ハイスクールSEKIRO (エターナルドーパント)
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第0話 プロローグ

「九朗様・・・」

夜風に(そよ)ぐススキ原。その中に、力無く仰向けに倒れる少年がいた。年若いと言うにも余りに幼く、まだ十代後半にも差し掛かってはいないであろう少年。

そしてその傍に跪き絡繰り仕掛けの左手を添える、山吹色の服を着た中年の男。

男の名は、狼。この少年、九朗の忍だ。

「最後の不死を、成敗致す」

九朗を優しく地面に寝かせ、背中に背負った大太刀を抜く。《拝涙》の名を持ち、不死斬りと呼ばれる大太刀を。

そしてそれを、己の首に添えた。

「どうか・・・人として、生きて下され」

その瞬間。今までの記憶が、狼の脳裏を駆ける。

古井戸の底から駆け上がり、九朗と再会。その後は、この葦名の國で様々なモノと戦い、また縁を結んで来た。左腕を失ったが、今は補って余りある忍義手(しのびぎしゅ)がある。これが無ければ、今この場に狼も九朗も居はしないだろう。

そして、親は絶対と言う鉄の掟を破り、初めて養父(ちち)、梟と戦った。更には修羅の鬼と堕ちた恩人、荒れ寺の仏師も斬り、葦名を内府の軍から護ろうとした葦名弦一郎を。そして彼の手により黄泉帰った稀代の剣聖、葦名一心も、今し方斬った。全ては、為すべき事を為す為に。

 

―――ほれ、どうした狼。お主の為にこさえたおはぎじゃぞ?食うてみよ―――

―――・・・!美味い・・・―――

 

(あぁ、しかし何より・・・)

 

―――この戦が終われば、何処かに腰を落ち着けて、茶屋でも開いてみるかの―――

―――九朗様の技量ならば・・・大層、繁盛致しましょう―――

―――ふふふ、褒めても何も出ぬぞ?狼よ―――

 

照れ臭そうに笑う、九朗の顔が浮かんだ。あの甘さが控え目な、大変美味かったおはぎの味も。

(共に茶屋を営めぬ事だけは・・・無念だな)

フッ、と小さく、寂しげに笑う狼。しかし再び口を横一文字に結び、己の首に刃を斬り込んだ。

 

―ジャクッ―

 

「ぐっ・・・」

血と共に、桜の花びらが舞い散る。狼は死せども生き返る《回生》の力を持つが、不死斬りはそれを見事絶った。

(これで良い・・・成すべき事を、成した・・・のだ・・・)

薄れ行く意識の中で、狼は微笑んだ。

 

(狼サイド)

 

「おめでとー!」

「・・・」

遠近感が職務放棄をしたような、手前と奥がぐちゃぐちゃに入り交じった空間。そこで奴は歓声を上げ、パチパチと拍手をしていた。

黒い肌に、黒い燕尾服。長い黒髪に、黒い眼。何もかも黒いその男は、唯一白いその歯を見せて笑っている。

そして、此処に来て全てを思い出した。

この目の前の存在に、面白半分で殺され、娯楽の駒とされるべく魂を呼び出された事。

異世界に送り付ける前に特典を与えると言われ、好きだったSEKIROの世界での技の習得、そしてSEKIRO含むフロム・ソフトウェアのゲームに関する()()()()()()()()()()を願った事。

「相変わらず、喧しい」

「オヤオヤ、口調引っ張られてるねぇ。まぁ良いや。

最終確認!これで、良いんだね?」

「あぁ、これで良い」

漸く真面目な空気になったそいつに、俺は応と答える。

「いやはやそれにしても、最初は養父に従い修羅√。2周目は九朗クンに従い不死絶ち√。そして3周目最後は、九朗クンを生かす為に人返り√か。割と的確な周回をしたねぇ?」

「黙れ」

「おぉ怖い怖い。愛想無しだねぇ全く」

少し睨めば、こいつはそんな風にのらりくらりとおどけて見せる。

「まぁ良いや。君が行く世界の名は、《ハイスクールD×D》。因みに、君がいた葦名の世界線から直系の未来と言う世界線にしてあげよう」

「何?・・・初耳だが?」

「今決めたも~ん♪それに、君もその方が色々と便利でしょ?」

「・・・否定は、しないが・・・」

「あと、竜胤(りゅういん)の力は神器(セイクリットギア)っていう玩具として君に宿しとくから。桜竜の魂も宿してね」

「何だと!?」

こればかりは洒落にならないぞ!?

「名前は、そうだなぁ・・・神なる桜竜の五行界眼(パーフェクタブル・ファイブエレメント)、とでも命名しておくか」

「何を勝手に・・・何より、竜胤の力を扱うには、因果の中心点たる竜胤の御子の中に、我が身の設計図を入力せねばならぬ筈・・・」

「あーそれはダイジョブダイジョブ。桜竜の魂そのものにキミの情報インプットしといたから」

こういう無駄な所で無駄に手際が良いのは、コイツが快楽主義の邪神故なのだろう。コイツと同系列の神性に同情・・・出来ないな。そもそもコイツの神話体系でこんなにハッキリした人格持ってるのがコイツぐらいだったな。

「と言う事で、いっちょチュートリアル行ってみよー!」

「急だな」

「新しい力なら、慣らしは必要でしょ?何より、せっかくボクが化身を弄って相手を作ったんだもん。使って貰いたいよ」

「・・・良いだろう。そもそも、此方に拒否権があるとは思えん」

「ひゅ~♪分かってるぅ♪」

コイツが鬱陶しさ全開で指を鳴らせば、周囲はたちまち真っ白に染まる。同時に、目の前には巨大な異形が現れた。

黒く、紫っぽくもある巨体。添え物程度の小さな翼に、奇怪な6本の脚。そして何より、下顎が無く腹が全て開いた巨大な口・・・うん。

「貪食ドラゴンじゃねぇかッ!!」

「あ、流石に素に戻ったか」

何つーモノを再現してくれやがる。つかよく見たら口の中にまで目玉が・・・咄嗟にまだら紫の曲がり瓢箪を取り出し一口呷る。危うく怖じ気付く所だった。

と言うか、俺はダークソウルはプレイした事無いぞ?

「心配ないよ。見た目が良かったから形を似せただけで、中身は別物にしてあるから」

「確かに、お前の好みそうな見てくれだ」

取り敢えず忍義手の忍具を確かめ、右手で腰の楔丸を抜刀し構える。

「じゃあ、チュートリアル開始!

