転移者、ガラルの地にて (ジガルデ)
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1話
よろしくお願いします
その男は目を覚ました。
初めは何かの見間違いかと思い、目を擦ったが広がる景色に変わりはなかった。
「何処だ?ここは…。」
昨日は確か、レジエレキの色違いを粘っていたはず。
試行回数が1500回程を超えたあたりから数えるのはやめた。
たしかに何度かは色違いは出たが、必ずスピードボールで捕まえると意気込んで始めた手前、妥協することは許されず、3個しかないスピードボールによるチャレンジは皆失敗に終わっていた。
だが、その努力が報われる事なく自分は謎の地に飛ばされていた。
ガチャ…
とりあえず起きあがろうと体を動かした時だった。
腰周りから金属だか何だかが擦れるような音が響いた。
その音の正体を確かめるべく、男は腰回りを確認した。
「これは…モンスターボール?」
そこにあったのは、いつもゲーム画面で見ていたボールの数々。
ゴージャスボール、プレミアボール、コンペボール、ウルトラボール、スピードボール、フレンドボール。
そのボールの羅列には当然覚えがあった。
これらのボールは自分の身内とダイマックスアドベンチャーをして遊んでいた時にどうせなら色粘りとオシャボを並行して、該当ポケモンたちを捕獲する時に使ったボールたちである。
まさか、とは思い、一番右手の触れやすいところにあるゴージャスボールに触れる。
すると、ボールの中の何かが嬉しそうに揺れたような感覚が手のひらで感じ取れた。
その感覚のまま男はボールからそのポケモンを解放する。
「やっぱり…お前か…」
出てきたのはアローラ地方の守り神の一体、名をカプ・テテフ。
その色は当然のように黒色だった。
そうなれば後のポケモンたちも何が控えているかなどわかったもので、それを確認すべく他のポケモンたちもボールから解放していく。
「カグヤに、ランド。レヒレにサンダー。そして…」
次々と姿を見せるポケモンたち、その全てが色違いと呼ばれる貴重な存在たち。
そんな中、最後のフレンドボールからそのポケモンを呼び起こす。
「あぁ、お前しか…いないよな。相棒。」
ルビー、サファイアの時、いろんなポケモンたちが居た中で一番好きだったポケモン。
剣盾が発売された時リストラされていて凄く悲しんだ思い出。
けれど、冠の雪原の解禁で内定されたうちの一体。
岩・鋼タイプにしてバンギラスの対のようなメガ進化を会得していた最高の相棒。
「ボスゴドラ…。」
捕獲されているボールからしてこいつは初めて捕まえた個体ではない。
いや、そもそもフレンドボールで捕まえた個体は乱数を使って掘った穴から捕獲した一体だ。
故にこの個体との思い出はほぼないと言っても過言ではない。
しかし、ボスゴドラというポケモンへの愛だけは変わらない。
その変わらない愛をこのボスゴドラにも注いできた。
バンギにしないの?と、何度も何度も言われた。
それでも男はボスゴドラの可能性を信じ、常に手持ちに加えてきたし、特別ランクマに潜るわけでもないし、好きなポケモンくらい好きにさせてくれ、と突っぱねてきた。
ワタルのカイリュー、ダイゴのメタグロス、シロナのガブリアス。
この男にとってのその枠がこのボスゴドラである。
「そっか。俺、ポケモンの世界に来ちまったのか。」
目に涙を浮かべながら男は呟く。
目の前にいるポケモンたちは何事かと焦りを見せる。
自身の親が突然涙を流し始めたのだからそうなるだろう。
「いや、嬉しいだけさ。データだけの存在だったお前たちに本当の意味で触れ合えるようになったんだからな。」
そう呟き、彼等彼女等を抱きしめる。
この時はまだ、男が持つポケモンたちの異常性をまだ理解していなかったのだから…。
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2話
今一度、男は周りを見渡した。
ここがポケモンの世界なのだとしたらどこの地方なのか、そして時系列はどの時代に当たるのかを確かめるために。
しかし、広がるのはだだっ広い平原だけ。
だが、そんな平原の中でも、遠くの方には見覚えのある建物があった。
それは自然豊かな平原の中には不釣り合いな程科学を発展させた建物群。
「エンジン…シティ…。」
ガラル地方のジムチャレンジ開会式の場でもあるエンジンシティの煙突群である。
そこから逆算するに、今自分がいるのはおそらくワイルドエリアでこもれび林と呼ばれる区画。
そう思って目を凝らせば、たしかに向こうのほうには見張り塔の跡地がある。
もしかしなくても確定でガラル地方に居る。
「なるほど、だからこの手持ちか。」
冠の雪原が解禁されてから捕まえた色違いたち。
友達がランクマで使うために色違いを求め何度もダイマックスアドベンチャーを繰り返して居た。
男はただコレクションとして色違いを求めていたため利害が一致し、一緒に色違い厳選を繰り返した。
今いる手持ちはその中でも拘って厳選したポケモンたちだった。
特にコンペボールのランドロスなんてあらゆる苦行を乗り越えたその先にいるのだから…。
だが、男は知らない。
今はそのコンペボールが対象商品を買うだけで実質無料で貰えるようになっていることなんて…。
