられる。砲弾全てを消滅させた高出力ビームは、地上戦艦の艦隊に迫る。

 

『退避! 退避ィィィ!!』

 

「い、嫌だぁぁぁ! あぁぁぁぁ!?」

 

 地上戦艦の艦隊提督の悲鳴を最後に、地上戦艦の艦隊はバスターライフルのビームで消滅した。

 上空と地上からの街の脅威を文字通り消し去ったマリのウィングガンダムは、その姿に合う天使の如く街へと降り立った。

 

 

 

「あの女め、派手にやってくれたな」

 

 ターニャたちを置いて行き、四人を引き連れて出て行ったマクギリス等は、炎のバラ騎士団残党が奪うはずであったガンダムを先に奪取していた。

 ガンダムを輸送していた連邦軍の輸送隊は、街中で社会的底辺の者たちが乗る旧式機動兵器集団に襲われて全滅しており、トレーラーから飛び出したガンダムが散乱していたが、輸送部隊を襲った暴徒らはガンダムに目も暮れず、行ける者たちを襲っている。

 暴徒たちは鎮圧に来た連邦軍の隊と交戦状態に陥っており、更にマリが連邦軍の隊をウィングガンダムに乗って派手に暴れ回ったおかげか、こうしてマクギリス等がガンダムを容易に奪取できたわけだ。

 マクギリスが乗っているガンダムは、ストライクガンダムだ。ヤザンはZガンダムに乗り、デカルトはガンダムXに乗っている。

 

「ストライクガンダムか。何処に搬入する気かは分かるが、地上戦のウォーミングアップと行こうか。ヤザン、デカルト、そちらはどうだ?」

 

『まさか(ゼータ)なんぞに乗る羽目になるとはな。OKだぜ、旦那』

 

『こちらも問題はない。このガンダムはお月様が出てなきゃ、ただのガンダムだがな』

 

 どちらも通常通りに起動できたと返答すれば、マクギリスは残り二名が乗るガンダムに、搬入先であるスピリット・オブ・ファイヤに向かうように指示を出す。

 

「諸君らの腕なら、襲撃してくるONIに対処できるだろう。ウィングガンダムと(スペリオン)ガンダムは先に軌道エレベーターに行け。話は通してある」

 

『了解!』

 

 指示を出したウィングガンダムとSガンダムが過剰な火力を秘めているため、先にここから遠ざけた。残ったガンダムが何体か転がっているが、戦闘で破壊されていたので放置した。

 

『だ、誰か! 助け…』

 

 郷土防衛隊のドートレスが、暴徒が乗るMSに撃破される無線連絡を聞けば、マクギリスは派手にやり過ぎないように注意する。

 

「ここにも来たようだ。余り暴れすぎるなよ?」

 

『フン、分かっている。街をぶっ壊さず、俺たちを監視している奴らを始末しろって言うんだろ?』

 

『連中の気配は既に感じ取っている。広い場所で好きにやらせてもらう』

 

「そうしろ。私はここに来る奴を始末してから合流する」

 

 注意した後、ヤザンのZガンダムとデカルトのガンダムXは散り散りになった。一機となったマクギリスはストライクの両腰に収納してある二振りのアーマードシュナイダーを取り出し、両手で構えてこちらへ来る敵機に備えた。

 その敵機はただの暴徒が乗っている旧式機動兵器「MS-14ゲルググ」にしては動きが良過ぎて、現行機でもあるストライクダガーやジェノアスⅡを次々と撃破しながら来る。挙句に性能で勝るはずのジェガンJ型すら撃破し、マクギリスのストライクの前に姿を現す。ゲルググの動きを見て、マクギリスは即座に敵機に乗るパイロットが自分の知る装置を身体に埋め込んでいることを見抜いた。

 

「あの動き、阿頼耶識か!」

 

『アニメを馬鹿にする奴は…許さない…! 実写カス…! 三次元はカス! 二次元最高! アニメこそ最強ッ!!』

 

 ゲルググに乗る阿頼耶識を埋め込んだパイロットは、訳の分からない言葉を拡声器越しで叫びながらマクギリスのストライクに襲い掛かった。ビームライフルを撃つが、マクギリスは直ぐに回避行動を行い、機体唯一の射撃兵装である頭部バルカンことイーゲルシュテルンを撃つが、ゲルググもそれを避けてビームライフルで反撃してくる。ビームを避ける度に周囲のビルが破壊されていくが、ゲルググは関係なしにビームを乱射する。

 

『お前もアニメを馬鹿にする奴だなァ!? リア充は殺す! リア充は殺す! イケメンは殺すゥゥゥ!!』

 

「薬物も投与されているようだ。あのパイロットはこの一戦で死亡だな」

 

 叫びながらビームを乱射するゲルググにマクギリスは薬物を投与されていると見抜き、スラスターを吹かせてジグザグに動き、ビームを避けつつ敵機に接近する。

 

『うぃぃぃ! うりィィィ!! あ、あらぁ!?」

 

 余りにビームを乱射し過ぎた為か、ビームライフルがオーバーヒートした。この隙にマクギリスは急接近して、両手に握るMS用ナイフを突き刺そうとする。無論、接近してくるガンダムに、ゲルググも近接用のビーム薙刀で反撃してくる。上下ある放出口の上の部分からビームの刃を出し、それでストライクを突き刺す。

 

『死ねぇぇぇ! 串刺しィィィ!!』

 

 叫びながらビーム薙刀で突きまくるも、全て避けられてアーマーシュナイダーを胸部とコクピットがある腹部に突き刺されて無力化される。

 

『あげぁぁぁ!? し、死ぬっ!? でも、コンテニューを!』

 

「残念ながら、君はリトライは出来ない。これは現実と言うゲームで、死ねばゲームオーバーだ。来世は天変地異の力を得て、ハーレムでも築くが良い」

 

『そ、そんな…! 俺、まだ、死にたく…』

 

 アーマードシュナイダーを突き刺し、これから死ぬであろうゲルググのパイロットにマクギリスはゲームでは無く現実であると告げれば、そのパイロットは阿頼耶識の影響か、それともシュナイダーを突き刺して飛んできた破片が突き刺さったのか息絶えた。

 機能を失ったゲルググよりシュナイダーを引き抜き、それを両腰に戻せば、近付いてくるUNSC陸軍のジェガンD型四機に、自分が味方であることを無線連絡で告げる。

 

『そこのガンダム! 動くな!!』

 

「止せ、私は敵ではない。連邦宇宙陸軍所属、特務混成機甲旅団旅団長マクギリス・ファリド准将だ。認識番号はPD325。信じられぬと言うなら、連邦軍本部に問い合わせてくれたまえ」

 

 自分に実弾式ライフルを向ける陸軍機に対し、マクギリスが連邦軍に潜り込む際に使う身分を明かせば、友軍のUNSC陸軍所属のジェガン四機は友軍にそれを確認し、本物であると認識する。そのマクギリスの連邦軍の身分は、次期連邦軍総司令官と噂れる機体の史上最年少の若手元帥、エイミー・スナップとの裏取引で入手した物だ。

 若手の女性元帥が権限で作り上げた身分に、友軍のUNSC陸軍のパイロットたちはライフルを腰のラックに付けてMSで敬礼の体勢を取らせる。

 

『し、失礼しました閣下!』

 

「粗末な事はいい。それより、ストライクのソードパックを着けてくれないか? トレーラーの換装装置が故障していてな」

 

『はっ! 直ちに掛かります!』

 

 ジェガン四機にソードストライカーの装備を身に着けさせるように指示を出せば、将官からの指示にジェガン四機はストライクにソードストライカーを装着する。

 

『作業、完了しました!』

 

「ご苦労。諸君らは街の掃討に入れ、敵はまだ残っている」

 

『了解! お前ら、行くぞ!』

 

 換装作業が終われば、四機に街の掃討を行うように指示を出して離れさせた。

 

「さて、いつまで見ているつもりだ? そろそろ出てきたらどうだ?」

 

 四機の友軍機が離れた後、マクギリスは自分を狙う物の存在を感じ取り、拡声器を使って出て来るように告げた。すると、四機のガンダムF90が何処からともなく出て来る。

 

『我々の存在に気付いていたのか?』

 

「ガンダムタイプ、それもF90か、ONIめ。バエルがあれば、直ぐ終わったろう」

 

 出て来たF90はそれぞれ装備が施されており、完全にマクギリスをやるつもりだ。バエルを持って来れば良かったと後悔するマクギリスであるが、いま思っても意味が無いので、広い場所についてくるように告げる。

 

「諸君らも街に取り残された市民を巻き込むのは忍びないだろう? 広い場所へ移ろう。そこなら、存分にガンダムの性能を発揮できるはずだ」

 

『けっ! 何を言うかと思えば、下らんことを! お前はここで死ぬ…』

 

 このマクギリスの誘いに、一機のF90は直ぐに仕留めようとビームライフルを向けたが、素早く投げ出されたアーマーシュナイダーでコクピットを突き刺され、そのガンダムのパイロットは絶命する。余りの速さに残った三機は驚く中、三機の中の一機であるF90のFタイプに乗るライゼル・ラントは応じる。

 

『分かった、応じよう! 俺たちの行いで民間人が巻き込まれるのは不本意だ』

 

 このライゼルの判断に、別タイプの残り二機は異議を唱える。

 

『なんでこれから殺す野郎の要望なんぞ受け入れる?』

 

『隊長のはまぐれだ。今なら…!』

 

「いや、あいつはその気になれば、俺たちを皆殺しに出来る。俺たちの同じ土俵に立ってやると言っているのさ」

 

 二人の同僚の異議に対し、ライゼルはマクギリスが自分たちをその気になれば皆殺しに出来て、敢えて自分たちと対等に戦える場所に移動していると答えた。

 だが、そんなことで納得する同僚ではない。我慢ならないHタイプに乗る一人の同僚が持って居るバズーカをマクギリスが乗るストライクガンダムに向けて撃ち込もうとする。

 

『はっ! まどろっこしいぜ! 今なら背中がガラ空きだ!』

 

 バズーカを向けて撃ち込もうとしたが、この動作にマクギリスは直ぐに気付いて攻撃する。主兵装であるシュベルトゲーベルを素早く抜き、バズーカを撃とうとしたF90Hタイプを切り裂いた。続けて攻撃しようとした二機目を目にと止まらぬ速さで撃破する。一気に二機のガンダムを撃墜したのだ。余りの速さにライゼルは何の反撃も出来なかった。

 

『君も彼らと同じ末路を辿るかね?』

 

「うっ…! 分かった、直ちに向かおう。各チーム、手を出すな。民間人を巻き込む」

 

『アルファ2、何故だ? さっさと標的を仕留めろ!』

 

「もうバレてんだよ! 俺のケツを舐めろ! アルファ2、アウト!」

 

 ストライクのシュベルトゲーベルの剣先を突き付けられながら問われたライゼルは、決闘の申し出を受ける。これに合わせ、ライゼルは本部に自分の邪魔をしないように告げた。

 余りの馬鹿らしい要請に、本部は早く仕留めるように告げたが、ライゼルはもう襲撃はバレていることを告げて無線を切った。無論、本部が応じるはずが無く、予備のチームを送り込んでくる。

 

「急ごう。本部は約束を守らない」

 

『君ごとやるだろうな。さぁ、行こうか」

 

 本部が約束を守らないことを承知で決闘を受けたライゼルはそれを伝えれば、マクギリスも承知の上で急ごうと返した。

 かくして、二機のガンダムは民間人を巻き込まない広い場所へとスラスターを吹かせて向かった。

 

 

 

「ニートにDQN、ホームレスと言った社会的底辺共が、この俺に勝てる通りは無いんだよォ!」

 

 一方で別れたガンダムXに乗るデカルト・シャーマンは、旧式機動兵器に乗る社会的底辺の者たちを蹂躙していた。ガンダムXも旧式だが、性能ではガンダムの方が勝り、もはや実戦経験も碌な訓練も受けていない彼らでは的のようにビームで撃たれるか、ビームソードで切り裂かれるだけだ。

 尚、連邦軍機には手を出していない。マクギリスが用意した身分で前世と同じように連邦軍の大尉として、ガンダムXを正式に受理したことになっているのだ。

 

『や、止めて! 騎士団の人たちに、騎士団の人たちに脅されてやっただけです!!』

 

「そうか。死んだら神様に、チートやハーレムでも貰うんだな!」

 

 そう言って命乞いをするザクⅡのパイロットを、容赦なくビームソードでコクピットを突き刺して無力化させた。融合路には当たっていない。正確な無力化である。

 

「でっ、落ち武者共は見ているだけか?」

 

 周辺に居る陽動部隊の機動兵器を全滅させた後、デカルトは近付いてくるグレイズやゲイレールに最初から気付いており、出て来るように挑発する。

 

『お、おのれぇ~! 我々が奪うはずのガンダムを!』

 

「奪うなら二号機でもするんだな。だが、お前ら落ち武者共がガンダムに乗る資格は無い!」

 

『ふざけおって! 引きずり降ろして心臓を抉り出してやる!!』

 

 陽動部隊隊長が乗るグレイズ・リッターはデカルトの挑発に乗り、複数機による連携を取って突撃で仕掛ける。

 

「落ち武者のくせに律義に並んで突撃など、生意気なんだよ!」

 

 この連携を取った突撃に対し、デカルトは自分もビームソードを持って立ち向かった。

 

「フン、カス共が! MSなんぞに乗るんじゃねぇ!」

 

 Zガンダムに乗るヤザンも、社会的底辺の者たちの旧式機動兵器集団をたった一機で片付けていた。

 倒れた敵機よりその者たちが悲鳴を上げながら逃げれば、ヤザンは追撃することなく、出て来たONIの襲撃チームと交戦する。最初の一撃を躱せば、飛んできた方向へ向けてビームライフルを撃ち込んで、バーラリードッグを撃墜した。

 

「来たかい! 殺し屋共!」

 

 先の旧式機動兵器集団よりも面白い戦いが出来ると期待したヤザンは、次々と飛んでくるONIの襲撃チームの攻撃を躱しつつ、一機、また一機と撃破する。余りにも強いヤザンのZガンダムに、現状の戦力では対処できぬと判断したブラボーチームリーダーであるキュルイゼンは援軍を要請する。

 

「こちらブラボーリーダー、ATでは不利だ! MSを要請する!」

 

『了解した、ガンマチームを送る。それまで現状の戦力で対処せよ!』

 

 この要請に本部は、援軍が来るまでキュルイゼンはZガンダムと交戦する。ATとガンダム、もはや力の差は歴然であるが、ONIのボトムズ乗りはやるしかないのだ。

 

「えぇい、チビ助共が! 小賢しい!」

 

 流石にATは小さいのか、狙いが定まらないのでヤザンは苛立つ。それも街を破壊するなとマクギリスに言われているので、更に苛立ってしまう。埒が明かないと判断し、ヤザンは広い場所へと移動することにする。

 

「ここでは埒が明かん! 広い場所へ移動する!」

 

 広い場所へと移動する為、ヤザンはZガンダムをMA形態に変形させ、空高く上がって広い場所へと向かった。これをキュルイゼンのブラボーチームは追跡した。

 

 

 

「こちらチャーリー5、ウィングガンダムアーリータイプを捕捉。奪取された物と認定、交戦許可を」

 

 街の公園に降り立ったマリのウィングガンダムアーリータイプを補足したONI所属のダークダガーLに乗るドリス・ドールは、本部に捕捉したことを報告し、交戦許可を請う。

 

『こちらゴーストキャッスル、交戦を許可する。要請があれば増援を送る。オーバー』

 

「現状の戦力で敵の出方を見る。アウト」

 

 交戦許可を貰え、更には増援も確保できたことを知れば、ドリスは自分のチームと共にマリのウィングガンダムに攻撃を仕掛ける。

 ドリス機の無反動砲による攻撃に続き、同じ機体に乗るダリル、ケイン、ジェナードによる一斉射撃が始まる。この攻撃に気付いたマリは、機体を動かして躱し、出力を抑えたバスターライフルを撃ち込むが、過ぎに躱されて倍返しが来る。

 

「こいつら、例の…!」

 

 この統制の取れた奇襲攻撃を、直ぐにONIの襲撃チームの物と断定し、マリは本気になって襲撃チームを迎え撃った。




今回はガイストに、Wガンダム回です。

次回も色々と出て来るかも…?


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邪魔者を始末して

若干早いけど、スパルタンターニャ誕生のお知らせ。

最後のイメージ戦闘BGM「いけないボーダーライン」
https://www.youtube.com/watch?v=ZKiTu8MXOkk


 ガンダム奪取の為、街を襲撃する炎のバラ騎士団残党の陽動部隊や騎士を排除したマクギリスやマリの元に、監視していたONIが襲撃チームを送り込んできた。この襲撃チームに、彼らは臆することなく交戦する。

 そのONIの襲撃チームは、ターニャら特務魔導大隊の方にも送り込まれており、彼女らが避難していた地下鉄では、既に交戦が始まっていた。

 

「ひィィィ!? な、なんだこりゃあ!?」

 

 ONIの襲撃チームの銃撃に巻き込まれた市民が叫ぶ中、ターニャら特務魔導大隊が防御術式で市民たちを守る。

 

「こいつら、市民ごと私たちをやる気か!?」

 

 守るべき市民が居るにも関わらず、容赦なく消音器付き短機関銃やカービン銃で銃撃してくるONIの襲撃チームに、ターニャは正気なのかと口にする。

 必死に防御術式を展開するターニャたちの後ろで、アーデや他の部下たちは隠し持っている武器の組み立てを行う。真里菜も防御に参加し、市民や武器を準備する部下たちを守っていた。

 

「銃は!?」

 

「できました! MP5(クルツ)ですが!」

 

「それでも構わん! 術式でカバーする!」

 

 MP5短機関銃の小型化モデルであるkしかないと答えれば、ターニャはそれでも良いと言って防御術式を他の者たちに任せ、投げられたそれを手に取り、弾倉を差し込み、ボルトを叩いて薬室に初弾を送り込む。セレクター近くにある安全装置を解除し、自分らに向けて消音器付きの銃を撃って来るONIの襲撃チームに向ける。

 目に見える全ての敵隊員に魔眼で照準して、手にしている小型のサブマシンガンに攻撃力を上げる術式を行って威力を底上げする。十分に溜まれば、即座に引き金を引いて撃ち込んだ。

 

『ぐわっ!?』

 

「数名、隠れました!」

 

「動きが速い! 流石は特殊部隊だ!」

 

 数十名の敵兵が被弾して倒れたのを確認した部下が、数名が遮蔽物に隠れたことを知らせれば、ターニャは流石は特殊部隊だと褒め、組み立てが完了したHK416カービン銃に切り替え、遮蔽物から出てこちらを撃とうとする敵兵を単発で撃ち殺す。

 持って居たMP5kはイブ人の部下に渡し、防御術式を展開している部下に守らせつつ、銃で応戦する。アーデの方はG36A突撃銃を組み立てを終えたが、自分の中隊の隊員と共に銃を民間人に向ける。

 

「ブラウトクロイツ少佐、こんな時に目撃者狩りか?」

 

「いや、邪魔な民間人をここから排除する! 死にたくなければ地下鉄から出ろ!」

 

 民間人を殺害する気かと問うターニャに対し、アーデは天井に銃を撃って民間人に地下鉄から出るように脅した。悲鳴を上げて我先に逃げようとする民間人らに対し、アーデは幼い子供を抱え、倒れた者は踏まないことや老人には手を引くようにも告げる。

 

「小さい子供は抱えろ! 倒れた者は踏むな! 老人には手を引け! 無視して出る者は射殺する!」

 

「わ、分かった! だから銃を撃つんじゃない! それとみんな落ち着け! あの女の言う通りにすれば死なないぞ!」

 

 脅しの為に天井に銃を撃つアーデに対し、慌てて入って来た郷土防衛隊の民兵は応じるから撃つなと言って、民間人の避難を誘導する。

 民兵を含める民間人らが地下鉄から出れば、アーデの中隊はそれを追って銃口を向け、一刻も早くここから離れるように仕向ける。民間人を巻き込みたくない真里菜もそれに同行していた。

 だが、ONIの襲撃チームは地上にも出て来る。

 

「おい、連邦軍だぞ!」

 

「あたしゃ呼んでないよ!」

 

「一体なにが…? 早過ぎるぞ?」

 

 現れた複数のエールストライク装備の105スローターダガーに、民兵らは驚いた表情を見せる。

 余りの速い連邦軍の登場にアーデらは慌てて地下鉄へと戻ろうとする中、そのMSを知る真里菜は民間人らの前に出る。

 

「いけない!」

 

「どうしたんだ!? 撃たれるぞ!」

 

 急に105スローターダガー集団の前に出る真里菜を止めようと声を上げるアーデであったが、スローターダガーが両足のつま先から12.5ミリ口径機関砲を展開したことで、ようやくその意味に気付く。あのダガー集団は、民間人諸とも自分らを射殺しようと言うのだ。

 ダガー集団の前に魔力を使って出た真里菜は急いで民間人全員を守り切れるほどの防御術式を展開し、対人用機関砲の掃射を防ごうとする。だが、広く防御術式を展開することで効果は弱まり、一発が貫通して真里菜の右腹部に命中する。

 

「やっ!」

 

「っ! 貴様ら、よくも!!」

 

 撃たれながらも防御術式を展開し続ける真里菜の負傷を見たアーデは、目前のスローターダガー集団に怒りを覚え、それらを倒すため、手にしているG36Aに収束砲撃術式を込めて撃ち込んだ。

 放たれた収束砲撃術式は目前のスローターダガー全機分に分散し、強力なエネルギー弾となって確実に命中する。その火力はMSを一撃で吹き飛ばす物であり、民間人諸ともアーデらを殺そうとしたスローターダガー全機は上半身が吹き飛び、下半身はただ佇んでいた。

 脅威を一瞬で排除したアーデは、自分の中隊の衛生兵に倒れた真里菜の治療をするように指示を出す。

 

衛生兵(ザニー)! はやく中尉を治療しろ! 急げ!!」

 

「はい!」

 

 直ぐに衛生兵が倒れた真里菜の側に寄り添い、治療術式で被弾した右腹部の治療を始める。

 

「な、何なんだあんた等は!?」

 

 アーデの副官が負傷した真里菜の手を掴み、必死に意識を保たせようとする中、目の前で何度も起こる超常現象の数々に混乱した民兵の一人が、手にしているMA5Cアサルトライフルを向けて何者かと問い詰める。

 震える手で銃を向ける彼の後ろに居る民間人や民兵らも怖がっており、怪物を見るような眼でアーデたちを見ている。生身で、しかも魔法でMSを撃破したのだ。当然のことである。

 

「貴様ら! 恩を仇で!」

 

「待って! みんな怖がるのは分かる。でも、殺そうとしないで…! せっかく生き残れたんだから…!」

 

 殺し合いがまた始まろうとする最中、重傷の真里菜の必死の訴えで双方は銃を下げた。

 そんな時にターニャと残りの部下たちが地下鉄から出て来る。どうやら、地下鉄のONIの襲撃チームを全滅させたようだ。現れたターニャは、民兵と民間人らに向け、即刻その場からの退避するように脅しを掛ける。

 

「何が起こったか知らんが、そこの民兵や民間人共、死にたくなければ直ぐにその場から去れ!」

 

 たかが幼女の脅しに従う訳が無いと思われていたが、その迫力は凄まじく、脅された民兵や民間人らはターニャの迫力に押されて避難し始める。

 

「邪魔者は消えたぞ。アーデと二名は中尉をモンターク商会の方へ移送しろ。残りは、ハゲタカやネズミ共の始末だ」

 

 アーデと他二名に負傷した真里菜を移送するように指示を出したターニャは、残りの部下たちにONIの襲撃チームを始末するように指示を出す。

 事実、ターニャ等が現れて数分ほどで、周辺のビルにONIの襲撃チームや他の連邦の特殊部隊が潜み、彼女らに銃口を向けている。ターニャが狙撃手のいるビルにカービン銃を向ければ、直ぐに引き金を引いて狙撃手のみを追尾術式で抹殺する。

 

「各員、市街戦だ! 周囲の建造物の窓という窓、あるいは出入り口に警戒しろ! 隙を見せるな! 奴らはいつでも我々を殺すチャンスをうかがっているぞ!」

 

 敵の狙撃手を抹殺したターニャは部下たちに市街戦にするように命じれば、上空より現れる新手のMS隊に向けて砲撃術式を放った。

 

 

 

 ターニャ等もONIの襲撃チームより攻撃を受ける中、ガンダムに乗るマクギリス、ヤザン、デカルトはそれぞれが交戦する敵を圧倒していた。

 

「う、うわぁぁぁ!?」

 

 キュルイゼンが乗るバーラリードッグは、ヤザンのZガンダムに踏まれ、潰されようとしていた。脱出しようにも開かず、脱出できぬままキュルイゼンはZガンダムに踏み潰される。

 

「フン、殺し屋共と聞いて期待していたが、この程度か」

 

 ヤザンはONIの襲撃チームと聞いて期待していたようだが、自分に向かってくるのはATばかりなので不満気であった。そんな彼の元に、ベースジャンバーに乗った特殊仕様のジェガンD型の編隊が現れる。この編隊を見たヤザンは笑みを浮かべ、壊滅させたキュルイゼンのチームよりは期待できると思ってビームライフルで攻撃する。

 

「MSか。フン、チビ助共よりは面白そうだ!」

 

 特殊仕様のジェガンD型の編隊に対し、ヤザンは単独で挑んだ。

 ガンダムXに乗り、炎のバラ騎士団残党と戦うデカルトは、彼らが駆るグレイズ・リッターやグレイズ、ゲイレールなどを圧倒し、残党側の機体は僅か六機であった。

 

「まぁ、落ち武者共ならこの程度だな」

 

『お、おのれぇ! なぜ我らの攻撃が当たらん!?』

 

 炎のバラ騎士団残党はデカルトに一撃の攻撃も当てられなかった。デカルトはイノベイターであり、彼が劣等種と見下す騎士の攻撃など、手に取るように分かるのだ。

 それにナノ・ラミネート装甲に有効なナイトブレードを撃破した敵機より奪っており、それで三機一体で襲い掛かるゲイレールを撃破する。並の人間なら出来ぬ芸当であるが、イノベイターであるデカルトには造作もない事だ。

 

「全く、落ち武者になるのは無理もねぇな」

 

『くそぉ~! たかが一機のMSに!』

 

「どうした? 勝てなくて悔しがってるのか?」

 

 三機のゲイレールを潰したデカルトは炎のバラ騎士団残党の余りの弱さに呆れ、彼に侮られた隊長は怒りを覚えて操縦桿を握る両手を握り潰す勢いで強める。

 更に煽り立てるデカルトに対し隊長は、マリンダのブリッツガンダムに背後から襲うように部下に指示を出させ、部下が乗るグレイズは彼女に指示を出す。指示を受けたマリンダのブリッツガンダムは、ミラージュコロイドを発動させてデカルトのガンダムXの背後に接近する。

 無論、デカルトはそれに気付いており、気付かぬフリをしてナイトブレードの剣先を隊長が乗るグレイズ・リッターに向けていた。

 いざ背後の透明のブリッツガンダムがデカルトのXに近付き、近接用に武器で突き刺そうと向かった。背後から近づくマリンダに気付いていたデカルトは、残党が彼女に隠していた真実を告げる。

 

「お前が養っていた餓鬼ども、既に死んでるぜ」

 

『えっ…?』

 

 この拡声器を使ったデカルトの一言で、マリンダは動きを止めてしまった。自分が守るべき下の孤児たちは、既に死んでいると言われたからだ。

 事実を問う前に、マリンダはデカルトのガンダムXの左手に握られたビームソードで胴体を貫かれ、彼女はビームの刃に呑み込まれて消滅する。その表情は死の恐怖では無く、突然告げられた自分が守るべき者たちが死んたことに驚いた物であった。

 

『き、貴様! 何故それを!?』

 

「フン、不意打ちを食らわせる騎士が、言う事かよ!」

 

 自分らが必死に隠していたマリンダに対する真実を知っているデカルトに隊長は驚く中、彼は容赦なくヤケクソに挑んでくるグレイズ・リッターのハルバートの斬撃を躱し、ナイトブレードをコクピットに突き刺す。

 

『よくも隊長を!』

 

 コクピットをブレードで貫かれたグレイズ・リッターが機能を停止する中、残ったグレイズ数機がホバー移動しながら仇討に来る。だが、デカルトに敵うはずが無く、全機が切り裂かれて撃破された。

 

「俺じゃなく、オワコン騎士団を恨むんだな、ブリッツガンダムの姉ちゃんよ」

 

 炎のバラ騎士団残党の陽動部隊を壊滅させたデカルトは、コクピットを貫かれて横たわるブリッツガンダムに向け、恨むのは自分では無く、炎のバラ騎士団残党を恨めと言って軌道エレベーターに向かった。

 広い場所へ移動したライゼル・ラントのF90ガンダムFタイプとマクギリスのストライクガンダムの戦いも、決着が着こうとしていた。

 

「ほぅ、中々やる」

 

 腕部のビームスパイクの打撃はソードストライカー装備のストライクの左腕のアンカーを破壊し、更には得物であるシュベルトゲーベルも破壊した。このライゼルの格闘センスに、マクギリスは関心の声を上げた。

 ほぼ全てのソードストライカーの装備を破壊され、武装は殆ど残っていないストライクに対してライゼルはとどめの一撃を食らわせようと、右腕部のビームスパイクを叩き込もうとする。これにマクギリスは躱し、素早く抜いたアーマーシュナイダーをコクピットに突き刺すが、躱されてしまう。

 蹴りを躱したマクギリスは距離を取り、機体の左手に握られたもう一本のアーマーシュナイダーを投げ付けるが、弾かれる。対装甲ナイフを弾いたF90は、逃したとどめを行うために向かってくる。

 

「中々のセンスだ。だが…」

 

 接近したF90の連続の打撃を躱しつつ、ライゼルの動きを観察していたが、マクギリスに取っては期待外れであった。そのまま打撃を躱し、アーマーシュナイダーをコクピットに突き刺す。装甲ナイフに突き刺されたライゼルは、当然ながら絶命する。

 

「三日月・オーガスやガエリオの方が上だ。君は、どちらかと言えば少し強い方だ」

 

 コクピットに突き刺したナイフを抜き、それを腰のラックに戻した後、マクギリスはライゼルの評価を告げた。そんな彼のストライクに、潜んでいたONIのジェガンD型が動かないライゼルのF90共々ビームライフルを放つ。

 気付いたマクギリスはそれを躱し、動かないライゼルのF90は味方のビームで処分された。碌な武器が無いマクギリスのストライクであったが、石動が乗るガンダムエクシアが救援に駆け付け、周辺に居たジェガンD型を瞬く間に全滅させる。

 

『総帥、ご無事ですか?』

 

「あぁ、無事だ。さて、後は彼女だけか」

 

 迎えに来た石動のエクシアに礼を言いつつ、マクギリスはコクピットのハッチを開け、身を乗り出してマリが居る方に視線を向けた。

 

 

 

 ウィングガンダムアーリータイプに乗るマリは、ドリスのチームだけでなく、後からやって来たバスターダガー、カラミティガンダム、ヴェルデバスターを装備したチームや他の特務部隊の集中砲火に苦戦を受けていた。

 

「こいつら、数ばかりで!」

 

 攻撃を躱しながら反撃しようとするマリだが、上空の正式採用型のレイダーガンダムの編隊に邪魔をされ、バスターライフルを破壊されてしまう。唯一の射撃兵装を破壊されたマリは、残りのバルカン砲やマシンキャノンで応戦しようとするも、ドリスのチーム攻撃によってそれらも破壊されて地上に引きずり降ろされる。

 地上に降ろされたところで、射撃兵装主体のカラミティ、ヴェルデバスター、ランチャーストライカー装備のスローターダガー、バスタダガーの集中砲火に遭い、それらから守るためにシールドを構えるが、耐え切れずに左腕が引き千切れる。盾を失ったところで、攻撃が弱まることなく集中砲火は続く。

 

「硬いわね。コクピット部分を集中的に!」

 

 盾を失い、これほどの集中砲火でも耐え切るウィングガンダムに対し、ドリスは更に火力を集中するように指示を出す。それに合わせ、上空のレイダーガンダムの一斉射やジェットコア・ブースターのスマート爆弾による爆撃が行われたが、ウィングガンダムは未だに健在であった。

 まだ生きている標的に対し、ドリスが乗るダークダガーLはとどめの無反動砲を撃ち込んだ。無反動砲のロケット弾を撃たれたウィングガンダムは、背後にあるビルに衝突。ビルはその影響で倒壊し、ウィングガンダムは瓦礫の下敷きとなる。

 

「標的の無力化を確認」

 

『よし、死体を確認しろ。あれほど撃っても耐え抜くとは…』

 

 ドリスがようやく倒れたウィングガンダムを、本部に報告すれば、本部から死体を確認しろとの連絡を受ける。それに応じ、四機のダークダガーLは、マリの死亡を確認しに近付く。

 そこに瓦礫の中からウィングガンダムの右腕が現れ、ボロボロとなったウィングガンダムが瓦礫を吹き飛ばしながら姿を現す。まだ生きている標的にONIの襲撃チームは驚愕する中、コクピットから出ているマリは左腕に付けた端末を操作しており、ガウォーク形態のバルキリーのVF-31Jジークフリートを既に呼んでいた。

 新しい機体に乗って抵抗を続けようとするマリに対し、本部はVF-31Jを撃破するように指示を出す。

 

『しぶといガンダムめ! 奴は新しい機体に乗って抵抗するつもりだ! 破壊しろ!!』

 

 この指示に応じ、各チームはマリに一斉射撃を行うが、彼女は巨大な防御術式を展開しており、その全ての攻撃を凌ぎ切っていた。

 

「さぁ、ここからは私のターンよ!」

 

 目前のONIの襲撃チームに対し、VF-31Jに乗り換えたマリは、今度はこちらが攻撃する番だと言って音楽を掛けた。その曲はアーデらに移送されている真里菜が知っている曲であり、それを耳にした瀕死の彼女は曲名を口にする。

 

「美雲・ギンヌメールの、いけないボーダーライン…」

 

「何を言っている!? 意識を保て! もう少しだぞ!!」

 

 曲名を口にする真里菜に対し、前衛を担当するアーデは必死に意識を保つように叫んだ。

 VF-31Jに乗るマリはその凄まじい弾幕を躱し切り、機体をバトロイド形態に変形させ、一気に手近に居るドールのチームに襲い掛かる。自分らを一瞬のうちに撃破戦とするマリに気付いたダリル、ケイン、シェナードは隊長のドリスを逃がそうとしたが、逃がす前に三名は一瞬のうちで撃破される。

 

「なっ!?」

 

 ドリスが驚いて無反動砲を離し、接近戦用の腰のビームサーベルを抜いた頃には、もうマリのVF-31Jは迫っており、両手の対装甲ブレードで細切れにされていた。

 細切れにされたドリスのダークダガーLが爆発す前に、マリは機体をファイター形態に素早く変形させ、バスターダガーやランチャー装備のスローターダガーの弾幕を躱し切って流れるように砲撃戦仕様のダガーをミニガンポッドやウェポンコンテナのビームガンポッドで全滅させた。

 更に攻撃を躱しつつ、追撃を掛けるレイダーガンダムの編隊を目にも止まらぬ速さで接近し、一気に全滅させ、ジェットコア・ブースターの編隊を掃射したマイクロミサイルで撃破する。

 一瞬のうちに数十機もの友軍機を撃破したマリのVF-31Jに、ONIの襲撃チームや他の特殊部隊は戦慄を覚えるが、生存するために怯まずに攻撃を続けた。だが、躱されて撃破されるばかりだ。

 増援にやって来たベースジャンバーに乗ったジェガンD型の編隊然り、ジェットストライカー装備のウィンダムの編隊も然り、新手のダークダガーLやスローターダガーの部隊、何もかもが一回の攻撃をした程度で全滅させられる。

 

「な、なんだこいつは!? う、うわっ…」

 

 カラミティガンダムに乗るパイロットは恐怖し、手持ちの兵装全てを乱射するが、高速で接近してくるガウォーク形態のVF-31Jには当たらず、バトロイド形態となった敵機がウェポンコンテナより出した日本刀を胸部のスキュラの砲口に突き刺される。

 それが抜かれた頃には、カラミティガンダムは内部爆発を起こして爆散する。次の標的となったヴェルデバスターは、両手に持つランチャーの折り畳み式き銃剣(バヨネット)を展開して斬りかかるが、あっさりと躱されてランチャーを切り裂かれ、挙句に胴体にビームガンポッドを撃ち込まれてやられた。

 これでONIや他の特殊部隊の襲撃チームは全滅したかに見えたが、まだ残っており、核エンジンのおかげで無制限に使えるミラージュコロイドで潜んでいたNダガーN三機は、VF-31Jの背後より襲い掛かる。

 

「見え見え!」

 

『っ!?』

 

 拡声器を使ったマリの声に驚きつつも、実体剣で斬りかかる三機のNダガーNであったが、彼女は気付いており、二機を日本刀で一気に切り裂いた。オリジナルとは違ってフェイズシフト装甲が無い二機のNダガーNは胴体を真っ二つに斬り落とされて地面に転がる。

 残った一機はミラージュコロイドを解き、距離を取ってクナイとも言える対装甲擲弾を投げ付けたが、躱されてマリが投げ付けた日本刀を胴体に突き刺されて無力化された。

 

「これで、終わりかしら?」

 

 周囲やレーダーを見渡してこれでONIの襲撃チームは全滅したと認識したマリは、投げ付けた日本刀を回収し、機体をファイター形態に変形させて軌道エレベーターに戻った。

 こうして、ONIからの襲撃を生き延びたマリとマクギリス、ターニャ等は無事に連邦に潜入することに成功した。




次回より連邦編です。


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出撃せよ!

名前:ロバート・M・ハヤカワ
性別:男
年齢:38歳
階級:海軍少佐
所属:UNSC海軍 第三艦隊
搭乗艦:パリ級重フリゲート「ヌエ」
UNSC海軍に属する海軍将校。艦長になったのはコヴナント戦争後から。
名前はチーフのアーマーの原作と翻訳したハヤカワ文庫から。艦名はアーマーのデザインした会社より。

名前:ヴァージニア・ゼラズニイ
性別:女
年齢:27歳
階級:少尉
所属:UNSC スパルタンⅣ インフィニティ級スーパーキャリア「インフィニティ」
乗機:スーパーガンダム(強襲要使い捨てブースターとミサイルポット追加)
連邦宇宙軍から第三次スパルタンⅣ計画に参加し、適性検査と試験に合格してスパルタン・ゼラズニイとなった女性軍人。

名前:アバーテ・ノルベルト
性別:男
年齢:38歳
階級:海軍大佐
所属:UNSC海軍
搭乗艦:オータム級重巡洋艦 第3艦隊
第3艦隊所属のオータム級重巡洋艦の艦長。
キャラ提供はkinonoさん。

名前:トライド・エルク・クランツ
性別:男
年齢:23歳
階級:少尉
所属:UNSC海軍 トラファルガーⅡ級MS空母「トラファルガーⅡ」 第1連合打撃艦隊
乗機:スタークジェガン
UNSC海軍に属するMSパイロット。高機動MS中隊所属。
搭乗機は連邦軍ではガタ落ちであるが、アップデートでオリジナルより高性能となっており、スタークジェガンで編成された中隊に属している。
キャラ提供はわかものさん。

名前:リュータ・バーニングJr.
性別:男
年齢:21歳
階級:少尉
所属:UNSC海軍 ハルバート級駆逐艦「ソノ・カルマ」 第3艦隊
乗機:ジェガンD型
元エースパイロットの息子であり、士官学校を卒業して間もない新任少尉。腕は確かだが、父を超えることに拘るあまり、猪突猛進になりがちなのが玉に瑕。第1MS中隊所属。
HALO世界基準なので、親父はロングソード級戦闘機で五機のセラフ級戦闘機を撃墜したことになっている。
キャラ提供はオリーブドライブさん。

名前:タクト・アルバーン
性別:男
年齢:40
階級:准尉
所属:UNSC海軍 トラファルガーⅡ級MS空母「トラファルガーⅡ」 第1打撃艦隊
乗機:105ダガー(正式)ソード
特殊部隊養育機関出身、幼少から高栄養剤やら髙負荷ハーネスやらを使用され続けた果てに小学生時点で成長の停止したブロウクンボディの中年。実はスパルタンⅡ候補生であった。
UNSC海軍のMS空母特殊MS中隊所属。
外見のベースは小柄な体系が特徴的な俳優兼スタントマンのマーティン・クレバ。
リアル系重視と言う事で年齢を変更させていただいた。魚介さん、ごめんなさい。
キャラ提供は魚介(改)さん。

名前:レオーネ・パゴット
性別:男
年齢:45
階級:海軍准将
所属:UNSC海軍 第3艦隊 第64戦隊
搭乗艦:マラソン級重巡洋艦「ヴェネツィア」 第3艦隊
第64戦隊司令官、コヴナント戦争に船乗りとして幾度と艦隊戦を戦い抜いた歴戦の海軍将校。コヴナント戦争後に実績を認められ戦隊司令官となっている。イタリア系。
キャラ提供はスノーマンさん。

名前:マイル
性別:女
年齢:22
階級:三等兵曹
所属:UNSC海軍 トラファルガーⅡ級MS空母「トラファルガーⅡ」 第1打撃艦隊
乗機:メガライダー(ライトグレー)
メガライダーで編成されたキャリアー大隊所属の海軍の下士官。泣き虫の操縦手。
キャラ提供は黒子猫さん。

名前:ケンドル・チェースト
性別:男
年齢:22
階級:少尉
所属:スパルタンⅣ インフィニティ級スーパーキャリア「インフィニティ」
乗機:ソードカラミティ
薩摩弁風に喋るスパルタン。MSでも生身でも格闘戦が大好き。チェストにごわす。
キャラ提供は秋音色の空さん。


「各チーム、通信途絶!」

 

「ば、馬鹿な…!? 投入した全チームが全滅だと…!? あ、ありえん! 一個旅団相当の数だぞ!」

 

 マリやマクギリス、ターニャを襲撃したONIの作戦本部にて、投入した全チームの全滅の報を聞き、作戦指揮官は顔を青ざめさせる。

 作戦失敗責任と他の勢力より借りた特殊部隊の損失、預かった戦力も喪失しているので、彼の死は確実だ。

 

「どうします、撤収しますか?」

 

「お、俺はもうお終いだ…! クソっ、引っ張り出すのに使った異世界の連中は、ガンダムを手に入れたら何処かに行っちまうし…!」

 

 部下から撤収するのかという問いに対し、指揮官は死ぬしかないと嘆き始める。マリ等を引っ張り出すために、炎のバラ騎士団残党のガンダム奪取活動や陽動を敢えて見逃したが、結果は散々たる物だ。友軍にも多大な損害を出してしまった。

 そんな指揮官らが居る作戦本部に、連邦軍からの情報提供を受けて居場所を突き止めたターニャ等が突入してくる。

 初めに作戦本部を守るバーラリードッグ数機を一気に撃破し、次に警備兵全員を素早く無力化した。最後に作戦本部前の警備兵四名を殺害すれば、ターニャは突入して抵抗する者を全て殺害し、指揮官にHK416カービン銃の銃口を向ける。

 

「さぁ、ゲームオーバーだぞ。ド外道共」

 

「ま、まさかここまで嗅ぎ付けるとは…! しかもこんな幼女に…!」

 

「お前たちの中にも内通者が居てな、教えてくれたよ。さて、誰の差し金か、何処の軍閥の指示か教えてもらうぞ」

 

 作戦本部を制圧したターニャは、自分の姿を見て驚愕する指揮官に向け、何処の軍閥の指示かを問い詰める。

 だが、海軍の情報部であるONIの職員はそう簡単に口を割るわけではない。そればかりか自分らの軍閥を守るべく、ターニャ等と共に心中しようと自爆装置を起動させる。

 

「誰が教えるか! 失敗した俺は死んだも同然だ! だが、貴様らも道連れだ! 一緒に死ねぇ!!」

 

 自爆装置を起動させようとする指揮官に対し、ターニャは引き金を引いて指揮官を無力化しようとしたが、既に自爆装置のスイッチは押されており、もう止めようがなかった。

 

「クソっ、退避だ!」

 

 間に合わないので、ターニャ等は急いで作戦本部を脱出した。

 数秒後、作戦本部がある場所は爆発を起こし、僅かに残っていたONIセクション0の職員は自爆の炎に呑まれて消滅する。ターニャら特務魔導大隊を道連れにしての自爆であったが、当の特務魔導大隊には誰一人巻き込めずの犬死であった。

 

「帰投するぞ。我々には次がある」

 

 誰の差し金かを突き止めることに失敗したターニャ等は、本命である古代兵器奪取の為に軌道エレベーターに帰投した。

 

 

 

 惑星トーキョーでの都市部における戦闘は集結した。

 小学校を襲うをとしていた旧ザクやザクⅡなどが、UNSC陸軍のビームライフルの代わりに実弾式ライフルを装備したストライクダガーやグリズリー重戦車に制圧されたことを最後に、戦闘は終わったのだ。

 スピリット・オブ・ファイヤ所属のスパルタンⅡであるレッドチームや随伴の量産型ヒュッケバインMkーⅡに乗るODSTも救援に駆け付けたようだが、その戦闘は限定的であった。

 炎のバラ騎士団残党がガンダム奪取の為に投入された陽動部隊を制圧出来たとはいえ、マリの所為で友軍の被害は甚大であり、更にONIセクション0の無差別的な介入、おまけに友軍勢力も都市部の被害に構わず制圧作戦を展開した為、市街地の被害は特に甚大だ。

 軍属の戦死者や負傷者は判明しているが、巻き込まれた市民の死傷者の数も計り知れない。そのおかげか、怒りに燃える市民たちは連邦軍に対して抗議などを行っている。

 

「では、市街地の被害者に…」

 

「貴様! 何をやっているか!?」

 

「なんです? 私はただ市民たちに…」

 

 本部でスピリット・オブ・ファイヤに、戦闘に巻き込まれた市民への救援物資の搬入を指示するジェームズ・カーターに、連邦宇宙軍の将官が怒鳴りつけて来た。横暴な態度で怒鳴りつけて来る将官に対し、カーターは自分は軍人としてやるべきことをやっていると答えたが、当の相手には通じなかった。

 

「平和ボケどもを助けている場合か!? さっさっと自分の船に戻らんか!」

 

「そんなこと? 閣下、貴方は何を…」

 

 戦闘に巻き込まれ、被害によって苦しむ市民らの気持ちを蔑ろにする宇宙軍将官の言葉にカーターは抗議しようとしたが、将官に随伴する将兵らが銃口を向けていた。

 

「これは、一体…!?」

 

「救援活動は現地の連中に任せれば良い! カーター海軍大佐は予定通り海軍・宇宙軍連合艦隊の一員として早急に出撃せよ!」

 

「味方の軍人に銃口で脅すとは、異常ですぞ!?」

 

「この星の平和ボケどもの救援より、ガルダーゴンの攻略が優先なのだ! 亡霊のような貴様は我々の指示に従っていれば良い! 不服なようなら、軍法会議に掛ける!」

 

 いきなり帰ってきたカーターに、何も言い返す権利など無かった。

 

「分かりました。閣下の指示に従いましょう」

 

「それでよい。上層部はガルダーゴン攻略に全力を注いでいるのだ。我が軍には一隻でも多くの船が必要である。例え幽霊船でもあってもな」

 

「では、救援活動を任せましたよ」

 

 無理やり従わせた挙句、自分らのことを幽霊船呼ばわりする宇宙軍将官の横暴な態度に、老練なカーターは従うしか無かった。

 用意された移動用の車両にカーターが乗る中、窓から戦闘に巻き込まれて被害を被った市民らの抗議に、横暴な態度で対応するUNSC以外の軍の将兵の姿が見えた。

 

「俺の家内と子供が殺されたんだぞ! なんだその態度は!?」

 

「あぁ!? うるせぇぞ平和ボケども! 戦争だから仕方ねぇだろうが!」

 

「救援物資はいつ届くんだ!? あんたらそれでも軍人か!?」

 

「黙れ! これ以上の抗議は暴動と見なす! 貴様らは軍の指示に従えばいい!!」

 

 自分らなら申し訳ない気持ちで対処しただろうが、あの態度からするに、他の軍の将兵らの中にはこの星の出身者は居ないようだ。そればかりか将校はこれ以上の抗議は暴動と見なすと、市民たちを脅しつけている。内心ではいい気味だと思っているのだろう。

 

「やれやれ、巻き込まれた避難民らが反乱軍とならぬように祈ろう」

 

 窓から見えるUNSC陸軍や空軍以外の連邦軍将兵の抗議する市民らの対応を見たカーターは、ため息をつきつつ乗用車の車内に揺られながら両手を組んだ。

 

 

 

 ところ変わり、惑星ガルダーゴン攻略作戦の旗艦であるインフィニティ級スーパーキャリアー二番艦エタニティの艦内にある会議室にて、惑星トーキョーの大規模な戦闘について報告されたが、集まった数十人の元帥たちの一部を除いて全く気にも留めなかった。

 

「そんなことで報告したのか? たかが辺境の星での戦闘如きに」

 

「左様。米国に一世紀以上も寄生した国家の子孫共が幾ら死のうが、こちらに知ったことではない。そんな事よりガルダーゴンだ」

 

「そうだ、優先すべきはガルダーゴン攻略だ。ここを攻略するか潰させねば、太陽系は絶えずあのエイリアン共の枢軸国に悩まされることになる。一々報告せんで良い」

 

 三名のそれぞれの勢力の元帥は、報告してきた左官クラスの連絡将校に不満気な態度でそう返した。この中でスキンヘッドで白い髭が特徴な元帥は、他の三名の元帥の態度を見て眉をひそめる。

 

「地上軍の方々は、トーキョーの造船能力の価値を理解しておらぬようじゃのう」

 

「いま言えば、不味いですぞ。ピクシー元帥」

 

「おっと済まぬ。トーキョーの件は駐屯軍に任せるとして、我々海軍と宇宙軍は同盟軍の絶対防衛ラインをどう突破するかじゃ」

 

 違う勢力とはいえ、宇宙軍の元帥に言動を注意されたピクシー海軍元帥は、同盟軍の絶対防衛ラインをどう突破するか頭を悩ませる。これに特徴的な髪形の初老の男性である三輪防人が、スパルタンⅡ~Ⅳを有するUNSC海軍第1艦隊を前面に押し出すように提案する。

 

「そんな物、スパルタン等と言う化け物共を飼っているUNSC第1艦隊を前面に押し出すがよかろう。フォアランナーとか言う異星人の技術を使ったインフィニティもあるのだろう。その艦も前に出せ」

 

「貴様! 部外者が何も知らんで化け物呼ばわりするなど!!」

 

「コーディネイターと変わらん化け物共じゃないか」

 

「そちらのブーストデットマンやらエクステッドはどうなるのだ!? 貴様らも人のことは言えんだろ!」

 

「なんだと!?」

 

 いきなりコヴナント戦争の英雄とも言えるスパルタンを化け物呼ばわりする三輪に対し、UNSC海軍の元帥は激怒する。そこから罵り合いの口論に発展した。

 同じ人間で地球を拠点とする友軍同士とはいえ、互いを罵り合う軍のトップたちにピクシー元帥は呆れ果てる。更に彼を呆れさせたのは、この状況に関わらず居眠りしている一番若いエイミー・スナップ元帥の存在だ。

 

「老人や中年の口喧嘩でも目覚めぬとは。肝が据わっているのか興味が無いのか…どちらにせよ、全く早く本題に入らん物かなのう」

 

 罵倒し合う各勢力の軍トップらを見て、ピクシー元帥は早く本題に戻らぬものかと嘆いた。

 数十分ほどの罵り合いと口論の末、ようやくの所で会議が再開された。

 宇宙要塞を使った絶対防衛ラインをどのように突破するについての議題だが、これは核ミサイルによる突破で解決した。だが、核ミサイルを発射するについても、問題はある。同盟軍が艦隊に打撃を与えるためのコロニーレーザー一基とジェネシスと呼ばれる戦略兵器を展開していることだ。

 射程に入れば、チャージ完了後に即座にどちらかが進撃中の連邦艦隊へ向けて発射されるだろう。無視して進めば良いだろうが、それでは絶対防衛ラインの敵軍と戦略兵器による攻撃で被害が拡大し、やがて全滅寸前まで追い込まれる。

 それをどう対処すべきかは、スパルタンを有するインフィニティを旗艦とするUNSC海軍第1艦隊はコロニーレーザー撃破に向かう。ジェネシスも破壊する必要があるが、当然ながら同盟軍も防衛用に三個艦隊程を展開しているので、同じ海軍の第3艦隊と第1連合打撃艦隊の一個戦隊を支援に充て、二個艦隊で敵戦略兵器の排除を行う。

 この決定は直ぐに決まり、作戦開始の数時間前にUNSC海軍の第1艦隊と第3艦隊に命令が届く。その命令にインフィニティの艦長であるラスキーは、命令を出した海軍元帥に無茶では無いかと思った。

 

 

 

「この命令、少し無茶では?」

 

『だが、決定事項だ。君のインフィニティは、このような無茶な任務をこなしてきたではないか』

 

「あれは残党相手です。正規軍相手では…」

 

『君の気持ちは分かる。だが、やるしかないのだ。第3艦隊のヤシマ大将と共に当たってくれ』

 

「了解です」

 

 艦橋内でこの命令を受け取ったラスキーは無茶だと言うが、インフィニティの実績を知る海軍元帥はやれると言って彼を従わせた。この戦略兵器撃滅命令を実行すべく、ラスキーは受話器を取って艦内に指示を出す。

 

『全艦に通達。これより我がインフィニティは敵戦略兵器撃滅に向かう。今まで数々の無茶な任務をやって来たが、今回のは初めてだ。本当に済まないと思っている。だが、やるしかないんだ。頼んだぞ』

 

 このアナウンスにインフィニティの乗員らは不安を覚えたが、今の今まで無茶なことをやって来たので、いつもようにやろうと動き始めた。

 

「私のガンダムは?」

 

「準備完了です」

 

 灰色のミニョルアーマーを着込んだスパルタン、ヴァージニア・ゼラズニィことスパルタンゼラズニィは、自分のスーパーガンダムの整備が済んでいるかどうかを問う。

 これに整備兵は既に準備が完了していると答える。強襲用使い捨てブースターとミサイルおいっどが装備されたスーパーガンダムは、彼の言う通りいつでも出撃できる状態にされていた。スパルタンロック等を始めとするオシリスチームの機体の出撃準備も出来ている。

 

「なぁ、なんで俺以外は現行機なんだ?」

 

「出所が分からない機体には乗りたくないの」

 

 スパルタンⅣであるエドワード・パックが自分以外、ONIが用意したガンダムに乗らず、なんで現行機レベルの機体に乗るかと言う問いに、同じオシリスチームのオリンピア・ヴェイルは出所が分からないと答える。

 フルアーマーZZガンダムに乗るパック以外のロックはテスラ・ドライブ搭載型のエクスバイン、ホリィ・タナカはゲシュペンスト・タイプS、ヴェイルはI.W.S.Pパック装備のストライクEだ。高性能なガンダムとは言え、一人だけ制式化されていないガンダムに乗るパックは寂しい気持ちを覚える。

 

「まぁ良い、ロボットゲームの主人公にでもなるさ」

 

 一人だけ仲間外れにされた気分になっているパックは、ODSTに似た自分のミニョルアーマーのヘルメットを被ってから自分のガンダムであるフルアーマーZZの方へ向かった。

 

「各種システム異常なし。いつでも出撃可能でごわす」

 

 同じスパルタンⅣであるケンドル・チェーストは自分の機体であるソードカラミティガンダムのコクピットに乗り込み、機体の起動を始め、いつでも出撃可能だと伝えた。マジェスティックチームに属するガブリエル・ソーンも、自分のガンダムであるF91に飛び乗って機体を起動させた。スパルタンⅡのブルーチームも各々のガンダムに乗っている。

 各スパルタンⅡやⅢ、Ⅳを始めとしたチームの出撃準備が完了していく中、彼らを乗せたUNSCインフィニティは目標へと航行する。

 

 

 

『第3艦隊の各艦に通達、第1艦隊の左右に展開し、敵戦略兵器破壊の支援行動に入れ!』

 

 UNSC海軍第3艦隊旗艦である重巡洋艦「ヤマモト・イソロク」より出された展開命令を受け、パリ級重フリゲート艦「ヌエ」の艦橋内で、艦長であるロバート・M・ハヤカワは命令に応じて艦の舵を握る操舵手に命令を出す。

 

「僚艦に合わせて第1艦隊の右側に展開しろ! 艦載機も発進! 右からの敵迎撃機に対処させろ!」

 

「三時方向、ヨーソロー!」

 

「ブラウン中隊並びバーミリオン中隊、直ちに発艦せよ!」

 

 艦長のロバートの指示に、操舵手は僚艦の動きに合わせてインフィニティの右側に展開し始める。艦載機の出撃指示も出したので、ヌエの艦載機である二個中隊分のジェガンD型が次々と発艦していく。同じく右側に展開しているオータム級重巡洋艦「ベクター」も、艦載機を展開し始める。

 

「トーテンコップ大隊並びアントン中隊、直ちに発艦!」

 

 ベクターの艦長であるアバーテ・ノルベルトの指示で、PTである量産型ヒュッケバインMkーⅡで編成された大隊とブロードソード級戦闘機の中隊が発艦し始める。僚艦も機動兵器の機種が違うとはいえ、同等の数を展開する。

 人型兵器を搭載できるように改装されたマラソン級重巡洋艦「ヴェネツィア」でも、艦長であるレオーネ・バゴットの指示で搭載機の発艦作業が行われる。

 

「第64戦隊全艦も搭載機を展開せよ! 直ぐに敵のスクランブルやミサイルが来るぞ!!」

 

 艦隊隷下戦隊指揮官のレオーネの指示で、戦隊の改装型のマラソン級重巡洋艦より次々とアデルマークⅡが展開される。迎撃用ウェアであり、いつでも敵の迎撃ミサイルを艦隊から守れるようにしていた。

 インフィニティの左側面に展開するハルバート級駆逐艦を始めとした駆逐艦数隻で編成された戦隊からも、搭載機の展開が行われた。

 

『MSでも、親父のようにエースになれるのか?』

 

「そいつはやってみなきゃ分からないですぜ」

 

『よし、証明して見せろ!』

 

「リュータ・バーニングJr少尉、ジェガンD型、行きます!」

 

 ハンガー内で出撃しようとするリュータ・バーニングJrは、管制官よりエースパイロットである親父のようにやれるのかと言う問いに対し、やってみなくては分からないと答える。

 若きパイロットの返答に管制官は背中を押すような言葉を掛け、リュータはそれに応える形で搭乗機である両肩にミサイルポッドを装備したジェガンD型で出撃した。彼が属する中隊の長はもう既に出撃しており、リュータはそれに合流した。

 インフィニティと第3艦隊を支援すべく、UNSC海軍のトラファルガーⅡ級MS空母一隻に大型空母三隻、他ニ十隻以上で編成された第1連合打撃艦隊より一個戦隊が出動しようとしていた。

 

『おい、台座は必要か?』

 

「間違ってぶった切るかもな!」

 

『出来るもんならやってみやがれ!』

 

 トラファルガーⅡ級のハンガー内にて、先に出撃するウィンダムで編成された一パイロットより身長を馬鹿にするような発言を受けた小柄過ぎるスキンヘッドの中年男性は、背中に注意するように告げる。これに挑発する形で、無礼な発言をしたパイロットは所属部隊と共に出撃する。少し苛立ちながらもスキンヘッドの中年男性ことタクト・アルバーンはヘルメットを被り、整備兵の手を借りて自機であるソードストライカー装備の105ダガーに搭乗する。

 

「気にすんな、タクト。若い奴はあぁなのさ」

 

「腕の力を見せ付けるさ。ついでに奴も間違って斬るかもな」

 

 同じ年齢層の整備兵に宥められた小さなベテランであるタクトは、コクピットの座席に座りながら冗談を交えつつ、腕の違いを見せると言って機体のハッチを閉じた。

 

「中隊長殿、こちらはいつでも行けます!」

 

『よし、独立高機動MS中隊、出撃する!!』

 

「中隊に続くぞ! 舌噛むなよ!」

 

 スタークジェガンで編成されたMS中隊に属するトライド・エルク・クランツは、自分の僚機に出撃すると言って機体の両足をカタパルトに装着した。それから先に中隊長機が発艦すれば、自分らも続けてカタパルトを使って出撃して中隊長機に続く。

 

「MS三機とも搭乗を確認。マイル三等軍曹、行くわよ」

 

「はい。メガライダー11、発進します!」

 

 MSが乗れ、更にメガ粒子砲が発射可能なメガライダーの操縦室内にて、機長がジェガンD型三機が自分のメガライダーに乗ったことを確認すれば、操縦手であるマイルに指示を出す。それに応じ、マイルは操縦桿を引いてメガライダー11をトラファルガーⅡ級より発艦させた。

 タクトが乗る105ダガーと所属中隊は、ジェガンD型やヘビーガン、Gキャノン、ダガーL、アデルマークⅡと言った他の部隊と共にゲターと呼ばれる宇宙用サブ・フライトシステムに乗り、先行するインフィニティと第3艦隊の元へ急ぐ。トライドが属するスタークジェガンの中隊も同様にゲターに張り付き、前線へと急いだ。

 マイルが属するメガライダー大隊もその集団に加わり、UNSCインフィニティの支援に加わる。

 

 かくして、ガルダーゴンの前哨戦が始まろうとしていた。




今回は出撃のみ。次回より戦闘と言うか、前哨戦が始まります。

再度、募集を掛けてみようかと思います。参加してない読者の方々の為にね。


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ガルダーゴン前哨戦

名前:カイナン・トバルカイン
性別:男
年齢:19
階級:曹長
所属:同盟軍
乗機:RFゲルググ
名前があれであるが、同姓同名の人違い。
キャラ提供はリオンテイルさん

名前:ヨサク
性別:男
年齢:35
階級:曹長兼整備士
所属:ヘルガスト海軍
乗機:レリオン
整備兵だったが、戦力不足により投入される。
キャラ提供は団子狐さん

版権キャラ

ジェムソン・ロック
元ONI工作員のスパルタンⅣ。HALO5の主人公の一人である。
スパルタンⅣのチームの一つ、ファイアーチームオシリスのリーダー。
搭乗機はエクスバイン テスラ・ドライブ搭載型

エドワード・バック
オシリスに属する元ODSTのスパルタンⅣ。見た目が若いが、立派な四十のおっさん。コールドスリープの所為である。
様々な激戦を生き延びてきた男であり、頼れるナイスガイ。
搭乗機はフルアーマーZZガンダム FAZZのハイパー・メガ・キャノン二門装備

ホリィ・タナカ
オシリスに属するスパルタンⅣ。電子機器に詳しい。
故郷はコヴナント軍のガラス化攻撃で不毛の地となり、三年間も救援が来るまでその地で生き延びてきた。
搭乗機はゲシュペンスト・タイプS

オリンピア・ヴェイル
オシリスに属するスパルタンⅣ。言語学が高く、異星人の言語にも詳しい。特にサンヘイリの文学に詳しい。赤いアーマーが特徴。
他の隊員と比べると、実戦経験は乏しいが、訓練成績は極めて優秀である。
搭乗機はI.W.S.Pパック装備のストライクE


「前進しつつMACキャノン並びミサイル全門発射!」

 

 コロニーレーザーやジェネシス破壊の為に前進する超大型戦艦UNSCインフィニティのラスキー艦長のMACキャノンやミサイル発射命令を合図に、ガルダーゴンの前哨戦が始まった。

 巨大な戦艦より放たれた八門のCR-03シリーズ8MACキャノンと千百基のミサイルポッドによる掃射で、前面に展開していた同盟軍の防衛線をズタズタにした。それから僚艦や第3艦隊のMACキャノンが放たれ、更に敵防衛線の再編を混乱させる。

 

『敵防衛線、五十パーセント喪失! 左右より敵迎撃機多数接近中! ストライデント級重フリゲートを展開した方が良いのでは?』

 

「いや、それは第3艦隊が守ってくれる! フリゲート十隻はコロニーレーザー間近で展開だ! スパルタンチームもそこで展開する!」

 

『アイアイサー、キャプテン』

 

 艦載AIのローランドよりインフィニティ左右より来る無数の同盟軍機の対処にハンガー内に搭載している十隻のストライデント級重フリゲートを展開すべきと提案されたが、ラスキーはまだ早いと答える。

 無数の同盟軍機に対しては、インフィニティ左右側面に展開している第3艦隊が対処している。だが、全身が遅れるほど第3艦隊の被害が増すので、ラスキーは操舵手にもっと速度を速めるように指示する。

 

「操舵手、もっと速度を上げろ。コロニーレーザーかジェネシスがいつ発射されるか分からない」

 

『随伴する第3艦隊を引き離してしまう可能性がありますが?』

 

「孤立すれば、的にされますよ?」

 

「この船がどれほど頑丈か分かっているだろう? 随伴する艦隊には頑張ってついて来てもらおう」

 

「了解!」

 

 副官やローランドからの問いに、ラスキーはインフィニティには分厚い装甲とシールドが備わっているので大丈夫だと答え、更に前進速度を速めた。

 メインエンジンにはフォアランナーの技術を使っているので、人類製のエンジンを積んでいる随伴していた他の艦艇を簡単に引き離してしまう。巨艦にも関わらず、想像を超える速度でコロニーレーザーやジェネシスに迫るインフィニティに同盟軍の守備軍は対処しきれず、一気に防衛線を突破される。

 

『突破された! なんだあの戦艦は!?』

 

『うわぁぁぁ!? ぶつかる! あぁぁぁ!!』

 

『た、助けてくれぇぇぇ!!』

 

 恐ろしい速さで迫る巨艦のインフィニティに、ムサイ改級やムサカ級、ローラシア級、その他諸々の二百~三百級の艦艇は体当たりでバラバラにされるか、その余波で吹き飛ばされる。

 

「インフィニティ、敵防衛線を突破!」

 

「孤立しているぞ! 包囲される前に攻撃しろ!」

 

 敵防衛線を突破したインフィニティであるが、一隻だけで突破したために敵中に孤立した。凄まじい数の敵に包囲されては一溜りも無いので、パリ級重フリゲート「ヌエ」の艦長であるロバートは直ちに僚艦と共にインフィニティ救援に向かう。アバーテのオータム級重巡洋艦もその後に続き、インフィニティを撃沈戦と群がる敵機の掃討を行う。

 

「第64戦隊は敵艦隊に集中砲火! 当てんで良い! 牽制すれば良いのだ!」

 

 マラソン級重巡洋艦「ヴェネツィア」を中心とした第64戦隊を率いるレオーネは、ニ十隻以上の敵艦隊に向けて集中砲火を命じる。群がろうとする敵艦隊はこの集中砲火を受け、前衛の殆どを失って後退せざる負えなくなる。

 第1連合打撃艦隊より来たトライドのスタークジェガンとタクトの105ダガー、マイルのメガライダーを含めた戦隊が前線に到着し、敵迎撃部隊との交戦を開始する。

 

「よーし、まだ残っているな! スコアを稼がせてもらうぜ!」

 

 トライドは第1艦隊のインフィニティにスパルタンが居ると聞き、自分の分は残っていないと思っていたが、スパルタンの誰一人とも出撃していないので、これをチャンスと思って手近な敵機を攻撃して一機を撃破し、敵機と避け合いながらの撃ち合いを始める。

 ソードストライカー装備の105ダガーに乗るタクトは次々と来るコスモリオンやガーリオン、ギラ・ドーガ、RFザク、ジン、ドラドなどの量産アロンダイトと呼ばれるビーム剣で切り裂きながら、自分の外見を馬鹿にしたウィンダムを探す。

 

「畜生、あの野郎は何処だ? 同じ機体が多過ぎて見分けが付かん」

 

 左肩のビームブーメランを投げてATのファッティー数機を撃破しつつ、ザク・ウォーリアのビームを避け、パンツァーアイゼンでそのザクを怯ませ、一気に接近してアロンダイトで切り裂いた。次なる敵機に標的を定め、乱戦状態の中へと突っ込む。

 砲撃支援を行うメガライダーの方にも、セラフ級戦闘機が接近して二機ほどが撃墜され、撃墜された味方機を見たマイルは少しパニックに陥る。

 

『こちらメガライダー14! やられた! 操縦不能! 操縦…』

 

「きゃぁぁぁ!? 来る! 来るぅぅぅ!!」

 

「馬鹿! 落ち着きなさい! 回避行動!!」

 

 キャノピーから見える撃破される友軍機を見たマイルが叫ぶ中、機長は回避行動を取るように叫ぶ。これに合わせ、マイルは操縦桿を握って回避行動を取る。

 

「クソっ! 孤立した! 孤立した!」

 

 熱くなりすぎ、孤立したリュータは操縦桿を動かし、自分のジェガンD型に群がる敵機の攻撃を躱しながら両肩のミサイルを乱射する。一機のゲイツが撃破されたが、ダナジンに取り付かれる。ライフルを破壊されたリュータ機はビームサーベルを抜き、格闘戦を挑んでくるダナジンと死闘を繰り広げる。

 

「うわぁぁぁ!?」

 

 一機のセラフ級戦闘機を撃墜したブロードソード級戦闘機であったが、サンヘイリが乗るザクファントムに取り付かれ、シールドを貫くビームスピアを突き刺されて撃墜される。

 この間に大量の敵と対峙した第3艦隊の被害が増していくが、彼らの犠牲は無駄では無かった。敵中に孤立したかに見えたインフィニティは、虎の子である十隻の重フリゲート艦とスパルタン部隊を展開させる。

 

「トライデント級重フリゲート並びスパルタン全チーム展開!!」

 

 ラスキーの指示で専用ハンガーに係留されていたトライデント級重フリゲート艦十隻が展開され、ガンダムタイプや最新式PTに乗ったスパルタンの全チームがインフィニティより出撃する。

 巨大戦艦より十隻もの大型フリゲート艦が出たのを見て、RFゲルググに乗る細目で鼻が大きいカイナン・トバイルカンは驚きの声を上げる。

 

「せ、戦艦から十隻のフリゲートが!?」

 

 驚いているカイナンのRFゲルググに、出撃したスパルタン・ゼラズニィのスーパーガンダムがビームランチャーを放ち、彼のゲルググを真っ二つにして撃破する。それから使い捨てブースターをフルに吹かし、周辺に同じ使い捨てのミサイルポッドを乱射して更に数機の同盟軍機を撃墜して敵艦に向かう。

 その間にスーパーガンダムの前に次々と敵機が立ちふさがるが、スパルタンとなったゼラズニィの前では無に等しく、ガフランやドラド、ジン、ギラ・ドーガは二射目のビームランチャーで纏めて撃破される。

 

「チェストでごわす!」

 

 スパルタンチェースとのソードカラミティはナスカ級高速巡洋艦の艦橋に、二振りのソードを叫びながら振り下ろし、更に船体を切り裂いて轟沈させる。

 敵艦を撃沈したチェースのソードカラミティに数機の敵機が迫るが、彼の敵では無く、次々と斬り捨てられて撃破されるばかりだ。近接戦を挑んできたベルガ・ダラスを切り裂き、次の敵機の索敵を行う。

 

『ファイアチーム・オシリス、出撃する!』

 

「さぁ、ロボットアニメの時間だぜ!」

 

 後から出撃したチームリーダーであるスパルタンロックが乗るエクスバインが出撃する中、チームメンバーであるフルアーマーZZガンダムに乗るバックは意気揚々とカタパルトを使ってハンガーより出撃する。

 他のスパルタンⅣや前身のⅡやⅢも含めるチームも続々と出撃し、十隻のフリゲート艦の出撃で混乱している同盟軍機の大群に更なる損害を与える。

 シエラ117ことマスターチーフが不在のブルーチームは新たに一人のスパルタンⅣを加え、宇宙戦仕様のヘビーアームズガンダムやガンダムレオパルドに乗って周辺の敵機を撃破し続ける。全員がスパルタンⅣのマジェスティックチームは高機動型のガンダムF91やガンダムエアマスターに乗り、高い機動力を駆使して敵機を次々と撃破している。

 

「出所の分からない機体より、純正は信用できるな」

 

 ガンダムに乗らず、正規品であるエクスバインに乗るロックは、性能と操縦性の高さでやはり正規品が良いと言って、敵の攻撃を避けつつ目に見える敵機をフォトンライフルで撃破し続ける。レリオンが近接戦闘を挑んできたが、ロックの操縦技量と性能で躱され、左手に持ったプラズマソードを胴体に突き刺されて撃破された。

 続けてロックは手近な敵機を右手のライフルで撃破し、引き続き掃討を続ける。

 

「このタイプならいけるわ」

 

 ゲシュペンスト・タイプSに乗るタナカは旧式ながらこの改装型なら出来ると口にしつつ、機体装備であるスピリットミサイルを周辺に掃射して数機の敵機を仕留めた後、ブラスターキャノンを使ってコスモリオンやセラフ級戦闘機の編隊を撃破し、プラズマカッターで背後から迫る敵を突き刺す。

 それから冷静に迫りくる敵機に対応しつつ、ロックのエクスバインと合流してインフィニティを狙う敵機の対処に当たる。

 

「やっぱり現行機が一番ね」

 

 統合ストライカーパックことI.W.S.Pを装備したストライクEに乗るオリンピアは、シールドガトリングや専用ビームライフルを使って向かってくる敵機を撃破し、上部の105ミリ単装砲二門や同じく二門搭載されている115ミリレールガンを敵艦に向けて一斉射して轟沈させる。

 そこから二振りの91ミリ対艦刀を抜き、左右から連携を取って近接戦を挑んでくるRFドム二機を同時に切り裂いて撃破した。

 

「名付けてトリプル・ハイパー・メガ・キャノンだ! 発射!!」

 

 フルアーマーZZガンダムに乗るバックは、機体の両手に持つハイパー・メガ・カノン二門と頭部のハイ・メガ・キャノンをコヴナント軍のCCS級戦艦に向けて発射した。三門の高出力メガ粒子砲による攻撃はシールドを持つCCS級も一溜りも無く、シールドを貫通されて巨大艦は真っ二つとなる。

 撃ち切った二門のハイパー・メガ・キャノンを破棄したバックのフルアーマーZZガンダムは腰の二連装ビームライフルを取り出し、敵機との交戦を再開する。

 スパルタンや展開された十隻の重フリゲート艦の活躍により、コロニーレーザーやジェネシスへの進路は確保された。一番障壁だったCCS級戦艦はバックの活躍によって撃沈されており、インフィニティを阻む艦はほぼいない。その進路をインフィニティは砲火を行いながら進み、コロニーレーザーに体当たりを掛ける。

 

「全速前進! このままコロニーレーザーを打ち破る!」

 

 このラスキーの指示に合わせ、インフィニティはコロニーレーザーに体当たりを掛けた。巨艦に体当たりされたコロニーレーザーは真っ二つに折れ、上下ともに別れた部分は爆発し始める。同じサイズの物体を体当たりで破壊したインフィニティであるが、シールドや対コヴナント用の装甲材のおかげで傷がつく程度だ。引き続きインフィニティはジェネシスの撃破に向かう。

 要の一つであるコロニーレーザーを撃破された同盟軍の守備軍は更に戦力を投入する。機動兵器に乗る者たちの中には、整備兵ですら居た。それがヨサクである。

 

「く、クソっ! 俺は整備兵なんだぞ!」

 

『文句を言うな! 撃ち殺されたいのか!?』

 

 ヘルガストのガスマスクを被ったヨサクは文句を言うが、将校の脅しで余っているレリオンで渋々と出撃する他なかった。他のレリオンに乗る者たちも同様である。

 インフィニティに挑むそんな正規のパイロットでない者たちが乗るレリオンの集団に、ガンダムAEG3ノーマルに乗るスパルタンチームの指揮官で、スパルタンⅣでもあるサラ・パーマー中佐が襲い掛かる。

 

「手が空いているチームは私に合流して!」

 

『了解!』

 

『オシリスチーム、合流する!』

 

 一機のレリオンを撃墜したサラが部隊召集を命じれば、空いているチームは彼女のAEG3に合流する。その中にはロック率いるオシリスチームも含まれていた。

 編隊を組んで襲い掛かるスパルタンのPTやガンダム集団に、レリオンに乗るヘルガスト海軍のパイロットたちは恐怖して逃げ出しそうになるが、将校が乗るレリオンの威嚇射撃で統制を取り戻す。

 

『怯むな! ガンダムが何だ! 伝説のマシンだぞ!!』

 

「畜生が!!」

 

 将校の声で統制を保ったヨサクはヤケクソ気味の攻撃を行ったが、攻撃したのはサラのAEG3であり、あっさりと避けられてドッズキャノンを撃ち込まれて撃破される。

 

「おっさん!? ごわっ!?」

 

 彼を知る若いパイロットが撃墜されたのを知って叫んだが、そのパイロットもサラのAEG3の攻撃を受けて後を追った。もはやインフィニティを阻む障壁は無いに等しい。

 スパルタンが駆る高性能PTや旧式とはいえ、かなりの性能を誇るガンダムの前には対峙する同盟軍機は撃墜されるばかりであり、虐殺に等しかった。戦意を喪失して脱走する将兵も増えており、簡単にジェネシスへの道を明け渡してしまう。

 当のジェネシスは照準を連邦艦隊では無く、迫りくるインフィニティに変えようとしていたが、既に間に合わないくらいにまで接近を許していた。

 

「ジェネシス、捕捉!」

 

『あの電磁パルス砲は約三十パーセントの出力でも、インフィニティを撃沈できる程の火力を有しております。直ちに破壊を!』

 

「よし、全艦MACキャノン一斉射撃! 長射程火器を持つ機に乗るスパルタンチームもこれに加われ! こちらに照準される前に破壊しろ!!」

 

 砲術長からジェネシスをインフィニティの下方の射程に捉えたとの報告が来れば、艦載AIであるローランドはジェネシスの三十パーセントの発射でも、インフィニティを十分に撃沈できることを警告する。

 これにラスキーは展開した十隻のフリゲート艦や長距離射程火器を持つ機に乗るスパルタンチームに一斉射撃を命じた。それに合わせ、長距離火器を持つ機に乗るスパルタンや重フリゲート艦はMACキャノンをジェネシスに向けて発射する。インフィニティの全搭載火器もだ。

 この集中砲火に照準合わせの途中だったジェネシスは諸に受け、コヴナント仕込みのシールドやフェイズシフト装甲は耐え切れず、宇宙の藻屑となった。射線上に居た同盟軍艦隊も同様の運命であり、コヴナント海軍のコルベット艦やCCS級、超大型空母もやられた。

 

「ジェネシス破壊を確認!」

 

「敵艦隊、ガルダーゴンに撤退中!」

 

「終わったな…」

 

 ジェネシス破壊と残った同盟軍艦隊がガルダーゴンへの撤退の報を受け、ラスキーは一息つく。

 UNSC海軍の第1、第3の連合艦隊と第1連合打撃艦隊の一部によるコロニーレーザー並びジェネシス破壊作戦は成功した。インフィニティやスパルタンチームを中心とした第1艦隊の大胆な突撃は功を奏したが、援護に回った第3艦隊と第1連合打撃艦隊の一部の損害は決して無視できぬ物であった。

 インフィニティの援護に回った第3艦隊は戦力の四十パーセント程を失っており、後退しての再編の必要性があり、第1連合打撃艦隊の一部隊は半数程度の気を失っている。だが、既に本隊による本格的な艦隊戦が始まっており、インフィニティに艦隊本部は本隊への合流を命じる。

 

『艦隊本部より入電です。直ちに本艦隊へと合流するようにと』

 

「第3艦隊は再編が必要なんだぞ。だが、無視はできないな。スパルタンチームを収容次第、直ちに本隊へ合流する! 各チーム並び各僚艦に連絡!」

 

「はっ!」

 

 ローランドより艦隊本部の命令を受けたラスキーは頭を抱えつつ、その無茶な命令を受け、スパルタンチームの収容を命じた。副官や通信手は命令に応じ、隷下の部隊に指示を送る。

 

 こうして、ガルダーゴンの前哨戦は連邦軍の勝利に終わった。

 次はガルダーゴンの本戦である。連邦や同盟の双方にかなりの損害が出来る艦隊戦となるだろう…。




キャラ、募集してるよ~。

詳細は活動報告にどうぞ~。

ちょっとスパルタンやインフィニティが強過ぎたかな…?


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ガルダーゴン本戦1

名前:マルコ・コスタ
性別:男
年齢:28歳
階級:中尉
所属:UNSC海軍 フェニックス級コロニー船「スピリット・オブ・ファイヤ」防空隊
乗機:105ダガー(エールストライク)

名前:花田太郎
性別:男
年齢:28歳
階級:中尉
所属:地球連邦軍
乗機:ジャベリン

名前:ケラス・タゼ
性別:男
年齢:25
階級:曹長
所属:ISA海軍 第11機甲師団
乗機:ドートレス・ネオ
前線に突撃して突破口を開く突撃隊の一員。
キャラ提供は秋音色の空さん。


 ガルダーゴン本戦は、連邦軍の核ミサイル攻撃隊「ピースメーカー」による核ミサイル攻撃から始まった。

 ピースメーカーは核弾頭ミサイル装備のメビウスに核弾頭パックを装備したウィンダムで編成されている。その数は六個大隊分だ。射程に敵要塞を捕えれば、直ぐに核ミサイルを発射する。

 

『敵要塞、射程に捕捉! 安全装置解除! 各隊、標的に向けて発射!』

 

「そーら行けッ! 奴らを焼き尽くせッ!!」

 

 部隊長が発射命令を出せば、ウィンダムに乗るパイロットは狂気的な笑みを浮かべながら核ミサイル発射ボタンの安全装置を解除し、そのミサイルを標的に向けて放った。

 大型ミサイルパックに装填された二発の核ミサイルは発射され、標的に向けて飛んでいく。メビウスも腹に抱えた核ミサイルを放ち、離脱して母艦へと帰投していく。随伴しているプロトスタークジェガンも、背中の四発の核ミサイルを放ってから離脱した。

 当然ながら同盟軍は全力で供用とするが、ピースメーカー隊の過剰な護衛部隊に阻まれ、一発の核ミサイルも破壊できない。向かってくる無数の核ミサイルに、防衛線に展開している艦隊は必死で撃ち落とそうとするが、撃破しきれず、放たれた核ミサイルは次々と宇宙要塞に命中して毒を巻き散らす爆発を起こす。

 

『敵宇宙要塞撃破! 損害に構わずそこに突撃せよ! 突撃!!』

 

『デストロイ隊、突入せよ!』

 

 無数の核ミサイルを撃ち込まれた宇宙要塞は粉々となり、防衛線に穴が開いた。デストロイガンダムを中心とするMA部隊が突撃を開始する。

 デストロイガンダムはエクステンデッドと呼ばれる強化人間でしか運用できないMAであったが、統合連邦軍に制式採用されたモデルは通常のパイロット五名で運用できるようにされており、機長が砲手に穴を塞ごうとする同盟軍に向けて砲撃を命じる。

 

「前方に敵部隊、大隊規模!」

 

「全火器を用意て突破せよ!」

 

「はっ! アウフプラール・ドライツェーン発射!」

 

 同盟軍が開いた防衛線の穴を塞ぐ前に、連邦軍はそこへ殺到する。そこに同盟軍は即席の防衛線を展開するが、多数のデストロイガンダムの砲撃と損害に構わず向かってくる連邦軍の前には焼け石に水に等しく、宇宙要塞を主力とした第一防衛ラインは早くも陥落した。

 

『第一防衛ラインを突破されたぞ! 直ちに迎撃せよ! ここを通すな!!』

 

「き、機長! 敵の攻撃が激し過ぎてシュナイドシュッツが持ちません!」

 

「後退しろ! わぁぁぁ!!」

 

 第一防衛ラインを突破された同盟軍であったが、直ぐに第二防衛ラインに第一の戦力を集結させ、強固な防衛網を構築し、押し寄せる連邦軍を食い止める。高い防御力を誇るザムザザーのシールドもこの弾幕の前では無に等しく、集中砲火を受けて耐え切れずに撃破されるばかりだ。デストロイガンダムも同様である。

 連邦宇宙軍所属のパイロットである花田太郎は、乗機のジャベリンのコクピットの映像に映る同盟軍の弾幕を前にして怯み、僚機と共にビームシールドを張りながらその場に止まる。

 

「ひっ!? ひィィィ!」

 

『何をしている!? 止まるな! 前進だ! 前進しろ!!』

 

『む、無理だ! この十字砲火じゃ…』

 

 弾幕に怯んだ太郎が叫ぶ中、同型機に乗る大隊長は前進しろと告げるも、誰一人従わなかった。

 無理もない。この十字砲火を前に前進するなど自殺行為に等しい物だ。そこへ強行突破用の装備を施した量産型ヒュッケバインMkーⅡの部隊が突撃してくる。彼らの所属はISAであり、その後続にはドートレス・ネオの編隊が続いている。

 

『退け退け! 道を開けろ臆病者共!!』

 

「俺たちISA海軍第11機甲師団が一番乗りだ! 連邦の雑魚は退け!」

 

 先陣を切る大盾を持った量産型ビルドシュバインに乗る部隊長が連邦のパイロット等が乗るジャベリンを押し退けながら叫べば、後続のドートレス・ネオの一機に乗るケラス・ダゼは周囲のジャベリンに向けて中指を立てながら敵陣に突っ込む同じ師団のPTの後に続く。

 そんな彼らを圧し潰そうと両側面より凄まじい数の同盟軍機が襲い掛かるが、ISAのパイロットは連邦のパイロットより質が良く、敵機を排除しながら味方の前進を支援する。

 

『こちら第11機甲師団旗艦グデーリアン! 突破口を開く者なり! 我に続け! 繰り返す! 我に続け!!』

 

 ケラスが属する師団本部を兼ねた旗艦の巡洋艦は、他の友軍部隊に自分らに続くように無線連絡を行う。これに同盟軍の防衛線に阻まれていた連邦艦隊や機動兵器群は続こうとするが、敵の必死の防戦を前に屍を増やすばかりだ。先陣を切った第11機甲師団でさえ、徐々に前進速度が減りつつある。

 やがて装甲の厚い量産型ビルドシュバインが何機か落とされれば、前進は完全に止まった。これを機に、前に出る度に連邦軍機は撃墜されるばかりである。艦艇も前に出れば集中砲火を受け、護衛の艦載機諸とも撃破される。これ以上の前進は困難であった。

 

 

 

「クソっ、何故だ!? あの化け物共は早急にコロニーレーザーを破壊したと言うのに、なぜ我ら連邦艦隊は第二防衛ラインより先に前進できんのだ!?」

 

「デストロイガンダム隊は何をやっている!? あれだけの数を投入したと言うのに!」

 

 統合連邦艦隊旗艦であり、総司令官たちの座乗艦となっているインフィニティ級スーパーキャリア二番艦エタニティの司令室にて、同盟軍の決死の抵抗で前進できない連邦艦隊に三輪防人は苛立っていた。虎の子のデストロイガンダムを多数投入したが、それを用いても突破できないでいる。

 他の将官たちも同様で、もっと増援を送れと指示を出す。

 

「もっと数を出せ! 何としても突破するのだ!!」

 

『これ以上の予備戦力投入は、作戦に支障を来します!』

 

「何だと!? ではどうするのだ?!」

 

 これ以上の戦力投入は作戦に支障を来すと参謀が言えば、司令官らはどうするのかと怒鳴り散らす。これに参謀の一人が、増援部隊が来ることを伝える。

 

「ただいま、強襲揚陸艦スピリット・オブ・ファイヤを旗艦とした増援艦隊が到着します。これらの戦力を攻撃軍の増援として投入する予定です」

 

「ならばすぐに投入しろ! 予定までにガルダーゴンの衛星軌道宙域まで進出するのだ!」

 

 参謀がスピリット・オブ・ファイヤを旗艦とする増援の事を伝えれば、防人は直ぐに投入しろと怒鳴り散らした。これに応じ、左官クラスの将校は通信機で増援部隊に戦闘への参加を指示する。

 防人らが次々と来る戦況報告に苛立つ中、冷静に状況を分析しているピクシー元帥は同盟軍が総力を決してこの決戦に勝利し、ミリタリーバランスを狙っていると見抜く。

 

「連中も必死じゃのう。この戦いに勝利すれば、わしら連邦軍が防戦一方となると分かっておるのだろう。だから持てるだけの宇宙艦隊を投入しておる」

 

 同盟軍の投入した宇宙艦隊の数で、このガルダーゴンの戦いは同盟軍が勝利を賭けた総力戦であるとピクシー元帥は分析する。事実上、敵の防衛線は固く、連邦軍は突破できずに戦力をすり減らすばかりだ。何らかの打開策を見出さねば、いずれかは連邦軍は撤退せざる負えなくなる。

 その打開策とは、インフィニティを中心とするUNSC海軍第1艦隊だ。

 

「やはり、インフィニティとスパルタンが頼りでしょうか?」

 

「そうなるの。虎の子のデストロイガンダムをわんさか投入してこの様じゃ。あいつ等は認めんようじゃが、今は彼らだけが頼りじゃ。それに、行方知れずであったスピリット・オブ・ファイヤもな」

 

 不安気な副官からの問いに、打開策はインフィニティとスパルタンしか無いとピクシー元帥は答える。それにピクシーはスピリット・オブ・ファイヤも打開策の一つであると言う。彼らの戦歴で判断しているのだ。

 

「とにかく今は勝利のビジョンが見えん。さて、勝利の女神はどちらに微笑むのかのう」

 

 怒鳴り散らしている防人たちを見つつ、ピクシー元帥は頭の中で整理した情報で、連邦か同盟のどちらの勝利になるか分からないと口にした。

 

 

 

 一方、増援としてやってきたスピリット・オブ・ファイヤを中心とした増援部隊は、取り残されて再編中のUNSC海軍の第3艦隊と合流していた。

 コロニーレーザーとジェネシスの破壊作戦は第3艦隊に戦闘力に影響するほどの損害をもたらしており、航行不能となった艦艇は放棄され、残った乗員は救援に駆け付けた空の補給艦に移されている。

 戦闘不能となった艦艇は、動けない艦は放棄されるか、自力で航行できる艦艇は補給を終えた補給艦と共に連邦軍の勢力圏内へと戻っていく。大破や中破して修理が必要な艦も同様である。

 

「これほどの被害とはな。最前線はどうなっている事やら…」

 

 窓から見える友軍艦隊の被害ぶりを見て、ターニャは前線はさぞ酷いことになっているだろうと口にする。

 今の彼女の格好は、スパルタンⅡに近いミニョルアーマーを身に纏っており、中に幼女が入っているとは思えない姿だ。

 それもそのはず、今のターニャは連邦地上軍出身のスパルタンⅣとして部下たちともに連邦軍内に潜入している。エイミー・スナップと独自のコネクションを持つマクギリスの手により、本物同然の経歴を手にした彼女は任務遂行に向け、機動歩兵やODSTとなっている部下たちと共に待機室で地上戦に出撃するのを待っている。

 

「諸君、出航前に述べたことだが、我々はこれから未経験の激戦区へと赴くことになる。そればかりか術式も使えんぞ。死にたくなければ、下手な英雄的行動はするなよ? なに、歩兵訓練を思い出せばよい。諸君らも経験したであろう」

 

 窓から目を離したターニャは、緊張をほぐす為に銃火器や装備の点検を行うアーデルトラウトを始めとしたイヴ人の中隊と言うか機動歩兵分隊や、見慣れぬ銃の扱いになれようと練習している人間の中隊もとい三個分隊のODST隊員な部下たちに、これから未体験の激戦に投入されることを伝え、更には潜入しているために術式も使えないことも告げる。

 前世ではそれ以上の激戦区を駆け抜けて来たターニャことスパルタンターニャであるが、レーザーやミサイル、ロボットが飛び交う激戦区など初めてだ。訓練は受けてはいるが、魔導士では無く歩兵として行くには彼女でも少々不安である。

 そんな不安な気持ちを隠しつつ、ターニャは緊張でもほぐそうと思って地を這う歩兵となった気分でいろと冗談を口にする。それに人間の部下の一人が笑みを浮かべれば、残りも続いて笑った。

 

「あの訓練はきつかったな。魔導士なのに」

 

「あぁ。魔術の訓練をするかと思ったが、まるで歩兵の訓練だったよ。今はODSTか?」

 

「別名ではヘル・ジャンパーって言うらしい。宇宙から惑星に降下するってよ。降下猟兵よりやばいぜ」

 

「思い出せば、俺たちもヤバい場所に言ってたな…クソっ、今回は死ぬかもしれねぇ」

 

 基礎訓練の事を思い出しつつ、自分たち魔導士はODST並に危険な場所へ言っていたと口にする。だが、イヴ人は笑っていない。歩兵科ではなく魔導科である彼女らは、術式なしで前線に行くなど信じられないのだ。

 

「あんな激戦区で歩兵なんて…」

 

「あの連邦の作戦は異常だ! 我々イヴ人は消耗品ではない…!」

 

「(ちっ、これが帝国再興を願う軍人か? だが、このような状態で出して戦死させたとなれば、上層部に処分されてしまう。尻を叩いてやるか)」

 

 ガルダーゴンの戦いは決戦と言って良い。激戦になるのは確実であり、敵軍も死に物狂いで抵抗してくる。その中で歩兵として赴くのは、もはや消耗品と同等だ。それを理解したアーデが口にすれば、一人のイヴ人の隊員が嘔吐し始める。

 彼女らの様子を見たターニャは士気が低下した状態でアーデらを戦闘に出して戦死すれば、上層部に処分されると恐れた。それを回避するべく、彼女らを鼓舞するためにターニャはそれでも神聖百合帝国の末裔なのかと問う。

 

「貴様たち、それでもかつて十三もの世界を支配した帝国の末裔か? それとも逃げ続けて腑抜けになったのか?」

 

「なんだと…!?」

 

 今のイヴ人は腰抜けと異端者であるターニャに言われたアーデは、馬鹿にされたと思って直ぐに彼女を睨み付ける。ターニャはアーデのプライドを傷付け、戦意を戻そうと言うのだ。

 

「術式も無かった時代、イヴ人は人間を最前線に送り込み、自分たちはのうのうと後方でのんびりと生殖行為に耽っていたか?」

 

「何を言う! 我々先祖たる帝国軍の将兵らは前線で勇猛果敢に戦い、神聖百合帝国を人間のどの帝国よりも最強の覇権国家であると証明した!」

 

「そうよ! 私たちはその祖先! 向こうで行われている激戦も戦っていたはず!」

 

「野蛮な人間に文化を与えたのは私たちイヴ人!」

 

 少し煽ってやれば、急に元気を出し始めたので、ターニャは彼女らが少し安易過ぎでは無いかと心配する。人間に奴隷にされていた時代があったと学校で習ったことがあったが、アーデらイヴ人たちの様子を見て嘘では無く事実だと確信した。

 それでもやる気は出してくれたので、今は良しとして自身も出撃に備えて銃や装備の点検を行った。先ほどより大声で喋っていたが、スピリット・オブ・ファイヤの乗員たちには聞こえていない。ターニャ等が居る区画はマクギリス等が占領しているのだ。元々の乗員らは全員締め出しているので、やりたい放題である。カーターからすればたまった物では無いが。

 次に待機室からカーターと連邦軍准将として振舞うマクギリスが居る艦橋内に視点を移せば、艦隊司令部より攻撃命令が下る。

 

「艦隊司令部のエイミー・スナップ元帥より入電! スピリット・オブ・ファイヤを旗艦とする混成艦隊は、再編後のUNSC海軍の第3艦隊並び連邦宇宙軍第十九艦隊、地球連合宇宙軍第十一艦隊、連邦宇宙海軍第6艦隊と共に敵陣に突撃せよ!」

 

「着いて早々に攻撃命令とは、若き司令官は無茶を言う。それにこの船は民間より徴用した物だ。純粋な戦闘艦ではないよ」

 

 通信士より攻撃命令を受けたカーターは、直ぐには無理だと答える。これにマクギリスはスピリット・オブ・ファイヤに搭載しているラー・カイラム級戦艦に攻撃隊を移し、出撃させると告げる。

 

「それもそうだな。では、私の部下たちを代わりに出撃させよう。カーター艦長、君は救援活動に専念したまえ」

 

「そうさせて頂きますよ、ファリド准将殿。この古い民間徴用船で艦隊戦など、無茶にも程がありますからな」

 

「沈んでもらっては困るからな。石動、ゲーブル大隊やシャーマン大隊と共にミルコネンに移り、攻撃隊に合流しろ」

 

「はっ!」

 

 マクギリスの指示にカーターは従った。次にマクギリスは隣に立つ連邦軍大佐の石動に指示を出す。この指示に従い、石動は返答してから艦橋内を出た。石動が退出した後、沈んでもらっては困ると言うマクギリスの言葉が気になったカーターは、なぜそんな発言をしたのかと若い准将に問う。

 

「先ほど、沈んでもらっては困ると准将殿は仰りましたが、所属が違う貴方がこの船を気に留めるので?」

 

「後で分かる事だ。今は救援活動に専念してはどうかな? ジェームズ・カーター艦長殿」

 

「もちろんそのつもりです」

 

 老練の艦長からの問いに、マクギリスは涼しい顔をしながら答えず、救援活動に専念しないのかと逆に問う。これにカーターは言い返すことも無く従い、救援活動に専念した。

 マクギリスの指示でラー・カイラム級戦艦「ミルコネン」に移動した石動は、受話器を取って別の所で待機しているヤザンやデカルトに集合命令を出す。

 

「ゲーブル少佐にシャーマン少佐、直ちにミルコネンに移れ。出撃するぞ」

 

 受話器で指示を出した後、石動はミルコネンへと続く連絡路に入って乗船した。その後からヤザンやデカルトも続く。

 

『マルコ・コスタ、第二防空小隊、発進します!』

 

 石動がミルコネンへと乗船すれば、スピリット・オブ・ファイヤの防空を務めるエールストライクパック装備の105ダガー一個小隊が出撃する。出撃したマルコ・コスタを小隊長とする105ダガーの小隊は、そのまま周囲警戒を務める。

 

 第3艦隊の再編中の周辺宙域には、同盟軍の残存兵力が残っているかもしれないのだ。まだ敵が残っているかもしれないので、警戒は必要である。

 再編中の第3艦隊では、戦闘可能な部隊は再編が終わり次第、順次前線へと戻っていた。パリ級重フリゲート艦の艦長であるハヤカワが属するダイアクロン戦闘群は、損害が軽微であったために直ぐに再編が終わり、艦載機を回収が終え次第に前線へと向かった。

 マラソン級重巡洋艦を中心としたレオーネの第64戦隊は六隻中一隻が損傷激しく戦線離脱を余儀なくされたが、戦闘は可能なので増援へと向かう。アバーテのオータム級重巡洋艦は小破であり、戦線には復帰せず、スピリット・オブ・ファイヤと共に救援活動に従事した。

 トライドやタクトを始めとする第1連合打撃艦隊の一戦隊は再編と補給の為に一度母艦へ戻る。メガライダー大隊のマイルはリュータのジェガンD型を彼の所属艦である駆逐艦「ソノ・カルマ」に送ってから母艦へと帰投する。

 

「戻ったか。撃墜されたと思ったぞ」

 

「えぇ、戻りました。俺が最後です?」

 

「あぁ、お前が最後だ。早く補給を済ませろ」

 

「了解」

 

 ソノ・カルマの甲板にリュータのジェガンD型が両足を着ければ、彼の上官は心配していたと告げる。これいリュータはコクピットのハッチを開け、同じくハッチを開けている上官に自分が最後だと問う。これに隊長は一度コクピットに戻り、自分の隊のメンバーの生存を確認してリュータが最後だと答える。

 これにリュータは敬礼してからコクピットに戻って、ソノ・カルマのハンガーへと戻っていった。それと同時に石動とヤザン、デカルトが乗るミルコネンがスピリット・オブ・ファイヤから出航し、増援艦隊と合流する。

 再編を終えた第3艦隊もこの増援艦隊に合流し、苛烈を極める最前線へと向かった。




戦闘が前だけだったな。

次回から激戦にする予定です。


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ガルダーゴン本戦2

名前:不明
性別:男
年齢:不明
階級:不明
所属:不明
乗機:準魔装機ギルドーラⅡ
概要:スパロボOGと魔装機神のラスボスの流れ弾に当たった哀れな奴。そのまま異世界転生した?
キャラ提供は黒子猫さん。

名前:オルソン大尉
性別:男性
年齢:30代
階級:大尉
所属:ヘルガスト軍
乗機:ガーリオン・ヘルガスト指揮官型
ヘルガスト軍パイロット。ヘルガスト軍やストームコヴナント、バグズやジオン残党やザフトといった同盟軍混成部隊を纏め上げる士官の一人。
キャラ提供はスノーマンさん。


 インフィニティとスパルタン、マクギリスの尖兵を乗せた戦艦「ミルコネン」、再編を終えたUNSC海軍の第3艦隊を加えた連合増援艦隊が向かう最前線は苛烈を極めていた。

 前進が困難を極めていた連邦侵攻軍であったが、大量の出血を強いられながらも徐々に前進している。対する同盟軍の防衛軍は疲弊しているのか、抵抗は弱まりつつあった。だが、連邦軍が打開策を見出さければ、戦力はすり減るばかりである。

 

「なんだこいつ等は!? 奴に対空火砲を集中しろ! 接近させるな!」

 

 三機編隊を取り、強大な火力を持って大量の同盟軍機と数隻の同盟軍艦艇を撃破しながら前進しているデストロイガンダムに、ゼダスMと呼ばれるヴェイガン製のMS数機が高度な連携を取って迫って来る。

 三個中隊は居た護衛のジャベリンやドートレス・ネオ、ウィンダム、アデルマークⅡが次々と撃破されているので、接近してくるゼダスMの編隊に恐怖したデストロイガンダムの機長は、弾幕を張って近付けるなと指示を出す。

 それに合わせ、三機のデストロイが両腕を分離させ、五本指のビームを浴びせるが、どのビームを避けられて一機の撃破も叶わず、弱点である懐まで接近される。

 

「て、敵機に取り付かれました!」

 

「ば、馬鹿な!? ニュータイプとでもいうのか!?」

 

 操縦手からの報告を受け、機長は驚きながら機体の爆発に呑まれた。

 一機のデストロイが撃破されれば、立て続けに残る二機のデストロイガンダムもゼダスMの大隊にあっさりと撃破される。三機の巨大MAを撃破したゼダスMの大隊は、続けてザムザザーや他の連邦軍機を容易く撃破していく。

 

「そんなデカ物は、(エックス)ラウンダーの敵じゃねぇんだよ!」

 

 ゼダスMに乗るパイロットは爆発するデストロイガンダムやザムザザーを見ながら、自分たちには敵わないと吐き捨てる。

 Xラウンダーとは、脳で通常では使われていない未知の部分である通称X領域と呼ばれる能力を使える人間のことを示す。宇宙世紀の感知能力の高いニュータイプと同じ物であるとされる。

 その能力の持つパイロットの前では、通常の人間が五人も乗るデストロイガンダムでさえ歯が立たず、先のように呆気なく撃破されてしまう。

 続けてデストロイガンダムを撃破するのはゼダスMの編隊だけではない、同じXラウンダーが乗るクィン・マンサも単独でデストロイ数機に挑み、火力では勝る彼らを圧倒する。

 

「僚機による一斉射、当たりません!」

 

「同じ大型MAなのに、なんで当たらんのだ!?」

 

 並のパイロットなら当たる攻撃を容易く避けて接近してくるクィン・マンサに、デストロイガンダムの操縦手らは恐怖する。

 

「木偶の坊どもめ、纏めて叩いてくれるぜ!」

 

 内蔵ビーム砲で邪魔な敵機を片付けつつ、Xラウンダーであるクィン・マンサのパイロットはファンネルを全基展開させ、一気に五機ものデストロイガンダムを撃破した。デストロイは強力な陽電子リフレクタービームシールドを備えているはずだが、全方位のオールレンジ攻撃であるファンネルの前では無意味だったようだ。続けてザムザザーもゼダスMの編隊に攻撃されたかのように次々と撃破されている。

 

『で、デストロイガンダムが一気に五機も…!?』

 

『ば、化け物だ…!』

 

『一時撤退し、再編する!』

 

『信号弾発射! 増援と合流して再編だ!』

 

 五機のデストロイが撃破された連邦軍の士気は低下し、これ以上の戦闘は士気を低下をさせるだけだと判断した指揮官は一時撤退を選択する。それに甘んじてか、他の連邦軍部隊や参加勢力の部隊は次々と戦闘を中止して撤退し始める。殿となったデストロイをビームサーベルで撃破したクィン・マンサも追撃せず、ゼダスMの編隊と共に補給へと戻る。

 

「退いたか。だが、次もこのクィン・マンサとXラウンダー隊の前では、同じことよ!」

 

 一時撤退する連邦軍に向け、クィン・マンサのパイロットは自分とXラウンダー隊には敵わないと吐き捨てた。

 

 

 

「あれが連邦軍の補給線か」

 

 第3艦隊の戦線離脱艦や航行不能となった艦の救援活動と、一時撤退して来た連邦軍の攻撃部隊に補給作業を行うスピリット・オブ・ファイヤや補給船団を暗礁宙域より同盟軍の攻撃部隊が捕捉した。

 カーター等後方支援部隊を捕捉したのは、ヘルガスト海軍のパイロット、オルソン大尉が率いる同盟軍の混成部隊だ。この部隊は同盟軍の所属勢力の者たちで編成されており、機体はガーリオンのカスタムタイプで統一されていたが、パイロットの方は先に述べた通りにバラバラである。その為に連携や練度は低い。おまけに壊滅した部隊の生き残りで編成された部隊だ。敗残兵の集まりと言っても良い。

 

「よし、第99遊撃艦隊も配置が終わった。攻撃するぞ! 俺に続け!!」

 

 友軍の配置が終わったのを確認すれば、補給線を叩き、敵軍を撤退させるためにオルソン大尉の臨時編成の混成部隊は連邦軍の補給部隊に攻撃を開始した。攻撃してくる同盟軍に対し、何の警戒もしていない連邦軍では無い。攻撃を見越して迎撃隊を配置しており、補給線を攻撃してくる同盟軍の遊撃隊やオルソン隊と交戦を始める。

 

「同盟軍の攻撃です! 現在、第一迎撃隊と交戦中!」

 

「やはり来たか。本艦も第一戦闘配置! 何機か抜けて来るかもしれんぞ!」

 

 スピリット・オブ・ファイヤの艦橋内にて、レーダー手から同盟軍の攻撃の報告にカーターは的確に指示を出す。これにマクギリスは、まだ艦内に残っているマリに出撃できるかと通信機を使って問う。

 

「ヴァセレート中佐、出撃できるか?」

 

 このマクギリスからの通信機越しからの出撃できるかどうかの問いに、自室で寝ていたマリは目を覚まし、出撃までに時間が掛かると答える。

 

『出来るけど、時間掛かる』

 

「なるべく急いでくれ。敵襲だ」

 

 出撃できると彼女の答えが返ってくれば、マクギリスは配下の隊に次なる指示を出す。母艦を守るために、スピリット・オブ・ファイヤの乗員たちはそれぞれの役割を果たそうと必死に動いていた。マルコが属する105ダガーで編成された防空隊も、迎撃隊の防衛ラインを抜けて来た同盟軍機の迎撃に入る。

 

『敵機が突破したぞ! 直ちに迎撃しろ!』

 

「たくっ、何やってんだ迎撃隊は!?」

 

 防衛ラインを張るサラミス改の一隻が轟沈し、大爆発の中から複数の同盟軍機が姿を現したのを見て、防空隊の隊長が指示を出せば、マルコは突破を許した迎撃隊の不甲斐なさに文句を言いつつ迎撃行動に入る。

 スピリット・オブ・ファイヤの各僚艦より対空砲火が行われるが、艦載機の防衛ラインを突破した同盟軍機を余り止められなかった。それに機動兵器同士の乱戦状態となっているので、誤射を恐れて迂闊に撃てないでいる。

 その一方でスピリット・オブ・ファイヤでは、スパルタンのチームであるレッドチームを増援として出した為に、待機中であったODSTのPTのパイロット等も迎撃に駆り出されていた。

 連邦軍准将であるマクギリスより出撃を命じられたマリは呑気に更衣室へと向かい、そこで自分用のパイロットスーツに着替えてヘルメットを片手に待機室へと向かう。周囲が慌ただしく動き回る中、マリだけがこんなに呑気なのは、ようするにやる気が無いのである。

 待機室に着けば、長椅子に腰を下ろして出撃準備が出来るまで待とうとすれば、もう出撃準備が出来たのか、整備兵が慌ただしく待機室に入って来る。

 

「おい、ストライクとか言うガンダムに乗るパイロットは!?」

 

「ストライク? 私まだ?」

 

「まだって、中佐しかいないでしょうが! 速く機体に乗って!」

 

「着いたばっかなのに」

 

 整備兵に問われたマリは自分の出番はまだかと問い返せば、その整備兵は待機室にはお前しかいないと指摘して、速く機体に乗るように告げた。

 ついて早々に乗れと言われたマリは、不機嫌ながら待機室を出てハンガーへと向かう。マクギリスが彼女の為に用意させたストライクガンダムが、いつでも出撃できるように整備されていた。マリがハンガーへと入った瞬間に女性の整備兵に腕を掴まれ、機体まで強制連行される。

 

「ちょっと、痛い!」

 

「速く出撃してください! 時間が無いんです!」

 

 一気にコクピットまで連行されたマリは整備兵の腕を振り払い、コクピットに入り込んでからシートに座り、端末を取り出してストライクのOSを自分用に調整する。調整の最中にマリが乗るストライクの両足はカタパルトに乗せられ、背中のパックにはエールストライカーが勝手に接続される。彼女のサポートを行う為、艦載AIのイザベルが無線機で挨拶を行う。

 

『初めまして。スピリット・オブ・ファイヤの艦載AIイザベルです。カーター艦長の指示により、貴方をサポートするように言われました。どうぞよろしくお願いします』

 

 挨拶を躱すタンクトップで短髪な女性の姿をしたAIに、マリは返答することなく無表情なまま調整作業を続ける。自分はAI無しに出来るのに、着けたことに不満に思っているようだ。

 

『ご不満な様子でしょうが、これも艦長からの指示ですので』

 

「信用してない?」

 

『えぇ、いきなり乗って来て一画を占拠しましたので。乗員たちもあなた方を疑っております。何か話してもらえますか?』

 

「無い」

 

 黙ったままOSの調整を行うマリに、カーターも乗員らもいきなりやって来て艦の一区画を占拠したマクギリス等に不信感を示していることをイザベルは伝え、何か話してもらえないかと不機嫌な彼女に問うが、素っ気なく短い返答で済まされた。

 

『あぁ、何か手伝います?』

 

「いらない」

 

 これにイザベルは少し仲良くしようとOSの調整を手伝おうかと問うが、マリはいらないと答え、調整を済ませて端末を下げた。既に出撃は秒読み状態となっており、マリはシートベルトを着けて出撃に備える。

 

『進路オールグリーン! ウィッチ13、直ちに出撃せよ!』

 

「なに、そのコールサイン。ストライク、出撃する!」

 

 管制官より出撃せよとの命令に、マリは出されたコールサインに不満を漏らしながらも出撃した。強い衝撃が身体に掛かるが、バルキリーなどで慣れているので問題なかった。

 カタパルトを使ってスピリット・オブ・ファイヤより出撃し、マリのストライクの背中に装備されたエールストライカーのウィングは開き、灰色だったストライクはフェイズシフト装甲によってトリコロールカラーとなる。色鮮やかなMSを駆る彼女は、そのまま交戦宙域へと急行する。何機かの友軍機も、母艦より出撃して同じ目標へと向かっていることが分かる。

 スラスターを吹かせながら主戦場へと向かえば、同盟軍遊撃艦隊のギラ・ドーガ数機がマリのストライクを見るなり襲い掛かる。指揮官機がハンドサインで僚機に指示を出せば、僚機はそれに合わせてビームマシンガンを撃ちながら接近してくる。

 この数機の敵機による攻撃を避けつつ、ビームライフルで反撃するが、敵も馬鹿ではない。避けながらの反撃して来た。流石に防衛ラインを突破したことはあるが、相手はあのマリである。そのパイロットの運命は彼女と対峙した時点で決まっていた。

 ギラ・ドーガが一発のビームを避けたところで、マリは二発目のビームを敵が躱した方向に向けて撃ち込んで撃破する。未来予測射撃だ。一機の僚機の撃破されたところで、残り三機のギラ・ドーガが迫るが、二機目がエールストライクの高機動を生かした戦法であっけなく撃破される。

 

『あのガンダムはエースだぞ!』

 

『抑えろ! 奴が機動力なら、接近戦で仕留める!』

 

 瞬く間に僚機の二機が落とされたところで、マリが駆るストライクをエースだと認識すれば、指揮官機は接近戦を仕掛けると言って僚機に牽制を掛けるように指示を出す。

 これに応じ、僚機のギラ・ドーガはシールドのシュツルムファウストを撃ち込み、マリがそれをストライクのイーゲルシュテルンで迎撃して爆発を起こせば、僚機のギラ・ドーガはビームマシンガンによる牽制射撃を仕掛ける。その間に指揮官機のギラ・ドーガはストライクの背後から忍び寄ろうと近付く。

 

『だ、駄目だ! わぁぁぁ!!』

 

 マリを牽制し、動きを止めようとしていたギラ・ドーガであったが、二十秒も持たずに撃破される。

 僚機を全て撃破された指揮官機は既に背後に迫り、ビームトマホークで切り裂こうとしたが、マリは気付いていた。背後から切り掛かる角付きのギラ・ドーガに、マリはストライクのビームライフルを投げ付けて怯ませ、素早く抜いたエールストライクのビームサーベルで敵機の胴体を切り裂いた。

 

『うぅ!? ば、馬鹿な!?』

 

 爆発が起こる中、マリは巻き込まれぬように直ぐに離れてビームサーベルを戻し、投げ付けて宇宙を漂うビームライフルを回収してから友軍機と交戦している敵攻撃隊の方へと向かう。ヘルガスト海軍のオルソン大尉が率いる混成部隊は防衛ラインを突破しつつあり、マリのストライクと会敵できるほどに近付いていた。向かってきたマリのストライクに、オルソンは気付いて部下に攻撃を命じる。

 

「新手か! 誰か奴を倒せ! 三機で掛かるんだぞ!」

 

 出会い頭に遭遇したバクト二機を続けて撃破したマリのストライクに、オルソンの指示を受けた三機のガーリオンが迫る。向かってくる三機のガーリオンの攻撃を躱しつつ交戦する。

 ガーリオンの兵装は実弾のレールガンであり、フェイズシフト装甲なら防げるが、エネルギー消費が激しいので躱し続ける。混成部隊のパイロットとはいえ、ガーリオンを駆る同盟軍参加勢力の将兵らの動きは良かった。攻撃を躱し続け、的確にビームライフルによる反撃を行ってくるマリのストライクに、三機のガーリオンのパイロットはエースと認識した。

 

『奴はエースだ!』

 

『俺たちだけは、無理そうだ!』

 

『ミサイルを搭載した機体に援護させようぜ!』

 

 三名は遊撃艦隊の艦載機に援護させることにして、援護射撃を要請する。それに応じ、ミサイルパックを装備したジン数機が高機動を取って戦闘するマリのストライクに、無数のミサイルを放つ。

 自機に向かって飛んでくる無数のミサイルに気付いたマリは、それを頭部のイーゲルシュテルン二門の掃射で迎撃するが、多過ぎて迎撃しきれない。防げないミサイルに対し、マリは機体と追加装備の機動力で躱そうとすも、何発かは躱し切れなかった。そこでマリはストライクのシールドで躱し切れない分を防いだ。

 

「やったか!?」

 

 マリに挑んだ三機のガーリオンの内一人のパイロットが撃破したと誤認する中、爆風から彼女のストライクが姿を現し、ビームライフルを構えて茫然としている一機のガーリオンを撃墜した。

 

『はべっ!?』

 

『なんて頑丈な奴だ!』

 

 僚機を撃破されても、直ぐに応戦するガーリオン二機であったが、先の攻撃で本気になったマリを止められず、一機が落とされてコンマ程で最後のガーリオンが撃墜される。

 

『そんなバカなァァァ!?』

 

「さ、三機のガーリオンが一分も経たずに!? 化け物か!?」

 

 マリが手練れが乗る三機のガーリオンを撃破したのは僅か一分であった。手練れが乗る三機のガーリオンを一分足らずで撃破したマリに、邪魔なヘビーガンを撃墜していたオルソンは驚きの声を上げる。

 ここで撤退すれば、オルソンが率いる混成部隊は全滅せずに済むが、あろうことか彼はマリを仕留めなければ自軍に更なる損害を与える存在とし、無謀にも自身の隊の全戦力を持って彼女に挑んだ。

 

「あいつ一機で一個機動大隊以上の戦力だ! ヘルガーンの為にも放置するわけにはいかん! 全機、奴を包囲して撃墜しろ! 手の空いている部隊も救援を要請する!」

 

 その指示に応じ、オルソンの配下のガーリオン全機がマリのストライクに襲い掛かった。彼は手の空いた友軍部隊にも要請しており、RFグフ三機にグフイグナイテッド三機がそれに応じてオルソン隊と共にストライクに挑む。

 

『先と同様のガーリオンのカスタムタイプと、グフタイプのモビルスーツ六機が接近してきます!』

 

「また来る? 味方とか何してんの」

 

 ガーリオン三機を撃破し、後は友軍に任せてスピリット・オブ・ファイヤに帰投しようとしたマリであったが、イザベルの知らせでマリは向かってくるオルソン隊のガーリオン・カスタム数機と六機のグフタイプに向けてビームライフルを撃ち込む。だが、相手は凡人ではないので躱しながら接近してくる。

 オルソン隊のガーリオン・カスタムがマリのストライクに牽制射撃を行う中、それぞれ三機ずつのRFグフとグフイグナイテッドとはストライクを包囲する陣形を取り、右側縦にに展開したRFグフ三機が海ヘビを、左側縦に展開したグフイグナイテッドがスレイヤーウィップで一機のガンダムを拘束しようとする。

 

『あの収納式のウィップ攻撃は危険です!』

 

「縛り付け!? 嫌だっての!」

 

 六機のグフタイプによる拘束攻撃が危険とデータで知るイザベルが直ぐに知らせれば、拘束されることを嫌うマリは直ぐに下方に降下して拘束戦術を躱す。エースでも有効な拘束戦術を躱したマリに、六機のグフのパイロットは驚きの声を上げた。

 

『何っ!?』

 

『あの攻撃を躱しただと!?』

 

 マリは巧みな操縦技術でストライクを自分らの必殺の戦術を躱されたことに動揺する六機のグフに向け、ビームライフルをオーバーヒート寸前まで素早く撃ち込んだ。この素早い射撃に六機のグフは躱し切れず、六機中五機が撃破され、最後の一機は大破して戦闘不能となる。これにオルソンは更に驚愕したが、道連れにする覚悟でマリのストライクに特攻同然に仕掛けて来る。

 特攻同然のオルソン隊のガーリオン・カスタム集団に、マリは次なる敵として迎え撃つ。最初に挑んでくる四機のガーリオンを物の数秒で撃破したが、彼らは死を覚悟した囮であった。

 爆発の中からサンヘイリ(エリート)専用のガーリオン・カスタム三機が現れ、プラズマライフルのフルオートによる弾幕を浴びせて来る。流石のマリでも躱し切れず、シールドで防いでいた。

 

『これなら…!』

 

 そう思っていたエリートであったが、相手はあのマリだ。シールドで防ぎながら手近なガーリオン・エリートカスタムに接近し、盾による打撃を行い、至近距離によるビームライフルによる射撃を行う。

 

「なんで!?」

 

『どうやらあのガーリオンにはコヴナントの技術が使われています!』

 

「面倒くさい!」

 

 だが、サンヘイリが乗るガーリオン・カスタムはコヴナントの技術が使われている。シールドは標準装備だ。それをイザベルより知らされたマリは苛立つ。一発では撃破できないので、反撃される前に二発撃ち込んでようやく撃破する。残る二機は仲間の仇を討とうと、エナジーソードによる攻撃を仕掛ける。

 一機目の斬撃を躱して背中に蹴りを入れ込んで蹴り飛ばし、体勢を立て直す前にビームライフルを連発して撃破する。続く二機目の斬撃を横に躱し、シールドの下先端部をコクピット部分に突き刺して無力化させる。

 

『下からステルス機!』

 

 直ぐに引き抜いて次に備える最中、イザベルはステルス仕様で迫るガーリオン・カスタムの存在を知らせ、マリに対処させた。死角である真下より迫る透明のガーリオンにビームライフルを撃ち込んで撃破した。

 続けざまに来るガーリオンにマリは息を乱すが、オルソンは手を緩めず、僚機と共に自分のガーリオン・ヘルガストカスタムに施されたスタールアームズ社製の火器を撃ち込む。疲弊していたマリは躱せずに、ビームライフルをレーザーとホーミングミサイルによる攻撃で失った。

 戦闘力が低下したストライクにオルソンは間髪入れず、火器を撃ちながら接近する。この攻撃をマリは躱すかシールドで防ぎつつ、ビームサーベルを抜いて接近戦に備える中、友軍のマゼラン級戦艦とネルソン級戦艦が一斉射撃を彼女のストライクに向けて行った。これにイザベルは直ぐにマリに知らせる。

 

『味方からの艦砲射撃です!』

 

「はっ!?」

 

 味方の誤射か巻き添え射撃と思える物に、マリはシールドで防ぎ切った。一方で味方を巻き込む艦砲射撃でオルソンは自機以外の僚機を失う。オルソンも無事では無く、母艦へと帰れぬ損傷であった。

 

「スカラー・ヴェサリ皇帝、バンザーイ!!」

 

 マリを道連れにするつもりでヘルガストの皇帝であるスカラー・ヴェサリの名を叫びつつ特攻を仕掛けたオルソンであったが、近付く前にストライクが振るったビームサーベルで切り裂かれて無駄死にしてしまった。

 オルソンのガーリオン・カスタムを仕留めたところで、同盟軍の遊撃艦隊は損害を気にしてか、既に撤退行動に入っていた。かくして、後方でも発生したガルダーゴンの宙域戦は終了した。

 

 

 

「な、なんだここは!?」

 

 この世界の物ではない機動兵器が、ガルダーゴン近くの惑星に現れた。それに乗るパイロットはここが何処だか分からず、混乱している。彼が乗る機体の名はギラドーラⅡ。生前のヴィンデルが辿り着いた世界にある準魔装機と呼ばれる機動兵器の一種だ。

 何故そんな機体がヴィンデルの理想郷とも言えるこの世界に来たのだろうか? その答えは、環境を肌で感じるためにコクピットを開けて周囲を見渡す混乱する彼の口から語られた。

 

「確か、シュウ様の戦いに巻き込まれて…」

 

 こうなる前の状況を思い出す。彼は最終決戦で自分の主君の攻撃に巻き込まれ、この世界にやって来たのだ。正体は何者であれ、主君の攻撃に巻き込まれるなど運の悪い男である。

 だが、我々が彼の正体を知る前に、同じく偶然にも飛ばされてきた者によって分からぬままとなった。

 

「良い玩具だな。貰っていくぞ」

 

「なんだ貴様!? いきなり…」

 

 突如として自分の機体によじ登り、コクピットまで来た男が奪うと言ってきたので、反撃しようとした彼であったが、その暇も無く額にナイフを突き刺されて絶命した。

 彼を殺し、ギラドーラⅡを奪った金髪で碧眼の男はコクピットに座り込み、操縦マニュアルを探し始める。

 

 前の持ち主を殺して機体を奪った男の名はガイスト。どういうわけか、このヴィンデルの歪んだ理想郷の世界に来ている。どのようにして来たかは、次回に語るとしよう…。




次回からガンダムSEED劇場版発表記念として、ミゲルとハイネが参戦するかな?


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ガルダーゴン本戦3

名前:マイクリー中尉
性別:男
年齢:不明
階級:中尉
所属:ヘルガスト軍
乗機:ザクウォーリア
概要:ヘルガスト軍のパイロット。

名前:ユー
性別:男?
年齢:5歳?
階級:下級兵士
所属:惑星同盟軍 コヴナント軍正統派残党
乗機:コスモリオン
概要:グラントことアンゴイの少年兵。カーストの都合で乗り物類には乗れないはずだが、人手不足で乗れるようになった。
ただし、乗れるのは大量生産型の機動兵器ばかりであり、彼らアンゴイの生命が軽んじられていることは変わりない。

版権キャラ編

ミゲル・アイマン
SEEDの一話でキラにやられたジンに乗ってた人。黄昏の魔弾の異名を持つエースで、専用のジンがあったが、SEED開始前にMSVの青い人にぶっ壊された。
パーソナルカラーに肖ったハイネ専用のザクファントムに乗って参戦する。
搭乗機:ハイネ専用ザクファントム

ハイネ・ヴェステンフルス
ハイネさん。ガンダムで声が西川兄貴は、兄貴のスケジュールの都合上で死んでしまうが、このSSでは幻となったディスティニーガンダムに乗る。
搭乗機:ハイネ専用ディスティニーガンダム


 一時は戦闘が中止したガルダーゴン本戦であるが、連邦軍が再編を済ませ、補給を終えれば、直ぐに再開された。

 

「来たのか! 今度こそ全滅させてやるぜ!」

 

 二度目の大攻勢に出た連邦軍艦隊に対し、クィン・マンサやゼダスMに乗るXラウンダーたちは意気込んで迎え撃つ。

 先に述べた両機だけでなく、強化人間専用の量産型キュベレイやヤクト・ドーガ、MAのα(アルパ)・パジール、クシャトリヤなど増加しており、更に連邦軍艦隊に被害を与えようとしていた。

 だが、攻勢を再開した連邦軍艦隊にはUNSC海軍最強の艦であるインフィニティやスパルタン、マクギリスの尖兵たる石動、ヤザン、デカルト、その他諸々の増援を受けている。これと対峙するXラウンダーたちは、地獄を見る事となる。

 

「敵部隊接近中! MAも含まれております!」

 

「機体照合確認、クィン・マンサ、クシャトリヤ、量産タイプのキュベレイ、ヤクト・ドーガ、α・アジール、ゼダスM型です!」

 

「強化人間とXラウンダーの連合部隊か。厄介だな。私も出撃するか。艦長、頼んだぞ」

 

 ラー・カイラム級戦艦「ミルコネン」の艦橋内にて、レーダー手がXラウンダー部隊の接近を知らされる中、通信手は機体を照合し、データにある機体名を告げる。厄介な相手が来たことを知らされた石動は自分も出撃する他ないと判断して、艦の指揮を艦長に任せて出撃するために艦橋を離れた。

 石動が向かう前に、ヤザンは搭乗機であるZガンダムに乗り込み、甲板でワイヤーで固定されていた大隊規模のクランシェと共に出撃しようとしていた。

 

「ヤザン隊、発進する! 貴様ら、遅れるな!」

 

『はっ!』

 

 出撃すると管制官に告げ、ヤザンは配下のクランシェ隊に指示を出してからカタパルトを使って出撃する。勢いよくカタパルトで出撃したヤザンのZガンダムは、そのまま戦闘機形態に変形する。ガンダムAEGー2の量産型タイプであるクランシェは最初から戦闘機形態であり、ヤザンのZガンダムの背後から編隊を組んでついてくる。

 

「良いか、お前たちは俺のバックアップをすれば良い。下手に前に出れば、死ぬぞ」

 

 次に出撃するのはデカルトだ。彼はマクギリスより譲り受けたνガンダム・ダブルフィンファンネルで出撃する。出撃前にデカルトは随伴するジェガンJ型に乗る部下たちに向け、バックアップに徹するよう指示を出す。それから機体の両足にカタパルトを装着し、出撃すると管制官に告げる。

 

「デカルト・シャーマン、νガンダム・ダブルフィンファンネル。出撃する!」

 

 管制官に言った後、デカルトのνガンダムは出撃した。その後よりデカルト指揮下のジェガン隊がカタパルトなどを使って出撃していく。

 ヤザンやデカルトの出撃後、自分の機体であるウィングガンダムがあるハンガーへたどり着いた石動がそれに乗り込み、カタパルトまで機体を進めながら管制官に戦況を問う。

 

「先発隊は交戦を開始したか?」

 

『はっ、既に先発隊は敵迎撃隊と交戦開始。敵の強化人間部隊はこちらに接近しつつあります』

 

「ヤザンとデカルトを当たらせろ。私も援護する!」

 

『了解であります!』

 

 敵Xラウンダー部隊には、ヤザンとデカルトを当たらせろと指示を出した頃にはカタパルトに両足を装着した後であり、石動のウィングガンダムは出撃しようとしていた。

 

「石動・カミーチェ、ウィングガンダム出撃する!」

 

 管制官に出撃すると告げた後、石動のウィングガンダムは戦艦ミルコネンより出撃した。

 

 

 

 前線で戦闘が再開される中、ストライクに乗り、艦載AIであるイザベルのサポートを受けて同盟軍の遊撃艦隊を撃退したマリは、スピリット・オブ・ファイヤに帰投していた。

 ハンガーに着くなりイザベルの入ったメモリを引き抜き、コクピットから飛び出てパイロットスーツのまま艦橋を目指す。報告もせずに入って来るマリにカーターやマクギリスを除く艦橋内のクルー達が白い目で見る中、彼女はイザベルのメモリを元に入っていたとされる個所に差し込んだ。イザベルは艦長にただいまと言って、マリは最高のパイロットであると告げる。

 

『艦長、ただいま戻りました。不安でしたが、艦長の読み通りマリ・ヴァセレートは最高のパイロットです』

 

「おかえり、イザベル。済まなかったな。それとヴァセレート中佐。イザベルを無事に連れ戻してくれたことに感謝する。少し悪いが、君なら無事に帰還できると読んでいただがね」

 

 何処の者かも分からないマリに、イザベルを預けたのは彼女の腕を見込んでのことだ。これにカーターはイザベルに謝罪し、マリにも試したことを謝罪する。

 

「当然だよ、カーター艦長。装備と機体の機動力が更に高ければ、敵の遊撃部隊を短時間で殲滅できたことだろう」

 

 彼女の腕前を分かっているマクギリスは、帰って来るのは当然のことだとカーターに告げる。更には機体がストライクよりも高性能な機体であれば、敵遊撃艦隊を殲滅できたとも言う。余り買い被り過ぎだとカーターは言いたかったが、若い上司の顔を立てて言わなかった。しかし、AIであるイザベルは口にしてしまう。

 

『買い被り過ぎでは? 我が連邦軍にストライクを上回る機体は、当艦にはありませんが』

 

「それもそうだな。中佐には専用の機体が必要だよ。中佐だけのな」

 

「それよりも、味方に撃たれ掛けたんだけど。あれもあんたの読み通り?」

 

 マクギリスの買い被り過ぎていると言えば、彼は無頓着なイザベルに乗らず、マリ専用機が必要だと言い始める。

 そんな状況下の中で、マリは自分が味方に撃たれ掛けたことを告げ、それもカーターの読み通りなのかと問う。これには流石のカーターも、鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情を浮かべ、その後から頭を抱える。

 

「イザベル、なぜ言わなかったのだ?」

 

『聞かれませんでしたので。あぁ、事実ですよ。味方のマゼラン級とネルソン級戦艦の基本照準が私と中佐が乗るストライクでした。明らかに我々を狙った物です』

 

「呆れた、またAIが裏切ると思っているのか」

 

『あの状況で裏切ると想定するのは、いささか妄想が過ぎます』

 

 何故それを最初に言わなかったと問えば、イザベルは聞かれなかったと答えた。その後から後方支援の補給艦を護衛する連邦や連合の戦艦より狙われた詳細を語り、更にカーターの連邦軍に対する不信感を抱かせる。

 苦悩する老練な艦長の姿を見たマクギリスは、自分らの陣営にカーターを引き入れるチャンスであると捉える。敢えて何も言わず、カーターが友軍の艦艇、それもUNSC以外の艦艇を警戒するように指示する様子を見ていた。

 そんな最中、マリは出撃するので別の機体は無いのかと問う。

 

「出撃するけど、機体ある?」

 

「少し休んでいかないのかね? まぁ、前線は一機でも欲しているようだ。確か、搭乗者不明のPTがあったな。確か名前は…」

 

「ヴァイスリッターだ。本来は射撃専門だが、ソードを装備して近接戦闘能力を有している」

 

「それだ。それが余っていた。動かし方は分かるのかね?」

 

 空気を読まずに聞いてくるマリに呆れながらカーターは休まないのかと聞くが、前線が一機でも機動兵器を欲していると思い、出撃の許可を出した。

 PTがあると思い出し、機動兵器に慣れないカーターはそれがどんな名前か思い出せなかった。代わりにマクギリスが名前を言って、カーターに思い出させる。動かし方は分かるのかと問うカーターに、マリは何も答えずに艦橋を出ていく。

 

「大丈夫ですかね、彼女は?」

 

 休まずに次の出撃に向かうマリに、カーターはマクギリスに大丈夫なのかと問う。これにマクギリスは笑みを浮かべながら彼女は想像を超える存在であると答える。

 

「彼女は我々の想像を超える存在だ。この戦いは我が連邦軍の勝利に終わるだろう。アクシデントが起こらぬ限りな」

 

「はぁ…つまり彼女は女神だと?」

 

「そう捉えても構わない。私は女神では無く、悪魔だと思うがね」

 

 マリは想像を超える存在であり、勝利をもたらしてくれると言うマクギリスに、意味が分からないカーターは勝利の女神なのかと問うが、彼は女神では無く悪魔だと答えた。

 

「…理解した兼ねますな」

 

 マクギリスの考えを全く理解できないカーターはこれ以上何も言わず、職務に戻った。

 

 

 

『今度はかなりヤバそうだな!』

 

「あぁ、Xラウンダーと呼ばれる超人兵士集団もいるようだ」

 

 増援として前線に到着し、ロックを始めとするオシリスチームやスパルタンらはインフィニティより出撃して展開する。

 前方で展開される大激戦を見たフルアーマーΖΖガンダムに乗るバックが口にする中、元ONIの工作員である情報通のロックは、搭乗するエクスバインのコクピット内で直ぐに突撃した友軍艦隊と交戦しているのが、噂に聞いていたXラウンダー部隊であると見抜く。

 新手として現れたインフィニティより出て来るガンダムタイプやPT集団に、Xラウンダー部隊は通常の人間が乗る部隊よりも面白い敵だと判断して襲い掛かる。

 

『あれはガンダムタイプのMS!』

 

『先の連中よりは面白そうだ! 行くぜ!』

 

 ゼダスMに乗るXラウンダーたちは凡人だらけな相手に飽き飽きしており、スパルタンのような面白い敵と戦いたく、襲い掛かる。ファイアーチームオシリスやブルーチームの面々はXラウンダーのような者たちと戦った経験があった。

 

『こいつら、今までの奴らとは違うぞ!?』

 

『攻撃が躱される!?』

 

「フォアランナーを思い出せ! あいつ等と同じような物だ!」

 

 今までの敵と違うXラウンダーの動きに翻弄される中、ロックはフォアランナーの戦士たちとの戦闘経験を思い出せと言って柔軟に対応する。スパルタンとは言え、元は人間が乗るガンダムタイプやPTが自分らに対応してくることにXラウンダーたちは驚きの声を上げる。

 

『な、なんだこいつら!? 俺たちに対応してくるぞ!』

 

『奴らもXラウンダーか!? それとも連邦の強化人間か!?』

 

『畜生、出来るからって調子に乗るな!』

 

 対応してくるエクスバインに乗るロック、ゲシュペンストS型に乗るホリィ、統合ストライカーパック装備のストライクEに乗るオリンピア、フルアーマーZZガンダムに乗るロックのファイアーチームに、Xラウンダーたちは苛立ちを覚え、一機が鈍いであろうZZに突撃する。

 

「こういう奴は、背後から襲ってくるもんだ!」

 

 突っ込んでくるゼダスMにバックはワープして襲い掛かって来るフォアランナーの戦士を思い出し、ハイパービームサーベルを素早く抜いて前から仕掛けると見せ掛けるフェイントをかけ、背後へ回った敵機を切り裂く。大きなビームの刃で切り裂かれたゼダスMのパイロットは何が起きたか理解できず、爆発する機体と運命を共にした。

 

「馬鹿な!? ただの人間が俺の動きを…」

 

 元は降下軌道兵(ODST)、今はスパルタンⅣであるバックがXラウンダーが乗るゼダスMを撃破したことに、他のXラウンダーたちは戦慄を覚える。

 

『サクボが撃墜された!?』

 

『あいつ、人間が乗っているのか!?』

 

『畜生、人間風情が! ぶっ殺してやる!!』

 

 仲間を撃破されたことで激昂し、次々とゼダスMが変幻自在な機動を行いながら襲い掛かるが、それと同等な敵と交戦経験がある者たちは柔軟に対応していた。

 

『畜生! このガンダム擬きが!!』

 

「コツが掴めれば、対応しやすい」

 

 激高して両手のビームを高機動を取りながら乱射するゼダスMの攻撃を躱すロックはXラウンダーとの戦い方のコツを掴み、最低限の動きを取って攻撃を躱しつつ、プラズマライフルを敵機が向かう方向を予想して発射する。複雑な動きで照準を取らせまいとするゼダスMはそれを逆手に取られてしまい、避ける進路に放たれたプラズマ弾に自然に命中して撃破された。

 ホリィのゲシュペンストSに挑んだゼダスMも機動力を接近戦で封じられ、機体の必殺技であるゲシュペンスト・キックを胴体に入れ込まれた。エネルギーを込めた強力な蹴りであるため、そのまま真っ二つになって爆散する。

 ストライクEに乗るオリンピアは連携を取って向かってくるゼダスM三機に対して一斉射で散会させ、背後に回ろうとする一機をシールドのガトリングで撃ち落とした。接近戦を挑む二機目の斬撃を躱してから対艦刀で撃破し、残る一機をロックと同じように逃げる進路にビームライフルを撃ち込んで撃破した。

 

『や、奴らは何なんだ…!?』

 

『俺たちの動きを読むなんて!?』

 

 スパルタン・ロック率いるオシリスにXラウンダーたちが狼狽えたが、Xラウンダーたちを圧倒していたのは彼らだけではない。

 かつてはマスターチーフが属していたブルーチーム、スパルタンⅣのチームの一つであるマジェスティックチーム、インフィニティのスパルタン全チームを率いるスパルタンパーマーにXラウンダーたちが駆る機動兵器は次々と撃破されていた。

 

「チェストォォォ!!」

 

 スパルタン・チェーストが駆るソードカラミティは、浮足立っていた量産型キュベレイ一機を両腕のソードで切り裂いて撃破する。その背後よりスパルタン・ゼラズニイのスーパーガンダムが背後に着き、チェーストのソードカラミティを撃破しようと背後から迫るクシャトリヤをビーム・ランチャーで撃破した。

 他のスパルタンらが駆るガンダムタイプにヤクト・ドーガなどが撃破され、あれほど連邦軍本隊に再編を強いたXラウンダー部隊はインフィニティとスパルタンの登場によって圧倒されつつあったが、Xラウンダーが駆るクィン・マンサが居る戦区では、未だにそのクィン・マンサが脅威となっている。

 

「クソっ、なんだあの馬鹿でかい戦艦とガンダム共は!? クソっ、邪魔だ!」

 

 クィン・マンサに乗るXラウンダーは友軍機が次々と撃破されるのを見て怒りを覚え、邪魔な連邦軍艦艇や機動兵器をファンネルや胸部のメガ粒子砲で次々と撃破していく。そのMAと対峙している部隊の中に、インフィニティに随伴していたUNSC海軍の第3艦隊も含まれており、クィン・マンサの攻撃でアバーテのオータム級重巡洋艦が戦線離脱を余儀なくされる。

 

「左舷ダメージ拡大! 隔壁閉鎖!!」

 

「これ以上の戦闘不能です!」

 

「ぬぅ…! 離脱する! 僚艦に打電せよ!」

 

 艦長であるアバーテの指示でオータム級重巡洋艦が戦線を離脱していく中、猛威を振るうクィン・マンサに本隊と合流したドライドのスタークジェガンの中隊が迫る。

 

「このデカ物が! 食らえ!!」

 

 ドライドは中隊機と共にミサイル攻撃をクィン・マンサに放つが、展開されたファンネルで全て迎撃され、逆に中隊諸とも返り討ちにされる。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

 ファンネルによる攻撃を受けたドライドのスタークジェガンは爆発の直前に脱出ポッドが射出され、同じ第1連合打撃艦隊所属のダガーLに回収される。続けてミラージュコロイドを使い、背後よりクィン・マンサに接近したタクトの105ダガーであったが、相手はXラウンダーである。その殺気に気付いて大型ビームサーベルで彼が振るおうとしていたアロンダイトを切り裂いた。

 

「殺意で分かるんだよ!!」

 

『うわっ! なんで気付いた!?」

 

 気付かれたことに驚きを隠せないタクトであったが、逃げる間もなくファンネルによる全方攻撃を食らう。幸い、コクピットがある部分には命中しておらず、タクトは無事であった。

 三名を立て続けに戦闘不能に追い込んだクィン・マンサであるが、ここにヤザンのZガンダムとデカルトのνガンダム・ダブルフィンファンネルが迫る。

 

 

 

『こちら第18艦隊、損害多数! 誰か、誰か助け…』

 

「面白い奴が居るようだな」

 

『あぁ、この辺の雑魚共とは違う、俺と似たようなのがな』

 

 クィン・マンサにやられる味方の悲鳴が無線機より聞こえる中、ヤザンとデカルトはそのクィン・マンサのいる宙域へと急行する。そんな彼らに、ヘルガスト海軍のマイクリー中尉が乗るザクウォーリアと複数の僚機が襲い掛かる。

 

「ガンダムめ、叩き落してやる!」

 

 意気込んだ台詞を吐き、ヤザンとデカルトに挑むマイクリー中尉とその僚機たちであったが、ガンダムの元へはたどり着けず、随伴のクランシェの連携によるビーム攻撃で僚機諸とも撃破される。

 

「よーし、僕もガンダムをやっつけるぞぉーっ!」

 

 爆発が起こる中、ヤザンのZガンダムの下方よりコスモリオンの編隊が間髪入れずに襲い掛かる。そのコヴナント仕様のコスモリオンに乗るグラント(アンゴイ)であるユーは、意気揚々にヤザンのZにプラズマ弾の嵐を浴びせた。

 

「下からか! 雑魚共が! 舐めるな!!」

 

 気付いたヤザンは機体をMS形態に変形させ、ビームライフルを撃ち込んで次々と撃破する。余りにも多くの味方機が秒単位で撃破されるのを見て、ユーは戦意を喪失してパニックとなり、早々に離脱してしまう。

 

『ギャァァァ! 味方がやられたァァァ!!』

 

「フン、腰抜けが!」

 

 逃げるユーのコスモリオンを追撃せず、友軍艦隊を攻撃するα・パジールに接近する。近付いてくるZにα・パジールがメガ粒子砲やファンネルなどで迎撃を試みるが、ヤザンはニュータイプとも渡り合ったこともあり、その全てを避けられ、ビームライフルの先端より発せられたビームサーベルを首元に向けて投擲する。

 勢い良く投げられたビームライフルは首元に突き刺さり、α・パジールは爆散しながら落ちていく。

 

「出来ない奴が乗る強化人間専用のMAは、このヤザンとZの組み合わせには勝てんのだ!」

 

 敵機よりビームライフルを引き抜いたヤザンは、次なる敵機を落としながらクランシェ隊と共に前進を続けた。

 

「お前たちは出来るようだが、このデカルト・シャーマンの前では劣等種に毛が生えた程度なんだよ! フィンファンネル!!」

 

 Xラウンダーが乗る量産型キュベレイやヤクト・ドーガ、クシャトリヤ、ゼダスMに対し、イノベイターたるデカルトは自分の前では人間に毛が生えた程度と蔑み、ダブルフィンファンネルを展開して一気に全滅させる。

 たまに通常の兵士らが乗る機動兵器が殺到してくるが、バックアップのジェガンJ型の隊に阻まれ、標的を定めたデカルトのダブルフィンファンネルの餌食となる。無惨に爆散していく自分が劣等種と蔑む者たちが駆る機動兵器を見てデカルトはほくそ笑む中、次なる標的をクィン・マンサに定めた。

 

「あのデカ物が厄介だな。お前たち、邪魔の排除は頼んだぞ。俺はデカ物をやる」

 

『はっ!』

 

 随伴のジェガン隊に指示を出した後、全兵装を持って連邦軍の本隊を蹂躙するクィン・マンサに単独で挑んだ。

 ビームサーベルでドレイク級フリゲート三隻を続けて撃破したクィン・マンサのXラウンダーは、迫って来るデカルトのνガンダムに戦慄を覚え、近くのクラップ級巡洋艦をファンネルで撃沈させてから迎え撃つ。

 

「うぅ! なんだこの感覚は!? あ、あの大型のガンダムか! この不快な感覚は! 危険だ!!」

 

 デカルトの脳波を感じ取り、危険と判断してファンネルに排除させようと展開したが、排除に向かわせたファンネルはビームライフルや頭部バルカン砲で次々と迎撃される。

 

『ふぁ、ファンネルを撃ち落とすだと!?』

 

「見えるんだよ! お前の攻撃全てがな!」

 

 ファンネルを迎撃されたことに驚きを隠せないXラウンダーに対し、デカルトは自分にはすべて見えると言ってクィン・マンサの拡散式メガ粒子砲を避けながらダブルフィンファンネルを展開する。

 展開されたダブルフィンファンネルは一斉にクィン・マンサにビームを浴びせ、一気に大破させる。だが、クィン・マンサはまだ生きており、確認しに来たデカルトのνガンダムに大型ビームサーベルを振るう。

 

『死ねぇぇぇ!!』

 

「フン! この、死にぞこないがぁぁぁ!!』

 

 最後の斬撃を避けたデカルトは、νガンダムの背部にある大型ビームサーベルを抜いてクィン・マンサにとどめを刺した。頭部にあるコクピットに突き刺したため、乗っていたXラウンダーはビームの刃を受けて消滅した。

 これにより、連邦軍はXラウンダーの壁を突破できた。だが、壁はもう一枚あった。

 

『インフィニティとスパルタンがXラウンダーを突破したぞ!』

 

『一気にファーストダウンだ! 突っ込めぇぇぇ!!』

 

 Xラウンダー部隊がやられたことにより、同盟軍の防衛線は瓦解した。その隙を逃さずに勢いに乗った連邦軍が雪崩れ込み、一気に防衛線を突破する。

 ガルダーゴンまで目と鼻の先。そう思っていた連邦軍であったが、最後の壁が彼らの前に立ちはだかる。

 

「ナチュラル共が! Xラウンダーを突破したくらいで、生意気なんだよ!!」

 

 勢いによって雪崩れ込んだ先発のヘビーガンやGキャノンの混成部隊に、ブレイズウィザードを装着したオレンジ色のザクファントムが迫り、ビーム突撃砲を連発し、先発のヘビーガンとGキャノン部隊を攻撃する。空かさずに反撃する混成部隊だが、相手はエースが乗るザクファントムであり、一気に全滅させられる。

 

「MS隊全滅! こちらに来ます!」

 

「あ、あのザクは…!?」

 

 艦載機の全滅を聞き、サラミス改級巡洋艦の艦長は迫りくるオレンジ色のザクファントムに刻まれたエンブレムを見て思い出す。

 

「フン、雑魚共が!」

 

 そのザクファントムに乗るパイロットの名はミゲル・アイマン。黄昏の魔弾の異名を持つザフト軍のエースパイロットである。ミゲルが乗るザクファントムに取り付かれたサラミス改は対空弾幕を行うも、瞬く間に突破されてビームトマホークを艦橋に叩き込まれて撃沈された。

 

「Xラウンダーが居るから、俺らコンクルーダーズの出番が無いと思ってたが、まさか出番が回って来るなんてな…」

 

 ザフト側のガンダムタイプのMS、ディスティニーガンダムに乗るオレンジ色の神を持つ青年は、自分が率いる隊の出番が回って来たことに驚きつつも、自分の責務を果たす為に単機で連邦艦隊に突っ込む。

 向かってくる自軍より更なる高性能のオレンジ色のガンダムに対し、決死の迎撃を行う連邦軍であるが、エース部隊を纏める隊長が駆るディスティニーの前に撃破されるばかりだ。

 十数機のジャベリンやドートレス・ネオ、ウィンダムにクランシェの混成部隊は瞬きする間に一気に撃破され、数隻はあった艦艇も同じように次々と轟沈する。多数の艦艇と艦載機の迎撃を物ともせず、それを躱しながら次々と撃破して連邦軍の先発隊に多大な被害をもたらす。

 爆発の連鎖を背景に、連邦軍の前に立ちはだかったディスティニーガンダムに乗るパイロットの名はハイネ・ヴェステンフルス。彼もミゲルと同じようにエースパイロットであり、エース部隊「コンクルーダーズ」を率いる隊長でもある。

 

「褒めてやるよ、Xラウンダー隊を突破したことには。だがな、今度の壁は厚いぜ? そう簡単に突破できると思うなよ!」

 

 ガルダーゴンに雪崩れ込まんとする連邦軍に向けてハイネはそう宣言した後、オレンジ色のグフイグナイテッドやオレンジ色の左肩のザクウォーリア、ミゲルが駆るザクファントムと共に迎え撃つ。




ハイネェェェ!!

次回はマリマリがヴァイスリッターに乗って、俳優なCVのデカルトVS歌手がCVなハイネ&ミゲル戦です。


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ガルダーゴン本戦4

名前:スタースクリーム
性別:男
年齢:一億歳?
階級:新破壊大帝スタースクリーム
所属:スタースクリーム軍団リーダー
乗機と言うかF-15Cイーグル戦闘機にトランスフォームする。
概要:戦え! 超ロボット生命体トランスフォーマー、通称G1に登場するデストロン軍団のナンバー2。
G1を知る者たちならご存じの通りニューリーダー病を患ったDQNな元科学者。メガトロンが許しているのは、指示待ちだらけなデストロン兵士の中で積極的に動くからである。
ゴットカオスによって蘇ったヴィランの一人であり、圧倒的な戦闘力と持ち前の科学者としての知恵で自らの軍団を作り上げた。
ただし、その軍団はごろつき同然である。おまけにスタースクリームの性格の酷さもあって、脱走者も出ている。

グレムト・ゲール
大ガミラス帝国のおっさん。名前はリメイク版の「2199」より。
スタースクリーム軍団に属し、参謀を担当している。いずれか抜け出し、デスラーに合流する予定?

名前:クニスペル少佐
階級:少佐
所属:連邦軍 デストロイガンダム隊
乗機:デストロイガンダム
概要:元ネタはギネス記録の戦車撃破を誇るドイツ軍の戦車エースだが、名前と機長だけで関係はない。
キャラ提供はG-20さん。


 ガルダーゴンで最終防衛ラインに到達した連邦軍と、それを守るハイネ率いるコンクルーダーズを含める同盟軍との激しい攻防戦が開かれる中、付近にある惑星には、炎のバラ騎士団残党を率いるガンダ・ダイール・ドルゴン、それを支援するジャマイカン・ダニンガンの隊が集結していた。

 狙いはガルダーゴンに持ち込まれた帝国再建委員会が取り戻さんとしている神聖百合帝国軍が末期に開発したシークレットウェポンである。

 

 シークレットウェポン奪取に炎のバラ騎士団残党やイオク軍のジャマイカン隊だけでなく、同じく異界の勢力が参加していた。その名もスタースクリーム軍団である。軍団を率いるのは名前の通りにスタースクリーム。IS世界にルリ達を救援に来たスカイリンクスと同じトランスフォーマー(TF)だ。

 彼はスカイリンクスが属する陣営とは対となる悪の破壊集団デストロン軍団所属であったが、わけあってデストロンを離脱し、自らの軍団を作り上げ、新破壊大帝スタースクリームを名乗っている。

 率いる軍団は多種多彩で、同じTFのみならず人間や異星人、巨人まで含まれていた。そんな軍団を見たガンダやジャマイカンは眉をひそめる。

 スタースクリームが全長十メートル程であるため、会合は広場で行われていた。

 

「さて、これで全員揃ったわけだ」

 

「まさかこんなごろつきの集団と戦列を組まねばならんとはな」

 

「悔しいが貴様と同意見だよ、ジャマイカン殿」

 

 この奇妙な同盟のリーダーの如く振舞うスタースクリームの態度に、ガンダとジャマイカンは珍しく意見が一致する。当初TFを見た者たちは驚いたが、口調と態度で直ぐにごろつきと認定した。その彼は率いる軍団も、彼に劣らずごろつきの集まりである。

 

「おいおい、なんだその態度は? このスタースクリーム様がテメェら肉ケラ共にタレコミを入れなきゃ、気付きもしなかっただろ」

 

「それについては同意しよう。礼儀と言う物を知らんようだな」

 

「それもそうだ。貴様も含め、ごろつきが徒党を組んでいるしか見えん」

 

「けっ、偉そうにしやがって。それより作戦会議と行こうぜ。俺もあいつに一泡吹かせたいんでな」

 

 ごろつきの集団と見なす両者に対し、スタースクリームは自分が情報を提供しなければ、シークレットウェポンのことを知らず仕舞いだったと指摘する。

 その指摘に同意しつつも、ガンダとジャマイカンは態度を改めることは無かった、これ以上言ってもらちが明かないと判断したスタースクリームは会議に移るべきだと言った。自分が恨む相手に一泡吹かせるために。

 これに両者は同意し、会議に移る。

 

「貴公が一泡吹かせたい相手が誰だか知らんが、それについては同意だ。愚民共より、イヴ人の最終兵器を奪わなければ」

 

 ガンダがスタースクリームに同意すれば、ジャマイカンもそれに従う形で三名は作戦会議を始めた。この会議にスタースクリームは自身の軍団の参謀である青白い肌の異星人、ガミラス星人の参謀を参加させていた。

 会議は荒れるかと思われていたが、ジャマイカンの出した連邦軍がガルダーゴンに降下し防衛に当たる同盟軍との戦闘がある程度済んだところで介入し、混乱に乗じてシークレットウェポンを奪取すると言う形ですんなり進んだ。

 

「い、いや~、流石は大帝スタースクリーム様が同盟をお結びになったお方。漁夫の利を得ようとは」

 

 グレムト・ゲールと呼ばれるスタースクリーム軍団の参謀は腰を低くしながら媚び諂い、その作戦を立てたジャマイカンを褒め称える。

 そんな物はジャマイカンにとってなんの誉め言葉にもならない。強大な二つの敵を戦わせておいて、疲弊しきったところを叩くのは兵法の常識であるからだ。

 

「こんな作戦、士官学校の生徒でも思い付くことだ。貴公らは最初から強襲するつもりであったのか?」

 

「ちっ、この野郎…!」

 

「図星だったようだな。だが、戦力を無駄に消耗するのは避けられた。連邦が防衛線を突破することを祈ろう。では、会議は解散する。突入は戦局が終盤になった頃だ」

 

 見下したような態度で言うジャマイカンは、ガンダとスタースクリームの反応を見て、強襲するつもりであったと見抜いた。このジャマイカンの考え通り、両者はガルダーゴンの戦闘に介入し、強襲してシークレットウェポンを奪うつもりであった。

 見抜かれたことや見下すような態度に苛立つ両者であるが、ここで殺し合っては戦力を無駄に消耗するだけなので、敢えて耐える。

 同盟の中で一番の頭脳の持ち主と自負するジャマイカンは主導権を握ったつもりで会議を解散を宣言した。

 突入は戦局が終盤となったところでと言って、ジャマイカンは自分の隊がある方へと帰っていく。ガンダもそれまでに備えるべく、同じく自分の隊の方へと帰った。スタースクリームはジャマイカンの姿が無くなったところで、あることを口にする。

 

「あの肉ケラめ、覚えてろよ。ぶっ殺してやるからな」

 

 ジャマイカンの隊が居る方を睨みつけながら、スタースクリームは戦闘中に彼を謀殺すると口にした。

 

 

 

 視点をガルダーゴンの宙域戦に戻せば、ハイネ率いるコンクルーダーズに連邦軍艦隊は侵攻を止められていた。

 ハイネのディスティニーガンダム、ミゲルのザクファントム、コンクルーダーズのグフイグナイテッドやザクウォーリアの集団、十二機のドムトルーパーの前に、連邦軍は屍を晒し続けるばかりだ。前進するたびに機動兵器と艦艇が撃破されている。

 だが、ただ撃墜される連邦軍では無い。直ぐにデストロイガンダムにハイネのコンクルーダーズ撃破を命じる。

 

「前進中の艦隊より救援要請だ! ワレ、敵精鋭部隊の前に苦戦中! 付近のデストロイガンダムは直ちに急行されたし!」

 

 十数隻の同盟軍の艦艇を一気に沈めたデストロイガンダムに乗るクニスペル少佐は、コンクルーダーズを突破できない連邦軍艦隊からの救援要請を操縦手や砲撃手らに伝える。

 

「MS形態に変形し、急行する!」

 

「はっ!」

 

 伝えた後、クニスペルはMA形態のデストロイガンダムをMS形態に変形させるように命じる。指示に従い、操縦手はデストロイガンダムをMS形態に変形させ、向かってくる敵機や敵艦を沈めながら救援に向かう。

 十機ほどを撃破したところで、クニスペルのデストロイガンダムを攻撃していた同盟軍はこれ以上の損害は無駄と判断して後退を始める。最後の一機を追撃で撃破したクニスペルは自機の撃破数を確認し、撃破数が切りの良い数字であることを確認した。

 

「二五〇機か。通常機ならスーパーエースだな! よし、三〇〇機目に行くぞ!」

 

 自機の撃墜数が二五〇機と確認が取れれば、クニスペルはコンクルーダーズを撃破すべく、邪魔な同盟軍機や艦艇を沈めながら急行する。

 

「ナチュラル共の大型MAか! これ以上やらせるか!」

 

 友軍機を撃破し、友軍艦艇を撃沈しながら向かってくるクニスペルのデストロイに気付いたミゲルはジェガンJ型をビームトマホークで切り裂いて撃破した後、迎え撃つためにオレンジ肩のガナーウィザード装備のザクウォーリア数機と共に向かう。

 先に随伴させた数機のガナーザクウォーリアがオルトロス長距離ビーム砲を同時に発射したが、電磁リフレクターバリアに防がれた。

 これは注意をミゲルのブレイズザクファントムから逸らすための物であり、この間にミゲルのザクファントムがデストロイの弱点である接近戦を挑んで仕留める寸法であったが、歴戦の指揮官であるクニスペルは直ぐに砲撃してくるガナーザクウォーリアは囮であると見抜く。

 

「あれは囮だ! エースが乗る奴が接近してくるぞ! 弾幕を張って近付けるな!」

 

 即座にクニスペルが指示を出せば、乗員らはデストロイガンダムの全ての火器を使って接近戦を挑もうとするミゲルのザクファントムにミサイルやビーム攻撃を浴びせ、接近戦を断念させる。

 

「クソっ! なんて弾幕だ! 要塞かよ!」

 

 味方の援護射撃を以てしても接近できなかったミゲルは、二度目の接近戦を行うために下がろうとしたが、援護射撃を行うガナーザクウォーリア隊は既にクニスペルによって全滅させられていた。

 援護射撃が無くとも、自分一人でデストロイを仕留めようと決断したミゲルであったが、隊長であるハイネに止められる。

 

『こうなれば、俺一人で!』

 

「おい待てよ、この怪物は俺が仕留める。ミゲル、お前は他のフォローだ!」

 

『隊長! こんなナチュラルの木偶人形如き…!』

 

 無理に挑もうとするミゲルを止めたハイネであるが、当の彼は隊長の手を煩わせることが許せなかったようだ。そんな彼の頭を覚まさせるべく、ハイネは自分のディスティニーガンダムならクニスペルのデストロイは楽勝だと告げる。

 

「落ち着けっての。このディスティニーなら、あんな奴木偶人形だ」

 

『隊長…! 分かりました! 俺は他のフォローに回ります!』

 

「頼むぜ! さぁて、派手に決めますか!」

 

 無茶な行動を取ろうとするミゲルを下がらせたハイネは、クニスペルのデストロイガンダムに単身で挑む。向かってくるガンダムの存在に、クニスペルは震える乗員らを鼓舞して対応に当たらせる。

 

「が、ガンダム…!?」

 

「怯むな! たかが一機だ! ガンダムであろうが、このデストロイガンダムに敵うはずが無い! スーパースキュラ発射の後、奴に集中砲火だ!」

 

 そのクニスペルの指示に応じ、デストロイガンダムは胸部にある三門の高出力荷電粒子砲を発射する。通常のパイロットであれば当たるが、相手は高性能機を駆るスーパーエースである。ディスティニーガンダムの高い機動性を生かし、強力な荷電粒子砲を避け、更には両腕部誘導式シュトゥルムファウストのビーム弾幕ですら躱しながら接近してくる。これには歴戦のクニスペルですら恐怖を抱く。

 

「敵ガンダムタイプ! こちらの弾幕を突破しました!」

 

「ば、馬鹿な!? これほどの弾幕を躱し切り、接近してくるなんて!」

 

「ガンダムタイプ、当機に接近中!!」

 

「落とすんだ! 絶対に懐へ入らせるな! 護衛機を呼べ!!」

 

 恐怖を抱くクニスペルに、乗員は撃てる火器を撃ちながらディスティニーガンダムの接近を知らせる。これにクニスペルはデストロイガンダムの弱点である接近戦の弱さに付け込まれたと判断し、護衛機を呼ぶように告げる。

 

「並の奴やMSじゃ懐に入れないだろうがな、こいつと俺の組み合わせなら!」

 

 弾幕を張り、更には護衛機による弾幕を重ね、絶対に懐へ入らせないようにするクニスペルであったが、ハイネはディスティニーの機動性を限界点まで引き上げ、その弾幕をすり抜けながら自身の操縦技術と機体性能を駆使して護衛機を片付け、デストロイの懐へと潜り込んだ。

 

「楽勝だぜ!」

 

 懐に入ったところで背中のビームの長剣であるアロンダイトを引き抜き、素早く振り下ろしてクニスペルのデストロイガンダムを両断する。

 

「グワァァァ!!」

 

 ハイネのディスティニーガンダムに両断されたクニスペルは、四名の乗員諸共ビームの刃で切り裂かれ、機体と共に運命を共にした。

 

『隊長! 流石だぜ!』

 

「まっ、こいつを任されたからには、これくらい出来なきゃな」

 

 クニスペルのデストロイガンダムを撃破したハイネにミゲルは誉め言葉を贈るが、当のオレンジのディスティニーに乗る彼は、この機体を任されたのなら、これくらい出来て当然と答える。

 そんな彼に新たな挑戦者が現れる。ヴァイスリッターに乗るマリだ。オクスタンランチャーの射程にディスティニーガンダムが入るなり、直ぐに射撃を始める。

 

『隊長、新手だ!』

 

「直ぐに次のお客さんか。あの馬鹿でかい戦艦をやらなくちゃいけねぇのにな!」

 

 遠距離からの攻撃を避け、ミゲルの知らせにハイネは自分らの担当区とは違う宙域で前進するインフィニティを見て、マリのヴァイスリッターを早く片付けなくてはと焦りを見せる。

 

「速攻で、片付けてやるぜ!」

 

 次なる射撃を避けながら、ハイネはディスティニーガンダムを駆ってマリのヴァイスリッターに挑んだ。

 

 

 

 激戦が続く最中、前線に出て突破を図ろうとするインフィニティに、コンクルーダーズと交戦中の連邦軍艦隊より救援要請が入る。

 

「艦長、隣の区画を担当する友軍より救援要請です!」

 

『彼らと対峙する同盟軍部隊はかなりの強さです。余剰戦力を向かわせなければ、作戦に支障をきたす恐れがあります』

 

 インフィニティの艦橋内にて、通信手から救援要請が来たと知らされれば、艦載AIのローランドは救援を出さねば作戦に支障が出ると告げる。これに艦長のラスキーは余剰戦力となっている部隊を援軍として出すことを直ぐに決断する。

 

「よし、余っているランドチームとバーミリオンチームを援軍に回せ! 第3艦隊と第1打撃連合艦隊からは?」

 

『既に向かっている様子です。ここは我々と第5艦隊、第6連合艦隊だけで十分でしょう』

 

「ならば突破口を開くぞ! 遅れを取り戻すんだ!」

 

 余剰戦力を出した後、救援に応じたのは自分らだけなのかと問えば、ローランドは随伴する第3艦隊と第1打撃連合艦隊より増援が出たことを知らせる。それが分かれば、自分らは持ち場の制圧に集中した。

 インフィニティよりスパルタンⅣのチームの一つ、ランドチームに属するスパルタン・ゼラズニィとバーミリオンチームに属するスパルタン・チェーストがコンクルーダーズと対峙するマリや連邦軍艦隊の増援として急行する。他にも第3艦隊よりリュータが属するジェガンD型の中隊とマイルのメガライダー大隊が向かっている。ヤザンやデカルトの部隊も急行していた。

 新手に来る敵の増援に、進行する連邦軍部隊を食い止めていたミゲルらは直ぐに対応に当たる。

 

「敵の増援か! ぞろぞろと群れて来やがって!」

 

 ビーム突撃砲の再装填をしつつ、ブレイズザクファントムに乗るミゲルは展開して突撃してくる無数の連邦軍機に僚機と共に立ち向かった。

 

「こ、この動き! 本物のエースだ!?」

 

『サジ!? このナチュラルが! 落ちろぉぉぉ!!』

 

 ビームライフルを何発も撃ち込んでオレンジ肩のブレイズザクウォーリアを撃墜したリュータは、仲間を撃墜されて激昂するミゲルのザクファントムに強襲される。

 近付けまいと両肩のミサイルとシールドミサイルを同時に撃つが、ミゲルはそれを見えているように躱し、ビームを撃ちながら接近してくる。シールドで防ぎつつビームライフルで反撃するも、ミゲルのザクファントムには一発も当たらなかった。

 

『そんな腕で、この俺を討とうなんて!』

 

「畜生、当たらない! 速すぎる!?」

 

 当たらず、速すぎるミゲルのザクファントムに対処しきれず、リュータのジェガンD型は接近戦の為にライフルを投げ付け、素早くビームサーベルを抜いた。だが、ミゲルは直ぐに投げ付けられたライフルを取り払い、ビームトマホークで斬りかかる。

 同じく接近戦武器を持つリュータは突きを放つが、これにミゲルのザクファントムは突きを放った右腕を左手で掴み、胴体に向けてトマホークを振り落としてジェガンを無力化させる。奇跡的に撃墜には至らなかったらしく、脱出ポッドが射出される。

 

「や、やられた…!」

 

『ナチュラルが。このまま握り潰して…』

 

『馬鹿、止めろって! そう言うの、カッコ悪いぜ!』

 

 リュータは撃墜されたことを悟り、殺される恐怖を抱く中、ミゲルは射出された脱出ポッドを掴んで握り潰そうとした。だが、マリと交戦中の上司であるハイネに止められる。

 

『何故です!? ナチュラルですよ!』

 

「コーディネーターでもナチュラルでも戦士として変わりねぇっての。ほら、そいつに向けて投げな」

 

 何故、劣等種であるナチュラルを生かすのかと問うミゲルに対し、ハイネは例えナチュラルでも戦士として変わりないと答えた。これに見えるは怯えているマイクのメガライダーに向けてリュータが乗っている脱出ポッドを投げ付ける。

 

『ちっ、受け取れよ!』

 

「回収後、直ぐに退避!」

 

「はいぃぃぃ!!」

 

 投げられたリュータの脱出ポッドに、機長は直ぐにマイクに指示を出す。脱出ポッドを回収したメガライダーは直ぐに戦場から退避した。逃げるように戦場から去るマイクのメガライダーに、ミゲルは蔑んだ言葉を投げつける。

 

「フン、そんな度胸で、戦場に出て来るんじゃねぇよ!」

 

 蔑んだ言葉を投げつけたミゲルに、石動のウィングガンダムのバスターライフルの攻撃が放たれる。気付いたミゲルは直ぐに避けたが、左足を破壊されてしまった。

 

「強力なビーム! 何処から!?」

 

『くそっ、外したか』

 

 左足を破壊されたミゲルはビームが飛んできた方向を見る。そこから石動が駆るウィングガンダムが二射目を発射し、反撃してくるミゲルのザクファントムと交戦を開始する。

 他にも交戦が行われており、ヤザンのZガンダムに挑んだグフイグナイテッドはスレイヤーウィップで動きを止めようとしたが、同じ武器を使ったことがある野獣のような男には通じなかった。

 

「馬鹿が! 海ヘビの使い方は、こうなんだよぉ!!」

 

 スレイヤーウィップを左手に持つビームサーベルで切り裂き、更には専用武器として取り付けた海ヘビの反撃を行う。放たれた海ヘビの先端はグフイグナイテッドの胴体に突き刺さり、そこから高圧電流が機体に流し出される。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

 流し出された高圧電流で、オレンジ色のグフイグナイテッドのパイロットは悲鳴を上げる中、ヤザンは容赦なく左手に持ったビームサーベルでその敵機の胴体を切り裂く。

 

「フン、筋は良いようだが、ガンダムとこのヤザンの組み合わせには敵わんのだ」

 

 胴体を切り裂かれて爆発するグフイグナイテッドのパイロットに、筋は良いと褒めた後、サーベルを戻して次なる敵機を標的を定めて襲い掛かる。

 

「凄い動きだ! だが、こっちはディステニーなんだぜ!」

 

 高速移動しながらランチャーを撃ち込んでくるマリのヴァイスリッターに、ハイネは動きを褒めつつも、強いのは自分だと言ってディスティニーガンダムの機動性をフルに駆使しながら接近する。

 同じく高出力ビームランチャーを放つも、ヴァイスリッターの機動力も高く、躱されるばかりだ。大振りの武器では躱されると思い、背中のウェポンラックに戻し、ビームライフルで撃ちながら高速戦闘を継続する。トップクラスのエース同士の戦いだ。

 ハイネとディスティニーガンダムの組み合わせに、マリの方は少し焦ったのか、動きを止めて敵機が向かい場所に向けてランチャーを放とうとした。

 

「未来予知射撃か? 来ると思ったぜ!」

 

『っ!?』

 

 動きを止めてランチャーを撃ったマリのヴァイスリッターに対し、ハイネは動きを止めて両肩に装着しているビームブーメランを投げ付ける。これを卓越した操縦技術で躱すマリであったが、ブーメランに気を取られている彼女のヴァイスリッターにハイネは隙を逃さず接近し、両手の掌に付いているパルマフィキオーナと呼ばれるビーム攻撃を胴体に打ち込んだ。

 

「これで終わりだぁ!」

 

 掌から発生したエネルギーはヴァイスリッターの薄い装甲を容易く貫き、マリはその衝撃を受け、機体共々惑星ガルダーゴンに落下していく。

 

「随分とヤバい奴だったが、これでここは安定…」

 

 マリのヴァイスリッターを仕留め、自分の配下の十二機のドムトルーパーの隊が連携を取り、護衛機諸ともマラソン級重巡洋艦を沈める姿を見てたハイネは、自分の担当区が安定したと思う中、そのマラソン級重巡洋艦を護衛機共々仕留めたドムトルーパー十二機が一瞬にして撃墜されたのを見て驚愕する。

 撃墜されたのはわずか三秒ほど、三十秒も経ってもいない。これにハイネは新たな脅威が来たと判断して気を引き締める。

 

「ちっ、さっきのPTよりもヤバそうだぜ…!」

 

 ヴァイスリッターを駆るマリに次ぐ新たな脅威とは、デカルトのνガンダムであった。十二機のドムトルーパーを撃墜したダブルフィンファンネルを背中に戻したデカルトのνガンダムは、対峙するハイネのディスティニーガンダムを睨み付けるように二つの眼を向ける。

 

「同盟軍にガンダム…? あれがディスティニーガンダムって奴か。だが、乗っているのは遺伝子を弄った程度の劣等種。このイノベイターの俺に敵わないんだよ!」

 

 ハイネのディスティニーガンダムを睨み付けたデカルトは、コーディネーターすら劣等種と蔑み、背中のダブルフィンファンネルを展開する。直ぐにディスティニーを放たれたフィンファンネルが包囲し、一斉にビームの嵐を浴びせるが、ハイネはそれを卓越した操縦技術と機体の機動力で躱し切り、ビームライフルを放つ。飛んでくるビームを躱したデカルトは、多数のフィンファンネルを躱し切ったハイネにやや苛立ちを覚える。

 

「あのオールレンジ攻撃を躱すだと? レア物か…! 流石はガンダムに乗っている事だけはあるな!」

 

『あのPTよりやばい奴だな! だが、ここで抑えねぇと、こっちが負けるんだよ!』

 

 苛立ちながらもガンダムを任されているハイネを褒めつつ、デカルトはビームライフルを撃ち込んで交戦を開始した。互いにビームを撃つ中、ハイネはデカルトのνガンダムは脅威と判断し、例え勝てなくとも、味方の為に抑える必要があると思って立ち向かう。

 かくして、トップエースが乗るガンダムと対イノベイターが乗るガンダムによる激闘が開始された。




CV特撮俳優対CV西川兄貴による戦いは、「俺たちの戦いはこれからだ!」って感じで終わりました。

次回からは地上戦が始まります。地上組が登場するぞ。


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地獄の釜

名前:キム・ヨンジ
性別;男
年齢:23歳
階級:三等軍曹
所属:UNSC海兵隊 第1海兵師団
乗機ではなく武器:MA5ライフルD型。サブアームM6Hハンドガン
HALOに出て来る煩い上に死体撃ちする海兵隊員の一人。韓国系。
部隊の同僚たちからは「お喋りキム」と呼ばれている。その名の通り黙ってられないのかと言うほど煩い。

名前:ジェームス
性別:男
年齢:20くらい
階級:二等兵
所属:連邦軍歩兵部隊
武器:モリタ式ライフル
概要:連邦軍の歩兵。バグズに襲われて真っ二つにされる奴。

名前:ストーク・ハミルトン
性別:男
年齢:30
階級:中尉
所属:ODST 第1可変MS大隊
乗機:クランシェ(黒塗りのODST仕様)
過去の戦争時ODSTに助けられた経験があり、そこから憧れて海兵隊上がりでODSTに入隊したUNSC海兵隊所属の士官。
キャラ提供はスノーマンさん。

名前:アンドリヒ・グリィフ
性別:男
年齢:29歳
階級:少尉
所属:「統一連合政権」通称COG
乗機:ジャベリン
COG所属の士官。
キャラ提供はリオンテイルさん。

名前:ウィル・シュタイナー
性別:男
年齢:45
階級:大尉
所属:ODST 第1機甲降下旅団
乗機:量産型ビルドシュバイン(ODST仕様)
ベテランの降下軌道兵。老化の為に現役引退を宣告されたが、PTパイロットになることで現役を続行する。
キャラ提供は黒子猫さん。

名前:ガウズ・カーミット
性別:男
年齢:20くらい
階級:伍長
所属:連邦軍歩兵部隊
武器:モリタ式ライフル
概要:連邦軍の歩兵。非常に運が良く大した努力もせずに今日まで生きてきた。
キャラ提供はkinonoさん。


 ディスティニーガンダムを駆るハイネがデカルトのνガンダムと激闘を繰り広げる中、コンクルーダーズの奮闘むなしく、ガルダーゴンの防衛線は突破された。

 同盟軍の堅牢な防衛線を突破したのは、インフィニティとスパルタンによる奮戦と多大な連邦宇宙軍と海軍の犠牲による物であった。

 

『防衛線を突破されたぞ! 連邦が雪崩れ込んで来る!!』

 

 防衛線を突破されたことを知らせるレリオンに乗る同盟軍のパイロットであったが、直後に来たスパルタン・チェーストのソードカラミティのソードに機体共々貫かれて絶命する。

 空いた穴より連邦艦隊と降下部隊を乗せた強襲揚陸艦や輸送艦が雪崩れ込み、戦闘艦艇が艦砲射撃を惑星に向けて行う。数は当初の予定より少ないが、少なくとも地上に展開する同盟軍の守備軍には多大な被害をもたらしており、そこにミサイル攻撃を浴びせ、壊滅状態に追い込む。

 

『総員搭乗急げ! 直ちに降下せよ!!』

 

「急げ! 速く降下艇に乗れぇ!」

 

 空いた防衛線より雪崩れ込んだ連邦海軍の艦艇の一隻では、無数の歩兵が降下艇に乗り込んでいた。

 将校の急かす声に促されるが如く、装備一式を身に纏い、モリタ式ライフルを持つ連邦軍歩兵は降下艇に続々と乗り込んでいく。スコープドッグなどのATは降下艇に最初から積んでおり、搭乗員は直ちに自分のATに乗り込んでシートベルトを締める。

 MSやPTなどの機動兵器も予め降下ポッドに搭載されており、次々とガルダーゴンの地へと降下していく。

 機動兵器の次は歩兵や戦闘車両、ATを満載した降下艇や強襲揚陸艦が惑星に降下するのは目に見えているため、何十隻もの同盟軍の艦艇と艦載機が強行突破を行い、降下部隊を展開しようとする連邦軍に艦砲射撃を行う。突破した艦艇と機は次々と撃破されていくが、その甲斐あってか降下部隊を展開している何隻かの連邦軍艦艇を撃沈することに成功した。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

「助けてくれぇぇぇ!!」

 

 降下部隊を展開している艦艇が撃沈され、そこからガルダーゴンへと降下する予定であった歩兵部隊や艦の乗員らが宇宙へと放り出されていく。瞬く間に恐ろしい数の命が宇宙で散って行く中、連邦軍の侵攻軍は構わずに惑星にたいして降下を開始する。

 

「くそっ! これじゃあ、俺たちが頑張って来た意味がねぇじゃんか!」

 

 デカルトのνガンダムと交戦しているディスティニーガンダムを駆るハイネは、次々と惑星へと降下していく連邦軍を見て、自分たちコンクルーダーズの決死防衛が水泡に喫したことに悔しさを覚える。

 強引に突破し、自滅覚悟で降下部隊を攻撃している最後の艦艇は、スパルタン・ゼラズニィが乗るスーパーガンダムのロングライフルで直撃されて轟沈する。もう一度、死を覚悟した同盟軍艦隊が降下部隊へと強行突撃を敢行しようとするも、続々と連邦艦隊が集まっており、集中砲火で解けるように撃沈されるばかりである。艦載機や機動兵器なども同様であった。

 今はスパルタンⅣとなっているターニャら特務魔導大隊の面々を乗せたスピリット・オブ・ファイヤも降下地点へ他の降下部隊を乗せた艦艇らと共に到着し、続々と降下部隊をガルダーゴンへと送り込んでいく。

 

『降下部隊は降下艇並び降下ポッドに搭乗し、直ちに降下せよ! 繰り返す! 直ちに登場し、降下せよ!』

 

「総員、直ちに配置に着け! 出番だ!!」

 

 スピリット・オブ・ファイヤの艦内の待機所に降下部隊の出撃命令のアナウンスが響く中、ターニャは配下の者たちに配置に着くように怒号を飛ばす。艦所属の降下軌道歩兵(ODST)隊員らも既に降下ポッドに搭乗しており、続々と降下していた。

 

「では大隊長、いや、スパルタン・ターニャ殿、戦場でお会いしましょう!」

 

「そちらも途中で撃墜されるなよ!」

 

 ODSTとなっている部下たちは、本物のODST隊員等と共に降下ポッドへ向かう。その際に戦場で再開しようと向こうが言ってきたので、ターニャは挨拶を交わした。彼女は機動歩兵となっているイヴ人らと共に降下艇であるペリカンに搭乗するのだ。既にアーデらが搭乗している。

 彼女らがイヴ人部隊が身に着けているのは機動歩兵用のアーマーだ。それも以前にターニャが交戦した経験のある重装甲のフェーズ2アーマーでは無く、生存性を低くし、コストパフォーマンスと訓練短縮を図ったフェーズ3だ。今回の作戦の機動歩兵の大半がフェーズ3を身に着けている。

 降下艇に乗り込めば、ターニャは座ることなく天井のクリップを握って両端の席に座る機動歩兵の面々を見る。

 

「諸君、地獄へ行くぞ」

 

『こちらライン1-1、発進する』

 

 ターニャが面々を見ながら言えば、彼女らを乗せたペリカンはガルダーゴンへ向けて発進した。

 ガルダーゴンへと降りるのは先ほどの大量に居る降下部隊とODSTの降下ポッド群、強襲揚陸艦だけでなく、大気圏再突入用バリュートを装備した可変MSのクランシェ隊の姿もある。このクランシェはODST仕様であり、黒塗りにされていた。

 

『大隊本部より第1可変MS大隊各機へ! これより地獄へと降下する! 各員、気を引き締めろ! 寄って集る死神を殺せ!!』

 

「さーて、こいつでのデビュー戦だ。派手に行くぜ!」

 

 その大隊に属するストーク・ハミルトンは顔を叩いてからヘルメットを被り直し、MSでの初陣に気を引き締め、操縦桿を握って降下していく僚機に続いた。

 ストークを始めとする降下部隊が続々とガルダーゴンへと降りていく中、事前の砲撃で沈黙していたはずの対空砲火がガルダーゴンに降下して来た連邦軍部隊に向けて放たれた。

 対空機関砲に対空ミサイル、ビームにレーザーにプラズマ、同盟軍に飼い慣らされたバグズのエネルギー弾の嵐が地上から雨あられと放たれてくる。地上より来る嵐のような対空砲火に降下中の連邦軍部隊は晒され、続々と降下中の艦艇やポッドが撃ち落とされていく。

 

「うぉわ!? こいつはヤバいぞ!」

 

 降下中に対艦レーザーを撃ち込まれ、撃沈された強襲揚陸艦より大量の将兵らが空へ投げ出された光景を見て、ストークは今回は不味いと判断する。既に大丈夫な高度に達しているので、バリュートを解除して対空砲火に対する回避機動を取る。

 対空砲火が止めば、艦砲射撃を生き延びた無数のスクランブル機が対空砲火で損害を受けた降下部隊に襲い掛かる。これに連邦軍は護衛用と近接航空支援の為に降下させた艦隊の艦載機で対処する。

 激しい空中戦が開始され、ストークが属するODSTのクランシェ隊もその空戦に参加し、先行して突っ込んでくる数機を撃墜した。

 

「突撃! 突撃!!」

 

 艦砲射撃が届かなかった砲兵陣地や対空陣地、対艦砲の排除を行う為、本隊よりも前の敵中に降下した機動歩兵とODSTの隊は降下ポッドから素早く飛び出し、銃撃を躱しながらそれぞれの破壊目標に急行した。同じく降下ポッドで敵中に降下したODSTのPT部隊も、指定された目標へと急ぐ。

 対空陣地と対艦砲はフェーズ1とフェーズ2アーマー混成の機動歩兵部隊と特務魔導大隊の隊員を含めたスピリット・オブ・ファイヤ所属のODST隊が担当し、砲兵陣地はODSTのPT部隊が担当する。

 

「A中隊(カンパニー)、素早く片付けるぞ!!」

 

 砲兵陣地撃破を担当するODST第1機甲降下旅団所属のウィル・シュタイナー大尉は、自機である量産型ビルドシュバインを駆り、実弾式の突撃砲を撃ちながら自分の中隊を率いて同盟軍砲兵陣地に熱烈なる攻撃を加える。

 ODST隊員としてのウィルは現役引退間近であるが、PTパイロットに転向することによって現役に留まることが出来た。彼の部下たちも三十代が平均であり、誰もがウィルと同じように現役でいるためにPTパイロットに転向した。

 十二機のODST仕様の量産型ビルドシュバインによる砲撃は凄まじく、近付いてくるPTに対して守る術がない同盟軍砲兵たちは一方的に蹂躙された。積み上げたロケット弾の集積所に機関砲弾が命中すれば大爆発を起こし、近くの砲やロケット発射機諸とも砲兵らを吹き飛ばす。

 ウィルの中隊のみならず、他の中隊も同型機を装備しており、彼と同じように砲兵陣地を蹂躙していた。自走砲などもあったが、砲を向ける暇も無く、突撃砲を撃ち込まれて撃破される。

 PT部隊による蹂躙が行われる中、対空陣地や対艦砲の破壊に向かう今はODSTの特務魔導大隊の二個中隊と機動歩兵部隊は、演習で行った通り、順調に陣地を制圧して航空隊の安全の確保に努める。

 敵の抵抗激しく、突撃した機動歩兵やODSTにも犠牲者が出るが、特務魔導大隊には一切の死傷者も出ていなかった。彼らの損害を無視した陣地攻撃により、早い段階で対艦砲も撃破され、艦艇による近接航空支援は可能となった。

 

「橋頭保を確保だ! 損害に構わず前進せよ!」

 

 異常な犠牲者を出しつつも、それを物ともせずガルダーゴンの地へ降り立った無数の上陸部隊は、橋頭保を確保するために敵の防衛陣地に向かって突撃を行う。

 地を埋め尽くすほどの無数の歩兵に戦闘車両、MSにPT、ATなどが前進し、砲撃跡の大地を大きな音を立てながら突き進む。その中にはターニャ等特務魔導大隊の本隊も居た。そんな大行進を行う連邦軍に、防衛側の同盟軍は容赦なく砲火を浴びせる。

 

「わぁぁぁ!」

 

「熱い! 熱いぃぃぃ!! あぁぁぁ!!」

 

 密集して前進しているため、阻止砲火は陸戦部隊に更なる損害を与えた。数十名の歩兵と戦闘車両が破壊された機動兵器の下敷きとなり、破壊されて炎上するリニア・タンクから全身火達磨となった戦車兵たちが悲鳴を上げながら飛び出してくる。下半身を失くしたまだ息のある兵士が命ある限りなのか、戦場から逃げ出そうと地面を這いずる。ありとあらゆる方向より、爆発と銃撃、悲鳴が聞こえ、肌に命の危機を感じさせる。

 

「まるでラインや東部戦線だ…」

 

 地獄のような光景を見たターニャは、前世の慣れ親しんだ戦場の光景を思い出す。アーデを始めとするイヴ人の方は地上においてこの体験が初めてなのか、息を荒くして震えながら前進している。

 

「(いかんな、この戦場で連中は新兵同然だ。いつパニックを起こし、脱走するか分からん。現に脱走者が出ているな)」

 

 イヴ人らの荒い呼吸を聞いたターニャは、いつパニックを起こしてもおかしくないと判断し、脱走した場合に備え、前世の経験を思い出していつでも撃てる位置に下がる。

 現に放火の中を前進する連邦軍の将兵らが死の恐怖に怯えて恐慌状態となり、脱走する者が居た。だが、ここは敵地だ。防戦に必死で殺気だった同盟軍の将兵らは、逃げる敵兵にも容赦なく銃弾を浴びせて射殺する。爆発物を持つ兵士や大砲などの砲撃手は撃ち込み、容赦なく吹き飛ばしていく。

 砂や小石に混じってさっきまで兵士だった肉塊まで降り注ぎ、脱走兵が続出する中、観測手か観測車が敵の防衛陣地を見渡せる地点に到達したのか、航空支援を要請する。

 

『こちらレッドキャッスル! 直ちに近接航空支援を要請する! 地点は…』

 

 大勢の歩兵が機銃掃射で薙ぎ倒され、多数の戦闘車両や機動兵器が接近を許さぬ弾幕の前で次々と撃破される間、遮蔽物となる岩に隠れた観測手はマーカーのレーザーを敵防衛陣地に掃射し、随伴する無線兵が背負う無線機の受話器を片手に、対艦砲の脅威が無くなり、近接航空支援が出来る高度まで降りて来た数隻のパリ級重フリゲートに要請する。

 要請を受理したのか、パリ級重フリゲートは旋回式艦砲をマーカーレーザーで示されている地点に向けて砲撃を開始し、一気に対空砲諸とも敵陣地を吹き飛ばす。恐ろしい爆発が巻き起こり、敵兵と思われる身体の一部が飛んでくる。前進を阻む脅威はなくなったので、指揮車に乗る指揮官は前進の再開を命じる。

 

『前進再開! 第二陣の降下地点を確保しろ!』

 

 命令が無線機より聞こえれば、大多数の部隊が命令に応じて移動を再開する。

 大部隊の移動が再開され、地響きを響かせてながら前進していると、左側面に展開しているCOGを含める部隊に、地面よりローカストの大部隊が這い出て、左側面部隊に強襲を仕掛けて来る。

 

「ローカスト共だ! 地底から大量に出て来る! 応援を寄越してくれ!」

 

 ジャベリンに乗るアンドリヒ・グリィフはビームライフルを連射してローカストの歩兵を消し炭にしつつ、友軍部隊に増援を要請する。

 左側面を侵攻する隊が同盟軍の参加勢力の一つであるローカスト軍と交戦が始まり、右側面でも同盟軍の迎撃部隊との交戦が始まる。中央を進むターニャ等の方には、同盟軍の中で最も厄介な勢力が迫っていた。

 

「へっ、今回もラッキーボーイだぜ!」

 

 隊列を組んで前進する61式戦車の背後で、連邦軍歩兵のガウズ・カーミット伍長はモリタ式ライフルを片手に今日も運が良かったと自負する。彼は非常に運が良く、今回もまた運が良いので生き残る努力を怠っていた。

 だが、今回の作戦で神はガウズに強運を与えなかった。彼の班の前を前進していた61式戦車中隊は突如となく割れた地面の亀裂の中に落ちた。これにガウズは奇跡的に助かり、運が良かったと思い始める。

 

「うぉ…!? 危なかったぜ!」

 

 生き延びたことで一安心する彼を、亀裂の中より現れたアラクニドバグズ、通称バグズの一般歩兵であるウォーリア・バグズが襲った。

 

「うわぁぁぁ!? なんでだ!? 誰か! 誰かぁぁぁ!!」

 

 亀裂より湧いて出て来たウォーリア・バグズに襲われ、左足を切断されたガウズはモリタ式ライフルを撃つことなく、運の良い自分がこれから殺されることを理解できず。助けを呼びながら逃げようとするが、逃げきれずに惨殺される。

 亀裂や地中より続々と現れるバグズに、中央侵攻軍前面に展開していた部隊は瞬く間に惨殺されていく。歩兵はモリタ式ライフルを乱射しながら本隊まで逃げるが、バグズの前進は速く、直ぐに追い付かれて惨殺される。男女問わず殺害するバグズによる凄惨な殺戮劇が始まった。

 戦車や戦闘車両は抵抗を行うが、大群で襲い掛かるバグズの前では無に等しく、体当たりで横転させられ、車両から乗員が引きずり出されて惨殺される。逃げようとする者が居たが、逃げきれずに殺されてしまう。

 所属分隊を見捨て、ライフルも捨てて自分だけ逃げたジェームズ二等兵は吹き飛ばされた後、ウォーリア・バグズの鋭利な大顎状関節に挟まれる。

 

「あぁぁぁ! 嫌だぁぁぁ!! 死にたくない! 誰か、誰か助けてくれぇぇぇ!!」

 

 助けを求めるジェームズであるが、逃げるのに必死な歩兵らは応じず、そのまま彼は真っ二つに惨殺された。

 

HALO(ヘイロー)KILLZONE(キルゾーン)、ギアーズオブウォーのみならず、ポール・バーホーベンのスターシップトゥルーパーズまであるのか。悪趣味な世界だ!」

 

 切断されたジェームズの上半身部分はターニャの足元に落ち、それを見たターニャはBR85バトルライフルを自分に襲い掛かる彼を惨殺したウォーリア・バグズに撃ち込む。

 今はスパルタンで身長が大男並みのターニャが持つバトルライフルは大口径であるが、バグズは一発や二発では死なず、瀕死状態にするまで四発撃ち込む必要性があった。まだ生きているバグズにとどめを刺した後、四人一組で一匹のバグズに対処するアーデらイブ人部隊を見て、誰か回せないのかと次々と来るバグズに対処しながら問う。

 

「誰か回してくれんか? 一人では限界だ!」

 

『そんな高性能なアーマーを着て、こちらに増援を求めるのか? 大隊長としての意地はどうした?』

 

「ちっ、スパルタンでもキツイわ。こんな化け物共」

 

 何名か回してくれと問う上官であるターニャに対してアーデは、スパルタンのミニョルアーマーを着て、増援を寄越すなど大隊長としての意地は無いのかと煽ったような回答を返してくる。これにターニャは増援は見込めないと判断し、単独で大多数のバグズの対処に回る。多数のバグズと交戦するターニャの動きは、増援が必要なのかと思うくらいの動きであった。的確に頭部を撃ち抜き、あるいは足を引き抜いて別のウォーリア・バグズを突き刺す。

 

「流石スパルタンだぜ!」

 

「俺たちはあそこに必要なさそうだ。向こうに行くぞ!」

 

 これに付近で交戦している歩兵たちは、流石はスパルタンだと口々にする。ここはスパルタンに任せた方が良いと思い、別の機動歩兵部隊は別の隊の救援に向かった。

 

 

 

 ガルダーゴン各地で降下した連邦軍と同盟軍による戦闘が行われる中、森林地帯に展開したUNSC海兵隊の第1海兵師団はそこを防衛する敵部隊を撤退に追い込み、逃げ遅れた敵の掃討を行っていた。もう直ぐ夕暮れであるため、暗くなれば捜索は困難を極めるので、海兵隊員らは必死に残敵の捜索を行う。夜襲を警戒しているのだ。

 

「生きてるか? おい!」

 

 敵兵の死体に向け、一人の海兵隊員は手にしているMA5Dライフルを一発撃ち込む。いわゆる死体撃ちである。死んだふりをしている敵兵を警戒してのことだ。弾の無駄だと思うが。

 

「おいおい、ジミー。撃つなら頭だよ」

 

「なんだ、お喋りキムか。良いだろ、くたばりぞこないは、何処でも撃てばくたばるからな」

 

「何処でもって、撃っても襲ってくるかもしれないんだぞ」

 

 死体撃ちを行った海兵隊員に、同じライフルを持つキム・ヨンジ三等軍曹は近くの木に横たわっている敵兵の死体の頭部を撃ち、撃つのは頭だと指摘する。同僚からの指摘に海兵隊員は苛立ち、探索に戻った。他の海兵隊員らも残兵探査がてら死体撃ちを行っており、森のあらゆる場所からUNSC海兵隊が使う銃の銃声が鳴り響いていた。

 

「生きてるぞ! 撃ち殺せ!」

 

 付近では撃墜されて墜落した戦闘機や倒れた機動兵器から這い出て来る敵パイロットを見付けた海兵隊員が叫び、手にしているライフルやライトマシンガンを撃ち込んでとどめを刺す。

 

「一人逃げた!」

 

「逃がすな!」

 

 偶然にも近くに居たキムも、仲間を囮に使って逃げようとする敵パイロットを見付け、ライフルをフルオートに切り替えて連射する。他の海兵隊員らも見付け、同じく連射で必死に逃げるパイロットを撃ち、誰かの弾が逃げるパイロットの足を撃ち抜いた。

 拳銃で反撃される前に一人の海兵隊員が全力疾走で接近し、倒れたパイロットが右手に持つ拳銃を蹴り上げ、ライフルで頭部を撃ち抜いて息の根を止める。

 

「クリア!」

 

「捜索に戻れ! この一帯を確保に努めろ!」

 

 射殺した海兵隊員が報告すれば、海兵隊の小隊長は捜索に戻るように指示を出す。キムもそれに従い、捜索に戻る中、墜落した味方のPTを発見して直ぐに報告する。墜落した友軍のPTは、マリのヴァイスリッターであった。

 

衛生兵(メディック)! 味方機だ!」

 

 呼んだ後に付近の同じ分隊の隊員に手話で合図を送り、援護を頼んでからヴァイスリッターのコクピットに近付き、敵の罠が無いかどうかを調べる。

 

「クリア! バールを持ってこい! こじ開けるぞ!」

 

 罠が無いことを確認すれば、バールを持ってこいと指示を出して周辺を他の隊員らと共に警戒する。やがてバールを持った隊員が来れば、直ぐにコクピットのハッチをこじ開け、気絶しているマリを衛生兵と共に引きずり出す。

 引きずり出したマリを付近に寝かせ、女性海兵隊員に生きているかどうかをキムは問う。

 

「生きてるか?」

 

「脈はあるわね」

 

「中佐殿は生きておられるか。分隊長殿に報告するか」

 

 同僚の女性よりマリが生きていることが分かれば、キムは自分の分隊長に報告に向かった。




海兵隊員が死体撃ちをしている? いつもの事だろう。(HALO脳)

それとワクチン打ってきた。二回目は三週間後。左腕が上がらんぜよ。


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敵の反撃に備えよ

名前:マルジン・アジャン
性別:男
年齢:25歳
階級:陸軍一等兵
所属:連邦陸軍機動歩兵
乗機:フェーズ1アーマー
概要:二年の訓練を終えて機動歩兵となったアラブ系の男。

名前:ファル・ドバール
性別;女
年齢:31歳
階級:曹長
所属:UNSC海兵隊 第1海兵師団
乗機ではなく武器:M739ライトマシンガン、M41SSR多目的ロケットランチャー
肝っ玉母ちゃん的な姉御肌の海兵隊員。
キャラ提供はリオンテイルさん。

名前:ミスティ・エーデル
性別:女性
年齢:19歳
階級:上等兵
所属:連邦陸軍機動歩兵
武器:フェーズ3・砲撃型
黒に近い茶髪を三つ編みおさげにしている地味系女子。訓練を終えたばかりの新兵で本来は後方での雑務を担当する筈が、前線に人手が足りず且つ武装が砲撃型だったため引っ張り出されてた可哀相な子。

名前:ジョセフ・グロスハイム
性別;男
年齢:41歳
階級:中尉
所属:UNSC海兵隊 第1海兵師団
武器:MA5ライフルD型(背負えるなら敵陣突破や退却時用にM41SSR多目的ロケットランチャー)
才能が有るわけでも運が良いわけでも無く、過酷な訓練と仲間との連携で実戦をくぐり抜けてきた燻し銀。(可能なら副隊長的な立ち位置で)周囲に気を配り隊員を支え、いざと言うときは殿を務める事も多々有る。
キャラ提供はkinonoさん。

名前:ザン・バーガー
性別:男
年齢:23
階級:曹長
所属:連邦陸軍機動歩兵
武器:フェーズ2
ボサボサヘアーの面倒見が良い兄貴分。真面目な性格故に振り回されている不憫な人。
キャラ提供はわかものさん。

名前:イオラ二等軍曹
性別:女
年齢:25
階級:二等軍曹
所属:UNSC海兵隊員
武器:M41SSR多目的ロケットランチャー 弾が入った弾倉
概要 軍帽が似合うアメリカ系女性。
キャラ提供は団子狐さん。

名前:アンドリュー・ウィルソン
性別:男性
年齢:25
階級:上等兵
所属:UNSC海兵隊
武器:MA5ライフルD型
戦闘中でもガム嚙んでることが多いアメリカ系。民間の頃は野球投手(二軍)でその肩で手榴弾投げが得意な兵士。

名前:グエン・ヴァン・キム
性別:男性
年齢:27
階級:特技兵
所属:UNSC海兵隊員
武器:M739ライトマシンガン
目付きが鋭めのベトナム系。分隊支援要員。

名前:ハミルトン・ゲイル
性別:男性
年齢:27
階級:伍長
所属:UNSC海兵隊員
武器:SRS99-5対物ライフル
若干細身な金髪アメリカ系。狙撃手、お喋りでスラングもよく吐く。

名前:ガースキー・カマロフ
性別:男性
年齢:31
階級:軍曹
所属:UNSC海兵隊
武器:M41SSR多目的ロケットランチャー
無精髭生やしたガタイの良いロシア系。勇猛な対戦車兵でよく怒鳴る。

名前:カイン・マイナン
性別:男性
年齢:24
階級:伍長
所属:UNSC海兵隊員
武器:M739ライトマシンガン
若手のイギリス系。分隊支援火器の軽機関銃を装備する下士官。
元MP(憲兵隊)という異色の経歴で射撃技術が良かったゆえ前線部隊行きになった。メンタル面においても凶悪犯やテロ屋相手にしてきたため意外と肝が据わっており慎重な性格のため前線でも充分使えると上から判断されている。
キャラ提供はスノーマンさん。

名前:リック
性別:男
年齢:22
階級:伍長
所属:連邦陸軍機動歩兵
乗機:フェーズ3アーマー(機動型)
 
名前:ニック
性別:男
年齢:26
階級:曹長
所属:連邦陸軍機動歩兵
乗機:フェーズ3アーマー(砲撃型)

名前:ムン・ジェジュン
性別:男
年齢:24
階級:一等兵
所属:UNSC海兵隊員
武器:MA5Dアサルトライフル、M41SSR多目的ロケットランチャー。

名前:シュウ・ホワン
性別:男
年齢:24
階級:一等兵
所属:UNSC海兵隊員
武器:MA5Dアサルトライフル、M45Dショットガン。
キャラ提供は黒子猫さん。


 ガルダーゴンの地上戦が各地で行われる中、降下地点を守るフェーズ3アーマーを中心とした機動歩兵部隊に、孤立した同盟軍の決死隊が攻撃を仕掛けて来た。

 

「直ちに戦闘配置! 敵の決死隊だ! 奴らは死に物狂いで仕掛けて来るぞ!! こちらも死ぬ気でやれぇ!!」

 

 投降を拒み、自殺覚悟で向かってくる同盟軍の決死隊に対し、降下地点を守る機動歩兵中隊の隊長は部下たちに戦闘配置に着くように怒号を飛ばして部下を配置に着かせる。

 この中隊も少なからず損害を受けており、人員補填の為に後方から増員を行っていた。その中には後方で雑務を担当するはずであったミスティ・エーデルも含まれ、ヘルメットを被っていない彼女は、震えながら中隊長に自分は戦闘員では無いと告げる。

 

「あ、あの大尉殿。自分は後方勤務なのですが…」

 

 黒味がかった茶髪の三つ編みおさげを揺らし、自分は機動歩兵の訓練を終えているが、後方勤務であると告げるが、中隊長は容赦なく彼女を戦闘配置に着かせる。

 

「後方勤務? 上等兵、お前は機動歩兵だろ!? 速く配置に着け!」

 

「そんな…!? 訓練は受けていますが…」

 

「機動歩兵なら戦うんだ! お前は護身用に機動歩兵の訓練を受けたのか!? 死にたくなければとっとと配置に着けぃ!!」

 

「は、はいぃぃぃ!!」

 

 反論するミスティに対し、中隊長は無理に言って従わせた。

 ヘルメットを被り、自動でバイザーを締めたミスティは機動型のリック伍長と同じ砲撃型のニック曹長が居る陣地の配置に向かう。そこの塹壕に入れば、二名のベテラン機動歩兵が挨拶してくる。

 

「よう、ルーキー。後方勤務なのに前線勤務になるとは災難だな」

 

「機動歩兵だからな。後方勤務から前線送りなんぞ、しょっちゅうなことよ」

 

 そう言う二名のベテラン機動歩兵であるが、ミスティは納得していない。彼女がこれに反論するよりも前に、同盟軍の決死隊は攻撃を仕掛けて来る。

 

「来たぞ! 各員、引き付けてから撃て! 慌てて撃つんじゃないぞ!!」

 

 決死隊が破竹の勢いで陣地に迫る中、中隊長は引き付けてから撃つと言って中隊の将兵らに慌てて撃たないように号令を出した。

 付近の友軍部隊は既に決死隊によって壊滅させられており、運よく生き延びた歩兵は逃げている間に射殺された。助けられなかったことが悔やまれると思うが、これで誤射を気にせずに撃つことが出来る。

 砲撃型のロケット弾の射程距離内まで決死隊の先発が近付けば、直ぐに砲撃型の機動歩兵は背中のロケットランチャーを展開させる。だが、中隊長はまだだと告げた。

 

「待て! ライフルの射程距離まで入ってからだ! 慌てるんじゃない!」

 

 そう言われて砲撃型の機動歩兵はロケットランチャーを展開したまま待機した。

 やがてライフルの射程距離まで決死隊が迫ると、中隊長はライフルの安全装置を解除してから射撃命令を出す。

 

「よし、撃って良いぞ! 撃ちまくれ!」

 

 号令を出した後、自分もライフルを迫りくる決死隊に向けて撃ち始める。それと共に砲撃型は収納式ロケットランチャーを展開し、残弾を気にすることなく撃ち続ける。収納式自動機銃を展開するアーマーを来た機動歩兵も居た。

 引き付けた甲斐があってか、その効果は絶大であり、死を厭わない突撃を行った決死隊はかなりの死傷者を出す。だが、同盟軍の決死隊は倒れてうめき声を上げる戦友を気にすることなく、敵陣に突撃し続ける。

 

「こ、こいつ等…! 怯まず突っ込んできます!!」

 

「エイリアン共め、ヤクを打ってやがるな!」

 

「こうなれば胴体を撃っても突っ込んでくる! 足を狙え! 確実に殺すなら頭を撃ち抜け!」

 

 これほどの一斉射にも関わらず、怯まずに突っ込んでくる同盟軍の歩兵たちにミスティはライフルを撃ちながら恐怖する中、ベテランの機動歩兵であるリック伍長は戦闘薬物を投与していると判断する。

 ニック曹長は確実に殺すなら頭部を撃つか、足を撃って動きを止めろと指示を出してから頭を狙って撃ち始める。部下のリックもそれに従って頭を撃てば、射撃に自信が無いミスティは足を撃つ。ニック等が属する第二小隊が防衛するエリアでは何とか耐えていたが、第三小隊が守っていたエリアが突破された。

 

『こちら第三小隊! 突破された! 接近戦になっている! これより小隊は最終エリアまで後退する!』

 

「第三小隊のガンマが突破されたか! どの小隊の砲撃手でも良い! ガンマエリアを砲撃できる者はいるか!?」

 

 第三小隊より敵の突破と後退の報告を受けた中隊長は、所属する各小隊の砲撃型に砲撃を要請する。だが、どの小隊も使い切ったと報告する。

 

『こちら第一小隊、砲撃型各員残弾無し!』

 

『こちら第二小隊、我々も同じく残弾無し!』

 

『こちら第四小隊、総員撃ち切りました!』

 

「くそっ、こうなれば俺が後退の援護を…」

 

『いえ、こちら第二小隊。ニックの分隊が四発ほど残しております!』

 

 使い切ったとの報告に中隊長は自分一人で第三小隊の後退を援護しようとしたが、第二小隊の隊長はニックが四発ほど隠し持っていたことに気付き、それを報告した。

 

「馬鹿者! なんでそれを報告しない!?」

 

『予備の為に、持っておきましたので…』

 

「速く撃て! 第三小隊が離れているんだ!」

 

 ニックの言い訳に、中隊長は速く撃てと怒号を飛ばした。これに従い、リックは予備に隠し持っていたロケット弾をニックの砲撃型アーマーのロケットランチャーの後部に装填する。

 

「おい、そいつにも装填しろ」

 

「もう一発撃つんでは?」

 

「二人の方が良い。出来るか、エーデル上等兵?」

 

 装填を終えたリックに、ニックは同じ砲撃型であるミスティにも装填するように命じた。もう一射撃つのではと言うリックに対し、ニックは二人の方が効果的と答え、ミスティに出来るかを問う。

 

「はい! やるしかないんでしょう!?」

 

「ふっ、物言いは気に入らんが覚悟は良い! リック伍長、上等兵にも装填しろ!」

 

 これにミスティはやるしか無いと判断して、首を縦に振った。

 同意を得たことで、リックはニックに言われた通りにミスティのロケットランチャーにロケット弾を装填、装填が終わったことを確認すれば、分隊長が向ける方向へ収納式ロケットランチャーを向ける。

 

「座標、ガンマエリア! 撃てッ!!」

 

 ニックの指示でミスティは同じ方向へ向けてロケット弾を発射し、そこから雪崩れ込もうとする同盟軍の決死隊を吹き飛ばした。

 着弾して爆発した後、決死隊と思われる将兵の肉片が降って来る。それと同時に前線が安定したのか、余剰戦力が守っている中隊の増援として派遣される。フェーズ1とフェーズ2アーマーを混成とした機動歩兵二個分隊だ。

 足りないと思われるだろうが、既に同盟軍決死隊は中隊の死守によって既に壊滅状態であり、一人当たり戦車一個小隊と戦闘ヘリ一機に相当する戦闘力を持つ機動歩兵二個分隊で十分であった。

 

「ジャンキー共め! 纏めて焼いてやる!!」

 

 歩兵から機動歩兵に転向し、訓練を終えたマルジン・アジャンは、纏うフェーズ1アーマーの小型火炎放射器を取り、自分らに向けて弾丸を浴びせて来る敵決死隊に炎を浴びせる。マルジンだけでなく、他のフェーズ1アーマーの機動歩兵も火炎放射を浴びせ、決死隊を焼いていく。

 焼かれた決死隊はなおも敵陣への突撃を止めなかったが、意志よりも先に身体が燃え尽き、バタバタと倒れていく。まだ動く者はフェーズ2アーマーの機動歩兵が使う折り畳み式ライフルの掃射を受けて倒される。

 これらの機動歩兵二個分隊の増援により、降下地点周辺の安全は確保され、戦闘は無事に終了した。

 

 

 

「クソっ、敵の反撃だ!」

 

 UNSC海兵隊の第1海兵師団前面に展開していたザン・バーガー曹長が属する機動歩兵大隊は、師団規模の敵の反撃を受けていた。直ぐにザンは持っている折り畳み式ライフルで反撃を行うが、師団規模で反撃を行う同盟軍には豆鉄砲程度だ。

 

「直ぐに師団本部に知らせろ! 敵、師団規模の反撃アリとな!」

 

 大隊に同行した第1海兵師団所属の偵察大隊のジョセフ・グロスハイム中尉はMA5Dライフルを撃ちながら塹壕に飛び込み、その塹壕で無線機を操作する無線兵に、所属師団に敵の反撃を知らせるように怒号を飛ばす。

 これに応じ、無線兵がジョセフに言ったことを師団本部に伝えれば、師団本部より第一防衛線まで後退するように指示が出たと報告する。

 

「中尉、師団本部より第一防衛線まで後退しろと! 大隊本部からも出ています!」

 

「持つはずが無いからな! 後退するぞ! 持ち運べん装備は破壊しておけ!」

 

 この報告にジョセフは師団本部や大隊本部の命令に応じ、M41SSR多目的ランチャーを構え、前進してきた敵偵察車を撃破してから持ち運べない装備は破壊しろと命じる。

 海兵隊の偵察大隊各員が車両などに乗り込み、退却していく中、機動歩兵大隊の後退は遅かった。これに疑問を抱いたジョセフは、他の機動歩兵と同様にライフルを撃ちながら下がるザンに事情を問う。

 

「殿を務めるのか? いくら機動歩兵でも、師団規模の敵は抑えられんぞ!」

 

『俺たちは連隊本部より遅滞戦闘を命じられている。お前ら海兵隊(マリーンズ)は速く後退しろ!』

 

「一個大隊で師団相手に遅滞戦闘をやるつもりか!? 一分も持たんぞ!」

 

『煩いぞ! お前ら海兵とは違って俺たちは機動歩兵だ!』

 

 連隊本部より遅滞戦闘を命じられているので、速く後退しろと返したザンに対し、ジョセフは一個大隊では一分も持たないと言うが、彼は無視して戦闘に戻った。

 

「勝手にしろ! 助けてくれと叫んでも助けんぞ!」

 

 無茶な命令に従い、自分の提案すらプライドで一蹴するザンに、ジョセフは勝手にしろと告げ、ランチャーを背負いながら大隊と共に第1海兵師団の防衛線まで後退した。

 同盟軍の師団規模の反撃を知った第1海兵師団は、第一防衛線を担当する隷下旅団に予備連隊などの兵力を増員し、防衛線を固めていた。師団隷下の捜索大隊なども増員する。

 その中にはキム・ヨンジ三等軍曹、ファル・ドバール曹長、イオラ二等軍曹、アンドリュー・ウィルソン上等兵、グエン・ヴァン・キム特技兵、ハミルトン・ゲイル伍長、ガースキー・カマロフ一等軍曹、カイン・マイナン伍長、ムン・ジェジュン一等兵、シュウ・ホワン一等兵の姿があった。

 

「直ちに配置に着け! 敵は直ぐに来るぞ!!」

 

 士官が配置に着く海兵隊員らを先導する中、塹壕や機関銃陣地、迫撃砲陣地などに着いた海兵隊員らは手にしている武器の安全装置を外し、向かってくるであろう敵襲に備える。

 

「撃つなよ! 来るのは味方だ!」

 

 重機関銃が向かってくる人影に向けて照準を向けるが、隣に居る士官より来るのは機動歩兵に随伴していた偵察大隊の隊員であると告げて撃つなと叫ぶ。士官の言う通り偵察大隊の海兵隊員らは全力疾走で陣地に近付き、直ぐに戦闘配置に着く。ワートホグなどが付近に止まり、それに乗っている大隊長が敵の数を告げる。

 

「敵は凄い数で迫るぞ! 推定二個師団以上だ!」

 

「なんですって!?」

 

「ありったけの人員を集めろ! 俺の大隊から二個中隊を回す! 他の師団に増援も要請しておくんだな!」

 

 数を報告した大隊長は、ワートホグに揺られながら師団本部にまで向かった。

 スコーピオン戦車やウルヴァリン自走砲、対空チェーンガン装備かロケットランチャー、ミサイルランチャー装備のワートホグが配置に着く中、海兵隊員らは自分らに迫る二個師団相当の敵の襲撃に備えた。

 

「はっ!? 準備砲撃だ! 全員伏せろ!」

 

 砲声を聞いた双眼鏡を持つ士官が敵の準備砲撃を知らせれば、海兵隊員らは付近の塹壕に飛び込んだ。

 全員が塹壕に飛び込んだ後、同盟軍の準備砲撃で数々の陣地が吹き飛ばされ、数量の戦闘車両も吹き飛ばされる。数十名の海兵隊員らも吹き飛ばされた。

 機動戦を重視してか、砲撃は数分程度であり、そこから同盟軍の機甲部隊が海兵隊員らが守る陣地に雪崩れ込んで来る。砲撃を塹壕に飛び込んで凌いだ前線指揮官は塹壕から飛び出し、双眼鏡を持って後方の砲兵連隊に阻止砲火を行うように叫ぶ。

 

「来たぞぉ! 敵の機甲部隊だ! 師団規模が突っ込んできやがる! 無線兵、直ちに砲兵連隊に砲撃要請だ! 総員は対戦車戦闘用意!!」

 

 無線兵には砲撃要請を命じ、戦闘配置に着く者たちには対戦車戦闘を命じた。

 海兵隊が守る陣地に接近する敵機甲部隊は戦車などの戦闘車両のみならず、バクゥやザウートなどのMS、ファッティーなどのATも含まれており、かなり大規模な物であった。その背後から多数の歩兵部隊が続いている。

 出来る限り数を減らそうと、阻止砲撃が行われたが、敵は損害に構わず前進してくる。遂に射程距離内まで敵が迫って来た。

 

「航空支援は!?」

 

「他でも反撃が始まっていてこっちには回せん! 支援無しでも耐えるんだよ!」

 

「無茶苦茶だ!」

 

 迫る敵の機甲部隊に航空支援は出せないのかと問う海兵隊員に対し、前線指揮官は無しでも耐え抜けと無茶ぶりを言う。

 阻止砲火を抜けた同盟軍の機甲部隊が続々と接近する中、仕掛けられた地雷原に入った。次々と機甲部隊が被害を出すが、それでも構わずに前進してくる。そんな機甲部隊に更なる損害を与えるべく、砲撃を生き延びたスコーピオン戦車部隊は砲火を浴びせる。

 これで敵の戦力をかなり削ぎ落したが、歩兵部隊の方はまだ元気だ。前線指揮官は的確な指示を飛ばす。

 

「火力のある兵装を持つ隊は敵機動兵器に集中しろ。歩兵は戦車や敵歩兵に集中せよ! 空も見張れ! ガンシップも来るはずだ! 奴らを絶対に通すな!」

 

 戦闘車両部隊は機動兵器などに集中するように命じ、歩兵部隊には敵歩兵と戦闘車両部隊、上空の戦闘ヘリに集中するように命じた。

 その指示通りに海兵隊員らは防戦を開始する。スコーピオン戦車や自走砲、ミサイル装備のワートホグは敵機動兵器を。歩兵部隊は敵戦車や戦闘ヘリ、歩兵部隊を。各々決められた戦闘を行う海兵隊員であるが、当然ながら被害が出る。

 

「い、イオラ二等軍曹が!?」

 

 M41ロケットランチャーで敵戦車を撃破した軍帽を被った海兵隊員であるイオラであったが、その直後にプラズマ弾によって頭部を吹き飛ばされた。近くに居た装填手は驚きの声を上げ、頭の無い彼女の身体から認識票を取る。

 

「ぷっ! くたばれエイリアン共!!」

 

 味が無くなったガムを吐き捨てたアンドリューは、野球の経験を生かして手榴弾を前進してくる敵歩兵部隊に向けて投げようとした。だが、その手は敵の狙撃手に吹き飛ばされ、落ちた手榴弾は爆発してアンドリューを殺す。隣でM739ライトマシンガンを撃っていたベトナム系の海兵隊員であるグエンを巻き込んだ。

 

「二名死亡! クソったれめ!」

 

 付近でSRS99-5対物ライフルで狙撃を行っていたハミルトンは二名が死んだことで苛立ち、仇を討とうと狙撃を続行する。ワザと足を撃ち、敵兵を悶え苦しませる。そこを助けようとする敵兵に向けて撃ち込み、被害を出させる。中々酷い手であるが、敵に対して効果的な手である。

 だが、次に死亡したのはその手を使ったハミルトンであった。彼と観測手は狙撃に集中するあまり、弾幕を掻い潜って突っ込んできた両手にプラズマグレネードを握ったアンゴイ、特攻グラントに気付かず、特攻で吹き飛ばされた。

 

「スナイパーがやられた! 敵が入り込んだぞ!」

 

 ハミルトンらがやられたことで、次々と特攻グラントが入り込んでいることに気付いた。気付いたムンはロケットランチャーを置き、アサルトライフルを持って迎撃したが、敵の戦闘車両の攻撃で上半身を引き裂かれた。

 

「畜生が! 死ね! 死ねぇぇぇ!!」

 

 ムンを殺されたことに激怒したシュウはライフルを棄て、得意なM45D散弾銃を取り、撃った反動でポンプを引いて次弾を薬室に送り込むスラムショットと言うやり方で、突入してくる敵歩兵を射殺したが、ファッティーのヘビィマシンガンを撃ち込まれ、原形を留めない状態となる。

 

「この帰る野郎が!!」

 

 無精髭のロシア系の海兵隊員であるガースキーが、シュウを始めとする海兵隊員らを惨殺するそのファッティーをロケットランチャーで撃破する。続けざまに突っ込んでくる敵車両を撃破したが、バクゥのミサイルポッドの攻撃で吹き飛ばされて戦死した。

 その他にも防衛線に食い込んだ敵歩兵や車両部隊によって、次々と海兵隊員らは散って行く。乱戦状態となった陣地内での戦闘で、戦意を徐々に失う海兵隊員らであったが、何名かは懸命に陣地内に侵入した敵に対処していた。

 

「全く、増援はまだなのかい!」

 

 ロケットランチャーを背負い、この乱戦状態でライトマシンガンで的確な射撃を行うファル曹長は、増援はまだなのかと言う。

 

「来るでしょうな! それまで我々が生きていればですが!」

 

 偶然にもファルの近くに居る元憲兵隊(MP)のカイン伍長は二脚を展開した同じライトマシンガンで射撃を行いつつ、彼女に増援が来るまで生きているかどうか分からないと答える。この返答にファルは苦笑いを浮かべ、向かってくる敵兵を撃ち殺し続けた。

 海兵隊と同盟軍の地上軍の激しい攻防戦が行われる中、第1海兵隊師団本部近くでは、新たなる増援が前線に送り込まれようとしていた。




切りが良いので投稿しました。

次もまた激戦になる予定です。


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増援として

名前:ティル厶
性別:男
年齢:20
階級:一等兵
所属:連邦軍歩兵部隊
武器:モリタ式ライトマシンガン
概要:スキンヘッドの兵士。
キャラ提供はわかものさん。

名前:リハ一等兵
性別:男
年齢:21
階級:一等兵
所属:連邦地上軍歩兵部隊
武器:モリタ式ライトマシンガン×2
概要 フレンドリーなアジア系兵士。モリタ式ライトマシンガンを二つ同時に乱射出来るほど高身長と筋肉を持つ。

名前;ファン・クレイン
性別;男
年齢:24
階級:少尉
所属:UNSC海兵隊員
武器:SRS99ー5対物ライフル、室内戦ならM6Hハンドガン二丁
 軍用車で移動する際は弾薬補給支援をする為に大量の弾薬運搬を行う。狙撃の際は軍用車の上で狙撃。狙撃は最高600メートルが限界。
キャラ提供は団子狐さん。

名前:ロコ・ダイン
性別:男
年齢:30辺り
階級:一等兵
所属:連邦軍歩兵部隊
武器:モリタ式ライフル
概要:頼りがいを感じる先任。
キャラ提供はリオンテイルさん。

名前:タモリ(通称)
性別:男
年齢:35
階級:少尉
所属:連邦地上軍歩兵部隊
武器:モリタ式狙撃銃。
概要:タモリのそっくりさん。

名前:タダシ・モリ
性別:男
年齢:30
階級:軍曹
所属:連邦地上軍歩兵部隊
武器:ニューク弾ランチャー。
概要:タモリの通称を広めた仕立て人。
キャラ提供は黒子猫さん。


「中佐殿、ライフルは扱えます?」

 

 橋頭保を守るUNSC海兵隊の第1海兵隊師団は、同盟地上軍の二個機甲師団相当の反撃部隊に圧されつつあった。

 そこで師団本部の幕僚らは、師団本部近くに居る所属の違う友軍将兵を動員することに決定。待機所で寝転がっていたマリも呼ばれ、呼び出しに来たアフリカ系女性の海兵隊大尉にライフルを扱えるかどうか問われる。

 ライフルとは、正式採用されているMA5アサルトライフルD型のことだ。

 扱い方は一応は知っているので、無言でうなずいた所、大尉はそのライフルを投げて来た。

 

「ならこちらへ! 前線に兵力が足りません! 中佐にも戦ってもらいます!」

 

「え? 私、戦うなんて…」

 

「良いから早く! 突破されそうなんです!」

 

 断る暇も無く、マリは海兵隊大尉に連れ出され、前線へと続く列に並ばされた。

 前線へと送られる増援部隊はUNSC海兵隊のみならず、連邦参加勢力の様々な将兵が含まれていた。迷子兵や間違った場所に降下した歩兵部隊、機体を失ったパイロットたちだ。

 その中に加えられたマリは逃げ出そうと思ったが、海兵隊の憲兵隊が見張っている。

 

「い、嫌だ! 俺は戦場に行きたくない!!」

 

「待て! 逃げるな!!」

 

「構わん! 撃て!!」

 

 見張られているにも関わらず、あの降下した直後の戦闘で生き延びた一人の連邦陸軍歩兵は戦場に戻ると恐怖して逃げ出した。だが、この状況下で逃げられるはずが無く、背中に三発も撃ち込まれて射殺される。

 撃ち殺した脱走兵の遺体を憲兵隊が回収する中、第1海兵隊師団の師団長が逃げ出せばこうなると見せしめのように告げる。

 

「私はエディ・マクレーン海兵隊中将! 当第1海兵隊師団の師団長だ! 先の脱走兵の末路は見たな? 逃げ出す者は、裁判なしで即刻刑が処される。あぁなりたくば、我々の命令を聞いてもらおう。管轄が違おうともだ」

 

 この海兵隊の師団長の言葉に、勢力も管轄も違う各員は従った。一部不服な者が居たが、あの師団長はかなりの死線を潜り抜けた強者の前線指揮官であり、顔に刻まれた数々の傷がそれを現していた。彼が睨み付ければ蛇に睨まれた蛙のように大人しくなる。

 

「よし、まずは友軍を助けろ。それから原隊へ復帰だ。分かったな?」

 

 師団長からの指示に無理やり増援部隊として編入された将兵らは従い、徒歩で前線へと向かう。

 激闘が続く前線へと徒歩で向かう中、既に後方にも突破した同盟軍が居たのか、前線へと向かう増援部隊と交戦していた。他の増援として向かう部隊は連邦軍の歩兵部隊であり、敵が強力な部隊な所為か、撤退に追い込まれつつあった。

 

「くそっ! クソォォォ!!」

 

 敵部隊、それもMSのダナジン二機であり、碌な対兵器を持たない歩兵部隊は蹂躙されていた。尻尾で数百名の歩兵が吹き飛ばされ、更には両手のビームバルカンで消し炭にされる。

 そんな味方を蹂躙するダナジンに、歩兵であるスキンヘッドのティルム一等兵はヤケクソになり、効かないモリタ式ライトマシンガンを乱射する。そんなティルムをダナジンは容赦なく尻尾で吹き飛ばした。

 その死体は屈強の体格を持つアジア系のリハ一等兵の元まで吹き飛び、ティルムの死体を見た彼は怒りを覚え、まだ使えるモリタ式ライトマシンガンを左手に持ち、もう一方の手に持つ同じマシンガンで乱射する。

 

「退避だ! 退避ィィィ!!」

 

「野郎! こっちに来やがれぇぇぇ!!」

 

 まだ生きている味方を助けるため、リハは囮を買って出たのだ。派手に二挺のライトマシンガンを乱射する。それはダナジンのパイロットの目を引くには十分であり、注意は完全にリハに向いた。

 

「うぉぉぉ!!」

 

 両手に持つライトマシンガンの反動を自慢の体格と筋力で抑えながら乱射するリハであったが、虚しく顎にあるビームシューターを撃ち込まれて消し炭にされた。

 リハを吹き飛ばした破片か、その破片が歩兵のロコ・ダイン一等兵が頭部に突き刺さって彼は絶命する。

 

「だ、ダイン!?」

 

「な、なんて奴だ…!」

 

 彼の同期の歩兵の一人がロコの名前を叫ぶ中、タモリの愛称を持つモリタ式狙撃銃を持つ歩兵少尉は恐怖を覚えた。

 そんな彼らの元に、マリを含めた増援部隊が到着し、混乱を極める。

 

「も、MSだって!? まずいぞ!」

 

「怯むな! 対MS戦闘用意! 徹甲弾頭を使うんだ!」

 

 MSを見た一人の兵士が逃げ出しそうになる中、指揮官は怯まずに対MS戦をするように命じる。これに合わせ、対戦車戦闘要員らがロケットランチャーやミサイルランチャーを構え、二機のダナジンに照準を合わせる。

 対MS戦闘を命じた指揮官は、ニューク弾ランチャーを持つタダシ・モリを逃さず、彼にも対MS戦闘をするように命じる。

 

「お前もやれ!」

 

「あの、自分は対MS戦闘の訓練は…」

 

 自分は対MS戦闘訓練などしたことが無いと言うタダシであるが、歴戦の海兵隊員に胸倉を掴まれ、恐ろしい眼光で睨まれる。

 

「死にたくなければ黙ってやれぃ! お前の大勢の戦友があのクソったれの機械に殺されているんだぞ!? 仇を取りたくないのかぁ!?」

 

「は、はいぃぃぃ! 直ちに対MS戦闘に加わります!」

 

「それで良し! 援護射撃開始ぃ!」

 

 タダシが命令に応じれば、海兵隊員、それも少佐は部下たちに援護射撃を命じた。

 狙撃兵であるファン・クレイン少尉はSRS99-5対物ライフルの二脚を展開し、専用の弾倉が入った箱を持つ観測手と共に付近に着かせ、ダナジンの駆動部や関節部を狙う。同じ狙撃と言っても、マークスマンであるタモリも配置に着き、対MS戦闘班を援護するべく狙撃を始めた。

 

「ぐぇあ!」

 

 物の見事にダナジンの注意を引けたが、その代わりにタモリはビームで付近に居た小隊の隊員達共々吹き飛ばされた。タモリの右半身は完全に吹き飛び、そのまま彼は息絶える。小隊の兵士と思われる黒焦げた肉片が飛んでくる中、有効射程距離に対MS戦闘班が来るまで歩兵部隊は援護射撃を続ける。

 彼らの犠牲あってか、対MS戦闘班はダナジンの懐に入ることに成功。直ぐに徹甲弾頭のロケット弾を関節部に撃ち込み、ダナジンを行動不能に追い込んだ。そこから分隊ほどの海兵隊員らが頭部に接近し、乗っていたパイロットを射殺する。

 

「えっ!? アァァ…」

 

 残る一機であるが、それを狙っていたタダシは気付かれて振り下ろされた尻尾で潰されてしまった。幸い、ニューク弾は無事であったが、取りに行くには注意を引かねばならない。

 

「残る一機だ! こちらに引き付けろ!」

 

 少佐はバトルライフルを撃ちながら指示を出し、傘下の歩兵らもダナジンに向けて射撃を行う。その間に対MS戦闘班は次弾を装填して、気付かれないように有効射程距離まで向かっていた。

 もう直ぐと言う所でダナジンに気付かれてしまい、対MS戦闘班はビームバルカンの掃射を受け、全滅してしまった。

 

「クソっ! 戦闘班が!」

 

「第二陣を出します!」

 

 対MS戦闘班がやられてしまったことに、少佐は近くの岩石に八つ当たりの拳を打ち込む。隣の副官は第二陣を出すと言って、待機していた予備の対MS戦闘班に無言で指示を出す。

 引き続きヘイトを取るための援護射撃を始める少佐等であったが、その必要は無かった。一団を勝手に離れたマリが、潰れたタダシのニューク弾を拾い上げ、ダナジンの背後に向けて放ったのだ。

 放たれたニューク弾はダナジンの背後に命中し、見事に敵機を撃破した。倒れたダナジンの頭部からパイロットが逃げ出そうとするが、殺気立った歩兵らが見るなり手にしている小火器を発砲して射殺する。ダナジンを撃破したマリは破片が胸に突き刺さっていることに気付き、それを引き抜いた。

 言い忘れていたことだが、マリは不老不死なのだ。

 

「まずい」

 

 破片は致死量に至るくらいの物なので、自分が不老不死と気付かれれば厄介なことになることは間違いない。隠す為に付近で首を折って死んでいる迷彩ポンチョを羽織った兵士よりそれを奪い、ポンチョを羽織って傷を隠した。

 そんな彼女の元へ、歩兵大隊を惨殺していた機械の化け物を殺した英雄をもてはやしに、少佐等が馳せ参じて来る。

 

「凄いですな、中佐殿。まさか対MS戦闘までこなすとは」

 

「たまたまよ」

 

「たまたま? まるでスパルタンのようですな。それより」

 

 偶然だと言うマリに対し、少佐は否定することなくスパルタンのようだと褒め称える。そんな彼女がいつの間にか羽織っていた迷彩ポンチョに気付いてか、それをどこで手に入れたかと問う。

 

「そのポンチョは何処で? 最初は作業着だったはずでは?」

 

「ちょっと貰った」

 

「貰った。ふむ…」

 

「速く行った方が良くない? 全滅するわよ?」

 

 適当に答えれば、少佐は付近で首を折って死んでいる兵士を見た。怪しまれたと思ってか、前線に行かないのかと急かす。

 

「詮索は前線の危機を脱してからですな。よろしい、総員ただちに駆け足! 前線の戦友たちが待っているぞ!!」

 

 急かせば、少佐は前線への救援を優先し、部下たちを引き連れて前線の海兵隊員らの元へ急いだ。

 

 

 

「おぉ! 救援だぞ!!」

 

 前線で雪崩れ込んで来る同盟軍の機甲部隊や歩兵部隊と激しい白兵戦を繰り広げる海兵隊は、やって来た少佐が率いる混成増援部隊を見て喜びの声を上げる。

 混成部隊は戦闘団と化しており、数は定数割れの歩兵三個大隊と一個海兵隊大隊。ちょっとした連隊となっていた。他にも連隊や旅団規模の増援部隊が来たが、さっそく敵部隊と乱戦状態に陥っていた。

 

「射撃開始!」

 

 射撃位置に着いたファンは滑り込むように寝そべり、大口径狙撃銃の二脚を展開して構え、観測手のサポートを受けつつ敵将校の狙撃を開始する。一人、二人と狙撃して敵の指揮系統を破壊していく。

 増援が来たことで海兵隊員らは士気が上がり、向かってきた敵兵を携帯スコップやライフルの銃底で殴り殺す。マリは迂闊に近付かず、目に見える敵をライフルで次々と射殺していった。

 一方で同盟軍にはサンヘイリやジラルハネイ、その他諸々の参加勢力の強者たちが居り、連邦軍歩兵たちを惨殺していた。強力な腕力で歩兵らを殴り殺し、鋭利な刃を持つ武器で人体を切り裂き、大振りの金槌で数人纏めて殴り殺す。一瞬にして人間屠殺場となっていた。

 

「あぁぁぁ!?」

 

 女性の歩兵は自分を斬りに来たサンヘイリにモリタ式ライフルを乱射しながら絶叫する。その女性兵士の首を赤いサンヘイリは手にしているエナジーソードで刎ねた。刎ね飛ばされた首はマリの足元に落ち、赤いサンヘイリは次の獲物を彼女に定める。

 向かってきた赤いサンヘイリにマリはライフルを撃ち込むが、シールド持ちであり、一発や二発では効果が無い。直ぐに連発に切り替えたが、近付かれた後であり、ライフルを切り裂かれてしまう。

 

「もう!」

 

 魔法で武器を取り出そうとしたが、乱戦状態とはいえ、人の目があり過ぎるので直ぐに取り止め、近くの武器を拾って応戦する。一撃と二撃の斬撃を軽やかな身のこなしで躱し、落ちている銃火器で反撃するも、シールドは貫けない。

 そんな彼女は気付かれないように魔法で仕留めようかと思ったが、大振りの工兵用スコップを見付け、それを赤いサンヘイリの胴体に思いっ切り突き刺して倒すことに成功した。

 

「右側面より敵!」

 

 マリが赤いサンヘイリを倒したところで、狙撃を行っていたファンの右側面よりジラルハネイが襲い掛かって来た。これに気付いた観測手が大語でライフルを構えながら知らせる。それに応じ、ファンは狙撃銃から手を離して両腰のホルスターに収まっている二挺のM6Hハンドガンを引き抜き、観測手と共に向かってきたジラルハネイを撃ち始める。

 他の狙撃班も撃っているので、ジラルハネイのシールドはたちまち剥がれ、ジラルハネイは一瞬にして蜂の巣と化した。だが、一体だけでなく、数体以上が来ているので、銃撃戦と化す。

 増援が来て戦闘は膠着状態となっていた。歩兵だけだが、戦況は続々と増援が到着する連邦軍の方が有利に傾いている。何故なら降下地点より次々と連邦軍の部隊が降りてきているのだ。幾ら殺しても出て来る連邦軍の歩兵部隊に、同盟軍は弾薬が底を尽きかけているのか、後退気味になっている。その所為か地面は無数の死体で埋め尽くされているが。

 

「奴ら、下がっているな!」

 

「えぇ。歩兵だけですが、援軍が次々と来てくれています!」

 

 塹壕に入り、ライフルを撃ち続けているジョセフは同盟軍が後退しているのを見て、勝機が見えてきたと言えば、同じ塹壕に入っているキムは銃を撃ちながら後退する敵兵を撃って援軍が続々と来てくれると希望を持つ。

 

「ようやく終わるってかい! 全く、死体から幾ら弾を取ったか!」

 

 ライトマシンガンを撃ち尽くした後、ファル・ドバールはようやく終わると思い、再装填を素早く済ませ、再び掃射を初めて数名の敵兵を撃ち殺した。

 

「敵が退いているます! 後もう少しだ!」

 

 同じライトマシンガンを持つカイン伍長も、それを撃ちながら敵が後退しているのを見てもうじき終わると確信した。

 カインが思った通り、同盟軍はかなりの戦力損耗と弾薬の枯渇、連邦軍の過剰な増援で後退しており、後からやって来る大量の歩兵の追撃を受けていた。

 

「やっと来たか! 何処で油を売っていた!?」

 

 他の近接航空支援を終えてか、AV-14ホーネットの改良型、スパローホークも到着して同盟軍の地上部隊を攻撃し始める。これに前線指揮官は余りに遅かったために苛立った。

 やって来た数は四機編成の一個小隊であり、数は少ないが地上の同盟軍の車両部隊には脅威であった。既に同盟軍のガンシップ部隊や航空機は宇宙から続々と降下してくる連邦軍の戦闘機部隊に排除されており、過剰な歩兵の増援によって限界に達している。それに機動兵器部隊の損耗は激しかった。同盟軍の攻撃部隊に残されたのは、撤退するか玉砕するかの二択だ。

 当然、同盟軍の攻撃指揮官が選ぶのは前者だ。玉砕するほどの忠誠心は持ち合わせていない。撤退信号を打ち上げ、同盟軍は撤退行動に移った。

 

「敵が後退するぞ!」

 

「追撃だ! 追撃しろ! 出来る限り削り切るんだ!!」

 

 同盟軍が撤退行動に移ったことで、連邦軍の歩兵部隊は追撃戦に移行した。目的は同盟軍の機甲戦力を出来る限り削り切ることである。

 

「我々も追撃しますか?」

「馬鹿言うな。この状況でどう追撃できる? 後から来た連中にやらせれば良い」

 

「それも、そうですね」

 

 追撃戦を行う連邦軍の歩兵部隊を見て、海兵隊の副官は前線指揮官に追撃戦に加わるかどうかを問えば、歴戦の指揮官は近くの岩の上に腰を下ろし、今の状況で追撃できるかどうかを問う。同じく戦っていた副官も上司の言う通りと判断して、帽子を脱いで水筒の蓋を開け、水を一口飲んで喉を潤す。

 最初に攻撃に晒された海兵隊は疲弊しきっており、戦闘が終わった海兵隊員らはその場で倒れ込むか尻もちをついている。そんな状態で追撃戦などすれば、余計に被害が増すことは明白であった。定数を満たしていたスコーピオン戦車やワートホグ、ウルヴァリン対空自走砲は数を一気に減らし、もう一度攻撃されれば一溜りも無い状態となっている。

 同盟軍の反撃より橋頭保を死守した第1海兵隊師団は、戦力損耗を理由に追撃戦に加わらず、再編の為にこの場に留まった。

 

「もう、最悪! 何なのよこれ!?」

 

 悍ましい白兵戦を終えたマリは、疲労の余り死体の上に倒れ込んでしまい、身体中に血を浴びた。余りの汚さに振り払おうとしたが、内蔵が手に絡まると言う更に酷い目に遭う。

 ファン、キム、ジョセフ、ファル、カイン、その他諸々の海兵隊員らは慌てふためくマリを見て笑った。




なんだか物足りないな…。
次回もこれの上回る物が書けたら…。

それとキャラ募集中です。そんで他の方にも書いてもらえたら嬉しいな~。


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伝説のスパルタン、再び!

名前:ムクド・ガリーム
性別:男
年齢:23歳
階級:上等兵
所属:COG歩兵隊
武器:ランサーアサルトライフル
概要:ロシア系の歩兵、歩兵隊の中では優男に見える、あくまでも相対的評価。
キャラ提供はリオンテイルさん。

名前:パーク・デイヴィット
性別:男性
年齢:28
階級:上等兵
所属:COG歩兵隊
武器:ランサーアサルトライフル
ヘビースモーカーで煙草よく吸っているアメリカ系。歩哨、ポーカーで負けが込んでいるため早く交代して取り戻したいと考えている。
キャラ提供はスノーマンさん。

版権キャラ

マスターチーフ
HALOをご存じなら、知るぞと知る伝説のスパルタン。
三作目は異能生存体顔負けの活躍を行い、世界中を熱狂させた。
四作目からは守護天使であり最高の相棒とも言えるコルタナとの別れで、兵器から人となってしまい、吹替声優も変わって情けなくなってしまったが、最新作に期待。
搭乗機はテムジン マスターチーフスペシャル(フォアランナーモデル)

デルタ部隊の奴ら
Gears of Warを知っているならご存じの愉快なガチムチの男たち。
参戦作品にGears of Warがあるので、出て来なければおかしいので、今回はゲストとしてご登場。


 日が沈んだ後、橋頭保を確保し、砲撃陣地を破壊したODSTと合流したターニャ等本隊は、COGの部隊と合流して休息を取っていた。

 一連の戦闘はターニャにとっては前世のライン戦線や東部戦線を遥かに上回る地獄であった。前世のルーシー赤軍を遥かに上回る敵の数に、ターニャは参ってしまい、ミニョルアーマーを着たままぐったりしている。

 それでもスパルタン、それも本物の如く健闘した為に本物と認識され、友軍からは英雄と注目されてしまう。

 

「あの中身は女なのは確かだが、顔はどうなってんだろうな?」

 

「戦争で大怪我したって噂だぜ。子供には見せられねぇ面をしてんだろ」

 

 付近で野営するCOGのデルタ部隊の隊長、黒いバンダナと黒い顎鬚が特徴な大男、マーカス・フェニックスはスパルタンとしてのターニャの素顔が気になる。同僚であるドミニク・サチャンゴことドムは、噂を信じて大変な重傷を負って見せられない顔をしていると言う。

 

「よし、俺の勝ちだ!」

 

「クソっ、またかよ!」

 

 坊主頭の黒人であるオーガスタス・コールは、煙草を咥えているパーク・デイヴィットにポーカーで勝利した。

 

「ちっ、ついてねぇな! そんで歩哨の時間か! クソったれめ!」

 

「お前は分かり易いんだよ。これが決め手だって顔に書いてあるんだからな。」

 

 勝ったことでガッツポーズをするコールに対し、パークは苛立ちを覚えて歩哨に向かう。コールはそれを煽ったが、彼は聞くことなく歩哨へと向かっていく。そんな彼のことを気にすることなく、コールはロシア系のムクド・ガリームと呼ばれる上等兵とポーカーを続ける。

 パークが抜けたことで、コールは友人が自分以外居ないデーモン・ベアードをポーカーに誘う。

 

「おい、ベアード! お前もポーカーやらねぇか!?」

 

「いや、このブロンドの天才が参加すれば、お前らはすっからかんだ」

 

「やらねぇのか。よし、続けるか」

 

 コールに誘われた同僚のベアードは、同盟軍より奪った機器を弄りながら自分が参加すれば他のプレイヤーが大損すると言って断る。それを知れば、コールはムクド等と共にポーカーを再開する。

 そんなこんなで、束の間の休息を各々のやり方で過ごす機動歩兵、ODST、COGの将兵たちであったが、同盟軍はそんな彼らに容赦なく襲い掛かる。

 

「なんだ?」

 

 吸い終わった吸殻を捨て、もう一本を箱から出して再び口に咥えたパークは、地面から鳴る音に気付き、手にしている銃身にチェーンソーが付いたランサーライフルの安全装置を解除する。

 音が鳴った方を調べようとした瞬間、パークは地面より飛び出してきた者に、鋭利な刃物で真っ二つに切り裂かれた。パークを切り裂いた際に大きな音を立てたので、マーカスたちに気付かれる。

 

「クソっ、ローカスト共だ!」

 

「地底人共のお出ましだ!」

 

 気付いたマーカスが飛び起き、ランサーライフルを取って穴から次々と出て来るローカストのドローンを撃ち始める。ドムも続いてライフルを手に取り、寝ていた同僚たちを蹴り起こしてマーカスと共に迎撃に向かった。

 

「起きろスパルタン・ターニャ! 敵襲だぞ!」

 

「クソっ! ローカスト共め! 休ませろ!!」

 

 副官であるアーデに起こされ、まだ疲労が残っているターニャは苛立ちながら目覚め、バトルライフルを取ってローカストの迎撃に向かった。

 付近に積み上げた土嚢に身を隠し、有象無象に接近してくるローカストらの迎撃を行う。数は不明であり、無線機を背負った通信兵は本部にローカスト襲撃の報を知らせる。

 

「こちらドッグ1! 敵襲だ! 地中から多数のローカストを確認! 数は連隊か旅団規模! 直ちに増援を請う! オーバー!」

 

『こちらドックハウス、了解した。直ちに増援部隊を派遣する。それまで持ち堪えろ! アウト!』

 

 通信兵の要請に対して本部は、増援部隊を派遣するからそれまで持ち堪えろと指示を出す。それを終えた通信兵は受話器を無線機に戻し、ランサーライフルを持ってローカストの迎撃を行う。

 寝起きのターニャは起きた眠れる獅子如く強く、たった一人でローカストの襲撃部隊を圧倒していた。目に見えるローカストらは次々とバトルライフルで射殺されて行き、中には殴られて頭を吹き飛ばされるか、踏み潰されて殺されるドローンも居る。

 分厚い皮と頑強な頭蓋骨を持つグレネディーアですら、スパルタンとなったターニャの前では潰される肉塊にしか過ぎず、バラバラに引き裂かれた。ブーマーと呼ばれる個体も襲い掛かるが、ドローン同様に撃ち殺されるか引き裂かれるだけだ。

 更に死んだCOGの兵士よりランサーライフルを取り、銃身に着いたチェーンソーを使って向かってくるローカストらを次々と切り裂いていく。

 

「なんで援護しないんだ!?」

 

 当の単独でローカストを圧倒しているターニャは援護を欲していたが、副官であるアーデを含め、前回同様に誰も援護しようともしなかった。ローカストを相手にしてきたマーカスたちはターニャの余りの強さに、援護の必要も無いと判断する。

 

「おい見ろ! なんだあいつは!? 俺の現役時代並みのプレーじゃねぇか!」

 

「おぉすげぇ! あいつ一人でローカスト共をミンチにしてるぞ!」

 

「あれがスパルタンって奴かぁ! 俺もなりてぇ~!」

 

 コールがターニャの強さに現役選手時代の自分のようだと言えば、それに反応してみたベアードは驚きの声を上げる。デルタ部隊で唯一正規品のヘルメットを被っているカーマインは、スパルタンになりたいとまで言う。

 

「すげぇ奴だ。援護は必要か?」

 

「いらねぇだろ。誤射しちまうか巻き込まれちまう」

 

 ローカストを銃身のチェーンソーで始末したマーカスは、ターニャに援護は必要かどうかをドムに問えば、同僚は邪魔になると答えた。

 

「それもそうだな。あの戦い様だ。返って邪魔になる。向こうはあいつに任せて、俺たちは俺たちの砲をやろう」

 

 ドムの答えにターニャの暴れぶりを見ていたマーカスは納得し、自分らの持ち場の掃討に集中することにした。

 またしてもターニャは単独での戦闘を強いられた。自分は援護して欲しいのだが、必死に生き延びようとする意志が裏目に出て、周りからは必要ないと思われる。

 

「あの、大隊長は?」

 

「いらん。あの様子では、間違って殺される」

 

「確かに…」

 

 別の方で迎撃を行うイヴ人らの方で部下の一人が援護すべきではと問うが、向かう者全てを殺し続けるターニャの動きを見せているので、アーデは迂闊に近付ては間違って殺されると答えた。

 彼女の周りは辺り一面がローカストの死体で溢れており、地面はローカストの地で赤く染まっていた。大型のローカストですら、ターニャの前では肉塊に等しい。味方の兵士らは引いており、誰も近付こうともしなかった。

 

「終わったな」

 

「あぁ。奴の周りは死体の山だ」

 

 マーカスらがローカストが出て来る穴を塞いだ頃には、ターニャは全てのローカストを殺し終えた後であった。彼女の周りにはローカストの血と内臓、そして死体で溢れている。

 襲撃して来たローカストを排除したターニャはその場で倒れ込み、日が昇る空を見上げていた。

 

「やっと終わった…もう勘弁してくれ…」

 

 次の襲撃が来ないことを祈りつつ、長時間の戦闘で疲弊しきったターニャは抵抗せず、迫る眠気に身を任せて眠りについた。

 

 

 

 場所は変わり、内戦後の惑星サンヘリオスでまたも争いが起こっていた。

 

「行けぇ! コヴナント復活の為、今度こそ腑抜けのアービターを打倒するのだ!」

 

 アービターことゼル・ヴァダムが率いる政権側であるサンヘリオスの剣と対峙するストームコヴナント残党は何処からか入手した通常型デストロイガンダムを投入し、政権側であるサンヘリオスの剣の守備軍を圧倒していた。

 サンヘリオスの剣も量産型ヒュッケバインMkーⅡなどの機動兵器を有しているが、巨体と圧倒的な強さを持つデストロイには敵わず、コヴナント戦争時代より使っている兵器共々破壊されるばかりだ。

 

「あ、アービターはまだか!?」

 

「宇宙の敵艦隊に阻まれて、救援に来られん!」

 

「狼狽えるな! アービターが居なくとも、我らで耐えてみせるのだ!」

 

 デストロイに蹂躙されるサンヘリオスの剣の戦士たちであるが、それでも主君の留守を守るために戦う。

 そんなサンヘリオスの剣の戦士たちに、コヴナント派のサンヘイリ族が乗るデストロイは容赦なくビーム砲を浴びせて燃やしていく。それでも戦士たちは街を、主君であるアービターが帰る場所を守るために戦い続ける。

 

「アービター無きサンヘリオスの剣など、この人類が作り上げたデストロイの前ではアリその物よ!」

 

「隊長! 右側面より接近中の物あり!」

 

「何奴!? 映像を見せい!」

 

 抵抗を続けるサンヘリオスの剣を侮る台詞を吐く残党軍の隊長に、右側面より接近してくる新手が来ると副砲手より知らされる。これを受けた隊長は直ちに見せるように指示を出せば、副砲手は迫る物体を移した映像を見せた。

 そこに映っていたのは、隊長がコヴナント戦争時代に知る人物であった。

 

「あ、あれはマスターチーフ…!? あ、悪魔では無いか! 何故サンヘリオスに居るのだ!?」

 

 映像に映っていたのは、かつてコヴナント戦争にて、単独で数も火力も圧倒する自軍を恐怖のどん底に叩き落した緑のミニョルアーマーを纏うスパルタン、マスターチーフであった。

 人類製の四駆のバギーであるマングースに跨り、真っ直ぐデストロイガンダムを目指して突っ込んでくる。

 

 ハルゼイ博士が提案したスパルタン計画の二番目、提案した本人も完璧と言わしめたスパルタンⅡに属する四十人の中の一人だ。圧倒的な戦闘力を有しており、コヴナント軍も一人殺すのに手を焼いた。

 マスターチーフはその中で最も強く、コヴナント軍は倒せず、挙句に内部分裂まで起こして敗退した。コヴナントにとってはアービターに次ぐ最も憎むべき相手であるが、最も恐ろしく、悪魔と言うに相応しいスパルタンである。

 

「あ、あれがマスターチーフ…! どうします!?」

 

「こちらにはデストロイがある! 人間の作り上げたこの兵器で奴を消し去ってくれるわ! 全照準を悪魔に向けるのだ!!」

 

 悪魔と呼ばれたマスターチーフであるが、自分らはそれを粉砕できるデストロイガンダムに乗っている。MA形態の四門のビームキャノンを撃ち込めば、マングースに乗るチーフを一撃で消滅できるだろう。

 そう判断した隊長は砲手に砲撃を命じた。それに合わせ、チーフの居る方へ向け、四門のビームキャノンを撃ち込む。強力なビームが自分に向かって飛んでくるが、チーフは怯まずに突き進んでくる。

 どう避けても余波で消し飛ぶのだが、チーフはそれを理解しているので、ビーム攪乱幕を内蔵した弾頭を装填したロケットランチャーを取り出し、それを片手で軽々と持ち上げ、空中に向かって放った。

 

「着弾! っ!? ビーム攪乱幕です!」

 

「ビーム攪乱幕だと!? 小癪な! ミサイルを撃ち込め!!」

 

 放たれた弾頭はビームが届く前に爆発し、ビームを無効化する成分を巻き散らした。その為か高出力エネルギー砲のビームは無効化されてしまう。即座に隊長はミサイルで対処するように指示を飛ばす。

 直ぐに六連装ミサイルが放たれ、チーフに向かって飛んでいくが、彼はランチャーを捨てて素早く短機関銃に持ち替え、あろうことかミサイルを迎撃した。並の人間ならまず不可能な芸当だ。

 

「み、ミサイル…迎撃されました!」

 

「ば、馬鹿な…!? フレアでもばら撒いたと言うのか…! 機体をMS形態へ変形させろ! もう直ぐ攪乱幕から抜ける! スキュラで消し炭にするのだ!!」

 

 ミサイルが迎撃されたことを信じられないでいたが、まだ武器があるので直ぐに対応を命じる。

 この間にチーフはビーム攪乱幕の範囲を抜けており、デストロイガンダムに近付きつつあった。MS形態に変形したデストロイは胸部の荷電粒子砲を発射し、更にはミサイルや両手のビームまで放った。並大抵の人間なら消滅しただろうが、チーフはこれを避けていた。

 こちらの攻撃を避けながら迫りくるマスターチーフに対し、隊長らは恐怖を覚える。

 

「こ、こちらの攻撃が避けられております!」

 

「そんな馬鹿な…!? 奴は不死身なのか!?」

 

 攻撃を避け続け、向かってくるチーフに対して隊長は不死身なのかと思い始める。あれほどの攻撃、機動兵器に乗らねば避けられる物ではない。それをマスターチーフは軍用バギーであるマングースでやっているのだ。恐怖を覚えるのは無理もないだろう。

 目と鼻の先になった際に両腕部誘導攻撃システムを使い、遠隔操作でチーフを攻撃した。その攻撃は流石に避け切れないのか、命中して爆発する。

 

「標的に命中!」

 

「フン! 慌てさせおって! 標的へ進路を向けろ!」

 

「はっ!」

 

 チーフを倒したと思った隊長らは一安心した。あれほどの攻撃だ、死ななければ本物の悪魔である。

 そう思っていた隊長らであったが、マスターチーフはコヴナントが恐れた通りに悪魔であった。爆炎の中からチーフが飛び出し、左腕のアンカーをデストロイに向けて打ち込み、コクピットがある部分まで登って来る。隊長らはそれに気付かず、標的である首都を目指した。

 アンカーを使ってコクピットがある部分まで来れば、チーフはフェイズシフト装甲を切り裂けるエナジーソードを取り、起動させてハッチを切り裂いた。

 

「っ!? なんだ!?」

 

「うわっ!? 生きてる!?」

 

 突然の如くハッチが切り裂かれ、そこから殺したはずのチーフが姿を現した。驚く隊長らはプラズマカービンなどで撃とうとしたが、チーフは起爆寸前の爆弾を投げ付け、直ぐにデストロイガンダムから飛び降りた。

 

「ば、爆弾だ!」

 

「速く捨てろ!!」

 

「間に合わない!!」

 

 爆弾を投げ込まれた操縦室は恐慌状態となり、隊長らは必死になって爆弾を捨てようとしたが、もう間に合わなかった。操縦室を爆破されたデストロイガンダムは機能を失い、サンヘリオスの大地の上に倒れた。

 爆発する寸前に飛び降りたチーフはスラスターを吹かせ、落下のダメージを減らして着地した。チーフは無線でデストロイを撃破したことを報告する。

 

「こちらシエラ117、デストロイガンダムを撃破した。そちらの状況は?」

 

『生身で撃破したのか!? こちらは十分だ。掃討戦に移行している』

 

「了解した。こちらも掃討戦に移る」

 

 生身同然でデストロイを撃破したことに宇宙で戦っているアービターが驚く中、チーフは自慢することも苦労したなどと言うことなく平然と残敵の捜索に入る。

 背中のMA5Dライフルを取り、デストロイが倒れた衝撃で発生した土煙の中を残敵が居ないか索敵を行うチーフであるが、彼だけに今はもう居ない者の声が頭の中に聞こえて来る。

 

『チーフ、チーフ!』

 

「コル…タナ…?」

 

 この声に警戒するチーフであるが、内心ではもう一度コルタナを取り戻せるのではないかと思っていた。明らかに自分を誘う為の罠であろうが、チーフにとっては罠でも確かめねばならない。

 そう判断したチーフは、アービターに報告してから声がする方向へと進んだ。

 

『チーフ、こっちよ!』

 

「こちらシエラ117、コルタナの声がする。確認に向かう」

 

『なに、コルタナだと? 止せ、罠だ!』

 

「罠であろうとも確認の必要性がある。アウト」

 

 報告すれば、予想通りにアービターは反対する。だが、可能性がわずかだとしても取り戻したいチーフはそれを無視してコルタナの声がする方向へと銃を向けながら進んだ。

 周辺を警戒しながら向かう中、土煙の中にコルタナらしき姿が見えた。直ぐに向かわず、罠であることを警戒しながら進み、彼女なのかと問う。

 

「コルタナか?」

 

 人影に問うチーフであるが、コルタナらしき人物は何の反応も示さない。接近戦に備えてライフルを背中に戻し、自動拳銃を抜いて空いている左手で人影に触れようとした。

 

「っ!? 罠か」

 

 予想通り、自分を誘う為の罠であった。コルタナらしき人物に触れた瞬間、チーフはサンヘリオスの地から転移した。転移する間際、チーフは全く動ずることが無かった。

 何故なら、コルタナが自分を殺そうとは思っても居ないからだ。殺そうとすれば殺せたのに、コルタナはチーフを殺すことはしなかった。だからこそマスターチーフは慌てなかったのだ。

 奇妙の空間、それもフォアランナーの船の船内に転移したチーフは即座に周囲警戒を行い、コルタナに自分をどうするのかを問う。

 

「コルタナ! 俺を人工冬眠機に閉じ込めるのか!?」

 

 銃を向けながら問い詰めるチーフに対しコルタナは、その姿を現して連れて来た理由を告げる。

 

「違うわチーフ。貴方を呼んだのは眠らせるためじゃない。ある兵器を破壊して欲しいの」

 

「破壊する? お前たちでやれば良いだろう」

 

「私たちには出来ない事よ。貴方にしか出来ない事なの」

 

 呼んだのは人工冬眠機で眠らせるためでは無く、ある兵器を破壊して欲しいと言う願いに対し、チーフはフォアランナーの力でやれば良いとコルタナに返す。だが、コルタナは自分らフォアランナーでは出来ず、チーフにしか出来ないと答える。

 

「なぜ俺なんだ? 他にもいるはずだぞ」

 

 返答の後、なぜ自分に兵器を破壊させるのかと問うチーフに対し、コルタナは激戦中のガルダーゴンの映像を見せる。

 そう、コルタナことフォアランナーがチーフに破壊させようとしたのは、ガルダーゴンに持ち込まれた神聖百合帝国の古代兵器、通称シークレットウェポンであった。

 

「こんな所にある兵器の破壊、貴方以外に出来る者は居なくて?」

 

 その映像を見せられたチーフは納得であったが、いくら自分でも決戦中のガルダーゴンに行くには幾つ命があっても足りないと返す。

 

「コヴナント戦争を思い出す激戦区だ。だが、幾ら命があってもこの中を突っ切るのは無理だ」

 

「大丈夫よ、その為に用意したのがあるから」

 

 無理だと突き返すチーフに対し、コルタナはその為の装備を用意したと答え、それを彼の目の前に召還した。

 マスターチーフの目前に召喚された兵器は人型機動兵器であり、自分のミニョルアーマーに似た外見をしていた。

 

「戦争を娯楽にしている世界で使用されているポピュラーな兵器の一つよ。名前はテムジン。貴方の好み通りに私たちの技術で作ってみたの」

 

「MSやPTでも無い機動兵器か。その機動兵器なら、確かに行けそうだ」

 

 その兵器の名はテムジン。コルタナはそれをフォアランナーの技術で作り上げたと答える。性能はフォアランナーの高度な科学力で作り上げられているため、チーフも納得の性能であった。

 

「テムジンの性能はこの世界の全ての兵器を凌駕してるわ。行ってくれるわね?」

 

「拒否権は無いんだろ? 行くしかあるまい」

 

 当然ながらフォアランナーの科学力で再現されたテムジンの性能は、このヴィンデルの歪んだ理想郷にある全ての兵器を凌駕している。

 コルタナに問われたチーフは拒否権は無いと判断し、テムジンに乗り込んだ。目標であるシークレットウェポンを破壊するために。

 

 かくして、連邦と同盟の決戦の地であるガルダーゴンの戦いは、マスターチーフの乱入によって更なる混迷を極めようとしていた。




ワクチン二回目摂取したので、左腕があんまり動かんのです。

流石に生身でデストロイガンダム撃破はやり過ぎたかな?
でも、チーフなら出来ないことも無いはず…。

スパロボ参戦のチーフの搭乗機は、バーチャロンに出て来るテムジン。あれをマスターチーフカラーにした奴です。

性能は本編で言った通り、フォアランナーの科学力で再現された為、性能はオリジナルを遥かに凌駕している。オリジナルの世界に持ち込めば、チート扱いされかねない。


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混迷のガルダーゴン

名前:プレベィナ・オーパス
性別:女性
年齢:21
階級:一等兵
所属:地球連邦軍歩兵部隊
武器:モリタ式狙撃銃
映画が大好きな若い兵士。
訓練過程はそれなりの成績で修めているが、拳銃の撃ち方がガンマンのようにする…などの映画の影響を強く受けた点がある。
また野営地でタバコを吸おうとするなど、迂闊なこともかなりの頻度で行おうとするため危なっかしい。
キャラ提供はただのおじさんさん。

名前:ラウ・モッグション
性別:男
年齢:36
階級:海軍少佐
所属:UNSC海軍 第5艦隊 近接航空支援群
搭乗艦:スタルワート級軽フリゲート「イーチャン(宜昌)」
コヴナント戦争後艦長になった海軍将校。
コヴナント戦争にも参加しているが、大半が後方勤務だったため、実戦経験が乏しめで本人もそれを分かっているため若干功に焦りつつある面がある。
今回地上部隊支援のため艦隊からCAS(近接航空支援)役に回された模様。
キャラ提供はスノーマンさん。

名前:ミーデンヤード
性別:男
年齢:34歳
階級:兵士長
所属:炎のバラ騎士団残党
乗機:プルデュエルガンダム

名前:ベルター
性別:男
年齢:46歳
階級:小隊長
所属:炎のバラ騎士団残党
乗機:ガンダムMkーⅣ
概要:連邦軍の基地を襲撃し、ガンダムを奪った炎のバラ騎士団残党の一人。

名前:ゴリゴンダリス
性別:男
年齢:不明
階級:空中攻撃兵
所属:スタースクリーム軍団
乗機:VF-27ルシファー
概要:金に目をつられてスタースクリーム軍団に参加したデカいおっさん。半分サイボーグである。

名前:暴嵐のペイン
性別:男
年齢:27
階級:特攻参謀
所属:スタースクリーム軍団
乗機:オーバーフラッグ
概要:フラッグ大隊の特攻隊長。全身に至るところまでピアスとタトゥーを付けたDQN。逆らう奴は誰であろうがボコボコにする。

名前:蛇毒のメディー
性別:女
年齢:25
階級:空中ミサイル攻撃兵
所属:スタースクリーム軍団
乗機:ズサ
概要:レディースな巨乳のDQN。
キャラ提供は黒子猫さん。

名前:バルゼー
性別:男
年齢:?
階級:母艦参謀(アポカリクス級航宙母艦:『宇宙戦艦ヤマト2202愛の戦士たち』に登場)
所属:スタースクリーム軍団
概要:スタースクリーム軍団に所属(製造?)する巨大空母型トランスフォーマー。
長距離移動に置ける(必要ならワープ機構や)各種物資や簡易整備装置・トランスフォーマーも含めてた乗員が寝泊まりできる宿泊施設を内蔵しており、これにより各員の移動に寄る損耗が無くなり万全な状態で戦闘に向かえる上に、空母からの支援も受けられる。
キャラ提供はkinonoさん。

版権キャラ

名前:スタースクリーム
性別:男
年齢:一億歳?
階級:新破壊大帝スタースクリーム
所属:スタースクリーム軍団リーダー
乗機と言うかF-15Cイーグル戦闘機にトランスフォームする。
概要:戦え! 超ロボット生命体トランスフォーマー、通称G1に登場するデストロン軍団のナンバー2。
G1を知る者たちならご存じの通りニューリーダー病を患ったDQNな元科学者。メガトロンが許しているのは、指示待ちだらけなデストロン兵士の中で積極的に動くからである。
ゴットカオスによって蘇ったヴィランの一人であり、圧倒的な戦闘力と持ち前の科学者としての知恵で自らの軍団を作り上げた。
ただし、その軍団はごろつき同然である。おまけにスタースクリームの性格の酷さもあって、脱走者も出ている。

カムジン・クラヴシェラ
マクロスを知る方ならご存じのカムジン兄貴。
スタースクリーム軍団に面白そうだからと言って、オイグルを始めとする配下の者たちともに参加している。


 宇宙も地上も激戦を極めるガルダーゴンにて、連邦軍の侵攻軍は三日目で神聖百合帝国のシークレットウェポンが保管されている同盟軍の要塞へと到達していた。

 

「あそこが一番防衛が厚いな。きっと司令部に違いない!」

 

 夜中、数も多く防衛も厚いことから、要塞の攻撃部隊の指揮官はあそこはガルダーゴンの防衛司令部だと勝手に思う。もっとも、同盟軍はシークレットウェポンを本国に運び出すための時間稼ぎをしており、司令部では無いのだが、司令部と思うのは無理もないだろう。

 

「もっと増援を呼ぶのだ! 明日に攻勢を仕掛ける! 必ず落としてくれるわ!」

 

 双眼鏡から目を離した指揮官は明日に攻勢を仕掛けるため、もっと増援を呼ぶように要請を命じ、自分の天幕まで戻っていった。

 野営地では多数の連邦軍の将兵等が明日の攻撃に備え、装備を点検するか睡眠を取っており、誰しもが明日の攻撃を生き延びる準備をしていた。

 そんな将兵らの中、それも歩兵で煙草を吹かせ、拳銃を西部劇のガンマン如く回している小柄な女性兵士が居た。同盟軍側の目に付くような場所で行っているため、直ぐに上官が注意する。

 

「馬鹿か! 敵の狙撃兵に撃たれたらどうする!?」

 

「す、すみません…」

 

 注意されたことで、連邦軍歩兵であるプレベィナ・オーパスは謝罪する。煙草の火を踏み消し、直立不動状態と取る。処罰を考えた上官であるが、明日の攻撃には兵力が一人でも多く必要なので、上官は処罰することは無かった。

 

「まぁ良い、明日の攻撃には人員は一人でも多く必要なのだ。よって明日の攻撃には先陣に立ってもらおう。分かったな?」

 

「軽犯に処して頂き、感謝いたします!」

 

「なら速く戻れ! 明日は速いんだ!」

 

 恩情を与えてくれたことにプレベィナは感謝すれば、上官は速く戻るように指示を出した。

 翌朝、UNSC海軍の第5艦隊に属する近接航空支援群に属する二隻のスタルワート級軽フリゲート、イーチャンとバーチャロンの到着を合図に、シークレットウェポンを保管している要塞に対する大攻勢が開始された。

 この大攻勢にはストーク・ハミルトンが駆るクランシェと、ウィル・シュタイナーが駆る量産型ビルドシュバインが属するODSTの降下軌道機甲部隊の全戦力が投入されている。

 他にもマルジン・アジャン、ミスティ・エーデル、ザン・バーガー、リック、ニック等の機動歩兵部隊も参加していた。

 UNSC海兵隊に関しては、再編がまだ終わっていないらしく、攻勢には参加していない。COGも同様に理由で参加しなかったようだ。尚、ターニャらもこの大攻勢に参加している。

 

「標的に照準を固定!」

 

「よし、直ちに艦砲射撃! 撃て!」

 

 フリゲート艦イーチャンの艦長であるラウ・モッグション海軍少佐は砲術長より報告を受ければ、地上に展開する同盟軍に対する砲撃を命じた。

 現場の指揮官は巡洋艦三隻を要求したが、残っているのはイーチャンとバーチャロンのみであり、残念がっていた。それでも同盟軍にとっては空から砲撃してくる軽フリゲートは脅威であり、碌な対艦装備を持たない地上軍の被害は甚大であった。

 

「歩兵隊、突撃ッ!」

 

 士官の突撃命令で、一斉に歩兵部隊は敵陣に向けて突撃を開始する。先にODSTを含める通常兵器と機動兵器、地上戦艦を含めた機甲部隊が突撃を行っており、同盟軍の頑強な抵抗に遭っている。相変わらず、凄まじい損害が出ているのだが、上空の航空部隊同様に損害に構わず前進していた。

 昨日のヘマで先陣を切らされたプレベィナはモリタ式狙撃銃を抱えつつ、他の運の悪い先陣たちと共に敵陣に向けて走り続ける。当然、歩兵にも同盟軍の砲火が浴びせられる。機関銃のシャワーだ。そのシャワーで一瞬にして何千人もの歩兵が薙ぎ倒された。

 

「ひっ、ひィィィ!!」

 

「怯むなァ! 損害に構わず前進だ! 負傷者は後続に任せれば良い!!」

 

「う、うわぁぁぁ!!」

 

 瞬く間に同じ先陣たちが大量に死んだのを見て、プレベィナは怯むが、後から来る士官が背中を押し、彼女はそれに押される形で運よく生き延びた者たちと共に突撃を続ける。進む度に千人以上もの歩兵がシャワーのような機銃掃射で薙ぎ倒されていくが、歩兵部隊は損害に構わず前進し続け、敵陣を目指して走り続ける。

 振り返れば、無数の味方の死体が転がっていた。原形を留めているのは良い方で、悪い方は細切れているか、原形を留めない程の肉の塊となっている。

 このガルダーゴンの地は、敵味方の血で赤く染まっているのだ。今のガルダーゴンは死体で溢れかえっている。酷い所は足の踏み場もないくらいの死体だらけだ。ここも時期に酷い所と同じように、死体で埋め尽くされることだろう。

 そんなことは知ったことでは無く、連邦と同盟の双方は互いの正義の為に殺し合いを続けた。

 

「やっと遮蔽物…!」

 

「撃ち方始め!」

 

 いつ当たるかも分からない弾丸のシャワーからようやく逃れられる遮蔽物へたどり着いたプレベィナはそこから狙撃を行い、機関銃の射手を撃ち始める。他にもモリタ式ライトマシンガンを持つ機関銃分隊も到着し、突撃する歩兵の援護射撃を行う。

 戦車や歩兵戦闘車の類、AT等は何処に消えたかと言えば、敵のロケット砲陣地に優先的に狙われ、機動兵器同様に徹底的に撃破されていた。当然の如く敵は機動兵器を防衛に配置しており、ミサイルやビームなどをお見舞いしてくる。その所為か、無数の歩兵が吹き飛ばされ、誰の物か分からぬ腕や脚、内蔵などが降って来る。

 上空の二隻の軽フリゲートはどうしたかと言えば、敵の機動兵器群の攻撃を受け、バーチャロンは撃沈され、その残骸は多数の味方の上に落ちてかなりの被害を出している。残ったイーチャンは慌てて後退し、航空支援は出来ない状況だ。上空でも激しい攻防戦が繰り広げられていた。

 

「怖くない、怖くない…!」

 

 撃ち殺される味方や振って来る血で自分の装備が真っ赤に染まるが、プレベィナは自分に言い聞かせながら味方の歩兵を薙ぎ倒し続ける機関銃の射手を撃ち続ける。他にもモリタ式狙撃銃を持つ狙撃兵、機動歩兵、ODST、ISAの狙撃兵なども居るが、今のところはプレベィナが一番成果を上げている。

 

「来たか! 配置急げ! 鬱陶しい陣地を吹き飛ばし、MS隊やPT隊、ATなどの機動兵器部隊を前進させる!」

 

 ATであるスコープドック数機が無数の機銃掃射やミサイルに撃破されたところで、迫撃砲チームがプレベィナの居る遮蔽物まで辿り着いた。直ぐに適切な場所に配置し、射角を敵陣に落ちる方向に合わせ、砲弾を運搬するチームが到着するのを待つ。数秒後に、砲弾が入った箱を必死に運ぶチームも到着して、ようやく砲撃が出来る状態となった。

 

「装填!」

 

「発射!」

 

 砲手が砲弾を砲身に半装填させたことを知らせれば、部隊長は砲撃を命じた。それに応じて砲手は砲弾から手を離す。砲身の中に入った砲弾は下部にある信管を突かれて砲身から飛び出し、標的に向かって飛んでいく。数秒後に標的に着弾したが、風の所為か少しズレていた。直ぐに修正を行う。

 

「ズレた! 射角を修正せよ!」

 

「修正中! 完了!」

 

「砲撃再開!」

 

 迫撃砲のハンドルを回して射角の修正を行えば、砲撃を再開する。続々と他の迫撃砲部隊も到着し、それぞれの標的に砲撃を行う。

 歩兵部隊も敵陣に到着したのか、敵の歩兵と激しい攻防戦を行っている。機動歩兵やODST、ISAも到達しており、白兵にまで発展している。同盟軍もここを絶対に守らねばと思ってか、サンヘイリやジラルハネイ、レクゴロ、挙句にヘルガストの重歩兵まで配置している、当然ながら激しい攻防戦に発展する。

 

「突撃! 突撃ィ!」

 

「先より恐ろしい攻防戦だ…!」

 

 双方、精鋭の投入により戦闘は激しさを増し、恐ろしい数の死傷者が出ている。当然ながら精鋭の機動歩兵やODSTですら戦死するほどの激戦だ。奇跡的にターニャ等の特務魔導大隊は誰一人として戦死者も負傷者も居ない。いつ死傷者が出てもおかしくない現状だが。

 そんな激戦区の中を、ターニャ等はシークレットウェポンを目指して必死に戦い続けた。

 

 

 

「決戦が始まったな。連邦軍が押しているようだ」

 

 一方、頃合いを見てシークレットウェポンを奪取しようとする一団、ガンダ率いる炎のバラ騎士団残党とジャマイカン率いるクジャン軍、そしてスタースクリーム率いる軍団は遂に時が来たと判断し、攻撃を開始した。

 先陣を切るのは、ごろつきの集団と化しているスタースクリーム軍団であった。

 

「さぁて、作戦通りにこのスタースクリーム様の軍団が先陣だ。野郎共! 連邦も同盟も皆殺しにする勢いで突撃するぞぉ!!」

 

『おぉーッ!!』

 

「スタースクリーム軍団、アターック! 俺に続けぇ!!」

 

 スタースクリームが先頭に立って配下の軍団を鼓舞すれば、ごろつきや族の集団としか思えない者たちは雄叫びを上げ、各々の機体に乗り始める。直ぐに出撃できるスタースクリームは、配下の同じTF等と共に先に出撃した。

 

「トランスフォーム!」

 

 出撃と同時にスタースクリームはF15戦闘機に変形(トランスフォーム)し、先陣を切って大規模な艦隊戦を行う連邦と同盟に突撃を行う。その後から無数のスタースクリーム配下のTF等は攻殻攻撃機デスバテーダーに変形して後に続いた。更にVF-27やSv-262等のバルキリー、可変系MSに搭乗した兵士らが続く。

 

「急げ! 後れを取るなぁ!」

 

 大柄の男、ゴリゴンダリスは自分が乗るVF-27ルシファーに乗り込んだ後、配下の者たちと共に出撃した。

 スタースクリーム軍団が保有する母艦から次々と戦闘機やMSなどが発艦していく中、軍団に属するゼントラーディ人の艦隊であるカムジン一家もまた出撃する。

 

「もたもたするな! 大将やマイクロン共が獲物を残らず平らげちまうぞ! 俺たちカムジン一家の力の見せ所よ!」

 

 カムジン一家の指揮を執るカムジン・クラヴシェラは配下の戦闘民族の巨人であるゼントラーディ人らを急かしつつ、自身も戦闘用ポッドであるグラージに乗り込んで出撃した。

 

「フン、ごろつき共め。先陣はスタースクリーム軍団が取り、突破口を開いてくれる。我々はその後に続き、ガルダーゴンにある古代兵器を回収する。遅れれば、双方に包囲されて殲滅されるぞ。各艦、しっかりと続け!」

 

 意気揚々と連邦艦隊や同盟艦隊に突っ込んでいくスタースクリーム軍団を見て、ジャマイカンは彼らが開くであろう突破口からガルダーゴンに降下する為、艦隊に前進命令を出し、艦載機を展開しつつその後から続いた。

 

「我ら炎のバラ騎士団もスタースクリーム軍団と共に突撃し、突破口を開くのだ! 総員、騎乗せよ!」

 

『はっ!』

 

 炎のバラ騎士団残党を率いるガンダもスタースクリーム軍団に負けじと、共に突撃することを選んだ。配下の騎士等に指示を出せば、自身も搭乗機であるロッソイージスガンダムに乗り込んで出撃する。

 

「ミーデンヤード、プルディエルガンダム出撃する!」

 

 兵士長であるミーデンヤードは、搭乗機のプルディエルを駆って出撃した。

 

「こちらベルター、ガンダムMkーⅣ出撃する! 各員は我に続けぇ!」

 

 続々と残党の騎士等が各地より奪ったガンダムで出撃していく中、ベルターも小隊を率いてガンダムMkーⅣで出撃する。

 

「っ!? 後方よりアンノウン接近! 数は軍団規模!」

 

「何っ!? 同盟軍の新手か!」

 

「識別反応不明! 尚も接近中!」

 

「直ちに偵察隊を向けろ!」

 

 向かってくるスタースクリーム軍団と炎のバラ騎士団残党の接近は、連邦艦隊にも知らされた。マゼラン改級巡洋艦の艦長は偵察機の発進を命じる。

 

「へっ、ガラクタ共が! 全て潰しちまえ! 皆殺しだ!」

 

 こちらを偵察しに来た偵察機に対し、スタースクリームはレーザーを撃ち込んで撃墜した。それから配下の者たちに突撃を命じ、自身も目前の連邦艦隊を攻撃し始める。

 偵察機を撃ち落とされたことで、連邦軍も艦載機を展開して対応に当たったが、F15形態のスタースクリームは物の数秒で全てを撃墜した。

 

「MS隊、全滅!」

 

「やったのはF15戦闘機です!」

 

「そんなありえん報告をするな!」

 

 配下のMS隊を全て撃破したのは、スタースクリームだと報告する通信手であるが、F15戦闘機であるために艦長は変な報告をするなと返す。そのサラミス改級巡洋艦の艦橋へ、スタースクリームは周辺の連邦軍機や艦艇を仕留めながら接近し、ロボット形態へ変形して両腕に付いたレーザー砲を向ける。

 

「うわっ!?」

 

「戦闘機がロボットに!?」

 

 それがスタースクリームに狙われた巡洋艦の艦橋内に居たクルーの最期の言葉であった。数秒足らずでレーザーが放たれ、サラミス改級巡洋艦は撃沈される。直ぐに離れ、スタースクリームは目に見える敵を楽しむように撃破し続け、敵艦を沈め続けた。配下の者たちも同様に撃墜し、投降しようが構わずに火器を撃って撃破していく。

 快進撃を続けるスタースクリーム軍団は同盟軍の守備艦隊が居る方まで到達した。無論、彼らは同盟軍では無い。連邦軍と同盟軍であろうが関係なしに、自分ら以外の敵に襲い掛かる。

 

「何だこいつ等!?」

 

 周辺の連邦軍を潰しながら自分らの前に現れたスタースクリーム軍団に対し、同盟軍機は思わず動きを止めてしまう。無論、この隙にTFにレーザーを撃たれて撃破される。

 

「全く、基幹艦隊を思い出す数だぜ!」

 

 同じくスタースクリーム軍団と共に前進しているカムジンは連邦軍や同盟軍の凄まじい数の艦艇を見て、かつて属していたゼントラーディ軍の艦隊編成を思い出す。

 

「だがな、数は半分って所だ! お前ら、大将やマイクロン共に負けるな!」

 

『おぉーッ!!』

 

 だが、数は半分程度だと認識して、邪魔な連邦軍機や同盟軍機を撃墜しながら手下たちを鼓舞し、破壊の進撃を続ける軍団の後を追う。

 

「破壊、破壊ダァァァ!!」

 

『うわぁぁぁ!?』

 

 目前に居るデストロイガンダムに対し、別世界の空母が人型に変形して巨大な拳を振り下ろした。避け切れない拳に、デストロイに乗る操縦者たちは叫びながら他の友軍機と同盟軍機と共に圧し潰される。無論、この空母に変形するのはTFである。

 アポカリプス級航空母艦に変形するTFの名はバルゼー。軍団内での階級は母艦参謀で、軍団内において輸送を担当している。更に叫びながら周囲の連邦や同盟の艦艇を沈め続ける。

 

『く、来るなぁ! わぁぁぁ!!』

 

「愚民共が、邪魔だ!」

 

 軍団と共に前進する炎のバラ騎士団残党のガンダも負けずにロッソイージスの性能を生かし、抵抗するジェガンJ型をビームサーベルで切り裂いて撃破する。騎士団残党も同様の快進撃であり、立ち向かった双方の敵を撃破し続けていた。

 

「愚民の貴様らが、我ら高貴なる騎士に勝てる通りは無いのだ!」

 

 プルディエルを駆るミーデンヤードは連邦軍機や同盟軍機を撃破し、一般兵では自分らには勝てないと蔑む。

 

『ぎゃあぁぁ!? 止めてぇ!!』

 

「死ね! 異種族め!!」

 

 逃げるアンゴイが乗るコスモリオンに対し、ガンダムMkーⅣに乗るベルターは機体武装のインコムを使い、執拗に追撃して撃墜した。

 その他の炎のバラ騎士団残党が駆るガンダムタイプ等は軍団と同様に無差別攻撃を仕掛け、連邦や同盟に多大な損害を与える。この第三勢力の乱入に、決戦中であった連邦と同盟は混乱に陥った。

 

「なんだよこいつ等!? 無差別だぞ!」

 

『やるしかないのか!? 本部、指示は!?』

 

 補給艦隊より受け取った予備機のジェガンJ型に乗るリュータ・バーニングJrは、突然現れて無差別攻撃を続ける軍団と騎士団残党に対して戦慄を覚える。同じく予備機のウィンダムに乗るトライド・エルク・クランツは上層部に、どうすべきかと指示を請う。

 無論、上層部は混乱して指示を出せないでいる。予備機に乗っていたタクト・アルバーンは、向かってきたガイアガンダムと刃を交える。

 

「なんでガンダムがここに!?」

 

 そう驚きつつも、敵は容赦なくビームの刃を振るってくる。

 

「ヒィィィ! 助けてぇぇぇ!!」

 

 損傷していた友軍機の回収をしていたメガライダーに乗るマイルであったが、第三勢力は無法者とも言える集団であるので、容赦なくレーザーを浴びせて来る。これにマイルは泣き叫びながら逃げていた。

 

「オシリスチームが惑星に降下したと言うのに!」

 

『我らだけでやるしかないでごわす!』

 

 スーパーガンダムに乗るスパルタン・ゼラズニィと、ソードカラミティに乗るスパルタン・チェーストは向かってくるスタースクリーム軍団と炎のバラ騎士団残党に対応しつつ、母艦であるインフィニティを守る。

 

「おいおい、今度は何だよ!?」

 

『無法者どもが遂に来たか!』

 

 激闘を繰り広げていたνガンダムを駆るデカルトとディスティニーガンダムに乗るハイネは戦うことを止め、乱入して来た第三勢力のMSにバルキリー、TFを対応する。デカルトらアグニカ軍は予めスタースクリーム等が来ることを知っていたようだ。

 

「遂にお出ましだ! 石動、どうする!?」

 

『どうするも何も、計画通りに行く! 一度後退だ!』

 

 Zガンダムに乗るヤザンやウィングガンダムに乗る石動の方にも、第三勢力が迫って来る。これにヤザンや石動は計画通りにすると言って、母艦であるミルコネンに後退した。

 

 

 

「おうおう、地上も派手にやってるなァ!」

 

「へっへっへっ、血が騒ぐよォ!」

 

 先陣を切ったスタースクリーム軍団は、惑星ガルダーゴンにまで達した。

 一隻の強襲揚陸艦に乗る軍団の一味、全身が刺青だらけの暴嵐のペインは大規模な戦闘を続ける連邦軍と同盟軍を見て騒ぐ。隣に立つ以下にもレディースな蛇毒のメディーも血が騒ぐと口にする。

 

「よぉし、もっと盛り上げてやるかぁ! マシンに乗れぃ、野郎共ぉ!」

 

『おぉーっ!!』

 

 ペインが乱入すると言えば、配下のメディーも含めるどう見ても暴走族の集団は各々の機体に飛び乗った。彼らが乗るのは派手な塗装のオーバーフラッグである。他にも可変系MSであるズサも含まれていた。

 

「野郎共、行くぞぉ!!」

 

『ヒャッハー!!』

 

「行くぜぇ! 血祭りだァ!!」

 

 自分のオーバーフラッグに乗ったペインが出撃すると言えば、同じ機体に乗る配下の者たちは後に続いた。メディーもズサに乗り込み、ペインのオーバーフラッグ大隊に続く。

 

『上からアンノウン多数接近!』

 

「えっ?」

 

 ジェットストライカーを装備したウィンダムに乗り、SFS(サブフライトシステム)に乗るRFザクやRFドム、ザク・ウォーリア、空戦用MSのディンにバビ、リオンを立て続けに撃破していたマリは、無線機より響いた友軍機のパイロットの声に、上にカメラを向ける。

 そこには、連邦や同盟関係なしに撃破しながら迫るペインのオーバーフラッグとメディーのズサが映っていた。これにマリは飛んでくるレールガンやミサイルを躱しつつ、ジェットストライカーの両翼の対空ミサイルを撃って迎え撃つ。

 

『へ、ヘッド! 機体がぁ!? 機体がぁぁぁ!!』

 

「前に出過ぎやがって! ぶっ殺してやる!!」

 

『俺もやるぜぇ!』

 

 放たれた二発の内、一発は一機のオーバーフラッグに命中して撃墜した。仲間をやられたことで怒りに燃えるペインは、僚機と編隊を組んでマリのウィンダムに向けて攻撃する。

 

「ダチの仇を取らなきゃなぁ!」

 

『死ねぇぇぇ!!』

 

 ズサを駆るメロディーもそれに同調し、同型機に乗る者たちと共に邪魔な敵機を破壊しながらマリのウィンダムに向かう。

 

「こいつ等、同盟軍じゃない。あれを狙ってる連中ね…!」

 

 向かってくるペインやメロディーらに対し、マリはシークレットウェポンを狙う勢力であると認識する。

 かくして、連邦軍と同盟軍の決戦の場であった惑星ガルダーゴンは、第三勢力であるスタースクリーム軍団、炎のバラ騎士団残党、ジャマイカン率いるクジャン軍の遠征艦隊の乱入によって混乱場状へと陥った。




スタースクリーム軍団戦闘BGM↓
https://www.youtube.com/watch?v=wTup5mT4O-Q&list=RDeUTnAlYxGj8&index=3

ようやく終盤に入りました。ここから一気に破壊と殺戮が加速します。


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集結する戦士たち

名前:クロディオ・プレスリー
性別:男
年齢:20
階級:一等兵
所属:機動歩兵
武器:フェーズ3 補給型(継戦能力を高めるべく古くなった機動型を改造して作られた。見かけは武装を外し背中接続部とそこに繋がる動力付き荷台部分を追加したような形。機動型に比べ小回りは効かないがその分大量の弾薬等を運搬可能)
機動歩兵の訓練を受けたために前線送りにされた哀れな補給兵。
キャラ提供はkinonoさん。

名前:ボム・スターリン
性別:男
年齢:25
階級:少尉
所属:大西洋連邦軍
乗機:ザムザザー

名前:ディアン
性別:男
年齢:36
階級:切り込み隊長
所属:炎のバラ騎士団
乗機:ネオガンダム1号機

名前:ビリー
性別:男
年齢:27
階級:一般兵
所属:炎のバラ騎士団
乗機:F90 2号機(火星独立ジオン軍仕様)

名前:ダイアン
性別:男
年齢:26
階級:一般兵
所属:炎のバラ騎士団
乗機:F90Ⅱ

名前:ガイウス
性別:男
年齢:25
階級:一般兵
所属:炎のバラ騎士団
乗機:ビギナ・ゼラ

名前:リカルド
性別:男
年齢:22
階級:一般兵
所属:炎のバラ騎士団
乗機:ベルガ・バルス

名前:マルス
性別:男
年齢:21
階級:衛生&通信兵
所属:炎のバラ騎士団
乗機:ダギ・イルス
キャラ提供は黒子猫さん。

名前:ミラ・ルーツ
性別:男性
年齢:46
階級:軍曹
所属:地球連邦軍歩兵部隊
武器:主にモリタ式ライトマシンガンだが、大体の武器は使える。
概要:器用貧乏な中年兵士。
キャラ提供は雨の日さん。


 第三勢力であるスタースクリーム軍団、炎のバラ騎士団残党、ジャマイカン率いるクジャン軍の遠征艦隊の乱入によって、惑星ガルダーゴンの決戦は混乱状態に陥った。

 

「死ねぇ!」

 

『くたばんなァ!』

 

 オーバーフラッグに乗るペインは同型の僚機と共に、プラズマ弾の嵐をマリが駆るジェットストライカー装備のウィンダムに向けて放つ。ズサに乗るメロディーも僚機と共にミサイルを撃ち込む。

 この質量弾による弾幕に対しマリは、ウィンダムの性能をフルに生かし、その全てを躱し切ってシールドのミサイルを撃ち込んだ。放たれたミサイルはメロディーの僚機のズサに命中した。可変状態となっていたズサは爆散する。

 

「なにぃ!? こいつぅ!!」

 

 僚機をやられたメロディーは機体をMS形態に変形させ、両腕のミサイルを放つが、これも避けられ、直ぐにビームライフルによる反撃が行われる。

 無論、メロディーはただではやられない。回避行動を取ってペインのフラッグ大隊に攻撃を譲る。他の連邦軍機が居るはずだが、炎のバラ騎士団残党のエリアーズやジンクスⅡ、三機のガンダムスローネに乗る三人によって壊滅状態に陥っていた。

 

「しつこい奴が、死ねやぁ!」

 

 数の多さを生かして攻撃するペインのフラッグ大隊であるが、避けられてビームライフルで撃墜されるばかりだ。これに苛立ったペインは機体をMS形態に変形させ、プラズマソードを抜いてマリのウィンダムに接近戦を挑む。それをメロディーらは援護する為、マリの注意を引き付ける。

 

「俺のダチを次々とぶっ殺しやがって! このクソがぁ!!」

 

 マリがメロディーのズサに対処している間に、オーバーフラッグを駆るペインは高速で接近してプラズマソードを振るった。対処が遅かったのか、ウィンダムのシールドを切り裂かれた。ペインがとどめの二撃目を入れ込む前に、マリは操縦桿を巧みに動かしてビームライフルを腰にマウントし、ウィンダムの腰アーマーに収納されている投擲式爆発型ナイフであるスティレットを取り出す。

 

「死にばっ!?」

 

 相手が二撃目を入れようと振るうよりも前に、マリはペインが駆るオーバーフラッグのコクピットにスティレットを突き刺した。

 搭乗機のコクピットにスティレットを突き刺されたペインはそのまま潰された。パイロットを失ったオーバーフラッグは地上へと落下していく。仇を取ろうと大隊所属のオーバーフラッグが再び攻撃を仕掛けたが、もう一本のスティレットを投げ込まれて一機が撃破され、もう一機はもう一本のスティレットを突き刺され撃破された。

 更にマリはジェットストライカーのロケット掃射とビームライフルで残るフラッグ大隊のオーバーフラッグを見事に全滅させた。これに残ったメロディーは戦慄を覚えたが、仇討として蛮勇にもマリに挑む。

 

「何だってんだよお前はぁ!?」

 

 ミサイルを撃った後にビームサーベルを抜いて挑むメロディーに、流石に少し油断していたのか、マリはビームライフルを破壊された。だが、その程度で落ちるマリでは無く、接近戦を挑んだメロディーのズサの斬撃を躱し、素早く腰から抜いたビームサーベルをコクピットに突き刺してメロディーをビームの刃で焼いた。

 

「グエァァァ!?」

 

 ビームで焼かれたメロディーは獣のような叫び声を上げながら蒸発する。これにマリは何も気にすることなく引き抜き、残るズサに機動力を生かして接近し、ビームサーベルで切り裂いて撃破して全滅させた。

 

「なんだったの、こいつ等?」

 

 少し疲労を感じつつも、乱入して来たペインとメロディーの隊を壊滅させらマリであったが、炎のバラ騎士団残党のガンダムの攻撃を受け、乗っていたウィンダムを撃墜されてしまった。

 

 

 

「制御不能です!」

 

「操縦が効きません!」

 

「何とかしろぉ!!」

 

 墜落するザムザザーに乗り、機長を務めるボム・スターリンは二名の操縦者らに何とかするように指示を出すが、制御系をやられているのでどうすることも出来ない。そのまま同盟軍の陣地に墜落し、大爆発を起こして多数の敵将兵を巻き込む。

 

「ちっ、デカい面のMAだと思ったら、ただの雑魚か」

 

 ボムのザムザザーを撃墜したガンダムスローネアインに乗る粗暴なパイロット、バンダは余りにも弱い連邦軍や同盟軍に悪態を付く。

 

「食い足りねぇぜ! 数は揃っちゃいるが、どいつもこいつも手応えがねぇ!!」

 

 連邦や同盟を含める複数の敵機をGNファングで撃破したスローネツヴァイに乗る狂暴なパイロット、エボルタも数だけで弱い敵に手応えが無いと嘆く。

 

「フッ! 全く、軍団のアホ共を全滅させたウィンダムを呆気ないですしね!」

 

 何機かの敵機を撃墜したスローネドライに乗る口調は敬語だが、二人と同じく狂暴な性格であるナランガーも退屈を覚えていた。マリが乗るウィンダムを撃墜したのはナランガーである。

 

『どうする? もっと激戦区へ行くかァ? あそこならどっさり居るぜぇ?』

 

「良いなぁ! ここは落ち武者共で行けるだろぉ。そこへ行こうぜぇ!」

 

『うぅん! もっと手応えのある者が居そうですしねぇ! 行きましょう!!』

 

 マリが居た戦闘空域では物足りないと判断したガンダムスローネに乗る狂暴な三人は、凄まじい激戦区である古代兵器がある同盟軍の要塞へと勝手に突っ込んだ。

 当然、上空で戦うジンクスⅡやエリアーズ、地上で戦っていたゲイレールにグレイズ、その他奪ったガンダムや連邦・同盟の機体に乗る騎士等は混乱する。

 

『おい! 何処へ行くんだ!? うわっ!』

 

 グレイズに乗る騎士はガンダムスローネを呼び止めたが、ジャベリンが放ったショートランサーを撃ち込まれて撃破された。

 乱入して来た機動兵器で戦場が混乱する中、一人の機動歩兵が背中に付けた複数の弾薬箱を前線の部隊へ輸送していた。

 

「畜生! 機動歩兵の訓練なんて受けるんじゃなかった!」

 

 機動歩兵の訓練を受けたことを後悔しながら、現補給兵のクロディオ・ブレスリー一等兵は戦場を駆ける。同じ装備をした機動歩兵も居たが、クロディオを残して全員が殺されていた。

 必死に前線の機動歩兵の元へ弾薬を運ぶクロディオを、残党のKMFのサザーランドが狙う。

 

「おわっ!? AT擬きまで狙ってきやがった! クソったれぇ!!」

 

 攻撃を受けたクロディオは更に喚き、必死に追ってくるサザーランド三機から逃げた。

 

「所属不明機三、友軍機並び敵機を落としながらこちらに接近中!」

 

「対空迎撃! ジェガン隊も応戦させろ!」

 

 バンダ、エボルタ、ナランガーが駆るガンダムスローネ三機はスタルワート級軽フリゲート「イーチャン」に接近していた。レーダー手からの知らせで、艦長であるラウは直ちに迎撃命令を出す。

 それに応じ、甲板に張り付いていた搭載機のジェガンD型六機がビームライフルや実弾式機関砲などで、対空砲と共にアイン、ツヴァイ、ドライの三機のガンダムスローネを迎撃するが、軽く避けられて接近を許してしまう。

 

「こいつで一撃だぁ!」

 

 アインに乗るバンダは邪魔な敵機を片付けた後、機体右肩のGNキャノンをイーチャンに向けて発射する。強力な粒子ビームは右甲板に命中し、そこに居たジェガン二機と機銃、乗員らを消し飛ばした。

 

「邪魔な奴らだ! ファング!!」

 

 対空弾幕を潜り抜けながらイーチャンに接近したツヴァイに乗るエボルタは、GNバスターソードで左舷に居た三機のジェガンを切り裂いた後、残るジェガンと後から来たジェットストライカー装備のダガーL数機、残った対空砲を展開したGNファングで全て破壊する。

 

「右舷、左舷共に戦闘力低下! 艦載機全滅!」

 

「護衛のダガー隊も全滅です!」

 

「ま、まさか…! こんなにも早く!?」

 

 次々と来る損害の知らせに、ラウは恐怖の余り艦長席からズレ落ちる。そんなラウにとどめを刺すように、ナランガーが乗るドライが艦橋に向けてGNビームサーベルを突き刺す。

 

「死ぃねぇぇぇ!!」

 

『うわぁぁぁ!!』

 

 ナランガーが奇声を発しながらサーベルを突き刺せば、ラウと艦橋に居たクルー達は突き刺されたビームの刃で蒸発する。

 艦橋を潰されたイーチャンはサブブリッジが生きているためにまだ健在であったが、スタースクリーム軍団とも言える三機のガンダムスローネに攻撃され続け、やがて轟沈して地面に墜落した。

 デカい獲物を仕留めた狂暴な三人のパイロットが乗るガンダムスローネは空の邪魔な敵機を仕留めるか味方に任せた後、地上の歩兵の大群に目を付け、ビームによる大殺戮を行う。上空の三機のガンダムから放たれるビームに歩兵は蹂躙され続け、一分足らずで数百名の連邦軍歩兵がビームで焼かれた。上空から来るビーム攻撃で蹂躙され続ける歩兵は命欲しさに統制を失い、各々が逃げ惑い始める。

 

『ハハハッ、死ねぇ! 死ねぇぇぇ!!』

 

『おらぁ、逃げろアリ共ぉ! ビームで焼き殺されぞぉ!? もっと逃げ回れぇ! ギャハハハ!!』

 

『人にビームを撃つのは楽しいですねぇ!? 楽しいですねぇ!? いっひっひっひっ!!』

 

「ヒィィ!? やだっ! やだぁぁぁ!!」

 

 プレベィナもその一人であり、糞便を垂らして逃げ回る他の歩兵同様、喚き散らしながらガンダムスローネからのビームから逃げていた。それに乗るバンダ、エボルタ、ナランガーの三名は笑いながら逃げ惑う歩兵をビームで撃って殺し続ける。

 こんな混乱した状況にも関わらず、反撃する歩兵分隊も居たが、焼け石に水に等しくビームで焼かれるだけであった。機動歩兵も同様でやられ続けている。

 負傷兵も居たが、誰も彼らを運ぶこと無く自分の命欲しさに逃げるだけだ。

 

「クソっ! この化け物がぁぁぁ!!」

 

 中年の下士官であるミラ・ルーツは上空のガンダムスローネ三機にビームを撃ち続けたが、全く無意味である。

 そんな彼の近くで、余りの恐怖に正気を失ったまだ二十代にも満たない若い兵士がぶつぶつと呟きながら歩いていた。

 

「みんな、みんな死んだ…僕も、僕も死ぬんだ…」

 

 いずれ自分にもビームが当たって死ぬ。そう思っていた青年にもビームが落とされる。それに気付いたミラは青年に体当たりをした。

 

「危ない!」

 

「うっ!?」

 

 体当たりで突き飛ばされた青年は正気に戻り、何事かと思って周囲を見た。青年を突き飛ばしたミラはガンダムスローネから放たれたビームで半身を焼かれ、瀕死の重傷を負う。

 

「ぐ、軍曹…!?」

 

「生きてるか、小僧…? 俺はもう…」

 

「直ぐに衛生兵を…!」

 

 助けられたことを察した青年は、ミラを助けようと衛生兵を探したが、既に手の施しようのない状態なので無駄だと告げる。

 

「駄目だ…来る訳が無いし、もう俺は助からねぇ…! 逃げるんだ…!」

 

「うぅ…わぁぁぁ!!」

 

 この瀕死の下士官からの言葉に、青年は従う他無いと判断して戦場から逃げた。その後、ミラ・ルーツは息絶えた。

 彼が死んだ後でも、ガンダムスローネ三機による殺戮は続いていた。

 

 

 

 宇宙や地上でも乱入した第三勢力による大殺戮が行われる中、準魔装機ギラドーラⅡを奪ったあの男もガルダーゴンの地に到着していた。

 彼が降下したのは同盟軍の勢力下にある地点であり、到着するなり周囲に居た機動兵器を次々と撃破し、無差別な殺戮と乱戦が行われている激戦区へと進む。極限状態の戦闘を求めて。

 

「こ、こいつは一体!?」

 

『撃て! 撃つんだ!!』

 

 友軍機を次々と撃破しながら向かってくるギラドーラⅡに対し、二機のガーリオンに乗る同盟軍のパイロット等は迎撃するが、乗っているパイロットの技量差であっさりと撃破された。

 それからも暴れ回るギラドーラⅡに挑む同盟軍機が居たが、敵うことなく撃破されるばかりだ。通常兵器も同様に撃破され、歩兵は踏み潰されるだけである。圧倒的強さを見せるギラドーラⅡに、同盟軍はバグズの投入を決定する。

 

「バグズだ! 奴にバグズを投入しろ! ベルセルクもだ!」

 

「しかし、前線の維持が…!」

 

「馬鹿者! 奴一人がガルダーゴン戦線を崩壊させようと言うのだ! 一刻も早く排除を!」

 

 前線に送るはずであった部隊が次々と撃破されていく事に業を煮やした司令官はバグズのみならず、ローカストのベルセルクも投入を指示するが、副官はそれに反対する。

 だが、このままにしておけば、戦線自体が崩壊しなけないので、遂に投入を決定した。

 直ぐにギラドーラⅡに多数のバグズが向かうが、同盟軍機と同様に殺され続けるだけだが、数の多さは流石にあの男も手を焼いていた。そこへ更に硬い皮膚を持つベルセルクも向かい、ギラドーラⅡの装甲を腕力で抉る。

 装甲を抉られ、戦闘力が低下したギラドーラⅡは飛び、連邦軍の占領下へと飛んでいく。それを追撃しようとするベルセルクであるが、もう十分だと判断して追撃を止めさせた。

 

「もういい! 深追いはするな! 後は狙撃でやれぇ!」

 

 司令官が追撃を止めさせ、後は機動兵器による狙撃を行うと指示を出した。

 それに応じ、ランドリオン数機は飛び去ろうとするギラドーラⅡを大型レールガンで狙撃した。複数機に狙撃されたギラドーラⅡは連邦軍の占領地域に墜落していく。

 やがて墜落して爆発したが、果たしてあの男がこの程度で死ぬものだろうか?

