俺たちのカルデアは最強なんだ! (逆しま茶)
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1部/天文台の観測者
プロローグ/Takeover the karma①


※人理修復に関する致命的なネタバレがあります。
特に六章以降の部分に関しましては是非原作を見ていただいてからご覧下さい。



 

 

 

 

 

 

 

「―――――おお、ジャンヌ…!」

 

 

 

 禍々しき邪竜――――ファヴニールを従え、憎きフランスの裏切り者共を火炙りに、あるいは亜竜の餌にしていく己が聖女のその姿にジル・ド・レェは己の中で燃え盛る憎悪の炎が歓喜の声を上げるのを感じ取って、否。幸福の絶頂にあった。むしろ聖杯を手にジャンヌと出会えてからは常に絶頂にあると言っても過言ではないが。

 

 本来であればこのまま終息していく百年戦争―――そのキッカケとなった聖女ジャンヌ・ダルクの死。それを覆し、狂った歴史を決めた汚物どもを蹂躙しつくし、ジャンヌの死を甘んじて受けて入れている世界を消し飛ばす。

 

 

 

 そう、そのためならば邪悪なるものどもであろうと利用し尽くすと決めたのだ。

 そして実際に、それは叶った。

 

 あの清廉な聖女が魔女とされる、世界が間違っているのだ。奸智が正義を上回るのならば、己も手を染めよう。あの聖女が魔女だというのなら、その真逆であれば聖女だとでも? ああ、ああ! そうでしょうとも! ジャンヌであれば、例え反転しても間違いなく聖女に違いありますまい!

 

 “そちら”の方が好みであるというのなら――――願おう、聖杯に。

 “ソレ”を受け入れられぬというのならば。来るだろう、彼女は。そして知ってもらいたい。真の怒りを。このフランスに、救う価値などなかったのだと。

 

 

 

 

 不意に、膨大なエーテルが渦巻く。

 如何にファヴニールや眷属たる亜竜により擬似的な神代回帰に近い状態であろうと、ありえないはずの感覚。間違いなく宝具――――人の願い、概念の結晶、編まれた幻想たるノウブル・ファンタズムの開放。

 

 

 だが、それが何だというのだ。

 ファヴニールを殺せる宝具を持つ英雄が、どれだけいる? その周囲を守るように展開された、バーサーク・サーヴァントたちを突破できるか? そして、万が一にでもジャンヌを倒すことがあったとして――――私に、この聖杯にたどり着けるか?

 

 

 

 

 

「邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る―――――幻想大剣(バル)天魔失墜(ムンク)!」

 

 

 黄昏の剣が真エーテルを開放し、薙ぎ払うように取り巻きである亜竜を一掃する。が、ファヴニールは減衰した宝具程度で倒れるほどヤワではなく、ファヴニールを殺した宝具、その剣を真っ先に切ったのは悪手でしかないとジルは微笑む。

 

 

 

 

「汝は竜――――罪ありき! 力屠る祝福の剣(アスカロン)!」

 

 

 

 と、次に飛び込んだ人影にジルは目を細めた。

 なるほど、聖ゲオルギウス――――たしかに竜殺しの逸話を持つ、ファヴニールを殺すだけの宝具を持つ英雄だろう。ただし――――それが、普通のファヴニールであればだが。

 

 竜殺しの剣を受け、ファヴニールが怒りの声を上げて―――――反撃する。

 エーテルの血を流し、激怒の怒号を炎に変えて荒れ狂う。亜竜の背から竜の魔女としての支援(バフ)を飛ばし、悪辣に笑うジャンヌを見てジルは――――。

 

 

 

 

 不意に、黄金の輝きを眼にした。

 

 

 

 

 

「聖剣、開放―――――これは、人理を守る戦いである! 約束された(エクス)――――、勝利の剣(カリバー)!」

 

「あれは、―――――もしや」

 

 

 

 

 人の願い、戦場に儚く消える幻想の光――――。

 それを従え、束ね、道を示すは常勝の王。騎士の王。国を、民を守ろうとして果たせず散った騎士王。

 

 

 もはや、遮るものはなく――――至近距離で開放された黄金の聖剣が、アスカロンにより傷ついたファヴニールの胴体を真っ二つに切り裂く。竜殺しの魔剣に眼が眩んだが故の隙。だが、荒れ狂う竜種の至近にまで宝具開放しつつ近づくなど正気の沙汰ではない。

 

 それは、騎士王の持つ未来予知にも近い直感と、騎士としての精神性――――そして、己自身も魔竜を討ち果たした経験によるものであり。あるいは、どこかの世界で英雄王を至近で切り裂いた経験もあったかもしれなかった。

 

 

 

 

 己の求めた聖女――――ジャンヌの面影を見て呆然と立ち尽くすジルだったが、次の瞬間、亜竜に乗るジャンヌに向けて空中を疾走する謎の影を見た。

 

 だが、如何に贋作であろうと―――――否、贋作であるからこそあのジャンヌは強固だ。ジルが望みをかけた聖杯の願いそのもの。ジル・ド・レェの願いが、たかが1サーヴァントの、たった一度の攻撃に敗れるはずもない。

 

 そうすればすぐに聖杯がジャンヌを修復する。

 修復されたジャンヌは、憎悪を募らせるだろう。作られた、与えられたものではない。ジャンヌとしての憎悪を。そう、それこそが―――――。

 

 

 

 

 

 

「今、光と闇が交わりセイバーに見える――――!」

 

 

 

 

 

 青白い、しかし何処か先程の聖剣に酷似した剣がジャンヌの身体を切り裂き、吹き飛ばす。聖杯により極限まで強化されているはずのジャンヌを。

 

 

 

 

「―――――馬鹿な」

 

 

 

 

 ファヴニールは、悪竜だ。

 悪竜を倒す、殺すための宝具があるのは分かる。それはそうだ。英雄譚において、倒されるための存在と言っても良い。

 

 だから、敗れることに不思議はない。

 ファヴニールを倒すための宝具を受ければ、敗れることはあるだろう。

 

 

 

 

 だが、何だ。アレは。あれではまるで。

 聖女を、“ジャンヌを殺すため”の宝具のようではないか――――!

 

 

 

 

「カタフラクティ・シフト! 王道の力を知れ! 無銘勝利剣(えっくすかりばー)!」

 

 

 

 

 林檎が地に落ちるように。

 竜殺しの剣が竜を殺すように。

 

 セイバーを殺す剣がジャンヌを殺す。セイバー顔を絶対に許さない概念が、何故かジャンヌ・オルタにぶっささり、濡れた障子を破くようにあっさりとジャンヌ・オルタが消し飛ぶ。

 

 

 

 

 

「おのれ―――――神よ、そのようなものまで生み出すのかぁぁぁああ!」

 

 

 

 

 そうであるならば、ジルが選ぶべき手はもう少ない。

 ジャンヌを殺す宝具があれば、どれだけジャンヌを生み出しても無意味になるだろう。ジャンヌが“育つ”前に、世界は修正される。

 

 やはり世界は間違っている―――――だが親友の用意してくれたこの魔本が、そして、この魔術王が寄こした聖杯があれば、それこそジルにとっての次善の策、ジャンヌを否定した世界への復讐は叶うだろう。

 

 

 

 

「それならば――――――」

「―――――いけない人ね」

 

 

 

 

 深淵を覗き込もうとしたジルの前に、燃え盛る瞳があった。

 輝き、連なる虹色の輝きがあった。

 

 銀の鍵を携えた少女が。己の敵を見据えて/どうでもいい塵芥をみるように佇んでいた。

 

 

 

「ねぇ、そちらの蜂蜜酒みたいに綺麗なカップ。わたしのマスターに下さいな?」

「何故―――――真理を識っておられるのに」

 

 

 

 

 光を見た。世界を見た。宇宙(ソラ)を見た。

 ジルの精神がそのあまりにも冒涜的な真実に砕け散らなかったのは、もともと精神汚染のスキルを備えていたというだけのことであり――――ただ、それは魔術の枠に収まらない、宝具と言っていいのかすらも分からないEXランクの宝具を無効化できたわけなどではなく。

 

 むしろ、壊れたテレビが叩かれて直るように。

 本来の精神性を僅かに取り戻してしまったジルは世界と、己自身を呪い。狂ったようにのたうつ魔本から飛び出す触手に飲み込まれて消えた。

 

 

 

「―――――…ふふ。だって、マスターとなら境界を超えて、どこへだって行けるもの! ここから見える真理がどうであれ、“門”の先では関係のないことでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 真祖ロムルスはネロの(ローマ)を認め、去っていった。

 が。未だ己が勝者であると疑わずにいる男、宮廷魔術師を名乗り時代を掻き回した裏切り者がいた。

 

 

 

「ほざけカス共。人間になんぞ初めから期待していない。君もだよ、藤丸君」

 

 

 

「凡百のサーヴァントを掻き集めた程度で、このレフ・ライノールを阻めるとでも?」

 

 

 

「抵抗してもなんの意味もない。結末は確定している。貴様たちは無意味、無能!」

 

 

 

「人理を守るぅ? ――――バカめ。貴様たちでは既に“どうにもならない”。そんな召喚で呼び出される英霊も程度が知れるというものさ!」

 

 

 

 そんなレフに、どこか顔が青ざめる藤丸は無言で首を横に振り。

 それを怯懦と見て取ったレフはますます絶好調に語りだした。

 

 

 

「哀れにも消えゆく貴様たちに! 今! 私が! 我らが王の寵愛を見せてやろう!」

 

 

 

 

 そうして現れるのは、巨大な肉の柱――――魔神柱。

 相対するは――――さっきまでは観戦気分でのんびりと霊体化などしていた、黄金の王。堪忍袋の緒が切れるのではと怯える藤丸を他所に、黄金の王は愉快げに笑う。

 

 

 

 

 

「ほう――――言うではないか、雑種。結末は既に定まった、だと? フ、ハハハ、フハハハハ! 愚劣極まるとはこのことよ! 霊体化していたとはいえ、我の王気(オーラ)にすら気づかぬとはとんだ節穴よ。どこに目をつけていた? 慣れぬ眼を持ち、焦点すら合わせられぬとは滑稽よな!」

 

「王とは天上天下に至高の我ただ一人。貴様のような醜い肉塊を下僕として優遇する阿呆がいれば、この我が笑ってやろう! そしてその醜さと愉快さに免じて、手ずから裁定をくれてやる! 往くぞ、人類最後のマスターよ!」

 

 

 

「――――せっかくだし、王様の一番カッコいい宝具がみたいなぁ!(ヤケクソ)」

 

 

 

 

 エーテルが渦巻く。

 通常であれば黄金の波紋から放たれる宝具のみで戦う黄金の王が、その戦士としての姿である黄金の鎧を脱ぎ捨てて笑う。

 

 

 

「ほう。この我に慢心を捨てろときたか。懐かしい言葉よな――――良いだろう! ならば至高の王、その玉体を見せてやろう――――A・U・O! キャスト・オフ!」

 

 

 

 

 上半身の鎧をパージし、手にするは剣――――。

 まだ天と地が無く、世界の混沌のみがあった刻を識るその剣こそは。

 

 

 

 

「貴様には、地の理では生温い――――天の理を示してやろう。さあ、死にものぐるいで足掻が良い、不敬! 天地乖離す(エヌマ)――――、開闢の剣(エリシュ)!」

 

 

 

 

「ごめん、キャスター。ちょっと世界滅びないように助けて」

 

「お任せを。夢のように片付けよう」

「はい、マスター。最果ての島、罪の都――――最後の竜は我が胸に! 如何なる滅びにも我らは屈せぬ。集え、円卓の守護者たち!  真円集う約束の星(ラウンド・オブ・アヴァロン)!」

 

 

 

「ぐわああああああ!? ば、馬鹿なあああああああああ!」

 

 

 

 英雄作成付きの対界宝具と対粛清宝具に挟まれた魔神柱の敗因は、呑気に喋りすぎたことか。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 オケアノスの海、その中を我が物顔で鸚鵡貝が漂う。

 

 

 

 

 

「―――――ソナーに感あり! 取ィ―舵―! 20!」

「取―舵―20! ヨーソロー!」

 

 

「敵艦直上! 最終確認、点呼!」

 

「だいたいあってる!」

「だいたい良いですー」

「だいたい行けるぜ!」

「だいたいバッチリ☆」

「……ノーコメントでーす」

 

 

 

「ああもう、当たって砕けろ! まさか僕が“あの船”に攻撃することになるとはね! 我は往く(グレートラム)鸚鵡貝の大衝角(ノーチラス)!」

 

 

 

 

 神代の名船アルゴー号。

 なるほど間違いなく名船で、英雄たちの象徴にふさわしい。が――――その船に、ソナーはあるか? こっそりと、それこそヒラメのように潜伏する、神秘と科学の異端児たる潜水艦を探知できる手段は? 対抗手段である爆雷は?

 

 

 

 

 

 

 

―――――至近距離、流石にメディアあたりがどうにかして察知したのか、海に飛び込んできたのは大英雄ヘラクレス。

 

 

 ソナーがメディアなら、爆雷はヘラクレスでいいとばかりの完全ヘラクレス頼りの――――しかして、どこまでも正しい戦略。

 

 

 

 

「――――せっかく悪くないステージだと思ったのだけれど。あんなのを相手にさせられるなんて。……後で、分かってるわよね。私のマスター?」

 

 

 

 で、あるならば。

 当然、その対処は予想されていて然るべきものだ。

 

 アルゴー船の攻略は、ヘラクレスの攻略を抜きには語れない。そして、ヘラクレスの死因は毒。全く同じものでなくとも、伝承に縛られるサーヴァントには大きな効果が見込まれる。

 

 

 

 そして、海中に在る水の女神の因子を持つハイ・サーヴァントは、如何な大英雄と言えど狂化で鈍くなっていては捉えられない。

 

 

 

 

「―――――行くわよ。行くわよ行くわよ行くわよ! 弁財天五弦琵琶(サラスヴァティーメルトアウト)

 

 

 

 

「さあ、甘く融けてしまいなさい――――!」

 

 

 

 

 権能を組み合わせて生み出されたアルターエゴ。その(どく)がヘラクレスの纏う宝具“十二の試練”を打ち消し、弱らせる。水流に飲まれ、動けなくなるヘラクレスを尻目にノーチラスの大衝角がアルゴー船を直撃し―――――。

 

 

 

 

 

「ぎゅあああああ―――――!」

 

 

 

 下から突き上げられて、アルゴー号が空を飛ぶ。

 情けない悲鳴を上げるイアソンだが、意外にも冷静に、というか追い詰められて一周回って冷静になれたのか船が消滅しない、すなわち致命的な損傷はないことを確認して叫ぶ。

 

 

 

「ふ、ははは! 俺様のアルゴー号がこの程度で沈むかぁ! メディア、姿勢をなんとかしろ!」

「はい、イアソン様――――え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――がおー! たーべちゃうぞー!」

 

 

 

 

 

 

 巨大な、巨大な影が、空を飛んでいるはずのアルゴー号を“見下ろして”いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プロテアー、パーンチ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルゴー号は、そしてイアソンは今度こそ、星になった。

 

 

 

 

 

 

 






カルデアにおける制限
・同時に現界できる(戦闘できる)のは3騎まで。(現地鯖は含まず)
・更に3騎まで霊体化で連れていける(3+3で6)が、戦闘中に切り替えるのはオーダーチェンジが必要(一度切り替えるとしばらく能動的には切り替えられない)
・カルデアで召喚しないとゲーム時代の記憶は引き継がない
・クラス相性は適応されないので、純粋に英雄の弱点や伝承重視


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プロローグ/Takeover the karma②

 

 

 

 

 

―――――ロンドン。

 

 

 ニコラ・テスラにアーサー王。そこまではいい。極端な話、現地のサーヴァントだけでも解決できるレベルである。

 だが、そのあと。

 

 

 

『みんな気をつけて! 地下空間の一部が歪んでいる……!』

 

 

 

 ドクターの声に、緊張が走る。

 そう、俺はこれから何が起こるのかを知っている。だが、ここで生き残れるのかははっきりと未知数だった。

 

 

『“何か”がそこへ出現するぞ! サーヴァントの現界とも異なる不明の現象だ! ――――いや、これはむしろレイシフトに似ている…!?』

 

 

 

 

 現れるのは、どこかの誰かの面影を残した男。

 通常の霊基とは一線を画す、人類悪を討つべき冠位のサーヴァント――――!

 

 

 

 

「魔元帥ジル・ド・レェ。帝国真祖ロムルス。英雄間者イアソン。そして神域碩学ニコラ・テスラ。多少は使えるかと思ったが――――小間使いすらできぬとは興醒めだ」

 

 

 

 肌が粟立つ。それは、この存在が冠位という規格外の存在であることを知っているから――――だけではない。魔術師としてはもぐり以下でしかない自分でも分かる、圧倒的なまでの魔力の奔流。

 

 通常のサーヴァントが瀑布であるとするのなら、このサーヴァントは星だ。距離感すらつかめず、ただ遥かな高みにあることだけは察せられる。

 

 

 

 

「だが所詮は無の大海に漂う哀れな船、それがお前達カルデアだ。燃え尽きた人類史に残った染み。私の事業に唯一残った、私に逆らう愚者の名前」

 

 

 

 

 

 このソロモンは、相対する者によってその性質を変える――――そんなことを、聞いた覚えがある。元々は使役される魔であった残滓なのだろうか。

 人理修復における最大の障害――――此処で、その力を一端を測る!

 

 

 

 

「染みとは言い得て妙だけど――――そのおかげで、人類史はまだ燃え尽ききっていない。だから、英霊がいる。燃やされようとしている人類の歴史が、編み上げられた物語が、お前を止める」

 

 

「無駄なことだ。既にその積み上げる土台すらも消え失せているというのに。だが、いいだろう――――私が、人間に使役されるサーヴァントなどとは一線を画するものだということを教えてやる」

 

 

 

 

 そうだろう。

 確かにお前はサーヴァントとは規格の違う怪物――――マトモに戦うのはF1カーとゴーカートで競争するようなものだ。

 

 

 

「なら――――――こちらにも考えがあるぞ!」

 

「まあ、なんという―――――人理の全てを焼き尽くすなんて。一体どれほどの熱さであるのか」

 

 

 

 楚々とした雰囲気を纏い、尼の装束でありながら淫靡に微笑むその女こそは―――――出したくなかった最終兵器、殺生院キアラ。

 

 

 

 

 

「な・ん・で! よりにもよってこの女と一緒なんですか!?」

 

 

 

 幼い少女の姿ながら全人類に愛を、堕落をもたらす第六天魔王(真)ことカーマ。

 

 

 

 

「―――――…ごごごごごごごご」

 

 

 

 S・イシュタルこと原始宇宙の女神、アシュタレト・オリジン。

 

 

 ソロモンが冠位の霊基を持つのならば。

 こちらも規格外のサーヴァントをぶつけて対抗する!

 

 

 

 

「ふむ。ならば、“4本”程度にしてやろう」

 

 

 

 ソロモンが呟くとともに、空間を裂いて現れる魔神柱―――――それが、キアラの豊満な肢体を容赦なく貫き。

 

 

 

 

「くっ―――――ああ、そんな――――なんと、乱暴な。――――少し、懐かしくなってしまうではありませんか」

 

 

 

 

 ――――そして、呑まれた。

 人外の悲鳴が、無情にも大空洞に響き渡る。

 

 

 

 

「……なに?」

 

 

 

 魔神柱が、食われる。

 そんなありえないはずの光景に、ソロモンが硬直する。

 

 その隙に放たれるのは、サトウキビの弓。

 

 

 

「どうなっても知りませんから。………愛もてかれるは恋なきなり(カーマサンモーハナ)!」

 

 

 

 

 およそ感情というものが分かりにくいソロモンだが、宝具による魅了を受けて流石に硬直する。そして、それだけの隙があれば“銀河”を叩き込むのにも十分だ。

 

 

 

 

「神代回帰、臨界――――始まりの領域。花開く命の音。全て一時の夢のように――――原始宇宙に輝く王冠(エディンシュグラクェーサー)

 

 

 

 アシュタレト・オリジンの指先に従うように放たれるのは銀河そのものと言っていいだけの熱量。

 

 

 

 

 ソロモンが地球の、人類史全ての熱量を持つのなら――――こちらは銀河をぶつける。

 

 地球の性感帯になるだけの超級の変態(受け盾)、

 宇宙全てを堕落させるだけのスペックはある愛の神(デバフ)、

 別の銀河をぶつけられるサーヴァント?(アタッカー)がいる!

 

 

 

 

「――――冠位は、七騎で獣を討つという。なら、こっちは二騎の獣と銀河一個で勝負だ!」

 

「獣であっても、1対1だと言うのに――――なんと野蛮な」

「なんでそこでそっちに繋げるんですか!? 今一応真面目なところでしょう!?」

「……温情はない」

 

 

 

 

 

 

 およそ、大抵のエネミーなら塵すら残さないだけの攻撃それに無防備に直撃を受けたのだ。無傷ではない――――そのはずなのに。

 爆炎の中から、無傷にしか見えないソロモンが現れる。

 

 

『いや、無傷じゃない! 若干だが、霊基に綻びが生まれた! 藤丸君、そのまま攻め続けるんだ!』

 

「オッケー、ドクター!」

 

 

 

 

 

 

「―――――やれやれ、人理を救うとのたまいながら獣に力を借りるだと? 醜悪を通り越して滑稽だな。その見境の無さ、死への恐怖こそが人間を狂わせる。どこまでも無意味で、無価値な存在だ」

 

 

「ええ、そのとおり。人の欲望とは醜いもの――――溢れ出る六欲に溺れ、貪る獣の如き有様。ですがそれが無価値というのは。まあ、なんと―――――初心で、いらっしゃるのですね?」

 

 

 

 

 経験ないんですねぇ、と憐れむように微笑むキアラに、ソロモンは無言で呼び出した魔神柱から光線を放ってキアラを爆撃した。

 

 

 

「―――――あら」

 

 

 

 が、キアラは先程“喰った”魔神柱を盾として召喚。

 魔神柱の光線を魔神柱が受け止めるという意味不明な光景を作り出しつつ、さらにそこから果敢にソロモンに殴りかかる。

 

 

 

「……はぁ。なんであんなに生き生きしてるんですか、アレ。まあわたしも愛する相手(マスター)がいなくなるのは困りますし、ちょっとだけなら本気を出してもいいですけど」

 

 

「え、キアラくらいできなさそう? 同じビーストなのに?」

 

 

 

「―――――だから、アレと一緒にしないでほしいんですけど!?」

 

 

 

 瞬間、カーマが“増えた”。

 幼いカーマ、成長しつつあるカーマ、成熟したカーマ。無数のカーマがあちこちに出現し、周囲を淫靡な香りが包み込む――――!

 

 

 

「ですが、いいでしょう。今のカルデアは私が言うのもなんですが、愛と退廃の領域――――そうです、私の大奥(カルデア)は最強なんです!」

 

 

 

 

 水着カーマ、サンタカーマ、謎のヒロインカーマ、カーマオルタ、カーマ・オルタ・サンタ・リリィ、S・カーマ、カーマ・ブライド、カーマ・リリィ、謎のヒロインカーマオルタ、水着カーマオルタ。

 

 あらゆる藤丸の需要に応えるあらゆるカーマが、次々とソロモンに愛の矢を打ち込んでいく。

 

 

 

「ぐ、おおおおっ!? 巫山戯るな!」

 

 

 

 錯乱したように攻撃を乱射するソロモンは、その愛の矢を絶対に受けまいとするかのように薙ぎ払おうとし―――――眼前に飛び込み、蹴りを放ってきたアシュタレトにより、吹き飛ばされる。

 

 

 

―――――キアラのところまで。

 

 

 

 

 

「それでは皆々様、済度の日取りで御座います。――――大悟も解脱も、我が指ひとつで随喜自在。行き着く先は殺生院。顎の如き天上楽土。うっふふふ………天上解脱、なさいませ?」

 

 

 

 そして、ソロモンはキアラの胎内へ。

 彼女の体内は最早一つの宇宙であり、極楽浄土。自我が消え、理性は溶け落ちるという意味では言葉の通り――――単独顕現は魅了耐性を含むが、これは魅了というよりも全ての知性体に対する特攻。

 

 知性ある限り抗えぬそれに飲み込まれたソロモン。死因はテクノブレイクであった。

 

 

 

 

 

『や、やったのか……?』

「ドクターそれフラグって言うんだよ」

 

 

 

 

 その言葉に応えるかのように、声が響く。

 

 

 

 

『……なんという、醜悪さだ。人が覚えた無意味な感情は、恐怖だけではなかった―――。醜い。醜悪だ。嫌悪すべき性だ』

 

「まあ、生娘のような事をおっしゃいますのね」

 

「あれ? まだ余裕ありそうですね」

 

「……女神げないかしら?」

 

 

 

 

 ぺろり、と妖艶にキアラが舌を舐め。

 カーマ軍団がそれぞれの獲物である弓やら杵やらを構え。

 アシュタレトが底知れないパワーをみなぎらせる。

 

 

 

 

『――――――貴様たちなど、私が相手をする必要がなく――――したいとも思わん。七つの特異点、その全てを解決したその時は。私が手を下す必要性を認めよう』

 

 

 

「………逃げた?」

『逃げちゃったね』

「えっと、いいんでしょうか…?」

 

 

 

 

 

 

 まあ、相手にしたくないと思ってくれればそれでいい。

 実際、このメンバーでもティアマトを“殺す”のは不可能なわけであるし、ソロモンがそう考えるのは当然だっただろう。

 

 なんだかよく分かっていなそうなマシュだけが癒やしだった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「――――無限に生まれるケルト兵。美しい私。そしてクーちゃん! もう負ける理由がないわ!」

 

 

 

 

 

 アメリカ合衆国――――その広大な領地を、2つに分裂しての内戦。

 無数に量産される、西側。エジソンと機械化歩兵。

 無限に生産される、東側。メイヴとケルト兵。

 

 

 およそ、軍勢召喚系の宝具よりも大規模に展開されるその戦いは、一騎や二騎のサーヴァントで覆せるものではない。――――だが、カルデアには例外が存在する。

 

 

 

 

 

 地響きとともに、ケルト兵が消滅する。

 押しつぶすように天から飛来したのは巨大な、雲を貫く柱であり――――。

 

 

 冗談のようなそれが、二本目。

 隕石が落下したかのようなすさまじい衝撃とともに大地を陥没させ、巨大な窪地すらも作り出す。

 

 

 

 

「――――何よ。一体何なの!? 私の可愛いケルト兵が! クーちゃん!」

「……アレは、脚……か?」

 

 

 

 

 

 

 

「……悪いけど、今すぐ立ち退いてもらえますか?」

 

 

 

 それこそは、アメリカを開拓したと伝えられる英雄。

 ポール・バニヤン。

 

 通常であれば、ただそれなりに大きいだけのサーヴァントだが―――――アメリカでは話が違う。彼女は、アメリカを開拓するサーヴァントだ。

 

 森を切り拓き、神秘を消滅させるというふうにも解釈できるその特性は、神秘の時代を生きたケルト兵たちにとっては天敵にも等しい。それこそ蟻を踏み潰すくらいの気軽さでケルト兵が踏み潰され。雑草を刈り取るくらいの軽快さで軍勢が消滅する。

 

 

 

 

「ウッソぉ」

「チィ、少し遠いか」

 

 

 クーフーリンの必殺の宝具は、そこまで射程が長いわけではない。投擲すれば届かないことはないが、“必ず心臓に命中する”という因果逆転の力はそこまで期待できない。だが、このまま見過ごせるものでもない。

 

 

 

 

 

「―――――突き穿つ死翔の槍(ゲイボルク)

 

 

 

 クーフーリン・オルタが、バニヤンに向けてその宝具を開放する。

 真紅の槍は稲妻の如く空を切り裂き、無遠慮に暴れまわるバニヤンに襲いかかり――――!

 

 

 

 

「さあ、おいでなさい。わたくしを護る青銅の身体、燃えたぎる血。燃えたぎる熱の御前。出番ですよ、タロス」

 

 

 

 

 それを、巨大な青銅の巨人が受け止める。

 ヘファイストス神によって鋳造され、神々ですら容易に破壊できないというその巨体は、クーフーリン・オルタの投擲した槍すらも受け止めて見せたのだ。

 

 

 

 

「いや、何よこれ!?」

 

 

 

 

 巨人と赤熱する巨大ロボに殴り込まれたケルト軍団は、瞬時に戦線崩壊した。

 どうやって止めろというのか、というレベルであり、それが可能な人員であるアルジュナはカルナによって食い止められており――――。

 

 

 

 

 

「――――おお、久しぶりだなクー・フーリン。また変わった姿をしているが――――今度は立場が逆になったな」

 

「……叔父貴」

 

 

 

 

 ゲッシュにより、クー・フーリンと戦えば無条件で勝利するフェルグス・マック・ロイ。かつてはメイヴの部下として、クー・フーリンと戦ったその偉丈夫が、変わり果てた姿の大英雄と対峙する。

 

 

 

 

「卑怯とは言うまいな。――――良い男が待っているのでな、勝たせてもらう!」

「……さて。アンタに今の俺が殺せるかな」

 

 

 

 

 

「ふんっ……今のクーちゃんがそう簡単に負けるものですか! 聖杯よ、もっとクーちゃんに力を―――――!」

 

 

 

 

 と、不意にメイヴはバニヤンの起こした土煙と、タロスの噴射する大量の蒸気、そして濃密な魔力に紛れて気づくのが遅れたが、いつの間にかすぐ近くにいたバニヤンが消えている。英霊を交代でもしたのだろう。

 ―――――が、問題ない。メイヴちゃんは最高に可愛いので、暴漢程度に敗れはしない。聖杯だってある。

 

 

 

 

「ふんっ、そんな程度で――――――へ?」

「Aaaaaaaa」

 

 

 

 そこに立っていたのは、赤い葉脈のようなものを波打たせたチーズを手に持つ漆黒の甲冑だった。

 

 

 

「Cheeeeeese!」

 

 

 

 

―――――グシャッ。

 

 

 

 あるいは、遠距離からのチーズであればクーフーリンが己の身を犠牲にしても防いだかもしれない。あるいはチーズでなければ、メイヴは死にかけながらも魔神柱を召喚できたかもしれない。

 

 

 

 だが、チーズを受けたらメイヴは死ぬ。

 

 

 

 例えそれが、宝具化していないチーズでもクリティカルヒットすると死ぬ。むしろ死ななければそれはメイヴではない。チーズで死んだのがメイヴであり、メイヴが死ぬのはチーズだ。

 

 この世にそんな阿呆な宝具を所持する英霊はいないはずだったのだが、至近距離で投擲されたチーズの宝具を食らったら何もできずに即死するしかない。宝具のチーズってなにさ。

 

 

 

 

 

「―――――…ちくしょうめ」

 

 

 

 

 悲しげに佇むクーフーリンから聖杯の強化がなくなり―――――微妙な顔で現れたスカサハが槍を構える。

 

 

 

 

 

 

「………やれやれだが―――――王としてではなく、戦士に戻れることだけは悪くない…か」

 

 

 

 

 

 

 





すみませんが、ちょっと色々大変なことが起きてしまったので次の投稿がどうなるか未知数です。
でも速度と鮮度が命なのでネタが思いついたら早めに出したいです。


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プロローグ/Takeover the karma③

すみません、短めです。
ついでに作風も安定してないですが、多分完結するまで安定しない気がします。


 

 

 

 

 

―――――私の先輩は、凄い“人”です。

 

 

 とは言っても、当然ですがサーヴァント並の何かを持っておられるというわけではありません。

 ただ直向きに人理を守ろうとされていて、英霊の皆さん――――そして、カルデアスタッフの皆さんを信頼されている。

 

 まるで負けることなんて疑っていないかのように命を預けて、歯を食いしばって前を見る。

 

 

 

 魔術師としては、きっと落第でしかない。

 根拠のない信頼に身を任せて、一緒に喜んで。そうした“人”らしいところが、きっと『守りたい』と思ってしまうのでしょう。

 

 

 

 

 

「マースター! 次の特異点は海だとお聞きしたの! ……わたしも、ご一緒してはいけないかしら?」

 

 

 

 キラキラと、物理的に輝いているようにも見える笑顔のアビーさんが先輩に提案すると、先輩は嬉しそうに「海水浴かあ、いいね」と頷かれた後ちょっと悩むような素振りを見せました。

 

 

 

「うーん、でも怖い海賊がいるから倒した後でシミュレーターかな」

「……むぅ。もし私にもできることがあれば呼んで下さいな。悪い人たちにも良い夢を見せてさしあげるから!」

 

 

 

「うん、もちろん。でもせっかくなんだから戦わずにみんなで花火とかで遊びたいね」

「……素敵! 私、まだ花火というものはしたことがないの! お栄さんもお誘いしなくっちゃ!」

 

 

 

 パタパタと去っていくアビーさんを笑顔で見送ると、先輩は少し考えながらも行き先を決められたようで。

 

 

 

「オケアノスといえば―――――ネモ!」

 

 

 

 と、声に応えるように不意に現れたのはノーチラス号のキャプテンである“幻霊”を名乗るキャプテン・ネモ。男の子なのか、女の子なのか……傍目には分からないですが、マスターは承知されているのか気安い様子です。

 

 

 

「――――なんだい、マスター。もちろん準備はできてるけど、買い物とノーチラス号の整備を手伝ってって言ったよね?」

 

「マスターさんにも息抜きは必要ですし」

「僕たちと一緒にいこーよ!」

「美味しいパンもご馳走しちゃいますよ」

 

 

 

「……俺、父さんの車の洗車とプラモデル制作くらいしかしたことないけどそれで良ければ」

 

 

 

「まあ、整備は別に軽く見回りにでも付き合ってくれればいいんだけど」

 

「普段のカルデアが閉塞された場所ですから、海風を浴びるだけでも、気分が変わりますよ?」

「そーそー! 潜水艦乗りもたまには外に出なくっちゃ!」

「ご飯も元気の維持に欠かせないよね」

 

 

 

 

 

「ありがとう。ネモの優しさが染み渡る……これがマイ・キャプテン」

「……ちょっ。もう、後でしっかり歓迎させてもらうよ、マイ・マスター」

 

 

 

 

 少し恥ずかしそうなネモキャプテンですが、なんとなく慣れた会話のようにも思えます。……先輩、気がつくと皆さんと打ち解けられてるんですよね。一緒に戦っておられるので当然といえばそうかもしれませんが、少し不思議です。

 

 

 

「――――あ。今度の特異点は敵船(アルゴー)に宝具攻撃するつもりでいてもらってもいい?」

「………はぁ。仕方ない、君がそういうなら僕たちは全力で応えるだけだけど―――流石に、海でも戦えるような大英雄(ヘラクレス)がいたら厳しいよ?」

 

 

 

「おっけー。じゃあ水が得意で大英雄(ヘラクレス)でもなんとかできそうな人に頼んどく」

「うん、そうしてくれると助かるよ。……いや、でもいるの? そんな英霊」

 

 

 

「本気のギルガメッシュと戦いを成立させられるくらいには強い水の女神で毒も使えるハイ・サーヴァントなら」

 

 

 

 

 

「――――あら、呼んだかしら」

 

「ああ、成程。じゃあ、また後でねマスター」

「オッケー。潜水艦の美味しいご飯を期待してる」

 

 

 

 と、やって来られたのはメルトリリスさん。

 ………最近気づいたのですが、その格好はなかなかその。公序良俗に反しているのでは…? しかし先輩は気にされた様子もなく。

 

 

 

「メルト、次の特異点なんだけど海だから、ちょっと海中で宝具をお願いしたいなって。できればサラスヴァティーの方」

 

「……ふぅん。厄介な能力持ちというわけ。私にしか頼めないのなら考えてあげてもいいけど」

 

 

 

「うーん、どうだろう。できそうな人を考えたらメルトが真っ先に浮かんだだけだからさ。ちょっと考えてみる―――――」

 

「いいわ、気が乗ったからやってあげる。最高の跳躍(フェッテ)を見せてあげる」

 

 

 

 

 ……やはり、仲が良いですね。

 良いことだとは思うのですが、先輩のファースト・サーヴァントとしてはちょっと不安というか、これでいいのかなという思いもあったり。

 

 

 

 

「えーと、ネモと突撃して、メルトに撹乱してもらって、後は……止めの一撃?」

 

 

 

 

 いつも悩んだり、どなたかに相談しに行ったり、シミュレーターをしていたり。過労が心配になるくらい精力的に動かれている先輩を、皆さんも心配されています。もちろん、私も。ですが私は、先輩の支えになれているのでしょうか…?

 

 

 

 

「そうだ、マシュ。次はきっと潜水艦か船旅になるだろうし、準備に必要な物とか聞きに行こう!」

「必要なもの、ですか…? えっと、私はデミですがサーヴァントですし、基本的に食料くらいで――――」

 

 

 

「それは違うさ、マシュ。俺たちは人理を救うために戦っているけど――――それはきっと、戦いだけじゃない。人類史の特異点を巡る、その道筋には。人がいて、営みがあって、そこに根付く文化があって。そこにしかない景色がある。きっと人の歴史を知る旅になるから。一緒に楽しんでいこう」

 

 

 

 

 とにかく早くなんとかしようとして、ちょっとバタバタしてたけど。

 そんな風にバツが悪そうに笑う先輩ですが、確かに私の心にもこれまでの旅路が、フランスの長閑な風景や、勇敢に戦う兵士たち。ローマの豪華な建物や、食事。歓迎してくれた人々の顔が残っていました。

 

 

 

「というわけで、餅は餅屋だ。船乗りにおすすめの娯楽を聞いとかないと!」

「はい、先輩!」

 

 

 

 

 なお、ネモさん曰く潜水艦の楽しみは食事くらいしかないとのことでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 第六特異点、キャメロット――――。

 

 

 

 

 

――――――どんな手段を使っても、私は今度こそ。

 

 

 ……今度こそ、我が王を殺すのだ。

 

 

 

 

 荒廃した土地を、ブロンドの髪の騎士が歩く。

 擦り切れたローブは流浪の民のようで、表情にも色濃い疲労がある。それでも、その透き通った瞳は間違いなく目指す道を見据えていた。

 

 

 

 

「――――ベディヴィエール?」

 

 

 

 ふと、名を呼ばれた。

 聞くはずのない声であった。忘れるはずもない声なのに、聞くことを想像できない声であった。

 

 使命を果たせず、どれほど罵倒されようとも後悔しきれぬと思い。

 驚いたように目を見開いて、しかして何気なく声をかけてきた在りし日の王の姿に、ベディヴィエールは思わず我を忘れた。

 

 

 

 

 

 

…………

………

 

 

 

 

 

 

「―――――なるほど、そういうことであれば私は別人ということになりますね。私が貴方を罰するのも、赦すのも、残念ですが筋が通らない」

 

「しかしまあ、よくやるものだ。諦めても誰も責めぬと思うがね」

 

 

 

 そうおっしゃる我が王――――カルデアに召喚された、セイバーであるという我が王は。ひどく懐かしい/いつものように 公正にして実直な意見を述べた。見知らぬ赤い外套の弓兵が皮肉げに言うが、存外その言葉尻には気遣う響きがある。……円卓の中であれやこれやと気を回していたベディヴィエールからすれば、ひどく人が良い青年のように思える。

 

 

 

「アーチャー。貴方らしいとは思いますが――――」

「承知しているとも。君の騎士だ、それはもう頑固なところも君に似ているだろうさ」

 

 

 

「……サー・ベディヴィエールはともかく、私の騎士と一括にされるのは……むぅ」

「ガウェイン卿も(ポテト)への執着が、ランスロット卿とも自罰的なところがよく似ていると思うがね」

 

 

 

「ところでその条件では貴方も当てはまると思いますよ、アーチャー(シロウ)

「……まあ確かに、人間誰しも似たような点はあるということだな」

 

 

 

 

 どこか楽しげに語る我が王に、ふと思う。

 円卓に、果たしてこのように王に気軽に話しかけられる者がいただろうか、と。

 

 王である、騎士である。

 その前に平等であるという円卓の理念を、どこかに忘れてはいなかっただろうか。

 

 と、ここまで空気を読んで黙っていた黒髪の少年が思わずと言った様子で呟く。

 

 

 

 

「これが、王の圧(オーラ)……!」

「マスター…!? なんですか王の圧って。そんなの出していますか!?」

「……食事が遅い時にはな」

 

 

「アーチャー、勝負を所望とあらば受けて立ちます」

「やれやれ、しがない弓兵にそんなものを求めないでほしいがね」

 

 

 

 

 ずっと、私の罪は使命を果たせなかったことだと思っていた。

 だが、本当は――――世界が滅ぶ間際でも、笑顔を忘れない。そんな言ってしまえば能天気な、ちょっとしたものを忘れてしまったことだったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「―――――まさか」

「此処を、通してもらいます。――――サー・ガウェイン」

 

 

 

 

 穏やかな陽光――――世界が滅びる間際とて変わらぬ“不夜”のギフト。

 それに真っ向から対峙するのは。

 

 不可視の鞘に収められた剣、青を基調とした装いに白銀の鎧。

 忘れもしない――――忘れるはずもない。我らが王、騎士王の姿。

 

 

 

 

 騎士たちは――――剣を向けられるはずもない。

 円卓の騎士、敬愛する騎士王。濯げぬ罪を背負い、この手を拭えぬ血に染めて、必ずや成し遂げると誓ったこの身でさえも葛藤があるのだ。どうしてそこらの騎士にできるだろう。それができるとすれば――――。

 

 

 

 

「サー・ランスロット。貴方も“そちら”側ですか」

「……情けないものだが。軽蔑してくれても構わん」

 

 

 

「いえ、貴方が我々の側に立った理由は承知しています、それは不要でしょう。ですが―――――我々はもう二度と、彼の王を裏切らぬと誓った身」

 

「良いでしょう。―――――ならば押し通る」

 

 

 

 最早、隠す意味はなし―――。

 不可視の鞘から解き放たれた黄金の輝きに、騎士たちがどよめく。その、どこまでも尊い輝きにガウェインすらも心が揺れるのを感じ取った。

 

 

 

「ですが、その剣であっても――――いいえ、その剣であるからこそ、あの城門は破れない。仮に私を倒せたにせよ、此処を超えることは」

 

 

「―――――あのー、お話長かったので。ぎゅ~っとしちゃいましたけど。まだかかりそうですか?」

 

 

 

 

 

 我が王が、遠い目をしておられる。

 なんとなくトリスタンが去っていた時のことを思い出し、ガウェインも背後を振り返り。先程までしっかりとあった聖都の門が、綺麗な真四角にくり抜かれているのを見た。

 

 

 それはもう、くっきりと。

 なにかの冗談のようにすっきりはっきり中が見えていた。

 そして、それを成したのは――――。

 

 

 

 

「な、――――――なんと、巨大な」

 

 

 

 

 

 あまりにも巨大な胸部――――――ではなく、爪を持つ、一人の少女。

 幼気な顔と裏腹にあまりにも、あまりにもアンバランスな凶器(バスト)―――!