神なる桜竜の五行界眼(パーフェクタブル・ファイブエレメント)の能力は、敵を観察する事によって、一定区域内の存在を五行思想世界に引き摺り込む事。眼に意識を集中して、敵の属性を視てごらん?」

言われるがままに眼を向け、軽く念じる。

 

――観察――

 

胸の前に文字が現れ、消えた。

 


敵は龍。鱗を持つ不朽の存在。

鱗あるならば木行。金行の攻めが有効か。


 

「・・・ならば、これか」

義手忍具を、《錆び丸》に切り替える。淤加美(おかみ)一族や落谷衆と同じ木行ならば、通じる筈だ。

「じゃ、貪食ちゃんを動かすよー!」

『ギャオォォォォォッ!!』

右腕の凪払いが来る。角度と瞬を見極め、楔丸で弾き上げる。

「くッ・・・剛力だ」

体幹が大きく削られた感覚があった。このまま次あれを受ければ、確実に体勢を崩され殺られるだろう。

「あぐっ・・・ギリッ」

 

――剛幹――

 

剛幹の飴を噛み締め、片足立ちで両手を左右にピンと伸ばす。身体の軸が定まり、力が籠るようになった。

『ギャオォォォォォ!』

今度は左腕の凪払い。再び楔丸を握り、上へとカチあげる。やはり剛幹の飴のお陰で、かなり耐えられるようになった。

「フッ、ハッ、タッ!」

故に捨て身で飛び込み、左後ろ脚を連続で斬り付ける。鱗はやはり堅いが、血を流す事は出来た。

「錆び丸ッ!!」

此処で義手忍具を展開。楔丸で付けた真新しい傷口を、青錆びの毒に(まみ)れた刃で斬り込んだ。

『ギシャァァァァッ!!』

 

――――

 

「ぬぅっ!」

貪食ドラゴンは脚を前に踏み出し、長い尻尾で打ち付けてきた。これは下段攻撃、跳んで躱す。

そのままヒョイヒョイと飛び退き、傷薬瓢箪を一呷り。先程の受け止めで負ったダメージを癒した。

再び貪食ドラゴンの脚を見遣ってみれば、毒が然程廻った様子も無い。殆ど効き目が無いようだ。

「思い出してー!ダクソの龍にとって、1番の毒は何だったかなー?」

「龍の、毒・・・ッ!」

命無き龍を殺す毒。それ即ち、()()()()()。そして龍を命に引き摺り込んだのは・・・

「最初の死者ニトが火から見いだしたモノ・・・熱による、代謝の促進ッ!死へと向かい、その過程にて生を活性化する力ッ!」

道理で毒が効かぬ訳だ。古龍は本来生物ではない。生きていないモノは、只の毒では殺せない。

ならば、()()()()()()()()までッ!

「まずは、下準備だ」

油が詰まった壺を取り出し、貪食ドラゴンに投げ付ける。壺は容易く割れ砕け、中の油が貪食ドラゴンの鱗を濡らした。

「からの、息長の火吹き筒ッ!」

 

―バゴォンッ!―

 

瞬時に義手忍具を切り替え、油が掛かった貪食ドラゴン目掛けて放つ。

『ギィエェェェェェッ!!』

 

――炎上――

 

暴れまわる貪食ドラゴン。その脚や尻尾を躱しながら、俺は更に炎で炙る。すると、先程の脚の傷から血が吹き出し始めた。限り無く滞っていた新陳代謝が、無理矢理活発化された証拠だ。

「良いね良いねぇ!じゃあこういうのが来たら、どうするんだっけ?」

 

―バヂヂヂヂッ―

 

「雷ッ!?」

貪食ドラゴンが鎌首を(もた)げ、口の中に電気を溜め始めた。

(そうか、木行ならば当然か。と言うか、魔改造にも程があるだろう)

しかし、雷の相手も今や慣れたもの。焦らず直上に飛び上がり、雷のブレスを身で受ける。

そして高電圧を帯電したまま、右手の楔丸を貪食ドラゴン目掛けて振り抜いた。

「雷返し!」

 

―ビシャァンッ!―

 

――打雷――

 

『ギャァァァァアァァァァァッ!?』

己の雷を真っ向から受け、大きく仰け反る貪食ドラゴン。その頭に、紅い点が見えた。

「勝機ッ!」

頭に忍義手から鍵縄を放ち、引き寄せて取り付く。その脳天に狙いを澄まし、右手の楔丸を一気に突き刺した。

『ギシャァァァァッ!!?』

暴れまわる貪食ドラゴン。振り落とされぬよう堪えながら、再び脳天を貫く。そして鼻先まで大きく斬り裂き、倒れ付した貪食ドラゴンの前に降り立つ。

 

―― 忍 殺 ――

―SINOBI EXECUTION―

 

「すっごーい!まさか倒しちゃうなんて!」

「・・・」

アイツが笑いながら近付いてくるが、あの笑顔・・・相手が悪戯に引っ掛かるのを今か今かと待ち構える子供のそれだ。そもそも、コイツが一度殺せば死ぬ程度の甘い敵を作る程、性格が良い筈が無い。

妙な確信を持って、俺は背中にあった不死斬りを抜刀。貪食ドラゴンの眼を、横から2つまとめて貫いた。

『ギシャァァァオォォォォ!!』

「・・・」

 

―― 不 死 斬 り ――

―IMMORTALITY SEVERED―

 

「あーらら、バレちゃった♪」

「貴様ならばこの仕様にすると思うた」

「流石にちょっと安直だったかー」

そう言い、コイツはケラケラと笑う。最後は伸びた眉間の皺が、また寄ってしまった。

「さて、チュートリアルは終わり!それと、キミの使ってた瓢箪とかそう言うアイテムは、変わらず使えるようにしとくからね!」

「・・・竜胤の、業か」

「あ、でも不死斬りと忍義手、あと楔丸はお預けね?」

「ぬぅ・・・だが、致し方、無しか」

現代日本では、刀など持てる訳も無いからな。

「じゃあ、狼クン。キミの戦いは、面白可笑しくボクが観ておくから。存分に楽しんでね!」

「フン、性悪が」

「それこそがボクだからね!じゃ、行ってらっしゃ~い♪」

 

―ガコンッ―

 

「何ィ!?」

突如開く足元。開いた暗い穴の中に、俺は吸い込まれていった。

 

(NOサイド)

 

「オギャア!オギャア!」

「おめでとうございます!元気な男の子ですよ!」

ある産婦人科にて、1人の男の子が生まれた。生まれつき白髪混じりのその子は、母に抱かれて元気に泣く。

(此処から自我あるとかあの性悪邪神めェェェ!!)

