道満『晴明超えるまでは死んでも死にきれん』 (名取クス)
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道満の夢

ゆっくりしていってね〜


ンッククク、拙僧は蘆屋道満。21世紀から平安へと転生を果たした一般人*1であります。

拙僧は幼き時分から陰陽道について親父殿から厳しく叩き込まれたものです。当たり前で在りましょう、我が家の家業は陰陽師で親父殿も播磨*2の陰陽師集団の一員でありますので。

神秘がまだまだ残る時分ゆえ、(どう)*3ができるかどうかは死活問題でも在りまして。

 

兎にも角にも、拙僧にはこの道の才があったかメキメキと実力をつけ勢いに乗っり、八つになる頃には強者(つわもの)集う都に腕試しに旅立ったのでありました。

 

雄大な自然が身近に残り、摩訶不思議が跋扈(ばっこ)する。

 

かような現代とは全く異なる日の本の様子に拙僧は心躍らせておったものでありました。

 

この時分、拙僧は既に前世から数え(よわい)二十五、立派な男児。にも関わらずまだまだ青かったのでありましょう。すっかり調子に乗っていたのであります。

 

拙僧、現代では小市民の一人に甘んじておりましたが平均的な学はありました。それゆえに勿論かの大陰陽師『阿部晴明』について存じておりました。

蘆屋道満なる極悪が結局晴明に勝てなかったことについても。

 

そして、拙僧。この(からだ)に生を受けてより一所懸命に陰陽道に邁進しておったつもりでございましたし、親父殿の陰陽団でも随一である事を誇りにしておりましたので、拙僧をさしおいて衆生から『亦た君子ならずや!』*4などとののしり*5讃えられておったかの貴人には鼻持ちならぬ所存でありました。

 

かかる事を背景に、かの事件は起こったのであります。

 

都の陰陽師集まる陰陽寮、勿論誰も彼もが入れるわけではありません。

年に2度行われたる試練を乗り越えてこそその所属が認められるのであります。

そこで拙僧、全力で事に当たり見事入寮に足る実力と判断されたのでありますが、やはり晴明が上、拙僧が2番目とされ拙僧は醜くもこれに託つ*6真似を致したのであります。

いやはや、今思い出してもお恥ずかしい限りでございます。

 

事は天皇のお耳にまで入り、公直々に沙汰を宣いなさることにまでになったのでございます。

 

その折、拙僧は晴明にある契約を吹っかけたのであります。

内容は至極明快。『負けた方が買った方の弟子となる』

 

晴明は、さりとて気にする風でもなくこれに快諾したのでありました。

 

拙僧、この時初めて噂の晴明の(かたち)を見たのでありますが男とも女ともつかぬ整った*7顔立ちに稲穂の如く輝く黄金(こがね)の髪。それは肩で切り揃えられておりましたがその異質さは一際人目を引くものでございました。

(まと)う気色*8はまさに泰然自若、雲心月性。気負う事何も在らずな自然な気色でありました。

しかし、それゆえあの底の見えない澄んだ湖ような瞳にどこか歪さを感じたのやもしれません。

 

 

勝負の内容は帝がかづきなさる(ひつ)の中身を開けずに、いくつ蜜柑が入っているか当ててみせよというものでありまして、

 

拙僧は占いを用いて『中には蜜柑15程候う』と上奏*9奉ったが、

 

晴明は一拍遅れて『中には鼠15匹候』と上奏(つかまつ)った。

 

そして素早くお付き人が開けなれば中には15匹の鼠がはしゃいであったのでありました。

こうして私は晴明の弟子となり、同時に鼻っ柱をへし折られ晴明を超える日を夢見るようになったのでございます。

 

もちろん最初は嫉妬のような黒ずんだ感情も多大に含んでおりました。

しかし、近頃ではーーー

 

 

「ンッ、ンンンン、流石は晴明!この呪良くぞ看破ったものです!」

 

「ふふふ、易い易い。こんなんに引っかかってあげるほど僕は甘く無いなぁ〜」

 

トマトケチャップのような液体で全身真っ赤っかに染め倒れ伏す6尺6 寸*10の大柄な怪僧と、それを初雪のように白く染めた狩衣を紅の紐で締めた小柄な陰陽師がチョコンと屈み、肘を(ひざ)の皿、両手を頬につけてニコニコした気色で見下ろしていた。

誰であろう、安倍晴明その人でございます。近頃はまた一段と美しくなり、女子(おなご)と言われても信じてしまいそうなほどでございます。

 

拙僧が仕掛けた罠呪はその(しるし)*11果たす事なく呆気なく解かれ、むしろ拙僧自身がその害を被ったのであります。

 