その事実を知った時、男は確実に発狂するだろう。
来る日もくる日もぼんぐりを集め、何度も何度もあのクソ鳥マシンに飲み込ませ、吐き出させてきたのだから。
「ガラル地方ならジムチャレンジに参加してみたいが…。いきなりこの世界に来て誰も知り合いがいない地。推薦状なんて貰えるはずもない。幸い金やアイテムは本ROMのが流用されてるみたいだから困らないが…。厳しそうだな。」
ダンデや、マグノリア博士、ローズ委員長と言った大御所やヤロー、ルリナ、カブなどのジムリーダーたちとも知り合いではない男が突然押しかけて推薦状をよこせと言っても無理だろう。
そもそも、もうジムチャレンジが始まっていたら意味もない。
それに今の自分なら確実にダンデを倒せるだろうが、そうしてしまったらこの世界の本来の正史であるユウリ、またはマサルが歩むはずの道を変えてしまう恐れもある。
となれば、今の時系列を早々に把握し、ユウリ、マサルの出場しないであろう年の推薦状を貰うべく、行動を開始するしかない。
そのためには自分の実力がどれほどのものなのかを見せつける必要がある。
ゲームのデータ通りなのであれば、男の手持ちは皆、すごい特訓をし、技構成、努力値配分もしっかりとしている。
ランクマッチに潜らないとはいえ、自分のお気に入りなのだから最強であってほしいと願うのは親なら当然だろう。
「なら、向かうはエンジンシティか。」
男は周りにいるポケモンたちをボールに戻し、歩み始める。
一歩、また一歩とその足はエンジンシティへと向かっていた。
頭の中にはそこにいるであろうカブに対して看板破りをする気しかなかった。
今いる時代が、剣盾の時代から3年前であると知らずに…。
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3話
主人公の男の名前がやっと判明します
「カブさんは、ただいま特訓として第二鉱山の方に出向いている為、お会いすることは出来ません。また、ジムリーダーとしての仕事もありますので、アポを取って頂かなければ困ります。」
男はエンジンシティのジムにカチコミに行ったのだが、受付で門前払いにあっていた。
ゲームでは一部例外を除いて基本的にはジムの中にジムリーダーはいるのだが、現実世界ではそうはいかなかった。
「では、いつ会うことができるだろうか。出来るだけ早く会えるように調整していただきたいのだが。」
と、男は食い下がる。
受付の女性に関しては慣れているのだろう。
いつものことか、といった手際で予定を確認する。
「そうですね。今週は全て予定が埋まってますので、当分は不可能ですね。」
「そこを、何とかしてもらえないだろうか。」
「いえ、それは出来ません。」
と両者とも引かずに変わらぬ答えを繰り返す。
そんな時だった。
受付に向かって、「どうしたんだい?。」と声をかけてきた人がいた。
振り返るとそこにいたのは男が待ち求めていたカブその人だった。
「いえ、こちらの方がカブさんに合わせてほしいと言って聞かないもので…。」
と、受付の人はカブに事実を告げる。
「私にかい?今日は少し早めに訓練を辞めたから時間があるし、今からでもいいかい?。」
さすが人格者カブである。
男はその言葉に甘えてカブについていく。
「私は…アイビーと言います。この度は、私をジムチャレンジの推薦状を書いていただきたくお願いにきました。当然、実力を測ってもらっても構いません。」
男、アイビーはカブに対して頭を下げた。
「ふむ、最近はジムトレーナーとして経験を積んでから推薦状をもらう流れが主流になってきているため、君のように直談判にくる子を見るのは久しぶりだね。僕としては推薦状を書いてあげてもいいんだけれど、そうすると僕のジムで経験を積んでいる子達が不平不満を抱くだろう。そうだね、1vs1で戦おうか。そのバトルで他のジムトレーナーたちを納得させられるだけの実力を見せることができたら推薦状を書いてあげよう。やるかい?。」
「是非、お願いします。私は今からでも構いません。」
アイビーは身を半分ほど乗り出しながら食いついた。
カブとしてもジムトレーナーを納得させられるだけの試合をできるとは思っていないのだろう。
でなければぽっと出の男に推薦状を書くなど言わない。
しかし、アイビーの手持ちはアイビーが最強であると確信している育成が施されたポケモンたちである。
当然、レベルも100だ。
万が一にも負けることはないだろう。
「今僕のポケモンたちは訓練後で疲れてるからね。明日の朝でもいいかい?。」
「わかりました。では、明日お願いします。」
というように話は収まり、アイビーはジムを後にする。
頭の中には誰を使うか、それしか考えていなかった。
次回やっとポケモンバトルします。
レヒレは使いません
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4話
カブとの決戦の場。
その会場には、エンジンシティのジムトレーナーたちが観戦に来ていた。
ここでアイビーは己の実力を見せ、推薦状を勝ち取らなければならないのだから。
「ルールは1vs1。道具の使用はなし。フィールドはノーマル。ダイマックスはなしだ。何か他に質問はあるかな?。」
「いいえ、私からは何も。」
「では、始めるとしよう。いくぞ、マルヤクデ!!」