 答えは次回に分かる…。

 

 

 

「はっはっはっ! この新破壊大帝スタースクリームは無敵なのだ!!」

 

 炎のバラ騎士団残党とクジャン軍のジャマイカンと手を組み、自らの軍団を率いて連邦と同盟の決戦場へと乱入したスタースクリームは破壊と殺戮を行い、この場に居る誰も自分に敵わないことで、無敵だと思って双方の艦艇や通常兵器、機動兵器を撃破し続けていた。

 文字通りトランスフォーマーであるスタースクリームに敵う者は居ない。いや、既に居るのだがまだ正体を隠している。

 

「友軍艦隊の被害、拡大中!」

 

「第三勢力、更にガルダーゴンに降下部隊を展開中!」

 

「なんと恐ろしい奴らだ…!」

 

 次々と知らされる味方の損害に、徴収されたコロニー船「スピリット・オブ・ファイア」のカーター艦長は表情を曇らせる。第三勢力の乱入など予想もしておらず、要のレッドチームは地上に投入してしまった。

 無差別に攻撃し続けるスタースクリームのその配下の軍団は、いずれ自分らにも牙を向けるだろう。

 そう思うカーター艦長の側で、スタースクリームたちが来ることが分かっていたマクギリスは落ち着き、密かに運び込んでいたガンダムバエルの準備をするように自分の部下に指示を出していた。

 だが、そのスタースクリームの快進撃を止める存在が来る。それはUNSCが知る英雄であった。

 

「我が本隊の後方に、新たなるワープ反応!」

 

「第三勢力の増援か!?」

 

「これは…映像に映します!」

 

 レーダー手の報告にカーター艦長は第三勢力の増援だと思ったが、艦載AIであるイザベルは良く知るワープが物であった為、それを映像に映した。

 そこに映っていたのは、報告書で見たあの英雄その物、自分色のテムジンに乗ったマスターチーフであった。

 

「こ、これは…!?」

 

「マスターチーフ!? 何故ここに!?」

 

 映像を見たカーター艦長は驚きの声を上げる。同じく映像を見たマクギリスは眉をひそめ、無言で現れたマスターチーフを睨んだ。

 

「決戦場に乱入者か。大分混乱しているぞ」

 

 ガルダーゴンの宙域に姿を現したテムジンに乗るチーフは、更に混乱しているとサポートとして乗っているコルタナに告げる。

 

「えぇ。でも、フラッドよりマシでしょ?」

 

「フラッドか。確かにあれよりはマシに見えそうだ」

 

 乱戦状態の中を突っ切るのは危険だと言うチーフに対し、コルタナはフラッドと呼ばれる寄生生物よりはマシだと言う。これにフラッドとの交戦経験があるチーフも、コルタナの言葉に同意した。

 

「よし、行くか」

 

 あれとの戦いはチーフにとって骨が折れる物であったようだ。そんなことを思い出しつつ、チーフはテムジンを駆って乱戦状態に突っ込んだ。

 彼が乗るテムジンはフォアランナーの科学力で再現されたもので、コルタナがマスターチーフ用に調整を行って思い通りに動かせるようにしている。彼だけにしか動かせない物であり、その戦闘力も本人の物と合わさって強力な物となっている。

 

「連邦軍機の直撃は避けてるように設定してくれ」

 

「何故なの? 連邦軍に吸収されたUNSCは貴方を敵だと認識しているわ」

 

「昔の戦友は撃ちたくない」

 

「分かったわ。そうしておく」

 

 チーフは連邦軍機の直撃は避けるように設定するようにコルタナに指示を出せば、彼女はどうしてと問う。これにチーフは昔の戦友は撃ちたくないと返し、それを察したようにコルタナは連邦軍機の基本照準に直撃を避けるようにプログラムする。

 乱戦状態へと突入するチーフのテムジンに気付いたプルデュエルガンダムに乗るミーデンヤードは、直ちに随伴機を伴って攻撃を行う。

 

「なんだこの機体は? だが、我ら炎のバラ騎士団の邪魔をしようと言うなら容赦しない!」

 

 テムジンに仕掛けたミーデンヤードらであったが、先行して仕掛けたF90ガンダムとデュエルガンダムは呆気なくビームライフルを撃ち込まれて撃破され、更には接近したサンドロックガンダムすらビームライフルの銃身に付いたソードで切り裂かれて撃破された。これにはミーデンヤードも驚きの声を上げる。

 

「馬鹿な! 接近戦で我らに勝るだと!? おのれ!」

 

 これに怒るミーデンヤードはプルデュエルガンダムの全ての火器を使ってチーフのテムジンの撃墜を試みるが、彼に敵うはずが無く近付かれ、左拳のパンチをコクピットに打ち込まれて潰される。

 ミーデンヤードを討ったチーフに対し、ガンダはただ者では無いと判断して次なる刺客を送り込む。それはネオガンダムに搭乗するディアンを隊長とした切り込み隊である。

 

「あの緑の奴、強いぞ! 切り込み隊、奴を討ち取るのだ!」

 

『了解! 行くぞお前ら!』

 

 現騎士団長の指示に応じ、ディアンは自分の部下たちを率いてマスターチーフが駆るテムジンに挑む。

 角の無いF90に乗るビリー、F90Ⅱガンダムに乗るダイアン、ビギナ・ゼラに乗るガイウス、ベルガ・バルスに乗るリカルド、ダギ・イルスに乗るマルスの六機が続いた。

 だが、結果は惨敗であった。

 

「ぬわぁぁぁ!」

 

 先陣を切ったネオガンダムに乗るディアンがテムジンの放ったボムによって撃破された。続けざまにF90のビリー、その改良型のF90Ⅱのダイアンが撃破される。

 

「こいつぅぅぅ!」

 

『よくも隊長を!』

 

『心臓を抉り取ってやる!』

 

 隊長と戦友を殺されて怒り狂う三機は襲い掛かるが、彼が気付くよりも前に一瞬にして三機同時にテムジンにやられた。

 三機を瞬きする間に撃破したテムジンの圧倒的な性能は、乗っているチーフでも驚愕物であり、思わず操縦桿から手を放してしまう。

 

「なんて強力な機体だ…!」

 

「オリジナルじゃ、最初の攻撃で撃墜されるわ。少し手を加え過ぎたかしら?」

 

「少しばかりじゃなく、全くの別物だ」

 

 強力な機体だと驚くチーフに、オリジナルなら最初のミーデンヤードの攻撃で死んでいたとコルタナは語る。再現したテムジンに手心を加え過ぎたと首を傾げるコルタナに対し、チーフは全く別物になったと言う。

 マスターチーフ用に作られたテムジンは、彼が言う通り外見を再現しただけのフォアランナーの機動兵器であった。

 このフォアランナーの科学力で再現されたと言うか、似せて作られたテムジンに、連邦に同盟、第三勢力の者たちは驚愕する。

 

「一体、あの機体は何処の物なんだ…!?」

 

「いや、違う。あれはチーフだ。マスターチーフだ…!」

 

 とあるUNSC海軍の一隻のフリゲート艦の艦橋内で、テムジンの圧倒的な性能に驚きの声を上げる艦長に対し、マスターチーフの伝説を知るクルーの一人が彼が来たと口にした。

 

「なんだあの性能は…!? 畜生が! どこの誰だか知らねぇが、この俺様に逆らう奴は残らずスクラップにしてやる! お前ら行けぇ!!」

 

 意気揚々と連邦や同盟軍相手に暴れ回っていたスタースクリームも、マスターチーフの登場に心底震えたのか、先に排除すべきと判断し、配下の軍団と炎のバラ騎士団残党と共に立ち向かった。




遂にマスターチーフが参戦です。

次回もまた死屍累々だぞ!


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ガンダムバエル、動く!

名前:アズマ
性別;男
年齢:28
階級:一等兵
所属:連邦地上軍歩兵部隊
武器:モリタ式ライフル

名前:ニシヤマ
性別;男
年齢:24
階級:二等兵
所属:連邦地上軍歩兵部隊
武器:モリタ式ライフル

名前;ナンベ
性別;男
年齢:28
階級:二等兵
所属:連邦地上軍歩兵部隊
武器:モリタ式ライフル 

名前;ホウジョウ
性別;男
年齢:23
階級:二等兵
所属:連邦地上軍歩兵部隊
武器:モリタ式ライフル 
キャラ提供は団子狐さん。

名前:akerate01~XX
性別:無し
稼働:六ヶ月
階級:無し
機体:トーラス・ビルゴⅡ・ペルグランデ
設定:スパロボお馴染みの戦闘AI。
キャラ提供はkinonoさん。


 第三勢力の乱入と人類の英雄、マスターチーフの出現によって宇宙の戦闘が混乱を増す中、この機に乗じてか、スピリット・オブ・ファイアの艦橋内に、いつの間にか乗り込んでいた連邦軍のナカト少佐を始めとした武装した連邦兵たちが雪崩れ込んできた。

 

「何事かね? 銃など持って」

 

「そこのネズミを捕まえに来たのですよ。カーター艦長殿にも来て頂きましょう。そこのAIもだ!」

 

 艦橋内のクルーが不満な表情を浮かべる中、カーターはナカトに銃を持って何を死に来たと問えば、彼はマクギリスに銃口を向けながら捕まえに来たと答えた。

 それとカーターにも同行を求め、ATのイザベルにも来るように告げる。

 

「なにかね、少佐? 私はやましい事など…」

 

「黙れ若造め! 貴様が潜り込んだ鼠だと言う事は分かっているのだ! マクギリス・ファリドなる人物も特務混成旅団も存在しない! 何をしている! 速くAIを連れて来んか!?」

 

 マクギリスは銃口を向けられているにも関わらず、いつものように涼しい顔をしていた。これにナカトは腹を立ててか、怒鳴り声を上げる。その八つ当たりか、イザベルを速く連れて来るように艦橋内のクルーに怒鳴りつける。

 

「クルーに怒鳴らんでもらいたい物だな、少佐。直ぐに私の端末にイザベルを移そう」

 

「言う前に速くやって欲しい物ですな、カーター艦長殿。大尉、このネズミ共を直ちに拘束しろ!」

 

「はっ!」

 

 クルーに怒鳴り散らすナカトを叱りつつ、カーターはイザベルを自分の端末に移した。これにナカトは苛立ちながら、部下にマクギリス等の拘束を命じる。

 マクギリス等はこれに何の抵抗もすることなく、大人しくナカトの部下たちに拘束された。このマクギリスの態度にカーターは不審に思っていたが、自分もナカトに疑われているために下手な行動は取れなかった。ナカトの部下の一人が自分の近くに居て、いつでも携帯している銃を撃てるようにしているのだ。

 これにより、ナカトらに拘束されたマクギリス等と共に、カーターは艦橋を出らざる負えなくなる。

 

「副長、後の指揮は頼む」

 

「了解であります、艦長殿」

 

 副官に代行を頼み、カーターはナカトらに拘束される形で艦橋を出た。

 

「あの女め、遂に裏切ったのか」

 

「あの女とは?」

 

「カーター艦長なら分かるだろう。次期連邦軍総司令官と噂される若き才女…」

 

「黙って歩かんか!」

 

 通路内でナカトらに移送される中、マクギリスは裏切られたと口にした。気になったカーターは誰かと問えば、マクギリスはエイミー・スナップのことだと伝えようとしたが、ナカトに殴られて廊下の上に倒れる。

 

「速く立たんか! ネズミが!!」

 

「やめたまえ! 捕虜虐待だぞ!」

 

 怒り任せにマクギリスを殴ったナカトにカーターは虐待を止めるように言うが、銃口は老練な艦長にも向けられていた。

 

「貴様も容疑者であると言う事を忘れるな。AIなど搭載しおったまま帰還しおって!」

 

「それが何の関係があるのだ? 彼女のおかげで我々は無事に…」

 

「それが怪しい物だと言うのだ。MIA認定された艦が急に返って来るなど…! お前も歩け!」

 

 どうやらスピリット・オブ・ファイアはフォアランナーのスパイ容疑を掛けられているようだ。怪しく思われては当然であるが、自分らは敵でないと証明はした。UNSC海軍は信じてくれたが、他の連邦の上層部はスパイであると疑っているようだ。

 自分らを疑うのは誰かと聞きたかったが、このナカトの態度では答えようもないので、大人しくついてくることにした。

 マクギリス等に占領された区画へ着けば、増設された機動兵器のデッキへと歩かされる。既に区画はナカトが指揮する大隊に占領されていたが、そこに居たマクギリスの部下たちは何の抵抗もせず、突入して来た連邦兵らに大人しく拘束されていた。

 

「安心しろ、既に我が大隊によってネズミ共は拘束済みだ。不甲斐ない奴らめ」

 

「妙だな、呆気なさ過ぎる」

 

「ジジイめ、黙っていろ!」

 

 この抵抗の無さに、カーターは不審に思ってナカトに伝えようと、スパイ容疑を掛けられているので聞く耳も持たなかった。甘いにも大人し過ぎるのだ。カーターにとっては悪い予感がしてならない。

 いつの間にか運び込まれていたガンダムバエルの前で止められれば、ナカトは解析を行う技術班にまだ動かせないかと怒鳴る。

 

「おい、まだ動かせんのか!?」

 

「はっ! 未知のプロテクトが施されており、まだ解除できません!」

 

 技術班の士官は、バエルのプロテクトが未知の物で解除できないと返答する。これにナカトは更に苛立ち、なんで解除できないのかとまた怒鳴り散らした。

 

「なんだと!? なんで解除できんのだ!?」

 

「腐り切った貴様らに、そのバエルを動かすことなど出来んよ」

 

「黙れ若造! ならば解除コードを教えろ! このガンダムを知っているのだろ!? 言うのだ!」

 

 苛立つナカトを逆なでするように、マクギリスは腐り切った連邦ではバエルは動かせないと口にする。これに更に苛立ったナカトは拳銃の銃口をマクギリスに向け、解除コードを言うように脅しを掛けるが、当の彼は銃口を向けられても全く動じない。涼しい表情を浮かべて薄ら笑いを浮かべるだけだ。そればかりかナカトの大隊の将兵等を自分の陣営に誘ってくる。

 

「煽れば直ぐに怒る、短気な男だ。どうかね、諸君。私のバエルの元に集わぬか? この百年にも渡るとされる戦争、アグニカ・カイエルの意思を持つバエルがあれば、終わらすことが出来る。諸君らは平和を欲しくないか? 争いも無く、愛する者たちと共に死を供わない安泰を謳歌できる世界を…!」

 

 この誘いに、ナカトの部下たちは思わず手を止めてマクギリスに注目した。だが、当のナカトにとっては世迷言であり、直ぐに拳銃のクリップで頭部を殴打される。

 

「世迷言を抜かすな! アグニカ・カイエルの意志だとぉ? バエルが平和をもたらすぅ? そんなカルト的思想に、我が軍の兵士を勧誘するな! たかが一機のMSがなんだと言うのだ!? このガンダムは我々が接収する! 異星人共の殲滅こそが我ら人類に平和をもたらすのだ!」

 

 頭部から血を流すマクギリスに対し、アグニカ・カイエルの思想を否定して同盟軍の殲滅こそが人類にとって平和をもたらすとナカトは説く。これにカーターはナカトを危険な人物と判断した。部下である連邦兵らも、ナカトの思想には驚いていた。

 次にナカトが行動を取ろうとした時、カーターの悪い予感が当たった。

 

「グワァァァ!」

 

 アグニカ軍の将兵等を拘束していたナカトの兵士たちが、狙撃を受けて射殺された。それからも何処からともなく現れた黒い人影らに、ナカトが率いる大隊の将兵等は殺され続ける。

 

「こいつら何処から!?」

 

「直ちに応戦、グフッ!?」

 

 直ぐに迎撃態勢を取る連邦兵らであるが、解放されたアグニカ軍の兵士らの反撃を受け、残るはナカトと数名の部下のみとなる。

 形勢は逆転し、逆にナカトらが追い詰められる。追い込まれたナカトは拳銃を捨て、残りの部下たちと共に降参した。

 

「総帥殿、ご無事ですか?」

 

「大丈夫だ石動。外の敵は?」

 

「制圧しました。残るはその男の少数の兵士だけです」

 

 マクギリスの救援に来たのは、石動らであった。外に展開していたナカトの指示に従っていた連邦軍の隊は既に全滅しており、後はナカトらだけだ。報告を受けたマクギリスは解放された手で、ナカトが持って居た拳銃の銃口を彼に向ける。

 

「形勢は逆転した。さて、指令を出したのはスナップ元帥かね? 少佐」

 

「ま、参った! 殺さないでくれ! 私に貴官らの拘束を命じた上官の名を言う! 命だけは助けてくれ!」

 

 銃口を向けられ、自分らに拘束を命じたのはエイミー・スナップなのかと問えば、ナカトは違うようで命を助ける代わりにその名を吐いた。

 

「違う? では誰だ?」

 

「三輪防人元帥だ! 貴官らを不審に思い、泳がせていたが、先の第三勢力の介入で裏切り者と確証したようだ。言っただろ、私だけでも解放してくれ!」

 

「三輪防人か。我々を見抜いて泳がせていたことは褒めるが、スタースクリームたちは見当違いだよ」

 

「ち、違うのか? なら解放してくれ! 頼む!」

 

 マクギリス等の拘束を命じたのは、連合軍艦隊旗艦インフィニティ級スーパーキャリア二番艦の「エタニティ」に居る三輪防人であった。

 エイミーが情報でも流したのか、今日まで泳がせていたようで、スタースクリーム等の介入で裏切り者と確信したようだが、マクギリスはそれを見当違いと一蹴した。

 スタースクリーム等を招いたのはマクギリスでは無いことを知り、ナカトは解放してくれるように頼んだ。無論、部下を見捨てて自分だけ助かろうとするナカトを、マクギリスが助けるはずが無かった。

 

「私から見た君の評価は、トド・ミルコネンより遥かに劣る物だ。つまり生かして置く必要はない下衆と言う物だ」

 

「な、なにぃ!? や、やめ…」

 

 ナカトの命乞いも聞かず、マクギリスは彼を射殺した。その拳銃を捨て、残りの兵士たちに自分らアグニカ軍の傘下に入るかどうかを問う。

 

「さて、諸君らの無能な上官は死んだ。諸君らは連邦に忠誠を誓うか? それともアグニカ・カイエルの元に集うか?」

 

 連邦に残るか、自分の陣営に着くかを問えば、ナカトの生き残った部下たちは連邦に対する未練も無く後者を選んだ。

 新たに中隊規模の兵員を取り入れたマクギリスは、本命であるスピリット・オブ・ファイアの艦長、ジェームズ・カーター海軍大佐を艦共々手に入れんと誘いを掛ける。

 

「次は貴方だ、ジェームズ・カーター艦長。自らの危険を顧みずに人類の危機を救い、三十年も宇宙を放浪した。それから目覚めて早々に命懸けの戦いを強いられ、見事に帰還を果たしたが、何もかもが変わり果てていた。命辛々帰って来たのに、スパイ容疑を掛けられて家族とは会えず、挙句に前線送りだ。君にそんな上層部に従う義理はあるかね?」

 

 全てマクギリスの言う通りだ。カーターはこの誘いに対し、どう対処すべきか頭を抱える。そんなカーターに、マクギリスはAIのイザベルにも聞きたいと問う。

 

「AIのイザベルにも聞きたいな。君の返答はその後に問おう」

 

「そのアグニカ・カイエルと言う人物は、AIにも興味を抱くのか。彼女の意見を聞くか」

 

 イザベルにも聞きたいことに、カーターはAIに対する偏見を抱かないマクギリスに少しながらの敬意を表しつつ、自分の端末に入れた彼女を呼び出す。

 

『これは…一体…?』

 

「イザベル、混乱しているようで済まないが、ファリド閣下は君も仲間に入れたいようだ。どうかね?」

 

『…いきなりですね。では、艦長はどうです? 私には彼の意向を理解しかねます。貴方の決定に従いますよ』

 

 呼び出されたイザベルは周りの惨状を見て狼狽えるが、カーターにマクギリスの誘いに乗るかどうかを問われた。これに少し落ち着いたイザベルは、自分では分かりかねないので、熟練の艦長の決定に従うと答えた。

 

「主人の意向に従うか。では、カーター艦長、君はどうするかね?」

 

 主人の意見を尊重したイザベルに感心しつつ、マクギリスはカーターに自分の陣営に加わるかどうかを問う。

 これにカーターは両目を瞑って考えを纏めた後、真っ直ぐな両目を開き、覚悟を決めてマクギリスに自分の意思を伝える。

 

「すまんが、おたくの誘いは断らせていただく。私はUNSCの市民の生命と財産を守るために軍に志願した者だ。君の誘いは魅力的ではあるが、我々はまだ上層部に希望を抱いているのでね。君たちから見れば、私が属する組織は腐敗しきった軍隊に見えるが、そんな軍隊でも、我々の為に動いてくれている者たちが居る。その期待を裏切るわけにはいかんのだよ」

 

『私もカーター艦長には同意見です。まだ人類に絶望もしていません』

 

 カーターはマクギリスの誘いを堂々と誇らしげに断った。自分が属する軍隊はまだ希望はあり、自分たちのことを思ってくれる将軍も居る。イザベルも人類にはまだ絶望していないとカーターに同意見であった。

 そう両名がマクギリスに訴えれば、誠意に満ちたカーターの理由に納得して微笑む。だが、周りのアグニカ軍の兵士たちは若き総帥の意向とは違う物であった。

 

「貴様、総帥のご厚意を無下にするか!」

 

 堂々と断ったカーターに対し、アグニカ軍の若い兵士は手にしている銃を向けた。カーターは死を覚悟したが、これにマクギリスは左手を上げ、手を出さぬように告げる。

 

「やめたまえ、我々はカーター艦長から忠誠を誓うに値しない組織と認識されたのだ。これからは敵として認識すべきだろう。だが、我々を前にして自分の通したカーター艦長に免じ、今は見逃そう」

 

「今は見逃す? 私を討たんのか?」

 

 部下に銃口を下げさせたマクギリスは、カーターからは嫌われたと判断した。敵と認識したマクギリスであったが、多数の敵に対して臆せず、堂々と自分の意見を口にしたカーターに敬意を表し、スピリット・オブ・ファイア共々見逃すことにする。

 これに討たないのかと問うカーターに対し、マクギリスは万全な状態で戦いたいと答える。

 

「万全な状態で貴官と戦いたいからさ。今の我々は連邦や同盟から見れば、取るに足らん勢力だ。更に拡大する為、ガルダーゴンに運び込まれた同盟軍のある兵器を奪う。あの第三勢力はそれを奪うために現れた。敢えて流した情報であるが」

 

「なに、運ばれた兵器? 何を言っているのだ、君は?」

 

「ここまでだ。では、我々は失礼する。攻撃命令は出さないでくれよ。そうなれば沈める事となる」

 

 理由を告げた後、更にガルダーゴンのシークレットウェポンに対する情報も告げた。これを理解できないカーターは問おうとするが、マクギリスは答えず、この場で攻撃するなら沈めると脅し、部下たちと共に撤収を開始した。

 それからガンダムバエルに乗り込み、カーターが区画を離れたことを確認すれば、開かれたハンガーから宇宙へと飛び出す。

 

「律義に約束を守ってくれたか。手に入らなければ沈めるつもりだったが、それでは無礼だな」

 

 スラスターを吹かせ、宇宙へと飛び出した後、スピリット・オブ・ファイアからの攻撃が無いことでカーターは約束を守ったと判断する。

 スピリット・オブ・ファイアが手に入らなければ沈めるつもりであったマクギリスだが、約束を守ったカーターに失礼と判断して配下の軍団と共にスピリット・オブ・ファイアを離れた。

 

『本当に攻撃はしないので? こちらを撃ってくる可能性が』

 

「彼は約束を守る男だ。我々は周辺の連邦軍を叩き、ガルダーゴンに降下すれば良い」

 

 Sガンダムに乗り変えた石動はスピリット・オブ・ファイアを攻撃しないのかと問えば、マクギリスは約束を守ったカーターを攻撃しないと答え、周辺の連邦軍のみを叩いてガルダーゴンに降りると告げた。

 マクギリスが言った通り、艦隊と多数の連邦軍のMSやPT部隊がアグニカ軍に襲い掛かる。数は見る限りにアグニカ軍を遥かに上回っている。

 

「フッ、有象無象が。降りる前に少し肩慣らしと行こう。石動、援護しろ」

 

『了解! リグ・シャッコー隊は私と共に総帥の援護だ!』

 

 多数の敵機に対し、マクギリスは石動らに援護を命じれば、副官は傘下のリグ・シャッコー隊と共にバエルの死角を狙おうとする連邦軍機を攻撃して援護射撃を行う。部下たちの援護受けながら、マクギリスのガンダムバエルは高い機動力を生かして突撃する。援護を受けながら二本の剣だけで突撃してくるバエルに対し、連邦のパイロット等は相手を侮る。

 

『なんだぁ、あのガンダムは? 武器が二刀だけだぞ?』

 

『へっ、どんだ馬鹿だ!』

 

『Sガンダムと不明な小型MSは厄介だが、突っ込んでくるガンダムは叩けるぞ! 包囲して撃破…』

 

 接近戦主体のガンダムバエルに対して侮った判断をする連邦軍のパイロットたちであったが、大隊長機を務めるジェガンR型を瞬く間に撃破されてその判断が間違えであったことに気付かされる。

 

『なっ! 大隊長機がやられた!?』

 

『こいつ! 速いだけじゃなくて…』

 

「機体性能頼りのお前たちでは、このバエルを止めることは出来んよ!」

 

 大隊長機を撃破されて動きが鈍った複数のジェガンJ型に対し、マクギリスはバエルの高い機動力と接近戦の強みを生かして次々と二振りの剣の錆として行く。立て続けにヘビーガン、Gキャノン、ジャベリンを切り裂いて撃破していき、ドートレスやストライクダガーの集団を目にも止まらに速さで切り裂いていく。

 次々と味方がロストして行く光景に、ただガンダムバエルに斬られるしかない連邦のパイロットたちは恐怖心を抱いて戦意を低下させる。

 

『な、何なんだこいつは!? こっちは八十機も居るんだぞ! たった数機のMSになんでこうも一方的にやられるんだ!?』

 

『速過ぎる! こ、こっちにも! うわぁぁぁ!? 来るな! 来るなぁぁぁ!!』

 

 その後もダガーL、ウィンダム、アデルマークⅡ、クランシェ、量産型ヒュッケバインMkーⅡも歯が立たずに撃破されて行き、更に連邦のパイロットたちを恐怖させ、脱走兵を出した。

 後方に控える追撃艦隊はこの機動兵器部隊の混乱を認識できず、たかが少数の敵機相手に手こずるだらしない奴らと判断する。

 

「たかが数機のMS如きに何をしているのだ! だらしのない奴らめ! 艦砲射撃開始!」

 

「射線上にはまだ味方が居ますが…」

 

「あんな連中など知ったことか! あのガンダムに向かって全艦一斉射だ! さっさっと撃て!」

 

 乱戦状態になっている、いや、ガンダムバエルに蹂躙される味方など知ったことも無く、副官の反対の声を黙らせ、旗艦のマゼラン改級の艦橋の椅子にふんぞり返る提督は傘下の艦隊に一斉射を命じた。艦隊は全く前方で戦う機動兵器部隊を他所に、主砲を躊躇いもなしに撃ち込んだ。これによって多数の味方機だけが味方の艦砲射撃だけで撃破され、あっさりとガンダムバエルの接近を許してしまう。

 

「艦砲射撃を潜り抜ける機があります! うわっ!? 例のガンダムです!!」

 

「な、なんであのガンダムに当たらんのだ!? そんな事よりも速く落とせ!!」

 

 多数の味方を巻き込んでの艦砲射撃だったのに対し、ガンダムバエルには一発も当たることは無かった。これに驚いた提督は直ちに迎撃命令を出すが、周囲の僚艦はバエルに撃沈されるばかりだ。撃沈の仕方は両手の剣を使わず、艦橋を手刀と足と踏み潰して撃沈している。

 中々惨いやり方であり、無数の兵士たちが宇宙へと吸い出されていく。

 

「味方ごと艦砲射撃をするとは、やはり腐敗が進んだ軍隊だ。カーター艦長、これでも君は連邦に忠義を尽くすかね?」

 

 味方ごと自分を仕留めようと艦砲射撃を始める軍隊に対し、これでも忠義を尽くすのかとカーターに問う。

 その間に敵旗艦の艦橋にまで接近しており、対空弾幕を避けながら艦橋上方まで飛翔。そこから一気に下方にまでスラスターを吹かせて降下して、艦橋を踏み潰した。艦橋をバエルに踏み潰された提督は偶然にも足元に居たのか、他のブリッジクルーと同様に潰れて死亡した。

 旗艦を潰された追撃艦隊は攻撃を続けず、統制の取れない敗走する。これにマクギリスは追撃せず、艦橋を潰されたマゼラン級改の上にバエルを立たせていた。

 

「つまらん連中だ。手応えが無さ過ぎる」

 

 マクギリスとガンダムバエルの組み合わせの前では、連邦の追撃艦隊など敵では無かった。そればかりか、手応えも無いつまらない相手だ。

 そんなマクギリスに、少しは楽しめそうな相手が攻撃を仕掛けて来る。

 

『総帥、敵の新手です!』

 

「連邦の連中よりは手応えはありそうだな」

 

 他の連邦軍機と交戦していた石動からの知らせで、マクギリスは少しは手応えがありそうだと口にする。

 敵は見事な編隊飛行を取るMA形態のトーラスにモビルドールのビルゴⅡ、それにまきびしのような外見を持つぺルグランデ多数だ。全てスタースクリーム軍団が何処からか奪った物であり、それにコンピューターや何やらを着けて無人で動かせるようにしていた。無人兵器集団の後方には、攻撃機デスバーダーに変形するTFが続いている。

 

「では、口直しと行こう」

 

 向かってくるスタースクリーム軍団に、マクギリスはようやく肩慣らしが出来ると言って、ガンダムバエルの操縦桿を動かして挑んだ。

 

 

 

「これだ。データ照合にも該当する機体無し。こいつも例の奴らか?」

 

 連邦軍の歩兵分隊が同盟軍の追撃を受けて撃墜されたギラドーラⅡを発見した。

 発見した分隊長はデータ照合に該当する機体が無いために、ギラドーラⅡもスタースクリーム軍団を始めとした第三勢力の機体であると思う。

 だが、見当違いだ。これに乗っていた男はこの世界のどの組織にも属さない一匹狼であり、極限の戦いを求めてガルダーゴンにわざわざ来たのだ。分隊は既に死の運命であった。

 

「キリカ伍長、生存者がいるかもしれん。コクピットを調べてくれ」

 

「はい、分隊長殿」

 

 分隊長は四名の部下を率いる女性班長に、コクピットの捜索を命じた。これに従い、アズマ、ニシヤマ、ナンベ、ホウジョウの四名の部下を率いて班長はコクピットを調べに向かった。

 最初にコクピットに入ったのはアズマであった。彼は懐中電灯が付いたモリタ式ライフルを構えながら入れば、周囲を見渡す。一見、何も無いように見えたが、アズマは更に調べるべく、奥まで入った瞬間、真上に潜んでいた男の手刀で頭部を潰された。

 

「っ!? 敵だ!!」

 

 真上に潜んでアズマを殺害した男に、班長とニシヤマ、ナンベ、ホウジョウの四名は手にしているモリタ式ライフルを撃ち込んだが、男は弾丸を避けながら目にも止まらぬ速さで四名の懐に迫った。

 

「なっ、何ッ!?」

 

 一同の懐に迫った男の外見は、差し掛かった日差しで良く分かった。黒い騎士のようなファイテックスアーマーを纏っており、兜の面の隙間から青い瞳が見える。

 その瞬間にニシヤマ、ナンベ、ホウジョウの三名はいつの間にか持って居た薙刀でバラバラに切り裂かれた。女性班長はこれに驚いて下がろうとしたが、男が逃すはずが無く、背中を手刀で貫かれて殺された。

 

「撃て! 撃てぇぇぇ!!」

 

 素早く班長から手刀を引き抜いた黒いファイテックスの男に対し、分隊長らは手にしている小火器を撃ち込む。だが、既に息絶えた班長の死体をハチの巣にするだけであり、男が奪ったモリタ式ライフルで全員が射殺された。

 弾切れになるまで撃ったモリタ式ライフルを捨てた男は、激戦地となっているシークレットウェポンがある同盟軍の要塞を見て、あそこに自分が求める物があると認識する。

 

「メイン会場は、あそこのようだな」

 

 常に極限状態の戦闘を求め、世界すら破壊する男、装鬼兵MDガイストは主戦場となっている要塞周辺に目標を定め、ファイテックスのウィングを展開して飛翔してそこへ向かった。

 

 宇宙ではマスターチーフ、地上ではガイストが到達したことで、強者たちの戦いが始まる…!




バエルだ! アグニカ・カイエルの魂ッ!!

カーター艦長とマッキーの方に尺を使い過ぎたよ…。

そんでもってガイストさん、遂に参戦。
これより強者たちの戦いが宇宙、地上で開始される…ッ!

版権キャラが強過ぎる奴ばかり…っ! キャラクター提供してくれた皆さん、モブ同然にしてごめんなさい。


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血に染まる大地

名前:ゴリアテ・オーガス
性別:男
年齢:30
階級:中尉
所属:COG
武器:ランサーアサルトライフル×2
概要:体長250cmを越える筋骨隆々な黒人の大男。強面な容姿に反して心優しく仲間想い。 射撃より近接戦が得意。

名前:ラムサ・ラル
性別:男
年齢:24
階級:軍曹
所属:機動歩兵
武器:フェーズ3機動型工作仕様(ダークブラウン) ランサーアサルトライフル(拾い物) 杭打ちハンマー
概要:有刺鉄線で簡易的な陣地形成や、ワイヤートラップ等で味方の撤退支援等を行う工作兵。
キャラ提供は黒子猫さん。

これで全員かな?
合計で五十人くらいのキャラを読者の皆様に提供して頂きました。ありがとうございます。


 惑星ガルダーゴンの地上でガイストが迫る中、宇宙では専用のテムジンを駆るマスターチーフは連邦、同盟、第三勢力の三つの勢力を物ともせずに突っ切っていた。

 

「おのれ、インコムを受けて見ろ!」

 

 炎のバラ騎士団残党に属し、ガンダムMkーⅣに乗るベルターは機体のインコムを展開してチーフのテムジンの背後を取ろうとしたが、見切られてインコムをライフルで破壊されてしまう。

 

「何っ!? うわぁぁぁ!!」

 

 インコムを撃破されたことで、ベルターは驚きの余り一瞬動きを止めた。その隙をつかれてベルターのガンダムMkーⅣはチーフに撃墜される。

 他にもレイダーガンダム、フォビドゥンガンダム、シェンロンガンダムとチーフに挑むが、あっさりと撃破されるばかりだ。

 

「けっ、肉ケラ共じゃ相手にならねぇよ! 俺たちぶわっ!?」

 

 次にTFがチーフに向かったが、結果は騎士たちと同様に撃破されるばかりだ。

 

「ば、馬鹿な!? 俺たちトランスフォーマーが肉ケラの作ったへなちょこプラズマ弾なんかに!」

 

 あっさりとテムジンのライフルに撃破されたことに、TF等はうろたえ始める。

 チーフの駆るテムジンを良く理解できず、背後から攻撃する連邦軍機が居たが、武器を破壊されるか、頭部を破壊されて離脱を余儀なくされる。同盟軍機に対しては容赦なく、コクピットを撃ち抜くか、直撃させて撃破していたが。

 

「おいおい、なんでマスターチーフなんかが居るんだよ!? それに手当たり次第かよ!」

 

 付近で戦っていたディスティニーガンダムに乗るハイネは、テムジンがデータにあるマスターチーフに似ていた為、一種の恐怖を抱いていた。そもそも乗っているのがチーフ本人であるのだが。

 あれと戦えば、生きて帰れると言う保証が無い。それに友軍もかなり後退しつつある。

 

「味方と歩調を合わせるとするか。コンクルーダーズ、俺たちも後退するぞ!」

 

 ビームライフルでクジャン軍のMSを撃破したハイネは、まだ残って戦っているコンクルーダーズに後退命令を出し、自分も敵機を牽制しながら味方の部隊が居る方へと下がった。

 

「なんだぁ、あの緑の奴は? それにあいつ一人にやられやがって情けねぇ奴らだ。バルゼー、やっちまえ!」

 

『リョウカイ!』

 

 圧倒的な強さを見せるマスターチーフのテムジンに、スタースクリームは軍団の中で一番の大きさを誇るバルゼーを差し向ける。

 ゼントラーディ軍ことカムジン一家の戦闘ポッドや空戦ポッドを次々と撃破するテムジンに、バルゼーは巨大な腕を振り下ろし、無謀に接近戦を仕掛けた味方ごと潰そうとした。

 

「グエァァァ!?」

 

 結果は感付いたチーフにあっさりと避けられ、味方の炎のバラ騎士団残党の騎士が乗るアビスガンダムを叩き潰しただけだ。

 

「デカいな」

 

『弱点は首よ! そこを狙って!』

 

 コルタナにバルゼーの弱点が首だと伝えれば、チーフは操縦桿を動かして巨大TFに取り付き、壁沿いに上昇して首元に向かう。

 

『オトスぅ!』

 

 自分の首元まで迫るテムジンに対し、バルゼーは身体中の対空砲と両手で払い落とそうとするが、避けられるばかりだ。

 たまに艦載機を使って阻もうとするも、フォアランナーの科学力でオリジナルより遥かに強くなって並のパイロットでは不可能な高速機動を取るテムジンの前には壁にすらならず、次々と撃破されて首元まで接近された。

 ライフルの照準に首を捉えたチーフは手当たり次第に撃ち込み、徐々にバルゼーにダメージを与えていく。

 

『クルシぃ! ヤメロぉ!』

 

 首を撃たれて苦しむバルゼーは、更に艦載機や対空砲を増やしてチーフのテムジンを追い払おうとするも、躱され続けるばかりだ。やがて動力源が見えれば、チーフはそこへ飛び込み、機体の手で動力源を握り潰した。

 

『グォォォ!? コ、壊レルっ!? ウゴォォォ…』

 

 動力源、TFの心臓とも言える機関を潰されたバルゼーは悶え苦しみながら息絶えた。

 機能を失ってただのデカい残骸と化したバルゼーからチーフは離れ、ガルダーゴンを目指して邪魔な敵を排しながら突き進む。あのバルゼーを撃破したチーフに、流石のスタースクリームも驚きを隠せない。

 

「な、なんて奴だ! あのバルゼーをやりやがった…! 何なんだあいつは!?」

 

『バルゼーをやっちまっただと!? マイクロンがやったのか!?』

 

 これにはゼントラーディ人のカムジンでも驚きを隠せなかった。

 そんな彼らを他所に、チーフは自分に向かってくる敵を打ち倒しながらガルダーゴンを目指す。

 

「ガンダムフレームとで!」

 

『我らの連携なら!』

 

 ガンダムヴァサーゴとガンダムアシュタロンに乗るルビーとサファイアは、連携を取ってマクギリスが駆るガンダムバエルに挑んだ。

 先にヴァサーゴがクロービームを放って動きを止め、アシュタロンがビームスピアを投擲してバエルを串刺しにしようとする。だが、相手はあのマクギリスだ。機動力を生かして避け、アシュタロンに接近する。

 

「取り押さえて!」

 

『串刺しにする!』

 

 接近してくるバエルに対し、アシュタロンのサファイアは機体背部の左右のアームで掴もうとした。ヴァサーゴのルビーが串座にしようと言うのだ。それを実行したが、アームが届く前に、アシュタロンの両腕と左右のアームは素早く振られたバエルソードで切り裂かれる。

 

「なにっ!?」

 

『斬っただと!?』

 

『張り付いて串刺しにするつもりだったか。だが、私とバエルの前では通じんよ!』

 

 自分らの連携を驚くルビーとサファイアの両名に対し、マクギリスは自分とバエルには通じないと告げ、両腕とアームを失ったアシュタロンを両断して撃破した。

 

『グワァァァ!』

 

『我が半身を!? 許さん! ガンダムフレーム・バエル!!』

 

 サファイアを撃破したマクギリスに激怒したルビーは、ストライククローでバエルに攻撃した。だが、当にマクギリスには知っている事なので、直ぐに距離を取った。だが、これがルビーの狙いである。

 

「我が半身の仇を取るぞぉ! メガソニック砲発射ッ!!」

 

 討たれたサファイアの仇を取るべく、ルビーはヴァサーゴの腹部に搭載されたメガソニック砲を展開し、エネルギーを収束させてバエルに向けて放った。

 発射された収束メガ粒子砲はガンダムフレームのナノ・ラミネートアーマーを溶解させるほどであり、更にバエルが回避できないほど距離で放たれており、既に勝負は決したとルビーは思っていた。

 

『例えナノ・ラミネートアーマーでも、この距離ならば消し炭だ!』

 

「このバエルは、貴様らのような落ち武者とは違うのだよ」

 

『な、なにぃ!? ブワァァァ!』

 

 だが、マクギリスはそれを躱して既にルビーのヴァサーゴの上を取っていた。発射後のパワーダウンで動きが取れないヴァサーゴは呆気なくバエルソードで切り裂かれ、左右に分かれて大破した。

 

『流石は大将だ! ガンダムを二機もやっちまうとはな!』

 

 大将の護衛にと、ガンダムシャックスに乗るヤザンは駆け付けたが、二機のガンダムを仕留めたマクギリスを見て、その必要が無いと褒める。後からハイネに逃げられたνガンダムに乗るデカルトも駆け付けて来る。

 

『このガンダム共、トーキョーの落ち武者共か』

 

『そうらしいな。おまけに異世界のお友達付きだ。悪党見てぇな奴らとつるみやがってよ』

 

「彼らとで、手段は選べんのだろう。それにトランスフォーマーもご一緒だ。手強いぞ」

 

 彼らは炎のバラ騎士団残党と交戦経験があるため、戦い方には慣れていた。だが、スタースクリーム軍団とジャマイカン率いるクジャン軍が居るので、手強いとマクギリスは二人に告げた。

 

『フン、喋る機械共か。落ち武者共よりは手応えがある』

 

『そこらの兵隊じゃ、つまらなかったところだ。派手にやらせてもらうぜ、大将』

 

「まぁ、私もそのつもりだ。石動たちがシークレットウェポンを回収するまで、彼らを止めるぞ」

 

『応ッ!』

 

『了解した』

 

 次の相手がスタースクリーム軍団とクジャン軍だと分かれば、好戦的な二人は喜ぶ。マクギリスも同様であり、更なる強敵と戦うためとガルダーゴンに降下させた石動たちの支援を行うため、三名は随伴機のリグ・シャッコー隊を率いてガルダーゴンに降りようとする第三勢力と交戦を開始した。

 

 

 

「おのれ、何を手こずっておるのだ!? 敵は混乱しているのだぞ!」

 

 上空のディンやバビを撃ち落としたフォースインパルスガンダムに乗る炎のバラ騎士団残党の隊長格は、シークレットウェポンが保管されている要塞に攻め込めないでいる友軍を叱責する。

 スタースクリーム軍団とジャマイカン率いるクジャン軍の遠征艦隊と手を組み、乱戦状態になっていたガルダーゴンに攻め入った炎のバラ騎士団残党であったが、地上において快進撃を続けたのは最初の一時間だけであった。乱入して来た第三勢力に対し、当初は混乱して蹂躙されていた両軍だが、一時間ほどで増援を得て体勢を立て直して応戦していた。

 残党の騎士は敵は未だに混乱していると思っており、なんで要塞まで接近できないのかと味方に当たり散らす。

 

「クソっ、寄って集った賊と弱公国の軍隊に足を引っ張られては…! なんでハッチが!?」

 

 自分らと同盟を結んだスタースクリーム軍団とクジャン軍に対し、隊長格は文句を言う中、コクピットのハッチが勝手に開いた。これに驚いた騎士はハッチが開いた方向を見た。そこには撃墜されたウィンダムに乗っていたはずのマリが居り、彼女は騎士に顔を見せるなり、ベルトを素早く外して騎士を掴んでコクピットから放り出した。

 

「うわぁぁぁ!?」

 

 マリから放り出された騎士は、悲鳴を上げながら地面へと落下していった。

 

「これならマシそう」

 

 ハッチを締め、シートに座ったマリは機体を一度地面に降ろし、機体のOS設定を自分に合うように設定し直す。この作業を素早く済ませれば、様子のおかしいので調べに来たゲイレールに向けてビームライフルを撃ち込む。

 

『うわっ!? 何をするのです隊長殿!』

 

「その隊長、あんたの下で死んでるわよ」

 

『貴様!? 隊長ではないのか! 殺してやる!』

 

 ビームライフルを撃たれても、ナノ・ラミネートアーマーのおかげか防がれた。自分を撃ってきたフォースインパルスに乗るマリに対し、まだ隊長は乗っていると思っている騎士は驚きの声を上げる。

 これにマリはその下で死んでいると答えれば、激高したゲイレールに乗る騎士は手にしているメイスを振り下ろしに向かってくる。ビームライフルでは直ぐに撃破できないと判断してか、マリはライフルを腰のラックに付け、空いた右手でビームサーベルを抜き、振り下ろされたメイスを盾で防ぎ、ビームサーベルを腰に突き刺す。

 

『グワァァァ…』

 

 ビームの刃はコクピットまで届き、乗っていた騎士は焼け死んだ。直ぐに引き抜き、自分を敵と判断して襲い掛かるゲイレールにグレイズ、ジンクスⅡの迎撃に入る。

 

『あのインパルスガンダムは敵だ! 破壊しろぉ!』

 

 実弾式ライフルを撃って来る地上のゲイレールとグレイズ、ビームを撃って来る上空のジンクスⅡの攻撃を、機体背部に搭載されたフォースシルエットの飛行能力で飛んで躱し、まずは上空のジンクスⅡを取り出したビームライフルを撃ち込んで撃墜する。

 二機、三機と続けて撃墜する中、地上からの攻撃に対しては、制圧しに来た連邦軍か同盟軍の部隊に任せ、マリは自分を敵だと思って襲い掛かる三勢力の機を、攻撃を躱しながら落とし続ける。

 ビームライフルで向かってくる連邦軍のジェムズガン、バリエント、ジェットストライカー装備のウィンダム、クランシェ、量産型ヒュッケバインMkⅡ。同盟軍のディン、バビ、グフイグナイテッド、バクト、ドラド、リオン、ガーリオン、レリオン。第三勢力はイクナト、ジンクスⅡ、ゲドラフ、モラン、ウーシァ。それらを撃墜していたが、時にはビームサーベルを抜いて続けざまに切り裂いて撃墜していた。

 

「なんだあのガンダムは!? 強いぞ!」

 

『あいつ一人で、何十機も落としてやがる!』

 

 別の方でリオンを数機ほど撃墜したODST仕様のクランシェに乗るストーク・ハミルトン中尉は、マリが駆るインパルスガンダムの強さに恐怖する。同型機に乗るODST隊員も同じであり、マリのインパルスに近付かないように離れていく。

 

「空の方は大変だな。あれが来ない内に、要塞へと突入するか!」

 

 地上で戦っている量産型ビルドシュバインに乗るウィル・シュタイナー大尉は、マリの戦いぶりを見て自分では敵わないと判断し、彼女が地上に狙いを定める前に、中隊を率いて要塞へと突入した。

 

 

 

「何か来るぞ! 全員、直ちに戦闘配置に着け!」

 

 一方で別方向から要塞へ攻撃する連邦軍の通常歩兵、機動歩兵とCOGの混成部隊に、上空から飛行型ファイテックスアーマーを身に纏ったガイストが迫った。

 指揮官用にロングアンテナを装備したフェーズ2アーマーを身に纏う機動歩兵の大隊指揮官は、戦闘配置に着くように指示を出し、味方の場合を備えて攻撃しないようにしたが、ガイストは容赦なく持って居たランチャーで部隊を攻撃した。

 

「うわぁぁぁ!?」

 

「う、撃ってきやがった!?」

 

「奴は敵だ! 撃て! 撃てぇ!!」

 

 ガイストが放ったランチャーで数名の歩兵が吹き飛ばされたのを見て、COGの兵士らが恐れおののく中、現場指揮官は反撃を命じる。それに従い、指揮下の将兵等は上空から自分らを殺しに来るガイストに向け、各々が持つ小火器を一斉に放った。

 凄まじい雨のような弾幕であるが、ガイストは恐れることなく突っ込み、回避機動を取りながらランチャーを撃ってまた数十人を吹き飛ばす。

 これほどの集中砲火にも関わらず、恐れずに突っ込んでくるガイストに、火器を撃っている将兵らは恐れを抱いた。それもそのはず、ガイストは戦いを終わらせるために、バイオテクノロジーによって生み出された人造兵士なのだ。

 

「なんだこいつ!? この弾幕を恐れずに突っ込んできやがる!?」

 

「怯むな! 八つ裂きにしろぉ!!」

 

 恐れを抱かず、突っ込んでくるガイストに恐怖する将兵等であるが、指揮官の怒号で我を取り戻して迫りくる殺人兵器に向けて火器を撃ち続ける。

 だが、指揮官の努力も空しく、ガイストの接近を許し、彼の殺戮を許してしまう。

 

「グワァァァ…!」

 

 不運にもガイストの第一の標的にされた歩兵はファイテックスで腕力が増強された左手で引き裂かれ、その肉塊はゴミのように捨てられる。自分の身を守るために必死に抵抗する兵士達であるが、ガイストに殺されるばかりだ。

 機動歩兵やCOGの兵士たちも同様であり、手刀や薙刀で斬り殺されるか、あるいは首を撥ねられ、奪われたライフルで撃ち殺される。

 瞬きする間に、二十人もの兵士の命がガイスト一人の手によって奪われた。これに驚いたフェーズ3アーマーを身に着けた女性の機動歩兵は、ライフルを撃つ前にガイストに首を撥ねられてしまう。一瞬にして辺り一面が血の海となった。

 

「このクソ野郎が!!」

 

 二挺のランサーアサルトライフルを己の腕力を生かして持った黒人の大男、ゴリアテ・オーガスは戦友を虫けらのように殺したガイストが許せず、恐れおののく歩兵や機動歩兵を押し退け、二挺の突撃銃のフルオートを浴びせた。

 だが、ガイストはそれすらも躱し切り、周囲の敵兵らを殺しながらゴリアテに接近してくる。

 

「これでも食らいやがれぇ!」

 

 接近してきたガイストに対してゴリアテは、二挺のランサーアサルトライフルの銃身に付けられたチェーンソーを動かし、それで黒い騎士のようなファイテックスを身に纏う殺人鬼を殺そうとした。

 

「芸はその程度か?」

 

「なにっ!?」

 

 振り下ろされた二つのチェーンソーはガイストに受け止められた挙句、破壊されていた。これにゴリアテが驚いた表情を見せる中、ガイストは面の隙間から覗かせる青い瞳で睨み付けながらランサーアサルトライフルを取り上げた。

 

「くっ、クソォォォ!!」

 

 この男は刺し違えてでも仕留めなくてはならない。

 そう思って密かに盗んでいたニューク弾を起動させ、ガイストに張り付こうとしたが、既に彼はゴリアテが自爆覚悟で張り付いていく事を見抜いていた。掴もうとした瞬間に両腕を掴み、ゴリアテの両腕を引き千切ったのだ。

 

「グアァァァ!? アァァァ!!」

 

 両腕を引き千切られて絶叫するゴリアテに対し、ガイストは容赦なく歩兵の集団に向けて蹴り込んだ。忍ばせていたニューク弾が爆発し、周囲に居た歩兵数十名を巻き込んで自爆してしまう。

 それでもガイストは空かさず、周囲の敵を殺し続け、地面に転がる死体の数を増やし続ける。

 

「畜生が!」

 

 拾い物のランサーアサルトライフルのチェーンソーを動かすフェーズ3の機動歩兵、ラムサ・ラルはそれでガイストの背後から切り掛かったが、あっさりと避けられてライフルを蹴りで破壊されてしまう。

 

「ぬぅぅ、死ねっ!!」

 

 ライフルを破壊されたが、工兵として持って居た杭打ちハンマーでガイストを殴り殺そうとした。

 

「ぶわっ!?」

 

 それも避けられた挙句に杭打ちハンマーを奪われ、それが自分の頭に向けて振り下ろされてラムサは頭を潰された。ヘルメットごと潰されたラムサの身体は地面に倒れ込み、惨たらしい死体の一つの仲間入りを果たす。

 二名の名のある兵士を殺したガイストは更に死体の数を増やし続け、遂には大隊長の惨殺し、指揮官の腹を割いて惨たらしく殺した。

 残った兵士たちは命乞いをするか、逃げ出す者も居たが、殺戮を楽しむガイストは容赦なく杭打ちハンマーを振り下ろし、更にはライフルで逃げる敵兵の背中を撃って射殺する。

 

「向こうがもっと楽しそうだな」

 

 数十分後、ガイストに襲われた混成部隊は一人残らず皆殺しにされた。全身血まみれなガイストであるが、息を全く切らしていない。数百人を殺しても彼は満足せず、次なる標的を同盟軍の要塞に定め、ウィングを展開させて飛翔し、そこへ向かった。

 更なる極限状態の戦闘を求めて…。

 

 

 

「動くな貴様ら!」

 

 西部より要塞へ攻撃を開始しようとした連邦軍部隊の指揮下に居たターニャら特務魔導大隊は、自分らを潜り込んだ異世界の勢力と見抜いた憲兵隊に包囲されていた。別れていたODSTの隊員に扮していた部下たちも拘束され、今はスパルタンであるターニャたちの前に立たされる。

 これにターニャ等は見抜かれた際のプランを実行するため、敢えて大人しく憲兵隊に拘束された。そうとは知らず、憲兵隊の将校は意気揚々と何処から来たのかと問い始める。

 

「貴様らはいったい何処の勢力だ? 同盟軍? いや、違うな。目下、我が軍と同盟軍を攻撃している第三勢力か?」

 

「魔術拘束はもう解いたぞ。いつ始める?」

 

「まだだ」

 

 何処の勢力の者かと問う将校に対し、アーデはまだ攻撃しないのかとターニャに問うが、彼女はまだだと返す。まだ十分に敵兵が集まっていないので、直ぐに始めては効果が無い。

 

「おい、聞いているのか!? 答えんと貴様らの内一人を射殺するぞ!」

 

「大隊長殿、速くしてくれませんか? あの豚野郎に殺されちまう」

 

「ふむ、大分集まったな。さて、始めるとしよう」

 

 答えなかったことに苛立つ憲兵将校は、ODSTに扮した部下の一人を射殺すると脅しを掛ける。

 これに少し慌てた一人の部下が速くしてくれと催促すれば、ターニャは十分に敵兵が集まったことを確認し、もう頃合いだと思って封じていた魔力を解放した。




東京パラリンピックの開会式を見ながら執筆&投稿~。

そろそろ終わらせないとな…。


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激突、ガルダーゴンの地

今回もキャラクターを募集して頂き、ありがとうございました。

募集して頂いたキャラの最後の活躍となります。ごめんなさい。


 惑星ガルダーゴン。

 今まさにここでは史上最大の戦いが行われていた。

 宇宙ではマスターチーフが、フォアランナーの科学力によって再現されたテムジンで駆け、マクギリスが乗るガンダムバエルが、同じくシークレットウェポンを求めて軍団を率いて乱入して来たスタースクリームと死闘を繰り広げている。

 地上ではインパルスガンダムを奪ったマリが三つの勢力を単独で相手取り、極限状態の戦闘を求めてやって来たガイストも目に見える敵を殺し、スパルタンであるターニャが遂に魔力を解放した。

 この世界を影より支配するヴィンデル・マウザーは、敢えて彼らを見逃したのだ。全ては極限状態の闘争を見るために。

 その様子を自分の牙城より見ていたヴィンデルは、これより始まる激闘に最大なる絶頂を感じていた。

 

「素晴らしい! 敢えて彼奴等を見逃した甲斐があった! この闘争に我が身を投じれぬのが残念で極まりないが、刮目するだけでも全身のみならず、我が肉体の隅々にまで闘争の熱気が伝わって来る! 何と心地良い! 我が人生に今までに無い最大の絶頂よ!!」

 

 映像から伝わる強者たちの死闘に、興奮しきったヴィンデルは思わず玉座から立ち上がり、両手を天井に掲げて大いに喜ぶ。

 彼にとって一番残念なことは、影の支配者故にガルダーゴンの地で戦えぬことだが、それでもヴィンデルを絶頂の渦に呑み込むには十分の激しい死闘だ。

 どちらが勝利を得ても、ヴィンデルには問題はない。被害を被るのは、ガルダーゴンで戦う全ての者たちだけだ。

 

 これより先は絶大な力を持つ強者たちの戦い。

 力持たぬ者たちはこの不条理を必死に抗い、生き残るしか選択肢はなかった。

 それでも、強者に蹂躙されるばかりの弱者たちは必死に抗い、そして蛮勇にも立ち向かう。

 所属する勢力の勝利の為、騎士団の再興の為、主君に古代兵器を献上する為、共に戦う戦友の為、生きて家族、あるいは恋人と再会する為に…。

 

 

 

「馬鹿な!? 愚民風情に我々が押されるなど!」

 

 ブリッツガンダムに乗る騎士は、リュータ・バーニングJrが乗るジェガンJ型相手に追い詰められていた。得意の接近戦を仕掛けようにも、ビームライフルで右腕を破壊されて戦闘力を失った。そこへリュータはブリッツに煙幕弾を撃ち込んで視界を奪い、ビームサーベルを抜いて一気に接近する。

 

『くそっ、何処だ!? なにっ!?』

 

「おらぁぁぁ!!」

 

 雄叫びを上げながらブリッツにビームサーベルを突き刺せば、コクピットに突き刺さったのか、ブリッツはその動きを止めた。

 リュータは手練れが乗るガンダムを仕留め、エースパイロットであることを証明した。

 

「こ、こんなことがあるのか! 俺は英雄機ガンダムに乗っているんだぞ!?」

 

 一方でもう一機のガンダムが、トライド・エルク・クランツが乗るエールストライカー装備のウィンダムに追い詰められていた。

 シルエットガンダムに乗る騎士はビームライフルやウェスバーを使ってトライドが乗るウィンダムを撃ち落とそうとするが、躱されるばかりだ。それに乗る騎士は量産機に勝てないことに、苛立ちを覚えて乱射する。

 そんなシルエットガンダムに対してトライドは機体の性能と機動力を生かして接近し、両手で両腰のビームサーベルを素早く引き抜き、敵のガンダムを切り裂いた。

 

「ぬわぁぁぁ!」

 

 四つに切り裂かれたシルエットガンダムは数秒後に爆発。その爆発を背にしていたトライドのウィンダムは直ぐにビームサーベルを元の位置に戻し、ビームライフルを持って次なる敵機へ攻撃を行った。

 

「我らは騎士なんだぞ! なぜ接近戦で押し負けているのだ!?」

 

 予備のソードストライカーを装備した105ダガーに乗るタクト・アルバーンに追い詰められているのは、乱入した最初に死闘を演じたガイアガンダムだ。

 会敵後は圧倒していたガイアに乗る騎士であったが、今はタクトに圧倒されている。

 ビームサーベルを必死に振るい、タクトの105ダガーを切り裂こうとするが、その動きは熟練のパイロットによって既に読まれており、大きく振るったところで躱され、対艦刀を胴体に叩き込まれた。

 

「グェアァァ!!」

 

 コクピットまで届いたビームの刃で身体を斬られた騎士は、痛みとビームの熱さで獣ような声を上げ、数秒後には機体と共に運命を共にした。

 

「そこで止めて!」

 

「はい!」

 

「照準はそこ! ファイヤー!」

 

「了解、ファイヤー!」

 

 メガライダーに乗るマイルは機長の指示に従い、機体を止めた。機長は砲手に指定した方へメガランチャーを撃つように指示を出し、砲手はそれに従ってメガランチャーを発射した。

 放たれたメガ粒子砲はゴリゴンダリスのファイター形態のVFー27が向かう方向へ飛んでいき、目前に放たれた高出力ビームに機体をガウォーク形態に変形させ、ブレーキを掛けようとしたが、既に遅かった。

 

「うわっ!? アァァァ!!」

 

 もうブレーキを掛けても止まらぬほどの距離であり、ゴリゴンダリスはビームに呑み込まれてコクピットごと消滅した。

 

「そこだ!」

 

『行けよ!』

 

 ジャベリンに乗る花田太郎がビームライフルでガンダムMkーⅢを損傷させれば、ケラス・ダゼが乗るドートレス・ネオが両腕に持ったビームサーベルでそのガンダムを切り裂いて撃破した。

 スパルタン・ゼラズニィのスーパーガンダムも騎士団のガンダムをロングライフルで二機も同時に撃破し、スパルタン・チェーストもガンダムでは無いものの、二機のタイヤで突撃してくるゲドラフを一気に切り裂いて撃破する。

 僚艦と共に戦闘を行うインフィニティ。それを守るガンダムタイプを駆るスパルタンたちも同様に、炎のバラ騎士団残党、スタースクリーム軍団、ジャマイカン率いるクジャン軍の機体やTF、艦艇を撃破していた。

 それからも次々と連邦や同盟に撃破される炎のバラ騎士団残党のガンダムが目立ってくる。当初はやられっぱなしな連邦や同盟であったが、乱入から数時間余りで体勢を立て直し、第三勢力に対処している。

 

「英雄機ガンダムに乗っているのに、この醜態は何たる様か! ごろつき共やクジャン公の軍もやられてばかりではないか!」

 

 ロッソイージスに乗るガンダ・ダイール・ドルゴンは、次々とやられていく味方を見て苛立ちを覚える。

 そんな彼にも散って行く味方と同様な末路が訪れる。彼に向かってマスターチーフが駆るテムジンが高速で接近してきたのだ。

 直ぐにビームライフルを撃って対処するガンダであるが、あっさりと躱され、挙句に蹴飛ばされる。

 

「ヌァァァ!?」

 

 マヌケな叫び声を上げながら、ガンダは機体と共にガルダーゴンに蹴落とされた。その落ちた方向は自分らが狙うシークレットウェポンを保管している同盟軍の要塞であり、チーフもそれに続いてガルダーゴンへと降下した。

 

「野郎、一番乗りってわけか!」

 

 マクギリスのガンダムバエルと交戦していたスタースクリームは、チーフがガルダーゴンに降下したのを見て、戦いを中断して向かおうとしたが、敵機のバエルが振るった斬撃で左肩を斬り付けられる。

 

「今は私が相手だぞ、スタースクリーム大帝」

 

「畜生、この鉄屑が! 俺のボディを! まずはテメェからスクラップにしてやる!」

 

「アグニカ・カイエルの魂が宿るこのバエルを鉄屑呼ばわりとはな。後悔させてやろう!」

 

 左肩を斬り付けられたスタースクリームは右手で傷口を抑えながら、ガンダムバエルを鉄屑と罵った。

 自分が慕うアグニカ・カイエルが乗っていたバエルを鉄屑呼ばわりしたスタースクリームに、マクギリスは少々怒りを覚えたのか、いつもの爽やかな表情から怒りに満ちた表情へと一転した。

 

「怒ったか? 俺のナルビームで身動きを封じ、嬲り殺しにしてやるぜ!」

 

 向かってくるガンダムバエルに対し、スタースクリームは嬲り殺しにすべく、必殺技のナルビームを撃ち込む。躱されるばかりであるが、それもマクギリスも同じである。双方の攻撃は当たらず仕舞いで、一進一退の攻防だ。

 

「上手くやれよ、石動」

 

 少し冷静になりつつ、マクギリスはスタースクリームと交戦しながらガルダーゴンに視線を向け、石動に上手くシークレットウェポンを回収するように祈った。

 

 

 

 ガンダが落下したガルダーゴンの地上戦に視点を移せば、そこでも第三勢力は連邦や同盟に押されていた。

 

「あ、ありえん! この機体はガンダムなんだぞ!?」

 

 空中に浮遊するZⅡガンダムに乗る炎のバラ騎士団残党の騎士は自分はガンダムに乗っているはずなのに、ストーク・ハミルトンのクランシェに勝てないと喚く。

 持っている全ての兵装を撃つが、ODSTのパイロットが乗るクランシェには当たらず、人型形態に変形したクランシェの左手に握られたビームサーベルで胴体を斬られ、墜落していく。墜落していくガンダムに向け、ストークは中指を立てた。

 

「ガンダムに乗るのが速いんだよ。もう少し腕を上げな!」

 

 そう言って機体を戦闘機形態へ変形させ、同盟軍機と再び交戦した。

 

「み、味方が!? 愚民の分際で!」

 

 アンドリヒ・グリィフが駆るジャベリンより放たれたショートランサーで、味方のガンダムMkーⅢが貫かれて撃破されたのを受け、ガンダムデスサイズに乗る騎士は怒りを覚え、ウィル・シュタイナーが乗る量産型ビルドシュバインにビームサイズで斬りかかるが、避けられてしまう。

 

『何っ!?』

 

「踏み込みが甘い!」

 

 自分の斬撃が避けられたことに驚く騎士に対し、ウィルは素早く抜いたプラズマソードをデスサイズの胴体に突き刺し、乗っている騎士を殺害した。機能を失ったデスサイズは地面に大きな音を立てて横たわる。

 

「敵MS撃破!」

 

 フェーズ2アーマーを身に纏う機動歩兵、マルジン・アジャン一等兵はリーオーを同じ班の者たちで共同撃破した。

 地上ではMSの最大の弱点である両足を潰し、そこから胴体に徹甲弾を撃ち込み、乗っているパイロットを殺して機体を無力化する。

 

『う、うわぁぁぁ!?』

 

「こちら第5分隊、敵MS撃破! 次の標的に向かう!」

 

 マルジンと同じフェーズ2を纏う機動歩兵であるザン・バーガーも、配下の分隊と共にグレイズの関節部に対物火器の火力を集中させ、バランスを崩させたところでコクピットハッチに徹甲弾による集中砲火を行い、乗っている騎士を殺害して敵機を無力化した。

 

「敵小型機動兵器撃破!」

 

「俺と同時撃破だ、お嬢ちゃんよ」

 

「こちらも無力化しました!」

 

 フェーズ3アーマーを纏う機動歩兵であるミスティ・エーデルとニック曹長は、KMFであるサザーランドを共同撃破した。ニックの部下であるリック伍長は、アーマーの機動力を持って単独でサザーランドの無力化に成功する。

 

「こんな馬鹿なことがあってたまるか! 我々はこの日の為に、この日の為に全てを賭けたのだぞ!?」

 

 次々にやられていく味方を見て、カオスガンダムに乗る炎のバラ騎士団残党の地上部隊の隊長は冷静さを欠き始める。

 付近で増援としてやって来たUNSC海兵隊と戦うゲイレールは、援護射撃を受けて懐に潜り込んだファル・ドバールが放ったM41SSR多目的ロケットランチャーを股間部に受けて地面に転倒し、そこからジョセフ・グロスハイムの放った同じロケットランチャーでコクピットのハッチを吹き飛ばされた。

 

「クソっ! うわぁぁぁ!!」

 

「撃ち方止め!」

 

「クリアだ!」

 

 機体を無力化された騎士はコクピットから飛び出し、腰の剣を抜いて海兵隊員に立ち向かおうとしたが、ファルやジョセフ、その他の海兵隊員らが持つ小火器でハチの巣にされる。

 ファルが全員に討つのを止めるように指示を出せば、ジョセフは周辺の海兵隊員に敵を仕留めたことを手話を取りながら知らせた。

 

「エネミーダウン! ツーダウン!」

 

 付近で反撃してくる同盟軍のヘルガスト軍の歩兵部隊を、M739ライトマシンガンで撃ち続けるカイン・マイナンは倒した敵の数を言いながら他の海兵隊員らと共に敵の反撃を抑える。

 

「エリートダウン! ブルートダウン! もっと弾を!」

 

 ヘルガスト軍と共に反撃に出るサンヘイリやジラルハネイの指揮官を狙撃するファン・クレインは、近くにいる海兵隊員に弾を持ってくるように指示を出す。

 

「ぬァァァ! どうだ地底人共!?」

 

 付近で地中から反撃してくるローカストに対し、ムクド・ガリームはランサーアサルトライフルのチェーンソーでドローンを惨殺した。

 他のCOGの兵士たちも同様に地中より出て来るバグズやローカストを迎撃を行い、友軍の要塞への突入を援護する。

 

「一匹、二匹! 三匹!!」

 

 ガンダムスローネに襲われ、逃げたプレベィナ・オーパスは他の隊に合流してか、モリタ式狙撃銃で要塞への突撃部隊の側面から攻撃してくるバグズを狙撃する。

 補給型アーマーを身に纏うクロディオ・プレスリーも、必死に味方の為に弾を届け、戦場の中を駆けていた。

 

『面白いことになってますねぇ! ヒヤァァァ!!』

 

「こいつ、敬語なのに行儀悪い!」

 

 多数の敵機を撃破し、三方に損害を与え続けるマリは駆るフォースインパルスガンダムに、スローネドライに乗るナランガーに強襲される。

 粒子ビームを撃ち、奇声を発しながら向かってくるナランガーのスローネドライに、マリは不快感を感じながらも攻撃を躱してビームライフルによる反撃を行う。これにナランガーは避け、接近したところでGNビームサーベルでインパルスに斬りかかるが、躱された挙句、素早く抜かれたビームサーベルで武器を持つ右手を斬り落とされる。

 

『なんですかこれは!?』

 

「ハァァァ!!」

 

 自分が躱すよりも先に武器を持つ右手を斬り落とされたことに、ナランガーは動揺した。そんなナランガーにマリは間髪入れずに左腕を斬り落とし、更には両足まで斬り落として両手両足が無くなったスローネドライを地面に蹴り落とす。

 

『私が、私が負けるぅぅぅ!? そんなはずが無いじゃないですか!? 何でこんなぁぁぁ!?』

 

「煩い」

 

 地面に蹴落とされたナランガーは自分がやられたことを理解できずに絶叫する中、マリは直ぐに索敵を行う。

 

「ぬぅぅぅん! あのガンダムぅ! 許さないですよぉ! 次の機体を、次の機体をッ!!」

 

 蹴落とされて地面に落下したナランガーはボロボロになった身体を無理やり動かしながらスローネドライから降りたが、そこには火炎放射器を持ったキム・ヨンジが居た。

 

「っ!? キェェェ!!」

 

「うわっ!? 敵だ!」

 

 墜落したスローネドライの近くに居たキム・ヨンジに、ナランガーは奇声を発しながらカギ爪で斬りかかろうとしたが、火炎放射器のガソリンと炎を浴びせられ、全身を焼かれて火達磨と化す。

 

「グェアァァァ!? ヒヤァァァ! 熱い、熱いよぉぉぉ!!」

 

 全身にガソリンを浴びせられ、更には炎で焼かれたナランガーは獣のような叫び声を上げながら地面をのた打ち回る。そんなナランガーに海兵隊員らは手にしている銃を全身が黒焦げになるまで発砲する。

 

「撃ち方止め! 撃ち方止め! もう死んでる!」

 

「クソ野郎め、お前に虐殺された味方の仇だ!」

 

 指揮官が発砲を止めるように言えば、海兵隊員らは撃つのを止めた。だが、一人の海兵隊員はスローネドライが味方の将兵等を虐殺しているのを知っており、手にしているMA5Dアサルトライフルを仇討と言って黒焦げになっているナランガーの死体に発砲する。

 

『ナランガーがやられただと!?』

 

『とんでもなく強い奴が居るようだな! 何処だ!?』

 

 ナランガーのスローネドライの反応喪失に戦慄したバンダとエボルタであったが、彼の死を悲しむどころか、彼を倒したマリを自分らが求める強敵として認識し、どこに居るのか探し始めた。

 

 

 

「い、一体何者なのだ…! 貴様たちは…!?」

 

 連邦軍内に潜入したターニャとその部下、アーデ、シュルツ、ユーゴを始めとする四十八名の特務魔導大隊を拘束した憲兵大佐であったが、自分以外の部下全員は皆殺しにされ、駄目押しに要請したスコープドッグ全機は搭乗者諸とも全てスクラップにされていた。

 相当な時間は掛かるはずだが、ターニャと部下たちは敢えて封じていた魔力を解放し、僅かな時間で自分らを包囲していた憲兵隊を壊滅させたのだ。

 少し前に起こった信じられぬ光景に、憲兵大佐はターニャに何者かと声を震わせながら問う。

 

「おや、魔導士はご存じではない? まぁ、この世界は科学ですからな。魔法は迷信。何も貴方の認識は間違っておりませんぞ。間違っているのは我々なのですから」

 

 この大佐からの問いに、ターニャは自分らが間違っている存在であると上司と接する態度で答える。

 

「間違った存在だと…!? 一体、この世界に貴様らは何をしに来たんだ…?」

 

「何をしに? 盗られた忘れ物を取り返しに来た。それだけですよ。質問は以上ですな? では、我々は行きますので」

 

 次に何をしに来たのかと問う大佐に対し、ターニャはシークレットウェポンの事をはぐらかしながら答えた後、懐に持って居たM6Hハンドガンで眉間を撃ち抜いて射殺した。

 大差を射殺したターニャは拳銃を懐に戻してから、報告に来た斥候である人間の魔導士に要塞はどうなっているのかを問う。

 

「要塞の方に連邦は取り付いたか?」

 

「えぇ、連中は必死に頑張ってくれたおかげで、要塞への進路が確保できました。後は要塞内に立てこもるエリアン共を掃討し、物を回収するだけです」

 

「よろしい、ならば速くこの戦争だらけな世界からおさらばするぞ。平和が一番だからな」

 

 斥候は要塞への進路は連邦が開いてくれたことを報告すれば、ターニャは楽が出来ると思った。速く任務を終わらせるべく、それとこの戦争だらけの世界から速く出ていくために部下たちに要塞への突入を指示する。

 

「総員傾注! これより連邦軍が開いてくれた要塞への活路を通り、要塞内部に突入する! もう連邦は我らの味方ではない、敵だ! 周囲は我ら魔導大隊以外、敵ばかりだ。モンターク商会を名乗るアグニカ軍も敵と思え。我らの狙いは要塞内にある神聖百合帝国の忘れ物のみ! 出し惜しみは無しだ、全力で任務を遂行せよ!!」

 

了解であります、大隊長殿(ヤヴォール、バタリオンシェフ)!』

 

 ターニャが鼓舞を兼ねたミーティングを行えば、部下たちは士気を上げて解放された魔力で空を飛び、要塞へと全力で突撃していった。これにターニャも続き、先陣を切って要塞へと突撃する。

 突如となく現れた特務魔導大隊の魔導士らに対し、決戦に夢中になっている連邦と同盟は動揺を覚える。

 

「何だあいつらは!?」

 

「また乱入者か! 他の隊が抑えているんじゃないのか!?」

 

「邪魔をする奴は、全て叩き潰せ!」

 

 全力で空を舞い、要塞へと突撃してくる特務魔導大隊六十名に対し、総勢一千万辺りの連邦と同盟の将兵等は火力を浴びせるが、ターニャが張った障壁術式、それもスパルタンのミニョルアーマーよって強化されたシールドの前では全くの無意味であった。機動兵器や要塞の火砲ですら、シールドに弾かれるばかりだ。

 

「凄いな、ミニョルアーマーは。一生着けておきたいくらいだ」

 

 全ての攻撃を弾くまでに強化してくれるミニョルアーマーに、ターニャは一生着ておきたいと口にし、部下に守らせつつ、アーマーによってさらに強化された砲撃術式による攻撃を行い、前面に展開する双方の部隊を瞬く間に蹴散らす。

 あれだけあったMS、AT、PT、戦闘車両、航空機、トーチカにバンカー、歩兵、バグズが消し飛んだ。これに双方は一時混乱し、真面な対応が出来なくなる。

 

「連邦、同盟、混乱しているようです!」

 

「よし、一気に突入だ! 速く終わらせるぞ!」

 

 この隙にターニャ等は一気に要塞へと突入した。

 無論、要塞にあるシークレットウェポンを狙っているのはターニャたちだけではない。先ほどまでは同行していたアグニカ軍も、ターニャが開いた突破口に気付いた。

 

『石動隊長! 要塞への突入路が!』

 

「総帥の読み通り、デグレチャフがやったか! 全機、雑魚共に構うな! 要塞へと突入しろ!」

 

『はっ!』

 

 部下の報告で気付いたSガンダムに乗る石動は、襲ってくる連邦や同盟を無視して要塞への突撃を命じれば、配下のリグ・シャッコー隊は要塞へと突撃する。

 だが、ターニャの砲撃術式が無くとも、要塞へと単独で突入してた者が居た。バイオ・デンジャラス・ソルジャー、MDガイストである。

 

「うわぁぁぁ!?」

 

「フン、どうやら先回りした甲斐があったようだ」

 

 ヘルガスト兵の頭部を手刀でゴーグルごと潰し、更にはぞろぞろと現れたサンヘイリやジラルハネイを惨殺したガイストは、ターニャたちが突入してくるのを見て、先に要塞へと突入した甲斐があったと口にする。

 

「つわぁぁぁ!!」

 

 それからガイストは広い場所へ通り、そこに待ち受けていた多数のバグズをファイテックスアーマーのパワーを駆使して次々と惨殺していく。

 

 強者たちの決戦は、要塞へと移り変わろうとしていた。




次回でシークレットウェポンを出そうかな。


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シークレットウェポン

遂に登場?


 先にガイストが要塞へと突入し、ターニャ等も要塞へと突入していく中、マリのフォースインパルスガンダムを見付けたバンダのスローネアイン、エボルタのスローネツヴァイは周囲の敵、もしくは味方を排除しながら襲い掛かる。

 

「死ねやァァァ!!」

 

 スローネアインに乗るバンダは高出力のGNランチャーを放って射線上に居た味方諸ともマリのインパルスを消し去ろうとするが、当然の如き避けられてしまう。

 

「串刺しになれぇぇぇ!!」

 

 次にスローネツヴァイに乗るエボルタは、機体のGNファングを全基放って躱し切ったインパルスを串刺しにせんとするが、マリは常人離れした操縦技術で全てを躱し切る。

 だが、既に見越したのか、エボルタはファングを躱し切ったインパルスに接近しており、GNバスターソードで斬りかかる。これにビームサーベルで反撃するマリであるが、パワーはツヴァイの方が高く、切り裂かれてしまう。

 

「ちっ!」

 

 直ぐにマリは内蔵小型戦闘機であるコア・スプレンダーで脱出するが、アインに乗るバンダが執拗に追ってくる。

 

「逃げるなぁ! 死ねやぁ!!」

 

 ビームライフルで逃げ回るコア・スプレンダーを狙うが、的が小さいので余りにも当たらない。

 攻撃を躱しながらマリは、左腕に着けていた端末でVF-31Jジークフリードを呼び出し、それが来るまで攻撃を躱し続ける。

 それと同時にガンダのロッソイージスが要塞へと落下し、共にマスターチーフも戦場へ到達したが、彼らは気付いていない。

 

「なんだ!? 急にコンテナが!」

 

 マリに呼び出されたVF-31Jは、スピリット・オブ・ファイアのコンテナの中にまだった。

 呼び出されたバルキリーはコンテナをガウォーク形態となって無理やり飛び出し、邪魔な壁をミサイルで破壊してそのままマリの元へと急行した。

 それに合わせ、マリも自分のバルキリーとの合流ポイントまで、追ってくる二機のガンダムスローネの攻撃を躱しながら上昇する。

 ようやく合流ポイントまで来たところで、乗っていたスプレンダーが撃墜された。その瞬間、マリは飛び出しており、キャノピーを開いていたガウォーク形態のVF-31Jに飛び乗っていた。

 

『死んだか、あの女?』

 

「次はあのバルキリーを!」

 

 そう言ってスローネアインに乗るバンダがVF-31Jを狙おうとしたが、マリは乗り込んでおり、マルチコンテナを作動させ、ビームガンポッドでスローネアインを狙っていた。

 バンダとエボルタは破壊したコア・スプレンダーの爆発の煙で気付いておらず、煙の名から来たビームで躱し切れず、アインは胴体に被弾した。

 

「馬鹿な…!? 俺が、この俺がこんな死に方なんぞ…!?」

 

 乗機をビームで貫かれたスローネアインに乗っていたバンダは、こんな死に方は自分の死に方では無いと嘆いたが、定められた運命は変えられるはずも無く、機体と共に運命を共にした。

 周囲に赤い粒子が巻き散らされる中、最後に残ったスローネツヴァイはバスターソードでマリのVF-31Jに斬りかかる。

 

「ナランガーに続いて、バンダまで殺すとはな! 面白い奴だよお前は! お前のような奴と戦いたかったぜ!!」

 

 仲間の死を悲しむどころか、マリを最強の強敵と認めたエボルタはファングを放って串刺しにしようとする。

 飛んでくる多数のファングにマリは機体をファイター形態へ変形させ、突き刺そうと向かってくるファングを常人離れした操縦技術で全て躱し切る。それを見たエボルタは接近し、バスターソードで叩き切ろうとした。

 

「死ぃぃねぇぇぇ!!」

 

 振り下ろそうとするスローネツヴァイに対し、マリは機体をバトロイド形態に変形させ、バク転蹴りを入れ込んで怯ませた。そこから機体両腕の対艦ナイフで切り裂き、スローネツヴァイを切り裂いた。

 

『こいつは、こいつは俺よりも、強いって言うのか…!? ふざけるなァァァ!!』

 

「しつ、こい!」

 

 切り裂かれてもなお動くエボルタのスローネツヴァイは、自分より強いマリを許せず、道連れに自爆しようと張り付こうとしたが、強い蹴りを入れ込まれた挙句、両腕ミニガンポッドを何発も撃ち込まれた。

 

「うわぁぁぁアァァァ!? 俺が、俺が女なんかに、女なんかに負けるなんて! やだぁぁぁ!!」

 

 ガンポッドより放たれる無数の弾を浴びたエボルタは、女のマリに負けたことが相当嫌であったらしく、その気持ちを叫びながらコクピットにまで達した弾丸を頭部に受け、その後に機体の爆発に呑まれて吹き飛んだ。

 炎のバラ騎士団残党の三匹の獣を仕留めたマリは、シークレットウェポンを破壊するため、機体をファイター形態に変形させて要塞へと突撃する。

 途中、突如となく現れたマリのVF-31Jに対し、双方から無数の対空砲火やミサイルを浴びせられるが、それらを機体を回転させながら躱し切り、地上すれすれまで降下して、遭遇する両軍の地上機の攻撃を避けつつ、ガンポッドで撃破しながら進む。

 

 

 

「コルタナ、異世界からの古代兵器は?」

 

『っ!? チーフ、危ない!!』

 

「動かす暇はない! 入れ!」

 

 一方でテムジンでガルダーゴンに降下し、要塞へと辿り着いたマスターチーフは、古代兵器を破壊するため、コルタナに位置を問うが、AIである彼女はテムジンに強力な攻撃が迫っていることを知らせた。

 それはガイストが同盟軍より奪った試作火器であり、既に回避不能と判断したチーフは、コルタナのチップだけを回収して機体から飛び降りた。試作火器を受けたテムジンは大破し、機体から飛び降りたチーフは撃てなくなった試作火器を捨てて襲い掛かるガイストと刃を交える。

 

「こいつは、誰だ!?」

 

『こいつも、異世界より来た者らしいわね。知らないわ!』

 

 いきなりテムジンを破壊し、薙刀を持って襲ってくる黒いファイテックスを纏うガイストに、チーフは素早くヘルメットに入れ込んたコルタナに何者かと問うが、彼女は知らないと答える。

 薙刀を抑えるナイフを持つ両手から左手を離し、空いた左手でガイストの腹に強烈なパンチを見舞えば、吹き飛んで壁に激突した。

 だが、ガイストがこの程度で死ぬはずが無く、兜の面の隙間から見せる青い瞳でチーフを見て、自分が求めていた極限状態の戦闘が出来る相手と見て、不気味な笑みを浮かべる。

 

「お前となら、楽しいゲームが出来そうだ」

 

「どうやら、戦闘を楽しむタイプだ。厄介だぞ」

 

 チーフの強さを見て、ガイストは自分が求めていた殺し合いの相手に相応しい為に、思わず気持ちを口にした。

 その言葉を聞き、チーフはガイストと言う人物が危険な男だと判断し、背中のMA5Dライフルを取り出して的確な射撃を行う。これにガイストはファイテックスのウィングを展開して躱し切り、ヘルガスト軍より奪ったアサルトライフルで撃ち返す。

 超人同士による激しい銃撃戦が行われる中、無数の同盟軍の怪物たちを魔力で排除したターニャが激戦区へと迷い込んだ。

 

「マスターチーフとMDガイストだとっ!? 存在X、貴様は私にこいつ等と戦えと言うのか!?」

 

 この場に入ってしまったターニャは驚愕した。

 なにせ自分の留学時代に知ったアニメとゲームのキャラクターが死闘を演じているのだ。しかもその戦いぶりは他所を寄せ付けない程の激闘。そこに入ったターニャは、自分を二度も転生させた神を自称する存在を酷く罵った。

 

「なんてことだ、壁が高い上に分厚過ぎる…! あんな戦いに突っ込めば、命が幾つあっても足らんぞ…!」

 

 マスターチーフは自分的に言えばまだ人気のキャラクター。ガイストはアメリカで見て初めてその存在を知った日本アニメのキャラクターだ。

 両者を知るターニャは戦慄し、この場は撤退しようかと考え始める。

 凄まじい激闘を行う二人から見えぬように物陰に隠れながら考えるターニャであったが、彼女の存在を優秀だが融通の利かない副官がわざわざ教えるような真似をした。

 

「何をしている!? ターニャ・フォン・デグレチャフ!!」

 

「貴様、余計なことをするな!」

 

 アーデらが激戦区に突入し、二人がちょうど刃を交えている所に砲撃術式を撃ち込んだのだ。当然、殺気に気付いたチーフとガイストは躱し切り、ターニャは余計なことを仕出かしたアーデに激怒する。

 

「機動歩兵? 違うな」

 

『あれは異世界の兵士だわ。機動歩兵に変装しているようね』

 

「邪魔が入ったか」

 

 ターニャとアーデを発見した両名は、直ぐに手にしている火器をそこへ撃ち始める。即座に防御術式を張りながら遮蔽物に下がれば、ターニャはバカな真似をしたのに、逆に自分を責める副官を叱責する。

 

「なぜ下がる? 目標はもう直ぐそこで、敵は二人なんだぞ!?」

 

「貴様、あの二人の危険さが分かっておらんのか!? 奴らはSレベルなんて物じゃない! 倒せるかどうか分からんのだぞ!?」

 

「な、何を言っているのだ!? まるで意味が分からんぞ!」

 

「あぁ、お前たちはマスターチーフやMDガイストなど知らんな。とにかく、あれらが我々の存在に気付いてしまった。ブライトクロイツ少佐、貴様の所為で作戦は難航を極めるぞ…!」

 

 アーデにとっては意味の分からない理由で叱責されたので、逆に言い返してくる。これにターニャは斃せるものでは無いと告げ、作戦は難航を極めると告げた。

 無論、アーデにはチーフとガイストの脅威が伝わる訳が無い。あのスパルタンと何処からともなく現れたファイテックスを纏う男が、自分らにどのような影響が出るか理解できぬのだ。他のイヴ人たちも同様である。

 ターニャが必死に語ったその脅威は、彼女たちが身を以て知る事となる。

 

「ファイテックス!」

 

「離れろ直ぐに!」

 

 壁を破壊して現れたガイストに気付いた一人の部下が叫び、アーデたちは応戦しようとした。これにターニャは戦うなと言うが、既に遅く、ガイストの近くに居た一人の隊員が身体を手刀で貫かれた。

 

「あっ…かはっ!?」

 

 手刀で貫かれたイヴ人隊員は吐血し、その隊員の血はターニャとアーデらに掛かる。

 

「貴様ぁぁぁ!!」

 

 目前の同胞を傷付けたガイストに怒りを燃やしたアーデは襲い掛かるが、彼女の実力では戦うために生み出された兵士に敵うはずが無く、身に着けていた機動歩兵のフェーズ3アーマーを破壊されて吹き飛ばされた。

 直ぐに数名の同伴していた隊員がアーデを受け止め、二名の隊員が直ちに貫かれた隊員の回収に向かおうとしたが、ターニャに止められた。

 

「止せ! 奴の思うつぼだ!」

 

「なんで! まだ助かるのに!!」

 

「奴の攻撃を受けた時点で、既に殺されたも同然だ! お前たちも死にたいのか!?」

 

 止められた部下はそれでも助けに行こうとしたが、ターニャは威嚇射撃を行って無理に止め、大を生かす為に小を見捨てろと訴えた。ガイストは瀕死の味方を助けようとする敵兵を殺す戦法を取っている。

 その証拠にガイストは手刀で貫いた隊員を餌にする為に敢えて生かし、助けようとした誘いに乗った隊員二名を殺す構えを見せていた。

 

「何をしている!? 速く助けるんだ!」

 

「馬鹿を言うな! 死人が増えるぞ! お前も死にたいのか!?」

 

 抱えられたアーデが助けるように叫ぶが、不安な表情を浮かべる部下たちとターニャの必死さに押され、やもえず元部下の上官に従った。

 

「くっ、後で査問してやる! それまで生きていろ!」

 

「嫌な奴だ! だが、任務は遂行する! 通信兵は全員に伝えろ! あの緑のスパルタンと黒いファイテックスには絶対に近付くなと!」

 

「りょ、了解!」

 

 この作戦の後、査問してやるとアーデが言えば、ターニャは嫌味で応えつつ、近くの通信兵にマスターチーフとガイストには近づかないように伝えるように告げた。

 それから離れるが、標的をターニャ等に定めたガイストは彼女らを追う。それを追う形でチーフもガイストを追跡するが、手刀で貫かれた隊員がまだ息があるのを見て、近くに寄り添って治療パックで応急処置を行う。

 

「な、何を…?」

 

「喋るな。いま応急処置している。後は仲間に治療してもらえ」

 

 ガイストの注意が完全にターニャ等に向いている間、チーフは瀕死の隊員に応急処置を行い、後の治療は仲間にしてもらうように信号弾を渡し、極限状態の戦闘を求める男の追跡に移った。

 危険な男に追われるターニャ等は飛行して逃れようとするが、ガイストはファイテックスのウィングを展開して執拗に追って来る。それも同盟軍より奪った火器で撃って追ってきており、道中で遭遇する同盟兵に突入した連邦兵が殺害されている。

 だが、そのガイストの殺戮劇も、ターニャの特務魔導大隊の誰一人を殺すことなく、追い付いたチーフによって終わらされる。

 

「これ以上、お前を野放しには出来ん。お前はフォアランナーが破壊しろと言った異世界の古代兵器並みに危険な男だ」

 

「フハハハ…! ブルァァァ!!」

 

 先のガイストの行動を見たチーフは、ガイストをフォアランナーが破壊しろと命じた古代兵器以上に危険な男と判断した。

 この男は古代兵器より先に、斃さなければならない敵であるとチーフは判断したのだ。即座にチーフは行動に移し、ライフルでガイストを狙う。向こうが来てくれるので、極限状態の戦闘が出来るガイストは笑みを浮かべ、雄叫びを上げてチーフに向かった。

 

 

 

 ファイター形態のVF-31Jジークフリードを駆り、要塞の対空砲火を避けつつ古代兵器を探し回るマリであったが、同じく対空砲火を避けながら接近してくる四機のガンダムとVF-27やゴースト無人戦闘機の編隊が彼女のバルキリーに襲い掛かる。

 そのガンダムの集団は炎のバラ騎士団残党の残りであり、地上の部隊は既に死なば諸とも言う覚悟で全力で襲い掛かる。残りのVF-27とゴーストの編隊は随伴しているだけだ。

 

「ドルゴン臨時団長殿の為にも!」

 

『炎のバラ騎士団再興の為に!』

 

『死ねぇ! ワルキューレの手先め!!』

 

 セイバーガンダムに乗るサマナと呼ばれるスキンヘッドの騎士が死んだと思われているガンダの名を叫べば、カオスガンダムに乗る騎士が騎士団再興を掲げ、ガンダムキラーに乗る騎士はマリのVF-31に向けてロールキャノンを発射する。

 飛んでくる高出力ビームに気付いたマリは直ぐに躱し、機体をガウォーク形態に変形させてウェポンコンテナで反撃を行い、随伴の不明なガンダムを撃墜した。仲間を殺されたことで、更に激昂した残り三機のガンダムは怒りに燃えてマリに特攻を仕掛ける。

 

「おのれぇ! 良くも!!」

 

『一緒に死ねぇ!!』

 

 火器を撃ちながら接近してくる三機のガンダムに、マリは機体をファイター形態へ戻し、攻撃を躱しながら引き続きウェポンコンテナのビームガンポッドで反撃した。避けながらの射撃とは思えない的確な物であり、ガンダムキラーはそれに被弾した。離脱すればまだ助かったが、運悪くスタースクリーム軍団所属のVF-27とゴーストの編隊のミサイル攻撃に巻き込まれて大破どころか爆散する。

 

「アァァァ!?」

 

 味方の攻撃で爆散した騎士は全身に炎を浴びて塵となった。尚、ミサイル攻撃はフレアを巻かれて無駄になっている。

 

「逃がすか!」

 

 その後、カオスガンダムが機動兵装ポッドを展開し、退路を封じつつビームサーベルを抜いて接近戦を仕掛けたが、避けられた挙句、バトロイド形態となったVF-31の蹴りを受け、ビームガンポッドを撃ち込まれて撃破された。

 

「クソっ、マダロンカも! えぇい、邪魔をするな!」

 

 残りは自分一人。撃破されたカオスガンダムを見たサマナはマリに怒りを覚え、向かおうとしたが、ジャベリンやジェットストライカー装備のウィンダムなどの連邦軍機が邪魔をしに来た。これに怒りを覚えたサマナは得意の接近戦を仕掛けるために機体を戦闘機形態に変形させ、収束ビーム砲でウィンダムを撃墜した後、連邦軍機の集団に近付いたところで機体を人型形態に戻す。

 それからは両手で両肩に収めてあるビームサーベルを抜き、素早く二機を切り裂き、逃げ遅れた数機を立て続けに切り裂いて撃破した。次にクランシェなどの数機の可変機が編隊を組んでサマナのセイバーガンダムに挑んだが、かつてワルキューレに属していた騎士が乗るガンダムに敵うはずが無く、ライフルで撃墜されるか、接近戦を仕掛けて返り討ちに遭っている。

 

「ご、ゴーストが一方的に落とされてるだと!?」

 

 一方で追撃を続けていたVF-27とゴーストの編隊はマリに蹂躙されていた。先に突っ込ませたゴーストはなす術も無く撃墜されるばかりであった。無人機故に反則的な機動で人間を圧倒するゴーストであるが、相手のマリは人では無かった。故にゴーストが放つミサイルは全て躱され、的のように落とされていく。

 

「クソが! 俺たちはサイボーグだぜ!」

 

『キャノピーを真っ赤に染めてやるぜ!』

 

 改造された自分たちなら敵うと信じ、挑んだVF-27βルシファーの編隊がマリに挑んだが、結果はゴーストよりも悲惨だった。

 ある一機は照準に捉える前にマリのVF-31Jに接近され、コクピットをブレードで抉られ、もう一機はバトロイド形態になってビームガンポッドで撃墜しようとするも、撃つ前にミニガンポッドでハチの巣にされた。残るVF-27も瞬きする間に全て撃墜される。

 この異常な撃墜劇を見ていたセイバーガンダムに乗るサマナは、マリに畏怖と勝てないと言う絶望を同時に感じた。

 

「馬鹿な…! サイボーグが乗るVF-27を全滅させただと…!? 勝てるのか…!? 否…! 勝てない…!」

 

 勝てない。騎士団の再興は不可能。

 そんな言葉がサマナの脳裏を走る中、マリが乗るバトロイド形態のVF-31Jはビームガンポッドを手にして固まっているセイバーガンダムを容赦なく撃った。放たれたビームで機体を貫かれたセイバーガンダムは大破寸前であったが、絶望に打ちひしがれているサマナは脱出することなく、機体と共に運命を共にした。

 

 

 

「おぉ、これは…! これはまさしく古代兵器…!」

 

 マスターチーフによってガルダーゴンに蹴り落とされたロッソイージスガンダムに乗ってたガンダは、奇跡的に要塞内に保管されていた古代兵器ことシークレットウェポンの近くに落下していた。

 大気圏の熱で焼かれ、落ちた衝撃で残骸となったロッソイージスから出たガンダは、念願のシークレットウェポンを見てあらぬ方向へ折れた片足を引きずりながらそれに近付き、騎士団再興が叶うと感動の余り涙を流す。

 シークレットウェポンは棺の中に収めてあるようだ。それにガンダは抱き着き、僅かに動く手で棺の蓋を塞いでいる鍵穴を探し始める。

 

 この兵器に関する情報はかつてのイヴ人の帝国、神聖百合帝国が末期に開発した最終兵器の一つと言う事以外、明確な物はない。どのような威力があるかは、見付けて調べる他にない。

 帝国崩壊後、敵に渡すまいと全ての資料は一つ残らず焼かれ、兵器自体も次元の彼方へ破棄された。ワルキューレは帝国軍の武装解除後、いくつか作られた試作兵器の確保に行ったが、一つたりとも入手には至っていない。ガンダが騎士団再興をもたらす思っている古代兵器も、その一つであった。

 

 念願の古代兵器を手に入れたガンダは棺の鍵穴を見付けた後、密かに入手していたそれを開ける鍵を穴に挿入した。

 鍵はワルキューレが魔女狩り事件と呼んでいる事件の首謀者たる炎のバラ騎士団が、予備計画として密かに手に入れた物であり、使うことは無いとされた。

 だが、炎のバラ騎士団が打ち出した騎士団を最大軍閥のアガサ騎士団とメイソン騎士団に匹敵する一大軍閥に発展させる計画は、両騎士団の妨害、魔女狩りと呼ばれた由縁たる魔力を持つ多数の女性を捕らえ、その女性たちを黒魔術を用いて生贄に捧げ、騎士団員を超人にすると言う計画故に有志討伐隊によって失敗に終わった。

 計画の首謀者は有志討伐隊によって討たれ、計画に参加した炎のバラ騎士団は当然の如く解体、騎士団長を含む複数の幹部は責任として処刑される。

 残った騎士団員らはメイソン騎士団や異世界の敵勢力との戦区へ送られたが、扱いは雑兵どころか捨て駒に等しく、宇宙では元炎のバラ騎士団の部隊が敵と乱戦中、味方であるはずのメイソン騎士団は強力な徹甲弾であるダインスレイブを放ち、挙句に艦砲射撃を敢行して多数の騎士の命を誤射で奪った。地上では方面軍が元騎士団員たちを捨て駒として前線に配置、挙句に撤退の時間稼ぎに使って殺した。

 これほどの仕打ちを受け、奇跡的に生き延びたガンダを含める残党たちは騎士団再興とワルキューレに対して復讐を決意。手元に残った古代兵器を開く鍵を密かに持ち出し、ヴィンデル・マウザーが支配する歪んだ理想郷へと逃れたのだ。

 

「パンドラの箱は開かれた…! ワルキューレよ、貴様らに鉄槌を下してやろうぞ…!」

 

 瀕死の身体に鞭打って鍵を開いたガンダは今度こそ騎士団再興とワルキューレに復讐できると思ったが、その願いは悲願の古代兵器に裏切られた。

 

「お、女だと…!? どういうことだ…! イヴ人共の古代兵器は、皇族の遺体だと言うのか…!?」

 

 開かれた棺の中にあったのは、マリによく似た女性であった。違いとすれば、腰まで届く長髪が青空のような水色をしていることだ。頭には機械のようでな物を被っている。衣服は動き易い戦闘服のようだ。腕と足には何かを収めているポーチらしき物を付けている。

 

「一体、一体我々は何のために…? この遺体の為に、炎のバラ騎士団の騎士たちはその身を捧げてきたと言うのか…!?」

 

 絶望に打ちひしがれているガンダはここに来るまでに犠牲となった部下たちのことを思い出し、悲しみに明け暮れていたが、棺の中に横たわる女性は両目を見開き、ガンダに向けてある言葉を言い放った。

 

「起動完了。起動完了後の当初のプログラムに従い、イヴ人以外の周辺に存在する全ての人型生命体の抹殺を開始します。至近距離に標的を捕捉。その標的に対し、相転移砲の試射を開始。照準固定」

 

「っ!? な、何を言っているのだ!?」

 

 突如となく起き上がり、イヴ人以外の人型生命体全てを抹殺すると機械的に言い始めた女性に対し、ガンダは驚いて何を言っているのかと問うた。棺の中の女性は答えることなく、両手を翳して溜め込んだエネルギーをガンダに向けて放った。

 

「うわぁぁぁ…」

 

 それを受けたガンダは鎧が消滅した後に肉体も消滅し、やがては骨まで跡形も無く消えた。そればかりでは無く、ガンダの周辺にあった物体全てを文字通りに消し去ったのだ。

 

「相転移砲の試射完了。この兵装を極めて有効。ただし、魔力損耗高く。使用は限定と判断。周囲に多数のイヴ人以外の人型生命体を確認。全ての抹殺に要する時間、七二時間と推定。達成に対する貯蔵魔力残量で可能か計算。完了、十分に可能と判定。これより抹殺を開始」

 

 ガンダを消滅させた古代兵器と呼ばれる女性は、周辺にイヴ人を含めるガルダーゴンに存在する異星人を含めた人型生命体を確認し、貯蔵魔力で十分に皆殺しが可能と判断してそれを実行しようと手近に居る生命体に襲い掛かった。

 

 かくして、イヴ人が余りも危険と判断して破棄した古代兵器が目を覚まし、仕組まれたプログラムに従ってイヴ人以外の人型生命体の抹殺を開始した。




残り二人の獣をマリが血祭りに上げ、マスターチーフVSガイスト、古代兵器が目覚めました。

古代兵器、またはシークレットウェポン
美少女?型の古代兵器の容姿は、士郎正宗氏の漫画「ブラックマジック」に登場するM-66を人にしたような物。
神聖百合帝国が犠牲をもってせっかく占領した世界を手放したくないが為に、ある人物と言うか、産ませた女性の遺体を使って開発された生体兵器。
イヴ人以外の人型生命体の抹殺を目的としており、星一つに居るイヴ人以外の人型生命体の抹殺を終えるまで止まることは無い。どうやって止めるかは、崩壊後に全ての資料が破棄されたために不明。
余りにも危険で作ったイヴ人ですらヤバいと言わしめる物であるため、開発後に起動することなく棺の中に封印し、次元の彼方に捨てた。尚、鍵は捨てなかった。

だが、誰にも見付けられないように捨てられた古代兵器はスタースクリームに見付かってしまった。
それをスタースクリームは条件付けてヴィンデルに渡したが、ヴィンデルは約束を守ることなく死鬼隊を嗾けて追い払い、スタースクリームが軍団を率いて奪い返しに来る要員を作ってしまう。

次回は美少女型抹殺系兵器VSマリ、ターニャ、マクギリス、スタースクリーム、マスターチーフ、ガイストの戦いです。
連邦と同盟? 知らんな。


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古代兵器666

仮名666
帝国再建委員会とアグニカ軍、炎のバラ騎士団残党、スタースクリーム軍団などの勢力が狙っていた古代兵器ことシークレットウェポンの正体。
イヴ人以外の人型生命体の抹殺を目的とした生体兵器であり、起動して早々に近くに居たガンダを相転移砲の試射で消し飛ばし、ガルダーゴンに存在するイヴ人以外の全ての人型生命体の抹殺を開始する。

kinonoさん
リオンテイルさん
マルクさん
黒子猫さん
わかものさん
オリーブドライブさん
秋音色の空さん
スノーマンさん
魚介(改)さん
団子狐さん
Gー20さん
ただのおじさんさん
雨の日さん

キャラクターを投稿して頂き、ありがとうございました!

でもね、もうちっとだけ続くんじゃ…!


 遂に古代兵器ことシークレットウェポンの正体が判明した。資料紛失の際に正式名称が不明ため、身に着けている戦闘服に刻まれている666で、仮名666と呼ぼう。

 仮名666はどの勢力の手に落ちる前に起動し、予め組み込まれたプログラムに従い、イヴ人以外の全ての人型生命体の抹殺を開始した。

 ガンダの次に科名666の標的となったのは、要塞東部に侵入した敵に対処するために向かっている同盟軍の歩兵部隊であった。

 

「な、なんだこいつは!?」

 

「知らんが敵だ! 撃ち殺してしまえ!」

 

 現れた仮名666に対し、同盟軍の歩兵部隊は手にしている銃で撃ち殺そうとしたが、素早く張られた魔法障壁で放った弾丸は全て弾かれる。

 

「ら、ライフルを受け付けません!」

 

「ミサイルだ! ミサイルで吹き飛ばすのだ!」

 

 ライフルを受け付けないと言う部下の言葉に、指揮官はミサイルランチャーを持った兵士に撃つように命じる。その間に仮名666は同盟軍歩兵の戦闘力を判断し、火器の使用するまでもなく、右腕のガントレットに内蔵されたブレードのみで対処可能と判断する。

 

「外照無しの人型生命体、戦闘力は歩兵並と判断。火器を使用するに値せず。右腕のブレードのみで対処可能」

 

 そう言って右腕のガントレットに内蔵されたブレードを展開し、目にも止まらぬ速さで同盟軍歩兵部隊に接近して次々とブレードで惨殺していく。一瞬にして床や壁、天井は異星人の返り血に染まった。

 その後から続々と同盟軍の兵士たちが出て来るが、仮名666に敵うはずが無く、ブレードで殺されるばかりだ。サンヘイリやジラルハネイ、レクゴロ等の強敵も仮名666に挑んだが、虫けらの如く殺されるだけであった。

 

「な、なんて奴だ…!? ベルセルクをぶっ殺しやがった…!」

 

 次にローカストの最強とも言える個体、ベルセルクが仮名666に挑んだが、目から出された光線で機動兵器を持ち込まないと対処できない硬い皮膚を容易く貫き、あっさりとやられてしまった。

 それを見ていた同盟軍の将兵等の戦意は失せ、逃げる者たちを仮名666が逃すはずが無く、追い付かれて次々と殺害されていく。

 

「ひっ、ひィィィ! 助けてくれぇぇぇ!!」

 

 最後の一人となった兵士は喚き散らしながら必死で逃げ、マスターチーフとガイストが戦っている戦場へ迷い込む。当然、ガイストに気付かれ、頭を掴まれて顔面を握り潰された。

 

「あの兵士、何かに怯えていた。逃げた方向から連邦軍が攻め込んだのか?」

 

『いえ、違うわ。私たちが破壊しなくてはならない物が、動き出してしまったようだわ…!』

 

「ほぅ、面白い奴が来たな…!」

 

 同盟軍の兵士を握り殺したガイストを見て、チーフは何かに怯えて逃げて来たと判断し、逃げてきた方向に視線を向けた。

 そこから仮名666が姿を現す。コルタナは直ぐに仮名666を破壊しなくてはならない古代兵器であるとチーフに知らせ、ガイストは同じく彼女を見て面白い奴と判断する。二名の強者を見た仮名666は、直ぐにスキャンして抹殺せねばならない生命体と判断して攻撃を始める。

 

「二名の人型生命体をスキャン。優先的排除目標と認定。排除します」

 

 優先的排除目標と認定するなり、仮名666は目から光線を放ってチーフとガイストを排除しようとした。

 無論、すんなり当たる二人ではない。即座に躱してライフルなどで反撃するが、仮名666は魔法障壁を張って防ぎ切り、光線による掃射を続ける。

 

「うわぁぁぁ!?」

 

「グアァァァ!」

 

 仮名666とマスターチーフ、ガイストの戦いは激しく、要塞を守る同盟兵と攻める連邦兵が巻き込まれて死亡する。この激戦はターニャ等も気付いでおり、直ぐに現場へ急行した。

 

「この攻撃は…?」

 

「同盟軍の決戦兵器か?」

 

 駆け付けたターニャ等は回収すべきである仮名666を同盟軍の決戦兵器だと思うが、探している古代兵器を探している隷下の中隊よりチーフとガイストと戦っているのがそれだと知らされる。

 

『こちら第3中隊、シークレットウェポンらしき物を収めた箱を見付けましたが、中身がありません!』

 

「なに、どいう言うことだ?」

 

『何者かが開けたようで、付近には同盟兵の死体が多数見られます!』

 

「まさか、あれが我々が探している忘れ物だと言うのか…!?」

 

 隷下中隊の中隊長より仮名666を収めていた棺が空いていると知らせれば、ターニャはチーフとガイストと交戦しているのが自分らが探していた物と驚愕した。

 その仮名666の戦闘力はチーフとガイストをやや圧倒しており、あれを捕まえて持って帰れなど到底不可能とターニャは判断する。だが、副官のアーデはやる気であるらしく、無線機を使って全中隊に集合するように指示を出している。

 

「各中隊、直ちに大隊本部に集合しろ! 標的は目の前にいる!」

 

「馬鹿か貴様!? マスターチーフやガイストが押されているんだぞ! 皆殺しにされるわ!」

 

「疲弊しきったところを拘束術式で捕らえればいい! 各中隊はそれまで周辺の雑魚を掃除しておけ!」

 

 下手に手を出せば皆殺しにされると言うターニャに対し、アーデは疲弊しきったところを拘束術式で仮名666を捕らえると答える。ガイストの一撃を受け、アーデは身体にダメージを受けているはずだが、まだ元気なようだ。これにターニャは何も言わず、連邦軍機や同盟軍機の始末に回る。

 

「グワァァァ!」

 

『チーフ!?』

 

 仮名666はアーデの想定とは違い、チーフに強烈な蹴りを入れ込んで吹き飛ばした。壁を何枚も突き破り、付近のダブデ級陸上戦艦に激突する。数トンはあるチーフに激突されたダブデ級は大破し、その後大爆発を起こした。これでマスターチーフは生死不明となる。

 マスターチーフを蹴飛ばし、ダブデ級を撃破した仮名666にガイストが挑む。薙刀を力を込めて振るうが、右腕のブレードで防がれた挙句、左手から来たパンチで薙刀を破壊される。

 

「フン、面白い女だ。もっとゲームを楽しもうじゃないか」

 

 これにガイストは驚きつつも、仮名666とは自分が求めていた極限状態の戦闘が出来るので、笑みを浮かべて打撃による攻撃を行う。

 ファイテックスのマッスルスーツ機能による握力増強のパンチであり、ガイストはそれをボクサー以上のラッシュで放った。だが、相手は戦闘力を強化された生体兵器であり、それを躱しながらガイストにカウンターのパンチを見舞い、彼の体力を奪っていく。

 そのガイストと戦う仮名666は、彼の好戦的な性格と戦闘力を分析してこのガルダーゴンの中で一番危険な生命体と判断。優先的に排除すべきターゲットと認定し、ガイストの腹に強力なパンチを見舞って吹き飛ばしてから相転移砲による攻撃を始める。

 

「ぶぁ!」

 

「目前の戦闘アーマーの人型生命体、極めて好戦的な性格に戦闘力を有しており、優先的に排除すべきターゲットと認定。相転移砲による排除を開始します」

 

 お前を優先的に排除する。

 そう宣言した仮名666は両手に相転移砲のエネルギーを溜め込み始める。無論、待ってやるガイストではない。

 

「ブルアァァァ!!」

 

 雄叫びを上げながら全力疾走で近付き、目前の華麗な女性にしか見えない生体兵器を殺そうとしたが、既に相転移砲のチャージは完了していた。

 

「相転移砲、チャージ完了。発射!」

 

「っ!? ぶぁぁぁ!!」

 

 相転移砲のチャージを完了次第、仮名666はそれを躱し切れない距離まで迫ったガイストに放った。自分が殺意の拳を振るう瞬間に放たれた消し飛ばしたエネルギー弾を受けたガイストは、それに呑み込まれて消滅する。

 ガイストの周辺にあった物は相転移砲によって消し飛んだが、何故か彼が被っていたファイテックスの兜は近くに落ちていた。これが何を意味するかは、後に分かる。

 

「が、ガイストまで倒した…! 奴の戦闘力はヤバい! ヤバすぎる!!」

 

「上空に成人のイヴ人を複数確認。中央に居る女児はロリータとは思えぬ高い魔力を有しており、周囲のイヴ人に危険を及ぼす敵対的生命体と判断。排除します」

 

 チーフを蹴飛ばして生死不明とし、ガイストを相転移砲で消し飛ばした仮名666に、ターニャは畏怖を覚える。

 そんな仮名666は余りの高い魔力を持つターニャをイヴ人に対する脅威と定め、直ぐに跳躍して攻撃する。

 

「わっ!?」

 

「今度は私だと!?」

 

 周りのアーデを含めるイヴ人らが驚く中、ターニャは直ぐに魔法障壁を張り、攻撃を防いでから仮名666に応戦する。仮名666は飛行魔法を使えるらしく、目より光線を撃ちながらターニャを追撃する。

 アーデたちを無視して自分を真っ先に攻撃してきた仮名666にターニャはイヴ人は標的には含まれないと即座に判断し、自分はイヴ人だと告げる。

 

「なんで私を狙う!? 私はイヴ人だぞ!」

 

「貴方の魔力はロリータ族を遥かに上回っております。よってイヴ人では無く排除すべき人型生命体と判断。イヴ人ではありません」

 

「私は異端扱いだと言うのか!? ふざけるな!」

 

 追撃してくる仮名666に自分はイヴ人であると告げるが、高い魔力の所為かイヴ人とは認定されず、レーザーによる攻撃を受け続ける。

 今のターニャは純潔なイヴ人だ。イヴ人の身体より生まれたロリータ族であり、親となったイヴ人からは人間の血は一切ない。なのにイヴ人以外の人型生命体の抹殺を目標に作られた仮名666に狙われた。

 これをターニャは存在Xの仕業と判断する。

 

「おのれ存在X! チーフとガイストの次は古代兵器を差し向けるか!!」

 

 自分を二度も転生させた存在Xに対する恨みの言葉を叫びつつ、ターニャは追撃してくる仮名666と死闘を演じた。

 残されたアーデらは、何が何だか分からずに混乱して動いていなかった。

 

 

 

 バルキリーのVF-31Jジークフリードに乗り、上空で破壊すべき古代兵器こと仮名666を探すマリだが、そんな彼女にも脅威が現れた。

 宇宙で激しい死闘を繰り広げていたマクギリスのガンダムバエルとスタースクリームがガルダーゴンまで降下して来たのだ。バエルは連邦軍の艦艇を使って大気圏再突入を無事に済ましたが、F15戦闘機に変形するスタースクリームの土壌に引きずり込まれてしまった。

 一応、ガンダムバエルは飛行可能だが、空中戦を得意とするデストロンであるスタースクリームには不利な場所だ。

 

「ハッハッハッ! そいつは一応は飛べるみたいだが、空においてはこのスタースクリーム様が上のようだな! 嬲り殺しだぜ!」

 

『ちっ、奴の領分に誘い込まれたか。だが、空を制して見せる!』

 

「無駄に足掻きやがって! スーパーナルビームでその気に入らねぇ面を吹っ飛ばしてやる! グリッド、来いッ!」

 

 重力がある大気圏の空中で接近戦を挑もうとするマクギリスのバエルに対し、スタースクリームはバエルの足場となっている軍艦を胸部のミサイル全弾発射で攻撃する。それから自分の武装を強化させる装備を呼び出す。

 発射されたミサイルを避けながら突っ込んできたバエルの斬撃を躱し、両腕のレーザーを撃ち込んで離れさせた後、二門の長砲身を備えた戦闘機がスタースクリームと合流する。そこから戦闘機はスタースクリームと合体するために分裂した。

 

「なにっ! 合体だと!?」

 

「はっ! これを受けて生き延びた奴は居ない! トランスフォーム! 合体!!」

 

 驚きの声を上げるマクギリスに向け、スタースクリームはその合体した自分を相手の中で生き延びた奴は居ないと豪語した。戦闘機に変形(トランスフォーム)してグリッドと呼ばれる分裂した砲身型戦闘機と合体する。その姿はVF-1バルキリーの空間戦用装備であるストライクバルキリーのようだ。

 合体したスタースクリームは左右にあるキャノン砲をバエルに向けて発射するが、当然ながら当たらない。それでも威力は凄まじく、周辺に居る連邦と同盟の艦艇や機動兵器が巻き添えを食って大破していく。

 

「見たか! スーパーナルビームの威力を!」

 

『流石はTFだ。我々の想像を遥かに上回る火力…!』

 

「初見を躱すとは歯応えのある奴だ。だが、次は無い! トランスフォーム!」

 

 TFの火力を見て驚くマクギリスに対し、スタースクリームは人型形態に変形する。グリッドとの合体は人型形態でも維持されるようで、そのまま次のスーパーナルビームを発射した。

 二発目は味方も巻き込んだようだが、スタースクリームは誤射を気にするタマではない。狙われるガンダムバエルの機動力は高く、二発目も躱して近付こうとするが、スーパーナルビームはオーバーヒート知らずか、近付けない。

 

「オーバーヒートが無いのか!?」

 

「へっ、お前ら肉ケラの作った鉄屑とは違うんだよ! いい加減に消し飛びやがれ!」

 

 オーバーヒートしないスーパーナルビーム砲にマクギリスがまたしても驚きの声を上げる中、スタースクリームは人間の作った物とは訳が違うと答え、再びスーパーナルビームを連発する。だが、バエルに夢中になっている所為か、マリのVF-31Jのミサイル攻撃に気付かず、被弾してしまう。

 

「うわぁぁぁ! だ、誰だ!? 俺様のボディに傷を付けやがった奴は!?」

 

『VF-31Jジークフリード? マリ・ヴァセレートか』

 

「十発も撃ち込んだのに、撃墜できないなんて! 何なのあいつ!?」

 

 十発も撃ち込んだが、スタースクリームは撃破できなかった。直ぐにマクギリスはマリが来たと気付く。一方でのマリは、スタースクリームがまだ健在なことに驚きを隠せない。

 

「バルキリーだァ? クソがっ! 空飛ぶガラクタの分際でこの俺様のボディに傷を付けやがって! まずはテメェからだ! 死ねっ!!」

 

 マリに攻撃されたことに気付いたスタースクリームは自分のボディに傷を付けられたことに激怒し、先に彼女のVF-31Jにスーパーナルビームを撃ち込まれた。即座に躱して接近するマリであるが、スタースクリームは照準を定める隙を与えずにスーパーナルビームを撃ち込み、接近させないようにする。

 膠着状態となる中、そこへ仮名666に追われるターニャが戦いの場まで逃れて来た。

 

「っ!? あいつは…! 俺が探していた奴じゃねぇか! なんで動いてやがる!?」

 

「あれはガンダムにバルキリー! それにスタースクリームだと!? あいつもなんでここに居るんだ!」

 

 仮名666を見たスタースクリームは一目見るだけで自分が探していた古代兵器だと気付き、アメリカで見慣れたTFを見たターニャはこの場に居ることに驚きの声を上げた。

 追撃してくる仮名666の攻撃を躱す中、マリは機体をガウォーク形態に変形させ、コンテナウェポンのビームガンポッドを展開してターニャを追う抹殺兵器を攻撃した。仮名666から伝わる強力な魔力反応で、あれが自分の破壊すべき標的だと判断したのだ。

 

「標的を戦闘機に乗るパイロットに変更。抹殺します」

 

「っ!?」

 

 ターニャを囮に仮名666に向けてビームを撃ち込んだが、直ぐに気付かれて標的が自分に変わる。即座に機体をファイター形態に変形させて逃げようとするマリであるが、仮名666に追いつかれ、機体に張り付かれて装甲を抉られて徐々に破壊されていく。

 

「この!」

 

 破壊されていく機体から脱出するためにキャノピーを開け、VF-31Jを抉る仮名666に拳銃で撃ち込むが、魔法障壁で全て防がれた。目にも止まらぬ速さどころか、マリが気付かぬほどの光の速さでいつの間にか来ていた仮名666は左手で彼女の首を掴み、右腕に展開したブレードで腹を貫いた。

 

「がっ…!?」

 

「生命反応停止を確認。抹殺完了。引き続き、周囲に存在する人型生命体の抹殺を続行」

 

 瞳から光を失い、糸が切れた人形のように動かくなったマリの遺体からブレードを引き抜いてから捨て、仮名666は周囲に居るターニャ、マクギリス、スタースクリームの抹殺を行う。

 

「このスタースクリームの許可なしに勝手に動きやがって! ナル光線を受けてみやがれ!」

 

 動いたことに苛立っているスタースクリームは仮名666に機械類の一時的にショートさせるナル光線を撃ち込む。だが、仮名666は見えているかのごとく躱し、スタースクリームの右腕を蹴りで破壊した。右腕を破壊されたスタースクリームは凄まじい痛覚で絶叫し、右腕を抑えながら配下の軍団に退却を指示する。

 

「うわぁぁぁ! お、俺の右腕が!? クソっ、痛い! いてぇぇぇ!! スタースクリーム軍団、退却! 退却ぅぅぅ!!」

 

 右腕を破壊されて情けなく退却を叫ぶスタースクリームに、配下の軍団で従う者は少なかった。

 

「退却だと? 大将、何の冗談だ? 俺たちはまだ戦えるぜ!」

 

『退却だ? 情けねぇ! 俺はやるぜ!』

 

『大将をやったのはあいつか! 俺が軍団のリーダーよ!』

 

 宇宙でヤザンやデカルトと戦っていたカムジンが退却に疑問を抱く中、付近に居るスタースクリーム軍団の配下がリーダーの座を狙おうと仮名666に挑んだが、全く歯が立たずないどころか、攻撃をするよりも前に返り討ちにされて全滅してしまった。

 この間にスタースクリームと彼に従う者たちは退却を始めていた。ジャマイカンも仮名666の戦闘力を見て、敵う相手どころか捕獲に向かえば返り討ちに遭うだけと判断し、軍団に続いて退却する。

 

「なんて恐ろしい戦闘力だ…! あれは人の手に負える代物ではないな…!」

 

 立ち向かったスタースクリーム軍団を返り討ちにした仮名666に、マクギリスは自分らの手どころか人の手に負える代物ではないと判断し、自分らの部隊に退却の指示を出す。

 

「総員に通達、直ちに退却せよ! シークレットウェポンは目を覚ました。その戦闘力は制御できる物ではない! 直ちに退却せよ!」

 

 退却の指示を出すマクギリスに、石動は彼の言動で自分らの目標が危険な代物と判断して直ぐに従う。

 

『総帥、直ちに退却の準備をさせます。その様子だと危険な物で?』

 

「そうだ、他の者たちに納得させるために録画した映像を送った。あれは到底、我々の手に負える物ではない。あれを作ったイヴ人らと、連邦や同盟の将兵諸君に対処させよう」

 

『了解! 映像は見たな? 直ちに退却だ! 宇宙のヤザンとデカルトにも伝えておけ!』

 

 マクギリスの指示に従った石動は宇宙で戦うヤザンとデカルトにも指示を出すように命じ、邪魔な連邦軍機や同盟軍機を片付けながら味方の退却を支援する。

 退却の指示を出したマクギリスもそれに続こうとする中、近くにいるターニャは逃げるのかと問い詰める。

 

「さて、私も退却させてもらおう。あの女性の姿を下兵器は、明らかにMA(モビルアーマー)よりも危険だ」

 

「なにっ! 逃げるのか貴様!?」

 

「逃げるも何も、あれは君たちイヴ人が作り出した兵器だ。我々の旅は無駄に終わったようだな。だが、目標の殆どは達成した。もう長居する気も無いさ」

 

「おのれ、撃ち殺してやる!」

 

 帝国再建委員会を利用し、シークレットウェポンこと仮名666を手に入れる算段であったがマクギリスであるが、先にガンダが起動させて暴走させたため、奪取の目標は潰えた。だが、兵員の確保が出来たので、もう長居する必要は無いとターニャに告げてマクギリスは地上に降りる。

 逃げようとするマクギリスを撃ち殺そうと、バエルに砲撃術式を向けるターニャであったが、撃つよりも前に仮名666に相転移砲を撃ち込まれた。それを寸でのところで躱したターニャは、自分が嫌う神を自称する存在Xの力を使う他無いと判断する。

 

「ちっ、存在Xめ。私に使わせるためにこの状況を作り出したな…! 良いだろう、使ってやろうではないか! 祈りの力を!!」

 

 相転移砲を撃って魔力の節約の為に右腕のブレードを展開し、接近してくる仮名666に、ターニャはとっておきの切り札であるエレ二ウム九五式を使用した。




スタタクの合体シーン入れたら、次回まで伸びちまったよ。

スタースクリーム、全くこの愚か者め!

次回でマジでシークレットウェポン編が終わりとなります。
尺が余ったら、生存組がまた登場するかも。


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ガルダーゴン、陥落

これで終わりとなります。

ドラゴンボールになっちまったな…。


 圧倒的な魔力と戦闘力をもってガルダーゴンに存在するイヴ人以外の人型生命体の抹殺を行う仮名666に対し、持ち合わせた神の力故にイヴ人と認識されなかったターニャは切り札であるエレ二ウム九五式を使用した。

 帝国再建委員会が更に発展させた演算宝珠とエレ二ウム九五式の力がスパルタン用のミニョルアーマーに合わさり、アーマー全体が眩く神々しく光り始める。

 それに気付いた仮名666は一度止まり、ターニャの戦闘力を測定する。

 

「戦闘アーマーを纏った敵小型生命体の戦闘力、更に上昇を確認。優先ターゲットを目前の生命体に固定。排除開始」

 

「来い、死体を媒介にした化け物め。直ぐに終わらせてやる」

 

 神の力こと存在Xの加護を発動させたターニャを、優先すべき抹殺対象として仮名666が判断すれば、彼女は左手で挑発した。

 これに仮名666は乗り、左腕のガントレットよりこれまで使わなかった短機関銃の銃身を展開し、左右の足に付けたポーチから弾倉を取り出して装填してからターニャに向かって撃ち始める。

 

「この期に来て短機関銃など!」

 

 先の相転移砲が来ると思いきや、短機関銃による掃射が来たので、拍子抜けしたターニャは手にしているバトルライフルで反撃した。仮名666は9ミリパラベラム拳銃弾の短機関銃。対するターニャは遥か先の未来で製造されたバトルライフルの弾丸であり、しかも魔力で強化されている。

 左腕のガントレットの内蔵銃としてベースとなったのはMP28短機関銃なのか、簡単に撃ち負けた挙句に破壊されてしまう。射撃武器を破壊された仮名666は魔法障壁を張り、後退しながら次の武器となりそうな場所を探す。

 

「左腕の9ミリ短機関銃消失。相転移砲の発射に掛かる時間は五分以上。次なる武器は…」

 

 ターニャのカービン銃から放たれる銃弾を躱すか魔法障壁で防ぎつつ武器を探す中、付近を飛んでいる連合軍のスピアヘッド戦闘機が目に入った。

 

「逃さん! 主よ、我に目前の脅威に打ち勝つ力を!」

 

 武器を探して飛び回る仮名666に、ターニャは爆撃機の編隊を全て仕留めた追尾式砲撃術式を使用した。詠唱を短く終えれば、直ぐにそれを発射して仮名666を仕留めようとする。

 

「追尾型術式の弾丸は全て危険と判断。回避に専念します」

 

 ターニャより放たれた追尾式弾丸は全て危険と判断した仮名666は回避に専念することにし、ジグザグに高速で動き回って追尾してくる弾丸を回避し続ける。並の空戦魔導士なら躱し切れず、被弾して死ぬところである。これにターニャは生前に戦った少女を思い出した。

 

「存在Xの手先だった小娘を思い出すが、あいつより動き過ぎだ。全く当たらんぞ」

 

 追尾式砲撃術式を躱し続ける仮名666は、あの少女よりも動き過ぎていると言った後、ターニャは躱し切れないほどの巨大な砲撃術式を撃とうと詠唱し始めたが、目標は予想だにしない反撃を行った。

 全弾を躱し切った後、目に入った先のスピアヘッドのキャノピーに張り付き、パイロットをブレードで殺してから戦闘機を奪い、機関砲でターニャに反撃する。

 これを防ぎながら詠唱を行うが、ミサイルが飛んできたので詠唱を中止してライフルで迎撃しながら応戦した。

 

「ちっ、戦闘機を奪うとは! だが、その程度の戦闘機では私に勝てんぞ!」

 

 スピアヘッドでは勝てないと仮名666に言いつつ、ターニャは相手に向けて高速で突っ込んだ。

 凄まじい弾丸の如く速さで突っ込んでくるターニャを戦闘機の機関砲で迎撃する仮名666だが、速過ぎて当たらず、戦闘機を体当たりで撃墜されてしまった。直ぐに離脱し、ブレードでターニャを切り裂こうとする仮名666であるが、躱されて魔力とミニョルアーマーで強化された蹴りを受けて吹き飛ばされる。

 直ぐに背後へ衝撃波を放ち、反撃に転じようとするも、ターニャは間髪入れずに追撃を仕掛け、何発も拳を仮名666に打ち込む。魔法障壁で防いでくるが、何発も強い魔力を込めたパンチを打ち込んだ所為か、障壁が破れて拳が仮名666に届いた。

 一見、兵器とは思えない可憐な女性であるため、殴られた仮名666は無表情ながらも皮膚が切れて出血する。人間の死体をベースにしているために出血しているのだ。そのままミニョルアーマーを身に着けたターニャのパンチのラッシュを受け続ける。

 

「死ね、死ね、死ね、死ねぇ! 死ね…っ!?」

 

 ただ殴られている仮名666ではない。右拳を受け止め、口から血を流しながらも無表情な顔でターニャの腹に膝蹴りを打ち込んだ。その威力は凄まじく、ターニャは思わず吐血し、吹き飛ばされる。

 

「ぐはっ!? ミニョルアーマーで無ければ死んでいた所だ!」

 

 ミニョルアーマーのシールドが無ければ、真っ二つに割れていた事だろう。

 アーマーのスラスターで体勢を立て直し、反撃に出る仮名666のブレードによる斬撃を躱しつつ、銃剣で斬撃を防いで左足を蹴り込む。無論、仮名666はガードして空かさずにカウンターを入れ込んでくる。

 そこから双方による一進一退の激しい打ち合いが始まる。徐々に打ち交わされる拳や蹴りの速さは増していき、やがては機関銃の如く速くなる。おそらく銃弾よりも速いだろう。余波も激しく、付近を飛んでいた連邦軍や同盟軍の航空機はターニャと仮名666のラッシュの余波で発生した衝撃波を受けるだけでバランスを崩し、互いに衝突するか操作不能となって墜落していく。

 常人離れした激しいラッシュ比べを制したのは、抹殺兵器である仮名666であった。

 

「なにぃ!?」

 

 アーマーの腕が仮名666のパンチで砕けたことに、ターニャは驚きの声を上げる。あのような数百年前の良く分からない技術で作られた死体を媒介にした兵器に、最新型であるミニョルアーマーの腕が破壊されたのだ。無論、破壊された右腕にはターニャの腕は入っていない。右腕を粉砕した仮名666の拳が本体がある胴体へと迫る中、ターニャはヘルメットを緊急パージし、破壊されゆくミニョルアーマーより緊急脱出した。

 

「アーマー撃破。ただし、本体は目標ロスト。索敵…」

 

「よくも私の一張羅を!」

 

 爆発の衝撃で本体であるターニャを見失った仮名666が索敵を行おうとする中、脱出した本体は怒りを込めて敵の顔面に小さい足で蹴りを入れた。小さいながらも、ターニャの蹴りは成人男性の頭部を破壊するほどの威力である。

 

「なんだと!?」

 

 だが、寸でのところで魔法障壁を張っていたのか、仮名666の綺麗な顔は無事であり、左手でターニャの足を掴んで地面に叩き付けようと投げる。

 

「ぬわぁぁぁ!!」

 

「目標、地面に落下中。生存を確認。追撃します」

 

 地面に向かって高速で落下するターニャに、仮名666は確実に仕留めるために追撃を仕掛ける。落下するターニャを追う途中で、アーデらに妨害される。四人がかりで抑え込まれ、アーデに主人であるはずのイヴ人であるターニャをなぜ攻撃するのかと問われる。

 

「止せ! 奴は異端思想の持ち主だが同胞だぞ!? なぜ攻撃するのだ!?」

 

「防衛目標のイヴ人を視認。全員、錯乱している模様。錯乱したイヴ人に対するプログラムに従い、昏倒させます」

 

「へっ? ぶっ…!?」

 

 純血のイヴ人であるアーデの問いに対し、仮名666は答えずに彼女らを錯乱しているイヴ人と判断。目にも止まらぬ速さで彼女らを昏倒させ、アーデには強力な拳を腹に打ち付けて気絶させた。

 

「かはっ…!? なんで…?」

 

「この高度では落下死する可能性大。まだ正常な意識を保っている付近のイヴ人に介抱を要請。お願いします」

 

 アーデを含めて五人は抱えている仮名666は、付近で隊長らを目にと揉まらぬ速さで倒したことに驚いで震えるイヴ人の隊員らに彼女の介抱を要請する。これに残った隊員らは応じて昏倒した彼女らを抱えて一目散に安全圏まで退避する。

 

「イヴ人の退避を確認。追撃を続行します」

 

 邪魔が居なくなったところで、仮名666はターニャに対する追撃を再開した。

 

 

 

「あいつ…! 許さないんだから!」

 

 仮名666にブレードを突き刺され、挙句に地面に捨てられたマリは復活し、自分をこんな目に遭わせた破壊目標に対して恨みの言葉を呟きつつ、あらぬ方向へ折れた腕や脚を元に戻して立ち上がった。

 

「ひっ、ひやぁぁぁ!? 生き返った~!」

 

 周辺にアンゴイことグラントが居り、マリが急に蘇ったことに驚いてか、悲鳴を上げながら逃げて行った。

 そんなことを気にせず、マリはボロボロになったパイロットスーツを脱ぎ捨て、魔法で新しい服を構成する。それはミニスカートやフリルと言った魔法少女のような衣装だ。少女が着れば愛らしく見えるだろうが、大人のマリが着れば性的な物にしか見えない。

 

「あっちに居た。これで撃ち抜く…!」

 

 地面に落下したターニャの追撃を行う仮名666を発見すれば、亜空間よりバレットM99対物ライフルを取り出し、安全装置を外してから構えた。スコープを覗き、照準器の中央から斜め上に仮名666が入ってから引き金を引く。

 偏差射撃だ。弾の弾着速度を計算してマリは引き金を引いたのだ。狙いはドンピシャだが、仮名666はサイボークであり、反応速度は凄まじい。魔法障壁で防ぎ、狙撃地点を割り出す。

 

「機関砲クラスによる狙撃を確認。狙撃地点を分析、発見。狙撃手の抹殺を優先」

 

 二射目を撃たせまいと判断した仮名666は、狙撃手であるマリの排除を優先し、地面に叩き付けられたターニャを放ってそこへ向かう。

 

「嘘っ…! 防いだ…!?」

 

 五十口径の弾頭なら確実に仕留められると思っていたマリは、スコープ越しから見える迫る仮名666を見て驚き、ボルトを引いて空薬莢を排出し、押し込んで二射目を薬室に装填する。

 今後こそ仕留めようと狙いを定めるが、仮名666は的を絞らせないように複雑な機動でマリに迫っている。偏差射撃をしようにも、こうも変に動かれては当たりもしない。撃てずにいられない内に、仮名666のレーザーの射程内にまで接近を許してしまう。

 

「このっ!」

 

 撃てないならと思ったマリは、魔法で槍を取り出して接近戦に切り替える。目から放たれるレーザーを躱し、鋭い連続の突きを仮名666に向けて放つ。機関銃のような突きであるが、仮名666は常人離れした反射神経を有しており、それを全て躱しながら反撃しようとしてくる。

 マリも決定的な打撃を与えるべく、わざと攻撃を遅らせ、仮名666に反撃の隙を与えた。マリの術中にはまった仮名666はレーザーを発射しようと目で彼女を見た。相手の動きは少し止まったのを逃さず、マリは素早い突きを相手の顔面に向けて放った。

 

「そう来ると思った!」

 

 仮名666が魔法障壁で槍の突きを防げば、マリはそう防ぐと予想しており、直ぐに左手を槍の柄か手を離し、バスタードソードを亜空間より取り出して横に振った。深くは斬れなかったが、相手にダメージを与えることに成功した。

 

「逃がさない!」

 

 仮名666が斬撃を躱す為に距離を取った直後に、マリは背後に出した亜空間より次々と武器を召還し、それを撃ち込む。自分に向かって飛んでくる無数の雑多な武器に、仮名666は表情を一切崩すことなく躱し続ける。

 

「しぶとい!」

 

 このままでは当たらないと判断してか、銃火器まで召喚して仮名666に銃弾の雨を浴びせるが、これすらも躱し続けていた。周辺で戦っている連邦軍機や同盟軍機が来るが、マリや仮名666に敵うはずが無く、邪魔と判断されて排除される。

 その様子は起き上がったターニャにも見えており、マリの正体を見て驚いたが、仮名666に最大ダメージを与えるチャンスと捉えて強力な魔弾を撃つための詠唱を始めた。

 

「背後から亜空間を出して武器召喚だと? あんなものを隠していたのか、あの中三女子みたいな女は。だが、おかけであの女ターミネーターにダメージを与えられる。主よ、機会を与えくださったことに感謝いたします」

 

 詠唱、憎い神に感謝の言葉を述べつつターニャは戦場で死んでいた海兵隊員より拝借したMA5Dアサルトライフルを構え、詠唱で強化された爆裂術式を唱えて撃った。凄まじいほどの光線が発射され、マリと交戦している仮名666に向かっていく。既に躱し切れない距離から放っており、二人が気付いた頃には既に遅い。

 仮名666に夢中になり過ぎて気付かなかったマリは驚愕し、仮名666は全身に魔法障壁を張って防ごうとしていた。

 

「嘘っ…!?」

 

 直ぐにマリは魔法障壁を張って防いだが、ターニャの存在Xの加護を受けた爆裂術式は防ぎ切れず、吹き飛ばされた。

 撃ち終えた後、マリはボロボロになって地面に倒れ、仮名666はまだ健在であったが、損耗激しく立ち上がるのがやっとのようだ。

 

「あのロリコン親父…! 私ごとやるとか…」

 

「ダメージ甚大…! 周辺の人型生命体の抹殺…現状の魔力では不可能…! プランBを実行、自爆します…! 十分後に自爆しますので、半径十キロ圏内にいるイヴ人は、迅速に十キロ圏内より退避してください」

 

 今の状態ではターニャとマリには勝てないと判断した仮名666は最終手段に出た。この辺り一帯を巻き込んでの自爆である。

 それを躊躇なく実行した仮名666は自分の身体に相転移砲のエネルギー弾を撃ち込み、内蔵されているエネルギーを暴走させる。体内でエネルギーが暴走している所為か、仮名666の両目は青白く光っていた。

 わざわざ自爆すると仮名666が言ったので、それを聞いていたターニャは無事だと思って集まって来た自分の部下たちに向け、十キロ圏内より退避するよう小型無線機に向かって叫んだ。

 

「自爆だと…!? 全ユニットに通達! 直ちに回収対象の半径十キロ圏内より退避せよ! 繰り返す! 回収対象は自爆するぞ!!」

 

 ターニャが必死に叫んでいるのを聞いた部下たちはそれを真実と捉え、直ぐに仮名666より離れ始めた。尚、連邦軍と同盟軍は聞いておらず、決戦に夢中になっている。ターニャもマリを見捨てて急いで飛び、仮名666より離れた。

 

 

 

 時は遡り十分ほど前。仮名666に蹴られ、ダブデ級陸上戦艦に激突し、戦艦の爆発に呑まれたマスターチーフはミニョルアーマーのシールドのおかげか、気絶だけで済んでいた。

 

『チーフ、起きた? かなりの爆発のようだったけど…』

 

「平気だ。何処にも異常はない」

 

 コルタナの問いかけに目を覚ましたチーフは、ミニョルアーマーに異常がない事を告げ、何事も無かったのように起き上がる。

 チーフが激突した陸上戦艦は真っ二つに割れており、乗っていた乗員の殆どは死亡していて周囲にはその乗員たちの屍が転がっていた。野次馬の如く集まって来た同盟軍の将兵たちも居て、チーフを見るなり手にしている銃を向けたが、敵うはずが無く瞬きする間に全滅させられる。

 

「海兵隊か」

 

 要塞にはUNSCの海兵隊も到達しているのか、同盟軍の守備軍と激しい銃撃戦を行っていた。形勢は膠着状態であり、どちらに加担するべきかチーフは既に前者の方に決めていたが、コルタナは撃たれると告げる。

 

『チーフ、今のあなたの立場を分かっていて? 撃たれるわよ?』

 

「普通の兵士ならば撃たれるだろう。だが、ここは彼らを信じてみよう」

 

 コルタナの警告に対し、チーフは自分がまだ人類の英雄と信頼されている方に賭け、ヘルガスト兵のアサルトライフルを手に取って海兵隊と交戦していた同盟軍の守備隊を攻撃した。

 いきなり単独でやって来る緑のアーマーを纏うスパルタンに、気付いた同盟軍の守備隊は銃口を向けたが、相手はコヴナント戦争を終結させた英雄とも言え、単独で敵基地を壊滅させた実績を持つスパルタンだ。小隊規模の守備隊がどうこうできる物では無く、瞬く間に壊滅させられた。

 何処からともなく現れ、自分たちを助けてくれたマスターチーフに、海兵隊員たちは驚きの声を上げる。

 

「ま、マスターチーフだ…!」

 

「チーフが…! なぜこんなところに!?」

 

「確かチーフは死んだはずなんじゃ!?」

 

 マスターチーフは公式には戦死扱いされているようだ。死んだはずの英雄が自分たちの前に姿を現したことで、混乱する海兵隊員達であるが、チーフにはその訳を離す時間は無い。

 

「驚いているところ済まないが、何か強力な武器は無いか?」

 

 そんな海兵隊員たちに対し、チーフは強力な武器は貰えないのかと問う。

 いきなり現れ、武器を貰えないかと問う死んだはずの英雄に対し、どうすべきかと海兵隊員たちは互いに向き合った後、ヘルメットに内蔵された無線機を切る。その中にはあのキム・ヨンジの姿もあった。彼らの中では、マスターチーフは英雄であったのだ。

 

「あぁ、マスターチーフ。訳は聞かない。強力な武器がご所望なら、マクター特技兵が持つスパルタンレーザーはいかがかな?」

 

 キムは部下が持つスパルタンレーザーをチーフに進めた。

 その武器を持つマクター特技兵はマスターチーフに憧れて海兵隊に入隊した若い海兵隊員であり、憧れの存在に自分の武器を所望されたので、彼はそれを躊躇いも無く渡す。

 

「ど、どうぞ。マスターチーフ…!」

 

「済まんな」

 

「あっ、サインを! サインをお願いします!」

 

「良いだろう」

 

 スパルタンレーザーを受け取ったチーフはマクターに礼を言えば、彼はサインを強請った。これにチーフは応じ、ナイフでマクターのヘルメットに自分の名前を刻む。その場にいる海兵隊員たちが羨ましく思う中、一人が何処へ行くのかと問う。

 

「あの、何処へ行くので?」

 

「向こうだ。移動手段は同盟軍から調達するから良い」

 

 何処へ行くのかと問われたチーフはマリと仮名666が戦っている場所を指差し、そこへの移動手段は同盟軍から調達すると返して海兵隊員たちの前から去って行った。

 憧れの英雄が立ち去るのを黙って見過ごした海兵隊員達の中で一番階級の高い海兵が、キムに向けてこのことは黙っているように告げる。

 

「おい、キム。このことは喋るなよ」

 

「喋りませんよ、曹長殿。だってマスターチーフは連邦とか大西洋連邦が嫌われてるんでしょ。なんで嫌いになるんですかね? 彼は英雄なのに」

 

「さぁな、コーディネーターと同じと思ってんだろ。さて、任務を続行だ。各員、無線機のスイッチを入れろ。交信が無いままだと、司令部にどやされる」

 

 釘を刺された一番口の軽いキムは、連邦軍がマスターチーフをなぜ嫌いになるのかと疑問を抱くのかと曹長に問う中、彼は適当に流して部下たちに無線機のスイッチを入れて任務に戻るように告げた。

 海兵隊員たちの前から去った後、スパルタンレーザーを貰ったチーフは同盟軍の格納庫を襲撃し、返答通りに移動手段を自力で調達した。

 調達したのはゴーストであり、コヴナント軍で広く運用されていた一人乗りの戦闘車両だ。それに乗り込んだチーフはマリと仮名666が交戦している場所までアクセル全開で飛ばす。

 途中、コルタナは海兵隊員たちに撃たれたらどうしていたと問われる。

 

『賭けは当たったわね。でも、最後に撃たれてたらどうしてたの?』

 

「どうにも、彼らが撃っていれば殺していた。それより、破壊目標の座標は?」

 

 この問いにチーフは撃って居たら反撃して殺していたと答える。コルタナが次の言葉を発する前に、チーフは仮名666の詳しい座標を問う。戦っている場所は大体検討はついているが、正しい位置を掴むために聞いたのだ。

 これにコルタナは上空に居る連邦軍の艦艇のシステムをハッキングしつつ、仮名666の座標を割り出し、それをチーフに伝える。

 

『十時方向二キロ先で、アニメなんかに出てきそうな異世界より来た金髪の女と交戦中だわ。巻き込まれそうだけど』

 

「心配ない、似たような目には何度か遭ってきた。やるしかないんだろ?」

 

『そうね。貴方ならやれるわ』

 

 マリの存在も告げたコルタナは巻き込まれて死ぬ可能性を告げたが、チーフは似たような事に何度か経験しており、逆にやるしかないんだろと問う。この答えに、コルタナはチーフなら出来ると告げた。

 やるしかない。マリがしくじれば、自分が仮名666を倒さなくてはならない。

 そう決心したチーフは二人が交戦している場所へ辿り着けば、仮名666がターニャの爆裂術式を受け、自らの身体に相転移砲を撃ち込み、自爆シークエンスに移行している所だった。チーフはコルタナが知らせるよりも前に、仮名666が自爆シークエンスに入っていることを悟る。

 

『チーフ! あいつ自爆するつもりだわ! 速く止めないと!』

 

「見りゃ分かる。一か八かだが、やってみるか」

 

 コルタナが仮名666が自爆しようとしていると知らせれば、既に悟っているチーフはスパルタンレーザーを構え、胸に照準を向けてエネルギーをチャージした。

 

「こいつ…! なんでここで自爆なんて…!」

 

 自爆しようとする仮名666に戦闘不能状態のマリはまだ動く身体でバスタードソードを握り、立ち上がろうとするが、身体が思うように動かない。

 既に自爆まで一分を切っており、ターニャたち特務魔導大隊は自爆範囲の半径十キロ圏内より退避していた。残っているのは動けずにいるマリか、仕留めにやって来たチーフ、知らずに戦っている連邦と同盟の両軍だ。

 そんな矢先にスパルタンレーザーのチャージは完了し、チーフは引き金に指を掛けた。

 

『自爆まで三十秒! チーフ!?』

 

「そうはさせない」

 

 自爆まで三十秒となった矢先、コルタナが慌てて叫ぶ中、チーフはいつもの如く冷静になって引き金を引いた。

 レーザーは真っ直ぐと狙い通りに仮名666の胸に飛んでいき、そこに命中する。レーザーを受けた仮名666の身体は相転移砲のエネルギーに包まれ、彼女と周辺だけを呑み込んで消滅した。

 仮名666はガルダーゴンより姿を消した。これを見たマリは安堵し、その場に倒れ込み、チーフはスパルタンレーザーを下ろす。

 

「上手く行ったな」

 

『まさか、分からずに撃ったの!?』

 

「あぁ。俺でも驚きだ」

 

『はぁ、ドキドキしたわ。まさか当てずっぽうで撃ったなんて…! 効かなかったらどうしてたのよ!?』

 

「その時は、この辺りは吹き飛ぶ」

 

 なぜ仮名666にスパルタンレーザーが効果的だったか、チーフには分からなかったようで、上手く行ったことに驚いていた。それを知ったコルタナは驚き、もし違っていたらどうしていたのかと問えば、チーフは正直に自分も含めてこの辺りは吹き飛んでいたと答える。

 それと同時期なのか、ガルダーゴンでの決戦は終わっていた。連邦軍が総攻撃を仕掛けた要塞が陥落したのだ。要塞を失った同盟軍はこれ以上ガルダーゴンの維持は不可能と判断してか、撤退を開始していた。つまり、ガルダーゴンは陥落したのである。

 空を見れば、多数の同盟軍のシャトルやHLV、宇宙艦艇などが宇宙を目指して脱出している。連邦軍は追撃戦に移っていた。

 

「さて、俺たちも帰るか」

 

 仮名666を倒したチーフは、目標を達成したので、コルタナに帰ろうかと告げた。




えぇ、ラスボスを倒して終わりました。

次回からエピローグとなり、そこで皆様がご提供してくださったキャラクターが登場します。


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ガルダーゴンからの脱出

九月まで続いちまったな…

エピローグとなります。


 マスターチーフが仮名666を倒したと同時に、同盟軍が頑なに維持していたガルダーゴンが陥落した。

 強固に防衛していた要塞がスパルタン各チームと随伴するODSTに海兵隊、機動歩兵部隊、機動兵器部隊、その他の歩兵や機甲部隊の総攻撃に耐え切れず、陥落してしまったのだ。

 要塞の最後の残党を始末したスパルタンⅣのオシリスチームのスパルタンパックは、瓦礫だらけの要塞の屋上へ上って手にしているライフルを空に向かって放つ。

 

「要塞の敵は一掃した! この星の戦いは俺たちの勝利だぞ!」

 

『オォーッ!!』

 

 パックが勝利宣言をすれば、彼を見ていた海兵隊やODSTの将兵等は歓喜の声を上げて同じく空に向かって銃を乱射し始めた。

 随伴して要塞戦に参加していたスパルタンⅡのチームであるレッドチームは銃を撃たず、両手を上げて歓喜していた。

 

「やったぞ! 俺たちの勝ちだ!!」

 

「ガルダーゴンを奪い返したぞ!!」

 

 これに続き、歩兵や機動歩兵、ISA、COGなども歓喜の声を上げ、共に銃を空に向かって乱射し始める。ATも同様であったが、MSやPTに乗るパイロット等はコクピットから出て歓喜していた。その中にはストーク・ハミルトンやウィル・シュタイナーの姿もある。

 海兵隊員たちの中にはキム・ヨンジを始め、ファル・ドバールやジョセフ・グロスハイム、カイン・マイナン、ファン・クレインの姿もあった。

 機動歩兵はマルジン・アジャン、ミスティ・エーデル、リック、ニック、ザン・バーガー、クロディオ・プレスリー達が居る。歩兵にはプレヴィナ・オーバスが主にライフルを空に向けて乱射していた。

 COGのアンドリヒ・グリュヒ、ムクド・ガリーム、それにデルタ部隊の面々も歓喜している。

 

『オシリスチーム、驚くなよ。ポイントエイブルにマスターチーフだ』

 

「なに、チーフが? 捕捉したのか?」

 

 ガルダーゴンを放棄した同盟軍が撤退し、連邦軍が勝利に歓喜する中、スパルタン・ロックはマスターチーフの存在を知り、司令部に所在を問う。

 

『地球連合の隊が追撃している。潜入していた不明勢力の隊も追撃しているようだ』

 

「潜入していた不明勢力の隊? 色々とあり過ぎるな。オシリスチームはチーフの追撃に移る。連合軍には撤退しろと伝えるんだ。奴らでは勝てない」

 

『言ってみるが、聞きはしないだろう。期待するな』

 

 本部は地球連合軍がチーフの追撃を行っていると知らせれば、同時にターニャたちの存在も知らせる。

 これにロックはチーフの方は自分らが追撃すると告げ、司令部に目下追撃している地球連合軍に撤退するように告げたが、司令官は期待はするなと返した。

 

「無駄に被害が拡大する前に、今度こそ奴を捕らえて見せるさ」

 

『そうして欲しい。あれ以上、自由にされては困る』

 

 これにロックは追撃に向かうと告げれば、司令部はオシリスチームに期待の声を掛けて通信を切った。

 司令部よりチーフの追撃の任を受けたロックは、勝利に喜ぶパックと瓦礫の上に腰かけて休憩するホリィ、オリンピアに新しい任務を告げる。

 

「みんな、休憩は終わりだ。新しい任務だ。今度こそチーフを捕まえる」

 

「えっ、マスターチーフだって? おいおい、来ているなんて聞いてないぞ」

 

「現れた理由は分からない。だが、捕えるチャンスだ。行くぞ」

 

「せっかく勝ったのにな! まぁ、スパルタンは大忙しだからな!」

 

 せっかくの勝利に水を差されたパックは苛立ちながらも指示に応じ、チーフ捕縛任務を受けて向かっていくオシリスチームの後に続いた。

 彼らが去った後、同盟軍は撤退の時間稼ぎの為にガルダーゴンに居る全てのバグズを捨て駒として放ち、連邦軍の追撃を遅らせようとしていた。この様子から、ガルダーゴンの戦いは追撃戦に移行してまだ続くようだ。

 

 

 

「追撃しろ? 冗談を。こちらは損耗激しく、こっちはそれどころではありませんよ!」

 

 マラソン改級重巡洋艦「ヴェネツィア」の艦長であるレオーネ・バゴットは、連邦艦隊司令部より追撃命令を受け、自分が指揮する第64戦隊の損害が激しくて追撃できないと返す。

 現に戦隊は数日間も再編無く戦っていた為に損耗激しく、一隻が轟沈してヴェネツィアを含む戦隊全ての艦艇が大破寸前であった。所属の第3艦隊も同様で、港に戻って再編する他ないほどの損害だ。第3艦隊だけでない。作戦に参加したUNSC海軍の全艦艇の内、八割が戦闘不能になっている。その大きさ故に最前線に出され、損害は増えるのは当然だった。

 UNSC海軍のフラッグシップとも言えるインフィニティ級スーパーキャリア一番艦「インフィニティ」に至っては、もう病院船のような状態と化している。スーパーガンダムに乗るスパルタン・ゼラズニィとソードカラミティガンダムに乗るスパルタン・チェーストは、ガンダムAEG3ノーマルに乗るスパルタンⅣのリーダー、サラ・パーマー中佐と他のスパルタンたちと共に警護に当たっていた。

 増援として来たスピリット・オブ・ファイヤも同様で、負傷兵や損傷機、沈んだ艦艇から脱出した乗員の回収を行っていた。防空隊であるマルコ・コスタは、乗機の105ダガーに乗って僚機と共に警戒している。

 

「おい、おい開けろ! 聞こえないのか!?」

 

「寝てますよ、バーニング少尉」

 

「寝かせて置け。三日連続の出撃で疲れてるんだ」

 

 リュータ・バーニングjrは所属する艦である駆逐艦「ソノ・カルマ」に帰還し、疲労の余りジェガンJ型のコクピットの中で眠り込んでいる。整備班長は彼を寝かせて置けと、整備兵たちに向けて告げる。マイルは戦闘が終わったと分かるや否や、疲労の余りか乗っているメガ・ライダーの操縦席で寝ていた。代わりに機長は期待を操縦士、母艦へと帰投する。

 

「クソっ、何処でも寝やがって! こいつ等を待機室にぶち込んでおけ!」

 

 第1連合打撃艦隊の旗艦トラファルガーⅡ級MS空母「トラファルガーⅡ」に帰還した艦載機のパイロットの面々は、各々が乗る機体から降りるや否や第3艦隊のパイロットたちのようにその場で眠り込んでしまった。整備将校はこれに怒り、整備兵らにパイロットたちを待機室に送るように怒鳴りつける。

 運ばれているパイロットの中には、トライド・エルク・クランツやタクト・アルバーンの姿もあり、襟を引っ張られながら待機室へと他のパイロットたちと共に連行されていく。

 パリ級重フリゲート艦「ヌエ」の艦長、ロバート・M・ハヤカワは艦橋の艦長席で毛布に包まって他の乗員たちと共に仮眠を取り、レーダー手だけが欠伸をしながらレーダーと睨めっこしていた。第3艦隊に属するオータム級重巡洋艦の艦長であるレオーネ・パゴットは自分の船が修理艦によって修理されている間、サンドイッチを食べて待っていた。

 ISA海軍も少なからず損害を受けたようで、再編の途中であった。ケラス・ダゼは自分の隊の再編が行われる中、乗機のドートレス・ネオのコクピット内で居眠りしている。ジャベリンに乗る花田太郎の方は、僚機と共に警戒している。

 第一波として引き続き戦闘を行っていた彼らが休息と再編に勤しむ中、連邦艦隊の本隊はガルダーゴンから脱出する同盟軍の追撃するため、補給と再編を終えて直ぐに出撃していた。

 

 

 

 仮名666との戦闘で退却したスタースクリーム軍団に続いて撤退したジャマイカン・ダニー率いる艦隊は、主君たるイオク・クジャンに事の成り行きを報告していた。

 

『なるほど、貴公は奮戦虚しく撤退したと言うのだな?』

 

「仰せのままに。炎のバラ騎士団は一人残らず玉砕、我が方は損害激しく退却いたしました。イヴ人の古代兵器、献上できぬことまことに申しわけございませぬ」

 

『貴公の判断は正しい。その世界の二大勢力による決戦、貴公は見事に手玉に取り、古代兵器に近付いて見せた。それだけでも機構は凄いと言えよう。今は我が下に帰還されることに集中せよ』

 

 ジャマイカンからの報告に、通信映像に映る若き君主たるイオクは叱責することなく褒め称え、今は帰還に専念しろと命じた。これにジャマイカンはありがたき言葉と返し、彼に向けて部下共々頭を下げる。

 

「ありがたきお言葉。任に失敗したこの将を心配なさるとは、なんと慈悲深い君主であろうか」

 

『当然だ。私は貴公らの幸せの為にこの地の主君となったのだ。次こそは必ず成功させると信じておる』

 

「真に勿体なきお言葉。次回は必ずやご期待に添えて見まする故に」

 

『うむ、期待しておるぞ』

 

 少し煽てると、イオクは良い気分となってジャマイカンの失敗を不問とした。映像通信が切れた後、ジャマイカンは頭を上げて主君たるイオクを小馬鹿にするような言葉を吐く。

 

「フン、青二才の小僧め。だからこそ甘いと言うのだ」

 

「司令官、その言葉は余り…」

 

「私はありのままを言っただけだ。任務失敗の要因は、あの落ち武者共に好きにさせたクジャン公が原因だ。奴らを駒にして居れば、私も昇進できただろうに」

 

 それを部下に注意されたが、ジャマイカンは一切気にすることなく本当のことだと告げ、更には炎のバラ騎士団残党に好きにさせたイオクの判断が作戦失敗の要因だと口にする。ジャマイカンにはイオクに対する忠誠心は無く、単に利用しやすい上司と捉えているようだ。尚、彼は有能な指揮官であるが、人望は皆無である。

 このジャマイカンの態度を主君たるイオクに報告すべきかどうか悩む部下たちであったが、あの上司に逆らえば何をされるか分かった物ではないので、主君に対するあの発言を艦橋に居る者たちは忘れることにした。

 スタースクリーム軍団の方は同盟軍の領域内に退却してしまったらしく、ガルダーゴンを取り返そうとする同盟軍の部隊に襲撃され、いたずらに数を減らしつつあった。

 同じく退却したマクギリス率いるアグニカ軍は、連邦の追撃を振り切って帰路についていた。

 

「損害の方は?」

 

「ほぼ皆無です。投降した連邦憲兵中隊を含め、連邦・同盟の脱走兵二個連隊以上の兵員を得ました」

 

 本来の母艦に帰投したガンダムバエルに乗るマクギリスは、待ち構えていた石動に損害を問う。これに石動は損害は皆無で、二個連隊以上の兵員を得たと報告する。

 

「順調に増えているな。目標の一個軍以上の兵員まで見えて来た」

 

「先に解放して拠点に送った奴隷の志願者の数は師団以上です。訓練を終えれば、後三個師団で目標の人員まで届きます」

 

「あと五万で達するか。今は帰還に専念しよう。大分弾薬と推進剤を使い果たした」

 

「はっ!」

 

 石動の報告にマクギリスは目標の人員まで見えてきたと言えば、副官は先に介抱した奴隷の志願者が一個師団以上の数だと報告する。この人数が訓練を終えれば、目標まであと三個師団だと告げる。

 その報告を聞いてガルダーゴンの戦いに参加して無駄では無かったとマクギリスは思い、大変満足であった。今は英気を養うべく、帰投すると告げれば石動は敬礼してから環境へと向かった。

 

 

 

 一方、マリと別れたワルキューレの遠征艦隊は、総司令部より新たな命令を受けていた。

 

「本気ですか、あの大艦隊の中に突っ込めなんて…!?」

 

『増援も送るし、友軍も協力する。貴官ら遠征艦隊は命令を実行せよ。回収できぬ場合は、友軍共々見捨てて構わん』

 

 総司令部より受けた指令とは、ガルダーゴンに取り残されたマリの救出であった。この命令に遠征艦隊提督は顔を青ざめる中、総司令部は友軍が居るからやれと告げる。

 その友軍とはイヴ人の武装勢力である帝国再建委員会であり、ターニャら特務大隊の救出が目的であった。

 

「その、無茶な…」

 

『良いからやるのだ。この世界に不老不死を渡すわけにはいかん。増援と友軍が到着次第、作戦を決行せよ!』

 

 増援と帝国再建委員会の協力があっても、難しいと言いたげな提督であったが、無理に言われて納得せざる負えなかった。

 

『遠征艦隊全艦に通達、総司令部より新たな指令が発令された。任務内容、惑星ガルダーゴンに取り残されたマリ・ヴァセレート空軍中佐の救出。増援が到着次第、任務を実行します』

 

「えっ、あいつ助けるために行くの?」

 

「そんな、今度こそ死んじゃうじゃない」

 

 この指令は遠征艦隊の全艦に達せられ、士官用食堂で昼食を取っていたアンナ・スターリング、ソフィア・パラダールク、アカリ・ナナホシ、アーリィ、アリエル・ナァロ、マユ・アイゼナッハを始めとするパイロットの面々は驚愕する。兵・下士官用食堂で食事を取るエレイン・ヘラー、メルア・ドリメーも驚いていた。

 遠征艦隊の面々がマリの救出に不安を覚える中、ワルキューレの総司令部より送られた増援艦隊は帝国再建委員会の艦隊と連合艦隊を組んで、遠征艦隊の元に急いだ。

 

 

 

 仮名666の相転移砲を受け、ガルダーゴンから消えたガイストは、ある荒れ果てた大地に転移し、そこで目を覚ました。

 

「硝煙の香りと血に死体の匂い…フッ、あの女め。俺を楽しい場所に送ってくれたようだな」

 

 周囲を見たガイストは立ち上がり、辺りから臭う硝煙の香りと死体の匂いで新しい地獄へ送り込まれたと判断する。そんな彼が何もないのに警戒態勢を取った。それは自分に近付いて来る殺気を感じ取ったのだ、証明するかの如く、ライフルを持ったカーキ色のアーマーを全身に纏った集団がガイストに近付いて来る。

 

「寝起きの運動としゃれこむか」

 

 カーキ色のアーマー集団、近未来軍隊の歩兵を見てガイストはニヤつき、闘争本能に駆られてその集団に単独で挑んだ。

 単独で勝てるはずが無い。そう誰もが思うだろうが、ガイストは戦うために作られた人造生命体だ。一方的なリンチと思われた戦闘がガイストによる一方的な虐殺へと変わり、戦場跡に転がる死体の数が更に増える。

 しかもガイストの武器はナイフ一本。それだけでレーザー銃などで武装したアーマーの兵士たちは一方的に虐殺され、更には武器を奪われて自分たちの武器で虐殺されていた。ガイストと対峙した兵士たちは接近戦が苦手なようだ。接近されるだけで直ぐにガイストに殺されてしまっている。

 兵士たちを一方的に殺し回るガイストの表情は、とても楽しそうで、恐ろしかった。

 

 

「おい、大変だ! 女が倒れているぞ!」

 

 同じように相転移砲のエネルギーに包まれ、ガルダーゴンから姿を消した仮名666はその余波なのか、別の世界へ転移していた。付近に居る住人たちは、見付けるなり直ちに彼女の介抱に向かう。

 

「ボロボロじゃないかい! 近所で新しい服を着せてやんな!」

 

 倒れ込んだ彼女の姿はボロを纏った若い女そのものだ。そんな彼女を見て、自分らを殺す為に作られた兵器とは思わないだろう。知らずに老婆や中年の女たちは彼女を毛布に包み、男たちと共に抱き抱えて近くの家まで運ぶ。

 仮名666が目を覚ませば、自分を助けたこの住人たちをプログラムに応じ、皆殺しにする事だろう。目の前にいる住人たちはイヴ人では無いのだ。仮名666が躊躇する理由は無い。否、躊躇と言う言葉は彼女の辞書には載っていないだろう。

 願わくば、仮名666のプログラムが転移のショックで壊れていることを願うだけだ…。

 

 

 

 一方、ガルダーゴンに残っていたマリとターニャら特務魔導大隊は押し寄せる連邦軍の新手に降下して来た第六派に包囲されつつあった。

 マスターチーフは単独で地球連合軍のダガーLやウィンダム、戦車や戦闘機の大群を相手にしている。圧倒しているのが地球連合軍では無く、チーフの方で辺りは連合製の兵器の残骸で溢れかえっている。

 

『投降しろ! 君たちに逃げ場はない!!』

 

 投降を迫る指揮官に対し、マリとターニャは応じずに同盟軍が放棄した基地内に立て籠もったままだ。

 

「通信兵、本部と連絡は取れそうか?」

 

「取れそうにありません」

 

 外の様子を見ていたターニャは無線機を操作する通信兵に本部との連絡は取れるかどうかを問うが、彼女は首を横に振る。今の彼女らは複数の負傷兵が居り、動けぬ状態だ。外では盗んだ輸送機であるペリカンが駐機しているが、あの一機で運べる人数はたかが知れている。

 

「さて、この状況で自力で脱出しろ等と戯言をほざくんじゃないだろうな。上の連中は」

 

 この報告を聞き、ターニャは帝国再建委員会の上層部が自力で脱出しろと言う返答が来ないことを祈る。外の様子を双眼鏡で見れば、馬鹿らしい数の兵力が自分たちを包囲している。

 自分らを包囲する連邦軍に対し「その兵力を追撃戦をしている友軍に回せばどうだ」とターニャは言いたくなるが、向こうの指揮官が逆ギレして一気に攻撃される可能性があるので敢えて言わない。来るかもしれない援軍を待ちつつ、ターニャ等は包囲する連邦軍の様子を伺うだけだ。

 マリはと言えば、将軍用の部屋を占領してベッドで横になっている。援軍が来ない場合、彼女の手を借りれれば、何か状況を打破できるのではと、ターニャは思って指揮下に加えた。

 

「あぁ、クソ。祈りたくも無い神に祈りたくなる状況だ…」

 

 包囲する連邦軍を見て、ターニャは祈りたくも無い神に祈りたくなる状況に追い詰められたと漏らしてしまった。

 

 

 

「何、休戦する? 貴様、戯言は止せ」

 

 その頃、中立地帯にある自分の牙城に居座るヴィンデルは、プロフェット族ことサンシェーム族の部下より休戦と言う報告を聞き、眉をしかめて睨み付けた。

 

「双方とも戦力回復の為に休戦条約を結ぶようです…今回の決戦は双方かなりの戦力を失ったようで…」

 

「戦力回復のための休戦などと、なんと弛みきって考えか! 全力で戦えんのか!?」

 

 連邦と同盟が休戦すると聞いたヴィンデルは激怒したが、別のサンシェーム族の言葉に宥めの声に耳を傾ける。

 

「まぁ、落ち着きなされマウザー殿。休戦など、暫しの休憩ではございませんぬか。それに、双方とも互いの勢力圏内に火種があるようで…」

 

「そうだったな。基盤を盤石な物とするため、双方は再戦までに不安要素の排除に躍起となるであろう。私も大人気ない事を言った。この世界の闘争は永遠なのだ」

 

 この宥めの言葉にヴィンデルは闘争は永遠に続くことを思い出し、玉座に腰かけて笑みを浮かべる。

 巨大勢力による大規模な戦争が終わろうとも、次は各地で紛争が行われる。このヴィンデルの歪んだ理想郷である世界では、闘争は決して終わることが無いようにコントロールされているのだ。

 そんな彼に、サンシェーム族の一人が自分に面会したい男が来ていると報告する。

 

「マウザー様、ロード・ジブリールなる者が面会したいと申しておりまする」

 

「ジブリールだろ? 通せ、あの死の商人の話。興味がある」

 

「よしなに」

 

 報告に来たサンシェーム族の言葉に、ヴィンデルは通せと命じた。暫くして、銀の短髪で紫色の口紅を付けた紳士のような高身長の男がヴィンデルの前に立ち、挨拶を行う。

 

「こうして、互いに面と向き合って話し合うのは初めてですな、ヴィンデル・マウザー殿」

 

「遂に来たか、ロード・ジブリール。ここまで来て私に見せたい物とはなんだ?」

 

「はい、それはこちらでございます」

 

 何をしに来たのかと問うヴィンデルに対し、ジブリールは左手に持つケースを開き、それを彼に見せた。




ガイストさんが転移させられた世界はウォーハンマー40000の世界です。40Kと言うべきかな?

仮名666はファンタジー世界へと行きました。目覚めればどうなるかは、皆さんの想像次第です。

それとキャラクターをご提供してくださった方々、今まで応援して頂き、ありがとうございました。

次回の募集もお待ちしております。


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休戦後の悪夢
救援・回収


先に書きあがったので、投稿しておく。

エピローグみたいな物です。


 連邦と同盟、双方の決戦場となった惑星ガルダーゴンの戦いは、連邦の勝利に終わった。

 戦線維持に不可欠であった要塞の陥落により、同盟軍はガルダーゴンの維持は困難と判断し、撤退を開始した。

 次なる同盟軍本土の戦いを有利にすべく、連邦軍は追撃を開始する。

 

 双方の戦いが追撃戦へと移行する中、ガルダーゴンに隠された神聖百合帝国の忘れ物、古代兵器こと仮名666の回収に失敗し、脱出のチャンスを失ったターニャ・フォン・デグレチャフ率いる特務魔導大隊と軍事結社ワルキューレが送り込んだ刺客、マリ・ヴァセレートは連邦軍の第六派降下部隊に包囲されていた。

 当然、ターニャが属するイヴ人の最大武装勢力である帝国再建委員会、不老不死をヴィンデルの支配する世界で知られたくないワルキューレは救援部隊を派遣する。

 

 かくして、連邦の制圧下になりつつあるガルダーゴンからの決死の脱出劇が始まった。

 

 

 

「マクロスキャノン、発射!」

 

 ワルキューレの遠征艦隊とその増援を含めた二個艦隊、帝国再建委員会の遠征艦隊の連合艦隊は保有する全てのマクロス級の主砲、マクロスキャノンをガルダーゴンに展開する無数の連邦艦隊に向けて放った。

 大多数の艦艇が強力なエネルギー砲に呑み込まれ、次々と轟沈していく。この最初の一斉射で連邦艦隊は混乱する。

 

『敵の攻撃だ! 何処の勢力だ!?』

 

『どうなっている!? 同盟軍は撤退しているんじゃないのか!?』

 

『こちら第16艦隊! 我、正体不明勢力の攻撃を受け、損害多数! 救援を請う!』

 

『一体なんだ!? 誰か指示をくれ!』

 

 無線機からは混乱した連邦艦隊の声が飛び交っていた。

 新たなる勢力の攻撃の報を聞き、連邦艦隊の総旗艦であるインフィニティ級スーパーキャリアの二番艦「エタニティ」の戦闘指揮所も、当然の如く混乱する。

 

「我が後方より新たな勢力出現により損害多数!」

 

「特機レベルの攻撃により、宇宙軍第16艦隊は壊滅状態! 戦闘不能!」

 

「各地より救援要請並び後退の許可を求めております!」

 

「正体不明艦隊、艦載機発進! 友軍各艦隊、損害増加中!」

 

「えぇい、今度は何なのだ一体!? 宇宙海軍の連中は何をしている!?」

 

 次々と来る損害の報告に三輪防人元帥は主力たる宇宙海軍が迎撃しないことに怒り、怒鳴り声を上げる。

 作戦に参加した宇宙海軍の艦隊は決戦や一度の乱入の所為で損耗激しく、新たな勢力による乱入に対処できない程であった。直ぐにこれを宇宙海軍の指揮官が三輪に伝える。

 

「無茶を言うな! 我が宇宙海軍艦隊は損耗が激しい上、戦闘など碌に出来ん状態だ! オマケに弾薬もミサイルも底を尽きかけた状態で、大量の負傷兵を抱えている! 余力がある宇宙軍で対処しろ!」

 

「ぬぅ…! 宇宙軍は何をしているのだ!? なぜ碌に対処できん!」

 

「奇襲を受けて、指揮系統が混乱している! 私の命令がうまく伝わっておらんのだ! 全くだらしのない奴らめ!」

 

「なんて様だ! せっかくガルダーゴンを手に入れたと言うのに! 異星人共が戻ってきたら、直ぐに取り返されてしまうぞ!」

 

 宇宙海軍の総司令官に怒鳴り返された三輪は宇宙軍の総司令官に問うが、奇襲攻撃を受けて指揮系統が混乱しているらしく、六に対処出来てないと答えた。

 せっかくの大勝利を収めたと言うのに、またもやって来た正体不明勢力の乱入で大混乱に陥る自軍の状況を知り、三輪は苛立って机を叩いた。

 そんな苛立つ三輪を他所に、宇宙において出番のない他の元帥や司令官たちは、このエタニティも攻撃されるのではないかと冷や冷やし始める。その中で人一番若い元帥であるエイミー・スナップは、こんな状況にも関わらず居眠りしている。

 一方での現場は、連合艦隊のマクロス級より発艦したYFー29ディランダル、VF-25メサイアシリーズ、VF-31カイロス並びジークフリードシリーズと言ったバルキリー各種により、更なる損害を受けていた。

 

「オッホッホッ! 派手な花火でしてよ!」

 

 ファイター形態のピンク色のYF-29ディランダルに乗る上品な女性は、笑い声を上げながらマイクロミサイルを乱射し、更には機体をバトロイド形態に変形させ、ガンポッドと対艦旋回式ビーム砲を乱射して連邦艦隊に更なる損害を与える。

 複数のジェガンJ型が編隊を組み、数の暴力でYF-29に襲い掛かるが、そのバルキリーの性能は多数を相手に暴れ回るVF-25やVF-31より優れており、瞬きする間に全機が宇宙の藻屑と化す。

 

『な、なんだこいつ等!? 強過ぎるぞ!』

 

『クソっ、あんなのと戦えってのか!? 俺は死にたくねぇぞ!』

 

 連合艦隊は圧倒的過ぎた。

 彼女らと対峙する連邦の将兵たちは恐れ戦き、惑星ガルダーゴンへの道を簡単に開いてしまった。

 

「進路上の敵戦力壊滅。目標の座標を確認!」

 

「帝国再建委員会、前進中!」

 

「直ぐに前進! 不老不死の回収を優先! 全艦、我に続け!」

 

 進路が開いた報を聞いた提督は、帝国再建委員会の艦隊と共にガルダーゴンへと突入した。

 上層部のプライドで連合艦隊を数の暴力で攻撃する連邦艦隊であるが、跳ね返されるばかりであり、無駄に損害を増やすばかりだ。決戦後でまだ余力のある艦隊は撤退する同盟軍艦隊へと回されており、ガルダーゴンへと突き進む連合艦隊を止められなかった。

 ガルダーゴンの衛星軌道上へと辿り着いた連合艦隊は、回収部隊を乗せた艦艇を直ぐに降下させる。降りる先は回収目標であるターニャとマリが居る地点だ。そこへ一気に降下し、目標まで数千キロとなった時点で回収部隊と護衛部隊を展開する。

 

「なんだあいつ等。味方か?」

 

「いや、聞いてないぞ」

 

 ガルダーゴン周辺に展開する友軍艦隊を強行突破し、ガルダーゴンに降下してくる連合艦隊の回収部隊のことを知らないターニャたちを包囲している連邦兵らは、頭上より降下中の回収部隊を友軍の物だと勘違いした。

 

「各機、槍の陣! 今が勝機なり!」

 

『了解!』

 

 勘違いして攻撃すらしていない包囲部隊を他所に、回収部隊として降下したワルキューレに属する女性だけで編成されたメルセデス騎士団のグレイズ・リッターやグレイズ・シルトは陣形を組んで攻撃する。その背後より戦術機のMig-29やEFー2000タイフーン、Fー22ラプター、武御雷が続き、突然の攻撃で混乱する連邦軍を蹂躙する。帝国再建委員会の回収部隊も同様に攻撃し、邪魔になる連邦軍機を片付ける。

 

「クソっ! なんだこいつ等!?」

 

 ジェットストライカー装備のウィンダムに乗るパイロットは、突然現れては攻撃して来た回収部隊の戦術機F-22にビームライフルを撃ち込むが、躱された挙句に至近距離まで接近され、間近で突撃砲を撃ち込まれて撃墜される。

 地上の方では、降り立った武御雷がヘビーガンやドートレス、ストライクダガーを次々と長刀で切り裂くか、左手の突撃砲を撃ち込んで撃破していた。

 他の戦術機もターニャとマリ等が立て籠もる要塞周辺に展開し、包囲している連邦軍に対して攻撃を行う。

 

「こんな接近戦の兵装しか無い奴らなんかに!」

 

 メルセデス騎士団と対峙する連邦軍部隊は、ソードやメイス、槍とハルバートしか持たないグレイズ・リッターやシルトの集団に圧倒されていた。

 ビームや火砲で雨あられの攻撃を行うが、大盾を持つグレイズ・シルトが鉄壁の盾の陣形を取り、その攻撃を防いでしまう。左右よりグレイズ・リッターの集団がホバー移動しながら展開し、ソードや槍で次々と連邦軍機を切り裂いて撃破する。

 包囲した連邦軍を蹴散らし、脱出手段を確保した後、帝国再建委員会の救援艇が要塞へと降り立ち、包囲されたターニャの特務魔導大隊とマリの回収作業に入る。マリの回収に入ったのは、VF-31Fジークフリード一機だけであった。

 

「私の、小さいんだけど」

 

「良いから早く乗ってください! 包囲されて各個撃破されます!」

 

「はいはい」

 

 包囲されているにも関わらず、マリが回収班がバルキリー一機なことに不満の言葉を漏らせば、VF-31Fの女性パイロットは直ちに乗るように彼女を急かした。それに従ってマリが回収艇であるVF-31Fに乗る中、ターニャを含む特務魔導大隊の負傷兵やまだ元気な将兵らが回収艇に続々と乗り込んでいく。幸い、特務魔導大隊の損害は負傷者のみであった。

 メルセデス騎士団に陸軍の二個戦術機大隊、帝国再建委員会の戦闘団の奮戦により、ターニャ等とマリの回収は直ぐに済んだ。それが終われば、双方は即刻ガルダーゴンより脱出する。

 

 

 

「何処の部隊だ?」

 

 一方、ターニャとマリ等を回収したワルキューレと帝国再建委員会の救援部隊を見てスパルタン・ロックが呟けば、多勢の大西洋連邦軍を相手に重装備のスコープドッグで圧倒するマスターチーフを確認する。

 

『おいおい、棺桶で連合軍相手に圧倒するなんて更にやばくねぇか?』

 

『あんなチーフ、私たちだけで止められるの?』

 

「チーフに敵うのは、連邦軍の中で俺たちだけだ。やるしかない」

 

 棺桶とされるATであるスコープドッグでダガーLやウィンダム、ゲルスゲーを次々と撃破するチーフを見て、ファイアチームオシリスの面々が勝てるかどうか疑問を口にする。

 だが、現状で連邦軍の中でチーフに敵うのはスパルタンⅣたる自分たちしか居ないとロックは答え、ワートホグのアクセルを踏んでスピードを上げる。チーフに突っ込むつもりだ。

 

『連合の奴ら、血相かいてチーフをやるつもりだぞ。本部は撤退の要請はしたのか?』

 

「やっていないようだな。俺が大西洋連邦に掛け合おう」

 

 自分たちがチーフと戦う際には大西洋連邦軍は邪魔になるので、直ぐに撤退するように告げる。

 

「大西洋連邦軍の司令部へ、直ぐに撤退しろ。これ以上は無駄な死傷者を増やすだけだぞ」

 

『黙れ化け物共! 我々だけで、あの裏切り者の化け物を討つのだ!』

 

「そんなに犠牲者を増やしたいのか? その内に瓦解するぞ」

 

『知ったことか! 貴様らが退避せねば、貴様らも青き清浄なる世界の為に血祭りに上げるぞ!』

 

『ブルーコスモスかよ』

 

 撤退するように大西洋連邦軍の前線司令部に要請したが、返ってきたのはとんでもない物であった。これにスパルタン・パックは不満を漏らす。

 足手纏いな大西洋連邦軍と共にチーフと戦わなくてはならないと思っていたが、余りの損害に大西洋連邦は撤退を始めていた。チーフがどうにも強過ぎたらしい。

 

『大西洋連邦軍が退いていくわ! 損害が馬鹿にならないようね』

 

『勝手に撤退してくれて助かるぜ。これで背中を心配せずに済む』

 

『邪魔は居なくなったけど、チーフに勝てる?』

 

「やるしかない。その為に俺たちが対処するんだ」

 

 邪魔な大西洋連邦軍が消えても、チーフに勝てる保証はない。ロックはチームの面々からの問いに勝てる保証が無くともやるしかないと答え、ワートホグで多勢の大西洋連邦をAT一機で撤退に追い込んだチーフに挑む。

 

『チーフ、新手が来るわ!』

 

「あのアーマーの形、ファイアーチームオシリスか! 脱出は至難の業だな」

 

 弾切れとなった右肩のミサイルポッドを排除し、その他の弾切れの武装を機体より外したマスターチーフは、ヘビィマシンガンの弾倉を直ぐに交換して向かってくるスパルタン・ロック率いるファイアーチームオシリスとの戦いに備えた。

 

 

 

 連邦と同盟の決戦となったガルダーゴンからの戦いより数日たった後、連邦と同盟の間で休戦協定が結ばれ、大規模な戦闘は行われなくなった。

 だが、これで戦いは終わりではない。辺境や双方の支配体制に不満を抱く星系では紛争や戦闘が相次いでおり、各地では未だに戦火は絶えずに燃え続けていた。

 

 このヴィンデル・マウザーが支配する歪んだ理想郷では、戦争は絶えず行われているのだ。今日もどこかで戦闘が勃発し、何かが破壊される。これがこの世界の日常なのだ。



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休戦後の悪夢

リィズ・ホーエンシュタイン
マブラヴ シュヴァルツェスマーケンに登場する主人公の義妹。
わけあって帝国再建委員会に属し、義兄であるテオドールを探しに遠征任務に就く。
搭乗機はF-22Aラプター

燕結芽(つばくろゆめ)
刀使ノ巫女に登場するキャラクター。
何らかの理由で蘇り、強い者と戦えるからと言って帝国再建委員会に属し、遠征任務に就いている。


 統合連邦と惑星同盟との間で休戦協定が結ばれ、大規模な戦闘はどちらかが破らぬ限り、暫くは起こらないと双方の将兵並び市民たちは思っていた事だろう。

 だが、長引く戦争による二つの統一勢力による治安の悪化により、各地ではかつての同盟国同士の小競り合いや紛争が相次いだ。

 戦力再編を阻止すべく、双方の後方に忍ばせた分離主義勢力による活動も活発化し、各地で軍事施設を狙った破壊活動が行われ、戦争は未だに続いている。

 

 その破壊活動の中には、イヴ人の武装勢力である帝国再建委員会の物も含まれていた。

 

 

 

「クソっ! たかが人間の小娘一人に!!」

 

 ある同盟軍の勢力圏にある惑星の基地が、何者かに襲撃されていた。

 その襲撃者は迎撃に当たったエリート(サンヘイリ)が少女一人であり、大勢の同盟軍将兵らが殺されていた。

 小柄な制服の様な物を着た薄い紫色の長い髪の少女の武器は日本刀一振り。それだけで大勢の同盟軍将兵らが床に転がっている。しかも急所を正確に斬っており、少女は歳に合わぬ手練れのようだ。

 

「一斉に掛かれ!」

 

 サンヘイリの指揮官の指令で、エナジーソードを持つ五人のサンヘイリが小柄な少女に一斉に斬りかかるが、少女は身軽な小柄な体系を生かし、五人の大柄のサンヘイリの斬撃を躱し切り、的確に急所を斬り付けた。

 

「ぬぁぁぁ!!」

 

「な、なんと…!?」

 

 少女の太刀で急所を斬られた五人のサンヘイリは血飛沫を上げて床に崩れ落ちた。これにサンヘイリの指揮官は驚き、恐れおののくが、まだ手駒があるので直ぐにそれを少女に差し向ける。

 

「レクゴロ、小娘を叩き潰せ!」

 

 それは二体のハンター(レクゴロ)であった。二体同時にロッドガンを撃ちながら少女に接近する。

 

「小娘、貴様も終わりだ!」

 

 二体のレクゴロを相手に生き延びたのは、コヴナントにとって悪魔たるマスターチーフか運の良い人間くらいしかいない。

 そう高を括るサンヘイリであったが、少女は前者のマスターチーフに匹敵する戦闘力と身体能力を持っていた。

 少女は高速で二体のレクゴロの隙間を小柄な体系を生かしてすり抜け、背後にある鎧の隙間を素早く斬り、二体同時に葬った。その速さは神速であり、それを見ていたサンヘイリの指揮官は凍り付く。

 他の指揮官を始めとしたサンヘイリや隷下のグラント(アンゴイ)ジャッカル(キグ・ヤー)も凍り付く中、少女は無邪気な笑みを浮かべながら挑んでこないのかと挑発する。

 

「ねぇ、宇宙人さんたち。結芽(ゆめ)になんで挑まないの?」

 

 結芽と呼ばれる少女は右手に握る大脇差「にっかり青江」の刀身を向け、挑発したが、誰一人としてその大脇差の錆になることを恐れて動けないでいた。

 ひ弱な少女一人に怯える強靭なサンヘイリたち、複数のアンゴイにジャッカルの姿はなんとシュールな光景だろう。そんな固まるコヴナントの主力たちを他所に、粗暴な種族たるブルート(ジラルハネイ)が結芽の背後から現れ、得物であるグラビトンハンマーを少女に向けて振り下ろす。

 

「へっ! 雁首揃えて、こんなチビ助一匹にビビりおって! ん、どうしたァ?」

 

 得意げに結芽を潰したと思い、動けないでいるコヴナントの主力たちに罵声を浴びせるジラルハネイであったが、誰も喜ぶどころか未だに凍り付いている彼らを見て、その訳を問う。

 

「宇宙人さん、結芽は潰れてないよ。ざんね~ん」

 

「な、なにぃ!? な、なんで生きて…あらぁ!?」

 

 代わりに答えたのは、自分がグラビトンハンマーで叩き潰したはずの結芽であった。愛らしく残念と言う結芽に対し、再び得物であるグラビトンハンマーを振るおうとするジラルハネイであったが、既ににっかり青江に両断された後であり、真っ二つに割れて地面に横たわる。

 

「いぃ…!?」

 

「うぅ…!?」

 

「ねぇ、こないの? それとも、こっちから行く?」

 

 ジラルハネイですら容易く切り裂く結芽にコヴナント兵らが茫然とする中、一体のアンゴイが両手にプラズマグレネードを持ってヤケクソ気味に突撃を仕掛ける。特攻グラントだ。

 

「ぬぁ~! 一緒に死ねぇい!!」

 

「アハハッ! なにそれ、カミカゼ? そんなので私に…」

 

 コヴナントを代表して結芽に向けて特攻を掛けたアンゴイであったが、近付いた直前で真っ二つに切り裂かれて爆発する。一同は巻き込まれたと思っていたが、結芽は全くの無傷であった。

 

「勝てるわけないでしょ…!」

 

「う、撃てぇ! 撃ちまくれぇ!」

 

 笑みを浮かべて告げれば、自棄になってプラズマ銃を乱射するコヴナント軍に向けて突撃を行う。

 その雨あられに放たれたプラズマ弾は一発も、それどころか結芽に掠れることなくにっかり青江の錆となっていく。

 

「ぎやぁぁぁ!」

 

「うがぁぁぁ!」

 

「グワァーッ!」

 

 結芽が刀を振るうたびに断末魔が響き渡る中、彼女を仕留めようとしていたATのファッティーが後から現れた不知火と呼ばれる戦術機の突撃砲で吹き飛ばされた。

 一機であるはずが無く、三十六機編成の大隊規模で同盟軍の基地を襲撃していた。戦術機は連邦の装備には無い。つまり、イヴ人の武装勢力である帝国再建委員会の装備である。結芽も帝国再建委員会の一員であるようだ。

 

(つばくろ)! 独断先行するな!」

 

「はーい」

 

 大隊規模の不知火が同盟軍の機動兵器部隊を圧倒する中、後続のヘリから降りたG36A突撃銃などで装備した歩兵の一人である隊長は結芽に注意する。どうやら結芽は独断先行して単独で同盟軍の基地を襲撃していたようだ。怒られた結芽は道連れにしようとするサンヘイリにとどめを刺し、生返事で謝罪する。

 

 結芽の単独行動による襲撃と不知火一個大隊、後続のヘリボーン大隊の攻撃を受けた同盟軍基地は壊滅した。

 基地内に保管されていたある物が帝国再建委員会の標的であったらしく、それを回収すれば、襲撃部隊は現地に潜む抵抗勢力の仕業に見せ掛け、早急に基地より撤収する。後に残されたのは同盟軍将兵の死体と迎撃に出た兵器の残骸ばかりであった。

 

 

 

 惑星リーチ。

 コヴナント戦争時、そこにはUNSC軍の司令部があり、コヴナント軍の最大攻撃目標とされていた。

 この惑星にコヴナント軍は三倍以上の戦力で攻め入り、反攻に出ようとしていたUNSC海軍の艦隊を壊滅させ、UNSCをリーチから完全撤退させることに成功する。

 だが、その撤退戦はコヴナント軍も相当な痛手であり、暫くの間は再編の為に攻勢が中断された。

 戦争終結後、リーチは再び人類の手に戻ったが、コヴナント軍のガラス化爆撃で元の姿には戻らず、移住者たちも戻ることは無かった。戻ったのは軍事施設ばかりであり、それも統合連邦各勢力の軍事関係施設が惑星各地に建築され、リーチは軍事惑星と化した。

 無数にある海に面した旧UNSCの沿岸基地を改装して作られたUCA海軍のマスドライバー基地が、UNSCに反抗する勢力である反乱軍の襲撃を受けた。

 

「今日こそ、連邦に組する奴らをリーチから叩き出せ!」

 

『おぉーッ!』

 

 反乱軍の指揮官が乗るAEUイクナト指揮官型の指示で、多数のリーオーや陸戦型ヘリオン、ユニオンリアルド、ティエレン、ティエレン高機動型が、雑多な車両部隊と共に基地に突撃を行う。

 無論、どれもこのヴィンデルの歪んだ理想郷で作られた兵器ではない。戦闘車両を除き、異世界からの組織により供給された物である。攻撃部隊は陸上のみならず、海上からも行われており、そこには通常型のヘリオンやリアルドを始め、エリアーズの他、戦術機のF-4やMig-21も居た。

 反乱軍にこれらの装備を供与したのは帝国再建委員会である。委員会が反乱軍を支援する理由は、マスドライバー基地にある物が目的だ。攻撃の支援の為か、戦術機のF-22の中隊が反乱軍の海上部隊に随伴している。

 

「敵機動兵器部隊、当基地に接近中!」

 

「反乱軍です! 機種不明!」

 

「えぇい、我々はUNSCじゃないんだぞ! それにこっちには碌な装備が無いのに!」

 

 真昼間からの攻撃であり、当然ながら基地を守るUCA海軍の守備隊に気付かれた。だが、かつての前線拠点として機能していたリーチは今や辺境の地。その為に基地の守備戦力には碌な装備は無く、マシとも言える装備がジェガンJ型三機、ストライクダガー六機と言う有様であった。しかも全機が整備中で出撃できない。

 

「整備中の現行機はどうなってる? まだ出撃できんのか?」

 

「現在、急ピッチで行っております。その間に、出せる物は全て出して時間を稼がせます」

 

 基地主力は戦闘車両と防衛設備、AT。機動兵器はロートルとも言えるジムⅡやハイザック、マリン・ハイザック、バーザムとバーザム改、ジェノアスであるが、反乱軍はそれに劣る旧型機ばかりであり、装備の差では勝っているが、物量では反乱軍が多かった。

 

「数は向こうが上か。付近の基地に増援を要請しろ! そこならダガーLくらいはあるだろ!」

 

「はっ!」

 

 基地司令官は数の差ではこちらが劣るので、付近の友軍基地に増援を要請するように通信手に命じた。

 陸と海から大挙して押し寄せる反乱軍が基地の第一防衛ラインに迫れば、直ぐに先端が開かれた。先に発砲したのは、UCA軍の自走砲だ。射程内に先行するエリアーズを捉えたのだ。対空ミサイルによる攻撃で先行したエリアーズ部隊は壊滅状態となり、陸上の方でも先端が開かれ、基地に接近しつつあった反乱軍機の何機かは撃破されていた。

 

「敵部隊、第一防衛ラインに到達! 何機か、抜けてきます!」

 

「海上から接近中の反乱軍部隊、防衛ラインを突破中! マリン・ハイザック隊とまもなく会敵します!」

 

 だが、辺境の基地故に防衛設備だけでは多勢の反乱軍は抑えきれず、沿岸に配置していたマリン・ハイザックの隊と会敵した。

 

「こ、こんな旧式機でこの数の敵は! うわぁぁぁ!!」

 

 必死に手にしているサブロックガンで押し寄せる反乱軍を迎撃するマリン・ハイザックであるが、旧型機故に抑え込める量では無く、瞬く間に数の差で次々と撃破されて基地への侵入を許す。

 

「マリン・ハイザック隊、反応喪失!」

 

「何っ!? 速過ぎるぞ! 待機中のジムⅡ隊を回せ! 動くザクキャノンも向かわせろ!」

 

「ザクキャノン!? あれも投入するのですか!?」

 

「出せる物は全て出せ! ATでは心持たんのだ!」

 

 基地に侵入した敵部隊に対し基地司令官は待機させていたジムⅡ部隊のみならず、警備くらいにしか使えないザクキャノンまで出すように指示した。これに副官はザクキャノンも出すのかと言う問いに、司令官は出せる物は全て出して応戦させろと怒号を飛ばし、指示に従わせる。

 

「こ、こんな博物館送りで出ろってのか!?」

 

『速く出ろ! 敵が迫ってる!』

 

「畜生が!」

 

 ザクキャノンのパイロットは出ろと言われて困惑するが、戦闘指揮所(CIC)より強引に出撃を命じられ、自棄になりながら出撃して侵入した反乱軍機に攻撃を始める。

 ドートレス用のマシンガンを乱射し、右肩のキャノンを撃ってヘリオンやリカルドを仕留めることに成功したが、マリン・ハイザック同様にありとあらゆる火器を撃ち込まれて撃破される。火を噴きながら横たわる中、それと同時にジムⅡ隊も到着して、基地内では激しい攻防戦が繰り広げられる。

 ジムⅡはビームライフルを装備しており、火力では反乱軍の海上部隊を圧倒していた。基地に辿り着いて突撃砲や滑空砲を撃ちまくるF-4やMig-21を撃破する。

 

『っ!? 気を付けろ! ATが隠れているぞ!』

 

 ATのスコープドッグやスタンディングトータスも出撃しており、その小ささを生かして基地の倉庫に身を隠し、ミサイルランチャーで基地内に続々と侵入してくる反乱軍機を待ち伏せして撃破していく。

 

『た、隊長! 持ち堪えられません!』

 

『クソっ、クソォォォ! わぁぁぁ!!』

 

 陸上でも反乱軍は数の多さを生かし、強引に突破しようとしていた。数は陸の方が多く、防衛に当たるハイザックやバーザム、バーザム改、ジェノアスが必死に防戦を行うも、物量の波に呑まれて撃破されるばかりであった。

 防衛線が突破されつつある中、基地の出入り口に配置していた自動砲塔や戦闘車両部隊、対機動兵器部隊が接近しつつある反乱軍の迎撃を始める。

 

『陸と海上とも、被害が増しています! あの連中も攻撃に参加させましょうよ!』

 

「馬鹿、駄目に決まってる! あれは連邦の増援を抑えるために必要なのだ!」

 

『ちっ、あいつらだけなんで高性能機なんだ!』

 

 前線部隊では、イクナトに乗る部下が指揮官機に乗る部隊長に、参加しない帝国再建委員会に増援を呼ぶように申告するが、部隊長はそれを却下した。

 これに部下は帝国再建委員会の将兵だけが、高性能機に乗っていることに苛立ちを覚える。彼女らが攻撃していれば、自分たちの被害は無いに等しい戦果を挙げられるのだ。それをしないで、連邦軍の増援の対処と言って遠くから見ているのである。

 彼にとっては、腹が立っても仕方ないだろう。あれだけの力を持っているにも関わらず、何もせずに見ているだけなのだから。

 

「ギンメール陸軍大尉、貴官は加勢せんのか?」

 

『大隊長より弾薬と推進剤を節約しろと厳命されているので。それにまだ制圧率が三十パーセントに達してませんし』

 

 UCA海軍のレーダーでは捉えられていない臨時の二個航空魔導中隊を率いるターニャは、コヴナント戦争時代に沈んで赤錆びているUNSCのフリゲート艦の甲板に立つ戦術機F-22中隊を率いる中隊長に加勢しないのかと問うが、所属大隊より弾薬と推進剤を節約するように言われているので、加勢しないと答える。

 制圧がある程度進んだところで、反乱軍の増援として加勢するようだ。もしくは反乱軍が基地を制圧できないほどの損害を受けた際、代わりに制圧する為にここで待機しているか。

 そう睨むターニャであるが、彼女も隷下の二個中隊も加勢する気など更々ない。空軍所属のターニャの戦隊の他、VF-31Cジークフリード一機とVF-31A二機、電子戦機のVF-31Eも出撃しているようだが、電子戦機のVF-31Eの護衛の為か、基地のレーダーに引っ掛からない程の高度を維持したまま動かない。

 

『レーダーに反応! フレーザ級イージス艦二隻、こちらに接近中!』

 

 高高度で待機中のVF-31Eより、UCA海軍の水上艦二隻の接近を知らされた。ターニャは海中に潜む海軍の水陸両用型戦術機のAー6イントルーダーの中隊はどうしているのかと問う。

 

「仕事か。海軍の連中は?」

 

『そちらから八時方向より接近中のデモイン級イージス艦を轟沈させました』

 

「確認した。敵駆逐艦二隻を沈める」

 

 この問いにデモイン級イージス艦を沈めたと報告すれば、自分から見て八時方向より来たそのイージス艦が、Aー6の中隊に襲われて呆気なく轟沈していた。それを確認したターニャは自分たちの仕事を果たすべく、基地に接近中の二隻のミサイル駆逐艦に襲い掛かる。

 基地の救援に駆け付ける二隻のフレーザ級ミサイル駆逐艦二隻はターニャ等航空魔導士に気付くことなく、基地へと急行していた。一方でのターニャ等はレーダーや見張り番に見付かりにくいように海上を低く飛んでおり、双眼鏡で彼女らを発見した観測手は思わず目を擦る。

 

「なんだあれ? 見間違いか?」

 

「一応、ブリッジに報告するか」

 

 先頭のミサイル駆逐艦の見張り台に立つ観測手二名はターニャ等を発見したが、見間違いだと思って一応ながらブリッジに報告した。

 

「左側面の見張り台より、二十名ほどが空を飛んで当艦に接近中との報告が…」

 

「なんだそんな報告は? 敵は我が軍の基地を攻撃する反乱軍のみだ! 主砲やミサイルの射程に敵機を捉え次第、直ちに照準して撃ち込め! 僚艦にも打電しろ!」

 

 余りにもバカバカしい報告に艦長は信じず、友軍基地を攻撃している反乱軍を艦の兵装の射程に捉え次第、発射するように命じた。

 同じく救援に駆け付けているデモイン級ミサイル巡洋艦の轟沈の報告を聞いているはずだが、VF-31Eの電子戦を受けてまだ生きて駆け付けて来ると思っている。

 接近中の二十名ほどに僚艦共々撃沈されることを知らず、全速力で基地を目指す中、ターニャ等は砲撃術式の詠唱を始めた。

 

「第一中隊は前の奴、第二中隊は後ろの船だ。十分な火力になり次第、照準して発射! 一発で沈めろ!」

 

 ターニャが指示を出せば、こちらに全く気付きもしない二隻のフレーザ級に各航空魔導士は照準を定める。十分な火力まで詠唱を終えれば、照準を指示された艦艇に向けて放った。

 放たれた魔弾はそれぞれ狙った艦艇に向けて飛んでいき、物の見事に命中し、二隻同時に轟沈せしめることに成功した。轟沈したフレーザ級が黒煙を上げて沈む中、増援として出て来たドートレスフライヤーの編隊をターニャは目視する。

 

「ギンメール大尉、MSだ! 数は大隊規模! そちらで対処できぬか?」

 

『確認しました。ドートレスフライヤーですか。あなた方航空魔導士でも十分に対処できますよ。そちらで対処してください』

 

 ドートレスフライヤーの編隊を戦術機中隊で対処してもらおうと要請したが、性能の低いドートレスと知るや否や中隊は現状の戦力で対処しろと返した。

 

「なんだと? 連中、どれだけ推進剤と弾薬をケチりたいんだ! 各員、対MS戦闘用意! 残念ながら、戦術機中隊は全く動かん!」

 

「も、MSを!? そんな…!」

 

「奴らの装甲は脆い! 砲撃術式で一発で吹き飛ぶ! 気付かぬ間に撃て!」

 

 これを部下に伝えれば、部下はMSと戦うことに怖気付く。無論、ドートレスの装甲は脆い事はターニャは知っているので、砲撃術式で何とかなると言って部下を落ち着かせ、編隊を組んで基地へ向かおうとするドートレスフライヤーの編隊に攻撃した。

 二個中隊の一斉射で、ドートレスフライヤーの二個中隊分が爆散した。これに大隊長は直ちに散らばるように指示を出すが、後方の部隊である所為か、真面に動けず、第二射目で一個中隊にまで減らされる。

 

「何処から、何処からの攻撃と言うのだ!?」

 

 慌てふためく大隊長機に向け、ターニャは無慈悲な一発を見舞って撃墜した。大隊長を失い、三個中隊も失った残る中隊は退却しようとしたが、追撃を受けて壊滅した。

 地上の方でも連邦の増援が来ているようだが、帝国再建委員会は地上にも伏兵を配置しており、足止めを受けていた。

 

「海上からの増援隊、全滅!」

 

「巡洋艦マルス轟沈! 駆逐艦ルスト、バルコフ共に轟沈!」

 

「陸上の増援も正体不明の敵部隊の足止めを受け、被害多数!」

 

「馬鹿な…! 反乱軍にそんな戦力があるのか…!?」

 

 その報告を聞いた基地司令官は青ざめ、思わず持っていた受話器を手放してしまう。だが、増援を足止めどころか多大な被害を及ぼしているのは反乱軍では無い。実戦経験豊かで高い連携を持つイヴ人が多く属する帝国再建委員会だ。辺境の連邦の方面軍が敵う相手ではない。

 この基地に収納している物が狙いだと悟った情報将校は基地の戦力ではもう持たないと判断し、それを持ちだす為に部下を伴ってCICを出た。

 

「整備場より報告! ジェガン三機、ストライクダガー六機の整備完了! いつでも出撃可能だそうです!」

 

「やっとか、クソったれめ! 直ちに出撃させろ! 装備の違いを見せてやるのだ!」

 

 それと同時にジェガンとストライクダガーの整備が終わったのか、簡単に調整を済ませて出撃させていた。

 出撃したストライクダガーは早速手近に居たティエレン地上型とヘリオンをビームライフルで撃破し、更にはリーオーをライフルを撃ち込んで撃墜する。

 

『うわっ!? ストライクダガーだ! 奴ら、隠してやがったぞ!』

 

 倒れたジェノアスに何発もレールガンを撃ち込んでいたリカルドに乗る反乱兵は気付き、僚機と共に対処していたが、飛び出してきたジェガンJ型のビームライフルを撃ち込まれて僚機共々撃破される。

 

「好き放題しやがって! このクソ反徒共が! 利子は倍にして返してやるぜ!」

 

 F-4をビームサーベルで切り裂いて撃破したストライクダガーに乗るパイロットは、自分の機体を見て怖気づく反乱軍の機動兵器を攻撃し始める。

 UCA海軍の逆襲が始まった。装備に劣る反乱軍は最新鋭とは行かなくとも、現行装備であるジェガンJ型やストライクダガーに蹂躙されるばかりであった。次々と友軍機が撃墜されていく一方で、マシとも言えるイクナトは、指揮官機と共にジェガンJ型一気に突っ込んだが、イクナトですらジェガンには敵わなかった。

 

『っ!? 隊長!!』

 

「へっ! 大将をぶっ殺せば、後は雑魚だけだぜ!」

 

『や、止めてぇ! キャァァァ!!』

 

 シールドミサイルでイクナト指揮官を撃破した後、ビームサーベルを抜いて一気に足並みが乱れたイクナトに近付き、反撃される前に切り裂く。悲鳴が聞こえたが、パイロットは無視して頭部の左側に装着されたバルカンポッドを反乱軍の車両部隊に向けて掃射した。

 撤退の際にUNSC軍が放棄した、あるいは装備更新の際に闇市へと放出された装備を使う反乱軍の車両部隊と歩兵部隊はMSのバルカン砲の前ではベニヤ板にしか過ぎず、次々とハチの巣にされる。掃射しているジェガンに乗るパイロットは映像越しに見える反乱兵を人だとは思っておらず、ストライクダガーのパイロットも同様に反乱兵たちをバルカン砲で殺傷していた。

 

「良いぞ! 奴らをもっとぶっ殺せ!」

 

 UCA海軍の守備隊の将兵等は反乱軍に反撃を行う現行装備部隊に向け、先ほどまで自分らを蹂躙していた反乱軍をもっと殺すように叫ぶが、彼らは帝国再建委員会の存在を知らなかった。

 

『反乱軍、戦力五十パーセントを喪失』

 

『制圧が進まなくなります。どうします?』

 

「行くしかないわね。各機、直ちに反乱軍への救援に入る。出撃!」

 

 反乱軍攻撃隊の戦力が半分になったところで、F-22の中隊はようやくその重い腰を上げて出撃した。

 

『や、止めろ! 降伏する! 撃たないで!!』

 

『はっ! テロリストは条約外なんだよ!』

 

 突撃砲を捨て、投降しようとするMig-21を撃っていたストライクダガーは、接近中のF-22中隊に気付いた。

 

「なんだ、あの変な集団は? レーダーに反応しねぇぞ」

 

 戦術機F-22はレーダーに映らないステルス機であり、不意に思ったパイロットはビームライフルの照準を向けようとしたが、撃つよりも前に突撃砲でハチの巣にされた。

 

『な、なんだこいつは!?』

 

『レーダーに映らないぞ!?』

 

『レーダーなんかに頼るな! 目視して撃墜しろぉ!』

 

 突如となく現れたF-22の中隊に対し、目視による迎撃を行おうとしたが、全く相手にならずに撃墜されるばかりだ。

 形勢はまたしても逆転した。今度はUCA海軍の守備隊が虐殺される番であった。現行装備であるジェガンJ型やストライクダガーは第三世代戦術機のF-22にまるで歯が立たず、次々と撃破されていた。騙し騙しに使われる旧型機は的同然であり、反撃する間もなく撃墜されていく。

 

「殆どの大隊本部から通信途絶! 連隊本部も壊滅しています!」

 

「レーダーに映らない!? 今、暴れている正体不明機がそうなのか!?」

 

『映らないんだ! 何処から、何処から来るんだ!? わぁぁぁ!!』

 

「こ、こちらの戦力はほぼ残っていません! このまま行けば…!」

 

「は、反乱軍如きに、正規軍たる我々UCA海軍が投降するのか…!?」

 

 CICもステルス機F-22の登場で慌てているらしく、次々と戦力が刈り取られていく報告に、基地司令官は非正規軍である反乱軍に投降せねばならないと悟る。

 中隊の中で一際目立つ戦闘力を持つ衛士が駆るF-22は目に見えるハイザックやジムⅡ、ジェノアス、その他諸々の戦闘車両を撃破しながら基地のヘリポートを目指す。

 

「あいつならお兄ちゃんの事を…!」

 

 そのF-22に乗る金髪の少女であるリィズ・ホーエンシュタインは基地から逃げ出そうとする輸送ヘリを捉え、邪魔な敵機を排除しながら向かう。飛んでくるミサイルやビームは機体の機動力で躱し切り、突撃砲、あるいは突撃砲銃身の下に付いている滑空砲を撃ち込んで反撃して撃破する。

 やがて輸送ヘリまで接近すれば、護衛の戦闘ヘリやスタンディングトータスを突撃砲を撃ち込んで撃破し、輸送ヘリに向けて拡声器を使った投降勧告を行う。

 

『そこのヘリ、直ちにエンジンを止めなさい! 出なければ撃墜する!』

 

「か、構うな! 基地の機体に足止めさせろ! これは何としても持ち出さねば…」

 

 投降勧告を行うリィズ機の勧告を無視するように言う情報将校であるが、副操縦手は彼の頭部に拳銃の銃口を向け、少女の勧告に従った。

 

「き、貴様…!?」

 

「うるせぇ、俺たちは死にたくねぇんだ」

 

 操縦手はヘリのエンジンを切り、リィズの勧告に従って両手を上げながら情報将校とその部下たちと共に出て来た。

 数分後、基地の制圧を終えた中隊はヘリポートに集合し、中隊長は戦術機から降りて、情報将校が持っていたアタッシュケースを奪い取る。同時に基地は反乱軍に投降しており、先頭は完全に終了していた。

 アタッシュケースを持って自分の機体に乗り込もうとする中隊長を情報将校は隠し拳銃で撃とうとしたが、リィズが向けた突撃砲で思い留まる。

 

『死にたいの?』

 

「うっ…! 一体、貴様らは何者だと言うのだ? なぜそれを狙う?」

 

『09、答えなくて良い。帰投するぞ』

 

 思い留まった情報将校は、なぜ攻撃して来たのかと問うが、中隊長は無視するように告げる。それにリィズは応じず、自分の義兄について問う。

 

「テオドール・エーベルバッハって知ってる?」

 

『何の話だ!? 質問を質問で返すな!』

 

「あぁ、知らないんだ。じゃあ、用済みだね」

 

『よ、止せ! 撃つんじゃ…』

 

 自分の義兄、テオドール・エーベルバッハについて問うが、情報将校は全く知らなかった。これに気分を害してか、リィズは突撃砲で彼と近くにいた部下共々消し飛ばした。

 

『09! 勝手なことを!』

 

「ごめんなさい。ちょっと、知りたいことがあったから」

 

『すみません、中隊長殿。この子、その赤毛の男にご執心なようでして…』

 

『だからって、八つ当たりで撃つんじゃない! それに後始末は反乱軍の仕事だ! 09が撃った情報将校を反乱軍が一番殺したがっていたからな!』

 

 中隊長より説教を受けたが、テオドールに対する手掛かりがないリィズには響いていなかった。そのまま帝国再建委員会のF-22中隊が撤収する中、反乱軍による捕虜の虐殺が始まる。

 

「今まで散々俺たちを面白半分に殺しやがって!」

 

 怒りに満ちた反乱兵は搭乗機であるリカルドのリニアガンを、投降したUCA海軍の将兵等に向けて撃ち込む。無論、彼らが彼の仲間を面白半分に殺したと言う証拠はない、単なる八つ当たりだ。

 

「私の彼を、彼をあんな惨たらしく殺して、無事に済むと思ってるの!?」

 

 ある反乱兵は自分の恋人を惨たらしく殺したのに、降伏して許されるのかと思って手にしているライフルを撃ち込んで捕虜を射殺する。

 

「ま、待ってくれ! 俺たちはUNSCでもISA、地球連邦や大西洋連邦でもない! 同じコロニー惑星出身だ! 頼む!」

 

「うるせぇ! 連邦に組した時点でテメェらもその仲間だ! 死ね!」

 

 自分らは反乱軍を蹂躙した勢力ではないと必死に訴えるUCA海軍の将兵等に、反乱兵はそれに属した時点で仲間だと罵って射殺した。

 この三つの虐殺だけではない、基地のいたるところで虐殺が起きていた。共通点は怒りであるが、その理由は様々である。各所から悲鳴と断末魔、銃声が響き渡り、大勢のUCA海軍の将兵等が虐殺されていた。

 

「なんですか、あれ…?」

 

「ふん、証拠処分は現地の奴らにやらせるか」

 

 虐殺の悲鳴がターニャたちが居る方にも届いており、その悲鳴を聞いた部下は困惑していた。この虐殺を止めずにやらせているのは、証拠隠滅をさせているとターニャは睨み、困惑する部下たちに向けて帰投すると告げた。

 

「ともあれ、この場には長居したくない物だ。撤収する。暫くは増援は来ないだろう」

 

「は、はい!」

 

 ターニャも虐殺される敵兵らの悲鳴は聞くに堪えないことなどで、撤収を命じれば部下たちは喜んでそれに従った。

 彼女らが去っても反乱軍は基地に居るUCA海軍の将兵等が全滅するまで虐殺を続け、それまでに銃声と悲鳴が周辺に木霊していた。




参考にしたのはSEEDの虐殺回かな。

モチベーション維持のため、何か書こうかな…?


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出撃、タスクフォース・ランカスター

タモン・ランカスター
惑星戦略同盟(ISA)ヴェクタ海軍第2艦隊所属の少将。
本来の役職は戦隊司令官なのだが、上官である艦隊司令官から上部組織である艦隊の大部分の指揮権を委譲されての半独立行動を任されている。
銀英伝のアイゼナッハばりに人前では耳打ちする時のヒソヒソ声を除けば基本的に声を発さずに、艦隊指揮を執る際もジャスチャーで指示を出して、それを部下に通訳させる方式を取る。
座乗艦のUCA兼ISA標準型巡洋艦「ヴィーザル」号はガルダーゴンの決戦でガンダムバエルに大破させられ、ネルソン級MS搭載型「アグリッパ」を代わりの座乗艦とする。

マルコ首席参謀。
男性で艦隊司令官代行よりも年上。艦隊司令官代行の戦隊司令部に属する首席参謀。階級は中佐。
司令官代行のジェスチャーを読み取って、それを通訳して命令を伝えるのだが、多少は自分なりにプラスアルファを加えて指令しているようである。

リロ・パルスアム
ランカスター戦隊の艦載機指揮官で少佐。
褐色肌でスタイルの良い女性。慣れているのか、タモンのジェスチャーを見ずとも多少は理解できる。
パイロットして腕が良いのか、腹心筆頭・懐刀になっている。
乗機はクランシェカスタム。

キャラ提供は俊伯さん。

カミュ・アイゼナッハ
名前はうた☆プリのカミュなのに、外見と苗字は銀英伝OVAのアイゼナッハな提督。そんで喋る。
ISAヴェクタ海軍第2艦隊の提督であり、タモンの上司。タモンに二個戦隊規模の戦力を持つタスクフォースの指揮権を与える。

UCA兼ISA標準型巡洋艦
SF系FPSゲーム「KILLZONE」に登場する鉛筆みたいに細長い巡洋艦。映像では六隻に円形に並ぶ陣形を取ってヘルガストの宇宙艦隊と艦隊戦をしていた。
宇宙のミサイル巡洋艦らしく、対地攻撃を行えるよう。重力下では突っ立つように飛んでいる。刺さりそう(小並感)。
この作品では戦力増加に伴い、艦隊旗艦かその隷下の戦隊旗艦、あるいは護衛として主に運用される。纏まった数で本来の戦術方針で運用されるケースは各惑星のISA並びUCA海軍の第1艦隊のみの模様。
かなりの大型艦の為、カタパルトを増設も容易で機動兵器の搭載は難なく行えた。その代わり、地上兵器の搭載量は減ったが。
艦名は人物の名を付ける様子。一作目の主人公は大佐になって、この巡洋艦の艦長をしていた。
タモンの座乗艦は「ヴィーザル」号。第2艦隊旗艦は「ローエングラム」号。
しかし、やられ役である。

ネルソン級宇宙戦艦
ガンダムSEEDの地球連合軍の宇宙軍で主に運用される宇宙戦艦。MS搭載用に改装されたのもある。
この作品では統合連邦宇宙軍や宇宙海軍の度の艦隊でも幅広く運用されている。
一応が戦艦であるが、全長500m級の大型艦艇を持つUNSCやISA、UCAからは駆逐艦扱い。
原作同様、破壊されまくるやられ艦。

ネルソン級MS搭載型改『アグリッパ』
タモンとマルコのヴィーザル号の次の座乗艦。同じく前述の攻撃指揮官の母艦。
SEED DESTINY以降にMS用の格納庫とカタパルトが追加されて登場したネルソン級MS搭載型の、回転型ミサイル発射管からミサイル関連機構をオミットしつつ小窓を幾つか設ける事で回転式重力ブロックとしてから追加居住区とした物。

そういう改造前から元から有った居住区画自体も元の面積のまま残された為、これによって居住区の総面積が増えた事により、攻撃力が少し下がった代わりに居住性とプライバシー性が全体的に向上すると共にミサイルのような爆発物をその箇所には搭載しなくなった御陰で防御力も或る意味では少し向上した。

それ以外にも、ブリッジ付近のセンサー類が本来のネルソン級MS搭載型よりも強化されているのに加えて、
ブリッジ内部レイアウトも大体、Vガン最終回にて艦長席が並列三座化されたスクイード級ダルマシアンの物をベースとして、並列三座化艦長席の背後の壁に現実のギガヨットのブリッジ内部後面および旧版銀英伝の帝国軍艦艇の提督席背後の壁などに付いているような長ソファーを付け、左面のオペレーター席を潰して代わりにヤマト2199第一話にて描写されたキリシマの艦長席のような席に変更した上で副長席としたという感じとなっている。
ISA海軍の艦種では駆逐艦である。
設定提供は俊伯さん。


 時は遡り、惑星同盟軍の最大拠点とされる惑星ガルダーゴン陥落後の宇宙における追撃戦にて、ある男の座乗艦となるUCA兼ISA標準型巡洋艦「ヴィーザル」号は、指揮下の戦隊と友軍部隊と共にガンダムバエルを御旗とするアグニカ・カイエル軍の追撃を行っていた。

 

「先遣隊、敵ガンダムタイプ一機に苦戦中! 援護を求めてます!」

 

「たった一機だぞ? それくらい真面に対処できんのか?」

 

「異常な機動力らしく既に僚艦が、いや、先遣隊壊滅!」

 

「なんだと!? 敵は何機いるのだ!?」

 

「い、一機のみ! こちらに来ます!」

 

 ヴィーザル号の艦橋内にて、通信手から先遣隊がガンダムバエルに全滅させられたとの報告に、副官は驚愕する。艦長であるタモン・ランカスターはこの報告に眉一つ動かさず、表情どころか一言も発することなく冷静に聞いていた。

 レーダー手からの報告でこちらにガンダムバエルが接近してくることが分かれば、タモンは無言で迎撃命令を示すジェスチャーを行う。

 

「直ちに迎撃態勢! 対空警戒を厳となせ! 艦載機も発進させろ!!」

 

 そのジェスチャーを理解している副官は、タモンの指示を艦橋内のクルーに伝達した。それに応じ、先遣隊を壊滅させたガンダムバエルに向けて対空ミサイルを放ち、艦載機を出撃させる。それに随伴艦にも砲撃させた。

 出撃する艦載機は量産型ヒュッケバインMk-Ⅱ、クランシェカスタムやクランシェ、ウィンダムにドートレス・ネオ、ジャベリンと言った高性能機ばかりだ。後は標準型戦闘機のみ。

 

「リロ・パルスアム、クランシェカスタム出ます!」

 

 戦隊攻撃指揮官であるリロ・パルスアム少佐は自分の機体であるクランシェカスタムに乗り込み、カタパルトを使って出撃した。それから同じクランシェ四機で五機編隊を組み、友軍機を蹴散らしながらランカスター戦隊に迫るガンダムバエルを迎え撃つ。

 迫り来るジェガンJ型やドートレス、ストライクダガー、ジェノアスⅡを撃破しながら進むマクギリス・ファリドが駆るバエルは、本来のバエルソードでは無くビームライフルとビームサーベルを装備しており、リロが率いる戦隊の艦載機を見るや、ビームライフルを撃ち込む。双剣が主なバエルからのビーム攻撃に、リロたちは驚きの声を上げる。

 

『び、ビーム攻撃!?』

 

「こちらホワイトキャッスルリーダー、敵はライフルを所持! 情報では双剣のはずじゃないのか!?」

 

 バエルのビーム攻撃を避けたが、情報には無い攻撃でリロ等は戸惑う。

 そんな戦隊の攻撃部隊のことなど気にせず、ガンダムバエルは攻撃を躱しながらビームライフルを撃ち返し、手近な距離にいるウィンダムを撃破した後、付近にいるウィンダムをビームサーベルで切り裂いて撃破する。二機を撃破した時間が秒単位であるため、宙域戦のエリートを自負するISA海軍のパイロットたちは驚愕する。

 

「一気に二機も!?」

 

『なんだこいつ!?』

 

『どうなってやがる!?』

 

 驚愕するパイロット等であるが、バエルに乗るマクギリスは浮足立った彼らに容赦なく猛威を振るい、更にウィンダムを一機、ドートレス・ネオ三機を立て続けに撃破した。

 ジャベリン三機が編隊を組み、友軍機を次々と葬るバエルにジャベリンユニットによるショットランサーを同時に撃ち込むが、相手のバエルは高い機動力を持つので躱される。撃ち込まれるビームライフルをビームシールドで防ぐも、接近してくるバエルのビームサーベルで切り裂かれて三機共々撃破された。

 

『は、速過ぎる!? うわぁぁぁ!!』

 

「こいつ、ガンダムだからって調子に乗って!!」

 

 次々と僚機の反応が消えていき、それと同時に伝わるパイロットの悲鳴を聞いたリロは、僚機のクランシェ四機と共に編隊を組み、同時にドッズライフルを撃ち込む。リロが乗るクランシェカスタムはツインドッズキャノン装備であり、火力は通常機の二倍以上だ。だが、相手はガンダムバエルでそれを駆るのはマクギリス・ファリド。容易く避けられ、僚機の二機がビームライフルによって撃墜される。

 

「ゴードン、ジグド!? こいつ!!」

 

 僚機を撃墜されたことで激怒したリロは機体を飛行形態からMS形態に変形させ、左右のバインダーに装備されたツインドッズキャノンを排除し、ドッズライフルを撃ちながらバエルに接近する。

 これにバエルはライフルを破壊されるが、臆することなく左手に持つビームサーベルで接近してくるリロのクランシェカスタムに対処する。リロもビームサーベルを抜き、斬りかかる中、バエルは相手の斬撃を左手のビームサーベルのみで対処した。

 

「うぉぉぉ!!」

 

 連続した斬撃を叫びながらバエルに浴びせるリロであるが、マクギリスは余裕でその全てをサーベルで受け止め、素早く抜いたバエルソードで彼女のクランシェカスタムを切り裂いた。

 幸い、コクピットは切り裂かれず、リロのクランシェカスタムは行動不能になった程度だが、防衛線を突破されてしまう。

 

「敵ガンダムタイプ、防衛ラインを突破! こちらに来ます!」

 

「対空迎撃だ! 直ちにやれ!!」

 

 レーダー手からの報告でマルコは即座に指示を出す。タモンは無表情で無言のまま、接近してくるガンダムバエルを見ていた。

 ヴィーザル号の対空機関砲やミサイルを始め、僚艦のサラミス改級巡洋艦やネルソン級宇宙戦艦より対空砲火が行われるが、バエルはそれら全てを躱してタモンのヴィーザル号に接近してくる。

 

「ん? AT部隊も出撃させろ! 弾幕を厚くするのだ!!」

 

 対空弾幕を更に厚くしようと判断してか、タモンはAT部隊の出撃を手話で命じる。これに応じ、甲板にスコープドッグ等のAT部隊が展開し、ヘビィマシンガンでバエルの迎撃を試みるが、焼け石に水であり、甲板をバエルソードで切り裂かれ、ハンガーへの侵入を許してしまう。

 

「敵機、ハンガーへ侵入! 暴れ回っています!」

 

「なんと無茶苦茶な!? 艦長、いかがいたしましょう!?」

 

「…!?」

 

 この報告に、マルコはタモンにどう対処するかを問うが、彼も自分の船にバエルが侵入してくるなど予想外であり、言葉を発せぬまま表情を驚愕させていた。

 その間にもヴィーザル号のハンガーへ侵入したバエルは暴れ続け、まだ発艦していない搭載機や設備を破壊していく。止めようとしてヘビーガンやマシンキャノン無しのGキャノンが来たが、バエルに敵うはずが無く、武器を持たない右手の手刀で胴体を抉られ、返り討ちにされる。

 

「侵入した敵機、尚をハンガーで暴れています!」

 

「艦内各部に異常発生!」

 

「艦内ダメージ、中破レベルから大破レベルまで上昇!」

 

「か、艦長!? 指示を! 指示を願います!!」

 

 艦橋内が赤く光り、次々と来る許容範囲内の被害報告に、タモンはただ無言で茫然とするだけであった。

 そんなタモンの気持ちを察してか、マクギリスは最後にビームサーベルで斬りかかって来たダガーLの胴体を手刀で貫いてから素早く引き抜き、両肩のレールガンで壁を吹き飛ばした後、スラスターを吹かせてヴィーザル号から出て行った。バエルが出て行った後のヴィーザル号のハンガーは滅茶苦茶であり、壁にも穴が開いて阿吽絶叫の光景が広がっていた。

 

「敵機、当艦より脱出! そのまま母艦へと帰投する模様!」

 

「被害状況、ハンガー内は壊滅状態! 艦内各所で火災発生! 大破状態です!」

 

「このままでの戦闘継続は困難! 場合によっては轟沈の可能性も!」

 

 ガンダムバエルが脱出した後、クルーらは額に汗を浸らせながらタモンに被害状況を報告する。これにマルコは言葉を発せずとも、茫然とするタモンにどうすべきかを問う。

 

「艦長、もうヴィーザル号は大破です…! 後退いたしますか…?」

 

 この問いに、タモンは言葉では無く手話で応えた。それは後退を指示するジェスチャーだ。直ぐにマルコは艦長の指示をクルーらに伝える。

 

「後退だ! 操縦士、直ぐに艦隊旗艦まで後退しろ! 本艦は大破状態だ! 艦載機や僚艦にも本艦の後退を支援するように伝えろ!! 通信手、直ちに旗艦に伝達! 我、追撃は困難なり!」

 

 このタモンのジェスチャーを介してのマルコの必死の指示は戦隊全体に伝わり、艦載機や僚艦のサラミス改級やネルソン級は戦隊旗艦の巡洋艦ヴィーザル号を守るようにISAヴェクタ第2艦隊の方へ後退し始める。

 マクギリスがヴィーザル号を沈められたのに敢えて沈めなかったのは、これが狙いであったからだ。ISA海軍の追撃隊旗艦に大破寸前に追い込めば、貴重な巡洋艦を守るためにまだ無傷な者は護衛に着かねばならない。そう睨んで敢えて沈めなかったのだ。

 狙い通り、ISA海軍のタモン率いる追撃隊全てが後退していくのを見れば、マクギリスが乗るガンダムバエルは母艦へとスラスターを吹かせて帰投する。UNSCを除く他の連邦参加勢力の追撃隊もあったが、アグニカ軍に撃墜されるばかりであり、いたずらに損害を増やすばかりであった。

 

 

 

 ガルダーゴン戦から一ヵ月後、惑星ヴェクタにあるISA海軍第2艦隊本部にある提督の執務室にて、タモン・ランカスターは提督であるカミュ・アイゼナッハ海軍大将から直属の命令を受けようとしていた。

 

「一ヵ月も経っても、貴官のヴィーザル号の修理はまだ終わらんようだな」

 

 最初にカミュは船乗りらしく、艦に関する会話から始める。これにタモンは無言のまま直立不動状態である。カミュはタモンの事を理解しているらしく、無言の彼に全く気にすることは無い。

 

「新しい船を要請しても、コロニー連合軍(UCA)は寄越してくれん。連中も戦力の回復に必死だからな」

 

 惑星戦略同盟(ISA)の装備提供はUCAやその政府らから行われるが、ISA海軍にも艦艇や装備類を提供するUCA海軍も決戦で負った傷を癒すのに集中しているため、新しい艦艇や装備が提供を滞っているとカミュは言う。ISA海軍もそれなりの損害を負っているが、再編はまだ終わっていない。簡単に建造できる全長400m~200mからの艦艇の調達は容易であるが。

 これにタモンは無言で、何の反応も示さず、無表情のまま椅子に座るカミュを見つめたままだ。そんなタモンにカミュは気にすることなく続ける。

 

「400m級までの艦艇なら、余るほど調達できる。建造先は巡洋艦と言っているが、我々からすれば駆逐艦やフリゲートクラスだ。さて、本題に入ろうか」

 

 表情一つ崩さず、ただ聞いているだけのタモンが何の反応も示さないので、カミュは本題に入った。机の引き出しから命令書ならぬ命令文が記載された端末を直立不動状態を取るタモンの前に出す。机の上に置かれた端末を取り、タモンは自分に出された任務の内容を確認する。

 

「これが貴官への任務だ。惑星リーチのUCA海軍基地が反乱軍の部隊に襲撃され、壊滅した。敵は未確認の機動兵器を使用したようだが、痕跡が完全に消されている。旧型機のような未確認の機動兵器類は残されていたが」

 

 カミュは惑星リーチで行われた反乱軍とターニャの特務航空魔導大隊を含める帝国再建委員会の襲撃の件を話した。彼が上層部より受けた命は、反乱軍と連邦内では謎の勢力である帝国再建委員会の追撃であった。

 だが、今のカミュは自身の艦隊再編に専念せねばならない。そこで予備戦力扱いであるタモンの戦隊に追撃の任を与えた。主力巡洋艦を再編の為に一隻たりとも回せないのが現状であるが、カミュは困るほどに回って来る400m級クラスの艦艇で新たに自身の艦隊の人員で一個戦隊を編成、タモンの指揮下に置き、二個戦隊編成のタスクフォースを結成することで解決した。

 

「貴官には新たに指揮下に入れる一個戦隊、それを合わせた二個戦隊編成のタスクフォースで件の追撃任務に当たって欲しい。連邦宇宙軍の第87艦隊も協力する予定だ」

 

 連邦宇宙軍も追撃の任務に協力する予定だと告げれば、次にカミュは追撃する反乱軍の艦隊についての情報を伝える。

 

「反乱軍艦隊はUNSCの退役したはずのハルシオン級軽巡洋艦三隻、解体されたはずのマラソン級重巡洋艦一隻を保有している。おそらくマラソン級が旗艦だ。他に旧式駆逐艦数隻、サラミス改級が何隻か確認できたと偵察部隊より報告されている」

 

 反乱軍艦隊の規模はタモンのタスクフォースの現状戦力では手厳しい物であった。だが、タモンは宇宙軍とは比べ物にならない宇宙海軍所属の将軍であり、それも高い練度を持つISA海軍の所属だ。対する反乱軍はUNSCに対する反徒や脱走兵に雑多な人員、おまけに装備類は旧式ばかりだ。少々装備は古いが、正規軍であるタモンのタスクフォースには敵わぬだろう。

 

「少し敵は大きいが、敵は旧式ばかりだ。それに実戦経験は殆どない。戦術と練度、経験を持って対処せよ。注意することがあれば、油断するなと言うことだ」

 

 カミュが最後に言った注意を聴き取れば、タモンは端末を左脇に挟み、右手で敬礼してから執務室を後にした。

 暫くして、タモンはカミュの指示通りに第2艦隊の艦艇が停泊している宇宙港まで来て、自分のタスクフォースを確認する。主力の巡洋艦は一隻も無く、ネルソン級宇宙戦艦やクラップ級巡洋艦、サラミス改級巡洋艦ばかりだ。空母とすれば、アガメムノン級かコロンブス改級輸送艦を空母に改装した物だ。

 

「閣下、どれを座乗艦で?」

 

 副官のマルコから座乗艦をどれなのかと言う問いに、タモンは一風変わったネルソン級MS搭載艦を指出す。

 

「駆逐艦アグリッパですな。空母の方が良いのでは?」

 

 そのネルソン級はかなり改装されており、ブリッジが大きく変わっていた。艦名はアグリッパであり、タモンが座乗艦にすると言うが、マルコは空母の方が良いのではないかと問う。

 

「まぁ、閣下の決めたことです。私は従いますよ」

 

 マルコの問いにタモンは答えることなく、無言でアグリッパへと向かって行った。



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反乱軍艦隊殲滅戦

クラーク艦長
女性で年齢は32歳。攻撃指揮官以上の長身爆乳爆尻の美人。ネルソン級MS搭載型改『アグリッパ』の艦長。階級は少佐。
司令官代行とは付き合いが其れなりに長い為に、ジェスチャーの一部を多少は読み取れるが、首席参謀に比べたら大きく劣り、どうしても読み取れない時は司令官代行に耳打ちしてもらう事で伝えてもらっている。
キャラ提供は俊伯さん。

ジャン・テンペラー
SF系FPSゲーム「KILLZONE」の一作目の主人公。二作目では大佐に昇進して巡洋艦「ニューサン」号の艦長になっている。
タモンのタスクフォースの艦艇では大型艦艇ばかりの反乱軍艦隊の相手では荷が重いと思われてか、援軍として派遣される。
座乗艦は「ニューサン」号。

ハルシオン級軽巡洋艦
SF系FPSゲーム「HALO」に登場する宇宙戦闘艦。艦種は巡洋艦。
HALO第一作目にマスターチーフが乗っていた人類軍ことUNSC軍の軍艦はこれ。艦名はピラー・オブ・オータム。敵陣に単艦で突っ込む作戦の為、艦砲を増産し、一応ながら戦艦にチェンジした。
コヴナント戦争前からある巡洋艦で既に老朽艦であり、戦争中はガンダムのサラミスの如く沈めまくられたが、大量に建造されたのである程度は生き延びたようだ。まだUNSC海軍では現役のようで、拠点防衛や辺境でひっそりと余生を過ごしているようだ。
後継艦のオータム級重巡洋艦も建造されている。
この作品に出て来るのは、表向きは解体されて反乱軍に横流しにされた艦。三隻はある。
全長1170mとデカいので、機動兵器の搭載も地上車両と艦載戦闘機を減らせば出来る。ただし、サラミス並みに脆い。

マラソン級重巡洋艦
ハルシオン級と同じくHALOに出て来る宇宙戦闘艦。全長1200m。初代マクロスかな?
ハルシオン級の建造費が高いので、建造費を抑えるためと大型化の為に建造された重巡洋艦。コヴナント戦争ではUNSC海軍の主力艦として大量に建造され、ハルシオン級と同じく撃沈されまくったようだ。
戦後も大量建造のおかげか、かなりの数が生き延び、後継艦のオータム級の数が十分に揃うか置き換わるまで現役でいるようだ。
この作品ではまだ現役で大型艦もあって連邦海軍に重宝されている。コヴナント戦争後に普及したシールドは原作同様に搭載されていない。
更には表向きは解体されたマラソン級が、反政府勢力に流れている。

その他艦艇
色んな所から反乱軍がかき集めて来た艦艇。
かなり雑多であるが、新鋭艦は無い。連邦のみならず、同盟の宇宙艦艇まで所持している。鹵獲艦も横流しされているようだ。


 タモン・ランカスターがネルソン級MS搭載艦「アグリッパ」をタスクフォースの旗艦として乗艦し、惑星ヴェクタより出撃して追撃任務に就いた。

 その頃、表向きでは退役したはずのマラソン級重巡洋艦を旗艦としたハルシオン級軽巡洋艦三隻、旧式駆逐艦四隻、旧式フリゲート八隻、サラミス改級巡洋艦六隻、ドレイク級護衛艦十隻、その他艦艇十五隻で編成された大規模な反乱軍艦隊は、合流ポイントを目指して小惑星帯の中を航行していた。合流するのは、自分を支援している帝国再建委員会の隠密部隊である。

 

「これでようやく本国へ帰れるな。こんな戦争だらけの世界、二度と来たくも無いわ」

 

 反乱軍艦隊の旗艦全長1200mはあるマラソン級重巡洋艦「プリンツ・オイゲン」の通路にて、アーデことアーデルトラウト・ブライトクロイツは、二大勢力による戦争が休戦になっても、未だに争いが続くこの世界から平和とも言える元の世界へ帰れると口にする。

 旧連邦軍地球方面軍本部の脱出からガルダーゴンの決戦の二つの激戦地巡り、そして休戦後も続く局地的な戦闘で、アーデはこの世界にうんざりのようだ。彼女は知らないが、影の支配者たるヴィンデル・マウザーの意向で休戦後も戦闘は続けられているのだ。

 隣には彼女の上官であるターニャ・フォン・デグレチャフが歩いており、珍しくアーデの意見に同調した。

 

「私もだ、速く帰ってあのコーヒーを飲みたい。追撃が来ない内にな。特にこんな旧式艦ばかりの艦隊、最新装備の艦隊にでも襲われれば一溜りもない」

 

 自分の言う通り、その最新装備を持つ部隊の追撃を受けているなど知らず、ターニャとアーデは艦内の食堂へと足を運ぶ。向かうのは士官用の食堂であるが、このマラソン級の今の保有者は非正規軍の反乱軍であり、士官や兵下士官と言った違いなく、全員が同じ席に座って食事を取っている。

 ターニャの特務航空魔導大隊は、ガルダーゴンでの秘密兵器666の回収作戦でそれなりの被害を受けており、航空魔導士二個中隊分の人数しかいない。本部より幾つかの特殊部隊が投入されているが、ターニャに指揮権は与えられていない。

 

「コーヒーを」

 

 食堂の列に並び、自分の出番が来たところで、ターニャはコーヒーを食堂の当番に頼んだ。

 だが、反乱軍の将兵たちはターニャや航空魔導士のことなど全く知らず、冗談だと思って応じず、水の入ったコップをトレイに置いた。これにターニャは文句を言おうとしたが、怒ったところで何も変わらないと判断し、席に向かう。

 

「反乱軍の奴ら、私のことを知らんようだな」

 

「当然だ、この世界にイヴ人を知る者など殆ど居ない。中佐なんて言っても、子供の悪ふざけとしか受け止められるだけだ。私のことを、上官の誰かの愛人などと言う連中だ」

 

「貴官もか。あぁ、速くこんな食事とはオサラバしたい物だ」

 

 席に座ってコーヒーを貰えなかったことに文句を言うターニャに、先に席に座って見るからに食欲の湧かない宇宙食を食べるアーデは反乱軍の将兵等に愛人と言われ、かなり反乱軍の自分らに対する認識に苛立っていた。ターニャもその気持ちを理解しつつ、トレーの上に盛られた宇宙食を見ながら本国に早く帰りたいと口にする。

 食事を取っている最中、アーデはここにイヴ人の将兵を連れて来なくて良かったと口にしたり、反乱軍の将兵等の事を教養もない反社会人格者、あるいは現統一政権打倒の名を借りて海賊行為を行う無法者の集団と罵った。

 

「(おいおい、この女。周りが反乱軍まみれだと言うのに…あーぁ、怒らせたよ)」

 

 これにターニャは周りに反乱軍が居るのによく言えるなと、心の中で呆れながらも感心しつつ、怒った反乱軍の兵士たちがアーデの方に来るのを黙ってみていた。士官と思われる男は激怒しており、同じく彼女の発言に怒りを覚えた仲間らと共に、あの八つ当たり染みた発言を問い詰めた。

 

「やい、このアパズレ! いま俺たちの事、反社会勢力や教養もないアホ、盗賊だとか何だの抜かしやがったな!? てめぇ、俺たちがどれほどUNSCや連邦に、どれほど苦しめられたか分かっているのか!?」

 

 机を叩きながらアーデに問えば、彼と同じく急にやって来ては勝手に指揮権を奪い、挙句に自分らを手駒としか見ていない彼女らに不満を持つ者たちが続いて席を立ち、次々と罵声を浴びせる。

 

「あんた、連邦やUNSCに、夫や子供を殺されたことが無いから分からないんだ!」

 

「そうだ! 俺たちは独立精神で連邦やUNSCと戦っているんだ! いきなり来て、上から目線のお前らに指図される覚えはない!!」

 

「俺たちは独立の為に戦っているんだ!」

 

「連中の圧政に苦しめられている人々の為、我々は立ち上がったのだ!!」

 

 それぞれの想いを胸に反乱軍に志願した者たちに対し、アーデも対抗意識が芽生えてか、席を立って作戦行動規則や任務を忘れ、人間が以下に危険な存在で、自分らイヴ人が管理せねばならない種族だと訴える。流石のターニャもこれには慌てた。

 

「これだから人間は、我々イヴ人の手で管理せねばならないんだ! 少し主張や主義、思想が違うだけで勝手に人間同士殺し合う! 挙句に気に入らない物があれば排除し、自分より優れた者に嫉妬して足を引っ張るか貶めに掛かる!! それだけでない! どうして同じ人間を奴隷にするなんて、お前たちは野蛮だ! 女子供をまるで道具のように扱って!!」

 

「あ、あんた…一体なにを言っているんだ…!?」

 

 突然、イヴ人だの人間が野蛮など怒鳴り散らしながら言うアーデに、反乱軍の面々は困惑していた。無理もない。いきなり目前の美人過ぎる女がイヴ人と言い出し、自分ら人間をお互いに殺し合う野蛮だと言い始めたのだ。

 アーデのストレスの限界に達していた。休戦になっても戦闘が終わらないこの世界、男たちの自分を性的な目で見る視線、特殊作戦の性質故に、見知らぬ土地での最低限の支援しか受けられぬ作戦行動を強いられている。辛さの余り、遂に限界が来たようだ。

 ターニャは前世が前世で過酷な経験をしたので我慢できるが、アーデはそんな経験は無いに等しかった。故に感情的になって任務や規則を忘れ、反乱軍の者たちに当たってしまった。

 

「よ、止せ! 我々の素性は…」

 

 アーデが興奮するあまり自分の素性を明かすような真似をし始めたので、不味いと思ったターニャは止めに掛かる。

 

「うわっ! なんだ!?」

 

『総員に通達! 連邦軍の攻撃だ! 戦闘員は直ちに戦闘配置に着け! パイロットはスクランブルだ!!』

 

「嫌な事態だが助かった。だが、今のは上層部に報告しておくぞ!」

 

 そこへ都合よく、タモン・ランカスター率いるタスクフォースとISA海軍の増援部隊、連邦宇宙軍分遣艦隊による攻撃が始まった。艦内が揺れた後に警報と命令のアナウンスが鳴り響き、食堂に居た反乱軍将兵等はそれぞれの部署へと慌ただしく駆け始める。

 自分らの素性がばれずに済んだは良いが、ターニャに取っては嫌な事態だ。ターニャはアーデに先の感情的な行動を上層部に報告すると言ってから、脱出用の輸送機があるハンガーへと向かった。

 

 

 

 時は遡り襲撃の十分前、追撃する反乱軍艦隊を捕捉したタモン・ランカスター率いるタスクフォース・ランカスターは、巡洋艦「ニューサン」号一隻で編成されたα部隊の増援と合流していた。

 

「艦長、ヴェクタISA海軍第1艦隊所属の巡洋艦ニューサン号の艦長、ジャン・テンペラー大佐殿より映像通信が入っております」

 

 タスクフォースの旗艦アグリッパの艦橋内で、変に増設されたシートに座るタモンとマルコに、通信手がニューサン号の艦長からの通信映像が来ると報告する。これにアグリッパの艦長、それも女性艦長のクラークは無言のまま椅子に座るタモンに視線を向け、彼のジェスチャーを見てから繋ぐように指示する。

 

「繋いでちょうだい」

 

「はっ」

 

 クラーク艦長の指示に応じ、通信手はニューサン号からの映像通信を艦内のモニターに表示する。モニターに映し出されたニューサン号の艦長ジャン・テンペラーはタモンに向け、海軍式の敬礼を取ってから挨拶を行う。

 

『第1艦隊司令部より、タスクフォース・ランカスターの増援として来た巡洋艦ニューサン号の艦長兼α部隊の指揮官ジャン・テンペラー大佐であります。お久しぶりですね、ランカスター少将殿』

 

 テンペラーとタモンは顔見知りのようだが、知り合いに会えたと言うのに無口な男の表情は微動だにせず、無言で敬礼を返すだけだ。テンペラーも慣れているらしく、全く気にも留めずに続ける。

 

『ヴェクタ侵攻で初めてお会いしてから無口な御仁だ。それより、私が援軍として来た理由は、言わずとも分かりますね?』

 

「我がタスクフォースは駆逐艦やフリゲートばかりですからな。敵は大型艦艇四隻! 幾ら装備が古い反政府勢力相手と言え、増援が巡洋艦一隻だけとは…!」

 

 言わずとも分かると言うテンペラーの言葉に、参謀のマルコは相手の艦隊が1000m級四隻であると無言のタモンに代わって口にした。彼は一隻の標準型巡洋艦一隻では不満なようだ。

 これにテンペラーはこちらに数と装備の分があり、勝機は必ずあると付け加える。

 

『火力と質量ではこちらが劣りますが、宇宙軍も動いております。数と装備の差はこちらが有利です』

 

「それに実戦経験の差もです、テンペラー大佐殿! それくらい分かっていますとも!」

 

 テンペラーが実戦経験のことを言わなかったのか、マルコはそれを反応して付け加えた。

 

『そうだった。この海戦、必ず我々が勝ちますよ。ん? 宇宙軍の奴らが先に仕掛ける様です。そちらに追加指令を送ります。では!』

 

 どうやら敢えて言わなかったらしく、このテンペラーの誘導にマルコは少し眉を顰めた。宇宙軍が先に反乱軍艦隊に攻撃を仕掛けようとするので、テンペラーは追加司令を送ると言ってから通信を切った。

 

「本当に宇宙軍が先に仕掛ける様です。こちらがまだ配置に着いていないと言うのに」

 

 テンペラーの言ったことは正しいようで、宇宙軍がタモンのタスクフォース・ランカスターが配置に着く前に反乱軍艦隊に攻撃を仕掛けたようだ。宇宙軍は宇宙海軍に並々ならぬ対抗心と嫉妬心を持っており、この反乱軍艦隊掃討作戦を自分らの手柄にしようと思っているようだ。

 それをレーダー手が報告すれば、クラーク艦長はタモンにどうするかを問う。

 

「司令官、こちらの配置がまだ済んでませんが、仕掛けますか?」

 

 この艦長からの問いに、タモンは無言のジェスチャーで返答する。それは攻撃命令のジェスチャーであった。それを理解したマルコが代理で号令を出す。

 

「配置に着いた順に反乱軍艦隊に攻撃! 艦載機も出せ!!」

 

 この号令に従い、アグリッパを初め各僚艦は配置に着いた順で反乱軍艦隊に攻撃した。戦闘準備が行われる中、テンペラーより送られた艦隊本部からの追加司令も確認しておく。

 

「艦長、追加指令を」

 

「はっ」

 

 マルコが追加指令を確認したいと言えば、クラーク艦長は端末を操作してニューサン号より受信した艦隊本部からの追加指令を自身の端末に表示する。内容を素早く読み取ってからマルコは端末をタモンに見せた。

 

「反乱軍艦隊旗艦、マラソン級巡洋艦「プリンツ・オイゲン」を拿捕しろと指令です。それ以外の敵艦は撃沈して構わないようで。突入部隊はニューサン号に居て、我々には動けなくしろと」

 

 端末に表示された追加指令の内容を、マルコがある程度から纏めて言えば、タモンは無言で頷いた。それから追加指令通りに、拿捕が命じられたプリンツ・オイゲン以外の反乱軍艦隊の艦艇に攻撃を集中させる。

 

「なんて狭いハンガーだい!」

 

『我慢してくださいよ。ヴィーザル号が直るまでの辛抱です』

 

「わーてるっよ!」

 

 アグリッパのハンガーにて、攻撃隊の指揮官であるリロ・パルスアムはクランシェカスタムで出撃しようとしていた。ハンガーはヴィーザル号より狭いため、これにリロは文句を言う。

 ヴィーザル号が直るまで辛抱だと整備長が言えば、リロは分かっていると言ってアグリッパより出撃した。後続のクランシェ隊も航空形態で出撃する。これに合わせ、ニューサン号を含める僚艦からも続々と艦載機が出撃していく。

 

「海軍の奴らなどに遅れるな! 反乱分子共の艦隊は、我が宇宙軍が撃滅するのだ!!」

 

 一方、反乱軍艦隊の正面に展開する宇宙軍の討伐艦隊では、旗艦であるアオヤギ級宇宙戦艦に乗る提督が海軍の意図も知らず、殲滅命令を出していた。宇宙軍には反乱軍艦隊の旗艦の拿捕命令が届いておらず、殲滅する勢いで一斉射撃を行っている。

 

「提督、海軍より旗艦は撃沈せず、拿捕せよと来ております!」

 

「喧しい! 海軍の奴らは我々宇宙軍を出し抜こうとしているのだ! 良いから旗艦も沈めてしまえ! 艦載機第一陣も直ちに発艦させぃ! 反乱分子共を捻り潰してしまえ!!」

 

 艦隊幕僚が提督に報告するが、彼は無視して砲撃を続行させ、艦載機の第一陣を発艦させる。第一陣はジェガンJ型にストライクダガー、ドッペルホルン無反動砲を装備したダガーLの大群であり、圧倒的物量で圧し潰さんと反乱軍艦隊に迫る。

 対する反乱軍は連邦軍では除籍扱いの旧型機ハイザックやバーザム、帝国再建委員会が押し付けた宇宙用リーオー、ティエレン、ヘリオン、リアルドと言った不用品ばかりだ。この凄まじい現行機の大群に、反乱軍の防衛線はただ圧し潰されるだけであり、あっという間に突破される。

 

「宇宙軍の艦載機隊、敵防衛線を突破。まもなく反乱軍艦隊に接触します!」

 

「反乱軍艦隊、マラソン級並びハルシオン級、宇宙軍の討伐艦隊に艦首を向けています! MAC(マック)キャノンを使用する模様!」

 

「ふぅ、宇宙軍の馬鹿共が注意を引いているおかげで、こちらは助かりますな」

 

 アグリッパの艦橋で先に仕掛けた宇宙軍の戦況を聞いていたマルコは、脅威であるMACキャノンが宇宙軍の方に向いて助かると口にする。事実、反乱軍はタモンのタスクフォースに余り戦力を向けておらず、物量と質で勝る連邦宇宙軍に集中している。

 艦首に搭載されたMACキャノンを撃つべく、船体を宇宙軍討伐艦隊に向けた反乱軍艦隊の巡洋艦四隻は照準が合い次第に発射。コヴナント戦争ではさらに大型でエネルギーシールドを持つコヴナント軍の艦艇に有効打であったMACキャノンは同じ人類で作られた艦艇を容易く粉砕するほどの威力を持っていた。その四隻の一斉射で機動兵器五十機ほど、艦艇ニ十隻を見事に葬り去る。

 

『うわぁぁぁ!? 旗艦が! 旗艦がやられたぁ!!』

 

『なんでMACキャノンが!? 使えないんじゃないのか!?』

 

『畜生! 反乱軍じゃねぇのか!? わっ!!』

 

「討伐艦隊は旗艦を轟沈させられているため、指揮系統が混乱しているようです!」

 

「フン、たかが反乱分子と思って舐めるからよ」

 

「司令、彼らはどうするんで?」

 

 生き残った宇宙軍の艦艇より混乱した無線が聞こえる中、マルコは可哀想とも思わず、反乱分子と思って舐めて掛かった討伐艦隊を嘲笑った。それを気にせず、クラーク艦長はタモンにどうするかを問う。反乱軍艦隊はタスクフォース・ランカスターに対処するため、艦首を向けようと回頭する。それを見ているタモンは言葉で返さず、ジェスターで返答する。即ち敵艦艦首に攻撃を集中せよとの司令であった。

 

「敵艦艦首に攻撃を集中! MACを撃たせるな!」

 

「全艦に通達、敵艦艦首に攻撃を集中。MACキャノンを無力化せよ!」

 

 ジェスチャーで分かったマルコはタモンの命令を伝達する。これに合わせ、タスクフォースの各艦艇は敵巡洋艦の艦種に攻撃を集中する。

 

「敵巡洋艦の艦種に対艦ミサイルを照準次第、発射! 旗艦のマラソン級は通常ミサイルか艦砲で攻撃! 機動兵器部隊は、反乱軍機に対処!」

 

 タモンのタスクフォースが敵巡洋艦の艦種に攻撃を集中すれば、ニューサン号のテンペラーも同調して同じ攻撃を行う。この速い攻撃に反乱軍艦隊は背後のタモンのタスクフォースに対応しきれず、四隻の巡洋艦以外の艦艇が脱落した。

 次々と雑多な艦艇が沈んでいく中、マラソン級とハルシオン級の艦種に搭載されたMACキャノンは遂に破壊される。即座に反乱軍艦隊は退却を試みるが、タモンが逃すはずが無く、マラソン級はエンジンを破壊されてしまった。旗艦のエンジンがやられたことで、三隻のハルシオン級はカバーに回ろうとするも、それもタモンの狙い通りであり、一隻のハルシオン級が集中砲火を受けて轟沈する。

 

「ハルシオン級一隻轟沈を確認」

 

「もう二隻も?」

 

「沈めろ。マラソン級は艦橋と艦砲を破壊するだけで良い!」

 

「了解。左手のハルシオン級に集中砲火!」

 

 レーダー手の報告で一隻目のハルシオン級の轟沈を確認すれば、クラーク艦長はもう二隻目もとタモンを見て問う。これにタモンは声を発することなくジェスターで伝えれば、副官のマルコが口頭で告げた。これに応じ、クラーク艦長は二隻目のハルシオン級に砲火を集中し、二隻目も沈めていく。

 三隻目はリロが率いる艦載機部隊に囲まれており、対空砲と艦砲、ミサイル発射口と言った攻撃手段を初め、移動手段のエンジンとスラスターも次々と破壊される。艦載機はいるが、ISA海軍のパイロットの技量と乗っている機体の性能差で的の如く撃破されるばかりだ。現にリロのクランシェカスタムに挑んだリーオーとMAのメビウスが容易く撃破された。

 

「そらっ!」

 

 ハルシオン級の艦橋まで迫ったリロは投降勧告もすることなく機体を人型形態に変形させ、機体の右手が持つドッズライフルを艦橋に向けて撃ち込んだ。ドッズライフルの高出力ビームを受けたハルシオン級の艦橋は吹き飛び、そこに居たブリッジクルーは当然の如く蒸発した。艦橋を失い、攻撃手段と移動手段を失ったハルシオン級は行動不能となり、その場に浮かんでいた。

 既に反乱軍艦隊は旗艦のマラソン級「プリンツ・オイゲン」のみとなっており、他の艦艇は全て沈められるか拿捕された。艦載機もまだ抵抗しているようだが、ISAの機動兵器部隊に撃墜されるばかりだ。敵わぬと判断し、投降する反乱軍機が続出している。

 

「次は旗艦のブリッジを!」

 

 リロが次に標的を定めたのは、マラソン級の艦橋であった。たった一隻になろうとも、反乱軍はスクラップ寸前のオンボロ機や地上機を砲台代わりにして出して頑固に抵抗している。この悪足掻きとも言える抵抗に、リロはその弾幕を避けながら艦橋へと向かう。

 

「投降せよ、今なら戦時捕虜として扱う。無駄死には止せ」

 

 その間にアグリッパの艦橋内では、副官のマルコが反乱軍艦隊旗艦「プリンツ・オイゲン」に投降するように勧告していた。本来であればタモンがやるべきことだが、無口故か、副官にやらせている。これに反乱軍艦隊の提督は応じず、徹底抗戦すると宣言して通信を切る。

 

『誰が貴様ら連邦などに屈するか! 私は先に散った同志たちの手向けとして、最後の血の一滴まで徹底的に抗戦し、貴様ら犬どもを一人でも多く道連れにする! この艦に乗る同志たち全員がそれを望んでいる! 貴官らに不幸があらんことを!!』

 

「愚かな奴だ」

 

 徹底抗戦を宣言した反乱軍艦隊の提督にマルコは呆れた。タモンの表情は動いていない、無表情のままだ。クラーク艦長は少しばかり動揺していたが、目前の戦闘に集中することにして前を向いた。

 既にリロがブリッジ近くまで取り付いており、そこまでの障害と言える対空砲などを破壊していたが、ドッズライフルを捨て身の攻撃を仕掛けたバーザムに破壊されてしまった。そのバーザムの背部に素早く抜いたビームサーベルで突き刺し、無力化してからブリッジに向けてビームサーベルを突き刺す。

 

「これで、ラスト!!」

 

 リロのクランシェカスタムがビームサーベルを突き刺した艦橋内には、提督を含めた反乱軍艦隊の幕僚らが居た。突き刺されるビームの刃に反乱軍の者たちは、誰一人逃げることなく焼かれた。リロは直ぐに引き抜き、ビームの刃を仕舞う。

 

「こちらホワイトキャッスル、敵旗艦のブリッジを破壊。敵艦隊の提督の死亡を確認」

 

『ご苦労、直ちに当艦に帰投しろ。後はニューサン号の揚陸部隊が艦内を掃討する』

 

「了解」

 

 敵旗艦のブリッジを破壊したことをアグリッパに伝えれば、マルコはリロに帰投するように告げた。これに応じ、リロは他の艦載機らと共に母艦へと帰投する。

 

「プリンツ・オイゲンに接舷しろ。制圧部隊を送り込み、艦内の掃討を行う」

 

 次なる出番はテンペラーのニューサン号だ。テンペラーは自分の艦に控える制圧部隊を乗り込ませるべく、艦をマラソン級に接舷し、制圧部隊を乗り込ませる。

 タスクフォース・ランカスターは反乱軍艦隊の旗艦であるマラソン級に接舷したニューサン号を守る形で展開し、同時に補給を終えた艦載機を再度出撃させ、周囲警戒に当たった。後から来た宇宙軍の増援部隊もそれに合わせる形で展開して周囲警戒を行う。

 

 かくして、次なる戦場は反乱軍艦隊旗艦マラソン級重巡洋艦「プリンツ・オイゲン」の艦内へと移った。




このご時世、こんなの書いて良いのだろうか…?


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姫騎士団VS連邦宇宙軍・海軍

久々に書いたな。

VF-1バルキリー
マクロスに登場する最初の正式可変戦闘機。
量産タイプがAで、限定生産型はR、日本製はJ、エース機並び中隊長・大隊長機はS型と呼ばれる。ファストパックやスーパーパック、ストライカーパックと呼ばれる追加装備もあり、汎用性に優れており、バージョンアップして使い回されている。
この作品では帝国再建委員会が、使わない雑多な機動兵器と共に反乱軍に供与している。いわゆる押し付けてあるが、可変戦闘機は喜ばれていた。
主に戦闘機と言った航空機のパイロットが好んで乗っている。

VF-4ライトニングⅢ
マクロスに登場する可変戦闘機。こちらは空間仕様。大気圏内仕様の空軍と海軍使用も存在する。
VF-1よりも優れる空間戦闘力で宇宙軍の主力となったが、VF-1以来の汎用性を持ち、性能に優れるVF-11サンダーボルトの登場により、二級戦装備にされ、辺境の警備部隊に追いやられた。更なる後継機が登場すれば、民間に払い下げとなる。
この作品では、いらないと判断されてVF-1と共に反乱軍に押し付けられた。だが、貧乏所帯の反乱軍では喜ばれている。

姫騎士団
ターニャやアーデ、帝国再建委員会の実行部隊を回収する時間稼ぎの為、ワルキューレから持ってきた部隊。名前の通り全員が女性で編成され、主に貴族身分の女性がリーダーをしている。イヴ人は兵士。
アガサやメイソンと同じく、主力MSはグレイズ。

グレイズ・リッター レリア・フィオナ・レンゲルト・ライルバーン機
姫騎士団の騎士団長のレリア専用のグレイズ・リッター。見た目はギャラルホルンの宇宙戦仕様のグレイズ・リッターであるが、専用の中型シールドが装備されている。それだけ。

グレイズ 姫騎士団仕様
姫騎士団の主力として使われているグレイズ。見た目の違いは白い塗装だが、一般機の近接武器が片手剣になっている。

グレイズ・パンツァー
本作オリジナルのグレイズのバリエーション。爆発反応装甲を装備した重装備仕様のグレイズ。

グレイズ・カノーネ
本作オリジナルのグレイズのバリエーション。右肩に大口径のキャノン砲を装備したグレイズ。いわゆるグレイズ・キャノン。


 ISA海軍の巡洋艦「ニューサン号」に接舷されたマラソン級重巡洋艦「プリンツ・オイゲン」の艦内に、一個大隊程のM82アサルトライフルやM77サブマシンガンを持ったISAの将兵等が雪崩れ込んだ。

 彼らは21世紀の特殊部隊のような装備をしており、身のこなしは素早く、非正規軍の反乱軍兵では全く敵わず、的の如く撃ち殺されるばかりだ。

 対する反乱軍将兵は玉砕を覚悟してか、蛮勇にも練度も能力も遥かに上なISAの制圧部隊に挑んでいた。投降する者はほとんどおらず、艦橋を破壊されて死んだ提督の最後の命令に従い、死を恐れずに挑む。

 

「死ね! 連邦の犬ども!!」

 

「私の恋人の仇共に鉄槌を!!」

 

 旧式の7.62ミリ口径の突撃銃を乱射しながら突撃する男女混合の反乱軍兵士の集団に対し、ISAの制圧部隊は機械のように排除していく。手榴弾を投げ込んで纏めて排除した後、手榴弾を投げた張本人であるダンテ・ガーザは、次は爆弾を抱えて突っ込んでくるでは無いかと冗談交じりで言う。

 

「次はカミカゼでもすんのか?」

 

「やるはずないだろ。奴らはトージョーじゃない」

 

「だろうな。銃剣も万歳突撃もしてねぇ」

 

 仲間にそう言われ、ガーザは笑みを浮かべながらまだ息のある敵兵を持っているライフルで撃ち殺した。

 彼らの動きに無駄は無い。事前のミーティングでマラソン級重巡洋艦の艦内図を叩き込まれており、そればかりか艦内戦闘の訓練も受け、互いの死角を補いながら前進していた。室内も一つ一つ、一斑ずつに分かれて制圧していく。

 

「クリア!」

 

 一つの部屋に手榴弾を投げ込み、生き延びた敵兵を素早く撃ち込んで制圧したトーマス・セブチェンコことセブはクリアと叫び、自分が属する小隊の列に戻った。

 一人。また一人と出て来る反乱兵たちを次々と制圧していく中、ある部屋に差し掛かったところで小隊長は手にしているライフルの銃口を向けた。

 

「子供だ! ここは良い! 次へ行くぞ!」

 

 銃口を向けた先に居たのは子供たちばかりで、自分らを見て震えていた。これに小隊長は脅威でないと判断し、自分の分隊の者たちに次の制圧へ向かうように指示を出した。その時、セブとバンダナを頭に巻いて散弾銃を持つショーン・ナッコの間に居た兵士が銃撃を浴びて倒れた。撃ったのは、年端もゆかない少女だ。

 

「うわっ!? 撃ってきやがった!」

 

「クソったれ! この餓鬼どもが!!」

 

「ぶっ殺してやる!」

 

「止せ! 撃つんじゃない!!」

 

 セブが驚いて転ぶ中、仲間を撃たれて激怒したナッコは生死の声を聞かず、散弾銃を撃ち込もうとする。最後尾のM22ライトマシンガンを持つリコ・ヴィラスケスも同様で、他の隊員らと共に自分らを銃撃した子供たちを撃った。

 

「衛生兵! 負傷者だ! 急げ!!」

 

 数十発もの銃声が響き、鳴り止む頃には、子供たちは動かなくなっていた。あれほどの一斉射を受けたので、誰も生きていない。

 セブが撃たれた隊員を介抱し、衛生兵を呼んでいた。衛生兵が負傷兵に駆け寄る中、小隊長は何で撃ったのかと発砲した隊員らに怒鳴る。

 

「なぜ撃った!? 子供だぞ!!」

 

「敵を撃って何が悪い!? ここは戦場だ! 餓鬼でも殺しに来るんだ! 油断すればマイクのようになる! 今、起きただろ!? あんたは見えてねぇのか!?」

 

 自分等を怒鳴る小隊長に対し、リコは代表して反論した。

 そんな彼らに、少年兵も含める反乱軍の兵士たちが迎え撃とうと、ありとあらゆる部屋と通路から飛び出してくる。これをガーザは大声で叫びながら知らせた。

 

「おい、お客さんだ! 口論は後でやれ!」

 

 ガーザに言われた小隊長とリコらは即座に遮蔽物となる場所へ身を隠し、反撃してくる反乱軍の兵士たちと銃撃戦を開始した。

 

 

 

「クリア! よし、このまま第四小隊と合流し、ハンガーに…」

 

 セブが属する小隊とは違う区画の制圧を命じられたISAの小隊は、ハンガー近くの区画を制圧し、隣の小隊と合流してハンガーの制圧に向かおうとしたが、軍用ナイフを小さな右手に握り、小柄な体型を生かして身を潜めたターニャの奇襲を受け、前衛の一人の喉を切り裂かれた。

 

「ポイントマンがやられた! 警戒しろ!」

 

 ターニャは前衛の一人の喉を切り裂いた後、素早く物陰に隠れ、次の攻撃の機会を伺う。一人を殺された小隊の者たちは素早く前衛を後方へ引っ張り、周囲を警戒した。ISAの兵士たちを相手に、ターニャは緊張して額に汗を浸らせる。

 

「(クソっ、碌な装備が無い状態でSWATやデルタ顔負けのISAの兵士とやり合う羽目になるとは…!)」

 

 演算宝珠も無しにISAの制圧部隊と戦うしかないと言う状況に、ターニャは頭を抱えた。なんせ相手は成人男性だった頃に居た世界で言えば、特殊部隊に相当する相手だ。今ここに隠れていても、直ぐに見付かってしまった。

 

「居たぞ!」

 

「見付けるのが早過ぎる!」

 

 MP5A5短機関銃を抱え、見付けるなり撃って来るISAの兵士たちからターニャは全力で逃げる。一発一発が正確な射撃なため、辛うじて避けられるが、連射力の高いライトマシンガンを持ち込まれては、魔法障壁があってもお終いだ。

 

「伏せろ!」

 

 逃げ回っていれば、アーデが追い付いたのか、彼女はG36Kを構えながら拡散式追尾魔弾を放とうとする。これにターニャが伏せれば、数名のISA兵を撃ち殺した。残った兵はやや浮ついたが、直ぐに反撃の姿勢を取って撃ち返してくる。

 

「何してる!? 反撃しろ!」

 

 指揮権を受け継いだ下士官の指示で反撃するISAの兵士達であるが、ターニャもまた反撃を開始し、魔力で威力を高めた9ミリパラベラム弾で次々と敵兵を射殺していった。二個分隊程を仕留めたところで、生き残りは撤退を始める。

 

「一時撤退し、再編後に攻撃だ!」

 

「退いたか。でも、体勢を立て直してから戻って来るぞ」

 

 撤退の際に投げ込まれた手榴弾の爆発から魔法障壁で身を守れば、ターニャはまた戻って来ると口にする。

 

「それで、迎えはいつ来る? 心中など御免だぞ」

 

「迎えは来る、魔導通信の暗号で、回収部隊が十分後に来ると来た。まずはハンガーへ行き、そこで陸軍の戦術機大隊の衛士と合流。そこで回収部隊が来るまで持ち堪える。行くぞ」

 

「ちっ、破棄と言う選択肢は無いのか! こんなので、よく帝国を再建しようだのと思うな!」

 

「文句を言うな! 速く合流するぞ!」

 

 アーデに迎えがいつなのかと問えば、彼女はターニャが使えない魔導通信の暗号で、回収部隊は十分後に着くと答えた。ハンガーにある一個大隊分のF-22ラプター戦術機も回収すると言うので、これにターニャは帝国再建が出来るのかと悪態を付いた。

 それを副官であるはずのアーデは咎めつつ、それがあるハンガーへと向かった。ターニャも生き残るために、アーデと共にハンガーへと向かう。

 

「こっちは一個中隊が来ているな…!」

 

「あっちで陸軍が抵抗している! 合流するぞ、ついてこい!」

 

 ハンガーへと辿り着けば、そこでは激しい銃撃戦が行われていた。

 プリンツ・オイゲンが戦闘不能並び航行不能となった時点で回収を待つことになっているのか、護衛の陸軍歩兵中隊と衛士らもハンガーに集結し、戦術機の周りにバリケードを築き、押し寄せるISAの制圧部隊に抵抗している。

 反乱軍の兵士らもこれに加わっているが、特殊部隊レベルのISA兵らに撃ち殺されるばかりだ。これを見ていたターニャは状況は絶望的だと思うが、アーデは臆することなく同胞らの元へ走った。

 

「いつもこうなら苦労せんがな。なるべく直ぐに来てくれよ、回収部隊よ」

 

 度々任務に支障が出る言動を取るアーデが、いつも勇敢なら苦労はしないと小言を漏らしたターニャは、こちらを銃撃してくる敵兵らにフルオートに切り替えたMP5を撃ちながら彼女の後へ続いた。

 

 

 

『よし、他に抵抗する敵機は居ないな!?』

 

「はっ、居ません! いえ、まだ動く奴が!」

 

 視点を宇宙に戻せば、連邦軍の増援の到達により、反乱軍艦隊の機動兵器と戦闘艦はほぼ壊滅していた。抵抗はまだ続いているが、時間が過ぎる事に爆発の光は減って行く。

 ジェガンJ型に乗る隊長に無線連絡で問われた同型機に乗る部下は、抵抗する反乱軍機は居ないと返答するが、まだ動く反乱軍機であるハイザックが武器を持たずに彼の機に近付いて来る。どうやら投降するようだ。

 

『う、撃たないでくれ! そちらに投降する!』

 

「奴はこちらに投降するようです。機体からパイロットを引きずり出します!」

 

『いや、その必要はない』

 

「は?」

 

 投降してくる敵機に対し、隊長が取った行動は驚愕の物であった。なんと、抵抗の意思の無いハイザックに向け、ビームライフルを発砲したのだ。初弾は命中、撃墜には至らなかったが、無線機より反乱軍のパイロットの悲鳴が聞こえて来る。

 

『う、うわぁ! 何をするんだ!? 俺は投降したんだぞ!?』

 

「隊長、奴は無抵抗ですよ!?」

 

『馬鹿が! 奴らは反乱軍なんて名乗っちゃいるが、テロリストだ! テロリストに条約もクソもあるか。飯の無駄だ、処分しろ!』

 

「し、しかし…!」

 

『虐殺だって言うのか? そんなんだからお前は半人前なんだ! 良いから片っ端からぶっ殺せ! 奴らはエイリアン共と同じ敵だ!!』

 

 反乱軍をテロリスト扱いして排除しようとする隊長は、怯えて逃げる被弾したハイザックにとどめの二撃目を放ち、撃破した。これに部下は抗議するが、隊長に怒鳴り付けられて黙らされる。

 こうして反乱軍は投降も許されず、連邦軍に駆逐されるばかりだ。武器を捨てても、容赦なくマシンガンやビームを浴びせられて撃墜される。その行為は宇宙へ放り出されたパイロットや非武装の脱出艇にまで及んだ。

 

『や、止めろ! 我々に抵抗の意思はない! 貴官らに投降する! だから許してくれ! 頼む!!』

 

「はははっ、貴様ら反乱軍はコーディネーター共と同じだ! 青き地球への裏切りの報いだ、死ね!!」

 

 脱出艇の乗員から投降するとの無線連絡を受けるが、その脱出艇を撃沈しようとするストライクダガーのパイロットは耳を貸さず、笑いながら至近距離からビームライ仏を撃ち込んで撃沈した。

 

「止めてくれ! グアァァ…!」

 

 機体から放り出されたパイロットは、機動兵器のマニピュレーターに掴まれ、握り殺されるか、親指で首を折られて死亡する。

 

「ん? レーダーに反応! 反乱軍の野郎共の増援だ!!」

 

 そんな虐殺を行う連邦軍に、反乱軍の増援が現れた。

 

 

 

「はっ! 撃墜スコアの更新だぜ! さぁ、次のガタ落ちはなんだ!?」

 

『いや、見たことも無い奴が居るぞ! シャルドールや旧式のジェガンじゃねぇ!』

 

『なんだって!?』

 

 迫る反乱軍の増援部隊の中に、見たことも無い機が紛れていることに連邦のパイロット等は驚愕の声を上げる。

 反乱軍の増援部隊であるジンやジェガンA型、シャルドール改の中に、この世界には無いはずのVF-1バルキリーやVF-4ライトニングⅢ等の可変戦闘機が混じっているのだ。それだけでない、見事な編隊を組んで迫る白いグレイズも居る。その後方には、旧式揃いの艦艇も含め、アークエンジェル級強襲揚陸艦一隻とハーフビーク級戦艦六隻で編成された艦隊が控えていた。明らかにワルキューレ所属の艦隊である。

 

「あの白いMSはなんだ!? データに無いぞ!」

 

『UCA海軍の衛星基地を襲った奴らじゃないのか!?』

 

 ヘビーガンやダガーL、バリエント、アデルMk-Ⅱを初めとする展開した機動兵器に乗るパイロット等はデータに無いグレイズの存在に狼狽えていた。

 

「狼狽えるんじゃない! とにかく迎え撃て!」

 

 狼狽えるパイロット等に向け、量産型ヒュッケバインMk-Ⅱに乗る士官が怒号を飛ばせば、展開する連邦軍は交戦を始めた。

 

「なに、反乱軍の新手? 宇宙軍で何とかすれば良いだろ!」

 

 援軍の到来はタモンらが乗るアグリッパにも届いた。テンペラーの巡洋艦ニューサン号と共に拿捕した重巡洋艦プリンツ・オイゲンの周辺警戒を行うタモンのタスクフォースであったが、余分な戦力は無いとして宇宙軍からの要請をマルコは断る。

 タモンが無言でマルコの方を見れば、彼は宇宙軍が何とかすると返した。

 

「我々海軍には関係ない事です。制圧はまだ終わらんのでしょうか?」

 

 宇宙軍が反乱軍の増援部隊と交戦を開始する中、ISA海軍は敵旗艦であるプリンツ・オイゲン周辺を警戒するのみであった。

 

「あいつ等、何をする気だ?」

 

 反乱軍の旧型のPTである量産型ゲシュペンストMk-Ⅱを含める機動兵器と可変戦闘機隊が連邦宇宙軍の艦載機部隊と交戦を始める中、グレイズタイプを中心に編成された部隊は何かの編隊を組もうとしていた。それを目撃したGキャノンのパイロットは戦闘を止め、そちらに視線を向ける。

 すると、盾を持つ指揮官型のグレイズ・リッターを中心に、一般機のグレイズ・リッター六機が左右に展開し、戦闘中にも関わらず、この場に居る者全てに自分等の存在を知らしめるため、ポーズを取って名乗り始めたのだ。察するに、姫騎士団に属する騎士たちの実戦経験は無いとされる。

 

『我ら、姫騎士団!!』

 

「あ、あいつ等! 正気か!?」

 

 こんな状況に中世の騎士のように自分らの名を名乗る姫騎士団の者たちに、反乱軍のパイロットは驚きの声を上げた。無理もない、こんな宇宙の時代に名乗るなど、バカとしか言いようがない。

 

『きゃっ!?』

 

「馬鹿が! 戦場でデカデカと名乗るアホが居るか!」

 

『へへっ、ぶっ殺せ!』

 

 一瞬だけ戦闘が中断されたが、物の数秒で当然ながら撃たれた。指揮官機も含め、一般機は的のように撃たれる。だが、ナノ・ラミネート装甲のおかげか、それ程の損傷は無かった。

 

「我ら姫騎士団の神聖な仕来りを…! 許さないわ!!」

 

 無事である姫騎士団の騎士団長、レリア・フィオナ・レンゲルト・ライルバーンは大いに激怒した。異世界より来た彼女からすれば、連邦軍の行いは無礼に当たるのだ。乗機のグレイズ・リッターの腰のナイトブレードを抜き、手近な距離に居る連邦軍機に斬りかかる。

 

「へっ、馬鹿正直に突っ込んで…何っ!?」

 

 激怒して真正面から突っ込んでくるレリアのグレイズ・リッターに、標的にされたジェガンJ型のパイロットは嘲笑ったが、予想外の速さに驚愕し、そのままブレードで切り裂かれた。驚愕の速度で味方機が一機落されたことで、連邦のパイロットたちは動揺する。

 

『なんて速さだ!?』

 

『こ、こっちに来る!? うわぁぁぁ!!』

 

「ハァァァッ!!」

 

 動揺する連邦のパイロット等は、高速で動き回りながら迫るレリアのグレイズ・リッターに集中砲火を浴びせるが、彼女の技量は日頃の訓練の甲斐か、それとも一騎士団の騎士団長としての技量の為か、技量はエース級であり、次々と連邦軍機を切り裂いていく。

 

「や、野郎! ふざけやがって!!」

 

『さっきは良くもやってくれましたわね!』

 

 次々と味方機を切り裂いていくレリアのグレイズ・リッターに、激怒したGキャノンに乗るパイロットは背後から大型バルカン砲を撃ち込もうとしたが、姫騎士団の一般機のグレイズ・リッターが突き出した槍に突かれて撃破される。

 更に姫騎士団の反撃は続く。グレイズ・カノーネと呼ばれるグレイズの砲戦仕様の援護射撃を受け、編隊を組んだ数機の通常型グレイズの120ミリライフルの波状攻撃が行われ、次々と連邦軍機は撃破されていくばかりだ。連携攻撃で混乱する連邦軍部隊に追い打ちを掛けるように、複数の爆発反応装甲(リアクティブアーマー)を装備したグレイズことグレイズ・パンツァーが迫る。

 

「なんだこいつ等!? ドムか!」

 

 バズーカの一発目を避けたアデルMk-Ⅱのパイロットはグレイズ・パンツァーに驚くが、そのまま二機目の二発目を受けて撃破された。複数のジェガンがシールドのミサイル攻撃による連携攻撃で、グレイズ・パンツァーの一機を被弾させたが、胴体に装着された爆発反応装甲で防がれてしまう。

 

「り、リアクティブアーマーだと!? こいつら何処の勢力だ!?」

 

 ミサイル攻撃を爆発反応装甲で耐えたグレイズ・パンツァーに驚くジェガンのパイロットは、上面から来たグレイズ五機の編隊の集中砲火を受けて撃破された。

 

『見事な連携ですわ。取りこぼしの撃破、引き続きお願いしますわ』

 

「はっ!」

 

 グレイズ・パンツァーに乗る騎士から激励の言葉を受け、グレイズに乗るパイロットは敬礼しつつ、敵の掃討を続ける。グレイズに乗るパイロットたちはイヴ人であり、姫騎士団内では兵士身分のようだ。グレイズ・カノーネに乗るパイロットも兵士身分のイヴ人である。

 これらの連携を前に、連邦軍はただ圧倒されるばかりであった。直ぐにこの報は、プリンツ・オイゲンを制圧しているタスクフォースに知らされる。

 

「なに、救援要請? そっちで何とかならんのか。数はこっちより多いんだろ?」

 

『我が隊の機動兵器部隊はアンノウン部隊相手に苦戦中だ! 至急、そちらの余剰戦力を…』

 

 タモンの代わりに救援要請を聞くマルコであったが、情けない宇宙軍の為に受けるつもりは毛頭も無い。そんな救援要請を出す分遣艦隊代理の旗艦に、レリアのグレイズ・リッターが迫る。その様子は、アグリッパの艦橋にも見えていた。

 

『敵機接近! 凄い速さです! 護衛機突破されました!!』

 

『対空迎撃! 速く撃ち落とせ!!』

 

『うわぁっ!? 敵機急速接近!』

 

 レーダー手の叫びと共に艦橋にグレイズ・リッターが迫り、ナイトブレードを振り下ろされた。そこで映像は悲鳴と共に途切れる。

 

『うわぁぁぁ!!』

 

「何をしている!? アグリッパを後方へ下げろ! こんなコルベットにも劣る小型戦艦で、相手になるか!」

 

 宇宙軍の分遣艦隊代理旗艦が轟沈すれば、無言のタモンに代わってマルコはアグリッパを後方へ下げるように、クラーク艦長へ命じた。ネルソン級では、二の舞になると判断してだろう。それに応じ、クラークは操舵手に艦を後方へ下げるように伝達した。プリンツ・オイゲン制圧中のテンペラーのニューサン号にも忘れずに告げる。

 

「来たぞ! 速い!?」

 

 レリアのグレイズ・リッターが宇宙軍を突破し、ISA海軍のタスクフォースの方へ入れば、即座に警戒していたウィンダムに襲い掛かる。余りの速さに、狙われたウィンダムはナイトブレードで両断されて撃破された。宇宙軍とは違い、即座に対応するISA海軍であるが、随伴するグレイズ・リッターやグレイズも加わり、直ぐに乱戦状態となる。

 

「こいつら何? 反乱軍なの?」

 

 クランシェ・カスタムに乗るリロも対応するが、非正規軍の反乱軍や正規軍の同盟軍とは違う姫騎士団の連携攻撃に苦戦する。五機編隊のグレイズによるライフル掃射の次に、高速で迫るグレイズ・リッターのナイトブレードの斬撃が来る。これをビームサーベルで防ぐが、仕留めきれないと分かれが直ぐに離れ、グレイズ・カノーネに砲撃させる。激しい波状攻撃だ。

 

「っ!? 危ない!」

 

 何とか躱すリロであるが、今度はレリアのグレイズ・リッターが迫る。

 

『隊長機と見た! 覚悟!!』

 

「指揮官機!?」

 

 迫るレリアのグレイズ・リッターにツインドッズキャノンを撃ち込むが、左手の中型シールドで防がれ、そのまま一気に接近されて右手のナイトブレードを振るわれる。

 

「あれを防ぐなんて!? なんてシールドなの!」

 

 ツインドッズキャノンの高出力ビームを防ぐシールドに驚愕しつつも、レリアのグレイズ・リッターから繰り出される斬撃を躱しつつ、リロもビームサーベルを抜いて応戦する。

 

「アンノウン、タスクフォースと接触! 当艦の防空隊とも接触!」

 

「アンノウン、対空砲の射程距離にまで接近! 対空戦闘、直ちに開始!」

 

「まだ制圧出来ないのか? 敵の士気が高い! 我が艦にも来るぞ!」

 

 ニューサン号の対空砲の射程距離にも姫騎士団のグレイズ部隊が到達したのか、搭載された対空砲が火を噴いた。甲板に張り付いているATのスコープドッグも、手にしているヘビィマシンガンで迎撃を行う。これにテンペラーはプリンツ・オイゲンの制圧がまだ終わらないのかと問えば、艦内に突入した制圧部隊は、ターニャ等の抵抗にあって出来ないと答える。

 

『ハンガーの抵抗激しく、目標を確保できません!』

 

「後十分で制圧出来ねば、ハンガーを攻撃して機体の残骸を確保する! ブルー隊、ハンガーのある区画まで移動しろ! 制圧部隊は退避する準備をしておけ!」

 

 抵抗が激しくて出来ないと分かれば、十分でハンガーを攻撃して制圧すると告げ、念の為に退避の準備を進めた。だが、十分も経つ前に、目標のF-22ラプター一個大隊は回収されてしまう。

 ニューサン号に接舷されているプリンツ・オイゲンの反対側より、マクロス・クォーターが出現したのだ。無論、マクロス・クォーターの所属は帝国再建委員会である。

 出現したクォーターに気付いた反対側の警戒していたドレイク級フリゲート三隻とサラミス改級巡洋艦一隻は、直ちに艦載機と共に攻撃を行うが、出現と同時に展開されたVF-25Aバルキリー二個小隊に殲滅された。

 

「ロイゲン、グロック、レンツァー轟沈! ラミアも轟沈しました! 所属不明艦、プリンツ・オイゲンに急速接近!」

 

「所属不明艦、ひ、人型に変形します!」

 

「テンペラー大佐は大丈夫でしょうか…!」

 

 プリンツ・オイゲンに迫るマクロス・クォーターは強行型に変形し、左腕をハンガーのある区画へ突っ込んだ。その光景を後方で見ていたアグリッパの艦橋では、直ぐに報告が届き、マルコはニューサン号が無事であるかどうか心配になり、無表情で眉一つ動かさないタモンを見る。

 

「拿捕した敵艦に、巨大ロボが!?」

 

『余所見をしている場合ですの!?』

 

 リロもマクロス・クォーターの存在に気付き、向かおうとしたが、レリアがそれを許すはずもなく、食い付かれる。

 アグリッパの装備では何も出来ないと分かっているタモンが見ている中、突っ込んだ左腕の空母から続々と戦術機F-22や人員を回収する部隊が展開し、集まって来たISAの一個歩兵大隊規模の制圧部隊と交戦を始める。

 

「来たぞ! 直ぐに乗り込め!」

 

「やっと迎えのバスが来たか」

 

 ハンガーでISAの制圧部隊と交戦していたターニャ等は、迎えが来たと思って空母へと乗り込んでいく。駐機されている一個大隊分のF-22の回収は迅速に行われ、それを阻止しようとするISAの兵士たちは、機関銃部隊が持つチェーンガンや三脚立て機関銃の機銃掃射で近付けないでいた。

 

「なんで空母が突っ込んでくるんだ!?」

 

「知るか! あの機銃掃射なんとかならねぇのか!?」

 

「一歩出ればハチの巣だぞ!」

 

 セブらもハンガーへ来ていたが、機関銃の掃射で回収されるF-22に近付けないでいた。彼らの言う通り、一歩出るだけでハチの巣にされるほど激しい機銃掃射だ。ISAの兵士らは確保目標であるF-22を、ただ回収されるのを眺めるしか無かった。

 

「お、俺たちも回収してくれ! 本隊と合流したい!!」

 

 やっと来た帝国委員会の回収部隊に乗せてもらおうと、プリンツ・オイゲンに乗船していた反乱軍の兵士たちは群がったが、派遣された回収部隊は戦術機一個大隊とその人員、ターニャとアーデの回収しか命じられておらず、予定にない回収物である彼らに、MG3汎用機関銃やMG4軽機関銃の銃口を向けた。

 

「な、何を…!? ギャァァァ!!」

 

 味方の回収部隊と思われたイヴ人の将兵等に銃口を向けられた反乱軍の兵士たちは驚愕し、なぜ向けるのかと問うが、彼女らは答えることなく引き金を引いて反乱軍の兵士たちを射殺し始めた。これに逃げる反乱軍の兵士達であるが、機関銃兵らは容赦なく背中に銃撃を加えて次々と射殺していく。この無慈悲な行為を、ISAの将兵等も見ていた。

 

「奴ら、味方を殺してるぞ」

 

「なんだか訳アリみたいだな」

 

「いや、あれをするとなれば…あいつ等、空母を引っこ抜く気だ!」

 

 邪魔な反乱軍兵士らを全員機銃で射殺し終えた後、セブは空母を引っこ抜く気だと分かった。既にF-22を全て回収し終えており、後は突き刺した空母部分を引き抜いて帰るだけなのだ。機関銃部隊が空母内へと戻って行く中、ハンガーへと突入したISAの兵士たちは急いでそこから退避する。

 ISAの兵士たちがハンガーから退避を待つまでもなく、マクロス・クォーターは空母部分をプリンツ・オイゲンから引っこ抜き、巡航形態へ変形した後、展開したVF-25の編隊と共に戦闘宙域から脱出した。

 

『団長殿、委員会の連中は任務を完了しました! 潮時です!』

 

「もう終わりですか! では、これにて失礼!」

 

 帝国再建委員会が戦術機大隊とターニャ等の回収を終えた報告を受ければ、姫騎士団の役目は終わった。彼女らの任務は回収するための時間稼ぎである。レリアはリロのクランシェ・カスタムにシールドによる打撃を与えて吹き飛ばした後、撤退信号を上げた。

 この信号が暗い宇宙で炸裂して眩い光となれば、姫騎士団のグレイズたちは撤退を開始する。反乱軍も助けられる人員を出来る限り助けた後、姫騎士団と共に撤退を開始する。

 

「ち、待て!」

 

『追うな! それよりも周囲警戒に当たれ!』

 

「ッ!? 了解!」

 

 自分を吹き飛ばしたレリアのグレイズ・リッターを追おうとするリロであったが、タモンの指令を受けたマルコからの連絡で止められる。これに腹を立てるリロであるが、タモンの言葉を発せぬ表情を見て、その司令に従った。他の機体も同様である。

 

「大損ですな。ヴィーザル号であれば、一機は奪えただろうに…」

 

 アグリッパの艦橋から撤退する姫騎士団と反乱軍の増援を見て、マルコは本来の座乗艦である巡洋艦ヴィーザル号であれば、目標の戦術機F-22の一機の回収は叶ったと口にする。これにタモンは無表情なまま聞いているだけで、言葉を発することなく見ているだけだ。

 

「あの、次はどうすれば?」

 

 そんな無言のタモンに、クラーク艦長はどうすれば良いのかと問えば、彼に耳打ちで指示を受けたマルコが伝達する。

 

「あぁ、そうだな。あのアンノウンに関する情報が残っていないか、敵旗艦を調査する。直ぐに調査隊を編成しろ! 機動兵器部隊は周囲を引き続き警戒! 痕跡を消す為に戻って来るかもしれんからな!」

 

 この指示を受け、直ぐに調査隊が編成が開始され、リロが率いるタスクフォースの機動兵器部隊は周囲警戒を引き続き行う。

 自分の指示が次々と実行されていく中、タモンは無言で艦橋を後にした。




取り敢えず、終わらせた。

これを次の読者参加型にしようかと思ってたが、やる必要は無いかと思って止めた。

ここに出て来た姫騎士団はいずれ何処かで出て来るかも?
反乱軍の読者参加型もやろうかと思ってる。まぁ、旧式ばかりになっちまうがな。


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幼女の過去
今でも思い出す…


ターニャ・フォン・デグレチャフ
ご存じデグ様。二回目の転生して、未だに存在Xに抗ってる。

小山ハル
JKハルは異世界で娼婦になったの主人公。今回は回想にだけ登場。

スモーブ
JKハルにおいて唯一の漢。
あの世界に出て来る男たちが軒並みクソかメンヘラなので、スモーブのような漢は貴重である。
スモーブと言うのは彼の体型でハルが付けた渾名であり、本人は物凄く気に入ってているようだ。
本名はジェイソールブラザーだったか。ターニャは長いのでジェイブと呼んでいる。現在は喫茶店「スモーブ」を経営している。こいつ、主人公で良いんじゃね?

イメージBGM↓
https://www.youtube.com/watch?v=xjnEIaV1FM0


 ヴィンデル・マウザーの支配する彼にとっては理想的な世界より帰還したターニャ・フォン・デグレチャフとその部下たちは、帝国再建委員会の総本部がある世界へと帰投していた。

 滞在中に送られてきた多過ぎた援軍の指揮下に入らされ、理由も分からぬ任務を遂行して、ようやく帰ってこられたのだ。

 帰投すれば直ぐに空軍の総司令部に報告へ向かい、また新たな特殊任務を押し付けられるのではないかと思っていたが、待機命令を出され、新たな指令が出るまで自由にして良いと言われた。これにターニャは酷く喜び、ついでに部下も喜んで早速付近の街へと繰り出す。

 無論、その街は女性だけの種族であるイヴ人たちが先祖代々より暮らしている街ではない。武力によって人間より手に入れた街の一つだ。

 

 その街、否、世界はイヴ人の武装勢力である帝国再建委員会の軍隊が侵略するまでは、男尊女卑であり、その街こと自由都市は人類の魔王軍に対する前線拠点とされていた。

 大国を始めとした列強、隣国等の国々の軍隊が常駐し、更には多数の商人や傭兵、冒険者も集まり、栄えていたが、魔王が老剣士ウィッジクラフトによって打倒された後、各国は後の戦争に備えてその自由都市より続々と撤退を開始した。

 

 魔王を倒せば世界は平和になる。

 各国の王や皇帝たちが次の戦争を考えているとは知らず、政治家や将軍らを除く誰もが思っていたが、新たな侵略者たちによって蹂躙されようとは、誰しも夢に思わなかっただろう。

 最初に述べた通り、侵略者とはイブ人の武装勢力である帝国再建委員会の侵攻軍であった。

 侵攻軍は現代兵器で装備を固めており、男尊女卑の世界の軍隊は成す術もなく、蹂躙されるばかりであった。男たちはこれまで女たちに理不尽を強いてきたように、自らも理不尽を強いられる事となった。

 イヴ人らが現地の男たちに強いたその理不尽は、世界の文明を破壊するまでに至る。

 

 異世界の勢力からの救いの手もあるが、それはその世界の資源や美術品、財宝等を狙っての事。住民など救う気も無く、侵略軍である帝国再建委員会と戦火を広げ、目的と物が手に入らぬと分かれば、敵に渡すまいと徹底的に荒らし回り、元の世界へと帰っていった。

 その戦争の被害は凄まじく、老人は戦火に巻き込まれて全員死亡。成人男性に対してはニ十歳から先は異世界より来た軍隊に身分問わず無理に徴収されるか、戦火の中に散って行った。

 帝国再建委員会は徴収した男性らを解放せず、そのまま消耗品の如く最前線に投入して使い潰した。

 残った未成年を始めとした若年層は、帝国再建委員会のプロパガンダにより、女性たちと同様に侵略者であるイヴ人を解放者だと認識し、忠誠を誓って自ら軍に志願。解放者たるイヴ人の恩を果たさんと、今も何処かでイヴ人の為に戦い続けている。

 残されたわずかな男たちは支配者であるイヴ人に従って慎ましく暮らし、その余勢を送っていた。

 

 他の者たちが酒やら女、何らかの娯楽を目的として歓楽街へと向かったが、ターニャ一人はある喫茶店へと足を運ぶ。

 ターニャのお気に入りの喫茶店の名は「スモーブ」。店主の想い人が自分に付けた渾名を店名にしたのだ。有名な料理はケーキ等の女性向け料理であり、何故かは知らないが、日本式のラーメンもある。

 ターニャがこの喫茶店で好きなメニューは、店長が直接淹れるコーヒーである。淹れ方を教えるだけで、自分にとって最高の一杯となったことから、この世界に戻り、この喫茶店がある街へと行けるとなれば、必ず立ち寄る喫茶店なのだ。

 

 元は大型レストラン「ジェイ食堂」であったが、侵略者であるイヴ人を客として対応したことが周辺の店主たちや侵略者に媚び諂う売国奴と見られてか、占領軍をよしとしない男たちから見せしめと言わんばかりに火を放たれ、焼き討ちを受けた。

 幸い、店主であるスモーブことジェイソウルブラザーは無事であったが、店は全焼し、厨房はもちろんのこと蓄えた食材も全て灰となった。

 無論、放火の首謀者らは怒りに燃えるターニャ等に処刑され、死体は晒上げにする為に歓楽街や街の至る街灯や木に吊るされた。

 被害を受けたジェイソウルブラザーことジェイブは占領軍が無作為に殺害した大商人やギルド長、貴族、騎士、その他諸々の遺産から保険金を受け取り、店の再建と食材の調達に成功する。

 

 それからターニャからコーヒーの淹れ方を叩き込まれ、他に様々なイヴ人たちからありとあらゆる料理のレシピまで叩き込まれ、現在の喫茶店「スモーブ」に至る。

 

「いらっしゃいませ。お嬢ちゃん一人かな? お母さんかお父さんは何処かな?」

 

「一人だ。店長を呼んでくれ。ターニャ・フォン・デグレチャフが来たと言えば、分かるはずだ」

 

「か、かしこまりました!」

 

 入って来たどう見ても幼女なターニャに対し、まだ喫茶店に採用されて日が浅い女性店員は子供の来店客の対応をしたが、幼女とは思えない気迫に圧され、店長を呼びに店の奥へと消えていった。

 数分後、手拭いタオルで両手を噴きながら肥満体の成人男性が出て来る。この世界で数少ない男性の一人、ジェイソウルブラザーだ。ターニャと一部を除いた親しい者たちはジェイブと言う略称で呼んでいる。

 

「そんなに慌てるな。別に強制している訳じゃないぞ、ジェイブ」

 

「いえいえ! デグレチャフ大佐殿のご出資があってこその、喫茶スモーブですから!!」

 

「おいおい、まだ中佐だ。慌てたらコーヒーがこぼれてしまうだろ。一旦落ち着け」

 

「は、はい!」

 

 喫茶スモーブの出資の大半はターニャであった。自分の給料の三分の一を、ジェイブの喫茶スモーブに出資しているのだ。店の再建もターニャが手伝った。おかげでジェイブはターニャを特別扱いし、他の客を疎かにしてでも彼女の要望を叶えようとする。無論、ターニャはそれを注意している。

 

「いつものだ。落ち着け、せっかくのコーヒーが台無しになってしまう」

 

「いつものコーヒーですね! かしこまりました!」

 

 一旦ジェイブを落ち着かせれば、ターニャはいつものコーヒーを注文した。それを受け、ジェイブはコーヒーセットを取りに厨房へと戻る。

 暫くして、ジェイブはコーヒーセットを載せたトレイ片手にターニャが座る席へと戻ってきた。戻るなり円形のテーブルにトレイを置き、コーヒーをカップに淹れ始める。数秒後、店長が淹れたコーヒーがターニャの前に出された。

 丁寧に出されたコーヒーにターニャは待ってましたと言わんばかりにカップの取っ手を握り、淹れ立てのコーヒーを少し冷ましてから喉に注ぐ。その瞬間、ターニャはカップから口を離し、満面の笑みを浮かべる。

 

「相変わらずこのコーヒーは美味い…! この為に生きていると言うだけで価値がある…!」

 

「毎度ありがとうございます」

 

 ターニャが来る度にその台詞を言うので、ジェイブは慣れているようだ。他にも注文は無いかとジェイブは問うが、ターニャは首を横に振り、無いと答える。

 

「他にご注文は?」

 

「無い、これだけで十分だ」

 

「あぁ、そうですか。では、御用がありましたらお呼びください」

 

 無いと答えたターニャに、ジェイブは厨房へと戻っていった。

 コーヒーを嗜みつつ、ターニャは喫茶店の外で賑わう街を見る。戦争とは無関係とも思える光景であるが、つい五年ほど前は火薬と死臭の匂いで溢れ返った戦場の街であった。瞼を閉じ、その光景を思い浮かべれば、過去の記憶が蘇って来る。

 

 

 

 あれは五年前、私がまだ少尉だったころだ。

 帝国再建委員会の空軍士官学校の魔導士科を卒業後、少尉となった私はいきなり再編されたばかりの実戦部隊に配属された。

 その名も第1航空魔導士師団だ。元々ある師団であるが、一部を除いて人員を全てイヴ人にして再編された。再編理由はある大規模作戦の為だ。

 

 作戦名はヴェール演習作戦。作戦目的は七百万以上もの新兵らを主力にする為、中世レベルの世界に攻めるそうだ。碌な抵抗どころか、もはや的当然な敵を相手にするなどまさに演習だ。ただし、実包を使っての実弾演習だ。

 空軍も人員を全てイヴ人にした第1艦隊を投入し、私が配属された第1航空魔導士師団も参加する。私を含めた新兵らに実戦の匂いを嗅がせるためにな。

 それに異世界からの他勢力の介入を警戒し、主力軍を予備として控えさせているようだ。主力軍を投入すれば、あんな世界一日で征服できるだろう。それだと、新兵らの演習にもなりもしない。

 実際、他勢力の介入もあり、主力軍は暇も持て余すことは無かったが。

 私が属するのは第2連隊の第6大隊第2中隊。中隊長で当時の上官は後に私の副官となるアーデルトラウト・ブライトクロイツ、当時は中尉だった。それに特務大隊の古株となるフェリーチェ・バルボッサ曹長も居た。私はアーデルトラウトことアーデの指揮下の四つの小隊の内の三番目の小隊長を任された。部下はアキナ、ムチェ、ジュリーの三名だ。皆、特務大隊には居ない。

 フェリーチェは人間であり、私と同じく例外の一人だ。体系は関西のおばちゃんで顔は酷い言い方だと、虫のような顔立ちであるが、戦闘力はネームド級であり、前世では欲するほどの人材であった。性格は過去の嫌な思い出の所為でひねくれているが、料理も家事も上手い。おまけに気が利く。これで結婚できないと言うのが理解できない程だ。

 その所為か、所属中隊も含め、他の中隊の隊員達からお母さん(ムッター)と言う愛称で親しまれている。

 

 帝国再建委員会における航空魔導士の装備は現代歩兵のようだった。装備は重いが、演算宝珠はスマホレベルにサイズダウンされ、ポケットに入るくらい軽かった。劣るんじゃないかと思ったが、九五式エレ二ウムを過去の物とするほどの性能を有していた。ドクの奴にその演算宝珠を見せてやれば、腰を抜かすに違いない。

 歩兵銃はヘッケラー&コッホ社のG36アサルトライフルだった。しかもドイツ連邦軍の採用モデルだ。前のライフルや短機関銃より軽い。サイドアームは同じく採用されているUSP自動拳銃だ。

 それでも、身に着けた装備は前世で使っていた演算宝珠並みに重い!