確かにありつる日*12は晴明に激しく妬んだものでありますが、幾多のすったもんだの果てかようなドロドロ澱んだ思いもいつか朝露の如く気づけば霧散(むさん)したのであります。

 

きっかけは化生(けしょう)退治の折の出来事でありましょうが、しかしそれはついであればお話いたしましょう。

 

今ではお互いを師であり弟子であるような関係であります。

きっかけはこれまた単純であります。

 

まだ拙僧が晴明を呪殺せしめんとしていた時分、正攻法で晴明を超えることはできないーーーそういったた諦めから未熟な拙僧が手を出したのは邪の道でございました。

 

しかし、やはり邪道だけでは晴明に届く気配は毛ほどもなく、やはり正の道もまた修めなければとても届かない。そう拙僧は考えたのでございます。

しかし、今正の(どう)を最もよく修めしは憎っくき晴明その人でありましたので拙僧は薪に伏し胆を舐める思いでその師事を仰いだ。

 

勿論、裏で邪の道もよく修めた。

 

そして拙僧は(ようや)くかの天才に肉薄した。さすれば今度はある折、晴明の方から邪道について教えて欲しいと頼まれた。勿論嫌がったがこの時の拙僧はまだ晴明に教えを乞う立場であったのでどうしても断る事が出来なかったである。

また、まだ正道を極めておらなんだゆえ、奴を殺すこともできなかった。

拙僧一人で易々と次々先へ進められるほど陰陽道は生半可では無いのである。

 

それからであった。お互いを深く知ったのは。

ありつる日の拙僧に今日(こんにち)のかようなな関係になったと言っても、「バカバカしい」と一笑にふされて終いでありましょう。

 

そのような経緯を経て拙僧と晴明は互いに切磋琢磨する良き盟友(ライバル)となったのでございます。

 

「ですからあれほど辞めておけと言ったのに」

 

9()()()()を揺らす玉藻が荒れた風に冷たく拙僧の呪を一蹴するが、その手には手拭い。

できる女、いや狐、はたまた野干であります。

 

「ンッ、ンッンッン〜?その手に持ちたるは拙僧への気遣いと見た!有り難くいただきましょうぞ!」

 

「さぁ玉藻、その手拭いを僕に渡しなよ。道満は僕が綺麗にしておくよ。」

 

「アナタみたいな魂まで根の国色の暗黒イケタマに任せたらロクな事にならいでしょうに。ワタシが特別にやっておくので大丈夫。」

 

「いやいや遠慮しなくてもいいんだよ?」

 

「いやいや」

 

「「……」」

 

これは長くなりそうでありますなぁ。

かくなれば、せい。

 

一瞬淡く五芒星が浮かび上がったかと思うと突如桶をひっくり返す返したような水が道満に降り注いだ。

体に付着していた血糊擬き(ちのりもどき)もサッパリと取れていた。不思議。

 

「これにて拙僧は逃げるであります。晴明の仕返しほど怖いものはないゆえ。サラバ!」

 

「やらせないよ」

 

「拙僧の逃げの技術は京都一ィィ」

 

拙僧の後ろでまだ何か騒いでいるのが聞こえますが、今は逃げるが先決であります。

 

今はこんな有様でございますが、何を隠そう拙僧にも夢がございます。

 

それはとっても単純でありますが至極難しい事であります。

 

それは死ぬまでに、死ぬまでに一回は晴明を負かすことであります。

ギャフンと言わせるまでは拙僧、死んでも死にきれる気がしませんゆえ。

 

 

 

 

 

*1
型月産安定の逸般人

*2
今の兵庫県

*3
陰陽道

*4
なんと立派な人物ではないか!

*5
評判になる

*6
不平不満を言う

*7
完璧で美しい

*8
様子

*9
天皇に申し上げる

*10
約2メートル

*11
効果、効き目

*12
昔は




古典チックにしたかった。アドバイスくれめんす。
きっと玉藻は普通にしてればカッコいい女。異議は認める。
続かない。


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僕らは皆んなYAMA育ち

なぜか続いた、コレガワカラナイ


あれは屈辱の敗北から1年過ぎた頃でありましょうか。

拙僧の晴明への憎しみはただ募るばかりでございました。

 

拙僧は晴明を褒める出汁(だし)に使われるのが常でございまして、拙僧よりも(つたな)(わざ)しか持たない道士達にまで笑い物にされる日々。

陰陽寮入寮の折の力比べは、未だに彼らの良い(はなし)の種でございました。

 

拙僧が必死に追いかける晴明は晴明でいつも飄々(ひょうひょう)とした様子で一向に変わりがなく、未だ彼我の差さえ掴む事ができておりませんでおりました。

 

ーーー晴明は今を見ていない。常に行く末ばかり見つめている。いつもここでは無いどこかに思いを寄せている。

 

一年通して漸くわかった事であります。晴明はいつも玄武の甲羅の如き強固な"作り物"顔面に貼り付けております。

 

初めて会った時の違和感の正体はまさしくこれにありましょう。

そして拙僧、認知はされているのでありましょうが未だ相手にされていないのであります。

 

これほどの屈辱幾ばくありや!