 

 

 

「くっ、これは――――なんという凶悪な! 未だ嘗て見たことがないほどの…!」

「サー・ガウェイン」

 

 

 

 一応、キャメロットの門を思い出して郷愁に浸っていたはずが、まさかの展開で真顔で剣を止めたアルトリアだったが。

 剣を構え直しはしたものの視線が一点に固定されて戻らないガウェインの懐に飛び込むと、再び装着したその聖剣の風の鞘を開放した。

 

 

 

「―――――風よ、荒れ狂え」

「ぐわぁああああっ!?」

 

 

 

 

 風王鉄槌(ストライクエア)―――――ガウェインは空を舞った。高く、高く。

 空から見ても、やはり絶景であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第六特異点/The winner of Holy Grail War①

長くなったので投稿します…。


 

 

 

 

『――――まずい。非常に不味いぞ。聞いてくれ、藤丸君! 門が破壊されたからか強力なサーヴァントがそちらに向かっている気配がある!』

 

「いや、大丈夫だよドクター。どちらにせよ挟み撃ちは避けないといけないし」

 

 

 

 そう呟いて、吹き飛びながらも空中で体勢を整えるガウェインを見る。

 恐らく、正門の前で固まっていれば裁きの光――――ロンゴミニアドは避けられない。

誰かにガウェインを抑えてもらって突破する“正規ルート”が無難だろう。

 

 と、実は最初の難関である正門の突破を成し遂げたリップが遠慮がちに声をかけてくる。

 

 

 

「藤丸さん。あの……わたし、次はどうしたらいいでしょうか……?」

 

 

 

 

 悪意ある攻撃を通さない、という正門と悪意のない(悪気なくやらかすともいう)パッションリップの相性は良い。

 

 

 

「――――よし、ガウェインは任せる!」

「はい、お任せ下さい!」

 

 

 

 最早、リップの気配遮断は完全に意味はない。

 もともとA+の気配遮断を持つリップは、爪の音さえなんとかしておけばその姿に気づくことは困難だ。もちろん攻撃体勢に入ればその効果は大きく落ちるが―――――わざわざ目立つ聖剣を晒してもらい、アーサー王の姿を見せたのだ。気を引く狙いは十二分に果たしてくれた。

 

 そして、何よりも。

 

 

 

 

「ぐっ―――この、力は…!? 私が押されるとは!」

「潰れて、下さいっ!」

 

 

 

 

 凄まじい異音を立てて、巨大な爪が剣を大きく押し込む。

 日中にて3倍の力を持つガウェインが、全霊の力を込めて押し留めようとし、なお及ばない。

 

 そんなありえないはずの光景に、ロマニが叫ぶ。

 

 

 

『ちょ、ちょっと待ってくれ! “明らかにおかしい”! 筋力のランクで言えば、パッションリップとガウェインはA+とB+、その差は確かに大きい。けど―――それは日中三倍を除いた数値のはずだ! ここまで一方的になるはずがない!』

 

「いや、それは違うんだよロマニ。彼は――――藤丸君は常に徹底して相手の英霊の弱点を突いてきたけれど、いくつか例外がある」

 

 

 

 

 颯爽と、ランスロット卿を引き連れて現れるのはダ・ヴィンチちゃん。

 彼女は油断なく聖都の方を警戒しつつも、いつでも礼装を起動できるよう身構える藤丸と、彼を護るように立つエミヤを見て言った。

 

 

 

「例えばそれは、第一特異点の時。まああの謎のヒロインXはともかくとして、残りの二人は別に竜殺しでもなんでもなかった。第二特異点に至っては英雄王は何の関係もない。第三特異点も、別にキングプロテアである必要は特になかった。第四、第五はそうも言ってられなかったみたいだけれど――――」

 

『つまり?』

 

 

 

 

「―――――まあ、“アレ”も敵さんの専売特許じゃないってことさ」

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

「――――アグラヴェイン様! 正門が突破されました! 至急、獅子王にご報告を! 敵が城下町まで侵攻するのは時間の問題……一刻も早く、陛下に裁きの光を!」

 

「その必要はない。正門を破られたところで、こちらには円卓の騎士どもが残っている。城下町にはトリスタンが、外にはモードレッドの遊撃部隊が。敵軍の勢いは一時的なものだ」

 

 

 

「し、しかし既に遊撃部隊はランスロット卿の離反により……そしてその、未確認ではあるのですが―――――敵の中にアーサー王の姿があった、と」

「―――――馬鹿な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが、聖都……聖槍によって作られたキャメロット」

「とはいえキャメロットであるのならば、私が案内します。――――っ」

 

 

 

 

 粛清騎士――――最早人間ではなく、獅子王の分身ともいえる人外の騎士たちが襲いかかろうとし、セイバーの剣により一撃で斬り伏せられる。

 

 そして、弓を持った粛清騎士は優先的にアーチャーの狙撃により排除されていく。

 

 

 

 

「やれやれ、よくもこう数を集めたものだ――――なっ!」

 

 

 

 普段は割と皮肉げなところのある彼だが、その弓の冴えはまさしく弓兵と呼ぶにふさわしい。あまり弓を握らないことはさておいて。

 

 不意に、聖都を黄金の光が覆う。

 最果ての塔の起動――――急速に特異点が“世界の果て”に近づいているのだ。このままでは狭まってくる世界の果てと、最果ての塔を覆う黄金の光の間で焼け死ぬことになるだろう。そしてそれは、外で戦う騎士も同じはずだった。

 獅子王の槍は、限られたものだけしか――――共に戦った騎士すらも除外した、一部の者たちしか“保存”しない。

 

 

 獅子王の、自らの騎士たちを切り捨てる所業に、セイバーが剣を強く握りしめ。

 

 

 

「―――マシュ!」

「っ、はい!」

 

 

 

 

 不意に、セイバーに襲いかかるのは赤雷。

 それを防いだマシュが、そのまま突進。その陰から飛び出したセイバーと同時にモードレッドに襲いかかり――――モードレッドは直感任せに回避する。

 

 

 

「――――ハッ、まさかここで父上にお会いできるとはな…! まさか、裏切る必要すらなく“父上を超える”機会をくれるとは、お前たちには感謝してやるぜ!」

 

 

 

 次いで、ベディヴィエールが斬りかかるが、モードレッドはギフトの力で再び宝具を発動し――――辛うじて回避したベディヴィエールが叫ぶ。

 

 

 

「くっ、貴方は―――――そのようなことを言っている場合ですか!? 何故騎士たちの指揮も取らず、獅子王の所業を看過するのです!? それでも円卓の騎士ですか!」

 

「テメェに――――父上の最期を看取ったテメェに何が分かる! 騎士なんてものは恒久平和に、獅子王にとって最も不要なものだ! 聖都の礎となって俺達は消える! それが獅子王の円卓だ!」

 

 

 

 モードレッドの赤雷がベディヴィエールを焼き、苦痛に顔を歪めながらもベディヴィエールは剣を離さない。むしろ淡く黄金に輝く腕を奮ってモードレッドの剣を弾くと、自ら剣を押し込む。

 

 

 

「―――――モードレッド、それは、違うのです」

「……んだと」

 

 

 

 

 痛いはずだ。恐怖だってあるだろう。

 ベディヴィエールの事情を知るマシュが強く盾を握りしめるが、この言葉は止めてはならないと、自分の中で“彼”が叫んでいるような気がした。

 

 

 

「それは、円卓ではない。我が王、我らが王の望みは平等なる円卓。それを崩したのは、我々だ。平等であるのだから、意見を出しあわねばならない。私達はいつしか王に仕えることに慣れ、常勝の王と褒め称え、意見を出すことを忘れ――――王としての最適解を、王としての立場から述べた我が王を、『人の心が分からない』と罵った」

 

「……それは、トリスタンの野郎が」

 

 

 

 そう、憧れだった。

 騎士王が――――いつしか己の届かない、尊いものだと思ってしまっていた。平等を謳う円卓にありながら。自分の手助けなど必要としていないと。

 

 

 

「私達が、何をできた。あの場で、何の意見を言った? 反対すらできなかった。意見も出せず、形骸化した円卓の前で、どうして円卓の騎士にふさわしいと名乗れる? 誤りを知りながら意見も述べられない貴方(私達)は最早獅子王(アーサー王)の“円卓の騎士”などではない」

 

「――――だから、何だ。あの人は、俺を認めてはくれなかった! だから―――!」

 

 

 

 

 激昂するモードレッドに、どこか疲れたような声が届く。

 

 

 

「私は、王になるべきではなかった」

「……は」

 

 

 

 

 常勝の王、騎士の王。

 あの時代の誰もが夢見た輝ける星――――黄金の剣を地面に突き立て、獅子王の槍、最果ての塔を見遣るアルトリアは言った。

 

 

 

「そのように、考えていました。それでも私は、王になるべきと育てられながらも、穏やかな生活を知っていた。人々の笑顔を知っていた。故に、王であったことに後悔はなかった。しかし――――それが最適だったとも思えなかった」

 

「何、を――――」

 

 

 

 

「『この剣を引き抜けば、君は人でなくなる』―――あの日、選定の剣を引き抜いた時にマーリンに言われた言葉です。王とは、人ではない。国に尽くす機構と言うべきものだ。憧れでなるべきものなどではない。ましてや、魔女の差し金でなど。……認められなかった、というのが何を指すのかは知りませんが―――――貴方も、無論ベディヴィエールも、私にとって無二の円卓の騎士ですとも」

 

 

 

 円卓の騎士に任命したのは――――最も信頼する部下として遇したのは、間違いのない事実だと。

 

 それで不満であれば、忌憚なく申すように――――そんなことをのたまったアルトリアは、ちらりと赤い弓兵の方を見て言った。

 

 

 

「頑固な(マスター)に意見を通すべく言を尽くすのも、間違いなく騎士の仕事ですから」

 

 

 

 

 

――――笑顔でそう呟いて、地面に突き立てた聖剣を引き抜き、掲げる。

 

 

 

 陽光がそれを祝福するように煌めき――――聖槍とはまた異なる黄金の光が、その剣に集う。

 

 

 

 

「構えなさい、サー・モードレッド」

「父、上―――――」

 

 

 

「獅子王の円卓であるというのなら、その使命を果たすが良い。獅子王()であるのなら、そう望むでしょう」

「ちち、うぇええええッ!」

 

 

 

「多くの人が、笑っていました。それだけで私が王であった価値はあったのだと、このキャメロットに。獅子王(わたし)に示しましょう。例え、それが永遠ならざるとしても――――約束された(エクス)――――勝利の剣(カリバー)ァァァッ!

 

我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)ァァッッ!

 

 

 

 

 

『こ、この数値は――――まさか!』

 

 

 

 

 

 

 アーサー王を殺す、殺すだけの力を持つはずの伝承を持つ赤雷を黄金の輝きが飲み干し。

 

 黄金の斬撃が、最果ての塔の外装を打ち破る。

 本来であれば、オジマンディアスが己の霊基を半壊させてようやく破壊を成し遂げる、対粛清と言っていい効果を持つ最果ての塔を。

 

 

 

 

 

『―――――その出力、それが本当に通常霊基のサーヴァントの宝具なのか!?』

 

 

 

 

 残心。

 振り切った姿勢のまま、最果ての塔を見据えるセイバーが不意に剣を構え直す。

 

 

 

 

 

「マスター!」

「させるか!」

 

「―――――私は悲しい」

 

 

 

 アーチャーが目にも留まらぬ速さで放った矢が、目に見えぬ攻撃に当たって互いに弾かれる。が、それに構うことなく塔の上に立つその男――――円卓の騎士トリスタンは、手にしたフェイルノートを掻き鳴らす。

 

 

 

「このような場所で我が王と相まみえ。そして、かつての我が言葉を聞こうとは」

 

「魔力を回す――――エミヤ、頼む!」

I am the bone of my sword…―――――喰らいつけ、赤原猟犬(フルンディング)

 

 

 

 

 エミヤの放った矢がトリスタンに弾かれ。

 しかし、失速しかけたはずの矢は急速に向きを変えて再びトリスタンに向けて飛来する。まさしく、獰猛な猟犬そのものの動き。十分な魔力チャージができなかったためにトリスタンでも防げる威力ではあるが、防ぐ必要があるのは間違いない。

 

 

 

 

「マシュ、マスターは頼みます!」

「はい!」

 

 

 

 セイバーがエミヤに飛来する“矢”を斬り捨て。

 トリスタンが赤原猟犬を集中攻撃で破壊する間にエミヤが膨大な魔力とともに詠唱を進める。

 

 

 

 

Steel is my body, and fire is my blood(血潮は鉄で 心は硝子).

 

I have created over a thousand blades(幾たびの戦場を越えて不敗).

 

Unknown to Death(ただの一度も敗走はなく).

 

Nor known to Life(ただの一度も理解されない).」

 

 

 

 

「くっ、――――ならば!」

 

 

 

 トリスタンもその危険性を察知したのか、エミヤに攻撃を集中させるが――――セイバーに加えて、ベディヴィエールもカバーに入ったことで通常の“矢”では全く通らず。ならばと力を溜めた矢を放とうとするトリスタンだが。狙いすましたように藤丸が礼装を起動する。

 

 

 

「―――――ガンド!」

 

 

 

「ぐっ――――!? 邪魔を―――――」

 

 

 

 

 

Have withstood pain to create many weapons(彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う).

 

Yet, those hands will never hold anything(故に、生涯に意味はなく)

 

So as I pray(その体は), UNLIMITED BLADE WORKS(きっと剣で出来ていた).

 

 

 

 

 

 

 聖都の景色が切り替わる。

 太陽の騎士のギフトである晴天から、赤い空へ。

 

 キャメロットを再現した聖都から、無数の剣が突き立つ丘へ。

 

 

 

 

 固有結界――――そこに在るのは。

 

 

 

 

 

「――――私は悲しい。よもや、貴方のような無名の英霊が、ただ一人で私を相手取れるとでも? ……いえ、そもそも時間を稼ぐことすらさせはしません」

 

 

 

 

―――――ポロロン。

 

 

 

 たった二人。

 トリスタンと、赤い外套の弓兵のみ。

 

 先程までいた王も、盾の少女も、ベディヴィエールも、マスターさえいない。

 

 

 

 

 英霊たちの中でも大英雄に追随する実力を持つ円卓の騎士。それを、わざわざ援護もなくたった一人で迎え撃つ。捨て駒の、時間稼ぎの役割だ。

 しかしそうでもしなければ獅子王を倒す前に世界の果てが到達する。

 

 必要な役割である。実際、トリスタンは先程の状態でも時間稼ぎに徹すれば負けはないと判断していた。セイバー二人に、シールダー一人。近接戦闘しかできない相手であれば、警戒すべきは弓兵一人。そして、弓兵との一対一の勝負で負けることなど円卓の騎士の矜持が許さない。

 

 

 だから、あのマスターはこの弓兵を時間稼ぎの捨て駒にしたのだろうとトリスタンは推測した。

 

 

 

 

 

「さて、どうだろうな。我がマスターがご所望とあらば、幾らでも時を稼いで見せるが――――あいにくと、此度のマスターもそれほど甘くはなくてね」

 

『―――――エミヤ。あいつは、頼む』

 

 

 

 

 

 襲われた村、殺された無辜の民。

 世界を救うと、善なるものを救うという題目で理不尽に奪われた命。

 

 どうしても許せず、己自身を抹殺してでも止めたかったそれを―――――“反転”などという事情があれど、喜んで行う外道がいるのなら。

 

 

 

 

『時間稼ぎなんかじゃない。全力で、ブチのめしてくれ』

 

「―――――倒してしまっても、構わんのだそうだ!」

 

 

 

 

 一人でに、剣の丘に突き立った無数の武具――――英雄王の宝物庫にすらありそうな宝具から、名も知れぬ魔剣まで。それらが一斉にトリスタンに殺到する。

 

 全方位に“矢”を放ってそれらを相殺しようとしたトリスタンだが、<王の財宝>にも劣らぬ一斉掃射は通常の矢で防ぎきれるものではない。

 それらを防ぐことができるとすれば、究極の“一”のみ。

 

 

 

 アーサー王やクー・フーリン、あるいはランスロットのような、武勇で名を馳せた英雄たちの中でも更に一部。言うなればトップ・サーヴァントと呼べるような者たちか、あるいは相性が良い者たちだろう。

 

 そして、見えぬ“矢”という少々特殊なトリスタンの性質はむしろ、この剣という質量の豪雨に対してあまりにも脆弱であり、“狭い”攻撃であった。

 

 

 

 

我が錬鉄は崩れ、歪む―――! 偽・螺旋剣(カラドボルグ)

「くッ――――痛みを唄い、嘆きを奏でる――――! 痛哭の幻奏(フェイルノート)!」

 

 

 

 

 壊れた幻想――――ランクにしてAの偽・螺旋剣(カラドボルグ)Ⅱが炸裂し。A+相当の痛哭の幻奏(フェイルノート)と殆ど相殺して消滅する。

 そのすさまじい爆発の中―――――トリスタンが見たのは、黄金の輝きだった。

 

 

 

 

「―――――馬鹿な。その剣は――――」

此れは、永久に届かぬ王の剣―――――永久に遥か黄金の剣(エクスカリバーイマージュ)

 

 

 

 

 およそ、通常の霊基で投影することなど不可能なはずの星の聖剣――――再度の宝具開放で相殺しようとして果たせず、黄金の輝きに呑まれたトリスタンが感じたのは、ただひたすらに憧れを追い求めた男の想い。

 そして、それを支えているのは――――。

 

 

 

 

 

「ああ、そうか―――――憧れ、仰ぎ見るばかりであった我々では―――――我が王を救えぬのは、道理でしたね―――――」

 

「……私も、救うなどという大層なことはできていないがね」

 

 

 

 

「しかし、まさか――――――世界を救おうというものがソレを持つとは、皮肉なものです。いえ、だからこそ……でしょう…か」

 

「……ふん。それだけ“見えて”いながらそのザマとはな。さらばだ、誤った理想を抱いて溺死しろ」

 

 

 

 

 消滅するトリスタンを見やり、赤い外套を翻してエミヤは背を向けた。言葉とは裏腹にどこか悲しげなその姿に、トリスタンはギフトが失われ悲しみに落ちる心のまま願った。

 

 

 

 

(どうやら、またも私は誤ったようですが―――――)

 

 

 

 

 悪くはない。

 あの、どこにも希望が見出だせなかったブリテンとは違う。どこまでも正しく、押しつぶされそうになっても王たらんとした主を追いかけ、理想に手を届かせた者がいる。

 

 たとえソレが運や、悪運によるものであれ。 

 彼が、我が王とともに世界を救うのであれば。

 

 

 

 

(―――――いえ、私もその光景を……知っている?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第六特異点/The winner of Holy Grail War②

すみません、遅れました。


 

 

 

 

「―――――答えよ」

 

 

 

 

 獅子王の座す、玉座の間。

 そこに在るのはアーサー王、アルトリアの醸し出すような清廉な雰囲気とよく似ているようでいて、全く似つかないもの。

 

 清い水に魚が住めないように、極限まで洗練された女神の威風は、矮小な人間の呼吸すら許さない。

 

 

 

 

「―――――答えよ。おまえたちは何者か。

 何をもって我が城に。何をもって我が前にその身を晒すものか」

 

 

「ならば答えましょう―――――我が名はウーサー・ペンドラゴンの子にしてブリテンの王、円卓の騎士アルトリア・ペンドラゴン。――――その目的は人理焼却を防ぐ一振りの剣として、円卓の一員として、貴公の過ちを糺すために在る」

 

 

 

 

「――――…円卓の、騎士。成程、円卓には確かにアーサー王がいた。円卓は平等であった。ならば、他の騎士たちと同様に――――命を賭して、私を止めてみよ」

 

 

 

 

 

 

―――――瞬間、その手には黄金の塔が――――否、槍が握られていた。

 

 

 

 

「見るがいい。これが最果ての波。世界の表面を剝いだ、この惑星の真の姿だ」

 

 

 

 

 世界の果て――――地表というテクスチャを剥がしたそれは、酷く厳しい。空気が、光が、風が。如何に世界というものが人間に甘くできていたかを理解させられる。

 通常の人間では生存さえ許されず、カルデアの魔術礼装を装備していてようやく踏みとどまれるかどうかというところ。英霊であっても、この嵐の中で戦闘を行うのはかなりの消耗を強いられるだろう。

 

 

 

 だが――――それに立ち向かう者たちへの標のように、その剣が突き立てられる。風に遮られ、見えないはずであるのに。確かな存在感を以てそこに在る。

 

 

 

 

「では、私も問おう――――獅子王を名乗る者よ。貴公の目的は。なぜこのような蛮行を成し――――その果てで、何を成そうというのか」

 

「……私が世界を閉じるのは、人間を残す為だ。我らは人間によって生み出されたもの。神は人間なくして存在できない。故に残す。何を犠牲にしても護る。

 ――――これは私の意思だ。魔術王が自由(すき)にするのなら、私も自由(すき)にすると決めた」

 

 

 

 

「だが、それでは私の問いに答えていない。この蛮行の意味――――貴公が守るべきと考える“人”とは。この最果ての塔で、一体何が残せるというのだ」

 

「私は人間に永遠を与えると決めた。後世に残すに相応しい魂たち。悪を成さず、悪に触れても悪を知らず、善に飽きることなく、また善の自覚なきものたち。この清き魂を集め、固定し、資料とする。この先、どれほどの時間が積まれようと永遠に変わらぬ価値として我が槍に収める。全ては人のためでもある―――――それの、何が間違っている?」

 

 

 

 

 息を吐く音が聞こえた気がした。

 酷く小さく見える背中で、騎士王は剣を手に掴む。

 

 約束された勝利の剣――――幾度もの戦いの全てに勝利し、しかしてブリテンの勝利までもは誓ってはくれなかったその剣。

 

 

 

 

「では、最後に一つ問いましょう――――何故、私が剣を取ったのか覚えていますか?」

「無論。――――全て、人のためだとも」

 

 

 

 

 無感動に告げるその獅子王――――女神ロンゴミニアドとでも言うべき存在に対して、騎士王は、アルトリア・ペンドラゴンはあまりに小さい。

 

 このロンゴミニアドは、召喚されたサーヴァントではない。

 カルデアの、そして他の聖杯戦争で召喚されるサーヴァントのように制限された霊基ではなく、女神としてこの修正力も及ばぬ世界の果てに立っている。

 

 

 

 

「すみません、マスター。人理のため、一振りの剣であると誓った身ですが―――――」

 

 

 

 

 故にこその、葛藤があった。

 誰かの過ちではない。誤った道を進んだ先の自分という言うべき存在。何としても止めたい気持ちがあり、人任せにしたくはない。が、万全を期すのならば複数で当たるべきもので。それを共になすに不足のない相手だと、ベディヴィエールとマシュは信頼できるとわかっていてなお。

 

 常に自分を律しているが故に、自分自身で決着を付けたいと願ってしまう。

 

 

 

 

「いや、構わない――――全力でぶっとばせ!」

 

「……貴方に感謝を」

 

 

 

 

 軽やかな音を立てて、聖剣が引き抜かれる。

 風王結界が解かれ、黄金の剣――――人の希望を束ねた聖剣が顕になる。

 

 

 

 

「その、剣……――――エクスカリバーか。だが、最果ての塔たるこの槍に、英霊(サーヴァント)の身でしかないその剣がどこまで食い下がれる?」

「吠えたな、獅子王。確かにこの身はカルデアの剣だが――――私は、それが制限であるなどと思ってはいない」

 

 

 

 

 

 風を纏う。魔力放出が最果ての暴威を振り払うように渦巻く。

 それはさながら、暴風の前に煽られる小さな篝火のようでありながら――――空に輝く、一筋の星のようで。

 

 

 

 

「往くぞ、獅子王。――――この剣の重さこそ、騎士王の円卓の重さと知れ」

「来るがいい、騎士王。――――我が槍の暴威を以て、その剣を打ち破ろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 なぜだ。何故、倒れぬ。

 世界の果てと化したロンゴミニアドは、ヴォーティガンにも勝る暴威である。すでに女神と化したこの身が振るう槍には拘束もなく、例え生前の、万全な状態の聖剣であったとしてようやく打ち合えるレベルのはず。

 

 それを、ただの一サーヴァントでしかないアルトリア・ペンドラゴンが防げる道理など、あるはずもないというのに。

 

 

 

 一合、二合。

 触れれば並の英霊は蒸発するだろう最果ての槍を、黄金の剣が受け流す。小さなダメージは通れども、戦いは膠着している。何故、膠着状態を作り出せる? 私が女神となって変わった何かか、それとも聖剣の力か。

 

 アーサー王のことが分からないはずがない、と僅かに揺れる心に目を背けるように考えれども答えは出ず。

 

 

 

「何故だ――――何故倒れぬ。その力の源はなんだ!?」

「さあどうかな。聖剣か、直感か。あるいはサーヴァントになって手に入れたスキルということもあるかもしれんぞ、獅子王?」

 

 

 

「くっ、戯言を――――! 聖槍よ、荒れ狂え!」

 

 

 

 風王鉄槌にも似た、圧倒的なまでの魔力の奔流。

 宝具にも匹敵するその一撃であれば、出方を見るとともに見極めができるのではという皮算用があり。

 

 

 

 故に、風を切り裂くように真正面から突破する黄金の輝きに、わずかに目を見開いた。

 

 

 

 

「馬鹿な、それほどの威力など」

「―――――共に戦う者は、勇者でなければならない」

 

 

 

 生前の聖剣であっても、できたかどうか――――。

 思わず想像し、わずかに走る頭痛に顔を顰める。何だ。私は、何を――――。

 

 

 

 

「―――――是は、生きるための戦いである」

「何故だ。サーヴァントである(おまえ)が、それほどの――――生前の……? いや、貴様――――霊基を、宝具を補強している…!?」

 

『――――そうか、そういうことか! 複数回、同じ霊基を召喚したことによる宝具の概念強化! 宝具レベル強化であの約束された勝利の剣(エクスカリバー)は強化されているのか! けど、それじゃあ―――――』

 

 

 

 

 ロマニ・アーキマンの叫びが耳朶を打つ。

 そう、確かに同じ霊基を重ねれば、そんな同じサーヴァントを何度も呼び出すような奇跡が起こったのならば、あるいは生前の威力に迫るかもしれない。だが――――。

 

 

 

 

「―――――是は、一対一の戦いである」

「そう、並の強化じゃ生前の力には遠く及ばない。だからそうさ、あの騎士王の聖剣は、5つの霊基を束ねて強化されている! それこそ、生前に匹敵するほどに!」

 

 

 

 

 

 馬鹿な。

 そう一蹴したくなるような話だ。

 

 カルデアに、よもや人類史全ての英霊が集っているわけでもない。

 騎士王が、それほど呼ばれやすい英霊というわけでも、特別な縁があるわけでもないだろう。それを、繰り返すこと五度?

 

 

 

 

「―――――是は、人道に背かぬ戦いである」

「だが――――それでようやく、私と同じ土俵に立てるというだけのこと」

 

 

 

 

 いいだろう、認めよう。

 生前の聖剣と同等の力を開放した霊基――――それだけの旅が、戦いが、縁があったのだろう。だが、そうなれば聖剣と聖槍の全力でのぶつかり合いというだけのこと。

 

 生前に匹敵する宝具を持つサーヴァントと、サーヴァントではない女神。どちらが勝つかなど決着は火を見るより明らかで――――。

 

 

 

「――――――是は、真実のための戦いである」

「……何故、そんな目ができる」

 

 

 

 

 このまま行けば、残る聖剣の拘束を開放したとて聖槍には敵うまい。

 第一、呑気に開放を待つ道理はないはずだ。あの聖剣は拘束を開放することで本来の威力を出す。開放せずとも十分な威力はあるが、それを全て開放して振るうことなど一度あるかないかだろう。――――ともかく、さっさとこちらが真名開放してしまえばいい。そうすれば、不完全な聖剣になど負ける道理はないのだから。

 

 

 

 

「―――――是は、精霊との戦いではない」

 

 

 

 

 

――――――だが。どうしてだろうか。

 

 何故か、“円卓の騎士の承認により”開放される拘束が、酷く胸を抉っていく。

 

 

 

 

「――――――是は、私欲なき戦いである」

 

 

 

 

 円卓の騎士に反旗を翻されようと、人間を存続させると。

 そして、その忠義を褒め称えると決めたはずなのに。

 

 

 獅子王の円卓のため切り捨てた騎士たちの顔が。

 獅子王の円卓として、切り捨てられようとも忠義を尽くそうとする騎士たちの顔が。

 

 そして、この戦いを見守る見知らぬ/見知った 騎士の顔が、脳裏を過る。

 

 

 

 

 

「―――――是は、人理を救う戦いである」

 

 

 

 

 開放された拘束は、13あるうちの9。

 過半数を超え、全てには届かない。

 

 あるいは、全て開放されれば最果ての槍さえも――――そう思わされるだけに、女神ロンゴミニアドは勝ち誇って/わずかに残念そうに 言った。

 

 

 

 

「――――残念だが、それが人の身でしかない(アーサー王)の限界だ」

 

 

 

 

 例え宝具が互角であっても、扱う者の出力が違う。

 生前のアルトリアが竜の心臓とも呼べる生ける魔力炉心であったように、女神ロンゴミニアドも莫大な魔力を生成し、扱うだけの力がある。

 

 

 

 

「聖槍、抜錨―――――其は天を裂き地を繋ぐ嵐の錨―――――最果てより光を放て」

「聖剣、開放―――――我が剣は星の希望、地を照らす命の灯り――――受けるがいい!」

 

 

 

 

 

「ロンゴ、ミニアド―――――ッ!」

「エクス、カリバァァァ―――ッ!」

 

 

 

 

 天を貫く光――――宝具の真名開放により天から地を貫く最果ての塔として宙を駆ける女神ロンゴミニアドは、想像を遥かに超え放たれる黄金の斬撃、星の聖剣に瞠目した。

 

 

 

 

(馬鹿な――――この力は―――――生前すらも超えている……?)

 

 

 

 宝具だけでは説明ができない、莫大な魔力。

 あるいは、星の聖剣(エクスカリバー)の限界を超えてなお注ぎ込まれている魔力は、カルデアがアルトリアの竜の炉心を再現できたとしてもなお足りない。

 

 

 

 

(何故――――)

『さあどうかな。聖剣か、直感か。あるいはサーヴァントになって手に入れたスキルということもあるかもしれんぞ、獅子王?』

 

 

 

 先程の問答を思い出す。

 聖剣は確かに生前に等しいだけの力があるだろう。

 直感は宝具の打ち合いそのものには寄与しない。

 

 

 

『確かにこの身はカルデアの剣だが――――私は、それが制限であるなどと思ってはいない』

 

 

 

 

(何故、サーヴァントである身で制限がないなどと言える? カルデアの……まさか!?)

 

 

 

 

 カルデアとは、何をする組織か。

 人理を修復する組織だ。

 

 では、どうやって人理を修復するか?

 それは、魔術王の“聖杯”を回収することにある。

 

 

 

 

 

「――――貴様、その力……聖杯によるものか!」

「ええ。聖杯(ギフト)は貴方方の専売特許ではない」

 

 

 

 

「小癪な――――だが、借り物の魔力で最果てに抗おうなど!」

 

 

 

 最早、後先を考えている余裕もない。

 聖杯すら用いて魔力を補填するのであれば、最大出力を以て凌駕するしかない。

 

 女神としての力の全てを槍に注ぎ込み、黄金の輝きを押し込まんとする。

 

 

 

 

 

 

「借り物なんかじゃない。――――俺達カルデアが、仲間たちが。戦ってきた結晶だ」

 

 

 

 

 ジリジリと、最果ての槍に押し込まれる騎士王を支えるように。その背後にカルデアのマスターが、盾の乙女が、円卓の騎士ベディヴィエールが立つ。

 

 

 

 

「確かに、魔力リソースとして使ってしまえば数で数えるようなものでしかない。けど、これまで越えてきた旅路を、出会った仲間を、過ごした日々を思い出せば、それは勝ち取った勲章なんだ」

 

 

 

 

「…――――決着を付けましょう」

 

 

 

 

 瞬間、黄金の斬撃が一層の輝きを増す。

 特異点で主になれるだけの力を持つ聖杯――――ひとつでそれだけのことができる願望器。

 

 

 

『こ、この反応―――――まさか、聖杯を使った数って――――!』

「だってダ・ヴィンチちゃんが聖杯は5個で聖杯転臨の限界って言うから」

「いや、まさか5個までって言ったけど本当に5個使うとはね!」

 

 

 

 

 

「……馬鹿な」

「――――すみません、まさか待ってくれるとは思わず」

 

 

 

 拘束外す前に撃ってきても勝つつもりだったよ、と言外に告げられ。

 聖杯拳5倍だ、と謎の台詞を告げるカルデアマスターと、若干目を背けた騎士王の剣に、獅子王は沈んだ。

 

 何故『己よりも強大な敵との戦いである』という拘束が開放されなかったのかわかってしまった――――と、そこでふとその条件を設けた騎士を思い出した。

 

 

 

 

 

 聖剣の輝きを受け、瀕死になろうと消滅できない――――不死故にまだ倒れない獅子王に歩み寄るのは、ベディヴィエール。贖罪を果たそうと近づく彼を見た獅子王の脳裏に、他の円卓の面々の顔が思い浮かぶ。それは決して不快ではなく、どちらかと言えば心地よいものであったが――。

 

 

 

 

「……我が王、申し訳ありません――――私は……」

「いや、いい。……サー・ベディヴィエール。貴卿こそ……貴卿こそが円卓の良心だ」

 

 

「我が王――――」

「胸を張るがいい。貴卿は、間違いなく王の最後の命を果たした」

 

 

 

 

 消滅したベディヴィエールの代わりに前へ歩み出るのは、騎士王。5つの聖杯により霊基を限界まで強化したその自分に、獅子王は呆れたような目を向ける。

 

 

 

「獅子王」

「なるほど確かに、他の時代を修復して回っていれば聖杯を所持しているのは道理です。私がこの時代の人間のみを保存しようとしたが故の敗北を認めましょう」

 

 

 

 

―――――ですが、剣の腕は別です。

 

 

 

 ベディヴィエール卿に返還された聖剣を構えると、それを予測していたのか騎士王もまた剣を構える。

 

 

 鏡写しのような、姉妹のような。

 

 

 

 

『獅子王……とんでもない負けず嫌いだ!』

 

 

 

 

 ロマニ・アーキマンの叫びに応じることもなく、マスターも信頼故か特に何か言うこともなく。円卓であれば割と見慣れた円卓の騎士同士の意地の張り合い――――それを、王という立場故に興じることのなかった騎士王が、獅子王になって剣を交わす。それも相手は騎士王で。

 

 ちょっと頭が痛くなってきたマシュに、アルトリアが声をかける。

 

 

 

「普段は他の円卓の騎士に審判を頼むところですが――――」

「マシュ・キリエライト。貴女ならば不足あるまい」

 

 

 

「……すみません、マシュ。お願いできますか」

「既にこの特異点は修復される。そこの騎士王に気を遣う必要はありません」

 

 

「え? で、ですが――――」

 

 

「ほう、剣で私に敵うと―――?」

「ほう、よもや私の剣の腕が鈍るとでも―――――?」

 

 

 

 バチバチと二人の騎士王が火花を散らしだしたところで、駆け込んできたのはトリスタンを退けてきたのだろうエミヤ。

 

 

 

「……いや、急いで来てみればどういう状況なんだこれは」

 

 

 

「アーチャー。貴方でも構いません、すぐに審判を」

「そこの赤い外套の騎士、審判を」

 

 

 

「なんでさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次:落ち着いたら

勢いだけが取り柄だったのに遅れて申し訳ありません。
なんとか完結だけはしたいので、遅れた分のクオリティアップとかもできていませんが投稿させていただきました。

皆様が健康に年末を過ごせますことを心よりお祈り申し上げます。今年もありがとうございました。


ボックスイベント走りつつ書くとか器用なことができたら年内もあるかもですが。



NG集




「―――――答えよ。おまえたちは何者か。
 何をもって我が城に。何をもって我が前にその身を晒すものか」


「ならば答えましょう―――――我が名はウーサー・ペンドラゴンの子にしてブリテンの王、円卓の騎士アルトリア・ペンドラゴン。――――その目的は人理焼却を防ぐ一振りの剣として、円卓の一員として、貴公の過ちを糺すために在る」



「蹂躙してやろう」

「そして私はスイミングに参りました!」

「私は可愛いメイドさんだ」

「光と闇が交わりセイバーに見える…。セイバー死すべし!」

「異邦の国、時の終わり。なれど最後の剣は彼の手に――――真円集う約束の星!」

「もぐもぐ……私、もう帰ってもいいですか?」

「バニーの力を見せましょう」

「フォーリナー!」




「………多くありませんか?」
「ええと、カルデアにはアルトリア・ペンドラゴンが沢山……あとフォウ君も」


「沢山……いえ、まあ私が言えたことではありませんが剣の英霊としての適正しかなかったはずでは…」
「フォウフォウ……キュウ」



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第七特異点/Absolutely killer of demonic front①

 



今年はもう投稿しないと言いましたが……やめました。

感想をッ! 一杯くれましたねェェェェッ!


喰らえィ、絶対魔獣戦線バビロニア!


(訳:投稿が遅れたにも関わらず沢山の温かな感想をありがとうございます。よく考えたら2ヶ月ぶりの2連休があり、頂いた感想のお陰でやる気がみなぎっていたので投稿させていただきました。ありがとうございます)


 

 

 

「―――――馬鹿な。一体何が起こっている」

 

 

 

 緑の髪、白い衣。新たな人の仔を名乗るキングゥは、人理焼却を阻止するべく派遣されるカルデアのマスターを抹殺するため、おそらくはウルクの結界に弾かれたのだろう反応から、大凡の場所の目安をつけて移動し―――――それを見た。

 

 

 

 骸があった。

 神代の民、ウルクの民、英雄王の叡智、召喚された英霊たち。全てを結集してなお勝利しきることのできぬ圧倒的なまでのティアマト神(魔獣たち)の物量。

 それが、無造作に屍の山を晒している。

 

 

 

 ニップル市が陥落するまで、あと一月――――ゴルゴーン()はそう言って大地を埋め尽くすほどの魔獣をけしかけていた。

 それを辛うじて支えていたのがウルクの、シュメルの民であり、ギルガメッシュ王の知慧であり、召喚された英霊たちであった。

 

 

 

 

―――――だが、なんだ。この有様は。

 

 

 

 なるほど英霊であれば戦局を覆すこともあるだろう。

 僅か100の手勢で万の軍勢を押し止めることさえ叶うかもしれない。

 

 

 

 けれど、それはあくまで人間同士の話だ。

 魔獣の強さは人間など優に飛び越える。物量で、性能で、継戦能力で、全てにおいて魔獣が人間に優越している。

 

 例え万の戦士を集めたとて、大地を埋め尽くす魔獣を殺し尽くせるか? 不可能だ。

 だがその常識を、如何なる手段かによってカルデアは覆した。

 

 

 

 

「――――何を。一体何をした、カルデア…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 大地を埋め尽くすほどの魔獣――――。

 巨大な城壁と、そこで決死の防衛戦を続ける(つわもの)たち。

 

 そこに踏み込むのは、一人の巨漢だ。

 鍛え抜かれた肉体、圧倒的なまでの魔獣の数にも動じることのない精神。紛れもない英雄。

 

 

 

 

 

「先程の魔獣ですが、数が異常です! 目視できる範囲でも数千頭……!」

『いや、それだけじゃない。北部にはその数十倍の魔力反応がある。

 ――――信じられない。なんて事だ。こんなの、人類が生き残っているはずがない! 先程の魔獣の戦闘力は自立型の小型戦車に相当した! それが1万頭だ! あんな城壁1つで防げるものか!』

 

 

 

 実際、驚異的なことにそれをウルクの人々は防いでいる。

 だがそれが大きな負担であることはやってきたばかり、遠目に見ただけでも明らかだ。

 

 

 

「……行けるよね」

「―――――おう、任せときな!」

 

 

 

 

 それは、棍棒と弩を携えただけの男。

 なるほどその姿たるや見るものが見れば、否。どんな人間であろうと、あるいは女神であって唸らざるを得ないほどの偉丈夫。――――だが、それだけだ。そのはずだった。

 

 如何な戦士であろうと、軍勢であろうと殺し尽くすことは叶わぬ魔獣の群れ。―――――だが、此処に例外が存在する。魔獣の海とでもいうべき軍勢に向かって歩を進めながらも、その歩みに一切の淀みはない。

 

 

 

 

「我が宿命、月女神に(こいねが)う―――――肉体に剛力を、精神に冷徹を。そして我が運命を此処に定めよう! 月女神の無垢な愛(アルテミス・アグノス)!」

 

 

 

 その宝具こそは月女神の愛、一人の力を軍勢のそれにまで押し上げるほどの重いそれは、常人であればパーンと弾け飛ぶほどの強烈な加護。

 そして、もう一つの宝具こそは彼の象徴。

 

 

 

 

「―――――我が矢の届かぬ獣はあらじ(オリオン・オルコス)!」

 

 

 

 

 あらゆる魔獣を、彼の手の届くものに貶める。

 彼こそが最高の狩人である証。魔性・魔獣の防御を無効化する効果があり、冠位として喚ばれれば無限に増殖する魔獣相手にさえ対応し、射程内であれば殺し続けるというその宝具――――その射程距離はかの二国の争いを収めた偉大なる弓使い、アーラシュの全身全霊の一矢、2500km届くステラさえも超える。

 

 一つ一つが流星とでも言うべき凄まじい矢が、それこそ豪雨の如く降り注ぐ。

 

 

 

 

「そらそらっ! ……めっちゃ多いな!?」

 

 

 

 

 目にも留まらぬ速さで放たれる矢は、防御を無効化された魔獣たちを消しゴムで落書きを消していくように消滅させていくが―――――あまりにも数が多すぎる。如何に宝具の効果で当たれば必殺、どこに撃っても当たるというあんまりな殺戮が可能とはいえ、それをやるのは超人オリオン自身なわけで。

 

 端的に言うと、殺し尽くせるけどめっちゃ辛い。

 

 

 

「うおおおおおおっ、マスター! ごめんやばいこれ腕の筋肉が死ぬぅ!」

 

 

 

「くっ、さすがのオリオンでも無理なのか………これが成功すればウルクの女の子たちにモテモテだろうに…っ

 

「―――――え、なんだって?」

 

 

 

 

 

「滅びに抗う都市……颯爽と現れる一人の狩人……魔獣を狩り尽くした英雄……カッコよくないの?」

「―――――くっそ、カッコいいよなぁ! うおおおおぉぉ、待ってろウルクの女の子たち!」

 

 

 

 

 

 

――――――ウルクのかわいい女の子のため、魔獣は日が暮れる前に掃討された。

 

 

 

 ただ、流石に一人ではきつすぎたのでバフも使ったのだが。

 

 

 

 

 

「よし、やれBB!」

「ターイムストーップ!」

 

 

 

 

 

「うおおおメッチャ動けるううううう!?」

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「―――――ククク、ハハハ、フハハハハ! 阿呆か貴様らは! よもや、あの魔獣どもを一時的にとはいえ全滅させるとは! 我の仕事が減り、久方ぶりの快眠を取れた事褒めてやろう! だがその理由が……カッコいいところを見せてモテたかっただと! あまりに愉快故手打ちするところであったが―――――シドゥリ!」

 

「はい、王よ。こちらに」

 

 

 

「そこな男たちの英雄譚をウルクに流せ。女を宛がうことはせぬが、モテる分には止めはせん。そしてウルクを挙げての宴を催す――――酒蔵の鍵を開けよ! 士気高揚のためだ、ケチるなよシドゥリ!」

「畏まりました」

 

 

 

「うっひょー! やったぁ! ウルク美女たちにモテモテぇ! マスターも行こうぜぇ!」

「え、俺も?」

「先輩!? 待って下さい、オリオンさん!」

 

 

 

 

『え、ちょっと待って藤丸君!? 司令室にサーヴァントが乗り込んで――――』

 

『この霊基の私は嫉妬深いと言ったわよね、マスター』

『安珍様……どこへ行かれるのですか…?』

『ウルク……お酒……くっ、ギルガメッシュ』

『マスターは悪い人だわ……』

『エヘヘヘ………ゴッホも、混ぜていただきたいなぁ……なんて』

 

 

 

 

 

 

 そうして、鳴り物入りどころかギルガメッシュ王公認でウルクに乗り込んだ救世主オリオンと、カルデア御一行は。夜を徹しての大宴会を楽しむことになるのだが――――。

 

 

 

 

「ねえ、マスター。素敵なアルブレヒト――――なんで貴方まで混じっているのかしら?」

 

 

 

 ※アルブレヒト:村娘ジゼルと結婚の約束をしていたが、実は公爵だったので婚約者がおり、ジゼルは気がふれて死んでしまうバレエの演目。この場合酷い男、愛しい男の意。

 

 

 

 ウルクの酒場の中でも一際異彩を放っているのは、白銀の具足を纏い、何故か下半身がほぼ露出した幼気な少女を膝の上に乗せている黒髪の青年である。

 

 

 

「いやほら、だって宴会だし……お祝いだし……」

「モテたいんですって? いいわ、なら私が快楽のアルターエゴとして、真の快楽というものを教えてあげる。覚悟はいいかしら?」

 

 

 

 それってつまり溶かしてドロドロにして踏みにじることなのでは。

 冷や汗を流してメルトから目をそらす藤丸だが、その先にはさらなる問題児がいた。

 

 

 

「きゃー、こわーい。メルトったらまだそんな事言ってるんですかぁ? 私が言うのもなんですけど、どこから来るんですか、その自信。……処女神(アルテミス)なのに

「で。――――これよ。なんでBBまで一緒に付いてきているのよ!? しかも水着で! 母親同伴で旅行とかいくら私でも嬉しくないんですけど!?」

 

 

 

「いや、だって戦力として必要だし……」

「私の身体だけが目当てってことですね、さすがセンパイ。鬼畜です」

 

「誰もそんなこと言っていないわよ! あの顔が邪神像みたいにユルい狩人は置いておいて、あの子は……まあいいとして! BBと、そのカズラをチョロいニートにしたみたいな新顔まで連れてこなくてもいいでしょう!?」

 

「別に私はチョロくなんてないですけど!? あと新顔じゃないですー。割と前からいましたー。キングプロテアの次くらいには来てますー……って誰がニートですか!」

 

 

 

 

 膝の上にメルトリリス、隣に水着のBB、背後にカーマ。

 全く同じ顔3人に囲まれる藤丸立香は、完全にやべー奴としてウルクの民から遠巻きに見られているのであった。

 

 

 

「きゃー、オリオンさん素敵!」

「すごい筋肉……今まで見たどんな狩人より素敵」

「ねぇ、また私達を守ってくれる…?」

 

「うははははぁ! もちろん任せたまぇ! で、お酌頼んでもいーい!?」

 

 

 

 

 藤丸は楽しそうなオリオンに助けを求める目線を送り。

 それに気づいてにっこり微笑んだメルトの笑顔は、笑顔は本来攻撃的なんだよという割と有名な話を思い出せてくれた。

 

 

 

「へぇ……羨ましいのかしら? なら、私の(どく)を味わわせてあげる……」

「ほぉらセンパイ、どうぞ一杯。ぐい~っと! 豚になぁ~れ!」

「はぁ………で。一応わたし愛の女神なんですけど、何かしてほしいこととかあったら言っても構わないんですよ、マスターさん? お酌だって全然いけますし」

 

 

 

 

 

 

(あれ、俺これ死ぬのでは…?)

 

 

 

 

 もし手を出そうものなら微妙な均衡を保っていたカルデアが爆発する。そして健全な青少年にこのサーヴァントたちは不健全(R18)すぎた。

 

 魔獣より自分のサーヴァントが怖い。

 そんなウルクの夜だった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「敵襲! 敵襲! 南門より、ケツァル・コアトルを名乗る女神が襲撃を!」

 

 

「残念デース! 貴方には高さが足りまセーン!」

 

 

 

 一人、二人、三人、次々と歴戦のウルク兵がお手玉をするかのように放り投げられていき、押し留めようと槍衾を作る軍団さえも軽々と吹き飛ばされる。

 主神クラス――――圧倒的なまでのその力に対抗できるのは。

 

 

 

 

「―――――おっと、そこまでにしてもらおうか!」

「ワァォ、その筋肉! 只者ではありませんネ! いいでしょう、なら――――」

 

 

 

 

 剛力無双の狩人が、何故獣にしか勝てないことがあるだろうか。

 鍛え抜かれた天性の肉体は、かつて伝説においてもライオンを殴り殺した。故に、月女神の加護を一身に受けたオリオンが、ルチャの女神に対抗できない道理はない――――!

 

 

 

 

『――――――ねぇ、ダーリン。昨日の夜、何してたのかな? かなー?』

「……あ゛ッ! ごめんマスター浮気がバレたので撤退しまーす! ……え、駄目? ア、アルテミスさぁぁぁん!? う゛っ」

 

 

 

 

「オゥ……見事な絞め技デース」

 

 

 

 アルテミスに絞め落とされたオリオンを、ケツァル・コアトルは何とも言えない顔でスルーした。

 

 

 

 

 




ティアマト保有ビーストスキル
・ネガ・ジェネシス:正しい人類史から生まれたサーヴァントの宝具に強い耐性を獲得する


調べたところによると
ステラのレンジ:1~99 (2500km)
オリオン・オルコス:100

らしいですね。出典までは見てないんですが。
まあオリオンの矢が2500km届くという意味では無さそうな気もしますが、少なくとも宇宙ステーションがある400kmくらいは届きそうなので、軽くゴルゴーンまでは射程内でしょう。


ちなみに、我がカルデアにオリオンはいません。……いません。
あ、超人のほうの


追記
超人オリオンのレンジ内のあらゆる魔獣を殺し続ける能力はグランド限定でした。ご指摘を頂き、修正させていただきました。



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第七特異点/Absolutely killer of demonic front②

 

 

 

――――――届かぬ理想(ほし)を追い求める姿こそ、地上において輝ける星。

 

 

 

『ハ! 気にするな、致命傷だ!』

『っ…ウルクはここに健在です!』

 

 

 

 魔術王を名乗る、小癪な獣の謀略。それにより目覚める母たる女神。

 己が知恵、己が財の全て、ウルクの全てを擲ってなお三女神同盟を打破し、ティアマト神によりウルクが蹂躙されるに留まる。

 

 英雄の中の王であり、ウルクのため賢王として君臨する我としては業腹な結末である。

 全ての未来を見通す千里眼を以てなお越えられぬ。逃れられない破局に対して、突如現れたのがカルデアの――――人類最後のマスターであった。

 

 

 

 ひと目見て、新たな“未来”が拓けるのが理解できた。

 実質仲間になった三女神同盟と、冥界に落ちるウルク。なんということはない、必死に足掻き生き続ける人間――――そんななんでもないものこそが、人類の代表には相応しいというだけのこと。

 

 

 

 

―――――だが。だからこそ。

 

 

 

 

 

『――――――――カルデアの司令官として指示を出すよ。私のことは気にせず、完膚なきまでに完璧な勝利を』

『おめでとう、君たちは第四の獣に勝利した――――』

『―――先輩のお役に、立ちたかった』

 

 

 

 

 旅路の果てに、待ち受けていた別れも。

 

 

 

 

『いいや、君たちなら出来るとも! だって、私はそういう人間だから力を貸したんだ!』

『こんな、強いだけの世界に負けるな』

『そうはいかない! 彼らの旅をここで終わらせるわけには――――』

 

 

 

 

 そうまでして手に入れた未来が、奪い去られたことも。

 

 

 

 そうした悲しみ、苦難が積み重なって、それを乗り越えるために合わせた力が、紡いできた絆が、あのマスターを支えている。

 

 

 

 彼は勝利するだろう。

 “ああいう手合い”のいざという時の手強さは、裁定者として常に手を焼かされ、時に敗れ、時に見守ってきた。

 

 

 

 常であれば、その旅路を裁定し、場合によっては手を貸してやるのが王の中の王、英雄の王たる我の務め。

 

 ウルクの賢王としてであれば、ウルクを救って世界をも救おうとするその背中に土産の一つでも持たせて見送ったことだろう。

 

 

 

 

 

 南米の神格、太陽の女神に対しては人間としての決意を見せるべく高さを見せた。

 

 

 

 

「―――――その高さ、受け手がルチャ・マスターでも死ぬしかないわよ!? それでも、それでもこの私にプランチャを見舞わせるというの!?」

 

「うおおお高さがいつもの100倍ならパワーも100倍! 更にツイストをかけて倍! 両足なら更に倍で400倍パワーになるんだぁあああ!」

 

 

 

「意味がわかりまセンし素人の空中技は人死にがでるのデース!?」

「それでもこれが今の俺の全力だぁあああああ!」

 

 

 

 

 冥府を司る地の女神には、称賛を以て応え。

 

 

 

「答えよ――――答えよ――――冥府に落ちた生者よ――――その魂の在り方を答えよ――――」

 

「二択の質問が来るわよ、藤丸。冥界の門は魂の善悪を問う、公正にして理性の門。でもどっちを選んでも嫌がらせの試練があるから、楽そうな方を選んでおきなさい」

 

 

 

「では罪深きもの、藤丸に問う――――エレシュキガルとイシュタル、美しいのはどちらなりや?」

「Extra派なのでエレシュキガル」

 

 

「なんかよく分からない理由でいきなり裏切られたー!? って、そっか頭脳戦よねコレ。そうよね!?」

 

「ふーん。いい度胸ね。後で刺すわ」

「まるでSGでも見せられてる気分ですねー」

 

 

 ※SG:シークレット・ガーデンの略。月の裏側の戦いにおいて鍵となった乙女の恥ずかしい秘密のこと

 

 

 

 

 

「称賛するべきは貴様のこなした職務であり、それを卑下することは貴様自身への侮蔑に他ならぬ」

「つまり人間大好き故の犯行…!」

 

 

「べ、別に生者なんて好きじゃなーい! 私が好きなのは冥府に落ちた魂だけ!」

「つまり心の在り方が好きと、語るに落ちてますよね」

 

 

 

 

 

 

 そうした細かな部分は変わりはない。

 『未来を知る』ということは、決して万能ではない。人の本質というのは、少し知っていることが増えたところで変化などせぬ。助けられたはずの命を見捨てることが出来るか? 相手のことを少し知った程度で、戦いに勝てるか?

