レーザー銃の傭兵とダボールスナイパーな人形 (ジャック・アヴェンダドール)
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Chapter0 出会い
その出会いは唐突に


ドルフロの二次創作を見ている内に始めたくなってしまいつい作っちゃいました
ただ暫くはメインキャラがオリキャラのみという体たらくである


 核やコーラップスによる環境汚染やそれによって発生したELIDと暴走した鉄血工廠の人形達によって人類はその数を大きく減らしていった時代。

 そんな時代に於いても僅かながら文明の明かりは消えていない所も存在している。

 

 一つは未だ残存し続けている国家が直接手掛ける首都付近、ここには正規軍の武力によって最大限の脅威が排除されて国民は暮らしている。だがそこへ行けるのは資産家や権力を持った人間だけ。他の人間は入ることも出来ないという。

 

 そしてもう一つは民間軍事会社、PMCによって運用される地方都市。国家から委託されたPMCが都市運営と防衛を担う。ただし武力は正規軍よりも大きく劣る上、練度もそれに比べて低い。だが多くの人間はこちらに住む他無いのだ。

 

 最大手の民間軍事会社、グリフィン&クルーガー。これも例外では無い。各地区にある都市を指揮官の下、運営、防衛する。ただ他のPMCと違うのは防衛を担っているのは人間ではなく大半が人形によって守られている事。それが違いであり最大の特徴だ。

 

 ここはSB07地区と呼ばれる、グリフィンの管轄区域。

 この地区も主に戦術人形によって構成される部隊によってそれなりの治安が維持されていた。最も、一番良くてアメリカのマイアミ州のような時折銃撃戦がおきるようなレベルだが。

 その地区の一角、立ち並ぶビルの内の一つの中に彼は居る。

 銃を掛けるラック、作業台とパソコン、それと生活するのに必要な物一通り。いずれもこの時代では珍しいと言える程小綺麗に、そしてシンプルで纏まっている部屋の主、ジョセフ・アンバーは突然の来訪者に作業の手を止めてしまっていた。

 

「今日からお世話になります。ダボールスナイパーです。よろしくね」

 

 毛先のみが水色に染まっているセミロングの黒髪、ジョセフよりやや小さめの身長に、大まかに見てDカップ程の胸部、ふとましくは無いが女性的な太ももやお尻、服装は緑色のミリタリージャケットのような物と中に白色のTシャツ、紺色のズボンを着ているが、何より目を引くのがライフルだ。

 緑色のTAR-21、通常ダボールライフルと呼ばれる物を狙撃用に大幅に改造された物。それを彼女は担いでいた。

 そんな少女がここに世話になる? 何かの間違いじゃ無いのか? そんな事と同時に銃を見てある疑念が浮かんでいた。

 

「世話になるって…っていうかその銃俺のじゃねえか」

 

 そう、彼女の持つライフルは本来彼が持っていた物だった。

 何故彼女が持っているのか、それは数週間前に遡る。




一話目はかなり短いですが次から一話毎長くなります。(約3000文字)
書きたい展開まで全然届かない……のは置いといて、これからよろしくお願いします。


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数週間前 運命の分岐点

ジョセフがSB07地区に住みだす前のお話です。
彼単独の戦闘力が如何程なのか、お楽しみ下さい


 ジョセフは数週間前に仕事を引き受けていた。

 内容は鉄血が制圧している地域にある書類の回収だ。

 割はまぁまぁ良く、引き受けたのだが…

 

「ちっ!面倒だな」

 

 書類を回収したのはいいのだが、その際に巡回の下級人形に見つかってしまい、止むを得ず交戦。

 このままでは増援を呼ばれてしまう為、さっさと外に出たかったが既に周囲は敵に囲まれてしまっており、抜け出すタイミングを見失ってしまっていた。

 しかも持っている銃は全距離対応用の狙撃カスタムされたダボールライフルとF2000だった。

 

 下級人形のうち盾を持った奴、ガードに対して5.56mm弾をそれなりな数を撃つ必要がある事からも正面からの突破は厳しいと判断、外をうろついているサブマシンガンらしき物を持ったリッパーもいる為、接近戦自体が無謀。

 そうなると残す手はほぼ無い。あるとするならば…

 

「アレしかねぇか…」

 

 ジョセフはそう言って発煙手榴弾を数カ所に投げる。数秒後、そこら中に煙が充満してきたのを確認した彼はF2000を片手で構えながら猛ダッシュで駆け抜ける。

 先の方は当然見えないが煙の中に入ると同時にフルオートで適当に撃ち込みながら、煙を抜ける。後ろにF2000を向けながら遮蔽へと駆け抜け、辿り着こうとした時に一本のレーザーが腕を掠って行くのが見えた。

 

「ぐぅあ!」

 

 その衝撃で倒れ込むジョセフ。幸い撃たれたのはF2000を持っていた方では無かった為、落とす事は無かったものの、それでも隙は出来てしまう。

 煙の中から現れたリッパー達を撃ちながら脚に痛みを覚えながら立ち上がり、牽制しながら後ろに下がる。どうやら転んだ際に脚を捻ったらしく、あまり大きく動かせなくなった。

 だが向こうもまだ混乱の最中なのかこちらに集結する事無く森の中の遮蔽に隠れる事が出来た。だがまだ油断は出来ないと判断して、腕の止血を簡単に済ませ捻った足を固定して建物から更に離れて行く。

 

 無理やり動かして居るからか足取りが非常に重く、来るときの数倍程時間が掛かったが、なんとか鉄血の領域から離脱出来そうな時に不意に腹に痛みが走る。

 何事かと見ると、穴が出てそこから血が溢れていた。朦朧とし出す意識を無理やり戻しながら、周りを見ると僅かながらに見えた影があった。

 鉄血の狙撃人形、イエーガーだ。奴の攻撃をモロに食らってしまったらしい。幸いにも防弾チョッキのお陰で深手にはなって無いがそれでも直ぐに治療しなければ直ぐに命を落とすだろう。だが治療しているとイエーガーに止めを刺される為厳しい。

 それを避ける為にもTAR-21のバイボットを展開してイエーガーを狙う。しかし、視界がぼやけて上手く狙えない。そこで射撃モードをセミオートからフルオートに変えて大まかに狙って乱射する。

 4秒程で弾が尽きてボルトがリリースされる。その瞬間にその場所から離れて移動する。やったかどうかを確認する暇も無く、追ってこない事を祈っていたのが通じたのか敵の追撃が無いまま戦闘領域から離脱出来た。

 だが元々限界だった為そこでジョセフは意識を失う。

 

 

 次に目を覚まし、最初に見たのは知らない天井と1人の少女だった。

 

「……ここは?」

 

 思わず口にした言葉に反応して少女が近づいて来る。よく見ると獣耳とランジェリーという今時の娼婦でも見ない格好をしていた。

 

「あ、目が覚めましたか?よかったぁ」

 

 凄まじく甘いと感じさせる声で話す少女、ジョセフの記憶の中にはその少女と出会った記憶は無い。

 

「君は?……というよりここは何処だ?」

「私はG41です!ここはグリフィンの医務室ですよ!」

 

 グリフィン? G41? つまりは彼女は戦術人形でここは大手PMCの治療室? 起き抜けで様々な思考を巡らせるがイマイチ一致しない。

 私はあの何も無い場所で力尽きた筈、なのに何故と疑問ばかりが浮かんでくるのを自然と口にしていたのか彼女は答える。

 

「あの地域に探索に出ていた私達の部隊が見つけて、搬送してもらいました!エッヘン!」

 

 元気な様子で胸を張るG41、ジョセフは自然と彼女の頭を撫でるとエヘヘと喜んだ。

 

「そうか、ありがとう……所で私の荷物は何処にある?」

「それでしたらご主人様が預かってます!あ、そうだ!目が覚めた事をご主人様に伝えないと!」

 

 慌ただしく家を出るG41。ご主人様って一体誰なのか聞けないまま去ってしまった。

 少しすると部屋が少し強引に開けられ、そこからG41に引っ張られる男性が居た。赤い服装、会社のエンブレムからして恐らくは指揮官だろう。指揮官という役職の割に若めと言った印象がちらつく。

 

「ほらご主人様!この人…えーっと」

「ジョセフだ」

「ジョセフさんが目を覚ましましたよ!」

「分かったから!少し落ち着いてくれ!」

 

 そんな騒動があったが少しばかし経つとそれも治る。彼の格好を見てジョセフは本当にグリフィンの施設にいる事を実感させられる。

 

「さて、色々聞きたい事がありますが、まず貴方の名前や何処に所属しているかを教えて下さい」

「俺はジョセフ・アンバーだ。流れの傭兵をやっている」

「ジョセフさん、ですね?それはそれとして、何故あの時鉄血の支配地域に居たのか覚えていますか?」

「ある依頼を受けてそこに行く必要があったからだ」

「そうですか、それでもう一つ聞きたい事がありますけど……これは一体何なのかご存知ですか?」

 

 その手に持っていたのは件の書類だった。ジョセフは一瞬顔を曇らせる。

「中身は見てない。お前達にとって不都合な代物なのか?」

「不都合という程ではありませんがね、世に出回ると少々面倒になる物でしてね…」

 

 この男は一体何なのだという風に思いながら、話を続ける。ここで始末されるかもしくは奴隷として働かせるか……ジョセフにとって悪い結末にしか考えられない状況下で、何を言い渡されるか内心焦りを感じた。

 

「何もとって食おうとは言いませんよ、ただ暫く私に雇われて欲しいと言いますか。あぁそうそう、貴方家はありませんよね?」

「確かに家と呼べる物は無いが…というか何をさせようってんだ」

「でしたらこの地域の保安警備隊として働いて貰いたいんです。最近鉄血の工作や人類人権団体の活動が活発になってましてね?そういった事に対処できる人を探していたんです」

「もし断ったら?」

「そうですねぇ……何処ともしれない所で銃殺されるかもしれませんな」

 

 暗に受けなかったら殺すと言われる。この男、見た目よりも大分黒いとジョセフは感じた。

 彼は内心舌打ちをしながらその話に乗る事にした。ジョセフはまだ生きていたいのだ。

 

「分かった、その話に乗ろう」

「話が分かるようで助かりましたよ。あぁそうそう、怪我が治るまではここで治療を受けて下さい。それと貴方の使っていた銃は一旦、IOPで直して貰ってますので戻ってくるまではゆっくりしていて下さい」

 

 そう言って男は部屋を出た。その横にいたG41も部屋から出る。部屋にはジョセフ1人が残された。

 

「どっちにしろ選択肢が無かったな…」

 

 独り言を呟いて彼はもう一度眠りについた。




ジョセフも並の人間よりは強いのですが、所謂人外レベルでは無いと思います。
ただの人間の範疇でそれなりに強め、それが人形と共になると如何なるのか。
それは作者にも微妙に分からないです。


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新たな生活 新たな仲間?

プロローグだけで3話つかう小説ってここだけかもしれない
そんな事を思いながら投稿します


 暫くして、ジョセフの怪我は治り、拠点としてビルの一角が充てがわれた。そこでIOPに出した銃が戻ってくる事になっていたのだが……

 

「あの、ジョセフアンバーさんはいらっしゃいますか?」

「俺がジョセフだが、君は誰だ?」

「よかった!今日からお世話になります。ダボールスナイパーです。よろしくね」

 

 そこに居たのは自分の銃を担いだ戦術人形だった。どうしてこうなったのか、ジョセフには一切理解が出来なかった。それもそうだろう、何せ銃を預けたら人形がセットになっていたというのは経験がある人がいる方が可笑しいレベルだ。

 

「世話になるって…っていうかその銃俺のじゃねぇか」

「ペルシカさんの話って本当だったんだ」

「誰だよそいつは」

「私…というよりもグリフィンの戦術人形の開発者さん」

 

 ジョセフにとって人形と関わる時は大半が任務の関係でしか無い為、人形開発の第一人者のうちの1人であっても彼にとって知るべき情報では無い。

 

「はぁ……それで、アンタもグリフィンの戦術人形なんだろ?ならそっちに行くべきじゃ?」

「私はグリフィンじゃなく貴方の直属になりました」

「待てよ買った記憶は無いぞ?」

 

 IOP製の人形の値段はかなり高く、一個人が所有出来るのはそれこそグリフィンの指揮官クラスでないと無理だろう。それを一介の個人傭兵であるジョセフが買う何てことは無理な話だ。

 

「その事に関してはメッセージが入っているので、そちらを確認して下さい」

 

 ダボールスナイパーが一つのUSBメモリーをジョセフに渡す。彼はそれをパソコンに繋いでファイルにウィルスが無いのを確認してから閲覧する。

 

 

これを見ているなら既に届いているね、唐突なんだが君には今日からテスターをやってもらうよ。

代金は運用データで十分だよ。維持費もグリフィンやIOPで持つので安心して使って欲しい。

本来ならグリフィンで運用されるべきなのだろうが、銃の改造主と一緒の方が、面白いデータが手に入るだろうという事で君にやって貰うよ。

記憶データはIOPの専用サーバーに保存させているので撃たれて破壊されても心配はしないでね。

因みに拒否すると以下の金額を請求をします。

 

1438000コイン

                    ペルシカリア

 

 

 どいつもこいつも選択肢を潰しやがってと思いながらメッセージを閉じる。

 

「はぁ……分かったよ。君を歓迎するよ。それでなんて呼べば良いんだ?」

「ダボールスナイパーとでも呼んで頂ければいいですよ」

「長いし呼びづらいな……他に呼び名は無いのか?」

「いえ、これしかありませんね」

 

 ジョセフは頭を抱えた。人の名前どころかペットの名前すらつけた事が無い彼にとって悩ましい事この上なかった。とりあえずパソコンからダボールライフルの事を検索してそこから色々見ていく事にすると一つの記事が目に止まる。そこから思考が巡り、名前が浮かんだ。

 

「ビリア……じゃ女の子らしく無いか。ピリア・タージスっていうのはどうだ?」

「ピリア・タージス……良い名前です!でも良いんですか?」

「そっちのが呼びやすいだろう、それと敬語はいいぞ。これから一緒に暮らす事になるしな」

「ありがとうござ、ありがとう!」

「人の名前なんて考えた事無かったし、自信は無かったが気に入ってくれたようだな」

「うん!あ、そういえば貴方はどう呼べばいいの?」

「ジョセフでいい。それ以外だと違和感が凄くてな」

「ジョセフね、分かった!」

 

 ジョセフから新しい名前を貰えて満面の笑みを浮かべるピリアに、彼はいつの間にか微笑んでいたのを本人は気づいて居ない。




まぁ3話では終わらないんですけどね!
えぇあと1から2話で終わる……筈です。

ここで思い出して欲しいのはIOPに送られた銃は2丁あるという事
まぁコレが結構問題児かもしれないです
そんなのはおいといて次は暫くお待ち下さい。


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問題児と問題銃

この話でプロローグは終わりです。
プロローグだけで四話…長いなぁとは思いますがお付き合い下さいませ。


 ジョセフとピリアが自己紹介を済ませた時、不意に扉が開けられる。彼らがそちらの方を見ると、そこには居てはならない存在が居た。

 黒髪の長いサイドテール、白黒の服装、色白の肌、紫色の目。どう見ても鉄血のハイエンドと思える人が入ってきたのだ。

 咄嗟に懐に忍ばせていた拳銃を構えて警戒する。

 

「鉄血のハイエンド⁉︎」

「待って待って待って!確かにハイエンドだけど、あたしは敵じゃないよ!」

「どういう事だ」

「今はグリフィンの捕虜で武器が使えないから!それとこれを届けに来たんだけど……」

 

 そう言って出された物はIOPに持っていかれた武器の一つ、F2000だった。何故彼女が自分の武器を持っているのか、ジョセフは訝しんだ。

 だが渡されたF2000を見ると色々改造されていた。

 具体的にはボルトが射撃時に動かなくなっていたり、コッキングハンドルがそれなりに頑丈になっているが、それ以上に改造された部分があった。

 それは、マガジンがエネルギーパックになっている事。つまりこのF2000はレーザーを撃ちだす銃に改造されたという訳だ。

 

「レーザー銃……まさか⁉︎」

「そう!鉄血の下級人形に使っているレーザー技術をこれに入れてみたら意外とハマっちゃった。あ、これ予備マガジンとエネルギー補充機!」

「なんでこれを作った?」

「趣味!」

「趣味⁉︎」

 

 鉄血のハイエンドのまさかの理由に思わず、おうむ返しになるジョセフ。だがこのF2000は欠点をカバー出来ているのも、また事実なので受け取っておく事にする。

 

「そうそう。まだ改造出来ると思うから鉄血のパーツは出来るだけ回収しておいてね!」

「あ?それって共喰い……」

「いーや気にし無い!結構楽しいから!あ、私はアーキテクトだよ!」

「唐突だなおい。あぁ俺はジョセフだ。んでそっちのが」

「ダボールスナイパー、ピリア・タージスです」

「ジョセフにピリアだね。よろしく!今日はもう時間だからグリフィンに帰るよ。ちょくちょくコッチに来るから、その時にパーツを貰って改造するよ!じゃあね!」

 アーキテクトは何処かに去って行った。

 

 アーキテクトが何処かに去った後、2人はため息をついた。

「なんだったんだ?アレは……」

「さぁ、まぁ悪い奴じゃ無いとは思うけどね」

「しっかしこいつは……まぁ使えるみたいだし使ってみるか」

「エネルギー確保が難しいけど大丈夫?」

「戦場での機械の解体は何時もやっている。問題は無い」

 アーキテクトが置いていった銃と装置一式を見て、唖然とする2人だった。

 

 

 その日の夜、ジョセフは別の問題に直面していた。それは寝室の問題だ。

 いくら人形といえど相手は女の子、別の部屋の方が彼女にとって良いとは思ったが寝られる場所がこの寝室以外無いという事に今気づいた。

 

「しまった……ベッドが一つしか無ぇ」

「私は別に床でいいよ?ほら、スリープに入れば感覚なんて関係無いし」

「とは言ってもだな……俺は今日は向こうの部屋のソファで寝るから、あんたはそのベッドで寝な」

「いやいや、だったら私がソファで寝るよ。傭兵は身体は資本だよ?人形よりも崩れやすいんだがら」

「シュルクで包んじゃえば楽だ。つーことで俺は寝るわ。おやすみ」

「あ、ちょジョセフ⁉︎」

 言うや否や寝室を出たジョセフ。寝室に強引に残されたピリアは呆然としている。

「まぁ…うん。寝ますか」

 そう言って彼女はベッドの上に寝転がり、スリープモードに移行した。

 

 

 最初の部屋に来たジョセフはレーザー式F2000を見る。見た目は本当にF2000なのだが中身が全然異なる事に未だに違和感を覚えていた。以前のように片手で構えると、より構え易くなっている事に気付いた。

 具体的にはトリガー付近のロワーレシーバーが変わっており、ピストルクリップのような形状に変わって片手でも安定して狙えるようになっている。

「すげぇな……」

 思わずそんな事を口から漏らすジョセフは、暫く眺めた後、銃をしまってシュルクを取り出して身を包み、ソファの上で横になった。

 こうして色々な意味で慌しい1日は幕を閉じた。

 2人にはどんな事が待ち受けているのか、この時、それは誰も知らない。




という事でここからある意味本格的にレーザー銃の傭兵とダボールスナイパーな人形が始まる……筈です。

余談なんですが、章分けはCahpter形式とSTAGE形式を合わせようとか今考えていますがどうなんでしょうか?