 

 さて、私の初陣の話に戻そう。

 まだターニャ・デグレチャフで少尉だった私が属する第1航空魔導士師団は、最初の攻撃目標にされた自由都市一帯の制圧だ。戻って来る敵軍の排除だ。

 全く簡単だった。これが前世の初の実戦であればとどれだけ良かっただろう。その楽さはダキアを上回る物だ。眼下の敵の集団に向け、砲撃術式を撃つだけだったからな。敵にも魔導士は居たが、空は飛べない。そう言うのはアーデの小隊が丸ごと倒してくれた。我々新兵らは、その場で滞空して砲撃術式を撃っているだけだ。

 砲撃術式の爆撃を受け、指揮官を失った敵兵共が糞便を垂らしながら泣き喚いて逃走する中、他の隊を様子を見てみたが、敵が可哀想に思えるほどだ。

 人機(ジンキ)と呼ばれる人型機動兵器の一つ、モリビトと呼ばれる機種一個大隊分が横一文字に隊列を組み、両腕や両肩、両足に大量のSマインを搭載したコンテナを装備し、それを騎兵を含める十数万の軍勢に向けて発射。地獄絵図を作り上げた。

 まだ息のある兵士たちの叫び声が私たちが居る所まで聞こえ、そんな瀕死の兵士たちに、私たちと同じG36ライフルや旧式のG3ライフルを持った友軍歩兵らが群がり、その手にしているライフルでとどめを刺していく。同時に、位の高い死体から戦利品を漁っていた。Sマインを受けてズタズタになった死体を良く触れるな。

 別の方向に目をやれば、助っ人部隊であるベトナム戦争の米軍と見間違うくらいのテキサス軍*1がこの世界の軍隊を蹂躙し、自由都市へと雪崩れ込んでいた。

 そんな時に私が属する大隊に新たな命令が出される。自由都市を襲うテキサス軍の監視だ。作戦司令部はテキサス軍に略奪を許可しているらしく、略奪以外な事をしてないかどうか、第3大隊と共に監視せよとの事だった。

 そこで私は、この世界最強の娼婦ハルと出会う事になる。

 

 ソンミの虐殺以上の蛮行を阻止すべく、自由都市へと入った我ら航空魔導士二個大隊は、逆らう者を射殺しながら街で略奪を行うテキサス軍の蛮行を目にした。

 金目の物と見れば直ぐに奪いに掛かり、逆らうとなれば手にしているM14かM16で射殺する。女子供は殺すなと徹底されているのか、守っているようだ。だが、高価なドレスと見れば剥がしに掛かる。抵抗する者は居たが、剣や斧なんぞで叶うはずが無く、無慈悲に射殺される。無論、その武器はテキサス軍の兵士たちが戦利品として奪った。

 眼下にあちらこちらで略奪の火の手が上がる中、歓楽街を進むM4シャーマン戦車が何をトチ狂ったのか、はたまた車内でウィスキーを飲んで酔っ払って建物に向かって76.2ミリ戦車砲を派手にぶっ放していた。流石にこれは不味いと判断し、車内の馬鹿を止めるために向かったが、そのシャーマン戦車は対戦車砲かパンツァーファウストでも撃たれたのか、大爆発を起こす。

 即座に駆け付けた我が小隊が見た戦車を破壊した正体は、オレンジ色のショートヘアーの瞳に怒りの炎を滾らせる年齢が十八歳くらいの娼婦であった。右手の掌には次なる標的に放とうとする魔弾が浮かんでいる。恐怖したテキサス軍の歩兵らは手にしている銃を撃っていたが、まだ十代の娼婦は魔法障壁を張って放たれる弾丸を防いでいた。情報が違い過ぎるぞ! それがあの葉山ハルと分かったのは、自由都市制圧を終えた頃であった。

 話を戻し、最強娼婦ハルを帝国再建委員会の脅威と断定した私は中隊長のアーデに報告してから三名の部下を残し、脅威の排除に向かったが、彼女は前世のメアリー・スーばりに強かった。テキサス軍兵士二十名余りを強力な魔法で爆殺したハルは向かって来る私の銃撃を魔法障壁で防ぎ、ビームで迎撃した。

 そのビームを躱しつつG36ライフルを撃ち込むが、全身に防御術式でも施しているのか効かない。なればと思って砲撃術式を使おうとした。ハルは近くに落ちている剣を拾い上げ、私が砲撃術式を使うと分かってか、地を蹴って私の元へ飛んでくる。これに私は接近戦に備え、ナイフを抜いて応戦しようとした。だが、ここに来てアーデとフェリーチェが止めに入る。

 

「止せ! 彼女は妊娠している!!」

 

 アーデはそう叫んで私のナイフを掴んで止めた。左手はハルの剣を止めていた。魔力を込めて止めているようだが、手が切れて血が流れ出ている。フェリーチェは仲間の仇討ちに駆け付けてきたテキサス軍に銃を向け、何処かへ行くように叫んでいた。ここで私とハルの戦いは終わった。

 

 戦いが終わった後、アーデらは葉山ハルの罪状を消滅させるため、彼女が破壊したシャーマン戦車と殺害したテキサス軍将兵二十六人は、街の冒険者ギルドや魔導士ギルドに属する魔導士十名に殺害された事にした。

 その場にいたテキサス軍将兵等を街で失敬した金品や宝石、冒険者や兵士の装備品で買収し、犯人は地下に逃げようとしていた魔導士らを捕まえ、そいつ等にハルの全ての罪状を擦り付けて犯人に仕立て上げ、テキサス軍兵士より借りたM16やM60機関銃で射殺した。相討ちと言う形に仕立て上げたのだ。

 まぁ、この世界の男共は強姦魔みたいな物だ。私もその偽装を手伝っていたが、全く罪悪感など湧かなかった。実際、帝国再建委員会のプロパガンダでは無いかと思っていたが、男尊女卑っぷりは真実であったようだ。

 

 自由都市制圧後、テキサス軍に成り代わる形でやって来た陸軍の駐屯部隊と共に街の治安維持に努めた。

 テキサス軍が略奪の際に抵抗する者を殆ど殺し回った所為か、街は平和そのものであった。だが、この世界では敵わぬはずの軍隊に対し、無謀に抵抗するバカは居た。殆どは陸軍の駐屯部隊に蹂躙されるか、その死体は晒上げるために街灯に吊るされた。自由都市の名前は知らなかったが、首吊り都市だと言うことは分かった。多分、街に駐屯する陸軍や空軍の将兵等が勝手に呼んでいるだけだが。

 

 色々とあったな。

 この街で唯一私のお気に入りのジェイ食堂が、街のバカ舌やアホ共によって焼き討ちされた。腸が煮えくり返るほど激怒した私は報復として、そいつ等の血で店を焼く炎を消化したが、全焼であった…! 再建するのに幾ら費用が掛かった事か。

 あぁ、そうだ。女子高生葉山ハルと性行為をするためにこの世界に拉致し、娼婦になることを強制した神を自称するおっさんを半殺しにしたな。美人局みたいなことをやらせやがって! 存在Xに近付けるかと思い、拷問しようとしたが、存在Xが自分の居場所を悟られることを恐れてか、おっさんをアヘ顔させながら爆殺した。

 その前に色々とハルよりゲームみたいな有効なスキルを幾つか貰った。色々と恥ずかしかったが、存在Xをぶっ殺せるスキル、神殺しを手に入れた。あの恥ずかしい行為は無駄ではなかったのだ!

 試しに神を自称するおっさんに使ってみれば、効果は抜群であった。これで存在Xを殺せる。

 しかし、今は昇進と盤石の地位を手に入れるのが先だ。前世では全く手が出せなかったが、首を洗って待っていろよ、存在X。安全なる地位を手に入れれば、居場所を探し出し、直ぐに殺しに行ってやるぞ!

 

 だが、この演習にも思える作戦が、暗礁に乗り上げる事態が発生した…!

*1
人員は全てイヴ人。




神を回想で殺しちゃったよ…。

いや、原作に出て来るあの神を自称する邪神のおっさん、俺嫌いだから、アンチ物みたいに殺しちゃったよ。

平鳥コウさん、マジでごめんなさい!!


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ミドルド要塞攻防戦

カヤ・クロイツ
陸軍の混成装甲大隊「シェイファー・ハウンド」の隊長。
階級は原作では親衛隊曹長であったが、ここでは陸軍中佐。服装は帽子以外みんなドイツ連邦陸軍戦車兵用迷彩服となり、プリケツは台無しに。
乗機:レオパルド2A7(大隊指揮車仕様)
武器:MP5A5短機関銃、ワルサーP99自動拳銃

マイタ・カドゥワン
シェイファー・ハウンド所属の偵察員。階級は大尉。
眼鏡で巨乳であるが、原作でのあの格好はしてない。基本ドイツ連邦陸軍の車両用迷彩服。
乗機:フェネック偵察車
武器:G36K突撃銃、̪シグP226自動拳銃

アンナ・アダー
シェイファー・ハウンド所属の戦車長。階級は大尉。
原作一話で死んでしまう可哀想な人。だが、この物語では乗員揃ってピンピンしてる。
乗機:レオパルド2A7(通常仕様)
武器:G36K突撃銃、USP自動拳銃

桂佳織(かつらかおり)
シェイファー・ハウンド所属の少佐。原作では日本からの軍事留学生。
武器:日本刀

アマガネ・アザギ
人狼機ウィンヴルガの世界からイヴ人に転生してきた人。階級は大尉。
原作が原作なだけに酷い目に遭いそうだが、十八禁になるので、そうなることは無い。
乗機:量産型モリビトH型
武器:MP5A5短機関銃、USP自動拳銃

ウィッジクラフト
JKハルは異世界で娼婦になったで登場する双剣の老剣士。
流石の爺さんでも現代兵器で武装したt系兵を相手にするのは厳しいのか、アガサ騎士団の横槍で貰ったシルバリー合金で出来た武器と鎧を身に纏い、薬物まで投与して銀英伝のオフレッサー状態になっている。

メイソン騎士団
JKハルの世界でアガサ騎士団が暗躍していると知り、帝国再建委員会の侵攻を見学しに来た赤い騎士の方々。
見学で済むはずが無く、剣と槍を持って蛮族の虐殺に加わる血の気の多い人たち。


 演習とも思えるこの大規模作戦が暗礁に乗り上げ始めたのは、ミドルド要塞攻防戦からであった。

 このミドルド要塞は、最前線である自由都市が突破された場合の人類の第二の絶対防衛ラインとして、各国の出資によって建造された要塞であり、魔王軍の大攻勢に長期間耐えられるように設計されている。

 魔王が倒された今、ミドルド要塞はその地を持つ国家の物になったが、帝国再建委員会の侵攻を受け、建造された役割を果たす羽目となる。

 

 要塞に配置された兵器類は中世欧州レベルの物であるが、過剰なまでに何層にも重ねられて厚くされた壁は、劣化ウラン弾をも弾くほどに強固であった。だが、侵略軍を迎え撃つために出陣した数万の兵士らは砲撃で吹き飛ばされ、挙句に空挺降下とヘリボーンから要塞内部の敵歩兵の侵入を許し、榴弾やロケット弾の嵐を耐えた壁は、航空機を有する軍隊の前には全くの意味をなさなかった。

 

 砲兵隊の長期砲撃や爆撃機による絨毯爆撃で潰してしまえば良いが、陸軍はここを首都攻略戦の橋頭保にするべく、三十万の兵力を以て攻略を始めたのだった。

 攻略作戦は順調に進み、ミドルド要塞も容易く陥落するかに思えたが、この世界の英雄、ウィッジクラフトと異世界勢力の暗躍によって狂い始めた…。

 

 

 

「クリア! 突入! 投入!!」

 

 先にミドルド要塞に突入したのは、テキサス軍隷下の歩兵師団に属する歩兵中隊であった。

 狭い室内での戦闘を想定してか、M1A1トンプソンやM3A1グリーズガンと言った短機関銃ばかりだ。M37やM870と言った散弾銃を持っている。

 散弾銃を持った班を先頭に向かわせ、その後ろから短機関銃、M16A1突撃銃を持った兵士らが警戒しながら続く。

 通路の部屋と言う部屋を制圧しながら進めば、鎧を纏い、剣や手斧を持った集団が立ち塞がる。

 

「前方に敵歩兵集団!」

 

「撃ち殺せ!」

 

 現れた敵集団に対し、直ぐに中隊長は射殺命令を出す。冷戦期の銃火器が火を噴き、近代兵器の前には全く意味をなさない鎧を纏った兵士たちは蜂の巣にされるかと思われたが、鎧は西側諸国のライフル弾や拳銃弾を弾いてしまった。これに一同は驚く中、指揮官はその鎧の存在を知っているらしく、直ぐに隙間を狙撃するように指示を出す。

 

「シルバリー合金!? 鎧の隙間を狙って!」

 

 将兵等も驚き、撃つのを止めてしまうが、指揮官の指示でライフルを単発に切り替え、単発で隙間や顔などの部分の狙撃を行う。

 当たる確率は低く、徐々に距離を詰められるも、散弾銃や短機関銃を連射して動きを止め、単発での命中率があるM14やM16で兜の顔部分や隙間を狙撃して無力化する。

 再装填の隙を突かれるのを阻止するため、後方に控えるM60軽機関銃を持った班に制圧射撃を掛けさせて動きを止めた。

 

「この調子なら…!」

 

 この調子なら、内部で抵抗を行うその世界に無いはずの合金で出来た鎧を纏う集団を排除でき、ミドルド要塞を手中に収められると、突入した中隊は思っていたが、異世界の武器と鎧で武装したウィッジクラフトによって打ち砕かれた。

 

「このアマ共…! テメェらの快進撃もここまでだ!!」

 

 散弾銃を持った班が瞬く間に血の海に沈んだ。彼女らを殺したのは、両手に片手剣を持ち、魔王を倒して世界の英雄となった老剣士ウィッジクラフトであった。

 テキサス軍に対して怒りに燃える英雄である老剣士は高齢とは思えない素早さで銃を持つ兵士たちを次々と斬り捨て、通路を彼女らの血で赤く染め上げる。

 目にも止まらぬ速さ迫るウィッジクラフトを銃を乱射して必死に殺そうとする中隊の将兵等であるが、一発も当たることなく双剣に斬られて絶命する。ウィッジクラフトが現れて十分が経つ頃には、一個小隊分の人数が通路に転がる屍の一つとなっていた。

 

「撤退! 撤退!!」

 

 一個小隊ほどの人数を喪失した中隊は直ぐに撤退を選び、銃を撃ち、負傷兵を運びながら大隊本部がある方向へと撤退した。

 

「また来い! 今度は一人残らず逝かしてやるぞォ! なんたって俺は女の扱いに長けてるからなァ! ブッハハハ!!」

 

 撤退する中隊に向け、小さな勝利を収めたウィッジクラフトは追撃せず、下品に笑いながら双剣に着いた返り血を振り払い、次なる襲撃に備えて仲間たちと共に壁の如く立ち塞がった。

 

 

 

 テキサス軍の歩兵中隊の撤退の報を受け、ミドルド要塞の付近で本陣を構える帝国再建委員会の要塞攻略部隊の本部では、シルバリー合金の武具で武装したウィッジクラフトの存在を知り、控えている部隊を投入しようとしていた。

 だが、これにただこの侵略戦争を見学に来ていた異世界勢力であるメイソン騎士団は、威圧的な態度を取りながら異論を唱えた。

 

「フン、だらしのない! たかが我らと同じシルバリーの武具を身に纏っただけの老人如きに怯えよって! ともあれ、これでここの蛮族共の背後にアガサの影が見えた。我が主君、モーリック王の読み通り、あの石器時代の英雄にシルバリーの武具で武装させたのは、腐り切ったアガサの仕業に違いない!」

 

 ウィッジクラフトのシルバリー合金の武具の存在を知ったメイソン騎士団の見学者らは、出陣を決め込んで従者らにシルバリー合金の武具を持ってこさせる。

 

「よって我らは見学者ではなく、騎士として出撃する所存! アガサのアルゴン王の企み、打ち砕いてくれようぞ!」

 

「あの、あなた方は見学で来たのでしょ? 勝手に出られては…」

 

「黙れ! たかが老人一人風情に銃を持った百の兵が逃げるような軍隊など、参考に値せず! 我らメイソンの騎士が蛮族を打ち倒す光景、しかと見るが良いわ!!」

 

 勝手に戦闘に参加しようとするメイソン騎士団の騎士を止めようとするが、鎧の上に赤と黒で塗装されたサーコートを身に纏い、刀剣類の得物で武装した騎士等は聞く耳持たず、ミドルド要塞の戦いに出陣した。

 その様子を威圧的な態度で止めきれなかった本部の指揮官らは、直ぐに通信機を使って侵攻軍の総司令部に伝え、次なる指示を仰ぐ。

 

「閣下。見学者のメイソン騎士団、勝手に出撃しました。どうしましょう?」

 

『放っておきなさい。倒しても倒されなくとも、後で敵の仕業に見せ掛けて始末すれば良い。それより、ファイテックス隊の準備は?』

 

「撃退された場合に備え、ただいま出撃準備をさせております」

 

『よろしい。攻略を急ぎなさい。我らと同じ異界の勢力、その介入があったとなれば、この作戦、頓挫する可能性がある』

 

「はっ!」

 

 メイソン騎士団に対する侵攻軍本部の返答は、ウィッジクラフトを倒せても、倒されなくとも始末しろと、非道な物であった。

 撃退された場合に備え、予備として控えている主力軍のファイテックス隊の準備もしていると答えれば、総司令部は評価する。それと同時に攻略を早期に速めるように急かした。シルバリー合金の武具の存在で他の異世界勢力の介入を悟り、無用と思われていた機動兵器などを装備した主力軍が必要となったのだ。

 幾ら数が多くとも、侵攻軍の大部分は新兵であり、対機動兵器用の装備は充実していない。そんな状態で機動兵器を多数装備した軍隊の攻撃を受ければ、壊滅的被害と士気低下は免れないだろう。

 そう判断した帝国再建委員会はミドルド要塞の攻略を速めるため、温存していた部隊の投入を決定した。更なる状況の変化に備え、待機中である部隊の中より精鋭を選抜し、この攻略戦の為だけの隊を編成した。

 

「おぉ、なんだァ? 今度は赤い甲冑の奴らが来たぞぉ?」

 

 ファイテックス隊や選抜隊の編成が行われる中、メイソン騎士団の見学者らはウィッジクラフトが待ち受ける通路へと出ていた。

 自分らと同じような格好の集団を見たウィッジクラフトは首を傾げるも、直ぐに戦闘態勢をとる。メイソン騎士団の騎士たちの背後には、抹殺を兼ねたG36突撃銃を持った陸軍の歩兵部隊が控えている。

 テキサス軍の歩兵中隊を撤退に追い込んだウィッジクラフトに対し、メイソン騎士団の騎士等は名乗りを上げる。中世の騎士としての礼儀だ。もっとも、メイソン騎士団の騎士たちはこの世界の者たちを蛮族と見下しているが。

 

「我ら、モーリック王に仕えるメイソン騎士団! 情けないイヴ人に代わり、貴様ら蛮族を教育しに来た!!」

 

 この名乗りにウィッジクラフトは怒りを覚えるも、堪えて名乗り返す。

 

「俺は双剣士ウィッジクラフト! 魔王を討ち果たした勇者よ! モーリックやらメイソンだが何だか知らんが、テメェらは敵だ! 殺人鬼に悪魔だ! 平和を乱す侵略者共め、この俺が一人残らずぶっ殺してやる!!」

 

「ほざけぃ! 我が君主と騎士団を愚弄しよって! 魔王かなんだか知らんが、お前のような死にぞこないの老人に殺されるような奴など、たかが知れてるわ! 直ぐにあの世へ送ってくれる! 掛かれぇ!!」

 

 ウィッジクラフトが怒りに露わにして罵声を浴びせれば、愚弄したと思ったメイソン騎士団の騎士たちはそれぞれの得物を持って雄叫びを上げて斬りかかる。

 

「赤い騎士共め、全身をテメェらの血で真っ赤に染めてやる! 行くぞぉ!!」

 

『おぉぉ!!』

 

 向かって来るメイソン騎士団に対し、ウィッジクラフトも仲間を鼓舞して応戦した。

 血塗れの通路で、中世のような野蛮な戦いが始まった。剣と剣による鍔迫り合いが発生し、手斧で鎧で人体が切り裂かれ、鎧の隙間に剣先が突き立てられて騎士の一人が死亡する。

 剣に斬られて血飛沫が上がり、あるいは棍棒で殴り殺される中、優勢と思われていたメイソン騎士団は、ウィッジクラフトの老練な技術に経験と戦闘力の前に圧倒されていた。

 

「な、なんだこの老人は!? 歳の割りに強いぞ!」

 

「あの老人は本当に衰えているのか!?」

 

「どうした、どうしたァ! 異世界から来た騎士は、その程度かァ!?」

 

 圧倒的な戦闘力を誇るウィッジクラフトに、メイソンの騎士たちの勢いは衰え始める。ウィッジクラフトが双剣を振る度に騎士たちは血の海に沈み、新たに屍の数を増やすばかりだ。

 

()て! 射つのだ!」

 

 前衛どころか、殆どの人員を失った騎士等は、シルバリー合金を貫通する矢を発射するボウガンを持った弓兵隊にウィッジクラフトを射殺すように指示を出すが、返り血塗れの老人は騎士の死体で防ぎ、それを投げ付けて手近に居た騎士を斬り殺す。

 一発の矢が当たりそうになるが、ウィッジクラフトはそれを剣で弾いてしまう。それを見ていた騎士たちは恐れ戦き、向かって来るウィッジクラフトに死の恐怖を感じて後退り始める。

 

「なんだぁ? 掛かってこいよ! 金玉ついてんのかァ!?」

 

「おのれェ…! 死ねぇジジイ!!」

 

 下品な挑発に一人の騎士が乗って剣で斬りかかったが、容易く返り討ちにされてしまう。このままでは士気が崩壊することを悟った部隊長は、苛立ちながらも撤退を選んだ。

 

「ぬぅ、こんな老いぼれを相手に…! 撤退だ! 撤退しろ!!」

 

「何を申される! あの老人の体力も底をつくはず!」

 

「分かっておる! だが、あの老人にはそれが見られんのだ! イヴ人共に笑われるかもしれんが、全滅しては元も子もない! 今は退くのだ!!」

 

 長期戦となれば、ウィッジクラフトの体力が限界となり、勝てるはずかもしれなかったが、あの老人からはそれが感じられなかった。

 撤退に応じたメイソンの騎士たちは負傷者たちを抱えながら後退し、後方の陸軍の歩兵部隊が援護の為、煙幕手榴弾を投げ込んで追撃を封じた。逃げられたことに、ウィッジクラフトは追いもせず、逃げる騎士たちを煽る。

 

「フン! 偉そうなことを言って逃げるのかァ!? 全く、だらしが無い奴だのう! ハハハッ!!」

 

 

 

 ウィッジクラフトに二度の敗退を強いられた司令部は、遂に準備が出来たファイテックス隊をミドルド要塞内部に送り込み、三度目の正直に挑んでいた。

 それが失敗した場合に備え、少数の決死隊によるウィッジクラフトの排除を行おうと選抜を始めた。その間に、空軍の参謀が意見を申し出て来た。

 

「生かして捕らえてはどうでしょうか?」

 

「なに、あの老人を生かして捕らえる? あれほどの兵を殺されていると言うのに…!」

 

 空軍参謀のバルリング中佐が出した意見とは、ウィッジクラフトを生け捕りにすると言う物であった。これに苛立ちを覚えながらも、要塞攻略指揮官はどう捕らえるのかと問う。

 

「中佐、どうして生かして捕らえる? あんな化け物、生け捕りにするのにどれほどの兵が死ぬことか…」

 

「報告によれば、あのウィッジクラフトなる老人は薬物を投与し、長期的な戦闘を行えるようです。ですが、長期戦の余り注意力は下がっているようで」

 

「落とし穴でやるの?」

 

「ご明察です。餌はこれから選抜する少数精鋭にしてもらいましょう」

 

 撤退した陸軍歩兵の報告で、バルリングはウィッジクラフトが薬物を投与していると見抜いたのだ。

 彼女の言葉で指揮官は水を一杯飲んでから落とし穴でやるのかと問えば、バルリングは頷き、餌は少数精鋭でやると答えた。バルリングの返答で指揮官は直ぐに脳内で作戦を立て、彼女の落とし穴は予備とした。

 

「まぁ、それはプランBとして、ファイテックス隊には捕らえるように命じましょう。ファイテックス隊がしくじれば、少数精鋭の決死隊にやって貰うわ。貴方には…無理わね。空軍の魔導士の誰かにやらせましょう。幸い、落とし穴が直ぐにできそうだわ」

 

 素早く立てられた作戦は直ぐに実行された。少数精鋭の決死隊の選抜は終わったようで、即座に本部に選ばれた者たちが招集される。

 暇を持て余していた陸軍独立混成装甲大隊シェイファー・ハウンドより大隊長カヤ・クロイツ中佐、偵察隊隊長マイタ・カドゥワン大尉、アンナ・アナー大尉、桂佳織、人機連隊よりアマガネ・アザギ大尉。そして、空軍からは小さいと言う理由でターニャ・デグレチャフ少尉一人が選ばれた。

 

「(なんで私を選んだんだ? 陸軍だけで十分だろ!)」

 

 少数精鋭の決死隊に選ばれたことに不満を持つターニャであったが、師団本部からの命令なので逆らえない。仕方なく、ターニャは決死隊と共にウィッジクラフトと交戦するファイテックス隊の元へと向かった。

 

「んん? 敵わないと思って、俺に生贄を差し出したのかぁ? ブハハハッ!!」

 

 予想通り、主力軍のファイテックス隊もウィッジクラフトに敗れ、敗走状態であった。決死隊が来るなり、ファイテックス隊はまだ息のある負傷者を連れて参加することなく撤退した。

 五人と一人の幼女を見たウィッジクラフトは下品な笑い声をあげ、彼女らを自分に向けて差し出された生贄と表した。これに苛立ってか、カヤは手にしているMP5を単発で撃ち込む。

 

「うぉ!? 生贄じゃねぇのかァ!」

 

「生贄だと? 私たちは貴様を捕らえに来たんだ。死にたくなければ、大人しくしろ。ジジイ」

 

「あのお爺ちゃん、絶対に聞かないと思うけど」

 

「(よりにもよって、ハルから戦って殺してくれと言われたジジイでは無いか。上層部も無茶を言う)」

 

 ウィッジクラフトが撃たれて驚く中、カヤは高圧な態度を取って銃口を向けながら投降を呼びかける。これにアマガネは絶対に応じないと言って共に銃口を構えた。ターニャは内心でハルより聞いていたウィッジクラフトであると分かり、上層部に文句を言った。

 

「来るわ!」

 

「あれ、本当にお爺さん!? 凄く速いんだけど!」

 

 迫るウィッジクラフトにマイタが知らせれば、アンナは老人とは思えない身体能力に驚きながらもG36K突撃銃を撃ちながら後退する。単発で撃つが、老人は素早く、予測撃ちをしてもまるで当たりもしない。そればかりか徐々に距離を詰めて来る。

 

「どうなってるんだあの老人は!?」

 

「どうやら、薬物投与で身体能力を強化しているようだな」

 

「ならば、接近戦で対処するのみ!」

 

 ターニャが銃弾すら当たらぬ速度で迫るウィッジクラフトに驚きの声を上げる中、カヤは薬物の影響であると認識した。なればと思った佳織は、G36Kを下げて腰の日本刀を抜いた。

 

「なら、こっちも!」

 

 アマガネも接近戦をするべく、背中に背負っていた棒を取り、巧みに回しながら佳織と共に迫るウィッジクラフトを迎え撃った。

 

「くっ…! 老人の力じゃない!」

 

「やっぱり何かやってる…ねっ!」

 

 ウィッジクラフトの力は老人の物ではなく、片手でも佳織とアマガネを圧倒する物であった。その隙にカヤ、マイタ、アンナ、ターニャは狙撃しようとしたが、直ぐにウィッジクラフトが気付いて四名に襲い掛かる。

 

「離れろ! 切り刻まれるぞ!!」

 

「冗談ではない!」

 

 カヤらが退避する中、逃げ遅れたターニャは魔法障壁で斬撃を防いだ。

 

「小娘、テメェ魔術師かァ!?」

 

「それを、答える必要があるか!?」

 

 魔術師かと問うウィッジクラフトに対し、ターニャは背後から襲い掛かる佳織とアマガネの攻撃を誘うために時間稼ぎをしたが、老練の剣士を誤魔化せるはずが無く、気付かれて双剣を振るわれ、吹き飛ばされる。

 両者が壁に激突して血塗れの床の上に倒れる中、ターニャは魔力を込めた左拳でウィッジクラフトを攻撃するが、シルバリー合金の鎧は傷一つ付かず、左手の剣を振るい落としてくる。

 

「効くかァ!!」

 

「のわっ!?」

 

 それを躱したターニャは、自分が先ほどまで居た場所を見る。剣を振るい落とされた床がへこんでいたのだ。あれを真面に受けていれば、自分はバラバラに吹き飛んでいただろう。

 安堵している隙などウィッジクラフトが与えてくれるはずもなく、二撃目を入れて来る。双剣士の老人の背中を銃を持った三名が撃つが、弾かれるばかりだ。隙間を狙おうとすれば、標的を三名に変えて斬りかかって来る。

 

「本当に注意散漫か!?」

 

 弾切れのMP5を下げ、即座にワルサーP99自動拳銃を引き抜いて連発するが、ウィッジクラフトはそれすらも躱して斬りかかる。無論、カヤも斬られる寸前に後ろへ下がって躱したが、持っているMP5を破壊されてしまった。再装填を素早く終えたマイタとアンナは射撃し、ウィッジクラフトを下がらせる。

 

「うはははッ! どうした、どうしたァ!?」

 

「やはり敵わぬか」

 

「プランBに以降ね!」

 

 六人がかりでもウィッジクラフトに敵わぬと分かれば、プランBを実行する。

 それは、工兵隊が作ったとされる落とし穴にウィッジクラフトを誘い込むと言う物だ。それを実行すべく、六名はウィッジクラフトから逃げる。

 

「おぉん? 逃げるのかぁ? 待てよぉ!」

 

 逃げる六人にウィッジクラフトは下品な表情を浮かべながら追いかける。銃を撃つこともせず、落とし穴が仕掛けられた通路まで下がれば、ウィッジクラフトを挑発する。

 

「どうした、老害。もう息が上がったか?」

 

「疲れた? 速く降参しちゃいなよ」

 

 この挑発に罠だと思って乗らないようにするウィッジクラフトであるが、薬物の副作用でカヤの挑発は少し応えており、苛立ちを抑えきれない。その反応を見逃さなかったカヤは、ウィッジクラフトを落とし穴に落とす為にさらに挑発する。

 

「貴様は老い耄れだ! 時代遅れの産物だ! 薬物に頼らねば真面に戦えもしない中毒者だ! どうせ女も碌に満足させることもできず、薬に頼ってばかりなのだろ!? その証拠に、我々を殺すこともできず、そこの幼女ですら殺せていない! 若者の道を阻むただの老害だ!!」

 

「そうよ! このクソジジイ! あんたは英雄なんかじゃない! ただのクソジジイよ!!」

 

「そうだ! 貴様は戦闘でも日常でも何も出来ないジジイだ! さっさっと死ね! クソジジイ!!」

 

「みんな、酷過ぎ…」

 

 この罵声に満ちた挑発には、薬物を投与していなければ我慢できただろう。だが、今のウィッジクラフトは薬漬けに等しく、普段はあんな罵声に耐えれても、副作用で我慢できなかった。

 カヤに続くようにアンナとターニャも罵声に加わったので、疲労と怒りの余り冷静さを欠いたウィッジクラフトは、ただ怒りに身を任せて六名に突っ込んだ。

 

「このアマ共ォォォ! レイプして殺してやるぅぅぅ!!」

 

 もはやそこには闘技場で名を馳せるウィッジクラフトの姿は無かった。今の彼は目前の若い女たちに煽られ、我慢できずに激高する老人であった。

 普段は卑劣な相手の攻撃を警戒し、長年の勘と経験で足元に気を配っているウィッジクラフトであるが、長時間に渡る戦闘で疲弊しており、その疲弊を隠そうと薬物を多用し、今は目前の女たちを犯して殺すことしか頭に無い。

 結果、まだ未熟であった少年時代の頃のように、ウィッジクラフトはマヌケにも、落とし穴に落ちてしまった。

 

「グァァァ!? な、なんだこりゃぁぁぁ!? 畜生が!!」

 

 もう二度と落とし穴には落ちるまい。

 そう思って足元を警戒し、これまで戦って経験を積み重ねてきたウィッジクラフトであるが、長い年数を得て落とし穴に落ちてしまった。これにウィッジクラフトは衝撃と落胆の余り、大声を上げて這い上がろうとする。

 だが、落とし穴は這い上がれない程の垂直な斜面だ。ずり落ちるだけで全く上がれない。そんな落とし穴に落ちたウィッジクラフトを一目見ようと、大勢の陸軍兵士や戦った六人の精鋭が集まって来る。ウィッジクラフトに取ってその女たちは、落とし穴に落ちた自分を嘲笑っているかのように見えた。

 

「出せぇ! 出しやがれぇ!! みんな犯して殺してやるぞ!!」

 

 強がろうと必死に罵声を大声で上げるウィッジクラフトであるが、上に居る彼女らは何の反応もなく、ただ見下してくる。ターニャもまた、落とし穴の中で足掻くウィッジクラフトを見下ろしていた。

 やがて、殆どの者が立ち去り、残ったのがカヤのみとなれば、彼女は薬物を使っても未だ戦場に居座り続けるウィッジクラフトに嫌悪感を感じてか、侮辱の証である唾を吐きかけて去って行った。

 

 こうして、魔王を打倒し、勇者として名を馳せたウィッジクラフトは、帝国再建委員会の手に落ちた。

 この世界で暗躍する勢力をあぶり出すために…。




参加者絶賛募集中~。

活動報告にて応募してくだされ。


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リップシュタット連合

名前:シュルツ・オットー・リップシュタット
性別:男性
年齢:56歳
階級:アガサ騎士団幹部兼リップシュタット連合盟主
所属:アガサ騎士団&リップシュタット連合軍
武器:片手剣
概要:アガサ騎士団の幹部であり、リップシュタット連合の盟主。
この世界のダイヤモンド鉱山を所有しており、そこで採掘したダイヤを別の世界に売って多額の利益を得ている。
帝国再建委員会が自分のダイヤモンド鉱山がある世界に攻めて来たと分かると、懐であるダイヤモンド鉱山を守るため、人脈を使ってリップシュタット連合軍を結成した。

ベルンブルク公ロイター
JKハルの世界を陰で支配するベルンブルク家の当主。銀英伝的にはブラウンシュヴァイク公なポジ。六十五歳。
フルネームはロイター・ウィルヘルム・フレーゲル・フォン・ベルンブルク。
史実で言うならハプスブルク家に当たる。世界中の王家がベルンブルク家の血族とも言え、例え大帝国の皇帝であろうと、ベルンブルク家には逆らえないと言われている。
リップシュタットより世界の支配権の継続を条件に、彼の連合軍を自分の世界に迎え入れた。
私利私欲で自己中心的な人物であり、世界がどうなろうが自分さえ良ければそれで良いと言う絵に描いたような悪役君主である。

フランツ・ルーク・アンス・テレジア
ベルンブルク家に代々仕えて来た男。銀英伝的にはアンスバッハなポジ。四十歳。
利権欲しさに異世界勢力に世界を売った君主に絶望しつつも、長年仕えて来たテレジア家のしきたりに従い、敢えてそれを受け入れる。
諜報スキルも高く、独自の情報網を有しており、ハルの秘密を知っているが、敢えてそれを明かそうとしていない。
それにテレジア家は世界の秘密を持つ一族として知られ、それを知る者は君主のロイターとフランツだけである。
あの世界で珍しく良識人で愛人を持たず、妻も同い年。二十代の長男、十八歳の次男、十五歳の三男、十歳の長女、五歳の次女の五人の子持ち。
実は原作のバフネスの腹違いの弟。性格どころか外見すら微塵にも似てない。

版権キャラ

ゲオルグ・ダモン
戦場のヴァルキュリアに登場する無能将軍。
リップシュタット連合軍に参加したガリア軍の指揮官で、どういうわけか階級が元帥になっている。元帥になっても無能であった。

ヘルマン・フライジンガー
コールオブデューティーの新作で登場したナチスの将官。
この作品では第四帝国より来た親衛隊上級大将であるが、軍の指揮権は持っていない。


 帝国再建委員会がミドルド要塞に手こずる中、この世界の人類の主要拠点に空軍の偵察機と陸軍の偵察隊が偵察行動を行っていた。

 空軍の偵察機は敵側に対空兵器が無いと思い込んでおり、その空を我が物顔で飛んでいる。一方で陸軍の偵察隊は車両を使わず、現地の住民になりすまし、徒歩での偵察を行う。

 流石に女性だけの種族であるイヴ人では、男尊女卑の世界での現地住民のなりすましには無理がある。この世界で女性一人で街の外を歩くなど、信じられないことだ。よって、陸軍は帝国再建委員会に協力する人間の男に偵察させている。

 その世界には無いはずの車の走る音が聞こえて来るので、街道に偵察隊が足を踏み入れようとすれば、青い塗装をした甲冑を身に纏うハルバートを携えた兵士に止められる。

 

「おっ!? 貴様! そこで止まらんか!!」

 

 現地民に扮した偵察隊を見た青甲冑の兵士は怒鳴り声を上げ、彼らを街道から遠ざける。怪しまれぬように、偵察隊は兵士の言うことを聞いて街道から遠ざかった。偵察隊がその兵士の格好を見れば、アガサ騎士団の兵士であると直ぐに分かる。

 街道を通っている車列はワルキューレの車両部隊であり、荷台に兵士を満載したトラックや装甲車などが帝国再建委員会との前線へと向かっている。遠くには人型機動兵器が見えた。

 ようやく気付いてか、対空砲が唸り声を上げ、我が物顔で飛んでいた空軍の偵察機は一目散に飛んできた方向へと帰っていく。

 

「一体、この馬車のような物はなんで?」

 

 現地民に扮している偵察隊は、この世界の言葉でアガサ騎士団の兵士に問えば、彼は自慢げに答えた。

 

「お前ら、この辺の奴らだな? 噂には聞いておろう、異世界より野蛮な女たちが攻めてきたと言うことをな。我々アガサ騎士団はその野蛮な女たち、イヴ人の武装集団を退治しに同じく異世界より遥々来たのよ!」

 

 あっさりと自分らの正体を吐いてしまったことに、偵察隊は知っていながら驚いたが、目前の兵士は自慢話のように続ける。

 

「我らが来たにはもう安心だ! それに貴様らの格好、少し貧相であるな? だが、大丈夫だ。この世界全体が、我が主君のリップシュタットの領地となられるのだ。正確には、この辺り一帯がな。他は我が主君の招集に応じ、連合軍に参加した者たちの領地となる。まぁ、貴族に取っては寝耳に水の話であるが、貴様らの暮らしも少しは豊かになるのは確かだ」

 

 兵士の話を聞いて偵察隊は、アガサ騎士団のリップシュタットのその仲間、経営仲間と言うべきか、自分らと同じく侵略しに来ているのだと判断した。

 彼らは侵略軍を打ち倒し、元の支配者に代わって自分らが土地を治めると謳うが、帝国再建委員会とは変わらない。違うとすれば、武力を持たずして支配する事か。どちらにせよ、この世界は異世界の勢力によって支配されることだろう。

 それを自慢気に語る兵士は、偵察隊の表情を見て不味いと思ってか、個々の領主や貴族には話すなと周りを気にしながら告げる。

 

「おっと、少し熱になり過ぎた。お前たちの領主や、貴族にはこの事は話すんじゃないぞ」

 

「えぇ、どうもです。ご領主さまや貴族の方々には言いませぬ」

 

「そうだ。自分らの身の安全の為にな」

 

 偵察隊は兵士からの約束を守れば、その場を去って行った。

 直ぐに偵察隊は、馬車に積んである無線機を使ってそれを帝国再建委員会の侵攻司令部に報告した。

 

 

 

「以上、偵察隊の報告となります」

 

 かつては国の王の城であったが、今では帝国再建委員会の侵攻軍の司令部として使われ、その司令部の玉座の間で、偵察隊からの報告を受け、情報将校は司令官にアガサ騎士団とワルキューレの陸軍の軍集団が来ていることを報告した。

 それを受け、参謀らがざわめく中、司令官は予備として控えている主力軍の投入を決定する。

 

「なれば、主力軍を投入するしかあるまいな。機動兵器も投入している可能性があるな。予想はしていたが、まさかこんなに早く介入があるだなんて…公女様もご視察に来ていると言うのに」

 

 報告書を読み、アガサ騎士団とワルキューレの介入が事実であると分かった司令官は、早期に終わる予定の作戦が長期化する懸念を抱く。

 一方で帝国再建委員会に占領されたミドルド要塞では、前線司令官や空軍参謀らが生け捕りにしたウィッジクラフトと面談を行っていた。

 

「せっかく生け捕りにして、公開処刑でもするかと思ったら…何をさせる気なんです?」

 

「そんな事、後で分かる事だ」

 

 未だ返り血塗れのターニャは、上官であるアーデルトラウトことアーデにウィッジクラフトに何をさせる気なのかと問えば、彼女は後で分かると機嫌が悪そうに答える。

 自分が選抜に選ばれなかったことに怒りを覚えているのだろう。ターニャに取ってはいい迷惑だが。

 

「若い頃は良い男のようだね。でも、この世界の男は嫌いだよ。小さい頃のあたしを虐めてた男共を思い出しちまうよ。殺せて清々しちゃうけどね」

 

 同じくウィッジクラフトを見ているフェリーチェ・バルボッサは彼が若ければ美男子だろうと言ったが、彼の態度で幼少期の頃を思い出したようで、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、あの頃は辛かったと語り始める。

 そんな彼女らが上層部の決定に疑念を抱く中、ミドルド要塞の庭では大きな穴が掘られ、そこに降伏した要塞の捕虜たちをテキサス軍の将兵等が蹴り落としていた。

 

「あれは止めなくて良いので?」

 

「フン、この世界の獣共など生かす価値が無かろう。それに連中も何十人も死んでいる。憂さ晴らしくらいさせてやれ」

 

「あーぁ、男女平等運動でも起こしてりゃあ、殺されずに済んだのにね。まっ、そこまで脳みそが発達してなさそうだけど」

 

「(こいつ等、何気に酷いな)」

 

 友軍の蛮行すら止めず、挙句にこの世界の男たちは殺されて同然だと思う両者に、ターニャは心の中で咎めた。

 止める者すら居ないテキサス軍の虐殺は始まった。掘った大穴に投げ込まれた捕虜たちに向け、一人の将兵が白燐手榴弾を投げ込んだ。これに続き、他の将兵等も白燐手榴弾の安全栓を抜き、次々と投擲していく。

 たちまち地獄絵図と化し、炸裂した白燐で焼かれる捕虜たちの阿鼻叫喚が周囲に木霊する。その様子をテキサス軍や陸軍、空軍の将兵たちも含め、ただ見下ろすばかりだ。

 焼かれて獣のような叫び声は、新兵たちには応えたのか、両耳を塞いで聞こえないようにその場から離れる。ウィッジクラフトと攻略司令官、参謀が居る仮設の尋問小屋は特殊な防音処理が施されているのか、全く聞こえていないようだ。

 全員が焼け死ぬ頃には、ウィッジクラフトはいつの間にか来ていた男性兵士三名に何処かへと連れて行かれた。気になったターニャは、何処へ連れて行くのかとバルリング中佐に問う。

 

「失礼を、バルリング中佐殿。我々が苦労して捕らえたかの男、どうするので?」

 

「どうするって? これから結成されるであろう我々に対抗する連合軍に揺さぶりを掛けるためよ」

 

「連合軍? この世界の国家などたかが知れておりますぞ」

 

「いえ、この世界にワルキューレの隊が確認されたのよ。それに、我が空軍の偵察機がある勢力のシンボルを撮影したわ。これ」

 

 連合軍に揺さぶりを掛けるためにウィッジクラフトを敢えて解放したと話せば、ターニャはこの世界の国家の連合などたかが知れてると言う。

 だが、ワルキューレが介入したと言うと、ターニャは眉をひそめる。自分らよりは遥かに上回る戦力を持つ勢力と戦うなど、面倒なことこの上ない。そればかりか、他にも自分らと同じ勢力が介入しているとバルリングが言った。それを示すように、彼女はその証拠の写真をターニャに見せる。

 

鍵十字(ハーケンクロイツ)…? まさか、ナチスが…!?」

 

「正確には第四帝国。厄介なことになるわね」

 

 ナチス、正確には第四帝国の存在を知ったターニャはそれとも戦わねばならぬと思い、この侵略戦争は楽な戦争では無くなったと大きく落胆した。

 

 

 

 ミドルド要塞陥落を同時に、この世界で密かにダイヤモンド鉱山を保有し、採掘したダイヤを他の世界に売り込み、それで利益を得ていたアガサ騎士団の幹部シュルツ・オットー・リップシュタットは、自分の財源であるダイヤモンド鉱山を守るべく、他の商売仲間と人脈を駆使してリップシュタット連合を結成した。

 表向きはこの世界を帝国再建委員会より守るためと謳っているが、実際はダイヤモンド鉱山を守るだけとは、世界を陰で支配するベルンブルク公のロイターとその家族、代々仕えるフランツ・ルーク・アンス・テレジア以外知る由もない。

 リップシュタット連合の決起集会は、その世界の大帝国の首都の宮殿内で行われていた。

 

「私の呼びかけに応じた有志たちよ! 共にイヴ人の神聖百合帝国再建を阻むため、奴らを暗黒の次元断層に追い返そうでは無いか! この世界の友人たちよ、我らが来たにはもう安全だ。我らの武器を取り、我らと戦列を組んで奴らを追い返そう! 我らに勝利を!!」

 

 白ワインの入ったグラスを片手に、礼服を身に纏ってリップシュタットの呼びかけに応じた商売仲間、ゲオルグ・ダモン、テメリア軍の将軍、レダニア軍の将軍、ポラニア軍の将軍、ベルンブルク家やテレジア家、この世界の皇帝や王たちと言った面々と共にグラスを高く上げ、グラスに入った白ワインを一気に飲み干す。その中には鍵十字をシンボルとする第四帝国、即ちナチスの将官の姿もあった。

 連合の連帯感を高めるための集会であるが、誰も仲間意識を持っていない。現に主戦力とも言えるワルキューレの将官や将校らが誰一人参加していない。理由は女性と言う理由だ。故に集会には男しか居ないのだ。ここの風習に合わせて配慮しているつもりだろう。

 挙句、イヴ人と言う民族至上主義の下で結束力が高い帝国再建委員会とは違い、彼らは互いを信用していない。共通の敵がいるからこそ、共闘しているに過ぎないのだ。現実でも言えた物であるが。

 

「(この世界の皇帝や王たちは、仮面で本性を隠して近付いてきた異界の者たちが、この世界その物を我が物にせんとしていることに気付きもしないとは)」

 

 使えるベルンブルク公と共に真実を知るフランツは、リップシュタット等がこの世界を手中に収めるために助けに来たことを知らず、決起集会に馳せ参じた皇帝や王、諸侯らを見て落胆する。

 異世界の軍隊に攻められ、ただ征服されるのを待つばかりのこの世界に、他の異世界から軍隊がこちらを助けるために来た。

 偶然にもご都合主義的にも出来過ぎている。賢い者は助けに来る軍隊を疑う。

 だが、ここに集ったその世界の者たちは、異界より来たリップシュタット等をまるで救世主のように歓迎している。無論、帝国再建委員会を退けた後、貰った兵器を疲弊しきったリップシュタット等に差し向けるつもりだが、彼らはそれを読んで罠を仕掛けている事だろう。

 帝国再建委員会かリップシュタット連合が勝利したにせよ、この世界に未来は無い。

 

「どちらが勝ったにせよ、我々の世界は勝利した者の手に落ちる事だろう」

 

 どちらが先に武勲を上げるかと語り合うリップシュタット連合の面々を見て、フランツは自分たちの世界に未来がない事を悟り、グラスに入った白ワインを一口飲んだ。もう一口を飲もうとした瞬間、ナチスの将官のドイツ語が耳に入って来る。

 

「《速くこの世界の劣等人種共を掃除して、アーリア人が住まう高潔な世界にせねばな》」

 

 その自分らを見下すナチス将官の言葉にフランツは反応してか、彼もドイツ語、この世界ではゲルマン語と呼ばれる言語で彼に話し掛ける。

 

「《この場で分からぬ者が居ないと思ったら、大間違いですぞ。ヘルマン・フライジンガー殿》」

 

「おっと、何とも流暢なドイツ語、いや、この世界ではゲルマン語と言いましたな。名前を覚えてもらって光栄です。テレジア殿」

 

 ドイツ語を話したフランツに気付いたフライジンガーは、この世界の言語で挨拶を行う。それから謝罪することなく、馴れ馴れしく接してくる。

 

「貴殿はこの世界には勿体ないお方だ。早速で悪いが、我々第四帝国への転職は考えてもらえんかね?」

 

「私もそう考えたが、私の家は主君に代々仕えている身だ。今さら鞍替えなど出来ん」

 

「《あのような男でもか? この世界の奴らにはうんざりする。馬鹿ばかりで下品な上、ドイツ系アーリア人ですらあの様だ。我々が入植するには、大部分を抹殺するか奴隷化し、浄化せねばならない。無論、民族系ドイツ人以外はな》」

 

 更には自分ら第四帝国へ来ないかと言ってきた。これにフランツが主君と家を裏切れぬと言って断れば、フライジンガーはドイツ語でこの世界の全ての人間を侮辱のような発言をする。

 これには流石にフランツは我慢できなかったが、帝国再建委員会と言う敵を倒すために敢えて我慢した。いや、自分の世界の民草を守るためならば、見返りを求めて助けに来た彼らに頭を下げなければならない。あの戦車や戦闘機で武装した勢力には、自分らでは敵わないので、同じ力を持つ彼らの力を借りる他無いのだ。

 だが、目前のナチスの将官であるフライジンガーはこの世界の人間を見下している。むしろ人とすら思っていないだろう。フランツを引き入れようとしたのも、自分が救ってやろうと思ったから、誘ってきたのだろう。

 そのフライジンガーの態度でフランツは、ナチスが自分らの世界を手中に収め、住民の大部分の抹殺と奴隷化を企んでいることを見抜き、敢えてそれを自分らの言葉で口にした。

 

「フライジンガー殿、今の発言は聞かなかったことにする。何の見返りで助けに来たか知らんが、貴方がた第四帝国はリップシュタット連合と足並みを揃える気が無いどころか、全て奪い取るおつもりのようだ。それに気取られぬよう、心なされよ」

 

「おぉ、怖い怖い。せっかく馳せ参じたのに。まぁ、私も今の貴殿の発言、忘れましょう。では、再会は祝勝会で」

 

 フランツに考えを見抜かれたフライジンガーは眉間にしわを寄せ、睨み付けてきたが、作り笑いを浮かべ、今の発言は忘れると言って挨拶してから去って行った。

 直ぐに主君にナチスの企みを報告するべきだが、フランツはそれを報告することもしなかった。彼はこの世界は一度滅び、再生するべきだと考えているからだ。フランツは魔王にそれを期待していたが、当の魔王はウィッジクラフトに倒された。否、同行していたウィッジクラフト以外に倒されてしまい、その願いは果たされることは無かった。

 望みはあったが、今の状況では期待できない。何せ、魔王を倒した後に急に攻め込まれたのだ。あの街は当に帝国再建委員会に抑えられている。忍ばせていた密偵は既に殺されている事だろう。

 故にこの世界は、帝国再建委員会かリップシュタット連合のどちらかに委ねられた。

 

「(神よ、私と主君はどうなっても構わない。どちらが勝利しても、家族と民草が飢えぬように計らってくだされ)」

 

 フランツは今は亡きこの世界の神に祈りつつ、決起集会で会話を弾ませる主君ベルンブルク公と連合の盟主たちを見守った。

 そんな時に、連合に取って英雄的に死んだ男が決起集会の会場に乱入してくる。

 

『止まらんか! ここを何処だと思っている!?』

 

『下っ端が退けっ! 俺はベルンブルク公に用があるんだ!!』

 

『無礼者め! なれば正式な手続きをして面会しろ!!』

 

『うるせぇ! 今はそれどころじゃねぇんだ!!』

 

「ぬわっ!?」

 

 出入り口のドアで騒音が聞こえた後、ドアを突き破ってその乱入者が会場へと乱入して来た。その名はウィッジクラフト。連合やこの世界において戦死したはずの英雄だ。

 

「あ、あの男はウィッジクラフトではないのか!?」

 

「どうしてここへ? 先ほどは戦死したと発表されたぞ!?」

 

 死んだはずの男の登場に会場内は騒めく。そんな高貴な身なりの男たちを他所に、ウィッジクラフトはかき分けながらベルンブルク公の元へ向かって来る。

 

「な、なんだ貴様は!? それにその身なりは何だ!? ここを何処だと思っておるのだ!?」

 

「うるせぇ! 臆病者の貴族が! 俺はベルンブルク公に用がある! 早急に聞かせねばならねぇ話があるんだ!!」

 

「なんだあの老人は? ベルンブルク殿、貴公の知り合いか?」

 

 自分の身なりを見て出て行くように促してくる貴族の一人を突き飛ばし、ウィッジクラフトはベルンブルク公の元へ向かって来る。無礼にも等しく向かって来るウィッジクラフトに、ダモンはベルンブルク公に知り合いかと問う。

 

「い、いや、わしは…」

 

「部外者と言うわけだな。このわしが追っ払ってくれるわ。おい、ジジイ! 身分を弁えんか!? ここは上級貴族と王と皇帝、将軍のみが招かれる集会であるぞ! それを分からずに、ごわっ!?」

 

 押し退けてやって来るウィッジクラフトに対し、前に立ったダモンは意気揚々と罵倒するが、払い除けられる。

 

「貴様! 身分卑しき分際で…!」

 

「ベルンブルク公! この同盟は罠だ! 異世界から来たそいつ等はこの世界を支配しようとしている!!」

 

 床に倒れたダモンは腰のホルスターに収めてあるM1892リボルバーを引き抜き、それでウィッジクラフトを撃とうとしたが、彼が叫んだ事実で撃つのを忘れてしまう。この叫びに一同は凍り付いて会場は静音で包まれる。そんな状況下で、ウィッジクラフトは集会に集まった皇帝や王、貴族たちに向けて続けた。

 

「皇帝に王たちよ! 奴らは侵略者だ! 奴らは助けに来た振りをして、俺たちの世界をかっぱらうつもりだ!」

 

「嘘を付くな! このジジイめ! イヴ人共に何か吹き込まれたか!?」

 

「生きていたことには驚いたが。貴公、なぜ生きてここへ来ているのだ?」

 

「そ、それは、奴らに解放されて…」

 

 リップシュタットに指差しながら真実を話すウィッジクラフトであったが、誰もが信じなかった。何せ彼は数時間前まで帝国再建委員会に囚われていた。いきなり帰って来て、助けに来た勢力が実は侵略者だったのだと言えば、敵に洗脳されて返されたと疑われるほか他に無い。

 ベルンブルク公に問われたウィッジクラフトは顔を真っ青にして解放されたと正直に言えば、疑いは更に深まり、真実味は無くなる。

 

「解放された…だと…!? 貴公、魔王討伐の成功の際、わしの前で真に魔王を倒したのはハルとか言う娼婦だとのたまっていったな? 戯言だと思って聞き逃してやったが、今度はわしの異世界の友人たちを侵略者だとほざく! それに何だこの匂いは!? 女の香水の匂いでは無いか!」

 

「ち、違う…! お、俺は…! 俺は女を当てがれてもなけりゃあ、酒も飲んでねぇ! 奴らに、香水を、香水をかけられたんだ!!」

 

 先ほどの勢いを失くしたウィッジクラフトに対し、ベルンブルク公に集会を台無しにした老人に対して容赦なく攻め立て、彼から臭う香水の香りを嗅ぎ付け、それを問い詰めた。

 これにウィッジクラフトはありのままを話すが、誰も信じようとはしない。スパイだと判断され、ハルバートを持った衛兵たちに包囲される。主君を守る役目を果たそうと、真実を知るフランツですら、連合結成記念に貰ったルガーP08自動拳銃の銃口を向ける。

 

「香水を掛けられた? 言い訳は止せ! 貴様の仲間とミドルド要塞の兵士たちは将軍を含めて皆処刑されたのだぞ!」

 

「な、何ッ!? み、みんな殺されちまったのか!? 奴らは仲間と兵士たちの身を保証すると…!」

 

「裏切られたのだよ、ウィッジクラフト。貴殿は我らの連合を乱す捨て駒として、奴らに利用されたのだ」

 

 更に処刑されたことをベルンブルク公が告げれば、それを知らなかったウィッジクラフト膝から崩れ落ち、真実を知って絶望を覚える。更に追い打ちを掛けるように、機嫌を悪くしているリップシュタットは帝国再建委員会より自分らの連合を乱すための捨て駒にされと告げた。

 身の安全を保障すると言っていたのに、処刑されたことを知って挙句に捨て駒にされて絶望したウィッジクラフトは、睨み付けて来るベルンブルク公に問い詰める。

 

「お、お前は…! お前は自分の利益の為に、この世界を売ったのか…!?」

 

「なっ!? 急に何を言い出すかと思えば、わしを売国奴呼ばわりか!? この無礼者めが!」

 

「ベルンブルク公、これ以上この老人を置いておけば、何を言い出すかも分からぬ。我が衛兵につまみ出させよう」

 

「侵略者のお前は黙ってろ! 俺はベルンブルクと話してるんだ!!」

 

 自分の利益の為にこの世界を売ったのかと問うウィッジクラフトに、ベルンブルク公は激怒してグラスを彼に投げ付けた。割れた破片がウィッジクラフトの肌に突き刺さる中、これ以上、彼に喋らせたくないリップシュタットは衛兵に追い出させようとする。

 両脇に控える衛兵はウィッジクラフトを捕まえようとしたが、振り払われた挙句、右の衛兵が腰に吊るしてある剣を抜いてリップシュタットに黙れと叫ぶ。剣を抜いたウィッジクラフトに、周囲の者たちは下がり、衛兵らは自分の得物を向ける。

 

「剣を抜いたぞ!」

 

「き、貴様! わしを殺す気か!?」

 

 衛兵より剣を奪ったウィッジクラフトは完全に敵と認識された。敵と認定されても、ウィッジクラフトは帝国再建委員会より聞いたリップシュタット連合の真実を語り続ける。

 

「奴らに魂を売ったお前らは気付かないだろな! あいつらは俺たちの世界を無茶苦茶にする気だ! 魔王より酷い奴らだ!! そこに居るヘンテコな鍵十字を左腕に付けた奴らは、俺たちを虐殺する気だ! 皇帝に王に貴族共、お前らも対象だぞ! 奴らは俺たちなんて生きる価値のない生き物だと言っているんだ! そこの豚野郎も含めてな! もう一度言うが奴らは俺たちを助ける気が無い! 俺たちの世界を乗っ取る…」

 

「そこまでだ。頭のイカレタ老人」

 

 最後まで言い終える前に、ウィッジクラフトはいつの間にか背後に来ていたフライジンガーが持つピストルで後頭部を撃ち抜かれて射殺された。後頭部を撃ち抜かれ、射殺されたウィッジクラフトの死体は豪華な床の上に倒れ込む。その死は英雄ではなく、撃ち殺された老人の物であった。

 息絶えたウィッジクラフトの元へフランツは近付き、敬意をこめて頭を下げた後に見開いた両目の瞼を閉じる。

 床にウィッジクラフトより流れる出る血が広まる中、、決起集会を台無しにした老人の死体を片付けるように、ベルンブルク公は告げる。

 

「その老人の死体を片付けろ! テレジア!」

 

「御意に」

 

 主君の指示に応じ、フランツは衛兵たちと共にウィッジクラフトの死体を持ち上げようとする。

 

「(そう恨めしそうな顔をしなさんな。貴公に取っては理想ではない死に方であるが、ここで死ねた方が幸せだ。何せ、貴公の愛した女には、貴公が憎む相手の子が宿っているのだからな)」

 

 敬意を表しつつフランツは心の中で、知れば衝撃を受けるであろう真実を告げながらウィッジクラフトの遺体を丁重に会場から運び出した。

 

 かくして帝国再建委員会とリップシュタット連合との火蓋が切って落とされようとしていた。




この連合、纏わりが無さ過ぎる!

活動報告にて、参加者募集中!


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歪みだらけの連合

リップシュタット連合軍
アガサ騎士団の幹部、シュルツ・オットー・リップシュタットが結成した連合軍。
多国籍軍であるため、その兵力は帝国再建委員会の侵攻軍を上回る。
がっ、統率力は無く、歪みだらけである。

ポラニア軍
リップシュタット連合に参加した勢力の一つ。ポラーニャ王国の陸軍と空軍の派遣部隊であり、総兵力は五十万人。
元ネタは架空のヨーロッパを舞台にしたリアルタイム戦略ゲーム、アイアン・ハーベストに登場する勢力。

ギーダ公国軍
JKハルの世界に登場する国家の一つ。総人口は二千万で、総兵力数は二百万。
リップシュタットに気に入られ、どの国家より速くMSと言った機動兵器を装備できたが、運用方法は知らない。航空魔導士も居るが、真面な戦術も出来ない。

ナチス軍
第四帝国。総兵力数は三十万。
リップシュタット連合の参加勢力の一つだが、この世界を自分らの領土にせんと企んでいる。
連合内では優れた兵器を保有しているが、疲弊を狙って引きこもっている。

ムジリ帝国
現地においては大帝国。総人口は五千万人で、総兵力数は六百万。
ギーダ公国の次に機動兵器を装備した帝国。世界屈指の軍事国家であり、その数は計り知れない。しかし、運用法は知らない。

ヨーク軍
ワルキューレの派遣軍を伴ってリップシュタット連合に参加して来た王国。総兵力数は百万。
率いているのは女王なので、配下は王国軍の十万以外、全てワルキューレの部隊である。装備は冷戦中の英軍。

ガリア軍
ガリア公国の軍隊。装備は冷戦中のフランス軍。
ゲオルグ・ダモン元帥が指令を務める二百万以上の軍を率いてリップシュタット連合に参加した。

アガサ騎士団
シルバリーと呼ばれる中世チャンバラゲームに登場する青い方の勢力。
リップシュタットがアガサ騎士団の幹部であるため、リップシュタット連合では理事国に当たるはずだが、肝心の兵力は七十万程度で正規のアガサ騎士団は二十万ほど。残りはワルキューレの陸軍や空軍部隊、エルフ、ダークエルフ、ドワーフと言ったやる気無さ過ぎな物。
当然、前線にはあまり出て来ない。


 最初に進軍してくる帝国再建委員会を戦火を交えたのは、リップシュタット連合に参加したポラニア軍とこの世界の王国の一つ、ギーダ公国軍であった。

 双方は南方から迫る帝国再建委員会の陸軍南方軍集団を迎え撃つべく、左右より挟撃せんと総兵力数二百五十万で迫る。

 だが、ポラニア軍はギーダ公国軍を囮に使い、南方軍集団の背後を突こうと遅く進軍していた。

 

「現地の馬鹿共に先に攻撃させろ。奴らは囮として打って付けだ。我がポラニア軍は敵軍集団の背後を突き、一気に軍集団本部まで食い込む」

 

 ポラニア軍の元帥は現地の者たちをナチス以上に見下しており、都合の良い囮になると思っていたようだ。

 

「連中に先に攻撃するように伝えますか?」

 

「おい、奴らは電子戦装備どころか、無線機すら扱えん低脳共だぞ。勝手に突っ込ませておけば、それなりの囮となる。我々は二百万のギーダ公国軍の対処に追われる敵南方軍集団百九十万の背後を突けば良いのだ」

 

 副官からの問いに元帥はギーダ公国軍が電子装備や無線機を使えないと返し、軍にはゆっくりと前進するように告げた。

 そんなことを知らず、MSのリーオーやアンフ、人機の72式などの人型兵器を大量に供与されたギーダ公国軍は、昔ながらの集中運用で帝国再建委員会の南方軍集団に向けて前進していた。

 

「我々が奴らの同じ機械巨人を持ったのならもはや敵無しよ! 小細工ばかり使う女共など、千機の機械巨人で蹂躙よ! ホッホッホッ!!」

 

 馬に跨って自分らが人型兵器を装備すれば、帝国再建委員会の侵攻軍を蹂躙できるとギーダ公王は豪語していたが、あの運用法では逆に蹂躙されるのがオチだ。適切な機動力と精密兵器を妨害する電波が無ければ、人型兵器は通常兵器の的になるだけだ。

 そんなずさんな運用法を行うギーダ公国軍と対峙するのは、機動兵器などの装備を持たないまた編成された第23装甲師団と第24装甲師団、第16歩兵師団、第50歩兵師団で編成された第6装甲軍団であった。その軍団には、カヤ・クロイツ率いる独立混成装甲大隊も参加していた。

 

「なに、後退するだと? 相手はただの的だぞ?」

 

「相手に機動兵器が大量にあるからですよ。そんなのと戦ったら私、死んじゃうもん」

 

「こんな奴らを前に逃げるとは。軍団長殿は臆病で極まりない。少し喝を入れてやるか!」

 

 人型兵器に恐れをなし、後退命令を出した軍団長にカヤが苛立つ中、彼女が乗るレオパルド2A7主力戦車の操縦手であるミュー・マイツェンは当然の判断だと言う。

 マイタが偵察で得た情報で、ギーダ公国軍のバカの陣形を取って撃ってくださいと言わんばかりに前進していることをカヤは見抜いたのだ。それなのに大量の人型兵器が来ると聞いて背中を向けてに出そうとする軍団長にカヤは命令を撤回させるため、移動用車両に飛び乗り、軍団本部へと乗り込む。

 

「止まりなさい! 許可証が無い者は通せな…」

 

 門番を無視して軍団本部へと乗り込んだカヤは、幹部らと共に撤収の準備を始める軍団長に後退命令を迎撃命令に変えるように説得する。

 

「閣下、あんな馬鹿の案山子集団に後退するのです? 撃ってくださいと言わんばかりの陣形ですぞ」

 

「わ、私の軍団には機動兵器を装備した部隊が一つも無いから…」

 

 撤収の準備をする軍団長はこちらに機動兵器が無いからと返すが、カヤはそれでは昇進できないと強く推す。

 

「言い訳は結構! あのどうぞ食べてくださいと言わんばかりのごちそうは、南方軍集団の砲兵隊や空軍の爆撃部隊に横取りされてしまうでしょうな! そして閣下、貴方は戦争が終わった後でも中将のままだ!!」

 

「警備兵、直ちにクロイツ中佐を追い出しなさい!!」

 

 このカヤの挑発に怒りを覚えてか、番兵らに追い出させようとするが、大将への昇進の機会は今回しかない事だろう。

 そう思った軍団長は後退命令を撤回し、迎撃命令を出した。

 

「いや、おやめなさい。我が第6装甲軍団は後退ではなく、迎撃を行う。クロイツ中佐、我が軍団だけでも二百万と千機の機動兵器は迎撃できるのよね?」

 

「出来ますとも。連中は機動兵器の運用法を全く知らない。ド素人にも程がある。我々の勝利は確定ですよ」

 

 大将への昇進に確実性を得た軍団長はカヤに千機の人型兵器を有するギーダ公国軍に勝てるのかと問えば、彼女は首を縦に振って勝てると答えた。

 数時間後、後退命令から迎撃命令に切り替えた所為で一時期傘下の師団は混乱したが、その場で迎撃配置に着き、陣地を構成して押し寄せるギーダ公国軍に備えた。カヤもシェイファー・ハウンドに戻り、自分の愛車であるレオパルド2A7に素早く乗り込んで車長席に座る。

 

「迎撃命令が出たんですけど、大隊長殿が言ったんですか?」

 

 観測手である眼鏡がトレードマークのケイ・シンドラーは軍団が迎撃行動に出たのは、カヤの所為なのかと問えば、彼女は答えずに迎撃配置に着けと命令する。

 

「良いから迎撃配置に着け。馬鹿でかい案山子に乗った強姦魔共が押し寄せて来るぞ!」

 

了解(ヤヴォール)!』

 

 その命令に応じ、シェイファー・ハウンド総員は迎撃配置に着いた。

 予め掘っておいた塹壕に歩兵中隊の中隊長であるリィア・ハイロハッシュ大尉は、副官のアイヒ・ミヅゥ准尉とMG5分隊支援火器を持つリオ・シャタニ上等兵を始めとした中隊と共に飛び込み、襲来する敵の集団に備える。

 狙撃手であるティアナ・カーネディー少尉もバレットM82対物狙撃銃を構え、射程距離内に目標が来るのを待つ。

 続々と軍団傘下の車両部隊も配置に着く中、ギーダ公国軍が射程距離まで迫ったのか、軍団の砲兵隊による阻止砲撃が開始された。榴弾とロケット弾による砲撃は密集していたギーダ公国軍には効果的であり、一瞬にして数千人や兵士や数十機の人型兵器を吹き飛ばした。

 

「なんか、可哀想…」

 

「敵に情けを掛けているつもりか? 砲撃を切り抜けた奴が来るぞ。直ぐに徹甲弾を装填しろ、機動兵器を優先的に狙うんだ」

 

 徹甲弾を抱えながら外を見ていた装填手であるミヒト・ヒルダは、砲撃で吹き飛ばされるギーダ公国軍を見て哀れむ中、カヤは直ぐに徹甲弾を装填するように告げ、砲撃を切り抜けた72式に狙うように指示を出した。

 カヤの言う通り、何機かの人型兵器が砲撃を抜けて第6装甲軍団の防衛線に突撃してくる。これに各戦車と対戦車要員は直ちに迎撃態勢を取り、射程距離に入って来るのを待つ。

 

『敵が射程内に入った! 撃て! 撃てっ!!』

 

「手前のナナツーだ! 撃て!!」

 

 無線機から指揮下に入っている連隊の指揮官より攻撃命令が出されたので、カヤは攻撃を命じた。それに応じ、ケイは発射ペダルを押して予め照準していた72式を砲撃した。弾種は徹甲弾であり、容易く人機の装甲を貫いて乗っている搭乗者を破片で殺害する。

 

「ナナツー、撃破! 次、一時方向のリーオーだ!」

 

「装填!」

 

「撃て!」

 

 一機目を撃破すれば、カヤは次の機動兵器、リーオーへの砲撃を命じる。ミヒトは次弾を装填して報告すれば、カヤはケイに指示を出す。照準を済ませたケイは発射ペダルを踏み、二発目の徹甲弾をボロボロのリーオーへ向けて発射。放たれた徹甲弾は胴体に命中し、乗っているパイロットは破片で死亡して機体は地面の上に倒れる。

 何機かは砲撃を抜けて来たが、真面に近付けることなく戦車砲や対戦車ミサイル、あるいはロケット弾の餌食となる。

 そこからはもう的撃ち大会と言う名の虐殺だった。ギーダ公国軍は砲撃に晒された挙句、砲撃の雨を抜けたところで戦車や対戦車ミサイル、ロケット弾を撃ち込まれて撃破される。手兵装の射程距離まで接近できても、撃つ間もなく撃破された。

 歩兵はもっと悲惨であり、砲撃を抜けても撃破されて倒れて来る機動兵器の下敷きとなるか、機銃掃射やライフルによる狙撃で撃ち殺されるだけだ。

 二百万の兵力が八万足らずの兵に一方的に殺されている。いくら強力な機動兵器を持ったとしても、適切な運用法でなければ、主力戦車やミサイルなどの通常兵器の前では的でしかないのだ。

 

「な、何故だ!? なぜ女如きに我がギーダ公国が一方的に殺されているのだ!?」

 

 百万以上が砲撃で死に、十数万が敵陣に届くことなく殺され、統率を失って恐慌状態に陥り、我先へと逃げ出す集団の中で、ギーダ公王は今の状況を理解できず、混乱していた。

 

「公王! 指示を! 指示をお願いしまする!!」

 

「あ、あり得ん! 男が女に勝てる通りは無いのだ! これが世の理であろう!? どうして、どうして余が女如きに敗北するのだ!? たかが子供を…」

 

 部下の将軍の指示を聞こえず、馬の上で公王はヒステリックを起こし、戯言を喚き散らし始める。それから部下に返答せず、それどころか空の十万以上の航空魔導士は何をしているのかと問い詰める。

 

「空は!? 空の魔導士共はどうしたのだ!? 空を埋め尽くすほど十万の魔導士は!? 魔導士は何処へ行ったのだ!?」

 

「あっ!? か、壊滅状態であります! 次々と敵の魔導士に落とされております!!」

 

「な、なにぃ!? あぁぁ! アァァァ!? これは夢だ! 悪い夢だ! 悪夢だ!! そうだ、余は寝ているのだ…! これは悪い夢…」

 

 部下は自軍の航空魔導士が、帝国再建委員会の航空魔導士に一方的に虐殺されているのを知らせれば、公王は現実逃避を始める。

 これは夢だ。悪い夢だ。

 だが、非常にも現実であった。砲撃に怯えて逃げて来たリーオーが、砲撃後に現れた空軍の攻撃機の編隊による爆撃を受けて撃破された。撃破されたリーオーは公王の方へと倒れて来る。それを見た部下たちは公王を捨てて我先へと逃げ始めた。

 

「うわぁぁぁ!? やだぁぁぁ!!」

 

 馬から転げ落ちて公王は喚き散らしながら必死で逃げたが、間に合わずに倒れたリーオーの下敷きとなった。

 さて、次は空の虐殺へと視点を移そう。

 

 

 

『十二時方向、敵航空魔導士十万騎以上を捕捉!』

 

「十万騎? おいおい、なんだその冗談は…?」

 

 時は遡り、阻止砲撃が開始される直後、斥候よりギーダ公国軍の航空魔導士十万人を捕捉したとの報告を、左耳に着けた小型無線機で聞いたターニャは何の冗談かと口にする。

 大隊ごとか中隊ごとに分散して運用すべし航空魔導士を、歩兵のように密集させて運用しているのだ。前世でも航空魔導士だったターニャからすれば、信じられない運用方法だ。これにはアーデとフラーチェを含める帝国再建委員会の航空魔導士たちは笑い声をあげる。

 

『プっ…これ、マジなの?』

 

「あいつ等、航空魔導士が何だか知ってんの?」

 

「これほど密集してるなら、砲撃術式でしょ」

 

「(あぁ、敵はバカだ。馬鹿にも程がある。呆れるわ)」

 

 イヴ人の航空魔導士らがギーダ公国軍の魔導士らを笑う中、ターニャは地上と同じく馬鹿な陣形を取るギーダ公国軍の航空魔導士軍団に呆れ返っていた。

 それが連隊本部や旅団本部、師団本部に報告されてか、直ぐに砲撃術式でギーダ公国軍の航空魔導士十万に攻撃せよとの命令が来る。尚、連隊本部は航空機V-22オスプレイで、C-5中型輸送機は旅団本部、師団本部はC-130大型輸送機だ。

 

『大隊長より各中隊へ。連隊本部より砲撃術式による砲撃が命じられた。直ちに実行せよ!』

 

「聞いたな? 全隊員砲撃術式! 目標、敵航空魔導士集団!!」

 

 大隊長からの指示を受け、中隊長であるアーデが命じれば、ターニャら中隊の航空魔導士らは一斉に砲撃術式を展開し、それを密集してこちらに来るギーダ公国軍の航空魔導士の集団に向けて放った。

 他の連隊や旅団も同様に砲撃術式を展開しており、放ったのも同時であった。その結果は凄まじく、大爆発が巻き起こって大多数のギーダ公国軍の航空魔導士は雨のように地上へと落ちていく。どうやら女が来ると思って侮っていたらしく、防御術式も張っていなかったようだ。

 

「アッハッハッハッ! まるでゴミのようだよ!」

 

「あいつ等、防御術式すら張ってないのか!?」

 

 フラーチェが大量に落ちていく敵航空魔導士を見て笑い声を上げる中、ターニャは防御術式すら張らないギーダ公国軍の航空魔導士に呆れる。

 

「よし、貴様ら新兵共はそこから援護射撃だ! 我々は敵の軍事顧問を()る!」

 

 半数以上を撃破したが、まだ半分が残っているので、アーデらは新米らに援護射撃をさせ、自分はベテランを率いて敵の軍事顧問の対処に当たる。

 ギーダ公国軍は航空魔導士に疎いので、リップシュタット連合から軍事顧問が派遣されているはずなのだ。それを察知して熟練の航空魔導士たちは敵軍に突撃し、軍事顧問の見つけ次第、排除するのだ。

 

「さぁて、奴さんらの先生たちに挨拶に行こうかね!」

 

 フェリーチェは自分の得物であるMG3汎用機関銃を抱え、笑みを浮かべながら敵陣に突撃する。

 それと同時に砲撃が始まったのか、先に地上で虐殺が始まっていた。空も同じく虐殺が始まった。ギーダ公国軍の航空魔導士は熟練の魔導士に容易く撃ち殺され、蠅のように次々と地上へ落ちていく。そこにターニャら新米魔導士らの援護射撃が加わり、更に死んでいく。

 

「わぁぁぁ! やだぁぁぁ!!」

 

「クソっ、貴様ら本当に男か!?」

 

 一方的に殺され、今度は自分が殺されると思ったギーダ公国軍の航空魔導士は逃げ始める。それを見て軍事顧問の航空魔導士は苛立ち、敵前逃亡者を殺害して戦線に押し止めようとするが、全く意味をなさず、戦力を減らすばかりだ。

 それに軍事顧問は優先的に狙われる。イヴ人の熟練魔導士の魔の手が迫ったのだ。

 

「敵魔導士だ! ギーダの連中を盾にして応戦しろ!!」

 

「やぁ、先生方。さっきの挨拶じゃまだ物足りなくてね! 鉛玉をたっぷりと味わいな!!」

 

「バーバ・ヤーガ!?」

 

 全く使えないギーダ公国軍の航空魔導士を盾にして自分らだけ逃げようとする軍事顧問らに、フェリーチェは挨拶しながらMG3の弾幕を浴びせる。

 瞬く間に数十人のギーダ公国軍の魔導士らが碌な防御術式すら展開することが出来ずに落ちていく中、軍事顧問らは防御術式を展開して防ぐ。迫るフェリーチェの姿を見て、軍事顧問らは彼女の渾名を叫びながら驚く。同時に防御術式を展開していた。

 

「じょ、冗談じゃない! バーバ・ヤーガがなんでイヴ人共の中に居るんだ!? 俺は死にたくない!」

 

「この人数では敵わん! ギーダの奴らをぶつけて、ポラニア軍の方へ逃げるぞ!」

 

 フェリーチェを見た軍事顧問らは彼女の恐ろしさを知ってか、今の戦力では敵わないと言い訳を付け、ギーダ公国軍の魔導士らを大量にぶつけて自分らだけ逃げ始めた。

 

「あっ!? こらっ! 逃げるんじゃないよ!!」

 

 自分を見て一目散に逃げる軍事顧問らを追おうとするが、ヤケクソになったギーダ公国軍の魔導士に阻まれ、追撃できなかった。

 それにこの世界の航空魔導士を逃がす訳には行かない。軍事顧問や別世界の兵士や魔導士は別に逃がしても、友軍の所へ帰るが、彼らより装備や訓練を受けた現地の航空魔導士を逃がせば、彼らはその装備を使って盗賊行為を働くことだろう。

 故に逃がす訳には行かないのだ。軍事顧問を逃がしたターニャが属する第1航空魔導士師団は掃討戦に移行する。

 

「現地の航空魔導士らは一人も逃すな! 逃せば厄介なことになる! 皆殺しにしろ!!」

 

 一気に十数人を殺傷したアーデは、G36A突撃銃の再装填を済ませてから掃討命令を出す。それに応じ、ターニャは目に見えるギーダ公国軍の魔導士を殺し続けた。

 それにより制空権は確保され、帝国再建委員会の爆撃隊が出撃し、陸軍の南方軍集団に蹂躙されたギーダ公国軍に更なる打撃を与え、壊滅状態にする。敵は完全に戦意を喪失した。

 囮となるはずであったギーダ公国軍の壊滅の影響は、南方軍集団を背後から突くはずであったポラニア軍に直ぐに現れた。なんたって南方軍集団の殆どを引き付けてくれるギーダ公国軍が壊滅したのだ。そればかりか機動兵器を装備した増援まで来て、ポラニア軍五十万に襲い掛かる。

 

「閣下、敵の数が多すぎます! 敵機動兵器も多数捕捉! 奴らは一体どこへ!?」

 

「馬鹿な…! 機動兵器を装備した二百万の大群だぞ!? 通常兵器しか持たぬ軍集団も手を焼くほどなのに…! クソっ! 馬鹿にも程がある! あれだけ援助してやって、この様か!!」

 

 副官が囮を務めるギーダ公国軍が居ないことに戸惑う中、元帥は人型兵器を持っても役に立たないギーダ公国に苛立つ。それから撤退の指示を出した。

 

「撤退だ! 直ちに撤退しろ! 現地の馬鹿共と一緒に心中できるか!!」

 

 この腹立たし気に放たれた指示に、誰も逆らうことは無かった。ポラニア軍はお手本通りの見事な撤退を行い、南方軍集団の追撃より微少の損害で自軍の領内へと撤退した。

 ギーダ公国軍全てを壊滅させた帝国再建委員会であるが、リップシュタット連合からすれば、大した損害では無かった。むしろ競争相手が減って喜んでいる始末である。

 連合では陸軍最強とも言えるポラニア軍の醜態に、ガリア軍のダモン元帥、ヨーク軍のヨーク王国女王、現地では大帝国と言えるムジリ帝国を含めた各連合参加勢力は嘲笑い、立場を盟主よりも上に行くべく、自ら軍を率いて出陣した。

 兵力数は合わせて九百七十万。四倍以上の兵力差を持って、機動兵器の増援を受けて進撃を続ける南方軍集団を迎え撃つ。だが、その足並みはバラバラであった。




この連合、バラバラ過ぎる!

次回から募集キャラ(航空魔導士限定)が登場します。


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味方に踏み潰される騎士

名前:フォルモント・フォン・ヴェルトラオム
年齢:23
階級:少尉
所属:第一航空魔導師師団第5大隊
武器:G36A突撃銃
対地攻撃においては一部を除いて最高クラスの男装の麗人。高速戦闘が得意。
キャラ提供はただのおじさんさん

名前:エリカ・グラーフィン・フォン・ホルシュタイン
年齢:22歳
階級:中尉
所属:空軍第1航空魔導士師団隷下高速選抜中隊中隊長。
武器:H&K HK417A2-20。弾倉はH&K HK21用の50連発ドラム弾倉を使用。銃の下部にH&K AG36を装着している(と言うよりこっちがメイン武器。)。また、側面にレールを介して三十年式銃剣を着剣している。
無音の通り魔の異名を持つ航空魔導士。速過ぎてか、選抜中隊に入れられた。変なヘルメットを被っている。
中隊と言っても、六人くらいしかいない。

名前:ヴィルヘルミーナ・ブリュンヒルト・ニュルンベルク・インノゲール・フォン・ビスマルク・シェーンハウゼン
年齢:118歳
階級:少佐
所属:空軍第1航空魔導士師団、航空魔導第1連隊、航空魔導第1大隊大隊長。
武器:HK416突撃銃、パンツァーファストⅢ対戦車火器2発。柄付集束爆風手榴弾2発。戦利品の打刀1振り。
名前が長い人。愛称はヴィシェ。
彼女も航空魔導士である。一撃離脱戦法が得意。
年齢が合わないので、変えさせてもらいました。
キャラ提供はGー20さん

名前:フォルカ
・ラーティ
年齢:21
階級:少尉

所属:第一航空魔導師師団第5大隊

武器:G36A突撃銃、銃剣、パンツァーファストⅢ対戦車火器×2
イヴ人としては珍しい貧乳。本人は物凄く気にしている。格闘戦が得意。
キャラ提供は団子狐さん

名前:アルフィン・テオドール
性別:女性
年齢:22
階級:中尉
所属:帝国再建委員会 第一航空魔導士師団第6大隊
武器:HK416 対戦車火器パンツァーファウストⅢ及び同弾頭2発 手榴弾2発 コンバットナイフ
ボーイッシュな外見の俺っ娘。性格は考えるよりも先に身体が動くタイプ。
キャラ提供はスノーマンさん


 四倍の兵力差を持って迎え撃ちに来たリップシュタット連合に対し、ターニャが指揮下に入っている南方軍集団は電子戦を仕掛けた。

 四倍以上の戦力差のある敵に対し、帝国再建委員会の陸軍南方軍集団は迎撃してくる連合軍の中で最も数が多いムジリ帝国が電子戦装備を持っていない知り、帝国に味方を攻撃させるのであった。

 攻撃させるのは主力軍の殆どがワルキューレのヨーク軍とガリア軍。ムジリ帝国にヨーク軍やガリア軍を帝国再建委員会に見えるように仕向けるのだ。

 直ちに南方軍集団の電子戦部隊が実行に移す中、リップシュタット連合内で最も正規軍らしいガリア軍が、南方軍集団の側面を突こうと迫っていた。

 

 

 

「偵察隊より報告! 敵残党軍はムジリ帝国に集中しているようで、我がガリア軍に気付く気配なし!」

 

「ブッハッハッ! 神聖百合帝国だか帝国再建委員会だか知らんが、所詮は敗残兵やテロリストの集まり! 我ら正規軍の敵ではない! 直ちに先祖共の後を追わせてやれぇ!!」

 

 偵察隊からの報告で、レセップス級陸上戦艦を旗艦とするガリア遠征軍二百万は、南方軍集団の側面より攻撃を仕掛けた。

 ガリア遠征軍の指揮官であるゲオルグ・ダモンは、帝国再建委員会を敗残兵やテロリストの集まりと卑下しており、かなり侮っているようだ。彼の指示でMSのネモやヌーベル・ジムⅢ、ヘリオン陸戦型、アームスレイブのミストラル2、戦術機のF5ミラージュ2000、Fー16ファイティングファルコンを含めた冷戦下のフランス軍機甲部隊が前進を始める。

 上空では多数のミラージュ2000戦闘機とその戦闘爆撃機型が南方軍集団に向けて飛んでいく。その中にはバルキリーのVF-5000ミラージュやVF-7シルフィードも混ざっている。

 航空魔導士も居るが、戦闘ヘリや発展した航空機、バルキリーも居る所為か余り多くない。軽戦闘機として扱われている可変戦闘機のVF-8ローガンと共に戦列に組み込まれた。いずれにせよ、その数は投入された帝国再建委員会の航空魔導士を上回っていた。

 

「敵部隊接近! 今度は的じゃないぞ! 正規兵だ!!」

 

 ガリア軍の接近を知ったアーデが叫べば、中隊の者たちは迎撃配置に着く。他の中隊どころか、連隊単位で動いていた。

 楽な戦闘と思いきや、正規軍との戦闘になったことにターニャは危機感を覚える。的のような現地徴用兵を相手にすると思っていたのだ。これでは必死で戦うしかない。

 

「相手が正規軍なら、この装備で敵うかどうか分らんぞ…! 存在Xのクソったれめ!!」

 

 自分に正規軍を差し向けた存在Xに悪態を付きながら、迎撃配置に着いて向かって来る敵の大群に備える。

 空軍の他の部隊も動いており、戦闘機やバルキリーと共に、空戦型のモリビトが編隊を組み、ガリア空軍の大群と戦闘を開始する。ターニャら航空魔導士の方には、同じ航空魔導士と軽戦闘機のVF-8ローガンの大群が迫る。

 数は当たり前ながら四倍以上の数だ。電子戦で敵のムジリ帝国が友軍を誤認して攻撃するまで耐えきる必要がある。

 

「敵が退くまで耐えろ! 奴らは正規兵だが、実戦経験は無いはずだ! 数の多さは経験で補え!!」

 

「良く言う。さて、熟練兵は居ないだろうな…!」

 

 緊張する部下たちに対し、アーデは先の経験を生かせと告げる。これにターニャは文句を言いつつ、熟練兵が来ないことを祈った。

 

「砲撃術式の一斉射を確認! 各自散会せよ!!」

 

 数秒後にガリア軍の航空魔導士の爆裂術式による一斉射が来る。火力は前世のターニャ以上の威力だ。これを防げないと判断してか、大隊長は散会を命じて躱し切る。何名か出遅れ、爆裂術式を浴びて死亡する。初の戦死者に新兵らが動揺を覚える中、熟練の魔導士らは敵を迎え撃てと叫ぶ。

 

「狼狽えるな! 迎え撃つんだ!!」

 

 その叫びと共に敵航空魔導士の大群が迫った。これに熟練の航空魔導士らは迎え撃ち、交戦を開始する。

 第5大隊に属する熟練の魔導士の一人であるフォルモント・フォン・ヴェルトラオム少尉は、向かって来る一人をG36A突撃銃を乱射して撃破しつつ、高速で動き回って敵の攻撃を躱す。

 

「航空魔導士同士との戦闘は、苦手なんだよな!」

 

 悪態を付きつつも敵の攻撃を躱しつつ、フォルモントは敵魔導士を確実に一人ずつ仕留めていた。

 

「は、速い!?」

 

「あ、あいつは!?」

 

 凄まじい速さで迫り、数名の魔導士を衝撃波だけで仕留め、ガウォーク形態でガンポッドを撃っていたVF-8を吹き飛ばしたイヴ人の魔導士に、ガリア軍の航空魔導士らは動揺する。

 

「まさか、無音の通り魔!? あいつ、イヴ人共のテロリストだったのか!?」

 

 高速で迫る航空魔導士に、ガリア軍の魔導士はその異名を叫ぶ。

 持っているHK417にドラムマガジンを付け、銃身には専用のグレネードランチャーを装備し、高速戦闘をするために奇妙なヘルメットを被っている航空魔導士の名は、エリカ・グラーフィン・フォン・ホルシュタイン中尉だ。余りに速過ぎてか、中隊とは名ばかりの高速機動が出来る魔導士のみで編成された六人の部隊長をしている。もっとも、全員が単独で戦闘しているが。

 

「うわぁぁぁ!?」

 

 凄まじい速度で迫るエリカに恐怖し、標的にされたVF-8ローガンに乗るパイロットはガンポッドを乱射するが、全く当たらず、そのまま銃身に取り付けたグレネードランチャーを撃ち込まれて撃墜される。

 敵に包囲されることを恐れてか、エリカは直ぐに移動する。敵は速過ぎて彼女を追撃することは叶わなかった。

 

「大隊、一斉射!」

 

 高速機動を取る魔導士に動揺するガリア軍の魔導士に対し、第1大隊の指揮官であるヴィルヘルミーナ・ブリュンヒルト・ニュルンベルク・インノゲール・フォン・ビスマルク・シェーンハウゼン少佐は傘下の隊員らに砲撃術式による一斉射を命じる。

 大隊規模の砲撃術式は分散式であり、多数の敵魔導士とVF-8を撃破した。だが、数はまだ多いので、上方より攻撃してくる敵魔導士の集団を迎撃すべく、手にしているHK416突撃銃で迎撃を行う。他の大隊の隊員らも、同じ銃やG36A突撃銃で迎撃する。

 

「あれ、何を食べたらあんなに大きくなるの?」

 

「目前に敵!」

 

「気にする暇もないの!?」

 

 アーデの胸に気を取られている第5大隊のフォルカ・ラーティ少尉は中隊長の声で直ぐに戦闘態勢へと戻り、集団戦法で襲い掛かる敵魔導士と交戦を始める。

 焦っているように見えてフォルカは冷静であり、ブルパップ式突撃銃であるFAMAS(ファマス)を持って突撃して来たガリア軍の航空魔導士の攻撃を躱し、背後に着いたところで手にしているG36A突撃銃を撃ちこんで撃破する。

 

「鳥人間擬きでも機動兵器は機動兵器だ! 援護してくれ!!」

 

 ターニャと同じ第6大隊に属するボーイッシュな外見を持つ金髪のウルフカットのアルフィン・テオドール中尉は、VF-8を仕留めるために部下に援護を命じて単独で突撃した。

 援護射撃を受け、VF-8の注意がそちらに向く中、アルフィンは邪魔な敵魔導士をコンバットナイフで切り裂いて撃破してから懐へと接近し、間近でHK416突撃銃をキャノピーに向かって撃ち込む。放った弾は魔力を込めており、キャノピーを容易く貫通して乗っているパイロットを殺す。VF-8を無力化したアルフィンは直ぐに離れれば、パイロットが死んだVF-8は地面へと墜落していく。

 四倍の戦力を相手にしても、帝国再建委員会の航空魔導士は奮戦したが、ガリア軍の数の優位は変わりなく、徐々に押され始める。

 

「なんて数だい!? あの国にこんな戦力があるのかね!」

 

 MG3汎用機関銃を連射して複数の敵魔導士や二機のVF-8を撃破したフェリーチェは、ガリア軍にこれ程の戦力があることに驚きの声を上げる。

 

「殆どワルキューレの雇われ兵だろ! とにかく落としまくって、奴らを後退させるんだ!!」

 

 VF-8に取り付き、何処かの騎士か兵士、冒険者より奪った剣でキャノピーを突き刺して乗っているパイロットを突き殺したアーデは、ガリア軍の差ほどはワルキューレの雇われ兵だと告げ、後退させるほどの損害を与えろと叫ぶ。

 

「フランソワのマイナーチェンジな演算宝珠とロボテックのローガンか! VF-1が来ないだけマシか! クソったれめ!!」

 

 部下に死角を守らせ、数十人の魔導士とVF-8一機を撃破したターニャは、悪態を付きながら次々と襲来する敵の迎撃に当たる。

 時間が経つごとに味方の損害も増えつつあり、今回の戦争が初陣である帝国再建委員会の航空魔導士の脱落者も増える一方だ。数で押されつつあるターニャは、速くムジリ帝国に味方を攻撃させる準備が整わないかと嘆いた。

 

「まだか!? こちらはもう持たんぞ!!」

 

 そう叫びつつ、ターニャは次々と出て来る敵に分散式砲撃術式を行い、迎撃に勤しんだ。

 地上でも大多数のガリア陸軍の機甲部隊が迫っており、先行する多数のA129マングスタ戦闘ヘリや戦術機のF5ミラージュ2000、F16の集団が側面に展開した部隊に襲い掛かり、帝国再建委員会と砲火をを交える。

 だが、ガリア軍の練度が低いのか、戦車や歩兵の対戦車ミサイルで撃破される機も多かった。それでも続々と戦車や歩兵戦闘車、装甲車などが押し寄せ、更にはMSやASの大群も押し寄せて来る。

 

「どれだけ多いの!? これ、耐え切れる自信が無いんだけど!」

 

 人機の量産型モリビトH型に乗るアマガネは、得意の人機用の棒で迫りくる戦術機やMSを片付けつつ、敵の大群に耐え切れないと嘆く。腕の立つ操主である彼女でも、この数の相手は骨が折れるようだ。

 

「叩いても、叩いても出て来る! 無限湧きって奴!?」

 

 レオパルド2A7主力戦車に乗るアンナも、キューボラの覗き穴より見える撃破しても湧き水の如く出て来るAMX-30D主力戦車やAMX-10P歩兵戦闘車に、戦力差を痛感する。

 

「とにかく敵に押し止めろ! “友軍”が連中の背後を攻撃するまでな!」

 

 大多数の敵に配下を含めた他の兵士たちが弱音を吐く中、カヤは電子戦が成功するまで持ち堪えろと告げる。

 怒涛の如く押し寄せるガリア軍百二十万と対峙する南方軍集団の側面に展開する兵力は三十万であり、これで持たせろと言うのは無茶な話だ。数で押され、徐々に軍集団方面へとガリア軍が食い込んできている。突破されるのは時間の問題であろう。それでも側面に展開する軍は良く耐え、ガリア遠征軍の司令官であるダモン元帥を苛立たせている。

 

「えぇい、たかが敗残兵とテロ集団風情に何をしておるか!?」

 

「情報とは違い過ぎます! もしかすれば、正規軍である可能性が…!」

 

「帝国再建委員会と名乗るテロリスト共が正規軍だと!? ふざけるでないわ!!」

 

 ガリア軍の本陣にて、三十万の防衛線を四倍以上の戦力を持つのに突破できない自軍に苛立つダモンに、参謀は敵が正規軍であると告げる。これにダモンは更に苛立ち、更なる増員をするように告げる。

 

「二十万を増員しろぉ! そのまま数で捻り潰すのだ!!」

 

 この指示に応じ、追加の二十万が前線へと向かい始める。側面軍は更なる負担を強いられた。

 

「せ、戦闘爆撃機が!?」

 

「あんな物の軍集団の側面に向かわせたら、大変なことになるぞ! 止めるんだ!!」

 

 損耗する戦闘機やバルキリーを他所に、ミラージュ2000戦闘爆撃機の集団が南方軍集団に襲い掛かろうと降下を始めた。

 多数の戦闘機やバルキリーの対処に追われ、空軍の戦闘機やバルキリー、空戦型モリビトは向かえなかったので、ターニャは部下の一人の叫びで気付き、単独で戦闘爆撃機の集団の対処に当たる。

 使う術式は前世で爆撃機の編隊を壊滅させた時に使用したエレ二ウム九五式を使った分散式爆裂術式。ターニャは慌てる余りうっかりと詠唱してしまい、言いたくもない神に対する感謝の言葉を述べてしまった。

 

「主よ、我が友らを焼き払わんとする戦闘爆撃機(ヤーボ)共に鉄槌を!!」

 

 その言葉と共に分散式爆裂術式を使えば、前世の時よりも威力が増した魔弾が飛んでいき、前世では捕えきれないであろうミラージュ2000の編隊ごと撃墜する。何機か生き延びていたが、軍集団の対空砲火にやられてしまうと判断してか、本陣に戻っていく。

 

「クソっ、言わせよって!」

 

 逃げていく戦闘爆撃機に八つ当たりし、更に二機を撃墜した。これが敵の注意を引いてしまったのか、VF-5000ミラージュの編隊がターニャに襲い掛かって来る。

 

「なんでバルキリーが来るんだ!?」

 

 四機のバルキリーの襲来に、ターニャは分が悪いと判断してか、掃射されるガンポッドを躱しながら逃げ回った。

 その間にもムジリ帝国に対する電子戦は成功し、友軍を敵軍だと誤認した帝国軍六百万は攻撃を開始した。

 

 

 

 時はターニャが四機のVF-5000に追い回されている頃、多数の地上戦艦と機動兵器を有するムジリ帝国は、ギーダ公国とは違ってレーダーなどの装備が供与されていたが、それに対する訓練は殆ど行われていない為、全く使いこなせていない。電子戦を仕掛けられれば、容易くムジリ帝国軍は味方を攻撃する事だろう。

 

「このレーダーと言う物があれば、敵の位置は丸分かりよ! 余の六百万の兵が、女共の軍隊を蹂躙するのだァ! ハッハッハッ!!」

 

 長距離レーダーで見える反応を見て、数で大きく勝るムジリ帝国の皇帝は帝国再建委員会に勝てると思っているようだ。後にギーダ公国と同じような結果に陥るとは、思っても居ない。

 既に電子戦を仕掛けられているとは気付かず、機動兵器を装備した大群を持って真正面から前進する中、南方軍集団が出撃させた少数の部隊がヨーク軍が居る東方から攻撃を行い、ムジリ帝国軍を混乱させた。

 

「っ!? 東方より攻撃であります!」

 

「な、何ッ! ヨークの女共が裏切ったのか!?」

 

 東方より攻撃を受け、ムジリ帝国の皇帝は混乱する。更に西方に潜んでいる部隊も攻撃し、直ぐに東方の部隊と共に本隊へと逃げ込む。西方からも攻撃を受けたムジリ帝国軍は更に混乱する。

 

「西方からも攻撃です!」

 

「な、何ッ!? レーダーには何の反応が…! ぬわっ!? 敵が我が軍を包囲せんとしているぞ!!」

 

「そ、そんなはずは…!?」

 

 西方からの攻撃で動揺する皇帝に、恐慌状態に陥る事態が発生する。レーダーに反応する友軍のヨーク軍とガリア軍の緑が赤に変わったのだ。これを見た皇帝は冷静さを失い、恐慌状態に陥る。帝国再建委員会の電子戦による物とも知らずに。

 部下は間違いであると言うが、今の皇帝の耳にはそれは届かなかった。返ってきた言葉は、レーダーに反応する赤を全て攻撃せよである。

 

「何かの間違いでは?」

 

「だ、黙れ! このレーダーと言う機械は神の如く正確な物なのだ! 余はそう聞いてよそ者共に高い金を払って幾つかの領地も差し出したのだぞ!? とにかく敵だ! 赤く光る物は敵だ! 撃つのだ! 撃てッ!!」

 

 この錯乱した皇帝に逆らえば、自分の首が飛ぶかもしれぬと判断した臣下たちは命令を実行した。

 その命令に応じ、ムジリ帝国軍の砲撃用MSのドラゴス多数や地上戦艦の主砲が東方に展開するヨーク軍と西方に展開するガリア軍を砲撃した。多数の砲撃用MSと地上戦艦による砲撃は凄まじく、友軍からの砲撃を警戒していないヨーク軍とガリア軍に多大なる損害を与えた。

 

「な、何事だ!?」

 

「友軍からの砲撃です! ムジリ帝国からです!!」

 

「ご、誤爆か!? 友軍認識装置が働いているはずだぞ!? 直ちに止めるように連絡しろ!」

 

 ムジリ帝国からの砲撃を受けたダモンは、無線連絡をして直ちに止めさせるように告げるが、ムジリ帝国軍は無線機を装備してなかった。それどころか、無線機の扱い方を知らない。電子戦によって連合が念のために入れていた友軍認識装置は、切れてしまったようだ。

 

「無理です! 連中、無線機の使い方を全く理解しておりません!」

 

「な、なぬぅーっ!? 攻撃隊を呼び戻せ! 直ぐにこの場から移動だァ!!」

 

 ムジリ帝国が無線機が使えないことを知らせれば、ダモンは攻撃隊を呼び戻し、その場からの移動を慌てながら命じた。それに合わせ、南方軍集団の側面を攻撃していた攻撃軍は後退し始める。

 ヨーク軍は被害が大き過ぎたのか、南方軍集団の展開している位置まで白旗を上げて来る。このままでは味方に殺されると判断したのだ。

 投降する敵兵らの対処に追われ、南方軍集団の攻撃は送れたが、空軍の爆撃隊とバルキリー隊による空襲は予定通り行われた。ムジリ帝国は空襲されるとは思っておらず、ミサイルを撃つだけで大混乱であった。航空魔導士も居るようだが、VF-19エクスカリバーやVF-25メサイア等の高性能バルキリーの相手では無かった。それに爆撃が加われば、どうなるか想像はつくだろう。

 

「こ、航空魔導士共は何をしておるのだぁ!?」

 

「空の機械獣に蹂躙されております! 対空砲を撃とうにも、航空魔導士が居て撃てませぬ!!」

 

「やかましい! 空の機械獣を片付けられぬ魔導士など要らぬわ! 纏めて殺されてしまえ!!」

 

 高性能バルキリーに撃ち落とされまくる自軍の航空魔導士に苛立つムジリ皇帝は、味方ごと対空砲で撃つように命じる。断れば、首を飛ばされかねないので、部下たちは逃げ惑う自軍の航空魔導仕ごと地上戦艦の対空砲や供与されたボフォース40ミリ機関砲で対空砲火を行う。

 無論、高速で飛び回るバルキリーに当たるはずが無く、逆に味方の魔導士を殺すだけで、挙句に爆撃機の安全の為に破壊されるばかりであった。対空設備をあるていど破壊すれば、バルキリーは引き上げる。後は爆撃機の出番だ。

 

「敵機械獣、退いて行きます!」

 

「どうだ!? 余の軍の前に…」

 

「い、いえ! 謎の編隊が接近中! で、デカい!? なんて大きさだ!」

 

 去ったと思ったら恐ろしい脅威が迫って来たので、ムジリ帝国軍は恐怖する。

 襲来した爆撃機はB-36やB-52と言った大型級であり、数は一個大隊で爆撃編隊を取っている。無論、この爆撃を受ければ悍ましいことになるだろう。直ぐに対空砲火を行うが、設備はバルキリーに破壊されまくったので、爆撃機には蚊ほどにもならない。直ぐにムジリ帝国軍六百万に爆弾の雨が降り注がれた。

 無数の2000ポンド爆弾の雨は密集していた六百万を吹き飛ばした。数十分にも及ぶ爆撃により、地上戦艦や機動兵器を吹き飛ばす。歩兵は言わずもかな、爆風や破片で死んでいた。その被害は全軍の半数以上に渡る。

 

「て、敵軍が…!?」

 

 阿鼻叫喚の地獄な上に総崩れなムジリ帝国軍に、遅れて攻撃してきた南方軍集団の主力が襲い掛かる。

 十分もの事前砲撃で更に戦力を削られ、それが終われば陸戦部隊による蹂躙が始まる。ムジリ帝国軍は真面に反撃できず、高機動型陸戦ザク、リーオー、ドラゴス、72式の大群は押し寄せる戦車や歩兵戦闘車に蹂躙されるだけだ。

 

「な、何故だ!? なぜ我々が蹂躙されているのだ!? 蹂躙されるのは彼奴等の方であろう!?」

 

「み、味方は総崩れです! もはや我先へと逃げ出し始めております! 皇帝陛下、撤退のご指示を!!」

 

 正気を失った皇帝に、部下は撤退の指示を請う。これを聞いて皇帝は正気に戻ってか、直ぐに逃げるように指示を出す。

 

「撤退だ…! 撤退するのだァ! このままでは余は女たちに八つ裂きにされてしまう!! 急ぐのだァ!!」

 

 指示に応じ、皇帝の旗艦は自分だけ我先へと逃げ出し始めた。無線機が使えない所為で真面に撤退の指示が届いていないのか、殆どの将兵は逃げ遅れて帝国再建委員会の追撃で撃破されていた。地上戦艦も主砲を撃つことなく、ティーガー戦闘ヘリのミサイル攻撃で撃破される。

 ムジリ帝国軍は兵力六百万の内、四百万以上を喪失したが、地上戦艦や機動兵器と言った重装備はまだ残っている。取り残されたのは、歩兵ばかりで、直ぐに追いつかれて戦車や歩兵戦闘車、随伴歩兵らに虐殺された。逃げ遅れた味方を助けず、我先へと逃げるムジリ帝国軍の退路に、アガサ騎士団の連隊の防衛線が立ち塞がる。

 

「な、なんだあの布陣は!? あれも敵か!?」

 

「いえ、レーダーは緑の反応を示しておられまする! アガサ騎士団のラルスキー連隊で、防御の布陣を取っておると聞いております!」

 

 退路に防衛線を構築しているアガサ騎士団の連隊に、皇帝は何だと怒鳴り散らせば、部下は味方の物であると言うが、自分の退却を邪魔する騎士団に皇帝は苛立つ。

 

「余の退路を塞ぐとはけしからん! 吹き飛ばしてしまえ!!」

 

「お、お止め下さい! あれは盟主の軍ですぞ! 攻撃すれば我がムジリ帝国は…!」

 

「煩いぞ! 余を守らず、その退路を塞ぐような連中など味方ではないわ! 敵だ!!」

 

 この状態では何を言っても無駄と判断してか、部下らは味方に砲撃するように命じたが、アガサ騎士団の連隊には電子戦が仕掛けられていないのか、友軍認識装置は働かず、ムジリ帝国軍の火砲は撃てなかった。

 

「う、撃てないようです!」

 

「なんだと!? ならば踏み潰してしまえ! 余の退却を邪魔するような奴らなど、踏み潰してしまうのだ! 全力で行けッ!!」

 

 錯乱した皇帝の異常な指示に、部下たちは従うしか生きる術は無く、それを実行しようと操艦手に全速前進を命じた。

 

『止まれ、ムジリ帝国の軍よ! ここからはアガサ騎士団のラルスキー連隊の防衛線である! 直ちに停止するか迂回し、その場で再編の後、前線に戻られたし!!』

 

 当然、防衛線を構築中であるアガサ騎士団の連隊より、停止命令が出される。拡声器を使って停止するか迂回するように指示を出すが、今のムジリ帝国には聞こえていない。

 

「連隊長殿! ムジリ帝国の奴ら、止まるどころかこっちへ猪の如く突っ込んできます!!」

 

「な、なんだと!? 伝令を生かせて直接伝えるのだ!」

 

 即座に連隊本部に報告され、連隊長は伝令にムジリ帝国軍の旗艦まで向かわせ、止まるか迂回するように告げるが、聞く耳を持たない。挙句に速度を上げるばかりであった。

 

『聞こえんのか臆病者共! 止まるか迂回せぬか!!』

 

 近付いたグレイズに乗る伝令が罵声染みた指示を出すが、指示に応じる者はおらず、ムジリ帝国軍の地上戦艦の艦隊はそのまま連隊が構築した防衛線を踏み潰した。

 

 

 

 突如となく押し寄せた味方の地上戦艦や人型兵器の大群に騎士たちは踏み潰され、駐機されているグレイズ、ゲイレール、バーザム、グフも設備と共に轢かれた。雇われ兵のワルキューレの部隊やエルフにドワーフも同様の被害を受けており、散り散りに逃げ始めた。

 

「危ない!」

 

「きゃっ!?」

 

 帝国再建委員会の長距離偵察隊に自分らのことを話していた兵士はこの連隊の所属だったのか、見習騎士の栗毛の少女を突き飛ばし、身を挺して彼女を踏み潰さんと走る高機動型陸戦ザクより守った。無論、その兵士は踏み潰されてしまう。

 彼より身を挺して守られた少女はそこに蹲り、ムジリ帝国の機械の巨人の大群が過ぎ去るのを震えながら待った。数分後、味方を踏み潰してでも敗走するムジリ帝国軍は首都の帝都へ逃げ込んだのか、全て通り過ぎていた。生き延びた者は半数以上いたが、戦闘など出来る状態では無かった。そればかりか、人数合わせに雇い入れたワルキューレの将兵等とエルフやドワーフは逃げていた。

 雇われ兵たちが勝手に逃げ出す中、少女は先輩を探して一人この地獄絵図の中をさまよう。

 自分より上の騎士等は全て轢き殺されるか踏み潰されており、誰を頼りにして良いのか少女には分からない。そこに、利き腕を潰された騎士がまだ息をしていた。少女は直ぐに寄り添い、付近の散乱した医療箱を取って適切な治療をしてから声を掛ける。

 

「あ、あの…! 騎士殿…! まだ生きておられますか…!?」

 

「ん…? わ、若過ぎるな…年齢からして、騎士見習いなのか…?」

 

「は、はい! 騎士となるため、前線での見学をしようとここへ参りました! ルージーと申します!」

 

 治療を受け、声を掛けられて目を覚ました騎士は、騎士見習いのルージーを見て驚く。これにルージーは自己紹介を行えば、騎士も自分の名を告げる。

 

「ルージーか、俺はルジリアン・ルセンダーだ。俺と似たような名前だな。それより、我がアガサ騎士団ラルスキー連隊は味方に踏み潰されたようだな。まだ生きている者は居るか?」

 

「みんなも私の同期も死んでるご様子で…雇われ兵たちはみんな逃げてしまって…!」

 

「もういい、これ以上聞けば死んでしまいそうだ。クソっ、あのイヴ人の魔導士共は、俺たちを殺したりしないだろうな…!?」

 

 ルージーより状況が最悪と聞いたルジリアンは、先行して偵察に来た帝国再建委員会の魔導士を見て、不安な気持ちになり始める。

 二人の前に降りた航空魔導士は、ターニャ・デグレチャフであった。二名の前に降り立ったターニャは直ぐに本部へ報告し、もしもの時に備え、持っているG36A突撃銃の安全装置を外して近付く。

 近付いて来るターニャに二名は驚いたが、ルージーは敵であると判断して偶然にも近くに落ちてある剣を拾い、その剣先を向ける。両足も剣を構える手を震えており、ターニャは持っているプラスチックが多用されているライフルの銃口を向ける。

 

「待て…! 貴官らの軍に投降したい…!」

 

 抵抗したのなれば、二人とも殺されるだろうと思ってか、ルジリアンは痛む身体で起き上がり、残った左手でルージーから剣を取り上げて捨て、ターニャに投降したいと言った。

 これにルージーが睨み付ける中、ルジリアンはガントレットの紐を口で解き、それを地面に一旦落としてから拾い上げ、ターニャに手渡す。相手に外したガントレットを渡す行為とは、騎士が降伏したと言う印である。これを手に取ったターニャは、本部に報告してから二名を捕虜にする。

 

「こちらフェアリー12、二名の捕虜を確保。護送車を要請する」




爆破は次回に持ち越しです。

次回もまた募集キャラが登場予定です。


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我が君主はアルゴン王なり

版権キャラ

フュカリタ・モーラー
シェイファー・ハウンドに登場するドイツ空軍の中尉。
こちらでは第1航空艦隊所属で階級は大尉。搭乗機もバルキリーのVF-25Sメサイアになっている。
搭乗機はVF-25(空軍仕様)Sメサイア

オリキャラ

コンラート・ブーツホルツ
ミッシングリンク隊に属するパイロット。階級は大尉
同隊のバルキリー部隊の隊長であり、かなりの撃墜数を持っているエースパイロット。無論、ベテランである。
搭乗機はVF-22SシュトゥルムフォーゲルⅡ。
外見のベースは大クラッシュ前のサイバーフォーミュラに登場するブーツホルツ。

ロー・スミス
ミッシングリンク隊の隊長。階級は大佐。
金髪とグラサンと言う怪しげな出で立ちの男。航空魔導士。
武器はSG550突撃銃。
外見のベースはサイバーフォーミュラに登場するスミス。

募集キャラ

名前:チェンバーレイン・リリウム
性別:女
年齢:17歳
階級:伍長
所属:帝国再建委員会 陸軍 第71歩兵師団 狙撃班
武器:MSG90狙撃銃&USP自動拳銃
普段は瓶底眼鏡やゴーグル等で目元を隠してる隠れ美人。実は転生者。
死体や死臭を感じなくて良いように、狙撃兵となった。
キャラ提供はkinonoさん。


 ターニャに投降し、捕虜となったルジリアンとルージーは南方軍集団の本部へと連れて来られていた。

 応急処置を施されたルジリアンは失った右手の代わりに左手で敬礼を行い、軍集団の指揮官に挨拶を行い、丁重に扱ってくれることに感謝の意を表す。

 

「利き手を失くしてしまい、左手で御免! 私はアガサ騎士団ラルスキー連隊のルジリアン・ルセンダーと申す者! 敵軍でありながら、我らに寛大な処置を施す軍集団指令殿に、連隊長に代わり感謝いたしまする!」

 

 この利き手を失っても騎士らしく振舞うルジリアンに敬意を表し、軍集団の指揮官も敬礼で返す。

 

「我々は正規軍ですので、捕虜の扱いは慎重に心掛けています」

 

「正規軍…? 我々は非正規軍だと聞かさせておりましたが、どうやらリップシュタット盟主の間違いのようですな」

 

「まぁ、彼らは認めたくないんですよ」

 

「そうでございますか」

 

 ルジリアンは帝国再建委員会が正規軍であると、上司より聞かされていなかったようだ。事実、帝国再建委員会は正規軍では無いが、一連の組織的軍事行動は正規軍並の練度であり、認めざる負えない程だ。

 

「それより、連隊長殿を含め、他の兄妹たちはおりまするか? それにこの騎士見習いのルージーの同期たちも」

 

 改めて帝国再建委員会を正規軍と認めたルジリアンは、他にもアガサ騎士団の捕虜が居るかどうかを、緊張して直立不動状態を取るルージーを見ながら問う。

 これに軍集団の指揮官は副官を呼び出し、捕虜のリストを持ってくるように指示を出す。数秒後に副官が捕虜の人数を記した書類を持って来れば、それを見て上司や同期が居るかどうかを確認する。

 

「連隊長は居ないようですね。そちらのお嬢さんの同期は何人かいますが」

 

「ラルスキー殿は生死不明か。私はこの世界の人々、守るべきかどうか迷っております」

 

 指揮官より上司の生死は確認できてないと言われれば、ルジリアンはこの世界の者たちを守るべきかどうか迷い始める。

 

「踏み潰されたからですか?」

 

「えぇ。私は守るべき民だと教えられましたが、その守るべき者たちに我々は殺されました。この世界、イヴ人たちに譲渡すべきだと思いますがな」

 

「ほぅ、我々に渡せな良いかと。とても騎士とは思えぬ発言ですね」

 

 理由を問えば、ルジリアンはこの世界をイヴ人に渡すべきだと返した。その発言に軍集団の指揮官は眉をひそめる。そんな時に、ムジリ帝国の帝都で何か起こったらしく、士官が報告してくる。

 

「ムジリ帝国の首都に黒煙を確認! 無人偵察機に確認に向かわせている所です!」

 

「何かあったようですね」

 

「もしかすれば、我が連隊の生き残りが仇討に乗り込んだのではないでしょうか」

 

「仇討に?」

 

 この報告に、ルジリアンは連隊の生き残りが仇討に向かったと苦にすれば、指揮官は疑問の声を上げる。

 

「上手くすれば、無血開城となります。我がアガサ騎士団の兄妹を信じてください」

 

「はぁ…?」

 

 仇討は必ず成功するとのルジリアンの言葉に、軍集団の指揮官と一同は鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべた。

 

 

 

 ムジリ帝国軍の退却で踏み潰されたアガサ騎士団の連隊の生き残りは、まだ動くグレイズに乗り、殺された兄弟たちの仇討ちをするために帝都に乗り込んでいた。

 向かって来るボロボロのMS数機に対し、ムジリ帝国軍は止めようとするが、手負いでも騎士が駆るグレイズは強く、一瞬で片付けられて皇帝が自棄酒を行う玉座の間へと突撃する。

 

「ぶ、無礼者め! ここが何処だか分かっているのか!? 余の城だぞ!!」

 

 グレイズで城を破壊し、玉座の間へと入って来たアガサ騎士団の騎士、それもラルスキーに皇帝は立ち上がって衛兵に武器を向けさせる。

 

「止まれ! 止まらんか!!」

 

 血塗れのラルスキーは既に息絶えた上半身だけが残った部下の遺体を担ぎ上げ、衛兵の静止の声を聴かずに皇帝の近くまで迫る。

 

「カジェロ、これが我々が守るべきこの世界の民だぞ…?」

 

「聞こえんのか!? ここは余の城であるぞ! 身分を弁えぬ者が!!」

 

 既に息絶えた部下に語り掛けながら、怒鳴り散らす皇帝へ向けてその部下を投げ付ける。

 

「ギヤァァァ!? な、何をするのだ!? 余を誰だと思っておる! ムジリ帝国の皇帝であるぞ!!」

 

 投げ付けられた死体に皇帝は転び、その死体を退けてから身分の違う自分に向け、無礼な態度を取るラルスキーに衛兵を差し向けた。

 衛兵らが持っている槍でラルスキーを突こうとするが、手負いの状態にも関わらず、連隊長は突きを躱して手近な距離に居る衛兵を持っていた剣で斬り殺した。それから自分の君主がアルゴン王であるとムジリ帝国の皇帝に告げる。

 

「我が君主はアルゴン王なり! 貴様のような皇帝とは名ばかりの蛮人ではない! 味方を踏み殺すような者など、我らが身を以て守るに値せず!!」

 

「クゥゥ! 何を言うかと思えば戯言を! この世に余より上の者は神の他に居ない! 衛兵共、奴を殺せ!!」

 

 自分らを殺すような者たちを守るに値しないと言うラルスキーに対し、皇帝は激怒して衛兵たちに殺すように命じた。

 入って来た大勢の衛兵に流石のラルスキーも対処できず、無数の槍に身体を貫かれた。凄まじい出血が始まる中、ラルスキーは最後の力を振り絞り、左手に持っていた何かのスイッチを押す。

 

「フン、余に無礼を働くからだ! こんな汚い物を投げ付けおって!」

 

 無数の衛兵の槍に突き刺されて死んだラルスキーに向け、皇帝は空の酒瓶を投げ付け、地面に転がる彼の部下の死体を蹴り付ける。

 その数秒後、ラススキーが死の間際に押したスイッチが作動してか、死体に仕掛けられた爆弾やグレイズが爆発し、玉座の間がある天守閣を丸ごと吹き飛ばした。

 

「爆発です!」

 

「あれが…!?」

 

「えぇ。どうやら、我が兄弟の誰かが仇を取ったようだ」

 

 爆発は南方軍集団の居る方向からも見えており、軍集団の者たちが驚く中、ルジリアンは帝都へ向けて頭を下げる。彼の言ったことが正しかったことに驚きながらも、軍集団の指揮官は直ちに出撃準備が済んでいる部隊を帝都に差し向け、制圧を命じる。

 皇帝や側近たち、将軍を失ったムジリ帝国軍の制圧は容易過ぎた。全く抵抗せず、貴族や兵士たちは守るべき民を見捨てて総本山であるベルンブルク領へと逃げたのだ。

 ルジリアンの言う通り、南方軍集団は無血開城で帝都に入れた。南方軍集団は抵抗しようとする者を排除し、帝都を軍集団本部に定め、戦力を更に拡大すべく、新たな増援の到着をそこで待つことにした。

 

 

 

 それから一週間後、東方、西方、南方のリップシュタット連合軍の防衛線は突破され、新たに出現した北方にも帝国再建委員会の侵攻軍が現れ、碌な戦力も無かった北方戦線は突破されて最後の砦たる広大な土地であるベルンブルク領までに迫る。

 四方から襲い掛かる総兵力数が九百万に膨れ上がった帝国再建委員会の侵攻軍に対し、リップシュタット連合は増援を呼び寄せることにして、ベルンブルク領内に留まる決断をする。

 戦力は低下していたが、まだリップシュタット連合には数の優位は保っていた。連合の参謀らは防戦が得策と判断し、留まる決断をしたのだ。それに増援も呼んでおり、圧倒的物量で四方から迫る帝国再建委員会の侵攻軍を各個撃破する計算だ。

 だが、それは帝国再建委員会のリーダーの挑発で崩れ去った。

 

「どうやら、リップシュタット盟主は反撃に出る様です」

 

「あの程度の挑発でか。騎士と言うのは、頭に血が上り易い奴ばかりなのか?」

 

 部下の報告で、SG550突撃銃の手入れを行っている金髪でグラサンと言う怪しい出で立ちの男、ミッシングリンク隊の隊長のロー・スミス大佐は、挑発されて反撃に出るリップシュタットに呆れる。

 

「出撃を断りますか? 連中は待ち伏せをしていると思われますが」

 

「出撃するとも。盟主殿の軍に注意を引いてもらうがな。これ以上、イヴ人共を調子づかせるのはこちらとで面白くない。せっかくこちらが回してやったVF-25メサイアを、我々に差し向けて来たのだからな。お灸を添えてやらねばならん」

 

 あれほど挑発したので、待ち伏せしているのは明らかなのか、部下は出撃を断るのかとスミスに問えば、彼は出撃すると答え、本隊を囮に側面から待ち伏せ部隊を攻めると返した。

 それにスミスは帝国再建委員会を初めとしたイヴ人の武装勢力にVF-25メサイア等のバルキリーを横流ししているらしく、それを自分らに差し向けるイヴ人らにお灸を添えてやると口にする。

 

「通信機を持ってこい。ブーツホルツにも出撃させろ。報告では、バーバ・ヤーガが来ているからな」

 

「はっ、直ちに」

 

 お灸を添えてやるために出ると言うスミスは、バーバ・ヤーガの異名を持つフラーチェが居ることを知ってか、配下のバルキリー隊を指揮するコンラート・ブーツホルツの出撃を要請する。部下が通信機を持って来れば、それを起動させてブーツホルツを呼び出す。

 

「ブーツホルツ、居るか?」

 

『どうした? 何か用か?』

 

「出撃しろ。連中のなかにバーバ・ヤーガが居る。それに、ミラージュの戦闘爆撃機型三十機を一気に撃墜した魔導士も居るらしい」

 

『面白いな。連中の魔導士は何人か撃ち落としたことがあるが、ネームド級は二人目だ。キルマークを増やしてやるとも』

 

「その意気だ。俺もそろそろ出ないと、降格を食らう。しっかりとやれよ」

 

『言われなくともやってやるとも』

 

 通信機を切れば、スミスは銃を組み立て、待機している部下たちに出撃を命じた。

 

「十分後に出撃する! 準備は済ませて置け!」

 

『はっ!』

 

 これに合わせ、一同は出撃準備に入った。

 スミス隊の出撃に合わせ、リップシュタット連合軍に参加している各勢力の部隊はベルンブルク領より出撃していく。戦車や機動兵器の轟音を響かせ、上空では埋め尽くすほどの航空機とバルキリー、機動兵器、航空魔導士が帝国再建委員会の侵攻軍を迎撃しに向かう。

 その数は凄まじく、侵攻軍を上回るほどであった。大群を指揮するのはリップシュタット連合の盟主ことリップシュタット本人であるが、彼は総大将としての戦は初めてであった。故に統制は取れておらず、各勢力ごとにばらばらに動いて公女が居るとされる侵攻軍の主力である南方軍集団に向けて真っ直ぐと進んでいた。

 

「下着をチラつかされて、それにまんまと引っ掛かるとは。つくづくと馬鹿な奴らだ。俺たちは側面から行くぞ」

 

 スミスの命に応じ、VF-22SシュトゥルムフォーゲルⅡで出撃したブーツホルツは、敵の本隊に押し寄せる友軍の大群を見て呆れ、自分たちはスミスと同様に側面から攻める。

 各自、各々の判断で南方軍集団に押し寄せる中、大量に配置されたデコイを敵の本隊と勘違いし、総攻撃を仕掛ける。

 

「偵察隊より敵本隊と思われる部隊を確認!」

 

「撃てぇ! 卑しきテロリスト共を吹き飛ばせッ!!」

 

 先行した偵察隊より報告を受け、ガリア軍の指揮官であるダモン元帥は先制攻撃を仕掛けるように怒号を飛ばす。

 

「ガリア軍、先んじて攻撃した模様!」

 

「遅れるでない! 我がテメリア軍も総攻撃せよ!!」

 

 ガリア軍が先制攻撃を仕掛ける中、これまで出撃しなかったテメリア軍も後に続いて囮に砲火を始める。

 

「ガリアやテメリアの雑魚共に遅れるな! 撃ちまくれッ!!」

 

 友軍にも関わらず罵倒するレダニア軍も砲撃を始めた。現地の多国籍軍も砲撃する。

 

「劣等人種共に遅れているぞ! アーリア人が一番だと奴らに知らしめろ!!」

 

 ナチスこと第四帝国は言うまでもない。連合の者たちを劣等人種と見下すナチスも砲撃を始めた。

 

「連合各軍、敵本隊に対し砲撃開始!」

 

「盟主殿! 盟主軍たる我々が遅れるなど、盟主の立場がありませんぞ!!」

 

「ぬぅ、我がアガサ騎士団も砲撃を開始せよ! 騎士の威厳を見せ付けるのだ!!」

 

 連合軍の旗艦であるギアナ級地上戦艦に乗るリップシュタットは、副官に押されて砲撃を始めた。

 

「よそ者共に遅れておるぞ! 我が方も攻撃するのだ!!」

 

 彼と肩を並べるベルンブルク公も同型艦に乗り込み、配下の者たちに怒号を飛ばしてよそ者たちに後れを取るなと告げる。

 配置したデコイが跡形もなく吹き飛ぶような程の砲撃が止んだ後、リップシュタット連合の各部隊は一気に突撃を行う。凄まじい数で、大地が震えるほどだ。夥しい数の機動兵器と戦車、航空機、歩兵が押し寄せたが、煙が晴れた後、自分らが砲撃したのが敵のデコイであることに気付き、慌てふためく。

 

『イヴ人の死体が見当たらんぞ!?』

 

『全部、案山子だ! 鉄屑ばかりだ!』

 

『どういうことだ!? ここにイヴ人が居るはずだぞ!?』

 

『何処だ!? 敵は何処に行った!?』

 

 連合軍が足を止めて敵を探す中、押し寄せた連合軍に対して帝国再建委員会は砲撃を行う。

 

「敵からの砲撃!」

 

「な、何ッ!? 直ちに下がるんだ!」

 

 降り注がれる榴弾にロケット、ミサイルと言った死の雨から逃れようとするリップシュタット連合軍であるが、各勢力ごとに指揮系統が違うので混乱し、大渋滞が発生してそのまま砲撃の餌食となる。

 凄まじい大爆発が巻き起こり、ニ十分ほどの砲撃で万単位の被害が出た。砲撃が終われば、待ち受けていた南方軍集団隷下の百の師団が襲い掛かり、混乱する連合軍に更なる損害を与える。

 

「撃て! とにかく撃て! 更なる損害を与えるのだ!!」

 

「(これって、虐殺じゃないの)」

 

 HK416突撃銃を持つ指揮官が怒号を飛ばせば、配下の将兵等は逃げ惑う敵歩兵を銃撃し始める。その中で狙撃班の一人であるチェンバーレイン・リリウム伍長は、この侵略戦争に疑念を抱きながらMSG90狙撃銃の二脚を展開し、地面に寝そべりながら観測手の指示通りに逃げる敵兵の背中、主に将校の背中を撃って敵の指揮系統を破壊する。

 一人、二人と殺していけば、統制は取れなくなり、無秩序な退却となる。そこからは三脚に載せられたMG3汎用機関銃の掃射で、敵兵はバタバタと薙ぎ倒されて行った。これを見たチェンバーレインは、観測手が狙撃銃の再装填を行っている間、小声で撃ち殺されていく敵兵らを哀れむ。

 

「ナンマンダブ、ナンマンダブ…」

 

「何か言った?」

 

「いえ、何も」

 

 観測手が再装填を終え、小声で何を言っているのかと問えば、チェンバーレインは何でもないと答え、ボルトを引いて初弾を薬室に装填し、スコープを覗いて引き金に指を掛けて狙撃を再開する。

 

「凄まじい虐殺だな。リップシュタット盟主は真面に指示が出せてない。戦闘爆撃機をやるか」

 

 シェイファー・ハウンド全隊も来て連合軍に更なる被害が出る中、それを上空から見ていたブーツホルツは戦火を上げようと爆撃を行おうとする対地装備を施したEFー2000タイフーン戦闘機の編隊を見付け、それらを片付けるために編隊を率いて襲い掛かる。

 

「ミッシングリーダーより各機へ。敵戦闘機は友軍本隊に夢中だ。我々はノーガードの戦闘爆撃機をやる! 遅れ気味の奴らに注意しておけ! 空中空母に改装されたドライストレーガーより艦載機が飛び出してくるかもしれんぞ! 警戒しておけ!!」

 

 部下にそう告げてから、全く護衛の居ない戦闘爆撃機の編隊に襲い掛かった。爆弾を投下しようとするタイフーン戦闘機集団に対し、ブーツホルツが率いるVF-22の編隊はミサイルを発射して回避行動を取る何機かを撃墜する。

 そのまま一気に殲滅しようとすれば、ブーツホルツの言っていたドライストレーダーと呼ばれる全長2000メートルの超大型艦艇より後続として発艦したVF-25メサイアの編隊に妨害される。

 

『ミッシング7と9が! 後続だ!!』

 

「ちっ、速いな! しかも一個大隊か! 分が悪過ぎる! 全機、逃げるぞ!!」

 

 僚機の撃墜されたとの報告を受け、ブーツホルツは後続で来たVF-25の数を確認した。数は大隊規模であり、こちらに真っ直ぐと向かってくるので、分が悪いと判断したブーツホルツは一機のタイフーンをミサイルで撃墜してから早々に退散する。

 逃げるVF-22の編隊を追撃しようとするが、航空管制官より追撃するなとの指示を受ける。

 

『このまま追撃を!』

 

『こちらガンサイト1、追うな! それよりブロット大隊を補佐しろ』

 

「こちらは爆装してませんが」

 

『機銃掃射でやれ。ガンポッドの火力ならば敵機動兵器を十分に撃破できる』

 

「そんな無茶苦茶な…」

 

 追撃するなとの指示に、VF-25の大隊に属するフュカリタ・モーラー大尉は爆走してないと言うが、ガンポッドでも十分に対地攻撃の代わりは出来ると言われる。この指示に無茶と地上で逃げ惑う敵兵器集団を見てフェリカリタは愚痴を漏らすも、命令などで直ぐに大隊の者たちと共に実行に移す。

 機銃掃射の訓練は受けているので、低空での編隊飛行を取って逃げる敵部隊に向けて機体下部に吊るされたガンポッドによる機銃掃射を行い、何機かの敵機と装甲車両、多数の敵歩兵を撃破する。二射目を仕掛けようと旋回すれば、地上に走るレオパルド1やレオパルド2の戦車兵らはキューポラから出て叫んでいる。無論、フュカリタには聞こえていない。

 

「ブーツホルツめ、臆病な!」

 

 ブーツホルツの隊が勝手に戦列を離れたのを見ていたスミスは悪態を付きながら、本隊を囮に戦火を上げようとするナチス軍と共に帝国再建委員会の側面を襲う。

 

「死ねっ! 単一生物共!!」

 

 ナチスの航空魔導士、その名も航空魔導猟兵(ルフト・マギー・イェーガー)部隊は、イヴ人を罵倒しながら炸裂術式を使って砲撃を行い、帝国再建委員会の地上部隊にそれなりの被害を与える。

 

「ナチス共は張り切っているな。こちらも昇進の為にスコアを稼ぐか!」

 

 魔導猟兵等の張り切りようを見て、スミスは後れを取るまいと砲撃術式を使って敵装甲車両や敵戦車を撃破し、更にティーガー戦闘ヘリを撃墜する。対空砲火も始まり、数名の魔導猟兵が落とされるが、そんな物はスミスに知ったことではない。自分のスコアを稼ぐために彼らを囮に使うまでだ。

 ある程度の敵地上部隊を叩けば、空軍に救援要請が来たのか、帝国再建委員会の戦闘機と航空魔導士がスミス隊やナチス軍の方へと急行してくる。

 

「敵航空魔導士接近!」

 

「はっ! 外見だけが取り柄の劣等人種など、我らアーリア人の敵では…」

 

 帝国再建委員会の航空魔導士に対し、名前が勇ましい航空魔導猟兵等は劣等人種と侮って迎え撃とうとするが、その敵の航空魔導士にはアーデやフェリーチェ、それにターニャも居り、彼女らを侮った魔導猟兵の一人が飛んできた砲撃術式で消し炭にされた。

 

「な、なんてことだ! バーバ・ヤーガに情報にあったロリータ族の変異種まで!? 今は分が悪過ぎる! 撤収だ! コンドルリーダーより各員へ! 撤収しろ! 全員直ちに撤収だ!!」

 

 向かって来る帝国再建委員会のネームド級揃いの航空魔導士に対し、スミスは今の状況では勝てないと即座に判断して部下を連れて撤収した。

 

「ワルキューレの航空魔導士隊が退いた?」

 

「スラヴの餓鬼が! 脳みそぶちまけやがれ!!」

 

 スミスが自分たちだけ撤収するのを目撃してたターニャは追撃しようとするが、背後から航空魔導猟兵が襲い掛かる。これに気付いていたターニャは左手で防御術式を張り、右手に持ったG36A突撃銃でその魔導猟兵の頭部を撃ち抜く。

 

「ナチスはまだ戦う気か。さて、人種差別撤廃条約の下、奴らを排除するか」

 

 アーリア至上主義を掲げるナチスこと第四帝国に対し、ターニャは現実にある条約を持ち出してナチスの部隊を攻撃した。

 

「なんだあの(オーマ)は!? 強過ぎるぞ!」

 

「誰がおばさんだって!?」

 

「こ、こっちに来る!? わぁぁぁ!!」

 

「へっ、民族主義者共が! あんた等のその驕りが、負けた原因なんだよ!!」

 

 ターニャが自身の能力と演算宝珠の性能を駆使して魔導猟兵等を含め、SF作品の戦闘機や人型兵器を撃破していく中、フェリーチェも魔導猟兵らを次々とMG3汎用機関銃でハチの巣にしていき、撃墜スコアを稼ぐ。

 

「私だって! 私だって!! クソっ、逃げたか!!」

 

 アーデも遅れまいとG36Aを撃ち続けるが、被害が拡大してか、ナチス軍も撤退を始めた。それと同時にリップシュタット連合軍の本隊も撤退を始める。

 殿となっていたMSのM1アストレイやジンクス、戦術機のF-16、KMFのグラスゴーは抵抗を止め、パイロット等は両手を上げて出て投降する。戦車も同様で、逃げ遅れた将兵等も次々と帝国再建委員会に投降してくる。

 この戦いは帝国再建委員会の大勝に終わり、挑発に乗って出て来たリップシュタット連合軍は数を減らしただけで、大敗を喫した。しかし、その数は未だに帝国再建委員会の全兵力を上回っていた。

 

 だが、まだ戦争は終わりではない。次こそが決戦である。




新年あけましておめでとうございますの更新。

次で読者の方々が応募してくださったキャラがご登場いたします。お楽しみに。


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ガイエス平原での決戦 その1

名前:西紀綾香(にしきあやか)
年齢:不明
階級:中尉
所属:陸軍第22装甲擲弾兵師団第一人機連隊
乗機:量産型モリビトG型

名前:ライヤ・ローラン

性別:女

年齢:19

階級:曹長

所属:帝国再建委員会 陸軍 第71歩兵師団 戦車小隊

武器:レオパルド1A5主力戦車、USP自動拳銃

概要 戦車を操縦担当の美人。普段は大人しいのだが、ハンドルを握ると性格は豹変するこち亀の本田さんみたいな人。
キャラ提供は団子狐さん

名前:ミロスラーヴァ・ユーギン
性別:女性
年齢:29歳
階級:大佐
所属:帝国再建委員会第1航空艦隊
武器:EFー2000タイフーン戦闘機
概要:艶やかなロングヘアの金髪と切れ目の碧眼、透き通るような白い柔肌と178cmの長身。そして、圧倒的な爆乳の持ち主である怜悧な美女。
戦闘指揮のみならず、自ら前線へと出るパイロット。
キャラ提供はオリーブドライブさん

名前:黒音・D・玲子
性別:女性
年齢:18
階級:少尉
所属:第1航空艦隊 第202バルキリー大隊
武器:TARDIS(type40-Ⅲ)(使用不可) VF-25A(紺色)
概要:人間とタイムロードのハーフ少女で時空間航行者。
異世界より来た少女で、作戦準備中の艦艇に密航していた所を捕まったが、捕まえたのがフュカリタであった為に無事に済み、パイロットと偽証して事なきを得る。
どさくさに紛れて逃げる予定である。

名前:キュート
性別:女性
年齢:不明
階級:少佐(ただし飾り)
所属:第1航空艦隊
武器:無し
概要:玲子の所有する部屋化したTARDIS(ターディス)の意思、あるいは魂で玲子ほぼ専属オペレーター(ハロ的ポジ)。
玲子のことをマスターと呼ぶ。余りの高性能差に接収されるのを恐れてか、ただの玩具と偽って玲子のVF-25の後部座席にいる。
サポートしようとしたが、バレるので玲子機のみサポートする。
両者ともキャラ提供は観測者☆黒音さん。

死亡枠

名前:ブラウンシュヴァイク
性別:男性
年齢:37歳
階級:親衛隊大佐
所属:ナチス
武器:ナチス軍ピストル(ルガーみたいなの)

名前:ハンス・レンツェルファー
性別:男
年齢:40歳
階級:親衛隊中佐
所属:リップシュタット連合軍 第四帝国(ナチス)
乗機:人型歩行兵器Ⅵ号(ナチスの人型兵器。外見はギラ・ズールをドイツ兵にした物)
概要:アーリア人大好きなナチスに属するパイロット。人種差別主義者であり、現地の世界の方々をサル以下と表し、同じ連合の者たちですらバカの集団と見下す。

名前:カバ
性別:男性
年齢:不明
階級:低級冒険者
所属:冒険者ギルド(蛮族)
武器:国民突撃銃
概要:救いようのない馬鹿。ナチス軍より貰った銃で仲間と共に付近の村を襲っていた。


 挑発に乗って決戦に敗れ、ベルンブルク領にあるベルンブルクの城塞まで撤退したリップシュタット連合軍の盟主と参加勢力の指揮官らが軍議を行っていた。

 

「決戦はガイエス平原にて行うッ! 我がリップシュタット連合軍の名誉にかけ、あの帝国再建委員会を名乗る反乱軍をここで根絶やしにするのだ!! 新たに連合に参加するサクソニー帝国、ロスヴィエト帝国、ユーソニア合衆国の増援も来る! 我が連合本隊が防戦に徹している間、三ヶ国合わせて八百万の兵力が奴らの背後を突き、一気に殲滅する!!」

 

 連合の盟主、リップシュタット公は地図を広げた机を叩き、遅れてやって来るサクソニー帝国、ロスヴィエト帝国、ユーソニア合衆国の連合軍が来れば、勝てると豪語する。

 リップシュタット連合は兵力差において帝国再建委員会を上回っているが、士気の高い敵軍に攻められれば一気に瓦解しそうなまでに減っていた。新たに参戦する三ヶ国を含めれば、兵力差は二倍にまで回復するが、勝てるかどうかは連合軍の司令部の指揮力に掛かっている。

 だが、この状態ではせっかくの兵力差も生かせぬまま負けるだろう。

 そうとは思わず、リップシュタット公はベルンブルク公らと共に決戦の出陣式と言う名の酒盛りを行った。

 

 

 

 一方、先の大敗でリップシュタット連合は勝てないと判断した第四帝国ことナチスの指揮官フライジンガーは、現地世界のアーリア人を回収する作戦を無断で決行した。

 回収は任意ではなく強制であり、ナチスの特別行動隊は村々を現地徴用兵らを伴って村々を包囲し、強制的にアーリア系住民を拉致したのだ。

 

「アーリア系住人の回収を急げ! 抵抗してもアーリア系だけは殺すな! 他は殺しても構わん!!」

 

 特別行動隊の指揮官、ブラウンシュヴァイク親衛隊大佐は車上より部下や現地徴用兵らに回収目標であるアーリア系は絶対に殺さないように指示を出し、抗議に来た村の長老をピストルで射殺する。

 ブラウンシュヴァイクの指示に応じて特別行動隊の隊員と現地徴用兵らは、アーリア系と思われる男女と子供らを拉致して無理やりトラックに乗せる。それ以外は隊員や現地徴用兵に射殺されていた。

 

「フハハハ! 死ねぇぇぇ!!」

 

 ナチスの特別行動隊を離れた現地徴用の低級冒険者たちが、支給された国民突撃銃を使って近くの村を無断で襲撃し、多数の村人たちを虐殺していた。

 リップシュタット連合が失った兵員を回復するために徹底的な徴用が行われており、成人男性の殆どが徴兵されていた。残っているのは老人や女子供ばかりであり、銃を持って有頂天となっている低級冒険者らに虐殺されている。

 

「カバ! こんなことして良いのか!? 俺たち殺されちまうぞ!!」

 

「うるせぇぞ! こっちにはこいつがあるんだ! 女共が攻めて来ても、同じ武器を持つ俺たちが勝つんだ!!」

 

 仲間に言われた低級冒険者らのリーダーであるカバと言う悪漢は、銃があるから勝てると言う変な自信染みた答えで、引き続き逃げ回る村人たちを虐殺する。

 その中にはアーリア系の若い女性も含まれていたが、低級冒険者らに見分けが付くはずが無く、老人や子供含めて射殺された。

 流石にやり過ぎたのか、村人たちは全滅してしまった。仲間はナチスにどう言い訳するのかと、カバに問う。

 

「皆殺しにしちまったぞ…! 奴らにどう言い訳するんだ? 俺たち殺されちまうぞ?」

 

「煩いぞ! 俺たちにはこいつがあると言っただろ!? それに俺たちの言うことを聞かなかったこいつ等の所為なんだ! 何であろうが俺たちは悪くな…」

 

 自分らが悪くないと言うカバであったが、言い終える前に哨戒行動を行っていたターニャ等の小隊に発見され、頭上から砲撃術式を撃ち込まれて肉片となった。

 

「ま、魔女だ! 逃げろぉぉぉ!!」

 

 これに他の低級冒険者らは戦おうとせず、逃げ回っていたが、ターニャ等が逃すはずが無く皆殺しにされた。

 

「む、村の人たちは皆殺しにされています!」

 

「あぁ、そうだな。向こうにナチスの特別行動隊が見えるな。そちらを叩くぞ」

 

 村人たちが皆殺しにされているのを部下が報告したが、ターニャは気にすることなくブラウンシュヴァイクの特別行動隊を発見し、それをついで代わりに叩くと返す。

 

「な、何とも思わないんですか!? 民間人が殺されているんですよ!?」

 

 このターニャの態度に、部下の一人は何も思わないかと問い詰める。これにターニャはため息をつき、面倒くさそうに返答した。

 

「はぁ。こんなもの、戦場ならいくらでも見る光景だ。それにこの世界の住人が何人死のうが知った事でもないだろう。それより、ナチスをやるぞ。奴ら、我々を見付けて増援を呼ぶかもしれん」

 

「ちょっと! せめて埋葬を…!」

 

 眼下に広がる光景など、戦場では飽きるくらいに見る光景だと答え、ターニャは単独でブラウンシュヴァイクの特別行動隊を叩きに向かった。これに部下らはやはりターニャは変異種だと言って、後に続いて特別行動隊に空襲を仕掛けた。

 

「アハトゥンク!」

 

 襲撃してくるターニャ等に対し、特別行動隊は手持ちの火器で応戦するが、全く敵わずライフルの銃弾で次々と射殺されていく。

 

「アーリア系の移送を優先しろ! 現地の奴らなど放っておけ!!」

 

 空襲にブラウンシュヴァイクは部下らにアーリア系住人を載せたトラックを優先するように命じ、現地徴用兵は放置するように命じる。事実、指示に応じて航空魔導士を見てトラックに乗り込もうとする現地徴用兵らを叩き出し、アーリア系だけを逃がしている。隊員らは抵抗していた。

 

「アインザッツグルッペン共は一人も逃すな! トラックはタイヤだけを狙え!!」

 

 抵抗する隊員らを射殺しながら、ターニャは部下三名にトラックの追撃を命じ、自分はブラウンシュヴァイクの乗用車に砲撃術式を放つ。

 

「ぐえぁぁぁ!?」

 

 部下に迎撃を命じつつも、自分だけ乗用車に乗って逃げようとしていたブラウンシュヴァイクは、ターニャの放った砲撃術式で吹き飛ばされた。抵抗していた隊員と現地徴用兵らも逃げるか降伏し、残りはターニャ等に射殺された。

 最後に逃げる現地徴用兵を殺害した後、ターニャは哨戒中にナチスの特別行動隊と遭遇し、撃破したことを本部に報告する。

 

「了解、この場で警戒する」

 

 本部より指示を受けてか、ターニャがその場で待機していれば、数分後に帝国再建委員会において雑務を担当する義勇軍の将兵等を載せたトラックが来る。義勇軍の部隊は人間で構成されており、トラックから降りるや否や、作業を始める。ターニャも地上に降り、部隊指揮官と顔を合わせる。

 

「ターニャ・デグレチャフ空軍少尉であります。貴官は義勇軍の?」

 

「あぁ。義勇軍のフランツ・ロイター陸軍大尉だ。後は我々に任せ、原隊に戻られよ」

 

「了解。おい、行くぞ!」

 

「よし、捕虜を集めろ!」

 

 部隊指揮官はターニャ等に戻るように告げてから、トラックから降りて来るG3A3自動小銃や東ドイツ製AKを持った部下らに捕虜を一ヵ所に集めさせる。ターニャは指揮官の言葉に甘んじ、部下を連れて原隊へと戻っていった。それから部隊指揮官は集めた捕虜を射殺し始める。

 

「集めました!」

 

「よし、ナチスと協力者共を処分しろ!」

 

「はっ!」

 

 指揮官の指示に応じ、部下たちは集めた捕虜である特別行動隊や現地徴用兵らを射殺した。

 

 

 

 ガイエス平原にてリップシュタット連合との決戦が行われようとする中、帝国再建委員会の各部隊は出撃しようとしていた。

 ドライストレーガーと呼ばれる万能戦闘母艦にB-52のような大型機が離着陸可能な飛行甲板を増設して改装した空中空母「ソラ」にて、続々と大型機が発艦していく。艦上戦闘機ではない戦闘機も次々と発艦する。

 この空中空母「ソラ」は第1航空艦隊の司令部として使われており、航空艦隊隷下の二個航空団と一個地上攻撃航空団、師団規模の機動兵器部隊、爆撃機大隊、輸送機大隊を含めるその他複数の大隊を収容していた。だが、航空艦隊全部隊は収容できず、残りの部隊は野戦空港より出撃し、本隊と合流していた。

 

「ミロスラーヴァ・ユーギン大佐、EFー2000タイフーン戦闘機、出撃する!」

 

 空軍第1航空艦隊隷下の航空団の指揮を執るミロスラーヴァ・ユーギン空軍大佐は、自ら対空ミサイルなどの制空装備を施したEFー2000タイフーン戦闘機に乗り込み、傘下の三個戦闘機大隊を率いて出撃した。ミロスラーヴァは航空団小隊と共に出撃しており、背後から電子戦機とその護衛である二機のバルキリーであるVF-25Aメサイアが続く。

 隷下の第一大隊はVF-25で固められ、第二大隊はVF-11Cサンダーボルトで、第三大隊はミロスラーヴァと同じEFー2000戦闘機で編成されていた。彼女の航空団だけ特殊なのだ。機動兵器専用の発進口より、空戦型のモリビトが続々と出撃する。後続の部隊も続々と発艦していき、空を埋め尽くさんばかりの航空機と機動兵器が決戦場となるガイエス平原へ向けて飛んでいく。

 

『密航者、直ちに発艦しなさい』

 

「そのコールサイン止めてもらえます。嫌な気持ちになるんですが」

 

『あらそう? 玩具はちゃんと入ってるわよ』

 

「玩具じゃありませんって! キュートって言います!」

 

 ソラの飛行甲板で、ミロスラーヴァの航空団の後続として発艦する航空団隷下のVF-25で固められた飛行大隊に、変わったコールサインを持つVF-25Aがあった。管制官よりそのコールサインで呼ばれた黒音・D・玲子少尉は止めてくれと言うが、管制官はからかって後部座席に球体の玩具のような物体が乗っていると伝えた。

 これに黒音は玩具じゃないと告げる。彼女の言う通り、キュートは玩具ではない。帝国再建委員会やミッシングリンク隊のスミスが欲しがりそうな技術が詰まった端末なのだ。

 だからこそ黒音はキュートの事を黙っており、彼女を見付け、新兵の一人だと上官に嘘を付いたフュカリタも、キュートを渡せばもっと恐ろしいことになると思って黙っている。管制官は黒音の事を知っているようだが、恐ろしい技術を持つ少女だと知らない。ただの密航者だと思っている。

 

『はいはい。速く出なさいな』

 

「黒音・D・玲子少尉、VF-25Aメサイア、出撃します!!」

 

 ばれないかと不安に思いながらも黒音は出撃した。それからキュートのサポートを受けつつ、何とか中隊に合流し、キャノピー越しから見える周囲を見渡す。そんな彼女にフュカリタはプライベート通信で連絡を取り、戦闘のどさくさに紛れて脱走するように告げる。

 

『聞こえる?』

 

「えぇ、大尉さん。聞こえてるよ」

 

『これから決戦になる。このVF-25でも落とされるような激戦になるわ。貴方は敵機に撃墜されたと偽装し、何処かに逃げなさい』

 

「えっ? 大丈夫ですか、それ」

 

 撃墜されたと偽装して逃げろと言うフュカリタの提案に、黒音は大丈夫なのかと問う。

 

『大丈夫、その機体は頑丈だわ。でも、一機ぐらいは撃墜してから落ちてね。敵の数は尋常じゃ無いんだから』

 

「分かりました。五機撃墜してから逃げますね」

 

『そこまでしなくても良いって』

 

 大丈夫であると答え、せめて一機くらい撃墜してから逃げろと言うフュカリタに向け、黒音は五機撃墜してから逃げると返した。これにフュカリタはそこまでしなくても良いと呆れ気味に告げる。

 

「シェイファー・ハウンド戦闘団、出撃せよ!」

 

 空で空軍が続々とガイエス平原ヘ向けて飛んでいく中、地上でも陸軍の大部隊が出撃していた。

 シェイファー・ハウンドは壊滅した各兵科の連隊より大隊や中隊などを指揮下に入れ、自身の混成大隊を基幹に戦闘団を結成し、その兵力は五千人に膨れ上がっていた。所属している軍本部からの指令が出た直後、カヤ率いるシェイファー・ハウンド戦闘団は出撃した。

 カヤはいつでも出撃できるようにしており、戦闘団に属する部隊もそれに合わせ、命令が来る五分前よりエンジンを掛けて待機していたのだ。戦闘団は所属軍や南方軍集団に属するどの部隊よりも先に、決戦場であるガイエス平原へと向かった。

 

『連隊本部より各大隊に入電! 戦闘団に遅れを取るな!!』

 

『人機第1大隊、出撃せよ!』

 

西紀綾香(にしき・あやか)中尉、モリビトG型、出撃します!」

 

 数百両の戦闘車両と数十機の戦術機や人機が轟音を立てて先に出撃するのを見ていたのか、第22装甲擲弾兵師団隷下の人機連隊の連隊長は慌てて出撃を命じる。それに応じ、西紀綾香中尉は乗機の人機モリビトG型を起動させ、所属大隊の同型機と共に足並みを揃えて出撃した。

 MSや戦術機を装備する師団も続々と出撃していく中、歩兵師団や装甲師団も決戦場であるガイエス平原を目指して前進を始める。

 

「ライヤ・ローラン曹長であります!」

 

「挨拶は良いから速く乗りなさい。大隊本部がうるさくて」

 

「了解であります!」

 

 陸軍の第71歩兵師団も前進を始める中、戦車大隊が遅れていた。新しく戦車大隊に着任したライヤ・ローラン陸軍曹長は、自分が乗るレオパルド1A5戦車の戦車長に挨拶を行う。これに戦車長は速く乗れと言って、ライヤを自分の戦車の操縦席に乗せた。操縦席に座ったライヤがハンドルを一度握れば、彼女は人が変わったように豹変した。

 

「行くぜぇ!」

 

「ちょっと!? そんなに速度出したらッ!?」

 

「あたいらは遅れてんだ! ノロノロといけっかよ!!」

 

 ライヤは乗り物のハンドルを握ると、性格が豹変するようだ。戦車長を含める搭乗者らは驚き、必死に転倒しないように車内の掴まれる個所に捕まった。豹変した彼女が操縦するレオパルド1は、所属大隊のどの同型車よりも速く決戦場へと向かって行く。先に前進したシェイファー・ハウンド戦闘団に追いつく勢いで。

 空軍や陸軍の部隊が続々と出撃していく中、空軍の航空魔導士の出撃は陸軍が前進を開始して五分後に行われた。ドライストレーガー級空中空母「ソラ」で航空機やバルキリーの発艦が優先されたからだ。航空魔導士を満載したV-22などが飛行甲板より飛び立っていく。

 

「いよいよ正念場だ。これに勝てば、この世界は我々イヴ人の物だ。我々イヴ人の国家は再建されるのだ! 何がなんでも勝利する! 必ず勝つぞ!!」

 

『おぉーッ!!』

 

 多数ある一機のV-22オスプレイの機内で、アーデは自分の中隊の隊員らを鼓舞する。ターニャは帝国再建に興味は無いが、ここでかなりの戦果を挙げれば昇進できるのでやる気はあった。これまでにないくらい敵は出て来るので、昇進に見合う戦果は大量に転がっている。後は死なずに勝利するまでに戦果を上げ、勲章を受章して中尉に昇進するだけだ。

 

「(この決戦、必ず物にせねばな)」

 

 そう心の中で決心したターニャは再度G36A突撃銃やUSP自動拳銃の再点検を行い、弾倉も全てポーチに入っているか確認した。

 

 

 

 リップシュタット連合軍も総力を挙げて攻撃してくる帝国再建委員会を迎え撃つべく、全戦力を持って展開していた。

 その大部分の兵力は、今しがた身分を問わず徴兵したばかりの現地の男たちであり、練度は民兵より低い。戦える兵士の大半は帝国再建委員会の挑発によって消耗し、今や反乱軍と見なしている敵軍に劣るほど。後は遅れてやって来る三ヶ国連合の八百万で挽回できるかどうかに賭かっている。

 それに連合の戦える将兵の大半はワルキューレや傭兵ばかりであるため、士気はすこぶる低い。ナチスこと第四帝国は勝つ気は無かった。

 

劣等人種(ウンターメッシュ)共なんぞに武器を回すとは、フライジンガー閣下も血迷った選択をした物だ。それに他の連中の練度と士気の低さと見れば…我が軍に比べれば遥かに劣る物よ!」

 

 出撃準備を行うナチス軍のパイロットの一人、ハンス・レンツェルファー親衛隊中佐は現地の者たちを見下し、挙句に自分ら以外の同じ連合の者たちですら見下す。

 

「レンツェルファー親衛隊中佐殿! 出撃準備、整いました!!」

 

「よし、第1装甲猟兵大隊出撃だ! 他の連合の者どもに、我らアーリア人の強さを見せ付けてやれ!!」

 

 整備班長が右手を真っ直ぐ伸ばすナチス式の敬礼で報告すれば、レンツェルファーは自身の機体、ギラ・ズールを大戦期のドイツ兵にしたような外見を持つ人型歩行兵器Ⅵ号に乗り込み、自分が指揮下の部隊と共に出撃した。

 ナチス軍は様々な兵器を持ち込んでおり、リピッシュP.13aのような実戦には投入されなかった数々の秘密兵器が完成して正式化されおり、それを惜しまなくガイエス平原への決戦へと投入した。数は他の連合よりは劣るが、質では勝っている。

 

「貴様らはこの世界を守りたいとは思わないのか!? ならば槍を取って戦わんか!!」

 

 この世界には無い現代兵器や人型兵器、地上戦艦が続々と決戦場へと向かう中、アガサ騎士団の騎士はやる気のない現地徴用兵らを必死に鼓舞していた。剣と魔法の世界に似つかわしい物であるが、敵軍は続々と決戦場へと向かって行く友軍と同じ兵器を持っており、もはや死にに行くような物である。

 それでも騎士等は必死で現地徴用兵らを動かし、全く時代遅れな剣と槍と言った刀剣類を持って決戦場へと向かった。時に馬に騎乗した騎士も居るが、大半は徒歩であった。

 

 これより、ガイエス平原にてこの世界の命運を賭けた決戦が始まる…!




次回も続々と募集キャラが登場します。

今日を含めて後三日。応募は活動報告へ急げ!


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ガイエス平原での決戦 その2

版権キャラ

アムレート・グレンケア
蒼き革命のヴァルキュリアに登場する主人公。
大罪人と呼ばれる五人の内の実行役。この作品では帝国再建委員会に召喚された英霊的な存在。階級は陸軍大尉。
義勇陸軍の突撃猟兵師団に属し、中隊を率いている。
武器は大剣とC8カービン、USP自動拳銃。

ヴィルヘルム・エーレンブルグ
ディエスイレに登場する敵キャラの一人。主にベイと呼ばれる。
この作品ではナチスこと第四帝国に属しており、階級も中佐に格上げされている。
フライジンガーの要請に応じ、帝国再建委員会との決戦にやって来た増援。
大決戦と聞いてワクワクしており、無断で敵味方見境なしに殺し回る危険人物。

オリキャラ

名前:フェリシア・ジュメール
性別:イヴ人
年齢:101歳
階級:陸軍曹長
所属:帝国再建委員会 陸軍歩兵部隊
武器:HK416

募集キャラ

名前:キム・ジェイン
性別:男
年齢:22歳
階級:たぶんえらい。
所属:ある蛮族の酋長の息子。
武器:国民突撃銃。
キャラ提供はGー20さん

名前:ヒレ

性別:男

年齢:18
階級:底辺

所属:蛮族

武器:斧、ボウガン


名前:カツ

性別:男

年齢:17

階級:底辺

所属:蛮族

武器:剣


名前:ナン

性別:男

年齢:30
階級:中堅の蛮族
所属:蛮族

武器:鉄製の盾、剣

三名のキャラ提供は団子狐さん

名前:メカシャーク
性別:サメ
年齢:サメ
階級:サメ
所属:リップシュタット連合軍 第四帝国(ナチス)
乗機:スカイメカシャーク(スパロボ的な性能だとメカザウルス・バドや円盤獣ギルギルとかの序盤に出てくるゲッター/マジンガー系の飛行型ザコ相当)
概要:B級ホラーサメ映画に出てくる、フリー素材ナチスが改造した空飛ぶサメ。シャーク!
キャラ提供はリオンテイルさん

イメージ戦闘BGM
https://www.youtube.com/watch?v=cOyTkxRmWDY


「あ、あいつが増援だと言うのですか!?」

 

 リップシュタット連合軍が決戦に向けて全戦力を投入する中、フライジンガーは本部に増援を要請していた。来るのはフライジンガーが嫌悪する人物であり、彼が来ると聞いて通信映像に映る上司に別の者に変えてくれと告げる。

 

「あんな奴よりロート・シュピーネかヴィッテンブルグ大佐を! せめて超人兵一個大隊を!!」

 

『私の決定に不服かね? ともかく、君に送れる増援はヴィルヘルム・エーレンブルグことベイ中佐だけだ。彼なら戦況をひっくり返せるだろう。これで君の失態も幾つか覆せると思うがな』

 

「ぬぅ…! 了解いたしました。私は現地アーリア人の移送を指揮します」

 

『あぁ、減った分を補えていないがな』

 

 フライジンガーは上司の決定に抗議したが、この世界において失態を犯したが為に聞き入れて貰えず、決定に従う他無かった。通信が切れた後、近くの物に怒りをぶつけて八つ当たりする。

 

「クソっ! 本来であれば総統の座は俺の物だったんだぞ! それをあの若造が…!」

 

 怒りを露にするフライジンガーの上司とは、若い総統であり、本来であれば総統の座はフライジンガーであったはずだが、若い総統は遥かに優秀であるために第四帝国の総統の座に着いたのだ。

 これにフライジンガーは不服であり、いつの日かクーデターでも起こしてその座を自分にしようと暗躍し続けている。しかし、フライジンガーの下剋上は幾人かに気付かれてしまっている。敢えて放置されているに過ぎないのだ。

 そんな男の執務室に、彼が最も嫌うヴィルヘルム・エーレンブルグが入って来る。

 

『閣下、エーレンブルグ親衛隊中佐がお越しです!』

 

「連れてこい。能書きは良い!」

 

『はっ!』

 

 部下が来たと報告すれば、フライジンガーは自分の椅子に座り、入らせるように指示した。それから白髪で赤目を隠すサングラスを掛けた182センチの柄の悪そうな男が入って来る。

 

「ただいま着任いたしました! ヴィルヘルム・エーレンブルグ親衛隊中佐です! 以後、お見知りおきを!」

 

 軍人を装って挨拶と敬礼をしているが、サングラス越しから見える赤い目からはフライジンガーを見下すような視線が感じられる。

 ヴィルヘルム・エーレンブルグことベイは挨拶が済むなり態度が変わり、将軍であるフライジンガーに経緯も敬語すら使わず、何処の配置になるかと乱暴な口調で問う。

 

「で、俺は何処の配置なんだ? フライジンガー親衛隊上級大将殿」

 

「この似非吸血鬼め! 私は貴様より階級が上なのだぞ! なんだその態度は!?」

 

 両手をポケットに突っ込み、自分を舐め腐った態度で問うベイに、フライジンガーは激怒して机に拳を叩き付ける。これにベイは鼻で笑い、勝手に付近の椅子に腰を下ろし、怒りを逆なでするような口調で謝罪する。

 

「おいおい、怒んなよ。あんたの尻拭いをこの俺がやってやるんだからよ。この俺が好きに暴れりゃあ、あんたは降格されることも無けりゃあ、粛正されることも無いんだぜぇ? 大船に乗ったつもりでいろよ、上級大将殿よ」

 

 自分に対し一切の敬意を表さず、逆に俺の好きにさせろと言わんばかりの態度にフライジンガーは机に仕舞っているピストルを取り出し、撃ち殺してやろうかと思っていたが、ベイに敵うはずが無かった。

 所属する第四帝国において、ヴィルヘルム・エーレンブルグなる男は最強戦力とも言える聖槍十三騎士団なる怪物集団に属する者であり、ただの人間であるフライジンガーが敵う相手ではない。

 ピストルを取り出し、安全装置を解除して撃っても、目前の腹立たしい態度を取る似非吸血鬼の男は弾丸を掴み、易々とフライジンガーを殺すことだろう。

 それが分かっているフライジンガーは手を出せず、気に喰わない怪物集団の一人であるベイの好きにさせることにした。

 

「好きにしろ…! ただし、余りやり過ぎるなよ」

 

「いや~、ありがとうございます上級大将殿! では、ヴィルヘルム・エーレンブルグ親衛隊中佐、任務に邁進して参ります! では、自分はこれにて!」

 

 好きにしろと言えば、ベイは急に態度を改めて敬語を使い出し、ナチス式の敬礼してから執務室を後にした。

 

 

 

 帝国再建委員会とリップシュタット連合軍が総力を挙げて出撃し、決戦場であるガイエス平原にてぶつかった。

 最初に攻撃したのはEFー2000タイフーン戦闘機に護衛された対地攻撃装備の同型機であり、防衛陣地を構築して待ち構えていたワルキューレ陸軍の防衛線に爆弾の雨を降らせた。数百発の爆弾で陣地が蹂躙される中、そこへ予定よりも早く来たシェイファー・ハウンド戦闘団による蹂躙が始まる。

 

「キャァァァ!?」

 

 英国製FALことL1A1ライフルを持つワルキューレ陸軍の歩兵部隊は、余りにも速いシェイファー・ハウンド戦闘団の急襲を受け、反撃することなく逃げ始めた。戦車も後退を始めるが、戦闘団の戦車部隊や歩兵戦闘車に破壊されるばかりだ。

 

「逃げるな! 戦え! アァ!!」

 

 将校が逃げる兵士たちを止まるなと言うが、予想よりも速く来たシェイファー・ハウンド戦闘団の歩兵部隊に撃ち殺され、残りは逃げられないと判断して投降し始める。

 

「フン、やる気が無いな」

 

 配下の部隊が担当の防衛線を予想よりも速く制圧したことに、レオパルド2A7主力戦車のキューボラから上半身を出して確認したカヤは、ワルキューレのやる気の無さに呆れる。そんなカヤの元に、隷下に入れた歩兵大隊の連絡将校が、獲得した捕虜をどうすべきかと問い詰めて来る。

 

「中佐殿、捕虜はどうしましょうか?」

 

「合流予定の後続の歩兵師団にでも引き渡せ! とにかく我々は、進出できるところまで進出する!」

 

「了解です!」

 

 聞いてきた連絡将校にそう返せば、カヤは側面の方を向いて首に掛けている双眼鏡で様子を見る。

 

「ッ!? 側面の装甲擲弾兵中隊! 敵歩兵の大群だ! 蛮族共だ! 直ちに迎撃せよ!!」

 

 側面警戒を任せている機械化歩兵中隊こと装甲擲弾兵中隊に、刀剣類を持った歩兵の大群が迫っているのを双眼鏡で見付けたカヤは、即座に無線機で知らせた。警戒はしているはずだが、その中隊は再編されたばかりの将兵で構成されているのか、迎撃が遅れていた。これにカヤは苛立ち、砲手に援護するように指示する。

 

「あいつ等、何をもたついている? 砲塔、九時砲塔に旋回…いや、何か来る!」

 

 砲塔を旋回させようとしたが、中隊に迫る蛮族の集団に単独で突っ込む一両の味方の戦車が居た。それはレオパルド1A5主力戦車であり、操縦しているのはライヤ・ローラン曹長だ。

 

「キャァァァ!!」

 

 戦車長を含め、車内にいるライヤを除く者たちが悲鳴を上げる中、彼女が操縦する戦車は数十名の蛮族の戦士を撥ねる。

 

「ぼげっ!?」

 

「うぇばっ!?」

 

 蛮族の底辺であるヒレとカツが、ライヤのレオパルド1に撥ね飛ばされた。無論、全速力の戦車に撥ねられれば即死であり、二名は確実に死亡する。

 

「ん、なんか轢いたか? まぁ、良いや! もっと轢き殺すぜ!!」

 

 人を轢き殺した感覚を少しは感じたライヤだが、気にせずに突っ込んでくる蛮族の集団を轢き殺し続けた。これにはカヤも茫然としていた。

 側面中隊の援護に回ったアンナの戦車小隊に、蛮族のナンが率いる騎馬隊が襲い掛かる。

 

「敵騎兵多数! 榴弾と機銃で応戦して!」

 

 キューポラの覗き穴から蛮族の騎馬隊を確認したアンナは的確に指示を飛ばして応戦するが、数が多過ぎて迎撃しきれず、ナンに取り付かれてしまう。

 

「この鉄の化け物め! 死ねぇぇぇ!!」

 

 取り付いたナンは持っている剣でアンナのレオパルド2主力戦車を突くが、当然ながら貫けるはずが無い。

 

「砲塔、急速旋回!」

 

「えっ? なんで?」

 

「良いからやって!」

 

 アンナの指示に観測手は首を傾げるが、彼女の気迫に押されて砲塔を勢いよく回した。結果、急速に開店した砲身に身体をぶつけられたナンは地面に叩き付けられ、打ち所が悪かったのか、そのまま死亡した。

 

「うわっ…えぐ…!」

 

 死んでいるナンやライヤに轢き殺された蛮族の戦士たちを見て、アンナの戦車部隊に随伴していた歩兵部隊の一人、フェリシア・ジュメール陸軍曹長は口を抑える中、上官に言われて引き続き襲い掛かる敵集団への迎撃を行う。

 

「まだ敵は居るわよ!」

 

「了解!」

 

 上官に言われ、HK416カービンで自分の分隊と共に迎撃する。

 

「あの人機、速いぞ!?」

 

『旧型のモリビトではないのか!?』

 

 付近に展開するアガサ騎士団のグフやグレイズを中心とした部隊に、アマガネが駆る人機モリビトH型が単機で襲い掛かる。彼女が駆るモリビトは別物とも言える性能であり、一気に二機のグフが撃破され、続けざまにグレイズのコクピットが棒で突き刺されて無力化される。

 

「あいつらも、こんな気分だったのかな?」

 

 素早く棒を引き抜き、複数のヒートソードやバトルアックスを持って斬りかかるグフやグレイズタイプに対し、アマガネは前世の事を思い出しつつ最初のグフの斬撃を躱して棒を胴体に叩き付けて撃破する。続けざまにグレイズの頭部に棒を打ち込み、倒れたところで棒をコクピットに突いて乗っているパイロットを殺す。

 

『おのれよくも!』

 

 最後の剣と盾を持つグレイズ・リッターに対しては、斬撃を躱しながら棒を叩き付けようとするが、左手の盾で防がれる。即座にアマガネは突きを躱して敵機の胴体を蹴り上げ、機体本来の武装であるブレードを腰より取り出し、それで敵機の左腕の関節部を斬り落としてから胴体に突き刺して無力化した。アマガネが単独で戦っているように見えるが、背後では彼女に随伴する同型機が複数いるので、背後を安心して戦っているのだ。

 

『左側面より戦術機多数!』

 

「っ!?」

 

 両手が普通の手になっている大振りの斧を持ったグフ重装型をブレードで突き刺して撃破した後、部下より戦術機大隊の接近を知らされた。左へ視線を向ければ、多数の戦術機のF-16がこちらに向け、突撃砲を撃って来る。即座にシールドを持つモリビトH型がアマガネ機の前に立ち、突撃砲の嵐から守る。射撃兵装を持つ機が迎撃を試みようとするが、増援として現れたガリア軍のヌーベル・ジムⅢ部隊に妨害され、挙句にAMX-30戦車で編成された多数もやって来て、中隊揃って釘付けにされてしまう。

 このまま数で磨り潰されるかと思ったが、遅れてやって来た航空魔導士による対地攻撃が開始され、戦車部隊は壊滅した。襲撃した第5大隊の一員であるファルカ・ラーティー少尉は背中のパンツァーファウストⅢ対戦車火器を取り出し、他の隊員と連携を取りつつ、自分らに向けてビームを撃って来る取り出したパンツァーファウストⅢの弾頭を撃ち込んで一機を撃破する。

 

「敵機撃破! 次!」

 

 一機の撃破を確認すれば、パンツァーファウストⅢの使い捨ての発射機を外し、背中の新しい発射機を引き金に取り付ける。次に同大隊に属すフォルモント・フォン・ヴェルトラオム少尉が部下らと共に戦術機大隊に仕掛け、攪乱させれば即座に離脱して、カヤのシェイファー・ハウンド戦闘団に攻撃させる。

 

「攪乱成功! 陸軍の人、バンバン撃ってくれ!」

 

『了解! 敵戦術機大隊に一斉射! 撃て!!』

 

 フォルモントより要請を受ければ、カヤは配下の戦闘団と共に敵戦術機大隊に一斉射を放ち、その大部分を撃破して撤退に追い込んだ。アマガネの隊を襲っていたヌーベル・ジムⅢ部隊も、大隊規模の航空魔導士の急襲によって退散した。

 

「モタモタしていれば、昇進の機会を失うな」

 

 地上のシェイファー・ハウンド戦闘団の活躍や同じ師団に属する他の大隊の活躍ぶりを見て、ターニャは昇進の機会を奪われそうだと焦りながらも、こちらに迫る敵航空魔導士やVF-8ローガンの大群に備えた。

 

「ん、なんだあの物体?」

 

 こちらを迎撃してくるリップシュタット連合軍の魔導士やVF-8の大群の中に、奇妙な物体が混ざっていることをターニャは見逃さなかった。

 それはスカイシャークと呼ばれるサメ型の戦闘ロボであり、機械を埋め込んで改造したサメ、名付けてメカシャークが操縦していた。この手の映画を見たことがあるターニャは驚愕する。

 

「(まさか、B級ホラー映画のサメも居るのか!? ナチスと思ってウルフェンシュタインに出て来そうなメカだと思ったが、まさかサメが出るとは…!)」

 

 心の中で驚愕しつつもターニャは昇進の為に連合軍の航空魔導士やVF-8と交戦しつつ、向かって来るスカイシャークと対峙する。やはりメカシャークが入っているだけであって大きく、スカイシャークの巨大な口がターニャを噛み砕こうと開く。それを軽やかに躱したターニャは即座に詠唱した砲撃術式を撃ち込み、スカイシャークを撃墜した。

 

「あ、呆気ない…!? あっ…」

 

 余りにもあっさりと撃墜できたことにターニャは逆に驚いたが、周りを見て他のスカイシャークがあっさりと味方の戦闘機やバルキリー、空戦型のモリビト、航空魔導士に撃墜されるのを見て察してしまう。

 

「ただの雑魚メカか。まっ、B級映画だしな」

 

 自分が思ったのとは違うスカイシャークの低性能っぷりに、ターニャは自分を噛み砕こうと背後から迫って来たスカイシャークを殺して奪った剣で両断した。真っ二つに切れる中、搭載されているメカシャークも同じく両断され、ターニャの真下で爆発した。

 目下のところ、一番厄介なのはファイターとガウォーク形態の二種類にしか変形できないVF-8ローガンであり、ターニャは二機編隊で攻撃してくるVF-8に手を焼きながらも、何とか一機を撃破し、ガンポッドの掃射を躱しながら決死の覚悟で二機目のキャノピーに張り付き、左手に溜め込んだ魔弾を撃ち込んで撃破する。

 

「ふぅ、ロボテック設定のVF-8の方が断然厄介だわ。一人、二人と航空魔導士が死んでいる…!」

 

 少し息を切らしつつ、ターニャはガンポッドや空対空ミサイルで落とされる味方の航空魔導士を見て、的のように落とされるスカイシャークよりVF-8が一番の脅威だと判断し、数名の敵魔導士を撃破したアーデに、戦闘機かバルキリー、あるいはモリビトを要請した方が良いのではと提案する。

 

「中尉殿、敵のローガンは脅威過ぎます。戦闘機や機動兵器にやらせては?」

 

「たかが軽戦闘機如き、我々航空魔導士が落とせねば何とするのだ!? 前も対処できたのだ! 文句を言ってないで戦え!!」

 

 この提案にアーデは航空魔導士が空軍内で下に見られると言って聞き入れず、二機編隊で行動するVF-8にフェリーチェと他二名を引き連れて攻撃に向かった。

 

「ちっ、軽戦闘機の排除は戦闘機の仕事だろ。意地になりおって」

 

 聞き入れられなかったことに苛立ちながらも、ターニャは迫りくる連合軍の航空魔導士やナチスの航空魔導猟兵の排除に当たった。敵を押しているが、こちらの被害も無視できない状況になっていたが、それでも帝国再建委員会は前進を続ける。

 

「そんな空飛ぶサメ如きに、イヴ人が怯える者か!」

 

 多数のスカイシャークの編隊に対し、EF-2000タイフーン戦闘機に乗るミロスラーヴァは機銃を撃ち込んで数機を一気に撃墜する。後続の随伴機も同様に機銃を発射して更にスカイシャークの編隊に多大な被害を与えた。ミロスラーヴァ配下の航空団は少しばかりの損害であるが、立ち塞がる多数の連合空軍の航空機を撃破しながら確実に前進している。

 

「第1航空魔魔導士師団、制空権は確保したぞ! 地上のノミ共を一掃しろ!」

 

 ある程度の制空権も確保できたのか、ミロスラーヴァの指示でヴィルヘルミーナの大隊が対地攻撃に移る。

 

「ホルシュタイン中尉、地ならしを」

 

『了解!』

 

 大隊長の指示に応じ、エリカは地上スレスレで超高速の低空飛行を行い、その衝撃波で刀剣類を持って雄叫びを上げながら突っ込む蛮族の集団を吹き飛ばす。

 

「グェアァァ!?」

 

 エリカに吹き飛ばされた蛮族の一団を率いていたキム・ジェインは、切り札の国民突撃銃を撃つ間もなく吹き飛ばされて死亡した。残った集団に対し、ヴィヘルミーナの大隊による対地攻撃が行われ、一瞬にして数千人の蛮族の集団は屍となる。

 損害を受けながらも予定通り前進する帝国再建委員会に、数で勝るリップシュタット連合はやられて後退するばかりであった。だが、そんな連合にはヴァルヘルム・エーレンブルグと言う危険すぎる切り札があった。

 

 

 

「クソっ、なんだこの数は!? そんなにダイヤが欲しいのか!?」

 

 一方、帝国再建委員会の侵攻軍本隊の背後を守る常備軍と義勇軍全部隊は、リップシュタット連合の増援であるサクソニー帝国にロスヴィエト帝国、ユーソニア合衆国の連合部隊の足止めを行っていた。

 増援の数は凄まじく、幾ら叩いても無限の如く湧いて出て来るかのように戦車や航空機、MSやAS、戦術機が突っ込んでくる。いずれも大国ならではの物量であり、本隊がリップシュタット連合の息の根を止めるまで食い止めねばならなかった。

 更に三ヶ国はメックと呼ばれる独特な兵器も所有しているようで、人間ばかりで構成された義勇軍の将兵等を次々と排除している。イヴ人で編成された常備軍も同様だが、義勇軍ほどに絶望的ではない。

 

「ヒィィィ!? 殺されるぅぅぅ!!」

 

 メックの大群に蹂躙され、追い詰められた義勇軍の歩兵の一人は頭部のない両手に鋭利な鎌を付けたメックに斬り殺されようとしていたが、空から現れた大剣を振るう青年に命を助けられる。

 青年が歩兵を殺そうとしていたメックを両断すれば、続けざまに他のメックに斬りかかって次々と撃破し、随伴の敵歩兵に対しては、大剣を地面に突き刺してから銃紐で吊るしてあるC8カービンを取り、素早く単発で撃ち殺していく。

 後続の隊員も合流すれば、陣地を蹂躙していたメック部隊は後退を始め、随伴歩兵らもその後に続いて後退した。

 

「あ、あんたは…!?」

 

 自分の命を刈り取ろうとしていたメックを両断し、更には周辺のメックを大剣と己の身体能力で一掃した黒髪の青年に何者かと問う。

 

「アムレート・グレンケア陸軍大尉だ。緊急要請を受けて来た。そちらの生存者は?」

 

「あっ、はい。自分一人であります、大尉殿! 増援と共に維持でありますか?」

 

「いや、ここは放棄だ。後方五キロで残存兵を集めて再編が行われている。お前もそこに合流しろ。殿は我々がやる」

 

「了解! ご武運を!!」

 

 アムレートと名乗った青年は、生き残りに後方に下がるように伝えれば、歩兵は敬礼してから彼が指示した通りの場所へと走っていった。他の部隊も後退しているので、アムレートの隊はその殿を務める。

 

「やれやれ、また殿ですかい。俺たちの誰かが死ぬぜ?」

 

「その発言、聞かなかったことにする」

 

「おぉ、こわ…!」

 

 部下の一人が殿をすることに悪態を付けば、アムレートは腰のホルスターよりUSP自動拳銃を素早く引き抜き、部下の背後から忍び寄り敵兵を射殺した。これに部下も冗談交じりで返しながら、東ドイツ製のAK-74突撃銃で後続の敵歩兵に対処する。

 他の部下たちも各々が持つ銃で応戦しつつ友軍の殿を務める中、アムレートは拳銃を仕舞い、C8カービンを取り出して後退しながら押し寄せる敵歩兵の対処に当たる、メックが現れれば、C8カービンから手を放して背中の大剣を抜き、攻撃を躱しながら手近なメックを斬りかかる。単独ではまずいのか、旧式のアサルトライフルを持つ部下たちがアムレートを援護していた。

 

「はぁっ!!」

 

 手近な大型メックを斬り倒した後、次なるメックに斬りかかり、後退中の味方の脅威となるメックを破壊し続けた。



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ガイエス平原での決戦 その3

名前:タリナ・ゴットワルト
性別:イヴ人
年齢:99歳
階級:少佐
所属:帝国再建委員会 空軍ガンダムパイロット
乗機:ガンダムエクシア
概要:帝国再建委員会の空軍に属するガンダムのパイロット。格闘戦が得意であり、ガンダムエクシアを授かる。

募集キャラ

名前:ゾフィー・レオンハルト
性別:イヴ人
年齢:25
階級:少尉?
所属:帝国陸軍戦車長
武器または乗機:レオパルト2A6
随分ブカブカの軍服を着る戦車兵。
少尉用の軍服であるはずなのだがサイズが大幅にズレているようだ。相手を騙すことが得意であり、煙幕などを用いた撹乱をよく行う。

砲手:アマーリエ
砲手を務めるイヴ人。最年少であるが一番でかい。

装填手:エーディト
装填手を務めるイヴ人。最年長の78歳。

操縦手:カルラ
操縦手を務めるイヴ人。スビード狂の狂人。
キャラ提供はただのおじさんさん

名前:ジン・グレイツァ・エルバーン
性別:男
年齢:21
階級:アガサ騎士団 騎士
所属:アガサ騎士団
武器:長身のレイピアと大剣
アガサ騎士団に所属する騎士。何代も続く名家の血筋のエリート。性格は生真面目で武人気質。
キャラ提供は虚無の魔術師さん

名前:ナーニャ・デミグラス
性別:イヴ人 ロリータ族 変異種
年齢:13
階級:みんなの愛玩ペット?(笑)
所属:帝国再建委員会 空軍ガンダムパイロット
乗機:ExーSガンダム(主にクルーザー形態で)
概要:容姿はターニャを銀髪銀眼にして更に幼くさせた感じのロリータ族の変異種。
キャラ提供は黒子猫さん。

名前:ルルモード
性別:男性
年齢:不明
階級:騎士
所属:リップシュタット連合軍
乗機:ZM-GE-03 ジョング
概要:自らの事を「水晶騎士ルルモード」と名乗っているリップシュタット連合軍に雇われた傭兵
「シャハハハ」という独特の笑い声が特徴的な、ガッチガチなフルプレート風のパイロットスーツで身を包み、蒼白色に塗装されたジョングを駆る、リップシュタット連合軍側エースの一人
実はクリスタリアンと呼ばれる人型の鉱石生命体であり、身を包んでいるのはパイロットスーツではなく本人の体そのものである
キャラ提供はリオンテイルさん


 ガイエス平原の決戦が帝国再建委員会の有利に運ぶ中、第一防衛ラインの突破の報を受けたブーツホルツとスミスは出撃の準備を行っていた。

 

『第一防衛ラインが突破された! 第二防衛ラインは直ちに戦闘配置に着け! 予備部隊も出動せよ!』

 

「速いな。敵は予想より速くこちらに来るようだ。さて、出るとするか」

 

 その報を聞き、空軍基地に居るブーツホルツは自分の機体であるバルキリーのVF-22SシュトゥルムフォーゲルⅡに乗り込み、機体を起動させてからキャノピーを締める。

 

「第二防衛ラインに敵が押し寄せて来るぞ! コンドル全隊は直ちに出撃だ! 行くぞ!!」

 

 同じ基地に居るスミスも配下の隊を引き連れ、傘下のMSのジンクスⅡ部隊と共に空軍基地より出撃していった。

 

「スミスの奴め、随分と張り切っているな。では、俺たちも行くか!」

 

 スミスがミッシングリンクの全部隊を率いて出撃していたのを見ていたブーツホルツも、配下の隊を率いて出撃した。これに合わせ、当空軍基地からも続々と部隊が出撃していく。

 

「シャハハハ、伊達に高い金を貰ってるわけではありませんからね。水晶騎士ルルモード、出撃します!!」

 

 滑走路にジオングに似た機体であるジョングと呼ばれるMSに乗るフルプレート風のパイロットスーツに身を包んだルルモードは、機体を起動させて出撃した。

 このルルモードなる男は人型鉱石生命体であり、リップシュタット連合が雇った傭兵の一人である。彼のように雇われた傭兵らも、各々の機体で出撃していく。先の戦いで大部分が逃げるか帝国再建委員会の側についたが、ルルモードは連合側の方が額が高いので残っていた。

 

「逃げるな卑怯者共! この世界の者なら、この世界を守るために戦え!!」

 

 第二防衛ラインに破竹の勢いで食い込み、そこに配置されている現地徴用兵らは余りの恐ろしさに逃げる中、アガサ騎士団の一人ジン・グレイツァ・エルバーンは逃げる貴族の男を捕らえ、防衛陣地に引きずり戻す。だが、崩壊は止まらず、続々と押し寄せる戦車や戦闘車両、後続の敵歩兵部隊に蹂躙されるばかりだ。

 

「来るな! この女を殺すぞぉ!!」

 

 押し寄せる敵部隊に第二防衛ラインが蹂躙される中、突出し過ぎたイヴ人の歩兵を捕らえた現地の騎士は、彼女の喉元に剣先を突き付け、自分だけ逃げようとしていた。それを目撃したジンは自分の手にするレイピアで人質を取る騎士の頭部を突き刺し、人質にされた歩兵を解放する。

 

「えっ?」

 

「例え友軍であろうと、騎士であろうと、誇りを捨てたものは俺の敵だ! 俺はジン・グレイツァ・エルバーン! アルゴン王に仕えるアガサ騎士団の一人にして、騎士道に生きる男!!」

 

 解放されたイヴ人の歩兵は何を言っているか分からないが、ジンが誇り高い騎士であることは確認できた。現地の者たちやワルキューレの将兵等、エルフにドワーフなどの含める傭兵が逃げる中、アガサ騎士団の騎士たちだけが蛮勇にも戦っている。

 騎士らしく堂々とするジンはお礼を言わずにUSP自動拳銃で射殺しようとする人質にされていたイヴ人の歩兵をレイピアで貫き殺してから、背中の大剣を取り出し、それで鹵獲されたサザーランドを斬って撃破した。

 続けてプーマ歩兵戦闘車を斬り、他のアガサ騎士団の騎士らと共に、押し寄せる帝国再建委員会の侵攻軍に対して堅牢に抵抗する。

 

「クソっ、敵はただの戦車なのに!」

 

 戦術機のF-4ファントムに乗るワルキューレの衛士は、相手にしているレオパルド2A6主力戦車一両に手こずる。戦術機は四機であるが、相手はたった一両の戦車である。その戦車の車長を務めるのは、ブカブカの戦車兵服を着るゾフィー・レオンハルト少尉だ。煙幕で攪乱し、一機を戦車砲で仕留めた。

 

「一機撃破!」

 

「次はあそこ、スモークもう一回焚くよ!」

 

「了解! 転ぶなよ!」

 

 ゾフィーは砲手のアマーリエの報告を聞けば、もう一度スモークを焚くと言えば、操縦手のカルラは現在地より直ぐに移動を始める。

 

「徹甲弾、装填!」

 

 装填手のエーディトの報告を聞けば、ゾフィーは砲手のアマーリエに右手の右往左往するF-4を照準するように指示を飛ばす。

 

「停止後、十時方向のファントムに!」

 

「了解!」

 

「照準完了!」

 

「撃て!」

 

 カルラに停止命令を出せば、アマーリエに砲撃指示を飛ばし、二機目のF-4を撃破する。

 

「後は…あっ!?」

 

 残る二機であるが、突如となくやって来た戦術機の不知火に取られた。その不知火は上空から現れるなり、突撃砲で反応が遅れた一機を撃破し、残る一機を取り出した長刀で両断してからリップシュタット連合に参加するテメリア軍の戦区へと向かい、フレック・グレイズ数機を撃破した。

 

「もう! せっかく二機撃破したのに!」

 

 キューポラから上半身を出し、勝手に獲物を奪い、次の標的にしようとしていたテメリア軍を蹂躙する不知火にその場にあった空薬莢を投げ付ける。

 彼女はこの戦車の車長ではない。着ている軍服は借り物であり、本物は後方に縛り付けて置いて来た。他の乗員も知ってのことである。

 

「が、ガンダムだ!」

 

『英雄機ガンダムがテロリストの手に!?』

 

 他の場所では、帝国再建委員会が保有するガンダムを見て、連合軍のパイロットたちは驚愕する。

 彼らの前に立ちはだかるのはガンダムエクシアであり、その天使のような姿を見た連合軍の者たちは恐れ戦くが、単機でありことから集団で挑み始める。

 

『敵はたかが一機だ! 囲んでやれぇ!!』

 

『うわぁぁぁ!!』

 

 ザクⅡ改、ザクⅡF2、ハイザック、マラサイ、リーオー、ヘリオス、イクナト、フレック・グレイズと言った十数機が挑むが、エクシアに乗るパイロット、タリナ・ゴットワルトの技量はすさまじく、右腕のGNソードで先に向かったザクやハイザックが切り裂かれ、ビームを撃つマラサイに急接近し、左手に抜いたビームサーベルを胴体に突き刺して無力化する。

 そこから右腕のGNソードを仕舞い、両手にビームサーベルを持って射撃兵装で攻撃する複数のリーオーやヘリオスを斬り、上空に居るイクナトを切り裂く。最後の四機のフレック・グレイズに対してはビームでは無意味と判断してか、上空から二機で襲い掛かる戦術機のMiG-23に両手に持っていた投げ付けて同時に撃破する。

 

『く、来るな!』

 

 怯えながらマシンガンを乱射する四機のフレック・グレイズに接近しつつGNソードを展開し、瞬きする間に全機を切り裂いて撃破した。

 

「ふぅ、ちょっと多過ぎでしょ」

 

 GNソードを仕舞えば、エクシアのパイロットであるタリナは一息つく。だが、ここは戦場だ。直ぐに敵陣よりM1アストレイ四機がビームを撃ちながら迫って来る。

 

「あぁ、もう! 少しは休ませろってのっ!!」

 

 自分に飛んでくるビームをGNシールドで防ぎつつ、タリナは排除するためにM1アストレイの排除に向かった。

 ガンダムはタリナのエクシアだけではない。ナーニャ・デミグラスと呼ばれるターニャと同じイヴ人のロリータ族の変異種が駆るEx-Sガンダムが居るのだ。飛行形態のGクルーザーで出撃し、ビームキャノンでベースジャンパーに乗ったハイザック、バーザム、エリアーズ、ジンクスなどを撃破する。

 AIであるALICEのサポートもあって、ナーニャは機体の限界までの性能を引き出せているのだ。そこから人型形態へと変形し、スマートガンを持ってファイター形態で仕掛けて来るVF-11Cサンダーボルト二機を撃墜して手近な距離にいる敵機のヘリオスを左手で抜いた青いビームサーベルで切り裂いて撃破した。連合軍も負けじと集中砲火を浴びせるが、ナーニャとALICEの能力も合わさって全く攻撃が当たらない。

 そればかりか、リフレクターインコムで背後から仕掛けたジンクスが撃墜され、更にはナーニャが得意とする投影術式と先のリフレクターインコムを合わせたビームを反射攻撃で、一気に五機以上の敵機を撃墜した。これに連合空軍の者たちは驚愕し、恐れ戦き始める。

 

『なぜ空間戦用MSがあんなに強いんだ!?』

 

『一時後退する! 再編して立て直せ!』

 

「あっ、逃げた…」

 

 Ex-Sガンダムを空間戦のMSと知っていた連合軍だが、ナーニャとALICEの組み合わせで空間戦以上の戦闘力を見せたが為に、戦線を後退し始めた。

 これにナーニャは追撃を仕掛けようと前に出れば、先行したEF-2000タイフーン戦闘機とVF-11Cの編隊が変幻自在なオールレンジのビーム攻撃によって撃墜される。その芸当をやってのけたのは、ザンスカール製ジオングと呼ばれるジョングに乗るルルモードだ。

 無線式の左右腕部を本体に戻せば、ルルモードはナーニャのEx-Sガンダムを見て彼女が変異種であると気付く

 

「シャハハハ、まさかここで噂の変異種と出くわすとは! ロリータ族はイヴ人の中で最も魔力は高いが、幼児期で成長が止まり、知能も幼児止まりであることから底辺のクラスであり、本来は戦えぬはず。だが、極稀に成人の如くの知能を有し、戦闘が出来る個体が存在する…! それが変異種です! 君はガンダムを動かせるロリータ族の変異種ですな? 報酬の為、生け捕りか落とさせてもらいますよ!!」

 

 ナーニャが変異種と気付いたルルモードは、報酬の為に生け捕りか撃墜するべく、彼女のガンダムに襲い掛かった。腕の五連装ビームを撃つが、Ex-SガンダムにはIフィールドと呼ばれる対ビームバリアが搭載されており、防がれてしまう。

 

「無駄…!」

 

『シャハハハ、分かっていますよ! なれば白兵戦するまでです!』

 

「ジオングは白兵戦は出来ない…」

 

 ビームが効かないことをナーニャが言えば、ルルモードは分かっており、ジオングでは出来ないことをジョングでは出来るので、白兵戦を仕掛ける。ナーニャがジオングを知っているために白兵戦は出来ないと言うが、近付いてきたジョングが両手の四本の砲門よりビームサーベルを展開したことに驚く。

 

「っ!?」

 

『シャハハハ! 驚きましたか? ジオングとは違ってジョングは白兵戦が出来るんですよ!』

 

 ビームサーベルが出たことに驚きを隠せないナーニャに、ルルモードは容赦なく両手のビームサーベルを振るって切り裂こうとする。ナーニャも直ぐに回避行動を行うが、スマートガンを切り裂かれてしまう。されどナーニャは兵士でありパイロットだ。即座に機体大脚部のビーム・カノンを撃ち込んだ。

 この距離のビームは躱せないと判断してのことだが、ルルモードのジョングはそれを耐えていた。対ビームコーティングが施されていたのだ。

 

『おっと、至近距離のビームが効かないことに驚きのようですね。このルルモードのジョング、対ビームコーティングではなく、ナノ・ラミネートが施されているのですよ! 貴方の機体はビーム兵器主体! つまり、私のジョングとは分が悪過ぎるんですよ!!』

 

 なんと、ジョングの装甲に施されているのは対ビームコーティングでは無く、ナノ・ラミネートであった。ナーニャのEx-Sガンダムはビーム兵器主体であり、分が悪いどころか同じ個所に何度もビームを撃ち込み、コーティングを削がなければならない。だが、相手はあのルルモードであり、彼もまたナーニャ以上にオールレンジ攻撃を得意としている。それを理解して執拗に攻撃してくる事だろう。

 

「それでも、やるしかない…!」

 

 増援が来るまで、ナーニャはルルモードのジョングを引き留めることを決意した。

 

 

 

「これで一機目!」

 

 キュートのサポートを受けつつ、VF-25Aメサイアを駆る玲子は狙った獲物であるVF-11Cサンダーボルトの撃墜に成功した。

 撃墜されて脱出するパイロットが落下傘を開いたのを見て、玲子は次なる獲物に標的を定め、追尾に移る。狙ったのはレダニア軍所属のMiG-29戦闘機であり、対空ミサイルを使おうとしたが、旧世代機に使うのは勿体ないと判断し、ガンポッドでの撃墜を試みる。

 真上から単独で飛んでいる所を狙うが、乗っている者は馬鹿ではないので回避行動を取る。だが、玲子が乗るのはVF-25だ。幾ら空間専用機とは言え、性能は凄まじく、それにキュートのサポートもあって一瞬にして後ろを取り、それからガンポッドを撃ち込んで撃墜した。

 

「二機目!」

 

『勝手に動き回らないで! 後ろに敵がいる!』

 

『当機の背後より敵機接近』

 

 二機目を撃墜したことで、調子に乗る玲子であったが、中隊長であるフュカリタに注意される。それからキュートの背後より敵機接近の報告を受けたが、玲子が対処する前にフュカリタが撃墜してしまった。

 

「えっ? あ、ありがとう…」

 

『前に出過ぎ! 一人で戦っている訳じゃないんだから!』

 

「ごめんなさい…」

 

『敵はこちらのことは考えてくれないわ! ほら、直ぐに来る!』

 

 玲子は勝手に前に出過ぎ、危うく撃墜されそうになったところを注意されて謝罪する中、フュカリタは謝罪する間もなく敵機が来たことを知らせる。

 やって来たのはスミス率いるミッシングリンク隊であり、VF-22や各換装機のジンクスⅡの編隊を前衛に、その背後より航空魔導士一個大隊分が彼女らに襲い掛かる。

 

「我々より貰ったVF-25を差し向けておいて、ただで済むと思うなよ!」

 

 待ち構える帝国再建委員会に向け、スミスは配下の部隊に攻撃を命じた。これに応じ、ジンクスⅡキャノンの一団によるGNキャノンが一斉射される。標的にされたフュカリタと玲子らは即座に回避行動を取り、一斉射を躱し切る。これは牽制射撃であり、ジンクスⅡソードの一団が迫り、手にしている大振りのGNソードで斬りかかって来る。

 

「このっ!」

 

 数機による連続の斬撃を玲子は機体をバトロイド形態に変形させて躱し切り、ジンクスⅡソードの一機にガンポッドを撃ち込んで撃破に成功する。

 

「やった!」

 

『敵機はまだ来ますよ』

 

「しつこい!」

 

 一機を落としたところで、今度はジンクスⅡノーマルのビームライフルとジンクスⅡキャノンのGNキャノンの集中砲火を浴びせられる。これを玲子はキュートのサポートを受けつつ、機体をガウォーク形態に変形させて躱してガンポッドで反撃するが、躱しながらの攻撃は当たらない。他の空軍部隊も居たが、スミス隊の練度は高く、撃墜される機体が見え始める。

 

「我々は魔導士だ! バーバ・ヤーガも居るぞ! 油断するな!!」

 

 スミス本人が率いる航空魔導士部隊は、連合の他の航空魔導士部隊と共に帝国再建委員会の航空魔導士に攻撃を仕掛けた。標的にされたのはターニャが居る第6大隊であり、多数の現地やワルキューレの航空魔導士らを盾にしつつスミス隊の魔導士が攻撃してくる。

 

「奴ら、味方を盾にして!」

 

「卑怯者がよ!」

 

 味方を盾に攻撃するスミス隊の魔導士の攻撃に、第6大隊の魔導士数名が脱落する。これにアルフィン・テオドールは怒り、危険を顧みずにスミス隊に突っ込んだ。

 

「退けッ! 雑魚共!!」

 

 邪魔をする現地徴用航空魔導士らを蹴散らし、スミス隊の魔導士にまで接近するが、敵航空魔導士は連合の魔導士とは違ってプロであり、アルフィンを包囲せんと移動しながら攻撃を仕掛けて来る。

 

「クソっ、卑怯の癖に強ぇなんて!」

 

 連携を取って攻撃してくるスミス隊にアルフィンが魔法障壁を張りながら回避行動を取る中、地上よりハンス・レンツェルファーが乗るナチス製ギラ・ズールが接近してきた。

 

『死ねっ! 劣等人種共が!!』

 

「クソっ、ナチめ! 俺たちごとやる気か!?」

 

 そこにはスミス隊が居るが、ナチスに取っては友軍の連合であろうが劣等人種であり、お構いなしだ。これにスミスは部下らと共に離脱する。アルフィンは魔法障壁を張り、まずはスラスターを吹かせ、こちらを殺そうとしてくるハンスのギラ・ズールの排除に掛かる。

 

「まずはこいつをスクラップにしてやるぜ!」

 

 向かって来るギラ・ズールの攻撃を魔法障壁を張りながら接近し、そのまま相手が近接武器を取り出して斬りかかって来るのを待つ。

 

『これは防げまい!』

 

「かかったな!」

 

 ハンスは一気にスラスターを吹かせ、アルフィンを機体の左手に持ったビームトマホークで切り裂こうと振り下ろす。アルフィンはそれを待っており、振り下ろされた斬撃を躱し、左腕と右腕の関節に砲撃術式を撃ち込んで破壊した。

 

『りょ、両腕がぁ!?』

 

「人型兵器ってのは、大抵関節部が脆いもんだ! 次は両脚だ!!」

 

 人型兵器の弱点を熟知しているアルフィンは、そのままハンスのギラ・ズールの両脚を破壊して達磨の状態にし、胴体に向けてパンツァーファウストⅢの弾頭を撃ち込んだ。

 

「う、うわぁぁぁ!? 何故だ!? なぜ単一生物如きにこのアーリア人の俺がぁぁぁ!!」

 

 燃え盛るコクピットの中で、ハンスはアーリア人である自分が見下しているイヴ人にやられたことを理解できず、必死に脱出しようとハッチを開けたが、そこにはアルフィンが待ち構えており、手榴弾を投げ込んで離脱する。

 投げ込まれた手榴弾は既にピンが外されてそれなりの時間が経っており、コクピットの外へ出る間もなく爆発し、ハンスを殺害した。パイロットが居なくなり、火の玉と化したギラ・ドーガは地面に落下して爆発した。ギラ・ズールを仕留めたアルフィンであるが、スミス隊が感謝するはずが無く、直ぐに数名が襲い掛かって来る。

 

「ちっ、感謝もなしかい! おばちゃん、助けてくれねぇか!?」

 

 礼も無しに襲い掛かるスミス隊に、アルフィンはフェリーチェに救援を請う。だが、当のフェリーチェも自分がネームドであるために多数の敵が迫っており、それどころではない。

 

「あたしの方が救援が必要だよ! たくっ、寄って集って! モてる女は辛いね!!」

 

 多数の敵に攻撃されながらも、フェリーチェは慌てることなく悪態を付きつつ、MG3汎用機関銃の銃身が焼き付く勢いで撃って迎撃している。攻撃している敵航空魔導士の殆どが現地徴用兵であり、スミス隊に脅されながら突っ込んでいる。魔法障壁を張ろうとも、MG42の後継であるMG3の連射力の前に容易く貫かれて死ぬだけだ。スミス隊はそれを理解し、躱しながらの攻撃をしているが、フェリーチェに傷一つ付けられない。

 

「デグレチャフ! お前の小隊も私に続け! バルボッサが危険だ!」

 

「了解!」

 

 流石の彼女も一人で大多数の敵を相手するのは厳しいのか、ターニャとアーデが救援に向かう。自身の小隊とターニャの小隊の救援が駆け付ければ、スミス隊の分隊は分が悪いと判断してか、自分たちだけ

逃げた。無論、殆ど訓練を受けていない現地徴用兵が訓練課程を全て終えている航空魔導士に勝てるはずが無く、一瞬にして蹴散らされる。

 

「ふぅ、助かったよ! テオドール中尉も救援を欲しがってるよ、中隊長殿」

 

「イヴ人は貴重だからな! 直ぐに助けに行かせる」

 

「さて、私も別の…!?」

 

 礼を言うフラーチェは、アーデにアルフィンの救援が必要だと言えば、彼女は傘下の部下二名に彼女の救援に向かわせた。そんな彼女らに、スミスの魔の手が迫る。彼は爆裂術式でアーデとフラーチェ、そしてターニャを仕留めようとしたが、咄嗟にターニャが気付いて強力な魔法障壁を張って爆裂術式を防いだ。

 

「クソっ、仕留めそこなったか…! こちらコンドルリーダーより各コンドルへ、変異種とバーバ・ヤーガを捕捉した! バーバ・ヤーガには現地の奴らを全てぶつけろ。俺と第一中隊と第三中隊は変異種の対処に回る」

 

 仕留め損なったスミスは指揮下の二個中隊と傘下に収めている現地徴用兵らを全て動員し、ターニャ等に襲い掛かった。

 

「あのグラサン、私を狙っているのか!?」

 

「第三中隊は他を足止めしろ! 変異種は俺の隊と第一中隊が対処する!」

 

 ターニャはスミスとその部下たちが自分に向かってきていることを知り、身構えた。傘下の中隊に他のイヴ人の対処を任せ、もう一つの中隊と共にスミスはターニャの捕獲に向かった。

 

「スミスめ、変異種の捕獲をするのか。では、俺はその手伝いでもしてやるか!」

 

 キャノピー越しよりスミスが部下を率いてターニャに仕掛けたのを目撃したブーツホルツは、その手伝いをするべく、配下の僚機を率いて付近に展開するフュカリタと玲子の中隊に襲い掛かった。



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ガイエス平原での決戦 その4

名前:アリー・ヒップマン
年齢:不明
階級:少尉
所属:テキサス軍第29歩兵師団
武器:M16A1、コルトM1911A1
概要:アメリカ人のように金髪で巨乳。カウボーイハットを被っている。

名前:ホア
性別:男
年齢:不明
階級:上級貴族
所属:リップシュタット連合軍 門閥貴族軍
武器:剣、ゴールドルガー。乗機は馬
概要:現地世界の門閥貴族の上級貴族。現代兵器や人型兵器で溢れた戦場で中世染みた格好で出て来る。

募集キャラ

名前:ルシル・ジャベリン
性別:女性
年齢:24
階級:中尉
所属:テキサス軍第29歩兵師団
武器:コルトM1917
概要
軍服を改造したコートとカウボーイハットを被る女性。カウガールである。
キャラ提供はただのおじさんさん


『味方の航空魔導士の下方に敵MS正体を捕捉。彼女を捕獲するつもりです』

 

「そりゃ大変じゃん! 直ぐにそいつ等を…!」

 

 ターニャがスミスとその部下たちに包囲される中、彼女の真下にジンクスⅡ一個小隊を捕捉したキュートが玲子に報告した。それを知り、そのジンクスⅡ小隊の排除を行おうと向かったが、ブーツホルツに捕捉される。

 

『敵機にロックオンされています!』

 

「戦場だからね! って、速いじゃん!?」

 

 キュートの知らせで、自分の邪魔をしようとする敵機の排除を行おうとするが、相手は熟練のパイロットであるブーツホルツである。ミサイルで撃墜しようと放つも、あっさりと躱されて倍返しのミサイルが来る。

 

『ミサイル接近! 接近!』

 

「なんなのあいつ!?」

 

 熟練のパイロットの相手をするのは、玲子に取って厳し過ぎたようだ。キュートの警報に玲子は操縦桿を必死に動かし、自機に向けて飛んでくるミサイルを躱し切る。様々なパイロットと幾度となく戦った経験のあるブーツホルツは、その動きと反応を見て直ぐに玲子が素人であると気付いた。

 

「あの動き、素人か!? VF-25に訓練不足のパイロットを乗せるとは、やはり人手が足らんようだな! だが、手加減はせんぞ!」

 

 玲子を訓練不足のパイロットと見抜いたブーツホルツであるが、ここは戦場なので彼は容赦しない。自分のような熟練のパイロットが、素人同然のパイロットに撃墜された現場を見ているのだ。例え半人前であろうが、ブーツホルツは容赦せず落としに掛かる。それに必死に逃げ回る玲子の動きで、ブーツホルツはVF-25が本来の性能を出せていないことを見抜く。

 

「空戦仕様に改造しているようだが、所詮は宇宙用の戦闘機。重力下の空ではそれほどの性能は出せんぞ。何のサポートを受けているか知らんが、半人前は隠せん!」

 

 キュートのサポートのおかげで何とか攻撃を躱している玲子であるが、熟練のブーツホルツから見れば性能頼りのパイロット同然だ。追い詰めて冷静さを奪い、判断をに鈍らせようとする。碌な反撃も出来ず、ただ撃たれる同然の玲子は何とか反撃しようと、キュートに反撃の手段を問うが、彼女を守るためのAIはそれを了承しない。

 

「ねぇ、反撃できないの!? このままじゃ…!」

 

『マスター、落ち着いて回避に専念してください。敵は貴方より遥か上を行くパイロットです。今は回避に専念してください』

 

「もう! やられっぱなしは趣味じゃない!」

 

 お前では無理だと言うキュートに玲子は苛立つ。玲子とキュートを追い回し、最低限の射撃で弾を節約するブーツホルツは、相手が反撃するのを待っていた。

 

「どうした、反撃せんのか? このままではやられるぞ」

 

 相手の玲子が慌てる中、ブーツホルツは慌てず、相手のミスを待つ。他にもVF-25メサイアはいるが、彼は部下と頼連合軍に任せ、一対一の状況を作り出している。

 勝つのはブーツホルツだろう。だが、万に一つの可能性でブーツホルツがド素人の玲子に負ける可能性がある。それを理解している熟練のパイロットは相手から冷静さを奪い、確実に撃墜しようとしているのだ。

 ブーツホルツの思うように追い詰められている玲子は痺れを切らし、キュートの最強のシールドであるフォースシールドを使い、相手が驚いている隙に倒そうと決意する。

 

「ねぇ、キュート。フォースシールドで敵の攻撃を防ぎ、相手が驚いた隙に落とすわ!」

 

『駄目ですマスター、あれは一度限りです。二度目はありませんので推奨できません!』

 

「うるさい! じわじわと嬲り殺しにされてたまるもんですか! 実行!!」

 

 キュートのフォースシールドはどんな攻撃でも防ぐ代物だが、今は一度限りしか使えない。それを使おうとする玲子にキュートは反対するが、冷静さを欠いている彼女はそれを実行し、ブーツホルツのVF-22の攻撃を防いだ。

 

「な、何っ!?」

 

 確実に撃墜できるミサイル攻撃を、まるで効かなかったように動く玲子のVF-25を見てブーツホルツが驚く中、彼女はその隙に機体をバトロイド形態に変形させ、人型となった機体の両手にガンポッドを抱え、連射する。

 並のパイロットなら撃墜は出来たが、相手は熟練のパイロットだ。直ぐに回避行動を取り、同じく機体をバトロイド形態に変形させ、両腕のピンポイントバリアで防ぎながら離脱し、ミサイルによる反撃を行う。

 

『ミサイル!』

 

「危ない!」

 

 ミサイルの接近に玲子は直ぐに機体をファイター形態に戻し、飛んでくるミサイルを躱し切った。それがフォースシールドの弱点を晒したことを、玲子は知らない。今の回避行動を見ていたブーツホルツは、即座に今の絶対防御が一度限りだと気付き始める。

 

「なぜ躱した? あれほどのシールドなら、躱すことなく突っ込んでくるはず…! なら、もう一度当てて確かめるだけだ!」

 

 絶対防御が一度ならと思ったブーツホルツは確かめるべく、奇襲攻撃を行うため、機体をファイター形態に変形させ、電子戦装備を使ってキュートを騙し、玲子の視界より消える。

 ステルス状態となったVF-22Sは、太陽を背にしての攻撃をするために更に上昇していた。

 

『敵機、ロストしました』

 

「あれ、逃げた? なら、今のうちに…」

 

 キュートの知らせでブーツホルツが逃げたと誤認した玲子は、ターニャの救援に向かおうとしたが、太陽を背にしたVF-22の奇襲を受けた。

 

『攻撃、当機の上方より!』

 

「えっ、上!? あっ…!」

 

 太陽の光に目をやられ、玲子は反応が遅れた。

 

「俺なら撃ち続ける!」

 

 太陽を背にして奇襲したブーツホルツは反応が遅れた玲子のVF-25に容赦なくレーザーやガンポッドの掃射を浴びせ、敵機をハチの巣にする。ガンポッドの掃射を受けたVF-25Aは耐え切れず、火を噴いて地面へと墜落していく。

 

「キャァァァ!!」

 

『機体損傷! 航行不能! 直ちに脱出装置を作動させます!』

 

 撃墜され、パニックを起こす玲子にキュートは脱出装置を作動させる。火を噴いて墜落していくVF-25を見ていたブーツホルツは、先の一撃はまぐれであると分かった。

 

「どうやら、今のはまぐれのようだな。もう少し腕を上げていれば、あのインチキを使わなくとも、俺を撃墜でも出来ただろうに」

 

 撃墜した玲子に、ブーツホルツは悪く言わずに他のVF-25に苦戦する味方の救援に向かった。

 同じく玲子が落とされたのを、敵機のVF-22Aを撃墜したフュカリタにも見えており、どさくさに紛れて脱走どころか、落とされたことに衝撃を受ける。

 

「玲子!? 落とされたの!? 応答して玲子! 玲子ぉぉぉ!!」

 

 必死に玲子にコールするフュカリタであるが、今の彼女はキュートによって機体から脱出しており、既に戦場から逃げ去っていた。死んでいないとは知らずの玲子の仇を討とうにも、VF-25を包囲する連合軍機は多く、救出には向かえない。

 否、一人だけ居た。ターニャ・デグレチャフ少尉である。

 

「ば、バカな!? 衝撃波でこの包囲を破っただと!?」

 

 謎の衝撃波を放ち、自身を含めた部下の航空魔導士と捕獲のためのジンクスⅡ部隊を纏めて吹き飛ばしたターニャにスミスは驚愕する。彼女はこの世界にある技、即ちスキルを使ったのだ。

 

「スキル名、衝撃波。私の魔力と組み合わせれば、全方位バリア並みの威力だわ」

 

 ターニャが使ったスキルは衝撃波であり、この世界に転生した少女であるハルより貰ったスキルの一つだ。ターニャはこのスキルに前世からの高い魔力とさらに加わったロリータ族の魔力を掛け合わせ、威力を増幅したのだ。結果、衝撃波は高い機動力と性能を持つMSのジンクスⅡを吹き飛ばす程であり、スミスが動揺を覚えのも無理はない。

 

「高魔力を誇る魔導士ですらこの衝撃は放てんぞ!? 一体なんだと言うのだ!?」

 

「そうか、お前たちはスキルを知らないんだな。まぁ、無理も無いな。こんなのも使えるぞ」

 

 スミスが動揺する中、ターニャはハルより貰ったスキルをまた使う。それは炎魔法であり、ターニャの魔力も合わさって大きかった。それを自身の周囲にも召喚して一斉に放てば、スミス隊の航空魔導士らは直ぐに魔法障壁を張る。だが、その威力は衝撃波同様に魔力で上乗せされているので、容易に貫通して暗部の魔導士らを火達磨にする。

 

「な、なんて威力だ! オマケに追尾機能だと!? やはり奴は変異種だ! クソっ!!」

 

 魔法障壁を容易く貫通する火の玉に続き、おまけに追尾機能まであるのでスミスは逃げる。だが、逃げ切れる訳が無いので、スミスは航空魔導士として戦闘に参加している現地世界の王国の王子を見付け、彼を盾にして防ごうとした。

 

「な、何をするのだ!? 私は王子だぞ!?」

 

「知った事か!」

 

「止めろ! 離せェ! わぁぁぁぁ!!」

 

 無論、抵抗されたが、スミスは力尽くで捻じ伏せ、王子を盾にして追尾型炎魔法を防いだ。

 

「グゥゥゥ…! ミートシールドを重ねた魔法障壁でも防げんとは…!?」

 

 王子を盾にして防ぎ切ったが、その火力を完全に自信を防ぎ切ることが出来ず、負傷したスミスは離脱した。ようやく包囲を抜けて自由になったターニャであるが、上官のアーデに貴重なバルキリーであるVF-25の救援を命じられる。

 

「手が空いているのはお前だけだな!? 直ちにVF-25を包囲している部隊を殲滅しろ!」

 

「私には…」

 

「見ていないと思っているのか!? 追尾型炸裂術式を使え! 周辺の敵は我々とお前の部下が何とかする!」

 

 これにターニャは断ろうとするが、あの炸裂術式を見ているので言い訳できず、アーデからの命令に従ってVF-25に襲い掛かるブーツホルツなどが駆るVF-22シュトルムフォーゲルⅡに照準した。

 

「ちっ。主よ、我が戦友の脅威を払いたまえ!」

 

 舌打ちしながらも詠唱を行い、全機をロックオンすれば、直ぐに前世で爆撃機の編隊を一掃した追尾型炸裂術式を放った。放たれた強力で前世よりも更に威力が増した魔弾は容易くVF-22を撃墜する。

 

『駄目だ! 躱し切れない!! うわぁぁぁ!!』

 

 何機かは躱すが、ターニャもそれを見越して多めに放っており、一撃目を躱せても二撃目を躱せずに被弾して撃墜される。しかし、ブーツホルツは例外であり、機体をファイター形態に変形させ、避けようと必死に操縦桿を動かし、追尾型魔弾を躱し続ける。

 

「こんなところで、死んでたまるかァ…!」

 

 部下を殺され、自身にも死神の鎌を喉元に突き付けられるが、ブーツホルツは諦めず、強烈なGを耐え切りながら死の魔弾を躱し続ける。身体が潰れるような機動を行っており、ブラックアウトしてもおかしくない状況であるが、ブーツホルツはそれらを諦めない決意と精神力で捻じ伏せ、死の瞬間から逃れ続けている。ブーツホルツの生への執着心にターニャは驚かされる。

 

「なんだあのパイロット!? あの機動ではGで身体が死ぬぞ!?」

 

 無茶な回避機動を取りながら追尾型魔弾を躱し続けるブーツホルツに、ターニャも驚愕していた。彼女の言う通り、ブーツホルツが乗るVF-22は人が死んでもおかしくない飛行を行い、命を刈り取らんと迫る魔弾を躱し続けている。他のパイロットたちもブーツホルツの執念に驚かされていた。

 

「ぬぁぁぁ! アァァァ!!」

 

 Gの影響で目に血が溜まり、全身を圧し潰されそうになろうとも、ブーツホルツは自身の執念と精神力を耐え、魔弾を躱し続ける。最後に追尾して来た三発を機体を回転させながら躱し切った。

 

「そんな馬鹿な…!? 全て躱しただと!?」

 

「なんてパイロットだ!? あれを躱し切るなんて!?」

 

 ターニャも含め、一同はブーツホルツの執念に驚愕した。生への活力と精神力で、ブーツホルツは死神の鎌より逃れたのだ。ターニャの攻撃を躱し切ったブーツホルツは、当然の如く血反吐を吐いた。

 

「ブハッ! や、やったぞ…! 俺は生き延びたぞ!!」

 

 生き残ったことを喜ぶブーツホルツであったが、ターニャが逃すはずが無く、コクピット近くまで彼女は迫っており、G36A突撃銃を向けていた。

 

「なっ…!?」

 

 キャノピー越しに見えるターニャに、まだ逃れられていないことを知ったブーツホルツは絶望し、言葉も無かった。ターニャは慈悲もなく砲撃術式をコクピットに撃ち込んで彼のVF-22を撃墜した。

 

「お前はよくやったよ。だが、ここが戦場だと言うことを忘れていたようだな」

 

 自身のあの炸裂術式を躱し切ったことを褒めたが、ここが戦場だと忘れ、安心しきってしまったブーツホルツを責めつつ、ターニャは補給の為に離脱しようとした。

 だが、一難去ってまた一難。新たな脅威か存在Xの差し金か、新たなる敵がターニャに迫る。

 

「居るじゃねぇかァ…! 滅茶苦茶に強ェ奴がよォ!」

 

 それは、増援としてこの世界にやって来たヴィルヘルム・エーレンブルグことベイであった。彼を見たターニャは、即座にただ者ではないと判断した。

 

 

 

 ベイがターニャと会敵する十分ほど前、帝国再建委員会の侵攻軍に参加しているテキサス軍は、委員会の人機旅団の援護を受けつつ快進撃を続け、首都近くまで迫っていた。

 

「な、なぜ女たちにこうも容易く…!」

 

 未だ女性らを見下す現地世界の貴族部隊である門閥貴族軍は、帝国再建委員会より装備が劣るテキサス軍に押され、壊滅状態に陥っていた。支援部隊も居るが、これも委員会の人機旅団に押されいる。

 

「おのれ! 女の分際で男に逆らいおって! 女は男に従うのが世の理なのだぞ!!」

 

 負けを認められず、門閥貴族軍は銃を持った敵軍に騎兵突撃を行うが、屍を増やすばかりで無意味であった。

 

「このホアには黄金の銃がある! この銃は貴様らを粉砕する伝説の…」

 

 門閥貴族軍に属する貴族の一人、ホアはホルスターに仕舞ってある金メッキで塗装したルガーP08自動拳銃を取り出し、この銃ならテキサス軍を粉砕できると言っていたが、所詮はただの銃であり、眉間を撃ち抜かれ、騎乗していた馬から転げ落ちる。

 そのホアの死体は逃走する貴族軍の騎兵隊の馬に次々と踏まれ、惨たらしい死体へと変わった。

 

「敵軍撤退を開始!」

 

「追撃するわよ! 戦車に乗って!」

 

 テキサス軍の第29歩兵師団に属するアリー・ヒップマン少尉は、ホアを射殺したと思われるM16A1突撃銃の再装填を行い、部下に追撃を命じ、後続のM4A6シャーマン戦車を止めて車体に乗り込む。

 

「ぐあぁ…!?」

 

 他の場所では、間違えたのではないかと言う出で立ちのイヴ人、カウガールと言うべきか、軍用リボルバーであるコルトM1917一丁で現地軍を圧倒していた。凄まじい早撃ちであり、援護の為に出ていたワルキューレの歩兵部隊も次々と撃たれて倒れていく。

 撃っているリボルバーの弾が切れれば、ルシル・ジャベリン中尉は悪癖なガンプレイのような再装填を行う。

 

「私の革命的リロードを見ろ!」

 

 そう叫んだルシルは、ポーチから出した弾薬をシリンダーに向けて投げ入れると言う再装填を行う。戦場において余りにも悪癖な再装填の仕方だ。M14自動小銃やM16A1突撃銃を持つ部下の援護が無ければ、今頃は敵兵が持つ英国製FALことL1A1自動小銃によって射殺されていた事だろう。

 再装填を済ませた彼女は再び早撃ちを行い、一気に六人の兵士を射殺、もしくは負傷させた。今度はあの悪癖な再装填は行わず、普通にポーチから弾薬を取り出して装填している。

 

「何発撃ったか覚えていないな。覚えてるか?」

 

「いえ」

 

「まぁ良い。ついてこい、あそこを突破するぞ」

 

 何発撃ったか覚えていないと口にしたルシルは、後ろに立つ部下に覚えているかどうかを問えば、彼女も覚えていないと答えた。これにルシルは気にすることなく、自分が指差した方向を突破すると言ってそこへと部下を引き連れて向かった。

 帝国再建委員会の本隊のみならず、雇われ兵の集まりであるテキサス軍も強く、テキサス軍が担当する戦区に居るリップシュタット連合軍は他の場所と同様に押されていた。

 だが、テキサス軍の快進撃はここまだ。何故なら、そこに連合軍の増援、否、第三勢力と言うべきか、ヴィルヘルム・エーレンブルグことベイが来たのだから。

 

「おうおう、やってるなぁ! それに天気も良い曇り具合じゃねぇか!」

 

 天候が曇りであることから、ベイはそれを大いに喜んでいた。彼は似非吸血鬼と呼ばれる所以は、日光の光が耐えられないアルビノ体質だからである。太陽の光は完全に雲で遮られている。本来なら夜の方が良いが、ベイを焼く日光は無い。

 

「夜まで大分時間があるな。ちょいとウォーミングアップと行くか!」

 

 腕時計の針を見て、ベイは夜まで大分時間があると分かれば、それまでの時間つぶしの為、目前の敵味方構わず、自身の能力か、不可視の杭を大量に無差別に放った。

 突撃してくるテキサス軍を迎撃するために展開した現地軍とワルキューレ陸軍の支隊は背後からベイが放った大量の不可視の杭に突き刺されて次々と死んでいく。ベイに取って彼ら彼女らは味方では無いのだ。

 

「な、何!? あれ…!?」

 

 無数の杭は見境なく、突撃したテキサス軍の戦車部隊にも不可視な杭が突き刺さる。その威力は戦車の前面装甲を容易く貫き、突撃したテキサス軍のM4シャーマンやM48パットンを含める戦車部隊は壊滅した。これにはアリーを始め、ルシルらテキサス軍の者たちは驚愕する。

 

「一体、何が…!?」

 

「ちっ…!」

 

 車体の上よりベイの無差別攻撃を見ていたアリーが驚愕する中、ルシルはリボルバーによる狙撃を行う。500メートルは離れているだろうが、ルシルはリボルバーでそれを成功させてきた腕を持つガンマンだ。しっかりと腕を固定させ、高台に居るベイを狙撃した。

 

「あぁん、ピストル弾の狙撃だァ?」

 

 あの距離を拳銃弾で狙撃し、当てたルシルの腕は超一流だ。だが、ベイはそれを遥かに凌ぐ人知を超える存在であった。左手に掴んだ拳銃弾で狙撃した距離を計算し、ルシルの位置をベイは割り出した。

 あれほどの距離をピストルで狙撃したルシルは、微かに見える標的がまだ生きていることに驚く。無理もない事だ。

 

「ピストルで俺を狙撃するとは、褒めてやりたいところだがよ…ここは戦場だぜぇ? そこだなぁ!?」

 

 そこへ行くこと無く、ベイは不可視な杭を打ち込んだ。飛んでくる杭は見えないため、ルシルの背後にいる部下を含めるテキサス軍の大勢の歩兵が杭に突き刺されて死亡する。これにルシルは思わず尻もちを着き、身震いを始める。他の将兵等も同様であった。

 

「な、何が…何が起きたの!?」

 

 全く銃声が聞こえず、突然の如く大勢の味方が死んだことにアリーはまたしても驚愕した。不可視な杭を遠距離より放ったベイは、自分の狙撃が失敗したことに苛立っていた。ルシルのような常人が出来るなら、超人たる自分も出来ると思っていたようだが、標的にした彼女に一発も当たらないことが彼の癪に障ったようだ。

 

「あぁ!? なんで当たらねぇんだよ! たかが単一生物如きのピストルで当てられる距離だぞ!? クソが!」

 

 苛立ちながらベイはその場から移動を始める。そんなベイの足に無差別攻撃を生き延びた現地の貴族が掴み、助けを請う。ただでさえ苛立っているベイは自分の攻撃で生きている瀕死の貴族を睨み付ける。

 

「た、助けて…! いくらでも、出すから…!」

 

「あぁ? てめぇ、なんで生きてん、だッ!」

 

 助ければ報酬は弾むと言う貴族に対し、ベイは瀕死の男の顔を思いっ切り蹴飛ばした。その威力は全速力の大型車の突進クラスであり、瀕死の貴族の頭は跡形もなく吹き飛んだ。貴族の頭を蹴り飛ばしたベイはルシルの元へと全力で向かう。

 常軌を逸した速度で接近して来るベイに、後続も含めたテキサス軍は一斉に攻撃を始める。ベイの身体は鋼よりも強靭であり、銃弾を軽く弾いていた。戦車砲を放たれるが、動きが速いために当たらない。M1919搭載機銃やM2ブローニング重機関銃、M60機関銃、M240機関銃ですら当たらない。

 

「な、なんて速いの!? 化け物!?」

 

 M4戦車の砲塔に搭載されたM2重機関銃を撃つアリーはベイの余りの速さに驚愕する。ルシルはベイを脅威と判断し、得意の早撃ちで迎撃しようとするが、放ったのは拳銃弾であり、全く効きもしない。

 

「ハハハッ! どうした、どうした!? そんなんじゃ俺は殺せねぇぞ!」

 

 足を止めればベイは周辺に向けて不可視の杭を放ち、周辺のテキサス軍の将兵を殺傷する。

 

「何なのあいつ!? 車長、後退して! 車長!?」

 

 これに驚いたアリーは自分が乗っている戦車の車長に後退するように言うが、車長と乗員は先のベイが放った不可視の杭による攻撃で死亡していた。

 

「撤退! 撤退!!」

 

「おーい、待てよ」

 

 ベイに敵わぬと判断したアリーは即座に戦車から降り、部下らや味方と共に逃げようとするが、気性の荒い男が逃すはずが無く、不可視の杭を打ち込まれ、数十名が死亡し、彼女も不可視の杭を受けて倒れ込む。幸い、当たり所が良く、大事には至らなかった。直ぐに這いずって逃げるも、歩いて近付いてきたベイに首根っこを左手で掴まれて持ち上げられた。

 

「お前、運が良いなぁ? 大好きだぜ、運が良い奴はよ!」

 

 自分の攻撃を受けても生きているアリーの運の良さに、ベイは自分の好みを言いつつ、怯える彼女にとどめを刺そうとしたが、背中をM14自動小銃の銃剣で突かれた。ベイの身体は鋼以上の硬いので、銃剣は刺さらない。

 自分の背後から銃剣を突き刺した兵士に対し、ベイは舌打ちしながら振り向き、空いている右拳を叩き付ける。怒り任せの右拳によるパンチを受けたその兵士の上半身は引き千切れ、下半身は地面に倒れる。

 

「ムカつくくらいに運の良い奴だな、お前。その運の良さ、俺にもちっとは分けてくれよぉ?」

 

「ひっ、ひぃぃぃ!? 助けて! 助けてェェェ!!」

 

 味方の兵士の上半身が引き千切れるほどの腕力を持つベイに恐怖したアリーは泣き叫んで助けを請うが、部下を含めて誰もがベイから逃げようと必死に逃げていた。そんな彼女を助けるのは、ガンマンであるルシルである。

 正確な射撃でベイの眉間に向けて一発ほど撃ち込んだが、前に述べたように彼の身体は鋼以上だ。容易く弾かれてしまい、無駄玉に終わる。

 自分をピストル弾で狙撃したルシルを見て、ベイはアリーを投げ捨ててから問う。

 

「お前かぁ、ピストルであの距離から俺に当てたのは?」

 

 これにルシルは答えることなく得意の早撃ちでベイを撃つが、全く効きもしない。ベイの次なる標的が自分となったところで、ルシルは勝てそうな部隊である人機連隊の所に行こうとしたが、彼の注目は別の方へ向いた。

 それはこの付近でブーツホルツ等と交戦していたターニャであった。彼女の高過ぎる魔力を感じ取ったベイは、ルシルらを無視してその方向へ視線を向けた。

 

「居るじゃねぇか、強ェ奴がよぉ!」

 

 ターニャの位置を掴んだベイは、アリーやルシル等を無視してそこへと飛んでいった。

 

「た、助かった…?」

 

「死ぬかと思った…」

 

 余りにも手に負えなさ過ぎるベイがターニャに向かったところで、負傷しているアリーはまだ生きている事を疑問を抱き、ルシルはカウボーイハットを脱ぎ、膝から崩れ落ちて安堵した。

 テキサス軍全体もベイがターニャの所へ向かったことに感謝していた。あのまま彼と戦っていれば、テキサス軍の壊滅は確実だっただろう。対峙することになるターニャに取っては、最悪な事この上ないが。



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ガイエス平原での決戦 その5

名前:真下一元(ました・かずもと)
性別:男
年齢:25歳
階級:軍曹
所属:帝国再建委員会 義勇空軍航空魔導士
武器:FAL自動小銃
概要:行く当てもなく、帝国再建委員会に流れ込んだ風来坊。市民権が手に入ると聞き、労働者から軍に志願し、魔力適性があったのか、強制的に航空魔導士にされる。そんで激戦区に放り込まれた。
義勇兵の演算宝珠は旧式であり、ターニャの前世の物とは違って幾度か小型化されているが、重い。

ウィリー・アーメンガード
黒人と化したヴァイス。だが、スキンヘッドで所帯持ち。後にターニャの部下となる。
幼女の過去編では、義勇軍の航空魔導士部隊に属していた。


 帝国再建委員会の本隊がベルンブルク領本土に雪崩れ込んでいく中、背後を守る常備軍と義勇軍は、リップシュタット連合の増援を押し止めていた。増援の数は連合軍以上であり、長く押し止めるのは限界であった。

 

「畜生! こうなれば入るんじゃなかった!!」

 

 帝国再建委員会で採用されている旧式の演算宝珠を装備し、古いライフルであるFAL自動小銃で押し寄せる連合軍の増援を迎撃する義勇軍航空魔導士の一人、真下一元軍曹は、帝国再建委員会に入るんじゃなかったと今更ながら後悔した。

 一元は嘆きつつも、敵が都合を考えることなく物量に任せて突っ込んでくる。MSのヘリオンやイクナト、リカルドにフラッグ、ティエレン全領域型、連合軍共通装備のジンクスの大群が一挙に押し寄せ、その後から戦闘機やバルキリーの大群が圧し潰さんと迫る。

 地上では三ヶ国特有兵器であるメックが地を埋め尽くし、背後から歩兵や戦車、戦術機の大群が押し止める帝国再建委員会を圧倒していた。

 

「嫌だ! 俺は死ぬのなんて御免だ! 俺は逃げるぞ!!」

 

 連合軍の過剰な増援部隊に、義勇軍の航空魔導士の一人が逃げるのは無理もなかった。それを脱走兵の上官であるウィリー・アーメンガードは止めようとするが、脱走兵が聞く耳を持つはずが無い。

 

「あっ、待て! 逃げるんじゃない! 押し止めるんだ!!」

 

「馬鹿やろうが! イヴ人のために死ねるか! 俺は俺の為に…」

 

 ウィリーの静止の声を聴かず、脱走兵は装備を持ったまま逃げようとするが、連合軍に側面攻撃を行う敵魔導士と勘違いされ、集中砲火を浴びて死亡した。これを同じく義勇軍として戦う他の航空魔導士等は嘲る。

 

「フン、逃げるからそうなる!」

 

「そんなことをしている場合があったら、奴らを押し止めろ! 本隊が連合軍の大将を抑えれば、こちらの勝ちだ!!」

 

「つったって、こんな数をどうやって抑えるんだ!?」

 

 死んだ脱走兵を嘲た部下らを叱りつつ、ウィリーは本隊がリップシュタット連合の大将を討ち取るか捕らえるまで持ち堪えろと指示を出し、押し寄せる敵を砲撃術式で撃破し続ける。

 確かにターニャやカヤたちが敵の大将を殺すか捕らえることが出来たならこちらの勝利だ。だが、それまで持ち堪えられるかどうか分からぬ数の敵の大群が迫っている。これに一元は文句を言いつつ、生き残るために必死で迫りくる敵を撃破し続けた。

 

「大将! 逃げましょうぜ! このままじゃ俺たち殺されちまう!」

 

 地上のアムレートも同様で、叩いても叩いても出て来るメックを斬り続けた。だが、敵は絶え間なく出て来る。それに部下の一人が一機のメックをRPG-7対戦車火器で撃破し、逃げようと上官であるアムレートに提案する。

 無論、アムレートには行く当てがない。メックを大剣で叩き切った後、脱走はしないと部下に返した。

 

「逃げて何処へ行こうとする? 行く当てがあるのか? それに逃げたとしても、委員会は俺たちを見付け、必ず殺す。行く当ても目的もなく、生きるために逃げ続けるのか?」

 

「はっ、大将らしいや! なら本隊が勝つまで、一人か一機でも多く道連れにしてやるぜ!!」

 

 アムレートの返答に、逃げ出そうとしていた部下は納得してAK-74突撃銃を手に取って後続の敵歩兵を倒し始める。

 事実、アムレートのような帝国再建委員会に拾われた人間たちは、何処へ行く当てもない者ばかりだ。流れ者として職を転々とするか、死に場所を求めて戦場を渡り歩くか、あるいは野垂れ死にするか三択しか選べないのだ。

 特に帝国再建委員会に拾われ、忠実な兵士として育てられた孤児らは強く、圧倒的物量を前にしても臆することなくイヴ人の為に戦い続けている。

 

「なんだこいつ等!? この数を前にして逃げもしない上に向かってくるぞ!」

 

 大量投入されたメックとMS、戦術機で物量的に圧倒しているはずの連合軍の増援部隊であるが、死を恐れずに立ちはだかる帝国再建委員会のMSであるランドマン・ロディに獅電に正規兵らは恐怖を覚える。

 多勢な連合軍に立ちはだかる両機は共にナノ・ラミネート装甲が施されており、そればかりか士気も高い孤児らが乗っているので異様なまでに強く、物量で圧倒しているはずの連合軍のパイロット等が逆に圧倒されるばかりだ。例え戦闘不能になろうが、一人でも多く道連れにする為、自爆攻撃をするために突っ込んでくる。

 旧式の戦術機であるF-4ファントムやMiG-21バラライカと言った機体に乗る者も同様である。

 

「イヴ人さまの為にッ! うわあぁぁぁ!!」

 

『こ、こいつ等! 両腕も無しに自爆攻撃を!? わぁぁぁ!!』

 

 両腕を破壊されたランドマン・ロディに乗る少女は、自分を我が子のように育ててくれた帝国再建委員会に恩と忠誠を果たすため、自爆攻撃を敢行した。自爆攻撃を敢行したランドマン・ロディや獅電に恐怖した連合軍のMSや戦術機は阻止するために弾幕を張るが、彼に彼女らの委員会の狂信的な忠誠心を砕けるはずが無く、自爆攻撃に巻き込まれて大損害を被る。

 上空のMSのガン・イージー、人機の空戦型モリビトも同様で、戦闘不能になれば道連れにしようと自爆攻撃を行う。流石に味方の常備軍や義勇軍の将兵等も、この狂信的な孤児たちの戦いぶりに畏怖を覚える。

 

「なんて忠誠心だよ、おい。なんで、イヴ人なんかの為に自分の命を簡単に投げ出せるんだ…!? おかしいだろ…!」

 

 付近でウィリーらと共に戦っていた一元は、孤児らの狂信的な戦いぶりに疑念を抱き始める。彼ら彼女らも行き場も無いのだ。そんな自分らを我が子のように思ってくれる委員会に、少しでも恩返ししようと思っての事だろう。自分が生きる事しか頭に無い一元には、理解できぬ行動であるが。

 

「が、ガンダム…! こ、こんなのとやれって言うのか…!?」

 

 連合軍を恐怖させるおは孤児兵の狂信的な行動ばかりではない。常備軍には数機のガンダムが配備されており、乗っているイヴ人のパイロットの技量も重なり、鬼神の如くの強さであった。

 上空では太陽炉搭載型ガンダム数機が数十機のVガンダムと共同戦線を張り、物量で勝る連合軍を押し止めている。地上には伝説的存在であるガンダム・フレームも二機ほど配置されており、鬼神の如くの強さで押し寄せる連合軍の機動兵器を次々とスクラップにしていた。

 

「だ、ダイヤの為に、俺たちに死ねって言うのか…! 上層部の連中は!?」

 

 孤児兵の狂信的な戦いぶり、数十機のガンダムを前にした連合軍の将兵等は、たかがダイヤの為に死ねと言う上層部に怒りが芽生え始めていた。

 

 

 

 高い魔力と前世の戦闘力を保持したが故に、ヴィルヘルム・エーレンブルグことベイに目を付けられてしまったターニャは、誤魔化そうと思ってか、幼女の真似をする。

 

「えーん、えーん! 白髪で怖いサングラスのおじさんが睨んでるよぉ! ターニャ無理やりおねえちゃんたちに戦争させられてるの! えーん、えーん!!」

 

 前世で得た完全なる幼女その物で、ベイの魔の手から免れようとするターニャであったが、当の彼は誤魔化せなかった。何故なら似たような人物を知っているからである。

 

「おい、幼女の振りなんかしてじゃねぇぞ! そんなんで俺の目を誤魔化せると思ってんのかァ? 悪いが知り合いに似たような奴がいるんでなァ、大体のことは分かるんだよ!」

 

「み、見た目も幼女な私の幼女真似が通じんとは…!? こいつは不味い! だがッ!!」

 

 ただの幼女ではないことを看破されてしまったターニャであるが、既に地に居るベイの背後にはフェリーチェが来ており、逆さに持ったMG3汎用機関銃のストックで後頭部に強く殴打する。

 

「これで木端微塵…!?」

 

 凄まじい威力であり、通常なら頭が木端微塵に吹き飛んでいる程だが、ベイは超人の類だ。よろける程度であり、後頭部を殴られたベイは自分を殴ったフェリーチェを睨み付け、強力な右拳を打ち込んだ。

 

「何すんだババアァ!!」

 

「うげェ!?」

 

 この避け切れない強力なパンチにフェリーチェは咄嗟に魔法障壁を張るが、完全に防ぎ切れず、吹き飛ばされた。あの熟練の航空魔導士であるフェリーチェが吹き飛ばされたことに、アーデらを始めとした第6大隊の者たちは驚愕する。

 

「不意打ちとぁ、考えたもんだなぁ? だがな、そんなもんで俺は殺せねぇぞ!!」

 

 後頭部を抑えつつも、ベイは不意打ちを食らわせた彼女らを責め立てることなく、むしろ褒めて攻撃してくる。その標的はターニャのであり、直ぐに周囲の部下らとアーデも含めて砲撃術式を行うが、ベイを倒すことすら敵わない。

 

「効かない!?」

 

 アーデが驚愕する中、ターニャに空高く飛翔したベイの手刀が迫る。これを寸でのところで躱し、反撃の蹴りを相手の胴体に入れ込むが、何度も述べた通りベイの身体は鋼以上だ。逆にターニャの左足に激痛が走った。

 例えるなら、硬い物に思いっ切り蹴飛ばしたような感覚だ。それを感じたターニャは蹴った左足を思わず抑えてしまう。そんなターニャにお構いなしに、ベイはかかと落しを食らわせる。

 

「痛ぇだろぉ? なぁ、痛ぇだろぉ!?」

 

 無論、ターニャのただ者ではない。かかと落しを躱し、今度は至近距離から爆裂術式をベイに向けて放つ。この爆風をターニャは防御術式を展開して防ぎ切った。あの距離で爆裂術式を受ければ、対象は死んでいるはずだ。ターニャはそう思った。

 

「死んだか?」

 

「今のは、ほんのちょいと痛かったぜッ!」

 

 ベイは生きており、少しのダメージが入っていたようだが、見る見るうちに傷は癒えていく。今のは少し痛かったと言いつつ、ベイは反撃の手刀を繰り出してきた。驚きながらもターニャは躱し切り、即座に離れて部下や他の大隊の者たちが放つ爆裂術式の集中砲火より逃れる。

 今度こそはと思っていたが、ベイには大したダメージを与えられていない。そればかりか反撃の不可視の杭の無差別攻撃で多数の味方が死傷する。ベイの味方であるはずのナチス軍を始めとした連合軍にもだ。これにアーデは大隊長に、エリカの高速中隊に対応させるように要請する。

 

「大隊長、あいつは異常すぎます! ホルシュタインの隊を!」

 

「えぇ! 高速中隊、直ちに敵能力者に対処せよ!」

 

 これに応じ、第6大隊の長はエリカの隊に支援を要請した。直ぐにエリカの隊は現れ、自由落下中のベイに向けて攻撃を行う。

 

「速ぇなっ! だがな、その程度じゃ俺は殺せねぇぞ!!」

 

「っ!?」

 

 高速機動しての連続した砲撃術式に対し、ベイは無数の不可視の杭を放ち、エリカの隊の二名を仕留めた。高速の航空魔導士に当てたことにエリカは驚きつつも、誰もついて来れない自分の高速の体当たりは耐えられないと判断して、全速力でベイに突っ込む。その速さ、まさに音速。音を置き去りにしたエリカは銃剣をベイに向けながら突っ込んだ。

 目にと止まらぬ、音速で突っ込んでくるエリカに、ベイは動じることも無ければ怯むことなく、笑みを浮かべて迎え撃つ。やがてエリカが銃剣をベイの胸に突き刺したが、深く突き刺さることは無かった。

 

「上出来だよ、お前は。だがな、形成を使うまでもねぇよ!!」

 

「グハッ!?」

 

 そう言ってエリカの腹に膝蹴りを打ち込み、血反吐を吐かせた後、背中を右手で叩き、地面へと叩き落そうとする。そのまま落下すれば、エリカの死は確実なので、部下を含める他の航空魔導士らは彼女を数人がかりで受け止め、後方へと退避した。

 

「ホルシュタインが敵わない…だと…!?」

 

 アーデはフェリーチェやエリカですら敵わぬベイを畏怖する。ターニャを含めた他の航空魔導士も同様であった。

 

「さて、スラヴの薄汚ねぇ餓鬼。今度こそ血祭りに上げてやるぜ!」

 

 一同が恐怖している間に、地面に降り立ったベイは再び地面を蹴り、空高く飛翔して再びターニャを攻撃し始める。

 

『誰か! 誰か援護を!!』

 

「デグレチャフ少尉の救援要請は無視しろ! 出来るだけ奴から離れるんだ!!」

 

「おいおい、餓鬼があんなのと戦ってんだぜ! 加勢するのが…」

 

「死にたくなければ従え!」

 

「お、おう…」

 

 再びターゲットとなったターニャは救援を請うが、誰もが応じようとしない。アルフィンは応じようとしていたが、大隊長の気迫に押され、指示に従う。アーデを含め、大隊長もターニャを生贄にそこから離れようとしていた。

 

「なんで誰も来ないんだ!?」

 

 誰も助けに来ないことに、ベイの追撃を躱しながらターニャは疑念に思う。逃げたアーデらを除き、他の者たちは目前の敵の対処に追われ、ターニャを助ける暇も無いのだ。

 

「あの空軍の変異種が救援を請う? 無視しろ。我々は敵の総本山まで前進せねばならない!」

 

 少なからずの被害を出しながらも、敵を撃破しながら突き進むシェイファー・ハウンド戦闘団を率いるカヤは、ターニャの要請を無視して第71歩兵師団を後衛にベルンブルク領の首都まで前進した。

 

「助けたいけど、こっちも手一杯なの!」

 

 アマガネもターニャを助けたい気持ちはあるが、アガサ騎士団のグフやグレイズに阻まれ、それどころではなかった。

 

「なんか、可哀想だけど。命令だから仕方ないよね…」

 

 第71歩兵師団の狙撃班に属するチェンバーレインは、ターニャがベイに攻撃されているのを見ていたが、命令なので所属師団と共に続いた。

 

「変異種の分際で我々に助けを請うのか? 化け物は化け物と遊んでいろ! 我に続け!!」

 

 ターニャの要請は進撃していたミロスラーヴァの航空団にも届いていたが、ロリータ族らしくない彼女のことを不快に思っており、一機も援軍に寄越すことなく進撃を続けた。

 

「大隊長殿、第6大隊のデグレチャフ少尉が救援を求めてますが?」

 

「無視しなさい。命が欲しければね!」

 

「は、はい…」

 

「あの子、可哀想…」

 

 第5大隊にも届いていたが、あの戦いを見て応じる者は誰一人いない。フォルモントを始め、ファルカも見たので応じない方が良いと思った。

 

「救援要請? 応じる…訳ないよね?」

 

『当たり前です。我々は脱走兵なのですから』

 

 ブーツホルツに撃墜され、脱出した玲子とキュートの元にもターニャの救援要請は届いていたが、逃げようとする彼女らが応じられる訳が無いので、無視して装備を纏め、その場から離れる。

 

「応じる必要はない。誰かがやるだろう。我々は攻撃目標まで前進だ」

 

 第1大隊を率いるヴィルヘルミーナも、ターニャの要請に応じることなく、隊を率いて攻撃目標まで向かって行った。

 

「行きたいけど、こいつが邪魔で行けない!」

 

『シャハハハ! 余所見はいけませんぞ! 余所見は!!』

 

 ターニャの要請に応じようとする者も居た。その名はナーニャであり、Ex-Sガンダムに乗っていた。だが、今の彼女はルルモードのジョングに阻まれ、向かえない。

 

「なぜ誰も応じないんだ!?」

 

 帝国再建委員会に置いて、誰一人ターニャの助けに応じる者は居なかった。これを知ったターニャは絶望するも、ベイの攻撃を躱し続ける。相手が空が飛べないので、空中高く逃げようとしても、ベイはそれを物ともせず、周りにある物を使ってこちらへ上がって来る。

 ベイからは逃げられない。ターニャが絶望した時、自分の救援に応じる者が現れた。敵であるはずのアガサ騎士団の騎士、ジン・グレイツァ・エルバーンだ。敵味方関係なしに見境なく攻撃するベイに怒りを覚え、成敗する為、数名の賛同者と共にやって来たのだ。

 まさかの敵が自分の救援に応じたことに驚くターニャのであるが、ベイの注意がジンに向いている隙に、空高く上昇する。

 

「やい、化け物!」

 

「なんだぁテメェら!?」

 

 獲物を追い立てている最中に邪魔されたベイは怒り、不可視の杭による攻撃を行う。これに一人の騎士が甲冑ごと貫かれて死亡したが、騎士たちは怯まない。

 

「俺は代々、悪事を見逃すなと教えられてきた…!」

 

「いきなり出て来たと思ったら、何の用だァ?」

 

「例え友軍であろうとも、味方諸とも敵を潰す貴様は俺の敵だ!! 俺の名はジン・グレイツァ・エルバーン! 貴様を成敗する騎士だ!!」

 

 ジンは名乗ってから、仲間たちと共にベイに無謀にも立ち向かっていった。

 

「出る時代を間違えてねぇかァ…? テメェらはよ!!」

 

 向かって来るジンたちに対し、ベイは苛立ちながら対処に当たる。斬りかかって来た一人を不可視の杭で殺害すれば、二人目の斬撃を躱し、手刀で首を撥ねる。三人目であるジンに対しては、蹴りを入れ込もうとするが、大剣で防がれる。

 ベイの蹴りは大剣を容易く折り曲げたが、ジンは承知の上で大剣を盾にしたのだ。ジンは折れ曲がった大剣から手を放し、素早く抜いたレイピアを渾身の力でベイの胸を突いた。シルバリー合金のレイピアの刀身はベイの胸に突き刺し、渾身の甲斐あって背中まで貫通していたが、心臓がある中心部からはズレていた。

 これにベイは怒ることなく、むしろ驚愕するジンを褒め称えた。ベイは強敵ならば、どんな人物であろうと敬意を払うのだ。

 

「なっ!?」

 

「惜しかったな! もうちょっと真っ直ぐぶっ刺してたなら、俺は殺せてたぜぇ…! もうちょっとでなッ!!」

 

 驚愕するジンに向け、ベイは称賛代わりの蹴りを入れて吹き飛ばす。蹴り飛ばされたジンは近くの岩に激突して気を失う。全身の骨は砕けているが、まだ息はあった。

 

「さぁて、スラヴの餓鬼は…? あぁん、どこ行った?」

 

 邪魔をしに来たジン等を片付けたベイは、ターニャの始末を行おうとしたが、自分が目を離した隙に居なくなっていることに気付き、空を見上げて探す。

 

「主よ。我が身の危機を取り除き、我を救いたまえ…!」

 

 相手が自分を見失っている間に、ターニャは神に対する祈りの言葉を述べる詠唱を行い、起死回生の一撃をベイの顔面へ向けて放つ。構えているG36A突撃銃の銃口より放たれた強烈で光の速さの魔弾は、真っ直ぐとベイの顔面に向けて飛んでいき、彼が気付いた頃には既に命中した後だった。

 

「あっ…?」

 

 飛んでくる魔弾を受け、そのハトが豆鉄砲を食らったような表情を浮かべたベイの顔面は爆発した。それを見ていたターニャは大いに喜ぶ。

 

「やったぞクソったれ! ざまぁ見ろォ!!」

 

 ベイの顔面を爆破したことで、ターニャは幼女らしく嬉しそうに喜ぶ。なんたって一番時間の掛かる技で強敵を倒せたのだ。これには誰にだって喜ぶ物だ。

 果たして、あれでベイを倒せたのであろうか?

 鋼のような強靭な身体を持つベイがあれで倒せるとは思えない。ジンのシルバリー合金のレイピアの渾身の突きで、ようやく貫通できたのだ。爆発で起きた煙が晴れた後、喜んでいたターニャがそれを見て絶望的な表情を浮かべる。

 

「やってくれたなぁ、テメェ! この俺に形成を使わせるとはな! 誇れよスラヴの餓鬼、俺を本気にさせたことをよォ!!」

 

 頭を吹き飛ばされたはずのベイが無傷で生きていたのだ。サングラスは吹き飛んで無かったが、整った顔立ちがターニャを睨み付ける表情に変わっている。更に雰囲気が変わり、先よりも恐ろしさが増している。ベイは今まで遊んでおり、ようやく本気になったのだ。

 ベイを怒らせ、本気にさせてしまったターニャは震え、この場から逃げる事ばかりを考えていた。




次回、ベイさん激おこぷんぷん丸。

他にも色々と戦っている方がいるので、次回で決着をつけさせようかと思います。


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ガイエス平原での決戦 その6

速く出る作品を間違えた奴を出さないと…


 ターニャがベイを怒らせ、形成と言う形態を発動させた頃、各地で行われている戦いでは決着が着き始めていた。

 

『シャハハハ! もう限界のようですな!』

 

 空中戦でナーニャのEx-Sガンダムを追い詰めるジョングを駆るルルモードは、敵機の動きが鈍くなっていくことに気付き、とどめの一撃を食らわせようとする。

 本体や右腕のビームでナーニャのガンダムの動きを止めつつ、左腕にビームサーベルを展開させ、それを死角である下方に向かわせ、目標を串刺しにしようと切り離した。

 

「左腕が! くっ!」

 

『シャハハハ! 何もさせませんよ! そのまま串刺しとなりなさい!』

 

 切り離された左腕に気付いたナーニャは残っている火器で撃墜を試みたが、ルルモードが許すはずもなく、ビームを撃ち込んで射撃兵装であビームカノンを破壊した。これでナーニャのEx-Sガンダムに残った武器は、ビームサーベルと頭部バルカンのみとなる。

 

『シャハハハ! ビームカノン撃破! 投降しなさい! さすれば生き残れますよ!!』

 

 武器が二つとなったところで、ルルモードはナーニャに投降を呼びかけたが、彼女の援軍が来ていることに気付かなかった。

 串刺しにしようとビームサーベルを展開したまま分離させた左腕が、高速でこちらに来た赤い物体によって破壊される。左腕の反応の喪失に気付いたルルモードは直ぐに索敵を行う。

 

「左腕の反応が喪失!? 何者ですか!?」

 

 即座に殺気を放つ方向へ残った右腕のビームを撃てば、ジョングの分離させた左腕を破壊した正体が姿を見せる。

 

「ナーニャちゃん、ピンチのようだから助けに来たよ!」

 

『ゴットワルトさん…!』

 

 その正体は、ガンダムエクシアを駆るタリナ・ゴットワルトであった。エクシアは隠し玉と言える戦闘力向上システム、トランザムを起動させており、通常の三倍のスピードで駆け付けて来れたのだ。

 

『ありがとう! ゴットワルトさん!』

 

「ナーニャちゃんの為なら、どんな所でも駆け付けるわよ! トランザムで!」

 

 助けてくれた礼の言葉を述べるナーニャに、タリナは笑みを浮かべながらどんな所でも助けに行くと答え、エクシアのGNソードをルルモードのジョングに向ける。

 

「ガンダムエクシアのトランザムですと!? ぶ、分が悪過ぎる! 宇宙空間からともかく、大気圏内ではジョングの方が圧倒的に不利! 逃げるしかありませんぞ!!」

 

 対するルルモードはジョングが更なる性能を発揮する宇宙空間ならともかく、大気圏内でトランザムを発動させているエクシア相手では分が悪過ぎると判断し、逃走を試みようとした。

 逃げるジョングをタリナが逃すがすはずが無く、トランザムの機動力を生かして直ぐに追いつき、右腕の実体剣であるGNソードを振るう。

 これにルルモードはビームサーベルを展開して防ごうとしたが、トランザムを初そうしたGNソードは容易くビームサーベルを貫通し、ジョングの胴体を切り裂く。

 

「ぬぁ!? くえっ!!」

 

 機体胴体を切り裂かれたルルモードはまだ両腰部のメガ粒子砲を放つも、トランザム状態のエクシアは直ぐに後ろへ回り、二本のGNビームダガーを突き刺され、更にはGNビームサーベル二本も突き刺されて胴体は完全に機能しなくなる。

 

「やはり分が悪過ぎる! 脱出です!!」

 

『閃光弾!?』

 

 胴体の機能が無くなったことを確認したルルモードは目晦ましの閃光弾と煙幕を展開させ、エクシアに乗るタリナの視界を奪い、ジオングと同様にジョングの頭部を本体より分離させた。

 相手の視界が眩んでいる内に本体より離れたジョングの頭部は空高く飛翔し、安全な所まで飛んでいく。

 

「ふぅ、見事に脱出できましたよ。これは大損ですな。前金で失ったパーツを再生できると良いですが」

 

 脱出して安堵したルルモードは次の仕事に備え、ジョングの胴体の再生に掛ける費用を計算し始めたが、この戦場からの脱出は叶わなかった。

 何故なら、ナーニャのEx-Sガンダムが頭部状態のジョングの真後ろに居たのだ。素早く左手で捕まえ、右手に持ったビームサーベルで串刺しにしようとする。これを知ったルルモードは直ぐにナーニャに投降した。

 

「ギャァァァ!? と、投降します! 投降します!!」

 

『えっ…?』

 

 掴んだジョングの頭部より伝わるルルモードの悲鳴染みた投降するとの声に、ナーニャは首を傾げる。まだビームサーベルを展開しているので、ルルモードを焼きかねないと慌てたタリナはトランザムを停止させ、直ぐにナーニャのEx-Sガンダムの元に向かう。

 

『ナーニャちゃん! ビームサーベル仕舞って! 殺しちゃう!!』

 

「えっ? あぁ、うん」

 

 タリナに無線で注意されたナーニャはビームサーベルのビームを仕舞い、ルルモードを捕虜にした。

 別の戦域でも帝国再建委員会の突破が行われていた。リップシュタット連合の防衛線を突破した部隊は、第1航空魔導士師団の第1大隊と第5大隊の連合部隊である。

 ミロスラーヴァ率いる航空団が敵の防空部隊を抑えている間、速やかに航空魔導士二個大隊は敵地上軍のありとあらゆる施設を次々と破壊していく。そこを担当しているのはガリア軍であるが、ダモン指揮に加えて士気が低下しており、更に空襲に加えて逃げ出す者が続出している。航空魔導士も居るはずだが、士気の低さもあってやられるばかりだ。

 

「オラオラ! 見える限り吹っ飛ばせ! 第1大隊に取られるぞぉ!!」

 

 第5大隊のフォルモントは手にしているG36A突撃銃で目に見えるガリア軍の装甲車両や自走砲、砲撃陣地を他の大隊の魔導士等と共に蹂躙する。付近では第1大隊を率いるヴィルヘルミーナがパンツァーファストⅢ対戦車火器を持ち、自軍陣地を守ろうとするネモやヌーベル・ジムⅡを一掃していた。手の空いた者たちは敵航空魔導士に対処している。

 

「私は敵戦車を破壊してきます」

 

 眼下に広がるガリア軍の陣地を蹂躙する中、前線への増援として向かう戦車大隊を発見したフォルカは上司に報告した後、パンツァーファストⅢを片手に部下を率いて撃破しに向かう。

 AMX-30D主力戦車の大隊は砲塔の機銃で上空より迫るフォルカの小隊を迎撃しようとするが、全く当たることなく魔力で破壊力が増したパンツァーファストⅢの弾頭を撃ち込まれ、一瞬にして大隊の全車両が全滅した。生き残った戦車兵らは逃げ出す。

 軽戦闘機扱いのVF-8ローガンも居たが、ヴィルヘルミーナには叶わず、HK416突撃銃でコクピットを狙撃されてパイロットを殺さるか、接近されて何処からか手に入れた打刀による魔力を込めた斬撃で両断される。

 

「フフフ、敵は大分混乱しているようだな。だが、容赦はしない! イヴ人の誇りに掛け、絶対的な勝利を収めるのだ! 徹底的に叩き潰せ!!」

 

 ガリア空軍のミラージュ2000戦闘機を撃墜した後、ミロスラーヴァは航空魔導士らが圧倒し、ガリア陸軍を混乱状態に陥れているのを見て、敵航空部隊の撃滅を行うべく、傘下の航空団に更なる攻撃を命じた。そこへ陸軍の師団規模の部隊の攻撃も加わり、ガリア軍は壊滅状態と化す。

 この苛烈な攻撃に、ただでさえ士気が低く、壊滅状態のガリア軍は急速に崩壊し始める。そんな状況で戦う将兵など居らず、押し寄せて来る帝国再建委員会の陸軍に続々と投降する。

 

「クソっ、もたついている間に敵が降伏し始めてるじゃぁねぇか! おっ、レダニアの奴らか? まだ残ってるな!」

 

 ターニャを置き去りにし、遅れてやって来た第6大隊のアルフィンは遠くの方で敵軍が次々と投降しているのを見て、自分の獲物が無くなると思っていたが、敵の増援なのか、連合軍のレダニア軍所属のマラサイ数機を確認し、それを中隊と共に襲い始める。

 気付いたマラサイ数機はビームライフルを連発するが、的が小さい航空魔導士なので当たらず、頭部バルカンで迎撃を試みるも、魔法障壁で防がれるか躱され、アルフィンの接近を許してしまう。

 

「遅いんだよ!」

 

 ビームサーベルを左手で抜いたマラサイに対し、アルフィンはそれを躱して両足の関節部をHK416を撃ち込む。撃った弾は魔力で強化しているので、容易くマラサイの関節部を貫通して地面に転倒させる。それからとどめの砲撃術式を胴体に撃ち込み、続けざまに二機目を撃破する。

 三機目、四機目と続けて撃破すれば、ガリア軍の増援として派遣されたマラサイの中隊は全滅した。これでガリア軍の敗北は確定したような物だ。

 

「直衛部隊、敵航空魔導士と交戦中!」

 

「な、何ぃ!? 本陣にまで敵の接近を許したのか!? ぎょわっ!」

 

 まだ抵抗は続いていたが、ダモンが居る本陣に先行する第1大隊と第5大隊を押し退け、アーデらの第6大隊が突入し、司令部の護衛部隊を早期に突破して一気に指揮所まで向かう。

 

「敵司令官捕捉! 発射!!」

 

「敵航空魔導士だ!」

 

「ひぇぇぇ!!」

 

 アーデがダモンの姿を捉えれば、直ぐに砲撃術式を撃ち込んだが、外れてしまう。自分の方に来た敵航空魔導士に驚いたダモンは、守ろうとする部下を置いて自分一人だけ逃げ始める。

 だが、既にガリア軍は壊滅状態となっており、司令部辺りにまで帝国再建委員会が進出しており、袋の鼠となっていた。

 

「ぎょぇぇぇ!? なんでここにも敵が!? く、クソっ! 死ねぇ!!」

 

 目前に降り立ったアーデに、ダモンは尻もちを着いて腰のピストルを抜いて発砲しようとするが、右手を撃たれてのた打ち回る。

 

「う、うわぁぁぁ!? こ、降参しますぅ! お、お命だけは!!」

 

「なんだこいつ、本当に将軍か…!?」

 

 右手を抑えながら、ダモンは目前のアーデに泣き喚きながら降参する。これにアーデが動揺する中、残りの第6大隊の者たちも駆け付け、銃口を向ける。

 

「お、お願いします! このわしのお命だけでも!!」

 

「将軍とは思えないわね…閣下、貴官の軍に戦闘停止命令を」

 

「は、はい! 直ちに実行いたします! 無線機をお貸し願います…」

 

 駆け付けた大隊長もダモンの将としての器の無さに呆れる中、配下のガリア軍に戦闘停止命令を出すように命じた。これにダモンは素直に応じ、貸し出された通信兵の無線機を使い、配下のガリア軍に戦闘停止命令を出す。

 

『ダモン司令だ! 戦闘行為を行う我がガリア軍全部隊に告げる! 直ちに戦闘を停止し、武装を解除せよ! 繰り返す! 直ちに戦闘停止、武装を解除せよ!』

 

「投降しろだってよ! どうする?」

 

「決まってる! 武器を捨てて投降するんだよ!」

 

「あの豚にしては、良い指示を出すぜ!」

 

 前線で戦うガリア軍全体に総司令官であるダモン将軍の戦闘停止命令が出されれば、待ってましたと言わんばかりに指示に応じ、展開していたガリア軍の全将兵は戦闘を止め、帝国再建委員会に投降した。友軍と共同戦線を張っているガリア軍所属の部隊も同じく投降し、リップシュタット連合の崩壊は始まる。

 

「な、なんだお前ら!? 何故投降するんだ!? ま、待ってくれ!」

 

 損害に構わず前進してくる帝国再建委員会に投降するガリア軍将兵等を見た連合軍将兵も、その後に続いて敵軍に投降し始める。ワルキューレの派遣部隊も言わずもがな、投降し始めている。これを許さない者も居り、武器を捨てて投降する味方を撃つ者も出た。

 

「逃げるな! 戦え! 降伏するんじゃない!!」

 

 ハイザックに乗る連合軍のパイロットは投降しようとする味方をザク・マシンガン改で葬って行くが、背後にいるM1アストレイのビームライフルを撃ち込まれて撃破された。友軍機を撃破したそのM1アストレイはビームライフルを捨て、帝国再建委員会に投降する。

 元々やる気のない将兵が多かったので、展開しているガリア軍全体が投降すれば、戦闘を停止して敵軍に投降する軍も出始める。戦線は加速的に崩壊しつつあった。連合に参加している異世界の軍の投降は許されるが、現地の者の投降は許されず、そのまま射殺された。

 

「な、なんだこいつ等!? 自分の命が欲しくないのか!?」

 

 破竹の勢いで突っ込んでくるシェイファー・ハウンド戦闘団と対峙するベルンブルクの城下町の門前を守る戦術機のMiGー29で編成された部隊は、死をも恐れぬ突撃を行う彼女らに畏怖していた。

 機動兵器の援護も受けず、通常兵器主体で突っ込んでくるのだ。手兵装である突撃砲で先に突っ込んでくるレオパルド1やレオパルド2戦車、装甲車両を幾ら潰しても、怯まずに突っ込んでくる。この死を恐れぬ突撃に、迎撃する側が逆に怯むばかりだ。そんな浮足立った敵に対し、カヤは一斉射を命じる。

 

「敵は怯んでいるぞ! 一斉射を撃ち込め!!」

 

『う、うわぁぁぁ!?』

 

 その一斉射でMiG-29で編成された中隊は容易く壊滅した。この壊滅で城下町の防衛線は一挙に崩壊し始める。

 

『敵は通常兵器ばかりだぞ!? 何やって…おわっ!?』

 

「足元がお留守だぜ!」

 

 空いた穴を塞ごうと、戦術機のF-16が駆け付けようとするが、ライヤが操作するレオパルド1A5主力戦車に突っ込まれて転倒する。無論、ライヤが乗っている戦車は無茶をし過ぎたのか、その場で停止する。だが、砲塔はまだ動くので、倒れたF-16に主砲を撃ち込んで吹き飛ばす。

 

「くそっ、動かね! やり過ぎた!!」

 

『畜生! ふざけやがって!!』

 

「ひぃぃぃ!? 総員下車!!」

 

 エンジンが壊れたのか動かないので、ライヤが悪態をつく中、仲間を撃破された他のF-16は吹き飛ばそうと突撃砲の砲口を向ける。これを見た戦車長は脱出を命じ、ライヤ等は戦車から脱出する。

 そんな戦術機三機を後続のゾフィー少尉が車長と務めるレオパルド2A6主力戦車が砲撃して一機を撃破、残る二機も後続の戦車部隊の移動しながらの一斉射で吹き飛ばされる。他にも機動兵器も居るが、勢い付いた帝国再建委員会にやられるか、逆に投降するばかりだ。

 

『捕まえたぞ! 電流を流して感電死させろ!!』

 

「ぐっ、がぁぁぁぁ!?」

 

 シェイファー・ハウンド戦闘団に続くアマガネのモリビトH型は、アガサ騎士団の四機のグフのヒート・ロッドで拘束され、高圧電流を流されて苦しんでいた。

 

「くっ…! これは、痺れるけど…! まだっ!!」

 

 高圧電流を流され、苦しみながらも必死に操縦桿を動かし、両腕をそれぞれ拘束している二機のグフを力ずくで振り回して互いを激突させて撃破した。これにグフやグレイズに乗る騎士等は驚きの声を上げる。

 

「我らの拘束を!?」

 

『力ずくで振りほどいた!?』

 

『何というパワーだ! 速く仕留めろ! 奴は危険だ!!』

 

 長剣を持つグレイズがホバー移動しながら両足を拘束されているアマガネのモリビトH型を仕留めようとするが、手にしているカービンライフルを撃たれて怯み、そこから力一杯右足を動かし、右足を拘束するヒート・ロッドを使うグフを転倒させ、左手に持った棒で両足を拘束するヒート・ロッドの縄を破壊する。

 

「今度は、こっちの番!」

 

 自由となったモリビトG型を駆るアマガネは高い性能を活かして周辺のグフを容易く棒で一掃し、長剣を持つグレイズを片付け、最後に蛮勇にも挑んでくるグフカスタムに棒先を向ける。

 

『おのれっ! 死なば諸とも!!』

 

「悪いけど、二回も死ぬつもりは、無い!」

 

 グフカスタムの斬撃を躱した後、アマガネは機体が持つ棒で胴体を突き刺し、敵機を完全に無力化させた。

 

「嘘ッ…!? やられた…!」

 

『あ、あんなに強過ぎるなんて…!?』

 

「勝てるわけがない…!」

 

 旧式と言えど、アガサ騎士団のMS隊がやられたことに、M1アストレイやジンクス、ASや戦術機等に乗るワルキューレのパイロット等はアマガネに敵わぬと判断する。そんな彼女らが乗る敵機動兵器群に対し、アマガネは乗機のモリビトH型に棒を構えさせ、次は誰が挑むのかと拡声器で問い詰める。

 

「さぁ、次は誰が来るの?」

 

 これに応じる者はおらず、アマガネ機に立ち塞がる多数の敵機は武器を落として投降した。これにアマガネは安堵し、無線機を使って部下に武装解除させるように命じる。

 

「はい、正解。敵機動兵器の投降を確認。武装解除しちゃって」

 

 城下町を守る守備隊の投降により、リップシュタット連合軍は完全に崩壊した。守るべき軍が投降した城下町に帝国再建委員会の軍が一挙に突入し、装備を供与された現地軍が蹂躙される中、リップシュタット公配下のアガサ騎士団や現地の騎士団は抵抗を止めず、蛮勇にも刀剣類や騎兵を持って迎え撃ってくる。

 

『アルゴン王の為にッ!』

 

『アガサ騎士団万歳! アルゴン王万歳!!』

 

「こんな状況でも突っ込んで来るとは、敬意に値する。皆殺しにしろ! 撃ちまくれ!!」

 

 この蛮勇の如き突撃に、城下町に突入したシェイファー・ハウンド戦闘団と第71歩兵師団は銃弾で返答する。ライフルや機関銃のみならず、大口径の対物ライフル、戦車砲、ロケット弾、ミサイルが発射され、アガサ騎士団の騎士等は吹き飛ばされるか肉片と化す。

 

「アガサ騎士団の為! あぁぁぁッ!!」

 

「なんで抵抗してくるの…?」

 

 あれほどの火力を撃ち込まれてもまだ突っ込んでくる騎士等に、狙撃班のチェンバーレインは困惑しながらも狙撃し、確実に頭部を撃ち抜いて排除していく。一人二人と殺していけば、突っ込んでくる騎士と騎兵は全滅した。

 もうリップシュタット連合軍に帝国再建委員会に対抗できる戦力は残っていない。ナチス軍は負けると判断し、早々と撤退し始めていた。残されたベルンブルク軍と現地軍は自分の命を守るために抵抗し続けたが、勢いを増す敵軍を食い止められず、虐殺されるばかりだ。

 

「だ、駄目だ…! 私はもうお終いだ…!!」

 

 その様子を牙城より見ていたリップシュタットは、敗北を認めて両膝を床につける。

 

「閣下、連合軍は完全に崩壊です! 抵抗すらせず、次々と敵に投降していきます!」

 

「ちっ、劣等人種(ウンターメッシュ)共め! 時間稼ぎも出来んのか!?」

 

 撤収中にリップシュタット連合軍の崩壊を知らされたフライジンガーは苛立ち、帝国再建委員会の注意がこちらに標的が向くことを知る。

 

「あの似非吸血鬼、エーレンブルグ中佐はどうした!? テロ集団如きなぜ殲滅できていないのだ!?」

 

「そ、それが、敵航空魔導猟兵と交戦中で…!」

 

「似非吸血鬼め…! もういい! 奴ごと吹き飛ばしてしまえ!!」

 

 ヴィルヘルム・エーレンブルグことベイはどうしたと問えば、部下は額に汗を浸らせながらターニャと交戦中であると返す。これにフライジンガーは更に苛立ち、ベイごと大量破壊兵器で吹き飛ばしてしまえと告げる。

 

「ですが、聖槍十三騎士団のハイドリヒ閣下に何と言えば…!?」

 

「馬鹿者! あんな野獣の許可など必要ない! 貴様は劣等人種共と心中したいのか!?」

 

「りょ、了解いたしました! 直ちに発射体制を行わせます!!」

 

 ベイの指揮系統の管轄が違うので、問題になると言う部下に対し、フライジンガーは圧で命令を実行させた。




ゲッター線を浴びながら執筆した。

次はターニャVSベイ、みんなでナチス軍の大量破壊兵器を破壊します。


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ガイエス平原での決戦 その7

名前:ノワールクロイツ
性別:男
所属:リップシュタット連合軍 第四帝国(ナチス)
階級:レッサー・ニンジャ
年齢:ニンジャに年齢を聞いてはいけない、イイネ?
乗機:ニンジャはカラテで戦う、イイネ?
概要:ニンジャスレイヤー世界から流れ着いたナチス・ニンジャ
ナチスSSをモチーフにしたニンジャ装束を纏い、ハーケンクロイツの刻まれたメンポを着けている。
トメ・ジツというジツを使い、自身の正面にあるキカイを強制的に止めて無力化出来る。出る世界を間違えている(笑)。
キャラ提供はリオンテイルさん


 リップシュタット連合軍の敗北が確定し、ガイエス平原を含め、ベルンブルク領各地で行われていた戦闘が続々と停止する中、ターニャと本気になったヴィルヘルム・エーレンブルグことベイの戦いが始まろうとしていた。

 

「…ヴィルヘルム・エーレンブルグ」

 

「はっ?」

 

「戦の作法も知らねぇのか、薄汚ねぇスラヴの餓鬼。俺に形成を使わせたお前の名を、殺す前に俺に聞かせろって言ってんた」

 

 形成と呼ばれる形態を発動したベイは、ターニャに名乗るように告げる。これにターニャは思わず疑問の声を上げる中、ベイは戦の作法も知らないのかと問い、速く名乗るように告げる。これに応じ、ターニャは名を名乗る。

 

「ターニャ、ターニャ・デグレチャフ。ヴァルヘルム・エーレンブルグ」

 

「ヴィルヘルムだ! おちょくってんのかテメェ! まぁ良い、俺に形成を使わせたこと、誇りながら死ねやァ!!」

 

 自分の名前をわざと間違えたターニャに対し、ベイは不可視の杭ではなく、今度は目に見える電柱程の赤い杭をバルカン砲の如く前進より放つ。これにターニャは魔法障壁を張りながら躱しつつ、手にしているG36A突撃銃を片手で撃って反撃する。

 魔力を込めた弾丸であるが、形成状態のベイには全く通じず、そればかりか赤い杭によって全て弾かれる。周辺への無差別攻撃が終わったところで、ベイは自分が放った杭の光力に関する説明をし始める。

 

「冥途の土産に教えてやらぁ。俺がぶっ放してる杭はよ、なんでも吸っちまう物なんだ。血だろうが油だろうが、電気、ガソリン、魂、その他諸々の物を吸って俺にくれるんだよ。あっちの女を見て見ろよ。運悪く、俺の杭がぶっ刺さっちまったようだなぁ!」

 

 ベイが自分から放った杭が刺した物のエネルギーを吸い尽くす物であると説明すれば、それに刺された生物がどうなってしまうかを見せるべく、運悪くここに来てしまった帝国再建委員会の陸軍の歩兵を指差す。

 電柱程ある杭で串刺しにされた歩兵は見る見るうちに血と魂を吸われて行き、ミイラと化す。あれに刺されれば、いくらターニャと言えど血と魂を吸わされてあの友軍の歩兵のようにミイラと化してしまうだろう。

 

「御覧の通り、ミイラになっちまうのさ。だがよ、テメェは俺の杭を一本も当たることなく、バカ見てぇに躱し切りやがった! テメェ、運まで良いのかぁ!?」

 

 この杭、並大抵の者なら、余ほど運が良い限り躱し切れないものだが、ターニャがそれを躱し切ったことにベイは驚いた様子だ。ターニャの運の良さに激怒しつつも、ベイは冷静に作り上げた杭を投げ付けた後、左手にもう一本持ったまま接近する。

 投擲された杭をターニャは寸でのところで避けたが、ベイはそれを見越して左手に持っている杭を直接刺しに来たのだ。その弾丸か光の如くの突きをターニャはまたしても躱し切ることに成功した。上空を飛翔して躱したのだ。

 

「(クソっ、躱すのに精一杯だ! 何なんだこいつは!? メアリー・スーより速い!!)」

 

 一発躱しても、直ぐに二発目を突いてくるので、ターニャは碌に反撃も出来ず、躱すことにしか出来ない。

 

「(俺の攻撃を全部避け切っているだと? こいつも俺らと同じ超常の存在ってわけか! 前世以来の苛立ちだぜ、全く!)」

 

 対するベイも自分の攻撃を躱し続けるターニャに驚いており、これほど自分の攻撃を躱すと言いうことは、相手が超常の存在であると認識する。

 ベイのターニャに対する認識は間違っていない。彼女は二度の転生を経験し、一度目の転生では魔法が存在する世界大戦が巻き起こる世界で、超常染みた奇跡を幾度となく起こしてきた。それに超常の存在と交戦した経験もある。いま戦っているベイほど反撃できない程に強くは無かったが。

 

『こちら第1航空艦隊本部! 全航空部隊並び航空魔導士に告げる! 聞こえている者は直ちに上空に上昇し、ナチス軍の空中要塞を撃破せよ! ナチス軍の空中要塞が大量破壊兵器らしき物を発射しようとしている! 直ちに上昇し、空中要塞を直ちに破壊せよ!! 繰り返す!』

 

 同時刻、フライジンガーの命に応じ、ナチス軍は大量破壊兵器、それも核兵器クラスの兵器を使用していた。その兵器を搭載した空中要塞が、ガイエス平原に照準を定めて発射しようとしている。

 帝国再建委員会は空中要塞の存在を情報か、もしくは投降したリップシュタット連合軍の将校より手に入れたのだろう。存在を知った展開中の第1航空艦隊は慌て、傘下の全部隊に空中要塞を破壊するように命じる。

 

「(どうにかして、逃げねば…!)」

 

 ターニャの無線機にも指令が届いているはずだが、ベイの攻撃を避けるので精一杯で聞こえていない。なんせベイは自分の杭を足元より撃ちだして追い付いてくるのだ。何処へ逃げようと、ベイはターニャを殺すまで追って来る。友軍に自分諸とも吹き飛ばされるなど、知る由も無いのだ。

 

「逃げんじゃねぇ! 真面に戦えよっ!!」

 

 味方に吹き飛ばされるなど夢にも思わず、ベイは上昇して逃げようとするターニャを杭で追撃する。

 少し距離が離れれば、杭の弾幕をお見舞いし、ターニャを串刺しにしようとするが、奇跡でも舞い降りているのか、彼女は全てを躱し切る。バルカン砲の如くの弾幕にも関わらず、ターニャは全てが見えているかの如く躱していた。

 

「どうなってやがる!? 俺の杭が全部見えてんのか!?」

 

 流石のベイもこれには焦りを覚える。無理もないだろう。ターニャの方は避けるのに必死で、自分が奇跡を起こしていることに気付きもしないが。

 

「何が、どうなってんだぁ!? あぁん!?」

 

「うげっ!?」

 

 だが、奇跡はそう長続きはしない。

 痺れを切らしたベイの拳がターニャの腹に炸裂した。強力な打撃は寸でのところで張った魔法障壁で防いだが、全てを防ぎ切れず、衝撃が小さな身体を襲い、ターニャは思わず吐血し、地面に叩き付けられる。

 

「なんだよ、拳骨の方が当たるじゃぁねぇか…!」

 

 地面に叩き付けられたターニャの近くに着地し、ベイは空間すら抉る無数の杭よりも自分の拳が当たることに驚きつつ、自分の一撃で戦闘不能寸前の彼女の頭皮を掴んで引き上げる。

 この際、ターニャはハルより貰った強大な炎魔弾のスキルを右手に宿しており、自分を持ち上げたベイの顔面に向け、それをお見舞いした。大爆発が起き、通常なら頭部が吹き飛んでいる所であるが、形成状態のベイは全くの無傷であった。

 

「なっ…!?」

 

「どうしたァ、手品はもうお終いか?」

 

 渾身の一撃を持つスキルであるが、この世界のスキルはベイには通じなかったようだ。それを知ったターニャは絶望するが、ベイは容赦なくその顔面に拳を打ち込んで吹き飛ばす。吹き飛んだターニャは付近の残骸に激突する。

 

「い、嫌だ…! 死にたくない…!」

 

 顔面を殴られ、吹き飛ばされて残骸に激突しても、息があって動けるターニャであったが、ベイには絶対に敵わないと分かり、死の恐怖を感じる。

 そんなターニャに、ベイは笑みを浮かべながら近付き、彼女が失禁していることを匂いで分かり、無様に自分を見て震える彼女を嘲笑い始める。

 

「ハハハ、ターニャ・デグレチャフ。お前、そんな年でお漏らしかァ~? どうした、次は命乞いか? あぁん!?」

 

「ヒィィィ!? 来るなァ! 来るなァァァ!!」

 

 怯えるターニャに近付き、ベイは掴もうと手を伸ばそうとした。その瞬間にターニャは外見と同じくベイが出した手を払い除け、近くに落ちている石や銃を投げ付けた後、這いずりながら逃げようとする。この無様なターニャを見たベイはおかしくなり、笑いながら泣きじゃくりながら逃げる彼女を面白半分に追い回し始める。

 

「くっ、ハハハッ! なんだその様は? 面白ぇなァ。ほら、殺されっぞ! おら、逃げろぉ!」

 

 勝てないと分かり、逃げるターニャを少し追い回してから殺すつもりのベイであったが、それと同時に急に太陽を隠していた雲が晴れた。

 どうやらナチス軍の空中要塞か、帝国再建委員会の空軍の決死攻撃で発射された兵器がズレて太陽を隠していた雲に命中したようだ。その威力は雲を完全に散らすほどで、ガイエス平原の天気が一気に晴れになってしまい程だ。

 

「なんだ…!?」

 

 曇りから突如となく晴れになり、平原全体に日光の光が当たるようになったので、全体的に明るくなったことにターニャは思わず驚きの声を上げる。ターニャに取って日光とは、二回の転生でも日常とも言え、何気ない物であるが、アルビノ体質のベイに取って日光は死とも言える光であり、そんな彼が気付いたのは日光を浴びた後であった。

 

「グァァァ!? あぁぁぁッ!!」

 

 唯一露出している顔は日光に焼かれたベイは藻掻き苦しみ始める。顔を両手で抑え、必死に日光を遮ろうとするが、頭皮などは防げるはずもなかった。今のベイの姿は、フライパンの上で焼かれる肉のようだ。

 悶え苦しむベイに対し、先ほどまで追い詰められたターニャが慈悲など掛けるはずもなく、倍返しの反撃を行う。

 

「今だぁ! 死ねぇ!!」

 

 太陽の光で悶え苦しむベイに、ターニャは反撃の炎魔法を叩き込んだ。右手の掌に込めた大きな火の玉は弾丸の如くベイに飛んでいき、命中して彼の全身を焼いた。

 

「あぁぁぁっ! 熱ぃ、熱いぃぃ!! 嫌だぁ! こんな死に方なんざ…! 俺は…!!」

 

「まだ生きているのか…!? しつこい奴め!!」

 

 火達磨になりながらも、必死に生きようとするベイにターニャは驚く。もう一発お見舞いする為、完全に炭にしてやろうと思い、強力な炎魔法を打ち込もうとした。

 

「ベイ中佐、(けい)にはまだ死なれては困る」

 

「なっ!?」

 

 瀕死状態のベイを一撃で殺し、肉体その物を炭にするであろう炎魔法は、何の前触れもなく、突如として視界に現れた金色の長髪を持つ長身の男に防がれた。

 並の人間なら一瞬にして火達磨になっている炎魔法は、突如となく現れた長髪で長身の男には全く効いていない。その男が身に着けている衣服にも焦げ跡すら付いていない。この異様極まりない男に、ターニャは即座にただ者ではないと判断し、距離を取った。

 

「な、何者だ!?」

 

 ホルスターよりUSP自動拳銃を素早く引き抜き、安全装置を外して構え、火達磨のベイから炎を容易く消し、抱き抱える長髪長身の男にターニャは問う。拳銃を握る両手は震えていた。目前の男よりベイとは段違いの殺気が伝わって来るのだ。ピストルの銃口を向けられているにも関わらず、男は全く動じるどころか、話し掛けて来る。

 

「失礼した。私の名は、ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ。卿も私を知っているはずだが…?」

 

「ぜ、全然違う…!? お前がラインハルト・ハイドリヒだと…!?」

 

 全身が焼き爛れたベイを抱えながら、長髪長身の男は謝罪しながら涼しい顔で自分の名を告げる。

 その名はターニャが前世で知るラインハルト・ハイドリヒだと言うが、身長以外全く似つかないのだ。短髪の金髪は腰まで届くほど長く、青いはずの瞳は髪色と同じく獣のように黄金色で、史実の全てを見下し、人を睨み殺しそうな眼光もなく、何処か優し気で引き込まれそうだ。

 ターニャが驚くのも無理はない。史実ではスポーツ万能で優秀であり、全てを見下すような視線を向ける悪のカリスマとも言える男が、神々しい存在の男であるはずが無い。

 

「うぅ…あ、あんたは…!? まさか、この俺を助けに…!?」

 

「まぁ、驚くのも無理はあるまい。だが、今は卿と私が戦う時ではない。いずれ訪れるその時に、存分に互いの総てを出し切り、私と戦おう」

 

 死んでいるとしか思えないベイが口を開き、自分が敬愛し、絶対的な忠誠を誓っている男に助けられたことに、その男の腕の中で驚いていた。

 助けにわざわざ来たラインハルトなる男は抱えているベイを一目見て優し気な笑みを浮かべた後、ターニャにまだ戦う時ではないと告げ、彼を抱えながら何処かへと消えていった。これにターニャは安堵する。あのラインハルトと言う男は、自分を見逃してくれたのだと。

 

「あのヴィルヘルムよりもヤバかった…! 見逃してくれた…」

 

 膝から崩れ落ち、ターニャはラインハルトが自分を見逃してくれたことに感謝した。

 彼が去った後、ガイエス平原から銃声は一発も聞こえない。外よりやって来るリップシュタット連合軍の増援も、本隊がやられたことにより撤退したようだ。それが分かったターニャは立ち上がり、この付近での航空魔導士が、自分一人であることに気付く。

 

「航空魔導士は私一人だけか? 無線機は受信しかしない」

 

 左耳に着けている小型無線機を調べれば、受信は出来るが、こちらから送信が出来ない状態になっていた。

 

「仕方がない。私一人でもベルンブルク城にでも行くか」

 

 送信できないと分かれば、ターニャはG36Aを拾い上げてから飛翔し、単独で敵の大将が居る城へと向かって行った。

 

 

 

 時はターニャが形成状態のベイに逃げ回っている頃、ガイエス平原に展開中の第1航空艦隊は、ターニャ一人と戦闘爆撃機や爆撃機部隊を除いて総出でナチスの空中要塞の破壊に向かっていた。

 

『脱落者と脱落機は母艦や最寄りの空港に帰投しろ! なんとしても敵空中要塞を撃破せよ!!』

 

「本部がこれほど必死だと、あの空中要塞はとても危険ってことね!」

 

 航空艦隊本部の必死さで、補給を終えてアーマード・パックを装備したVF-25Sメサイアに乗るフュカリタはナチスの空中要塞がそれほど危険であると認識する。

 事実、空中要塞はフライジンガーの指令でまだ残っているベイごとガイエス平原に展開する帝国再建委員会全軍を丸ごと吹き飛ばそうと、大量破壊兵器を発射しようとしていた。

 それとフライジンガーはすっかり忘れたか、見捨てたようだが、ベルンブルク城にはノワールクロイツと呼ばれる出る場所を間違えた忍者が残っていた。彼は与えられた任務を全うするべく、狭い場所から城へと突入しようとする帝国再建委員会の歩兵部隊に忍術を使い、彼女らが持っている小火器を使用不能にする。

 

「じゅ、銃が!? こいつはなんだ!?」

 

「ドーモ。ノワールクロイツです」

 

「はっ?」

 

 ノワールクロイツなる忍者は、自分の忍術で小火器が使用不能になって混乱する敵歩兵隊に向け、何故か知らないが挨拶を行う。これに指揮官が更に混乱する中、ノワールクロイツは級に激怒する。

 

「アイサツも無しとはスゴイ・シツレイな。だがオレは慈悲深い、最後にハイクを詠む時間位はくれてやろう」

 

「こ、こいつ…! 何を言っているんだ!?」

 

 急に激怒したノワールクロイツは忍者らしく縦横無尽に床や壁を蹴って舞い、歩兵隊に襲い掛かる。だが、小刀を使わずに素手で襲い掛かっている。

 

「侵入者死すべし! イヤーッ!」

 

 身体能力は凄いが、誰一人殺せていない。精々気絶させる程度だ。そんなノワールクロイツに、シェイファー・ハウンド戦闘団の桂佳織が来る。

 

「に、忍者…!?」

 

「サムライ!? ドーモ。ノワールクロイツです」

 

「えっ、はっ…?」

 

 ナチスのような忍者の登場に佳織が驚く中、ノワールクロイツは更に困惑させるように挨拶を行う。意味不明だ。銃を使おうにしても、ノワールクロイツの忍術で使用不能にされる。

 

「アイサツの代わりに銃を向けるとはスゴイ・シツレイな! ハイクを詠め! カイシャクしてやる! イヤーッ!!」

 

 佳織が挨拶をしなかった為にノワールクロイツは何故か激怒し、またも素手で襲い掛かる。だが、それがノワールクロイツの最期であった。

 互いがすれ違った後、血を噴き出して倒れたのはノワールクロイツの方であった。ノワールクロイツは断末魔の叫びを上げた。

 

「グワーッ! モ、モータルの小娘如きに…サヨナラ!!」

 

 断末魔の叫びの後、ノワールクロイツは何故か爆発四散、爆発した。これに佳織は茫然としていた。

 

「なんなの…一体…?」

 

 そう困惑しつつも、今は目標を達成すべく、ノワールクロイツの事を忘れて戦闘団の本隊へと帰って行った。

 

 

 

「敵空軍の第1航空艦隊の航空機や空戦機、航空魔導士を含め、大多数が当要塞へ接近中!」

 

「直ちに迎撃しろ! 主砲発射まで持ち堪えさせろ!」

 

 ノワールクロイツの事を気にでもしていないのか、はたまた忘れているのか、空中要塞の司令室ではレーダー手からの帝国再建委員会の第1航空艦隊総出の部隊に対し、要塞司令官は迎撃を命じる。

 それに応じ、スカイシャークを含めたリピッシュP.13aに似たバルキリー、航空魔導猟兵多数が帝国再建委員会の第1航空艦隊を迎え撃つ。数を更に増やすため、現地徴用の航空魔導士も迎撃部隊に含まれていた。尚、連合軍のサクソニー、ロスヴィエト、ユーソニアなどの三ヶ国合わせて八百万の増援は撤退しており、まだ交戦状態なのはナチス軍のみである。

 対する空中要塞撃破の為、決死の攻撃を始める第1航空艦隊は、先に述べた増援部隊が撤退したので、常備軍と空軍の義勇兵部隊の増援を得て、かなりの数になっている。数ではナチス軍に勝っているが、確実に空中要塞を撃破せねば、帝国再建委員会の負けだ。

 

 地上でのターニャ・デグレチャフとヴィルヘルム・エーレンブルグの決戦と並行し、空での決戦がいま始まろうとしていた。




アイサツは大事。古事記にもそう書かれている。

アイサツしたヴィルヘルム=サンに、アイサツで返したターニャはエライ!

ノワールクロイツ=サンはサンシタニンジャで、ニンジャでもないモータルにウッカリとアイサツしてしまうので、シツレイに値しない。

と、拙い忍殺語はさておき、ベイがデグ様に負けたのは、遊んでたからであって、本気でやれば、ターニャどころか帝国再建委員会だって全滅できたんだ…。

大隊長の誰かが相手だと、多分過去編のデグ様は死ぬ。
今のデグ様だと互角レベルかな?


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ガイエス平原での決戦 その8

前回のあらすじ

アイエエエ!? ニンジャ!? ナンデニンジャ!? ナンデ!?