尚、産声の内容は自分を転生させた神への怨み節だった。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

隻狼
今作の主人公。一般人→隻狼→D×D世界という順で転生。
と言っても、隻狼に乗り移ったのは古井戸で目覚めた時からである。
修羅、竜胤絶ち、人返りの順で周回した。義手忍具は最終強化されており、流派技も秘伝一心や竜閃含め全て修得済み。
前世ではとあるフロムゲー考察系YouTuberのファンであり、彼のフロムゲー考察動画の内容は全て覚えている。
ハイDに関しては名前しか知らない。
オリジナル神器、神なる桜竜の五行界眼(パーフェクタブル・ファイブエレメント)を植え付けられて転生。生まれた瞬間から自我があるので、地獄のような幼年期を過ごす事となる。
今世での名前は未だ考え中。
特殊エフェクトの打ち込みが大変。

黒い男
隻狼を面白半分で殺し、転生させた邪神。
曰く、「特典だけ強請るかと思ったら、現地で修行もさせて欲しいとか言って来た奴は初めてだったから気に入った」との事。
この台詞から分かる通り、既に複数の人間を相手にこの愉快犯的転生をさせている。
しかし、主人公補正があると思い込んで特攻しすぐ死んでいったり、原作崩壊のパターンが在り来たりだったりで、正直飽き掛けていた所だった。
飽きてくれればよかったのに。
もうこんだけ要素出せば説明せずとも正体分かるでしょ。


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第1話 苦行と友

(狼サイド)

 

「はぁ・・・」

この世に3度目の生を受け、早7年。俺は小学1年生となっていた。

喧しいクラスメイト達の声を何とか聞き流しながら、左胸に着けた名札を指で弄る。

《あしわら しろう》・・・葦原(あしわら)志狼(しろう)。今生における、俺の名だ。名付けた父曰く、志を持ち、狼の如く気高くあれ、との事。

何だかんだで、この名前も気に入っている。前世と同じく、狼の字があるからかも知れぬ。そして葦名の葦の字も。

しかしながら、今は兎も角、昔は本当に地獄だった。

見知りもせぬ女に糞尿の世話を焼かれねばならぬ事の、何と心を磨り減らした事か。不幸中の幸いと言うべきか、母は乳の出が悪い体質だったようで、母乳ではなく粉ミルクを使ってくれた事だけは心が休まったものだが。

しかしこの精神故に、幼稚園児の頃も当然馴染めはしなかった。乱暴者が癇癪を起こし、飛び込んで来たのを躱したら、柱に鎖骨を打ち付けて骨折し泣き喚いたのはもう忘れられはしないだろう。挙げ句の果てに一時的とは言え俺が疑われた。流石に勘弁してくれと泣きたくなったモノだ。

とまぁ、過去の振り返りと言う体の現実逃避をしていたら、漸く朝の会、所謂ショートホームルームが始まる。この精神を持っていると、改めて学校の教師がどれだけ大変な仕事か身に染みて分かるものだ。

 

―――

――

 

「フッ・・・フッ・・・」

昼休み。俺は校庭の鉄棒を小指と薬指で絞め、懸垂をしていた。

今は20回までしか出来ぬが、それでも刀技に必要な腕力と小指、薬指の絞め力は鍛えられる。

「なぁ、おまえもこっちであそぼーぜ!」

と、後ろから声を掛けてくる児童が1人。誰かと思い振り向けば、ツンツンと尖った茶髪の活発そうな男子だ。

「・・・誰だ」

「おれ?おれはひょーどーいっせー!イッセーって呼んでくれよな!」

「・・・フッ・・・フッ・・・」

かなりハイテンションな奴だ。人として、少し苦手な部類だな。

「・・・なぁ、さっきからなにやってんだ?」

「・・・懸垂、だ」

「けんすい?それってたのしいか?」

「俺は、周りと、馴染めない、からな・・・フゥ」

15回こなし、鉄棒を離す。手首をグリグリと解して、イッセーと向き直った。

「こうやって、自分を鍛えるのは好きだ」

「へぇ~・・・」

「・・・葦原志狼」

「え?」

「名乗っていなかった。葦原、志狼だ」

「おう!じゃあよろしくな、シロー!」

気さくに握手を求めてくるイッセー。悪い気はしないので、差し出された手を握る。

「いって!?」

「あ、すまん」

と、握力の調整を間違えてしまった。いかんな、今し方散々握っていたせいか。

「つ、つえぇなーシロー。けんすいしてるからか?」

「ああ。握り力、脇の締め、体幹を鍛えられる」

「おもしれー!おれもやってみる!」

そう言って、俺が使っていた鉄棒に飛び付くイッセー。だが、筋肉量は勿論力の入れ方もなっていない。当然、身体が上がる筈も無く。

「んギギギギぃ・・・」

「・・・こうだ」

「おっ?」

バタバタしていた脚を掴み、左右均等に上下させてやる。イッセーもそれに合わせて、バランスの取れた懸垂を始めた。

「悪く無い。腹、脇の背中側を意識しろ。さ、離すぞ」

「えちょっ、んぎぃっ・・・」

手を離してやると、イッセーは真っ赤になりながら必死に鉄棒を握り締める。筋は良いようだ。

「背中に肘を引き寄せるように、息を思い切り吐きながら身体を持ち上げろ」

「んっくふォォ・・・ウリャッ!」

俺のアドバイスを素直に聞き入れ、イッセーは補助無しで1回、懸垂をこなした。

「ハーッ、ハーッ、フゥー・・・き、キツい・・・」

「毎日やれば、こなせる数も増えてくる。焦らず身の程をわきまえ、忍びて耐えれば、必ず果を成せるのが肉体だ。

明日も、やるか?」

「お、おう!まけてられねぇぜ!」

・・・イッセーは、武士に向いた性格なのやも知れぬな。

 

―――――

――――

―――

――

 

「フッ、ハッ!タッ!」

「・・・」

イッセーと出会い、早3年。俺とイッセーは、公園にて組手をしていた。

「フッ」

「どぇあ!?」

手技で上半身に集中していたイッセーの意識を逆利用し、足元に潜り込んでスッ転ばせる。何とか受け身をとったイッセーだったが、俺はその両肩を掴んで反転。そこから素手でエア忍殺を決めた。

「あっ、しまった!」

「今日は、此処までだ」

「くっそー、やっぱつえぇなーシローは」

俺が差し出した手を取り、イッセー立ち上がる。

「でもやっぱ面白いな、修行ごっこ」

「そうだな」

修行ごっことは、この組手の名目だ。寸止め同士ではあるが、やっている事は俺が養父上こと大忍び梟、及び師匠たるまぼろしお蝶殿に叩き込まれた訓練そのもの。攻撃や弾きのタイミング、反射神経の鍛練、先の先の取り方、敵の攻撃意識の読み方等の戦闘訓練もすれば、受け身の取り方、身を痛めぬ着地法、パルクールやバク転等の体捌きまで。もはやごっことは言えない、マジ修行のレベルだ。

このハードな訓練であるが、イッセーは割りと着いて来ている。元々才能はあったのだろう。

だが、戦闘では搦め手がかなり苦手。しかし同時に、思い切りの良さと度胸や胆力は眼を見張るモノがある。踏み込みも躊躇が無い。やはり、忍と言うより武士に向いた気質なのだろう。肉を切らせて骨を断つタイプだ。