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Intermission1 SB07地区
市街地哨戒任務


前回から数日経った日の事です
SB07地区の市街地警備の任務が2人に出されました。
特に初めて行くピリアにとっては新鮮な事なようで……?



 ピリアと初めて出会って2日後、早速2人に巡回警備の任務が与えられた。

 

「拠点警備よりかはマシか……」

「そう言う経験あるんだ?」

「一応な。暇すぎて寝そうだったがな」

 

 ジョセフとて傭兵だ。何も直接戦闘を行う仕事ばかり請け負っていた訳では無い。ある程度の警備は経験があった。しかし、どれも零細からの依頼という事もあり、報酬面でもあまり良い物では無かった。

 

 雑談をしながらも銃の点検を行う、ジョセフはエネルギーマガジンの容量を確認してF2000に取り付ける。そしてサイドアームにM1911を持ち出して、マガジンの弾を確認した後、装填してホルダーにしまう。後は予備マガジンをそれぞれ3個づつ取り出して、タクティカルベストにしまっていく。

 ピリアはプラスチックマガジンを取り出して、マガジンチェックを行った後にTAR-21に取り付ける。サブアームはHS2000ことXDを持ち出す。

 実はピリアは今、サブアームをどれにするか決めかねて居た。近距離用の装備が特に必須とされている狙撃戦人形、だが重い物を持ったとして邪魔になると本末転倒。その為、どの銃にするか射撃訓練等で決めている最中であった。

 

「こっちは準備OKだよ」

「んじゃ、街に出ますかね」

 

 準備を整えた2人は街に繰り出した。

 

「巡回のついでに、街の案内をして欲しいんだけどいい?」

「あぁ構わないぞ」

 

 ジョセフは巡回ルートを回りながら街を案内していく。今回のルートは主に大通り沿いと商業区だ。ただ商業区とは言ったものの、商売が出来る所は限られており、閉まっている店も結構ある。

 

「結構閉まってる店が多いね……」

「こんな時代なんだ。皆、自分の身だけで精一杯なんだよ」

「そういうジョセフはどうなの?」

「それなりってとこだな。一番稼げる仕事ではあるからな」

 

 実際の所、ジョセフの稼ぎは個人傭兵としてはやや多い所だ。不定期に銃のカスタムショップを開くなどの細々とした商売もやっている為、顧客もそれなりにいるなど安定した収入があるにはある。

 

 ふと、ピリアは開いている店のショーケースを覗き込んでみる。中には加工食品のサンプルが置かれており、値段も書かれていたが、その価格がそれなりに高くついていた。

 

「品揃えとか見てると結構高級な物もあるんだね」

「ここらの店は殆どがSB07の住人が相手じゃない。グリフィンの探索隊とかの戦術人形をターゲットにしてるのが大半だ」

「どうして?」

「簡単だ。探索隊は給料や物々交換なんかで結構金を持っている。それだけ金を落とす余裕がある訳だ」

「へぇ、じゃあ地元民向けのは無いんだ」

「そういうのは商業区じゃなく居住区の方だな」

 

 ピリアの質問に答えていくジョセフ。SB07地区の街を細かく見ていくのが初めてな彼女にとって新鮮な出来事の連続で、興味が次々と湧いていく。そうやっていると、表通りから外れて裏路地の方に入っていく。

 

「そういえば、ここの通りに変な店を開いている爺さんが居るんだっけか」

「?」

「古い通貨しか取り扱わないとこでな。物はかなり珍しいが殆どが買えない代物だとか」

「それって本当に商売してるの?」

「さぁな。少なくとも普通の人間向けじゃ無いのは確かだろ」

 

 話をしていると、前方の方がやけに騒がしいのに気付く。耳を澄ましてみると、男の怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「おい!さっさと金を出さねけと殺すぞ!」

「こんなクソみたいな紙じゃなくて金を出せ!」

 

「強盗か。通報は頼んだ」

「了解」

 

 内容的に強盗だと判断した2人は、武器を構える。ジョセフはF2000を、ピリアはXDを取り出して急ぐ。その間にピリアはグリフィンの司令部に通信を入れていく。怒鳴り声がハッキリと聞こえてくる所まで来ると、ジョセフが中を確認しようとするが、中はカーテンで閉められている為確認出来ない。裏口は道の構造上存在しないので、必然的に入り口が1箇所しか無い。

 

「ジョセフ、増援は20分後に来るよ」

「了解、それまで待てる状況じゃなさそうだがな」

 

 怒鳴り声がハッキリと聞こえる。かなり苛ついているようで、いつ誰かが殺されるか分からない状況のようだ。だが闇雲に突入したとしても人質に取られると身動きが取れなくなる。ふとジョセフはある事を思いついた。

 

「ピリア、サーマルビジョンみたいなのは持ってるか?」

「いや、持ってないよ」

「なら俺が先に入る。ピリアは外で向こうから見えない場所で待機、合図が聞こえたら静かに開けて狙撃しろ」

「合図って?」

「そうだな……」

 

 合図となる言葉を伝えたジョセフは、扉の前に立つ。一息呼吸を入れた直後、勢い良く開け放ち突入する。

 中に入ると、男3人が老人に銃を向けながら囲んでいた。いずれも覆面で顔が分からないが、碌でも無い顔だろうと予想した。店の奥の方へと移動して入り口を強盗達の視界から外しながら、銃を強盗に突きつける。

 

「警備隊だ!大人しく銃を下ろせ!」

「ちっ!そこを動くな!こいつがどうなっても良いのか⁉︎」

 

 1人が老人の頭に銃を構える、残りの2人はジョセフに向けている。それでもジョセフは銃を下ろさずに構えたままだ。

 

「その手をどけろ!さもないとお前の[頭を吹っ飛ばす]ぞ!」

「おい!状況がわかっているのか⁉︎あぁ⁉︎」

 

 激昂した状態の強盗は次の瞬間、一発の銃弾によって静かに倒れた。動揺した残りの2人もジョセフのレーザーによって撃ち抜かれた。

 

「ぐぁぁぁ!いてぇよぉ⁉︎」

「ぐぅぅ!ぅあぁ!」

 

 致命傷を避けた為、痛みに苦しむ強盗2人を横目に見ながら入ってきたピリアの方に顔を向ける。

 

「ふぅ、初の実戦がこれなんて……人形じゃ異例だよ。多分だけど」

「上手くいったから良いだろ?」

「まぁねー。だけどアレが合言葉なんて誰も思わないよ」

「[頭を吹っ飛ばす]って側からしたら、ただの脅し文句だもんな」

 

 この間にも生き残った強盗達の身体を手錠で拘束して、頭を撃ち抜いた強盗はとりあえず血が床に広がらないように、袋を頭から被らせた。それらが終わった後、ジョセフは店主であろう老人の状態を確認する為に話しかけた。

 

「大丈夫か?」

「わしは問題ないぞ。じゃがどうやって来た?それにその銃…」

「哨戒任務で通りかかっただけだ。この銃は貰いもんだ」

「どこで貰った?」

「そいつは言えねぇな」

 

 やけに食いついてくるなと思いながら、老人の様子を見ているジョセフは、自分の持つ銃に強い興味を持っているようだと思った。だが、鹵獲した鉄血のハイエンドが作った物だと言うと、混乱を招く為言える訳がなかった。

 

「その系列の銃を作れるのは、今の時代じゃわしぐらいだ」

「……どういう事だ」

 

 だが思いがけない発言が飛び出して来た。アーキテクトが作った物が、この男にしか作れない? その真意を聞く為に、より詳しい事を聞き始める事にした。




ようやく次の話が出来ました。
最初はいきなり激戦区行きにしようかと思いましたが、一度哨戒任務を挟む事にしました。

SB07地区の細かい構想はまだ組んで無いんですが、それなりに規模のある街という雰囲気です

次回はジョセフのレーザー銃についてのお話になります


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レーザー銃

ジョセフのレーザー銃についてのお話です
ついでに武装強化役その2の紹介もします
この作品でパワーアップする時に出てくると思います


 強盗犯を増援隊に引き渡した後、店主の爺さんの話を聞く事にしたジョセフ。アーキテクトが寄越した銃の事をよく知っているらしく、それを聞こうとしたのだ。

 

「それで、この銃があんたしか作れないってどういう事だ?」

「この銃に付けられているレーザーモジュールはわしが開発したものじゃ」

「あ?あんたは何者なんだ?」

「それよりも先にお前が何者なんじゃ」

「俺は個人の傭兵をやっている。ジョセフだ」

「個人の傭兵?それにしちゃ、えらい別嬪さんな人形を連れているようじゃが?」

「色々あって、俺のとこにいるだけだ。気にしないでくれ」

 

 ピリアの方に顔を向けると少し顔を赤くしていた。多分言われた事が無いのだろう。隠すかのように入り口の方へ向けてしまった。

 

「んでだ。あんたは一体…」

「わしは元々鉄血の開発部門に居た。主に兵器製造方面をな」

「兵器製造?人形用の武装か?」

「そっちが中心じゃがな、わしがやってたのは主に人間用の武装だ」

「人間用だと?」

「そうじゃ、人形用に作られた武装を人間がそのまま使えるように武器単体で売るという算段はあった」

「だが今までにそんな物を持ってる奴を見たこと無いんだが?」

「そりゃそうじゃろ、何せ凍結されたプロジェクトじゃしのう。そんなもの作るよりかは人形ごと売っちまった方がコストが安いと踏んだんじゃろ」

 

 1人でにうなづきながら話す老人。当時の鉄血の技術力を詰めた武装が発売されていたら、今頃他のPMCもジョセフも、もしかしたら最初からレーザー銃にしていたかもしれない。そんな事を思いながら話を続ける。

 

「それはそれで凄い話だな……だがアンタしか作れないってのは?」

「あのプロジェクトは悪用されないようにロックが掛かっているんじゃよ。人形には解けない仕様でのう、一度やろうとしたら強制停止と過負荷を引き起こすウイルスを人形に植え付ける代物じゃ。それも人形を停止させたら今度はメインサーバーを壊すようにするようなタチの悪い物をな」

「つまりそいつを開けようとした人形は必ず死ぬと」

「人形だけじゃなく恐らく同じ会社の人形、全員じゃ」

 

 アーキテクトはアレで人間だった? いや、そんな事は無い。機械特有の表現が混じっていた。ではどうして鉄血の人形は滅んで居ないのか? ジョセフの疑問は一気に湧いて出てきた。

 

「じゃが、お前もしっておろう?蝶事件でわしらは殺されたかクビになった」

「クビになったって……鉄血の職員は漏れなく死んだと聞いていたが?」

「運良く、敷地内に居なかっただけじゃ」

「そう言うことか」

「それよりも気になる事があるんじゃが」

「なんだ?」

「さっきから妙に人形に拘っておるのう……もしかして、そいつを作ったのは人形か?」

 

 内心しまったと焦るジョセフ。色々気になる事が多すぎて、話題が偏ってしまったようだ。ここまで来たらいっその事、話してみるかと考える。何せこの爺さんは元々鉄血の技術者。全て話して疑問を晴らす方がいいと思った。

 

「はぁ……そこまで分かったなら白状する。この銃を作ったのは鉄血のハイエンド、それも蝶事件の後に作られたモデルだ」

「ほう?人形があのコードとトラップを破ったと言うのかね?」

「どういう手段なのかは知らん。だが事実だ」

「それなら、その銃をわしに渡して欲しい」

「何をするつもりだ?」

「どれ、どこまで出来てるか見てみたくてのう」

「分ぁったよ、ほらよ」

 

 銃を渡した直後、目の色を変えてフィールドストリップしていく。そこは腐っても技術者、という事なのだろう。3分程で簡単にバラせる所は全部バラした。その後、一つ一つのパーツを見てみると、ふと呟いた。

 

「ふむ、まだまだ甘いのう」

「んぁ?」

 

 思わず間抜けな返事をするジョセフ。

 

「レーザーエネルギーの効率が悪すぎる。どれ、強盗を追い払った礼とは言わんが、ワシが少し手を加えてやろう」

 

 爺さんは何処かに行ったかと思ったら、様々な道具を持っていて加工を始める。その間、暇なのでずっと放置気味だったピリアの方に話しかける。

 

「悪りぃピリア、あの様子じゃまだ掛かりそうだ」

「今度、ゆっくり教えてね?」

「あいよ」

「それよりもジョセフ、コレを見て?」

 

 ピリアが指さした先には古い充電器と値札らしき物があった。だが、そこに書かれていた値段は現在のグリフィン管轄区での共通通貨であるコインではなく、“€”と書かれた物だった。

 

「なんだ?これ」

「んーコレ確か第三次大戦前の通貨だった筈だよ」

「…つーことは例の店っていうのは」

「ここの事だよね」

 

 他のラインナップを見てみると、古い物が多くあるという印象があったが、所々鉄血にありそうな物があった。だがどれもコインではなく、過去の通貨のみの取り扱いだった。

 

「でもどうして何だろうね?」

「何がだ?」

「コインで扱わないの。そっちの方が良いに決まってるのに」

「売る相手を絞ってるんじゃねぇか?少なくとも地元民は買えないだろ」

「そういう物なの?」

「多分な」

 

 品を見ていっていると、店主の老人に声を掛けられた。

 

「おい、坊主!出来たぞぉ!効率を上げて装弾数を倍にしたぞ!」

 

 銃を手渡され、軽く見てみるが違いが分からない。ジョセフはレーザー光学には疎い為、分かる筈も無かった。

 

「何も変わらないようだが?」

「素人には分からんよ。無論、こいつを作った奴にもな」

「そういう物なのか」

「あぁ、そうじゃそうじゃ一つ伝言をしてもらおうかの?」

「伝言?」

「鉄血の人形じゃろ?それだったら『マッコイのブラックボックスは開けられない』と言えば分かる筈じゃ」

「分かった。っとと、名前はマッコイで良いのか?」

「それ以外に名乗っとらんじゃろ」

「それもそうだな。じゃあ、今度ここのを買いに来れるようになったら来るわ」

「そうじゃのう……今度はその人形を作った奴を連れてきてくれ。無理だとは思うがな」

「期待しないで待ってくれ。んじゃ、失礼」

 

 ジョセフがピリアに呼びかけて外に出ると、マッコイは1人考えていた。ある意味で孫が出来たかと。呑気な事を考えながら、店を閉める準備をし始めた。




レーザー系の武器ってIOPは作ってないなーと思い出しました
まぁ大陸ではめっちゃレーザーブッパする子がいるらしいですけど
この作品では鉄血製の人間用武装はジョセフ以外に使用者が居ない(人形用の装備とは別)という設定で行きます……大丈夫なんだろうか?

あ、言い忘れてましたけど一応ジョセフ達は著作権フリーです。


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ブラックボックス

アーキテクトが何故自らグリフィンに行ったのかを考えていたら、このインターミッションが出来上がってました。
これ独自解釈タグとか居るんでしょうかね?