 ターニャと交戦するヴィルヘルム・エーレンブルグことベイ諸とも主砲で消し去らんとするナチス軍の空中要塞に対し、帝国再建委員会の空軍は総力を挙げて破壊しに向かう。

 第1航空艦隊のみならず、大部分が義勇兵の第3航空艦隊、常備軍の第2航空艦隊が空中要塞撃破の為、総力を挙げて保有戦力の全てを差し向けている。

 

「なんとしても空中要塞を撃破しろ! 地上の同胞達を守るために、絶対に主砲は撃たせてはならん!」

 

 フュカリタと同じく補給を終えたEF-2000タイフーン戦闘機に乗るミロスラーヴァは、傘下の航空団に向けて何としても空中要塞を撃破しろと命じ、自分らを迎え撃とうと迫るナチス軍の航空部隊に向け、僚機らと共に空対空ミサイルを撃ち込む。同じく航空団所属のすべてのタイフーンとバルキリーによるミサイル攻撃を行い、立ち塞がるナチス軍の航空部隊を焼き払う。

 一個航空団によるミサイル攻撃で凄まじい連鎖爆発が巻き起こるが、敵も馬鹿ではない。ミサイルを撃ち落とした敵機が爆炎の中より現れ、ミサイルで反撃してくる。

 

「フレア! フレア!!」

 

 これに通常戦闘機に乗るミロスラーヴァは機体のフレアをばら撒いて躱し切る。他の戦闘機とバルキリーも同じであるが、飛んでいるだけの空戦型モリビトは手にしている火器と外付けのバルカン砲で迎撃するも、落とし切れずに撃墜される。

 

「魔法障壁!」

 

 フレアなど持たない航空魔導士らは魔法障壁を張って防ぎ切ろうとするが、ミサイルは対空機関砲とは違って威力があり、落ちていく魔導士が何名か見える。

 そのミサイルの後からは、ナチス軍の航空魔導猟兵と現地の航空魔導士の大群が第1航空艦隊の要塞攻撃部隊に迫る。前衛をやらされているのは無論の事ながら現地の者たちであり、ナチス軍は彼らを盾に前進してくる。強力な砲撃術式を浴びせても、航空魔導猟兵には届かなかった。

 

「こいつ等、味方を盾にしやがって! 誇り高いアーリア人じゃねぇのか!?」

 

「自分らや認めている人種以外を迫害する連中だ! 誇りなどある物か!!」

 

 アルフィンが現地徴用兵を盾にしながら向かって来るナチス軍の魔導士に誇りが無いのかと指摘するが、これにアーデルトラウトことアーデは人種差別や虐殺などする奴らに誇りは無いと言って、自分らの側面を狙おうとする航空魔導猟兵を撃ち殺す。

 アーデの言うことにアルフィンは納得しつつ、雄叫びを上げながら自暴自棄となって突っ込む現地魔導兵の額にコンバットナイフを突き刺し、手早く抜いてから同じく航空魔導猟兵をHK416突撃銃で射殺した。

 

「アァァァ! あべっ!?」

 

「まぁ、悪役をさせるには持って来いの奴らだからな! 俺らも似たようなことはしてるがよ!!」

 

 帝国再興の為にと言う名の下、自分らも同じようなことをしているので言えないとアルフィンは自覚しつつ、空中浮遊するギラ・ズールを砲撃術式で吹き飛ばした。

 

「クソっ、なんで空にサメが飛んでレーザーを撃って来るんだ!? 誰かサメを追い払ってくれ!」

 

 アーデら第6大隊が奮戦する中、付近で交戦中の第5大隊のフォルモントは、三機のスカイシャークに追われていた。サメが空を飛んでレーザーを撃ってくることにツッコミつつ、応援を要請すれば、同大隊所属のフォルカがそれに応じ、G36A突撃銃に付けた銃剣突撃で一機を撃破した後、残り二機をフルオート射撃で撃破する。

 

「おっ、助かったぜ貧…フォルカ!」

 

「今、貧乳って言おうとしてなかった?」

 

「…言ってねぇよ。言ったのはあそこにいる敵じゃねぇのか?」

 

「あいつ等、殺す!」

 

 助けてくれたフォルカにフォルモントは感謝しつつ貧乳と言い掛けたが、何とか名前を思い出して言わなくて済んだ。

 聞こえていたフォルカは銃剣を向けようとしていたので、フォルモントは敵が言ったと指差しながら言えば、貧乳を気にする彼女は敵兵らを殺しに向かう。

 

「お前ら…貧乳と言ったな!?」

 

「な、何を…!? ぐえっ!?」

 

 フォルモントの嘘にも関わらず、現地徴用の航空魔導士らは騙されたフォルカに皆殺しにされた。

 最初にパンツァーファストⅢ対戦車火器の弾頭を撃ち込み、数名を爆発で殺傷すれば、即座にG36Aに切り替え、突撃しながら残りを射殺していく。最後に残った一人に銃身に付いた銃剣を突き刺し、貧乳と言ったのかを問う。

 この問いに敵兵は訳が分からぬまま、フォルカの突き刺した銃剣で身体を抉られ、息絶えてしまう。その光景を遠目で見ていたフォルモントは、自分を落とそうとして来た敵バルキリーを撃破してから、二度とフォルカの前で貧乳と言う言葉を使わないと誓う。

 

「やべ…あいつの前で貧乳と言うのは、もう止めた方が良いな…」

 

 フォルカの恐ろしい怒りを直で見たフォルモントは、背後より迫る航空魔導猟兵を手刀で殺害してから、彼女の前では二トド貧乳と言わないように自分に言い聞かせ、任務に集中した。

 

「数が多いな。増援はまだ来ないのか?」

 

 第1大隊を率いるヴィルヘルミーナも奮戦していたが、敵の壁が厚く、突破できないでいた。なんせナチス軍は現地徴用の航空魔導士全てを集結させ、手持ちの全戦力も使って空中要塞を死守している。敵も必死に抵抗するので、空中要塞に近付けずにいる。戦闘機やバルキリー、機動兵器も同様である。分厚い壁によって空中要塞は守られているのだ。

 この分厚い壁の隙間を見付けようと、傘下の大隊を固めた炸裂術式を撃ち込むヴィルヘルミーナであるが、中隊規模の重ねた魔法障壁で防がれるか、現地徴用兵の特攻で防がれてしまう。

 

「ちっ、直ぐに穴を…!」

 

「大隊長、増援が来ました!」

 

「やっとか! そのまま圧迫するぞ! 大隊、我に続け!」」

 

 だが、それがいつまで続くとは限らない。帝国再建委員会も必死なのだ。即座に常備軍と義勇軍を合わせた増援が空中要塞へと迫る。それを部下の知らせで聞いたヴィルヘルミーナは、傘下の大隊と共に敵防衛線に圧力を掛けるために突撃した。他の航空魔導士を含める戦闘機やバルキリーの大隊もそれに加わる。

 

「て、敵増援部隊接近! 数は…一個航空艦隊以上!!」

 

 レーダー手から対処不可能な数の到来に、要塞司令官は顔を真っ青にして、もう限界であると口に漏らす。

 

「も、もう持ち堪えられんぞ…! 直ちに主砲発射準備!」

 

「まだ射線上に味方が…!」

 

「構わん! 速くしろ! その程度の損害で煩いぞ!!」

 

「や、ヤヴォール! 直ちに主砲発射態勢に移れ! それと対空警戒を厳となせ!!」

 

 要塞司令官の指示に応じ、副官は指示を司令部要員に伝える。空中要塞は主砲の砲門を開きつつ、ハリネズミの如く敵増援部隊に対空砲火の弾幕を張る。

 この弾幕に地上の味方を守るために突撃を行う帝国再建委員会の増援である第2航空艦隊と第3航空艦隊の部隊の損害は増え、先行するように突撃させられた義勇軍、特に航空魔導士の被害は馬鹿にならない程だ。対空機関砲とミサイル、レーザー、ビーム等に耐え切れず、蠅のように落とされていく。

 

「畜生! こんなの、近付けねぇよ!」

 

 義勇兵として参加している航空魔導士の真下一元は次々と落とされていく味方を見て怖気づき、思わず止まって突破できないと告げる。ウィリー・アーメンガードも同意見であるらしく、イヴ人の将校に言われながらも、部下と自身の身を守るために必死に指令を拒んでいた。

 

「何をしている!? 突撃しろ!!」

 

「無茶だ! 死ぬだけだ!!」

 

 銃口を向けられているにも関わらず、ウィリーは必死に拒んでいる。これほどの人道的な人物が、後ほどターニャの部下の一人になるとは思えないだろう。

 防衛線に阻まれる第1航空艦隊と対空弾幕を引き付ける第2航空艦隊と第3航空艦隊の犠牲もあってか、上方よりガンダムを中心に編成された決死隊が空中要塞へと襲い掛かる。

 

「さぁ、行こうか! ナーニャちゃん!!」

 

『なんで私?』

 

 決死隊の編成は、補給と換装を行って再出撃したタリナのガンダムアヴァランチエクシア、Vダッシュガンダムに乗り換えたナーニャ、他第三世代太陽炉搭載ガンダム、三・五世代ガンダム、ダブルオーガンダムセブンズソード、他Vガンダム三機と言った十二機のガンダムだ。

 この上方より現れた十二機のガンダムタイプに、レーダー手は真っ青になり、言葉を震わせながら要塞司令官に襲来を知らせる。

 

「が、ガンダム…太陽炉搭載機を含む…十二機…!? こ、こちらに接近中!!」

 

「なんだと!? 十二機のガンダムタイプ…! は、速く撃て!!」

 

「駄目です! まだ撃てません!!」

 

 これに要塞司令官は恐怖を覚え、主砲発射を命じるが、副官はまだ撃てないと答える。そんな彼らの事情など、憂慮している処ではない帝国再建委員会の十二機のガンダムは、要塞上部の対空弾幕をすり抜けながら攻撃を始める。

 強力な収束型粒子ビームが放たれ、要塞のバリアを容易く貫通して被害を与える。これに空中要塞は温存してある全てのギラ・ズールをぶつけるが、ガンダムに敵うはずが無く、やられるばかりだ。

 

「邪魔、邪魔!」

 

 GNロングブレードとショートブレードを使い、タリナは障壁とならんとするギラ・ズールを次々と斬り捨てる。追加装備により、ナチス軍にエクシアを止められる術は無い。

 

「一気に突破し、要塞撃破…!」

 

 機体の背部に搭載されたオーバーハングパックの大型ビーム砲を撃ち込んで、一気に数機を撃破した後、ビームスマートガンを空中要塞の中心部に照準を定め、直ぐに発射する。この精密射撃は要塞へと命中し、少なからずのダメージを与える。

 他のガンダムも暴れ回り、一気に要塞の温存部隊を壊滅状態にすれば、待ってましたと言わんばかりにダブルオーガンダムセブンズソードが要塞に突撃していく。

 

「予備部隊、全滅!!」

 

「もういい! 発射!」

 

「今撃てば、当要塞は…!」

 

「構わん! 撃てっ!!」

 

 全滅の報を聞いた要塞司令官は主砲発射を命じれば、まだ安定した出力が無いと言って副官は拒むが、必死になっている司令官は砲術長に発射を命じる。砲門が開き、主砲が帝国再建委員会の地上部隊に向けて発射されようとされた時、要塞に向けて攻撃するダブルオーガンダムがトランザムを起動させる。

 

「トランザム!」

 

 この言葉の後に、ダブルオーガンダムは機体に搭載された七つの剣を要塞へと突き刺し始める。最初は二本のビームサーベルで要塞を高速で斬りまくってから突き刺し、次にGNソードⅡのロングとショートを折れるまで斬り、折れたら捨ててGNカタールの刃をGN粒子で加熱して熱を発生させて斬る。それから最後にGNバスターソードⅡを抜き、その大剣を要塞に突き刺して動かす。

 

「突破できたぞ! 総員、炸裂術式発射!!」

 

 負傷しながらも突破できたアーデらの中隊は炸裂術式で要塞を砲撃し、要塞に少しは被害を与える。これに続く形でフュカリタのアーマード・パック装備のVF-25Sメサイアが全火器を要塞にぶつけた。

 

「地上はやらせない! ありったけで!!」

 

 防衛線を突破した第1航空艦隊の一部と決死隊による攻撃で要塞各所では爆発が巻き起こり、続々と機能が停止する中、要塞の主砲は発射されてしまった。

 

『しまった!?』

 

「いや、地上には当たらない…!」

 

 主砲は発射されてしまったが、余りの攻撃で要塞は傾き、発射した先は太陽がある方向であった。その砲撃でターニャの危機を救い、起死回生のチャンスを与えたとは誰も思うまい。

 

『総員退避! 総員退避!!』

 

「うわぁぁぁ!?」

 

「やったぞ! 敵の地上部隊は全滅だ! ハハハッ! あはははっ!!」

 

 主砲を発射した空中要塞は安定しない状態で撃ったので自爆していき、退避を知らせる警報が鳴り響く中、要塞司令官は敵の地上部隊が自分の要塞で全滅する幻を見ながら爆発に呑まれて吹き飛び、地上へと落下していく要塞と共に運命を共にした。

 空中要塞が破壊されたことで、この世界のナチス軍は即座に撤退していき、現地徴用兵のみが残された。勝敗は決し、勝利したのは帝国再建委員会であった。

 

「やったぞ! ナチ野郎の空中要塞はお陀仏だ!!」

 

「帝国の再興に近付いたぞ! 神聖百合帝国万歳!!」

 

「我らイヴ人の勝利だ!!」

 

 要塞が地上に落下したことで、自分らが完全に勝利したことを実感した帝国再建委員会の将兵等は思わず歓喜し、祝砲と言わんばかりに手持ちの火器を空に向けて撃ち始める。

 トランザムを起動し、全力で要塞に攻撃したダブルオーガンダムは同じ太陽炉搭載機のガンダム二機に抱き抱えられ、母艦へと帰投していく。

 

 アーデルトラウト・ブライトクロイツ

 フォルモント・フォン・ヴェルトラオム

 ヴィルヘルミーナ・ブリュンヒルト・ニュルンベルク・インノゲール・フォン・ビスマルク・シェーンハウゼン

 フォルカ・ラーティ

 アルフィン・テオドール

 ミロスラーヴァ・ユーギン

 ナーニャ・デミグラス

 真下一元

 タリナ・ゴットワルト

 フュカリタ・モーラー

 その他多数

 

 この以下の者たちは全力を出し過ぎてしまい、疲弊しきっており、まだ元気な者に任せて帰投していった。

 

 

 

 リップシュタット連合軍、否、既に連合は崩壊して帝国再建委員会に投降しており、抵抗しているのは現地の者たちだけであった。

 ベルンブルク城に攻め込まれた現地軍の男たちは女如きと蔑むイヴ人に絶対に投降しまいと抵抗を続けるが、殺されるばかりだ。連合軍より兵器や設備を供与されても、扱って日が浅いので、的のように撃破されている。ご自慢の地上戦艦の艦隊は、空軍が送り込んだ一個航空団以上は居る大型爆撃機の爆撃で吹き飛ばされた。

 アガサ騎士団もこれ以上の抵抗は無駄と判断し、騎士たちが剣やそれぞれの得物を手放して敵軍に投降していく中、城に突入した唯一の航空魔導士であるターニャは、主君であるアルゴン王の名誉を守るべく、自分の悪行を証拠の数々を必死に処分するシュルツ・オットー・リップシュタット公を発見した。

 

「あれは敵の総大将の一人…! 捕えれば、昇進物だ!!」

 

 昇進して安全な後方へ行くと言う前世とは変わらぬ願望を持つターニャは、直ぐにリップシュタットを耐えるために彼の後ろに降下する。

 

「はっ!? このシュルツ・オットー・リップシュタット! 我が主君に不利となる事は一切喋らぬぞ!」

 

 書類の全てを焼き払ってそこから離れようとしている最中に、ターニャの存在に気付いてか、腰の剣を抜いて自分の主君であるアルゴン王とアガサ騎士団が不利なる証言はしないと剣を向ける。

 これにターニャは銃を向けることなく、リップシュタットが自分の行ってきた後ろめたい証拠を焼却処分していることに気付き、これを条件にアガサ騎士団を転職先にしようと思い、剣を向ける中年の男に交渉を持ち掛けた。神に記憶を持たされたまま転生される前はエリートサラリーマンであり、特にリップシュタットのような男との交渉は慣れていた。

 

「心配なさるな、アガサの騎士よ。私は貴公と君主を陥れるために来たのではない。交渉に来たのです」

 

「そ、その言葉遣い…ロリータ族の変異種か!? 交渉だと? わしとアルゴン王を脅すつもりか!?」

 

 互いに初対面だ。流石に警戒されるので、ターニャは投げた衝撃で修理に出さねばならないG36A突撃銃を床に置き、危害は加えないことを約束する。

 

「そうではありません。交渉に来たのですよ。貴公が焼却処分している後ろめたい証拠、上層部に報告するつもりは小官にはありませんので」

 

 そう約束するターニャであるが、もしもの時に備えて腰の拳銃は外さず、向こうの出方を見る。リップシュタットは相手がロリータ族と思い、短い腕では拳銃は素早く抜けないと判断してか、剣を腰に差してある鞘に収め、付近の物置に腰を下ろしてターニャの交渉に応じる。

 

「ロリータ族に弱みを握られているようで気に喰わんが…アルゴン王とアガサ騎士団に禍根を残さぬならば、貴様の交渉に応じようでは無いか」

 

「ありがとうございます。小官はターニャ・デグレチャフ空軍少尉、第1航空魔導士師団隷下の第2連隊所属。貴官との交渉に関して、私の要望は…」

 

 サラリーマンとしての経験を活かし、ターニャはリップシュタットと交渉を始めた。

 ターニャのサラリーマンの経験を生かした交渉術に、交渉相手をただの頭の悪いロリータ族だと思っていたリップシュタットは舌を巻き、ただ圧倒されるばかりであった。主君に対し後ろめたい事をしていても、上手く立ち回っていたリップシュタットに取っては、ターニャのようにこちらにも利がある条件を出し、尚且つ納得させるような人物との交渉など初めてであったのだ。

 

「良かろう。その程度の事、わしに取っては安い物だ」

 

 記憶を持ったままの転生する前のエリートサラリーマンとしてのターニャの交渉術に圧倒されたリップシュタットは、彼女の条件を全て呑んで受け入れた。ターニャが出した条件は自分のアガサ騎士団の魔法騎士、即ちマジェスティックナイトの地位であり、リップシュタットに取っては安い物である。

 対するターニャに取ってアガサ騎士団への転職は、正規軍でない帝国再建委員会では不安があり、いつワルキューレに制圧されるか、崩壊してもおかしくないので、願ってもない成果であった。念願の正規軍であり、一大軍閥のアガサ騎士団の転職が確定したターニャは、自分を迎え入れたリップシュタットに頭を下げて礼を言う。

 

「真にありがたき幸せ。このターニャ・デグレチャフ。アルゴン王に忠誠を誓いましょう」

 

「随分と嬉しそうだな…やはり変異種であったか」

 

 自分が聞いた物とは違う考え方を持つターニャに対し、リップシュタットは彼女を変異種と警戒する。至極当然の事であった。本来のロリータ族は、ターニャほどの交渉力を持ち合わせていないのだ。

 帝国再建委員会が不利になった場合、もしくは崩壊の危機にあった場合にターニャはアガサ騎士団に脱走しても迎え入れられ、騎士身分を与えられる。

 

「やったぞ! これで右派テロ組織から卒業だ!!」

 

 これで安泰な生活を得たと思うターニャは幼女らしく喜んでいたが、それは後の事を考えれば、叶うことは無い願いであった…。




次回で終わる…予定です。


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戦勝式典

皆様、ご参加してキャラクターを提供して頂き、ありがとうございました。


 リップシュタット連合軍が破れ、完全に帝国再建委員会が勝利した頃、黒音とキュートは密かにこの世界より脱出しようとしていた。

 

「ふぅ、本当におっかない世界だわ。こんな世界、速く脱出しなくちゃ」

 

 墜落した自機のVF-25Aメサイアより取り出せる物だけ取り出した黒音は、サバイバルケースを肩に抱え、双眼鏡越しで帝国再建委員会の将兵等が無抵抗な現地の敵兵を射殺する様子を見て、速いところ脱出する必要があると口にする。

 あの勢力に自分らの技術を提供すれば、即座に軍事利用されることは確実だ。そうなれば、この世界のように帝国再建委員会に侵略され、幾百、幾千の世界が支配下に置かれる事だろう。

 そうさせない為に、黒音とキュートは帝国再建委員会に自分らの正体を黙っていたのだ。もっとも、何名かは気付いていたが、組織を暴走させまいと敢えて黙っていた。

 

『マスター、TARDIS、補給完了です』

 

「やっと補給できたわね。それじゃあ、速くおさらばしましょう」

 

 ワルキューレや帝国再建委員会と同じ次元航行装置を持つ自分の船、一見すれば六十年代のポリスボックスのような船を目前に召喚させ、黒音とキュートはそれに乗って起動させた。

 この船には次元航行装置のみならず、タイムマシンでもあるのだ。万が一これが帝国再建委員会でも渡れば、イヴ人らは自分らの帝国の崩壊を防ぐため、過去を書き換えてしまう。黒音とキュートもそれを阻止するために、敢えて黙っていたのだ。

 

「各部異常なし。よし、父さんの所へ帰ろう」

 

 船を起動させれば、スイッチを押して即刻この世界より立ち去った。

 

 

 

 同時刻、リップシュタット連合軍においてこの世界の代表たるベルンブルク公ロイターは、迫り来る帝国再建委員会に震え、会議室を籠っていた。連合の盟主であるリップシュタット公は主君たるアルゴン王の為、証拠を処分している。

 既に連合が崩壊し、自身の君主であるベルンブルク公が会議室に籠って震える中、彼に仕えるフランツ・ルーク・アンス・テレジアは自分の家族に向け、アガサ騎士団の元へ行くように告げていた。

 

「何故です父上!? もう既に私は覚悟が出来ております!」

 

 フランツの息子三名は帝国再建委員会に特攻を仕掛ける覚悟であった。息子が、それも全員揃って特攻などこの世界において珍しく心優しい父が許すはずが無い。フランツは自分の言うことに反発する長男の頬を叩く。

 

「ならんと言っている! この酷い弱肉強食たる世界の為、犬死するつもりか!? 既に手筈は整えている。貴様たちはベルンブルク公ではなく、アルゴン王に忠誠を誓うのだ。この世界の為に心中するなどと口にするでない! 母にアリシア、ケーシーを連れ、アガサ騎士団と共にこの地より脱出するのだ!」

 

 長男をぶったフランツは、自身が嫌うこの世界の為に自分の息子を死なすつもりは毛頭もない。アガサ騎士団の幹部であるリップシュタットに騎士団に息子や娘たちが入れるように取り計らっており、既にアガサ騎士団側も受け入れる手筈を整えていた。

 無論、仕えるべき主君をベルンブルクと決めている息子らは父の説得を聞かず、更に反発する。

 

「何を勝手な…! 我がテレジア家の家訓を忘れましたか!? そんなこの地を逃げるような真似を!」

 

「テレジア家の当主として、恥ずかしくないのですか!?」

 

「頑固者共め、なれば…!」

 

 自分らをアガサ騎士団に入れ、逃がそうとする父に反発する息子らに対し、その父であるフランツは腰から剣を抜き、それを息子たちに突き付けて宣言した。

 息子たちからテレジア家の継承権を剥奪し、妻と離縁して息女の親権の放棄。テレジア家は自分の物であると。

 

「当主の権限において、私は息子たちの継承権を剥奪する! 妻アライダと離縁し、息子三人と娘二人の親権を放棄。テレジアは私の物だ。もうお前たちは私の息子でも無ければ、テレジア家の者ではない。アガサ騎士団の騎士だ。異界の騎士身分風情が、我がテレジア家の継承権を求めるのは言語道断だ。私はこの継承権を他の誰にも譲る気は無い。早急に立ち去れ!」

 

 息子らに脅すように告げれば、三人は後退り始め、罵声を浴びせる。

 

「こんな状況にまで家に拘るとは! 情けない男!」

 

「俺たちがアガサの騎士だと? 勝手に決めやがって! ぶっ殺して…」

 

 長男が腰より抜いた剣を向けながら罵声すれば、次男もそれに続いて剣を抜き、罵声を浴びせ、斬りかかろうとしたが、背後より姿を現したアガサ騎士団の騎士たちに後頭部を殴られ、三人揃って昏倒する。

 言うことを聞かない頑固者の息子三名を昏倒させた青いサーコートを着たアガサの騎士に、フランツは頭を下げて礼を言う。

 

「かたじけぬ。息子三人を説き伏せれぬ駄目な父親に代わり、手を煩わせてしまって」

 

「とんでもない。貴公は父としての務めを果たしている。息子たちの教育は我がアガサ騎士団に任されよ。立派な騎士に鍛えてしんぜよう。それに長女か次女も我が騎士団に入るようなら、立派な騎士に育てて見せましょうぞ」

 

「この酷い世界で傍観を決め込んだ男の願い、叶えてくれて感謝もしきれぬ…! 貴方がたこそ、まさしく騎士だ。この世界の紛い物とは大違いだ」

 

 自分を卑下して礼を言うフランツに、アガサの騎士は父親として務めを果たしていると諭し、預かった息子らは立派な騎士に育て上げると約束する。

 これにフランツは涙しつつ、アガサ騎士団の事を自分らが知る騎士とは違う真の騎士たちであると告げる。

 余りにも自分とこの世界を卑下するフランツに、死なせるのは勿体ないと思ってか、アガサの騎士は共に行かぬかと手を伸ばす。

 

「貴公も我らと行かぬか? 貴公はこの世界を嫌っているようだ。現主君を見捨て、アルゴン王の下で働いてみぬか?」

 

「それは出来ませぬ。私はテレジア家の当主として務めを果たさねば。現にあのような主君でも、我が主君でありまする。それにベルンブルク公も“この世界の被害者”なのです。どうか、テレジア家の最後の当主として、勤めを果たさせてもらいたい」

 

「貴方…」

 

 フランツはテレジア家の最後の当主として務めを果たさねばならないと言って、アガサ騎士団入りを断った。このフランツの当主としての固い決意に、アガサの騎士と妻のアライダは圧倒される。それでも妻は諦めず、フランツの説得を試みる。もしくは夫婦そろって家の務めを果たそうと説得を試みた。

 

「貴方、あんな男と共に心中するつもりですか!? なれば私も御連れ下さい! 覚悟はできております!」

 

「駄目だ、君はまだ息子たちといてくれ。一番上は二十歳だが、まだお前が必要なようだ。それにこれは僕が決めたことだ。最後だけは言うことを聞いておくれ、アライダ」

 

「奥方、失礼ながらフランツ殿の意思は固い。これ以上の説得、無意味と思いまする。フランツ殿の意思を尊重し、共に脱出いたしましょう!」

 

「…分かりました。それじゃ…!」

 

 説得しようとしたが、フランツの意思は固かった。これにアガサの騎士は説得は不可能と判断し、彼の妻であるアライダとその子供たちを連れて行く。連れて行かれる妻の瞳からは涙が流れていた。

 

「さようなら…」

 

 彼も瞳に涙を浮かべつつ、テレジア家の務めを果たすために主君の元へ向かった。

 会議室に籠る彼の主君であるベルンブルク公は、覚悟を決めた腹心であるフランツとは違い、生にしがみ付いていた。利権を維持する為、自身の息子か娘を婿に出し、帝国再建委員会に取り入ろうと言うのだ。これにフランツは呆れ、誇りを捨ててまで利権に縋る主君を見捨て、妻や家族と共にアガサ騎士団へ行けば良かったと後悔する。

 だが、ここで投げ出してしまえば、代々ベルンブルク公に仕えて来たテレジア家の当主たちに申しわけない。覚悟したフランツは、帝国再建委員会が決してベルンブルク公を生かしては置けないと告げた。

 世界の秘密を握り、大帝国ですら逆らえないベルンブルク家最後の代であるロイターが初代の足元すら及ばぬ程であれ、この男尊女卑の象徴と言えるので、古き時代を終わりを宣言するため、帝国再建委員会は必ず処刑するとフランツは君主に伝える。

 もっとも信頼する臣下より自分の運命を告げられたベルンブルク公の顔は青ざめたが、理解しているようだった。その為にフランツは君主に仇を討つ約束の条件として、毒を服用して自殺するように勧める。フランツが指を鳴らせば、毒入りのワインボトルを持った部下二名が会議室へと入って来る。彼は主君に名誉ある自殺をしてもらう為、毒を用意させていたのだ。だが、ここに来てフランツの予想を反する人物も含まれていた。

 まだ二十歳にも満たないベルンブルク公の妻だ。フランツは彼女と出陣していないベルンブルク家の十代前半や十歳にも満たないご子息等と共に脱出するように命じたが、主君の妻は自分の言い付けを無視して夫の元へと来たのだ。これに驚きつつも、フランツは妻が頼めば、ベルンブルク公は毒を飲むだろうと思い、敢えて訳を問わなかった。

 

 妻も見っともなく女性だけの種族であるイヴ人に媚び諂ってでも生きようとする夫に呆れ果てたのか、フランツと同じく自殺を勧めた。

 信頼する腹心のみならず、脱出せずにわざわざやって来た最後の十八歳の妻にまで自殺しろと言われたベルンブルク公は覚悟を決め、自分の前に置かれたフタのコルクが開けられた毒入りのワインボトルに手を伸ばした。男が全てなこの世界で、男である自分が敵、それも卑下する女に屈せずに死ぬことが名誉であると思うベルンブルク公はワインボトルを掴み、毒が混入したワインの飲み干そうとした。

 

「嫌だ! わしは死ぬのは御免だ! わしは彼奴等に取り入り、安泰した地位を手に入れる! わしはこの世界一の名家、ベルンブルク家の当主なのだぞ! 逆に支配してくれるわ!! このわしが決めたことに異議を唱える、ましてや女風情が意見する出ないわ! それに名誉の為に死ねなどとほざくなど! わしはこれからも、これからも支配者として君臨するのだッ!!」

 

 だが、ベルンブルク公は躊躇し、結局は生にしがみ付いてしまう。

 死ぬのは嫌だ。俺は男だ。男が全てなこの世界の男である自分が決めたことに、女が異議を唱えるなど以ての外だ。

 そう叫んでワインボトルを腹心のフランツに投げ付け、帝国再建委員会に取り入るため、この場から逃げようとした。だが、これもフランツは織り込み済みであり、廊下に待機させているもう二人目を会議室へ突入させ、主君を先に入った二人と合わせ、四人がかりで取り押さえて動けないようにする。

 自分を取り押さえる四人を振りほどこうと必死に暴れ回るベルンブルク公であるが、大の男四人に抑え込まれては、幾ら大柄な彼でも振りほどけない。そのまま予備の毒を取り出したフランツに、無理やり口を開かされ、毒をねじ込まれた。吐き出そうと藻掻くが、フランツもそれを理解して飲み込ませようと鼻を摘まみ、主君を毒殺した。

 

「これでベルンブルク家、最後の当主は名誉の服毒自殺を遂げた。同じくテレジア家の最後の当主、必ず主君の仇を討つことを約束いたしましょう」

 

 毒を飲まされて毒死した自身の主君に向け、フランツは敬意を込めて必ず仇を討つと約束した後、部下らにベルンブルク公の死体を丁寧に扱うように指示した。

 

「どうやら、世界の影の支配者はくたばったようだ。テレジア家の最後の御当主様、しくじるなよ」

 

 会議室前の廊下では、壁にもたれかかっているミッシングリンク隊のスミスの姿があった。彼はフランツが行うであろう仇討に一枚かんでいたのだ。その為に仇討に必要な道具を用意していた。

 そうとは知らず、帝国再建委員会は戦勝式典を行うべく、ベルンブルク城へと入城した。

 

 

 

 それから二日後、帝国再建委員会は大量に獲得した捕虜に戦闘で破損した個所の補修工事をやらせ、戦勝式典を行っていた。

 参加しているのは少尉から元帥などの将校や将軍だけであり、兵や下士官は式典会場となる玉座には呼ばれていなかった。居るとすれば、警備兵である。敵側であるアガサ騎士団も式典に参加しており、警備も共同で行っているらしく、アガサ騎士団側の方には、あちらこちらに槍やハルバートを持った衛兵が立っている。

 義勇軍も居るはずであるが、イヴ人の将校や将軍以外許可されていないようで、人間で許可されいるのはアガサ騎士団の騎士たちだけだ。参加を拒否された義勇軍の将兵等は外で開催されている祝杯の方に居り、特別に支給された高級酒で戦勝を祝っていた。

 尚、義勇軍将兵等の給仕係を行っているのは、今は崩壊したリップシュタット連合軍の捕虜たちであり、彼らが口にする料理も捕虜にされた糧食係の将兵等が行っている。

 

「ち、何が戦死者十二万人よぉ。こっちは五十万もくたばってんだぁ! あれだけの激戦で、そんだけで済んだことを感謝しやがれってんだぁ!!」

 

 一人の酔った下士官は、ラジオから聞こえて来るイヴ人将兵の戦死者を発表する放送に対し、自分ら義勇兵は五倍以上は死んでいると文句を言う。これに同じく酔っている下士官が酒瓶を片手に肩を抱き寄せ、イヴ人の文句は言うなと告げる。

 

「おいおい、イヴ人さまに文句を言うんじゃあねぇ。あいつ等の娼館を出禁にされちまうぞぉ! 文句を言った罰でなぁ!!」

 

「お前、ここにイヴ人の憲兵は居ねぇよぉ! 今は好きなだけ文句も不満もぉ言えんだぁ! もうこの際だから言っとけ言っとけぇ!!」

 

「応よぉ! 勲章じゃなくてやらせろぉ! 俺はお前らとやるために委員会に参加したんだぁ!!」

 

「良いぞ! もっと言えっ! 心の内に秘めた鬱憤を晴らせぇ!!」

 

 酔っている義勇軍の陸軍将兵等は、周りにイヴ人の将兵や憲兵が居ないことを良い事に、内に秘めていた不満を酒の力を借りて叫ぶ。聞こえていれば、どんな目に遭わされるか分かった物では無いが、この戦勝式典の場では許されていた。

 会場が酔った将兵等によって騒がしくなる中、アムレート・グレンケアは静かにウィスキーを飲んでいた。そこへ部下が近付き、彼の昇進を祝う。

 

「おぉ、これは! 昇進おめでとうございますぅ! ちゃんと飲んでますかぁ?」

 

 酔った部下に何の返答もすることなく、アムレートは静かにウィスキーを飲む。これに部下は絡むことなく、仲間たちの方へと向かった。

 

「まぁ、あんたは無口だもんなぁ! 俺たちは俺たちで騒ぎますよぉ! なんたって俺たちも昇進してるからなぁ! バッハハハ!!」

 

 笑いながら仲間たちの元へ向かう部下に気にすることなく、アムレートはウィスキーを一口飲んだ。

 陸軍と空軍で別れているらしく、空軍でも陸軍の将兵等と同様に酔って騒いでいる。真下一元も伍長から軍曹に昇進したが、大して変わらないので、自棄酒をあおっている。仲間に止めろと言われても、一元はその手を払って酒瓶ごと呑んでいる。

 

「うるせぇぞぉ! 伍長から軍曹になっただけぇ、何が変わるってんだぁ!? 畜生が!」

 

 自棄酒で酔う一元が泣きながら喚き散らす中、ナチス軍のヴィルヘルム・エーレンブルグとの戦いで負傷したフェリーチェ・バルボッサが、式典会場へと入って来る。これに義勇空軍の航空魔導士らは驚いていた。何せ彼女は特別に正規軍であるイヴ人と共に肩を並べて戦うことを許可された唯一の人間だ。イヴ人の方に居るかと思ったら、人間の方へと来たのだから、彼らが驚くのは無理もない。

 

「どうした、バーバ・ヤーガ。なんでこっちに来るんだぁ?」

 

「人間だからだよ。流石に向こうには参加出来なかったよ。それとその名で呼ぶんじゃないよ。今度はぶっ殺すよ?」

 

「そうかい。まぁ、あんたは二階級特進だからな。ここで昇進祝いと行こうぜ!」

 

 一人が訳を問えば、フェリーチェは負傷して重い身体を動かしながら空いている席に座り、流石にイヴ人の会場へは入れなかったと答える。これを聞いた義勇軍の将兵等はフェリーチェが二階級特進したと知ったので、それを祝ってやろうと思い彼女の前に置かれたカップに高級酒を注ぐ。

 仲間たちが彼女の昇進を祝う中、何故か給仕係をしているルルモードがトレイに載せられた豪華な料理をフェリーチェの元へ持ってくる。無論、フルプレートの上からエプロンを掛けての登場なので、一同からは驚かれる。

 

「シャハハハ! フェリーチェ・バルボッサ殿、少尉まで昇進おめでとうございます。わたくしが丹精を込めて作った料理でございます。どうか、召し上がってくださいませ」

 

「な、なんだこいつ!?」

 

「あんた、そこまでするのかい?」

 

 ルルモードの姿を見て驚く一同を他所に、フェリーチェは左手で彼が持ってきた料理を手に取り、それを口に含みながら給仕係までするのかと問う。

 

「もちろんですとも。なんせわたくしのメカの修理代を稼がにゃあなりませんからねぇ! 少しでも足しになれば、するのがこの水晶騎士ルルモードですよ! では、次の料理をせにゃあならんので」

 

「…美味いね」

 

 フェリーチェの問いに、ルルモードは自分の機体であるジョングの修理代を稼がねばと思ってやっていると答え、厨房へと戻って行った。そんな彼の姿を見て、フェリーチェはルルモードの料理を少し口にすれば、美味いことに驚きの声を上げる。

 チェンバーレイン・リリウムを含めるイヴ人の兵や下士官の方でも、義勇軍とは違う高級酒などが振舞われていたが、未成年者が多いので殆どがケーキなどの菓子類だった。騒げない代わりに唄を歌い、安住の地を手に入れたことを祝う。

 

 外で祝われる中、メインイベントとも言えるベルンブルク城の玉座の間では、帝国再建委員会の委員長がかつてはベルンブルク公が座っていた玉座に腰を下ろし、両脇に護衛二名を従え、この戦いを勝利に導いた将校らに労いの言葉を掛けていた。そんな彼女の隣では、礼服に身を包んだリップシュタット連合の盟主であるリップシュタット公が何食わぬ顔で立っている。ジン・グレイツァ・エルバーンも包帯を巻いて参加していた。座っているのは他の騎士たちと同じ席である。

 

 式典にはシェイファー・ハウンド戦闘団の将校らも参加していたが、部隊長であるカヤは式典には参加していない。シェイファー・ハウンド戦闘団はガイエス平原での戦闘で最も戦果を挙げた部隊であるが、損害も馬鹿にならず、五千人はいた戦闘団は二千人まで減っており、カヤは損害の責任で昇進できず、式典には参加できなかった。

 空軍ではターニャを見捨てた第6大隊のアーデルトラウト・ブライトクロイツやアルフィン・テオドールは何のお咎めの無しに、大隊長と共に参加している。ターニャはその第6大隊の中に居たが、敢えて文句は言わない。

 他には第1大隊のヴィルヘルミーナ・ブリュンヒルト・ニュルンベルク・インノゲール・フォン・ビスマルク・シェーンハウゼン、全身複雑骨折の状態のため、車椅子に座っての参加のエリカ・グラーフィン・フォン・ホルシュタイン、第5大隊のフォルモント・フォン・ヴェルトラオム、フォルカ・ラーティが居た。

 ルシル・ジャベリンはテキサス軍の為、参加できず、ゾフィー・レオンハルトはバレて独房に入れられた。ナーニャ・デミグラス、タリナ・ゴットワルトも居て、晴れて准将となったミロスラーヴァ・ユーギンは、将軍の場の方に立っている。他にフュカリタ・モーラー、アザギ・アマガネも参加している。

 

 式典が順調に行われる中、主君の仇討ちを行う為にフランツが、カートの上に置いたベルンブルク公の遺体を入れた棺を押してベルンブルク夫人と共に入って来る。帝国再建委員会とアガサ騎士団と警備兵が付いており、暗殺の心配は無いと式典に居る誰もが思っていた。

 表向きは主君とその妻を献上することを条件に、身の保証を要求して来たフランツに、ミロスラーヴァを始めとしたイヴ人至上主義者らは蔑んだ視線を向け、侮蔑の言葉を掛ける。

 

「主君の死体とその妻を献上して自分の身を守るか。この世界の男はつくづく下賤な者ばかりだな」

 

 ミロスラーヴァがフランツに対する侮蔑の言葉を投げ掛ければ、彼は気にすることなく委員長の前に主君が収められている棺を止めて一礼する。それから棺に近付き、底からある物を取り出す。それは使い捨てのロケットランチャーであった。周りが慌てる中、フランツは冷静に安全装置を外して照準を委員長に向け、主君の仇を取ると宣言する。

 

「我が主君の仇、取らせていただく!」

 

 その言葉の後、フランツはロケットランチャーを発射した。使い捨ての筒より真後ろから高熱を噴射して発射されたロケット弾は、委員長の左右に控える護衛の魔法障壁によって狙いが逸れ、玉座の後ろの壁に命中して爆発する。防御されたと判断したフランツは懐より予め弾頭を装填しておいたワルサーカンプピストルを取り出し、再び狙おうとするが、衛兵に取り押さえられ、あらぬ方向へと撃ってしまう。

 

「ぬわぁぁぁ!」

 

 フランツが撃った方向に居たのはアガサ騎士団の衛兵らであり、床に撃ち込まれて爆発で何名かが吹き飛ばされる。

 

「取り押さえろ!」

 

 数人掛かりでフランツを取り押さえる警備兵や衛兵らであるが、暗殺者は彼だけでなかった。ベルンブルク夫人も仇討を狙っていたのだ。注意がフランツに向いたのを確認した奥方は、左手の薬指にはめてあるレーザーを発射することが出来る指輪で委員長を狙おうとした。だが、撃った先に偶然にもリップシュタットが重なっていたのだ。それを目撃したターニャは、一目散に駆け付けようとした。

 

「危ない!」

 

「ん、ぐぅ…!?」

 

 既に遅く、レーザーはリップシュタットの身体を貫いた。レーザーは委員長に届こうと思われていたが、リップシュタットの意図せずの身を挺した防御によって狙いは逸れ、彼女の頬を掠めた程度で済んだ。

 

「おのれぇ!」

 

 二射目を発射しようとする夫人であるが、左腕をリップシュタットの息子が抜いた剣で斬り落とされ、そこから衛兵らの槍で身体を貫かれた。

 自分が仕損じた場合に備え、主君の夫人にも仇討を行わせようとしていたフランツであるが、それも尽く失敗したのを見て、もう仇は討てないと判断して奥歯に仕込んである毒を呑み込もうとする。

 

「ベルンブルク公! 申し訳ございませぬ! このフランツ・テレジア、しくじりました!! 夫人も仕損じ、敵の槍に貫かれましたが、貴方一人では行かせませぬ! このフランツめも詫び向かうついでに、お供いたしまする!!」

 

「飲ませるな! 吐き出させろ!!」

 

 仇討が失敗したことで、毒を呑み込むフランツより、毒を吐き出させようとするが、既に毒を呑み込んだ後で、もう息絶えた後だった。

 

「い、医者だ! 速く医者を!!」

 

「うぅ…デグレチャフ、デグレチャフよ…!」

 

 フランツが毒で自殺した後、レーザーに撃たれて瀕死のリップシュタットの近くに寄ったターニャは医者を呼ぶが、既に手の打ちようが無かった。最期にターニャに何か告げようとするが、体内より溢れだす血で上手く伝えられない。

 

「な、なんだ親父!? 喋るんじゃない! もう直ぐ医者が来る! もう少し頑張るんだ!!」

 

「貴公に、貴公に…アガサ騎士団を…」

 

「頑張るんですリップシュタット公! もう直ぐ医者が来ますぞ!!」

 

 息子と共に必死にリップシュタットに呼び掛けるターニャであるが、医者が来る前に彼は最期の言葉を伝えられず、息絶えてしまった。

 

「駄目です、ご臨終であります…!」

 

「そんな、親父ィィィ!!」

 

 医者は脈拍を確認したが、リップシュタットが息を引き取ったことを息子に伝えた。それを聞いた息子は泣き崩れ、ターニャは亡命先を失ったことを悟り、床に尻もちを着いて茫然とした。一方でまだ息のある夫人は息絶える前に、断末魔を上げながら息絶える。

 

「クソっ、あんな男の為、あんなおっさんの為に…! 失敗するんなら、逃げれば、逃げれば良かった…」

 

 最期までベルンブルクに尽くしてしまったことを後悔しつつ、夫人は血を吐き出しながら息絶えた。

 

「ちっ、使えん奴らめ。ドローンを自爆させろ。直ちに撤収だ!」

 

 その様子を遠目からドローン越しで見ていたスミスは、舌打ちしながら撤収する。フランツらが使っていた武器の類は、スミスが用意した物だ。臨検を行う衛兵も、スミスが買収しており、こうしてフランツと夫人が仇討を実行できたのだ。

 こうして、戦勝式典はベルンブルクの仇を討つ臣下とその主君の妻、リップシュタットとアガサ騎士団の数名の衛兵の死で幕を下ろした。

 

「逃げ場が…私の逃げ場が…!」

 

 ターニャはリップシュタットの遺体の前で、帝国再建委員会の一員として戦い続けることを余儀なくされたと思い、絶望に打ちひしがれていた。

 

 そして、今に至る…。




裸エプロンに我が主君の仇と濃い内容になったな…。

次回で幼女の過去編の最終回となります。


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そして、今に至る

前回のあらすじ、裸エプロン!

ただのおじさんさん
G-20さん
団子狐さん
虚無の魔術師さん
kinonoさん
オリーブドライブさん
観測者☆黒音さん
スノーマンさん
黒子猫さん
リオンテイルさん

ご応募いただき、ありがとうございました。


 こうして、我が帝国再建委員会が全戦力を持ってアイン・ラントを手に入れた。

 少なからずの犠牲もあったと上層部は思っているが、私にとってはかなりの犠牲もあった。せっかくの亡命先を失くしたからな。これも存在Xの仕業に違いない!

 

 そんな話はおいて置き、あの式典の後、仇討に来たフランツの遺体よりあの世界の秘密を解き明かす鍵が見付かり、上層部はそれを開けて全世界に秘密を明かした。

 内容は私にとってどうでもいい事だ。確か、魔法などの技術は女性が生み出した物だったか。それと人間と魔族が共存しており、最初に裏切ったのは人間の男だったとか、そんな感じだ。

 それを全世界に向けて布告し、上層部はまだ征服していない地域に無条件で降伏して服従するように告げたが、従う帝国や国家は一つも無く、従うとすれば強欲な狡賢い奴だけだった。まぁ、嘘だと思うだろうな。

 ちなみに、崩壊せしめたリップシュタット連合に参加していた多国籍軍と勢力は自分の世界へと帰って行った。捕虜も幾度か占領地の補装をさせてから返還した。傭兵はギャラを払ってそのまま義勇軍に組み込んで戦力に加えた。特に水晶騎士ルルモードは張り切ってたな。

 

 これに帝国再建委員会が取った選択は、武力による世界統一であった。

 軍の再編を終えれば、侵略作戦オペレーション・クリーンを発動し、現代兵器と機動兵器、圧倒的に高い士気を持って電撃的に抵抗する国家を次々と制圧した。途中で異世界の勢力がちょっかいを掛けてきたが、我が帝国再建委員会には敵わず、無駄に戦力を減らすだけだ。

 義勇軍には女性を襲わないことを条件に略奪を許可してやる気を出させたようだ。全兵力を使っての制圧作戦であり、航空魔導士である私も駆り出された。

 ストレス解消代わりに現地の奴らを手当たり次第に血祭りに上げてやった。敵は揃いも揃って馬鹿ばかりで、真正面から挑んできた。我々が女だから勝てると思っているのか? こちらは二十一世紀の兵器と機動兵器を装備しているのだぞ? 勝てる訳が無かろう。

 

 それと千葉セイジを始めとした現地の志願兵らもこの作戦に投入された。訓練と教育が終わり、実戦投入可能なレベルまで育っていたのだ。現地志願兵らの大半は女性で、中には見知った顔が幾人か含まれていた。

 志願兵の隊は二級戦扱いであり、使い物にならないと思われていたが、その評価を覆すが如く働き、当初は馬鹿にしていた熟練兵らを驚かせた。

 

 千葉の方はジェノサイダー・セイジと言う痛い厨二名を名乗り、ファイテックスを身に纏って自分の転生先の世界の住人らを躊躇いも無く元気に虐殺していた。異世界軍も同様に、神様から貰ったチートで殺し回っている。マッシュルームヘアーで眼鏡な奴だが、私から見ればフリーザの技を持つムスカだ。演算宝珠まで装備させれば、フリーザ染みた戦闘力*1になった。

 敵の空中要塞をデスボールのような技で一撃で破壊した際は、フリーザでは無く、ラピュタ王になったムスカになっていた。

 

「ほぅ。ハッハッ、見ろぉ! 人がゴミのようだ!! ハッハッハッ!!」

 

 マッシュルームヘアーであるが、眼鏡の所為で千葉がムスカに見えた。おまけにあの名言まで発するのだから、ヒーローでは無くムスカだ。イヴ人がチヤホヤすれば、千葉はハーレム系アニメの主人公の気分になり、下半身の本能のままに行動し、転生先のバカな男たちを虐殺し続けた。今も学習しないのかと言わんばかりに、良いように扱われている。呆れるくらいアホな奴だ。

 戦争から遠ざけられているハルは元気に子供を産み、過去では私の上官であるアーデルトラウト・ブライトクロイツ大尉殿の後輩と結婚した。今も元気に暮らしている。

 

 そんなこんなで制圧は予定よりも速く終わったが、前の統治者を殺しまくった所為で完全に統治するに二年は要した。おまけに解放すべき女たちも、帝国再建委員会を歓迎しなかった。まぁ、迷惑な話だな。頼んでもいないのに、解放した、喜べと言われても。反抗も無く、彼女らは新たな支配者であるイヴ人に従った。

 統一後も異世界軍の介入が幾度かあったが、戦力も練度も高まっている我が帝国再建委員会に跳ね除けられるばかりだ。ナチス軍のヴィルヘルム・エーレンブルグが似たような奴を数人とイギリスの火葬戦記漫画「Uber(ウーバー)」のナチスの超人三人衆と共にリベンジをしてきたの最後に途絶えた。

 夜中の為、奴が全力で攻めてきたが、協力者と千葉を含めた委員会最高の強者らと共に何とか撃退した。糸を使う変な奴は、金髪のジークフリートのパンチで顎が外れたのが印象的だった。

 

 これを機にアイン・ラントに攻め入る異世界の勢力は無かったが、現地で無理やり徴兵した奴らの反乱が起きたな。特務大隊創設直後であり、私も運悪く巻き込まれたが、制圧してやったわ。加わって何処かの勢力に逃げ込もうと思っていたが、首謀者がアホなので諦めた。ついでに殺して置いたぞ。

 そこからは最前線やら敵地での活動を行い、そして今に至る…。

 

 

 

「あ、あのビッチが…街の市長だぁ…!?」

 

 帝国再建委員会の異世界侵略より五年、今は完全に侵略軍の支配下となり、男尊女卑から完全なるイヴ人至上主義の支配下に置かれた世界で、見るからにみすぼらしい男は、街の市長の女性が写るポスターを見て、苛立ちを覚える。

 そう、この街は最初に帝国再建委員会の侵攻を受けた街だ。少なからずの抵抗はあったが、現代兵器の前にあっさりと占領された。五年も経てば街は様変わりし、原形を留めない程に変わり果て、名前もロッテンマイヤー市と勝手に変えられた。

 例えるならば、五十年代の欧州の街並みであろう。中世欧州からわずか五年で十一世紀も先の街並みに代わってしまったことに男は驚きつつも、復讐の闘志はまだ燃え尽きていなかった。

 

「ゆ、許せねぇ…! 女の分際で、しかもビッチの癖して市長だとぉ…!? ぶっ殺してやる! だが、まずはこのチビ助の始末だ。その後は市長になってやがるあの女だ!!」

 

 男は手にした写真に写る人物、ターニャの抹殺を行うべく、五年ぶりにこの街にやって来たのだ。

 五年前、魔王が倒されてまだ日が浅い頃、男はそれなりの地位にいる冒険者であった。だが、帝国再建委員会の侵攻により、叶わぬの本能で判断し、数十名の仲間たちと共に付近の森に潜伏した。潜伏期間は今日を除いて五年以上。それからは見付からぬように人目を盗んで僅かながらの食料や水を盗み、時には他のグループと協力して今日まで生きて来た。

 しかし、人には限界はある。それが男尊女卑でそれなりの地位にいた男であれば尚更だ。我慢できず、敵の陸軍の輸送隊を襲った者も居たが、現代装備の前では返り討ちにされて殺された。

 今日に至るまで、仲間同士の殺し合いもあり、捜索にも遭いながらも、それでも何とか今日まで生きて来た。だが、男も限界であり、死に場所か自ら命を絶つか、あるいは投降して飯にあり付こうと思っていた。

 そんな男に救いの手が差し伸べられる。手を差し伸べたのは、あのロー・スミスであった。彼は食料を与え、復讐のための装備を用意することを条件に、ターニャ・デグレチャフ、今はターニャ・フォン・デグレチャフの暗殺を命じたのだ。

 

「飯はたらふく食ったな? ロッテンマイヤー市の市長、キヨリ・ロッテンマイヤーに復讐もしたいだろ? ならばこの小娘を殺せ。喫茶スモーブで呑気にコーヒーでも飲んでいる頃だ。お前は私が与えたそのRPG-7ロケットランチャーで、その写真の小娘を吹き飛ばすんだ。後は二発目で市長を殺すが良い」

 

 スミスに命じられるがまま、男はRPG-7対戦車発射器の入った鞄を抱えながら、ターニャがコーヒーを嗜んでいる喫茶スモーブへとヘラヘラしながら向かった。

 無論、スミスはこの男に期待などしていない。捨て駒と思って使ったのだ。渡す物だけ渡して、スミスはそこから立ち去って行った。

 

「へへへ、待ってろよキヨリ…! 小娘を吹き飛ばしてから、お前にもこいつをぶち込んで昇天させてやるからなぁ…!」

 

 捨て駒にされているとは知らず、男はスミスの言われた通り、喫茶スモーブへと向かった。

 

 

 

 自分が暗殺されることなど知らず、喫茶スモーブで呑気にコーヒーを嗜むターニャは、五年前のことを思い返せば、カップの中を飲み干したことに気付く。

 

「おっ、無くなったか。もう一杯と言いたいところだが、時間が近いな」

 

 もう一杯を頼もうと思っていたが、腕時計の針を見てその時間は無いと判断して席を立つ。そこへ丁度、スミスの命を受けて暗殺に来た男が、鞄よりRPG-7を街中で堂々と取り出し、安全装置を外して照準をターニャに向ける。

 

「見付けたぜぇ! 死ねっ!!」

 

 ターニャが気付いた頃には弾頭は発射された後であった。引き金を引かれた発射された弾頭はターニャに向かって飛んでいき、喫茶スモーブの店内にまで来たところで爆発した。

 

「殺ったぞーッ! チビをぶっ殺してやったぜぇ!! 次はビッチのキヨリだァ!! 待ってろぉ、今こいつをぶち込んでやるからなァーッ!」

 

 碌に死亡確認もせず、男は新しい弾頭を装填し、この街の市長であるキヨリ・ロッテンマイヤーの抹殺に向かおうとしたが、彼は撃ち込んだ弾頭は何の効果も無かった。

 喫茶スモーブは謎の結界に守られ、店には傷一つ付いてはいない。街の人々は驚いており、逃げ惑っているが、店主のジェイソウルブラザーことジェイブは震えながらも慌てずに顔を出し、ターニャは苛立ちながら店を出て来る。

 

「ふぅ、まさか店にRPG-7をぶち込む奴がいるとは…! 爆破テロや自爆テロを警戒し、念の為に張って置いた結界が役に立つなんて、思わんわ」

 

「で、デグレチャフ大佐…?」

 

「安心しろ、スモーブじゃなくてジェイブ。こいつを始末した後に、もう一回結界を張る。少し待ってろ」

 

 震えるジェイブを落ち着かせつつ、ターニャは店から堂々と出てきた後、生きていることに驚いて茫然としている男に近付く。

 

「にゃ、にゃんで生きているんですかァーッ!?」

 

 迫り来る幼女とは思えぬ悍ましい殺気を感じた男は驚愕しつつも、再びRPG-7を撃ち込もうとしたが、発射されたロケット弾頭はターニャの左手で受け止められ、そのまま噴射する際に必要な燃料を失い、そこで止まる。ターニャは左手に魔法の八卦を張ってロケット弾頭を受け止めたのだ。燃料が切れても、中の火薬は危険なので足元に置いて男に近付く。

 

「ぎょ、ぎょえぇぇ!? あぁぁぁッ!!」

 

 ターニャの放つ悍ましい殺気を肌で感じ、彼女が怪物に見えた男はその場から逃走する。だが、逃がすターニャではない。追いかけようと思い、目にも止まらぬ速さで先回りしようとしたが、スミスは男に発信機を忍ばせておいたのか、口封じの為に始末する。

 

「ちっ、やはりここの世界の男は使えんバカばかりだ。始末しろ」

 

 別の建物より様子を見ていたスミスは、待機している狙撃手に男の始末を命じた。これに応じ、特殊部隊用のM40狙撃銃を持つ狙撃手は観測手のサポートを受けつつ、ターニャから逃走す男の後頭部を正確に撃ち抜いた。

 

「クソっ、口封じか!」

 

 目の前で狙撃された為、ターニャは自身も狙撃されることを経過し、遮蔽物に身を隠した。スミスは男を捨て駒と考えているので、次なる手をターニャに差し向ける。それはあの男と同様、この世界でしぶとく生き延びてきた男たちだ。

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

 一斉に襲い掛かるが、武器を持たない幼女の放った魔法による手刀で切り裂かれ、全員揃ってバラバラになる。あっさりと殺されてしまったが、それはスミスの狙いであった。

 

「掛ったな。アンデッドを起動させろ!」

 

 双眼鏡でターニャが襲い掛かった男たちをバラバラにしたのを確認すれば、スミスは付近で何らかの装置を操作している部下に起動を命じた。部下が指示に応じてスイッチを押せば、最初の狙撃で射殺された男とターニャがバラバラにされた男たちの死体は一つに合体し始める。どうやら、スミスは彼らに与えた食料にアンデットにする養分を混ぜ込んでいたようだ。

 

「し、死体が一つに…! まさか!?」

 

 自分が殺害した男たちの死体が巨大な怪物になり始めたのを見て、ターニャは合体を妨害すべく、強力な魔弾を撃ち込んだが、撃つ前に狙撃され、合体を阻止できなかった。

 複数の死体が合体し、最後に後頭部を狙撃された男が頭の辺りで合体すれば、死んだはずの男は生き返った。その姿、もはや怪物だ。不気味な笑い声を上げながらターニャを死体で出来た巨大な腕で潰そうと振り下ろす。

 

『ブヘへッ! 気分いいぜェ! 俺は蘇ったぞぉ!!』

 

 複数の死体との合成で生き返った男は不気味に笑いながら、ターニャを捻り潰そうと腕を振るう。その腕力はレンガ造りの建造物を破壊するほどで、付近の建造物は倒壊した。怪物の打撃を躱しつつ、ターニャは魔弾で反撃するが、怪物には余り効いていないようだ。

 

『なんだぁ、その攻撃はぁ? 蚊ほどにも効かんぜぇ』

 

「ち、厄介な奴を街中で! 過剰であるが、こいつだ!」

 

 怪物には素手の魔弾では効かぬと判断し、腰のホルスターに収めてあるUSP自動拳銃を引き抜き、即座に安全装置を外して拳銃を介しての砲撃術式を撃ち込む。外せば街に被害が出るが、外さなければ良い事とターニャは躊躇なく放ち、怪物にダメージを与えた。流石に銃を介しての砲撃術式は効いたようで、怯んでいる。

 

『うげっ!? や、やりやがったなぁ! テメェをぶっ殺してから、キヨリを死ぬまでレイプしてやる!!』

 

 拳銃での砲撃術式で怒りを燃やす怪物は、不快極まりない言葉を吐きながらターニャに巨大な拳を打ち込んだ。

 

「不愉快な奴め! 死ねぇ!!」

 

 弾丸の如く放たれた拳を飛んで躱したターニャは怪物の腕に飛び乗り、本体と思える首から生えている男の上半身に向け、拳銃をしっかりと構えて炸裂術式を撃ち込んだ。銃口より放たれた強力なビームを浴び、合成死体の怪物となって蘇った男は断末魔を上げる。

 

『うぉぁぁぁ!? せっかく生き返ったのにィィィ!! ヤダバァァァ!!』

 

 本体らしき男はそのまま消滅した。これで終わりと思ったターニャであるが、合成死体はまだ動いていた。

 

「しまった!?」

 

 右腕より少し細い左腕がターニャを掴み、握り潰そうと握力を強める。このまま握り潰されるかと思っていたターニャであるが、この世界に転生したもう一人がターニャを救う。その名は千葉セイジ、帝国再建委員会に良いように使われている道化過ぎる男だ。

 

「ジェノサイダー・セイジ、ただいま参上! ヒーローは遅れてやって来るもんだぜッ!」

 

「マッシュルームピエロか!? 遅いぞ!」

 

「マッシュルームピエロじゃねぇ! 千葉だ! じゃなくてジェノサイダー・セイジ! とにかく、この俺が来たからには、この気色悪い化け物は終わりだぜッ!!」

 

 千葉に対し、ターニャは酷い渾名で遅いと叱れば、彼は間違えながら訂正し、自分が来たからにはあの合成死体は終わりだと言って、その怪物に向けて必殺技を放つ。

 

「ジェノサイダー・フラッシュ!!」

 

 両腕を真っ直ぐ伸ばして合わせた両手の掌から破壊光線を放った。街が消し飛ばしてしまうほどの威力だが、千葉は街の被害を考えない程に馬鹿ではない。ちゃんと撃つ角度を考え、上空に合成怪物が吹き飛ぶようにしたのだ。

 ちゃんと考えて撃った千葉の必殺技を受けた怪物は上空へと吹き飛んでいき、空中爆発を起こして木端微塵となった。これを見た千葉はある決め台詞を吐く。

 

「けっ、(きた)ねぇ花火だぜ」

 

「やったのはお前だろ」

 

 街の上空で合成死体を爆破して格好よく決め台詞を吐く千葉に、ターニャはツッコミを入れる。

 

「クソっ、五年前よりも更に強くなっている! オマケに道化まで居る! VA(ヴァルキュリア・アーマー)隊と現地の死にぞこない共をぶつけ、撤収だ!」

 

 合成死体が倒されたことで、スミスは分が悪いと判断して、撤収の時間稼ぎとして用意した十二機のVA隊とこの世界の魔王軍の残党をターニャと千葉にぶつけた。

 

「おぉ、なんだァ? 増援か?」

 

「VAに魔王軍の残党か。VAは私がやる。貴様は魔王の残りカスをやれ」

 

「おい! 勝手に決めんじゃ、化け物より女子と戦いたのによ!」

 

 怪物を倒したと思ったら、新たに現れたVAのノルドと魔王軍の残党に対し、ターニャは慌てることなく千葉に魔王軍の対処に回るように指示を出して、自分は演算宝珠を起動させ、VAと交戦を始める。これに千葉は異議を唱えるが、現れた魔王軍残党のオークの攻撃を防ぎ、ターニャに言われるがまま魔王軍残党と交戦する。

 

「ひっ!? がぁぁ…!」

 

 空へ上昇したターニャは第三世代VAであるノルドに急接近し、搭乗者のみを殺害して死体を投げ捨てた後、そのノルドを装着する。演算宝珠のハッキング機能で完全に奪い取り、ノルドを自分の物とすれば、残り十一機のVAに向け、砲撃術式を込めたビームライフルを撃ち込んで撃破した。これにノルドに搭乗する女性兵士らは驚きの声を上げる。

 

「ぶ、VAを奪い取った!?」

 

「良いマシンだな。全く、せっかくの休暇を台無しにしおって。この鬱憤、お前たち捨て駒と現地の残りカス共で晴らさせてもらうぞ?」

 

 ノルドを奪い取ったターニャは、二機目を撃破されて驚愕する残り十機となったVAと魔王軍残党の複数は居る飛竜隊に向け、休暇を台無しにされた鬱憤を晴らすと宣言し、襲い掛かった。

 それと同時に街の付近にある陸軍基地より部隊が出撃し、地上の魔王軍残党の対処に当たっている。空軍も出動しており、航空魔導士の編隊が遠くに見える。対応はターニャが思っているより遅い。

 

「何が鬱憤晴らしだ! 我が世界を武力で奪い取った侵略者めが…」

 

「た、隊長!? うわっ!?」

 

「おのれ、よくも隊長…」

 

 鬱憤晴らしをすると言うターニャに激怒した魔王軍の飛竜隊の長は怒り、剣先を向けて彼女の首を撥ねようと突撃したが、逆に飛竜ごとライフルで撃墜される。部下が驚く暇もなく撃破され、そのまま残党の飛竜隊は次々とターニャによって撃墜されていく。これにVA隊は戦意を喪失する。

 

「つ、強い…!?」

 

「降伏するなら、今の内だぞ?」

 

「は、はい…」

 

 一瞬にして飛竜隊の半数を仕留めたターニャに勧められ、VA隊はあっさりと戦いもせずに投降した。

 

「戦わずにして勝つ、これが戦争の理想形だ。さぁて、私は死にぞこない共を処分するか!」

 

 一番厄介とも言えるVA隊を投降させて無力化したところで、ターニャは投降せずに友軍の航空魔導士と交戦する魔王軍残党の飛竜隊の方へと向かった。

*1
戦闘力53万か?




俺たちの戦いはこれからだ!的な終わりで、過去編は終わりです。

皆様、ご応募いただき、ありがとうございました。

次の読者参加型、何するか決まってないので、決まるまでガンダムの短編書いて待ちます。


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エルと共に戦おう!
Villain&Attack!


スタースクリーム
G1を知るならご存じF15戦闘機に変形するディセプティコン(デストロン)のナンバー2。
この作品ではデストロンを離反して自ら作り上げたスタースクリーム軍団を率いている。軍団はただのDQN集団と化している。
ガルダーゴンの戦いで軍団の半数を喪失しており、辺境に逃れて惨めに生活している。

ブロッケン伯爵
マジンガーZに出て来るDrヘルの手下の一人。元ドイツ軍人のサイボーグで、自分の首を右脇に抱えている変な奴。
ヴィンデルの手先として蘇り、スタースクリームの使者として訪れる。
ブロッケーンT9に乗って参戦する。

カムジン・クラヴィシェラ
マクロスに出て来るゼントラーディ人の兄貴。
面白いと言う理由でスタースクリーム軍団に参加している。負けて辺境に潜伏するようになってから、つまらないと思って転職を考えている。

エルネスティ・エチェバルリア
ナイツ&マジックの主人公で合法ショタ。転生者であり、ロボオタクの前世の記憶を持っている。
転生先で幻晶騎士(シルエットナイト)を見て前世を思い出し、立派なロボキチとして成長する。


 剣と魔法の世界。

 これを聞いたのなら誰しもが数多あるファンタジー物だと思うだろう。だが、その世界にはロボットが存在する。

 そのロボットの名は幻晶騎士(シルエットナイト)。基本的な全高は10m程。主な運用法は魔獣と呼ばれる魔物退治、都市防衛、商隊護衛、戦争兵器。言うなれば、巨大な甲冑である。

 シルエットナイトの操縦するパイロットは騎操士(ナイトランナー)と呼ばれ、特別な訓練を受け、試験を合格した者がシルエットナイトに乗ることを許される。

 理由は数にシルエットナイトに限りがあるからで、ナイトランナーとなれるのは騎士の中でもほんの一握りのみ。故に巨大な甲冑であるシルエットナイトに乗れるのは、騎士に取って大変名誉なことなのだ。

 武器は人間の武器をスケールアップした物が用いられ、射撃武器は杖状の魔法攻撃武器などを使用する。

 

 従来は単なる巨大な甲冑であったが、百年以上停滞していた開発はある者、それも少年の提案によって加速し、支援型の機動兵器のように背中に杖を持った二本の腕を付けたシルエットアームズが一般的となり、ケンタウロスのようなタイプや飛行するタイプが誕生するなど加速した。

 

 その剣と魔法、シルエットナイトと言うロボット、大規模な戦乱後に各国に普及した飛行船が混在する世界に、ヴィンデルとスタースクリームの軍団が攻めて来た。

 異世界の侵略軍が投入した機動兵器はその世界の遥か先に科学力を有しており、魔法を使うシルエットナイトや飛行船はとてもでは無いが太刀打ちできなかった。そればかりではない火力と物量も段違いなのだ。

 

「ハッハッハッ! なんだこのシルエットナイトってのは? ただのガラクタじゃねぇか!」

 

 侵略軍から見れば、シルエットナイトなどガラクタに過ぎない。そうスタースクリームと侵略軍は例え敵わぬとも、民や国を守るために命を投げ捨ててまで戦うシルエットナイト等を嘲笑う。

 確かにシルエットナイトでは、侵略軍が投入するMSやSPT、MF、ゼントラーディ軍の兵器、機械獣、メカザウルスには歯が立たない。生存性皆無のATにも、火力で圧倒されるばかりだ。

 これでヴィンデルが捕えろと言っていたエルネスティ・エチェバルリアなる餓鬼を捕まえるなど容易い。

 そう侵略軍の誰もが思っていた。そのエルネスティ・エチェバルリアことエルが丹精を込めて作り上げたシルエットナイト「イカルガ」の登場で覆る…!

 

「これはまさしく空を埋め尽くす悪の軍団! まさか転生してからこんなスーパーロボットアニメの絶望的な展開を経験するとは…! こうなることなら、巨大なロボット、ではなくシルエットナイトを拵えておけばよかったですね!」

 

 絶望的な状況にも関わらず、青いシルエットナイト、イカルガを駆るナイトランナー、エルネスティ・エチェバルリアは不気味なほど興奮していた。何せいま彼が肌で感じているのは、前世ではアニメでしか見たことが無い状況だ。常人なら逃げるか、守るべき人や場所を思い浮かべ、それらを守るために果敢に挑む物だが、エルは普通なら体験することは無いであろうこの状況に酷く興奮していた。

 自分のイカルガを見て攻撃を浴びせて来る複数のゼントラーディ軍の陸戦型戦闘ポッドのリガードやATのダイビングビートル、SPTのドトールを銃装剣(ソーデッドカノン)の射撃で手早く撃破した後、空高く上昇して大挙して押し寄せる空戦ポッドやMFのソロムコを撃破していく。

 

「ゼントラーディ軍のみならず、ATのダイビングビートル、グラドス軍のSPTやMFも居るようですね」

 

 前世のロボオタクとしての記憶を持っているためか、異世界軍が運用する全ての機動兵器をエルは知っていた。次々と遭遇するMSのズサやオーバーフラッグ、バルキリーのSV-51にVF-27ルシファー、SPTのブレイバー、飛行系機械獣とメカザウルスを見て興奮した。

 

「なんと、ネオ・ジオン軍のみならずDrヘル一派や恐竜帝国も居るんですね! それに反統合軍やギャラクシー船団まで! みんな前世で見たアニメの敵軍ばかり! 敵版スーパーロボット大戦ですかね!」

 

 次々と襲い掛かるどれもこれも前世で見たことがある敵機を撃破しながらエルは侵略軍を敵版のスーパーロボット大戦と表した。それから背部の四本ある副腕で背後から迫る敵機を鋭利な指先で撃破し、正面から来る敵を銃装剣の射撃で撃破するか、接近して剣で切り裂いて撃破する。

 単独で圧倒しているイカルガであるが、敵は空を埋め尽くすくらいの数で、いずれかは機体のエネルギーであるマナが切れて袋叩きにされて撃破されるだろう。無論、エルはそれを承知でやっている。例え自分が死ぬことになろうとも、自分の世界を守るためにエルは戦うのだ。

 

「多勢に無勢…! ですが、この絶体絶命のピンチのような展開を経験して後悔は無い! 大量のロボットに包囲され、集中砲火を受けて死ぬのも悪くはありませんね!!」

 

 それに後悔は無い。少し不満だが、これ以上強請っては、碌な事にもならないと思い、魔法のモニター越しから見える有象無象の大群に満足しておく。

 一機、また一機と敵機を落としつつ、エルは機体のエネルギーであるマナの残量を確認した。まだ十分にはあるが、大量の敵機を全て片付けるには足りなさ過ぎる。それに敵の大群の向こう側には、母艦であるゼントラーディ軍の艦艇やグラドス軍の巨大空母、馬鹿でかい円盤のような母艦が控えていた。

 

「やれやれ、艦隊まであるのですか。全く、八方塞がりも良い所です…!」

 

 大量の敵機の後方に控える巨大艦の艦隊を見て、エルは完全に詰んでしまったと判断する。だが、心の奥底で異世界からの侵略軍と同じく、異世界からのスーパーロボットに乗った助っ人が来るのではないかと期待している。

 そんなエルの期待を打ち壊すかの如く、スタースクリームが襲来した。自分に向けて向かって来るトリコロールカラーのF-15戦闘機を見て、前世の記憶を持つエルは驚きの声を上げる。

 

「あのトリコロールカラーのF-15戦闘機は!?」

 

「たった一体のガラクタに手こずりやがって! まぁ良い、あれが噂のエルネスティ・エチェバルリアって言う肉ケラだな?」

 

 イカルガの目前まで迫れば、スタースクリームはF-15戦闘機から人型へと変形(トランスフォーム)する。

 

「なんと…!? トランスフォーマーのスタースクリーム…!? それもG1の! トランスフォーマーはスーパーロボット大戦に出られないのでは!?」

 

 自分の目の前で変形して確証させたスタースクリームを見て、エルは驚愕していた。自分の知る限り、トランスフォーマーは異世界の侵略軍には居ないはずなのだ。だが、その侵略軍を率いるのは紛れもなくスタースクリームだ。

 

「ノコノコと出て来てくれたことには感謝するぜ。さて、俺たちと共に来てもらおうか?」

 

 

 

 遡ること一週間前…。

 ガルダーゴンの戦いから数ヵ月後、連邦や同盟の追撃から逃れ、同盟軍の勢力圏内にある辺境の地まで逃走していたスタースクリーム率いる軍団の元に、この世界を影より支配するヴィンデル・マウザーからの使者が訪れた。

 

「何(もん)だテメェは!?」

 

 現れたヴィンデルからの使者に対し、仮名666に破壊された右腕を修復したスタースクリームはレーザー砲を向けて名を問いながら撃つ。

 

「止めい! 止めんかぁーッ!! わしはヴィンデル・マウザーの使者、ブロッケン伯爵なるぞぉーッ!!」

 

 自分を見るなりいきなりレーザー攻撃を行うスタースクリームに対し、ヴィンデルの使者であるブロッケン伯爵は撃つなと叫ぶ。それを聞かず、スタースクリームはブロッケン伯爵が乗る首と身体が分離している奇怪な機械獣ブロッケーンT9を撃ち続ける。

 

「うるせぇ! この俺様を殺しに来たんだろ!? ここへ来る奴はみんなそうだ!!」

 

「止めぬと言うなら…トゥアーッ!!」

 

 どうやらブロッケン伯爵が自分を殺しに来た刺客だとスタースクリームは思っているようだ。これにブロッケン伯爵はレーザー攻撃を躱しながら急接近し、頭部のビームで牽制する。ビームを躱したスタースクリームに向け、ブロッケン伯爵はブロッケーンT9の右手に握られた剣の突きを胴体に見舞い、吹き飛ばした。

 

「グァァァっ!?」

 

 吹き飛んで壁に激突したスタースクリームに、ブロッケン伯爵は追撃を掛けようとするが、軍団の者たちに止められる。

 

「おっと、確かヴィンデルの使者とか言ったな? こんな奴でも俺たちの大将よ。それ以上やるってんなら、刺客と判断してあんたをやっちまうぜ?」

 

 ただ見ていた10メートル級の巨人であるカムジン・クラヴィシェラが手に持っている重火器を向け、ブロッケン伯爵に脅しを掛ける。これにブロッケン伯爵は剣を下げ、ブロッケーンT9のコクピットから出て戦意がない事を告げる。

 

「烏合の衆団の長にしては、良い部下を持っているようだな。左様! このブロッケン伯爵、ヴィンデル・マウザーの使者よ! 刺客ではない!」

 

「こいつ!」

 

「止めな、大将。あの首を脇に大事に抱えている奴は、ヴィンデルの野郎の使者だぜ? 話ぐらい聞いたらどうでぇ?」

 

 巨人らや同じトランスフォーマーらに抱え上げられたスタースクリームは仕返しと言わんばかりにレーザー砲の銃口を向けるが、カムジンに止められる。これを受け、スタースクリームはブロッケン伯爵の話を聞くことにした。

 

「ちっ! だったらどんな要件で来たんだ!?」

 

「最初の方は貴様のハヤトチリとして水に流してやる。それにお仕置きをしてやったからな! 詳しくは、我が主より聞くが良い!」

 

 スタースクリームが苛立ちながら問えば、ブロッケン伯爵は右脇に頭を抱えながら左手でテレビ型の通信機を取り出した。その画面に映る人物は、この世界を影より支配するヴィンデル・マウザーであった。画面に映るヴィンデルは、スタースクリーム等を見下すような目線で挨拶する。

 

『久しいな、愚か者よ。念願の軍団を率いることが出来て満足か?』

 

「こ、この野郎!」

 

 このヴィンデルに、スタースクリームは激怒して思わず撃ちそうになるが、部下等に止められる。そんなスタースクリームを煽るかの如く、ヴィンデルは要件を告げる。

 

『少し煽った程度で激昂するとは、やはり貴様は愚か者だ。だが、そんなお前にも出来るような仕事を用意した。この少年を我が軍団と共に捕らえるのだ』

 

 ヴィンデルがスタースクリームに対する要件とは、エルネスティ・エチェバルリアを拉致する事であった。この要件に、軍団の者たちが疑念の声を上げる。

 

「なんだ、人間(マイクローン)の餓鬼じゃねぇか。あんたの部下を使えば良いだろう?」

 

『その手もあるが、向こうの世界の宇宙の警戒が厳しくてな。それなりの手練れが必要なのだ。それに窮地の貴様らに取ってありがたい話でもあるぞ?』

 

 カムジンの疑問に、ヴィンデルはエルネスティ・エチェバルリアことエルが居る世界の宇宙の警戒度が厳重になっている証拠を見せた。彼の世界の宇宙に展開しているのはワルキューレの宇宙軍であり、臨戦態勢レベルだ。エルの居る惑星には、何の手出しもしていないようだが。同時に辺境に落ち延びたスタースクリーム軍団に取っては美味い話であると付け足す。

 ヴィンデルの言う通り、スタースクリーム軍団は崩壊の危機に瀕していた。二大勢力の追撃を逃れ、辺境に逃れたは良い物の、スタースクリームの所為で脱走者が続出しており、連邦や同盟に寝返ろうと裏切る者まで出始めている。ここはヴィンデルの下につき、組織を安定させるのが第一だろう。問題はスタースクリームだが、軍団の誰もがヴィンデルの手先となって安心しようと思っていた。

 

「大将、こいつは良い話だぜ。あんたが納得しけりゃあ、俺はあのマイクローンの部下になるぜ。もう節約生活は御免だ」

 

「俺もだ。これ以上、あんたの下で働いてたら、命が幾つあっても足りねぇ。あんたが断るなら、俺はあんたを殺すぜ! 奴の提案に乗るなら別だが」

 

「く、クソっ…! 貴様ら…!!」

 

「ハハハッ! 素晴らしく人望の無い大帝だのぅ!!」

 

 カムジンを初め、軍団はヴィンデルの要望に応じなければスタースクリームに従わず、挙句に殺すと脅しを掛けてきた。これにスタースクリームが自分の人望の無さを悔しがる中、ブロッケン伯爵は誰も従わない軍団のリーダーを嘲笑う。

 

「畜生…! ()ーたっよ! テメェの言う通り、そのエチェバルリアとか言う餓鬼を捕まえて来てやるぜ!!」

 

 もう誰も従わないと身で分かったスタースクリームは、渋々とヴィンデルの要望に応じた。自分の読んだ通りに事が運んだことで、上機嫌なヴィンデルは改めて命じる。

 

『フン、良かろう。これで貴様の軍団の再建は確定だ、喜ぶが良い。我が軍団と共に、エルネスティ・エチェバルリアを捕らえるのだ!』

 

 何故、ヴィンデルはエルに目を付けたのだろうか?

 理由としては、彼がロボ好きでイカルガと言うあの世界では最強の傑作機であり欠陥機を開発したからである。ヴィンデルは強大な兵器を開発させようと、エルを攫おうと言うのだ。

 かくして、スタースクリーム軍団とヴィンデルの手先たちによる連合軍は、エルを拉致すべく、彼の世界に攻め入った…!




もう内容は…スーパーロボット大戦です。

活動報告にて、参加者を募集しております。是非とも参加してください。


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Enemy&Storm

コンボイ
トランスフォーマーG1ならご存じの「私にいい考えがある」で有名なコンボイ司令官。今ではオプティマスプライム。トラックに変形する。
エルの世界がスタタクやヴィンデルを初めとするヴィラン軍団に襲撃されると聞き付け、今ある戦力を引き連れて駆け付ける。

マイスター
トランスフォーマーG1をご存じならポルシェ935ターボに変形する副官。原語版では工作員で名前はジャズ。副官なのは、TVアニメの一話で点呼を取った所為と思われる。
この作品ではコンボイと同じく生き返った人で副官を務める。

ラチェット
トランスフォーマーG1をご存じr
サイバトロンの救急車に変形する医者。ザ・ムービーで戦死してしまうが、この作品では英霊として復活。医者なので治療と仲間の修理を担当。

ダイノボット、エアーボット、プロテクトボット
サイバトロンの戦士たち。ダイノボットは恐竜部隊で、エアーボットは飛行機部隊、プロテクトボットは救援チーム。

カン・ユー、ゴステロ、マンジェロ、ボーン、ゲティ、デシル・ガレット
ワカメことヴィンデル・マウザーの命を受け、エルを攫うついでにナイツマの世界をいじめに来た悪漢たち。
他にもガウルンやゲイツ、サーシェスもナイツマ世界をいじめに来ている。

ディートリヒ・クーニッツ、エドガー・C・ブランシュ、ヘリヴィ・オーバーリ
エルの先輩方。スパロボ30ではハブられてしまうが、ここでは活躍する。

イメージOP↓
https://www.youtube.com/watch?v=gmkTUY69fC0


 エルの世界が、スタースクリーム軍団とヴィンデルの手先たちによって攻撃を受ける中、それをあの世界に潜り込ませていた情報員からの報告で知った。

 

「まさかこれ程の総攻撃を仕掛けるとは! 直ぐに救援に駆け付けねば!」

 

 エルの世界の総攻撃を知ったトラックに変形するトランスフォーマーであり、正義の戦士の集団「サイバトロン」の司令官コンボイは救援に駆け付けるべく、自分らの拠点に居る出動可能な人員で救援隊を組織する。

 

「司令官、出来る限り動ける者を集めました。他の戦闘員は事が終わり次第、後から駆け付ける予定です」

 

 人員は直ぐに集まった。だが、各地でゴットカオスが生き返らせた咎人らが暴れており、それに対処するために戦士らが出動しているので、決して多いとは言えない。救援に向かうことは事に対処している戦士たちに報告したことを、同じトランスフォーマーであり、コンボイの副官たるマイスターが伝えた。

 

「あぁ。だが、みんな頼りになる者たちばかりだ」

 

 マイスターの報告に、コンボイは臨時編成の救援隊が全員が頼りになると口にした。

 

 集まったのは出動可能な人員は以下の通り。

 

 総司令官コンボイ

 副官マイスター

 看護員ラチェット

 

 ダイノボット

 指揮官グリムロック

 スラージ

 スラッグ

 スナール

 スワープ

 

 エアーボット

 指揮官シルバーボルト

 副官スリング

 偵察員ファイヤーボルト

 戦士エアーライダー

 航空戦略家スカイダイブ

 

 プロテクトボット

 防衛指揮官ホットスポット

 航空支援員グレイズ

 救助員ファーストエイド

 追撃員ストリートワイズ

 偵察員グルーブ

 

 臨時要員

 バラリードッグパイロット、キリコ・キュービィー

 レイズナーMkⅡパイロット、アルバトロ・ナル・エイジ・アスカ

 マジンガーZ(ロケットパンチ型)のパイロット、ライトン・ブラウナー

 

 ゲッターロボカオスチーム

 サイコ号パイロット、今川竜騎(いまがわりゅうき)

 クレイジー号パイロット、レン・クー

 クラッシャー号パイロット、マ・ドソク

 

 これらの人員が揃えば、コンボイは次元航行が出来るシャトルへの乗船を命じる。

 

「全員、揃っています!」

 

「よし、乗船開始!」

 

 コンボイの号令に応じ、揃った臨時救援隊はシャトルへと乗船し、エルの世界へと向かった。

 

 

 

 時はエルが逃げ惑う人々をかき分けながら急ぎイカルガの元へ向かう中、スタースクリーム軍団とヴィンデルの手先たちによるエルの世界への攻撃は更に激しさを増していた。

 

「高々原始人の作ったガラクタ如きに何をしておるかーッ!? さっさっと潰してしまえ!!」

 

 ヴィンデルの手先の一人、カン・ユー大尉は乗機のダイビングビートルを駆り、多数のAT部隊を率いて決死の防戦を行うシルエットナイト等を追い詰める。

 ATはシルエットナイトより防御力もパワーも低いが、装備する火器の威力は高く、シルエットナイトの装甲を易々と貫く。必死に盾で防御しても、小柄なATに側面や背後に回り込まれ、集中砲火を浴びせられて撃破される。

 

「ヒャハハハッ! 死ねぇ!!」

 

 カン・ユーよりも多数のシルエットナイトを撃破する者が居た。それはMFのダルジャンに乗るゴステロだ。ゴステロはいじめと人殺しが大好きな悪漢であり、機体の手兵装であるレーザード・ガンでシルエットナイトや戦闘員だけでなく、逃げ惑う人々にまで撃って空から虐殺している。

 

『おのれ、外道め!』

 

 カルディトーレと呼ばれるシルエットナイトに乗るナイトランナーは、無差別虐殺を行うゴステロのダルジャンに対し、バックウェポンの魔導兵器で撃ち落とそうとする。虐殺は止められたが、そのナイトランナーじゃゴステロの怒りを買うことになる。

 

「ち、サルが! じわじわとたっぷり嬲り殺してやる」

 

 飛んでくる魔弾を躱しつつ、ゴステロはダルジャンの左肩のレーザー・パズソーを抜き、レーザーの剣を展開させて邪魔をしたカルディトーレに突っ込む。そのシルエットナイトに乗っていたナイトランナーの狙いであったが、彼は死よりも恐ろしい目に遭うことは知らない。

 上空より向かって来るダルジャンが、右手に持つ剣の間合いに入ったところで突きを放ったが、ゴステロの技量は凄まじく、あっさりと躱されてしまう。

 

『な、何っ!?』

 

「突きが遅いんだよぉ!」

 

 驚くナイトランナーに、ゴステロはダルジャンの左腕のシールドに突き出ている可動式の爪で剣を挟み、そのまま圧し潰した。それからレーザー・パズソーを振るって敵機の左腕を斬り落とし、更には右腕と背部のバックウェポンまで斬り落として胴体に突き刺す。

 

『う、うわぁぁぁ!?』

 

「言ったろぉ、たっぷりと嬲り殺すとな!」

 

『止めろ! 止めてくれぇ!!』

 

「ひぃひゃははは! そうだ! 命乞いだ! 泣き叫べ! 助けを乞え! ハハハッ!!」

 

 攻撃手段を奪われたナイトランナーは叫ぶが、自分の楽しみを邪魔した者にゴステロは容赦しない。泣き叫んで命乞いをするまで嬲り殺しにして、それから笑いながらカルディトーレを破壊した。

 破壊した後、周辺の逃げ遅れた住人たちに標的を定め、楽しみながら殺し始める。

 

「フハハハ! 堪らないなぁ~、人殺しと言うのは!!」

 

 ゴステロに取って人殺しとは、最高の楽しみであり、何よりも勝る快楽である。彼に人殺しやいじめを止めさせよう等と、天と地がひっくり返らぬ限り出来ぬことだ。

 だが、運悪くスタースクリームやヴィンデルに狙われたフレメヴィーラ王国の人々に襲い掛かる脅威はゴステロだけでない。

 死鬼隊と呼ばれる恐ろしい三名も、この虐殺劇に参加していたのだ。

 

「ひぃやぁぁぁ!!」

 

 自身専用のMFガッシェランに乗る死鬼隊のリーダーであり頭脳のマンジェロは奇声を発しながらカルディトーレに襲い掛かり、ハード・コーンと呼ばれる右腕のドリルで胴体を抉る。

 当然ながら、ドリルで抉られたカルディトーレに乗っていたナイトランナーは高速回転するドリルに突き刺されて死亡している。惨たらしい死に方だ。

 

「フへへへ、苦しみながら死ね!」

 

 死鬼隊の二人目、専用MFエルダールに乗る隊の中で背が高く髑髏のような風貌を持つボーンは機体のスネーク・ドリルをナイトフレームに向けて振るう。振るわれたスネーク・ドリルは先端を回転させながらナイトフレームの内部に侵入し、乗っているナイトランナーを殺害してからそのナイトフレームを内部より破壊した。

 

「潰れろぉ!」

 

 最後の一人、専用MFダンコフに乗る大柄の男ゲティは機体のパワー・ナックルで敵のナイトフレームを何度も殴打し、乗っているナイトランナーを圧殺した。

 マンジェロ、ボーン、ゲティの三名はゴステロと同じくサイボーグであり、彼とは変わらぬ残忍な性格の持ち主である。周囲に民間人が居れば、即座に機体のレーザー・ガンで射殺し始めた。

 更にフレメヴィーラの人々を恐怖と絶望に陥れる存在はカン・ユーやゴステロ、死鬼隊だけではない。ヴェイガン製MSであるクロノスに乗るデシル・ガレットもまた、ゴステロ以上の残虐性を持つ男であった。

 

「死ね! 死ね! 死ねぇサル共!!」

 

 クロノスの両手に内蔵されたビームバルカンを乱射し、戦闘員やナイトフレームどころか、民間人まで楽しみながら虐殺していた。その様子は、外見に合わぬ虫を踏み潰すことを楽しむ子供のようだ。

 無論、ナイトフレームと彼専用とも言えるクロノスの性能差は天と地の差であり、止めようとすればナイトフレームの方が容易く破壊されてしまう。

 

「ち、面白くねぇな。ちょっと遊ぶか」

 

 デシルはただ殺すのは面白くないと思ってか、両手両足を破壊し、挙句にナイトランナーを機体から引きずり出して盾にする。

 

「止めろ! 止めろォォォ!!」

 

「良い声で鳴くなぁ。ほら、お前らの仲間に当たっちまうぞぉ?」

 

 機体から引きずり出されたナイトランナーは恐怖して叫ぶが、デシルはそれを面白がって、バックウェポンで狙おうとするカルディトーレのナイトランナーたちを挑発する。

 

『離せ卑怯者! それでも騎士か!?』

 

「騎士だぁ…? つまんねぇ連中だなぁ!!」

 

 地上から罵声を浴びせるナイトランナーらに対し、デシルは少しイラついてか、機体胸部に内蔵されたビームバスターで一掃する。

 

「はぁ、本当につまらねぇぜ。こんなガラクタしかねぇ世界に攻め入って、エルネスティとか言う餓鬼を拉致するなんてよ。まぁ、サル共をいたぶって発散するか」

 

 ナイトフレームが全く相手にならないことで、デシルはこの作戦に不満のようだった。その不満を晴らすため、デジルは逃げる市民らに標的を定め、虐殺を始める。

 

 

 

 六人の残忍な悪漢たちや多数の機動兵器に虐殺されるフレメヴィーラ王国であったが、少しでも善戦している部隊があった。それはエルネスティ・エチェバルリア率いる銀鳳騎士団だ。

 

「な、なんだこいつ等ぁ!? 他のガラクタ共とは違うぞぉ!?」

 

 ナイトフレームをガラクタと侮り、現地の者たちをサル呼ばわりしていたスタースクリーム軍団とヴィンデルの手先たちは、思わぬ反撃を受けて混乱する。

 

「これ以上好きにはさせんぞぉ! 侵略者共!!」

 

 怒りに燃えるナイトランナー、騎士団第一中隊隊長エドガー・C・ブランシュは自分専用のナイトフレーム「アルディラッドカンバー」で都市に雪崩れ込んで破壊活動を行おうとするドトールやガンステイド、戦闘ポッドの大群をエンチャンテッドソードで切り裂いていく。

 

「クソ、ガラクタ風情が!」

 

 次々と味方を切り裂いていくエドガーのアルディラッドカンバーに対し、攻撃軍の機動兵器はレーザーを乱射するが、この白いシルエットナイトは魔獣と戦うことを前提としており、背部の二つのサブアームには小型盾を装備している。本体の装甲も厚いので、攻撃軍の一斉射撃にはびくともしない。

 

「ぬぁぁぁ!!」

 

『こ、こいつ!? 防御しながら突っ込んできやがる!』

 

 それに防御しながら移動できるので、エドガーが雄叫びを上げながら突撃を行い、攻撃軍の一部隊にかなりの損害を与える。そこから第一中隊のシルエットナイトが現れ、混乱している攻撃軍に損害を与える。

 

「なんでこんなに、グワァァァ!?」

 

 別の個所では、まるでケンタウルスのような外見を持つシルエットナイト「ツェンドリンブル」で編成された部隊が、都市部に侵攻する攻撃軍の側面を突いて混乱させていた。

 

「これ以上、好きにさせない!」

 

 ツェンドリンブルの隊を率いるヘリヴィ・オーバーリは目前の敵機をランスで串刺しにした後、AT等の小型兵器を踏み潰し、対空兵装を搭載した馬車を引っ張る同型機の道を作る。

 

「対空隊、上空に向けてミッシレジャベリン発射!!」

 

 邪魔な敵を一掃した後、ヘルヴィは対空兵装「ミッシレジャベリン」を搭載した荷馬車部隊に向け、上空の敵を攻撃するように叫んだ。これに応じ、荷馬車に載せられたミッシレジャベリンは、発射機に装填された多数の槍を上空に向けて発射する。

 

「空に向かって槍を発射するだとォ!?」

 

 勢いよく発射された槍は上空を旋回するブレイバーやソロムコを始めとした他の空中機に命中し、多数の敵機を撃破する。攻撃軍は矢の如く槍を上空に向けて勢いよく発射するなど思っても見なかったのだ。

 

「ここは一歩も退かん! このディートリヒ・クーニッツとグゥエラリンデが相手だ!!」

 

 赤いシルエットナイト「グゥエラリンデ」に乗るディートリヒ・クーニッツは、一歩も退かぬ覚悟を見せながら、押し寄せる攻撃軍に自信の第二中隊と共に立ち向かう。これを鼻で笑う攻撃軍であるが、フレメヴィーラ王国を蹂躙された彼らの怒りは凄まじく、逆に追い返される始末だ。

 

『が、ガラクタじゃないのか!?』

 

「誰が、ガラクタだぁーッ!!」

 

 ガラクタと侮って突っ込む攻撃軍は、次々と友軍を斬り捨てるディートリヒに恐れ戦き、下がり始める。

 

「うぉぉぉ!!」

 

 そんな浮足立った敵にディートリヒは容赦なく剣を振るい、目に見える敵機を切り倒していく。上空にも敵部隊が居るが、ミッシレジャベリンによる対空射撃で近付けないでいる。

 このように銀鳳騎士団は圧倒的性能と物量を持つ攻撃軍相手に良くやっているが、戦局を覆す程の影響はない。それでも、彼ら彼女らは守るべきフレメヴィーラ王国の民の逃げる時間を稼ぎ為、他の騎士団と共に戦い続ける。例え自分が死ぬことになろうとも。

 

 自分の騎士団が決死の防戦を行う中、エルはイカルガがあるハンガーへ辿り着き、乗り込もうと出撃準備を始めた。敵に向かって走るために…!




キッド、アディ、前王、エムリス殿下は次回で。

募集キャラが出るかも?


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異世界の高位神官

名前:ツバキ・R・ハルパニア
性別:女性
年齢:24
乗機:リューハイロード・オリビア
タイプ:陸・空
概要
「アースティア(コミックス版)」(覇王大系リューナイトの世界)出身の高位神官
旅の途中にウィンデルによる次元融合の余波に巻き込まれて、ナイツマ世界のフレメヴィーラ王国に飛ばされ、右も左もわからない所を現地の住人に助けられる。
助けられた恩に報いるべく、ヴィラン軍団と戦う。
キャラ提供はリオンテイルさん

版権キャラ編

キッド、アディ、エムリス、アンブロシウス
スパロボ30に参戦できたナイツマ勢の方々。各々の機体を駆り、攻撃軍相手に善戦している。

ガウルン
フルメタルパニックに登場する九つの国籍を持つテロリストで秘密結社アマルガムの幹部の一人。そして主人公相良宗介の宿敵の一人。
ヴィンデルの軍団に参加し、カン・ユーやゴステロと同様にナイツマ世界をいじめに来た。
乗ってるのは専用ASコダール。

ゲイツ
フルメタルパニックのアニメオリジナルの凄腕のイカレ野郎。
ハゲで広いオデコのモミアゲが凄い金髪のおっさん。物凄くイカレており、ハイテンションで良く部下を殺す。モミアゲの手入れに凄い拘る。
ヴィンデルの軍団に参加しており、ナイツマ世界をいじめに来た。
乗ってるのは専用コダールi。

アリー・アル・サーシェス
ガンダム00に登場する戦争が大好きで殺しを楽しむ傭兵。
ヴィンデル軍団に参加し、ナイツマ世界で殺戮を楽しんでいる。
乗っているのはヤークトアルケーガンダム。


 エルがイカルガで出撃し、コンボイら救援部隊がシャトルに乗り込んで向かう頃、攻撃してくるスタースクリームやヴィンデル軍団に果敢に挑む銀鳳騎士団の各々は、何とか奮戦していた。

 

「はぁぁぁ!!」

 

 銀鳳騎士団の騎士団長補佐の一人、アーキッド・オルターはことキッドはツェンドリンブルを駆り、正面に居る二機のガンステイドに突撃して魔獣用の剣で切り裂いて撃破する。

 

「へへっ、見たか! 新しいツェンドリンブルの力を!!」

 

 爆散する二機のガンステイドに、キッドは自分の直ったばかりのシルエットナイトの力が凄いと自慢する。

 そんな彼の背後より、ゼントラーディ軍の戦闘ポッド三機が襲い掛かるが、キッドの双子のアデルトルート・オルターことアディが乗る同型機がその三機の戦闘ポッドを撃破して救う。

 

「ちょっと、キッド! 後ろに敵が居たわよ! それも三機も!」

 

『えっ!? 居たのか!? あんがとな!』

 

 キッドが背後を警戒していないことに、アディが注意する中、上空からブレイバーとソロムコが空襲してくる。

 

『うわぁぁぁ!?』

 

『きゃぁぁぁ!?』

 

 この上空からの多数の攻撃により、キッドとアディは諸に受けてしまう。

 

「けっ、ケンタウルス擬きが! 調子に乗った罰だ!」

 

 上空よりキッドとアディを攻撃する軍団の兵士は、調子に乗った罰だと告げる。

 そんな上空より集中砲火を浴びせるブレイバーとソロムコ、空戦ポッドの大群は、強力なビームによる攻撃で一掃される。

 

「好き放題しやがってこの意味わかんねぇクソ共が! このエムリス・イェイエル・フレメヴィーラが直々にテメェらをぶちのめしてやるぜ!!」

 

 軍団の空戦部隊をブラストハウリングで一掃した黄金のシルエットナイト「ゴルドリーオ」に乗るフレメヴィーラ王国の王子エムリス・イェイエル・フレメヴィーラは剣を抜き、都市部に侵攻してくる軍団に単独で挑む。一見バカで脳筋であるが、以上にまで強く、侵攻してくる敵軍を次々と斬り捨てて行く。

 

「オラァ! オラオラオラオラオラァーッ!!」

 

 剣が折れれば、機体の両手で敵機を連続して動かなくなるまで殴り、次の敵機に殴り掛かる。余りにも蛮勇だ。だが、エムリスは周囲が見えていないのか、敵の大群に突っ込んで暴れ回っている。

 

「な、なんだこの金ぴかは!? だわぁ!!」

 

 余りにも予想外過ぎるエムリスのゴルドリーオに、性能が遥か上のはずの機動兵器に乗る者たちは恐れ戦き、黄金のシルエットナイトから放たれる拳で貫かれて撃破される。

 

「この銀色も強いぞ!」

 

 エムリスのゴルドリーオが敵の大群相手に暴れ回る中、別の個所に押し寄せた地上部隊も、銀色のシルエットナイト「シルバティーガ」一機に抑えられていた。

 その銀色のシルエットナイトを駆るフレメヴィーラ王国の先王、アンブロシウス・タハヴォ・フレメヴィーラはレーザー・ガンの銃口を向ける敵の集団に対し、槍の先端を突き付けながら宣告する。

 

「侵略者共に告げる! 今フレメヴィーラ王国より立ち去るなら追撃は行わん! 応じぬならば、このアンブロシウス・タハヴォ・フレメヴィーラのシルバティーガに討たれる覚悟で挑まれよ!!」

 

 今、このフレメヴィーラ王国から立ち去るなら追撃は掛けないと言う先王アンブロシウスに対し、数が多い攻撃軍は逆上してレーザーの雨を浴びせる。

 

『立ち去れだぁ? 寝言言ってんじゃねぇぞジジイ!!』

 

『呆けジジイが! こっちにはレーザーがあるんだ! ハチの巣になりやがれ!!』

 

『コクピットをぶち抜いて、外装を剥がせェ!!』

 

「そうか…! なれば、覚悟せよ!!」

 

 罵声しながらレーザーの嵐を浴びせる敵の大群に、アンブロシウスは最低限の動きでレーザーを躱しながら接近し、正確な槍の突きで頭部のコクピットを次々と貫いていき、一気に五機を仕留める。老練なナイトランナーの動きに、攻撃軍のパイロット等は驚愕する。

 

「な、なんだこのジジイは!? おげがっ!!」

 

『驚いている暇は無いぞ…! フンッ!!』

 

 驚いて動きを止めた敵機にアンブロシウスは容赦なく槍を突き、経験で培われた最低限の動きで敵機に接近、槍で突いて撃破していく。

 黄金と銀色のシルエットナイトが多数の敵機相手に大立ち回りを演じる中、この世界には存在しない機動兵器が、大多数の攻撃軍相手に奮戦していた。

 

「な、なんだこのずんぐりむっくりな奴は!?」

 

 人型やケンタウルス型のシルエットナイトとは全く違うずんぐりむっくりな二頭身のような人型兵器を見て、攻撃軍は動揺を覚えていた。外見に反し、かなりの防御力を持っており、多数のSPTやMF、他の機動兵器の攻撃を物ともしない。

 

「何故か知らんが回復しているぞ!?」

 

『これなら、まだ戦える!』

 

『どういうわけか知らんが、なんでも良い! 反撃するんだ!!』

 

 そればかりか、周辺に居るシルエットナイトを回復させていた。回復したシルエットナイトは敵地上部隊に対して反撃に転じ、状況を打破しようとする。

 

「奴を最優先で仕留めろ! 奴が回復させているんだ!!」

 

 勘の良い指揮官はあの二頭身のファンタジックな外見を持つ機動兵器が、周辺のシルエットナイトを回復させていることに気付いた。

 

「くっ、もう気付いた! いつまで持ち堪えられるか…!」

 

 そのファンタジックな外見の二頭身の機動兵器「リューハイロード・オリピア」を駆るツバキ・R・ハルパニアは、自分の機体の技で周辺のシルエットナイトを回復させたことに気付かれたことで、防御の技である力場盾で敵の集中砲火を防ぐ。

 ツバキはこの世界出身ではない。別の世界からこの世界に飛ばされてきた迷い人だ。右も左も分からぬ所を現地の心優しき人々に助けられる。助けられた礼と現地の状況を知るためにフレメヴィーラ王国の首都に滞在していた。その間にスタースクリームとヴィンデル軍団の攻撃が始まり、彼女は自分を助けてくれた人々を逃げる時間を稼ぐため、勝てる見込みのない大多数の相手に挑んだ。

 ツバキが乗る十メートル程の二頭身のリューハイロード・オリピアは、彼女の性格も相まって治療と回復、防御と言った支援方向に伸びており、防御力も大多数の攻撃に耐えれる程に高い。だが、その分攻撃力は低く、敵機を一機も撃墜できていない。

 

『へっ、なんだその攻撃は?』

 

「やっぱりフォースショットじゃ…!」

 

 防御の合間に攻撃の技であるフォースショット、無色透明のエネルギー弾をブレイバーに向けて放つが、威力が低過ぎて全く通じない。近接攻撃を仕掛けた敵に素手で殴るも、機動力の高いSPTには簡単に避けられてしまう。

 

『フン、脅かしやがって! 所詮は魔法だけが取り柄のガラクタよ!』

 

「くっ、これじゃあ…!」

 

 高い防御力と回復力を誇るリューハイロード・オリピアであるが、攻撃力が低いために攻撃軍には脅威と見られなかった。何の戦況も変えられないことに、ツバキは悔しがる。

 そんな彼女に追い打ちを掛けるように、攻撃軍が新手を差し向けて来た。それは味方を何故か排除しながらやって来る。

 

『よし、こいつを無視して…』

 

『おいおい! こんなずんぐりむっくりな奴に手こずっちゃってよ! 何やってんのよ君たち!』

 

「み、味方を…!?」

 

 味方を排除しながら現れた赤いAS、コダールiが現れたことにツバキは畏怖する。なんせ搭乗者が妙にテンションが高く、そればかりか味方を殺しながら来るのだ。怖がらない理由がない。

 このASにはラムダ・ドライバが搭載されており、コダールiは衝撃波で味方機を破壊しているのだ。やがて全ての味方機を片付けたコダールiの搭乗者は機体の足を止め、ツバキに向けて挨拶を行う。

 

『やぁ、ずんぐりむっくり君! 僕ちゃんはゲイツって言うんだ! よろしくねっ!』

 

「はぁ…!?」

 

 突拍子もなく拡声器で挨拶してくるコダールiに乗る男ゲイツに、ツバキは動揺を覚える。当り前だろう。いきなり味方を全て殺し、挨拶する男など、驚かないのがおかしい。

 そんな味方とも思える行動をしたゲイツに、ツバキは味方であるのかと問い詰める。

 

「貴方は、味方なのですか…?」

 

『味方? 味方だって? ぬ、ヌワァァァ!? な、なんじゃこりゃぁぁぁッ!?』

 

 味方と問われたゲイツは、周囲の自分が破壊した友軍機を見て急に絶叫した。自分がやったのにも関わらず、何故か驚いているのだ。これにはツバキのみならず、ナイトランナーたちも驚愕する。

 

『な、なんてこった…! 味方が、私以外の味方がみんなやられちまってる! なんて惨い事を!! これをやったのは…お前だな!? このずんぐりむっくり野郎! このゲイツ様が成敗してやる!!』

 

「そ、それは貴方がやったんでしょ! なんで私の所為になるのよ!?」

 

『このゲイツ様に言い訳しやがって! 許さんぞぉ! これでも食らえぇ! モミアゲファイヤー!!』

 

 あろうことかゲイツは自分の味方を全滅させたのはツバキといきなり言い張り、ラムダ・ドライバによる攻撃をしてくる。自分が全滅させた癖に、敵の所為にするとはなんという男だろう。

 リューハイロードはラムダ・ドライバの衝撃波にも耐えられる物の、威力にレーザーとは違って強大であり、いずれかは破れて破壊されてしまう。即座にツバキは回避行動を取り、恐ろしいゲイツの攻撃を躱し始める。

 

『ぬぁん! 焦らすなァ!! モミアゲが汗で滅茶苦茶になっちゃうだろうが!!』

 

 ツバキが攻撃を躱すことで、ゲイツはモミアゲを理由に苛立ち始める。その余りにも無茶苦茶な理由に、ツバキは更に困惑する。

 

『なんとも、豪勢な棺桶だな。爺さん』

 

「何奴だ?」

 

 無茶苦茶で破天荒なゲイツだけでなく、同型のコダールがアンブロシウスのシルバティーガの前に現れた。

 

「名を名乗れ! このアンブロシウスのシルバティーガに挑むのなら、容赦はせん!」

 

 邪魔な味方機をラムダ・ドライバで排除したコダールに、アンブロシウスはそれに乗る者に名乗るように拡声器で告げる。

 

『フン、おとぎ話にロボットが出て来ることに驚いたが、登場人物のお頭もおとぎ話のようだ。まぁ、俺はガウルン。あんたからすれば、言い辛い名だろうな』

 

 これにコダールに乗るパイロット、ガウルンは鼻で笑いながら名乗る。これにアンブロシウスも名乗り返し、槍の矛先を向けながら敵将なのかと問う。

 

「我が名はアンブロシウス・タハヴォ・フレメヴィーラ! して我がシルエットナイトの名はシルバティーガ! ガウルンと言う者よ、そなたは敵将か?」

 

『敵将ね、俺はそんな柄じゃねぇんだけどな。まぁ、そんなところさ。さて、最後のお話はこれまでだ爺さん。その豪華な棺桶、頂くとするぜ! あんたの死体を引っ張り出してな!!』

 

「下郎め! 棺桶になるのは、そなたのシルエットナイトの方だ!!」

 

 ガウルンの挑発に乗ったアンブロシウスは、真っ直ぐと槍の矛先を向けながらコダールに突っ込んでいく。

 

「真っ直ぐと猪見てぇに突っ込んでやがる。ただで殺すのは面白くねぇ。ちょっと遊んでから、パイロットだけ殺して銀飾りの棺桶を頂戴するとするか」

 

 激怒して突っ込んでくるシルバティーガを見てガウルンは舌なめずりを行い、老練の素早い突きを躱して交戦状態に入る。

 圧倒的性能と物量の攻撃軍を相手に奮戦するフレメヴィーラ王国の王家らの前に現れたのは、ゲイツやガウルンだけでない。上空より赤い粒子を巻き散らす赤色のガンダムが、エムリスのゴルドリーオの前に降り立つ。

 

『ほぉ、随分と金になりそうなガラクタだな!?』

 

「こ、この空飛ぶ赤いシルエットナイト…! ただ者じゃねぇ! テメェが敵の大将だな!?」

 

 拾った味方の剣で多数の攻撃軍相手に奮戦していたエムリスは、自分のゴルドリーオを見て金になると拡声器で言う赤いガンダム、ヤークトアルケーガンダムのパイロットを見てただ者では無いと理解する。

 それもそのはず、この赤い太陽炉搭載型ガンダムに乗るパイロット、アリー・アル・サーシェスは歴戦錬磨の傭兵なのだ。エムリスは機体越しでありながら、圧倒的な威圧感を放つサーシェスに向け、敵の大将かと問う。

 エムリスからの問いに対し、サーシェスは笑みを浮かべながら拡声器で答え、エルは何処に居るのかと尋ねた。

 

『いんや、俺は雇われの身でな。大将じゃねぇんだ。スポンサーより女見てぇな坊主を攫えと依頼されてんだよ。知ってか? 金塊さんよ』

 

「へっ、答える訳がねぇだろ! 特にお前見てぇな戦争好きの傭兵なんかによ!」

 

 無論、エムリスがエルの居場所を答えるはずが無い。ゴルドリーオの左手で指差しながら教える訳が無いと告げれば、サーシェスは白けてか、乗っているエムリスを殺すため、GNバスターソードを抜いて襲い掛かる。

 

『なんだ、知らねぇのかぃ。まぁ良い、乗っているサルをぶっ殺して、その金塊を奪うとすっか!』

 

 そう言ってから襲い掛かるサーシェスのアルケーガンダムに、エムリスは戦慄を覚える。当然だ。まるでエルのイカルガのように空を飛び、挙句に速いのだ。

 

「は、速ぇ!? ぐっ!」

 

『お猿さんよ! さっきのカス共を血祭りに上げた勢いはどうしたぁ! えぇ!?』

 

「畜生が…! 無茶苦茶速い上に、パワーもゴルドリーオとは比較にならねぇ…!」

 

 速度もパワーも段違いなアルケーガンダムの攻撃に、エムリスはただサーシェスに嬲られる一方であった。碌に反撃も出来ず、ただ一方的に斬られるばかりだ。当のサーシェスはエムリスだけを殺すため、コクピットがある部分を集中的に狙っている。彼の目的はゴルドリーオの外装なのだ。

 

「逝っちまいなァ! お猿さんよぉ!!」

 

 一方的にエムリスのゴルドリーオを嬲るサーシェスは、楽しみながらコクピットがある胸部を執拗に狙った。




リオンテイルさん、ヴィラン勢だけ目立たせてしまい、ごめんなさい。

そんで、活動報告にて、参加者募集中~


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Union&Hostage

募集キャラは次で登場する予定です。

今日は随分と長くなってしまったわい!


 大多数のスタースクリーム軍団やヴィンデルの手先たちに対し、奮戦する銀鳳騎士団であったが、長くは続かず、カン・ユーやゴステロ、死鬼隊、デジル、ゲイツ、ガウルン、サーシェスと言った危険な男たちの攻撃を受ける。

 

「ぐわぁぁぁ!」

 

 赤いシルエットナイトであるグゥエラリンデに乗るナイトランナー、ディートリヒは、カン・ユーの駆るAT、ダイビングビートルに圧倒されていた。

 性能も体格も上なはずのシルエットナイトがATのダイビングビートルに圧倒されているのは、カン・ユーの技量がディートリヒを上回っており、それにATの小回りの良さを生かして圧倒している。

 

「フハハハ、サルめ! 調子に乗った罰だぁ!!」

 

 動き回りながらディートリヒのグゥエラリンデを楽しみながら一方的に嬲るカン・ユーは、彼のことをサルと蔑視して更に攻撃を加える。

 ディートリヒの中隊の者たちは助けようとするが、カン・ユーの部下たちに阻まれて向かえない。そればかりか数で圧倒されるばかりだ。

 

『俺は、俺は…! 逃げないッ!!』

 

「フン、サル如きが減らず口を! 一思いに楽にしてやる! 死ねぃ!!」

 

 これほど一方的な攻撃を受けても、まだ逃げずに立ち向かおうとするディートリヒを鼻で笑ったカン・ユーは、とどめの一撃を放とうとした。

 

『もうジャベリンがありません!』

 

「やっぱりこの数じゃ…!」

 

 ツェンドリンブルを駆るヘリヴィは部下よりミッシレジャベリンの残弾が無いとの報告に、未だにフレメヴィーラ王国の上空に居る無数の敵機では歯が立たないと思い始める。

 そんな彼女に追い打ちを掛けるように、カムジンが乗るグラージがヘリヴィの隊を襲撃する。

 

『へへへっ、面白そうな奴が居るじゃねぇか!』

 

「また妙なのが!」

 

 機体上部にある荷電粒子ビーム砲を撃って来るグラージの砲撃を躱しつつ、ヘルヴィは接近戦を仕掛けるため、ツェンドリンブルの機動性を活かして接近するが、乗っているのは歴戦錬磨のゼントラーディ人であるカムジンであるため、グラージの両腕部の大口径と小口径のインパクトキャノンの弾幕を浴びせられる。

 

「なんて弾幕!? くっ!」

 

『こいつを避けるとは、見込みがあるな! 楽しませてもらうぜ、マイクローン!』

 

 弾幕を間一髪で躱したヘルヴィに、カムジンは手応えのある相手だと認め、更に攻撃を強めた。

 

『ひぃやぁぁぁ!!』

 

「くっ…! 何という苛烈な攻撃だ!」

 

 防御力に長ける白いナイトランナー、アルディラッドカンバーを駆るエドガーの元にも凶悪な者たちの攻撃が及んでいた。

 エドガーに襲い掛かるのはなんとあのマンジェロ、ボーン、ゲティの死鬼隊の三人だ。最初にマンジェロのガッシェランの右腕のドリルでシールドを一つ破壊する。

 

『フへへ、まだ終わってないぜェ!』

 

 次に仕掛けるのはボーンのエルダールであり、スネーク・ドリルでまたも一つのシールドを破壊した。

 

『ウラぁぁぁ!!』

 

「ぐぁ!」

 

 その次に来るのはゲティのダンコフのパワー・ナックルによる強烈な打撃だ。これをエドガーは残り一るの盾で防ぎ切ったが、ダンコフのパワーは凄まじく、盾は破壊されてしまう。

 

『ヒヒヒッ! このまま丸裸にして、嬲り殺してやる!』

 

『あぁ、いつまで持つか楽しみだぜ!』

 

『簡単にくたばるんじゃねぇぞぉ? サル!』

 

「こ、こいつ等…! 俺を遊んでいるのか…!?」

 

 目前に居る自分をじわじわと嬲り殺しにしようとする三機のMFに対し、エドガーは戦慄を覚える。そんな危険な三機にエドガーは勇気を振り絞り、操縦桿を動かしてナイトフレームの剣を構えた。

 

「う、うぐ…! 何という力だ…!?」

 

『しぶといジジイだ。これだけぶち込んでも、まだ生きているのか?」

 

 銀鳳騎士団が危険な男たちの到来により、苦戦を強いられる中、ガウルンのコダールiと対峙したシルバティーガを駆るアンブロシウスは、圧倒的なラムダ・ドライバを前に、成す術もなく嬲り殺しにされていた。

 接近戦を仕掛けようとするアンブロシウスであるが、先に述べたラムダ・ドライバによって一切近付けず、一方的に嬲られるだけだ。それでも、アンブロシウスは危険なガウルンを止めるべく、敵わぬとも立ち向かい続ける。

 

「まだだ…! まだ終わってはおらん…!!」

 

『ちっ、鬱陶しいジジイだな! いい加減に、死ねっ!』

 

 槍を杖代わりにして立ち上がり、ボロボロの状態で挑んでくるアンブロシウスのシルバティーガに、ガウルンは苛立ち、とどめの一撃を見舞おうとした。

 

「クソったれ…! 反則だぞ、テメェ…!」

 

『なんだぁ、まだくたばらねぇのかぁ? サル!』

 

 シルバティーガの兄弟機ゴルドリーオを駆るアンブロシウスの孫、エムリスもまた諦めが悪く、機体含め、自身の身体もボロボロな状態でも、圧倒的強さのヤークトアルケーガンダムに挑もうとする。

 諦めが悪過ぎるエムリスに赤いガンダムを駆るサーシェスは次なる一撃を見舞い、吹き飛ばすが、まだゴルドリーオは立ち上がって挑んでくる。

 

「お、お前のような野郎には…! 絶対(ぜってぇ)負けねぇ、ぜ…!」

 

『いい加減にくたばれよ! 大事な金塊を傷物にすんじゃねェ!!』

 

 通常であれば、パイロットが死んでいる程の攻撃を受けても、まだ挑んでくるエムリスに苛立ったサーシェスは、とどめの一撃とも言えるアルケーガンダムによる膝蹴りをゴルドリーオの腹部に見舞うった。

 

「あぁ!? 何と言うこと!!」

 

 スタースクリームと交戦するイカルガを駆るエルは、この自ら作り上げたナイトフレームが蹂躙されている場面を上空から目撃し、怒りを覚えて助けに行こうとしたが、交戦しているトランスフォーマーが逃すはずが無く、執拗な追撃を受ける。

 

「人の心配をしている場合か! えぇ!?」

 

 そう言ってスタースクリームは、両腕のレーザー砲を降下しようとしたイカルガに向けて連射する。これにイカルガは回避行動を取りつつ、向かおうとするが、スタースクリームはそれを読んでいてか、周辺の友軍機に妨害を命じる。

 

「ちっ、これでは!」

 

「ハハハッ! 今すぐ俺たちの所へ来れば、みんな助かるかもな!」

 

「卑劣な…! やはりマイクロンではなく、G1のスタースクリーム!!」

 

 仲間を救えないエルを嘲笑うかの如く、スタースクリームは更に攻撃を強める。そんなエルに更なる危機が迫った。なんと、ゴステロのダルジャンとデシルのクロノスが襲来したのだ。これにはスタースクリームも驚きであり、戸惑い始める。

 

『テメェだけ一人占めしてんじゃねぇ!』

 

『面白そうな奴だな! 俺にやらせろォ!!』

 

「なっ!? て、テメェら! 持ち場が違うぞ! 何をやっている!?」

 

 真下から来るレーザーとビーム攻撃に、イカルガは即座に回避行動を取って躱す。突如となくエルに攻撃してくるゴステロとデジルにスタースクリームは注意するが、狂犬の二人は聞く耳を持たず、イカルガを攻撃するだけだ。

 向かって来る狂人が乗るダルジャンとクロノスに、エルは驚きの声を上げる。両者とその乗機も前世の知識の中にある機体なのだ。

 

「あれは!? マルチフォームのダルジャンとヴェイガンのXラウンダー専用モビルスーツのクロノス! ゴステロとデシルも居るのですか!?」

 

 直ぐにその名を口にすれば、二機の猛攻を躱しながらソーデッドカノンの射撃で反撃する。

 

「野郎、こいつ等を生かして捕らえろと言われてねぇのか!?」

 

『俺の知ったこっちゃねぇな! この殺し甲斐がある奴を、生かして捕らえなんてなぁ!!』

 

『そいつは俺の獲物だ! 邪魔すんじゃねぇ!!』

 

 殺す勢いでイカルガを攻撃する両者に、スタースクリームはヴィンデルの命令を聞いていないのかと問えば、ゴステロとデシルはそれを無視してレーザーやビームを逃げ回る標的に浴びせる。

 

「スタースクリームより攻撃が激しい! やはりゴステロとデジル! こんな危険な奴らを野放しにすれば、大陸中が火の海になる!」

 

 対するエルも危険な二人を放っておけば、フレメヴィーラのみならず、セッテルンド大陸中が焦土と化すと判断し、僅かな時間でソーデッドカノンのチャージ攻撃を浴びせるが、あっさりと避けられてしまう。避けられたことは承知の上であり、そのままジグザグに動いて攻撃を躱し続ける。

 

『う、うわぁ! なんだぁ!? 機体が勝手に!?』

 

『な、何をする!?』

 

「クロノスの秘密機能! ここまであるとは!」

 

 そんなエルのイカルガを抑え付けようと、デシルはクロノスの能力である友軍機を勝手に遠隔操作する装置を起動させ、周辺の友軍機を全てぶつける。エルもそれを知っており、捕まえようとしてくる敵機を躱しつつ反撃する。だが、両者はレーザーやビームを浴びせて味方機を撃破しようがお構い無しだ。流石のエルも焦りを見せる。

 

「クソが! 勝手な真似をしやがって! テメェらも死ねぇ!!」

 

 勝手にエルを殺そうとするゴステロとデシルに怒りを覚えるスタースクリームは射線に味方が居るにも関わらず、胸部ミサイルを全弾発射した。

 

「ミサイル!? 味方ごととは!!」

 

 背後を向いたエルはスタースクリームがミサイルを発射したことに気付き、即座に回避行動を取る。飛んでくるミサイルの一発目は、クロノスに操られたズサに命中して大爆発を起こす。その後、続々とイカルガに張り付こうとした攻撃軍の機動兵器が続々とミサイルに当たって爆発する中、エルは操縦桿を素早く動かしてミサイルを躱し続ける。

 

「まさか転生してから板野サーカスをするとは!」

 

 凄まじいGに耐えながらエルは、アニメで見ていた無茶な高機動をすることに驚きながらも、飛んでくるミサイルを迎撃しつつミサイルを躱す。

 

『あの鉄屑野郎! 俺ごと撃ちやがって!!』

 

『邪魔をしやがって! 死ねっ!!』

 

「肉ケラ共が!」

 

 ミサイルから逃れたゴステロとデシルは、自分を殺そうとしたスタースクリームに向けて攻撃し始める。これにスタースクリームも反撃して仲間割れを起こす。

 

「はぁ…! 仲間割れ?」

 

 ようやくミサイルより逃れたエルは三者が仲間割れを起こす所を目撃し、地上で蹂躙される仲間たちを助けようとしたが、SPTのブレイバーが背後を取り、レーザード・ガンを向けていた。

 

『動くんじゃねぇぞ! さぁ、こっちに来てもらおうか!』

 

「しまった! まさかこんなところで!」

 

 気付いた頃には既に至近距離に銃口を向けられており、エルは投降するしかないと思っていたが、ここに来てようやくコンボイ率いる救援隊が現れた。

 

 

 

『ゲッタァァァビィィィム!!』

 

 コンボイの救援隊に参加するゲッターカオスチーム、今川竜騎がメインパイロットを務めるゲッターカオス1のゲッタービームによる掃射で、上空に居る多数の攻撃軍の機動兵器が破壊された。

 

『ブレストファイヤァァァ!!』

 

 続けざまに、ライトン・ブラウナーが駆るマジンガーZの胸部にあるブレストファイヤーによる攻撃で上空の敵集団は高熱で溶かされた。そこからシルバーボルト率いるエアーボット部隊の攻撃が始まる。

 

「エアーボット部隊、攻撃開始! この世界から奴らを追い返すんだ!」

 

 シャトルより飛び降りたエアーボット部隊はシルバーボルトの指示の下、航空機にトランスフォームして浮足立つ敵部隊に攻撃を始める。編隊を組んでレーザー攻撃を行い、多数の敵機を撃破する。

 

『な、なんだこいつ等!? うわぁぁぁ!!』

 

 突如となく現れた新手に、スタースクリーム軍団とヴィンデル軍団の者たちは混乱する。

 

「ちっ、ありゃあエアーボットじゃねぇか! サイバトロンの奴らが嗅ぎ付けやがったのか!」

 

 仲間割れを起こしていたスタースクリームは、味方を蹂躙するエアーボットを見て、サイバトロンが現れたと判断して仲間割れを止める。

 

「テメェら、サイバトロンだ! サイバトロンの奴らがおいでなすったぞ!!」

 

『な、何ぃ!? ぐわっ!!』

 

『ゴステロ! ここまでだ!!』

 

 スタースクリームは自分を攻撃してくるゴステロとデシルに言えば、両者はサイバトロンが現れた方向を見る。直ぐにそこへ向かおうとしたが、エイジが駆るレイズナーMkⅡの攻撃をゴステロが受けて吹き飛ばされる。

 

『え、エイジィ! てめぇ、こんな所まで来やがって! ぶっ殺してやる!!』

 

『これ以上、お前たちの好きにはさせない!』

 

 直ぐに体勢を立て直したゴステロは、追撃を掛けるエイジのレイズナーMkⅡと交戦を始める。

 

『へっ! サルとガラクタ共の相手にうんざりしてた所だぜ!』

 

『化け物共め! このライトン・イェーガー様とマジンガーZが好きにはさせんぞ! ロケットパンチ!』

 

「マジンガーZに乗ってるのは兜甲児ではない!?」

 

 ゴステロがエイジと交戦を始める中、ライトンのマジンガーZはデシルのクロノスにロケットパンチを放って交戦を開始する。マジンガーZに兜甲児が乗っていないことに、エルは驚きの声を上げる。

 

「さぁ、プロテクトボットの諸君、地上の者たちを助けるんだ!」

 

「了解です! プロテクトボット部隊、出動!」

 

 シャトルを操縦するコンボイの指示の下、プロテクトボット部隊は地上へと降下し、周辺の敵を片付けながらフレメヴィーラ王国の者たちの救援活動を始める。

 

「ダイノボットの諸君も存分に暴れる時間だ! ただし、現地住人には被害を出すなよ!」

 

「俺グリムロック、三度の飯より戦い大好きだ! それに手加減も知ってる! ダイノボット出動!」

 

『行こう、行こう!』

 

 次にダイノボットに暴れすぎないように指示を出せば、リーダーであるグリムロックは指示に応じてシャトルを飛び降りた。

 

「ダイノボット、トランスフォーム!!」

 

 飛び降りた五体のダイノボットはそれぞれの恐竜の形態にトランスフォームし、地上へと降下する。

 

「キリコ・キュービィ、出撃する」

 

 バーグラリードッグに乗るキリコもシャトルより出撃し、降下して敵地上部隊にヘビィマシンガンを浴びせる。

 

『サイバトロンだ! サイバトロンが来たぞ!!』

 

『直ちに迎撃態勢! 迎撃、うわぁぁぁ!!』

 

 シャトルより降下してくるサイバトロンの戦士らに対し、地上の攻撃軍は迎撃を始めるが、一人一人が強く、蹴散らされるばかりだ。

 

『な、なんだ!? あぁぁぁ!!』

 

 ディートリヒを殺そうとしていたカン・ユーの元に、キリコのバーグラリードッグの折り畳み式キャノンによる砲撃が来た。これを諸に受けたカン・ユーのダイビングビートルは吹き飛ばされる。他のダイビングビートルも迫るキリコのATに一斉射を行うが、次々とターンピックで躱され、脇に搭載されたミサイルやヘビィマシンガンで撃破されていく。

 邪魔な敵機を破壊しながらキリコはディートリヒの大破寸前のグゥエラリンデに近付き、左手で触れてまだ生きているかどうかを問う。

 

『言葉は分かるな? 脱出しろ。奴は俺が仕留める』

 

「な、何者なんだ…?」

 

『詮索は後にしろ。お前では奴には勝てん』

 

「俺に逃げろと…?」

 

 何者かと問うディートリヒに、キリコは答えずにお前ではカン・ユーには勝てないと返す。これにディートリヒは無理をして立ち上がろうとするが、キリコに論される。

 

「意地を張るな。ここで死んでは、守れる者も守れなくなる。生き残れば、次も守れる」

 

『クソっ、これで二度目だぞ…!』

 

 悔しいが今の自分に出来る事は無かった。これにディートリヒは八つ当たり気味に右拳を右側の壁に打ち付けた。

 ディートリヒが大人しくしていることを確認したキリコは、起き上がって自分が来たことに驚くカン・ユーのダイビングビートルに構える。

 

『き、キリコ!? 貴様…! 邪魔をしに来たのか!?』

 

「久しぶりだな、カン・ユー大尉。お前たちの目的がエルネスティの拉致だと言うことは分かっている。何故、彼の周囲を巻き込む? 密かに攫えばいいだろう?」

 

『フン、あの餓鬼の存在の所為よ! ここのサル共はあの餓鬼の所為で犠牲になったのだ! お前に説教される筋合いは無いわ! 死ねぃキリコ!!』

 

 エルだけを攫えばいいのに、彼の周辺の人物を攻撃する意味を問うキリコに対し、カン・ユーはその存在故の所為だと言って攻撃を浴びせる。かくして、カン・ユーとキリコの光線も始まった。

 

『ひっ、ヒヒヒ! もう終わりだぁ!!』

 

「クソっ、ここまでか…!」

 

「グリムロック、あの三人を見付けた! 破壊する!!」

 

 死鬼隊に追い込まれたエドガーは死を覚悟したが、ここでグリムロックによる援護が現れた。ティラノサウルスに変形した状態で来たグリムロックは、圧倒的なパワーで死鬼隊をエドガーの阪堺寸前のアルディラッドカンバーより後退させる。

 現れたグリムロックに、死鬼隊のボーンとゲティは動揺を覚える。

 

『ぐ、グリムロックだぁ!?』

 

『サイバトロンが来やがったのか!?』

 

『落ち着け! 相手はあの馬鹿のグリムロックだ!!』

 

 動揺する二名に、リーダーのマンジェロは落ち着かせる。そんな構える死鬼隊のMFに対し、グリムロックは容赦なく破壊すると告げる。

 

「なっ…! 魔獣が、喋った…!?」

 

「俺グリムロック、お前たち人間だけど大嫌いだ! だから破壊する!」

 

『無茶苦茶なことを言いやがって! スクラップにしてやる! ひぃやぁぁぁ!!』

 

 自分から見れば魔獣とも言えるグリムロックが喋ったことにエドガーが驚く中、助けた者に魔獣扱いされていることを知らないティラノサウルス型のTFは、死鬼隊と交戦を始める。他のダイノボット等も周辺の敵部隊に攻撃しており、圧倒挺していた。

 

『なんだ、つまらねぇ。ここのマイクローンはそんな程度か』

 

「何も出来ずに…!」

 

 グラージを駆るカムジンと交戦中のヘルヴィであったが、相手は悪過ぎた為、彼女のツェンドリンブルは阪堺寸前であった。

 そこへもサイバトロンは駆け付ける。やって来たのは副官のマイスターである。ポルシェにトランスフォームした状態で来たマイスターは、カムジンのグラージの右側面に体当たりを仕掛けて転倒させた。

 

『うわっ!? な、なんだぁ!?』

 

「礼儀知らずの君に礼儀を教育しに来た者さ!」

 

「な、何!?」

 

 体当たりを受けて転倒したカムジンが驚きの声を上げる中、マイスターは人型形態に変形してジョークで答える。これにヘリヴィもまた動揺するが、マイスターは味方であると右腕より出したワイヤーをツェンドリンブルに張り付けてから告げる。

 

「安心しなさいお嬢さん。我々は君の味方だとも! さぁ、選手交代だ! 大人しく下がっていたまえ!」

 

「シルエットナイトが喋ってる…!?」

 

 マイスターが安心させるために言っていたのだが、ヘリヴィはTFを見るのが初めてである。なのでシルエットナイトが喋っていることに驚いていた。

 

『気取りやがって! 鉄屑に戻してやるぜ!』

 

「おぉと、先に鉄屑になるのはどちらかな! さぁ、覚悟しろ!」

 

 グラージを起き上がらせたカムジンは、マイスターに向けてインパクトキャノンの一斉射を浴びせた。

 

『全く、しぶといなぁ! ずんぐりむっくり君!! いい加減にくたばりたまえよ!』

 

「もう限界…!」

 

 一方でゲイツのコダールiのラムダ・ドライバによる攻撃を一方的に受けるツバキのリューハイロード・オリピアは、反撃の策も無いままシールドを破られ、追い込まれていた。周囲に回復させていたシルエットナイトは既にゲイツによって無惨に破壊されており、後は彼女一人のみだ。

 ツバキもまた限界であり、次の攻撃を受ければ確実にゲイツにやられてしまうだろう。そんな時に、救急車に変形したラチェットが駆け付けて来る。

 

「なに、この音?」

 

 聞き慣れぬサイレン音にツバキはまた敵の増援かと思っていたが、ゲイツの方は違っていた。

 

「救急車のサイレン音? ここって、救急車が走ってるのぉ? ここはファンタジーの世界でしょうが! そんなはずは…」

 

「トランスフォーム! いやぁ!!」

 

「ごばっ!?」

 

 救急車のサイレン音に疑問を抱くゲイツに、サイバトロンの医者であるラチェットは人型形態に変形し、その勢いで飛び蹴りを彼のコダールiに食らわせた。思わぬ攻撃を受けたゲイツは防御する間もなく飛び蹴りを受け、彼が乗っていたコダールiは付近の建造物に激突する。

 突如となく現れたラチェットにツバキは動揺する中、サイバトロンの医師はリューハイロードに話し掛けて無事を問う。

 

「大丈夫かね、ずんぐりむっくり君! いや、医者らしくないことをしてしまったが」

 

「し、シルエットナイトが喋ってる…!?」

 

「おっと、これは失礼。私は医者のラチェットだ。そんなに驚かなくとも、私らは敵ではないよ」

 

 敵では無いと言うラチェットにツバキが余計に警戒する中、機体を起き上がらせたゲイツはラムダ・ドライバによる攻撃を仕掛ける。これをツバキのリューハイロードが防ぎ、ラチェットへの攻撃を防いだ。

 

『こ、このお喋り屑鉄野郎が! それに医者が人に飛び蹴りをカマスなんて! 最低な医者だ! 破医者だ!!』

 

「そうかい! 名医からの診断だ! お前を即座に破壊しなきゃならんとな!」

 

『正義のロボットが人間様を傷付けるなんて! なんて酷い奴なんだ! このゲイツ様が絶対に許さんからなぁ!!』

 

「一体何を話してるの…!?」

 

 唐突に現れ、訳の分からないことを喋る両者に、ツバキは困惑するばかりであった。

 

「そこまでだ外道め! 即座に撤退するなら、痛い目に遭わずに済むぞ!」

 

 救援隊の指揮官であるコンボイは周辺の攻撃軍を片付けながら、アンブロシウスのシルバティーガを襲うガウルンの元へ来ていた。

 丁度その時、ガウルンがアンブロシウスのシルバティーガにとどめを刺そうとした為、コンボイは自分のライフルでコダールiを狙撃し、注意を引き付けた。邪魔をされたガウルンはコンボイを知っているのか、直ぐに大破寸前のシルバティーガより離れ、現れた新手に視線を向ける。

 

「おいおい、俺は人間だぞ? 撃って良いのかよ? 正義のロボット様よ!」

 

「この星の者たちを傷付けるお前は人間ではない、獣だ! もう一度警告する! 逃げるなら今だ!」

 

 自分は人間であるとガウルンは挑発しながら告げれば、コンボイは空いている左手で指差し、獣だと言って撤退するように警告する。

 

「けっ、自分が気に入らねぇなら獣扱いか? テメェらのそういう所が気に入らねぇんだよ!!」

 

 この警告にガウルンは鼻で笑いつつも、コンボイ等の正義に怒りを覚え、ラムダ・ドライバによる攻撃を行った。これを紙一重で躱したコンボイはライフルで反撃しつつ、シルバティーガからガウルンを離すために敵機を誘う。

 

「警告に応じぬなら、そのロボットから引きずり出してやる! 来い、こっちだ!」

 

『なんだ、正義のヒーロー様が逃げるのかぁ? その顔剥いでやるよ!』

 

 自分より離れるコンボイを追うべく、ガウルンはラムダ・ドライバで攻撃しながら追撃を掛ける。

 

『ゲッタートマホーク、ブーメラン!』

 

「何っ!?」

 

 ゴルドリーオのコクピットをビームサーベルで串刺しにしようとするサーシェスのヤークトアルケーガンダムに来たのは、竜騎とレン、ドソクの三人が乗るゲッターカオス1であった。

 飛んでくるゲッタートマホークに気付き、回避したサーシェスは、上空からこちらに来るゲッターカオス1を見て、GNランチャーやGNミサイルを浴びせる。その弾幕にゲッターカオス1は躱すか、両手に持ったゲッタートマホークで破壊しながら来る。

 

『ゲッターロボだと!? 何しに来やがった!?』

 

「テメェをぶち殺しに来たのさ! 覚悟しやがれェ!!」

 

 拡声器を使ったサーシェスの問いに対し、地面に足を着けたゲッターカオス1に乗る竜騎は殺しに来たと答え、ゲッタートマホークで斬りかかる。

 

『ほざけぇ! 逆に殺してやんよ!!』

 

 斬りかかるゲッターカオス1に対し、サーシェスは二振りのバスターソードを抜き、向かって来るゲッターロボと斬り合いを始めた。

 

 

 

「サイバトロンのみならず、マジンガーやゲッターまで!」

 

「形勢逆転と言う奴です…!」

 

 救援に現れたコンボイ等に対し、スタースクリームは動揺する。これにイカルガを駆るエルは、背後のブレイバーを背中の六本のサブアームで撃破して形勢は逆転したと告げる。

 

「クソっ…! 他にも生き返って暴れ回ってるんじゃねぇのか!?」

 

「何を言っているか分かりませんが、このまま押し切らせて貰います!」

 

 次々とやられていく味方を見たスタースクリームが慌てふためく中、エルはソーデッドカノンを構え、一気に片を付けようとする。スラスターを吹かせ、剣先でスタースクリームを貫こうとしたが、上空に現れた巨大なホログラム映像を見て、直ぐに動きを止めた。

 ホログラム映像に映るのは、ゲッタードラゴンによって滅ぼされたはずの帝国、百鬼帝国のヒドラー元帥であった。これにはスタースクリームも驚きであったようで、エルと共にホログラム映像を見ていた。

 

『聞け、エルネスティ・エチェバルリヤよ! ワシはヒドラー元帥! かつては百鬼帝国の指揮を執っていた者! 今はヴィンデル・マウザーに仕えている! 貴様が我らと大人しく我らの元へ来れば、この世界に対する攻撃を止めよう! 抵抗を止めぬなら、この世界全土を焼き尽くすまでだ!!』

 

「世界中が、人質…!?」

 

「ひ、ヒドラーだと!? 野郎、何処にいやがる!?」

 

 ヒドラー元帥が放った言葉に、エルは思わず動揺した。あの巨大なホログラム映像に映るナチスの総統に似た男の言うことは嘘だと思い、目前のスタースクリームを攻撃しようとしたが、嘘では無いと示すような映像が流れて来る。

 

『ワシの言うことが嘘だと言うならこれを見るが良いわ! どれも貴様の見知った土地であろう! 今現在、ワシの指示の下に攻撃させている! 攻撃される理由はただ一つ、貴様の所為だ! エルネスティ・エチェバルリヤ!!』

 

 ホログラムの映像に映るのは、現在、ヒドラー元帥の命を受けた軍に攻撃を受けているクシェペルカ王国の映像だ。他にもかつて抗戦したジャロウデクを初め、無関係な国々がヴィンデルの手先たちによる攻撃を受けている。

 

「ぼ、僕の所為で…世界が…!」

 

 これを見たエルは衝撃を受け、自分の所為でこの世界が破滅する寸前に至ったことに衝撃を受ける。

 

『フハハ、貴様が抗う所為で、この世界は破滅するのだ! この地の者たちを思うなら、直ぐに攻撃を止めよう。どうするのだ? 抗うか? それとも抗い続けるか!? 今すぐ決めろ!!』

 

 自分の存在の所為で世界が滅ぼうとしているのを知ったエルは絶望する。これに合わせ、イカルガの動きも止まった。ホログラム映像のヒドラー元帥に問われる中、地上の味方が救援を得たとはいえ、苦しんでいる様子を見たエルは、世界を救う最善の選択をしようとする。

 

「止せっ! 奴らが約束など守るはずが無い!!」

 

『余所見するんじゃねぇ!!』

 

「ホアァァァ!!」

 

 エルがヴィンデルの元に下るのに気付いたコンボイは応じないように叫んだが、ガウルンのコダールiのラムダ・ドライバの攻撃を受けて吹き飛ばされる。

 

「…行きます。僕の所為で、僕の所為でみんなが苦しみなんて…! 耐えられません!」

 

 そんなコンボイの叫びは届かず、エルはこの世界を救うため、ヒドラー元帥の要求に応じた。イカルガのコクピットから出たエルは、自分が逃げないと言う意思を目前のスタースクリームに告げる。

 

「あんなちょび髭野郎に従わなきゃならねぇとはな! ちっ!」

 

 ヒドラー元帥の思惑通りに行ったことが面白くないスタースクリームは舌打ちをしながらエルを掴み、その場から離脱する。搭乗者を失ったイカルガはまだ起動状態なのか、ゆっくりと地面に落ちていく。落ちる際に左手がエルに手を伸ばしているようになったが、その手はエルに届くことは無かった。

 もう攻撃の必要性は無いと判断し、スタースクリームはフレメヴィーラ王国を攻撃している部隊に撤退の指示を出す。

 

「野郎共! もう目的は達したぞ! 撤収だ! 撤収!!」

 

 それからF-15戦闘機に変形し、コクピットにエルを乗せて自分らの拠点へと飛んで戻った。



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到着、次元の戦士たち!

名前:村田ハル
性別:女
年齢:25歳
乗機もといトランステクターはF-4戦闘機
概要:サイバトロンに属する人間のヘッドマスター。腕に銀色の腕輪「マスターブレス」を着け、それでヘッドマスターに変身し、トランステクターであるF-4戦闘機にヘッドオンしてトランスフォーマーとなる。
私服姿は可愛い。
キャラ提供はG-20さん

名前:スキア
性別:女
年齢:150億+α
乗機:ヴァルザカード・セカンドG
概要:『史上最強の家』でお馴染みのヴァルザカードの二台目と、それを保全・制御するキャレット型人工AI群の統括し機体を操作する人型ロボット(モデルはアカネ・アーディガン)。
囚人惑星イマガワでの戦いにて膨大なゲッター線に触れた事でゲッターを吸収・使用が可能となった
その後は大規模な改修・改造によって船体が二回りほど大きくなり追加したゲッター炉による三つの動力機関による出力向上の他、ゲッターマシンガン・ゲッターミサイル・ゲッタービームと言ったゲッター兵器が追加された。
キャラ提供はkinonoさん。

名前:(やいば)
性別:男
年齢:22
乗機:ガンダムアストレアTYPE-Xフィンスターニス
概要:戦場を渡り歩くフリーランスの傭兵。
放浪者のような黒ずくめと腰に二本の刀を差している。冷徹な反面、寂しがり屋であり、誰かと話したがる事が多い。メンタルが弱く、基本的に押しに弱い。甘いものが大好き。
最近はコンビを組んでいた傭兵からの裏切りにあった事から、何処かの勢力につこうと考えている。
キャラ提供は虚無の魔術師さん。

名前:ハスミ・クジョウ
性別:女
年齢:20歳
乗機:念神エクリプス
概要:元地球連邦軍(OG版)所属のAM乗りだが、ある事情からセフィーロへ召喚され魔法騎士の称号を持つ。
過去にガンエデンの巫女だったが、サイデリアルの皇帝との一騎打ちに敗れた。
現在はサイデリアルに属する山羊座のスフィアリアクターであり幹部の一人。
皇帝の命令で別世界に発生した次元融合を調査中にフレメヴィーラ王国の近辺に転移。
元々の能力で事情を知れるので、何が起こっているのかを独自調査。
キャラ提供は宵月颯さん。


 エルがヒドラー元帥の要求に応じ、スタースクリームと共に去った後、攻撃軍は本当に撤収を開始した。

 一部、従いそうもない者も居たが、これ以上の戦いは無用と判断してか、共に撤収する味方の列に加わる。ヒドラー元帥は約束を守ったらしく、上空に移るホログラム映像には、撤退するヴィンデルの手先たちが見えていた。

 

「どうやら、約束は守られたようだ…! だが、いつ約束を破るか分からん」

 

 撤収する敵軍を見ていたコンボイはヒドラー元帥が約束を守ったことを確認すれば、破壊尽くされたフレメヴィーラ王国の惨状を見て、敵がいつ約束を破ってもおかしくないと口にする。

 

「司令官、ここに来て援軍が来ました! 全員、スキアのヴァルザカード・セカンドGに乗船しての到着です! 追撃しますか?」

 

「いや、まずは救援活動を手伝ってもらおう。追撃は十分に戦力が揃ってから考える」

 

 広い平原に全高四百メートルはあろう巨大なロボット、ヴァルザカード・セカンドGが着陸し、胴体のハッチが開き、そこから続々とロボットらが降りて来る。現地の者たちはまだスタースクリームやヴィンデルの者たちが来たのかと思っていたが、彼らはコンボイ等と同じサイバトロンの戦士であった。

 遅れてやって来た戦士たちであり、即ち増援である。これをマイスターがコンボイに報告すれば、彼は瓦礫の山と化したフレメヴィーラ王国の首都カンカネンを見て、救助活動が最優先だと告げる。

 

「まぁ、今行ったところで、返り討ちにされるのがオチですからね。みんな、救援活動だ!」

 

 マイスターは直ぐに追撃を行っても、今の戦力では返り討ちにされるだけと応じ、救援活動に入った。この救援活動はヴァルザカード・セカンドGにも届いており、それを操る人工AIで人型ロボットであるスキアは降り立ったロボットらに伝達する。

 

「皆さん、コンボイ司令官より救援活動の命が入りました。直ちに実行してください」

 

 このスキアからの指令に、太陽炉型ガンダム、ガンダムアストレアTYPE-Xフィンスターニスに乗るパイロット、刃は少し不満であったが、誰かと話せるので良いとして応じる。

 

「なんだって? 戦いに来たのに。まぁ良い、現地の方々のお話しできるなら」

 

 誰かと話せるならそれで良いと口にし、機体から降りてカンカネンへ徒歩で向かう。

 

「まぁ良いわ。スーツオン!」

 

 愛らしい私服でF-4戦闘機の近くに居る女性、村田ハルは銀色の腕輪が着いた両手をクロスさせ、掛け声と共に特殊なスーツを全身に纏わせた。それからそのF-4戦闘機に乗り込み、トランスフォームと叫んだ。

 

「トランスフォーム! ヘッドオン!」

 

 彼女がそれを叫べば、F-4戦闘機は頭の無いロボットの形態となり、コクピットから座席と一緒に飛び出したハルの身体は頭部へと変形し、そのまま胴体に装着される。

 村田ハルは人間でありながら、ヘッドマスターと呼ばれるトランスフォーマーであるのだ。トランスフォーマーとなったハルはヴァルザカードから飛び出て、救援活動へと向かった。

 先遣隊と増援部隊がフレメヴィーラ王国の救援活動を行う中、現地の者たちは突如となく現れた謎のロボット集団に警戒したが、助けてくれるので、甘んじて受けた。

 その後、続々と援軍が到着し、コンボイ等の救援活動を手伝う。何名かは不満であったようだが、一人で突っ込めば返り討ちにされるのは明白なので、我慢して救援活動に勤しんだ。

 エルが降りたイカルガは回収され、銀凰騎士団の倉庫に移送されている。爆発の可能性がある残骸や不発弾はサイバトロンらが処理し、現地の人々の安全を守った。

 無論、技術やその他の物は、この世界の秩序を保つために一切提供していない。治療は行ったが。

 

 

 

「行け!」

 

 その頃、ヒドラー元帥に世界を人時に取られ、スタースクリームに攫われたエルは攻撃軍の母艦、旗艦と言って良いだろう。グランドスタースクリームへと連行された。

 F-15戦闘機から元のロボット形態日変形したスタースクリームにレーザー砲を向けられ、エルは内部へと連行される。その最中、エルは周囲を確認した。

 

「(ここに居る面子、どれも見た顔ばかり。どうやらロボットアニメの悪役たちのスーパーロボット大戦みたいですね)」

 

 周囲に自分を見に来た面々が、どれも前世で見たことがある面構えばかりなことにエルは少し驚いた。

 誰もが自分の記憶では小悪党や卑劣漢、狂人ばかりである。エルは初めて生で彼らの姿を見て、恐怖を覚えた。何をされるか分かった物じゃない。

 

「こいつがヴィンデルの野郎が言っていたマイクローンか。まるで小娘じゃねぇか。チンチンついてんのか?」

 

「見世物じゃねぇぞ! 下がりやがれ!」

 

「(ぜ、ゼントラーディ人! 初めて見た! しかもカムジン!)」

 

 そんな中、エルを一目見ようとカムジンが現れる。漫画やアニメでしか見たことが無い初のゼントラーディ人、それもカムジンにエルは圧倒される。

 

「大将、そうかっかしなさんな。珍しい物があるんだからよ」

 

 スタースクリームが追い払えば、カムジンは愛想笑いを浮かべて道を開けた。そこから格納庫に入る。無論、そこにはエルが興奮するような物が揃っている。大多数のロボットだ。

 

「うわぁ…! 凄い! 僕の見たことも無い物まである!!」

 

「足を止めるんじゃねぇ! こんな鉄屑の塊を見て何が面白ぇってんだ!!」

 

「て、鉄屑の塊とはなんてことを! どれも全て…」

 

「俺からすれば、鉄屑だよ! 溶解炉にぶち込まれたいか!? 嫌ならさっさっと歩け! 肉ケラ!!」

 

 エルが興奮の余り足を止めたことにスタースクリームは苛立つ余り蹴飛ばし、ハンガーにあるロボットを鉄屑の塊と罵る。これにエルは我慢できず苛立つが、身体を強く掴まれ、握られた挙句、床に強く叩き付けられた。これには流石に周囲の者たちに咎められる。

 

「す、スタースクリーム様、これは流石に…!」

 

「なんだぁ? この俺様に文句があるのか? こいつをぶち込まれたくなけりゃあ、俺の指示に従うんだな!」

 

 これをスタースクリームは右腕のレーザー砲で脅し付け、エルを無理やり立たせてある場所へと向かわせようとする。エルは痛みに耐えつつ、スタースクリームに脅されながらそこへ向かう。

 

「ここは?」

 

「御覧の通り、研究室よ。お前はここに残って、そこに記した物でも作って待っておくんだな!」

 

 そこは兵器研究室のようだ。見ての通りだと言うスタースクリームにエルは困惑しつつ、周囲を見る。どれもこれも、大量破壊兵器に必要な素材ばかりだ。そんなエルにスタースクリームは、自分用の机の上に置いてある資料に記された通りの物を作れと命じ、部屋を後にした。

 乱暴なトランスフォーマーより解放されたエルは、机の上に置かれた資料を確認する。この世界の文字で翻訳され、エルでも読みやすい物となっている。だが、スタースクリームが作るように命じたのは、エルにとっては信じられない物だ。

 

「スタースクリームはまだニューリーダー病を患っているようですね」

 

 スタースクリームがエルに作らせようとしていた物は、ヴィンデルに反旗を翻すための大量破壊兵器であった。

 

 

 

 一方、この世界を一応ながら管理しているワルキューレ宇宙軍は、エルを攫うために大規模な攻撃を仕掛けたスタースクリームやヴィンデル軍団を排除すべく、艦隊の終結と反応弾の用意を行っていた。

 マクロス級を中心とした多数の宇宙艦艇、同じ数のバルキリー部隊、反応弾を搭載したミサイルを輸送する輸送艦。明らかにエルが居るあの星ごと消し飛ばすような程の戦力である。

 全く無関係な次元勢力、サイデリアルは次元融合を調べるべく、この世界に調査員を派遣していた。

 

「反応弾…? それほどの事態なんですか…?」

 

 衛星軌道上であの大規模攻撃の静観を決め込んだマクロス級に潜入していた調査員、ハスミ・クジョウは反応弾の使用を知り、驚いた声を上げる。

 彼女もエルと同じく、転生者である。当然ながら反応弾の存在を知っていた。これをワルキューレ宇宙軍の士官として潜入していたハスミは、驚いていることに疑念を抱いている同僚に問う。

 

「まぁ、仕方ないんじゃないの。ロボットがあることに驚いているけど、変な技術が渡って大惨事になったら、大変じゃない? あんたがそんなに驚いていることが不思議だけど? あの世界に目当ての彼氏とか彼女とか居たりして」

 

 妙な技術を兵器に転用される可能性があると言う理由で、ワルキューレはあの星をスタースクリームやヴィンデル諸とも反応弾で消す気であった。末端の士官ですら上層部の倫理観の欠けたこの命令に、ハスミは何の疑念を抱かないことに驚きである。

 直ぐにでも念神エクリプスで反応弾を使う部隊を消し炭にでもしてやりたいが、それは自分が属するサイデリアルとワルキューレとの戦争になりえるので、ハスミは敢えて我慢した。

 

「あれ、どこ行くの? 消す前にお気に入り全員を連れ出したり?」

 

「そんな事じゃありません。失礼します!」

 

「変な奴」

 

 この反応弾使用の真実をサイデリアルに知らせるべく、ハスミはこの場を後にした。報告したところで、サイデリアルは動くこともしないだろう。だが、障害となりえるスタースクリームやヴィンデル軍団に対する自由意志による戦闘行動は許可されるはずだ。

 そう思ったハスミは特殊な装置で生成した制服を脱ぎ捨て、念力で自分の愛機、念神エクリプスを全身に纏い、潜入していたマクロス級を脱出した。

 ハスミが纏う念神エクリプスは全高五十メートルで、念力を魔力に変換して稼働しているスーパーロボットである。普段は位相空間に配置されている。即ちハスミが念力で呼び出せば、彼女の望むサイズで現れる。

 エクリプスを纏ったハスミはサイデリアルに報告した後、エルの転移先である惑星へと降下した。大気圏再突入の温度など、エクリプスに取っては夏の季節に等しいくらいの熱さだ。それを纏うハスミも全く熱さを感じない。

 かくしてエクリプスを纏うハスミ・クジョウは、これより始まるスーパーロボット大戦に身を投じる事となった。

 

 

 

「大将、ワルキューレの奴ら、俺たちごとこの星を消そうとしてるぜ!」

 

「何ぃ? けっ、生意気な肉ケラ共が。反応弾で俺たちを消そうってか!」

 

 一方、エルにヴィンデルを消すための兵器を作らせているスタースクリームはワルキューレの反応弾による攻撃の知らせを受け、司令室へと来ていた。

 正規軍による大量破壊兵器による攻撃で少しは動じるはずであるが、スタースクリームは全く動じるどころか余裕だ。彼が乗っている巨大な母艦「グランドスタースクリーム」には多数の反応弾すら上回る破壊力を誇る兵器を搭載しているのだ。

 

「グランドスタースクリーム砲の発射の用意だ! 反応弾とか言うチャチな兵器で俺たちを消そうとする奴らを吹っ飛ばせ!」

 

 スタースクリームは自分の母艦であるグランドスタースクリームの主砲発射を命じた。これに応じ、乗員と砲手らは主砲発射態勢に入る。この間にワルキューレ宇宙軍は反応弾の発射準備を済ませており、後は無人機を観測用に放ち、正確な照準を行うだけだ。

 観測機は既に惑星へと放たれており、攻撃軍の艦隊を既に捉えていた。攻撃軍は一応ながら迎撃を行ったが、本気ではない。無人機からの情報で攻撃軍の正確な位置を掴んだ艦隊は、反応弾搭を搭載したミサイルを直ちに発射した。

 

「照準、固定!」

 

「反応弾、ファイヤー!」

 

 提督の指示で反応弾の安全装置が解除され、即座に観測の無人機から送られてくる映像を基に反応弾搭載ミサイルが発射される。一発や二発ではない。数百発の反応弾を搭載したミサイルが標的に向けて放たれているのだ。マクロス級などの艦艇より発射される反応弾だけでなく、残敵を確実に殲滅するための第二陣の反応弾を搭載したバルキリー部隊が控えている。惑星の被害など考えていないようだ。

 

「主砲、充填完了!」

 

「照準、敵反応弾攻撃部隊!」

 

「よーし、ファイヤー!」

 

 第一陣の反応弾が発射された後、グランドスタースクリーム砲の反射の準備と照準も済んでいた。直ぐにスタースクリームは発射した。

 主砲より発射された高エネルギー弾は発射された多数の反応弾を消し去り、艦隊をも消そうと宇宙にまで登って来る。これに反応弾攻撃艦隊も気付いており、旗艦のレーダー手は即座に報告する。

 

「高エネルギー体、発射された反応弾を全て消し去り…!? 当艦隊へ向けて接近中!!」

 

「えっ!? か、回避!!」

 

 発射された反応弾全てが消え、こちらにグランドスタースクリーム砲が迫っていることを知った提督は回避を命じたが、間に合うはずが無く第二陣と共に消し炭にされた。

 

「な、何という威力だ!」

 

 グランドスタースクリーム砲の威力は、フレメヴィーラ王国のカンカネンで救援活動をしていたコンボイにも見えており、その威力に驚きの声を上げていた。

 

「やはり陛下の障害となりえる存在…! 着くのは…!」

 

 同じくグランドスタースクリーム砲の威力を見ていたハスミは、やはりスタースクリームとヴィンデル軍団はサイデリアルの脅威と捉え、着くべきはサイバトロンと見定めた。

 

「敵宇宙軍艦隊、消滅! 残りは退却した模様!」

 

「ハッハッハッ! 見たか! グランドスタースクリーム砲の威力を!! このスタースクリーム様に楯突くことが、どれほど愚かであるか思い知っただろ! これでメガトロンやガルバトロンなんぞ怖くねぇぜ!!」

 

 レーダー手からの報告で、スタースクリームは自分の母艦の主砲による威力で燥いでいた。この主砲さえあれば、かつての上司と自分を殺したガルバトロンを抹殺できると思ったのだ。それにヴィンデルも、エルに作らせている兵器が完成すれば、抹殺する予定である。

 

「さぁて、あの肉ケラに作らせた兵器の実験を済ませた後、ヴィンデルの野郎に報告にでも行くか」

 

 頭上の脅威を軽々しく排除した後、スタースクリームはエルに作らせている大量破壊兵器の完成を待った。無論、この惑星で実験するつもりである。それからヴィンデルの抹殺に向かい、彼の支配地域を根こそぎ自分の物にする。

 これがスタースクリームがエルに大量破壊兵器を作らせている理由である。だが、ヴィンデルが周知の通りであったと言うことに、スタースクリームは知らない…。




次はエル救出作戦かな?

また読者募集キャラが出てきますよ~。


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Destruction&Rebellion

名前:レイア・シャルロ
性別:女性
年齢:14
乗機:ミリオンα
概要:ヴィンデルの影響下にある世界の出身のデザイナーチルドレン
ミリオンαの右操縦席担当のメインパイロットで操縦能力に優れる。

名前:セリス・シャルロ
性別:女性
年齢:14
乗機:ミリオンα
概要:ヴィンデルの影響下にある世界の出身のデザイナーチルドレン
ミリオンαの左操縦席担当のサブパイロットでサイコドライバー、射撃能力に秀でており電磁砲の砲手を努める。
幼少期からの洗脳教育でヴィンデルの考え方が正しいと教えられており、サイバトロン旗下のスーパーロボット軍団を悪と判断する。
キャラ提供は秋音色の空さん

名前:盾松 修人(たてまつ しゅうと)
性別:男
年齢:15歳
乗機:アトラウス デルファイター ダルタニアス
概要:元は東京の下町に育った江戸っ子だったが、原作のダルタニアス同様にザールが侵略をして家族(祖父母、両親 、妹)をすべて失って天涯孤独になった時に、難民となって来た孤児たちと出会う。
そこのグループで生活をしていたが、その時にアダルスを見つけてアール博士にスカウトされてダルタニアスのパイロットとなる。
口調はもちろん江戸っ子。でも、サイバトロン赤組が混じってる。

名前:ムラタ ケンゾウ/むらた けんぞう
性別:男
年齢:45歳
乗機:スレードゲルミル
概要:OGシリーズとは、別世界のパラレルワールドのムラタで原作の彼と違い正々堂々とした勝負を望み、むしろ快男児みたいな性格の持ち主。
たとえ味方でも卑怯なやり方や卑劣なやり方を嫌い、それを阻止する為にあえて敵に情報を教えたり協力したりする。
キャラ提供はM Yさん

名前:キーラ・エルベルト
性別:女
年齢:二十八
乗機:ジャイアントモグリン
概要:発明大好き、実験が趣味、人の迷惑知らないって感じの第四帝国のマッドな発明家 主な仕事はメカのメンテナンスと改造、発明。
瓶底眼鏡にヨレヨレ白衣にボサボサ頭。
キャラ提供はケツアゴさん


『首尾は順調か? スタースクリーム』

 

「あぁ、驚くくらい順調だぜ」

 

 ワルキューレ宇宙軍の反応弾攻撃部隊を、母艦グランドスタースクリームの主砲で見事に吹き飛ばしたスタースクリームは、ヴィンデルに計画が順調に進んでいることを報告していた。

 この間にスタースクリームはエルにヴィンデルに対する兵器を作らせており、自分の反乱に気付いていないと思っている。

 だが、生前に幾度となく反乱を起こした常習犯なので、ヴィンデルに見抜かれていると言うことを、スタースクリームはまだ知らない。

 直ぐにエルを自分の元に送って来ないことが、反乱を起こそうとする証拠なのだから。ヴィンデルは面白いことになりそうなので、敢えてスタースクリームの反乱に気付かないフリをしている。

 

『で、なんで私の元にエルネスティを送らぬのだ? 反乱の為の兵器でも作らせているのか?』

 

「あっ? 笑えねぇジョークだぜ。あの肉ケラの腕前が本物かどうか試しているのさ。こう見えて俺は元科学者の端くれでな、あんたの所に送ったのが、期待外れだったら俺様の信用に関わるってもんさ。あんたはそこで首を長くして待ってるこった」

 

 試しに反乱でも起こそうとしているのかと問えば、スタースクリームは少し焦ったような素振りを見せた。ロボットでも、心を持てば人と同じのようだ。

 気付かれないようにするためか、笑えない冗談と言って、エルを直ぐに送らないのは、期待した通りの腕を持つかどうか試しに兵器を作らせて試しているとスタースクリームは返す。

 本当はヴィンデルの読み通りに反乱の為の兵器を作らせているのだが、先の反応で見破られたと言うことに、スタースクリームは気付いていない。

 

『まぁ、見当外れは避けたいところだな。少し急いだほうが良いぞ。サイバトロン共が戦力を集結させ、貴様たちをこの世界から追い出そうとしている。いくら貴様と私の配下と言えど、集結した一騎当千の戦士たちは手強いぞ?』

 

 裏切りの常習犯の反応を見て確証を得たヴィンデルは、スタースクリームにサイバトロンの戦士らが集結して攻勢を計画していることを知らせた。

 

「けっ、あんたのちんけな軍団ならともかく、この俺様のスタースクリーム軍団が仲良しこよしのサイバトロン共に負けるはずが無い! 逆に返り討ちにして、この世界を俺様の支配下に置いてやるぜ! そこでふんぞり返って、結果を待つが良いさ!」

 

『期待はせぬがな。精々、頑張るが良いわ』

 

 知らせるには知らせたが、スタースクリームはヴィンデルの配下を扱き下ろし、自分の軍団こそ最強だと啖呵を切る。これにヴィンデルは応じず、期待はしてないと返し、通信を切った。

 その様子を陰で見ていたムラタ・ケンゾウと呼ばれる大柄な男は、懐に忍ばせていた小型無線機を取り、ある場所へと知らせる。

 

「こちら無明、乱暴者は従わず。好き物は製作室へ」

 

 意味不明な言葉を呟いてから、ムラタは無線機を懐にしまっていつも通りに振舞った。

 

 

 

 一方、スタースクリームに命じられ、ヴィンデルに対する反乱の為の兵器を開発のエルであったが、ロボット好きの性癖故か、巨大ロボットを作っていた。用意された資材は全て兵器用であるが、エルは工夫を凝らしてそれを全高五十メートルほどのロボットへ仕上げた。エル曰く、昔見ていたロボットアニメを参考にしたようだ。

 そのエルが作る兵器ことロボットを見るべく、二人の見学者が兵器研究室へと入って来る。

 

「頑張ってるわね、エルネスティ君」

 

 二人の見学者、それも双子の一人、レイア・シャルロはロボット作りに夢中なエルに声を掛ける。

 

「これは驚きました。僕のような子供が、この悪漢だらけの巨大戦艦に乗っていたとは」

 

 レイアを初め、片割れのセリスの姿を見たエルは、悪党しか乗っていないと思われていたグランドスタースクリームに、自分のような子供が乗っていることに驚く。

 無理やり徴兵、あるいは囚われの身では無いかと思い、ロボットを作る端末を操作しながらレイアとセリスに問う。

 

「あの、貴方たちは徴兵ですか? それとも…」

 

「何言ってんのよ。私たちはヴィンデル様の目的を叶えるために志願したのよ」

 

「Need-To-Know。私のような兵士が知るべきことじゃない」

 

「志願…ですか…? 少しは洗脳の類を疑うべきでは?」

 

 麗しい双子の美少女からの答えが、自分の予想だにし無い物であった為、エルは洗脳を疑うべきだとつい口にしてしまった。これにレイアとセリスは激怒する。

 

「あ、あんた! 私たちが洗脳でもされてるって言いたいの!? 冗談も大概にしなさいよ!!」

 

「私たちは戦うために生み出された存在。これは洗脳ではなく宿命…! 断じて疑ってなどいない!」

 

「す、すみません! 失礼しました! 決して悪気は無かったのです! ごめんなさい!」

 

 二人は激怒する余り、腰のホルスターに収めてある拳銃をエルに向ける。何気ない疑問が、相手を怒らせてしまったことにエルは謝罪して両手を上げた。

 少し不安な表情で自分らを見るエルに対し、レイアとセリスは拳銃を治め、今のは仕方が無い事だと言って水に流す。

 

「殺したら怒られるからね。これからもヴィンデル様の為に働きなさいよ」

 

「精々励むこと。ヴィンデル様の思想に疑念を抱かない事と忠告する」

 

 先のエルの発言で機嫌を悪くしてか、二人は兵器研究室を後にした。それを見送ってから、エルはロボット製作に戻った。端末を操作し、着々と組み立てていく中、背後から声が聞こえて来る。

 

「へぇ、兵器じゃなくてロボットを作ってるんだね」

 

 声は女性の物だった。声が下方向へ振り替えれば、瓶底眼鏡のヨレヨレな白衣、ボサボサ頭の以下にも不潔な女性がエルを興味津々に見ていた。これにエルは集中できないので、手を止めて何の用で来たのかと問う。

 

「あの、何の用でしょうか?」

 

「あぁ、気にしないで。休憩がてらに見ているだけだから」

 

「見られては集中できないのですが…お名前は?」

 

 気にするなと言われても、こうも見られては趣味のロボット作りに集中できないエルは、女性に名前を問うた。名前を問われた白衣の女性は自己紹介を始める。

 

「あぁ、ごめん。私、キーラ・エルベルト。趣味は実験で発明大好き。第四帝国から来た」

 

「なるほど、科学者ですね。もう知っているかもしれませんが、僕はエルネスティ・エチェバルリヤ。言い辛かったらエルで良いです」

 

 名前が分かったところで、エルも改めて自己紹介を行い、再びロボット作りを再開する。手を動かしつつエルは、キーラに何をしているのか話し掛ける。

 

「ここでは何をなさっているので?」

 

「メンテナンス。ここに出向してからそればかっかり。改造したいんだけど、許可下りないんだよねぇ。私が改造すれば良いのに、ここも同じって感じで超退屈」

 

「はぁ…」

 

 キーラは第四帝国、即ちナチスからこのスタースクリームとヴィンデルの軍団に出向して来た科学者らしい。だが、所属先と同じく兵器のメンテナンスばかりであり、やりたい改造が出来ないと嘆いている。

 エルはキーラの言動で、直ぐにマッドサイエンティストだと見抜いた。所属先や出向先からすれば、迷惑極まりない人物であると分かってしまう。エルも変わりないように見えるが。

 通りで改造を許さないわけだと理解しつつ、エルはそれを指摘すれば先の二人のように激怒させるのではないかと心配し、自分がキーラならどうすべきかと考えつつ、自分のロボット作りに参加してみないかと誘ってみる。

 

「良いよね、君は。好きなもの作れて。私はメンテナンスばっかだし」

 

「アハハ…なら、手伝います?」

 

「いや、良いよ。私もスタースクリームみたいに君の腕前を見てみたいし。好きにやっちゃいなよ」

 

「そうですか。退屈凌ぎになるかと思いましたが」

 

「まぁ、完成後に改造するけど。そんじゃ、完成した頃にまた来るよ」

 

 自分のロボット作りに誘ってみたが、エルの腕前が見たいと言ってキーラは断る。休憩時間が終わりを迎える頃なのか、キーラは完成する頃にまた来ると言って部屋を後にした。

 

「よし! 速く完成させて、あのスタースクリームにロボットの素晴らしさを見せねば!」

 

 キーラが去った後、エルは兵器を作れと言ったスタースクリームにロボットの素晴らしさを知らしめるべく、ロボット製作に打ち込んだ。

 

 

 

 その頃、コンボイ率いるスーパーロボット軍団は着々と集結しつつあった。

 

「な、何故じゃ!? わしとお主は友のはず! 何ゆえにお主のナイトフレームを分解させぬ!?」

 

「何が友だ! 俺の商売道具を勝手に分解しようとしやがって! 今度フィンスターニスを分解しようとして見ろ、この刀で細切れにしてやるからな!」

 

 第一陣として着いた刃は、国立機操開発工房第一開発工房長のガイスカ・ヨーハンソンと言う老ドワーフと打ち解けたが、そのガイスカが自分の機体であるガンダムアストレアTYPE-Xフィンスターニスに技術者として興味を持ち、あろうことか勝手に分解してその仕組みを調べ上げようとしていた。

 寂しがり屋である自分に進んで話し掛けて来たガイスカが、自分の商売道具であるフィンスターニス目当てであったことを知り、怒りを覚えた刃は腰の刀を指差し、自分の機体を分解するために近付こうとする物なら、細切れにすると脅しを掛けた。

 

「なんと言う野蛮人じゃ! もう良いわ! 他を当たる! まだまだ異世界のナイトフレームはあるからの!」

 

「誰もあんたの頼みを聞かないと思うがな!」

 

 これに冷汗を掻いたガイスカは他を当たると言って刃の元を去る。刃の言う通り、自分の機体を分解して調べようとする老ドワーフの頼みなど、聞きもしないだろう。

 

「す、すげぇ…! 俺らが徹夜しなきゃ直せねぇナイトフレームを、速く直しちまうなんて!」

 

「なぁーに、これくらい朝飯前や。このナイトフレームっちゅうのは、吾輩らからすれば玩具見たいな物だよ」

 

「貶されてるような気がするが、それ程にあんた等の技術がヤベェってこったな」

 

 見た目が厳つい長髪のドワーフであるダーヴィド・ヘプケンは、自分らが総力を挙げても半日は掛かるシルエットナイトの修復を、五分足らずで仕上げた増援できたサイバトロンの御術者であるホイルジャックの腕前に驚愕する。

 これにホイルジャックはレーダー状の耳を光らせながらシルエットナイトの構造が自分らトランスフォーマーからすれば、簡素で玩具みたいだと貶すような発言をする。これにダーヴィドは顔を顰めつつも、自分らの技術力がホイルジャックからすれば低いと痛感した。

 何せ彼らサイバトロンの技術職の者たちは、自分らでは一体で半日は掛かる修復を、瞬く間にシルエットナイトが新品同様に修復してしまうのだ。これに自分たちは必要なのかと疑問に思ってしまう。

 

「なぁ、あんた等の技術、俺らに教えてくれねぇか? これなら、フレメヴィーラ王国は凄い技術大国になれるかもしれねぇ…!」

 

 ナイトスミスと呼ばれる技術者であるダーヴィドは、自分らの遥か先を行くトランスフォーマーたちの技術に興味を持ち、それを自分らに伝授してもらえないかとホイルジャックに頼む。この申し出に対し、秩序を重んじる勢力に属するホイルジャックは当然の如く断る。

 

「何を言うちょる、そんなの教えられんわい! 君たちが吾輩らの技術を使って発展すれば、更に大きくなりたいと思って隣国を侵略する可能性がある!」

 

「飛躍し過ぎじゃねぇか? あんた等が心配する気持ちは分からんでも無いが、俺たちは絶対にあんた等の技術を戦争には使わねぇ! 俺の祖先に誓って約束する!!」

 

 トランスフォーマーらの技術があれば、フレメヴィーラは凄まじい勢いで発展することになる。だが、最悪の場合、隣国を自国の領土にせんと攻め入る可能性があると言ってホイルジャックはダーヴィドの申し出を断る。彼は絶対に戦争には使わないと胸を張って言うが、次の世代がどんな行動を取るか分からないと言って断固として聞き付けない。

 

「今の君たちが約束しても、次の世代がそうとは限らん。だから吾輩らの技術は君たちには絶対に渡さん! 吾輩らは君たちを助けるが、発展させるとは言っていない。さぁ、復興に戻るぞ」

 

 助けるが発展させるとは言ってないと改めて強調すれば、ホイルジャックは修理に戻った。これにダーヴィドは悔しがるが、ホイルジャックの経験上、何かあったと察して諦める。

 

「あの真剣な眼差し、どうやら伝えた技術が戦争にでも使われた感じだな。それに俺たちに同じ轍を踏ませない為に言ったって感じだ。まぁ、銀色坊主と一緒に、ちまちまと上げていくさ」

 

 ホイルジャックの心境を察したダーヴィドは、こつこつと自分らの力だけで技術を上げることにした。

 

「お主を分解させて貰えんか? どうやって喋ってるか気になっての」

 

「ドワーフのお爺さん、残念ながら私たちは生き物なんだ。あんた達から見れば、ナイトフレームが喋ってるように見えるが、私たちは機械生命体でね。残念ながら諦めてくれたまえ」

 

「なんじゃつまらん。クソぉ、あの小僧よりも上に行けると思ったのに…!」

 

 ダーヴィドの頼みがホイルジャックに断られた後、コンボイ等の居る野戦指令所に来ていたガイスカは、マイスターに分解させて貰えないかどうか頼んでいた。無論、マイスターはそれを断り、不貞腐れたガイスカは自分の工房へと戻っていく。

 野戦指令所では、盾松修人と呼ばれる血気盛んな少年がコンボイに攻勢を進言していた。

 

「司令官、もう兵隊が揃ってるんだ。奴らの所に乗り込みましょうぜ!」

 

「私もそうしたいところだが、敵には強大な兵器がある。まずその兵器を、どうにかしなくてはならない」

 

「てやんでぃ! これだけ強者が揃ってんだ! 撃ち込まれる前に、ぶっ潰してやるぜ!」

 

 もう戦力は揃っているので、そろそろスタースクリームとヴィンデル軍団の本拠地に乗り込むべきだと進言する修人に対し、コンボイはグランドスタースクリーム砲をどうにかしなくてはならないと告げる。

 だが、自分たちが強者揃いだと自負している修人は、撃ち込まれる前に破壊すれば良いと言う。確かに敵の軍団を打ち砕きそうな者たちが揃っているコンボイ等であるが、あのグランドスタースクリーム砲の威力は脅威そのものだ。こちらが攻撃を仕掛ける前に、破壊する必要性がある。

 

「我が物顔で飛んでいる奴らを見ていると、欠陥が切れそうだ! 速いとこ奴らの所に乗り込んで、この世界から叩き出そうぜ! コンボイ司令官!!」

 

 瓦礫の山と化したカンカネンの惨状を見て、修人は自分の育った東京の下町が破壊された光景を思い出したらしく、怒りがこみ上げ、今にも爆発しそうだ。

 そんな修人の逸る気持ちを落ち着かせつつ、コンボイはグランドスタースクリームの主砲の破壊プランを野戦指令所に集った者たちに告げる。

 

「落ち付きたまえ、盾松君。君の焦る気持ちは分かる。だが、ここで我々が正面から一斉攻撃を仕掛けても、あの主砲で一網打尽にされるだけだ。総攻撃を仕掛ける前に、敵旗艦の主砲を破壊しなくてはいけない。先にエルネスティ救出を兼ねた破壊工作部隊を敵旗艦に潜入させ、救出の後に主砲を破壊するのだ!」

 

 そのエルの救出を兼ねたグランドスタースクリーム砲破壊プランを見た修人は少し落ち着く。工作隊に志願しようと思って、コンボイに頼み込もうとしたが、彼は既に人選を決めていた。

 

「もう考えているんですか!? コンボイ司令官! だったら志願しますぜ!!」

 

「君の熱意には感激するが、もう決めてあるのだ。すまないが、もう少しの辛抱だ。総攻撃に備え、ゆっくりとチームメンバーと共に休息を取りたまえ」

 

「ちぇ、もう決まってるんですかぃ。なら、言う通りに仲間たちの元へ戻りますよ」

 

 人選が既に決められたことに修人は少し残念がりながらも素直に従い、チームメンバーの所へ戻った。

 

 

 

 一方、グランドスタースクリームでは、エルのロボットが完成していた。

 完成の報を聞いたスタースクリームは直ちに兵器研究室へと足を運び、自分をヴィンデルの軍勢に誘ったブロッケン伯爵と共に部屋を訪れる。尚、スタースクリームはエルがロボットを作っていたと言うことを知らない。

 

「へぇ、完成したんだね。でっかいロボット」

 

 二人より一秒遅く部屋に入ったキーラは、その二人よりも先に完成したロボット見て歓声を上げた。ブロッケン伯爵も同様に、自分の身体の脇に抱えあげながらエルが作り上げたロボットに舌を巻く。

 

「ほぅ、何と素晴らしいロボットよ。このロボットなら、あの憎きマジンガーZも一捻りだわ!」

 

 ブロッケン伯爵も憎きマジンガーZを破壊できると豪語するエルが作り上げたロボットの容姿は、まさに悪の巨大ロボその物である。

 これなら文句の付け所も無いだろうが、スタースクリームだけは違った。彼はロボットを作れとは言っていない。兵器を作れと言ったのだ。自分の言うことを聞かず、趣味に走ったエルに対し、罰を与える。

 それは、エルが丹精を込めて作り上げたロボットを、作った本人の目の前で破壊する事であった!

 

「アァァァ!? なんて酷いことを!!」

 

「き、貴様! 自分が何をしたか分かっているのか!? 私が乗るはずであったロボットを破壊するなど!!」

 

「せっかく出来たのに、壊すなんて酷いねぇ」

 

 スタースクリームが取った余りにもあり得ない行動に、エルは絶叫し、ブロッケン伯爵はその破壊行為を責めた。キーラはまるで他人事のような態度であったが。仲間からも咎められた行動を取ったスタースクリームは一切詫びることなく、自分の言うことを聞かず、提供した資材をロボットの製作に費やしたエルを責め立てる。

 

「うわっ!?」

 

「てめぇ、誰が馬鹿でかい木偶の坊を作れと言った? アァン? 俺は兵器を作れっと言ったんだ。なのにあんな馬鹿でかい鉄屑を作りやがって! 話が理解出来ねぇのか肉ケラァ!!」

 

 そればかりか胸倉を掴んで持ち上げ、挙句に地面に叩き付けた。流石にブロッケン伯爵もこれを了承せず、付近の部下たちに銃口を向けて止めようとする。

 

「ぐぁ…!」

 

「や、止めんかスタースクリーム! 死んでしまうぞ!!」

 

「ちっ! 直ぐに作り直せ! また木偶の坊でも作ったら、テメェをロボットに改造してやる! 分かったな!?」

 

 硬い床にまたも叩き付けられたエルが痛がる中、ブロッケン伯爵の脅しを受け、スタースクリームは作り直すように告げ、苛立ちながら部屋を後にした。

 

「とにかく、貴様は兵器を作れ! 分かったな!?」

 

「あ~ぁ、怒らせちゃったみたいだね。ロボットは、ご愁傷様。そんじゃ、私も仕事に戻るから」

 

 ブロッケン伯爵らも部屋を退散し、残っているのはエルとキーラだけであった。そのキーラは場の空気が悪いと感じ取って嫌気が差し、介抱もせずに出て行ってしまう。

 

「ぼ、僕の目の前で、僕の丹精を込めて作ったロボットを破壊するとは…! やはり貴方は愚か者です…! 後悔させて、上げますよ…!!」

 

 一人残されたエルは打ち付けられた痛みを堪えつつ立ち上がり、スタースクリームとヴィンデルに対する反乱を決意した!




取り敢えず、書き上がったので投稿。
サイバトロンの科学者ことマッドサイエンティスト、ホイルジャックが登場。

このスタースクリームは、劇場版の方でコンボイに敗れた瀕死のメガトロンを蹴ってたスタースクリームなんですわ。
知らない人だと、ただのDQNですが(笑)。

次回の更新は、終わりそうなバンカーに集中するかもしれないから未定です。


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Desertion&explosion

名前:柊 ナブヤ/ひいらぎ なぶや
性別:男
年齢:15歳
乗機:ガンパー ダルタニアス

名前:サラ・フロイレンス
性別:女
年齢:14歳
乗機:ガンパー ダルタニアス

名前:フウ・志々雄/ふう・ししお
性別:男
年齢:11歳
乗機:ベラリオス ダルタニアス
盾松と同じダルタニアスのパイロットたち。それぞれが乗るマシンが合体してダルタニアスになる。
キャラ提供はM Yさん

名前:橘・浩二(たちばな・こうじ)
性別:男
年齢:18
乗機:ダイオンγ
概要:ヴィンデルの影響下にある世界の出身の徴募兵
この度マジンガー軍団の一員として派遣されたために、他のウィンデルの手先を目にして、ウィンデルの正しさに疑問を持つ。
キャラ提供は秋音色の空さん

ブリア
全高九十メートルの七人乗りの超大型ロボ。両手両足共に四つある奇抜なデザイン。
全身に対空砲がハリネズミの如く配置され、鉄壁の防空能力を持ち、更には四方八方を狙える巡洋艦クラスの砲を搭載している。
全長が三十メートルもあるので、大量の爆弾を搭載することも可能。無論、爆弾は四本の腕で投げる。
キャラ提供はG-20さん
※投稿した物が時事的に不適切な物ばかりなので、誠に勝手ながら変更させてもらいました。
ごめんなさい、G-20さん。


 丹精込めて作ったロボットを破壊され、スタースクリームに対して怒りを燃やすエル。

 彼は軍団の兵士たちによる監視の元、再び大量破壊兵器を作らされていた。

 

「あの、手伝って貰えます?」

 

「煩いぞ。良いから黙って手を動かせ!」

 

 エルはトランスフォーマーも含める監視の兵隊ら手伝ってくれるように頼むが、彼らは応じずに小火器の銃口を向けるだけだ。

 

「そうですか。では、ドロドロに溶けて貰いましょう!」

 

 これにエルはため息をつきつつ、作り上げた大量破壊兵器の副兵装を作動させる。

 その名も溶解液噴射機!

 名前の通り、人体や金属を溶解させる液体を噴出する兵器である。それを浴びせられた監視の兵士たちは、文字通りにドロドロに溶け始める。

 

「ぐ、グワァァァ!? 熱い! 熱いッ!!」

 

「溶ける!? 身体が溶けるぅ!!」

 

「た、助けてくれぇぇぇ!!」

 

「ギニャァァァッ!!」

 

 監視の兵士らを全て溶解液噴射機で溶かしたエルは、その大量破壊兵器の自爆装置を起動させ、密かに作っていた携帯型小型ロケットランチャーで兵器研究室のドアを破壊し、物の見事に脱走した。

 グランドスタースクリームの艦内には当然ながら監視カメラが随所に設置されており、ドアを破壊して通路へと飛び出たエルの脱走は見られており、直ぐに警報が鳴り響く。

 

『脱走だ! 対象が逃げたぞ! 捕まえろぉ!!』

 

「ザル警備でないとは! 何という通常警備!」

 

 自分の脱走が直ぐに知られたことで、エルはザル警備では無い事に腹を立てつつ、捕まえに来た軍団の兵士たちを兵器の製作の合間に作った手製の光線銃で射殺しながら進む。

 エルが向かう先は自分の得物を保管しているとされる捕虜収容区画だ。エルは捕まえようとする敵兵らを遠慮なしに射殺つつ、通路を駆け抜けた。

 

「グワっ!」

 

「な、なんて火力だ!?」

 

「俺たちのボディを貫通したぞ!?」

 

 エルが持つ光線銃はトランスフォーマーですら当たり所が良ければ破壊することが出来る程の威力を持ち、この世界において火薬を使わない魔法を使った銃、その名も銃杖(ガンライクロッド)を発明した彼が、ここの設備や機材を使って出来る芸当である。

 一人、一体、二人や二体と仕留めながら収容区画へ向かえば、出入り口付近の壁に張ってある見取り図を見て、自分の得物が保管されている場所を確認する。生前はプログラマーで今はシルエットナイト設計者兼開発者であるエルは直ぐに場所を見付け、そこへ看守らを撃ちながら走る。

 ここへ来て、光線銃のエネルギーが切れた。しかし、押収品の保管室は見付けたので、直ぐに破棄した。

 

「エネルギー切れですか。ですが見付けましたよ」

 

 対人兼トランスフォーマー用光線銃を捨てたエルは、自分がこの世界で前世で愛用していたモデルガンを模して発明した銃杖のウェンチェスターを見付け、二挺とも手に取って細工や弄られていない事を確認する。何処も弄られて分解されていないことを確認すれば、二挺拳銃のように両手に持ち、スタースクリームや彼の軍団に対する復讐を開始する。

 

「僕が丹精を込めて作ったロボットを破壊した罪、重いですよ愚か者さん!」

 

 見た目通り少女のような笑みを浮かべるエルであったが、その美しい瞳には復讐の炎が燃え盛っていた。

 かくして、コンボイ等の予想をはるかに上回る得物を取り戻したエルによる復讐の艦内の破壊活動が開始された!

 

 

 

「頼んだぞ、先遣隊諸君」

 

 時は遡りエルが脱走し、グランドスタースクリーム艦内で暴れ回る一時間前、対スタースクリームやヴィンデルの連合軍に対処するコンボイは、破壊工作に長けた者たちで編成された先遣隊を見送っていた。

 先遣隊はエルの救出も兼ね、グランドスタースクリームの主砲を破壊する任務を帯びているが、当の救出目標自身が脱走した後に破壊活動に勤しむことなどまだ知らない。

 

 先遣隊の面々は以下の通り。

 ゲッターカオスチームより元テロリストのレン・クーが参加。他二名は緊急時に備え、付近に待機。

 キリコ・キュービィー

 偵察員ハウンド

 ハスミ・クジョウ。コンボイ等と合流し、腕を見込まれて先発隊に組み込まれる。

 村田ハル

 

 選ばれた先遣隊の隊長を務めるジープに変形するトランスフォーマー、偵察員ハウンドは見送るコンボイに敬礼する。

 

「ご期待に添えますよ、コンボイ司令官。ついでにこの猟犬のような花で、エルネスティを見付け、あの馬鹿でかい戦艦の主砲もぶっ壊して見せますとも! トランスフォーム!」

 

 敬礼してからジープにトランスフォームし、一人だけ機体に乗っていないハスミに乗車しないかと誘う。

 

「さぁ、お嬢さん。ドライブと行きましょうか」

 

「あの、私は…」

 

 これにハスミは念神エクリプスになるので結構と断るが、ハウンドは自然の風を感じてた方が気分が落ち着くと告げる。

 

「ロボットになるより、この世界の自然豊かな風を感じるドライブの方が楽しいと私は思うがね。それに気も楽になる。お嬢さん、さっきから気がピリピリしてるじゃないか」

 

「それじゃあ、ご乗車させて頂きます」

 

「運転はお任せあれ! いざ出発!」

 

 気が立っていることを見抜かれたハスミは、ハウンドの言う通りにジープに乗車し、上空のゲットマシン三機とバーグラリードッグに乗るキリコ、トランステクターのF4ファントム戦闘機に乗るハルに続いた。

 

「ふぅ、俺たちも行きたかったな」

 

 この先遣隊の出発の様子を眺めていた少年、柊ナブヤは羨ましそうに見ていた。

 

「今はこれの整備でしょ。我儘言わないの」

 

 そんな羨ましがるナブヤに、サラ・フロイレンスと呼ばれる少女が注意する。

 

「でもさ、なんでおいら達がこんなことやってんだろ? 盾松の兄貴もきっと行きたがるよ」

 

 今行っている作業に不満を持つ十一歳のハーフの少年、フウ志々雄もそれを口にした。

 この少年少女らが行っている作業は、倉庫より引っ張り出されたツェンドリンブルの試作機、ツェンドルグにサイバトロンらが持ち込んだレーザー砲と言った武装を装備させる作業だ。

 戦力を増やすため、この機体に搭乗経験があり、銀凰騎士団で唯一動けるキッドとアディにも総攻撃に参加させてもらうのだ。文句を言うナブヤとフウに対し、同じく武装作業を行う修人は怒鳴り付ける。

 

「手を休めるんじゃねぇ! 速くしろ!」

 

 修人に怒鳴り付けられた二人は、サラを含める他の者たちと共にツェンドルグの武装増加作業に勤しんだ。修人を始めとするナブヤ、サラ、フウの四名はダルタニアスと呼ばれる巨大ロボのパイロットである。

 修人は人型ロボのアトラウスに乗り、フウはライオン型サイボーグに搭乗、ナブヤとサラはガンバーと呼ばれる重戦闘機に乗る。

 その三体のメカが合体すれば、ダルタニアスと呼ばれる巨大ロボットとなるのだ。ダルタニアスのパワーはハスミのエクリプスと同等とも言え、スーパーロボットとを名乗るに相応しいスペックを誇る。

 そんな少年たちは総攻撃に備えるべく、出来る限りの準備に勤しんだ。

 

 

 

 その五十分後、スタースクリーム軍団の野営地付近に到達した先遣隊は身を潜め、潜入と破壊工作に長けたレンとキリコの二名がグランドスタースクリームに潜入を試みた。

 既にグランドスタースクリームには案内人が潜入しており、彼の手引きで艦内に潜入する手筈となっている。果たしてその人物とは?

 

「来たな。こっちだ」

 

 見張りの目を盗み、レンとキリコの目の前に姿を現した案内人とは、ムラタ・ケンゾウであった。彼はヴィンデルの軍に属しているが、各並行世界や異世界で戦争ばかり起こす彼のやり方に嫌気が差しており、こうしてコンボイ等を始めとした秩序の回復を目指す正義の軍団に内通している。

 

「お前たちがコンボイが寄越した工作員だな? 合言葉は?」

 

「私にいい考えがある」

 

「成功するとは言えない。よし、制服に着替えるんだ」

 

 レンが合言葉を言えば、ムラタはヴィンデルやスタースクリームのスパイでは無い事を確認し、二名にスタースクリーム軍団の制服を渡した。制服に着替えた二名はムラタの後に続き、グランドスタースクリーム艦内へと潜入する。

 軍団はポストアポカリプスのような無法者ばかりであり、制服を着ているレンとキリコが逆に目立っている。制服を着ていると言えば、第四帝国ことナチスより出向して来た将兵だけだ。人がいない上に監視カメラが無い部屋へと来れば、二手に別れる事となる。一方はエルの救出を。もう一方は主砲に対する破壊工作だ。

 

「俺がエルネスティの救出に行こう」

 

「なら、俺は主砲の破壊工作だ。組織時代では散々やって来たことだしな」

 

 決断は直ぐに決まった。キリコはエルの救出へ向かい、元テロリストであるレンは主砲の破壊工作を行う。

 

「では、俺は破壊工作の方へ同行しよう。こっちだ」

 

 ムラタは破壊工作を行うレンを案内するべく、キリコに艦内図を渡してから部屋を出た。

 だが、この時点で十分が経っており、既にエルが溶解液で監視の兵士たちを溶かして兵器研究室より脱出した後であった。艦内中にけたたましいサイレンが鳴り響く。

 

「な、なんだっ!?」

 

『脱走だ! 対象が逃げたぞ! 捕まえろぉ!!』

 

「どうやら、自力で脱出したようだ」

 

 突然の警報にムラタが驚く中、キリコはアナウンスでエルが自力で脱出したと分かり、捕虜収容区画へ急行する無法者集団の一団に加わった。

 

「何が起きたか知らんが、主砲を破壊する好機だろう。行こう」

 

「あっ、あぁ。そうだな。こっちだ」

 

 エルの脱走で警備の注意がそちらに向けば、破壊工作はやり易いとレンが言えば、ムラタは少し動揺しながらもそれに同意し、彼を主砲の方へ案内する。

 

『対象は捕虜収容区画へ向かっている! 直ちに急行し、確保せよ! 良いか!? 絶対に殺すんじゃないぞ!!』

 

「奴らは生け捕りが目的か。それならやり易い」

 

 艦内中に響き渡るアナウンスで、キリコは軍団はエルを生け捕りにするのが目的と知り、捕虜収容区画へ向かう。

 

『や、奴が捕虜を解放したぞ! 他は殺して構わん! ただし、奴だけは生け捕りにするんだ!!』

 

 向かっている間にエルが先に捕虜収容区画へ辿り着き、自分の得物である銃杖のウェンチェスターを発見し、両手に持って収監されている捕虜たちを解放している頃であった。キリコも到着すれば、エルによって解放された捕虜たちが看守らを襲い、武器を奪って他の捕虜たちを次々と解放している。

 制服を着ているので、銃を奪った捕虜たちに撃たれるが、キリコは元レッドショルダーの隊員で異能生存体であるため、遮蔽物へ退避し、制服を脱ぎ捨てる。

 

「撃つな! 味方だ!」

 

「その声は、もしや!? キリコ・キュービィーさんですか!?」

 

 制服を脱ぎ、いつもの赤い耐圧服の姿を晒したことで、エルにその存在を気付いてもらえた。

 

「や、野郎! 騙し撃ちを!」

 

「待ってください! 彼は味方です! とても心強い味方です!!」

 

「じょ、嬢ちゃん!? んなこと言っても、俺たちを後ろから撃ち殺すかもしれねぇんだぞ!?」

 

「何を言うんです!? 彼はそんなことはしません! それに僕は男です!」

 

 大柄な捕虜はキリコを信じず、手にしている銃で撃ち殺そうとするが、エルに止められる。エルを確認したキリコは一人の看守をアーマードマグナムで射殺し、ライフルを奪って数名の看守を射殺しながら彼の元へ向かう。

 このキリコの動きを見て、エルは改めて目前に迫る向こう側の世界の住人が本物であると知る。

 

「ほ、本物だ…!」

 

「お前がエルネスティだな? 直ぐに捕虜を連れて脱出だ」

 

「あっ、それよりこの戦艦を破壊するのでは?」

 

 本物を見て喜ぶエルを他所に、キリコは脱出すると告げるが、彼はグランドスタースクリームを破壊する気であり、破壊工作の手伝いをしたいと申し出る。

 

「それは俺の仲間がやる。俺たちは脱出する」

 

「いえ、僕にやらせてください! あの愚か者には思い知らせねばなりませんから!」

 

「良いだろう。捕虜たちは自力で脱出してもらおう。捕虜たちの先導は、お前にやってもらおうか」

 

「お、応よ! お手てを繋がなくとも、外へ出れらぁ!」

 

 破壊された自分のロボットの無念を晴らすため、破壊工作をしたいと言うエルに対し、キリコは強い意志を感じて彼の同行を許した。捕虜らの誘導は大柄な捕虜に任せ、キリコとエルはレンが居るとされる主砲がある区画へと向かう。キリコは耳に着けている小型無線機で、先に主砲の方へ向かっているレンに報告する。

 

「俺だ。救出対象と共にこの艦を破壊することになった。爆薬の予備はあるか?」

 

『救出対象がこの艦を破壊したいだと? どうしてそんな話になる?』

 

 急な予定変更に、レンはどうしてそうなると問えば、キリコはこれから始まる総攻撃を自軍の有利に進める為、必要な物であると説いた。

 

「例え主砲を破壊しても、この艦の武装は強力だ。艦ごと破壊してしまえば、総攻撃の際にこちらが有利になる」

 

『確かな意見だ。この大きさとなると、動力部に仕掛ける必要がある。だが、俺でも初めてだぞ? 完全に撃沈できる保証もない』

 

「自信が無いか」

 

「なら、融合炉を暴走させてみてはどうでしょう? それなら脱出できる時間が稼げると思います」

 

 これにレンは納得するが、テロリスト時代にこれほど大きな軍艦を沈めたことが無く、撃沈できる自信が無いと返した。それにエルが艦を動かす融合炉を暴走させてみてはどうかと提案すれば、キリコは彼の案をレンに伝える。

 

「融合炉を暴走させれば、行けるはずだ」

 

『なるほど。少し危険だが、爆破ギリギリでの脱出は何度かやった事がある。その手で行こう』

 

 エルの提案により、主砲破壊計画はグランドスタースクリームの破壊へと変更された。計画変更に伴い、レンとムラタは融合炉がある動力部へ向かい、キリコもエルを伴ってそこへ敵を倒しながら向かう。

 そんな時に、予期せぬ増援が現れる。

 

「す、すげぇ! あ、あんた達! 俺を連れてってくれないか!?」

 

「何者だ?」

 

 敵を倒しながら進んでいけば、敵兵の一人が残った仲間を殺し、あろうことか同行を望んできた。これにキリコはライフルの銃口を向けながら問う。

 

「お、俺は橘浩二だ! マジンガー軍団として徴募された! でも、ヴィンデルのやってることはただの侵略や虐殺、略奪と言った蛮行ばかりだ! しかも毎日戦争ばかりやっている! それで俺は嫌になったんだ! 頼む! あんた達と一緒に戦わせてくれ!!」

 

 その敵兵、否、青年の名は橘浩二。ヴィンデルの影響下にある世界出身であり、徴募兵としてマジンガー軍団に参加していたが、数々の並行世界や異世界における戦争に参加している内に疲れ果て、離脱の決意を固めた。

 

「嘘を付いてるんじゃないですかね?」

 

「う、嘘だと!? 俺が仲間を殺したのを見てなかったのか!? だったら、俺が知っている限りの情報を全て喋る! この艦の事だって、ある程度は…!」

 

「その辺にしておけ。とにかく、今は時間が惜しい。融合炉がある区画まで案内できるか?」

 

「任せておけ! 掃除を何度でもさせられたから、ある程度は覚えている! 近道もな!」

 

 銃を向けられながらも、浩二の離脱の決意は伝わってきた。

 だが、エルは信用ならないと言ってウェンチェスターを向ける中、浩二は知っている限りの情報は明かすと必死に訴え、更にはグランドスタースクリームの艦内もある程度は覚えていると告げた。

 そうと分かれば言い争っている時間が無いとキリコは判断し、艦内掃除を無理にやらされ、融合炉までの道を覚えた浩二に案内させた。無論、レンとムラタにも浩二の事は知らせておく。

 敵を倒しながら融合炉がある区画へと進んで数分後、両グループは目的地へと辿り着いた。だが、その融合炉は巨大な船体を浮かせる為にかなり大きく、手持ちの爆弾で爆破し、暴走させられるかどうか怪しい。

 

「工夫次第では融合炉を暴走させられるだろうが、仕掛けるのに時間が掛かり過ぎる。艦内が静かなら出来るが、今は仕掛ける余裕もない」

 

「積みか」

 

「クソっ、ここまで来て!」

 

 爆破のプロであるレンは工夫次第なら出来ると言うが、それだと時間が掛かり過ぎる。何せ艦内の状況は戦闘態勢なのだ。少人数で敵を抑えつつ、爆弾を仕掛けるのは無理があり過ぎる。

 レンとキリコ、ムラタ、浩二が諦めかける中、エルは制御室へ向かい、制御用の機器を操作して融合炉の管理システムにアクセスを試みる。

 これに一同は驚いた。何せこの世界にはコンピューターなど存在しないのだ。魔法やロボットがあるとはいえ、文明は中世レベル。コンピューターと言った電子機器の存在など知っている訳が無い。

 知っている者ならご存じの通りだが、エルの前世は日本人のプログラマーである。

 

「な、なぜ電子機器を操作できる…!? 何処で使い方を習った!?」

 

 制御用の電子機器を自在に扱うエルにムラタは驚愕し、一同を代表して問えば、彼は笑みを浮かべながら秘密だと答えた。

 

「それは企業秘密です。なんて雑なセキュリティー、これなら並のハッカーでも容易に突破できますね。それにプログラムも雑。本当に元科学者なんですかね、スタースクリームは」

 

 驚く一同を他所にエルは電子機器を操作を続け、プログラムの粗さに気付き、スタースクリームの間抜け具合を指摘する。数秒足らずで融合炉を暴走するようにプログラムしたエルは、キリコを除いて茫然としている一同に告げた。

 

「融合炉を暴走するようにプログラムしました! 十分足らずでこの艦は爆発します! 皆さん、捕虜たちにも知らせつつ急いで脱出しましょう!」

 

 この言葉で我に返ったレンは、脱出を手っ取り早くするため、壁に爆弾を仕掛けて道を作ろうとする。

 

「あっ、あぁ! 分かった! 一々出入り口を通っていられない。壁を爆破し、空いた穴を進んで脱出する。これで時間を短縮できるはずだ」

 

「良い案だな。援護する! お前は爆弾の設置に集中しろ!」

 

『いたぞ! 撃ち殺せ!!』

 

 レンの提案にムラタは賛同し、爆弾設置を援護すると言って突入してくる敵兵の対処に回る。キリコとエル、浩二も突入してくる敵兵の対処に回り、レンの爆弾設置を援護する。

 ハスミらがいる方向の壁に爆弾を設置する際、レンは薄そうな箇所を触り、感触具合で分かればそこへ爆弾を仕掛け、離れてから爆破する。テロリスト時代の勘は見事に的中し、道は開けた。直ぐに知らせ、そこを通って次の壁の爆破に取り掛かる。

 

「不味い!」

 

「うぉ!? 奴らだ!!」

 

 敵兵と遭遇することもあったが、こういう時に備えてレンは短機関銃を持って確認しており、直ぐに乱射して通路の敵兵を一掃した。

 壁を爆破しながら進んでいけば、格納庫に出た。十分では湯号炉の暴走は止められないと判断してか、そこにある機動兵器に乗って続々と脱出していく。数十名の捕虜もそこへ辿り着いており、敵兵らと交戦していた。

 

「格納庫に出ましたよ!」

 

「丁度いい、俺の機体はまだ大丈夫だ。皆、それに乗り込め!」

 

「俺の機体もまだ大丈夫そうだ! 行こう!」

 

 格納庫に辿り着けば、ムラタは自分のスレードゲルミルを指差して脱出すると告げ、レンやキリコ、エルを連れて向かう。浩二は自分の機体がまだ大丈夫であることに気付いてか、ダイオンγの方へと走る。

 敵兵もまだ居たが、先頭を走るムラタは腰の刀を抜いて斬り捨て、颯爽と三名を連れて自分のスレードゲルミルに飛び乗る。浩二のダイオンγに乗り込もうとする敵兵も居たが、彼のライフルによって射殺され、硬い床の上に落ちた。

 

「全員、乗ったな?」

 

「居るぞ」

 

「よし、脱出する! ドリルインフェルノ!!」

 

 ムラタが全員乗ったのを確認すれば、スレードゲルミルを起動させ、頭の角を高速回転させて外壁を破り、グランドスタースクリームより脱出した。

 

「置いてかないでくれ!」

 

 その後をダイオンγに乗る浩二も邪魔なジェットロン兵や敵ロボットを片付けつつ、スレードゲルミルが開けた巨大な穴に飛び込んで後に続いた。

 

「あれを見ろ。奴らも無事らしい」

 

「大した奴らだ」

 

 捕虜たちも脱出艇を奪うか、艦載機ロボを奪って脱出しており、安全な距離まで退避していた。そこに四人が乗るスレードゲルミルと浩二のダイオンγが合流し、大爆発するグランドスタースクリームを見る。

 左右に居る二隻の軍艦を巻き沿いにしつつ、グランドスタースクリームは轟沈したが、艦橋の部分が爆発する船体より離脱しており、スタースクリームは無事であった。それを見たエルは悔しがる。

 

「あぁ、脱出された! やはり悪運が強い!」

 

 そのエルが悔しがる中、ご自慢のグランドスタースクリームを沈められて怒りに燃えるスタースクリームは、怒りの刺客をエルたちに差し向ける。

 

「何か来るぞ!」

 

「な、何という奇抜なデザイン! センスが無い!!」

 

 そのスタースクリームがエルたちに送り込んだ刺客とは、ブリアと呼ばれる両手両足が四つあり、無数の対空機銃と火砲、両肩に大口径の三連装砲を取り付けた全高九十メートルの巨大なロボットであった!




久々の更新で熱が…。


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恐怖! K1シコインの怪電波!

リン・オルタナティブさん
名前:天海竜馬/あまみ りょうま
性別:女性
年齢:18
乗機:ムラサメライガー
概要:ゾイドが好きな少女。一人放浪している中でムラサメライガーと出会い、共に旅をしている。
キャラ提供はリン・オルタナティブさん

「I6ガダン」
頭頂高:27メートル
人型のメガロード。背部単装レールキャノンを搭載している。

「N3テドペ」
頭頂高:29メートル
河童みたいな奴。水陸両用型。

「K1シコイン」
体高:60メートル
ウルトラマンに出て来るブルトンみたいな奴。
移動は元ネタと同じく転がる。
提供は俊伯さん


 スタースクリーム軍団のグランドスタースクリームが大爆発して轟沈すれば、コンボイ率いるスーパーロボット軍団の分隊の総攻撃開始の狼煙は上がった!

 

「司令官、合図です! 随分と派手過ぎですが!」

 

「あぁ、随分と派手な花火を上げたようだ。だが、総攻撃開始の合図だ! 総員出撃用意!!」

 

 マイスターの知らせで合図を知ったコンボイは、出撃準備を済ませた一同に出撃の命令を出す。

 

「遂に来たね! 出番だよ、ムラサメライガー!」

 

 ここでは初の登場となるゾイド、ライオン型の大型ゾイドに乗る天海竜馬は、ムラサメライガーに乗り込み、意気揚々に出撃した。

 

「待ちわびたぜ! 出撃だ!!」

 

 出撃の指令が出たことで、待ちわびていた刃は自分のガンダムアストレアに乗り込み、スキアのヴァルザカード・セカンドGへと向かう。

 他のガンダムタイプも含め、リューハイロード・オリピアもヴァルザカードに乗り込んでいく。現場に到着したのと同時に展開するのだ。

 

「行くぞ! お前たち!!」

 

『おぉーッ!!』

 

 修人率いるダルタニアスチームも、それぞれの期待に乗り込み、意気揚々に出撃していく。修人のアトラウスを先頭に、ナブヤとサラが乗るガンパーに、フウのべラリオスが続いた。ようやく出番が来たのだ。出撃の速さは竜馬のムラサメライガーよりも速い。

 続々と集結した戦士たちが出撃していく中、いつの間にか合流していたエルのライバルであったオラシオ・コジャーソも出撃しようとしていた。

 かつて敵であったオラシオを自分のチームに入れたコンボイに、キッドは心配の声を上げる。

 

「こいつ本当に仲間に入れて良いんですか? 後ろから撃たれるんじゃ?」

 

「失礼ですねぇ。この私がなぜ貴方がたに協力するのは、この私を選ばず、あろうことかエルネスティを選んだスタースクリーム軍団? に復讐するために志願したんですよ! なんなら、ここで今すぐ、君たちを血祭りに上げて良いんですよぉ?」

 

「こ、こいつ! やっぱり!!」

 

 オラシオがコンボイ等の部隊に、自身が開発した飛竜戦艦を伴って参加したのは、スタースクリーム軍団が自分ではなくエルを選んだことであった。表向きはこの世界を守る為だのと宣っていたが、直ぐに本音を漏らした。

 後ろから撃たれると心配するキッドに対し、オラシオはここで今すぐ血祭りに上げると言えば、アディも含めて戦闘態勢に入る。無論、これをコンボイが見逃すはずが無く、割って入って止めさせる。

 

「止めるんだ君たち! 同じ世界の者同士、争い合っている場合ではないだろう!」

 

「まぁ、そう言う事です。せっかく戦列を並べて戦うんです。先ほどの事、謝罪しますよ。背中から撃たれてはたまりませんからね」

 

 コンボイに注意され、キッドとアディは得物から手を離した。これにオラシオは一応ながら謝罪したが、全く謝意は籠っていない。

 

「あいつ、ムカつく! きっとエル君ごとやっちゃうよ!」

 

「あぁ! あいつが余計なことをしないように、見張らねぇとな!」

 

 オラシオの謝罪に全く謝意が籠って無い事を見抜いたキッドとアディは、余計な事をしないように見張ると言って、武装増加が完了したツェンドルグに向かって行った。

 

「司令官、総員準備完了です! ダイノボットの連中はスキアのヴァルザカードに乗船しました!」

 

 サイバトロンのトランスフォーマーらも出撃準備が済んでおり、後は司令官であるコンボイの指示を待つだけであった。ホイルジャックやラチェットは、オラシオの飛竜戦艦の方に乗っている。ダイノボット等はマイスターの報告通り、ヴァルザカードに乗船していた。

 それを聞いて、コンボイはサイバトロンらに出撃命令を出す。

 

「よし、サイバトロン戦士トランスフォーム! 出動だ!!」

 

 このコンボイの号令と共に、サイバトロン戦士等はそれぞれの乗り物にトランスフォームした。エアーボットとテックボットも各々の形態にトランスフォームし、総攻撃を行うために出動した。

 

「異世界のシルエットナイトは、乗り物に姿を変えるとは驚きです。では、私も向かうとしましょう! 私を選ばなかった彼らに復讐するためにね!」

 

 飛竜戦艦に乗るオラシオは、トランスフォーマー等が姿を変えたことに驚きつつも、復讐の為にその戦列に加わった。

 

 

 

「奴さんたち、どうやら派手にやったようだな!」

 

 エルの救出後、グランドスタースクリームを爆破して総攻撃の狼煙を上げると言うレンとキリコ、ムラタに浩二の大戦果を見たハウンドは、レーザーガンを持ちながら口にする。

 残っているハウンドにハスミ、ハル、竜騎、ドソクは騒ぎが始まったのと同時に現れたこの世界の魔獣らの対処に追われていた。

 

「まぁ、こうなることは予想してましたが」

 

 ハスミは左手に魔石と呼ばれる不気味に光る意思を用いて、炎や水と言った奇妙な技を使い、接近して来た決闘級と呼ばれる小型魔獣の集団を一掃する。自身の能力で、こうなることを分かっていたようだ。

 

「あの軍艦、厄介そうだからね! これでだいぶ楽になるかも!」

 

 スーツを身に纏い、同じ小型魔獣を蹴飛ばすハルも、グランドスタースクリームは厄介だから沈んでよかったと口にする。その続けざまに背後から襲い掛かる小型魔獣に左拳を見舞って撃退した。

 

「コンボイの奴も驚きだろうな!」

 

「あぁ! こんな派手な花火を上げちまったんだ! 敵さんの方はカンカンだろうよ!」

 

 同じく素手で戦う竜騎とドソクは、グランドスタースクリームの大爆発を見て敵は怒っていると、魔獣を仕留めながら言った。

 そんな時に、中型クラスの魔獣が姿を現し、生身の一同に襲い掛かる。

 

「でかい奴が来たぞ!」

 

「これくらいなら余裕です」

 

「余裕だって? 冗談キツイゼ姉ちゃんよ!」

 

 決闘級よりも大きい中型の魔獣に一同は恐れ戦く中、ハスミは臆することなく決闘級や小型魔獣を始末する際に使った炎や水を使う奇妙な技で、いとも容易く倒してしまった。これには一同も唖然とする。

 

「ね、姉ちゃん…! あんたいったい何者だ?」

 

「サイデリアルの幹部です」

 

 驚く一同を代表し、ドソクがハスミに何者かと問えば、彼女は自分の所属先の幹部であると答えた。

 そこに中型よりもデカい旅団級や師団級と呼ばれる巨大魔獣が、決闘級等の魔獣を倒した一同に大挙して襲い掛かった。流石のハスミも、生身では旅団級や師団級の魔獣には無理なようで、念神エクリプスを纏おうとする。

 

「…あれは流石に不味いかも」

 

 旅団級や師団級を見たハスミが生身では無理と判断し、念神エクリプスを纏おうとする中、エルを救出したレンとキリコがムラタや浩二を伴って駆け付ける。

 

『ドリル・ブーストナックル!!』

 

「この技は…! スレードゲルミル!? 何故ここに!?」

 

 ムラタの叫びと共に放たれたドリル・クラッシャーを装着したブーストナックルが飛んで来たのを、自分の能力で分かったハスミは、スレードゲルミルがあることに驚きつつも、全員に退避するように勧告する。

 

「全員、伏せて!」

 

「言うのが遅い!」

 

「うわぁぁぁ!?」

 

 高速で飛んでくる二つのブーストナックルにハスミが伏せるように叫んだが、ドソクに言うのが遅いと注意される。だが、ギリギリ間に合ったので、大きいハウンドも無傷で済んだ。標的目掛けて飛んだ二つのドリル付きブーストナックルは、旅団級や師団級の集団を容易く葬り去った。

 この次に浩二のパイロンダイオンγが、大きな胸部装甲を開いてブレストファイヤーを行い、残りの魔獣等を焼き殺す。

 

『ブレストファイヤー!!』

 

「無事か!?」

 

「あぁ、なんとも無事だ!」

 

 浩二のダイオンγが魔獣の集団を焼き殺した後、スレードゲルミルの頭部にあるコクピットより出て来たレンが無事かどうかを問う。これにドソクは大語で無事であると答えた。

 

「あれは、ムラタ・ケンゾウ! どうしてここに!?」

 

 スレードゲルミルがあることに驚くハスミは、救出したエルと共に出て来るムラタの姿を見て、炎や水を発する奇妙な技を発動しようとする。ハスミが居た世界では、ムラタ・ケンゾウは敵であったのだ。これを見たキリコはムラタが敵でないことを伝え、当の本人も、敵対心を見せるハスミに敵でないことを訴える。

 

「待て! この男は敵ではない!」

 

「そうだ! 俺は敵ではない! 信じられないかもしれんが…!」

 

「証拠はあるんですか? 私が知る貴方は殺しを楽しむ人斬りです! 私たちを騙す演技では無いですか!?」

 

「なに、並行世界の俺はそんなに恐ろしい奴なのか!? ならば、奴らを倒して証明するのみ! 全員降りろ!」

 

 敵では無いと必死に訴えるムラタであるが、ハスミが知るムラタは己の快楽の為に剣を振るい、殺しを楽しむ殺人鬼であった為、信用されなかった。ハスミに信用されないムラタは、エルたちを降ろしてから追撃してくるブリアを倒し、味方であることを証明しようとする。

 追撃してくるブリアは、メガオードと呼ばれる巨大無人ロボのI6ガダンやN3テドぺ多数を伴って現れ、随伴機と共にレン等と合流したハウンドたちを攻撃する。これを一同は伏せて躱す中、スレードゲルミルに乗ったムラタは全員の搭乗時間を稼ぐべく、浩二と共に追撃隊に立ち向かう。

 

『時間を稼ぐ! 全員乗り込め!』

 

『俺も証明するためにやるぜ! うぉぉぉ!!』

 

「どうやら敵ではないようですね」

 

「そう言う事だ。今の内に機体に乗り込むんだ!」

 

「これほどのロボットを目の前にして興奮は隠せませんが、イカルガの無い僕は邪魔なので避難します!」

 

 ムラタたちが多数の追撃隊に突っ込んで時間を稼ぐ中、ハスミ等はそれぞれの機体に乗り込んだ。乗機が無いエルは我慢して避難する。

 

『ブハハハッ! 流石のスレードゲルミルでも、このブリアの高火力弾幕と連隊規模の随伴の攻撃は耐え切れまい!』

 

「クソっ、これでは証明できん!」

 

『や、やべっ! こっちが持たねぇ!!』

 

 時間を稼ぐべく、追撃隊に挑んだムラタと浩二であったが、ブリアに搭載された多数の火砲と多数の随伴機による集中砲火を浴び、幾ら強いスレードゲルミルでも、一方的に撃たれるだけだ。浩二のダイオンγは躱すので背一杯である。

 だが、全員の機体搭乗に十分な時間が稼げており、直ぐに救援が駆け付ける。最初の救援は、ハウンドが得意とするホログラム映像であった。

 

「うわっ!? なんだあの馬鹿でかいロボットは!?」

 

「奴らの援軍か!? 主砲、撃てえぃ!!」

 

 ブリアの砲手がハウンドが出したホログラムの巨大ロボの映像に驚けば、機長は即座に機体両肩の三連装砲を撃ち込むように指示を出す。即座に二門の三連装砲が火を噴き、ホログラム映像の巨大ロボに放たれたが、当然ながら当たるはずもない。

 

「砲弾がすり抜けました!」

 

「ゆ、幽霊だとでもいうのか!?」

 

「こちらにビームが来ます! 回避できません!」

 

「何ぃっ!?」

 

 主砲が当たらなかったことに機長が驚く中、レーダー手は自機に向かって飛んでくるビームに気付き、躱し切れないことを伝えた。そのビームはゲッタービームであり、レンがクレイジー号に乗り込み、ゲッターカオス1に合体してビームを放ったのだ。

 

「へっ、まずはデカ物を…って、効いてねぇ!?」

 

『ゲッタービームも耐える重装甲か!?』

 

『ちっ、面倒な奴だぜ!』

 

 ゲッタービームは確実に命中したが、ブリアには全く効いていないようだった。これにゲッターチームの面々は驚く。

 

「ゲッター線だか何だか知らんが、このブリアは重装甲も売りの一つよ! 死に晒せ!」

 

 ブリアの重装甲を自慢しつつ、機長は機体の四本の手で機体内部の爆弾庫にある250~500クラスター爆弾、60~500の航空機用爆弾を掴み、ゲッターカオス1に向けて投げまくる。この次々と投げられる無数の爆弾による爆撃は、ホログラムを展開していたハウンドも巻き込んだ。

 ムラタのスレードゲルミルとダイオンγが爆弾の迎撃を行おうとしたが、随伴のガダンと地上のテドぺに妨害される。

 

「うわぁ!!」

 

「なんて無茶苦茶な野郎だ!」

 

 ハウンドが吹き飛ばされたことによりホログラムは消えてしまい、巨大ロボは欺瞞と見破られてしまう。

 

「どうやらホログラムだったみたいだな! とどめを刺してやる! サーモバリック爆弾!!」

 

 巨大ロボがホログラム映像だと分かったところで、ブリアは二つの5000キログラムサーモバリック爆弾を投げ付けた。

 この爆弾は強力であり、食らえば一溜りも無かったが、念神エクリプスを纏ったハスミの銀月の嘆きと呼ばれる拡散ビーム砲で複数の随伴機と共に破壊される。

 

「う、うぉ!? なんだ!?」

 

 ブリアの機長が驚く中、ハスミはムラタが必死に敵に挑んでいくのを見て、敵でないと理解する。

 

「貴方が敵でないことは理解しました。私には到底信じられない物ですが」

 

『た、助かる!』

 

 味方と認めてくれたハスミに対し、ムラタは感謝の言葉を述べる。

 

「す、すげぇロボットだな! 何が分からねぇが、形勢逆転だぜ!」

 

 ハスミのエクリプスの参戦で形勢は逆転されたかと思われていたが、新たなる追跡者が現れた。その追跡者の攻撃は既に行われていた!

 

「この気味の悪い感覚は…?」

 

『ん、まさか…! K1シコインが投入されたのか!?』

 

 感応が高いハスミは、敵の増援による攻撃を感じ取った。そのハスミの声を聞けば、ムラタは一番厄介な敵の兵器が投入されたと分かった。既に攻撃は始まっていたが、ハスミやハル、キリコにゲッターチームは何とも無いと返答する。

 

「私は何ともありませんが」

 

『そのケワンシコイだか何だか知らねぇが、俺たちは何とも無いぜ』

 

『こちらも』

 

『俺もだ』

 

『右に同じく』

 

『俺も何ともない』

 

 何らかの状態異常に対し、耐性を持つ六名は身体や脳には異常は無いと返すが、耐性が無い者は別であった。

 

「殺してやるぞ! デストロン!!」

 

「ハウンド!?」

 

 ムラタが知るK1シコインと呼ばれる兵器の攻撃は対象に特殊な電波を当て、催眠状態にするようだ。その電波に当てられたハウンドはキリコが乗るバーグラリードッグを憎むデストロンと思い込み、レーザーガンで攻撃する。

 

「止めろ! 俺は味方だ!」

 

「お前の言う事など信じられるか! このデストロンめ!!」

 

 これをターンピックで躱したキリコは、どうしたと問い詰めるが、催眠状態のハウンドは耳を貸さずに攻撃し続ける。

 

「どうなってんだおい!?」

 

『捕虜たちが襲ってくるぞ!』

 

『助けた礼がこれか!?』

 

 ゲッターカオス1も、シコインの電波にやられて催眠状態となった捕虜たちの攻撃を受けていた。味方であるはずの捕虜たちが乗る様々な機動兵器に攻撃されたゲッターチームの面々が混乱する中、同じ電波に当てられ、催眠状態となった浩二が乗るダイオンγが襲い掛かる。

 

『死ねぇ! ブレストファイヤー!!』

 

「な、何しやがる! 怖気づいて敵に戻ったか!?」

 

『そんなはずはない! あいつはヴィンデルの駒になるのを嫌がっていた! 説得するんだ!』

 

 ダイオンγのブレストファイヤーを避けつつ、竜騎は怖気づいて敵に戻ったと思い、反撃しようとしたが、レンに説得するように求められた。竜騎は直ぐに通信を開き、浩二の説得を試みる。

 

「おい! お前はヴィンデルの所が嫌で、俺らの方に寝返ったんじゃねぇのか!?」

 

『うがぁぁぁ! 死ねぃ!!』

 

 催眠状態の浩二の説得は通じず、打撃を受けて吹き飛ばされる。

 

「野郎、ぶっ殺してやる!」

 

『止せ! 様子がおかしい! どうやら、何らかの催眠電波で操られているようだ』

 

『操られてる? 俺らには何ともないぞ?』

 

『あぁ、俺たちはゲッターに選ばれたからな。他にも操られていないのが何人かいるが、耐性の無い者は操られてしまうようだ』

 

 説得しようとしているのに、殴って来た浩二に怒った竜騎は殺害しようとしたが、レンに呼び止められる。レンは浩二の様子がおかしい事をわずかに見ただけで見抜き、更には操られている事すら見抜いた。そればかりか、シコインの催眠電波で操られている事にも気付いた。

 

「ブハハハッ! 見たか!? K1シコインのESPウェーブを! 仲間割れを起こしておるわ!!」

 

 仲間割れを起こす竜騎たちを見て、ブリアの機長はシコインの催眠電波を自慢気に語る。

 竜騎たちを苦しめる催眠電波を発したK1シコインもメガオードの一種であり、無機物のような形をしている。特徴なのはESPウェーブと言う催眠電波を発することだ。何人か効いていないのが居るが、その際は廃人化ESPウェーブを発し、対象を廃人化させることも出来る。

 コンボイ率いる本隊が到着すれば、たちまちシコインの催眠電波に当てられ、殺し合いを始めてしまうだろう。本隊が到着する前に、シコインを破壊、もしくは無力化せねばならない。

 

「アハハハッ! 直ぐにスクラップにして差し上げますからねぇ!!」

 

 あのエルも耐性を持っていないのか、催眠状態にされ、キリコのバーグラリードッグに襲い掛かっていた。ムラタは気合で耐え、捕虜たちの攻撃を躱しながらガダンとテドぺを撃破していたが、ブリアの集中砲火の前では苦戦を強いられていた。

 

「あの洗脳電波を出してる奴はどこ!?」

 

『馬鹿め! 良い的だわ!』

 

「キャアァァァ!!」

 

 トランステクターのF-4ファントム戦闘機に乗り込み、シコインを探すハルであったが、ブリアの対空弾幕に掴まり、乗機を撃ち落とされた。ブリアは他のメガオードと同じく、シコインの護衛も兼ねていたようだ。

 だが、直前にトランスフォームして一体化し、墜落のダメージを減らした。

 

「許せませんね…! こちらが攻撃できないことを良い事に、一方的に攻撃するとは」

 

 シコインの催眠電波を使い、催眠状態にしたエルやハウンド、捕虜たちを味方に引き入れ、そればかりか盾にするスタースクリーム軍団に怒りを覚えたハスミは電子機器を何処からともなく取り出し、凶悪レベルの情報攪乱攻撃を行う。

 

「何人か無事なのが居るな! よーし、廃人化ESPウェーブを見舞って…」

 

「レーダーに反応! 一時方向より敵影アリ! いえ、上からも攻撃が!?」

 

「なんだと!?」

 

 その情報攪乱は、シコインを操作する付近に浮遊する巡洋艦クラスの艦艇に届いた。シコインの操作室を兼ねる艦橋内はハスミの偽情報で混乱し、竜騎たちから見えぬように上手く偽装しているにも関わらず、緊急回避行動を取って姿を晒してしまった。

 これにより、操作艦は見付かってしまい、直ぐに地上に居るトランスフォームしたヘッドマスターのハルによる対艦爆弾による攻撃が行われる。

 

『ハルさん、そこに敵艦が居るので、撃沈しちゃってください』

 

「うわっ!? 本当に居た! あの程度の軍艦なら、これだぁ!!」

 

 ハスミの指示に従ったハルは直ぐに対艦爆弾を投げ付けた。トランスフォーマー形態で投げたので、爆弾は操作艦に命中し、物の見事に轟沈させた。操作していた艦艇を失ったことで、シコインは機能を停止する。

 

「そ、操作艦が!?」

 

 ブリアの機長がシコインを操作していた艦艇が沈んだことに驚く中、催眠電波を当てられていた者たちは正気に戻る。

 

『ふぁっ!? お、俺は何を!?』

 

「お返しだ!」

 

『グワっ!? なんで殴る!?』

 

「どうやら正気に戻ったみてぇだな」

 

 正気に戻った浩二は混乱したが、ゲッターカオス1に殴られ、チームの面々に戻ったことを確認されてしまう。

 捕虜たちに催眠電波を流し、竜騎らを始めとする先発隊に襲わせていたシコインが無力化されたことで、形成はまたも先遣隊に傾いた。

 

「し、シコインが!? クソぉ、こうなれば、皆殺しだ! 全方位無差別攻撃開始ィ!! 味方が居ようが関係ない! 全て殲滅だ!!」

 

 自棄を起こしたブリアの機長は無差別攻撃を始める。ブリアの全ての火砲が火を噴き、味方を幾ら巻き込もうが関係なく、周辺の者全てを殲滅するまで撃ち続ける。搭載爆弾も周囲に投げまくり、辺り一帯を焦土にする勢いだ。

 本隊の脅威であるシコインを倒したところで、ブリアが次なる脅威となってしまった。あの弾幕は幾ら精鋭揃いの本隊にも危険だ。早期に倒す必要性がある。

 

『また無茶苦茶な爆撃を始めやがったぞ!』

 

『あの電波をやられて頭に来たようだな! 戻るか?』

 

「いえ、あれを盾にしましょう。ムラタさん、出来ますか?」

 

『承知! K1シコインを盾にする!』

 

 無差別攻撃による全方位弾幕を行うブリアに近付けぬ先遣隊であったが、ハスミは動かなくなった巨大なシコインを発見し、近いムラタにあれを盾にして接近しようと提案した。これにムラタは承知し、スレードゲルミルでシコインを持ち上げ、盾にしながら前進する。

 これほどの巨体であり、派手に目立つ為か、シコインの装甲は鋼鉄の如く頑丈であった。ブリアの全ての火砲と爆弾を受けても、盾にされているシコインは全くの無傷である。シコインが盾にされていることに気付いたブリアの機長は、集中砲火を命じた。

 

「おのれ! シコインを盾にするとは! 集中だ! 全火砲をあれに集中するのだ!!」

 

 機長の指示でブリアの全火砲による集中砲火が浴びせられれば、シコインの砲火を受けている装甲が傷み始めた。流石のシコインでも、この集中砲火は流石に持ちそうにない。

 

「こ、これ以上は持たん!」

 

『ならば、真下から行くまで! チェンジゲッター、2!!』

 

 集中砲火を受けるシコインが砕け散るのが時間の問題となる中、真下からの攻撃なら通じると判断したレンは、ゲッターカオス1を高速形態である2にチェンジさせ、左手の高速回転するドリルを地面に着き刺し、地中に潜った。

 

「流石のシコインでも、このブリアの全力集中砲火には耐えられん! 死ねぇ! 虫けら共ぉ!!」

 

 その数秒後、シコインは持たず爆発。ハスミたちは丸裸となってしまう。だが、ブリアの真下から地中に潜っていたゲッターカオス2が現れ、内部を高速回転するドリルで抉った。幾ら重装甲でも、戦車と同じく真下からの攻撃は想定されていないのだ。

 

「ドリル、ハリケェェェンンン!!」

 

 ブリアの真下をドリルが貫通すれば、レンは空かさずドリルハリケーンを繰り出し、一気に内部よりブリアを破壊する。

 

「ぎべぁぁぁ!?」

 

 ドリルハリケーンは操縦室にも及び、そこに居た機長含める七名は高速の竜巻で身体を切り裂かれて肉片と化す。

 その後、ブリアは大爆発を起こし、爆炎の中に立っているのはゲッターカオス2一機だけであった。随伴機のメガオードはブリアの無差別攻撃で全滅しており、この場に居るのはハスミたち先遣隊と寝返ったムラタのスレードゲルミル、浩二のダイオンγ、そして捕虜たちだけだ。

 

『やっと倒したぜ』

 

「いや、まだだ。スタースクリームとその軍団のお出ましだ」

 

 一息つく浩二であったが、キリコはスタースクリームとその軍団の本隊が来たことを知らせる。その数は、目を覆いたくなるほどの戦力だ。

 

「げっ、次はあいつ等と戦わなきゃならないの? 嫌になっちゃうわ」

 

 一難去ってまた一難。あの厄介なブリアとシコインとの戦いが前哨戦であったことを知り、ハルは悪態を付くが、味方にも頼もしい増援が来る。それはコンボイ等スーパーロボット軍団の本隊である。

 

「いえ、これからは本戦になりそうです。コンボイ司令官の本隊が来ましたよ」

 

 ハスミはコンボイ等の本隊も同時に来たことを知らせれば、本格的な戦いが始まると悟った。

 

「うわぁ~、本当にスーパーロボット大戦だ…! 僕のイカルガ、持ってきてくれてるかな? 速くあのロボットたちと共に戦いたい!」

 

 敵本隊の襲来とコンボイ等スーパーロボット軍団の到着で目を輝かせて興奮するエルは、速く自分のロボットであるイカルガに乗り、あの者たちと肩を並べて戦いたいと叫んだ。




すげぇ長くなったな…。

次回は本戦です。


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さぁ、戦いだ!

ナレーションのイメージCV政宗一成

名前:リズ・カデンツァ
性別:女性
年齢:17
乗機:ガンダム・バルバトスルプスレクス
概要:ガンダム・バルバトスルプスレクスに乗る黒髪の少女。阿頼耶識システムの適合手術を受けているため脊椎には突起が存在している。
阿頼耶識を加味しても彼女のパイロットとしての能力は低く、動きこそ機敏だが何処か単調なため、ある程度の腕があれば直ぐに彼女の動きは見極める事が可能。
キャラ提供はフォックスバットさん

名前:サカヅキ・ミナホ
性別:女
年齢:16
オーキッドのショートで、セーラー服の上に防弾ジャケットを羽織り、インカムと指出し手袋を着けている物静かなジト目の少女。身長156㎝。女子好きのメカオタ。
彼女のガンダムF90は無人の支援機であるミッション・ブースターから三つのパックを換装することが出来る。
乗機:ガンダムF90・パワードカスタム
キャラ提供はハナバーナさん

名前:ローラーバンキ
性別:蛮機獣・害地目
年齢:不明
階級:蛮機獣・害地目
所属:ウィンデル軍団・蛮機族
概要:ロードローラーが元ネタの蛮機獣
体の正面に直径が自分の身長と同じサイズのローラーを持っており、突撃して対象を引き潰す戦い方をする。
口癖は「ロラララ」

名前:ガスバンキ
性別:蛮機獣・害気目
年齢:不明
階級:蛮機獣・害気目
所属:ウィンデル軍団・蛮機族
概要:コンビナートの球状ガスタンクが元ネタの蛮機獣
ガスタンクにパイプの足が生えたタコの様な姿をしており、足先から可燃性ガスを放出して対象を燃やす戦い方をする。
口癖は「ガシュガシュ」

名前:クワバンキ
性別:蛮機獣・害地目
年齢:不明
階級:蛮機獣・害地目
所属:ウィンデル軍団・蛮機族
概要:鍬(クワ)が元ネタの蛮機獣
公式蛮機獣のスコップバンキのパーツを鍬に差し替えた様な姿をしており、両手の鍬で相手を地面ごと耕す戦い方をする。

名前:コウアツバンキ
性別:蛮機獣・害水目
年齢:不明
階級:蛮機獣・害水目
所属:ウィンデル軍団・蛮機族
概要:高圧洗浄機が元ネタの蛮機獣
胴体と頭部が高圧洗浄機になったブラキオサウルスみたいな姿をしており、頭部から高出力の強酸を放出して戦う。
キャラ提供はリオンテイルさん

「P9ドロム」
全幅:200メートル
全高:100メートル
全長:45メートル
概要:馬鹿でかい自爆型メガオート。
特殊な膜を全身に施しており、実弾を弾くだけでなく、光学兵器やエネルギー兵器も吸収し、更には跳ね返してくる。障害物粉砕用にチェーンソーを備えている。
提供は俊伯さん

名前:ビルゼー
性別:男
年齢:?
階級(役割?):母艦(アポカリクス級航宙母艦:『宇宙戦艦ヤマト2202愛の戦士たち』に登場)
所属:スタースクリーム軍団移動母艦
概要:スタースクリーム軍団に所属(製造?)する巨大空母型トランスフォーマー。
ガルダーゴンでマスターチーフに撃破されたバルゼーの弟?(二番艦)
バルゼーが撃破された戦闘データを元にスタークスクリームによって首元の装甲強化・対空砲の増設。
更に取り憑かれた時用の放電機能の追加に各所に補助AIを搭載することで処理能力も向上し若干話し方が滑らかになった。
キャラ提供はkinonoさん


 コンボイ等スーパーロボット軍団とスタースクリーム率いるその軍団とヴィンデルの手先たちによる戦いの火蓋が切って落とされた。

 先に仕掛けたのは、先んじて出撃して先行するチームダルタニアスを率いる修人のアトラウスであった。

 

「一番槍はこの俺だ! 行くぜ、ガトリングフラッシャー!!」

 

 先んじて仕掛ける修人は、アトラウスの両腕に内蔵されたガトリング砲を掃射し、背部単装レールキャノンを撃って撃墜しようとしてくるガダン複数をハチの巣にした。

 

「シュレッダーパンチ!」

 

 続けざまにアトラウスの前腕部のパーツよりトゲを大量発射して複数の敵機を纏めて撃破する。

 

「ハンドスライサー! そりゃぁ!!」

 

 それだけに終わらず、両膝外側パーツをカタール状の剣に変形させ、長巻を持って斬りかかって来る複数のガダンをハンドスライサーで次々と斬り捨て、更に二振りを合体させ、ブーメランにした。

 

「ブーメランカッター!」

 

 狙うのは上空から空襲してくる複数のSV-51だ。投げられたブーメランは可変戦闘機の集団を見事に切り裂き、爆発の連鎖を巻き起こした。これで喜ぶ修人であるが、索敵を疎かにした所為か、背後から来る敵に気付いていなかった。

 だが、ダルタニアスはチームだ。べラリオスに乗るフウが修人のアトラウスの背後から迫り、左腕部のクローで切り裂こうとしてくるテドぺに向け、背中のミサイルランチャーと両目のビームの集中砲火を浴びせて撃破する。

 

『修人の兄貴! また後ろが疎かだぞ!』

 

「おっ、スマンスマン」

 

『何度言わせるんだ! いい加減学習してくれよ!』

 

 悪気も無く礼を言う修人に対し、フウは自分に襲い掛かるテドぺをべラリオスの前足の爪で切り裂いて撃破しつつ注意した。

 これに上空でコクピット下部のアームを伸ばし、先端の三角形のカッターで敵機を切り裂いた重戦闘機ガンパーに乗るナブヤとサラは、後でコンボイ等にまた鍛え直してもらうしかないと告げる。

 

「修人は馬鹿だからね。またコンボイさんたちに鍛えて貰わないと!」

 

「そうそう。馬鹿は身体で覚えさせるしかないってね」

 

 機体側面のミサイルで敵機を二機ほど撃破しつつ、修人には体で覚えさせる他ないとナブヤとサラは言う。これに修人は抗議したが、ダルタニアスチームは突出し過ぎたのか、いつの間にか敵に包囲されていた。

 

『お前ら酷いぞ! わっ!?』

 

『キャッ!?』

 

『うわっ!?』

 

「合体する前に、スクラップにしちまえ!」

 

 三体の合体前のメカに対し、包囲したスタースクリーム軍団のジェットロンを含める多数のメカが一斉射を始める。

 そんなダルタニアスチームの窮地を救ったのは、天海が駆るムラサメライガーであった。彼女が駆るムラサメライガーは背中のムラサメブレードで、チームを包囲する敵ロボットを次々と切り裂き、包囲に穴を開けた。

 

「先行し過ぎだっての!」

 

『わ、悪かった! スマン!』

 

 小型ゾイドであるレブラプターの集団をブレードで切り裂きつつ、天海は突出し過ぎたダルタニアスチームを注意した。これにチームリーダーである修人は謝罪し、コンボイ等が居る本隊へと戻り、体勢を立て直し始める。

 ダルタニアスチームの殿を務めた天海は、ムラサメライガーのブレードを駆使して追撃しようとする敵機を次々と切り裂いていく。動きは無駄がなく、ゾイド好きの天海の相性も重なり、無類の強さを誇っていた。

 そんな彼女に軍団が寄越したのは、最強の恐竜型巨大ゾイドと名高いデスザウラー三機である。

 

「ちょ、デスザウラー!? それも三機!?」

 

 赤いデスザウラー三機の出現に天海は驚愕する。通常タイプとはいえ、デスザウラーは侮れないゾイドなのだ。そんな物が三機も出たことに、彼女は驚きを隠せない。

 動揺する天海にお構いなしに、三機のデスザウラーは口から放たれる荷電粒子砲を放った。流石のムラサメライガーも、三機分のデスザウラーの荷電粒子砲を受ければ消滅してしまうだろう。

 だが、このムラサメライガーはエヴォルトと呼ばれる搭乗者の意思を反映した姿に瞬時に変身する脅威の能力を秘めている!

 

「ハヤテライガー!」

 

 奄美の掛け声と共に、ムラサメライガーは高速形態であるハヤテライガーへと瞬時に変身した。ゾイドが変身することに、三機のデスザウラーに乗るパイロット等は驚きの声を上げる。

 

「おっ、おぉーッ!?」

 

『ゾイドが変身したァ!?』

 

『ゾイドが変身するなんて、聞いてないぞ!?』

 

 ムラサメライガーからハヤテライガーに変身すれば、三機分の荷電粒子砲をその機動力を生かして躱した。それから背部のブレードからブースターを吹かし、弾丸の如くの速さで近い距離に居るデスザウラーに接近した。

 

「う、うわっ!?」

 

 目にも止まらぬ速さで迫るハヤテライガーに、デスザウラーのパイロットは両手の鋭利な爪で切り裂こうとするが、ハヤテライガーはそれをも躱し、頭部に噛み付き、口内のパイルバンカーを打ち込んでパイロットを殺害した。

 即座に口を離せば、再び荷電粒子砲を撃ち込もうとする二体のデスザウラーに対し、両前足に着いた二本のブレード、その名もハヤテブレードで切り裂くために再び背部のスラスターを吹かせ、高速で迫る。

 荷電粒子砲を撃つよりも速くハヤテライガーが通り過ぎた為、二体のデスザウラーは同時に一刀両断された。

 

「もうちょっと遅かったら折れてたな」

 

 二振りのハヤテブレードはムラサメブレードよりも弱くなっているので、重装甲のデスザウラー三体を斬るには、高速で切り裂くしか無かった。

 そんな単独で数十体もの敵機を仕留めた天海のハヤテライガーに、バーグラリードッグに乗るキリコが折り畳み式レールキャノンを展開させ、彼女の背後を襲うとする敵機を撃ち抜いた。

 

『後退しろ。目標も合流している』

 

「了解!」

 

 キリコの指示を受け、天海も本隊の方へ後退した。

 

 

 

『サイバトロン戦士、アタック!』

 

「着陸地点に敵自爆型巨大兵器多数を確認。破壊します」

 

 コンボイ等の本隊も到着し、スタースクリーム軍団と交戦を開始する中、多数の搭載機を展開しながら降下するスキアのヴァルザカード・セカンドGは、降下地点に大量に展開するP9ドロムと呼ばれる巨大自爆型メガオートを確認し、搭載兵器を撃ち込んだ。

 ゲッター線を吸収してパワーアップしており、ゲッターマシンガンやゲッターミサイル、ゲッタービームなどを撃ち込んで一掃を試みるが、ドロムは特殊な膜で実弾壁を無力化し、ビームを跳ね返して来る。

 跳ね返って来る自分の攻撃に対し、スキアは即座に回避行動を取りながらドロムの特殊装甲を解析する。

 

「敵自爆型巨大兵器の装甲に、光学兵器やエネルギー兵器を跳ね返す特殊コーティングが施されている模様。通常兵器も効果が認められず。全部隊に通達。敵巨大兵器にビームやエネルギー兵器の使用を厳禁。格闘兵器による攻撃を推奨します」

 

「それを速く言ってくれっての!」

 

 ドロムが攻撃を弾き、ビームやエネルギーなどを跳ね返してくると伝えれば、トランステクターであるF-4ファントム戦闘機に乗るハルが、跳ね返されるゲッタービームを躱しながら怒鳴った。

 格闘兵器による攻撃が有用だと思うスキアは、ヴァルザカードを地面に着地させた後、自爆するために高速で接近するドロムを掴み、自爆する前に敵陣の方へと投げる。結果、投げ付けたドロムは爆発する。

 自爆攻撃を避けるには有効な手だが、敵軍には損害を与えられなかった。スキアはドロムの自爆時間を計算しつつ、次に突っ込んでくるドロムを捕まる。

 

「敵自爆兵器、自爆までの時間、三十秒と推定。自爆シークエンスに入る前に、捕まえて敵軍に向け、三十秒以内に投擲します」

 

 そう言いつつ、スキアはドロムを捕まえ、自爆シークエンスに入る前に敵陣に向けて投げ付けた。ヴァルザカードはゲッター線で強化されており、投げる動作が恐ろしく速かった。

 投げた瞬間にドロムは自爆シークエンスに入り、三十秒ほどで敵陣の真上で爆発し、群れをなして総攻撃を仕掛けようとするジェットロンやバルキリー、他の航空機集団を吹き飛ばした。

 

「敵地上部隊に想定通りの被害は与えられない物の、敵航空戦力にそれなりの損害を確認。引き続き、敵自爆兵器を投擲します」

 

 これにそれなりの効果があると見たスキアは、続けて自爆しようと接近してくるドロムを捕まえ、敵陣に向けて投げ続ける。

 

「う、うぉ!? ドロムを直ぐに自爆させろぉ! あの馬鹿でかい奴の手榴弾にされている!」

 

 敵に被害を与えるはずのドロムが逆に自分らの被害を与えてしまうことに気付いた指揮官は、ドロムを直ぐに自爆させようと命じるが、命令を出すのが遅過ぎた。これでスーパーロボット軍団の快進撃は続くかと思わたが、ドロムに続いて新たな障害が現れる。それは、ガルダーゴンでマスターチーフによって破壊されたはずのアポカリプス級航空母艦に変形するバルゼーであった。

 

「トランスフォーム! ビルゼー、敵巨大ロボと交戦開始する!」

 

「敵空母のトランスフォーム確認。交戦を開始します」

 

 人型にトランスフォームしたバルゼーではなく、ビルゼーはスキアのヴァルザカードによって次々と投げられるドロムを弾き飛ばした後、多数のミサイルを撃ちながら接近した。

 バルゼーとビルゼーの違いは、首元の装甲強化と対空砲の増設である。最後のドロムを近付くビルゼーに投げ付けたスキアは、飛び掛かって来る敵巨大トランスフォーマーと交戦すると言って何処からともなく専用ソードを取り出して身構える。

 

「のぉぉぉ!!」

 

 自爆寸前のドロムを弾いたビルゼーは続けざまに仕掛けられたヴァルザカードを斬撃を躱し、右拳を打ち込んだ。これを受けたヴァルザカードはよろけるが、直ぐに体勢を立て直して剣を振って反撃する。巨大ロボット同士の戦いだ!

 

『この敵巨大トランスフォーマーは私が抑えます!』

 

「あぁ、是非そうしてくれ!」

 

 スキアがビルゼーを抑えると全員に通信で告げる中、ガンダムアストレアTYPE-Xフィンスターニスを駆る刃はそうしてくれと言いつつ、自分に接近してくる敵機をGNシャープシューターで撃破しながら、地上の敵を打ち倒しながら進むリズ・カデンツァが駆るガンダム・バルバトスルプスレクスとサカヅキ・ミナホのガンダムF90・パワードカスタムと合流する。

 同じガンダム同士、連携を取って敵の前衛を崩そうと言うのだ。もっとも、刃がただ誰かと一緒に居たいと言うのが本音であるが。

 

「よう、嬢ちゃんたち。同じガンダム同士、仲良くしようぜ!」

 

『それ、ナンパ?』

 

『私、あなた好みじゃないんだよね』

 

 地上に降りた瞬間に、GNツインブロードソードで複数の敵機を切り倒した後に刃はナンパ染みた口調で連携を取ると両ガンダムに乗る二人の少女に告げたが、リズはテイルブレードと呼ばれる尻尾で複数の敵機を切り裂いてから不機嫌に答え、ミナホは視界に入る全ての敵機をキャノン砲や両腰のウェスバーで一掃してから好みじゃないと返す。

 

『いや、決して口説いてる訳じゃ!』

 

「分かってるっての。それよりも連携って話だったね? 刃さん。ミナホ、そっちの準備は?」

 

 ナンパと思われて動揺する刃をからかいつつ、リズは機体の両腕部の200ミリ砲で邪魔な敵機を仕留めてから近付こうとするテドぺを超大型メイスで両足を潰し、倒れたところで頭部に振り下ろして動かなくなるまで叩いた。

 無論、リズは刃がガンダム同士で連携を取ると言うことを理解している。連携の準備が出来ているかどうかを、重武装状態のガンダムF90に乗るミナホに確認する。

 

「あぁ、待って。ミッション・ブースターでやり易いパックに換装するから」

 

 連携を取ると聞いてか、ミナホは刃とリズの接近型にやり易そうな装備に換装すると返し、上空で自機について来るミッション・ブースターを操作して近接型に換装しようとする。

 このまま支援すれば良いが、コンボイ等が居るので、安心して近接型に換装できるのだ。刃は換装の間は無防備になると思ってか、煙幕を展開し始める。

 

「えっ、なに?」

 

『換装の際は無謀になるだろう? 俺が援護してやる』

 

『やっぱナンパじゃん』

 

『う、煩い! これは援護だ! カデンツァ、お前もサカヅキの援護をしないか! 敵が来てるんだぞ!!』

 

『はいはい』

 

 頼んでも居ないのに、煙幕を展開した刃に問えば、無防備だからと思ってやったと返した。これをリズは面白がって気があるんじゃないかと刃に問うと、顔を真っ赤にして彼女にも援護しろと怒鳴り付ける。

 生返事をしてリズも換装中のミナホのF90に接近してくる敵機を200ミリ砲で牽制しつつ、テイルブレードで切り裂く。刃のガンダムアストレアもシャープシューターで近付く敵機を排除した。

 

「よし、ソードタイプ感想完了! 行くよ!!」

 

「サイバトロン戦士、三機のガンダムの援護だ! 撃て、撃てぃ!!」

 

 二人の援護のおかげか、ミナホのF90は近接特化型のパックに換装することが出来た。それが終われば、三機の近接型のガンダムはコンボイ等サイバトロン戦士たちの援護を受けつつ、敵陣へと突撃を行い、目に見える敵を斬り倒していく。その動きは、流れるように滑らかであった。

 アストレアが先陣を切って続けざまに四機の敵機を切り裂けば、リズのバルバトスが大型メイスで大型の敵を吹き飛ばし、倒れたところでヒールバンカーと呼ばれる踵部に装備されたパイルバンカーを打ち込んで息の根を止める。それから左側面から飛び掛かる敵機を、左手のレクスネイルで串刺しにする。

 ソードタイプに換装したミナホのF90は片方がビームの刃となっている大剣で大型機を三機ほど切り裂いた後、素早く両腰に付いた実体験の片手剣を抜き、二刀流で目前に居る敵機を次々と斬り捨てる。それから背後から来る敵機に右足の爪先からビームの刃を展開し、それで敵機を切り裂いて撃破した。

 

「ほぅ、流石は異世界のシルエットナイト。それにあの喋って姿を変えて人のような知性を持つシルエットナイトたちも中々の腕前ですね! 私はどっちとも気に入りませんが」

 

 三機のガンダムが敵機を近接武器で次々と切り裂いていく中、コンボイ等サイバトロン戦士等は三機を狙おうとする敵機を射撃して援護する。

 この様子を地上に向けて炎のブレスを吐き、敵軍を焼き払っている飛竜戦艦に乗るオラシオが目撃しており、中々の連携と機体の性能の高さに舌を巻くが、自分の好みでは無いので気に入らないと吐き捨て、出撃前にホイルジャックに着けてもらった二門の大口径カノン砲を試す。

 

「あ、あぁ、ホイルジャック氏。貴方がたがこの私の飛竜戦艦(ヴィーヴィル)に付けた、100ミリカノン砲? と呼ばれる異世界の兵器、試射をしたいのですが?」

 

『なに、もう試すんか? 弾薬は貴重やから、重要な目標せんとな』

 

「弾薬は貴重、ですか。では、上空の敵艦にしましょうか。この私を愚弄するかの如く空に浮かぶあの憎き敵浮遊戦艦を!」

 

 弾薬は貴重であるためか、装備してから一度も試射をしてないので、目標はオラシオが憎いと言う敵艦に決まった。照準はこの世界の遥か先を行くトランスフォーマーの科学力で直ぐに定まり、後は引き金を引いて撃つだけであった。

 

『よーし、100ミリカノン砲…』

 

「引き金は私が! 発射ぁ!!」

 

 ホイルジャックが撃つはずであったが、オラシオは余りの憎さに引き金を勝手に引いてしまった。発射された貴重な砲弾は見事に標的の敵艦に命中し、敵艦は爆発炎上しながら地面へと落下していく。

 

「なんと素晴らしい威力! 大艦巨砲主義万歳ッ!! しかし、これは私の物ではないッ! いつの日か、自分で作った物で…! あのエルネスティを、打ち負かして見せますぅ!」

 

 これを見たオラシオは感激し、欲しいと思うが、技術者のプライドが許さなかったらしく、いつの日か自分の手で作り上げると豪語した。乗っているホイルジャックとラチェットは呆れていたが、

 

 

 

「ロララ! ヴィンデル様の邪魔する奴、全員纏めてこのローラーで引き潰してやるロラ!!」

 

「ガシュガシュ! ヴィンデル様の邪魔をする奴全員、この可燃性ガスで汚らしく焼き払うとするガシュ!!」

 

「クワックワックワァ! ヴィンデル様の邪魔をする奴全員、この両手のクワで耕すでクワ!!」

 

「シュバー! ヴィンデル様の邪魔をする奴は、高圧洗浄するシュバー!!」

 

 この不気味で奇怪な四人の怪人は蛮機獣!

 身体の正面に直径が身長と同じサイズのローラーを持っているのがローラーバンキ。

 ガスタンクにパイプの足が生えたタコのような姿をしたのがガスバンキ。

 両手がクワなのがクワバンキ。

 胴体と頭部が高圧洗浄機なブラキオサウルスのようなのがコウアツバンキ。

 

「何あいつ等!? このサイバトロンの人たちから貰ったレーザーガンと言う奴で!」

 

 その奇怪で不気味な怪人四体は、ヴィンデル・マウザーの名の下にコンボイ等スーパーロボット軍団に襲い掛かろうとしたが、ツバキ・R・ハルパニアが駆るサイバトロンが使うレーザーガンを装備したリューハイロード・オリビアの攻撃を受け、呆気なくやられてしまった。

 

「ロラァーッ!」

 

「ガシューッ!」

 

「クワァーッ!」

 

「シュバーッ!」

 

 呆気ない。余りにも呆気なさ過ぎる。

 

「ふぅ、びっくりしたけど、大した奴じゃなかったわね」

 

 余りの蛮機獣四体の呆気なさに、ツバキはこれで倒したと思う。

 無論、それが間違いであることが、彼女は身を以て知ることになろうとは、この時はまだ考えても居ない。

 

 戦いは尚も続く!




次回はヴィラン総登場…かな?


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強敵、スタースクリーム軍団!

名前:キングマキシマム
性別:オス
年齢:345歳
乗機:ジャイアント・キングマキシマム(+15体)
概要:「ダイの大冒険」に登場し編集長にも弄られてる最低で馬鹿な生きてる駒。ゴッドカオスが気まぐれで蘇らせた
クイーン・ナイト・ビショップ・ポーンからなる二十メートルくらいの駒15体を操る三十メートルほどの巨体と成って復活した、訳ではなく、その中に本人が隠れており操っている。
本人は巨大な機体と全駒が揃ってることで調子に乗ってるが、相変わらず駒は指示がないと動かない事と指示をだす本人が馬鹿なのは変わらずである
更に言えば別に飛行能力や遠距離攻撃手段を獲得した訳ではないので装甲を突破できる相手や飛べる・遠距離攻撃を出来る相手には動く的に等しい。それでもオリハルコンの守りを突破できない相手には十分脅威で有る。
キャラ提供はkinonoさん

名前:トピアス
性別:ーー(脳のみの為身体に性別は存在しない)
年齢:ーー(実験体の為抹消されており不明)
乗機:量産型エヴァンゲリオン改
概要:複数の非道な実験の結果、強力なESPを発現したものの、五感を失い脳だけとなってLCLカプセルに保存されている元少女。
普段は、頭部が内部に浮かぶ脳が見えるLCLカプセルになっているアンドロイドをESPで操作して行動している。
発声は出来ず、コミュニケーションは全てESP(テレパシー)で行う。
乗機の量産型エヴァンゲリオン改は、通常のエヴァ量産機(翼持ち)から更に2対4本の腕が生えていて計3対6本の腕があるタイプ。
コピーロンギヌスは持っていないが、腕がワンピのルフィのゴムの如く長く伸びる
伸びた腕で相手を掴み、ESPで強制的に精神を同調させて廃人にする戦い方から「無血」と恐れられている。
キャラ提供はリオンテイルさん

名前:ミザーク・アーベィ
性別:男
年齢:19
乗機:バイオンβ
概要:ヴィンデルの影響下にある世界の出身の志願兵。
マジンガー軍団の一員に選ばれたことを誇りに思っており、ライトナーのマジンガーを偽物と断じる。
キャラ提供は秋音色の空さん

「S1ギズホ」
全長:120メートル
概要:外見はダイオウホウズキイカをメカ化させてから約10倍まで巨大化させたような感じの巨大水中用メガオート。
形状の為、地上では活動できず、水中しか運用できない。
提供は俊伯さん


「サイバトロン戦士ならびスーパーロボット軍団! このまま一気に行くぞぉ!!」

 

 圧倒的快進撃!

 サイバトロン総司令官のコンボイの掛け声の元、サイバトロン戦士とスーパーロボット軍団は快進撃していた。

 数には劣るが、士気も練度も高いサイバトロンとスーパーロボット軍団の前に、スタースクリーム軍団とヴィンデルの連合軍は蹴散らされるばかりだ。レーザー砲を積んで火力が増加したアディとキッドのツェンドルグも奮戦しており、既に十機の敵機を仕留めている。

 エルも自分のイカルガを受領しに、ヴァルザカードに向かっている。エルとイカルガが戦列に加われば、スタースクリーム軍団とヴィンデルの軍をこの世界より追い返すことが可能だろう。

 

『な、何と言う事だ!? 我がヴィンデルの軍が押されている!?』

 

「クソっ、あいつ等め! なんてだらしのねぇ野郎共だ!」

 

 ヒドラー元帥が圧倒される自軍を見て驚愕する中、スタースクリームは配下の軍団がだらしのない事に苛立っていた。

 母艦とされているビルゼーがスキアのヴァルザカードを抑えているが、いずれかは連携に長けるスーパーロボット軍団の連携攻撃で倒されてしまうだろう。

 

「このままだと、ビルゼーがぶっ壊されちまう。テメェらも出ろ! マジンガー軍団も出撃だ!!」

 

 せっかく分捕ってトランスフォーマー化させたビルゼーを失うわけにはいかないので、スタースクリームは全力を持ってコンボイ率いるスーパーロボット軍団を迎え撃つことにした。

 彼の命を受け、グランドスタースクリームの艦橋部分より続々とF-15やF-22、MiGー29、Su-27と言った戦闘機にトランスフォームするジェットロンが出撃する。周辺の随伴艦からも続々とゴステロやガウルン、サーシェスと言った者たちも出撃していた。それにヴィンデルより受け取ったマジンガー軍団も出撃している。

 

「スタースクリーム軍団に後れを取るな! 我がヴィンデル軍も全力を持って奴らを叩き潰すのだ!!」

 

『はっ!!』

 

 スタースクリームに負けじと、ヒドラー元帥も配下の軍団を出撃させる。その数、スタースクリーム軍団を遥かに凌ぐ圧倒的物量だ。見たこともない物体も紛れている。

 

『ブレストファイヤー!』

 

 浩二のダイオンγと組んで多数の敵をブレストファイヤーで焼き払っていたライトンのジェットスライダー兼ロケットパンチ型のマジンガーZは、大規模な敵の増援を確認する。

 

「敵の増援か! 凄い数だな!」

 

『あぁ。だが、マジンガーZとこのスーパーロボット軍団なら物の数じゃないぜ!』

 

 迫り来る敵の大群に対し、正義の軍団と共に戦って調子に乗っている浩二は、物の数ではないと豪語する。だが、そのマジンガー軍団は浩二の予想を遥かに上回る強さであった。

 

『ルストハリケーン!』

 

『グワァァァ!!』

 

「浩二!? それにあれはルストハリケーン! 敵にもマジンガーZが!?」

 

 浩二のダイオンγはルストハリケーンで吹き飛ばされる。この酸を纏った突風攻撃で、ライトンは敵にマジンガーZが居るのかと驚くが、ルストハリケーンを放ったのはバイオンβであった。

 

「バイオンβ!? それにミリオンαまで! マジンガー軍団がなぜ!?」

 

 ルストハリケーンを放ったのが、バイオンβな事に驚き、更にマジンガー軍団のミリオンαまで居ることにライトンは動揺する。

 ダイオンγも含め、バイオンβ、ミリオンαは本来マジンガーZの味方であるマジンガー軍団のロボなはずなのだ。それが敵軍として、大挙して自分たちに襲い掛かって来る。

 

『見付けたぞ、偽物のマジンガーめ! このバイオンβで破壊してやる!』

 

 裏切り者の浩二のダイオンγをルストハリケーンで吹き飛ばしたバイオンβに乗る青年、ミザーク・アーベィは、ライトンのマジンガーZを偽物と断定し、再びルストハリケーンを放った。

 

「くっ、こいつはオリジナルの一機なんだぞ! ルストハリケーン!」

 

 拡声器で偽物呼ばわりされたライトンは、自分が乗るマジンガーZも神にも悪魔にもなれる黒鉄の城であると怒り、本物と証明する為、ルストハリケーンで撃ち返す。

 このルストハリケーン対決に勝利したのは、兜甲児ではなく、ライトンが乗るオリジナルのマジンガーZであった。本物のルストハリケーンを受けたミザークのバイオンβは吹き飛ばされる。

 

『うわぁぁぁ! な、なぜ貴様がマジンガーに乗っている!? 兜甲児でもない癖に!!』

 

「このマジンガーZは兜甲児さんより頂いた物だ! 即ち、兜さんのおかげで光子力とマジンガーZEROに選ばれ、俺はライトン・イェーガーとなったのだ!」

 

『貴様は、何を言っている!?』

 

 兜甲児でもない癖に、何故マジンガーZに乗っているのかと問うミザークに対し、ライトンは正式にその兜甲児よりマジンガーZを授かったと答えた。そればかりか、自分は選ばれたのだから、ライトン・イェーガーとなったと意味の分からないことを言い始める。

 これに激しく動揺するミザークであるが、どちらにせよ、このような男がマジンガーに選ばれるはずが無いと断定し、目前の本物を自称する偽物の排除に専念する。

 

『貴様が、貴様のような奴が! マジンガーに選ばれるはずが無い! マジンガーを汚すな! この偽物がァァァ!!』

 

 ルストハリケーンを使わず、全力で襲い掛かるミザークのバイオンβに対し、ライトンも本物と認めさせるべく、迫り来るマジンガー軍団のロボを迎え撃つ。

 

「確かに認められないだろうな。だが、このマジンガーZは、本物だァ! ロケットパンチ!」

 

 迎え撃つ技はロケットパンチ。右手をバイオンβに向け射出し、高速の鉄拳で打ち倒そうとしたが、躱されてしまう。空かさず飛ばした右手を戻して飛び掛かるバイオンβに蹴りを入れ込み、距離を取った。

 怒りに任せて攻撃する敵機は、ルストハリケーンを放つ素振りを見せる。これにライトンはマジンガーZの胸のブレストファイヤーで焼き尽くさんとした。

 

「ルストハリケーンか。なら、こちらはブレストファイヤーで!」

 

『後ろだ!』

 

「っ!?」

 

 ブレストファイヤーで反撃しようとした時、ミリオンαの電磁砲がライトンのマジンガーZの背後から迫った。これを同じダイオンγと交戦している浩二より知らされ、寸でのところで躱すことに成功した。

 

「ミリオンαまで居るのか…!」

 

『ヴィンデル様の邪魔をする奴は許さないわ!』

 

『今度は当てる…!』

 

 背後を振り向けば、ミリオンαが再び電磁砲を放とうと旋回していた。

 ミリオンαまであることにライトンが驚く中、右操縦席担当のレイア・シャルロは操縦桿を巧みに操作し、左操縦席ではなく電磁砲発射担当のセリス・シャルロは仕留めるべく、照準がマジンガーZに合わさるのを待つ。

 

「電磁砲は厄介だ。先にミリオンを!」

 

 ミリオンαの電磁砲は厄介と断定し、先にそちらを仕留めようとしたが、ライトンのマジンガーZを偽者と断じるミザークがただ見ている訳が無く、ルストハリケーンを放って来る。

 

『レイア、セリス! 偽物の動きは俺が封じる! 止まったところをやれぇ!!』

 

「ちっ、こいつが残っていた!」

 

 放たれるルストハリケーンを避けたライトンは、バイオンβとミリオンαの連携に苦戦を強いられた。

 

 

 

「うわっ!? 使徒化したエヴァンゲリオンだァ!」

 

 快進撃を続けるサイバトロン戦士やスーパーロボット軍団の一団を率いるパトカーに変形する戦略家プロールらの前に、あのエヴァンゲリオンが姿を現した!

 だが、象徴的な初号機ではない。量産型タイプのエヴァンゲリオンで、それも三対六本の腕が生え、背中に翼を生やした使徒化状態となっている量産型エヴァだ。その名も量産型エヴァンゲリオン改。搭乗者は、脳だけがLCLカプセルに保存された少女トピアス。アンドロイドがトピアスのテレパシーで動いている。

 これを見たプロールを初め、サイバトロンとスーパーロボット軍団の一団は恐れ戦き足を止める。足を止めた敵軍に対し、量産型エヴァ改は六本の腕を伸ばして捕まえに来る。

 

「み、みんな! あの腕に掴まれば、廃人になるぞ!」

 

 この使徒化状態の量産型エヴァ改の能力を知るプロールは、直ちに伸ばされた腕に掴まらないように叫んだ。あれに掴まれば、テレパシーで強制的に精神を同調させられ、廃人となってしまうからだ。

 プロールの警告を聞き、縦横無尽に飛んでくる六本の腕から逃れる戦士たちであるが、シティターボに変形する理論家、スキッズが量産型エヴァ改の腕に掴まってしまう。

 

「うわぁぁぁ! た、助けてくれぇ!!」

 

「待っていろ! 直ぐに助けてやる!」

 

 捕まってテレパシーを流され、精神を同調されて廃人化されてようとするスキッズは助けを呼ぶ。直ぐにプロールを初め、ストリークやサンストリーカー、ランボル、ミニボットのチャージャー、ドラッグ、トラの大型ゾイドのセイバータイガー三機、ガンキャノンなどがスキッズを捕まえている腕に向けてレーザーガンを浴びせるが、全く効果が無い。そればかりか、ドラッグも捕まってしまう。

 

「は、離せ! ギャァァァ!?」

 

「ドラッグが!?」

 

『お、オマリーィィィ!!』

 

 ドラッグのみならず、黄色のセイバータイガーの一機も捕まってしまう。捕まったドラッグも含め、それに乗るパイロットも廃人化されそうになるが、ここで救援が現れる。念神エクリプスを駆るハスミ・クジョウだ。

 族輪の日鏡と呼ばれるサークル型のチャクラムを無数に出現させ、それでスキッズやドラッグ、セイバータイガーを掴んでいた量産型エヴァ改の腕を切り裂いたのだ。新たに出現したハスミに、量産型エヴァ改は残り三本の腕を下げ、そちらに警戒する。

 

「クジョウか、助かったぞ!」

 

「貴方たちは下がってください。この使徒化状態の量産型エヴァの相手は私がします」

 

「あ、あぁ!」

 

 危うく廃人化されそうになった者たちを直ぐに回収したプロール等に対し、ハスミは下がらせるために自分が量産型エヴァ改と戦うと告げる。自分らではエヴァンゲリオンに敵わないと百も承知なプロール等は従い、目前の敵を避けて進軍を続ける。

 それを妨害しようと、量産型エヴァ改はプロール等にレーザーを放とうとしたが、ハスミのエクリプスの反転の月鏡と呼ばれる防御用結界で戦士たちを守った。更に接近させないため、銅月の縛糸と呼ばれる足止め技で量産型エヴァ改の動きを封じる。

 

「貴方の相手は私ですよ。量産型エヴァさん」

 

 標的を取り逃した量産型エヴァ改を駆るトピアスは、標的をハスミのエクリプスに切り替え、レーザー攻撃を始めた。

 

 

 

 スタースクリーム軍団とヴィンデルの軍の攻撃は苛烈さを極めた。地上のみならず、上空からも雨あられの攻撃がコンボイ等を襲う!

 

「ヒャハハハッ! 死ねぇ!!」

 

 ゴステロのダルジャンが上空より死鬼隊も含め、多数のブレイバーやソロムコと言った多数の随伴機を引き連れ、コンボイ等に空襲を仕掛ける。これにコンボイ等は遮蔽物へ隠れ、反撃を試みるが、今度はサーシェスやデジルと言ったMSに乗る者たちの第二派攻撃が始まる。

 

「ここは行き止まりだぜぇ! 正義のロボットさんたちよぉ!!」

 

『死ねよテメェら!!』

 

 サーシェスのヤークトアルケーガンダムとデシルのクロノスによる攻撃で、コンボイ等サイバトロンとスーパーロボット軍団による連合軍の進撃は止まる。地上からも、ガウルンとゲイツのコダールを含める地上部隊が強襲してくる。

 刃のガンダムアストレアとミナホのF90ガンダム・パワードカスタムがサーシェスとデシルの対処に回り、地上は天海のムラサメライガーと言った地上部隊が対処に回る。修人率いるダルタニアスチームも、敵地上部隊と共に押し寄せる機械獣やメカザウルスの対処に回った。

 

「コンボイ等はやらせん!」

 

『邪魔すんじゃねぇぞ! 同業者がァ!』

 

 刃は上昇し、サーシェスのヤークトアルケーと対峙する。GNツインブロードソードでヤークトアルケーが振り下ろしたGNバスターソードを防ぎ、接触通信でサーシェスに向け、コンボイ等はやらせないと告げる。刃が傭兵であることを知るサーシェスは同業者と叫び、蹴りを入れ込んでアストレアを蹴飛ばす。

 ヤークトアルケーに蹴飛ばされたアストレアは直ぐに体勢を立て無し、GNシャープシューターで反撃するが、サーシェスの倍返しを受ける。反撃の隙が無く、躱すしかないのだ。

 

「ちっ、なんて弾幕だ!」

 

『どうしたァ! えぇ!? その程度かぁ? 同業者さんよぉ!!』

 

「あれだけの重装備で良く動くぜ。しかも接近戦までするのか!?」

 

 飛んでくるミサイルとランチャーのビーム攻撃に刃は裂けながら反撃するが、サーシェスはそれを読んで躱し、そればかりか接近してくる。これに刃も素早く対応して振るわれるバスターソードをツインブロードソードで防いだ。

 

『やっぱ戦争は白兵でねぇとな! 敵を切り刻む感覚が最高よぉ!!』

 

「この戦争狂が…!」

 

 力尽くでバスタードソードの斬撃を防ぎつつ、刃はサーシェスに罵声を浴びせる。

 

『どうした、どうしたぁ!? ガンダムはその程度かぁ!?』

 

 デシルのクロノスと交戦するミナホのF90は、Xラウンダーの彼の無茶苦茶な攻撃に翻弄されるばかりであった。ビームバルカンとクロノスガンの掃射で防御か回避を強要され、そこへビームバスターによる攻撃が始まる。それを間一髪で躱したところで、直ぐにクロノスがF90にビームサーベルによる斬撃を仕掛けて来る。

 

「高機動のパックに!」

 

 速い強敵に対し、ミナホはミッション・ブースターに援護させ、高機動型のパックに換装しようと試みたが、それに気付いたデシルはミッション・ブースターを撃墜しに向かう。

 

『速い奴に換装しようってか? させるわけねぇだろうが!!』

 

「しまった!?」

 

 ミナホの思想をXラウンダーの能力で読み取ったのだ。ミッション・ブースターを撃墜しに向かうデシルのクロノスを妨害しようとビームライフルを撃つが、全て躱された挙句、接近まで許してしまう。

 

『これでテメェも終わりだぁ!!』

 

 そう言ってデシルはミッション・ブースターにクロノスキャノンを撃ち込もうとしたが、リズのガンダムバルバトスルプスレクスのテイルブレードが妨害する。

 

「させない!」

 

『ち、邪魔をしやがって! 機械を身体に埋め込まなきゃ、何も出来ねぇゴミがよ!』

 

 妨害されたデシルはリズのバルバトスを見て苛立ち、標的をそちらに変えて襲い掛かるが、高機動戦闘用パックに換装したミナホがF90がビームライフルを放つ。

 

『クソっ、雑魚の分際で!』

 

「リズちゃん、一緒にやる?」

 

『うん、一緒にやろう。あいつはそうしないと危ない奴だ』

 

 自分らを雑魚と侮るデシルに対し、ミナホはリズと共闘して戦うことにした。

 

「攻撃が激し過ぎます! このままでは!」

 

「やはり狙いは私か…!」

 

 サーシェスとデシルの対処を刃とミナホ、リズのガンダムに乗る者たちが対処する中、コンボイ等はガウルンやゲイツと言った地上部隊の総攻撃を受け、前進を止めてその場に留まり、僅かながらの反撃を行うだけだ。これにコンボイは、敵軍の狙いが自分であると気付く。

 

『邪魔をしやがって! エイジぃ!!』

 

「彼らはやらせない!」

 

 ゴステロのダルジャンに対しては、エイジのレイズナーMkⅡが対処に回っているが、進撃を再開するには至っていない。そればかりか、新たな脅威が迫っていた。

 

「フハハハッ! 吾輩の為に随分と弱らせてくれているな! キングスキャンを使わなくとも、連中が弱っている感じが一目で分かるわ! このジャイアント・キングマキシマムで一気に畳み掛けてやるまでよッ!!」

 

 その脅威の名はキングマキシマム。二十メートルはあるクイーンやナイト、ビショップ、ポーンと言ったチェスの駒、約十五体と共に姿を現した。

 キングマキシマムも含め、駒の全てがオリハルコンと言う強靭な防御力を持っているが、飛行能力や遠距離攻撃は無く、オリハルコンの防御を突破できる武器や技を持つ者たちからすれば動く的に等しい。更に当の駒を操るキングマキシマムがキングの駒であるために丸分かりだ。そればかりか駒は、キングマキシマムの指示が無ければ動かない。

 しかも、キングマキシマムには弱った敵しか狙わないと言う卑劣な部分もあり、まるで盗賊のようだ。今がまさにコンボイ等が弱った時であり、一気に叩き潰そうと十五体の駒と共に突撃してくる。

 

「な、なんだあれは!?」

 

「チェスの駒が、突っ込んでくる!?」

 

「敵の新手か! 撃て撃てェ!」

 

 マイスターの知らせでキングマキシマムの軍団に気付いたコンボイ等は直ぐに手にしているレーザーガンなどを撃ち込むが、オリハルコンの装甲は貫けない。

 

「レーザーを全く受け付けません!」

 

「なんて頑丈なんだ! 後退しつつ、強力な武器で対処するんだ!」

 

 レーザーガンが効かないと分かれば、エリータワン、スモークスクリーン、リジェ、ハウンド、サンドストーム、デトライタス、ハブキャップ、アウトバック、地球製SPTドトール数機、大型のライオン型ゾイドのシールドライガー数機を含めるコンボイ等は後退を始めた。そこで強力な武器を持つ仲間に、キングマキシマムに対処してもらうのだ。

 

「フンッ! 吾輩の軍団に恐れをなし、逃げる気か! そうはさせんぞ! 地の果てまで追い立てて捻り潰すてくれるわ!!」

 

 後退するサイバトロン戦士等に、自分に恐れをなして逃げたと勘違いしたキングマキシマムは気を良くし、十四体の駒と共に追撃に転じた。少し考えれば、罠だと分かるはずだが、調子に乗っているキングマキシマムは気付いていない。

 

 

 

 恐竜型巨大ゾイドであるゴジュラスの火力増強型、ガナータイプに乗るロブ・ハーマンを隊長として、湖に沿って進撃するサイバトロン・スーパーロボット軍団の連合軍にも、敵の脅威が迫っていた。

 

「向こうは苦戦しているようだな。コンボイ司令官や彼らの為にも、我々がやらねば!」

 

 先頭を行くゴジュラスを駆るハーマンは、コンボイ等の本隊と自分と同じプロール率いる別動隊が苦戦しているのを見て、未だ被害を受けていない自分らが彼らの為に敵本隊に大打撃を与えねばと言う使命感に駆られる。そんなハーマン率いる別動隊に、湖に潜む水中用メガオート「S1ギズホ」が襲い掛かる!

 

「うわぁぁぁ!!」

 

「なんだ! こちらにも敵襲か!?」

 

 湖からいきなり飛び出て来た触手で、ミニボットのギアーズとビーチコンバー、シースプレーが捕まった。ギアーズの悲鳴で気付いたハーマンは湖の方へ視線を向ければ、湖から出て来るS1ギズホの触手が自分の隊を襲っていることに気付く。キズホの存在を知ったハーマンは、直ちに配下の隊に湖への攻撃を命じる。

 

「全員、湖に湖に攻撃! 触手に掴まった仲間を救出しろ!」

 

「このモンスターめ! 仲間を離せ!!」

 

「湖の底に沈めてやるぞ! この化け物め!!」

 

 ハーマンの指示で、アイアンハイドやトレイルブレイカー、トラックス、ミニボットのクリフ、ワーパス、MSのガンタンクなどが湖に向けて一斉射を放つ。だが、ギズホの上面装甲は厚く、ゴジュラスのロングレンジキャノンとガンタンクの120ミリ低反動キャノン砲を受け付けない。

 

「なんて頑丈な化け物だ! こうなれば、湖から引きずり出して細切れにしてやる!!」

 

「止せアイアンハイド! この触手の量だと、かなりの重量だぞ!」

 

 こちらの攻撃が効かないのであれば、湖から引きずり出そうと考えたアイアンハイドは両手をネットに切り替え、ハーマンの警告も聞かず、ギズホを引きずり出そうとしたが、その巨体を引きずり出せるはずが無く、逆に湖に引き込まれてしまう。

 

「うわぁぁぁッ!?」

 

「いま助ける!」

 

「手の空いた者は、湖の化け物に向けて撃て! これ以上、犠牲者を出すんじゃない!!」

 

 引っ張り出そうとして逆に引きずり込まれるアイアンハイドを助けようと、サイバトロン戦士たちが彼の身体を掴んで引っ張る。だが、ギズホのパワーで纏めて引きずり込まれようとする。それを援護するべく、ハーマンら手の空いている者たちは湖に攻撃を続ける。

 そんなハーマンらに対し、ギズホは四門の単装レーザーを撃ち込み、付近に待機するテドぺ等を展開して襲わせた。この攻撃にハーマン隊の被害は拡大する。

 

「湖から敵が出て来たぞ!」

 

「我々を待ち伏せしていたのか!? こちらが応戦する! 君たちサイバトロンは、仲間の救出を優先するんだ!」

 

 強力なレーザーライフルを撃つクリフが知らせれば、ハーマンはサイバトロン戦士等に仲間の救出を命じつつ、自分等スーパーロボット軍団の分隊は湖から続々と出て来るテドぺの対処に回った。




危うし、スーパーロボット軍団!

次回は合体回かな。


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Union&Counter!

タイトル二回目な気がするが…。

名前:セーン・村田
性別:女
年齢:22歳(外見年齢)
乗機:ジスタファイター(シャイジスタのメインパイロット)
概要:ジスタファイターの操縦および合体後のシャイジスタのメイン操縦を担当する。身体能力の総合値も4人の中で最も高い。

名前:馬服碧(まはら・あおい)
性別:男
年齢:17歳(外見年齢)
乗機:ジスタランド(シャイジスタのサブパイロット)
概要:ジスタランドの操縦および合体後はフルジスタフォーメーション類のセッティングなど出力制御を担当する。他にも、分離中は前線戦闘、合体中もメイン操縦を担うセーン・村田に代わって、チームのコントロール役も担う。

名前:飛鳥・フォドル(あすか・ふぉどる)
性別:男の娘
年齢:18歳頃(外見年齢)
乗機:ジスタライダーR(シャイジスタのサブパイロット)
概要:ジスタランドの操縦および合体後のフルジスタフォーメーション類の照準・射撃などをはじめとした火器管制を担当。

名前:有栖川此米(ありすがわ・ひめ)
性別:女
年齢:16歳
乗機:ジスタライダーL(シャイジスタのサブパイロット)
概要:ジスタライダーLの操縦および合体後の姿勢制御を担当。

真に勝手ながら、フォドル以外は90年代アニメのキャラのイメージにしました。俊伯さん、ごめんなさい。

『シャイジスタ』
頭頂高:29メートル
乗員:4名
概要:ジスタファイター、ジスタランド、ジスタライダーR、ジスタライダーLの四機のマシンが合体したロボ。いわゆる合体ロボであり、一部の武装は音声入力で発動する。戦闘力は当然の如く高い。
ロダンと呼ばれるブースターユニットを装備し、空中戦も可能。様々なオプションパーツによって多彩な戦況に対応することが可能である。
デザインは90年代アニメのOVA合体ロボのような物になっている(?)。
提供は俊伯さん。


 スタースクリーム軍団とヴィンデルの軍の強力な刺客たちにより、コンボイ率いるサイバトロン戦士とスーパーロボット軍団の進撃は止められた。

 

『サンギョウカクメーイ!!』

 

「うぉ! 倒されたはずの怪人が!?」

 

 更に追い打ちを掛けるように、倒されたはずのローラーバンキ、ガスバンキ、クワバンキ、コウアツバンキを初めとする蛮機族が巨大化したのだ。

 巨大化した四体の機械怪人は、恐れ戦くサイバトロンやスーパーロボット軍団に襲い掛かり、その巨体を生かして蹂躙せんとする。

 この状況を打破するため、サイバトロンとスーパーロボット軍団は合体しかないと判断する。

 

「こうなれば、合体しかない! エアーボット部隊、合体だ!!」

 

 上空で戦っていたエアーボット部隊は指揮官のシルバーボルトの指示で五体合体し、巨大なロボとなる。その名も合体戦士スペリオン!

 

『行クゾ、悪ノ鉄屑共! 全員纏メテスクラップ二シテヤル!!』

 

 合体したエアーボット部隊ことスペリオンは圧倒的な戦闘力で、上空に居る邪魔な敵機を片付けた後、地上で味方を蹂躙しようとするコダール集団やメガオートの大群を次々とスクラップに変えていく。

 五体合体によってパワーも五体分となっており、拳と蹴りのパワー、手にしているレーザーガンを含め、その威力は強大である。故に、スペリオンに立ち塞がる敵ロボットは一撃で鉄屑に変えられてしまうのである。

 

「エアーボットに続いて私たちも合体しよう! プロテクトボット部隊合体!」

 

 プロテクトボット部隊の指揮官であるホットスポットはスペリオンとなったエアーボット部隊に続くべく、傘下の四人と合体する。その名もガーディアン!

 パワーはスペリオンと同等であるが、フォースフィールドと呼ばれるバリアを持っており、名前の通り防御面においてはかなり優れている。合体しても救助活動を迅速に対応するためか、飛行能力も有している。

 手にしているライフルで数十体の敵機を撃破した後、プロール指揮のグループの救援に向かい、フォースフィールドで味方を守った。

 

「エアーボットもプロテクトボットも合体したのか! 俺たちも合体だ!」

 

『応ッ!』

 

 エアーボット部隊とプロテクトボット部隊の合体に触発されてか、修人らダルタニアスチームも合体を始める。

 これに応じ、ガンパーに乗るナブヤとサラ、べラリオスに乗るフウは直ちに修人のアトラウスの元へ集合し、合体を始める。

 

『クロス・イーン! ダルタニアース!!』

 

 四人の掛け声と共に三つのロボが一つに合体すれば、全高五十六メートル、重量六百七十八トンの胸にライオンの頭部パーツがトレードマークの巨大ロボが姿を現す。その名もダルタニアス!

 しかし、オリジナルではない。エネルギー量はブラックホール級であり、しかも大気成分も含めてあらゆるエネルギーを吸収して動力源とする。更には自己修復機能も備え、ミサイルも内部で自動生成する。

 強化されたダルタニアスは、ダブルナックルと呼ばれる肘から腕を発射するロケットパンチ攻撃を周囲の敵に向けて行った。

 

「ダブルナックル!」

 

 ダルタニアスの主要パイロットである修人の叫びと共に放たれた両腕のロケットパンチは、周辺に展開する敵機動兵器や無人兵器を次々と破壊し、元の位置に戻っていく。

 まだ敵の数は多く、巨大なダルタニアスを潰そうと続々と集まって来る。これに修人は次なる技を使う。

 

「蟻んこみてぇに湧いて出て来やがって! ジャイロスピナー!」

 

 次に腕の周囲にブレードを展開し、回転しながら周囲の敵機を切り裂いた。止まった後はブレードの部分だけをリング状に分離して、自爆しようと近付いて来るドロムに投げ付け、動きを止める。

 

「馬鹿でけぇ爆弾め、トランセイバーで真っ二つだ!」

 

 下手に射撃武器を使うと、吸収して撃ち返してくるので、右腰のバルジをトランセイバーと呼ばれる県に変形させ、それでドロムを真っ二つに切り裂いて撃破する。

 

「このハエ共め!」

 

 上空から空襲を仕掛ける敵機に対しては、左腕に連装砲で撃つ落としつつ前進する。

 三体の合体ロボの活躍もあり、追い込まれていたプロール等は反撃に移る。

 

「よぉーし、スペリオンとガーディアン、ダルタニアスに続け!」

 

『おぉーッ!』

 

 プロールの掛け声と共に彼のグループは遮蔽物から一斉に飛び出し、突撃を行った。

 

「こっちも合体だ!」

 

 合体を行うのはエアーボットとプロテクトボット、ダルタニアスだけではない。シャイジスタと呼ばれるチームも、合体するロボットで編成されたチームであった。

 ジスタファイターに乗るチームリーダーのセーン村田の指示で、馬服碧(まはら・あおい)のジスタランドと飛鳥(あすか)フォドルのジスタライダーR、有栖川比米(ありすがわ・ひめ)のジスタライダーLが集合し、合体シークエンスを始める。

 

「ドッキング・シスター!」

 

 その掛け声と共に四つのマシンが合体すれば、シャイジスタと呼ばれる二十九メートルはある巨大スーパーロボットが姿を現す。合体後には何処からともなく飛んで来たロダンと呼ばれるブースターユニットを装備すれば、上昇してポーズを取る。

 

「クソっ、合体したところでなんだ!」

 

 合体して姿を現したシャイジスタに対し、F-15やF-22、MiG-29、Su-27などの戦闘機に変形するジェットロン部隊は、バルキリーのSV-51やVF-27と共に編隊を組んでレーザーによる掃射を仕掛けた。

 

『敵機多数、接近中!』

 

「ミサイルランチャーを使う!」

 

『OK! ミサイル照準、完了!』

 

『姿勢制御、OKだわ!』

 

「ファイヤー!」

 

 多数の戦闘機による攻撃にシャイジスタは物ともせず、パイロット等はそれぞれの役目を果たした。メインパイロットのセーンが引き金を引けば、ジスタランドの武装であった六連装ミサイルランチャーで反撃し、数機のバルキリーを撃破する。

 

『敵機、まだ来る!』

 

「ランドキャノンとロダキャノンで!」

 

『了解、照準するよ!』

 

 ミサイルを躱し、変形してレーザー攻撃を続けるジェットロンに対しては、合体状態ジスタランドの四門のランドキャノンを展開させ、ロダンの連装砲であるロダキャノンも撃ち込んで撃破した。

 それから背後や下から攻めて来る敵機に対しては、大きな鉄拳と蹴りで潰していき、トミモツと呼ばれるエネルギーソードを抜き、空を飛ぶ機械獣とメカザウルスを次々と斬り捨てる。

 

『左側面よりガダン!』

 

「次から次へと!」

 

 レーザーを撃ち、長巻を持って集団で斬りかかるガダンに対しては、ミサイルランチャーとロダキャノンで数を減らしてから残った三機を連続で斬り、地上からレーザーを撃って来るテドぺを一掃するため、躱しながら地上へ降下して一体を両断。空かさずに横へトミモツを振り、他のテドぺを切り裂いた。

 

 

 

「クソっ、埒が明かん! ゲッターカオス3を要請だ!」

 

 ギズホと交戦中のロブ・ハーマンのグループは、湖の中に居たままでこちらを一方的に攻撃するギズホに自分等の装備では埒が明かないと判断してか、水中戦も出来るゲッターカオス3を要請した。

 これに応じ、基本形態のゲッターカオス1に戻って交戦していたゲッターチームは直ちに現場へと急行する。

 

『おい、お呼びだぜ。ハーマンの野郎だ』

 

『敵は水中機らしいな。ドソク、お前の出番だ』

 

「やっと出番か! 腕が鈍ってなきゃ良いが」

 

 要請を受け、自分の出番が来たドソクは余り出番が無いため、自信無さ気に操縦桿を握る。

 

『カオス1で一気に現場へ向かおう。それなら直ぐにつく』

 

『命令すんな! 俺でも分かってる! 道中の敵をぶっ叩きながら行くんだろ?』

 

「よーし、それまでに心の準備を済ませておくか」

 

 救援要請の為、飛行可能なカオス1のままゲッターチームはハーマンのグループの元へ急いだ。この間、ドソクは心の準備をする。

 当然、敵は出て来たが、ゲッターカオスの敵ではない。ゲッタートマホークとゲッタービームで蹴散らされるばかりだ。物の数秒で現場へ到着し、ギズホに襲われるハーマンのグループが見えた。

 

『見えたぞ! オープンゲット!』

 

「もう着いたか! チェンジ、ゲッター3ィ!!」

 

 カオス1のメインパイロットの竜騎が合体を解けば、出番が来たドソクはゲッターカオス3に形態を変えさせる。

 

『なんだこの数は!?』

 

「肩慣らしには丁度いい! 行くぞ!!」

 

『あまり向きになるなよ!』

 

 メインパイロットとなったドソクは水陸両用形態のゲッターカオス3を地面に着地させた後、湖から出て来た大量のテドぺが道を塞いでいた。これにドソクは肩慣らしには丁度いいと啖呵を吐き、カオス3の腕を動かしてテドぺを殴る。

 ドソクが操縦桿を動かし、繰り出されたカオス3の右腕のパンチはテドぺを一撃でスクラップにした。続けざまに左腕を振るい、二体目を砕き、障壁となるテドぺを砕きながら進む。

 彼は己の巨体とその腕っ節で裏社会の頂点に上り詰めたのだ。ゲッター線に選ばれ、パイロットとなってもドソクの戦い方は変わらない。敵が何であろうと、ただ目前の敵を己の拳で打ち砕くのみ。

 

「あれか、水中の化け物ってのは!」

 

 敵を粉砕しつつ湖へ辿り着けば、湖の中より出した触手でサイバトロン戦士等を襲うギズホが見えた。

 

『サイバトロンの奴ら、やられてっぞ!』

 

『直ちに向かおう。あのままでは誰かスクラップにされる』

 

「言われなくとも分かってる! お前らは俺のサポートをしてろ!」

 

 一度それを見たドソクは竜騎とレンのサポートを受けつつ、邪魔なテドぺを片付けながら現場へと駆け付ける。

 ギズホの触手に何名かのサイバトロン戦士が捕まったままだが、アイアンハイドは助けられ、襲い掛かる触手に他の仲間たちと共に応戦していた。

 

『来たかゲッターチーム! 敵は上面にレーザー砲四門を装備している! 我々が支援射撃を行う! その間に湖の奴を引きずり出すか破壊しろ!』

 

「そう指図されなくともそのつもりだ! さぁて、久々の水泳だ!」

 

 自分らの到着を目撃したゴジュラスに乗るハーマンが指示を出せば、元からそのつもりのドソクは湖へと前進する。この間にハーマンらは水中に潜ろうとするゲッターカオス3の支援を行うべく、水中から攻撃してくるギズホに向けて攻撃を始める。

 ギズホの注意が完全にハーマンらの方へ向けば、カオス3は一気に湖へと飛び込み、湖の中に潜むメガオートと対峙した。

 

『デカいぜ! カオス2の方が良いんじゃねぇか?』

 

『あぁ、あれならドリルで抉り、内部から破壊した方が…』

 

「せっかくの俺の出番を取るんじゃねぇ! こんなタコだかイカか良く分からん奴は、湖から引きずり出して陸でぶっ潰すのが一番だ!!」

 

 巨大なギズホに対し、カオス2のゲッタードリルの方が効果的と言う二人に対し、ドソクは出番を取るなと怒鳴りつけ、飛んでくる触手を躱しつつ背中のスクリューを高速回転させて接近した。

 陸での移動力はカオス1とカオス2に劣るカオス3であるが、水中では嘘のように速かった。飛んでくる触手を躱し、あるいは掴んで引き千切った。そんなドソクが駆るカオス3に、複数の同じ水陸両用機のテドぺが迫る。

 

『河童共が来るぞ!』

 

「関係ねぇ! ぶっ叩くまでだ! ゲッターミサイル!!」

 

 迫る複数のテドぺに対し、ドソクはゲッターミサイルを撃ち込んで破壊する。そんなドソクにハーマンより仲間を掴んでいる触手を破壊するように指示が来る。

 

『カオス3、仲間を掴んでいる触手を破壊しろ! 根元ならば、引き千切れるはずだ』

 

「簡単に言ってくれるぜ。近付くのに苦労してるって言うのに」

 

『代わろうか?』

 

「いや、水中戦は俺の担当だ! やるぜ!!」

 

 その指示にドソクが文句を言う中、レンはカオス2にチェンジするかと問われる。これにドソクは苛立ち、邪魔な敵や触手を潰しながら強引にギズホに接近し、仲間を掴んでいる触手を引き千切り、捕まっていた仲間たちを解放する。この間に攻撃を受けていたが、カオス3の重装甲のおかげで大事には至らなかった。

 仲間を全て救出したところで、カオス3を全身を残り全てのギズホの触手が掴み、引き千切ろうとする。これにドソクはカオス3の必殺技を使うべく、湖に居る全ての味方に退避するように叫ぶ。

 

「お前ら今すぐ湖から出ろ! こいつを地面に叩き出す!!」

 

『何っ!? 総員、直ちに湖から離れろ! カオス3のグレートアバランチが来るぞ!!』

 

 ドソクの声色で必殺技のグレートアバランチが来ると判断したハーマンは、直ちに湖に居る仲間たちに早急な退避を命じた。急いで触手に掴まっていたサイバトロン戦士たちがそれぞれの変形する乗り物となって湖から脱出していく中、ドソクはそれを待たずにカオス3のスクリューを全開にし、引き千切ろうとするギズホをパワーで逆に振り回し始める。

 

「グレートアバランチ!!」

 

 その巨体を持ちながらも、カオス3のパワーに力負けしたギズホは何度か振り回された後、外へ向けて投げ飛ばされた。大量の水飛沫が上がり、ギズホの巨体は空中高く投げ飛ばされる。更に追撃を掛けるべく、カオス3も湖から飛び出してそのまま上昇し、放り出されて何も出来ないギズホを捕まえ、地面に叩き付けた。

 

「ぬぁぁぁッ!!」

 

 ドソクの叫びと共に地面へと叩き付けられたギズホは大爆発してバラバラに吹き飛ぶ。その爆炎の中より、悪魔の如くカオス3だけが立っていた。

 

『よし、リペアを終え次第、直ぐに進軍を再開するぞ! 村田は周囲警戒を!』

 

 湖の脅威であるギズホを倒した後、ハーマンはリペアと補給を終え次第、進撃を再開すると伝え、無傷な者たちに周囲警戒を行うように指示した。上空から支援しているハルのF-4戦闘機にも警戒するように指示を出す。

 

 

 

 戦いは今も続いていた。

 スキアのヴァルザカード・セカンドGはビルゼーと交戦し、ツバキ・R・ハルパニアのリューハイロード・オリンピアはオラシオの飛竜戦艦と共に敵を倒しながら前進している。ライトンのマジンガーZと浩二のダイオンγは、ミザーク・アーべィのバイオンβとレイアとセリスのシャルロ姉妹が駆るミリオンαの連携に苦しめられている。

 念神エクリプスを駆るハスミ・クジョウは中半使徒化状態の量産型エヴァ改と交戦。刃のガンダムアストレアはサーシェスのアルケーガンダムと戦い、リズ・カデンツァのガンダム・バルバトスルプスレクスとサカヅキ・ミナホのガンダムF90・パワードカスタムはデシルのクロノスと交戦していた。

 他の戦士たちは手駒を連れて現れたキングマキシマムと復活した蛮機族四体と交戦中だ。これを打開するため、エアーボットはスペリオンに合体、プロテクトボットはガーディアンに合体、ダルタニアスチームは合体ロボ、ダルタニアスに合体し、シャイジスタチームはシャイジスタに合体した。

 

「何か物足りない感じですが、合体ロボまであるなんて! スーパーロボット大戦を生で見れて感激です!!」

 

「速くしてくれないかね。こちらにも敵が迫っているんだよ」

 

 巨大ロボと合体ロボの活躍ぶりを見て、救出されたエルが興奮する中、サイバトロンの科学者であるパーセプターは速くしてくれと彼を急かす。

 

「すみません、つい興奮してしまって。それより、僕のイカルガが凄い事になってるんですが?」

 

「あぁ、誠に勝手ながら強化させてもらったよ。元の性能は第二世代SPTレベルだが、それではスタースクリームたちには勝てない。そこで、我々の技術を使って強化させ、戦闘力と機動力を格段に向上させたのだよ」

 

「超強化ですね! ありがとうございます!!」

 

「今回限りだがね。この戦いが終わったら、元の形に戻させてもらうよ」

 

 謝罪しつつ自分のイカルガが凄いことになっていると問えば、双眼鏡にトランスフォームするトランスフォーマーであるパーセプターは勝手に改造したと悪気も無しに答えた。

 普通なら呆然とするか怒るところであるが、エルはサイバトロンの技術でイカルガが強化されたことに大いに喜んでいた。ただし、改良型のイカルガはこの戦い限りであり、戦いが終われば元の性能へと戻される。

 それでも良いエルは早速乗り込もうとするが、パーセプターに止められる。

 

「では、早速!」

 

「おっと、待ちたまえ。そんな服装でこの機体に乗れば、高速戦闘で生じた重力に潰れて死んでしまうよ。この対Gスーツを着なさい」

 

「これは、パイロットスーツ! いつの日か拵えようと思っていましたが、まさか早く袖を通してしまうことになろうとは…!」

 

 スタースクリーム軍団とヴィンデルの軍の襲撃時、通常のイカルガで高速戦闘を行っていたエルは無事であったが、改良型は通常型とかなり違うので、その状態で高速戦闘は危険と思い、この為にパーセプターはパイロットスーツを用意していたのだ。

 パイロットスーツまで着ることになってしまったエルは驚き、パーセプターから渡されたスーツを受け取り、周りの視線があるにも関わらず、袖を通したいと思って自分が着ている衣服を脱ぎ始めた。

 

「おい、エル! お前なんで!?」

 

「え、エル君が…!?」

 

「この世界の人間は、人前で着替えるのかね? 更衣室はあっちだ」

 

「あっ…」

 

 強化型のツェンドルグで警戒中のキッドとアディにその場を見られてしまい、エルは赤面してパーセプターが指差した更衣室へと向かった。

 エルがサイバトロンによって改良されたイカルガに乗る準備をする中、上空ではシャイジスタがキーラ・エルベルトの奇怪な重戦闘機であるジャイアントモグリンと交戦していた。




更新が結構遅れたな…。

次に仕上がるのは、いつ頃になろうか。


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出撃、新破壊大帝スタースクリーム

これで全員かな?


 エルがサイバトロンによって改良された自分のイカルガに搭乗準備をする中、戦いは激しさを増していた。

 合体ロボのスペリオンやガーディアン、ダルタニアス、シャイジスタの出現により、戦況はサイバトロンとスーパーロボット軍団の方へ傾いている。

 

「フフフッ、吾輩から逃げている間に何を企んでいるつもりだ? 暴いて絶望させてくれるわ! キィーングスキャァーン!!」

 

 オリハルコンの駒と共にコンボイ等を追うキングマキシマムは、何を企んでいるか暴くべく、キングスキャンを使った。

 このキングスキャンは、相手のデータを調べる事が出来る技である。それだけである。それでコンボイ等のデータを調べたキングマキシマムは何も対抗する術がないと判断する。

 

「フン、ただ吾輩から逃げ回っているだけか! キングアクセスで更に調べ上げてくれる! キィーングアクセェース!!」

 

 逃げ回っているだけだと思い込むキングマキシマムであるが、油断はせず、蓄積されたデータでコンボイ等を調べ上げた。

 

「どうやら本当に逃げ回っているだけだな! 一気に叩き潰してくれるわ!! 行けぃ、(ポーン)共ぉ!!」

 

 無論、何もない。それが分かれば一気に叩き潰すべく、キングマキシマムは自分も含めた十六体の駒と共にコンボイ等に突撃した。

 

「作戦に乗ったようだ。王手ならぬチェックメイトを掛けさせてもらおう! ダイノボット部隊、出番だ!」

 

 キングマキシマムらが一気に突っ込んできたのを確認したコンボイは逃げるのを止め、左腕の無線機を起動させてダイノボット部隊に合図を送った。突撃するキングマキシマムの側面から、打撃に特化したダイノボット部隊をぶつけるのだ。

 

「俺グリムロック、分かった! ダイノボット部隊、あの銀色に輝いてる敵に突撃ィ! トランスフォーム!」

 

 部隊長のグリムロックが合図に応じれば、ダイノボット部隊はそれぞれの恐竜の形態に変形し、キングマキシマムの駒に突撃する。

 

「おぉ! なんだぁ!? そ、側面からァ!? 図ったな!」

 

 側面よりグリムロックを初めとするダイノボット部隊の突撃を受けたキングマキシマムの駒らは本体も含めて碌な対応も取れず、更には横からの攻撃に弱い為に次々と倒された。だが、半分以上は残っており、キングマキシマムは標的をコンボイ等からダイノボットに切り替える。

 

「おのれ、せっかく揃った吾輩の軍団を! ナイト、やれぃ!!」

 

 半数をやられたことに腹を立て、強い駒をダイノボットにぶつけようとしたが、ムラタのスレードゲルミルの斬艦刀が唸りを上げた。

 

『斬艦刀、一文字斬り!』

 

 スレードゲルミルが振るう巨大ロボサイズの大振りの刀「斬艦刀」の斬撃が放たれれば、ダイノボットにぶつけた強い駒とクイーンを含めるポーン数体を纏めて半分に切り裂かれる。これにキングマキシマムは激怒する。

 

「ぬぁぁぁ! オリハルコンがぁ!? えぇい、裏切り者めぇ! ビショップ、イオグランデで裏切り者を吹き飛ばせぇ!!」

 

「よーし、この高威力レーザー砲で!」

 

 激怒したキングマキシマムはビショップに強力な破壊魔法であるイオグランデを唱えさせようとしたが、僅かな時間で対抗策を見出したコンボイ等も反撃に転じており、特殊な装置で高めたレーザーガンでそのビショップを破壊されてしまう。続けてダイノボットも進撃を再開し、クイーンも破壊した。

 

「び、ビショップが!? それにクイーンも!? く、クソっ!」

 

「さぁ、残る駒はお前だけだキング! チェックメイトと行かせて貰おう!」

 

「こうなれば…! 戦略的撤退あるのみ! ショアッ!!」

 

 キングマキシマムにとって予想外の反撃により、駒を全て失ってしまった。残るはキングのみであり、コンボイがチェックメイトを宣言する。これにキングマキシマムは何と飛んで逃走を始めた。キングマキシマムは保身優先で、自分が優位になる戦い以外はしないタイプであり、こうして自分が追い詰められれば、直ぐに逃げるのだ。

 無論、コンボイが逃がすはずが無い。高威力のレーザーガンを背中に撃ち込まれ、キングマキシマムは破壊される。

 だが…!