 

 

 ティアマト神のことを、あの反則的なまでのスペックを知っているだけで勝つことが出来るか? 本来であれば不可能だ。実際、“未来を視た”我はそれを回避できなかった。

 

 

 

 同じように、未来を“知った”カルデアのマスターにはあやつとの別れを避ける手段はない。……それこそ、外部からの介入でもなければ。

 

 

 

 

 

 無論、視るまでもなくカルデアのマスターもそれは考えているだろう。

 だが――――それが、我が剣を取るに相応しいものであるのならば。信条を曲げ、全力を振るうこともあるやもしれぬ。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

―――――――それは、あり得ざる暴虐だった。

 

 

 

 人間を蹂躙するのが魔獣であるはず。

 それをあっさりと覆し、大地を埋めるほどいた魔獣を一掃してみせた英雄(ぼうぎゃく)

 

 英雄が嫌いだった。

 人間は嫌いだが、英雄という奴はそれを軽々と飛び越える。形のない島の平穏を打ち破り、(怪物)を殺す。

 

 

 私から人間になにかしたわけではない。

 奴らは勝手にやってきては私を貶め、怪物だと囃し立て、悪意を振り撒く。

 

 そんな醜いものに、復讐することの何が悪い。

 魔術王が全て滅ぼすと決めた資源を、どう扱ってやろうと私の勝手ではないか。

 

 だが、一人の馬鹿げた男が全てをおかしくした。

 

 

 

 

 増やした魔獣は全て殺し尽くされ、平地で戦えば私も為す術もなく殺されるだろう。

 だから神殿に籠もった。本来の宝具と、複合神性ティアマトとしての力。神殿としてこれ以上無く完成されたこれを壊せるのは、地母神として自分以上の格を持つ女神くらいのものだろう。

 

 そして神代においてティアマト神である私を打ち破れるのは、それこそティアマト神を切り分けたというマルドゥークの斧くらいのものだが―――それが消費されれば、後は神殿の中で苦しませて殺してやろう。

 

 

 

 

 

「―――――む。何だ、この揺れは」

 

 

 

 

『聖杯、並列起動―――――固有結界(シリアルファンタズム)、展開。どこまでもどこまでも、プロテアの海は成長する――――!』

 

 

 

 瞬間、ゴルゴーンは己の神殿が大地から切り離されたことを感じ取る。

 それは大地母神の神殿としては機能不全に陥ったことを意味しており――――。

 

 

 

「馬鹿な! このティアマト神の神殿を切り離すだと!? そのような事、私以外に出来るはずが―――――!」

 

 

 

 

 

―――――ミシリ。神殿が不吉な音を立てて軋む。

 

 

 山一つ丸ごと使用した神殿が、震える。

 瞬間、気づいた。自分はティアマト神であるはずなのに――――『百獣母体』以外はほぼティアマト神の神格など持ち合わせていない。大地母神である自分と、海の女神であるティアマト神は相容れぬ存在でこそないが、決して相性が良いわけではない。強いていうなら三女神同盟の中では一番という程度。

 

 そして、“外”に感じるのは紛れもないティアマト神の神格。

 

 

 

 

 

「私は……私こそがティアマト神ではなかったのか――――何故――――キングゥ」

 

『命の海に沈みなさい。――――――巨影(アイラーヴァタ)生命の海より出ずる(キングサイズ)

 

 

 

 

 瞬間、崩落した神殿と巨大な掌によって、再生能力を活かすことすらできずゴルゴーンは不可逆的に圧縮された。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 ゴルゴーンに同調していたティアマト神が、『死』によって深い眠りから目覚め。

 ペルシア湾から現れるのは雲霞の如き黒い影。

 

 

 

「―――――なんだ、あれは。魔獣じゃない。シュメルの怪物でもない。そもそもオレたちの世界にあんな生き物がいるはずがない―――――」

 

 

 

 およそ生物にはあり得ない、生理的な嫌悪を呼び起こすフォルム。

 その数、観測できる限りで1億――――。

 

 満を持して、この時代を乱しているティアマト神の子、ラフムが姿を見せたのだ。

 

 

 

 

 

 

『こんなもの、カルデアに――――人類にどうこうできるものじゃない…!』

 

 

 

 ドクター・ロマンの言葉は、本来であれば全く嘘も誤解もなかっただろう。

 

 速度およそ30kmから100km/h、三時間弱でウルクまで到達するラフムの群れは本来であれば既にエリドゥを襲撃している頃合いであり――――。

 

 

 

 

 

 

「でも、此処には俺達が、例外(カルデア)が存在する」

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

―――――ペルシア湾、湧き出るラフムはおよそ二十万――――彼らはただでさえ人間をラフムに変える能力を持つが様々なことを“学習”し、それらは瞬時に“共有”される。

 

 

 それは本来であれば生まれたばかりの存在であるラフムにとっては必要な急速学習であり、これによって世代を重ねて得ていくべき進化を一足とびに重ねることで人間を排除することができる。

 

 

 

 

「………はぁ。こんなのが“ヒト”とか世も末ですね。人間なんてまっったく好きじゃないですけど、なんていうかコレは生理的に無理です。というか私、ゴキブリには殺虫剤がいいと思うんですけど直にヤるんですか? ほんとに?」

 

『ごめん後でアイス奢るから。ダッツの好きなやつ』

 

 

 

「マスターの中での私の価値安すぎません!? 今は子どもじゃないんですけど!? ……まあいいです―――――煩悩無量誓願断」

 

 

 

 

 生まれたてでありながら、邪悪。

 人類を殺すもの、新たな人類としてデザインされたが故のその矛盾に対して、愛の女神の対応は変わらない。

 

 

 

「まあ、ゴキブリ以下の汚物相手でもヒトに愛を与えるのはお仕事……お仕事………はぁ。やっぱりやる気出ないんですけど、マスター何か他にないんですかぁ?」

 

『ここで!? じゃあ後で令呪一回!』

 

 

 

「――――っ!? ふ、ふーん。別にそんなプレイで釣ろうとしても私には関係ないですけどそれはそれとしてマスターが必死に頼み込む姿が面白かったのでやってあげちゃいますね!」

 

 

 

「さあ、情欲の矢を放ちましょう。もはや私に身体はなく、全ては繋がり虚空と果てる! 永遠に揺蕩え、愛の星海――――恋もて焦がすは愛ゆえなり(サンサーラ・カーマ)

 

 

 

 

 

 そう、ラフムは学習するしそれを共有している。

 本来であれば人間を遊んで殺すような、そんな邪悪な進化を遂げるはずだったのだが――――。一本の情欲の矢が、ラフムの全てを変えた。

 

 

 

 

 カーマの宝具、宇宙そのものとなったカーマに取り込まれたラフムがあまりの快楽に昇天し、連鎖的に全てのラフムがさながら殺虫剤を浴びた羽虫のように墜落していく。無性生殖するラフムには本来存在しないはずの快楽を浴びて、というか三大欲求が存在しないラフムにとってその快楽はまさに劇薬だった。

 

 思考が全て愛で埋め尽くされ、快楽によって使命を見失う。 

 生まれたてであるが故に堕落もすぐ。全く歯ごたえのないラフムに興醒めしたカーマはこの後の令呪プレイを思って鼻歌を唄った。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

『………えーと、全てのラフムは沈黙。というか、えーと、カーマ風に言うと堕落していて全く脅威ではない』

 

 

 

 なんとも言い難そうなドクターだけれど。本来のラフムの脅威と、それによって失われたものを思えばこれで良かったのだろうと思う。多分、キングゥも死んだ目をしていると思うが。

 

 まあ快楽を学習して堕落するのは、ある意味アダムとイブを踏襲している気がするので新人類を名乗るラフムにはちょうどいい試練だと思ってもらう。

 

 

 

 

 

 残るはキングゥと、海で眠っているティアマト神くらいのもの。キングゥの相手をケツァル・コアトルにお願いすれば後は実質ティアマト神を倒すのみ。

 そしてなんというか、ティアマト神を普通に倒せる武器が何故かこの特異点には置いてあるわけで。まあティアマト神が出てくるときには本来の力を失っているはずだったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………

……

 

 

 

 

 

「―――――何だ、このザマは」

 

 

 

 本当なら、既にこの大地を恐怖と混乱に陥れていただろうラフムたちは、痙攣していたりよく分からない動きをしていたり、自分の身体を作り変えていたりと一心不乱に使命以外のことをしている。

 

 母、ティアマト神は海で沈黙を守っておりそれを容認しているように見えないこともないのだが、普通に考えれば絶句しているとか困惑していると取るべきだろう。

 

 キングゥは目を背けた。

 アレらを見ていたら気分が悪くなる、というかアレが仲間だと思いたくなかった。端的に、人間より性質が悪い。何が起こったのか知らないが、原因はおそらく――――。

 

 

 

 

「またしても……カルデアめ!」

『BB、チャンネルー!』

 

 

 

 

 瞬間、ふざけた音楽とともに太陽の光が途切れる。

 反射的に声が聞こえた方に攻撃を放つキングゥだが、当然のようにそこには誰もおらず。瞬時に切り替わった景色にキングゥは歯噛みする。

 

 

 

「固有結界か――――!」

「はーい、正解です! 月の裏側へようこそ! 歓迎しますよ、母たる女神とその子ども。………そんな余裕があれば、ですけど」

 

 

 

 無機質な地面、どこまでも続く暗黒――――虚数空間に極めて近いそこは、元々は虚数空間に封じられていたティアマト神を倒すのにこれ以上ないフィールドといえる。だが。

 

 

 

「この程度の空間、母に奪えぬとでも――――!」

「ああ、あの泥ですね。まあまあ面倒な性質みたいですけど―――――ざんね~ん! 色々あって、ティアマト神には詳しいんです」

 

 

「BBが用意した空間っていうのは気に食わないけれど―――――いいわ、この私に相応しい舞台だもの。ドロドロに溶かしてあげる」

 

 

 

 海から切り離されてなお、生命の海を溢れさせて固有結界を書き換えようとするティアマト神。あらゆる生命を乗っ取るその生命の海に、“月の裏側”――――電脳世界に極めて近い固有結界内であるが故に、メルトリリスの本来の宝具が牙を剥く。

 

 

 

 

「之なるは五弦琵琶、全ての楽を呑み込む柱――――弁財天五弦琵琶(サラスヴァティー・メルトアウト)

 

 

 

 

 現実世界では性能を絞り、対人宝具として使用しているが本来の用途は『対衆、対界宝具』。

 

 その力は肉体・精神を溶かすティアマト神の生命の海に酷似しており。生命の海と生命の海、ほぼ同一の効果を持つそれが、互いを書き換えようとせめぎ合う。

 

 

 

 

「ふん、無駄なことだ。例え一時、母の海と拮抗したところで母を殺すことはできない。生命がいない場所を実現しただけで勝てるつもりか? 今に母が目を覚ます。そうすれば――――――」

 

 

 

 

 

 

「うんしょ」

 

 

 

 

 

 

「――――――ハ」

 

 

 

 

 暗い固有結界だと、そう思っていた。

 それが、見上げるほどの影―――――巨大な女神複合体(ハイ・サーヴァント)であり。その手に持っているのが、かつてティアマト神を切り分けて天と地にした斧だとようやく認識する。

 

 

 

 

「――――キングプロテア、マルドゥークの斧でティアマト神の喉を切り裂け!」

 

 

 

 

「は~~~いっ! まっかせて下さい! え~~~~い!」

「待て。止めろ――――母はまだ目覚めていない―――――! 僕は、まだ――――!」

 

 

 

 

 ズドン。

 大きな、しかし思ったよりも軽い音を立ててティアマト神の首が傾ぐ。

 

 

 

 

 

「―――――令呪を三画重ねて、命ずる! BB、宝具の開放を!」

「さあ、悦びなさい―――――声は遠くに。私の影は、世界を覆う――――

C(カースド).  C(カッティング).  C(クレーター).」

 

 

 

 

 

 マルドゥークの斧で切り裂かれたティアマト神の身体が、メルトリリスの蜜で溶かされつつBBの影に――――虚数空間に呑み込まれていく。

 

 

 

 

 

『Aaaaa――――――』

 

 

 

 

 

 その中で、ファム・ファタール――――“本来”ならば撃破し、ティアマト暴走の切っ掛けになった頭脳体が小さく微笑み、首を振った。

 

 それは、目覚めるはずではなかったと知っているからか。

 あるいは何らかの思いがあったのか。ただ嘆くでもなく、何かを悟ったように沈んでいくティアマト神にキングゥは何も言えず。

 

 

 

 

「本来であれば眠っていた者が起こされ、何を思うか――――それは貴様がよく分かっていよう、キングゥ」

「………ギル…ガメッシュ」

 

 

 

 

 呆然と立ち尽くすキングゥに、歩み寄るギルガメッシュ。

 初めて/久しぶりに 目を合わせた二人は、旧交を温めるでもなくただ沈みゆく母たる神を見た。

 

 

 

 

「アレは、魔術王の聖杯により叩き起こされ――――この時代において役目を持たぬが故、暴走し獣となった。神は、役目が無くては生きていけず消え去るものだ」

 

「………フッ、それなら僕も変わりはない。母のため、そのために再起動したはずが、こうもあっさりと無様を晒すことになるとはね」

 

 

 

 

「では、一つ問おう。貴様自身の望みはないというのか?」

「――――何? 僕は……母さんに」

 

 

 

「たわけ。度々子どもを逃していたこと、この我が知らぬとでも? 大体、あのティアマト神が目覚めたいとでも言ったのか? 貴様と同じで、役割がなかったから求められるままに動いたとは思わぬのか」

「…………それは」

 

 

 

「貴様の望みが復讐であれば、この我が受けて立とう。それがウルクの王たる我の務めであり、異邦の大使への礼である。――――だが、貴様がそれを選ぶとしても―――――」

 

 

 

 

 

 固有結界が解け、レイシフトの光がカルデア一行を包む。

 ギルガメッシュ王はウルクの大杯を取り出すと、藤丸を。そしてキングゥを見た。

 

 

 

 

「――――――黒幕に一言文句を言ってからでも遅くはあるまい?」

 

 

 

 

 

 

 

 




突貫作業で仕上げたので何か間違いがあったらごめんなさい。




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Grand / Carnival 英霊限界調理オリンピア

すまない……まことにすまないが本編はまだ完成していないんだ。
それどころかこの茶番を書いていた私を赦してほしい……ほしい……ほしい………。

本編には全く関係ないので読まなくても大丈夫です。


 

 

―――――人理継続保証機関、フィニス・カルデア。人理を護る守護者たちの最後の砦で今、最も過酷なオーダーの一つが遂行されようとしていた。

 

 

 

『サーヴァントも増えて増えて、個室が欲しいとか魔力が足らないとか、カルデアは深刻なリソース不足になっていてねぇ……』

「そんな、大規模な契約解除だなんて…!」

 

「それなら、俺にいい考えがあるよ」

 

 

 

 ダ・ヴィンチちゃんの懸念もよく分かる。電力を魔力に変換してなんやかんやしているカルデアにおいてリソース不足というのは立地的にも避けられない。百を超え、二百に届くほどの英霊が常駐するカルデアは控えめに言っても電力バカ食い。大英雄と契約したへっぽこ魔術師のような有様である――――故に。

 

 

 

 

 

 

「ほう、それで俺を頼ってきたわけだな。任せておけ、美味しいお米がどーん、どーん!」

 

 

 

 とある部屋――――日本英霊の部屋に、俵藤太を訪ねる。

 こんな時に誰よりも頼りになる大英雄は、快く首を縦に振ってくれた。

 

 

 

「あと山海の珍味が尽きない鍋の宝具もあるとか聞いたんだけど……」

 

 

「うむ。そういう事情であれば否はない。協力しよう」

「よし、勝ったな飯食ってくる」

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

『――――第一回、チキチキ! マスターの胃袋を掴むのは誰だー! お料理聖杯戦争!』

「待ってちょっと意味がわからない」

『正直、私にもわからん』

 

 

 

 

――――ほわんほわん

 

 

 

「魔力が足りないなら食事をすればいいじゃないか!」←マスター

「なんかリソース不足だからマスターが食事してほしいんだって」←大体あってる

「リソースが足りないからマスターが食事をお願いしてると聞いた」←間違っていない

「ねぇねぇマスターが食事作って欲しいんだって!」←理由が抜けたしなんか違う

「マスターのために食事を作ってあげましょう!」←善意

「マスターのために誰が一番美味しい料理を作れるか勝負ね」←対抗心

「胃袋を掴んだら心もゲットできるらしいよ」←起爆剤

 

 

 

 

 

 

 気がつけば闘技場を模した場所で、審査員席に座らされていた。

 周囲は観客らしき謎の猫っぽい生物(ナマモノ)が取り囲み、ヤル気満々のサーヴァントたちが思い思いの姿で調理器具を握っている。

 

 

 

『え、ホントに分からないのかしら。シロウじゃないんだから、しっかりして欲しいものだけれど。ねぇ、アーチャー?』

『……私に振らないでくれたまえ』

 

 

 

 で。お隣の実況・解説と書かれた席には何故か体操服姿のシトナイと、妙にシンプルなシャツを着せられてげっそりした顔をしているアーチャーがいる。

 

 

 

 

『――――今回の聖杯戦争は狂……あるいは凶。キッチンタイマーの音が聞こえるか』

 

 

 

 

『はーい、今回はコトワザにあるという「男をつかむなら胃袋をつかめ」にちなんでマスターさんの胃袋を掴めば、すなわち優勝すればマスターさんのハートを(たぶん)ゲットできる大会です! 参加チームはこちら!』

 

 

 

「ちゅちゅんちゅん。ご主人に美味しい料理を献上するためと聞けば、この紅閻魔黙ってはいられまちぇん! いくでちよ、玉藻!」

「……えーと、そのぉ。はい、玉藻頑張ります――――紅先生と一緒のチームって何の罰☆ゲーム! ですか!? もっといい相方がいらっしゃったんじゃありませんか!? マインドクラッシュされてしまいますっ!」

 

 

 

「……キャットは悪くないでちが、毛が入ってしまうのは閻魔亭としては論外なのでち。清姫は別のチームでち。刑部姫は……一度裁いてからになってしまうでち」

「KU☆BIですか!? 一度地獄に落とすってことですよね今からでもチェンジプリーズ!」

 

 

 

『負けたら地獄行き!? チーム『閻魔亭と嫁狐(修行中)!』

 

 

 

 

 

 

「航海はクールに、調理はスマートに……って、なんで僕まで」

「――――はーい、じゃあ私たちも頑張っちゃう!」

「お薬が専門なんですけど……」

「よっしゃ、ぶん回すぜ!」

「レシピ……まもってね?」

「「「「ヨーソロー!」」」」

 

 

 

『実はワンマン!? チーム『ネモと愉快なマリーンズ』!』

 

 

 

 

「――――ああ、安珍様! 清姫の手料理、楽しみに待っていて下さいましね!」

「遂にこの時が来てしまったみたいね! ――――アイドルの手料理、震えて待ってなさい子イヌ!」

 

 

『作る側が火を吹くか、食べる側が血を吹くか! チーム『清姫エリザベートドラゴンズ』!』

 

 

「え、ちょっと待って俺死ぬのでは」

『……まさかそのために地獄の獄卒を?』

 

 

 

 

「――――っふふ! マースター! ゴッホさん、心に残る料理にしましょう!」

「……エヘヘ、どう考えても場違いなような………でも、頑張ります……」

 

 

「そんなことはないわ。マスターさんに喜んでいただきたい気持ちは同じですもの!」

「でも………料理するほど、食材なんてなかったですし………四日間コーヒーだけとか……エヘヘ、ゴッホジョーク!」

 

 

『何が出てくるフォーリナーチーム!『銀の向日葵』!』

 

 

 

 

 

「………ねぇ、メルト。誘ってくれたのは嬉しいんだけど、正直私料理とか……トカゲとかお子様には勝てると思うけど、あんまり得意じゃないし」

「いいえ。今回は勝ちにいくから。大体、私が妙な気を回すと思って? 必要だから呼んだ、ただそれだけよ」

 

 

 

「……うん! 頑張ろうね、メルト!」

「ええ」

 

 

 

『アルターエゴのコンビ! 『メルトパッション!』』

 

 

 

 

 

 普通に美味しそうな閻魔亭組、ノーチラス組はともかくとして、なんで既に味覚とかSAN値とか毒殺とかの心配をしなくてはいけないのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

『さあ、今回作る料理のお題は厳正なるくじ引きによって決定されます!』

『……ちなみに、くじは英霊たちの投票により作られている』

 

 

 

 

 

『さあ、まずは閻魔亭チーム!』

「略されてる!? いえまあ別にいいんですが……」

「……玉藻に閻魔亭の看板を背負わせるのは早いような気もするでちが」

 

 

「(藪蛇!?)――――紅先生、とりあえずクジをどうぞ。ササッと」

「む。……まあ、玉藻が変なものを引いたら再修行も否定できないでち。よろちい、ここはあちきが――――」

 

 

 

 神妙な顔で箱に手を入れ、クジを引く紅閻魔。

 引き抜かれたその手に握られているのは―――――。

 

 

 

 

 

 

―――――――『ジャンクフード』

 

 

 

 

 

「ジャ……ンク?」

「うわぁ」

 

 

 

『これはすごいところを引きましたね! 解説のアーチャーさん!』

『ああ。純粋な料理の腕が出せないお題のようにも見えるが……』

 

 

 

「…………すみまちぇん、玉藻」

「いえ、そんな! 紅先生が謝ることなど―――――」

 

 

 

「――――あちき、本気を出すでち! 死ぬ気で付いてくるのでち!」

「私が引いとけばよかったぁ!? 待って下さい紅先生、それ多分本当に死ぬ感じのやつですよね!?」

 

 

 

「では最終再臨で宝具でち、玉藻!」

「IKI☆NARI!? 出雲に神あり、是自在にして禊の証―――――」

 

 

 

『ああっと、いきなり波乱の展開だー! 一体なにをするつもりなのか、宝具を展開させつつ物凄い勢いで紅閻魔が地面を掘り返しているぞー!?』

 

『本当に何を――――いやまさか』

 

 

 

『もう分かったの? さすがアーチャーね』

『いやなんというか、想像の域を出ないのだがね』

 

 

 

 

 

 

『それはともかく―――次はチーム『ネモ・マリーンズ』!』

『次はやりやすそうなクジを引いて欲しいものだが……』

 

 

「よし、僕が引くよ」

「いいよ~」

「いいですよ」

「お任せします~」

「「「え~~、キャプテンずるいー! 引きたかったー!」」」

「どんだけ引きたいんだよ、キャプテン野郎……」

 

 

 

 マリーンズたちのブーイングを聞き流しつつ、澄まし顔でクジを引いたネモの手にあったのは―――――。

 

 

 

 

―――――――『自分の好物』

 

 

 

『おっとこれは無難なお題だー! ちなみにアーチャーさんの好物は?』

『さてな。まあ普通の料理とでも言っておこう』

 

 

 

「!?」

「そっちかぁ……。できればマスターさんの栄養になるものが良かったんだけどな~」

「仕方ないですね。それに甘味は精神的なお楽しみとしては重要ですし」

「「「パフェたべたーい!」」」

「……へっ、本音ダダ漏れだな」

 

 

 

「………ベーカリー、何か、思いついた?」

「え~、パフェでしょ? プリンでもいいけど」

「「「パフェだ! パフェを要求するー! さもなくば……叛逆する!」」」

「いいんじゃねーの、パフェで。というか偶にはアタシにも食わせろ」

「ノーコメントでーす」

 

 

 

 

『なるほど、ネモはパフェが好きなのね』

『……やめて上げてくれたまえ』

 

 

 

 

 

『さあお次は――――『清姫エリザベートドラゴンズ』!』

『ここにジャンクフードが当たればまだ良かったか……? いや……』

 

 

「っふふ。この清姫、例えどのような料理であろうと安珍(マスター)様がご所望とあらば応えて見せます!」

「じゃあアタシが引くわね! さあ、来なさいアイドルに相応しいお題! ドロー!」

 

 

 

 

 

―――――――『0円食堂』

 

 

 

 

『おおっとこれはー! 希望とは真逆のものがでてきたー!』

『他チームの食材の残りの他、先程厨房で出た余り物も用意してある……(普段ならそれも処理していたのだが)』

 

 

 

 

「は? ちょっ、待ちなさい! ここはアイドルらしくゴージャスな素材で料理するところじゃないの!? 余り物でどうしろっていうのよ!」

「………あら、こんなところにトカゲの尻尾が」

 

 

 

「痛ぁい!? 何してくれちゃってるの、この蛇!?」

「黙りなさい。マスター様に出させていただくお食事を余りもので作るなど……恥ずかしくはないのですか?」

 

 

「う、ぐ……アタシだって嫌よ!? 誰よこんなお題入れたの!?―――痛ぁい!?」

「黙りなさい。マスター様がご所望とあらば応えるのが妻というもの。口答えなど……恥ずかしくはないのですか?」

 

 

 

 

「くっ、ちょっと分からないでもないのが悔しい……いいわ、この(アタシ)たちが最高の0円料理を披露してあげる!」

「0円ということは、99銭までは……そういう問題じゃない? 仕方ありませんわね……」

 

 

 

 

 

『さあお次はフォーリナーのチーム!『銀の向日葵』!』

 

 

「どきどき……それじゃあ、一緒に引きましょう!」

「………エヘヘ、好物とか言われても困ってしまうので………お題を、下さい」

 

 

 

 

 二人で正反対のドキドキを味わっているようにも見えるアビーとゴッホ。二人が引き抜いたクジには――――。

 

 

 

 

――――――――――『自分らしいもの』

 

 

『ふーん。まあ定番どころかしら』

『あたりのようではあるが、まあお題が欲しいというのには合致していないな』

 

 

 

「まあ。そうすると………どうしましょう」

「………エヘヘ、コーヒーだけとか……駄目ですよね」

 

 

 

 

 

 

 

『さあ最後はアルターエゴの『メルトパッション』!』

 

 

「くじとか引けないから。マスター、代わりに引いて」

「……ご、ごめんなさい。私も、こんな小さな箱だと潰しちゃうから……」

 

「まあ、それは確かに……じゃあ失礼して」

 

 

 

 

 箱の中に手を突っ込むと、果たしてどれだけお題が入っているのか大量のクジがあるのを感じ取れる。悩んでも仕方がないので、直感に従い引き抜いたのは―――。

 

 

 

 

―――――『スープ料理』

 

 

『おおっと、普通です! やっぱり0円食堂がおかしかったのかー!』

『かなり手間暇のかかるものだが……どう調理してくるか』

 

 

 

「ふぅん。貴方が引いたにしては悪くないわ」

「メルト……」

 

 

 

「何よリップ、そんな顔して」

「そういえば私たち、包丁とか握れないんじゃ……?」

 

 

 

「……………その爪、いい切れ味よね」

「爪で料理するの!?」

 

 

 

 

『よく考えなくても普通に料理できそうにないー! 感覚が鈍いメルトリリスと過敏なパッションリップは果たして料理ができるのかー!?』

『キングプロテアはサイズはともかく調理はできていたがな』

 

 

 

 

 

 

『いいわ。調理開始の宣言をしなさい、アーチャー!』

『タイマーを回せ。調理、開始!』

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

 

 

 

『さあ、調理完了したチームから実食です!』

 

 

「はい、できました!」

「……エヘヘ、けっこうよくできた……かも」

 

 

 

 と、アビーとゴッホが持ってきたのは――――パンケーキと、コーヒー。

 そのまんま二人らしい料理に、思わず顔が綻ぶ。

 

 

 

「さあ、マスター。あつあつのグレービーソースと一緒にご賞味くださいな! ……あ~ん」

「あっ……ズルい……………ではゴッホは……エヘヘ、口移しなど……」

 

 

「あ、あーん。―――――あ」

 

 

 

 

 この味。一見するとタダのパンケーキのように見えるけどれど。違う。

 これはもしや、コーヒーの方も―――と、眼前に迫ったゴッホの顔に思わず勢いよく身を引いた。

 

 

 

「ってホントに口移し!?」

「……んく。………すみません、ゴッホなんかにやられても嫌ですよね……所詮わたしは売れない画家……エヘヘ」

 

 

「もっと体を大事にしなさい! はい、カップ頂戴!」

「あ、はい。どうぞ……」

 

 

 

 

 口を付ける前からはっきりと分かるのは、ミルクをたっぷり入れたカフェ・オレ……というかコーヒー牛乳となっていること。アビーでも飲めるようにという配慮でもあるのかもしれないが――――。

 

 飲んでみると、普通のコーヒーとは違った風味が鼻を抜ける。

 

 

 

 

「…………これは、ひまわりコーヒー?」

 

「ええ。そうなの! クリュティエさんらしさは何かなって、考えたら向日葵が思い浮かんだのだけれどわたしには良いアイデアが無くって。でも、コーヒー好きのゴッホさんが教えて下さったの!」

 

「エヘヘ……ついゴッホはゴッホとして考えてしまって。アビーちゃんが考えてくれたので………コーヒー好きには邪道ですけど、マスター様には良いかなと」

 

 

 

『ひまわりコーヒー…。生憎と詳しくはないが戦時中は代用品として用いられたとも聞いたことがある。コーヒー好きからすると噴飯ものという話もあるが――――コーヒー牛乳ならば悪くないという意見もあるらしいな』

 

 

 

「そしてパンケーキもひまわりパンケーキ! ……どうかしら? お口に合うと良いのですけれど……」

「エヘヘ……アビーちゃんとゴッホらしい、クリュティエらしい料理です……」

 

 

 

 

「尊い。そして美味い―――――やっぱり口移しで」

 

『そこまでにしておくんだ、マスター。一度落ち着け、狂気に溺れるぞ』

『はい、次のチーム!』

 

 

 

 

 

「いいわ、受け取りなさい。これが『SE.RA.PH式コンソメスープ』よ」

「た、大変でした……」

 

 

『コンソメスープ……フランス語で『完璧』という意味のスープだな。凄まじく手間暇のかかるスープで、本来ならばこの短時間で完成するものではないはずだが……』

『そこが『SE.RA.PH式』ということなのかー!? その味やいかに!』

 

 

 

 と、颯爽とやってきたのは袖の上になんとかお皿をのっけたメルト。

 既に見た目が可愛らしいことになっているのだが、器用に滑ってくるとクールにお皿を台に置いた。

 

 

 

「これは――――いや、なんというか。普通にスープっぽいけど」

「普通にスープね。そして飲んで感涙にむせび泣きなさい」

 

 

 

 

 一見すると普通の琥珀色のスープ。特に具材なし。 

 サーヴァントの料理としては普通すぎるそれに、若干の疑問をいだきつつもスプーンを手に取り――――。

 

 

 

 

「こ、これは……!?」

 

 

 

 肉、野菜、魚――――食材の旨味だけが極限まで濃縮されている!?

 なんだこれ、普通にうますぎるぞ!?

 

 雑味がなく流れるように舌先で踊るこの旨味――――いったいどうやって!?

 

 

 

「ふっ、驚きすぎて声も出ないみたいね。食材の余分なところを私の蜜でドレイン――――そして、リップのid_esで圧縮して特製のコンソメに。再度溶かして水の女神として最高の水で煮込んだこのスープには余分が一切ない――――まさに完璧(コンソメ)スープよ」

 

 

 

 

 職人か何かか!? 

 いや、そういえばメルトはフィギュア(人形もスポーツも)好き……手先が不自由だからできないけれどかなりの凝り性だった!

 

 

 

「メルト、圧縮度合いまで気にしだすから……大変でした」

「むしろ貴女が大雑把すぎるのよ。……まあ、今回はリップがいなければ完成しなかったし。感謝してるわ」

 

 

 

「うっ、尊い……そして美味い……なんか意識が遠く」

「ああ、製法の関係で私の蜜が混入するけれど―――――美味しいのだから些細な問題よね?」

 

 

「メ、メルト――――!?」

 

 

 

 

「なにしてくれちゃってるの、あの女!? いいわ、此処はこのアイドルの手料理で目を覚まさせてあげる!」

 

 

 

『ああっと、ここでダメ押しの一撃かー!?』

『待て、誰か奴を止めるんだ! マスターが死ぬぞ! よく見ろ、清姫が調理台で死んでいる!』

 

 

 

「…………(血文字で “に げ て”と綴られている)」

 

 

 

「私たちの料理は他チームが捨てた食材を大胆にリフォームした『チェイテ百八式カレー』よ! 清姫が「カレーなら何でも受け容れて下さる……ますたぁのように!」って言っていたから全力でアタシの思いを注ぎこんだわ! 余り物とか、何度も出てきてなんて言わせないんだから! さあ昇天しなさい!」

 

 

 

『ぐわあああここからでも目が痛い!?』

『でも乙女の手料理を食べないのはどうかと思うので―――続行! さあ気絶したマスターの口に―――そのまま流し込んだぁ! これは容赦のない追い打ちね、アーチャー』

 

 

『いや、間違いなくよくわからん道場とか見えそうな攻撃だからな、アレは!? 待てイリヤ手を離せマスターが死ぬぞ!』

『ふーん、シロウはもし美味しくなかったらお姉ちゃんの料理でも捨てさせるんだ』

 

 

『なんでさ!? もう美味しいとか美味しくないとかそういうレベルじゃないからな!?』

『大丈夫よ、ほら』

 

 

 

 

 

「目標確認! 点呼!」

「パフェ、装填完了!」

「発射角度、計算完了……」

「おらぶちかますぜ!」

「胃薬濃度、最大…!」

「プリンもいいかしら~?」

 

「「「「許可する!」」」」

 

 

 

 

―――――ひゅ~ん。かぽっ。

 

 

 

 射出されたパフェ(の中身)は見事な放物線を描いて、口から名状しがたい煙っぽいものを吐き出していたマスターの口の中へ。

 

 

 

 

「…………うっ、甘い……辛くないし苦くないし渋くないしすっぱくないし口のなかで蠢かない」

 

「「「僕らが作ったアイスと!」」」

「私が焼いたウェハースと~」

「僕が選んだフルーツを」

「いい感じに盛り付けて」

「僕が計算した味付けで」

「胃に優しくなるようにしました」

 

 

 

「――――死ぬかと思った」

 

 

 

 

 そういいながら死にそうな顔で起き上がるマスター。

 だがエミヤは見ていた。彼の手足がはっきりと震えているのを。もうマスターは限界だ。そして次の――――最後のお題は『ジャンクフード』。

 

 流石に、もう無理ではないか――――そう思ったエミヤをよそに、なんとなく困ったような顔で審査員席に近づくのは紅閻魔。

 

 

 

 

 

「清姫が死ん……倒れてから、なんとなくこうなる気がしていたでち。アレをマスターに出させるなんて清姫は気合がたりまちぇんので、後で再教育でち」

 

「いや、うん。まあ清姫は多分頑張ってたから……」

 

 

 

「……がっつり食べさせられたマスターに、一口だけの清姫が庇われてたら立場がないでちよ? まあとにかく、これで最後でちね。どうぞ、ご賞味下さいでち」

 

 

 

 

 と、差し出されたのは草の包み。

 開くと中にあったのは――――。

 

 

「……おにぎり?」

『ジャンクフードの定義というと、ファストフード店の商品を思い浮かべがちだが―――本来の意味から言えば栄養素の偏った食品、主に高カロリー、高塩分のものをさす。つまりおにぎりもその範疇にあるということだな』

 

 

 

「まあ、まずは一口、どうでちか?」

「これは――――」

 

 

 

 

 口をつけると、まず香るのは醤油の味と、油揚げ? 確かにジャンクに寄せてあるそのおにぎりはしかし、すっとした薬味で後に引かない濃さを表現している。

 

 

 美味しい。

 お米本来の優しい甘さと、油揚げと醤油の味付けが病みつきになるような塩気を、薬味が舌と体にも優しそうな調和の取れた味付け。

 

 栄養素はジャンクかもしれないが、しっかりと食べる人間のことを考えて作られたお握りだった。

 

 

 

 

 

「普通に作っても俵藤太様のお米なら間違いなく美味しいでちが――――玉藻の宝具を使って、あえて稲から作ったのでち」

 

「……ええっ!?」

 

 

 

「アレでも一応、神様でちからね。生命力の活性化を徹底的に注ぎ込ませて……日本といえば稲でちから、相性は良かったでち」

「…………が、頑張りましたとも………死ぬかと思った」

 

 

 

「名付けて、『水天日光天照稲荷お握り』でち。食べればたちまち地獄の獄卒でも蘇るというのをコンセプトにしたのでちが……その点は改良の余地ありでち」

 

 

 

 

「いや、でも凄い。なんかかつてなく魔力が漲ってきたような―――――」

 

 

 

 

 

「まあ、元々そういう話でちたからね…」

 

 

 

 

 

 なにやら曖昧な表情で目を背ける紅閻魔に疑問を抱いたのも一瞬。

 と、不意ににこにこ顔で参加者たちがマスターを囲んでいることに気づく。

 

 

 

 

 

「エヘヘ……マスター、実はカルデアのリソースがゴッホ並に極貧だって聞いていて」

「でも考えてみれば、マスターから搾り取ればいい話だとは思わない?」

「マスター……貴方の魔力、注ぎ込んで?」

「――――ハッ!? 安珍様、ご無事ですか!」

 

 

 

 

 

 

 これはつまり、あれだろうか。

 肥えさせて絞りとるという……割と童話でありがちな?

 

 

 

 

 

 

「え? ちょっ、え? エミヤー!? 助けてエミえもんー!」

 

 

 

 

 

 

 しかしいつの間にかエミヤはシトナイと姿を消しており。

 この後めちゃくちゃ魔力供給した。

 

 

 

 

 

 

 



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終局特異点 / Destination Dream Disconnection

ビーストⅠ/ゲーティア
保有スキル

ネガ・サモン:サーヴァントによる攻撃の一切を否定・破却する。無論、宝具による攻撃も一切シャットアウトされる。例外は唯一つのみ。


―――――夢を見たんだ。

 

 

 

 

 ドクターが、いつもの気の抜けた顔で手を振って去っていく夢。

 消滅間際のダ・ヴィンチちゃんに背中を押され、カルデアから逃げ出す夢。

 

 全ての人が神になることを夢見た、ある男の最期の夢。

 

 

 見知らぬ世界、あり得たかもしれない可能性を摘み取る旅。

 

 獣人の友人がいた。幼い少年少女がいた。平和に暮らす民がいた。家族思いの少女がいた。新しい明日を願った双子がいた。

 

 

 

 

 全て、もう失ってしまったけれど。

 その果ての結末が―――――――だなんて。

 

 

 

 

『―――――ねぇ、とても辛そうなお顔をされているわ。私で良かったら、お話してくださらない? お話すると気分が晴れるからって、ティテュバが良く言っていたの!』

 

 

 

 

 

 

―――――………大切な、仲間がいたんだ。

 

 

 

 

 

 いつもどこか遠くを見ていて。巫山戯ているようで、本当は誰よりも真剣だった。

 ただ人理を救うために駆け抜けていた。

 

 支えてもらっていた。助けてもらっていた。

 そういうと彼は、「一番大変なのは君じゃないか」なんておどけるのが目に見えるようだけれど。彼がいなくなった後のカルデアは、どこか閑散としていた。

 

 

 

 

『そうなの…。素敵な人だったのね』

 

 

 

 

 学んで、働いて、考えて。

 ドクターは俺よりもずっと大人で、でもネットアイドルが好きで、甘いものが好きで。ダ・ヴィンチちゃんと楽しそうに話していて。

 

 俺も、ゲームの話で休憩時間中ずっと盛り上がったこともある。

 

 

 

 

 自由な人だと、思っていた。

 けれど本当は、自由にとても憧れている人で。人理のために、全てを投げ出してくれた人だった。普通の人なのに、どこまでも英雄(サーヴァント)だった。

 

 

 

 

 

『座長さんも、あまり人のことは言えないと思うのだけれど…。もしかして座長さんに似ている人だったのかしら』

 

 

 

 

―――――ドクターと、俺が?

 

 

 

 うーん、あのゆるい感じに似てると思われるのは嬉しいような、微妙な気持ちのような…。いや光栄ではあるんだけれど、それはそれというか。

 

 

 

 

『――――いいなぁ』

 

 

 

 

―――――…アビー?

 

 

 

 

『ねぇ、座長さん。やっぱりわたしは悪い子だわ。貴方にもっと、わたしのことを見て欲しいと思ってしまうの――――その人が無事だったらマスターも嬉しくて。そして、遠くを見ることも無くなるのかしらって』

 

『だから。来て、マスター。貴方ならきっと―――――耐えられるわ』

 

『どんな夢路でも、マスターと一緒なら。でも、この惑星(ほし)が本当の夜明けを迎える時には、ちゃんとお目覚めになると誓ってね?』

 

 

 

 

――――――なんで、アビーが二人――――いや、三人!?

 

 

 

 

 いつのまにか、小さな――――しかしどこにこれほどの力があるのかというほどの手で両側から掴まれ。目の前には巨大な鍵を持ったアビーと、門が――――これは―――。

 

 

 意識が――――遠く。

 

 

 

 

 

『――――どうか、お願い。この結末を知っても挫けないで』

『私たちは、付いてはいけないけれど――――』

『みなさん、マスターのためならきっともう一度戦って下さるわ!』

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 

 

「はーい、入ってまー――――って、うぇえええええ!? 誰だ君は!?」

 

 

 

 

 

 どんな奇跡でも。もし本当は夢だったとしても。

 いつか醒めるかもしれなくても、今は。ドクターと話せるのが嬉しかった。

 

 

 

 

 

―――――長く、辛い旅路だった。

 

 

 

 でも、同時に。

 ドクターが、ダ・ヴィンチちゃんが。皆がいてくれたその旅路は、決して忘れられない、輝かしいものだった。

 

 誰を犠牲にするわけでもなく。

 ただ、人類の明日を取り戻すために。

 

 

 

 貴方に、新しい未来(あした)を掴んでもらうために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――なぁ、フォウ君」

「フォウ?」

 

 

 

「……色々好き放題やっちゃったけど。今回の……俺達の旅は、ちゃんと、良いものになったかな」

 

 

 

 マシュの延命には、ウルクの大杯を使えばなんとかなる………はず。

 けれど、もし万が一のことがあれば――――と、フォウくんに頼りたくなってしまう自分が嫌で。けれど、マシュのことは大切で。もちろんフォウ君も大事な仲間で。

 

 

 

「フォウ、フォウフォ(てしてし)」

「痛い!? なに馬鹿なこと言ってるんだって感じの視線と爪が普通に痛い!」

 

 

 

「フォウ。フォウフォウ」

「……うん。一緒に旅をする人が変われば、旅の内容は全く違うけれど。それはきっと、比べるものじゃないよな。最後まで楽しめるように、頑張るよ」

 

 

 

 

 

 

――――今度こそ、完膚なきまでに完璧な勝利を。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「藤丸君、マシュ! 目を覚ますんだ、体に異常はないか!?」

「っつ……はい、ドクター! レイシフト、成功しました! 先輩も無事です!」

 

『ああ、こちらもモニターしている。そこが時間神殿なのは間違いない。そして――――この反応は、メソポタミアで嫌というほど計測した反応だ。クラス・ビーストの反応が、その空間を占拠している!』

 

 

 

 ああ、懐かしい感覚だ。

 そう思った。あの時は凄まじい緊張感と絶望を感じたけれど。今ではまだそれほどでもないと思えてしまう。異星の神と比べれば、と。

 

 

 

 

 

「その通りだとも。少しは鼻が利くようになったなカルデア。七つの特異点を越えてきたその強運、素直に称賛させてもらうよ――――だが。吐き気を催す生き汚さだ。どうしてこう、行儀良く死ぬ、なんて、誰にでも出来る簡単なことができないんだい?」

 

 

 

 ダ・ヴィンチちゃんの声に応えるように、聞き覚えのある声とともに姿を現すのはレフ・ライノール。

 それに応じるように、前に出たのは――――。

 

 

 

「――――ハ! 飼い主を失った狂犬風情が。吠えるではないか」

「………やれやれ。人間の生き汚さについては同感だけれど――――どうにも癪に障る」

 

 

 

 

 片や、魔杖を手にした賢王。片や、天の鎖に宿った新たな生命。

 

 

 

「此処は我らに任せよ――――と、言いたいところではあるが。我の(ウルク)に手を出した不敬は万死に値する!」

「串刺しだね―――わかるとも!」

 

 

 

 

 黄金の波紋―――宝物庫への扉が開き、それに応えるようにレフがその姿を変える。無数の眼を備えた異形の柱、魔神柱へ。

 

 

 

 

「さあ、死にものぐるいで足掻くがいい!」

「手間を取らせないでほしいなぁ」

 

 

 

 

 

 

 魔杖が、最上級の武具が、一斉に放たれレフの姿を粉微塵に粉砕し――――次の瞬間には、再び全く同じ姿の魔神柱が“誕生”する。

 

 

 

 

「――――私を殺したな? だがそれが何だという。我らは常に七十二柱の魔神なり。この大地が、玉座がある限り我らは決して減りはしない! 私を殺したければ七十二の同胞、全てを殺し尽くすことだ!」

 

「チッ。ティアマト神ほど理不尽でもないようだが――――」

「ほぼ無限の物量というわけか。僕とギルで20程度はいけると思うけど」

 

 

 

「だがそんな火力が、そんな軍勢がどこにある? もはや地上の何処にも、そんなものは存在しない! ハハハ、飛んで火に入るなんとやらだ! 意気揚々と乗り込んできてご苦労さま!」

 

 

 

 不意に、通信越しでもはっきりと分かる衝撃音とドクターの焦る声が聞こえた。

 

 

 

『――――っああ、何があった!? 今の衝撃はなんだ!?』

 

『外部からの衝撃です! 第二攻性理論、損傷率60パーセントを超えています!』

『北部観測室、ロストしました! 天文台ドームに過度の圧力を確認! ――――魔神柱が取り付いています! 数は8!』

『崩壊まであと5分! ドームが破壊されれば管制室の不在証明が保てません!』

 

 

 

「ドクター!? マスター、カルデアが攻撃を受けています!」

 

 

 

『疑似霊子演算精度、クオリア域を離脱! 攻性理論の強度、低下していきます!』

『館内の電気供給を中央以外カットしろ! 炉心からの電力はすべて攻性理論とカルデアスに使え! 管制室はなんとしても―――――』

 

 

 

 

 途切れる通信に、レフは――――フラウロスは嗤う。

 最古の英雄王と、その唯一人の友の後継の攻撃を受けてなお。その程度では何の障害にもなりはしないと。

 

 

 

――――――だが、それはこちらも同じだ。

 

 

 

 信じている。

 人任せかもしれない。

 

 でも、自分一人で世界を救えるなんて自惚れてはいない。

 

 

 

 そう、いつだって――――。

 仲間がいた。先達が、誇るべき人類史の英雄たちがいた。

 

 

 

 

「お見それした! まだ敵を睨むだけの強がりができるとは! だが最古の英雄王がいようと所詮は英雄の延長線上に過ぎない! 最後のマスター、最後の人類、藤丸立香よ。私たちは心底から君に感謝を示す! なにしろ最高に面白かった!」

 

 

「第一特異点での……いや、あれは愉快ではなかった。第二……第三……第四………ええいっ…――――ともかく、おまえの戦いは実に愉快だった! なにより無意味なのがいい! ここまで戦ってきた徒労を! あそこまで戦って、なお無為に終わる惨めさを! 私たちは素晴らしいと評価したとも!」

 

 

 

「ありがとう、そしてさようなら! カルデアもろとも、その旅もここで終わりでッす! ハハ、ハハハ、ハハハハハハハハハハハハ!」

 

 

 

 

 

 

 

――――――本当に、そう思うか?