 外に出た2人は警備に戻る。外は夕焼け空が眩しく本来は薄暗さを少し感じる裏路地も、この時は明るく照らされている。

 

「っ!眩し!」

「……」

 

 ジョセフは無言のまま、銃を前にかざす。当然、影となってシルエットの黒と夕日の赤に視界が奪われる。その姿を見て、ジョセフは一言漏らす。

 

「ブラックボックス……」

 

 マッコイが言っていた言葉を思い出す。彼はこの銃を含めた物を『マッコイのブラックボックス』と呼んでいた。それが何かは当然知る由も無いし、知る手段なぞ無い。

 だが、これを使う上でもしかしたら避けられない何かに当たるかもしれない。そう予感させる程、今このF2000は黒く染まっていた。

 

「……せふ。じ…せふ。ジョセフ!」

 

 思考を戻すとピリアがジョセフを呼んでいた。どうやら銃を掲げたまま固まった彼を心配していたようだ。

 

「もう、何事かと思っちゃったよ」

「悪い。少し考え事をしていた」

「じゃ、行くよ」

 

 ピリアが促すとジョセフはゆっくりと歩き出しながら、銃を肩に担ぐ。2人は夕日に向かって歩く。その姿は蜃気楼にも惑わされず、しっかりとした像が映し出されていた。

 

 

 

 警備任務が終わった後、グリフィンに報告書を送った直後に秘匿回線に繋ぐ。相手はアーキテクトだ。

 

《やっほー!君から来るなんて思わなかったよ!》

「用事が無かったら掛け無かったけどな」

《ほうほう、もしかしてなんか拾えたかい?》

「いや、ある爺さんと出会ってな。お前宛に伝言をもらっている」

《え?》

 

 明らかに驚いているアーキテクト。外部の人間からの連絡なんて予想してなかったのだろう。鳩が豆鉄砲を食らった顔をしていた。

 

「内容を伝えるぞ?『マッコイのブラックボックスは開けられない』だそうだ」

《え?今マッコイのブラックボックスって言った?》

「あぁ、お前さんなら分かるって言ってたが?」

《……》

「アーキテクト?」

 

 それを聞いた瞬間、アーキテクトから笑顔が消えた。そして言おうか言わまいか、葛藤する素振りを見せる。数分にも感じた十数秒後、ようやく口を開いた。

 

《それ、ブラックボックスというよりもパンドラの箱かもよ?》

「あ?」

《一応私のプログラムに入ってるんだよね、それ。だけど無理矢理開けようとした瞬間、自分と同じ会社の人形は全員死ぬ。それだけじゃない、一番恐ろしいのは中身と言われているよ》

「中身?」

《ジョセフのF2000はある種の裏技で作れたんだけど、それ以外のは未だにロックが掛かってる。ただその中身がもしかしたら、もう一度世界を滅ぼす力を持っているとしたら?》

「何が言いたい?」

《蝶事件が起きた後にロックするならまだ分かるよ。人類の敵に使われたくないとか。ただ、ブラックボックスにロックを掛けたのは蝶事件の前みたいなんだよね》

 

 自身に埋め込まれたプログラムについて色々考えているようで、推論を重く語り出すアーキテクト。

 

「他企業に盗まれない為とかじゃないのか?」

《それにしたって異常だよ。この防御プログラムは。一度ウロボロスにも手伝って貰った事があるんだけど結果は一緒、何も得られなかった》

「じゃあなんでお前は無事なんだ?その理屈で言うなら死んでてもおかしくない筈」

 

 そう、プログラムの性質的に現状アーキテクトは既に死んでいなければおかしい。だが今ジョセフの目の前に健在している。それが一番の謎なのだ。

 

《私本体は鉄血のサーバー……と言うよりもネットワークサーバーという物への接続機能が一切無いんだ。ウイルスの性質がどうもネットワーク関連に干渉するみたいでね。そのせいでバックアップなんて言う物は存在しないよ》

 

 アーキテクトの話に絶句するジョセフ。それと同時にグリフィンの捕虜になった理由も察した。恐らく彼女は、人間と同じかそれ以上に“生き残る“事を大事にしている。今のボディが殺されたらそこで、お終い。他の人形には無い事が多い死への恐怖が彼女にはあったのだろう。

 

《正直グリフィンの捕虜になって良かったと思うよ。向こうもいいにはいいけど、案外死と隣り合わせって感じで心休まらないんだよねー。まぁ当然だよねぇ私以外はやられても復活出来るし精神的疲労の概念も下にはあんまり無いし》

 

 そう語るアーキテクトは懐かしむような雰囲気があった。故郷に想いを馳せるような、そんな感じがしていた。

 

《っとと、関係の無い話しだったね。解析は多分まだまだ掛かると思うけど、出来たらそっちにも話すね!》

「分かった」

《今度マッコイの爺ちゃんに会わせてね!じゃーねー!》

 

 いつもの様子に戻ったアーキテクトはそのままの勢いで通話を切った。

 

 通話が切れたと同時にどっと息を吐くジョセフ。

 

「通話するだけっだって言うのになんでこんな疲れにゃならんのか」

「何か分かった?」

「俺の銃がブラックボックスだって言う事とその箱がワンチャン、パンドラって事ぐらいだ」

「パンドラ?開けると世界滅ぶっていう?」

「それだ。思ったよりもヤバい事に首突っ込んだかぁ……?」

「ははは……でも開かなきゃいいんでしょ?」

「何かの拍子に開くだろソレ」

 

 ジョセフは身体を伸ばして立ち上がる。ふと気になる事があった為聞いてみる。

 

「そういやピリアって寝間着持ってたか?」

「いや?この服だけだよ」

「しまった……買いに行った方が良かったか。今日は俺の奴を着てけ」

「いやいいよ、上脱げば結構楽だし」

「そういうとこラフだよなお前」

 

 結局押し付ける形で上着を渡して、自分は昔拾ったジャージを着て寝る事にしたのだとか。それと未だに家具が到着する算段が付かない為、今日もまた、リビングで寝る事にしたジョセフは、隣の部屋を買おうかとも思っていた。




SB07地区の紹介的な感じだったインターミッション1もこれで終わりです。
このブラックボックス系の解除条件とかは一応考えては居ますけど、恐らくやるとすれば外伝になるレベルな気がします。

さて次回はようやく戦闘メインの物になります。
ガンシュー的な表現の仕方が出来ればいいなと思います。


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Chapter1 旧市街地攻防戦
強襲依頼


戦闘メイン回への準備回です
グリフィンからの無茶振りを受けざるおえないジョセフ達はここからどうなるんでしょうか


 強盗を捕まえ、レーザー銃とアーキテクトの秘密を知った日から数日後、2人は家具と部屋を揃えながらも平穏な日々を送っていた。

 だがその平穏も一つの緊急依頼が来たと同時に終わりを告げる。依頼の内容は鉄血の支配エリアの内の一つである旧市街地に強襲を仕掛けるという物だ。

 今まで小康状態で膠着していたのだが、人類人権団体が突入してしまった結果、向こうの勢いが増してしまったという。

 だがグリフィンの部隊を正式に投入すれば、それこそ戦火が一気に広がり今いる街もそれに巻き込まれてしまう他、人質の問題もある為、形式上は無関係としているジョセフ達に白羽の矢が立ったという経緯だ。

 緊急の依頼という事もあってか、かなりの報酬が提示されていた。だがそれだけの命を張れる程の額かと言われると少々足りない物でもあった。

 要約するとたった数人で数百とも数千とも言える敵兵を相手取らなければいけないのだ、大体の場合は断った方が得と言えるぐらいの任務であったが、彼はこれを引き受けた。

 話を通してあるとはいえ、ピリアが負傷した際の修理先が必然的にSB07地区のグリフィン司令部となる為、ここで関係を良化させようという魂胆だ。

 

「という訳で、だ。今日の夜には仕事をおっ始めるぞ」

「待ってジョセフ。なんで一緒に行こうとしてるの?」

「ピリアの装備はマークスマン寄りだろ?どっちにしろ1人じゃ荷が重すぎる」

「いや、私は一応バックアップはあるっちゃあるから」

「そういう問題でも無いだろ……」

 

 特殊な人形と言えどバックアップは取っているピリア。AR小隊と同等のワンオフ機ではあるものの、あくまでも一般的な戦術人形と規格自体は同等ではある為、IOPにバックアップデータが存在する。

 ジョセフはその話を聞いて、アーキテクトの事を思い出して複雑な表情を浮かべた。

 

「どっちにしろ戦力は多い方がいい。特に今回の仕事は戦力比という概念すら無いからな」

「はぁ……ジョセフが言うならいいけど、それで?プランはどうする?」

「最初は見つからないようにしながら捕まった奴らの所へ向かう。次に強行突破しつつ人質を逃す。それで最後は暴れる。以上だ」

「プランもかけらも無いじゃない⁉︎」

「人質が戦力にならん可能性のが高いからな」

 

 捕まっているのは人類人権団体の人間だ。そういう人間に協力を求めた所で戦力にはならないどころか、後ろから撃たれるなんて言う事態が起こりうる。

 それらの要素を排除するとなると、やはり最初のチームだけでやるしか道は無い。入念な準備が要求される。

 

「ジョセフ、何発か撃っていい?」

「あぁ、的は缶を使ってくれ」

「了解」

 

 ピリアは缶を置いて、100m程離れてから射撃を行う。数発撃ち込みながらスコープのダイヤルを弄って調整する。

 発射音はライフルとしてはかなり抑えられている。アタッチメントで伸びた銃身を保護する目的でサプレッサーを追加で取り付けている。その副次効果として射撃音の消音が出来ている。

 今ピリアが行なっているのは0位置合わせで、無風の状態でスコープと着弾点のズレを修正している。ただし縦の位置は適正距離からの距離でズレ込むので、この調整はあくまでも横位置のみの調整である。

 

「100mでやや真下、150mだと…よしピッタリ」

 

 調整を終えたピリアはマガジンを抜いて、コッキングレバーを引いてチャンバー内の弾を取り出してマガジンに収める。

 そして撃った分の弾薬をケースから取り出して詰め、再度マガジンを銃に付ける。

 

「準備OKだよ」

「こっちも準備が終わった……じゃあ、行きますか」




実はこっちの方が先に作ってたんですが、いきなり規模の大きい作戦というのもアレかと思いまして、インターミッションが出来たという

それは兎も角、極少人数で挑む旧市街地戦を描くChapter1です
次回からサブタイトルに付けられるSTAGE表記は時系列として連続している物を一つのステージとした物となります


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STAGE1-1 夜襲

今回から始まる旧市街地攻防戦
極少人数という限られた状況の中で果たして作戦は成功するのか…
ピリアの初めてのマトモな戦闘でもありますが実力は如何に?

抜けていた描写があったため、一部追加しました


SB07地区 旧市街地 22:00

 街灯も全て消され、生活の色を失った街は今や物言わぬ機械の兵によって制圧されていた。

 暗闇の中で人影が蠢いてる。それらは皆全て同じ姿を象っている。

 鉄血の下級人形、イェーガーだ。彼女達は周囲を見渡して警戒をしている。だが、夜の死角を全て埋められる程の物では無いようだ。

 

 物陰から物陰に、静かに動くピリアとジョセフ。敵地に潜り込んでここまで誰にも気付かれずに中を散策出来ているが、肝心の人質がまだ見つからないでいた。

 因みに他のチームはM1911、M9、Uziという構成で正面切って戦うのは無理がある。現在は別行動をしておりスモークによる吊り出しをやっている。

 何処に居るのかはグリフィンのほうでも不明で、直接探す以外の方法が無い為、こうして潜入しながら捜索をしている。

 サーモセンサー式の望遠鏡を建物の中に使いながら、周囲に目を張るピリアと、肉眼で敵の場所を確認するジョセフ。

 

「このポイントもハズレ……一体何処にいるんだろう」

「奴らもバカじゃ無い。郊外よりかは守りやすいポイントを選ぶ筈だ。裏をかこうとしなければだが」

 

 次の捜索ポイントを決めようとしている2人を狙う不穏な影。

 

「そうなると今度は……⁉︎」

 

 ピリアは突然銃を構えて一発撃ち込む。ジョセフが銃口の先に視線を移すとそこには、今倒れたイェーガーが居た。

 

「ちっ!気づかれたか!」

 

 ジョセフが舌打ちすると、その倒れたイェーガーの周りから続々と鉄血の人形が現れ出す。あっという間に2人の前には鉄血人形が塞がった。

 2人は改めて銃を構えて、戦闘体勢へ移った。

 

 左右に展開して交戦を開始する2人。ジョセフが右側の、ピリアが左側の遮蔽に移動して迎え撃つ。

 

 ジョセフは手前側のリッパー共を撃ち抜く。一体につき3発で倒れていく。それらを纏めて倒して行くと、道が開けた。どうやらピリアが遠くの敵を倒してくれていたようだ。

 

「前に進む、カバーしてくれ!」

「了解!」

 

 ピリアにカバーを要請して自分は前進する。しかしその前には再びリッパーが数体規模で現れる。移動のチャンスを逃さない為にフルオートで斉射して薙ぎ倒す。次の遮蔽にスライディングで潜り込むとピリアが声を上げる。

 

「リッパーの後ろ!ヴェスピドが居る!」

「あいよ!」

 

 遮蔽から顔を出すと、実際にヴェスピドがこちらに向かって来ていた。それらに対してピリアが一体づつ確実に排除して行く。負けじとジョセフもレーザー銃で倒して行く。敵のレーザーが掠めたりしていたが、当たるリスクを気にせずに倒して行く。そうしているとヴェスピドの群れを全て蹴散らした。

 

 少しでも先へ行く為に全力で走って次のポイントへ向かおうとするが、十字路に差し掛かる所でブラウラーの群れが待ち受けて居た。

 

「くそ!新手か!」

 

 思わずジョセフが愚痴を零す。先にピリアが攻撃体制に入ったようで、遮蔽に隠れる間に数体程が既に鉄屑と化していた。ジョセフもブラウラーを一掃して行くがその後ろにはガードの群れが待ち構えていた。

 そのガードを倒して行くが、一向に数が減らない。いくら弾を大量に持ち込んだとは言え、ここまでの数相手だと足りない所の話ではない。どうしようか考えていると、後ろから不意に声を掛けられた。

 

「そこの2人!こっちに来て下さい!」

 

 声と共にジョセフの前に煙幕が張られる。後ろを見るとブレザーのような物を着た少女が手招いている。誰なのか分からないが、ここは彼女について行く事にした。ピリアも考えは同じだった様で、同じように彼女の元へと走っている。それを確認した少女は、扉の奥の方へ入っていく。2人もそのまま付いていき、建物の中に入ると扉を閉めた。

 

「あんたは?」

「その話は後にしましょう!今はここから離れる事が先です!」

 

 そう言うや否や、奥へ走り出した少女を、2人は追いかけるのであった。




最後に出てきた娘は本来なら煙幕系のスキルを持たない人形ですが、使う事自体は出来ると思うのですがどうでしょう?
今回はジョセフ視点なんですが、同じ所のピリア視点もひっそりとあったりしますが需要はあるんでしょうか

次回は屋内での戦闘となります


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STAGE1-2 自衛戦

屋外から屋内に移り、少女の案内で進んでいく2人
しかし、追手がすぐそこまで迫り来る
迎撃して道を切り開けるか?

ガンシューってよく敵の対処方がそれぞれありますよね


 ブレザーの少女に付いていくと、後ろから激しい物音がする。どうやら敵が追いかけてきたようだ。

 

「ちょ⁉︎敵が来そうなんだけど⁉︎」

「このままついてきて下さい!」

 

 ピリアの質問に一切振り向かずに進んで行く少女は、階段を登る。

 

「上に仲間が居ます。呼んでくるのでその間迎撃をお願いします!」

 

 言うや否や上に登って走り去っていく。ジョセフ達が後ろを振り向くと、リッパーが此方に迫ってきてた。ジョセフ達は1階側の階段の角で待ち構えると唐突に通信が入ってきた。

 

《お、やっと繋がった!作戦中は別のコードなんだね》

 

 その声の主はアーキテクトだった。何故彼女が通信のコードを知っているのかや、どうやって割り込んだのかとか気になる事は多々あるが、今は任務中だ。

 

「今は任務中だ!無駄話をしている暇はない!」

《ちょちょ、待って!鉄血人形の弱点を教えようとして通信を入れたから待って!》

 

 アーキテクトの言葉に切りそうになった通信を続ける。弱点が知れるならそれに越した事は無い。それに前回の一件もあって、嘘はつかないと判断した。

 

「リッパーの弱点は何処なの?」

《リッパーはお腹の上辺りにバランスユニットがあるから、そこを撃ってみて!》

 

 ピリアはアーキテクトに言われた通りにリッパーの腹に撃ち込む。するとリッパーはよろけて倒れ掛ける。それを見逃す程甘くはないピリアは、そこにもう1発撃ち込むと機能を停止させた。

 

「特にジョセフの場合は、それで攻撃のチャンスが増えるから積極的に狙うといいよ!」

 

 アーキテクトの言う通り、ジョセフが撃ち込むと機能停止するまでよろけ続けられるので一方的に敵を攻撃できた。

 

「今度はガードかよ⁉︎」

 

 リッパーを倒したと思った矢先、今度はゆっくりとガードが迫ってきていた。盾によって攻撃を防がれやすい為、ジョセフにとっては難敵でもある。

 

『ガードはピリアなら頭に当てれば行ける筈だよ!』

 

 ピリアは言われた所を正確に撃ち抜くと、2発で倒せた。ただ顔の一部が盾に隠されている為、普段よりも少し集中を高めないといけないと感じた。

 だが数で迫られるとピリアのみでは対処が出来なくなり、ジョセフの射程に入ってくる敵も増えてきた。

 

『ジョセフの場合はいっそ近づかせてからの方が楽かも』

「どう言う事だよ?」

『ガードは攻撃する時に盾を横にするんだけど、その時頭は無防備になるから!」

 

 実際にガードが手持ちの拳銃を取り出した時に、盾を横に持ち直した。その瞬間をジョセフは撃ち抜いて倒す。この戦法はやや危険ではあるものの、残弾が厳しい時には特に有効そうな手段だ。

 2人の猛攻によって迫ってくるガードは全て破壊された。それと同時に上から足音が聞こえる。ジョセフがそちらの方に視線を向けると、先程の少女ともう1人の少女が居た。

 

「お待たせしました!さぁ、さっさと行きましょう!」

 

 少女達がまた先行して行って、ジョセフ達はそれについて行く。だが、後ろの方から銃弾が撃ち込まれる。咄嗟に開いていた部屋に入るジョセフとピリア。入り口から顔を覗いて姿を確認すると、ヴェスピドがリッパーやガードよりも遠い位置から攻撃してきていた。

 

「仕方ねぇ、スモークでビビらせてやる!」

 