 

「ギャァァァ!? わ、吾輩のジャイアント・キングマキシマムがぁ! ひぇ~ッ!」

 

「キングの駒から小さいキングが!? あれが本体のようだ。だが、みすみすと逃がす訳には行かん。今度こそ、チェックメイトだ!」

 

 破壊されたキングマキシマムより、更にキングマキシマムが出て来たことにコンボイは驚いた。それがキングマキシマムの本体であり、ジャイアント・キングマキシマムに本体が隠れていたのだ。

 完全に戦意を喪失し、情けない悲鳴を上げながら逃げるキングマキシマムをコンボイが逃がすはずも無いので、レーザーガンで胴体を狙撃され、今度こそチェックメイトされた。

 

「ホァァァーッ!!」

 

 その叫び声と共に、キングマキシマムは爆発四散した。

 

 

 

「今度こそ、解体してやるッ!」

 

「敵巨大トランスフォーマー、早期に排除する必要性あり。ゲッターキャノン・フォーカスの使用を推奨。ゲッターカオス1の支援を要請します」

 

 ビルゼーと戦うヴァルザカード・セカンドGを操るスキアは追い込まれていた。専用ソードはビルゼーが振り回す大戦艦グランドスタースクリームの残骸で弾かれ、吹き飛ばされて地面に倒れてしまう。

 地面に倒れたヴァルザカードに向け、ビルゼーはその残骸を叩き落して潰そうとするが、スキアはゲッターカオスとの連携が必要と言いつつ、ゲッター兵器を顔面に見舞った。

 

「ぬわっ!?」

 

 顔面にゲッター兵器の攻撃を受けたビルゼーは怯み、両手に持っていた残骸を落として怯んだ。この隙にスキアは離れ、改めてゲッターチームの支援を要請した。

 

「ゲッターチームに支援要請! ゲッターキャノン・フォーカスを使用します!」

 

『あれか! 待ってろ、いま行く!!』

 

 ハーマンのグループの前進を支援していたゲッターカオス1は要請に応じ、邪魔な敵機を片付けながらスキアのヴァルザカードの元へ急ぐ。その間にスキアは持ち堪えるべく、ビルゼーに向けてゲッター兵器の掃射を続ける。

 

「こいつめぇ! ぬがぁぁぁッ!!」

 

 更に攻撃を受けたビルゼーは怒り、雄叫びを上げながらミサイルによる攻撃を始めた。ビルゼーが放ったミサイルは無数であり、このミサイル弾幕にヴァルザカードはシールドを展開するも防ぎ切れず、所々にダメージを受けて地面に膝をつく。

 

「損傷拡大…! ダメージコントロール、追い付かず…! シールド、発動不可…!」

 

「とどめだぁ! うらぁぁぁッ!!」

 

 膝をついてシールドが発動できないヴァルザカードに対し、ビルゼーは飛んでから両手を合わせ、超巨大ロボにとどめを刺そうとする。

 

「回避行動、間に合わず」

 

 飛び掛かるビルゼーに対し、回避行動を取ろうとするスキアであるが、計算では回避が不可能と判断した。このままスキアはヴァルザカード共々破壊されるかと思ったが、その窮地をツバキのリューハイロード・オリビアが救った。

 

「危ない! 大回復(オーバーヒール)ッ!!」

 

「魔法による損傷個所の修復を確認! ゲッターバリア、即時展開!」

 

「ぬわぁぁぁ!?」

 

 ツバキのオリビアによる回復魔法で損傷個所の修復と機能を回復したスキアは即座にゲッターバリアを展開し、ビルゼーを吹き飛ばした。

 

「小癪なァ…! 死ね…」

 

『ドリルハリケーン!!』

 

 吹き飛ばされたビルゼーは直ぐに立ち上がり、付近の残骸を掴んで投げようとしたが、足元よりゲッターカオス2のドリルハリケーンが炸裂する。これにビルゼーはバランスを崩す中、地中より飛び出したゲッターカオス2は即座に合体を解き、カオス3に形態を変える。

 

『オープンゲット!』

 

『チェンジ、カオス3! グレートアバランチ!!』

 

「ぬおぁ!?」

 

 カオス3に形態を変えれば、空かさずに巨大トランスフォーマーにグレートアバランチを食らわせ、地面に転倒させた。そこから基本形態のカオス1にチェンジする。

 

『チェンジ、カオス1! 待たせたな!』

 

「カオス1の到着を確認。ゲッターキャノン・フォーカスに移行!」

 

 カオス1の到着が確認されれば、スキアはゲッターキャノン・フォーカスに移行する。腹部からキャノン砲を展開し、接続プラグをカオス1に向けて出した。それをメインパイロットの竜騎は機体の手で受け取り、カオス1にプラグを接続してゲッター線をヴァルザカードに送り込み、発射に必要なエネルギーを充填させる。

 それを見てか、ツバキはエネルギーを回復する魔法を唱える。

 

「強力な合体技を使うのね! なら、MPを回復させなきゃ! 舞活(アテンション)!」

 

「エネルギーチャージ、充填率七十パーセント」

 

『凄いな、もうそこまで』

 

 ツバキが乗るオリビアのエネルギー回復魔法により、ゲッターキャノン・フォーカスは発射に必要なゲッター線を一気に七割も充填した。これにレンが驚きの声を上げる中、ビルゼーは充填を待つことなく突っ込んでくる。

 

「三体纏めて叩き潰してやる!」

 

『あのデカ物、仕掛けて来るぞ!』

 

『まだか!?』

 

「ゲッター線充填率、発射にはまだ不足です」

 

「それなら私が!」

 

 突っ込んでくるビルゼーに対し、オリビアは発射までに時間を稼ぐために盾となった。

 

力場盾(フォースシールド)!!」

 

「コバエめぇ!」

 

 全力でエネルギーシールドを張り、ビルゼーを抑え込むが、オリビアは小さすぎるために超巨大なトランスフォーマーを長く抑えることは出来なかった。例えるなら、人がビルゼーでアリがオリビアである。

 そんなわずかな時間でも、ゲッターカオスによるゲッター線の重複でゲッターキャノン・フォーカスの発射に必要なエネルギーを充填することが出来た。それをスキアがツバキに知らせれる。

 

「発射までの充填、完了! ハルパニアさん、即時退避してください!」

 

「やっとね! もう限界だったわ!」

 

 この知らせを受け、ツバキは直ぐに射線上より退避した。オリビアが離れれば直ぐにゲッターチームとスキアはゲッターキャノン・フォーカスを、ビルゼーに向けて撃ち込んだ。

 

『ゲッターキャノン・フォーカスッ!!』

 

「ぬぁっ!? アァァァッ!!」

 

 発射された高出力のエネルギー砲を浴びたビルゼーの巨体は、ゲッター線の影響で見る見るうちに溶解していき、やがては地面に着けていた足を残して消滅した。

 

「敵、巨大トランスフォーマーの撃破を確認」

 

『よし、次行くか! まだ戦いは終わってねぇ!』

 

 ビルゼーを撃破すれば、スキアとゲッターチームは次の現場へと急行した。戦いはまだ続いているのだ。

 

「そうだ、まだ終わって無いんだ。サポートしなきゃね」

 

 ツバキもまた別の場所で戦う仲間をサポートすべく、自分を必要としていそうな現場へと向かった。

 

 

 

『今度こそ死ね! この偽物め!!』

 

「くっ、本物だってのに!」

 

 マジンガーZに乗るライトンとミザークのバイオンβにレイア、セリスの姉妹が駆るミリオンαとの戦いも決着が着こうとしていた。

 ミリオンαの電磁砲で動きを止められ、バイオンβのルストハリケーンでとどめを刺さされそうになるライトンであったが、オラシオの飛竜戦艦の砲撃が窮地を救った。

 

『なっ、何ぃ!?』

 

「あんたは!?」

 

『あぁ、無線機と言うのは、こう使う物ですかねぇ? 取り敢えず、手伝いますよぉ? そこの黒いシルエットナイトのナイトランナーさん』

 

 飛竜戦艦のブレスを受けて吹き飛ばされたミザークが驚きの声を上げる中、オラシオは慣れない無線機を使い、援護するとライトンに告げる。

 

『ドラゴン!? それともトランスフォーマー!?』

 

『なんにせよ、邪魔する者は排除する』

 

 レイアが飛竜戦艦を見て驚くが、セリスは冷静に対処し、電磁砲の照準をオラシオの飛竜戦艦に定めた。

 

「パイオンαの電磁砲は避けろ! いくらドラゴン戦艦でも!!」

 

『それ、貴方の必死さで理解しました』

 

 パイオンの電磁砲の威力を知るライトンの警告に対し、オラシオは援護する前に見ていたのか、それを理解して即座に回避行動を取った。一方で邪魔をされたミザークは、体勢を立て直して飛竜戦艦の撃破に向かう。

 

『クソぉ、このトカゲがぁ! ルストハリケーン!!』

 

 偽物の排除の邪魔をした飛竜戦艦に対し、ルストハリケーンを放つミザークのバイオンであるが、オラシオはそれも理解してたのか、舵を切って見事に躱した。

 

『それも理解してるんですよねぇ。さぁ、そこの厳ついナイトフレームに乗るナイトランナーさん、出番ですよ!』

 

 ルストハリケーンを躱した後、浩二のダイオンγを攻撃するマジンガー軍団にブレスを浴びせ、彼を解放させた。

 

『あのドラゴンが助けてくれたのか!? よし、ブレストファイヤー!!』

 

 オラシオに助けられた浩二は恩を返すべく、再び標的をマジンガーZに変えたパイオンに向け、ブレストファイヤーを放った。

 

『ブレストファイヤー!? あの裏切り者、まだ生きてたのね!』

 

『裏切り者は抹殺あるのみ。電磁砲で沈める…!』

 

「今だ…!」

 

 無論、この攻撃は躱されたが、ライトンに攻撃の隙を与えることに成功した。マジンガーZの両手を開き、標的を浩二のバイオンに変えたパイロンに向け、ロケットパンチならぬロケット張り手を放ったのだ。

 

「ロケット張り手!」

 

 丁度マジンガーZの真上を通り過ぎたパイロンに向かって発射すれば、両乳房に吸い込まれるように飛んでいく。

 

『レイア! ロケットパンチがコクピットに来る!』

 

『えっ…!?』

 

 それがシャルロ姉妹の最期であった。放たれた両手のロケットパンチはパイオンのコクピットとなっている両乳房を掴み、二人を圧殺した。操縦士を二人も失ったパイオンは地面に向かって墜落していく。それを見たミザークは更に怒り、怒り任せに二人を殺したマジンガーZに突撃する。

 

『貴様ァァァ! よくもシャルロ姉妹をッ! 許さん、絶対に許さない! この偽物がァァァ!!』

 

 特攻の如く突っ込んでくるバイオンに対し、ライトンは両手を元の位置に戻してそれを迎え撃った。

 

『ルストハリケーン!』

 

「光子力ビーム!」

 

 ルストハリケーンを放つバイオンの攻撃を躱せば、ライトンは反撃の為に光子力ビームを放つ。躱されてしまったが、ライトンには承知の上であった。

 

『偽マジンガーの光子力ビームなど!』

 

「ならば、ビッグバンパンチで!」

 

『な、何ッ! ロケットパンチに変形しただと!?』

 

 光子力ビームを躱した後、一気に叩き潰そうとするミザークであるが、ライトンはマジンガーZを巨大な拳へと姿を変えた。即ち、ロケットパンチに変形したのだ。これにミザークは驚愕する。当然の反応だ。

 

「うぉぉぉ!!」

 

『ロケットパンチになるなんて、聞いていないぞ!? だが、突っ込んで来るならルストハリケーンでェ!!』

 

 巨大なロケットパンチへと姿を変えて突っ込んでくるマジンガーZに対し、ミザークはルストハリケーンで溶解させようとしたが、ビッグバンパンチとなった黒鉄の城には全く通じなかった。このロケットパンチ状態のマジンガーZの防御力は更に向上するようだ。

 ルストハリケーンを弾きながら迫る巨大な拳に逃げようとしたミザークであったが、その速度は恐ろしく速く、既に回避できない距離にまで迫っていた。

 

『これは、まさしく…本物の、マジンガーZぉ!!』

 

 巨大な拳となったマジンガーZに殴られたバイオンは粉々に砕けた。その瞬間、ミザークはライトンのマジンガーZを本物と認め、バイオンと共に粉々に砕け散る。

 ミザークのバイオンを粉々にしたライトンのマジンガーZは元の基本形態へと戻り、ポーズを決めた。

 

「言っただろ、本人とZEROのお墨付きだと」

 

 決め台詞を吐いた後、ライトンは別の戦場へと向かった。その後を、残っている同型機を片付けたダイオンγに乗る浩二が続く。

 

『よーし、ようやく…てっ、待ってくれ!』

 

「ここは片付いたようですし、私も別の方の助太刀へと参りますか」

 

 慌てた浩二がライトンのマジンガーZを追いかける中、飛竜戦艦に乗るオラシオもまた自分を必要としていそうな現場へと向かった。

 

 

 

「ち、揃いも揃って止める事さえできねぇのか!」

 

 グランドスタースクリームの残った艦橋の部分で指揮を執るスタースクリームは、合体ロボの活躍で再び攻勢を再開したサイバトロンとスーパーロボット軍団を止められない自軍に苛立っていた。

 

『このままではこちらがやられてしまう! せめて、エルネスティだけでも確保せねば!』

 

 メカ要塞鬼に乗るヒドラー元帥も戦況が思わしくないことに不安を覚え、せめてエルだけでも再び拉致してこの世界からの脱出を図ろうとする。これを聞いたスタースクリームは、自ら出撃するとヒドラー元帥に告げた。

 

「だったらこの俺様が自ら出撃してやるぜ! 全く、おたく等の軍隊の不甲斐なさには心底呆れるぜ! この新破壊大帝であるスタースクリーム様に指図できたもんだな!」

 

『ぬぅ、煩いぞ! ならば早く出撃し、エルネスティをさらってこい!』

 

「けっ、指図しやがって! 元からそのつもりでい! トランスフォーム!!」

 

 ヴィンデルのみならず、自分ですら馬鹿にするスタースクリームに激怒したヒドラー元帥は命令する。これにスタースクリームは苛立ちながらも従い、F-15戦闘機にトランスフォームして出撃した。

 このままでもやれるが、スタースクリームは自らの力を誇示したがる性格だ。勢いよく艦橋部分だけのグランドスタースクリームより出撃した後、全力を出すために人型へ変形する。

 

「この新破壊大帝であるスタースクリーム様が出撃するからのには、全力でやらねぇとな! トランスフォーム! 新破壊大帝モードッ!!」

 

 人型の形態へ変形した後、スタースクリームは両肩に豪勢な肩パッドを取り付け、頭には大帝を現す王冠を被った。その瞬間、背中からマントが現れた。腰には剣の柄らしき物も現れる。

 

「新破壊大帝スタースクリーム!」

 

 そう言いながらポーズを取った後、新破壊大帝となったスタースクリームは自らの軍団に反撃命令を出した。

 

「よし、ここからは反撃だ! スタースクリーム軍団、アタック!!」

 

 ジェットロンやSV-51や52、VF-27等のバルキリーらを率いてスタースクリームはサイバトロンとスーパーロボット軍団に反撃を開始した。

 

 戦いは尚も続く!




まだ揃ってないけど、次で決着をつけるかも。


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Super&ikaluga!

前回のあらすじ

トランスフォーマー・ザ・ムービーの戴冠式のスタースクリームってかっこいいよね。


 スタースクリーム軍団のリーダー、新破壊大帝スタースクリームが出撃した頃、セーン率いるシャイジスタチームが駆る合体ロボのシャイジスタは、キーラの重戦闘機ジャイアントモグリンと交戦していた。

 

「くっ、近付けない!」

 

『なんて弾幕だ!』

 

 ハーケンクロイツのマークが付き、原型より禍々しい姿のジャイアントモグリンから来るレーザー弾幕に、シャイジスタは近付けないでいる。ただの重戦闘機と思って舐めて掛かった事を後悔する中、状況を打開するため、追加武装を要請した。

 

『こうなれば、ミサイルで敵の注意を逸らすしかないよ! スカイリンクス、ミサイルランチャーを!』

 

『こちらスカイリンクス航空、航空宅配は専門じゃないが、分かった! 落とすなよ!』

 

 フォドルが追加武装のミサイルランチャーを要請すれば、上空でスペリオンと行動していたとトランスフォーマーであるスカイリンクスは応じ、コンテナ型ミサイルランチャーをシャイジスタに向けて投下した。

 

「敵トランスフォーマーより、投下物を確認!」

 

「敵の追加武装だねぇ。破壊しちゃおうか」

 

「はっ、敵の追加武装に集中砲火!」

 

 落ちて来るミサイルランチャーを報告で知ったキーラは、機長に命じて撃破を命じた。レーザー攻撃が投下されるミサイルランチャーに集中される中、シャイジスタは両手を収納し、腕部単装ビーム砲を展開してジャイアントモグリンを攻撃する。

 

『あいつ、ミサイルランチャーを狙ってる!』

 

「やらせない! ビームキャノン!」

 

 注意がミサイルランチャーに向いてしまったので、それを阻止すべく攻撃する中、一発ほどジャイアントモグリンに命中した。これにジャイアントモグリンはシールド防御を行い、レーザー攻撃を減らす。

 

「敵合体機の攻撃に被弾! 損傷は軽微!」

 

「シールドを張れ! 敵追加武装如き、一門で十分だ! 操縦士は回避に専念しろ!」

 

「ふう、直すついでに、また改造しなくちゃね」

 

 操縦室内が騒がしくなる中、キーラは動じることなくジャイアントモグリンの改造が必要だと口にする。

 

「取った! くらぇ!!」

 

 シャイジスタが両手のビームでジャイアントモグリンに攻撃しつつ、狙われたミサイルランチャーを回収すれば、直ぐに右手をビーム砲から手に戻し、取っ手を掴んでミサイルランチャーを撃ち込む。放たれる多数のミサイルに、機長は迎撃と回避を命じる。

 

「敵ミサイル多数、本機に接近中!」

 

「レーザーで迎撃しつつ、回避しろ!」

 

「もっと火力が要るね、ジャイアントモグリンは」

 

 機長の怒号に操縦手と砲手が指示を必死に実行する中、キーラはジャイアントモグリンの火力を強化しなくてはならないと口にする。

 

『あいつを仕留めるには、接近戦しかない!』

 

「私も思ってたところだよ! 火器を使いながら接近する! サポート、頼むよみんな!」

 

 ミサイルを統べて撃ち尽くせば、シャイジスタは直ぐに空のランチャーを捨て、トミモツを抜き、六連装ミサイルとロダキャノンを撃ちつつ接近を試みた。

 

 

 

「流石に、使徒状態のエヴァは手強い…!」

 

 量産型エヴァ改と交戦する念神エクリプスを駆るハスミは、ATフィールドに苦しめられていた。ありとあらゆる技をエヴァ改にぶつけるが、どれも防がれ、六本の腕が彼女の精神を同調させられ、廃人化させようと伸びて来る。

 このままでは埒が明かないので、ハスミは思い切った行動に出ることにした。

 

「少し賭けになりますが、肉を切らせて骨を断つしかないですね」

 

 それは、特定の結界の破壊を目的とした技「界蝕の儀」を使う事であった。この技は使用の際に隙が生じるので、その間にエヴァ改の腕に掴まれ、自身が廃人化する恐れがある。

 

「まぁ、その手が早いですね。自分らしくないと思いますが」

 

 そのまま続けてもいずれは勝てるが、それでは味方が全滅する恐れがあるので、ハスミは自分らしくない戦い方である隙だらけの界蝕の儀を使うことを選択し、エクリプスが持つ刀身を構えた。ATフィールドを破壊する斬撃を飛ばすため、今まで張っていた防御結界を解除すれば、六本の腕は機体に絡みつく。

 

「くっ…! この光景、あの量産型エヴァの…!」

 

 絡みつかれたことで、量産型エヴァ改の脳だけとなったトピアスが見た光景がハスミの精神に入って来る。精神同調が進んでいるのだ。このまま行けば、ハスミは廃人と化すだろう。その前にATフィールドを破壊し、精神同調を進めて廃人にしようとしてくるトピアスを破壊する必要がある。

 

「この記憶は…! いけない、廃人化が…!?」

 

 精神同化を受けつつ結界破壊の技に集中する中、トピアスが脳だけになる前の記憶が続々と頭の中に入って来て、ハスミの精神がやや不安定になる。どれもこれも、非道な実験の数々であり、死ぬほど痛みがハスミの全身を走る。

 それでもハスミは何とか耐え、廃人化寸前のところで、エクリプスに纏わり付いていた六本の腕を振り払い、結界破りの斬撃を放った。

 

「今ッ!」

 

 精神同調廃人化攻撃に耐えたおかげか、放った斬撃は容易くATフィールドを打ち破る。これに量産型エヴァ改が混乱する中、ハスミは間髪入れず、閃華・爆裂陣と呼ばれる連続の斬撃と爆撃を纏った剣戟の技を放つ。

 

「閃華・爆裂陣!」

 

 その叫びと共に放たれた斬撃と爆撃の剣戟で量産型エヴァ改の六本の腕を破壊すれば、魔法陣を足元に召喚し、それで敵を固定し、必殺技である巨月落牙と呼ばれる技で巨大な刀を召還して振り下ろす。

 

「巨月落牙!」

 

 技名を叫んだと共に巨大な刀を魔法陣で動きを止めた量産型エヴァ改に向けて振り下ろせば、振り下ろした先に居た使徒化状態のエヴァは真っ二つとなった。通常ならここで撃破されているはずだが、使徒化しているのか、まだ動き、再生しようとしている。弱点であるコアを撃破せねば、倒れぬと言うことか。

 

「使徒化しているからコアを破壊しなければ倒せないと言うことですか。ならば、起承転結!!」

 

 そうと分かったハスミは、エクリプスの刀身を元のサイズに戻し、技名を叫びながら連続の変形型の斬撃を何発も撃ちこみ、刀身を地に刺した。その名も起承転結。中心部より無数の刃が芽生え、量産型エヴァ改は内部より貫かれる。やがて中心部より芽生えた無数の刃により、量産型エヴァ改はコアごと完全に消滅した。

 

「ふぅ、少し焦りましたね。でも、まだ終わってない。次へ行きましょうか」

 

 一番厄介な敵であるトピアスの量産型エヴァ改を倒したハスミは、少し息を切らしながらも次の戦場へと向かう。戦いはまだ終わっていないのだ。スタースクリーム軍団とヴィンデルの軍をこの世界から撃退するまで、戦いは終わらない。

 

 

 

「ロラララ、退き潰してやるロラァ!」

 

 巨大化したローラーバンキと交戦するのは、合体ロボのダルタニアス。身体の正面に付けた巨大ローラーで退き潰そうと突撃してくるローラーバンキに対し、修人らダルタニアスチームは、恐れることなく立ち向かう。もう少しで轢かれそうになったところで、ジャンプしてローラーバンキの突撃を躱した。

 

「ロラッ!?」

 

「ジャイロスピナー!」

 

 ローラーバンキが驚く中、ダルタニアスはブレードだけリング状にして分離したジャイロスピナーを投げ付け、動きを止めた後、右腕から手持ち式の巨大ボウガンを出現させ、それを何発も撃ち込んだ。

 

「ライサンダー! くたばりやがれ!」

 

「ロラぁ!? ロラララァ!!」

 

 巨大ボウガン「ライサンダー」を何発も撃ちこまれたローラーバンキの身体は穴だらけとなり、瀕死状態となる中、ダルタニアスは更にとどめを刺すため、火炎剣と呼ばれる火炎状のエネルギーを剣にする技を使う。火炎の剣を持てば、それで瀕死のローラーバンキを切り裂いた。

 

「火炎剣ッ!!」

 

 火炎の剣で切り裂かれたローラーバンキは全身を炎で包まれ、断末魔を上げながら爆散した。

 

「ロラァァァッ! 工事は、永遠に中断ロララァッ!!」

 

 その断末魔と共にローラーバンキが爆散すれば、今度はガスバンキがダルタニアスに挑んでくる。

 

「ガシュガシュ、火炎の剣とはなんと不埒な! この可燃性ガスで汚らしく焼き殺すガシュ!!」

 

 炎の剣を持つダルタニアスに向け、勝てると思ってか、足先から可燃性ガスを放出してダルタニアスを撃破しようとしたが、逆にやられてしまう。

 

「へっ、カモがなんとやらだぜ!」

 

「ガシュッ!?」

 

「火炎アタック!!」

 

 放出された可燃性ガスは呆気なく避けられ、ダルタニアスの火炎剣より放たれた火炎アタックを放ち、ガスバンキの全身を焼いた。

 

「ガシュゥゥゥ!? 熱いガシュゥゥゥ!!」

 

「へっ、ガスなんぞ持ってるからよ! そのまま、ガス爆発させてやるぜ! 火炎、十文字斬りッ!!」

 

 全身は燃え上っているガスバンキにとどめを刺すべく、修人はダルタニアスの必殺技である火炎十文字斬りを行う。火炎剣でガスバンキを十文字に斬れば、ローラーバンキと同じく、断末魔を上げて爆散する。

 

「ガシュゥゥゥ! が、ガシュ、ガシュバクハツ、ガシュッ!!」

 

 大爆発が巻き起こる中、ダルタニアスは上空を飛翔し、索敵を行った。

 

 

 

『クソが! 機動性か!?』

 

「そう言う事だ!」

 

 サーシェスのヤークトアルケーガンダムと交戦する刃のガンダムアストレアTYPEーXフィンターニスは、相手の重武装を逆手に取り、機動性で追い詰めていた。

 だが、戦争好きなこともあって歴戦錬磨のサーシェスは百も承知であり、油断していた刃のアストレアを引き寄せたところで、奥の手を使う。

 

『ところがぎっちょん! んなもん百も承知の事よ! そんでトランザム!!』

 

 それはトランザムであった。ヤークトアルケーのバックパック右側に装備された高出力粒子ビーム砲、GNハイメガランチャーを使用するには、トランザムを使わなければならないのだ。自身が乗る機体の特性も熟知しているサーシェスは、ここが使用時と判断し、使用したのだ。

 

「トランザムだと!?」

 

『ご明察よぉ! こいつで月まで吹っ飛びなァ! 同業者さんよぉ!!』

 

 至近距離まで迫っていた刃は直ぐに攻撃しようとしたが、トランザムを使用するGNハイメガランチャーのチャージは一瞬で終了しており、もう発射された直前であった。

 

『ご臨終だ。さて、小僧をさらってボーナスでも頂くとするかい』

 

 これで刃のアストレアも終わりかと思い、トランザムを切ったサーシェスであったが、彼もまた奥の手を隠していた。刃のガンダムアストレアも、トランザムを使用できたのだ。

 トランザムを発動してGNハイメガランチャーを躱したアストレアは、ヤークトアルケーの背後へ回り込み、一番厄介なGNハイメガランチャーをGNツインブロードソードで切り裂いて撃破したのだ。

 

『ぐっ、なんだぁ!?』

 

「こっちも、トランザムが使えるんだよ!」

 

『そんなもんありかよ!?』

 

 背後に回られ、一番火力のある武器を破壊されたことに驚くサーシェスに向け、刃は自分のガンダムもトランザムが使えることを訴える。発動したのが発射された直後であったのか、頭部の左半分がGNハイメガランチャーで消し飛んでいたが、戦闘に支障は無かった。

 振り向きざまに攻撃してくるヤークトアルケーが振るうGNバスターソードをトランザムによって三倍の速度となったブロードソードで振り払えば、一気に二振りの剣で三倍の速度で拘束に切り刻んでいく。

 

「うぉぉぉ!!」

 

『クソったれがぁ! 補償手当はあんだろうなぁ!?』

 

 刃が叫びながらヤークトアルケーを切り刻んでいく中、サーシェスは脱出の準備をしており、機体をわざと爆発させた。

 

「なっ!? こんなにも早く!?」

 

 直ぐに爆発したので、刃は驚いて思わず離れてしまった。この隙にサーシェスは脱出用のコア・ファイターで脱出し、戦線から離れていく。無論、追撃を予想してか、電子機器の機能を低下させるチャフをばら撒いている。

 

「ちくしょう、逃げられた! オマケにチャフまでばら撒いてやがる。やはりアリー・アル・サーシェスは油断ならん男だ。今の俺では、奴に勝てないと言うことか…!」

 

 仕留めることが出来ず、挙句に逃げられた刃は苛立ちながら左の画面に向けて八つ当たりの拳を叩き込んだ。それと同時に、サーシェスを完全に仕留めきれない自分に苛立つ。

 

「だが、まだ終わっちゃいない。奴は出て来ないだろうが、他にも奴のような強敵がまだ居る。コンボイ等の為にやらねば…!」

 

 まだ戦いは終わっていないので、刃は限界に達すれば、反動で性能が低下するトランザムを切り、救援を必要とする方へと向かった。

 

 

 

 各々が相手に勝利するか、激闘を繰り広げる中、エルはパイロットスーツに着替え、イカルガに搭乗しようとしていた。

 

「思わぬところで、叶いそうにない夢の一つが叶ってしまいましたが、少し緊張しますね。それとパイロットスーツを着ると言う物も。まさにSFですね。機能がこんなにも…!」

 

 搭乗する前にエルは緊張していた。パイロットスーツも想像を超えるほど高性能であり、ヘルメットを被る前に左腕に装着されたデバイスを試しに操作し、思わず困惑している。

 

「なるべく急いでくれんかね? 今は戦闘中なのだよ」

 

「あっ、すみません。つい」

 

 だが、今は戦闘中だ。パーセプターに急かされたエルは追加装備と内部改造されたイカルガに乗り込んだ。コクピット内はエルが乗るために差ほど変わって無いが、前には無かったモニターが備え付けられていた。トランスフォーマーたちは魔法による技術がいまいち理解できなかったようだ。

 

「モニターが付いた程度ですが、これはこれで嬉しい限り! アニメのロボットに乗った感じですね! さぁ、ヘルメットの機能を…!」

 

 シートの座り心地と操縦桿の具合を確かめれば、エルはヘルメットを被った。すると、様々な機能が表示され、またも驚愕する。どうやら、改良されたイカルガに合わせて作られたヘルメットのようだ。

 

「うわっ…!? これはアメリカ空軍の最新鋭戦闘機に採用されているHMDS…!? それに他にも色々と多過ぎて何が何だか…」

 

『いやぁ、すまないね。あのまま原始的な状態に修復しては、スタースクリームと異世界軍相手には厳しいと思い、失礼ながら改造させてもらったよ。そのヘルメットには、操作を簡略する為に通信機能も含め、容量が許す限り様々な機能を搭載させてた。左腕の端末で操作できるようになっているし、操作機器でも操作は可能だよ』

 

 通信機能や機体データを初め、ヘッドマウントディスプレイシステム(HMDS)も含める多大なヘルメットの機能に困惑するエルに向け、パーセプターはヘルメットの機能を紹介する。

 

「おかげで操作は容易いと思われますが、覚える物が多過ぎて…」

 

 覚える物が多過ぎると言うエルに対し、パーセプターは完熟訓練を省くためにヘルメットを作った物だと告げる。事実、エルは複雑だったイカルガの操作が簡単になってしまい、更には武装まで分かり易くなっていた。

 

『なぁに、私の作ったそのヘルメットのサポートシステムなら、この原始同然世界の人間でも、君のイカルガを容易く操縦できるだろう。まぁ、訓練を省けて良いと言う物だ。早速出撃してくれたまえ。コンボイ司令官たちが苦戦している』

 

「なんだか馬鹿にされているような感じですが、オートボット、ではなくサイバトロンの皆さんには感謝の言葉しかありません! 完熟訓練はぶっつけ本番と行きましょう! イカルガ改め、スーパーイカルガ、エルネスティ・エチェバルリア、行きます!!」

 

 自分が作ったヘルメットを自慢しつつ、自分らを貶すようなパーセプターの発言に、改良してくれたことで嬉しく思うエルはそれを水に流し、意気揚々と飛翔して出撃した。その際、エルは改良されたそのイカルガを、スーパーイカルガと名付けた。

 

「うわっ!? 何という出力! これがトランスフォーマーの技術力! これほどの暴れ馬を、簡単に御せるようにするとは!!」

 

 出力は原型機のイカルガをさらに上回る物であるが、それを容易く制御させるトランスフォーマーの技術力に、エルは驚きの声を上げる。そんな喜ぶエルが駆るスーパーイカルガに、艦載機デスバテーターに変形するジェットロン複数が襲い掛かる。

 

「なんだあいつ!? だが、敵であることに変わりねぇ! 死にやがれぇ!!」

 

 スーパーイカルガを見たジェットロン三名は構わずレーザーを撃ち込むが、エルは機体の機動力を持って躱す。

 

「機動性も僕のと比較にならない!? 武器もソーデッドカノンではなく、レーザーライフルですが…!」

 

 自分の作ったイカルガとは比較にならない程の機動力に驚きつつも、主兵装がレーザーライフルになり、ソーデッドカノンでは無くなったことに残念がった。だが、むしろ扱い易くしてくれたので、喜んで使用する。尚、本来の主兵装であるソーデッドカノンは、予備の射撃兵装として背部のラックに装着されている。

 照準もヘルメットの機能で直ぐに合わさり、トリガーを押して標的になったジェットロンに撃ち込めば、一撃でトランスフォーマーを撃破した。パーセプターはスーパーイカルガのレーザーライフルの威力を上げたようだ。威力の所為か、反動は大きかった。

 

「一撃でガトランティスのカブトガニを撃墜した!? 少し反動は大きいですが、慣れるしかありません!」

 

 威力と反動の大きさに驚きつつも、エルは慣れるしかないと笑顔で言いながら、襲ってきた残り二名のジェットロンを容易く全滅させ、前線へと向かった。

 

 スーパーイカルガを駆るエルと、新破壊大帝となったスタースクリームの対決が始まろうとしていた…!




次回で各々の戦いに決着をつけさせ、エルVSスタースクリームを始めたい。


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それぞれの決着

六月中に終わらせるつもりが…


 新破壊大帝スタースクリームの出撃に続き、スーパーイカルガも出撃する中、デシルのクロノスと対峙したミナホのF90とリズのガンダムバルバトスルプスレクスは、苦戦を強いられていた。

 

『ハッハッハッ、所詮お前らはクズなんだよ! お前ら如き劣等種が、俺に勝てるわけが無いんだよ!!』

 

 二人の攻撃を全て躱し切るデシルは嘲笑い、挙句に劣等種と蔑んでクロノスの胸部ビームランチャーを撃ち込む。これを二機は躱し、接近しようとするが、相手はXラウンダーと呼ばれる能力者が駆るMSだ。接近したところで、躱されてクロノスキャノンの掃射とビームサーベルの斬撃が来る。

 

「流石はXラウンダー…! こっちの動きもお見通しってわけ?」

 

『あれ、使うしか無さそうだね…』

 

「あれって?」

 

『説明は後でするから、二分くらいあいつを抑えられる?』

 

「もちよ!」

 

 このままではデシルには勝てないと思うミナホに、リズはバルバトスに隠されたある物を使おうとしていた。使うにはそれなりの時間が必要なのか、碌に説明もせず、時間稼ぎを頼む。

 これをミナホは勝てるなら良いと思い、理由を聞かず、デシルのクロノスを抑えに接近する。少しでも自分に注意を引き付ける為、当てる勢いでビームライフルを撃ちながら接近している。その間、リズはバルバトスのリミッターを解除する作業をしていた。

 

『Xラウンダーでもニュータイプでもないお前が、俺を倒せると思ってんのか!?』

 

「もちろんそのつもりだよ!」

 

 殺気を混ぜて攻撃しているので、デシルの注意は完全にミナホの高機動パックを装備したガンダムF90に向いた。そこから二分ほど耐えるべく、時にはビームサーベルを抜き、接近戦を仕掛け、リズのバルバトスに気付かせないようにしている。

 デシルのクロノスも同じくビームサーベルを抜き、同じく接近戦に応じるが、バルバトスがリミッターを解除していることは知らずとも、何かをしようとしていることは見抜いていた。気付いたデシルは直接自分の手で下さず、付近のMSを操って襲わせる。

 

「あの化け物見てぇなガンダムが何かしていることに気付かないとでも思ったか? 最初から見え見えなんだよ!!」

 

『しまった!?』

 

 最初からは嘘であるが、ミナホの攻撃の必死さでデシルはそれを見抜いてしまった。付近のMSを勝手に遠隔操作し、リミッターを解除しているバルバトスに突っ込ませる。それを止めようとするミナホであるが、デシルがそれを見逃すはずが無く、妨害された。

 

『行かせるわけがねぇだろうがぁ! 俺と一緒に遊ぼうぜぇ!』

 

「まだ二分も経ってないのに!」

 

『これであのゴミも終わりだっ! 後でお前も送ってやるよぉ、ゴミ箱になァ!!』

 

 デシルのクロノスの斬撃を受け止めるミナホは、まだ二分も経っていないことで、リズはもう終わりかと思っていたが、既に彼女はバルバトスの阿頼耶識システムのリミッターを解除していた。その証拠にバルバトスの目が悪魔の如く赤く光っていた。

 

「うぅあ、滅茶苦茶痛い…! リミッター解除はあんまりやるもんじゃないね…!」

 

 リミッターを解除した影響なのか、全身に強烈な痛覚が走り、両目から血が涙の如く流れ、鼻血も流れ出ている。おまけに吐血もしていた。機体に直接身体を接続している影響だ。だが、その代償として、デシルのクロノスに勝てる。

 

「さぁ、やろうか…バルバトス!」

 

 全身と脳に伝わる痛覚に耐えながら、リズはリミッターを解除したガンダムバルバトスルプスレクスを駆り、周囲から突っ込んでくる数機のMSに対し、テイルブレードを振り払う。

 テイルブレードの速度は凄まじく、一瞬にして数機のMSが真っ二つに切り裂かれた。この光景は、ミナホのF90を圧倒しているデシルにも見えていた。

 

「なんだあの動きは!? あのゴミがやったのか!?」

 

 リミッターを解除したバルバトスを駆るリズを、未だにゴミと見下すデシルは信じられず、ミナホのF90を蹴飛ばし、ビームランチャーを撃ち込む。だが、枷を外したバルバトスは目にも止まらぬ速さでそれを避け、一瞬のうちにクロノスに接近して鋭利な手刀を突き刺す。余りの速さに動きが読めず、左肩を抉られた。

 

「当てられただと…!? Xラウンダーでもない癖に俺に当てたのか!? ゴミの分際で!!」

 

 自分に攻撃を当てたリズに、デシルは激怒してビームサーベルによる反撃を行ったが、その突きは躱され、逆に大型メイスを左脇腹に叩き込まれて吹き飛ばされる。

 

「馬鹿なっ!? Xラウンダーでも無い奴に俺が、この俺が押されているだと!? あの時のようにっ!!」

 

 吹き飛ばされながらもスラスターを吹かせ、態勢を整えたデシルであったが、生前の一度目の死の際、自分を圧倒して倒したパイロットの事を思い出した。その敵のパイロットはXラウンダーでもなく、ただの人間だった。デシルは勝てると思っていたが、思わぬ敵のパイロットの覚醒により圧倒され、反撃もままならず撃墜された。

 今まさに、その一度目の死と同様の状況であった。これにデシルは激怒し、あのパイロットよりも劣るであろうリズに負けると思い、必死に抵抗する。

 

「ふざけんじゃねぇ! また俺が負けるのか!? 俺はXラウンダーなんだぞォ! 負けるはずがねぇ!!」

 

 負けないと叫ぶデシルは、周囲の味方MSを目を赤く光らせて悪鬼の如き迫るバルバトスにぶつけるが、その全ては尻尾のブレードで切り裂かれるか、メイツで潰されるか、コクピットを抉られるだけだ。これを見たデシルは恐怖する。

 

「う、うわぁぁぁ!? 来るなぁ! 来るな化け物めぇ!!」

 

 向かってくる悪魔(バルバトス)にありったけの火器をぶつけるが、その全てを躱しながら迫って来る。そんなデシルのクロノスの背後より、忘れていたミナホのF90が襲い掛かる。

 

『っ!?』

 

「私を忘れて貰っちゃ、困るね!」

 

 気付いたデシルであったが、迫るバルバトスの所為で反応が遅くなり、機体の両足をビームサーベルで斬られてしまった。

 

『クソがっ! 雑魚の分際でェ!!』

 

「それじゃあ、後はよろしくね。リズちゃん!」

 

『何ィ…!? ぐ、ぐぁぁぁ!!』

 

 これに焦りながらも反撃するデシルであるが、ミナホは直ぐに離脱する。ミナホは恐ろしい速さで迫るバルバトスに気付いていたのだ。回避不能な距離までに迫ったガンダムバルバトスルプスレクスに、デシルは叫ぶしかなく、コクピットがある頭部にメイスを叩き込まれた。

 

「フリットに! フリットの奴にまだ!! 会っていない…」

 

 メイスによって潰される中、デシルは復讐の対象の名を口にしながら絶命した。

 デシルのクロノスを倒したところで、リズのバルバトスはリミッター解除の余波で停止し、その場に鎮座する。無論ながら、阿頼耶識システムのリミッター解除の余波はリズにも及んでおり、彼女は瀕死の状態となっていた。

 

『リズちゃん!? 大丈夫っ!? 生きてる!?』

 

「あぁ…生きてるかどうか…わかんない…取り敢えず、疲れた…」

 

『サイバトロンの人! 直ぐにリズちゃんを! リズちゃんを回収して!!』

 

 無線機より聞こえるミナホの声で、どうにか生きているリズは返答する。これに無事じゃないと分かったミナホは、サイバトロンに彼女のバルバトスの回収を要請した。

 かくして、ミナホとリズが駆る二機のガンダムとデシルのクロノスとの戦いは、前者が勝利した。ミナホのF90はまだ戦闘が可能だが、リズはバルバトスの方はリミッター解除の影響で戦闘不能であった。

 

 

 

「クワックワックワァ、無駄な足掻きは止めるが良いクワァ!」

 

「こいつ、見た目の割りに強い!」

 

 復活したクワバンキと交戦していた天海のムラサメライガーは、見た目とは裏腹の強さに苦戦していた。

 

「クワックワックワァ、大人しく耕されるクワァ!」

 

「誰が耕されるか!」

 

 振るわれたムラサメブレードを受け止めて弾いたクワバンキは両手の鍬を高速で振るい、ムラサメライガーごと天海を耕そうとするが、躱されるばかりだ。

 見ていれば天海のムラサメライガーが勝ちそうだが、クワバンキは大きく、いずれかは後者の方が勝つだろう。それを頭で理解している天海は、ムラサメライガーのエヴォルトの最終形態を使うほか無いと判断する。

 

「ハヤテライガーじゃ火力不足だから…やっぱり、ムゲンライガーしかないよね。こんなデカ物には!」

 

 ムラサメライガーのエヴォルトの中で最終であるムゲンライガーになる他ないと、天海が叫ぶ中、自分の攻撃を避け続けるクワバンキは苛立ち、無茶苦茶に両手の鍬を振り回す。

 

「クワックワァ! ちょこまかとスバシッコイクワ! いい加減にカイコンされるクワァ!!」

 

 苛立って両手の鍬を振り回すクワバンキに対し、天海はエヴォルトを行う為、その顔面に太刀の柄に装備されたソードキャノンを撃ち込んで怯ませた。

 

「クワッ!?」

 

「今だ! エヴォルト!!」

 

 相手が怯んだところで、天海はムラサメライガーをムゲンライガーへと変身(エヴォルト)させる。搭乗者の意思に従い、ムラサメライガーはムゲンライガーへと姿を変えた。

 全身の装甲が白く被われ、背中のムラサメブレードはムラサメブレイカーとマサムネブレードの二つの太刀へと変貌する。これがムゲンライガーである。機動性のハヤテライガーとは違い、攻撃と防御に特化した形態だ。この形態となったムラサメライガーことムゲンライガーは、クワバンキに二振りの太刀を叩き込むために咆哮を上げ、飛び掛かる。

 

「クワッ!? 姿が変わったクワ! だが、カイコンしてやるクワァ!!」

 

 ムラサメライガーがムゲンライガーへと変貌したことに驚くクワバンキであるが、関係なしに耕すために両手の鍬を振るう。だが、叩き込もうとした両手の鍬は、ムラサメブレイカーとマサムネブレードの二つの太刀に斬り落とされた。

 両手の鍬が地面に落ち、両手が無くなったのを見たクワバンキは絶叫する。無理もない、気が付かない内に斬り落とされたのだから。

 

「く、クワァァァッ!? 両手の鍬が、両手の鍬が無いクワァ!?」

 

 両手の鍬を斬り落とされ、動揺するクワバンキに対し、天海は容赦なくとどめの斬撃を行う。

 

「いっけぇぇぇッ!!」

 

「クワァァァッ!!」

 

 操縦桿を強く押し出し、叫びながらムゲンライガーの二振りの太刀でクワバンキの胴体を切り裂いた。その後、他の蛮機族と同様に、クワバンキも断末魔を上げながら爆散する。この戦いの勝者は天海とムゲンライガーであった。

 

「クワァァ…! 残念無念、カイコォーン!!」

 

 断末魔を上げながら大爆発を起こしたクワバンキを見れば、天海はまだ戦闘が続いていることを確認する。

 

「まだ続いてるね。疲れたと思うけど、もうひと踏ん張りだよ、ムゲンライガー!」

 

 そう愛機に語りながら、天海とムゲンライガーは次なる現場へと向かった。

 

 

 

「敵特機、当機に接近!」

 

「な、何ッ!? 回避しろ速く!」

 

「駄目です! 間に合いません!!」

 

 同時刻、セーン率いるシャイジスタチームが駆るシャイジスタと交戦していたキーラのジャイアントモグリンは、ミサイルの目晦ましを受け、接近を許してしまった。慌てて回避を命じる機長であるが、既にシャイジスタは回避できない距離までトミモツを振り落とさんとしていた。

 

「あーぁ、こりゃ駄目だわ」

 

 この状況にも関わらず、キーラは他人事のように語り、何かの装置を起動させていた。

 

「でやぁぁぁ!!」

 

 数秒後、ジャイアントモグリンはセーンが叫びと共に振り落としたトミモツの刀身によって切り裂かれ、撃墜された。操縦室も爆発の衝撃で火に包まれたが、その中にキーラの姿は無かった。切り裂かれたジャイアントモグリンが大爆発を起こす中、セーンは撃破したと思う。

 

「やったか?」

 

『いや、爆発の中から何か来る!』

 

 撃破したかと思うセーンに対し、フォドルは爆発の中から新たな敵機が出て来たことを知らせる。ジャイアントモグリンの爆発の中より現れた胸にハーケンクロイツを刻んだ巨大ロボは、メインパイロットが驚いて反応が遅れたシャイジスタの顔面を、巨大な右拳で殴り付けた。

 

「うわっ!?」

 

『まさか、これに乗る羽目になるとはね…! つくづく驚かされるよ』

 

 シャイジスタの顔面を殴り付けたその摩訶不思議なデザインの巨大ロボに乗る人物とは、あのキーラであった。これにシャイジスタの姿勢制御担当の比米は直ぐにスラスターを吹かせてバランスを取り、状態が安定したところで、メインパイロットのセーラはロタキャノンなどで反撃した。

 

「こいつは一体…?」

 

『どうやら搭載機らしい。気を付けるんだ!』

 

『さて、この試作機でどれくらいやれるか…試させてもらうよ!』

 

 セーラが姿を現したキーラの巨大ロボ、ジャイアントベアリングロボに驚く中、出力制御とチームコントロールを行う碧が搭載機だと見抜き、慎重に対応するように指示を出す。

 キーラもこのロボで戦うのが初めてであるのか、いつもの気怠そうな雰囲気から少しばかり緊張した口調となり、ロボの鼻に搭載されたレーザーでシャイジスタを攻撃する。飛んでくるレーザーを躱しつつ、射撃兵装で反撃するシャイジスタであるが、ベアリングロボの装甲はジャイアントモグリンより硬く、余りダメージは効いていない。

 

『キャノンとミサイルが!?』

 

「なんて装甲!」

 

『接近戦でやるんだ!』

 

 全ての射撃兵装が効かないと分かれば、碧はトミモツで切り裂くように指示を飛ばす。これに応じ、セーラはトミモツを抜き、キーラのベアリングロボに斬りかかる。

 

「ふぅ、衝撃は改善するべし。接近してくる? こっち拳しか無いんだけど」

 

 シャイジスタの射撃兵装を防ぐ装甲を持つベアリングロボであるが、搭乗者への衝撃は考慮されておらず、衝撃吸収機能を組み込む他ないとキーラは戦闘をしながら判断する。トミモツを抜いて接近してくるシャイジスタに対しキーラは、巧みに操縦桿を動かして斬撃を躱し、敵合体ロボの胴体に強い右拳を叩き込んだ。怯んだシャイジスタへ向け、追撃の左拳による強打を喰らわせようとするベアリングロボであるが、シャイジスタは四人で運用する合体ロボであり、即座に体勢を立て直してトミモツによる反撃を行う。

 

「これで!」

 

 エネルギーの刀身が叩き込まれ、切り裂かれたに見えたベアリングロボであるが、トミモツの刀身ですら防いでしまうほどの強度を誇っていた。ただし、乗っているキーラにはその衝撃が伝わり、思わず付近の機器に頭部を強打して出血してしまう。

 

『嘘ッ!?』

 

「いっ…! だからぁ、強い衝撃を当てるなって、言ってんだろうがぁ!!」

 

 トミモツを受けても塗装が剥げる程度の損害しかないベアリングロボの強度にセーラ等が驚愕する中、余りの痛さにキーラは冷静さを失い、怒りによる反撃を食らわせる。それは両こぶしによる連撃(ラッシュ)であった。

 

『無駄、無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄! 無駄ァ!!』

 

『うわぁぁぁ!』

 

「ぐ、キャァァァッ!!」

 

 高速で叩き込まれるべリングロボの拳にシャイジスタはただ殴られるばかりであり、回避行動を取ろうにも、ラッシュから来る衝撃でシャイジスタの操縦者たちもダメージを受ける。

 

「こ、このままでは、やられる…! ならば、一か八か! シン・トミモツで!!」

 

 ベアリングロボのラッシュでシャイジスタのコクピット内の機器が被害を受ける中、碧はこの状況を打破するため、トミモツにエネルギーを送り込み、シン・トミモツを発動しようとする。それに気付かず、キーラは感情のままにシャイジスタに向け、怒りのラッシュを続けていた。シン・トミモツを叩き込むチャンスは、ラッシュが終わった瞬間である。これをセーンはトミモツにエネルギーが送られていることで理解し、ラッシュの衝撃を受けながら耐えた。

 

「無駄無駄無駄、無駄無駄無駄無駄無駄無駄! 無駄ァァァ!! ふぅ、やり過ぎちゃったよ…! でも、クソ痛ぇわ」

 

 ラッシュが終わる頃には、キーラは冷静さを取り戻し、強打した部分を抑える。その一瞬が命取りであることも知らず。だが、シャイジスタは無数の拳を受け、動かないのだ。乗っているパイロットが衝撃で死んだと思っても仕方がない。

 

「ふん、タァァァッ!!」

 

 キーラが油断したところで、爆発した機器の破片が身体に突き刺さっているセーンは痛みに耐えながら操縦桿を強く動かし、十分に溜まったトミモツ、その名もシン・トミモツをベアリングロボに叩き込む。

 ラッシュに耐えながら溜め込んだトミモツのエネルギーの刀身は巨大であり、ベアリングロボを両断するには十分の大きさであった。これを見ていたキーラは回避行動を取らず、自分の運命を悟る。

 

「あっ、終わった。こうなるなら、もっと改造すれば良かった…」

 

 このような最期を迎えるなら、もっとベアリングロボを改造すれば良かったと後悔しつつ、キーラは機体と共にシン・トミモツのエネルギーの刀身に切り裂かれた。

 

『敵機撃破を確認!』

 

「でも、まだ終わってない! 補給を終えた後、直ぐに戻るよ!」

 

 両断されたベアリングロボが搭乗者と共に爆散する中、シャイジスタを駆るセーン等は補給と整備を行う為、一旦後方へと戻った。




まさかこんな事が起こるなんて…。

高橋和希先生、ご冥福をお祈りいたします。


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スーパーイカルガVS新破壊大帝スタースクリーム 前編

いよいよ、終わりだ…。

つっても前編なんだけどな。


 サイバトロンとスーパーロボット軍団が強敵たちとの戦いに勝利していく中、エルが駆るスーパーイカルガに、蛮機獣のコウアツバンキが襲い掛かる。

 

「シュバー。ここで結果を残せば、蛮機族の立場は盤石シュバー! 高圧洗浄!!」

 

 エル捕縛命令が届いていないのか、コウアツバンキは頭部より高出力の強酸をスーパーイカルガに向けて放った。飛んでくる強酸は、直ぐにスーパーイカルガのコクピットに居るエルに警報と言う形で知らされる。

 

「警報!? そんな機能が…! おっと!!」

 

 シルエットナイトには搭載されていない警報にエルが驚く中、生前の記憶で飛んで来た強酸を躱した。直ぐに飛んで来た方向を機器で計算し、場所を割り出す。即ち、コウアツバンキを見付けたのだ。発見したコウアツバンキに、エルは驚きの声を上げる。

 

「戦隊物の怪人!? なんでここに!? ですが、敵であれば容赦しません!」

 

 コウアツバンキの存在に驚きつつも、エルは敵と見なして容赦なく攻撃した。まだ使っていない武装のエネルゴンヴェスパーがあるので、その試し撃ちをするため、使用を始める。

 

「ヴェスパーまで付いているんですか? ならば、試しにあの戦隊怪人に!」

 

 ライフルを背中のラックに付け、ヴェスパーを起動させて機体の両手で持たせれば、照準をコウアツバンキに定め、安全装置を解除する。後は引き金を引き、ヴェスパーを発射するだけだ。

 

「鬱陶しいシュバー! とっとと溶けて消えるが良いシュバー!!」

 

「そこっ!」

 

 自分の強酸を躱し続けるスーパーイカルガに怒ったコウアツバンキは、高圧洗浄のように強酸を巻き散らしたが、これも避けられてしまう。巻き散らされる強酸を躱しつつ、エルはヴェスパーの引き金を引いた。

 

「じゅ、シュバーっ!? 連続使用は、お止め下さいシュバーァッ!!」

 

 発射された強力なビームはコウアツバンキに命中し、その巨体に穴を開けた。無論ながら、他の蛮機族と同じように断末魔を上げて爆散する。

 

「こいつは強力過ぎる…!」

 

 硬そうなコウアツバンキの身体に容易く貫通したヴェスパーの威力に、エルは思わず生前に見たアニメのキャラクターの台詞を吐いた後、主戦場へと向かった。

 

 

 

「ちっ、こんな奴らに手こずりやがって! スタースクリーム軍団、一斉攻撃だ!!」

 

 軍団を率いて主戦場へと到着したスタースクリームは、率いる軍団に一斉射を命じた。まだ味方が居るのだが、スタースクリーム配下の者たちでは無いので、躊躇も無かった。

 

「ですが、ヴィンデルの連中が…」

 

「馬鹿やろうが。んなこと知った事か! とっととやれ! 俺様の命令が聞けねぇのか!?」

 

「わ、分かりました!」

 

「それで良いんだ! 野郎共、撃ちまくれぇ!!」

 

 スタースクリームが無理に一斉射を命じれば、部下等は応じて一斉射撃を撃ち込んだ。味方はまだいたが、スタースクリームが気にするタマではない。この味方ごとの攻撃に、コンボイとハーマンは即座に防御手段を持つ者たちに指示を飛ばす。

 

「スタースクリームめ、まだ味方が居ると言うのに! トレイルブレイカー、フォースバリアだ!」

 

「了解! フォースバリア!!」

 

『ダブルオーライザーもこれに加わるんだ!』

 

 コンボイがトレイルブレイカーにフォースバリアの展開を命じれば、ハーマンはダブルオーライザーにGNフォールドの展開を命じる。これにガーディアン、スキアのヴァルザカードやツバキのリューハイロード・オリビア、ハスミのエクリプスも加わり、サイバトロンとスーパーロボット軍団の連合軍を守り抜いた。

 

「クソっ、防ぎやがって! こうなれば、叩き潰すまでよ! スタースクリーム軍団、アタック!!」

 

 味方を巻き沿いにしての一斉射で敵軍に損害を与えられなかったスタースクリームは苛立ち、軍団を率いて攻撃に向かった。

 

「来るぞ! 迎え撃て!!」

 

「撃て撃てぃ!」

 

 突撃してくるスタースクリーム軍団に、ハーマンは迎え撃つ命令を出し、登場するゴジュラスの背中に装備された二門のロングレンジキャノンを発射する。それに合わせ、ハーマン指揮下のグループのみならず、プロールやコンボイ等のグループも手に持っている火器を撃ち込んだ。

 

「うわぁぁぁ!」

 

「だ、駄目だ!」

 

「ちっ、この程度でビビりやがって! 手本を見せてやるぜ!」

 

 もう反撃に何名かが逃げ出そうとする中、スタースクリームはその弾幕を躱しながらサイバトロンとスーパーロボット軍団に単独で突っ込む。無論ながら、敵の大将が単独で来たので、討ち取りに向かう。

 

『スタースクリームガ単独デ突ッ込ンデ来タゾ! 破壊スルンダ!!』

 

「よーし、トランスフォーム! ダッシュ!!」

 

『敵の大将を討ち取れば、敵は撤退するはずだ!!』

 

 スタースクリームを討ち取りに向かったのは、合体戦士のスペリオンとヘッドマスターのハル、ムラタ・ケンゾウだ。ハルはF-4ファントムにトランスフォームして上昇し、ムラタのスレードゲルミルも上昇してスペリオンに続く。向かってくる三機に、スタースクリームは怖気るどころか鼻で笑って迎え撃つ。

 

「はっ、エアーボットとヘッドマスターに裏切り者か! この俺様に敵うと思ってんのか!?」

 

 巨大ロボ二機が迎え撃ってくるにも関わらず、スタースクリームは余裕で攻撃を躱し、まずはスペリオンを狙う。

 

『スタースクリーム、今日ガオ前ノ最後ダ!』

 

「最後だぁ? それはこっちのセリフだぜ!」

 

『何ィ!? ウワァァァッ!!』

 

 レーザーライフルでスタースクリームを撃破しようとするスペリオンであったが、新破壊大帝となったスタースクリームは合体戦士より強く、一瞬にしてスペリオンを右肩のレーザーで撃破してしまったのだ。

 撃破されたスペリオンは安全装置が働いたのか、元の五体に分裂して地面へと落下していく。合体戦士を一撃で撃破したスタースクリームに、ハルとムラタは驚きの声を上げる。

 

「嘘ッ! スペリオンを一撃で!?」

 

『一体どこにそんな力が!?』

 

 そんな驚く二体に、スタースクリームは攻撃を躱しながら次なる標的をハルのトランステクターであるF-4ファントムに定め、レーザー攻撃を行う。

 

「次はお前だ!」

 

『くっ、そんなので! えっ!?』

 

 レーザー攻撃を行うスタースクリームに反撃するハルであったが、躱されて真上に接近を許し、蹴りを入れ込まれて墜落する。

 

『キャァァァ! トランスフォーム、ヘッドオン!』

 

 無論、直ぐにトランスフォームして落下ダメージを減らした。ハルを倒したスタースクリームに、ムラタはスレードゲルミルの斬艦刀の斬撃を飛ばす。

 

「クソっ、これ以上はやらせん! 斬艦刀、一文字斬り!!」

 

「へっ、水掛けか? こっちも剣で勝負してやるぜ!」

 

「剣で俺とスレードゲルミルに挑む気か!? 返り討ちにしてくれる!!」

 

 一文字斬りの斬撃を飛ばすムラタであるが、スタースクリームはそれすらも躱し、腰の剣を抜いて斬りかかる。

 同じ剣なら体格やムラタの剣術、スレードゲルミルの性能ならばスタースクリームが負けると思われていたが、後者は機動力が並外れており、斬艦刀の斬撃を避けられ、一瞬にして斬艦刀を持つ右腕を斬り落とされてしまった。

 

「速い!?」

 

「遅いんだよ!」

 

 機体の右腕を斬り落とされたムラタが驚く中、スタースクリームは反撃を封じるために胴体を切り裂いた。だが、まだスレードゲルミルは動いている。頭部のドリルインフェルノでスタースクリームを攻撃する。

 

「まだ終わらん! ドリルインフェルノ!!」

 

 その叫びと共に頭部のドリルを回転させ、スタースクリームを抉ろうとしたが、これすらも躱され、両肩の二門のレーザー砲の一斉射を撃ち込まれて地面に叩き付けられる。

 

『ぬわぁぁぁ!!』

 

「危うく大穴を開けられちまうところだったぜ」

 

『てやんで! これ以上はやらせねぇぜ! バァロー!!』

 

「ちっ、木偶の坊が雁首揃えて!」

 

 スレードゲルミルを地面に叩き付けたスタースクリームに挑んだのは、修人らのダルタニアスであった。ライサンダーを撃って来るダルタニアスに対し、スタースクリームは舌打ちしながら攻撃を躱しつつ応戦する。

 

「クソっ、すばしっこく動きやがって!」

 

『落ち着くんだ兄貴! このままじゃ…』

 

 ライサンダーが当たらないことに苛立つ修人に、フウは落ち着かせようとするが、スタースクリームは既に目前まで迫っており、持っている剣で胴体を斬り付ける。斬り付けられた衝撃でダルタニアスは吹き飛び、その巨体を吹き飛ばしたスタースクリームの斬撃に修人は驚きの声を上げた。

 

「何処にそんなパワーがあるんだ!?」

 

「新破壊大帝となったこの俺様は最強なのだ! さぁ、次はどいつだぁ!?」

 

 ダルタニアスを倒したスタースクリームは、次に挑む者は誰かとサイバトロンとスーパーロボット軍団を挑発する。新破壊大帝となったスタースクリームのパワーは凄まじく、彼の自尊心もあってここに居る誰も自分には敵わないと思っている。

 圧倒的パワーを持って自分らを排除せんとするスタースクリームに対し、コンボイ等は少し恐れ戦くが、ここで退いてはならぬと判断し、全員で打って出ようとしていた。

 

「ここで退いては、この世界はお終いだ! 全員でスタースクリームを止めるしかない! やるぞ!!」

 

 コンボイが代表して言えば、サイバトロンとスーパーロボット軍団全員でスタースクリームに一斉に攻撃する。最初に攻撃したのは、倒されたダルタニアスであった。

 

「次はこうはいかないぜ! その偉そうなマントごと燃やしてやる! 火炎十文字斬り!!」

 

「はっ、さっきの猫ちゃんかい! それで燃やせると思ってんのかぁ!?」

 

 必殺技である火炎十文字斬りで燃やそうとする修人であったが、スタースクリームは剣を強く振るって強風を生み出し、火炎十文字斬りの炎を消し去ってしまった。

 

「何っ!?」

 

「今度こそ、ぶっ潰れろぉ!」

 

『ドリル・ブーストナックル!!』

 

 またしても驚き、動きが止まったダルタニアスに向け、スタースクリームはその剣を振り下ろす。そんな修人らが乗るダルタニアスを救うべく、ムラタのスレードゲルミルがドリル・ブーストナックルをスタースクリームに向けて飛ばす。これにスタースクリームは気付き、飛んで来たドリル・ブーストナックルを右腕のレーザー砲で破壊した。

 

「あの裏切り者め、まだ生きてやがったか!」

 

『貴様だけは命に代えても! ぬォォォッ!!』

 

 両腕を破壊されたスレードゲルミルであるが、ムラタは戦意を失っておらず、機体の口に斬艦刀を加えさせ、スタースクリームに向けて突っ込む。これを援護しようとするコンボイ等であったが、間が悪いことにメカ要塞鬼に乗ったヒドラー元帥率いる敵本隊が到着してしまう。

 

「よーし、彼を援護を…」

 

「コンボイ司令官! 敵の本隊が! 凄まじい数です!!」

 

「こ、これでは…!」

 

 ヒドラー元帥率いる敵本隊に、コンボイ等はその対処に負われた。

 両腕を失った状態でスタースクリームと戦う羽目になったムラタは機体の口に咥えた斬艦刀を振るうが、あっさりと避けられるばかりだ。

 

「しまった!」

 

「へっ、犬みてぇに咥えやがって! これで終いだ!」

 

「なっ…!? ここまでか…!」

 

 避けられた挙句、頭部まで接近を許してし、レーザー砲を頭部に撃ち込まれた。スレードゲルミルの装甲なら耐えられるはずであるが、新破壊大帝となったスタースクリームのレーザー砲の威力は強化されており、更に二門のレーザー砲の一斉射であったが為、二倍となった威力で装甲は貫かれ、コクピットがある頭部は破壊されてしまう。無論、ムラタは死亡した。

 認識は薄いが、味方であるムラタを殺害したスタースクリームに激怒した修人らは怒り、怒りの斬撃である火炎十文字斬りを繰り出す。

 

「こ、この野郎! よくも!!」

 

「次はテメェだ! 死にやがれ!!」

 

 修人のダルタニアスが繰り出す火炎十文字斬りをスタースクリームは余裕で躱して左肩のレーザー砲を撃とうとしたが、ここに来てエルのスーパーイカルガが到来し、止めのヴェスパーを両者の間に撃ち込んだ。

 

「うぉ! なんだ!?」

 

「誰だ!? 邪魔する奴は!」

 

『申し訳ございませんが、そのスレードゲルミルの仇。このエルネスティ・エチェバルリアが取らせて頂きます。ダルタニアスの楯剣人さん!』

 

「てやんで! 俺は盾松修人でい!!」

 

 両者の対決を止めたエルに対し、名前を間違われた修人は怒り、スタースクリームに挑もうとしたが、ナブヤやサラ、フウ等に止められた。メインパイロットの操縦権を奪われた修人は一同に怒鳴る。

 

「な、何しやがる!? 指くわえて見てろってか!?」

 

『修人、今のお前じゃ返り討ちにされるのがオチだからよ! お前一人じゃ戦ってるんじゃないんだ! 心中は御免だぜ!』

 

『そうよ! あんた、頭に血が上って攻撃が単調になってるわ。ここはあの女の子に任せて頭を冷やしなさいな』

 

『おいらもみんなと同意見だよ、兄貴。スタースクリームは兄貴に任せて、コンボイ司令官たちに合流しようぜ』

 

「お、お前ら…!」

 

 このまま戦っては、スタースクリームに一方的に嬲られ、負けると判断してだろう。それにスーパーイカルガを駆るエルは冷静であり、同じ十メートル級のスタースクリームと戦うには適していた。幾ら強力なダルタニアスでも、小柄で素早く、スレードゲルミルを破壊するパワーを誇る新破壊大帝スタースクリームとの相性は最悪であり、スレードゲルミルの二の舞である。

 チームの者たちに言われ、少し怒りを覚えながらも、少し考えればスタースクリームには敵わないと分かり、冷静になった修人はエルに譲ってコンボイ等に合流する。

 

『ちっ、分かってらい! ダルタニアスじゃ分が悪過ぎるって事だろ! 嬢ちゃんよ、そいつの相手は任せたぞ!』

 

「女の子じゃないんですがね…」

 

 お互い初対面であったが為、互いに間違えながらも気にすることなく、エルは修人らダルタニアスチームに任された新破壊大帝スタースクリームと対峙する。

 

「G1アニメ劇場版の新破壊大帝スタースクリームですか。生で見ればカッコイイですが、今はガルバトロンの気分となって貴方を破壊します!」

 

「破壊するだぁ? はっ、戯言をほざきやがって! だが、わざわざ探す手間が省けたぜ! 予定は変わっちまったが、テメェをヴィンデルの野郎の元に連れてって、俺様の軍団を再建だ!」

 

 新破壊大帝となったスタースクリームの姿を見たエルは魅力を感じたが、彼の仕出かしたことは許すことは出来ないので、破壊するとスーパーイカルガの右手で指を指しながら宣言する。これにスタースクリームは鼻で笑い、左肩のレーザー砲を撃ち込んだ。

 

「中々カッコイイ撃ち方ですが、当たるわけにはいきません! こちらもレーザーで反撃させて頂きます!」

 

 撃ち込まれるレーザーを躱しつつ、エルもスーパーイカルガの追加武装であるレーザーライフルで反撃した。お互い静止した状態での射撃だが、放たれた互いの初弾は命中し合い、爆発して衝撃波となって両者を吹き飛ばした。それを合図に、移動しながらの撃ち合いとなる。

 エルのスーパーイカルガがヴェスパーを撃ち込めば、スタースクリームは上昇し、胸部ミサイルを撃ち込む。これにエルは左腕のエネルゴンシールドを展開しつつ、ミサイルを出来る限りレーザーライフルで迎撃する。躱し切れない分はシールドで防いだ。

 

「死ねぇ!」

 

「うわっ!?」

 

 命中したミサイルの爆発による煙が上がる中、煙の中からスタースクリームの蹴りがスーパーイカルガに炸裂した。

 

「ぬぅ…! 倍返しです!!」

 

 それを諸に受けたスーパーイカルガであるが、エルは直ぐに体勢を立て直し、レーザーライフルとヴェスパーの一斉射で追撃してくるスタースクリームに反撃する。

 

「けっ、当たるかよ! トランスフォーム!!」

 

 倍返しの反撃にスタースクリームは最小限の動きで躱しつつ、両肩の肩パットと被っている王冠をパージし、F-15戦闘機にトランスフォームして上空へと逃げた。その際、排出された付属品は戦闘機形態の上面に自動的に装着される。

 上昇して逃げようとするスタースクリームに、エルは逃すことなく追撃する。

 

「逃がしません!」

 

「誰が逃げるか! 嬲り殺しにしてやらぁ!」

 

 同じく上昇して追撃してくるエルのスーパーイカルガに対し、スタースクリームは旋回してレーザーとミサイルをお見舞いした。

 

 

 

「向こうは随分と派手にやっているな」

 

 一方、ヒドラー元帥の敵本隊と交戦するコンボイは遮蔽物に身を隠し、激闘を繰り広げるエルのスーパーイカルガとスタースクリームとの交戦を見ていた。

 凄まじい激闘であり、入る余地もない。現に手柄欲しさにエルとスタースクリームとの激闘に乱入しようとしたヴィンデルの手の者が、一瞬にして両者の攻撃に巻き込まれて撃破されている。

 そんなコンボイの通信機に、副官マイスターの連絡が入る。各地で戦っていた戦士たちとの合流が出来たと言う報告だ。

 

『コンボイ司令官、各地て交戦していた者たちが合流しました!』

 

「よし、戦力は揃ったな…!」

 

 マイスターから戦士たちの合流の報告を受け、コンボイは反撃の機会と判断して立ち上がる。

 

「サイバトロン戦士並びスーパーロボット軍団、反撃だ! アタック!!」

 

 反撃を先導すれば、手にしているライフルを撃ちながら敵本隊に反撃する。その後をサイバトロン戦士やスーパーロボット軍団の面々が続いた。




次回で終わりです。


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スーパーイカルガVS新破壊大帝スタースクリーム 後編

ここでエルと共に戦おう!編終了です。

https://www.youtube.com/watch?v=h_BZhuNVxjw


 スーパーイカルガを駆るエルと新破壊大帝となったスタースクリームとの激闘が繰り広げられる中、天海竜馬のムラサメライガーことムゲンライガー、スキアのヴァルザカードG、刃のガンダムアストレアTYPE-Xフィンスターニス、ツバキ・R・ハルパニアのリューハイロード・オリピア、ヘッドマスターの村田ハル、ハスミ・クジョウの念神エクリプス、橘浩二のダイオン、サカヅキ・ミナホのガンダムF90パワードと言った各地で戦っていた戦士たちと合流したコンボイ本隊は、ヒドラー元帥率いる敵本隊に反撃を開始した。

 リズ・カデンツァはガンダムバルバトスルプスレクスの阿頼耶識システムのリミッターを解除し、全力を出したため、反撃には参加できなかった。

 コンボイが先陣を切ってライフルを撃ちながら突撃すれば、その後をサイバトロン戦士やスーパーロボット軍団の面々が駆るロボットらが続く。

 

「行くぞお前ら! 反撃だ!!」

 

『応ッ!』

 

 合体ロボ、ダルタニアスに乗る盾松修人、柊ナブヤ、サラ・フロイレンス、フウ志々雄等ダルタニアスチームはコンボイ等の反撃に合流する。

 

「さぁ、私たちも!」

 

『あぁ!』

 

『うん!』

 

『はい!』

 

 補給を終えた村田セーン、馬服碧、飛鳥フォドル、有栖川比米のシャイジスタの面々も反撃に続いた。

 

「負けてられるか! お前ら、ビビるんじゃねぇぞ!!」

 

『それはこっちの台詞だ』

 

『応よ。あの程度の数で、臆するんじゃねぇぞ!』

 

「へっ、分かってらい!」

 

 ゲッターカオスロボに乗る今川竜騎、レン・クー、マ・ドソクもスーパーロボット軍団に続き、反撃の戦列に加わる。

 

「いよいよ決戦の時だ…! ライトン・イェーガー、マジンガーZで行くぜ!!」

 

 マジンガーZに乗るライトン・ブラウナーも、イェーガーと自称しつつ反撃するコンボイ等に続いた。

 

「血迷ったか! 総員、迎え撃て! 一斉射だ!!」

 

 圧倒的に数が不足した状態で反撃を敢行したコンボイ等に対し、メカ要塞鬼から指揮を執るヒドラー元帥は総攻撃を命じる。これに応じ、ブロッケン伯爵はブロッケーンT9に乗って出撃し、カムジン・クラヴィシェラもグラージに乗って出撃した。

 

「マジンガーにコンボイ! 貴様らの首、ここで取らせてもらうぞッ!!」

 

 ブロッケン伯爵が駆るブロッケーンT9はコンボイとライトンのマジンガーZを指出し、首を浮かせながら突っ込んだ。先にコンボイを攻撃したが、ライトンのマジンガーZがロケットパンチを浮いている首に向けて発射する。

 

『うぉ!? まずはコンボイの首だと言うのに!』

 

「二度と喋れないようにしてやるぜ! 首野郎! 光子力ビーム!!」

 

『貴様の首から取ってやるわ! マジンガーZ!!』

 

 ロケットパンチを戻した後、襲い掛かるブロッケン伯爵のブロッケーンT9に向け、ライトンは光子力ビームを撃ち込んだ。飛んでくる光子力のビームをレイピア状の剣で何とか防ぎつつ、ブロッケン伯爵はライトンと交戦を始める。

 

「馬鹿め、大将が先陣を切って出陣とは! 先にコンボイから仕留めろ!」

 

 カン・ユーが乗るダイビングビートルが複数の同型機を引き連れ、コンボイを狙う。

 

「今度こそスクラップだァ! 死ねぇ! コンボイ!!」

 

『俺が大将首を取るのよ! 邪魔するんじゃねぇ!!』

 

 ダルジャンを駆るゴステロもコンボイを狙っていた。カムジンもコンボイを狙っているらしく、攻撃を集中させる。

 

『ひぃやぁぁぁ!!』

 

『フへへへ、死ねぇ!』

 

『ぶっ潰れろぉ!』

 

「このモンスター共めぇ! 溶けた鉛でも、食らえ!!」

 

 ガッシェランのマンジェロ、エルダールのボーン、ダンコフのゲティの死鬼隊の三名も加わり、コンボイ等に襲い掛かる。襲い掛かる死鬼隊に対し、コンボイの後に続くアイアンハイドは、両手を収納して溶けた鉛を発射する。

 

「退けよ! 屑鉄共!!」

 

「この悪魔め! 近付かせんぞ!」

 

 ガウルンのコダールがコンボイに近付いているのを見たプロールは、それを妨害するために他のサイバトロン戦士等と共にレーザーガンの一斉射を浴びせる。

 

「ウヒヒヒ! コンボイさん、死ねぇ!!」

 

 ゲイツのコダールiもまたコンボイを狙っており、ラムダ・ドライバを使って邪魔になろうとするサイバトロン戦士たちを吹き飛ばす。

 暴れ回るヴィンデル軍団の面々からサイバトロン戦士たちの窮地を救うべく、徹底的にカスタムしたスコープドッグに乗り換えたキリコは、ゲイツのコダールiを左腹部のガトリングガンで攻撃する。

 

『ニャンだ!?』

 

「排除する…!」

 

 気付いたゲイツはラムダ・ドライバのシールドで防ぎ、それで反撃しようとするが、重武装にも関わらず、キリコが駆るスコープドッグはターンピックで躱して接近しながらヘビィマシンガンを撃ち込み、動きを止める。

 動きを止めたところで、右腰部の二連ミサイルを撃ち込んで爆発で生じた煙でゲイツの視界を封じた後、フォールディングソリッドシューターと呼ばれる背中の二門の折り畳み式砲を展開し、それを相手のコダールに撃ち込んだ。

 

「うわぁぁぁ! 私のモミアゲがぁ!? 僕ちゃん帰る!!」

 

 視界を封じられた為、対応が間に合わず、胴体に直撃を受けて機体を損傷した。衝撃でゲイツのモミアゲが崩れたのか、モミアゲを気にする彼は即座に撤退した。ゲイツを撃退したキリコは、コンボイに突っ込もうとするカン・ユーの方へ向かう。

 

「うぉ!? キリコか! 今度こそ地獄へ送ってやる! 撃ちまくれ!!」

 

 僚機を撃破されたことで、接近してくるキリコのスコープドッグに気付いたカン・ユーは他の僚機と共に一斉攻撃を行う。敵がこちらに視線を向けたところで、キリコはスコープドッグの全ての武装による一斉射を放つ。

 二門の収納式火砲とミサイルポッドを放ってからローラーダッシュをしながらヘビィマシンガンを連射しつつ接近し、カン・ユーの僚機数機を仕留める。そこから二連ミサイルを撃ち込んで更に一機を撃破。更に左腰部のガトリングガンで二機目をハチの巣にした。最後に二門の収納式火砲を撃ち込んで二機同時に撃破して、ミサイルポッド全門発射で僚機全てを撃破した。

 

「な、何ッ!? クソっ!!」

 

 一機だけとなったカン・ユーはヘビィマシンガンを乱射するが、キリコはそれを避けながらローラーダッシュで接近し、左腕のパイルバンカー一体型アイアンクローを叩き込む。閉じた状態でタックルで叩き込んだ後、展開したクローで敵を挟み、クローを食い込ませた状態でパイルバンカーを打ち込んだ。

 

「う、ウワァァァ! 助けてくれぇぇぇ!!」

 

「逃げたか…」

 

 通常なら死んでいる所だが、カン・ユーの悪運は強く、爆発する機体から脱出して逃亡する。これにキリコは追撃せず、コンボイと交戦するガウルンの方へ向かう。

 

『エイジ! 今度こそぶっ殺してやる!』

 

「纏めて叩く! レイ、V-MAXIMUM(ブイマックスマム)発動!」

 

『レディ!』

 

 ゴステロと死鬼隊を纏めて倒すべく、エイジはV-MAXIMUMを発動する。発動すれば、レイズナーMk-Ⅱは青く光り、高速で動き回り、先に死鬼隊の三名を体当たりと高速の余波で纏めて倒した。

 

「死ねぇ! なっ、何ぃ!? ぐわぁぁぁ!!」

 

 そこからゴステロのダルジャンに突撃する。ゴステロがレーザーパズソーを振り降ろしたが、高速で動き回るレイズナーMk-Ⅱはそれを躱し、体当たりを何度も行い、パイロットは殺さず、機体だけを破壊した。操縦不能となったダルジャンは墜落していき、ゴステロは絶叫する。

 無論、墜落した後、機体を乗り捨ててカン・ユーと同じく逃亡した。この光景を見ていたヒドラー元帥は激怒し、更に攻撃を強める。

 

「おのれ、これほどの戦力を持ってしくじるとは! 全機発進! 味方に当たろうが奴らを一掃するのだ!!」

 

 激怒するヒドラーは味方諸とも爆撃すべく、百鬼戦闘機や百鬼爆撃機全機を発艦させ、執拗な重丹波公家句を行う。

 

「クソっ、味方ごとやりやがって! やってられねぇな。帰るか」

 

 爆撃を受けながらもラムダ・ドライバで防いだガウルンであったが、誤爆でやる気を失い、勝手に撤退した。

 

「クソっ、あの要塞なんとかならんか!?」

 

 他の航空戦力と共に襲来する二百機の百鬼戦闘機と爆撃機と交戦する刃は、機体のGNシャープシューターで数機を撃墜しながらメカ要塞鬼をどうにかならないかと問えば、残る地上のメカ一角鬼をゴジュラスのパワーで潰したハーマンは、戦略級武装を有するスーパーロボットやロボットにメカ要塞鬼への一斉攻撃を命じる。

 

「ならば敵旗艦に一斉射だ! シャイジスタチーム、ハイジスタフォーメーションに移れ! その他の戦略級兵装並び長距離兵装を持つ者たちも同様だ。直ちに移れ! 持たない者は援護に回るんだ!」

 

『了解! ハイジスタフォーメーション、作動!』

 

『分かった! 発射までの時間、稼いでやるぜ!』

 

『では、私は援護に回ろう! サイバトロン戦士、一斉射に入る者たちの援護に回るんだ!』

 

 ハーマンの指示にセーン等シャイジスタチームは応じ、シャイジスタの全射撃兵装を展開した後、左足のアンカーを地面に撃ち込んで機体を固定させる。その際に背後に一斉射に使うエネルギーを掃射する装置が設置され、装置よりレーザーがシャイジスタの背部に向けて発射されて一斉射に必要なエネルギーが送信される。

 

「プロトンキャノン・フォーカスへ移行します。発射までの護衛、お願いします」

 

 ヴァルザカードのスキアはプロトンキャノン・フォーカスの発射体制に移る。ミナホはミッション・ブースターにF90パワードカスタムの砲撃戦形態の換装パーツを車室させ、砲撃戦仕様に換装する。

 

「俺たちは、護衛だ! 一機も近付かせるなよ!」

 

『分かってる! でも、これだけの数、抑えられるか…!?』

 

 刃など長距離兵装を持たない者たちは、一斉射までの無防備な味方機を守るべく、コンボイ等と共に群がる敵機の迎撃に入る。浩二は不安そうに言うが、ハスミの念神エクリプスが大型機を容易く金陽の轟と呼ばれる一点集中ビームで一掃した。修人らダルタニアスも善戦しており、発射体制に移る者たちに一機たりとも接近させてはいない。

 

「出来ますよ。臆しなければね」

 

『うっ、臆しなければって…! あんたは良くても、なっ!!』

 

『デカいのはエクリプスとダルタニアスに任せ、俺たちはここを抑えよう』

 

 ハスミに臆しなければ出来ると言われる浩二だが、敵の数はまだ多く、彼は接近して来た敵機をダイオンγの腕力で叩き潰す。巨大な敵機の排除はハスミとダルタニアスに任せ、自分たちは同サイズか大型機の排除に回ると、刃はガンダムアストレアのGNツインブロードソードで敵機を切り裂きながら告げた。

 

「こいつ等、爆撃に巻き込まれるのが怖くないの!?」

 

 味方の爆撃を受けているにも関わらず、地上から迫る敵集団をムゲンライガーのムゲンブレードとムラサメブレイカーで切り裂き、怖くないのかと言いつつ一斉射の準備をする味方を守る。

 

「これ、想像以上に忙しいかも!」

 

『こんなの、あの時に比べれば序の口よ!』

 

 リューハイロードを駆るツバキは、砲撃や爆撃から一斉射砲撃を行う者たちを覆い株すように力場盾(フォースシールド)を展開して守っているが、余りの数の多さに弱音を吐く。これにゲッターカオス1を駆る竜騎は多数の敵をゲッタートマホークで切り裂きつつ、あの時に比べればマシと告げる。

 

『チャージ完了! いつでも発射OKだ!』

 

『プロトンキャノン・フォーカス、チャージ完了です』

 

「よし、各員一斉射用意! 長距離兵装も直ちに射撃用意しろ! 目標、敵機動要塞!!」

 

 一斉射に移る準備が出来たとの報告が来れば、ハーマンは照準をヒドラーのメカ要塞鬼に定めるように叫ぶ。これに合わせ、一斉射と長距離兵装を持つ者たちは照準をメカ要塞鬼に定め、トリガーに指を掛ける。その間にも敵機が来るが、コンボイ等の奮闘のおかげで一機の接近も許していない。

 

『各員、準備完了! いつでもOK!!』

 

「直ちに発射! 撃てぇぇぇッ!!」

 

『ハイジスタフォーメーション……いけぇぇぇぇぇぇぇっ!!』

 

『プロトンキャノン・フォーカス、発射!』

 

 報告を受ければ、ハーマンは一斉射を叫びながら命じた。これに応じ、シャイジスタはハイジスタフォーメーションの一斉射を放ち、ヴァルザカードはプロトンキャノン・フォーカスを放った。

 

『いっけぇぇぇ!!』

 

「僚機砲火を絶やすな! 砲身が焼きつくまで撃ち続けろ!!」

 

「吹き飛べ!」

 

 同時にミナホのF90パワードカスタムの砲撃戦仕様の一斉射も行われ、二門のバスターキャノンを背部に装備するハーマンのゴジュラスもそれに加わった。ハーマンの怒号で他の長距離兵装を持つ者たちの一斉射に加わり、それがヒドラーのメカ要塞鬼に浴びせられる。

 

「ぬわぁぁぁ!?」

 

「被害甚大!」

 

 それを浴びせられたメカ要塞鬼であるが、大損害を与えたものの、撃破には至らなかった。これにハーマンらは悔しがる。ハイジスタフォーメーションを放ったシャイジスタの全ての砲身は強力な掃射時間に耐え切れずに溶解しており、反動の影響も加わって地面に倒れた。

 

「くそっ、あれほどの一斉射に耐えるとは!」

 

『シャイジスタ、行動不能です!』

 

『ヴァルザカード、エネルギー消費激しく、戦闘行動不能!』

 

「こうなれば、接近してやるしかない! チャンスは今だ! 動ける者は全員、敵要塞へ突撃だ! アタック!!」

 

 あれほどの一斉射であるのか、シャイジスタとヴァルザカードはエネルギーの消耗の激しく行動不能となっていた。だが、大損害を被ったメカ要塞鬼にとどめを刺すのは今しかないと判断し、コンボイは動ける者を率いて突撃を敢行した。その際、トラックに変形(トランスフォーム)し、全速力でメカ要塞鬼に突っ込む。

 

「露払いは任せろ!」

 

 突撃するコンボイを援護すべく、ガンダムアストレアを駆る刃は進行方向に群がる敵集団に突撃し、GNツインブロードソードで斬り続ける。

 

「これくらいしか出番ないからな! ブレストファイヤー!」

 

 浩二のダイオンγも露払いに加わり、ブレストファイヤーで進路上の邪魔な敵の排除を行う。

 

「ムゲンライガー、地上の敵は私たちで!」

 

 ムゲンライガーを駆る天海は、地上の敵集団を切り裂きまくり、進路を確保する。

 三名の活躍もあり、メカ要塞鬼への進路は容易く開けた。この活躍に応えるべく、コンボイは無数の砲火を浴びせられながらも突撃し、人型に変形して飛んだ。

 

「トランスフォーム!」

 

 滞空時間の間にライフルを取り出し、素早く眼下に移る敵機に全て撃ち込み、敵集団の背後に着地すれば、撃ち漏らした敵機を掃討するまでライフルを撃ち続けた。それから右手を収納し、エネルギー状の斧を出せば、背後から迫る敵を斬り倒し続ける。

 

「コンボイめ、今度こそ貴様の首を…!」

 

 上空からライトンのマジンガーZから逃れ、コンボイを狙おうとするブロッケン伯爵のブロッケーンT9であったが、無数に飛んでくるロケットパンチを側面より浴びせられた。

 

「な、なんだこの数のロケットパンチは!?」

 

 驚くブロッケン伯爵は何とか躱そうと躍起になるが、躱し切れずに無数のロケットパンチで殴られ続ける。そのロケットパンチを放ったのは、ライトンのマジンガーZであった。彼はブロッケーンT9を見付ければ、即座にロケットパンチ百連発を放ったのだ。

 

「首野郎、追加のロケットパンチ百連発でこれまでだ!」

 

 ライトンは更にロケットパンチ百連発を行い、更にブロッケーンT9に追撃を掛ける。これを受けたブロッケーンT9は耐え切れずに爆発する。

 

「く、クソっ! マジンガーめ! 覚えていろ!!」

 

 完全に撃破とは行かず、首だけが残ってしまい、その首にブロッケン伯爵が乗っていたためか、仕留めきれず、逃がしてしまった。それでも、ヒドラーのメカ要塞鬼に対する障害は無くなり、スーパーロボット軍団による一斉攻撃が行われる。最初に仕掛けたのは、修人らダルタニアスだ。

 

「みんな、超空間エネルギー解放だ! 気合い入れろ!!」

 

『おぉーッ!』

 

「行くぞォ! 超空間エネルギー解放!! うぉぉぉ!!」

 

 ダルタニアスは超空間エネルギーを解放し、それを全身に纏ってメカ要塞鬼に体当たりする。無論、二機の巨大ロボの一斉射を耐えた装甲は容易く貫かれた。

 

「トランスフォーム! ヘッドオン!」

 

 次に仕掛けるのはヘッドマスターのハルだ。人型にトランスフォームして自分の右に極超音速対艦ミサイル五発と左に極超音速巡航ミサイル五発を召還し、右手に召喚したレーザーライフルを撃ちながら撃ち込む。

 

「これで、とどめ! フォックス3!!」

 

 五発の対艦ミサイルと五発の巡航ミサイルを受けたメカ要塞鬼だが、まだ健在であった。更に攻撃は続く。

 

「少し頑丈過ぎませんか? 起承転結!」

 

 ハルの次はハスミの念神エクリプスだ。連続の変形型の斬撃を撃ち込み、その中心部に無数の刃を芽吹かせた。

 これで今度こそと言いたいところだが、戦闘不能には追い込んでも、メカ要塞鬼はまだ健在であり、逃げようとしている。

 

「畜生、なんて頑丈なんだ!」

 

『これほど攻撃してもまだ動いているなんて…!』

 

「ん? よし、賭けてみるか!」

 

 あのハスミの起承転結を受けても動くメカ要塞鬼に倒せないと嘆く一同であるが、ゲッターカオス1の竜騎はツバキのリューハイロードを見て、倒す秘訣を思い付き、あろうことか彼女の機体を掴んだ。

 

『ちょっと! 何するの!?』

 

「お前、絶対に破れねぇバリアが使えんだったな!? それを機体の全身に張れ! 今すぐにだ!!」

 

『は、離しなさい! 何を血迷って!?』

 

「行くぞ! とりゃあぁぁぁッ!!」

 

『いやぁぁぁ!!』

 

 自機を掴んで投げようとする竜騎に抗議の声を上げるツバキであるが、彼女に有無を言わさず、フォースシールドを全身に張るように彼は告げ、見事な投球フォームをゲッターカオス1と共に取り、一気にリューハイロードをメカ要塞鬼に向けて投球した。

 凄まじい勢いで投げ付けられたツバキは絶叫しながらも、言われた通りに機体全身にフォースシールドを張り、メカ要塞鬼の激突に備える。その狙いはガサツな竜騎には珍しく性格であり、ゲッターカオス1に投球されたリューハイロードは吸い込まれるようにメカ要塞鬼へと飛んでいく。

 

「敵機、高速で当要塞に接近中っ! 避けられません!!」

 

「な、何ッ!?」

 

 高速で飛んでくるリューハイロードの報告を受け、ヒドラーは誰よりも先に脱出機がある格納庫へと走る。

 数秒後、全身にフォースシールドを纏ったリューハイロードはメカ要塞鬼に激突した。勢いがあり過ぎる投球であった為、中心部まで貫通し、ツバキのリューハイロードがメカ要塞鬼完全破壊への決め手となる。投球されたリューハイロードとツバキは、全身にフォースシールドを纏っていた為に無事であった。

 

「お、おのれ! まさか味方を投げ付けるとは! 野蛮なゲッターロボめ!!」

 

 爆発するメカ要塞鬼より、ヒドラーは一人脱出した。余りの行いに激怒するヒドラーであり、他に撤退した者たちと共にこの世界から脱出しようとしたが、逃がすはずが無かった。

 

「どうも、異世界の侵略者さん。初めまして、オラシオ・コジャーソです。よくもこの私に技術力と火力の差を見せ付けてくれましたね…! これはほんのお礼ですよぉ! たっぷりと味わってください!!」

 

 逃げるヒドラーの脱出機の前に現れたのは、オラシオの飛竜戦艦であった。オラシオは顔では笑っていながらも、自分に技術の差を見せ付けたヒドラー等に激怒しており、飛竜戦艦の口で脱出機を噛み砕こうとする。

 

「うわぁぁぁっっ!? た、助けてくれぇぇぇ!!」

 

 ヒドラーは絶叫しながら脱出機共々オラシオの飛竜戦艦に噛み砕かれた。ヒドラーもやられたことで、残るスタースクリームとヴィンデルの軍は撤退を開始する。

 

「さて、残る大将はあと一人。兵が逃げる辺り、エルネスティ・エチェバルリアと戦うあの喋って姿を変えるシルエットナイトは、人望が無いようですね」

 

 撤退する敵軍を見ていたオラシオは、スタースクリームが人望が無い事を確認した後、交戦している彼をエルごと搭載されているカノン砲で撃とうとしたが、弾切れであった。

 

「ち、悪運が強いですねぇ。誤射だと言い訳できたんですが。まぁ、精々頑張ってくださいよ。エルネスティ・エチェバルリア」

 

 弾切れであったことに舌打ちするも、最後のケリを憎きエルに任せた。

 

 

 

 一同がメカ要塞鬼に総攻撃を仕掛ける同時刻、スーパーイカルガを駆るエルとF-15戦闘機に変形したスタースクリームは激しい死闘を繰り広げていた。

 

「これでも食らえ!」

 

 旋回したスタースクリームはバルキリーのガウォーク形態のような変形形態を取り、ミサイルとレーザーを乱射する。

 

「ガウォークに!? そう言えばできましたね!!」

 

 これをエルは前世の知識でスタースクリームがガウォークになれたことを思い出し、躱しながらレーザーライフルとウェスバーを撃ち込む。無論、相手はあのスタースクリームであり、全て躱しながら再びF-15戦闘機に変形し、レーザーを撃って急接近してくる。

 このレーザー弾幕をエルは左腕のエネルゴンシールドで防ぎつつライフルで反撃するも、直ぐに人型形態となり、新破壊大帝となったスタースクリームが腰から抜いた剣でライフルを切り裂かれた。銃身を切り裂かれたライフルを捨て、エルもまた新装備であるエネルゴンソードを抜く。

 

「剣同士の戦いがこんなに早いとは!」

 

「しぶとい野郎だ! そんなガラクタで、この俺様に勝てると、思ってんのか!?」

 

「ガラクタ…!? 自分等以外のロボットを蔑むとは! 許せません!!」

 

 連続で繰り出される斬撃をエネルゴンソードで抑えるエルであったが、この際にスタースクリームはシルエットナイトをガラクタと侮辱した。これにエルは怒り、至近距離からヴェスバーを見舞う。零距離であるのか、流石に命中したが、仕留めるには至っていない。

 

「この肉ケラめ…! 俺様のボディに傷を付けたな!? 手加減してやれば良い気になりやがって!!」

 

 零距離からのヴェスバーを受け、ボディに傷を付けられたことに激怒する。捕えるために多少の手加減をしていたスタースクリームであるが、今の一撃で完全に頭に血が上った、トランスフォーマー的に言えばヒューズが吹き飛びそうになったと評すべきだろう。手加減無しの総攻撃に移る。

 

「流石は愚か者! 向こうも怒りましたか! こちらも怒っている所です!」

 

 激怒のスタースクリームから放たれるナル光線からの胸部ミサイルの全弾発射に、エルはナル光線を全て避け、ミサイルをヴェスバーの連射で全て撃破する。そこから上空から斬りかかるスタースクリームの斬撃を防ぎ、蹴りを入れ込んで吹き飛ばした。

 吹き飛ばされたスタースクリームは即座にバランスを取り、両肩のレーザーを撃ち込んでくる。これをエルは躱しつつ、予備の射撃兵装であるソーデッドカノンを取って対抗した。

 

 二人の戦いは尚も続く!




次でエピローグも含めて最後にします。

ソーデッドカノンの方は会わせるため、スーパーイカルガ発登場回に加筆しておきました。

多分、違和感はない…と、思う。


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Fool&Fool!

リン・オルタナティブさん
kinonoさん
虚無の魔術師さん
リオンテイルさん
フォックスバットさん
G-20さん
宵月颯さん
M Yさん
秋音色の空さん
俊伯さん
ハナバーナさん

ご応募いただき、ありがとうございました。


 コンボイ等がメカ要塞鬼に最後の総攻撃を仕掛ける頃、スーパーイカルガを駆るエルと新破壊大帝スタースクリームとの死闘はまだ続いていた。

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

 エルを捕えるために手加減していたスタースクリームであったが、ボディを傷付けられたことで激怒し、両肩のレーザーを雨あられと乱射する。これをエルのスーパーイカルガは躱しつつ、予備の射撃武器であるソーデッドカノンとヴェスバーの同時射撃で反撃した。

 

「なんと言う弾幕! アムロ・レイもこれ程の弾幕を躱しながら当てていたのですか!?」

 

 凄まじい殺意の弾幕を躱すエルはソーデッドカノンで反撃するが、狙いは定まらず、全く当たることは無い。そればかりか被弾してしまう。その衝撃でヴェスバーを破壊されてしまった。

 

「ヴェスバーが!?」

 

「よそ見してる場合かぁ? えぇ!?」

 

 常時発射可能なヴェスバーを破壊されて動揺するエルに向け、スタースクリームは左肩のレーザーを撃ちつつ接近し、殺意の斬撃を振り下ろす。その斬撃を左腕のエネルゴンシールドで防ぐが、スタースクリームの剣はエネルゴンのシールドに少しずつ食い込んでいく。

 

「シールドが!? あの剣を受けては不味い!」

 

 エネルゴンのシールドが徐々に破れているのを見たエルは、ソーデッドカノンを直し、エネルゴンソードを抜いてスタースクリームの左脇腹を切り裂いた。これに痛みを感じたスタースクリームは離れ、追撃を仕掛けるエルのスーパーイカルガを蹴飛ばして距離を取り、反撃のレーザーを撃ち込む。

 

「流石はスタースクリーム! 戦闘力だけは本当ですね! 完全に殺しに来ている…!」

 

 自分が思っているように愚か者であるスタースクリームだが、その攻撃は苛烈だ。本気のスタースクリームを相手にしては、やられるかと思い、ソーデッドカノンを撃ち込んで動きを止め、生かして捕らえるのではないかと問う。

 

「僕を捕らえるために、わざわざ出向いたのではないんですか? これでは僕を殺してしまいますよ?」

 

「ん? おっと、そいつはそうだった。わざわざありがとよ」

 

 エルの問いで生かして捕らえる事を思い出したスタースクリームは、剣を振るうのを止めて礼を言う。

 そこでエルを連れて行くため、スタースクリームは自分らに来る気になったのかと尋ねた。

 

「そう言うなら、俺らの方へ来たくなっちまったか? 直ぐに飽きるのも分かるぜ? ここの原住民共は原始的でアホで理解力に欠け、ナイトフレームだかシルエットナイトとか言う歩くガラクタしかねぇ世界だからなぁ! 元科学者の俺から見れば、ミサイルが出来るようになるまで、いつまで掛かる事か分かったもんじゃねぇしな!」

 

 この際にスタースクリームは、エルに言ってはならない事を述べた。エルを十分に怒らせる事を言ったにも関わらず、スタースクリームは更に続ける。

 

「俺らの所に来れば、ここじゃ手に入らねぇ技術はたんまりとある! この世界の馬鹿共に一々説明する手間もねぇ! 唸るほどだ! どうだ、行きたくなっただろぉ? いま乗ってるガラクタよりも、面白い物を作れるぞ! 大都市や惑星を木端微塵にしちまうほどの兵器をな!!」

 

 この世界の技術力に限界を感じた者なら即座に誘いに応じるが、感謝しているエルはそれほど薄情な者ではない。

 彼は二度目の転生先であるこの世界に感謝している。前世では叶わないであろう夢を叶えてくれた世界に。自分を生んだ家族、ロボットことシルエットナイト作りを少しながらでも理解してくれ、手伝ってくれる友人や仲間たちに。技術を授けてくれた者たちも含め、全てに感謝しているのだ。

 相手の気持ちも考えず、それ等を否定し、挙句に馬鹿だアホだの言って侮辱するスタースクリームの勧誘の言葉に、エルは怒りを覚えた。

 

「…そうですか。では、断らせて頂きます。貴方が提案する案件、確かに魅力的ですが…いや、魅力的やないな…最悪です…! この世界の人たちが魂を込め、丹精込めて作り上げたシルエットナイトを侮辱するとは…! それも他のロボットまで侮辱し、僕の目前でこうも堂々と!」

 

 一旦区切ってから冷静になろうとするが、この世界を侮辱した挙句に破壊の限りを尽くしたスタースクリームを許すことは出来ず、怒りを爆発させた。

 

「この世界を更に発展させるならまだしも、人々を猿や肉ケラなどと言って侮辱して蔑み、虫けらの如く殺すような連中の元などに、この僕が行くとでも思っているのか!? この愚か者が!! 僕の世界を破壊し、人々や仲間、家族、シルエットナイトを傷付けた貴方には! その報い、受けさせてもらいます!!」

 

「ち、この肉ケラが! スタースクリーム様の恩を仇で返すとは! 五体満足でいられると思うなよ!!」

 

 その怒りと共にエルはソーデッドカノンを撃ちながら突っ込む。

 かつて下剋上を起こして始末したはずの上司に殺害されたことを思い出したスタースクリームは、逆ギレを起こし、突っ込んでくるスーパーイカルガと再び撃ち合いを再開する。先ほどとは違ってかなり激しく、両者とも高速移動しながら撃ち合っている。

 互いに接近すれば、両者とも剣を抜いて斬り合いを始める。これもまた素早く、まるで光と光のぶつかり合いのようだ。

 

「うわっ! しまった!!」

 

「へっ、所詮はガラクタだ! 今度こそスクラップにしてやらァ!」

 

 だが、長くは続かなかった。先に折れたのは人間のエルであり、機械生命体であるスタースクリームに機体の胴体を切り裂かれ、追撃の二撃目が来る。これを咄嗟の判断で防ごうとするエルであるが、スタースクリームの振るった剣でエネルゴンソードを弾かれ、三撃目をコクピット部分に入れ込まれた。

 

「うっ! ヘルメットが無ければ、即死でした…!」

 

 自分を切り裂かれないように後ろへ下がり、ダメージを抑えたは良いが、飛んで来た破片でヘルメットを損傷し、突貫工事でサイバトロンの科学者たちが付けてくれた機器は破壊されてしまった。直ぐにエルは飛んでくる破片から頭部を守ってくれたヘルメットを脱ぎ捨て、機体がまだ戦闘可能かどうか調べる。

 

「戦闘はまだ出来るようですね…! ですが、次に貰えば、僕共々イカルガは終わりです…!」

 

「この肉ケラが、まだ抵抗する気か!? 次でお陀仏にしてやる! あの世で後悔するんだなァ!!」

 

 戦闘継続は可能であるが、もう一撃喰らえばイカルガ共々自分は終わりだと、機器を素早く操作して判断する。そんなエルに対し、スタースクリームはとどめの一撃を見舞おうと剣を振るう。

 

「この一撃を喰らえば、確実に僕とイカルガ死ぬ…! ならば、三つの機関(エンジン)を合わせた最大出力でッ!!」

 

 これをエルは最後の攻撃のチャンスと判断し、ソーデッドカノンを両手で構え、双皇機関とホイルジャックやパーセプターが付けてくれたエネルゴン機関を合わせた最大出力を撃ち込む為にチャージを開始する。

 

「ここで最大出力だぁ? 無駄だ! ぶっ放す前に、真っ二つにしてやるぜ!」

 

 スーパーイカルガが動きを止めたのを見たスタースクリームは、速度を速めて真っ二つにしようとした。刀身を振り下ろした瞬間にチャージ中であったはずのソーデッドカノンを振るい、スタースクリームが振るった剣を弾いた。

 これにスタースクリームは即座に距離を取り、チャージ中をフェイントだと思い、二撃目に入ろうとする。

 

「フェイントか? 命が少し長引いただけだぜ? これでもう一度…!」

 

「いえ、チャージ完了です! もう一度、(スパーク)となれぇぇぇ!!」

 

「な、何ィ! NOチャージで発射だとォ!?」

 

 チャージ攻撃を引き付けるための攻撃だと思い、二撃目に入ろうとしたスタースクリームであったが、三つのエンジンを使っての最大出力のチャージは一秒で終わっていた。それが分かったスタースクリームは剣を振るうのを止め、逃げようとしたが、エルが逃すはずが無く、直ぐにソーデッドカノンを撃ち込まれる。躱し切れない距離から発射されたため、最大出力のエネルギーはスタースクリームの胴体に命中した。

 

「グァァァっ!? アァァァッ!!」

 

 三つのエンジンによる最大出力のエネルギーの威力は凄まじく、スタースクリームを空高く吹き飛ばしていく。それを受けているスタースクリームの全身は痺れ、着けていたマントは徐々に消滅していく。当然、ボディも徐々に消滅し始めている。

 徐々に最大出力のエネルギーで消滅していくスタースクリームは、下剋上を起こして宇宙に放り出したはずの上司メガトロンがガルバトロンとなって自分の目前に帰還を果たし、報復の高出力のエネルギーを撃ち込まれ、灰となった時のことを思い出した。

 

「チクショォォォッ! せっかく手に入れたボディと新破壊大帝の座がァ! なんでこうなるんだァ!? ヌワァァァッ!!」

 

 一度目の自分の最期を思い出し、また同じような最期を迎えたことに怒りを覚えつつ、スタースクリームは大気圏を突き抜け、宇宙で砕け散った。

 この数分前、メカ要塞鬼が総攻撃で破壊され、ヒドラー元帥がエルの好敵手(ライバル)の技術者であるオラシオに討たれ、ヴィンデルの軍はスタースクリーム軍団の残余と共に敗走していた。

 やはり三つのエンジンによる最大出力の発射は無理があったのか、スーパーイカルガのソーデッドカノンを持っていた右腕は発射機諸とも大破した。それと同時に機体に多大な負荷が掛かり、イカルガは地面へと落ちていく。

 

「くっ、やはり三つエンジンでの最大出力は、無理がありましたか!」

 

 直ぐに機体を安定させようとするが、外付けのエンジンは完全に機能を停止しており、上手く飛べない。そこでエルは外付けのエンジンを強制排除し、スーパーイカルガを元のイカルガへと戻して安定を試みた。

 

「エネルゴンエンジン強制排除! 元の双皇機関に切り替え、安定を! 駄目か! でも、地面に降りられるなら、問題は無さそうですね」

 

 元に戻しても安定は出来なかったが、地面に降りられるくらいの問題は無かったので、エルは安堵した。だが、その安心は直ぐに打ち砕かれた。

 

「あ、あの戦闘機は…!? 可変戦闘機(バルキリー)!? 見たことが無い型! YF-30クロノスでしょうか。否、複数機いるから正式採用されているますね!」

 

 その安心を砕く要因とは、今更やって来たワルキューレのVF-31Aカイロスの編隊であった。一個大隊は居るであろうVF-31に、エルは動揺するどころか興奮していた。

 

 

 

『この世界は我がワルキューレの観察対象である! 従って貴様たちの何らかの技術供与並び販売は許されない! スーパーロボット軍団と機械生命体共はその場から動くな! これより検問を開始する!』

 

 死力を尽くしてヴィンデルの軍とスタースクリーム軍団をこの世界から撃退したサイバトロンとスーパーロボット軍団の元にも、ワルキューレは来ていた。地上の方はアガサ騎士団と陸軍の連合部隊であり、彼らを包囲した後、隊長が乗るグレイズ・リッターの拡声器より動くなとの指示が響き渡る。

 

『クソっ、こいつ等! 今さら来ておいて…!』

 

「司令官! こうなれば徹底抗戦ですよ! あいつ等を一人でも多く道連れにしましょう!」

 

「それは止せ、アイアンハイド! もう我々に戦うエネルギーは残ってはいない。それに彼らと敵対してはならん! ここは大人しく、検問を受けよう…!」

 

 ハスミは除いてもう限界であったサイバトロンとスーパーロボット軍団に抵抗する力は残されておらず、これを理解していたコンボイは抵抗しようとする者たちを抑え、ワルキューレの指示に従った。

 サイバトロン戦士等は多数の大盾と槍を携えたグレイズ・シルトに包囲される形で拘束され、ハーマン等スーパーロボット軍団は随伴する陸軍の機甲師団に囲まれ、検問を受けていた。

 

「そこのケンタウルス型から背中の砲塔を外せ!」

 

「そう言わんとも、直ぐに外せるようになっとるっちゅうねん」

 

 ツェンドリンブルを見たアガサ騎士団の騎士は、背中に増設された砲を外すように陸軍の工兵隊に指示を飛ばす。これにホイルジャックは直ぐに外せると言うが、騎士は耳を貸さなかった。工兵らは手を止めたが、騎士に怒鳴られて作業を再開する。

 

「これを外せって? もちろん外しますよ。部品も何もいりません。全て差し上げます。私の作った物ではないですから」

 

 オラシオの飛竜戦艦も拘束され、彼も降ろされていた。サイバトロンの技術は自分で作った物ではないので、興味がないと言ってあっさりとワルキューレに追加武装を提出した。

 そんな時に、ガウォーク形態のVF-31A数機に包囲されながら、エルの大破したイカルガが降りて来る。あの場で抵抗などすれば、大破したイカルガなど容易く撃破されてしまうのか、大人しく彼女らの指示に従ったようだ。

 

「エル!」

 

「エルきゅん!」

 

「動くな!」

 

 槍を持ったアガサ騎士団の兵士たちに拘束されていたキッドとアディは、降りて来るイカルガを見て飛び出そうとしたが、兵士たちに止められる。

 

「何すんだよ!? 俺たちの騎士団長殿だぞ!」

 

「騎士団長? お前たち見たいな小僧共が騎士だのと…! 嘘を付くんじゃない!」

 

「ほんとだって! 私、副騎士団長だもん! あのシルエットナイトに乗ってるエルきゅんが私たちの騎士団長…」

 

「黙れ! それと出鱈目を言うな! お前たち見たいな小童共が、騎士なはずなかろう!」

 

 二人はエルが銀鳳騎士団の長であると告げるが、アガサ騎士団の兵士たちは信じず、槍の矛先を向けてその場に座らせた。

 一方でバルキリー数機に包囲される形で地上に降りたエルは、両手を上げながら機体から降りた。そんな彼を包囲するように陸軍の歩兵と馬に跨るアガサ騎士団の騎士たちが包囲し、パイロットスーツを脱ぐように告げる。

 

「小娘! 現地の者か!?」

 

「は、はい! 現地の者です! それと、小娘では無く、少年です!」

 

「小僧か! ならばそのパイロットスーツを脱げ! 機体共々検問する!」

 

 馬に跨った騎士の指示に、エルは訂正してから従い、パイロットスーツを脱いで下着一枚となる。脱いだパイロットスーツはライフルを持った歩兵たちに回収され、エルは下着姿のままキッドとアディの元へ連れて行かれる。

 その間にヴィンデルの軍とスタースクリーム軍団の兵器の残骸の回収が行われていた。唯一の戦死者であるムラタ・ケンゾウのスレードゲルミルの残骸も行われ、遺体が残骸より運び出されているのが見えた。

 数分後、検問が終わったのか、アガサ騎士団の部隊長はサイバトロンとスーパーロボット軍団にこの世界からの退去を命じる。

 

『検問協力ご苦労! だが、直ちに退去せよ! 早急に退去せねば、実力行使で追い払う許可を貰っている! 一戦交える気なら、残っても良いぞ!?』

 

「なんて奴らだ! もう我慢できん! やりましょう! うっ…!」

 

 早急に退去せねば、実力行使で追い払うと警告する部隊長に対し、何名かはやる気であったが、この状況で戦っても、消耗しているサイバトロンとスーパーロボット軍団にかなりの被害が出るのは確実なので、コンボイは従った。ハスミも同様である。アイアンハイドは抵抗する気であったが、戦闘でかなりエネルギーを消耗しており、立ち眩んだ。

 

「いい加減にしろ、アイアンハイド! そんな状態で戦えば、また死んでしまうぞ!」

 

「まぁ、戦っても良いですが、無意味なことは確かです。例え勝てても、衛星軌道上の兵器が、この世界の各都市に降り注ぐでしょう」

 

「なんてこったい…!」

 

「俺たちが抵抗すれば、この世界の者たちが傷付く…! 人質を取られたと言うわけか」

 

 コンボイが立ち眩んだアイアンハイドを支える中、ハスミは衛星軌道上に展開するアガサ騎士団のダインスレイブを搭載したグレイズ部隊に気付き、抵抗すればこの世界の各都市が破壊されると告げる。これを刃は人質を取っての脅しと判断と分かり、竜騎、ライトン、修人、セーンが悔しがるが、もう抵抗できるくらいのエネルギーは残っていないので、コンボイと同じく退去勧告に従った。

 

『そう言う事だ。分かったら、速く立ち去れ!』

 

「分かった。君たちの指示に従おう。各員、直ちにヴァルザカードに乗船しろ。可及的速やかにだ!」

 

 部隊長の指示に従い、コンボイはサイバトロンとスーパーロボット軍団にスキアのヴァルザカード・セカンドGに乗船した。

 

 天海竜馬(あまみりょうま)、乗機、ムラサメライガー

 スキア、 乗機、ヴァルザカード・セカンドG

 (やいば)、乗機、ガンダムアストレアTYPE-Xフィンスターニス

 ツバキ・R・ハルパニア、乗機、リューハイロード・オリビア

 リズ・カデンツァ、乗機、ガンダムバルバトスルプスレクス

 村田ハル、トランステクター、F-4A戦闘機

 ハスミ・クジョウ、乗機、念神エクリプス

 

 ダルタニアスチーム

 盾松修人(たてまつしゅうと)、乗機、アトラウス デルファイター

 (ひいらぎ)ナブヤ、乗機、ガンパー

 サラ・フロイレンス、乗機、ガンパー

 フウ志々雄(ししお)、乗機、べラリオス

 

 橘浩二(たちばなこうじ)、乗機、ダイオンγ

 

 シャイジスタチーム

 セーン村田(むらた)、乗機、ジスタファイター

 馬服碧(まはらあおい)、乗機、ジスタランド

 飛鳥(あすか)フォドル、乗機、ジスタライダーR

 有栖川比米(ありすかわひめ)、乗機、ジスタライダーL

 

 サカヅキ・ミナホ、乗機、ガンダムF90パワード・カスタム

 ライトン・ブラウナー、乗機、マジンガーZロケットパンチ型

 

 ゲッターロボカオスチーム

 今川竜騎(いまがわりゅうき)、乗機、サイコ号

 レン・クー、乗機、クレイジー号

 マ・ドソク、乗機、クラッシャー号

 

 以下がヴァルザカードに機体と共に乗船していき、この世界から旅立とうとしていた。

 

「待ってください! せめてお礼の言葉を!」

 

「何をする!? 止めんか!」

 

 身を挺してまで縁の無い自分たちを守ってくれたサイバトロンとスーパーロボット軍団の戦士たちに感謝すべく、エルは毛布を着せられたまま最後に乗船しようとするコンボイに声を掛けた。兵士らに抑えられたが、コンボイは歩みを止め、姿勢をエルに合わせるように低くしてエルの言葉に耳を貸した。これにエルは抑えられながらも、直ぐに感謝の言葉を述べた。

 

「ありがとうございます! 縁もゆかりもない僕たちの世界を救っていただいて!」

 

「なに、我々は当然のことをしたまでさ。君たちで対処できる敵や問題なら、私たちの出番は無いだろうが、どうしようもない敵や問題に対しては、直ぐに我々が駆け付けよう。もっとも、そうならないのが一番良い事だが」

 

 感謝の言葉を述べるエルに対し、コンボイはジョークを交えながら当然のことだと述べ、勝てそうにない敵や解決できない問題に対してはいつでも駆け付ける用意があると返した。

 

「こらっ、速く行かんか!」

 

「分かっている! もう一度と言いたいところだが、その時はさっきの暴力的な連中が、この世界に攻め込んだ場合かもしれない」

 

「えぇ、そうなりますね…ですが、違うこともあるかも」

 

「願わくば、戦いではない時に再会したい物だよ。では、さらばだ異境の友よ! 今度の再会は、平和に穏便に語り合えることを願おう!」

 

 急かされているので、コンボイは別れの言葉を述べた後、ヴァルザカードに乗船し、戦士たちと共に自分らの拠点がある世界へと帰投した。

 

「よーし、ネジ一本や破片一つも残っていないな!? 撤収だ! 他の隊の応援に行くぞ!!」

 

 コンボイ等サイバトロンとスーパーロボット軍団が去った後、アガサ騎士団とワルキューレの連合部隊は、ヴィンデルの軍とスタースクリーム軍団の残骸を残らず回収すべく、別方向へと散って行った。

 この場に残されたエルにキッド、アディ、オラシオもまた自分たちの場所へと帰り始める。

 

「では、エルネスティ・エチェバルリア騎士団長殿。自分は先ほど見た実現できる限りの技術を実現いたしますので」

 

「えぇ、オラシオ・コジャーソさん。自分もまた、それらの技術の実現の為に戻ります」

 

「それはまた次に会うこ時が楽しみですねぇ。それじゃあ、忘れない内に失礼いたします」

 

 二人の技術者は、今回で見たこの世界には無い技術を出来る限り実現するべく、それぞれの地に帰った。

 

「さぁ、僕たちも帰りましょうか!」

 

「でもさ、エル…」

 

「これ、どうやって直そうか…」

 

 オラシオは自分の飛竜戦艦に乗って自分の再就職先の方へ帰る中、エルたちに残されているのは、大破したイカルガと、無理に砲塔を取り外されたツェンドリンブルだけであった。今から修理しようにも、壊された部品もあるので、いつまで掛かるか分からない。

 

「これは参りましたね…」

 

 そう困り、頬に指を当てる中、コンボイ等が事前に呼んでいたのか、それとも戦闘が終わったのを見計らってきたのか、銀鳳騎士団の飛行船(レビテートシップ)が迎えに来た。

 

「おい、あれ!」

 

「あの人たちが事前に呼んでたのかな!? おーい!!」

 

 キッドの知らせで自分等の迎えに気付けば、アディは大声で自分たちがここに居ることを飛行船に知らせる。これにエルは笑みを浮かべて迎えの飛行船を見上げ、帰ったらやることを口にした。

 

「さて、帰ればスタースクリームや悪の軍団に対抗できる強いシルエットナイトを作りましょう! 航空機に変形するシルエットナイトも良いですね! それに合体するシルエットナイトも! さぁ、覚えている内に、設計図を仕上げなくては!」




やっと終わった…。

やっぱり同時連載はするもんじゃねぇな。

みんな、ロボキチの前でロボットを蔑むんじゃないぞ。こっちが優れているとか言って、あっちは鉄屑やガラクタだと言って他のロボットも蔑むんじゃないぞ。
じゃないとスタースクリームみたいな目に遭うからな!

コラボ先の住人をゴステロ様やサーシェス等みたいに、サルと蔑んで虐めるんじゃないぞ。
仲良くしないと、正義のヒーローがやっつけに来るからな!

さて、言いたい事は言った。

次は1984を読みながら準備するか。


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二周年記念 フェアリー戦闘団の初陣
結成、フェアリー戦闘団


フェアリー戦闘団
帝国再建委員会の上層部と空軍がターニャ・フォン・デグレチャフ中佐の実力を認め、特務航空魔導士大隊を基幹に戦闘団の編成を命じた。
しかし、人員は空軍の人事部が決めた為に適当であり、寄せ集めに近い。

ターニャ・フォン・デグレチャフ
二回目転生の前前世が日本のサラリーマンなシカゴ学派厨な幼女。階級は中佐。
存在Xに懲りてないと言われ、死ぬまで一生幼女にされた上に前線巡りをしている。
自分の大隊が戦闘団に勝手に編成され、挙句に部隊編成も勝手にされるという悲劇を負っている。

アーデルトラウト・ブラウトクロイツ
通称アーデの爆乳副官。ヴィーシャ枠なのに性格がキツイエロ枠。階級は少佐。
上官の許可も得ず、特務航空魔導士大隊を戦闘団編成を了承した。

ウィリー・アーメンガード
アフリカ系アメリカ人のパパな航空魔導士。階級は大尉。
ヴァイス枠であり、ターニャが信頼する人間の航空魔導士。

ユーゴ・ブラウス
グランツ枠の長身なイケメン。階級は中尉。イメージCVは梅原裕一郎。

叢雲(むらくも)アヤメ
ケーニッヒ枠のサムライ系女子なイヴ人。腰に日本刀を差している。階級は大尉。
イヴ人なので胸はデカい。和風美女。

フェリーチェ・バルボッサ
ノイマン枠であるが、だなと言わない上に肥満体系以外、外見は似ても似つかない最強航空魔導士のオバハン。階級は中尉。
炊事選択はもちろん、理想のヒロインのような家事スキルが完璧であり、ターニャは「何で結婚できないのか理解できない」と言うほど。イメージCVは一龍齋貞祐。

シュルツ
どの枠にも入らない謎のおっさん。
元整備兵以外に経歴が謎であるため、ターニャからは存在Xの間者と思われ、警戒されている。


 軍事結社ワルキューレが支配する各世界において、ヴィンデルやゴットカオスの転生者たちの手により各地で戦乱が巻き起こっていた。

 これにワルキューレは大規模な戦闘のみに対処し、小規模な者に対しては単独で圧倒的戦闘力を誇る能力者と言ったエージェントを派遣して対処に当たる。

 イヴ人の国家である神聖百合帝国再建を目指す帝国再建委員会も、国家としての認定と発言力拡大の為にこれに参加して事態の鎮静化を図っていた。だが、全てを制圧は出来ていない。

 

 ある世界の国家では、ゴットカオスが送り込んだ転生者が猛威を振るい、平和で曲りなりの平等であったその国家を悪の帝国とも言える独裁国家へと変えてしまった。

 一つの宝石以外に価値の無い世界の占領を帝国再建委員会に許したワルキューレは、転生者の存在を危険と判断して陸軍一個軍と空軍一個航空団、海上には二個艦隊と陸軍の上陸軍一個を派遣し、早期の制圧を試みたが、その全てが、転生者が持つ圧倒的な転生特典(チート)によって壊滅させられ、封鎖状態へと切り替える。

 暫くは動きは無かったが、転生者が君臨する独裁国家は周辺の隣国を次々と侵略していき、大帝国へと膨張していく。

 

 数年の経過で戦略兵器を使用を検討するほどに巨大化した独裁国家にワルキューレは、安定して来た帝国再建委員会に向け、占領している世界のアイン・ラントを国土として百合帝国再建を認めるのを条件に、独裁国家の制圧を命令した。

 

 願っても無い条件を出された帝国再建委員会は、念願の百合帝国再建を目指すべく、保有戦力の中で厄介な最強戦力であるターニャ・フォン・デグレチャフにその制圧を命じたのであった。

 無論、幾らターニャが率いる特務航空魔導士大隊が最強と言えど、一個大隊で大国の制圧は不可能に近い。そこで上層部は、彼女の大隊を様々な兵科の混成部隊である戦闘団にまで拡大することを決定した。

 

 かくして、またしてもターニャは地獄へと送られるのであった。

 

 

 

 特務航空魔導士大隊が雑多な兵科による戦闘団への拡大の報は、帝国再建委員会の本拠地であるアイン・ラントの空軍演習場にて行われた。

 ターニャと副官のアーデルトラウト・ブラウトクロイツ以外、大隊が戦闘団に拡大するなど知らず、休暇明けの全大隊将兵等は指定された場所に集合していた。

 

「休暇明けの再訓練かな?」

 

「さぁ、編成報告だって聞いてるが…」

 

「また地獄送りかよ」

 

 演習場に集合した隊員らは、休暇明けに必ず行われる再訓練と思っていた。

 

「俺は家族と過ごしていた。こんな職業だ、休暇でしか家族に会えない」

 

「大尉殿はご家族と過ごしましたか。俺は毎日歓楽街で遊んでしたな。恋人でも作ろうかな」

 

 大隊の古株であるアフリカ系アメリカ人の航空魔導士であるウィリー・アーメンガード大尉は、休暇を家族と過ごすのに使ったと目前の金髪の青年に話す。聞いている青年ユーゴ・ブラウス中尉は自分は歓楽街で遊んでいたと話し、家族と聞いてか、恋人を作ろうかと考えていると打ち明ける。

 

「この集合命令は新たな任務。この日に備え、某は剣の鍛錬を怠ってはいない」

 

「あんた、それ以外やることが無いのかね」

 

 大隊では数少ないイヴ人である叢雲アヤメは、この集合を新たな任務であると捉え、腰に差してある大太刀に手を掛け、それに備えて稽古は怠らなかったと自信気に言う。それに古株であり、容姿はお世辞に優れていないフェリーチェ・バルボッサは、稽古意外にやることが無いのかと呆れながら口にする。

 

「あぁ嫌だ。また誰か死ぬんじゃないのか…?」

 

 同じく古株である中年の航空魔導士であるシュルツは、また死地に向かわされると嘆き、大隊長であるターニャとその副官であるアーデルトラウトことアーデが来るのを待った。

 

「おい、大隊長殿とアーデが来たぞ! 傾注しろ!」

 

 数分後、ターニャと書類をわきに抱えたアーデが集合した一同の前に姿を現した。これに一人の隊員が二人に視線を向けるように叫び、一同は上官である彼女らに視線を向ける。ターニャは背が低いため、台の上に上がれば、大隊が戦闘団へと拡大したことを知らせる。

 

「大隊諸君、長期休暇は楽しんだか? そんな英気を養った我らに早速お知らせだ。本日より我が大隊はフェアリー戦闘団として拡大する!」

 

「戦闘団だって?」

 

「なんだ、戦闘機やバルキリーと組まされるってか?」

 

「冗談じゃねぇや。航空魔導士なんぞ、歩兵が飛べるだけだぞ」

 

 大隊が戦闘団に拡大されると聞いて、隊員らは戦闘機やバルキリーの部隊と組まされるのではないかと口々に言い始める。これにターニャは、まだ戦闘序列は聞かされていないことを隊員らに伝える。

 

「私も編成については聞かされていない。今日と明日を含める再訓練後に、我が特務魔導士大隊は戦闘団へと拡大される。では、感覚を取り戻すぞ。総員、直ちに持ち場へ着け!」

 

 戦闘序列は再訓練後に知らされることを隊員らに伝えれば、ターニャは部下らと共に再訓練を始めた。

 その再訓練で十分に戦闘の感を取り戻し、総軍参謀本部からの指定された空軍基地へ、演算宝珠と秘孔ユニットを身に着け、飛行訓練を兼ねて直接飛行して向かう。

 

「あれが私が指揮する戦闘団か…」

 

 空軍基地の広い敷地内に六十人ほどの部下たちともに降り立ったターニャは、これから自分が指揮を執る戦闘団の戦闘序列を見て、呆れたように口にする。それは期待した各兵科の精鋭ではなく、懲罰部隊のようであった。

 

「おいおい、イヴ人が居ねぇぞ! 人間の兵隊ばかりだ!」

 

「敗残兵の集まりじゃねぇか! こりゃ初陣は激戦だな!」

 

「機種もバラバラ…あぁ、そうですか」

 

 隊員らが言う通り、ターニャがこれから指揮を執る事となる戦闘団の為に集められた空軍の各兵科の者たちは、まるで敗残兵であった。これを見たターニャと部下は、一部を除いて人間の将兵しか居ないことに、次の任務が生還率が低い物であると察した。

 戦闘序列は以下の通り。

 

 特務航空魔導士大隊

 第十三航空魔導士大隊

 MS二個大隊(主な装備はガンイージとガンブラスター。ジンキである量産型モリビト空戦仕様も含まれる)

 バルキリー大隊(機種は統一されていない)

 YF-29Bパーツィバル、VF-31ジークフリートを保有するイヴ人の監視部隊

 

 それがターニャが指揮する事となる戦闘団の戦力だ。

 

「ん? 私が指揮する兵力は、千人程であると聞いたが…」

 

「中佐、直ぐに来るわよ」

 

 聞いていた兵力数が合わない事をターニャが言えば、士官用の移動車に乗って来て、えらく金を掛けて仕立てた軍服を身に着けた空軍大佐が滑走路を指差しながら告げた。

 そこには数十機の大型輸送機が駐機しており、自分の戦闘団の大部分を占めることとなる兵員を降ろしていく。

 

「あの、陸軍ですか?」

 

「そうよ。陸軍から敗残兵たちを提供してもらって、集めて連隊に再編したの。混成装甲連隊、いや、混成機甲連隊だったかしら?」

 

「(うわぁ、最悪だよ。マジで寄せ集めでは無いか)」

 

 ターニャが心の中で嘆いた通り、兵力の大部分となるのは陸軍より提供された敗残兵たちを集めた混成機甲連隊(よせあつめ)であった。

 MS大隊やバルキリー大隊と同じく機種はバラバラ。ランディマン・ロディに獅電と中々のMSが揃っているが、後は旧式機である。中には消耗品扱いの囚人兵や懲罰兵も居るので、明らかに前線で使い潰すための部隊だ。

 集められた混成機甲連隊の陸軍将兵等は当然の如く人間の兵士であり、自分たちが生還率の低い任務をやらされることに気付いてか、絶望的な表情を浮かべた。それを恐れた何名かが輸送機から降りた途端、基地の外へ目指して全力疾走して逃げ出している。

 

「何名か逃げてますが…」

 

「えぇ、そうね。撃ち殺さなくちゃ」

 

 脱走兵が出たことをターニャが伝えれば、大佐は他人事のように答え、数名の部下等に逃げ出した陸軍兵たちを射殺するように命じる。部下たちは応じ、持っているHK33突撃銃の安全装置を外し、脱走兵らを始末する憲兵隊の後に続く。

 銃声が何発も響き渡り、脱走兵たちが射殺されていく光景を眺めながら、ターニャは次の任務が何であるのかと、内容を察しながらも大佐に聞いた。

 

「我が大隊の、いや、戦闘団の初任務とは…?」

 

「ある世界の転生者が支配する大帝国の制圧よ。貴方たち以外の部隊も参加するから大丈夫よ」

 

「(絶対大丈夫じゃないだろ、それ)」

 

 その任務内容とは、最初に述べたワルキューレが百合帝国再建の条件に提示した転生者が支配する大帝国の制圧であった。無論、制圧ではなく排除は支配者である転生者も含まれる。

 それを聞いたターニャは大丈夫だという大佐に心の中でツッコミを入れつつ、任務内容が記された書類が入ったケースを受け取った。

 

 これこそ、後にフェアリー戦闘団と呼ばれる戦闘団の結成の瞬間であった。




ひろし兵「前線の兵士に、思想は不要なのだ!」

活動報告にて、絶賛、参加者募集中です。条件に従ってご参加ください。


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制圧任務へ

二周年記念なので、第二回目に募集した応募キャラを出します。

リュウ・パーシー
元UCAの軍人だった男。サイクロプスでの一件で軍を脱走して以降、帝国再建委員会に籍を置いている。階級は中尉。第1突撃装甲軍所属。
搭乗機は獅電

辻凪(つじなぎ)あやめ
マブラヴの世界より来た日本帝国軍の女性衛士。階級は少尉で所属は第1突撃装甲軍。
生き残ったは良いが、市民権を与えられず、市民権を得るために前線勤務を続けている。
乗機は戦術機F-15J陽炎
キャラ提供はリオンテイルさん

ラナ&ロナ
元地球連合軍所属のエアレーサーの伍長の双子。
サイクロプスに巻き込まれ掛けたが、脱出を決意して帝国再建委員会に入隊する。
階級は双子揃って空軍少尉だが、バルキリーに乗った感覚が忘れられないのか、市民権を得たにもかかわらず、ずっと前線勤務を続けている。
ラナはVF-31Fジークフリートで、ロナはVF-31Jジークフリート
キャラ提供は黒子猫さん

ショウ・エグザ
元地球連合軍所属の寡黙な若手パイロット。階級は中尉。
情に厚く、傷付いた仲間に手を差し伸べる。脱出後に帝国再建委員会に入り、十分な戦果を挙げて市民権を得たはずだが、垢が抜けきれないのか、軍に居残り続けている。
搭乗機はガンブラスター

リューゴ・バーニング
エースパイロットの父を持つ元連邦軍の若きパイロット。階級は陸軍中尉。
猪突猛進な熱血漢で才能に溢れるが、非常に無鉄砲な性格。市民権を得られるほどの戦果を挙げているはずだが、やること無いのか、軍に居残っている。
搭乗機は獅電
両者ともキャラ提供はオリーブドライブさん

ゼルム
正体不明の最低野郎(ボトムズ)の傭兵。
搭乗機はスコープドック(ネイビーカラー)に、ガトリング搭載のパックを付けた物。

ジャン・(ラック)・フェイローン
かつてはコロニーの為に尽力していた元UCA軍の中尉。帝国再建委員会では陸軍中尉。
相変わらず上司と部下には恵まれない中間管理職。
搭乗機は獅電
両者ともキャラ提供は影騎士さん

ステパン・ルスラーノヴィチ・ドラグノフ
元地球連合軍(ユーラシア連邦)に属する准尉。今は陸軍准尉。
帝国再建委員会に入っても相変わらずなので、昇進も出来なければ市民権も得られない。
搭乗機はT-90主力戦車
キャラ提供は黒鷹商業組合さん

ティムキン
元レストラン店員のパイロット。荒事は苦手で臆病であるが、常に周囲を警戒して危機察知能力が高い。敵を倒すよりも、自分と仲間の生存力を上げるためにサポートに徹する。
今は帝国再建委員会の陸軍曹長で、市民権を得て退役したらレストランを開く予定。
搭乗機は獅電

エメルダ
面倒見が良いムードメーカー。戦場でも仲間を励まし、後方から支援する。
今は陸軍曹長で、市民権を得て退役したら何するか考えていない。
搭乗機は獅電
両者ともキャラ提供はkinonoさん

カルマ・フォルセティ
自らの矜持によって雇われる先を決める傭兵の青年。
帝国再建委員会に入ってからは傭兵であることに拘り、今でも突撃をかましている。
搭乗機はランドマン・ロディ

ジークハルト・クリーガー
祖父の代からMSパイロット。非常に勘が鋭くて、反応速度に優れている面倒見が良い性格をした男。階級は陸軍少尉。
搭乗機は獅電
両者ともキャラ提供はmikagamiさん

エイリフ・バーライト
スーパーパイロットでコーディネーターな准将。
生前の記憶も持っており、かつては和平派と呼ばれる小さい派閥の出世頭だった。
今は陸軍准将で、自分と似た境遇の者たちが属する装甲旅団の旅団長をしている。
搭乗機はボクサー装輪装甲車コマンドポスト型
キャラ提供は秋音色の空さん


 ターニャの戦闘団が結成され、さっそく任務を全うするために転生者が支配する大帝国がある世界へと向かう中、その大帝国制圧を条件に、百合帝国再建を認めたワルキューレに不満を抱く者が居た。

 ミッシングリンク隊の指揮官のロー・スミス大佐である。彼は長年に渡って変異体と呼ぶターニャを付け狙っており、因縁の相手でもある。

 

「あの敗残兵やテロリスト共を国家として認めるだと? 上層部め、何を考えてるか知らんが、認めたら図に乗るぞ」

 

 再建を条件に帝国再建委員会に転生者の大帝国を潰させようとするワルキューレの上層部の考えに疑念を抱くスミスは、成功でもすれば性器の国家となった委員会が図に乗ることを指摘する。

 

「えぇ、ですが共倒れになればこちらに利があるかと…」

 

「そうなれば越したことは無いが。念のために、軍の出動するんだろうな?」

 

 これに共倒れになれば、ワルキューレに利があるという黒服の主張に対し、スミスは納得しつつ万が一に備えて軍は出動するのかと問う。その問いに副官は微笑み、既に軍の準備が進んでいることを伝える。

 

「もちろん、出動しますとも。既に陸軍が件の国家の国境線に総兵力百万以上の軍集団を展開し、いつでも侵攻が出来るように待機してます。その後方では空軍の工兵部隊が野戦空港を四つほど建設。バルキリーを含める相当数の航空機が駐機し、出撃を待っています。海軍も領海に一個艦隊と空母六隻からなる機動艦隊を展開。空軍の航空機も合わせれば、空を覆い尽くすほどの物になりましょうな」

 

 既に大軍が展開して出撃準備を終えているのを知れば、スミスは掛けている黒いサングラスを光らせながら笑みを浮かべる。

 

「フフフッ、トチ狂ったかと思ったが、上層部は真面のようだな。よし、我々ミッシングリンク隊も制圧軍、いや解放軍に合流だ。全戦力を持って当たる。今度こそ、あの幼女の皮を被った化け物とケリをつけるぞ!!」

 

『ハッ!』

 

 今度こそターニャとケリをつけるべく、スミスは配下のミッシングリンク隊の全戦力を持って出撃すると、この場に居る部下全員に告げた。それに配下の黒服の男たちは一斉に起立して同調し、出撃準備を行う。

 

「首を洗って待っていろよ、化け物め。今度こそ息の根を止めてやる! お前に因縁のある男と一緒にな!」

 

 その決着をつけようとするスミスの背後には、謎の男の影があった。果たしてその男とは…?

 

 

 

 帝国再建委員会が百合帝国再建を掛けた転生者が支配する大帝国制圧の戦端は、陸軍の人間部隊による攻撃で開かれた。

 第1突撃装甲軍と呼ばれる人間の将兵中心な機甲部隊が先陣を切り、砲兵の支援砲撃の下に侵攻を開始する。東西南北の主力戦車や歩兵戦闘車、様々な世界の機動兵器などの大群が大帝国の国境線に押し寄せ、展開された敵守備軍と衝突する。

 大帝国の国境を防衛する守備軍は抵抗するも、後から来た敵空軍の爆撃で防衛能力を失い、撤退を開始するも、破竹の勢いで迫る侵攻軍の追撃を受け、更なる損害を出す。

 

「我が国境守備軍は大損害です! ジークフリート様を! ジークフリート様をお呼びください!!」

 

『お前ら、俺に頼り過ぎだろ。不甲斐ないお前らはそこで死ねや』

 

 大帝国の望みである支配者である転生者の助けを乞う守備軍であるが、彼は死ぬまで戦えと命じて応じなかった。

 こうして帝国再建委員会の侵攻軍は敵軍を蹂躙しつつ、首都を目指して進撃を続ける。その際、侵攻軍は敵国の住人らから解放軍の如く歓迎を受けた。

 敵の罠かと疑う侵攻軍であるが、どうやら大帝国の国民らは転生者の支配に不満と恐怖を抱いているらしく、自国に攻めて来た帝国再建委員会が解放軍に見えたようだ。これを帝国再建委員会の侵攻軍は何とも言えない気持ちで歓迎を受けつつ、目的地を目指す。

 だが、電撃戦はここまで。想定を斜め行くほどの抵抗を第1突撃装甲軍を含める侵略軍は受ける事となる。

 

「クソっ、俺たちを歓迎してくれるのは田舎だけなのか!?」

 

 サイクロプスの悲劇から逃れ、帝国再建委員会に身を移したリュウ・パーシーは軍に身を置き、市民権の為に第1突撃装甲軍による侵攻作戦に参加した。入って長い期間は経つはずだが、未だ昇進できず、市民権も得られていない。

 指揮が低いはずの大帝国軍の激しい抵抗に、獅電のコクピットの中でリュウは敵の中央は自分たちを歓迎していないのかと嘆いた。左手でシールドを構えながら右手でライフルを撃ち込み、防衛線を張るリーオーを一機撃破するが、敵機は際限なく湧いて来る。

 

「これじゃあ、市民権が…!」

 

 戦術機F-15J陽炎に乗る衛士の辻凪あやめも市民権の為、第1突撃装甲軍に所属してこの作戦に参加したが、激しい抵抗の所為で市民権が得られないと嘆きながらも、前の戦術機より高性能な第二世代機を手足のように使いこなし、敵機の何機かを突撃砲で撃破した。

 

「あぁ、こいつら雑魚だけど。数は多いからうざすぎ!」

 

『姉さん! あんまり前に出過ぎないでよ!』

 

 地上の第1突撃装甲軍が敵守備軍の激しい抵抗に遭って前進が停止する中、上空では二機のバルキリー、VF-31ジークフリートが多数のエリアーズと言った空戦用MSを相手に、無双の如く暴れ回っていた。

 VF-31Fに乗るのは双子の姉の方であるラナで、一番前に出ながら迎え撃とうとチェーンガンを連射する多数のエリアーズを、ファイター形態のミニガンポッドで数機を撃破してからガウォーク形態に即座に変形させ、背部のウェポンコンテナを展開し、ビームキャノンとガンポッドを撃ちながら更に撃破していく。そこからバトロイド形態に変形させ、落ちながら数機の敵機を両腕の対装甲ナイフで切り裂き、二機同時を撃破する。

 そんな単独で突出する姉をフォローすべく、VF-31Jを駆る弟のロナは、ファイター形態でラナの背後を狙おうとする敵機を撃破しつつ、機体をガウォーク形態に変形させて両足のスラスターでブレーキを掛けた後、バトロイド形態に変形させてから姉のVF-31Fの背後について両腕のミニガンポッドを撃ち続けた。

 尚、二人とも市民権を得られるほどの戦果を挙げて少尉になっているが、バルキリーでの空戦の魅力に憑りつかれてか、未だに軍に居座っている。

 

「しっかりしろ! まだ助かるぞ!」

 

 それは同じく、脱出して帝国再建委員会に入ったショウ・エグザも同じであった。ガンブラスターを受領出来る程に戦果を挙げたショウであるが、戦場での垢が抜けきれず、軍に居座っていた。

 損傷した友軍機を機体の左腕で抱えつつ、空いている右手のビームライフルを連発し、追撃してくる複数の敵機の何機かを撃墜し、安全な後方へと下がる。

 

「ちっ、あん時もこんなに多かったかな! こっちが攻める側だけどな!」

 

 地上でメイスを振り落として敵機のパイロットを圧殺した獅電を駆るリューゴ・バーニングもまた、ショウと同じく軍に居残っている。リューゴに関しては、他に理由が無いからであるが、それでも充実しているようで、問題はないだろう。

 

「ここを突破できれば、どれほどボーナスが出るだろうな」

 

 同じく脱出し、それなりの戦果を挙げたゼルムであるが、戦いの臭いに釣られてか、愛機のATであるネイビーカラーのスコープドッグでこの作戦に参加した。

 ガトリング満載のミッションパックで出撃し、ガトリング砲で次々と敵機を撃破して突破口を開こうとするが、敵の防衛線は分厚く、空いた穴は直ぐに塞がってしまう。

 

『リリーちゃん! 俺、いっぱい殺してみ次ぐからねぇ~!!』

 

「ば、馬鹿! そのリリーは既婚者で芸名なんだぞ! クソっ、全財産入れ込んだ挙句に死にやがって!!」

 

 愛する女の名を叫びながら、否、一方的に愛している女の名を叫びながら突撃する部下が乗る獅電を制止しようとする同型機に乗るジャン・L・フェイローンであるが、部下は聞かずに突撃し、物の見事に散った。ジャンはあやめと同じく、思うように昇進できず、おまけに前の世界と同じで上司と部下には恵まれていない。

 勝手に突っ込んで死んだ部下を罵倒しつつ、仇を取ろうと自分専用に装備したガンダム5号機用のジャイアントガトリングを掃射し、複数の敵機をハチの巣にする。

 

「車長、味方がどんどん減ってる! 大隊代行車もやられちまった!」

 

「分かってる! 俺が大隊長ってか!? クソったれめ!」

 

 機動兵器部隊と共に前進する戦車部隊に属し、T-90主力戦車を搭乗者とするステパン・ルスラーノヴィチ・ドグラノフは、味方が次々とやられていくと言う報告を出す部下に対し、一番階級の高い自分が大隊長になってしまったと苛立つ。

 そんなやりたくもない大隊長になってしまったステパンであるが、苛立ちながらも、自分ら戦車部隊を排除しようと前に出て来るMSのアンフに向け、的確な指示を乗員たちに伝え、射撃で撃破させる。

 

「クソっ、ここを突破すれば、退役後にレストランが開業できるってのに!」

 

 同じく凄まじい抵抗に遭ってやや大きいシールドを構え、防御しながら反撃する獅電に乗るティムキンは、ここを突破できれば退役後にレストランが開けるほどの開業資金を稼ぐため、前に出た。彼のシールドは通常の物よりかなり頑丈であり、見事に敵の注意を引いていた。

 

「良いね、休暇の時は是非ともサービスしてよね!」

 

 ティムキンの獅電に攻撃が集中する中、同じく獅電に乗るエメルダは自分が来た時にサービスを要求しつつ、銃身の長い特殊ライフルで彼を狙う敵機を撃ち抜く。一機を落とせば、更に二機目を撃ち抜いて撃破する。

 

「ゲシュペンストの購入資金! 二機分も稼ぐぜ!」

 

 地上での機動性を活かし、ジグザグに動きながら単機で突出するランドマン・ロディを駆るカルマ・フォルセティは、失った量産型ゲシュペンストMk-Ⅱの購入資金を稼ぐべく、この作戦に参加した。右手のサブマシンガンで数機の敵機を撃破し、左手の打撃力を高めたハンマーチョッパーを反応が遅れた敵機に叩き込んで撃破する。

 複数の敵機を相手に奮戦するカルマのランドマン・ロディの背後を狙う敵機も居たが、ある獅電のライフルによる掃射で撃破される。

 

「全く、危ないな。あの傭兵は」

 

 そんなカルマの背後を守った獅電に乗るパイロットは、ジークハルト・クリーガーであった。その敵機を撃破した後、直ぐに索敵を行い、同時に敵砲戦型MSのトラゴスの砲撃を躱して近付いてきたリーオーにライフルを撃ち込んで撃破する。

 

「援軍はまだか!? 我が第43装甲旅団は既に半数を切っているんだぞ!」

 

 最後に登場したエイリフ・バーライトはMSで出撃するのではなく、ボクサー装輪装甲車コマンドポスト型から指揮を執っていた。帝国再建委員会に入ったエイリフは、同じく脱出して来た者たちの立場を盤石な物とすべく、こうして旅団規模の部隊指揮官になったわけだが、委員会は他の人間や種族と同等の扱いをしている。エイリフは旅団本部のボクサー装輪装甲車の車内で自分の旅団の戦力が半減していることを知り、作戦本部に増援を要請する。

 他にも脱出した者は居たが、この戦いに参加していないと言うことは、戦死、あるいは行方不明となった可能性は高い。

 

 援軍の要請に対し、第1突撃装甲軍と他の人間部隊の後方に控える陸軍のイヴ人部隊である二個の機甲軍は一部隊どころか一兵も援軍に寄越さず、ただ敵が損耗するのを待っている。彼女らイヴ人にとって、エイリフ等の人間と多種族の将兵等は、自分等が楽に掃討できるようにするための露払いであり、弾避けなのだ。

 

「援軍に行った方が良くないですか?」

 

「行かなくて良し。だって命令されてないじゃん」

 

 無数に待機しているレオパルド2A6主力戦車の内一両の車長が前に居る大隊長車のキューポラに肘をつきながら命令を待っている大隊長に問うが、彼女は面倒くさそうに命令されていないから行かなくて良いと返す。

 機甲戦力は戦車のみならず、歩兵戦闘車、装甲兵員輸送車、MSや戦術機、人機を含めれば数千は揃っており、この大規模な戦力が加われば、敵の防衛線を突破できそうであるが、イヴ人らは自分等に被害が及ぶことを嫌ってか、全く前進しようとせず、先に突撃させた弾避けの部隊が敵を十分に弱めるのを待っているだけだ。

 空軍のイヴ人の部隊が航空支援だけは行っているようだが、対空砲火に晒されるのを嫌ってか、余り前に出ようともしない。敵が消耗しきってから、一斉に陸軍と歩調を合わせて攻撃するのだろう。

 

『こちら第1突撃装甲軍、敵の抵抗激しく前進は困難! 他部隊も同様! これ以上の戦闘継続は困難に…!』

 

「はぁ、あれだけの装備を与えてやったのに。仕方ないわね。空軍の例の戦闘団を!」

 

 前進させた部隊が予想よりも手こずっているのを知り、陸軍の攻撃部隊の司令官は空軍にターニャの戦闘団の投入を要請した。




許可取ってないけど、大丈夫かな…?

参加者、活動報告にて募集中~


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初陣へ

名前:ラインハルト・ハインリヒ・フォン・ジークフリート。長いのでアホ。
性別:男
年齢:不明(前世は四十歳の童貞男ぉ!)
階級:転生者
所属:現地のアホ。名付けて正義の帝国(ゲレヒティヒカイト・ライヒ)
武器:ゴットカオスから貰った転生特典。めちゃんこ強い。
概要:ワルキューレから要警戒されているチート所持の転生者。外見はドイツ系の名前なので、金髪碧眼の長身美男子。髪型はオールバック。
前世ではネット界で大変迷惑がられた政治厨であり、幾つものサイトからはアク禁処分を受けたこともある。
自分に逆らう奴は共産主義者と思うほど独善でガチガチの反共主義者。引きこもりのニートだけど。
最初は現地の方がに歓迎されたようだが、典型的なチートオレ主であり、本性全開で暴れ回り、自分の転生した先で恐怖の大帝国を建国した。
欠点は自分に意に反する者が全て共産主義者に見えると言う呪いに掛かってる。それはお気に入りのヒロインであっても激情に駆られ、殺してしまうほど。
その全知に等しいほどの知能を有しているにも関わらず、前世と同じく自分に都合の良いことばかり言ってれば、疑いもせずに信用してしまう。その所為でか、絵にかいたような悪大臣やら極悪貴族を初めとした悪党共に良いように使われ、統治している大帝国が世紀末状態と化している。
自国民が侵略軍を解放軍として迎える辺り、その統治にかなり不満を抱いているようだ。

大帝国
本来の名称は正義の帝国であるが、広大な領土を持つために大帝国と呼ばれている。ターニャの前世で所属していた帝国(ライヒ)を彷彿させるが、似ても似つかない。
元になった国家は多民族国家であり、王族や貴族を中心とした強力な中央支配政権による統治で、民族間での対立は無く、一部を除いてどの民族も人々も平和に暮らしていた。隣国に広大な穀倉地帯を持つ共産主義国家もあったが、向こうは国内の近代化と安定化に躍起になっており、侵略する気など無かった。

だが、ラインハルトの転生先となり、好き勝手やった所為で内戦状態に突入する。
ラインハルトによる統一がなされると、隣国の共産国に宣戦布告も無しに侵攻。と言うかラインハルト一人が侵攻し、その圧倒的なチート能力で首脳陣共々首都を消滅させ、共産国全土を自分の帝国に吸収する。
更に隣国に侵攻して領土を広げ、巨大化していき、いつしか総人口六億と言う大帝国と呼ばれるようになり、ワルキューレからは警戒される。

政治に経済、治安、軍事力が安定しているかに見えるが、ラインハルトの前世の思考が「軍事力が全て。他はクソ」と言う物であった為、総兵力数二千万と言う今では考えられない程の兵力を有した軍隊を持っている。
ゲームで例えると、軍事力の方にステータスを全振りしてるような物。故に真面な外交が出来ず、インフラや物資も軍事優先。

先述に述べた国民が侵略軍を解放軍として迎える辺り、そんな大帝国に国民が満足するはずが無く、ワルキューレの工作もあって幾度か内戦が勃発するほど。だが、正義の皇帝ラインハルトはその全てを共産ゲリラやテロリストとして制圧。いつの日か、ワルキューレも支援を止め、住民たちもラインハルトに敵わぬと絶望し、支配を受け入れてしまう。
幾つかの小さな組織が抵抗しているが、民間で組織されたアカ狩りの活動もあり、徐々に消えて行っている始末。
だが、その支配と転生者ラインハルトも、Xの名を持つ神に試された怪物の襲来により、終わりを迎える。

第十三航空魔導士大隊
ターニャの戦闘団、フェアリー戦闘団編成より少し前に編成された航空魔導士部隊。
早い話、壊滅した部隊の敗残兵や懲罰部隊を合わせた寄せ集めであり、人種も種族もバラバラ。当然イヴ人は一人も所属していない。
不吉な数字を現す意味の所為か、イヴ人の文化でもそうなのか、十三番は欠番とされ、主に懲罰部隊や消耗前提の部隊番号にされている。
隊員の殆どは本当に帝国再建委員会に属しているのかと疑うほどの者で、いきなり殺しに掛かる者も居る始末。挙句、民間人を便意兵として虐殺する奴も。
ついでに言うと、明らかに出る作品を間違えてる奴が居る。
モデルはBLEACHに登場する星十字騎士団(シュテルンリッター)


 帝国再建委員会の百合帝国再建を賭けた大帝国制圧作戦が展開される中、侵攻軍が大帝国の中央に差し掛かった際に激しい抵抗を受け、前進は困難を極めていた。

 これを打開すべく、侵攻軍の司令部はさっそく空軍で編成されたばかりのターニャの戦闘団の投入を決定する。

 

「速過ぎるな。やはり消耗前提か」

 

 急な出撃命令に、戦地に着いたばかりのターニャは、自分の戦闘団が消耗前提で編成されたと察した。

 自分の特務航空魔導士大隊は敵地や激戦区に毎度の如く送られることで、全員がネームド級のエースとされる精鋭部隊と化したが、その大隊を基幹に編成した戦闘団に送られてきたのは、どう見ても消耗を前提とした兵員で編成された部隊ばかりだ。

 特に第十三航空魔導士大隊は寄せ集め感が酷く、敗残兵や懲罰兵、人種もバラバラ、エルフやドワーフ、挙句に怪物の類であるオークまで居る始末だ。大隊の兵力はターニャの大隊と同じく六十人編成だ。

 

「イヤッホォォォォ!!」

 

「ヒヒヒーッ!!」

 

「アチョー!!」

 

 そんな不吉な番号を持つ大隊の懲罰兵三名が、何を考えてかターニャを見るなり奇声を発しながら素手で殺しに掛かった。

 

「(なんだこいつ等、童実野(どみの)町の不良共か? ヤレヤレ、出る作品を間違えてるぞ)」

 

 その三名の突然の襲撃にターニャは動じることなく、少し魔力を込めた右手の手刀で心の中でぼやきながらも瞬く間に惨殺した。

 

「キョ~~~レツ!!」

 

「これで分かったか? 私は貴様ら残り五十七名を四十秒以内に皆殺しに出来る。さっきの馬鹿三名のようになりたくなければ、私の命令に従うことだ」

 

 先ほどの三名の処刑で第十三大隊の者たちに分からせた後、ターニャは規律はどうなっているのかと大隊長に尋ねた。

 これに大隊長は自分が属していた中隊を基幹に編成された物であり、編成時期は戦闘団より前だと告げた。つまり、ターニャの悪い予想は当たっていた。

 

「あぁ、寄せ集めか。そうなると、戦闘団に編入された大隊も同じか」

 

 第十三航空魔導士大隊の大隊長の話で、ターニャは自分の戦闘団に編入された特務航空魔導士大隊と監視部隊を除く全ての大隊は寄せ集めであると改めて認識した。陸軍より貸し出されたと言うか、押し付けられた混成機甲連隊と同じだ。

 

「(参謀本部はこいつら寄せ集めを我が大隊の盾にしろとでも言うのか?)」

 

 寄せ集めや懲罰部隊を押し付けられたことで、ターニャは参謀本部に彼らを自分の任務の為に盾にしろと言うのかと心の中で問う。実際その通りであるが、たかが敵の防衛線を突破するために、切り札を切るなど以ての外だが。

 

「(使えるかどうか試しているのか? まぁ、私もこいつ等が使えるかどうか気になるしな。乗ってやるか)」

 

 次に新設された戦闘団が使えるかどうか試そうとしているのではないかと思い、ターニャは勝手に考えた参謀本部に乗ってやるため、命令に従った。

 

「よし、戦闘団は直ちに出撃だ。この戦争、早期に終わらせるぞ」

 

 出撃の命令を出した後、ターニャは出撃の為に装備を身に着けに行った。

 

 

 

 その頃、帝国再建委員会の侵略を受けている大帝国の首都の中心にそびえる正義の宮殿では、正義の帝国(ゲレヒティヒカイト・ライヒ)の皇帝、ラインハルト・ハインリヒ・フォン・ジークフリートが玉座にふんぞり返りながら前線での戦況報告を聞いていた。

 

「敵侵略軍はハイドリヒ軍集団の防衛陣形で押し止めております。攻撃中の第一波の背後に、敵の第二派が控えておりますが、現状の戦力で対処が可能です」

 

「結構。ハイドリヒ元帥には勲章を授けねばな」

 

 帝国再建委員会の侵攻は現状の戦力で押し止めていられると将軍が頭を垂れながら伝えれば、ラインハルト皇帝は不敵な笑みを浮かべながら頷く。これに皇帝の機嫌が良いと思ってか、前線への援軍を要請する。

 

「ハイドリヒ元帥はさぞお喜びになりましょう。それと早期に侵略軍を撃退する為、首都の戦力をお借り出来ませぬか? 万が一とはいえ、首都に駐屯する戦力は過剰です。首都防衛は首都防衛軍に任せ、動員された兵力を増援として前線に投入し、反転攻勢に出て…」

 

 早期に侵略軍を撃退する為、前線に増援を送っての反転攻勢の提案は、軍事的に見ればもっともな意見であったが、それが皇帝の意に反してしまったのか、要請を出した将軍の左腕が突如となく吹き飛ばされた。ラインハルト皇帝は能力者であり、玉座に腰を下ろしたまま何の動作も無く将軍の左腕を吹き飛ばしたあたりから、かなりの力を持っているとされる。

 

「ぐ、グァァァァッ!?」

 

「おいお前、現状の戦力でどうにかなると言ってたな? なぜ首都の戦力を割かねばならんのだ? 余の決定に不満があるのか?」

 

「小官は、小官は万が一の場合に備えて…」

 

「お前、余の帝国が負けると言うのか? 今は勝っていると言っていたな? それは真か嘘か?」

 

 右手で欠損した左腕の大量出血を抑え、凄まじい痛みに堪えながら万が一のの場合に備え、意見したと将軍は答えるが、それにラインハルト皇帝は不機嫌な表情を浮かべ、先ほどの戦況報告は嘘なのかと問う。

 この光景に他の将軍や参謀たちは以下にも軍人な体格と風貌でありながら怯え、中には失禁までする者まで居た。それ程にラインハルト皇帝が恐ろしいのだ。

 

「ま、真でございます…! 現状の戦力で耐え切れ、そこに増援が加われば…勝利は確実であります…!」

 

「増援…? 増援が無ければ、精強なるハイドリヒ軍集団が増援が負けると申すのか? 余が信頼するハイドリヒ元帥が、増援が無ければ敵に負けてしまうと? そう申すのか?」

 

「ち、ちが…」

 

 瀕死の重傷を負いながらも増援を頼もうとする将軍に対し、ラインハルト皇帝は睨み付けながら指先を彼に向け、自分が信頼する軍集団が増援を出さねば負けると言うのかと問う。これに将軍は激痛に耐えながら否定しようとするが、もう助からなかった。

 

「もう良い。正義の化身である余の聖断に異議を唱えると言うことは、お前、共産主義者だな? 汚らわしく、邪悪で滅ぼすべき存在たる共産主義者が、我が宮殿に土足で踏み荒らすとは許せん…!」

 

「小官は、小官は断じて共産主義者ではありません…!」

 

 ラインハルト皇帝は自分に異議を唱える目前の将軍を、一体どういうわけか共産主義者と決め付け、粛正しようとしていた。この訳の分からな過ぎる決定に戸惑い、自分は共産主義者ではないと必死に訴える将軍であるが、既に遅かった。

 

「ち、違う! 断じて小官は、小官は!!」

 

「攪乱するために忍び込んだのだな? 死ね」

 

 必死に共産主義者でないと訴えるも、皇帝の逆鱗に触れた将軍は頭を吹き飛ばされ、頭の無い胴体は宮殿の床に横たわった。

 その将軍は意見は軍人としては正しかった。むしろお手本になる物だ。だが、この圧倒的な力を持つ皇帝の前には、どれだけ正しい意見でも、誰しもが納得する正論であっても、気分次第で間違いになる。

 ラインハルト皇帝にとって、都合の良い事が正しいのだ。前世の記憶を持つ男の存在その物こそが正しく、絶対であり、この世の全てであり、理である。故に逆らってはならない。正義の皇帝の名を持つラインハルトに逆らうことは、この世の絶対悪になると言う意味だ。

 それ故に、周囲の将軍や参謀らは皇帝の意見に賛同する。間違っているのは、床に横たわる頭の無い男の方であると。

 

「余の考えに、意のある者は居るか?」

 

 皇帝が周囲の将軍や参謀らに問えば、彼らは揃って目を合わせぬよう下に俯き、異論が無い事を無言で伝える。先の将軍の後を追いたくないからだ。皇帝が恐ろし過ぎて、誰も逆らおうとは思わない。

 その所為で皇帝の決定に意見する者や異論を唱える者は居ない。以前は居たが、皆が頭を吹き飛ばされた将軍のように、皇帝が嫌う共産主義者として殺された。真剣な愛国者もまた、皇帝に逆らって共産主義者として消されたのだ。

 

「良かろう。軍議はこれにて終いだ。そこの汚いのは捨てておけよ? 汚れたカーペットは捨て、新しいのに変えて置け」

 

「御意に皇帝陛下(マイン・カイザー)

 

 気を良くしたラインハルト皇帝が軍議の解散を命じ、死体を片付け、汚れたカーペットも変えておくように命じれば、将軍や参謀らは頭を垂れ、それに応じる。皇帝が去った後、彼らは安堵し、召使たちに怒鳴り散らすように、皇帝が命じた死体とカーペットを片付けるように命じる。

 

「貴様ら! 速くその死体とカーペットを片付けろォ!」

 

「わ、分かりました…!」

 

 召使たちは全員が女性であり、横暴な将軍や参謀らの命令に怯えながら応じ、道具を持って作業に取り掛かる。

 

「やれやれ、我々もいつ共産主義者として奴に粛清されるか分かった物ではない」

 

「左様。奴のコントロールも難しくなった。以前は都合の良い事や耳に心地よい事ばかりを垂れていれば、容易く扱えたが、今はいつ共産主義者にされるか分かった物ではない」

 

「然り。一人が奴の逆鱗に触れ、共産主義者として始末された。もう潮時だ。ワルキューレかその帝国再建委員会なる賊軍が侵攻している今がチャンスだな」

 

 その光景を陰から見ていたラインハルト皇帝の重鎮ら、影の支配者と言って良い男たちはそろそろこの国も潮時と囁き始める。

 彼らは圧倒的知能を有しながらも、圧倒的な力と同じく使いきれず、振り回されるばかりのラインハルト皇帝を利用し、今の地位を得た。時には政敵を倒すのに利用したり、反対勢力を潰すのにも、領土拡大等と言った行為を行うたびに彼にとって心地良い事ばかりを囁いてやらせてきた。それらの行いが今の大帝国こと正義の帝国を作り上げと言っても過言ではない。だが、いつまでも効くはずが無く、徐々に皇帝のコントロールが出来なくなっている。

 故に帝国の影の支配者たる彼らは財産を持って大帝国から逃げ出し、ワルキューレに寝返るつもりだ。その計画は既に、ワルキューレが帝国再建委員会に大帝国の制圧を命じた時よりも前に出来ていた。攻撃が開始された時こそが、彼らの逃亡計画の開始の合図である。

 

「とにかく奴の側には、否、この国自体に一分一秒でも居たく無いわ。ミスタースミスからの連絡は?」

 

「あぁ。賊軍の防衛線を破ったと同時にワルキューレも攻撃を開始するようだ。奴の部隊はこの首都に近い南側方面から侵攻する隊に随伴している。指定場所へ行けば、侵略兵共に襲われる心配も無い」

 

 影の支配者たちの脱出の算段をつけたのは、あのミッシングリンク隊のロー・スミス大佐のようだ。もっとも、彼らもまたスミスに利用されているだけのようだが、命の危機を感じている彼らはそれに気付きもしない。

 

「他にもいたが、誘わなくて良いのか? 仮にも我らの同志だぞ」

 

「フン、あんな男性至上主義の馬鹿など誘えるか。奴とこの大帝国と共に心中させておけ。それが本望だろうて」

 

「確かにな。男らしく戦って死ねるのだ。下手に誘って奴に密告でもされたら、我々はお終いだ」

 

 言い忘れていたが、この大帝国は男尊女卑であった。合理主義に則り、身体的に優れる男性優位な社会構成であるため、女性の地位は物に等しい。大帝国の元となった多民族国家は王制であり、その王は女王で、女性冒険者や女性のみで構成された騎士団も存在して社会的均衡も取れ、あのヴィンデル・マウザーが支配する世界の軍国主義のような男女平等を実現させていた。

 皇帝ラインハルトを唆して影の支配者たちの中に男性至上主義者が居り、そこを気に食わぬ者が反共主義者の彼を唆した、と言うか男女平等を共産主義と思い込む彼と意見が一致し、女性を社会から追い出して男性至上主義社会を作り上げ、今に至るようだ。

 その男は男性至上主義の余り影の支配者たちから馬鹿にされたり嫌われているらしく、こうして逃亡計画も知らされず、ラインハルト皇帝とこの大帝国と共に心中しようとしている。

 他にも支配者たちは居たようだが、生真面目な者、愚直な愛国者、欲をかいて失敗した者、その他の者たちは共産主義者としてラインハルト皇帝に始末された。

 影の支配者で生き残っている者は、男性至上主義や逃亡計画を立てた狡猾な者たちだけである。

 

「さて、防衛線はいつ破れる事やら」

 

「奴に悟られんようにな。気付かれれば、我々は共産主義者よ」

 

「承知している。これで枕を高くして眠れるわ」

 

 影の支配者たちはラインハルト皇帝に悟られぬように、逃亡計画の実行に移った。




ラインハルト皇帝「俺の事を好きにならない奴は、共産主義者(アカ)なんだよ」

童実野町の不良(ドロップアウトヴォーイ)達を出したら、応募にアンティーク・ギア・ゴーレムの親戚が来たノーネ。

募集は活動報告にて募集中。期限は11月21日まで。


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第十三航空魔導士大隊

名前:アーペントラウフェン
性別:男
年齢:33歳
階級:少佐
所属:フェアリー戦闘団第13航空魔導士大隊
武器:G3A4自動小銃、パンツァーファストⅢ対戦車火器
概要:対戦車・対機動兵器戦ばかりやってきたプロ特技兵。単独部隊で撃破した機動兵器の数は相当数にのぼり、大尉であった頃には人間航空魔導士間で英雄視されるほど。ある戦闘において別の1個中隊を率いていたが、敵精鋭MS小隊1個を撃破した代償に同中隊は壊滅の憂き目にあった。今回は少佐に昇進の上、生き残りとともに編入してもらい、第13航空魔導士大隊長として指揮を執る。
キャラ提供は神谷主水さん

他第十三航空魔導士大隊所属隊員(カマセ)

名前:真下一元(ました・かずもと)
性別:男
年齢:30歳
階級:曹長
所属:フェアリー戦闘団 第十三航空魔導士大隊
武器:FAL自動小銃
概要:帝国再建委員会のベテラン航空魔導士。
ガイエス平原の決戦を含め、数々の任務でかなりの戦果を挙げたようだが、風俗狂いなため、未だ帝国再建委員会に居る。
借金を即返済できると聞き、第十三航空魔導士大隊に参加した。

オーバーキル
第十三航空魔導士大隊に属する航空魔導士。本名不明、異名はオーバーキル。
見た目が完全に山本元柳斎重國を煽ってガチギレさせ、焼き殺された星十字騎士団の髪形と髭が★のあいつ。()れぇわ!
元ネタと同様に馬鹿であり、裏で帝国再建委員会が運営する娼館で豪遊し、二百万の借金を背負い、帝国再建委員会の空軍の突撃航空魔導士大隊に参加する。
その際、元ネタと同様に民間人を含めた大量虐殺(ジ・オーヴァーキル)をし、所属部隊も壊滅したので、第十三航空魔導士大隊に抹殺と言う形で配属された。

ダガール
南斗紅鶴拳のユダの部下をやってた人に似た航空魔導士。でも、南斗比翼拳は使えない。
下級の分際でイヴ人にセクハラを行い、第十三航空魔導士大隊に送られた。

石動十太
なんか誰かに名前が似てる二メートルのおっさん。どうやって航空魔導士になったんだというくらいツッコミどころ満載。つか、なんで帝国再建委員会に居るんだ?

ジョシュア・エルフォース
名前がアラスカのジョシュアに似た奴。凄腕に違いないが、命令違反で第十三航空魔導士大隊に送られた。
ターニャのことを気に入っておらず、挙句に上司であるアーベントラウフェンを部下殺しと卑下する奴。

キテス・サイコロ
話題のサイコロステーキ先輩に似た航空魔導士。昇進と金、イヴ人に目が眩んで第十三航空魔導士大隊に参加した。


 この帝国再建委員会による大帝国制圧の裏で、影の支配者たちによる逃亡計画が実行される中、ターニャの戦闘団は出撃した。

 機動戦を重視してか、基幹の特務航空魔導士大隊と傘下の第十三航空魔導士大隊のみとし、MS二個大隊とバルキリー大隊、陸軍混成機甲連隊は残していく。イヴ人の監視部隊は、空軍司令部より厳命されているのか、勝手について来る。

 

「さて、私の大隊に追随できている…やり過ぎだ!」

 

 初の戦闘団としての戦闘なので、ターニャは練度が高過ぎる自分の特務大隊より低いと思われていた第十三航空魔導士大隊の方を見たが、結果は彼女の予想を裏切った。

 数十名の大隊所属の航空魔導士が隊列を離れ、独断で敵陣への攻撃を開始したのだ。これには流石のターニャでも命令違反の容疑で射殺せずにはいられないが、監視部隊のバルキリーであるYF-29Bパーツィバルのガンポッドを向けられる。

 

「勝手にやらせておけというのか? ちっ!」

 

「すみません、うちの部下が…」

 

「アーぺントラウフェン少佐、部下の把握をしていないのか? 勝手が過ぎるぞ」

 

 監視部隊に銃を向けられ、苛立つターニャに、第十三大隊の大隊長であるアーぺントラウフェン少佐が代わりに謝罪した。隊員の詳細は生き残った部下以外知らないらしく、どんな隊員が自分の部下になったか把握しきれていない。故に統制が取れず、新しい部下の暴走を止められなかった。

 

「フハハハッ! 死ねぃ!!」

 

 勝手に独断先行した第十三大隊の一人、ダガールは対地用爆裂術式を使い、第1突撃装甲軍を押し止めていた敵守備軍を爆撃した。突然の爆撃に守備軍は一時的に混乱し、無秩序な攻撃を仕掛けた第十三大隊の暴走する一部の隊員らの対処に遅れる。

 

「な、なんだこいつ等は!?」

 

「キェェェィっ!!」

 

 石動十太(いするぎじゅうた)も爆裂術式による攻撃をした後、腰の刀を抜き、混乱する守備軍の歩兵らを斬り殺し続ける。一人、また一人と草刈り機のように次々と斬り殺していった。

 

「この程度の敵なら、昇進間違いなしだ!」

 

 同じく暴走するキテス・サイコロは昇進に目が眩んで暴走したらしく、次々と混乱する敵軍を蹂躙する。

 

「餓鬼が戦闘団隊長なのと部下殺しが隊長で英雄なのが、一番気に食わないんだよ!」

 

 対空弾幕をすり抜け、敵陣地を単独で蹂躙するのは、ジョシュア・エルフォースだ。彼は命令違反の常習犯であり、第十三航空魔導士大隊に送られた。イヴ人には反抗的であるが、ネームド級のエースの実力を持ち、こうして単独で敵の陣地を蹂躙している。

 

「よぇ、よぇ、全く()ぇーッ! えぇッ!? これがこの世界最強の軍隊かよぉ!! 全く弱ぇーなッ!!」

 

 暴走する隊員らを遥かに上回る戦果を挙げているのは、星のような髪形が特徴な大男の航空魔導士であった。彼はオーバーキルの異名を持ち、その名の通り敵軍を過剰殺害(オーバーキル)していた。圧倒的な魔力と戦闘力で敵を蹂躙し、既に数百もの歩兵と数十両の戦車、数十体の機動兵器を破壊している。

 

「な、なんて奴らだ…! 孤立した航空魔導士は弱いというのに…!」

 

 単独の航空魔導士は現代兵器を前に落とされるばかりの的であるというのが常識だが、それを覆すようなオーバーキルを初めとした暴走集団に、アーデは茫然としていた。

 

「だが、敵の足並みは乱れた! 悔しいが、今が攻撃のチャンスだ! 総員、直ちに敵陣に突撃せよ!」

 

「はっ! 我ら第十三航空魔導士大隊も続きます!」

 

 暴走集団の無秩序な攻撃のおかげで敵の足並みが乱れたのは確実なので、ターニャは悔しながらもこのチャンスを逃さない為に突撃を命じ、アーぺントラウフェンもその後に続いた。

 

「クソっ、航空魔導士なんかに!」

 

『新たに航空魔導士! 数、二個大隊規模!!』

 

「畜生が! 今さら航空魔導士が戦場に戻ってきやがって! 文明の利器って物を見せてやる!!」

 

 暴走集団に防衛線をかき乱された敵軍は、単独で暴れ回るオーバーキルらに対空攻撃を行うが、そこにターニャ率いる戦闘団の本隊が現れた。更なる損害を出す中、戦闘ヘリの編隊は機銃やミサイルを撃ち込んで迎撃しようとする。

 飛んでくる機銃やミサイルを躱しながら、ターニャを含めた特務航空魔導士大隊は魔力で火力を高めた単発での射撃で、迎え撃つ戦闘ヘリの集団を次々と撃ち落としていく。

 

「ば、馬鹿な! 連中の魔導士は強化されているのか!? ウワァァァッ!!」

 

 戦闘ヘリのパイロットはターニャ等に攻撃が当たらないことに驚愕しながら、接近して来たアーぺントラウフェンが持つG3A4自動小銃の強化された銃弾を受け、乗機と運命を共にした。

 その後、次々と戦闘ヘリの部隊が撃破され、地上への蹂躙が始まる。対空機銃やミサイル、ビーム等が雨あられと飛んでくるが、数多の激戦地を駆け抜けて来た特務大隊の魔導士等には躱されるか、魔法障壁で防がれ、爆裂術式などの爆撃で蹴散らされるばかりだ。

 

「流石は特務大隊と言った所か! フン!!」

 

 ターニャの特務大隊が次々と敵陣地を吹き飛ばしていく中、アーぺントラウフェンはパンツァーファウストⅢ対戦車火器を取り出し、マシンガンを乱射するリーオーの胴体に向けて撃ち込んで撃破した。それから発射器を捨て、背中に背負っている新た思惟発射器に引き金部分を取り付ける。

 

「借金返済、これでなるか!?」

 

 ガイエス平原の決戦での前から帝国再建委員会に居る航空魔導士である真下一元は、第十三航空魔導士大隊に参加していた。そんな彼は古いFAL自動小銃で、所属小隊と共に第1突撃装甲軍の前進を阻む敵陣地を破壊していく。

 

「おぉ、流石は噂の特務大隊だ! 今だ! 前進だ! 第1突撃装甲軍全軍、前進せよ!!」

 

 敵の防衛線が蹂躙されたのを見れば、抑え込まれていた第1突撃装甲軍全体が突撃を始める。

 

「空軍のデグレチャフ戦闘団、敵防衛線を破壊!」

 

「第1突撃装甲軍、前進を開始!」

 

「ちょっと話が違うじゃない!? もう、こっちも前進! 直ぐに前進!!」

 

 全ての戦闘部隊が突撃を行う中、後方で控えるイヴ人の部隊である侵攻軍本隊も釣られて前進した。その動きは遅れていたが、それでも物量による突撃で敵の戦意を砕いた。

 たかが無断で突撃した数名の航空魔導士数名による無秩序な攻撃で、敵の防衛線は瓦解した。これは予想外の結果と言うか、敵軍の思わぬ弱点を突いたかもしれない。

 

「うわぁぁぁ!? 数が、数が多過ぎるぅーッ!!」

 

「い、嫌だ! 俺は死にたくねぇ!!」

 

 圧倒的な地の利の十字砲火で堅牢な防衛線を維持していた大帝国の守備軍であるが、無秩序な攻撃で弱点を突かれて崩壊し、兵士たちは統制を失って逃げ出し始める。

 

「戻れ! 戻って戦え!! うぅっ!?」

 

 この混乱を将校が拳銃を空に向けて撃ち、必死に抑え込もうとするが、無秩序な攻撃を行う馬のような演算宝珠と秘孔ユニットを装備した一人の初老の航空魔導士が持つランスで串刺しにされた。

 

「フハハハッ! 我が祖先のフサリア仕込みの騎兵突撃、受けて見るが良いわ!」

 

 敵軍の将校からランスから振り抜き、地面に叩き付けたその魔導士、その名も航空魔導騎兵は自分の祖先が欧州最強の重騎兵フサリアであることを自慢しつつ、先祖仕込みの騎兵突撃を行って逃げる敵兵らを次々と撥ね殺すか、ランスで幾人も串刺しにして殺害していく。その後、笑いながら逃げる敵軍の背中を襲い、次々と串刺しにしていった。

 

「ぼ、防衛線が崩壊…! 防衛線に居た軍、並び師団は壊滅! 本部との連絡は途絶! 残った将兵等は統制を失っております!」

 

「ば、馬鹿な…! 何度もシミュレーションして構築した防衛線だぞ!? それが古臭い航空魔導士の攻撃なんぞに崩壊するとは…!」

 

 防衛線が崩壊した報告を聞いたハイドリヒ元帥は、自身が完璧とも言える防衛線を、無秩序な攻撃で容易く崩壊せしめた第十三大隊の暴走航空魔導士等に驚愕する。そんな守備軍本部に向け、暴走魔導士の一人であるオーバーキルが逃げる敵兵らを虐殺しながら到来した。

 

「う、うわぁ…!?」

 

「テメェが敵の大将か? 弱ぇーな、テメェの兵隊はよぉ! おかげでまだ殺したりねぇぜ! あんな弱ぇ奴らを突破できない陸軍の第1突撃装甲軍の連中は情けねぇな! イヴ人共が()れぇ気持ちが分かるぜェ! テメェが大将なら()ぇはずだなぁ? 俺の攻撃を…」

 

「こいつめぇ!!」

 

 ハイドリヒ元帥が現れたオーバーキルに恐怖し、怯えながら後退る中、大男は彼が徹底的な構想を基に構築した防衛線を突破できなかった第1突撃装甲軍の将兵等を侮辱した。それから敵の大将なら強いはずという時代錯誤なことを言い出して、ハイドリヒ元帥を手に掛けようとしたが、彼の部下の一人がオーバーキルに向けて剣で斬りかかる。

 

「弱ぇ癖に、この俺にそんな棒切れで勝てると思ったかぁ? あぁん!?」

 

 だが、頭を掴まれ、そのまま握り潰されてしまった。頭の無い死体をそこらに投げ捨てた後、オーバーキルは自分に恐怖するハイドリヒ元帥の胸倉を掴んだ。

 

「おい! なんか出してみろって…デスクワークかよ、ちっ!」

 

「うぅ…! 私は、貴官らに投降する…! 我が守備軍全将兵等も投降を呼び掛け、貴官らに譲渡する…!」

 

 胸倉を掴まれたハイドリヒ元帥は投降を選び、自分の配下の将兵等にも投降を呼び掛け、帝国再建委員会に寝返るというが、オーバーキルはそれに応じず、首を引き抜いた。

 

「おいおい、俺らに入りてぇってか? けっ、間に合ってんだよ! 敵の大将の首は取ったが、まだ物足りねぇな…! そうだ、こいつでもっとぶっ殺すか!」

 

 ハイドリヒ元帥の首を見事に討ち取ったオーバーキルであるが、彼はそれすら物足りず、懐に仕舞ってある円盤状の装置を取り出し、それを逃げる敵軍に向けて放とうとする。

 

『全軍停止! 敵は戦意を喪失している! これ以上の深追いは止めよ!』

 

「うるせぇな、イヴ人共が! 俺は殺し足りねぇんだよ!!」

 

 無線機から敵は戦意を喪失して言うから追撃するなとの停止命令が来るが、オーバーキルは従わず、左手に手にした装置を発動し、逃げる敵軍を攻撃した。

 装置の攻撃は落雷であり、落雷の数は大嵐級で逃げる敵軍の頭上に雨の如く降り注ぎ、数百から数千の敵を敵兵を感電死させた。そればかりではない、防衛線の背後に位置する街も遅い、多数の民間人も落雷に巻き込まれ、多数の死傷者が出る。

 

「や、野郎! 大将首のみならず、更に戦果を奪いやがって!!」

 

「おのれ、ずるいぞオーバーキル!!」

 

「ちっ、チクろうにも大将首を挙げちまったらなぁ…!」

 

「クソっ、俺より戦果を挙げやがって!」

 

「フサリアの子孫であるわしより戦果を挙げようなどと!!」

 

 オーバーキルの所業に怒る同じ暴走組であるが、その理由は逃げる敵兵や民間人の大量虐殺ではなく、更なる戦果を挙げた彼への嫉妬であった。

 

「あ、あいつ…! なんてことを…! もう許さんぞ!!」

 

「こんなの戦争じゃねぇ…! 虐殺だ!!」

 

 無論、第十三大隊の隊長であるアーぺントラウフェンは激怒する。一元はオーバーキルが行った無差別虐殺に激怒していた。

 

「この処遇、どうすれば良い?」

 

 オーバーキルの虐殺劇にターニャもまた激怒しており、監視部隊にその処遇を問う。これにVF-31Sジークフリートに乗る監視部隊の隊長は、操縦桿を握りしめたまま無言であった。

 この防衛線を突破できた帝国再建委員会であったが、一人の暴走によってやってはならない虐殺を起こし、あれだけの犠牲を払って突破したにも関わらず、その勝利を喜べなかった。膠着状態の戦局をひっくり返したオーバーキルであるが、それを打ち消すような惨状を引き起こしたので、ターニャの即席査問会に呼び出される。

 

「査問会だぁ? てめぇ、俺は大将首を挙げて百万以上の敵軍をぶっ潰したんだぜ? さては、俺が戦果を挙げたことが気に食わねぇんですなぁ? 身体と脳みそと同じく、ずいぶんと器が小さいんですなぁ、デグレチャフ中佐殿」

 

 あれほどの惨状を引き起こしたにもかかわらず、一切悪びれることも無く煽り立てて来るオーバーキルに、ターニャは動じず、怒って攻撃しようとしたアーぺントラウフェンと部下を止める。監視部隊の者たちは何も言わず、ただそれを眺めている。

 

「なぜ民間人を巻き込んだ? 我々の軍規では民間人への攻撃は禁止されているはずだが?」

 

「民間人の巻き込んだぁ? 何言ってるんです、中佐殿。敵は敵でしょうが、ぶっ殺して何が悪いんです? もしウッカリ殺しちまっても、便衣兵として処分しちまぇば良いでしょうが。街の住人が武装してたと言っちまえば、上層部も納得…」

 

 あの広範囲落雷攻撃で民間人多数を巻き込んだことは知っているのかと問う。これにオーバーキルは敵を殺して何が悪いと宣い、挙句に間違って殺しても便衣兵として処理すれば良いとさえ言う。余りにも勝手すぎる理由に等々ターニャの堪忍袋の緒が切れ、オーバーキルの上半身を吹き飛ばしてしまった。上半身が無くなった下半身は地面に倒れ、大量の血液を地面に流し続ける。

 これに一同は驚き、特に命令違反した者たちは身の危険を感じるが、アーぺントラウフェンはターニャに自分に代わって部下を殺害したことを、申し訳ないと謝罪しながら敬礼する。監視部隊は何も言わず、立ち去って行く。

 

「部下を代わりに裁いてい頂き、申し訳ありません。デグレチャフ中佐殿」

 

「まぁ、これは上層部のミスだ。貴官が気にすることではない」

 

「この問題は部下の事を把握していなかった私にあります。どうか、何なりと…」

 

「いや、あれはオーバーキルが勝手にやった事だ。全て奴の所為にしてしまえば良い。次は無いぞ。しっかりとその手綱を締めて置け!」

 

「はっ!」

 

 部下の責任を取ろうとするアーぺントラウフェンに対し、ターニャは全てオーバーキルの所為にすれば良いと返した。それに罪悪感を覚えるアーベントラウフェンであるが、次が無い事を告げれば、彼は納得して敬礼する。

 その後、査問会は解散し、一同は兵舎へと戻って行く。そんなターニャに絡んだのは、アーぺントラウフェンの大隊に属するジョシュアであった。彼もまた命令違反を起こした身であるが、オーバーキルと同じくそれを全く悪びれもせず、図々しくターニャに話し掛ける。

 

「やっぱり部下殺しの噂は本当ですか、戦闘団隊長殿」

 

「貴様も暴走していたな? 奴のようになりたいか?」

 

「ご冗談を、俺はオーバーキルみたいに馬鹿では無いので。でも、あんた見たいな奴が隊長なのが気に食わないな。イヴ人のもっとも馬鹿で弱いロリータ族が、空軍最強の航空魔導士で最強部隊の隊長? フン、そんな馬鹿げた話、気持ち悪いアニメだけだぜ」

 

 どうやらターニャが自分の部隊の長であることが気に食わないようだ。挙句に侮辱までしてくる。これを安い挑発と捉え、ターニャは応じなかった。

 

「なんだ、死にたいのか?」

 

「どうやら本当みたいだな、部下殺しって噂は。だが、俺を()っちまったら、番犬共が黙ってねぇぜ? あんたは最初の顔合わせの時に、三人も殺っちまってんだ。減らしたらあんたの立場が危ういぜ?」

 

 殺されたいのかと問うターニャに対し、ジョシュアは自信満々に自分は殺せない理由を述べた。何せ直属の部隊とは言え、既に四名も自分の手で処分しているのだ。命令違反と言えど、これ以上殺害すれば、自身が査問会に掛けられない。痛いところを突かれたターニャに、ジョシュアは勝ち誇った様子を見せて更に宣う。

 

「そう言う事だぜ。まぁ、戦場のどさくさに紛れて始末するって手もあるが、そいつはお互い様だ。あんたも気を付けるこったな。今回の戦役でこのジョシュア・エルフォースは大帝国の皇帝であるジークフリートを討ち取り、百合帝国再建に貢献。そのご褒美としてあんたの戦闘団を頂戴するぜ! ついでにあんたが餓鬼を生ませるために侍らせてるアーデちゃんもな!」

 

「(なんだこいつ。要は私の事が気に入らないのか? それにアーデが欲しい? どうぞご勝手に。精々尻にでも敷かれるか、浮気でもされるんだな)」

 

 ジョシュアの宣言に、ターニャは呆れながら次の任務に備えて兵舎へと帰って行った。




主水さんごめん、ジ・オーヴァーキルとカマセ犬たちの所為で影が…。

キャラ応募は活動報告にて募集中~


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ワルキューレの進撃

名前:ミーナ・マンチェスター
性別:女
年齢:31歳
階級:少佐
所属:ワルキューレ陸軍第30軍
乗機:Fー22Aラプター戦術機
概要:ワルキューレ陸軍の第30軍隷下第55戦術機軍団に属する衛士。戦術機F-22Aラプターで編成された第322戦術機大隊の長。

ハナ・ヘルマン
戦闘団に随伴するイヴ人監視部隊の隊長。階級は少佐。無論イヴ人である。
空軍司令部よりターニャを監視せよと言われ、元居た航空団から引き抜かれた。
乗機はVF-31Sジークフリート

応募キャラ編

名前:ヘルマン・ヨーゼフ・ホイジンガー
性別:男
年齢:28歳
階級:中尉
所属:フェアリー戦闘団 第一MS大隊(仮部隊名)
乗機:ガンイージ
概要:元特務航空魔導士大隊所属。結成当初の反乱ではたまたま現場から離れており、事件現場に来た際はむしろ鎮圧側にまわり、反乱者を積極的に殺していった。要するに戦闘狂である。
あまりにキ〇ガイじみた単機特攻っぷりで、戦果を挙げながら軍規違反を連発。一時軍刑務所に送られかけたが、3年前にある空軍少将(ルーマニア系イヴ人でしかも彼以上のイカれキチガイ)に誘われ、准尉に降格ながら独立MS部隊に配属。乗機のガンイージはこのとき与えられ、それから大活躍を続け昇格。今戦役でMS小隊長として戦闘団に編入が決まった。
キャラ提供は神矢主水さん

名前:フリードリヒ・カール・ロベルト・フォン・ラジヴィウ(Friedrich Karl Robert von Radziwill)
性別:男
年齢:55歳
階級:大尉
所属:フェアリー戦闘団 第十三航空魔導士大隊
武器:ランス、騎兵用サーベル、PM-98S短機関銃
概要:欧州最強重騎兵であるフサリアの子孫を自称する騎兵おじさん。専用の演算宝珠と飛行ユニットが特徴。
騎兵突撃馬鹿として知られ、デグ様の命令を無視するが、フサリアの子孫を自称するだけであってかなりの突撃力を誇る。
キャラ提供はG-20さん

名前:ラドラル・ラドリオ
性別:男
年齢:25歳
階級:大尉
所属:フェアリー戦闘団陸軍混成機甲連隊
武器:ランドマン・ロディ
概要:他種族が所属する陸軍混成機甲連隊に所属するMSパイロット。
他種族に分け隔てなく接するほどのコミュオバケで、出会い方が違っていれば情報収集などの探偵のプロだった。
ただし、イヴ人の性格や主義には嫌悪感を感じている模様。
戦闘面では突撃しつつ囮を行う事があるせいか度々乗機を中破、もしくは大破寸前で戻る事があった。
キャラ提供はわかものさん


 帝国再建員会が大帝国の防衛線を破り、首都への進撃路を確保する中、その報告を聞いたラインハルト皇帝は激怒し、八つ当たりをするように震えながら報告した伝令を殺害した。

 

「直ちに総力戦体制に移行せよ! 侵略者共と徹底抗戦だァ!!」

 

 皇帝の間の床が血で赤く染まる中、ラインハルト皇帝はこの期に及んで遅過ぎる総力戦体制を命じた。直ちに総力戦体制が大帝国の支配されていない全土に敷かれ、十八歳から六十歳までの男性が軍に徴集される。

 だが、これで大帝国の崩壊は止まらない。その防衛線崩壊は、大帝国のどの方角の国境線に展開していたワルキューレの進撃の合図であった。防衛線の崩壊を遥か上空から確認すれば、即座に待機中であった陸海空の全ての部隊に知らせる。

 

「全軍、直ちに攻撃開始!」

 

 東側に展開する二百万以上の兵力を持つワルキューレ陸軍の軍集団は、報告を聞けば直ちに侵攻を開始する。予め待機していた機甲部隊の大群は軍集団司令官の指示の下、国境線へと雪崩れ込み、圧倒的物量で自分等に備えて待ち構えていた守備軍に攻撃した。

 

『や、奴ら、遂に攻め込んで来たぞ!!』

 

『なんて物量だ!? 俺たちだけじゃ止めきれな…』

 

 帝国再建委員会とは逆方向の東側の国境から侵攻する正規軍たるワルキューレの規模は、三倍以上の規模を誇り、その物量だけで大帝国の守備軍を圧倒する。事前砲撃は正に砲弾の嵐であり、砲弾とロケットの雨で防衛陣地は吹き飛ばされ、損害を受けた守備軍に戦車などの戦闘車両と機動兵器の大群が襲い掛かる。

 

『爆撃機多数! な、何だこの数は!? うわぁぁぁ!!』

 

 まるで渡り鳥の群れのように飛来する爆撃機の大群を見た迎撃機のパイロットは驚き、そのまま爆撃機の大編隊に随伴する無数の護衛戦闘機であるバルキリーの雨あられの対空ミサイル攻撃を受け、次々と撃破される味方機と同様に撃ち落とされる。

 

「クソっ、数が多過ぎて近付け…わぁぁぁ!!」

 

 大帝国が出した迎撃機も数百を超えるが、ワルキューレはその五倍以上の随伴機が居り、爆撃機に近付くことも出来ずに落とされていく。その後、地上の守備軍もワルキューレの圧倒的物量の前に瞬く間に蹴散らされ、中央部までの進撃を許す。

 これが東側で行われているワルキューレの侵攻であるが、南東や南側の山岳地帯でも同規模以上な部隊による侵攻が行われており、ようやく正規軍扱いの帝国再建委員会とは比べ物にならない程の物量だ。

 世界は違うが、強大な軍事力を誇る連邦と同盟以上だろう。

 南側の進撃を支援するための空挺降下もマーケット・ガーデン作戦の投入戦力の三倍以上であり、雪のような落下傘が戦術機と共に敵地へ降りて来る。対空砲火が行われているようだが、空挺部隊がその対策で展開した多数のヴァルキュリア・アーマーの第三世代機ノルドによる攻撃で制圧され、敵軍の空挺降下を許すしてしまう。

 

「畜生! なんだってんだこの物量は!?」

 

 雨あられと降り注いでくる落下傘兵とグライダー、それに戦術機を必死に迎撃するMSのガルム・ロディのパイロットであるが、背後より空挺降下したと思われる戦術機F-22Aラプター数機の奇襲攻撃を受け、僚機を撃破される。

 

「こいつ、レーダーに映らねぇ! ステルス機か!?」

 

 レーダーに反応しないステルス戦術機の攻撃で両機が撃破されたことに気付き、直ぐにライフルを乱射するが、対人戦闘特化の戦術機による機動で躱され、突撃砲や滑空砲を同じ個所に何度も撃ち込まれる。

 

「ぐわっ…!? がは…!」

 

 それがコクピットまで届いてパイロットは死亡し、機体はその場で立ったまま機能を停止する。隣にいた同じガルム・ロディも複数のF-22ラプターによるコクピットへの集中砲火を受け、中のパイロットが殺されて沈黙した。

 

『チャーリーポイント制圧』

 

「ご苦労。スターリングリーダーより各中隊、損害は?」

 

 F-22Aラプターで編成された部隊、第322戦術機大隊の長であるミーナ・マンチェスターは各所属中隊に損害を問う。

 

『第二中隊、損傷機無し』

 

『第三中隊、こちらも損傷機無し』

 

『第四中隊、少し被弾したユニットが居ますが、戦闘に支障なし』

 

「なら、作戦は継続可能ね。各中隊、ポイントアルファに集結後、第211戦術機連隊と合流。予定通り敵南防衛線への攻撃を開始する」

 

 各中隊の損害が軽微であることを確認すれば、ミーナは集結ポイントに到着後、戦術機連隊と合流して攻撃を行うと指示を出し、集結地に向けて機体を飛ばした。

 北側の海岸線でもワルキューレによる侵攻が行われ、そこは海軍による数百以上も大艦隊による総攻撃だ。一応ながら大帝国海軍も同規模な艦隊を展開し、いつでも対応できるようにしていたが、ワルキューレの宇宙軍も侵攻作戦に参加しており、衛星軌道上から多数のバルキリー部隊と戦術機部隊を降下させ、頭上から敵艦隊を強襲する。

 帝国再建委員会のみならず、ワルキューレの大群まで対応することになった大帝国軍は軍事大国でありながら混乱状態に陥ろうとしていた。

 

「順調だな。例の転生体が出て来なければの話だが」

 

 圧倒的物量による侵攻作戦で順調に進む侵攻計画に、空軍の飛行編隊に随伴するC-5大型輸送機の機内でほくそ笑むスミスであるが、最大の脅威であるラインハルト皇帝を警戒する。

 ワルキューレによるこの大帝国侵攻作戦が今回が初めてではない。過去に何度も行われており、その度にあのラインハルト皇帝の圧倒的の力を前に何度も敗北を喫している。

 

 一度目は脅しの為に展開していた数百万の兵と領海に展開した艦隊を消し炭にされ、二度目は今回と同規模の本気の侵攻作戦に打って出たが、ラインハルト皇帝一人を前に侵攻軍は壊滅し、生き残りは極僅かであった。

 三度目はワルキューレ内の一、二を争うアガサ騎士団とメイソン騎士団が双方数万の兵力を以て東西から同時に攻め込み、どちらが早く首都に攻め込むかの競争をしていたが、どちらともあのラインハルト皇帝の力の前に敗北し、屍の山を晒した。

 四度目はワルキューレ内の軍閥連合軍による全方位からの総攻撃が行われたが、三回目と同様に天変地異の力を持つ皇帝ラインハルトに敗北を喫し、大帝国の圧倒的な力を示すだけであった。

 五度目は戦略兵器による攻撃を開始するも、その全てがラインハルト皇帝一人に容易く蹴散らされ、今に至る。

 この六度目の侵攻が最後であり、同時に勢いを増している帝国再建委員会を弱体化させるチャンスでもある。

 

「あんな得体の知れない野郎に、ワルキューレは一千万近くの将兵を殺されているんだ。出来れば、あの幼女の皮を被った化け物と相討ちしてもらいたいがな」

 

 そうスミスはターニャが皇帝ラインハルトと相討ちになってくれば、好都合だと口にする。

 

「まぁ、ご都合主義通りにはいかんだろう。その為に、こいつ等も呼んで来たんだからな」

 

 しかし、事はそう簡単に運ばないのが常だ。それに備え、スミスはターニャと皇帝ラインハルトと戦える部隊を用意していた。座席に足を組んで座るスミスの背後に映る男女数名が、その部隊の隊員達であった。

 

 

 

 ワルキューレの大規模侵攻作戦が進行する中、ターニャ率いる空軍の戦闘団は、首都近くにある大帝国軍基地の制圧を命じられた。

 基地には徴兵された兵士たちで構成された歩兵師団と民兵師団、アカ狩り隊と呼ばれる弾圧部隊が駐屯していた。たかが動員兵師団や民兵師団と言えど、歩兵師団は練度が低いが重装備であるため、帝国再建委員会の侵攻軍には少なからず脅威であった。その為、自由に動かせ、かなりの戦闘力を持つターニャの戦闘団が殲滅任務を課せられたのだ。

 

「全く、私の隊を便利屋扱いしおって! 歩兵師団が相手だぞ、無茶にも程がある」

 

 戦闘団の全戦力を持って殲滅任務に応じたターニャであるが、相手が重装備の歩兵師団が居る為、苛立っていた。例え相手が訓練不足とは言え、動員兵ばかりの歩兵師団は榴弾砲などの重装備を持ち、将校や下士官等の職業軍人に率いられた正規軍だ。最大火力装備がアンフやモビルワーカー(MW)程度の民兵師団やアカ狩り隊は数の内に入れなくとも、十分に脅威である。

 それを戦闘団の戦力だけで叩けなど、ターニャの言う通り無茶にも程があるのだ。幾ら戦闘力の高い航空魔導士が数十人居ても、下手をすれば数の暴力で圧倒されかねない。

 

「それにまた言うことを聞かん奴もいる!」

 

 敵砲兵連隊の阻止防御砲撃や対空砲火を受ける中、第十三航空魔導士大隊の隊員の中に、未だ自分に従わない者も居た。それはフリードリヒ・カール・ロベルト・フォン・ラジヴィウだ。先のターニャが処刑したオーバーキルと同じく無断で突撃を行ったが、その実力は高く、他の暴走者と共に多大な戦果を挙げていた。

 

「フハハハッ! そのようなピケットで、このフサリアの子孫たるわしを止めれる物か!!」

 

 特殊な演算宝珠と秘孔ニットを駆り、ランスで騎兵突撃を行うフリードリヒはMWの機関砲を含める対空砲火を物ともせず、一番先頭に居るMWをランスで貫いた。魔力を込めた刺突であり、MWの装甲を容易く貫通し、搭乗者を殺害する。

 続けざまにフリードリヒはランスを素早く引き抜き、左手でポーランドの短機関銃であるPM-98Sを素早くホルスターから取り出し、MW周辺にいた随伴歩兵らを撃ち殺す。PM-98Sは通常の9ミリ拳銃弾を連発する取り回しが良い分類の短機関銃だが、フリードリヒの魔力で威力が高められており、MWの装甲も容易く貫通するほどで、周りにいた数十人の随伴歩兵も一掃された。

 

「う、うわぁぁぁ!」

 

「逃がすかぁ!」

 

 指揮する士官や下士官などの正規軍人を失い、戦意を喪失した動員兵らは逃げ出し始める。だが、それをみすみすと逃すフリードリヒではない。直ぐに弾切れになった短機関銃をホルスターに仕舞い、腰の騎兵用サーベルを抜いて追撃に入る。一人、二人と逃げる敵兵の背中を切り裂き、鮮血で大地を染めていく。

 

「あいつを止めろ! モビルワーカー、機関砲水平射!」

 

 味方を次々と斬り殺していくフリードリヒに、防弾チョッキを着ている将校は生き残るために狼狽える動員兵等と新兵が乗る機関砲型のMWに攻撃を命じる。それに応じ、雨あられの弾幕を浴びせるが、フリードリヒは魔法障壁を張りながら騎兵突撃を続行して接近し、魔力を込めて切れ味を倍増させた刀身でMW諸とも敵部隊を次々と切り伏せた。

 

「ちっ、あのジジイ。一人残らず()る気か?」

 

 上空で対空砲火を受ける二個のMS大隊とバルキリー大隊の中で、ビームシールドを張りながらガンイージを駆るヘルマン・ヨーゼフ・ホイジンガーは、アームスレイブ(AS)のサページも含める敵部隊を斬り捨てて行くフリードリヒを見て、手柄を取られるのではないかと焦りを見せる。

 自分等MS大隊とバルキリー大隊は大きくて目立つ為か、航空魔導士よりも攻撃が集中しており、何故か混じっている人機のモリビト空戦型を含め、脱落する機が続出する。

 

「なら、倒しやすい奴からな!」

 

 密集隊形から無断で離れたヨーゼフは、アンフやMWばかりなアカ狩り隊に矛先を向け、ビームライフルを撃ちながら突っ込んだ。

 アカ狩り隊は装甲車を初め、正規軍の歩兵師団や民兵と同じくMSのアンフや機関砲型MW、ASのサページを持っているが、アカ狩り隊の構成員は名の通りに共産ゲリラやテロリストなどしか相手にしなかった為に正規軍相手の戦闘訓練などしておらず、ヨーゼフのガンイージ一機に次々と撃破されていく。

 

「なんだこの旧型共、おもちゃ帝国かよ」

 

 アカ狩り隊の装備を見てヨーゼフは余りの古さに嘲笑い、ビームライフルを低出力に設定し、連射力を上げて次々と撃破していく。対装甲用火器を持った歩兵も居るが、その手の相手は左肩のマルチプルランチャーや頭部バルカン砲の掃射で撃破する。機関砲型MWとサページも同様である。そんなヨーゼフのガンイージに、左腕の滑空砲を撃ち込んだアンフに気付き、最低限の動きで躱し切る。

 

「アンフだぁ? 冗談だろ、人型装甲車両の間違いじゃねぇのか? いや、デカいモビルワーカーか?」

 

 向かってくる二機のアンフに、ヨーゼフは乗機のガンイージの飛行機能を活用したホバー移動で放たれる滑空砲を躱しながら接近し、左手でビームサーベルを抜き、弄ぶように二機とも左腕を斬り落とした後、足も切り裂き、二機とも達磨状態にしてからサーベルで切り裂いて撃破する。

 

「はぁ、つまらねぇ野郎だな。こんな物しかねぇのか?」

 

 せっかくの敵MSがアンフであったことに落胆しつつも、大口径砲型MWの砲撃を最小限の動作で躱し、ビームライフルによる反撃を行う。

 

「クソっ、魔導士共はまだ砲兵を潰せてないのか!?」

 

 敵砲兵からの砲撃を受けながらも前進する数十機の同型機を率いるランドマン・ロディのパイロット、ラドラル・ラドリオはターニャら航空魔導士が砲兵陣地を潰せていないのかと嘆く。

 彼は陸軍から貸し出された陸軍混成機甲連隊の一人であり、所属部隊が壊滅してから少数の生き残りと共に、似たような境遇の敗残兵等と共に混成機甲連隊に編入された。同連隊には陸軍の軍規違反者や銃殺刑に処されている囚人兵等も含まれており、その練度はターニャの戦闘団の中で最も低く、砲撃に怯えて逃げ出す者がいたが、逃走防止用の自爆装置が作動して処分される。破壊された機から逃げ出そうとする者もに対しては、イヴ人将兵等からなる監視部隊の狙撃兵による狙撃で撃ち殺された。

 

「ちっ、碌でもねぇことを!」

 

 破壊された機から脱出した囚人兵が脱走と判断されて狙撃されるのを目撃したラドラルは胸糞が悪くなるが、逃げれば乗機を自爆させられるか、脱出すれば逃亡と判断されて処分されるので、何とか踏み止まりながら僚機を率いて敵陣を目指す。目指す敵陣は歩兵師団の大口径砲型のMWとロケット弾で構成された強固な防衛陣地だ。上空からMSとバルキリーの部隊が潰してくれるかと思っていたが、陸軍から来た自分らの存在を無視してか、ここ以外の陣地を強襲して破壊している。

 

「空軍の連中は当てにならねぇか。また無理をさせちまうな…もってくれよ、相棒!」

 

 戦闘団本隊は当てにならないと判断してか、ラドラルは敵の中を引き付けるため、ランドマン・ロディの地上での機動力を生かし、自ら囮になって飛び出した。

 

『お、おい!』

 

「俺が引き付ける! その間、接近して敵陣を吹っ飛ばしてくれよな!」

 

『わ、分かった! 手の空いた奴、ラドリオ機を援護しろ!!』

 

 同僚が静止の声を出す中、ラドラルは自分が囮になるからその隙に敵陣に接近して吹き飛ばせと返し、90ミリマシンガンを撃ちながら敵の注意を引く。これに応じ、同じランドマン・ロディらはラドラルが注意を引き付けている間に敵陣へと接近する。スラスターを吹かせ、ホバー移動でジグザグに動き回るラドラルのランドマン・ロディは完璧に敵の注意を引き、数機の同型機による前進を気付かせないでいた。これに獅電や他の雑多な機体も加わって、完全に敵陣の注意はそちらの方に向いていた。

 

「うぉ!? 被弾したか!」

 

 流石に躱し切れず、被弾してしまうラドラル機であるが、彼の無茶な囮が功を奏してか、敵陣はランドマン・ロディが投げ込んだ手榴弾で吹き飛ばされ、前からの攻撃が止んだ。これで脅威が砲兵陣地から来る砲撃のみとなる。

 

「よし、前方からの攻撃が止んだぞ! 突撃だ!」

 

 前方から来る攻撃が止んだことで、混成機甲連隊は砲撃の雨の中を前進した。

 その混成機甲連隊を砲撃する二個中隊ごとに分散配置した敵砲兵連隊に対し、ターニャの特務大隊を含めた戦闘団本隊である二個航空魔導士大隊が上空から空襲を仕掛ける。これに砲兵連隊を護衛する対空砲やMWらは優先的に潰し、後は一方的に榴弾砲を撃ち続ける砲兵らを撃つ。

 

「各員、言われなくても分かるな!?」

 

 ターニャの問いに対し、特務大隊の面々は理解しており、榴弾砲の弾薬箱を撃って誘爆させる。これにより、数門の榴弾砲を纏めて始末できるのだ。

 

「戦闘団長殿のやり方は分かるな! 弾薬箱をやるんだ!」

 

 数名の犠牲者を出しながらも、損害無しで対空弾幕を突破した特務大隊の後について来た第十三大隊の面々は大隊長のアーぺントラウフェンの指揮の下、ターニャ等と同じく弾薬箱を狙って榴弾砲を誘爆で破壊していく。民兵らも迎撃に来ようとしていたが、バルキリー大隊の空襲で壊滅状態であり、他の歩兵師団傘下の部隊もMS大隊や突撃を敢行する混成機甲連隊に壊滅させられる。

 やがて砲兵連隊が壊滅すれば、三個はある歩兵連隊は耐え切れず、投降する兵が続出し、抵抗も徐々に無くなる。民兵らもこのまま戦っても無意味と判断してか、手を挙げて投降する。

 

「第725歩兵師団の師団長だ! 貴官らに投降する!!」

 

 これ以上の抵抗は無意味と判断してか、師団長も投降を選び、隷下の全部隊に戦闘停止命令を出してターニャの戦闘団に投降した。アカ狩り隊は壊滅状態であり、師団と民兵らが投降する頃には逃げ出していた。

 

「ようやく制圧か。どれくらい被害が出た?」

 

「特務大隊は損害皆無。十三大隊は死者四名に負傷者六名。MS二個大隊は合わせて七機を喪失。バルキリー大隊は二機を撃墜された。混成機甲連隊は二個中隊を喪失している」

 

 戦闘終了後、第十三大隊の魔導士らが捕虜を勝手に殺さないように数名と大隊長のアーぺントラウフェン等に見張らせる中、ターニャはアーデに戦闘団の損害状況を問う。損害は装備の差もあって少々だが、連携が取れた戦闘団ならこれより少ない損害で歩兵師団と民兵、対テロ部隊を壊滅させていただろう。

 

「もっと良い部隊でも寄越してくれれば、早期かつ軽微な損害で制圧できただろうに。通信兵、陸軍の第2装甲軍本部へ通達。我、敵歩兵師団と民兵師団、アカ狩り隊を制圧セリと」

 

 アーデから損害を聞けば、ターニャは良い部隊でも寄越してくれれば、軽微な損害で早期に制圧できるとボヤキつつ、近くに居る無線機を背負ったイヴ人通信兵に、陸軍の軍本部に基地の制圧を報告するように命じた。




さて、あいつを出さないとな…


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復活のブーツホルツ

コンラート・ブーツホルツ
ガイエス平原での決戦でターニャに敗れ、瀕死の重傷を負ったブーツホルツであるが、スミスに密かに回収されていた。
身体の半分が吹き飛んでいる為、パイロットにはなれないとされていたが、ブーツホルツ本人は部下の仇とパイロットしての自分を殺したターニャに復讐すべく、スミスが提案した人造魔導士化改造手術を了承する。
人体に最新式の演算宝珠と飛行ユニットを埋め込み、人造航空魔導士として復活した。
例えるなら、ドクター・ゲロが作った人造人間。
これでブーツホルツもドラゴンボール級の空中戦をこなせ、ターニャと互角以上の戦闘力を持つことが出来た。

紺碧の艦隊好きな方は注意かな。


 ガイエス平原にて、ターニャとの空戦に敗北したコンラート・ブーツホルツは、乗機であるバルキリーのVF-22AシュトゥルムフォーゲルⅡを撃墜されて戦死したはずであった。

 戦闘後、密かにロー・スミスに回収されて生き延びていたが、この生存はブーツホルツにとって屈辱的であった。共に戦場を飛んだ部下たちは皆殺しにされ、挙句に自分の身体の半分は喪失していた。生きているのが奇跡であるが、再生手術を施したところで、パイロットしての復帰は叶わず、ブーツホルツからすれば死んだほうがマシである。

 自殺しようにも、残った右手は全く動かない。そんな屍同然のブーツホルツに、悪魔の如くスミスは囁いた。

 

「パイロットに復帰したいか? なら、人造魔導士手術を受けろ。手術は必ず成功する。その条件として、任務は必ず果たして貰おう。どんな任務でも文句を言わずにやれば、パイロットに戻れる。悪くない条件だろ?」

 

 それは悪魔との契約に等しかったが、死に体のブーツホルツにとっては天から差し出された糸に等しかった。

 パイロットに戻れるなら、悪魔に魂を売る覚悟がブーツホルツにはあった。彼はスミスの条件を呑み、身体の失った部分を演算宝珠と飛行ユニットなどの機械で補い、人造航空魔導士として復活した。

 

「ターニャ・デグレチャフ、俺は地獄から蘇ったぞ! 俺はパイロットに戻れるのなら、悪魔にだって魂を売ってやる! お前はその通過点に過ぎんが、部下たちと俺の身体の仇は取らせてもらう! 覚悟しろ、ターニャ・デグレチャフ!!」

 

 人造航空魔導士として復活したブーツホルツは数々の非合法や困難な任務をこなし、遂に復讐対象であるターニャと対峙する機会が来た。

 それが、帝国再建委員会が百合帝国再建を賭けた大帝国討伐作戦である。これにブーツホルツは復讐の機械と捉え、スミスに言われるも無く参加した。

 

 

 

『ブーツホルツ、聞こえるか? 例の物は大丈夫か?』

 

 北側の海岸線より侵攻したワルキューレの部隊に随伴するブーツホルツは、スミスからの通信機越しの問いに、海上の方を見ながら答える。

 今のブーツホルツは体内に演算宝珠と共に内蔵した飛行ユニットの機能により、空中を浮遊していた。それに左目の義眼とそれを強化する付属ユニットのおかげで双眼鏡いらずだ。左腕の義手は戦闘用で、チャージすることによって強力な魔弾を発射することが出来る。まさに戦闘用サイボーグだ。

 

「あぁ、今のところはな。護衛をやっているイヴ人の艦隊は滅茶苦茶だが」

 

 そのブーツホルツの回答通り、海上の状況は悲惨であった。

 本国防衛の為に大帝国本土へと帰ってきた超戦艦日本武尊型五隻と戦艦三隻、巡洋艦七隻、駆逐艦十二隻を初めとする大帝国海軍最強の艦隊は、北側から侵攻する陸軍部隊を載せた輸送船団を守るワルキューレ海軍の護衛艦隊を圧倒的な火力で蹂躙していた。

 護衛艦隊も護衛空母や巡洋艦などのそれなりの火力と航空戦力を持っているが、超戦艦日本武尊の冗談半分な対空砲火によって艦載機は撃墜されるばかりだ。例え航空戦力であっても、近付くことなく迎撃され、海中に放たれた対艦魚雷でも、馬鹿げた魚雷防御によって防がれる。

 戦艦などデカい的にしてしまうヴァルキュリア・アーマー(VA)ですら、バルキリーと同様に的のように落とされていく。まるでハエ叩きだ。

 輸送船団に張り付いているミサイル駆逐艦やフリゲートなどが放つ対艦ミサイルも、五隻の日本武尊の対空砲火やミサイルで撃ち落とされ、無駄弾にしかならない。

 

「恐ろしい化け物戦艦だ。戦艦を一発か二発で沈める対艦ミサイルどころか、バルキリーもVAも撃ち落とされるばかりだ」

 

 ブーツホルツは日本武尊の恐ろしさに、自分一人で勝てるかどうか心配になる。あのターニャでも、五隻の日本武尊に勝てないとされるだろう。

 事実、ミサイルや機動兵器を有する通常艦隊や機動艦隊が古き大艦巨砲主義の艦隊に一方的にやられている。海は無数の残骸が浮かぶ難破船エリアと化し、多数の兵器の残骸とその搭乗者らの死体で覆われようとしている。

 潜水艦隊も海中から敵の最強艦隊を殲滅戦と試みるが、向こうも潜水艦隊も出動させており、ワルキューレ海軍の潜水艦や水中用機動兵器を次々と海の藻屑にしていた。

 

「上陸地点も悲惨だ。俺一人で対処するのは、骨が折れるぞ」

 

 上陸地点も海上と同様に悲惨で、浜辺が血で真っ赤に染まるほどであった。

 一個師団を丸ごと吹き飛ばしそうな戦艦や巡洋艦の艦砲射撃で上陸や陸揚げされる陸軍の部隊が被害を受けており、爆発の連鎖が巻き起こっている。その所為か、浜辺には手足や人体の一部が散乱している。まさに地獄絵図だ。

 ちなみに、上陸した陸軍部隊と海軍の護衛艦隊や機動艦隊、輸送船団の人員は全てイヴ人だ。帝国再建委員会が人間を弾避けにして前進させる中、ワルキューレは互いに殺し合わないイヴ人を盾としている。

 

『そのためにお前をここに配置したんだ。日本武尊を一人で沈めなければ、あの幼女に扮している化け物には勝てんぞ。何としても例の物を守るんだ』

 

「行ってくれるな。そいつが五隻も居るんだ。おまけに潜水艦もセットでな。しかし、あの地獄すら生温い世界とは、比べ物にもならない…ッ!」

 

 スミスの無茶にブーツホルツは眉をひそめるが、戦争しか残っていない世界での任務を思い出し、今の状況はあの世界と比べ物にならないと口にする。口振りから察するに、あの世界へ行ったブーツホルツは地獄すら生温いという状況下で、任務を遂行したのだろう。

 

「安心しろ。お前の大事な積み荷には、指一本触れさせん。そこで安心して、配達されるのを待っているが良いさ!」

 

 そう通信の向こう側に居るスミスに告げた後、ブーツホルツは無線機を切って、上陸部隊を砲撃する艦隊の始末に向かった。戦艦三隻と巡洋艦七隻の砲撃艦隊の護衛には、複数の駆逐艦やフリゲートが対空防御として付いており、高速接近してくるブーツホルツに向け、対空機銃の雨を浴びせる。これをブーツホルツは見えているかの如く全て躱し切り、左目の義眼からレーザーを発射して一気に数隻もの駆逐艦とフリゲートを轟沈させる。

 

「フン、あれに比べれば雨風のような物だ」

 

 対空機銃の嵐を雨風程度と表したブーツホルツは、次々と駆逐艦やフリゲートを沈めていき、やがては上陸部隊を砲撃する戦艦や巡洋艦に向かう。凄まじい対空砲火に遭うも、駆逐艦やフリゲートと比べれば軽い物だ。弾幕をすり抜けた後、左目の義眼のレーザーを撃ち込んで沈めていく。巡洋艦や戦艦などが高角砲を撃って来るが、魔法障壁を張って防ぎ切り、全ての巡洋艦を沈め尽くした。

 

「やはり戦艦には威力不足か。なら、こいつだ」

 

 戦艦に撃ち込んでも沈めきれないので、ブーツホルツは左腕の義手に備わっているパルスレーザーを撃ち込んだ。パルスレーザーは戦艦を一撃で沈めるほどの威力を有しており、一発で戦艦が真っ二つに叩き割れた。続けざまにパルスレーザーを撃ち、残り二隻の戦艦を沈めた。

 沈みゆく艦艇より乗員等が脱出するが、一方的にやられた恨みなのか、陸からの攻撃を受けて虐殺されている。ブーツホルツは気にも留めず、日本武尊の排除に向かった。

 

「普通の戦艦とは違ってデカすぎるな。まるで航空母艦だ。なら、海中のデカい潜水艦を対艦ロケットの代わりに!」

 

 一方的に護衛艦隊を攻撃する五隻の日本武尊に対し、ブーツホルツはあの巨艦を沈めるのは苦労すると思っていたが、右目の義眼のセンサーに捉えた海中の大型潜水艦富嶽型と潜伊3001亀天型を見付けた時に、あるアイデアを思い出した。

 それは、その大型潜水艦を対艦ロケット代わりに、日本武尊に投げ付けるという奇抜で荒々しい物であった。それを実行すべく、ブーツホルツは海中へと潜り、用の無い潜水艦を破壊しながら富嶽号や亀天号へと接近する。人造魔導士として生まれ変わったブーツホルツは、空中だけでなく、水中の中でも活動が可能なのだ。

 

「な、なんだ!? アァァっ!!」

 

 富嶽号に乗る乗員らは突然の揺れに右往左往し、艦内を転がり回る中、ブーツホルツは力を振り絞って大型潜水艦を会場まで持ち上げ、それを護衛艦隊を襲う日本武尊に向けて投げ付ける。

 

「沈めィ!!」

 

 力を振り絞って投げられた富嶽号は、真っ直ぐと日本武尊の方へと飛んでいき、巨大な船体へ命中した。半分のサイズとはいえ、海中に居たはずの潜水艦が何故か浮上し、こっちに飛んで来たことは日本武尊の船員たちは驚いた事だろう。勢いよく投げられた富嶽号は日本武尊の頑丈な甲板を突き破り、機関室まで届いたのか、大爆発を起こして轟沈した。

 

「まずは一隻目! 次!」

 

 一隻目が派手に沈んでいく中、ブーツホルツは再び水中に潜って次なる標的を亀天号に定め、それを海上まで持ち上げ、それを二隻目の日本武尊に向けて投げ付けて轟沈させた。

 それを後二回ほど続ければ、海中の敵潜水艦隊は全滅し、投げられる潜水艦が無くなった。後一隻は、自力で沈めるほか無いようだ。

 

「対艦ロケット切れか。ならば、全力で沈めるまでよ!」

 

 海中に向けて対潜水艦攻撃を行う日本武尊に対しブーツホルツは海上を飛び出し、得意の空中戦で挑む。海中からでも攻撃が可能であるが、航空魔導士なので、空中戦でこそ真価を発揮する。それを数年以上もこの身体で戦ってきたブーツホルツが一番理解しており、日本武尊の対空弾幕を躱しながら接近する。

 三式弾と呼ばれる対空散弾を主砲から発射する日本武尊であるが、それは魔法障壁で全て防がれ、一気に接近され、甲板への侵入を許してしまう。

 

「あの訳の分からん航空魔導士が甲板に降りたぞ! 殺せ!!」

 

「ふっ、水兵共か」

 

 甲板に降り立ったブーツホルツに対し、水兵らは小火器と角材などで襲い掛かるが、人造人間である彼に通じるはずもなく、素手や足、義眼のレーザーに義手で排除されるばかりだ。甲板が迎え撃とうとした水兵らの鮮血で赤く染まる中、ブーツホルツは左腕の義手に力を籠め、それを甲板に向けて叩き込み、日本武尊は真っ二つに叩き割った。

 

「物足りんな。まぁ、良いウォーミングアップになったが」

 

 スミスの切り札を輸送する輸送船団を守るため、日本武尊五隻を初めとする大帝国海軍最強の艦隊を壊滅させたブーツホルツは空中へと浮遊し、対ターニャ戦への良いウォーミングアップになったと口にする。

 

「た、助けてくれ!」

 

「止めろ! うわぁ!?」

 

「止めてくれぇーッ!」

 

 壊滅した大帝国の最強艦隊であったが、生存者たちはいた。だが、陸と同様に一方的にやられた恨みもあり、残る生存者らにワルキューレ海軍は無慈悲に攻撃を加える。あれほどの同胞らが殺されたのだ。無理も無いが、やり過ぎである。が、ブーツホルツは全く意に返さず、ただスミスが待ち望む物を積んでいる大型タンカーを見ていた。

 

「デカいな。やはりスーパーロボット(特機)級か」

 

 正規空母くらいはあるであろう大型タンカーに積まれている物からして、スーパーロボットと判断する。やはり大帝国のラインハルト皇帝打倒の切り札として使うのだろう。そう思ったブーツホルツは自分の身体のメンテナンスを行うべく、輸送船団の中に居る自分の母艦へと帰投した。

 戦闘が終了した後、ワルキューレ海軍の艦隊は救助が必要な自軍の将兵等の救出作業を行った。大帝国海軍側の生存者は一人残らず皆殺しにされており、ただ死体だけが浮いていた。

 

 

 

 大帝国の北側に位置する海域でブーツホルツが大帝国海軍の最強艦隊を撃破した頃、ターニャの戦闘団は碌に戦力補充もされず、周辺の制圧任務に行っていた。

 小さな町とそこに駐屯していた大帝国部隊を制圧した第十三航空魔導士大隊の一個中隊は、上官のアーペントラウフェンが居ないことを言い事に略奪行為を働いている。成人男性などが居るはずだが、一人残らず兵士として動員されたのか居ない。老人は昔ながらの癖で無謀にも抵抗したが、勝てるはずもなく殺害された。

 

「ほ、ホヒーッ!? く、来るなァ! ぶち殺すぞォーッ!!」

 

 脇に持てるだけの財産を抱えた商会大番頭は迫るキテス・サイコロに対し、驚きながらも護身用のピストルを抜き、撃つぞと脅しを掛ける。だが、相手は戦闘訓練を受けた、それも航空魔導士なので、ピストルを持つ右腕を吹き飛ばされた。

 

「ぎ、ギニャァァァッ!? 腕が、俺の腕がァーッ!?」

 

「軍人にピストルを向けるたァ、良い度胸してんなァテメェ。便衣兵として処分されてぇかァ、えぇ?」

 

 右腕を引き千切れるほどに吹き飛ばされてのた打ち回る大番頭に、キテスは便衣兵として処分されたいのかと問う。これに大番頭は金はやるから殺さないでくれと命乞いを始める。

 

「ギェヤァァァッ!? こ、殺さないでくれェ! か、金はやる! ど、どうか命だけはァァァッ!!」

 

「ほぅ、金か? なら、紙幣なんか出すんじゃねぇぞ。もうこの国は終わったも同然だからなァ。もう紙幣なんぞ紙くず同然よ。言うこと分かるよなァ?」

 

「は、はいぃぃぃッ! 分かりますぅ! どうぞ持って行ってくださいィィィッ!!」

 

 命乞いをする大番頭に、キテスは紙幣は紙くず同然だから金目の物を出せとG3A4自動小銃を向けながら脅せば、口で宝石付きの指輪やありとあらゆる金目の物を外して差し出し始める。そんな大番頭に気分を良くするキテスであるが、昇進を望んでいるので生かす理由は無かった。

 

「こ、これでお命は…」

 

「はぁ? 便衣兵を生かす訳ねぇだろ?」

 

「は、話が違う…」

 

「分からねぇのかカス。テメェは便衣兵なんだよ。ピストル持ってたの忘れたか?」

 

「や、止めてぇ…!」

 

 銃口を向けて殺そうとしてくるキテスに話が違うと失禁しながら抗議する大番頭であるが、彼は便衣兵として最初から始末するつもりであり、引き金に指を掛けていた。それでも必死に命乞いをする大番頭だが、キテスは生かすどころか拘束するつもりも無いので、引き金を引いて射殺した。

 

(くせ)ェ野郎だな。とにかく、陸軍のイヴ人共が来る前に、奪える金目の物は奪っておくか」

 

 大番頭を便衣兵として射殺したキテスは陸軍のイヴ人部隊が来る前に、奪える金目の物は奪うべく、町中を飛び回った。




次回から本格的に応募キャラが登場するかな。


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正義の軍団(ユスティーツ・アルメーコーア)

名前:ヴァシチュク
性別:男
年齢:30歳
階級:大尉
所属:正規軍
乗機:バーザム
概要:正規軍でもある程度練度の高いと思われる部隊のパイロット。SFSベース・ジャパーに騎乗し空中戦を展開する。

名前:アーナソイド・ブラウシュテルン
年齢:23歳
階級:少尉
所属:フェアリー戦闘団 特務航空魔導士大隊第2中隊
武器:ステアーAUG突撃銃
概要:イヴ人士官であり、軍役についてすぐ前線送りになった。彼女の年次の士官学校卒業生のなかでは優秀な方。
キャラ提供は神谷主水さん

名前:ガルドス
性別:男
年齢:36
階級:隊長
所属:アカ狩り隊 コミュニストハンターズ
乗機:バウ
概要:まるで狼のような風貌をした男、『強さこそ正義』を掲げる自信家であり、それに足るだけの実力を備えている。実は人狼。

名前:ローガン
性別:男
年齢:34
階級:副長
所属:アカ狩り隊 
乗機:ガ・ゾウム
概要:上記の右腕、連携攻撃が得意
キャラ提供はRararaさん

名前:フリーデリーケ・カーテローゼ・ヴィルヘルミナ・フォン・リューベック
性別:女
年齢:18歳
階級:少尉
所属:特務航空魔導士大隊第二中隊
武器:H&K HK417
概要:イヴ人で、帝國再建委員会士官学校卒業してすぐ志願して特務航空魔導士大隊に配属される。志願理由は活躍著しいターニャに憧れた為である。
キャラ提供はG-20さん

名前:ゴズン・ベウニ・ゥ・山崎
年齢:28歳
階級:准尉
所属:フェアリー戦闘団第十三航空魔導士大隊第一中隊
武器:MG5分隊支援火器、パンツァーファストⅢ対戦車火器
概要:オーク族の航空魔導士。外見を一言でいうと完全に「ジャパニーズエロゲオーク」、所謂緑色の肌の巨体のあやつである。
ただその外見とは異なり、中身は極めて知的かつ紳士的、フェアリー戦闘団全体から見ても上から数えた方が早い程のインテリだったりするが、種族が種族なのでプライベート等できっちりスーツ等のちゃんとした服装を着込んでいると違和感が物凄かったりする。
イメージCVは多分、小野大輔さん。
キャラ提供はリオンテイルさん


 西を除く大帝国へと侵攻したワルキューレ全軍の進撃が再開される中、西の方から侵攻する帝国再建委員会も進撃を開始し、首都へと攻め込もうとしていた。

 

「第一中隊、発進する!」

 

 SFSベース・ジャバーに騎乗したバーザムに乗るヴァシチェクは、自分の中隊を率いて出撃した。同様に同じベース・ジャバーに乗ったバーザム部隊が出撃し、進撃してくる帝国再建委員会の侵攻部隊を迎え撃つ。

 今回での帝国再建委員会は人間部隊を露払いに前面に押し出すのではなく、この時の為に温存していたのか、イヴ人部隊も最前線に出ていた。補充を受けたターニャの戦闘団は、進軍する陸軍のイヴ人機甲部隊の左側面の防御だ。第301歩兵師団と共に守るのだ。

 

「敵視認! 航空魔導士とMS二個大隊並び一個バルキリー大隊を捕捉! 地上は連隊規模の機甲部隊と歩兵旅団だけだ! 突破して敵本隊の側面を突け!!」

 

 先行するヴァシチェクはターニャの戦闘団と歩兵師団を確認すれば、傘下の部隊に突破するように伝え、所属大隊と他の大隊と共に突撃した。

 

「敵、MS旅団接近!」

 

「爆裂術式で対処! 一気に叩き潰せ!!」

 

 接近してくるヴァシチェクのバーザム部隊に対し、ターニャは傘下の部隊に爆裂術式を一斉に放つように指示した。それに応じ、爆裂術式が発射され、数十機のバーザムが爆風に呑まれて破壊される。だが、二個中隊程度しか撃破していないので、爆炎の中からSFSに乗ったバーザムが何十機も飛び出し、右腕に着けたビームライフルを撃ち込んでくる。

 爆裂術式を躱したバーザム部隊に対し、他を含める戦闘団のバルキリー大隊が対処した。同じ戦闘団に属するMS大隊も対処に回る。

 

「あれを抜けて来るとは、手応えがあるぜ!」

 

 迎え撃つガンイージの編隊に混じった同型機に乗るヘルマンは、先ほどとは手応えがあると認識して積極的にビームバズーカで攻撃を行う。二発ほどSFSに乗ったバーザム二機に撃ち込めば、一機は火を噴きながら地面へと落下していく。残る一機はビームを連射してヘルマン機を近付けまいとするが、躱されて乗っているSFSごと破壊された。

 

「ちっ、やり甲斐がねぇなァ!!」

 

 二機のバーザムをSFSごと破壊すれば、ヘルマンは手応えが無い事に苛立ちつつ、別のSFSに乗る二機のバーザムに襲い掛かる。

 

「ちっ、敗残兵風情の分際でこちらより装備が上とは!」

 

 友軍機が次々と機体の性能差で激されていくのを見てヴァシチェクが悔しがる中、接近してくる航空魔導士に見向きもしなかった。脅威と判断していないと思ったのだろうが、それは彼の誤りであった。

 ヴァシチェクのバーザムにステアーAUGブルパップ突撃銃を向けたイヴ人の航空魔導士であるアーナソイド・ブラウシュテルンは、持っている突撃銃の銃口の先に溜め込んだ貫通術式の詠唱が終わり次第に発射した。

 

「なっ!? 直撃…」

 

 アーナソイドが放った貫通術式の弾丸は直撃であった。ヴァシチェクは言い終える前に爆風に呑み込まれ、機体と運命を共にした。

 

「敵機撃破。次!」

 

 ヴァシチェクのバーザムを落としたアーナソイドは特務航空魔導士大隊のイヴ人部隊である第二中隊に属しており、他の隊員らと共に次なる標的に狙いを定め、魔法で強化した一斉射を行う。

 狙いは地上から進軍するガルム・ロディの集団だ。歩兵師団の火力ではナノ・ラミネート装甲を破るには困難なので、空から爆裂術式による一斉射で攻撃するのが得策だ。纏めて撃破できないが、塗装を削ってビームでも撃破しやすくできる。

 

「右前方より敵機!」

 

「私の小隊で!

 

 第二中隊の指揮官を務めるアヤメが敵のバルキリー、VF-11Cサンダーボルトの編隊の接近を知らせれば、フリーデリーケ・カーテローゼ・ヴィルヘルミナ・フォン・リューベックが率いる小隊が拡散術式による迎撃に入る。

 ガンポッドの掃射を魔法障壁で防ぎつつ拡散術式による弾幕を放ち、一機ずつ確実に撃墜していく。フリーデリーケの魔法障壁は他の航空魔導士よりも堅牢で、ミサイルの攻撃も防ぐほどであった。ターニャほどではないが、高い魔力を有しているようだ。魔法障壁を張りながらHK417自動小銃を構え、狙いを定めて一機ずつ仕留める。

 

「流石は特務大隊ですね。イヴ人でもあの練度とは」

 

 第十三大隊の中に異質な種族が居た。それは野蛮な人型の魔物として恐れられているオークである。だが、このオーク、その名もゴズン・べウニ・ゥ・山崎は野蛮とは言い難いほどの知性と社交性を持ち、口調は乱暴者ではなく紳士的だ。

 特務大隊のイヴ人中隊の練度に舌を巻きつつ、ゴズンはMG5分隊支援火器を掃射し、己の腕力で反動を抑えながら戦車を盾にしながら前進する敵歩兵部隊の頭上から弾丸の雨を浴びせる。

 

「左から敵機!」

 

「ドライセンですか、厄介ですね。装甲の厚さ対策なら…!」

 

 近くで戦う隊員が左よりSFSに騎乗したドライセンが接近していることを知らされれば、分隊支援火器の紐を肩に掛け、パンツァーファストⅢ対戦車火器を取り出し、照準をドライセンに向けた。直ぐに撃つのではなく、敵が向かうであろう進路に照準を向け、ロケット弾の弾道速度を計算してその位置に向けて発射した。

 一見、明後日の方向へ向けて撃っているように見えるが、これは熟練の兵士のような知性を持つゴズンの未来予知射撃であり、放たれた強力な対戦車ロケット弾はドライセンの胴体に命中し、物の見事に撃破する。

 

「おのれ、あの程度も突破できんとは…!」

 

 正規軍と同じく、帝国再建委員会の侵攻軍の攻撃に参加する民兵部隊も居た。アカ狩り隊は正規軍との戦闘は専門外であるはずだが、この狼のような風貌をしたガルドスが率いるコミュニストハンターズは機動兵器との戦闘を想定し、バウやガ・ゾウム等のネオ・ジオン系のMSを装備していた。

 

「情けない正規軍よ! 我が隊で突破してくれるわ! 行くぞ、コミュニストハンターズ!!」

 

 自分らより装備が上な正規軍がターニャの戦闘団相手に手こずる中、ガルドスは自らの部隊を率いて攻撃に向かう。SFSに騎乗したバウを駆り、飛行形態に変形したガ・ゾウム部隊を率いて攻撃に向かった。

 これに気付かない帝国再建委員会ではない。直ぐに陸軍所属のEF-2000タイフーン戦術機数機が対処に回るが、敵を舐めて掛かり過ぎたのか、数と信頼で培われた連携攻撃を前に全滅する。

 

「んっ、ネオ・ジオンか!?」

 

 傘下の大隊を中隊ごとに分けつつ、自身は陸軍の混成機甲連隊と応戦していたターニャは、接近してくるガルドスのバウとガ・ゾウムの集団を見てネオ・ジオンが来たと口にする。

 ターニャの戦闘団の防衛区画に迫るガルドスは、右腕のローガンが乗るガ・ゾウムに援護を受けつつ自分らを止めようと出て来る戦術機や量産型モリビトを排除しながら突っ込んでくる。これに陸軍混成機甲連隊のラドラルのランドマン・ロディの部隊が対処に回る。

 

「あれだけ良い装備を持っていながら、あんな旧型機の集団も止められねぇのか! イヴ人様はよぉ!!」

 

 ミサイルを放とうとするガ・ゾウムの編隊に向け、ラドラルは足止めすら出来ないイヴ人らを貶しつつ、僚機と共にマシンガンを撃ちながら何機かを撃墜した。これに獅電も加わり、更に落とされるガ・ゾウムの数が増加していく。

 

「クソっ、これ以上は!」

 

 僚機が次々と撃墜されていくのを見て、ローガンはラルドルのランドマン・ロディと獅電にビームカノンを撃ち込むが、ナノ・ラミネート装甲であるために防がれてしまう。

 

「ビームに耐性だと!? くそっ、赤軍の分際で!!」

 

 ビームを防ぐ装甲に驚いているどころか、ガルドスとローガン等は帝国再建委員会を赤軍だと思っているようだ。直ぐにミサイル攻撃を試そうとしたが、ターニャの狙撃で乗機を貫かれて撃破された。

 

「ろ、ローガン! このアカめ! よくも!!」

 

 ローガンのガ・ゾウムが撃破されたのを見たガルドスは怒り、側面から迫るモリビト空戦型の編隊をシールドのビーム砲とビームライフルの一斉射で何機か落とした後、友軍を破壊し続けるターニャに向け、左手で抜いたビームサーベルで斬りかかる。迫るガルドスのバウに気付いたターニャは慌てることなく、HK416突撃銃の銃口を向けて撃ち込んだ。対装甲用の術式で強化された単発だ。発射された術式で強化されたライフル弾はバウの装甲を易々と貫いた。

 

「も、モビルスーツの装甲を!? ウワァァァ!!」

 

 MSの、それもかなりの装甲を持つバウを貫いたことにガルドスは驚愕しながら爆風に呑まれた。撃ち抜かれたバウはそのまま地面へ落下していき、歩兵師団隷下の小隊の塹壕の前に落ちる。

 

「うわっ!? 撃ち落とされた敵機?」

 

 迫る敵軍を塹壕から迎撃していた歩兵は火を噴きながら落ちて来たバウに驚き、それに注目する。これで確実にガルドスは死んだだろうと思われていたが、燃え盛る機体の中から狼のような大男が飛び出す。それは人狼であった。その正体は落ちて来たバウで分かる通り、あのガルドスである。

 

「な、なにあれ!?」

 

「うぉぉぉッ! 強さこそ正義だ!!」

 

 人狼と化したガルドスは強い咆哮の衝撃で炎を消し去り、塹壕の中から驚く敵歩兵に向けて飛翔し、両手の鋭い爪で切り裂いた。その切れ味は凄まじく、人体をバラバラにしてしまうほどであった。

 

「ひっ!? やぁぁぁ!!」

 

 隣にいた同僚を切り裂かれた機関銃手と装填手はMG3汎用機関銃から手を放し、肩に紐で吊り下げているG36A突撃銃を乱射するが、人狼と化したガルドスの肉体には傷一つ付かない。燃え盛る帆のを耐えてしまう事から、強靭な肉体となっているようだ。ガルドスは銃弾を物ともせず、二人纏めて強力な腕力と鋭利な爪で切り裂いた。

 

「フフフッ、この姿となった俺は無敵なのだ! さぁ、この俺一人で赤軍を殲滅するぞ!!」

 

 人狼となったガルドスは湧き出る力のままに暴れ、周辺に居る歩兵部隊を蹂躙する。抵抗するイヴ人の歩兵部隊であるが、持っている火器では人狼のガルドスに対処できず、次々と惨殺されるばかりだ。一瞬にして一個小隊が肉片と化す中、悲鳴と無秩序な連続した発砲音を聞いたターニャは直ちに現場へ急行し、人狼のガルドスと対峙する。

 

「人狼まで居るのか!?」

 

「見付けたぞ、赤軍の超能力者! 引き裂いて食い殺してやる!!」

 

 一人の歩兵を食い殺していたガルドスはその死体を捨ててターニャを見付け、彼女がいる高度まで飛翔する。そのまま鋭利な爪で引き裂こうとしたが、相手はあのターニャだ。即座に全身に魔法障壁を張り、爪による斬撃を防いだ。そればかりか人狼のガルドスの右腕まで圧し折ってしまう。

 

「ぎ、ギニャァァァッ!? お、おれの腕が!? 俺の腕ぁァァッ!?」

 

 右腕が圧し折れて泣き喚くガルドスに対し、ターニャは容赦なく右足に強力な打撃魔法を掛け、その強力な蹴り(シュート)を打ち込む。

 

「ぎょえぁぁぁっ!?」

 

 強烈なシュートを胴体に打ち込まれたガルドスは人狼状態にも関わらず、サッカーボールの如く飛んでいく。それも敵陣と言う名のゴールに向けて。やがて何処かに当たれば、そこが弾薬庫だったのか、大爆発を起こして火柱が上がった。流石の人狼のガルドスも確実に死亡したようだ。

 

「野球ならホームラン、ラクビーやアメフト、バスケットボールなら高得点だ。サッカーでは一点だがな」

 

 あの火柱をスポーツのゴールに例えたターニャは、直ぐに戦闘に戻る。まだ敵は攻撃を続けているのだ。敵陣に向けて前進する友軍の側面を守らねばならない。

 それを理解しているターニャは、人狼ガルドスが壊滅させた歩兵小隊の穴を埋めるべく、手薄と見て押し寄せる敵部隊に対処した。

 

 

 

「西部戦線が崩壊危機の次は、ワルキューレの大攻勢か…!」

 

 首都に迫る帝国再建委員会とワルキューレの西を除く全方面からの大攻勢に、大帝国軍は限界を迎えようとしていた。この全方位攻勢で軍は対応し来ておらず、防戦するのがやっとである。多方面から増援と補給の要請がひっきりなしに来ており、無断で投降する部隊も続出している。既に海軍は壊滅しており、陸軍も限界であった。

 

「駄目だ…! この四面楚歌な状況では、降伏か皇帝陛下のお力を使うほか…!」

 

 時間が経つごとに逼迫する状況に、軍上層部が解決策が降伏かラインハルト皇帝の絶対的な力しかないと参謀らが呟く中、十一人の屈強な男たちが会議室へと入って来る。

 

「な、なんだお前たちは!?」

 

「フン、やはり貴様たち軍は無能だ。一度のみならず、六度も侵攻を許すとは」

 

「バウムガルテン! 親衛隊総司令官が何の用だ!?」

 

 入って来た十一名の男、金色の短髪と武人の如き濃い髭を蓄えた大男に、軍上層部の面々は何をしに来たのかと問う。

 これに二百二十センチ以上の背丈を持つ大男、エーレンフリート・ロホス・ティモ・フォン・バウムガルテンだ。彼はラインハルト皇帝の右腕であり、同時に親衛隊総司令官の肩書を持っている。

 

「何の用だと? 我が正義の帝国(ゲレヒティヒカント・ライヒ)の領土に、六度も侵攻を許した無能な貴様らを粛清しに来たのだ」

 

「粛清だと? ふざけるな! 貴公が幾ら皇帝の側近でも、そんな勝手な振る舞い、皇帝陛下がお認めになるはずが…」

 

 その問いに対し、バウムガルテンは六度も領土への侵攻を許した挙句、首都を包囲も許した軍上層部を粛清しに来たと答えた。これに軍上層部等は、幾ら親衛隊総司令官で皇帝の右腕であるバウムガルテンもそんな勝手は許されないと言うが、武人の男はほくそ笑みながら答える。

 

「その皇帝陛下の直々の御命令だ。軍上層部の粛清後、この親衛隊総司令官バウムガルテンが再編する」

 

「何を勝手な! 直ぐに確認を…」

 

「確認するまでも無い…だろ?」

 

 軍上層部を粛清し、再編すると言うバウムガルテンに対して軍上層部の将軍や司令官らは、直属の士官らに確認するように指示を出そうとするが、その士官は何らかの攻撃によって殺害された。これに会議室に居る司令官と将軍らは恐怖して、逃げ出す準備をする。一人が勇気を振り絞り、バウムガルテンに粛清はお前の勝手な判断だと抗議した。

 

「ひっ…! 皇帝陛下が我々の粛清を命じるはずがない…! 我々軍は陛下に絶対的な忠誠を誓い、それに応えておるのだ! 慈悲深い陛下が粛清などと貴様の勝手な…」

 

「まだ分からんのか、この無能共が。此度の侵攻で既に貴様ら軍は信用を失っておるのだ。首都に攻め込まれる直前に侵攻を許した貴様らを無能共を陛下が信用するか。その責任、その命で償え」

 

 抗議する司令官に向け、バウムガルテンは先ほど士官を殺したと同様の技で殺害した。一人が殺されたのを見て軍人とは思えない程に怯えて震える司令官や将軍らに、首都にまで侵攻を許した責任を命を以て償えと言って、背後に控える十人の男たちに粛清を命じた。それに応じ、住人の男たちはそれぞれの得物を出し、粛清と言う名の虐殺を始める。

 

「クソっ、クソォォォッ!!」

 

 一瞬で数十名が惨殺され、会議室の壁が鮮血で赤く染まりゆく中、一人の将軍がピストルを抜いて応戦するが、バウムガルテンも含め、十一名の男たちは普通の銃弾を全く受け付けず、そればかりか掴み取ってしまうほどの力を持った化け物たちであった。これに戦意を喪失した将軍は、会議室から出ようとする一団に続いて逃げようとしたが、化け物たちから逃れられるはずもなく、一団と共に皆殺しにされる。

 

「こ、これは!? 貴様ァァァッ!!」

 

 皆殺しにされた将軍らを見て、配下の将兵たちはバウムガルテンにライフルを向けたが、撃つ前に日本刀の大太刀を持つカーキ色の旧大日本帝国陸軍の左官用制服とマントを身に着けた男に近付かれ手皆殺しにされた。

 

「フン、このような無能共に尽くすとは。つくづく哀れな兵士よ」

 

 斬り殺された配下の将兵等を愚弄するかのような台詞を吐いた後、バウムガルテンは通信機の受話器を手に取り、大帝国の全軍を自分の軍団の指揮下に置くと宣言する。

 

「これより軍上層部を再編し、全軍を我が正義の軍団(ユスティーツ・アルメーコーア)の指揮下に置く!」

 

 その次に反撃を宣言し、成功後に世界侵略を開始するとまで宣った。

 

「諸君、これより反撃の時だ! 首都に攻め込まんとする賊軍、否、異界からの侵略者共を駆逐せよ! その勝利を以て我が正義の帝国は、世界帝国(ヴェルト・ライヒ)へと進化する!! この世界全てが我が帝国の領土となるのだ! 帝国の勃興は始まったばかりである! 全軍は直ちに世界制覇の為の反撃を開始せよ! 繰り返す、世界制覇の為の反撃を開始せよ!!」

 

 そう世界侵略の宣言した後、バウムガルテンは十人の男たちを率いて会議室を後にした。




最後に変な奴出してごめんね。

エーレンフリート・ロホス・ティモ・フォン・バウムガルテン
ラインハルト皇帝の右腕で、チート程ではないが戦闘力以外がチートなでっかい金髪のおっさん。夢は世界征服。
とりま前世政治厨が自分の都合の良いこと言ってれば馬鹿みたいに信じるので、実質大帝国の支配者。

それと最後に誰か応募してくれよぉー!!(11月26日まで活動報告にて参加者募集中)


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サテライトキャノン

名前:キスバール
性別:男
年齢:31歳
階級:少佐
所属:正規軍
乗機:ハイザック・カスタム
概要:ラインハルトの帝国においては名うてのエース。
キャラ提供は神谷主水さん

名前:アイオーン(コードネーム)
性別:男
年齢:34歳
階級:少佐
所属:ワルキューレミッシングリンク隊
武器:VF-22S(ワインレッドカラー)
概要:お調子者で皮肉屋、掴みどころのない陽気な性格と、普通であれば特殊部隊などに配属されることのない人物であるが、その裏には、必要とあらば仲間すらも平気で利用するような冷酷さが見え隠れしている。
キャラ提供はRararaさん

名前:盾松 元気
性別:男
年齢:13歳
階級:准尉
所属:ワルキューレ ミッシングリンク隊
乗機:ガンダムX
概要元は、別の話で登場した盾松 修人の甥っ子でザールの襲撃を受けている時に異世界転移してしまう。ひょんなことからGコントローラーを手に入れ、ガンダムXを操縦する。
なお、Xに乗り続けられるのは、Gビットやサテライトシステムを起動出来た事からすなわちNT能力を持っていたからである。

名前:リィ・ファーム
性別:女
年齢:15歳
階級:少尉
所属:ワルキューレ ミッシングリンク隊
乗機:Gファルコン
概要 故郷の村を戦闘で失って天涯孤独になった所をワルキューレに拾われてそこで志願してMS隊に所属することに。
主に戦闘機や可変機体に高い能力があったのでGファルコンのパイロットとなる。
元気がDXに乗り込むことになってそれからは、元気のパートナーとなり彼を支えたり支援したりしていたが彼の性格や強さを知る事で真のパートナーとなっていく。
仲間の為なら自分が犠牲なる自己犠牲が強く特に元気を死亡した弟との面影を感じているので元気を亡くなる事を不安に思っている。
キャラ提供はM Yさん


 大帝国の軍上層部がバウムガルテンら正義の軍団に粛清され、再編後に反撃が開始された。

 この思わぬ反撃に被害を出した帝国再建委員会であったが、運悪くそこに居たターニャの戦闘団の奮戦のおかげか、数キロほど後退する程度と軽い損害で済んだ。だが、ワルキューレの方はかなり後退したらしく、特に東方面の侵攻軍は数十キロも後退していた。

 

「へへへっ、逃げるが良いぜ! どのみち逃がさねぇけどな!」

 

 後退する敵軍に対し、大帝国軍の正規部隊は苛烈な追撃を行う。その中で後退機動を行う戦術機の足を撃ち抜き、助けようとした別の戦術機をビーム・ランチャーで撃つハイザック・カスタムに乗るキスバールは、その有効で卑劣な手で敵機を落として行く。

 隠れハイザックの異名を持つハイザック・カスタムに、ワルキューレの部隊は対処できず、ただ撃墜されるばかりだ。大帝国は反撃で東部戦線を押し上げているが、大多数の機動兵器をもってしても、敵の反撃を受けて撃退されるだけだ。瀕死の大帝国が圧倒的物量で攻め込んだワルキューレを押し上げられた要因はもう一つある。

 それは、アルカ・ノイズと呼ばれる特殊兵器の大量投入であった。

 

「な、何よこいつ等!?」

 

 アルカ・ノイズと呼ばれるオタマジャクシや不気味な人型、コウモリ、武士やバナナと言った奇妙奇天烈な大群に、ワルキューレの将兵等は困惑する。直ぐにその不気味な集団に攻撃するが、通常兵器は全く効かず、アルカ・ノイズが放つ奇妙な攻撃を受けた兵士は赤い塵へと分解される。

 その圧倒的な力と物量、通常兵器を寄せ付けぬ特殊体質で前線の敵歩兵部隊を蹂躙し始める。通常兵器である戦車などの戦闘車両ですら圧倒していた。進行速度は遅いが、それらの能力で十分に戦線を混乱させており、これに背後から進軍する大帝国軍の反撃部隊が加わり、ワルキューレの東部方面軍をかなり後退させた。

 

「こいつは不味いな。アルカ・ノイズを投入してくるとは」

 

 前線の遥か後方で接収した空軍基地にて、双眼鏡で前線の様子を見ていたアイオーンと呼ばれる黒服は、敵のアルカ・ノイズ投入によって戦線崩壊の危機が訪れたと思う。

 このアイオーンはスミス率いるミッシングリンク隊の一人であり、バルキリーのVF-22SシュトゥルムフォーゲルⅡのパイロットでもある。東部方面軍に分隊を率いて随伴している。

 

「大佐、東部戦線が押し返されています。敵はアルカ・ノイズを投入したようで」

 

『アルカ・ノイズだと? 人工ノイズなど、ビーム兵器で対処可能だ。M1アストレイやジンクスを前面に押し出すように言え』

 

 アルカ・ノイズの出現にアイオーンは上司であるスミスに報告すれば、ビーム兵器を持つ機体に対処させろと返してくる。だが、キスバールなどの通常部隊による妨害で上手く対処できず、後退するばかりである。

 

「それがですね、ノイズの背後から通常の敵部隊が来てるので、東部方面軍は真面に対処が出来ていません。どうしますか?」

 

『ちっ、慌てやがって! 餓鬼をガンダムに乗せて応戦させろ!』

 

「あの坊ちゃんを投入するんですか? パニックを起こされても困るんですが…」

 

『大量破壊兵器に乗ってんだ! それくらいやって貰わな困る! 場合によって薬物を投与して言う通りにさせろ! 分かったな!?』

 

「はいはい」

 

 東部方面軍が言われた通りのことをしているが、真面に対処できていないことをスミスに伝えれば、無線機の向こう側に居る彼は激怒し、ガンダムを投入しろと告げた。これにアイオーンはパニックを起こされては困ると眉を顰めるが、スミスは薬物を投与してでも出せと言ったので、渋々従った。

 

「あ、あの…出撃ですか?」

 

「言われた通りだ。家に帰りたきゃ、俺らの言う通りにするんだな。坊ちゃんよ」

 

 無線機を切ったアイオーンに対し、この場に似つかない少年は出撃なのかと問えば、サングラスを掛けた黒服の男は笑みを浮かべながら出撃だと答えた。

 出撃だと分かったところで、ミッシングリンク隊に似合わない少年、盾松元気(たてまつ・げんき)は震え始める。元気はこの世界の出身では無く、元々ミッシングリンク隊の隊員でも無ければ、ワルキューレのパイロットでも無い。

 正義のロボット軍団の一員であった盾松修人と同じ世界出身であり、襲撃を受けている最中に異世界転移し、ひょんなことからガンダムXと起動キーであるGコントローラーを手に入れ、甥の修人と同じく戦う羽目になってしまった哀れな少年だ。それにニュータイプ能力を持っていたようで、スミスに目を付けられてしまい、元の世界へ帰ることを条件にミッシングリンク隊に編入させられた。元気な性格であり、気にする子も無いが、スミスが命じた任務の所為か、最近では暗くなってきている。

 それでも元の世界へ帰るため、スミスが出した出来る限りの任務をこなしてきたが、正規軍同士のぶつかり合いである戦争は初めてなのか、ニュータイプ故に人の死に敏感さと自身の死の恐怖にパニックを起こし、使い物にならないと判断され、後方へ引き下げられていた。

 スミスが薬物投与しろと言うのは、大量破壊兵器であるサテライトキャノンを搭載したガンダムXと、無人MSのGビットを使えるようにする為である。

 

「お前のガンダムにキーを入れてエンジンを掛けてこい! 出撃だ! そこからファーム少尉に従って行動しろ! 分かったな!?」

 

「は、はい!」

 

 アイオーンの指示に従った元気は、元の世界へ帰るために自分しか動かせない機体であるガンダムXを動かしに向かった。

 格納庫にて、整備兵等に誘導されながら元気はガンダムXのコクピットに入り、Gコントローラーを操縦桿が無い右側の方へセットする。これが無いと、ガンダムXは起動もしないし動かせないのだ。それをセットすれば機体は起動し、動かせるようになる。それから誘導員の指示に従い、格納庫の外に出れば、上空で待機している大型支援戦闘機Gファルコンに乗るリィ・ファーム少尉の指示に従う。

 

『ドッキングするわよ。ジャンプして!』

 

「はい!」

 

 言われた通りスラスターを吹かし、元気はガンダムXを上空まで飛翔させた。それからGファルコンと合体し、アイオーン率いるVF-22やジンクスⅣの編隊の後を追う。Gビットの方はトレーラーに搭載され、アームスレイブ(AS)のM9ガーンズバックの護衛を受けながら部隊に随伴する。

 

『このポイントまで移動するぞ。各員、警戒を厳にしろ。陸軍の連中が幾つか突破を許したぞ』

 

『て、敵がもう…』

 

「大丈夫よ、元気。ポイントに着くまでは私が全て対処するから」

 

 ワインレッドカラーのVF-22Sに乗る隊長のアイオーンより、幾つかの敵部隊が突破して来たことを報告すれば、元気は震え始める。それにリィは元気を亡くした弟と重ねているのか、敵は自分が対処すると告げる。その様子を無線で聞いていたのか、アイオーンは皮肉を漏らす。

 

「けっ、大量破壊兵器に乗った餓鬼に優しくするとはな」

 

 その皮肉を言った後、防衛線を抜けた大帝国軍の部隊がミッシングリンク隊の分隊に襲い掛かる。

 

『隊長、敵機だ! 来やがった!!』

 

「陸軍の奴ら、あんまり減らしてねぇな。まぁ良い、ストレス解消と行きますか」

 

 向かってくる敵戦闘機群に対しアイオーンは、舌なめずりをしてからストレス発散の為に操縦桿を前に押した。それから機体の高い機動性を生かし、僅か数秒ほどで敵の前衛を全滅させる。そこから敵のミサイル攻撃をガウォーク形態に変形して躱し、両腕のミニガンポッドを掃射してミサイルごと敵戦闘機数機を撃墜した。これまでにアイオーンはミサイルを使っていない。

 

「おっ、接近戦か? 殴り合いはキャラじゃないんだけどな、消えて貰うぜ」

 

 単独で機体性能を活かして敵戦闘機部隊を蹂躙するアイオーンの背後より、SFSに騎乗したマラサイやガルスJなどがビームサーベルを抜いて接近戦を挑んできた。接近戦を仕掛ける二機の敵機に対し、アイオーンはキャラじゃないと言いつつ斬撃を躱してから機体をバトロイド形態に変形させ、ピンポイントバリアパンチでマラサイの背後を殴り付けて撃破する。

 そこから右手のアームパンチで殴り掛かろうとするガルスJに、アイオーンは機体を回転させて躱し切り、胴体に左手のパンチを打ち込んで撃破した。

 

「近付けさせない!」

 

 元気のガンダムXとリィのGファルコンにも近付く敵NSは居た。これにリィは拡散ビーム砲で近付こうとする敵機を撃破し、戦闘機には熱源ミサイルを何発か撃ち込んで撃破する。

 他の僚機もミッシングリンク隊所属とあってか強く、侵入した敵空戦部隊は全滅した。地上でも何機かが侵入していたようだが、ASのM9にあっさりと壊滅させられる。元気のガンダムXのGビットを使うまでも無かった。

 

「す、凄い…!」

 

『おい、速く配置に着け。サテライトキャノンの準備はしておけよ』

 

「わ、分かりました!」

 

 周囲の敵を壊滅させたアイオーンらに元気は驚愕する中、そのアイオーンにポイントに着いた事を知らされ、Gファルコンからドッキングを解除されてそのポイントまで自力で操縦して向かう。向かっている最中、リィより数機の敵機が居ることを知らされた。

 

『元気、敵機が数機ほどいるわ! 気を付けて!』

 

「了解!」

 

 その知らせの後、元気は手を震わせながら周囲警戒しながら進む。敵機を発見したリィは何機かに空襲を仕掛けて撃破するが、アイオーンに止められた。

 

「次!」

 

『おい、餓鬼を甘やかすな! 三機か四機くらい、ガンダムの性能なら何とかなるだろ』

 

「ですが、まだ元気は…」

 

『大量破壊兵器に乗った餓鬼に入れ込み過ぎるな! それにGビットもある! 一人でやらせておけ!』

 

 アイオーンに止められたリィは素人な元気が心配なので口答えするが、入れ込み過ぎるなと言われ、渋々従って追加でやってきた敵空戦部隊の対処に回る。

 

「みんな、何処へ行ったんだ!? Gビット!」

 

 単独になったことで不安になる元気だが、生き残るために二機のGビットを起動させ、自機を攻撃してくるハイザック二機に狙わせる。突如となくGビットに攻撃されたハイザックはザク・マシンガン改を撃って抵抗するが、性能差で二機とも撃破される。もう一機いたが、元気が何発も撃ちこんだシールドビームライフルで沈黙する。

 

「ど、何処だ!? わぁ!!」

 

 残る二機は何処だとレーダーとモニターを見ながら止まっていると、ハイザックの左肩の体当たりを受けて転倒した。地面に倒れたガンダムXに対し、ハイザックはビームサーベルを抜いてとどめを刺そうとするが、Gビットのビーム攻撃を受けて上半身が爆散する。上半身が無くなったハイザックの下半身を見て、元気は震えるが、まだもう一機残っており、ビームライフルを撃ち込みながら接近してくる。

 

「こ、こいつ! ガキやちびだからって、舐めるなぁーッ!!」

 

 ビームライフルを撃ちながら接近してくるハイザックに対し、元気はガンダムXのビームソードを抜き、スラスターを吹かせて刺突状態に構えて突撃する。余りにも予想外過ぎる元気の攻撃に、ハイザックは思わず動きを止めてビームライフルで仕留めようとするが、彼はその攻撃が見えており、ジグザグに動きながら接近し、間合いに入ったところでビームソードを胴体に突き刺した。胴体を突き刺されたハイザックは機能を停止し、地面に倒れ込んだ。

 

「し、死んだ…?」

 

『Gビットを使わずに突っ込むとは、馬鹿な餓鬼だ。しかし躱し方は、流石はNTと言った所か』

 

『少佐…!』

 

『煩いんだよ。ほら、衛星軌道上に艦が着いた。マイクロウェーブ発射態勢を整えろ。サテライトキャノン発射準備だ』

 

 五機のハイザックを撃破した後、元気をGビットを使わない馬鹿だが、躱しながらの刺突は中々とアイオーンに評される。助けようともしなかったアイオーンにリィが激怒する中、彼は煩いと黙らせてからサテライトキャノン発射準備を知ろと元気に告げる。これに元気は少し戸惑いながらも、スミスの言葉を思い出し、発射態勢に取り掛かる。

 

「りょ、了解です…!」

 

 指定された位置にガンダムXを進めた後、指定された方向に機体を向けからシステムを起動し、背中の砲身とリフレクターをX上に展開させ、砲身を構える。これがサテライトキャノンだ。

 そのままスーパーマイクロウェーブが頭上から来るのを待ち、待機していれば遥か上空の衛星軌道上に居る支援艦からレーザーが送信され、脚部中央のクリアグリーンの部分でスーパーマイクロウェーブを受信し、そこから背部のリフレクターにエネルギーが充填され、発射に必要なエネルギーを溜めていく。

 チャージにはそれなりの時間を有するのか、周辺に二機のGビットと数機のM9が周辺警戒を行う。上空はVF-22Sに乗るアイオーンやGファルコンに乗るリィ等が行っている。観測データも上空に居る早期警戒機から送られてきており、撃つべき場所は既に分かっていた。狙うのは、味方の陣地に群がるアルカ・ノイズの大群である。

 

「照準、完了!」

 

『射線に味方は居ないな?』

 

「観測データではいません!」

 

 照準を定めたことを知らせれば、アイオーンが射線上に味方は居ないことを確認してくる。それに元気は居ないとデータを見ながら返せば、撃てと命じられた。

 

『よし、撃て』

 

「了解! サテライトキャノン、発射!」

 

 アイオーンより命じられれば、元気は構えていたサテライトキャノンを発射した。砲口から数百メートルはある規模のビームが放たれ、射線上に居たアルカ・ノイズを前面に反転攻勢に出た大帝国軍を呑み込む。最初に呑み込まれたのはアルカ・ノイズたちであった。ビーム以外の通常兵器が効かないノイズ等は、ビームを浴びて消滅していく。空に居る空母のようなノイズも同様に消え去って行く。その次はアルカ・ノイズを前面に押し出して反撃に出た大帝国軍だ。

 

「ノイズ共が消失していく!? これは…!」

 

 アルカ・ノイズの進軍で混乱する敵軍の背後をハイエナの如く狙うキスバールのハイザック・カスタムも、レーダーで次々と消え去るアルカ・ノイズの反応に驚き、直ぐに退避しようとしたが、間に合わずにビームに呑み込まれて消滅した。サテライトキャノンより放たれた恐るべき威力を持つビームは、射線上や最大射程に居る全ての物を消滅させた。まだ大帝国軍は全滅ではないが、全てのアルカ・ノイズは消滅しており、主力も巻き込まれて文字通り消えているので、大帝国軍の将兵等は恐怖を感じ、無秩序に逃げ始める。

 

「グットキルだ、坊主。数千は消し飛ばしたぞ」

 

 たった一発、否、コロニーを一撃で破壊するサテライトキャノンの一射で戦況はワルキューレ側に傾いた。事前にサテライトキャノンを伝えていたらしく、発射が終えたと同時に攻勢に打って出る。その数は後続部隊を加えてか、アルカ・ノイズの大量投入による反撃を受けた時よりも多い。この敵の逆襲に大帝国軍は完全に崩壊した。

 

『う、うわぁぁぁっ!? アァァァッ!!』

 

「ちっ、面倒な」

 

 敵が無様に逃げ惑う様子を見て、アイオーンは元気を褒めるが、彼はNT故に大勢の死を感知しており、凄まじいストレスと重圧感に押しつぶされて喚いていた。これにアイオーンは舌打ちし、元気が着ているパイロットスーツに仕込んだ麻酔を打ち込むボタンを押し込み、錯乱して暴れ回られる前に眠らせた。元気が眠った後、アイオーンは部下等に元気のガンダムXを回収するように命じた。

 

「餓鬼を回収しろ。撤収だ」

 

 二機のジンクスⅣにガンダムXが抱えられる中、アイオーンは撤収も命じ、それに応じてリィ等も現場から撤収した。




所属が似合わないので、勝手に変えさせていただいた。

M Yさん、ごめんなさい。


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南部戦線、異常なし

名前:メトバルト・ギュリーカー
性別:女
年齢:32歳
階級:少佐
所属:ワルキューレ 陸軍第30軍
乗機:ジンクスⅢ
概要:まんまエルフみたいな容姿。
わりと好戦的な奴で、手柄を上げるたび血の池が任地で出来上がってしまうほど。
キャラ提供は神谷主水さん

名前:カーラ・ドゥルヴァティー
性別:女性
年齢:25?
階級:少尉
所属:ワルキューレ陸軍第30軍
武器:ジンクスIV
褐色に近い肌色で中性的な外見をした女性パイロット。
自分達の威信を上げることを何よりの目的としており、その為に戦っている。
様々な武器を扱うことが出来るが、戦い方は些か野蛮で、雄叫びを上げながら突っ込んだり被弾上等とばかりに真正面から撃ち合ったり最悪無手、あるいは周辺の物を引っ掴んで戦い、挙句に敵の首を取る。
搭乗中はMSの首や航空機の機首部分などに済ませているが、戦闘後は死体漁りを平然と行い自身が殺した兵士達の首を集めている。
キャラ提供はただのおじさんさん

名前:シーン・プライセル
性別:男
年齢:31歳
階級:少佐
所属:空軍第81航空軍
乗機:VF-11C+ガンパック(アーマードパックの亜種。ミサイルを外し代わりにガトリングやショットガン・回転砲といった銃器のみの装備)
概要:訓練生時代にミサイルを迎撃しきれず負け続けた結果、『如何にミサイルを迎撃し勝つか』から『如何にミサイルを早く完全に撃ち落とすか』へて、バルキリーで有りながらミサイルを全て捨て去り代わりに各所に死角無く銃器を配置してミサイルを筆頭に飛翔物を撃ち落とすアンチミサイルとも言うべくガンパックを設計するほどの『ミサイル絶対撃ち落とす』マンへ成長(?)していった。
キャラ提供はkinonoさん

名前:リリ
性別:女
年齢:9歳
階級:ヒューマンデブリ
所属:国民突撃軍
乗機:スーサイド・ロディ(ロディ・フレーム)
現地民を阿頼耶識システムに適合させて暴力で教育した促成の捨て駒。
スーサイド・ロディは外見上、他のロディ・フレームと区別がつかないが、機体の重要バイタル部分にS-11(もしくは小型戦術核)が仕込まれており、最終的には自爆させて重要そうな敵を道連れにさせる為のカミカゼ機、当然パイロットも捨て駒。

名前:ジリア
性別:男
年齢:12歳
階級:民兵
所属:国民突撃軍
乗機:アンフ
現地民を促成訓練でMSに乗せた数会わせの駒。
一応MSに乗っている(歩兵より死ににくい)以上、金かコネで安全を買っている立場になるが、彼我の戦力差からしたら誤差程度である。
キャラ提供はリオンテイルさん


 大帝国軍が全ての戦線で反撃に出たが、南部戦線にはアルカ・ノイズの大量投入は無かった。南部戦線で大量に投入されたのは、カミカゼ機による捨て駒の部隊であった。

 

『MWにアンフ多数! それにエイハブ反応! 敵はロディ・フレームの模様!』

 

「戦術機部隊を前に出して! ビームじゃ効果が無いわ!」

 

 大量に突っ込んでくるアンフの中に、ロディ・フレームが混じっている為、ナノ・ラミネート装甲にはビームが効果的でないと判断し、M1アストレイに乗る士官は戦術機部隊を前に出すように告げた。

 それに応じ、実弾兵器主体のF-5FミラージュⅢやミラージュ2000等の戦術機数十機が編隊を組みながら前に出て、突撃砲の嵐を突っ込んでくる敵部隊に浴びせる。凄まじい弾幕にMWとアンフは溶けるように破壊されて行き、スクラップの山を築いていく。

 

「こ、こんなの無理だ! 僕は…!」

 

 アンフやMWと言った貧弱な装備で突撃させられているのは、少年や老人と言った兵員で編成された国民突撃軍であり、連隊規模の戦術機による弾幕で数百機がスクラップになった後、アンフに乗るジリアと呼ばれる少年が他のアンフと同様に逃げようとしたが、後方に控えるASのサページの改良型であるRk-02セプターが持つAS用狙撃銃で胴体を狙撃された。

 撃ち込まれたのは第三世代戦車の正面装甲でも容易く撃ち抜ける徹甲弾であり、アンフの装甲でも貫通し、乗っているジリアの身体は引き裂かれた。他のアンフも同様で、コクピットの部分がある胴体を撃ち抜かれ、その場で停止する。これを見た国民突撃軍は回れ右して再び敵陣を目指す。

 

「こいつ等、退かない!?」

 

『良いから撃ちなさい! こっちが死ぬわよ!』

 

 後方で狙撃されることを恐れて無意味に突撃を続ける国民突撃軍に戦術機に乗る衛士は驚愕する中、上官に撃ち続けろと言われ、突撃砲を撃つトリガーを引き続ける。下部の滑空砲も撃ち込み、その貫通力で数機ごと撃ち抜くも、国民突撃軍の足は止まらない。支援砲撃を受けてもだ。そればかりか、武器を持たないロディ・フレームが突っ込んでくる。

 

「こ、この! 来るなって!!」

 

 小隊ごとに固まっているミラージュⅢに向け、一機のロディ・フレーム、その名もスーサイド・ロディがスラスターを全開にしながら迫る。見た目はスピナ・ロディやガルム・ロディと変わらない。

 何発も突撃砲の弾頭を受けているが、ナノ・ラミネート装甲で弾いている。が、胴体と脚部分以外コーティングが施されていないのか、両腕が無くなっていた。それでも突撃を止めず、被弾しながら突っ込んでくる。

 

「取り付かなきゃ。取り付かなきゃ、取り付かなきゃ…!」

 

 スーサイド・ロディに乗るのはリリと呼ばれる幼い少女だ。全身痣だらけであり、髪も半分以上が引き千切られ、片眼に大きなたん瘤が出来て見えていない。そればかりか、背中には阿頼耶識システムが施されている。ゴミのような値段で売られ、終いには使えないと判断されて乗せられたようだ。

 そんな少女が乗るスーサイド・ロディの胴体と脚部にだけにナノ・ラミネートが施されているかは、この後に分かる。リリが血反吐を吐きながらミラージュⅢの小隊に突っ込んだところで、重要バイタル部分に仕掛けられた装置が作動する。

 

「こいつ、どういうつもり!?」

 

『高熱源反応! そのロディから!!』

 

「はっ!?」

 

 突っ込んで取り付いたリリのスーサイド・ロディに対し、一機が接近戦用の短刀を引き抜き、胴体に突き刺した瞬間、僚機の衛士より高熱源反応がすると言う無線連絡があった。これに驚くスーサイド・ロディに短刀を突き刺した衛士であったが、時すでに遅く、仕掛けられた装置の爆発に呑み込まれた。

 

『か、核爆発…!? あのロディ・フレームに核爆弾が内蔵されているのか!?』

 

「爆発の規模からして小型戦術核か! 奴ら、狂ってやがる!」

 

 上空で国民突撃軍をGNビームライフルで撃っていたジンクスⅢに乗るエルフのような容姿を持つメトバルト・キュリーガーは、スーサイド・ロディの戦術機を巻き込んだ自爆攻撃を見て、核爆弾を使っているのかと驚く中、ジンクスⅣに乗るカーラ・ドゥルバヴァーティーと呼ばれる褐色肌の中世的な女性パイロットは、敵自爆機に搭載されているのは小型戦術核であると、爆発の規模で見抜く。

 その次に別のスーサイド・ロディが被弾しながらも味方戦術機部隊に到達し、次々と自爆して味方部隊に被害を与えていく。M1アストレイやジンクスⅢなどのMS部隊にも及んでおり、南部方面軍の損害は時間が経つごとに増えていた。

 

「むっ、敵のミサイル攻撃!」

 

 スーサイド・ロディ部隊によるの自爆攻撃によって前線部隊が混乱する中、更なる混乱を巻き起こそうとしてか、大帝国軍はまだ国民突撃軍がいるにも関わらず、ミサイル攻撃を敢行する。

 ロケット弾と同時に対地攻撃用ミサイルが大量に撃ち込まれる中、従来のアーマード・パックとは違うアーマード・パックを装備したVF-11Cサンダーボルトに乗るシーン・プライセルはロケット弾を含む大量のミサイルをモニター越しに見て、撃ち落とさねばならない衝動にかられ、専用アーマード・パックに搭載された胸部ガトリング砲や連射式散弾砲、対空ビーム砲と言った搭載火器を右手に持つ大型ガンポッドと共に乱射し、次々と撃ち落としていく。

 たちまち花火のように爆発の連鎖が巻き起こる。それでも大帝国軍は撃ち続けるが、そのどれもがシーン空軍少佐が駆る専用アーマード・パック、ガン・パックを装備したVF-11Cの弾幕の前に全て撃ち落とされた。

 

「ミサイルは撃滅だ!」

 

 そう叫んだ後、シーンは空襲を仕掛けようとする敵爆撃機の大編隊に向け、ミサイルと同様の弾幕を浴びせて撃破していく。

 

「空軍め、私たちを巻き込むつもりか!?」

 

 その弾幕に危うく巻き込まれ掛けたメトバルトであったが、何とか避けて僚機の同型機を率いて国民突撃軍の残りを片付ける。優先するのはスーサイド・ロディにであり、上空から急襲を仕掛け、GNランスでパイロットごと突き殺した後、直ぐに引き抜いて爆発から逃れる。特にメトバルトがランスで良く貫いており、その援護を部下にやらせていた。

 

『うわっ! こっちに来る!?』

 

「フン、アンフやMWに突撃させておいて、自分等は後方で振るえるか! ならばその首、全て取らせていただく!!」

 

 進路上に居る国民突撃軍を全て片付けたヤギの頭骨を踏む獅子を描いたエンブレムを肩部分にいっぱいに描いたジンクスⅣに搭乗するカーラは、機体の機動性を生かして両手に持った二挺のビームライフルで驚愕する大帝国軍のリーオーやバーザム、ガルスJなどの胸部に撃ち込み、爆発で首を飛ばしていく。

 

「うぉぉぉ!!」

 

 雄叫びを上げながら敵陣に突っ込んだ後、ビームライフルを手近な敵機に投げ付け、空いた両手でビームサーベルを抜き、周辺の敵機を切り裂いて次々と首を斬り飛ばす。

 

「落とせ! 堕とせ! 首を! 機体を!! さぁ、後どれくらいいる!? どれ程の首がある!!」

 

 そう叫びながら単独で敵機の首を斬り落とし続ける。首を落とされてもまだ動いている敵機もいたが、後続の突っ込んでくる戦術機部隊やMS部隊、続々とやって来るバルキリーなどの航空機部隊によって殲滅される。

 国民突撃軍の特攻で敵にかなりの被害を与え、反撃にしようとしていた大帝国軍であるが、ワルキューレ南部方面軍に与えた被害は戦術機一個連隊とMS二個大隊、歩兵大隊、戦車二個中隊程度であり、大帝国軍はシーンの奇抜なミサイル阻止とカーラを初めとしたエースの単独暴走により逆に大損害を被り、反撃は失敗した。

 

「損害は機動兵器二個連隊、歩兵一個大隊、戦車二個中隊か。大した損害では無いな。進軍は順調だ」

 

 戦闘に参加しなかったスミスは、南部での大帝国の反撃で受けた損害を軽微と表し、進軍は順調だと口にした。その言葉を表すように、南部方面軍は首都へと進撃中である。損害を受けた部隊はそこで補充などを受けて再編を受け、負傷兵らは救急車に乗せられて後方へと下げられ、損傷した車両と機体は整備部隊によって整備されていた。その横を、まだ元気な南部方面軍の隊が通り過ぎていく。

 

 

 

 帝国再建委員会やワルキューレによる大帝国討伐作戦が順調に進む中、大帝国の皇帝ラインハルトに苦汁を二度も飲まされた者たちもまた、その広大な穀倉地帯を手に入れるべく、挙兵しようとしていた。

 

「陛下、帝国再建委員会なる賊軍とワルキューレが、正義の帝国なる悪鬼共を打倒すべく、兵を挙げているとか」

 

 皇帝ラインハルトに苦汁を飲まされた勢力の一つ、アガサ騎士団も兵を挙げようとしていた。アガサ騎士団のアルゴン王の居城である玉座の間にて、派遣部隊の隊長である騎士が片膝をつき、頭を垂れながら玉座に座る王にその許可を求めている。

 

「うむ。此度のあのイヴ人の賊軍、着実に勢力を伸ばしておると余の耳にも届いておる。それに戦乙女らは、憎き悪帝ラインハルトの首を討ち取れば、あの者等を国家として認めるとも聞いておる。彼奴等をこれ以上のさばらせれば、いずれ我がアガサの領地にも手を出しかねん。正義を自称するラインハルトの首、討ち取って見せよ」

 

「はっ。申し遅れましたが、既に兵は派遣しております」

 

「なにッ!? 貴公、無断で兵を派遣したのか!」

 

 その請いにアルゴン王は帝国再建委員会の百合帝国再建を阻止すべく、大帝国の皇帝ラインハルトの首を先に討ち取るように命じ、挙兵の許可を出した。それに要請を出した隊長格の騎士は既に派遣していると告げれば、隣に立つ側近は無断で派遣したのかと叱責する。

 

「許可が降りぬ場合は退かせるだけの事。そんな些細なことで、一々金切り声を上げる出ないわ」

 

「貴様…!」

 

 叱責する側近に対し、隊長格は許可が降りぬ場合は撤収させれば良いと返す。しかも煽るような言葉も付け加えた為に側近は激怒するが、アルゴン王に止められる。

 

「其方、無駄に煽るでないぞ。結構、メイソンの者共に出遅れる心配は無いな。して、派兵した騎士たちは手練れか? 先ほど、我が城で見ぬ者が多いが」

 

「はっ、どれも手練れの騎士たちでございまする。ご無礼を承知で、わたくし目が人選し、派遣いたしました。何の相談もせず、申し訳ございません」

 

「そうか。なれば我がアガサの勇者たちが、悪逆ラインハルトの首を討ち取るのを、祈るばかりよ」

 

 自分の側近を煽るなと叱り付けた後、派遣した騎士等は精鋭であるのかと問えば、隊長格は謝罪しながら精鋭たちを人選して派遣したと答えた。その答えを聞いたアルゴン王は、精鋭たちが帝国再建委員会よりも先に皇帝ラインハルトの首を討ち取ることを期待した。

 アルゴン王の期待に応えるため、大帝国がある惑星の衛星軌道上に、改ペガサス級強襲揚陸艦とハーフビーク級戦艦を中心としたアガサ騎士団の艦隊が集結していた。

 

 

 

「賊軍をこれ以上のさばらせるのは面白くない。立場と言うのを分からせんとな」

 

 アガサ騎士団も動くなら、メイソン騎士団も大帝国討伐に動いていた。メイソン騎士団もまた、皇帝ラインハルトに苦汁を飲まされた事もある。モーリック王は既に大帝国に精鋭たちを派兵しており、目的はアガサ騎士団と同じく帝国再建委員会の百合帝国再建を阻止する事であった。

 

「おそらくアガサの者共も動いておるだろう。だが、あの賊軍には破壊の刃の雨を浴びせてやろうぞ」

 

 だが、メイソン騎士団はただ阻止するだけでない。帝国再建委員会にも攻撃を行おうとしている。牙城に居るモーリック王が口にした通り、アガサ騎士団と同じく衛星軌道上に居るメイソン騎士団の艦隊は降下部隊だけでなく、ダインスレイブと呼ばれる巨大徹甲弾を搭載したグレイズ数十機が横一文字隊形に展開し、その照準を西部から侵攻する帝国再建委員会に向けていた。

 かくして、四つの勢力による皇帝ラインハルトの首の争奪戦が始まる…!




首都決戦はまだです。


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北部戦線掃討作戦

名前:暁星(あけぼし)レオナ
性別:女
年齢:17
階級:少尉
所属:ワルキューレ 海軍第17機動艦隊
武器:第三世代型ヴァルキュリア・アーマー【クリームヒルト】
概要:身長:167cm B92/W57/H88 日本とドイツのハーフ。
膝裏あたりまで伸びた美しい白髪と白い肌、赤い瞳を持ち、抜群のスタイルから来る色気と未成年特有のあどけなさが完全に調和した美(少)女。
外見イメージは『CLOSERS』のミライ。
ISスーツはコスチューム『シャドウエージェント』の装飾や上着等を省いたもの。
口数の少なさとストイックな行動によって初見ではクールで近寄りがたい雰囲気を感じさせるが、本当は寂しがりやで、年下、特に10歳未満の子供には特に甘くなってしまう。
ヴィンデルの歪んだ理想郷の出身者であり、ワルキューレに保護されて以降、所属している。

名前:高性能戦術AI
性別:なし
年齢:なし
階級:なし
所属:ワルキューレ 対能力者部隊
乗機:ハシュマルwithプルーマ
概要:本来人的資源が豊富なワルキューレでは無人機は必要とされていないが、転生者を筆頭とした高位の能力者の中にはパイロットに直接干渉するものもあり、その対策として限定的に高性能な無人機が開発された。
この機体に乗せられたタイプのAIは他の無人機の統率をとり、より戦術的な戦闘行動をとることができる。
キャラ提供はRararaさん

名前:ジンメル
性別:男
年齢:不明
階級:少将
所属:正規軍
乗機:アッザム
概要:アッザムを移動要塞にしている軍司令官。

名前:ゲムナー
性別:男
年齢:38歳
階級:大佐
所属:正規軍
乗艦:ダブデ級陸上戦艦
概要:ジンメル麾下の機甲旅団長。

名前:ギンツェフ
性別:男
年齢:31歳
階級:大尉
所属:正規軍
乗機:ザク・キャノン
概要:機甲旅団隷下のパイロット。ダブデ級の護衛を務める。
キャラ提供は神谷主水さん

オリキャラ

ワルキューレ陸軍北部方面軍指揮官。
外見が京樂さんの片目を奪った星十字騎士団の滅却師、ロバート・アキュトロンに似た陸軍の将軍。滅却師ではない。


 東部戦線や南部戦線で大帝国の反撃が失敗に終わる中、北部戦線では成功しており、ワルキューレのイヴ人で構成された北部方面軍を数十キロ以上も後退させていた。

 この後退に北部方面軍は上陸地点まで押し戻されるのを恐れてか、敵海軍を壊滅させて暇になっていた海軍に支援を要請する。

 

暁星(あけぼし)レオナ、クリームヒルト、出ます!」

 

 敵海軍を壊滅させて暇なワルキューレ海軍第17機動艦隊に属する暁星レオナは、専用スーツを着て専用ヴァルキュリア・アーマー(VA)「クリームヒルト」を見に纏い、両足をカタパルトに装着し、正規空母より出撃しようとしていた。

 他の艦載機やVAも出撃するかと思いきや、出撃するのはレオナのクリームヒルトだけであった。出撃する彼女以外は何をしているかと思えば、水着を着て水遊びをしている。とても戦場とは思えない光景だ。無論、クリームヒルトが出撃する位置はちゃんと空けている。

 進路が開いていることを再度確認したレオナは、母艦よりカタパルトを使って出撃し、大陸へと飛んで向かった。

 

「みんな、能天気ね。いつ攻撃されるか分かった物じゃないのに」

 

 自分の艦隊の者たちが能天気に水遊びに興じているのを見て、レオナは呆れた言葉を漏らす。機動艦隊のみならず、艦砲射撃を行うために上陸地点近くに展開している艦隊の水兵たちでさえ、陸地で激しい戦闘が行われているにもかかわらず、水着を着てはしゃぎ回っているのだ。緊張感の欠片も無い。

 

「あの子たちもこうやって遊べるように、行かなきゃ!」

 

 黒地に赤と金の差し色が入ったノルドのカスタム機を駆るレオナは、共にワルキューレに保護された孤児たちもあのように笑ってはしゃぎ回れるように、目的地へと向かった。

 既に目的地では交戦が始まっており、海軍の支援砲撃を受けながら陸軍の機甲部隊が前進ているが、大帝国軍の防戦は激しく、近付く毎にやられる死傷者が続出している。この状況を好転させるべく、レオナはクリームヒルトのグラムと呼ばれる荷電粒子砲を展開し、その照準を敵陣に定める。

 十分な時間までチャージして射程と威力を挙げれば、即座に発射する。砲口より放たれた強力な荷電粒子砲は大帝国軍の防衛線に命中し、穴を空ける。そこから混乱する敵に目掛けて降下し、右腕部に装着した複合攻盾システムであるパルムンクのビーム砲で、立ち直っていない敵機に撃ち込んで撃破していく。

 

「ハァァァ!」

 

 一機、二機と撃墜していけば、続けてブレードを展開して目前の敵機を切り裂いた。そこからもビーム砲と同様に手近に居る複数の敵機を切り裂いていき、ASのセプターに対しては大型超振動クローで掴み、振動と同時に食い込ませていく。

 

「わっ!? あぁぁぁ!? や、止め…」

 

 振動と同時にコクピット内で圧殺される恐怖を感じたセプターのパイロットは助けを乞うが、既に遅く、クローで圧し潰される。セプターを圧し潰したレオナは止まらず、右腕の複合兵装をブレードに切り替え、左手に持ったグラムを連発して更に撃破数を稼ぎ、砲身を閉じて荷電粒子を纏わせ、グラムを剣にする。

 

「こ、こいつ…! 女の分際で、我が正義の帝国(ゲレヒティヒカイト・ライヒ)に仇名すとは!」

 

「あの子たちと私の未来の為に…あんた達には悪いけど死んでもらうよ。あっ、あんた達は元から悪いから、殺しても問題無いか…」

 

 恐れ戦く大帝国軍に対し、レオナは自分と養っている孤児たちの死んでもらうと告げる。それに激怒してか、大帝国軍のドラッヒエや第三世代ASであるヴォルフが襲い掛かる。多数のASにレオナのクリームヒルトは連続で繰り出される斬撃を躱しつつ、グラムの剣とブレードで切り裂いていく。彼女が一振りの斬撃を繰り返すたびに、切り裂かれてスクラップと化すASが増える。時間が経つごとに残骸の山は大きくなっていき、やがてはスクラップの山となる。

 

「クソっ、何だってんだ!?」

 

 一個大隊は居たASをスクラップの山に替えたレオナのクリームヒルトに対し、ガルム・ロディの指揮官型に乗る士官はライフルを撃ち込む。これに合わせて僚機のガルム・ロディも撃ち込むも、的が小さすぎて外れるか、IS譲りのシールドで防がれてしまう。そればかりか躱されており、ナノ・ラミネートに効果的な大型超振動クローでコクピットごと削り取られた。

 その調子で一個小隊分のガルム・ロディを殲滅し、陸軍の前進を支援するために引き続き戦闘を続行して周囲の敵機を撃破する。

 

「たかが女一人に何をしている!? 速く落とせ!」

 

「て、敵が!」

 

「なっ!? ぐわぁ!!」

 

 レオナのクリームヒルトに戦線が乱される中、指揮官は速く落とせと言うが、陸軍イヴ人部隊の戦術機のF-4ファントムがM60パットン戦車と共に大挙して押し寄せ、大帝国軍の陣地に総攻撃を仕掛ける。後方からもM198榴弾砲や多連装ロケット弾と言った支援砲撃もあり、前線で指揮を執っていた指揮官はその砲撃で本部ごと吹き飛ばされた。

 

「なんと情けない! わしが離れた隙に防衛線を搔き乱されているとは! 全軍、直ちに攻撃せよ!!」

 

 防衛線に食い付くことに成功したワルキューレ陸軍であるが、ここに来て大帝国軍の将軍であるジンメルが改良型のアッザムに乗って現れた。無論、地上にはダブデ級陸上戦艦が数十両が続いており、前線の不甲斐なさに苛立ち、味方がいるにもかかわらず砲撃を行う。

 この無差別砲撃により敵味方問わずかなりの損害が出た。ワルキューレの北部方面軍の前進は阻止できたが、同時に大帝国軍の北部防衛線は崩壊した。

 

「ちょっと、無茶苦茶じゃない!? 味方も居るって言うのに!」

 

 レオナもその砲撃に巻き込まれているが、クリームヒルトの機動性で躱し切る。

 

「うわぁぁぁ! あぁぁぁ!!」

 

「み、味方ごと撃つなんて…!」

 

 砲撃に巻き込まれ、大帝国軍の生き延びた兵士が失った片足を抑えながら絶叫する中、北部方面軍のイヴ人将兵等は大帝国軍の血の涙も無い砲撃に驚愕する。これほど敵味方が入り乱れているにも関わらず、誤射も気にせずに砲撃する軍隊は少ない。大帝国軍は自軍の将兵を消耗品と考えているのだろう。

 

「敵、七十パーセントが健在!」

 

「七十パーセントだとォ!? なんだその少なさは!? 僚艦に打電! 第二射射撃開始ィ!!」

 

 ダブデ級陸上戦艦の一隻の指揮を執るゲムナーは、敵の損害が少ないことに腹を立て、あろうことか二度目の艦砲射撃を命じる。これに応じ、横一文字に並んだダブデ級陸上戦艦は主砲を再び一斉に発射し、二回目の艦砲射撃を始める。まだ味方はいるのだが、ジンメルとゲムナーには関係ない事である。

 

「あいつ等、まだ味方がいるのに!」

 

 味方ごとの砲撃を二度も行うジンメルに対し、レオナは怒りを覚えて飛んでくる砲弾を迎撃するが、ジンメルのアッザムも砲撃に参加しており、自分の周りしか迎撃しきれない。VAほどの迎撃能力を持たない戦闘車両や戦術機部隊は砲撃で吹き飛ばされ、更なる損害を出す。

 これに北部方面軍の指揮所はこれ以上前進させても損害が増えるばかりと判断してか、スミスが運び込んだ例の物を使うべく、後退命令を出す。

 

「味方諸とも砲撃するとは…このままイヴ人共を前進させても埒が明かんな。奴らを下がらせ、例の物を代わりに出せ」

 

 威厳のあるひげを蓄えた眼鏡を掛けた初老の北部方面軍司令官がスミスが北部戦線に持ち込んだ物を投入しろと命じられれば、通信士官は無言で頷き、前線に居る隷下の部隊に後退命令を伝達する。

 

「こんな時に後退命令? 私たちをあれだけ殺して置いて…! まぁ良いわ、これ以上死なずに済むしね! 全車、攻勢開始地点まで後退! 負傷者が最優先よ!」

 

 指揮車より戦車部隊の指揮を執っていた前線司令官は突然の後退命令に文句を言うが、同胞らがこれ以上死ななくて済むので、その命令に従う。負傷者を最優先に後退させ、まだ元気な部隊に殿を務めさせつつ後退する。

 

「後退命令? 何を投入するか知らないけど、後退を支援しなくちゃ!」

 

 後退命令は海軍所属のレオナにも届いており、それに疑問を抱くも、陸軍の後退を支援するために殿と務め、追撃しようとする敵軍を排除する。

 その様子は方面軍本部に見えており、司令官は少々不満を抱くが、仕方ないと判断して例の兵器の状況を部下に問う。

 

「遅いな。まぁ、連中なら仕方あるまいか。プルーマは何羽ほど生まれている? 餌を大量に与えたのだ。少な過ぎては、砲撃で減らされるぞ」

 

「四十機ほどは生産できています。後はAIを調節し、起動させるだけです」

 

「連中をターゲットに入れるなよ。まだ突破する防衛線は残っている。ここで消耗させて反乱でも起こされては困る」

 

「はっ!」

 

 何羽と言う問いに対し、部下は四十機ほど生産できたと返し、後は調整して起動させるだけと答えた。それに司令官はイヴ人をターゲットに入れないように注意すれば、部下は返答して調整を行う者たちに伝達する。

 そのスミスが北部戦線に持ち込んだ例の物とは、モビルアーマーであるハシュマルであった。天使の名を持つこの鳥のようで天使のような外見を持つMAは、その名に反して作られた世界では数億の人間を殺し、文明を衰退させたMAの内の一機である。動力源はエイハブ・リアクターで、性能もスミスが何としてもブーツホルツに守らせるほど高い。それにプルーマと呼ばれる小型無人機を生産し、随伴させる。それに攻撃や防御、補給に修理と言った指示も可能だ。

 

「搭載AI、調整完了!」

 

「MAハシュマル、起動! ターゲット、北部戦線に展開する全ての敵軍に認定!」

 

「作業班は直ちに退避! 進路上に居る全ての友軍は退避せよ! 化け物に踏み潰されるぞ!!」

 

 ハシュマルの調整が完了して出撃すれば、作業班は直ちに退避する。進路上も空けろと命じられれば、それに応じてそこに居た機動兵器らはハシュマルに道を譲った。出撃したハシュマルは無人機であり、生産した四十機のプルーマを随伴させ、脚部のスラスターを用いて目標まで向かう。

 

「なに、あれ…?」

 

 最後尾の部隊が後退を終えれば、同じく殿と務めていた部隊と共に後退するレオナは、プルーマを引き連れて敵陣に向かうハシュマルを見て驚愕する。レオナも含め、誰もハシュマルとプルーマの存在を知らないのだ。この出撃で初めてその存在を知ったので、驚くのは無理もない。敵軍である大帝国軍も後退する北部方面軍の代わりに来たハシュマルを見て、レオナたちと同じように驚く。

 

「な、なんだこれは? 艦砲射撃用意! 吹っ飛ばしてくれる!」

 

 多数のプルーマを率いて向かってくるハシュマルに驚くゲムナーであるが、直ぐに艦砲射撃で吹き飛ばすように告げる。それに応じてダブデ級数両は艦砲射撃を行い、数十機のプルーマを吹き飛ばすが、ハシュマルは巨躯ゆえに硬く、そのまま砲撃の雨を抜けて敵陣に襲い掛かる。

 

『来るぞォ!』

 

『こんなデカ物、囲んで…』

 

 脚部のスラスターを一気に吹かせて飛翔したハシュマルに対し、大帝国軍の機動兵器らは集団で叩き潰そうとしたが、尾の超鋼ワイヤーブレードで一気に纏めて切り裂かれる。一瞬にして数十機がバラバラに切り裂かれた後、後続のプルーマの集団も加わり、蹂躙が始まる。

 邪魔な周辺の敵機をプルーマらに排除させ、ハシュマルは砲撃陣地に向けて高出力ビーム砲を放つ。頭部より放たれたレーザーの如く目標に向かって飛んでいき、後から来たダブデ級も含め、長い照射時間の間に薙ぎ払っていく。元々ハシュマルの高出力ビーム砲は対人・ソフトスキン用兵器であるが、スミスはMSでも破壊できる程に威力を高めており、ナノ・ラミネート装甲、あるいはビーム対策を施している機体以外は容易く消されてしまう。

 そればかりか巨躯な図体に対してハシュマルの機動性は高く、ワイヤーブレードを抜けて接近できても、その攻撃は避けられ、脚部に踏み潰されるか、巨大な両肩部から展開される腕部クローで抉られるか、槍型のロケット砲を打ち込まれて無力化されるだけだ。

 

「うわぁぁぁ!? た、助けてくれぇぇぇ!!」

 

 脅威はハシュマルだけでない。群れを成して対象に襲い掛かるプルーマも脅威であり、ナノ・ラミネートを持たない機動兵器はコクピットを両腕部のハーケンか、尾部のドリルで削り殺される。それも十メートル以上もあるので、ASやナイトメアフレームなどの小型機動兵器は取り付かれた時点で脱出は困難だ。手足を持たないMWは取り付かれた時点で助からない。歩兵はレールガンで吹き飛ばされるか、ハーケンで殺される。

 

「わ、我が隊の損害が…!」

 

「敵MA、こちらに接近中!」

 

「い、一体なんだと言うのだ!? 主砲、奴に向けて撃て! この距離ならあの装甲と言えど…!」

 

 一瞬にして戦場が地獄絵図と化す中、ゲムナーは乗艦しているダブデ級の主砲を味方がいても撃つように指示を飛ばす。周辺にある残骸と言う餌でプルーマの数を増やすハシュマルに砲撃が行われたが、装甲もスミスによって強化されているのか全く通じない。どうやら、通常の装甲をガンダリュウム合金で施しただけでなく、実体弾に強い耐性を持つフェイズシフト装甲まで搭載されているようだ。先の砲撃でハシュマルがびくともしないとはその所為である。

 ある程度のプルーマを生産し終えたハシュマルは、周辺の敵の掃討をプルーマに任せた後、ゲムナーのダブデ級に標的と判断して飛翔して向かう。向かってくる天使の名を持つ怪物に対し、ゲムナー等の数十両のダブデ級は随伴機と共に一斉射を浴びせる。

 

「撃てぇ! 近付けるなァ!!」

 

 叫ぶゲムナーの指示に応じ、ギンツェフのザク・キャノンもそれに加わって猛砲撃を行うも、ハシュマルの堅牢すぎる装甲の前には無駄な抵抗であった。そのままハシュマルは巨躯に似合わぬ高速移動でゲムナーのダブデ級に接近し、キャノン砲を撃ち込むギンツェフのザク・キャノンにワイヤーブレードを叩き込んで串刺しにする。ビーム砲で一掃する手もあったが、使うほか無いと判断したのだろう。

 

「ぐぇわ!?」

 

 ブレードはコクピットを容易く貫き、乗っていたギンツェフは即死する。串刺しにしていたザク・キャノンを別のダブデ級の艦橋に叩き付けた後、ハシュマルは飛翔してゲムナーのダブデ級を文字通りに踏み潰した。

 

「ギャァァァっ!?」

 

 艦橋から踏み潰したためにそこに居たゲムナーと乗員共々踏み潰しており、物理の法則で後部がハシュマルの頭部の方へ飛んで来たが、両肩部から展開された腕部で潰される。まだダブデ級は残っているが、押し寄せるプルーマの群れに襲われ、一人残らず皆殺しにされる。まるで悪夢のようだ。

 

『閣下、助けて! 助けてくだ、わぁぁぁっ!!』

 

「ひっ、ヒィィィ!? もっと上昇しろォ!!」

 

 この光景を飛んでいるアッザムから見ていたジンメルは、地上の部下たちの救援を無視して自分だけで逃走を図ろうとした。プルーマはレールガンを浴びせて来るが、要塞化されたアッザムを破壊するのは不可能に近い。時間稼ぎをする為に頭頂部のアッザム・リーダーを展開し、ハシュマルに電撃攻撃を仕掛けたが、無人機には全くの無意味であり、ブレードで破壊されるだけだ。

 飛んで逃げようとする玉ねぎのようなMAに対し、ハシュマルは高出力ビーム砲で撃ち落とすことに決め、狙いを定めれば直ぐに発射した。放たれたビームはアッザムに命中、撃ち落とされたアッザムは黒煙を上げながら墜落していく。

 

「う、うぅ…はっ!?」

 

 ジンメルはまだ生きていたが、地上に落ちればどうなるか想像はつく。プルーマの群れに殺されるのだ。既にプルーマの大群が墜落したアッザムに群がっており、まだ生きているジンメルを殺そうと装甲をキャベツのように一枚ずつ剥がしている。

 

「やだぁぁぁ! やだよぉぉぉッ!! 助けてェェェ!!」

 

 泣き喚いて助けを乞うジンメルであるが、誰も助けは来ない。そのままプルーマにジンメルは惨殺された。

 大帝国軍の北部防衛線を自機と傘下のプルーマの大群だけで壊滅させたハシュマルは、周辺の残骸を餌として更にプルーマの数を増やしていく。次の命令があるまで、そこでプルーマを増やし続けるのだ。

 

「なんであれを最初に投入しないのよ…! あれがあれば、私たちは無駄に死なずに済んだと言うのに!」

 

 この圧倒的な勝利は、イヴ人将兵からすれば喜べるものでは無かった。最初からハシュマルとプルーマを投入すれば、自分たちは無駄死にせずに済んだのだ。これには北部方面軍の幹部らも、司令官に対して疑問をぶつける。

 

「最初から件の兵器を投入していれば、速く終わったのでは?」

 

 その疑問に対し、司令官は眼鏡を光らせながら答える。

 

「私もそう思ったが、最初から完全に迎撃態勢が整った防衛線にぶつければ、ハシュマルとで無事では済まんだろ。事前に削っておく必要がある。先の攻撃は投入の有無を確認するための物だ。結果的に彼女らの犠牲があってこそ、ハシュマルは敵陣を蹂躙できた。この結果は、彼女らの犠牲があってこその物なのだ。これでハシュマルの有効性が確認された。以降、ハシュマルを前面に出し、敵北部戦線を蹂躙する」

 

 最初の攻撃はハシュマルの投入の有無を確認する為とハシュマルを損耗させない物と返す。イヴ人将兵の多大な犠牲でハシュマルの有効性は証明されて無駄でないと言って、以降はハシュマルとプルーマの大群を前面に押し出した攻勢を取ると告げた。

 こうして、大帝国軍の北部戦線は残り三方の戦線と同様に崩壊したも同然であった。




北部方面軍司令官(ロバート・アキュトロン)ハシュマル&プルーマ(ゾルダート)…!」

なんか、ハシュマルが主役になった回になったような…?