 

 

 

 

 無駄な旅だったと?

 何も得るものの無い徒労だと?

 

 だとしたらやはり、だからおまえは間違えた。

 もしも特異点Fの後にすぐ此処に来ていれば、まず勝ち目はなかったのに。人の歴史には、おまえが憎んだ“困難”や“醜さ”だけでなくそうした“旅”や“笑顔”が溢れているのに。

 

 

 

 

 

「―――――いえ。無意味だなんて。それこそ笑い話です」

 

 

 

 

 救国の――――救世の旗を掲げ、魔神柱の放つ光線を払うのは聖女・ジャンヌ・ダルク。

 それに呼応するように、一騎、また一騎とサーヴァントが出現する。かつての終局特異点と同様に――――否。それ以上の勢いを以て無数のサーヴァントたちが集う。

 

 

 

 

「準備はよろしいですか、マスター」

「魔力を回せ、決めに行くぞ」

「呪いの朱槍をご所望かい?」

 

 

 

 

「――――そう、貴方には無数の出会いが待っていた。さあ、戦いを始めましょう」

 

 

 

 

 

「ぐああああ――――!? なんだ、何が起こっている!? なぜ藤丸が消えていない!? なぜカルデアが残っている!? なぜ――――なぜ我々の体が崩れているのだ!?」

 

 

 

 

『……これは夢か? 計器の故障か? 特異点各地に次々と召喚術式が起動している! 触媒も召喚者もなしで自発的に! ――――いや、これは藤丸君との縁をたぐって…?』

 

『霊基反応、十、五十、百――――まだ増える!』

 

 

 

 

「聞け、この領域に集いし一騎当千、万夫不当の英霊たちよ! 本来相容れぬ敵同士、本来交わらぬ時代の者であっても今は互いに背中を預けよ! 人理焼却を防ぐためではなく―――――我らが契約者の道を開くため!」

 

 

 

 

「我が真名はジャンヌ・ダルク! 主の御名の下に、貴公らの盾となろう!」

 

 

 

 

 

 

 

「おや、出番でちか。それでは料理を始めるでち」

「どうか、誰も傷つけられぬ世界でありますように……が、がんばりますっ!」

「……魔神柱(くろねこ)でパンケーキつくる♪ みゅん。パンケーキに魔神柱(くろねこ)のせる。みゅん、みゅん♪」

 

 

 

「面倒やさかい、まとめてとろかしたろか」

「わしが第六天魔王、織田信長じゃ!」

「天幕よ、落ちよ! 万雷の喝采を聞け!」

 

 

 

「始めましょう。切り捨て、ごめんなさい」

「すぐに終わるから。花束の用意をしておいて」

「おまえの命、マルスへ捧げる」

 

 

 

「一人で10体ぐらい倒せればいけるか…?」

「美しさでは私の勝ちだ。では――――武勇ならばどうか」

「さぁーて。蹂躙してやろうか、お兄様?」

「……一気呵成に滅ぼしてくれよう」

 

 

 

「カモが来たカモが来た……っと、いいわ。金星まで連れて行ってあげる!」

「いいのだわ。冥界まで連れて行ってあげる!」

「ごごごごごご……」

 

 

 

「出雲に神あり。是自在にして禊の証――――神宝宇迦之鏡也」

「我は、抑止の守護者。魔を裂き、神を穿つ。人の祈りを束ねし者」

「勝つも負けるも、派手に使い切ろうじゃないか!」

 

 

 

「いざ、全てを白日の下に―――――」

「立ちふさがるのならば容赦はしない。いくぞ」

「私は、我が忠義を貫くのみ!」

 

 

 

「わたくしの邪魔をするのですか。なら、仕方ありません……焦がします」

「全て。全て。主の御心のままに」

「影の風紀委員長の力……お見せいたしましょう!」

 

 

 

「ヤコブ様、モーセ様。お許し下さい――――マルタ、拳を解禁します!」

「サンタとのマッチアップは初めて? サンタは宙を舞うものデース!」

「ラウンド開始だ。拳は既に温まっている」

 

 

 

「行くよ、シロウ」

「―――っああもう仕方ねぇ! 七度ばかりぶった斬るか!」

「凍てつく冬への覚悟はできた?」

 

 

 

「一切の邪悪、滅ぶべし!」

「ジャッジメントの時間DA☆ZE!」

「捧げよその血、その命を」

 

 

 

「私はもう――――何もあきらめない!」

「とっておき、見せてあげるわ!」

「それが、貴方の望みなら――――」

 

 

「敵影発見だ。総員、持ち場につけ!」

「愛そうか。殺そうか」

「出陣します、総員、構えて下さい」

 

 

「はぁーい! BBチャンネル、出張版!」

「まとめてゼリーにしてあげる」

「飛んで火に入る……いえ、なんでもないです!」

「力の差も分からないなんて―――――」

 

 

 

「エヘヘ……ご指名いただき、恐悦至極で……」

「仕事だよ、とと様」

『違法ビースト反応、確認。お前たちに、弁護士を呼ぶ権利はない』

 

 

 

「っふ、またこれは。随分と荒々しい―――――わたくし、昂ぶってしまいます」

「どうしてもというなら、仕方ありません。……溺れたいみたいですね」

「フォウ、フォウ! フォーウ!」

 

 

 

 

 

 

 瞬間、無数の爆発により時間神殿が激震する。

 無数の宝具で消し飛ばされたフラウロスが再び誕生し、即座に消滅する。

 

 

 

「――――なにが――――ぐおおお―――――!? ふざけ―――――あああああああああ!?」

 

 

 

「「「約束された(エクス)――――――勝利の剣(カリバー)!」」」

勝利すべき黄金の剣(カリバーン)!」

無銘勝利剣(ひみつかりばー)!」

黒竜双剋勝利剣(クロス・カリバー)!」

不撓燃え立つ勝利の剣(セクエンス・モルガーン)!」

 

 

 

 

「――――さあ。行って下さい、マスター!」

「貴方に勝利を!」

「マシュ、マスターを頼むぞ」

 

 

 

 

「―――――っ、はい! マスター、進路上の魔神柱は一掃されています! このまま突破しましょう!」

 

 

 

 

 

 

―――――そう。そしてここからが、本当の戦いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「――――多くの悲しみを見た。多くの裏切りを見た。多くの略奪を見た。多くの結末を見た。もう十分だ。もう見るべきものはない。この惑星では、神ですら消滅以外の結末を持ち得ない。」

 

 

 

「我々はもう、人類にも未来にも関心はない。私が求めるものは、健やかな知性体を育む健全な環境だ」

 

 

 

「この惑星は間違えた。『終わりのある命』を前提にした狂気だった。私は極点に至る。“自らを新しい天体とし、この惑星を創り直す。創世記をやり直し、“死”の概念の無い惑星を作り上げる―――――我々は憎しみから人類を滅ぼしたのではない。我々にとって、人類とは始まりのソラに至るための噴射装置に過ぎない」

 

 

 

 

 

――――大層なことだ。勝手に燃料にされる人間からすればたまったものじゃない。

 

 

 

 だが。

 その言葉が真実であり、ゲーティアが本気であることは眼前の光帯、その熱量からはっきりと伝わってくる。

 

 目をそむけたくなるような、禍々しい眩さ。

 斧を構えた賢王と、キングゥ、そしてマシュがいてもなお立っていることが難しくなるほどの。

 

 

 

 

 

「我が光帯は無限に重ねた人類史そのもの。これを前にして、人に属するものに勝算はない」

 

「ハ! 人間とは確かに犠牲が無ければ生を謳歌できぬ獣に過ぎぬ。――――だが、見る必要がないだと? 耄碌したのは目だけだけでなく頭蓋もであったようだな!」

「世界が生まれ直すとすれば、それはティアマト神(母さん)の仕事だ。あまり勝手をしないでもらおう」

 

 

 

 

 言葉とともに、黄金の波紋から引き抜かれるのは―――――剣。

 英霊ならざる、第七特異点から聖杯の力で抜け出してきた賢王ギルガメッシュ。英霊としての宝具を、至るべき王の財宝を持たない彼が、サーヴァントの攻撃を意に介さないゲーティアに対して唯一有効打たりえる最強の宝具。

 そして、それに応えるようにキングゥも己が全霊をかけてゲーティアに向かって飛翔する。

 

 

 

 

「――――起きよ、エア! 原始を語る――――原子は混ざり、固まり、万象を織りなす星を生む! 天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!」

「母さんがお怒りだ――――滅びの潮騒を聞け! 母よ、始まりの叫をあげよ(ナンム・ドゥルアンキ)!」

 

 

 

「無駄なことだ。英霊としてのギルガメッシュであれば古今東西、未来の宝具すら扱えるやもしれんが――――ただの英雄、ただの王としての英雄王には“それ”が限界だろう。創世の臼――――それを超える熱量こそが光帯だと、既に言った」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――ではお見せしよう。貴様らの旅の終わり。この惑星のやり直し。人類史の終焉。我が大業成就の瞬間を! 第三宝具、展開―――――誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サロモニス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 光だ。押し寄せる光の洪水こそはゲーティアの宝具。

 

 止めようもない熱量が、守ろうとした人類史そのものが牙を剥こうとしている。

 あるいは、乖離剣の力を限界まで引き出せば道連れにすることくらいは叶うのかもしれないが。

 

 

 

 

「――――先輩。ここは、私が」

 

 

 

「チィッ! 今の筋力では持たぬか! ファイトだ、友よ! 死にものぐるいで我を支えよ!」

「ギル、君はいつも――――っ、ああ、わかるとも!」

 

 

 

 

 空間を斬り裂いて荒れ狂う乖離剣に、王としてのギルガメッシュでは筋力が不足しているらしい。天の鎖が支えるように巻き付いて、なお徐々に押し込まれるその光景に、耐えきれなくなったようにマシュが前に出る。決して不安そうにも、恐怖に震えるわけでもなく。

 

 

 ただ、どこか寂しげな顔で。

 

 

 

 

「先輩。もう一度、手を握ってくださいますか?」

 

 

 

「――――――まだだ! マシュ、頼む。まだ、やれる! アルトリア―――ッ!」

 

 

 

 

 

「ええ。私の力が必要ならば。黄昏の時よ、再び――――異邦の国、時の終わり。なれど最後の剣は彼の手に。城壁は固く、勝鬨は万里を駆ける――――冷厳なる勝利を刻め!

 

 

 

 

真円集う約束の星(ラウンド・オブ・アヴァロン)!』

 

 

 

 

 

「――――如何なる滅びにも、我らは屈せぬ!」

 

 

 

 

 対粛正防御――――滅びに抗う宝具が、人類史そのものの熱量を受けて大きく震える。未だかつて、人類が受けたことのない規模の滅びに対して。それでもなお、輝けるものがあるのだと示すように。

 

 

 

 

 

 

 その永遠にも思える均衡の中、声を張り上げる。

 馬鹿になった気がする耳でもしっかりと聞き取れるように。

 

 

 

 

 

 

 

「一気に畳み掛けるぞ――――アンデルセン!」

 

 

 

「ははは! この俺にあの男の話を書けだと? まあ、依頼はとうの昔に受けていたとはいえ、どう書こうが駄作扱いしてくる依頼主なんぞ死んでも御免被るところだが――――チッ、物好きな読者まで燃やされるのは―――なんだ。作家としては見過ごせんか」

 

 

 

 

 

 

「しかも締切三秒前と見た! ではお前達の旅路を書き上げよう。タイトルは、そう――――貴方のための物語(メルヒェン・マイネスレーベンス)

 

 

 

 

「―――――女の話をしよう。愛のままに月を呑み込み、恋によって敗れた女。そしてその女を倒す、月の王と黄金の王の話。その原初の姿を!」

 

 

 

 

 

 それは、書き上げた物語、その主人公の能力を現実のものにするという宝具。

 本来、とても長い時間が必要になるものだが、今回においてはその心配はない。なぜなら、それは実話に基づく物語なのだから。

 

 もちろん、予め頼んでおいたというのもあるが。

 

 

 

 

 

 瞬間、黄金の輝きが全てを覆い尽くす。

 吹き荒れるのは魔力の暴風。英雄でも、英霊でもなく。

 

 唯、君臨するのは黄金の王。

 

 

 

 

 

 

 

「醜悪、ここに極まったな雑種。死体に巣食った狂犬風情が正しさを語るとは、万死絶刑に値する!」

 

 

 

 

 

 

 変わる。賢王の姿が黄金の王に――――その全盛、あるいは原初の姿に。

 黄金の鎧を半身のみ身にまとい、その友たる鎖を腕に巻きつけただけの簡素な姿であり――――あの英雄王ギルガメッシュが、王としての威厳にも見栄えにも拘らずただ全力で戦うことを姿から示していた。

 

 神話礼装。それはサーヴァントであっても一度の戦闘で崩壊してしまうほどのもの。

 

 

 だが、その王は。

 英雄の中の王は、ただ高らかに謳う。

 

 

 

 

 

 

「―――――王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)!」

 

 

 

 

 

 瞬間、ギルガメッシュ王が黄金の波紋から取り出すのは一つの粘土板。

 かつてバビロニアでも見た、その巨大な碑文こそは――――。

 

 光帯が揺らぎ、震える。

 初めてはっきりとゲーティアの持つ最強の武器が脅かされていた。

 

 

 

 

「馬鹿な。対粛正宝具はともかくとして――――なんだ。なんだというのだ、その貴様の宝具は!?」

 

 

 

 

「馬鹿め、我が宝物に対粛正宝具が無いとでも? 第一、人理を燃やし尽くす術があるのならば、それに相当する術があるは人の理! 地上全ての、人類全ての原型を納めてこその英雄王よ」

 

 

 

「加えて、此度は宝物庫の鍵は外してある。我が契約者の魂を賭けた一戦。あらゆる支援、出資は惜しまぬと知れ!」

 

 

 

 

「是なるはあらゆる人類史を記録した碑文の原型――――天命の粘土板! 人の死、人の歴史、人の選択は貴様などの手に委ねるものではない! さあ、裁定の時だ!」

 

 

 

 

 

 全ての神々と人の寿命が記されたというその粘土板が、ゲーティアの使用した人類史を熱量とする概念を破却する。神秘は、より強い神秘によって打ち消される。ほぼ最古の神秘によって保証される人の生命が、魔術王、獣の宝具に抗い始めたのだ。

 既に取り込まれたものであり、ビーストの特異性もあって即座にとまではいかなかったものの、このまま時間が過ぎれば全ての人理はもとあるべきカタチに還るだろう。

 

 

 

 

 

 

「―――――だがッ! それも無意味だ! 対粛正宝具だと? それは何時まで展開できる。何度展開できる。我々は、人類史の熱量が尽きぬ限り永遠に放ち続けることができるのだ。人類史を開放される前に、貴様らの命は燃え尽きる!」

 

 

「第三宝具、再展開―――――誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サロモニウス)!」

 

 

 

 

 

 

 瞬間、発射される光帯の太さが倍になる。

 まさかこれまで無計画にブッパしているようで、一応節約していたのか―――!?

 

 

 

 

「ええい、童話作家よ! 我の宝具(エア)はこの程度ではないぞ!」

「――――チィッ! 認めたくはないが想像力の限界だ! 残念だが現状では貴様は真性悪魔を打倒できる程度の力しか無い!」

 

 

「たわけ! リテイクして再出版せよ!」

「無論、不可だ! 人生なんぞ、常にリテイク不可の一発勝負だろうに! 当然、筆が間に合わんという意味でな!」

 

 

 

 

 押し込まれそうになる乖離剣を力づくで押し止めるギルガメッシュだが、高すぎる互いの攻撃の威力によって周囲に撒き散らされる衝撃波だけでも特異点が崩壊しそうな勢いがある。当然、それを防いでいる対粛正宝具にも相応の負担があるわけで。

 

 

 

 

「なら、私が―――――」

 

 

 

 

 

 前に出、今にも崩壊しそうなキャスター・アルトリアの護りを引き継ごうとしたマシュに、声をかける男がいた。

 

 

 

 

「いいや、少しだけ待って欲しい。僕にも、勝機が見えたからね」

 

 

 

 

 それは、どこかゆるふわで気の抜けた顔をした男だった。

 誰よりも、人理を守護するために奔走し――――その旅の果てに、己の意義を見定めた男だった。

 

 

 

 

「遅いわ、たわけ!」

「いや、これでも一大決心だったんだし許して欲しいんだけど……。でも、君たちのお陰で、僕は間に合った。――――マシュ、君の命が残り僅かであり、それが君の望みであったとしても――――やっぱり、それを見届けるのは酷く悲しいからね」

 

 

 

 

「ドクター……? それは、一体」

 

 

 

 マシュの疑問に応えるように。

 ドクター・ロマンの姿が変わる。髪の毛や、肌の色すらも。

 

 

 

 

「僕は――――魔術王、ソロモン。ゲーティア、君に引導を渡すものだ」

 

 

 

 

 

「ハ! この終局に、無能の王のお出ましか! 死ね! 死ね、死ね、死ね! そのまま守りたかった人類史によって灰と化すがいい!」

 

「いいや。その前に一つだけ。やっておく事があるんだ。――――ゲーティア、お前に最後の魔術を教えよう

 

 

 

 

 ソロモン王が――――ロマニ・アーキマンが、その手に嵌めたたった一つの指輪を掲げる。

 

 

 その胸を過るのは、安堵か。あるいは恐怖か。

 けれど彼は、己の存在全てを擲つと、そう決めてしまったとは思えない穏やかな顔をしていて。

 

 確かに、彼を犠牲にすれば勝てる。

 勝つことはできる。

 

 

 けれど、それは望んだ勝利じゃなくて。

 

 

 

 

 

「――――――駄目だ、ドクター!」

 

 

 

 

「藤丸君………君には、本当に驚かされた。まさか、ソロモン相手に――――ゲーティアを相手に、あと一歩のところまで追い詰めるとは思っても見なかった」

 

 

 

 

「―――――カルデアの司令官として指示を出すよ。僕のことは気にせず、完膚なきまでに完璧な勝利を」

 

 

 

 

 だが、あと一手。あと一手だけ足りなかった。

 ゲーティアは、ソロモン王さえいなければ無欠の存在と言っても良かった。マシュを犠牲にし、一か八かで耐久戦をすればギルガメッシュと天命の粘土板で勝利できるかもしれない。

 

 けれどもっと確実な方法があればソロモン王はそれを実行する。それが、彼にできることであるのなら。

 自分を犠牲にしてマシュがわずかでも生き延びられるのなら、悪くはないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――不意に場違いなエンジン音が響いた。

 

 

 

 

 地面を抉るタイヤの音。

 無駄に光らせるライトに、高らかに響かせるクラクション。

 

 

 

 

 

『どんな嵐であろうとも! どんな未来が待とうとも! 駆け抜けるは前人未到、未完の馬よ、輝ける轍を残せ! ――――――私たちは、あらゆる困難を乗り越える! その証左を今示そう! ―――――『境界を超えるもの(ビューティフル・ジャーニー)!』

 

 

 

 

 それは、一つの対界宝具。世界の境界を踏み越えるシャドウボーダー。

 その轍を覆うように咲き誇るのは、なんてことはない小さな花。

 

 

 

 

 

 

「いよぅし、間に合った――――!」

 

「げぇぇぇぇ、マ――――リン!? なんでキミが!? まさか再召喚!? いやいやいや!」

 

 

 

「そして発想が貧困だなアーキマン! サーヴァントの攻撃が無効で人材が足りないなら“死んでいない”英雄を連れてくればいい! 第七では出番が無かったからね! 徒歩で来る予定だったがヒッチハイクしてきてみた! そして―――――車のボンネットを見上げるがいい憐憫の獣よ! そこに、貴様の死神が立っているぞ!」

 

 

「………死なくして命はなく、死あってこそ生きるに能う。そなたの言う永劫とは、歩みではなく眠りそのもの」

 

 

 

 

 

「災害の獣、人類より生じた悪よ。再創造を望んだその憐憫こそ、汝が人の歩みを理解できぬ根底なり」

 

「馬鹿な。貴様――――まさか、冠位の」

 

 

 

 

 

「冠位など我には不要なれど、今この一刀に最強の証を宿さん。獣に堕ちたといえど、魔術王の使い魔であれば名乗らねばなるまい―――――幽谷の淵より、暗き死を馳走しに参った。山の翁、ハサン・サッバーハである」

 

 

 

 

 

「――――晩鐘は汝の名を指し示した。その指輪、天命のもとに剥奪せん――――!」

「そしてゲーティア君には残念だが、これは幻術だ!」

 

 

 

 瞬間、宝具をすり抜けるようにしてゲーティアの眼前に立った山の翁の一撃が、ゲーティアの片手の指輪――――それを4つ纏めて切り裂く。

 

 

 

「ぐおおお――――ふ、ざけるなぁあああ!」

『ビーストⅠの霊基パターン、変化! 死の概念が付与されている! これは通常の、サーヴァントの霊基パターンだ! 魔神柱からの逆説的復元はもうない!  これなら完全に消滅させられる!』

 

 

 

 

 四方に光線を撒き散らすゲーティアに、余裕をもって回避し距離を取る山の翁。気配遮断を使って姿を消すアサシンに、ゲーティアは苛立ったように注意を散らし――――。

 

 

 

 

 

「さあ、マスター君これを!」

 

 

 

 シャドウボーダーから顔を出すダ・ヴィンチちゃんから投げ渡されるのは、一つのトランク。かつて、カルデアから逃げ出す時にも手放さなかったそれこそは絆の証。霊基グラフ。

 

 

 

「―――――マシュ!」

「はい、先輩!」

 

 

 

 言葉だけで察してくれる後輩が、召喚サークルを設置する。

 決して多くはない魔力を回す。幾度も繰り返したその作業をまた、もう一度繰り返す。

 

 

 

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――――!」

「―――――マスター。わたしが貴方の鍵となるわ」

 

 

 

 

 

 

「令呪を、三画重ねて願う――――霊基復元!」

 

 

 

 

 

 

 

――――――もうひとりだけ、ゲーティアに対抗できる、サーヴァントではない生きた人間の心当たりがあった。

 

 

 

 

 サーヴァントとして召喚されるアビゲイルに重ねるように、彼女に託した5つの聖杯の力で今、この瞬間に呼ぶ。応えてくれる保証はない。確証もない。

 

 

 

 

 ただ、そう―――――月並な言葉でしかないけれど、信じている。

 

 

 

 俺のカルデアは。

 俺達のカルデアは最強なんだと。

 

 

 

 この、紡いできた絆なら―――――どんな願いだって叶えられると。

 絆礼装を、“彼女”から渡された銀の鍵を、強く握った。

 

 

 

 

 

 

「オーダーチェンジ! 来てくれ、アビー!」

 

 

 

 

 

「我は門を知れり。汝、見ること能わず―――――さあ、座長さん。呪いの唄を謳いましょう」

 

 

 

 

 そこに、扉があった。

 扉の先には虚空があり、およそ人間には耐えられないだろうその空間から降り立つのは、銀の鍵を持つ一人の少女。

 

 サーヴァントではなく、セイレムから旅立ち、いつか再会を誓った。

 

 

 

 

 

「我が手に銀の鍵あり――――虚無より顕れ、その指先で触れ給う。我が父なる神よ、薔薇の眠りを越え、いざ窮極の門へと至らん! 『光殻の虚樹(クリフォー・ライゾォム)!』」

 

 

 

「さあ、貴方に“門”の先を見せてあげるわ――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 虚空(ソラ)の果て。

 神がいた。生命がいた。得体のしれない物体がいた。

 

 終わりのない、寿命を持たない生命もそこには存在した。

 

 

 

 深き、深淵に住まうものども。

 

 

 

 嘲る者、奪う者、あるいは異星の神にすべてを捧げる者。

 

 

 

 

 

 なんだ、これは。

 

 

 

 この惑星だけでない。

 この虚空の果てに、こんなにも多くの失敗作が溢れているというのか!?

 

 なぜ、限りある命でもないのに争う。

 なぜ、己の持つものに不足がないのに奪う。

 なぜ、意味もなく裏切る。

 

 

 

 限りある命でなければ、救われたものになるはずだった。

 満たされていれば、人類はもっと見るべきものになると思っていた。

 

 だが、だがこれでは――――何も変わってはいない!

 

 

 どうしろというのか。

 もはや、人類に救いはないとでもいうのか。

 

 

 

 

『悲しい人……。救いは、神様に与えていただくだけのものかしら? 清貧が、祈りが、善い行いに応えて下さるものではないの?』

 

 

 

 

 そんな人類がどこにいる。

 そんな救いがどこにあった。

 

 神は惑星は人を救わない。だから我々が惑星になろうとしたというのに。

 

 

 

 

 

 

『―――――よくぞ聞いてくださいました! 貴方には座長さんスペシャルセレクションを視聴してもらうわ!』

 

 

 

 

――――は!?

 

 

 

 

『まずは……私の選んだ、『銀の鍵との冒険セレクション』から!』

 

 

 

 

 

 待て。一体何を言っている―――――。

 

 

 

 

 

『大丈夫、これから分かっていただけるまでひたすら座長さんのお話をさせていただくだけよ?』

 

 

 

 

 

 くっ、こんなところにいられるか。我々は―――――。

 む、人類に似た種族だと………ほぼ永遠の命……ほう。我々の理想にも近い――――。

 

 

 

 

『座長さんは悪い人だわ。……どんな人とでも仲良くできるのはとっても素敵なのに、いつの間にか“お仲間”を増やされているのですもの!』

 

 

 

 

 まあ、我々にとっては障害物でしかないが――――マシュ・キリエライトの旅路を彩ったという点においては悪いものではなかったと言う柱もいる。

 

 

 

 

 いや待て、今明らかに話が飛んだぞ。

 

 

 

『セレクションですもの。最終的に、座長さんと仲良くなった子は殺されてしまうけれど、色々あって座に登録されたわ』

 

 

 

 待て、ネタバレはやめろ――――!?

 

 

 

『先は永いですもの! さあ、次はBBさんの『ムーンセル・セレクション』よ!』

『そしてその次は清姫さんの『ますたぁと清姫日記帳』』

『次は紅閻魔さんの『カルデア閻魔帳』』

『ダ・ヴィンチさんの『カルデアセレクション』』

『水着の私が選んだ『マスターと夏の思い出』』

『ムニエルさんの『極秘記録』は……あ、小さい座長さん! 座長さんが若返りの薬を飲まれてしまった時のものね!』

 

 

 

 待て、なんだというのだ。

 こんな記録に何の意味がある。

 

 

 

 こんなものは無意味だ。

 我々が燃料にする、人類史の過去の遺物に過ぎない。

 

 

 

 

『貴方は、何を見たかったの?』

 

 

 

『善いものを、善い結末を見たかったのではないの?』

 

 

 

『それは、人類史にも確かにあったわ。とても、とても多くの悲しみに押しつぶされてしまいそうだけれど。精一杯、善いことをしようと頑張っている人がいるの』

 

 

 

『それを無視して燃やしてしまうなんて、ひどい誤解だわ! 貴方は、マシュさんが楽しそうに過ごされているのを見て何かを感じたのではないの? そうでなければ、貴方の望む幸せな結末は、きっとこの宇宙のどこにも無いわ』

 

 

 

 

 

 違う。我々は。

 無いからこそ、作ろうと――――。

 

 

 

 

『では次は座長さんの選んだ『マシュの名場面セレクション』にするわ』

 

 

 

 

 

――――――――――理想郷はここにあったか。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「ぐ、あああああああああ―――――――!?」

 

「ゲーティア、苦しんでいます!? これは、一体――――」

 

 

 

「ごふっ………尊……ハッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光帯が乱れ、山の翁の斬撃がゲーティアの指輪を奪い―――――それを手にとったのは、魔術王ソロモン。

 

 

 

 

「―――――今、此処に十の指輪が揃った」

 

 

「藤丸君の―――いや、あえてこう言わせてもらおう。僕たち、カルデアの勝利だ」

 

 

 

 

 

 

 

 全ての魔術が、魔術王ソロモンの支配下に置かれる。

 それは、本来であればソロモンの使い魔であったゲーティアも例外ではなく。開放される光帯の人類史に、力を失うゲーティア。

 

 

 

 

 

 

「王律剣バヴ=イルを使う! 宝物庫の扉を開けよ――!」

 

 

「原初を語る―――――天地は分かれ、無は開闢を言祝ぎ。世界を裂くは我が乖離剣! ――――死して拝せよ、天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、最後の一撃が。

 その身体を容赦なく呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後書き


ここまでの短いようで長い旅路にお付きい下さった皆様に最大の感謝を。
多くの感想を頂きながら、返信と続きの話を考える日々はとても楽しいものでした。あれほど感想をいただけなかったら多分4章くらいで力尽きていたと思います。

至らぬ点は多くあったと思いますが、これにて本編完結とさせていただきます。
本当にありがとうございました。









ちょっとだけエピローグ書きたいです



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エピローグ / 帰還

 

 

 

『これから起こるはずのことを―――――なんて言っていいのか…。カルデアに入館する時に夢で見た?』

 

 

 その子はまだ大人になりきれていないような青年で。未来を見た、なんて言ってしまう彼に全く疑いを抱かなかったわけではない。それを解決してくれたのが、一人のサーヴァントであり。

 

 

 

『サーヴァント、ライダー。色々あって二代目になったダ・ヴィンチちゃんだ』

 

 

 

――――未来から召喚されたサーヴァント。

 

 

 ダ・ヴィンチちゃんが秘密裏に製造していた、『未完の馬』ことグラン・カヴァッロを基にした人工サーヴァント。彼女の話す『色々』の部分は納得のいく部分が多く―――太鼓判を押したレオナルドを信じるのならば、彼も信じられるということになる。

 

 

 

『要は、未来の君を夢を通じて“こちら”に叩き込んだってことだろうね。東洋風に言うと胡蝶の夢ってやつかな。もしかすると死んだら目が覚めて元の世界にいるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ほぼ第二魔法の域のようにも思えるけど、レイシフトにも酷似している。――――多分、君の異常なレイシフト適性に起因してるね』

 

 

 

 レイシフト適性、驚きの百パーセント。

 レイシフトしようが世界に全く気づかれない、単独顕現に匹敵するような希少性は即座にカルデアがスカウトを決めるだけのことはあったようだ。

 

 

 

 

『というか、私も妙にはっきりと未来のことを覚えている。君に引っ張られて君に縁のあるサーヴァントが引きずり込まれているのか、アビゲイル女史が何かしたのか。ここからでは推測だけになってしまうね。こういう時に限ってあの名探偵はいないし』

 

『ふーん。とりあえずなんで私が死んだか聞いてもいい? 一応備えはしっかりしていたつもりなんだけど、強化したほうがいいかもだ』

 

 

 

『えー。それだと私の出番が無くなっちゃうだろう? まあ人理修復して一年後に査問だからまだ時間はあるよ』

『うわ、聞きたくない。人理修復して終わりじゃないのかい?』

 

 

 

 

 

 

 レオナルドと小さいレオナルドが熱心に話し込み始め、ひどく懐かしいものを見たような顔をした彼に、小さく覚悟を決めて。

 ああ、そうか。でも――――僕は。後に続くものを残せたのか。

 

 その目には、隠しきれない信頼があった。

 こんな、誰も信じられない。信じていないような男に。命を預けあった戦友に向けるような、なんてことのない話のできる友に向けるような。

 

 レオナルド以外に、そんな相手ができるとは全く期待していなかった。

 

 

 

 

 

『―――――さしあたって、何か欲しい物はあるかい?』

『とりあえず例のマギ☆マリってどんな感じなの? ちゃんと見る機会なくて』

 

 

『見るかい!? いやぁ前回のは特に良くってね―――――』

『こ、これは―――――』

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 ソロモン王に人間性はなかった。

 彼は生まれた時から神の声を聞く王として扱われた。彼に自分の意思は一秒もなかった。

 

 人として世界に関わることなく没した彼に、『人間』という自由は与えられなかったのだから。

 

 

 

 だから、だろう。『人間になりたい』という願いを、聖杯によって叶えたのは。

 

 

 

 ロマニ・アーキマンになってからの時間は素晴らしいものだった。

 魔術回路もなくなって、千里眼もなくなって、本当に自由に、自分の意思で生きることができた。

 

 

 

 

 浪漫という言葉、未来を夢見る自由。より善い明日を求める心。そういうものが我々の後にできたのだと実際に体感できて嬉しかった。

 

 

 

 

 

―――――十年かぁ。あっという間だったなあ。

 

 

 

 

 けれど、藤丸君がいる。

 彼が立派なマスターになってくれれば、ボクのいた意味がある。

 

 それはボクが人間として得られる、最大の存在意義だ。これまで過ごした自由に、酬いるに余りある。そう、思っていた。

 

 

 

 

 

「キミの十年。人間になってしまった時に見てしまった『人類の終わり』を回避するため、逃げるように、悲鳴を上げながら走り続けた」

 

 

「浪漫なんてどこにもない。その地獄のような自由(じかん)は、確かに酬われた」

 

 

 

 

「「―――――ドクター!」」

 

 

 

 

 聖杯を用い、神代の魔術を使えるサーヴァントたちの全面協力により実施されたマシュの延命。それが終わり、駆け込んでくる青年と少女。

 

 

 

 それを出迎えようとした男は、口を開こうとして、何の言葉も出てこず困ったような笑みを浮かべて後ろを振り返った。

 

 

 

 

「さあ、それが自由だよロマニ・アーキマン。何をしてもいいし、しなくてもいい。どうせキミのことなんて、私たちはよく知っている! 今更失望するところなんて有りはしないさ! さあ、キミのしたいことを伝えてくれたまえ! この万能の天才と――――」

 

「人類最後のマスターと」

 

「不肖、マシュ・キリエライトも全力でサポートいたします!」

 

「フォウ、フォーウ!」

 

 

 

 

「――――ああ。そうだね。じゃあ、空を見に行こうか。マシュ、君が見たいと言っていた青空が、今ならきっと見える気がするんだ」

 

「……ドクター、それ千里眼?」

 

 

 

 

「ああっ、さっきソロモンに戻ったせいで若干千里眼が――――あるようなないような!? どうしよう、レオナルド!」

「いやはや全く、締まらないものだねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

――――――さあ、新しい一歩(たび)を始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 手にした自由は、掴みどころがなくて頼りなくて。

 転んでしまいそうで不安になるし、どちらに進めばいいのかもよく分からない。

 

 

 

 けれど、その代わりに。

 手を握って共に歩いてくれる仲間がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチ。

 

 デミ・サーヴァント、マシュ・キリエライト

 

 人類最後のマスター、藤丸立香。

 

 カルデア司令官代理、ロマニ・アーキマン。

 

 そして、フォウ君も。

 

 

 

 

 皆の手を握っているかぎり、ボクたちはあらゆる困難を乗り越えるだろう。

 全能は、人の手には遠すぎるけれど。

 

 例えこの先に、どんな嵐が待っていても。どんな未来が待っていても。

 

 

 

 

 

 

「だって、わたしたちの旅は続きます。とりあえずは、あの地平線の彼方へ! それが叶ったら、もっと先へ。更に先へ。それが私たちの、いえ、人間の基本原則(オーダー)

 

「未来への不安も、悲嘆も、すべては希望の裏返しでした。だからまた、きっと多くの冒険が待っています」

 

「行きましょう、マイ・マスター。何が待っているか分からない、あなたが取り戻した、新しい年に向かって―――――」

 

 

 

 

 

 

 ああ、空がこんなにも青かったなんて。

 こんなにも、世界が広く感じるなんて。

 

 さあ、冒険を始めよう。前人未到でなくてもいい。ボクの知らない世界へ、一歩踏み出す。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「――――というわけで、約束の令呪なんですけど」

 

 

 

 ……カーマさんや、もうちょっとだけ待てなかったのだろうか。

 

 

 

「なんですか、その不満そうな顔は。―――はいはい、どうせわたしは空気が読めない愛の神ですよーだ。……というわけで、マスターさんが今一番私にしてほしいことを正直に教えて下さい」

 

 

 

 

 …………なんでもいいの?

 

 

 

「ええまあ、私なりに貴方の献身に酬いてあげようかなー、なんて気まぐれです。どんな命令(コト)でも――――ええ、心の底からの欲望を私に教えて下さい」

 

 

 

 

 

 

 ………絶対嫌がると思うんだけど、本当にいいの?

 

 

 

 

「――――!? ……へ、へぇー! マスターさんにして気が利いて―――じゃなくて、そんな厭らしーい願いを考えちゃったんですかぁ…? ま、まあ世界を救った仲ですし、一応真面目に叶えてあげますから言ってみて下さい」

 

 

 

 

 ………じゃあ、こういう感じでよろしく。

 

 

 

 

 

 

「……………というかそれ、どうかと思うというか……無駄な労力というか……赤兎馬に蹴られて地獄に落ちて下さいマスター」

 

 

 

 

 よし、作戦名・オペレーション『ドクターとダ・ヴィンチちゃんをくっつけるキューピット作戦』開始!

 

 

 

「って何回“作戦”ってくっつけてるんですか!? というか百歩譲って愛の矢とか…」

 

 

 

 

 

 それじゃ駄目だ。

 いやあの二人絶対できてるというか夫婦じゃないかと思うんだけど、強制するものじゃない。ただ、そっと手伝いをしたい―――――そんな気持ちなんだ。

 そして、それを叶えられるのは多分愛の神のカーマしかいない!

 

 

 

 

 

「(言えない…っ! この依代の私に恋愛経験ゼロとか口が裂けても言えない……っ! 愛の矢頼りの神とか事実だけど思われたくない……!)」

 

 

 

 

 

 

 さあ、魔術王ソロモンを攻略しに行こう――――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






後書き



長い旅路、私にとって未知の旅路である人理修復にお付き合いくださり本当にありがとうございました。
彼らの人理修復はこれで終了となります。

いつかまたお会いできることを願って、此処に筆を置かせていただきます。
どうか皆様の旅路にも幸福があらんことを。


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1.5部/ Epic of Remnant
悪性隔絶魔境新宿Ⅰ


※2部6章クリア後までのネタバレを含みます。※

やりたいこと(ドクター生存)はやったので、後は蛇足ですが…。
オリュンポス総力戦はやってみたいんですけどね。機神VS冠位・人類悪・厄災・使徒連合とか。


 

――――極点に至る試み。

 

 人類史全てを用いた彼方への旅。

 魔術王を名乗る者の試み、逆光運河 / 創世光年は失敗に終わった。

 

 だが――――。

 君たちには一つ、致命的な見落としがあった。

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

「――――先輩、これはどこに運びますか?」

 

 

 

 マシュが部屋のお片付けを手伝ってくれている。なんというか、もう後輩ってなんだっけというくらいの甲斐甲斐しさのような気がしないでもないのだが――――まあカルデアの個室にアレなものとか見られて困るものが置いてあるはずもなし、感謝して手伝ってもらっていたのだが。

 

 

 

「一年間、あれこれと忙しかったせいで随分散らかってしまいましたからね。遅まきながらの大掃除、マシュ・キリエライト張り切って頑張らせていただきます!」

 

 

 

 掃除くらいでそんなに頑張らなくてもいいとは思うけれど。……持ち込みの私物とかほとんどないし。とはいえ、一年間も人理修復の旅をしていれば色々なものが部屋に置かれている。特異点から持ち帰ったお土産だの希少な魔術リソース(のうち見た目が大丈夫なもの)、サーヴァントたちから貰った大切なものとか。

 

 

 

 

「ああっ、そうだこのゲーム! 藤丸君の部屋で遊んで置きっぱなしにしといたんだった! いやー、暇ができたらまた遊びたかったんだよこれ」

 

「ドクター……。先輩のお部屋を物置代わりにするのは正直どうかと」

 

 

 

 

 終局特異点、ソロモン――――後先考えない全力投球と、それに応えてくれた英霊たち。手を貸してくれた全てのおかげで、こうしてマシュもドクターも無事に帰還することができた。

 

 ―――ドクターは自由になったと思った途端、外界への対応に追われて結局のところ何も変わらない仕事で忙殺される日々になったのだけれど。

 その変わらぬ日々が何より愛おしい……というと詩的すぎるだろうか。

 

 

 

 

「ああっ、マシュが凄く冷たい目をしている…。いやけど仕方ないじゃないか! 僕だってゲーティアのツケを支払うために十年頑張ってきて心の赴くままにゲームする暇なんてなかったんだ!」

 

 

 

 割とサボってた気がしなくもないけれど…。

 そんなことを言いながらゲームを起動するドクターに、マシュは呆れ顔。とはいえスルーして片付けを続けるあたりマシュも成長したというかなんというか。

 

 

 

「やー、元気してるー?」

「あ、サボり魔が増えた」

 

 

 

 扉を開けて入ってきたのは自他ともに認める万能の天才、ダ・ヴィンチちゃん。でも今はただのサボり魔である。仕事が忙しすぎると他のカルデアスタッフが嘆いている中で堂々と抜け出してくるのはさすがというかなんというか。

 

 

 

「本当のことを言わないでくれたまえー。というかロマニ、君もかい」

「ははは。いや、だって働き詰めだったから疲れちゃって。藤丸君、とんでもない速度で特異点を叩き潰しちゃったから記録を偽装するのも中々大変で……まあ終局はもうギルガメッシュ王のせいにしとけばいいかなー」

 

 

 

 相変わらず仲が良さそうでなにより。

 もう真面目に片付けてくれてるのはマシュだけなのだけれど。

 

 

 

「ドクター……ダ・ヴィンチちゃん……」

「まあまあ、ここで二人の身体状況を観察するのも私達のお仕事だからね!」

「そうそう」

 

 

「―――あ、スタッフが私の行方を訪ねてきたら私はいないと言って欲しい。ロマニはいいけど」

「ええっ!?」

 

 

 

 さっそく裏切られたドクターはともかくとして、片付けを続ける。

 と、マシュがダンボールを取り出して中身を確認。

 

 

 

「あ、先輩。こちら先輩の私物のようですけど、どうしましょう?」

「それは―――棚の中かな」

 

 

「はい先輩……棚の上、ホコリが積もっていますね。せっかくですし、ここもお掃除しておきましょう!」

「じゃあ俺は―――フォウ君と遊んでるね」

「フォウフォウ!(てしてし)」

 

 

 

 流石に目の前でゲームをやられていると集中力が維持できない。フォウ君を持ち上げて観戦体制に入ろうとすると、フォウ君に蹴られた。『真面目にやれ』と言われているような気がする。

 

 

 

「せーんぱーいー! ここは先輩のお部屋なんですから、ちゃんと先輩がお掃除しないと!」

 

 

 

 ああ、マシュが可愛い。

 むん、と拳を握ってみせるものの、怒るというよりはあくまで反省を促すようなマシュの物腰の柔らかさは天性のものだろう。そのせいで、ついからかいたくなのけれど。

 

 

 

 

「あ、マスター。珍しいね、部屋にいるのは」

「メリュジーヌ?」

 

 

 

 と、貴族令嬢のような私服で現れたのは竜の妖精メリュジーヌ。最も美しい妖精とさえ言われ、村正でも見惚れる彼女は何食わぬ顔で部屋に入ってきたかと思うと、そのまま近づいてきて――――腕に抱きつかれた。

 遂にマシュも掃除用具を放り出し、ずずいっと距離を詰めてくる。

 

 

 

「―――メリュジーヌさん!? どうして先輩に抱きついておられるのでしょうか…!」

「? それはもちろん、抱きつきたかったからだけれど。何か問題でも?」

 

 

 

「う……いえ、問題しかありません! 先輩をどこかの不良騎士(ランスロット)みたいにするわけにはいきませんので!」

「うぐっ…。どうして、汎人類史では湖の騎士(ランスロット)が罵倒になるんだろう…」

 

 

 

 いえ、ランスロットが罵倒になるのはカルデアの中だけです。

 バリエーションとしてはガウェイン(ロリ巨乳好き)トリスタン(ヒトヅマニア)ランスロット(寝取り男)がある。

 

 清廉(女好き)流麗(流れるように)誠実(ナンパする)で、立派な騎士(りっぱなきし)を見てしまったからか、大ダメージを受けたメリュジーヌ(妖精騎士ランスロット)はそのまま吸い込まれるように胸に飛び込んできたので歴戦のマスターである自分も鼓動が早くなる。

 

 

 この子、もうちょっと美少女な自覚があっても良いのでは?