カブが駆り出したのはやはり、マルヤクデ。
恐らく本気のキョダイマックス個体だろう。
物理攻撃力がそこそこある炎・虫タイプのポケモンだ。
「初陣だ、ボスゴドラ!!」
フレンドボールから現れたのは、通常とは色が違うボスゴドラ。
アイビーの相棒にして切込隊長でもあるポケモンだ。
「ボスゴドラってあんな色だっけ?。」
「なんか色が違う…よね?。」
といった困惑の声が会場を包み込む。
色違いなんてゲームの確率では、1/4096だとか言われているが実際にそんなホイホイいるかといえば答えは変わってくる。
色違いなんてのは、ほぼ居ない。
出会えたら奇跡であると言ってもいい存在。
色が違うポケモンはあるらしい、程度の都市伝説でしかない。
「まさか、本物の色違いのポケモンとバトルする日が来ようとは…。」
カブも驚いてはいる。
驚いてはいるが、それで動揺を誘えるほどのものではない。
「チャレンジャー、アイビーvsジムリーダー、カブ!バトル開始!!」
その瞬間、ジャッジマンによるコールが入る。
それに合わせて動き出したのはカブの方だった。
「マルヤクデ!とぐろをまく!!」
「っ!ボスゴドラ鉄壁!」
マルヤクデがぐるぐるととぐろを巻いている間にボスゴドラがその体の硬度を上げていく。
両者とも初手は積み技と呼ばれる技を使い、次の技へと備える。
「いくぞ、ボスゴドラ!」
「マルヤクデ、この一撃に全てを!」
この時、少なくともカブに関してだけいえば、この一撃で勝負が決まると確信していた。
長いジムリーダー期間の中で培った勝負勘というものである。
自分のマルヤクデではアイビーのボスゴドラは突破できない。
出来るとすれば一度とぐろを巻いて攻撃を上げ、その上でボスゴドラの急所にこの奥義を当てるしかない。
もっといえばボスゴドラの特性が頑丈だとしたらその時点で詰みだ。
「諸刃の頭突き!!」
「フレアドライブ!!」
放たれたのはお互いがお互いとも自傷技と呼ばれる大技。
相手に与えたダメージから割合で自分もダメージを喰らう代わりに凄まじい威力で相手にダメージを与えることができる技である。
「ガァァァァァァァ!!」
「キィィィ!」
お互いのポケモンが雄叫びをあげながらぶつかり合う。
マルヤクデが纏う焔は未だ勢いが落ちず、ボスゴドラの頭突きの勢いは走り出してから全く速度が落ちていない。
まさに意地と意地のぶつかり合いと言ったものか。
しかし、勝負の世界は残酷だ。
特にポケモンという存在は如実にそれを表している。
虫、炎の複合タイプに岩技は4倍のダメージを与える。
逆に鋼、岩の複合タイプであるボスゴドラに炎技は等倍でしかない。
それを見せつけるかのようにマルヤクデは勢いを少しずつ落としていき、ボスゴドラはその勢いを増していく。
「グォォォガァァァァァァァ!!!」
そして、戦いの勝者は勝利の咆哮をあげる。
立っていたのは、アイビーのボスゴドラだった。
ボスゴドラ ♂
呑気な性格(わんぱくミント使用)
昼寝が大好き
技構成
鉄壁
諸刃の頭突き
???
???
特性
???
HA252B4振り
いじっぱ頑丈イバン型では無いです
因みに使うのならイバン型の方が使い方がはっきりしているので使いやすいと思います
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5話
「おめでとう、君はジムチャレンジに挑戦する権利を勝ち取った。ボスゴドラとマルヤクデというタイプ相性というものはあれど、僕だって負けるつもりはなかった。他のジムトレーナーのみんなも認めていたよ。だから君は胸を張ってジムチャレンジに挑戦するといい。君にはあの無敗のチャンピオンであるダンデくんすら倒せる、そんな気がしてならないよ。」
カブとのバトルの翌日、呼び出されたアイビーはカブからジムチャレンジの推薦状を受け取った。
「そして、これも渡しておこう。これはダイマックスバンド。特定の場所でのみ使用が可能になる不思議な現象、ダイマックスを使うために必要なアイテムだ。先の戦いでは使わなかったのは君がこれを持っていなかったからだが、次はそうはいかないよ。君が僕のジムに挑戦しにくるときまでに今以上の力をつけて待っているからね。」
はい、と渡されたそれはゲーム序盤で手に入ったアイテム、ねがいぼしから作られるガラルの謎パワーをポケモンに注入する装置、ダイマックスバンドだ。
「ありがとうございます。ですが、私も負ける気はありません。当然やるからには制覇を狙っていますから。」
「うん、僕のジムは君にとって、ただの通過点でしかないだろう。いや、むしろそれくらいの気持ちでやってくれなければ、困るというものだ。」
カブは優しく微笑みながら答える。
「そうだ、最後に君の仲間達を見せてもらえないだろうか。君の相棒たちを一度見てみたいんだ。」
「それは………いえ。わかりました。ですが、今はまだ他の人に見られるのは避けたいので誰もいない場所でなら、お見せしましょう。」
初めは断ろうとしたアイビーだが、推薦状を書いてもらい、ダイマックスバンドまでくれたカブのお願いを断ることはできなかった。
どうせジムチャレンジに参加してジムリーダーたちと戦えば自分のポケモンたちは皆みんなの前に姿を見せるのだ。