また追加募集でもやろうかな…。


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ハーレムアーミー

名前:ソロコフ
性別:男
年齢:28歳
階級:曹長
所属:皇帝親衛隊 首都防空隊
武器:ルッグン
概要:予備部隊の人員であるルッグンの機長。正直暇すぎて「小人閑居して不善をなす」の典型になってしまっている。
キャラ提供は神谷主水さん

名前:ノヴァーナ・アプト
性別:女
年齢:28歳
階級:中尉
所属:監視部隊
乗機:VF-31Cジークフリート(色は黒)
概要:イヴ人にしてフリードリヒ・カール・ロベルト・フォン・ラジヴィウの長女。
割と多いハーフ系であり、騎兵馬鹿のフリードリヒがイヴ人娼婦との間に作った子供であるが、当のフリードリヒは全く覚えていない。当の本人も父親がフリードリヒであることに気付いておらず、ただ任務でやっている。
キャラ提供はG-20さん

名前:ソリル・ディゼル
年齢:122歳
階級:中尉
所属:フェアリー戦闘団 監視部隊
乗機:YF-29Bパーツィバル
概要:ごく一般的なイヴ人を自称する監視部隊の士官。つまり、典型的なイヴ人以外を見下す差別主義者。
キャラ提供は秋音色の空さん


 四方八方の防衛線が崩壊し、首都に帝国再建委員会とワルキューレが迫る中、北部戦線で姿を見せなかったブーツホルツは、変装して首都に潜入していた。

 任務はバウムガルデンに乗っ取られた大帝国軍が反撃に出た理由を探るためだ。追い詰められていると言うのに、玉砕するかの如く大反撃に出たのは、何らかの戦力を隠しているとスミスは睨んだのだ。それに応じ、ブーツホルツは田舎より避難して来た大男に変装し、首都へ潜入した。

 

「おい、そこの馬鹿でけぇの。てめぇ、何処から来たぁ?」

 

 真昼間にも関わらず、酒瓶を片手にうろつき回る親衛隊の制服を着た兵士、ソコロフに見付かってしまう。相手は酔っているが、自分の正体がばれる恐れがあるので、素直に答える。

 

「お、おらぁ、都会は初めてでして。道に迷っちまったんですよ。兵隊さん、案内ぇしてくれねぇですかぁ?」

 

 道案内を頼むブーツホルツであったが、暇を持て余していたソコロフがそれに応じる事は無かった。

 

「う、うるへぇぞ! この首都防空隊所属のソコロフ曹長に向かって、にゃんだ!? おめぇ、なんで徴兵されずにここにいんだァ? さては、脱走兵だなァ!?」

 

「(ばれたか? いや、奴は酔ってへべれけだ。誤魔化しは効くはず)」

 

 ソコロフと言う名の親衛隊の兵士にからまれたブーツホルツは、相手がへべれけであることが分かれば、誤魔化しが通じると判断し、酔った相手に対し嘘で答えた。

 

「えぇ、オラも徴兵令が届いて来たんですけど、田舎から出て来たばかりに、場所がイマイチ分からなくて…」

 

「くぇーっ! これだから田舎者は困るんだよォ! そんじゃあ、制裁だけに済ませるかァ」

 

「制裁? あのぉ、オラは道に迷っただけで…」

 

 道に迷っただけなのに制裁を加えると言うソコロフに問うブーツホルツに、酔った兵士は懐から棍棒を出す。

 

「うるへぇ! この正義の国じゃ規則は絶対にゃのだァ! 時間も守れず、地図も読めねぇクズは身体で分からせねぇとにゃあ…!」

 

「ひょぇぇぇっ!? ぶ、打たないでェ!!」

 

 棍棒で殴り掛かろうとするソコロフに対し、即座に制圧できるはずであるが、正体を隠すために田舎者のフリをする。それでもソコロフは殴ろうとしていた。

 

「(むっ、こいつは!?)」

 

 だが、それは新たにやってきた親衛隊の士官によって阻止された。その男はソコロフの背後から現れ、サーベルを抜き、目にも止まらぬ速さで酔った男を斬った。恐るべき速さでソコロフを斬り、挙句に気付かせない男の剣裁きに、ブーツホルツは驚愕する。

 

「んぁ? グビッ。 にゃ、にゃんだテメェは…?」

 

「親衛隊であろう者が、昼間から酒浸りとは許せねぇな。まぁ、とっくに処断したが」

 

「しょ、処断したァ? 俺はにゃんでも…にゃっ!?」

 

 自分が斬られた事にも気付かないソコロフであったが、気付く頃には既に身体が両断されており、斬られた上半身の部分は断末魔を挙げた後、地面に崩れ落ちた。

 

「(何という剣裁き! いや、こいつは低級の能力者だ。気付かぬかどうか、試してやるか)」

 

 ソコロフを斬り殺した親衛隊の男に、ブーツホルツは剣豪ではなく能力者と断定。感知する能力が無いかどうか試すべく、田舎者のフリを続ける。

 

「あ、ありがとうごぜぇます! オラ、その兵隊さんにからまれちまって…」

 

「怪しい奴め! 俺は首都警備連隊のドゴス隊長だ! お前を帝都不法侵入の疑いで逮捕する!」

 

 だが、首都警備部隊の隊長なるドゴスを騙すことは出来なかったようだ。そのままドゴスは右手に持ったサーベルを片手に近付いて来る。

 

「やもえん。少しやり辛くなるが…!」

 

 向かってくるドゴスに対し、ブーツホルツは覚悟を決めて戦闘態勢を取った。

 

 

 

 ブーツホルツが首都に潜入し、正義の帝国が大反撃に出た理由を探る中、西側から攻撃する帝国再建委員会は目前にあるその首都に総攻撃を仕掛けるべく、準備を進めていた。

 

「いよいよ首都攻略、いや、皇帝ラインハルトの首を討ち取る時だな。兵員の補充が進んでいる。やはり、我が戦闘団を先端にする気か」

 

 進軍を停止し、そこで補給を受ける本隊と合流したターニャとその戦闘団は、兵員と装備の補充を受けていた。補充される人員は人間の将兵だけで、主に第十三航空魔導士大隊と陸軍機甲連隊が補充されている。おそらくこの戦役で壊滅した部隊の生き残りを補充しているのだろう。そうターニャは睨む。

 

「しかも純潔部隊まで居る。どうやら上は本気のようだ」

 

 ターニャは補充部隊の中に、イヴ人の純潔部隊が居るのが分かった。通常のイヴ人部隊の中でも、兵站を度外視した装備を持ち込んでいるのが純潔部隊だ。自分らとは比べ物にならない物で、決してターニャの隊には送られないであろうガンダムタイプ数機も見える。

 

「武力介入でもしそうだな。それに悪魔みたいなのも居る。新作のガンダムか?」

 

 純潔部隊が装備するガンダムを見て、ターニャは見た通りのことを口にする。

 豪勢に並べられているガンダムタイプの中に、ターニャが知るガンダムエクシア等の太陽炉搭載型のガンダムもはじめ、ダブルオーガンダムまである。それにガンダム・フレーム数機もあった。

 バルキリーも同様で、自分の監視部隊以上にYF-29ディランダルにVF-31カイロスやジークフリートシリーズも駐機されている。それを見たターニャは、決して自分の隊には配備されない物と認識する。

 

「父親に挨拶しなくていいの?」

 

「えっ? 父親じゃないよ」

 

 監視部隊の一員で、自分の機体である黒いVF-31Cジークフリートの近くに座るノヴァーナ・アプトに、同僚の一人が第十三大隊のフリードリヒに挨拶しないのかと問う。これに父親ではないと返し、煙草の箱から一本取ってから口に咥え、一服しようとライターを取り出す。

 

「そうよね、初めて知ったんだから」

 

「まぁ、私にとっては死のうが生き残ろうが知ったことないし。吸う?」

 

「うん」

 

 血縁では父親がフリードリヒで間違いないが、ここで初めて知ったのだ。少し動揺しているが、今さら父親だと言われたところで、どう接するか分からない。ノヴァーナが吸うのかと問えば、同僚は差し出された煙草の箱から一本取って共に吸った。

 

「でっ、異端児はどのように?」

 

「噂通りの戦闘狂です。人狼と化した敵兵をサッカーボールみたいに蹴り、敵陣の弾薬庫を吹き飛ばしました」

 

「本当にロリータ族なのかしら? 誇張でなくて?」

 

「見たままの通りです」

 

 別の場所では、監視部隊の一人であるソリル・ディゼル中尉は純潔部隊の一員らしい士官にターニャの事を報告していた。先ほどのターニャの戦闘の事を報告すれば、士官は誇張なのかと疑って問う。それにソリルは誇張でないと答え、自分のYF-29Bパーツィバルから取り出したガンカメラの映像を見せ、真実であることを伝えた。当然ながら、士官はターニャの常識を逸脱した戦闘ぶりに言葉を失う。

 

「あいつ等も居るのか…全力で首を取り、国家再建を成し遂げようと言うのか」

 

 ターニャは増援部隊の中に、あのヴィンデルの世界における共に遠征任務を行っていた面々が居る事が分かり、帝国再建委員会は本気で国家再建を果たさんとしていることを改めて理解する。

 リィズ・ホーエンシュタインを初め、燕結芽(つばくろ・ゆめ)、ジェノサイダーセイジを自称する千葉セイジも含まれていた。他にも見知らぬ顔が何人か見える。男が何人か居るので、おそらくイヴ人部隊ではない。何処からか連れて来た何かしらの能力を持つ人間部隊だろう。隊長は魔力か能力を持つイヴ人であるようだが。それとカヤ率いるシェイファー・ハウンド戦闘団も居た。

 

「あいつ等が前に出せば良い物を。なんで私の隊が露払いなのだ」

 

 人間やイヴ人の能力者等を見たターニャは、自分の戦闘団がその露払い担当であることに不満を漏らした。あの一団は一個軍団以上の戦闘力だ。あれにガンダムや高性能バルキリー、不知火や武御雷、F-22Aラプター、Su-47ビェールクト戦術機等で編成されたイヴ人純潔機動兵器部隊を加えれば、軍集団に近い戦闘力となるだろう。

 

「ちっ、こっちには旧型機ばかりを寄越しおって。初代ガンダムやMSVのザクとジムなんぞ、ただの的だわ」

 

 一個師団以上の戦闘力はあるターニャの戦闘団であるが、本人はそれを理解していないようだ。陸軍混成機甲連隊に増員された旧型MSを見れば、そう思うのは無理もない。ザクとジムの豊富なバリエーションが揃っているが、一年戦争で使われた物ばかりである。明らかに自分ら戦闘団を盾にする気だ。

 

「お膳立てをしろと言うのだろうが、そうはいかない。奴らより先に、私があのクソチート野郎の首を刎ねれば良い事だ」

 

 自分ら戦闘団を盾にする気満々なイヴ人純潔部隊と能力者部隊に対し、ターニャは先に皇帝ラインハルトの首を刎ねれば良いと彼らを見ながら口にした。ここでラインハルトの首を討ち取れば、昇進は間違いないのだ。

 かくして、ターニャは安全な後方へ転属すべく、皇帝ラインハルトを討つ決心を固めた。

 

 

 

「フッ、他愛もない。スペースマリーンどころか、オルクにも劣る」

 

 一方、首都に潜入していたブーツホルツは親衛隊のドゴス隊長に正体を見破られ、戦闘状態となったが、傷一つ負うことなく勝利していた。否、圧勝していた。ドゴス隊長は得物のサーベルを折られた挙句、腹に大穴を開けられて死に絶えている。

 ドゴス隊長は常人を圧倒する能力を秘めているが、ブーツホルツからすれば低級の位であり、地獄のような世界でドゴスレベルの能力者を一度に大勢も相手にした彼からすれば、それらに劣る存在である。

 

「さて、これでやり辛くなったな。では、こいつに化けてでも…」

 

 人造魔導士である自分の身体に内蔵された機能を使い、ドゴス隊長に擬態しようとしたブーツホルツであるが、次なる新手で彼の潜入任務は失敗に終わった。

 

「むっ! 何奴!?」

 

 その気配に気づいたブーツホルツは、左腕の義手に搭載されたパルスレーザーの砲口を、気配のした方向へ向けた。そこに居たのは、十数名の女性兵士を率いる一人の青年であった。

 

「(なんだあの女兵士たちの服装は? この国は男尊女卑だと聞いたが。ヒールにミニスカート、それに露出度が高過ぎてとても戦闘向きではない。奴の愛人か?)」

 

 ブーツホルツは青年を囲う様にいる女性兵士らの服装を見て、兵士ではなく仮装した女性と思った。そう思うのは無理もない。華奢な身体つきに露出度の高い軍服とミニスカート、軍靴はヒールと言う物だ。それにライフルや拳銃らしき銃火器も持っていない。年齢も十代後半から二十代前半と言った若い女性たちだ。

 青年はパルスレーザーの砲口に臆するどころか余裕を見せ、ドゴス隊長に擬態しても何の情報も得られないと告げる。

 

「そんな雑魚に化けても、僕らの秘密は調べられないよ」

 

「そう悠長に喋っている場合か!」

 

 悠長に告げる青年に対し、ブーツホルツは何かしらの攻撃が来る前に排除すべく、パルスレーザーを発射した。並の人間なら肉片か焼死体と化しているだろうが、青年と周りの女性兵士たちは全くの無傷で、魔法障壁で防御されたようだ。これにブーツホルツは即座に距離を取り、左目の義眼の機能で相手を調べつつ何者かと問う。

 

「魔法障壁!? 何者だ貴様!」

 

「いきなり攻撃しておいて失礼と思うが、そのクエスチョンには答えないとね。僕はクルス来夏(くなつ)。正義の軍団所属、ハーレムアーミーの指揮官さ。そしてこれが僕の部下たちであり、理想の花嫁のハーレムアーミー達さ」

 

「この反応、貴様能力者だな? それにこいつ等は…そうか、貴様の使い魔たちか」

 

 その問いにクルス来夏と名乗る青年は、自身の能力「ハーレムアーミー」を自慢し、同時に花嫁たちだと紹介する。義眼の分析でクルスが能力者で、周囲の女性兵士たちが彼の使い魔であると分かった。

 

「使い魔? 人聞きが悪い! 彼女たちは僕の理想の女の子たちであり、理想の花嫁たちなんだ! 欠点だらけで口煩くて意地汚い三次元の女と一緒にしないで欲しいね! それと外見だけのイヴ人共も含めてね!」

 

「貴様、女性蔑視主義者(インセル)か。男尊女卑なのは間違いないな。呆れた奴だ。貴様は理想の女たちを捏造し、ハーレムを楽しむのに使うとは。能力の使い所を間違えた大馬鹿で陰険野郎だ。将軍や司令官なら喉から手が出るほどの能力だが、それを人形を愛でるのに使うとは…何と勿体ない! 将軍や司令官が見れば泣くぜ! こんな奴に使われるとな!」

 

 自身の能力であるハーレムアーミーで召喚した女性兵士たちを使い魔と表したブーツホルツに対し、クルスはその召喚した女性兵士らを自分の理想の女性であり、理想の花嫁たちであると主張した後、現実の女性や女性だけの種族であるイヴ人に対する嫌悪感を露にした。その常人なら避けるようなクルスの主張に対し、ブーツホルツは能力の使い所を間違えてる大馬鹿な陰険野郎と煽り返す。

 ブーツホルツの言う通り、クルスは能力の使い方を間違っていた。正確に言うなら、クルスには相応しくない能力と言える。軍人や参謀、将軍に相応しい能力だろう。

 ハーレムアーミーは自分の意のままに操れる使い魔をどれほど召喚できるか不明だが、戦略や戦術に長けた人間がこの能力を持てば、自分の意のままに動く組織を作るのに使う事だろう。そうすれば、命令に何の疑念や疑問を抱かない使い魔(へいし)たちによる軍隊の完成だ。これに軍事的知識が加われば、無敵と言っても過言ではない軍隊の完成である。数々の将軍や参謀、司令官らが喉から手が出るほど欲しい能力に違いない事は確かだ。

 ブーツホルツのこの指摘を交えた煽りはクルスを激昂させるには十分であり、馬鹿だと言われた彼は即座に配下のハーレムアーミーの三体にブーツホルツを攻撃させる。

 

「こ、この僕が大馬鹿野郎で陰険野郎だと…! それにこの素晴らしい僕には勿体ないだと!? これだから古臭い考えの男は大っ嫌いなんだ! 僕とその理想の花嫁たちを馬鹿にする奴は万死に値する!! ハーレムソルジャーたち、奴を八つ裂きにしろ!!」

 

「フン、やはり餓鬼だな! 煽られれば直ぐに怒る! 事実そうだろうが!」

 

「キャァァァッ!!」

 

 煽った程度で激昂して攻撃するクルスに対し、ブーツホルツはハーレムアーミーのソルジャー三体が繰り出すケリを躱しつつ反撃する。強烈な蹴りを一体のハーレムソルジャーの脇腹に叩き込んでやれば、華奢な腰のハーレムソルジャーは真っ二つに叩き割れ、内蔵を垂らしながら倒れる。そのハーレムソルジャーの惨たらしい遺体は、血痕共々煙のように消え去る。使い魔たちは実体はあるが、倒されればゲームで倒された敵のように消えるようだ。

 

「なっ!? よくも!」

 

「おい、その程度の反応か? みんな貴様の大事な嫁さんなんだろ? 旦那がその程度でどうするんだ! ほらっ、もう一体!」

 

 一体のハーレムソルジャーを倒されて悔しがるクルトに、ブーツホルツは煽りながら二体目を右拳の突きで腹を貫いて倒す。直ぐに引き抜き、三体目を続けて左腕の義手で叩き潰した。

 

「な、なんてことを!」

 

「勿体ない! 実に勿体ない!! そのハーレムアーミーとやらはお前には勿体ない能力だ! お前のような大馬鹿の陰険野郎ではなく、参謀や将軍が持つべき能力だな!」

 

「ぬぅぅ…! 許さないッ! この僕を馬鹿にしやがって!! ハーレムソルジャー、ハーレムトルーパー、ハーレムヘビィ! あのクソサイボーグをスクラップにしろォ!!」

 

 改めてハーレムアーミーこと「自分だけの軍隊(マイ・アーミー)」は参謀や将軍に相応しい能力であるとブーツホルツが煽るように告げれば、クルスの怒りは頂点となってハーレムアーミーを過剰召喚して攻撃させる。数はおよそ数百体であり、軍隊で言えば一個中隊規模の兵士が一斉にブーツホルツに襲い掛かる。

 

「(あの餓鬼なら小隊規模が限界と思ったが、中隊以上の戦力を出せるとは。流石の俺でもこれは厳しい。ここは一旦退くか)」

 

 なぜブーツホルツがクルスを煽り倒すかは、ハーレムアーミーの限界召喚数を探るためである。クルス程度なら小隊規模が限度だと思っていたが、中隊規模を召還したことで、召喚規模は未知数であると判断。このまま留まっていれば数に押されて敗北は確定なので、迷わずに撤退を選択した。周囲衝撃波魔法を使って群がるハーレムソルジャーたちを吹き飛ばし、上空に飛翔したブーツホルツは告げる。

 

「なんだぁ? 逃げるのか、腰抜け目」

 

「逃げる? 違うな、見逃してやるのさ。次の戦いで貴様は敗北だ。それを覚えておくが良い!」

 

 ブーツホルツは撤退しようとする自分を煽るクルスに向け、次はお前の負けだと告げて全速で飛ばし、首都から脱出した。

 

「フッ、次は僕が負けるだって? それはこっちの台詞さ。君たちは僕たち世界帝国(ヴェルト・ライヒ)の前に敗北する運命なのさ。精々粋がっているが良いさ」

 

 首都から脱出したブーツホルツに対し、クルスは自分らが世界帝国の方が勝つと自信気に告げる。

 

 かくして、四つの勢力、否、森に潜む者も含めた五つの勢力による首都決戦の火蓋が着られようとしていた。




また懲りずに活動報告にて募集しております。

気軽にご参加ください。


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首都決戦へ

名前:アルシエル・ル・ミシャ
性別:女
年齢:247歳
所属:ゲリラ
乗機:古代の機械混沌巨人(アンティーク・ギア・カオス・ジャイアント)【遊戯王】
概要:エルフの母とドワーフの父を持つハーフ。技術者でもある。
母を故郷の森ごと焼かれ、父と共にゲリラとして後方支援していたが、たまたま死ななかった自分を殺されなかった。
逃げ込んだ山奥の秘境に隠された古代の工場を見付け、絶え間ない努力で工場を再稼働させる。
皇帝ラインハルトに復讐すべく、無数の死者の怨念と自信を生贄にすることによって機械渾沌巨人を復活させた。
キャラ提供はkinonoさん


「ファイテックス! こいつが来ると言うことは、いよいよだな…!」

 

 大帝国の首都に対する決戦が迫る中、ターニャの特務大隊に特殊戦闘スーツ「ファイテックス」の着用が許可された。このターニャの身長を二メートルに伸ばす戦闘スーツを身に纏うのは、入植地確保の侵略戦争と撤退戦以降だ。

 これの着用許可が出ると言うことは、相当な激戦区に放り込まれると言う意味である。用意された銀翼の騎士を彷彿とさせる自身のファイテックスを見て、ターニャは覚悟を決める。

 

「私のファイテックスは? なんで壊れてるんだ? ちゃんと整備したのか?」

 

「そ、それが…昨日は大丈夫だったのに…どうして…!?」

 

「私だけ、S装備で出撃しろと言うのか…! 敵の工作員にやられたんだ! お前たちの責任だからな!」

 

 ターニャが自分のファイテックスの着用準備を進める中、副官であるアーデのファイテックスが壊れていることに、整備兵等に文句を言っていた。イヴ人整備兵たちは昨日までは大丈夫だったと言うが、アーデは八つ当たり気味に彼女らに怒鳴り付けた。

 これでアーデだけが、S装備と呼ばれる防弾性の低い戦闘スーツでの出撃を余儀なくされる。それは第十三大隊も同じだ。彼らにはファイテックスは無く、妬ましい目付きで特務大隊を睨んでいる。

 

「まぁ、目の保養にはなるな。あの胸、すげぇ分かるし」

 

「俺もだぜ。あんな爆乳、戦場で何処を探してもアーデちゃんだけだかんな!」

 

 ユーゴはアラサ・ンディアエと呼ばれるアフリカ系の同僚と共に、アーデのファイテックスが壊れたことを喜んでいた。彼ら歳若い隊員らにとって、アーデのあのスタイルは心の支えのようだ。

 

「(壊したの、お前らじゃないだろうな?)」

 

 喜ぶユーゴとアラサを見て、アーデのファイテックスを壊したのはあの二人では無いかとターニャは疑ってしまう。ターニャの経験上、ユーゴとアラサの両名はアーデを性的な目で見ている節があり、目の保養と表して壊したのではないかと疑うのは無理も無い事だ。

 

「全く思春期のガキみたいだねぇ、あの二人は」

 

「まぁ、ブラウトクロイツ少佐のようなイヴ人魔導士はそうは居ないからな」

 

「拙者も然り。なぜブラウトクロイツ少佐殿が軍人をしているのか理解できん。戦闘に向かない体型だ」

 

 ユーゴとアラサの反応ぶりを思春期の少年のようだと言うフェリーチェに対し、第3中隊の指揮官であるウィリーはアーデのような軍人はそうそう居ないと告げる。それに反応してか、第2中隊指揮官のアヤメはアーデの体格は軍人に向かないと生真面目に言う。そればかりか、無礼極まりない事まで口にした。

 

「あれで似合うのは娼婦か愛人、表なら女優だ。剣客時代、イヴ人の村の用心棒を無償で務める代わりに、娘の身体を…」

 

「それ以上言わんでいいよ。あんたに聞いた私が馬鹿だったよ」

 

 アヤメがアーデは軍人ではなく娼婦や愛人が似合うと言い、聞いても居ないのに剣客時代のことまで語ろうとしたので、フェリーチェは途中で打ち切る。

 

「さぁ、装備を身に纏おう。出撃は近い」

 

 空気が悪くなる中、ウィリーが出撃が近いことを告げれば、一同は自分のファイテックスを身に纏い始めた。ユーゴとアラサもそれに続き、自分用のファイテックスを装着し始める。

 

 ウィリーのファイテックスは、ヴィンデルの世界で入手した機動歩兵の最終生産型戦闘スーツのデータを参考に改造したタイプだ。重武装型を参考にしたようで、右側に自動旋回型ガトリング砲を装着し、左側には広範囲を爆撃できる多連装ロケットポッド一基が搭載されている。

 人間の兵士であるウィリーが専用のファイテックスを用意されるのは、特務大隊でそれなりの戦果を挙げたからだ。流石に連邦ほどの大規模な工作設備は持っていないらしく、火力は半分以下であるが。

 フェリーチェのファイテックスは、前の世界でODSTとなった際にその装備を気に入ったのか、無骨な感じの物となっている。そもそも持ち帰った専用アーマーを改造した程度であるが、彼女用のカスタマイズが施されている。ウィリーほどの重装備は施されていない。

 ユーゴは航空魔導士用ファイテックスのままであるが、近接戦を想定してか、腰に片手剣を納めた鞘を吊るしていた。武装も特務大隊のファイテックスと同じである。

 アラサはアフリカ系の出身であるのか、ファイテックスを祖先の民族の戦闘装備風な改造を施している。盾と槍はアガサやメイソンの甲冑と同じ素材で出来ている。

 第2中隊の指揮官であるアヤメは武者風味のファイテックスを身に纏い、左腰には大太刀と小太刀が装備されている。小火器は同様の物だ。

 第4中隊のシュルツのファイテックスは、特務大隊の隊員と変わりない装備であった。

 

「まぁ、これくらいの装備でなければ、突破できん防衛線だと言うことだ。むしろ助かる。これであのクソったれの首を取るのには苦労はしないだろう。さて、私の昇進の為に蹂躙させてもらうぞ、チート転生者」

 

 ファイテックスの着用許可を出されて心配したターニャであったが、これで皇帝ラインハルトの首を討ち取りやすくなったと上層部に感謝した。

 

 

 

 一方、首都で潜入調査を行っていたブーツホルツは脱出した後、南部方面に居るスミスと合流していた。

 

「なに、ハーレムアーミーが大帝国の予備戦力だと? フッ、童貞男のバービー人形集団が予備戦力になる物か。おそらく地下に真打を隠してるんだ」

 

 大帝国の予備戦力がクルスのハーレムアーミーかもしれないと報告したが、これにスミスは鼻で笑い、本命は地下に隠しているとブーツホルツに告げた。確かに彼の言う通り、クルスのハーレムアーミーが予備戦力になるとは思えない。

 スミスの本命の予備戦力は地下に隠してあるとの仮説は、説得力があった。ハーレムアーミーはそれを隠す陽動である可能性がある。

 

「とっ、なると…俺の潜入は無駄だったと言うことか?」

 

「そうなるが、これであの影の支配者を気取っていたジジイ共が信用できないと分かった。奴ら、皇帝の右腕にガセネタを掴まされていたようだ。そうなればもう用済みだな。確保してる陸軍のイヴ人部隊に始末させるか」

 

 これにブーツホルツは首都への潜入任務は無駄だったのかと問えば、スミスはあの影の支配者たちの情報はガセネタであると分かれば、無駄でないと告げた。

 脱出した影の支配者たちは既にワルキューレ陸軍の南部方面軍に属するイヴ人部隊が確保しているが、スミスからすればもう利用価値が無いので、彼女らに始末させる。それを伝える為、テーブルの上に置いてある通信機を起動させ、受話器を取って命令を伝える。

 

「俺だ。ジジイ共は始末しろ、もう用済みだ。女と奴らの財産は貴様らにくれてやる。二十歳未満は兵隊や工作員にするから殺すなよ?」

 

 その命令をスミスが伝えた後、銃声と悲鳴が通信機から聞こえて来た。それを何の躊躇いも無しに、イヴ人将兵らは実行したのだ。銃声が鳴り止んだ後、女性や子供の悲鳴が聞こえてきたが、そこでスミスが通信機を切ったので、後はどうなったか想像する他に無い。これをブーツホルツは表情を微動だにせず、同様すらもせずにただスミスを見ているだけだ。

 

「次は首都へ乗り込むぞ。その為に能力者を全て用意した。お前も万全な状態を保つ為、メンテナンスはしておけ。奴も来るぞ」

 

「元からそのつもりだ。正義の皇帝を抜かす悪党の首は、お前が呼び込んだ能力者たちで取ればいい。俺の狙いは奴だけだ。奴らに伝えておけよ、あの幼女に化けてる怪物は俺の獲物だと」

 

 あれをまるで何事も無かったようにスミスは気にせず、ブーツホルツに明日の決戦に備えて身体のメンテナンスをしておけと命じた。

 首都にはワルキューレだけでなく、帝国再建委員会も攻め込むのだ。当然、ターニャも首都を攻撃する部隊の中に居る。それを理解しているブーツホルツは、スミスが呼び寄せた能力者たちに手を出さないように告げ、部屋を後にした。

 

 

 

 地上の帝国再建委員会とワルキューレが首都へと大攻勢を仕掛けようとする中、衛星軌道上に待機しているアガサ騎士団の宇宙艦隊も、大帝国への首都攻撃を始めようとしていた。

 

「勇者殿、アルゴン王が攻撃の許可を出しました! それがその書面です」

 

 艦隊の旗艦を務める改ペガサス級強襲揚陸艦「タゴン」の艦橋内にて、アルゴン王のサインが入った攻撃の許可書を持った伝令が、それを丸太のような太い両腕を組み、仁王立ちする二メートル以上の巨漢に手渡す。

 その男は巨漢の通り筋骨隆々なおかっぱ頭のような髪形をした大男であり、見るからに逞しく、憧れの願望を抱かれる騎士の中の騎士のような容姿を持つ男だ。周りの騎士や部下たちからは勇者と親しまれているが、本名は分からない。

 

「王は許可を出したか。なればアルゴン王の期待、裏切るわけにはゆくまい! アガサとアルゴン王の為に、行くぞ兄妹たちよ!」

 

『おぉーッ!!』

 

「では、行くぞ! 攻撃開始!!」

 

 自分が使える王からの許可証を目にした勇者は、士気を高めるために腰に吊るしてある勇ましいデザインの剣を抜き、剣先を高く上げ、王命を果たすために大帝国の首都攻撃を敢行した。

 それに続き、周りの騎士たちも剣を抜いて勇者と同じく剣先を高く上げ、雄叫びを挙げる。周りの乗員たちや艦隊の将兵等もこれに続き、降下艇へと乗り込み、大帝国の首都への攻撃を始めた。

 

「アガサ騎士団、動きました!」

 

「彼奴等め、動きおったか! ダインスレイブ隊、装填後に安全装置解除! 賊軍と正義を名乗る悪軍共の兵共の血を啜り尽くすのだ!!」

 

 アガサ騎士団も動くならメイソン騎士団も動いた。アガサ騎士団が降下準備の動きを見せれば、メイソン騎士団も行動を超す。派遣部隊の隊長は、待機しているダインスレイブ発射型グレイズ部隊に、ダインスレイブと呼ばれる特殊徹甲弾を装填と安全装置解除を命じた。

 それに応じ、横一文字隊形で展開するグレイズの右側に装着されたダインスレイブ発射器に、作業用として使われているジムⅡが弾頭を装填していく。そのダインスレイブ隊の背後には、多数の予備弾頭を収納したコンテナが駐機されていた。そこから弾頭を取り出し、装填しているのだ。

 標的は西側から首都に侵攻しようとする帝国再建委員会であり、他にも東や北、南側にも照準を向けるダインスレイブ隊が見える。

 

「あの悪逆皇帝の首を討ち取るのは我らメイソン騎士団ぞ! 外野共が邪魔するでないわ! 降下部隊、直ちに降下準備! レッド・ツェッペリン隊がそろそろ目的地に転移するぞ!」

 

 派遣部隊の隊長は他の勢力にそう告げ、展開させている降下部隊に降下準備に入るように告げた。

 

 

 

 皇帝ラインハルトと大帝国の打倒を目指すのは帝国再建委員会にワルキューレ、アガサ騎士団やメイソン騎士団だけでない。かつて大帝国に抗っていた者も、その首と打倒を狙っていた。

 

「ようやくだ…ようやくこの時が来た…! 全機起動せよ!」

 

 東部に位置する山奥の秘境に隠された朽ち果てた古代工場の中で、小柄なエルフらしき女性が並べられた機械兵団を起動させた。

 軍隊の如く並べられ、彼女の掛け声に合わせて起動した機械兵団の個所にはバラツキがあるが、彼女の手先の器用さで問題なく一切乱されること無く稼働している。そればかりか、奥の方では巨大な機械兵「古代機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)」十数体も彼女の掛け声で稼働した。

 

「最後の仕上げは…」

 

 小型から超大型までの機械兵団を起動させた彼女は懐から短刀を取り出し、その刃を自分に向けて突き刺した。自分の背後にある禍々しい外見を持つ機械巨人を見ながら倒れる彼女は笑みを浮かべ、硬い床の上に倒れた。

 彼女の背後に居る古代の機械巨人「古代の機械渾沌巨人(アンティーク・ギア・カオス・ジャイアント)」はその死と同時に起動する。

 この古代機械巨人とは別格の機械巨人は再建造の際に死霊術が組み込まれており、この世界に蔓延する死者の念を取り込み、際限なく強くなるのだ。故に彼女は皇帝ラインハルトの首を討ち取る…否、家族と仲間たちの仇を取るためにアンティーク・ギア・カオス・ジャイアントを完成させたのだ。

 

 彼女の名はアルシエル・ル・ミシャ。この古代工場で機械兵団を結成させたことから、かなりの腕を持つ技術者だ。小柄なのはドワーフが父親であり、耳が長いのは母がエルフだからである。アルシエルは両者の血を引いたハーフなのだ。

 ドワーフの父親は技術者でエルフの母は機械知識に詳しかったらしく、アルシエルがこの古代工場を再稼働できたのは、残された資料を初め、両親の教育と受け継いでいたことが大きい。もっとも、再建には小型の機械兵を自前で製作して人手を増やしたが、それでもアルシエルの技術力が高い事には変わりない。

 

 なぜアルシエルが正義の帝国に対する復讐に走った理由は、先に述べた通り家族と仲間たちの仇討である。

 大帝国こと正義の帝国が建国されたと同時に皇帝ラインハルトの圧政は始まった。アルシエルの両親は善良な心を持っており、当然ながらレジスタンスに参加し、その圧政に抵抗した。だが、皇帝ラインハルトを初め、バウムガルデン率いる親衛隊と正義の軍団は技術力や士気の高さではどうにもならず、レジスタンスは壊滅、父とレジスタンスの仲間たちは圧倒的な力を前で散った。

 まもなく母の故郷の森も天変地異の力で焼かれ、母も死亡した。後方支援担当だったアルシエルも森に居たが、叶うはずもなく父と母の跡を追うかに思われたが、奇跡的に生存する。

 失意の中、追ってから逃れる為に逃げ込んだ山奥の秘境の洞窟の奥で、アルシエルはあの隠された古代の工場を見付け、そこから復讐のための再稼働作業を行い、今に至る。

 

『これは…? そうか、私はこの古代の機械巨人に魂を吸われたのか。これなら、奴に復讐できる…!』

 

 自らを犠牲にして完成させたアンティーク・ギア・カオス・ジャイアントには、アルシエルの魂が宿っていた。自らの肉体が古代の機械渾沌巨人に成り果てたのを確認したアルシオンは、これで皇帝ラインハルトと対等に戦えると認識する。

 

『父さん、母さん、みんな…私、行くよ。みんなの、みんなの仇を取るために…!』

 

 混沌の機械巨人となったアルシオンは、両親を含める仲間たちの慰霊に向けて告げた後、復讐の旅へと出た。

 目指すのは大帝国の首都。復讐の標的である皇帝ラインハルトを討つべく、アルシエルは大帝国の正義と言う名の暴虐の限りによって死んだ怨念を乗せた機械兵団を率いて向かう。彼女はただ復讐のみを考え生きて来た。今がその時だ。今こそ全てを果たす時なのだ。アルシエルの旅は、復讐を終えるか、自身の死によって果たされる。その時まで、彼女は止まることは無いだろう。

 

 かくして、大帝国の首都はそれぞれの想いにより、戦場都市(バトルシティ)と化すのであった。




次回は首都決戦ナノーネ!

戦場都市と書いてバトルシティナノーネ!

読者の皆様方の応募キャラが激突するノーネ!

取り敢えず、何か物足りないから、オリーブドライブさんに執筆作品のキャラを借りれるかどうか相談するノーネ!


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首都決戦(バトルシティ)その1

名前:ハードラック
性別:男
年齢:38歳
階級:アカ狩り隊少佐相当官
所属:アカ狩り隊
武器:ウィンチェスターM1873
概要:赤狩り隊の生き残り。運が無さそうな名前だが、敵に対しての意味である。
キャラ提供はG-20さん


 遂に首都決戦が開始された。

 攻撃開始はメイソン騎士団を除き、奇妙なことに帝国再建委員会、ワルキューレ、アガサ騎士団と同時であった。

 

「我が戦闘団が先発か。まぁ良い、能力で粋がる連中に我ら航空魔導士の実力を見せてやろう」

 

 帝国再建委員会の攻撃で先発を切る羽目になってしまったターニャであったが、昇進は確定なので、何処で手に入れたか空中空母のヘリキャリアにて温存される能力者たちに自分ら航空魔導士の実力を見せるべく、意気揚々と特務大隊と第13大隊を率いて敵陣に突撃する。

 ターニャと特務大隊全員はファイテックスを身に纏っているが、第13大隊はファイテックスは無く、前方から来る弾幕に対する防御手段は魔法障壁くらいしかない。第13大隊からは嫉みの視線を感じるが、ターニャはそんなことを気にするタマではない。直ぐに面制圧に長けた武装を持つウィリーと彼の第3中隊に攻撃を命じる。

 

「アーメンガード大尉、目前の敵防衛線に攻撃! 面制圧だ!」

 

「了解! 第3中隊、広範囲榴弾発射!」

 

 その指示に応じ、ウィリーと彼と同じ多連装ロケットポッドを持つ第3中隊の面々はロケット弾を発射した。ロケット弾はそれぞれ照準した目標に向けて飛んでいき、頭上に到達すれば内包された小型爆薬を広範囲にばら蒔き、目標に居た敵兵ら多数を殺傷する。対バグズ用の武装であるため、バンカーや車両、機動兵器には効果はないが、生身の歩兵には脅威である。

 

「敵歩兵、多数殺傷!」

 

「敵グライダー並び能力者部隊接近!」

 

「あれはグリーンゴブリンのグライダーではないか! この世界では正式化兼量産されているのか。ヘリキャリアに近付けるな! 排除しろ!」

 

 敵歩兵を多数殺傷した後、ターニャが知る敵が乗っていたグライダーと飛行能力を持つ能力者か魔法使い多数が接近してくる事を知らされた。ターニャはグライダーの方に驚いたが、即座に迎撃を命じた。

 

「今日のテメェらの運勢はハードラックだ! なんたってこのハードラック様が来たからな! テメェらはここで終わり…」

 

 グライダーの上に立つハードラックと言う名の大男は、ウェンチェスターM1873と言う古めかしいライフルでヘリキャリアを数名と共に襲おうとしたが、S装備と呼ばれる特殊な航空魔導士用装備を身に着けたアーデの攻撃を受け、随伴者と共に蒸発した。

 

「ファイテックスが良かった…この装備は通常の物より高いが、身体のラインが浮き出て困る」

 

 S装備はファイテックスほどの防御力は無いが、魔力を増幅する機能を備え、機動力も通常の演算宝珠と飛行ユニットと大差はない。これにアーデが不満を抱く理由とは、自身の身体のラインが浮き出てしまう事だ。

 彼女の身体つきはとても軍人とは思えない物で、胸は大隊のどの女性やイヴ人よりも大きく、男性の目線を引き寄せるには十分だ。それがS装備で浮かび上がるのだから、アーデは羞恥心を覚えるのは無理はない。男性陣は喜んでいるが。

 

「へへへっ、あの女は頂きバスッ!?」

 

「おいクソ変態共、うちの副隊長殿をエロい目で見てんじゃねぇぞ! テメェら正義の帝国じゃねぇのか? 悪の帝国の間違いじゃねぇのか?」

 

 グライダー隊と低級能力者たちはアーデのS装備で浮かび上がった妖艶な肉体を見て興奮し、一斉に襲い掛かったが、ユーゴの拡散術式の攻撃を受けて壊滅する。それから正義の帝国なのに、悪の帝国なのかと問い詰める。

 

「うるせぇぞこの赤軍か人民軍か分からねぇ野郎共が! アカは絶対悪で俺たちが正義なんだよォ!!」

 

「まっ、正義を名乗ってる時点で、お察しだがな」

 

 悪の帝国と言われた大帝国のグライダー隊と能力者部隊はその問いに激昂し、一斉にユーゴへと襲い掛かったが、ファイテックスを身に纏う青年は動じずに腰の片手剣を抜いて構える。

 ユーゴにはこの集団を斬り伏せる自信があるのだ。だが、それはアフリカ原住民の血を引くアラサに取られる。

 

「オラオラ! スコア更新だぜ!!」

 

 アラサは投げ槍で一人を串刺しにした後、ファイテックスのパワードアシストを使った盾による打撃で二人目の首を弾き飛ばす。そこから落下する敵兵から槍を素早く引き抜き、周囲に居る敵兵らを次々と刺し殺すか喉を引き裂く。

 

「おい! 何やってんだよ!? ここは俺が格好良くこの剣で叩き切ってやろうと思ったのに!」

 

「あっ、そうだったのか? そんな悠長に構えてたら、やられちまう、ぜ!」

 

「うぉ!?」

 

 自分の獲物を取るなと言うユーゴに対し、アラサに悠長に構えていたら死ぬと、彼の背後に回った敵兵に向けて槍を投擲して見事に当てた。無論、気付かない上に行き成り槍投げをするアラサにユーゴは驚きの声を上げる。

 

「危ねぇだろうがぁ! 投げる前に言え!」

 

「だったら背中に目でも付けるんだな! そいっ!」

 

 次からは言えと言うユーゴに、アラサは周辺の敵を倒しながら槍を回収しに向かった。

 

「あいつ等、何やってんだい」

 

 ユーゴとアラサのやり取りを見ていたフェリーチェは呆れつつも、抱えているMG3汎用機関銃を掃射し、向かってくる敵集団を一掃する。

 

「今度はバルキリーかい。それにMSも居るね。普通なら手を焼くけど、今はこいつを着てるからスクラップに出来るね!」

 

 グライダーや能力者集団を機銃掃射で一掃したフェリーチェに向け、VF-11Cサンダーボルト等を初めとした多種多彩なバルキリーと、ティターンズ系やネオ・ジオン系などのMS部隊が襲い掛かる。

 通常の装備なら何名かと連携して対応している所だが、今のフェリーチェはファイテックスを装備して戦闘力が上がっている。攻撃をかわしつつ、手にしている機関銃から発射される弾丸を強化し、破壊力を挙げたその弾幕で破壊していく。

 

「へっ、今なら空中戦艦だってぶっ潰せるよ!」

 

 自分に向かってきたバルキリーとMSの集団を一掃したフェリーチェは、MG3の加熱した銃身を排出し、予備の銃身を装着してから戦闘を継続する。

 これが特務航空魔導士大隊の中で最強とも言える第1兼大隊本部中隊の戦闘力である。一人一人の実力がネームド級の上位であり、この中隊だけで航空魔導士一個連隊の戦闘力を秘めているとも言われている。事実上、第1中隊だけで敵の進軍を止めていた。

 

「第3中隊、ディフェンス・フォーメーションD! 敵航空部隊にチェーンガン掃射!」

 

 その元第1中隊所属で現第3中隊指揮官であるウィリーは部下等に防御用の陣形を取るように命じ、ヘリキャリを破壊せんと押し寄せる敵戦闘機や攻撃機、戦闘ヘリに向けて自身と同じく右肩にミニガンを装備した部下等に掃射を命じる。

 この弾幕で敵航空機群は蜂の巣にされ、次々と被弾して墜落していく。元第1中隊の航空魔導士に率いられた第3中隊も第1に負けに劣らずの実力であった。

 

「この先より、一歩も進めると思うな! 下郎共!!」

 

「ふざけやがって! 正義の鉄槌を受けて見ろ!!」

 

 イヴ人部隊である第2中隊を率いるアヤメはライフルを下げてから腰の大太刀を抜き、ヘリキャリアへと押し寄せるグライダー隊と能力者、機動兵器の集団に向けて告げる。

 これに激昂した大帝国軍は押し寄せたが、アヤメが刀身に魔力を込めた斬撃を放てば、その斬撃は巨大な刃となり、押し寄せる大帝国軍を切り裂いた。

 

「な、なんだ!? 突っ込んだ連中が真っ二つに!?」

 

「て、敵が!? グワァァァ!!」

 

 向かった全ての大帝国軍がアヤメの斬撃で真っ二つに切り裂かれる中、背後に居るイヴ人の部隊は散会し、浮足立つ敵軍に情け容赦なく強化魔法の弾丸や魔弾を浴びせ、敵に更なる損害を与える。

 第1や第3中隊程ではないが、それでも特務大隊所属であってか、イヴ人のみで編成された第2中隊もネームド級であった。特に魔力面は中隊より秀でているようで、敵の攻撃を防御しつつ反撃を行い、ヘリキャリアや自身への接近を許さない。

 

「俺たちも忘れんなよ! 第4中隊をよ!」

 

 第1から第2、第3中隊ばかり目が行くが、第4中隊もネームド級の集まりだ。率いているが元第1中隊所属のシュルツであり、彼の指揮と経験のおかげで押し寄せる敵を留める所か押し返していた。

 

「これ、俺たち必要か? あいつ等だけで敵を押し返しているぞ…!」

 

「流石は委員会史上最強の航空魔導士部隊ですね…! 私たちは幸運ですよ、彼らの敵ではないのですから」

 

 第13大隊に属するアーペントラウフェンとゴズンはターニャ率いる特務大隊の活躍ぶりを見て、敵出なくて良かったと口にする。事実、隊を率いるターニャですらファイテックスを身に纏っただけでただでさえ高い戦闘力が向上し、敵の空中戦艦三隻を随伴機諸とも単独で殲滅している。

 

「ちっ、俺たちよりいい装備しやがって!」

 

「あれほどの装備をしておれば、当然の活躍よ!」

 

 ファイテックスを身に纏って一個師団相当の敵を殲滅する特務大隊に対し、フリードリヒ、ダカール、石動、ジョシュア、キテスは嫉みの目を向ける。一元は茫然としていたが。

 そんな彼らにも敵は迫る。敵は特務大隊の方へ回っているだけでない、側面からも敵は来ているのだ。それにアーペントラウフェンは部下等に迎撃を命じる。

 

「お客さんだ! 俺たちも対応するぞ!」

 

「了解!」

 

 向かってくる敵集団に対し、第13大隊も迎撃を行う。異常な特務大隊ほどでは無いにしろ、ターニャの戦闘団に組み込まれるだけの戦闘力は有しており、背後に控えているイヴ人純潔部隊の航空魔導士連隊に獲物を寄越さない程であった。

 

「特務大隊ほどではなないにしろ、人間もやりますね」

 

「気に入りませんね、お膳立ての癖に」

 

「まぁ良いじゃないですか。私たちの本命は首都決戦なのですから」

 

 連隊で貴族大隊を率いるチェルシー・ライラ・アディンセルは部下の第13大隊の活躍ぶりを褒める発言に対し、気に食わないと口にする。それに部下は首都決戦で温存できるから良いと告げた。

 

「それも良しですわね。警戒は解かない事よ。人間や亜人が敵を幾つか見逃す可能性がありますから。地上の方でも敵が何機か抜けたとの報告もありますわ。地上にも目を配りなさいね」

 

 特務大隊や13大隊が幾つかの敵を取りこぼす可能性があるので、チェルシーは自分の大隊の者たちに警戒するように告げる。地上の方は空以上とは行かず、何機か抜けられているので、地上にも目を配るようにも告げる。

 

「このまま空中空母を下から! どわっ!?」

 

 地上を進軍する陸軍の防衛線を抜けた敵機の一機がヘリキャリアの真下を狙おうとしたが、戦闘団のMS大隊に属するヘルマンのガンイージのビームライフルの連発を受けて撃破される。

 

「ちっ、陸軍のイヴ人は何やってんだ? 五機も抜けられてるぞ」

 

 撃破して早々に悪態をつくヘルマンであるが、それでも防衛線を抜けて来る敵機の対処に回る。

 

『最終防衛線突破! 北と東、南からワルキューレ…!? それに上空から…!』

 

「なにッ!? 首都攻撃は我々だけでないのか!?」

 

 それでも帝国再建委員会が首都へと進撃を続け、やがては最終防衛線を突破して大帝国の首都へと入った。それはワルキューレも同じこと。西を除く方向からワルキューレの侵攻部隊が首都へと雪崩れ込んだのだ。凄まじい物量で迫り、西以外の反応は全てワルキューレの部隊である。そればかりではない、上空からアガサ騎士団も降下して来たのだ。

 二つの勢力が首都へ雪崩れ込んだことを聞き、ターニャは激しく動揺する。だが、その二つだけでない。三つ目であるメイソン騎士団も、ターニャたちの背後から現れたのだ。ダインスレイブの掃射の後に…。

 

 

 

「もう首都の喉元まで敵の進軍を許したのか」

 

「情けねぇ。これだからYAP遺伝子のねぇ野郎共は」

 

 時は遡り、帝国再建委員会とワルキューレの首都攻撃が始まった頃、バウムガルデンは配下の正義の軍団(ユスティーツ・アルメーコーア)を集め、軍議を開いていた。

 連続した砲撃の着弾音が首都の宮殿まで聞こえる中、専用の椅子に腰かけるバウムガルデンは首都にまで敵が迫ったことを悟る。これに軍団の一人であるPAYと呼ばれる名前にしては日本人過ぎる男は、ある遺伝子が無いからこうなると前線の将兵等を嘲藁う。

 

「どうします? もう正義の帝国の軍隊は壊滅したも同然。戦力になるのは親衛隊とこの僕のハーレムアーミー、あなたの正義の軍団、それに十数万の能力者軍団だけですよ?」

 

 追い詰められているにも関わらず、全く慌てる様子もなくクルスはもう戦力は親衛隊と自分のハーレムアーミー、十数万の能力者軍団だけだとバウムガルデンに告げる。

 

「承知している。だが、首都で彼奴等と決戦を行うのは想定の範囲内だ。彼奴等は己の力を見せ付ける為、皇帝陛下の首に群がり、どちらが討ち取るかで争いもしよう。そこが我が正義の帝国の勝利、否、世界帝国(ヴェルト・ライヒ)への進化にして勝利への道よ!」

 

 全ては自分の想定通りであると、クルスにバウムガルデンは返す。そしてこの戦争が世界帝国建国にして勝利に終わるとも宣言する。追い詰められているにも関わらず、自分らの勝利を宣うバウムガルデンは、会議室に集合した者たちに戦闘準備を行う様に指示を出す。

 

「さて、彼奴等が首都に雪崩れ込んでくるのは、以て数時間と言う所だな。各々戦の準備をせよ! この決戦に勝利し、我が世界帝国の建国を宣言するのだ! そこからこの世界全土を我が帝国の領土とする! 勝利は我らの物よ!!」

 

『おぉーッ!!』

 

 その指示に応じ、会議室に集合した正義の軍団と親衛隊幹部、能力者部隊の隊長たちは拳を高く突き上げ、雄叫びを挙げた。

 

 正義の軍団並び親衛隊幹部、能力者部隊隊長の一覧は以下の通り。

 

 軍団長兼親衛隊総司令官:エーレンフリート・ロホス・ティモ・フォン・バウムガルテン

 二番手:東条武夫(とうじょう・たけお)

 三番手:クラウン・ホワイト・キング

 四番手:PAY

 五番手:七呂太郎(なろ・たろう)

 六番手:ノミド

 七番手:ラッキー・ボーイ

 八番手:サクラダ

 九番手:グンター

 十番手:ハイモ

 十一番手:マースル・グッド・フォクト

 

 親衛隊幹部

 親衛隊副司令官:アードリアン

 皇帝護衛連隊連隊長:バルトルト

 首都防衛軍司令官:クリストハルト

 親衛隊能力者部隊司令官:ファビアン

 首都防空軍司令官:ゲルルフ

 親衛隊対テロ部隊司令官:ゴットロープ

 

 能力者部隊隊長

 能力名「ハーレムアーミー」:クルス来夏

 能力名「大鬼化」;バットギズ

 能力名「異議」:ベレニケ

 能力名「擬態」:ロット・ロット

 能力名「巨像兵」:ゲルニ

 

 以下の正義の帝国こと世界帝国が首都へ侵攻する帝国再建委員会とワルキューレを待ち受けていた。




名前しかない特務大隊のレギュラーメンバーの活躍ぶりを書いた。

次回はダインスレイブ発射からの首都決戦かな。


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首都決戦(バトルシティ)その2

名前:クイーシャ・ノリト
性別:女
年齢:18
階級:軍曹
所属:ワルキューレ 対能力者部隊
乗機:ヤッターワン
概要:ヤッターマンではない少女。ヤッターワンはオリジナルと同様だが、クイーシャ共々謎が多い。

名前:バナナ
性別:雌
年齢:十歳
階級:無し
所属:ワルキューレ 対能力者部隊
武器 内蔵型兵器
概要:耐久力が高いサイボーグモンキー。クイーシャとヤッターワン同様に謎が多い。
キャラ提供はケツアゴさん


 帝国再建委員会のターニャの戦闘団を含める首都攻撃部隊が首都へ到達した直後、衛星軌道上に居るメイソン騎士団の派遣部隊は、予め整列させていたダインスレイブ隊に、凄まじい貫通力と破壊力を誇る戦略級兵器である特殊徹甲弾「ダインスレイブ」を発射した。

 

『ダインスレイブ、発射!』

 

 派遣部隊の隊長の号令と共に、ダインスレイブ発射器を右半身に搭載したグレイズ数十機が、標的にしている西側から首都へ侵攻する帝国再建委員会の頭上より破壊剣の名を持つ特殊徹甲弾を放つ。

 パイルバンカー方式で発射された特殊徹甲弾は首都を守る大帝国軍を攻撃する帝国再建委員会の侵攻部隊に降り注ぎ、双方に凄まじい損害を与える。

 

「第一射、命中!」

 

「観測班より報告! 破壊剣、双方を切り裂く! 繰り返す、破壊剣、双方を切り裂く!」

 

「機甲騎兵団は直ちに降下開始! 賊軍やワルキューレ、アガサに者共より先に、悪逆皇帝ラインハルトの首を討ち取るのだ!!」

 

 帝国再建委員会がダインスレイブの掃射で大損害を被ったとの報告を受ければ、隊長は待機させていた降下部隊に大気圏突入を命じる。それに応じ、ジオン軍のHLVやザフト軍の降下ポッド等を初めとした降下艇で大気圏に突入し、目標へ向けて降下していく。

 

『アァァァッ! 痛い! 痛いぃぃぃ!!』

 

「い、一体何が…!?」

 

 大帝国軍と乱戦状態となっていた帝国再建委員会の侵攻部隊は、ダインスレイブによる掃射により壊滅的被害を受けていた。無線機から味方の悲痛な叫び声が上がる中、ボロボロのEF-2000タイフーン戦術機に乗るイヴ人の衛士は額から血を流しながら空を見る。

 強化装備のヘッドフォン越しの映像に見えたのは、空から大量に降下してくるメイソン騎士団の赤い機甲兵団であった。MSのグレイズシリーズを初め、レギンレイズ、ジンクスⅢ、アヘッドなどの赤いMS等がHLVと共に地上へと降りて来る。

 

『こ、こいつめぇ! ぬわぁぁぁ!!』

 

 ダインスレイブを受けても、奇跡的に生き延びたマラサイがビームサーベルを抜き、降下用グライダーから降りたグレイズ・リッターに斬りかかったが、最低限の動きで躱されて腰から素早く抜かれたナイトブレードで胴体を切り裂かれる。

 

「フン、死にぞこないが! 総員、標的は我ら以外の反応だ! 我ら以外の赤を攻撃せよ! 繰り返す、我ら以外の赤を攻撃せよ!!」

 

 半壊したマラサイを切り裂いたグレイズ・リッターに乗る赤いサーコートを身に纏うメイソン騎士団の騎士は剣先を高く上げ、周辺に居るメイソン騎士団以外の者は全て攻撃しろと指示を出す。それに応じ、地上へと降り立ったメイソン騎士団の機動兵器は自分ら以外の全ての物に攻撃を始める。

 着陸したHLVや降下艇より、続々とグレイズ・シルトやKMF(ナイトメアフレーム)、セイバータイガー、レッドホーン、レブラプターを初めとしたゾイド等が騎兵や騎士たち共に降り、ダインスレイブの着弾で混乱する大帝国軍に襲い掛かる。

 

『クソっ、いきなり現れやがって! 死ねぇ!!』

 

 自分ら以外の物に攻撃するメイソン騎士団に対し、手負いの大帝国軍は反撃するも騎士の技量は高く、躱されて近接武器で次々と潰されていく。あるいはライフルを撃ち込まれて撃破される。上空からもジンクスやアヘッドなどの粒子ビームを持つ機体の攻撃もあり、蜂の巣にされて撃破された。

 

「や、止めろ! 止めてくれぇ!」

 

 負傷して命乞いをする大帝国軍にメイソン騎士団は容赦なく、その手に握られた剣を突き刺す。抵抗する者がいるが、赤い騎士たちが身に纏う甲冑はシルバリー合金で出来ており、銃弾を通さなず、反撃した兵は槍で貫かれるか弓兵が放つ矢で殺害される。

 ダインスレイブの後に降りて来たメイソン騎士団に、大帝国軍は虐殺されるばかりであった。

 

「メイソン騎士団…!? こっちに来る!」

 

『反撃よ! どうせあれは誤射じゃない! あいつ等め、殺してやる!』

 

 大帝国軍のみならず、メイソン騎士団はダインスレイブで被害を受けた帝国再建委員会にもその刃を向けた。ホバー移動でライフルを討ちながら接近するグレイズ三機に対し、ボロボロのF-15J陽炎に乗る衛士は上官の指示に応じて機体の右手にまだ握られている突撃砲を撃ち込む。

 損傷機による弾幕を元気なグレイズに乗る騎士らは避けながら接近し、左手に持ったバトルアックスをジャンプユニットへ向けて叩き込み、機動力を奪う。

 

「しまっ…!? がっ…!」

 

 そこから背後に控える二機目が胴体へ同じバトルアックスをコクピットがある胴体へ叩き込み、乗っている衛士を圧殺する。残っている陽炎は後退するためにジャンプユニットを噴射させるが、飛んだところでライフルやバズーカで撃ち落とされるか、追い付いたグレイズの左手に足を掴まれて地面に叩き付けられ、持っていたハルバートの戦端の槍を突き刺されてとどめを刺される。

 上空ではダインスレイブを奇跡的に躱したガンイージやガンブラスター、バルキリー等が抵抗していたが、いきなり現れたメイソン騎士団の数は多く、撃破されるばかりだ。地上へ逃げても、グレイズやレギンレイズ、ゾイドなどが待ち受けており、降りたガンイージの一機はトラの大型ゾイドであるセイバータイガーに取り付かれ、胴体を食い潰されるだけだ。

 装甲車両などはMSに蹴飛ばされるか踏み潰されており、あるいは騎士や兵士に引きずり出され、刀剣類で殺害されていた。

 

「畜生が! こんなところで死んでたまるか!!」

 

『フン、こいつは人間の男か! イヴ人に毒されたか?』

 

 生き延びたイヴ人の将兵等が乗る機動兵器や装甲車両が撃破されていく中、獅電やランドマン・ロディに乗る人間の将兵等もメイソン騎士団の標的にされていた。抵抗する獅電のパイロットにレギンレイズに乗る騎士は、機体のホバー機動で決死の抵抗のライフルの掃射を避けつつ接近し、バトルブレードを叩き込んで敵機を転倒させた後、とどめの二撃目を胴体にお見舞いしてパイロットを圧殺する。

 

()だ! 嫌ァァァッ!!」

 

 EF-2000戦術機に乗る衛士は集団で襲い掛かるヴェロラプトル型の小型ゾイドであるレブラプターに恐怖し、錯乱しながら突撃砲や銃身下部の滑空砲を乱射するが、どれも当たることなく取り付かれ、両手の爪で胴体を抉られて殺害された。

 

「ひっ…!? 首都付近に進出した全部隊、壊滅状態…!」

 

「メイソン騎士団が何で…!?」

 

「メイソン騎士団、大帝国軍を排除しつつこちらへ接近! 合同選抜隊を除く首都攻撃に向かった部隊が後退許可を求めています!」

 

 次々と消える反応と通信機から響き渡る悲鳴に前線指揮所は恐怖を覚える。指揮官はメイソン騎士団の到来に混乱する中、これにレーダー手は冷汗を掻きながらメイソン騎士団がこちらへ向かってくる事を知らせた。

 

 

 

「なにッ、西からメイソン騎士団だと!? あのダインスレイブは連中の仕業か! アガサのみならず、メイソンまでお出ましか! クソったれ!!」

 

 衛星軌道上より一斉に放たれたダインスレイブ着弾は、首都に雪崩れ込んだワルキューレに随伴していたミッシングリンク隊のスミスにも見えていた。

 その前にターニャの戦闘団と帝国再建委員会の選抜精鋭部隊を初め、アガサ騎士団も首都に乗り込んでおり、迎え撃とうとする皇帝ラインハルトとバウムガルデン率いる正義の軍団や親衛隊と対峙している。ここにメイソン騎士団まで増えるのだ。スミスが苛立つのも無理はない。

 

「ちっ、数年前の大侵攻であれだけやられたのに懲りずに来やがって! アガサの奴らにはあちらが攻撃して来ない限り手を出すなと伝えろ! メイソンの奴らはこっちにも仕掛けて来ないはずだ! 向こうが撃つまで、イヴ人のテロ組織や正義だと抜かすクソ共だけを攻撃するんだ!!」

 

 手を出さないとは思っていた二つの騎士団の出現にスミスは苛立ちながらも、配下と首都へ雪崩れ込むワルキューレに撃ってこない限り攻撃をしないように指示を出す。同じワルキューレの傘下なので、表面上は味方なのだ。

 

「後続は!? どうなっている!? ホエールキングが見えるぞ!!」

 

『後続はダインスレイブによってほぼ壊滅! あちらにもメイソン騎士団が現れ、首都侵攻軍の残存部隊と交戦中! 我々だけで対処するしかない!』

 

 友軍がダインスレイブで吹き飛ばされるのはターニャたちにも見えていた。次元転移で自分らの背後に現れたクジラ型の超巨大ゾイドであるホエールキングが十五機も現れたのを見たターニャが本部に状況を確認する中、本部は自分らだけで何とかするしかないと返してくる。

 その通信の後、ターニャは前と後ろに視線を向け、改めて退路が無い事を確認する。前には標的の皇帝ラインハルトを初めとした大帝国軍とワルキューレ、何故か上から降下してくるアガサ騎士団。後ろには友軍をダインスレイブで一掃し、生き延びた残存部隊を蹂躙しているメイソン騎士団。これにターニャは逃げ出したくなる気持ちを覚え始める。

 

「(く、クソ…! 逃げようにも逃げられん! ワルキューレにでも投降するか…?)」

 

 前に圧倒的な物量、後ろに血の気の多い赤い騎士団に挟まれたことによりターニャはマシとも言えるワルキューレにも投降しようと思っていたが、配下の戦闘団に属する一人の航空魔導士が単独で皇帝ラインハルトの陣に突っ込む。それはフリードリヒであった。

 

「フハハハッ! このフリードリヒが皇帝ラインハルトの首は頂きだ!!」

 

 凄まじい速度で第13大隊を抜け、ランスを前に突き出し、迎え撃つために上空を側近や重鎮らと共に飛んでいる皇帝ラインハルトを目指して突撃する。

 

「貴様、皇帝陛下に近付こうなどと!」

 

 親衛隊能力者部隊の兵士らが突撃するフリードリヒを止めようとするが、ランスに串刺しにされるだけで止められない。

 

「邪魔だ雑魚共! 皇帝ラインハルト、このランスで串刺しにしてくれるわ!!」

 

「ほぅ、これは既知ではありませんな。皇帝陛下、手出しは無用ですかな?」

 

「あぁ。手出し無用だ」

 

 護衛の能力者数名を弾き飛ばしつつ接近してくるフリードリヒに対し、バウムガルデンは手を出さなくて良いのかと問えば、皇帝ラインハルトは不要と答え、何もせずにランスが突き刺されるのを待った。

 

「死ねぇ!! えっ?」

 

 ランスの間合いに入ったところで、ランスを突き刺したフリードリヒであったが、いつの間にかラインハルトが背後に回っていた。これに間抜けな声を挙げてしまったフリードリヒに、ラインハルトはその背中を手刀で貫く。腹を貫かれたフリードリヒは訳も分からず、悲鳴を上げた。

 

「ぎぇやァァァッ!? な、なんだこれわぁ!?」

 

「テンプレ通りだな。前もこんな悲鳴を上げてる奴が居たぞ? たくっ、今度は楽しめるんだろう、なぁ!?」

 

「ギャァァァッ!? た、助けてェェェ!!」

 

 貫通されて叫ぶフリードリヒに対し、ラインハルトは地面に向けて振り払う。右腕の手刀を勢いで抜かれ、地面に向けて吹き飛ばされたフリードリヒは助けを乞うも、誰も圧倒的な強さを持つ皇帝ラインハルトに圧倒され、助けようともしなかった。

 

「ばわっ!」

 

 そのままフリードリヒは固い街路に叩き付けられ、身体はトマトのように潰された。

 

『あの、大尉の…』

 

「はぁ? 知らないわよ、あんなおっさん! それよりアイツ、S級どころじゃないじゃない!」

 

 フリードリヒが叩き付けられた光景は娘であるVF-31Cジークフリートに乗るノヴァーナにも見えていたが、部下の問いに対し彼女は全く気にすることは無く、皇帝ラインハルトの圧倒的な力に驚愕していた。

 

『な、なんて力なの…!?』

 

「凄まじいな…! さっきの奴はネームド級だぞ、奴の実力は一体…!?」

 

「六度も俺たちを退けた奴だ。おまけに周りの奴らも強い! 畜生が! 余計な真似をしやがって!」

 

 その光景はスミスたちにも見えていた。機動兵器に乗る者たちが圧倒的な戦闘力を持つラインハルトに動揺を覚える中、ブーツホルツもネームド級のフリードリヒでも容易く倒されてしまったことに動揺していた。これにスミスは皇帝ラインハルトだけでなく、バウムガルデンを初めとする周辺の者たちも強くなってると告げる。

 

「我ら、赤翼(せきよく)魔導騎士隊! 皇帝ラインハルト、その首もらい受ける!」

 

「貴様ら如きこの親衛隊で十分! 死ねぃ!!」

 

 事実、真上から襲い掛かったメイソン騎士団の航空魔導士とも言える鷲のような甲冑を身に纏う空中魔導騎士数名が、ハエの如く落とされていた。魔導騎士を撃ち落としているのは、皇帝ラインハルトではなく、バウムガルデンの正義の軍団とバルトルト率いる皇帝護衛連隊であった。

 

「我は皇帝陛下の盾! このバルトルトの防衛線、容易く抜けられると思うな!」

 

 Hi-νガンダムとMSのナイチンゲールが融合したかのような外見を持つ大型MS「ハイゲール」を駆るバルトルトは、六基のフィンファンネルと十基のファンネルを展開し、皇帝ラインハルトを討たんとするメイソン騎士団とワルキューレの機動兵器多数を撃破する。

 

「勇者殿…! 我々で勝てましょうか!?」

 

「配下も信じられぬ強さだが、我々はやるしかないのだ!」

 

 改ペガサス級強襲揚陸艦「タゴン」の甲板に立つアガサ騎士団の派遣部隊の長である勇者にも、皇帝ラインハルトと配下の者たちの圧倒的な強さは見えていた。

 これに配下の騎士はスミスやワルキューレと同じく恐れ戦く中、勇者はアルゴン王とアガサ騎士団の為に行くしかないと告げ、自分専用のライオン型の演算宝珠に跨る。

 

「我はアガサ騎士団の勇者なり! 例え敵が天変地異の力を持つ神の如く者でも挑む覚悟! 総員騎乗! 王の為、王国の為に悪逆非道なる皇帝ラインハルトを討ち取るのだ!!」

 

『おぉーッ!!』

 

「兄妹たちよ! 勇者殿に続け!!」

 

 付き人よりライオン型の兜を受け取った後、それを被ってから腰の鞘から抜いた剣を高く突き上げ、騎士団の士気を高めて出撃する。その後を同じだが地味な配色で同じライオン型の演算宝珠に跨った魔導騎士たちが勇者に続き、地上には騎士や騎兵、グレイズとレギンレイズ、ゾイドと言った部隊が展開する。上空にはジンクスⅣを初め、可変系MSであるウーシァやマックナイフが展開していた。

 

「アガサめ、士気が高いな。やはり勇者自ら出陣すれば、奴らも士気が上がるか」

 

「フン、なればこちらも出るまでよ! 奴の首はこのモーリック王の息子、グエンスが討ち取る!」

 

 モーリック王の皇帝ラインハルト討伐の命を受け、赤い鷲のような甲冑を身に纏うレッドホークは腕組みしながら勇者が出陣したのをホエールキングの巨体の上から確認すれば、隣に立つメイソン騎士団のシンボルが描かれたマントを張襖若い騎士は、それを脱ぎ捨てて自らの甲冑を披露する。その甲冑はレッドホークと同系統であるが、グエンスがモーリック王の子息であるためか豪勢なデザインをしていた。

 

「モーリック王の息子にしてメイソン騎士団赤翼騎士二番隊隊長、第三王子グエンス・ジュラーク・パトリック・モーリック、参る!!」

 

 同じく父の命を受けているグエンスは意気揚々に皇帝ラインハルトの首を討ち取ると宣言した後、左手の付き人から出された鷲の頭部を模した兜を被り、右手の付き人が差し出す鋭利な刃が特徴的なパルチザンを取って左右の付き人たちが離れたのを確認すれば、背中に装備された赤いウィングを展開し、母艦のホエールキングから出撃した。

 

「王子が出るぞ! 全軍出撃! 我らメイソン騎士団の邪魔をする者は、何者であろうと排除せよ!!」

 

 グエンスの出撃に続き、レッドホークはモーリック王より与えられたメイソン騎士団の部隊を出撃させる。ホエールキングの各部ハッチが開き、そこからMSやKMF、ゾイドなどが大帝国の首都へ降下していく。殆どが赤い機体であり、まるで赤い鋼鉄の雨だ。衛星軌道上から降りて来る部隊も合流しているので、その数は首都へ雪崩れ込むワルキューレに負けに劣らずだ。

 そんなメイソン騎士団は自分らの邪魔になる物や邪魔する者に対し、容赦なく剣を振るうか火器を撃ち込む。これにワルキューレとアガサ騎士団、大帝国は応戦し、敵味方入り乱れる乱戦状態に陥る。

 無論、帝国再建委員会にも攻撃は及んだ。これに帝国再建委員会は、ヘリキャリアに搭載された戦闘団の陸軍混成機甲連隊を含める全戦力を展開させて応戦する。精鋭部隊も展開し、メイソン騎士団や大帝国の首都防衛部隊と交戦を始めていた。

 

『大帝国軍、アガサ騎士団並びワルキューレ、メイソン騎士団、交戦開始!』

 

『こちらにもメイソン騎士団が!?』

 

『構うな! 我らの目標は皇帝ラインハルトの首だ! 進め!!』

 

「乱戦状態だな…! ちっ、こっちからはワルキューレか!」

 

 無線機より後方から迫るメイソン騎士団と交戦する友軍の連絡が聞こえる中、ターニャ等の前からも、ワルキューレの航空魔導士とVAノルドの混成部隊が迫っていた。

 

「せ、戦闘団長殿!?」

 

「応戦しろ! 向こうが勝手に撃って来るのだ! 突破してあのクソったれの首を取れ!!」

 

 向かってくるワルキューレの航空部隊に対して対応を問う部下に対し、ターニャは突破してラインハルトの首を取れと命じ、交戦を許可した。ターニャが先陣を切る中、戦闘団に属する全ての隊が続く。

 戦闘団の阻む壁の如く展開してくるワルキューレの航空魔導士とノルドの数は旅団規模であったが、専用のファイテックスを身に纏う特務大隊のネームドたちの敵では無かった。大隊将兵一斉爆裂術式で連隊規模が消し炭にされた後、蹂躙が始まる。ワルキューレの航空魔導士は通常装備であり、ハエの如く落とされていた。本家ISに匹敵すると言われる戦闘力と防御力を誇るVAですら、容易く撃破されてしまっている。

 

「な、何よこいつ等!? 本当に敗残組織なの!?」

 

 味方が次々と倒されていくことに恐怖するVAの装着者は抵抗するが、覚悟を決めたターニャに無駄な抵抗であり、彼女が手にしているランチャーを撃ち込まれて撃破される。ターニャのファイテックスが持つランチャーはVAのシールドを貫通するほどの威力を有しているのだ。後から航空魔導士の天敵であるVF-8ローガンの大群も、ファイテックスを身に纏う特務大隊のスコアを増やすだけの的であった。

 

「なんだあの変な連中は!? ヤッターワンまで居るぞ!」

 

 航空魔導士や機動兵器では対処できないと判断してか、ワルキューレが次に繰り出したのは、対能力者部隊であった。その中にスミスが集めた能力者と言うかメカと一人であるヤッターワンとクイーシャ・ノリト、その相棒サイボーグのサルであるバナナが向かう敵を蹂躙しながら前進するターニャに立ち向かおうとしている。

 この場には似合わなそうなデザインは一際目立ち、上空で戦っているターニャに直ぐに目撃されてしまった。それに気付かず、クイーシャは懐からヤッターワンの必殺技に必要なメカの元を取り出し、それを食べさせようとしていた。

 

「ウキキ!」

 

「ヤッターワン! メカの元よ!」

 

『ワォーン!』

 

 メカの元を食べさせ、一週間に一度の逆転劇である「ビックリどっきりメカ」で帝国再建委員会を撃退しようとするクイーシャとバナナであったが、当然ながらターニャに見られており、直ぐにランチャーが撃ち込まれた。

 

「キャァァァッ!」

 

『ワォーン!!』

 

「キキーッ!」

 

「ビックリどっきりメカなど発進させる物か。それになんだ、あのギャグみたいな吹き飛び方は?」

 

 まるでギャグ描写の如く吹き飛んでいくクイーシャとヤッターワン、バナナを見てターニャは首を傾げていたが、一発逆転劇である「ビックリどっきりメカ」の発進を阻止することが出来た。

 妙に呆気なさ過ぎるクイーシャのヤッターワンとそのペットであるバナナであるが、彼女らに「ビックリどっきりメカ」を上回る秘密が隠されていることは、ターニャはまだ知らない。それを知っている唯一の人物であるスミスは、舌打ちをして懐からある物を取り出していた。

 

「ちっ、コメディーなんぞに扮しやがって。あの犬のマシンにはテックセットをさせるほか無いな。そしてそこの小娘には擬態ではなく、本体(キャシャーン)として戦ってもらう」

 

 スミスは付近に墜落したクイーシャとヤッターワンを見て、偽装の為に被せていた表の仮面を剥ぎ取ろうとしていた。

 ターニャはそれに気付くことなく、皇帝ラインハルトの首を討ち取るべく、四つの勢力が入り乱れる戦場へと突入する。




ネタバレ「仮面の下の涙をぬぐえ!」

ケツアゴさんから許可は貰ってんだ! ぺガス! テックセクター!!

つっても、登場はまだなんだけど。


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首都決戦(バトルシティ)その3

名前:モンジェルナ侯爵
性別:女
年齢:不明
階級:なし、観戦武官扱い
所属:ワルキューレ 対能力者部隊
乗機:鬼械神 マゴート
概要:偽マフティーの様なカボチャ頭に露出の一切無い宇宙服の様な服装の女性。能力ゆえにワルキューレ支配域から対能力者部隊にスカウトされた。
デモンベイン系の魔導士で、魔導書「妖蛆の秘密」の写本を持つ既に死んでいる死人使い。実力的にはデモンベイン原作に出てくる逆十字ティベリウスの劣化した下位互換である。
魔導書の力で擬似的な不死となっているが、人の姿を常に維持するには力が足りず、服装を使って外骨格の様に人の形を整えている。
鬼械神マゴートは「ベルゼビュート」の下位互換機体、原作逆十字とぶつかれば一蹴される程度の性能でしかないが、腐っても鬼械神、リアルロボ作品にスーパーロボットを放り込んだ位には脅威である。
外見はBETAの闘士級を全高60mまで巨大化させて、ベルゼビュートに似た外装を取り付けた様な姿。
武装は怨霊呪弾(射程2~4)とバッド・トリップ・ワイン(射程1の格闘攻撃)でHP回復L1持ち。
キャラ提供はリオンテイルさん

名前:キュリーク
性別:男
年齢:24歳
階級:中尉
所属:皇帝親衛隊 首都警備連隊
乗機:ハイザック
概要:首都警備連隊に所属する若者。
キャラ提供は神谷主水さん


 遂に始まった首都決戦(バトルシティ)

 五つの勢力が入り乱れる乱戦状態と化す中、ターニャは自身の身長を二メートルにするファイテックスを身に纏い、指揮下の戦闘団を率いて大帝国の皇帝ラインハルトの首を討ち取ろうと向かうが、本人が覚えていないであろう因縁が立ちはだかる。

 

「っ!? これは…!?」

 

「見付けたぞ、化け物め…! ここで会ったが百年目だ! 俺の身体と貴様に殺された部下の恨み、晴らさせてもらう!!」

 

 ターニャに立ちはだかったのは、人造航空魔導士となったあのブーツホルツであった。彼の左目の義眼はファイテックスに身を包んでいても、その高い魔力でターニャと見抜いたのだ。

 当然ながら倒した敵の事など覚えていないターニャは首を傾げ、手にしているランチャーを撃ち込む。

 

「倒した敵の事など、覚えてなどおらんわ!」

 

「非情な奴め! 倒された者の怨念、この俺が思い出させてやるぜ!」

 

「邪魔をするな! 貴様の事など知らんわ!」

 

 ランチャーから放たれる高出力の魔弾を躱し、ブーツホルツは思い出させてやると言ってから左腕の義手からパルスレーザーを放つ。ターニャがそれを躱して撃ち返せば、ブーツホルツも同じく撃ち返して撃ち合いが始まる。

 

「戦闘団長殿、この機械野郎は我々が!」

 

『よし、()れ!」

 

 シュルツの第4中隊の小隊がブーツホルツの背後へ回り込み、その背中を撃ち抜かんとしていた。それを許可するターニャであったが、ブーツホルツはそれに気付いており、瞬間移動の如く背後を狙うファイテックスを身に纏う小隊を瞬きする間に壊滅させた。これにターニャは驚きを隠せない。

 

「ば、馬鹿な…!? ファイテックスを纏ったネームドだぞ!」

 

「フッ、小賢しい真似を! 部下に俺を殺させようとは!」

 

「畜生が! よくも俺の部下を!!」

 

 ファイテックスを身に纏うネームド級魔導士四名を瞬きする間に撃破したブーツホルツに、部下を殺されたシュルツは怒りを覚えて突撃するが、一蹴されてしまう。

 腹に強烈な蹴りを入れ込み、シュルツを吐血させれば、左腕の義手で抱え、ターニャの戦闘団の将兵等に邪魔をするなと告げる。

 

「聞け! 俺の狙いはその幼女の皮を被った怪物だ! それを邪魔しようってんなら、さっきの四人みたいになるぞ! 死にたくなければ、俺とお前らの上官との戦いの邪魔をするな!!」

 

 この宣言にターニャ以外の一同は戦慄を覚える。ネームド級すら軽くあしらうブーツホルツに敵うのは、ターニャぐらいしか居ないのだ。

 そんなブーツホルツの因縁の戦いを支援すかの如く、スミスは彼の下に援軍を送り込んできた。

 

「ほぅ、あいつにしては気前が良い。これで助かる」

 

 専用のVF-22SシュトゥルムフォーゲルⅡを駆るアイオーンに率いられたミッシングリンク隊の別動隊だ。それには市街戦用装備で換装した元気のガンダムXと十二機のGビット、リィのGファルコンも随伴していた。

 そればかりか、南部方面から雪崩れ込んでくるワルキューレからメトバルトのジンクスⅢ、カーラのジンクスⅣ、シーンのVF-11Cサンダーボルト+ガンパックなどが属する陸・空軍の合同部隊が到達し、ターニャの戦闘団を包囲した後に攻撃を始めた。

 

「包囲されたぞ!」

 

「クソっ、これでは…!」

 

 包囲されたターニャは拳を強く握り、昇進への道を閉ざされたことを悔しがる。集まって来た別動隊とワルキューレの南部方面部隊に向け、ブーツホルツはターニャには手を出さないように告げる。

 

「別動隊並び友軍の南部方面軍に通達する。あの銀翼のアーマーは俺の獲物だ! 手を出せば、お前たちにも容赦せんぞ!」

 

『まぁ、それなら助かりますけどね』

 

『そこまで言うなら、そいつの首は諦めてやろう。代わりにこいつ等の首を貰う!』

 

 この要請に別動隊のアイオーンと南部方面軍のカーラは納得し、ターニャ以外の戦闘団の将兵等に攻撃を始めた。

 

「なら、スコアは稼がせてもらうぜ!」

 

 アイオーンは僚機と随伴する東部方面軍の航空部隊を率いてバルキリー大隊と監視部隊に襲い掛かる。最初に僚機と共にミサイル攻撃を行い、バルキリー大隊のVF-11CやVF-117ナイトメアプラス等を散会させ、各個撃破を狙う。旧型機ばかりなバルキリー大隊は特務部隊員が駆るVF-22等に撃墜されてばかりだ。

 監視部隊のYF-29BパーツィパルやVF-31ジークフリード等は機体性能の為に躱し切り、東部方面軍のバルキリーや可変系MSムラサメを何機か撃墜していた。

 

『な、なんでYF-29が!? キャァァァ!!』

 

「ちっ、馬鹿の一つ覚えに横流しするからだ! 末端の奴らは知らんようだがな!」

 

 VF-11Cに乗るパイロットが帝国再建委員会にYF-29Bがあることに驚いた後、それを駆るソリルに撃墜されれば、アイオーンは横流しをしている所為だと苛立ちながら口にする。無論、YF-29やVF-31などの最新鋭バルキリーが横流しされているなど、末端の将兵等が知る由もないが。

 機体性能はあちらが上だが、経験では勝っているアイオーンらは技量を駆使して最新鋭バルキリー集団を駆るイヴ人の監視部隊と互角にやり合っていた。

 

『こいつ、人間の分際でぇ!!』

 

「最新鋭機に乗ってるからってな! 調子に乗るんじゃないぜ!」

 

『ふざ、けるなぁ!!』

 

 攻撃を全て躱し切るアイオーンのワインレッドのVF-22Sに対しソリルは苛立つ。これにアイオーンは機体をバトロイド形態へ変形させ、ガンポッドとミサイルを同時に撃ち込む。それにソリルも自機をガウォーク形態からバトロイド形態に変形させてガンポッドの掃射を躱しながらミサイルを迎撃する。

 

「あの、俺は…?」

 

『あぁん!? 地上のガラクタと博物館とでも遊んでろ! こっちはクソ忙しいんだ!!』

 

「ひっ!? 分かりました! 俺は地上の敵部隊を攻撃します!」

 

 地上の方では、市街戦用装備のガンダムXを駆る元気がアイオーンにどうするかを問えば、監視部隊のソリルやノヴァーナのVF-31Cと交戦する彼は戦闘団の地上部隊と交戦していろと返す。それに応じ、元気はラドラルのランドマン・ロディが居る陸軍混成機甲連隊を十二機のGビットやリィのGファルコンと共に攻撃する。

 

『が、ガンダムだぁ! うわぁぁぁ!!』

 

『ガンダムに、それになんだこいつ等は!? 無人機か!?』

 

『畜生! 来るなぁ! 来るなァァァ!!』

 

「落ち着けお前ら! 慌てなきゃ死ぬことはねぇんだ! 応戦しろぉ!!」

 

 元気のガンダムXとリィのGファルコンに攻撃され、一気に数機以上が撃墜されていく中、ラドラルはランドマン・ロディで向かってくるGファルコンにサブマシンガンを討ちながら戦友らに落ち着くように告げる。それでも機体性能差はあり、特に旧型機は撃墜されるばかりであった。

 

「おいおい、陸軍の奴らは大丈夫かよ?」

 

『何が何だか知らねぇが、仲間割れなら都合が良いぜ!!』

 

「あぁん、ハイザックぅ?」

 

 地上の陸軍混成機甲連隊がガンダムXと十二機のGビット、リィのGファルコンの攻撃に晒される中、何とも思っていないヘルマンは、自分のガンイージに迫って来る大帝国軍のハイザックの存在に気付く。

 そのハイザックを駆るキュリークと呼ばれる親衛隊の首都警備連隊に属する若いパイロットは、仲間割れをしていると思って攻撃したのだろうが、逆に両足をビームライフルで撃ち抜かれ、挙句に両腕もライフルの連発で破壊されて返り討ちにされた。

 

『う、うわぁ…!? た、助け…』

 

「死んでろ、カス」

 

 倒れたハイザックに乗っていたキュリークは投降しようとするが、ヘルマンが許すはずがなく、機体の左手に握られたビームサーベルで消される。無抵抗なパイロットをビームサーベルで焼き殺したヘルマンのガンイージの下に、カーラのジンクスⅣが迫る。

 

『貴様の実力は確かめさせてもらった。その首、この私が取らせて貰おう!』

 

「首だァ? ちっ、変なのが来やがったな。まぁ、逃げられそうに無いか!」

 

 ヘルマンのキュリークのハイザックを撃破した手並みを見て、カーラは首を取るに値する獲物と認め、GNライフルを連射しながら向かってくる。これにヘルマンは面倒くさそうにしながらもこの戦いに興奮しており、ビームライフルを撃ち返して応戦する。

 

「あっ!? ずるいぞ貴様ら!!」

 

 ターニャの戦闘団がワルキューレのミッシングリンク隊や南部方面軍と東部方面軍の攻撃を受ける中、戦闘団の後ろについていた委員会の精鋭部隊は戦闘団にその三つを押し付け、自分らだけ皇帝ラインハルトの首を取りに向かった。

 

「逃げるな! 貴様の相手は、この俺だ!!」

 

「ちっ、しつこい奴め!」

 

 それを追おうとするターニャであるが、ブーツホルツが逃さない。その隙に、能力者を含める精鋭部隊は邪魔な敵を蹴散らしながら皇帝ラインハルトが居る敵の本陣へと突き進むのであった。

 

 

 

 空ではバルキリーを初め、空戦用MSやゾイド、それに航空魔導士と魔導騎士、能力者たちが飛び交い、地上の市街では刀剣類を持った騎士や兵士、銃を持った現代歩兵、通常兵器類、それに能力者と機動兵器が混戦すると言う混沌の戦場が繰り広げられている。

 そんな渾沌さを際立たせるかのように、かぼちゃ頭にパイロットスーツと言う出で立ちの女、モンジェルナ侯爵が歩いていた。余りにも奇抜だ。そんなモンジェルナ侯爵に対し、大帝国軍の能力者部隊隊長であるベレニケが自身の能力である「異議」を発動して攻撃する。

 

「異議あり! 僕の名前はベレニケ! その格好に異議ありだ、お嬢さん」

 

 意義と言う名の攻撃に対し、モンジェルナ侯爵は歩みを止める。攻撃が効いていると判断したベレニケは更に口の攻撃、その名も口攻を開始する。

 

「いや、全てに異議(ザ・クェスチェン)だな。なんだそのカボチャの被り物は? ハロウィンか? それに下はパイロットスーツ? 何処の馬鹿の文化だ?」

 

 こちらが何の反応をしないことを言い事に、口撃と言う名の罵倒してくるベレニケにモンジェルナ伯爵は無言ながらも神経を苛立たせ、懐から魔導書「妖蛆の秘密」の写本を取り出し、反撃を行おうとする。これにベレニケは反撃の隙を与えまいと思ってか、更に罵声を続ける。

 

「なんだそのかび臭くてボロイ本は? それで一体何を召還するつもりだ? まぁ、お前如きな馬鹿では碌な召喚獣も出せない…」

 

「その命に反省を促して上げる」

 

「反省? 反省だと? この僕に反省を促すだと? この異議を唱える僕に反省を促すとは…反省するところなど何処にも無いな。むしろ、反省すべきなのはそちらの…」

 

 罵声にも動じず、その命に反省を促すとまで言ってきたことにベレニケは少し苛立つが、直ぐに調子を戻して罵声を続ける。これにモンジェルナ伯爵は魔導書の力を使って鬼械神を召還する。

 

「食餌の時間よ、マゴート!」

 

「おい、話を聞いているのか? そのボロクソな本で何を召還したんだ? あぁ、その様子だと失敗したようだな。やはりお前のような奴が、この僕に勝てるはずがない!」

 

 モンジェルナ伯爵が何かを召還したようだが、ベレニケから見ればそれが見えなかったので、罵声を続ける。全高六十メートルの不気味な怪物が居ることなど、ベレニケは全く気付きもせずに罵声を続けている。

 

「そしてお前はこの僕に負ける運命…」

 

 ベレニケが気付いて背後を振り向いた瞬間、その頭は既にモンジェルナ伯爵が召喚した鬼機神「マゴート」に食われていた。

 

「ああああ、神経が苛立つわ」

 

 終始ベレニケに遭遇して以降、その罵声に神経を苛立たせていたモンジェルナ伯爵はマゴートの左肩まで高く飛翔して飛び乗り、皇帝ラインハルトの首を討ち取るために本陣へと進行するのであった。




連邦二反省を促すカボチャダンスをする偽マフティー。

さて、次回は誰が出るかのぅ~


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首都決戦(バトルシティ)その4

名前:マイーラ・シエルトフ
年齢:201歳
階級:少尉
所属:帝国再建委員会(フェアリー戦闘団)
武器:HK33突撃銃
概要:ショートヘアのボーイッシュのイヴ人の航空魔導士。口調はキツイが戦場での視野を広く状況解析担当の通信兵。お守りとして胸元に弾丸のネックレスをかけている。
キャラ提供はわかものさん

名前:ナザーリオ・キャッテル
性別:男
年齢:48歳
階級:アガサ騎士団料理長
所属:アガサ騎士団
乗機:グスタフ・GNドライヴカスタム(ゾイド)
概要:騎士団員の腹と心を満たす料理人。元々は旅の料理人だったが気が付いたら騎士団で腕を振るっており詳細は、周りはおろか本人さえ良くわかっていない。
基本戦闘には参加しないが元々の装甲にビームコーティングを施し更に機体後方に二機のGNドライヴを追加装備する事でGNフィールドの使用と慣性(質量)制御的な効果による見ため以上の機動力で撤退時の殿やいざと言うときはTRANS-AMによる体当たりもする。
トレーラーは基本2台を運搬し、内容も機体や物資を運ぶ荷台型と三階建て(一階:居住区 二階:食堂 三階:風呂やトイレといった水回り)の兵舎型だが、向かう場所や状況によっては各種クレーンを装備した簡易ドッグ型や大小様々な砲を搭載した移動トーチカ型・バルキリー系のミサイルを大量に撃ち出すポット型も存在している。
キャラ提供はkinonoさん


 地上でも乱戦状態が繰り広げられる中、皇帝ラインハルトと右腕のバウムガルデンが居る大帝国軍の本陣に、アガサ騎士団の勇者、メイソン騎士団のレッドホークとグエンスが迫る。

 

「止めろォ! 皇帝陛下に近付けるな!」

 

 多数の魔導騎士を随伴させて突撃してくるレッドホークとグエンスを止めるべく、アードリアンは親衛隊や大帝国軍の将兵や能力者等が立ち塞がるが、レッドホークが放った斬撃で一度に数百人が惨殺される。凄まじい血と肉片の雨が降り注ぐ中、そこからメイソン騎士団討伐部隊を率いる長が飛び出し、向かってくる。

 

「おのれぇ! 首都防空軍司令官ゲルルフが相手だ!!」

 

 今度はジオン軍のMSであるゲルググのような甲冑を身に纏う首都防空司令官であるゲルルフが立ち向かうも、グエンスのパルチザンであっさりと両断された。

 

「フッ、これが大帝国の幹部か? 弱いな!」

 

 あっさりとやられたゲルルフにグエンスは嘲笑い、そのまま皇帝ラインハルトの元へ向かう。次に立ち向かうのは、正義の軍団の一人である七呂太郎であった。彼は皇帝と同じく転生者であり、能力も授与されていた。無論、能力を与えて転生させたのはあのゴットカオスである。

 

「へっ、そんな雑魚共殺したところで、この神に選ばれた俺の力で…」

 

 自分は神に選ばれた存在だから向かってくるグエンスを楽に倒せると思い、余裕を見せながらその前に立ちはだかったが、言い終える前に顔面に強烈な蹴りを叩き込まれた。蹴りを受けた七呂は吹き飛ばされ、地面に叩き付けられる。

 

「なんだこいつは? 神に選ばれたとか抜かしていたが」

 

「王子、石ころ風情よりも」

 

「分かっている。あいつの首が優先だろ?」

 

 七呂を叩き付けたグエンスは少し気にしていたようだが、向かってきた親衛隊数名を一瞬にして殺害したレッドホークに皇帝ラインハルトの首が優先と言われ、右腕のバウムガルデンと共にこちらを見る標的にパルチザンの尖端を向けた。これにラインハルトは苛立つが、バウムガルデンは一切動じず、周りの者に両名を攻撃しないように告げる。

 

「貴公らは下がれ。一人ならまだしも、お主らではあの両名には敵わん」

 

「な、何ゆえに!?」

 

「分からんのか? あれは段違いだ。貴公らが束になって掛かったところで、屍を晒すだけよ。反対側から迫るアガサの勇者のようにな」

 

 メイソン騎士団が送り込んだレッドホークとグエンスの両名が揃えば敵わないと言われて激怒する配下らに対し、バウムガルデンは反対側から単独で配下たちを吹き飛ばしながら迫るアガサ騎士団の勇者と同様に、あの二名も自分とラインハルトと同じ強者であると告げる。

 それにグエンスは褒め、今までにラインハルトのような転生者を幾人も殺してきたと自慢し、挙句に煽り始める。この間にレッドホークは、グエンスの背後を狙おうとする正義の軍団と親衛隊の対処に回っていた。おかげでグエンスはラインハルトとの戦いに集中できているのだ。

 

「ほぅ、良く分かってるな。俺は今まで神を自称する邪神が送り込んだ転生者を何十人も始末して来た。どいつもこいつも、人様から貰った能力で粋がる馬鹿ばかりだったよ。まぁ、そこの金髪の馬鹿と同様に、どうせ碌な奴じゃないのは確かだがな」

 

「テメェ…! 俺たちを搾取するリア充が…!」

 

「はぁ、いつも言うな。その手の馬鹿は。俺はリア充に搾取されてる。金も女も、運も活躍もみんなかっさらわれた被害者だと! はっ、実に下らん! 被害妄想はそこまでにしろ。何も無い上に行動もしない奴から何を奪えって言うんだ? どうせお前の前世も理屈も同じだろ? お前は我々メイソン騎士団の強大さを示すためのトロフィーなんだよ! それがお前の存在意義だ!!」

 

「ぬぅぅ~! うぅぅぅ! 殺してやるぅ!!」

 

「陛下! そのような安い挑発に乗ってはなりませんぞ!」

 

 このグエンスの見下すような煽りは、ラインハルトを怒らせるには十分であった。バウムガルデンの静止の声を聞かず、ラインハルトは一直線にグエンスに向けて突っ込む。そのラインハルトの様子は今までに見せていた余裕とは違い、激昂する子供のようであった。

 

「こう挑発してやれば、直ぐに怒って馬鹿正直に突っ込んでくる! お前らは力に振り回され過ぎなんだよ!」

 

 圧倒的な力を与えられて転生したラインハルトの突撃にグエンスは臆することなく受け流し、空かさずに隙だらけの背後にパルチザンを突き立てる。だが、頑丈さも凄まじく、グエンスのパルチザンの刺突はラインハルトの肌どころか衣服すら貫けない。

 

「無駄だ! お前のヘボな槍なんぞ!」

 

「ちっ、無駄に硬くしやがって!」

 

 刃を通さないラインハルトにグエンスは苛立ちを覚える中、二名は常人離れした激しい空中戦を繰り広げる。

 

「アガサ騎士団の勇者か! 我が正義の軍団の名を広めるに十分な相手だな!」

 

 バウムガルデンの言うことも聞かず、正義の軍団の一人で九番目の男、片眼鏡を掛けた中年であるグンターは友軍を蹴散らしながら単独で迫るアガサ騎士団の勇者に挑むが、振るわれた剣で真っ二つに両断された。

 

「ほへっ!?」

 

「愚か者め! 己の力量も考えず、この私に挑むとは!」

 

 力量も考えずに自分に挑んで真っ二つにされたグンターを叱りつつ、勇者は剣先を向けながらラインハルトの方へ突っ込む。

 

「悪逆皇帝ラインハルト! 貴様に討たれた我が兄妹たちの仇、ここで取らせてもらう!」

 

 威風堂々に宣言し、グエンスと交戦状態のラインハルトに今まで討たれてきたアガサ騎士団の騎士たちの仇を取ろうとする。だが、それはバウムガルデンの太刀筋に阻止された。

 

「むっ!? 貴様は右腕のバウムガルデン! 貴公に用は無いぞ!」

 

「そうは困るな。あの道化にはまだ退場されては困るのだよ…!」

 

「道化? 貴公、主君を道化呼ばわりとはどういうことだ!?」

 

「フフフッ、敵将相手に説教とは面白い男だ。まぁ、数多の敵と戦い、感覚も鋭くなっている貴様には隠し切れんな。我が正体を!」

 

 両手剣で勇者の持つ剣で鍔迫り合いを行いながらバウムガルデンは、自身の主君である皇帝ラインハルトにも明かさなかった自分の正体を全く隠すことも無く明かし始めた。自身の太刀筋と力では、アガサ騎士団の中で最強にして歴戦錬磨の騎士である勇者に見破られてしまうと判断したからだ。それを知った勇者は左手の盾で打撃を行い、剣で防御するバウムガルデンを吹き飛ばす。

 

「貴公、主君にも正体を隠すとは、何を企んでおる!?」

 

「なに、我が願望を果たすだけだ。それまで道化には壇上で踊り続けてもらうまでよ。願望を果せば、四百年ぶりに我が故郷へ凱旋する。言うなれば、家に帰るための準備だ。人としては当然の事であろう?」

 

「それだけの為に、数多の人間を欺いたのか!」

 

 吹き飛ばした後に主君を欺く理由を問えば、バウムガルデンは世界征服を果たすまでラインハルトに躍らせ続け、それを果たせば故郷へ帰ると返した。この時にバウムガルデンは自分が四百年以上も生きていると言うことを明かしているが、勇者はその強大な力で余り驚きもしない。

 その理由に勇者はたったそれだけのことで転生者も含めるこの世界の者たちを欺いたのかと、獅子の咆哮のような衝撃波による怒りの攻撃を行う。バウムガルデンは強烈な衝撃波を容易く一蹴し、斬りかかる。

 

「外道共を気に掛けるとはお人好しな! 私はただ囁き、彼奴等がそれを勝手に聞いて暴走しただけの事よ!」

 

 自分の事を詐欺師だと言う勇者に対し、バウムガルデンはただ囁いただけだと返しながら両手剣を振り降ろした。それを勇者は盾で防ぎ、右手の勇者の剣を突き刺す。それもバウムガルデンは読んでおり、躱して両手剣を打ち込んだ。

 あっさりと敵に正体を明かしているバウムガルデンであるが、その主君である皇帝ラインハルトはそれに全く気付かず、自分を嘲り笑うグエンスとの戦いに躍起になっていた。

 

「クソ~! あのクソ野郎は!? 居た!!」

 

 グエンスに地面に叩き付けられた七呂であったが、転生による特典のおかげか生きていた。目覚めて早々に自分の主君であるラインハルトと交戦しているグエンスを見付けた七呂は、主君の事を気にせずに派手なデザインの拳銃を何処からともなく取り出し、それを乱射し始める。

 

「死ねぇ!!」

 

 射線上にラインハルトも居るが、今の七呂にとってはお構いなしだ。飛んでくる多数の魔弾に気付いたグエンスは避けつつ、躱し切れない分は魔法障壁を張って防いだ。

 

「カス野郎が! しぶとい奴だ!」

 

「クソっ、邪魔だ死ねぇ!」

 

「へっ…!?」

 

 七呂の頑丈さに攻撃を防ぎながら苛立つグエンスであったが、そのお構いなしの攻撃はラインハルトの怒りに更に油を注いでしまった。激怒したラインハルトは見境なしに攻撃する七呂に、右手から強烈なビームを撃ち込んで蒸発させたのだ。それにグエンスは驚愕ではなく、臣下を八つ当たりのように殺すラインハルトを嗤う。

 

「はっはっはっ! 本当に短気な奴だ! 誤射されたと言う理由で部下を殺しやがった! 本当にお前らは馬鹿で愚かで身勝手だな!!」

 

「くゥゥゥ! うぅぅぅ!!」

 

 自身の心を論撃で傷付けられたラインハルトは激昂す余り周りが見えなくなり、奇声を上げながらグエンスに襲い掛かる。獣のような攻撃をグエンスは冷静にいなしつつ、ラインハルトに徐々にダメージを与えていく。

 

「王子に加勢は必要ないみたいだな」

 

 グエンスが圧倒的な力を持つラインハルト相手に優勢に立っていることで、レッドホークは加勢の必要はないと判断し、目前の敵に集中する。

 彼の相手は自分自身、ではなく能力を使って自分に擬態したロット・ロットであった。姿のみならず、動きもレッドホークその物である。他の者たちと戦っている最中に動きを読み込まれ、完全にコピーされてしまった。擬態したロット・ロットの実力は戦闘力もコピーしたらしく、レッドホークは鏡の自分と戦っている感覚に陥る。

 

「いつも宿敵は自分というが、まさか戦う羽目になるとはな」

 

 自分こそがライバルと表し、常に鍛錬して来たレッドホークであるが、自分自身と戦う羽目になるとは思わなかった。自分の剣術と動きで攻撃してくるロット・ロットに、レッドホークは両翼を羽ばたき、強風を発生させて吹き飛ばす。それから擬態する能力に警戒して敢えて抜かなかった右腰の鞘に納めてある剣を抜き、二刀流を見せる。

 

「実戦での二刀流は久方ぶりだが、鍛錬を怠らなかったのが功を奏したか。どうやら、擬態にはかなり読み込むのが必要なようだ」

 

 二刀流であったことに驚きの表情を見せるロット・ロットに、レッドホークは擬態の条件をある程度を見破る。それでもロット・ロットは今までのレッドホークの動きで攻撃してくる。

 

「この二刀流も真似ようと言うか。その意気込みは良し! だが、常に私は先へ行くのだ! 鏡である貴様を倒してな!!」

 

 見たことも無い二刀流でも怯まずに攻撃してくるロット・ロットに、老練の騎士であるレッドホークは両手に握る剣の刃を交差させ、自身の成長の為に必ず倒すと宣言した。

 

 

 

「あそこだけ次元が違い過ぎない? アタシ等の戦闘団長殿もあの人造魔導士と常識外れ戦いをしてるけどさ…あっちが断然やばいよ」

 

 皇帝ラインハルトを討ち取るべく、皇帝の牙城へと進撃したターニャの戦闘団であったが、ワルキューレの派兵軍とそれに属するミッシングリンク隊の連合部隊に阻まれ、動きが止まっていた。一番高い戦闘力を誇るターニャは人造魔導士として復活したブーツホルツに足止めされ、他の者たちもミッシングリンク隊のアイオーンと元気ら、ワルキューレのカーラにシーン等と言った手練れの者たちとの交戦を余儀なくされている。

 その様子を大帝国軍より占拠した監視塔で見ていた戦闘団に属する航空魔導士にして空軍通信将校であるマイーラ・シエルトフは、皇帝ラインハルトとバウムガルデンと激闘を繰り広げるメイソン騎士団のグエンスにレッドホーク、アガサ騎士団の勇者の方がヤバいと双眼鏡を見ながら口にした。

 事実、彼らの激闘の余波で周りの航空魔導士のみならず、機動兵器まで吹き飛ばされる始末だ。迂闊に近づくようなら、死ぬことは間違いない。そこへ帝国再建委員会屈指の戦闘力を持つ精鋭部隊がターニャの戦闘団を置き去りにして向かっている。これにマイーラは人知を超えた者たちに勝てるかどうか不安になっていた。

 

「はぁ、それにしても大帝国軍って奴らは自分の首都を守る気あるのかね? 守るべきはずの民間人ごと攻撃してるよ」

 

 次にマイーラは地上の方へ視線を向け、そこで行われている悲惨な光景を見て呆れていた。彼女の目に映るのは、侵攻してくるワルキューレやアガサ騎士団、メイソン騎士団に対して守るべき民間人も構わずに防戦する大帝国軍の将兵たちであった。

 

『き、貴様ら! 守るべき民を巻き込んで何とも思わんのか!?』

 

 アロサウルス型の中型ゾイドであるアロザウターに乗るアガサ騎士団の兵士による拡声器越しの問い掛けに対し、自分らが本来守るべきはずの民間人諸とも攻撃する大帝国軍の将兵の一人は、恐るべき返答をする。

 

『フン、敵国の民間人の心配とはな! 女子供など消耗品だ! 他所から攫えば良い話だ!』

 

『く、この外道め!』

 

「な、なんて奴らだ! 女子供を物のように…! 許せねぇ!」

 

 自分らを正義と表する大帝国とは思えぬ返答に、アガサ騎士団の騎士たちは動揺を覚える。大帝国こと正義の帝国、否、世界帝国にとって女性や子供は物であり、消耗品であったのだ。それを聞いていたマイーラも寒気を覚え、同時に怒りも抱いた。だが、今の自分は護衛を命じられた通信兵であり、この監視塔を占拠した戦闘団に随伴する空軍通信中隊を守らねばならない。マイーラは大帝国の女性や子供が殺されていく様子をただ見守る他になかった。

 

「急げ! 巻き込まれたくなければ速く地下やこちらの用意した避難場所へ行くんだ!」

 

 民間人の避難はワルキューレやアガサ騎士団が行っており、わざわざ自分らが出る幕はない。マイーラも昆虫型ゾイドのグスタフが牽引する兵舎型トレーラーに収容される民間人らを見て、安心して胸をなでおろした。

 

「二時方向より大帝国軍!」

 

「ちっ、守るべき民間人より敵を優先か!」

 

 別方向を監視していた航空魔導士の報告で、マイーラは監視塔を奪還しに来た大帝国軍の歩兵部隊の迎撃を行う。民間人を守らず、戦闘を優先する大帝国軍に激怒しながらも、HK33突撃銃の銃口を向け、単発で突っ込んでくる敵歩兵を上から狙撃する。一人、二人と倒れていく中、大帝国軍は損害に構わずに大勢で突っ込んでいた。

 

「ここも巻き込まれるんじゃないだろうな?」

 

 兵舎型トレーラー二両とトーチカ型やミサイル型トレーラーを牽引する自身のグスタフにて、アガサ騎士団に属するナザーリオ・キャッテルは、自分らに近い距離で銃撃戦を行うマイーラたち帝国再建委員会の通信中隊をキャノピー越しで見ながら、巻き込まれるのではないかと不安を口にした。

 アガサ騎士団は騎士道精神に則り、首都に残る民間人を避難させるために余所者のナザーリオを含める輸送隊を動員し、輸送用や兵舎型のトレーラーに収容していた。本来は敵方である大帝国軍がやらねばならない仕事であるはずだが、あろうことか必要なことをやらず、戦闘を優先しているので、アガサ騎士団やワルキューレが行っていた。

 

「こっちだ! 急げ!」

 

「なんで大帝国軍の奴らがやらないんだ? 畜生め」

 

 ハルバートを片手に民間人をこちらに誘導するアガサ騎士団の重歩兵を見て、敵国の大帝国が避難誘導を行わないことにナザーリオは疑問を口にする。理由は大帝国こと世界帝国が女性や子供の事をいつでも補充が可能な物扱いし、軽視していることにあるが、今の彼は知らないことだ。

 民間人を戦闘区域外へと移送するアガサ騎士団の輸送隊の護衛はハルバートや身を隠せる程の盾と片手剣で武装した重歩兵のみならず、弓やボウガンで武装した弓兵、グレイズとグレイズ・シルトを合わせ十数機、ライオン型の大型ゾイドであるシールドライガー六機、KMF十数機、上空ではプテラノドン型空戦ゾイドであるプテラス数機が常に警戒している。更には空戦も可能なKMFヴィンセント数十機も加わり、大規模な物となっている。それにワルキューレから引き抜いた恐竜型小型ゾイドのゴドスやオオカミ型中型ゾイドのコマンドウルフで編成された陸軍機甲連隊も加わっているので、師団規模の機甲部隊に襲われても問題ない数だ。

 

「へへへっ! まずは弱そうなのからだ! ケーキの如く獲物が並んでやがるぜ!!」

 

 そんな大規模な輸送隊に、襲撃を仕掛ける者がいた。それは正義の軍団の十番手であるハイモだ。彼は戦いにおいて弱い敵から倒すのがセオリーと考えており、市外に居る避難民を避難させようとしているアガサ騎士団の輸送隊は、ハイモにとっては格好の獲物であった。ハイモは傘下の親衛隊機甲部隊を率いて輸送隊を襲う。地上からの正規軍も輸送隊目掛けて突撃していた。

 

『敵能力者接近! 地上から敵機甲部隊!』

 

『なんて奴らだ! 民を攻撃するなんて!!』

 

「嘘だろ!? トーチカ型トレーラー並びミサイル型トレーラー起動!」

 

 自国民を代わりに戦闘区域外まで輸送しようとしているにも関わらず、獲物の狙うかのように襲い掛かる大帝国軍にアガサ騎士団の輸送隊は困惑していた。随伴するワルキューレの陸軍部隊も応戦する中、ナザーリオは自分のグスタフが牽引しているトーチカ型とミサイル型トレーラーを起動し、向かってくる敵部隊に向けて迎撃を始める。それらのトレーラーは無人であり、敵味方の区別もついているので、近付いて来る大帝国軍を搭載武装で迎撃する。

 地上と空から迫る敵を護衛部隊と共に迎撃するナザーリオのグスタフであったが、正義の軍団の一人であるハイモはその弾幕をすり抜け、輸送隊へと迫る。

 

「無駄だ! 機関砲やミサイルの次に矢など!」

 

「て、敵の能力者だ! 射殺せ!!」

 

 迫るハイモに重歩兵が備え、弓兵などが弓やボウガンで迎撃を試みるが、ハイモはそれを弾き飛ばしながら迫り、ハルバートで斬りかかる重歩兵らを拳や蹴りで蹴散らす。

 

『なんて強いんだ!? 民間人を限界まで乗せたグスタフは戦闘区域外まで直ちに発進! 奴は強過ぎるぞ! 守り切れん!!』

 

『対能力者要員を! 奴は手強い!』

 

「クソっ、速く乗せるんだ! 殺されるぞ!!」

 

 味方を蹴散らしながら輸送隊を狙うハイモに、民間人を満載したトレーラーを牽引する何機かのグスタフ逃げるように発進する。まだ民間人を乗せているナザーリオは、民間人らに速く乗るように急かした。それに応じ、重歩兵や槍を持つ兵士らは民間人らを急いでトレーラーに乗せていく。

 

「へへへ、馬鹿な奴らよ! そんな価値の無い弱者共の為に犠牲になろうなどと!」

 

 代わりに民間人を避難させようとするアガサ騎士団を嘲笑うかの如く、ハイモは必死に止めようとしてくる敵兵たちを蹴散らしながらナザーリオが属する輸送隊に迫っていた。




前半長くなったな…

次は読者応募キャラだけにするか。


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首都決戦(バトルシティ)その5

名前:ニコレ
性別:女
年齢:17歳
階級:中尉
所属:帝国再建委員会 ガンダム部隊
乗機:ガンダム・ニコレ
概要:イヴ人の少女で、背中に阿頼耶識システムのコネクタが3基生えている。12歳の時に両親を殺され、イヴ人殲滅を掲げるテロ組織に拉致されて阿頼耶識システムを植え付けられた。体格は小柄で140センチくらい。
帝国再建委員会のガンダム部隊に鹵獲され、阿頼耶識切除手術を受けられそうになったが、役に立ちたいと願ってそのまま志願する。
キャラ提供はG-20さん

名前:アモレ・ディヴァンパーレ
性別:女性
年齢:68歳
階級:大尉
所属:帝国再建委員会 ガンダム部隊
武器:ガンダム・アモン(ガンダム・フレーム)
概要:パッと見貧相な身体をしたただの大人しそうな女性のイヴ人。
乗機も髪もパイロットスーツもパーソナルカラーの黒に染めており、暗い雰囲気を漂わせている。しかし乗機に乗ればそれも一変。敵を執拗に探し回り、室内に火炎放射器を叩き込み、ビル一つ一つを焼き落とす勢いで執念深く追い回し、森に逃げればそこが完全に石器時代に回帰するまでナパームで焼き払うゲリラ絶対殺すウーマンに変化する。
別に敵に恨みがあるとかそういう話ではなく、殺せと命令されたからやるタイプである。所謂指示には従順だが頭が硬いタイプ。臨機応変に対応することはできなくもないが、最終的な目的が細かく指定されていると対応もできなくなる。
キャラ提供はただのおじさんさん

名前:パール・カーシア
性別:女
年齢:14
階級:中尉待遇
所属:帝国再建委員会 ガンダム部隊
乗機:初代ガンダム(最終決戦仕様)
概要:幼い頃に戦争で両親を失い、少年兵として育ってきた少女。少々気弱だがMS乗りとしては優秀で、中尉待遇でスカウトされた。市民権を得て、真っ当な職に就くことを考えている。
彼女のガンダムには、最終決戦仕様の武装に加え、余剰パーツで作られた簡易装甲に加え、アームには落ちている使用可能な武器を即座に拾得できるワイヤーが取り付けられている等、少しでも勝率及び生存率を上げる工夫が施されている。
容姿は少しがさがさの銀髪ショートにガリガリの体つき。貧乳で身長145cm。
キャラ提供はハナバーナさん

名前:テオバルト
性別:男
年齢:22歳
階級:少佐
所属:皇帝親衛隊 首都守備隊
乗機:量産型サイコガンダム
概要:大天才を自称する貴族のボンボン。
大貴族の親に甘やかされて育ち、ムダに才能は有った為トントン拍子で出世してしまい増長、今の乗機を手に入れてからは更に酷くなり、攻撃的守備と称して勝手に出撃することもある。
キャラ提供はRararaさん


 正義の帝国の首都各地で激闘が繰り広げられる中、帝国再建委員会の精鋭部隊の一つ、ガンダム部隊は各勢力の部隊を蹴散らしながら進撃していた。

 上空には太陽炉搭載型ガンダム数機と地上には数十機以上のガンダムタイプ、レプリカも含まれているが、その性能は他勢力が大量に投入する機動兵器を上回っており、叶う者とすれば手練れか同等の性能を持つ兵器だけだ。

 

「賊軍の分際でガンダムなど生意気な!!」

 

 向かってくる大帝国軍やワルキューレの機動兵器を撃破しながら進むガンダム・ニコレに対し、メイソン騎士団のグレイズ・シルト三機が複数のレブラプターと共に見事な連携を取りながら迫る。

 これにガンダム・フレームタイプの改造型を駆るニコレは、重戦車であるティーガーⅡの主砲をそのまま転用したシャープス式ライフルを撃ち込んで迎撃した。発射されるライフルは大口径であり、レブラプターが一撃で撃破されるほどだ。大型シールドで防御できるグレイズ・シルトですら怯むほどだ。

 

「シールドが!? クソっ、ガンダム・フレームか!」

 

 足を止めて防御しなければやられると判断した騎士は、ガンダム・ニコレがガンダム・フレームであることを見抜く。攻撃を引き付けている間に、スティラコサウルス型の中型ゾイドであるレッドホーンが主砲である対ゾイド用三連装リニアキャノンを撃ち込もうとしていた。

 

「幾らナノ・ラミネートと言えど、側面からこのレッドホーンのリニアキャノンの斉射は防げまい!」

 

 五体のレッドホーンによるリニアキャノンの斉射は流石にナノ・ラミネート装甲を持つガンダム・フレームでも多大なダメージを負うところだが、ニコレは一人で戦っていない。

 

『ニコレ! 三時方向に!』

 

「見付けた! 四式四十センチ噴進砲発射!」

 

 上空からサポートしてくれる仲間の警告でレッドホーン五体に気付いたニコレは、機体の両肩に装備された長砲身型よりロケット弾を撃ち込んだ。その威力は主兵装のライフルの威力を上回り、重装甲のレッドホーンの装甲すら容易く貫いてしまうほどだ。

 

『な、なにっ!? 一気にレッドホーンが二体も!?』

 

『おのれ、体当たりで!』

 

「来る!」

 

 二体を破壊された残り三体のレッドホーンに乗る騎士等は得意な接近戦を仕掛けるべく、スラスターを吹かせてガンダム・ニコレに向けて突撃を開始する。これにニコレは僚機のガンダムヘビーアームズやガンダム・フラウロスのレプリカと共にライフルを撃ち込むが、重装甲ゆえに一機仕留めるのが精一杯であり、二機目を撃破したところで、最後の三機目のクラッシャーホーンを受けそうになる。

 

「幾らガンダム・フレームでも、このクラッシャーホーンは耐え切れまい!」

 

 そう確信しながらボロボロのレッドホーンで突撃を仕掛ける騎士は、額から血を浸らせながらクラッシャーホーンをニコレに叩き込もうとした。だが、ニコレは通常の機体なら回避不能と思われた距離でガンダムの装甲を貫くクラッシャーホーンを躱した。これに躱されたレッドホーンに乗る騎士は、ニコレが阿頼耶識を施し、機体にそのシステムが搭載されていると判断する。

 

「馬鹿な!? イヴ人が阿頼耶識だと! イヴ人が阿頼耶識などを使うはずが…」

 

 取り出したアックスをコクピットの頭部に叩き付けられる寸前、メイソン騎士団の騎士はイヴ人が阿頼耶識システムを同胞に埋め込むなど信じられずにいた。彼女らイヴ人は人をMSの部品にする阿頼耶識システムを忌み嫌っており、例えそれが同胞に埋め込まれるようなら、直ぐに切除手術を施されているはずだ。

 なのにこの阿頼耶識システムを搭載したガンダムに乗るイヴ人の少女、ニコレは阿頼耶識を埋め込んだまま戦闘を行っている。本来はあり得ないのだ。

 

 なぜニコレが阿頼耶識システムを埋め込まれているのは、彼女の過去を遡る必要性がある。

 元々はとある国のイヴ人自治区に両親と共に住む少女であったが、イヴ人殲滅を掲げるテロ組織の襲撃に遭い、拉致されて阿頼耶識システムを埋め込まれた。同胞らが奴隷商人に売られるか、次々と手術の影響で死亡する中、ニコレは三つのコネクタを埋め込まれても生き延び、テロ組織が自前に建造したガンダム・フレーム、今のニコレに当たるMSを与えられ、同胞殺しをさせられる。

 だが、初陣で実戦経験の無さで帝国再建委員会のガンダム部隊に制圧され、以降は委員会に志願し、役に立つために切除手術も拒んでガンダム部隊に志願した。

 それからは今に至り、帝国再建委員会の国家再建作戦に参加している。

 

「よし、一気に接近して…」

 

『大帝国軍のみならず、我が方とワルキューレ、アガサの歩兵隊が!?』

 

『火炎攻撃!? 魔法か!』

 

 数体の増援を得て、帝国再建委員会のガンダム部隊を攻撃しようとするメイソン騎士団の混成機甲部隊であったが、足元の騎士や歩兵が大量に放たれる火炎放射で焼かれているのに気付いた。

 

「見付けたぞ! 叩き潰してやる!」

 

 民間人を巻き込んでの火炎放射攻撃に騎士等は動揺を覚える中、上空の翼竜型の中型ゾイドであるレドラーの六機編隊が火炎放射を大量に放つガンダムを見付けた。メイソン騎士団のレドラーはシンボルの赤で塗装が施され、翼下のミサイルポッドに対地ミサイル、頭部機銃と言った重武装仕様だ。

 おまけに爆弾を搭載した戦闘爆撃機タイプもいるので、幾らガンダムでも爆撃で撃破されてしまうだろう。だが、その黒くて多数のコンテナと武装を搭載したガンダム、ガンダム・アモンに乗るアモレ・ディヴァンバーレは空襲を仕掛けるレドラー六機に向け、ナパーム弾を十二発も撃ち込んだ。

 

「な、何ッ!? うわぁぁぁ! あ、熱い! 熱いぃぃッ!!」

 

 ナパーム弾の爆発でまき散らされた炎で視界をやられた挙句、焼けるような熱さを感じた騎士は思わず操縦桿から手を放してしまった。高熱の所為で操縦不能寸前の騎士が駆る六機のレドラーは、高速で地面に突っ込んで自滅する。

 

「空を飛んでる奴も、燃やした…! 後は…!」

 

 レドラー六機を自滅させたガンダム・アモンを駆るアモレと呼ばれるイヴ人のパイロットは、次なる標的を接近してくるグレイズ・シルト三機とグレイズ六機に定め、火炎放射を放って動きを止めさせる。

 

『ぬわぁぁぁ! き、機体温度上昇! な、ナノ・ラミネートが!?』

 

『あ、足を止めるな! 奴が来るぞ!!』

 

「死んで、死んでよ…!」

 

 兼放射を浴びせられたグレイズ数機は余りの熱さに足を止める中、塗装したナノ・ラミネートが溶け出したことで恐慌状態の一歩寸前まで陥る。これにシルトに乗る騎士は足を止めるなと言うが、既にアモンは接近した後であり、左腕部のパイルバンカーを足を止めたグレイズの胴体に打ち込み、乗っている騎士を圧殺する。

 二機目も同様の手で片付けた後、三機目の反撃を躱して蹴りを入れ込んで転倒させ、右手で取り出した刺突爆薬槍を胴体に叩き込んで吹き飛ばした。

 

『おのれ! よくも同志を!!』

 

 地上用スラスターを吹かせ、ライフルを撃ちながらアモンに接近戦を仕掛ける残り三機のグレイズとシルトであるが、アモレはそれに一切動じることなく、棒部分を投げ捨てて大量の爆雷を装着した両手用ハンマーを取り出し、それで間合いに接近して来たグレイズ・シルトに向けて叩き込む。

 大量の爆雷を装着しているだけのことはあり、大型シールドを吹き飛ばせば、怯んだグレイズ・シルトの胴体に再びハンマーを叩き込んで騎士を圧殺する。

 それから敵機に仕掛けられる前に腰部分のコンテナにハンマーを突っ込んで再装填を行い、再び同じ戦法ではなく、今度は足払いをして直接あの爆雷ハンマーを胴体に叩き込んで、グレイズ・シルトの胴体を吹き飛ばした。幾らナノ・ラミネート装甲でも、あの爆雷ハンマーを直接叩き込まれれば無事では済まないようだ。

 

『こいつ!』

 

「掃討、殲滅…! 絶対に逃がさない」

 

 立て続けに六機ものグレイズを倒したアモンに、残りの赤いグレイズは勇敢に挑むも、保護フレームを開閉してモノアイを見せたガンダム・フレームのパワーに圧倒され、乗っている騎士たちは圧殺されるか至近距離で火炎放射を浴びせられ、高熱で死亡した。

 

『この炎の悪魔め! 成敗してくれる!!』

 

 メイソン騎士団のグレイズ九機を撃破したアモンに、アガサ騎士団の青いグレイズ・リッターがナイトブレードで斬りかかるも、専用コンテナから素早く取り出されたチェーンナパームを巻き付けられた。

 

『なっ!?』

 

「これで認められるから、死んでよ」

 

 敵機に巻き付けたチェーンナパームをアモレは認められるために起動した。連続した爆発が巻き起こり、炎が周りに撒き散らされ、周辺を焼き尽くす。ナパームを巻きつけられたグレイズ・リッターに乗る騎士は高熱で死亡し、操縦者を失った機体は地面に横たわる。

 

 乗機を髪と同じくパイロットスーツと共に黒く染め、暗い雰囲気を漂わせているアモレだが、性格は大人しくて物静かだ。口数も少なく、無口である。

 阿頼耶識システムを施していないが、ガンダム・アモンにのれば一変し、敵を執拗に探し回って焼き殺すために火炎放射を叩き込む。森に逃げても、森を焼き尽くすまで止まらない。

 敵に恨みがあるのではなく、命令されればやるだけだ。余り細かな指示を受けては、対応も出来なくなる。

 なぜこのような性格になった理由は、親の教育が苛烈であり、家の名を挙げることが目的の為だ。二つ上の姉も居るが、後方勤務をしているようだ。

 

「ここの敵は大方焼き尽くした…次は、向こうを焼かないと…!」

 

 そんな過去を持つアモレは、乗機のガンダム・アモンと共に周囲の敵を焼き尽くした後、次の区画を焼きに向かった。

 都市の一区画がガンダム・アモンの放った火炎放射の炎で燃え盛る中、始祖のガンダムとも言えるRX-78-2ガンダムが背中にシールドを装着し、両手にハイパーバズーカを持って担当現場に向かっていた。

 

「なんだ、あの古臭いのぁ? へっへっへっ、あいつが簡単にやれそうだぜぇ!!」

 

 ドライセンやガルム・ロディに乗る親衛隊のパイロット等は、初代ガンダムを見るや否や旧式の機体と判断して襲い掛かる。その旧型機と見て襲った数機のMSであったが、奇襲を仕掛ける前に気付かれ、二挺のハイパーバズーカを撃ち込まれてドライセンが撃破される。

 

『な、何ッ!?』

 

『落ち着け! まぐれよ! あんな博物館送りの機体に、ぐわっ!?』

 

 旧型機と見て襲い掛かった親衛隊の機動兵器らであったが、そのガンダムを駆るパイロット、パール・カーシアは手足のように扱っており、瞬く間にナノ・ラミネート装甲のガルム・ロディが撃破された。弾切れまで右手のバズーカを撃ち尽くした後、それを背後から接近して来たメイソン騎士団のレギンレイズに投げ付け、怯ませてから左手のバズーカを撃ち込んで頭部を破壊する。

 

「ガンダムに乗ってるんだから、これくらいしないと!」

 

 初代ガンダムに乗るパールはイヴ人ではない。

 戦争がある世界に生まれ、幼い頃に両親を亡くし、少年兵として育ってきた少女だ。少々気弱であるが、帝国再建委員会の傭兵として志願し、MS乗りとしての優秀さを買われ、始祖のガンダムこと初代ガンダムを授けられた。市民権を得て、真っ当な職に就くことがパールの目的だ。

 彼女のガンダムにはマグネットコーティングのみならず、生き残るための簡易装甲やワイヤー射出型アームと言った改造が施されている。このおかげか、左手のバズーカを全弾撃ち尽くしても、新しく使えそうな武器を調達することが出来た。調達したMS用武器は、グレイズのライフルである。

 

「このライフルは…でも、贅沢は言えないよね」

 

 背中のシールドを左腕に装着しつつ、左手にグレイズ用ライフルを持ち、右手に腰に装着していた専用ビームライフルを持たせ、選抜部隊が皇帝ラインハルトまでの進路を開くべく前進する。

 

「フハハハッ! なんだその博物館に飾ってそうなMSは!? この大天才のテオバルト様がスクラップにしてやるぜ!」

 

 そんなパールのガンダムに対し、挑んでくるガンダムが居た。それは量産型サイコガンダムであり、大天才を自称する大貴族の子息であるテオバルトであった。親衛隊の首都守備隊所属であるが、あろうことか守るべき首都を破壊しながらガンダムに迫る。

 

「あれはサイコガンダムの量産機? でも!」

 

 多数のビームを発射しながら迫る量産型サイコガンダムに対し、パールは機体の機動性を駆使して躱しつつ、ビームライフルを撃ち込む。これにテオバルトは珍しいことに躱し、インコムを展開する。

 

「フン、コイン機の射撃など当たらんわ! 食らえ、インコム!!」

 

 強化人間やニュータイプでなくとも使用できるオールレンジ攻撃であるインコムを使い、ガンダムの背後を攻撃する。前から来るビームの嵐にインコムの攻撃を背後に受けたガンダムは地面に倒れ込む。バックパックにも増加装甲を付けたおかげか、一撃で撃破されるのを防ぐことが出来た。これにレオバルトは苛立ちを覚える。

 

「死にぞこないめ! だが、今度こそ終わりだ!!」

 

 次なる攻撃を仕掛けるテオバルトはインコムによる攻撃を仕掛けたが、パールはそれに気付いて素早く機体を振り返らせ、右手に持ったビームライフルでインコムを破壊されてしまう。

 

『な、何っ!?』

 

「私は勝って、普通に生きるんだぁぁぁ!!」

 

『はっ!? こ、こいつめ! 来るんじゃあない!!』

 

 驚いて動きを止めたテオバルトの量産型サイコガンダムに、パールは機体のスラスターを全力で吹かせ、敵機に吶喊を敢行する。全速力で突っ込んでくるガンダムに対し、テオバルトは我に返って反撃を行う。それは慌てながらの反撃であった。ビームを滅多やたらに乱射したが、突っ込んでくるガンダムには一応ながら命中した。爆炎が巻き起こる中、テオバルトは撃破したと息を荒げながら確信する。

 

「は、ハハハッ! や、やったぞ! この大天才であるテオバルト様に、そんな博物館送りの機体で敵うはずがないのだ! ははは、アッハッハッハッ!!」

 

 撃破したと思って高笑いするテオバルトに対し、パールのガンダムは直前にビームライフルと左手のライフルを投げ付けて攻撃を躱しており、爆炎の中から姿を現したガンダムは、右手で抜いたビームサーベルで量産型サイコガンダムの胴体を刺突した。

 

「えっ!? ()だァァァッ!!」

 

 撃破したと思ったガンダムが現れたことに気付いたテオバルトであったが、回避は間に合わず、迫るビームの刃がコクピットまで届き、それに断末魔を挙げながら焼かれた。

 敗因は完全にテオバルトの油断であった。パールの勝利して普通に生きると言う気持ちが、己の才能に溺れ、何の苦労も知らずに甘やかされて育ったテオバルトに勝利したのだ。

 

「えっ、待ってくださいよ~!」

 

 コクピットを貫かれて機能を停止した量産型サイコガンダムよりビームサーベルを引き抜き、それをバックパックに戻したパールは、即時に周囲警戒を行ってからアームで使えそうな武器を回収する。それから自分を置いていこうとするガンダム部隊の後に続いた。

 

 

 

「ほぅ、イヴ人共も来たか。だが、四百年前とはまるで違うな。イヴ人は五百年も生きると言われているが、あの時の終末戦争に参加していた者は誰一人も居らん。おまけに人間や英霊まで混じっている。あの時の者共は皆死に絶えたか、あるいは隠居でもしているのか? まぁ、所詮は残党気取りの賊共か」

 

 アガサ騎士団の勇者と交戦していたバウムガルデンは、配下の数百名の親衛隊能力者とグライダー隊が一瞬にして殺害した人間や英霊を含める帝国再建委員会の選抜部隊を見て、剣を叩き込んでくる勇者を弾き飛ばした後、四百年前に戦ったことがある者が誰一人も居ないことに呆れ返る。

 

「イヴ人の賊軍か! 彼奴等、人間のみならず、英霊まで投入するか! 誇りは無いのか!?」

 

 吹き飛ばされた勇者は態勢を立て直し、やってきた帝国再建委員会の中にイヴ人ではない人間の能力者や魔術で召喚された英霊を見て激怒する。

 

「人間? 英霊? おいおい、そこまで人手不足なのかよ、お前らは。イヴ人至上主義の名が聞いて呆れるぜ。美人局でもしたか?」

 

 獣のように襲い掛かる皇帝ラインハルトを吹き飛ばしたメイソン騎士団のグエンスは、イヴ人ではなく、人間や英霊も動員した帝国再建委員会を嘲笑う。

 

「レッドランサー隊とレッドスピアー隊は抑えられなかったのか。この分だと、ワルキューレも来そうだ」

 

 自分に擬態し、動きをコピーしたロット・ロットをコピーされていない二刀流で斬り伏せたレッドホークは、帝国再建委員会の到来を見てグエンスのように蔑まず、ワルキューレの対ラインハルト戦力が来ることを警戒した。

 それと同時に北部の大帝国軍の防衛線が破られてか、無人MAのハシュマルが大量のプルーマを引き連れて首都へ入ろうとしていたが、衛星軌道上に展開するダインスレイブ隊の掃射を受けて進撃を停止した。それだけではない。あの古の機械渾沌巨人(アンティーク・ギア・カオス・ジャイアント)と一体化し、機械兵団を率いるアルシエルもワルキューレの東部方面軍を蹴散らしながら首都へ到達する。

 

『見ているか狂人どもよ! 貴様等が生み出した幾万幾十万の怨嗟が集い、貴様等を殺しに来たぞ!!』

 

 そう告げたアルシエルは、進路上に展開する戦術機部隊や飛行するM1アストレイにムラサメ、ジンクスⅢとⅣを破壊しながら皇帝ラインハルトの元へ進軍した。それと同時に、呆気なくターニャに倒されたクイーシャとヤッターワンも、スミスの何らかの手によって復活しつつある。

 八方塞がりとも言えるこの状況に、バウムガルデンと配下の正義の軍団、それに親衛隊は全く動じる事も無く、むしろ喜んでいた。

 

「フフフッ、イヴ人共には落胆させられたが、四百年ぶりに久しい気分だ。あの時以上の絶望に高揚感、この私を感じさせろよ、貴様たち!」

 

 特にバウムガルデンはかなりの高揚感を覚えており、自分が道化と表する皇帝ラインハルトを殺しに来た者たちに、四百年前の頃を感じさせろと告げた。




尺が何か余ったので、登場させちゃった。

今年の更新はこれまでだ。次回は来年以降となる。

ではみんな、良いお年を。


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首都決戦(バトルシティ)その6

名前:アルバート・ゲイラー
性別:男
年齢:41
階級:中佐
所属:ワルキューレ 空軍第81航空軍
乗機:VB-6
概要:厳格な軍人らしい軍人。火力支援の他、一部前線指揮を行う。
キャラ提供はRararaさん

名前:ソラニコフ・ボルゴ
年齢:16歳
階級:一等兵
所属:国民突撃隊
武器:リーオー
概要:現地軍に志願した少年兵。
キャラ提供はG-20さん

名前:アリッサ・セイバー
性別:女
年齢:18
階級:魔導竜兵騎士団員(中尉相当)
所属:メイソン騎士団
武器又は乗機:ダークスパイナー(Ziユニゾン可能ならキラースパイナー)随伴機キラードーム
概要:メイソン騎士団の魔導竜兵団に所属する騎士。過去に登場したジョン・セイバーの実妹であり、兄と違ってMS適正は低かったが代わりにゾイドとの親和性並びに適正は高かった為、魔導竜兵騎士団入りした経緯を持つ。
性格は年頃の女子相応だが…どちらかといえば男所帯な騎士団にあっても、女らしさは失っていない。
キャラ提供はエイゼさん


 アルシエルの古代の機械渾沌巨人(アンティーク・ギア・カオス・ジャイアント)と随伴する機械兵団による乱入により、大帝国の首都が戦場都市(バトルシティ)と化す中、ワルキューレの南部方面軍より、アルバート・ゲイラーが駆る大型の可変爆撃機「VB-6 ケーニッヒモンスター」が迫る。アルバートが率いる同型機は一個大隊は居り、彼の後に続いている。

 

「レールパパより各中隊、あの召喚獣か巨大ロボか分からん奴を止めるぞ ガウォーク形態へ変形後、直ちに照準し、照準が完了した中隊から一斉射!」

 

『了解!』

 

 大隊長機のVB-6の操縦席内の機長席に座るアルバートは、大隊長機用無線機を使って傘下の各中隊に変形後に一斉射を命じる。それに応じて先行しているVB-6の中隊がシャトル形態から主砲たる長距離四連装レールキャノンを発射できるガウォーク形態へと変形し、道路や地面を削りながら地面に着地する。

 

『照準、固定!』

 

『第二、第三小隊は随伴機だ! 俺に合わせろ!』

 

 それからレールキャノンの砲身を展開し、照準を機械巨人となっているアルシエルや随伴するアンティーク・ギア・ゴーレムに定めた。同じようにアルバートの指示通りにガウォーク形態に変形してアルシエルの機械兵団を狙う。

 

「操縦手、ガウォーク形態に変形! 砲手、変形後に目標に照準次第、四連装レールキャノン発射!」

 

「了解!」

 

 遅れてアルバート機も射撃位置に到達し、機体をシャトル形態からガウォーク形態に変形させて地面を削りながら着地する。それから指示通りにレールキャノンの砲身を展開させ、砲手が照準をアルシエルのカオス・ジャイアントに定める。

 続々と各中隊が射撃位置に着いて照準を定める中、先に照準を済ませたVB-6の中隊が一斉に主砲たるレールキャノンを発射した。凄まじい砲声が鳴り響き、発射された拠点攻略戦で最大の威力を発揮する多数の大口径弾は目標に命中。アンティーク・ギア・ゴーレムを含め、足元に居る多数の機械兵団を撃破した。それに続き、アルバート機も含める各VB-6中隊も砲撃を開始し、機械兵団に更なる損害を与える。

 

「標的に命中! 随伴する機械巨人並び、大型及び中型、小型の無人兵器集団を撃破を確認!」

 

『標的、着弾による煙で見えません!』

 

「赤外線カメラに切り替え、標的の撃破を確認しろ! 大隊規模の砲撃だ、生きているはずがない」

 

 砲手が機械兵団多数を撃破したと報告すれば、先に砲撃した中隊長は着弾による煙でアルシエルのカオス・ジャイアントが見えないと報告してくる。それにアルバートが赤外線カメラで確認しろと言えば、彼にとって予想外な報告をしてきた。

 

『ひょ、標的が! 標的が生きております!』

 

「馬鹿な!? 山が吹き飛ぶくらいの砲撃だぞ! 残骸と見間違えているんじゃないのか?」

 

『いえ、動いております! 標的は健在です! 直ちに砲撃を再開します!!』

 

「強力なバリアーでも張っているのか!? 直ちに砲撃再開!!」

 

 標的であるカオス・ジャイアントが生きていると言う報告に動揺しながらも、冷静さを取り戻して砲撃を再開したアルバートの大隊であったが、他の機械兵団には通じてもカオス・ジャイアントには通じず、左手により発射されるレーザーで蹂躙される。

 

『邪魔をするな! 私の標的はあの狂人だ!!』

 

 自分を仕留めようと砲撃してくるアルバートの大隊に対し、アルシエルは蹂躙しながら前進する。それから尚も砲撃を続けるアルバート機に向け、手の先を叩き込んだ。

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

 アルシエルのカオス・ジャイアントが放つクローは素早く、アルバートのVB-6は逃れることが出来ず、串刺しにされて撃破された。大隊長機がやられたことで、大隊の残存戦力は即時撤退を開始する。

 

「ひ、ヒィィィ!?」

 

 付近で抵抗していた大帝国軍の国民突撃隊であるソラニコフ・ボルゴは上記のリーオーが持つマシンガンで皇帝ラインハルトの元へ向かうカオス・ジャイアントに向けて乱射するが、VB-6の砲撃が通じない相手に効くはずもない。

 そんなソラニコフが乗るリーオーが足元に居るにも関わらず、アルシエルは全く見向きもせず、邪魔だと言わんばかりに蹴り飛ばした。その蹴りはリーオーを破壊するには十分であり、ソラニコフ機は一瞬にして鉄屑と化した。無論、それに乗っていたソラニコフは確実に死亡している。

 隣にいるリーオーも同じく蹴飛ばされ、一瞬にして原形をとどめない程にバラバラにされる。アルシエルの眼中にあるのは、自分の仲間たちを嬲り殺しにした皇帝ラインハルトだけだ。邪魔する者は、何であろうと叩き潰すのみである。

 

『奴は、奴は向こうか! 見付けたぞ! 我が父と母、同胞達の仇!!』

 

 グエンスと交戦する仇であるラインハルトを見付けたアルシエルは、憑依しているカオス・ジャイアントを走らせ、一直線に走りながらそこへ向かう。走る方向に何があろうが、踏み潰すか払い飛ばすだけだ。

 ただひたすら、父と母に同胞らの仇を取るために…。

 

 

 

 自身の命を懸けてまで皇帝ラインハルトに仇討を行うべく、機械兵団を率いて進撃するアルシエルの側で、鬼械神「マゴート」の左肩に乗るモンジェルナ侯爵は、大帝国軍の能力者部隊隊長の一人「大鬼化」の能力を持つバットギズと対峙していた。

 バットギズは全高六十メートルはあるマゴートに対抗する為、自分の能力である大鬼化を使って自身の全高を同等に六十メートルはある大鬼に変貌させ、太い腕で殴り掛かる。これにマゴートも細い腕で抵抗し、巨人同士の大都市での戦闘が始まった。その光景は、さながら怪獣映画のようだ。

 

『ちょっと! あんた等は私たちを攻撃しないんじゃないの!?』

 

 巨大な奇形な鬼械神とキングコングのような巨大猿人が交戦を始めた傍らで、ワルキューレ同士の、正確にはアガサ騎士団に雇われた部隊が、大帝国討伐軍を何故か攻撃していた。

 これに小型の猫型ゾイドであるヘルキャットから攻撃を受けたF-16戦術機に乗る衛士は問うが、答えることなく背中の旋回式砲塔で攻撃を続け、一機を撃墜する。

 それはここだけでない。メイソン騎士団が出現した首都西側や近い場所で、友軍同士の機動兵器による同士討ちが発生しているのだ。現に西側に展開している大帝国軍や親衛隊の機動兵器も同士討ちを行っており、何故かメイソン騎士団を攻撃していない。むしろメイソン騎士団の味方をしていた。

 尚、帝国再建委員会は同士討ちを行っていない。

 

「西側に展開する各勢力、同士討ちを行っております!」

 

「ちっ、ダークスパイナーだ! 電子戦を展開し、ジャミングを阻止しろ! それとそいつを見付け次第にぶっ潰せ!」

 

 南側で指揮を執っているスミスにも、西側で発生するメイソン騎士団以外の同士討ちは見えていた。これにスミスはスピノサウルス型の大型ゾイドであるダークスパイナーのジャミングウェーブによる仕業であると見抜き、電子戦を展開して対応をするように命じ、見付け次第に破壊するようにも告げた。

 それに応じ、待機していた電子戦機は機動兵器を操れるジャミングウェーブの中和を行うべく、電子戦を展開し始める。これにより、西側付近に展開する大帝国討伐軍の機動兵器は次々と制御を取り戻して行き、ジャミングウェーブを放つダークスパイナーを探し始める。

 

『や、止めろ! 聞こえているのか!? 味方だぞ!』

 

「こちらも電子戦を展開しろ! 洗脳を説くのだ!」

 

『了解! ゴルヘックス隊、電子戦を開始せよ!』

 

 アガサ騎士団も同士討ちを行う機が居るので、護衛に囲まれたステゴサウルス型中型ゾイドであるゴルヘックス隊に電子戦を展開させる。これにより、アガサ騎士団も友軍機を操られずに済んだ。

 帝国再建委員会でもただでさえ少ない機動兵器をジャミングウェーブのような物で操られる事を警戒してか、電子戦や強力なセキュリティシステムを使って防いでいた。

 

「もう気付かれたの!? あのテロ集団の機体が操れないのに!」

 

 ジャミングモード形態を取り、電子戦を行うダークスパイナーを駆るメイソン騎士団の騎士は、アリッサ・セイバーだ。セイバーと言うだけで、姓名が同じだけではない。あのアガサ騎士団のジョン・セイバーの実妹だが、誰もそのことに気付いてはいない。

 

「クソっ、対応されたか!」

 

『どうする!?』

 

「放って置け! 敵を操られんダークスパイナーなど不要よ! 精々騎士らしく、暴れて散ってもらおう!」

 

 レギンレイズに乗る騎士は、操られていた大帝国軍やワルキューレ、アガサ騎士団の機動兵器らが正常に戻り、メイソン騎士団に攻撃してくるのを見て、対応されたと苛立つ。これにセイバータイガーに乗る騎士に問われれば、その騎士は非情にもアリッサを見捨てた。

 

『居た! ダークスパイナーだ!』

 

「見付かった!? 味方は、味方は何処なの!?」

 

 味方に見捨てられたことも知らず、アリッサは探し回っていたミッシングリンク隊所属のテラノドン型の中型飛行ゾイドであるストームソーダー二機に発見され、空襲を受けた。二機の飛行ゾイドからの句集を受けるアリッサは、ダークスパイナーの対空ビームを使って追い払いながら味方を探すが、その味方であるはずのメイソン騎士団は見捨てており、孤軍奮闘を余儀なくされる。

 

『居たぞ、奴だ! ジャミングウェーブなど二度とやらせんぞ!』

 

 アガサ騎士団のグレイズとアロザウラーの数機の混成部隊は、アリッサのダークスパイナーを見付け次第に攻撃を始める。だが、ダークスパイナーは大型ゾイドだけであって護衛無しでも戦闘力は高く、接近戦を挑んできたグレイズを一蹴し、アロザウラーを爪で破壊した。最後の一機を仕留めたが、今度はシールドライガーが現れ、背部のレーザーガンを展開して容赦なく撃って来る。

 

「誰も助けないの!? きゃっ!」

 

 攻撃してくるシールドライガーにアリッサは誰も助けないことに苛立つ中、グレイズ・リッターの体当たりを受けて転倒させられる。

 

「こうなれば、私一人で! キラードームちゃん!!」

 

 とどめを刺しに向かうグレイズ・リッターに向け、アリッサはダークスパイナーの尻尾で付近の建物に叩き付ければ、随伴している蟹型の小型ゾイドであるキラードームを要請する。邪魔なゴドスやガンスナイパーと言った小型ゾイドを一掃した後、背中の背ビレであるジャミングウェーブユニットを外し、キラードームと合体したのだ。

 

「行くよ! Ziユニゾン! キラースパイナー!!」

 

 ジャミングウェーブユニットにキラードームが合体すれば、ダークスパイナーはキラースパイナーへと変貌を遂げた。Ziユニゾンと呼ばれるゾイド同士の合体に、アガサ騎士団の面々は驚きの声を上げる。

 

「Ziユニゾンだ…!」

 

『奴め、Ziユニゾンが出来たのか!?』

 

 アリッサのダークスパイナーがZiユニゾンが出来ることに、騎士たちは驚きを隠せないでいた。これでジャミングウェーブは出来なくなったが、キラースパイナーになったことでただでさえ高い戦闘力が更に高くなってしまったため、排除に向かった大帝国軍を含め、挑んだ機動兵器が次々と破壊されていく。

 

「な、何というパワーだ! これがZiユニゾンを行うゾイドファイターの力なのか!?」

 

 建造物に叩き付けられても復帰したグレイズ・リッターに乗る騎士であったが、余りのパワーの違いに驚き、キラードームが放つジャイアントクラブの射出を胴体に受け、圧死させられた。

 

「全く、誰も来ないなんて!」

 

 その後も次々と来るアガサ騎士団や随伴するワルキューレの部隊、大帝国軍を圧倒的性能で叩き潰していくアリッサのキラースパイナーであったが、メイソン騎士団は見捨てており、彼女に一機たりとも増援は送らなかった。見捨てられたことも気付かず、彼女のキラースパイナーは向かってくる敵機を一掃し続ければ、親衛隊首都防衛司令官のクリストハルトが駆るデスザウラーの改造機「デスエイリアン」が立ち塞がる。

 

「な、何!? このデスザウラーの改造型は!?」

 

『親衛隊首都防衛司令官クリストハルトだ! 貴様のゾイドなど、このデスエイリアンが叩き潰してやる! 死ねっ!!』

 

 エイリアンのような風貌を持つデスザウラーの改造機であるデスエイリアンは、主砲の口から発射する荷電粒子砲を撃たず、手持ちの長大なレーザーアックスで斬りかかった。この奇怪なデスザウラー改造機から繰り出される斬撃を、アリッサは躱しながら射撃兵装で反撃する。

 

「ゾイドが武器を振り回すなんて! でも、次回以内に倒せるはず!」

 

 デスエイリアンの攻撃を躱しつつ、アリッサはZiユニゾン解除までに倒せると判断し、パワーでは勝る相手に果敢に挑んだ。

 

 

 

 一方でブーツホルツと激闘を繰り広げるターニャは、魔法障壁を張りながら突撃して来た相手の接近を許してしまう。

 

「貴様は、ここで倒す! ぬォォォッ!!」

 

「しまっ!?」

 

 懐に入られたターニャは直ぐに対抗するが、ブーツホルツはそれよりも速く拳を機関銃の如く繰り出すラッシュを食らわせる。その拳の威力は一発ごとに凄まじく、逃れようにも逃れることが出来ず、ただ繰り出される機関銃のような拳のラッシュを受けるだけだ。

 

「ウォォォッ!? ラッシュに、ラッシュにやられる!?」

 

 凄まじい機関銃のような拳のラッシュにターニャは魔法障壁を張って防ぐも、防ぎ切れないと分かっていた。そんなターニャにブーツホルツは倒せるのは今しかないと判断し、腕が引き千切れようがお構いなしにラッシュを継続する。

 

「ぶっ潰れろぉーッ!!」

 

 相手を確実い倒すべく、ブーツホルツは拳のラッシュを更に速め、魔法障壁を破ってファイテックスに拳を直接叩き込んだ。こうなれば、もう持たないことは確実だ。ターニャは自分の身体にブーツホルツのラッシュが叩き込まれるのを防ぐため、目晦ましの脱出を行った。

 

「うっ!? 脱出しやがったか!!」

 

 拳がファイテックスの装甲を打ち破り、自分の身体に届きそうになった瞬間にターニャは脱出。射出された小柄なターニャに気付いたブーツホルツは左目の義眼によるレーザーで追撃するも、相手が脱ぎ捨てたファイテックスは爆発する。爆発は自爆用の火薬を積み込んでいた所為か威力は高く、それによってブーツホルツは左腕の義手部分を破壊されてしまった。

 

「まだだ!」

 

「ちっ! 主よ、我が眼前の脅威を退けたまえ!!」

 

 それでも諦めず、左目の義眼より光線を発射するも、身軽となったターニャはそれを回避しつつ、嫌いな存在Xの感謝を述べた詠唱による魔法弾で反撃する。その魔法弾はブーツホルツの頭部に命中し、左目の義眼を破壊した。

 

「グぅ…! ぬァァァッ!!」

 

「まだ来るか! ならば! 主よ、我に絶体絶命の危機を脱する力を!!」

 

「な、何ッ!?」

 

 それでも諦めず、心中覚悟で突っ込んだブーツホルツであったが、ターニャはこういう事態に備えて温存してあったエレ二ウム九五式の力を更に使い、渾身の体当たりを躱して背後へ回る。それに驚くブーツホルツは反撃を行おうとするも、ターニャはそれよりも速く動き、強力な魔法による打撃の連撃を叩き込んだ。

 

「死ねぇぇぇッ!!」

 

「グワァァァっ!?」

 

「これで終わりだ! 死ねぃ!!」

 

 ブーツホルツのラッシュ以上の打撃を小さな手でやるターニャに、それを先ほど行っていたその相手はただ背中で受けて声を上げるだけだ。ラッシュはそれほど長く続かず、ターニャがとどめの一撃を叩き込めば、大爆発を起こす。

 

「俺は、俺は破れたのか…!? 自分の仇も部下の仇も取れず…!」

 

 秘匿のエレ二ウム九五式による攻撃でも、ブーツホルツは両足が吹き飛び、身体の外装の一部が露出した状態でもまだ生きていた。そのままブーツホルツは自分の仇も部下の仇も取れぬ自身を恥じながら、建物へと落下していく。それでも戦闘継続は不可能であり、ブーツホルツが付近の建物に落下したのを確認すれば、ターニャは皇帝ラインハルトを討ち取りに行くことを伝え、ミッシングリンク隊やワルキューレと交戦する部下たちに各個の判断で応戦するように命令する。

 

「フェアリー・キングより戦闘団各ユニットへ通達する。私はこれより皇帝ラインハルトを討ちに行く。交戦中の敵部隊とは各個の判断で応戦せよ。繰り返す、交戦中の敵とは各個の判断で応戦せよ!」

 

『了解!』

 

『な、何だって!? 俺たちを見捨て…』

 

 その命令を出された特務大隊を除く者たちはやや混乱したが、ターニャとのつきあいが長い特務大隊の隊員らは命令の意味を理解し、各々の判断で相手との交戦を継続する。命令の意図が理解できず、撃破される者が続出するも、生き残るために戦い続けた。

 軽装備となってしまったターニャは、ブーツホルツを撃破してもハイエナ狙いで来る敵航空魔導士の編隊を難なく撃破し、殺害した敵航空魔導士からAR-15系突撃銃のカービンモデルの一つ、C8カービンを予備弾倉のポーチごと奪い、それを装備してから皇帝ラインハルト討伐へ向かった。

 

「あっ? なんだ貴様、俺は正義の軍団の六番ノミド…」

 

 交戦している皇帝ラインハルトやバウムガルデンに接近しようとする者を排除していた正義の軍団の一人、黒縁メガネを掛けた青年である六番手のノミドは接近してくるターニャに気付き、邪魔な敵を排除し、自分の名を名乗ろうとしたが、ターニャは最後まで聞かずに顔面を蹴り飛ばした。

 ターニャの小さい足に蹴り飛ばされたノミドの首は吹き飛び、首が無くなった彼の死体は地面へと落下していく。邪魔な敵を一人殺したターニャの下に、更に敵が迫る。親衛隊対テロ部隊指揮官であるゴットロープだ。対テロ装備に身を包み、秘孔グライダーでターニャに挑んでくる。

 

「このドアカ野郎がァ! 薄汚ねぇ足で俺たちの国を土足で踏み荒らしやがって! ぶっ殺し…」

 

「この私をコミュニスト(アカ)扱いか。心外だな」

 

 意気揚々に挑んだゴットロープであったが、あっさりとターニャに倒されてしまった。自分を共産主義者扱いしたゴットロープに毒づいた後、ターニャは既に所属する帝国再建委員会の選抜隊とグエンスと交戦する皇帝ラインハルトを見付け、ライフルの照準を構えて強力な破壊術式を唱える。

 

「奴を討ち取るのは、この私だ!」

 

 そう交戦している一同に告げながら、ターニャは術式で強化した弾丸を皇帝ラインハルトに向けて放った。




コロナウィルスに感染した…だと…!?

今年に入ってあれほど感染しなかったコロナウィルスに感染とは、俺も運が無い男よ…!


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首都決戦(バトルシティ)その7

名前:志々雄飛翔(ししお・ひしょう)
性別:男
年齢:15歳
階級:騎士見習い
所属:アガサ騎士団
乗機:シールドライガー
概要 別の話で登場した盾松 修人や元気と同じ世界の出身で元気同様にザールの襲撃で異世界転移してこの世界に来た。
その後、シールドライガーに主として認められて臨時騎士見習いとなり、アガサ騎士団に入る。
自分と同じく異世界転移している盾松 修人の友人であり元気は、後輩にあたる。何時か彼らと再会して元の世界に帰ることを夢見ている。
流石にライガーゼロ・ファルコンはチート過ぎるので、シールドライガーに変えさせて頂いた。ごめんなさい、M Yさん。
キャラ提供はM Yさん

名前:ヴェストゥム
性別:男
年齢:33歳
階級:大尉
所属:フェアリー戦闘団 陸軍混成連隊
乗機:ジム・スパルタン
概要:元々は帝国再建委員会に攻め込まれた世界の国で軍人をやっていたが、その国が滅ぼされ、下級兵士として強制徴兵される。
元は陸軍中佐であったが、イヴ人将兵数十人を殺害した罪で大尉にまで降格され、旧型機に乗せられている。
こんな状態にも関わらず、脱走は一切しない。
キャラ提供は神谷主水さん

名前:ミレイナ
性別:女
年齢:外見年齢20手前
階級:なし
所属:ハーレムアーミー
武器:神聖魔法、魔導鎧
概要:純白に金色の装飾のドレスのような甲冑を身に纏った金髪の聖女のような見た目をしている。
元は小さい教会でシスターとして悩み相談などをしていたが、町に買い物に出た際に運悪くクルス来夏に見初められてしまい、洗脳を受けてしまった。洗脳の影響で元の碧眼は赤く染まっている。
ハーレムアーミーの中でも古株の一人でクルス来夏の所謂『お気に入り』であり、度重なる強化を行われており、他のハーレムアーミーとは一線を画する能力を持っている。
純粋な戦闘力はそれなり程度だが、その分サポートに特化しており、特に防御能力は正義の軍団にも匹敵する。
キャラ提供はRararaさん


「なんて奴だ…! ブーツホルツを倒しちまったぞ!?」

 

 自分の身長を二メートルまで上げるお気に入りのファイテックスを破壊されながらも、ブーツホルツを倒し、皇帝ラインハルトを討ち取りに向かったターニャを見たスミスは驚きの声を上げる。

 

「あれだけ強化してやったのに、この様とは! テッカマンドッグにキャシャーンレディ、標的とあのクソったれを倒せ!!」

 

 これにスミスは奥の手を使った。それはヤッターワンとクイーシャであった。だが、ターニャにあっさりとやられた一機と一人が出来るはずがない。そう思われていたが、ヤッターワンとクイーシャは仮の姿であったのだ。

 

「ワォーン! ぺガス、テックセクター!!」

 

 スミスの命を受けたと同時にある物を口の中に投げ込まれたヤッターワンは、ドッキリびっくりメカとは違う輝きを全身に纏う。それから変身を叫んだ後、ヤッターワンは左右二つに割れ、そこから屈強な鋼鉄の鎧に身を包んだ宇宙の騎士、テッカマンが現れる。

 

「テッカマンドッグ!」

 

 ヤッターワンの正体は宇宙の騎士テッカマンであった。その名もテッカマンドッグである。

 モビルアーマーのハシュマルに次ぐスミスの秘匿戦力であり、正体を隠すためにヤッターワンに偽装していたのだ。ターニャに対する切り札であるブーツホルツが破れたのを見たスミスは、この時に備えて隠していた遂にヤッターワンとキャシャーンレディの偽装を解いたのだ。

 元のヤッターワンはぺガスに変形し、飛翔して飛行を開始する。

 

「行くぞ、ぺガス!」

 

「ラーサー!」

 

 そのままテッカマンドッグはぺガスの上に飛び乗り、皇帝ラインハルトを討ち取るために飛んでいく。

 

「そうか、私はキャシャーンレディだったんだ」

 

「ウキキ!」

 

 スミスより封印を解かれ、自分の正体を思い出したクイーシャことキャシャーンレディは、バナナを右肩に乗せた。クイーシャの姿はキャシャーンレディを隠すためのホログラム映像に過ぎなかったのだ。

 無論、仮の姿の経歴は偽物であり、偽装の為に敢えてキャシャーンレディとしての記憶を忘れ、自分の事をクイーシャと思い込んで過ごしていた。バナナは覚えていたようだが、喋れないので記憶を改善されずに済んだようだ。

 

「目標、ターニャ・フォン・デグレチャフ。あれね」

 

「死ねぃ! ぶわっ!?」

 

 自分の標的であるターニャを始末するべく、大帝国軍のグライダー兵より搭乗者を蹴り落とし、グライダーを奪った。

 

「足は確保した。これより標的の始末を開始する」

 

 グライダーを奪ったキャシャーンレディは、グライダーをわずかな時間で手足のように扱い、ターニャの追撃を開始した。

 

 

 

志々雄(ししお)騎士見習い! 何処へ行くか!?』

 

 アガサ騎士団に属するある一機のシールドライガーが戦列を離れ、戦闘団と交戦しているミッシングリンク隊と南部・頭部方面軍の方へ向かっていた。

 上官である騎士が乗るシールドライガーが追うが、そのシールドライガーは止まらない。

 静止の声を無視して無断でターニャの戦闘団と交戦している友軍の方へ向かうシールドライガーを駆る騎士、否、少年の名は志々雄飛翔(ししお・ひしょう)。修人や元気と同じ世界出身者だ。

 ザールの襲撃で別の世界に転移し、アガサ騎士団に拾われ、いま搭乗しているシールドライガーに主と認められ、臨時騎士見習いとしてアガサ騎士団に入団したようだ。

 だが、入って間もなく、この派遣が初陣である。そればかりか元気が搭乗機と能力ゆえにミッシングリンク隊に無理やり編入され、戦わされていると聞くや否や、無断で戦列を離れて向かっているのだ。

 

『なんだ? アガサ騎士団のシールドライガーがこっちに。ここは奴らが居ないんじゃないのか?』

 

 ミッシングリンク隊と戦闘団が交戦する区画では、アガサ騎士団は誰一人も居なかった。そんな区画に急にアガサ騎士団所属のシールドライガーが現れたのだから、ミッシングリンク隊所属のアームスレイブのM9ガーンズバックに乗るパイロットは、僚機と共に所持しているライフルを向ける。

 

『そこのアガサ騎士団所属機、止まれ! ここはワルキューレの戦闘区画だ! 幾ら友軍の貴様らでも勝手は許されんぞ!!』

 

 警告するM9のパイロットであったが、志々雄は聞く耳持たずに突っ込み、あろうことか火器まで撃ち込んだ。

 

「元気を、後輩を利用した代償は高くつくぞ!!」

 

『うわっ!? 馬鹿かこいつ!』

 

 後輩である元気を助けようと思う余り、志々雄は周りが見えなくなっていた。撃ってきたシールドライガーに、M9二機はライフルで反撃する。これを志々雄は避けつつ、Eシールドを展開しながらの体当たりを仕掛けて突破し、元気が居る場所へと急行する。

 

「撃ちやがったぞ! 本部、発砲して良いか!? 向こうはお構いなしに撃ってるぞ!」

 

 キツネ型の中型ゾイドであるシャドーフォックスに乗るミッシングリンク隊の隊員は、アガサ騎士団所属の志々雄がなりふり構わずに射撃兵装を撃って来ていると報告し、本部に指示を仰いだ。

 

『アガサの連中が撃ってきただと? 何処の馬鹿だ?』

 

「単機で馬鹿みたいに突っ込んでいます。ガンダムXとの交戦エリアに進行中の模様。動きは素人に近いです!」

 

『そうか。ならば破壊してしまえ! パイロットは殺すなよ! 奴らは新兵も抑えられんのか!』

 

 本部に居るスミスからの指示は、乗機のみの破壊であった。暴走する志々雄にスミスは新兵を抑えられないアガサ騎士団に苛立つ。もっとも、無断で突っ込んでいるのは志々雄の方であり、アガサ騎士団に非は無いのだが。

 

『止まれ! 志々雄騎士見習い! 破門するぞ!!』

 

「うっ!? 邪魔するな!」

 

 発砲許可を受けたシャドーフォックス四機は、背中の旋回式ガトリング砲を撃ち込み、志々雄のシールドライガーを追撃するが、彼は被弾しながらもスラスターを吹かせて強引に振り切り、元気のガンダムXが戦闘団の陸軍混成機甲連隊と交戦しているエリアに飛び込んだ。

 

「元気、無事か!?」

 

『そ、その声は志々雄さん! 志々雄さんじゃないか!』

 

「いま解放してやっからな! 待ってろ!」

 

 強引にシャドーフォックスを振り切った志々雄は、元気のガンダムXと合流することが出来た。そんな志々雄のシールドライガーの背後より、ロギュウ・バルベルトが駆る陸戦用ジムがビームサーベルで斬りかかる。

 

『食らぇーッ! ドワッ!?』

 

 だが、志々雄は気付いており、シールドライガーの後ろ脚による蹴りで吹き飛ばし、ロギュウの陸戦用ジムを戦闘不能にする。他にも挑んでくる混成機甲連隊の機動兵器は居たが、元気のガンダムXによる攻撃やGビットに撃破されるだけだ。

 

「くそっ、数が多いぜ!」

 

『これじゃあ、脱出どころじゃない!』

 

『なんでシールドライガーがここに!? アガサの連中は何を考えてんだ!?』

 

 脱出しようとする志々雄と元気であるが、スミスやミッシングリンク隊は全く増援を寄越さないので、包囲されて突破できない。僚機と共にリィのGファルコンと交戦しているランドマン・ロディを駆るラドラルは、志々雄のシールドライガーの乱入に動揺していた。

 そんな互いに背中を合わせ、残り九機となったGビットに周囲警戒をしながら脱出の機会を探る二人に、戦闘団に属するジム・スパルタン三機による小隊が襲い掛かる。手持ちのミニガンによる奇襲攻撃で三機のGビットを撃破すれば、本体であろう元気のガンダムXが対応する前に、弾丸の雨を浴びせる。

 

『うわぁぁぁ!?』

 

「元気!?」

 

 ミニガンの掃射でも、ガンダリュウム合金のおかげで撃破には至らないが、怯んでしまう。それを防ぐために志々雄のシールドライガーがEシールドを張って掃射を防いだ。これにジム・スパルタンを駆り、その小隊を率いるヴェストゥムは舌打ちする。

 

「ちっ、あいつ等もガンダムであっちもガンダムかよ!」

 

 苛立ちながらも直ぐにミニガンの掃射を止め、反撃してくる前に直ぐに二機の同型機と共に下がり、探索の為に向かってきたGビット二機を奇襲で更に撃破する。これでGビットは残り四機だ。

 

「あいつは何処だ!?」

 

『あいつ等だけじゃねぇ! 他にもいるぞ!!』

 

 敵はジム・スパルタン三機だけでなく、ザクⅡJC型やザクⅡF2型、陸戦用ジム、ジム改などの雑多な旧型機が、元気と志々雄に攻撃を加えて来る。それに二人は必死に応戦するのであった。

 

『隊長、他の奴らは何時まで持ちますかね?』

 

「知るか。ともかく、あのガンダムの首を手土産に、メイソンの奴らに寝返らねぇとな」

 

『おいおい、聞かれたらどうすんだ!? 爆破されちまうぞ!』

 

「安心しろ。奴らはそれどころじゃねェ」

 

 部下よりほかの連中は何時まで持つのかと問えば、ヴェストゥムは全滅しようが知ったことが無いと返し、そればかりか元気のガンダムXの首を手土産に、メイソン騎士団に寝返ろうとしていた。それをもう一人が盗聴を警戒して爆破されると注意したが、ヴェストゥムには監視部隊はそれどころじゃないと分かっているので、安心して口にできると返す。

 ヴェストゥムは元々中佐であり、所属も帝国再建委員会ではなく軍の特殊部隊に属していたが、委員会の領土奪還という名の侵攻で祖国を滅ぼされ、大尉にまで降格され、強制徴兵されて無理やり戦わされている。ある程度を戦果を挙げれば退役できるのだが、それを委員会が守るかどうか不透明である。旧型機のジム・スパルタンに乗っているのはその為で、メイソン騎士団に鞍替えを実行しようとしているのも、不当な扱いに耐え兼ねての物である。

 

『へへへっ! なら、あいつ等が全滅した後で仕掛けますか?』

 

「その通りだ。奴らには俺たちの推進剤の節約をしてもらう。あいつの首を取り、メイソンと合流するためにな」

 

 それが分かれば、部下は嬉しそうに攻撃している味方が全滅してから仕掛けるのかと問う。これにヴェストゥムはその通りと告げ、ガンダムXとシールドライガーに接近しそうなワルキューレの機を警戒した。

 

「あべし!」

 

 上空では、ミッシングリンク隊と南部・東部方面軍の合同部隊による波状攻撃で、第十三航空魔導士大隊の石動十太が散った。

 

「クソっ、俺たちだけでどうにかしろだなんて! 無茶苦茶だ!!」

 

 ターニャがいなくなった後でも特務大隊は命令通りに各々の判断で戦闘を継続していたが、第十三大隊はそうは行かず、所属する真下はFAL自動小銃を乱射し、恐慌状態に陥る。

 

「落ち着け! デグレチャフ戦闘団長殿が標的を討ち取るまで耐えるんだ!!」

 

 大隊長であるアーペントラウフェンは指示を出しながら交戦するも、誰も聞くはずもなく、挙句に脱走する者がいたが、逃げられるはずもなく後方から迫るメイソン騎士団やあらゆる方向から続々と出て来るVF-8ローガンに敵航空魔導士に殺害される。

 

「私も運命も、これまでですかね?」

 

 ゴズンも次々と落とされていく味方を見て、自分もここまでかと死を悟るが、ただでは死なないという思いもあるので、背後より斬りかかるメイソン騎士団の航空魔導騎士を左手に持った手斧で殺害し、片手でMG5分隊支援火器を掃射する。更に撃墜数を増やすが、敵は尚も増え続けるばかりだ。

 

「新手です!」

 

「こんな時に!!」

 

「オラぁ! 黄色人種(イエローモンキー)黒人(ニガー)共が!! 白人の聖地に土足で入るんじゃねぇ!!」

 

 そんな大混戦状態の戦闘団に、新たな敵が迫ってきた。それは正義の軍団の三番手、クラウン・ホワイト・キングであった。白い頭巾を被って顔を隠し、全身白尽くめの男だ。手にはAR-15系統のライフルを握られている。率いる配下の軍団も同じ格好をして同じライフルを所持しており、白人以外の人種に対する蔑称を使っていることから、まるでアメリカの白人至上主義団体である。

 しかもクラウン含めて全員が航空魔導士のように飛んでおり、異様さを際立たせている。クラウン率いる白人至上主義者たちの到来をフリーデリーケが知らせれば、アーデは敵航空魔導士を仕留めた後、G36A突撃銃を向け、フルオート射撃を浴びせた。

 

「へっへっへっ、こんな奴らが俺の相手とはラッキーだぜ! 流石はラッキーナンバーの男!」

 

 自分の事を一番幸運な男であると自慢する正義の軍団の七番手、ラッキー・ボーイもクラウンに続いて戦闘団に攻撃しようとしていた。だが、ラッキー・ボーイに取って今日は不運(アンラッキー)であった。

 止まっている所を、アーペントラウフェンが持つパンツァーファストⅢ対戦車火器の照準が向けられていたのだ。当に狙われているラッキー・ボーイはそれに全く気付いていない。

 

「何がラッキー・ボーイだ!」

 

 照準が合えば直ぐに引き金を引き、ロケット弾を発射した。発射されたロケット弾はラッキー・ボーイに向けて飛んでいくが、自分に向かって飛んでくるロケット弾に気付かず、誰から倒そうかと迷っていた。

 

「決めたぞ。弱そうなおま…」

 

 ラッキー・ボーイが狙ったのは、自分から見て弱そうなユーゴであった。だが、動く前にロケット弾が命中し、ラッキー・ボーイは粉々に吹き飛ぶ。

 

「なんだ、ラッキー・ボーイの奴が死んだか! 奴はアホだからな!」

 

 同じ正義の軍団の一人が死んだにも関わらず、クラウンは全く気にも留めず、アーデらに攻撃を続けていた。

 

 

 

 西部や南部、東部で激戦が繰り広げられる中、ハシュマルがダインスレイブを受けて停止していたが、ワルキューレの北部方面軍は構わずにその物量に物を言わせて首都進攻を続ける。

 地上では多数の戦術機が到来し、首都を守るどころか見境なしに発砲する大帝国軍に突撃砲の弾を浴びせる。更に後続の戦車部隊が来ているので、圧されているのだが、大帝国軍は狂信的に前進を続けて損害を増やすばかりだ。上空からもバルキリーや爆撃機の大群が飛来しており、大帝国軍は溶けるように戦力を減らす。

 

「あいつ等、なんでこんなにも…!」

 

 無闇に突撃を続ける大帝国軍に強制徴兵された老人から少年を見て、上空の航空機群に随伴する専用VAのクリームヒルトを纏うレオナは哀れんでいた。だが、味方を無駄に突撃させて敵の弾薬を消費させている単機で正体が突撃してくる。それは正義の軍団の八番手であるサクラダであった。

 

「フン、女子供に負けるとは、使えん男共よ! そんな敵軍なんぞ、ワシ一人で殲滅してくれるわ!」

 

 武者甲冑に身を包んで飛行する巨漢であるサクラダは、そのまま何の策も無しに北部方面軍に突撃する。女子供の軍隊に策を講じる必要性も無いと判断してだ。だが、レオナのクリームヒルトが放ったグラムによる砲撃で、後方に控える自分の軍ごと消し炭にされてしまう。

 

「えっ!? しょんにゃぁ…」

 

 間抜けな断末魔を上げながらサクラダは消滅した。そのままエネルギーは射線に居る全ての者を消し去りながら皇帝の宮殿へと向かって行くが、突如となく出現したドーム状の結界によって防がれる。

 

「あれは…!? 防御に適した能力者?」

 

 レオナがグラムを防いだドーム状の結界を見て、何らかの能力者であると認識する中、そのドーム状の中心に居るのは、純白に金色の装飾を施したドレスのような甲冑を身に纏う金髪の聖女のような女性と、あのハーレムアーミーのクルス来夏であった。

 

「三次元女共ではなく、中身が醜いイヴ人共か。大勢で押し掛けるとは下賤だね。ミレイナ、聖盾で薙ぎ払うんだ」

 

「はい、来夏様」

 

 自分は何もせず、クルスはミレイナと呼ばれる防御結界を張る女性に命じれば、赤い虚ろな目をしている彼女はそれに従い、聖盾を攻撃に使い、先行して空爆を行おうとしたバルキリーと攻撃機数十機を一気に撃墜する。

 

 ミレイナはクルスがハーレムアーミーの能力で呼び出した理想の女の子ではなく、正真正銘の彼が嫌っているはずの三次元の女である人間だ。元は小さな教会でシスターとして悩み相談などをしていたが、買い物で出かけている最中に運悪くクルスに見初められてしまい、特殊な薬を飲まされて洗脳されてしまう。

 嫌っている三次元の女にしてはクルスの好みの外見をしていた所為かお気に入りにされ、度重なる強化で他のハーレムアーミー、理想その物の花嫁であるハーレムジェネラルとは一線を画する能力を持っている。純粋な戦闘力は無いが、サポートに特化しており、その防御力は正義の軍団にも匹敵する。

 

「み、味方が…!?」

 

「さ、三十機が一度に…!?」

 

「こ、これが能力者の力なの…!?」

 

 他のVAを身に纏う隊員が驚きの声を上げる中、レオナは初の対能力者戦闘に恐怖する。一度に数十機もの航空機を撃墜する能力者が相手なのだ。恐怖を覚えるのは至極当然である。

 

「さて、口煩くて馬鹿でブサイクな三次元女共と見た目だけのイヴ人共を殲滅しよう。僕の理想の花嫁たちで構成されたこのハーレムアーミーでね!!」

 

『イエッサー! 総司令官殿!!』

 

 またしても自分の能力を自慢しながら、クルスは配下のハーレムアーミーに数十機の味方を落とされて動揺する北部方面軍に攻撃を命じた。

 その数はブーツホルツと交戦した時よりも多く、総数五万体の軍団規模であった。しかも召喚されたハーレムソルジャーはワルキューレが認定する低級能力者レベルであり、精鋭の兵士に匹敵する。それも飛べるのだがから、徴兵されたイヴ人が大部分を占めている北部方面軍では、蹂躙されるのは目に見えていた。

 

「死んじゃいなよ! 三次元女!!」

 

「くっ! これが人、いや、能力者の力なの!?」

 

 ハーレムソルジャーの攻撃を受けたレオナは、生身の状態での攻撃の強さに驚きの声を上げる。他のVAであるノルドの装着者たちは一方的にやられており、バルキリーですら容易く撃破されるばかりだ。地上の方も次々と倒され、損害は時間が経つごとに増えていく。

 

「アハハハッ! しょせん三次元女は美貌でも魅力でも、力でも二次元には勝てないのさ!!」

 

 自分のハーレムアーミーがワルキューレの北部方面軍を蹂躙するのを見て、クルスは高笑いしていた。

 

「それでも! あの子たちと私の未来の為、負けられない!!」

 

 身体能力ではハーレムアーミーが上であるが、それでも自分と孤児たちの未来を守るため、レオナは自分を攻撃するハーレムソルジャーを吹き飛ばし、本体であるクルスへと突撃した。




これで全員登場したかな?

次回からは、それぞれの戦いに決着をつけていく予定です。


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首都決戦(バトルシティ)その8

いよいよ、決着だワン!(その1)

神谷主水さん、誤字報告サンクス。


「機体の性能差でも、パイロットがな!」

 

 首都上空でガンイージでカーラのジンクスⅣと交戦するヘルマンは、その性能差を物ともせず、相手の左脚を機体の左手に持つビームサーベルで斬り落とした。

 

『ちっ!』

 

「そのまま一思いに、殺してやる!」

 

 バランスを崩したジンクスⅣに向け、右手に持ったもう一つのビームサーベルでコクピットを串刺しにしようとしたヘルマンであったが、ジンクスⅣにはある機能が搭載されていた。

 それは、トランザムシステムである。機体性能を三倍にし、機動力も三倍にするシステムであるが、時間制限があり、それが過ぎれば機体性能は大幅に低下する。短期決戦用の技であり、諸刃の剣だ。

 ここぞとばかりに使わなかったカーラであるが、この絶対的に助からない状況で使う他に無いだろう。直ぐにカーラはトランザムを使い、窮地を脱する。

 

「トランザム!!」

 

『何っ!? 量産機がトランザムだと!?』

 

 どうやらヘルマンは、ジンクスⅣがトランザムを使えることを知らなかったようだ。量産型MSであるジンクスⅣを、ジンクスシリーズの性能向上型の量産機と見て油断しており、トランザムのような博打の如くシステムを搭載している訳が無いと思っていたのだ。もし搭載されていても、リミッターが設けられて使えないと思っていた。

 生産性や安全性を考慮しての正しい判断であるが、カーラのジンクスⅣにはそれが搭載されており、リミッターも設けられていなかった。トランザムを発動したカーラのジンクスⅣは窮地を脱し、ヘルマンのガンイージの上を取る。

 

「そんな贅沢なもんをのっけやがって! 畜生が!!」

 

 上を取った赤く発行する片足のジンクスⅣに対し、ヘルマンのガンイージは頭部バルカンとマルチランチャーを連射するが、トランザム状態の敵機はそれを全て避け、両手に持ったGNビームサーベルで切り裂き始める。

 

「首だ! 首だ、首だ首だ首だ首だ首だ首だァ!!」

 

 それに対してヘルマンは残った右手に持つビームサーベルを振り回し、一太刀を浴びせるも、カーラは止まらず、首と連呼しながら首以外の個所を切り刻み、最後に首を斬り落とした。

 

「ヌワァァァッ! こんなところで、こんなところで、終わるのか…!?」

 

 達磨状態となって落下していくガンイージのコクピット内で、爆発する計器から飛び散った破片を浴びながら、ヘルマンは自身の敗北を知り、死を覚悟した。だが、高速状態のトランザムでの攻撃はカーラにとって不慣れであってか、致命傷は避けており、落下したガンイージに乗ったままのヘルマンは気絶した程度で済んだ。

 

「くっ、粒子残量が! 予備も無いのか!? まさか、ここで脱落とは! まだ戦闘は、続いているというのに…! クソっ!!」

 

 損傷したジンクスⅣでの疑似太陽炉型トランザムの反動はやはり厳しく、粒子があっと言う間に底を尽き、カーラはまだ戦闘が続いているのに、ここで脱落する機体に苛立ちを覚えた。そんなカーラを乗せた粒子切れを起こしたジンクスⅣは、真下にある建造物に落下し、機能を停止した。

 

「相討ちとなったが。せめて、せめて奴の首を!」

 

 落下して機能を停止したジンクスⅣよりカーラは首切り用包丁とサバイバルパックを取り、コクピットを抉じ開けて飛び出し、気絶しているヘルマンの首を取りに行こうとしたが、戦闘中にメイソン騎士団が出現した西側に寄っており、歩兵や騎士たちが付近をうろついており、彼女を見るなり襲い掛かる。

 

「こんな所にもメイソンが…! ここは味方と合流しなければ…」

 

 機体から降りたカーラは、まるで別人のように搭乗時より口数が少なくなっていた。機体から降りている時は殆ど喋らないため、影武者説が囁かれているのだ。

 そんな彼女はメイソンの騎士たちと応戦するのは無謀と判断し、手にしているP90短機関銃を撃ちながら味方の陣地がある方へと走った。

 

 かくして、帝国再建委員会のヘルマン・ヨーゼフ・ホイジンガーとカーラ・ドゥルヴァティーとの戦いは、相討ちと言う形で終わった。

 

「この賊軍の奴隷兵士、まだ息があるぞ!」

 

「我らメイソン騎士団の捕虜としろ。イヴ人の賊軍に居たのなら、我がメイソンの同志となるはずだ」

 

 気絶したヘルマンが乗っていた達磨状態のガンイージはメイソン騎士団に回収され、捕虜にされていた。彼らはヘルマンを直ぐに帝国再建委員会の奴隷兵士と認識し、自分らの兵士にしようとしていた。

 

「それに奴はトランザム状態のジンクスに一太刀を浴びせた。良い機体を与えれば、アガサを初めとする我らメイソンの敵を討つ剣となろう」

 

 ヘルマンをメイソン騎士団に入れる理由は、トランザム状態のジンクスⅣに一太刀を浴びせたからで、良い機体を与えれば、メイソン騎士団に利益をもたらす存在と見たのだ。

 気絶しているヘルマンはメイソン騎士団に捕虜にされたことも知らぬまま、回収艇まで抱えられて連れていかれた。

 

 

 

「畜生、性能差はどうにもならんか!」

 

 ワインレッドカラーのVF-22SシュトゥルムフォーゲルⅡを駆り、ノヴァーナのVF-31CジークフリートやソリルのYF-29Bパーツィパルと交戦するアイオーンは、流石に高性能機二機との戦闘は分が悪いらしく、追い込まれていた。

 戦闘団のバルキリー大隊は僚機と地上でミサイルを専用アーマッド・パック「ガンパック」装備のVF-11Cサンダーボルトで迎撃しまくるシーンと共に壊滅させたが、流石に高性能バルキリーばかりで編成された監視部隊相手には機体の性能差で苦戦し、飛んでいるのはアイオーン機のみだった。

 

「まさか俺自身が、人が極限の状況での本質を試す羽目になるとはなぁ…!」

 

 窮地に立たされたアイオーンは生き残るために操縦桿を巧みに動かし、飛んでくるガンポッドの掃射やビームを避け続ける。

 

「しぶとい奴!」

 

 機体をバトロイド形態に変形させ、手に持たせたガンポッドを撃ち続けるソリルであるが、ファイター形態のVF-22Sを駆るアイオーンは機体をジグザグに動かし、照準が合わないように逃げ回り、相手の攻撃を躱し続け、彼女を苛立たせる。

 そんなアイオーンの前方より、VF-31Cを駆るノヴァーナが僚機のYF-29B二機を伴って現れ、僚機と共にガウォーク形態を取ってガンポッドによる掃射を掛けて来る。

 

『もらった!』

 

「ちっ! だったら俺が人の心の光、輝かしてやるぜ!」

 

 前方から来る弾丸の嵐にアイオーンは覚悟を決め、機体を被弾数の少ないガウォーク形態へと変形させ、機体を回転させつつガンポッドやビームガンを躱しながら撃つ。少しばかり被弾したが、相手が止まって撃ってくれているので、二機のYF-29Bの撃墜に成功するも、ノヴァーナのVF-31Cを仕損じた。

 

『きゃっ!』

 

「まだ息があるのか!」

 

『やらせるか!』

 

 煙を吹いているノヴァーナのVF-31Cに対し、とどめを刺すために機体をバトロイド形態へ変形させ、ガンポッドを撃ち込もうとしたが、背後よりソリルのYF-29Bがガンポッドとミサイルを同時に撃ち込んでくる。当然アイオーンはそれに気付いており、直ぐに振り返ってガンポットをソリル機に向けて撃ち込んだ。

 

『き、機体が!? クソっ、墜落する!』

 

「やりやがったな! てっ、あいつは何処だ!?」

 

 ソリルのYF-29Bを戦闘不能にし、墜落させることに成功したが、彼女が先に放ったガンポッドとミサイルは躱し切れず、ピンポイントバリアで防いだ。その隙にノヴァーナ機から視線を逸らしたので、彼女のVF-31Cを見失ってしまう。

 

「やぁぁぁッ!」

 

『なっ!?』

 

 そんなアイオーンのVF-22Sの背後より、両腕の対装甲ナイフを展開したノヴァーナのVF-31Cが迫る。

 

「やった…!?」

 

『まだだよ!!』

 

「えっ…!?」

 

 胴体を切り裂いたノヴァーナのVF-31Cであったが、アイオーンのVF-22Sはまだ動いており、両手にピンポイントバリアを纏ったピンポイントバリアパンチが繰り出された。完全に切り裂いたはずの敵機より繰り出されたパンチで胴体を抉られ、ノヴァーナのVF-31Cは撃墜された。

 寸でのところでノヴァーナは緊急脱出手段であるEXギアを纏って脱出し、無傷であったが、アイオーンのVF-22Sは限界を迎えており、所々が爆発を起こしていた。

 

「ここが限界か! 脱出する!」

 

 機体は放棄して脱出せざる負えない状況なので、アイオーンは迷わずにワインレッドのVF-22Sから脱出した。数秒後、搭乗者が脱出したVF-22Sは火を噴きながら墜落し、地面に落ちた後には爆発を起こして木端微塵に吹き飛んだ。

 

「次はステルス機じゃなくて、戦闘力重視の機体に乗りたいもんだな」

 

 脱出して数秒後に落下傘を開き、市街地へとゆっくりと降り立つアイオーンは、次はステルス機ではなく、VF-25やVF-31と言った戦闘力が高いバルキリーが良いと、爆発で吹き飛んだ自機を見ながら呟いた。そのまま味方の陣地に向け、ゆっくりとアイオーンは降下していった。

 監視部隊は半数以上の機数を失ったが、まだ戦闘力は健在であり、続々と来るワルキューレ空軍と交戦を継続していた。

 

 アイオーンのVF-22SシュトゥルムフォーゲルⅡ対ノヴァーナ・アプトのVF-31Cジークフリートとソリル・ディゼルのYF-29Bパーツィパルの戦いは、ヘルマンとカーラとの戦いと同じく相討ちと言う形で終わったが、ミッシングリンク隊の航空部隊はほぼ壊滅しており、勝者はまだ半数が残っているノヴァーナとソリルが属する戦闘団傘下の監視部隊の勝利で終わった。

 

「畜生め! どいつもこいつも、ここが市街地だと言うことが分かってんのか!? まだ市民の避難も完了してねぇんだぞ! 全く!!」

 

 ミサイル迎撃特化パックであるガンパック装備のVF-11Cサンダーボルトを駆るシーン・プライセルは、敵味方がミサイルを躊躇いなく使用することに腹を立てつつも、市街地にミサイルが当たらぬように手当たり次第に迎撃していた。

 

 

 

 鬼械神「マゴート」を使役するモンジェルナ侯爵と、大鬼化の能力で巨大化したバットギズとの戦いに決着がついた。

 

「少し手こずったわね」

 

 勝者はマゴートを使役するモンジェルナ侯爵であった。敗者であるバットギズは頭を食い千切られ、頭の無い死体は元の大きさに戻り、瓦礫の上に横たわっていた。

 そんな敗者の死体にモンジェルナ侯爵は敬意を表さず、使役するマゴートに踏み潰させ、メイソン騎士団のグエンスと交戦する皇帝ラインハルトの方へと向かう。戦いは帝国再建委員会の選抜隊の乱入で更に激しさを増しており、選抜隊の三名の能力者がマゴートを見るなり攻撃して来た。

 

「ひひひっ! あの木偶の棒を倒せば、ハーレム確定だ!!」

 

 選抜隊に参加した能力者は人間であったらしく、戦果を挙げれば委員会よりそれなりの報酬を期待して志願したようだ。そのままモンジェルナ侯爵のマゴートに突っ込んだが、相手の力量を見誤ったのか、振り払いで三人共々バラバラにされた。

 

「また新手か。ベレニケとバットギズは討たれたか。ファビアン、任せるぞ」

 

「はっ! 出でよ、我が僕!」

 

 近付いて来るマゴートにバウムガルデンは、能力者部隊隊長の二名は倒されたと判断し、自分の副官であるファビアンに対応するように命じた。これに応じ、ファビアンはマゴートと同等の巨大な魔人を召還させ、向かってくる鬼械神と交戦を開始する。

 尚、バウムガルデンはアガサ騎士団の勇者と戦っておらず、その相手を軍団の二番手である東条武夫にやらせて指揮を執っていた。旧大日本帝国陸軍将校のカーキ色の外装に身を纏う武夫は勇者以上の実力の持ち主であり、軍刀でアガサ騎士団最強とも言える騎士と互角の勝負を繰り広げている。

 

「貴公、バウムガルデンなる男は貴公らの主君を道化と見なし、己の野望を果たさんとする反逆者ぞ! その者の為になぜ剣を振るうか!?」

 

「そんな事、当に承知している。それに俺はあの正義の皇帝等と宣う馬鹿に忠誠など誓っていない! 俺の目的はただ一つ、祖父の故郷である日本へ行き、祖父の時代の日本を再興することだ!!」

 

「なにッ!?」

 

 何故バウムガルデンの為に戦うのかと問う勇者に対し、武夫は己の野望を曝け出しながら吹き飛ばす。そこから斬撃を繰り出して両断しようとするが、勇者は盾で防いで剣の刃を横っ腹に叩き込もうと振るう。これを防ぎつつ、武夫は距離を取って日本刀の大太刀のような軍刀を構え直す。

 相手が仕切り直そうとしている所で、勇者もまた仕切り直しつつ、主君の忠誠よりも己の野望を優先する理由を問う。

 

「何故に貴公は祖父の世界へ行き、祖父の時代を再興しようというのか? 貴公の祖父の世界に行ったことも無いが、平和な国だと聞く。何ゆえに再興などと言うのだ?」

 

 祖父の国を向かい、大日本帝国を再興するという理由を問う勇者に、武夫は剣を向けながらその胸に秘めた野望を明かした。

 

「平和? 平和だと? 違うッ! 腐って崩れ果てようとしているのだ! 国内は売国奴で溢れ、政治家は私欲に浸り、碌に国家の為の為政もしない! 挙句、愛国者と謳いながら、国の為に何の行動もせず、そればかりか愛国心を商売道具にし、私腹を肥やし、堕落する始末! いい歳をした大人がいつまでも餓鬼のように漫画やアニメ、ゲームなどに夢中になり、堕落して現実逃避するばかりか、それを世界中に広げ、恥を晒している! そんな者共が愛国者などと宣い、日本を辱めている! これが平和な国だと言える物か!?」

 

 これに勇者は茫然とするあまり、何も反論できなかった。

 武夫の野望とは、最大の絶頂期であり、栄光とも言える大日本帝国を再興すると言う物であった。その栄光と言うか回帰への再興には、賛同せぬ者に敵対者、働かない者や働けない者、現実逃避をする人々等を日本の敵と判断し、抹殺を目的としていた。武夫を我々の世界のような日本へ行かせれば、未曽有の大粛清が行われることは明確だ。再興すれば、領土拡大を領土回復と表し、周辺諸国に侵略を仕掛ける事は確実で、日本は世界の敵と認識されるだろう。

 夥しい死をもたらすであろう武夫の野望を、アガサ騎士団に置いて、騎士道精神と正義の心、勇気の手本たる勇者は止めねばならぬ野望と無意識に判断した。日本に対してアガサ騎士団の勇者は何の所縁もないが、日本を世界の敵としないため、同時に確実に殺されてしまう弱者たちを守るべく、主君より命じられた皇帝ラインハルト討伐を後回しにして、武夫の野望を砕くことを優先した。

 

「貴公、否、貴様のその悪の野望は阻止せねばならん! その日本という国に対し、私には縁もゆかりもないが、確実に大勢の弱者たちは虐殺されるのは明白! 貴様の抱く理想の国家には豊かさは無く、ただ破壊と殺戮が繰り返されるであろう! それはまさしく悪の国だ!! アルゴン王には申し訳ないが、貴様の世界中に悲劇と不幸をもたらすその悪の野望は、何としても阻止せねばならん!!」

 

「この偽善者め! まぁ、外国人の貴様には理解できんだろうな! この全日本人が渇望する勝利と永遠なる繁栄への高潔なる目的を! その為に俺は祖父の故郷である日本へ絶対に帰るのだ!! 国を蝕む売国奴共や愛国心を謡いながら何もせん奴らを含める日本の敵を排除し、真の日本を再建する! 真の日本人たる俺の邪魔をするな!!」

 

 自身の目的を悪と表した勇者に、武夫は日本人でなければ理解できないと反論して攻撃を再開した。それに勇者も応戦し、激戦が再開される。

 これでアガサ騎士団は皇帝ラインハルトを討ち取れないと思われていたが、策士は勇者が破れた事に備え、予備戦力である別の実力者を派兵部隊の旗艦であるタゴンに乗船させていた。

 

「ん、特記戦力のターニャ・フォン・デグレチャフか。PAY(ぴえわい)、対処しろ!」

 

 指揮を執っているバウムガルデンは、ターニャが皇帝ラインハルトを狙っていることに気付き、軍団の四番手であるPAYに対処させた。それに応じ、PAYは右手の掌に溜め込んだ気弾を撃ち込み、ターニャを撃ち落とそうとしたが、気付かれて躱される。

 

「ち、邪魔をして!」

 

「これが俺の相手かァ? YAP遺伝子を持つこの特別な俺の相手が、こんなクソチビだとぉ? まぁ、どんな相手でも、俺に敗北は無いけどな!」

 

 攻撃を躱したターニャに、PAYはまるで最初から勝ったつもりで近付いてきた。そればかりか、ターニャの事を見下して挙句に負ける事は無いと余裕を見せ付ける。そんな相手を過小評価し、自分が無敗の存在であると気取るPAYに、ターニャはC8カービン突撃銃を向け、皇帝ラインハルトを殺そうとしていた術式を放った。

 

「YAP遺伝子だぁ? そんな努力もせず働かず、親の世話になってる現実逃避してる奴が信仰する戯言なんぞで、現実で人事権を得るまでに昇進した私を倒せる物か!」

 

 ターニャが放った対能力者術式はPAYに命中した。爆散しているPAYに対し、ターニャは妄想の類を妄信するのだから、どうせ大した奴では無いと高を括り、前前世で現実と向き合って努力し、昇進した自分を倒せる物かと告げた。だが、目標は健在であり、無傷でしかも笑っていた。

 

「そんなカス見てぇな攻撃で、この特別な俺を努力なんて言う無駄な物で倒せると思ってんのかァ? このYAP遺伝子を持つこの俺によぉ!?」

 

「なんと厄介な…! 目標は目の前だというのに!」

 

 特別な遺伝子を持つ自分にとって、努力は無駄な物だと言うPAYが生きていることに、ターニャは目標が手の届く距離にいると言うのに、こんな馬鹿と戦わなければならないことに苛立ちを覚えた。




決着はまだ続きます。
それと後半で東条武夫やPAYが目立ち過ぎてごめんなさい。

自分で書いててなんだけどさ、東条武夫って、ヤベェ奴だなー。
まぁ、オタクの敵になるように書いてるから。

萌え文化を教え込めば、ワンチャンあるかもって思うけど、納得しても暴力が伴いと思う。
知れば「現実逃避の末に生み出された堕落の文化だ。抹消せねばならん」とブチ切れ、文化抹消を図る。
理解しても「この素晴らしい文化を否定する者は敵だ。否、誰一人足りとで生かしてはならん!」と宣い、人類滅亡コースへ。

極端な方に走っちゃう奴なんですよ。メタルギアライジングに出て来るコロラド州出身の右に寄り過ぎて、地球を一周しちゃってる上院議員みたいにね。
てか、その上院議員をモデルにしちゃってんだけど(笑)。

PAYに関しては、もう騙されていることにすら気付いてない馬鹿です。この次に出て来る時は、前話に出たクラウン・ホワイト・キング(略してKKK)とか言うコテコテな白人至上主義者と同じくご退場かな。

武夫とPAY、KKKとかのコテコテ三人衆を使いたいと思った方は、メールでご相談してくださいね。まっ、こんな奴らを使いたいとは誰も思わないけどw


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首都決戦(バトルシティ)その9

いよいよ、決着だワン!(その2)

GYAO!が配信終了…だと…!?


 ヘルマン・ヨーゼフ・ホイジンガー対カーラ・ドゥルヴァティー、アイオーン対ノヴァーナ・アプトにソリル・ディゼルとの戦いに決着がつく中、志々雄と合流した元気とリィも、対峙しているラドラルとヴェストゥムとの戦いにも決着がつこうとしていた。

 

「よし、今だ! 撃て撃て!!」

 

 ランドマン・ロディを駆るラドラルは、攻撃するために旋回して来たリィのGファルコンを誘い出し、他の同型機や獅電数機と共に対空射撃を行う。

 

「しまった!?」

 

『敵攻撃機撃破だ!』

 

 経験の浅さから誘いとは知らず、ラドラル等の射線に誘い込まれたリィは操縦桿を動かし、必死に逃れようとするが、数十機による一斉射から逃れる事は出来ず、次々と被弾する。それでも諦めずに操縦桿を動かし、下から来る対空射撃から逃れる事は出来たが、既にコントロールが出来ない程の被害を受けていた。

 

「こ、これ以上は! 機体のコントロールも!? こんなところで終わるなんて! まだあの子は戦っていると言うのに!」

 

 碌に反撃も出来ない上に元気の援護も出来ず、ここで戦線離脱を余儀なくされたリィは自分の不甲斐なさを覚え、左手で八つ当たりの拳で計器を叩いた。

 彼女の被弾箇所から火を噴いているGファルコンは、味方の陣地の方へ向けて墜落していく。そのようにリィが操縦桿を動かし、そこへ機体を誘導させたのだ。墜落の衝撃で死亡する可能性があるため、リィは脱出装置を起動させて機体から脱出し、空中に操縦席ごと放り出された。

 そこから落下傘が展開され、リィはゆっくりと地上へと降りていく。そんな無防備状態のリィを狙おうとするランドマン・ロディが居たが、ラドラル機に止められる。

 

『な、何をしやがる!? あいつに仲間を何人も殺されたんだぞ!』

 

「今のあいつを殺して何になる!? それより戦闘は続いてるんだ! 無駄弾を使うんじゃねぇ!」

 

 撃墜に至るまで、ラドラルの部隊はリィのGファルコンに何機も撃破されていた。仲間を何人も殺された憎しみに駆られるのは無理もないが、自分たちが生き残ることを考えれば、無意味に等しい。それにラドラルは無抵抗な者を殺すことに、嫌悪感を覚えるタイプであった。

 

『ちっ、分かったよ! こいつ等め、何機いやがるんだ!?』

 

「そうだ! 生き残るために弾を使え! 無抵抗な奴を殺す必要性は無いんだ!」

 

 ラドラルにそれを論されれば、同僚はそれを理解し、次々と来るワルキューレの部隊に対応する。

 

「今だ、仕掛けるぞ」

 

『応っ!』

 

 元気のガンダムXと志々雄のシールドライガー、Gビット四機と対峙するジム・スパルタンを駆るヴェストゥムは、差し向けていた味方が全滅したのを機に、同型機二機を伴って相手に仕掛けた。

 

『うわっ!? こいつ等はあの三機の!』

 

『こいつ等、味方に俺たちを消耗させて!』

 

 襲ってきた旧型機を全て撃破した元気と志々雄は、三機のジム・スパルタンの襲撃に戸惑う。

 元気はGビットに指示を出すも、旧型機の攻撃で消耗しており、Gビットはミニガンの掃射で三機が喪失した。残り一機である。

 志々雄は味方を消耗させるヴェストゥム等に怒りを覚え、怒り任せの攻撃に出るも、的確なミニガンによる掃射でEシールドでの防戦一方となる。

 

「釘付けにしておけ。俺は背後へ回る」

 

 二機に二人をを釘付けにしておくように言った後、ヴェストゥム機は背後へ回り込もうと移動する。NTである元気なら気付くはずだが、二機のジム・スパルタンによるミニガンの制圧射撃で身動きが取れず、志々雄と同じく防戦一方だ。Gビットを向かわせようとするも、気付かれて撃破される。

 

「じ、Gビットが…!? リィさんは!? リィさんのGファルコンは何処だ!?」

 

 最後のGビットを撃破された元気は、リィのGファルコンに援護と頼もうとするが、ラドラルに撃墜された後であり、応答するはずがない。元気は恐慌状態(パニック)に陥っており、何度もリィを呼び出している。

 

「止せ元気! 応答が無いと言うことは、逃げたかやられたかだ! 俺が盾になる! お前は今のうちに…」

 

『逃げられちゃ困るんだよォーッ!』

 

「っ!?」

 

 そんな恐慌状態の元気に、志々雄はリィの応答が無い事がどういう意味だか伝え、守りの硬いシールドライガーを駆る自分が盾となり、脱出するように告げるも、背後へ回っていたヴェストゥムのジム・スパルタンが逆手持ちにしたヒートナイフを突き刺そうとしていた。

 狙ったのは元気のガンダムXだ。その熱で切断力を強化された高熱の刃は、ガンダムXの胴体に向けて振るわれる。NTの元気は恐慌状態だったゆえに、ヴェストゥムが殺気を放つまで接近に気付かなかった。気付いた元気は何とか致命傷は避けられたが、左腕を斬り落とされた。即座に右手に持つビームライフルを、ヴェストゥムのジム・スパルタンに向けて連発する。

 

「ちっ、あれはやれただろ! どうなってる!?」

 

 あの一撃は確実にパイロットを切り裂けたはずだが、NTの反応で避けられたことに、ヴェストゥムは若干の焦りを見せた。近距離から飛んでくるビームと志々雄のシールドライガーによる攻撃を避けつつ、機体に装備された煙幕を張って姿を晦ます。

 

『元気、無事か!?』

 

「だ、大丈夫…! あれを倒せないと、逃げられないのか!? うわっ!」

 

 無事を問う志々雄に元気は、ヴェストゥムらを倒さなければ逃げられないと悟る。その矢先に、制圧射撃を行っていた二機のジム・スパルタンによる攻撃を受けて被弾する。更には側面からもヴェストゥム機によるミニガンの掃射が行われ、またしても両名は防戦一方となる。

 

『敵の足を止めた!』

 

『次で仕留めるのか?』

 

「そうだ、南と東から来る連中がこっちに来そうだ。包囲される前にあいつ等を仕留め、メイソンの手土産にする! お前らはシールドライガーを! 俺はガンダムをやる!」

 

『了解!』

 

 次で仕留めるのかという部下からの問いに対し、ヴェストゥムはワルキューレの南と東の連合部隊がこちらに接近していることを悟り、包囲される前に仕留めなくてはならないと答えた。答え後、二名の部下に志々雄のシールドライガーを倒すように指示を出す。

 元気のガンダムXを仕留めると宣言したヴェストゥム機の方は、ミニガンを再び手に持ってその首を取りに行った。二手に別れ、攻撃してくるヴェストゥムらに、元気と志々雄も応戦する。

 

「来るぞ! 俺の後ろに隠れて応戦しろ!」

 

『わ、分かった!』

 

 損傷した元気のガンダムXを守るべく、志々雄は守りの硬いシールドライガーの後ろへ隠れるように告げてからEシールドを展開し、雨あられと飛んでくるミニガンの掃射から守る。ヴェストゥムらはここでケリをつけるようで、弾薬を惜しまずに撃ちながら前進してくる。

 

「また煙幕か! クソ、何処だ!?」

 

 ミニガンの弾が切れれば即座に捨て、煙幕を展開して自分らの動きを悟られないようにし、徐々に距離を詰める。これに志々雄たちは闇雲に煙幕に向けて撃つが、そこに三機のジム・スパルタンは居ない。既に二機が志々雄のシールドライガーに、ヴェストゥム機が元気のガンダムXをヒートナイフの間合いまで迫っていた。

 

「志々雄、後ろ…っ!?」

 

『人の心配をしてる場合じゃないぜ!』

 

 志々雄のシールドライガーに迫る二機のジム・スパルタンに気付き、それを伝えようとした元気であるが、背後よりヴェストゥム機がヒートナイフを振り落とそうとしていた。今度は速く気付けたが、胴体を抉られた。直ぐにビームライフルを撃ち込もうとするも、二振り目で銃身を切断される。

 

「至近距離で撃ち込もうとはなぁ! うぅ!?」

 

 ライフルを切断した後、ヴェストゥムはとどめの一撃を見舞おうとしたが、元気が咄嗟に行った機体による体当たりを受ける。突き飛ばされたヴェストゥムのジム・スパルタンは直ぐに体勢を立て直し、ガンダムXのバルカン砲による掃射から逃げる。

 

「元気!? クソっ、こいつ等!」

 

 元気がヴェストゥム機に襲われていることが分かり、二機を振り払って助けに行こうとするが、ビームサーベルで乗機の胴体を切り付けられる。そんな二機のジム・スパルタンに志々雄は前足や後足を動かして抵抗するも、避けられるばかりだ。

 

『へっ、シールドライガーは仕留めた経験があるのよ!』

 

『碌に訓練も受けてねぇ素人が乗るシールドライガーなんぞ!』

 

「負けるか!」

 

 距離を取った後にとどめを刺そうとする二機のジム・スパルタンに対し、志々雄は馬鹿正直に突っ込む。

 

『馬鹿め! 気でも狂ったか!』

 

『ぶっ殺してメイソン入りよ!』

 

 突っ込んでくる志々雄のシールドライガーに、二機のジム・スパルタンのパイロット等は笑い、引き付けてからビームサーベルで串刺しにしようとした。だが、志々雄は相手が油断したと思ったところで、両脇のミサイルポッドを展開し、下部の三連装衝撃砲を撃ち込んだ。

 いきなりの射撃に驚くも、志々雄の射撃は下手であり、標的に命中することなく足元に当たり、土煙を発生させるだけだ。

 

『ちっ、脅かしやがって! だが、これで…!?』

 

 射撃が下手と分かったところで、仕切り直してとどめを刺しに行こうとする二機のジム・スパルタンであったが、煙の中からEシールドを展開した志々雄のシールドライガーが現れ、近くに居たジム・スパルタンは胴体を抉られて撃破された。俗に言うシールドアタックである。

 

『な、何ッ!? クソったれ!』

 

 仲間を撃破されたことに激怒し、ビームサーベルをシールドライガーに叩き込んでEシールドを破いた。

 

『なっ!?』

 

「うぉぉぉっ!!」

 

『こ、こいつ!? グワァァァ!!』

 

 Eシールドは破られたが、志々雄は諦めずに突っ込み、敵機の胴体に発動させたレーザーサーベルで噛み千切って撃破した。

 

「はぁ、はぁ…やった…! 元気は!?」

 

 志々雄は二機のジム・スパルタンに勝利した。呼吸を整えてから元気が無事かどうか直ぐに確認する。

 一方でヴェストゥム機に取り付かれている元気のガンダムXはビームソードを抜き、背後から斬りかかる相手の斬撃を防いだ。

 

『なんて強いんだ!』

 

「しぶとい奴め! ケツに目でもついてんのか!?」

 

 鍔迫り合いの最中、元気は余りの強さに驚き、ヴェストゥムは余りのしぶとさと反応の速さに苛立つ。パワーではガンダムXが勝っており、ジム・スパルタンは押されていたが、乗っているヴェストゥムは相手の力を利用し、バランスを崩させた。

 

「しまった!?」

 

 バランスを崩した元気のガンダムXの首を斬り落とし、とどめの一撃を見舞おうとしたが、バランスを瞬時に立て直した蹴りを胴体に受けて吹き飛ばされる。

 

「クソっ、化け物か!?」

 

 乗機を吹き飛ばされる中、ヴェストゥムは苦し紛れの攻撃を行う。それは投げナイフ、ヒートナイフをガンダムXに投げ付けたのだ。

 

「うわっ!?」

 

 飛んでくるヒートナイフに気付いた元気は避けようとするも、度重なるダメージで機体が思うように動かず、脇腹に突き刺さった。撃破には至らないが、戦闘不能に追い込まれた。

 

「よし、とどめを…!」

 

『元気!』

 

「ちっ、やられやがって!」

 

 頭の無いガンダムXにとどめを刺そうとするヴェストゥムであるが、ここに志々雄のシールドライガーが到来した。今の状態ではシールドライガーとの戦いは不利を判断し、ガンダムXの頭だけを持ってメイソン騎士団の方へ逃亡した。

 

「クソっ、あいつめ! 元気、無事か!?」

 

『あぁ! 大丈夫だけど、機体はもう駄目だ!』

 

「なら俺の機体に乗り込め! 今が逃げるチャンスだ!」

 

『逃げていいのか?』

 

「良いに決まってる! 逃げるぞ!」

 

 ガンダムXの頭を持って逃げるヴェストゥムのジム・スパルタンの追撃を止め、志々雄は元気に機体を捨てて自分と共に逃げるように告げた。これに迷う元気であるが、志々雄に論されて機体から降りてシールドライガーの元へ走る。

 その際にGコンも持ってきたが、もう必要ないので元気はそれを投げ捨て、志々雄のシールドライガーに乗り込み、戦場から逃亡した。

 盾松元気と志々雄飛翔、リィ・ファーム対ラドラル・ラドリオ、ヴェストゥムの戦いは結果的に後者の方に分配が上がった。

 

 

 

『馬鹿な!? 俺のゾイドはデスザウラー改造機であるデスエイリアンなんだぞ! こんな合体した程度のゾイドに負けるなど!!』

 

 アリッサのキラースパイナーとクリストハルトのデスエイリアンとの戦いの決着はつこうとしていた。

 性能ではオリジナルでも改造においても勝るはずのクリストハルトのデスエリアンが、キラードームとZiユニゾンしてキラースパイナーに圧倒されていた。手持ちの武装であるレーザーアックスは、振るった瞬間にキラードームのアームに掴まれて圧し折られている。その次にジャミングブレードで切り刻まれ、射撃兵装を打ち込まれて一方的にやられている。

 

「Ziユニゾン解除まで、一気に押し切っちゃうよ!」

 

 Ziユニゾンの継続はそれほど長くないので、アリッサは短期決戦で仕留めることにしたのだ。対するクリストハルトは自身が駆るデスザウラーの改造機である「デスエイリアン」なら彼女のキラースパイナーを早期に撃破できると思い込んでおり、その当てが外れれば冷静さを失い、予想外の展開に対応しきれずにいた。それにアリッサが早期に決着をつけようとしているので、自分の方が早期に討たれる事態に陥っているのだ。

 そんな早期撃破の為に情け容赦なく攻撃し続けるアリッサのキラースパイナーに一方的にやられる中、クリストハルトはようやく反撃に出た。

 

『そんな馬鹿な!? 俺のはデスザウラーの改造機であるデスエイリアンなんだぞ! それに俺は首都防衛軍司令官なんだぞ! なんでこんな雑魚ゾイドに負けるんだ!? 俺はいずれ世界帝国(ヴェルト・ライヒ)の侵攻軍総司令官に昇進し、世界皇帝(ヴェルト・カイザー)と共に栄華を極めるんだ! そんな俺が、そんな俺がどうしてこんな雑魚に! 道端に転がる石ころの分際なんぞに!!』

 

 負けたくないと言う自分の幼稚な思いを叫びながら反撃のクローを打ち込んだデスエイリアンであったが、その負けたくない気持ちはアリッサも同じであり、打ち込まれたクローの衝撃を愛機のキラースパイナーと共に耐えつつ自分も思いを直接通信で相手に告げる。

 

「負けたくないんだね…! でも、それは私も同じだよ。私だって負けられないんだ! 人を雑魚とか石ころとか言う自分の事しか頭に無い奴なんかに!!」

 

『その声は、女!? 女だと!? 俺は女に、女に押されていたと言うのか!?』

 

 他者を見下す自分勝手な人間には負けられないと言うアリッサに対し、相手が女だと分かったクリストハルトは、遥か下の身分である女に押された事実を知り、自身のプライドで認めることが出来ず、激昂して怒り任せの攻撃である荷電粒子砲を放つ。

 

『ほ、ほざけェ!! この正義の帝国の親衛隊で首都防衛司令官たる俺が女に負けるなどあり得ん! 断じてあり得ない! 断じて! 断じてあり得んのだァァァッ!!』

 

 そのデスエイリアンの口部からなる荷電粒子砲発射は隙だらけであり、衝撃で少しばかり意識が揺らいでいるアリッサにも見抜けるほどの攻撃であった。アリッサは訪れた勝機を逃すことなく掴み取り、怒り任せに繰り出された荷電粒子砲を躱し、背後へ回り込んで跳躍したキラースパイナーの尻尾による攻撃を食らわせる。

 

「ストライクスマッシュテイル!!」

 

 高振動の尻尾による打撃をうなじの荷電粒子吸入ファンに叩き込まれたデスエイリアンは、撃ち続けていた荷電粒子砲の暴走も重なり、内部爆発を起こし始める。

 

「ば、馬鹿な!? この俺が! この俺が女に敗れるなどッ!? ありえん! ありえなぁぁぁいィィィッ!!」

 

 クリストハルトは最期まで敗北を受け入れられずにいた。倒せる相手の女に敗北したことが余ほど認められず、操縦桿を動かすも、デスエイリアンは言うことを効かない。そのまま断末魔を叫びを上げながら荷電粒子の爆発に呑まれ、跡形も無く消えた。

 デスエリアンを倒したアリッサのキラースパイナーはZiユニゾンの時間切れを起こしたのか、元のダークスパイナーとキラードームに戻った。無論、Ziユニゾンの合体はゾイドの戦闘力を飛躍的に向上させるが、その分ゾイドに多大な負担を掛けるので、Ziユニゾン解除後は急激にゾイドの性能は低下する。

 

「はぁ、解除前に終わって良かった…」

 

 Ziユニゾン解除までに決着をつけられたことに、アリッサは安堵して乗機のダークスパイナーと合わせるようにその場に倒れ込んだ。キラードームも疲れ果てており、一向に動こうとしない。

 

『なんだ貴様、生きていたのか? てっきりやられたかと思ったぞ』

 

「やられたって…! 助けてくれれば良いんじゃないですか!? 私、一人で…!」

 

『戦闘が出来んゾイドなど邪魔だ! まだ動けるなら速く後方へ下がれ!』

 

 そんなアリッサに向け、メイソン騎士団所属のレギンレイズやレッドホーン数機が来たが、単独で敵部隊とデスエイリアンを倒した彼女に何の労いも言葉も無く、戦えないのなら後方へ行けと吐き捨て、戦闘地域へと向かって行った。ジャミングウェーブが行えないダークスパイナーは、メイソン騎士団にとって単なる大型ゾイド以下の価値しか無いようだ。

 

「労いの言葉も無いとか…転職しよっかな…」

 

 余りの仕打ちにアリッサはメイソン騎士団を抜けようと考え始める。そんな彼女は疲弊した乗機のダークスパイナーを動かしつつ、同じく疲弊しているキラードームを引き連れ、着地したホエールキングの方へと向かう。

 かくして、アリッサ・セイバーとクリストハルトとの戦いは、前者が勝利を収めた。アリッサにとってこの勝利は、メイソン騎士団に対する不信感を植え付ける結果となった。




ボトムズが配信してたので、見てて滅茶苦茶遅れた。

取り敢えず、次で対決シリーズは終了かな。


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首都決戦(バトルシティ)その10

これで首都決戦編は終わりです。次は皇帝戦かな。


「フハハハッ、死ねぃ!」

 

 ナザーリオが属するアガサ騎士団の輸送体を狙う正義の軍団の一人であるハイモは、価値が無いと判断した自国の女子供を初めとした民間人を敵兵ごと殺傷していた。アガサ騎士団の騎士や兵士たちは民間人を守るべく、圧倒的な力を持つハイモに挑むも、蹴散らされるばかりである。

 

「あぁ、もう見てられねぇ!」

 

「少尉殿、どちらへ!?」

 

「民間人の救助だ!」

 

 一方的にハイモ一人にやられるアガサ騎士団に、業を煮やしたマイーラは救援に向かう。帝国再建委員会所属の航空魔導士なために、部下から静止の声を掛けられるが、民間人の救助と返し、飛翔して輸送隊を襲うハイモに果敢に挑む。強力な砲撃術式を使ってハイモに当てるも、相手は無傷であった。それでも、注意を引くことに成功する。

 

「てめぇ、何しやがんだ!?」

 

「あれで死なないのかい!? だが、これで!」

 

 ハイモは輸送隊への攻撃を止め、自分を攻撃したマイーラの方へと向かう。

 

「な、なんで賊軍の飛行魔導士が!? 助かるが…」

 

 アガサ騎士団の輸送隊の面々はマイーラの参入に混乱したが、ナザーリオはこれをチャンスに捉えた。輸送トレーラーから自身のグスタフを切り離し、単独で離れ始める。

 

『お、おい! 逃げる気か!?』

 

「馬鹿が! 逃げる訳が無いだろ! 奴を倒す絶好の機会さ!!」

 

 護衛機に逃げるのかと咎められれば、ナザーリオはハイモを倒すチャンスであると返し、自分専用のグスタフをそちらへ向ける。

 

「地上に誘い出してくれりゃあ、トランザムの体当たりで何とかなるはずだ」

 

 キャノピー越しから見える圧倒的パワーを持つハイモ相手に奮戦するマイーラに、地上へ誘い出してくれるように頼むが、顔も知らなければ周波数も知らないナザーリオの思いが彼女に届くはずはない。そんなマイーラも果敢にHK33突撃銃でハイモを責め立てていたが、ほんの僅かな時間だけであり、逆転されて執拗な追撃を受けていた。

 

「フへへへ、どうしたぁ!? 逃げるだけかァ!?」

 

「クソっ、徹甲術式も効かないとは! このままじゃ!」

 

 下衆な笑い声を上げながら追撃してくるハイモに、マイーラは考え無しにアガサ騎士団の加勢した事を後悔しながら逃げていた。敵は強力な能力者だ。直ぐに追いつかれ、地面に叩き付けられた。

 

「ぐぁ…! ぬ…!」

 

「ヒヒヒッ! まだ動くのかァ? これでとどめを刺してやんぜ!」

 

 地面に叩き付けられながらも、マイーラは魔法障壁を張って出来る限りダメージは抑えた。それでも全身を強く打ち付けており、激痛が身体中を走っている。それでも生き残るため、血反吐を吐きながらもどうにか身体を動かし、激痛に耐えながら再び飛んで逃れる。

 そんなマイーラにハイモはとどめを刺そうと、わざわざ地上へ降りて右手を構えた。そのハイモの行動こそ、ナザーリオのチャンスであった。

 

「今だ! トランザム!!」

 

 このチャンスを逃すまいと、ナザーリオは自分専用に改造したグスタフに内蔵されているトランザムシステムを発動し、操縦桿を強く倒してハイモへ向けて突進を開始する。その速度、トランザムによって三倍の加速も加わってジェット戦闘機以上。強烈なGがナザーリオの全身を襲うが、これでハイモが倒せるなら、彼にとっては安い物である。

 

「んぁ? なんだ、ばなっ!?」

 

 光の速さで迫る赤く光るグスタフの突進に気付いたが、既に回避不可能な距離まで迫っていた為、全速力のグスタフの重量にトランザムを合わせた突進を受けたハイモはバラバラに砕け散った。

 ハイモの肉片が飛び散る中、強敵を轢き殺した、いや、吹き飛ばしたナザーリオはトランザムを解除し、グスタフを止めてキャノピーを開ける。それから地上へ誘い込んでくれたマイーラに感謝の言葉を述べる。

 

「ありがとよ! お嬢ちゃんのおかげで俺たち輸送隊は助かったぜ!」

 

「あぁ、そりゃどうも。まさか、殺したりはしねぇよなぁ?」

 

 感謝の言葉を述べるナザーリオに対し、マイーラは自分も始末するのではないかとライフルを向けようとしたが、輸送隊からハイモの注意を逸らしてくれた彼女に、そんな恩知らずなことはしないと約束する。

 

「殺す? 物騒な! 命の恩人にそんなことができっか! その恩で今は見逃してやる。さぁ、行きな!」

 

「見逃してくれるのか? ありがとう!」

 

 ナザーリオは居って来る輸送隊護衛の騎士たちが向かってくるのを見つつ、ナザーリオは速くここから離れるようにマイーラに告げる。それに応じ、マイーラも感謝の言葉を告げてから原隊が居る方へと飛んで帰って行った。

 

『キャッテル! あの怪物を轢き殺したのはお前か!? それにあの賊軍の飛行魔導士は!?』

 

「さぁ、逃げたんじゃないですかね? あのクソ野郎を轢き殺したのは俺ですが」

 

『でかしたぞ! 隊長に報告すれば、騎士団長殿かアルゴン王より褒美が出るぞ! その前にトレーラーに戻れ! そのグスタフで無ければ、トレーラーは牽引できん!』

 

 やって来た護衛隊に聞かれたナザーリオは逃げられたとはぐらかし、ハイモを倒したのは自分と答えた。それに騎士はハイモ以上の能力者を倒したナザーリオを称賛し、褒美が貰えると言ったが、その前にトレーラーを牽引しろと命じる。

 

「了解。さて、俺は俺の仕事をするか」

 

 その命令に従い、ナザーリオはグスタフのキャノピーを締め、トレーラーを牽引しに戻った。

 マイーラ・シエルトフとナザーリオ・キャッテル対ハイモとの戦いは前者の方に軍配が上がった。マイーラとナザーリオは面識はないが、戦う術を持たない者たちを守ると言う両者の志が己の事しか頭に無いハイモを打ち負かしたのだ。

 

 

 

 正義の軍団の一人であるクラウン・ホワイト・キングと白人至上主義者等の集団と交戦を開始した帝国再建委員会の戦闘団の一人、ジョシュア・エルフォースは数名の白衣の航空魔導士等を殺害し、その背後を取った。

 

「何が白人だ! 白人だからって優秀とは限らないんだよ! この間抜け!!」

 

 ジョシュアが背後を取ったのはクラウンだ。白人至上主義の彼に白人だからと言って勇修人は限らないと突き付けつつ、HK416突撃銃の銃口を向け、対能力者用の術式を叩き込もうとする。ジョシュアがクラウンの背後を取れたのは、彼の優秀さもあっての事だろう。そのまま対能力者用の術式は標的に叩き込まれ、クラウンは爆発に呑まれた。

 

「フン、白人と言うだけで優秀だと思い、自分の無能さを認められんお前たちは負け犬なんだよ!」

 

 爆発に呑まれたクラウンに向け、ジョシュアは白人至上主義者等を負け犬と嘲笑う。そんな爆殺されたと思われたクラウンであったが、全身にバリアを張って無傷であった。

 

「ホワイトパワー! ブハハハッ、この白人たる俺は無敵なのだ! そう、この世界の支配人種たる白人であるこの俺が!!」

 

「な、何ッ!? あれで生きてるなど!」

 

「お前も白人だったな? だが、他の人種に慣れ合ってる貴様など、俺の敵では無いわ! 死ね! ホワイトパワー!!」

 

「ぬぁぁぁッ!?」

 

 クラウンは航空魔導士ではなく、強力な白い衝撃を放つ能力「白人の力(ホワイトパワー)」の持ち主であった。標的が生きていることに驚愕するジョシュアに対し、クラウンはホワイトパワーを使い、同じ白人である彼を消し飛ばした。

 

「S級の能力者なのか!? あいつ!」

 

「ブハハハッ、次はお前らだ! 黒人(ニガー)アジア人(イエローモンキー)共め!」

 

 ジョシュアを倒したクラウンが能力者であることにアーデが驚く中、その能力者である白人至上主義者は次なる標的をウィリーやアヤメ、アラサに一元と言った白人以外の人種の者たちに定め、付き従う白尽くめの集団と共に襲い掛かる。

 

「させるか!」

 

 アーペントラウフェンやゴズンを含める第十三航空魔導士大隊とアーデとアーナソイドを初めとした特務魔導大隊がクラウンの攻撃を阻止しようとするが、白磁以外の人種に標的を定めた白尽くめの集団は止まらない。そんな自分らを邪魔する集団に対し、クラウンらは同じ人種であろうが容赦せずに攻撃を加えた。

 

「同じ白人の癖に、下等人種を守ってんじゃねぇぞ! ホワイトパワー!!」

 

「えっ…!?」

 

 運悪くクラウンの進路上に居たアーナソイドは、彼が持つホワイトパワーの攻撃を受けた。魔法障壁を張って防ごうとしたが、その力は障壁を打ち破るほどに強力であり、身体を真っ二つに引き裂かれる程であった。上半身と下半身に引き裂かれたアーナソイドの遺体は、血飛沫を上げながら地面へと落下していく。

 

「ブラウシュテルン少尉! こいつ!!」

 

 同胞を惨殺された怒りでアーデは仇討の攻撃を加えるも、ホワイトパワーで強化されているクラウンに通じず、衝撃波で数名の部下と共に吹き飛ばされた。

 

「わっ!?」

 

「っ!?」

 

「まだ来るか! ホワイトパワー!!」

 

 アーデらが吹き飛ばされる中、フリーデリーケは次なるクラウンのホワイトパワーを防ぐために自慢の魔法障壁を張った。

 

「ん、俺のホワイトパワーを防いだだと!? だが、一度限りだぜ! ホワイトパワー!!」

 

 結果は彼女の長所である魔法障壁であって、ホワイトパワーを防ぐことが出来た。だが、それは一度限りであり、二撃目を受けたフリーデリーケの魔法障壁は破られ、アーナソイドの二の舞にはならなかったが、吹き飛ばされる事には変わりない。

 

「黒人やアジア人なんぞ守るからだ! さぁ、掃除の時間だ!」

 

 邪魔者であるイヴ人部隊を吹き飛ばしたクラウンは、ウィリーらに襲い掛かる。だが、まだ邪魔は居り、アーペントラウフェンらが妨害に掛かる。

 

「この時代遅れのアホ共め! 死ねっ!」

 

「白人の癖に俺の邪魔をしやがって! 偽善者が!!」

 

 アーペントラウフェンの罵声を交えた妨害に対し、クラウンはAR-15系統のライフルを撃ち込んで応戦する。それに続いてか、ウィリーは指揮下の第3中隊を率いて加勢する。

 

「第3中隊、十三大隊の援護だ! 続け!!」

 

 ウィリーと指揮下の中隊のロケット攻撃も加わり、クラウンは動きを止め、その白尽くめの配下たちは白衣を真っ赤に染めて地面に次々と落下していく。

 

「く、クソぉ! テメェらそれでも支配人種の白人か!? 下等人種の攻撃なんぞでくたばりやがって!」

 

 防御に徹するクラウンは、次々と死亡する部下の白尽くめ達に、心配どころか苛立ちを覚えていた。更に攻撃に亜人種のゴズンも加わり、白尽くめの集団は遂に全滅し、残りはクラウンのみとなった。

 

「後はお前だけだ! このファッキンホワイト野郎!」

 

「ち、畜生! こんなクソ共に簡単に殺されやがって! それでも白人か! こ、こうなれば…ホワイトパワー全開だ!!」

 

 部下が全滅したのをウィリーに告げられたクラウンは、自棄を起こして全力のホワイトパワーを使った。クラウンがそれを使うのに躊躇ったのは、自身の命を削る物と事前に告げられていたからだ。だが、一度発動してしまえば、少しばかり慎重であったラウンでも、力に支配されて暴走してしまった。

 暴走したクラウンの身体は膨張し、全身に纏っていた白衣は引き千切れ、身長一メートル八十センチから三メートルまで伸び、横幅も二メートルも伸びている。両目だけが開けられた白い頭巾はそのままであるが、怪物としか言いようがないほどに変貌したクラウンの異様さを際立たせていた。

 

「グひゃひゃッ! 白人とか黒人、アジア系なんざどうでも良い! 俺は、俺さえ良ければそれでいいのだ!! 俺は無敵だ! 俺は最強だ! 俺は英雄だ!! ブハハハッ!!」

 

 自身が怪物となってもその醜さに気付かず、あれだけ拘っていた白人至上主義すらどうでもよくなり、ただ暴走した力に呑み込まれ、敵味方構わずに周囲に攻撃を始める。

 自分さえ良ければそれでいい。

 この発言で、白人至上主義はクラウンにとって、自分の強さを誇示するための方便に過ぎない。何せ今の自分には、そんな物が必要にないほどの力があるのだ。今のクラウンは今まで拘っていた白人至上主義が、つまらない主張に思えて来る。それ程にクラウンは制御できない力に呑み込まれ、暴走しているのだ。

 

「俺が羨ましいか!? えぇ!? この最強で無敵の俺が!? でも、俺は許さないんだよなァ! だから死ね! みんな死ねッ! ギャハハハッ!!」

 

「うわぁぁぁ!?」

 

「下がれ! 下がりつつ防御術式だ!!」

 

 味方の大帝国軍ですら巻き込む怪物と化したクラウンの攻撃に、ウィリーらは魔法障壁を張りながら下がる。

 

「ひぃひゃひゃッ! 怖いか!? そんなに俺が怖いか!? だろうなぁ! 今の俺は最強なんだ! 逃げろ、逃げろォ! ひぃひゃひゃひゃッ!!」

 

 戦闘団の航空魔導士等が下がって行くのを見て、クラウンは今の最強である自分を恐れて逃げていると上機嫌になり、更に攻撃を続ける。その強大な力を使えば使うほど、己の命を削り取ることも知らずに。

 

「いひゃひゃひゃ! 俺は無敵だ! 最強だァ!! そんなもん効かねぇ!!」

 

「っ、麻痺しているのか? ならば、叩き込んでやる! 戦闘団各魔導士部隊、対艦用術式用意! 標的はあの白頭巾の化け物だ! あそこに留まっている間に、一斉射!!」

 

 判断すら真面に出来なくなったクラウンに対し、二個の航空魔導士大隊は下がるだけであったが、戦闘に復帰したアーデは攻撃した際に自分の攻撃が通じたことに気付く。それでもクラウンは攻撃を続行するが、ダメージを受けていることに気付きもしない。感覚がマヒしているようで、力に支配され、奇声を発しながら攻撃を続けている。

 どうやら、ホワイトパワーの暴走は使用者の攻撃力と持続力を倍増させるが、攻撃を優先するので、痛覚が麻痺するようだ。

 痛みは死への警告であり、そのおかげで人は生きることを諦めず、生に執着する。それが麻痺しているクラウンは、自身が死に近づいていることに気付きもせず、ただ力に振り回され、いたずらに自分の命を削り続けているのだ。

 

「副官殿にしては、珍しく的確な判断だ! 聞いたな!? 第3中隊、対艦用術式用意! 標的はあの怪物だ!」

 

 それに気付いたアーデは、副官の特権で戦闘団の指揮下に対艦用の術式を行う様に指示を飛ばす。その融通の利かない副官の指示に、ウィリーを初めとする特務大隊の者たちは珍しく的確な判断だと思い、その指示に従って狙いを無差別攻撃を行うクラウンに定める。標的のクラウンはそこから全く動かず、無差別攻撃を続けている。

 

「流石は特務魔導大隊ですね。対応が早い!」

 

「大隊長殿!?」

 

「俺たちもやるんだ! 特務大隊の奴らが撃ったのと同時に討てばいい!」

 

「はっ!」

 

 特務大隊の者たちが即座に術式攻撃の準備を行い、ゴズンが感心する中、部下に問われたアーペントラウフェンは同じようにやれば良いと返し、同じ術式の狙いをクラウンに定めた。

 

「撃て!」

 

「おっ、こちらもだ! 撃ち込め!!」

 

 アーデの号令で対艦用の術式がクラウンに向けて撃ち込まれる中、アーペントラウフェンもそれに続いて同じ術式を標的に叩き込んだ。百人近い航空魔導士の強力な攻撃を受けたクラウンは、それを避けることなく全て受け止めた。

 

「それが何だァ! 全く痛くねぇぞ! 俺は無敵なんだァ! 最強なんだ! 白人を超える存在なんだぁ!!」

 

 無論、気持ちが昂っているクラウンは感覚が麻痺しており、既に自身の身体から血が溢れ出ているのだが、自分の死を理解できず、こうして攻撃を続けている。やがて血を大量に流し続けたのか、攻撃が止んでクラウンは落下し始める。

 

「な、なんだ!? 力が出ない!? それに血が、血が出ている!? 何故だ!? 俺は無敵のはずだぞォ!? 俺は最強なんだ! こんなところで、こんなところで俺が終わるはずが…!」

 

 痛覚を感じないクラウンは自身の身体から血が溢れ出ている事と落下している事に気付き、必死に上がろうとするが、死へと向かっている身体は言うことを効かない。それでも死に抗うも、時すでに遅く、クラウンは事切れて地面に落下した。

 敗因は力に呑まれ、正常な判断と痛覚を失って暴走した事だ。もう少しばかり冷静になり、ホワイトパワーの危険さに気付いていれば、アーデら戦闘団に勝利で来たことだろう。

 

「危なかったですね。幾ら強力な力でも、それを制する精神力が無ければ、諸刃の剣と言ったところでしょう。あの白頭巾の敵将は、精神が未熟な状態で力を行使し、暴走したのでしょう。もしくは与えられてまだ日が経ってないようですね」

 

 だが、ホワイトパワーの全力を出して暴走する辺り、クラウンの精神が低かったとされる。幾ら力が強大でも、それを制する精神が無ければ、力に呑み込まれて暴走するのは必然だ。

 そんな危険な力を持つクラウンが未熟者であったことをゴズンは見抜き、同時に力を与えられてまだ日が経っていないことを指摘する。どうやら、クラウンがホワイトパワーを与えられた時期は、ごく最近であったようだ。与えられた力に有頂天となったクラウンは、調子に乗ってホワイトパワーを連発したのだろう。

 相手が力押しで来るからこそ、アーデらは経験と連携、戦術で対処できた。そこが戦闘団の大きな勝因であったのだ。

 

 かくして、アーナソイド・ブラウシュテルン少尉を犠牲にして、アーペントラウフェン、フリーデリーケ・リューベック、ゴズン山崎、特務魔導大隊の面々は正義の軍団の一人であるクラウン・ホワイト・キングに勝利した。

 まだ戦闘は続いているので、戦闘団は後方から来るワルキューレの部隊とメイソン騎士団と交戦を続行する。戦闘団の団長であるターニャか選抜隊の誰かが皇帝ラインハルトを討ち取るまで。




ぶっちゃけ、まだ終わって無い事に気付いた(汗)。

次でレオナとミレイナの戦いが終わるかも。


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皇帝ラインハルト その1

皇帝戦とレオナVSミレイナです。


 メイソン騎士団のグエンスと激しく交戦する皇帝ラインハルトを前にしたターニャでったが、PAYに阻まれた。力押しの攻撃の為、避けるのは容易かった。

 

「なんでぇ!? なんで当たらねぇ!?」

 

「(そんな単調な攻撃に当たるか)」

 

 なんでも出来る日本人だけが持つYAP遺伝子を狂信するPAYの攻撃は呆れるほどに単調だ。技術も無ければ攻撃を当てる工夫も無く、そればかりか訓練も受けていないので、子供のようにただ闇雲に拳を振り回すだけだ。攻撃力と速さだけはあるが、良く見れば、避けるのは容易い。ターニャは攻撃を躱しつつ、皇帝ラインハルトの方へ向かおうとした。

 そんな面倒な相手を打ち倒して突破しようとするターニャの背後より、キャシャーンレディの記憶を取り戻したクイーシャ・ノリトが襲い掛かる。

 

「っ! ピンク色のキャシャーンだと!?」

 

 迫るキックに気付いたターニャは躱し、その姿を見て驚きの声を上げる。ターニャがまだ男性であった前世で知るキャシャーンそのものであったからだ。色はピンク色であるが、背丈の戦闘スタイルはオリジナルのキャシャーンそのものだ。

 

「邪魔すんじゃばっ!?」

 

 そんなクイーシャことキャシャーンレディはグライダーを駆使し、邪魔なPAYを見事な蹴りで吹き飛ばした後、反撃しようとするターニャに追撃の拳を放つ。その拳は人造人間の為に弾丸の如く速く、躱し切れないと判断したターニャは魔法障壁を張って防いだ。

 

「流石はキャシャーンっと言った所か。だが、今は戦っている時では!」

 

 拳の威力にターニャは容易くPAYを蹴り飛ばして空かさずに追撃するキャシャーンを褒めるが、今の彼女の狙いは皇帝ラインハルトだ。空かさず次なる追撃を仕掛けるキャシャーンレディに魔法の衝撃波を放って吹き飛ばし、皇帝ラインハルトを狙おうとするが、標的にはぺガスとなったヤッターワンに騎乗するテッカマンドッグが攻撃を仕掛けていた。

 

「テックランサー!」

 

「うわぁぁぁっ!?」

 

「なんだ!? まさか、宇宙の騎士テッカマンか!?」

 

 皇帝ラインハルトはテッカマンドッグが放つ槍の投擲を躱し切れずに受けて吹き飛ばされる中、攻撃を紙一重で躱したグエンスは、ぺガスを駆る宇宙の騎士テッカマンの亜種の姿を見て驚く。メイソン騎士団もテッカマンの存在を知っているようだ。

 

「テッカマンまで居るのか!? ポリマーやガッチャマンも居るんじゃなかろうな!?」

 

 ターニャもまた、標的である皇帝ラインハルトを攻撃するテッカマンドッグの姿を見て驚いている。キャシャーンに続きテッカマンも現れたので、ターニャはポリマーかガッチャマンも出て来るのではないかと疑っていたが、スミスが彼らを配下に加えているのなら、この時点で投入するので、流石に居ない。

 

「なんだぁテメェは!?」

 

「私はテッカマンドッグ。皇帝ラインハルト、その首、討ち取らせてもらうワン」

 

 攻撃しながら問う皇帝ラインハルトに対し、テッカマンドッグは名乗りながらその首を取ると指を指しながら告げる。これにグエンスはパルチザンの突きによる攻撃を行い、テッカマンドッグを吹き飛ばす。

 

「幾ら宇宙の騎士テッカマンでも、この俺の邪魔をすることは許さんぞ!」

 

『邪魔なのは貴様らだ!!』

 

「っ!? 巨人!? 超人型兵器か!?」

 

 テッカマンドッグに攻撃して追い払うグエンスは、次に現れたアルシエルのアンティーク・ギア・カオス・ジャイアントを躱しつつ、驚きの声を上げる。

 

『そいつを殺すのはこの私だ! 退け!』

 

「何処の伝説巨人か知らんが、こいつの首は我らメイソン騎士団のトロフィーなんだよ! 貴様こそ邪魔をするな!!」

 

 追撃を続けるアルシエルに対し、グエンスは攻撃を避けながら一撃を見舞う。かなり素早い突きによる一撃であるが、巨体ゆえに効果は薄い。無論、グエンスは承知しているので直ぐに距離を取る。

 

「標的を狙う者が多い。それでもやるのがテッカマンだワン!」

 

 吹き飛ばされるが、駆け付けたぺガスに再び騎乗したテッカマンドッグはテックランサーを構え直し、アルシエル共々乱戦を覚悟して再び皇帝ラインハルトの首を狙いに向かう。

 だが、帝国再建委員会で皇帝ラインハルトの首を狙うのは、ターニャだけではない。委員会に属するイヴ人魔術師によって召喚され、戦闘力を向上させるために調整された英霊(サーヴァント)等が強襲を仕掛ける。

 

「今度はサーヴァントか! 何処の英霊か知らんが、我らメイソンの邪魔をする者なら、英霊とは言え容赦はせんぞ!」

 

「アハハッ! お兄さん強いね! 私の一撃を耐えちゃうなんて!」

 

「フン、子供に構っている暇は無い!」

 

 標的を狙うアルシエルと共に仕掛けようとしたグエンスの背後より、いつもの学生服とは違う黒装束の燕結芽が迫り、手にしている大脇差にっかり青江を振り下ろす。それに気付いたグエンスはパルチザンで防ぎ、結芽を弾いた。結芽の小柄な体格と幼さで子供と判断し、少しばかり油断していた。

 

「へぇ~、お兄さんからすれば、わたし子供に見えちゃうんだぁ。なら、私が本気になっても、お兄さんは文句は言わないよね? 卍解!!」

 

「なっ!? この小娘の英霊、イヴ人共に調整されたのか!?」

 

 自身を子供扱いする相手に結芽が見せたのは、彼女がいた世界とは違う戦闘力向上の技であった。その技を見たグエンスは、帝国再建委員会に英霊として召喚された結芽が、調整された英霊であると驚く。

 メイソン騎士団でも、所属する魔術師による英霊の調整が行われているのだ。自分ら以外にも英霊の調整が行われていることを知るグエンスは驚くが、使命を果たす騎士としてパルチザンを構え、臨戦態勢を取る。

 

「まさか我らメイソン以外に英霊の調整をするとは…! だが、所詮は残党気取りの賊軍! 英霊なんぞに頼る軟弱なイヴ人共に、この俺は負けん!!」

 

 卍解で巫女服のような衣装に変わり、戦闘力が飛躍的に向上した結芽に対し、グエンスは恐れを抱くことなく、恐ろしい速さで繰り出される彼女の斬撃を防いだ。

 

「卍解を使う? あいつ、BLEACHのキャラだったのか。席官クラスか?」

 

「アァァっ! なんで死なないんだぁ!?」

 

 結芽が卍解を使ったことで、ターニャは自分がサラリーマンだった前世の頃に読んだ漫画の登場人物と思い込む。そんな彼女の下方より、負けないはずの自分が負けていることを認められないPAYが奇声を発しながら迫る。

 それに気付いているターニャは余りにも読め過ぎるPAYの攻撃を躱し、強烈な蹴りを叩き込んで再び吹き飛ばした。次に来るのは交戦中のキャシャーンレディで、素早い手刀を繰り出してくる。

 

「あいつはどうにかなるが、ピンク色のキャシャーンは厄介だ!」

 

 ただ攻撃力の高いPAYよりキャシャーンレディが厄介なため、ターニャはその攻撃を避けつつ、どうにか皇帝ラインハルトに食らい付こうと思考を巡らせた。

 

 

 

「傲慢が過ぎたか。こうまで接近を許すとは」

 

 本陣で指揮を執るバウムガルデンは、次々と皇帝ラインハルトの接近を許す部下たちに呆れ果てていた。

 バルトルトは大型MS「ハイゲール」でニコレのガンダム・ニコレ、アモレのガンダム・アモン、パール・カーシアの初代ガンダム三機を数十機の随伴機と共に抑えているが、帝国再建委員会の能力者たちの突破を許している。既に数名が本陣に迫り、最終防衛ラインに配置された親衛隊と交戦を始めている。

 ファビアンの方は召喚した巨大な魔人で良くモンジェルナ侯爵のマゴートを抑えているが、押され気味であり、いつ突破されてもおかしくない。

 親衛隊副司令官であるアードリアンは、メイソン騎士団のレッドホークを抑えるので必死だ。正義の軍団の二番手である東条武夫は、アガサ騎士団の勇者と膠着状態に陥っている。

 クルス来夏は「ハーレムアーミー」を全力召喚し、レオナが属するワルキューレの北部方面軍を一人で抑えていたが、慢心で敗北する可能性は否めない。

 

「クソっ、こんな奴らに手こずるなど!」

 

「焦るな、マースル。この戦、我ら世界帝国の勝利に揺るぎはない。だが、慢心が過ぎ、足元をすくわれる者が多い! 者共に伝えよ、敵を見くびらず、全力で応戦せよと!」

 

 倒せるはずの敵にやられる味方を見て怒る正義の軍団の十一番手であるマースル・グッド・フォクトに対し、バウムガルデンは焦るなと注意する。それと同時に自軍が慢心で負けていると悟り、傘下の者たちに敵を見くびらず、全力で応戦するように指示を出す。

 真の皇帝とも言えるバウムガルデンの指示に従い、世界帝国への進化を始めた正義の帝国の将兵等は全力で侵略軍と応戦するも、戦況に変わりはない。そればかりか、バウムガルデンが居る本陣にも、帝国再建委員会に身も心も売った転生者である千葉セイジが迫る。

 

「ジェノサイダーセイジ改め、チートスレイヤーセイジが相手だ!」

 

「…ぶっ殺す!」

 

 自分の異名をチートスレイヤーに改めた迫るセイジに対し、巨像兵の能力を持つゲルニが迎撃するために立ち向かった。

 能力を使い、巨大な像の兵士に姿を変えたゲルニは、右手に持つ剣を迫るセイジに叩き付けようとしたが、あっさりと躱され、更に強化された転生者の強烈な一撃を腹に叩き込まれる。その一撃で巨像のゲルニの腹に大穴が空き、膝から崩れ落ちる。

 

『ば、馬鹿な…!?』

 

「へっ、あの碌な転生特典も出さないクソ神様よりも、良い物を貰ってるのよ! この俺は!!」

 

「あの力、転生者か。しかし、強化されている。イヴ人共に毒されたか」

 

 巨像状態で腹に大穴を空けられたゲルニは、元の状態に戻っても大穴は空いた状態であり、そのまま力尽きた。

 ゲルニを倒した非人道的に強化された事すら自慢するセイジに、バウムガルデンは強化されていると見抜き、彼はもう完全にイヴ人の奴隷であると見なす。そんなセイジは溢れ出る力に支配され、本陣に居るバウムガルデンらに襲い掛かった。

 

「髭とクソ、テメェらも血祭りだァーッ!!」

 

「虫けらめ! 身を弁えろ!!」

 

「お、おわっ!?」

 

 襲い掛かるセイジに対応したのは、マースルであった。大柄な体格であるマースルの動きが余りに素早く、それに対応できないセイジは顔面を掴まれ、近くの建造物に叩き込まれた。

 

「ぶ、ぶご…!」

 

「フン、この程度で我々に挑むとは!」

 

 掛けていた眼鏡を割れるほどに叩き込まれたセイジは、白目を剥くほどに意識を失う。それ程にマースルは強敵なのだ。相手が意識を失ったところで、マースルはセイジを殺すには値しないと判断し、バウムガルデンの元へ戻って来る。

 

「我らに挑んだ馬鹿を始末…いや、排除しました」

 

「神より碌な力を分け与えられなかったと見えるな。さて、どれほど持ち堪えられるか」

 

 マースルの報告に対し、バウムガルデンは褒めることなく、いつまで配下たちが持ち堪えられるかと、まるで他人事のように呟いていた。

 

 

 

「馬鹿な! 三次元の女が僕の花嫁たちを!?」

 

 ハーレムアーミーを率いてワルキューレの北部方面軍を抑えていたクルス来夏は、自分のハーレムソルジャーたちを次々と蹴散らしながら迫る専用VAのクリームヒルトを纏うレオナに驚く。

 レオナはハーレムアーミーの本体をクルスと見抜いたのだ。自分だけ何もせず、ただ偉そうに配下のハーレムアーミーに指示を出していることで、あれが本体だと見抜いたのだろう。正体と居場所させ分かれば、後は本体を叩くだけである。

 上位種のハーレムトルーパーやハーレムサージェント、ハーレムオフィサーですらレオナの前では蹴散らされるばかりなのだ。お気に入り候補であるコマンダーですら、ブレードで真っ二つに切り裂かれるほどだ。

 

「あぁ! 僕のお気に入り候補が!? 良くも! 何をしてるんだ!? 速くあの三次元女を殺せ! 殺すんだ!!」

 

 お気に入り候補が撃破されて激怒するクルスであるが、何もせずにハーレムアーミーに対処させている。止めるために戦闘力の高いハーレムユニットをぶつけるも、己と養っている孤児たちの為に奮戦するレオナのクリームヒルトに蹴散らされるばかりだ。

 秒ごとにハーレムアーミーを蹴散らしながら迫るレオナに恐怖するクルスは、隣のミレイナに一定範囲内に居る味方を強化するように指示を出す。

 

「うぅ、なんて女だ! ミレイナ! 聖域を展開しろ! 何としても奴を止めるんだ!!」

 

 その指示に応じてミレイナは聖域を展開し、周囲のハーレムアーミーを強化する。戦闘力が強化されたハーレムアーミーらが味方を蹴散らしながら向かってくるレオナに群がることで、ようやく止めることが出来た。

 

「本体が、本体が目の前にいると言うのに…!」

 

「な、なんて奴だ! あんな状態でもまだ近付こうとしてくる!? 女の子たち、奴を止めろ! 他は良い! あの三次元女の息の根を止めるんだ!!」

 

 ミレイナの聖域のサポートで強化状態の数十名のハーレムアーミーに取り付かれ、レオナの前進は止まった。本体のクルスは目と鼻の先だが、取り付いたハーレムソルジャーとトルーパーが多く、動けない。取り付いたハーレムソルジャーやトルーパーを振り払うべく、ブレードやクローを振るって吹き飛ばすも、先の倍以上の数が取り付いて来る。北部方面軍を抑えていたハーレムアーミーも動員しているらしく、抑えきれていない後続と増援が皇帝ラインハルトやバウムガルデンが居る中心部へと進出していた。

 

「マスター、敵軍が…!」

 

「うるさい! 今はあの三次元女を殺すのが先だ!! 僕に指図するんじゃない!!」

 

「い、イエッサー…!」

 

 戦略的に見れば完全にクルスが負けているが、このナルシストな自己中心的な男は全く気にも留めない。今はレオナを倒すことしか頭に無いのだ。それを指摘するハーレムジェネラルとコマンダーらに、クルスは凄まじい剣幕で睨み付けて黙らせる。

 

「こんなところで、こんなところで終わるわけには…!」

 

 そんなレオナも過剰なハーレムアーミーの数に圧し潰されようとしていた。大勢に圧し掛かれてもまだ無事なクリームヒルトであるが、何百人どころか何千人もが圧し潰そうと乗りかかっている。幾ら本家IS譲りのバリアがあったとしても、廉価版であるVAでもいつまで持つか分からない。いずれは圧死することだろう。

 

「まだだ…! あの子たちと、私の未来の為…! 奴の、奴の首を取るんだぁッ!!」

 

 孤児たちと自分の未来の為、このままでは終われないレオナはクリームヒルトのエネルギーを全開にし、圧し掛かっていた強化体のハーレムアーミー全てを気合の波動で吹き飛ばした。あれだけ圧し掛かっていた大勢のハーレムアーミーを気合の波動で吹き飛ばしたレオナに、クルスとハーレムジェネラル等は驚愕する。

 

「ば、馬鹿な…! 千体は圧し掛かっていたんだぞ!? そ、それを、たかが気合だけで!?」

 

「まずはお前だァァァッ!!」

 

「お、女の子たち! 僕を守れッ! ミレイナ、何をしている!? 聖盾だ! 速く張れ! 僕と君の周りだけだ!!」

 

 気合いだけで状況を覆したレオナにクルスは怯え、配下のハーレムアーミーらに阻止するように命じた後、ミレイナに防御結界である聖盾を張るように慌てて指示を出す。ハーレムアーミーらがレオナに挑んでグラムの剣とバルムンクで薙ぎ払われる中、ミレイナはそれに応じ、防御結界を自分とクルスの周りにだけ張った。

 

「ま、マスター!? キャァァァ!」

 

「ハーレムジェネラル、下がれ!」

 

 結界内に居ないハーレムアーミーらは次々とレオナに惨殺されていくが、クルスは全く気にも留めない。聖域による強化を受けてはいるものの、覚醒して暴れ回るレオナのクリームヒルトは止められないようだ。流石にお気に入りであるハーレムジェネラルは下がらせたが、その所為でクリームヒルトの接近を許した。

 

「ひっ!? ハハハッ、無駄だよ! 君の努力もここまでだ! 所詮、三次元女はそこまでが限界さ! 二次元こそが最強なのさ!!」

 

「くっ、なんて頑丈な!」

 

 クリームヒルトが行った打撃に震えたが、防御結界の範囲が広いおかげで頑丈であり、それが分かったクルスはこちらを睨み付けるレオナを煽り立てる。無論、攻撃は行う。ミレイナに聖槍と言う追尾レーザーによる攻撃を命じる。

 

「直ぐに引導を渡してやるさ! ミレイナ、聖槍だ! 奴を串刺しにしろ!!」

 

 それに応じてミレイナは聖槍をレオナに向けて放つ。至近距離から来るレーザーに対し、レオナは躱すことよりも防御に徹したが、流石にシールドとバリアの組み合わせでも、レーザーによる攻撃は完全に防げない。

 

「まだだ!!」

 

 だが、それで止まるレオナではない。向かってくるハーレムアーミーを排除しつつ、バルムンクの超振動クローを防御結界に向けて叩き込み、超振動で防御結界を破壊しようと試みる。これに驚いて尻もちを着いたクルスであるが、割れない結界に安心する。

 

「ハハハッ! 何をするかと思えば、無駄な抵抗か! このまま聖槍で串刺しに…」

 

 またも調子に乗るクルスであるが、超振動による打撃は相当な物らしく、小さなひび割れが出来ていた。クルスはそれに気付くことなく、無駄な行為をするレオナを嘲笑っているが、ひび割れは徐々に広がって行く。やがてミレイナにとどめを刺すように命じた瞬間、レオナの諦めない気持ちが功を奏してか、堅牢な防御結界は破壊された。

 

「う、ウワァァァッ!?」

 

「ハァァァッ!!」

 

 自分を守る唯一の防御結界が破れたことで、クルスの顔は青ざめる。そんなクルスに防御結界を砕いたレオナは、容赦なく左手に持つグラムを振るってミレイナ共々斬り付ける。ミレイナは魔導鎧のおかげで致命傷にならずに済んだが、全く戦闘に出ることを想定していないクルスは右腕を深く切り裂かれ、悲鳴を上げながら出血を必死に抑える。

 

「ひっ、ひやァァァッ!? 僕の腕が!? 僕の腕がァ!? は、速く、速く治せミレイナ!!」

 

 噴き出る血を抑えつつ、クルスはレオナを聖盾で吹き飛ばしたミレイナに聖光による治療をするように喚き散らしながら告げる。当のミレイナは重傷で口から血を吐いているが、全く痛みも感じていないように無表情であり、マスターであるクルスの指示に応じて治療魔法を彼に行う。それを見ていたレオナは、一番治療が必要なのはミレイナなのに、自分の治療を優先するのは何事かと告げる。

 

「あ、あんた…! 一番治療が必要なのはそこの女じゃないの!?」

 

「黙れよ! 三次元女の分際で、この僕の右腕を斬り落とそうとした癖に! 説教するんじゃない!!」

 

 そんなレオナにクルスは激怒しながら説教するなと返し、付近のハーレムアーミーを差し向けるが、返り討ちにされるばかりだ。配下のハーレムアーミーが倒されていく中、自分を守り切れなかったミレイナが許せず、クルスは重傷を負いながらも顔色一つ変えず、寄り添おうとしてくる彼女に罵声を浴びせる。

 

「それにミレイナ、君なんてもう要らない! あれだけ強化してやったのに、聖盾を破られた挙句、あの三次元女にこの僕の右腕が斬り落とされ掛けたんだぞ! これだから三次元女は嫌いなんだ! この僕の期待を裏切るなんて!! がっかりだよ!!」

 

 罵声を浴びせた後、クルスの怒りは収まらず、ミレイナに対して自爆命令である聖裁を命じた。

 

「もうこれで最期だ! 聖裁を発動し、あの三次元女と自爆して責任を取れ! ミレイナ!!」

 

 この命令をミレイナは拒否することなく、顔色すら変えずに実行する。自身の魔力を鎧の力で爆発的に増大させ、暴走させていた。それが分かるように身に纏うドレス状の鎧が光っている。

 広範囲の自爆攻撃の為か、クルスはお気に入りのハーレムジェネラルとコマンダー等、お気に入りと候補たちと共に付近に待機しているヘリに乗り込み、退避を始める。無論、ハーレムソルジャーとトルーパー、サージェントにオフィサーはレオナを確実に仕留めるために取り付かせている。何回か吹き飛ばすも、やはり限界が来ているのか、振り払う余力は残っていなかった。

 

「こ、こいつ! 味方を巻き添えに!!」

 

「ハハハッ! 幾ら吠えたって無駄さ。僕のお気に入り候補を殺した罰だよ! まぁ、減った女の子たちは新しく作れば良いさ。それに僕の理想の女の子は三次元には存在しなかったな。やっぱり二次元こそが至高だね! じゃあね、三次元女。もう会わないと思うけど」

 

「許さない! こいつだけは絶対に!!」

 

 自爆するミレイナから逃れる事も出来ず、大量のハーレムアーミーに取り付かれたレオナは味方を見捨てて退避するクルスに激怒するが、当の彼は涼しい顔で煽り返し、お気に入りたちと共にヘリに乗り込み、この場から飛び去って行く。

 もうじき自爆しようとするミレイナの虚ろな赤い瞳より一滴の涙が零れ、瞳は元の碧眼へと戻っていた。大勢のハーレムアーミーに取り付かれたレオナは、人形同然に洗脳されたミレイナの瞳より零れたその涙を見逃さなかった。

 

「自分を、自分を取り戻したのね…でも、もう…!」

 

 最後の最期で自分を取り戻したミレイナであったが、既に聖裁が発動した後であり、レオナも間に合わないと思って覚悟を決めた。周囲がミレイナの自爆による魔法の爆発に呑まれたが、レオナはクリームヒルトの一度限りの絶対防御バリアのおかげで無事であった。

 

「あれ…? 私、生きてる…?」

 

 死を覚悟したレオナであったが、自分が生きていることに驚き、破壊されて機能を失ったクリームヒルトを脱いで周囲を確認する。自我を取り戻したミレイナの咄嗟の判断か知らないが、爆発の範囲は敢えて弱めており、被害は取り付いた大量のハーレムアーミーの消失と周囲が消し飛んだ程度で済んでいた。だが、レオナはかなりの無茶をした所為で、身体を動かすので精一杯だ。

 ミレイナは自爆を行ったにも関わらず、鎧が吹き飛んだ程度で済んでいるが、横たわったまま動く気配が無い。そんな時にワルキューレ北部方面軍に属する数名の歩兵がやって来る。レオナの状態を見た士官は衛生兵を呼んだ。

 

「大丈夫? えーと…」

 

「レオナ暁星です。あそこに倒れている子は無事ですか?」

 

 士官に無事を問われたレオナは自分の氏名を答えてつつ、ミレイナが生きているかどうか問う。これに士官は部下にミレイナが生きているかどうか確認するように無言で指示を出し、確認に向かわせた。担架を持った衛生兵四名が来て、レオナを担架の上に載せる中、ミレイナの生死を確認しに向かった部下は脈が無い事を確認し、首を横に振って息絶えたことを伝えた。

 

「あそこで倒れている子、死んだみたいだわ。知り合い?」

 

「知り合いじゃありませんが…何とかできませんか?」

 

「まぁ、出来る限りはするけど。今は貴方を後方に運ぶのが優先よ。あの子を埋葬するのは、戦闘が終わった後になるわね」

 

「そうですか。それじゃあ、頼みます」

 

 知り合いなのかと問われたレオナであるが、知らないと答えた。どうにか埋葬は出来ないのかと聞いたが、今は戦闘中であるので難しいと返される。そう返されたレオナは、大人しく担架に載せられて後方へ移送された。

 

 かくして、暁星レオナとクルスのハーレムアーミーとの戦いは、前者の勝利で終わった。

 クルスは勝ったと思っているが、洗脳して手塩を掛けて強化したミレイナが自分を守れなかったと言う理由で自爆させ、北部方面軍の進出を許した挙句、バウムガルデンの本陣へ後退している。完全にクルスの負けだ。おかげで首都北部に展開している大帝国軍は壊滅的被害を被り、中心部へ撤退するか、玉砕攻撃を敢行していた。

 己の魔力で鎧の力で暴走させ、自爆したミレイナはある意味では幸せであろう。何せ洗脳前にシスターとして勤めていた小さな教会は、もう既に無いのだから。もし生き延びていれば、その辛い現実を受け入れ、絶望しながら生きていたのだろう。

 それでも、戦闘は無慈悲に続いていた。皇帝ラインハルトの首を、どちらかの勢力に属する誰かが討ち取るまで続くだろう。




Rararaさん、レオナ戦闘不能にしてごめんなさい。

初めはミレイナを生存させるつもりでしたが、死亡枠なので散ることに…。

クルスは、次に出る時は、確実に退場ですね。


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皇帝ラインハルト その2

二戦目です、はい。

アガサ・ライガー
アガサ騎士団に属するライオン。アルゴン王より騎士の位を授けられているので、立派な騎士である。
全身に青い演算宝珠付きの魔導鎧を身に纏い、ライガー・フェニックスのように空を舞い、魔力で強めた咆哮による衝撃波とビーム、強化クローの斬撃を飛ばす。


 レオナに敗北しているとも知らず、何食わぬ顔でクルスがバウムガルデンが居る本陣へと戻る中、モンジェルナ侯爵が使役するマゴートが、ファビアンが召喚した巨大な魔人を打ち倒した。

 

「ば、馬鹿な!? う、うわぁぁぁっ!!」

 

 自分が丹精を込めて召喚した魔人が倒されたことに動揺したファビアンは、そのままマゴートに捕まれ、頭部を食い千切られて絶命した。

 

「さて、今度こそ標的だわ」

 

 頭を食い千切られたファビアンの死体を捨て去ったマゴートの肩に乗るモンジェルナ侯爵は、目標である皇帝ラインハルトに向けて使役する鬼械神を前進させる。

 既にラインハルトの首を巡っての三勢力による乱戦状態であり、その内の一つであるワルキューレに属するモンジェルナ侯爵は部隊長であるスミスからの指示を受ける。

 

『聞こえるかモンジェルナ侯爵。そこの犬のような派手な鎧の奴は味方だ。共闘しつつ、皇帝ラインハルトの首を討ち取れ。奴にはもう話してある』

 

「了解したわ」

 

 その指示に応じ、モンジェルナ侯爵はテッカマンドッグと共闘しつつ皇帝ラインハルトを狙うが、アルシエルのアンティーク・ギア・カオス・ジャイアントに阻まれる。

 

『何故だ!? 何故こうも私の復讐の邪魔をする!? 奴は私の獲物だ! 誰であろうと、私の復讐の邪魔をする者は容赦しない!!』

 

「興味深い死霊術ね。サンプルが欲しくなってきたわ。この死霊獣は私が抑えるから、標的は任せて良くて?」

 

 アルシエルのカオス・ジャイアントと相対したモンジェルナ侯爵は、その死者の憎しみによる死霊術に興味を抱き、標的のラインハルト討伐は任せて良いかとテッカマンドッグに問う。この提案はテッカマンドッグが対処する敵が一つ減るので、モンジェルナ侯爵からの提案を呑み、彼女とマゴートにアルシエルの対処を任せた。

 

「是非とも頼むワン。これで少しは楽になるワン」

 

「ありがとう。さぁ、サンプルを取りましょう」

 

『あくまで邪魔をするか! ならば、叩き潰すまで!!』

 

 対処を任されたモンジェルナ侯爵は興味を抱いた死霊術のサンプルを取るべく、マゴートに殺すつもりで攻撃させる。サンプルを取ろうと全力で攻撃してくるモンジェルナ侯爵のマゴートに対し、アルシエルも家族と仲間の仇であるラインハルトを討ち取るべく、邪魔をしてくる鬼械神を使役する魔人と全力で応戦する。

 

「デカ物同士でやりあうか!」

 

「死ねぇぇぇッ!!」

 

 機械の渾沌巨人と鬼械神の巨人による交戦が始まる中、グエンスは皇帝ラインハルトと卍解した結芽と同時に戦いながら確認する。そんな乱戦にテッカマンドッグが復帰し、左右両刃のテックランサーを手裏剣のように投げ付ける。

 

「ぐえっ!?」

 

「こいつもまだ来るか!」

 

「もう、犬みたいな古臭いヒーロー邪魔!」

 

 手裏剣のように飛んで来たテックランサーをグエンスと結芽が避け、皇帝ラインハルトだけが当たった。テッカマンドッグが鬱陶しく思う結芽は先に仕留めようと思い、無防備なテッカマンに高速で接近し、にっかり青江を振り下ろす。

 それをテッカマンドッグは紙一重で躱しつつ、戻って来たテックランサーを受け取り、小柄な少女とは思えない程の速度で放つ斬撃を防ぎ切る。

 

「助かるな! お嬢ちゃんよ!!」

 

「くえぇぇぇッ! なんで勝てねぇんだぁ!?」

 

 テッカマンドッグが結芽と交戦を開始する中、それを皇帝ラインハルトの首を取るチャンスと捉え、グエンスは攻撃してくる標的を避けてからパルチザンを叩き込む。深く突き刺したつもりだが、相手は転生者で、転生させたゴッド・カオスより強力な力を授けられている。その為、パルチザンの刃は致命傷を与えられず、吹き飛ばされた。

 

「流石に硬いな! こいつは一番厄介なタイプだ!」

 

 皇帝ラインハルトの頑丈さに、グエンスは今まで殺してきた転生者たちよりも硬い奴と評した。

 

「先を越されてたか! クソっ、どうにかしてキャシャーンを突破しなければ!」

 

 同じ帝国再建委員会でも、違う所属である選抜隊の結芽に先を越されれば、昇進は叶わぬと知るターニャは、いま自分を攻撃しているキャシャーンレディとその相棒フレンダーの枠であるバナナに抑えられ、標的である皇帝ラインハルトの首を取れずにいた。

 キャシャーンレディとバナナの連携は見事と表して良いほどの物であり、ターニャの行く手を阻んでいる。それにターニャを阻むのはキャシャーンレディとバナナだけではない。正義の軍団の一人、PAYもターニャに錯乱しながら攻撃してくる。

 

「なんでぇ、なんでお前は死なないんだァ!? 俺はYAP遺伝子を持つ日本人だぞ!? 英雄の遺伝子を持つ俺に攻撃されて、お前は何で生きているんだァ!?」

 

「こ、こいつ…! 殺す気で来る相手にワザワザ殺されるなど、自殺願望のある奴だけだ!!」

 

 YAP遺伝子を持つ自分になんで殺されないかと泣きじゃくりながら問うPAYに対し、抵抗しない者は自殺願望のある奴だけだと返して反撃の蹴りを入れ込む。それをPAYは躱せず、腹に受けた魔力込みの蹴りで吹き飛ぶ。

 PAYを吹き飛ばしたターニャであるが、その次に来るのがキャシャーンレディとバナナだ。PAYの攻撃力と速さだけの単純な攻撃とは違い、あちらは連携を取って攻撃してくる。ターニャはそれらの攻撃を躱しつつ、皇帝ラインハルトの元へ向かわねばならないのだ。

 

「お前は、この俺に殺されるべきなんだ! 無駄に抵抗するなぁ! 俺の為に、英雄だけが持つYAP遺伝子を持つ俺の為に死ねぇ! 死ねェェェッ!!」

 

「お前が、死ねっ!」

 

 キャシャーンレディとバナナの攻撃を躱し終えた後に、こちらにPAYが再び攻撃してくる。喚き散らしながら攻撃してくるPAYにターニャはうんざりしており、今度こそ始末するため、相手の攻撃を躱してからエレ二ウム九五式の力を使った打撃による反撃を行う。

 

「主よ、この己の事しか考えぬ者を我から退けたまえ!」

 

「グワァァァっ!? そんな、そんな馬鹿な!? この俺が、失敗もなく敗北も無いYAP遺伝子を持つこの俺が!?」

 

 詠唱が終わってから放たれたその打撃をPAYは躱すことなく、吸い込まれるように当たり、自分の敗北が認められないまま、地面に向けて落下していく。

 誰から見ても敗北は明白であるが、PAYは前世における経験とYAP遺伝子を持つ自分の過信差ゆえに、その敗北を認められなかった。否、敗北事態を受け入れられないのだ。

 

「俺は、俺は日本人なんだぞ! どうして日本人の俺が馬鹿なスラブ人の小娘如きに負けるんだ!? YAP遺伝子は勝者の遺伝子じゃなかったのか!? 俺は勝てたはずなんだ! 前世じゃ在日共の嫉みで職を取られたんだ! 在日なんぞを採用したあの企業は倒産は確定だ! そうだろうぜ! このYAP遺伝子を持つ俺を採用しなかったからな! 今頃は社員全員が路頭に迷ってるだろうぜ! ハハハッ、そうだ! これは夢だ! きっと悪い夢なんだ! 目覚めれば勝ち続ける第二の人生が…」

 

 落下の最中、敗北を認められないPAYは、前世の苦い人生を思い出しながら現実逃避を始めた。

 PAYは自らを日本人という様に、前世は日本人青年であった。だが、一回前の前世がエリートサラリーマンであったターニャとは違い、その人生は幸福な物ではなく、敗北の人生であった。何をしても失敗し、学校ではいじめを受けて家に引きこもってしまった。

 

 負け犬のようなPAYこと彼を両親は家の恥と思い、そのまま引きこもらせ、否、家から出ないように世話をした。両親や身内から家の恥と思われていることも知らず、彼は周囲から心を閉ざし、ネットの世界に夢中になり、自分の見たい物だけを見て、聞きたいことだけに耳を傾ける人生を送った。

 そんな時に彼はYAP遺伝子の事を知り、周囲が自分を妬んでいると思い込み始める。

 

 やがて両親も年老い、父は逃げ、母が自殺して全ての身内が引き取りを拒否すれば、世話をする者が居なくなった彼は、より一層にYAP遺伝子を狂信し、自らの意思で外へ出た。YAP遺伝子を持つ自分を採用するのは当然だと思い込んで。

 

 だが、現実は非情である。

 一番のセールスポイントを自分にする彼を受け入れる企業は無い。それに態度も傲慢で上から目線。おまけにその歳になるまで引きこもっていたのだから社会経験も無く、挙句に身だしなみも酷く、幹部にしろと言う始末。そんな世間が知るはずもないYAP遺伝子を押し出し、自分を採用しろと言う無礼無知な彼を受け入れる企業など存在しない。

 自分を受け入れない社会に対し、彼は益々憎しみを抱き始め、外国人に乗っ取られているとさえ妄信するようになる。だが、右翼的思想を持つ企業でさえ、彼を採用しなかった。碌な経験も無く、ただ日本人と言うだけで採用していきなり幹部にしろと言う男など、信じられるはずもない。

 

 やがて両親が残した所持金も尽き、大家に家からも追い出され、無一文で路上に放置された彼は、自分を受け入れなかった社会を憎みながらも、復讐への行動をする勇気を持つことなく餓死した。

 社会に憎しみを抱いたまま餓死したことで、混沌を好物とするゴッド・カオスに目を付けられ、混沌を引き起こす存在として、PAYとして転生させられる。

 渾沌の神でも神であることに間違いはない。その神に転生させられたことで、PAYはますますYAP遺伝子を狂信するのであった。

 

 これは夢だ、きっと悪い夢に決まっていると思い込み、目覚めれば輝かしい自分の勝利の人生が再開されると思っていたが、答えは前世と同じく敗北であった。ゴッド・カオスに見限られ、味方でさえも見捨てられたPAYは、地面に叩き付けられて死亡した。PAYは自分の敗北を認められないまま死んでしまったのだ。

 YAP遺伝子。そんな何でもできる遺伝子などあれば、日本人が幸福であり、今頃は世界を制する支配民族になっていたのだろうが、実際それ程の万能性は皆無であり、日本人だけが持つ特徴の一つでしかないのだが、邪な欲と嘘により、PAYのような劣った者たちに 他の人種や民族より勝っていると言う優越感を持たせ、傲慢にさせた。

 歴史に名を遺した英雄たちが成功の為、運と自分の才能に頼るのでではなく、死に物狂いで努力し、泥水を啜って栄光を手にしてきたのだ。

 YAP遺伝子に拘り、その遺伝子を持つ者以外を見下し続けた結果、PAYは神に抗い、昇進と自身の為に死に物狂いで戦うターニャの前に敗北したのだろう。

 

「最期まで自分の敗北を認められなかったか。一度目の人生の時の自分と両親に感謝せねばな。道を誤っていれば、私もああなっていたかもしれない」

 

 落命したPAYの屍を見て、ターニャは一度目の人生で道を誤れば、YAP遺伝子に似た他者を見下す信憑性も無い物を妄信し、あのような負け犬となっていたかもしれないと呟いた。

 これで一つの障害が取り除かれたと思うが、最大の障害であるキャシャーンレディとバナナが空かさずに攻撃を加えて来る。

 

「ちっ、あいつよりもキャシャーンの方が厄介だ!」

 

 キャシャーンレディの飛び蹴りとバナナの攻撃を躱すターニャは、どうにかして皇帝ラインハルトの元へ向かおうとしていた。

 

 

 

「ん、なんだあのライオンは? まぁ丁度いい。奴を仕留め、離脱させて貰おうか」

 

 一人第13大隊より離れ、単独で皇帝ラインハルトの首を取ろうとしていたキテス・サイコロは、アガサ騎士団の陣営より、同じ標的を狙う者を見付けた。

 それは人物ではなく、全身に魔導鎧を身に纏った空飛ぶライオンであった。アガサ騎士団の討伐部隊旗艦「タゴン」から飛び出し、鎧に刻まれた紋章からして、そのライオンはアガサ騎士団所属であることは明白である。

 

「あの演算宝珠込みの甲冑からして、ただのライオンじゃないことは間違いない。所詮は獣よ、文明の利器に勝てるもんか」

 

 ライオンに演算宝珠付きの魔導鎧を着せ、戦力にしていることから、ただのライオンでないと見たキテスは、それなりの手柄を期待し、こうして皇帝ラインハルトの元へ向かうそのライオンを仕留めようとライフルの狙いを定めたが、ライオンの動きは速かった。

 

「速いな! だが、のこのこと近付いてくれるだけ助かるぜ!」

 

 余りの速さに少し怖気付いたキテスであるが、有効射程距離まで近付いてくれるので、後は引き金を引きだけだと思い込んでいた。照準器にライオンを捉えれば、直ぐに引き金を引こうとした。

 

「えっ!? サイコロステーキ!?」

 

 だが、その前にライオンは両前足を振るい、キテスに向けて魔力を込めた斬撃を放つ。放たれた斬撃を受けた身体はサイコロステーキのように切断され、それを知ったキテスは奇妙な断末魔を上げて絶命する。

 キテスを惨殺したライオンは、一気に皇帝ラインハルトの元へと向かった。

 

「おぉ、アガサ・ライガーが来たか! これで存分に目前の敵に集中できる!」

 

 アガサ騎士団の航空魔導士であるライオンことアガサ・ライガーを見た勇者は、目前の敵である正義の軍団の一人である東条武夫に集中できると言って、攻勢を強める。

 

「くっ、獣が一匹増えたところで、調子に乗るとは!」

 

「獣ではない! アガサ・ライガーも、我がアガサ騎士団に属する騎士である! 侮辱するな!!」

 

「象徴の動物が騎士など! お笑いだ!」

 

 アガサ・ライガーの事を獣呼ばわりする武夫に対し、勇者は侮辱するなと怒り、魔力を込めた斬撃を叩き込む。これを何とか防いだ武夫は、象徴にしている動物を騎士にするアガサ騎士団を馬鹿する。それに怒る勇者は更なる魔力を込めた斬撃を叩き込んだ。

 

「我がアガサの象徴である獅子が、騎士をして何が悪い!」

 

「獅子が一番似合うのは貴様ら白人ではなく、我ら日本人よ!!」

 

 武夫はその斬撃を防げないと判断し、躱したところで刃を頭部に叩き込もうとするが、勇者が左腕に着けた盾で防がれた。

 

「アガサの勇者とカーキ色の軍人に近付くな! 巻き込まれるぞ!」

 

「なんと言う斬り合いだ! 近付けん!」

 

 そこからは何者も寄せ付けぬ斬り合いに発展し、周囲の者たちは近付けず、巻き込まれないように離れ始める。

 

「フン、こんなチャンバラ如きに恐れをなすとは! まぁ良い! 二人揃って血祭りにあげるチャンスよ!」

 

 そんな勇者と武夫の斬り合いに対し、余計なことをしようとする者が居た。キテスと同じく第13大隊所属の航空魔導士であるダガールだ。彼はライフルを両者に向け、爆裂術式で二人纏めて消し飛ばそうとする。

 ダガールに狙われていることも知らず、両者は斬り合いに夢中になっていたが、勇者は口を大きく開け、ライオンのような咆哮を放つ。その咆哮は魔法が込められており、強烈な衝撃波が発生し、武夫を吹き飛ばした。そこから勇者は、魔力を込めた強烈な斬撃を撃ち出す。

 

「おらろ!? ごぼば!」

 

 それを避けた武夫であるが、ちょうどダガールがその背後に居たのか、斬撃を受けた。ダガールは奇妙な断末魔を上げながら背中から真っ二つに裂かれ、左右半分に別れた死体は落下していく。勇者が放った斬撃波は、速度が速過ぎるために衝撃が後ろに突き抜けるようだ。

 魔法の斬撃波を受けたダガールの死に様を見た武夫は、それを放つ勇者の恐ろしさを改めて痛感し、本気で戦わねばならぬと気を引き締める。

 

「ぬぅ、改めて恐ろしい奴だ…! どれほど抑えられるか…」

 

 勇者相手に気を引き締めつつ、武夫は斬りかかる彼の斬撃を防いだ。

 皇帝ラインハルトを討ち取りに向かったアガサ・ライガーは、邪魔な敵を魔力で強化された両前足の爪で切り裂き、時には鋭利な歯で噛み砕いた後、標的に魔術によるビーム型咆哮を放つ。

 

「今度は空飛ぶライオンか!?」

 

「アガサ・ライガーだと!? 全力のようだな!」

 

 アガサ・ライガーの出現にターニャは驚き、グエンスはアガサ騎士団が皇帝ラインハルト相手に本気であると理解する。アガサ・ライガーの咆哮の後から放たれたビームは皇帝ラインハルトに直撃し、命中した相手は地面に叩き付けられた。

 

「勇者のみならず、アガサ・ライガーまで投入するとは。ちっ! アガサ騎士団は本気だな」

 

 スミスもアガサ・ライガーの出現を攻撃で気付き、現状の戦力で対処が難しくなったことに苛立って舌打ちをした。

 

「アァァっ! 今度は何だよ!? なんでライオンが空飛んでビームまで撃つんだ!? どいつもこいつも! これ以上おれを苦しめるなァ! 大人しく俺に殺されろよぉ! 死ね! 死ねっ! 死ねぇぇぇ!!」

 

 咆哮型ビームの直撃にも関わらず、皇帝ラインハルトはまだ健在であり、思い通りにならない事態に苛立ち、喚き散らしながら目に見える物全てに気弾を撃ち込む。それは味方も含まれており、一気に数百もの飛行体が撃ち落とされる。

 

「無差別攻撃とは! やはり悪逆皇帝! 早々に討ち取らねば、被害は増すばかり!」

 

「ちっ、これだから恥晒しは…!」

 

 皇帝ラインハルトの地上からの無差別攻撃に防げる者は防ぎ、斬り合っていた勇者と武夫は激怒する。彼を怒らせた張本人であるアガサ・ライガーも、魔法障壁を張って無差別攻撃から身を守る。

 

「し、司令…!」

 

「潮時だな、もう奴は用済みだ。プランAを破棄し、プランBに移行する。東条武夫を初めとする生き残りに伝えよ、撤退だと」

 

 味方であるはずの皇帝ラインハルトの無差別攻撃に晒されるも、魔法障壁で防ぐマースルは、不安になりつつバウムガルデンに指示を仰ぐ。これにバウムガルデンは自分に飛んで来た気弾を弾き飛ばし、完全に暴走して周囲が見えなくなっている自分の主君に呆れ、見限り始める。

 そんなバウムガルデンは皇帝ラインハルトの暴走を考慮していたようで、その為のプランであるBを既に用意していた。勝利を目的としたAを捨て、撤退作戦であるBに移行するように告げた。




今回は帝国再建委員会の調整された英霊として艦これの連装砲ちゃんと融合した超駆逐艦「島風」が登場予定でしたが、没になりました。
代わりにアガサ騎士団に属する空飛ぶライオン、アガサ・ライガーを登場させました。

東条武夫も登場予定だった島風に敗れ、退場する予定でしたが、生かして逃げさせた方が面白いと思い、前世腐れニートのPAYのみを退場に。

次回はネタバレすると、クルスご退場です。


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皇帝ラインハルト その3

ユーゼス・ゴッツォ「それも私だ」


 皇帝ラインハルトの首を巡っての各勢力の代表者たちによる乱戦にて、正義の帝国にもう勝機は無いと見たバウムガルデンは、敗北を想定した計画であった撤退作戦(プランB)の開始を宣言する。

 相手が帝国再建委員会とワルキューレ、アルシエルだけなら勝利の可能性は高かったが、アガサ騎士団とメイソン騎士団が突如として攻撃を開始し、戦況は混乱。更に両騎士団は最高戦力を投入しており、積年の恨みもあってか士気も高く、その圧倒的戦闘力を前に、親衛隊と正義の軍団は大損害を被り、これ以上戦えば全滅は確実であった。バウムガルデンは再編を図るために撤退を決断し、生き延びた配下の者たちに撤退命令を出した。

 この撤退は、主君である皇帝ラインハルトと大帝国軍の将兵等は含まれていない。正義の軍団と親衛隊の生き延びた者のみが撤退を許される。味方諸とも攻撃を始めた主君に対し、遂にバウムガルデンは見限ることを決意したようだ。

 

『聞こえるか東条武夫。我らの勝機は皆無と判断。直ちにプランBを実行せよ』

 

「フン、傲慢が過ぎたか。了解した、少し待っていろ」

 

 勇者と戦っていた武夫はバウムガルデンから伝達された撤退命令を聞き、不安定要素である目前の相手の足止めを行う。武夫もこの撤退作戦の事を知っていたようだ。

 

「貴様、何をする気だ!?」

 

「貴様には関係ない! この戦いも、そろそろお開きだ!」

 

「なにっ!? うぉぉぉッ!!」

 

 交戦中の勇者に問われた武夫は、それに答えることなく彼が騎乗しているライオン型の飛行ユニットを破壊した。ライオン型の飛行ユニットを破壊されては、勇者は飛行することも出来ず、地面に落下していく。それを確認した武夫は軍刀を鞘に戻し、落下する勇者を追撃することなく集結ポイントへと向かう。

 

「プランB発令だ! 総員、直ちに実行しろ!」

 

「まさか、俺たちは負けたのか!? 勝てる戦いじゃなかったのか!?」

 

 正義の軍団のみならず、バウムガルデンの私兵同然だった親衛隊も当然ながら熟知していた。命令が下れば、直ぐに撤退の準備を始める。何処へ逃げるかは、正義の軍団と幹部以外は知らないようだが、集結場所は聞かされていたようだ。

 この命令が来たことで、親衛隊の将兵等は敗北を知り、数名が動揺を覚えた。撤退は行われたが、北部から侵攻してくるワルキューレのVA部隊にその隙を突かれ、クルスとハーレムアーミーが戦線を勝手に放棄して撤退した事も重なり、尚も数十名が死に続けていた。

 

「おや、撤退ですか? なら僕も行きましょう。でっ、何処に撤退するんです?」

 

「はぁ。戦線を放棄した挙句、どの面を下げて戻って来たか。この愚か者め」

 

「貴様…! 戦線を放棄しておいてなんだその態度は!?」

 

 北部で撤退中の親衛隊の被害が増す中、その原因を作り出した張本人であるクルス来夏が、何食わぬ顔でハーレムジェネラルとお気に入りたちを伴ってバウムガルデンの元へ戻って来た。これにバウムガルデンは呆れた表情をしながら溜め息をつき、背後から何処へ撤退するのかと問うクルスに対し、振り返ることなく眉をひそめる。

 これを代弁するかのように、マースルが激怒するが、バウムガルデンは無言で手を翳して抑え、質問に答えることなくミレイナの事を問う。

 

「貴公か。あのお気に入りの守護天使はどうした?」

 

 珍しく機嫌を悪くしたバウムガルデンの反応からして、皇帝ラインハルトと同じくクルスも撤退するメンバーに含まれていなかった。そればかりか、撤退すら聞かされていなかったようだ。

 バウムガルデンからの問いにクルスは、自分が悪いのではなく、ミレイナの所為で撤退したと答えた。

 

「あぁ、あの三次元女ですか。捨てましたよ。せっかく見付けて強化してやったのに、敵にこの僕を傷付けることを許したんですよ。まぁ、罰として自爆させましたがね。でも、数年もすれば劣化して、皺くちゃになって醜くなる。全く、これだから三次元女は身も心も醜いったらありゃしない。やはり女性は、二次元こそが至高ですよ」

 

 命令に従ったミレイナを散々扱き下ろした挙句、リアルの女性ですら扱き下ろすクルスに、バウムガルデンは失望どころか、呆れ果てていた。

 

「失望を通り越して呆れたわ。元より取り上げるつもりであったが、少しばかり踏ん張っていれば、褒美として貴公のお気に入り全員を実体化させようかと思った物を。クラウンにYAP、死んだ正義の軍団の者たちは役割を果たしたと言うのに、貴公と言う奴は…!」

 

「僕の花嫁たちを実体化? それは素晴らしい。次の機会にも…」

 

「貴公、次があると思ったか? 貴公に自分だけの軍隊(マイ・アーミー)を与えた神は、どう思って与えたのだろうな。その能力も、これから余の物となるのだから、考える価値も無いがな」

 

 ギリギリまで耐えていれば、ハーレムアーミーのお気に入りを実体化させるとバウムガルデンが呆れながら口にすると、クルスは自分の都合の良い所だけを聴き取り、次の機会であればと自信気に言った。

 無論、北部一帯を敵に明け渡した挙句、ここまで逃げて来たクルスに次の機会を与えるバウムガルデンではない。彼はクルスに能力を与えて転生させた神に怒りを覚えつつも、考える価値も無いと切り捨て、その能力を取り合えるために近付く。

 

「はっ? 何を言ってるんです? ハーレムアーミーは僕の物ですよ? 誰が渡す…ッ!?」

 

「貴公の人形遊びはこれまでよ! 貴公の能力、余の軍団の復活の為、貰い受ける!」

 

 自分の物にすると言うバウムガルデンに対し、クルスは絶対に渡さないと後退りしながら口答えするが、相手は有無を言わさずに右手を腹に突っ込み、ハーレムアーミーこと自分だけの軍隊(マイ・アーミー)を文字通りに取り上げた。

 クルスよりマイ・アーミーを取り上げた後に腕を引き抜けば、隣に立っていたハーレムジェネラルとその他のお気に入りたちを含め、ハーレムアーミーは残らず消滅する。能力を取り上げられたクルスは尻もちを着いて倒れる中、周囲を見間渡して自分を守る者たちが消えてなくなったことに気付き、激しく動揺する。

 

「えっ!? あぁぁっ、僕の花嫁たちが!? か、返してくれ! それは僕の物なんだぞ!!」

 

「フン、能力に依存し過ぎたようだな。それにこれも見るが良い。貴公の真の姿よ」

 

「ひっ!? ワァァァッ! なんだこの姿は!? も、戻してくれぇ!! こ、こんな醜い男なんて、僕じゃない! 理想の女の子たちに愛される僕じゃないんだ!!」

 

 返せと喚くクルスに対し、バウムガルデンは更なる残酷な事実を告げ、懐から出した鏡に彼の姿を映す。その姿は小柄で肥満体系の中年の日本人男性であり、元の美形で手足も長かったクルスとは程遠い容姿であった。これがクルスの正体であり、前世の姿だ。

 その姿を見たクルスは更に追い込まれ、元の転生した姿に戻してくれと泣きじゃくりながら懇願するが、バウムガルデンはそれが本来の姿であると相手を説き伏せた。

 

「何を言う、貴公の本来の姿では無いか。外面だけ綺麗したところで、心まで美しくなるよう心身ともに己を磨かねば、醜いままぞ。それに気付かず、与えられた能力を己の力と勘違いし、生まれ変わっても心を改めなかった己の結果が、その姿よ」

 

「そ、そんなァ…! ぼ、僕にはハーレムアーミーが無ければ…それが無ければ主人公になれないんだ! 何でもする! あんたの命令は何でも聞くから! だから返して! お願い!!」

 

 能力に依存し、それを自分の力と勘違いして増長した自分を恥じろと説き、転生と同時に心を改めなかった結果であると告げるバウムガルテンに、前世の姿に戻されたクルスは恥じらう事もせず、ただハーレムアーミーを返せと喚くばかりであった。それに呆れ果てたバウムガルデンは、当然返すことなく突き放す。

 

「諄いぞ! ここまで能力を育て上げたことに免じ、生かしておいてやろう。今度は己の力だけで生きて行くのだな。直ちに余の前から消え失せよ! 余の気が変わらぬうちにな!」

 

 今のクルスはバウムガルデンにとって殺す価値も無い人間だった。自ら手を下す価値も無いと判断したバウムガルデンに、凄まじい剣幕で消え失せろと言われたクルスは泣きじゃくりながら西の方へと逃げていく。マースルも殺す価値も無いと思っており、その逃げるクルスの後姿を嘲笑っていた。

 

「た、助けて! 殺される! 殺される!!」

 

 泣き喚き、助けを求めて逃げ惑うクルスであるが、誰も助けはしない。そればかりか、味方であるはずの大帝国軍の兵士に銃を向けられる。

 

「おっ!? 貴様、なんで戦わない!? 武器を持て! 戦うんだ!!」

 

「な、なんで!? 僕は民間人だ! 戦えないんだ! 保護してくれぇ!」

 

「戦えないだと!? 我々正義の帝国に戦えぬ男など要らん! 食料と場所の無駄だ! 死ねぃ!!」

 

 兵士に呼び止めれたクルスは、民間人だから保護してくれと請うが、男尊女卑である正義の帝国こと大帝国に戦わない男の居場所どころか、生存権は無かった。大帝国軍の兵士からも狙われることになったクルスは、彼らからも逃げる羽目になる。

 

「ワァァァ! なんで!? お前ら軍隊なのか!? 民間人を殺すなんて犯罪だぞ!?」

 

「我々正義の帝国に、弱い男の居場所なんて無いんだよ! ましてやお前のような奴が、なんで今日まで生きてたか不思議だぜ! いい加減に死ねってんだ!」

 

 弱い男の居場所など無い。

 その言葉は、今のクルスに当てはまる物であった。転生してからは自分が強者の立場となり、弱者の立場など考えもしなかったが、今のクルスの立場は後者の弱者だ。直ぐにクルスは自分目掛けて飛んでくる銃弾から逃れつつ、メイソン騎士団の方へと逃げる。

 

「た、助かった…!」

 

 追っていた大帝国軍の兵士らは、メイソン騎士団が保有するゾイドであるレッドホーンの攻撃を受けて吹き飛ばされる。

 

「あ、ありがとうございます! ど、どうか助け…っ!?」

 

 これに安心し、近付いて来る弓兵を含める歩兵らに感謝したが、彼らもまたクルスを助けようなどとせず、ボウガンの矢を彼の胸に撃ち込んだ。胸を矢で射られたクルスは固い地面の上に横たわり、血反吐を吐き、どうして射られたのかと動揺する。

 

「ど、どうして…? 僕は民間人…」

 

「気を付けた方が良いぜ。爆弾を隠してる可能性があるからな」

 

「この国の男の民間人は、みんな便衣兵だからな。気を付けなきゃ、一緒に心中されちまうぜ」

 

「女子供にも気を付けろ。そいつ等も爆弾を隠してるかもしれんからな。それに死体にも迂闊に触れるな。爆弾が仕掛けられてるかもしれん」

 

「全く、何が正義の帝国よ。悪の帝国じゃねぇか。俺たちを送る前に、街ごと吹っ飛ばしちまえば良いもんよ!」

 

 とどめの二射目を撃ち込まれたクルスは、まだ息があったが、メイソン騎士団が民間人を殺す理由は直ぐに分かった。どうやら、保護を求めるフリをして自爆する民間人が多いらしく、かなりの被害が出ている為、メイソン騎士団は無差別攻撃を行っているようだ。

 それを知ったクルスは、納得して息を引き取った。その死体は埋葬されず、歩兵隊の後にやって来たグレイズ等のMSの手により、他の死体と一緒に乱雑に脇へと退かされた。

 かつては数万の軍勢を召還する能力を持つ男にしては、呆気ないどころか惨い死に様であった。もっとも、与えられた力で己に酔い痴れ、他者を見下して蔑んできたクルスには、相応しい死とも言える。

 

 

 

「少しばかり未成熟ではあるが、余の心の中で生きる二百万の復活は可能だ。試しに、余の頭脳と手足たちを復活させてみよう」

 

 クルスよりハーレムアーミーことマイ・アーミーを取り上げたバウムガルデンは、能力がまだ未成熟なままに気付くが、それでもかつての自分の軍隊を復活させるには十分であると認識し、試しに自分の記憶の中で生きている重鎮らを思い浮かべつつ、能力を発動する。

 マイ・アーミーは使用者の魔力量が高ければ高いほど、召喚できる使い魔(へいし)の数は多くなる。元の使用者であったクルスは強化されていながら軍団規模が限界であったが、バウムガルデンの魔力量は彼を遥かに凌駕しているので、フルに活用すれば、数千万の召喚は可能である。だが、バウムガルデンは敢えてせず、試しにかつての自分の重鎮たちの召喚を行うだけであった。

 召喚された十名の男たちはどれも武人であり、バウムガルデン以上の高身長であった。無論、この男たちは当の昔に死んでおり、バウムガルデンの記憶と心の中で生きている存在にすぎない。だが、それでも自身の野望に殉じた男たちとの再会を喜ぶ。

 

「おぉ、四百年ぶりの再会だ…! アイヒンガー、バッヘム、ボイムラー、バインル、ビンターナーゲル、コリント、デーナー、アイヒマン、ザルデルン、ツムシュテーク、四百年前のままだ! 実に久しい、久しいぞ貴様たち…!」

 

 決して忘れなかった重鎮らの復活に、バウムガルデンは全員の顔を見ながらそれぞれの名を口にし、再会を喜んだ。隣に立つマースルも合流した親衛隊の者たちと共に、自分らの野望への完遂が一歩前進したと確信して笑みを浮かべる。

 

皇帝陛下(マイン・カイザー)、貴方と再び戦えることを喜びに思います!」

 

「我らがこの命、皇帝陛下の為に!」

 

「だが、全員は当の昔にイヴ人共によって殺された。この者らの妻子らはイヴ人共に凌辱され、彼奴等の子を身籠らされた。その血統を受け継ぐ者は、今のイヴ人の中に何人居ようか」

 

 かつて共に戦った者たちの復活に喜ぶバウムガルデンであるが、全員が自分の記憶の中を実体化させただけだ。それに気付き、バウムガルデンは今の彼らの子孫が、自分らを滅ぼしたイヴ人であることを嘆いた。

 

「では、次は将軍に体長たちを含めるかつての余の軍団の復活だ。この者らと同様、余の記憶の中を実体化させるのみ」

 

 記憶の中の旧友らの再会を喜べず、悲しげな表情を見せるバウムガルデンは、イヴ人に滅ぼされる前の自分の軍隊を復活させる。

 バウムガルデンの記憶の中で生きる二百万の軍隊は、黒い軍服と甲冑を身に纏った屈強な男たちであった。手にしている銃火器はマスケット銃だが、それが小さく見えるほど歩兵が大柄だ。騎兵が駆る軍馬も大柄で、それを駆る騎兵もかなりの重量があるランスを片手で振り回すほどに大きい。まさに最強の軍隊と言えるが、その装備では戦列歩兵時代の軍隊だ。

 

「大帝国軍の陣営より高魔力反応! こ、これは…!?」 

 

「奴ら、自爆する気か!? ハシュマルはまだ再起動できんのか!?」

 

「い、いえ…! 召喚です! に、二百万の使い魔の反応が!」

 

 その規模、クルスの数百倍以上。一挙に現れた二百万の軍勢の出現に、皇帝ラインハルトの首を巡って争うワルキューレに帝国再建委員会、アガサ騎士団、メイソン騎士団の面々は思わず戦闘を止めてしまう。これにスミス等はただ驚愕し、思わず対応が遅れた。

 マイ・アーミーにより復活したかつての自分の軍隊を見て、バウムガルデンは自分の帝国が復活したも同然と宣言する。

 

「実に壮大なり! 余の帝国は復活したと過言ではない! 撤退中の親衛隊と正義の軍団の残存兵力に告げる! 余とその軍団が殿を務める! 各自はこの世界より直ちに脱出し、再起に備えよ! 繰り返す、撤退し、再起に備えよ!!」

 

 自分の軍隊と自身で殿を務めると宣言すれば、親衛隊の残余らの士気は高くなり、次元転送装置がある場所へと撤退し始める。思わぬ大群の出現に、相手が戦列歩兵レベルの軍隊にも関わらず、首都の深部に進行していたワルキューレと乱戦状態の三勢力は混乱し、押し戻された。

 無論、正義の帝国である大帝国軍と、その皇帝であるラインハルトは含まれていない。それに気付かず、反撃を行う四百年前のバウムガルデンの軍隊を見て、救援が来たと喜んでいた。

 

「敵の増援だと!? 何処から来たと言うのだ!?」

 

「ゲヘヘヘッ! 流石バウムガルデンだぜ! 俺の為に援軍を召還しやがった! これで形勢は逆転だァ!!」

 

 テッカマンドッグ、結芽、アガサ・ライガーと交戦しながら皇帝ラインハルトの首を狙うグエンスも、味方を含める敵軍を押し戻す復活した軍隊に気付き、地上へ視線を向ける。自分が当に捨てられたと気付かず、ラインハルトは勝利を確信して歓喜する。

 

「シルバリー合金が!? 一体ずつの魔力は計り知れんと言うのか!?」

 

 更に古い装備でも、防御力では遥かに凌駕する甲冑を身に纏うアガサやメイソンの両騎士団も応戦するも、バウムガルデンの魔力で召喚された騎兵と歩兵等は、その装甲を容易く貫いてしまう。四百年の時を得てこの世界に復活した軍隊は、バウムガルデンによって更なる強化を受けており、機動兵器ですら止められず、撃破されるばかりだ。

 

「ち、地上の味方が!?」

 

『このままでは全滅するぞ! 援護を!』

 

「っ、空からも来るのか!?」

 

 地上の味方が蹂躙されるのを見て、救援に向かおうとした小型飛行ゾイドのプテラスに乗る者たちと魔導騎士たちであったが、空からもバウムガルデンが新たに召喚した四十万の航空魔導士等も来ており、強力な術式で次々と空の敵軍も蹂躙し始める。

 

「敵の増援だと!? くそっ、こいつ等! どっから湧いて出て来た!?」

 

 当然ながらキャシャーンレディとバナナと交戦するターニャの方にも来ており、その強大な術式による攻撃に晒される。ターニャは四方八方より来る魔弾攻撃を防ぎ、キャシャーンレディとバナナは冷静に対処し、使い魔である航空魔導士等を撃破していく。

 

「新手なの? どうやら、強力な召喚士が居る見たいね」

 

『クソっ、今度はなんだ!?』

 

 機鬼神マゴートを使役するモンジェルナ侯爵とアンティーク・ギア・カオス・ジャイアントとなったアルシエルの方には、巨人と化したバウムガルデンの軍隊の兵士六名が迫っていた。当然の如く、六体の巨人もバウムガルデンが新たに召喚した使い魔である。向かってくる六体の巨人に対し、両名は交戦するのを止めて対処する。

 ここだけでなく、首都各地で戦う者たちも召喚された使い魔の軍隊による攻撃に晒されており、その対応に追われていた。ニコレにアモン、パールらを初めとするガンダムチームに押されていたハイゲールを駆るバルトルトは、使い魔の軍隊の援護を受けて撤退する。アードリアンも交戦しているレッドホークに押され気味であったが、軍隊の救援を受けて撤退に成功した。

 

「正義の軍団で生き延びたのは、貴公とマースルのみか」

 

「他が弱過ぎたんだ。それで、まだやらせる気か?」

 

「フン、十分な程に働いてくれて感謝の言葉しかない。それに免じ、報酬としてこれを貴公に渡す。貴公の祖先に侵攻を掛けるのだろ? なれば軍隊が必要になるな」

 

 最後に勇者を振り切って撤退した武夫が本陣までくれば、バウムガルデンは協力した見返りとして手切れ金である物を渡す。バウムガルデンは武夫が祖先の故郷がある世界に侵攻すると知り、その手段を渡す条件に協力させていたのだ。ある物はアタッシュケースの中に入っており、それを受け取った武夫は空けて中身を確認した後、ふたを閉めて立ち上がる。

 

「まさかあの日本の恥の戯言を実現させるとはな。まぁ、俺は祖先の国を再建させるのが目的だ。実現できればどんな物でも構わん」

 

「もう二度と会うことは無いだろう。達者でな」

 

「そちらも、無事に家に帰れると良いな」

 

「元よりそのつもりよ」

 

 手段を手に入れた武夫は別れの挨拶を交わした後に次元転移装置へと入り、別の世界へと転送された。

 

「余は少し野暮用を済ませてから向かう。先に行け」

 

「はっ!」

 

 バウムガルデンはマースルと幹部らを先に転送させた後、皇帝ラインハルトの元へ向かった。

 

 

 

「おっ、来たかバウムガルデン! お前が召喚した軍隊が、奴らを圧倒しているぞ! これもお前のおかげなんだろ!? 流石はバウムガルデンだ!」

 

 当に見限られているにも気付かず、ラインハルトは召喚された軍隊が自分をコケにしていた者たちが苦戦していることに大いに喜び、バウムガルデンに感謝の言葉を告げる。

 

「さぁ、これから反撃開始だ! 共に世界帝国(ヴェルト・ライヒ)を建国の道へ!!」

 

 侵攻軍に反撃を行い、世界帝国を建国しようというラインハルトに対し、バウムガルデンは答えることなく、見限った事を告げる。

 

「余の存在を敵に悟らせぬための陽動、誠に大義であった。報酬として、正義の帝国(ゲレヒティヒカイト・ライヒ)はお主に残す。覇道を歩むが良い」

 

「な、何を言ってるんだ…? お前は俺の部下だろ? なら言う通りにしろよ。殺されたいのか?」

 

 自分を見限ったバウムガルデンの言葉に理解できないラインハルトは脅しをかけるが、相手は怯えるどころか、嘲笑うかのような表情を見せて続ける。

 

「お主は良い道化であったぞ。お主を世に生み出し、ここまで歪んだ人間に育て上げた両親に感謝せんとな。余の帰還の為、働いてくれたことも感謝しておるぞ」

 

「お前ェ…! 俺を、俺を騙したのかァ!?」

 

「そうだとも。余がお主を騙していた。余りにも信じ過ぎて、笑いを堪えるのに必死だったわ。己の耳に心地よい事ばかりを囁く者こそ、真に警戒すべき相手だと言うことを理解しておらんようだな」

 

 その言葉で、バウムガルデンに対する殺意は芽生えた。直ぐに殺意を込めた拳を自分を嘲笑う目で見るバウムガルデンにぶつけようと振り下ろすも、常人なら跡形も無く消えるような拳は、容易く左手で受け止められてしまった。

 

「なっ!? なんでだァ!? お前は俺より弱いはずなのにィ!!」

 

「やれやれ、お主もクラウンやPAY、クルスと変わらんな。与えられた力を己の物と誤解しておる。まぁ、余の脱出の為の時間稼ぎをしてもらわなくてはな…!」

 

 自分の攻撃を容易く受け止めるバウムガルデンに対し、ラインハルトは激しく動揺する。これにバウムガルデンは彼の腹に右手を突っ込み、膨大な力を与える。

 

「うっ!? ウゴォォォ!? な、なんだこれァ!? 身体が、身体がァァァッ!?」

 

「お主が欲した力よ。その力を存分に振るい、余の脱出を援護するが良い。余の脱出後は、好きに暴れるが良い。この世界が崩壊し、その身を滅ぼすまでな」

 

「アヒャヒャッ! 力だ! 力が溢れ出て来るぞォ! チートだ! 無敵だ! 俺は最強だァァァ!!」

 

 バウムガルデンが脱出するため、力を与えられたラインハルトの身体は膨張し、能力を暴走させたクラウンと同じく巨大な怪物となり、内から溢れ出る力に支配された。

 

「ヒヒヒッ! もうどうでも良い…! こんな俺の思い通りにならない世界なんて壊してやる…! 俺の気に入らない奴や物、全部! 全部だ! 何もかもぶっ壊してやるッ!!」

 

 湧き出る怒りと力に支配され、巨大な怪物と化したラインハルトは暴走し、自分の気に入らない物全てを破壊すべく、無差別攻撃を開始した。

 

「では、頼んだぞ。それがお主の最期の務めだ。存分に暴れるが良い」

 

 暴走するラインハルトに向け、バウムガルデンは脱出の為にそこから離れ、次元転移装置の方へと戻って行った。




バウムガルデンが取り上げた能力で復活させた十名の名前、募集しようかな。

次回からは大決戦だぜぇ!