「生まれる時代が違えば、或いは侍になれたやも知れぬ」

「侍?俺が?」

「あぁ。弱者を護り、己を鼓舞して刀を振るうお前の姿が、眼に浮かぶようだ」

「そ、そぉかな~?」

照れ臭そうに眼を逸らすイッセー。満更でもなさそうだ。

「守る、かぁ。俺も誰かを、守れるようになりたいなぁ」

「ならば、強くなれ。弱ければ、護りたいと想う事すら許されぬ。しかし、力のみを貪ってもならぬ。

真の強者とは、ブレぬ心を頑強な身体で包み、鋭い技を修めた者の事だ。今は護るモノ無くとも良いが、努々力に溺れるでないぞ」

「お、おう・・・えっと、要するに調子に乗るなよって事だよな?」

「そうだ」

これも良い。物分かりの良さ。他者の助言を自分なりに噛み砕く力に長けている。

「さて、これにて解散だ」

「おう!また明日なー!」

手をブンブンと振りながら、イッセーは公園を駆け抜けて行った。

しかし・・・

()()()・・・来なかった、な」

普段から一緒に遊んでいる友達を気にしながら、俺は帰路に着くのだった。

 

―――――

――――

―――

――

 

「御馳走様」

「はい、お粗末様」

夜。夕飯を食い終えた俺は食器を片付け、親父の部屋に向かう。

「親父」

「お?どうした志狼」

「パソコンを、使わせて欲しい。最近、学校でパソコンの授業が始まった。調べものがしたい」

「ほぉ・・・よし、良いぞ」

親父はアッサリと承諾してくれた。俺は親父の部屋のパソコン机に着いた。

「どこまで出来るようになった?」

「ローマ字打ちは、もうほぼ出来る」

「やっぱり覚えが早いな志狼は」

カハハと笑いながら、親父がパソコンを起動してくれる。椅子の高さを調節し、俺は検索エンジンを開いた。

「じゃあ、分からない事があったら呼びな」

「分かった」

そう答えつつ、俺はキーワードを打ち込む。

 

【葦名】

 

あの邪神の言う通りなら、この世界にも葦名、またはその跡地がある筈だ。ならば、もしかすれば・・・九朗様の墓なども、あるやも知れぬ。

淡い期待を込めつつ、俺はエンターキーを押した。

「・・・ほう」

俺は表示された情報に僅かに目を見開く。

 

《お土産にオススメ 葦名の地酒(葦名河、どぶろく、猿酒、竜泉)》

《忍者稽古体験》

《葦名城戦国博物館》

 

どうやら観光業を開き、強かに商売を続けているらしい。発足人は恐らく、あの物売りの穴山の一族だろう。あの時、死にかけの穴山を無理矢理にでも薬水で生かしたからか。

葦名河と言う酒は・・・恐らく、当時無名だった、葦名の酒か?

「・・・ん゙っ!?」

ホームページをスクロールしていると、少し信じられないモノが映った気がした。しっかり見てみれば・・・どうやら、見間違いではなかったらしい。

「く、()()()()()()・・・」

かつて怖気に弱い俺が散々苦戦させられた、5体の亡霊《首無し》。それが何と、ホームページのマスコットキャラクターとなっていたのだ。

「・・・ぷっ、くくくくっ・・・」

丸っこくデフォルメされ、身振り手振りやプラカード等で葦名を宣伝しているそれは、現物を知っている俺からすれば酷く、物凄くシュールで・・・いかん、笑いが止まらん。

「クククククッ・・・ふぅ・・・」

漸く慣れたか。

いやはや、インパクトと言う点では100点満点だな、くびなしくん。

「・・・フム。それなりに、繁盛しているようだな・・・む」

ふとホームページの目次を見てみると、眼が吸い寄せられる所があった。

「未だ健在か・・・仙峯寺(せんぽうじ)

金剛山の仙峯寺。そのページを開いてみると、曰く、葦名城博物館に物品を寄付しつつ現在も仏法を説いているとの事。しかも仏だけでなく、葦名の古い土着神への信仰も復活させて共生していると言う、かなり珍しい完全神仏習合タイプの寺らしい。

因みにお土産として木彫りの鬼仏が買えるそうだ。

「・・・行ってみるか」

あの邪神は、俺の戦いを観て楽しむと言っていた。ならば、確実に敵もいるだろう。今の内に、戦力を取り戻さねばなるまい。

今の俺は流派技の指南書や技術書、飴や瓢箪類などは、己の中に持ち物をしまい込む竜胤の業によって使える。しかし、楔丸や義手忍具が無ければ戦えぬに等しい。

それらがある可能性がある場所は、現在この仙峯寺しか無い。

「・・・一応、鍵縄は持っていくか。有り合わせだが、作っておいて良かった」

目下の目標が定まり、俺はパソコンの電源を切る。

為すべき事は分からぬが、その手掛かりは見つかった。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

葦原志狼
忍の道に復帰する気満々な主人公。
現在も欠かさずトレーニングを続けており、人付き合いが悪いせいで友達は2人しかいない。
毎週公園で組手稽古か体捌き稽古をしており、周囲では達人少年と噂になっている。
観光地と化した葦名を見付け、赴く事に決めた。念の為、自作の鍵縄は持って行く。

兵藤一誠
原作主人公。
志狼に会った事で、おっぱいスピリットではなく侍スピリットに目覚めた。
志狼とのトレーニングのお陰で、運動会では例年2位。1位は無論志狼。
吸収の良いこの時期に志狼から鍛えられている為、原作よりもかなり強化される予定。

~用語紹介~

竜胤の業
ダークソウルから持って来たソウル技能。物質を体内に格納する。
そうでもしなきゃあの大荷物持って飛び回れないよね、という事で。

現代の猿酒
本来猿酒は、猿が木の虚に備蓄していた果物が、自然発酵し酒になったもの。
現代のそれは木樽を使い、同様の発酵を行って作る。
猿酒含む酒系は外国人観光客に大人気のお土産品。そのなかでも猿酒、モンキーリキュールは、その火を吹くような強烈なアルコール度数も相まって特に好まれている。

くびなしくん
怨霊首無しをデフォルメしたマスコットキャラクター。
阿攻、吽護、剛幹、月隠、夜叉戮の5体がおり、それぞれフンドシの色が違う。
因みにこのキャラクターも、《妖怪だろうが悪霊だろうが等しく神として奉る》と言う日本の独特の信仰体型が良く現れていてユニークだとこれまた外国人観光客に人気。
キーホルダーにもなっており、それぞれ御霊卸しのポーズをとっている。


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第2話 狼、葦名に立つ

(志狼サイド)

 