 いくら妖精國には男女間のアレコレとか皆無とはいえ。

 

 

 

 

「ううっ、マスター。僕、陛下には戦力として頼りにされてるつもりだったんだけど……違ったのかな。軽薄で、移り気で、不埒な、最低な騎士って思われてたのかな……」

 

「いや、モルガン陛下なら大丈夫じゃないかな…。一応ほら、ランスロットって円卓最強の騎士って言われてたりするし。湖の騎士だし」

 

「そ、そうです! 確かにサー・ランスロットは軽薄で、移り気で、ダメダメな騎士ですが最低というわけでは――――」

 

 

 

 と、その瞬間。扉が開いて。

 微妙な笑みを浮かべたガウェインの横で、魂が抜けた顔をしているランスロットが――――崩れ落ちた。

 

 

 

「まだだ、此処で倒れるわけには――――…ぐはっ」

「お、お父さーん!?」

 

 

 

 キラキラと金色の粒子になって消えていくランスロット。

 それを笑顔でスルーして、横にいたガウェインが言った。

 

 

 

「ご歓談中のところすみません、マスター藤丸。緊急の報告です、どうやら話にあった新たな特異点――――亜種特異点が現れたようです」

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

――――落ちていく。

 

 

 第七特異点の時も、セラフィックス(乙女コースター)の時も、第六の異聞帯の時もそうだけど落ちすぎじゃないだろうか。というか落ちた後は特に危険な目に遭っている気がする。

 

 

 

『マスター………おきて……ください!』

『藤丸君、しっかりするんだ!』

 

 

 マシュとドクターの声が聞こえる。

 そういえばレイシフトしたんだった。新宿の空はこんな感じだったかなー、と思いながらいつものように少しでも落下速度が落ちるように四肢を広げてバランスを取る。

 

 

 

 亜種特異点には特定の条件を満たすサーヴァントしか連れていけなかったり、かと思えば制限なく連れていけたりする。最終的にセイレムでは条件を特定して、サンソンたちを連れてレイシフトできるようになったけれど。新宿の時は普通にサーヴァントを連れて行こうとして弾かれて絶体絶命だった。

 

 それでも、なんとかなったけれど。

 わざわざ弾かれることを知って無策で行くつもりはなかった。

 

 

 

 

 

「――――落下する少年を救う」

 

 

 

 声がした。

 聞き覚えのある声。渋い、絶妙に胡散臭くてかっこよさもある、そんな声だ。

 

 

 

 

 

「それはまさに少女の役割であり、即ち大抵はここから始まる恋と希望の物語(ボーイミーツガール)! 君はこの後、何か適当にいちゃつきながら頑張って奮闘して特異点を修正したりしなかったりする訳だ!」

 

「へぇ、そうなんだ――――それは、恋人として譲れないな」

 

 

 

 

「いいねェ、実によろしィ! だがしかーし! だーがーしーかーしー! 残念、君を助けたのは――――って何ィ!?」

 

「―――――遅い。空中戦で、私に敵うとでも?」

 

 

 

 

 颯爽と空中に跳躍してきた新宿のアーチャー。

 その横から空中戦最速のサーヴァントの一人である(翼を出したり、竜の形態になればもっと速いが)メリュジーヌが現れて掻っ攫われる。

 

 最速の一人、とかいうと最も速いのかそうじゃないのか不明だが、多様な伝承を取り入れている境界記録帯(サーヴァント)なので伝承の著者ごとに主観的な『最速』とか『最強』とかが存在するわけで。あんまり拘りすぎても意味がないので気にしないのが吉である。

 

 

 

「ぬわぁ――――!?」

「マスター! これでマスターといちゃいちゃしながら特異点を修正できるって、ほんとう!?」

 

 

 

 ぱぁっ、と輝くような笑顔は新宿の上空に似つかわしくない無垢かつ純粋なもので――――ふれあいそうなくらい顔が近いこともあってドキドキしたのはさておき。いつまでも飛んでいるわけにもいかない。いや、メリュジーヌなら余裕だろうけど。

 

 

 

「いやとりあえず今は――――着地任せた、メリュジーヌ!」

「うん!」

 

 

 

 慣性や空気抵抗の無効化――――マスターになったことで、ある程度までこちらに恩恵を分けられるようになったメリュジーヌは飛行手段のない新宿のアーチャー(略して新茶)を尻目に速やかに、それでいて大切なものを降ろすように垂直にビルの屋上に着地。

 

 

 

「どうしよう、何からがいいんだろう……いちゃいちゃって、何すればいいのかな……一緒に街を歩いてみたり、とか?」

「メリュジーヌ、でもほら。新茶が言ったことだし」

 

 

 

 

 途端、真顔になったメリュジーヌの腕―――の横のホルダーから音を立ててアロンダイトが生成され。

 

 まだ着地できていない新茶に向けて、物理法則を無視した速度でメリュジーヌごと神話における光の槍のように“射出”された。

 

 

 

 

「……敵、生命境界捕捉。その境界を開く―――切開剣技、<今は知らず(イノセンス)無垢なる湖光(アロンダイト)>!」

 

「ぬわぁあああ!? 名乗りを上げる前の着地狩りだとゥ!?」

 

 

 

「光の新茶ァ!?」

 

 

 

 実は敵なんだよ、とあらかじめメリュジーヌに教えておいたことが災いしてか、止める間もなく首と胴体が真っ二つに泣き別れした新茶(光)が黄金の粒子になって消えていく。

 

 

 

「もってまわった話術は嫌いだ…!」

「えーと、うん。………デート、してく?」

 

 

 

 悔しさか、はたまた悲しさか。ちょっと新茶の武装に物欲しそうな眼を向けつつ項垂れるメリュジーヌに仕方なく最速攻略を投げ捨てると、聖杯を渡した時くらいの笑顔になった。

 

 

 

「―――ありがとう、マスター!」

 

 

 

 

 まあ、もうドクターも助けたわけで。

 新宿ではすでに秩序も、善も失われている。強いていうならカヴァス二世を愛でたいくらいなので、少しくらい楽しんでも……いい、かな。

 

 

 

 

 

 

 

 




悪性隔絶魔境新宿
ゲーム内ではなぜ弾かれたのか、連れていけるサーヴァントの条件が定かでないので(アガルタは謎の密航、下総では突然倒れて直行、セイレムは年代縛りっぽいもの)、特異点のボーナスから『悪属性限定』としています。

※ちゃんと三騎連れてきています※

メリュジーヌ(ランサー)中立/悪
■■■■ 混沌/悪
■■■■■■ 秩序/悪


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悪性隔絶魔境新宿Ⅱ

 

 

――――バレルタワー。

 

 

 

 この悪性隔絶魔境新宿の“中心”にして、終着点。

 弾丸を撃ち出すのではなく、魔弾を呼び込む塔。本来であれば七発目――――所有者の大切なものに命中してしまうそれを利用し、隕石をカルデアのマスターにぶつけるという大掛かりな罠。

 

 

 それが早くも破れたことを察した“教授”はしかし、動揺することなく“仲間”を見渡した。

 

 

 

「ライダー。アーチャー。そしてアサシン」

 

 

「先程結界に反応があった。どうやら、予想通り人理修復のためにカルデアがマスターを派遣したらしい。……レイシフトの座標をクラッキング、修正して落下するように調整してみたが、上手く行かなかったようだ――――さて、どうする?」

 

 

 

 

 その言葉に唸り声を上げたかと思えば、巨体に見合わぬ俊敏性で飛び出したのはライダー。

 

 

 

 それを見送るサーヴァントたちだが、誰も驚きはない。

 

 

 

 

「ふむ。猛っているなライダーは。無理もないが」

「ははははは、それはまあ行くだろうなあ。ライダーにとっては、我らも含めて全てが敵。大っぴらに殺せる敵が現れれば、それはまさしく意気軒昂! ――――そも、あれにカルデアのことを伝えればああなっちゃうってことは読み取れたんじゃない?」

 

 

 

 淡々と事実を確認するようにつぶやく教授に、黒い影のような男―――アサシンが笑いながら言う。黒い影のようというが、事実、その姿はまるで定まりきっていないかのように、とらえどころがない。

 

 

 

「まあ、大方はね。それで―――“同盟”としてはどう動くつもりかな?」

「いやもう、さっさと潰しちゃえばいいんじゃないのーって気はするけど! するの? やるの? だったら俺ァやりますよ!!」

 

 

 

「もう一人のアーチャーよ。君はどう思う?」

「オレが口を出す必要はあるのか、教授? アンタの中ではすでに意見も対策も組み上がっている。なら指示をしろ。適切に殺してやる」

 

 

 

「なるほど、確かにそうだ。友や同胞に意見を求めて己の意見を翻すような私ではないな」

「―――――ンンンン、成程。成程。では、拙僧にも指示を頂けますかな?」

 

 

 

 不意に響いた声に、教授がわずかに眉を顰める。

 先程までライダーがいた付近に忽然と姿を現したのはあまりにも派手な袈裟らしきものを羽織った偉丈夫。邪気を纏い、明らかに尋常のサーヴァントではないその様子にアーチャーが銃を構え、教授も警戒した様子を見せつつ口を開く。

 

 

 

 

「貴様……何者かね? 呼び出した覚えも、招いた覚えもない客人に渡すものなど魔弾くらいのものだが」

 

「何者、とな。これは異なこと。“憐憫の獣”の残滓でありながら、“異星の神”の使徒をご存じないなど―――――夢にも思わず、これはとんだ失礼を。拙僧はキャスター・リンボ。異星の神の使徒として召喚されたサーヴァント。以後お見知りおきを」

 

 

 

 その言葉に、初めて教授の顔が歪む。

 

 

 

「獣――――異星の神――――貴様ッ!」

 

 

 

 いや、顔だけではない。

 姿そのものが変わる。教授の姿から、憐憫の獣―――ゲーティアに近しい姿に。

 

 カルデアを欺くため、己の記憶を消していた魔神柱、バアル。その偽装工作をあっさりと看破され、記憶を取り戻してしまった以上は姿を偽る意味もない。

 

 

 

 そもそも、ゲーティアが人理焼却の期間を定めた原因――――未来に待つ破滅、人理白紙化の原因たる異星の神、その使徒を名乗るサーヴァントに戦闘態勢に入るバアルだが、それに対してリンボはまるで気にした様子もなく肩を竦めて見せた。

 

 

 

「おや、これはこれは。貴公はカルデアへの、その最後のマスターへの復讐のために働いていると思いましたが――――たかが“以前の敵”に出会った程度で“意見を翻す”など。ンンンン、拙僧としては誠に遺憾ではありまするが。望みとあらばお相手いたしましょう」

 

 

 

 

 それは、先程『友や同胞の意見では自分の意見を翻さない』と言ったバアルへの皮肉であり、同時にその目的を把握しているという脅しでもあった。

 そもそもの潜在的な仮想敵か、実際に煮え湯を飲まされた怨敵か。僅かな逡巡の末にバアルは口を開く。

 

 

 

 

 

「―――――貴様。貴様の目的は何だ」

「それはもちろん、拙僧の(マスター)に勝利を献上することにございますれば」

 

 

 

 

「拙僧、これでも宮中に近しかった身なれば、多少は陰陽術などに心得がありまする。ささ、お任せなされ。お任せなされ……」

 

「………良いだろう」

 

 

 

 

 あまりにも邪悪な気配を漂わせるコレを、バアルは当然ながら信用はしない。

 だが。魔神柱として“異星の神”が間違いなく人理の敵であることは知っており。敵の敵、毒を以て毒を制する気持ちであった。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「――――マスター! 凄いね、この街! グロスターよりも明るくて……活気は、ないけれど」

「本当は活気もある街なんだけどね。特異点だから……」

 

 

 

 先程不審なアラフィフを湖の聖剣で着地狩りしたビルの屋上を降り。

 興味深そうに周囲を見渡すメリュジーヌだったが、ふと何かに気づいたように右手を上げ。アロンダイト――――をしっかりと精製せず、あえて半端にすることで魔力弾として発射する。

 

 

 散弾のように撒き散らされるアロンダイトの概念を纏った竜の妖精の精製物は、飛んできたネットを一瞬で粉微塵に粉砕する。

 

 

 

「くそ、外れた!」

『こりゃ、ワイヤーネットか何かか?』

『捕獲用ネットかぁ。さっきやってた狩りゲームを思い出すね、藤丸君』

 

 

 と、さっそく解説してくれるのはダ・ヴィンチちゃん。

 どうやらメリュジーヌの早業に負けずに解析してくれていたらしい。あとドクター、もうゲーティアがいないからと気が緩みすぎでは?

 

 

 

「なんか気が抜けるんだけど、ドクター…」

『ええっ、そう!? 藤丸君にまで所長みたいなことを……』

『いやロマニ、君完全に燃え尽き症候群か何かだから。マシュに代わってもらえば?』

『お任せ下さい。マシュ・キリエライト、ドクターよりもしっかりと、堅実にマスターをサポートしてみせます!』

『わわわ、ちょっと待って! ここは僕の役目だから!』

 

 

 

 

 そんな風にわちゃわちゃしている間に、メリュジーヌが戦闘態勢で前に立ち。

 

 

 

「見つけたぜ…! おい、おまえらこっちだ!」

「うお、なんつー上玉だ。嬲り甲斐がありそうじゃねえか!」

 

 

 

 妖精のような――――というか妖精だし、なんならブリテンで最も美しいと言われる妖精であるメリュジーヌに興奮した声を出すチンピラたちに、当のメリュジーヌは呆れ顔で呟いた。

 

 

 

「……弱い。実力差も分からないなんて」

『これは……普通のチンピラじゃないな。魔術的な付与を掛けている!?』

『1999年の人間にですか!?』

 

 

 

 そう、ここの住人―――生き残りは、すべからく邪悪な魔術使い。

 壁面で隔絶された、悪のみが蔓延る魔都。

 

 

 

 

「やれ! たっぷり楽しんだ後、死体は死霊魔術師に高値で売れるだろうよ!」

「マスター、いい?」

 

 

「まあ一応、一般人?だし、……できれば峰打ちで」

「……うん。君のそういう優しさ、私は好きだな」

 

 

 

 鉄パイプで殴りかかってくるその見た目に反して、敏捷性も威力も特異点のエネミー、魔獣たちと比べて遜色ない。

 たった一騎のサーヴァントでは処理しきれないその集団に対して――――メリュジーヌは真正面から突っ込んだ。

 

 

 ゼロから1、ではなく10へ。

 物理法則を無視した加速に、肉体ではなく思考が追いつかない。先頭にいたチンピラが腹部に拳を叩き込まれて吹き飛び、複数のチンピラが地面を転がる。

 

 

 

「――――ふっ! 遅い――――!」

「ば―――――」

「やべぇ、こいつ――――」

 

 

 

 集団の利点を活かす前に、圧倒的な速さで一対一を強要する。

 それこそチリでも払うように、ブリテンで無数のモースを切り払った妖精騎士の剣に些かの陰りもないと証明するように。

 

 

 

「くそ、ならあっちの男を――――」

「――――ッ、バンカー!」

 

 

 

 

 一瞬、こちらに足を向けようとした男がいたものの。瞬間移動並の速度で移動したメリュジーヌが、腹部にパイルバンカー的な一撃をブチかましたことで吐瀉物を噴射しつつ飛翔した。

 

 

 

 

 猛る魔力と共に鎧を纏ったメリュジーヌがアロンダイトを精製――――過剰な魔力でビームソードさながらになったそれを構える。

 

 

 

「―――――どうやら死にたいらしいね…」

「いや、殺さないであげてね…」

 

 

 

 

 ちらり、と振り返ったメリュジーヌの顔が「だめ?」と問いかけてきたが、可愛い顔をしても言ってる内容が可愛くないので駄目です。

 仕方なくアロンダイトを霧散させたメリュジーヌは、近くに落ちた鉄パイプを握って――――熱された飴を丸めるように、ぐしゃりと。小さな鉄の塊に圧縮して放り投げた。

 

 

 

「―――――死よりも苦しみたいのなら、止めはしない」

「「「「う、うわああああ、助けてくれ! 化け物だあああああ!」」」」

 

 

 

「ふん、逃げるなら最初からそうすればいいのに」

 

 

 

 

 興味のなさそうな言葉と裏腹に、少し寂しそうな――――化け物呼ばわりされたのを気にしているかもしれないメリュジーヌに声をかけた。

 

 

 

「――――ありがとう、メリュジーヌ。頼りにしてる」

「………っ。マスター、その、少し……冷えてきた、かも。夜だし、その、竜なので」

 

 

 

 鎧を解除し、遠慮がちに手を出してきたメリュジーヌ。やんわりと握ると、その手は確かに冷たい。それこそ宝物でも握るようにそっと握り返されるのはすごく、こそばゆいけれど。

 途端に太陽のような笑みになったメリュジーヌと路地を進む。

 

 ルンルン気分のメリュジーヌの足取りは軽く、何なら鼻歌でも歌い出しそうなくらいの雰囲気である。

 

 

 

 

 

 が、仮にも悪性隔絶魔境。

 なんの問題もなく通りを歩けるはずもなく。聞こえてくるのは赤子の泣き声で。

 

 

 

 

「……? マスター、何の生き物の声?」

「あー、その、人間の赤ん坊?」

 

 

 

 確かろくでもないトラップだったな、と思い出しつつも一応メリュジーヌが引っかからないように手を強めに握る。

 

 

 

「赤ん坊……? ああ、サーヴァントとして知識はあるかな。ブリテンには居なかったけれど、そっか。本来、人間はつがいと交尾して増えるんだもんね」

「言い方ァ!」

 

 

 

汎人類史(こっち)のメリュジーヌも人間と交わって子どもが十人できたとか――――…ちょっと待って。違うから! 私はマスター一筋だから! というかメリュジーヌも本当の名前じゃないから! ランスロットしてないから!」

「いや、うん。知ってるから大丈夫」

 

 

 

 

 と、その赤子の泣き声がするベビーカーに、野良犬が近づく。

 身構えるメリュジーヌに、ふと気づいて声をかけた。

 

 

 

「“野良犬を”助けてあげてくれ!」

「――――っ、うん!」

 

 

 

 青い閃光になって飛ぶメリュジーヌが、ベビーカーに触れてしまった野良犬を引き離し――――次の瞬間、ベビーカーが爆発する。

 

 

 

 

 

 ベビーカーに乗っていたのは人形であり――――すぐにそのトラップを仕掛けた人形たち、コロラトゥーラが集まりだす。

 手当たり次第に住人を襲い、死体も残さない殺戮機構。襲われる住人を片手間にメリュジーヌが救出すると、それは現れた。

 

 

 

 偶然、あるいは必然か。それこそはコロラトゥーラの親玉と、その忠実な奴隷であり。

 

 

 ファントム・オブ・ジ・オペラと、金髪の女らしき人形。

 

 

 

「ああ……クリスティーヌ、クリスティーヌ……。我が宝石、我が愛しき光……君は何を望み、何を欲する?」

「私は正気です私は正気です私は狂気です私は狂気です。私は人間です私は人類です私は人形です私は依代です。――――そう。命を欲します生命を欲します血を欲します鮮血を欲します。世界を救いしカルデアのマスターよ! 私を救うために、貴方の命を、私に下さい」

 

 

 

 

 明らかにバーサーカーらしき狂気。

 無限とも思えるコロラトゥーラがそこかしこから湧き出し始め、管制塔からの通信も焦った声に変わる。

 

 

 

『まずいぞ、藤丸君! ものすごい勢いで反応が増え続けてる! ダ・ヴィンチ、敵の分析は!? マシュ、逃走経路の確保を!』

『サーヴァント、だろうけど妙な反応がある! というかこの反応、まさか』

 

 

 

「――――っ、この感じ――――マスター、撤退を!」

 

 

 

 飛び込んでくるコロラトゥーラ――――人形を、メリュジーヌが蹴り飛ばす。

 “先程と同様に”手加減した一撃。それに何を言うでもなく、踵を返す。メリュジーヌが手加減した意味は、問いかけるまでもない。先程自分が言ったからだ。『一般人は、できるだけ殺さないで』と。

 

 

 例えそれが、人形に作り変えられた元一般人でも。

 メリュジーヌはその生まれで生物を差別しない。

 

 

 

 藤丸を抱えあげ、野良犬を引っ掴んだメリュジーヌはまたたく間にビルの合間を飛翔し。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――瞬間、バレルタワーから一条の流星のように弾丸が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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悪性隔絶魔境新宿Ⅲ

すみませぬ、若干捏造設定盛りました。


 

 

 

――――あらかじめ新宿のアーチャー、その善の部分が倒されることは想定していた。

 

 

 

 必ず無事に辿り着くなど楽観視がすぎる。

 故に彼はバアルに記憶とともに霊基情報の一部を託しており――――この特異点においてのみ、バアルもまた“魔弾の射手”としての能力を持つ。

 

 だがそれも本来は、最後の引き金を引けるようにという程度の保険だった。

 七発目の魔弾、隕石として藤丸立香に落とす復讐の一撃。故に、まだ魔弾を一度も使用してない、その上で彼が脱落したこの状況は想定外。

 

 速やかに魔弾を使い切り、バアルが唯一別れを惜しむに足る共犯者、モリアーティの痕跡が消える前に七発目を放つ。

 

 

 

 そうすれば、他に惜しむもののないバアルの魔弾はバアル自身と同調したモリアーティの残滓に当たる。藤丸立香を逃さなければ、この特異点とともに奴は死に絶える。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――とんでもない早期決着を強いられたバアルの判断は素早かった。

 

 

 新宿のバーサーカーから飛んで逃げようとしていると判断するや否や、“標的に必ず命中する”魔弾を6連射。

 

 

 

 

 本命は七発目なのだから、わずかでも痛手になればいい。あるいは空中からの突破を躊躇すればいい。そうなれば新宿のバーサーカー、あるいはライダーとの戦いで消耗を強いることができる。はたまた藤丸立香を仕留められることがあるかもしれない。

 

 

 

 

 凄まじい速度で飛翔する、正体不明のサーヴァントは厄介だがマスターという荷物を抱えて、その荷物を狙う必中の魔弾を6発も回避することなど不可能だ。

 

 

 

 

 実際、そのサーヴァントは速かった。

 魔弾全てを置き去りにするほどの速度があった。だが、6発の魔弾全てに対処するにはマスターは重荷であり――――。

 

 視界の外。

 決して遠くはないが、ビルに遮られて見えない位置で藤丸立香とサーヴァントは迎撃を試み――――魔弾の射手として、バアルは弾が命中したことを直感した。

 

 

 

 

(――――命中した、か。だがあの生き汚さが取り柄の人間にどれだけ痛手を与えられたか)

 

「ンンンンン、見事。見事! よもやあの速度で逃げる者に命中させるとは! まあ、弓術、銃術というよりも妖術、呪術の類のようではあるが――――そこはそれ! 一端の呪術師としての才もおありのようだ」

 

 

 

 

 

 人類史の中で、“もう見る必要はない”とゲーティアが、魔神柱が決意した人間の悪性、それを煮込んで濃縮還元したかのようなこの男の言葉にバアルは不快感を禁じえない。あるいは、そうして聞き流さなければ何故この男もほぼ同時に命中を確信できたのか、という疑問を抱けたかもしれなかったのだが。

 

 

 

 

「――――まあ、京以外で、と付けばの話ですが」

 

 

 

 

 

 

『アーチャー、アサシン、そしてリンボとやら。カルデアのマスターはバーサーカーとライダーが追っている。逃げ道を塞げ。そしてアサシン、隙があれば殺せ』

 

「おうおうおう、隙があったらそりゃあ殺るさ! もっとも、無くても殺るけどな!」

 

 

 

 

 そう言って飛び出していくアサシン。

 アーチャーである黒い男は、わずかにリンボに目線をやると肩を竦めた。

 

 

 

「オレは此処に居させてもらう。生憎とオレもアーチャーでね、有利な地形を手放す道理はない」

「拙僧もキャスター故、陣地を動く道理はありませぬな。ですが、式神であれば――――ほれ、この通り。既に新宿中にバラ撒いておりまする」

 

 

 

 

 

 リンボが紙を放り投げると、不気味に揺らめく黒い影―――怨霊、あるいは怪異の類らしき式神に変化する。ろくでもない効果があるのは察したバアルはそれについて特に言及することもなく、新宿の街並みに目をやり―――――。

 

 

 

 

 

 

 人形、新宿の人間を作り変え、殺戮機構に変えたコロラトゥーラに銃弾の雨が降り注いでいるのを見た。

 

 

 

 

『――――ジャンジャジャーン! 見て、この躍動! 天を揺るがすエェンジィーン! 地を揺るがす迫力のムゥゥーブッ!』

 

 

 

『……なんだ、アレは』

 

 

 

 

 ドぎついピンクの巨大兵器。

 四脚、巨大砲塔、高速機動。ふざけた見た目に反して人類悪の一人が真面目に(趣味に走って)作り出した対界宝具。最大捕捉:一都市というふざけた範囲を持つその宝具こそは。

 

 

 

『これが玉藻重工の優秀兵器、七十九式、玉藻タァーンク! よくてよ、よくてよよろしくてよ! 派手にやっておしまいなさい!』

 

 

 

 

 マスターの甘さなど知らぬ、愛など知らぬとばかりに容赦なく人形ども(元一般市民)を粉砕していく銃弾の豪雨。バアルですら引くレベルのそれに併せて、なぜかテンション高い女の声が新宿に響き渡る。

 

 

 

 

『皆様、NFFサァービス! NFFサァァービィスを、よろしくお願い申し上げます! 深山幽谷、驚天動地! 人類の皆様を守り(煽て)育て(持ち上げ)諭す(落とす)、信頼と安心のNFFサービスでございまぁーす!』

 

「ンンンンン、なんと! なんと邪悪な……深夜の選挙カーの如き暴挙! バアル殿、あのような暴挙を見過ごして良いのですかな? 必要とあらばご指名をば。拙僧の宝具であればあのような無粋な鉄の塊ごと滅ぼして進ぜましょう」

 

 

 

 

 一切の情け容赦無く蹂躙する巨大兵器だが、巨大故にある程度大きな道を必要とする。故にバアルはこの不快なリンボに頼らずともなんとでもなる、と踏んだ。

 

 人間への憎しみに満ちた、ライダー。

 アレの縄張りである国道に入った時があの不快な物体の最期だと――――。

 

 

 

 

 

『―――――■■■■■ッ!』

 

 

 

 

 

 ライダーが咆哮する。

 人類への憎しみ、殺意に満ちたソレを、そのピンクの社に座す女――――人類悪たるコヤンスカヤ/光は、哀れみすら感じさせる眼で見下ろす。

 

 

 

『あら、“お仲間”でしょうか。敵とみるや即座に噛み付くその本能―――悪くはありませんが。こちとらその親玉(人類悪)だっつーの。……こほん。まあ貴方は我慢せず噛み殺すのでしょうが、私に言わせれば甘いも大甘! 人類はもっと反省させて、搾り取らなくては! ―――さあ! 知恵あるものはひれ伏すがいい! イズトゥーラ・セブンドライブ!』

 

 

 

 

 

 ミサイルの豪雨、圧倒的質量と、そして“人類悪としての特性”から兵器の力を最大限に引き出すコヤンスカヤにかかれば所詮ライダーは国道を蹂躙する“程度”でしかない。

 都市を灰燼に帰す力を集中して向けられ、銃弾の嵐とミサイルの爆音の中にライダーが消えていく。

 

 それでも一矢報いるため、懐に飛び込んだライダー、ヘシアン・ロボを待ち受けていたのは振り下ろされる兵器の脚部、超巨大質量によるストンピング。

 

 

 

 

 “とある迫害された生き物”と、“迫害された概念の集合体”。そのスケールの違いから完全に蹂躙されたライダーに、流石のバアルも言葉を失う。

 

 

 あの、近づくもの全てを蹂躙する兵器にコロラトゥーラやチンピラ程度では歯が立たない。バーサーカーも直接戦闘が強いタイプではなく、最早バアルの戦力は黒いアーチャーと不審者の概念が実体化したサーヴァントであるかのようなリンボのみ。

 

 

 

 あの謎兵器では魔弾、隕石こそ破壊されないと思われるが、あまりに特異点が破壊されるようなことになると隕石が落ちる前に脱出されるという最悪の結末さえも起こり得る。

 

 

 

 

『……アーチャー、何か手は』

「無いな。オレの専門外、というよりアレを倒せる兵器は存在しない。相性が悪すぎる」

 

 

 

 

 

 そして、心底嫌そうにバアルはリンボに顔を向ける。

 ニコニコと優しげに微笑むリンボは、妙に柔らかい猫撫で声で言った。

 

 

 

「お任せなされ、お任せなされ。これでも拙僧、都市を呪う大呪術に打って出たこともある身なれば。ご安心めされよ」

 

『…………任せる』

 

 

 

 

 

 

「ンンンンンンンンンンン~~~~~! 拙僧、昂ぶって参りましたぞ! 顕光殿、お目覚めを! 光の時、これまで! 疑似神格、並列接続! 暗黒太陽、臨界! <狂瀾怒濤、悪霊左府!>」

 

 

 

 

 

 

 

 

 宝具が展開し、バレルタワーの上空に現れるのは呪いの太陽。

 都市そのものを殺すに等しい大呪術の再現であるそれは――――そもそもが悪に満ちたこの新宿においては格別の威力を発揮する。

 

 だが、その本来の目的は時の権力者であった藤原道長を呪殺すること。

 それ以外の、人々を不幸が襲い餓死者が往来を埋め尽くすというのはこの宝具の“オマケ”に過ぎない。

 

 

 つまるところ、この特異点の権力者。

 バアルを呪殺することこそが、この宝具の真価により近い。

 

 

 

 

 

 

 

「―――ええ、あの無粋な鉄の塊ごと“貴方を”滅ぼして差し上げますとも」

『馬鹿め、その程度見通せぬとでも―――――』

 

 

 

 

 

 暗黒の太陽にしか見えない呪詛の塊、その直撃を防ぎつつもバアルはリンボの胸をその腕で貫いた。が、それをさして気にした様子もなく、リンボは満面の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

「甘露! 甘露―ッ! ところで、先程撒いた式神ですが――――」

 

 

 

 

 

 不意に、バアルの肩に優しく手が置かれる。

 妙に寒気のする手付きのそのさきにあるのは、不気味な笑みを浮かべるリンボ。そしてその横にも別のリンボ。

 

 

 

 

 

「全て、全て拙僧にて」

 

 

 

 

 式神を使って無数に、それこそ海藻かなにかのように増えるリンボ。

 上空の暗黒太陽よりある意味邪悪な光景である。

 

 

 

 

「道満が参りまするぞ!」

「ンンッ、多少はそそるか……」

「望むままに、貪りましょうぞ!」

「「「「ンンンンンンン~~~~ッ」」」」」」

 

 

 

 

「「「「「少しばかり、杜撰すぎますなぁ。この程度では京では生き残れませぬぞ? これほど満ちた怨み、呪いを“そのまま”放置とは! フフッ、ハハハハッ、ハハハハハッ! 『顕光殿、お目覚めを!』」」」」」

 

 

『ぐ、おおおおおっ!?』

 

 

 

 

 燃える。

 バアルの霊基そのものが、あまりにも濃密な呪詛によって血液が沸騰したかのように燃えたぎる。あまりにも巨大な暗黒太陽に、たまらずバレルタワーから逃げ出そうとするバアルに、銃弾が浴びせられる。

 

 

 

「隙を見せたな」

『ぐ、貴様! こんな時に―――――!』

 

 

 

 裏切るだろう、と思ってはいた黒いアーチャー。

 最悪のタイミングで裏切ってくれたその男に反撃する余力もなく、塔から飛び降りる。

 

 せめてあの呪詛の太陽から遠ざかりたい――――そんな願いと、あの藤丸立香が負傷しているはずの場所まで行ければ目的を達せられるはずという推測。

 

 

 

 

 

 

(そうだ。奴さえ、奴さえ殺せればそれでいい! それでいいのだ! 魔弾で負傷した奴を仕留める、そうでなくとも七発目で―――――ッ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霊基を半ばまで呪詛で焼き尽くされつつも、地面に降りたバアルが見たのは。

 カルデアの制服を血に染めて、それでもなお、大地に立つ偉丈夫。筋肉の鎧を纏う、美しき野獣。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故か藤丸立香のコスプレをしたリンボに魔弾が六発刺さっているところだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ンンンンンンン、なんと酷い…。ご無事ですかな、マイ・マスターぁ❤」

「………マスター、これ、斬ってもいいかな」

「気持ちは分かるけど後でね」

 

 

 

 そして、その横には無傷で遠い目をしている藤丸立香と、青い鎧のサーヴァント。

 

 

 

「そのような怖い顔をなさらずに。これはれっきとした呪術ですゆえ。―――まあ、呪術の“じゅ”の字も知らぬような? 身代わりとなる式神、護符の類も知らず、とりあえず魔弾が強そうだから契約して撃ってみようかな、などという半人前以下の呪詛しか防げぬお遊びにて! 不要と断じられてもこの道満、全く! 反論できぬのですが!」

 

『―――――貴様ァ!』

 

 

 

「生前呪術を扱ったことなどない未経験者が、とりあえず魔弾を使えるように霊基を調整するなぞ……。ましてやそれで、我らが守るマスターを害することができるなぞ。ンンンンン~~~~~、有り得ませぬが!」

 

『ならば! その身を以て受けてみるがいい――――我が復讐を! 憎悪の塊を! 天を見上げるがいい、そこに貴様らの絶望が降りてきているぞ!』

 

 

 

 

 魔弾。

 所有者の大切なものを奪う七発目のそれは、ただの隕石ではなく概念的に強化されている。それこそ本来の、計画通りの完全な姿ならばセイバーオルタの約束された勝利の剣でも破壊できないほどに。

 

 モリアーティ以外にロクな共犯者がいなかった―――そのことを再確認してしまったバアルに、その彼に残されたモリアーティの残滓に向けて、隕石は降り注ぐ。バレルタワーからズレた以上、世界が滅びることにはならないだろう。が、この特異点を砕き、藤丸立香を殺すのに地球を破壊する必要はまったくない。普通に隕石があたれば人は死ぬ。

 

 

 

 

――――――だが。

 

 

 

 

「――――頼む、メリュジーヌ」

「うん。貴方に、この星で一番の心臓を」

 

 

 

 

 光とともに、メリュジーヌの姿が変わる。

 黒い翼、青い光の竜の妖精の姿へ。

 

 そこに道満たちの呪術による悪属性強化、コヤンスカヤによるバフが降り注ぐ。

 

 

 

 

「「「「拙僧、多才にて!」」」」

「最高品質でお届けしましょう」

 

 

 

 

 

 

「――――――飛びなさい、彼方の空へ。お前は、例え残骸であろうとも―――――!」

 

 

 

 

 

 

 上空の隕石に向けて、地上のマスターを吹き飛ばさないよう徐々に加速する。境界を開く最後の竜、アルビオン。例えるのなら、竜種における冠位。人間どころかゲーティアにも勝るほどに神秘の塊。

 

 

 

 その熱線は、一瞬で隕石を切り裂き。

 リンボとコヤンスカヤの高笑いを聞きながら、バアルは絶望して消滅した。

 

 

 

 

 



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伝承地底世界アガルタⅠ

 

アガルタは特に連れていけない、弾かれたというような描写がなかったので制限なく連れていけることにしています。





 

 

 

 

「おーい、藤丸君…?」

 

 

 

 次なる特異点は地底世界アガルタ。

 男たちは性奴隷として扱われ、R18な光景で溢れかえった(エロ、グロ含む)亜種特異点。

 

 なので、地底世界とだけ聞いて行きたがっていた一部サーヴァント(イリヤとか、アビーとか)には丁重にお断りしたのだが。

 何故か食堂で次のメンバーを決めるらしい、という話があっという間にカルデアに広まってしまった結果がこれである。

 

 

 

「――――ふぅん。水の都? 響きだけは悪くありません。プリマ()のステージには相応しくない場所のようだけれど、貴方が望むなら公演を開いてあげる」

「駄目よ、マスター。いけない人たちで溢れた街だなんて…! でも、私ならきっとお役に立てるわ。………ええ、罪には(ペイン)を!」

 

「我が夫よ。地底に別荘というのも悪くはありません。ブリテンの前哨戦として城を作りましょう――――すごいのを建てます」

 

「なんという――――なんと恐ろしい世界でありましょう。ですがこの殺生院、望みとあらば全ての衆生を導きましょうや」

 

 

 

 あ、はーい。やめときまーす、と言いながら顔を赤くして帰ったイリヤ(プリズマ)はともかく、逆に食いついてきたアビー(なんか霊基再臨している)、服装がほぼR18なメルトリリス、妻を自称するモルガン、そして知性体に対する最終兵器こと殺生院。

 

 何この面子。

 悪属性限定で募集をかけた新宿もなかなかカオスだったけど、アガルタはアストルフォとデオンが密航できて、なぜかフェルグスリリィが出現するくらいには緩いので面子が凄い。

 

 

 

 

「ど、ドクター、なんとかして…?」

「いや、うん。無理かもだなぁ。僕、基本的にサーヴァントには嫌われるし!」

 

 

 

 ちょうど食堂に来たドクターにSOSを発信するが、完全に腰が引けていて役に立ちそうにない。それでも本当にソロモン王だろうか。終局の時のイケメンぶりは何処に。いやまあ正体がソロモン王なせいでサーヴァント達から初対面で悪印象な説あるけど。

 

 

 

「無敵の十の指輪でなんとかしてよ!」

「そう言われてもなぁ……だってもし、万が一、本当に万が一仮になんとかできたとしても、恨まれそうだし」

 

 

「俺が恨むのは?」

「あははは、大丈夫大丈夫。藤丸君が本気で嫌がることをして嫌われたいサーヴァントなんていないさ! ……リンボくらい?」

 

 

 

 と、ドクターの言葉で喧々囂々の言い争いをしていたサーヴァントたちが一旦静かになる。『リンボ(アレ)と同列は流石に…』という渋い顔をしたサーヴァントたちは、とりあえず一歩下がると、代表してモルガンが口を開いた。

 

 

 

「ともかく、我が夫よ。私達のうち誰を連れて行くかは貴方に決定権があります」

「……うん、そうだね」

 

 

 

「ので、私を連れていきなさい」

「いや、ちょっと待って」

 

 

 

 狂化Bとはいえ、バーサーカー。

 驚異のゴリ押しを決めようとするモルガンに再びサーヴァントたちが騒がしくなり――――いつの間にかドクターの姿は無くなっていた。

 

 

 

「ちょっ、ドクター!?」

 

「地底かぁ。私は竜なので、空がない場所は好きじゃないな。それよりここ(膝の上)の方が良い感じ」

「ちょっと、メリュジーヌ。何故貴方はマスターの膝の上にいるのですか!?」

 

 

「……君か、バーゲスト。だってちょっと冷えるし。アガルタに行かない代わりにマスターの膝を借りようかなって」

「くっ、強者でありながらそんな姿勢――――(でもちょっと羨まし…いいえ、私はむしろ強者としてマスターに膝枕をする立場でなければ!)」

 

 

 

 新宿デート……と凄く不満そうな顔でつぶやくメリュジーヌを流石に放り出すのもどうかという感じだったので、仕方なく受け入れた次第である。こうしてバゲ子とメリュジーヌの仲は拗れていくのだろうか…。

 

 

 

「そらえらい物騒やわぁ。まとめて蕩かしたろか?」

「そわそわ……(地底なら私の出番に違いないのだわ!?)」

 

「マジか……女の子が襲ってくる特異点か……かーっ、辛いな! マスター、俺も連れてってくれ!」

「うむ。聞けばこの虹霞剣が役に立つようではないか。俺の、剣が、役に立つようじゃないか!」

 

「なるほど。では円卓の騎士としてマスターを守り抜きましょう」

「いや、地底では太陽がない故、貴公よりも私の方が適任かと」

「気持ち悪っ。そんな特異点しかないのかよ」

 

 

 

 淫靡とか、地底とか、一部ワードが刺さってるメンバーもいるけど、酒呑はなんか目的忘れてエンジョイしに行きそうだし…。エレシュキガルはR18特異点の耐性なさそうだし。

 

 一部除いて男サーヴァント連中も割と乗り気だし…。

 遠くの方で女難の相持ちのエミヤがそそくさと逃げているのが見えるが、彼はまあ。

 

 とはいえアガルタにはメガロスというガチの災害がいるので、直接戦闘力の高いサーヴァントは必ず欲しい。

 メガロスと殴り合う……宝具を使った超人オリオンなら……うーん、でも普通のヘラクレスならまだしも、メガロスだからなぁ…。

 

 

 

「AUOのカッコいいところが見たいなぁ…」

「たわけ! エアも満足に抜けぬ亜種特異点で改造筋肉ダルマの相手をさせようなどと我を呼ぶな! どうしても、というのならば応えてやらんでもないが……覚悟はしておけよ?」

 

 

「あっ、はいすみません」

 

 

 

 後メガロスと殴り合えそうな………一人だけ心当たりはあるんだけど。平気かなぁ…。

 残念ながら一番頼りになりそうな天の鎖さんはカルデアに不在です。

 相性ならアビーでいいんだけど、絵面が最悪なのとあんな教育に悪い特異点につれて行きたくないというか、連れて行ったら最後カルデアの秩序が崩壊するような気がする…。

 

 

 メリュジーヌなら速さで完封できなくもなさそうだけど、地底と聞いて本人のやる気が出てないのと、連続出撃は他から不満が出そうだし…。

 タロスとか、トロイの木馬で殴り合うか…? XXに出勤願うのも最終手段にしたいし…。

 

 

 というか、最終的に魔神フェニクス(無限ガッツ)と戦うんだよなぁ……。

 なんだっけ、死に続けるのが嫌だから召喚式を使えなくなるようにラピュタをバルスして神秘を失墜させるとかなんとか…。

 

 

 

「よし、決めた!」

 

 

 

「私ですね、夫よ」

「俺だよな、マスター!」

「私にお任せを!」

「……後で膝、だから!」

「マスターは悪い人だわ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 アガルタ。

 地底とは思えぬ明るい空(謎の光る天井)、物語を継ぎ接ぎしたような不思議な地形とダ・ヴィンチちゃんやマシュが表現する通り、不夜城のキャスターことシェヘラザードの“物語”から作られた特異点……だったはず。

 

 そこに降り立ったところで、とあるサーヴァントが颯爽とその杖のように見える槍を地面に突き刺して宣言した。

 

 

 

「――――――此処をキャメロットとします」

「ハッ!」

 

 

「いや、バーゲスト。ツッコんで!?」

 

 

 

 ドヤ顔で決めるバーサーカー、ことモルガン陛下はもう仕方ないとして。一応抑え役としての働きも期待して連れてきたバーゲストまでボケられるとどうにもならない。

 無駄にキリッとした顔で礼しなくていいから。異聞帯ブリテンではここにメリュジーヌまで加わるとなると、妖精騎士トリスタンも影で苦労していたのか……?(ツッコミ役として)

 

 

 

「安心しなさい、我が夫よ」

「あ、うん。ボケだよね…?」

 

 

 

「ある程度の資材があれば、魔術でなんとかします」

「いや魔術ってそんな便利なものじゃなかったような…?」

 

 

 

 確かに便利ではありませんね、などとつぶやきつつも凄まじく複雑な魔法陣を書き出すモルガン陛下。とはいえ新宿と同じで、此処には無駄なリソースが余っているらしく。

 

 

 

「物語を上手く繋ぎ合わせたようですが、まだ甘い。いや、ラピュタとやらにするためにわざと甘くしているのか―――――ともかく、亜種特異点の不安定さでこの程度であれば“ブリテンの守護者”として割り込みをかけ、一晩で此処をブリテンにしてみせましょう」

 

「わぁー、すごいなー」

 

「うむ、流石は陛下」

 

 

 

 

 流石は神域の魔術師…。

 いや、特異点が不安定だからとなんでもかんでもブリテンにされたら堪らないだろうけれど。シェヘラザードの物語でできた特異点である、という点において他よりも介入しやすいのだろう。

 

 

 

「折角です、我が術式ロンゴミニアドがエクスカリバーに劣るものではないと貴方たちにも見せてあげましょう。――――名高いヘラクレスとやら、ケルヌンノスに勝るものでなければ粉微塵にしてみせます」

 

「……実は気にしてたのかな」

「なんというか、カルデアに来てから陛下も明るくなられた――――…理由は、まあ。ライバルとして分かってはいるのですけれど」

 

 

 

 

 とはいえ、資材がなければ何もできない。

 こんな事もあろうかと――――いや、本来はメガロス対策で連れてきたのだけれど――――巨大な影が視界に入ったかと思うと、魔法陣の上に大きな岩が載せられる。

 

 

 

 

「どーん! どうですか、マスター! ちょっと大きめの岩、みつけてきました! 私、作るより壊す方が得意なのですけれど……作るお役に立てるのなら、とっても嬉しいのです!」

 

「ありがとう、プロテア。まだありそうだった? というか敵はいなかった?」

「よくやりました、そのまま続けて持ってきなさい」

 

 

 

 ちょっと、というには大きすぎる岩だったけれど。

 モルガンが満足げに頷いているので大丈夫なのだろう。

 

 とはいえ、キャメロットを作ったとしても防衛するには戦力が足りないような――――あっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 その日、アガルタに突如として第四の勢力が現れた。

 不夜城、エルドラド、イース、そしてブリテン。

 

 『罪なきもののみ通るがいい』と記された白亜の城塞には、十二門のロンゴミニアド。動く区画などの仕組みはオミットされたものの、見た目だけは何もかも異聞帯ブリテンのそのまま。

 

 なんでそこまで再現できたのか、というと控えメンバーの活躍とかもあったのだけれど。

 

 

 

「仮想宝具・はや辿り着けぬ理想郷(ロードレスキャメロット)/冬の玉座(ロンゴミニアド)。このような特殊な特異点でしか実現できないでしょうが、別荘としては悪くはありません」

 

 

 

 すでに略奪しようと訪れたイースの女海賊、アマゾネスは何度か撃退している。

 ロンゴミニアドにも、色々あって十分な魔力が集まっている。というか、集めている。その結果として、ムスーッとした顔の妖精騎士が爆誕してしまったのだが。

 

 

 

 

「………マスター、私は孤独に弱くて、自信がなくて、君の顔を1日24時間は見ていたくて、こうして放って置かれるとキャメロットを焼き尽くしたくなるんだけど」

 

「ごめん許して後でお詫びするから」

 

 

 

 

 というわけで魔力炉心代わりに玉座の近くに特別席を用意されたメリュジーヌ、というか妖精騎士ランスロット。キャメロット(異聞帯)との縁で無理やり追加召喚したのでキャメロットから出られないのだが、聖杯を大量に食べているのともともと境界の竜として超級の魔力炉心なので……電池代わりである。

 

 

 

「……お詫びって、何。崩壊するキャメロットでデートとか?」

「ごめんってば。じゃあ令呪一回(できる範囲でお願いを聞く)……とか?」

 

 

 

 新宿デートはやっぱり気にしてたんだね…。

 いや、増えるリンボの人ごみでデートとか雰囲気もクソもないんだけど。

 

 ともかくメリュジーヌは純血の竜というか純粋の竜では、なんて思わされるくらいにあっさりと笑顔になり。

 

 

 

「ほんと!? ありがとう、マスター! 私、頑張るね!」

 

 

 

 すまない。カルデアの令呪に強制力はないんだ。ゆるされよ、ゆるされよ。マスターの罪をゆるされよ……。

 

 

 

 

「マスター、では私にも令呪があるべきでは?」

「我が夫。キャメロット建築に相応しい報酬を要求します」

「私、愛でおなかいっぱいになりたいな!」

 

 

 

「いやほら、電池勤務が確定したメリュジーヌと違って皆はまだ業務中だし…」

 

「……魔力喰いで令呪を奪っても?」

「魔術で令呪を奪いましょうか」

「………えっと、たーべちゃうぞー!」

 

 

 

 

 

 なんだろう。

 敵より味方の方が怖い……!?

 

 もしかして味方のチョイスを誤っただろうか。

 なんでリンボとコヤンスカヤを連れてきた方が平和だったんだ…?