 ジョセフは懐から発煙手榴弾を取り出してピンを抜き、そのまま放り投げた。投げた直後に斉射して牽制すると、煙が放出されお互いに視認できなくなる。そこにピリアがフルオートで撃ち込み、敵を進ませないようにする。

 

「少しは時間が稼げるよ!」

「よし、今のうちに行くぞ」

 

 それを受け、少女2人は再び前を駆け出す。ジョセフ達も再び付いていく。曲がり角に着いて、先の方を警戒しながら覗いてみると、鉄血の人形が立ち塞がっていた。

 

「挟まれたか……」

「引き返すよりも先に進んだほうが良いわ」

「階段ならあっちの方のが近いですもんね」

「なら、先にいる敵をやっちゃいますか」

 

 ジョセフが後方を警戒しつつ、ピリアが狙撃体制に入る。幸いサプレッサーを使用しているので、それなりに距離があるなら他の敵に音でバレる事は無い。手前の方から順繰りに、的確に排除していく。その間ジョセフは後ろで煙が消えて、ヴェスピドが再び向かってきているのが見えた。

 

「まだ掛かるか?」

「あと6体いる。20秒ぐらいで片付ける」

 

 その間にもヴェスピドは迫ってきており、このままではピリアが敵を蹴散らす前に攻撃が始まってしまう。周りを見てみると、閉まっている扉が見えた。

 

「ここの扉は全部鍵は空いているのか?」

「そうね、全部空いている筈よ」

 

 ツインロールの少女がそう言った瞬間、ジョセフは走り出して扉を勢いよく開け放つ。そうすると、簡易的ではあるが遮蔽物が出来る。

 

「お前もこっちに来い!」

《今度は何が来た?》

「ヴェスピドだ。どうすればいい?」

《ヴェスピドの場合はリッパーよりも脆いから、ジョセフの場合は適当に撃ち込むだけでいいよ!》

 

 少女に手招きをして影に隠れさせた後、ヴェスピドを手前から順番に倒して行く。一体につき2発撃ち込めば倒れる為、エネルギーを温存しながらも確実に数を減らして行く。そうして、戦線の維持をしていると後ろから声が掛かる。

 

「こっちは全部終わりました!早く行きましょ!」

 

 ジョセフはマガジンに残ったエネルギーを全部撃ち込んで牽制に走らせた後、2人に付いて階段を登った。2階に上がった後、ブレザーの少女が壁際足元に何かを仕掛けているようだったが、ツインロールの少女に付いて行って突き当たりの部屋に入った。

 

 

 全員が中に入ったのを確認したブレザーの少女は、部屋のロックを掛けた。

 

「ふぅ、これで少しだけ落ち着けますね」

「助かったよ……あ、自己紹介してなかったよね?」

「あーそういえばゴダゴダがありすぎてしてませんでしたね。私は89式です!こっちは64式……だと別の人形と被るので64式自って呼んであげて下さいね!」

「私はピリア……あーTAR-21の狙撃カスタムだよ。そっちの人はジョセフ。彼は人間だよ」

「ピリアって呼べばいいかな?」

「うん。89式はどう呼んで欲しい?」

「んーバディって呼んで欲しいかな」

「バディだね。64式自は何かある?」

「何でもいいわよ。別に変わるもんじゃ無いし」

 

 興味が本当にないようで、窓の外をこっそりとのぞき込む64式自。その傍らで、別動隊と連絡を取り合っているジョセフ。通信が終わったようで、耳に当てていた手を下ろすとこう告げた。

 

「ブラボーが救助対象を保護、離脱している。俺たちは向こうがランデブーポイントに着くまで陽動する。いいな?」

 

 最初のフェイズが救出作戦から陽動作戦に変わった瞬間である。




現地の89式と64式自が、パーティーに加わりました
なお89式をバディと呼ぶのは現状ピリアのみです

向こうが救出した経緯は次回語られます


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STAGE1-3 脱出

64式自と89式を連れて脱出を図ります
追手を振り切る事は出来るのでしょうか?

今回の戦闘シーンには個人的に思い入れの多いガンシューのオマージュ的なのが含まれています

1/19 誤字報告ありがとうございます 修正しました


 時間は少し戻り、部屋に入ったあたりに遡る。ジョセフは別動隊として動いていたM1911達と連絡を取り出した。

 

「こちらアルファ、ブラボー応答せよ」

「こちらブラボー、どうぞ」

「敵に見つかった。現在現地にいた人形と共に交戦しつつ捜索中」

「えぇ⁉︎大丈夫ですか⁉︎」

「負傷は無いが弾薬の消耗が激しい。また、今行動を共にしている人形達も居る。目標を見つけたら即座に離脱する」

「あー…それなんですけど……」

「何が起きた?」

 

 M1911が何か言いづらそうに苦笑いするような声が聞こえた。何か不味い事が起きたかとジョセフは思った。

 

「こちらの方で要救助者は見つけました。現在彼らが使っていた仮の拠点から出発する準備を整えています」

「すまない、こっちが見つかって無ければ良かったんだがな……」

「いえいえ、アルファの方に戦力が動いている間、私達の方は手薄になってましたし、結果オーライですよ。こっちは今から作戦区域から離脱しますけど、アルファはどうしますか?」

「こっちも一度離脱して合流を図る。このまま第2フェイズへ移行するには不安がある為、体制を整える必要がある。だが、そっちの部隊が見つからないように陽動を仕掛けるぐらいの事はする」

 

 実際にはピリアの方はやや余裕が残っているが、ジョセフの方が殲滅作戦を完遂させるには少し不安があった。それに現地で遭遇した89式と64式自を安全圏まで送らなければいけない為、どちらにせよ一度作戦区域から離脱する必要があった。

 

「了解しました!ランデブーポイントにて待機してますね!着いたら一報入れます!」

「分かった。あとそいつら人類人権団体だから気を付けろよ」

「分かってます!では通信終了しますね」

「了解した、こっちも早めに行くようにする。アウト」

 

 通信を終えたジョセフは3人の方に向けて行動方針を伝える。

 

 「ブラボーが救助対象を保護、離脱している。俺たちは向こうがランデブーポイントに着くまで陽動する。いいな?」

 

  そう言ってジョセフは銃を手に取るが、89式達が止める。

 

「待って下さい!まだ準備が終わって居ないと言いますか……ジョセフさんは大丈夫なんですか?」

「どっちにしろ弾薬の補給は出来ないだろ。それならさっさと離脱した方がいい」

「今飛び出してもいい事は無いわよ。89式のトラップもある。体勢を立て直す時間は十分あるよ」

「そうそう!私達の方も弾薬を確保したいので待って貰えますか?」

「アテがあるのか?」

「ここ、潜伏していた時に弾を作っていた部屋なんです。その関係で弾もここに置かせて貰ってたんですよね、っととあったあった!ピリアの銃は5.56mmNATOでしたっけ?」

「そうだよ。こっちは弾はまだあるからバディ達で使っていいよ」

 

 やけに準備がいいと感じたジョセフだが、今はそれよりも体勢を整える事にした。エネルギー残量はマガジンにパーセンテージとして表示される。それらを確認しつつ、まだ使用していない物に取り替えて行く。この時に残り弾数関わらずコッキングを挟む必要があるが、基本エネルギーの移動が出来ない為、撃ち切る事が前提となる関係で問題にはならなかった。

 ふと、64式自と89式がマガジンに弾薬を込めているのを眺めていると口径の違いが見えた。64式自は7.62mm系の大きさの弾薬で89式は5.56mmの大きさだ。外の方をチラッと見ると敵兵が周囲を彷徨いている。そしてここは2階、ならやる事は一つだと考えた。

 

「向こうから行くんじゃ確実に足止めを食らう。それならここから飛び降りて脱出した方が抜け出せるだろう」

「でも敵がまだ居るわよ」

「89式が仕掛けたトラップ、アレはどういう物だ?」

「あれは一種のブービートラップですよ。センサーに引っ掛かったらドカンと半径5mぐらいの対人用の代物ですね」

「なら奴らが引っ掛かった後に出る。アイツらなら追いかける為にある程度は中に入るだろ」

 

 作戦を纏めると、89式が仕掛けたトラップが作動した直後に増援として外の敵が中に入り込んだ隙に窓から飛び出して残った敵を殲滅するという物だ。

 

「全員で飛び降りるの?」

「いや、最初に俺が飛び降りる。その時にピリアは援護を頼む。64式自と89式は廊下側から来る敵の排除をしてくれ。大体の敵が倒れたらピリアにサインを送る。それを目印に外に飛び降りてくれ」

「了解、と言いたいけれど飛び降りたら89式の脚が折れそうよ?」

「んな⁉︎私はそこまで太ってませんもん!」

「そうしたら俺が止めてやるから、どうするかさっさと決めろ」

「分かったわよ、やればいいんでしょ」

「それでいい」

 

 行動の方針が纏まったところでトラップが爆発する音が聞こえた。

 

「それじゃ、始めますか」

 

 その音をきっかけに先程決めた位置に全員移動する。窓の方にはジョセフとピリアが、廊下側には64式自と89式がそれぞれ戦闘体勢に入った。

 

 ジョセフは窓の外を覗いて、敵が建物内に入って行くのを見届ける。それでも入り口から離れた所に居た者はその場に残っているが、頃合いだと判断して窓を開け放つ。その横でも同様にピリアが窓を開ける。

 勢いをつけて飛び出して、着地する時に五点着地をして衝撃を和らげ、遮蔽に隠れる。流石に外で待機していたイエーガー達には気付かれたようで直ぐに攻撃を開始した。その弾は全て放置されていた自動車に当たる。

 射撃が止んだ瞬間に反撃に出る。既に数体が倒れている辺り、ピリアが正確に撃ち抜いたのだろう。そこから次の射撃に入る前に、イエーガーが全滅した。

 

 

 そこからジョセフは車を飛び越して反対側、つまり建物側に向くと既に彼の方に向かってくるリッパー達が居た。ピリアと挟撃する形となり、前後から効率良く倒していく。

 やがてリッパーが現れなくなると、ハンドサインを出して降りるように指示する。ピリアが部屋の中に入るとすぐさま89式と64式自が現れる。最初にピリアが飛び降りる、着地が所謂ドッスン着地で着地した数秒間動けずに居た。

 次に64式自が飛び降りる。彼女は綺麗な五点着地を決める。最後に89式が飛び降りる、先程の約束通り89式をジョセフが受け止める。色々荷物もあるせいで割と重かったが、ギリギリ持ち堪える。

 

「もー私も受け止めていいじゃんかー」

「五点着地出来ると思ってた」

「ちょ、酷くない?」

 

 ジョセフに対して文句を言いながら、ゆっくりと立ち上がるピリア。どうやら特に異常はないようだ。抱きかかえた89式をおろしておく、感触は全体的に柔らかかったとは言わない。

 

「上からくるわよ!」

「全員離脱するぞ!」

 

 64式自の声で上を見ると、先ほどまでいた部屋から出てくるヴェスピドの姿があった。急いで離れる。向こうの体制が整う前に離脱するが飛び降りてくる者や上からそのまま撃とうとしてる者が居た。そのままだと撃たれるので、ある程度足止めする必要がある。

 

「しつこい奴らだ!」

「右のほうのボンベ、使えるかもよ?」

「ピリア、狙えるか?」

「あれね、了解」

 

 ピリアがそういうと一発の鉄に当たる音がした直後、小規模な爆発が発生する。それに巻き込まれてヴェスピドが焼かれる。それでも突っ込んでくる敵も居たが、それも89式やジョセフによって撃破されていく。そのうち道が炎で塞がれていき、向こうから敵がやってこなくなった。

 

「今のうちに行くぞ!」

「了解!」

 

 それを確認して先へ進もうと走り出す。爆発させた場所からの光が無くなり、今まで明るい所に居た為か周囲が見え辛くなる。だがそれを気にせずにランデブーポイントへと向かう所で、突然64式自が叫んだ。

 

「待って!止まって!」

 

 全員が止まった瞬間、横にあった自動車が爆発する。爆風が身体を襲うが、距離が離れていた為全員無事ではある。しかし、危機に陥ったのには変わりが無い。何故なら目の前には先程までの敵とは比べ物にならない戦闘力を持った者が現れたからだ。

 

 その者は浮いており、手には何も持っていない。だが、周りに同様に浮遊している2機のビットが戦闘用である事を物語っていた。そう、それは鉄血のハイエンドの一体、スケアクロウだ。

 ゆっくりと近づいて来るのが逆に不気味に思えた。そして彼女の周りを浮遊していたビットがこちらに向かって来ると、レーザーを撃ち放った。4人は咄嗟に左右に避ける。ジョセフと64式自が左、ピリアと89式が右へと動いた。

 

「ふん……足掻いても無駄だと言うのに。大人しくしていなさい」

「お断りだ!」

「なら、もがいて苦しみなさい!」

 

 ビットの数を6機に増やして、動かし始めた。




※実際に2階から飛び降りると骨折する可能性があるので、やらないように
多分SMGなんかは軽く出来そうなムーブなんでしょうけどARとかRFとかは出来ない子が居そうですね

次回はスケアクロウとの戦闘です
果たして案山子を倒す事は出来るのでしょうか?


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STAGE1-4 VSスケアクロウ

突如現れた鉄血ハイエンド、スケアクロウに対してジョセフ達はどう立ち向かうのか……

闘いの火蓋は切られ、生死を掛けた死闘の始まりが告げられた

Chapter1stage1のラストです


 放たれたビットは左右にそれぞれ3機づつ向かわされた。スケアクロウ本体は後ろに下がっていった。

 

 ジョセフはビットに向けて掃射する。しかし、簡易的なバリアがあるのか見た目以上に頑丈である。向こうから攻撃が来るまでに1機しか落とせなかった。

 残り2機が襲い掛かって来る、車を破壊させた火力を持ったそれをジョセフが受けてしまったらどうなるかは火を見るよりも明らかであろう。2筋のレーザーはジョセフを的確に捉えようとしたが、鉄筋入りコンクリートに阻まれる。撃たれたコンクリートは剥がされ、中の鉄筋が晒されているところに再度、火力の高さを知らされる。

 

「アーキテクト!」

《どうしたの?》

「現在スケアクロウと交戦中!何か策は無いか⁉︎」

《スケアクロウ⁉︎ならビットよりも本体を優先して撃つ方がいいよ!》

「了解!」

 

 とは言ったもののジョセフだとスケアクロウの姿は捉えられない。だがビットの迎撃役は少なくとも2人は必要だ。攻撃の合間をぬってビットに攻撃を当てながら、64式自に話し掛ける。

 

「64式自、お前スケアクロウの本体が見えるか?」

「ええ、なんとか見えるわ」

「ならお前は本体を撃て、俺がビットの迎撃をやってやる」

 

 ビットを64式自から離すために移動を開始するジョセフ。前にある鉄の箱に向かって走る。ジョセフの予想通りにビットは食いついて来た。本体への攻撃を増やす為にピリア側のビットもある程度撃ち込む。

 向こうは89式が迎撃をやっているようだ。ピリアは先程のアーキテクトからの通信を聞いて、本体の方へ攻撃をしている。

 

 ビットの攻撃をいなしつつ反撃していると、唐突にビットの動きが止まりジョセフから離れていく。先へと視線を移すと、スケアクロウが一度ビットを格納して、再度6機のビットを出して来た。再度3機づつ向かわせてきて、今度はピリアと64式自の方へ優先的に飛んでいく。

 

「ジョセフさん!本体の方に攻撃して下さい!」

 

 89式に言われるがままに本体を攻撃するジョセフ。流石に頑丈に作られている為か直ぐに壊れる事は無いが、20発程当てるとスケアクロウがよろめいた。すると自身とビットを下がらせて行く。

 

「アイツとビットは直接リンクしています!本体を撃てば一旦攻撃が止むみたいです!」

「ようするに、本体に鉛弾をぶち込めば良いって事か」

「小癪な真似を……それを知った所で貴方たちに勝ち目はありません…よッ!」

 

 スケアクロウが懐から指揮棒のような物を取り出すと、再度ビットを展開する。今度は8機に増えており各2機づつが4人の元へ向かう。だが先程とは打って変わって、射程を伸ばしたのかより遠くから撃ち込んで来て、さらに高速で飛び回るようになった。

 ジョセフはそれを掃射して撃ち落とす。バリアが先程よりも薄いようで先程よりも少ない弾数で墜ちるようになった。先にビットを落としたジョセフ、64式自がスケアクロウに対して攻撃する。

 

「ちっ!本体の方にバリアを持ってきたか!」

 

 スケアクロウは自身の周囲にバリアを張って攻撃を無力化させていた。かなり分厚いようで、通常のレーザーや銃弾は通らない状態であった。

 

「キャ!」

 

 後ろから悲鳴が聞こえた。振り向くと、ジャケットの腕の部分が破けておりそこから血が流れていた。

 

「大丈夫か!?」

「問題ないよ!」

「あぁクソ!どうやってアレを崩せるんだよ!」

 

 大事は無いものの、このままではジリ貧であることには変わりがない。本体の防御を崩す方法は何かないかと考えるが、この忙しい状況で中々相手の弱点を見抜けずに居た。やがて飛び交っていたビットは落とされた分を除いてスケアクロウの元に戻る。そして再度8機のビットを繰り出した。

 

「そっちがその気ならこっちは全部落とすぞ!」

 

 ジョセフが愚痴りながらも銃を撃ち放つ。それに合わせて他の3人もビットに向けて撃ち出す。ジョセフが先に減らしてピリアが遠距離から正確に撃ち抜き、64式自と89式が残ったのを始末すると、スケアクロウが頭を片手で抱えながらよろける。

 

「今だ!全部ぶち込め!」

 

 そこを見逃すはずも無く全員で攻撃を浴びせる。だがスケアクロウはゆっくりと立ち上がる。その際にシールドを再展開して防御する。

 