ガタトン、ガタトンと電車に揺られ、俺は窓の外の山を眺める。

葦名の情報を掴んでから、丸一年。俺は葦名に1人で行きたいと、両親に頼み込んだ。

少し心配性な母は危険だと渋ったが、父が出した『4年生のテストでクラス一番を取る』という条件を死に物狂いで達成し、葦名行きの権利と5000円の小遣いを貰う事が出来た。小遣いは、父さんが持って行けと言って渡してくれたものだ。

『ススキ橋~、ススキ橋~。お出口は~右側~』

「着いたか・・・」

電車を乗り継ぎ、目的の駅に着いた。駅に降りると、森や川の香る風が頬を撫でる。

「風の匂いは、変わらぬな・・・」

フッと思わず笑みを浮かべ、改札を通って駅を出る。山道以外、殆ど何も無い所だ。

しかしその中に、1枚の看板が立ててある。

【←葦名、この先】

あんなに派手でインパクトの強いホームページを作っている癖に、看板の方は地味と言うか無愛想と言うか・・・いや、俺が言えた話じゃないかも知れんが。

まぁそれも葦名だろう。

「・・・此処か」

看板に従い道なりに歩いて行くと、九朗様との最後の思い出であるススキ原に続く大きな橋があった。

人通りもそこそこ多いその橋を渡りながら、ふと考える。

(そう言えば・・・あの時チラリと見えたが、確かこの橋は壊れていた。あれは、プレイヤーが葦名の外を認識出来ぬ桜竜の心を通して観ていたからと言われていたが・・・あの時の俺の視界にも、桜竜のフィルターが掛かっていた、と言う事か?)

まぁ、今となっては至極どうでも良い話だ。

前を見てみると、当時とは違い、整備された一本道がまっすぐ通っていた。柵もしっかり立てられている。

「む・・・やはり、封鎖されている、か・・・」

その先には、嘗て九朗様を連れ出した抜け穴があった。しかし今は厳重に鉄柵が設けられ、進入禁止の看板が立っている。

「・・・仕方無い。城下で、道を聞くか」

恐らく、捨て牢の道も封鎖されているだろう。あんな非人道的な実験を繰り返していた所を、一般人に公開出来る訳が無い。因みに彼処の実験の内容を2周目で知った後、一切協力しなかった。

 

―――

――

 

「・・・ん?」

城下町に入ると、ある看板が眼に留まった。

「甘味処・・・あしな・・・」

かなり古い、昔ながらの造りをした甘味処。そう言えば丁度小腹が減った。小遣いもある事だし、入ってみるか。

「いらっしゃいませ~・・・あら、坊や1人?親御さんは?」

暖簾を潜ると、店の奥から店員のおばさんが出て来た。

「いない。独り旅だ・・・です。小腹が空いて、丁度看板が見えたもので」

いかん。危うく癖でタメ口を利く所だった。

「あら、そうなのね。2人目か・・・」

「・・・?」

「あぁ何でもないのよ、此方の話。

で、今は生憎と満席でねぇ・・・君と同い年ぐらいの子が1人で座ってる席があるんだけど、相席で良いかしら?」

「・・・構いません」

「ごめんなさいねぇ」

眼を薄めて謝罪しながら、おばさんは俺を席に案内してくれた。

そこにいたのは、長めの黒髪を後ろで結び、お団子を食べる少年。

「ごめんなさいね、ちょっと相席してもらって宜しいかしら?」

「ん、あぁ・・・モグモグ・・・構いませんよ。此処は繁盛しているし、この()(どき)前なら尚更だ」

「ありがとうねぇ。それにしても、随分と古い言葉を知ってるのね?」

「えぇまぁ、本を読むのが、好きなものでして」

おばさんと向かいの少年が話している間に、俺は席に着いた。

「あ、追加でオハギを一皿」

「俺も、オハギを」

「ハイハイまいど。でも、お団子2皿食べた後でしょ?お財布は大丈夫?」

「えぇ、何ら支障ありませんよ―――――

 

―――――()()()()()()()()・・・」

 

「ッ!?」

「あら、随分と葦名を好いてくれてるみたいね」

「あ、あぁハイ・・・アハハ」

今の、今の()()・・・猛烈に、()()()()()()()ぞ・・・まさか・・・

「・・・どうかしたか?」

と、思わず凝視してしまったのが気になったのか、向かいの少年は湯呑みの茶を飲みながら聞いて来た。

・・・確かめるか。しかしどの単語で確かめれば・・・あ。

 

()()()

 

「ぶぐッ!?」

俺がボソリと吐いた呟きに、少年は茶を吹き出しかける。

「やはり、か・・・」

「ゲッホゲホッ・・・お前、何処でそれを・・・」

「だ、大丈夫ですか?」

と、派手に噎せている少年を見て、心配した店員が近付いて来た。

「ん、あぁ大事ありません。ちょっぴり、噎せただけですから。御絞りもありますし」

「そうですか。失礼しました」

店員が去ると、向こうは机越しにジリッと顔を寄せて来た。

「ま、まさかお前・・・」

「あぁ。俺は―――」

「寄鷹衆の者かッ!?」

「・・・は?」

「え?」

・・・いやまぁ、奴らも同じく忍ではあったが・・・

「ハァ・・・九朗様の忍、狼だ」

「ッ!き、貴様ッ!」

「待て。俺は少し・・・そう、調べものをしに来ただけだ。荒事を起こすのは、望む所では無い。

お主も、そうではないか?」

「ぬぅ・・・確かに、貴様とは確執はあれど、此処で事を荒立てるのは違うな」

そう言って少年・・・弦一郎は、再び腰を椅子に落ち着ける。

「そう言えば、今生の名は?俺は、葦原志狼だ」

「・・・葦斑(あしむら)弦一郎(げんいちろう)だ」

「名は変わらぬか、良かったな弦ちゃん」

「貴様にちゃん付けされる筋合いなど無いわ!」

・・・何故だろう。こいつといるととても愉快だ。面白い。

いじり甲斐がある、と言うのか?