 

 

 

 

 

 



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伝承地底世界アガルタⅡ

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――その話を聞いたのは、半ば偶然のようだった。

 

 

 海賊公女、ダユーが君臨するアガルタ三大勢力の一つイース。

 残るエルドラドと不夜城には“女王”が存在するのに対して、イースはやや状況が異なる。“欲しいものは奪う”のみをルールとするイースに秩序はなく、統率もない。強いて言うならダユーがそうだが、彼女は例えるのなら“王”特攻が通らない程度の長だ。

 

 彼ら女海賊たちは男たちから精を絞ることもあれば、賭けの対象にすることもあり、無残に殺すこともある。屈辱を与えることに悦びを感じるものがいれば、苦痛を与えることを好むものも、単純に肉体の快楽を愉しむものもいる。

 

 そんな、基本的に無策で無計画なのが女海賊たち。

 

 

 

 故に、海賊たちは散発的にキャメロットを発見しては喜び勇んで無策で突っ込み、逃げ帰ることもできずに妖精騎士ガウェインことバーゲストとキングプロテアによって排除されていた。

 

 

 

 わざわざ情報を持ち帰らせる利点もない故に、徹底的な排除。

 単純極まりなく、刹那的な海賊たちはそれだけで見事に封殺されていた。巨体に見合わぬ敏捷を持つキングプロテアから逃げるのはサーヴァントであっても苦労することもあり、バーゲストの持つガラティーンが範囲攻撃の宝具であることも大きい。

 

 その一方でエルドラドは女王に迅速な報告が入ったし、不夜城は静観を保っているように見えて動向を伺っていた。

 

 

 

 

 

 

 だが、未知というのは人間の想像力を掻き立てる。

 “何時の間にか”イースにある噂が広がった。曰く、『白亜の城塞にはこのアガルタで一番のお宝がある。奪え! この世の全てはそこにある』と。

 

 

 世はまさに、大キャメロット時代。

 競うようにキャメロットに向かおうとする海賊たち。そのその中には、ダユーの姿もあった。

 

 

 

 

「――――見事なものね。癪だけれど、これなら面白みのない他の二人のところより楽しめそう」

 

 

 

 しきりにこの白亜の城塞の話で自分の気を引こうとした男のことを思い出す。

 なんとかなると無邪気に信じる男から精を搾り取った後、一転して絶望した顔を見ながら殺すのは最高の気分だったのだが――――『最高の宝がある』など。下らない法螺だろうと思いつつも引っかかるものを感じてしまった。

 

 

 結果としては、あながち法螺というわけでもなさそうな雰囲気だが。

 とはいえこれがどこかの勢力の“仕込み”だったとしても、やることは変わらない。奪う、犯す。愉しむ。

 

 

 

 

「さあ、奪いに行きましょう」

 

 

 

 

 

 歓声が上がる。

 ダユーと同じ、ひたすらに奪うという刹那の享楽に身を任せる女海賊たち。そんな彼らの前、キャメロットの城門に立ちはだかるのは一人の騎士。

 

 

 

 

―――――はちきれんばかりの肉体を包む白銀の鎧、黄金の髪。手にするは太陽の聖剣。

 

 

 

 かつて、異聞帯のブリテンの正門を任されながらも裏切り。今再び、同じ役に任ぜられたその心境は如何ほどのものか。

 

 

 

 

 

 

 

(――――太陽の騎士、ガウェイン卿。汎人類史において、ブリテンが滅びるまでその忠義を貫き通した忠節の騎士)

 

 

 

 

 大災厄で民を、大切な人を守れないのなら。裏切るのもやむを得ないと思った。騎士としてどちらが正しい行いであるのかは分からない。異聞帯だったブリテンとは状況も違う。ただ、裏切ってしまった自分にとっては、太陽の騎士の有り様はひどく眩しい。

 

 裏切ってもなお変わらぬ陛下の信頼が重い。厄災に成り果てたにも関わらず、自分を信じて騎士として扱ってくれるマスターの信頼が重い。

 

 

 

 だが――――ガラティーンの切っ先はむしろ軽くなったようで。

 

 

 

 

 

 生きるために剣を振るうのは変わらない。

 カルデアが揺るぎない正義であったのは人理焼却までの間であり、亜種特異点はまだしも異聞帯に入れば生存競争が始まる。

 

 

 

 

――――それでも。

 

 

 

 

(――――私は、輝かしいものを見たのだ)

 

 

 

 愛するものを食べてしまう獣、結局は領主として弱者を守ることもできていなかった、妖精という悪魔のような生き物を滅ぼすと誓った獣の厄災。

 

 必ずしもカルデアがそれを倒す必要はなかったのだと、後に知った。

 ただ、バーゲストという一人の騎士のために立った、円卓の騎士がいた。その声に応えた二人の先輩騎士がいた。それを支えた、一人のマスターがいた。

 

 

 

 彼女を止めるために。

 命を懸けた。誇りを胸に、救うために決死の戦いに赴き、勝利した。その彼らのために、陛下とともに戦うことができるのであれば。

 

 

 

 

(私は、もう絶対に厄災に負けない。負けてなるものか。――――私は、誇り高き円卓の騎士の銘を借り受けた妖精騎士ガウェイン。この()にかけて、必ずマスターと陛下を守り抜いてみせる)

 

 

 

 

 理性の楔である角に手をかける。戻れなくなることを恐れる想いはある。

 愛するものを■■したいという、昏い炎は変わらずに己の中にある。

 

 だが同時に、信頼に、恩義に報いたいという想いこそが何よりも強く猛っている。

 

 

 

 

 

 この世界での(弱者)を奴隷として扱い、虐げる有り様は彼女の定めた<弱肉強食>に反する。

 邪悪な生き物をのさばらせてはおけないと誓い、厄災と堕ちた時の怒りと悲しみを忘れてはいない。

 

 

 

 バーゲストの中にある騎士(正しさ)(怒り)、そのどちらも満たされる敵に対して掛ける情けなどは存在しない。

 

 

 

 

「――――この剣は法の立証。あらゆる不正を糺す地熱の城壁。跪け! 捕食する日輪の角(ブラックドック・ガラティーン)!」

 

 

 

 

 

 

 

 巨大化――――否、本来の姿となったバーゲストが、ガラティーンを海賊たちのド真ん中に叩きつける。その一撃で、元となったドレイクと異なり確たる宝具を持たないダユーは本来の力である海賊たちを強化したり増やしたりする間もなく消滅。

 灼熱の炎は周囲の海賊たちもろとも焼却し。続けて横薙ぎに振るわれた一撃が残る残党達を薙ぎ払う。

 

 

 

 

 

「―――――グッ、アァァ………フゥ――――」

 

 

 

 

 焼き払われ、無人の荒野となった光景を見ても、今の心に浮かぶのは虚しさだけではない。

 

 

 

 

 

 

(見ていてくださったかしら――――)

 

 

 

 

 決して力が強いわけでもない。

 ただ、その心根の尊いもの。かつて守れなかったそれを、今度こそは守ってみせると――――。

 

 

 

 

 

「――――あっつ! ちょっと焦げたではないか! わらわごと燃やそうなど不届き千万じゃ!」

「何者だ…!」

 

 

 

 

 バーゲストからすれば残心を思いっきり邪魔してくる謎の幼女の方が不届き千万だったのだが。隠れていた幼女の方からすればせっかくの計画が邪魔されたどころか焦げたのでお互い様だろうか。

 

 

 ガラティーンによって焼け野原となったその端っこ。

 単純に強さとかではなく、射程ギリギリにいたこと、そして女海賊よりは丈夫だったために生き残れたと思われる漢服っぽいものを着た幼女がいた。

 

 本来の流れであってもダユーが持つ水門の鍵を狙っていた不夜城のアサシンである。

 

 

 

 

 

「にっしっしー、わらわこそ不夜城を統べる王! 名乗るのであれば不夜城のアサシン! 相手をしてやる故、不夜城まで来るがよい――――ってなんじゃお主は――――!」

 

 

 

 

 不意に日が陰り(太陽ないけど)、見上げたアサシンの目に飛び込んできたのはキングプロテアの巨体。Aランクの敏捷を持ち、実は大きさの割に機敏な彼女の一撃を、同じく敏捷Aランクであるアサシンは小柄さも活かして、あるいはスキル皇帝特権も使ってか辛うじて回避する。

 

 

 

「がおー、たーべちゃうぞー!」

「とかいいながら思い切りプチっとやろうとしてるではないかー!? やめんか! わらわにこの仕打ち、とびきりキツイ拷問じゃぞ!」

 

 

 

「……ごちゃごちゃうるさいです。えーいっ!」

「ぬわーっ!?」

 

 

 

 

 バチーン、と至近距離の地面に叩きつけられた手のひらの衝撃でアサシンが吹き飛び、それすらも活かして必死で逃げ出す。

 ある意味彼女の国のとある王の伝承にもある見事な逃げっぷりで、しかし気配遮断がDランクしかないのでその気になれば追えなくもないのだが。

 

 

 

 あらかじめ言っておいた通り、逃げられたのでほどほどで追撃を切り上げたプロテアは小型犬か何かのように褒めてほしそうにしているのでとりあえず目いっぱい褒めておき。

 その後、一応ロンゴミニアドを用意していたモルガンの下に戻ってきた。

 

 

 

「我が夫、どうやら彼女も“物語”に組み込まれているようです。倒せば回収され、厄介なことになるかと」

「言うなれば黒幕は聖杯戦争で聖杯を既に持ってるような状態だからなぁ」

 

 

 

 

 そう、モルガンに改めて言われるまで半分忘れていたが、この亜種特異点においては3つの国はそれぞれ女王の望み通りの国になっており、そこの女性たちは特殊な使い魔のような存在。男たちは外界から拉致されており、倒されたサーヴァントは聖杯戦争におけるそれと同様に願いを叶える燃料として扱われる。

 

 ただ、その願いが『ラピュタを浮上・大都市に墜落させて人理泡沫を引き起こす』というもので既に決定されているという聖杯戦争以上のクソゲーなのだが。

 

 

 

 が、悪徳の限りを尽くす女王たちを放置するわけにもいかない。ので倒すしかない。浮上させたら勝ちだと安心してくれていればいいのだが。

 

 

 

 

「ふふふ。空中都市キャメロットを新たな別荘としてブリテンに接続する……悪くはありません」

 

 

 

 なんかヤバい願いを抱いている女王様はこちらにもおられるが。

 とりあえず不夜城に殴り込んで拷問と密告を推奨する女王から開放するという方向でいいだろうか。

 

 

 

 

「いいでしょう。ところで我が夫。我らの別荘ですが――――ハベトロット似の妖精だけが闊歩する癒やしの楽園というのはどうでしょうか」

 

 

 

 それならバーヴァン・シーも……と何やら気合を入れているモルガン陛下には悪いのだが、アッセイするならこちらも手を打たなくといけなくなる――――。

 

 

 

 ん? 

 というか異聞帯のことを考えると、モルガン陛下は民を信頼していないわけで。勝手に理想の民が出てくるはずのこの特異点で何も出てこないのは、根本的に民を欲してないのかもしれない。もちろん考えすぎで、神域の魔術でうまいこと保留にしてるのかもしれないのだが。

 

 

 

「問題ありません、野心も貴方も、どちらも取りこぼさない法律を作ります」

「ハベトロット似なら、あんまり法律とかいらないんじゃないかな……バーヴァン・シーはともかく」

 

 

 

「………確かに。盲点でした。ですが、そうですね。しかしウッドワスのようなモフモフも捨てがたい」

『経済を作るなら、ムリアンさんとかどうでしょう? NFFサービス的に取引相手は欲しいんですけど。今なら私も単独顕現しちゃいますよ?』

 

 

 

 わざわざ通信繋げてきたコヤンスカヤには悪いが牙と翅の氏族は噛み合わせ最悪じゃなかろうか。

 オーロラは!? とか言い出しそうなメリュジーヌに目を向けると、ちょっと寂しそうな顔で首を横に振られたのだが。

 

 

 

「ううん、マスター。彼女は此処では生きて(愛されて)はいけない。僕の会いたいという気持ちだけで、彼女を傷つけるわけにはいかないさ。……というか、君に言われるとちょっと複雑なんだけど

 

「そっか…」

 

 

 

 

「あ、でも。陛下、その良ければ鏡の氏族は入れてほしいんだけれど……」

「構いません。あと雨の氏族も入れましょう」

 

 

 

 ぶっちゃけそのあたりはブリテンの良心(なおカルデア突入時にはどちらも絶滅している)と思われるので特に問題はないだろう。

 

 

 

 

 

――――が、そんな風に楽しい建国計画を話し合った結果ある事実が発覚した。

 

 

 

 

 

 現状、聖杯の持ち主の認識が影響しているのかどんな住人を出そうとしても男を虐げる女になってしまうのである。

 

 雨の氏族が再現できず、モルガンは静かにキレた。

 

 

 

 

 

「―――――我らがキャメロットの総力を上げて、黒幕を叩き潰します」

 

「「「おーっ!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 ダユーを失ったイースでは、とある髭面の男を中心とした組織が歓声を上げていた。

 

 

 

「―――――やったぞ、こいつらもう抜け殻みたいに動かねぇ!」

「くそっ、よくも今まで好き放題してくれやがったな!」

 

「クックック………ハーッハッハハァ! こいつは幸先がいい、ツイてきやがったぜぇ!」

 

 

 

 

 イースに間諜を放ち、白亜の城塞の噂を流す。あわよくば勢力を削って、その隙にイース攻略を、と思っていたが丸ごと手に入るとは!

 

 捕らえられていた男たち、支配者ヅラしていた女ども、食料、拠点!

 

 

 

 

 一人の女騎士によって海賊共が焼き払われた、という情報は不気味だが、恐らくはサーヴァントだろう。間違いなく強力な宝具だろうが、エルドラドのアマゾネスどもと削り合わせれば丁度いい塩梅にできるかもしれない。いや、なるように行動すればいい。

 

 

 

 

「なあ、進み続ければ必ず夢は叶うんだからよォ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




すみません、公式からの供給が無さすぎて干からびてました。仕事が忙しかったとも。

妖精国のサーヴァントで聖杯大戦に殴り込む小説が面白かったのでモチベがちょっと回復しました。



ところで今回の亜種特異点の語り部は不夜城のキャスターなわけですが、伝承も語り手によって最速の英霊が複数いたりしますよね。結局誰が一番速いんですかねー。


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伝承地底世界アガルタⅢ

 

 

 

 

 

 

――――気がつけば俺は、記憶を失って見慣れねェ花……桃だらけの場所にいた。

 

 

 

 不思議と知識はあった。

 これがサーヴァントってものなのは分かる。すぐに小柄な女―――別のサーヴァントに出会ったが、船頭が二人もいちゃ話にならねぇ。だから“快く譲って”もらった。

 

 戦力にはなるかもだが、反乱分子を抱え込んで前人未到の地を、なんてのは夢物語でも聞きたかねェ。そんなものはただの悪夢だ。

 

 

 

 進み続ければ必ず夢は叶う。

 だがそれは、“ベストを尽くす”前提だ。

 

 進んだ先に物資があれば“譲ってもらう”。

 健康そうな現地民は“戦利品”として頂いていく。邪魔するなら排除する。

 

 泣き言を言う味方がいれば、火を掛けてでもやる気を出させる。

 どうしても士気を下げるのなら、消えてもらう。

 

 

 

 

 そんなのは、全部当たり前のことだ。

 もちろん奪わない方が上手くいくならそうする。奪うほうがいいならそうする。

 

 

 

 

 

 が、この場所は少々おかしかった。

 どういうわけか女のほうが権力を持っていて、男は虐げられている。わけがわからないが、助けられた男どもは喜んで協力してくれる。

 俺はすぐに、レジスタンスのリーダーという組織の頭になることができた。

 

 

 

 虐げられるモノを救う。耳障りのいい言葉に釣られた労働力があり、虐げていた女どもという後腐れのない商品もある。

 そうだ。俺は――――できた。諦めずに進み続けて、夢を叶えられた男だという確信がある。

 

 

 

 

 

 

 だが――――手詰まりだ。

 記憶がないために、宝具は使えない。イース、不夜城、エルドラド。どれか一つでも落とすことができれば十分に戦力を集められるが、エルドラドのアマゾネスを倒したければ遠距離から一方的に殺せる武器か、十倍の兵力は欲しい。不夜城はロクに情報を集められない以上は後回しにするべきで、唯一付け入る隙のあるイースはしかし、それでも戦力で大きく上回られている。

 

 

 アマゾネス達が不夜城に攻め込まないかちょっかいをかけてみたが、女王に統制されており効果はなかった。不夜城に送った間諜は戻らなかった。イースの女海賊どもは享楽にふけるばかりで、他の勢力を攻める素振りもない。流言飛語でもすぐに忘れる。いっそ奇妙なほどに『他の勢力に価値はない』と判断していた。

 

 

 

 進み続ければ、と言っても進む方向が分からないのはお手上げだ。

 幸いにもレジスタンスの連中はちょっとずつでも男を救出していれば満足する安上がりな奴らだった。

 

 

 

 何か新しい風が吹き込むのを待つ日々―――そして、それは来た。

 

 

 

 白亜の城塞。

 この世のものとは思えない美しい建造物に、女海賊どもが釣られた。

 

 空き家になったイースはそっくり頂戴した。

 男どもは戦力に、抜け殻のようになった女海賊どもも有効活用する。

 

 

 

 

 

「さぁて、なら次は不夜城か――――だが」

 

 

 

 

 海賊共を一瞬で消し飛ばす火力。

 控えめに見ても、エルドラドを上回る戦力。

 

 連中の一人勝ちなんてつまらない結果にならないように動かなければならない。進み続ければ、夢は叶う。叶えてみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 幸い、戦力は拡充している。

 物資も豊富だ。災害をぶつけて、適度にあの城塞にいる勢力を削る。

 

 潰しあわせて、必要なものだけ頂戴する。

 他のサーヴァントも、女王も不要だ。この国には、夢のような物資と土地だけあればいい。

 

 

 

 

 

「そうだなァ! どんなに丈夫な船だろうが――――“災害”に遭えば無事じゃすまねェ」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「くっふっふー! まだかのう、まだかのう」

 

 

 

 本来であればイースを占領したレジスタンスどもの前でダユーの水門の鍵を奪い、イースを水に沈めてやろうと思っていたのだが――――あまりにもあっさりとダユーは消滅し、追い回されたせいで鍵を見つけることもできなかった。

 

 

 だが、酷吏と不夜城があるこの場所であれば話は別。

 圧倒的な地の利、人の数で、不気味な巨人であろうがなんだろうが拷問にかける。必ずやあの時の借りは返してくれる! と燃える不夜城のアサシンは、不夜城が地下から出てくるギミックで侵入してきた哀れな者共の間抜け面を拝もうとワクワクしていたところで。

 

 

 

 ふと、動くはずのない景色が動いた気がした。

 見間違えかと目を擦るが、やはり動いているように見える。

 

 

 

「ん? なんじゃアレは。山でも動いたのか?」

「……山、ですか。そんなものが動き出しては……し、死んでしまうかも」

 

 

 

「えーい、軍師なのじゃからシャッキリとせい! 山を動かす宝具…? どんな妖魔の類かは知らぬが、所詮は子ども騙し! わらわの不夜城の明かりでまるっと照らし出してくれるわー!」

「え。………その、リスクが」

 

 

 

「やれーい!」

 

 

 

 

 ペカー。

 素晴らしい光を放つ不夜城はあんまり遠くのものを見る光源としては役に立たなかったが、それはそれとして徐々に“山”が見えてきた。

 

 

 

 

「ん? なんじゃ? ………………な、な、なななな」

 

 

 

―――――それは、白い山だった。

 

 

 

 

――――それは、二本の足で一歩一歩進んでいた。

 

 

 

 

――――それは、輝く城壁を持っていた。

 

 

 

 

 

「なんじゃあれはーーーっ!?」

 

 

固有結界(シリアルファンタズム)、展開。聖杯5基、並列稼働。――――私の指は、世界を囲う――――巨影、生命の海より出ずる<アイラーヴァタ・キングサイズ>」

 

 

 

 

 

―――――それこそは、白亜の城塞キャメロット。

 

 

 

 罪都もとい王都としてではなく、あくまで別荘として部分的に再現されたものとはいえ十分に巨大なそれ。

 それを荷物でも抱えるかのような気軽さで大地ごと運んでいるのは、大地母神(ティアマト)すら含んだハイ・サーヴァントのキングプロテア。

 

 

 

 

 

 

 そして、その玉座の前で仁王立ちしているのは額に青筋を浮かべた妖精国の女王にしてカルデアのバーサーカー、モルガン・ル・フェ。

 

 城壁の前で妖精剣ガラティーンを構えるのは妖精騎士にして獣の厄災たるバーゲスト。

 真面目な顔をしつつマスターの方をガン見しているのは妖精騎士にして炎の厄災たるメリュジーヌ。

 

 

 

 そして玉座の横の特別席でシートベルトをしているのは、この阿呆な作戦を考えたカルデアのマスター。遠い目をして『アーラシュに射出してもらうよりは揺れないかな』なんてことを考えていたりする。

 

 

 

 

『――――キングプロテアのエネルギー、なおも上昇! 固有結界内とはいえビーストⅡ、出現直後のティアマトに迫る勢いです! 質量の急激かつ持続的な上昇で観測機器がエラーを吐いてます!』

『よし、速やかに観測対象から除外! ロマニ、そっちは!』

『うん、やっぱり“不夜城”にも一般人の男性が巻き込まれてる! 要救助対象だけど、いけるかい藤丸君!』

 

 

 

「もちろん、ドクター。この亜種特異点自体が、一つの物語。固有結界もしくは似て非なる大魔術。だが、それなら。こちらも聖杯で固有結界を強化する」

 

 

 

 

 キングプロテアが具現化するのは生命の海。

 それ単体で一般人がどうにかならないようにモルガンの魔術で多少サポートしているが、こちらの陣地に入れてしまえば後はどうとでもなる。

 

 

 

 

「我が夫。一般人はそのままキャメロットの一区画に避難させました。――――構いませんね」

「あー、えっと。……うん」

 

 

 

 

 既に生命の海は不夜城の大半を飲み込み、キャメロットを抱えたキングプロテアはジオラマの中に立つ怪獣の如く。

 

 

 

 

「えーい、なんじゃそれは! ずるいぞー! わらわの不夜城もちょっと持ち上げてみせよ!」

 

 

 

 

 が、モルガン陛下の怒りは見下ろしたくらいで晴れるものでもなく。

 

 

 

 

 

「黙れ。地に堕ちろ――――ロンゴミニアド、十二門斉射」

 

 

 

 

 

 

 

 

 十二の光の槍が編み合わさり、かつてオリュンポスを襲った一撃――――キリシュタリアが惑星轟を用いてなんとか防いだ巨大な光の鉄槌となって降り注ぐ。

 

 キャスター・アルトリアが認めた神域の魔術師。

 楽園の妖精における随一の天才。彼女が心血を注ぎ込んだ魔術の結晶が、冠位級の竜の炉心と、彼女(メリュジーヌ)がたっぷり食べた聖杯の力によって引き出される。

 

 

 

 

 

 その光は全てを消し飛ばし――――。

 

 

 

 

 

 その瞬間、黄金の光とともに現れる狂戦士がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――死んでしまう。

 

 

 

 死にたく、ないのです。

 死にたくなくて始めたはずの計画。

 

 上手くいく、はずだった。

 ラピュタを大都市に落としての人理泡沫、それは上手くいくはずだった! 阻止しに来るだろうというカルデアも主演(キャスト)に組み込み、サーヴァントたちを全て排除し、擬似的な聖杯戦争という物語を完遂させる。

 

 そうすれば、もう二度と召喚されることもない。

 もう二度と死ななくていい。

 

 

 

 そのはず、だったのに。

 人知を超えた巨人、彼女が抱えた城塞から放たれる光の槍。

 

 理不尽な王は恐ろしい。いつ殺されるか分からない、自分をどうとでも扱える男は恐ろしい。それ以上に恐ろしいものなど無いと思っていた。

 

 

 

 けれど、あんな――――見ているだけで死んでしまいそうな光の槍が、直撃しそうになるなんて予想だにしていなかった。

 

 

 

 

『■■■■―――――ッ!』

 

 

 

 

 ギリシャの大英雄、ヘラクレス。

 聖杯と物語によって強化され、巨英雄(メガロス)とでも言うべき存在になったものをとっさに召喚する。

 

 そうしなければ、死んでしまうから。

 計画が完遂できなくなるとか、そんなことを考える余裕もない。辛うじて間に合い、光の槍を防いだメガロスはしかし、その命のストックを半分ほど削り飛ばされた。

 

 

 

 自分であれば軽く十二回は死んでしまいそうな攻撃だった。

 ああ、何故――――死にたくないだけなのに、普段よりもっと死にそうな目に遭っているのか?

 

 

 

 

 

「生命の海に沈みなさい――――潰してあげる」

 

 

 

 

 キャメロットを一度地面に置いたプロテアの一撃が、なんとか抵抗しようとしたメガロスをぺしゃんこに潰す。

 光の槍を防ぐため、すぐ近くにメガロスを呼んだことが裏目に出た。間近で圧縮死するメガロスを見てしまい、シェヘラザードは遮二無二逃げようと――――。

 

 

 

 

「慈悲だ、頭を垂れよ――――恐怖もない、希望もない。ただ、罪人のように死ね。何人も、通るに能わず――――はや辿り着けぬ理想郷(ロードレスキャメロット)

 

 

 

 

 

 

 

 モルガンの宝具によりメガロスは消し飛び、もう再生しない。

 シェヘラザードはそのまま気絶し――――死の直前で、魔神柱が姿を見せた。

 

 

 

 

 

 

 魔神フェニクス。

 シェヘラザードと共謀し、アガルタを作った魔神柱。死に続けた経験から、生きていなければ死ななくて済む、と召喚術そのものを使えなくしようとしたもの。

 この段階でシェヘラザードが死ねばラピュタは完成せず、計画は失敗に終わる。というかシェヘラザードが死ねばどっちにしろ出てきてしまう。故に、どうしても出てこなければならなかったのだろうが――――。

 

 

 

 

「プロテア――――ぱーんち!」

「チェイル・ブレイザー!」

「ぅうっ……ァァアアアッ! ―――――竜に挑むのか、その意気やよし。望み通りなぶってやろう」

 

 

 

 

 魔神柱がひしゃげ、鎖に絡め取られて燃やされ、物理法則を無視して飛び回る竜の妖精に切り刻まれる。

 何も語る暇もなく、ひたすらに殺される。終局特異点より悲惨な有様に、悲鳴を上げてのたうち回るフェニクス。

 

 

 

 

 

『駄目だ、あの魔神柱は“既に死んで”いる! 藤丸君、このまま殴り続けてもあの魔神柱は倒せない!』

『なるほど、死んでいるからサーチに引っかからなかったわけか。ロマニ、君の部下だろ。何かいい方法とか無いのかい?』

 

 

『いや、そう言われても……。魔神柱だし、指輪を返還すれば解けそうだけど。正直できればやりたくないぞぅ!』

『あ、ちょっと待って。センサーに新しい反応が――――』

 

 

 

 

 

 

 

「諦めねェ、諦めねえぞ―――――…なんて、酷いことしやがる! せっかくの光る建物やら、女どもを……何も全部ぶっ潰しちまうことはねぇだろう!?」 

 

 

 

 

 

 漁夫の利を得るためか、不夜城に潜入していたレジスタンスのライダー。その構成員たちは固有結界のドタバタに巻き込んでモルガンが回収した。

 が、特に回収する意味がないサーヴァントはそのままロンゴミニアドの爆発に巻き込まれており――――爆心地にいた不夜城のアサシンはともかく、かなり離れていたレジスタンスのライダーは辛うじて生きていた。

 

 だが、既に満身創痍。

 気合だけで耐えているような有様であり――――。

 

 

 

 

「――――…そうか、俺はいつだってこんな“嵐”に巻き込まれて――――それでも、乗り越えてきたことを思い出したぜ。進み続ければ、夢は叶う。そうだ、だから俺は錨を降ろすぜ。既にたどり着いたと嵐を嗤うぜ」

 

 

 

 

 

 プロテアの攻撃の衝撃波に、モルガンの宝具の余波に、吹き飛ばされてもレジライは進む。只ひたすらに、ひたむきに、真っ直ぐに、前へ。

 

 

 

 

「うおおおおお! 俺は諦めねぇ!」

 

 

 

 

 どれだけ痛めつけられようが。前に進む限り負けではない。

 

 

 

 

「うおおおおお! うおおおおおお!」

 

 

 

 

 もちろん勝ち目のない戦いに向かうのはただの馬鹿だ。

 だが、今は違う。さながら新大陸を発見した時のように、“今しかない”という思いがレジライを突き動かす。そして。

 

 

 

 

 

 

「―――――うるさいです」

 

 

 

 

 

 そして、プチっとプロテアに潰されて。

 その瞬間、限界以上に刻まれて、燃やされて、潰されたフェニクスとレジライが運命の出会いを果たした。

 

 

 

 シェヘラザードという仮宿を失い、もう死にたくないフェニクス。

 夢が叶うまで生き続けたいレジライ。プロテアの固有結界、生命の海の中で二人は一つになった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハァーッハッハー! 辿り着いたぜ、新天地によォ! ――――新天地探索航(サンタマリアドロップアンカー)ァ!』

 

 

 

 

 

 生命の海からにょっきりと顔を出す、レジライ顔の魔神柱――――レジスタンスのライダー・フェニクスが、たくさんの口から無数の錨を射出してキャメロットに襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






元ネタ
レジライ無限ガッツバグ
・夏イベでプロテアといるレジライが無限にガッツし始めるバグがあった
・フェニクスは無限ガッツ

 →つまりフェニクスは実質レジライだった。Q.E.D.


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伝承地底世界アガルタⅣ

 

 

 

 

 

 

『ハァーッハッハー! 辿り着いたぜ、新天地によォ! ――――新天地探索航(サンタマリアドロップアンカー)ァ!』

 

 

 

 

 レジスタンスのライダー、レジライと魔神柱フェニクスが一体化したレジライ・フェニクスないしレジライ柱は無数のレジライ顔と、その口から射出される宝具であろう錨も相まって悪夢か何かのようであり―――――現地民の人からすれば実際悪夢だっただろうが。

 

 その錨は、プロテアがメガロスを殴るために一度地面に置いたキャメロット(土台つき)に遠慮なく絡みつこうとし、細かく連射されたロンゴミニアドによって防がれる。

 

 

 

 

「面妖な。無礼者、諦めなさい」

『―――ああン、やってくれるじゃねェか―――――だが、俺は諦めねェ!』

 

「えーいっ!」

 

 

 

 メキョ、と嫌な音を立ててプロテアのパンチがレジライ柱を叩き潰し――――髭と錨を撒き散らしながら即座に復元する。

 

 魔神柱の中でも最強クラスの再生能力を持ちながらメンタルが弱すぎてイマイチ怖くなかったフェニクス。だが、彼にレジライという外付け折れない精神が付与されたことによりその再生能力が遺憾なく発揮できるようになった。なってしまった。

 

 

 

 

『うおおおお! うおおおおお!』

「こんなの、要らない……」

 

 

 

 目からビームを発射しつつ、髭を突き刺してくる謎柱に流石にプロテアも嫌なのか少し下がり――――。

 

 

 

『進み続ければ、必ず夢は叶うんだぜェ!』

 

 

 

 

 その分だけレジライ柱が前に出る。

 無数のレジライ顔がぐねぐねしながら前進するその様は控えめに言っても恐怖映像であり、嫌そうなプロテアの前に宝具を発動したバーゲストが割り込んだ。

 

 

 

 

 

「貴方と――――付き合う――――気はありませんッ! 捕食する日輪の角(ブラックドック・ガラティーン)!」

 

 

 

 

 一撃、二撃、三撃。

 真名開放したガラティーンによってレジライ柱が燃え上がり――――しかし、燃えながら再生していく。

 

 

 

『ぐおおおおお! アチいじゃねェか! だがこの肉体は最高だぜェ、どこまでも進み続けられる!』

「プロテア、オーダーチェンジ――――――オベロン!」

 

「っははは! いいねぇ、最高だ」

 

 

 

 相性の悪いプロテアへの魔力供給をカット、戦闘服に備えた術式により、滞りなく次のサーヴァントにつなげる。

 

 更にほぼ同時に、ガラティーンのやけどから再生する暇も与えぬとばかりにキャメロットの玉座から竜が飛ぶ。

 炎の息、鉄の翼。境界を開く最後の竜。

 

 

 

 

『――――飛びなさい、彼方の空へ。お前は、例え残骸であろうとも――――誰も知らぬ(ホロウハート)無垢なる鼓動(アルビオン)

『まだまだァ! こんなもんかよォ!』

 

 

 

 あの奈落の虫にも風穴を開けた、魔力放出に類似する熱線。

 レジライ柱を半ばまで融解させたものの、回復し続ければ死なないし何なら不死なので死んでも問題ないとばかりのレジライ柱。

 心底嫌そうな顔で不夜城の跡地に立った(モルガンに入城拒否されたので)オベロンはそのスキルによってメリュジーヌを、アルビオンを強化する。

 

 

 

「蛮勇だな、反吐が出る。さて――――」

『体内魔力上昇、マナ放出』

 

『クソッタレがァ!』

 

 

 

 瞬間的にメリュジーヌの魔力が再上昇し、再度放たれる宝具。

 今度こそレジライ柱が完全に融解し――――そこに、十二の光の柱が突き刺さった。

 

 

 

 

「ロンゴミニアド、全門開放――――光栄に思え。私の、本気です」

『諦めて……たまるかよォ……』

 

 

 

 

 聖杯で強化されているプロテアの本気の一撃、バーゲストのガラティーン、アルビオンの熱線二連射、そしてモルガンによるロンゴミニアド十二門斉射。ケルヌンノス相手でもそこそこ効果のありそうな猛攻に、半ば溶けたゼリーのようになったレジライ柱だったがまだそれでも死なない―――というか死ねていない。

 

 むしろ巻き込まれたフェニクスが哀れになるくらいの死ななさっぷりであった。

 

 

 

 

「……オベロン、頼む」

「はいはい。最初から俺に頼んでおけばいいのに。なんか幸せそうだし、わざわざ分離を試みてやる意味もないだろ?」

 

 

 

 

 そう、なんか合体事故というか巻き込み事故になったレジライはできれば分離してから終わらせたかったのだが。腐っても魔神柱、しっかり倒してから排除しようとしたのが裏目に出てしまった。あと――――。

 

 

 

 

「いや、だってお前の宝具危ないし」

「そういうものだろう、宝具って。俺よりアルビオンの方が危ないって」

 

『――――力加減もできます! 優しいですっ!』

 

 

 

 マッハで文句を言いに来たメリュジーヌにオベロンはドン引きしつつ言った。

 

 

 

「いやー、君愛されてるよね。羨ましいなー」

「ハハハ、俺の目を見て言えよオベロン」

 

『マスター。私の方を見て?』

 

 

 

 

 言うが速いか、ぎゅうっと抱きしめて――――というか抱きついてくるメリュジーヌだが、確かに痛そうな見た目に反して力加減は優しい。というか、ほぼ服を着てないような格好なので密着されると色々危うい。

 

 

 

「メリュジーヌ、今は戦闘中のはずですが―――っ!」

『基本、即断即決なので』

 

 

 

 お前も戦闘中だろ、と突っ込みたくなる素晴らしい勢いでこっちに来たバーゲスト。そんな彼女たちを遠い目で見ながら、オベロンは言った。

 

 

 

「なあ藤丸、思ったんだけど。君でランスロットを釣ればブリテン崩壊しそうじゃないか? 汎人類史的にも」

「ちょっとマジトーンで言うの止めてくんない!?」

 

 

 

 最近本気で手が足りないというか、混沌としてきたので冗談に聞こえない。

 あとそれ多分ブリテンより先にカルデアが崩壊するのでは。こんなんでも一応唯一のマスターだし。……いやまあ、ブリテン異聞帯の攻略後でカドックが目覚めるまでだけど。

 

 

 

「我が夫、早くその糞虫を仕留めて――――失礼、本音が口に。その糞虫に仕留めさせてください。再生してしまいます」

 

 

 

 やっぱり嫌われてるなあ、と思ったら似たような表情をしたオベロンと目が合い。お互いになんとも言えない苦笑いとともにレジライ柱の残骸に向き直る。

 

 

 

「はいはい、モルガン陛下のお望みのままに――――」

「オベロン、令呪を以て命じる――――宝具を開放せよ!」

 

 

 

「いいだろう! 今一度、黄昏の空を!」

 

 

 

 

「夜のとばり、朝のひばり。腐るような……夢の終わり。黄昏を喰らえ―――――彼方と落ちる夢の瞳(ライ・ライク・ヴォーティガーン)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて/未来で ブリテンを飲み込もうとした一匹の虫が姿を現す。

 

 奈落の虫――――“崩落”そのものであるそれは、相手を殺すものではなく一切の光のない奈落に落とす『異界への道』。

 

 殺せないのなら、殺さなければいい。

 割と暴力的な回答であり、対界宝具であることから気軽に使っていいものではないのだが、物語の中というこの特異点であれば問題はない。

 

 問題がなくても、死なずに落ち続けさせるなんてのはできれば使いたくない手段だったが。

 

 

 

 

「ま、これは受け売りだけど。他のものまで滅びに巻き込むのは見苦しいんだそうだ」

「気にしてたのかオベロン……」

 

 

 

 完全にそれアルトリア(弟子)に言われた奴だよね。

 とはいえ確かに召喚されると死ぬしか無い、死にたくないから召喚されなくなるようにラピュタを大都市に落とすなんてのはかなり見苦しい。

 

 

 

「ははは、今にも罪悪感で死にそうな顔してる君には言われたくないなぁ! さあ―――俺が語ることは、もうない―――――」

 

 

 

 

 

 奈落の虫が吼える。ブリテンの時よりも小さめのサイズで出てきたものの、それでも魔神柱を一呑みにして余りある。

 限界まで消耗したフェニクスに逃れる術はなく、ただ射出される錨がしぶとく地面に食い込んで踏ん張る。

 

 

 

 

 

『船が……沈むだとォ…』

「――――全ては夏の夜の夢だ」

 

 

 

 

 だが、なら地面ごといけばいいとばかりに奈落の虫は大地ごと抉り取り――――。

 どこまでも落ちていくレジライ顔の魔神柱。

 

 なんか、見た目のインパクトが強すぎて罪悪感が全く湧いてこないのが申し訳ないぞ…?

 

 

 

「どちらかというと悪夢の類だな、アレ」

「高熱出した時に見る夢とかね」

 

 

 

 

 そんなこんなでフェニクスは排除。

 地中に埋まっていた聖杯はモルガンがサーチして魔術で取り出し。聖杯を手に入れたことで聖杯とシェヘラザードの物語でできていたアガルタは崩壊した。

 

 

 

 

 

「やれやれ。こんな物語の登場人物になるのは流石に勘弁かな、集られたくないし」

「割とノリノリで宝具使ってくれたじゃん」

 

 

「だって気持ち悪かったし」

「(今度ばかりは何も言えない)」

 

 

 

 まさかライダーと魔神柱で合体事故が起こるとは…。

 纏めて奈落の虫に落としてしまったし。

 

 

 

「ところで我が夫。このキャメロットを聖杯で維持し、後の別荘兼、前線基地にしようと思うのですが」

「え、本当にやるの?」

 

 

 

 モルガン陛下が言うと冗談に聞こえない。

 まあ聖杯で地中に維持するのなら白紙化の影響を受けない……のか? 今までに分かっている情報だとちょっと危うい気もするが、そこは陛下だし…。

 

 と、それを聞きつけてメリュジーヌ(さっきからずっと密着していたし、そのせいでオベロンに呆れ顔をされている)が言った。

 

 

 

「マスター、私はマスターと同室にして」

「いや、一人許すと大変なことになるから……」

 

 

 

 清姫とか静謐とか頼光とかゴッホちゃんとか。下手に刺激するとアビーとかメルトも何か言ってくるかもだし。そのへん、普通の女の子なキャスター(アルトリア)は癒やしなんだけども。

 

 

「メリュジーヌ、いい加減にマスターから離れなさい!」

「嫌です。私の方が強いのですから、私に従って」

 

 

 

「―――――っ、ハッハッハ! いいだろう、どちらが妖精國最強の騎士か、此処で決着を付けてやる。当然お前は私の味方だろうな、マスター」

「私ですよね、竜なので。バーゲストは大型犬みたいで可愛いけど、私の方が強い」

 

 

「ちょっ、人の背中から煽らないで!?」

「でもなー、二人ともモルガン陛下には勝てないんだろうなー。夫だって言ってるしなー」

 

 

 

 メラメラと闘志を燃やすバーゲストだが、オベロンの言葉に冷水を浴びせられたように黙り込むと「くっ、やはり最大のライバルは陛下……」とか呟き始めた。なんで下剋上しようとしてるんですか。

 

 

 

「例え陛下が相手でも、マスターは私のもの(恋人)です」

「くっ……私だって!」

 

 

 

「いいでしょう――――ならば受けて立ちます」

 

 

 

 

 なんで受けて立っちゃうんですか陛下。

 あとなんでもう無数に増えてるんですか陛下。

 

 

 

「この星で、一番の心臓を」

「弱肉、強食ッ!」

 

 

 

 

 完全に戦闘態勢に入った二人。

 もう頼れるのは一人しかいなかった。

 

 

 

 

「オベロン、なんとかして」

「ハハハ、――――無理に決まってるだろ?」

 

 

 

「じゃあなんで煽ったオベロンンンン!」

「お、それリンボの真似? 似てるな、気持ち悪い」

 

 

 

 

 

 

 結局、シミュレーターの中での戦闘に同意してもらうのだが。

 これがきっかけとなり、後日カルデアでちょっとした事件が起こるのだった。

 

 

 

 

 

 






ところで下総国ですが…。
展開的にサーヴァント連れていけないのと、武蔵持ってないので書けないかもしれません。
書けたら投稿しますが、無理そうだったら飛ばしてセイレムに行きます。


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2部/果て無き理想を超え
序/ 2017年 12月31日


 
水着メリュジーヌが来るという電波をキャッチしたので(ソース無)

 


 

 

 

 

 アトランティスの海。

 その空中に浮かぶのは、己のサーヴァントの危機を察して駆けつけたマスター。神霊にさえ勝利したとされる、規格外の魔術師。

 

 キリシュタリア・ヴォーダイム。

 

 

 

 

「――――いいだろう、元Aチームの一員として君たちの質問に一つだけ答えよう」

 

「キリシュタリア、貴方は人類が間違っているから叛逆すると――――あの日に宣言したな」

 

 

 

 

「そうだな。人類は間違いを重ねすぎた。どのような時代、どのような文明、どのような英雄、どのような国家であれ、我々は、『正解』を選んだことは一つもない。結論として、人間には、正解を選ぶ器官(きのう)が存在しない。私はその過ちをただすものだ」

 

 

 

 一見すると、それは正しい。

 人間が間違っている、間違えていると、言われて否定することができるのは多くないだろう。けれど。

 

 

 

「俺は、そうは思わない。確かに『正解』なんてどこにもなかったかもしれない。旅をする前の俺なら、その言葉に反論はできなかったと思う」

 

 

 

 

「泥臭くとも、諦めずにあがき続ける。正解なんて無くとも、欲望(きぼう)を抱いて前に進む。それが人の良いところだと、俺は思う」

 

「……そうか。確かに、君の意見も尊いものだと私も思う。だが――――それでは救えない。たとえそれが明日につながる希望であったとしても、救えぬものがあまりにも多すぎる」

 

 

 

 

 意見は、交わらない。

 

 主義が違う。経験してきたものが違う。見ている立場が違う。

 互いに、悪いことを言っているわけではないとわかっている。それでも、己の意見こそが正しいとするのであれば。

 

 

 

 

「――――なら、押し通す!」

「まことにすまないが、押し通されるのは君たちの方だ。カルデアの諸君」

 

 

 

 

 

 

 展開されるのは、虚空を―――宇宙を覆いつくすような巨大な魔術回路。

 まさしく天体級の魔術、魔法にも思えるそれらがもたらすのは

 

 

 

 

 

「虚空の神よ、今人智の敗北を宣言する。眼は古く、手足は脆く、知識は淀んだ。最後の人間として、数多の決断、幾多の挫折、全ての繁栄をここに無と断じよう。この一撃をもって、神は撃ち落とされる。変革の鐘を鳴らせ!『冠位指定(グランドオーダー)/人理保障天球(アニマアニムスフィア)』!!」

 

 

 

 

 

 人の身には過ぎたる魔術。

 ほとんどのサーヴァントであっても、この惑星轟の前には膝を屈するであろうと思われる圧倒的な破壊。

 

 異聞帯の王、ゼウスさえも敗北した圧倒的な魔術に――――1人の男が、静かに前に出た。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

2017年 12月 26日

藤丸立香の職務は終了した。

特異点はすべて消滅し、人類の危機は去った。

 

過去改竄という汎人類史への叛逆行為を可能とするレイシフトは現時刻を以て凍結。

カルデア技術局特別名誉顧問として実質的に運営管理しているレオナルド・ダ・ヴィンチを除き、サーヴァントは全て地上から消え去った。

 

 

 

 

 故に、それは必然だった。

 仮にも時計塔のロードであったアニムスフィアの不在。その代役になれたかもしれないキリシュタリア・ヴォーダイムはコフィンにて凍結。

 

 所長代行は実質的に無名に等しいロマニ・アーキマン(ソロモンだけど)。

 知らぬ間に人理焼却中の1年が経過し、記録でのみそれを知った外の世界の反応はすこぶる鈍いものであったが――――それでも、たとえ僻地にある旨味のなさそうなものであっても、弱り切った獲物を見逃すほど甘くはなかった。

 

 

 

 

 

 

 そして、来る12月27日

 

 

『―――以上、44名。登録認証 オールクリア』

 

『安全審査:協会規定 特別免除により、全員のカルデア入館を許可します。正面ゲート 解放。ようこそ、ゴルドルフ・ムジーク様。並びに国連査問会の皆様。当カルデアは 皆様の入館を 歓迎いたします』

 

 

 

 

 

「ほ――――う! ほほ――――う!」

 

 

「いい! いいではないか! こんな地の果ての工房に期待などしていなかったが、まさか、これほど近代的な施設だったとはな! いや、むしろロンドンのどの工房よりも進んでいないか? これは素晴らしい拾い物だ!」

 

 

 

 

 ゴルドルフ新所長が、割と大仰な身振りで入ってくる。

 このころの新所長は割と魔術師然としていたのだったか、若干新鮮な驚きがある。

 

 

 

 

「おいでなすったか。大した胴間声だこと。―――いいかい、藤丸君。基本的には沈黙だぜ? 君なら承知しているかもだけど、あの人物はオルガマリー所長以上に怒らせたら面倒くさいタイプのようだ。あとロマニはもうちょっとしゃっきりする!」

「ええー。いや、僕これでもすでにけっこう頑張ってるんだけど…?」

 

 

「ほんとに前より気が抜けたな君は。まさかあれで張りつめてる方だったとは!」

 

 

 

 

 なんというか、人をダメにするソファーの上でぐで~っと伸びてるような謎のユルさがある。結局、ドクターの燃え尽き症候群は治らなかったのである。

 

 

 

「ほほう。そして、そこにいるのが所長代行のアーキマンとやらか……」

 

「えーっと、ははは……どうも? 所長代行のロマニ・アーキマンです」

 

 

 

 

「ええい、なんだその気の抜ける顔は! 前所長オルガマリー・アニムスフィアが不慮の事故でその役職を果たせなくなったため、医療部門のトップだった貴様が代行を務めていたそうだな」

 

「ええ、そうなりますね」

 

 

 

「ご苦労、その役目もここまでだ。現時刻より、カルデアの全権は私が引き継ぐ。そして――――早速だが、キミたちを拘束させてもらおうか。私としても、まことに遺憾なのだがね」

 

 

 

 

 前に出たのは、銃で武装した兵たち。

 その数、およそ40。なんということはない一般の兵であり、それこそダ・ヴィンチちゃんでもなんとかなる程度ではある。――――コヤンスカヤと言峰綺礼を考えなければ、だが。

 

 思わず前に出そうになったマシュたちを、ダ・ヴィンチちゃんが制する。

 代わりに前に出たのはドクターだ。

 

 

 

「いや、待ってほしい。それでは話が合わない―――僕たちが拘束される謂れは無い。カルデア職員に罪があるかどうか、それを判断するための今回の査問会だったはずだ!」

 

「そうそう。仮にも私たちは世界を救った謎の組織だぜ? 罪状が出ているのなら本格的な制圧チームが来るはずだ。しかしキミが連れてきた兵隊はせいぜい40人。となると、これはキミの独断、魔術協会の決定とは違うんじゃないかな?」

 

 

 

「そうであるのなら、僕たちとしてもしかるべき場所―――魔術協会に連絡させてもらうけれど」

「いいのかな、そういう手段をとってしまっても?」

 

「ぬ―――」

 

 

 

 

 ドクターとダ・ヴィンチちゃんの息は無駄にぴったりだった。

 ドクターだけだと緩すぎる。サーヴァントであるダ・ヴィンチちゃんだけだと少々威圧的すぎる。割とほどほどにバランスが取れており――――。

 

 

 

 

「……おい、どういう事だ、コヤンスカヤ君。この男、頭が働くぞ? カルデアに残っているのは技術者と半人前のマスターだけ、私に逆らえる人間はいない、という話ではなかったか?」

 

「ええ。そういう触れ込みで閣下にこの商品のご紹介をさせていただきましたわ。ですが、申し訳ありません。私の報告ミスのようで♡」

 