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皇帝ラインハルト その4

取りま、いきなり回想だべ。


 今よりイヴ人たちが各次元世界に種子と生活圏を広げた二百年前よりも更に四百年も昔、まだイヴ人の帝国である百合帝国が存在した頃の時代。彼女らは世界全土を自分らの物とすべく、世界制覇に向けて世界侵攻を開始した。

 

 第一次世界大戦の終結間際のドイツ軍の装備で軍備を整え、マスケット銃や大砲が採用されたばかりの世界を技術力と火力の差、戦略と戦術で圧倒し、その支配地域を広げていく。

 圧倒的技術力を前に、世界各国は敗北するばかりであったが、快進撃を続ける百合帝国に唯一土を付けた帝国があった。

 

 その名は大陸帝国(コンティネント・ライヒ)。かつてバウムガルデンが人間であった頃に治めていた広大な領土を持つ大帝国であった。

 大陸帝国はその世界において、どの国家を上回る軍事力を誇っていた。唯一快進撃を一時的に止められたのも、保有する軍事力あっての事だろう。

 それでも大陸軍の装備はマスケット銃と大砲であり、戦車や航空機、艦艇と言った近代装備に高い魔力を秘める魔導士らを保有する百合帝国軍の前に、他の大国らと同様に敗北と屍の山を重ねるだけであった。

 それも唯一土を付けたのは一戦のみ。皇帝であるバウムガルデンが自ら軍を率いた決戦であった。

 

 だが、他の国家同様に滅びの運命からは逃れられず、大陸帝国もまた、百合帝国軍の総攻撃を受けて崩壊した。

 唯一の生存者であり、皇帝であるバウムガルデン一人を残して…。

 

「恐ろしい…! これが技術と魔力の差か…!」

 

 皇帝自ら率いる大陸軍の士気は高かく、対峙した百合帝国軍に対して果敢に騎兵と歩兵の大群による突撃を行うが、機銃掃射と砲撃、上空からの機銃掃射に爆撃で高熱に晒された氷のように溶けていく。それに魔法による攻撃も加わっているので、損害は増すばかりである。

 

「報告します! 上空の魔導兵器により、我が魔導士部隊は壊滅状態!」

 

「まるで虐殺ではないか! こうも一方的に、我が大陸軍が魔軍に蹂躙されるなど!」

 

 本陣で自分の大陸軍が敵軍に一方的に蹂躙されていく報告に、当時は人間であり、皇帝であったバウムガルデンは人間らしく怒る。

 これ以上は一方的に蹂躙されるだけと判断したバウムガルデンは、自ら先頭に立って突撃を指揮すると周囲の重鎮と幹部、将軍に参謀らに告げる。

 

「もう我慢ならん! 余が自ら先陣に立ち、突撃を指揮する! 近衛兵団、余に続け!」

 

「な、なりませぬ! 陛下自らが突撃など!」

 

「ここで退いたところで、滅ぼされた国々と同じ運命を辿る結果になるだけぞ! なれば後の世の為、敵将の一人や二人討ち取り、少しでも負担を減らすことこそが、賢明なる判断である! それが分からぬなら、首都で次なる決戦をするが良い!」

 

 当然ながら側近らに出陣を反対されるが、バウムガルデンは聞く耳を持たずに兜を被り、差し出された得物である鞘に収まった長剣を腰に吊るした後、自分用の軍馬に跨って出陣した。

 後の世の為に出陣したバウムガルデンであったが、その後の世代に少しでも負担を減らそうとしたこの出撃は、全く無意味な結果に終わることをまだ知らない。

 そんな事などいざ知らず、あの十名の部下たちも含める近衛兵団を率いて最前線に向かい、集結した全ての予備戦力と共に突撃を行ったバウムガルデン率いる大陸軍であるが、歩兵と騎兵だけの突撃など、機関銃と連射が効く大砲を装備した軍隊の前に薙ぎ倒されるばかりであった。

 

「取り付けば、こちらの物よ!」

 

 それでも皇帝自らの突撃は士気が高く、多数の犠牲を出しながらも敵陣に到達し、塹壕の中でGew88やGew98、Kar98aと言った小銃で射撃を行う華やかな容姿とは裏腹に、大戦末期のドイツ軍のような見すぼらしい軍服を着た百合帝国軍の歩兵らに飛び掛かる。

 一応ながら銃剣は着けているが、平均190センチの大柄な大陸軍将兵多数に接近されては、最長で185センチで後が170センチくらいの百合帝国軍のイヴ人兵士等では接近戦で敵うはずが無く、殴り殺されるか、刀剣類で斬り殺され、銃剣を突き刺されたりして次々と殺害される。

 MG08重機関銃などが設置された機関銃陣地にも大陸軍の大群が迫り、あれほど敵兵を射殺した機関銃も、接近されてはどうすることも出来ないのか、あっさりと制圧された。

 塹壕内に居るイヴ人将兵らが次々と殺されていく中、生きているイヴ人将兵等は大男たちの大群に恐れをなして戦意を喪失し、塹壕から出て逃げ始める。

 

「逃げるぞ! 追えェーッ!!」

 

 将校を含めて無秩序に逃走する百合帝国軍に対し、返り血塗れのバウムガルデンは右手に真っ赤に染まった長剣を握り締めながら、共に突撃した配下の将兵等に追撃を命じて自身もその先陣を切る。

 この追撃に百合帝国軍は迎え撃つも、あれほどの損害を出しても士気が高い皇帝率いる大陸軍は猛追を続ける。それでも犠牲は多く、進む度に死体は増える一方であった。

 

「ほぅ、魔王が麗しい乙女であったとは…! 世界を焼き尽くさんとする軍を率いる者とは、想像し難いな」

 

 数時間にも及ぶ激闘の末、大陸軍はバウムガルデンと信頼する十名のみとなった。周囲には配下の軍の兵士たちの死体で覆われており、山が築き上げられていた。その多数の死体の中には、対峙した百合帝国軍の将兵等も含まれている。

 そんな返り血で真赤に染まり果てたバウムガルデンと十人の部下たちの前に、白馬に跨った金髪碧眼の美女が現れる。背丈は173センチ、絹のような腰まで届く長髪に血色の良い白い肌、顔は童顔である。

 中央に百合帝国の紋章が描かれた良い生地で作られた派手なマントを羽織っているが、身に着けている衣服は、古臭い十字軍のサーコートと鎖帷子と言った物だ。それに腰に携える剣は十字架の紋章が刻まれていない剣ではなく、質素な鞘に収まったバスタードソードであった。

 数々の大国を滅ぼした軍を統括する王にしては、余りにも質素な格好に、バウムガルデンは眉を顰める。

 

「格好の方は、まるで傭兵のような出で立ちだな。だが、その碧い瞳には世界を焼き尽くさんとする炎が輝いておる。世界の為に、貴様をここで屠らなければならん!」

 

 殺した敵兵の死体を投げ捨て、バウムガルデンは目前の女の瞳を見て、世界を焼き尽くそうとする憎悪の炎を感じ取り、それを止めるために剣を構える。そんなバウムガルデンに殺意を向けられた彼女も馬から降り、腰のバスタードソードを抜き、相手を睨み付けた。

 だが、皇帝自らが敵の総大将と思われる女と相手どろうという時に、死闘を生き延びた十名の部下が彼女に襲い掛かる。

 

「っ!? 貴様ら、何をするか!?」

 

「陛下、この女は我らで十分!」

 

「ここで仕留められるなら本望!」

 

「敗れるのなら、相手の手の内を我らの犠牲で!」

 

 仕留められるのなら本望で、敗れるのなら相手の手の内を明かしてからと返し、静止の声を聞かずに攻撃を始める。

 

「は、速い!?」

 

「あんな華奢な身体で、バスタードソードを!?」

 

「敵わんのであれば、手の内を暴いてから!」

 

 だが、敵うことなく斬り殺されるばかりだ。少しでも相手の技を繰り出させ、後に戦うバウムガルデンの助けになろうと、本気で攻撃を仕掛けるも、彼女の剣の腕は高く、むざむざと無駄死にするばかりであった。

 

「馬鹿共め…! 余の為に犠牲になるなど!」

 

 逃げることなく主君の為に相手の手の内を暴こうと挑み、無駄死にした部下等を罵倒した後、バウムガルデンはマントを外し、斬りかかる女の斬撃を防ぐ。

 

「魔法で強化しているのか!?」

 

 長身のバウムガルデンからすれば、目前の女は小柄で力もそれほどに無いが、魔法で筋力を強化しているのか、重い一撃を受けて、思わず怯みそうになる。それでも気合で耐え、押し込んで相手を怯ませようとするが、相手は後ろへステップし、地面を蹴った。

 身体能力も強化しており、瞬きする間に光の速さで間合いまで接近して斬撃を繰り出してくる。これをバウムガルデンは受け流し、相手の背中に蹴りを入れ込み、敢えて追撃せずに体勢を立て直す。

 

「歴戦錬磨の世の部下等を容易く屠るとは、流石は魔王よ。経験はあるようだが、剣の腕は達人と呼べず! ただ魔法で己を強くしただけ! それだけよ!」

 

 経験で自分の十名の部下を葬ったことを褒めるが、魔法で強化しているだけと下し、攻勢に出る。バウムガルデンもまた己の身体を魔法で強化し、反撃の剣を振り下ろそうとする相手の右手を空いた手で抑え、右手に持つ長剣を腹に目掛けて突き刺す。

 その突きは弾丸の如く相手の腹を貫き、背中まで先端が貫通するほどであった。腹を貫かれた彼女は血反吐を吐き、憎しみを抱いていた瞳は光を失い、バスタードソードを手放して力尽きた。

 

「妙に呆気ない。がっ、幸運と言えよう」

 

 直ぐに剣を引き抜きいたバウムガルデンは、かなりの実力者であるはずの彼女が、呆気なく斃された事に疑念を抱きつつも、斃せたことを幸運と思う。

 

「その首を持って、世界を救う。少しばかり気が引けるが、これしか止める術は無かろうよ」

 

 侵略軍である百合帝国軍を止める為、彼女の首を切断しようと剣を振り落とそうとする。だが、彼女は突如となく息を吹き返し、刀身を持って鍔の打撃部をバウムガルデンの横っ腹に強く叩き込んだ。

 

「うぉ!? まさか、手応えはあったはず…!」

 

 殺したはずの彼女が息を吹き返し、攻撃して来たことに動揺したバウムガルデンは反撃を行おうとするも、強い打撃を受けたために立ち直ることが出来ず、そのまま鎧の隙間を狙われ、肉体を深く突き刺された。相手は直ぐにバスタードソードの刀身を引き抜き、血を振り払ってから鞘に戻す。

 

「おぉ…まさか、不死身であったとは…! 通りで合点が、合点が行く…」

 

 世界の命運を賭けた戦いに敗れたバウムガルデンは、薄れゆく意識の中で、百合帝国軍を率いる彼女が、魔王と呼ばれることに合点が行くと呟き、その敗北を認めた。

 そんな彼女が戦いに敗れたバウムガルデンに敬意を表さず、自分の帰りを待つ白馬の方へと帰って行く。

 

 こうして、バウムガルデンが皇帝として君臨していた大陸帝国は、百合帝国軍によって滅ぼされた。

 だが、バウムガルデンは百合帝国軍を率いる魔王や皇帝と呼ばれる不死身の女によって討たれたはずである。

 にもかかわらず、バウムガルデンは四百年後には邪神のように振舞い、クルス来夏よりハーレムアーミー事マイ・アーミーを取り上げ、皇帝ラインハルトを怪物にし、身を寄せている大帝国に攻めて来たかつて自国を滅ぼした残党である帝国再建委員会やワルキューレ、アガサやメイソンの両騎士団に多大なる損害を与えている。

 バウムガルデンは死ぬ直前にゴットカオスに出会い、混沌を引き起こし、他者の能力を奪い、転生者を生前の姿に戻す力を持つ邪神として再び生を受けたのだ。

 最初は抵抗したが、自分の祖国である大陸帝国を滅ぼした挙句に蹂躙した百合帝国に対する復讐心に憑りつかれ、徐々にその力の虜となって行く。世界征服を成し遂げて改名し、数々の異世界に侵攻していた神聖百合帝国を数年がかりで滅亡させた。

 それで復讐は果たされたが、既にバウムガルデンは邪神その物と化しており、自らが落ちたことを自覚しつつも、数多の世界と人々を混沌に陥ることに快楽を覚え、邪神として邪神として君臨し続ける。

 

 邪神として数多の世界と人間を混沌に陥れる傍ら、バウムガルデンは生前の夢である世界征服を叶えようとしていた。

 世界征服は生前からの夢であり、皇帝時代からその野望に向けて歩んでいる最中であった。バウムガルデンは生前の夢を果たすべく、正義の帝国を建国し、自身ではなく転生者であるラインハルトを皇帝に祭り上げ、最強の国家を作り上げた。

 しかし、夢は果たされず、正義の帝国は神聖百合帝国の残党である帝国再建委員会とワルキューレ、青と赤の騎士団の攻撃によって終わりを迎えた。

 

 だが、邪神なバウムガルデンからすれば、また別の世界で果たせばよい話である。

 

 

 

「こいつ、そこの怪物と化してる奴より、そこの髭の方がヤバいんじゃないのか!?」

 

 バウムガルデンがマイ・アーミーによって召喚した大勢の大陸帝国軍兵をキャシャーンレディとバナナに押し付け、自分だけ皇帝ラインハルトとその本性を現した邪神の元へターニャは接近することに成功した。

 接近に成功し、視界に両名を捉えたターニャは、前世での経験上、ラインハルトに制御不可能な力を与え、暴走させたバウムガルデンこそ脅威と認識する。直ぐに攻撃を加えるターニャに対し、バウムガルデンは笑みを浮かべる。

 

「ほぅ、二度も神に抗いし者か。余と来ぬか?」

 

「何を言っている? そこの暴走寸前の馬鹿より、貴様の方が脅威だというのに」

 

「余と来れば、貴様が存在Xと呼んで忌み嫌う神を殺せるかもしれんのだぞ?」

 

「なんだと…?」

 

 誘いの言葉を掛けるバウムガルデンに対し、ターニャはSG551突撃銃の銃口を向け続けたが、彼女が目の敵にしている存在Xを殺せると口にすれば、思わず銃口を下げてしまった。

 ターニャは帝国再建委員会に忠誠を誓ってなどいないし、どうでも良い。それにイヴ人の理解できぬ性分にそろそろウンザリしてきたところで、この邪神たるバウムガルデンから神を殺さないかという誘いは、彼女にとって魅力的に見えてしまう。

 

「既に神を殺す術は手に入れたのだろう? 余の力をもってすれば、貴様をその神罰とも言える幼い姿から、元の大人の男に戻すことはできる。神が押し付けた力は残しておいてやろう。その見返りとして、貴様は余の世界征服を手伝えばよい。どうだ、悪くない条件であろう? もしくは、先に大人の男に戻してやろうか?」

 

 バウムガルデンが出した条件に、ターニャはますます興味をそそられる。

 存在Xに幼女にされて転生させられ、散々酷い目にあわされた挙句に殺された。しかもまだ信仰心が足りないと宣い、今度は自分が理解できない性分を持つイヴ人に転生させられ、挙句に死ぬまで幼女であるロリータ族として、生を受けらせられた。また軍人として成果を上げているが、結果を出したにもかかわらず、同族からは異端扱いされ、死亡率の高い任務ばかりをやらされている。

 そんな生活が我慢できないターニャにとって、バウムガルデンの誘いはまさに救いの手であった。存在Xが止めろという言葉が脳内に響いているが、今のターニャにはバウムガルデンこそが、真に仕えるべき神であり、自分を救ってくれる救世主にも見えて来る。

 少しばかり疑うべきだと考えるターニャであるが、何よりあの男の目を見れば、自分の経験上、最も信用できる男であると信じたい気持ちが勝ってしまっている。元の身体に戻り、その見返りとして征服した世界の管理を任される誘惑に勝てないターニャは、バウムガルデンが出した条件を呑んでしまった。

 

「わ、分かった。もううんざりしていた所だ。早速…」

 

『ならぬッ!!』

 

「こ、この声は…!? 存在Xとは違う声!?」

 

 余りの条件にバウムガルデンの提案を呑み、彼の配下として世界征服を手伝いそうになったターニャであったが、それを存在Xとは違う別の神が制止した。

 

「ぬぅ、もう一押しの所を! 使徒を手放す気はないというか!」

 

 神の声はバウムガルデンにも聞こえており、ターニャを手放そうとしない神に激怒する。

 存在Xとは違う神は周辺の人や死体、あるいは物を通じて伝えるのではなく、両者の前に姿を現す。その容姿は少し太った中年女性であったが、威厳のある風格をしており、老若男女問わず尊敬を集める物だ。

 天より直々に現れた神こと女神は名乗りながらも、高圧的な態度であり、ターニャにバウムガルデンの誘いに乗らぬように脅す。

 

『私の名はホーラ、秩序の神である! この邪神からのその誘い、乗れば貴様を殺す! 神に抗いし者よ!』

 

「デグレチャフ、神を殺す術を使い、あの神を直ぐに殺せ! 今すぐに!」 

 

「乗れば殺すだと? 存在Xより威圧的な…アァァァっ!?」

 

 高圧的な態度で脅すホーラに対し、バウムガルデンは神殺しの隙を使って直ぐに殺すように言うが、ターニャはどちらの言葉も聞かず、まずは秩序の神と名乗る中年女性に対し、存在Xより威圧的だと文句を口にする。その言葉がホーラを激怒させてか、彼女はターニャの頭に強烈な頭痛を与えた。

 

『己が信仰の為に地上の人間たちを争わせ、大地を汚す邪な神と一緒にするでない! 殺した後の三度目の転生先、貴様が最も恐れる世界とするぞ!』

 

「ま、まさか…ウォーハンマー40000の世界!? い、嫌だ! あの世界へは、あの世界へ行きたくない! どんなチートを与えられたとしても!! あそこは地獄だ! 否、地獄すら生温い! 戦争だけしかない世界などに転生させられてたまるか!!」

 

 ターニャに頭痛を与えながらホーラは、三度目の転生先の世界を、彼女が最も恐れる地獄すら生温い世界にすると警告する。ホーラはターニャの生前の記憶を探り、彼女が最も恐れる世界、ではなく行きたくはないであろう世界にすると脅しを掛けたのだ。

 その世界とは苛酷なる暗黒の遠未来。平和も無く、休息も無く、赦しなど、あるはずもない。戦争だけしか残らない地獄がマシに思える世界だ。

 

『貴様の想像通りだ。天の川銀河で繰り広げられる戦争の日々が、地獄が恋しくなるほどになってしまった苛酷で残酷な世界。もはやあの世界は、悍ましい邪神共の聖地と言っても過言ではない! この秩序の神である我とで、数秒たりとも居たくはない世界だ。人が一生、日の光を見ぬまま終える事さえある惨たらしい世界よ。戦争を好む者以外に決して足を踏み入れぬ世界、行きたくは無かろう』

 

 この残酷なる世界で繰り広げられる光景が、ターニャの脳内を走り、彼女を苦しめる。その秩序の女神であるホーラとで、あの世界には行きたくもないし、居たくも無いとさえ口にする程の恐ろしさだ。

 

「わ、分かりました! あの世界だけは、あの世界だけは何卒、何卒ご勘弁を!」

 

『それで良い。だが、このホーラとで、慈悲はある。この事態に対処するのであれば、貴様を二度も転生させた神の縛りを幾つか解いてやろう』

 

 そんな世界へ神罰として転生させると脅すホーラにターニャは屈し、バウムガルデンの誘いを断る。ターニャがそうしたことで、ホーラは見返りとして存在Xの縛りを幾つか解き、バウムガルデンと暴走寸前のラインハルトの対処に当たらせる。

 

『ただし! その力を私に振るうことは、己の死に繋がると思え! 貴様の嫌う神も、この私と同じ手を使うと思うが、あ奴に私ほどの力はない。安心しろ』

 

 使えば精神汚染は確実な力を汚染も無しに使えるようになったターニャは、ホーラに従ったふりをして殺そうと試みたが、秩序の女神はそれを見越しており、強烈な死ぬほど痛い頭痛を浴びせて従わせる。同時にやらせるためにか、存在Xが自分ほどの強制力が無い事をターニャに明かす。

 

『貴様一人では荷が重いであろうし、またもあの男の誘いに耳を貸す可能性も否定できん。ビルバインのショウ・ザマとダンバインのマーベル・フローズンとオーラ(ちから)を合わせ、暴走した転生者ラインハルトを排除せよ!』

 

 次にホーラはまだ信用したわけでないので、自分が送り込んだ戦士等と共闘し、何故か暴走したラインハルトのみに集中しろと命令する。その理由は直ぐに明かした。

 

『バウムガルデンはこの機に乗じて逃げるであろうが、その心配は無用。私が組織した追跡隊が対処する。貴様たちはラインハルトのみに集中すれば良い。言っておくが、貴様に拒否権など無いぞ。逃げれば殺すまでよ。死んであの魑魅魍魎な世界に転生されたくなければ、このホーラの神命に殉じせよ!!』

 

「(何という脅しだ…! だが、あの世界へ送られるなど御免だ! なれば神の御指示の通り、目前の奴らを神の戦士と共に殺すまで!)」 

 

 バウムガルデンの対処は、ホーラが組織した追跡隊で行うそうだ。無論、ターニャにラインハルト討伐の拒否権は無い。逃げれば殺すとまで脅されたターニャは、早速バウムガルデンらに攻撃するのであった。

 神に屈して攻撃するターニャに対し、バウムガルデンはマイ・アーミーで召喚した大陸軍の兵士らに防御させつつ、信じていたと嘆く。

 

「神に屈するとは! お主はこちら側の人間だと思っていたのに。これも想定内だが、致し方あるまい!」

 

「煩い! 私はお前とは違うのだ!」

 

「フン、違うと申すか。では、そこの転生者と対峙するが良い!」

 

 ターニャが神に屈することは、バウムガルデンに想定内であったらしく、彼は大盾を持った兵士たちに自身を守らせつつ、転移装置へと向かった。ターニャはそれを追撃することなく、暴走し、身体が醜く膨張し始めたかつては皇帝ラインハルトと呼ばれた物に視線を向ける。

 

「さて、こいつの対処だが、倒せば昇進は確実か…?」

 

 見た目以上に完全に怪物と化している皇帝ラインハルトを見て、ターニャはこれでも討ち取る対象なのかと疑念を抱く。そう悩んでいる間に、首都上空から昆虫のような青い人型と鳥のような外見を持つ戦闘機らしきものが降りて来た。




イメージナレーションCV:若本規夫

本性を露にしたバウムガルデンが皇帝ラインハルトを暴走させた!

ターニャたちには対処できぬ問題と判断した秩序の女神であるホーラは、聖戦士であるショウ・ザマとマーベル・フローズン、魔術師ドクター・ストレンジなどを送り込み、事態の解決に乗り出す。

果たして、ターニャ等はショウたちと協力し、怪物と成り果てた皇帝ラインハルトを倒せるのか?

次回、オーラ力を合わせて。

戦雲がショウを呼ぶ。



と、ダンバイン見てるので次回予告をしてみた。
次回で現状戦力での総力戦な最終回となります。お楽しみに。


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オーラ力を合わせて

これで最終回です。

ドクター・ストレンジは、元カノの結婚式に出席してた方です。

メチャ長くなったな…


 与えられた膨大な力をコントロールできず、怪物となって暴走したラインハルトの対処に負われた秩序の女神であるホーラは、バウムガルデンの撤退を許してしまった。だが、それは想定内であり、自らが組織した追跡隊に対処させていた。

 

「バウムガルデンが逃げるぞ!」

 

「いや、奴の追跡はロンド・ベルのブライト艦長たちがやる! 我々はあの化け物の対処をすれば良い!」

 

 オーラ力を動力源とするオーラ・シップであるゼラーナの艦橋内にて、操艦手であるドワ・グロウがバウムガルデンが逃げることを伝えれば、その艦長であるニー・ギブンは、ラー・カイラム級機動戦艦を旗艦としたロンド・ベルが追撃を行うと返し、自分らは怪物と成り果てた皇帝ラインハルトの対処に専念すると告げる。

 

「ドクター・ストレンジ殿、あのような化け物との戦闘経験はおありか?」

 

「あぁ、似たような物とは何度か戦ったことがある。あれよりも強かった気もするが」

 

 ニーに皇帝ラインハルトのような怪物との戦闘経験を問われたドクター・ストレンジと呼ばれる以下にも魔術師な男は、少し経験があると答えた。

 

「それなら結構だ。キーン、フォウにドクター・ストレンジを乗せて出撃してくれ」

 

「分かったわ!」

 

「安全運転でお願いするよ」

 

 経験があるというドクターストレンジの言葉に嘘が無い事を理解したニーは、キーン・キッスと言う少女に彼を乗せて出撃するように命じる。それに応じ、キーンはドクター・ストレンジを連れて艦橋を出て行った。

 

「それじゃあ、俺たちも出るか!」

 

「速くあの怪物を倒さないと、他の世界に影響が出るって言ってたわね。あのドクター・ストレンジって人は」

 

 同じく艦橋に居る日本人青年であるショウ・ザマと、アングロサクソン系の女性であるマーベル・フローズンも出撃するとニーに告げた。彼らは異世界より助っ人に来たドクター・ストレンジから、早期に怪物ラインハルトを倒さねば、他の世界に影響が出ることを知らされていた。

 

「マルチバースと言うのは、バイストンウェルと地上と大体は同じような物だ。即ち、あの怪物がこの世界で暴れれば、他の世界にも被害が及ぶって訳だ。ゼラーナは援護する! ショウとマーベルはターニャと言う少女と共に協力し、あの怪物を倒せ!」

 

 マーベルの言葉に答えるように、ニーは両名にターニャと合流するように出撃を命じた。

 それに応じてショウとマーベルは艦橋を飛び出し、格納庫へと走り、オーラ・バトラー呼ばれる全高十メートルほどのオーラ力で動く人型兵器に乗り込んでいく。ショウがビルバインと呼ばれる赤と白が特徴的な鳥のようなオーラ・バトラーで、マーベルが昆虫のような外見を持つダンバインに乗り込み、ゼラーナより出撃する。

 二機のオーラ・バトラーが出撃していく中、ゼラーナの長く突き出た船首の真下に駐機しているフォウと呼ばれる同じくオーラ力で動く戦闘機にキーンとドクター・ストレンジが乗り込んでいく。

 

「シートベルトは着けたぞ。出してくれ」

 

「えぇ。キーン、フォウで出ます!」

 

 ドクター・ストレンジが副操縦席に座り、シートベルトを着用したことを伝えれば、キーンはヘルメットを被り、エンジンを作動させ、操縦桿を倒して出撃する。

 

「な、なんだ!? 敵か!?」

 

 地上ではバウムガルデンが異世界へ撤退した所為か、マイ・アーミーで召喚された二百万と航空魔導士、巨人と言った大陸軍は消滅していた。

 だが、帝国再建委員会とワルキューレ、アガサやメイソンの両騎士団は混乱しており、ゼラーナと出撃したビルバイン、ダンバイン、フォウを敵と判断して攻撃を行う。

 最初に攻撃したのは、ガンパック装備のVF-11Cサンダーボルトを駆るシーン・プライセルだ。怪物となって暴れ回るラインハルトに向かうショウ等に向け、機体の全身に装備された機銃を一斉に放ち、弾丸の雨を浴びせた。それに続き、首都に居る全ての軍がショウたちに攻撃を始める。

 普通ならハチの巣にされているはずだが、オーラ力で動くオーラ・マシーンはあらゆる攻撃から対象を守るオーラ・バリアが働いており、オーラ・マシーンを駆るショウ等には通じなかった。

 

『地上の軍が攻撃してくるわ!』

 

「こいつ等、混乱しているのか!?」

 

『オーラ・マシーンに乗っている限り、オーラ・バリアが俺たちを守ってくれる! 我々の敵はあの暴れ回る怪物だけだ! 一々相手にするな!』

 

 凄まじい弾幕を浴びせられているが、オーラ・バリアに弾かれるばかりだ。それを理解しているニーは相手にするなとショウたちに伝え、怪物ラインハルトへの接近を続ける。

 

「か、艦艇でもハチの巣だぞ!? まさかバリアだとでもいうのか!?」

 

 ありったけの弾幕を浴びせても、オーラ・バリアのおかげで無傷なショウたちを見て、シーンは驚きを隠せないでいた。

 

『あれだけ受けて平気なのか!?』

 

「ならば、接近戦でやるまでよ!」

 

 上空でGNライフルで攻撃するジンクスⅢを駆るメイソン騎士団の面々も、オーラ・バリアで無傷なショウたちに動揺する。だが、接近戦ならば仕留められると判断し、背中にマウントしているGNランスを取って、ショウたちに接近戦を挑む。

 

「あいつ等、近付いて攻撃してくるつもりよ!」

 

「チャム!? どうしてここに!?」

 

「そんな事より、モビルスーツって言うのが来るわ!」

 

「言われなくとも!」

 

 チャム・ファウと呼ばれる妖精のような小さいミ・フェラリオと呼ばれる赤毛の人種がコクピット内に居ることにショウは驚き、どうして乗っているのだと尋ねるが、接近するジンクスⅢが先決だと告げて対処に負われる。

 

『バルキリーか、エステバリスか? 見たことも無いマシーンめ!』

 

「お前たちと戦う気は無いというのに!」

 

「ショウたちの邪魔しちゃだめよ! せっかく助けようとしてるのに!」

 

 あの弾幕を躱しながらランスを突き刺そうと接近してくるジンクスⅢに対し、ショウは戦う気が無いと叫べば、チャムもそれに同調して肩の上で助けようとしているのにと叫んだ。

 

『馬鹿な!? 串刺しになっている距離だぞ!』

 

「邪魔をするな!」

 

 ジンクスⅢに乗る騎士は躱し切れない距離で突きを放ったが、ショウはそれを躱して見せた。オーラの力によって躱すことに成功したのだ。

 確実な突きを躱された事に驚く騎士に、ショウのビルバインは敵機の背中に蹴りを入れ込んで怪物ラインハルトの元へ急ぐ。

 小型であるビルバインの蹴りで吹き飛ばされた事に、そのパワーにジンクスⅢを駆る騎士はまたも驚かされた。勢いをつけずに十八メートルはあるジンクスⅢを蹴飛ばしたのだ。小型のビルバインに中型MSを蹴飛ばされるパワーがあることに、騎士は驚きを隠せない。

 

「あ、あの小ささで、そのようなパワーが!?」

 

 蹴飛ばされたジンクスⅢは、ビルバインに向けて飛んでくる攻撃を受けて爆散した。

 地上や上空の四つの勢力に襲われるのはビルバインだけでなく、マーベルのダンバインやキーンとドクター・ストレンジが乗るフォウ、ニーたちのゼラーナにも及ぶ。

 

「こいつ等、俺たちを攻撃するなんて!」

 

「急に現れたんだ! それに彼らからすれば、俺たちは得体の知れん存在だ! 混乱してもしょうがない! それと各員、絶対に反撃するな! 余計なことになる!」

 

「こっちが助けようとしてるのによ! たくっ!」

 

 オーラ・バリアに守られながらも、攻撃による衝撃は流石に防げないようで、ゼラーナの艦橋内にも伝わって来る。ドワは自分らを攻撃する四勢力に激怒するが、ニーは混乱した状況下で、得体の知れない自分らが急に現れたのだから混乱しても仕方が無い事だと言って宥める。

 これにドワは苛立ちつつも、他の乗員たちと共にニーの指示に従い、四勢力の攻撃を無視しながら怪物ラインハルトの元へ向かう。当然ながら、キーンとドクター・ストレンジが乗るフォウにも攻撃が及んでいた。

 

「こんなに攻撃して! なんで撃ち返しちゃいけないの!?」

 

 フォウもオーラ・バリアで守られているが、これほど攻撃を受けてはたまった物では無いので、キーンもムキになって反撃しようとする。この状況にも関わらず、冷静なドクター・ストレンジが宥めつつ、解決策を取る。

 

「そう熱くなるな。要は傷付けず、撃墜せずに追い払えば良いのだろ?」

 

「そんな事、出来るの?」

 

「そうするために、ソーサラー・スプリームとなった」

 

 攻撃してくる相手を傷付けず、撃墜せずに追い払うと言うドクター・ストレンジに、キーンは出来るのかと問えば、彼は出来ると答え、それを行うための詠唱を行った。

 

「うわっ! ぶ、武器が!? あの大型戦闘機には、魔術師が乗っているのか!」

 

 ドクター・ストレンジが行った詠唱は念動力であった。念動力でフォウを攻撃しようとする全てのMSやエステバリス、ASと言った人型兵器より武器を取り上げたのだ。念動力で取り上げた武器で、ドクター・ストレンジは鈍器のように叩いて追い払う。

 固定兵装を持つ機体やゾイドなどからは取り上げられないが、取り上げた人型兵器の武器を投げ付けてい仕舞えばよい。それで遠距離を除く敵からの攻撃からフォウを守って見せた。

 

「す、凄い…! オーラ力でも、こんなことは出来ないわ!」

 

「まぁ、オーラ力と似たような物さ」

 

 敵がフォウに手を出せず、退いていく姿を見たキーンが驚きの声を上げれば、ドクター・ストレンジは自分が使う魔術とオーラ力は似たような物と告げる。

 

「ガンダム? でも、乗って居るのはアムロ・レイでは無さそうね」

 

 邪魔な敵機を、この世界ではオーラ力も相まって強力過ぎる左腕のオーラショットを使わずにあしらうマーベルのダンバインの方には、パール・カーシアのガンダムが迫っていた。ガンダムに驚くマーベルであるが、動きでかつてそれを駆り、伝説を生み出したアムロ・レイで無いと見抜き、右手に持つオーラ・バトラー用の剣で対処する。

 

「外れた!?」

 

『これでも、聖戦士なのよ!』

 

 射撃を目に止まらぬ速さで躱したダンバインに驚くパールのガンダムに対し、マーベルは無視して行こうとする。

 

「なら、接近戦で!」

 

 だが、それを逃すパールではない。射撃が駄目なら接近戦なら出来ると思い、バックパックに付いている二本のビームサーベルを抜き、二刀流となってダンバインが居る上空へとスラスターを使って飛ぶ。

 

「陸戦用の兵器で、ダンバインに接近戦を挑もうというの!? なんて無謀な!」

 

 接近戦を挑むパールのガンダムに驚くマーベルであったが、彼女が驚いた理由は、その無謀な行動であった。近くまで迫れば、ビームの刃を振り下ろすガンダムに対し、マーベルはオーラ力を使ってダンバインの反応速度を強化して避けた。

 

『えっ!?』

 

「これなら!」

 

 一撃目の斬撃をオーラ力で躱したダンバインは、左手のビームサーベルから繰り出される二撃目も躱して見せた。驚くパールに次なる手を使わす暇を与えず、マーベルは敵機の左腕を剣で斬り落とした。ダンバインが使う剣は実体剣であるが、オーラ力で切れ味が上がっており、ガンダリュウム合金すらも切断も可能である。

 

「くっ、まだだァ!」

 

 左腕を斬り落とされて尚も右手に持つビームサーベルで斬りかかろうとするパールのガンダムに対し、マーベルのダンバインは左足で蹴りを放ち、胸部装甲を抉って地上へと叩き落した。

 

『お、落ちる!? こ、こんなところで!』

 

「どういう命令を受けたかは知らないけど、それなら言い訳つくでしょ! 帰りなさい!!」

 

 ダンバインの蹴りを受けたガンダムの損傷は、大破に至らぬほどの損傷であった。マーベルが敢えて撃墜せずに損傷を与え、味方の陣地に帰投するように行ったのだ。

 地面に落下しても、ガンダムなら大丈夫と分かっているマーベルは、その損傷なら帰投しても問題ないと告げ、怪物ラインハルトの元へ急いだ。

 

「後ろから怖いオーラの気配が! あそこ!」

 

「ン? あの鳥のような奴、人間だけを殺す為に作られたハシュマルって言う機械か!」

 

 怪物ラインハルトの元へ急ぐショウとチャムが乗るビルバインは、再起動したハシュマルに気付いた。

 チャムは無人MAであるハシュマルが、人間だけを殺すために作られた機械であると、設計した者から伝わるオーラで気付いたのだ。

 

「あれもあそこの憎悪ばかりの怪物と同じく、地上に残してはならない兵器だ!」

 

 それを知ったショウも、開発者の邪悪なオーラがハシュマルより発生しているように見え、怪物ラインハルトよりも先に破壊しなくてはならないと判断する。

 直ぐにオーラ力をフェラリオのチャムと共に込め、ビルバインのオーラキャノンを展開し、照準を暴れ回りながらこちらに来るハシュマルに向ける。そのショウとチャムの敵意を感じてか、ハシュマルは高出力ビームを二人が乗るビルバインに向けて放った。

 

「きゃぁ!? ビームが来る!」

 

「オーラ・バリアなら、大丈夫だ!」

 

 射線上に居た友軍のはずのバルキリーに、両騎士団の航空戦力を焼きながら迫る強力なビームであるが、オーラ・バリアを貫通することは無かった。核の爆発や放射線からも守ってくれることはショウも理解しており、敢えてその場に留まり、ハシュマルに攻撃させたのだ。ビームの掃射が終われば、対象が健在であることに驚いた様子を見せるハシュマルに向け、オーラ力を込めたオーラキャノンを放つ。

 

「大量殺戮を目的とした無人兵器は、ここで破壊する!」

 

「人間だけを殺す機械なんて、壊しちゃえ!」

 

 ショウとチャムの叫びと共に、ビルバインの二門のオーラキャノンは発射された。

 発射された弾頭はオーラ力で強化されており、放物線を描きながらハシュマルに向けて飛んでいき、数秒後に命中した。ハシュマルもナノ・ラミネート装甲を有しているが、オーラ力で強化された弾頭は容易く貫き、胴体の内部まで食い込んだ後、爆発を起こす。

 爆発が動力源にまで達すれば、ハシュマルは内部爆発を起こし、唸り声を上げながら四散した。辺りに破片を巻き散らし、胴体が吹き飛んだ巨体を支えていた足は機能を失い、その場で倒れた。ハシュマルを一撃で倒したことで、チャムはショウの右肩の上で喜ぶ。

 

「やったー! 鳥の化け物をやっつけた!」

 

「だが、憎しみのオーラと共にいる全てを破壊し尽くさんとする邪悪なオーラが残っている! 速く止めなければ、この世界は破壊されるぞ!」

 

「そうね! あんな怖いオーラ力の持ち主、速くやっつけないと!」

 

 自分らから見れば脅威であるハシュマルを撃破したショウとチャムは、本来の目的である怪物ラインハルトを倒すべく、ビルバインを飛行形態に変形させ、現場へと急行した。

 その後をマーベルのダンバイン、キーンとドクター・ストレンジが乗るフォウ、ニーたちのゼラーナが続く。

 

 

 

「脅しに屈したおかげで、エレ二ウム九五式を使っても精神汚染はないが…」

 

 秩序の女神であるホーラの指令を受けたショウたちが怪物ラインハルトの元へ急いでいる頃、それと対峙しているターニャは、敵の余りの巨大さに、制限が解かれたエレ二ウム九五式でも倒せるかどうか不安になる。

 

「馬鹿でかいな。これは流石に全開のエレ二ウム九五式でも倒せそうにないな。ここは大人しく、ビルバインやダンバインを待ちたいところだが」

 

『テメェも、テメェも共産主義者(アカ)かァーッ!?』

 

 少し観察すれば、幾ら全力を出したところで、自分一人では倒せそうも無いとターニャは、目に見える物全てに攻撃を加える怪物ラインハルトの攻撃を避けつつ判断する。

 攻撃は上空で援護射撃を行っているアガサやメイソンの両騎士団の艦隊にも及び、アガサ騎士団は旗艦であるタゴンが中破し、左舷に居た艦艇は全て撃沈。メイソン騎士団の十五隻はあったホエールキングの内の七隻が、黒煙を噴きながら墜落していく。

 怪物ラインハルトは力が暴走している他に、転生の際にゴットカオスによって掛けられた自分に意にそぐわぬ物全てが共産主義者に見える呪いが強化されているらしく、今では目に見える全員が共産主義者に見えてしまうほど悪化していた。その所為で暴走に拍車が掛かり、無差別攻撃を行っている。

 

「おぉ、タゴンが!?」

 

「勇者殿を守れ! 青の盾隊、盾の陣!」

 

 討伐隊の旗艦であるタゴンが中破して航行に支障が出る中、青の盾隊と呼ばれるシールドライガーを主力としたゾイドの部隊は、地面に落下した勇者をラインハルトの無差別攻撃から守るため、シールドライガーをピラミッド型の組体操のような陣形を取った。

 

「シールド展開!」

 

 部隊長の指示で、シールドライガーの十八番であるEシールドを展開すれば、巨大なシールドとなり、ラインハルトの攻撃から勇者を守った。その後からアガサ・ライガーも勇者の元へ来る。

 

「助かった! それにアガサ・ライガー、貴公も!」

 

 青の盾隊に礼を言った勇者は立ち上がり、自分の元へ寄って来たアガサ・ライガーの頭を撫でる。

 

「力に溺れ、怪物と成り果てたか! 例えこの身が犠牲になろうとも、あの怪物を倒さなければ!」

 

 暴走して怪物と成り果てたラインハルトを見て、勇者は自分を犠牲にしてまでも倒さなければならぬ存在と捉え、アガサ・ライガーに騎乗する。

 

「共に行くぞ、アガサ・ライガー!」

 

 アガサ・ライガーに騎乗した勇者は、飛翔して怪物ラインハルトの討伐に向かった。

 

「この私を共産主義者(コミー)扱いとは、さては右が正義有能で左が極悪無能とか思ってる奴だな。まぁ、化け物になる前もそう思ってるだろうが。そのような危険思想を持つ者は、独裁者や共産主義者と同等の存在だ。排除しなければな!」

 

 この無差別攻撃に対し、ターニャは自分を嫌いな共産主義者扱いするラインハルトに怒りを覚え、排除対象と捉えた。だが、まだショウたちは到着していないので、まずはラインハルトを攻撃しようとする者たちを先に仕掛けさせ、その出方を見ることにする。

 

「と、言いたいところだが、今の私では火力不足だ。ダンバインらが到着するまで、まずはあいつ等に先に攻撃させ、その出方を見るか」

 

 そう言ってターニャは安全圏まで退避し、高みの見物を決め込んだ。先に仕掛けたのは、メイソン騎士団の最高戦力であるグエンスとレッドホークである。

 

「これ程デカくなったなら、何処かに弱点があるはずだ! 援護しろ、レッドホーク!」

 

「御意!」

 

 グエンスはラインハルトが暴走して怪物と化しても冷静さを保ち、レッドホークに援護させつつ攻撃を始める。レッドホークが敵の注意を引くべく先行する中、グエンスは巨大なラインハルトに接近し、対空砲火を避けながら弱点らしき物を探す。

 

「これほど大きいんだ。何処かに死角が…」

 

 攻撃を躱しながら探すグエンスであったが、レッドホークは主君に弱点を探させる時間を稼ぐことが出来なかった。

 

「なにっ!? グワァァァッ!!」

 

 飛んでくる攻撃を二刀流で弾いていたレッドホークであるが、攻撃を防ぎ切れずに吹き飛ばされた。幸い、念の為に防御魔法を掛けていたおかげで大事には至っていない。

 

「レッドホーク!? クソっ、この化け物がぁ!!」

 

 部下をやられたことで、グエンスは激怒してパルチザンによる全力の突きを行うが、大して効果が認められず、レッドホーク同様に戦闘不能に追いやられる。

 

「馬鹿な!? ウワァァァッ!」

 

『グへへ、この俺に歯向かうからだァ!』

 

 吹き飛んでいくグエンスを怪物ラインハルトは嘲笑う。

 

「あの敵、他と戦っている場合では無いワン」

 

「ここは共闘って所ね」

 

「ウキキ!」

 

「こんなことになるとわね」

 

 メイソン騎士団の最高戦力二名を圧倒した怪物ラインハルトに、テッカマンドッグ、キャシャーンレディとバナナ、モンジェルナ侯爵は最優先で倒すべきと判断し、出し惜しみ無しの総攻撃を敢行する。

 

「ファング・ボルテッカ!!」

 

 総攻撃はテッカマンドッグのボルテッカーより始まった。テッカマンドッグが放つ必殺技は、本家テッカマンの必殺技であるボルテッカと同じであるが、彼のボルテッカはドッグの名の通りに両手を対象に噛み付こうとする動物の顔を形にするように構え、それに額からエネルギーを発射し、十分に充填させた後に対象に向けて放った。

 技名と共に放たれたファング・ボルテッカは、対象に噛み付こうとする巨大な犬の顔となって目標である怪物ラインハルトに向けて飛んでいく。敵を粉砕するテッカマン最強の技の派生であるファング・ボルテッカは見事に怪物ラインハルトに命中した。

 

『グワァァァっ!? い、痛いィィィッ!!』

 

 流石はテッカマン最強技という所か。対象の一部を見事に噛み千切るように消滅させた。続けざまにキャシャーンレディも、ヘルメットの鍬形から光を炸裂させ、台風のように変化する超破壊光線を放った。超破壊光線もまた、本家キャシャーンの諸刃の剣とも言える必殺技である。

 

「効いている! 超破壊光線!!」

 

「キキーッ!」

 

 キャシャーンレディの超破壊光線に続き、フレンダーの枠であるバナナも口から破壊光線を発射し、怪物ラインハルトに更なるダメージを与えた。

 

「マゴート、やりなさい」

 

 一斉射が行われる中、鬼械神マゴートを使役するモンジェルナ侯爵もそれに同調し、マゴートにも破壊光線を怪物ラインハルトに向けて発射させた。

 

「クソっ、先を越されたか!」

 

 この必殺技による総攻撃の影響か、凄まじい爆発が巻き起こり、怪物ラインハルトの巨体が見えなくなるほどであった。並の怪物なら消滅レベルの攻撃であり、アンティーク・ギア・カオス・ジャイアントのアルシエルでさえ、倒されたと思うほどだ。

 

『うぅゥ…! 痛い、痛い…! でも、俺は無敵だァァァッ!!』

 

「ば、馬鹿な!? あれほどの攻撃を受けてもまだ生きているのか!?」

 

 だが、対象はあれほどの攻撃を受けたにも拘らず、まだ健在であった。これに一同は驚愕して動きを止めてしまう。その隙に怪物ラインハルトは強力な攻撃を繰り出した。

 

「ワォーン!?」

 

「キャァァァ!?」

 

「そ、そんなことがァァァ!?」

 

 怪物ラインハルトの反撃は余りにも速く、テッカマンドッグ、キャシャーンレディとバナナは一撃で叩き飛ばされた。巨体であるマゴートですら一撃で粉砕してしまうほどであり、肩に乗っていたモンジェルナ侯爵は叫び声を上げながら地面へと落下していった。

 

「ぶわっ!?」

 

 背後からあの千葉セイジが仕掛けるも、見えているかの如く吹き飛ばされ、再び戦闘不能に追いやられる。

 

「ちょっと! このサイズは荒魂(あらだま)でも…! うぅ!?」

 

 あの卍解を取得して戦闘力が生前より比較的に上がった結芽でさえ、怪物ラインハルトに成す術もなく、千葉セイジと同じく戦闘不能となる。

 次にガンダム・ニコレを駆るニコレが僚機のガンダムタイプと共に一斉攻撃を浴びせるも、ワルキューレの対能力者部隊が総出の必殺技を耐え抜いた怪物ラインハルトに通常兵器やビーム兵器が通じるはずも無く、放たれた光線で僚機共々吹き飛ばされる。他のガンダムタイプは大破したが、ガンダム・ニコレはナノ・ラミネート装甲のおかげでニコレは無事であった。

 

「なんで、なんで燃えているのに苦しまないの!?」

 

 他のガンダムタイプが撃破されるか戦闘不能となる中、火炎放射やナパーム弾を怪物ラインハルトに浴びせるガンダム・アモンをアモレは、対象が燃えながらも苦しむ様子を見せないことに激しく動揺を覚え、炎を浴びせ続ける。

 

『ウヒヒッ! 熱くない! 熱くないぞォォォッ!! 俺は、俺は無敵だァ! 最強なんだァァァッ!!』

 

 全身が燃え上がっても興奮が冷めぬ怪物ラインハルトは、狂乱して火炎放射を浴びせ続けるガンダム・アモンを光線で吹き飛ばした。ニコレ同様にナノ・ラミネート装甲のおかげでアモレは助かる。

 メイソン騎士団に続き、ワルキューレ、帝国再建委員会の最高戦力は怪物ラインハルトの前に倒れた。だが、まだアガサ騎士団が残っている。その最高戦力たる勇者とアガサ・ライガーのコンビが強襲を仕掛ける。

 

「我らの全力、受けて見よ!」

 

 その勇者の叫びと同調するようにアガサ・ライガーは咆哮を上げ、全身全霊の体当たりを仕掛ける。両名は全ての魔力を使い切る勢いで対象に全速力で突っ込めば、オーラによって青い巨大な矢となり、怪物ラインハルトに突撃する。

 

『グエアァァァッ!?』

 

「おぉ、命中したぞ!」

 

「やったか!?」

 

 青い巨大な矢となった勇者とアガサ・ライガーの体当たりは怪物ラインハルトに命中し、陸・空で疲弊したアガサ騎士団の者たちを歓喜させた。

 

「何っ!? ヌワァァァッ!」

 

『俺は、俺は無敵だァーッ!!』

 

 この全力の攻撃を受けても尚、怪物ラインハルトは健在であった。確かにダメージは受け、それを現すかのように叫んでいる。それでも力が尽き果てるまで怪物ラインハルトは止まらず、勇者とアガサ・ライガーを吹き飛ばした。

 

「やはり奴は、奴は私でなければ殺せない! 母と父、同胞と仲間たちの仇を殺せるのは、この私だ!!」

 

 異世界より大帝国に攻めて来た四勢力の最高戦力は全滅した。だが、まだアルシエルが残っている。彼女は余所者たちが全滅したのを見て喜び、怪物ラインハルトを倒せるのは自分の他に居ないと豪語し、敗れた者たちと同様に全身全霊の攻撃を仕掛ける。

 

「今こそ、今こそ本懐を果たす時! 見ているか狂人よ! 貴様等が生み出した幾万幾十万の怨嗟が、集い貴様等を殺しに来たぞ!!」

 

『いけない! その憎しみオーラでは、全てを破壊しようとするあの怪物には勝てない!!』

 

 両親と同胞、仲間、それにラインハルトの帝国によって殺された者たちの恨みを果たすべく、憎しみによる全力の攻撃を仕掛けようとしたアルシエルであったが、丁度ショウとチャムが乗るビルバインが到達したのか、オーラ力によるテレパシーで彼女を説得しようとする。

 事実、古代の機械混沌巨人(アンティーク・ギア・カオス・ジャイアント)となっているアルシエルのその全身全霊の攻撃は、憎しみだけで己を殺してしまう物だ。だが、ショウの説得も空しく、アルシエルは全身全霊の必殺技を行う。

 

「煩い! 私は今まで、この時の為に生きて来たのだ! それを何処からかしゃしゃり出た貴様に止められる筋合いは無い!」

 

 憎しみのオーラでショウのテレパシーを打ち消せば、アルシエルはカオス・ジャイアントの必殺技を行った。

 

「我が家族と同胞、そして仲間の仇よ! 今こそ消え失せろ! クラッシュ・オブ・ダークネス!!」

 

 カオス・ジャイアントは光線を乱射する怪物ラインハルトへ一気に接近した後、掴んで空中に上昇して地面に叩き付けた。そこからとどめの一撃と言わんばかりに、地面に叩き付けた対象に向け、両手からレーザーを発射した。

 

「そ、そんな…! 嘘だ! この全身全霊の私の憎しみが、奴に、奴に効かぬというのか!?」

 

 だが、それでもまだ怪物ラインハルトは生きていた。その姿を見たアルシエルは激しく動揺する。

 

『こ、このアカ野郎がァーッ! 死ねぇぇぇッ!!』

 

 そんな動揺するアルシエルに、目に見える全ての物が敵に見える怪物ラインハルトは容赦なく攻撃し、アルシエルのアンティーク・ギア・カオス・ジャイアントを破壊した。

 

「こいつの、こいつの憎しみは、我々の、我々の憎しみを遥かに上回るとでも言うのか…!? 悔しい、悔しい…! 父さん、母さん、みんな…ごめん。私、仇を取れなかったよ…!」

 

 数多の怨念と自分の憎しみを抱えて挑んだアルシエルであったが、怪物ラインハルトはそれを遥かに凌駕していることを攻撃を受けて知り、敗北を悟って仇が取れないことに悔みつつ、殺された者たちに謝罪しながら消滅する。

 

『ヒヤァァァッ! アヒャヒャヒャッ! 俺は、俺は最強だ! 無敵だ! イィヒヒヒッ! みんな、みんな殺してやるぞ! 皆殺しだ! 俺に逆らう奴はみんな共産主義者、否、敵だ! 全部敵だァーッ!!』

 

 自分に挑んだ者を全て倒した怪物ラインハルトは悍ましい笑い声を上げ、再び全ての物に攻撃を行う。この世界を破壊し尽くすまで、ラインハルトは止まることは無いだろう。自分らの最高戦力が叶わないと知った四勢力の者たちは攻撃を止め、怪物ラインハルトから逃げるように離れ始める。

 だが、怪物ラインハルトは無敵ではなく、本人が気付いていないようだが、確実にダメージは蓄積されている。それにまだ止められる者は残っていた。

 

 

 

「みんなやられちまったぞ。恐ろしいな」

 

 怪物ラインハルトに果敢に挑み、敗れ去った者たちを助けもせずに見ていたターニャは、改めて自分一人では勝てないと実感する。

 

「ダメージは受けているようだが、倒せる自信が無いな。おっ、来たようだ」

 

 まだ元気に暴れ回っている怪物ラインハルトであるが、先に攻撃した者たちの努力は無駄ではなく、ダメージが蓄積している様子が見られる。それが分かったターニャであるが、それでも倒せる自信が無いと言って、攻撃しようとしない。待っている間に、ショウとチャムが乗るビルバイン、マーベルのダンバイン、キーンとドクター・ストレンジが乗るフォウが到着する。

 

「子供…? いや、転生者だな」

 

「ドクター・ストレンジ!? いや、不思議では無いか」

 

 飛行中のフォウより魔術と身に着けているマントの力を得て現れたドクター・ストレンジを見てターニャは驚きの声を上げるが、自分が知る物語の登場人物が出て来るので、特に驚いた様子も見せなかった。対するドクター・ストレンジも、ターニャを転生者であることを見抜き、彼女の側に降り立つ。

 

「秩序の神から聞いているかと思うが、協力してもらうぞ。マルチバースを守るためにな」

 

「ま、マルチバース? まぁ、マーベルなら問題ないと思うが。それと来て早々に何故そいつ等を回収しているんだ? 敵だぞ」

 

「一度や二度ほど世界を救った身でね。人を救わなくてはならない性質なんだ」

 

「あぁ、そう言えば、ヒーローだったな」

 

 来て早々にドクター・ストレンジが怪物ラインハルトに敗れ、気絶した者たちを魔術を使って救助していることを問えば、彼は人を救わなくてはならない性質だと答える。これにターニャはヒーローだから納得し、ドクター・ストレンジが空間転移魔法で敗者たちを上空のゼラーナに送り込んでいる様子を眺めていた。その後からショウのビルバインとマーベルのダンバインが降り立つ。

 

「ニー・ギブン、彼らを安全な所まで運んでくれ」

 

『我々を攻撃してきた者たちで気が乗らないが、任せてくれ』

 

「よし、また世界を救うぞ」

 

 敗者たちを乗せたゼラーナのニーに安全な所まで退避するように命じれば、彼は承諾して安全圏の方へ向かった。ゼラーナもオーラ・バリアを有しているが、機銃くらいしか積んでいないので、巨大な怪物ラインハルトに対しては火力不足だ。心置きなく戦えるようになったドクター・ストレンジは、両手に魔力を宿らせながら臨戦態勢を取る。

 

「キーン、お前も退避しろ。フォウじゃ分が悪過ぎる」

 

『このフォウだってオーラ・マシンだわ! あんな醜い化け物だって!』

 

「直に応じておけ。その戦闘機じゃ、返り討ちにされるだけだぞ。それにゼラーナを狙う奴もいるはずだ」

 

『くっ、分かったわ。それなら必ず勝ってよね!』

 

「元からそのつもりだ」

 

 ショウがキーンに退避を命じたが、食い下がらずに挑もうとする。これにドクター・ストレンジが返り討ちにされるだけと告げ、ゼラーナにも護衛が必要であると説けば、彼女は苛立ちを覚えつつも納得し、ゼラーナの護衛に着いた。

 

『そっちの幼い子に大人の男の精神が宿ってる! あの化け物と同じく気持ち悪い!』

 

『こらっ! 今はそんな言ってる場合か! 今のは聞かなかったことにしてくれ!』

 

「はぁ、慣れんな。これも全て存在Xの所為だが」

 

 ターニャを見たチャムも彼女が転生者であると見抜いており、それに前世が成人の男と分かれば、その気持ちを隠すことも無く口にした。それをショウが咎め、効かなかった異にしろと言えば、ターニャは自分を幼女に転生させた存在Xを改めて呪う。

 

「喧嘩をしに来たんじゃないのよ! 速くオーラ力を合わせて、あのモンスターを倒さなくては!」

 

「その転生者の性癖を咎めるより、今はそのお嬢さんの言う通りに力を合わせるべきだ。行くぞ」

 

 マーベルもまたチャムを注意し、オーラ力を合わせるように告げれば、ドクター・ストレンジも同調して防御をしつつオーラ力を合わせる。

 

「分かったな? オーラ力を合わせるんだ!」

 

「まぁ、気持ち悪い人だけど、今は贅沢を言ってられないわね。合わせるわ!」

 

 チャムもそれを理解し、聖戦士であるショウとマーベルと共にオーラ力を合わせ始める。二人、否、三人がオーラ力を合わせると、ビルバインとダンバインはオーラを纏って光り始める。

 

「どうやって合わせるんだ?」

 

「あぁ、魔力だ。念じて魔力をあのロボットに乗る三人に合わせれば良い。防御も忘れるなよ」

 

「難しいな。でも、やるしか無いな」

 

 どうやってオーラ力を合わせるかどうか分からないターニャであったが、ドクター・ストレンジに魔力を合わせれば良いと告げられた。だが、防御も忘れるなと言われ、少し悩みつつもやる他に無いと悟り、魔法障壁を張りながらショウとチャム、マーベルとオーラ力を合わせる。

 

『くぇーっ! 何だテメェらァァァッ!!』

 

 当然ながら怪物ラインハルトが彼らを黙って見過ごすはずが無く、攻撃を行う。ドクター・ストレンジはそれを見越してか、防御魔法を掛けており、攻撃を防いでいた。

 

「くっ、まだ溜まらんのか!? バリアが解けるぞ!」

 

「今は集中しろ。魔法障壁が解ければそれまでだ」

 

 だが、魔法障壁はそれほど頑丈ではない。ラインハルトの攻撃は強力であり、いつ障壁が解けてもおかしくない状態だ。少し焦るターニャを除き、オーラ力を溜めていく。

 

「よし、十分だ!」

 

「これなら行ける!」

 

「ショウとマーベル、やっちゃえー!」

 

『ハイパーオーラ斬り!!』

 

 オーラ力が十分に溜まれば、ショウが目を強く見開いて叫んだ。マーベルが確実に怪物ラインハルトを倒せると口にすれば、チャムの叫びと共にビルバインとダンバインは右手に持つ剣を高く上げ、それを目標に向けて振り下ろす。

 二機のオーラ・バトラーが振り下ろした剣は、ターニャとドクター・ストレンジが合わさったオーラ力によって巨大な剣となり、怪物ラインハルトを斬る。オーラの刀身を巨体に叩き込まれた怪物ラインハルトはうめき声を上げ、苦しみ始める。

 

『ギヤァァァッ! アァァァッ!?』

 

「お前は人を殺し過ぎた! だが、俺はお前を殺さない! 全てを憎悪するその怨念を殺す!!」

 

 悶え苦しむ怪物ラインハルトに、ショウは殺さず、全てを憎悪するその怨念だけを殺すと告げ、見事に巨体をオーラの剣で切り裂いた。大爆発が巻き起こり、怪物ラインハルトが見えなくなるほどであった。

 

「や、やった…?」

 

「いや、まだ残っている…!」

 

 チャムが大爆発の末に怪物ラインハルトは消滅したと思う中、ドクター・ストレンジは倒し切れていないことを告げる。彼の言う通り、巨体ほどでないが、人の形を保っているラインハルトが姿を見せた。

 

『うご…! 俺は、俺ハ無敵ダ…!』

 

「オーラ力を合わせたのに、まだ生きてるなんて…!」

 

「くっ、まさか生きてるなんて…! もうオーラ力は残って無いわ…!」

 

「うぅ、私も、もう限界だ…!」

 

 対象がまだ生きていることに、一同は絶望感を覚える。怪物ラインハルトはあと一息で倒せるところだが、もう彼らにその力は残っていない。否、残っている者が一人いた。ターニャである。

 

「ふぅ、こういう時に備えて力を残しておいて良かった。とどめは、この私だァーッ!!」

 

 ショウとマーベル、チャム、ドクター・ストレンジに全力を出させ、自分だけ力を残していたターニャは完全に怪物ラインハルトの息の根を止めるべく、エレ二ウム九五式の力を全開にして超高速で対象に突撃する。

 

「はぁ、なんて性格の悪い奴なんだ! 通りで神様に罰を与えられる訳だ…!」

 

 自分一人だけ力を温存していたターニャに疲弊しているショウが悪態をつく中、彼女は怪物ラインハルトを消し飛ばす爆裂術式を放とうとする。

 

「あのクソったれに感謝する言葉も必要ない! 私の昇進の為に死ね! クソニート野郎!!」

 

 強力な技を発動するための詠唱も必要なくなったターニャは、狂気的な笑みを浮かべながら爆裂術式を放った。

 

『ウワァァァッ!? 俺は、俺は無敵のはずなのに! 最強のはずなのにィィィッ! ヤダァァァッ!! バッ!!』

 

 爆裂術式を受けた怪物ラインハルトは吹き飛び、原型をある程度は留めている首が宙を舞った。

 

「皇帝ラインハルトの首、討ち取ったり!」

 

 その首をターニャは受け止め、この瓦礫の山と化した首都に居る全ての者たちに、怪物と化した皇帝ラインハルトを討ち取ったことを知らしめた。




これで終わりです。

いつも通り、次のエピローグで終わりです。


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建国への勝利

これで戦闘団の初陣編は終了です。

神谷主水さん
Rararaさん
G-20さん
わかものさん
ケツアゴさん
ただのおじさんさん
kinonoさん
リオンテイルさん
M Yさん
秋音色の空さん
ハナバーナさん
エイゼさん

ご応募いただき、ありがとうございました。


 ターニャがワザと力を残し、怪物ラインハルトを討ち取って帝国再建委員会に国家再建への勝利をもたらした。

 これを求めず、攻撃する部隊もいたが、バウムガルデンの自分だけの軍隊(マイ・アーミー)と怪物ラインハルトとの戦闘で損耗激しく司令部の戦闘停止命令を受け、廃墟と化した首都から徹底を始めた。

 ワルキューレは予備戦力が残っていたが、怪物ラインハルトが帝国再建委員会に討たれたので、これ以上の戦闘は無意味と判断して、撤退はしないが包囲する形で待機した。

 ショウたちホーラより送り込まれた戦士たちは、ドクター・ストレンジが回収した者たちを安全な場所に置いた後、バウムガルデンを追うロンド・ベルと合流すべく、この世界より去った。

 

 一応ながらの勝利者である帝国再建委員会であるが、メイソン騎士団のダインスレイブ攻撃後の乱入で投入戦力の半数を失った。

 それでもターニャの卑劣とも言える奇策によって百合帝国再建を勝ち取ったが、その損失は今後の作戦行動に支障を懐ほどであり、戦力の立て直しを余儀なくされた。

 

 主君を失い、幹部全員が死ぬか異世界へと逃亡した正義の帝国こと大帝国は、既に再建は不可能であり、この日を以て崩壊した。軍国主義と男尊女卑主義の所為か、殆どの男性が徴兵されており、それも殆どが死亡し、生き延びた者は極僅かにしか過ぎない。後は併合されたばかりの領土を残すだけだ。

 以降、かつての大帝国の領土はワルキューレの占領下に置かれたが、人々は大帝国の理不尽で地獄のような支配より解放されたのは確かだ。

 

 

 

「陛下、ご報告いたします! 皇帝ラインハルト、死亡確認! 勝者はイヴ人のテロリスト共です!」

 

 秩序の女神であるホーラの派遣したブライト・ノア率いるロンド・ベル隊を中核とした混成部隊による追撃を受ける中、バウムガルデンは追われている機動要塞とも言える超巨大戦艦の艦橋内にて、部下よりラインハルトが討ち取られたことを知った。

 

「フン、そうか。それで、あの神の尖兵共はまだ追い払えんのか?」

 

「なにぶんにも敵の一人一人が強く、迎撃隊の損害が拡大中であります」

 

 既に興味が失せているバウムガルデンは、玉座にふんぞり返りながら素っ気ない反応を見せた。もうどうでも良いようで、部下にロンド・ベルを追い払えないのかと問う。

 追撃してくるロンド・ベルは異常なまでに強く、超巨大戦艦より出撃した迎撃部隊が壊滅状態に追い込まれる程であった。そんな状況でも誰もが冷静さを保ち、各々の仕事をしている。バウムガルデンは味方が敵を排除できないことに、少し不満そうな表情を見せていた。

 

「流石は神に選ばれし戦士たちだな。迎撃隊を全滅するまで足止めさせ、このコンティネント・ライヒは即座に指定の座標へ転移せよ」

 

「迎撃隊を犠牲にするので? それでは…」

 

「聞こえんのか? 即時に指令を実行せよ。余の命令であれば、聞けるはずだ。何せ心を持たぬ人形だからな」

 

 バウムガルデンは迎撃隊を切り捨て、このコンティネント・ライヒを転移させろと命令した。それに部下は異論を唱えようとするが、主君の命令には従わねばならず、即座に命令を実行する。

 迎撃隊はバウムガルデンがマイ・アーミーで召喚した兵士達であり、心も無い人形であって本物でないと思っている彼は、容易に物のように扱っている。

 そんな召喚された兵士たちは、全滅するまで敵の足止めせよとの命令を何の躊躇もなく命令を実行し、時には自爆攻撃を敢行して見事に主君を強力なロンド・ベル隊より逃がすことに成功した。

 

 

 

「あの変態ロリコン野郎め、ワザと手を抜いていたのか!」

 

 追撃中のロンド・ベル隊と合流すべく、ショウたちはゼラーナに帰投してあの世界より去った。

 ターニャが自分だけがラインハルトを討ち取るために、ワザと手を抜いていたことを知り、ショウは激怒して左手の掌に自分の右拳を音が鳴るくらいにぶつける。同時にターニャの前世が男なのを理由に、悪態まで付いた。

 

「まぁ、あの…彼が前世で幼い少女と売春していたかは置いておき、手を抜いたのは事実だな。今頃は、所属組織で英雄としてチヤホヤされてる頃だ」

 

 初めに知ったドクター・ストレンジも、あのターニャの手抜きには怒りを覚えたようで、嫌味たっぷりに前世で売春をしていたから幼女にされたと勝手に解釈する。それを知ったのは、ショウとマーベルがハイパーオーラ斬りを放った直後である。

 積極的に協力していたのなら、一撃で倒せていたのだ。結果的に倒せたのは事実だが、世界を全力で救おうとするショウたちから見れば、ターニャの行動は許せない物だ。

 

「あいつが協力的なら、あの一撃で化け物を倒せたはずだ。なのに、自分の昇進の為にしているフリをしていた。実力は認めるが、卑劣な奴だ。男だった頃は、ああやって高い地位に着いたんだろうな」

 

「お袋の言いなりになっていたら、俺もあんな奴みたいになっちまってたかもしれないな」

 

 ターニャの実力は認めているドクター・ストレンジであるが、卑劣であると評した。それに同調するように、ショウは母親の事を思い出し、言いなりになっていたらターニャみたいになっていたかもしれないと呟く。

 

「二人とも、愚痴はその辺で結構かしら? あんなムカつくロリコン野郎の事よりも、逃げたバウムガルデンの対策の方が必要じゃないの」

 

 同じくターニャの手抜きに怒りを覚えているマーベルであるが、それよりもバウムガルデンに対する対策が最優先では無いかと愚痴り合いを止めれば、両名はそれに納得する。

 

「ありがとう、お嬢さん。今はバウムクーヘンみたいな名前の奴を、どう止めるかが最優先だったな」

 

 愚痴り合いや悪口合戦に突入しようとしていた所を止めてくれたマーベルに、ドクター・ストレンジは礼を言ってバウムガルデンの名前を菓子のバウムクーヘンと表し、そちらの方へ話題を移そうとした。

 それと同時にブリッジに居るニーが、追撃していたロンド・ベル隊がバウムガルデンを取り逃がしたと艦内放送で報告する。

 

『大変だ! ブライト艦長たちがバウムガルデンを取り逃がしたぞ!』

 

「何ですって!? 甲児やゲッターチーム、アムロも居るのに! 敵は何をやって追撃を振り切ったの?」

 

『敵は迎撃隊に捨て駒にした挙句、自爆攻撃させ、その隙に逃げたようだ! 全く、味方に自爆攻撃させるとは、恐ろしい奴だ!』

 

 この絶対に勝てる面子が揃っているロンド・ベルが取り逃がしたと言う信じられない報告に、マーベルは受話器を取ってニーにどのような手段で追撃を振り切ったかと問う。それにニーは自爆攻撃を仕掛け、その間にバウムガルデンが逃げたと返す。

 

「味方にカミカゼをさせたのか!? 奴は!」

 

「兵をその気にさせるなんて! ドレイク以上の敵だわ!」

 

『とにかく今はブライト艦長たちが先決だ。合流した後、彼らと対応を練る』

 

 ショウもまた味方を捨て駒にした挙句、自爆攻撃をさせたバウムガルデンに怒りを覚え、マーベルもまた怒りを覚えたが、あの精鋭たちから逃げ果せた恐ろしい敵だと評する。

 

「なるほど。では、アヴェンジャーズを招集するかどうか、会議でバウムクーヘンを食べながら決めることにしよう」

 

 ニーがロンド・ベルと合流してから対策を練ると告げてから通信を切れば、特に驚いた様子を見せないドクター・ストレンジは、ジョークを口にした。

 ロンド・ベルとの合流を急ぐゼラーナの格納庫には、あの志々雄飛翔(ししお・ひしょう)のシールドライガーがあった。どうやら、ゼラーナに回収されたようだ。その整備を手伝う者たちの中には、飛翔と盾松元気の姿も含まれていた。

 

 

 

 皇帝ラインハルトを討ち取ったことで、ワルキューレは帝国再建委員会に百合帝国の再建を認めた。

 最終的に怪物となったラインハルトを倒したことは疑問であるが、人でも怪物でも他の世界の脅威なのは確かなので、倒したターニャが属する帝国再建委員会の条件を呑んだのだ。

 この決定はワルキューレ内で波紋を呼び、再建を妨害する目的で戦場に乱入したアガサ騎士団やメイソン騎士団は特に反丹の意を表したが、乱入の件で聞き入られることはなく、アイン・ラントでイヴ人の国家である百合帝国は再建された。

 

 怪物と化した皇帝ラインハルトを討ち取ると言う最大の戦果を挙げたターニャ・フォン・デグレチャフ空軍中佐は、国家功労賞と英雄賞を受賞し、その功績を称えられて大佐へと昇進した。異端の変異種であるターニャを認めたくなかった上層部も、観念してようやく彼女を認めた。

 

 功績を称え、転属願いも受け入れてくれるので、ターニャは念願であった後方での安全勤務を果たすべく、平穏な辺境に配置されている空軍野戦師団の転属を要請する。あれほどの功績を上げ、英雄とも言える者が出世コースが期待される本土勤務ではなく辺境を所望するなど、通常では考えられない物であったが、まだターニャを認められない者たちはそれを受け入れ、転属を認めた。

 

 こうしてターニャは、原隊である特務航空魔導士大隊を駐屯地に残し、野戦師団の師団本部付き航空魔導士小隊に転属する。晴れて、前世からのターニャの願望が叶ったとも言えるだろう。部下たちも含め、あのアーデすらも、この上層部が決めた左遷とも言える転属に不服であったが、誰もがターニャの気持ちに気付くことは、今後とも無いだろう。

 

「ようやくだ…辺境とは言え、安全な後方だ…! 念願の後方勤務だ!」

 

 転属先である空軍野戦師団の本部へ来たターニャは、容姿と同様の子供のようにはしゃいだ。

 この空軍野戦師団と言うのは、ナチス・ドイツ軍の空軍内で編成された地上部隊とほぼ同様の名で装備も同じく二級戦だ。変わっていると言えば、二個連隊とその他雑多の部隊ではなく、対空連隊を含め、四個連隊で編成され、人員が多めになっていると言う事だろう。尚、人員は全てイヴ人で構成されている。

 

「左遷のようであるが、昇進の機会は残っているはずだ。まぁ、大してそんなに変わらんが、ゆくゆくは出世コースに溢れる本土への転属も可能なはずだ。その頃には、本土への空襲は無くなっているだろうて」

 

 空軍野戦師団が配置された場所の余りの平和っぷりに、ターニャは昇進の機会は少ないと睨んでいたが、少しばかり功績を上げれば本土への招集があるだろう楽観的な観測を抱く。

 なぜ本土勤務ではなく、ターニャがその辺地を選んだ理由は、アイン・ラントで再建して間もない百合帝国本土に嫌がらせの空襲とテロがあると予想してだ。この再建はかなり波紋を呼んでおり、それを嫌う勢力による本土空襲やテロの危険性が高い。

 ターニャはそんな面倒ごとに対処する日々を嫌い、それとは無縁の辺地への勤務を希望したのだ。自分が何かしらの功績を上げる頃には、終わっているだろうと見込んでのことだが。

 

「一介のテロ組織上がりとはいえ、国家再建を果たした奴らだ。この私が居なくとも、上手く立ち回るだろう」

 

 国家再建を目的とした帝国再建委員会の手腕に期待しつつ、ターニャは自分の配属先へと進んだ。

 この後、再び戦闘団となった原隊を率いて数多の戦場を駆け巡ることを知らずに…。

 

 

 

「見付けましたよ。そこにいらしたのね」

 

 アイン・ラントにて再建された百合帝国の首都にある総統府の執務室にて、再建に伴って委員長から新総統になった人物は、手にしている端末の映像に映るバウムガルデンの姿を見て笑みを浮かべていた。その容姿はイヴ人なので当然の如く美しく、長い青みがかった艶やかな黒髪が印象的だ。

 バウムガルデンを見て笑みを浮かべ、女性らしく恋心を抱いていると思いきや、右手の握り拳が震えており、その男に対する強い殺意が窺える。そんな時に、再建から十日も経たない首都に、空襲警報が鳴り響く。

 ターニャの予想は当たったようだ。

 

「おや、速いですね」

 

 総統も何処かの敵対的な勢力が仕掛けて来ると予想しており、冷静であった。予想外なのは、十日ほどで空襲を仕掛ける事であるが、それでも淑女の如く窓を見て、何処の勢力が空襲を行ったのか確認する。

 

「総統閣下! た、直ちに地下壕へのご避難を!」

 

「あら、その為に防空部隊が居るのでは?」

 

 護衛の将校が総統に避難を促すが、彼女は防空部隊を信用して動く素振りを見せない。避難を促す将校は実戦経験も無ければ、空襲の経験も無いらしく、怯えた様子を見せていた。彼女が率いる部下たちも、同じようでライフルを持つ手を震わせている。そんな時に、総統府の近くに空襲を仕掛けた部隊の爆弾かミサイルが着弾する。

 

「ひっ!?」

 

「近いわね。さぁ、地下壕へ避難しましょ」

 

「は、はい!」

 

 爆撃に怯える護衛部隊を他所に、彼女はまるで落雷のような感覚で爆弾が近くに落ちたことを理解し、護衛らに地下壕へと向かうと告げる。それに部下たちは震えながら続いた。

 

「畜生が。任務失敗のツケはテロ国家の首都空襲かよ」

 

 百合帝国での空襲を行っているのは、ミッシングリンク隊のアイオーンであった。バルキリーのVF-31Aカイロスを駆り、他の僚機と共に搭載された首都へ爆弾を適当に投下している。不満なアイオーンが率いる空襲部隊に向け、当然ながら対空砲火と迎撃機が来るが、迎撃機は旧型機であるために適当にあしらわれている。

 

「何故こんな無意味な空襲を…?」

 

 リィ・ファームもVF-31Aに乗り、空襲に参加していた。自分からすれば、無意味とも言える空襲に疑念を抱く。元気の事が気になるが、上司であるスミスからは忘れろと言われるばかりだ。そんな不安な気持ちでも、命令に従わねばならず、こうして空襲に参加している。

 

「各機、首都に侵入した賊を叩くぞ! 既に先発隊が交戦しているが、苦戦しているようだ。直ちに急行せよ!」

 

 増援として出撃したのは、YF-29Bパーツィパルの編隊だ。それを率いる長機に乗るのはソリル・ディゼルであり、同型機を率いて空襲を行うアイオーンらの迎撃を行う。ノヴァーナ・アプトのVF-31Cジークフリートも続いており、同じバルキリー同士による空戦が始まった。

 

「こっちに落ちて来ねぇだろうな?」

 

 空襲は首都のみで行われているが、周辺の広がる麦畑で収穫を行う農民たちは、こちらにも空襲が及ぶのではないかと不安になる。

 

「随分と適当だけど、こっちには来ないよね?」

 

 あの戦闘の功績を認められ、軍を退役したパール・カーシアも、首都から聞こえる爆発音と空戦で墜落する両軍の機体を見て、周囲の農民たちと同じく不安な気持ちで上空戦を眺めていた。

 

 

 

 百合帝国の再建は、ワルキューレ内に居る複数のイヴ人部隊に離反を促した。イヴ人の国家である百合帝国と合流し、それに加わろうと言うのだ。離反する規模は小隊や中隊、大隊と言った小規模な物が大半を占めていたが、時には連隊や師団以上の離反もあった。

 

「賊軍に合流するために、離反するとは! 目標は既に反乱軍である! 全力で排除せよ!!」

 

 メイソン騎士団と随伴するワルキューレの部隊が排除しようとする離反部隊は、兵員が全てイヴ人で構成された陸軍の二個機甲師団だ。二個以上もの離反は、再建して間もない百合帝国を調子付かせることに繋がりかねない。それに見せしめも含まれており、再建に反対の立場を取るメイソン騎士団は、いつにも増して本気である。

 部隊長の騎士の号令の下、メイソン騎士団のMSやKMF、ゾイドと言った機動兵器は一斉に百合帝国に合流しようと固まって行動する反乱軍二個機甲師団の側面から一斉に急襲を仕掛ける。その後から大帝国軍討伐に参加していた部隊も含めるワルキューレの部隊も続いた。

 

「ダークスパイナーの必殺技で! あれっ!?」

 

 まだメイソン騎士団に属していたアリッサ・セイバーは、乗機のダークスパイナーが持つジャミングウェーブで反乱軍の機甲部隊にハッキングを試みるが、電子戦装備が充実しているのか、余り効果は無かった。そんなアリッサのダークスパイナーを排除すべく、戦術機のMiG-29十二機が突撃砲を撃ちながら突っ込んでくる。無論、ダークスパイナーは自力で応戦できるほどの性能を持っているので、直ぐに中隊規模の戦術機に対処する。

 

「ロケットとミサイルは撃滅だ! 一発も通さんぞ!!」

 

 ガンパックと呼ばれる専用のアーマード・パックを装備したVF-11CサンダーボルトⅢを駆るシーン・プライセルは、反乱軍が放つミサイルを乗機の火器を乱射して迎撃する。百発ほどがロケット弾と共に撃ち込まれているが、その全ては迎撃されている。

 

「反乱軍共よ! その首、置いて行けーッ!!」

 

 メイソン騎士団と共に突っ込む専用のエンブレムを刻んだジンクスⅣを駆るカーラ・ドゥルヴァティーは、迎え撃とうとするMiG-29やSu-27と言った戦術機に襲い掛かり、GNビームサーベルで切り裂き、空いた左手で敵機の首をもぎ取る。

 

「フハハハッ! こいつは凄ェ機体だ! イヴ人共が寄越す機体とは段違いだぜ!!」

 

 あの戦いで負傷し、メイソン騎士団に回収されたヘルマン・ヨーゼフ・ホイジンガーは、その腕で戦力として認められ、騎士しか乗ることが出来ないはずのレギンレイズを与えられた。

 レギンレイズを与えられたことで他の騎士たちからは反感を買ったが、ヘルマンは手足のようにレギンレイズを巧みに動かし、戦術機や地上で防衛陣形を取るT-90戦車数両を瞬く間に撃破して反感すらを黙らせるほどの活躍を見せ付けた。

 

「こいつの性能なら、イヴ人共なんぞムシケラ以下よ! ガンダムの首を持って寝返った甲斐があったもんだ!」

 

 元気のガンダムXの首を持ってメイソン騎士団に鞍替えしたヴェストゥムもまたティラノサウルス型ゾイドであるジェノブレイカーを与えられ、機体の圧倒的な性能を活かし、反乱軍の機甲部隊を蹂躙していた。

 

『隊長、助けに行くか…?』

 

「まぁ、助ける他に無いだろ? 俺たちに拒否権なんて無いんだからな!」

 

 反乱軍を蹂躙するメイソン騎士団とワルキューレの連合部隊の様子を、帝国再建委員会改め、百合帝国軍の回収部隊は見ていた。

 正式な国家の正規軍になったとは言え、人間の兵士たちの扱いは変わらない。それを理解しているラドラル・ラドリオは、部下の問いに命令だから救援に向かわねばならないと返し、自身が駆るランディマン・ロディのペダルを踏み、所属する機甲連隊と共に反乱軍を蹂躙する連合部隊に攻撃する。

 その回収部隊にもイヴ人の将兵も参加しており、ニコレのガンダム・ニコレ、アモレ・ディヴァンパーレのガンダム・アモン、航空魔導士の通信兵であるマイーラ・シエルトフ、オークの航空魔導士のゴズン・ベウニ・ゥ・山崎の姿もあった。

 

 

 

 バイストン・ウェル。

 そこは、地上から決して覗けないパラレルワールドであり、死後の魂が辿り着く安息の地とも言われる世界だ。ショウたちが使うオーラ力の源でもある。

 三つの層に別れており、上の層がウォ・ランドンと呼ばれるチャム・ファウなどのフェラリオたちが住む水の国にして、天空の海の世界。中の層がコモン界で、コモンと呼ばれる人々が住む中世ヨーロッパのような世界。下の層がボッブ・レッスと呼ばれるガロウ・ランの住まう暗黒世界だ。

 今回は上の層であるウォ・ランドンの水の国にて、皇帝ラインハルトが率いる大帝国軍と帝国再建委員会、ワルキューレ、アガサにメイソンの両騎士団との戦いで散った二人の魂が、ミ・フェラリオとして転生した。

 

「新しい命よ!」

 

 水の国の豊かな自然の中で、ミ・フェラリオたちは新しく生まれる命に周囲を飛び跳ねるように舞い、はしゃぎ回っていた。フェラリオは母体から生まれるのではなく、花から生まれるのである。

 ミ・フェラリオとして転生し、新たにバイストン・ウェルに生まれたのは、あのクルス来夏によって洗脳されていたミレイナであった。金色の髪を持つミ・フェラリオとして転生したミレイナは産声を上げ、他のフェラリオたちに抱き上げられた。

 

「こっちにも新しい命が!」

 

 次に生まれた転生して生まれたフェラリオは、家族と仲間の仇を討つために己の命を投げ出して機械の巨人となり、仇を取れずに無惨に敗れたアルシエル・ル・ミシャだ。ミレイナと同じく産声を上げ、フェラリオたちに抱き上げられてあやされる。

 二人の前世は辛く、地獄のような人生であったが、このバイストン・ウェルの世界にミ・フェラリオとして生まれ変わったのなら、十分に報われて幸せと言えよう。

 

 転生した世界の名はバイストン・ウェル。そこは、魂の安息の地なのだから…。




バイストン・ウェル~♪ のぞけます

今回は応募者のキャラを一人か二人ずつ登場させました。

すまねぇ、ケツアゴさん。クイーシャとバナナ、出せなかった(汗)。それにリオンテイルさんも、ゴズン名前だけでごめんね。

最後の方で、散ったミレイナとアルシエルをミ・フェラリオとして転生させるのは、ダンバインの監督である冨野監督が没にした最終話の案の一つ。
理由は前のイデオンの最後と被るから。

取り敢えず、次回は何にするか考えてねぇ(笑)。
活動報告で言うから、そん時はまた気軽にご参加ください。


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スパルタンⅤ
未だ戦火は収まらず…


スパルタンⅤ
従来のスパルタンに不満を示した軍上層部のタカ派による第五世代計画に生み出された超人兵士たち。
HALOシリーズに登場する超人兵士スパルタンの第五世代だが、凄まじく連邦の闇を感じる物。
言うなれば、ガンダムの強化人間や生体CPU、パーフェクトソルジャー、スパロボOGのゲイムシステムの技術をスパルタンに応用し、完全なる兵器化を目指した物。
当然、ハルゼイ博士は関与していない。そもそもUNSCはデータを強引に取られただけで、計画に参加させて貰えなかった。
主な人員は囚人兵、刑務所から無作為に連れて来た凶悪犯や死刑囚を含める囚人、放浪者、街の不良、ニート、そんで志願兵と一般からの応募と様々。
ガルダーゴンでの決戦に備えて編成されていたが、調整が間に合わず、初陣は反戦デモ制圧と言うなの虐殺。

先に述べた通り極めて闇深い物で、もはや生体CPUとなんら変わっていない。
前世代のスパルタンからは、参加人員と初陣での行為からか、スパルタンの面汚しとして嫌われている。

羽翼正義(うきょう・まさき)
連邦軍タカ派の代表格の将軍。年齢は45歳で階級は元帥。
国粋主義な架空戦記の主人公のような人物であるが、作者補正を抜いた感じ。つまりバスクかただの狂人。出身地は保守的な地域のようだが、極右思想が強い地域。
今どき珍しい純日系だが、萌え文化を蛇蝎の如く嫌っている。本人曰く「麻薬のような毒物」だの事。
かなり右に偏っており、右翼=正義有能で、左翼=無能悪と言う国粋主義作家並みの思想の持ち主。性格もタカ派であってかなり過激。
最悪な事に正義はマジで有能であり、数々の作戦で連邦軍を勝利に導いてきたが、無駄に持てはやす所為で更に過激となっており、自分に逆らう者が全て悪と見えるようになっている。故にハト派や真面な軍人らからかなり嫌われ、タカ派にも危険人物と見られている。
スパルタンⅤ計画の立案者である。


 統合連邦と惑星同盟との戦いは惑星ガルダーゴンでの決戦後、休戦条約が結ばれた。

 両勢力は戦力回復の為、これで戦争は暫くは起こらないと思われていたが、休戦条約は連邦と同盟に参加する勢力と国家群のみであり、中立を示している国家は含まれてはいなかった。

 

 連邦と同盟の双方は戦力回復を行う傍ら、背後の心配と自制力内に潜む反乱分子を排除すべく、徹底的な制圧戦を展開し、背後と兵站の安全を確保していた。

 同盟軍は失った勢力圏内を補うべく、自軍勢力内に近い中立地帯や中立を維持する惑星や国家、コロニーサイドへ軍事的恫喝を掛けて無理に自軍に参加させ、拒否すれば侵攻した。

 一方で連邦軍もまた、同盟軍と同様に自軍につかない中立国家や惑星、国家、コロニーサイドへと同じように軍事力で恫喝し、拒否すれば侵攻を行った。

 

 連邦軍の勢力圏内で中立を謡う一人の支配者と国家運営AIによる独裁国家「ゲイムランド」も、連邦の要請を蹴ったとして、侵攻を受けようとしていた。

 

 

 

「僅か、僅か三週間余りで前線送り…! しかも、所属部隊ごと…!」

 

 今まさに連邦軍の侵攻が始まらんとする連邦軍の勢力圏内にある惑星内にある独裁国家「ゲイムランド」にある帝国再建委員会改め新百合帝国の借地にて、空軍の二級戦部隊である野戦師団ごと配属されてしまったターニャ・フォン・デグレチャフ空軍大佐は、再び前線送りにされて絶望に打ちひしがれていた。

 彼女が配属された空軍野戦師団は、比較的脅威の無い地域に配置される二級戦部隊であるが、建国間もない新百合帝国軍は戦力不足であり、野戦師団が定員を満たしている為、陸軍の二個旅団と共にヴィンデル・マウザーが支配するこの世界へ転属されてしまう。

 

 そもそも帝国再建委員会がヴィンデルの世界で活動できていたのは、ゲイムランドの国家運営AIをハッキングし、そこを活動拠点にしているからである。

 もうこの世界で手に入れる物は回収し、多大な犠牲を払って国家再建を果たしたが、まだ撤収は済んでおらず、その途中で連邦軍の侵攻を受けると言う情報を掴んだため、こうして完全な撤収の為に時間稼ぎの部隊を呼び寄せたのだ。

 空軍野戦師団は国家再建の英雄であるターニャさえ居なければ、配属された無かったように見えるが、戦闘部隊として定員を満たしているので、どのみち戦力不足であり、この世界へ送られる事は確定しただろう。

 

「圧倒的な物量で迫る敵に、あんな戦力にならんお荷物な部隊なんぞぶつけて、守れると言うのか…!」

 

 圧倒的な物量で侵攻してくる連邦軍に、ターニャは自分の所属部隊の練度の低さを嘆いていた。

 空軍野戦師団は、空軍が余剰人員とワルキューレから引き抜いた人員や捕虜、帝国再建委員会に参加するイヴ人の貴族の息女で編成されている地上部隊だ。人員は定数を満たしてはいるが、装備と練度の方は戦力外も良い所である。

 その軍隊とは思えぬ戦力外部隊に配属されたターニャは、比較的安全な地域から移動は無いとみて怠けていたが、自信が呪う存在Xの仕業なのか、この危険な世界の前線に配置されてしまった。

 

「全く、東部戦線以降の地獄だわ!」

 

 ゲイムランドの借地には、装備と人員が充実している陸軍の人間部隊で編成された第13装甲師団と第13歩兵師団が予め配置されているが、二個の装甲旅団とお荷物師団の援軍では、心持たないだろう。

 そんな劣悪な状態で撤退までの時間稼ぎに、ターニャは苛立ちながら地面に転がっている石ころを蹴った。

 

 

 

 独裁国家「ゲイムランド」侵攻が何の手順も無しに決定された事に、連邦軍の上層部では意見が割れていた。

 侵攻決定を推しているのは、主に三輪防人やハザードを初めとするタカ派の将官らだ。彼らは自分らに付かない国家は、武力で叩き潰すべきだと声高に主張している。

 

羽翼正義(うきょう・まさき)元帥なら、あの極潰しのクズ共が巣食う悪徳国家など、僅かな時間で滅ぼしてしまうだろうな!」

 

「その通りだ。ゲイムランドはAIに支配されている国家だ。AIに操られている指導者の国家など、即刻粉砕すべし! いつ寝首をかかれるか分かった物ではない!」

 

 案の定、三輪を初めとするタカ派の将官らが、自分らの代表格である羽翼正義が指揮する部隊がゲイムランドに侵攻すると聞き、過激な主張を声高に叫び、その侵攻を称賛している。そんなタカ派の主張を、ハト派や真面な将官らは黙ってみているだけだ。

 

「やれやれ、いつ休戦が破られると分かった物ではないのに、戦力回復に集中せずに戦争を続けるとは」

 

 同盟軍との休戦を利用し、戦力回復に専念すべきだと言うピクシー元帥であるが、タカ派の者たちは誰一人として聞いていない。

 

「ところで、羽翼元帥指揮下の軍集団の他に、コロニー連合(UCA)軍の部隊と、聞き慣れぬスパルタンⅤと呼ばれる部隊があるが、これはなんだ?」

 

 タカ派の声が響き渡る会議室内にて、一人の将官がゲイムランド侵攻作戦に、自分らに聞き慣れないスパルタンⅤと呼ばれる部隊の事をタカ派に尋ねる。これにタカ派の将官らは、意気揚々に新しいスパルタンであると答え、同席しているUNSCの代表者らは眉をひそめた。

 

「新しいスパルタンの世代だ。従来のスパルタンとは違って戦闘力は格段に高く、我々に忠実だ。ガルダーゴンでの決戦には間に合わなかったが、実戦での即時投入可能な状態となっている。平和デモと言う暴徒共の制圧で、それが証明されたことだしな!」

 

「…虐殺の間違いだろ」

 

 従来のスパルタンよりも戦闘力は高く、連邦軍に忠実であると三輪は豪語する。既に実戦は行っているようだが、その初陣である暴徒制圧と聞いたUNSCの代表の一人は怒りを覚え、暴徒制圧を虐殺と表した。

 軍国至上主義のタカ派らにとって平和は悪なようで、それを高らかに主張する民衆は、彼らからすれば暴徒に見えるようだ。

 

「羽翼元帥はガルダーゴンでの決戦に参加できなかったからな。この侵攻作戦で思う存分に手腕を振るってもらおう」

 

 そんな意味の無い会議は、軍の総司令官の一言で解散となった。

 

 

 

 ゲイムランドの近海にて、海を覆ってしまうほどの数の水上艦艇で編成された連邦軍の大艦隊がゲイムランド周辺を包囲する形で展開していた。隣接する地上からも陸上戦艦の大群が待機しており、いつでも侵攻できるようにその号令を待っている。上空でもUCA軍の巡洋艦で編成された艦隊が陣形を組み、地上攻撃の命令を待っていた。

 上空の艦隊の艦載機は数えるのが馬鹿らしいほど展開しており、海の上に浮かぶ無数の艦艇からも、飛行能力を持つドートレスフライヤーやジェットストライカー装備のダガーL、量産型ヒュッケバインMk-Ⅱがいつでも出撃できるように待機していた。航空機は攻撃が出来るように、続々と空母から発艦している。

 

「これ程の物量を相手に要求に応じんとは、ゲイムランドの国家主席は相当な馬鹿だな。それとも、余ほど勝つ自信があるのか」

 

 上空から地上、海上を埋め尽くすほどの大群を率いる司令官である羽翼正義元帥は、座乗艦にしている上空に待機する巡洋艦の艦橋にて、これほどの大群相手に要求に応じないゲイムランドの国家主席を馬鹿か、勝つ自信があるのかとほくそ笑む。

 事実、あれほどの大群を前にしてゲイムランドは防衛体制を維持し、いつでも交戦できるように備えている。どちらが勝つか、この戦力差を見れば一目瞭然である。

 それなのにゲイムランドは戦おうとしている。無謀な戦いを選択したのは、国家運営を担うAIが判断だ。もっとも、そのAIは勝手にゲイムランドに施設や活動拠点を設けている勢力のハッキングを受けての事だろうが、完全にAIに依存しきっているゲイムランドの国家主席は気付いていない。

 

「どちらにせよ、暴徒相手では大したテストにならんからな。精々いいデータが取れるように頑張ってくれよ、国家を自称するゴミ共」

 

 これ尾ほどの物量を相手に抵抗の意思を見せるゲイムランドに、羽翼元帥は自身が計画したスパルタンⅤの実戦データが取れるように、頑なな抵抗を期待しつつ、UCA軍を含める配下の軍勢に攻撃命令を下した。




活動報告にて、参加者募集中です。

誠に制限がある募集ですが、ご参加いただけたら感謝の極みです。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=302724&uid=14346


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ゲイムランド軍の無人兵器(ドローン)

名前:アンダース・ベノワ
性別:男
年齢:50歳?
階級:ファントム・タロン社司令官
所属:民間軍事会社ファントム・タロン社
乗機:サイリオン
概要:キルゾーン マーセナリーに登場するお金くれたらなんでも言うこと聞いてくれるハゲ。
今回はヘルガストの軍需産業を担うヨハン・スタールに雇われ、ゲイムランドにあるヘルガストの武器研究・製造企業スタールアームズ社の支社の防衛を担当している。
連邦軍の正義元帥に雇われた事もあるが、報酬を踏み倒された上に番犬を嗾けられた為、殺せとの依頼ならタダでやると豪語している。

艦名:氷山空母「ハバクック」
所属:UCA軍 水上機動艦隊
概要:伝説の氷山空母。同盟軍によって地球が占領された際、抵抗の象徴として運用されていたが、地球奪還が叶うと、持て余すようになった。
処分を兼ねてか、ゲイムランド侵攻作戦に投入される。
提供はG-20さん


「奴ら、休憩は取らないのか?」

 

 羽翼正義元帥率いる連邦軍の大部隊によるゲイムランド侵攻作戦が開始された頃、国家運営AIをハッキングして土地を不法占拠しているヘルガストの武器研究・製造企業スタールアームズ社の支社の防衛を務めるグローバル民間軍事会社であるファントム・タロン社を率いるアンダース・ベノワは、砲撃や艦砲射撃による凄まじい轟音を聞き、侵攻が始まったと悟った。

 

「ぼ、ボス! 凄い数ですぜ! 逃げますか!?」

 

「馬鹿野郎が! ヨハン・スタールから前金をたんまり貰ってんだ! 退けるかよ!」

 

 圧倒的物量で迫る連邦軍に対し、部下は逃げないのかと問う中、ベノワは全く怖気ることなく前金を貰っているから逃げないと答え、首を回して準備運動を始める。

 

「前金貰って逃げるなんぞ、俺のファントム・タロン社の評判に関わるってもんだ! 仕事に掛かるぞ! 撤収が済むまで、連邦軍を防衛線で食い止めるんだ! ほら、さっさと動け!」

 

 戦闘に備えて身体を慣らした後、部下たちに指示を飛ばした。

 

「配置に着け! 連邦の奴らが押し寄せて来るぞ!」

 

「弾薬はありったけ持っていけ! 大群が突っ込んでくるからな!」

 

「AT隊は塹壕に行け! 吹っ飛ばされるぞ!!」

 

 ベノワの指示に応じ、傘下のファントム・タロン社の傭兵たちは各々の配置に着き、砲撃後に突っ込んでくるであろう連邦軍の侵攻部隊に備える。

 

「敵は何処の部隊だ? これほどの物量、ガルダーゴン帰りか?」

 

 自身も出撃するべく、部下に乗機のサイリオンを準備させているベノワは、情報担当の部下に連邦軍のどの部隊が攻撃しているのかと問う。

 

「はっ、突っ込んできているのはUCA軍のようで。本隊の奴らは後方でふんぞり返ってます!」

 

「UCAを弾避けにして、本隊を温存させる気か。なら、UCA軍の士気は低いな。本隊は?」

 

「あの野郎ですよ。本隊の指揮官は羽翼元帥です!」

 

「あのクソったれか! 奴の場所は何処だ!?」

 

「敵の本陣ですよ! 辿り着くことさえ出来ない位置で、ふんぞり返ってやがります!」

 

「畜生、殺せと言われればタダでやってやるのによ! ムカつくぜ!」

 

 部下は侵攻軍を率いているのが羽翼元帥であることを伝えれば、ベノワは左拳を強く握り、怒りを滲ませる。

 かつてベノワは羽翼元帥に雇われていたが、依頼達成後に報酬を踏み倒した上に自身の番犬である民兵部隊を送り込んで始末しようとしていた。自分らは百戦錬磨の傭兵部隊であるので、士気だけは高い民兵らを容易く退けたが、報酬を踏み倒した羽翼元帥にベノワは強い怒りを覚え、殺せと言う依頼ならタダでやると意気込んでいる。

 金さえ払えばどんな事でもするベノワにそれを言わせる程、羽翼正義は傭兵と言う物を軽んじているらしい。もっとも、彼の思想の所為でもあるが。

 

「なら、本隊を引きずり出すか。お前ら、UCAの連中は手心を加えてやれ! 俺たちの敵は、羽翼の部下共だ!!」

 

 敵の司令官が報酬を踏み倒し、番犬を嗾けた羽翼元帥と分かったベノワは、彼の指揮下の部隊を引きずり出すため、部下たちにUCA軍には手心を加えろと告げ、自分専用に改造したサイリオンに乗り込んで出撃した。

 

「や、奴ら…! 俺たちを弾避けにするのか!?」

 

 一方、ゲイムランドに向けてミサイル攻撃を行うUCA軍では、連邦軍本隊より先に前進せよと命令に、将兵等は苛立っていた。

 要は自分らUCA軍を盾に、本隊は戦力を温存したまま楽に戦いに勝とうと言うのだ。これに将兵等は苛立っていたが、本隊の指揮を執るのはあの羽翼元帥であるため、拒否すれば撃つような男なので、彼らは逆らえなかった。

 

「本隊の指揮を執っているのは、あの羽翼元帥だろ!?」

 

「命令に逆らえば、俺たちが本隊に殺されるぞ!」

 

「拒否権すらないのか…!」

 

「私たち、コロニー連合(UCA)なのに…!」

 

 羽翼元帥の恐ろしさは友軍であるUCA軍にも届いており、逆らえばどうなるか理解しているので、命令に従う他に無い。UCA軍の軍規には、死亡率の高い命令に対する拒否権はあるのだが、その拒否権は羽翼元帥の前では通じず、こうして消耗品の如く前線に投入されるのだ。

 

『何をしている? 速く前進しろ。命令に従わなぬ場合は…』

 

「わ、分かっている! 全軍、前進せよ!」

 

 本隊からの催促に、UCA軍は渋々応じて砲撃終了後、ゲイムランドへ向けて前進を開始した。

 

「戦闘機隊並びMS隊及びPT隊、発艦!」

 

 無用とされている全長2400mはある氷山を使った氷山空母にて、無理やり着けた飛行甲板よりセイバーフィッシュやスピアヘッド、VTOLと言った航空機が次々と発艦していく。その後に続くように、甲板駐機されているドートレスフライヤーとジェットストライカーパックを装備したダガーLがスラスターを吹かし、ゲイムランドへ向けて飛んでいく。

 上空で陣形を組んで滞空している宇宙巡洋艦の艦隊も同じストライカーを装備したダガーLを初め、改造やストライカーを使わなくとも自力で飛べるジェムズガンやPTの量産型ヒュッケバインMk-Ⅱが続々と展開される。飛行能力を持たないジェガンJ~R型、ヘビーガンやGキャノン、ジェノアスⅡらは、ケッサリアと呼ばれるサブフライトシステムに二機ずつ並列に載せられ、それで出撃する。

 

『艦隊も前進しろ!』

 

「空母や強襲揚陸艦の護衛はどうなる!?」

 

『余剰な艦艇を、上陸部隊の護衛に回せと言っておるのだ! その他の護衛は、必要最低限の数でやれば良い! 直ちに実行せよ!』

 

 多数の航空機と機動兵器が敵陣に向けて前進する中、本隊は余剰な艦艇も前進しろと更に命令して来た。これに上空の巡洋艦艦隊の旗艦を司令部にしているUCA軍の前線指揮官は、空母や強襲揚陸艦の護衛はどうすればと問い返せば、モニターに映る羽翼元帥の代行して命令する側近は余剰な戦闘艦艇を上陸部隊の護衛に回せと言って圧力を掛け、命令を実行させた。

 

「はっ? イージス艦と駆逐艦、フリゲートを前進せよと? 護衛はどうなるので?」

 

『第8戦闘団と第9戦闘団に任せればいい! 直ぐに命令を実行せねば、本隊に撃たれる!』

 

 デモイン級イージス艦の艦橋内にて、司令部より前進命令を受けた女性艦長は、それを不服としたが、司令官の血気迫る勢いに押され、渋々と命令に応じ、僚艦らと共にゲイムランドへ向けて前進を開始する。

 

「海上部隊の攻撃が始まったか。よーし、UCA軍は砲撃が終了次第、直ちに前進しろ! これで敵の防衛線に大打撃を与えた。楽に前進できるはずだ」

 

 地上にも展開するUCA軍にも、前進命令が下された。連邦軍の陸戦部隊の旗艦となっているハンニバル級地上戦艦の艦橋内にて、羽翼元帥より指揮を任されている顔面縫い痕だらけの大男な将軍は、前面に展開しているUCA軍に、砲兵部隊や陸上戦艦の艦隊の砲撃が終了次第、前進するように命じる。

 

『装甲の厚い地上戦艦を持っているあんた等が前進したらどうだ!?』

 

『煩いぞ植民地人共! それが戦車やMSを下さる俺たちに対する態度か! テメェらもぶっ飛ばされてぇか!?」

 

『畜生が、くたばれ! この山猿め!!』

 

「けっ、俺のケツを舐めろってんだ!」

 

 UCA軍の地上部隊はこの前進命令に、自分らがやればどうだと文句を言えば、歴戦錬磨の大男の将軍は強い血気をモニター越しに放ち、相手を従わせる。これに地上部隊の指揮官は悪態を付きながら通信を切れば、指示に従って前進する。

 自前の装甲車(APC)や四輪戦闘車両に加え、供与された61式戦車やリニアガン・タンク、MSのストライクダガーやアデルMk-Ⅱ陸戦型、ATのスコープドッグ系やトータス系の大群が地面を揺らしながらゲイムランドへ侵攻した。後方に控える連邦地上軍の戦闘車両と陸上戦艦の大群、グリズリー重戦車、各機動兵器は動かず、ただUCA軍が攻撃しているのを静観している。

 

「ターニャ・フォン・デグレチャフ空軍大佐、出撃する!」

 

 このゲイムランドでただ一人の航空魔導士であるターニャは、ビームカノンと小型ミサイルポッド「ヤマアラシ」などの重装備のファイテックスを身に纏い、空軍基地のカタパルトを使って出撃した。

 

『連邦軍、砲撃終了後、第一波を前進させました』

 

「フフフッ、ゲイムランドを甘く見ているな。痛い目を見せてやろう」

 

 国防AIより連邦軍の前進を聞いたゲイムランドの国家主席は、迎撃命令を出す。それに応じ、ゲイムランドの各所の防衛線にて、戦闘AIに制御された自動砲塔とAI操作戦闘巡洋艦「インヴィンシブル」が展開される。

 先の本隊の砲撃とミサイル攻撃は、ゲイムランドを守る全方位バリアによって守られており、バリアのエネルギーを半分程度を削っただけで、余り効果は無かった。羽翼元帥の本隊から命令を受けて前進するUCA軍の部隊は、地上や海上とも凄まじい砲撃で発生した煙で気付かず、ただゲイムランドへ向けて前進し続けていた。

 

「クソっ、連邦の奴らめ。やり過ぎだ。これじゃあ何も見えないぞ」

 

 先陣を切る地上攻撃型のVTOLに乗るパイロットは煙で何も見えず、砲撃を行った連邦軍に対して文句を呟いた後、煙が晴れた瞬間に飛んでくるビームで撃破された。

 

「うわっ!? 敵はまだ…」

 

 最初のVTOLが撃墜されれば、突然の攻撃で混乱するセイバーフィッシュやジェットコア・ブースター、スピアヘッドと言った航空機が次々と対空ビーム砲で撃墜されていく。インヴィンシブルや展開された無人砲塔群による対空レーザーやビーム砲による攻撃だ。MSやPTも、次々と放たれるレーザーやビームで撃破される。

 

「あぁ、上空の部隊が!」

 

「なんてこと!?」

 

「前方から敵艦隊!」

 

 上空の艦載機が次々と落とされていく光景を見たデモイン級イージス艦のクルーらは動揺する中、前進する艦隊にもインヴィンシブルによる攻撃が及び、一隻、また一隻と撃沈されていく。

 

「ソナー音に反応! す、水中用MS! 機種は同盟軍の物です!!」

 

 脅威は水上だけでなく、水中からも来ていた。同盟軍で運用される水中用MSであるRFズッゴグ、グーン、ゾノ、アッシュ、グルジンにゴメル、ウロッゾなどが得意の水中から艦隊を襲い、UCA軍の水上艦艇を次々と海の藻屑にした。これに対潜機雷で応戦する艦隊であるが、水中用MSらはそれらを物ともせず、鋭利な爪や魚雷などで艦艇を沈めて行った。

 UCA軍の水上艦隊を襲っている水中用MSらは、完全に同盟軍に運用されている物であるが、国籍がゲイムランドの物であるため、休戦条約は守られている。

 

『一旦下がれ! そこで部隊を再編しろ!』

 

『敵機動兵器、高速接近!』

 

「えっ?」

 

 上空の部隊は対空射撃に阻まれて対空射撃の射程外へと後退する中、それを殲滅するためにゲイムランド軍は機動兵器部隊を差し向ける。リオンⅤや無人型ガーリオン、サイリオンと言ったAM群だ。人が乗ってるとは思えない機動で、混乱しているUCA軍に迫る。

 

「な、なんだこの機動は!?」

 

『ひ、人が乗っているとは思えん! うわっ!』

 

 乗っているのが人であれば、気絶しかねない機動力で攻撃を避け、正確に攻撃を当てて来る敵AM群に、UCA軍のパイロットたちは翻弄されて蹂躙されるばかりであった。一秒ごとに一機、また一機とハエ叩きのように落とされていく。UCA軍も必死に抵抗するが、その攻撃は避けられるばかりだ。

 

「フフフッ、どうだ見たか!? 我がゲイムランド軍最強のゲーミング部隊は!」

 

 それもそのはず、上空のUCA軍の機動兵器群に襲い掛かるAM群は全て無人機であり、その操作は専用の施設で行われていた。施設内では、全く軍人の体格をしていない男女数十名が、画面の前で専用機器を戦場に居るAM群をゲームのように操作している。まるでゲーム大会の会場のような光景だ。彼らは実際に兵器を操作し、UCA軍の将兵等が乗る航空機や機動兵器を破壊して殺害しているが、人を殺している感覚が無いのか、ゲームのように一方的な殺戮を楽しんでいる。

 

『こちらUCA軍地上部隊! 救援を乞う! 救援を…』

 

「ちっ、ぐーたら共の国家の分際でバリアーなんぞ!」

 

 地上でもゲイムランド軍がバリアで守られており、無人砲塔や無人型バレリオンと言った集団の前に、UCA軍の地上部隊も蹂躙され始めていた。これに連邦軍の地上侵攻軍の指揮官は苛立ち、握り拳を強く握る。

 

「これ以上、味方がやられているのを黙って見てられるか! 我が艦を前進させ、ミサイル攻撃で敵防衛施設を破壊するんだ!」

 

 友軍が次々とやられていくのを黙って見ていられないのか、上空に滞空するUCA海軍所属の宇宙巡洋艦一隻が無断で陣形を離れ、対地攻撃で味方を救おうとした。だが、ゲイムランド軍はそれを予期していたのか、コヴナント製の対艦レーザー砲を搭載したヘビーバレリオンを配備しており、巡洋艦が味方を救おうと射程内に入った瞬間に大型の高出力レーザー砲を掃射し、一撃で上空の宇宙巡洋艦を撃沈させた。

 

「デリンジャー号、ご、轟沈…!」

 

「こ、コヴナント軍の対艦レーザー砲では無いか! 奴らはあんな物まで持っているのか!?」

 

 味方の宇宙巡洋艦が対艦レーザーで撃沈されたのを知り、上空で待機している宇宙艦隊旗艦は驚愕する。ゲイムランドの守りは、地上にとって恐ろしい火力を持つUCA軍の宇宙巡洋艦が近付けぬほどに鉄壁であった。

 

 

 

「お、俺たち必要あるか…!?」

 

「難民を奴隷にしているニート国家だと思ってたが、撃退できるんじゃないのか?」

 

「イブ人に弾避けにされなくて済むな」

 

 ゲイムランド軍の防衛線の背後では、借地でM60パットンやレオパルド1と言った旧式戦車とMSにゾイドなどの機動兵器で防衛線を展開していた新百合帝国軍の陸軍第13軍団の将兵等は、無人兵器群がUCA軍を蹂躙しているのを見て、自分らが戦わずとも勝てると思い込み始める。

 

「私たち、出番ある?」

 

 第13軍団とは違い、整備大隊を除いて全車レオパルド2A7戦車装備の戦車連隊と良質的なMSや戦術機を装備した二個装甲旅団の増援を受けた沿岸方面に防衛線を展開する陸軍歩兵師団の将兵等も、UCA軍の巡洋艦がバレリオンが搭載するコヴナント製の対艦レーザー砲を受けて撃沈され、海上へ黒煙を上げながら落下していくのを見ており、自分らの出番がないのではと口にする。

 

「私たち、戦わなくて済むかも!」

 

「やった! 終われば帰れる!」

 

 良質的な装備を持つ陸軍とは違い、戦力外である空軍野戦師団は大規模な空港を持つ空軍基地の防衛を先の陸軍歩兵師団に代わって担当していた。そこで防衛陣地を構築していた迷彩ポンチョを野戦服の上から羽織っている空軍の将兵等は、自分らが戦わずに済むと大いに喜ぶ。

 だが、これに不吉な予感を覚える者が居た。歴戦錬磨の傭兵たちを抱えるファントム・タロン社の指揮官であるベノワと、ターニャ・フォン・デグレチャフ空軍大佐であった。

 

「臭うな」

 

『はっ? ちゃんとシャワーは入ってますが』

 

「テメェの洗ってもねぇ便所見てぇな臭いじゃねぇ! 機動歩兵やODSTが何故か後方に降って来ないってことだよ!」

 

 最初に気付いたのは、傭兵部隊の指揮官であるベノワであった。通信越しで臭いで反応する部下に怒鳴り、連邦軍の精鋭である機動歩兵やODSTが、一部隊たりとも降下して来ないのが異常であると告げる。

 

『ガルダーゴンは激しい戦闘やしたからね。まだ再編中だからじゃありませんかい?』

 

「それなら良いがな。だが、あのUCA軍の攻撃は、敵の戦術や数、配置を調べる為の物だ。俺たちもやられた事があるだろ? まさか友軍にやるとは…」

 

 精鋭が防衛線を乱すための後方攪乱の為の敵地降下をしてこないことが異常だとベノワが言えば、部下は精鋭部隊の機動歩兵やODSTは再編中だから考え過ぎだと指摘する。だが、ベノワはUCA軍の攻撃は、本隊が敵地や戦術を調べるための物だと告げれば、経験がある傭兵らは納得する。そんな獲物を誘い出すための餌を友軍のUCA軍にやらせた羽翼元帥に、ベノワは大変驚いていた。同盟関係がこじれるような真似を、平然と行えることに。

 

『てっ、ことは…本隊はもう対策をしていると?』

 

「そう言う事になる、次は突破されるだろうな。あんなギャラも払わず、飼い犬を嗾ける外道なんぞに、戦術家の才を与えた神様が憎いぜ。この場に居れば、直ぐに風穴を開けてやりたいが」

 

 本隊はUCA軍を生贄にしてゲイムランド軍の戦術の対策をしていると分かった部下が言えば、ベノワは防衛線が突破されるのは確実と答え、羽翼元帥に戦術家の才を与えた神を呪った。

 

「味方をぶつけて対策を練るか。なんと外道な指揮官だ!」

 

 前世も含め、長く戦場での経験があるターニャもまた、ベノワや傭兵らと同様、UCA軍は敵のデータを分析するための生贄であることに気付いた。並の指揮官なら戦力消耗を避けるために絶対に取らない手であるが、この侵攻作戦の指揮官である羽翼正義元帥は、味方のUCA軍にやらせ、将兵等の犠牲でゲイムランド軍の戦術や配置を分析している。次の本隊の攻撃では対策を行い、ゲイムランド軍の防衛線を突破してくる事だろう。味方を平然と捨て駒にするなど、ターニャの言う通り、何とも恐ろしい指揮官である。

 

「次の本隊の攻撃で、確実に突破してくるぞ…!」

 

 ゲイムランド軍の圧倒ぶりが一時的な物であると分かったターニャは、次の本隊の攻撃で防衛線が確実に突破されると悟った。




無言のナイフ使いの傭兵も、何かの機動兵器に乗って参戦してます。

活動報告にて、参加者募集中~。


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スパルタンⅤ

名前:スパルタン・デラックスマン
性別:男
年齢:30歳?
階級:無
所属:スパルタンⅤ
ミニョルアーマー:赤と白と言ったヒーローのコスチュームのように派手な色合いでマントを着けている。
概要:元々無駄に正義感溢れるサラリーマンであったが、スパルタンⅤの一般応募を見て志願し、投薬の末に超人兵士スパルタンⅤになった。
それ以降、自分をスーパーヒーローにしてくれた連邦軍を正義と信じるようになり、元から持っている正義感が加わって敵に情け容赦ない危険な人物と化す。
元ネタはウルトラ・スーパー・デラックスマン。外見も同様に句楽兼人(くらく・けんと)

オリキャラ

スパルタン・ソルジャー
最初のスパルタンⅤ。
元は羽翼正義元帥に絶対的な忠誠を誓っている兵士のようだが、完全なる兵士となるために自我を消したため、ロボットのようなスパルタン。
ヴィンデルから提供されたISの技術が使われているミニョルアーマーで全身が覆われているので、その正体すら分からない。
悪名高いデビュー戦である平和デモ制圧戦に投入された。

ヘル・ブラザーズ
スパルタン・キック&スパルタン・パンチ
スパルタンと化した地獄兄弟。裏社会ではヘル・ブラザーと呼ばれ恐れられており、軍の治安部隊ですら恐れをなして逃げ出す敵無しの兄弟。
その所為か、ヴィンデルに誘われて兄弟揃ってスパルタンⅤとなる。
アーマーも外見も、仮面ライダーカブトの地獄兄弟。

スパルタン・シド
外見が仮面ライダー鎧武に登場する仮面ライダーシグルドなスパルタンⅤ。その正体は錠前ディーラーな男であるシド。
海軍情報局(ONI)の工作員であるが、任務に失敗して追い出され、麻薬の売人にまで身を落とした。だが、腐っても元工作員であるため、傀儡のボスを仕立て、影から麻薬組織を支配していた。
ヴィンデルと何処かで接触してスパルタンⅤ兼連絡員になると、組織を捨て去り、スパルタン・シドとなる。
本名はシグルドのようだ。尚、スパルタンⅣで同じ元ONIであるロックと同期である。


 時間は、ガルダーゴンの決戦終了後、連邦と同盟との間に休戦条約が締結された時期に遡る。

 

『例のミニョルアーマーは届いているな?』

 

「はっ。件のミニョルアーマーを受領し、私のスパルタンⅤ第一号に着用させている所です」

 

 とある連邦軍の通信室にて、一人画面の向こう側の人物と通信を取る人物がいた。その人物は後にゲイムランド侵攻作戦の指揮を執る羽翼正義元帥である。映像通信の画面の向こう側に映る人物とは、この世界の影の支配者であるヴィンデル・マウザーだ。

 ヴィンデルはISが存在する世界よりバニッシュトに命じて盗ませたISコアの複製を、フォアランナーと言ったこの世界の技術力で成功し、それを基に新しい戦闘アーマーを開発したらしく、連邦軍でスパルタンⅤを計画している羽翼元帥に、テストと表して七つほど提供したようだ。

 このようなアーマーが羽翼元帥に提供されるのは、ヴィンデルが彼の影のスポンサーであると言う証拠である。

 

「このアーマーの出所は?」

 

『それは聞かない方が身のためだ。それより、何処で実戦テストを行うのだ?」

 

「停戦や平和などと唱える暴徒共の制圧に投入します」

 

『フン、群がってそのような退化しか生まぬ言葉を喚き散らす平和ボケの集団は、武力で掃除するに限る』

 

 永遠なる闘争を望むヴィンデルは平和を嫌っており、羽翼元帥と同じく平和デモに参加した学生や市民らを暴徒と見なしていた。スパルタンⅤの初陣がデモ制圧と聞くと、笑みを浮かべる。

 

「カイザのアーマーを与えたスパルタンⅤは、虐殺に興味がないだのと言って拒否しました」

 

『マサト・クサカだな。才能と適合率は高いようだが、少し甘やかし過ぎたか』

 

「ですが、あれほど高いアーマーの適合者はそうは居ません。アーマーの改良が進むまでは、我慢するしかないでしょうな」

 

 その初陣を断るスパルタンⅤが居たらしく、これに不満を覚えるヴィンデルと羽翼元帥であったが、Ⅴ専用のスパルタンアーマーには適合率があったようで、断ったマサト・クサカなる青年は適合率が高い為、認める他なかった。

 

『悔しいが認めるしか無いな。それで、代わりの任務は?』

 

「反乱軍の制圧ならやるとほざいていました。軌道降下兵(ODST)一個小隊と共に当たらせる予定です」

 

 それを羽翼元帥が伝えれば、ヴィンデルは納得してカイザことクサカが代わりにどの任務をやるのかと問えば、反乱軍鎮圧であると答える。

 

『そうか。実力が合わなければ、即座に処刑するのだぞ?』

 

「無論、奴の実力が無ければそうするつもりです。次の報告は?」

 

『それは私が送り込んだシドが告げる。私が送ったアーマー、大事に使えよ?』

 

「はっ!」

 

 言っている実力が合わなければ、即座に処刑せよとの命令を受けた羽翼元帥は、次の報告の事を問う。これにヴィンデルは自分の手の者であるシドなる人物に伝って告げると返した後、最後にアーマーを大事に使えと厳命し、通信を切った。

 通信を終えた羽翼元帥は通信室を出れば、ヴィンデルの手の者である頭にボーラーハットを被り、上下黒づくめの服装な男、シドが声をかけて来る。

 

「うちの大将が送って来たアーマー、凄いだろ?」

 

「口の聞き方に気を付けろ、下衆め」

 

 馴れ馴れしく話し掛けて来るシドに、羽翼元帥は苛立つ。これに激怒するが、シドはその態度を改めず、無礼な言動を続ける。

 

「自分に従わない奴は気に食わねぇってことか。カイザの奴は虐殺を断ったが、俺が代わりにやってやるよ。俺もあぁ言う遊んでいる暇な学生さんらは嫌いなんでな、ぶっ殺してやりたいと思ってた所だよ」

 

 シドがスパルタン・カイザの代わりをすると告げるも、その口調は羽翼元帥を煽るような物であった為、機嫌はますます悪くばかりであった。今にも激怒しそうな羽翼元帥に、シドは全く恐れることなく笑みまで崩すことなく、自分が取る態度を謝罪することなく去った。

 自分を殺せば、ヴィンデルが黙っていないと分かっていることから出来る行動である。それが分かっていて、シドは無礼極まりない態度を羽翼元帥に取っているのだ。

 

「まっ、そんなわけでよろしくな。元帥閣下さんよ」

 

「あいつめ、マウザー氏の手の者でなければ、殺してやるところだぞ!」

 

 連邦軍の元帥である自分に舐め腐ったような態度を謝罪することなく続けるシドに、苛立った羽翼元帥は近くにある壁に八つ当たりの拳を叩き付けた。羽翼正義は背丈202センチの巨漢であり、怒り任せに振るったその拳の威力は、壁に穴が開くほどであった。

 

 翌日、暴徒制圧作戦と言う名の虐殺は予定通りに開始された。

 新しくスパルタンの第五世代であるⅤの実戦テストを目的とした作戦で、どれほどの戦闘力があるか試験する物だ。その標的と言うのは暴徒であるが、実際には停戦を要求する非武装のデモ参加者等である。

 

「ぼ、暴徒制圧だと…!? あ、あのデモ隊は同盟軍との停戦を要求するデモだ! 何人か警官や退役軍人、現役の兵士も参加している! 断じて暴徒ではない!」

 

 当然ながら、スパルタンⅤが派遣された現地の基地司令官は反対した。同盟との停戦を呼び掛けるデモ隊を暴徒ではなく、非武装の平和的なデモ隊であると訴えるも、暴徒制圧命令を受けて派遣されたスパルタンⅤは聞く耳持たずだった。

 

「あんたの意見は聞いていない。これは御上が正式に決定した命令だ。あんた等は命令通り、俺たちスパルタンⅤの後方支援(サポート)をすりゃ良いだけだ。大佐くらいのあんたなら、それくらい出来て当然なんだけどなぁ」

 

 スパルタンⅤの派遣部隊隊長であるシドは自分専用のアーマーを身に纏い、ヘルメットを脇に置いて代わりにボーラーハットを被っていた。命令を拒む基地司令官に対し、上層部からの正式な命令であると言うが、軍人でも無い怪しげな男の言う事を、司令官もまた聞き入れなかった。

 

「ふ、ふざけおって! こんな馬鹿げた命令、実行できるか! お前たちが勝手に偽造した指令書である可能性もある! 上層部に掛け合って…」

 

 目前のデモ隊を暴徒として排除せよとの命令に、基地司令官はふざけた命令と判断して間違ってないかどうか上層部に確認しようと、基地司令室を出ようとしたが、赤と白と言ったヒーローのような色合いのアーマーを身に着けたスパルタンであるデラックスマンに首を掴まれる。

 

「う、うぉ!? な、何をする貴様!?」

 

「この聖戦を愚弄する悪の暴徒共を制圧するなと言うのか? 貴様、さては悪だな?」

 

「な、何を言っているんだ貴様! 速く司令官を離…」

 

「あーぁ、やっちまった」

 

 命令を断る基地司令官を悪と断ずるデラックスマンに、司令官の部下たちは即座に抜いた拳銃の銃口を向けて降ろすように言うが、目前の上官の首を掴むスパルタンは、空いている右手を振るって彼らを惨殺した。スパルタンⅤは薬物投与で肉体強化を施しており、それがアーマーのパワーと重なれば、屈強な肉体を持つ男性軍人の身体すらリンゴのように破壊可能である。

 部下たちの上半身を木端微塵に破壊されたのを見た基地司令官は、死の覚悟よりも恐怖が上回って自分の身が可愛くなってしまう。それに残っている基地の将兵等の命を救うべく、無様にも高潔さを捨てて命令に従うと必死に訴える。

 

「や、止めてくれ! め、命令に従う! た、頼む! 基地の将兵等と私の命だけは…!」

 

 部下が惨殺されたのを見て恐怖し、先ほどの威勢が消えた基地司令官は、自身と基地の将兵等の命を救うために命令に従うとシドに言うが、当の彼はこの事態が想定内であったのか、聞き入れなかった。

 

「まっ、予想通りだったがな。これでデモ制圧の大義名分は出来た。この基地は暴徒化したデモ隊に襲われ、基地の将兵等は防戦するも、十数万の暴徒に奮闘空しく壊滅。それで俺たちスパルタンⅤが名誉の弔い合戦の為に暴徒化したデモ隊を攻撃し、これを殲滅。華やかなデビュー戦を飾ったと。筋書きは大方これくらいだな」

 

 シドはデラックスマンの暴走を外で平和を訴えるデモ隊に擦り付け、制圧の大義名分としたのだ。基地の将兵等は暴徒化したデモ隊に襲われて壊滅したと聞いた基地司令官は、口封じの為に自分らが皆殺しにされると悟る。

 

「な、なんてことを言うんだ!? 貴様の暴走をデモ制圧の大義名分にするなど! こ、こんな乱暴すぎる理由が通るなんて…!」

 

「おっと、死人がこれ以上喋っちゃならねぇな。せっかくの俺たちの晴れ舞台だ。盛大にやらせてくれよ?」

 

 こんな乱暴すぎる理由が通るわけ無いと言う基地司令官であるが、言い終えたところでシドが持っているM6H2ハンドガンで射殺された。それから殺したくてウズウズしている他のスパルタンⅤや第一号とされるソルジャー、シドと同じくヴィンデルより派遣された地獄兄弟(ヘル・ブラザーズ)の異名を持つパンチとキックに指示を出す。

 

「よし、お前ら。待ちに待ったデビュー戦だ。まずはこの基地の施設と設備を徹底的にぶっ壊し、基地の兵隊共を皆殺しだ。働きに来ている民間人も含めてな。その後は、メインディッシュの十数万人ものデモ隊の虐殺だ。俺も遊んでる学生共は嫌いでな。今にも殺したくてうずうずしてる!」

 

「俺たちのような貧困層を恵まねぇ学生共を皆殺しに出来るぜ! 弟よ!!」

 

「基地の奴らも恵まれてるんだろうなぁ…! まずは基地の連中を片っ端から殺そうぜ、兄貴!!」

 

「基地司令官はこの正義の命令を拒んだ。基地の奴らも同罪だ。これより正義を実行する!」

 

 それは自分らの筋書きを真実にするための、破壊と抹殺命令であった。シドの言う事に応じ、各々が憎しみと正義を執行できることに喜ぶ中、ソルジャーは虐殺ではなく制圧であると訂正するように求める。

 

「スパルタン・シド、虐殺ではなく制圧だ。間違えるな」

 

「あぁん? どっちも変わらねぇだろうが。んなつまらねぇこと気にしてないで、速く基地をぶっ壊して兵隊共を皆殺しにして来い! 働いている奴も含めてな!」

 

「了解した。これより基地の制圧を行う。敵兵力並び民間人の労働者も含め、全員を抹殺する」

 

 デモ隊の虐殺を制圧と訂正を求めるソルジャーに対し、シドは苛立って羽翼元帥の命令を実行するように告げた。それに応じてソルジャーは持っているMA5Dアサルトライフルの安全装置を外し、銃声を聞いて駆け付けて来た警備兵らを殺害する。他のアーマーを身に纏うスパルタンⅤ等も基地の将兵等や働いている民間人らを見付け次第、次々と殺害していき、基地の床や壁を血で赤く染め上げる。

 

「確か基地は連隊本部だったな。二千か三千人、労働者も含めると四千人は居そうだな。狂犬共も解き放てば、基地の奴らは皆殺しに出来るだろ」

 

 銃声と悲鳴、それに断末魔が基地内に響き渡る中、シドは幾ら強いスパルタンⅤでも、基地には数千人規模の人数が居るので間に合わないと判断してか、アーマーを与えられなかった落伍者等も解き放つことにした。

 

「殺す…! 俺を陥れた影の政府の奴らは皆殺しだ…!」

 

「俺の、俺の言う事を聞かない奴は、聞かない奴は皆殺しだ…!」

 

「リア充は殺す…! 殺す! 殺すゥゥゥッ!!」

 

「本当に狂犬だな、こいつ等。手を噛まれないように、注意しねぇとな」

 

 スパルタンンⅤの落伍者等とは、薬物による肉体強化だけを施され、強力な洗脳処置を施された生身の兵士達であった。スパルタンⅤはあろうことか囚人や一般応募も受け付けており、その中でアーマーへの適性があったのは、デラックスマンを含めて僅かな者たちであった。

 適性率の低い檻から解き放たれた三名は、元の肉体は薬物投与で肥大化し、目元には強烈な洗脳を施すゴーグルが無理やり植え付けられ、もはや原形を留めぬ化け物と化している。それを見たシドは少し距離を取り、手にしている装置で三名の落伍者に虐殺命令を出す。

 

「さて、お前らが殺したがっている奴らを殺せるぞ。ほら、行け!」

 

 シドが装置を操作しながら命じれば、三名の落伍者等は怪物のような雄叫びを上げながら部屋を飛び出し、恐慌状態の基地の将兵等に襲い掛かる。

 何も全てのスパルタンⅤが、あのような怪物染みた改造を受けているわけではない。パイロットの適性があれば、機動兵器のパイロットになる可能性はある。あくまでも適性があればの話であるが。

 

「き、基地から銃声が…!? 一体なんだ!?」

 

本部(HQ)、HQ! そっちで何が起こっている!?」

 

 外のデモ隊が暴徒化に備え、配置されていた歩兵部隊は基地から聞こえて来る銃声に対し、基地内にある本部に問うが、既に本部の人員はスパルタンⅤ等に虐殺されており、聞こえて来るのはまだ生き残っている兵士たちが撃つ銃の銃声だけだ。状況を確認すべく、部隊指揮官は余剰人員を確認に向かわせようとする。

 

「お前ら、確認して来い!」

 

「はっ!」

 

 余剰な人員を確認に向かわせた指揮官であったが、その必要が無かった。スパルタンⅤの虐殺より免れた一人の生存者が、命辛々外へ飛び出してきたのだ。

 

「助けて! 助けてくれぇーッ!!」

 

「ち、血塗れだぞ!? 一体、中で何が…!?」

 

「ど、どうなっているんだ!?」

 

 飛び出してきた血塗れの生存者に、歩兵部隊やデモ隊は動揺を覚える。これに一人の歩兵が問おうとした瞬間、基地から逃げ出した生存者は、後を追ってきたデラックスマンに背中に手を突っ込まれ、そのまま引き抜かれて息絶えた。

 正義を自称するスパルタンが行ったこの異常な殺害方法に、デモ隊は悲鳴を上げた。直ぐに兵士たちは手に持っているモリタ式ライフルの銃口を向け、直ぐに発砲を行う。

 

「第一中隊は食い止めろ! 残りはデモ隊を非難させ…」

 

「この正義の味方である俺に撃つとは…! やはり悪だ! ゴォーット! 神に代わって貴様らを抹殺する!!」

 

 デラックスマンは自分に向けて発砲してくる友軍の歩兵部隊を容易く片付け、指示を飛ばす司令官の首を引き千切った後、デモ隊を逃がすために自分に立ち向かう歩兵部隊を悪と断定して排除し始める。

 

「みんな逃げろ! 速く逃げ…!?」

 

「逃がすんじゃねぇよ! こいつ等には地獄を味合わせなきゃならねぇんだ!」

 

「そうだ! 俺たちが餓鬼の頃の地獄を、学生の皆さんにも体験してもらわなきゃな!」

 

 デモ隊を逃がそうとする兵士に対し、ヘル・ブラザーズのキックとパンチは腕力で撲殺した。それから悲鳴を上げて逃げるデモ隊に参加している学生や市民らに、自分たちが体験した地獄を味合わせると言って追い掛け、手当たり次第に引き千切って殺して行く。

 

「こちらソルジャー、暴徒の集団を制圧する!」

 

 M739ライトマシンガンを持つソルジャーは、自分らから逃げる非武装の民間人等を暴徒と表して銃弾を浴びせた。これに空から飛来したデラックスマンや三名の落伍者も加わり、夥しい数の人々が惨殺され、地獄絵図が描かれる。

 

「う、うわぁ…! こ、これは、夢なのか…!?」

 

 新しい世代のスパルタンらに参加者たちが虐殺される光景に、デモに参加していた学生の一人は物陰に隠れ、余りにも想像を絶する経験をしてか、悪夢では無いかと現実逃避を始める。だが、デモ制圧命令を受けたスパルタンⅤ等は、デモ隊の参加者らを一人たりとも逃すことはしない。直ぐにその学生を、ミニョルアーマーの飛行能力で空から監視していたシドが見付け、目前に降り立つ。

 

「ほぅ、現実逃避か。こんなデモなんかに参加しなきゃぁ、いい仕事にも就けて、良い嫁さんと結婚できて何一つ苦労も無い人生を過ごせたのによ。全く馬鹿な奴だよ、一時の偽善に身を任せ、せっかくの幸せをドブに捨てるとはな」

 

「あっ、あぁぁ…!?」

 

 シドはその学生に選択を誤らなければ、こうはならなかったと告げれば、自分を見付けたスパルタンに、彼は失禁して後退る。

 

「や、止めてくれ…! お、俺はただ戦争が終わって欲しくて…」

 

「おいおい、軽い気持ちで平和デモに参加か? 全く近頃の学生さんと来たら呑気なもんだ。見たところ、良い所の坊ちゃんだな、お前。俺がお前なら、こんなデモは絶対に参加しないね。求めずに手に入る幸せを捨てるなんて、馬鹿がすることだ」

 

 自分が追い詰めた学生が裕福な家庭の出身であると見抜けば、シドは自分ならデモに参加せず、求めずとも手に入る幸せを手放さないと銃口を向けながら告げる。

 

「こ、こんなことをどうして…!? 俺たちは、ただ政府に停戦を訴えているだけで…!」

 

「まぁ俺もやり過ぎだと思うがな。でも、こいつは仕事だ。政府に従ってれば、良い暮らしが出来たもんを。悪いのは、こんなデモを起こしたお前らだ! 恨むんなら、デモに参加した自分を恨むんだな。坊ちゃんよ」

 

 どうしてこんな残酷なことが出来ると問う学生に対し、シドは仕事であると答えた。それに悪いのはデモ隊であると告げ、最後に恨むのなら選択を誤った自分を恨めと告げた後、手にしている拳銃でその学生を射殺した。

 

「みんな元気にやっちまってるなぁ。こいつは、後片付けが大変だな。掃除をする奴は気の毒だ」

 

 学生を射殺したシドは、阿鼻叫喚が聞こえて来る方へ視線を向ければ、かつて人だった肉塊が散乱する地獄絵図が広がっており、それを他人事のように言う。

 

 その後、この悍ましい虐殺劇は暴徒化したデモ隊の制圧とされ、スパルタンⅤは華々しいデビュー戦を飾った。

 真実を知らぬ者は新しいスパルタンを最強の兵士として崇め、真実を知る者はスパルタンⅤを冷酷無慈悲な大量殺人兵器として見た。




虐殺回になっちまったよ…。

草加こと913なスパルタンも出す予定だったけど、尺的に活躍シーンは無く、名前のみの登場となりました。

活動報告にて、参加者を募集中。十月に入ったら締め切るので、参加はお早めに。


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本隊の攻撃

名前:グレゴリー・マリャル
性別:男
年齢:33歳
階級:准将
所属:UCA陸軍第4水上分遣艦隊司令官
乗艦:スペングラー級強襲揚陸艦「プリビャチ」
概要:某東欧系のUCA陸軍水上部隊のエリートで、地球奪還作戦のアラビア半島戦線や対同盟戦線での揚陸任務で決定的な働きをした。
キャラ提供は神谷主水さん

名前:エリザベス
性別:男
年齢:36歳
階級:ゲイムランド軍水上艦隊提督
所属:ゲイムランド軍
乗機:戦闘巡洋艦「インヴィンシブル」
概要:海戦ゲームのプロであるが、チート使って垢BANされたダメ男。ゲイムランドに追放されたが、ゲームで身に付いた艦隊運営の腕を買われ、海軍の提督に抜擢される。
戦闘巡洋艦「インヴィシブル」は、ゲイムランドの海防を担う無人大型戦闘艦であり、領海に多数展開されている。
キャラ提供はG-20さん

名前:エマ・ホワイト
性別:女
年齢:27
階級:大尉
所属:羽翼正義元帥直属部隊長
乗機:エルアインス
概要:金髪碧眼に眼鏡をかけたクールな秘書風の美女。
20代後半という若さで元帥の直属部の部隊長にまで上り詰めた才女であり、秘書業務は勿論のこと生身での戦闘や機動兵器の扱いに至るまでまさに非の打ち所がなく、その非凡な才に加え、元帥を含め誰に対しても程度の差はあれ、慇懃な態度を崩さず、いつ如何なる時も感情的な言動を出さない程の強い精神力で元帥にから高い信頼をえている。
実際はハト派のスパイであるが、当の羽翼元帥に見破られており、そのことに気付いていない。
キャラ提供はRararaさん

オリキャラ

名前:スパルタン・カイザ(本名、マサト・クサカ)
性別:男
年齢:30歳?
階級:大尉
所属:スパルタンⅤ(元ONI工作員)
ミニョルアーマー:仮面ライダー913に似ている。
概要:外見が仮面ライダー913に似ているスパルタンⅤ。その正体も名前もマサト・クサカ。
才色兼備な好青年であり、人類の為と言う名目でスパルタンⅤに自ら志願した。洗脳処置は施されていない。
出身地はコヴナント戦争時代にアービターことセルヴァダムに滅ぼされた惑星であり、アービターに対して並々ならぬ憎しみを抱いている。元ONIの工作員であることから、戦後に起きた惑星サンヘリオスにおける内戦に関わっていた。
正体のマサト・クサカも草加雅人。ついでに性格も草加。


「UCAめ、あの程度の防衛線を突破できんとは!」

 

「やはり民主主義の軍隊は、たるんでおりますな」

 

「情けない! 大人になってもゲームをやっている奴らにやられるなど!」

 

 連邦軍の侵攻部隊の旗艦として使われている上空に浮かぶ巡洋艦の艦内に設置された作戦司令室にて、味方のUCA軍がゲイムランド軍のゲーミング部隊に蹂躙されているのを見た羽翼正義元帥の配下の将官らは、彼らの心配どころか、その犠牲に対して貶すような発言をしていた。

 

「まぁ、スパルタンⅤのテストにはおあつらえ向きと言う事だな。UCAの連中にやられるようなら、テストは出来なかったな」

 

 そんな味方の死を貶す将官らを率いる羽翼元帥は、ゲイムランド軍がUCA軍を蹂躙している様子を見て、自分が計画した新世代のスパルタンであるⅤを投入するには打って付けの相手であると分かり、遂に投入命令を出そうと思い始める。

 前線を映す映像には、味方のUCA軍の艦船や艦載機、陸戦兵器に続いて機動兵器が次々と撃墜されていく様子が流れ、通信機からは救援を求める声が聞こえ、通信兵と通信士官は額に汗を浸らせ、自分等の上官らに聞こうとするが、当の上官らはその犠牲に対して全く意に介さない様子だ。そればかりか、敵の戦術パターンがどのようなものかを、味方の犠牲で確かめている。

 

「護衛艦のマルシン、轟沈!」

 

「敵水中MS、当艦に接近!」

 

「左舷に被弾!」

 

「直ちに迎撃しろ! 近付けるな!」

 

「クソっ、連邦軍め! 俺たちがこれ程犠牲になっているのに、援軍を寄越さないのか!?」

 

 一方で前線では、迫り来る敵を対空砲などの必死に迎撃する複数のタラワ級強襲揚陸艦とスペングラー級強襲揚陸艦の一隻である「プリピャチ」の艦橋内にて、ブリッジクルーらは悲惨な状況を艦長へ報告する。プリピャチは旗艦として運用されているのか、准将の階級章を着けたグレゴリー・マリャルと言う東欧系の司令官が乗っており、自分等がこれ程の損害を受けているにも関わらず、全く援軍に来ない本隊の連邦軍に悪態をついていた。

 

「こちらUCA陸軍第4水上分遣艦隊のグレゴリー・マリャル司令官! 本隊に伝達、直ちに援軍を要請する! 援軍を寄越さないなら、後退の指示を…」

 

『こちら本隊、撤退は許可できん。これより本隊は攻撃を開始する。引き続き、攻撃を続行せよ。繰り返す、攻撃を続行せよ!』

 

「ここへ来て本隊が攻撃だと!? 遅過ぎる! こっちが一体何人死んだと思ってるんだ!?」

 

 援軍を寄越さないなら、撤退の許可を要請するグレゴリーに対して本隊は、ようやくスパルタンの出撃準備とゲイムランド軍の戦術解析が住んだのか、引き続き攻撃するように返してきた。それにグレゴリーは激怒し、何人死んだと思っていると文句を言うが、本隊は何も言わず、何の返答もしなかった。

 

『敵戦術解析完了、データ送信開始。送信後、直ちに攻撃を開始せよ』

 

 現場指揮官のグレゴリーが遅過ぎる援軍に激怒する中、その援軍である羽翼元帥率いる連邦軍本隊は、ようやく攻撃を始めた。

 UCA軍を犠牲に、ゲイムランド軍の戦術を解析した後、解析データをMSやPTと言った各機動兵器に送信する。艦艇もデータを受信しており、攻撃命令が下れば、前進し始める。

 前進する艦隊の中で、大艦巨砲主義を体現した大和型戦艦に似た全長333メートルの水上艦艇、その名も大和級戦艦も命令を受けてか、艦隊と歩調を合わせる形で前進を開始した。

 

「ようやく戦闘開始か! この大和の久々の実戦、存分に暴れさせてもらうわ! 各員に通達! 大艦巨砲主義をカビの生えた時代遅れの産物と罵る地上軍や宇宙の連中に、永久不滅なる物であることを示せ!」

 

『おぉーッ!!』

 

 攻撃命令を受けたその大和級戦艦一番艦「大和」の艦長は、自身が狂信する大艦巨砲主義が永久不滅の物であると示すように受話器で乗員らに伝える。乗って居る乗員等も大半が艦長と同じ大艦巨砲主義者であるらしく、雄叫びを上げて士気を上げる。

 

 この戦乱の世界で蘇った戦艦大和は、膨大なコストを掛けて建造されている。更には現代の技術で再現して性能まで向上させた主砲である46センチ砲のコストも重なり、そればかりか各種の兵装やエンジンも加わって、合わせて全長1300メートル級の宇宙巡洋艦三隻ほどの建造費となってしまう。

 惑星の水上でしか活動できない時代遅れの背間である大和に、大艦巨砲主義ではない三輪防人を初めとする少数のタカ派は歓喜したようだが、ピクシー元帥を初めとする主だった将軍やハト派、あろうことか大多数のタカ派は、予算の無駄遣いや海に浮かぶデカいだけの鉄の塊と酷評した。

 だが、現代の技術で蘇った戦艦大和は絶大な火力を誇り、地球奪還作戦では同盟軍の海上戦力の駆逐を加速させ、地上への艦砲射撃の際には五個師団分以上の制圧力を見せた。

 それでも水上戦艦の存在を否定する将軍らの評価は変わらず、統合連邦政府の軍事予算会議では、この戦艦の解体を提案する案が毎度の如く出されていた。

 

 それを撤回すべく、大和の艦長はこの戦いで自分の大艦巨砲主義と自身の戦艦の有用性を示そうと張り切っているのだ。それを示すかのように、三つある46センチの主砲が一斉に火を噴いた。

 後ほど現れるガンダムが持つ巨大な剣に、切り裂かれて轟沈しようとなど、この時は乗員共々思ってもみないだろう…。

 

『MS隊並びPT隊、発進!』

 

 攻撃命令が下って即座に一隻だけ艦砲射撃を行う大和と各艦艇がミサイル攻撃を行う中、待機していた羽翼元帥指揮下の機動兵器部隊は出撃を開始した。

 UCA軍とは比べ物にならないくらいの物量と装備であり、大型の原子力空母の飛行甲板から飛行形態のクランシェが続々と飛び立っていく。甲板に露天駐機されているバリエントやジェットストライカーを装備したウィンダムも続々と飛翔し、目標へ向けて群がるように飛んでいる。

 UCA軍と同じ多数のスペングラー級強襲揚陸艦や軽空母、空母からも続々とバリエントやウィンダムが飛び立っていく。出撃していく機動兵器群の中にPTである量産型ヒュッケバインMk-Ⅱも含まれているが、本隊は量産型ビルドシュバインやシュッツバルト、それにエルアインスも含まれていた。航空機もスピアヘッドもいたが、ジェット・コアブースターやスカイグラスパーも混ざっていた。

 

「んぁ? なんだまた来るのか?」

 

「違うのがいっぱいるな。まぁ良い。派手に暴れて、スコアトップになってやるぜ!」

 

 ゲイムランド内にある施設から遠隔操作する機動兵器でUCA軍を蹂躙していたゲーミング中のプレイヤーたちは、第二陣として押し寄せる連邦軍の本隊の姿を見て、更なるスコアを稼げると思って襲い掛かる。

 

「無駄だ! 俺の無敵艦隊は突破できねぇ! UCAの奴らと同じく屍を晒すだけだぜェ!!」

 

 無人戦闘巡洋艦「インヴィンシブル」の艦隊を操作するエリザベスと言う男は、迫り来る連邦軍の水上艦隊も、UCA軍と同じ末路を辿ると豪語し、キーボードを素早く操作した。

 

「閣下、本隊より入電! 直ちに攻撃せよと!」

 

「うむ、ようやく出番か。爆撃機を飛ばせ! 絨毯爆撃後、攻撃を開始する!」

 

「攻撃中の友軍には…?」

 

「んなもん、とっとと逃げろとでも伝えろ!」

 

 地上でも攻撃命令が下り、羽翼元帥傘下の地上部隊もまた攻撃を開始するのであった。最初は砲撃後にUCA軍を突撃させたが、強力なバリアとゲーミング部隊の前にUCA軍は前進を阻まれており、全く進めずにいた。これに対し、地上部隊の指揮官は爆撃機による絨毯爆撃を行ってから攻撃を開始すると告げた。それに部下は攻撃中のUCA軍に伝えるのかと問えば、指揮官は逃げろと面倒くさそうに伝えた。

 

「ようやく出番か。よし、行くぞ野郎共!」

 

 その指示通り、上空で待機していた一個大隊分はあるB-65ショートソード軌道戦略爆撃機の編隊は、地上部隊の指揮官の命令を受けて爆撃コースへ向けて飛行を取る。ミサイルを含める凄まじい対空砲火に晒され、溶けるように撃墜される可能性があるが、各爆撃機一機にジェットストライカー装備のウィンダムかクランシェが二機ずつ護衛に付いており、ミサイルの迎撃を担っている。他にも対空システムを破壊する戦闘爆撃機やMSやPTなどで編成されたチームも居て、爆撃機の編隊より先に敵陣へと向かう。

 

「速く掃除を終えろよ? 予定通り爆撃を行うからな」

 

『分かっている。爆撃しやがったら、テメェらをぶっ殺してやるから覚悟しておけ!』

 

 爆撃機の編隊長と先行部隊の隊長は軽口で通信を交わした後、それぞれの任務に勤しんだ。

 

 

 

 配下の部隊が続々と攻撃の為、ゲイムランドへ侵攻する中、羽翼元帥に対して側近の一人はスパルタンⅤも出動させるのかと問う。

 

「全軍、攻撃を開始しました。スパルタンⅤも投入するので?」

 

「無論だ。何の為に一個旅団分のスパルタンⅤを訓練したと思っているのだ? 勿体ないだろ」

 

「了解です。スパルタンⅤ旅団、出撃せよ!」

 

「はっ!」

 

 側近に問われた羽翼元帥は、予定通りに投入すると言えば、それに応じて出撃命令を出した。

 

「(遂に出撃するのね。私の部隊にも出動命令が下る)」

 

 羽翼元帥の直属部隊の幹部の一人であるエマ・ホワイト大尉は、スパルタンⅤの出撃命令を聞いて意気込む。彼女はハト派の将官から送り込まれたスパイであり、元帥の行動を逐一上司に報告している。可能であれば、妨害して失点を増やすことも任務に含まれている。この状況を羽翼元帥の失点を増やす機会と捉えてか、どのように妨害するか思考を巡らせていた。

 

「貴様たちはスパルタンⅤの随伴だ! 護衛とデータ収集が目的である! 主役は奴らだから、出しゃばるなよ?」

 

「なに、閣下が計画された完璧なスパルタンⅤ、従来のスパルタン共よりも有用であることを、ハト派の莫迦共に知らしめてやりますとも!」

 

「その意気だ!」

 

 エマの予想通り、直属部隊にもスパルタンⅤの護衛とデータ収集の為に出撃命令が出された。側近の一人からの命令に、頭に黒いバッチ尽きのベレー帽を被っている直属部隊の隊長は、敬礼しながら応じる。

 

「総員、出撃するぞ! 直ちにデッキへ集合し、各々の乗機に搭乗せよ!!」

 

『はっ!』

 

 部隊長の指示で、エマを含める直属部隊の隊員らは作戦司令室を後にした。エマも駆け足で司令室を出た瞬間に、制服の襟元に大尉の階級章を着けた男に呼び止められる。

 

「ちょっと待ってくれないかな?」

 

「っ? アーマーも身に着けていないスパルタンⅤが何の用かしら? それに急いでるんだけど?」

 

 その呼び止めた男の制服の胸元には、スパルタンⅤであることを示すバッチが止められていた。この男がスパルタンⅤであると言う証拠である。呼び止めた男に対し、エマは何の用かと問う。

 

「コソコソと嗅ぎ回っているようだが、気付かれてると思わなかったのかな?」

 

「っ!? な、何のこと?」

 

「その反応を見ると、やはりそうか。何処の飼い犬か知らないが、命が欲しいなら早く飼い主の下へ戻ることだな」

 

 まるで自分がスパイであると言うような口調で問う男に、エマは思わず動揺してしまった。それは男がスパイかどうか試す質問であり、動揺したエマはスパイだと見破られてしまう。だが、何処のスパイなのか分からないようで、命が欲しいなら自分の上官の所へ戻れと警告する。自分に警告するそのスパルタンⅤの男に、何者かとエマは問うた。

 

「あなた何者? スパルタンⅤなようだけど」

 

「クサカ、マサト・クサカ。今はスパルタン・カイザだが、元海軍情報局(ONI)だ。前の職業上、君が余りにも臭うからね。三日くらいで気付いちゃったよ」

 

「(元ONI? 正体を見破られた以上は…!)」

 

「止めた方が良いな。アーマーが無くとも、君を片手で絞め殺すくらい出来るんだよ俺は」

 

 正体を見破られたエマはマサト・クサカことスパルタン・カイザを口封じしようとしたが、その手も見破っていた。ここは諦め、何の用で自分を呼び止めたのかと問う。

 

「それで、元ONIが何の用で私を?」

 

「何って、ただの親切心さ。別に君に気があるわけじゃない。元帥殿は恐ろしいからね、あの人は裏切り者に厳しいのさ。そうなれば、君は首だけで飼い主の下へ帰ることになるだろう」

 

「大量虐殺をやったスパルタンⅤが親切心ですって?」

 

「あんな殺人鬼共と一緒にするな! 俺は奴らとは違う!!」

 

 ただの親切心で警告したと言うクサカに対し、エマはデモ隊を大量虐殺したのに親切心があるのかと冗談半分で言えば、目前のスパルタンⅤは一緒にするなと激しく激怒した。そればかりか胸倉を掴み、凄まじい剣幕で睨み付ける。クサカはあの悪名高いデモ制圧作戦には参加しておらず、別の惑星で街を占領した反乱軍の制圧任務を行っていた。

 

「俺はあんな虐殺なんてしていない! 喜んで無抵抗な民間人を大量に殺す奴らと一緒にするな! 俺がやったのは、街を占領した反乱分子の制圧だ!」

 

「でも、街は破壊されて、大勢が死んだ。貴方も他のスパルタンⅤと…」

 

「街を破壊したのは、無能な指揮官だ! 俺一人でやれば済むことを、あの馬鹿が勝手に攻撃し、街を滅茶苦茶にしたからだ! おかげで街のレジスタンスとも戦うことになったよ! 民間人は誰一人として殺してない!! あれは俺の責任じゃない! 責任は全部あの無能な指揮官にある!!」

 

 自分を大量虐殺を嬉々と行う他のスパルタンⅤと一緒にするなと激怒するクサカは、自分がデモ隊に参加しておらず、別の惑星で街を占領した反乱分子の制圧を行っていたと訳を言うが、エマはそこでも大勢の人が死んだことを指摘した。これにクサカは更に激昂し、街が破壊されたのは自分の到着を待たず、勝手に攻撃した連邦軍の指揮官の所為だとすさまじい剣幕で告げる。

 

「わ、分かった! 分かったから離して! お願い!!」

 

 これ以上余計なことを言えばクサカに殺されると恐怖したエマは、他のスパルタンⅤとは違うと理解したと告げると、彼はその手を離した。

 

「フン、余計なこと事を言えば、どうなるか理解したようだな。次からは背中に気を付けなよ? 飼い主諸とも、ただじゃ置かない」

 

 死の恐怖を覚えさせてエマに理解させたクサカは、睨み付けながら次は無い事を警告し、出撃するために去ろうとする。これにエマは息を整えた後、あのスパルタン・シドの姿が見えないことを思い出したのか、立ち去ろうとするクサカを呼び止めた。

 

「失礼かと思うけど、シドって言うスパルタンⅤは何処へ?」

 

「フン、図々しいな、君は。まぁ、俺も奴の事が嫌いだけど、何処へ行ったか知らないね。あいつも俺と同じ元ONIだけど、麻薬ディーラーに落ちぶれた奴がなんでスパルタンになったか理解できないな」

 

 スパルタン・シドが何処へ行ったのかと問うエマに対し、クサカは落ち着きを取り戻したのか、その居場所を答えようとしたが、知らないと答えた。去り際にクサカは、もう一度エマに警告する。

 

「もう一度言うが、速く飼い主の下へ戻った方が良い。特にシドって奴は危険だ。元ONIの俺が言うんだ、素直に理解してもらいたいね」

 

 そう警告した後、クサカは自分のアーマーを身に纏うためにエマの下から立ち去って行った。




仮面ライダーの読者参加型で、草加を出せなかったので、スパルタンと化した草加を登場。

応募は明日おれが起きて、パソコン点けて応募を締め切るまでだからね。急いでね。


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刺客たち

名前:ガズ・メックス
性別:男
年齢:?
階級:大佐
所属:ワルキューレ特務暗殺部隊 レッドベレー隊
武器:鉄爪 吸血ニードルナイフ
拳法:南斗無音拳
概要:通称「カーネル」。部下含め野戦迷彩服にレッドベレー帽なので、彼の直属部隊は「レッドベレー隊」と呼ばれる。彼の顔面に縦の傷が数本あり、また右眼の黒い眼帯が数々の修羅場を潜り抜けてきたことを想像させる。
一人で500人を殺せるといわれるレッドベレーの威信をかけ、今回の暗殺任務には後述の部下を含めた50数余名で参戦した。そいずれもニードルナイフなどのナイフを使った軍隊格闘術の名手ばかりである。
元ネタは北斗の拳に登場するカーネル(二回目)。
キャラ提供は神谷主水さん

名前:ショーマン・ジロックロ
性別:男
年齢:54
階級:特務
所属:ワルキューレ特務暗殺部隊
乗機:デモンベイン・ヤルダバオト
概要:燕尾服にシルクハットで洒落た杖を持つ初老の紳士、左手側にCOMP状のコンピューターを付けている
ワルキューレ特務所属のデモンベイン系魔導士でネクロノミコン電子語写本の保持者
特務暗殺部隊としてはデモンベイン系魔導士としての生身での戦闘力に加え、セキュリティの高い場所でも本人が侵入出来れば、内部から特機(鬼械神)を出現させての強襲が可能という、隠密性と破壊力を兼ね備えた人員
キャラ提供はリオンテイルさん

名前:ジダン・ガルファール
性別:男
年齢:48歳
階級:テノジア軍機動兵器部隊大隊長
所属:テノジア軍
乗機:KGF バタララン・ドゥ
概要:故ヴァフリズ大将軍の腹心であり、その息子であるダリュン・ヴァフリズに絶対の忠誠を誓っている。

名前:ガルム・マッドアイ
性別:男
年齢:不明
階級:特務大尉
所属:ワルキューレ特務暗殺部隊
武装:バトルアーマー(外見はゴーカイジャーのキアイドー)、魔法
概要:本来はミッシング・リンク隊の一員であり今回はスミスの命令で特務暗殺部隊に出向している。
ブーツホルツと同じく人造魔導士手術を受けており、専用バトルアーマーを着用することで本人の戦闘技能も相まって極めて高い戦闘力を持つ。鋭利なブレードと大型のブラスターを武器に持つ。
キャラ提供はRararaさん

ジークフリード・シュナイダー&マフティ
スミスがターニャ暗殺の為に用意した傭兵の刺客コンビ。
ジークフリードはスイス出身の傭兵の拳法家で、世界中のありとあらゆる拳法を身に着けている。
マフティは元グルカ兵であり、鉈を手足のように扱う。
キャラ提供はG-20さん

オリキャラ編
名前:ダリュン・ヴァフリズ
性別:男
年齢:20歳?
階級:テノジア軍大戦士
所属:テノジア軍
武器:剣、槍
概要:外見が戦闘力騎兵五千騎で、殿下大好きの若手万騎将に似た男。
父の大将軍は過去の大帝国との戦争で戦死しており、その父を殺したラインハルトを討ち取ったターニャを仇と見て、テノジア軍を率いて参戦する。
戦闘力はすさまじく、アガサ騎士団の勇者やアガサライガー、メイソン騎士団のレッドランサーと同じく一騎当千者。

テノジア軍
アガサ騎士団やメイソン騎士団が出て来るChivalry: Medieval Warfareに登場する勢力の一つ。
モデルは実在した十字軍と対峙したイスラム連合軍かオスマン帝国。アニメ的に言うと、クシャーンやパルス王国みたいなアラビアンな連中。
この二次創作では両騎士団以上に強化され、シルバリー合金のみならず、現実の中東諸国の現用装備に加え、クシャーンやパルスみたいな鎧を着た連中まで居る。

アンオスゴタ王子
テノジアのオリキャラ。第二王子。性格は典型的な我儘で自己中心的な王子。
ラインハルト討伐で名を上げたターニャを討ち取り、その功績で王位継承権を得ようとする野心家。
自ら軍を率いてターニャ討伐に向かう。


 ゲイムランド軍の戦術を見極める為、UCA軍を犠牲にした羽翼正義元帥率いる連邦軍の本隊が攻勢を始めた頃、スミスを初めとする新百合帝国が再建したことに反発するワルキューレ内の者たちは、その立役者であるターニャ・フォン・デグレチャフを抹殺すべく、刺客を送り込もうとしていた。

 

「これ以上、イヴ人共が図に乗る事が腹立たしくてならん!」

 

「左様。彼奴等にもお灸を、否、敗北を再び突き付けねば!」

 

「直ちに攻撃を! 戦力が半減している今なら、容易く粉砕できる!!」

 

 会合場所にて、新百合帝国に反発する者たちは各々が持つ戦力で攻撃を実施しようとしていたが、アガサやメイソンと言った軍閥勢力に匹敵するほどの勢力を持ち、反発グループのリーダーとも言えるテノジア軍の代表者は抑える。

 

「静まれぃ皆の衆! いま攻撃したところで、またも長きにわたる小賢しい残党共のゲリラ攻撃に悩まされるだけよ! それより我らテノジアは、この者の抹殺を提案する!」

 

 怒鳴って面々を黙らせたテノジアの代表者はある人物が写る写真を取り出し、それを机の上に叩き付け、取り出した小刀を突き刺して固定する。その写真に写る人物とは、ターニャ・フォン・デグレチャフであった。先に述べた同様、反発グループはターニャの抹殺しようとしていた。

 

「幼子を殺す? テノジアの者よ、狂っているのか?」

 

「その幼子が、悪の皇帝ラインハルトを討ち取ったなどと言う戯言を信じているのか?」

 

「そんな物、イヴ人共が我らを小馬鹿にする為に広めたプロパガンダよ!」

 

 集まったグループの何名かは、ターニャが皇帝ラインハルトを討ち取ったことを信じておらず、新百合帝国のプロパガンダだと断じたが、テノジアの代表者の一人である鋭い眼光を持つ青年は、それが真実であると口にする。

 

「貴殿らの目は節穴か? あの我が父の仇である皇帝ラインハルトを討ち取ったのは、その写真の幼子だ。我もまた信じられなかったが、映像を見れば真であると判断した」

 

「ダリュン・ヴァフリズ、貴様も血迷ったか?」

 

 ダリュン・ヴァフリズなる青年が真実だと言うので、血迷ったのかと問うが、付近の壁に腕を組んで寄りかかるスミスは証拠である書類を机に向けて飛ばし、事実であると告げる。

 

「事実だ。現にその化け物は、数々の劣勢を覆しやがった。クソったれ皇帝の首を刎ねた時を含めれば、六百万人は殺してる計算になる」

 

 スミスがターニャの異常な戦績を語れば、グループに参加する各勢力の代表者らは机に置かれた書類を読み漁って、それが事実であると手を震わせる。

 

「こ、こんな奴が居るのか…!?」

 

「我らが属するワルキューレの、トップに君臨する戦乙女しか出せん数値だ…! もしやこの小娘は…!?」

 

「俺も信じられなかったが、それは真実だ。俺も戦乙女の一人と戦った経験があるが、その化け物には、あのお方と同等の力があると見える」

 

「そんなはずが無いだろう。ただの変異体の化け物だ。そんな化け物とあのお方たちと一緒にするんじゃない」

 

 代表者らは、ターニャの戦闘力を自分らが属するワルキューレの上位に君臨する同じ名の戦乙女たちと同等と口にする。戦乙女と一度だけ戦ったことがあるダリュンも、代表者と同じ判断を下していたが、ターニャを化け物と断じるスミスは、一緒にするなと訂正を求める。

 

「しかし、イヴ人の極右勢力が英霊のみならず、アガサやメイソン、それにテノジアと同じく最高戦力を有しているなど危険だ! これ以上、その化け物が力を付ければ、いずれ奴らは我らを排除しに掛かるだろう!」

 

 代表者の一人がこれ以上ターニャが力を着ければ、いずれ脅威となって新百合帝国が自分たちの排除に掛かると不安を高らかに口にすると、スミスはその為に集まっていると告げる。

 

「だからその前に消すんだろうが。その為に集まったんだ。それにテノジアのダリュンと他に、殺せそうな奴らも集めている。入ってこい!」

 

 スミスはダリュンを初めとするテノジア軍の他にも、ターニャと対等に戦えそうな刺客たちを用意していた。彼が一声かければ、突如となく刺客たちは現れる。

 

「特務暗殺部隊レッドベレー隊長、ガズ・メックス大佐!」

 

 突如となく姿を現した赤いベレー帽を被った迷彩服を身に着け、顔には黒い眼帯と縦の数本の傷を持つ歴戦錬磨の軍人を想像させる男は、ガズ・メックスと名乗る。

 

「ホホホッ! 私、ショーマン・ジロックロと申しまする」

 

 燕尾服にシルクハット、杖を持つ洒落た格好の初老の紳士は、ショーマン・ジロックロと帽子を脱ぎながら挨拶する。彼の左腕には、COMP状のコンピューターが付いていた。

 

「この相手なら、退屈することはなさそうだ」

 

「うぉ!? この赤い武人、何者だ!?」

 

 スミスがターニャ抹殺の為に呼んだ中で一際目立つ赤いバトルアーマーに全身を包んだ武人に、ダリュンの副腎であるジダン・ガルファールは驚き、何者かと問う。

 

「そいつはガルム・マッドアイ、人造魔導士だ。専用のバトルアーマーを身に着けることで、凄まじい戦闘力を出す」

 

「俺の虚しさを埋めてくれるのは戦いだ。更なる敵と戦うために、俺は人造魔導士となった。お前なら、俺を楽しまさせてくれそうだ」

 

「ぬぅ、貴様! やる気か!?」

 

 ジダンの問いにスミスが名を答えれば、更なる強者との戦いを渇望するガルム・マッドアイは、ダリュンに視線を向け、戦おうとする。ガルムはターニャと戦うために、スミスに呼び出されたのだ。標的がターニャなのに、大型ブラスターを取り出してダリュンと戦おうとするガルムを、スミスは呼び止める。

 

「止せ、戦うのはこのガキの皮を被った化け物だ。標的はテノジアの怪物じゃない」

 

「恩に着る、スミス殿。俺もここで奴とやり合う気はない」

 

「フン、がっかりだ。まぁ、楽しみは後で取っておくのが一番だな」

 

「(な、何という化け物共を連れて来たんだ…!)」

 

 このスミスの仲裁に、ダリュンは礼を告げる。スミスが呼び出した刺客たちに、代表者たちは震えていたが、まだ刺客は数十名も居た。

 

「ん? 貴様、拳法家か?」

 

「如何にも! 俺はスイス出身の傭兵、ジークフリード・シュナイダー。世界中の戦場を渡り歩き、ありとあらゆる拳法を極め、己の一部として来た!」

 

 ただならぬ雰囲気で、ダリュンはジークフリード・シュナイダーなる傭兵が、傭兵でありながら拳法家であることを見抜いた。そうと分かったシュナイダーは堂々と名乗り、世界中の戦場を渡り歩くと同時に、ありとあらゆる拳法を極めたと、自分が極めて吸収して来た様々な拳法の構えを見せ付ける。

 

「フフフ、なら俺は鉈よ! 俺は元グルカ兵の傭兵マフティ! 既に鉈は俺の身体の一部よ!」

 

 次に元グルカ兵のマフティは、鉈を自在に振り回しながら名乗り上げる。

 

「既にこれ程の人材を揃えているとは…!」

 

「本気だな。だが、殺れるのか? その小娘の皮を被った化け物は、同じ化け物であるラインハルトを殺したんだぞ」

 

「まぁ、テノジアの王子様がそこの五千騎の騎兵を一人で殺せる男のみならず、遠征軍を編成するくらいだからな。十分な数が揃っている」

 

 各代表者らがスミスが呼び寄せた刺客たちに驚くが、皇帝ラインハルトを討ち取ったターニャに、その刺客たちで確実に殺せるのかと疑問を抱き始める。これにスミスは、テノジアの王子がターニャを殺すためだけに、遠征軍を編成したと答えた。同じテノジア人でも、ダリュンとジダンは知らなかったらしく、驚きの声を上げる。

 

「っ! 王太子殿下が遠征軍だと!?」

 

「何故に殿下が遠征軍を!?」

 

「なんだ、知らんのかお前たち。その王子様が、あの化け物にこっぴどくやられたことは知ってるだろ? それの仕返しの為に、十個師団以上の大群を率いてぶち殺しに行くのさ」

 

「確かに殿下はその化け物に辛抱を舐めさせられただろうが、我々だけで十分なはずだぞ。何故に自ら戦場へ出向くとは…!」

 

 ダリュンとジダンが、テノジアの王子が自ら遠征軍を率いてターニャを討ち取ると言う事を知らないことにスミスも驚いていた。これに訳を話せば、二人は納得するも、自分等を信用していないのかと疑念を抱く。

 

「王子の遠征軍には、化け物を恨む奴らがわんさか参加しているそうだぜ。お前さんらが首を取って来るの待つより、自分から首を取りたいんじゃないのか?」

 

「くっ…! 王太子殿下は、我らの事が信用ならんと言うのか…!?」

 

 王子の他にも、テノジアにはターニャに恨みを抱く者は多数いるそうで、遠征軍にはそのような人物が多数参加していると明かせば、ダリュンは自分たち討伐隊が信用されていないことに苛立ちを覚える。

 

「主君に信用されていないご様子とは、不幸ですな。ヴァフリズ殿。だが、テノジア軍や貴殿よりも先に幼女の皮を被った化け物を殺すのは、このカーネルだ!」

 

 そんな苛立つダリュンを煽るように、ガズ・メックスことカーネルがターニャを討ち取るのが自分であると宣言すれば、他の刺客たちも討ち取るのが自分だと口々に言い始める。

 

「その女児の皮を被る悪魔、討ち取るのはこのショーマン・ジロックロでありますぞ」

 

「フン、軍人やら紳士よりも先にぶっ殺すのは、このジークフリード様だぜ! 俺が体得した北斗神拳で秘孔を突き、肉塊にしてやるぜ!」

 

「違うな。長い付き合いのあんたには悪いが、その幼女に化けた化け物を殺すのはこの俺よ! この鉈で殺せない奴は居ねぇ! あんな小娘、温かいバターを切るより楽だぜ!」

 

「いや、奴と戦うのはこの俺だ。俺の楽しみの邪魔をするな!」

 

「き、貴様ら…!」

 

 カーネルの宣言に釣られ、刺客たちは手柄を巡ってこの場で殺し合いをしかねない雰囲気になった為、これを面白くないスミスは直ぐに呼び止める。

 

「止めろお前ら! 殺し合いをするのなら、標的をぶっ殺した後にしておけ!」

 

 そのスミスの一声で一同はお互いを睨みつけ合いながらも、互いの得物を仕舞い、殺し合うのはターニャを殺してからにする。

 

 かくして、ゲイムランドで圧倒的な物量を誇る連邦軍を前に死闘を演ずるターニャに、スミスを初めとする新百合帝国に反発するグループの刺客の手が迫らんとしていた。

 

 

 

 新百合帝国に対して反発するグループの中で一番大きな勢力であるテノジアは、ターニャ討伐の為に大規模な派兵を行おうとしていた。テノジアの王子であるアンオスゴタ第二王子が、自らターニャ討伐遠征隊を率いる。その遠征隊の総兵力数は十七万であり、通常の戦車や戦闘機のみならず、MSやゾイド、AS、バルキリーと言った機動兵器もあった。

 

『テノジアの同胞達よ! 今は新百合帝国を名乗る賊軍が、我が母なるテノジアの地を踏み荒らし、汚し尽くしたことは知っていよう! 我らの決死の抵抗により、彼奴等をこの地より追放したが、その爪痕を癒すには数十年の月日を要する!』

 

 自分の宮殿のバルコニーでアンオスゴタ王子は、眼前に整列させた配下の遠征軍に向け、戦意向上演説を行っていた。演説でアンオスゴタ王子が帝国再建委員会時代に、新百合帝国軍がテノジアを攻撃したことを言えば、演説を聞いている数十万のアラビア風味の甲冑を身に着けた兵士や、突撃銃などで武装した将兵等は拳を強く握る。彼らの故郷は、帝国再建委員会の攻撃を受けていたのだ。撃退はしたが、その爪痕は大きく、演説で言った通りに復興にはかなりの月日を要する。

 

『我らの討伐軍を卑劣な手段で攻撃し、諸君らの父や息子たちの命を奪った悪帝ラインハルトが討たれた事は知っているな? そのテノジア最大の仇であるラインハルトを討ったのは、あろうことか、今は新百合帝国と名乗る賊軍に属するターニャ・フォン・デグレチャフだ! かの者がいかような卑劣極まりない手で悪帝ラインハルトを葬ったかは知らんが、あの女児の皮を被る悪魔は我がテノジアの数多の同胞たちを葬った仇でもある! その者を我らテノジアの手で討てば、かのラインハルトを討ったこととなり、同時に彼奴に殺された我が同胞らの敵討ちも果たせるのだ!!』

 

 演説において、ターニャがテノジアでの戦いに参加したことが明かされた。その撤退戦で殿を務めていたのか、数多のテノジア軍の将兵等を葬ったようだ。それをアンオスゴタは自分らの同胞達を殺した憎き敵だと演説で強調し、更には正義の帝国のラインハルトを討ち取ったターニャを討てば、両方の戦いで散ったテノジア軍将兵等の仇を取れると豪語する。更にアンオスゴタは、ターニャを討ち取れば、ラインハルトも殺したのも自分たちテノジアの者だと言い始めた。

 

『暴論かもしれんが、我らテノジアがラインハルトを討ち取ったことにもなる! あの女児の皮を被る悪魔さえ倒せば、後は烏合の衆であり、我がテノジアの軍勢が奴らの拠点に進軍すれば、陥落は必然! 新百合帝国と名乗るテロリスト共は賊軍に逆戻りだ! だが!』

 

 ターニャさえ倒してしまえば、新百合帝国軍に残された者が烏合の衆であるとアンオスゴタは言うが、自分たちの大戦士であるダリュンに匹敵する戦士等が居ることを知らないようだ。

 まだ見ぬ強敵の存在を知らないアンオスゴタは演説を続け、ラインハルトを討ち取ったターニャを相手に不安を抱く将兵等を安心させるため、テノジアが誇る大戦士であるダリュンが討伐たちに参加することを明かす。

 

『あの悪帝ラインハルトを討ち取った悪魔を相手にすることに不安を抱く者は居ろう! だが、我らには大戦士ダリュン・ヴァフリズ殿がついている! 我らテノジアが誇る大戦士殿もまた、卑劣な悪帝ラインハルトの前に散った大将軍ヴァフリズ殿の仇を討つべく、この遠征軍に参加したのだ! 大戦士殿のみならず、数多の強者たちも参加している! 諸君らを含めるこれ程の猛者が揃っていて、勝機が無いなどと口にする者は居るまい!!』

 

 ダリュン・ヴァフリズはテノジアが誇る大戦士であり、彼の傘下を知った遠征軍の将兵等は歓喜する。更に士気を高めようと、アンオスゴタはダリュンに匹敵するほどの戦士が数名ほど参加していることを明かし、失敗するなどあり得ないと討伐成功を宣言する。

 

『宣言しよう! この討伐は確実に成功すると断言する! 怖気ついた者も居るまい! 我らの手でターニャ・フォン・デグレチャフを討ち取り、テノジアの名をワルキューレ内外の数多の世界に轟かせようぞ!!』

 

『おぉーッ!!』

 

 ターニャ討伐が確実に成功すると宣言すれば、遠征軍に参加した将兵や戦士たちは歓喜し、空いた手を空高く上げて雄叫びを上げた。兵士たちの士気を最高潮に上げたアンオスゴタは演説を終わらせ、バルコニーを後にする。

 

「殿下、演説ご苦労様です。戦士や将兵等の士気は最高潮ですな」

 

「当り前だ。この俺の王位継承権を確実な物にしてもらわなくては困る」

 

 側近が飲み物を持ってきた後、アンオスゴタはそれを受け取り、一口飲んでから自分の野心を隠すことなく口にする。このターニャ討伐遠征は、アンオスゴタが王位継承権を確実なものとする為であった。彼はターニャを討ち取った功績で名を上げ、テノジアの次期国王となる腹積もりだ。

 

「あの女児の皮を被った化け物に、散々コケにされたからな。おかげで他の兄妹たちの笑い物だが、悪帝ラインハルトを討ち取った事は感謝している。そいつを討ち取ったあの化け物を殺せば、俺の王位継承権は確実な物となる!」

 

 テノジア軍を撃退した実績を持つラインハルトを討ったターニャを討ち取れば、テノジアの次期国王が自分になることは確実だとアンオスゴタは信じていた。

 

「首を洗って待ってろよ、女児の皮を被った化け物め! 既に勝利に必要な物は揃えている。後はこの俺が貴様の首を斬り落とし、テノジアの次期国王となってやる! その次はアイン・ラントへ侵攻し、そこに集まっているイヴ人共を蹂躙し、奴隷にしてやる!! そしてテノジアは俺の手によって、アガサやメイソンを超える勢力となるのだ!! フハハハ!!」

 

 ターニャを討って自分がテノジアの王となれば、新百合帝国の本土があるアイン・ラントへ侵攻するつもりのようだ。新百合帝国を滅ぼしてイヴ人を蹂躙するか奴隷にした後も、アンオスゴタの野望は更に続くようで、その野望とは、アガサやメイソンの両騎士団を上回る勢力となることだ。

 それを高揚しながら口にした後、高笑いしながらターニャ討伐の為の戦支度を行う為、宮殿を後にした。




今回は、テノジア軍&刺客の参戦でした。

本格的に出て来るのは、後半辺りかな?

なんか足りない気がするので、参加者を募集したいと思ってる。
やるかどうかのアンケートやるので、回答お願いしますね。


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ゲーミング部隊の抵抗

名前:ダーメン神父
性別:男
年齢:41
階級:大佐
所属:ゲイムランド軍
乗機:ウロッゾ
概要:自称神父なので、米海軍の従軍牧師みたいな仕事はしない、いわゆるにわか坊主。
十戒全部ブチ犯す煩悩魔人であるが、それだけに運動は欠かさず、ゲーミング部隊に参加したがる奴を訝しむ程度には日課となっている。運動といっても、軍隊の訓練を超えた苦行である。
しかるに、彼のウロッゾは正真正銘の有人機体であり、しかもたちの悪いことに、本人にほんの僅かなXラウンダー適性があることから、そのようにちょびっと改造されているものである。

名前:アドルフ・ラッチマン
性別:男
年齢:肉体年齢20歳
所属:傭兵(ゲイムランド軍特別コンサルタント)
乗機:ギラーガ2号機+ベース・ジャバー
概要:侵攻が始まる10年前に突然セカンドムーンとやらからやって来て、ゲイムランドに色々と軍事教練を施した青年。良くは分からないがゼハート・ガレットに似ているようだが絶対に赤の他人。ちなみに強度のXラウンダー適性ありだが、本人はあまり使いたがらない。
キャラ提供は神谷主水さん

名前:アリス・ビーティー
性別:女
年齢:27歳
階級:中将
所属:ゲイムランド海軍予備艦隊司令長官
乗機:戦艦「インディファディカブル」
概要:ゲイムランドに追放された人。RTA走者の父とゲーム好きが高じてゲーム製作会社を立ち上げたけれど、ゲーム好きならではの過度なこだわりと経営の失敗から倒産させてしまった母を持つ海軍好な人。
キャラ提供はG-20さん

名前:ズラーデ・ヤンネン
性別:男
年齢:47
階級:ゲーミング部隊員
所属:ゲイムランド軍
乗機:RFズゴック
概要:ゲイムランドに追放された元子供部屋おじさん
ガルマみたいな髪型をしているが、実は不摂生な生活が祟って若ハゲになっているのを隠すためのヅラである。
キャラ提供はリオンテイルさん

名前:神楽坂ジュンヤ
性別:男
年齢:22歳
階級:ゲーミング部隊 地上部隊員
所属:ゲイムランド軍
乗機:グルジン
概要:いくつものオンラインゲームにおいて、暴言、荒らし、煽り、晒し等マナー違反を平然と行うゲーマーとして最底辺の男であり、高い勝率も切断やチートによるものである。
世界大会でチートを行ってゲーム会社から訴訟され、親からも絶縁された結果ゲイムランドへ送られた。戦闘においては引き射ちや芋砂といった戦い方で撃墜数を重ねている
キャラ提供はRararaさん

名前:ユイ・カナタ
性別:女
年齢:19歳
階級:ゲーミング部隊特別隊員
所属:ゲイムランド軍
乗機:サイリオン
概要:気が付いたらゲイムランドに居た。
プログラムからIT関連に強くゲームの才能が飛び抜けていた為、衣食住と週休10万を条件にゲーミング部隊に拾われた。
一人称は僕でショート眼鏡、毎食カロリーメイトとレッドブルがお供な生活でかなり痩せている。
普段着に男性用の甚平着用、引きこもり同然の生活を続けているが、風呂は好きらしく毎日入っている。
キャラ提供は宵月颯さん

名前:ガガイラー
性別:男
年齢:46歳
階級:ゲイムランド艦長
所属:ゲイムランド軍
乗機:戦艦ロボット重装甲型(有人操縦式の戦艦型のブレインロボット)+細菌ロボット(の「バラモンの秘密細菌」)
戦艦本体の戦闘力よりも、戦艦に搭載されたミサイルを運搬が主目的
ミサイルは敵陣の上空で破裂し広範囲に特殊細菌をばらまく。ばらまかれた細菌は、死滅する20分の間、接触したあらゆる物質を溶かす事で、敵陣のレーダー等の精密機器や装甲の無効、弱体化、隙間から入り込んで内部から溶かし故障させるなどして敵陣を混乱させる
キャラ提供はkinonoさん

名前:ソウマ・ヌマブチ
性別:男性
年齢:27
階級:ゲーミング部隊員
所属:ゲイムランド軍
乗機:アッシュ
概要:ミリオタでFPSなどゲームばっかやってるやつ、FPSの経験で壁越し撃ちなどそこそこやれる腕を持ってる。
就活でゲイムランドの募集記事見て入り、ゲーム経験が生きゲーミング部隊に入れた。FPSで死体撃ちや屈伸煽り、煽りファンメなどやるなどゲーマーとしてかなりモラルが低い。しかも本人曰く「煽りも戦法の一つ」と嘯くなど結構問題児。
キャラ提供はスノーマンさん


 ところ変わり、連邦軍の大規模な侵攻を受けるゲイムランドでは、激しい攻防戦が繰り広げられていた。

 

「んん? 敵の動きが変わったぞ。さては、先のUCA軍は我らの戦法を確かめるための生贄だな!」

 

 水陸両用MSであるウロッゾを駆る自称神父のダーメン神父は、UCA軍の後から攻撃して来た羽翼元帥指揮下の部隊が、ゲーミング部隊に遠隔操作された味方の無人機が落とされていくのを見て、敵が味方を犠牲にして対抗策を打ち出したと確信する。

 数多ある無人のウロッゾの中で、ダーメンのウロッゾだけは本人が操縦する有人機であり、その圧倒的な技量でUCA軍の機動兵器や艦艇を蹴散らしている。

 

「練度の低いUCA軍相手に飽きていた所だ! 本隊の連邦軍は手応えがあるんだろうなぁ!?」

 

 ウロッゾを駆るダーメンはデモイン級ミサイル巡洋艦の甲板に飛び乗り、鋭利なシグルクローで艦橋を叩き潰し、続けざまに自機の上空を飛来するスピアヘッド数機を胴体に内蔵しているビームキャノンで消し飛ばす。

 それから無人機を対抗策で撃破する本隊の連邦軍に、手応えがあるかどうか確かめるべく、邪魔なVTOLを両手首のミサイルで撃破しつつ、迫る本隊に向かってビームキャノンを放った。放たれたビームキャノンに、本隊の先遣隊であるジェットストライカー装備のウィンダムの編隊は散会し、即座にビームの嵐を浴びせた。

 

「ダーメン神父は良く支えているな。疲れ知らずなのか?」

 

 ベース・ジャバーに跨るギラーガに乗る一見青年とも言えるアドルフ・ラッチマンと言う傭兵は、迫るUCA軍のドートレスフライヤーやジェットストライカー装備のダガーLをギラーガスピアで連続して撃破しつつ、付近で連邦軍の羽翼元帥指揮下の本隊と交戦を開始したダーメンのウロッゾが、防衛線を良く支えていることを評価するも、有人機なのに、疲れ知らずなのかと口にする。

 彼は惑星同盟軍の下級幹部であり、PMCレイブンとしてゲイムランド軍に参加している。その為、アドルフの配下と思われるダナジン二機、ドラド一機、ゴメル三機を合わせて六機が、レイブンの所属機として戦闘に参加していた。尚、この六機のヴェイガン製は全て人が乗った有人機である。

 

「あいつ、同盟軍機じゃないのか!?」

 

『ヘルガストのスタールアームズの支社があるくらいだ。確実に背後には同盟軍が居るな!』

 

『所詮は誰の助けも無ければ、何も出来ない連中だ! これだからいい歳をしてゲームやってる奴らは!』

 

 PMCレイブンとして戦闘に参加しているアドルフらを目撃した連邦軍の本隊の将兵等は、ゲイムランドの背後には同盟軍がいると決め付け、一斉に襲い掛かった。

 

『隊長、本隊が!』

 

「UCA軍よりも圧倒的だな。それに練度も違う。厳しい戦いになるぞ。各員、気を引き締めておけ!」

 

『了解!』

 

 アドルフの方にも連邦軍の本隊が来たので、彼は配下の者たちに気を引き締めるように告げてから、飛んでくるミサイルを躱しつつ、ビームで迫る敵の大群を迎え撃った。

 

「この距離から味方が! 敵に長距離砲を持つ艦艇でも居るの!?」

 

 味方の艦艇であるインヴィンシブルが一撃で沈んだのを見て、専用の施設内で自分の艦隊の指揮を取って戦艦インヴィファディカブルを操作しているアリス・ビューティーは、羽翼元帥の軍に戦艦の大和の存在を知る。

 

「まさか大艦巨砲主義が未だに居るとはね。こちらも、強力な巨砲を持っているのよ!」

 

 次の大和による砲撃で更に僚艦が沈めば、アリスは自分が操作するインヴィファディカブルの主砲を連邦軍水上艦隊に向け、副砲合わせて一斉射を浴びせた。この砲撃で、アーカンソー級ミサイル巡洋艦やミサイル駆逐艦、フリゲート艦などの艦艇を合わせる数隻ほどが沈んだ。

 

「フへへへっ! 俺を子供部屋おじさんなどと馬鹿にする奴は、万死に値するんだよ! 死ねぇーッ!!」

 

 本隊の連邦軍の攻撃を始めた事を確認したUCA軍の水上艦隊は、機動兵器部隊と共に再編の為に後退するが、ズラーデ・ヤンネンが操作するRFズッゴクが襲い掛かり、頭部の対艦・対空ミサイルでフリゲート艦と上空の量産型ヒュッケバインMk-Ⅱ複数を撃破した。それから間髪入れずに潜水し、手近な距離に居た中破状態のタラワ級強襲揚陸艦の船底にヒートクローを叩き込んで穴を空け、両手のビームカノンを撃ち込んで轟沈させる。

 

「俺を馬鹿にする奴はみんなこうなるんだ! しなくても殺すんだがな! ハハハッ!!」

 

 UCA軍のタラワ級を轟沈させたズラーデは、海に飛び込んで漂流している生存者らに向け、RFズゴックの両腕を振って虐殺を行う。

 

「後退命令はまだか!? このままでは全滅するぞ!」

 

 海上で本隊の連邦軍が攻撃を開始し、ゲイムランド軍と激しい攻防を始める中、攻撃を開始したばかりの連邦地上軍の報告を受けた先に攻撃していたUCA軍の陸戦部隊のストライクダガーのパイロットは、三機の僚機らと共に遮蔽物に隠れ、後退命令はまだかと司令部に問うていた。

 そんな後退命令を乞うパイロットが乗るストライクダガーの胴体を、ダナジンの地上用局地戦仕様であるグルジンが、専用の携帯式長距離ビーム砲であるグルジンロングキャノンの砲口の周りにある多数のスリットからビームを噴射させてスパイクを形成し、それで接近に気付くのが遅れた相手を串刺しにした。

 

「うわっ!? なんだこいつは!?」

 

 僚機である他のストライクダガー三機はビームライフルを撃ち込むが、相手はゲーミング部隊に遠隔操作されたグルジンであり、即座に躱されて反撃を受ける。一機はビームサーベルで切り裂かれた後、もう一機は振るわれた尻尾で串刺しにされる。もう一機はビームサーベルを抜き、刺突を行うも、それも躱されて股間部にあるグルジンキャノンを撃ち込まれ、上半身を消滅させられた。

 

「こいつら弱ぇーッ! そんな腕で出てくんなよなぁ!」

 

 画面越しで自分が操作している機体が、生身の人間が乗るMSを撃破して殺害したにも関わらず、弱いなどと言ってその死を咎めた。グルジンを操作する人物は、神楽坂ジュンヤと呼ばれる青年だ。幾つものオンラインゲームでマナー違反を繰り返し、世界大会ではチートを使って起訴され、親に絶縁されてゲイムランドへ送られた。

 それがジュンヤにとって天職であったらしく、今こうして数々のオンラインゲームで行ってきた卑怯極まりない行為で撃墜数を上げている。

 

「おっ、爆撃機か? でも、俺の担当じゃねぇしなぁ。地上戦艦でもやって、スコアを稼ぎますかな」

 

 上空から飛来する爆撃機に気付いたジュンヤだが、担当じゃないと言って無視し、グルジンロングキャノンの照準を、押し寄せる本隊の地上戦艦の艦隊に向けた。

 

「フン、所詮はクズが操作するマシンだ」

 

 海上へ視点を戻し、壊滅状態のUCA軍の援軍として現れた連邦軍の本隊による攻撃を受けたゲイムランド軍は、練度や装備も違う本隊相手に苦戦を強いられていた。

 遠隔操作されているガーリオンを連携で撃破したジェットストライカー装備のウィンダムのパイロットは、撃破した敵機を操作していたゲーミング部隊のプレイヤーを馬鹿にした。

 

「今度はサイリオンか? 単独で挑むとは! どうせクズな引きこもり野郎が操作している奴だろ!」

 

 次に単独で迫るサイリオンに気付いたウィンダムのパイロットは、放たれるボックス・レールガンの弾幕を交わした後、操作しているパイロットを馬鹿にしながら、ジェットストライカーの両翼についている三連装空対空ミサイルポッドの照準をサイリオンに合わせた後、直ぐに引き金を引いて発射した。

 

「そんな攻撃で、僕を倒せると思ってるの?」

 

 画面上に自分に向けてミサイルを放つウィンダムに、サイリオンを遠隔操作するプレイヤーであるユイ・カナタは操縦桿を巧みに動かし、三発の空対空ミサイルを躱し切った。

 

「躱した!? なんだこいつ!」

 

『逃さない…!』

 

 ミサイルを躱されたことで少し動揺する三機のウィンダムが見せた隙を、ユイは見逃さずに、サイリオンの機体後部にあるマイクロ・テスラ・ドライブ・ミサイル(MTDM)を放った。

 

「なっ!? ウワァァァッ!!」

 

 製造費が通常のミサイルの何十倍とも言われる特殊なミサイルは高い命中率を誇り、瞬く間に三機のウィンダムを撃墜した。

 

「向こうに敵集団か。なら、スーパー・ソニック・ブレイカーで一気にやる…!」

 

 画面越しに艦艇を含める敵集団を確認したユイは、一気に殲滅を図るためにサイリオンを上昇させ、TDAノーズを機体前部に向けた。そこから主翼を折りたたみ、ブレイクフィールドを発生させて高速で敵集団に向けて突撃する。ユイが直接乗って居るわけでは無いので、機体は限界速度まで加速している。当然、突っ込んでくるサイリオンに、標的にされた敵部隊は即座に対処する。

 

「サイリオンのカミカゼ突撃だ! 第4小隊のジャベリンのビームシールドで防げ!」

 

 スペングラー級強襲揚陸艦に乗る艦長は、傘下の部隊のジャベリン三機のビームシールドで防げと命じれば、指示された三機のジャベリンは同時にビームシールドを展開し、三機分でビームバリアを張る。これでサイリオンのスーパー・ソニック・ブレイカーを防ごうとしているが、ユイはそれすら突破しようとしていた。

 

「無駄。その程度のバリアじゃ僕の突撃は防げない」

 

 そのユイの言葉通り、限界速度のサイリオンのスーパー・ソニック・ブレイカーは三機のジャベリンが張ったビームバリアを貫き、後方で展開する量産型ビルドシュバインや量産型シュッツバルトを含めるPT部隊を吹き飛ばした。

 

「て、敵機、ビームバリアを貫きました!」

 

「回避だ! 直ちに回避!!」

 

「間に合いません!!」

 

「ワァァァッ!?」

 

 まだ限界速度のサイリオンは、慌てて回避行動を取ろうとするスペングラー級強襲揚陸艦に突っ込み、見事に突っ込んだ艦諸とも爆散した。

 

「あぁ、一機やられちゃった。それに敵部隊一掃してないし。直ぐにコンテニューしなくちゃ」

 

 自分のサイリオンが敵艦に突っ込んで爆散したが、標的にした部隊を壊滅できていなかった。目前の画面が砂嵐になる中、ユイは再出撃(コンテニュー)をすべく、予備のサイリオンを起動するためにキーボードを操作する。

 ショート眼鏡の痩せ細った少女のような外見をしているユイ・カナタは、このゲイムランド出身者ではない。気が付いたら居たそうだ。プログラムを含めるIT関連に強く、ゲームの才能が飛びぬけていたため、衣食住と週休十万を条件にゲーミング部隊に入隊した。

 普段着は男性用の甚平であり、引きこもり同然の生活を続けているが、風呂は好きなので、毎日入浴している。

 

「ワハハハッ! このガガイラー様の戦艦ロボット重装甲型の防衛線は、何者にも突破できん!」

 

 ガガイラーと名乗る大男は、自信が操作するロボットとは言い難い有人操縦式の戦艦型で、多数のUCA軍の兵器を破壊しながら高笑いする。

 

「むっ? あれは敵の本隊! UCAは生贄と言う事か! ならば、この細菌ロボットで混乱するが良いわ!」

 

 連邦軍の本隊からの攻撃を受けたガガイラーは、多数のミサイルを敵軍の上空へ向けて発射した。

 

「クラスター弾か!?」

 

 前進する水上艦隊と随伴する機動兵器部隊は、ミサイルを即座に迎撃する。素早い反応であり、UCA軍とは比べ物にならない練度の高さと言えよう。だが、ガガイラーの戦艦が放ったミサイルは、特殊な細菌兵器が搭載されていた。

 

「な、なんだ!? 機体が溶けて…!」

 

 ミサイルが爆発した後でばら撒かれた細菌を浴びたスピアヘッドは、徐々に溶けて爆発する。ガガイラーの戦艦が放った細菌兵器は、接触したありとあらゆる物質を溶かす特殊細菌なのだ。

 

「れ、レーダーに異常発生!」

 

「通信機器にも異常が!?」

 

「強烈なジャミング兵器か!? それとも電磁パルス(EMP)でも受けたのか!?」

 

 細菌を浴びた水上艦艇でも異常が発生する。それは、通信機器やレーダーと言った精密機器の異常であった。この時代は艦艇の搭載火砲や機動兵器も含め、ありとあらゆる兵器が精密機器が使われている。ガガイラーの細菌兵器は、これらの精密機器を使う兵器にとって、まさに脅威なのだ。

 

「ブハハハッ! 慌てろ、慌てろぉ! 慌てふためきながら死んで行けェ! はっはっはっ!!」

 

 細菌兵器を受けて混乱する敵部隊に対し、ガガイラーは容赦なく戦艦ロボットの火砲を撃ち込んで、一方的に蹂躙し始めた。

 

「あのアッシュは何処だ!? うわっ!」

 

 UCA軍の空母の飛行甲板から水陸両用MSであるアッシュを探していたヘビーガンであったが、即座に飛んで来たビームで頭部を撃ち抜かれる。敵機の頭部を撃ち抜いたアッシュは、即座に海中へ潜ってクローで船底を抉り、空母を破壊し始める。

 

「今ならヘッドショットなんだけどなァ。でも、ゲームじゃねぇしな、これ」

 

 そのアッシュを安全な後方の施設から操作するソウマ・ヌマブチは、自分がやっていたゲームなら倒せていたと呟きながら、空母の船底を破壊する。それから甲板の上に居る敵機を誘い出すべく、煽るように海面に自機の姿を晒した。

 

「こ、こいつ! 舐めやがって!」

 

 母艦が今にも沈みそうな時に、まだ残っていたGキャノンのパイロットは、ソウマが操作するアッシュの煽るような行動に怒りを覚え、両肩のマシンキャノンを掃射した。この弾幕にソウマは笑みを浮かべ、相手が挑発に乗ったことを確認し、直ぐに水中へ機体を引っ込める。

 

「クソ、何処だ!? 出てこい!」

 

『止せ、奴の挑発だ!』

 

 先の挑発行為が頭にきているGキャノンのパイロットは、僚機のジェガンJ型に乗る同僚の言葉に耳を貸さず、レーダーやカメラでソウマのアッシュを探すが、姑息な彼が遠隔操作するアッシュは見当たらない。そんなソウマは機体を海中から飛び出させ、沈み行く空母の飛行甲板の上に立ち、あろうことか敵機の目の前で屈伸を行う。これも挑発行為である。

 

「や、野郎! ぶっ殺してやる!!」

 

 自分を煽るよな行動をしたソウマのアッシュに対してGキャノンのパイロットは、激怒しつつ再びマシンキャノンを掃射した。ヘビーガンやジェガンJ型、ダガーLなどと言った他の僚機も手持ちの兵装を敵機に向けて撃ち始める。これをソウマは躱しつつ、ゲームで積んだ経験で躱しながら攻撃し、次々と飛行甲板に残る敵機を撃破していく。

 

「み、味方が!? うわっ!!」

 

 後は自分一人になったGキャノンのパイロットは驚くが、ソウマのアッシュに両足を撃ち抜かれ、更には頭部も破壊される。

 

「ヒヒヒッ、とどめだぁ!」

 

 甲板の上に倒れたGキャノンに対し、ソウマは下品な笑い声を上げながらアッシュを近付かせ、恐怖で残った火器を乱射する敵機にクローを突き刺した。

 

「へへへっ、UCA軍には俺に敵う奴は居ないようだなァ!」

 

 機体が沈黙した後、ソウマは既に沈黙した敵機や逃げ遅れた水兵たちに攻撃を加え、まだ生きているパイロットや水兵たちを虐殺する。

 ソウマ・ヌマブチはミリタリーオタクであり、FPSなどと言ったゲームの経験でそれなりの腕を持っていた。ゲイムランド軍に入ったのは就活の募集記事を見ての事であり、ゲーム経験が生き、ゲーミング部隊に入れた。

 だが、ソウマのゲーマーとしてのマナーは最悪であり、死体撃ちや屈伸煽り、煽りメールなどとそのモラルはかなり低い。そればかりか、当の本人曰く、煽りも戦法の一つなどと嘯く始末だ。

 

「ヒヒヒッ、スコアフィーバーだぜぇ!」

 

 そんな彼が海上で漂流する兵士らを見れば、格好の獲物と判断して襲い掛かるだろう。ソウマはアッシュの両腕を振るい、漂流しているUCA軍の将兵等を虐殺した。

 

「本隊の攻撃で膠着状態か。まぁ、これくらいでなくては、面白くないな」

 

 傘下の部隊の攻撃でも、膠着状態に持ち込むのが手一杯と判断した羽翼正義元帥は、遂にスパルタンⅤの出撃を命じた。

 

「スパルタンⅤに告げる。出撃準備完了後、直ちに出撃せよ」

 

 その命令に応じれば、スパルタン・ソルジャーやマサト・クサカことスパルタン・カイザを含めるスパルタンⅤ等は、羽翼元帥の座乗艦より出撃した。




今回はゲーミング部隊だけです。次回からスパルタンⅤ登場です。

活動報告にて、応募を再開しました。是非ともご応募ください。


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出撃、スパルタンⅤ

名前:スパルタン・バッシュ1
性別:男
年齢:?(肉体年齢は20代後半)
階級:中尉(元)
所属:スパルタンV
乗機:GAT-707E フォビドゥンヴォーテクス
概要:元海兵隊のエースパイロットであったが、地球奪還作戦の北米戦線において死にかけたところをクッソ怪しい男に回収され、そのまま人体改造を受けた。その結果、機体内における深海の圧にも耐えうる体を手に入れた。

名前:スパルタン・バッシュ2(バッシュ・クリルマン)
性別:男
年齢:?
階級:大尉
所属:スパルタンV
乗機:レイダー制式仕様
概要:地球奪還作戦では太平洋戦線で活躍した海軍エースパイロットのひとり。しかしある島で楽しく原住民ごと敵陣地を殲滅してしまったかどで軍法会議を受け、銃殺を待つ身であったところに羽翼正義からの誘いを受け人体改造を施された。
凶暴ではあるが他のスパルタンVに比べたらいくらかまともなので、通常の部隊との連携を前提に正義麾下の正規軍MS大隊長としてレイダー制式仕様を与えられた。

名前:スパルタン・ギルティ
性別:男
年齢:44歳
階級:無
所属:スパルタンV
乗機:GAT-X105E+AQM/E-X04 ストライクE・ガンバレルタイプ
概要:数々の解放地における、降伏した自由惑星同盟軍兵士の殺害や強盗・放火など5犯に問われ死刑宣告を喰らうほどのクライムジャンキー。
空間認識能力に異常に優れ、また「眼が良すぎた」ため研究所に無理やり連れて行かれてクソみたいな量の薬物を投与された結果、空間認識能力はそのままに、人格を失ったマシーンのようななにかになってしまった。

名前:バーツ・アルフォンソ
性別:男
年齢:45歳
階級:少将
所属:連邦地上軍第13強襲艦隊司令官(羽翼正義麾下)
乗艦:スペングラー級強襲揚陸艦「アドミラル・ラムゼー」
概要:正義元帥にスパルタン・バッシュを押し付けられた苦労人。しかし当のバッシュが案外部隊に良い意味で馴染んでいるという報告を受け安堵している。

名前:アルベルト・オイカワ
性別:男
年齢:30
階級:中尉
所属:連邦地上軍第13強襲艦隊
乗機:105ダガー(ジェットストライカー)
概要:スパルタン・バッシュの相棒役。
キャラ提供は神谷主水さん

名前:スパルタン・タイプカリスト
性別:??
年齢:??
階級:無
所属:スパルタンⅤ
ミニョルアーマー:ベーシックカラー、但しバイザー部分からは緑色の液体が蠢いているのが見える。
概要:ゲームLIVE A LIVE(ライブアライブ) 近未来編にて登場した「液体人間」の技術を使用して生産されたスパルタン。
スパルタン施術をした複数の人間を液体人間化させて混ぜ合わせた上で、スパルタン一体分に必要な分を汲み上げてタイプカリスト用の特注ミニョルアーマーに注入するという手法で作られている。
一定値の性能のスパルタンを揃える、という目的においてはベースとなる液体人間溶液が完成してしまえば、後は適度に液体人間を補充するだけで容易にスパルタンVの数を増やせるが、飛び抜けた個体は生まれず自主性に乏しい。
とはいえ他のスパルタンに指揮される小隊員としてなら費用対効果で辛うじてプラス、なのでそれなりの数が作られて他のスパルタン指揮下に配備されている。
キャラ提供はリオンテイルさん

名前:スパルタン・ゴウダ(剛田 厳十郎)
性別:男
年齢:25
階級:大佐
所属:スパルタンⅤ
ミニョルアーマー:通常のものよりもふた回り程大きな鎧武者のような見た目をしていて、内蔵した様々な重火器と二本の大太刀を武器もしている。(見た目はだいたいドラグナーのギルガザムネ)
概要:羽翼元帥の信望者であり、簡単に言えばジェネリックイオク様。(元帥の視界には全く入っていない)
階級もコネ等で手に入れたものであり、本人も戦闘力はあっても頭の方は対して良くない。

名前:スパルタン・ルシファー
性別:男
年齢:23
階級:無
所属:スパルタンV
ミニョルアーマー:仮面ライダールシファーに似ている
概要:元半グレ集団のリーダーであり、同じく元半グレのスパルタンV
達を率いている。卑劣な性格で、人質や肉盾等を平気で行う

名前:スパルタン・アバドン
性別:男
年齢:21
階級:無
所属:スパルタンV
ミニョルアーマー:仮面ライダーアバドンに似ている
概要:上記の半グレ仲間の一人。中身はチンピラ
キャラ提供はRararaさん

名前:スパルタン・レイニー(レイニー・ラグナス)
性別:女
年齢:16歳
階級:准尉
所属:スパルタンⅤ(元囚人)
乗機:量産型F91・スパルタンⅤ仕様(白の部分を灰色に…モチーフはハリソン専用F91)
概要:スパルタンⅤに属する少女。元は両親を殺害した囚人とされているが、真実は父親が母親と自身と無理心中を図ったが…母親が彼女を庇い亡くなり、彼女自身は無我夢中で父親を殺めてしまった。
裁判では実刑を処され、比較的軽度であったが、MS適性が優秀だった為、減刑を交換条件としてスパルタンⅤになった。
キャラ提供はエイゼさん

名前:スパルタン・バレット(本名ゲンヤ・ヒムロ)
性別:男
年齢:28
階級:元少佐
所属:スパルタンV
乗機:νガンダムHWS(νガンダム(ff)の様にトリコロールのマーキングが施されている)
概要:スパルタンVに所属する男で容姿はヒューマンバグ大学の戸狩玄弥の若い頃の姿の目を青にした感じ。元は連邦軍少佐だったが軍内の権力争いに巻き込まれた結果、無実の罪で投獄されてしまう。だが、20代で佐官に至る程の実力などを見込まれ、司法取引の形で釈放を条件にスパルタンVになった。
キャラ提供は月見きつねうどんさん


 羽翼正義元帥隷下の部隊をもってしても、ゲイムランド軍の防衛線を突破できなかった。これに羽翼は、遂にスパルタンⅤの投入を決定する。

 

「ようやく出撃か。奴らが操作するドローンくらい倒せなければ、奴には勝てないな」

 

 専用の機器を使ってスパルタン・カイザのミニョルアーマーを装着したマサト・クサカは、出撃命令に応じて専用のヘルメットを脇に抱えた。

 

「そう言えば、あの出戻りは何処なんだろうな。ヘルブラザーズにでも聞くか」

 

 同じ元ONIでスパルタンⅤにも関わらず、この場に姿を見せないシドの事が気になってか、カイザは偶然にも近くに居たミニョルアーマーを身に着け終えた地獄兄弟(ヘルブラザーズ)ことスパルタン・キックとパンチに問う。

 

「なぁ、あのシドって奴の事、知らないかな? 姿が見えないんだが」

 

 見下すような態度で聞いたため、パンチとキックは眉をひそめたが、ここでやり合うつもりは無いのか、悪態を付きながらも正直に答えた。

 

「相変わらずイラつく奴だな。あいつが何処にいるかなんて俺は知らねぇよ。知ってか、弟よ?」

 

「俺が知るわけねぇだろ、兄貴。シドの奴は俺らのことを馬鹿にしてて話さないんだ」

 

 地獄兄弟は同じヴィンデルから送り出されたスパルタンⅤであるが、シドは兄弟のことを信用していないのか、あるいは口が軽い事を知ってか、何処へ向かうのか告げずに行ったようだ。この地獄兄弟の答えに、カイザは怖気付いたか、羽翼元帥とは違う人物からの指示を受けていると判断する。

 

「フン、戦闘用ドローン相手にビビッて逃げたか、誰かの指示を受けて行動しているようだな」

 

「どういうこったよ?」

 

「暴れる事しか能がない単細胞の君たちじゃ理解できないさ。そこの欲しい玩具を貰った子供みたいに燥いでいる馬鹿共と同じなんだよ、お前らは」

 

「てめぇ、俺たち地獄兄弟を馬鹿にしているのか!?」

 

 シドが誰かの指示を受けて行動していると言うカイザに対し、兄のキックはどういうことなのかと問う。これにカイザは、馬鹿な地獄兄弟には理解できないと返した。自分らを見下すカイザに対し、弟のキックは激怒して胸倉を掴もうとするが、兄に止められる。

 

「止せ弟、こいつの挑発に乗るんじゃねぇ」

 

「でもよ兄貴!」

 

「誤射に見せ掛けりゃ良い事だ。冷静になれ、弟」

 

 激怒する弟のパンチを宥めた後、キックは睨み付けながらカイザに、ミニョルアーマーを纏った子供のように燥ぐ燥いでいる四人のスパルタンⅤと一緒にするなと告げる。

 

「それよりカイザさんよ、俺たちをあんなザコ共と一緒にするんじゃねぇ。あぁ言う奴らは、俺ら地獄兄弟が散々ぶっ潰してきた半グレのザコ共だ。連中、初めてだから。この戦いで全滅するだろうよ」

 

 キックはミニョルアーマーを纏って燥ぐスパルタン・ルシファーやアバドンを初めとする四人のスパルタンⅤが、元半グレであると見抜いていた。

 地獄兄弟は治安の悪い地域で育ち、狂犬ぶりの戦いようから裏社会でその名を轟かせていた。故に裏社会は麻薬ディーラーに身を落としたシド以上に詳しく、自分と同じような暴力しか取り柄の無い人物の区別は見るだけで判断できる。地獄兄弟にとって半グレなど、群れるだけのザコなのだ。

 

「あれ、地獄兄弟か?」

 

「あぁ、地獄兄弟だぜ! ここで殺しちまおうか?」

 

 地獄兄弟から雑魚扱いされていることにも気付かず、ルシファーとアバドンはその存在に気付き、アーマーを身に纏った今の自分たちなら殺せると豪語していた。

 

「先に殺されてぇか!? こらぁ!!」

 

 これに強く反応したパンチは、先にルシファーとアバドンを殺してやると言うが、リーダーであるスパルタン・ソルジャーに諫められる。

 

「双方とも、ここでの戦闘は禁止だ。応じなければ、軍規違反で処罰する」

 

「なんだこら? てめぇ、偉そうに指図してんじゃねぇぞ! 殺すぞコラ!」

 

「やれやれ、一般応募なんてやるから駄目なんだよ。あんな馬鹿共に高価な装備を与えるなんて、元帥閣下の見込みは甘いな」

 

 ソルジャーの警告に対し、ルシファーは腹を立てて殺すと脅し始める。そんな光景を見ていたカイザは、一般応募すれば、ルシファーのような連中が出て来るのが分かった羽翼元帥の判断に疑問を抱いた。

 

「それは脅しか? お前がサインした契約書には、いかなる命令にも服従すると記してあったはずだが」

 

「意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇぞゴラァ!」

 

「やんのかこら! あぁん!?」

 

 カイザが離れた後もルシファーやアバドンは、契約違反だと言うソルジャーに突っかかる。それをキックとパンチは見ているだけだ。自分の指示を聞かないルシファーとアバドンに対し、ソルジャーは命令に逆らうスパルタンⅤの懲罰装置を起動する。

 

「グワァァァッ!? な、なんだこりゃあ!?」

 

「お前たち二名は規約違反を犯した。これも契約書に書いてあったはずだが?」

 

「止めろォ! 止めないと殺すぞぉ!!」

 

「私の命令に従うのであれば、止めても良いが?」

 

 余りの痛みに絶叫する規約違反の両スパルタンⅤに対し、ソルジャーは命令に従うのであれば、止めると告げる。

 

「わ、分かった! 分かったから止めてくれ!!」

 

「了承した。次に逆らった場合、洗脳処置を施す。銃殺刑に処されないだけ、適合者であるお前たちはマシだ」

 

 激痛に襲われる両スパルタンⅤはそれに応じ、指示に従うと約束した。これが確認されれば、ソルジャーは次からは洗脳処置を施すと脅して懲罰装置を停止する。

 

「フフフ、悪党どもに正義の鉄槌を下す時だ。いい歳をしてゲームをする奴など、電力を無駄に浪費し、周りに迷惑を掛ける悪党以外に何者でもない! 一人残らず血祭りに上げてやる!!」

 

 数分後、スパルタンⅤは出撃し始めた。

 先んじて出撃するのは、スパルタン・デラックスマンだ。身勝手な自身の正義を振りかざし、開かれた母艦のハンガーより飛び出した。スパルタンⅤが身に纏うミニョルアーマーは、盗まれたISの技術が使われており、自由飛行が可能だ。赤と白のヒーローのような出で立ちのアーマーを身に纏うデラックスマンは、ヒーローのようなポーズを取りながらゲイムランドを目指して飛んだ。

 

「各員、任務内容はゲイムランド軍並びそれに協力している武装勢力の殲滅である。それ以外の物への攻撃は、上層部の許可なく許されない。肝に銘じておくように」

 

 デラックスマンの後に続き、他のミニョルアーマーを纏う事が許された適合者らも出撃しようとハンガーへ集まる。ソルジャーは出撃前に、上からの命令通りに動くように各スパルタンⅤに告げれば、出撃を開始した。

 

「スパルタンⅤの全アーマーチーム、直ちに出撃せよ!」

 

 そのソルジャーの指示が出れば、ミニョルアーマーを身に纏ったスパルタンⅤは続々とハンガーを飛び出し、ゲイムランド軍へ向けて飛行する。専用のヘルメットを被ってカイザとなったクサカもまた、続々と出撃するスパルタンⅤに続いて出撃した。

 

 

 

「提督、元帥閣下よりスパルタンⅤ出撃命令です!」

 

「遂に来たか。よし、バッシュ1並び2、ギルティを出撃させろ!」

 

 海上に展開する艦隊の中にもスパルタンⅤはいた。ミニョルアーマーの適合者では無かったが、身体能力は大きく強化されている為、高価な機動兵器のパイロットに任命された。

 展開する水上艦隊の一つである連邦地上軍第十三強襲艦隊の旗艦であるスペングラー級強襲揚陸艦「アドミラル・ラムゼー」にて、羽翼正義の指令の下、提督であるバーツ・アルフォンソ海軍少将は自分の艦に乗艦しているスパルタンⅤを出撃させろと指示を出す。

 

『スパルタン・バッシュ1並び2、ギルティは直ちに出撃せよ』

 

「ハッチ、開けろぉ!」

 

 アドミラル・ラムゼーのハンガー内で出撃のアナウンスが響けば、収容されている水陸両用MSであるフォビドゥンヴォーテクスとレイダー制式仕様、ガンバレルストライカー装備のストライクEが起動し、二つの眼を光らせる。

 それと同時にハッチが開き、ベルトコンベアで自動的に発信位置に進められると、即座に出撃を開始する。元海兵隊のエースパイロットであったスパルタン・バッシュ1が駆るフォビドゥンヴォーテクスは水中へと潜り、海軍のエースパイロットであるスパルタン・バッシュ2が駆るレイダー制式仕様は飛行形態へと変形し、上空を飛んだ。

 飛行能力を持たないガンバレルストライカー装備のストライクEを駆るギルティは、上空を飛行するバッシュ2のレイダー制式仕様の上に機体を乗せた。

 

『オイカワ中尉、小隊と共にスパルタン・バッシュとギルティに随伴しろ!』

 

「了解! アルベルト・オイカワ中尉、105ダガー出撃します!」

 

 その後を追うように、アドミラル・ラムゼーの飛行甲板に立つ四機のジェットストライカー装備の105ダガーの小隊は、管制官からの指示を受けて出撃する。小隊を率いるアルベルト・オイカワ中尉は、出撃すると告げてから機体のジェットストライカーのスラスターを吹かせ、三機の同型機を引き連れ、先に出撃したガンダムタイプを駆るスパルタンⅤの後へ続いた。

 

『スパルタン・レイニー、直ちに出撃せよ』

 

「スパルタン・レイニー、F91出撃します」

 

 羽翼元帥指揮下の水上艦隊の中にある正規空母にもスパルタンⅤは居り、成人済みなスパルタンⅤが多い中で未成年の十六歳の少女であるスパルタン・レイニーは、リフトで飛行甲板に上げられ、カタパルト前まで自力で歩いている白い部分が灰色な量産型F91に乗っていた。

 カタパルトに両足を装着させれば、管制官からの指示に従ってレイニーは自機と共に、出撃していく他の連邦軍機と共に空母から出撃する。

 

「なんで子供がスパルタンになってるんだ? Ⅴは餓鬼でも応募してんのか?」

 

 羽翼元帥隷下の将兵等はスパルタンは皆成人だと思っており、ジャベリンに乗る一人のパイロットは、まだ十六歳の少女であるレイニーがスパルタンⅤなことに疑問を抱く。それに同型機に乗る同僚が、まだ少女であるレイニー・ラグナスがスパルタンⅤになった理由を明かす。

 

「なんでも、両親を()っちまったそうだ。当の本人は親父が無理心中をやって、お袋が庇って死んだ後、親父を無我夢中で殺したと言っているが」

 

『けっ、どうせ(ヤク)が欲しさの余り、どっちとも自分で殺したんだろ』

 

 レイニーの供述では、父親が無理心中を行い、それで母親が自分を庇って殺害され、襲い掛かる父親に抵抗している内に、無我夢中になって殺害したと言っているが、ジャベリンのパイロットは彼女が薬物中毒者で、金を出さないから殺害したと偏見で決め付けた。

 

『お前、それは飛躍し過ぎじゃないのか?』

 

『まぁ、疑わしいな。減刑目当てに志願した罪人の言う事なんて』

 

「そうだ、罪人なんぞと一緒に戦えるか。盾にしちまおうぜ!」

 

『罪人風情がガンダムタイプに乗ろうだなんて烏滸がましい! レイニーを前に出させろ! 敵の火点を見付けるため、奴を囮にする!』

 

 その一人の偏見に同調してか、出撃した連邦軍の機動兵器らはワザと速度を落とし、レイニーの量産型F91を前に出させる。

 

「あれ、どうして速度が遅く…? 本部へ、どうしてみんな…」

 

『速く前に出ろ、スパルタン・レイニー! 出なければ、敵前逃亡罪として撃墜する!』

 

 自分を前に出させるように速度を落とす部隊に、レイニーは無線連絡で問おうとしたが、前に出ろと言われる。そればかりか、今すぐ従わなければ、敵前逃亡罪として撃墜するとまで脅してきた。これにレイニーは従う他に無く、スラスターを吹かせて集団の前に出た。

 

「スパルタン・バレット、νガンダム出るぞ!」

 

 もう一隻の正規空母より、ケッサリアに乗ったトリコロールのマーキングが施されたνガンダムHWS装備型が出撃した。大気圏内で運用されているのか、六基のフィンファンネルは搭載されていない。

 そのガンダムに乗るのは、スパルタン・バレットと呼ばれる本名、ゲンヤ・ヒムロだ。元は連邦軍少佐であるが、郡内の権力争いに巻き込まれ、無実の罪で投獄される。だが、司法取引で釈放を条件に、スパルタンⅤに志願してスパルタンとなる。ミニョルアーマーの適性が無い為、高級機であるνガンダムを与えられた。

 

 

 

「よく生き延びたな!」

 

「お、おい! 俺の嫁は? 俺の嫁は無事か…!?」

 

「はっ?」

 

 一方の地上では、前線で負傷したUCA軍の負傷兵は二人の歩兵に担がれながら、後方の野戦病院へと運ばれていた。出迎える迎えは、良く生き延びたと負傷兵を褒めるが、彼は自分の嫁が何処だと騒ぎ始めた。これに衛生兵は、負傷したショックで混乱しているのではないかと診断を始めようとするが、両脇を抱えていた歩兵は、負傷兵の懐からある物を出して安心させる。

 

「お前の嫁は無事だよ! ここは安全だから、大人しくして置け!」

 

「あ、ありがとう…!」

 

「なんだ人形か。変わった奴だ、そんな気色悪い物を読めと言うだなんて」

 

 戦友が嫁と表して大事にしている物が無事であることを伝えれば、負傷兵は涙を流す。彼が嫁と表していた物は、美少女フィギュアであった。これに衛生兵は呆れつつ、負傷兵を抱き抱えて野戦病院へ運ぼうとしたが、二名の歩兵と負傷兵は驚いた表情を浮かべたまま固まっていた。

 

「ど、どうした?」

 

「う、うわぁ…!」

 

「な、なんだあんたは!?」

 

 何かを見て驚いているので、それが何なのかと問えば、彼らは自分の背後を指差した。後ろを振り返れば、巨大な鎧武者がそこに居た。

 三日月の角がある兜を被っており、まるで伊達政宗の武者甲冑のようだ。腰には二本の大太刀を携えている。どうやら、彼もまたスパルタンⅤであるようだ。

 

「ぐわっ!?」

 

「な、何を…!? わっ!?」

 

 鎧武者は衛生兵を弾き飛ばすように退かした後、美少女フィギュアを取り上げ、あろうことかそれを握り潰した。

 

「な、なんてことをするんだ!」

 

「お、俺の嫁が…!」

 

「嫁だと? こんなガラクタを嫁と表するなど、甘ったれているな!」

 

 同僚が怒り、負傷兵は自分の宝物である美少女フィギュアを握り潰されたことに絶望する。そんな負傷兵に対し、鎧武者は激怒して彼の頭部を大きな手で掴んで持ち上げた。

 

「う、うわっ! な、何をするんだ!?」

 

「なんてことを! 離しやがれ!」

 

「降ろせ! 彼は負傷者なんだぞ!!」

 

 突如となく甘ったれていると言って負傷兵の頭を掴んで持ち上げる鎧武者に対し、周りは止めようとするが、当の本人は周りを気にすることなく自分の怒りを対象にぶつける。

 

「甘ったれている以前に、萌えなどと言う日本社会に衰退をもたらした憎むべき電子麻薬(デジタルドラッグ)に夢中になるなど、軍人どころか人として失格! 大人になってこんな非現実で退廃的な物に現を抜かす貴様は、再教育するかこの場で処分するしかない! さぁ、選べ!!」

 

 負傷兵の趣味に鎧武者は自分の思想で危険と見なし、再教育を受けるかこの場で殺されるかと強い力で締め付けながら問うてきた。負傷している上に、握り潰す勢いで自分の頭部を掴んでくる鎧武者に、負傷兵は暴れて助けを呼んだ。

 

「た、助けてくれ! 殺される!!」

 

「畜生が! 離さないと撃つぞ!」

 

 この叫びを聞いて、二名の歩兵と周りに居たUCA軍の将兵等は手にしているライフルの銃口を向けた。四方八方より銃口を向けられているにも関わらず、鎧武者は恐れるどころか、一切の警告にも応じずに負傷兵と頭部を掴んでいた。

 

「こ、こいつ! ハチの巣にされたいか!?」

 

「フン、この人間として失格な愚図を庇うとは。貴様らもこいつと同様に、再教育か殺処分が必要なようだな」

 

「何を勝手なことを! 彼は負傷兵なんだぞ!? そんな下らない考えよりも、彼を治療する方が先だぞ!」

 

「この大佐である剛田厳十郎ことスパルタン・ゴウダに、その無礼な口を利くとは! 上官侮辱罪で全員処罰する!」

 

 再三の警告に対し、全く応じるどころかUCA軍の将兵等に敵意を向ける。苦しんでいる負傷兵を一刻も早く助ける為、衛生兵は真っ当な意見をぶつけるが、それが鎧武者ことスパルタン・ゴウダを怒らせてしまった。

 彼もまたスパルタンⅤであり、ミニョルアーマーの適性があって戦闘力も高かった為に、スパルタン・ゴウダになれた。羽翼正義元帥の信望者であり、その偏見で歪んだ思想も彼を信望する余り出来た物だ。尚、階級はコネで手に入れた物である。

 激怒したゴウダは負傷兵の頭をリンゴを砕くように潰した後、近くに居た味方のUCA軍の歩兵二名をアーマーの腕力で殴り飛ばした。ゴウダの戦闘力と専用のミニョルアーマーのパワーは絶大で、二名の歩兵は殴られた衝撃で即死する。

 

「う、うわっ! し、死んでいる!? 一撃で、一撃で死んでいるぞ!!」

 

「う、撃て! 撃てぇ!!」

 

 二名の歩兵を殺したことで、スパルタン・ゴウダはUCA軍の敵となった、雨あられとライフルや分隊支援火器、拳銃と言った銃弾の雨を浴びせられるが、ゴウダの鎧武者のようなミニョルアーマーには全く通じない。そればかりか、シールドすら必要としない程だ。

 

「貴様ら、この俺と敵とみなすか! どうせ民主主義者(リベラル)は無能で悪なのだ! 直ちに抹殺する!!」

 

 自分を完全に敵と見なしたUCA軍にゴウダもまた敵と見なし、羽翼元帥と同じ思想を掲げて周囲の味方であるはずの兵士たちの虐殺を開始した。腰の二振りの大太刀を抜くどころか、一切の武器を使わずに手足のみでUCA軍の将兵等を殴り殺していく。僅か十数秒ほどで、ゴウダを敵と見なして撃ってきたUCA軍の将兵等は壊滅した。

 

「あ、悪魔だ…! 一個小隊を、数十秒で…!!」

 

 銃声を聞いて出て来た軍医は、数十秒で自軍の将兵等を皆殺しにしたゴウダを悪魔と呼ぶ。野戦病院には、士官一人を含める三十八人ほどの一個小隊が居た。それをゴウダは十数秒でしかも内蔵兵器や武器を使わずに全滅させたのだ。増援の分隊が駆け付けるも、返り血塗れのゴウダを見て、思わず足がすくんでしまう。

 

『ゴウダ! 剛田大佐! 何をしとるかァ!? はやいとこ出撃せんかァ!!』

 

「おっと、私としたことが。無駄な時間を使ってしまった。あのエマとか言うアバズレよりも、戦果を挙げねば!!」

 

 あの地上部隊の指揮を任されている大将より出撃の催促の無線連絡が入れば、ゴウダはエマに対抗心を抱きながらアーマーのスラスターを吹かせて上昇し、一定の高さまで上がれば前線の方角に頭を向け、そこへ向かって飛んでいった。違う陣営とはいえ、友軍の将兵等を身勝手な理由で殺害する愚行を犯しているが、ゴウダは全く意に介さず、戦果を挙げる事ばかりを考えていた。

 

「い、行った…! あ、あれがスパルタンⅤなのか…!?」

 

 ゴウダが去った後、野戦病院のUCA軍の将兵等は命拾いした。あの大将の催促が無ければ、今ごろゴウダは、野戦病院に居る負傷兵らも排除すべきリベラルと表して手に掛けていた事だろう。

 

 

 

 羽翼元帥が自身の虎の子であるスパルタンⅤの出撃を命じた頃、惑星の衛星軌道上にて、チロプテラ級ステルス艦がゲイムランドを真上にした位置で待機していた。

 このステルス艦の所属はUNSC海軍であり、主に特殊作戦で運用されているのだが、今回はある者の意向で羽翼元帥の本隊とは違う行動を取っている。

 

「液体なんか入れて、本当に役に立つのか?」

 

 他のスパルタンⅤの中に居なかったシドの姿は、チロプテラ級の艦内にあった。

 艦内の待機室にて、人形のように整列している従来のスパルタンと同じミニョルアーマーのヘルメットのバイザー部分をシドは疑問を抱きながら軽く叩いていた。

 そのスパルタンもシドと同じⅤであるが、ヘルメットの中身は液体である。名付けてスパルタン・タイプカリスト。

 ミニョルアーマーの中に、スライム状の液体を注入して作られているのだ。人数はおよそ十六体で、一個分隊を八体とすれば、十六人編成の小隊である。

 

「また何処かの世界の技術を使ってんだろうな。このミニョルアーマーと同じく」

 

 シドは自分が身に着けているミニョルアーマーと同様、タイプカリストの本体である液体は、別世界の技術と見抜く。元ONIの工作員としてのシドが持つ情報の中で、タイプカリストのような技術は存在しないからだ。

 

「まぁ、液体でも入れて数を増やせば、お手軽か」

 

 そうタイプカリストの長所を評価しつつ、シドは自分のミニョルアーマーのヘルメットを被り、出撃準備を始める。

 

「さて、ODST(ヘル・ジャンパー)を気取るつもりはねぇが、こいつを着てれば、地面にキスをすることなく降りれるな」

 

 視線の向こうにあるODST用の降下ポッドを見ながら、ミニョルアーマーなら安心して降りられると言いつつ、降下ポッドの方へ向かった。その後を十六体のタイプカリストが続く。綺麗な二列横隊で。

 背後に居るのはあのヴィンデル・マウザーであり、彼は何らかの目的でシドに十六体のタイプカリストを指揮下に入れ、ある極秘任務を行わせようとしていた。

 

 果たして、その任務とは?




出撃だけとなりました。一人、味方を殺してる奴が居ますが。

戦闘と残りのスパルタンⅤは次回で登場予定です。残りの連邦軍メンバーも。


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強襲、スパルタンⅤ

名前:オルセン・メルリゴラント
性別:男
年齢:27歳
階級:少尉
所属:水上艦隊所属航空機隊
乗機:ジェット・コアブースター
羽翼正義元帥指揮下の航空機隊の一部隊を率いる現場士官
出世欲と保身が程よくミックスされた俗物、可能な限りの安全を確保しつつ手柄になりそうな美味しい所だけ持っていきたい、出来るかどうかは別問題
キャラ提供はリオンテイルさん

名前:スパルタン・フラウロス(シェリー・フラウロス)
性別:女
年齢:17
階級:少尉
所属:スパルタンV(元地球連合所属)
ミニョルアーマー:ISよりの外見をしていて、右腕に巨大なクローアームを装備している
概要:ブルーコスモス陣営との政治的取引によって引き入れられた新型生体CPUであり、濃いピンクの髪色をしたギャル風の美少女。取り引き上洗脳処置は施されていない。
元々生体CPUとして高い能力を持ち、その上でスパルタンVの手術を受けたので戦闘能力はスパルタンVの中でも上位。
頭も含めて自身の能力に絶対の自信を持ち、自分よりも能力が劣っていると判断した場合、たとえ上司であっても従わず小馬鹿にするような態度をとる所謂『メスガキ』的な性格だが、逆に正面から助力を頼んでくるような素直な相手にはわりと甘い。

名前:スパルタン・ブライト
性別:男
年齢:29歳
階級:無し
所属:スパルタンV
乗機:ペーネロペー(オデュッセウスガンダム)
概要:元VRゲーム【スーパーバーニングPT】(この世界版バーニングPT)
のトップランカー。
その機動兵器での戦闘における高い適性を見出だされてしまい、『冤罪をかけて牢屋に入れる』と脅され、無理矢理改造を受けた。
結果、まるでいつものゲームのように『自慢の機体に乗って強いやつと戦い勝利したい』という気持ちが先行し、他人どころか自身の命さえ顧みないある種のバーサーカーになってしまっている。
キャラ提供はRararaさん

名前:エッジ・オコーネル
性別:男
年齢:25歳
階級:臨時大尉(元少尉)
所属:UCA陸軍第4水上分遣艦隊MS部隊(臨時隊長)
乗機:ジェムズガン
概要:UCA陸軍第4分遣艦隊のMS部隊の一隊員だったが、先の戦闘に於て上官並びに先任士官らが撃墜又は、負傷による戦線離脱により急遽臨時隊長に任命された苦労人。
指揮官としては最下位だったが、尉官クラスでの最先任であったため、隊長としての役割に四苦八苦しながらも任務を全うする。
キャラ提供はエイゼさん

名前:スパルタン・サンダール
性別:男
年齢:38
階級:無し
所属:スパルタンV
ミニョルアーマー:忍風戦隊ハリケンジャーの暗黒七本槍・七の槍サンダールを漫画URTRAMANのウルトラマンスーツの様に機械化した感じ。使用武器は原典同様大剣『赦悪彗星刀』。
概要:原典のサンダール同様、甘言で他者を操る事が得意で、スパルタンVに属する前からそれを発揮して各地で数々の内紛を起こしてきた。実はヴィンデル・マウザーの手の者の一人。
表面上は協力的だが、本質は冷酷な野心家で他者を信用せず私利私欲の為に利用する事だけ考えている。甘言だけかと思わせておいて素の実力もかなり高く、愛刀の赦悪彗星刀と鉄扇を用いて戦う。
キャラ提供は月見きつねうどんさん

名前:スパルタン・クロウ(クロウ・ホライゾン)
性別:男
年齢:23
階級:少尉
所属:スパルタンV
武器:ミニョルアーマー(中長距離銃撃戦仕様)
黒い電磁迷彩機能を持つミニョルアーマー。
サイドアーマー内には精密射撃時に地面に固定する2本のパイルバンカーを収納され、中距離用にMA5Dアサルトライフルと接近戦用の直刀を持っている。背部には大型の二脚付きスナイパーライフルを装着している。
概要:元傭兵の茶髪のロン毛を後で縛った男。
キャラ提供は(OwO)さん


 遂に戦場にスパルタンⅤが現れた。

 ミニョルアーマーを纏う者たちと機動兵器を駆る者たちに別れ、ゲイムランド軍のゲーミング部隊に襲い掛かる。

 

「なんだ、あいつら?」

 

「知るか! スコア更新だぜ!!」

 

 新手として現れたスパルタンⅤ等に、前線に出ている機体を遠隔操作しているゲーミング部隊のゲーマーたちは、自分のスコアを稼ぐために襲い掛かる。だが、スパルタンⅤはUCA軍や連邦軍を遥かに上回る強さであった。

 

「ヒョウーッ!!」

 

 フォビドゥンヴォーテクスを駆るバッシュ1は、奇声を発しながらRFズゴックをトライデントで切り裂き、続けざまに一機、また一機と連続で撃破していく。

 

『な、なんだこいつは!? 攻撃が当たらねぇ!』

 

『チーターか!?』

 

 水中を自由自在に動くバッシュ1のフォビドゥンヴォーテクスに、ゲーミング部隊の隊員らは画面越しでも戦慄を覚える。

 

「ヒュアーッ!!」

 

 そんな狼狽えて動きが鈍くなったゲーミング機のゾノやアッシュ、グルジンに、バッシュ1は奇声を発しながらバックパックの両側の魚雷ポッドを撃ち込んで撃破した後、更には海上へ浮上して、インヴィンシブルの艦橋をトライデントで貫いて撃沈した。

 

「ヌゥンっ!!」

 

 MA形態のレイダー制式仕様を駆るバッシュ2は、機体の背に乗って居たギルティのストライクEを落とした後、レイダーガンダムと同じくクローのビーム砲を連射し、三機のリオン・タイプⅤを撃破した。

 

「くァァァッ!!」

 

 両肩の大型対空ミサイルでガーリオンやサイリオンを撃破した後、機体のMS形態へ変形させ、両手に握ったビームライフルを敵艦に向けて撃沈するまで連射する。穴だらけになったインヴィンシブルは、黒煙を上げながら轟沈する。

 

「アァァァッ! アァァァ!!」

 

 ガンバレルストライカー装備のストライクEを駆るギルティは、敵艦を足場にしながら四基の有線式ガンバレルを分離させ、目に見える敵機を撃墜していく。続けて二挺のビームライフルショーティーを取り、足場にしていた敵艦に向けて何発も撃ちこんで撃破した後、次の足場となる敵艦へ移る。

 

「ひぇ!」

 

 その際、ゴメルやウロッゾと言った水中用MSが襲い掛かって来たが、ギルティが駆るストライクEの前に撃破されるばかりだ。

 

「なんだあのストライクの動きは!? とてもスパルタンとは思えないぞ!」

 

 人間離れしたギルティのストライクEの動きに、それをスペングラー級強襲揚陸艦「プリピャチ」の艦橋から見ていたグレゴリーは驚愕していた。

 

「あ、あれがスパルタンⅤの力か…! ミニョルアーマーが無くとも、あれほどとは。俺たちは必要か?」

 

 随伴するジェットストライカー装備の105ダガー隊を率いるアルベルトは、スパルタンⅤの余りの暴れっぷりに、自分等が必要なのかと疑問を抱き始める。

 

「畜生、俺たちの出番が無いじゃねぇか! 俺の昇進はどうなんだよ!?」

 

 上空に飛ぶ複数のジェット・コアブースター編隊の一機のパイロットであるオルセン・メルリゴラントは、自分の昇進の機会が奪われたことに腹を立てていた。

 

「いよいよ、初陣か。俺を退屈させるなよ!」

 

 オデュッセウスガンダム(ペーネロペー)を駆るスパルタンⅤであるスパルタン・ブライトは、嬉々としながらゲイムランド軍に攻撃を仕掛ける。初めに敵集団に向けてビームライフルを連発し、一機を撃破すれば、散会した敵機集団に向けてファンネルミサイルを放つ。

 

「逃げようとしても無駄だ! ファンネルミサイル!!」

 

 ブライトの叫びと共に放たれた三十四発のファンネルミサイルは、脳波コントロールで目標に向かって行くタイプだ。通常のミサイルとの違いは、ありとあらゆる方向から攻撃するオールレンジと同じく、迎撃が困難な不規則な機動をしながら目標へ向かって飛んでいくのだ。

 それぞれのファンネルミサイルに標的とされた三十四機の敵機は、躱す術もなくミサイルに当たって撃墜されていく。それを見たブライトは、己の強さに自惚れた。

 

「はっはっはっ! こいつ強ェーッ!! 垢BANは確実なチートだな、こいつは!!」

 

 標的にした全ての敵機が撃墜されたのを見て、ブライトは高笑いしていた。

 

「どうしてみんな、援護してくれないの!?」

 

『あいつ等、このガンダムを前に出して何もしてない?』

 

 高性能機のガンダムタイプに乗るスパルタンⅤ等が活躍し、戦局を連邦軍の方へ傾けようとする中、量産型F91に乗るスパルタン・レイニーは、ユイ・カナタが遠隔操作しているサイリオンに苦戦していた。

 全く援護しない後続部隊にレイニーは動揺しつつも、機動性を活かして攻撃してくるサイリオンのレールガン攻撃をビームシールドで防ぎ、ビームライフルで応戦する。

 

「あれがスパルタンⅤの力か? なんで引きこもり如きに手こずってるんだ?」

 

『多分外れだろうな。あの犯罪者は』

 

『へっ、だから言っただろ? 所詮は犯罪者だってな!』

 

 その様子を援護せず、ただ見ているだけの連邦軍のパイロット等は、期待外れだの犯罪者呼ばわりして罵倒していた。

 

『奴が抑えている内に、あいつ事!』

 

「止せ、我々は第二陣の増援だ! あのサイリオンの対処はスパルタン・レイニーに任せ、我々は直ちに第二陣の元へ向かう!」

 

 一人がレイニーごとサイリオンを撃墜しようとしたが、部隊長に止められ、本来の任務である第二陣として進攻した部隊の増援として向かう。

 

「こいつ、僕の足止めって事?」

 

 随伴していた本隊の機動兵器部隊がレイニーの援護もせず、ゲイムランドへ進攻しているのを見て、ユイはそれを阻止しようと僚機と共に向かうが、先に突っ込んだ僚機は自分に向かってくる量産型F91に次々と撃墜される。これにユイは、レイニーは自分を足止めするために差し向けられた刺客であると気付く。

 

「言われた通りにしなくちゃ…!」

 

『なら、落とす…!』

 

 自分に向かってくるレイニーの量産型F91に対し、ユイもそれに応戦した。

 

「あ、あんな戦い方、異常すぎる…!」

 

 それを脇で見ているUCA軍のジェムズガンのパイロット、エッジ・オコーネルは茫然としていた。

 

 

 

「なんだあいつ等!? 空を飛んでいるぞ!」

 

 戦艦ロボットで第二陣の一部を抑えていたガガイラーは、自分に向かってくるミニョルアーマーを纏うスパルタンⅤの集団を見て驚く。驚くのは無理も無いだろう。何せ、アーマーを纏った人が人型の機動兵器のように自在に空を飛んでいるのだ。ターニャもその一人であるはずだが、ガガイラーは見ていないようだ。

 

「フン! 何が来ようが、ガガイラー様の特殊細菌でドロドロに溶かしてくれるわ!」

 

 何が来ようが、自分のロボット戦艦より放たれるミサイルの細菌ロボットにかなわないと過信するガガイラーは、本隊の一部隊を葬った特殊細菌搭載のミサイル攻撃を開始する。だが、そのミサイル攻撃はスパルタンⅤのミニョルアーマー部隊に対策されていた。

 

「あのミサイルは厄介だな、あれで一個艦隊が壊滅状態だ。スパルタン・クロウ、お前の狙撃でミサイルを迎撃しろ」

 

「まぁ、俺もヤベェと思ってた所だ。誰か、スナイパーライフルの二脚を持ってくれ。安定させたい」

 

 ガガイラーが襲った味方部隊の被害を知っていたスパルタン・カイザは、スパルタン・クロウと呼ばれる元傭兵のスパルタンⅤにミサイルを狙撃して迎撃するように命じる。これに応じ、クロウは背中から大型の二脚付きスナイパーライフルを取り出し、安全装置を解除してから他のスパルタンⅤに、二脚を持つように頼む。

 

「スパルタン・デルタ1、こいつの二脚を持ってやれ。俺は狙ってくる遠隔操作機(ドローン)を対処する」

 

「ちっ、分かったよ。これで良いか?」

 

「あぁ、安定した。そのまま動くなよ」

 

 誰も応じようとしないので、カイザは随伴するスパルタン・デルタ1に二脚を持つように言えば、命じられたスパルタンはクロウの二脚を持ち、狙撃のブレを安定させた。それから狙撃を行い、ロボット戦艦より放たれたミサイルを一発も外すことなく、精密射撃で迎撃していく。

 

「な、何という精密射撃だ! それに奴ら、よく見たらスパルタンでは無いか!」

 

 ミサイルが次々と撃ち落とされていくことに驚くガガイラーであるが、相手がスパルタンと分かれば、納得して力押しによる攻撃に出る。

 

「相手がスパルタンであれば、力押しで行くしかあるまい! 幾らミニョルアーマーでも、主砲の直撃には耐えられまい! 吹き飛べーッ!!」

 

 ミサイル攻撃は全て迎撃されてしまうので、ガガイラーは力押しであるロボット戦艦の主砲による攻撃に打って出た。ミサイル攻撃の次に威力のある主砲は、スパルタンのミニョルアーマーのシールド全開時でも一撃で吹き飛ばしてしまうほどの威力はある。発射された砲弾は、一番前でゲーミング部隊のドローンに対処していたカイザに命中した。

 

「フハハハッ! 見たか、このガガイラー様のロボット戦艦の主砲の威力を!!」

 

 見事に命中したので、ガガイラーは狙ったカイザを吹き飛ばしたと確信する。煙が晴れると、傷一つなくカイザは飛んでいた。

 

「な、なんだと!? シールド全開のミニョルアーマーすら吹き飛ばす主砲なのだぞ! なぜ生きている!?」

 

 健在であるカイザを見て、ガガイラーは驚きの声を上げる。だが、カイザも無事ではなく、シールドは主砲の直撃で消し飛んでいた。ミニョルアーマーを貫通できる攻撃を一撃でも受ければ、カイザは倒せることは可能だ。

 

「このミニョルアーマー、戦艦の主砲を一撃だけ耐えれる程のシールドを持っているのか。再チャージには、時間が掛かるな。生体CPU、やれ」

 

『生体CPUって呼ぶなし!』

 

 ヘルメット内にシールドが喪失した警告音が響き渡る中、カイザは次なる攻撃を避けるため、スパルタンⅤの誰かに指示を出した後に下がる。

 

「だが、一発耐えたところで、二発目は耐えれまい! 今度こそ死ねぃ!!」

 

『撃たせるわけないっしょ!』

 

「っ!? 側面から敵か! 間抜けめ!」

 

 二発目なら倒せると思い、ガガイラーは二射目を下がろうとするカイザに放とうとしたが、カイザに命じられたスパルタンⅤの攻撃が来た。これに鋭く反応したガガイラーは、特殊細菌搭載ミサイルを迎撃の為に発射する。

 ガガイラーのロボット戦艦を側面から襲ったのは、スパルタン・フラウロスだ。ミニョルアーマーはIS寄りの形をしており、武装は両肩の大型キャノン砲二門と右腕の大型クローと言う近接兼砲撃型だ。

 

 カイザがフラウロスを生体CPUと言うのは、彼女がブルーコスモス陣営から政治的取引によって引き入れられた新型CPUであり、元々生体CPUとして高い能力を持っているのか、スパルタンⅤの手術を受け、戦闘力は比較的上がった。その性格は、メスガキと呼ばわれる生意気な少女である。

 

「気付いても、遅いっすよ!」

 

『馬鹿め! そのミサイルは特殊細菌が搭載されている! 細菌でドロドロに溶けるが良いわ!』

 

 そんなフラウロスは、ロボット戦艦から放たれたミサイルを両肩のキャノン砲で迎撃する。ミサイルは特殊細菌搭載型であり、撃墜されたミサイルから微小な細菌ロボットが放たれ、効果範囲内に居たフラウロスに降りかかった。

 

「うわっ!? シールドがゴリゴリ削られてるし!」

 

『このロボット戦艦の主砲に耐えるミニョルアーマーでも、ありとあらゆる物質を溶かす細菌には耐えられまい! 溶けるのを待つまでも無い! 一気に轢き殺してくれる!』

 

 細菌を浴びたフラウロスはシールドが徐々に減って行くことに驚く中、ガガイラーは戦艦ロボットの巨体で圧し潰そうとそちらへ向ける。相手が向かってくるのを見たフラウロスは、右腕の特殊兵器を起動させる。

 

「なら、一気に潰すべきっしょ!」

 

 その特殊兵器は、戦略兵器「サイクロプス」を元に作られた攻守一体の兵器であり、フラウロスの大きな右腕のクローアームに内蔵されていた。それを起動したフラウロスは、シールドが減る前に、ガガイラーのロボット戦艦に接近する。

 

「血迷ったか!? 一気に轢き殺してくれる!」

 

 自ら突っ込んでくるフラウロスに、ガガイラーはそのまま圧し潰さんと迫ったが、サイクロプスが発動しているクローアームを船首に叩き込まれた。クローアームは船首の装甲を貫き、サイクロプスの影響がロボット戦艦の内部に影響を及ぼす。

 

「な、なんだ!? 電気系統に異変が! それに内部爆発も!」

 

 強烈なマイクロ波がロボット戦艦の電気系統を狂わせ、主砲やミサイルは加熱されて誘爆し始める。尚、細菌ロボットは溶解液なのか、加熱されて蒸発する。

 これを知ったガガイラーはロボット戦艦が内部爆発を起こしたと悟り、脱出装置に影響が出ない内に即座に脱出装置を作動させた。

 

「このままでは爆発に呑み込まれる! 脱出だ!!」

 

 コクピットにも影響が出ない内にガガイラーは脱出装置を作動させ、ロボット戦艦より脱出した。ロボット戦艦本体より射出された脱出ポッドは、自力で飛行可能であり、急いで戦場から離脱しようとしていた。

 

「おい、あいつは?」

 

 脱出したガガイラーが乗る脱出ポッドを狙撃するかどうかを問うクロウに、カイザは専用武器である×字型複合武装のガンモードで、背後から迫るリオン・タイプⅤを射撃で撃墜した後、自分が思うようにしろと返す。

 

「勝手にしろ」

 

「なら、やる気は無いな」

 

 カイザからの自分で判断しろとの返答に、クロウは大型スナイパーライフルの安全装置を掛け、自分の背中に引っ付けた。

 

「フン、甘い奴だな!」

 

 ガガイラーを見逃したクロウに、カイザは詰めが甘い奴だと評しつつ、自分も手を出さなかった。代わりに手を出したのは、ユイとは違う人物が操作するサイリオンだ。レールガンやミサイルを撃ちながら迫るサイリオンに、カイザは複合武装のソードモードを選択すれば、クリップの先端からフォトンブラッドの刀身が伸びて光剣となる。

 

「はぁーッ!」

 

 サイリオンが間合いに入ったところで、カイザは叫んで光剣を振るって敵機を縦真っ二つに切り裂いた。

 

「あいつ、生きてたのか」

 

「うわぁ!? もうボロボロとか、マジ勘弁!」

 

 迫るサイリオンを切り裂いて撃墜したカイザは、ロボット戦艦の爆発に呑み込まれたはずのフラウロスが、まだ生きていることに気付いて感心していた。

 

 

 

「フハハハッ! 死ねぃ!!」

 

 一方で地上より侵攻するスパルタン・ゴウダは、二回りも大きい専用のミニョルアーマーのスラスターを吹かせてホバー移動を行いながら、アーマーに内蔵されている様々な重火器を乱射しながら前進していた。

 

「や、止めろ! 我々がまだ残って…」

 

「莫迦なリベラル共など知った事か! 民主主義制度の下に生まれたことが後悔するが良いわ!」

 

 射程内に友軍のUCA軍がいたが、ゴウダはその存在を無視してゲイムランド軍諸とも重火器の餌食とする。

 

「こ、こいつ!? 味方諸ともやるなんて! だが、このバレリオンで踏み潰してやる!!」

 

 味方のUCA軍諸ともゲイムランド軍を攻撃するゴウダに対し、バレリオンを遠隔操作するゲーミング部隊の隊員は驚愕するが、自分に気付いていないのを確認してから、バレリオンの重量で踏み潰そうと迫る。

 

「な、何ッ!?」

 

「無駄だ! このゴウダを止められる者は居らん!!」

 

 迫るバレリオンに気付いたゴウダは、二本の大太刀を素早く抜き、その巨体をいとも容易く切り裂いた。

 

「俺はあのアバズレより最強なのだ! この戦いで戦果を挙げ、あのお方のお側に行くのだ!!」

 

 バレリオンを切り裂いたゴウダは、この戦いで戦果を挙げ、敬愛する羽翼元帥の下へ行くと言いながら、再び前進を開始した。

 

「あのゴウダと言う奴、恐ろしく暴走しているな。少し距離を取った方が良さそうだ」

 

 同じく地上に配置されたスパルタンⅤであるスパルタン・サンダールは、専用の大剣「赦悪彗星刀(しゃあくすいせいとう)」を振るい、複数のバレリオンを一機に切り裂いて撃破していた。二回りも大きいミニョルアーマーを身に纏うゴウダの暴走ぶりを見て、誤射に巻き込まれない為に少し距離を取った方が良いと判断し、手近に居る敵を切り裂きながら離れる。

 

「さて、シドの奴は上手くやるのだろうな?」

 

 複数のカリストと共に行動するスパルタン・シドが居る宇宙へ視線を向けながら、サンダールは戦闘を継続した。

 サンダールはシドと同様にヴィンデル・マウザーから派遣された人物であり、この地上戦に参加したのは、シドの任務を支援するためだ。

 

「ゴウダや地上軍と共に、やり易くするためにゲイムランド軍の地上の防衛線を破壊するか」

 

 シドが任務をやり易くさせるべく、サンダールはゴウダや後続の地上部隊と共に、ゲイムランド軍の防衛線に向けて進軍した。




ガガイラーは一応生存させたけど、大丈夫かな?

活動報告にて、応募再開しました。30日までなので、応募はお早めに。


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崩壊する防衛線

名前:ザック・バルム
性別:男
年齢:38
階級:団長
所属:ギガントマキア傭兵団
乗機:量産型ヴァルシオン
概要:最近戦力を大きく拡大している傭兵団の団長。
傭兵団の戦力自体はファントム・タロン社にも劣らないが、傭兵としての質は極めて劣悪で、民間人の殺戮や女子供の拉致、施設への過剰な破壊、金銭目的の裏切り行為等で様々な組織から危険視されている。
今回は正義元帥に雇われているが勿論報酬を払うつもりなどなく、ある程度暴れさせたのちスパルタンVの精鋭達に討ち取らせて他へのアピールにするつもり。
キャラ提供はRararaさん

名前:舘松直人(たてまつ・なおと)
性別:男
年齢:25歳
階級:中尉
所属:UCA陸軍水上艦隊
乗機:スカイグラスパー 対潜水装備(メイン)

名前:美穂(みほ)
性別:女
年齢:19歳
階級:曹長
所属:UCA陸軍水上艦隊
乗機:スカイグラスパー 対潜水装備(ガンナー)
概要:両者ともマルチブルストライカー装備のスカイグラスパーに登場するパイロット。直人はメインで、美穂はガンナーを務めている。
キャラ提供はM Yさん

名前:エイムズ・パストーレ
性別:男性
年齢:41
階級:少将
所属:羽翼正義元帥指揮下水上艦隊 第7分艦隊
乗艦:大型航空母艦『ファラガット』
概要:連邦軍水上艦隊第7分艦隊司令官。C.E.世界出身。
地球連合軍大西洋連邦所属でブルーコスモス思想だが、まともな思考を持ったまだマシなタカ派人物所謂右寄りだが極右ではない人物)。
指揮官としても非凡な才を持ち、時空融合前の対プラント戦において、水上艦隊でザフト潜水艦隊相手にも戦い抜いた経験もある実績豊富な有能な軍人。

名前:ギーグ・マッキャラン
性別:男性
年齢:40
階級:准将
所属:羽翼正義元帥指揮下水上艦隊 第8分艦隊
乗艦:アーカンソー級ミサイル巡洋艦『リッコーヴァー』
概要:連邦軍水上艦隊第8分艦隊司令官。地球連合軍大西洋連邦軍所属、ブルーコスモス系。
エイムズ・パストーレと同じ極右ではないまだマシなタカ派軍人。豪放で攻勢を得意とする優秀な指揮官だが、粗野で柔軟性に欠ける面がある。
パストーレと同じく、表向きスパルタンⅤの戦力調査兼ねたブルーコスモスから派遣組の副司令官だが。
キャラ提供はスノーマンさん


「クソぉ、何がスパルタンⅤよ! 俺様の獲物を分捕りやがって!」

 

 複数の雑多な機動兵器を率いる巨大ロボットの量産型ヴァルシオンを駆るザック・バルムは、多数のゲイムランド軍を一掃するスパルタンⅤに戦果を取られて悔しがっていた。

 

「ひぃやはっはっはっ! これが正義の鉄槌だ!」

 

 スパルタン・デラックスマンはゲイムランド軍の戦艦を持ち上げ、狂気的な笑い声を上げながら振り回し、他の敵艦に投げ付けて轟沈させる。

 

「ゲーマー共に、ゲームよりもリアルな地獄を味合わせてやるぜ!」

 

「そうだ! ゲームなんかよりリアルな地獄の方が面白ェ!!」

 

 地獄兄弟であるスパルタン・パンチとキックも一切の武装を使うことなく、徒手で群がって来るゲイムランド軍の遠隔操作された機動兵器を次々と撃破しながら、海岸へ向けて進軍する。

 

『お、お頭ぁ…!』

 

「速く前進だ! 俺たちギガントマキア傭兵団の誇りに掛けて、奴らより手柄を立てるんだ!」

 

 圧倒的な戦闘力を持ってゲイムランド軍の防衛線を破壊するスパルタンⅤ等に、部下にどうするのかと問われたザックは操縦桿を強く引き、量産型ヴァルシオンを前進させた。それから部下等に指示を出し、自らの傭兵団と共に最前線に加わる。

 

「な、なんだあのMSは!? それにスパルタンまで! ミニョルアーマーは、機動兵器すら容易く撃破するのか!?」

 

 ウロッゾを自ら動かし、前進する連邦軍のアーカンソー級ミサイル巡洋艦とその他駆逐艦とフリゲート艦を沈めていたダーメン神父は、異常な強さで友軍を撃破していくスパルタンⅤ等に戦慄を覚える。

 

「ん? あのベース・ジャバーに乗ったギラーガ、手強いな!」

 

 邪魔な敵機を火器で撃破しながら前進するケッサリアに乗るνガンダムHWS装備型を駆るスパルタン・バレットは、参加の六機と共に防衛線を維持するアドルフのギラーガを見付け、側面から襲ってきた敵機を撃破してからそちらに向かう。

 

『隊長! ガンダムがこちらに接近中です!』

 

「あのガンダム、危険なのは確実だな! あの一機だけでも抑えねば!」

 

 味方を撃破しながら迫るバレットのνガンダムに、アドルフは防衛線の崩壊を防ぐため、ダナジン二機とドラド、ゴメル三機と共に迎え撃とうとビームの一斉射を浴びせる。飛んでくる七機のビーム攻撃に、バレットのνガンダムは避け、空かさずにハイパーメガライフルで反撃する。

 

「おっと、俺とやり合う気か? なら、ミサイルをお見舞いしてやる!」

 

 自分に向けて攻撃してくるアドルフ等ヴェイガン製MS群に対し、ハイパーメガライフルで反撃したバレットは、怯まずに散会して向かってくる敵に向け、追加装甲に装備された全ミサイルを発射する。何機かはミサイルを迎撃するために足を止めれば、バレットはその隙を突いてハイパーメガライフルとシールドの二連装メガ粒子砲を撃ち込み、ダナジンとゴメルをそれぞれ一機ずつ撃破した。

 

『クソっ、良くも!』

 

「熱くなるな! 動き回れ! 奴の注意は私が引く!」

 

 味方を撃破されて熱くなる僚機らに、アドルフは冷静になるように論し、自分がバレットのνガンダムの注意を引くと言って微弱な攻撃を加える。

 

「奴め、俺の注意を自分に向けて、味方に撃破させる気か? その手には、乗らんぜ!」

 

 自分の注意を引こうと微弱な攻撃をするアドルフのギラーガを無視し、バレットは彼の部下たちが乗るダナジンやドラド、ゴメルを狙った。

 

「なんと言う奴だ! このワシをパワーで圧倒するとは! それに速い!?」

 

『ヒィヤーッ!』

 

 水中でフォビドゥンヴォーテクスを駆るスパルタン・バッシュ1は、ダーメン神父が乗るウロッゾに襲い掛かっていた。水中にも関わらず、トライデントを振り回す速度も速く、あのダーメン神父が思わず下がってしまうほどだ。

 距離を取って反撃しようにも、バッシュ1は攻撃を躱しながら直ぐに距離を詰め、再びトライデントを振り回してくる。流石のダーメン神父も、これには焦ってしまう。

 

「や、奴は生体CPUなのか!?」

 

 目前のフォビドゥンヴォーテクスを駆るバッシュ1はスパルタンⅤであるが、同じ技術が使われているので、あながち間違ってはいない。余りにも常識はずれなバッシュ1の攻撃に、ダーメン神父は完全にバッシュ1に抑えられてしまった。

 

「ち、畜生! チートなんて使いやがって!」

 

 アドルフやダーメン神父のみならず、ゲーミング部隊の優位もスパルタンⅤの登場によって崩れ去っていた。

 ズラーデ・ヤンネンが遠隔操作するRFズゴックは、レイダー制式仕様を駆るバッシュ2や地獄兄弟によって何度も撃破されていた。パイロットが乗って居ない無人機であるため、撃破されても何度も出撃が可能なのが利点であるが、落とされるばかりだ。これにズラーデは苛立って台を叩く。

 

「本隊に攻撃してる奴らは、悲惨だな。でも、俺はこいつ等を…」

 

 アッシュでUCA軍の水上艦隊を襲っていたソウマ・ヌマブチは、スパルタンⅤの手痛い反撃を受けて壊滅状態の味方を見ていたが、気にも留めず、戦意を喪失して後退する敵軍を執拗に攻撃する。

 そんな友軍を虐殺するアッシュに対し、一機のスカイグラスパーが止めに入る。そのスカイグラスパーは、対潜水用のパックが装備されていた。

 

「貴様のような外道に、容赦する物か!」

 

 スカイグラスパーは複座であり、メインパイロットを務める舘松直人(たてまつ・なおと)は照準にソウマのアッシュを照準に捉えれば、直ぐに機体背面の旋回式ビーム砲を放った。自分に向かって飛んでくるビームに、ソウマは機体を海中に引っ込める。

 

「けっ、雑魚の戦闘機がよ! 小賢しいぜ!」

 

 自分に当てようとする直人のスカイグラスパーを疎ましく思うソウマは、反撃の為にアッシュを海面に出し、ビームの一斉射で対空射撃を行うが、旋回する敵機は操縦桿を巧みに動かして躱し切る。

 

「俺を煽りやがって! なんで当たらねぇんだ!?」

 

 ビームの連射を躱し続ける直人のスカイグラスパーに、ソウマは苛立ちを覚える。そんな苛立つソウマに、直人はガンナー席に座る美穂(みほ)に対潜水用の追尾魚雷を撃ち込むように指示を出す。

 

「曹長、次の攻撃で奴を動きを止める。その瞬間に、追尾魚雷を叩き込め!」

 

「それだと、撃ち落とされる危険性が…」

 

「俺を信じろ! お前は、照準に集中すれば良い!」

 

 攻撃コースを取れば、ソウマの攻撃に撃ち落とされる可能性があると言う美穂だが、直人は自分を信じて照準に集中するように告げる。この言葉にいささか不安を覚える美穂であるが、直人もまたガンナーである彼女の腕を信じているので、自分も信頼していることを改めて伝えた。

 

「俺も曹長の腕を信じている! だからお前も信じろ!」

 

「はい! では、機体を奴の正面に!」

 

 振り返りながら言う嘘偽りも無い口説き文句に、美穂は相棒であるパイロットを信じるべきだと思い、機体を正面に向けるように頼んだ。

 

「了解した! 必ず当てることを信じているぞ!」

 

 これに直人も応じて、ビームを躱しながらソウマのアッシュにスカイグラスパーの機首を向けた。ガンナーである美穂は、追尾魚雷の照準をアッシュに定めようとする。攻撃コースを取るスカイグラスパーに、ソウマは自分に殺されに来たと思い、ビームを発射するボタンを連打する。

 

「ひぃひゃひゃひゃっ、馬鹿な奴だ! 自分から殺されに来やがって!」

 

 下品な笑い声を上げながら、画面上で自分に機首を向けて迫るスカイグラスパーに、ソウマは動くのを止めて照準を定めてビームを撃ち込もうとした。それが美穂に攻撃のチャンスを与える事など知らずに。

 

「照準完了! ファイヤー!!」

 

 動きを止めたソウマのアッシュに、美穂はそのチャンスを逃すことなく追尾魚雷の照準を定め、素早く安全装置を解除し、即座にウェポンベイに搭載されている追尾魚雷を撃ち込んだ。発射された追尾魚雷は、ビームを放とうとするアッシュの胴体に命中して着弾する。それと同時に、ビームがスカイグラスパーに迫ったが、直人は紙一重の所で操縦桿を動かし、見事に躱し切った。

 

「がァァァッ!? クソっ! クソ、クソクソクソ、クソォーッ!!」

 

 画面が砂嵐になったことで、自分のアッシュが撃破されたことを知ったソウマは激怒し、周囲の機器に当たり散らした。

 

「ふぅ、危なかった…!」

 

「こういうのは、余りやりたくない…」

 

 味方を虐殺していたソウマのアッシュを撃破したことで、直人はスカイグラスパーを安定コースに取らせた後に安堵する。美穂もまた今の対潜水攻撃で神経を集中し過ぎたのか、ヘルメットのバイザーを開いて汗を拭う。

 

「へぇ、やるね。あの戦闘機」

 

 直人と美穂のコンビが駆るスカイグラスパーの活躍ぶりを見ていたペーネロペーを駆るスパルタン・ブライトは、関心の声を上げながら敵機を撃破していた。

 

「俺に取っちゃ、どいつもこいつも、既知感ばかりの動きでつまらねぇんだけどな」

 

 大会出場経験のある元プロゲーマーであるブライトからすれば、ゲーミング部隊が遠隔操作する機動兵器群は、どれも既知感のある動きをする物ばかりであった。トップランカーであるブライトにとって、プロゲーマー時代だった頃に対戦した相手と同じ動きをするので、容易に対処できた。

 

「さぁて、最終防衛ラインには俺を昂らせてくれる奴はいるだろうな?」

 

 ある程度の敵機を掃討した後、残りの始末を後続の一般部隊に任せ、ブライトはターニャやファントム・タロン社が守る最終防衛ラインに向かった。

 

 

 

『第二防衛ラインを突破したぞ! 我に続け!!』

 

 スパルタンⅤの投入により、ゲイムランド軍の防衛ラインは次々と突破され、快進撃する連邦軍を張爆残る壁は、新百合帝国軍やファントム・タロン社、その他傭兵部隊が守る最終防衛ラインのみだ。

 

「UCA軍並び友軍第8分艦隊、敵最終防衛ラインに突入!」

 

「スパルタンⅤの一部も最終防衛ラインに前進!」

 

「フン、戦術の細かい所に粗が見える素人軍隊が、我々本物の軍隊に勝てる物か」

 

 最終防衛ラインに友軍のUCA軍や羽翼元帥指揮下の部隊が殺到している報告が次々と来る全長340メートルはある大型航空母艦「ファラガット」の艦橋内にて、第7分艦隊の指揮を執るエイムズ・バストーレ少将は、素人軍隊であるゲイムランド軍に、自分ら本物の軍隊である連邦軍は勝って同然と自信気に口にする。

 

「(さて、奴の失点を増やせるかだが)」

 

 戦況が連邦軍に傾く中、エイムズは羽翼正義を失点させる機会を伺っていた。

 彼は別のタカ派組より羽翼元帥監視の指令を受けており、機会があれば、危険思想な極右勢力の発言力低下のサボタージュを指示されている。

 

「一気に畳み掛ける! 上陸部隊支援の為、第二陣を発艦させよ!」

 

「はっ! 第二陣、直ちに発艦せよ!」

 

 今はその機会ではないと判断し、エイムズは待機している第二陣の発艦を命じた。これに応じ、飛行甲板で待機していた飛行能力を持つ機動兵器は続々と出撃していく。スピアヘッドやジェット・コアブースターと言った航空機らは、ジェットを吹かせて続々と敵陣に向けて飛び立つ。僚艦の空母からも続々と艦載機が、上陸部隊の支援の為に発艦する。

 

「全第8分艦隊は、直ちに敵最終防衛ラインに突入! 一気に敵を殲滅するのだァーッ!!」

 

 水上艦隊第8分艦隊の司令官であるギーグ・マッキャラン准将は、座乗艦であるアーカンソー級ミサイル巡洋艦「リッコーヴァー」の艦橋内から、指揮下の艦艇と艦載機に最終防衛ラインへの突入を命じる。

 これに伴い、ギーグの座乗艦であるリッコーヴァーは、同型艦のアーカンソー級ミサイル巡洋艦二隻とミサイル駆逐艦三隻、フリゲート艦四隻、スペングラー級強襲揚陸艦一隻、艦載機全機と言う第8分艦隊全戦力を持って最終防衛ラインへ殺到する味方に続いた。

 

「高エネルギーの質量弾、当艦に接近!」

 

「直ちに回避しろ!」

 

「ま、間に合いません!」

 

「なぁ!?」

 

 そんな意気揚々と味方と共に最終防衛ラインへ殺到するギーグであったが、彼の座乗艦のリッコーヴァーの艦橋に、回避不可能な質量弾が撃ち込まれていた。これにギーグは驚愕の表情を浮かべながら、ブリッジクルー共々吹き飛ばされた。

 

『ボス、見事に命中ですぜ! 旗艦を吹っ飛ばしたのか、奴ら慌ててやがる!』

 

「フン、どうせ分艦隊か戦隊だ。UCAは居るが、本隊の奴らに手心は要らんぞ。ぶっ殺せ!」

 

 リッコーヴァーの艦橋を吹き飛ばしてギーグを殺害したのは、アンダース・ベノワが駆る大型レールガンの砲身が特徴的な彼専用のカスタマイズされたサイリオンであった。部下は第8分艦隊の動きが乱れたとの報告を受ければ、殺到する連邦軍には容赦するなとベノワは告げ、向かってくる敵部隊を部下たちと共に迎撃する。

 態勢を立て直したUCA軍のデモイン級ミサイル巡洋艦やタラワ級強襲揚陸艦、その他駆逐艦やフリゲートを含める数十隻がドートレスフライヤーとジェットストライカー装備のダガーL多数を伴い、連邦軍の水上艦艇と共に突っ込んでくるが、ベノワの指示を受けた傭兵らに手心を加えられ、言い訳が付く損傷を負って後退していた。

 

『おい、後退するな! 戦え…』

 

 損傷を負って後退するUCA軍機に対し、後退するなという連邦軍機のジャベリンであったが、ファントム・タロン社所属のレリオンの攻撃を受けて撃墜される。

 

「凄まじい数だ…! 沿岸の要塞擲弾兵連隊が支援してくれるが、そこら辺の弱兵だからな」

 

 ターニャが担当する地区にも連邦軍の侵攻部隊が押し寄せていた。向こう側が敵艦艇に埋め尽くされ、その艦隊が繰り出す無数の艦載機が迫ってきている。数分もすれば、こちらに殺到することだろう。ターニャはトーチカなどを配置して要塞化された沿岸に居る友軍の頼りなさを嘆きつつ、武器の安全装置を解除して押し寄せる敵軍に備えた。




次回から、ゲーミング部隊大虐殺と新百合帝国軍VS連邦軍です。


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最終防衛線

名前:テズ・マッキャン
性別:男
年齢:55歳
階級:少佐
所属:新百合帝国陸軍第13軍団
乗機:ゴルドス
概要:陸軍所属の老兵。
し今度の僻地ゲイムランドに着任したときに、北斗七星の隣に星が見えることを周囲にしきりに話しており、今度こそ死に場所を見つけたとばかりに淋しげな笑みを浮かべる。

名前:アレン・マクセム
性別:男
年齢:30
階級:大尉待遇
所属:新百合帝国軍陸軍第13軍団
乗機:ハイングラ
概要:どういうわけかマウザーの宇宙から流れ着いた元自由惑星同盟軍パイロット。非常に齢不相応の熱血漢。

名前:アラフェルト
性別:男
年齢:25歳
階級:上等兵
所属:新百合帝国陸軍第13軍団
乗機:グレイズ
概要:新しく陸軍第13軍団に配属された被征服民の志願兵。
キャラ提供は神谷主水さん

名前:ムラット・ンァ・クジヨ
性別:イヴ人
年齢:49歳
階級:中尉
所属:新百合帝国陸軍装甲旅団
武器:ザウォート・ヘビィ
概要:新百合帝国の陸軍装甲旅団のMS小隊の小隊長。
実力的に射撃戦なら平均よりやや上の活躍が出来るが、近接されると脆い。
キャラ提供はリオンテイルさん

名前:ゾフィー・レオンハルト
性別:女性
年齢:30
階級:今度こそ少尉
所属:新百合帝国陸軍装甲旅団
乗機:レオパルト2A7
概要:イブ人の戦車兵。
かつて上官に対する行いが故に独房に入れられたりしていたが、その後はそこそこ真面目に、ときどき身体やらも持ち出すデカい賭け事をして、時に賄賂を送ったり、ちょこちょこしながら出世していった。
キャラ提供はただのおじさんさん

名前:タテワキ・ゴウ
性別:男性
年齢:26
階級:AT小隊長
所属:傭兵
乗機:ファッティー地上用
概要:ファッティー地上用二十機構成のAT部隊の隊長。
新百合帝国が雇った同盟系傭兵企業所属でATで幾度か実戦経験を経ている。少なくとも実戦経験皆無な帝国軍野戦師団の新兵よりは働けるはずだろう。
新百合帝国から命令で援軍として激戦区予定のターニャ隊の支援に配備されることとなった。
キャラ提供はスノーマンさん

名前:アリシア・エーデルマリン
性別:女
年齢:25
階級:中尉
所属:新百合帝国軍陸軍第13軍団
乗機:シャドーフォックス(目や各所の装甲の一部の色が青になっている。)
概要:新百合帝国軍陸軍第13軍団に所属している女で市民権を得るまでは死に物狂いで戦って活躍していたが、市民権を得た後は死なない程度に手を抜いて戦っている。
理由はただ一つ、イヴ人至上主義が嫌いだから。
キャラ提供は月見きつねうどんさん

名前:マカ・イプス
性別:女
年齢:17歳
階級:伍長
所属:新百合帝国軍陸軍第13軍団
乗機:デスルター
概要:ラインハルト戦に参加経験のある傭兵上がりの少女。一応市民権は得られるレベルで活躍したが、報酬目当てで残ることにした。売却や部品交換目的で戦地にある使えるパーツを集める火事場泥棒な一面も。
キャラ提供はハナバーナさん

名前:エルネスティーネ・シュバルゼッター

性別:女

年齢:17歳

階級:少尉

所属:新百合帝国陸軍装甲旅団

乗機:レオパルド2A7
概要:イヴ人の貴族、シュバルゼッター家の令嬢にして次期当主。性格はメスガキ
家柄に箔を付けるために軍に参加している若き戦車長。戦友達からの愛称は「エルネ」。黒髪のボブカットと白い柔肌、蒼い瞳が特徴の美少女であり、小柄だが特大の爆乳と安産型の巨尻、引き締まった腰つきの持ち主。甘い匂いを身体中から分泌しているかなりの汗っかきであり、彼女が搭乗しているレオパルド2の車内は、同性の乗組員達すら劣情を催すほどの濃厚なフェロモンで常に充満しているのだという。
キャラ提供はオリーブドラブさん


 海上でのゲイムランド軍の防衛線が崩壊し、UCA軍と連邦軍の連合部隊に最終防衛ラインに雪崩れ込まれる中、地上でも防衛線がスパルタンⅤの活躍によって崩壊しており、最終防衛ラインの接近を許していた。

 

「畜生が! チートなんぞ使いやがってェ!!」

 

 地上でかなり戦果を挙げていたゲーミング部隊の神楽坂ジュンヤの駆るグルジンであったが、スパルタンⅤのゴウダとサンダールの登場によって、一方的にやられていた。両者に舐め腐った態度で迫るジュンヤであったが、スパルタンⅤの圧倒的な戦闘力を前に敗北を重ねるだけだ。これに苛立ち、ジュンヤは目前の台を八つ当たりするように強く叩く。

 

「フン。ゲームしか能がない社会のゴミに、この私が止められる物か!」

 

 ゲーミング部隊の者たちを蔑視しながら、ゴウダは二振りの大太刀を抜いて、ジュンヤのグルジンを含めるバレリオン多数を切り裂いた。

 

「敵は烏合の衆、ガッカリだな。これなら私が居なくとも、奴は任務を果たせるな」

 

 別の方面でゲイムランド軍を掃討するサンダールは、自分が居なくともスパルタン・シドは任務を遂行できると口にし、周辺の敵機を愛刀で纏めて切り裂く。

 この両名の活躍により、連邦軍の地上部隊は最終防衛ラインにまで殺到していた。海上と同じく態勢を立て直したUCA軍の地上部隊も、大挙して最終防衛ラインに押し寄せる。

 

「一気に上陸しろ! 敵の対空設備を破壊し、空の安全を確保するんだ!!」

 

 最初に陸へ上陸したのは、UCA軍のグレゴリーが指揮する第4水上分遣艦隊であった。ここに至るまで分遣艦隊はかなりの被害を出しており、残る戦力はグレゴリーのスペングラー級強襲揚陸艦「プリピャチ」一隻と他数隻の中型揚陸艦のみであった。防空部隊も殆ど残っておらず、数機のジェムズガンのみだ。

 

「結局、本艦だけか…」

 

 残っているプリピャチのような大型艦艇が、自分の艦だけになったことに、グレゴリーはまた自分だけ生き延びてしまったと後悔する。

 グレゴリーの隊に続き、他のUCA軍の部隊も次々と上陸していき、搭載している地上部隊を展開させる。対するゲイムランド軍はスパルタンⅤや連邦軍の攻撃で完全に混乱状態であり、真面に抵抗しているのは傭兵部隊か新百合帝国軍の義勇兵部隊だけであった。

 

「来たぞ! 距離500メートルまで接近して来たら直ちに砲撃!」

 

 UCA軍が担当地区で続々と上陸していく中、ターニャが担当する地区では、連邦軍が上陸しようと殺到していた。これに新百合帝国軍の人間の将兵等で編成された要塞擲弾兵らは、トーチカや沿岸に備えられた火砲、ロケットにミサイル、それに旧式の戦車であるレオパルド1やM60パットン、その他自走砲などで迎撃を開始する。

 

「敵、500メートルまで接近!」

 

「よし、撃て!」

 

 敵の艦隊が砲撃の有効範囲にまで迫れば、即座に指揮官の指示で要塞擲弾兵と砲兵、戦車兵等は一斉に砲撃を開始した。陸からは榴弾砲のみならず、ロケット弾やミサイル、自走砲、それに旧式戦車が押し寄せる敵艦隊に砲弾を撃ち込んだ。

 沿岸や陸から放たれる無数の砲弾やロケット、ミサイルに連邦軍艦隊は艦載機を含める対空砲などで弾幕を張り、その殆どを迎撃するが、全てを迎撃できず、何隻かが撃沈された。砲撃の損害は軽微であり、連邦軍艦隊は前進しながら倍返しの艦砲射撃とミサイルによる反撃を行う。

 

「やはり火力が低すぎるか!」

 

 沿岸の要塞擲弾兵の火力は、羽翼正義元帥隷下の水上艦隊を止められなかった。精々僅かな損害を与えるだけで、ゲイムランド軍の無人戦闘艦共々圧倒的物量と火力で叩き潰された。ファイテックスを身に纏うターニャは防御術式を張って砲撃を耐えつつ、要塞擲弾兵らが蹂躙されるのを眺めていた。

 数秒後には、沿岸は見るも無残な姿となり、配置されていた要塞擲弾兵らと火砲と戦闘車両は壊滅して沈黙している。それから無数の艦載機が、ターニャが守る地区へ押し寄せる。

 

「ガルダーゴンより少ないが、これはこれで十分に多過ぎるだろうが!」

 

 同盟軍との決戦であるガルダーゴンより少な過ぎるが、ターニャから見れば凄まじい物量だ。連邦軍機は空飛ぶターニャを見るなり、ビームが嵐を浴びせて来る。

 

「SEEDのディスティニー並みの数だ! だが、私にはこいつがある!」

 

 押し寄せる無数の連邦軍機に対し、ターニャは拡散攻撃術式を存在Xへの信仰の言葉も述べることなく放った。秩序の神「ホーラ」と交わした誓約のおかげで、嫌いな存在Xの信仰の言葉の述べる詠唱をすることなく、エレ二ウム九五式をターニャ曰く精神汚染を気にすることなく、自由に行使できるのだ。

 

『な、なんだこの攻撃は!? ウワァァァ!!』

 

 ミサイルのように迫る無数の魔弾に、多数のジャベリンやバリエント、ジェットストライカー装備のウィンダム、クランシェは撃破される。巻き起こる爆発の連鎖に、思わず連邦軍の水上艦隊は足を止めてしまう。

 

「敵の動きが止まった? なら、もう一度だ!!」

 

 多数の味方機が一斉に撃破されたことに衝撃を受け、連邦軍の艦隊が動きを止めたのを見逃さなかったターニャは再び拡散術気を放ち、航空機のみならず、数十隻の艦艇も沈めて更なる被害を与える。

 

「っ! 拡散術式を耐えた!?」

 

 三度目を放とうとした際、拡散術式の魔弾を耐える物体がターニャに迫って来た。それはミニョルアーマーを身に着けたスパルタンⅤである。ルシファーとアバドンを初めとする元半グレのスパルタンⅤチームだ。

 

「へへへっ、来なきゃ殺すと脅されてきてみりゃあ」

 

「とんだ大物が居たもんよ!」

 

「こいつ等、スパルタンか!?」

 

 五人のミニョルアーマーを身に着けたスパルタンⅤに、ターニャは驚きの声を上げた。

 

「オラぁ!」

 

「ミニョルアーマーにこれほどの飛行能力は無いはず! 最新型か!」

 

 迫るルシファーの攻撃を避けたターニャは、スパルタンⅤのミニョルアーマーが航空魔導士以上の滞空性能を持っていることで、最新型の物であると気付く。正確には、盗用したISの技術が使われているのだが、ターニャはISのことを知らない。

 攻撃を避けつつ、取り回しの悪いランチャーを背後のラックに取り付け、銃身が短い大口径カービンライフルに切り替えて迫るルシファーらに反撃するが、絶対防御譲りのシールドに防がれるばかりだ。

 

「死ねぇ!」

 

「オラ! とっとと死ねッ!!」

 

「うりゃぁぁぁ!!」

 

「(流石に、五人がかりはキツイな。地上に誘い出し、ゴウ隊の火力で圧し潰すか)」

 

 五人以上のスパルタンの攻撃にターニャは凌ぎ切れないと判断すれば、地上で上陸しようと迫る連邦軍艦隊を攻撃中のタテワキ・ゴウが率いるATのファッティー地上用の部隊に指示を出す。

 

「こちらフェアリー・デビル。サンド・キャバリー、的をそちらに見せる。直ぐに射撃の準備を!」

 

『了解!』

 

 ターニャが指示を出し、ルシファーらを連れて来ると伝えれば、タテワキは応じて連邦軍を攻撃するのを止め、彼女が連れて来るスパルタンⅤを待ち伏せる。

 

「来たぞ! 撃ちまくれ!!」

 

 数秒後、ターニャはルシファーらを地上に居るタテワキのファッティーの射程内に誘い込んだ。ファッティーのショルダーミサイルポッドの射程内まで来れば、タテワキ等はターニャを追跡するスパルタン五名に照準を定め、即座に引き金を引いて一斉にミサイルを放った。

 

「何ィ!? グっ!!」

 

 AT二十機が放つ六十発のミサイルを諸に受けたルシファーとアバドンを含める五名のスパルタンは爆発に呑まれる。

 

「やったか!?」

 

『へっ、並の機体どころか、スパルタンでも木端微塵よ!』

 

 ルシファーらにミサイルを撃ち込んだタテワキ等は、倒したと思っていたが、スパルタンⅤのミニョルアーマーはカイザと同じく戦艦の主砲に耐えるほどのIS譲りのシールドを持っている。爆発で発生した煙幕の中よりアバドンが持っていたスパルタン・レーザーが放たれ、数機のファッティーが引き裂かれた。

 

『うわっ!? 生きてる!!』

 

「う、撃て! 撃ちまくれ!!」

 

「良くもやってくれたな!」

 

 相手が全員生きていることに、タテワキ等は驚きながらもファッティーの手持ちの兵装であるカタパルトランチャーを乱射するが、避けられるかシールドで弾かれるばかりであり、向かってくるスパルタンⅤ等に一方的に虐殺される。

 

「死ねやぁ!!」

 

「わぁぁぁ!?」

 

 向かってきたルシファーは恐怖して火器を乱射するタテワキのファッティーに急接近し、その胴体に強烈な蹴りを叩き込んだ。ミニョルアーマーで強化された蹴りは、タテワキごとファッティーの胴体を容易く吹き飛ばした。

 

「おい、みんな無事か?」

 

「シールドがお釈迦になっちまったが、暫くすれば戻が!?」

 

 タテワキのファッティーの上半身を蹴りで吹き飛ばしたルシファーは、四人の仲間たちに無事かどうかを問えば、アバドンは先のミサイル攻撃とカタパルトランチャーの乱射でシールドが切れたことを報告した。暫くすれば回復すると返答している合間に、急接近して来たターニャが纏うファイテックスの右のガントレットに装備された高周波ブレードで、頭を斬り落とされた。

 

「回復の隙は与えんぞ」

 

「や、野郎!」

 

「ぶっ殺してやる!!」

 

 斬り落とされたアバドンの首が宙を舞って胴体が地面に落下していく中、ターニャはシールドが回復しない内に、まだシールドが回復しきっていない残るルシファーらに攻撃を仕掛けた。

 

 

 

「よーし、行け行け! 最終防衛ラインまでもう少しだ!!」

 

 ゲイムランド軍の防衛線を破り、迫る連邦軍とUCA軍の連合軍に、最終防衛ラインに配置された新百合帝国軍の陸軍第13軍団が立ちはだかる。

 

「昨日は北斗七星の隣に、綺麗に小さく輝く星があったな…」

 

『へっ、死期が近いんじゃないのか?』

 

「そうかもしれんな」

 

 ステゴサウルス型の大型ゾイドであるゴルドスを駆る五十五歳のパイロットであるテズ・マッキャン少佐は、夜に見た北斗七星の隣に輝く星を見たと呟く。ゴルドスは三十機以上は居り、得意な砲撃戦が出来るように横に広がるように配置されている。

 これにゴルドス大隊の隣に立つ旧式MS「ハイングラ」の元自由惑星同盟軍のパイロット、アレン・マクセムが、死ぬんじゃないのかと冗談交じりで言えば、テズは迫る連邦軍の大群を見ながら、ここが自分の死に場所になると呟いた。

 

『ナノラミネート装甲の機体は、前に出ろ!』

 

「お、俺、ここで死ぬんじゃないのか!?」

 

 ゲイレール、グレイズ、ランドマン・ロディ、獅電と言ったエイハブ・リアクターで動き、実弾やビームに対して効果的な防御力を誇るナノラミネートアーマーを持つMS部隊は、その防御性故に前面に配置された。二級戦MSであるフレック・グレイズでさえ、ナノラミネートアーマー故に前に出されている。

 MSのパイロット適性に合格した被征服民の志願兵であるアラフェルトは、乗って居るのがナノラミネートアーマーのグレイズが乗機なため、フレック・グレイズ等と共に前面に配置されてしまう。

 

「ちっ、こんな所に配置しやがって」

 

 多数のコマンドウルフロングレンジキャノン(LC)と共に配置されたメト各所の装甲の一部が青色のシャドーフォックスを駆るアリシア・エーデルマリンは、自分ら人間の支配種族であるイヴ人に反抗的なのか、最前線に配置されていた。これに悪態を付きつつも、対空戦闘に備えて背部の徹甲レーザーバルカンの砲身を上空へ向ける。

 

「ここで、パーツとか集められるかな?」

 

 旧式MS群の中の一機、デスルターを駆る傭兵上がりの少女のマカ・イブスは、呑気にも売却できるパーツが出るのではないかと期待していた。これは戦闘への恐怖を和らげるためでもあり、生き延びようと固く決意する心構えである。

 

「第13軍団、配置に着きました」

 

「残りの師団も大至急駆け付けるわ。そこも配置に着いて!」

 

「はっ!」

 

 イヴ人編成の陸軍装甲旅団も、駐留する同じイヴ人部隊の歩兵師団と共に戦闘配置に着いていた。ゲイムランドに駐留する空軍も防空戦闘に準備しており、空軍基地の滑走路より、続々とファイター形態のVF-1AバルキリーやVF-31Aカイロスと言った多種な可変戦闘機(バルキリー)が飛び立っていく。

 

「これで戦えって言うの!?」

 

「良いから出なさい! 数が足りないの!」

 

 侵攻する連邦軍を迎撃するには、バルキリーの数が足りないのか、通常のジェット戦闘機であるEF-2000タイフーンまで出撃させた。

 機動兵器や最新鋭の戦闘機が飛び交う戦場に、骨董品レベルの戦闘機で出ろと命じられたパイロットは出撃命令を拒否するが、上官に強制されて渋々とコクピットへ乗り込み、出撃してバルキリーの編隊の後へ続く。

 

「ムラット・ンァ・クジヨ中尉、ザウォート・ヘビィで出撃する!」

 

 装甲旅団に配備されているザウォート・ヘビィに乗り込んだイヴ人のムラット・ンァ・クジヨは、機体を起動させた後、自分の小隊を率いて出撃した。

 同型機を初め、ディランザ・ソル、ハイドリー・シュトルムと言った他のMSにもイヴ人のパイロットが乗り込み、続々と出撃していく。戦術機の不知火やEF-2000を装備した部隊も、防衛線を展開するために出撃する。

 

「はぁ、今度こそ死ぬかも!」

 

 歩兵旅団と共に防衛線に配置されている全戦闘部隊がレオパルド2A7主力戦車で編成された戦車連隊に属するゾフィー・レオンハルトは、アーマリエやエーディト、カルラと共に自分の戦車に乗り込み、各機器を起動させる。

 

「シュバルゼッター家の名を挙げるチャンスだわ! クソ雑魚のゲイムランド軍のおかげでね!」

 

 ゾフィーとは違う別の場所に配置されている戦車中隊の中で、自分の家の名を挙げるチャンスだというイヴ人の少女が、自分の戦車へと同じ乗員等と共に乗り込む。

 その名はエルネスティーネ・シュバルゼッター、通称エルネ。黒髪のボブカットに白い柔肌、碧い瞳が特徴的な外見をしているが、小柄に対してアンバランスな体付きをしている。年齢はまだ十七歳であるにも関わらず、少尉の階級章を着けていた。エルネのみならず、他の戦車兵や機動兵器のパイロット、歩兵の中にも未成年のイヴ人が含まれていた。

 これは、建国の夢は叶ったものの、ラインハルト戦で負った損害は大きく、まだ未成年の訓練兵を正規兵に繰り上げて損失を補っているのだ。愛国心は高いようだが、訓練不足で実戦はこの戦いは初めてである。

 

「な、なんだ? アンノウンか?」

 

『きょ、恐竜かアレ?』

 

『博物館に飾ってそうな戦車もあるぞ』

 

 ゲイムランド軍の防衛線を突破し、新百合帝国軍が守る区画へ突入したUCA軍は、見たことも無い敵機動兵器群と博物館に飾ってあるような兵器群を見て困惑する。

 

「ゲイムランド軍の奴らは連邦軍に任せて、俺たちはこいつ等を倒そう!」

 

『動く戦争博物館軍相手なら、突破するのは簡単だわ!』

 

 ゲーミング部隊を主力とするゲイムランド軍の対処を連邦軍にやらせ、UCA軍は新百合帝国軍の防衛線なら楽に突破できると思い、攻撃を始めた。




ごめん、ゲーミング部隊虐殺は次回で。


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ゲーミング部隊、壊滅

名前:ハヅキ・アルテウス
性別:男
年齢:45
階級:民間軍事会社ユグドラシル代表
所属:民間軍事会社ユグドラシル
乗機:量産型ゲシュペンストmk-Ⅱ改(タイプRV)
概要:ユグドラシルの代表を務める黒髪に所々白髪が混じった初老のダンディな男。性格はACⅥのハンドラー・ウォルターがベース。ファントム・タロン社とは会社絡みの付き合いがある。
キャラ提供は月見きつねうどんさん

名前:カルティエ・サイ
性別:女
年齢:19
階級:軍曹
所属:民間軍事会社ファントム・タロン社
乗機:量産型ヒュッケバインMk-Ⅱ
概要:ファントム・タロン社所属の女性軍曹。面倒臭がりだが、やるべき仕事はきっちりするタイプ。
キャラ提供はハナバーナさん

今回はグロ注意。毎度ながらいつものことだけど(笑)。


 連邦軍とUCA軍の合同軍がゲイムランド軍の防衛線を突破し、新百合帝国軍や傭兵たちが守る最終防衛ラインに雪崩れ込む中、上空に浮かぶUCA海軍の巡洋艦艦隊の動きを封じていたコヴナント製対艦レーザー砲を装備したヘビーバレリオンは、防衛線を破って侵入したスパルタンⅤ等に次々と破壊されていた。

 固定砲台型の対艦レーザー砲も、パンチとキックの地獄兄弟やカイザらによって続々と破壊されている。後に残っているのは、新百合帝国軍が守っている区画か、ファントム・タロン社が守るスタールアームズ社支社がある区画だけだ。

 

「後一機仕留めれば、上空のUCA軍艦隊が援護してくれる。続け!」

 

 代表して対艦レーザー砲装備のヘビーバレリオンを破壊しているスパルタン・ソルジャーは、自分に随伴するスパルタンⅤ等に続くように告げる。その指示に応じ、ミニョルアーマーを纏うスパルタンⅤ等は続き、ヘビーバレリオンを死守するゲーミング部隊が遠隔操作する無人機を攻撃する。

 

「こうも押されるとは! しかも対艦砲が次々と!!」

 

『ヒャーッ!!』

 

 あの状況で生き残り、最終防衛線まで後退していたダーメン神父であったが、彼の駆るウロッゾはスパルタン・バッシュ1が駆るフォビドゥンヴォーテクスに陸まで追いやられていた。

 水陸両用のウロッゾなら、水中戦用のフォビドゥンヴォーテクスに有利であるが、バッシュ1は肉体強化されたスパルタンⅤであるために、ダーメン神父は防戦一方だ。その間に上空の宇宙艦隊を抑えている対艦砲やミサイル基地は、次々とミニョルアーマーを纏うスパルタンⅤたちに破壊されている。

 

「クソっ、やらせるわけには!」

 

『お前の相手は、俺だぜ!』

 

 UCA軍の宇宙艦隊を抑えている対艦砲やミサイル基地を守るため、最終防衛ラインまで退いたアドルフ等PMCレイブンであったが、スパルタン・バレットのνガンダムHWS装備型に抑えられてしまい、ただ破壊されるのを眺めるだけだ。

 

『ウワァァァ! た、隊長ーッ!!』

 

『後はお前だけだぜ!』

 

「クソ、良くも!」

 

 そればかりか、部下を立て続けにバレットに撃墜されており、最後に残ったダナジンが撃破された。

 

『へっ、直ぐに後を追わせてやるぜ!』

 

 部下を殺されたアドルフのギラーガは怒りに任せて猛攻を行うが、バレットはそれを躱しながら強力なビームによる反撃を行う。凄まじい弾幕であるが、アドルフのギラーガは見えているかの如く全て避け、接近してギラーガスピアを振るう。

 

「うぉ!? 怒らせ過ぎたか!」

 

 寸でのところで躱したが、胴体の装甲を抉られた。HWS装備型の装甲でなければ、今ごろは撃墜されていた事だろう。

 

「まぁ、その方が面白いんだがな!」

 

 必死に抵抗するアドルフのギラーガを尻目に、バレットは好戦的になって互角の戦いを繰り広げた。

 

『ヒィヤーッ!!』

 

『ホァァァッ!!』

 

 並みいる艦隊を撃破し、陸地に上陸したレイダー制式仕様を駆るバッシュ2とガンバレルストライカー装備のストライクEを駆るギルティは、奇声を発しながら再出撃したゲーミング部隊の遠隔操作機に襲い掛かり、それぞれが持つ兵装で次々と撃破していく。

 

「オラオラ! これで積みだァ!」

 

 ペーネロペーを駆るスパルタン・ブライトも陸地の上空に侵入し、目前に居る遠隔操作機を片っ端から撃破する。

 

「よし、爆破する。援護しろ!」

 

『任せろ』

 

 ミニョルアーマーを纏うスパルタン・カイザやデルタ1に2も上陸しており、固定式対艦砲に爆薬を仕掛けていた。同じく上陸して大型スナイパーライフルの二脚を立て、狙撃態勢を取っているクロウに援護を命じる。これに応じたクロウは、カイザやデルタたちを殺そうとするリオン・タイプⅤ三機の編隊を狙撃し、一機に二発ほど正確に撃ち込んで撃破した。

 

「残りの始末は、私にお任せ!」

 

 残る二機に対処するのは、IS寄りな外見をしているスパルタン・フラウロスだ。両肩の大型キャノン二門を撃ち込んで一機目のリオンⅤを撃破した後、二機目に急接近して右腕の大型クローで引き裂いて撃破する。

 

「これで、UCA海軍は増援を送れるな」

 

 その間に安全地帯まで退避したカイザらは、固定式対艦砲を爆破した。それと同時に、ソルジャーに率いられた地獄兄弟も属するスパルタンⅤのチームも、コヴナント製対艦レーザー砲装備のヘビーバレリオンを撃破した。

 

「信号弾を発射! UCA海軍に安全を確保したことを知らせろ!」

 

 残敵をMA5Dライフルで仕留めたソルジャーは、率いているスパルタンⅤに信号弾を空に向けて撃ち、上空で待機しているUCA海軍の艦隊に安全を確保したことを知らせろと命じた。これに応じ、信号弾を持っているスパルタンⅤは、信号弾を空に向けて放ち、上空で待機している艦隊に安全を確保したことを知らせる。

 

「信号弾確認! 色は、青!」

 

「よし、増援部隊を発進! 一気に畳み掛ける!」

 

「はっ!」

 

 上空で待機する巡洋艦の艦橋内にて、信号弾を確認した士官が報告すれば、艦隊を率いる提督は増援部隊を地上へ送るように指示を出す。これに応じ、巡洋艦などを含める各支援艦より地上への増援部隊を載せた輸送機が続々と発艦していく。ISAなどで運用されるイントルーダーも含まれている。

 

「っ! 対艦レーザー砲が全て破壊されたのか!? この国はもう持たないな!」

 

 民間軍事会社ユグドラシル代表で量産型ゲシュペンストmk-Ⅱ改で前線に出て戦っているハヅキ・アルテウスは、脅威が無くなってゲイムランド本土へ向かう上空の巡洋艦の艦隊を見て、ゲイムランドは持たないと確認する。ハヅキ率いるユグドラシル社が守る区画はまだ持ち堪えているが、他が突破されては意味がない。

 

『だ、代表! 敵巨大AM接近!』

 

「あれは、ヴァルシオン!? あんな物を何処で!」

 

 ハヅキ等が守る区画に、ギガントマキア傭兵団を率いるザック・パルムが押し寄せて来た。彼が駆る量産型ヴァルシオンを見たハヅキは驚くが、直ぐにゲシュペンストmk-Ⅱが持つ火器で僚機らと共に迎撃を行う。

 

「フハハハッ! 効かぬ、効かぬわ!!」

 

 だが、ヴァルシオンの巨体と装甲の前には効果は薄く、直ぐに接近されてユグドラシル所属する数機の機動兵器が、クロスマッシャーの掃射によって撃破される。

 

「こんな物を、相手にする羽目になるとは!」

 

『俺の名を挙げるために、死ねやぁ!』

 

 散会して避けたハヅキのゲシュペンストmk-Ⅱは、上からザックのヴァルシオンに攻撃するが、ディバイン・アームの巨大な大剣を振るって相手を下がらせた。

 

「もう突破されたのか。おまけに、対艦レーザー砲まで破壊されてやがる」

 

 スタールアームズ支社の防衛を行っていたベノワ率いるファントム・タロン社だが、次々と防衛線が破られ、彼らが守るこの区画にも連邦軍が押し寄せて来る。

 

「どうするすっか? 逃げます?」

 

『馬鹿野郎が! まだ報酬は貰ってねぇんだ! きっちり働け!』

 

「すんませんっす!」

 

 押し寄せる連邦軍機をプラズマライフルで撃墜した量産型ヒュッケバインMk-Ⅱを駆るカルティエ・サイは、ベノワに逃げるかどうかを問えば、彼はまだ報酬を貰ってないと怒鳴り、留まるように命令する。これにカルティエは謝罪しつつ渋々応じ、次々と向かってくる敵機に対応する。

 敵の数は多くなる一方であるが、スタールアームズ支社の撤収はベノワらが死守しているおかげで着々と進んでおり、撤収が済めば、即座にファントム・タロン社は戦場から離脱することだろう。

 

 

 

 

「畜生、何なんだよあいつ等! チートなんて使いやがって!」

 

 機動兵器を遠隔操作し、連邦軍やUCA軍を迎撃していたゲーミング部隊の一人、ドン斗司夫は苛立っていた。

 最初はゲーム感覚で敵軍の一般部隊を楽しみながら一方的に蹂躙していたゲーミング部隊であったが、スパルタンⅤの投入によって形勢は逆転され、今は自分たちが一方的に倒されている。

 ゲーミング部隊の強みは、後方にある専用の施設から遠隔操作なので、操作している機動兵器を撃墜されても、何度でも再出撃が出来る事であるが、こうも撃墜されてばかりでは、操作している者のストレスを蓄積させるだけだ。斗司夫が苛立つのは無理もない。

 

「もっと良いのは無いのかよ! こっちもチート使って…」

 

「ゴミ掃除の時間だ! まずはそこの豚、貴様からだ!!」

 

「ひっ!?」

 

 再び機体を出撃させ、押し寄せる侵攻軍を迎撃しようとした斗司夫らであったが、二度と再出撃は出来ない。何故なら、ゲーミング部隊が居る施設内まで、スパルタン・ゴウダが侵入して来たからだ。施設の屋根を引き剥がした武者甲冑のようなミニョルアーマーを纏うスパルタンⅤは、手始めに斗司夫に狙いを定め、恐怖で震えて動かない彼の頭部を鷲掴みにする。

 

「ギヤァァァ!? は、離してぇ!!」

 

「煩い豚め。永遠に黙ってろ!」

 

 頭部を鷲掴みにされた斗司夫は悲鳴を上げて命乞いをするが、ゴウダは聞く耳を持たずに彼の頭を握り潰した。頭部を握り潰された斗司夫の胴体は床に転がり、彼と同じ部屋に居たゲーミング部隊の隊員らは恐怖して逃げ惑うが、ゴウダはそれを逃すはずが無く、手当たり次第に殺害していく。それはまさしく虐殺だ。瞬く間に施設内は血の海と化す。

 

「た、助けてぇ!」

 

 一斉に出入り口に向かって逃げるゲーミング部隊の隊員等であるが、誰一人ゴウダから逃れることが出来ず、惨たらしく引き裂かれて皆殺しにされた。尚、ゴウダは一切の火器を使用していない。徒手と足だけで、彼らを殺害したのだ。

 

「さて、次の屠殺場へと向かうか」

 

 施設内に居たゲーミング部隊の隊員らを虐殺したゴウダは、隣の施設に狙いを付け、上空へと飛翔した。この施設内でゲーミング部隊が遠隔操作していた機動兵器らは、機能を停止する。

 ゴウダに破壊されたその施設のみならず、他にも施設は存在しているが、そこにもスパルタンⅤが来ており、施設内へ入るなり警備ロボットを破壊し、非武装な彼らを虐殺し始める。

 

「さて、地獄の時間だぜ」

 

「ゲームよりもリアルな地獄だ。存分に楽しみにな!」

 

 別の施設へ攻撃していたキックとパンチの地獄兄弟(ヘルブラザーズ)は、邪魔な警備ロボットを破壊し尽くした後、屋内で機動兵器を遠隔操作しているゲーミング部隊に地獄を味合わせるべく、手近な場所に居る隊員らを殺害し始める。

 

「うわぁぁぁッ!? た、助けてくれェーッ!!」

 

 地獄兄弟に襲われた施設には、ズラーデ・ヤンネンと神楽坂ジュンヤが居た。同僚らを殺害しながら迫る地獄兄弟に恐怖した両名は同じく逃げる者たちを押し退け、自分だけ助かろうとするが、ミニョルアーマーを身に纏い、殺戮を行いながら迫る地獄兄弟と名乗る二人のスパルタンⅤから逃げきれるはずもなく、ズラーデはパンチに頭を殴り潰され、ジュンヤはキックに頭を蹴り潰された。

 

「フフフ、アハハハッ! 電気を無駄に消費するだけのゴミ共よ、焼却の時間だ!」

 

 スパルタン・デラックスマンは狂気的な笑い声を上げながら、ある弾頭を取り出していた。それは白燐弾である。白燐は乾燥した空気中において激しく燃焼する為、燃焼した粒子が皮膚に付着すれば、対象を燃やし尽くすまで燃え続ける。消すには空気を遮断するために酸素を遮断するか、出来るだけ早く皮膚から粒子を取り除く必要性がある。

 

「水や消火剤で消そうだなんて無駄だ。この白燐弾(正義の炎)は、お前たちゲーマーという悪を焼き尽くすまで、決して消える事はないのだ!」

 

 そんな危険な代物を、デラックスマンは己の身勝手な正義で生身の人間であるゲーミング部隊の者たちに使おうというのだ。白燐弾を正義の炎と表するデラックスマンは、ゲーミング部隊が機動兵器を遠隔操作している施設へ向け、白燐弾を投げ付けた。

 

「食らえ、正義の炎! 悪を燃やし尽くせ!!」

 

 デラックスマンの叫びと共に勢い良く投げられた白燐弾は、ゲーミング部隊の施設へ弾丸の如く真っ直ぐ飛んでいき、窓ガラスを突き破って爆発し、白燐の粒子を施設内へ撒き散らした。

 その施設には、壊滅状態の無人艦隊を遠隔操作するエリザベスと、アッシュを遠隔操作するソウマ・ヌマブチが滞在していた。

 

「な、なんだ? これは…!? アァァァッ! 熱い! 熱いィィィ!!」

 

 白燐の粒子を見たことが無いのか、異変を感じた一人の者が遠隔操作を中断し、撒き散らされた危険な粒子を不思議そうに見ていた。その数秒後、白燐の粒子は施設内の乾燥した空気によって激しく延焼し、粒子が付着していたその男の肌は重度の火傷を起こす。皮膚を焼きながら骨まで燃やすので、切除する以外に助かる道はない。

 

「ど、どうしアァァァッ!? ワァァァッ!!」

 

 煙を吹き、叫びながらのた打ち回るその男を心配する別の男であったが、彼にも白燐の粒子が付着しており、先の男と同様に全身を焼かれるという地獄を味わう。

 

「ワァァァッ!?」

 

「熱い! 熱いよォォォ!!」

 

「消してくれぇ! 誰かァァァ!!」

 

 二人だけでなく、全員が同じように白燐に焼かれていた。白燐の粒子を浴びた者たちは皆、骨まで焼き尽くす悪魔の炎に焼かれて苦しんでいた。

 

「なんだよぉ、たっ、アァァァ!?」

 

 敵軍を倒すことに夢中になって気付かなかったエリザベスであったが、既に白燐の粒子を浴びた後であり、激しく延焼した白燐の炎に焼かれて悶え苦しむ。

 

「ヤダァァァ! 助けてェェェ!!」

 

 同じく白燐の粒子を浴び、焼かれているソウマはまだ息のある者たちと燃やされながら出入り口へ出ようとする。ドアは殺到する燃える人々に耐え切れず、白燐の炎で燃えるソウマらを外へ解き放つ。だが、自身を正義の化身と信じるデラックスマンが逃すはずが無い。

 

「フン、しぶとい奴らめ。これで消毒してくれるわ! ファイヤー!!」

 

 白燐の炎で苦しむソウマらにとどめを刺すように、デラックスマンは何処からか持ってきた火炎放射器から炎を放ち、彼らを焼き殺した。

 

「いい歳をして働かず、ゲームばかりする奴は悪だ! 汚物だ! フハハハッ!!」

 

 焼き殺されて焼死体となったソウマらを見て、デラックスマンは罵声を浴びせ、高笑いしながら飛び去った。

 

「みんな、動きが止まっている…? バグ?」

 

 ゲーミング部隊が遠隔操作する機動兵器が次々と機能を停止しているのを見て、まだ無事であるユイ・カナタは疑問に思う。そんな彼女の下にも、虐殺を行うスパルタンⅤが迫っていた。遠くに聞こえていた戦闘の音が自分のいる施設内にも聞こえ、敵が迫っていることが嫌でも分かる。それに気を取られたユイは、画面の向こう側で交戦中のスパルタン・レイニーが駆る量産型F91に遠隔操作しているサイリオンを撃破された。

 

「なんで動きが変に? でも、これで休める言い訳が付く…」

 

 ユイが遠隔操作するサイリオンの動きが容易に撃墜できそうな挙動になったことに、撃破しながら疑問を抱いたレイニーであるが、長時間も交戦しているために疲労していた。機体のエネルギーも著しく低下しているので、補給と休憩を兼ねて母艦へと帰投する。

 

「だ、誰!?」

 

 用心の為に置いてあった物騒な鉄釘バットを手に取り、ユイは自分が居る施設内へ侵入して来たと思われるスパルタンⅤに警戒する。その数秒後、銃声が鳴り響き、同じく施設内に居るゲーミング部隊の同僚らの悲鳴が聞こえて来る。

 

『キャーッ!!』

 

『や、止めてくれ!』

 

「こ、殺される…! 逃げなきゃ!」

 

 銃声と悲鳴を聞くたびに、次は自分が殺されると思い、施設内から脱出しようとしたが、既に同僚らを殺し回っていたスパルタンⅤがユイの近くまで来ていた。

 

「あっ…!?」

 

「他のスパルタンⅤは面白半分にいたぶって殺し回っているが、来たのが俺で良かったな」

 

 施設内へ侵入し、ゲーミング部隊を射殺し回っていたスパルタンⅤは、カイザであった。銃口から硝煙を上げるM6Hピストルを絶望して鉄釘バットを落としたユイの額に向け、引き金に指を掛ける。

 

「抵抗したり逃げるなよ? 火炎放射器や白燐弾で焼かれたり、引き裂かれるよりも直ぐに死ねるんだ。そんな目で見てないで、少しは感謝して欲しいな」

 

 銃口を向けながら楽に殺されることを感謝しろというカイザに、ユイは恐怖で何も言えず、ただ震えて動けなかった。そんなユイに、カイザは躊躇いも無く拳銃の引き金を引いた。

 

「(あれ、この感覚、覚えがあるな。僕って、一回死んだっけ?)」

 

 銃声が鳴り響いて視界がぼやける中、ユイは死ぬ感覚を思い出した。薄れゆく意識の中、ユイは自分が一度死んだのかと思い出しながら倒れた。ユイが床に倒れた後、カイザは彼女を撃った拳銃の弾倉を引き抜き、残弾を確認してから再び装填する。それから罪悪感か、それとも戦闘を継続させるためか、施設内を後にした。

 

「うわっ、あんたも無抵抗な人、()っちゃうんですね。ドン引きだわ」

 

「遊び半分で殺す奴らと一緒にしないで貰いたいな。それにしても、生体CPUの癖して敵を気にするとは。驚きだよ」

 

 ユイを初めとするゲーミング部隊の隊員らを射殺して施設を出たカイザに、待ち構えていたスパルタン・フラウロスは、他のスパルタンⅤと同様に残忍な奴だと辛辣な言葉を浴びせる。これにカイザは他のスパルタンⅤと一緒にするなと返し後、生体CPUのフラウロスが敵のことを気に掛けることに驚きだと皮肉を告げる。

 

「あー、マジ気にらねぇわお前。動けない奴殺して何が面白いんですかねェ? それとも、自分より弱い奴相手でしかイキれないヘタレなんですかぁ?」

 

「ここでお前も殺してやろうか? それなら、罪悪感も晴れそうだしな」

 

「おい、仲間割れは止せよ。戦闘中だぜ?」

 

 そのカイザの皮肉に腹を立てたフラウロスが煽れば、一色触発状態となる。これにスパルタン・クロウは空へ向けてMA5Dライフルを放ち、殺し合いを止めさせる。

 

「フン、命拾いしたな」

 

「あーぁ、マジめんどくせーわ」

 

 水を差された両名は気を紛らわせるためか、次なる脅威である傭兵部隊と新百合帝国軍の掃討に向かう。二人が殺し合うのを防いだクロウもまた、次なる標的を新百合帝国軍のターニャに定め、スパルタン・ルシファーらが居る方へと向かった。

 

「ん、UCA軍がゲイムランドの奴らを連行している? どういうつもりだ?」

 

 途中、上陸したのか、上空の海軍が送り込んできた増援部隊なのか、UCA軍が制圧した施設からゲーミング部隊の隊員らを連行していた。その中には、アリス・ビューティーの姿があり、生気の無い表情を浮かべながら他の捕虜たちと共に連行されている。

 

「全員殺すように指示されているはずだが、確認するか。本部(HQ)、UCA軍が抹殺対象を連行している。どういうことだ?」

 

ヴェクタ人(ヴェクタン)共が自分の星の再建に労働力が欲しいだとよ。元帥閣下殿は勝手にやらせている。分かったら任務に戻れ!』

 

 抹殺対象であるゲーミング部隊を捕虜としてUCA軍が連行しているのは、ヘルガーン戦争で被害を受けた惑星ヴェクタの再建の為、労働力が必要だと答えた後、何か忙しいのか、本部の通信将校は速く任務に戻れと怒鳴って通信を切った。

 

「まぁ、殺されるよりはマシだな」

 

 ヴェクタ所属のUCA軍の将兵等に連行されているアリス等を見たクロウは、面白半分に殺される他よりはマシだと口にした後、本部に言われた通りにターニャと戦うルシファーの支援に向かった。

 

 

 

「もうこの国は駄目だな。出たところで、どうせ数に押されてお終いよ。この予備のロボット戦艦で脱出だ!」

 

 フラウロスに乗機であるロボット戦艦を撃破されたガガイラーは脱出した後、予備のロボット戦艦がある格納庫まで来ていた。格納庫の辺りにはUCA軍や連邦軍は来ていないため、まだ戦闘は行われていない。

 最終防衛線を破られた挙句、上空のUCA海軍の艦隊を封じていた対艦レーザー砲も全て破壊し尽くされ、更にはゲーミング部隊がスパルタンⅤ等に虐殺されて壊滅したので、ガガイラーはゲイムランドは終わりだと悟り、予備として保管していたロボット戦艦で脱出しようとしていた。

 

「な、何ィーッ!?」

 

 まだ敵軍が来ない内に脱出しようとしたガガイラーであったが、予備のロボット戦艦は何者かに爆破された。

 

「こんな物騒な物を持ってこられちゃぁ、前線が混乱するからな」

 

「ひ、ヒェェェッ!? す、スパルタン!?」

 

 ガガイラーの予備のロボット戦艦を破壊したのは、数体のスパルタン・カリスト共にゲイムランドへ衛星軌道上から降下したスパルタン・シドであった。ロボット戦艦を前線の脅威と見なし、シドは動き出す前に破壊したのだ。自分の姿を見て腰を抜かし、失禁しながら恐怖して震えるガガイラーにシドは近付く。その際にカリストたちに周囲警戒を行わせていた。

 

「あんたがガガイラーか?」

 

「ヒョェェェッ! お、お助けェーッ!!」

 

「そんなにビビんな。殺しに来たわけじゃねぇ。あんたをスカウトしに来たんだよ。ボスの命令でな」

 

 本人なのかと問うシドに対し、ガガイラーは土下座して必死に命乞いを行う。これにシドは視線をガガイラーに合わせる形で屈み、ヴィンデル・マウザーの命でスカウトしに来たと告げる。

 

「こ、この私目をスカウトですかァ…?」

 

「あぁ、お前さんの転職先の紹介だよ。そこで精一杯、頑張るこったよ」

 

 再度ヴィンデルが自分をスカウトしに来たと問えば、シドは転職先で頑張れと答え、二名のカリストにガガイラーを護衛するようにジェスチャーで告げた。

 

「あ、ありがとうございます! このガガイラー、ヴィンデル・マウザー殿に忠誠を誓います!」

 

「応、頑張れよ。さて、仕事に取り掛かるか」

 

 頭を下げて感謝するガガイラーに労いの言葉を掛けた後、シドは自分の任務を遂行する為、新百合帝国軍が守る区画へと数体のカリストを引き連れて向かった。




虐殺で尺を使い過ぎたかな?