「はいお待ち遠様、オハギね~」

「「あ、どうも」」

そうこうしてる間に、さっきのおばさんがオハギを持って来てくれた。

「おぉ、これは・・・いただきます」

両手を合わせ、改めて皿に乗ったオハギを見てみる。

贅沢にたっぷりと餡こを纏ったそれは、摘まんでみるとずっしり重い。堪らず口を開け、豪快にかぶり付いた。

「ッ!う、美味い・・・!」

甘さが控え目で上品な味の、しっかりと豆が残った粒餡。中の餅は、半ば米粒が残った半殺し。米粒そのものも大きめで、歯応えも抜群だ。

そして、ほんの少し効かされた塩味・・・これが甘味を引き立て、全体を整えている。

「・・・美味いな、御子の忍よ」

「あぁ・・・少し香ばしい風味もするが、これは・・・」

「フム・・・きな粉じゃないか?豆同士だから相性も良い」

「それだ」

成る程、塩きな粉か。砂糖も足せば、正月の餅にも良く合うからな。オハギに合わぬ筈も無し。

「・・・しかし、俺は今や九朗様の忍では無い。志狼か、狼か・・・一心様と同じく、隻狼か。このどれかで呼んで欲しい」

「・・・ならば、狼と呼ぼう」

「宜しくな、弦ちゃん」

「弦ちゃん言うな!」

「フフッ」

思わず笑みが溢れる。オハギをもう一口頬張れば、正に至福だった。

「・・・狼、何故泣いている?」

「何?」

弦ちゃんに言われ、目元を指で拭う。その指を見れば、僅かばかりだが濡れていた。

「・・・そうだ。塩きな粉こそ加わっているが、これは・・・九朗様が、俺に作って下さった物と、そっくりな味だ」

「・・・そうか。そう言えば、エマも馳走になったと言っていたな」

「エマ殿か・・・もしや、エマ殿もこの時代に生まれ変わっているのでは?」

「恐ろしい事を言うな狼」

 

―――

――

 

「いやはや、美味かったな」

「あのオハギは、一皿2つで350円。安いものだ」

小腹を満たし、会計。いやはや、実に美味かった。

「まぁ、戦国時代から変わらない味だからね!」

「・・・もしや、九朗様・・・」

「おや?うちの開業者、知ってんのかい?」

「やはりか・・・いえ、こちらの話」

会計序でに、おばさんが話してくれた。やはり此処は、九朗様が開いた茶屋らしい。

「子宝には恵まれなかったらしいけど、いろんな所で弟子を取って回ったらしいさね。最後は故郷の此処に、腰を落ち着けたらしいけど」

どうやら、九朗様は人として生きられたらしい。

「「御馳走様でした」」

会計を済ませ、店を出る。

他にも同じような店があると言っていたな。今度探してみるか・・・あ。

「しまった」

「どうした狼」

「仙峯寺への道を、聞き忘れてしまった」

「いや、地図看板にリーフレットがあったろ。ご自由にお持ちくださいと」

「え?」

・・・見落としていたか。しまったな。

「ハァ・・・まぁ良い。一応俺も、仙峯寺に用あったのだ。案内ぐらいしてやる」

「かたじけないな、弦ちゃん」

「・・・もう突っ込む気すら起きんわ」

溜め息を吐きつつ、弦ちゃんは俺の前を先導してくれる。葦名を救う為に人外となった所もあるし、根はかなり優しいのだろう。

 

―――

――

 

「此処だな」

「あぁ。だが・・・」

30分程で、仙峯寺本堂前に着いた。だが、何故か封鎖されている。

「むぅ・・・何処かが壊れでもしたか?」

「いや、それなら明確に何処が壊れたか、この山道の入り口で書く筈。それに、観光客慣れしている甘味処のおばさんが何も言わない訳が無いだろう?観光業は、地域全体で情報網を張るものだ。1ヶ所の不具合を、迅速に他で補えるようにな」

「いやに詳しいな」

「忍の術は、(よろず)に通じる。そもそも、忍は普段は商いをする者も多いからな。養父上に教わった基本の1つを、応用したまで」

「成る程・・・しかし、確かにそうだな。それに、この仙峯寺も博物館と化した葦名城に負けず劣らずの人気スポットだ。この人気(ひとけ)の無さは、些か不自然だな」

そう。この本堂前の階段に、俺達以外誰もいないのだ。

普通観光客は、中に入れずとも観光スポットの外観だけでもと写真を撮るもの。しかし、それすらいない。

「どうも、キナ臭いな」

「不死斬りがあるとすれば、此処だからな」

「全く。何時の時代も、葦名は狙われるモノなのか」

「その心づもりの方が、良いだろう」

それに何より、妙な気配と言うか、おかしなモノがいる気がするのだ。蟲憑きとは違う、何かが。

「ッ!誰か来たぞ!」

「隠れよう」

慌てて近くの背の高い草むらに入り込む。すると、本堂の中から2人の男が出て来た。

銀のロザリオを掛けているのを見るに、どうやらキリシタンらしい。

 

「(ん?今、何か音が聞こえたような)···」

「(どうせ野生の獣だろ。ほっとけ)」

「(それもそうか)···」

 

2人は英語で何かを話しながら、煙草を吹かし始めた。

「ぬぅ、何か喋っているな」

(サウンド)野生の獣(ワイルドビースト)···音を気にしたが、獣の音だろうと捨て置いた、と言う所か」

「解るのか?」

「簡単な英単語なら、多少は」

しかし、寺にキリスト教徒か。面倒な事になっていそうだな。

「弦ちゃん。何か使えそうな物が無いか、探してくれ」

「意地でもそう呼ぶつもりか···あー、木刀代わりになりそうな木の棒はあったぞ」

「でかした」

弦ちゃんから棒を受け取り、策を練る。

堂の入り口左上にある屋根裏へ通じる穴は、まだそのままあるのが見えた。俺の鍵縄なら、容易く届くだろう。そして、右前方に大きな岩。子供2人なら、容易く隠れられる。

「···作戦は、決まった」

「本当か?」

「あぁ。取り敢えず、岩の後ろに移動しよう。

まず俺が指笛で、見張りを遠方へ引き付ける。その隙に、此処から本堂入り口まで一気に駆け抜け、俺の鍵縄で屋根裏に登る。そして縄で弦ちゃんを引っ張りあげ、その後は屋根伝いに、奥の院を目指す」

「指笛?見付かるぞ?」

「策はある。信用しろ」

「···良いだろう。任せる」

俺は竜胤の業から形代流しを取り出し、己の首筋を浅く切る。すると飛んだ血は全て形代(かたしろ)となり、俺の手元に戻った。

 

――御供――

 

「お、おい、今何を···」

「シッ」

薬水瓢箪を呷り、左手で形代を3枚握る。そしてその人差し指と親指を口に含み、思い切り吹いた。

「···鳴っておらんぞ?」

「良いから、見ていろ」

手を開くと、形代が崩れて半透明の球体のようなものが出来ていた。それを切り落とすように、棒切れを振るう。

 

―ピゥーゥイッ―

 

「(ん?何だ?)」

「(笛?)」

 