少なくともボスゴドラ1匹だけで攻略しようにも、ジムの特徴上、キバナのジムでもう1匹を見せなければならないのだから。
「今の時間帯ならここは誰も使ってない。ここでもいいかい?。」
連れてこられたのは昨日カブと戦ったステージ。
ボスゴドラとマルヤクデの衝突の跡がステージのど真ん中に大きく口を開けていた。
「では、みんな出てこい。」
六種類のボールから次々と姿を現すアイビーのポケモンたち。
皆が皆、アイビーの姿を視認すると嬉しそうに駆け寄って行く。
アイビーの胸は私の場所だと飛びつくカプ・テテフ。
アイビーを抱き締めるように背後に立ち包み込むテッカグヤ。
やれやれといった様にその様子を眺めるランドロス。
久々の外を満喫するようにアイビーの近くを旋回するサンダー。
それらの様子を見て優雅に微笑むカプ・レヒレ。
それとは正反対に眠そうにアイビーの近くで横になるボスゴドラ。
その様子を見ていたカブは言葉を失った。
少なくとも知識として彼が持つポケモンたちは知ってはいた。
知ってはいたのだが、その知識にあるポケモンたちの姿と彼が持つポケモンは明らかに異なっていたのだから。
「アイビーくん…君は…いったい…。」
「カブさん、これが私の自慢のポケモンたちです。彼らに出会うまで物凄い数の出会いと別れを経験しました。でも、それらを乗り越えた先にいた彼らを私は心の底から愛しています。」
「………。」
カブは嬉しそうに笑うアイビーを見て言葉を失った。
アイビーの言う出会いと別れ、それが何を指すかはわからないが、おおよその予想はつく。
普通に過ごしていても色違いのポケモンなんて出会わない。
カブの人生でもあのボスゴドラが初めて見たのに関わらず、アイビーの手持ちの6匹はその全てが色違いなのだ。
きっと沢山のポケモンと遭遇し、色違いではないのは切り捨ててきたのだろう。
さらに言えばアイビーはポケモンを入れるボールにも拘りを持っている。
皆が皆別のボール、それも既製品のボールも有ればジョウト地方の職人が作る限定ボールに入っているものもある。
これらのことからアイビーの言う愛はカブが自分の手持ちのポケモンに抱く愛情とは違い、コレクションに近い愛情だ。
多くのトレーナーが幼い頃から触れ合ってきた自分にとって大事な特別なポケモンへの愛情とはかけ離れている。
そして、アイビーはそれに気付かない。
だが、これはプレイヤーとしてゲームを遊んでいる側の人間からしたらなんてことはないものだ。
ランクマッチに潜るようなプレイヤーは当然ポケモンの性格や個体値の厳選を行う。
ある一定の基準を超えてくるプレイヤーに至っては特殊アタッカーの攻撃の個体値を0のダメかもまで粘るくらいなのだから。
その上で、色違い厳選まで行う猛者もいる、それが魔境ランクマッチ最上位の世界だ。
とは言ってもミントを忘れていたり、道具を間違えていたり、タスキ持たせてるのに砂、霰の天候にしたりミスト、エレキフィールドにいるのにあくびを使ったりするうっかりミスをしたりしても尚勝負に勝つ修羅の世界だ。
そんな彼らからすれば色違いかつボール厳選だけで満足するアイビーは可愛いものだ。
プレイヤーたちからすれば、の話だが…。
「カブさん、ありがとうございました。次に会う時はチャレンジャーとして再びこのジムにやってきます。」
「……うん。それまでにどんな成長をしているのか、楽しみにしているよ。頑張ってね。」
「はい。ほんの少しの間でしたがお世話になりました。」
アイビーは深々と頭を下げてお礼を言った後、ポケモンたちをボールにしまってジムを後にした。
その姿をカブは黙って見つめることしか出来なかった。
ゲームとしてポケモンを見ている視点とポケモンの世界を現実として生きているものの視点の違い
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6話
カブから推薦状を貰い、時間が経った。
カブのあの反応を見てからより一層自分のポケモンたちを見せびらかすべきではないと確信したアイビーは、ジムチャレンジ開催の日までワイルドエリアで過ごしていた。
あまり開会式を行うエンジンシティから離れすぎるのも良くないため、見張り塔付近でキャンプをしていた。
幸い、この辺りはゴーストタイプが多いためか、人の往来は少なくポケモンたちをボールから出していても見られるようなことはなかった。
また、ワイルドエリアの野生のポケモンたちは強い、といっても努力値やミントによる性格補正までしっかりと育成されたアイビーのポケモンたちにバトルを挑んでくる無謀なポケモンはいなかったこともあり、比較的平和に過ごすことができた。
「なんか久々だな。」
開会式の日が明日に迫りアイビーはエンジンシティに戻って来ていた。
当然目的はジムチャレンジへのエントリーだ。
アイビーはカブから貰った推薦状を片手にエンジンジムに向かっていく。
その時だった、後ろでボソッと何かを呟いた声が聞こえ、振り返るとそこには何やら白い仮面を被った少年が立っていた。
「貴方は…何者ですか?」
その少年を見てアイビーは察知した。
彼の名はオニオン、シールド版にのみ登場するゴーストタイプのジムリーダーだ。
彼は不思議な力を持っており、それのおかげでゴーストタイプのポケモンと意思疎通や、死んでしまったゴーストタイプのポケモンが見えたりするらしい。