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新百合帝国軍対UCA軍&連邦軍

名前:メイ・リーフェン
性別:イヴ人
年齢:22歳
階級:少尉
所属:新百合帝国空軍野戦師団
乗機:ジムⅡ
概要:空軍野戦師団に属する空軍将校。
家が裕福なためか、辺地に配置されている空軍野戦師団に配属された。
キャラ提供は神谷主水さん

名前:楯京子(たて・きょうこ)
性別:イヴ人
年齢:35歳
階級:大尉
所属:新百合帝国空軍
搭乗機:ストライクルージュカスタム(オオトリ装備)
概要:新百合帝国空軍に属するイヴ人のパイロット。
乗機のストライクカスタムは、両腰が105ダガーの物となっている。
キャラ提供はM Yさん

名前:イーリス・フォン・リフレイン
性別:イヴ人
年齢:47
階級:大尉
所属:新百合帝国空軍野戦師団 第508魔導士中隊
装備:G3A4自動小銃
概要:新百合帝国軍空軍野戦師団第508航空魔導士中隊隊長
新百合帝国所属のイヴ人の航空魔導士。百合帝国再建に尽力した貴族の一つリフレイン子爵家の息女。
ゲイムランド防衛戦において、数少ない航空魔導士部隊の一つを率いているも二線級師団の新編成部隊で士気はあるが、実戦経験者が少ないため練度が低い。
キャラ提供はスノーマンさん


 上空の巡洋艦艦隊の動きを封じていた対艦レーザー砲が全て破壊され、更にはゲーミング部隊の壊滅により、ゲイムランド軍は既に機能しなくなっていた。

 長時間は持ち堪えられると思われていたゲイムランド軍が、スパルタンⅤの登場によって予想よりも速く壊滅したため、スタールアームズ支社の撤収を支援するファントム・タロン社を初めとする傭兵部隊や新百合帝国軍は、圧倒的な物量で押し寄せるUCA軍と連邦軍の連合部隊に対処を迫られた。

 

『十二時方向より敵戦闘機多数! MS隊各機はイントルーダーやミデアを守れ!』

 

 別方向より予備戦力として配置されていたもう一つのUCA海軍の艦隊は、ゲイムランド軍にとどめを刺すために投入された。予備戦力の艦隊は地上部隊を、新百合帝国軍が守る区画の方へ展開する。

 投入されたUCA軍の予備部隊は、空軍基地近くに来たため、空軍基地は一部の迎撃部隊のバルキリーや戦闘機を差し向けた。これにUCA軍予備軍のジェムズガンやジェットストライカー装備のダガーLの部隊は、護衛のセイバーフィッシュやVTOL機と共に地上へ展開する輸送機の編隊を守るため、直ぐにミサイルの迎撃を行う。

 敵防空部隊が放つ多数のミサイルに、ビームライフルや頭部バルカン砲、機銃などで迎撃するが、全てを迎撃しきれず、数十発ほど撃ち漏らしてしまう。これをMS隊は盾やビームシールドで防ぐも、数機が耐え切れずに撃破されて墜落する。

 

『敵機群、急速接近!』

 

「せ、接近戦をするつもりか!? 絶対に近付けるな! 撃ちまくれ!!」

 

 ミサイルを撃った後にガンポッドを撃ちながら突っ込んでくるVF-1バルキリーからVF-31Aカイロスなどのバルキリー群に、UCA軍の輸送隊の護衛部隊は、指揮官の怒号で怯まずに応戦する。バルキリー群の後ろからは、タイフーン戦闘機の編隊が続いた。

 

「え、F-14!? わっ!」

 

 乱戦状態となる中、ガンポッドを撃ちながら突っ込んでくるVF-1Aの形状を見たダガーLのパイロットは思わず驚き、その動きを止めてしまい、後続のタイフーン戦闘機の空対地ミサイルを胴体に撃ち込まれて撃墜された。

 

「た、タイフーンも居るのか!?」

 

 バルキリー群に続いて突っ込んでくるタイフーン戦闘機群を見たセイバーフィッシュのパイロットもまた驚き、真下から来たVF-31Aの攻撃を受けて撃墜される。

 

「うわっ! 戦闘機はロボットに変形した!?」

 

 UCA軍のパイロットたちは、バルキリーの存在をまだ知らないため、バトロイドに変形した時は驚いていた。鳥人間形態のガウォークにも変形することで、見知らぬ兵器と交戦する将兵等はますます混乱するが、敵護衛機の数が多過ぎ、可変戦闘機と戦闘機の合同迎撃部隊は敵輸送部隊に一機たりとも辿り着けず、地上への展開を許してしまう。

 

「突破された! 直ぐに迎撃態勢を!」

 

『あの貧弱師団じゃ!』

 

 突破されたことを、空軍基地防衛を行う空軍野戦師団に伝えれば、ラインメタル20ミリ対空機関砲や地対空ミサイルなどの操作する対空要員等、火力増加で配備されているジムⅡやデミは、降下してくる敵部隊に向け、直ちに対空射撃を行う。

 

「うわっ!? き、来た!」

 

 配置されているジムⅡに乗るメイ・リーフェンは、他の同型機や僚機のデミと共にビームライフルを続々と降下してくるUCA軍に向けて撃ち込んだ。

 メイを初め空軍野戦師団の将兵等は、比較的安全な地域に配置されることを前提として編成された空軍の二級戦部隊であり、このような大規模な戦闘を想定した演習など行っておらず、挙句に実戦経験者は殆ど居ない。最高戦力であるターニャが配属されているはずだが、当の彼女は海岸線で複数のスパルタンⅤと交戦中である。

 

「だ、駄目です! 数が多過ぎる!」

 

 決死の対空迎撃でUCA軍の輸送部隊はかなりの被害を出すが、予備として温存されていた数は多く、取りこぼした分は安全地帯への降下に成功し、地上部隊を展開する。

 

『さ、左右側面よりアンノウン多数接近!』

 

「な、なんだこいつ等は!?」

 

 多数の歩兵やAPC、ストライクダガー、ジェノアスⅡ、スコープドッグなどの陸戦部隊が空軍基地に向けて侵攻する中、左右に配置されていた空軍野戦師団所属のアロサウルス型の小型ゾイドであるゴドスの集団が迎撃の為に襲い掛かる。当然ゾイドの存在など、UCA軍が知るはずもなく、両腰の小型ビーム砲を撃ちながら突っ込んでくるゴドスを見て驚き、混乱していた。

 更にUCA軍を混乱に陥れる物が攻撃してくる。それは、ターニャと同じ航空魔導士だ。人数は二個中隊であり、装備は正規の航空魔導士とは違い、G3A4自動小銃やHK33突撃銃、MG3汎用機関銃と言った旧式の物ばかりであるが、それでもイントルーダーの上部に居る歩兵らにとっては脅威である。

 

「ひ、人が!? 人が飛んでいる!!」

 

「す、スパルタンか!?」

 

「うわっ!?」

 

 地上のゴドスと並行して突っ込んでくるイーリス・フォン・リフレイン率いる第508航空魔導士中隊ともう一つの中隊に、歩兵らは驚きの余り反応が遅れ、術式による攻撃を受けた。

 

 

 

「沿岸部、ほぼ制圧。残るはスタールアームズ支社周辺のみ」

 

「敵空軍基地方面に展開したUCA軍の予備軍、敵の抵抗を受け、前進が停滞中!」

 

「民主主義の軍隊は、二級戦レベルの敵軍に手間取るのか」

 

 羽翼元帥が居る作戦本部では、配下の部隊が敵防衛線を破ってゲーミング部隊を虐殺してゲイムランド軍を壊滅させる報告を聞く中、支援と囮として使っているUCA軍が新百合帝国軍の抵抗を前に苦戦している報を聞き、辛辣な言葉を投げかけた。そんな苛立つ様子を見せる羽翼元帥に、更に機嫌を害する報告が入る。

 

「地上部隊、敵一個軍団の抵抗に、前進が停滞中!」

 

「何、たかが一個軍団に手間取っているのか? もっと戦力を集中しろと伝えろ!!」

 

 その報告は、新百合帝国陸軍の第13軍団の決死の抵抗により、自分の地上部隊の前進が阻まれているという物だ。事前砲撃を行ったが、第13軍団の人間の将兵等は実戦慣れしていた者が多く、巧妙に砲撃の被害を最小限にする配置を行っており、損害を与えられず、地上部隊は手痛い反撃を受けていた。

 

「凄まじい攻撃だな! これなら、死に甲斐がある!」

 

 猛攻を仕掛ける羽翼元帥の地上部隊に、テズ・マッキャンは乗機のゴルドスが持つ105ミリ高速レールガンを撃ち込み、機動兵器群を伴って前進するビッグトレーを停止させる。

 

「クソっ、帰ってきた感じがするぜ!」

 

 ハイングラを駆るアレン・マクセムは、大挙して押し寄せるジェガン陸戦型やドートレス・キャノン、ストライクダガー、アデルMk-Ⅱ陸戦用ウェアにビームライフルを連発し、改めて自分の世界に帰って来たことを痛感する。

 

「畜生! 数が、数が多過ぎる!!」

 

 地上のみならず、空からも押し寄せる連邦軍の物量に呑まれながらも、120ミリライフルを連射しつつ、左手に持ったバトルアックスをジェガンに叩き込んだグレイズを駆るアラフェルトは、数が多過ぎると嘆いていた。

 そんな彼の言う通り、連邦軍は第13軍団の十倍以上の数を投入しており、前面に出されたフレック・グレイズやランドマン・ロディ、獅電数機が物量に呑み込まれて撃破されている。

 

「これ以上は支えきれない! ノワァァァッ!!」

 

 アラフェルトのグレイズも押し寄せる連邦軍の猛攻に耐え切れず、ストライクダガー数機に囲まれ、三方からのビームサーベルで串刺しにされて撃破された。

 

「あいつ等、碌な増援も…てっ、あいつ等の所にも来てるって言うのかい!? うっ!」

 

 多数のコマンドウルフLC等と共に押し寄せる連邦軍機の迎撃するシャドーフォックスを駆るアリシア・エーデルマンは、嫌うイヴ人が増援を送らないことに腹を立てるが、イヴ人部隊が守る方面からもUCA軍が押し寄せているので、それに気付いて毒づいた。そんなアリシアのシャドーフォックスの付近に、連邦軍のミサイルが着弾し、数機のコマンドウルフを吹き飛ばす。

 

「ここで、ここで死ぬわけには!」

 

 デミギャリソンやハイングラなどが航空攻撃や地上から迫る連邦軍機に撃破されていく中、デスルターを駆るマカ・イプスは攻撃を避けつつ、上空から続々と迫るジェットストライカー装備のウィンダムにアサルトライフルを連発して一機を撃ち落とすことに成功する。

 モリタ式アサルトライフルを持つ歩兵の大群を随伴させるスコーピオン主力戦車、グリズリー重戦車、ホーネットとホーク強襲用VTOL、バルチャー大型ガンシップなどの通常の機甲戦力も攻撃するが、大規模攻勢の防衛に慣れている第13軍団の前では、いたずらに死体やスクラップを増やすばかりであった。

 

「な、なんて強さだ!」

 

「スパルタンを要請しろ! 奴らを叩き潰せ!!」

 

 味方がやられていくのを見て慌てた前進指揮官は、スパルタンⅤを要請した。

 

「こ、骨董品なのか!?」

 

『前進できない!』

 

 本隊の連邦軍が第13軍団の防衛線に阻まれる中、イヴ人の部隊が守る防衛線に攻撃するUCA軍もまた、装備と練度も充実している敵軍の巧みな防衛先述に前進を阻まれていた。

 

「戦車だと思って、舐めて掛かったようね!」

 

 上陸した部隊を含めて押し寄せるUCA軍の装甲車(APC)や61式戦車、リニアガン・タンク、ドートレス、ストライクダガーの大群に、ソフィー・レオンハルトらのレオパルド2A7戦車部隊は、巧妙に車体を隠した防御陣地から砲撃した。狙いは二足歩行の機動兵器であり、足を狙われた機体は転倒する。

 

「ここで出来る限り敵の雑魚車両を潰して、功績を挙げるのよ! ほら、休まず撃って装填する!」

 

 別のレオパルド2の中隊では、APCや戦車などと言った戦闘車両を狙っていた。中隊隷下の小隊を率いるエルネスティーネ・シュバルゼッターは主に装甲車や歩兵を狙い、出来る限り功績を挙げようと砲撃を続ける。戦力補填として随伴しているマルダーやプーマ歩兵戦闘車などの大隊も、敵軍が射程距離に入り次第に搭載火器を発射した。塹壕に居る歩兵、対戦車猟兵大隊も対戦車ミサイルを撃ち込み、UCA軍の機甲部隊に更なる損害を与える。

 

「敵アンノウンまで出て来るのか!?」

 

 前進を阻まれるUCA軍に追い打ちを掛けるように、一個大隊分のMSのハイドリー・シュトルムが襲い掛かった。中・長距離戦を得意とするハイドリー・シュトルムの攻撃に、UCA軍の損害は増える一方だ。

 

「向こう側の損害は、かなり大きそうだな」

 

『助けに行くか?』

 

「んっ、敵機接近! アンノウンだ!」

 

 上空を飛ぶUCA軍のVTOLの編隊は、新百合帝国軍の陸軍装甲旅団が守る陣地を攻撃する友軍の救援に向かうかどうか悩むが、そんな彼らにも攻撃する者が現れた。ムラット・ンァ・クジヨ率いるザウォート・ヘビィの小隊である。ムラットが駆るザウォート・ヘビィの右肩に装備されたビームキャノンが発射されれば、先頭のVTOLを引き裂いた。次に僚機の同型機が左肩のミサイルランチャーを撃ち込み、敵VTOL部隊にかなりの被害を与える。

 

『VTOL隊が!?』

 

『こっちに敵機が!』

 

 ザウォート・ヘビィの小隊に襲われるVTOL隊を救うべく、直ぐにそちらへ向かおうとした複数のジェットストライカー装備のダガーL隊であったが、地上のディランザ・ソル隊が背面に装備する自動追尾タイプのクラスターミサイルを射出するHCミサイルランチャーを撃ち込まれ、数十機が火達磨となって墜落していく。

 救援の為にジェムズガンが地上へ通り、背後からザウォート・ヘビィの背後から襲い掛かるが、ビームライフルを撃ち込まれて返り討ちにされるだけだ。ディランザ・ソルに攻撃したジェノアスⅡ部隊も同様であり、ビームライフルを撃ち込まれるか、ビームサーベルで切り裂かれて撃破される。

 

『こちら上陸部隊! 敵アンノウン部隊の襲撃を受け、被害拡大中! 増援を乞う!!』

 

 上陸して地上部隊と合流しようとする部隊にも、新百合帝国軍の部隊が迫る。襲撃する部隊はEF-2000タイフーンや不知火と言った戦術機を中心とした物で、見事な飛行隊形を取りながら突撃砲や滑空砲を撃ち、UCA軍の上陸部隊に更なる損害を与えた。

 

「UCA軍も所属不明部隊に阻まれ、被害が拡大しております!」

 

「軟弱者のUCA軍には、スパルタン・レイニーと水上艦隊の航空隊でも回して置け! 地上の正体不明勢力には、地上に回したスパルタンⅤを回すんだ!」

 

「スタールアームズ支社の攻撃に回した方は? まだ取り付いても居ないでは無いか」

 

 そのUCA軍の苦戦ぶりは、作戦本部に居る羽翼元帥の耳に届けられた。これに側近の一人は、補給を終えたスパルタン・レイニーと航空部隊を、地上にはスパルタン・ゴウダとサンダールを回せと怒鳴った。一方での羽翼元帥は、スタールアームズ支社を攻撃しているスパルタンⅤと配下の部隊が、未だに取り付いていないことについて問う。

 

「中佐、直ちに報告しろ! どうした?」

 

 問われた側近の一人は、エマ・ホワイトが属するスパルタンⅤ随伴部隊に通信で問う。だが、部隊長は何も答えず、代わりに答えたのはエマであった。

 

『代行、失礼します』

 

「ホワイト大尉、なぜ貴様が代わりに出ているのだ? 中佐はどうした?」

 

『部隊長殿は戦死しました。更にその代行も戦死し、今は一番階級が高い私が部隊指揮官を引き継いでおります』

 

「それ程の激戦と言う事か。で、状況はどうなっておるのだ?」

 

 エマが代わりに出たことに、羽翼元帥の側近は理由を問えば、部隊長が戦死し、更にはその引き継いだ者も立て続けに戦死したので、一番階級の高い自分が引き継いだと答えた。これに羽翼元帥は自分の信仰者が多く戦死していることを気にも留めず、スタールアームズ支社に取り付いていないことを問う。

 

『敵はファントム・タロン社とユグドラシル社、どちらもゲイムランドに雇われた民間軍事会社です。実戦慣れした相手であり、バッシュ1と2、ギルティ、バレット、ブライト、随伴するギガントマキア傭兵団は苦戦中です』

 

「適性の無い奴は所詮その程度か。カイザ、お前は順調か?」

 

『はっ? それだけ…』

 

『元帥閣下、何用で?』

 

 エマからスタールアームズ支社に向かわせた部隊の状況を聞けば、ミニョルアーマーの適性の無い奴はその程度と少しばかり落胆する。それに飽きたのか、ゲイムランドの首都の制圧に向かったカイザらアーマー適合者チームの状況を問う。エマはそれだけなのかと理由を羽翼元帥に問うが、部下は問答無用で彼女の通信を切り、カイザへの通信を繋いだ。

 

「状況を聞いている。国家を自称するクズはいつ始末できる?」

 

『あぁ、国家元首を自称するテロリストの首領ですか? 今、宮殿に突入し、防衛システムを排除しながら奴の下へ向かっています。生け捕りをご所望で?』

 

 ゲイムランドを国家として認めず、挙句に国家元首をクズ呼ばわりする羽翼元帥の問いに、カイザは理解して国家元首が居る宮殿に突入し、防衛システムの障害を排除しながら向かっていると報告する。その後に国家元首を生け捕りにするのかと問うが、羽翼元帥の答えは既に決まっていた。

 

「何を言う、国家を自称する武装勢力の首領など処刑だ。そいつの処刑映像は、直接作戦本部に流すんだぞ? クズが見っともなくもがく様は、この上ない笑いものだからな」

 

『了解です。奴の所へ着けば、通信映像を繋ぎます』

 

「フン、適合者らは順調だな」

 

 羽翼元帥の決定は処刑であった。そればかりか、処刑する映像を直接この作戦本部に送るようにまでと注文する。悪趣味な注文に、カイザは少し眉をひそめながらも応じ、次は処刑の時に通信映像を繋ぐと返して通信を切る。ミニョルアーマーの適合者らが順調に作戦を進めていることに、羽翼元帥は満足しながら近くの椅子に腰かけ、机の上に置かれた湯飲みに入っている茶を一口飲んで気を良くした。

 

 

 

「ほぅ、可愛いじゃないか」

 

 作戦本部からの指示を受け、スパルタン・レイニーの量産型F91と共にUCA軍の救援を命じられたオルセン・メルリゴランドが属するジェット・コアブースター中心の航空隊は、救援を要請しているUCA軍が攻撃している新百合帝国軍の陸軍装甲旅団が守る線区へ向けて飛んでいた。

 オルセンは先陣を切って飛んでいる量産型F91のパイロットであるレイニーの顔を見て、美少女であると感心していた。そんなオルセンに、隣を飛ぶ僚機のパイロットはレイニーが元犯罪者だと伝える。

 

『そいつが可愛いからって気を許すなよ? そいつ、クスリが欲しくて親を殺した犯罪者だ。スパルタンⅤになったのは、減刑の理由だって話だぜ』

 

「おいおい、犯罪者かよ」

 

 同僚からのレイニーが犯罪者であると知らされると、オルソンは彼女の通信映像を切った。

 

『各機、私語は慎め。ここからは交戦空域だ。いつ敵の攻撃が来るか分からんぞ。警戒しろ』

 

「了解。さて、安全に手柄でも…ウワァァァッ!?」

 

『お、オルソン!?』

 

『何処から!?』

 

 編隊長からの注意に、オルソンは何時ものように安全に手柄を立てようと考えた。その瞬間、彼が乗るジェット・コアブースターに強力なビームが命中し、コクピット内は爆発に呑み込まれ、オルソンは断末魔の叫びを上げながら一瞬にして蒸発した。オルソン機が墜落していく中、先頭を飛んでいるレイニーは動揺しつつも即座に警戒する。

 

「見え見えの囮に、引っ掛かる物ですか!」

 

 オルソン機を撃墜したのは、両腰が105ダガーの物に改造されたオオトリ装備のストライクルージュを駆る楯京子(たて・きょうこ)であった。オオトリパックの右舷アームのビームランチャーを仕舞えば、左舷アームのレールガンと上面左舷に装備された機関砲を動揺するジェット・コアブースターの編隊に向けて放つ。それに続くように、随伴機のVガンダムとガンブラスター二機もビームライフルやビームバズーカをジェット・コアブースターの編隊に撃ち始める。

 

『や、奴の狙いは目前のF91なんじゃ!? ワァァァッ!!』

 

「うぅ!? これ以上は、させない!」

 

 味方のジェット・コアブースターが次々と撃ち落とされていく中、レイニーは量産型F91のウェスバーを展開し、接近してくる京子のストライクルージュとVガンダム、ガンブラスターに向け、ビームライフルと共に掃射する。この強力なビームの一斉射に、京子らは即座に散会する。

 

「あのガンダムタイプ、やるわね!」

 

 レイニーの判断を褒めつつ、京子は機体が持つビームライフルで僚機と共に反撃した。ガンダム同士の戦闘が行われる中、海岸から続々と連邦軍機やUCA軍機が飛来してくる。

 

『隊長、敵機です!』

 

「このガンダムは私が抑えるわ。貴方たちは海上から来る奴を!」

 

『了解!』

 

 続々とやって来る敵機の対処を問う僚機に、京子はレイニーの量産型F91と交戦しながら指示を出した。それに応じ、Vガンダムとガンブラスター二機は、予備として控える同型機四機は、そちらの対処へと回った。

 

「敵にもガンダムタイプが居るのか!」

 

『どうすんだ、臨時大尉殿? 行くのか?』

 

 連邦軍のバリエントやウィンダム、クランシェ、量産型ヒュッケバインMkーⅡが続々と新百合帝国軍が守る防衛線に向けて飛んでいく中、UCA軍もそれに続いていくが、撃墜されるのは確実なので、臨時大尉のエッジ・オコーネルはそれでも行くのかと元同僚に問われる。

 

『止めようぜ! あの量産タイプのF91に乗ってんのは犯罪者だ。それに連邦軍の奴らが向かう方向には、ガンダムタイプがウヨウヨしてる。殺されに行くようなもんだ。別の方へ行こうぜ!』

 

 同じジェムズガンに乗るもう一人の同僚は、レイニーが犯罪者であるという噂を鵜呑みにして、助ける必要性が無いと告げる。それに前線に向かわず、別方面の制圧に向かおうとまで言う。これには、エッジを除く者たちは納得であり、そこへ向かおうと進める。

 

『クレンの言う通りだ。別方向の援軍に向かった方が、中尉や大尉等の後を追わなくて済む』

 

『俺も同感だ。臨時大尉さん、そっちへ行こうぜ!』

 

「…助けに行く」

 

 同僚たちが安全な方へと向かおうと促すが、エッジは彼らの言葉も聞かず、レイニーの救出へ向かうと告げた。

 

「俺はあのお嬢ちゃんの救援に向かう」

 

『お前、頭がおかしくなったのか!? あんな犯罪者を助けに行こうだなんて!』

 

「あいつ等はあのお嬢ちゃんは犯罪者だというが、俺にはとても信じられねぇ! 俺は一人でも行ぜ? 騎士(ナイト)になりたくなければ、付いて来ないこったな!」

 

『ナイトって、あいつ…遂におかしくなったちまったか!』

 

 同僚らが止めようとするが、エッジはレイニーが犯罪者だというのは信じられないと返し、単独で彼女の量産型F91の救援に向かった。このエッジの無謀な行動に、同僚らは責任感でおかしくなったか、逃げ出したくなったのかと心配する。

 

 戦いは新百合帝国軍と傭兵部隊との戦闘に突入したが、連邦や同盟、ましてや新百合帝国でも無い別勢力がその戦場に乱入しようとしていた。




オルソンを劇場版マクロスの柿崎のようなに戦死させてしまったが、大丈夫だろうか…?

リオンテイルさん、取り敢えずごめんなさい。


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テノジアの最強戦士

名前:メルキュール
年齢:不明
階級:なし
所属:新百合帝国軍
武器:パイロキネシス
概要:気がついたら意図して火を起こす力を手に入れた。きちんと制御できるようで、暴走してあれもこれも発火ということはなく、料理や暖房代わりになったりも進んでするが、彼女自身はある戦線を一人で燃やし尽くしていた。
 今回も別の戦線を愉快に全焼させている最中に、本国より救援を命令を受け、戦線に急行する。
キャラ提供は神谷主水さん

名前:ガイエ・ハプスブルグ
性別:女
年齢:18歳
階級:大魔導師
所属:テノジア軍
乗機:テノジア軍演算宝珠
概要:テノジア軍の魔女(なお最高の魔女では無い模様)。

名前:モハメド
性別:男
年齢:25歳
階級:少尉
所属:テノジア軍ゾイド部隊
乗機:モルガ
概要:若くして少尉となったテノジア軍のパイロット。

名前:ムハマド・サウダ
性別:男
年齢:35歳
階級:駱駝部隊隊長
所属:テノジア軍魔導駱駝部隊
乗機:駱駝型演算宝珠
概要:テノジア軍の航空魔導士。幼い頃から駱駝を乗りこなしていた。

名前:グブール
性別:男
年齢:60歳
階級:遠征隊隊長
所属:テノジア遠征隊
武器:二振りの硬棒
概要:外見が拳王に認められた馬鹿でかい硬棒使い。馬鹿でかい外見をしており、両手に持つ硬棒から放たれる打撃は、グブールの怪力も合わさって最新式の戦車も一撃で破壊する。
遠征してたら、留守の領地をイヴ人の武装勢力に制圧されて蹂躙された為、イヴ人に対して並々ならぬ怒りを覚えている。
キャラ提供はG-20さん

名前:スパルタン・バット 
性別:男
年齢:24歳
階級:無し
所属:スパルタンⅤ
ミニョルアーマー:グレーのアーマー
概要:元盗賊のスパルタンⅤ、金髪ソフトモヒカンの髪型をしたガタイのいい男。本名バット・クレイバー
元は民間や連邦軍相手に物資強奪など繰り返してた盗賊団の一員だったが、繰り返しの略奪に激怒した連邦軍に盗賊団を壊滅させられ自身も捕縛。
極刑の身になったがある日羽翼元帥に「スパルタンⅤ計画に参加するか極刑か」の二者択一選ばされ命惜しさにスパルタンⅤ計画初期に参加、幸運にもスパルタンⅤになれた。
キャラ提供はスノーマンさん


「ふぅ、扱き使ってくれるね」

 

 陸軍装甲旅団が属する装甲師団の援軍と共にやって来たのは、炎を操ることが出来るパイロキネシスを持つイヴ人の能力者、メルキュールであった。

 メルキュールは別の戦線で撤退中の味方を支援する為、自在に操れる炎で追撃する敵軍を焼き払っていた。その任務を終えた直後、ゲイムランドへの救援要請を受け、再編したばかりの装甲師団と共に援軍としてこの地へやって来たのだ。

 

「フハハハッ! 汚物は、消毒だ~!」

 

 ヘルメットに鶏冠の飾りを着け、両肩には棘のついた肩パットを着けたミニョルアーマーを身に纏うスパルタンⅤ、スパルタン・バットは、両腕に装着された大き目のガントレットに内蔵された火炎放射器で、塹壕に居る第13軍団の歩兵等を焼いていた。

 

「や、止めてくれぇ! 俺は、俺たちは奴らに無理やり戦わされていただけなんだ!」

 

「助けてくれ! イヴ人に無理やり徴兵されて戦わされているんだ!!」

 

 バットの火炎放射攻撃や連邦軍の損害無視の物量攻撃に恐れをなした第13軍団に属する人間の歩兵らは、押し寄せるモリタ式アサルトライフルを持つ連邦軍の歩兵部隊に投降し始める。だが、連邦軍の歩兵らは、立派に正規兵に見える野戦服を身に纏う新百合帝国軍の歩兵に対し、残虐な決断を下す。

 

「へっ、所属も分からねぇ奴なんぞ、捕虜にするか!」

 

 投降した第13軍団の将兵等を連邦軍の歩兵部隊は所属不明だと決め付け、容赦なく発砲して射殺した。

 

「立派な正規兵に見えるがよ、所属不明な時点でテロリストよ!」

 

「こっちは散々殺されまくってんだ! 生かしちゃおけねぇ! 皆殺しだ!!」

 

 新百合帝国軍は、この世界では正体不明な軍隊であり、連邦軍からすればテロリストにしか見えないのだ。その為に連邦軍の歩兵部隊は容赦なく射殺していった。

 

「うわっ!?」

 

「う、撃ち落とせ!」

 

「ヒャッハーッ! 死ねぃ!!」

 

 多勢に攻める連邦軍の攻撃に後退するレオパルド1A7戦車に、バットが襲い掛かって来た。これに戦車長は砲手に命じ、機銃を撃ちながら後退するが、既にバットに取り付かれ、砲身を捻じ曲げられた挙句、ハッチをこじ開けられて殴殺された。

 

「よーし、このまま一気に奴らを蹂躙して…」

 

 第13軍団の防衛線の一部を突破した部隊は、このまま一気に新百合帝国軍の駐留軍本部まで突き進もうとしたが、到着したメルキュールが放った業火により、部隊ごと焼き払われた。

 

『な、なんだ!? 一個大隊が消滅したぞ!』

 

『敵の増援を確認! 二個機甲師団と航空機の大編隊だ!』

 

 大隊規模の味方の反応が消えたことに、連邦軍の将兵等は動揺する。そんな連邦軍とUCA軍に、メルキュールを含めた新百合帝国軍の増援が駆け付けて来た。

 

「おのれ、何処から湧いて出たのだ!?」

 

「忌々しい! まだ抵抗するか!」

 

 次元転移装置より現れた敵増援部隊に、戦線を蹂躙していたスパルタン・ゴウダとサンダールは思わず足を止めたる。他のミニョルアーマーを纏うスパルタンⅤも、MSや戦術機、アームスレイブを含める二個旅団規模の機甲部隊の攻撃の前には、敵わないらしく、総攻撃から身を守るために後退り始めた。

 

「ひ、人が! 人が飛んでいる!?」

 

 増援部隊には空軍の部隊も混じっており、可変戦闘機(バルキリー)のみならず、横流しされたヴァルキュリア・アーマー(VA)や航空魔導士も含まれていた。ターニャと同じようにファイテックスを纏っている航空魔導士も居り、ミニョルアーマーを纏うスパルタンⅤに対し、三人掛かりで交戦して対処している。VAも同様に三機でスパルタンⅤに対応している。

 

「謎のアーマー集団とかなんなの!? 五人で寄ってたかってキモっ!!」

 

 IS寄りな外見を持つスパルタン・フラウロスには、ファイテックス三名とVA二機が攻撃を行っていた。巧みな集団戦法にフラウロスは翻弄され、苛立ちを覚えながらビーム砲をファイテックスに向けて撃つが、纏っているのは航空魔導士なので、魔法障壁で防がれ、VAの攻撃を受けてシールドのエネルギーを削られる。

 

「クソっ、何なんだこいつ等!? 連中にもスパルタンⅤが居るのか!」

 

「背後に敵機!!」

 

 地上攻撃用の爆装に換装したスカイグラスパーで、上陸部隊の航空支援を行おうとしていた直人と美穂であったが、現れた航空魔導士やVAに驚いて動揺していた。護衛のスピアヘッド四機もいたが、背後から来たVF-31Aカイロスの奇襲を受け、瞬く間に壊滅した。

 スカイグラスパーも攻撃を受けるが、美穂が旋回式ビーム砲を操作して背後から来るVF-31Aを牽制し、追い払うことに成功する。

 

「おぉ、援軍か! こちらフェアリー1、救援を要請する! こっちだ!!」

 

 ルシファーらと交戦中のターニャは援軍が来たことに気付き、少しでも楽をする為に無線で付近の隊に救援を要請する。だが、自分らの戦闘空域外であったのか、バルキリーやVAは近寄らず、その要請を拒否していた。

 

「死ねェェェ!」

 

『戦闘空域外の為、要請は応じられません』

 

「クソっ! こんな時に任務優先して!」

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

 要請を拒否されたことで、ターニャは全力で殺しに掛かるルシファーらを八つ当たりするかのようにランチャーを放ち、標的にしたスパルタンⅤの腹に穴を空けて殺害した。

 

「こ、こいつ! また殺しやがったなァ!?」

 

「この怪物共相手に、私一人で対処しろというのか!? 司令本部は!」

 

 アバトンに続き、二人目の仲間を殺されたルシファーと残り一人のスパルタンⅤは激昂し、攻撃を強めて来る。嵐のような弾丸の雨を魔法障壁で防ぎつつ、ターニャは司令本部に対して悪態を付いた。

 

「向こうの方は、押し戻しているように見えるが?」

 

 配下のファントム・タロン社の戦力と共に、自分専用のサイリオンでスタールアームズ支社の防衛線を支えるベノワは、新百合帝国軍が増援を得て盛り返しているのを見逃さなかった。

 次元転移装置より二個師団以上の増援が来ているので、その存在を知らない連邦軍とUCA軍はいきなり湧いて出て来たとしか思えず、混乱している。だが、ベノワとハヅキ、アドルフ、ダーメン神父らが守るスタールアームズ支社方面の状況は変わらない。

 

『ヒャオー!!』

 

「予備にしては不自然だが、こっちにも欲しいな!」

 

 スパルタン・バッシュ2が駆るレイダー制式仕様の猛攻に、ベノワは自分らの方にも増援が欲しいと嘆きつつ、レールガンで反撃を行った。

 

 

 

『敵の数がいきなり増えて、ギャァァァッ!』

 

「クソっ、何処から湧いて出たのだ!」

 

 連邦軍にとって何の前触れもない新百合帝国軍の増援の出現は、かなり衝撃を与えたらしく、作戦の司令官である羽翼元帥を苛立たせていた。側近が激怒する中、羽翼元帥は拳を強く握りしめ、静かにその苛立ちを周囲に見せている。

 数は未だに連邦軍とUCA軍が圧倒しているが、相手は多対の戦いに慣れた者が多く、物量戦が十八番の敵軍に更なる損害を与えていた。

 

「もっと数を出せ! 付近に居る友軍からも、戦力を出させろ!」

 

「奴ら、何処にあんな戦力を残していたんだ? 初手に大群相手に一個軍団程度で防衛線を張るなど、愚策としか思えん」

 

「いきなり湧いて出たとしか思えん。数はこっちが多いんだ! 冷静に対処しろと伝えろ!」

 

 側近らは新百合帝国軍の増援がいきなり湧いて出たことに、やや混乱する作戦本部であるが、慌てても被害が増すだけなので、数の多さを武器に冷静に対処しようとする。

 そんな羽翼元帥を更に苛立たせる事態が発生した。それは、ターニャの命を狙うテノジア軍と刺客たちの襲来である。

 

「各方面に新たな反応! こ、これは!?」

 

「今度は何の騒ぎだ!?」

 

「あ、アンノウンです! 各所に次元の歪みより出現!!」

 

「な、なんだと!?」

 

 その第三勢力の出現は、新百合帝国軍の増援とは違って前触れのように発生した。

 

 

 

「ほぅ、これがあの化け物が居る戦場か?」

 

「誰だ貴様ら!?」

 

 ゲイムランドの首都、国家主席が居る宮殿に発生した次元転移から現れたのは、テノジア軍のアンオスゴタ王子であった。

 かつて存在したイスラム帝国やオスマン帝国軍を思わせるような甲冑姿で出現したテノジア軍の面々は、出現した次元の歪みから続々と姿を現せば、統制された動きで整列し、王族専用の甲冑姿で出て来たアンオスゴタ王子を出迎える。

 突如となく現れたアンオスゴタ率いるテノジア軍に、スパルタン・カイザとデルタ等は驚き、手に敷いている銃火器を向けた。アンオスゴタは戦場慣れしているのか、それとも即座に親衛隊の兵士たちが自分の前に立って防御陣形を取って守ってくれている為か、、銃口を向けられているにも関わらず、堂々とした態度を取っていた。

 

「ほぅ、シルバリー合金以上の甲冑はこの世界にも存在するか」

 

「あっ! た、助けて! 助けてください!!」

 

 カイザらが身に纏うミニョルアーマーを見てアンオスゴタは感心する中、いきなり現れた謎の集団に、ゲイムランドの国家主席は泣きついて助けを乞う。だが、冷酷な王子は睨み付け、次元の歪みから出て来た大男に彼を踏み潰させる。

 

「ゲブール、そこのゴミを踏み潰せ。目障りだ」

 

「御意に」

 

「ひ、ヒヤァァァッ!? や、やめっ」

 

 ゲブールと呼ばれる二振りの硬棒を持つ大男はアンオスゴタの命に従い、失禁して悲鳴を上げるゲイムランドの国家主席の胴体を巨大な右足で力強く踏み潰した。強い力を込めて踏み潰したため、国家主席は上半身が完全に無くなり、残っているのは両腕と下半身のみであった。これにカイザらは戦慄し、後ろへと下がる。

 

「貴様ら、こいつ等の後ろ盾じゃないのか?」

 

「俺がその踏み潰されたゴミの後ろ盾だと? フン、面白いことを言うな、貴様。貴様の名を名乗るのを許してやろう。この俺が、殺す前に少しは覚えてやろうと言うのだ。どうせ忘れるがな」

 

 ゲブールに踏み潰された国家主席の後ろ盾が、アンオスゴタらテノジア軍であると思っていたカイザであるが、これに王子は鼻で笑い、面白いことを言うので気に入ったと話し、見下した態度で名を聞いて来た。この王子の身分の低い者を見下す態度に怒りを覚えながらも、カイザは本名で答える。

 

「マサト、マサト・クサカだ」

 

「ほぅ、マサトというか。では、シルバリー合金の甲冑を身に纏うくらいの実力があるかどうか、我がテノジア軍の兵士共で試してやろう。歩兵隊、目前の奴らを殺せ!」

 

『御意!』

 

 アンオスゴタに問われたカイザは本名で答えるが、当に聞いていた王子は覚えるつもりが無いような反応であり、手始めに随伴させている槍や剣などの刀剣類を持つ歩兵らを差し向けた。自分と親衛隊、ゲブールは動かず、歩兵等だけに向かわせている。

 

「奴め、覚える気は無いだろうな! 数が多過ぎる! ここは退いて付近の部隊と合流し、協同して対処する!撃ちながら下がれ!」

 

 向かってくるテノジア軍の歩兵の大群に、カイザは現状の戦力では分が悪過ぎると判断してか、付近の部隊と協同するため、外へ出ると指示を出した。デルタ等もそれに応じ、ライフルやライトマシンガンを撃ちながら後退する。

 

「フン! あれほど大口叩いて逃げるとは! 見掛け倒しにも程があるわ!」

 

「いや、あれは戦においては正しき判断よ。だが、易々と獲物を逃すアンオスゴタではない! 追撃せよ! 地の果てまで追いかけ、彼奴等の首を討ち取るのだ!! ゲブール、貴様も行けィ!」

 

「御意に!」

 

 自分らと戦う気だったのに、逃げ出したカイザらを嘲笑うゲブールであるが、アンオスゴタは正しい判断であると評する。それでも逃がす気は毛頭も無いので、ゲブールに追撃命令を出して追わせた。

 

「な、なんだこいつ等!?」

 

「歪みか亀裂から続々とアンノウンが!?」

 

 出現するテノジア軍は、ゲイムランド首都に出現したアンオスゴタ王子の本隊だけではない。各所に出現しており、この世界には無い機動兵器や新百合帝国軍と同じバルキリーやAS、ゾイドなどで混乱する連邦軍やUCA軍に襲い掛かる。即座に対応するも、予想外の場所から出てきた敵に間に合うはずもなく、奇襲攻撃でかなりの損害を出した。

 

「俺の出世の為、死んでもらうぜ! 異世界の軍隊!!」

 

 大量に出現した昆虫型の小型ゾイドのモルガは、その数の多さを活かして連邦軍の側面から襲い掛かり、混乱して動きを止めたグスタフカールとストライクダガー、アデルMk-Ⅱ、量産型ヒュッケバインMk-Ⅱ、スコープドッグなどの部隊に被害を与える。

 一小隊の指揮を任されるモハメドは、自分が駆るモルガの武装であるバルカン砲を撃ちながら一機の敵機に体当たりを行い、見事に撃破する。

 

「こいつ等、テノジア軍!? どうしてこんなところに!」

 

 テノジア軍の存在を知る新百合帝国軍も、いきなりの出現に動揺しており、その隙を突かれて何機かが撃破されていた。

 

「おいおい、どうなってんだ!? なんだよこいつ等!」

 

「こいつ等、テノジア軍の航空魔導士! どうしてこんなところに居るのだ!?」

 

 ルシファーらと交戦するターニャの方にもテノジア軍が現れた。現れたのは多数の駱駝型演算宝珠に跨る航空魔導士であり、ターニャを見るなり手にしているブルパップ式アサルトライフルであるKH2002カイバーを撃って来る。

 

「あの甲冑、標的では!?」

 

「俺たちは運が良いぞ! 転移して早々、いきなり標的と遭遇するとは! 見事に奴を討ち取れば、昇進は確定だ!!」

 

 副官からの問いに、ターニャを攻撃する航空魔導士部隊の隊長であるムハマド・サウダは、これをチャンスだと思って攻撃を強めた。片方は外見に合わぬ歴戦錬磨の航空魔導士で、もう片方はミニョルアーマーを纏う半グレのスパルタンⅤ二名だ。こちらが数で勝る最新鋭装備の航空魔導士一個連隊とは言え、両方一編と戦うことになれば、全滅に近い損害を負う事は確実である。

 

「誰だテメェらァ!?」

 

 怒り混じりにルシファーは、仲間と共に航空魔導士等を次々と血祭りに上げていく。銃撃などを魔法障壁で防ぐが、打撃など防げるはずもなく、無惨な肉片と化す。

 ターニャの方に襲い掛かった航空魔導士等も同様の末路を辿っていた。ルシファーらはアーマーの性能と力任せに殺し回っているが、ターニャは同じ兵科の航空魔導士と何度も戦っており、無駄のない動きで次々と殺害している。

 

「第一大隊、壊滅!」

 

「第二大隊も壊滅しました!」

 

「な、なんだというのだ!? 相手はたった三人なのだぞ!!」

 

 味方の航空魔導士が次々と倒されていく報告に、ムハマドは戦慄する。そんなムハマドが居る方へ、ターニャは止めに入るテノジア軍の航空魔導士を殺しながら迫る。ファイテックスでただでさえ高い戦闘力が更に強化されており、並の航空魔導士は止められず、直ぐにムハマドが居る連隊本部への接近を許した。

 

「うわっ!? き、来た!」

 

「貴様ら、テノジア軍だな?」

 

「っ!? ぬ、ヌワァァァッ!!」

 

 止めようとする敵航空魔導士を殺しながら辿り着いたターニャは、ムハマドらにテノジア軍かと問う。これにムハマドは腰の刀を抜き、雄叫びを上げながら斬りかかる。刀で斬りかかる相手に、ターニャは繰り出される斬撃を軽やかに躱し、右腕のガントレットから出した口臭はブレードを素早く振るい、相手の頭を斬り落とす。

 

「大方狙いは私だろうな。たく、面倒な!」

 

 自分ら新百合帝国と敵対しているテノジア軍が来たと言う事で、ターニャはその狙いが自分であると気付き、厄介ごとが増えたことに腹を立てつつ、八つ当たりするように、残っている周囲の敵航空魔導士等を攻撃する。

 

「っ! 今度は誰だ?」

 

「この距離で俺の狙撃を躱しただと!?」

 

 手当たり次第にテノジア軍の航空魔導士を殺害するターニャを、長距離から大型スナイパーライフルの二脚を立て、狙撃で仕留めようとしていたスパルタン・クロウであったが、当の彼女はそれに気付き、紙一重で躱した。

 

「死ねやぁぁぁ!!」

 

「だが、狙撃手の始末は後になりそうだ!」

 

 自分の狙撃を躱された事に動揺するクロウであるが、ターニャは自分の周辺に居たテノジア軍の航空魔導士を皆殺しにしたルシファーから強襲を受ける。もう一人は多数の航空魔導士の攻撃に耐えられず、戦死してしまったようだ。返り血まみれのルシファーに応じるべく、ターニャは専用ライフルを撃ち込んだ。

 

 

 

「随分と、遠くの方へ転移してしまったな」

 

 テノジア軍の最強戦士であるダリュン・ヴァフリズが転移したのは、よりにもよって空軍野戦師団が配置されている場所であった。ダリュンのみならず、親衛隊の騎兵隊、ナイトギガフォートレス(KGF)のバタララン・ドゥを駆るジダン・ガルファールや多数のKMFのゲド・バッカ、トラの大型ゾイドであるセイバータイガー多数、航空魔導士でテノジア軍の大魔導士であるガイエ・ハプスブルクが随伴していた。

 

「て、テノジア軍…!?」

 

「ど、どうしてこんなところに…!?」

 

「それにあいつ、ダリュン・ヴァフリズ!?」

 

 突如となく現れたダリュン等に、塹壕の中に居る空軍野戦師団の将兵等は戦慄した。自分を見て震える彼女らを見たダリュンは、一目見ただけで碌な戦闘経験も無く、装備も練度も低い質の悪い将兵等と見抜く。無視して良い存在と捉えたのだ。現にダリュンに見られた空軍野戦師団の将兵等は、全く攻撃して来ない。兵士たちに指示を出す士官でさえ、攻撃すれば殺されると思って震えるばかりだ。

 

「あの怯え様、碌に訓練も受けていなければ、この戦が初陣だな。ジダン、こいつ等は無視して良い。構うだけ時間の無駄だ」

 

『はぁ、あれで無視して良いと言うので? 完全に武装しておりますぞ』

 

 空軍野戦師団を無視して良いというダリュンに、ジダンは疑問を抱いた。そんな腹心の疑念は、直ぐに当たった。航空魔導士のイーリス・フォン・リフレインが、数名の航空魔導士を引き連れて攻撃してきたのだ。

 

「テノジアの奴らにビビッて攻撃できないなんて、情けない!」

 

 ダリュンの存在に怯えて攻撃できない地上部隊に代わり、イーリスは随伴する部下と共に爆裂術式で攻撃を行う。この攻撃から主君を守るべく、ガイエは防御術式の魔法障壁で守る。

 

『ヴァフリズ殿!』

 

「ガイエ、手助けは無用だ。この愚か者共は、俺が討ち取る!」

 

 イーリスらの爆裂術式は、ガイエの魔法障壁によって完全に防がれた。強襲してくる敵航空魔導士から主君を守ろうと、ジダンらが守ろうとするが、ダリュンはいらぬものと断り、腰の剣を抜いて異常な高さまで飛躍する。

 

「こ、こいつ! 能力者が!?」

 

 僅か数秒で自分の高度まで飛んで来たダリュンに、イーリスは相手が能力者だと思って防御術式を張ろうとするが、その前に剣で斬られた後であり、血反吐を吐きながら落下していく。

 

「この!」

 

「無駄だ…!」

 

「えっ?」

 

 自分らの隊長であるイーリスを斬り殺したダリュンに対し、残る航空魔導士等は至近距離からG3A4自動小銃やHK33突撃銃、MG3汎用機関銃を放とうとするが、引き金を引く前に剣を振るっており、全員が血飛沫を上げて息絶える。

 

「こ、航空魔導士が…!?」

 

「ひ、一振りで数名を…!?」

 

 瞬く間に空軍野戦師団では最高の歩兵科である航空魔導士、それも複数を斬り殺したダリュンに、地上に居る将兵等は完全に戦意を失う。

 

『いくら能力者でも、MS相手に!』

 

『ヴァフリズ殿、今度こそ我らに!』

 

「いや、こいつにもお前たちは出なくて良い。それより槍を寄越せ」

 

 だが、戦意を失わず、挑んでくる者が居た。それは、ジムⅡを駆るメイ・リーフェンだ。MSのジムⅡであれば、幾ら能力者のダリュンに勝てると踏んだのだろう。ジダンとその部下たちは迎撃に出ようとするが、またもダリュンに止められた。どうやら、相手がMSでも勝てる自信があるようだ。ビームライフルで攻撃してくるメイのジムⅡに対し、ダリュンは投げられた槍を受け取り、それを向かってくるジムⅡに狙いを定める。

 

「槍でMSに勝てるとでも!? 舐めちゃって!」

 

 槍でMSを倒そうとするダリュンに、メイは動きを止めてビームライフルを撃ち続ける。掠めるビームにダリュンは全く動じることなく、投げようとする槍にオーラのような闘気を纏わせ、十分に距離と落ちる速度を計算すれば、勢いを付け、メイのジムⅡに向けて投げた。

 勢いよく投げられた闘気を纏った槍は、弾丸の如く目標であるメイのジムⅡに吸い込まれるように飛んでいく。投げられた槍にメイは全く警戒してなかったが、その槍はジムⅡの装甲を貫通し、コクピットまで達してメイの身体を貫いた。槍で身体を貫かれたメイは、驚きの表情を浮かべながら血反吐を吐く。

 

「えっ…? な、なんで…」

 

 その言葉を呟いた後、メイは完全に事切れた。

 MSのジムⅡですら容易く倒してしまったダリュンに、空軍野戦師団の将兵等は完全に戦意を喪失した。敵対するようなら殺されることは確実と悟り、ダリュン等を通してしまう。

 

「流石に、この世界の軍は挑んでくるか」

 

『露払いは我らにお任せを! 今度こそ出番だ! 皆の者、かかれぃ!!』

 

『我ら砂漠の虎隊もこれに加わるぞ!』

 

 空軍野戦師団は恐怖の余りダリュン等を素通りさせたが、対峙していたUCA軍は別であった。テノジアの最強紳士であるダリュン・ヴァフリズを知らないUCA軍は、全力で攻撃してくる。数で攻撃してくるUCA軍に、バタララン・ドゥを駆るジダンは、配下のゲド・バッカ多数に指示を出し、ダリュンの前に出て敵軍を迎え撃つ。セイバータイガー隊もこれに加わり、UCA軍と交戦を開始する。

 

「地上部隊は、アンノウンに抑えられているぞ!」

 

『なら私たちは、空からアイツを!』

 

『あぁ! 何処の軍隊か知らんが、みんなでやっちまおうぜ!』

 

 SFSのケッサリアに二機ずつ乗るジェガンJ型とジェットストライカー装備のダガーLの混成部隊は、上空からダリュンを攻撃しようとするが、ガイエの拡散術式による対空攻撃で迎撃され、次々と撃ち落とされていく。多数の量産型ヒュッケバインMk-Ⅱも側面より攻撃しようとするが、随伴するセイバータイガーの対空攻撃に遭って被害を出すだけであった。

 

「ヴァフリズ殿、ガルファール殿が抑えておられる内に!」

 

「承知している! 奴の首、必ずや討ち取る!!」

 

 随伴する騎兵隊より急かされれば、ダリュンは空高く浮遊し、ターニャが居る方へと飛んで行った。




次回もまた登場し、見事に散って行きます。

不定期の読者参加型の奴、やろうかな。


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到着する刺客たち

名前:ユージ・ニシムラ
性別:男
年齢:?
階級:少佐
所属:ワルキューレ特務暗殺部隊 レッドベレー隊
武器:鋼線ワイヤー
概要:レッドベレー隊なのに、帽子からなにまで全部青い軍服のカーネルの副官。紫外線除けのためのバイザーとチョビ髭が特徴の細顔。10名の投擲ナイフ部隊を率いる。
キャラ提供は神谷主水さん

名前:ニュクス
性別:女
年齢:(見た目)10代半ば
階級:なし
所属:ワルキューレ特務暗殺部隊
武器:魔法、アームドデバイス
概要:ワルキューレ特務暗殺部隊のガルム・マッドアイに付いてまわるゴスロリ風の衣装を着た銀髪の美少女であり、マッドアイの強者との戦闘を邪魔する雑兵達を殲滅し露払いを行うのが主な役割。
キャラ提供はRararaさん

名前:ハッカ
性別:男性
年齢:不明
階級:不明
所属:ワルキューレ特務暗殺部隊
拳法:南斗飛燕拳

名前:リロン
性別:男性
年齢:不明
階級:不明
所属:ワルキューレ特務暗殺部隊
拳法:南斗飛燕拳
とある核戦争で壊滅した異世界から召喚された二人組の拳法家
素早い身のこなしと高い跳躍力、そして二身一体のコンビネーションから織り成す鋭利な刃物の如き手刀を喰らえば魔導士といえども最期。
触れた部分から両断される末路が待っていることだろう……
キャラ提供はスノーマンさん

名前:ヒューリー・ウォーレスト
性別:男
年齢:20歳?
階級:店長
所属:ジャンク屋兼解体業者
武器:エレファンダー ジャンクカスタム
概要:外見は褐色肌に銀髪。養父に育てられたため出生、年齢共に正確には不明。養父がジャンク屋を営んでおり、色々と仕込まれている。同時に解体も仕込まれ、解体業も行っている。
キャラ提供は(OwO)さん


 テノジア軍がゲイムランドの地に次元転移装置を使って襲来する中、ターニャ・フォン・デグレチャフ抹殺を目的とする刺客らも、この世界に転移していた。

 

「さて、我々はどの地点に転移したのだ?」

 

 刺客のレッドベレー隊の指揮官であるガズ・メックスことカーネルは、五十数名の部下たちと共に転移していた。特殊部隊用のカスタマイズが施されたM4A1カービンやM249分隊支援火器を持った部下たちは、即座に周囲警戒を行い、以上が無い事をハンドサインで知らせる。

 レッドベレー隊が転移したのは、スパルタン・デラックスマンらによって壊滅させられたゲイムランド跡地であった。

 

「周囲に敵は居ないようですな」

 

「では、現在地の確認と行くか」

 

 カーネル指揮下の隊員らがレッドベレー帽なのにもかかわらず、バイザーを身に着け、帽子と軍服が青い副官であるちょび髭が特徴な細顔のユージ・ニシムラは、ハンドサインを見てそれを上官に伝える。敵影が居ないことを確認すれば、そのまま部下に警戒させ、地図を開いて現在地を確認する。

 

「向こう側は戦闘が行われておりますな。標的はやはり?」

 

「最前線にいる可能性はあるな。もう少し、偵察する必要性はありそうだ」

 

 事前にスミスが手に入れたと思われる地図を見て、自分らの現在地を確認したカーネルであるが、主戦場から離れていると気付いた。彼らの標的はターニャであり、激戦区に配置されていると思い、そこを偵察する必要性があると言う。

 だが、そんなレッドベレー隊の前に、大量虐殺を行っていたスパルタン・デラックスマンが到来する。

 

「何者だ、貴様ら?」

 

「あのアーマーは、スパルタンとか言う奴か。飛べるのか。しかし、標的では無いな」

 

「えぇ。奴の始末は、我が隊にお任せを」

 

 部下たちは手にしている銃を発砲しようとするが、カーネルに止められる。スパルタンの情報はスミスより提供されていたが、スパルタンⅤの情報は入手できておらず、Ⅳまでの情報しかカーネルたちは知らない。その為、ミニョルアーマーが飛行能力を有していることに驚いていた。

 戦闘態勢を取るカーネルであるが、デラックスマンは標的ではない。副官のユージが代わりに始末すると言って得物の銅線ワイヤーを取り出し、同じ服装の十名ほどの部下を引き連れて前に出る。

 

「よし、任せたぞ少佐。我々は、標的を探しに向かう。無線兵、テノジア軍の無線を常に傍受しておけ。奴の居場所が分かるはずだ」

 

 デラックスマンの対処をユージの隊に任せ、カーネル等はテノジア軍の無線を傍受しつつ、ターニャを探しに向かった。丁度デラックスマンは地面に降り立ち、余裕な態度で彼らの動向をただ眺めている。

 

「ほぅ、たった十一人で正義の化身たる俺と戦おうというのか?」

 

「ただ強化戦闘服を着ただけの男を始末するだけのことだ。我々にとっては何の造作も無い」

 

 カーネル等レッドベレー隊がターニャを探しに行った後、デラックスマンは十一人で自分と戦う気かと問う。これにユージは自分たちなら殺すのは容易い事だと答え、ハンドサインを出して部下たちにデラックスマンを包囲させた。

 

 

 

「おや、標的が居る場所ではないようですね」

 

 カーネル等と同じく転移したショーマン・ジロックロは、自分の転移した場所がターニャの居る所ではないと、周囲を見渡して理解する。

 

「それでも、副目標は達成できそうですな」

 

 標的のターニャは見付からなかったが、付近の施設から銃声を耳にすれば、スミスより出されていた副目標は達成できると判断する。ショーマンが転移したのは、主戦場からかなり離れた位置にある新百合帝国軍の拠点であった。

 そこから銃声が聞こえるのは、連邦軍の本隊が攻撃している内に、そこへ大気圏外から降下したスパルタン・シドとカリストたちが、新百合帝国軍が本土へ運び出そうとしている物を奪おうとしているのだ。

 

「フフフ、例の物を奪うチャンスですな」

 

 不敵な笑みを浮かべながら、ショーマンは左手側のCOMP状のコンピューターを操作し、付近の施設内に特機、鬼械神を召還する。ショーマンはデモンベイン系の魔導士であったのだ。施設内に召喚された鬼械神は、壁を破壊して召喚士のショーマンを施設内に迎え入れる。

 

「私は、副目標の完遂に従事しますか」

 

 鬼械神を前に出しながら、ショーマンはシドやカリスト等が狙う百合帝国軍が運び出そうとしているある物を奪いに向かった。

 

 

 

「何者だ!?」

 

「俺たちが転移したのは、乱戦場のようだな」

 

 赤いバトルアーマーに身を包んだガルム・マッドアイが転移したのは、スパルタン・サンダールが居る区画であった。

 そこは新百合帝国軍と連邦軍が激しい攻防戦を繰り広げていたが、テノジア軍の乱入によって乱戦状態と化していた。次元転移よりテノジア軍のエイ型の小型ゾイドであるシンカーやサソリ型の小型ゾイドであるガイサック、モルガの大群が続々と現れ、新百合帝国軍と連邦軍に向けて突っ込んで行く。

 

「あ、あいつ! 資料で読んだスパルタンとか言う奴!」

 

「情報と随分違うようだが、良い準備運動にはなりそうだな」

 

「どうやら、あのアンノウンと同じ異世界の者のようだな。我らが任務の邪魔をするようなら、排除するまで!」

 

 一匹オオカミと思われていたガルムに随伴していた十代中半の銀髪の少女で、この戦場には似付かわしくないゴスロリ風の衣装という恰好なニュクスは、こちらに得物の体験を向けるサンダールを見て、スミスより渡された資料に記されていたスパルタンであると告げる。

 そんな少女を連れて激戦区へ来たガルムは、サンダールが歴戦の戦士であると見抜いたが、自分が望む相手ではないと判断し、ターニャとの戦闘前の良い準備運動になりそうだと過小に評価する。対峙したガルムに過小評価されていることも知らず、サンダールはヴィンデルの任務を全うするために排除するために攻撃する。

 

「ニュクス、周囲の雑魚共を掃除しておけ。俺は準備運動を行う」

 

「あいよ旦那! 旦那の邪魔をする奴はアタシに任せな!」

 

 ガルムがニュクスを連れて来たのは、自分の戦いの邪魔をする者たちの殲滅をさせる為であったようだ。それに応じたニュクスは、アームドデバイスという魔法を使う二本の長剣型武器を展開し、ガルムとサンダールの戦いを邪魔しようとする者たちを、風属性と短距離瞬間移動を駆使して排除し回る。

 その動きは少女らしからぬ戦い慣れた物であり、ガルムの手ほどきも加わり、歴戦錬磨の戦士のようだ。邪魔をしに来たATのスタンディングトータス四機は、一瞬にして細切れにされる。

 

「う、ウワァァァッ!?」

 

 二振りの長剣を両手に飛び掛かるニュクスに、標的にされたスタンディングトータスのパイロットは、叫び声を上げながら乗機共々バラバラにされた。

 

「このスパルタンⅤの私を相手に、一人で挑もうというのか?」

 

「フン、お前では俺を満たせん。だが、良い準備運動にはなる」

 

「この私が準備運動程度だと? 舐めた真似を! 後悔させてくれる!!」

 

 ニュクスが周辺のテノジア軍以外の軍の排除を行う中、ガルムとサンダールは対峙する。

 スパルタンⅤである自分に一人で挑もうとするガルムに対し、サンダールは自分一人で良いのかと問う。それにガルムは準備運動にしかならないと返して、戦闘態勢を取る。準備運動程度にしかならないと言われたサンダールは少し苛立ち、後悔させてやると言って大剣で斬りかかる。

 

「良い太刀筋だ。だが、それでは俺は殺せない」

 

 飛び掛かったサンダールから放たれる斬撃をガルムはギリギリのタイミングで躱し切り、剣の腕は評価しつつも、それでも自分は殺せないと告げ、左腕を振るって吹き飛ばした。ミニョルアーマーのシールドのおかげで、サンダールには大したダメージは与えられなかった。

 

「大層な台詞を吐いたかと思えば、このアーマーのシールドを破れんとは!」

 

「ほぅ、シルバリー合金でもへこんでいるレベルを耐えるのか。良いウォーミングアップになるな」

 

 自分を準備運動程度にしかならないと見下す癖に、大した威力が無いというサンダールに、ガルムは関心の声を上げた。

 その後、両者は互いにぶつかり合い、激しい戦闘を開始する。

 

 

 

「おのれ、元帥閣下の作戦を無茶苦茶にしよって! この狼藉共が!!」

 

 新百合帝国軍の機甲部隊の増援に前進を阻まれていたスパルタン・ゴウダは、三軍が入り乱れる混沌とした乱戦に巻き込まれていた。乱入して来たテノジア軍の刀剣類を持った歩兵隊に囲まれたゴウダは、二振りの大太刀を振るって吹き飛ばしていた。

 ゴウダが持つ二振りの大太刀は、シルバリー合金で出来た甲冑を破壊するほどの威力があるらしく、アーマーのパワーアシストも加わり、紙切れのようにテノジア軍の兵士たちを切り裂いている。

 

「う、うわぁ…!?」

 

「ひ、怯むな! あの武者は一人だ!! 全員でかかれェ!!」

 

 大太刀が振るわれる度に、宙を舞う首や手足、胴体を見たテノジア軍の兵士たちは恐怖するが、三日月刀を持った隊長の怒号で気を取り直し、隊列を組んだ長槍隊がゴウダを突くと共に、集団戦法で襲い掛かる。

 

「小癪な雑兵共が! 死ねぃ!!」

 

 長槍で突きつつ、後続の重歩兵と共に自身に群がるテノジア軍の歩兵らに、ゴウダはアーマーの胸部に内蔵されている火器を乱射し、目前に居た大勢の兵士たちを大量に殺傷した。

 

「ば、化け物だァーッ!」

 

「何処の狼藉共か知らんが、羽翼正義元帥殿の作戦を無茶苦茶にしようとする者は、この剛田厳十郎(ごうだ・げんじゅうろう)が許さん! 今さら投降しようがもう遅い! 死を以て償え!!」

 

 大勢の味方が一瞬で殺されたことで、テノジア軍の兵士たちは恐怖を覚えた。そんなテノジア軍に、ゴウダは自身が崇拝する羽翼正義の作戦の邪魔をした罪だと宣い、アーマーの全火器を乱射して大量に殺害した。流れ弾は同じくテノジア軍と交戦していた新百合帝国軍にも命中し、更には付近の友軍であるUCA軍にも被害は及んでいた。

 

「フハハハッ! 見たか!? 元帥殿の邪魔をする者は、全て灰と化すのだ!」

 

 血と肉片の雨が降りしきる中、ゴウダは高笑いしながら再び攻撃を行おうとした。そんな上機嫌な彼の元にも、異世界より来た刺客たちが現れる。

 

『な、なんだこいつ等は!? ワァァァッ!!』

 

「奴ら、何を手こずっておるのだ?」

 

 無線機から聞こえる味方の悲鳴にゴウダが苛立つ中、連邦軍を惨殺しながらその刺客たちが目前に姿を現した。

 

南斗飛燕拳(なんとひえいけん)!』

 

 それは一人二組の拳法家であり、刃物類を持たずに連邦軍の歩兵や戦闘車両、機動兵器などを阿吽の呼吸で鋭い手刀を同時に行い、切り裂きながらゴウダの元まで迫って来た。

 

「なんだぁ、貴様ら?」

 

「我はハッカ!」

 

「我はリロン!」

 

『我ら、南斗飛燕拳の伝承者なり!』

 

 ゴウダの問いに対し、南斗飛燕拳の使い手である二人組の拳法家、ハッカとリロンは同等と名乗り上げた。

 

 

 

「何処だ!? ターニャ・フォン・デグレチャフは!?」

 

 モヒカン頭の傭兵、ジェイムズ・チャーチルは、ロングボウと呼ばれる大型の弓で爆弾矢を61式戦車に放ち、撃破しながらターニャを探し回っていた。彼の腰にはクレイモアと呼ばれる片手剣の刃を納めた鞘を吊るしていた。

 

「な、なんだこいつは!? 弓矢で戦車を!?」

 

 次々と弓矢で戦車を破壊し、剣で歩兵等を斬り殺してターニャを探し回るジェイムズに、運悪く遭遇したUCA軍は混乱し、彼から離れようとしていた。そんな退いていく敵に、ジェイムズは疑問を覚える。

 

「ん、敵が退いていくぞ? なんだ?」

 

 目に見える敵を斬り殺し続けていたジェイムズは、自分に恐れをなして下がるUCA軍に疑問を抱く。そんな彼の元に、スパルタンⅤの地獄兄弟ことパンチとキックが到来した。現れた地獄兄弟に、ジェイムズは警戒する。

 

「なんだ、お前らは? もしかすると、スパルタンって奴かぁ?」

 

「そう言うお前は、異世界って所から来た奴だな?」

 

「そんな格好で原始的な武器で、俺たちの軍隊を倒すなんて、異世界の奴らに決まってるぜ。兄貴」

 

 地獄兄弟はヴィンデルの配下であるため、ジェイムズを一目見るだけで異世界の者であると見抜いた。

 

「フン、お前らなら知って良そうだな。おい、このアーマーを着込んだ餓鬼は知らねぇか? ターニャ・フォン・デグレチャフって言うんだ」

 

 そんなジェイムズは懐から手配書を出し、ターニャの居場所が何処なのかと問う。

 

「知らねぇな、そんな餓鬼」

 

「人探しなら他所に当たりな。俺たちは今忙しいんだよ」

 

 無論、地獄兄弟はターニャの事など知る由もない。知らないと答えれば、ジェイムズは地獄兄弟に剣先を向けた。

 

「そうかい。なら、殺してから探すか!」

 

「初めて異世界の奴との交戦だ。気ぃ引き締めろ、弟!」

 

「あぁ! 味わった地獄なら、俺たちの方が上だぜ兄貴!」

 

 かくして、ジェイムズ対キック&パンチの地獄兄弟による戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

 

 

「な、なんだこの馬鹿でかい象は!?」

 

 テノジア軍がこの戦場で投入したのは小型ゾイドの大群だけでなく、象型の大型ゾイドであるエレファンダーも大量に投入されていた。大型ゾイド特有の強靭なパワーと重装甲を武器に、その出現で混乱する連邦軍やUCA軍を隊列を組んで蹂躙する。

 

「おうおう! 異世界に行くと聞きゃぁ、珍しいもんがいっぱいあるじゃねぇかァ! 後でバラバラにして調べるぜェ!」

 

 一機だけ独特なカスタマイズが施されたエレファンダーがあった。それに搭乗するのはヒューリー・ウォーレストと言う男であり、テノジア軍所属ではなく、雇われたジャンク屋と解体業を営む男である。

 エレファンダーは換装システムを搭載しており、テノジア軍所属機はスタンダードなノーマルタイプを初め、コマンダーやアサルト、ファイター、スカウターと言った形態に換装することが可能。ヒューリーの乗る形態は、彼がジャンク屋や解体業で手に入れたパーツで作られた独自の形態であり、背部の二基ある大型ロボットアームが特徴だ。象の特徴である長い鼻の先端はファイタータイプと同様なユニットが付いており、エネルギーシールドを展開できるほか、その応用でエネルギーソードも展開できる。

 ヒューリーは気に入った連邦軍機やUCA軍機を二本のロボットアームで掴み、二つに引き千切った後に随伴させている誘導型カーゴにパーツと化した敵機を放り込んでいく。気に入らない機体に対しては、鼻先のエネルギーソードで切り裂いて撃破していた。

 

『こら! 貴様、隊列を乱すなァ!』

 

「へっ、こっちは雇われの身で、王子様より好き勝手して良いと言われてんだ。テメェらの指図される覚えはねぇぜ!」

 

『な、何を!? グワっ!!』

 

「へっ、よそ見してるからよ」

 

 コマンダータイプに乗る隊長機より、同型機だから隊列を乱すなと注意されたヒューリーであったが、自分は雇われの者で、自分を雇ったアンオスゴタ王子より好きにして良いと言われているので、従う義理は無いと返した。これに体長は激怒したが、連邦軍が恐れをなし、海上の艦隊に要請した艦砲射撃を受けて吹き飛ばされる。

 隊長と随伴する部下たちの悲鳴が聞こえる中、ヒューリーは嘲笑い、珍しそうなパーツを探し回る。

 

「ここは戦場よ。珍しいパーツがわんさかしているぜ。おっ、あれは!?」

 

 邪魔な連邦軍機やUCA軍機を蹴散らしつつ、珍しいパーツを探し回るヒューリーは、量産型F91を駆るスパルタン・レイニーとジェムズガンを駆るエッジが、京子のストライクルージュカスタムと死闘を繰り広げているのを見付け、機体に興味を示した。

 

「へっへっ、珍しい物が揃ってるじゃねぇか! ウロチョロしてる安物(やすもん)はいらねぇが、ストライクルージュと見たことがねぇガンダムタイプは是非とも欲しいぜ!」

 

 エッジのジェムズガンには興味は示さなかったが、ガンダムタイプのMSはヒューリーにとって魅力的であり、あわよくば両方とも手に入れるため、邪魔な敵機を鼻やエレファンダーのパワーで弾き飛ばしながら向かった。

 

 

 

「海上の敵艦隊より艦砲射撃! 来ます!」

 

「味方がいるにも関わらずにか!?」

 

 ターニャの位置情報を把握し、UCA軍と交戦しながら海上の方へと向かうダリュンと随伴する騎兵隊やセイバータイガーなどの部隊は、連邦軍の艦砲射撃に見舞われた。連邦軍は友軍であるUCA軍がまだ居るにも関わらず、ダリュンと騎兵隊諸とも艦砲射撃で吹き飛ばそうとしていた。

 

「ほ、本当によろしいのですか!? まだUCA軍が退避しておりませんが!」

 

「俺は事前に羽翼元帥殿から許可を得てるんだ! 莫迦なリベラル共なんぞ知った事か! とっとと砲撃しろ、このマヌケ!!」

 

 率先して味方のUCA軍諸とも艦砲射撃を行ったのは、水上艦隊で自慢の艦艇である大和級戦艦であった。艦砲射撃の前に副官から退避の猶予を与えるべきだと進言されたが、大和の艦長は自分が羽翼元帥に許可を貰っているので、自分の一任で砲撃しろと蹴り付けながら怒鳴った。こうして、艦長の指示に応じた大和級戦艦は、先に艦砲射撃を行ったのだ。

 艦砲射撃の指示は周辺の僚艦も応じ、対地ミサイルを一斉に発射し始める。砲声の轟音が聞こえ、発射された大量の対地ミサイルが戦艦用榴弾と共にダリュンとUCA軍が居る方へと飛んでくる。

 

「な、なんて奴だ…! 友軍のUCA軍諸とも砲撃しやがった…! いくら部下とはいえ、羽翼元帥のあの思想、危険と見るべきだな」

 

 大型空母『ファラガット』の艦橋から、友軍のUCA軍諸とも地上攻撃を行う羽翼元帥隷下の大和級を初めとする艦隊にを見たエイムズ・バストーレは、戦慄していた。思想が左翼的な自由主義と言う理由だけで、何の通達もすることなく砲撃する指揮下の将兵等に、エイムズは羽翼の思想は危険であると判断した。

 

「お、俺たちごとやる気か…!?」

 

「そんな…! 私たちは捨て駒だって言うの!?」

 

「お、終わりだ…!」

 

「い、嫌だァァァ!!」

 

 鳴り響く砲声と飛んでくる大量の対地ミサイルを見たUCA軍の将兵等は、ダリュンの騎兵隊とセイバータイガー隊との戦闘を止めて絶望し始める。味方に吹き飛ばされるのを知ったUCA軍の将兵等は絶望するか逃げていたが、ダリュン等は諦めてなどいなかった。

 

「ヴァフリズ殿! 付近に砂漠の獅子隊が居り、こちらへ全力で駆け付けております!!」

 

「よし、俺と砂漠の虎隊は砲弾とミサイルを迎撃する! 砂漠の獅子隊は台形盾の陣を取り、騎兵隊とあの者らを守るのだ!」

 

「はっ!」

 

 飛んでくる砲弾やミサイル群に、ダリュン等は防御するか迎撃しようと行動していた。ライオン型の大型ゾイドであるシールドライガーで編成された砂漠の獅子隊が、テノジア軍最強の戦士であるダリュンの危機を知って駆け付けて来た。それを随伴の騎兵隊より知らされたダリュンは、携帯式無線機を背負う無線兵に防御陣形を取るように指示を飛ばす。ダリュンは配下の将兵のみならず、敵軍であるはずのUCA軍将兵等すら守ろうとしていた。

 

「あの臆病者共を守るのですか? 彼奴等など放って…」

 

「馬鹿者め! 例え敵とはいえ、味方に見捨てられた兵だ! 助けてやるのは一人の将としての責務だ! 砂漠の獅子隊はまだ着かぬのか!?」

 

「はっ! ただいま砂漠の獅子隊が台形盾の陣を組むところであります!」

 

 敵のUCA軍など守る必要性があるのかと言う部下の問いに、ダリュンは味方に捨てられた敵兵を助けるのは将としての責務であると返し、無線兵に砂漠の獅子隊はまだなのかと問う。これに馬に跨る士官の一人が、砂漠戦用の塗装であるデザートカラーのシールドライガー数百機がこちらに来たことを知らせた。このデザートカラーのシールドライガーの大群こそ、砂漠の獅子隊であり、何十機かは砲撃戦仕様のビームキャノン二門を装備していた。

 

「もう直ぐ着弾しそうです!」

 

「砂漠の虎隊と砂漠の獅子隊の支援機は、俺と共に砲弾とミサイルを迎撃だ! 他は速く台形盾の陣を取れ!」

 

 飛んでくる砲弾とミサイルがもう直ぐ着弾しそうだと見ていた部下が告げれば、ダリュンは目前に展開するシールドライガー多数に台形の陣を取るように告げ、空かさずにセイバータイガー隊と二連装キャノン装備のシールドライガー隊に迎撃を命じた。それに応じ、ノーマルのシールドライガー隊は台形の陣を取るように展開し、セイバータイガーとキャノン装備のシールドライガーは飛んでくる砲弾とミサイルをダリュンと共に迎撃する。そのダリュンは地面から抉り取った石に闘気を纏わせ、それを投げ付けて迎撃していた。

 

「む、無理だ…! いくらあいつ等が凄くても、出来る訳が…!」

 

 あの砲撃を防ぎ切れる物ではないと絶望するUCA軍の将兵等だが、ダリュンとその指揮下の者たちは、諦めることなく命じられた通りの行動を取る。

 

『台形盾の陣!』

 

 組体操の如く台形の陣を取ったシールドライガー隊は、機体の十八番であるエネルギーシールドを展開して強大なシールドを形成する。これで、ダリュン等が撃ち漏らした砲弾やミサイルを防ぎ切るのだ。

 

「ば、バカな…!? あれだけの砲撃を耐えたのか…!」

 

 着弾によって爆風や土煙が巻き起こる中、ダリュン等は臆することなく海上の艦隊からの砲撃を凌ぎ、物の見事に敵であったUCA軍の将兵等を砲撃から守り切った。

 

「女児の皮を被った怪物を倒すよりも、味方諸とも吹き飛ばそうとしたあの艦隊を、叩き潰すのが先のようだな」

 

 砲撃から部下や敵軍の将兵等を守り切ったダリュンは、ターニャを倒すよりも、大和級戦艦を初めとする羽翼元帥隷下の水上艦隊を全滅させるのが先だと思い始める。

 

「ヒャッハー! 面白れぇ奴が居るじゃねぇかァ!!」

 

 だが、そんなダリュンの元に、ミニョルアーマーを纏うスパルタンⅤが襲来した。それはスパルタン・バットであり、何処からか手に入れたバイクに跨ってダリュンを襲撃しようとしていた。




少し怠くなってきたな…。

ここからは一気にクライマックスだぜ!


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対峙

名前:グリンダ・フォン・ノートス
性別:イヴ人
年齢:25歳
階級:少尉
所属:新百合帝国軍能力者部隊
武器:無名祭祀書
概要:シュブ=ニグラスを祀り豊作を祈ったりしている神官系の貴族。シュブ=ニグラスについて書かれている豊穣祭祀書(無名祭祀書の断片)の所有者。
豊穣の力を使っているゆるふわロングのお姉さん。黒山羊や触手、鬼械神のバフォメットを召喚して戦うことも。
触手で魔力を他人から奪える。これをやらないと鬼械神はすぐにガス欠になる。黒山羊からも吸収できる。
キャラ提供は(OwO)さん


 ダリュンが部下たちを鼓舞して大和級戦艦を初めとする羽翼元帥隷下の水上艦隊の砲撃を凌ぎ切った頃、スパルタン・カイザとデルタ等は先回りしていたテノジア軍に逃げ道を塞がれ、ゲブールとその配下の部隊に追い付かれた。

 

「ブハハッ、鬼ごっこはこれまでだ!」

 

 先回りしていたテノジア兵たちを突破しようとしていたカイザたちであったが、シルバリー合金の甲冑に身を包んだ歩兵部隊を突破できず、ゲブールが笑い声を上げながら目と鼻の先まで迫って来る。大きな足音を立てて迫る巨漢の両手には、二つの硬棒が握られていた。

 

「ど、どうすんだよ!?」

 

「やるしかないだろう。既に広い場所に出ているんだ、友軍かUCA軍の応援を呼べ!」

 

 完全に逃げ場が無くなったことで、焦るデルタからの問いに、カイザは苛立ちながらX字型複合兵装のソードモードを起動し、付近の部隊に増援を呼ぶように指示てから剣先を向けた。

 

「ほぅ、そんな棒切れでこのワシと戦おうと言うのか? スパルタンだかなんだか知らんが、このわしの最新式の戦車すら叩き壊す硬棒に砕けぬ物は無いわ!」

 

「フン、木偶の棒が! 俺に挑んだことを後悔させてやる!」

 

「このワシを木偶の棒呼ばわりとは! 生意気な! 叩き殺してくれるわ!!」

 

 煽って来るゲブールにカイザが同じく煽り返してやれば、二つの硬棒を持つ巨漢は激怒して怒り任せにそれを振るってきた。ゲブールが叩き込んだ硬棒は、ダリュンと同じく闘気を纏っていた。ただの硬棒と思っていたカイザであったが、当たるのは危険と判断して紙一重で躱し、地面の割れ具合を見て、硬棒の威力がハッタリでは無い事を知る。

 

「これは、本当のようだな…!」

 

「ブハハハッ! ハッタリでは無いわ! ワシはこの二つの硬棒で、幾百両もの戦車をスクラップにしてきたのよ! いくらその甲冑にシールドなどと言う物がついていようが、ワシの闘気を纏ったこの硬棒の前には、ただの鉄の板も同然だわ!!」

 

 自身の硬棒の威力を自慢するゲブールは、続けてカイザに硬棒を振り下ろす。硬棒が叩き付けた地面の割れ具合から、ミニョルアーマーでも当たれば一溜りも無いことを理解したカイザは、即座に回避行動を取る。それと同時に、ゲブールの巨体ゆえの動きの鈍さを見抜いた。

 

「ちょこまかしおって!」

 

 自慢の硬棒を避け続けるカイザに、ゲブールは苛立って滅多やたらに振り回し始める。その動きは苛立った所為か雑であり、カイザはそれを見逃さずに相手の動きを読んで躱した。一定の距離を取った後、自分の得物の複合兵装の必殺技を起動させる。

 

「どうやら、本当に木偶の棒のようだな」

 

「ぬぅ!? き、貴様ァーッ!!」

 

 複合兵装の必殺技を起動させたカイザは、ゲブールの冷静さを更に失わせるために挑発した。ものの見事に挑発に乗って激昂したゲブールは、二振りの硬棒を振り下ろさんと迫って来る。カイザはこれを狙ってゲブールを怒らせたのだ。

 

「死ねぇぇぇッ!!」

 

「ハァーッ!」

 

 隙だらけになったゲブールが硬棒を振り下ろした瞬間、カイザは同時に当たる瞬間を見計らい、エネルギーを充填させた刀身を叩き込んだ。

 

「な、何ィーッ!?」

 

 体格と怪力、そして闘気を纏った硬棒を振るうゲブールが勝つと思われていたが、そのご自慢の硬棒は、カイザの複合兵装のソードモードによって二つとも砕かれた。砕かれた硬棒を見たゲブールは驚愕するが、まだ巨漢による怪力が残っている。砕かれた硬棒の仇を取ろうと、怪力でカイザを捻り潰さんとする。

 

「おのれ、良くもワシの硬棒を!」

 

「フン、お前はもう死んでいるんだよ」

 

「なっ! 身体が、動かない!?」

 

 迫るゲブールにカイザは臆することなく、エネルギーネットと呼ばれる相手の動きを封じる特殊なエネルギー弾を撃ち込んで敵の動きを止めれば、まだエネルギーが残っているソードモードを逆手に持ち、バツ字になるように二回も振るった。

 

「ひ、ひでぶぅーッ!?」

 

 バツ字に斬られたゲブールの巨体は四等分に別れた。当然ながら、ゲブールは死んでいる。ゲブールを切り裂いたカイザに、テノジア軍の兵士たちは戦慄する。

 

「げ、ゲブール殿が…!?」

 

「すげぇ、流石はクサカ!」

 

 テノジア軍の兵士たちが恐れる中、デルタたちはカイザが期待通りの者であると口にする。

 

「さて、死にたい奴からかかって来るんだな」

 

 ゲブールを倒した後も、カイザは戦闘態勢を解かず、周囲に居るテノジア兵たちをバイザー越しから睨み付けた。

 

 

 

「トォァーッ!」

 

 スパルタン・デラックスマンを包囲したレッドベレー隊のユージ・ニシムラが率いるナイフ投擲隊は攻撃を開始した。先にユージが銅線ワイヤーを雄叫びを挙げながら力一杯振るい、投げたワイヤーをデラックスマンの胴体に絡ませた。

 

「やれィ!」

 

 銅線ワイヤーで相手の動きを封じれば、ユージは包囲している十名のナイフ投擲隊にナイフを投げるように指示を出した。それに応じたデラックスマンを包囲しているナイフ投擲隊は、目にも止まらぬ速さでナイフを取り出し、素早く標的に向けて投げた。

 

「フフフ、ミニョルアーマーのシールドを貫通する威力を誇るシルバリー合金で出来たナイフだ。飛べることは驚いたが、貴様は終わったも当然だ」

 

 この世界のスパルタンに関する情報を入手していたレッドベレー隊は、シルバリー合金で出来たナイフを調達していた。熟練のナイフ使いが十名がそれを持ち、標的に向けて投げれば、並のスパルタンは持たないだろう。そう、並のスパルタンなら。

 

「フン、そんなナイフ如きで、正義の化身たる俺を倒せるとでも思ったか?」

 

「な、何ッ…!?」

 

 スパルタンⅤは、今までのスパルタンとは違っていた。デラックスマンが纏うミニョルアーマーは従来の物とは違い、盗まれたISの技術が使われており、シールドも断然強化されている。

 情報が違うことにユージらは動揺する中、自身を正義の化身と宣うデラックスマンは反撃を行う。その姿、正義のヒーローと言うよりただ殺戮を目的とする殺人兵器でった。

 

『うわぁぁぁっ!!』

 

「じゅ、十人のナイフ投擲隊が…!?」

 

「次は貴様の番だ」

 

 一度、反撃の為に手刀を振れば、デラックスマンを包囲していた十名のナイフ投擲隊は、一瞬にして肉片と化した。それを見たユージが恐怖する中、デラックスマンは標的をそちらへ向ける。

 

「お、おのれぇ! 死ねぃ!!」

 

 殺されるなら先に殺すしかないと即断したユージは、コートのベルトに吊るしてある特別な素材で出来た鞭を取り出し、それを向かってくるデラックスマンに向けて振るった。だが、振るわれた鞭の先はデラックスマンに捕まれてしまう。

 

「う、うわっ…!?」

 

「死ね、悪党め」

 

 掴んだ鞭を強く引き、ユージを自分の元へ引き寄せたデラックスマンは、向かって飛んでくるその顔面に右拳を叩き込んだ。薬物投与による人体強化とミニョルアーマーの筋力補佐機能も加わり、ユージの顔面は右拳に潰され、その拳は後頭部を貫いていた。

 

「さて、次は貴様たちだ」

 

 頭部を拳で貫通されて即死したユージの死体をゴミでも捨てるかのように投げ捨てた後、標的を別の者たちに切り替え、一度空に浮遊してそちらへと向かう。

 その道中には新百合帝国軍の陸軍第13軍団の地区があり、押し寄せる連邦軍と乱入して来たテノジア軍と乱戦状態に陥っていた。そこに怪物と成り果てているデラックスマンが通れば、恐ろしいことになるのは必然だ。

 デラックスマンが全速力で通れば、戦乱状態にあった三つの勢力に属する将兵等と運用する兵器は吹き飛んでいく。特に進路上に運悪くいた機動兵器は、その上半身を吹き飛ばされていた。デラックスマンが属する連邦軍機も吹き飛ばされており、敵味方問わずであった。

 

「す、スパルタン!? こ、こっちに来る!?」

 

 押し寄せる連邦軍機やテノジア軍のカラゴールと交戦していたハイングラを駆るアレン・マクセムは、凄まじい速度で自機に迫るデラックスマンに気付き、その姿を見て恐怖し、手にしているビームライフルの照準をそちらへ向け、むやみやたらに連射する。

 

「無駄だ。貴様のビームなど、この正義の化身たる俺を殺せん!」

 

『う、ウワァァァッ!?』

 

 ISの技術が使われているスパルタンⅤのミニョルアーマーのシールドは、オリジナルよりも強化されており、MSのビームライフルを弾くほど頑強だ。恐怖してビームを乱射するアレンのハイングラに、デラックスマンは速力を挙げて突撃を仕掛け、その胴体を吹き飛ばした。

 胴体は木端微塵に吹き飛んでいるので、アレン・マクセムの死は確実であった。アレンのハイングラを体当たりだけで破壊したデラックスマンは、敵味方問わず突き飛ばしながらある方向へと向かう。

 その方向とは、ターニャとスパルタン・ルシファーが激しく交戦している空域であった。

 

「マクセム!? クソっ、やられたのか!」

 

 無数の敵と乱戦を繰り広げるゴルドスを駆るテズ・マッキャンは、アレンのハイングラの反応が途絶したことを知り、その死を確信する。

 

「クソっ、テノジア軍がどうして来るんだ!?」

 

『このモルガでも、横っ腹に突っ込めば、ゴルドスだって!』

 

「し、しまった!?」

 

 そんなアレンの死を思う暇もなく、テノジア軍のモハメドが駆るモルガが地中から飛び出し、テズのゴルドスの側面より突進を仕掛けて来る。ガイサックやイグアナ型の中型ゾイドであるヘルディガンナー、MSのカラゴールの対処に気を取られていたテズの対応は遅れ、側面からのモルガの突進を諸に受けてしまった。

 

『こ、コンバットシステムが!?」

 

「へへへっ、やったぜ! ゴルドスをやっつけたぞ!! やっ、アァァァッ!?」

 

 テズのゴルドスを転倒させ、戦闘不能に追い込んだモハメドであったが、周囲の索敵警戒を疎かにしてしまい、アリシア・エーデルマンのシャドーフォックスのバルカン砲を受けて撃破された。撃ち込まれたのがコクピットがある頭部であったため、モハメドは貫通した弾丸を諸に受けて愛機のモルガと共に運命を共にする。

 

『お前、逃げたんじゃないのか?』

 

「こんな世界で、何処へ逃げようっての。そのゴルドス、コンバットシステムがフリーズしてんだろ。今のうちに後退しなよ! 援護するから!」

 

『あぁ。そうさせてもらう』

 

 アリシアは自分らの主人であるイヴ人に不満があるので、機体ごと逃げたのではないかと思っていたが、テズは助けに来たことに驚いていた。

 そんなアリシアは、手負いのテズのゴルドスを狙おうとする敵機に、シャドーフォックスのレーザーバルカン砲を撃ち込んで撃破しつつ、援護するから速く後退しろと告げた。その言葉に甘え、テズはまだ動くゴルドスを動かし、集結ポイントへと機体を進める。

 

『お、お前! こんな時に何をしてるんだ!?』

 

「こんな時だからこそ、出来る限りパーツを集めないと!」

 

 後退の最中、破壊された友軍機や敵機の残骸を回収しているデスルターに、交戦しながら下がる同型機が通信で注意する。その火事場泥棒を行うデスルターを操縦しているのは、マナ・イプスだ。同僚からいくら注意されようとも、マナはこんな時だからこそ回収できないと答え、流れ弾が飛んでこようが回収を止めない。

 

「っ!? 邪魔しないで!」

 

 上空からジェットストライカー装備のウィンダム数機が編隊を組んで空襲を仕掛ける中、マナは回収している最中も周囲を警戒しており、ビーム攻撃を行うウィンダムにアサルトライフルを乱射して反撃した。乱射されるアサルトライフルの弾幕に、ウィンダム等は左腕の盾で防ぎながら後退した。

 

 

 

 スパルタン・デラックスマンに荒らされてもまだ激戦が続く中、テノジア軍の攻撃は、UCA軍と交戦中のゾフィー・レオンハルトやエルネスティーネ・シュバルゼッターの戦車隊にも及んでいた。

 

「連隊本部から命令! 前哨基地まで後退しろって! ほら、直ぐに!」

 

 通常兵器と機動兵器、シルバリー合金の刀剣類と矢で攻撃するテノジア軍に、UCA軍は混乱して退却していた。

 大挙して押し寄せるテノジア兵の大群と交戦しているゾフィーは、自分が属している連隊本部から後退命令を受け、操縦手に指定の位置まで後退するように指示を飛ばす。ゾフィーのレオパルド2A7主力戦車は後退しつつ、戦車砲を発射して数十名のテノジア兵を吹き飛ばした。

 数十人の味方を吹き飛ばされようが、テノジア兵たちは怯まず、雄叫びや奇声を発しながら突っ込んでくる。その中には、戦車や突撃銃などで武装した歩兵等も続いていた。後退するたびに、沈黙して黒煙を上げるレオパルド2戦車が増えていく。履帯をやられた車両に関しては、乗員らは碌に抵抗することなく車両を放棄して脱出する。

 

『全車、直ちに前哨基地まで後退!』

 

「こ、後退命令!? は、はい! 直ぐに! 直ぐに後退! 急いで!!」

 

 補助戦力のマルダーやプーマ歩兵戦闘車が破壊されるか歩兵等と共に後退する中、エルネスティーネことエルネが属する戦車中隊にも後退命令が出た為、直ぐに彼女はそれに応じ、操縦手に自車を速く後退させるように指示を飛ばした。

 それに応じてエルネの戦車も所属中隊と共に目標の地点まで後退するが、一番最後となってしまった為に被害は大きく、一両、また一両と撃破されていく。

 

「きゃっ!」

 

「り、履帯に被弾! 動かない!!」

 

「た、直ちに脱出!」

 

 エルネの戦車も押し寄せるテノジア軍戦車の攻撃を受けて被弾し、行動不能となってしまった。当然、エルネらは最後まで抵抗することなく車両を放棄して脱出する。

 他にも後退が遅れた歩兵たちや破壊された戦車から脱出した乗員たちも居たが、テノジア軍の歩兵等に追い付かれ、背中を槍で貫かれるか、背中を剣で切り裂かれたり、矢で射ぬかれる。

 

「ヒィィィ! た、助けてェェェ!!」

 

 同胞らが殺される光景を見て、死の恐怖を感じたエルネは、自分の戦車の乗員らを置いていくように逃走する。持っているライフルで抵抗する歩兵もいたが、シルバリー合金の甲冑に身を包むテノジア軍の歩兵や重歩兵に効くはずもなく、槍で串刺しにされた。

 

 

 

「くそっ、なんだあいつは!?」

 

 新百合帝国に盗まれたこの世界の物を取り戻すため、ヴィンデル・マウザーより奪還命令を受けたスパルタン・シドとカリスト等であったが、敵方の能力者に阻まれていた。

 

「このシェブ=ニグラスのバフォメットの前には無駄ですわ」

 

 女性神官のような服装を身に纏い、左腕に無名祭祀書を抱えた金色のロングヘアーのイヴ人、グリンダ・フォン・ノートスは自分の機鬼神であるバフォメットには敵わないと豪語する。グリンダの脇には黒山羊が居り、彼女の周辺には触手がうねっている。彼女を守るためか、大口径のライフル弾を防ぐこともできる大盾を持った兵士数名が控えている。

 本家ISより強化されているシールドを持つミニョルアーマーを纏うカリストであるが、バフォメットが繰り出す右拳の打撃は防ぎ切れず、一撃でシールドが消失した。シールドを回復させるべく、即座にバフォメットから距離を取ろうとするも、相手がそれを許すはずもなく、二撃目を叩き込まれて戦闘不能に追い込まれる。

 

「ちっ、どっから持って来たんだ!」

 

 カリストを倒したバフォメットを見て、シドは悪態を付きながら手にしている大口径バトルライフルを三発も撃ち込むも、全く通じない。他のカリストが放つライフルやロケットランチャーでさえ、バフォメットには通じなかった。

 

「万全な布陣だな! クソ!」

 

 バフォメットの注意がカリストたちに向いた隙に、シドは召喚者であるグリンダを狙って発砲したが、そのために控えている防弾盾を持ったイヴ人の兵士たちに防がれてしまう。

 グリンダとバフォメットに足止めされている間、この世界で盗まれた物が徐々に遠ざかって行く。それをシドらはただ眺めているだけしか無かったが、ある人物がそれを運んでいる新百合帝国軍兵等を殺害した。

 

「っ! 何者!?」

 

 重要な物を運んでいる味方が殺害されたのを知り、グリンダは周囲にうねらせていた触手を伸ばす。対象を貫く速さで伸ばされた触手だが、伸ばした数本の触手は斬り落とされる。その触手数本を斬り落としたのは、機鬼神ヤルダパオトを召還してこの施設内に侵入したショーマン・ジロックロであった。

 

「ホホホッ! この宝物、頂戴いただきますぞ!」

 

 守りてであるグリンダがシドたちと交戦している隙に、ショーマンは目的の物を奪おうとした。だが、グリンダはバフォメットを即座にそちらへ向かわせた。

 

「す、スパルタンへの対抗手段をこちらへ向けた!? 正気か!?」

 

 これにショーマンは驚き、グリンダの正気を疑う。スパルタンの唯一の対抗手段を自分に向けるなど、愚の骨頂だ。

 だが、ショーマンには予想外の出来事である。彼が召喚したヤルダパオトは不意打ちでこそ真価を発揮する機鬼神であり、バフォメットと正面での戦闘は不利である。即座に逃げようとするショーマンであるが、バフォメットの方が速く、ヤルダパオトを触手で捕まえ、魔力を奪う。

 

「ま、魔力が吸われる!? これ以上は!」

 

 自分のヤルダバオトが触手で捕まったことで、魔力を吸われていることに気付いたショーマンは左腕のコンピューターを操作し、即座に召喚している機鬼神を引っ込め、次なる攻撃を避けるために距離を取った。

 

「今だ! 突っ込め!!」

 

「しまった!」

 

 グリンダが防衛目標の奪還阻止を優先したことで、シドらに攻撃の隙を与えてしまった。カリストを引き連れて突撃してくるシドに、目標の防衛を優先したグリンダは直ぐにバフォメットを向けるも、元ONI工作員であるスパルタンⅤは、カリストを盾にしながら接近する。

 

「こ、この!」

 

「はっ! 慌てろ、慌てろ!」

 

 慌てるグリンダは、味方を盾にしながら接近してくるシドに恐怖してバフォメットに続けて触手攻撃を行わせるが、相手はショーマンとの戦闘を見て、触手は危険と判断したらしく、的確に自分に飛んでくる触手をライフルで撃ち抜きながら接近してくる。バトルライフルの弾が切れた後、シドは拳銃に素早く切り替えて接近を続ける。

 

「あぁ!? 魔力が!」

 

 シドを接近させまいと攻撃を続けるグリンダであったが、ここにきて魔力切れを起こしてしまう。バフォメットを使役する魔力の消耗は相当な物らしく、周囲に生やしている触手で他者から魔力を奪わなくては、直ぐにガス欠してしまう。

 尚、隣にいる黒山羊からも魔力の急襲は可能だが、シドはそれに気付いており、黒山羊にピストルの弾丸を何発も撃ちこんで射殺した。

 

「そ、そんな! 私を守って!!」

 

 弱点を突かれたグリンダは、周囲に控えている防弾盾を持つ兵士たちに自分を守らせようとしたが、シドのみならず、バフォメットの魔力切れで生き残ったカリスト等の接近も許しており、盾を持つ兵士たちは引き裂かれるか射殺されていた。

 

「い、いや…! 死にたく…」

 

 自分を守る味方が全滅し、触手も全て撃ち抜かれ、戦意を喪失してしまったグリンダは命乞いをするが、シドが逃すはずもなく、即座に額を撃ち抜かれて射殺された。

 

「ふぅ、だいぶ減っちまったな。手こずらせやがってよ」

 

 十二体のカリスト中、七体以上がバフォメットによって倒されていた。シドはカリストを盾としか思っていなかったらしく、少し想定外な損害として受け止め、奪還目標の近くに居るショーマンに再装填を終えたバトルライフルの銃口を向ける。

 

「一難去ってまた一難ですか…!」

 

「そう言うこったよ、おっさん。死にたくなければ、そいつを俺らに返しな」

 

 自分の奪取目標を返せと銃口を向けながら告げるシドに、ショーマンは渡すか持って逃げるかの選択を迫られた。

 渡したところで、命乞いをするグリンダを躊躇いも無く射殺するシドが約束を守るとは限らない。どちらを選んだにせよ、シドが自分を殺すのは確実であると判断したショーマンは、左腕の機器を操作してヤルダバオトを召還して臨戦態勢を取る。

 

「あぁ? そいつは、俺とやるって事か?」

 

「貴方の性格からして、素直に渡しても私を生かして帰すとは限りませんからね…!」

 

「ほぅ。そこまで言われちゃあ、素直に殺すしかないな!」

 

 素直に応じても殺されると言って臨戦態勢を取るショーマンに、シドは残ったカリスト等に攻撃命令をを出し、目標を奪い返さんと攻撃を始めた。




これで全員出たかな?

次回からは死亡回っす。


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死せる戦士たち

死亡遊戯


「馬鹿な…! 私は肉体強化のみならず、最新式のミニョルアーマーを着ているのだぞ…!?」

 

 ガルムと対峙したスパルタン・サンダールであったが、その圧倒的な戦闘力を前に地面に膝をつき、実力の差を思い知らされた。

 鍛錬と実戦を多く積んでいる自分は強く、それもミニョルアーマーに適合し、更なる肉体強化も受けて最強のスパルタンⅤとなったはずだが、異世界より来た目前の赤い戦士には全く敵わなかった。この実力の差が、サンダールのプライドを大いに傷付けた。

 

「少し期待していたが、拍子抜けだな」

 

 得物の赦悪彗星刀を杖代わりにしながら立とうとするサンダールに、ガルムはつまらなそうな態度を取りつつ、拍子抜けだったと落胆する。

 

「き、貴様…! この私を愚弄するか! 許さん! 許さんぞ貴様ァァァッ!!」

 

 自分を拍子抜けだと愚弄したガルムに、激怒したサンダールは残る力を振り絞って持ち上げ、鉄扇での攻撃を行う。飛んでくる鉄扇を弾くガルムに、サンダールは怒りの力で斬りかかった。

 凄まじい勢いで迫るサンダールに、ガルムは全く動じることなく鋭利なブレードを構え、相手が間合いに入って来るのを待っていた。

 

「太刀筋が乱れているぞ?」

 

「死ねェェェッ!!」

 

 サンダールが恐ろしい殺気を放ちながら迫っているにも関わらず、ガルムは冷静であり、そればかりか相手の太刀筋が乱れていることを観察して指摘するほど余裕だ。そんなガルムの指摘は激昂して相手を殺すことしか考えていないサンダールには聞こえず、得物の大剣を叩き込んだ。

 大剣の刃が迫る中、ガルムは臆することなくブレードを刀身に向けて叩き込んだ。すると、刀身にヒビが入り、赦悪彗星刀は折れた。これにサンダールは驚愕し、自分の決して折れる事が無い得物が折れたことに激しく動揺する。

 

「ば、バカな…! 赦悪彗星刀が、赦悪彗星刀が折れたぁ!?」

 

 スパルタンⅤとなる前から自身の愛刀であった赦悪彗星刀が折れたことで、サンダールは衝撃の余り膝から崩れ落ちた。

 

「少しは身体は温まったな。でっ、続けるのか?」

 

「ま、待ってくれ! 私は、私は命令されて戦っているだけだ! 命だけは!!」

 

 サンダールとの戦闘はガルムのウォーミングアップの足しになったようだ。そんなガルムはまだ戦うのかと問うが、サンダールは命乞いを行う。

 それは騙し討ちであり、サンダールのミニョルアーマーの右ガントレットには暗殺や騙し討ちの為の毒針が仕込んでいた。それをいつでも使えるように、準備をしていた。

 

「(この私のプライドを潰した貴様は、生かしてはおけん。殺す、ただ殺す! 例えどんな卑劣な手段を用いてもな!)」

 

 プライドを圧倒的な実力で潰されたサンダールは、ただガルムに殺すことしか考えていなかった。例えそれが卑劣な手段であっても、殺せればどうでも良いのだ。

 

「そうか。では、少し値打ちのある物を出せ。そうすれば見逃してやる」

 

「あぁ、待ってくれ。確か…」

 

 見逃す条件に値打のある物を出せと言うガルムの要望に、応じるフリをしたサンダールは仕込んでいた毒針を出し、一気に接近して相手に突き刺した。確実に腹を刺したと思っていたサンダールであったが、ガルムには全く通じておらず、激怒させるだけであった。

 

「こんな手を使っても俺を殺せんとは。お前はやはり拍子抜けだな」

 

「ま、待て! 今度こそ私の負けだ! 頼む! 私の隠し財産を渡す! 本当に今度は何も…!」

 

「言い訳は結構だ! フン!!」

 

 騙し撃ちでも自分を殺せないサンダールに激怒するガルムは、今度こそ本当に命乞いをする相手をブレードで切り裂いた。

 

「うわぁぁぁっ! 私は、私は更なる高みへと至る…」

 

 ブレードで切り裂かれて火花を散らすサンダールは、断末魔の叫びを上げながら爆発して木端微塵に吹き飛んだ。

 

「ガルム! やっぱり勝ったのか!?」

 

「あぁ、少しはいい運動になった。それと、奴の居場所が分かったぞ」

 

「それは何処だ!?」

 

「あっちに居るな」

 

 サンダールを撃破した後に駆け付けたニュクスの問いに、ガルムは勝ったと答え、標的であるターニャの居場所が分かったと口にする。それは何処だと続けて聞いて来るニュクスに、ガルムはルシファーと交戦しているターニャを見付け、そちらに指差しながら答えた。

 

「よし、露払いは私が!」

 

「いや、お前はジロックロの支援に回れ。奴の救援要請がひっきりなしに来ている」

 

「あんなおっさん、放って置けばいいだろ? 邪魔な雑魚の排除は私に任せて…」

 

 指差した方へ行こうとするニュクスに、スパルタン・シドと交戦しているショーマンの援護に行けと告げるが、彼女は応じることなく一緒に行こうとする。これにガルムは飛び道具であるブラスターを足元へ撃ち込み、脅しながら告げる。

 

「な、なんだよ…!?」

 

「聞こえないのか? 拒否すれば、今度はお前の頭が吹き飛ぶぞ?」

 

「わ、分かったよ…! 直ぐに行くからさ…!」

 

 このガルムの行動が、最も楽しみにしている相手と戦うための物であると理解しているニュクスは、怯えながらショーマンの援護に向かった。

 

「さて、お前は俺と戦うのか?」

 

「じょ、冗談すっよ…! うち、死にたくないっすから…!」

 

 隠れて見ていたスパルタン・フラウロスに、ガルムは気付いており、自分と戦うのかと問えば、彼女はサンダールとの戦いを見ていたので、戦う気はないと答え、早々にこの場を立ち去った。

 

「ターニャ・フォン・デグレチャフ。お前は俺を殺せる程の相手か?」

 

 敵であるフラウロスを追うことも無く、ガルムはターニャが居る方向に視線を向け、空中を浮遊し、その方向へ向けて飛んで行った。

 

 

 

 南斗飛燕拳のハッカとリロンに攻撃されたスパルタン・ゴウダであったが、一回り大きい鎧武者を彷彿とさせるミニョルアーマーに内蔵された火器の前に近付けず、ほぼ全ての物を切り裂く南斗聖拳を発揮できずにいた。

 

「クソっ、近付けん!」

 

「なんと言う火器の多さ! これがスパルタンか!」

 

 ゴウダに近付けないハッカとリロンは、他の暗殺部隊同様にスパルタンの情報を事前に得ており、スパルタンの強さに戦慄する。

 

「フン! どんな力を使って物を切り裂いているのか知らんが、このスパルタンⅤである俺に勝てん! 拳法なんぞ、どれだけ鍛錬を積んだところで、銃や兵器の前では無力なのだ!!」

 

 火器を撃つのを止め、ゴウダは拳を構えるハッカとリロンに向け、全ての拳法を愚弄するような罵声を浴びせる。

 

「おのれ、南斗聖拳を愚弄したな!?」

 

「許すまじ! 行くぞ、ハッカ!」

 

「応ッ!」

 

 この罵声に激怒したハッカとリロンは、同時に舞い上がって宙で姿を消した。

 

「ん、何処へ行った?」

 

 舞い上がって宙で姿を消したハッカとリロンを目で探すゴウダであるが、何処にも居ない。そんなゴウダの頭上より、宙を舞っていたハッカとリロンは南斗飛燕拳の奥義を仕掛けた。

 

「南斗飛燕拳奥義!」

 

「双燕乱舞!」

 

 凄まじい勢いでゴウダの頭上より奥義を仕掛けたハッカとリロンであったが、その瞬間に姿を見せてしまった為、ゴウダに見付かってしまい、攻撃が当たる前に巨大な両手で二人とも顔面を掴まれてしまった。

 

『うっ!?』

 

「無駄だ! 拳法はスパルタンⅤには勝てん! 死ねっ!!」

 

 攻撃が当たる前にハッカとリロンの顔面を掴んで捕まえたゴウダは、両名の頭部を同時に握り潰した。頭部を握り潰されたハッカとリロンの死体は地面に落ち、ゴウダに踏み潰される。

 

「時間を無駄にしたな。向こうに回った連中が、スタールアームズ支社の攻撃に手こずっているな。全く、これだから落伍者は!」

 

 自身に拳法で挑んだ両名の死体を踏み潰したゴウダは、ゲイムランドのスタールアームズ支社を攻撃しているミニョルアーマーフ不適合者組が苦戦していることをヘルメットの望遠鏡機能で見抜き、敬愛する羽翼元帥の為、浮遊してから救援へと飛んで向かった。

 

「あ、あべし!?」

 

 ゴウダがスタールアームズ支社を攻撃しているスパルタンⅤのMS部隊の救援へと向かう中、スパルタン・キック&パンチの地獄兄弟は、自分らを攻撃して来たジェイムズ・チャーチルを殺害した。

 地獄兄弟は各々の必殺技を相手の肉体に直接叩き込み、ジェイムズの肉体を破壊したのだ。それを受けたジェイムズは、奇妙な断末魔を上げて爆発する。

 

「これが異世界の奴か?」

 

「弱ェーな、兄貴」

 

 ジェイムズを倒した地獄兄弟は、余りの呆気なさに落胆する。

 

「ん? 警戒しろ弟。また来たぞ」

 

「あぁ、今度はつるんで来たか」

 

 そんなジェイムズを倒したばかりの地獄兄弟に、挑んでくる者が居た。挑んできたのは二名であり、鉈を持っている男が地獄兄弟に向け、手にしている鉈をいきなり振り下ろしてきた。ダリュンやゲブールと同じく男は手にしている鉈に闘気を纏わせており、それが危険と判断した地獄兄弟は躱し、即座に鉈で攻撃してきた男に反撃する。

 

「俺の鉈を躱すとは、流石はスパルタンってところか!」

 

「そう言うお前も、あのモヒカンと同じ異世界の奴か!?」

 

「そうだ! 俺は奴と同じく異世界より来た! 俺の名はマフティ! 俺はこの鉈で、幾百もの敵を殺してきた最強のグルカ兵だ!!」

 

 キックの反撃しながらの問いに、鉈の男は刀身で防ぎつつ、マフティと名乗ってから相手を蹴飛ばし、再び闘気で切れ味を倍増させた斬撃を行った。繰り出される鉈の斬撃を紙一重で躱したパンチは、反撃の裏拳をマフティの顔面に叩き込み、相手をよろめかせる。

 

「ぶわぁ!?」

 

「弟ォ!」

 

「行くぜ兄貴ィ!」

 

 マフティが体勢を立て直す前に、キックは弟のパンチに攻撃を指示した。これに応じたパンチは、腹に強烈な拳を叩き込んだ。

 

「うわぁ…!?」

 

 パンチの拳は身体を貫き、背中から拳が飛び出すほどだ。当然ながらマフティは血反吐を吐き、その場で息絶える。

 

「後は、お前だけだ」

 

「マフティをやるとは、中々やるじゃないか! 俺はジークフリード!」

 

 息絶えたマフティの死体から拳をパンチが引き抜けば、キックはもう一人の男に標的を定める。標的にされた男はジークフリードと名乗り、手にしているライフルを捨て、ありとあらゆる拳法の構えを見せる。

 

「スイス出身の傭兵だが、殺しの術を極める為、世界中の、ありとあらゆる拳法を学んできた! 闘気を纏った鉈を避けたな? そのアーマーは、闘気に耐えられんと言う事! 俺の闘気で貴様ら二人纏めて殺してやる!!」

 

 自身がスイス出身の傭兵で、殺しの術を極めるためにありとあらゆる拳法を学んで来たと語る。それからマフティの闘気を纏った鉈を避けたことから、スパルタンⅤのアーマーが闘気による攻撃を耐えられないと見抜き、闘気にを纏わせた拳で攻撃して来た。

 

「フン!」

 

「ぶぉ!? や、やるなァ…!」

 

 闘気の拳で襲い掛かるジークフリードの攻撃を避けたキックは、その顎に膝蹴りを食らわせた。顎を闘気で守っており、砕かれるには至らなかったが、ジークフリードは直ぐに距離を取って、次なる憲法による攻撃を行う。

 

「次は北斗神拳だ! 一子相伝の暗殺拳だ! この暗殺拳は、鋼鉄のアーマーを身に纏う敵すら肉体ごと破壊すると言う! これを食らえば、貴様らもお陀仏よ!!」

 

 ジークフリードが次に仕掛ける拳法は、北斗神拳であった。一体どこからその一子相伝の暗殺拳を盗んだのかは知らないが、ジークフリードは見様見真似な構えを見せ、対峙するキックに攻撃を行う。

 

「アチョーッ! 何の秘孔か知らんが、お前はもう死んでいる! 十秒後には、貴様の肉体は爆発どばっ!?」

 

「さっきから長いな? で、俺は十秒後に爆発するのか?」

 

「そ、そうだ! 俺の両手の親指は、確実に貴様の秘孔を突いた! これで貴様もお陀仏だ!」

 

 闘気を込めた親指で突いたジークフリードは、秘孔を突いて十秒後には死亡すると宣告したが、キックの蹴りを受けて再び吹き飛ぶ。自分は十秒後に死ぬのかと言うキックの問いに、ジークフリードは蹴られた個所を抑えながら本当に死ぬと告げる。

 それが本当なら、キックはミニョルアーマーごと爆発するはずだ。ジークフリードの言う通り、キックは掛かろうとするパンチを手で止め、残りの秒数を待った。

 

「へっへっへっ、お前はもう死んで…あれ?」

 

「何だテメェ、死んでねぇじゃあねぇか!!」

 

 がっ、十秒経ってもキックは死ななかった。どうやら、ジークフリードの北斗神拳はハッタリであったようだ。これに激怒したキックは拳を鳴らしながら、自身の北斗神拳が不発に終わって絶望しているジークフリードに近付く。

 

「ま、待ってくれ! 俺は命令された通りにィ!?」

 

 向かってくるキックに命乞いするジークフリードであるが、言い終える前に顔面に蹴りを叩き込めれ、頭部を蹴り潰されて絶命する。

 

「兄貴、つまらねぇ奴らだったな」

 

「あぁ、そうだな。取り敢えず、シドの所へ行くか」

 

「良いね兄貴! シドの奴が言った所なら、こいつ等より手応えがある奴が居そうだ!」

 

 スミスが送り込んだ三名の刺客を何の疲労もせずに倒した地獄兄弟は、強者との戦いに飢え、シドの居る方へと向かった。

 

 

 

「オラァ! 退け退け!!」

 

 奪ったバイクでダリュンを狙うスパルタン・バットは、自分を止めようとするテノジア軍の騎兵隊を弾き飛ばしながら迫る。

 

「な、なんて奴だ!」

 

「こ、これがスパルタンとでも言うのか!?」

 

 シルバリー合金の甲冑に身を包み、様々な戦場を掛けて来た騎兵隊でも、前世代より強化されたミニョルアーマーを纏い、異常なまでの薬物投与と身体強化が施されているスパルタンⅤは止められなかった。

 

「今度は我々が!」

 

『このシールドライガーのEシールドなら、止められるはず!』

 

 騎兵隊を弾き飛ばしながらバイクで爆走するバットに、セイバータイガー隊と砂漠の獅子隊のシールドライガーが止めに入った。この高速戦闘型の大型ゾイド二体の攻撃に、バットのバイクは破壊された。

 

「やったか!?」

 

「馬鹿が! この程度で俺は殺れねぇぜ!!」

 

「な、何ッ!?」

 

 爆発したので、バットを倒したと思っていたセイバータイガーとシールドライガーのパイロットであったが、ミニョルアーマーには盗用されたISの技術が使われているので、その絶対防御のシールドでダメージは防がれてしまう。即座に搭載火器を撃ち続ける二体の大型ゾイドだが、それでもバットは止められず、二体とも破壊されてしまった。

 

「へへへっ! テメェをぶち殺せば、報酬はたんまりと貰えそうだぜェ!」

 

「下衆が! わが配下の将兵の仇、取らせてもらう!」

 

 騎兵隊と二体のゾイドの防衛線を突破したバットは、ダリュンの下に辿り着いた。下品な笑い声を上げるバットに、ダリュンは槍の矛先を突き付け、ここに来るまでに殺害した部下の仇を取ると宣言する。

 

「抜かせェ! 俺は最強なんだァ!!」

 

 薬物投与と身体強化、それにミニョルアーマーの適合で自分が最強だと思い込んでいるバットは、何処で手に入れたのか、それとも専用の武器なのか、棍棒で殴り掛かる。

 これにダリュンは何の構えも見せず、ただ相手の動きを読み、自身に向けて振り下ろされる棍棒に注視し、それを利き手でない左手で掴んだ。

 

「なっ! なんで普通に掴んでやがる!?」

 

「貴様の動き、力任せで乱雑過ぎる。それにその鎧の力に頼り切っている。並の達人なら、見切って当然の動きだ」

 

「ざけんじゃねぇ! オラァァァッ!!」

 

 棍棒を掴まれた挙句、力任せで動きは乱雑、それにミニョルアーマーの性能頼りと指摘された事に、バットは激怒して棍棒を手放し、並の人間なら貫ける拳による打撃を行う。が、それすらダリュンには見えていた。見えているかの如く避ければ、棍棒を捨て、地面に槍を刺してから同じ右拳の打撃で返した。

 

「ブハッ!?」

 

「これが打撃だ。お前のは、ただ動かない相手に向けて叩き込むだけの弱い者いじめの拳だ。そんな拳で、俺は殺せんぞ?」

 

「舐めやがってどば!?」

 

 更にダリュンは、バットの拳は弱い者いじめをする物だと指摘し、更に相手を怒らせた。これに激怒するバットは怒りで殴り掛かろうとするが、ダリュンの拳の方が速く、顔面に拳を叩き付けられた。殴り返そうとするも、テノジアの最強戦士が繰り出す拳は弾丸の如く速いため、そのまま機関銃の如くの嵐のような拳を叩き込まれるだけであった。

 

「ブバババッ! ばはっ!?」

 

 その拳のラッシュにISの絶対防御以上のシールドは持ち堪える事は出来ず、砕かれてアーマーに直接ダリュンの闘気を纏った拳が届いてしまう。シールドがダウンしても最新式の素材が使われ、重機関銃やミニガンの掃射も耐える装甲があるが、それさえも一発一発が闘気の拳には耐えられず、次々とへこんみ、身に着けているバットの肉体に強い打撃を伝える。それも数百回も。

 

「や、止めてくれぇ…! こ、降参するぅ…!」

 

 そんな闘気の拳のラッシュにバットは耐え切れず、降参するとダリュンに告げた。それを聞いたダリュンは拳のラッシュを止め、近くの地面に刺していた槍を引き抜き、矛先を空へ向けて持ち、介抱することなく、その場で降参が遅かったことを告げる。

 

「遅かったな。お前はもう助からん」

 

「ふへっ!? そ、そんなぁ!? だって俺、普通に喋れて…」

 

「貴様の身に着けているその鎧は、自爆しようとしているが?」

 

『機密保持のため、自爆シークエンスを開始します』

 

 助からないと告げるダリュンに、まだ動けて喋れることを伝えるバットであるが、身に着けているボロボロのミニョルアーマーは、機密保持のために自爆を開始しようとしていた。

 

「ほへっ!?」

 

『十秒前。九、八、七…』

 

 これに慌てて脱ごうとするバットだが、へこみにへこんでいるミニョルアーマーは、そう簡単には脱げない。そんなバットを気にすることなく、ダリュンはその場を立ち去る。

 

「た、助けてぇ!!」

 

『第4小隊、八方盾の陣! 自爆から味方を守るのだ!!』

 

 代わりにやって来たのは、助けではなく、自爆範囲から味方を守るためにEシールドを張りに来た八体のシールドライガーだ。八体のシールドライガーは八方になる形でバットを包囲し、Eシールドを展開して自爆に備える。

 

「い、嫌だ! 死にたく、死にたくない!!」

 

『三、ニ、一…』

 

「し、死にったわ!!」

 

 その後、バットは断末魔の叫びを上げながらミニョルアーマーの自爆によって消し飛んだ。

 周辺に居たダリュン配下の兵団は、八体のシールドライガーがEシールドを展開して爆発を防いだことで無事であり、自爆の損害はバットを包囲していたシールドライガーのEシールドが修理しなければ展開できないくらいの物であった。

 

「ご報告いたします! テノジア水中軍が目標を発見し、攻撃しているようです! 場所は…」

 

「幼子の皮を被った怪物が居るのは、あそこか…!」

 

 友軍の無線を傍受していた通信兵が、ターニャが交戦している位置を割り出せば、ダリュンはその方向へ視線を向ける。

 そこには、海上でスパルタン・ルシファーを初め、テノジア軍の魚型中型ゾイドのウオディック多数と交戦しているターニャの姿があった。




ディズニー+見てるので、執筆が少し遅れるかも。


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来たる対決の時

ハハッ、ゲイリー!


 テノジア軍の乱入により、戦闘が更に激しさを増し、名のある戦士たちが次々と散って行く中、ダリュンは遂に標的であるターニャの姿を捉えた。

 それと同時に、スパルタン・レイニーの量産型F91と京子のストライクルージュカスタム、その戦いに乱入したヒューリーのエレファンダーとの戦いに決着がつこうとしていた。

 

「ウェスバーを防いだ!?」

 

『良い武装じゃねぇか! 段々と欲しくなったぜ!』

 

 レイニーが駆る量産型F91のウェスバーを、エレファンダーの鼻に装備されたEシールドで防いだヒューリーはコクピットにまで伝わる振動で、彼女の量産型F91を何としても手に入れたくなる。

 

「側面なら!」

 

 そんなヒューリーのエレファンダーの左側面を取った京子のストライクルージュは、背中に装備しているオオトリの全火砲を一斉に撃ち込んだ。並のエレファンダーなら即座に戦闘不能か撃破されている所だが、ジャンク屋兼解体業者のヒューリーは作業中の襲撃に備えてか、側面に増加装甲を施しており、その一斉射は重ねられた増加装甲に防がれてしまう。

 

「回収中に襲撃されることもあるからよ、増加装甲を盛っているのよ!」

 

 自機に一斉射を撃ち込んだストライクルージュに、ヒューリーはエレファンダー背部の二本あるロボットアームで、足元に落ちている兵器の残骸を投げ付けた。

 

『二度目があるんだよ!』

 

「うっ!?」

 

 飛んでくる残骸を一度は避けた京子であるが、二本目のアームより投擲された残骸は大きく、反応が遅れた彼女のストライクルージュはそれを受け、吹き飛ばされる。

 

「こっちも行くぞ! 各機、撃ちまくれ! チャンスを作るんだ!!」

 

『下がって! 貴方たちじゃ!!』

 

「足止めくらいなら!」

 

 暴れ回るヒューリーのエレファンダーに、エッジ等のジェムズガン隊はレイニーのチャンスを作ろうと一斉に攻撃を始めた。ジェムズガンでは勝てないと悟るレイニーは止めるが、エッジ等は聞かずにエレファンダーにビームライフルを連発する。このビームの嵐は、ヒューリーのエレファンダーの足を止めることに成功した。

 

「このガラクタ共が! うざいんだよ!!」

 

 足を止める事には成功したが、ヒューリーのエレファンダーの装甲には対ビームコーティングを施していたらしく、通常のビーム攻撃は効かなかった。欲しくもないジェムズガン(ガラクタ)等に攻撃された事に激怒したヒューリーは、足元に転がっている残骸を二本のロボットアームで拾い上げ、それを細かく砕いてから、自分を攻撃する敵機らに投げ続ける。

 

『うわぁぁぁっ!』

 

「た、退避! ぐわっ!?」

 

 拡散する残骸の破片をビームシールドなどで防ぐジェムズガン等であるが、次々と投げられる細かい残骸の破片の雨に、機体全体を防ぎ切れず、数機が被弾する。僚機が次々と被弾し、最悪の場合は撃墜されていく中、エッジが乗るジェムズガンは頭部を被弾して地面に墜落する。

 

「こんな私の為に…! くっ!」

 

 エッジ隊のジェムズガンがエレファンダーが投げる残骸の破片に撃墜されていく中、それを見ていたレイニーは、彼らの犠牲を無駄にしないため、機体を動かし、敵に取り付こうとする。

 

「次はお前かい! 少し傷付いちまうが!」

 

 ウェスバーを撃ちながら接近してくるレイニーの量産型F91に、目当ての物が自ら向かってくるため、ヒューリーは退散するジェムズガン等を放って彼女の方に集中した。量産型F91は欲しいので、ヒューリーはなるべく傷付かないように、フックに改造した牙を撃ち込んだ。

 

『しまった!?』

 

「ほらっ、来い!」

 

 放たれたフックは胴体に突き刺さり、その感触を操縦桿越しで感じたヒューリーは、直ぐに牽引ボタンを押して自機の方へ量産型F91を引き付ける。

 これに必死に抵抗するレイニーであるが、ワイヤーと機体に突き刺さっているフックは、エレファンダーの巨体を引っ張るほどの強度を持っており、牽引の力も強かった。ビームサーベルを抜いてワイヤーを斬ろうとするも、ヒューリーはそれを読んでいて、シールドを展開していない長い鼻で機体を打撃する。

 

『がっ!?』

 

「おっ? 気を失ったか? なら、丁度いい!」

 

 フックを突き刺しているため、レイニーが先ほどの鼻の打撃で気絶したのを確認すれば、直ぐに自分の元へ引き寄せる。

 

「やったぜ! さて、次は…」

 

 搭乗員を気絶させた量産型F91を手に入れたヒューリーは、欲をかいて京子のストライクルージュも手に入れようとした。それがいけなかったのか、上空から空襲を受ける。

 

「のわっ!? だ、誰だ!? 俺のエレファンダーを攻撃したのは!」

 

 ヒューリーは上空に視線を向け、自分に空襲を仕掛けた正体を目で探した。その正体は、直人と美穂が乗るスカイグラスパーだ。対拠点爆撃用の爆弾で空爆を行ったようだが、ヒューリーの過剰なまでに改造されたエレファンダーを破壊するには威力が足りない。

 

「あれを耐えた!?」

 

「もう一発なら耐えれないはず!」

 

 拠点爆撃用の爆弾を耐えるエレファンダーに美穂が驚きの声を上げる中、直人はまだ残っているもう一発目の爆弾を投下しようと、もう一度旋回する。

 

「鬱陶しい戦闘爆撃機が! これでも、食らえッ!!」

 

 邪魔をされた事に激怒するヒューリーは、ロボットアームで撃墜されたダガーLが持っていたシールドを掴み、それを旋回して爆弾を投下しようとするスカイグラスパーに向けて投げ付けた。

 

「うわっ!? 被弾した! 被弾した!!」

 

「直ぐに脱出を!!」

 

 爆撃コースを取っていたスカイグラスパーは、飛んでくるシールドを躱し切れず、機体胴体にシールドが突き刺さった。これに直人が被弾したと叫ぶ中、美穂は機体はもう持たないと判断し、シートの上にある脱出装置を引っ張って作動させる。

 装置が起動すれば、コクピットのキャノピーは吹き飛び、二人を座らせているシートはコクピットから射出され、搭乗者の居ないスカイグラスパーは墜落する。直人と美穂は墜落するスカイグラスパーに巻き込まれることなく、落下傘を開いて地面にゆっくりと落ちていく。

 

「うぉ!? やる気か!」

 

 スカイグラスパーを撃墜したヒューリーであるが、今度は第二の目標である京子のストライクルージュが仕掛けて来た。レールガンとビームランチャー、ミサイルが放たれる。これをヒューリーはエレファンダーの鼻先のEシールドで防ぎ切った。

 

「今だ!」

 

 エレファンダーがEシールドで攻撃を防いでいる間、頭部を破壊されたジェムズガンに乗るエッジは、量産型F91を回収しに向かう。近くに機体を降ろし、まだ生きているサブカメラでコクピットハッチを抉じ開け、コクピットから出て気絶しているレイニーを回収しようとする。

 

「あぁ、全く戦争ってのは!」

 

 レイニーの姿を見たエッジは嘆いた後、彼女を抱えて自分のジェムズガンに乗せて離脱しようとする。これに気付いたヒューリーは、ロボットアームで叩き潰そうとした。

 

『テメェ! 人の物を盗むんじゃねぇ!!』

 

「不味い!」

 

 素早くコクピットにレイニーを乗せたエッジは、ハッチを閉めるよりも前に機体を動かし、振るわれるロボットアームから紙一重で逃れることが出来た。

 

「うぉ!? クソが!!」

 

 逃げるエッジのジェムズガンに気を取られている内に、京子のストライクルージュの接近を許していた。大型対艦刀で鼻先を斬られたが、鼻先のEシールドをソードに変換し、反撃の為にそれを振るえば、ストライクルージュは被弾した。撃墜には至らないが、退かせるのには十分な損害だ。

 

「これ以上の戦闘は! 撤退する!」

 

 これ以上の戦闘は不可能と判断した京子は即座に撤退を決断し、まだ動くオオトリのスラスターを吹かせ、自軍の陣地へと後退する。

 

「お前も! クソっ、コンバットシステムがフリーズしやがった! 潮時か!」

 

 それを追おうとするヒューリーであったが、先の攻撃でエレファンダーのコンバットシステムがフリーズしたのか、戦闘継続が不可能になってしまった。ここが潮時と判断したヒューリーは、回収できる量産型F91を回収し、この場から撤退した。

 

 

 

 乱入して戦場を混乱させたテノジア軍であったが、新百合帝国軍の増援部隊は奮戦しており、最終防衛ラインを死守していた。これに激怒したアンオスゴタ王子は、対ターニャ討伐用として温存していた予備戦力の投入を決定する。

 

「ボルト108を投入しろ。あのイヴ人の能力者を倒し、戦線を崩壊させるのだ!」

 

 この王子の命令を受け、英語でボルト108と記されている多数のコンテナが、新百合帝国軍のパイロキネシスの使い手であるメルキュールが居る戦線に投下された。

 

「何あれ…?」

 

 自身の火の能力を使い、襲い掛かる連邦軍やテノジア軍を迎え撃っていたメルキュールは、自分の目の前に投下された多数のコンテナを見て、何らかの兵器と思って共闘する友軍と共に警戒する。数秒後、コンテナの扉が開き、そこから同じ髪形に顔と体格、同じ服装をした無数の男たちが飛び出してきた。

 

『ハハッ、ゲイリー!』

 

「な、何こいつ等!?」

 

 同じ格好で同じ顔と体格をした無数の男たちの登場に、メルキュールを含める新百合帝国軍は激しく動揺する。この奇想天外な出来事に驚く余り、迎撃は遅れてしまい、ゲイリーとばかり叫ぶ男たちの接近を許してしまう。

 

「ゲイリー!」

 

「こいつら何なの!?」

 

 ありとあらゆる凶器を片手に襲い掛かるゲイリーと叫ぶ男たちに、メルキュールは炎を浴びせて一人ずつ燃やしていくが、同じ顔の男たちは怯まず、自分の名を叫びながら笑顔で続々と襲い掛かって来る。個々の戦闘力は低いが、それを感じさせない程の数で迫るので、通常の歩兵では対処しきれず、取り付かれて惨殺されていく。

 

「ゲイリィィィッ!!」

 

「き、キリがない!?」

 

「おぉ、ゲイリー!」

 

 メルキュールも広範囲で多数のゲイリーたちを燃やすも、余りにも数が多過ぎて燃やし切れず、接近を許してしまった。

 

「く、来るなぁ!!」

 

 押し寄せるゲイリーたちをパイロキネシスの炎の力で燃やし続けるメルキュールであるが、波状攻撃を相殺しきれず、燃え盛るゲイリーに捕まれ、自分の炎が燃え移ってしまう。

 

「ゲイリー!」

 

「ゲイリィーッ!!」

 

「アァァァッ!? 熱い! 熱い!!」

 

 凄まじい数のゲイリーを殺し切れず、燃え盛る敵に取り付かれ、メルキュールは自分の炎で焼け死んだ。

 

「め、メルキュールが!?」

 

 付近で戦闘を行うザウォート・ヘビィを駆るムラット・ンァ・クジヨは、メルキュールが自分の炎で焼け死んだのを知り、戦闘中にも関わらずに動揺して動きを止めてしまった。

 

「むっ? 隙あり!」

 

 蛇型の小型ゾイドであるステルスバイパーを駆るテノジア軍の熟練パイロットは、ムラットのザウォート・ヘビィが動きを止めたのを見逃さず、機体を動かし、凄まじい勢いで迫った。接近してくるステルスバイパーに気付いたムラットであるが、既に射撃兵装を撃つには近すぎる距離まで近付いていた。

 

「こ、この!」

 

『この距離で射撃兵装で対処しようなどと!』

 

 近付いて来るステルスバイパーに、ムラットはあろうことかビームライフルで対処しようとした。彼女は接近戦が苦手なのだ。近付き過ぎた敵にライフルで対処しようとするザウォートに、ベテランのパイロットはステルスバイパーの長い胴体を敵機に絡ませた。蛇型のゾイドであるステルスバイパーならではの技である。

 

「き、機体が!? た、助け…」

 

 機体に纏わり付いたステルスバイパーを振り解こうとするムラットのザウォートであるが、時すでに遅く、コクピットがある胴体部分を強い力で締め付けられ、そこに居た彼女は圧し潰された。

 

「あぁ、ゲイリー!」

 

「今度は同じ顔か!?」

 

 百合帝国軍がゲイリーの大群の出現で浮足立って押される中、そのゲイリーの大群はスパルタン・ソルジャーやカイザ等の方にも来ていた。様々な武器を持って襲い掛かるゲイリーたちに、カイザは手持ちの複合武器でデルタたちと共に対処する。ソルジャーらも連携を組んで対処するが、連邦軍やUCA軍は混乱しているのか、対処しきれずにやられるばかりだ。

 

「ゲイリー!」

 

「このままでは瓦解する! 援護して体勢を立て直させろ!」

 

「言われなくても、やっている!」

 

 襲い掛かるゲイリーを殴打したソルジャーが連邦軍の瓦解を止める為に援護するように指示を出せば、カイザもそれを承知しており、邪魔なゲイリーたちを蹴散らしながら襲われている連邦軍を助けた。

 

『フラウロス、君も直ぐに対処しろ!』

 

「りょーかい! って、何このキモイ状況!?」

 

 ダリュンに睨まれて退散したフラウロスにも、ソルジャーの指令が届いた。それに応じ、連邦軍をテノジア軍と共に攻撃するゲイリーの大群の方へ向かえば、その異様な光景に驚きの声を上げる。それでもフラウロスは攻撃を行い、複数のゲイリーを蹴散らした。

 

 

 

「おいおい、それが異世界の化け物の実力か? 期待外れだな」

 

 新百合帝国軍が本国へ運び出そうとしている物を奪う為、ヴィンデルの命令で奪い返しに来たスパルタン・シドと交戦していたショーマン・ジロックロであったが、使役するデモンペイン・ヤルダバオトは、スパルタンⅤの戦闘力とミニョルアーマーの力の前に破壊されていた。

 

「こ、これがスパルタンの力ですか…!」

 

「あぁ、そうだ。だが、俺らはそのスパルタンを上回る上位だがな。あのマスターチーフだって、殺せるぜ」

 

 奪取目的にもたれるショーマンはスパルタンの実力をその身を以て知れば、倒れる洒落た初老の紳士にシドは、今の自分ならあの伝説のスパルタンであるマスターチーフを殺せるとまで豪語する。

 

「さて、そいつを返してもらおうか。元々、俺らの物だしな」

 

「い、命の保証は? それが保証できないなら、渡せませんな…!」

 

「ジジイ、いい加減にしろ。こっちが頼んでいるのによ!」

 

 命の保証をしなければ返さないショーマンの言葉が癪に障ったのか、シドは拳銃の銃口を向けて射殺しようとした。その瞬間に背後に待機させているスパルタン・カリスト数体が、何者かによって破壊される。

 

「っ! 誰だ!?」

 

「援軍…では、ないようですね…!」

 

 シドがカリストを倒した者たちに向けて銃口を向ければ、その姿を見たショーマンは自分の援軍ではないと理解した。仮にもスパルタンⅤで専用ミニョルアーマーを纏うカリスト等を倒したのは、ベレー帽を被った二人の少女であった。残っているカリスト等は直ぐに距離を取り、手にしている小火器を向ける。

 

「これが、スパルタンですか? 弱いですわね!」

 

「けっ! こんな連中を恐れるとか、ビビり過ぎだろ! イヴ人共が!」

 

 青いベレー帽の少女が元の液体となったカリストのミニョルアーマーを踏み付けながら言えば、赤いベレー帽の少女も同調し、スパルタンを過小評価する。倒されたカリストは二体であり、奇襲攻撃で破壊された。

 

「次は強い餓鬼かよ! たく、餓鬼に構ってる暇はねぇんだよ!」

 

 現れた二人の少女に、シドはカリスト等と共に容赦なく発砲した。二人の少女は身体強化されているのか、その雨あられの銃撃を躱し、持っているHK416カービン銃で反撃してくる。だが、ミニョルアーマーにはシールドがある上、二人が持つカービン銃のライフル弾ではシールドどころか、アーマーに弾かれるばかりだ。

 

「ちっ、無駄に硬ぇじゃねぇか!」

 

「全く、雑魚の分際で余計な装甲を!」

 

 ミニョルアーマーの対弾性の高さに、少女らは苛立ちを覚える。

 

「くっ、あれはイヴ人の手先…わ、私の援軍は…?」

 

 何処からともなく現れた二人組の少女が、新百合帝国軍の者であると判断したショーマンは、自分の援軍が来ないのかと呟けば、ガルムの命で援軍としてニュクスが到着する。

 

「おっさん、ガルムの命令で援軍に来たぞ!」

 

「おぉ、助かりますな!」

 

 ニュクスの援軍を得て、ショーマンは奮い立ったが、戦う力は残っていなかった。

 

「ちっ、また餓鬼か!」

 

「ムシケラが増えましたの?」

 

「なんだ、餓鬼か!」

 

「あれがスパルタンって奴だな? おっさん、一緒に…」

 

 二人の少女はどうでも良さそうな反応を示し、今度も少女が来たと知って苛立つシドに、ニュクスはショーマンに共闘を呼び掛けるが、彼は早々に立ち去ろうとしていた。

 

「どこ行くんだよ!? ここは戦う所だろ!」

 

「いえいえ、私はもう戦う力が残されておりませんので。それに援軍も居ますので。後はお頼みしますぞ、皆様方」

 

 呼び止めるニュクスに応じず、ショーマンがヤルダバオトの力で立ち去れば、代わりにM4A1カービンやSCAR-Hライフル、FNミニミ分隊支援火器、べネリM4散弾銃などで武装した全身黒尽くめな正規軍顔負けの装備をした兵士の集団が出て来る。その中には、高い防弾性を持つアーマーを着込んだ兵士もいた。

 

「次から次へと! 面倒くさいな!」

 

 ショーマンの代わりにやって来た黒尽くめの兵士の集団に、シドは更に苛立ったが、任務遂行の為に交戦を続行した。

 

「幾ら増えたところで!」

 

「私らには敵わないんだよ!」

 

 少女二人組も動じず、代理として現れた黒尽くめの兵士たちの集団と交戦を開始する。

 

「さて、私もやるか!」

 

 ほぼ戦闘不能なショーマンよりも頼もしい援軍を得たニュクスも、ガルムの為に任務を遂行するべく、交戦を開始するのであった。




ゲイリー
フォールアウトに登場するボルト108で行われていた実験の産物。
テノジア軍のアンオスゴタ王子の秘密兵器として、戦場に投入される。
ハハッ、ゲイリー!

二コラ・グレフ
キアラ・ロジーノ
戦場のヴァルキュリア4に登場する敵の二人組。青いベレー帽が二コラで、赤いベレー帽がキアラ。
新百合帝国軍に英霊として召喚されたようで、本国に持ち帰る物を守るために、援軍として派遣された。

シャドウ・カンパニー
コールオブデューティーに登場する架空の民間軍事会社(PMC)
この作品に出るのは、戦車がトラウマな男が代表を務めているリブート版の方。
スミスが謎の物資奪取の為に派遣した部隊。

この回が、今年で最後の更新になるかもしれない。
でも頑張って、デグ様VSダリュンまで上げるわ。


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強者たちの戦い

間に合ったぞ!


「なんで、なんで死なねぇんだよ!? 親父ィ!!」

 

「貴様、何を言っている!?」

 

 海上でテノジア軍の多数のウオディックと交戦しつつ、スパルタン・ルシファーと死闘を演じていたターニャは、相手の異常さに翻弄されていた。

 全身ボロボロで血塗れのルシファーであるが、戦闘継続の為に何らかの薬物が投与されているのか、未だ疲れを見せていない。その副作用なのか、ルシファーは幻覚を見ており、ターニャを自分が憎む相手だと思って猛攻を続けている。

 ミニョルアーマーには着用者の戦闘意欲を上げるため、幻覚剤を混ぜ込んだ興奮剤投与機能があるようだ。その幻覚剤は敵を着用者のもっとも嫌悪する対象にするようで、ターニャの姿はルシファーが最も嫌悪している父親になっているようだ。

 

「俺が、俺が殺したはずだ! なんで、なんで生きてるんだァ!?」

 

 敵を自分が一番嫌悪している父親に見えているルシファーは怒りで自分の痛みを忘れ、ターニャに攻撃を続けている。興奮剤の効果が切れるか、死ぬまでターニャを狙い続けるだろう。

 

「スパルタンのミニョルアーマーに、こんな機能があるとは!?」

 

 スパルタンが登場する作品を知るターニャは、ミニョルアーマーに自分の知らない機能が搭載されていることに驚いていた。もっとも、それは羽翼正義やその背後に居るヴィンデル・マウザーの命で搭載された物だが、今のターニャはそれを知らない。

 

「死ねぇ! 死ねェェェッ!!」

 

 相手が死ぬまで攻撃を続けるルシファーの猛攻に、ターニャは防御に徹するしかない。そんなターニャの背中を、狙う狙撃者が居た。スパルタン・クロウであり、大型スナイパーライフルの二脚を展開してファイテックスを身に纏うターニャの背中を狙っていた。

 

「風速ならび湿気も問題なし。相手はトチ狂った奴のおかげで止まっている。撃つなら今だ」

 

 狙撃には絶好の状況で、ターニャはクロウの狙撃には警戒しているようだが、ルシファーの猛攻でそれどころではない。そんな絶好の機会を逃さまいと、スコープの照準に対象を捉え、引き金に指を掛けたクロウであったが、ターニャを狙うもう一人の存在が居た。

 

「こいつを倒せば…」

 

「駄目だ。それは俺の獲物だ」

 

「っ!?」

 

 それは背後に立っており、クロウは獲物を捕らえたスコープから目を離して拳銃を向けた。銃口の先に居たのは、ターニャを狙うガルム・マッドアイであった。背後に立って獲物を取るなというガルムに、クロウは拳銃の引き金を引いて三発ほど発砲する。だが、ガルムが身に着けるアーマーに弾かれる。

 

「クソっ、俺としたことが!」

 

「狙撃に集中し過ぎたな。背後の警戒を怠った狙撃手は、終わりだ」

 

 拳銃の銃弾が効かないと判断すれば、大型狙撃銃を持って逃げるクロウであったが、ガルムが逃すことなく追い、ブレードやブラスターを使うことなく強烈な蹴りを食らわせた。

 

「ぐへぁ!?」

 

 その蹴りはシールドを貫けるほど強力であり、それで蹴られ、壁に激突したクロウの手足はあらぬ方向に折れた。全身骨折であるが、クロウは羽翼元帥に知らせずにミニョルアーマーにナノマシンを仕込んでおり、大事には至っていない。それでも、完全に回復するには数週間を要するが。

 

「さて、奴なら死ねるな」

 

 クロウを戦闘不能に追い込んだガルムは、ルシファーの猛攻を受け続けるターニャの姿を見て、自分が追い求める死がそこにあると悟り、その高度まで浮遊した。

 ターニャを狙うのはガルムだけではない。あのテノジアの最強戦士であるダリュン・ヴァフリズも狙っているのだ。

 

「あれか! 幼子の皮を被った怪物は!!」

 

 ルシファーと交戦するターニャを見付けたダリュンは、そこへ全力で向かう。先客であるルシファーが居るが、先に倒してしまえば良いだけだ。それを理解しているダリュンは闘気を纏わせた槍の矛先をルシファーへ向け、そこに向かって速度を上げた。

 

「死ねぇ! 死ねぇやァァァッ!?」

 

 自分の父親に見えるターニャを殺すのに夢中なルシファーは、背後から全速力で迫るダリュンに気付かず、闘気を纏う槍の矛先にアーマーごと身体を貫かれた。

 

「な、なんだ!?」

 

 執拗なまで自分に攻撃を続けていたルシファーがバラバラになったことに、ターニャは驚きの声を上げた。ダリュンの速度が速過ぎ、その衝撃でルシファーはアーマーごと砕かれたのだ。肉片となったルシファーの物が海上へと落ちていく中、ダリュンはその場で止まり、警戒するターニャに視線を向ける。

 

「幼子と言う情報であるが、背丈が二メートルはあるな。その鎧で背を伸ばしているのか」

 

「あ、新しい敵か!」

 

 ルシファーを文字通りに粉砕したダリュンは、ターニャを見て写真とは違うこと驚きながらも、ファイテックスの所為で身長が伸びていると判断する。新しい敵と判断したターニャは、右腕のガントレットから口臭はブレードを展開し、自分に視線を向けるターニャに斬りかかった。常人では既に切り裂かれるほどの速さであるが、ダリュンは人知を超えた存在であるためにそれを見切り、柄を短く持った槍で突き刺してくる。

 

「やはり能力者を送って来たか!」

 

 繰り出さる突きを躱しつつ、ターニャはダリュンと交戦を開始する。だが、ターニャを狙うのはダリュンだけではない。ガルムもターニャを見付ければ、射線上に味方であるはずのダリュンが居るにもかかわらず、即座にブラスターを発砲した。

 

「貴様、やはり…!」

 

「そいつは俺の獲物だ。そいつと戦うのであれば、お前も殺す!」

 

「そうか。なれば、お前とも集ってやろう!」

 

「お前たち、何を!?」

 

 自分ごと発砲したことをダリュンに問われたガルムは、ターニャが自分の獲物であると告げ、戦うのであれば殺すとブラスターを発砲した。これにダリュンも、ガルムとも戦う覚悟を決め、撃ち続けられるブラスターを避けながらターニャとも交戦する。これにターニャが驚くも、二人は無視しながら戦闘を続ける。

 

「フハハハッ! 悪党どもめ! この正義の化身たるスパルタン・デラックスマンが皆殺しだ!!」

 

「クソっ、今度はスパルタンがお出ましか!」

 

 ダリュンやガルムのみならず、自分のことを正義の化身と宣うあのスパルタン・デラックスマンまでもが、ターニャを殺しに来た。放たれる内蔵ビームを、交戦中の両社と避けつつランチャーを撃つが、デラックスマンはルシファーとは比べ物にならないほど強く、シールドで防ぎながら向かってくる。

 

「俺の邪魔をするか!」

 

「お前は奴より強いが、こいつは譲らんぞ!」

 

「ほざけ悪党ども! 貴様ら残らず殺してくれる!」

 

「クソっ、存在Xめ!」

 

 三名の危険な男たちに狙われたターニャは、自分を二度も転生させた存在Xに対する悪態を付きながら、生き残るために乱戦に応じた。

 ターニャに襲い掛かる三人の戦闘力は、今まで戦ったどの者たちを同等か、それを上回る物だ。連携を取らず、交戦しながら攻撃しているのが幸いであるが、気休めほどにしかない。ファイテックスを身に纏っていても、この猛攻に後どのくらい持つことやら。

 

「(早くこの乱戦から抜け出さないと!)」

 

 恐るべき三名との乱戦から抜け出そうとするターニャであるが、抜け出すことも出来ず、背後からデラックスマンの打撃を受け、海岸線まで吹き飛ばされた。

 

「フフッ、まずは一人!」

 

「逃がさん!」

 

「譲らんぞ!」

 

 デラックスマンの打撃で地面に叩き付けられたターニャを追撃しようとするダリュンであるが、ガルムに胸倉を掴まれ、強烈なパンチを顔面に叩き込まれた。常人なら頭が砕かされている所だが、ダリュンは超人なので殴られた程度で済み、お返しの一発をガルムに叩き返した。そこにデラックスマンの乱入もあり、三人は周囲を巻き込んでの激闘を繰り広げる。

 事実、三名が気にも留めず戦うために、周辺に居たテノジア軍の水中部隊や連邦軍とUCA軍の艦艇は巻き込まれ、吹き飛ばされるか撃沈されていた。周囲を飛んでいる機動兵器は、三名が戦う余波で吹き飛ぶか破壊されており、巻き込まれないように急いで離れていた。

 

 

 

「奴ら、互いに殺し合うのに夢中で気付いていないようだな」

 

 デラックスマンに吹き飛ばされたターニャは、三名が自分に構うことなく殺し合っているの見て、逃げようとしていた。ダリュン、ガルム、デラックスマンは余りにも強烈だ。真面に戦えば、神の恩恵を受けているターニャとで、一溜りも無く殺されてしまうだろう。だが、今の三人は連携も取らず、己の目的を果たすために殺し合う始末だ。

 

「逃げるなら、今だ」

 

 三人が殺し合っている隙に、逃げようとしたターニャであったが、もう一人彼女を狙う者が居た。

 

「あ、アーマーが!?」

 

「ちっ、アーマーを斬っただけか!」

 

 ターニャを狙うも一人の刺客、それはガズ・メックスことカーネルだ。南斗無音拳で自身の存在に気付かないターニャに奇襲を仕掛け、葬り去ろうとしたが、幸運か悪運か、ファイテックスを破壊した程度であった。暗殺が失敗したカーネルは下がり、待機している配下のレッドベレー隊に射殺を命じる。

 

「奴は丸裸だ! 撃て!」

 

 鉄の爪を着けた指でターニャを指差しながら、M4カービンやM249分隊支援火器は各々の配下らは手にしているそれを発砲する。凄まじい弾幕であり、普通ならこれで原形を留めぬ肉塊と化しているはずだが、銃声が止んで煙が晴れた頃には、彼女の肉片一つも転がっていなかった。

 

「い、居ません!」

 

「な、何ッ!?」

 

 部下の一人がその状況を知らせれば、カーネルはターニャの姿を探したが、何処にも姿が無い。

 

南斗飛燕斬(なんとひえいざん)!」

 

『うわぁぁぁっ!!』

 

 レッドベレー隊員らの足元からターニャが地面を突き破って現れ、空へ向けて飛び蹴りを放ち、放たれる衝撃で身体を切り裂いて纏めて葬り去った。

 あの銃撃を受けている最中に、ターニャは地面へと潜って銃撃を躱し、カーネル配下のレッドベレー隊員らの足元まで移動したようだ。

 

「あ、あれは南斗聖拳!? き、貴様! 何処でそれを!?」

 

 ターニャが繰り出した技が、どのような物質でも切り裂く拳法である南斗聖拳であることにカーネルは驚き、それを何処で学んだのかと問う。

 

「フン、少しかじった程度だ。お前の真似事の拳では、この私は殺せんぞ?」

 

「減らず口を! 俺の気配は卓越した魔導士でも捉えられぬ! 見えぬ恐怖に晒されながら、死ぬが良い!」

 

 かじった程度だと答え、自分の南斗無音拳を真似事と蔑んだターニャに、激怒したカーネルは気配を消し、奇襲攻撃で葬り去ろうとした。

 だが、その手の敵と交戦したことがあるのか、ターニャは両目を閉じ、カーネルが発する僅かな殺気を感じ取り、背後から仕掛けようとした暗殺者に振り返った。

 

「な、何ッ!?」

 

 自分の存在に気付いたことに驚いたカーネルは、直ぐに気配を消そうとしたが、ターニャの拳の方が速かった。

 

南斗飛竜拳(なんとひりゅうけん)!」

 

「ヌァァァッ!?」

 

 無数の拳を放ち、それら全てをカーネルの肉体に叩き込んだのだ。幼い少女とは思えない力を連続で受けたカーネルは吹き飛び、地面に倒れたが、再び立ち上がって気配を消した自分に気付けたことを問う。

 

「お、俺は気配を完全に消していたはずだ…! なぜ気付けるのだ…!? ま、魔法を使っても気付かれない程なのだぞ!」

 

 南斗聖拳による連続の突きの所為か、カーネルの身体はひび割れていた。後一撃でそのひび割れた身体は粉砕されるだろう。問い掛けるカーネルに対し、ターニャは経験の差であると答える。

 

「お前とは経験が違うのだ。何せ、二回目だからな」

 

「に、二回目だと…!? あ、ありえん! そのような年齢には…!」

 

 経験の差と答えるターニャに、カーネルは信じられず、年齢的にあり得ないと否定する。そんな答えが信じられない男の頭上に、デラックスマンが投げたのか、駆逐艦が飛んで来た。飛んでくる駆逐艦にターニャは即座に退避したが、カーネルは動くことも出来ず、ただ絶叫するだけであった。

 

「うわぁぁぁっ!! アァァァッ!? はべべっ!!」

 

 その後、カーネルは落ちて来る駆逐艦に圧し潰された。

 駆逐艦をそこへ投げた正体は、ダリュンとガルムと交戦していたデラックスマンであり、ターニャを見付けて少し驚いていた。

 

「見付けたぞ…! おや? 子供の姿をしているが、悪魔の子に違いない! そう言う餓鬼は、必ず大惨劇を引き起こすのが決まりだ! そうなる前に、ここで殺す!!」

 

「無茶苦茶な奴だ…!」

 

 だが、歪んだ正義感で知りもしないでターニャを悪魔の子と決め付け、殺そうとしてくる。放たれるビームを躱しつつ、ターニャは死亡したUCA軍の歩兵からライフルを広い、魔力で強化した銃弾を浴びせたが、デラックスマンのシールドで防がれる。

 デラックスマンの執拗な追撃が始まろうとする中、望みもしない二人もターニャを見付け、殺し合いを止め、対象を切り替えて一目散に飛んでくる。

 

「逃さん!」

 

「逃がすかァァァッ!」

 

「こいつ等も来るのか!?」

 

 凄まじい速さで迫るダリュンの槍の突きを躱し、続けざまに来るガルムのブレードの斬撃を躱したターニャは距離を取り、デラックスマンの突進をも躱して左手から魔弾を放って反撃した。

 

「貴様らぁ! 悪の分際でェ!」

 

「邪魔をするなァ!!」

 

 ターニャの元に集まった三名の強者であったが、互いが協力するどころか、誰が一番に彼女を殺すか競い合っているので、デラックスマンが偶然にも近くに居たダリュンを殴り付ければ、彼もまた反撃して交戦が始まる。これでガルムとターニャの戦いになったわけだが、ダリュンは歴戦錬磨の戦士であり、殺意丸出しで迫るデラックスマンの拳を避けた数秒後、標的を殺そうとするガルムの背中に槍を突き刺した。

 

「背中から突くとは、偉大な戦士じゃないのか!?」

 

「奴は渡さん!」

 

「今の隙に…!」

 

 ダリュンの卑劣とも言える突きに、ガルムは激怒して反撃を行う。これを切っ掛けに再び三人が殺し合いを始めたところで、ターニャは逃げようとしたが、逃げる前に背中を掴まれ、恐ろしい乱戦に引きずり込まれた。

 

 

 

 四人の強者が互いに殺し合い、周囲を巻き込む恐ろしい乱戦を繰り広げる中、スタールアームズ支社を守る民間軍事会社のファントム・タロン社とユグドラシル社は、ミニョルアーマーの適合者ではないスパルタンⅤを援軍を加えた連邦軍の猛攻に耐えていた。だが、そう長くは持たず、支社の目前まで後退を余儀なくされた。

 

「た、隊長! もう耐えられませんよ!」

 

『ぬァァァッ!!』

 

 量産型ヒュッケバインMk-Ⅱを駆って押し寄せる連邦軍機を迎撃するカルティエ・サイは、上司であるアンダース・ベノワにこれ以上は持たないと告げる。そんな彼女のヒュッケバインに、スパルタン・バッシュ2が駆るMA形態のレイダー制式仕様の猛攻を受ける。ビームを連射して襲い掛かるレイダーに、カルティエは後退しながら躱しつつ、プラズマライフルで反撃する。

 

「ヒィヤァァァ!!」

 

 一方で水中に居るバッシュ1が駆るフォビドゥンヴォーテクスは、ダーメン神父のウロッゾを執拗に追撃していた。

 

「こうなれば、陸上に!」

 

 機体全ての搭載火器を乱射して追撃してくるバッシュ1にダーメン神父は、相手の不得意とも言える陸上で戦うと決め、支社の近くにある港に上陸した。普通なら下がるところだが、相手を殺すことしか考えていないバッシュ1はあろうことかダーメンのウロッゾを追撃し、フォビドゥンヴォーテクスが不得意な陸へと上がってしまった。

 

『ヒャァーッ!』

 

「へへへっ、間抜けめ!」

 

 誘いに乗って水中から飛び出し、スラスターを吹かせてトライデントで突き刺そうとしてくるバッシュ1のフォビドゥンヴォーテクスに、ダーメンはその突きを当たる寸前で躱した。一撃が躱されたことで、バッシュ1は直ぐに会場へと逃げようとする。

 

『ひゃお!?』

 

「逃がさんわ! 死ねっ!!」

 

 それからウロッゾ胴体に内蔵されたビームキャノンからビームブレードを発振させ、慌てて海上へと戻ろうとするバッシュ1のフォビドゥンヴォーテクスの胴体を切り裂いた。

 

「ヒョァァァッ!?」

 

 ビームソードで機体ごと切り裂かれたバッシュ1は、ビームの刃に呑み込まれて消滅する。胴体を切り裂かれたフォビドゥンヴォーテクスは爆発し、周辺に破片を撒き散らす。

 

「まさか、ガンダムタイプと交戦することになるとは…! さて、支社の撤収は進んで…っ!?」

 

 博打のような策でバッシュ1のフォビドゥンヴォーテクスを撃破したダーメン神父であったが、油断して索敵を怠ったためか、スパルタン・ブライトのペーネロペーのビームライフルを胴体に撃ち込まれ、爆散して機体と運命を共にした。ダーメン神父のウロッゾを撃破したブライトのペーネロペーは飛び去り、別の敵機と交戦を開始する。

 

「クソっ、敵がここまで来たぞ!」

 

「もう撤収は殆ど終わっている! 俺たちも速いとこずらかろう!」

 

 ダーメン神父のウロッゾの大破は、支社で撤収作業をしていたスタールアームズ社の作業員たちの赤い二つ目のゴーグル先から見えており、敵がここまで迫っていることに動揺を覚えたが、撤収は殆ど終わっており、持ち帰れない物を放棄すれば、直ぐに逃げられる状態だ。

 

「あれは、あれはどうするんだ!? ガンダムだぞ!」

 

「んな物は良い! 何機か奪われてる! ほっとけ!!」

 

「どうせニ十機くらいは作ってんだ! 速く逃げようぜ!」

 

 一人の作業員が赤い眼のゴーグルを輝かせながら、立っている一機のガンダムタイプのMSを指差しながら問う。これに他の作業員らは、持って帰っても意味が無い物と返し、十数機は製造されていると言って退避を促した。

 そのガンダムタイプはインパルスガンダムであり、撤収中に攻撃された際、いつでも迎撃できるように出撃準備を済ませていた。だが、今は必要は無いので、換装用のシルエット共々この支社の施設内に放棄される運命だ。一人の作業員の言ったことに寄れば、インパルスの何機かは連邦軍に奪われているようだ。

 

「な、なんだ!?」

 

 そう支社から逃げようとする三人の作業員であったが、三人が見えぬところで、次元の歪みが発生し、そこから人の姿をした何かが落ちて来る。それが直ぐに次元の歪みは消え、元に戻る。音に気付いた三人は足を止めてそちらへ振り返り、手にしているライフルの安全装置を外し、落ちて来た物に銃口を向けて近付く。

 

「そんなものほっとけ! 速く逃げよう!」

 

 興味本意で近付こうとする二人に、一人は逃げることを優先するが、二人は耳を貸さずに次元の歪みから落ちて来た死体のような物に近付いた。

 

「女の死体だ…」

 

「よし、戻ろう。何処からか落ちて来たか知らんが、どうせ何も…」

 

 近付いた一人が、それを蹴って物体が死体であることを知らせた。死体は長い金髪の女性であり、百七十三センチとやや高身長で人種は北欧系だ。胴体が大きく抉れ、手足があらぬ方向に曲がっており、蒼い瞳は完全に死者の物だ。傍から見ても、完全に死体である。

 落ちて来た物が死体だと分かれば、自分らを待っているスタールアームズ社の撤収船へ向かおうとしたが、別方向より手薄な防衛線を粉砕しながら来たスパルタン・ゴウダに、一人の作業員が踏み潰された。

 

「ひっ! す、スパルタン!?」

 

「逃げ…」

 

「ヒグス共め。何を持ち帰ろうとしていた?」

 

 同僚が一人踏み潰されれば、二人は戦いもせずに逃げようとしたが、ゴウダは右腕のバルカン砲を撃ち込み、無惨な挽肉へと変えた。それからスタールアームズ社が何を運び出そうとしていたのか調査すべく、周囲を見渡す。

 

「殆どの物を持ち出したか。だが、ガンダム擬きを置いていくとはな! ガンダムは連邦の物だ! 貴様ら宇宙人(エイリアン)共の物ではない!!」

 

 重要な物は優先的に持ち出されたのか、残っているのは、どうでも良い物や迎撃用に用意されたインパルスガンダムとその換装用の装備であるシルエットだけだ。ゴウダはインパルスを見るなり、偽物と激怒して破壊しようとする。そんなゴウダの背後で、金髪碧眼の女性の死体が起き上がり、睨み付けながら折れ曲がった左腕を元の位置に戻して向ける。

 

「んっ、身体が動かん!? だ、誰だ!?」

 

 ミニョルアーマーの全火器を展開し、まだ起動していないインパルスガンダムを破壊しようとゴウダであったが、金縛りを受けたかのように動けずにいた。ゴウダに金縛りを仕掛けたのは、死者から生者へと再生途中の金髪碧眼の女性だ。左手を相手に翳し、魔法で相手を金縛りにしている。

 

「おのれ、この私を動けなくするなど! 直ぐに解かねば、貴様を殺すぞ!?」

 

 女性を脅して金縛りを解かせようとするが、聞く耳を持たず、そればかりかアーマーを圧縮し始める。音を立てながら徐々に圧縮されていく状況に、中に居るゴウダは恐怖に駆られる。

 

「う、ウワァァァッ!? わ、私はこんな! こんなつまらん死に方をする男ではない!! あのお方の、羽翼元帥殿の右腕として活躍し、この戦争で我らに勝利をもたらすのだァ!! この私が圧殺されるなど、あってはならんのだ!!」

 

 徐々に狭まっているスーツ内で、自分はこんな死に方をしない男であると言うが、圧殺しようとする女性は気にも留めず、その力を強めるばかりだ。

 

「ギャァァァッ!? アァァァッ!!」

 

 抵抗するも、無駄な足掻きであり、そのままゴウダは自分の鎧武者のようなミニョルアーマーに圧殺された。外側から無理やり強い力で圧縮されたゴウダのミニョルアーマーは、まだ残っている弾薬が誘爆し、動力源と共に大爆発を起こした。

 アーマーの爆発を魔法防壁を張って身を守れば、女性の身体は完全に再生しきっていた。その女性の正体はマリ・ヴァセレートであり、何かの原因か、この世界へ殺されてから送られていた。身に着けているボロボロの服を見て、直ぐに新しい服が必要と思い、付近に置かれていたパイロットスーツ一式を見付け、それに着替え始める。インパルスがザフトで製造された機体であるのか、パイロットスーツはザフトの赤服用の物であった。

 

「とにかく、あれに乗ろう」

 

 赤いパイロットスーツに着替えた彼女は、付近に待機状態のインパルスに目を付け、そこへ向かって昇降機に乗り、コクピット近くまで上がってハッチを開けようとする。当然、ロックは掛かっていたが、マリはハッキング技術を持っており、何処からともなく取り出した端末でハッキングを仕掛け、ハッチのロックを解除してコクピットに乗り込んだ。シートに座り込めば、インパルスを自分用に調整するため、端末を取り出して操作を行う。

 

「外は戦闘状態。あいつ、殺してからこんな所に送って! ここで戦う奴らには悪いけど、八つ当たりに付き合ってもらうわ」

 

 いきなり戦場へ送り込まれて機嫌が悪いのか、マリはインパルスでこの戦場で戦う者全てに八つ当たりを行おうとしていた。だが、機嫌の悪さではなく、別の怒りを晴らす為のようだ。

 

「調整完了。直ぐにここから脱出して、ルリちゃんを探さないと」

 

 そんな怒りを抱えながら、マリは機体を自分用に調整し終えれば、インパルスガンダムを起動させた。起動すれば、二つの緑色の眼が光り、ヴァリアブルフェイズシフト装甲を展開させれば、灰色から白と青を基調とする色合いへと変わった。




続きは来年っす。


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新たな乱入者

インパルス大暴れ回


 どういう理由か不明だが、マリが死体の状態でこの世界に送られ、スパルタン・ゴウダを圧殺してインパルスガンダムに乗り込んだ頃、スタールアームズ支社での攻防戦は終わりを告げようとしていた。

 

「た、隊長! スタールアームズ社の奴ら、逃げてますよ!」

 

「畜生、最初から囮にするつもりだったか!」

 

 ゴウダとマリが来る前に、ゲイムランド支社の撤収の殆どを終わらせていたスタールアームズ社の輸送船団は、その時間稼ぎを担っていたファントム・タロン社とユグドラシル社を見捨て、早々にこの惑星から続々と飛び立っていた。

 ヘルガストが支配する惑星ヘルガーンに本社を置いている為か、スタールアームズ社の輸送船団の護衛には、ヘルガスト海軍の宇宙艦隊が務めており、到着するなり輸送船団を追撃する連邦軍を迎撃を始める。

 何も言わずに行くので、補給の際に帰投していたベノワは、部下の報告で見捨てられる前提であったと気付いて激怒するも、逃げなければ連邦軍に殲滅されるので、部下たちに撤退命令を出す。

 

「通りで前金が多かったわけだ! お前ら、直ちに撤退だ! UCA軍の方を目指せ!」

 

「どうしてです!? 手土産のデータを渡せば連邦軍でも!」

 

「忘れたのか? 俺たちを攻撃しているのは、あのレイシズムでファシストの羽翼の野郎だ! そんな奴に投降したところで、殺されるのがオチだ!」

 

 UCA軍の方を目指して撤退すると言うベノワに、部下は連邦軍でも年の為にコピーしておいたスタールアームズ社のデータを渡せば、迎え入れて貰えると言う。これにベノワは連邦軍の攻撃部隊を率いているのは、羽翼元帥だから投降は出来ないと怒鳴り返す。

 

「ユグドラシル社にも伝えますか?」

 

「いや、アルテウスはいけ好かない奴だ。放って置いても、勝手にずらかるだろうよ」

 

 別の部下は、共に防衛線で戦っているユグドラシル社にも知らせないのかと問えば、ベノワはハヅキのことが気に入らないのか、黙って撤退しろと返した。それに応じてか、ファントム・タロン社の者たちは宣戦を離れ、UCA軍の戦闘区画へと向かって行く。

 

「あの、ユグドラシル社は置き去りにするんすか?」

 

 スパルタン・バッシュ2が駆るレイダー制式仕様と交戦中の量産型ヒュッケバインMk-Ⅱに乗るカルティエは、ベノワからの撤退命令を聞き、まだ近くで戦っているユグドラシル社を見捨てるのかと問う。ハヅキ率いるユグドラシル社は、自分らを防衛用に雇ったスタールアームズ社が、何も言わずに撤収しているのを知らない。

 

『せっかく撤退の援護をしてくれるその気に食わん奴に、なんで知らないとダメなんだ? いいからさっさっと来い! 置いてくぞ!』

 

 それを伝えず、自分らだけ逃げて良いのかと問うカルティエだが、ハヅキを逃げるための時間稼ぎに使おうとするベノワは、速く来いと催促する。

 

「分かりました隊長。うち、タロン社辞めます。これ、退職金代わりに貰って行きますね」

 

『あっ? お前、辞めるだと? 誰が拾ってやったと思ってるんだ? お前のような奴は…』

 

 他人を平気で切り捨てるこのベノワの発言に、カルティエは彼にこれ以上ついていけないと判断し、タロン社を辞めると告げた。

 そのついでに乗機である量産型ヒュッケバインMk-Ⅱは退職金代わりに貰うとも言えば、ベノワはイラついて罵声を浴びせようとしたが、言い始めた瞬間にカルティエに通信を切られた。

 通信を切ったカルティエは、弾幕を躱しながらバッシュ2のMA形態のレイダー制式仕様に接近して蹴り付けた後、距離を取ってユグドラシル社にスタールアームズ社撤退のことを知らせる。

 

「ユグドラシル社の皆さん、もう目標は達成されました!」

 

『何? そんな報告は受けていないぞ!』

 

「奴ら、あんた達を時間稼ぎにしようとしてるっすよ。うちの前職もそのつもりっすから」

 

 知らせるに知らせたが、ユグドラシル社のオペレーターたちは信じなかった。これにカルティエは証拠を示せば、ハヅキは理解し、撤退を決断する。

 

「撤退だ。既に仕事は済んでいる」

 

『奴の言う事を信じるんですか!? これは…』

 

「スタールアームズ支社の方を見なかったのか? 奴ら、我々を置いて逃げているぞ」

 

『なっ!? りょ、了解です!』

 

 証拠を見たハヅキが撤退を決断した際、部下は信じていなかったが、スタールアームズ社が撤退している映像を通信で送れば、信じて命令に従う。

 

「想定通り、スタールアームズ社に随伴する! ついてこい! わっ!?」

 

『代表!?』

 

 撤退する際、ハヅキはスタールアームズ社に随伴する予定だった。予定通りにスタールアームズ社の輸送船団についていこうとしたが、スパルタン・ギルティのガンバレルストライカー装備のストライクEから放たれる有線式ガンバレル四機のオールレンジ攻撃を受け、乗機の専用量産型ゲシュペンストMk-Ⅱの左腕と左脚を破壊される。

 

「大丈夫だ! それより速く行け!」

 

 バランスが崩れそうになるが、スラスターを吹かせて何とか姿勢を立て直し、スプリットミサイルを発射してストライクEを牽制した。その後、部下の無事と問う連絡に答え、メガ・ビームライフルで再び追撃してくるギルティのストライクEの迎撃を行う。

 

『きょあっ!?』

 

「今だ! 撤退しろ!」

 

 展開した四基の有線式ガンバレルの内、一基が撃破されたことでギルティは驚き、残り三基をストライカー本体に戻してから引き下がる。

 この隙にハヅキは随伴機を連れ、ファントム・タロン社を辞めたカルティエと傘下のユグドラシル社と共に撤退を開始する。代わりに追撃を行うバッシュ2のレイダー制式仕様とスパルタン・ブライトのペーネロペーであるが、追撃する者たちは撤退戦にも慣れており、続けざまに放たれる弾幕の前に阻まれる。

 

『ヒィヤァァァッ!?』

 

『クソっ、待ちやがれェ!!』

 

「流石に、手練れを追うのは無理か」

 

 スパルタンⅤの機動兵器部隊の随伴兼観測部隊であるアルベルト・オイカワは、乗機のジェットストライカー装備の105ダガーのモニター越しから、ユグドラシル社を追撃しようとするスパルタンⅤ等がむざむざと逃げられる様子を見て、その練度の差を見せ付けられた。

 その次に、所属艦であるスペングラー級強襲揚陸艦「アドミラル・ラムゼー」のバーツ・アルフォンソの無線連絡が入る。

 

『オイカワ中尉、スタールアームズ支社の方へ向かえ。奴らの忘れ物があるかもしれん』

 

「了解。連中の観察の方は?」

 

『もう十分だ。一人死んだが、結果はどうあれ、アーマー無しでも戦闘力は凄まじい。元帥閣下はさそ満足だろう。向こうは混乱しているが、あれほどの戦闘力なら、時期にスパルタンが解決してくれる。向こうにこちらのスパルタンⅤを回す。お前たちは、支社の忘れ物を回収して来い!』

 

「了解です。直ちに急行します!」

 

 スタールアームズ社の忘れ物を拾って来いと言う上官に、アルベルトはスパルタン等の観察はどうすべきかと問う。これに上官は十分にデータが取れたので、それ以上の必要はないと答えた。

 テノジア軍の乱入でゲイムランド首都周辺は混乱しており、解決の為に手持ちのスパルタンⅤ全てをそちらへ回すと言えば、アルベルトは納得し、新しい指令に従ってスタールアームズ支社の方へ僚機を連れて向かった。

 

「野郎、逃がさなねぇぜ!」

 

『スタールアームズ社を、やらわせるわけには!』

 

 一人、スタールアームズ社の追撃を諦めていないスパルタンⅤが居た。それはνガンダムHWSを駆るスパルタン・バレットだ。ハイパーメガライフルをヘルガスト海軍の艦隊と合流しようとする宇宙輸送船に放ち、撃沈しようとする。これを阻止するため、ベース・ジャバーで空中を飛ぶギラーガを駆るアドルフ・ラッチマンが止めに向かう。

 

「うぉ!? シールドが!」

 

 阻止するため、アドルフがギラーガの胸部ビームバスターを放った。輸送船を沈めるのに夢中になっていたバレットは気付き、メガ粒子砲付きの大型シールドで防ぐが、ビームバスターの威力は高く、シールドを破壊されてしまった。

 

「邪魔しやがって!」

 

『スタールアームズ社はやらせん!』

 

 ベース・ジャバーのスラスターを全開にして迫るアドルフのギラーガに、バレットは機体の胸部ミサイルを全弾撃ち尽くして迎撃を試みるが、ビームバルカンで全て破壊され、肉薄を許してしまう。

 

「くそっ!」

 

『ウォォォッ!!』

 

 ギラーガスピアで斬りかかるギラーガに、HWS装備のνガンダムは重武装ゆえに対応が遅れた。重力下でも機敏な対応が出来るνガンダムであるが、HWSは重力下での運用を想定していないので、その動きを制限されていた。だが、増加装甲のおかげで防御力は折り紙付きであり、胸部を切り裂かれてもビームの刃は本体には届かなかった。

 

「まだまだ!」

 

 二撃目を入れる前に、メガビームライフルで殴られるが、アドルフは手を緩めることなく小型ビームの球体である無数のギラーガビットを展開し、それをバレットのνガンダムhWSに向けて放った。

 

「ウォォォ!? こいつは…!」

 

 無数の小型ビームの球体の突撃を受けたνガンダムは、その爆発に呑まれた。重武装の機体を飛ばしていたサブ・フライトシステムのケッサリアにもビットが命中しており、共に爆発した。

 

「やったか…!?」

 

 Xトランスミッターの出力を上げ、ビットの数を増やしたためにアドルフの負担は相当な物であった。かなり精神負担を抱え、息を切らしていた。あの爆発で完全にバレットのνガンダムを倒したと思っていたアドルフであったが、レーダーの反応を見て、即座に臨戦態勢を取る。

 

「っ!?」

 

 数秒後、爆発の中から倒したと思っていたνガンダムが現れた。全身に施されたHWSの増加装甲が、機体をビット攻撃や爆発から守ったのだ。バックパック右側にマウントされた専用のビームサーベルを抜き、スラスターを全開に吹かせ、臨戦態勢を取るギラーガに突貫する。

 

「増加装甲か!」

 

 突貫してくるνガンダムの刺突を避けるため、上昇しようとするも、重い増加装甲を脱いで身軽になった敵機の方が速く、ベース・ジャバーを切り裂かれてしまう。それでもアドルフはギラーガスピアを敵機に突き立てるも、バレットは直撃を防ぐために機体左腕を犠牲にし、ビームサーベルをギラーガの胴体に突き刺した。

 

「こ、ここまでか…!」

 

 νガンダムが突き刺したビームサーベルはギラーガのコクピットを貫いており、爆発とビームに焼かれる感覚で死を悟ったアドルフは、生きることを諦め、機体と運命を共にした。爆発するギラーガより、サーベルのビームを停止して離れたνガンダムは、再びサーベルを起動させて左腕を切り裂いた。

 

「これ以上の戦闘は不可能か。おい、迎えに来てくれ!」

 

 推進剤の残りと損傷具合を見て、戦闘の継続は不可能と判断したバレットは、通信で迎えを要請する。それに応じてか、二機のジェットストライカーを装備したウィンダムが駆け付け、バレットのνガンダムを抱えて母艦へと帰投した。

 

 かくして、スタールアームズ支社を巡る連邦軍やスパルタンⅤ、ファントム・タロン社とユグドラシル社の防衛戦は終わった。

 次に始まるのは、インパルスガンダムを駆るマリと連邦軍の戦いである。

 

 

 

 上官のアルフォンソからの命を受け、殆どが持ち去られたスタールアームズ支社に降り立ったアルベルトは、自分と同じ同型機である僚機の105ダガーに、残っている物が無いか調べろと指示した。

 

「残っている物が無いかスキャンしろ! とにかく、何か持ち帰ろ!」

 

 部下に指示を出せば、自分も警戒しつつ機体のセンサーを最大にして、残り物が無いか探す。

 

『こ、こいつ! 動いて!?』

 

「どうした!? 何があった!?」

 

『うわぁぁぁっ!!』

 

 その数秒後、僚機が起動状態のインパルスガンダムの攻撃を受けて撃破された。僚機の105ダガーを両手に握る対装甲ナイフで撃破したインパルスガンダムを動かしているのは、この世界に死体として送られ、不老不死で蘇生したマリである。僚機を撃破されたことで、アルベルトがそちらに視線を向ければ、乗機の105ダガーが持っているビームカービンを撃ち始める。飛んでくるビームにマリは見えているかの如く操縦桿を巧みに動かして躱し、自身のインパルスにビームを撃って来る105ダガー四機に突撃する。

 

『こ、こいつ! 赤服か!?』

 

「この動き、コーディネイターのじゃ!?」

 

 ザフトのガンダムであることから、乗っているのはコーディネイターでエリートパイロットである赤服と思っていたが、その赤服との交戦経験があるアルベルトは、余りにも人外離れな動きを見せるので、別物であると思い始める。

 

『くっ、クソ!』

 

「止せ! 真面にやり合うな!!」

 

『えっ!? ワァァァ!!』

 

 瞬く間に間近まで接近してきたので、僚機の一機が腰のビームサーベルを抜いて対処しようとする。これにアルベルトは交戦するなというが、もう手遅れであり、対装甲ナイフでコクピットを切り裂かれた。

 

「か、敵わねぇ…! 全機、退避だ! 飛べっ!!」

 

 二機の僚機を失ったアルベルトは敵わないと判断し、ジェットストライカーのスラスターで飛んで逃げようとするが、一機は相手が投擲したナイフが機体の背中に突き刺さって撃破され、アルベルト機は異常な速さで迫るマリのインパルスに追い付かれてしまう。

 

「ひっ、あァァァッ!?」

 

 迫るインパルスに恐怖するアルベルトは必死に逃げようとするが、ジェットストライカーを機体胸部の20ミリ機関砲で破壊され、強制排除が自動的に行われるが、追い付かれてナイフを突き刺された。ナイフの振動するブレードはコクピットまで届き、アルベルトは背後から来た刀身に圧し潰されて死亡した。アルベルトの隊を全滅させたマリは直ぐに支社内へ引き下がり、ナイフを元の腰に戻し、専用の換装装備であるフォースシルエットが固定されているハンガーに近付き、それを装着して電力の補充を行う。

 

『大尉、支社の操作に向かったオイカワ隊の通信が』

 

「こちらが調査する。二機、こちらについてこい」

 

 アルベルトの隊の全滅は、PTであるエルアインスを駆るエマ・ホワイトにも届いた。部下よりそれを知ったエマは、グラビトン・ランチャーを装備した専用の乗機である純白のエルアインスを動かし、二機の同型機を連れてマリのインパルスが居る支社へと向かった。

 

「来た…」

 

 エマが率いるエルアインス三機を見たマリはビームライフルと機動盾も装備したインパルスを動かし、フォースシルエットの推力で飛ばして先制攻撃を仕掛ける。三機の敵機をビームで牽制しつつ、マリはソードシルエットを装着したシルエットフライヤーと呼ばれる無人機を操作して発進させ、安全とも言える空域に待機させた。並の人間なら、相当器用でなければできない芸当だ。

 

「インパルス! オイカワ隊は、あれにやられたのか!」

 

 放たれるビームを躱しつつ、エマはアルベルトの隊を全滅させたのが、自分らに攻撃してくるインパルスであると判断し、僚機と共に両肩の飛行ユニットに搭載されているツイン・ビームカノンで反撃する。飛んでくる三機分の強力なビームを躱した後、マリは散会して襲い掛かるエルアインス三機と交戦を開始する。

 

「この動き、コーディネイターの物じゃない!?」

 

 連携で攻撃するエマ等であるが、マリの操縦テクニックは自分らが知るコーディネイターを遥かに凌駕する物であり、アルベルトと同じく驚いていた。G・リボルバーやG・レールガンなどの集中砲火と必死に動き回っての攻撃で、何とか互角に持ち込んだが、マリは攻撃に耐えながらエマたちの弱点を三十秒足らずで見抜き、そこを突いて一機を撃破した。

 

『まさか十数秒足らずで!?』

 

「止まるな!」

 

『ワァァァッ!』

 

 味方が撃墜されたことで、自分らの弱点を見抜かれた事に気付いた一機のエルアインスが動きを止めた。止まるなとエマは叫んだが、相手が動くよりも前にマリのインパルスが放ったビームが、そのエルアインスを貫いていた。

 

「直ちに増援を! 救援を要請する!」

 

 マリのインパルスに対抗するには、数でしかないと判断したエマは援軍を要請しつつ、近付けないように手持ちの火器を乱射する。

 

「ちっ」

 

 その乱射のおかげか、マリのインパルスはライフルを破壊された。これで射撃を防いだが、エマのエルアインスが張る弾幕は、マリにはまるで見えているようで、躱しながら迫り、フォースシルエットからビームサーベルを抜く。

 

「こ、このぉぉぉ!」

 

 向かってくるマリのインパルスにエマは恐怖心を覚え、奥の手であるグラビトン・ランチャーを取り出し、確実に躱せない距離まで敵機が迫ったところで、それを撃ち込んだ。

 

「嘘ッ…!?」

 

 当たる距離で放ったが、マリは常人では考えられない方法でグラビトン・ランチャーの重力波を躱した。それは、機体の上半身と下半身を分離させると言う物だ。外れた重力波は放棄されたスタールアームズ支社に命中し、壊滅的な被害をもたらした。

 初代ガンダムと同じく分離機能を持つインパルスなら可能であるが、戦闘中に機体を分離して躱そうというパイロットは、実際に乗ってかなりの戦果を挙げたシン・アスカを初め、滅多に居ない。

 奇想天外な方法でグラビトン・ランチャーの重力波を躱したマリは、呆気に取られているエマのエルアインスにビームサーベルの刃を突き立てた。

 

「機体が!? 脱出する!」

 

 迫るインパルスで我に返ったエマは避けようと努力したが、脱出できる時間を稼ぐ程度にしかならなかった。ビームの刃を突き刺された純白のエルアインスは、彼女が脱出した後に機能を失い、インパルスがサーベルを引き抜けば、海面に向けて落下していく。

 

「まだ来る…!」

 

 落下傘を開いて一隻のフリゲート艦へ向けてゆっくりと落ちていくエマを追うことなく、マリは続けて仕掛けて来るエルアインスとバリエント、ジェットストライカー装備のウィンダムの混成部隊に、機動盾の面積を広げ、サーベル一本で立ち向かった。




親戚の家に行ったり、家族行事に映画見て、腹壊したりして執筆が遅れた。

あと三話くらいで、スパルタンⅤ編は終わるぞ~。


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沈み行く艦(ふね)

対艦刀祭りだ~


 新たな乱入者として暴れるマリ・ヴァセレートの存在を知らず、スパルタン・シドと随伴のカリスト等は、キックとパンチの増援を受け、同じ物を奪おうとするニュクスやPMC「シャドウ・カンパニー」のオペレーターたち、対象を守る二コラ・グレフとキアラ・ロジーノと激しい争奪戦を繰り広げていた。

 

「畜生、どんだけ硬いんだ!?」

 

 シドとカリスト等は、シャドウ・カンパニーが自分らに差し向けられた高い防弾性を持つアーマーを着込んだ重武装兵士「ジャガーノート」に阻まれていた。

 その止められない巨大な力や圧倒的破壊力と言った意味を持つ名詞の名にする兵士が持つM134機関銃の連射速度も脅威であり、対スパルタン用の徹甲弾を使っているのか、最新のミニョルアーマーを身に着けているカリストのシールドは削られ、一瞬にして蜂の巣にされて元の液状に戻ってしまう。

 そんなジャガーノートが三体も居り、恐ろしい弾幕によってシドたちは遮蔽物に釘付けにされる、

 

「おい、地獄兄弟(ヘル・ブラザーズ)! まだ奪え返せないのか!?」

 

 ミニョルアーマーすら貫通する弾幕から身を隠しているシドは通信で、カリスト二個分隊分を伴って援軍として現れた地獄兄弟ことキックとパンチに、件の物は奪い返せたのかと問う。

 

「うるせぇぞ! お前もスパルタンⅤだろ! 指図してないで、自分でやったらどうだ!?」

 

 シドに急かされるキックは、ニュクスが放つ二振りの長剣型デバイスの斬撃を躱しつつ、スパルタンⅤなら自分の力で手に入れたらどうかと、二撃目を躱してから相手に蹴りを入れ込む。

 

「やるな、おっさん! でも、うちの師匠の方が断然強いぜ!」

 

「ゴスロリのションベンクセェ餓鬼が! 俺たち地獄兄弟を舐めんじゃねぇぞ!」

 

 体勢を立て直したニュクスは、キックの実力は認めつつも、自分の師であるガルム・マッドアイの方が強いと言って攻撃してくる。これにキックは侮られたと思い、凄まじい速さで繰り出される斬撃を躱しながら拳による打撃を入れ込んだ。

 

「それ! 怒って攻撃が雑だぞ!」

 

「ちっ、嬢ちゃんに指摘されるとはな…!」

 

 ニュクスは小柄で身軽であり、打撃を躱してキックの顔面に蹴りを入れ込んだ。後退った相手に、怒って攻撃が雑になっているとニュクスが指摘すれば、指摘されたキックは頭を冷やす。

 そんなキックをシャドウ・カンパニーのオペレーターが背後を撃とうとしたが、直ぐに気付かれて全員が殺害された。

 

「兄貴! こいつ等、仲悪いのに強ェ!」

 

 一方で二コラやキアラと交戦していたパンチは、二人の連携攻撃によって吹き飛ばされた。交戦している際、パンチは二人が連携を取りつつも、二コラとキアラの関係が悪い事を見抜き、義兄であるキックに報告する。

 

「貴方、どうしてそれを!?」

 

「テメェ、どうして分かるんだ!?」

 

「青帽子、お前は赤帽子を馬鹿だと思って見下している目をしている! 赤帽子の方は、青帽子が陰湿な奴だと思って気味悪がってるぜ! 顔に出てんだよ!」

 

「流石は弟だな! 相手を良く見てる!」

 

 仲が悪いことを見抜かれた事を問う二人に、パンチは僅かな二人の様子で見抜いたと自信気に答えた。良く相手を見て、本性を暴いた義弟のパンチに、義兄であるキックはニュクスと交戦しながら褒めた。

 

「それが分かったところで!」

 

「お前は死ぬ運命なんだよ!」

 

 パンチに仲が悪いことを見抜かれた二人であるが、死ぬことには変わりないと言って攻撃する。二コラは特殊な素材で出来た鞭を振るい、キアラは二振りの短剣で斬りかかる。

 

「兄貴が褒めてくれたんだ! 負けられうかよ!」

 

 凄まじい殺気で迫る二人の攻撃だが、義兄のキックに褒められたパンチは負けるわけには行かないと告げ、キアラの鞭を躱し、キアラが振るう二振りの短剣による斬撃を躱した。

 それと同時にシャドウ・カンパニーとスパルタン・カリスト等は、新百合帝国が本国へ持ち帰ろうとする物を巡り、激しい銃撃戦を演じる。

 

 

 

「何なんだ奴は!?」

 

 マリのフォースインパルスガンダムに攻撃を行うエルアインスやバリエント、ジェットストライカー装備のウィンダムの混成部隊であったが、ライフルも持たず、ビームサーベル一本しか持たないたった一機敵機に次々と落とされていた。

 

『敵は一機だぞ! 何をやっている!?』

 

「あのガンダムに乗っているパイロットは、化け物だ!」

 

『俺たちじゃ、敵わない!』

 

 一機の敵機に、落とされるばかりの連邦軍機に通信で喝を入れる将校であったが、パイロットたちはマリのインパルスの性能を最大限に引き出す圧倒的な技量を前に圧倒されるばかりで、敵わないと言って下がる機体も続出する。

 

「ガンダムつっても、ただのMSだろうが! そんな奴相手に手こずるなんて! 情けねぇぜ、正規軍は!!」

 

 ビームサーベルで切り裂かれて撃墜される連邦軍機に代わり、マリのインパルスに挑もうとする傭兵が居た。量産型ヴァルシオンを駆るザック・パルムだ。

 マリのインパルスをただのガンダムと侮り、それに勝てない正規軍を侮辱するような言葉を吐きながら、ザックは機体の徒手で破壊しようとする。彼がインパルスを破壊するのに、武器を使うまでもないと思ってのことだろう。

 

「捻り潰してくれるぜ!」

 

 インパルスを握り潰すべく、捕まえようとするヴァルシオンであるが、相手は高機動のフォースシルエットを装備しているため、あっさりと逃げられてしまう。

 

「フン、そんな細いビームで、このヴァルシオンが倒せるかよ!」

 

 空かさずビームサーベルを突き立てて反撃するインパルスだが、究極ロボの異名を持つヴァルシオンに通じず、巨大な手で殴打される。フェイズシフト装甲の為、バラバラにされずに済み、直ぐに体勢を立て直す。

 

「へっへっへっ、逃がすかよ!」

 

 フォースシルエットでは敵わないと判断し、ソードシルエットに換装するために逃げるマリのインパルスをザックのヴァルシオンは追う。ザックはインパルスを嬲り殺しにするつもりであり、機体の性能を過信し過ぎて余り本気で追おうとしていなかった。その間にマリは、安全な空域に待機させていたソードシルエットを装備したシルエットフライヤーを呼び出し、換装しようとする。

 

「換装するつもりか? 無駄なことを!」

 

 シルエットフライヤーを見付けたザックは、それを阻止しようとメガ・グラビトンウェーブを発射しようとした。マリはそう来ると睨んでおり、フォースシルエットを外し、彼のヴァルシオンに向けて放った。油断しきっていたザックはそれを避けれず、フォースシルエットを当てられた。

 

「うぉ! こいつ!?」

 

 攻撃を妨害されたことで、ザックはインパルスに攻撃しようとするが、敵機は胸部バルカンをぶつけたフォースシルエットに向けて放っていた。数十発も撃ちこまれたフォースシルエットは爆発し、ヴァルシオンを破壊こそ出来ないが、目晦ましには成功した。その間にマリは、ソードシルエットへ換装させようとする。

 シルエットフライヤーから送られたソードシルエットを装備すべく、ドッキング位置に機体を何とか飛ばせば、インパルスの背部のドッキング用レーザーが放たれ、シルエットは吸い込まれるように背部へと迫る。やがてソードシルエットがインパルスの背後に装着されれば、機体の青い部分の装甲が赤く変色した。これがソードインパルスである。

 

「赤くなったところで、このヴァルシオンに勝てる物か!」

 

 ソードシルエットに換装してソードインパルスとなった敵機を見付けたザックは、それでも自分のヴァルシオンには敵わないと言って、捻り潰そうと迫る。相手が並のパイロットであれば、ザックのヴァルシオンが勝っていたが、インパルスを駆るのはマリだ。ソードシルエットにマウントされた二振りのエクスカリバーレーザー対艦刀を取り、二刀流でヴァルシオンに挑む。

 

「死ねェェェッ!」

 

 叩き潰そうとヴァルシオンの両手を相手に向けて振るうザックであったが、マリはインパルスを素早く動かして躱し、空かさず二振りのエクスカリバーを振るって相手の両腕を斬り落とした。

 

「お、俺のヴァルシオンの腕が!?」

 

 格下と思っていた相手に、両腕を斬り落とされたザックは驚愕する。その隙にインパルスは二振りのエクスカリバーの柄部分を連結させて双頭刃状態にし、動きを止めているヴァルシオンに向けて振るう。

 

「うわぁぁぁっ!?」

 

 振るわれる連結状態のエクスカリバーの刃を躱し切れず、ザックはヴァルシオン共々縦に真っ二つに切り裂かれた。

 

「次は…!」

 

 ザックの量産型ヴァルシオンを真っ二つに叩き切った後、水上に居る敵艦隊に推進剤の節約を兼ね、標的と定めて襲い掛かる。当然、対空砲火や艦載機に妨害されるが、それらを掻い潜って一番先頭のフリゲート艦に降り立ち、対艦刀であるエクスカリバーで船体を切り裂く。二回ほど斬った後、次の敵艦に乗り移り、先のフリゲート艦と同じように切り裂いて撃沈する。

 

「アイオワに続き、ヘンリー轟沈!」

 

「うわぁ…!?」

 

「スパルタンだ! スパルタンを呼び戻せ!」

 

 次々と乗り移られては撃沈されていく僚艦を見たバーツは、配下のスパルタンを呼び戻せと通信士に告げる。その間に駆逐艦やアーカンソー級ミサイル巡洋艦が次々と撃沈され、バーツのスペングラー級強襲揚陸艦「アドミラル・ラムゼー」にマリのソードインパルスが迫る。

 

「チャーリー、轟沈! 敵機が! 敵機が当艦に接近!!」

 

「ワァァァッ!?」

 

 付近のフリゲート艦を切り裂き、飛行甲板に乗り移って来たソードインパルスが艦橋の前に立ったため、バーツは絶叫する。無論、対艦刀を振るおうとしており、それを見た艦橋内に居た者たちは逃げようとしていたが、逃れられるはずもなく、艦橋を切り裂かれた。

 

「ヒョォーッ!」

 

 アドミラル・ラムゼーからの救援要請を受け、スパルタン・バッシュ2のレイダー制式仕様が三機のウィンダムを伴って駆け付けて来た。マリのソードインパルスを見るなり、MA形態のまま、副翼上面のパイロンに二挺のビームライフルやクローの内蔵ビーム砲を連射しながら迫る。随伴機のウィンダムのビームライフルを撃ちながら迫っていた。

 雨あられと放たれるビームに、マリは最低限の動きで躱しながら背部の二つのビームブーメランを取り、それを迫るバッシュ2のレイダー制式仕様とウィンダム等に向けて投擲した。投擲されたブーメランは目標へ向かって飛んで行き、一気に三機のウィンダムを切り裂いて撃墜する。流石にスパルタンⅤであるバッシュ2はそれを避け、機体をMS形態に変形させ、ビームの嵐を再び浴びせる。

 

「しつ、こい!」

 

『ひょう!?』

 

 ビームを連発するバッシュ2のレイダー制式仕様に対し、マリはブーメランを戻してから二振りのエクスカリバーを抜き、機体をその高度まで飛ばし、切り裂こうとした。それを見たバッシュ2は回避するために高度を上げたが、マリは切り裂くと見せ掛け、エクスカリバーの一本を投げ付けた。

 

「ヒョァァァッ!?」

 

 フェイント攻撃に騙されたバッシュ2は対応が遅れ、投げ付けられたエクスカリバーに串刺しにされる。コクピット部分に突き刺さったためか、バッシュ2の身体は抉られていた。海面に向けて落下していくレイダー制式仕様からエクスカリバーを抜いた後、マリのソードインパルスは続けて付近に展開する敵艦隊を襲い掛かる。

 

「イィヤァァァッ!!」

 

 次にマリのソードインパルスを止めに入るのは、スパルタン・ギルティが駆るガンバレルストライカー装備のストライクEだ。スペングラー級強襲揚陸艦の飛行甲板に立ち、三基のガンバレルを展開してマリを止めようとする。

 

「アァァァッ!?」

 

 だが、重力下にも飛行能力を持たないにも関わらず、マリのソードインパルスはオールレンジ攻撃を全て避け切り、ギルティのストライクEが立つスペングラー級の飛行甲板まで乗り移って来た。迫るソードインパルスに、ストライクEはビームライフルを放つが、マリは避けながら迫って懐へ入れば、敵機が逃げるよりも前に対艦刀を振るって切り裂く。

 

「アァァァッ!? アァァァッ!!」

 

 自機を切り裂かれたギルティは、断末魔の叫びを上げながら機体の爆発に呑まれた。

 

「戻ってみれば、すげぇ強ェのが居るじゃねぇか!!」

 

『また来る…!』

 

 ギルティのストライクEを倒し、乗り移った敵艦を切り裂いていたマリのソードインパルスにまた挑むのは、スパルタン・ブライトのペーネロペーだ。先の傭兵部隊との戦闘で物足りなかったブライトは、自分が望む戦いが出来ると思って、マリのソードインパルスにファンネルミサイルによる攻撃を行う。自機に向かってくるミサイルに、マリはインパルスの胸部バルカン砲で迎撃する。

 

「このミサイル、挙動が!」

 

 通常のミサイルとは違う挙動を取るファンネルミサイルに、マリは驚いていた。インパルスは実弾に強いフェイズシフト装甲を持つが、当たれば電力が消耗するので、消費を抑えるために動き回り、時には海中に潜り、周辺の残骸やフリゲートや駆逐艦などを盾にしてミサイルを躱す。

 

「へぇ、そんな躱し方もあるのか。お前、面白いな!」

 

 放ったファンネルミサイル全てを躱し切ったマリのインパルスに、ブライトはペーネロペーの肩部メガ粒子砲を撃ち込む。それすらも躱せば、ビームライフルの掃射による追撃を行い、味方の艦艇を盾にしながら逃げ回るインパルスを追撃する。

 

『スパルタンⅤ! 誤射に注意しろ! これでは、味方の損害が…』

 

「うるせぇんだよ。敵を倒せりゃぁそれで良いだろうが!」

 

 味方艦が盾にしようが容赦なく攻撃するブライトのペーネロペーに、被害に遭っている艦隊から通信で攻撃を避けるように注意を受けるが、通信を切ってインパルスに攻撃し続ける。数隻ほど味方の艦を沈めているが、戦意向上の薬物投与で興奮し、面白い相手との戦いに夢中になっているブライトは気にも留めず、味方艦に乗り移りながら攻撃を避けるインパルスに攻撃を続けた。

 

「射撃じゃ埒が明かないな! お前の望み通り、白兵戦でやってやるよ!!」

 

 ただビームを撃っていてはマリのソードインパルスを撃墜出来ないと判断してか、ブライトはペーネロペーの両腕のメガ粒子砲発射口からビームサーベルを展開し、敢えて相手の得意分野である接近戦を挑んだ。

 大型空母の飛行甲板に乗り移ったマリのソードインパルスは、わざわざ接近戦で挑んでくるペーネロペーを迎え撃つべく、邪魔な敵機を対艦刀で切り裂いて撃破した後、斬りかかる敵機の斬撃を躱し、間合いに入った大型MSに柄同士合体させた対艦刀を振るう。

 

「アッハッハッ! 良いぜ、良いぜ!!」

 

 対艦刀の斬撃を躱した後、両腕のビームサーベルを振るうが、マリのインパルスはそれを躱して対艦刀を振るってくる。この一か八かの斬り合いにブライトは興奮し、その死闘を楽しんでいた。本来、ペーネロペーは激しい格闘戦を想定しておらず、乗っているパイロットなら機体の特性を理解し、接近戦は出来る限り済ませるか、最低限で済ませるのだが、戦闘で興奮状態のブライトは闘争本能に従って理性を失っており、それを忘れていた。

 

「オラオラ! 俺の方が図体はでけぇぞォ!?」

 

 体格とパワーで勝るペーネロペーであるが、本来想定されていない長期的な接近戦を行った為、数十秒後には格闘戦主体のソードインパルスに逆転されていた。右腕を斬り落とされ、機体の各所も斬り落とされていく。興奮状態でそれに気付かず、ただ闇雲に闘争本能に従い、操縦桿を動かしてビームサーベルを振るい続ける。

 

「おい、動けよ! バトルは、ここからが面白いんだろうが!」

 

 それも長くは続かず、斬撃を躱したマリのソードインパルスが腰から出したナイフにペーネロペーの胴体を突き刺され、機体は機能を停止して動かなくなる。

 乗っているブライトは、自身が敗北したことを理解できず、乱暴に操縦桿を動かしてまだ戦おうとしていた。それで機体は動くはずが無く、ソードインパルスが胴体に突き刺したナイフを引き抜き、爆発に巻き込まれないように離れると、ペーネロペーは大破した。

 

「畜生が! 俺のバトルは、ゲームはまだ終わって無いんだぞォォォッ!!」

 

 改造手術と薬物投与の影響か、自分の死を理解できず、ブライトは爆発する乗機のペーネロペーと運命を共にする。

 

「あのデカい大砲の戦艦が、旗艦ね…!」

 

 ガンダムタイプのMSを駆るスパルタンⅤ三名を立て続けに撃破したマリのソードインパルスは、次なる標的を大和級戦艦に定め、前面に展開される敵艦艇に乗り移り、対艦刀で切り裂きながら向かった。



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決着はつかず

これでゲイムランド編は終わりです。


 ガンダムタイプを駆るスパルタンⅤ三名を立て続けに撃破し、海上に展開される多数の連邦軍水上艦隊の旗艦、大和級戦艦に定めたマリのソードインパルスが、そちらへ敵艦に乗り移り、対艦刀で切り裂きながら向かう頃、激しい戦闘を繰り広げる四人の強者もそちらに向かっていた。

 

「貴様、味方に損害が出ているんだぞ!?」

 

「黙れ悪党め! 貴様の言葉に、この正義の化身である俺が惑わされると思っているのか!?」

 

 周囲の味方を巻き込みながら猛攻を続けるスパルタン・デラックスマンに、テノジアの最強戦士であるダリュン・ヴァフリズは注意するが、相手は聞く耳を持たずに攻撃を続ける。

 

南斗獄殺拳(なんとごくさつけん)!」

 

 ガルム・マッドアイと交戦しているターニャは、打点の高い飛び蹴りの技を繰り出していた。殆どの物を切り裂いてしまう南斗聖拳に、ガルムは避けることなくその飛び蹴りを敢えて受けた。

 

「南斗聖拳を真面に受けるとは、正気か?」

 

 背後に回ったターニャは、飛び蹴りを受けて左肩から勢いよく出血するガルムを見て、敢えて受けた彼の正気を疑う。が、対してガルムには効いておらず、全く痛みも感じていないようで、ターニャの南斗聖拳を付け焼き刃と指摘してくる。

 

「フン、付け焼き刃だな。本物の南斗聖拳であれば、俺の左腕を斬り落とせただろうに」

 

「ちっ、見様見真似な技では通じんか!」

 

 ターニャも見様見真似な物であると理解しており、それをガルムに見破られれば、航空魔導士としての術式による魔法攻撃を仕掛けた。凄まじい光線であるが、ガルムはそれを避けてブラスターで反撃してくる。

 避けながらも射撃にも関わらず、その狙いは正確だ。的確に自分へ向けて飛んでくる光弾に、ターニャは防御術式で防ぎつつ、魔法による射撃戦を展開した。

 

 

 

「前方の味方艦隊、スパルタン・デラックスマンと三体のアンノウンの交戦に巻き込まれ、更に被害甚大!」

 

「インパルス、前衛の艦隊を撃沈しながら当艦に接近!」

 

「何をしている!? 元帥閣下が見ておられるのだぞ!? 前線に回しているスパルタンⅤを呼び戻せ!! デラックスマンを援護させろ!」

 

 大和級戦艦の艦橋にて、次々と来る損害報告とマリのソードインパルスの接近に恐怖した艦長は、前線のスパルタンⅤを呼び戻せとヒステリックに叫ぶ。航空母艦や強襲揚陸艦などの艦載機が対処しているが、マリのソードインパルスが放つビームブーメランや振るわれる対艦刀に切り裂かれるばかりだ。

 

『我が分遣艦隊の損害が甚大! て、撤退の許可を!』

 

「だ、黙れ! 誇り高い海軍軍人なら、最後まで戦え!!」

 

 撤退の許可を求める通信も聞こえて来るが、今の大和級戦艦の艦長は恐慌状態であり、撤退を求める味方に、自分の艦の盾になれと言わんばかりの命令を下す。そればかりか、艦長は迫るソードインパルスに向け、主砲を放つようにまで言う。射線上に味方の艦が居るにも関わらずに。

 

「主砲発射! 目標、十二時方向から接近中のインパルス!」

 

「駄目です! 射線上にまだ僚艦が!」

 

「黙れ! 従わんと、お前から殺すぞ!!」

 

「うっ…!? 主砲、直ちに照準!」

 

 そんな命令に従えないと抗議する砲術長であるが、艦長は強制的に従わせるために拳銃を取り出し、安全装置を外して銃口を向ける。その脅しが本気であると悟る砲術長は、主砲の砲手たちに照準命令を出す。艦橋内の通信士は、味方の誤射を防ぐため、射線上に居る僚艦への退避を伝達する。

 

「僚艦に、射線上から退避するように伝達します! こちら大和、これより主砲を発射する! 射線上に居る僚艦は退避せよ! 繰り返す、直ちに退避せよ!」

 

「んなこと言ってないで、さっさっと撃て! 奴はすぐそこまで迫ってるんだぞ!?」

 

「まだ照準が定まっておりません! 照準が定まるまでは!」

 

「クソっ、どいつもこいつも! テメェらそれでも日本最強の戦艦の乗組員か!? 俺が撃てと言ったら撃つんだ! 速くしろ!!」

 

 誤射を防ごうとする乗組員たちを他所に、我が身可愛さを優先する艦長は、拳銃片手にヒステリックに発射命令を叫ぶ。これに艦橋内に居る者たちはいつ撃たれるか分からないので、恐怖して命令に従った。

 

「主砲、直ちに斉射!」

 

『照準が定まっておらず、まだ前方にはカリーニングラードが居ります!』

 

「もう避けようにない距離まで迫っている! 前方のカリーニングラードはもう助からん! 全砲門、直ちに斉射!」

 

 脅かされる砲術長の命令に、大和の主砲に居る砲手たちは、標的であるマリのソードインパルスが味方のスペングラー級強襲揚陸艦に取り付いているので、砲撃できないと拒否する。これに艦橋から様子を見ている砲術長は、もう助からないと言って無理に撃たせた。

 標的に側面を向けた大和級戦艦の三つの主砲は、砲術長の命令通りに艦砲射撃を行い、ソードインパルスに取り付かれたスペングラー級諸とも撃破しようとした。この主砲の威力は威力は凄まじく、一撃で全長280メートルはある強襲揚陸艦を沈めた。

 

「どうだ! 46センチ砲の威力は!? いくらフェイズシフトでも、三連装砲塔三つの砲撃を受ければ、一溜りもあるまい!」

 

 味方諸ともやったのにも関わらず、艦長は完全に倒した物と歓喜していた。無論、喜んでいるのは艦長一人だけであり、後のブリッジクルーらは冷めた目や白い目で彼を見ていた。そんな艦長に、レーダー手は忍び寄る死を報告する。

 

「も、目標健在! カリーニングラードの残骸を足場に、こちらに向かってきます!!」

 

「な、何ィィィッ!?」

 

 三つの46センチ三連装砲の砲撃で轟沈した強襲揚陸艦の残骸の中から、マリのソードインパルスが現れ、大和級戦艦にスラスターを吹かせて接近していた。機動盾は紛失しており、フェイズシフト装甲と合わせて砲撃から機体を守ったようだ。

 対艦刀を振り下ろさんと迫るソードインパルスに、護衛機のビームや搭載火器の副砲と機関砲などで迎撃を試みるも、それを掻い潜りながら彼女のガンダムは大和級戦艦に迫って来る。

 

「ひっ!? い、嫌ダァァァッ!!」

 

 艦橋に向けて対艦刀を振り下ろそうと迫るソードインパルスに恐怖した艦長は、最後に脱出するという艦長の掟を忘れ、我先に艦橋から絶叫しながら逃げ出そうとする。それで間に合うはずもなく、艦長は貫いてきた対艦刀の刃先に突き刺されて消滅した。当然、艦橋内に居た者たちは全員即死である。

 艦橋を破壊されて指揮機能を失った大和級戦艦は、混乱して搭載火器を乱射していた。そんな無様な姿を見せる水上艦隊旗艦の戦艦に、大型空母「ファラガット」でエイムズ・バストーレは、思わぬ形で羽翼元帥の失点の機会が来たことに驚いていた。

 

「まさかこんな形で、奴の失点が現れるとは…! 他にもイレギュラーな事態が発生している。奴が苛立つ様が目に浮かぶわ」

 

 他にも羽翼元帥が苛立つ事態も起こっていることを、エイムズは知っていた。それはターニャにダリュン、ガルムの存在であり、彼ご自慢のスパルタンⅤであるデラックスマンと交戦中だ。乱戦中と言った方が正しいだろう。

 地上からスパルタン・ソルジャーが、スパルタンⅤ数名を率いて救援に向かっているようだが、乱戦に巻き込まれる水上艦隊の被害は、マリのソードインパルスの損害を含め、責任を問われるレベルである。

 

「艦隊指揮を引き継いだ第2分艦隊旗艦に、後退して再編するように要請しろ。当艦隊もだ。空の元帥殿は、許さないだろうが…」

 

 水上艦隊は混乱状態なので、エイムズは水上艦隊指揮を引き継いだ艦に、後退して再編するように要請しろと通信士に命じた。

 

 

 

「あの航空魔導士等、ヴァフリズ殿に近付かせるわけにはいかん!」

 

 向かってくるUCA軍を蹴散らしたジダン・ガルファールは、自身が搭乗するバタララン・ドゥのカメラに、上空を飛び、数名のミニョルアーマーを纏うスパルタンⅤを率いてデラックスマンの救援に向かうスパルタン・ソルジャーの一団を発見し、ダリュンに負担を掛けさせぬため、配下のゲド・バッカと共に攻撃する。

 

「下方から、多数のアンノウンによる攻撃!」

 

「見たことも無い機動兵器だ。それに鬱陶しいな。一掃してから向かう!」

 

 攻撃を受けたソルジャーたちは、ジダンのバタラランとゲドが居る地上へと降下し、手持ちの火器で攻撃を始める。向かってくるスパルタンⅤ等を迎え撃つジダンらであるが、ミニョルアーマーの強力なシールドの前に攻撃を弾かれ、ゲドは一方的に引き裂かれて破壊される。

 

「な、何という威力だ!? ゲド・バッカを紙くずのように引き裂いておる! パワー型の能力者か!」

 

 配下のゲドが次々と引き裂かれて撃破され鵜光景を見て、ジダンはスパルタンⅤ等を自分の知るパワー型の能力者と認識する。KMFを容易く引き裂けるのは、ISの技術を盗用し、戦闘力を更に向上させたミニョルアーマーのパワーアシストの恩恵であるが、今のジダンは知らない。

 それに標的であるスパルタンⅤが人が少し一回り大きいだけなので、バタラランとゲドの攻撃は当て辛く、盗用されているIS譲りの機動力で躱され、一方的にこちらがやられるだけだ。

 

『うわぁぁぁっ!? た、隊長ォーッ!!』

 

「クソっ、ならば電磁バリアで!」

 

 部下たちが一方的に虐殺されるのが我慢できなくなったジダンは、バタラランの両腕に搭載された電磁バリアを展開した。

 

「っ!? 散会!」

 

 だが、ソルジャーに気付かれて散会されてしまい、戦果は一人だけとなる。

 

「一体だけか! ならば、熱線砲で!」

 

 一人だけでも倒すべく、ジダンはバタラランの尻尾先に搭載されたキュラ・ラ熱線砲を発射し、電磁バリアで拘束されたその一人のスパルタンⅤを跡形も無く消し飛ばした。IS譲りなシールドも、長い熱線の掃射には耐えられないようだ。

 

「出来る限り、多くの者を!」

 

 熱線砲が有効な武器であると分かったジダンは、胴体左右六基の大型スラッシュハーケンでソルジャーたちを拘束しようとしたが、先の熱線砲を脅威と見なしたソルジャーを本気にさせてしまったのか、射出されたスラッシュハーケンは次々と破壊され、迎撃不能な懐まで接近されてしまった。残りのゲドは全て撃破されており、既にジダンの隊は壊滅していた。

 当然、機体の装甲は引き千切られ、搭乗しているジダンが居るコクピットまでスパルタンⅤの魔の手が差し迫って来る。もはや自分の死は避けられないと判断したジダンは、自爆装置を起動させ、通信でダリュンにソルジャーたちの接近を知らせる。

 

「ヴァフリズ殿! 新手が、新手がそちらに迫っておりますぞ!!」

 

 ソルジャーらの接近をダリュンに知らせることに成功したジダンは、装甲を引き裂きながら迫って来たスパルタンⅤに頭を掴まれ、そのまま身体から力づくで引き抜かれて絶命した。それと同時にか、バタラランは自爆し、ジダンは死際に自分の頭を引き抜いた一人のスパルタンを巻き添えにし、仕えるダリュンの脅威を少しでも取り除くことに成功した。

 

「戦力を減らしたか。だが、問題はない。このままデラックスマンの救援に向かう。後に続け!」

 

 ジダン等の命を懸けた足止めにより、二名のミニョルアーマーを纏うスパルタンⅤを失ったソルジャーであったが、問題無いと判断してデラックスマンの救援に向かった。

 

 

 

 ゲイムランドの戦いが混迷して激しくなる中、新百合帝国軍はこれ以上の戦闘はいたずらに戦力を消耗させる物と判断し、この世界からの撤退を決定した。

 自分らを狙って乱入して来たアンオスゴタ王子率いるテノジア軍が連邦軍に攻撃してくれたおかげか、圧倒的戦力を持つ連邦軍の注意がそちらの方へ向いたので、撤退するなら今がチャンスと捉えたのだ。未だテノジア軍は新百合帝国にも攻撃を続けているが、UCA軍や連邦軍からの追撃は殆どないので、損害は出るだろうが成功の確率は高い。

 そう判断した方面軍司令部は、ゲイムランドで戦う全部隊に撤退命令を出したのだ。無論、持ち運べぬ重装備の類の破壊を命じて。

 

『こちらゲイムランド方面軍司令部より戦闘中並び待機中の全部隊へ。当戦線の維持は既に不可能な物と判断、即時撤退を開始せよ。装備類は出来るだけ持ち帰るように。持ち運べぬと判断した装備類は、出来るだけ破壊するように。重要な物は完全に破壊から、その上で指定する撤退ポイントに集結せよ。尚、これは録音であり、司令部は既に撤収している。繰り返す…』

 

 この命令を受けたゲイムランドで戦闘中並び待機中の全部隊は、即座に撤退行動を取った。通信機からの命令は録音であり、撤退を決めた瞬間から司令部は全ての機材を持ち運び、本国へと帰還していた。

 

「ゲイムランド軍のアンノウン、戦闘を停止して撤退を開始!」

 

「例のアンノウン共が撤退しているのか? 何処へ退く気だ?」

 

 上陸地点で待機中のスペングラー級強襲揚陸艦「プリビャチ」より、レーダー手からの報告で新百合帝国軍の撤退を知ったグレゴリー・マリャルは、何処へ撤退するのかと疑問の言葉を投げた。

 

「新たな反応! ISAヴェクタ軍の艦隊、ゲイムランド上空に出現!」

 

「ISAは、この作戦に参加しない方針じゃないのか!?」

 

「今さらの増援か? だが、どうして?」

 

 それと同時にISAのヴェクタ軍の巡洋艦の艦隊がこの戦場に何故か駆け付けて来た。作戦に参加しないと表明していたISA軍の出現に、プリビャチの艦橋内はざわつき、グレゴリーは更に疑問を抱いた。ISAのヴェクタ軍の艦隊が来た理由は、アンダース・ベノワ率いるファントム・タロン社を、羽翼元帥の暴挙から守るための物であるが、グレゴリーは知る由もない。

 

「ようやく撤退か…! また生き残ってしまったな」

 

 ゴルドスで引き続き防衛戦を継続していたテズ・マッキャンは、撤退命令を聞いてまたも生き残ってしまったと後悔を漏らす。この命令が出されるまで、第13軍団はかなり損耗しており、戦闘可能な部隊は一個旅団程度まで減っていた。所属師団の増援を受けたゾフィー・レオンハルトが属する陸軍装甲旅団もまた、撤退命令を受けて他の部隊と共に撤退している。

 

「ねぇねぇ! あいつ等、なんか撤退してるけど!?」

 

「今はこいつ等に集中しろ!」

 

「ゲイリー!」

 

 新百合帝国軍が撤退しているのを見て、スパルタン・フラウロスがそれをスパルタン・カイザに知らせたが、今の自分らは多数のゲイリーたちの攻撃を受けているので、それどころではないと注意される。

 

「撤退命令ですって」

 

「けっ、ようやくか!」

 

 スパルタン・シドや複数のカリスト、キックとパンチの地獄兄弟、ニュクスにPMCであるシャドウ・カンパニー社と乱戦状態にあった二コラとキアラにも、司令部からの撤退命令が来た。これを待っていた二人は、防衛目標であったこの世界の物を破壊し、次元転移装置がある方向へと撤退する。無論、随伴する歩兵等もそれに続いた。

 

「クソっ、あいつ等!!」

 

「奪取目標をぶっ壊したのか!?」

 

 目標を破壊されたシドは激怒し、ニュクスは自分らが守っていた物をあっさりと破壊したことに驚愕する。

 

「どうする兄貴?」

 

「そりゃあ、帰るしかないだろうな」

 

 やる気が失せたパンチに問われたキックも、やる気が失せているので、母艦へと帰投した。

 

『おい、あいつら目標をぶっ壊したぞ! どうするんだ!?』

 

「なんだって!? おいおい失敗かよ!? どうするんで、ボス?」

 

「ちっ、やってくれたな。もうこの世界に居る意味は無いな。撤収する」

 

 ニュクスから目標を破壊された報告を受け、安全な場所から指揮を執っていたスミスとシャドウ・カンパニー社の指揮官らは、この世界に居る意味が無いと判断して撤収を始めた。

 

「イヴ人の賊軍、撤退を開始しました!」

 

「何ッ!? ならば追撃せよ!!」

 

「王子、追撃に回す戦力がありません!」

 

「何だと!? 我らは大軍を持ってきたのだぞ! どうして足りぬという!?」

 

「敵の数が多過ぎるのです!」

 

 かつてはゲイムランドの議事堂であった本部にて、撤退を開始したと知り、アンオスゴタ王子は追撃を命じるも、配下に追撃する戦力が足りないと言われて激怒した。確かに王子は大軍を引き連れてこの世界に来たが、ゲイムランドに攻め込んだ連邦軍の数が多過ぎ、挙句に無差別攻撃を行ったため、連邦軍の注意をこちらに引いてしまったのだ。

 

「我らも撤退せねば、包囲されて殲滅されてしまいます! 王子、ここは彼奴等と同じく撤退を!」

 

「ぬぅ…! この俺に、他の兄妹共の笑いものになれというのか!?」

 

「しかし、ここでお命を落とせば、継承権は得られず! ここは恥を忍んで…!」

 

「クソっ! 全軍撤退だ! 主君の俺の命、臣下の名誉にかけて守り切れ!」

 

 自分のミスにも関わらず、プライドが高いアンオスゴタは撤退を拒むが、参謀に説得されて撤退を決断した。

 

 

 

「あれは、撤退信号!? ようやく来たか!」

 

 撤退を通信が出来ない隊にも伝えるのか、空高く信号弾を撃ち上げてそれを伝えていた。

 ダリュンやガルム、デラックスマンと乱戦中のターニャは、自軍の信号弾が連続で上がっているのを見て、ようやく撤退すると知って安堵する。だが、これほどの強者に狙われているので、撤退は至難の業である。そればかりか、スパルタン・ソルジャーらの増援も現れる。

 

「奴らまで来たのか!」

 

 ジダンの命を懸けた知らせでソルジャーらの出現を知るダリュンは、来る方向に視線を向けながら、三名と交戦を続ける。

 

『撤退命令が出てるぞ! そんな奴は置いておいて…』

 

「そんな物はどうでも良い! 奴を殺すまで、俺は帰らん!」

 

 ニュクスからの通信で撤収の知らせを受けるガルムであるが、己の戦いを優先し、この世界で果てるつもりで戦い続ける。

 

「ヴァフリズ殿に近付けるわけには…!」

 

 新たに迫るソルジャーらに、周辺の敵をダリュン等に近付けないでいたガイエ・ハプスブルグは、魔法で強力なX線レーザーを発射する。発射されたX線レーザーは急行していたソルジャーらに命中し、二名を倒すことに成功した。だが、ソルジャーの方は健在であり、直ぐに接近され、ガイエは腹を抉られて殺害されてしまう。

 

「ハプスブルグを倒すとは! あいつと同等か!?」

 

「これよりデラックスマンの支援を開始する。ビショップ、ズールー、ガイアセイバーは私と共に三名と交戦しろ。MS並びPT隊は、インパルスに集中砲火せよ!」

 

 ガイエをあっさりと殺したソルジャーに、ダリュンはデラックスマンの攻撃を受け流してから槍の矛先を向ける。そんなソルジャーは、ダリュンやガルム、ターニャに他のスパルタンⅤ等を率いて交戦を始める。同時にソルジャーはマリのソードインパルスに対して攻撃を命じており、指示を受けたMS隊とPTは攻撃を行う。

 

「くっ、もうバッテリーが!」

 

 大和級戦艦の艦橋を破壊して指揮能力を奪ったマリのソードインパルスであるが、無茶な連続戦闘でバッテリーは限界であり、攻撃を避け切れず、統制された集中砲火を受け、インパルスは破壊された。破壊された際、マリは機体を分離してコアスプレンダーで脱出し、追撃を受けながら戦場から脱出しようとする。

 

「クソっ、余計なのが増えた!」

 

 インパルスが撃破された頃、ターニャは駆け付けた二名のスパルタンⅤの攻撃を受けていた。ルシファーらとは違い、ソルジャー配下のスパルタンⅤは連携して攻撃してくる。がっ、自分を標的とするガルムの乱入により、二名のスパルタンⅤは直ぐに吹き飛ばされた。

 

「死ねぃ! ターニャ・デグレチャフ!!」

 

「こいつ、まだ生きているのか!?」

 

「ヒィヤァァァッ! 死ねェェェッ!!」

 

 二名の邪魔な敵を排除したガルムの猛攻に、ターニャは生きていることに驚きながら応戦するが、またしても自分を狙う敵が攻撃してくる。それはデラックスマンであり、薬物投与で更に戦闘力を向上させ、凄まじい速度で殴り掛かって来る。

 

「邪魔だァ!」

 

「ブェアッ!?」

 

 標的であるターニャとの戦いに邪魔をされたガルムは激怒し、デラックスマンのヘルメットに拳による強烈な一撃を見舞った。これを受けたデラックスマンは吹き飛び、我先にと乗員たちは無秩序に脱出している大和級戦艦に激突して大爆発を起こす。

 

「奴に討たせるわけには! クソっ!!」

 

 ガルムにターニャを討たせるわけには行かないと判断したダリュンは、ソルジャーらの包囲網を突破しようとするが、統制の取れた攻撃を突破できず、動きを封じられていた。

 

「俺を倒すには、全力を出すしか無いぞ! さぁ、お前の全力を俺に撃ってこい!!」

 

「そうか。ならば、応えてやる!」

 

 ターニャの全力を出させるべく、ガルムは挑発してくる。これにターニャは応じるべく、エレ二ウム九五式を全開にしてガルムに攻撃を仕掛ける。

 

「これが私の全力だ! 受け取れェェェッ!!」

 

 両手を翳し、エレ二ウム九五式による全力を放てば、ガルムはそれを避けることなく受け止めた。

 

「ウォォォッ!? これが、これがお前の全力か…!」

 

 全力のエレ二ウム九五式による魔弾を受けたガルムは、凄まじい吐血を吐いていた。それでもまだ動いており、思わぬ反撃を行う。凄まじい魔力による攻撃であり、エレ二ウム九五式ほどではない物の、ターニャは避け切れずに受けてしまう。

 

「フン、ダメージを、受け過ぎたか…!」

 

 これを術式で防御したターニャに、その術式を貫けない程に自分が弱っているとガルムは知る。そんな弱り果てたガルムに、ターニャは容赦なくとどめの一撃を行った。

 

「フハハハッ、良いぞ…! これで悔いはない…! アハハッ、アーッハッハッハァッ!!」

 

 望んでいた自分を楽しませてくれる相手に倒されたガルムは、破損したマスク越しに満足したような目を覗かせながら、満足して高笑いしていた。その後、マッドアイは大爆発を起こして木端微塵に吹き飛んだ。これほど証拠を残さないように爆発するのは、人造魔導士となるために肉体改造手術を行う際、機密保持の爆弾が仕込まれていたようだ。

 強力かつ戦闘狂であったガルム・マッドアイを倒したターニャは、その場から離脱して撤退する友軍に合流しようとしたが、最大の脅威であるダリュン・ヴァフリズが前に立ちはだかり、数百名のスパルタンⅤの増援を得たソルジャー等が包囲してくる。

 

「こいつだけでなく、スパルタンに包囲されるとは…!」

 

 前には一騎当千の最強戦士であるダリュン、IS技術の盗用で飛行可能となったスパルタンⅤ多数が包囲しているのを見て、ターニャは突破して逃げるのは至難の業であると認識し、エレ二ウム九五式を全開にして突破を試みる。

 

「そこの怪物、一時休戦を行かないか?」

 

「どうした? 投降するつもりか?」

 

「違う。共闘し、この包囲を突破して味方の陣地まで辿り着くのだ」

 

 ダリュンに一時休戦を申し込まれたターニャは、周囲を包囲しているスパルタンⅤに投降するのかと問えば、彼は共闘してこの包囲網を突破しようと提案してくる。包囲してくるスパルタンⅤは増えており、ミニョルアーマーを与えられていないスパルタンⅤ等が搭乗するエルアインス、ランドグリーズ、量産型アシュセイバー、キャニス、ケルべリオンなども集まって来た。ここで決断しなければ、敵は増え続け、やがて包囲殲滅されるのは確実である。

 

「悩んでいる暇は無いようだな…!」

 

「そうだ! こんなところで貴様の首を取ったところで、奴らに磨り潰されるのがオチだ! 一気に突破するぞ! 続け!!」

 

 一定の数が揃えば、スパルタンⅤ等は一気に自分たちを殺しに掛かるので、ターニャは悩むよりも前にダリュンの提案に乗り、共に生き延びるために共闘し、包囲網に対して一点突破を図った。

 

「敵が来るぞ! 撃て!」

 

 ソルジャーに代わって数千人のスパルタンⅤの指揮を執るスパルタン・コマンダーは、突破を図って逃亡を試みるターニャとダリュンに攻撃を命じた。それに応じ、ミニョルアーマーを纏う者と適性が無くて機動兵器を駆る者たちが一斉に攻撃を仕掛けて来る。

 波の如く押し寄せる敵に二人は生き残るために果敢に挑み、押し寄せる敵を打ち倒しながら味方の陣地を目指した。




ここでゲイムランドでの戦闘は終わりです。

マリVSダリュンもやる予定でしたが、尺の都合とやる必要があるのかという疑問で、没になりました。

次回はエピローグです。


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戦果報告

神谷主水さん
G-20さん
リオンテイルさん
Rararaさん
宵月颯さん
ただのおじさんさん
Kinonoさん
M Yさん
スノーマンさん
エイゼさん
月見きつねうどんさん
ハナバーナさん
(OwO)さん
オリーブドラブさん

ご応募いただき、ありがとうございました。


 ゲイムランドの戦いは、一応ながら連邦軍の勝利に幕を下ろした。

 羽翼正義元帥自らが主導したスパルタンⅤの成功を示すための戦闘であり、見事に新世代のスパルタンの戦闘力を誇示することに成功したが、その前のゲイムランド軍との戦いにおけるUCA軍の犠牲も大きかった。

 思わぬ新百合帝国軍の抵抗に増援、それにテノジア軍の乱入もあり、羽翼元帥隷下の連邦軍もただならぬ被害を受け、この戦いで投入された数十体ものスパルタンⅤが犠牲となる。

 

 この世界において異常な戦闘力を持つターニャ・フォン・デグレチャフとダリュン・ヴァフリズの両名を包囲するために差し向けた多数のスパルタンⅤも、圧倒的な戦闘力の前に倒され、包囲網からの突破を許してしまう。

 その後、両名は無事に自分の陣営の元へ帰ることに成功したようだ。

 

 犠牲者の数は以下の通り。

 

 スパルタンⅤの犠牲者

 バッシュ1 本名不明の元海兵隊中尉。複数の戦争犯罪を犯した罪とスパルタンⅤとなった際に軍歴抹消。

 バッシュ2 本名:バッシュ・クリルマン元海軍大尉。

 ギルティ 本名不明。複数の戦争犯罪を犯した罪によりスパルタンⅤとなった際、軍歴抹消。

 ゴウダ 本名:剛田厳十郎陸軍大佐。

 ルシファー 本名不明。元半グレのリーダー。それ以外経歴不明。

 アバトン 本名不明。上記の集団の一人。

 ブライト 本名不明。元VRゲームのトップランカー。

 バット 本名不明。元盗賊団。

 サンダール 本名不明以前に身元不明。

 その他多数のスパルタンⅤ。

 

 正規軍の犠牲者

 バーツ・アルフォンソ海軍中将。連邦海軍第13強襲艦隊司令官。

 アルベルト・オイカワ海軍中尉。上記の旗艦直衛MS小隊の隊長。

 オルセン・メリルゴラント海軍少尉。水上艦隊航空機隊所属。

 ギーグ・マッキャラン海軍准将。水上艦隊第8分遣艦隊司令官。

 その他連邦軍やUCA軍も含めた多数の戦死者。

 

 非公式の戦死者

 ザック・パルム。ギガントマキア傭兵団の団長。傭兵団全員死亡を確認。

 

 これほどの犠牲者を出したが、軍事会議で羽翼元帥はスパルタンⅤの成果を主張し、犠牲者やUCA軍に対して行った不当な行為を一切言わなかった。

 当然、会議に参加していたハト派から糾弾され、特にUCA軍の将官らは、友軍を不当に扱った羽翼元帥を軍法会議に掛けるように要請するほどの紛糾だ。

 

「馬鹿でクズな左翼が大量に死んだくらいで大袈裟な。むしろそんな役立たず共を、有効に使ったこの私を褒めてもらいたい物だ」

 

「貴様! なんてことを言うんだ!?」

 

「この悪魔め!」

 

 当然、自分の思想でリベラルを異常なまでに敵視する羽翼元帥は、UCA軍将兵の戦死者等に対して侮辱的な発言を行い、会議場は大荒れとなる。

 会議は荒れた状態でもまだ続いているが、戦死せず、生き延びた者たちのその後の動向を語ろう。

 

 UCA陸軍水上第4分遣艦隊司令官のグレゴリー・マリャル陸軍准将は、艦隊再編の為、別の惑星の海へ転属となる。当面、UCA陸軍の水上艦隊の出番は無いだろう。だが、有事に備えて日々訓練を行っている。

 

 ゲイムランド侵攻戦で投入された氷山空母「ハバクック」は、戦闘の損傷が原因で自沈処分となる。

 元々使い道が無かったため、損傷を受けようが受けまいが、処分は免れないだろう。

 

 羽翼正義元帥の直属部隊所属であったエマ・ホワイト大尉は、本来の所属であるハト派の将官の元へ戻り、羽翼元帥の数々の友軍に対する不当な扱いとスパルタンⅤの危うさを報告した。それにマリ・ヴァセレートのソードインパルスの異常な活躍ぶりも報告したことで、ハト派の者たちは羽翼元帥が提出した損害報告が、虚偽であることを証明する。

 

 スパルタン・フラウロスは、ゲイムランドの戦いの後に中尉に昇進し、独立機動戦隊「ガイアセイバーズ」のスパルタンⅤのみで編成される部隊であるスパルタン・セイバーに編入される。

 

 ロボット戦艦を操り、連邦軍に被害を与えたガガイラーは、スパルタン・シドに投降した後、ガイアセイバーズに編入された。

 

 舘松直人と美穂のコンビはそのまま原隊所属となり、現在は哨戒勤務に勤しんでいる。

 

 連邦海軍の第7分遣艦隊司令官であるエイムズ・バストーレ海軍少将は、現在進行中の羽翼元帥が出席する会議に出ており、発言力低下を狙うために自身が戦場で見たことを嘘偽りも無く報告した。

 

 スパルタン・レイニーこと本名レイニー・ラグナスは、乗機から脱出した際にエッジ・オコーネル陸軍少尉に救助されたが、未だ減刑がなされていないため、スパルタンⅤへと戻った。

 その後、専用ミニョルアーマー不適合者の為、急遽再生産されたスパルタンⅢ用のアーマーを与えられ、ガイアセイバーズのベータ・セイバーに転属となる。

 

 上記のスパルタン・レイニーを救出したエッジ・オコーネル臨時大尉であるが、ゲイムランドの戦いが終わった後、元の少尉に戻され、所属が第4分遣艦隊な為、そちらに派遣された。

 

 スパルタン・バレットこと本名ゲンヤ・ヒムロ元少佐は、戦闘力を評価されて専用ミニョルアーマーではないが、スパルタンⅢ用のアーマーを与えられ、正式なスパルタンとなった。

 それ以降、レイニーと同じくベータ・セイバーの所属となる。

 

 スパルタン・クロウこと本名クロウ・ホライゾンは、ガルム・マッドアイの強打で瀕死状態となったが、専用ミニョルアーマーに仕込んでいたナノマシンのおかげで、短期間で現場に復帰できた。

 通常のベータ所属であるレイニーやバレットとは違い、クロウはスパルタン・セイバーに編入された。

 

 テノジア軍の乱入にも関わらず、生き延びたスパルタン・カイザ(本名マサト・クサカ)、デルタ等もガイアセイバーズとなり、スパルタン・セイバーに編入される。

 

 艦艇に叩き付けられ、その爆発に巻き込まれて死亡したかに見えたスパルタン・デラックスマンであったが、専用のミニョルアーマーのおかげで生きていた。だが、完全に完治するには長い期間を要する。

 

 スパルタン・シドと残ったカリスト数体は、ボスであるヴィンデル・マウザーの元へ戻ったため、軍では消息不明扱いとされた。

 

 スパルタンⅤの実験台にされたゲイムランドは、完全に地図より消滅していた。

 国家元首そのものは乱入して来たテノジア軍に殺害され、他の国家運営に欠かせない人物や行政を運営する人材も一人残らず皆殺しにされたようだった。

 生き延びたアリス・ビューティーを初めとする少数の者たちは、要請も無しに救援にやって来たISAヴェクタ軍の艦隊が引き取り、惑星ヴェクタの復興の作業員として徴収された。

 

 ゲイムランド軍の犠牲者一覧。

 ダーメン神父 本名不明。階級は大佐であり、自称神父。

 アドルフ・ラッチマン PMCレイブンの代表。元自由惑星同盟軍の将校。

 エリザベス 本名不明、無職。

 ズラーデ・ヤンネン 無職。

 神楽坂ジュンヤ 無職。

 ユイ・カナタ 無職。

 ソウマ・ヌマブチ 無職。

 その他無数の犠牲者。

 

 彼らの死体の中には損壊が激しい物が多く、特にスパルタンⅤが面白半分で殺害した者の判別は困難を極めた。それらの死体は身元を判明させた後に記憶した後、ゴミのように焼却処分された。

 PMCユグドラシル社の代表であるハヅキ・アルデウス、元ファントム・タロン社所属のカルティエ・サイを初めとする者たちは、見事に連邦軍の包囲を突破し、UCA軍に投降した。

 アンダース・ベノワを初めとするファントム・タロン社は、連邦軍の追撃を振り切り、ISAヴェクタ軍に投降したようだ。そのISAを率いていたのは、かつてファントム・タロン社が救出したアレックス・グレイ将官であった。

 

「お前さんが計画したスパルタンⅤが凄い事は分かった。だがのぅ、敵を試すため、大勢の味方を殺し、そればかりか思想の違いと言うだけで、その存在を軽視するなどご法度じゃ」

 

 会議は終盤に差し掛かっていた。スパルタンⅤの戦闘力の高さを理解したピクシー元帥であったが、敵がそのスパルタンⅤを試せるかどうか確かめるため、友軍のUCA軍に多大な犠牲を強いた事を責め、思想の違いで軽視するなど以ての外と論する。

 

「お主、自分を国粋物の戦記小説の主人公と勘違いしておらんか? 世の中そう簡単に、自分の思い通りに事は運ばん物じゃ」

 

 同時に自分のことを戦記物の主人公だと思っているのかとピクシー元帥が問えば、羽翼元帥は何も答えず、振るえて睨み付けるだけで一言も発しなかった。ただし、その拳は怒りで強く握りしめた為に血が滲んでいた。

 

「その怒り用、やはり図星のようじゃな。いい加減大人にならんか。お主、軍人なんじゃろ? これを機に、その歪んだ考えを改めるべきじゃのう、お主は」

 

 自分を凄まじい殺気に満ちた瞳で睨み付けて来る羽翼元帥にも動じず、ピクシー元帥は軍人ならばそんな考えは捨てて大人になれと諭した。

 そんな羽翼の味方であるはずの三輪防人は、同等扱いされることを恐れて庇うことなく保身を図り、に黙っているだけであった。ようやく羽翼の危険性を理解したのだろう。挙句、会議に参加しなかったタカ派の将官らに、羽翼は危険だと言い触らす始末だ。

 その後、会議は解散となり、スパルタンⅤの有効性を証明することに成功した羽翼であったが、敵を増やしただけでなく、自分の発言力が低下を招いてしまった。これにより、指揮能力を疑われ、僻地への移動を命じられる。

 

「クソっ、俺のことを理解できん莫迦なクズ共め! 誰のおかげで勝ってきたと思っている!? 俺が居なければ、地球を取り戻せない無能共が!!」

 

 自室へ戻った羽翼正義は、糾弾された事を恥じるどころか、自分を糾弾して僻地に追いやろうとする上層部を無能と罵る始末だ。確かに彼の手腕で統合連邦は地球を取り戻せたが、彼以外にも優秀な人材はいるので、別に彼の戦果ではない。

 

 地球を連邦の手に取り戻させた羽翼正義は確かに優秀であるが、その思想は万人にも受け入れ難く、危険で独善的な物だ。戦うこと以外知らないらしく、自身が戦乱の元になったとしても、それに気付くことなく、敵を倒せば次なる敵を探し、己の為に戦い続ける事だろう。

 

 故に彼は、平和な時代では不要な人間と言える。当の本人は気付くどころか、思いもしていないようだ。もっとも例え知っていたとしても、認めるかどうか、彼の性格上、怪しい物だが。

 

 そんな大柄な男が感情のままに怒りに任せ、周囲の物に八つ当たりすれば、まるで爆弾でも爆発したかのような荒れた部屋と化す。

 感情の赴くままに暴れ回った羽翼正義は、乱れた服装を整いもせず、倒れた冷蔵庫から酒類を取り出し、瓶の蓋を開け、コップに注ぎもせずに直接飲んで自棄酒を始めた。

 

 

 

「クソっ、これで俺は笑い物だ! この失態、どうしてくれるか!?」

 

 ゲイムランドの戦闘に乱入し、戦場を搔き乱していたテノジア軍であったが、連邦軍やUCA軍の数が多過ぎ、それにアレックス・グレイ将官率いるISAヴェクタ艦隊の登場もあったため、新百合帝国軍共々撤退を余儀なくされた。

 これにテノジア軍の遠征軍を率いていたアンオスゴタ王子は激怒し、八つ当たりのように酒が入っていたコップを床に叩き付けた。これに側近や将軍らは、戦況を見極めず、ただ己の功績のみを優先するアンオスゴタの所為だと思っていたが、それを口にすれば、王子が机の上に置いている刀で首を刎ねられるかもしれないので、全員敢えて黙っていた。

 

「それにダリュンの奴はなんだ!? 悪魔の近くに居ながら、なぜ奴の首を討ち取らん!?」

 

「敵に包囲された状況で、敵を討ったところで、その首をどうやって主君の元へ持ち帰るというのです?」

 

「…ちっ! そのくらい分かっている! 俺はそれほど愚者ではない!!」

 

 次に標的であるターニャ・フォン・デグレチャフの近くに居ながら、その首を取らなかったことにアンオスゴタは激怒した。これは流石に側近も、あの状況で討ち取ったとしても、敵に包囲されては首を持ちかえれないと指摘する。

 その指摘にアンオスゴタは激怒し、思わず机の上に置いてある刀に手を伸ばし掛けたが、八つ当たりに進化を斬っては、自身が愚者であるという証拠になるので、抑えて怒鳴り散らした程度で済ませた。

 スミス配下の暗殺部隊と共に戦場に乱入したテノジア軍は、連邦軍とUCA軍を混乱させ、確かに新百合帝国軍に被害を与えることに成功した。

 

 新百合帝国軍の犠牲者一覧

 アレン・マクセム陸軍大尉 陸軍第13軍団所属。元惑星同盟軍パイロット。

 アラフェルト陸軍上等兵 陸軍第13軍団所属。徴収兵。連邦軍の攻勢で戦死したが、便宜上ここに記載。

 タテワキ・ゴウ AT小隊の隊長。傭兵。

 メルキュール(階級不明) 能力者部隊所属。

 メイ・リーファン空軍中尉 空軍野戦師団所属。

 ムラット・ンァ・クジヨ陸軍中尉 陸軍装甲旅団所属。

 イーリス・フォン・リフレイン空軍大尉 空軍野戦師団所属。

 グリンダ・フォン・ノートス少尉 能力者部隊所属。

 以下、数千人のイヴ人将兵の犠牲者。人間の将兵も含めると、数万単位の犠牲者となる。

 

 テノジア軍のアンオスゴタ遠征軍も多数の犠牲者を出していた。

 スミスの暗殺部隊と共に数十万の軍勢で乱入し、新百合帝国軍と連邦軍やUCA軍を混乱させたテノジア軍だが、圧倒的戦闘力を誇るターニャやスパルタンⅤ等の激しい抵抗に遭い、暗殺者や刺客を含め、数万もの将兵等が命を落とした。

 

 テノジア軍並び暗殺部隊の犠牲者一覧

 カズ・メックス大佐 暗殺部隊レッドベレー指揮官、通称カーネル。南斗無音拳の使い手。

 ユージ・ニシムラ少佐 上記のレッドベレー隊所属の将校。十名のナイフ投擲隊の指揮官。

 ジェイムズ・チャーチル モヒカン頭の傭兵。

 ジークフリード・シュナイダー スイス出身の傭兵。

 マフティ 元グルカ兵の傭兵。

 ガイエ・ハプスブルグ大魔導士 ダリュン・ヴァフリズ配下の魔導士。

 モハメド少尉 テノジア軍ゾイド部隊所属。

 ムハマド・サウダ隊長 テノジア軍魔導駱駝部隊の指揮官。

 グプール地方領主 遠征隊の将軍の一人であり、二振りの硬棒の使い。

 ジダン・ガルファール将軍 ダリュン・ヴァフリズの腹心。

 ガルム・マッドアイ特務大尉 人造航空魔導士の暗殺者。

 ハッカ&リロン 南斗飛燕拳の使い手。二人一組で使う流派の為、二人揃って記載。

 その他多数の死者。

 

 UCA軍や連邦軍と同様、新百合帝国軍の者たちも含め、刺客たちとテノジア軍の者たちのその後を語ろう。

 

 テノジア軍の最強戦士であるダリュン・ヴァフリズは、スパルタンⅤの包囲網から脱出するため、不本意ながら標的であるターニャ・フォン・デグレチャフと一時的に共闘し、見事に包囲網を突破して主君の元へ帰ることに成功した。

 

「申し訳ございません! このダリュン・ヴァフリズ、多数の部下を失った挙句、あの悪魔の首も取れず、主君の恥を晒しました! ここは、私の命でお詫びを…」

 

「止せ、ダリュン! お前が生きて戻って来るだけで、私にとってこれ程に嬉しい事はない!」

 

 自身が仕えるテノジアの王子の一人である幼い主君に対し、死んで詫びるというダリュンに、その主君は生きて戻るだけで満足だと言って全力で止めた。

 

「ですが、奴を討ち損じたのはこの私。死ぬ以外、どう詫びれば!?」

 

「生きていれば、次の機会がある。その時こそ、お前の出番だ!」

 

「ありがたき幸せ! 主君の顔に泥を塗ったこの無能めをお側に置いていただき、感謝いたす! 次こそは、あの幼子を必ずや討ち取る所存!」

 

 生きていれば、次の機会があるという幼き主君に論されたダリュンは、頭を垂れて感謝の意を表した。テノジア軍の最強戦士であるダリュンがこれほど忠誠を誓うとは、この幼き主君は大物であるか理解できる。単に子供故に守らねばならないという理由もあるようだが、あのダリュンが従っているので、その幼い王子は他の王位継承者たちから一目置かれている。

 ターニャが再び戦場で相見えるときには、ダリュンは全力で首を取りに行く事だろう。

 

 ショーマン・ジロックロは元の暗殺部隊に戻り、デモンペイン・ヤルダパオトの力で暗殺業に勤しんでいる。

 

「ターニャ・フォン・デグレチャフ…! ガルム・マッドアイの仇、取らせてもらうぞ!」

 

 ガルムが気紛れで拾ったニュクスは、自分を拾ってくれた恩人の仇を取るべく、ターニャを討つ事に決めた。ニュクスはガルムが満足して死ぬ瞬間を見ておらず、それを見ていない彼女は、ターニャを仇と決めたのだ。

 ダリュンに続き、ターニャを狙う者がまた一人増えた。

 

「こいつはすげぇ…! 俺たちの世界に無い技術がいっぱいだ!」

 

 ヒューリー・ウォーレストは、愛機のエレファンダーと共に故郷へ戻り、ジャンク屋と解体業に勤しんでいた。持ち帰った量産型F91を初めとする機体を解体して、自分の世界に無い技術に驚いていた。

 

 生き延びたテズ・マッキャン陸軍少佐は帰還後の基地にて、突如となく襲撃して来たジェノブレイカーとの戦闘に敗れ、戦死してしまった。

 

「やはり、あの星は死の前兆であったか…!」

 

 燃え盛る愛機のゴルドスのコクピット内にて、北斗七星の隣に光る星が、死の前兆である死兆星であったことを知り、満足したテズはその場で事切れた。

 

 ゾフィー・レオンハルト陸軍少尉は、帰還後に原隊である戦車連隊にそのまま属し、レオパルト2A7戦車五台編成の小隊の指揮官を継続している。

 

 楯京子も原隊へ復帰し、愛機のストライクルージュカスタムを駆って、新たな任務に勤しんでいる。

 

 アリシア・エーデルマン陸軍中尉は、ゲイムランドでの戦いで嫌気が差したのか、愛機シャドーフォックスと数名の賛同者らと共に新百合帝国軍を脱走した。その後、行方をくらませたのか、以降は消息不明である。

 

 マカ・イプス陸軍少尉は、これ以上激戦区に送られることを恐れてか、市民権を得て軍を退役した。その後、労働者として工場で勤務している。

 

 エルネスティーネ・シュバルゼッター陸軍少尉は、部下を置いて真っ先に自分だけ逃亡した為、罰として准尉に降格させられ、辺境に配置されている陸軍二級戦部隊に転属させられた。

 戦車兵科であるために戦車長でいられたが、エルネスティーネの戦車はレオパルト2A7戦車ではなく、旧式のレオパルト1A6戦車であった。

 

 そして、ターニャ・フォン・デグレチャフ空軍大佐は…。

 

 

 

「以上、ターニャ・フォン・デグレチャフ空軍大佐。貴官を正式に編成されるフェアリー戦闘団の指揮官に命じる」

 

 地獄のような戦場から生き延びたターニャであったが、本国帰還後に五日ほど休息した後、空軍司令部に呼び出され、正式に緊急即応部隊として編成されたフェアリー戦闘団の指揮官に任命された。

 

「ぜ、前線に戻された…!」

 

 自分の特務大隊を基幹とするフェアリー戦闘団の指揮官に任命されたターニャは、再び前線に戻されたことに絶望した。人員もかつて率いていた部下たちが所属し、あのアーデルトラウト・ブラウトクロイツも副官兼監視役として復帰して来た。そればかりでなく、新百合帝国軍の上層部はターニャを英雄として祭り上げ、多くの空軍将兵がフェアリー戦闘団に志願していた。

 

 こうして、ターニャは再び戦場へと引きずり戻される羽目となった。




えぇ、これにてゲイムランド編は終わりです。

せっかく生き延びたテズ・マッキャンが死んでしまいましたが、死兆星を見ちゃってるからね。ジェノブレイカーによって討たれました。
ごめんなさい、神谷主水さん。

最後にマスターチーフとアービターが、スパルタンⅤの集団と戦い、無双する予定でしたが、次回に持ち越しに。

羽翼正義に関してだが、こいつは国粋主義物の架空戦記の主人公から作者補正を抜いた物。

ぶっちゃけると、あの手の架空戦記SSって、作者の思想が丸出しじゃん?
主人公はその分身となり、完全無欠なヒーローの如く敵をバッタ、バッタと薙ぎ倒し、英雄として称えられ、やることなすこと全部正しい神の如き崇められる存在となる。
みんな主人公の意見に何の疑問を抱かずに賛同し、素晴らしい考えだと褒め称え、逆らう者には容赦なく敵と断定し、徹底的に叩き潰す。
これ、なんてプロパガンダ映画だよ。

そんな主人公から、作者補正を抜けばどうなるかと考えて思い付いたのが、羽翼正義という男です。
作者が補正してるから完全無欠になるわけで、それを抜けば、その主人公はISの篠ノ之束みたいに天災になっちまう。
まぁ、要するに謝ったら負けという不良見たいな思考をしてる奴です。羽翼正義は。

取り敢えず、今夜はここまでです。
マスターチーフ&アービターVSスパルタンⅤを執筆してきます。
そんで次回企画もお楽しみに。

それじゃあ皆さん、おやすみなさい(CV井上和彦風に)


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伝説VSスパルタンⅤ※加筆

マスターチーフ
HALOシリーズの主人公にして顔な人類の最終兵器なスパルタン。
第二世代のスパルタンとしては最強であり、衛星軌道上から落下してもピンピンしており、古代の超文明が残したクソキモイ寄生体を倒し、人類どころか宇宙を救った。
二回ほど寝ており、一回目は敵襲で叩き起こされ、二回目は起きて早々に敵の戦艦を沈めている。
実写ドラマ版では、制作の都合上で顔出しをしてしまったが、いつものチーフであった。
コルタナを探して軍を脱走した為、連邦軍上層部から怒りを買い、命を狙われ、エリート族の母星である惑星サンヘリオスに潜伏している。

アービター
強くて誇り高い武人な公式チートのサンヘイリ(エリート)族。本名ゼル・ヴァダム。
人類を最も追い詰めたコヴナント軍の将であり、敵であるはずのマスターチーフと共闘し、共に人類と宇宙を救った英雄と言う奇妙な経歴を持ち主。戦後は惑星サンヘリオスでリーダーをしている。
上層部は鬱陶しいと思っており、何度か刺客を送り込まれているが、アービターがチート過ぎる為か、何度も失敗している。

スパルタン・ドレッド
元戦災孤児の生体CPUで、外見は銀髪の少年。性格は初期ヒイロ。
乗機はデストロイガンダム。

スパルタン・フューリー
元戦災孤児の生体CPUのスパルタンⅤ。外見は金髪短髪の少年。性格は再調整スティング。
乗機はデストロイガンダム

スパルタン・リーパー
ドレッドやフューリーと同じく元戦災孤児の生体CPUのスパルタンⅤ。外見はやや童顔でブラウンの三つ編みの少女。
『専用ミニョルアーマー』
何処から入手したデータなのか、基礎汎用性の高いシャルロットのISラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡのデータを参考にしており、スパルタン・ミニョルアーマーにラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの装備を加えた感じになっている。
三名ともキャラ提供はスノーマンさん

オリジナルメカ

アービター専用ヒュッケバイン
サンヘリオスの剣のリーダーであるアービター専用のPTとして連邦から供与されたヒュッケバイン。
全身の外装はアービターの黄金のアーマー風味にされ、シールド発生装置も備わっている。件の問題を回避できる外見をしている。調整もアービター用に施されており、彼以外乗れない仕様。もう一人乗れるとすれば、マスターチーフくらい。
エンジンもオリジナルのブラックホールエンジンであり、これにアービターは抹殺を目的としているのではないかと疑っていた。その為、普段はエンジンを切った状態で格納庫に死蔵されている。ブラックホール・キャノンも、その過剰な威力ゆえに死蔵されてしまっている。一応、グラビトン・ランチャーは装備されている模様。
初の戦闘は惑星サンヘリオスの衛星軌道上であり、この戦闘で初めてヒュッケバインに乗ったアービターは、同盟軍艦隊のCCS級巡洋艦五隻を沈めている。


 ゲイムランドの戦いから数週間後、最強のスパルタンであるマスターチーフが、服従しないことに業を煮やした連邦軍上層部は、サンヘリオスの剣のリーダーであるアービター諸とも独立部隊のガイアセイバーズに、その抹殺を命じた。

 命じられたガイアセイバーズは、所有するステルス空母「エア・クリスマス」に多数のスパルタンⅤと機動兵器を搭載し、数隻の艦艇を随伴させ、両名が滞在する惑星サンヘリオスへと向かった。

 

 

 

「一体どこの勢力だ!? コヴナントの残党共か!」

 

「どうでも良い! 敵であるなら、迎撃隊を出撃させぃ!」

 

 ガイアセイバーズは惑星サンヘリオスに襲撃する際に国籍を隠して襲撃した為、惑星を守る防衛軍であるサンヘリオスの剣は、少しばかり混乱していたが、直ぐに迎撃部隊を出撃させる。

 統合連邦との友好の証として供与された量産型ヒュッケバインMk-Ⅱのサンヘリオス仕様が、編隊を組んでガイアセイバーズのステルス空母「エア・クリスマス」を迎え撃とうと多数のセラフ級戦闘機と共に飛び立つ。二個大隊規模の百機ほどのヒュッケバインが攻撃態勢を取る中、エア・クリスマスも搭載している機動兵器を展開する。

 

「なんだあの機体は? データに無いぞ!」

 

『油断するな! 心して掛かれ!』

 

『セラフ戦闘機隊、ミサイル攻撃!』

 

 エア・クリスマスが展開するエルアインスやランドグリーズ、量産型アシュセイバー、キャニス、ケルべリオンと言った連邦軍の正規部隊では使われない機体を見て、ヒュッケバインを駆るエリート達は警戒する。遠距離から出来るだけ敵を撃破するため、セラフ級戦闘機隊にミサイル攻撃をやらせた。

 コヴナント残党との内戦の教訓で、惑星サンヘリオスを守る防衛軍は、接収したコヴナントの技術を使って兵器工場を建て、そこで防衛用兵器を開発していた。

 連邦製の兵器も製造しており、セラフ級戦闘機が発射した大型ミサイルは、連邦軍が使用しているミサイルの一つである。かなりの威力を持っており、発射された数百発の内、数機の敵機を撃破することに成功したが、大部分は迎撃されてしまった。

 

「クソっ、なんて迎撃能力だ! 来るぞ! 各機、防衛陣形!」

 

 ミサイルを迎撃されたことで、守備隊のヒュッケバインとセラフは押し寄せるガイアセイバーズの機動兵器と交戦を開始する。

 

「新顔のスパルタン共なんかに、デカい顔をさせるかよ!」

 

 ベータ・セイバーとガンマ・セイバーの混成部隊のパイロットらは、新しくガイアセイバーズの戦力として導入されたスパルタンⅤを気に食わないらしく、悪態を付きながらサンヘリオスの守備隊と交戦していた。

 

「クソっ、顎割れ*1共め! シールドなんぞ付けやがって!」

 

 ランドグリーズに乗るパイロットはリニアカノンを敵機であるヒュッケバインに当てたが、サンヘリオスで生産されているヒュッケバインの量産タイプは、セラフと同様にシールドが搭載されており、シールドが搭載されていることを知って悪態を付く。

 そのシールドのおかげか、サンヘリオスの守備隊は襲撃して来たガイアセイバーズ相手に有利に戦いを進めていた。

 

「よし、奴らを追い払えるぞ!」

 

 内戦の影響による練度と防御力で攻め側のガイアセイバーズを押しているヒュッケバインを駆るサンヘイリ族の一人は、このまま行けば敵を撤退させられると思っていたが、エア・クリスマスが増援として送り込んできた巨大機動兵器で戦況を覆されてしまう。

 その巨大機動兵器とは、ガガイラーのロボット戦艦であった。ゲイムランドでの戦いよりも強化されており、主砲の大口径化のみならず、細菌ロボットを搭載したミサイルの発射口も増えていた。

 

「な、なんだ!? シールドが急に!?」

 

 ロボット戦艦が一度ミサイルを一斉に放てば、周囲に強化された細菌ロボットがばら撒かれ、シールドで守られているはずのサンヘリオス守備隊のPTと機動兵器のシールドがダウンした。前回のミニョルアーマーを纏うスパルタンⅤとの戦いを教訓に、シールドを破壊できるように細菌ロボットに改造したのだ。

 

『う、動けん! どうなっている!?』

 

「フハハハッ、驚いたかエリート共! このガガイラー様が改良したロボット細菌は、貴様らのシールドを食い破るのだ! そのまま一気に皆殺しにしてくれるわ!!」

 

 自身が改造した細菌ロボットを自慢するガガイラーは、自分のロボット戦艦とベータとガンマ隊、随伴するステルスフリゲートと共に、最近ロボットで混乱するサンヘリオス守備隊に襲い掛かり、防衛線に穴を空けた。

 

「敵防衛線、開きました!」

 

「地上部隊、降下! マスターチーフとアービターを見付け次第、直ちに排除せよ!」

 

 ガガイラーのロボット戦艦でサンヘリオス守備隊の防衛線に穴を空ければ、そこに地上部隊を載せた降下艇とミニョルアーマーを纏うスパルタンⅤが乗っているODST専用の降下ポッドを続々と送り込む。

 

「地上へ行かせるな! ここで抑えろ!!」

 

 開いた防衛線に続々と降下する敵地上部隊を止めようとする守備隊であるが、ガガイラーらの妨害に遭って一機も落とせず、地上への侵入を許してしまった。

 

「撃てーッ! 撃ち落とせ! 絶対に市街地に入れるな!!」

 

 続々と降りて来るガイアセイバーズの地上部隊を撃ち落とそうと、人類製の量産型ゲシュペンストMk-Ⅱとコヴナント製のレイスと言った混成守備軍の地上部隊は必死に迎撃を行う。PTのみならず、連邦軍から供与されたと思われるMSのストライクダガーや同盟軍から鹵獲したジンとジン・オーカーなども投入され、総力戦のような防衛線を展開した。

 そんな防衛線にガイアセイバーズは、降下艇から出したスパルタンⅤと二機のデストロイガンダムを前面に出し、圧倒的な力と火力で圧し潰さんとする。

 

「降下ポッドが途中で!?」

 

「クラスター爆弾か!?」

 

 ODST用降下ポッドが地面に落ちる途中で展開された事に、サンヘイリ達は驚きの声を上げる。そのポッドから出て来たのは、専用の第五世代ミニョルアーマーを纏うスパルタンⅤ等だ。盗用されたISの技術が使われているので、空を浮遊し、地上の守備軍に攻撃してくる。

 

「す、スパルタン!? 飛んでいるぞ!?」

 

「あのスパルタンのアーマー、新型か!?」

 

「攻撃を集中しろ!」

 

 飛びながら攻撃してくる新型アーマーを纏うスパルタンⅤ等に怯むことなく、サンヘイリ達はプラズマのカービン銃やライフルで攻撃を集中するが、IS譲りのシールドに弾かれ、スパルタンⅤ等が手に持っている火器で一掃される。

 次にバンシー軽戦闘機の編隊が襲い掛かるが、スパルタンⅤの一人で専用のミニョルアーマーを与えられたスパルタン・リーパーは、IS譲りなアーマーが持つチェーンガンを掃射し、そのバンシーの編隊を一掃した。

 

 

 

「…敵か」

 

 ガイアセイバーズの襲来を遅れて知ったスパルタンⅡであり、標的でもあるマスターチーフは、脱いでいたヘルメットを持ち上げ、それを被ってから付近の基地へと急いだ。

 

「居たぞ! マスターチーフだ!!」

 

「スパルタンか」

 

 降下艇のペリカンから降りて来たスパルタンⅢ用アーマーを纏うスパルタンⅤの集団は、チーフを見るなり手にしているMA5Dアサルトライフルを撃って来る。これにチーフは、護身用として持っていたM6Hピストルを抜き、安全装置を手慣れた手付きで解除して応戦する。

 

「接近して仕留めろ! 奴の武器はピストルだ!」

 

 相手がピストルのみと油断しているのか、スパルタンⅤの一団はチーフに向かって突っ込んでくる。これにシールドを温存するために遮蔽物に身を隠していたチーフは、先頭の一人に飛び掛かり、至近距離でピストルを乱発してシールを剥がし、弾切れになるまで撃ちこんで殺害した。

 殺した相手からライフルを奪い、即座に手近なスパルタンⅤの頭部に照準を向け、連発して二人目を射殺し、更に三人目にも照準を向け、素早く撃ち込んで射殺する。恐ろしい速さだ。これには強化人間や生体CPU、パーフェクトソルジャー(PS)の技術が使われているスパルタンⅤ等は動きを止めてしまう。

 

「怯むな! 奴は一人…」

 

 分隊長は恐れずに手にしているライフルで射殺しようとするが、相手はスパルタンの中で最強と謳われるマスターチーフである。弾切れになったライフルを頭に投げ付けられ、怯んでしまう。その間にチーフは一人の首を圧し折り、奪ったライフルでまた連続で射殺していく。奪ったライフルがレーザー銃剣付きの物であった為、背後を取って自分を撃とうとするスパルタンⅤに振り返り、力を込めてレーザー銃剣を突けば、シールドとアーマーを貫通して肉体にまで達し、刺殺することに成功する。

 

「っ!? クソ!」

 

 体勢を立て直した分隊長であったが、既に自分以外のスパルタンⅤは全滅していた。仇の為に反撃しようとするも、既にチーフは目と鼻の先にまで迫り、強烈なパンチを撃ち込んだ後であった。

 

「グワァァァッ!?」

 

 パンチを受けた分隊長は吹き飛び、付近の岩石に衝突した。その衝撃でシールドは剥がれ、ヘルメット内では警告音が鳴り響いていた。直ぐに立ち上がろうとする分隊長であるが、ライフルの再装填を終えていたチーフが来ており、頭を撃ち抜かれて射殺された。

 

「スパルタンⅢにしては、弱過ぎるな」

 

『貴方が強過ぎなんじゃないの? それにこいつ等、アーマーは着けているけど、スパルタンⅢじゃないし』

 

 マスターチーフからすれば、スパルタンⅤは弱過ぎたようだ。アーマーがⅢ用の物であるため、スパルタンⅢだと思い込んでいたチーフであるが、コルタナのコピーと思われるサポートAIは、倒したのがスパルタンⅢでは無いと指摘する。

 

「Ⅳでも無いとすると、ハルゼイ博士抜きで進んでいる第五世代のスパルタンか」

 

『そうなるわね。こいつ等がここまで来たとすれば、アービターとハルゼイ博士たちが危ないわ。速く行きましょう!』

 

「無論、そうするところだ」

 

 死体を解析したサポートAIの指摘で、チーフは噂に聞いていたスパルタンⅤであると分かった。スパルタンⅤの情報は、現役のスパルタンⅣで元ONIの工作員であるスパルタン・ロックから得ていたのだ。

 ここまで敵が侵入してきたとなれば、アービターと共に居るハルゼイ博士の所にも敵が侵入したと言う事になるので、AIに急かされたチーフは全力疾走でそこへ向かう。

 途中、敵と遭遇するが、専用のアーマーではなく、再生産されたⅢ用アーマーを与えられた適性の無いスパルタンⅤばかりなので、圧倒的な強さを持つチーフを足止めできず、打ち倒された挙句、アービターらと元へ辿り着かせてしまった。

 

「Ⅲ用のミニョルアーマー?」

 

「スパルタンⅢとやらか! だが、殆ど生き残りは居ないはずだぞ!?」

 

 チーフと同様にアービターも襲撃を受けていた。第三世代を紛い物と言うハルゼイ博士が、アーマーを着込んで襲撃してくるスパルタンⅤを見て呟けば、アービターは驚きの声を上げる。

 スパルタンⅢはコヴナント戦争時代に殆ど戦死し、生き残りは殆ど居ない。そんな彼らが身に着けていたアーマーを、スパルタンⅢが身に着けているので、戦闘経験があるアービターが驚くのは無理もないだろう。

 そんなアービターであるが、驚くほどに冷静であり、右手でエナジーソードを取り出して起動し、左手にはカービンを持って襲い掛かるスパルタンⅤ等に対処していた。護衛についているサンヘイリの近衛兵らも、手持ちの槍などでスパルタンⅤに対処する。

 向かってくる三名のスパルタンⅤをカービンの連射で射殺すれば、背後から近付く散弾銃を持つスパルタンⅤにエナジーソードを突き刺し、素早く抜いて次の敵に斬りかかり、見事に斬り殺す。その調子でまた一人、二人目と続々と襲い掛かるスパルタンⅤを流れるように倒していく。

 

「ワァァァッ!」

 

 Ⅲ用であるが、曲がりなりにもスパルタンとなったスパルタン・レイニーは、持っているレーザー銃剣付きのライフルで、抹殺対象にされていたハルゼイ博士に向かって銃剣突撃を行っていた。が、ハルゼイ博士にはスパルタンの護衛が付いており、そのスパルタンはスパルタンⅣであるサラ・パーマーであった。

 叫びながら突っ込んでくるレイニーに気付いたパーマーは、ライフルを掴み、右腕の肘打ちを顔面に叩き込んだ。シールドは一応あるが、そのまま再生産されたⅢ用であるため、パーマーが纏うのはまだ最新のⅣ用のアーマーなので、一瞬でシールドは剥がれ、レイニーは昏倒した。ヘルメットが無ければ、今ごろ彼女の頭部は潰れていた事だろう。

 

「それ、スパルタンⅢなの?」

 

「離れて! 自爆装置が仕掛けられているかも!」

 

「あぁ、もう!」

 

 こんな状況にもかかわらず、ハルゼイ博士はその興味を抑えられなかった。これにパーマーは自爆装置が仕掛けられていると警戒し、離れるように伝えるが、片腕を失っても懲りていないハルゼイは近付き、ヘルメットを外してレイニーの調査を始める。止めても無駄と判断したパーマーは両手にサブマシンガンを持ち、迫り来るスパルタンⅤ等を迎撃する。

 

「違うわね、スパルタンの酷い模倣だわ。かなり改良が施されているけど、戦闘力の特化だけ。第三世代よりも酷いわね。失敗したパーフェクトソルジャーとか、醜い強化人間や生体CPUと同じだわ」

 

 少し見るだけで、ハルゼイは第五世代を自分のスパルタン計画の酷い模倣だと酷評し、非人道的な強化人間と生体CPUと同等な物と表する。尚、レイニーは殺害されることなく、サンヘリオスの剣の捕虜にされた。

 

「スパルタンも似たような物だと思うが…」

 

 スパルタンⅤを酷評するハルゼイの言葉が聞こえていたのか、彼女の第二世代も似たような物だと、アービターはスパルタンⅤを蹴散らしながら告げた。

 

「博士、無事か!?」

 

「あら、来たのね。こっちは無事よ!」

 

 出入り口前に居た数名のスパルタンⅤを倒したマスターチーフは、ハルゼイに無事かどうかを問う。これにハルゼイは無事だと大声で答えた。

 

『マスターチーフとアービターを捕捉! 一石二鳥だ! ブルーチームとレッドチームを直ちに送れ!』

 

 チーフとアービター、二つの抹殺対象が同時に揃ったところで、ガイアセイバーズは更にスパルタンⅤ等を送り込んでくる。大量のスパルタンⅤが雪崩れ込んできたが、前大戦を生き延び、更に宇宙を救った二人の英雄の前では、この程度の数、物の数ではない。

 

「まさか人類と戦う羽目になるとはな!」

 

「反逆者になるのは、楽な物じゃない」

 

 互いに背中を合わせた二人は、冗談を躱しながら雪崩れ込んでくるスパルタンⅤ等と交戦した。数では圧倒しているが、天変地異の如く二人の戦闘力の高さに、屍の数を増やすだけだ。前世代のスパルタンよりも強化された第五世代のはずだが、一人の第二世代のスパルタンとエイリアンのサンヘイリ族に次々と殺されている光景を見れば、とても強化されたとは信じられないだろう。

 

「フハハハッ、ハハハッ!!」

 

 歩兵のスパルタンⅤ等が圧倒されているが、地上の守備隊は二機のデストロイガンダムに圧倒されていた。一機のMA形態のデストロイに乗るスパルタンⅤ、スパルタン・ドレッドは機体の圧倒的な火力で爆散していく守備隊の兵器を見て、凄まじい高笑いを挙げる。

 

「オラァァァッ! 死ねっ! 顎割れ共ォ!!」

 

 もう一機のMS形態のデストロイガンダムを駆るスパルタン・フューリーも、機体の全身から放たれるビーム砲で守備隊を消し飛ばして興奮する。

 

「っ!? このままでは守備隊が全滅する! ヒュッケバインを!」

 

「お前の機体じゃないのか?」

 

「貴様の方が近い! 私と貴様以外、あれを動かせる物か!」

 

 外の二機のデストロイガンダムを脅威と判断したアービターは、襲い掛かるスパルタンⅤを二振りのエナジーソードで切り裂きながら、チーフに自分のヒュッケバインに乗るように告げた。これにチーフも戦いながら自分の機体じゃないと言うが、アービターは乗れるのは自分とチーフ以外に居ないと答え、起動の為に必要な鍵を投げた。それを受け取ったチーフは、アービター専用のヒュッケバインが保管されている施設へと急いだ。

 

『ヒュッケバインって量産機の?』

 

「違う。ブラックホールエンジンを搭載したオリジナル機だ」

 

『嘘ッ!? そんな危ない物を積んでるロボットだなんて! 直撃したらエンジンが爆発して、この辺り一帯が吸い込まれちゃうわ!』

 

「あれ以外に二機のデストロイに対応する手段はない。それに当たらなければ、どうと言う事はない」

 

 ヒュッケバインのことを問うサポートAIに、チーフはブラックホールエンジンを搭載したオリジナルの物と答えた。これにAIは撃墜されれば、エンジンが爆発してブラックホールが発生すると言うが、チーフはあれ以外にデストロイに対抗する手段は無いと告げる。それに、当たらなければ良いとまで言う。

 

『楽観的なことを言うのね。じゃあ、被弾しないためのサポートをしなくちゃ!』

 

「そう頼む。この星に、ブラックホールを発生させるつもりはない」

 

 被弾と撃墜されないためのサポートを誓うAIの言葉に、チーフも同じことを誓ってアービター専用のヒュッケバインがあるハンガーへと向かった。

 既に連絡が届いていたのか、整備員のサンヘイリ達が待ち構えており、ガンダムに似たV時の角ではなく、アービターの兜を模した彼専用のヒュッケバインのハッチを開き、チーフたちをコクピットの中に入れた。サンヘイリ専用に改造されたコクピットのシートへ座り込んだチーフは渡された起動キーを差し込み、ヒュッケバインのブラックホールエンジンを動かし、機体を起動させた。

 

「こちらシエラ117、ヒュッケバイン発進する!」

 

 ヒュッケバインを起動させたチーフは、自身のコールサインを名乗って出撃した。前線へ急行するため、空を飛んでスラスターを全開にして向かう。アービター専用ヒュッケバインは、量産タイプと同じく空中を飛べるように改造されている。

 

「こいつ、近付かせるか!」

 

 避難する戦えない民間人の集団を守る量産型ゲシュペンストは、それを襲おうとするエルアインスから守ろうと立ち向かうが、相手はガイアセイバーズに選ばれたエリートであり、プラズマカッターで斬りかかる敵機の斬撃を躱し、プラズマソードで右腕を切り裂き、バルカン砲を撃ち込んでゲシュペンストを撃破した。

 それから民間人の集団を殺そうとしたが、頭部を狙撃され、止まったところでコクピットを撃ち抜かれて沈黙する。その狙撃をやってのけたのは、戦闘空域に到着したチーフが駆るヒュッケバインであった。PTサイズになったコヴナント軍のビームライフルで、エルアインスを狙撃したのだ。更にチーフはライフルによる狙撃を行い、地上の友軍を襲う敵を一掃する。

 

「っ!? 攻撃する!」

 

 随伴機が次々とチーフが駆るヒュッケバインに撃破された事に気付いたドレッドは、MA形態のデストロイをMS形態に変形させ、接近してくる敵機に背中の多目的ミサイルランチャーや口のビームを掃射して迎撃を試みる。飛んでくるビームを躱しつつ、チーフはヒュッケバインの頭部バルカンでミサイルを迎撃してデストロイに接近する。

 

「ワァァァッ!」

 

 全火器を駆使してチーフのヒュッケバインを近付かせないようにするが、機体の全身に施されるシールドを使い、更には躱しながら突っ込んでくる敵機を撃墜しきれなかった。デストロイの弱点である懐に近付いたチーフのヒュッケバインは、PTサイズのエナジーソードを抜き、目にも止まらぬ速さで胴体に向けて突き刺した。

 

「バァァァッ!?」

 

 装甲を貫いてきた巨大なエナジーソードに切り裂かれたドレッドは、断末魔の叫びを上げて消滅する。機能を失ったデストロイの巨体は、サンヘリオスの大地へと倒れた。一機目を撃破しても、二機目も居るので、直ぐにチーフのヒュッケバインはそちらへと向かう。

 

「あぁん! あれがアービターのヒュッケバインか!? ぶっ壊せばブラックホールだぜェ!!」

 

 乗っているのがチーフと気付かず、アービター専用ヒュッケバインの接近をレーダーで知ったフューリーは、デストロイの両腕を分離し、誘導兵器として使う。

 

『オールレンジ攻撃が来るわ! 気を付けて!』

 

「そう言う敵との戦闘には慣れている」

 

 両手からビームが飛んでくるが、チーフにはその手の敵と交戦経験があり、AIが警告するよりも前に躱し切り、フューリーのデストロイに接近する。

 

「なんでだァ!? なんで当たらねぇんだよォ!?」

 

 デストロイ本体も攻撃を行うが、チーフのヒュッケバインには当たらなかった。躱しながら迫るヒュッケバインにフューリーは恐怖し、更に弾幕を張るが、全く当たらず、そればかりかエネルギーシールドを張る両腕をエネルギーシールドで破壊されてしまう。爆発の中より現れたヒュッケバインは、ビームライフルを頭部や火器の発射口に向けて撃ち込んで破壊した後、エネルギーソードを抜いてとどめの一撃をコクピットのある胴体に突き刺した。

 

「へへ…俺の友達じゃん…! お前ら、迎えに来てくれたんだ…」

 

 ドレッドと同じく、エナジーソードを突き刺されたフューリーであったが、死の間際に彼を迎える者たちの幻影が見えたのか、満足そうな表情を浮かべながら消滅した。そんなデストロイからエナジーソーを引き抜いたチーフのヒュッケバインは離れ、黒煙を上げながら倒れるデストロイを眺めていた。

 

『あんな化け物みたいなのあっさりと倒しちゃうなんて! 貴方が凄いのか、この機体が凄いのか、どっちか分からないわ!』

 

「あの二機は単座だったな。おかげで接近しやすかった。PT無しで交戦したデストロイは、五人乗りだった。近付くのに苦労した」

 

『アーマー一つで撃破すだけで、凄すぎるわ…』

 

 二機のデストロイガンダムを撃破したチーフに驚くサポートAIに対し、当の本人は単座だから近付きやすく、前回のPT無しで破壊したストーム・コヴナント残党が投入した五人乗りのデストロイの方が厄介だと答えた。これには流石のAIも困惑し、アーマーを身に着けただけでデストロイを撃破すること事態、凄い事だと呆れながら言う。

 

「あの空中戦艦、厄介だな」

 

『あれもやるの? ミサイルに精密機器を狂わせる細菌を搭載しているって情報があるわ。厄介ね』

 

「なら、速く倒す必要がある」

 

 上空で友軍を圧倒するガガイラーのロボット戦艦を次なる標的と定めたチーフは、サポートAIが事前に入手した戦闘情報を聞き、尚更やっかいであると決め、機体背部にあるグラビトン・ランチャーを取り出してからそこへ向かった。

 

「フン、遂にアービターが来たか! このロボット戦艦の主砲で!」

 

 事前に得ていた情報の所為か、ヒュッケバインに乗っているのがチーフだと知らず、ガガイラーはロボット戦艦の主砲で倒そうと思って一斉射を行う。無論、躱されてしまうが、それはガガイラーの想定の範囲であり、ご自慢のロボット細菌による攻撃を行う。

 

「フン、やはり躱すか! ならば、ロボット細菌を味わうが良いわ!!」

 

 予想通りに躱されたと分かれば、ガガイラーはご自慢のロボット細菌を搭載したミサイルによる攻撃を行う。飛んでくるミサイル群に対し、チーフは冷静にグラビトン・ランチャーの照準をミサイル群に定める。

 

『さぁ落とすが良い! そして最近に苦しむが良いわ!!』

 

『あのミサイルに特殊細菌の反応多数! 全部にあるわ!』

 

「なら、ブラックホールで全て吸い込もう」

 

 ガガイラーが撃ち落とすように誘い、AIがミサイル全発にロボット細菌が搭載されていることを知らせれば、チーフはグラビトン・ランチャーの照準を定め、引き金を引いて小径の重力場を発射した。撃ち込まれた重力場はミサイルに命中した後、範囲が狭いブラックホールを発生させ、ミサイルが破壊された際にばら撒かされたロボット細菌を全て吸い込んだ。

 

「ブラックホール!? ろ、ロボット細菌が!?」

 

 自分のご自慢のロボット細菌が、発生した小型のブラックホールによって全て破壊された事に、ガガイラーは驚愕する。

 

「敵戦艦を撃沈する」

 

 脅威を排除した後、チーフのヒュッケバインはグラビトン・ランチャーを背中のラックに戻し、スラスターを吹かせ、高速でガガイラーのロボット戦艦に接近する。これに対空砲火や主砲などで対抗するロボット戦艦であるが、高速で迫るアービター専用ヒュッケバインには全く当たらず、ビームライフルを何発も撃ち込まれる。

 

『あそこなら、撃沈できるわ!』

 

「了解!」

 

 サポートAIがロボット戦艦の弱点を見付ければ、チーフは操縦桿を動かし、そこへヒュッケバインを向かわせる。船体下部に向かったヒュッケバインは、再びエナジーソードを抜いてAIが指定した直撃個所へエナジーソードを突き刺し、ロボット戦艦を破壊した。爆発するロボット戦艦から、チーフのヒュッケバインは直ぐにエナジーソードを抜いて退避する。

 

「うわぁぁぁっ!? キノノサン!?」

 

 直撃した為、脱出は間に合わず、ガガイラーは奇妙な断末魔の叫びを上げながら愛機のロボット戦艦と運命を共にした。

 

『敵戦力、大幅低下! やったわ!』

 

「まだ終わってない。敵の母艦を叩く。それで敵は撤退するはずだ」

 

『了解! 敵母艦はそっちよ!』 

 

 ガガイラーのロボット戦艦を仕留めたチーフであるが、まだ戦闘は終わっていないので、敵の母艦であるエア・クリスマスを叩くべく、そちらへと向かった。

 

 

 

「これが、スパルタンⅤ専用のアーマーか!」

 

 外へ出たアービターは、スパルタン・リーパーの攻撃を受けていた。IS譲りの追加武装を施したアーマーのスパルタンⅤに攻撃されるアービターは、これがスパルタンⅤだと感心しつつ、掃射されるチェーンガンを躱しながら接近する。

 

「エリートの動きじゃない!?」

 

 速過ぎて掃射されるチェーンガンが当たらないことに、リーパーは恐怖する。そんなアービターは手にしている槍を投げ、IS譲りなシールドに穴を空けた。頭には刺さらず、アーマーだけに突き刺さった程度であるが、これで本体への突破口は開いた。

 エナジーソードの二刀流で挑んでくるアービターに対し、リーパーは左腕のパイルバンカーを打ち込むが、飛び掛かった黄金のアーマーを纏うサンヘイリはそれを紙一重で躱し、突き刺さった槍からエナジーソードを突き立てられ、ソードの先端がリーパーの胴体へ届き、アーマーを貫いてその身体を貫く。

 

「こ、こんなに強いなんて…」

 

 余りのアービターの強さに、リーパーは理解できず、その場で息絶えた。相手が息絶えたのを確認したアービターはエナジーソードを引き抜き、殺そうと向かってくるスパルタンⅤ数名に備える。

 

「っ!? 援軍か!」

 

 が、数名のスパルタンⅤは背後から何者かに撃たれて倒れた。これを援軍だと思うアービターであったが、姿を現した人物は、彼を仇と憎む人物であった。

 

「スパルタンⅣか? 助かる!」

 

「ど、どういうことだ…!?」

 

「お前らは邪魔なんだよ」

 

 その人物とは、マサト・クサカことスパルタン・カイザであった。スパルタンⅤを攻撃した為、味方だと思っているアービターであるが、カイザは答えることなく、誤射のことを問う味方を十文字型の複合武器のガンモードで射殺した。それからその銃口をアービターへ向ける。カイザにとって、アービターは敵であるのだ。

 

「貴様、敵か!?」

 

「あぁ、そうだ。そしてお前は、俺の仇だ!」

 

 銃口を向けたことを問えば、カイザはお前は仇だと言って発砲して来た。数発被弾しながらも、シールドのおかげで大事には至らず、直ぐに近くの遮蔽物へ身を隠した。

 

「俺はお前の栄光で滅んだ故郷の生き残りだ! お前は滅ぼした惑星の数を、覚えちゃいないだろうがな!」

 

 カイザはかつてのアービターであるゼル・ヴァダムがコヴナント軍として滅ぼしてきた惑星の生き残りであると明かし、滅ぼされた仲間の仇を取ると怒りを燃やして攻撃して来た。

 

「仇討ちか! 先の内戦、ONIが絡んでいると聞いたが、やはり復讐が目的か!?」

 

「そうだ! あれだけ人類を追い詰めておいて、気が変わったから救った? それで許すほど、俺は単純じゃないぞ!!」

 

 復讐であると分かったアービターは、先のサンヘリオスの内戦にONIが関係しているのかと問えば、カイザは関わっていたと答え、人類を救ったからと言って、これまでのことは許すほど単純でないと怒りを表し、その攻撃を強めて来る。

 

「惑星ファイズの住人も含め、仲間の仇は取らせてもらうぞ! アービター!!」

 

 銃撃では埒が明かないと判断してか、カイザは複合武器をソードモードへ変形させ、身構えるアービターに向かって行った。

 生き残りとして、かつてアービターが、コヴナント軍のゼル・ヴァダムとして滅ぼした惑星の住人や仲間の仇を取るために…。

*1
人類側が付けたサンヘイリ族の蔑称




前に言ってた後日談です。

戦闘シーンはSEED劇場版の序盤を参考にしました。
元々ゲイムランド編は、アービターVSカイザで終わらせる予定でしたが、尺の都合で後日談に。

まぁ、SEED劇場版とHALOの実写ドラマ版、555のVシネ公開記念ですね。

追記 加筆修正しました。


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