「なんとしてでも、お前たちだけは連れて行きます……!」

 

 怒気のような物を感じつつも次の一手に備える4人。指揮棒を振って2機のビットを自身の周りに浮かせる。浮遊しているのを利用して自身がビットと共に高速でジョセフに突っ込んで行く。本体を止めようにもビットの掃射とバリアのせいで止められない。至近距離まで近づかれると指揮棒を思いっきり振って来る。

 ジョセフはそれを横に避けたがビットが既にジョセフに狙いを定めていた。

 

「しまっ…!」

 

 不味いと思っていたが、ビットが突然挙動を乱した。その隙に斉射しながら距離を取る。

 

「ジョセフ!しっかりしてよね!」

「悪い、助かった!」

 

 ピリアのお陰で危機は去ったが敵は依然健在だ。スケアクロウは新たにビットを2機展開して、今度はピリアの方へと向かって行く。先程と同様にビットと共に突撃していくのを見て、本体ではなくビットを先に堕とそうと撃ち込む。しかしジョセフの側からは片方しか当てられず、反対側は本体のバリアに阻まれた。

 指揮棒を振る瞬間、本体の周りが鈍く光った。まるで透明な膜を剥がしたかのような光り方をして一瞬で消えた。もしやとジョセフは思い、本体に向けてレーザーを撃つと先程までバリアに阻まれていたのが無くなっており、当たるようになっていた。その僅かな間の攻撃でスケアクロウはよろめいて、指揮棒を振る事は叶わなかった。

 

「これで終いだ!」

「いい加減に倒れて!」

 

 よろめいた瞬間に4人の一斉射撃をスケアクロウに浴びせると、今度こそ倒れ込んだ。息が上がる4人、銃を構えながら近づく。完全に機能を停止させたかどうか確認する為に慎重に行く。スケアクロウの元に辿り着いて一切動かないのを確認すると、安堵の息が出る。

 

「ふぅ……」

「終わった……んだよね?」

「えぇ、その筈よ」

「流石に……ねぇ?」

 

 緊張の糸が切れたのか、大きく息を吐く4人。戦闘区域からの脱出を急ごうとした時、突然機械的な音がしだした。驚いて振り向くと、ゆっくりと、だがあまりにもぎこちない動きでスケアクロウが動き出していた。

 

「私を、倒したの、は、間違い、だった、の、では?」

「何を言ってやがる」

「その、内…に分か…りま、す…よ……フフ、フフフフフフ」

「……」

 

 AIまで壊れたのか笑い続けるスケアクロウ。それを1発のレーザーで撃ち抜くと物言わぬ鉄塊へと姿を変えた。

 

「とりあえず、ランデブーポイントに向かうぞ」

「りょーかい」

「了解」

「了解!」

 

 いつの間にか火は消えており、ランデブーポイントへと進む道は開かれていた。




不穏な雰囲気を出しつつ終わったstage1です

スケアクロウが原作よりも大分硬くね?と書いてて思ってましたけど、0-4スケアクロウってこんなもんだったよねと言う事にして下さい
※原作のスケアクロウはバリアなんて張りません

次回からはstage2かもしくはピリア視点のstage1になります


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STAGE2-1 ランデブーポイント

前回スケアクロウを撃破したジョセフ達はブラボーと合流すべく、ランデブーポイントに向かいます



 スケアクロウを撃破し、ブラボーと合流する為に急いでいるジョセフ達は今、森の中を駆け抜けている。

 

「あとどれぐらいで着くんですかぁ?」

「もう少しで着く。我慢してろ」

 

 89式が移動距離の長さにヘタレているのを一蹴して、移動を続ける。街を出るまでは散発的に敵と遭遇していたが、森に入るとそれも無くなった。少しすると前から強い光が照らされてくる。そこを抜けると、小さな飛行場があった。

 

「ここがランデブーポイントの……待て!」

 

 ランデブーポイントとして設定していた場所に到着したジョセフ達4人は飛行場の建物の前に鉄血の人形が居るのを発見する。それらは建物の中を覗いているような素振りだった。

 

「ちっここにも来やがったか」

「向こうはまだ気づいてないようね」

 

 64式自の言うように建物の中の方の意識が向いているようで、こちらには気づいていないようだった。それならばとピリアにアイコンタクトを取る。すると彼女は静かにパイボットを立てて、狙撃体勢に入った。左腕の出血はとうの昔に収まっていたようだ。

 

「外すなよ?」

「プレッシャー与えないで」

 

 静かな銃声が一発鳴る。遠くに居て、尚且つ隊列的に一番後ろの者を正確に撃ち抜いた。そこから先はピリアの独壇場だった。一体一体丁寧に撃ち抜いて、振り向いた瞬間を撃ち抜いて残り3体の所で気付かれた。だがそこからは64式自と89式が撃ち始めて、ついには飛行場に居た敵は一掃されていた。終わった後、ピリアは目を閉じて頭を手で扇いでいるのにジョセフは気づいた。

 

「ふぅ……初めてやったから頭が熱いぃ……」

「基地の中まで我慢しろ」

 

 ジョセフが肩を貸してピリアを担ぐと、89式が質問しようとしていた。

 

「それよりも今のはなんですか?」

「あぁ…私の特技みたいな物かな」

「特技?」

「大雑把にぃ言っちゃうとぉ、敵の弱点をぉ正確に狙うのとぉ素早く撃つのとをぉ両立させたモードぉ……」

 

 ピリアは喋るのもやや億劫になっているようで、これ以上は口が開かなかった。それを見たジョセフは歩く速度を早める。早いとこ冷却をしなければ、彼女は戦えない。この部隊の貴重なマークスマンであると同時にジョセフのパートナーであるが故に彼女には復活して欲しかった。

 

 建物の中に入ると、一階には誰も居ない。ピリアを窓から隠すように下ろしてから、ブラボーを探し出す。すると上から物音が聞こえる。64式自と89式にハンドサインで一階に待機させて、ジョセフは階段の方へ警戒しながら移動すると銃口を向けるのと同時に向けられた。

 

「もうここま…で?」

「……!待て、味方だ」

 

 ジョセフに銃口を向けたのはM1911だった。幸いお互いに認識し易い格好をした者同士だった為、お互いに撃つことは無かった。

 

「それで状況は?」

「少し前から鉄血の人形が付近に現れ出し始めて、こちらの装備ではやや厳しかったんです。あ、救助対象の人達は今2階で寝かせています」

「大体把握した。物資の補給は出来そうか?」

「そちらに関しては問題ありませんよ。元々、軍かPMCの施設だったらしく、弾薬は十分残っていました。ですが……」

「何だ?」

 

 言い淀むM1911を問いただすジョセフ、その顔には少し疲労の色が見え始めていた。

 

「ジョセフさんが使えそうなエネルギー補給機みたいなのはありませんでした」

「だろうな」

 

 彼には正直想定はしていた事だ。元々一点物な為補給手段が減っている事は覚悟の上だった。それとアーキテクトから戦場でのレーザー銃用のエネルギーを確保する手段は聞いていた。

 

「外のリッパーを中に引き入れるか……」

「大丈夫ですの?」

「手早く行きたい。手伝って欲しい」

「分かりました!」

 

 ジョセフは下に移動して、外に出ると入り口付近に倒れているリッパーを持つ。かなり重かったが、M1911の補助もあってなんとか中に入れる事が出来た。

 

「アーキテクト、聞こえるか?」

《どうしたの?ジョセフ》

「リッパーからエネルギーユニットを出したい。どうすればいい?」

《リッパーの場合は首筋の所にロック関係のキルスイッチが仕込まれているからそれを押して》

「そんな感じはしな……あーあった」

 

 首筋に精巧に隠されていたボタンを押すと、プシュという音が鳴る。それと同時に、背中部分に隙間が出来た為開けてみると、黒くて機械的な物を張り巡らせていた。

 

「何処を取ればいい?」

《人間で言う所の胸骨から肋骨にかけての所、そこのカバーを外すとユニットがあるよ》

 

 言われた通りに黒いカバーを外す。感触としては防弾アーマーに使われるプレートのような感じがした。中には、危険を示すマークが貼られたエネルギーユニットがあった。だがまだ供給自体はされているようで外すと爆発もあり得る状態だった。

 

《エネルギー関係のスイッチは赤いボタンがあるから、そこを押すと外せるようになるよ》

 

 押すとカチッという音がした。それと同時にエネルギー供給が止まった。ゆっくりと取り出して机の上に置く。

 

《これで取り出し方はOKだね。あ、鉄血の下級人形は今の方法で大体いけるよ。ただ装甲兵は正確には正規軍の装備だから、やり方が変わるから注意してね》

「分かった。それでここからどうすればいい?」

《エネルギーが減っているマガジンを供給口……左側の所に差し込み口があるんだけど分かる?》

「……ここか」

《そこにそのまま差し込むと、マガジンへの供給が始まるよ》

 

 マガジンを差し込むとカチッという音がする。どうやらこれで良いらしい。数秒後、またカチッという音がする。エネルギーの接続が切れたようだ。

 

《チャージは数秒で終わるよ。ただ持ち歩くにはちょっと重すぎるから、その辺は要改善ってとこかな》

「思ったより溜まるのが早いな」

《それ一個で3マグ分は補給出来るよ》

「余裕があったら、戦闘中でも出来るな」

《余裕があればね》

「ま、そんな隙は出来ないだろうがな。そいじゃ、通信切るぞ」

《またなんかあったら連絡してね》

「分かった」

 

 マガジン3つ分を補給し終えたジョセフは、ピリアの様子を見る。まだ冷却が終わってないようで湯気みたいな物が彼女の身体から出ていた。それに先程のスケアクロウとの戦闘において受けた傷がまだ残っているのが目についた。

 

「包帯はあるか?」

「ありますわ、確かここに……はい!」

「ありがとう……よし、これでいいか」

 

 M1911に包帯を貰い、ピリアの腕に巻く。手慣れた様子で応急処置を施していく。

 

「慣れているんですね?」

「良くあるからな」

「ん……んぅ……ジョセフ?」

 

 ピリアが起きた、まだ湯気が出ている辺り、冷却自体は終わっていないようだが喋ることは出来るようだ。

 

「目が覚めたか?」

「まだ、身体が動かないけどね……」

「なんか冷やす物でもないか漁るから待ってろ」

 

 まだ身体が熱く、動かすのは億劫なようだ。何か無いかジョセフは色々探り出す。

 

「私達は2階を探します。ジョセフさん達は一階を探してください」

「あいよ」

 

 そうして、小さな飛行場の施設の中を探ってみると、誰かの個室だったであろう場所にて、ジョセフにとって見た事の無い言語で書かれた物が置かれていた。

 

「何だこいつは?」

「ジョセフ、何か見つけたの?」

「こんな物を見つけたんだが……読めるか?」

 

 64式自に手渡すと彼女は驚いたのか、歓喜に打ち震えたのかどっちにもつかない様子で読んでいた。

 

「これ、日本語よ⁉︎ というよりも冷えピタって探している物じゃないの⁉︎」

「日本語?ってなんだ。ってかコレで本当に冷やせるのかよ」

「え、えぇ、効果は保証出来るわ。それよりも早いところ彼女に貼ってあげなさい?」

「あぁ分かったよ」

 

 目的の物も見つかったので、ピリアの元に行って箱を開ける。すると小さなシートのような物があった。ジョセフにはそれの使い方を知らないので、どうすれば良いのか分からずにいると、89式が近くに寄ってきた。

 

「あれ?冷えピタなんて良くありましたねぇ」

「こいつの使い方知らねぇか?」

「それでしたら、これを剥がして首の頸動脈の所に貼ればいいですよ。他の場所も有りますけど、そこはここでやったら皆んなに撃ち抜かれますからね!」

「ん?あぁまぁ分かった」

 

 冷えピタを頸動脈の部分2箇所に張り付けておく。ピリアの赤らんでいた顔が段々と赤みが消えて行く。

 

「あぁ…大分楽になってきたぁ…」

「結構効果あるんだな」

「冷えピタですから」

 

 冷えピタに対する謎の信頼をしている89式、だが効果は絶大だったらしくピリアはいつもの様子を取り戻した。ジョセフはそれを穏やかにみていた。

 

「よし、暑いのも去ったし万事OKかな!」

「じゃあ救助対象者の搬出するか……」

 

 準備が整ったので、救助ヘリで人質を輸送する事を考える。

 

「誰か!救援は呼んだか?」

「周囲に敵が居たので、まだ呼んでませんわ!」

「じゃあ今から呼ぶぞ!」

「はーい!」

 

 遠くにいたM1911に声を掛けておくと、まだ要請はしていないらしいので、ジョセフがする事になった。彼は無線機のチャンネルを変えて、SB07のグリフィン基地に連絡を掛けた。

 

「こちらアルファ1、HQ聞こえるか?」

《こちらHQ、アルファ1どうぞ》

「人質の救助に成功、現在ランデブーポイントにて待機中。救助用のヘリを要請する」

《了解、そちらに救助ヘリを向かわせる。それと一つ確認事項がある》

「どうした」

《1時間前より、一切外部に出る気配の無かった旧市街地から鉄血兵が流れ出ているのをドローンが捕らえている。何かやったか?》

 

 ジョセフはその無線を聞いて一つ思い当たる。スケアクロウとの戦闘で不気味に笑いながら言っていた、彼女を倒したのが間違いである事だと。もしかしたら何かトラップの類いでもあったのだろうかと考えながらその旨を伝える。

 

《スケアクロウを倒したのが不味かったな。指揮系統が乱れてそれまで旧市街地に留める命令だったのが無効化されたんだろう。君達にはもう一つ任務を与える。救助対象者をヘリに引き渡した後、周辺に散らばった鉄血を駆逐せよ》

「正気か?俺たちの総戦力を思い出せ」

《ハイエンド一機墜としているのに何を言っている》

「偶然上手く行っただけかもしれんぞ?なんにせよ殲滅作戦は…」

 

 その時上から声が掛かる。M1911とは別の声だ。そちらに目を向けると、薄い緑色のツインテールの少女が呼びかけていた。持っている銃からUziだろうか。

 

「また鉄血の連中が来たわ!」

「クソ!聞いたな?早いところこっちにヘリを寄越せ!いいな!」

 

 無理矢理、無線を切って銃を構える。同様に64式自、89式も施設の入り口で銃を構えている。ピリアは扉から少し離れた場所で待機している。ブラボーはM9が人質の監視に付いたのでUziとM1911が戦列に参加する。

 

「無茶はするなよ?」

「分かってるよ」

 

 ピリアに声を掛けて、入り口の前に立つ。マガジンを再度確認する。フル充填されているのを確認したら軽い準備運動をする。

 

「脚に自信のある奴はいるか?」

「なら私が行けるわよー」

「なら俺と一緒に飛び出せ、俺が左、Uziが右だいいな?」

「分かったわ」

「では私はその援護をしますね」

 

 軽いノリでUziが名乗り出た。それと同時にM1911が援護を申し出る。機動力に優れたSMGとHGの人形なら前線構築も容易だろう。それができたら次は戦線の維持、拡大だ。

 

「私達はどうすればいいかしら?」

「64式自と89式はM1911のスモークが遠くに貼られたら出ろ。それまではここで待機だ」

「私は各方面の援護って感じ?」

「そうだな、ピリアは敵が多い方への支援を頼む」

 

 それぞれの役割を確認し合って、準備が進んでいく。

 

「弾が無くなりそうなら、一度中に戻って構わない。ただ離脱する際は一言言ってくれ」

「「「「「「了解!」」」」」」

「準備はいいな。Uzi、スタンバイしろ」

「言われなくてもやるわよ!」

「私も準備完了ですわ!」

 

 飛行場防衛作戦が次々に組み上げられる。ここを突破されたら、鉄血の脅威に怯える日々になる。彼らの第二の闘いが今始まる。

 

「よし……始めるぞ!」

 

 64式自によって扉は開けられ、2人が戦場に駆け出した。




STAGE2のプロローグのはずなのに4800文字超えるってなんぞや
冷えピタは大体首の頸動脈、脇の腋下動脈、股関節辺りの鼠径動脈に貼ると効果的らしいです。
脇の下はともかく股関節なんて外で貼ろうものなら社会的に死にますねハイ
それはさておき、次回は拠点防衛戦です


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STAGE2-2 防衛戦

DIVISIONコラボ真っ只中で投稿します


前回ジョセフ達はランデブーポイントに辿り着いたのはいいが、回収ヘリが来るまでの防衛をする羽目になりました


 扉が開け放たれた瞬間、ジョセフとUziが一気に外に飛び出す。目の前には基地に近寄ってくるガードとリッパー。それらに対してUziは軽やかに動きで躱しながら銃を撃ち、ジョセフは遮蔽使って敵の攻撃を防ぎつつ、レーザーを撃ち、前進を防ぐ。

 2人が敵を撹乱している合間に煙が上がる。それを見たジョセフはさらに前進してガードの一体をCQCの要領で遮蔽越しに引き込んで、至近距離から頭を撃つ。そして盾を奪い取って、積極的に攻勢に出る。後ろからの銃弾も増えて来た辺り、64式自達も外に出られたようだ。

 

 そうしてあっという間に戦線を構築して、敵の攻撃をやり過ごすと大量の足音が聞こえて来た。

 

「なんだ?」

 

 ジョセフが音のした方へ向くとそこには、茂みから突然現れた大量のダイナゲートがジョセフに向かって来ていた。

 

「こっちに寄るんじゃねぇ!」

 

 群れに対して1マガジンを全て使って、倒して行くジョセフ。だが数が多く、4体程残ってしまう。その残ったダイナゲートからの攻撃を盾でなんとか防ごうとするが、あまりの連射速度を至近距離で受けたせいで盾が破壊されてしまう。その時、ジョセフは死を覚悟したがそれでも最後の足掻きとして後ろに飛びながらリロードをする。それが幸いしたのか、後方からの銃撃によって残った4体も倒された。