そんな彼が明らかにアイビーを見て不審がるように呟いている。
その目線の先にいるのは当然アイビーだ。
「ご、ごめんなさい。」
オニオンはアイビーと目があった瞬間ダッシュでこの場から逃げ去っていく。
何かに怯えるように、見てはいけないものを見てしまったかのように。
「なんだったんだ?。」
何があったのかがわからないアイビーは、ただ首を傾げることしかできなかった。
☆☆☆
「はぁ…はぁ…うっ!」
アイビーを見て逃げ出した後、トイレでオニオンは盛大に胃の中のものを戻していた。
「あ…ありえない…。何をしたらあんなことになるんだろう…。」
あの時、オニオンが見たもの、それはアイビーの周りを取り囲むようにまとわりつく無数のポケモンたちの影だった。
10匹、20匹だとかそんな甘い数じゃない。
あの男に取り憑いていたポケモンは数千、数万を超える数だろう。
それらが混ざり合って肥大化し、混沌を産み出していた。
先の説明の通り、オニオンは不思議な力を持つ。
それゆえに本来なら見えない存在を見てしまった。
直視してしまった。
「うえっ!」
思い出しただけで気分が悪い。
早く忘れてしまいたい。
だがそれはできないだろう。
あの場にいたということはジムチャレンジに挑戦するということ、それすなわち勝ち進めば必ずあの人と相対するということだ。
あんな業を背負った人がそう簡単に負けるはずがないのだから。
「辞めようかな…。アレは…アレだけは…ダメだ…。」
ただでさえネガティブな思考を繰り返すオニオンを励ますようにゲンガーがボールから飛び出し、背中をさすってあげる。
それに倣って他のオニオンのポケモンたちも外に飛び出してくる。
「みんな…。」
オニオンはゴーストタイプのポケモンと意思疎通ができる、それは逆を言えばゴーストタイプのポケモンもオニオンの気持ちがよく理解できるということだ。
今のオニオンの状態を見て、心配で心配で我慢できなくなって出てきたのだ。
「うん、大丈夫だよ。」
そんなポケモンたちを抱き抱えながらオニオンは呟く。
あの男に対する恐怖が消え去ったわけではないが迷いはなくなったのだろう、その顔には覚悟が浮かんでいた。
「僕、頑張るよ。みんなと一緒に…。」
そう呟くとポケモンたちをボールにしまい、トイレから出て行った。
アイビー君は何をしたらこんなことになるんでしょうか?
本人はきっと分かってないでしょう。
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7話
「はぁ…やっと終わった…。」
長い長い開会式が終わり、アイビーはエンジンジムから外に出た。
一度シナリオはやっているからわかるが、リーグ委員長であるローズの言葉はどうにもこうにも胡散臭さが拭えないという印象を強く受けた。
ガラルを盛り上げたい、その気持ちが本心なのはわかるが、反面それを成すであろうトレーナーには一切合切その目は向けられていないのだ。
ストーリーではブラックナイトがどんなものだったのか、ムゲンダイナの存在、ローズの本当の真意などが全て有耶無耶のまま投げ捨てられたため、その辺りは不明のままだ。
「ま、それを止めるのは数年後のユウリちゃんかマサルくんがやるでしょ。俺がやるのは無敗記録のダンデに挑む、それだけだ。」
もし、この世界がゲーム準拠ならボスゴドラとサンダーがいれば制覇は余裕だろう。
それほどまでにレベル差というのは残酷なものだからだ。
しかし、この世界がアニメ準拠になれば話は大きく変わってくる。
タイプ相性で優っていても、種族値が大きく優っていても、それが劣っている側が勝つなんてことは少なくない。
有名なところだと、サトシがピカチュウと一緒に挑んだ最初のジムであるタケシのイワークだったりがそれに該当する。
ピカチュウの電気技は本来地面タイプを持つイワークには通らない。
水浸し状態だったから、といえばそれまでだが、当時の環境ではそんな技はなかったし、何故ダメージが通ったのかと聞かれた時アニメだからという答えに至るのは必然だった。
その辺りを加味して考えると、たとえアイビーのポケモンたちが最強を誇っていたとしても、不確定要素が重なれば、その差がひっくり返るなんてことはあり得るのだ。
現に、ストーリー限定ではあるが懐き度によって自分の状態異常を治したり、根性耐えをしたりするのだから。
「さて、まずはヤローさんに挑みに行きますかっと。」
だが、そんなことばかり気にしていては話は進まない。
アイビーは自分ができることをやるだけだと気を引き締め直す。
ヤローが待つターフタウンは道なりに進んで探鉱を抜けたその先にある。
真っ先に向かって挑戦するのも良いが、いい意味でも悪い意味でも目立つだろう。
いずれはお披露目することにはなるだろうが、最初のうちはボスゴドラか、あんまり色の変化がないサンダーを中心に攻略していけばいいだろう。
カプやUBを出せば国際警察や、島キングたちが動き出すかもしれない。
それ以外に出せるのは、ランドロスくらいだが、豊穣の神であるランドロスと同じ豊穣を司る王、バドレックスがいるこのガラルの地で力を発揮させた時に共鳴しあって何が起きてもおかしくない。
これらの点を踏まえても出せるのはやはりボスゴドラとサンダーの2匹に限られる。