すると音が飛んで木に当たり、其処から指笛が響いた。

「今だ、行くぞ」

「何だ今のは!?」

「形代忍法だ。習いたければ、今度教えてやる」

そう言いつつ、俺と弦ちゃんは入り口まで突っ切る。

しかし、コイツらを連れて来た奴はどんな教育をしているんだ?2人とも見に行ったぞ。何の為の2人1組見張り番だ。

「ほっ」

「上手いものだな」

鍵縄を引っ掛け、屋根裏へと登る。そして弦ちゃんが縄を掴んだのを確認し、思い切り引き上げた。

「っと、凄まじい力だな」

「コツがあるのだ」

などと言い合いながら、俺達は窓から屋根に出る。

流石に、巡回はしていないようだ。これなら、昔よりも楽に行けるだろう。

「弦ちゃん、彼処の橋の向かいの崖、横穴あるだろう。彼処から奥の院に行ける」

「また鍵縄か」

「無論」

音を立てぬよう屋根から飛び降り、橋の上へ。そして手摺を乗り越え、横穴の下に突き出た木の根に鍵縄を飛ばす。

「で、どうするのだ?」

「ターザンは知ってるか?」

「正気かッ!?」

「無論。口を押さえておけ」

「おいっ!」

弦ちゃんを抱え、跳んだ。俺達は振り子となり、崖が迫る。

「えぇい無茶をするっ!」

 

―ドドッ―

 

俺達は両足で壁に着地。衝撃を逃がし、縄を登った。

「上手く行ったな」

「一瞬、黄泉が見えたがな。おい、俺は死んでないか?」

「生きている」

軽口を叩き合い、横穴を抜ける。その先には、目指していた奥の院があった。

「···彼処から、屋根裏に上がれるな」

「引き上げは任せるぞ」

「任された」

天井に設けられた梯子を掛けるであろう穴に再び鍵縄を掛け、屋根裏に上がる。弦ちゃんも引っ張り上げ、屋根裏の柱を伝って奥の一室を目指す。

「全く、今生でも此処まで出来るか。忍の技が、魂魄に染み着いておるな」

「いや、今生でも鍛え直したからだ。それと、あまり喋るな。そろそろだ」

とは言ったが、何せ屋根裏から行った事など無いからな。殆んど当てずっぽうだが···方向は分かる。

 

「良いですか?これが最後ですよ」

 

「「っ!」」

男の声。後付けの天井の隙間から覗けば、やはりキリシタンの男。服は装飾が多く、地位が高いのだろうと分かる。神父だろうか。

そして向かいには···見紛う訳が無い。あの時と変わらぬ容貌の、変若の御子が座っていた。膝の上で丸くなっている黒猫を撫でながら、キッと睨むように神父と向き合っている。

 

「貴女が保管している、不死斬りと言う神器。この世を生み出した創造主の使者たる、我々にお渡し願いたい」

「何度も申しております。それは出来ません」

 

「「ッ!?」」

不死斬り。その単語に、俺達の顔は揃って強張る。

 

「そもそも、この寺で保管している不死斬りを、何故、貴殿方に渡さねばならぬのですか」

「無論、この世界の総てを、我らが主たる神が生み出したからです。我らが主の造物は、その信徒たる我らが保管する。それが当然の摂理にして、我らが主の思し召しなのです」

 

呆れた物言いだ。これだから唯一神教の狂信者は質が悪い。

 

「それは其方の理屈です。我々の信じる神道と仏教には、関係ありません!貴殿方の世界を否定はしませんが、不死斬りを渡す筋合いはありませんッ!」

 

「···逞しく、なったな···変若の、御子よ···」

御子の、決意の籠った強い言葉。自己主張が薄かった昔と違い、強くなったと目頭が熱くなる。娘の成長を見る父親も、こんな心境なのだろう。

 

「···そうですか。悲しいですね。貴女とは、良い関係でいたかったのですが···」

「言いたい事はそれだけですか?」

「全く、愛想の無い人だ」

 

そう言って、神父は出て行った。

 

「はぁ···其処の方々、出て来なさい。屋根裏に、いるのでしょう?」

 

「「ッ!?」」

バレている···

「おい、どうするのだ狼!?」

「下りる」

「はっ!?」

天井板を持ち上げて外し、御子の前に飛び降りる。舌打ちをしながら、弦ちゃんも続いた。

「子供?」

「気を付けてお米ちゃん、コイツ、とんでもない神器を持ってるっぽいにゃ」

すると、膝の上にいた黒猫が身を翻し、俺とさほど変わらぬ程度の外見年齢の美少女に変身した。着崩し気味の着物を揺らし、猫と同じ耳を動かして警戒しながら、鋭い爪を此方に向ける。

物怪(モノノケ)!?化け猫の類いかッ!」

「手は出すな弦ちゃん。尻尾が三股···猫魈(ねこしょう)か。猫又の、1つ上。猫の長。下手に喧嘩を売れば、気を狂わされるだろう」

「へぇ、よく知ってるわね坊や」

「オカルトの類いは好きなのでな。

それと、安心してくれ。変若の御子に、危害を加えはしない」

「信用出来ると思う?」

「···」

確かに、彼女の言う通りだ。今の今まで、宗教敵と思わしき奴がいた。それに、子供が屋根裏から出てくれば怪しむものだろう。

取り敢えず俺は胡座をかき、膝の上に手を置いた。

「俺は、なるべくこの姿勢を崩さん。怪しいと思えば、好きなように拘束してくれて構わん。

話させて貰っても、良いか?」

「···嘘は無さそうだし、取り敢えずは···聞くだけ聞いてあげる?」

「そうですね。気になりますし」

良かった。問答無用で放り出されはしないらしい。

「···久しいな、変若の御子よ」

「へ···?何処かで、会いましたか?」

···まぁ、分かる訳も無い。

「···俺だ。九朗様の、忍だ」

「ッ!!み、御子の、忍!?」

「は?あんた何言って···」

顔をしかめる猫魈だったが、御子が手で制してくれた。

「九朗様に、宿った力は?」

「竜胤の力。因果の中心点たる、神なる竜の、瞳」

「お授けした不死斬りの、色と、銘は?」

「赤の不死斬り。銘は、拝涙」

「···私の、好物は?」

「柿だ。良く熟れた、真っ赤な柿。これ程、美味い物は無いと、喜んで食べてくれたな」

「···あぁ、やはり、貴方なのですね···!」

そう言って、御子は口許を押さえる。どうやら分かってくれたようだ。

「え、お米ちゃん?その忍って、いっつも聞かせてくれてた奴?戦国時代の?」

「えぇ、間違いありません!輪廻に乗り、再び人の生を得たのですね···」

「あぁ」

「そうですか···」

御子の顔が、喜びと哀しみ、憐れみが入り雑じった複雑な笑顔に変わる。

仏教思想は、輪廻からの解脱を目的とする。苦の多いこの世に再び生まれてしまった俺に対する憐れみと、それでも本当の自分を知っている人間が再び現れた事への喜び···そんな所か。