 

「助かった!」

「前に出過ぎですよ!」

 

 89式の援護によって、ジョセフは後退する事が出来た。彼女達の想定以上に戦線の拡大が早かったようだ。盾を破壊された為、彼は遮蔽に隠れながらリロードをして体制を立て直そうとする。

 

「きゃあああ‼︎」

 

 ジョセフの横から悲鳴が聞こえる。そちらの方を見てみると、Uziの身体に無数の傷を付けられて倒れていた。そしてその前には焼けた地面と壊れたダイナゲートの群れがあった。その後方からはイエーガーとヴェスピドが新たにやって来る。

 

「Uziがやられた!誰かカバーしろ!」

「了解!」

 

 M1911がUziの代わりに前に出る。発煙手榴弾を駆使して相手からの死角を増やす。それと同時にUziを抱えて後ろに下がる。その合間をジョセフの斉射と64式自と89式の攻撃でカバーをする。イエーガーからの攻撃はピリアのカウンタースナイプで最小限に抑える。

 M1911がある程度Uziを後ろに移動させた後、煙が晴れると無数のヴェスピドが再度ジョセフとM1911に対して攻撃を仕掛ける。弾幕の嵐に顔を出すには危険過ぎる状況に陥る。辛うじて64式自と89式、ピリアが攻撃を仕掛けているものの、攻撃がそちらにも回り抑え込まれる事になった。

 

「クソッ弾幕が厚いな……」

「ジョセフさん!これを!」

 

 M1911から投げ渡されたのは焼夷手榴弾。彼女は投擲物のエキスパートか何かなのかと思いながら、物陰越しにヴェスピドの集団に投げ込む。同時にM1911側からも投げ込まれ、一瞬で火の海と化した。

 ついでと言わんばかりに発煙手榴弾を投擲して視界も奪う。ジョセフと89式がそこに一斉射撃をかまして、一気に攻守が交代した。火が収まる頃には、ヴェスピドは全て破壊され動かなくなった。

 周囲を見渡しても新たな敵がすぐ現れる様子は見られない。M1911がこの隙にUziを建物の中まで移動させる。ジョセフはその間、周囲に目を張り巡らせる。

 

「ジョセフ!残弾はまだある⁉︎」

「そろそろ尽きそうだ!」

「後ろにリッパーの残骸が複数あるから、バラしてマガジンとエネルギーユニットをバディに渡して!」

「了解!」

 

 ピリアの指示で後ろに移動して、2体程のリッパーの残骸からエネルギーユニットを素早く引き出し、マガジンを差し込む。1マガジン分のエネルギーを回収してから89式の元に置いて行く。

 

「使い方は分かるな?」

「はい!さっき見てましたから大丈夫です!」

「俺が手を振ったらマガジンを投げてくれ」

「了解しました!」

 

 建物から出てきたM1911と共に、周囲を警戒するがまだ敵の増援が来る気配が無い。

 

「あれで打ち止めか?」

「そうだといいのですけど……」

「……!ピリア、そこから離れて!」

 

 前衛であるジョセフとM1911が本当に終わりなのか訝しんでると、64式自が慌てた様子でピリアを退避させようとする。彼女が急いで支援位置から離れたその時、何かが落下する音がした数秒後、その位置が爆破される。それと同時にブラウラーとリッパーとヴェスピドの大群が押し寄せて来た。

 

「迫撃砲か⁉︎」

「恐らくジャガーの遠距離砲撃です!」

「ピリアはジャガーを探せ!他は押し寄せて来た奴らを狩るぞ!」

「了解!」

 

 物量に物を言わせた猛攻を仕掛けて来た鉄血、それを止める為に弾幕を張って応戦する。だが数が多すぎて戦線が少しづつ下げられて行く。それと同時にジャガーの居場所の特定が出来ず、非常に不利な状況に陥ってしまう。

 進軍を止めるだけならば発煙手榴弾や焼夷手榴弾を使えば済むのだが、ジャガーの攻撃が1番の脅威になり得るの為、優先的に探さなければならない事もあり視界を妨げる手榴弾系は使い辛い。

 

「これ以上は持ちませんわ!」

「発煙手榴弾を投げろ!」

「それではジャガーが見つかりませんわ!」

「こっちでどうにかする!兎に角投げろ!」

「…了解!」

 

 流石に限界が来た為、発煙手榴弾を投げるM1911。煙が充満して敵の視界を奪うが、逆にジャガーの索敵がやり辛くなる諸刃の剣と化していた。

 

「一気に叩く!」

 

 混乱の最中、ジョセフが敵集団の横に移動して攻撃する。煙に気を取られていた鉄血の人形達はまともに回避行動を取る事が出来ずに倒されて行く。そしてその集団の奥に探していたジャガーの姿を発見する。しかしジョセフの位置からは遠く、持っている銃では当てられない距離に陣取っていた。更に悪い事に狙撃担当のピリアからは発煙手榴弾の煙で死角になっており、そこからの狙撃も厳しくなっている。

 ふと、ある装備を持ってきていたのをジョセフは思い出した。それならば煙越しでも狙撃は可能だと確信した。

 

「ピリア!サーモセンサーを使え!」

「え⁉︎あぁ‼︎了解!」

 

 ジョセフがピリアに指示してから12秒後に、ジャガーが彼女の狙撃によって崩れ落ちた。

 

 

 

「なんとかなった……かな?」

 

 サーモセンサーを外して安堵の息を吐くピリア。その周りからは増援が来る気配は無く、警戒はしつつも構えを解き始めたが何かが落下してくるような音で再び戦闘態勢に移る。

 上の方を見てみると、ジャガーの置き土産と思わしき砲弾が落ちて来ようとしているようだった。

 

「往生際の悪い奴め!全員退避しろ!」

 

 急いでその場から別れる。ジョセフは離脱しながらも斉射して迎撃を試みる。ピリアは建物の中から1発づつ撃ち込もうとするが掠りもせずに地面に到達する。

 瞬間、爆発が発生する。先程よりもよっぽど規模の大きい爆発が周囲を包み込む。建物には直撃しなかったが余波でガラスや入り口部分が崩れて行った。




ジャガーの迫撃砲って実際はただの砲弾なんでしょうかね?
榴弾に変えると範囲がヤバそうではありますけど、ドッペルゾルドナー辺りがばら撒くんですよね……

さて次回は爆発後の後始末です


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STAGE2-3 爆発

前回、防衛戦を展開しているとジャガーの砲撃を受けたジョセフ達
砲撃によって周囲が巻き込まれたが果たして……?


 ジャガーの置き土産の砲撃による爆発が起きた瞬間、ジョセフは近くにいた89式を巻き込んで地面に飛び込む。他の姿は見えて居ない、恐らくは反対側に逃げたのだろうか。

 

「収まったか……」

「んぅ…ジョセフさんは、大丈夫ですか?」

「なんとかな、それよりピリア達が無事かどうかだ」

 

 爆風が収まった後、ジョセフ達立ち上がるとそこは穴だった。それが威力の証明として示され、巻き込まれた者の末路を簡易的に想像出来る物だった。

 ジョセフと89式が急いで近くに寄る。64式自、M1911、ピリアの姿がまだ確認出来ない。

 

「クソッ!」

「そんな……」

 

 2人は最悪の結末を想像した。もしあの爆発を受けていたとしたらと考えると、気が気で無くなる。

 

「嘘でしょ……?」

「まだ希望は捨てるな」

「じゃあなんで直ぐに現れないんですか⁉︎」

 

 89式が取り乱しながらジョセフの胸ぐらを掴んで揺らす。64式自とは特に一緒に暮らした時間が長かったのだろう、それだけに動揺も酷い状態だった。

 

「おせーよ……」

 

 ヘリのローター音が聞こえる。ジョセフは探そうとした手を止めて、着陸を促す。だが穴のせいで建物に近い所への着陸が出来ないので少し離れた場所に駐機してもらう事になった。

 

「救助対象は何処に」

「あの建物の中だ」

「分かりました」

 

 ジョセフは彼らについて行く事はせず、捜索を続ける。だが見えるのは瓦礫と焼けた地面だけで他の3人の姿は見えない。次は何処を探すべきかを考える。

 

「うわあああ!」

 

 突然男の悲鳴が建物の中から聞こえて来た。ジョセフも急いで向かうと、ある意味で異様な光景が広がっていた。まず救助部隊の男が腰を抜かしている。先程の悲鳴はこの男だろう。その周りの人間達は一点に銃口を向けている。その先には自身の半身であるTAR-21Sを構えたピリアの姿があった。

 

「どういう状況だぁ?こいつは」

「あー……あはははははは……痛っ」

 

 笑って誤魔化すピリアを軽く脳天チョップするジョセフ。どうやら敵と勘違いしたピリアが1発撃ったようだ。腰が抜けている男の周りを良く見ると、銃弾による穴が出来ていた。他の男がピリアに対して詰め寄る。

 

「なんで人間に対して撃てた⁉︎答えろ!」

「ペルシカがリミッターを付けなかっただけだよ」

「ふざけるな!IOPの人形は人間を撃てないようにしてある筈だ!それにペルシカだと?戯言も大概にしろ!あの技術者と直接の繋がりがあるのはAR小隊だけだろ!つまりこいつは鉄血の……」

 

 1発、レーザーを撃ち込むジョセフ。余りに煩かったようでウンザリとして男を睨む。強面なのもあり、男はそれで怯んだ。

 

「ごちゃごちゃ煩い。こっちにも事情があんだよさっさ上に行け」

 

 一言言うと外に出る。ピリアは彼について行く。残された男達は呆然と立ち尽くすのみであった。

 

 

 

 外に出たジョセフ達はM1911と64式自を探す89式を見る。

 

「バディ!2人は見つかった?」

「全然見つかりません!」

 

 どうやら痕跡すらまだ見つかっていないようで、ピリアの問いに対しても焦るようにして答えていた。3人は何とか無事ではあったが、爆発した時の破片に当たっていたら五体満足とはいかないだろう。

 

「遠い所は任せた。俺は近い所を探す」

「りょーかい」

 

 ジョセフ達も捜索に加わる。ピリアは自身の銃のスコープで遠くを、ジョセフは自身の近くから探しだす。森の方を見渡しても足跡は見つからず、かと言って建物の中にも居ない。ジョセフと89式が何も見つけられない中、ピリアは何か不審な物を見つける。

 

「あれは……え?……嘘……」

 

 彼女はそれを見た瞬間、恐怖で顔を引き攣った。その光景はまだ2人には見えていない。声を出そうにも上手く出せない。その様子に最初に気づいたのはジョセフだ。

 

「どうしたピリア」

「あ、あれ……」

 

 ピリアが指差す方を見てもジョセフには分からない程遠く小さい物なのだと判断した彼はその何かに向かおうとする。だが腕を引っ張られて阻止される。

 

「待って……行かないで……」

「大丈夫だ。何処にも行きやしねぇ」

「違うの…あれは、多分…っ!バディ!駄目!」

 

 彼女は恐怖で動けなくなっていたが、89式がそこへ向かおうとしたら突然叫びだす。彼女にとって不味い物なのか確認したいがピリアがそれを止めるが一足遅く、見つけてしまう。それを見た瞬間、彼女は尻餅をついて後退りして行く。

 

「俺たちも行くぞ」

「う、うん」

 

 流石に2人共に異常が見られたのは看過出来ず、ジョセフはピリアを連れて89式の元に行く。

 近づいた時に真っ先に目についたのは赤い液体だった。それもジョセフが何度も見てきた血の色、それが飛び散っていた。そしてその傍にあったのは、女性の左腕だった。

 

「!」

 

 周囲を見渡すと、先程いた場所からは瓦礫に隠れて見えてなかった場所に本来の持ち主である筈の64式自が居た。

 左腕と左脚が無くなっており、身体は動かせそうに無い。更に表情が何かに怯えているような、もしくは恐怖に染まりきったかのようで話す事も出来なさそうであった。まだ意識はあるのか、呻き声とも似つかない何かを発している。

 

「64式自!良かったぁ!本当に……本当に……!」

 

 89式が64式自に抱きつく。若干抱きつく時の違和感があったようだが一応は生きてはいた。それが非常に喜ばしいのかギュッと抱きしめて行く。

 安堵と嬉しさの混じった表情の89式とは反対に未だに焦点の合ってない様子の64式自。

 

「何か、あったの?」

 

 89式の問いに静かに右手の指を指す。3人がその方向へ視線を向けると驚愕と恐怖に包まれた。

 

 そこにあったのは人間の形すら失った、機械の塊だ。だが所々にある人工皮膚と服がそれをただの機械では無いと知らされる。内部の配線が剥き出しになっていたり機械的な関節が曝け出されていたり、もしこれが人間であるならば惨い死体であると答えただろう。残った皮膚の一部分に3人が知っている特徴があった。大きな乳房、クリーム色の布、青いジャケットだった物、それらがこの塊をM1911だった物だと予測するには十分過ぎた。

 

「……」

「ぇ……」

「ぁぁ……」

 

 ジョセフはそれ以上は見てられないと目を背け、ピリアは目を見開いて崩れ、89式は最早そこから動けなくなった。

 2人を置いてジョセフは回収ヘリの男たちと接触する。

 

「遺体袋は無いか?」

「あるにはあるが、だれか死んだやつが居るのか?」

「人形だが、あのままは流石に不味い」

「放っておけ、同じ戦場に居た仲間意識からだろうが人形は壊されても復活出来る。ここで拾ったって意味が無い」

「……あいつらはそうもいかないだろ」

「チッ。ならアンタが勝手にやれ」

「あぁ悪いな」

 

 回収ヘリの男から貰った遺体袋を持って89式達の元へ向かい、M1911だった物を引きながら袋に入れていく。その最中、89式にある事を頼む。

 

「こいつを司令部に持って行って欲しい。M9に頼んでも構わない」

「な、どうしてそんなに冷静なんですか⁉︎」

 

 彼女はジョセフの冷静で淡々とした行動がよく分からなかったのか、ジョセフに質問を投げかける。一時的とは言え仲間だった筈なのに、動かぬ物になった途端に袋に詰めて基地に送れと言う事に少なくとも理解が追いつけない。

 

「仕事柄だ。こうやって死んでいく奴は今までに何人も居た。それだけだ」

 

 ジョセフの手に纏わりつく感触が人間のそれと遜色無く、思わず顔を顰める。かつての記憶が呼び起こされそうな、そんな感覚に襲われるが、意識を保ち袋のチャックを閉める。

 

「それで……仲間だった人をそうやって!」

 

 上手く言葉が出ないのか、中途半端に詰まる89式。目の前で行われている行為は彼女にとっては到底理解しえないようで、ついには掴み掛かってきた。その手を退かさずにそのまま掴ませる。

 

「仲間を失う事に慣れてしまっている。慣れたくは無かったけどな」

「⁉︎」

「それにM1911はまだ先がある。それがどれだけ幸せな事か」

「え?」

「俺が失ってきた仲間には、もう先が無いんだ。あの場所で……全てが終わった」

「……」

 

 力強く掴まれた手から自然と力が抜けて行くのを感じた。手は汚れていて使えないので、後ろに下がって掴まれた手を解く。そして袋を持ち上げようとした。

 

「ぬぅ……っ!っはぁ…1人じゃやっぱ無理か、誰か持ち上げるの手伝ってくれねぇか?」

 

 呆然と立ち尽くす2人だったが、ピリアはすぐにハッとしてジョセフの元に駆け寄って、片側を持ち上げる。ジョセフは反対側を持って歩きだす。

 その後も立ち尽くす89式は崩れ落ちた。その目には涙が溜まり、顔は感情が入り混じりすぎて分からないと言った形相でただ地面を見る事しか出来なかった。

 

 

 

「あれで良いの?」

「何がだ」

 

 袋を運ぶ最中、ピリアがジョセフに質問を投げかけた。

 

「バディの事、いきなりあんな事突き付けられて平気なのって話」

「さぁな、俺はただ人間として話しただけだ。人形からしたらどう見えるかはさておいてな」

「人形から見ると、死……というよりも無、なのかな。そういうのは1番遠い概念なんだよね。実際私もそうだし。それがいきなり先の無い人とか言っちゃったら大体の人形なら混乱すると思うよ」

「そういうピリアは平気そうだな」

「アーキテクトの話を聞いちゃったらねぇ……」

「お前聞いてたのかよ」

「ちろっとだけ聞こえただけだけどね〜。でも正直想像もつかないよ。やっぱり。稼働を止めた先は何にも感じないんだもん。それで次は何処で目を覚そうとも前回の続き、ただそれだけだしね。そしてバックアップもあるから、身体がやられても多少記憶が消えても次があるし」

「次がある……か」

「ん?どしたのジョセフ」

「いや何でもない。それよりもさっさと載せるぞ」

「りょーかい」

 

 2人掛でヘリに袋を運ぶと、男達に引き渡す。その時に雑に傍に投げられた。ピリアが前に出て抗議しようとしたが、ジョセフはそれを止める。

 

「どうして止めるの⁉︎」

「言った所で変わりやしない」

「どうして⁉︎」

「あいつらにとって人形は所詮、機械という認識だ」

「……」

 

 彼の一言で引き下がるピリア。だがジョセフも今の行動には来るものがあったらしく、その光景を睨みつけていた。建物の方からも人が現れてヘリに乗り込む。人間達に続いて、傷だらけで目を開かないUziをM9が運んでヘリに乗せる。

 

「さて、アイツらも乗せて貰うか」

「そうだね」

 

 ジョセフ達は急いで89式達の元に移動する。64式自は既に意識を失っており、89式は力なく2人を見つめる。

 