サンダーも伝説の三鳥である点から出せば話題にはなるだろうが、ほかのポケモンを出すよりは格段にマシだろう。
何故かは知らないが、よくわからない意味不明な鳥がサンダーだと思われてる地域なのだから。
☆☆☆
「あー、着いてしまった…。」
そんなことを考えながらのんびりのんびりターフタウンに向けて歩いていっていたわけだが、何故か野良のトレーナーにも、野生のポケモンにも遭遇せずに辿り着いてしまった。
それはボールの中からでも溢れ出るカプの2匹による圧倒的プレッシャーにびびった野生のポケモンが群を成して離れていき、その大群に道を阻まれたトレーナーたちはアイビーに追いつけずに未だにターフタウンに着けていない。
「まぁいいか。この土地にはロケット団とかギンガ団やら、プラズマ団みたいなのはいないし、多少目立っても問題はないだろ。」
そう考えたアイビーは一旦休憩のためにポケモンセンターに向かったのだった。
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8話
「いやあ、まさかウールー達があんな風に逃げるなんて予想外だったよ。」
アイビーの目の前に立つのは筋骨隆々な男。
ダイマックスボールを片手で投げる筋肉マンことヤローだ。
「この付近の野生のポケモンが異常な動きをしていたのにも関係しているのかな?」
「わかりませんが、可能性はありますね。」
ターフジムのジムチャレンジの内容、それはウールーをうまく誘導し道を阻む牧草をどかしながら奥まで進むというもの。
しかし、溢れ出るカプのプレッシャーに充てられたウールー達はアイビーが一歩も動くことなく牧草の全てを吹き飛ばしながら逃げ出したのだ。
「つまり、それだけ君のポケモンが鍛えられてる証なんだろうね。今から君との戦いが楽しみだよ。」
『バトルを楽しむ』がモットーの男であり、実力が伴っていない者が相手だとしても、容赦なく叩き潰すようなことができない優しい性格のため、一番最初のジムリーダーの地位に落ち着いているがその実力は折り紙付である。
実際ガラルスタートーナメントではレベル70を超えるポケモンを5体も繰り出してくるし、なんなら一番最初のジムリーダーのなかでは最も高いレベル群のポケモンが襲いかかってくる。
ただシステム上、ダイマックスの使い方のチュートリアル感が否めない戦いにしかならず、御三家のヒバニーを選ばなくても、ココガラさえきちんと育成していれば全抜きが可能な範囲である。
「それでは始めようか。君の物語の1ページを!」
そういい、ヤローが投げたボールから飛び出したのはヒメンカだ。
対するアイビーは当初の予定通りボスゴドラが入ったフレンドボールに手を持っていく。
しかし、アイビーの思惑とは違い、飛び出したのは別のポケモンだった。
「カプゥーフフ!!」
その身を黒で染めたアローラの守り神。
かつて、使用率1位にまで上り詰め、フェローチェですらスカーフを持つ環境となる原因の一つとなった破壊神とも言えるポケモン。
かなり奇抜な形のメガネをかけたカプ・テテフが君臨していた。
カプ・テテフはアイビーの方を振り返ると無邪気に手をぶんぶんと振り回している。
そのアイビーはというと、苦笑いを浮かべながら手を振り返している。
「そのポケモンは…。」
ヤローは呟く。
その特徴的な見た目のポケモンは、ガラル以外のとある地方に生息しており、その地方の守り神として祀られる4匹のポケモンの一角である。
そもそも見る機会など決してないポケモンではあるが、一ジムリーダーとしてヤローはそのポケモンのことを知識として記憶していた。
だからこそだろう、その記憶にある4匹とは全く違う色をしているそのポケモンに疑問が浮かぶ。
「その様子だとご存知のようですね。この子はカプ・テテフ。“色違い“のカプ・テテフです。」
アイビーの方を見て、無邪気に笑うカプ・テテフはくるんと回るとサイコフィールドを展開する。
自分の親であるアイビーにただただ褒めて欲しいという、その思いが感情がその姿、仕草から溢れ出ている。
「色違い…?。」
通常ではない色のポケモン、色違いポケモンの存在はたびたび発見報告があり、とても珍しい存在である。
だが、いまヤローの目の前にいるのは守り神として遥か昔から人々の信仰の対象であった存在の、色違いなのだ。
それは、アイビーがアローラの守り神であるカプ・テテフ以外のカプ・テテフを持っているということに他ならない。
本来なら1匹しか存在しないのならいま目の前にいるカプ・テテフの色が通常色として知られている筈なのだから。
「………。いや、何も聞かないでおこう。さぁアイビーくん、ちょっと戸惑ってしまったけどバトルを始めようか!」
何かを言おうとしたヤローはその言葉を飲み込み、バトルを開始するよう審判に合図を送る。
『只今より、チャレンジャー、アイビーとターフジムジムリーダー、ヤローのバトルを開始します。』
ヤローの合図を受けた審判がアナウンスを行い、試合開始のアラートを鳴らす。
その瞬間だった。
まさに電光石火。
瞬きをする暇すらなくヤローのヒメンカはダウンしていた。
「テテテテ〜。」
その光景を作り出した本人は、無邪気に歌いながらゆらゆらと揺れていた。
カプ・テテフ
無邪気な性格(ひかえめミント仕様)
イタズラ好き
技構成
サイコキネシス
???