 

拙僧の憎悪はもはや執念ともでもいうべき悪魔に化けておりました。

 

そんなある折り、拙僧はある唐物の妖術書を手にいれたのでありました。

そこに記されたるは"神降し"なる御業についてで在りました。

 

"神降し"とは所謂(いわゆる)降霊術でありして、決してその者を召喚する訳ではありません。

あくまでその分霊を自身の内側に召喚、その力を(まと)う事によって爆発的に能力を上昇させる事であります。

もちろん、長所短所はございますが使いなせばこれは晴明めに一泡吹かせる一助となりましょう。

 

それを何とか読み解き下(ごしら)えをした後、何度目かも分からない勝負を晴明に挑んだのであります。

 

「ンッククク。晴明、此度こそ勝たせて頂く!」

 

さすれば、晴明は決まって少しニコリとするのです。

無言のまま。

そんな「やってみろ」と言わんばかりの挑発も如何程見てきたものでしょうか。

視線がかち合う--普段はどこを見ているかも定かでは無い紺碧の双眸がこちらを漸く捉えるのであります。

それが我々の開戦の合図でありました。

 

「八咫!叢雲!」

拙僧が調伏した自慢の式神でございます。八咫が大鴉、叢雲が大蛇でそこらの陰陽師では束になっても一呑みでございます。

 

「白虎、朱雀、青龍、玄武」

すかさず晴明も式を打ち、たちどころに4匹の式神が現れ拙僧の式を抑え込に掛かるのでございましす。

これだけで場所を選ばなければ大騒ぎになる事でありましょう。

しかし、拙僧たちにはまだまだ準備運動でございます。

 

拙僧、印と言霊を用いて呪符を視界を埋め尽くす勢いで高速射出。晴明は無手無言にて、結界を展開したのであります。

恐らく無意識ながら格の違いを見せてくるのは一体なんのつもりでありましょうか。

 

薄い青の正方形の結界におびただしい数の呪符が殺到するも破ること能わず。

しかし拙僧もそれでどうにかなる相手では無いことをよく承知しております。

 

呪符は結界に張り付き完全に覆い、晴明を閉じ込める檻となりましたが敵はかの晴明。力ずくで、拙僧の術式を破りに来たのでございます。

 

拙僧は拙僧で、呪符で編まれた結界を維持する一方、転移の応用で物体と物体を入れ替える術式を用いまして檻を物理的に地下深くマグマの中に放り込んだのであります。

 

しかし、こちらまで伝わってくる激しい地揺れのあとすぐさま清明が地を食い破って出て参りますが、ここからが真骨頂!

 

 

稼いだ僅かな時を用いて高速真言。先程地上にドロリと現れたマグマを触媒に神降しを行うのであります。

 

晴明の式神が邪魔を入れようとしますが、そこは拙僧の式神も負けてはおりません。4対2でありながらしっかり対処しております。

晴明が五芒星を切り本気で結界を張る。この時、少し違和感を覚えたが、拙僧は強行したのでございます。

 

「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅぐあ ふぉまるはうと んがあ・ぐあ なふるたぐん 」

 

呼び出すのは、さる唐物妖術書に記されし神霊。

炎獄の顕現にして、無限の炎を従えし者。フォーマルハウトにて微睡(まどろ)む旧支配者が一柱。名を一--

 

「いあ! くとぅぐあ!」

 

---クトゥグア。

 

瞬間、光が爆ぜたのでございます。

 

 

しかして、光が晴れてもそこにかの大神霊はいないのでありました。

代わりに、ぽっかりと空間に空いた暗闇から、赤い彗星が飛び出したのであります。

 

其れは直径5M程の紅い三枚の花弁を内包する環状の炎で、飛び出した勢いで地面に衝突しまして、同時に莫大な熱波が(ほとばし)りましてそれだけで拙僧の式神も晴明の式神を塵に返してしまったのでありました。

 

拙僧もかろうじて生き延びましたが、幾重にも張った結界を一瞬で消し飛ばされ、幾年にも渡り丹念に強化を積んでおりました霊装もボロボロです。既に満身創痍。

晴明もかなりの手傷をおったようでありました。

 

見渡す限り焼け野原となったに現れたもう1つの小太陽は地を溶かしながら再びユラユラ浮き上がると、その燃え盛る花弁を晴明に向けたのであります。

 

瞬間、驀進(ばくしん)!!!