 

 

 

「あのユルっとした人畜無害そうな男は見た目のナヨさと裏腹に、私ども魔術協会に従わない、思ったよりは骨のある人物のようですわ……」

 

「なんか褒めてないかね?」

 

 

 

「―――ともかく、万が一の為の、私どもNFFサービスです。強気でいきましょう、強気で。いざとなれば私どもで、はい。閣下の体には傷一つつけさせません。ただし特別サービスとなりますので、またちょっと、閣下の懐が痛むくらいですわ♡」

 

「うわおう! また私から金をふんだくろうというのかね、コヤンスカヤ君!?」

 

 

 

 一体、新所長はいくらふんだくられたんだろうか……。

 魔術は割と金食い虫なところがあるとか聞いたことがあるのだが、あのお金持ってそうな新所長があれだけ嫌がる額って。

 

 

 

「閣下」

「う、うむ。わかってる、私はやる男だとも」

 

 

 

「―――コホン。アーキマン、口が減らない男だ。言っておくが私が協会から借り受けた人員はこれだけではない、船にまだ残してあるのだよ。今もヘリを往復させているところでね、ざっと、この三倍の警備員だ。カルデアを制圧することは容易い。これは魔術協会の意向と思いたまえ」

 

 

「旧スタッフを拘束し、一か所にまとめ、カルデアを調べ上げる。その間、旧スタッフの処遇は重罪人扱いとする、とね」

 

 

「だが、うむ。私はその手の荒事は好まない。君たちの大部分は退職してもらうにしても、それは気持ちの良い退職であってほしいのだ。そういうわけで、これから君たちには4人で1組となってもらい、個室で過ごしてもらう。それぞれ査問会の取り調べに呼ばれる時までおとなしく部屋で待機、だ」

 

 

 

「どうかね? きわめて平和的な手順だろう? 他の名門魔術師ではこうはいかない。連中は魔術に通じない者を奴隷のように扱うが、私は違う。わっはっは、私が紳士であることに感謝したまえ! おとなしくしていれば、すぐに解放してやろう!」

 

 

 

………

……

 

 

 

 

「……まさか、カルデアの謹慎室が独房として使用される日が来るなんて……」

 

「まったくだねー。いやー、たまたま予算があったからベッドも空調も照明も新調しておいて良かったとも」

 

「この日のために冷蔵庫にお菓子も入れておいたからね」

 

 

 

 

 なんということでしょう。

 この日のために用意されていた固いベッドは全て排除。最新型の冷蔵庫の中には、あのソロモン王も喜んだというお菓子が用意され。

 

 薄暗かった照明は最新のLEDに。

 旧式で、ぬくもりを感じられなかった空調も魔術と科学、双方から適切な環境を保ってくれる最新型が取り付けられました。

 

 更に、設置された本棚には――――。

 

 

 とかなんとかやっていると、早くも扉が荒々しくノックされた。

 

 

 

「おい藤丸立香、出ろ! 査問会からの招集だ!」

 

「おっと。さっそく尋問が始まるらしい。真っ先に藤丸君とはね」

「いいかい、まずは相手の出方を見るんだ。サーヴァント相手に慣れている君なら大丈夫だとは思うケド、慎重にね」

 

 

 

 

 外に出ると、どう見ても不審者か特殊部隊な見た目の男。

 殺気が無いだけ優しいものだが、やはり高圧的な態度というのはなかなか慣れるものでもない。

 

 

 

「よし、お前は三号室だ。そこに担当官が待っている。素直に、真実だけを話せばすぐに解放される。つまらない反抗心は捨てることだな」

 

 

 

 

 ……仕方がない、長期戦になるだろうなあ。

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

 

 

 

 つかれた。

 結局のところ、現場(人理修復)を知らない人間の質問というのは小難しい理論ばかりでさっぱりわからないのであった。レイシフトの仕組みがどうたら、なんたら。こちとらサーヴァントの楔であり、魔力の中継点であるだけ。コミュニケーション担当でしかないわけで。必要なのは根性、コミュ力、クソ度胸くらいのものである。

 

6時間の果てしない質問攻めの果て、ようやく査問官も「あっ、こいつ何も知らねぇわ」と察してくれたらしい。サーヴァントの好物とか宝具のことなら聞いてくれば答えるのだが、残念ながら興味はなさそうだった。

 

 

 

「お疲れ様。顔色が悪いわね、ボク」

 

 

 

 で。待ち構えていたのはコヤンスカヤ。

 割とバレンタインとかでひどい目に遭わされた気がしなくはないが、顔を見ると思い出すのは素材のための周回だったりはする。

 

 

 

 

「ふぅん、意外と余裕はあるみたいだけれど――――私からも一つ、聞いておきたいことがあるのよね」

 

 

 

「本来、君に代わって世界を救うはずだった7人――――“キミにチャンスを横取りされた7人”のこと、キミはどれだけ知っているのかしら?」

 

 

 

 

 どれだけ、と言われても。

 カドックはけっこうお人よしでツッコミが鋭くて……とかそういうどうでもいい、ただし自分が知るはずのない情報はあったりするのだが。

 

 

 

 

「――――へぇ。何か、知ってるんだ?」

 

 

 

 

――――あ、これはまずい。とてもまずい。

 

 

 

 大したことはないのだが、何か言えない情報があると察したコヤンスカヤは肉食獣のような気配を漂わせ―――表情だけは優し気だが―――手を伸ばしてくる。

 

 

 

 

 

「ボク、一緒に来てくれるかしら。その代わりにお姉さんがイイコト、してあげる―――」

 

 

 

 

 

 どう考えてもハニトラってやつですねありがとうございます。

 逃げたい。すごく逃げたいが逃げ切れる気がしない。

 

 この後のカルデア襲撃しかり、異星の神しかり、割と知っていてはまずい情報が多すぎる。

 

 

 

 

 

 こんなことなら神代の魔術師に頼んでバレない暗示でもかけて貰えば良かっただろうか、などと考えても後の祭り。

 

 すでに此処は肉食獣の口の中だったのだと、今更ながらに気づいた――――。

 

 

 

 

 

「そのくらいにしてもらえます? ソレ、私の玩具ですので♡」

 

 

 

 

 が。その手を掴んで止めたのは、コヤンスカヤの手であった。

 分かりやすくいうと、突然現れたコヤンスカヤ/光がコヤンスカヤの手を掴んで止めていた。

 

 

 

「……はぁ。なんでいるのか、一応聞かせてくださいます?」

「それはもちろん事業ですわ。せっかく育てている最中なのに、横から収穫なんてあんまりだとは思いません? そちらは、すでにいいカモがいるみたいですのに」

 

 

 

 カモ……やっぱり新所長はカモ扱い…。

 

 

 

「Aチームの個人情報、ちょっとくらい分けてくれても良いのでは?」

「キリシュタリア・ヴォーダイムは実はリンゴ農家を兼業している、とかどうですか?」

 

 

 

 

 妙な電波を受信してしまった猫みたいな顔になったコヤンスカヤは、

 いたって真面目な顔のコヤンスカヤ/光に何を感じ取ったのか、ため息を吐くとハニートラップには気をつけろとの捨て台詞? を残して去っていった。

 

 

 

 

「何はともあれ、ありがとう」

「いえいえ。単独顕現はこういうときにも便利ですから。どこぞのトカゲ妖精の悔しそうな顔が見られるだけでもその価値はあるかと」

 

 

 

 

 ところで、と向けられるのは妖艶な笑み。

 

 

 

「――――ムリアン様のこと、分かっていますよね?」

「べ、ベストを尽くさせていただきます……」

 

 

 

 

 ソロモン救ったんだし、ムリアンもいけるよなぁ? と脅してくるその姿は、さっきのコヤンスカヤの方がよっぽど優し気だったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

12月31日

 

 

 ダ・ヴィンチちゃんがAチームのコフィン解凍のために協力しはじめてから12時間ほどが経過し――――館内放送にてその終了が告げられる。

 

 それは、旧カルデアの終了を告げるものにもなるはずであった―――殺戮猟兵さえ来なければ、の話だが。

 

 

 

 

 

 瞬く間に殺されていくゴルドルフの私兵。

 占拠されるゲート。脱出も不可能となったカルデア職員は――――。

 

 

 

 

 

「―――こんなこともあろうかと! ってやつだね、藤丸君!」

「ドクター、緊張感」

 

 

 

「――――よし、じゃあ作戦決行と行こうか。藤丸君」

「緊張感」

 

 

 

 そんな、ちゃんと言い直したのに!?

 なんておどけるドクターだが、やっぱりユルい。

 

 こんなこともあろうかと設置された、本棚のギミック。

 脱出路に早変わりしたそれは、カルデア職員の押し込められた謹慎室全てにセットされている。この違法改造にはメディア女史以下、キャスター達も頭を抱えていたが―――幸いにも今回の事件を以てカルデアを脱出することを決めていた以上、後先考えない改修でなんとかなった。

 

 

 

 

 

 地下のシェルターまでなら、スロープでいいな! とばかりに滑り落ちていく仕組みである。

 

 

 真っ暗なトンネルを抜ければ、いつもより緊張した――――しかし、数々の特異点を乗り越えてきた歴戦の、見慣れたスタッフたち。

 

 問題なく旧カルデア職員たち“全員”が集結して無事を喜びあい――――。

 

 

 

 

 

 

『誰か! 誰かいないのか―――!? 誰でもいい、誰か、誰か―――!』

 

 

 

 

 

 ダ・ヴィンチちゃん、ドクター、あとホームズと顔を見合わせる。

 旧カルデアスタッフはみな、この緊急脱出通路を使って集まったはず。……あ。

 

 

 

 なんとなく、とっくに仲間な印象のあった新所長。

 しかして彼はまだ味方じゃなくて、それどころかコヤンスカヤを雇っていた。ので、特に情報を伝えるわけにもいかず、誰かが迎えに行く必要があった。

 

 

 

 

「あれ、ダヴィンチちゃん。誰が新所長を迎えに行くんだっけ」

「え、ホームズとかじゃなかった?」

「いや、私は何もしていないが」

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

 

『……なぜだ。なぜなんだ。なんでいつも、最後になって裏切られるんだ! ああ、いつもこうだ! 私だって努力はしたんだ! 私なりに最善を尽くしてきたんだよ! ああ……いたい、いたーい! やめろ、やめてくれ――ぃ!』

 

 

 

 

「「「まずーい!」」」

 

 

 

 

 

 



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第一異聞帯/ 虚空と宇宙

 


チャンピオンズミーティングで虐殺されたので本日2話目です




 


 

 

 

 

 

 

 

「――――全く、“こちら”に更なる裏切り者などいないはずだったのだが」

 

 

 

 一番の目的であるカルデアスの凍結は果たされた。

 が、カルデアが所持していた霊基グラフは見つからず。キャスターであるダ・ヴィンチも無事に逃げおおせようとしている始末。

 

 どう考えても“襲撃”が読まれていたとしか思えない状況。

 それにしてはカルデアスを守らないなど、杜撰が過ぎるが―――何者かの意志を、言峰綺礼は感じ取っていた。

 

 

 

「いやいや、報告書を鵜呑みにするものではないとはいえ。どう思う、コヤンスカヤ君」

「はぁ。伏兵の可能性は進言していましたが――――仮にも人理修復しただけのことはある、ということでしょうか?」

 

 

 

 なんとなーく、もう一人いた自分の顔が脳裏を過って歯切れの悪いコヤンスカヤだが、別に“自分は”なにも裏切っていないので特に後ろめたさも無く。

 

 

 

 

 カルデア職員が脱出しようとしている。

 おそらくはごみを麓に捨てるためのコンテナを使って。

 

 それを察知した二人はすぐに見晴らしのいい場所に陣取り、コヤンスカヤは狙撃用のアンチマテリアルライフルを用意し――――。

 

 

 

 

 

 

 それは現れた。

 

 

 

 

 それは、脱出コンテナというにはあまりにも大きすぎた

 大きく

 分厚く

 重く

 そして大雑把すぎた

 

 それはまさに、島だった。

 

 

 

 

 

 

 

「は――――?」

「ほう」

 

 

 

 

 

 

『――――メインエンジン、起動確認。聖杯10基、問題なく稼働中!』

『センサーに感あり、地上に敵の殺戮猟兵多数! コヤンスカヤの攻撃は今のところなし!』

『これより本館<仮想宝具・はや辿り着けぬ理想郷(アナザーキャメロット)/冬の玉座(ロンゴミニアド)は目的の異聞帯に向けて侵攻を開始します。各騎、防空戦闘の準備をしなさい』

 

 

 

 

 白き都。本来であれば罪都などと呼ばれた都市の模造品であるが、驚くべきことに浮いている。ありていに言えばアガルタのラピュタなのだが……。

 

 

 

 

「な、な、ななななんだねコレは――――!?」

「何だい、ゴルドルフ君。君、カルデアの報告書読んでないのー?」

 

 

 

「――――ラピュタです」

「は。と、というか一体どこの誰だねキミは…?」

 

 

 

 

 ゴルドルフが目を向けたのは、艦橋っぽく近代的な観測機器が置かれた場所において明らかに異彩を放っている玉座。そこに座る美しい女王であった。

 

 

 

「――――そして、ブリテンでもあります。これこそが仮想宝具・はや辿り着けぬ理想郷(アナザーキャメロット)/冬の玉座(ロンゴミニアド)。我が夫の求めに応じ、カルデアに貸し出している、というべきでしょうか」

 

「いや、つまり誰なんだねキミィ!?」

 

 

 

 鋭いツッコミだが、それに応じるのは女王ではなく。

 その横に控えていた赤い少女だった。

 

 

 

「ハァーっ? お母様に向かってその態度……よっぽど苦しんで死にたいワケ?」

「あ、はい。すみません……」

 

 

 

「良いのです、バーヴァン・シー。一応これでもカルデアの新所長……そうですね、取引先の靴屋の店長とでも思っておくように」

 

「プッ……はーい、お母様」

「く、靴屋……(足代わりでしかないってことかね!?)」

 

 

 

 

 なんとなく、モルガンは善意で(娘が靴好きなので)言ってる気がするが通じているかは怪しいものである。

 すごすごと引き下がったゴルドルフに声をかけるのは何故かパフェを食べているロマニ。

 

 

 

「ハハハ、女王様はなかなか気難しいからねー。あ、新所長もどうです、このパフェ」

「パフェ!? 何故ここでパフェ……いや、貰うけれども」

 

「ロマニ、ちゃんと仕事したまえ! それか私にも食べさせてくれないと後で酷いからね!」

 

 

 

 

 カルデアが襲撃されたにも関わらず、緊張感が皆無な面々に愕然とするゴルドルフだが――――なんやかんや自分もパフェを食べ始めるあたり素質はありそうだった。

 

 

 

 

 

 

 と、不意に警報が響く。

 レーダー担当からコヤンスカヤから狙撃が放たれたとの報告が入るが――――。

 

 

 

 

「無駄です。そもそもこのキャメロットは対ケルヌンノスを想定した要塞の模倣であり――――十分な魔力供給があり、ロンゴミニアドがあり、そして私がいる限りはそう易々と抜かせはしません」

 

 

 

 

 あっさりと、神域というべき魔術で攻撃を無効化。

 ついでとばかりに目的の異聞帯に向けて徐々に加速していくキャメロットに、呆然と見送るしかない異星の使徒。

 

 

 

 

 

『――――…通達する。我々は、全人類に通達する。この惑星はこれより、古く新しい世界に生まれ変わる――――』

 

 

 

 

 そして始まるキリシュタリアの演説にも、おびえるものはいない。

 状況は、決して有利ではない。

 

 

 

 カルデアは壊滅した。

 その未来は避けられず、キャメロットを頼りに逃げているだけとも言うことができる。

 

 だが、それでも。

 シャドウボーダーで逃げ出した時とは違う。

 

 滅びに抗う、だけではない。

 

 

 

 

 

「俺たちのやることは、変わらない」

 

 

 

 

 

 例え、カルデアで最も優秀なAチームが敵に回ろうとも。

 世界を救う戦いから、互いの世界を賭けた生存競争というべきものに変わってしまっても。

 

 

 

 

「救いたい人が、いる。もしかしたら救えるかもしれない。それだけで、戦う理由に不足なんてない。そうして世界も救えるなら、言うことなし」

 

「ほ、本気で戦う気かね? なんだか分からんが、カルデアを襲撃した奴らは凄まじい強さだった。カルデアの強さの源だった無数の英霊も退去した! それでもやるというのかね!?」

 

 

 

 

「――――やります! キリシュタリアを、カドックを、ペペさんを、オフェリアさんを、あとパイセンもぶん殴ってでも止める!」

 

「いや、誰か止めないのかね!?」

 

 

 

 

 その言葉に、ドクターとダ・ヴィンチちゃんが苦笑いで顔を見合わせる。

 

 

 

「まあ、僕らもそこに関しては同意するし」

「私たちじゃ、止められないしねー?」

 

 

 

 

 

 不意に現れるのは、黄金の粒子。

 広間を埋め尽くさんばかりのそれは、霊体化していた英霊たちが一斉に現界した証でもある。

 

 

 

「―――――フ、ハハハ、フハハハ! よくぞ吠えた、藤丸! 貴様はなんというか、凡人の極みともいうべき見飽きぬ奴よな! ならば王の中の王たるこの我が、今一度貴様の剣となろう!」

 

「というか、竜なので。人間に言われた程度で退去なんてしません。運命の相手と引き離されるくらいなら、魔術協会とやらを焼き尽くすから」

「項羽様がこちらにおられる以上、中国異聞帯とかどうでもいいの、サクッと滅ぼしなさい後輩!」

 

 

「僕も悲しい別れとか大嫌いだ! まあ、花を咲かせるくらいしかできないわけだけれども――――協力するぞぅ!」

 

 

 

 

「げぇ、マーリン!?」

「よくぞ私の前に顔を出せたものですね、マーリン」

 

「ははは。あれ? なぜかよくない流れのような気がするぞう」

「マーリンシスベシフォーゥ!」

 

 ほか、英霊多数。

 沢山の聖杯があることを良いことに現界し、ラピュタに退避していた英霊たちを交えて、空飛ぶキャメロットは最初の異聞帯に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

「一体どうなってるんだ……」

 

 

 カルデア襲撃に際して、職員の犠牲者はゼロだった。

 なんとなく安堵してしまったカドックだが、今度はどういうわけか空飛ぶ城に頭を悩ませることとなった。

 

 

 城が、空を飛んで、脱出したのである。

 

 

 どんな宝具だ。

 宝具じゃないとしたら一体なんなんだ。

 

 

 

 ついでに目的もわからない。

 ロシア異聞帯は、カルデア襲撃という明確な縁がある。南極からは遠いが、来ないと言い切れるほどでもない。

 

 

 

 来るのか、来ないのか。

 神経をすり減らすカドックに届いたのは、耳を疑う一報だった。

 

 

 

 

「はあ!? カルデアが――――に!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 異聞帯にも、汎人類史のサーヴァントが召喚されることはままある。

 例えばロシア異聞帯のアタランテやビリー、中国異聞帯の陳宮や呂…赤兎馬。

 

 だが、そのいずれもが異聞帯の王の力の前では無力に等しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――絶海。

 

 

 

 最大の異聞帯に対するカウンターとして召喚された、最大規模の英霊たち。

 イアソンのアルゴー船とヘラクレスを中心に、オリュンポスへと挑む猛者たち。

 

 オデュッセウスの船団を潜り抜けた彼らを待っていたのは、天から放たれる光であった。

 

 

 

 

「――――――ヘラクレス!?」

 

 

 

 アルゴー船が大破し、ヘラクレスに庇われたイアソンが吹き飛ばされる。

 木の葉のように吹き飛ばされ、残った板切れを掴みながらもイアソンは叫ぶ。

 

 

 

 

「ぐっ――――テメェら、メディア! 何ぼさっとしていやがる! さっさと行け! ヘラクレスが防げないんだぞ、お前らも足手まといにしかならねぇだろうが!」

 

 

 

 

 頭の中は、冷静だった。

 例えヘラクレスに庇わせた己の不甲斐なさに怒りが燃え滾っていようとも。ヘラクレスさえも殺す、謎の天からの光に愕然としていても。

 

 ヘラクレスを無駄死にだけはさせたくないと、そう判断できる天性の資質がイアソンにあった。

 

 

 

 

「ヘラクレス、お前も俺を助けて早く脱出だ――――! おい待て、お前何して――――」

 

 

 

 

 ヘラクレスが、天を仰ぐ。

 その巌のような武器を構える。今しがた自分を幾度となく殺しつくした攻撃に対しての、迎撃の構え。

 

 もしかすれば、二人で生き残れる道もあるかもしれない。イアソンが信じたのはまさにそれだ。ヘラクレスなら、確率が低かろうと二人で生き残れるだけの力があると。

 だが、不確実だ。

 

 

 

 

 より確実に、この異聞帯の攻略に必要だと感じたイアソンを救う。

 決死の覚悟で咆哮を放つヘラクレスに、無情にも天からの光が降り注ぎ――――。

 

 

 

 

「――――どうやら、間に合ったみたいだな! 蒼天囲みし小世界(アキレウス・コスモス)!」

 

「なっ、お前は――――アキレウス!?」

 

 

 

 

 その手が掲げる盾こそは、盾に一つの世界を内包した結界宝具。

 対界宝具でもなければそう易々と貫かれない万全の護りとともに、ヘラクレスと並ぶギリシャ最強の英雄が参戦した。

 

 

 

「うおっ、すげぇ火力だな……ヘラクレスが殺されかけるだけはあるみたいだが」

「何故此処に――――いやいい! アレがチャージしている間に、さっさとお前の戦車に俺とヘラクレスを乗せて脱出しやがれ!」

 

 

 

「お前な……まあ今回はその必要はないだろ」

「はぁ!? 何言ってやがる!」

 

 

 

「あの衛星兵器――――狙撃型星間戦闘機、とか言うらしいが――――こっちにも、大層な戦闘機がいるみたいでな」

 

 

 

 

 

 黄昏の空に尾を引いて。

 凄まじい速度で天空へ―――月の女神へ肉薄する人類史最古の竜にして最強の戦闘機。

 

 

 

鈍重(おそい)。宇宙を飛ぶ、というのは大したものだけれど、その程度の速さで私から逃げられるとでも?』

 

『――――…!』

 

 

 

 

 放たれる光の波濤。それを紙一重で回避して、竜は飛ぶ。

 お返しとばかりに放たれた熱線が月女神の一部を貫通し――――我武者羅に放たれる衛星砲はしかし、音よりも遥かに速く飛ぶ竜を捉えるにはあまりに鈍すぎる。

 

 

 二発、三発目の熱線がついに月女神のコアに直撃し、空に大輪の爆発を輝かせる。

 

 

 

 

「なんだあれ。おい、あれ本当にサーヴァントか?」

「いや本当になんなんだろうな。カルデアのマスターは(ドラゴン)界隈におけるヘラクレス的存在って言ってたが」

 

 

 

「ヘラクレスなら仕方ないな…」

「それでいいのかイアソン……」

 

 

 

 

 

『これで一機撃墜――――!』

『メリュジーヌ、今回に関しては本当に君だけが頼りなんだ。特に宇宙にいるアルテミスと、海中のポセイドンはモルガン陛下でも無理だし』

『準備期間があればいけますが?』

 

 

 

 

 ポセイドンの方は一応、水の女神であり、バフ解除の専門家でもあるメルトリリスをパッションリップから射出するパラディオンで迎撃するという手も無くはないのだが。

 普通のサーヴァントは宇宙に対抗手段とかは無い。

 本当に、強いて言うのなら対アルテミス宝具のオリオンに頑張ってもらうかユニバース時空のサーヴァントに頑張ってもらうしかないのである。

 

 

 

 

『まだ無理なんだ。それに、最強で最高の戦闘機はやっぱりメリュジーヌだと思うし』

『そ、そうかな。本当のことだけど、君にそう言われると少し照れるかも…』

 

 

 

 

 他に戦闘機のサーヴァントはいないので、好き放題に褒められるというのは正直あったりするのが若干申し訳なくなるくらいの喜びようであった。

 

 

 

 

『その力、強さを、今此処で見せつけてほしい。』

『―――全部片づけてしまっても構わないよね?』

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、いきなり大西洋異聞帯にカチコミかけたキャメロットの玉座。

 固唾をのんで計器を見守るマスター、ドクター、ダ・ヴィンチちゃん、新所長、モルガンたちいつものメンバーは、あっさりと、本来は冠位のサーヴァントを犠牲に撃破する(もっと言うと本当は別の、ビーストのために呼ばれた冠位なのだが)月女神を撃破したことに安堵の息を吐いた。

 

 

 

「いや、相性が良いのは分かってたけど……」

 

 

 

 こっちは対空メインの戦闘機、向こうは狙撃メインの衛星兵器、火力の優劣は不明ながら速度は圧倒的であり。高度さえ足りていればまず負けないだろうとは思っていたのだが。

 

 

 そのまま流星の如く急降下し、オリュンポスに続く穴の奥――――次なる標的は未だ万全な状態にあるポセイドン。

 

 

 

 

「――――聖杯級の魔力反応を4つ確認。どうやらそれで魔術障壁を張って防御しているみたいだね。その分、遠距離攻撃手段はなさそうだけれど」

「それではこちらの攻撃は全く通らないということではないかね!?」

 

 

「いやぁ、ははは……普通に考えればそうなんですが。うちの藤丸君はだいぶアレなので」

 

 

 

 

 

 

 アルビオンって泳げるの?

 その答えは一つ――――メリュジーヌは元々泥の中におり、与えられたのも水の妖精の名である。名前とは、割と魔術的には大きな意味を持つものである。特にそれが、生まれたときに与えられたものともなれば。

 

 

 

 

『聖杯、全基並列稼働。真名解放―――<誰も知らぬ(ホロウハート)無垢なる鼓動(アルビオン)>!』

 

 

 

 

 むこうが聖杯4つ分なら、もっとたくさん聖杯をぶつければいいよね!

 とばかりに至近距離からビームをぶっぱされた、哀れ体当たりくらいしか攻撃方法がないポセイドンはあえなく爆発。

 

 

 というか、そのあまりの火力と爆発に、絶海が大きく揺れた。

 ついでにキャメロットの計器もけっこう揺れた。

 

 

 

 

 

「なんだねあの火力は――――!? いや、あんなのが反乱したらカルデアどころか世界が火の海じゃないかね!?」

 

「いやぁ、ははは」

 

 

 

 

 実のところ「カルデア、滅ぼしていい?」と機嫌を損ねると割と真剣な顔でのたまうメリュジーヌはかなりの危険サーヴァントである。サーヴァントとして召喚されると割と弁えている黄金の王とかよりよっぽど危険である。

 

 

 

「はははじゃないが!?」

「安心したまえ、ゴルドルフ君。彼女は藤丸君を悲しませるようなことはしないよ。……たぶん」

 

 

「一体いくつ聖杯を使ったんだね!? まさかあの第六特異点の記録にあった、騎士王と同じで5つとか―――」

「15」

 

 

 

「………ん? すまないがよく聞こえなかった。5個も使ったのかな? 仕方ない男だね、キミぃ」

「新所長、三倍です。15個です」

 

 

 

「聖杯は5個が限界じゃなかったのかねぇ!?」

「いやいや、ゴルドルフ君。日々、技術は進化しているからね…」

 

「なんかもっと正義感ありそうなサーヴァントいなかったのかい!?」

 

 

 

 

 だって、聖杯美味しそうに食べるから…。

 と、なんやかんやあってアキレウスに連れてきてもらった客人が到着した。

 

 

 

「おーい、マスター。連れてきたぞ」

「おい、そこのカルデアのマスター! うちのヘラクレスは無事なんだろうな!」

「我が夫の頼みですから。当然、回復させましたが――――何か文句でも?」

 

 

 

 答えるのは、治療してくれたモルガン陛下である。

 なんだろう、この人万能すぎでは? 以前はレイシフトまで魔術で再現したらしいし。

 

 

 

「うお……メディアよりやばそうな女………え、何お前、アレが嫁なのか?」

「結婚した覚えはないんだけど……」

 

 

 

いつの間にか夫にされていたし、いつの間にか恋人ができていたし、妖精の恋愛観は割とぶっ飛んでる。いつの間にか弟子になってたり、師匠が沢山生えてきたのとかは可愛いものだったのである。

 

 

 

 

 

「本格的にメディアよりヤバいな。アレはまあ色々あってアレだったが」

「カルデアにもいるよ、大人のメディアさん」

 

 

 

「―――は? こんなところにいられるか! 悪いが俺は帰らせてもらうぞ!」

「へぇ。じゃあ私の実験台になってもらってもいいかしら?」

 

 

 

 スッと音もなく現れたメディアに、イアソンは静かに背を向けて藤丸に並び立った。

 

 

 

 

「何していやがる、野郎ども! さっさとオリュンポスを攻略しに行くぞ! あ、あとついでに下にいるはずのメディアたちも拾っていこう。な!」

 

「イアソン……」

 

「はぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな時である。

 海面に近づいたキャメロットに近づくサーヴァントがあった。

 

 

 

『サーヴァント反応、急速接近! これは――――』

 

「な、なんだね!? どこのサーヴァントだね!?」

 

 

 

「狼狽える必要はありません。ロンゴミニアド、12門斉射」

 

 

 

 

 

 膨大な光の柱が突き立つ。

 その過剰なまでの攻撃力はしかし、海神ポセイドンの加護に守られたカイニスには一切効果がない――――はずだった。

 

 

 

 

 つい今しがた、ポセイドンが撃破されていなければ。

 

 

 

 あまりにもあまりなスピードでポセイドンが撃破されていたせいで―――まだ完全に加護が消え切っていなかったため即死はしなかったが、カイニスが吹き飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

「……ふむ」

「な、なんだね。やったのかね!?」

 

 

 

「どうやら死にかけのようですね。てっきり何か策があるのかと思いましたが―――」

 

 

 

 

 

「いや、これは――――令呪の反応だ! 空間転移――――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






誤字報告いつもありがとうございます。
速度に極振りしているせいで正確性が……。

 
 


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第一異聞帯/ 汎人類史の英霊たち

書く! 出す! 考えない!
誤字報告ありがとうございます!


 

 

 

 

「久しぶりだね、マシュ・キリエライト。――――そして、我々が退場した後に残された、ただひとりのマスター、藤丸立香」

 

 

 

「君の、君たちの健闘には心から敬意を表する。そして、その素晴らしい戦術眼にもね。だからこそ、こうして姿を現した」

 

 

 

「私は、キリシュタリア・ヴォーダイム。クリプターのリーダーにして、この大西洋異聞帯を任されたマスターだ」

 

 

 空中に浮かぶのは、己のサーヴァントの危機を察して駆けつけたマスター。神霊にさえ勝利したとされる、規格外の魔術師。

 

 キリシュタリア・ヴォーダイム。

 

 

 

 

「キリシュタリア!? キリシュタリアだとぉ!? ぬぅぅ、まさか直接攻め込んでくるとは! ムニエル、反応はどうなっている!? ヤツはサーヴァントを連れているか!?」

 

「あったり前でしょう、マスターなんだから! 二騎……いえ、なんだこれ、反応は一騎扱い……? ええい、とにかく二騎、後ろに控えています! カイニス同様、いえ、それ以上の神霊サーヴァントです!」

 

 

 

「な、ならもう一度あの光の槍を! 迎撃だ、迎撃!」

 

「……ふむ。どうしますか、我が夫」

 

 

 

 

 まあ、攻撃するのが正しいのかもしれないが。

 一応、魔力放出(光)で移動できるという反則級のサーヴァントであるディオスクロイを連れている以上、攻撃しても回避されるのが関の山だろう。ならば。

 

 

 

 

「―――行こう、マシュ。向こうが挨拶に来たのなら応じるまでだ」

「はい、マスター」

 

「ちょっ、死ぬ気かね!?」

 

 

「では、送りましょう」

 

 

 

 

 モルガンが杖を軽く動かすと、現れるのは転移の魔術。

 キャメロットの門前にて、ゆっくりと地上付近まで降りてきたキリシュタリアと向き合う。

 

 そして、キリシュタリアはおもむろに背後に控えるサーヴァントに声をかけた。

 

 

 

「―――ディオスクロイ、カイニスを連れて離脱してくれ。私の護衛は不要だからね」

「キリシュタリア様。我々に、あの無能な女を助けろというのですか」

「我が兄同様、私も賛同しかねます。カイニスがここで消えるのは自業自得、私たちが汚らわしい血で汚れる必要は――――」

 

 

 

「だからこそ、君たちに任せるんだ。……この意味が分かるね」

「―――御意。わが契約者の名であれば、そのように」

「ふふ。仕方がないから助けてあげましょう。命拾いしたわね、カイニス」

 

 

 

 

 そして本当にディオスクロイが離脱し――――キリシュタリアのサーヴァントはいなくなった。だが、ヒリつく空気が、かつての敗北の記憶が、彼の底知れぬ雰囲気が、全てが容易ならざることを示している。

 

 

 

『自分からサーヴァントを離すだと…!? ええぃ、どうなっとるんだ一体!』

 

「―――――さて、余計な時間を取ってしまったな。君たちと意見を交える気はない。ここで決着をつけるのみだが――――」

 

 

 

「いや、その前にひとつだけ」

 

 

 

 

 

「――――いいだろう、元Aチームの一員としてとして君たちの質問に一つだけ答えよう」

 

「キリシュタリア、貴方は人類が間違っているから叛逆すると――――あの日に宣言したな」

 

 

 

 

「そうだな。人類は間違いを重ねすぎた。どのような時代、どのような文明、どのような英雄、どのような国家であれ、我々は、『正解』を選んだことは一つもない。結論として、人間には、正解を選ぶ器官(きのう)が存在しない。私はその過ちをただすものだ」

 

 

 

 一見すると、それは正しい。

 人間が間違っている、間違えていると、言われて否定することができるのは多くないだろう。けれど。

 

 

 

「俺は、そうは思わない。確かに『正解』なんてどこにもなかったかもしれない。旅をする前の俺なら、その言葉に反論はできなかったと思う」

 

 

 

 

「泥臭くとも、諦めずにあがき続ける。正解なんて無くとも、欲望(きぼう)を抱いて前に進む。それが人の良いところだと、俺は思う」

 

「……そうか。確かに、君の意見も尊いものだと私も思う。だが――――それでは救えない。たとえそれが明日につながる希望であったとしても、救えぬものがあまりにも多すぎる」

 

 

 

 

 意見は、交わらない。

 

 主義が違う。経験してきたものが違う。見ている立場が違う。

 互いに、悪いことを言っているわけではないとわかっている。それでも、己の意見こそが正しいとするのであれば。

 

 

 

 

「――――なら、押し通す!」

「まことにすまないが、押し通されるのは君たちの方だ。カルデアの諸君」

 

 

 

 

 

 

 展開されるのは、虚空を―――宇宙を覆いつくすような巨大な魔術回路。

 まさしく天体級の魔術、魔法にも思えるそれらがもたらすのは

 

 

 

 

 

「虚空の神よ、今人智の敗北を宣言する。眼は古く、手足は脆く、知識は淀んだ。最後の人間として、数多の決断、幾多の挫折、全ての繁栄をここに無と断じよう。この一撃をもって、神は撃ち落とされる。変革の鐘を鳴らせ!『冠位指定(グランドオーダー)/人理保障天球(アニマアニムスフィア)』!!」

 

 

 

 

 

 

 人の身には過ぎたる魔術。

 ほとんどのサーヴァントであっても、この惑星轟の前には膝を屈するであろうと思われる圧倒的な破壊。

 

 隕石という、魔術的にも物理的にも圧倒的な破壊力を誇るそれ。直撃すれば、世界そのものといえるアキレウスの盾すらも破壊するだろう。隕石一つあれば、ちょっとした“世界”を壊すのに十分すぎる。

 

 

 

 

 異聞帯の王、ゼウスさえも敗北した圧倒的な魔術に――――1人の男が、静かに前に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ならば、僕がそれに応えよう」

 

 

 

 

 白衣を翻して、褐色の男がアトランティスの潮風をその身に受ける。

 これまで動じる姿を見せなかったキリシュタリアが、確かな驚きをその表情に刻んだ。

 

 その指に輝くのは、“十の指輪”。

 

 英知を望んだ王、魔術王の秘宝。人類が行うあらゆる魔術を制御下に置く――――その力でキリシュタリアの魔術を無効化しなかったのは、既に彼が人智の及ばない領域にいるからか――――あるいは。

 

 

「人類の偉業、理想、誕生の真理を此処に示そう。この星が生まれ、あらゆる生命は未来へと歩む。その積み重ねこそがこの光だ。讃えるがいい――――<誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サロモニス)>」

 

 

 

 人類がこれまでに行ってきた魔術、その歴史。

 研鑽されてきた技術、偶発的に生まれた俊英、奇跡、運命。

 

 神秘はより古い神秘によって打ち消され。神秘の象徴たるあらゆる魔術はソロモン王に源流を発する。故に、ソロモン王は全ての魔術を修めた王である。

 

 

 故にこそ、彼の王は。

 彼の黄金の英雄王が人類すべての財をその蔵に収めているのと同様に。人類が到達しうる全ての魔術を扱うことができる。

 

 故に、魔術王。

 魔術師である限り叶わぬと言わしめた、紛れもない冠位魔術師(グランドキャスター)である。

 

 

 

 

 あらゆる英雄、魔女、魔術師。

 積み重ねられた人智が無数の輝きとなって降り注ぐ隕石に殺到する。

 

 

 かつてゲーティアが見せた、人類史全てを燃料とする光帯に決して劣らないとさえ思えるそれは――――。

 

 

 

 

「まあ、そうだね。せっかくだしゲーティアの魔術も再現していたりするから」

「割と無慈悲だドクター!?」

 

 

「え、そう? よく空気読まないとか言われるんだけど……まあ正直それよりは君たちの安全の方が僕には大事だ―――――僕も死にたくないしね!」

 

 

 

 

「―――――くっ」

 

 

 

 人類の多様性を示すように、無駄に色とりどりの光を放つ光帯。

 魔術的には圧倒的な神秘を持つ隕石。

 

 

 

 その激突は互いに一歩も譲ることはなく――――かつてない、惑星轟を維持し続けるという異常事態にキリシュタリアの頬を汗が伝う。

 

 

 

 

「ふ、藤丸君。だいぶ辛くなってきたんだけど……何か楽になる手とかない!?」

「ええっ!? モルガン陛下、なんかない!?」

 

『では、ロンゴミニアド斉射』

 

 

 

 

 ここで、“かつて”は死に体だったとはいえ惑星轟で辛うじて防いだロンゴミニアドが加わり、押し合っていた力が宇宙の方に押し戻される。

 

 

 

 

『これで暫くは魔力切れです。我が夫、いざとなれば私も出ますが油断なきように』

 

「―――――まさか、ドクターがこれほどのものを隠していたとはね」

 

 

 

 

 

 すわ世界の滅びかと思わせる隕石と光帯、そして光の槍の激突はソロモン王に軍配が上がった。

 

 わずかに息を切らして天を見上げるキリシュタリアに、ソロモンはどこか悲し気に答えた。

 

 

 

 

「そうだね。僕も君がそれほどのものを隠していたとは思わなかった。全く、医療部門のトップが聞いて呆れる」

 

「………」

 

 

 

 

「――――さて。異星の神、その正体は知らないが、僕にも一つ分かったことがある」

「ふむ。それはなんだろうか、できれば一人の魔術師としてぜひご教授願いたいものだが……」

 

 

「何を以て“異星”としたのか、それは分からないけれど。どうやらその“契約”は『魔術』に類するものらしい――――藤丸君!」

 

 

 

 

「令呪二画を以て命ずる――――ソロモン、メディア! 宝具の解放を!」

 

 

 

「第二宝具<戴冠の時きたれり、其は全てを始めるもの(アルス・パウリナ)>!」

「<破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)>!」

 

 

 

 

 

 

 空間転移により背後に現れたメディアが、歪な短剣をキリシュタリアに突き刺す。

 それと全く同時に、展開された時間神殿がキリシュタリアと外界との―――異星の神との繋がりを絶ち。その契約を、すべての魔術、契約の主たるソロモンが支配する。

 

 

 

 そして―――――。

 

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

 

『畏れよ』

 

 

『讃えよ』

 

 

『お前たちが目にするは 至高なるオリュンポス』

 

 

『余が座す異聞帯の真なる名にして ソラの海さえ渡らんとする巨いなる方舟』

 

 

『地に伏せよ 噎び泣け』

 

 

『是なるは 我ら神の座であれば――――』

 

 

『小さきものの目にすべきモノでは ないぞ』

 

 

 

「何だ、この、声はッ……声が、声が重い……!!」

 

 

 

 

「ハッ、笑わせるな! 真に天に仰ぎ見るべきは、王の中の王たるこの我唯一人――――星の海を渡る船に、この星の創世の地獄を示してやろう!」

 

 

 

『我が名はゼウス』

 

 

『大神ゼウスである』

 

 

『神代より続く大洋』

 

 

『巨いなる星間都市』

 

 

『それら全てを統べる』

 

 

『大西洋異聞帯の王』

 

 

 

 

「起きよ、エア! 今こそ、人類最古の英雄王の名を此処に示そう。――――死に物狂いで足掻くがいい! 天地乖離す開闢の星(エヌマエリシュ)!」

 

 

 

 

 

『堕ちよ』

 

 

 

『小さきもの』

 

 

 

 

 宇宙を焼くとさえ言われた大雷霆が放たれ、ギルガメッシュの乖離剣が放つ空間断層と衝突する。

 

 空間が断裂している以上、雷霆は届かない。

 相性としてはこの上なく有利であるのだが、圧倒的な出力によりキャメロットの表層が灼かれ、ギルガメッシュの手が火傷のように変色する。

 

 

 

「―――ハッ、腐っても神というわけか。やるではないか――――だが我も出費は惜しまぬ! あらゆる財(人類史)を背負う我がそう易々と落ちると思うな――――!」

 

 

 

 視界を埋め尽くさんばかりの雷はしかし、深紅の断層に阻まれて届かない。ギルガメッシュの体を黄金の輝きが包み、その蔵の財が魔力を、体力を、筋力を、あらゆるステータスをバックアップする。

 

 

 

 

『とんでもない魔力量だ! 一つ一つが極大、アルテミス主砲と同等の威力!?』

『ええい、なんだそれはふざけおって、インフレにもほどがある!』

 

 

 

 計器を見てムニエルが悲鳴を上げ、ゴルドルフ新所長が真っ青になりながら叫んだ。

 

 

 

 

「狼狽えるな、雑種ども! せいぜいが威嚇だ、たわけめ! だが―――チィ! 力押しでは勝ちきれんとはな!」

 

「それ普通に押し負けるって言うんじゃ……」

 

 

 

 微妙に空気を読まずにツッコむドクターに、青筋立てながらギルガメッシュが振り返り、雷霆がキャメロットを掠める。

 

 

 

「たわけ! 医師……魔術師……この際どちらでも良い! この我が押し負けるなど、あり得ぬ! が――――むざむざと付き合う道理もないというだけだ! 王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)!」

 

 

 

「あらゆる避雷針、雷を切った剣、絶縁体の原典を見るがいい!」

 

 

 

 

 どんなに強力だろうと雷は雷。

 人類史最強といえる避雷針の原典を装備したキャメロットは、対雷の宝具に囲まれながら空を往く。

 

 

 

 そして、雷霆が途切れ――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

『哀しきかな、哀しきかな。哀しきは死。哀しきは終わり。けれど我が権能ある限り、死は遠く、オリュンポスに命の華が散ることはなし』

 

 

 

『大陸級破砕機構起動、神核接続、神核励起。』

 

 

 

 

 雷霆に紛れて接近・降下してくるのは、足の生えた球体。

 豊穣神デメテル。全てを耕し、無に帰す女神。

 

 大地の権能により、ほとんどの攻撃を無効化し、問答無用のその叫びで全てを物理的にも精神的にも破壊する。

 

 

 

 

 

「――――来るぞ、藤丸よ! 今こそ人類最後のマスターの意地を見せる時だ!」

 

 

 

 

 

 

『我が叫び……我が嘆き……あああ!汝、星を鋤く豊穣(スクリーム・エレウシス)!!』

 

 

 

 

 大地を割る。

 それは創世にも等しい偉業であり、地母神そのものであるデメテルを打ち砕くには乖離剣であっても即座にとはいかない。その前にキャメロットは崩壊するだろう。

 

 

 故に必殺。

 すでに対処は遅れ、雷霆で目が眩んでいる間に必殺の領域に入られた。

 

 

 

 だが。

 人類史には例外が存在する。

 

 

 

 

 

「――――頼む、アーラシュ!」

 

 

 

 

「陽のいと聖なる主よ。あらゆる叡智、尊厳、力をあたえたもう輝きの主よ。我が心を、我が考えを、我が成しうることをご照覧あれ!」

 

「さあ、月と星を創りしものよ。我が行い、我が最期、我が成しうる “聖なる献身(スプンタ・アールマティ)”を見よ! この渾身の一射を放ちし後に 我が強靭の五体、即座に砕け散るであろう!」

 

 

 

 

 

 

 大地を割る。

 それを、伝説に残した者がいた。

 

 栄光のためではなく、平和のために。

 故にこそ、彼こそが最も偉大な弓兵であると彼に救われた者たちの伝説は語る。

 

 

 

 

「―――――流星一条(ステラ)ァッ!」

 

 

 

 

 

 

 その一矢は流星の如く。

 確かに大地を穿ち、コアを撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第一異聞帯/ 星と導き手

 

 

 

 

 

 

「何だ、眠そうな顔だな。レイシフト酔いってヤツでもなさそうだが」

 

 

 

 ここは、何処だ。どこかで見たような、印象に残らない町の景色。

 目の前には見覚えのある/未だ出会っていない ヤガの男。

 

 

 

「眠いならまだ寝とけ。だが、起きてる理由があるなら寝るな。……聞こえてるか?」

「あ、藤丸様。おはようございます。……? パツシィさん、どうかしたの?」

 

 

 

 また、知っている顔だ。

 大人にはなれなかった少女。

 

 

 

 

「どうしたも何も、コイツがこんな調子だ。変なものでも喰ったのか、変な歌でも聴いたのか(・・・・・・・・・)

 

 

 

 歌。そう、歌だ。

 歌が、キコえ た。

 

 

 

 

「お歌?」

「ああ。お前の故郷に、歌はあったんだったかな」

 

 

 

 

「一体どうされたんでしょう。寝台で休ませてあげるのが……それともお薬?」

「あるいは医者に診せるかだな」

 

 

 

 

 

 ああ、俺は―――――。

 失ったものを、見ている。そして、これから失うものを。

 

 中国で出会った、馬。

 インドで出会った家族を想う少女。

 

 

 

「おにいちゃん、元気なさそう――――」

「どうもこうもありますまい。この御仁、どうやら歌を聴いているようですし」

 

 

 

 

 う タ っ テ な ン の コト?

 

 

 

 

 

―――――覚えがある。

 

 

 

 

 これこそは、機神アフロディーテの精神汚染。

 美と愛を司るが故に、価値を掌握し、幻覚と怒りで同士討ちを引き起こす。

 

 “前”はカリギュラの宝具で精神汚染を中和したのだったか。

 精神汚染で精神汚染をかき消せる理屈は専門家ではないためさっぱりわからないが、既に攻略法は示されている。

 

 

 ならば。ならば――――ん?

 

 

 

 

 

 

 

「マスター? 言ったよね、構ってくれないとカルデアを焼き尽くしたくなるって」

 

 

 

 メリュジーヌ?

 急にチャンネルが切り替わったかのように、カルデアの自室に場面が変わる。やはり夢、あるいは幻覚なのだろう。

 

 

 

 

「――――ねぇ、マスター。早起きしたから少し寒くなってきちゃった。温めて温めて! ちゃんと、奥まで……ね?」

 

 

 

 

 いや、あの。え?