???
???
持ち物
こだわりメガネ
CS252H4振り
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9話
サイコフィールド、こだわりメガネ、努力値C全ぶっぱ、タイプ一致サイコキネシス。
数値だけで見るのならイエッサンのワイドフォースの方が威力は出るだろう。
だが、それと比べられる程おかしな火力を出しているのがカプ・テテフのサイコキネシスであり、S種族値95という絶妙な数値とサイコフィールドの特性によりカプ・テテフよりも遅いポケモンは人権がほぼ剥奪されたも当然と言わんばかりの環境と化したSM時代の破壊神である。
もっとも、当時はサイコフィールドのエスパー技にかかる補正が1.5倍であったことからメガネをかけなくても火力は申し分なく、逆に遅いポケモンを狩り尽くすためにスカーフを巻く方が強かった。
そのせいで環境が高速化し、S種族値151という飛び抜けて早いフェローチェですらスカーフを巻くようなことが起きてしまっていたのだが…。
これらのことから良くも悪くもこれまでのポケモンバトルの環境を壊し、新しい世界に作り替えたといっても過言ではないそんなポケモンである。
また、エスパーとフェアリーの複合タイプであること、その技範囲もそのヤバさを加速させていたのは間違いがないだろう。
そんなポケモンが凄まじいレベル差による能力値の暴力と、追加補正の暴力で殴られれば考えただけでも恐ろしい光景しか広がらないのは目に見えている。
現にアイビーは言葉を失って目の前に広がる光景を見ていた。
「はは、これ程とは思ってなかったよ。」
倒れたヒメンカを抱き抱えながらヤローはつぶやいた。
挑戦者が持つポケモン、それらのレベル帯に合わせた育成状況のポケモンを繰り出し、時には叩きのめし、時には相手を認め次への課題を提示し、そして負ける。
なんなら、負けることが仕事と言われることもあるのがジムリーダーだ。
そんな立場であるヤローですら、『勝てない』。
アイビーの育成されたカプ・テテフのサイコキネシスは、そう思わせるには充分すぎる一撃だった。
仮にガラルスタートーナメントに出場するために育成した手持ちであってもあのカプ・テテフを倒せるかわからない。
倒せたとしても、アイビーの腰に見える残り5つのボールに眠るポケモンたちも、同等レベルに育成されているのなら、どう転んでも『勝てない』だろう。
かつて、負けを知らずにジムチャレンジを勝ち進み、今なお『負けない』チャンピオンと対峙した時に感じたものとは全く違う異質な寒気にヤローは晒された。
「アイビーくん、二、三分待っていてくれないかな。今の手持ちでは君と戦うことすらできないんだ。だから、次のポケモンを用意しに行きたいんだ。」
原作とは違う流れに一瞬思考を奪われたアイビーだったが、すぐに「はい。」と返事をし、ヤローの帰りを待つ。
そして、戻ってきたヤローの手から繰り出されたポケモンは、アップリュー。
既にサイコキネシスを使ってしまっている以上、キョダイマックスしたアップリューは同レベル帯ならばDに特化すればニ発、Hに振れば確定三発まで耐える耐久を持つ。
おそらくこのアップリューのレベルは74あたりであることを加味して計算したとしても確定で耐えるのは間違いなく、こちらもカプ・テテフをダイマックスしなければフェアリー技を打てず、更に言えばダイマックスによるHP上限上昇がなければ返しのGのちからによるダイソウゲンで確定一発となってしまう。
つまり、アイビーが取る手段は一つしかない。
「カプ・テテフ!」
「アップリュー!!」
「「ダイマックスだ!!!」」
アイビー、ヤローお互いに自分のポケモンをボールに戻す。
そしてその腕にはめられたバングルから力が溢れ出す…はずだった。
いや、ヤローのバンドからはキチンとその力がボールに流れ込んでダイマックスを正常に行えていた。
問題があったのはアイビーの方だった。
「なに…あれ…。」
会場にいた観客の一人がそう呟いた。
だが、その呟きは響めきに掻き消されていた。
その元凶はアイビーのバンドから溢れ出る漆黒のオーラだった。
見る人が見れば祟り神の触手のようだという感想を抱く不快感を催す謎のオーラがカプ・テテフが入ったゴージャスボールに流れ込んでいく。
そして程なくしてボールは巨大化し、ダイマックスしたカプ・テテフが降臨したのだった。
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10話
カプシリーズの色違いは皆、殻のような外側が黒く染まっている。
髪の毛のような体毛部分は元の色のままだが、大部分が黒くなっているため一目で色違いであるとわかるのが特徴だ。
それはさっきまでアイビーのカプ・テテフも同様だった。
そう、さっきまで…は。
「あれ?。」
その変化に気づいたのはアイビーだけだった。
「なんで真っ黒なんだ?。」
先に述べた通り、カプシリーズは体毛部分は元の色である。