「お前達もあのヘリに乗って離脱しろ」

「どうしてですか?」

「64式自をそんな状態でほっとけるかっての」

「いえ……でもいいんですか?」

「何がだ?」

「私達は野良も同然ですよ?」

「今はどこも人手不足だろ、簡単に入れるさ。そら、さっさと乗っちまえ」

 

 渋々、89式は64式自を抱えて立ち上がって、ゆっくりと歩きだす。右側の手足が吹き飛んでおり、バランスを掴むのが難しいようで、フラついてはいるものの確実にヘリに向かう。

 その間にジョセフは通信機のチャンネルを司令部に切り替える。現状ではマトモに戦えるのがジョセフとピリアのみと殲滅作戦は不可能だと判断した。

 

「今のうちに司令部と交信と撤退許可貰って来る」

「許可は出そう?」

「……ダメで元々だ」

 

 通信機に手を当てて通話を始める。

 

「こちらアルファ1、HQ聞こえるか?」

《こちらHQ、アルファ1どうぞ》

「救助ヘリが来るまでに、ブラボーのUziとM1911がやられた。それと現地協力者1名も負傷を負った」

《現地協力者?その話は聞いてない》

「今報告した。そいつもヘリで連れて行って貰う。詳細は本人に聞け」

《そいつは人間か?》

「いや、人形だ」

《了解した。修理費等に関しては作戦後に通達する》

「分かった。それとさっきの報告の通り、殲滅作戦は不可能だ。撤退許可を求める」

《現在の戦力を正確に報告せよ》

「現状、作戦続行可能なメンバーは俺とアルファ2のみ。M9は救助隊の護衛及び負傷した人形のカバーを行う為離脱する。他は全員やられた」

《少し待て》

 

 通信が一旦途切れる。ジョセフは溜息をつく。この様子では許可は出なさそうだと考えていると再度通信が繋がった。

 

《撤退を許可する》

「お、マジか」

《ただし報酬は本来の7割だ》

「おいおい、救出まではやっただろ。それで減額ってのは無いんじゃねぇのか?」

《逆に聞こう、お前達を雇ったのはSB07市街地への被害を抑える為だ。それが逆に被害を拡大しかねん事態に陥ったとなれば減額も致し方ないと思うが?》

「ハイエンドクラスの撃破した分は入ってるか?」

《それ込みで7割だ》

「はぁ……しゃーない。それで譲歩する」

《分かればいい。お前達もヘリに乗って帰還せよ》

「了解。アルファアウト」

 

 撤退許可は出たものの、報酬は減る。だがこのまま作戦を続行したとしても殲滅は不可能で選択肢は無いも同然だった。向こうはどういう判断をしたのかは分からないが、ともかくこれで街に帰れるようだ。

 

「ピリア、撤退許可が出た。ここから離脱するぞ」

「本当に?」

「あぁ、報酬は減るがな。俺たちもヘリに乗って撤退するぞ」

《あぁっと!ちょっと待ってジョセフ!》

「どうしたアーキテクト」

 

 ピリアに話し掛けて、撤退しようとした時にアーキテクトから通信が入る。

 

《一応何個か下級人形のパーツを持って来て欲しいんだけど》

「何に使うつもりだ?」

《ジョセフのレーザー銃の開発に使いたいから、出来ればリッパーよりもヴェスピドのパーツをお願い!》

「あんまり期待はするな」

 

 ジョセフはヘリに乗る前に軽く倒れている鉄血の人形からエネルギーユニットや千切れた武器ユニットなどを回収して、小さなバックパックに詰めて行く。このバックは建物の中で見つかった物だ。

 

「これぐらいでいいだろ」

「早く行こう?置いてかれそうだよ」

「そうだな。さっさと撤退しますか」

 

 足取りが最初の時よりも若干重くなりながらヘリに乗り込み、その場から離れて行った。後に残ったのは人形の残骸と崩れ掛けた建物のみだ。




結構強引でしたが、Stage2はここで終了です。
戦力的に厳しい為にここで撤退する事に……
ジョセフ達の最初の仕事は完遂は出来なかったようです

次回はデブリーフィングと後処理となります


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Epilogue 市街地戦の結末

大分お久しぶりです。
ずっとうまぴょいしてました。

お陰でドルフロのイベント回れてないですorz
今回は作戦の報告をするお話です。


 ジョセフ達は撤退後、グリフィンSB07地区司令部の中にある、ブリーフィングルームに来ていた。今回の作戦の最終報告を行う為に連れてこられたというのが理由だ。部屋にはジョセフと司令部の指揮官、2人しか居なかった。

 

「報告を聞きましょうかね?

「何処から話せばいい?」

「そうですねぇ……最初の方から話してもらいましょうか」

 

 ジョセフは作戦の最初に起きた出来事から報告を始めた。敵勢力下に潜入を行なっていたが、見つかってしまい交戦に入った事。その途中で64式自、89式という戦術人形と遭遇し、支援をして貰った事。その間にブラボーが救助を行なっていた事。そして脱出する際に交戦する羽目になったスケアクロウの事を話した。

 

「ふむ……」

「救出まではこんな所だが、何かあるか?」

「そうですねぇ……まず64式自と89式はここの所属では無いんですよね」

「は?」

「詳細は現在調べています。それとスケアクロウを撃破したと言いましたが……」

「確かに殺ったぞ俺達は」

「いえ戦果を疑っている訳ではありません。ただ個人的な疑問がありましてね? 何故鉄血にとってメリットの無い旧市街地を占拠したのか、それが疑問なんですよ」

「どういう事だ」

「戦略的に言ってしまえば旧市街地を占拠したとして、補給線が切れやすいんですよねぇ。まぁ機械なんで飢餓というよりは修復材や予備弾薬だけなんですけど、それでも取るとするなら直接SB07を取りに来た方がよっぽど戦線に影響が出るんですよ」

 

 指揮官がプロジェクションマッピングで形成されたマップを広げて説明をする。実のところジョセフ達が作戦を行った旧市街地は鉄血の補給地点らしき場所から遠く、継続的に占拠、維持をするのには適さない場所ではあった。

 

「足掛かりとしてか、人間抹殺の任務の元に無計画にやった……というのはねーわな」

「そうですね。それならもっと早い段階で決着が付いているか、ここが戦場になってますねぇ」

「だが膠着状態が結構続いていたんだろ?」

「えぇ、かれこれ4ヶ月程でしょうかね」

「小競り合いがあったなら保たんな普通なら」

「そう思いますよねぇ?だが結果は違った」

 

 実際はどれだけ鉄血を倒しても戦力として一切変わらず哨戒に出されていたという。その結果、均衡が生まれ膠着した。

 

「恐らくはあの街に何かがある筈ですね」

「そう読むのが普通だわな」

「っととと、余談が過ぎました。報告を続けて下さい」

 

 指揮官に催促されてランデブーポイントにて起きた事を報告する。最初ランデブーポイント周辺には数部隊の敵が張り付いていた。それをピリアのスキルで撃破した事、その後ブラボーと共に物資を補給した後、敵の猛攻撃が始まった事。それによって甚大な被害が出てしまい撤退を余儀なくされた事を報告した。

 

「……以上が今回の作戦の全様だ」

「そうですか……とりあえずは生還出来たという所ですね」

「全くだ」

「ふむ、ではこちらから今言える事を話しますか。まず旧市街地周辺は閉鎖して、防衛線を貼ります。戦術人形の部隊と自動防衛システムで維持は可能かと」

 

 今度は指揮官からの話が始まる。暫くはあの街には誰も行かせられないと言った所だろうか。謎は残るが今はこうするしか無いのだろうとジョセフは考える。

 

「それに関連してジョセフさん達には一つ依頼をしようと」

「依頼?」

「えぇ、旧市街地から鉄血の人形が絶え間なく現れる原因の特定をしてもらいましょうか」

「わざわざ俺達に?普通ならそっちの戦力で十分可能だと思うがな」

「原因は特定出来ますがね、ただ副産物も欲しがってる奴が居るのはご存知でしょう?」

「さぁね、ゴロツキ共が集まって来そうなのは確かだがな」

「おや、アーキテクトの事もゴロツキと思ってますか?」

「あ?」

「知っていますよ。彼女、最初の接触以降頻繁に貴方と通信しているのを。まぁ、私達に不利益にはなってないので今のところは放っておいてますがね」

「……」

 

 彼女は必ず秘匿通信を使っていた筈なのだが、何故この男にはバレていたのか、それが分からなかった。それともう一つ言えるのが、この依頼を拒否する事がこの時点で出来なくなっている事だ。

 

「正直な話をしますとね?鉄血の人形の解析はある程度進んでいますけど、武装単体の解析はあんまり無いんですよ。そこで相談なんですがね、彼女を貴方の部隊のオペレーターとして任務に着いてもらおうかと思っているんですがどうでしょう」

「アイツは捕虜だろ?」

「えぇ、ですがその処遇を決めるのは私ですよ?」

「職権濫用じゃねぇか」

 

 指揮官という立場を利用、ないし悪用しているのか手慣れた様子で捕虜の処遇を決めたようだ。ジョセフにとっては前の任務で、スムーズに進行出来たのはアーキテクトが居た為、今後も出来れば支援を貰いたい所ではあった。彼にとって渡に船と言える物であるのは確かだ。

 

「何を言いますか、そっちも情報抜き出しているじゃ無いですか。お互い様ですよ」

「はぁ……それで?見返りはなんだ?」

「話が早くて助かります。そちらが開発した装備のデータを渡して貰うというのでどうでしょう?」

「それで手を打とう。ただ、渡せる物は量産可能な物だけになるがいいか?」

「えぇ構いませんとも」

 

 指揮官の口車に乗せられた形ではあるが、新たな依頼とオペレーターが得られた。その依頼がやや条件が悪いことを除けばだが。

 

「それよりもだ……どうしてG41の頭を撫で続けているんだ」

「どうにも近づいて来るとつい……ほら、猫とか犬とかと一緒ですよ」

「むぅ……もっと撫でて下さい。ご主人様ぁ」

 

 ジョセフが言うように指揮官の元には、お座りの体制をして目を細めているG41の姿があった。こうして見るとより一層、犬っぽいと彼は思った。

 

 

 

 指揮官と分かれて、部屋の外で待機していたピリアに声を掛けて、自分達の拠点に帰る事にした。帰り際に彼女に今後の行動や次の作戦の事を伝える。

 

「それで?ジョセフはそれを引き受けたんだ?」

「引き受けざるを得なかったってのが正確なとこだがな」

「またあの街に行くって感じかな?」

「今度は64式自と89式も正式にこっちに来るようだし、前よりかは進み易いと思うが、どうなる事やら」

 

 殲滅作戦では無く、調査任務という事もあり。今回の作戦のように出てきた敵を殲滅する必要が無くなったとは言え、あの防備体制では合間を縫うのも、厳しいだろう。

 ジョセフが作戦を考えていると、ピリアがふとこんな事を口に出した。

 

「2人が来るなら、部隊名を考えなきゃだね?」

「部隊名?どうせ俺たちだけだし要らんだろ」

「要るよ!ほら、私たち一応傭兵集団になっているから……ね?」

「ね?じゃねぇよ。悪目立ちしたらどうする?」

 

 ジョセフが彼女の提案を却下する。今まで部隊名なぞ無くても仕事が出来ていた彼からすれば必要性が感じられない上に、変に名前が広がって仕事が減るのを嫌った結果である。

 

「むぅ……バディ達も交えて後で決めるからね?」

「おいだから……あぁもう好きにしろ」

「やった!」

 

 ジョセフが折れて、部隊名を付ける事になった。面倒な事になったと思いつつも、これからどうしようか考えながら、帰路につくのであった。




これだけ先に上げとけよって?ハイすみませんでしたorz

正式に89式と64式自(とアーキテクト)がジョセフ達の部隊に編入されます。
はてさて、ここからどうなるのやら


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Chapter1 旧市街地攻防戦another
STAGE1-1 夜襲 ピリア視点


さりげなく書いていたピリア側の視点です。
とは言っても基本的にジョセフ側と変化はあまり無いので、読まなくても大丈夫です


 SB07地区 旧市街地 22:00

 街灯も全て消され、生活の色を失った街は今や物言わぬ機械の兵によって制圧されていた。

 暗闇の中で人影が蠢いてる。それらは皆全て同じ姿を象っている。

 鉄血の下級人形、イェーガーだ。彼女達は周囲を見渡して警戒をしている。だが、夜の死角を全て埋められる程の物では無いようだ。

 

 物陰から物陰に、静かに動くピリアとジョセフ。敵地に潜り込んでここまで誰にも気付かれずに中を散策出来ているが、肝心の人質がまだ見つからないでいた。

 因みに他のチームはM1911、M9、Uziという構成で正面切って戦うのは無理がある。現在は別行動をしておりスモークによる吊り出しをやっている。

 何処に居るのかはグリフィンのほうでも不明で、直接探す以外の方法が無い為、こうして潜入しながら捜索をしている。

 作戦に必要だからと言ってペルシカに用意してもらったサーモセンサー式の望遠鏡を建物の中に使いながら、周囲に目を張るピリアと、肉眼で敵の場所を確認するジョセフ。

 

「このポイントもハズレ……一体何処にいるんだろう」

「奴らもバカじゃ無い。郊外よりかは守りやすいポイントを選ぶ筈だ。裏をかこうとしなければだが」

 

 次の捜索ポイントを決めようとしている2人を狙う不穏な影。

 

「そうなると今度は……⁉︎」

 

 ピリアは突然銃を構えて一発撃ち込む。ジョセフが銃口の先に視線を移すとそこには、今倒れたイェーガーが居た。

 

「ちっ!気づかれたか!」

 

 ジョセフが舌打ちすると、その倒れたイェーガーの周りから続々と鉄血の人形が現れ出す。あっという間に2人の前には鉄血人形が塞がった。

 2人は改めて銃を構えて、戦闘体勢へ移った。

 

 左右に展開して交戦を開始する2人。ジョセフが右側の、ピリアが左側の遮蔽に移動して迎え撃つ。

 

 ピリアはまず近距離にいるリッパーやガードを撃ち抜いて自身の安全をある程度確保した後、少し移動をして遠くにいるイェーガーやヴェスピドに照準を向けて撃ち込むと、こちらに向けて撃ち返して来た。

 人形特有の演算能力で敵の弾道でこちらに当たる物を読みながら、的確に数を減らしに掛かる。

 

「前に進む、カバーしてくれ!」

「了解!」

 

 遠くの敵を一掃するとジョセフが前へ走る。その間ピリアは彼をカバーする為にスコープを覗かない状態で周囲を警戒すると、数隊程のリッパーがジョセフに襲いかかるが、これをフルオート射撃で一掃するのが見えた。

 

「リッパーの後ろ!ヴェスピドが居る!」

「あいよ!」

 

 リッパーが一気に倒れた後ろからヴェスピドの姿が見えた。即座にスコープを覗いて一体ずつ撃破していくのと同時に赤いレーザーがヴェスピドに当たるのが見えた。ジョセフの銃から出た物だろう。それらによって敵の集団が軒並み消えたので、先のポイントへ進んで行く。2人共全力でダッシュして、急いで行くが十字路に差し掛かって所で、敵がまたゾロゾロと現れた。

 

「くそ!新手か!」

 

 ジョセフが愚痴を零している間にピリアは狙撃体勢に適した遮蔽に陣取り、敵が攻撃する前に先制射撃を開始した。手前側に展開されたブラウラーがジョセフに攻撃を開始するまでにスコープを覗かない範囲である程度数を減らしていく。しかしその後ろからはガードの群れが近づいていた。それも倒していこうとするが数が一向に減っていかない。

 

「そこの2人!こっちに来て下さい!」

 

 不意に横から声を掛けられたのと同時に、ジョセフの前側に煙幕が張られる。スモークのせいで前方が見えなくなった為、そちらの方に目を移すとブレザーを着た少女が住宅のドアの前に立っていた。IFF反応からしてグリフィンの人形だと把握出来たので、とりあえずはついていく事に決めた。このまま戦ったとしても勝ち目が無い為だ。2人が中に入った直後に少女はドアを閉めた。

 

「あんたは?」

 

 ジョセフが少女が何者なのか聞いた。ここでピリアは彼女がグリフィン所属である事を言おうとしたのだが、それよりも早く向こうが口を開いた。

 

「その話は後にしましょう!今はここから離れる事が先です!」

 

 そういうと少女は住宅の奥へと進んでいった。ジョセフがそれに付いていった為、ピリアもその後ろから付いていく事になった。




実はジョセフ側よりも先に作っていたSTAGE1-1のピリア視点
その為、ジョセフ側と全く一緒の描写が最初の方にあったりと荒削りな部分があったりします

次回のピリア視点は1-3です。1-2は2人共通の視点となってます


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STAGE1-3 ピリア視点

ピリア側の視点で送られるSTAGE1-3です
上からの援護射撃の強さが出ていればなと思います


 バディと89式と出会ったピリア達は2階の角の一室で準備を整えていた。しかし部屋から普通に出ると、かなりの敵と戦う羽目になる為、窓から飛び降りて脱出する事になった。その時にジョセフが先行して、ピリアがその援護を、バディ達は廊下側から来る敵の対処を行う事にした。

 

「それじゃ、始めますか」

 

 廊下に設置されたバディのトラップの爆発とジョセフの一言が、作戦の始まりだった。

 

 ジョセフが最初に窓の外を見る。暫しそのままの状態で待っていると窓を一気に開け放った。ピリアも同じタイミングで窓を開けると彼は外へ飛び出した。ピリアは外に出たジョセフの援護の為に上から周囲を見渡すと、イエーガーの集団がジョセフの方に向くのが見えた。ジョセフが放置された車を遮蔽にするまでの合間に、照準を定めて、撃ち始める。その間に4体程倒していた。

 

 イエーガーの攻撃が収まったタイミングでジョセフも攻撃を始める。彼が物陰から出てきた時には既に残り数体まで減らしており、全滅するまでに苦戦する事は無かった。そして彼が車を飛び越えて反対側を向いて構えると今度は建物側から、リッパー達が現れた。手前側という事もあり、死角が生まれていたもののジョセフの方に近づいて行くので、こちらからも撃つ事は出来た。イエーガーの群れが出てこなくなると、ジョセフがハンドサインを出す。安全が確保出来たようだ。

 

「2人とも!外に出るよ!」

「「了解!」」

 

 2人を呼んでから外に飛び出す。だが五点着地を覚えていないピリアはそのまま、ドスンとした着地をしてしまう。脚に一気に負荷が掛かり一瞬苦悶の表情を浮かべる。痛覚センサーは何故あるのだろうか?