 

 しかし身体は全く言う事を聞かず、今まで体験したことがないにも関わらず妙に艶めかしく絡み合う舌が――――。

 

 

 

 

 

『―――――是こそは魂を分離し、治療する万色悠滞。よもや、此処にきてセラピストとしての本分に立ち返ることになろうとは思いませんでしたが――――』

 

 

 

 

 

 いやあの、キアラさん?

 ちゃんと頼んだ通りに精神汚染を無力化してほしいんですが。

 

 

 

 

 

『……? ええ、もちろん。とはいえ私、このような方法しか知らぬもので……お相手、マシュ様の方がよろしかったでしょうか?』

 

 

 

 そういう問題じゃあないんだよなぁ!?

 あっ、ちょっ、やめ。どこ触って――――。

 

 これ要するに自分の煩悩を見せつけられてるってことでは!?

 

 

 

 

『なるほど、自慰はお好みでないと……では、仕方ありませんね』

 

 

 

 

 言い方ァ!

 くっ、キアラを信じた俺がバカだったのか……。

 

 

 と、熱心に舌を絡ませていたメリュジーヌ(偽)が、不意に冷静な顔になったかと思うと、若干頬を染めつつ目を逸らした。

 

 

 

 

『……その、マスター。つがいと初めて愛を交わすのに、こういうシチュエーションは正直どうかと思うんだけれど』

 

『まあまあ、自慰では嫌だという男性の欲を受けとめるのもまた快楽……優しさというものでありましょうや』

 

 

 

 は? いや、え?

 もしかして、これご本人では?

 

 

 

『はい、これならば自慰ではありませんので……どうぞ、心の赴くまま、獣の如く交わってくださいませ』

 

 

 

 

 なんでご本人呼びつけちゃうかなぁ!?

 というか、言い方ァ! 普通に、普通に起こしてほしいの!

 

 せめてメルトなら蹴り起こしてくれたかもしれないのに。

 

 

 

 

「―――マスター、今、他の女の事を考えたでしょう」

 

 

 

 メリュジーヌの目が、アロンダイト並みに鋭い……。

 

 

 

「へぇ、そう。そうなんだ。私はマスターのことを1日24時間は見ていたいのに、マスターは目移りするんだ。へぇー」

 

 

 

 

 いや、あの。

 

 

 

「確かに、オーロラに比べたら僕なんて大したことはないけど。つがいの機嫌も取れないなんて生物としてどうなの? 死ぬの?」

 

 

 

 

 いや、俺はオーロラよりメリュジーヌが好きです。

 

 

 

 

 

「え。いや、その……本気、なの?」

 

 

 

 

 本気だ。俺はオーロラよりメリュジーヌが良い。

 強くて、カッコよくて、でも寂しがり屋で、意外と繊細だし寒がりだし朝弱いけど、竜として誰よりも速く空を飛ぶ姿はとても綺麗だ。

 

 

 

 

「!? ちょ、ちょっと待って。殺生院、これマスターおかしくなってない!? ちょっと、なんで返事が――――ま、まっ―――――きゃあ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

 

 

 

 

『ヒトよ、噎び泣け』

 

 

『ヒトよ、平伏せよ』

 

 

『お前たちの苦悶の叫びはすべて、この私に届く』

 

 

 

 

 オリュンポスの空から、接近するキャメロットに向けて超広範囲の精神攻撃を放つ機神アフロディーテ。同士討ちさえも厭わず、オリュンポスの住人ごと狂わせるその攻撃に。

 

 

 

 

 

 

 一人の女が受けて立った。

 他の住人が負うはずだった、一切の苦痛を引き受けて立つその女こそは、紛うことなき聖女。ヒトの魂を、精神を癒すセラピスト。

 

 

 

 

『済度の時です、生きとし生ける者全ての苦痛を招きましょう。あぁ……あぁーーアァーーーッ!!!

 

 

 

 

 その時、精神汚染に苦しむオリュンポスの人々は見た。

 救いの女神を――――苦痛を一身に引き受け、謎の輝きを放つ真の救い手を。

 

 

 

 

『――――何? 私の攻撃を、全て引き受けている…!? 馬鹿な、そんなヒトが、生命体が、存在するはずが―――!?』

 

 

 

 

 存在してしまっていた。

 もっというと、それで気持ちよくなるという少し特殊な性癖をお持ちでもあった。

 

 

 

 

『衆生、無辺、誓願度。歓喜、離苦、明地、焔、難勝、現前、遠行、不動、善想、法雲。十万億土の彼方を焦がし、ともに浄土に参りましょうや!』

 

『―――――こ、れが――――ヒトの愛だというの?』

 

 

 

 

 

 あらゆる知性体を取り込み、強制テクノブレイクさせる最低最悪の宝具。

 知性があるのならどんな相手にも通用する、見せたくなかった人類史の最終兵器。

 

 あらゆる苦痛を快楽に変換する真性のド変態の手により、愛の機神は失墜する。敗因は、変質者を見た瞬間に逃げ出さなかったことであった。

 

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

 

 

『オリュンポスの中枢区画と思われるポイント、推定到達時刻まで残り3分!』

『キャメロット、損傷軽微! 論理障壁25%出力低下!』

 

「お、おお! ここまで近づけばあの雷霆も迂闊には放てない! 勝てる、勝てるぞ…!」

 

 

 

 

「――――愚かな」

 

 

 

 不意に響いた声に、モルガンが目を細める。

 その首筋に叩きつけれられかけたのは、光を放つ剣。

 

 双神ディオスクロイ、その妹の奇襲であり――――それを受け止めたのは、人類最速の男アキレウスの槍であった。

 

 

 

 

「――――ハッ、そろそろお出ましだろうと思っていたが。神霊ともあろう者がコソコソ不意打ちとはな!」

 

「自惚れるな、人間如きが。貴様らと正面から戦ってやるほど我らは暇ではない」

 

「貴様たちはここで終わりだ、人間。ゼウス様の同盟者を倒した、その手腕だけは褒めてやろう」

 

 

 

「「賛辞を胸に、無様に死ね」」

「嫌なこった!」

 

 

 

 剣、そして盾。

 双神の全くよどみのない連携と、光の如く思える速さでの攻撃。それを、同じく目にも留まらぬ速さの槍捌きで凌ぎ切る。

 

 その技量、速さ。感嘆すべきはどちらも一流でありながら二対一でも押し切られぬアキレウスの絶技。

 

 

 

 しかし、文字通り手が足りない。

 あるいはもう一人、英霊がいれば――――だが、モルガンはキャメロットの制御に集中しており、下手に手が煩わされれば戦線が崩壊しかねない。

 

 

 もう一人―――と、アキレウスはイアソンと目が合った。

 

 

 

 

(――――おい、一瞬だけでいい! 気を引けイアソン!)

(何言ってやがるこの底抜けの馬鹿野郎! んなことしたら確実に死ぬだろうが!)

 

 

 

 

 そんな二人のやり取りを見るでもなく察知し、ディオスクロイ・カストロは嘲笑する。

 

 

 

 

「無駄なことだ! 知っているぞ、英雄間者イアソン! ヘラクレスがいなければ何も出来ぬ無能――――あっさりと死に体になった木偶の坊如きに頼るのが貴様の限界だ!」

 

「――――あ゛ッ?」

 

 

 

 

 その時、イアソンの脳裏に電流走る。

 前半は同意だ。ヘラクレスがいないならまあ、何もできなくとも仕方がない。そのくらい自分の評価は弁えている。――――が。汎人類史のディオスクロイなら言わないだろうそれ、ヘラクレスを罵倒しやがった、と脳が認識した端から激怒に染まる。

 

 即座にカストロが確実に嫌がりそうな罵倒を考えるでもなく吐き出す。

 

 

 

 

「妹のお情けで神様扱いになったヒモ野郎は口がでかいじゃねぇか! 妹がいないと星座になれなかった無職! ニート! 口が悪いだけのダメ人間が!」

 

 

 

 その言葉は、兄としての威厳を割と気にしていたカストロにけっこう刺さった。ついでに最初は神だったはずが伝説の移り変わりで人間扱いにされた過去のトラウマにも思い切り突き刺さった。

 

 

 

「貴ッ様ァ! その減らず口を悔やみながら死ね、イアソン――――ッ!」

「妹の足を引っ張って死ね、カストロ―――ォ!」

 

 

 

 

 

 アキレウスでさえ目で追いきれない速度で迫る盾、まさかそこまで決死で罵倒すると思わず、流石のアキレウスも間に合わない。せめて確実にポルクスを仕留めようと――――。

 

 

 無機質な鋼の音が響く。

 既に止められぬはずだった盾の一撃を、巌の如き肉体が受け止める。

 

 およそ、尋常な英霊では受け止められぬ一撃。されどその肉体は無双の英霊のもの。

 

 

 

 

 

「――――――」

「貴様――――死にかけで出張ってくるとはな、この小者以下のゴミがそんなに大事か?」

 

 

「ヘ、ヘラクレス……お前」

 

 

 

 イアソンが何かに気づき、目を見開く。

 ヘラクレスは静かにその岩のような剣を構え――――その闘気を感じ取ったのか、ディオスクロイ・カストロは距離を取って構える。

 

 

 

「兄様、ここは――――」

「ふん、いいだろう」

 

 

 

 

「ならば讃えよ!我らの星を!」

 

「畏れよ」

「崇めよ」

 

「天にて輝く者、導きの星!」

「我らはここに降り立たん!」

 

「「<双神賛歌(ディオスクレス・テュンダリダイ)>!!」」

 

 

 

 

 宝具の真名解放。

 その速さ、コンビネーションを最大限に活かした連続攻撃。

 だが、受けて立つヘラクレスにも、その背後のイアソンにも恐怖はなく。ただ、イアソンが不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

「――――やっちまえ、ヘラクレス!」

 

 

 

 

 

 流れるように構えられた剣に、違和感を覚える。

 力みも、狂気もなく、ただその眼には、必ず守ると決めた意志があった。

 

 そこに立つのは、最早狂戦士(バーサーカー)ではない。

 治療ついでに余分な狂気を取り払われた、アキレウスと双璧を成す汎人類史の、ギリシャ神話における最強の戦士。

 

 

 

 

 

 

「ならば――――我が剣を受けてみよ。射殺す百頭(ナインライブズ)

 

 

 

 

 

 一撃、盾が歪み姿勢が崩れる。

 二撃、腕をカチ上げ、胴体ががら空きになる。

 三撃、カストロの胴体に斧剣が叩き込まれる

 四撃、更に押し込み、兄妹ひとまとめに吹き飛ばす

 五撃、ポルクスの腕を剣ごと吹き飛ばす

 六撃、首を撥ね

 七、八、九撃を不死の逸話のあるポルクスに全て叩き込む

 

 

 

 

 

 瞬時に霊核を破壊され、驚愕の表情を張り付けたままディオスクロイは黄金の粒子となって消滅する。

 

 

 

 

 

「――――貴様らごときが、ヘラクレスに敵うと思うな」

 

 

 

 

 

 

 




現在の英霊(オリュンポス)
カルデア召喚英霊
Ⅰ:ギルガメッシュ(アーチャー) 
Ⅱ:アーラシュ(アーチャー) デメテル撃破 / 宝具使用により消滅
Ⅲ:モルガン(バーサーカー) 
Ⅳ:殺生院キアラ(アルターエゴ) アフロディーテ撃破
Ⅴ:???
Ⅵ:■■■■■■■■(■■■■■■)

EX:マシュ(非オルテナウス)
  ロマニ/ソロモン王(十の指輪装備)

令呪:残り一画

無いもの:ブラックバレル、オルテナウス、ストームボーダー(キャプテン)
あるもの:聖杯(たくさん)、霊基グラフ(2周目)



現地サーヴァント
ヘラクレス(狂化解除/ 十二の試練ストック無し)
アキレウス
イアソン
メディア(リリィ)
他多数




オリュンポス側

ゼウス
神妃エウロペ

デメテル(アーラシュにより撃破)
アフロディーテ(キアラにより撃破)
ポセイドン(メリュジーヌにより撃破)
アルテミス(メリュジーヌにより撃破)

ディオスクロイ(ヘラクレスにより撃破)
カイニス(モルガンにより撃破?)



所在不明

蘆屋道満
コヤンスカヤ
村正
言峰神父




次:ゼウスを倒す方法が思いついたら

いやまあ、究極的にはキアラでいいんですけど……。


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第一異聞帯 / 神を撃ち落とす日

 

 

 

 

 

「――――何故だ」

 

 

 

 オリュンピア=ドドーナに座す天空神、ゼウス。

 かつて白き滅びとも恐れられた外なる脅威にすら打ち勝ち、機神たちを掌握した全能神。だが彼は、同盟者たるキリシュタリアとの対話のために作ったアバターを困惑に追い込まれていた。

 

 

 

 同盟者たるキリシュタリアの敗北―――それはまだ良い。彼はカルデアのマスターと自身が対等だと言っていた。あの凶悪すぎる初見殺しをなんとかできるのであれば、確かに勝機もあるのだろう。

 

 だが、それが月女神、海神、大地母神、美神と立て続けに起こるのはどう考えてもおかしい。そんなことができるはずがない。

 

 

 

 

 例えば月女神と海神を倒したあの竜、アレは災害のようなものだ。

 白き滅びと違って土着のものであり、性質上他の物を食い尽くす白き滅びほど傍迷惑な存在ではないというだけである。

 

 恐らくはこの惑星にて最古と言ってもいい神秘を携えた竜。

 アレを倒せるとすれば美神がもっとも可能性が高かったのだが、それを見越したかのように姿を消した。月女神の精神狙撃も、何かしらの力で近くにいた別のサーヴァントに吸い込まれた。

 

 

 

 

 

 だが、それでゼウスも危険は察知した。

 同盟者、月女神、海神、遅すぎたという考えはなかった。だが、適切に脅威を評価しなくてはならないと考えた。

 

 

 もはや偶然ではなく、明確な、これまでで最大の脅威であると。

 だからこそゼウスの雷霆、大地母神の耕し、美神の支配と三段構えの攻略をした。

 

 それこそセファールのような、倒したものを力にするような反則がなければどうにもならないはずだったのだ。

 

 

 

 

 ゼウスでさえも及ばぬ、惑星生誕の如き地獄の具現―――それを操る黄金の王(ギルガメッシュ)

 神の権能そのものと言っていい大地母神を穿つ、星の如き一矢(アーラシュ)

 原始的な知性体が抗えるはずもない、美神すら飲み込んだ理解不能(殺生院キアラ)

 

 

 

 

 神だ。

 此処にいるのは、神代を超えてなお支配する現存する神。

 

 それが、一対一で後れを取る? こちらの技術、ナノマシンを奪われたわけでもなく?

 

 

 さながら一匹のアリが、一体のヒトを打倒していくような。

 何が起こっているのか頭脳体が理解を拒むような状況。

 

 

 

 

 真体は、既に顕現した。

 神妃は既に避難させた。

 

 背後には異聞帯の要とされる空想樹。もはや退路などなく、全能神が退くこともない。

 だが、かつて感じたことのない異様な空気を感じ取っていた。

 

 

 

 

『彼らは、容易く人理修復を成した。その偉業、取りこぼさなかったもの。私では考えに至らなかった、尊い勝利を彼らは掴んだ』

 

『私であっても、人理修復そのものは可能だっただろう。だが、全能神ゼウスよ。もし仮に、何も失うことなく白き滅びを倒すような者がいるとしたら――――彼ら、カルデアのような者たちだろう』

 

 

 

 

 オリュンピア=ドドーナが震える。

 美しい装飾の外壁をぶち破り、純白の城塞が物理的に突入してくる。

 

 

 

 

『何故だ――――何故、抗う。何故、諦めない。何故――――』

 

 

 

 

 何故、我らが敗北しようとしているなどと。

 そんな、起こるはずのないことを思わせる!?

 

 負けるはずがない。

 何年、人類種を庇護してきたと思っている。

 幾年、宇宙を放浪してきたと思っている。

 

 どれほどの隔たりが、どれほどの力の差があると思っている。

 

 

 

 人類種の中にも、強きものはいる。

 だが、それでもオデュッセウス程度のもの。有能だが、決して神に敵うようなものではない。

 

 

 

 

『何故だ―――――カルデアよ!』

 

 

 

「貴様らしからぬ愚問よな。朽ちた天空神よ――――神の庇護を離れ、人間は歩き出した。脆弱な生き物が、分不相応な欲望を抱いたその結果。たどり着いた境地というのは手ごわいぞ?」

 

 

 

 何せ、我もよく手古摺らされると実感たっぷりに呟く黄金の王は、その腕に天の鎖を巻き付けただけの簡素な姿(下はちゃんと履いている)――――ゲーティアを打倒した神話礼装を纏い、既にアイドリング状態の乖離剣を携え。

 

 

 

「英雄として生き、英雄として死ぬ。それが俺の望みだが――――悪くない。話の通じるマスターに、肩を並べるに足る英雄。それでもなお敵わぬかもしれない相手。そして何より、退屈極まりない世界なんぞ願い下げだってな!」

 

 

 

 槍、盾、戦車。

 全ての宝具を出し、全力で戦う構えを見せるのは誰もが認める人類最速の男。全能神への恐怖など無く、ただ己が全身全霊を賭して戦うに足る相手への戦意に燃える。

 

 

 

 

「最早言葉は不要であろう。互いが守護するべきもののために、退路はない。我が友の期待に、応えさせてもらおう――――」

 

 

 

 

 武具はない。

 ただ、岩を削りだしたような無骨な大剣のみを手にした姿。されどその肉体を覆うのは、あらゆる英霊の頂点、その一角であると信じさせる覇気であり。極限の一、人類史が誇る大英雄が、静かに剣を構えた。

 

 

 

 

 

『平伏せよ』

 

「「「―――――断る!」」」

 

 

 

 

 

 雷撃を放つ、巨大な顔面。遥かソラへと届かんばかりの神鋼の巨大構造体。

 それこそがゼウスの真体。

 

 神器クロノス=クラウンを制することで十二神の全権能を所有する無敵の要塞。

 それが、視界を焼き尽くさんばかりの雷霆を放つ。言うなれば空間爆撃。逃げ場はなく、防ぐ手段もなく、突破も敵わない。

 

 

 

 

 

 その雷霆こそは神の怒りと恐れられたもの。

 アキレウスの盾であっても長くは耐えられず。ヘラクレスであっても弓も武具もなく裸一貫の状態では防ぎきれず、ギルガメッシュであっても所有者ではない宝具では限界がある。

 

 

 

「真名、開帳───私は災厄の席に立つ……」

「対終末、対粛正防御、開始」 

 

 

 

 故に、前に立ったのは人理の守護者たるカルデア。それを守護する盾であり。ブリテンの守護者であった。

 

 

 

 

「其は全ての疵、全ての怨恨を癒す我らが故郷――顕現せよ、<いまは遙か理想の城(ロード・キャメロット)!」

 

「異邦の国、時の終わり。なれど剣は彼の手に――城壁は固く、勝鬨は万里を駆ける。冷厳なる勝利を刻め! 真円集う約束の星(ラウンド・オブ・アヴァロン)>!

 

 

 

 

 あらゆる敵意・害意を許さない白亜の城。

 性質上、盾の担い手以外であれば人類史全ての熱量であったとしても守護しきるその城壁を、対粛清宝具が重ねて守護する。

 

 

 

 

 宇宙を灼くその雷霆にも白亜の城壁は小動もせず。

 女王に守護された盾の担い手もまた、揺るぎない眼で防ぐべきものを見つめる。

 

 

 

『大主神戦闘、予定時間超過――――敵知性体の防御力を再評価――――最終裁定機能ケラウノス、発動準備』

 

 

 

 故に、ゼウスは躊躇を切り捨てる。 

 守護すべき民を巻き込むまいと制限していたものを解き放つ。

 

 

 

『対惑星―――対星系――――対時空――――対概念破砕機構、限定解除』

 

 

 

「天の鎖よ――――!」

 

 

 無論、黙って見過ごすほど甘くはない。

 天の鎖が巻き付いた部位のゼウスの活動を阻害し、

 

 

 

「クサントス、バリオス、ペーダソス、行くぞ!命懸けで突っ走れ! 我が命は流星の如く!疾風怒濤の不死戦車(トロイアス・トラゴーイディア)!!」

 

『命懸けどころか、決死隊じゃないですかねぇ!?』

 

 

 

 不死の戦車に乗った大英雄が、盾を構えてゼウスの幾層にも張り巡らされた概念防御に傷を付け、

 

 

 

 

「む――――」

「まだだ、焦るなよヘラクレス! 俺たちの出番は今じゃあない! せめてヘラクレスにふさわしい弓があれば別だが――――おい、そこのゴージャスなヤツ! 何か持ってないのかよ!?」

 

 

 

 と、目の前がピンチすぎて危機管理を忘れたのか、近くにいて宝具を乱射している英雄王にたかりにいくイアソン。

 

 

 

「――――ええい、喧しいぞたわけ! 確かにゴージャスではあるが、この我を誰と心得る。人類全ての財は我の物―――当然、そこな筋肉ダルマに相応しい弓程度持っているが――――誰が貸すか!」

 

「ハァーッ!? 金持ちの癖にケチとか、救いようがねぇな!」

 

 

 

「痴れ者が――――そら、受け取るがいい」

 

 

 

 

 スッ、と黄金の波紋から出てきたのは槍。

 それはけっこうな速度で射出され、音もなくイアソンの腹を串刺しに――――する直前で、ヘラクレスがキャッチした。

 

 

 

 

「ぎゃああ!? 死ぬ、ヘラクレスがいなかったら致命傷じゃねぇか!?」

「チッ、大人しく死んでおれば良いものを」

 

 

 

 舌打ちする英雄王だが、視線は向けず殺意もない。

 

 

 

「ふむ――――慈悲に感謝する、英雄王」

「ハッ、命知らずの道化への対価に過ぎん」

 

 

「えっ、何。なんでいい話っぽくしてやがる!? ちょっ、俺死にかけたんだが!?」

 

 

 

 本気で殺す気だったらヘラクレスが受け止められない本数を射出するが、わざわざ持ちやすい角度で射出したことでヘラクレスは意図を察していた。

 

 

 

 

「では、返礼に我が武技をお見せしよう――――<射殺す百頭(ナインライブズ)>!」

 

 

 

 幻想種であるヒュドラを仕留めた逸話から昇華された、万能攻撃宝具。

 対幻想種、ドラゴン型ホーミングレーザーが九本放たれるとゼウスの雷霆を一部突き破ってその概念装甲まで届く。が、それだけ。

 

 

 

 

 

「ぬ――――火力不足か」

「くそっ、安物貸し出しやがって――――ぎゃああ、死ぬぅ!?」

 

 

 

 一応、借り物なので壊さないように振るったところ普通に火力不足であり。

 イアソンの周囲に<不壊>の概念つきの宝具がいくつか突き立てられる。が、機嫌を損ねたのかランク的にはほどほどである。

 

 

 

「貴様のその舌、何故ついている――――?」

 

「英雄王の、カッコイイ宝具がみたいなー!? 俺たちの想像もできないような、すっごい弓とかあるんだろうなー!?」

 

 

 

 慌ててフォローに入った藤丸の声に、ピクリと英雄王の耳が動く。

 と、それを見てなんやかんや危機管理意識が戻ってきたイアソンがすかさず乗った。

 

 

 

「ヘラクレスに相応しい弓なんて出せるのは英雄王くらいだろうなぁー!」

「確かに、他の英霊には望むべくもない」

 

 

 

 

「――――――良いだろう。だが、相応しい働きをせねば貴様の首をもらうぞ?」

 

 

 

 ヘラクレスにもヨイショされ(本人はいたって真面目)、機嫌が戻ったギルガメッシュは、黄金の波紋から巨大な大弓を取り出す。ヘラクレスが使った弓―――その原典とも言えるそれに、ヘラクレスが不敵な笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

「では、ご覧いただこう――――――射殺す百頭(ナインライブズ)!」

 

 

 

 

 空を割り、雷を裂いて九の矢が飛翔する。

 その第一矢が、進路上の雷を引き受け――――全ての矢が、先ほどアキレウスが傷を付けた概念防御の上、全く同じ位置に突き立つ。

 

 あまりにも局所的かつ高い負荷により、ゼウスの概念防御が破られ――――矢が真体に傷を付ける。

 

 

 ゼウスの巨体からすれば小さな傷。

 だが、明らかに雷霆の出力が低下する。

 

 

 

 

『出力低下――――まさか、これは』

 

「よもや、ヒュドラの毒矢すらあるとは……恐れ入った」

「当然だ、この我を誰と心得る」

 

 

 

 

 ケイローンがその苦しみから不死を返上し、ヘラクレスすらも死に至らしめた絶死の猛毒。もはや概念的な毒の最上位と言っても過言ではないそれは、機械の神であるゼウスさえも蝕む。

 

 即座に汚染された部位を切り離そうとするが、その瞬間突っ込んできたアキレウスの戦車が傷口を広げ。ピンポイントに再度放たれた毒矢が突き刺さる。

 

 

 

 

『ぐ、おおおおお―――――!? 莫迦な』

 

 

 

『だが、まだだ。毒が回りきるよりも、我が雷霆、最終裁定ケラウノスが貴様たちを焼き払う方がはるかに早い』

 

 

 

 

 既に毒を諦め、防御を諦め、殲滅を優先したゼウスを前にヘラクレスとアキレウスであっても殺しつくすことは難しい。

 本来であれば、ブラックバレルを用いて即座に戦闘を終了させなくてはならない局面。

 

 

 

 

 

 

 この局面のために呼び出された、人類史の英霊たちが立つ。

 

 

 

 

 

「――――故にこそ、刮目せよ! 神の雷霆は此処にある――――『人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)』!!」

 

 

 

 

 其れは、神を撃ち落とした理。

 人が自然を、神を解き明かし、技術へ―――人の手が及ぶものとした宝具。

 

 決して、ゼウスを倒せるような威力ではない。

 だが絶対神から過去のものへとその神秘を貶める。

 

 

 

 

「行くぜ、大将! ゴォォルデン! ―――ヒュージ・ベアー号!」

 

「――――告げる。 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に 聖杯の寄る辺に従い、人理の轍より応えよ 汝、星見の言霊を纏う七天 降し、降し、裁きたまえ、天秤の守り手よ―――!」

 

 

 

 

 

 

 ライダー霊基の金時によって召喚されるのは、巨大な甲冑。明らかに平安という時代にそぐわないその物体の由来、海の果てから流れ着いた何か。それと、先ほど破壊されたばかりの月女神の破片を触媒とし――――。

 

 

 

 その技術を流用して造られた、同じく甲冑。

 触媒が触媒なため、普段よりも巨大なロボとして顕現したのは、

 

 

 

 

「サーヴァント・アーチャー。対軍戦闘もののふユニット……。真名を……源為朝。戦闘待機中。指示を。」

 

「令呪を以て命ずる――――最大威力にて宝具の解放を!」

 

 

 

 

 

 

 

「承知――――標的『星間戦闘用船』確認、出力最大。鏡月収斂。形態変化。月読式リボルビングキャノン、<轟沈・弓張月>。カウント、令呪にて大幅に省略。開始」

 

 

 

「3」

 

 

 

 その矢は、船を沈めるという逸話の具現。

 

 

 

「2」

 

 

 

 カルデアすらも崩壊せしめるその一矢、

 

 

 

「1」

 

 

 

 宇宙を渡る船たるゼウスに、その技術を源流としつつ、弓というただ一点にて凌駕するそれを、とある国の妄執と技術の積み重ねが生んだ怪物が放つ。

 

 

 

 

「発射」

 

 

 

 

 

 

 ヘラクレスとアキレウスの手により、既に満足な概念防御はない。

 ニコラ・テスラの雷電により、雷霆は貶められた。

 

 もはや、ゼウスに防ぐ手立てはなく。

 船を貫く概念が、再び宇宙を彷徨う船になろうとしていたゼウスを貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、虚空の“瞳”は開かれる―――。

 

 

 

 

 

 




以下、あとがき










皆様の感想とかアイデアのお陰でなんとか失踪せずに済みました。感謝を。
これが三人寄ればモンジュー…。


設定上、摂津式大具足の由来が機神の真体という疑惑があり。
その技術を流用して為朝ができた、かもしれないらしいので採用しました。採用です!(某サトイモ感)

真体由来、対船の宝具……あれ、これ対艦砲では? 採用です!(ry






カオス戦はもう決めてるので、早めに出します


が。仕事の都合上、感染状況に左右されるかもしれません。すみませんがご理解いただきたく…。


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第一異聞帯 / 虚空

 

 

 

 

 

 

『――――大主神、沈黙。神核、崩壊。神器クロノス=クラウン緊急停止』

 

『――――警告。最終的裁定機能(ケラウノス)に対して、総旗艦よりアクセス。時空断層の発生予兆を確認。時空震速報、緊急発令』

 

 

 

 

 それは、ヒビだった。

 空間が捩れ、撓み。悲鳴のような音とともに引き裂かれる。

 

 数多の英霊、獣と戦ってきた今となっても見ることはほぼ無いその冒涜的なまでの光景。

 

 

 虚空に輝く恒星。“瞳”のようなそれが、刹那。瞬いた。

 ティアマトに狙撃されたときのような悪寒が、死を告げ――――。

 

 

 

 

 

「――――ッ!? 蒼天囲みし小世界(アキレウス・コスモス)!」

「其は全ての疵、全ての怨恨を癒す我らが故郷――」

 

 

 

 

 瞬間、光が迸った。

 反応できたのは人類最速の男のみ。

 

 世界そのものと言える結界宝具が無残に融解し、凄絶な笑みを浮かべた担い手と共に消し飛ぶ。

 人類史屈指の大英雄が身を挺して庇い――――わずかに稼げた一瞬。その一瞬、値千金の時間を用いてマシュが盾を構えなおす。

 

 

 

「――――顕現せよ、『いまは遙か理想の城(ロード・キャメロット)』!」

 

 

 

 

「太陽の一撃とは――――小癪な! 藤丸よ、アレは太陽神の大権能――――我のエアでも地球上では受けきれぬと思え!」

 

 

 

 言いながら、無数の鏡の宝具を展開して謎の光線を反射するギルガメッシュ。

 それに併せてか、攻撃が“変わる”。

 

 太陽を思わせる熱線から、黒い光へ。

 それに触れた鏡が瞬く間に“分解”され、消える。

 

 

 

 

「冥府の神―――よもやそこまで――――」

『――――成程、どうやら機神の長のご登場のようだ』

 

 

 

『ぬぉぅ!? 貴様、確か――――シャーロック・ホームズ!?』

『どうも、ミスタ・ゴルドルフ。時間がないので駆け足で説明させて頂くが、機神全ての権能を扱う存在と言えば――――ギリシャの神の大本、カオスで間違いないでしょう』

 

 

 

『カオス……この場合、混沌……ではなく、虚空…か?』

『ご明察。その名の通り、虚空―――無の中を漂っていたようですな。おそらくは、ゼウスの発した旗艦の権限――――ケラウノスに反応し、逆探知した』

 

 

 

 

「何か―――何か弱点はないのですか!? ……くっ、英霊ギャラハッドの護りが――――!?」

 

「異邦の国、時の終わり。なれど剣は彼の手に―――」

 

 

 

 

 英雄王の宝物たる鏡すらも分解した攻撃が、展開された白亜の城壁―――守護の概念すらも分解する。一瞬で分解されないだけでも十分すぎるほどの偉業ではあるのだが、ゼウスの雷霆も、ゲーティアの人理砲すらも耐え抜いた守護が、今まさに破られようとしていた。

 

 

 

 

『弱点は――――無い。その分解の力に限るのであれば、冥府に連なる護りであれば耐えられるだろうが――――何分、一つの神話体系そのものを敵にするようなものだ。それこそこちらも同規模でなければジリ貧でしょう』

 

 

 

「成程、冥府の――――では、私が承ろう」

「――――――城壁は固く、勝鬨は万里を駆ける」

 

 

 

 英雄王の大弓を丁寧に置き、前に出るのは無双の大英雄。

 岩そのもののような無骨すぎる大剣を手に、城壁の前に出るその姿は、空の虚空と比べれば大きさだけで見れば頼りないという他には無く――――。

 

 

 

 だが、マシュも。ホームズも。ゴルドルフも。英雄王でさえも。その姿を頼りないと思うものはいない。

 

 

 

 

「――――かつて、死の神と戦った逸話を持つこの身であれば。僅かばかりの時を稼げるであろう。ではな、後は任せる」

 

「――――冷厳なる勝利を刻め! 真円集う約束の星(ラウンド・オブ・アヴァロン)>!

 

 

 

 穏やかな声であった。

 今一度の死を目前にして、猛々しい闘志を燃やしながらも、己の死に意味を見出した者の声。

 

 

 

 消えていく白亜の城壁、その上に重ね掛けされた対粛正防御。それすらも分解されていく中、最後の力を振り絞る。

 

 

 

 

 

「――――<射殺す百頭(ナインライブズ)>!」

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 絶え間なく斬撃の嵐を放つ、ヒト型の暴威。

 死の神に打ち勝った逸話のみ、ただそれだけで“分解”に拮抗するその姿に、カオスは機械的に攻撃手段を変更する。

 

 すなわち、殲滅攻撃たるゼウスの雷霆へ。

 

 

 

 

「■■■■■■――――ッ!」

 

 

 

 

 あらゆる防御を無意味とする、その雷霆。

 ヘラクレスさえも無残に飲まれんとする中に、金髪の男が立った。

 

 震えながらヘラクレスの横―――ほぼ後ろに立ったその男の隣には、いつの間にか仲間がいた。

 

 

 

 

 傷を癒す蒼髪の魔女、獣耳の射手、航海の神たる双子――――かつてアルゴノーツとして立った英雄、英傑たち。ほぼ存在しない勇気を振り絞ったイアソンの尻をぶっ叩くように、50を超える一流の英霊が集う。

 

 

 

 

「日に二度も、お前をむざむざ死なせるものかよ―――――<天上引き裂きし煌々の船(アストラプスィテ・アルゴー)>! 我らアルゴノーツ、出陣の時だ――――!」

 

 

 

 

『緊急警報。カオス神、顕現――――資源の強制回収が開始されます。惑星表層資源の原初返還が実行されます。惑星上の知的生命体は 至急 避難してください』

 

 

 

「―――――虚空の神よ、今人智の敗北を宣言する」

 

 

「ドクター―――ッ!」

「今、魔術王の名において命ずる――――大令呪、分離!」

 

 

 

 

 

 雷霆が、アルゴーに集った英霊たちを焼き尽くす。

 主神の大雷霆に抗うだけでも十分すぎるほどの偉業。それを永遠にも思える/わずかな時間 引き延ばしたのは、イアソンの指揮であり。

 

 

 

「――――眼は古く、手足は脆く、知識は淀んだ」

 

 

 

 

 その指揮に、最後まで応え続けた大英雄がいた。

 手足は炭化し、既に声もなく。それでも背後に指揮官を、友を庇い続け。

 

 

 

 

 

「――――最後の人間として、数多の決断、幾多の挫折、全ての繁栄をここに無と断じよう」

 

「今一度、君たちに、完全無欠の勝利を――――!」

 

 

 

 

 

「この一撃をもって、神は撃ち落とされる。変革の鐘を鳴らせ!<冠位指定(グランドオーダー)/人理保障天球(アニマアニ厶スフィア)>!!」

 

「大令呪を以て――――命ずる!」

 

 

 

 

 

 天に描かれる、星の魔術回路。

 杖を掲げ、神霊カイニスを従え――――キリシュタリア・ヴォーダイムが立つ。

 

 魔術王ソロモンと並び、カルデア最後のマスターたる藤丸立香が、キリシュタリアに与えられ、既にソロモンの支配下に置かれた大令呪を掲げる。

 

 

 

 

 

 

「―――――宝具、解放!」

 

 

 

 

 

 無数の隕石が、これまで一方的に攻撃を放っていたカオスの裂け目に叩き込まれる。

 

 狂ったように放たれていた雷霆が止み、現れるのはポセイドンの防御。カオスの恒星そのものというべき魔力量によって真の絶対防御となったそれは、キリシュタリアの惑星轟すらも防いでみせた。

 

 

 仮に、ゲーティアの人類の歴史、総魔力量を以て放つ攻撃であっても、カオスを撃破することはできない。

 

 

 だが、守備にリソースを割いたその分だけ攻撃を疎かにした。

 

 

 

 

 

―――――大令呪による規格外の魔力を受けて、蒼い輝きと共に飛翔する。

 

 

 

 

 

『――――惑星に対する違法搾取の反応、確認。現行犯だ、貴様に弁護士を呼ぶ権利はない――――!ツインミニアド、全セーフティー解除―――――控え目に言って本気を出します』

 

 

 

 

 

『――――蒼輝銀河即ちコスモス。エーテル宇宙然るに秩序』

 

 

 

 

 

 それは、宇宙を守る秩序。

 宇宙の最先端にして最果て。『境界』から与えられる『無』を食い破る力。

 

 宇宙の上位存在すらも追い返す、バランサー。

 

 

 宇宙の階たるそのロンゴミニアドLRが解放され、地球上のロンゴミニアドがそうであるように、周囲を最果て――――事象の地平線へと改変する。

 

 

 

 

 

『ツイン、ミニアド―――――ディザスターッ!』

 

 

 

 

 蒼きビッグ・バンの輝きが、虚空を食い破り。

 その向こう側で、カオスが真っ二つに両断される――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

『違法フォーリナー反応、確認―――――最果ての光よ、私にボーナスを! セイバー死すべし、ダブル、エクス――――ダイナミーック!』

 

 

 

 ついでとばかりに真っ二つにされたアトラスの世界樹 / 空想樹。

 それを穏やかな顔で眺めていたキリシュタリアの背後に、緑色の美しき肉食獣。常日頃の小ばかにした態度をかなぐり捨て、怨嗟とともに言った。

 

 

 

「――――馬鹿な。貴様、何をしているのか本当に分かっているのか?」

「ふむ。もちろん、そのつもりだが――――契約違反は、君も同じではないかな?」

 

 

 

 

 空想樹を育てきり、異星の神が降誕できる環境を用意する。

 それが異星の使徒とキリシュタリアに与えられた役目である。

 

 無残に消えていく空想樹とともに、リンボが胸を押さえて苦し気に呻く。

 

 

 

 

「ンンンン、それは無論。貴方と同じで“この私”はこれにて終わりでしょうが――――カルデアの皆様に、借りは必ず返させていただきますので」

「興が乗っちゃったぞ、これは脱いでしまおう」

 

 

 

 

 

 すっ、とマントと上着をまとめて脱ぎ捨て上半身をあらわにするキリシュタリア。

 “特に何ともない”その姿に、リンボだけが驚愕に目を見開く。

 

 

 

 

「―――――貴様、神との契約を――――!?」

「いやなに、カルデアのドクターは優秀でね。頼りになる後輩と、そのサーヴァントもいた」

 

 

 

「契約はなかなか手ごわかったけど、大令呪と一緒にしたのは雑な仕事だったね」

『魔術王と一緒に契約解除(ルールブレイカー)させられるとは思わなかったけれど――――良い経験になったわ』

 

 

『生憎と、今回は素材(ゴルゴーン)だけでなく協力者(アルテミス)も万全だ。良い治験になった』

 

 

 

 ついでに、死者を蘇らせるという規格外の宝具と――――その条件となるものさえも、カルデアには揃っていた。

 

 

 

 

「これほどまでに体調が良いのは久方ぶりでね――――ふむ、どうかなカイニス。ここは我々の力を後輩に見せておくというのは」

 

「テメェ……俺に全人類を神にするとかほざいておきながら、アッサリ負けて前言撤回したのを忘れてんじゃねぇだろうな…?」

 

 

 

 

 

 

「………あっ」

「あ、じゃねーよ!? まあ、確かにテメェの命の分だけ奴らに借りがあるのは理解した。だが、俺が従う理由なんぞ無いね!」

 

 

 

「いや、だがね。リンボだよ?」

「………」

 

 

 

 ちらり、とカイニスがリンボに目をやる。

 先ほどまでの凶相を引っ込め、微妙に哀れっぽい顔をしたリンボ。

 

 

 

 

「ンンンン、某、異星の神に従わされていただけの者。悪い陰陽師ではありませぬぞ……?」

 

 

「死ねやオラァ!」

 

 

 

 

 カイニスの槍が見事にリンボを貫いた。

 妙にムカついた、とのことだが珍しく多くの意見が一致した。

 

 

 

 

「ぐほぉ!? ………ク、ククク……ですが、これで済むと思わぬことですな……すぐに第二第三の―――「とっとと、くたばれ!」――――ガフッ」

 

 

 

 

 

 リンボが十字に両断されてようやく金色の粒子になって消え。

 カイニスは怒りの籠った目で上裸のキリシュタリアを見据えた。

 

 

 

 

「さて。生っちょろい答えを出したら次はテメェだ、キリシュタリア」

「それは困る。せっかく目的を見つけたんだ、死ぬわけにはいかないし――――やはり、私のサーヴァントは君しかいないからね」

 

 

 

「テメェが、人理側ならどんなサーヴァントでも喜んで来るだろうが!」

「そう言われても困るんだが…。どうせなら君のように義理堅いサーヴァントの方が―――」

 

 

 

「それならなおのこと、義理も欠片もねぇテメェには似合わねぇだろうよ!」

 

 

 

 

 ついに槍を突きつけ一触即発の構えだが――――英雄王などは既に酒を取り出して観戦の構えである。

 

 

 

「フハハハ、良いぞ雑種。道化としてはなかなかの物だぞ。その調子で我を興じさせよ!」

 

「ッ! ついでに、あんなのと共闘させられるのなんぞ俺は御免だね!」

 

 

 

 

 困った顔を隠そうともしないキリシュタリアに、地団駄踏みそうなカイニス。

 どう纏めるのか、キリシュタリアに視線が集中し。

 

 

 

 

「あっ、ちょっと待ってほしい。私は露出狂の人ではないんだ」

「テメェマジでぶった切るぞ!?」

 

 

 

 いそいそと上着を着なおすキリシュタリアは、一拍置いてから何事もなかったかのように言った。

 

 

 

 

「カイニス、君にだけは語ったが――――私は、人類は正しい答えを一度も選べなかったと思っている」

 

 

 

 だから、人を神と同じ位階にしようとした。

 仮にそれで余裕ができても、他人を救えるようになっても、争いは止まないかもしれない。けれど、前に進むにはそれしかないと思った。

 

 人のままでは駄目だと、人智の敗北を宣言した。

 人が神にならなければ、先へは進めないのだと。

 

 

 

 

 

「だからね、衝撃だったんだ。ドクターを、マシュを、私でもどうにもできないだろう困難を乗り越えた―――藤丸君を見た時は」

 

 

 

 

「私の後を継げる者はデイビッドしかいないと思った。だが、私の理想を超えるかもしれないと、こんなにも強く思わせてくれたのは、彼が初めてだとも」

 

 

 

「これが偶然か、あるいは必然……運命なのかは分からない。だが、この時、この場所に彼がいることには意味がある。神を、撃ち落とすのでもなく。超えていくかもしれない男がいることにはね」

 

 

 

 

 

 既に空想樹はなく、最早本来の条件を達成するのは不可能。

 ならその旅路の果てを見たいし、

 

 

 

 

「せっかくなら、私も仲間たちと共に世界を救う体験をしてみたくてね!」

「テメェの趣味じゃねぇか!?」

 

 

 

「む、趣味を卑下するのは良くない。結局のところ目的とモチベーションが組織成功の秘訣だからね。カイニス、君がどうしても世界を救うのが気に食わないのであれば諦めるが……」

 

「……チッ、相も変わらずよく舌の回る――――俺もムカつく奴らをぶっ飛ばせるのは嫌いじゃねぇ。――――だがな! よくわからねぇ奴らに上から目線で命令されるのなんて御免だね!」

 

 

 

 

 

 カイニスが槍をカルデアのマスターに向け。

 それに応えるように、藤丸が呼びだすのは一騎のサーヴァント。

 

 

 

 

「――――瞬きの間に終わらせる。私に任せて」

「行くぞ、ランサー!」

 

 

 

 蒼い甲冑に、両腕に剣の鞘を装備したランサー?はバイザーを下げて胸元にマウントすると、振り返って言った。

 

 

 

 

「マスター? その、クラス名で呼ぶ必要ある?」

「……駄目かな?」

 

 

 

 できればその方が雰囲気が出るというか、なんというか。

 どっちもランサー対決なので非常に紛らわしいのではあるが。

 

 

 

「駄目。強いものには従って。つまり、私に従って下さい」

「――――行くぞ、メリュジーヌ!」

 

 

 

 瞬間、カイニスが不意打ちでメリュジーヌに槍を突き出す。

 完全に意識外からの攻撃――――そのはずが、あっけなく鞘で受け止めたメリュジーヌは、魔力を解き放つ。

 

 

 

「むっ、気を付けろランサー、宝具が来るぞ!」

「テメェ、ふざけて――――うぉっ!?」

 

 

 

 

「切開剣技、開始。清廉たる湖面、月光を返す! <今は知らず、無垢なる湖光(イノセンス・アロンダイト)>!」

 

 

 

 超速の突進(チャージ)がカイニスに突き刺さり――――しかし、そこで止まる。カイニスが持つ無敵の加護が剣を阻み、不敵な笑みとともに反撃を―――。

 

 

 

(ハッ、間抜け! 俺にはあのクソ神の加護があんだよ!)

 

 

 

 

 カイニスが持つ無敵の肉体。

 海神ポセイドンに連なるものでなければ突破できないその宝具がある以上、カイニスに負けはなく。

 

 

 

 

「――――バンカーッ!」

「何――――!?」

 

 

 

 瞬間、魔力が炸裂する。

 さながらパイルバンカーのように至近距離で炸裂した宝具の魔力に、無敵のカイニスもたまらず吹き飛ばされる。

 

 

 

 

「ハッ、どうしたチビ! その程度の攻撃、屁でもねぇぞ!」

「ふぅん、成程。マスターが私を選んでくれたのは、そういうことだったんだ」

 

 

 

 

 メリュジーヌはちょっと不満げにマスターを一瞥し、その姿を竜のものへと変える。

 

 

 

『ゥゥッ――――ァァァッ! いいでしょう、ひれ伏しなさい』

「あの竜、アルテミスを落とした――――」

 

 

 

 

 一瞬にしてソラへと舞い上がった竜に、キリシュタリアが油断なく杖を構えて叫ぶ。

 

 

 

 

「むっ、これは不味い。ランサー、アレを食らえば君でも死ぬぞ!」

「は!?」

『この名はアルビオン――――境界を開く、最後の竜。ジョフロワからフロモンへ、時を示せ――――デュケイダイト!』

 

 

 

 

 

 境界の竜、その息吹(ブレス)は無敵という概念、その境界すらも切り開く。

 ざっくり言えば、無敵貫通宝具である。

 故に、阻止できるのは更に上回る対粛正宝具の防御のみ。

 

 

 

 

 

 当然、普通の英霊どころか神霊だってそんなのを持ってるのは殆どいないわけで。

 

 

 

「うおぉぉぉぉおおっ!?」

「ランサー!? ランサーが死んだ!?」

 

 

 

 

「この人でなし!?」

『当然、竜なので』

 

 

 

 

 

 

 

 一応、手加減されていたのでカイニスは一命?を取り留めた。

 

 

 

 

 

 

 

 








どうでもいいあとがき





次の本編は水着メリュジーヌ実装された頃にでも…。

あと3日くらいで発表! いやぁ、楽しみですね!
泥船に乗った……もとい、泥聖杯に願ったつもりで待ちましょう!






2日後


レディ・アヴァロン…?
へ、へぇー、今年は完全円卓イベントかな……? いやでも流石に…。

そうだよね、きっと……ただ、水着メリュ子がいるって……そう、言ってくれるだけで………。



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