しかし、ダイマックスしたカプ・テテフはその体毛部分も真っ黒に染まっていたのだ。
それ以外にも目が真っ赤に染まっていたり、その体が少し刺々しくなっていたり、バドレックス以外のポケモンがダイマックスした時に上空に発生するピンクのような色の雲の色も黒くなっていたりなど、細かな違いはあるが、特にアイビーの目に写ったのはその色の違いだった。
「テテテテー」
その巨大な体で歌うカプ・テテフは目の前に対峙するキョダイマックスしたアップリューを標的に定める。
ダイマックスカプ・テテフからミストパワーが溢れ出す。
対するキョダイアップリューもグラスパワーを纏い始める。
おかしな点はここからだった。
本来のダイフェアリーは桃色に近い色のパワーで攻撃する技であるはずなのに、ダイホロウよりも暗い、常闇のような黒い力がアップリューに遅いかかったのだ。
特防に努力値を振っていれば効果抜群であるカプ・テテフのダイフェアリーですら確定で耐える程度には耐久があるアップリューだったが、その黒い闇のダイフェアリーは一撃でキョダイアップリューを地に沈めたのだ。
「な、なんだ…?今は。」
その理解不能な現象にアイビーもついていけていない。
ヤローもせめて一撃だけでも与えられるだろうとキョダイサンゲキを命令していただけに言葉を失っていた。
「カプーー!!!」
その時だった。
既にバトルを終えたはずのカプ・テテフが次の標的としてヤローを見据え、その力を放とうととその身に闇の力を溜め始めたのだ。
「や、やめろ!テテフ!!」
本来のダイフェアリーよりも強化された力を、いくら人外染みたフィジカルをしているヤローとはいえまともに喰らえば命の保証はない。
焦るアイビーは全力でカプ・テテフをボールに収めようと試みるが、ボールが一切反応しない。
「くそ!何がどうなってるんだ!!」
比較対象は自分しかいないが、人懐っこく無邪気なあのカプ・テテフが突如としてヤローに牙を向けた理由がわからないアイビーは自分を盾にする様にカプ・テテフとヤローの間に体を滑り込ませる。
その姿を見たカプ・テテフは荒れ狂う闇の力の奔流を無理矢理上空へと向け、解き放つと、ジムの天井の一部を完全に消滅させた。
幸いにも強力すぎる力だったためか、その部分がこの世から消え去ったように消失したため破片などは存在せず、試合を見にきていた人たちにあの技による被害はなかった。
するとカプ・テテフはダイマックス時に瀕死になった時と同じように爆発のようなエフェクトと共に小さくなっていき、倒れたのだ。
「テテフ!?」
倒れるカプ・テテフを見たアイビーはその場から急いでカプ・テテフの元へと駆け寄る。
カプ・テテフの様子を確認すると目を回して倒れており、瀕死状態であることが見て取れた。
『ジムリーダー、ヤローのアップリュー及び、チャレンジャー、アイビーのカプ・テテフ戦闘不能!。ジムリーダー、ヤローの手持ちに戦えるポケモンがいなくなったため、勝者はチャレンジャー、アイビーとなります。』
アイビーがカプ・テテフをボールに収めた後、呆然としていたスタジアムにアナウンスが流れる。
それはアイビーの勝利を告げるアナウンスだった。
「おめでとう。君のポケモンは、とても強かったよ。」
カプ・テテフが入ったゴージャスボールを両手で握りしめて小さく震えていたアイビーにヤローはそう声をかける。
「ヤロー…さん。」
「君のカプ・テテフ、凄かったね。凄く凄く強かった。思わずガラルスタートーナメント用に育成していたアップリューを持ち出してしまったくらいだったからね。」
と、にこやかに微笑みながら座り込んでいるアイビーに手を差し出すヤロー。
「は、はい。」
その手を取って立ち上がると、ヤローは握った手をそのまま上へと挙げていく。
「多少のアクシデントはあったけど、今年のターフジムのジムチャレンジ最初の突破者である、アイビーくんに拍手を!!」
その拍手は、このガラルに起こる喜劇悲劇その全ての幕開けを告げるものだった。
謎のキョダイマックス
ガラル粒子やらなんやらでガラル地方限定で行使可能なダイマックスや、バドレックスの信仰による力とは違い、アイビーのそれはアイビーの体から溢れ出す謎の常闇のような力を使い発生する。
それを行うと対象のポケモンは黒く染まり、どこか荒々しくフォルムがチェンジし、敵と見做した存在を排除するためにその持ち得る力を謎の力で更に強化して排除しようとする。
何をもって敵と見做すかはそのポケモン次第であるため、トレーナーに制御は不可能となり、ボールに収めるこもすらできない。
通常のダイマックスは3ターン経過により強制解除となるが、あまりにも強過ぎる力のためか、2ターンで強制解除と同時に戦闘不能となる。
ゲームでいうなら元の技をダイマックス技に強化した後にこだわり鉢巻、こだわりメガネの威力上昇倍率を上乗せさせるキョダイ技になる。
当然、いのちのたま、達人の帯、はりきり、力尽くと言った補正もそこに入ってくる。
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