 

しかし、晴明はノーガード。ただ無機質に迫る火の玉を見つめるだけであった。

 

刹那、拙僧の何かが爆発した。

 

そして拙僧はわけもわからぬ衝動のまま()()()()()()()()()()()()()のでありました。

 

「結界、展開!!急急如律令!!」

 

衝突!!星が落ちたかの如き衝撃、地獄の炎を1つに纏めたかのような爆炎!!

 

 怪僧の盾は砕けない。

 そして、己の中で吹き荒れる嵐を獣の如く咆哮する。

 

「貴様も!貴様も拙僧を見下スカァァァァァア!!」

 

そうだ!拙僧はこれだけ勤勉に励んできたでは無いか!晴れの日も!雨の日も!雪でも雷でも嵐の日でも!!

なのに何故なのか!どうしてなのか!それほどなのか!!

拙僧と晴明の差は!

貴様は、拙僧を一切の歯牙に掛けぬくせに、真っ先に晴明を脅威と見て!真っ直ぐに排除に向かった!

拙僧の努力とは!(ゴミ)(クズ)(アクタ)であったのか!!!

 

感情のままに叩きつける。

其は己の奥の奥の髄をかけた戦いであるのだ‼︎

死ぬとか、怖いだとか、そんなものは既に如何だって良かった。

 

何かとてつもない力が流れてくる。体が白熱する。

それに、この昂る想いはきっとそれだけじゃ無い。

そうだ、そうじゃないか!なぞ悩む事あるや!

拙僧の夢とは、拙僧だけの夢とはーー!!

 

「晴明を打ち倒すのは!!拙僧である!断じて貴様なんぞではないのだ!!」

 

 無価値に死なせてなるものか!

 勝ち逃げなぞ許さんぞ!

 拙僧の完璧で芸術な策にはまってから

 

「死ね!」

 

結界が砕け、太陽が後退する。

一瞬とはいえ、星を滅ぼす歪な神性が弾かれる。

たった一人の男に。

 

「はっ、ハハハ!ハハハハハ!見たか!異星の神よ!これが!これこそが!拙僧の、蘆屋道満の矜持である!」

 

 

「は「はは「ははは「はははは「はははははは「はははははははははは!!」

 

呵呵大笑の大爆笑!!

その発生源はいつのまにか拙僧の横に立つ安倍晴明その人であった。

そこにいつもの鉄仮面はなく、年相応の無邪気な笑顔があった。

 

「君は!そんな理由で世界を滅ぼすかの神に立ち向かったのか!!ははは!!」

 

「拙僧は拙僧を嫌いたくないゆえ」

 

「はっ…ははっ。なるほどね。で、あのイォマグヌット相手にどう立ち向かうつもりなんだい?あれだけの啖呵切っておいて何もありませんですなんて事はないだろう?」

 

イォマグヌット、別名ヤマンソなどと申しましたでしょうか。クトゥルフ神話の神性にしてクトゥグアの召喚に失敗するとやってくる極悪。

 

「策はございますとも。拙僧自身もバカバカしいと思う策でありますが。」

 

「どうするのさ?」

 

「よろしいですか?火は火で消せるのです。」

 

「ははっ。なるほどね、僕のライバルを名乗るだけはあるね、君。なかなかに」

 

イってる

 

拙僧もそう思うがそれが一番冴えたやり方と思ったのであります。

 

今度こそクトゥグアを降霊し、火を火で焼き尽くす。

実に分かりやすい。

 

(さいわ)いして、ヤマンソのおかげでそこら中溶岩だらけでありますれば、触媒には事欠かぬでありましょう。」

 

「幸いついでに今の僕らには、アラヤ・ガイヤの加護がついてる。あの火球ある今地球は間違いなく滅ぶが滅ばないかの瀬戸際だからね。

全部君のマッチポンプだけど」

 

なるほど、先程から感じておる圧倒的な力はそう言った事でありましたか。得心がいったのであります。

 

「では、僕の役目は神霊の召喚の補佐と被害拡大を避けるための結界かな?」

 

「その通りであります。では、ぐずぐずしている刻はありませぬゆえ、はじめますよ!」

 

「かしこまりだよ」

 