 後ろからは64式自が飛び降りて綺麗な五点着地を見せる。その後ろからはバディが飛び出してくる。その時ジョセフはこちらに寄ってきて、バディを受け止めた。かなりギリギリだったのだろう、踏ん張った様子で抱えた。その様子を見てピリアは何かモヤっとしたものを感じた。

 

「もー私も受け止めていいじゃんかー」

「五点着地出来ると思ってた」

「ちょ、酷くない?」

 

 抗議はしたものの、あっさりと返されてしまった。ピリアは元民生ではなく、民生向けに開発している途中だった人形から戦術人形に変わった為、色んな意味で経験が無い。その為、齢で言ってしまえば0歳と言えてしまう彼女に五点着地という特殊な着地法は覚えている筈も無かった。

 

「上からくるわよ!」

「全員離脱するぞ!」

 

 ピリアは64式自の声に反応して上を見上げると、ヴェスピドが上から飛び降りたり、そのまま攻撃してこようとしていた。

 背を向けると確実に撃たれるので、それぞれ応戦しだす。だが思った以上に数が多くて逃げるまでの時間稼ぎも厳しい状況になっていく。

 

「しつこい奴らだ!」

「右のほうのボンベ、使えるかもよ?」

 

 ジョセフがボヤく。この状況だと並の人間ならば既に諦めがついているというのに、この男はしつこい程度で済んでいる事にピリアは内心驚いていた。

 64式自が指差した先を見ると確かにそこにはボンベが置かれていた。

 

「ピリア、狙えるか?」

「あれね、了解」

 

 ボンベを撃てと言われる。幸いピリア側からも見えており、また撃ち抜けない距離では無い為、容易に撃ち込む事は出来た。

 カンッという音と共に爆発が発生して、近くに居たのは全滅してさらに周りは火が広がって炎に焼かれる鉄血兵が一気に増えた。

 

「今のうちに行くぞ!」

「了解!」

 

 十分に逃げるだけの時間を稼げたので、移動を開始する。ピリア達の今の任務はあくまでも脱出、敵を全滅させる事ではない。急いでその場を離れて走る。

 

「待って!止まって!」

 

 突如64式自が叫ぶ。それに反応したピリア達の目の前で車が爆発した。彼女が叫ばなかったら今頃は火だるまだっただろうか。そしてその炎をかき分けて一つの影が現れた。

 それはモノトーンの色をした服装と肌、ガスマスクのような物を付けており、周りに浮かぶビットと自身、そう、鉄血のハイエンドの一体であるスケアクロウが現れた。ゆっくりと現れて、近づいて来た辺りでビットからレーザーが撃ち放たれる。

 攻撃自体は全員が横に避けて回避した。ジョセフと64式自が左、ピリアと89式が右へと動いた。

 

「ふん……足掻いても無駄だと言うのに。大人しくしていなさい」

「お断りだ!」

 

 スケアクロウの命令を即座に拒絶するジョセフ。だがピリアとて考えている事は一緒だ。

 

「なら、もがいて苦しみなさい!」

 

 6機のビットを展開して、スケアクロウが襲いかかって来た。




実は元ネタがあったりする1-3の戦闘の一部
多分古いしマニアックかもしれないですけど

因みにピリアの適正距離は70m〜500m程だと想定してます
ジョセフは0m〜100mの近距離戦軸です(スコープ変えれば距離は伸びます)

Anotherは次でラストです。STAGE2は色々手間が凄すぎてやり辛いですorz


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Intermission2 新チーム&オペレーター
新チーム結成


大変お久しぶりです。ノコノコ帰ってきました。
今まで何してたって?うまぴょいしてましたハイ。


 ジョセフ達が作戦の報告をしてから数日たったある日。彼らは新しい部屋を用意していた。ピリア用の部屋を買おうと模索していたが、その前にグリフィンが引き取ったようで、既にジョセフ達が住む階とその上下階がグリフィンによって抑えられていた。

 

 その内、ここの地区の指揮官は刺されそうだと思いながらも、簡単な清掃を済ませていた。無論自分で使うのでは無く、グリフィンから来る人形のためだった。

 家具は簡素なベッドと収納棚だけに留めている。これは本人が後から家具の追加をしやすい様にしている。決して面倒だからとかでは無い。

 ついでにピリアの部屋も割り当てた。早速彼女は色々置こうと考えているようだ。

 

「そろそろ来る筈だな」

 

 ジョセフが時計を見ると、新しい人形が来る時間に差し掛かろうとしていた。作業を切り上げて、彼の作業室へと向かう。すると既に先客が2人居た。

 1人はピリアだ。ジョセフの直属の配下であり、この建物の住人。2人目は89式、以前の作戦で共に行動した人形だ。

 2人が新しくジョセフの所に配属になった。

 

「改めまして、私は89式です!これからよろしくお願いしますね!」

「あぁ、よろしく。……64式自はどうした?」

「それが……修理自体は終わったんですが、彼女、PTSDになってしまったようで……」

「PTSD⁉︎」

 

 彼女の口から告げられたのは衝撃の事実だった。人形のメンタルはバックアップの存在も有り、人間よりも精神疾患に陥り辛い構造だとジョセフは思っていた。

 

《それについては私から説明させて》

「どう言う事だ、アーキテクト」

 

 唐突にアーキテクトが通信機越しから会話に割り込んで来た。

 

《グリフィンの人形はメンタルのバックアップがあるんだけど、メンタル毎に識別番号が異なってるみたいなんだよね。通常なら基地にあるサーバーに保存されたバックアップを用いて、過去の記憶を持ったまま次の素体に移せるんだけど。彼女達の基地が稼働を停止しているのか、情報が無いんだよね》

「どう言う事なんだ?」

「それが……私達の居た基地が鉄血に襲撃されて、逃げてきたんです。そこの指揮官さんの指示で。それで、暫く身を潜めようとして居た時に、あの街も鉄血に抑えられてしまって……」

《その関係で彼女達の基地にバックアップが無かったのよ、彼女達。それで、この前修理する時に64式自の中に残っているバックアップデータのアップロードとロールバック処理をしようとしたんだけど、1番古いのでも、この前の作戦で撤退した後のデータしか無くて……》

 

 アーキテクトの言葉を最後に全員無言になる。つまり、あの現場を見た記憶を残したまま次の素体に移されたのだ。機械的な部分はあれど、人間を模して作られた存在。メンタルも人間に寄せた弊害がここで現れてしまった。

 

「そういう事か……前線は無理だな」

《その事に関して相談があるんだけど》

「言ってみろ」

 

 ジョセフは頭を抱えたまま、アーキテクトの提案を聞く。

 

《彼女をメインオペレーターにするってのはどう?立場上の問題もクリア出来るし、予知レベルの危機感知能力もあるみたいだから、そっちでもイケそうって思うけど、どう?》

 

 彼女の提案は、前線に出ないなら補助に回ってもらおうという物だった。ただ一つ、問題があった。IOPのシステム上の課題が。

 

「64式自に指揮モジュールって付いてるのか?」

「いえ、分隊長でも無かったので搭載はされてません。キャパシティがあるかも分からないんです」

「そこなんだよなぁ。IOP製の戦術人形の場合、上位下位の権限の差が機体毎という訳じゃ無いからなぁ」

 

 89式の予想通りの回答に溜息を吐くジョセフ。鉄血とIOPの大きな違いの一つに、人形毎の絶対的な格差の有無が有る。上位機体が下位の人形をコントロールする鉄血のオーガスと、同格の人形から隊長格を指定する、グリフィンのツェナー・プロトコル。この二つが違いが、64式自のオペレーター転向を困難な物にしている。

 

《いやいや、この部隊の指揮権限自体はジョセフにあるんでしょ?なら簡単な話だよ。隊長として“オペレーター”へ指示を出す。そして、64式自はオペレーター室で周辺状況を“隊長”に報告する。それを部隊全員に共有する。コレならバッチしよ!》

 

 ジョセフ達はアーキテクトの提案に驚愕する。まさかそんな抜け穴があるとは気付かなかった。

 彼は人形のシステムに馴染みが無い為、ピリアと89式はシステムの抜け穴がある事自体、考えられなかった。

 

「その手があったかぁ……それなら行けるな。まぁ慣れは必要だろうがな。丁度、巡回任務がある。そこで色々、試してみるか」

 

 ジョセフはパソコンを操作して、一通のメールを2人に見せる。内容はSB07地区市街地部の定期巡回任務の依頼書がグリフィンから出ていた。

 

「街中でオペレートの練習と洒落込むか。64式自がやれそうになったら引き受ける。それまで各自待機だ」

「了解」「りょーかい!」

 

 

 

 一方その頃、アーキテクトは……

「ここよりもスプリングフィールドさんの喫茶店の方が落ち着くと、アーキテクトさんは思うだけどなー?」

 

 お惚けた口調で訪問者に話し掛けるアーキテクト。彼女が居る捕虜用宿舎の一角、アーキテクト用の個室に訪れた1人の人形が居た。

 

「戦えない人形が居ていい場所に思えないから……どうして解体されなかったのか不思議でならないわ」

 

 その人形は64式自だった。アーキテクトがジョセフとの通信を終えた後、64式自はここに訪れたのだ。その表情はとても大丈夫とは10人がみても誰も思わないものであった。

 

「あの面々なら気にしないっしょ。それに、何も前線だけが戦いじゃないサ☆」

「私達は前線で戦うために造られたのよ。それが出来なくなったら、存在意義がないの。分かる⁉︎生まれた意義を全う出来ないこの苦しさが!」

 

 笑顔でウィンクしたアーキテクトの事が気に触れた64式自は、感情的になってアーキテクトの服の襟を掴みあげる。

 

「それで言ってしまったら私の方こそ存在意義が無いことになるよ」

「?」

 

 先程までのおちゃらけた雰囲気から一変して、真面目なトーンで話し始める。

 

「鉄血工廠の兵器開発用に造られたっていうのに、今やグリフィンに捕われて、しかも情報を流している。コレで鉄血の人形としての存在意義ってあると思う?」

「⁉︎」

 

 襟元から力が抜けていくのをアーキテクトは感じた。64式自は手を離して、目を伏せる。

 

「……ごめんなさい」

「いいのよいいのよ!それにさっきも言ったけど戦いって前線だけじゃないから!」

 

 いつもの雰囲気に戻ったアーキテクトに今度は困惑する64式自。確かに前線以外にも戦闘に関連する物はあるが、一介の人形に出来る事はあるのだろうかと首を傾げる。

 

「さっきジョセフと話してたんだけど、君にオペレーターをやって貰おうかなって思ってね。この宿舎の使われてない部屋を改造して、オペレータールームにする。そこで実働部隊では分からない情報を伝える。これも十分、戦闘に貢献出来るよ!」

「でも私、指揮権限が……」

「大丈夫、64式自は隊長であるジョセフや他のメンバーにオペレータールームで判明できる情報を伝える。そこに指揮権限は不要だよ!」

「そんな事出来るの?」

「物は試しだよ!準備が出来たら、市内の巡回任務で試験運用だって」

「えぇ……」

 

 急に決まったオペレーター業に混乱と困惑しか出来ない64式自だった。




64式自、オペレーター就任の巻
彼女の能力ってオペレーター向きだと思うんですよね。

オペレーター時にゲーム的なフレーバー入れるとしたら
スキル:未来予知
発動から一定時間、敵の移動先、攻撃タイミングが分かる

といった感じがします。
次回は試験運用編です


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市街地巡回任務兼オペレーター運用試験

割とすぐ出来たお話です。
ジョセフ達と64式自がSB07地区の市街地で色々試します


市街地巡回任務兼オペレーター運用試験

 64式自のオペレーター転任を決めて数日後、その運用試験を兼ねた巡回任務を執り行う事になった。

《こちら64式自、感度確認どうぞ》

 

 小型のイヤホン型通信機から64式自の声が聞こえてきた。音質はクリアで雑音は無い。

 

「こちらジョセフ、感度良好だ」

「私も大丈夫」

「こっちもOKだよ」

 

《アーキテクトだよ!こっちも大丈夫?》

 

「問題ないが声がデカ過ぎると音落とすぞ」

 

《ごめんごめん。じゃあそっちに渡した装備の説明をするよ。基本的にオペレーター室はジョセフを除いた2人の視界情報をグリフィンが持ってる共有装置を介して見ているよ。ジョセフ用のは無線機一体型を今作ってるから暫く待っててね》

「わかってる」

《ただその視点だけじゃ戦況が把握しきれないと思うから、超小型のドローンデバイスをジョセフとバディに渡してあるよ》

 

 ジョセフと89式はそれぞれ小さな機械がある事を確認した。大きさは片手で握れるサイズだ。

 

《そのドローンデバイスは握り締めると起動して一定の高度まで自動で上がるように出来ているよ。そしてデバイスにはカメラが付いてるから、それで敵の位置が分かるようになってるから、64式自ちゃんはその情報を共有してあげてね》

「分かったわ」

《あ、因みに飛行時間は2分ぐらい、時間が経つとカメラ共有機能がオフになって持ち主の所に戻るように出来ているから回収してね。大体一機で3回分は飛ばせるよ》

 

 説明を続けるアーキテクト。デバイスを掌の上で転がしている物体がドローンとは思う人間も少ないだろう。

 

「再チャージは出来るのか?」

《ジョセフに渡したエネルギー簡易チャージ機なら出来るよ。大体10分で一回分は使えるようになるかな。まぁまだ乱用は厳しいけど、改良していくよ》

 

「了解。とりあえず、巡回しながらやってみようか。全員準備はいいな?」

「出来てるよ、ジョセフ」「こっちも出来てます!」

「じゃあ、任務開始だ」

 ジョセフがそう言って部屋を出ると、残りの2人も外に出た。

 

 

ーSB07地区 商業区(夜)ー

 前回ジョセフとピリアが巡回した時は昼だったが、今回は夜の巡回になった。他の地区から来た人形で少々賑わっている。明かりは十分に灯っており、暗さを感じさせない。

 

「昼に来た時は閉まっている店が多かったのに、今は多いんだ」

「“客”がいるからだろうな。その時だけ営業してればいいって感じがしている。中にはその時しかこの区画で店開かん奴もいるぜ」

 

 ピリアの疑問にジョセフが答える。この区画は人形が来れば賑わう祭りみたいな場所なのかもしれない。

 

「とりあえずここで一回使ってみるか」

 

 ジョセフがドローンデバイスを取り出して握りしめて離すと、畳まれていたプロペラが展開され空に目掛けて飛び立った。

 

「画質とかは大丈夫か?」

《……問題は無いわね。顔識別は……出来そう。異常は特に無いわ》

「OK、じゃあ俺たちの視線の先のコンテナの後ろは何が見える?」

《……モシンナガンさんが完全に出来上がってます》

「グリフィン本部に一報いれておいてくれ……」

《了解》

 

 初っ端から変な物を見てしまった気分になったジョセフ達は、酔っ払ったモシンナガンを本部に丸投げして巡回を進める。

 2分経過してドローンがジョセフの元に戻ってきた。彼はそのデバイスをチャージ機に差し込む。

 

「戦場だと制約がキッツいが、便利っちゃ便利か。そういえばこのチャージ機やらドローンはどうやって作ったんだ?」

《ジョセフが回収して来てくれた鉄血のパーツとグリフィンで出た廃材を組み合わせた物だよ。特に簡易チャージ機には下位人形のエネルギーユニットで組んでるから、マガジンへの補充も出来るよ》

「つまり上位人形だったらもっと効率上がるって事か」

《そゆこと!まぁ、回収して来てくれたらそれだけ改造出来るってのを頭の隅っこでも覚えてね》

「分かった」

 

 その後も雑談をしつつ巡回をしていくジョセフ達。商業区の表通りの方は酔っ払いを見つけた事以外に異常は無いまま、裏路地の巡回に差し掛かろうとしていた。

 

「89式、ドローンユニットを路地の先に展開してくれ」

「分かりました!」

 

 89式がカバンからドローンユニットを取り出して、前面に投げるとそのまま飛び立って路地の方へ旋回した。

 

《明かりが少なくて見えないわ》

《暗視モードに切り替えてみて。このスイッチで……》

《それを先に言って下さい……人影が居るわ、3人。180cmぐらいの男2人が子供に何か言い詰めてる》

「了解、俺が先に接触する。ピリアは後ろから狙撃待機、89式は回り込む。64式自は89式にルート指示を出してくれ」

 

 情報を元にジョセフが指示を出すと、各自展開を開始する。ピリアは狙撃しやすい様に木箱にバイポッドを立て、89式は別の道に移動を始めた。64式自がそれをフォローする。

 

「さてさて、何が居るのやら」

 

 ジョセフはゆっくりと男達の方へと近づきだした。




夜の巡回って何か起きない事は無いよねって所で終わりです
そういえばこの部隊HG居ないんですが視野確保とかはどうするかは今後のお楽しみという事で


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