光文字で空に術式を描きながら高速真言。気を集中する。

 

ヤマンソもこちらの思惑に気づいたのかもしれません。

様子見を止め、その巨体を生かしての突貫を敢行。

 

「やらせないよ」

晴明の結界。ヤマンソは紙の如く破いて突進

 

ーーーが、こちらが一拍早い。

 

「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅぐあ ふぉまるはうと んがあ・ぐあ なふるたぐん いあ! クトゥグア!!」

 

再度、閃光ーーーー

 

----

ーー

 

そこに立っていたのは、果たしてクトゥグアの力を宿す道満ではなかっでは無かった。

 

少し紫がかった(つや)やかな長い黒髪。

白魚の如くたおやかな四肢、

大陸の衣服を(まと)い、腰にはいく本もの笛

それをチロチロと蒼い焔が囲んでいる。

(かんばせ)は双無き美しさ。まさしく絶世の美女!

 

『楊貴妃/クトゥグア 召喚に応じて罷りこしました。これから、宜しくね♪、ご主人(マスター)様?」

 

「拙僧、あれだけカッコいい事言っておきながら何を致してしまったのでありましょうか」

 

「あっははは!君はとことんイレギュラーというのに愛されてるね!世界の危機の時って抑止力は英霊の座からいわゆる守護者ってのを派遣するんだけど、それと君のクトゥグア召喚が混じってクトゥグアの力を色濃く持つ英霊がやってきたようだね!しかも、ご丁寧に強化でグランドの地位をくっつけて!あははは」

 

「ンッ、ンンン!何は兎も角強力な存在である、という事でありましょう。クトゥグアの力を持つとの事でありますが、あのデカブツは焼き尽くせそうですか?」

 

「貴方様がお望みならば」

 

「では、拙僧よりサーヴァントに命じる!楊貴妃よ、焼き尽くせ!」

 

「御心の(まま)に」

 

魔力の大瀑布が楊貴妃から溢れ出す。

ヤマンソハは先程から動いておりません。既にその抵抗が無意味である事を悟っているのかもしれません。

 

「勅令。天帝の貴妃。楊太真の名において発す。紫微宮は北落師門の御門を開き羽林の軍勢をやここに招来せん。いざや舞い、護りて踊り打ち掛かりては琴弾きましょう!『霓裳羽衣 比翼連理!!』」

 

久方の空を埋めて、紺碧の太陽がーー堕ちる。

 

-------

----

ーー

 

拙僧が再び気づいた時そこはガラス状に融解した暗黒の大地では無く、緑生い茂る原っぱに寝そべっておりました。

 

かようなことがあったにも関わらず、何から何まで元通り。

まるで、全部そっくり夢であったかのようなーーー

 

「夢じゃないよ。」

(いわ)く、夢では無いようであります。

 

「ただ全部無くなっただけ。ヤマンソは生きた炎みたいなものだ。

そこに、抑止力で破茶滅茶に強化された楊貴妃が火炎に反応して爆発的に威力が上がる宝具を打ち込んだんだ。そしたら綺麗さっぱり燃え尽きたのさ。ヤマンソが召喚されたって事実そのものが。全く、無茶苦茶だよwww」

 

拙僧にはそれだけよく喋る晴明があやしでおかしでありますよww。

しかし、世界から事象そのものが無くなったとは、また…。

 

「おはよ~! あたし、フォーリナーのユゥユゥ! どうか末永~くきみのおそばに……

 

「ンンッ、ン?楊貴妃殿であっておりますかな?」

 

えっ、あ、ハイ、そうです……楊貴妃です……。よろしくおねがいします……だから“傾国”って言わないでぇ~」

 

それにご主人(マスター)様なら楊楊(ユゥユゥ)でもいいのに…。そう!実は今ユゥユゥはマスターが居なくて野良なの!あたしともう一回契約してくれない?」

 

「ンッ、ンンン。確かに貴方程の力があればそこの晴明を倒す日もグッと近くなりましょう。拙僧こそ、まだまだ未熟ゆえ宜しく頼むのであります。」

 

「やった〜、これからも宜しくね!ご主人(マスター)様!」

 

「所で拙僧、全く同じ方法であるにも関わらず1回目はかような極悪を呼び出したのでありますが、一体何がおかしかったのでありましょうか。」

 

「ああそれか、別に大した話じゃ無いよ。ヤマンソは五芒星に反応する。それで僕らは陰陽師。ただそれだけ。」

 

 

なるほど、癖とはなんとおそろしいものなりや。




本当はわかってる。
評価、感想、ユニークアクセス、全部読者さんのおかげ
ありがとう


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