「所で、其方のお方は?」

「···葦名弦一郎。国盗り一心の孫にして、当時葦名の次期当主···だった者だ。其処の狼と衝突し、敗れたがな」

「御子の忍と対立···竜胤を、利用しようとしたのですね」

「あぁ。だが、今生ではもはやその必要も無い。俺の愛した葦名は、形は変われども生きているからな」

憑き物の落ちたような顔の弦ちゃん。護ろうとした葦名に、活気があるのが嬉しいのだろう。

「···して、御子の忍。今日は態々此処まで、何用で?」

「···我が()を、取りに来た。心当たりが、此処にしか無かったからな」

「分かりました。黒歌、少し繋ぎをお願いします」

「うーん···ま、お米ちゃんが言うならするにゃ」

「有り難う御座います」

そう言って、御子は部屋の奥に消えた。

「···おい」

「ハイハイ、何かしら?」

「俺は、葦原志狼だ···弦ちゃん」

「ん、あぁ。俺は葦斑弦一郎だ」

「此方は名乗った。お前の名を知りたい」

「礼儀正しいんだか、失礼なんだか···黒歌。黒い歌と書いて、黒歌よ」

「黒歌···他に染まらず、己の心を歌い続ける、か。強く、気高く、美しい名だ」

「···口説いてる?」

「心外だ。印象を、言っただけだが?」

おい、何だその『うわぁ何コイツ』みたいな顔は。

「お待たせしました、御子の忍よ」

と、御子が長い箱を持って戻って来た。不死斬りが納められていた箱だ。

「やはり、ここにあったか。かたじけない。それと、俺の事は狼と呼んでくれ」

「分かりました、狼」

目の前に置かれた箱を開けると···赤の不死斬りと共に、我が愛刀楔丸と、そして忍義手が入っていた。

「···久しいな、我が牙」

楔丸を取り出し抜いてみれば、結露に濡れたが如く薄く曇った刃と、鏡のような刀背(みね)が光る。

そして忍義手に目を移せば、此方も何ら不具合は無さそうに見える。よくこんなオーパーツを造ったな道玄は。

「そして、不死斬り···」

「狼よ、お忘れでは、ありませんね?その不死斬りは···」

「抜けば、死ぬ。分かっている」

「···まさか、貴方は···」

御子と眼を合わせ、神器を発動する。左頬には、竜胤の呪いと同じ痣が出来ているだろう。そして、左目も。

「桜花弁の、瞳···そして、竜胤の痣···」

「弦ちゃん。俺の鞄を、持っていてくれ」

「あ、あぁ···」

弦ちゃんに財布ごと持ち物を預け、俺は不死斬りの鍔を押し上げる。

血色の妖気が漏れ出し、俺の手に纏わりついた。

 

―ドクンッ―

 

「ぐっ···」

「狼ッ!?」

膝を着き、崩れ落ちる。己の心臓は止まった。しかし···

 

―ドックンッ ドックンッ ドックン ドックンッ···―

 

心臓の音が、聞こえる···

 

――回生――

 

桜花弁が舞い、俺は甦る。今生では、初めての回生だ。

「やはり、貴方に宿る神器は···」

「···神なる桜竜の、五行界眼」

「道理で、ここ10年、桜竜の気配が消えていた訳です」

「それは、大丈夫なのか?」

「あぁ、問題はありません。豊穣の加護も、竜の気を受け育った神木桜(しんぼくざくら)が引き継いでいますし、私の米の力も、ほら」

そう言って、御子は掌から米を出してくれる。どうやら桜竜の力の後継者の証である米生みの神通力は、既に御子の魂魄そのものに宿っているらしい。

「楔丸と、忍義手。確かに貰い受けた」

俺は忍義手と楔丸を、竜胤の業で体内に仕舞う。

「にしても、神格クラスのドラゴンが宿ってたのね···えげつない気配がする訳だにゃ」

「そんなに、分かるものなのか?」

「その感じを見ると、人外の干渉は無かったぽいにゃぁ。もはや奇跡的な確率にゃ。

と言うか、そっちの弦ちゃんも持ってるにゃ」

「マジで分かるのか···」

「まぁ、そんな気はしてた」

いやはや、一心様では無いが、人の縁とはやはり面白いものだ。

これは、少し話が長くなるかもしれないな···

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

葦原志狼
主人公の狼。割とノリが良いし、あだ名呼びとか普通にする。
今生にて、かつての牙たる忍義手と楔丸を回収した。
1年間努力して葦名に来たら、まさかの弦ちゃんと遭遇。狼自身は過去の事はもう気にしておらず、割と気さくに弦ちゃんと接している。
流派技や形代忍法は健在。
天然タラシの才があるかも···
神なる桜竜の五行界眼(パーフェクタブル・ファイブエレメント)発動時には竜胤の呪いの痣が発現し、左目の瞳が5枚花弁の桜花になる。

葦斑弦一郎
弦ちゃん。九朗様が創設した甘味処で、偶然同じ日に来ていた狼とエンカウント。
狼に対して思う所はあるものの、当の狼は自分をちゃん付けしてくる始末なのでもう気にするのも馬鹿らしくなった。多分バディ兼苦労人的なポジ。
仙峯寺を訪れたのも、黒の不死斬り《開門》のその後を確かめる為。
ちなみに白色白蓮華が歪んで黒くなっていた黒蓮華の開門は、仏法と拳法が整えられたことによって、今は白蓮華になっている。

変若の御子
お米ちゃん。神仏集合寺としての仙峯寺開祖。
現在は不死斬りの管理をしつつ、仏教と神道の均衡を保っている。
そのスタイルは、現世にて徳を積めば天国に逝けると言う仏教思想に、なろうと努力を積んで死ねば土地神の一員となれると言う神道要素を組み合わせたもの。
何より画期的なのが、最初から別々の宗教世界観だとハッキリ明言している所。この2つの法則の矛盾を逆利用し、信徒にどちらが良いか選ばせ、強要させずゾーニングしている。
そして、神は実在するが、宗教はあくまでも今日や明日を生きる為に心を支えるものであると教え、宗教そのものへの依存が無いようにしている点も、宗教として珍しい点。
要は、『救いは複数あるから、1つの救われ方に拘って無理に我慢しなくて良いよ。この世界がしんどかったら向こうの世界に乗り換えて良いからね』と言う事。
因みにこの教えにより、葦名は人間から転生した無名の土地神がえげつない程多い。其処から高天ヶ原に人材ならぬ神材派遣もしている。なので天照様とかに直通の極太パイプがある。パイプと言うかもはやトンネル。
更に、この有り余った神様パワーを消費する為に御霊降ろしの飴やら御祓の紙吹雪やらを量産している。ので、葦名は数が減った現代陰陽師にとっても御用達の土地である。
また、これらの土地神は人間と同じくこの教えを信仰している。この信仰は総てお米ちゃんに収束しているので、ぶっちゃけお米ちゃんはかなり高位の現人神と化している。
最近聖書陣営から頻繁且つ高圧的な勧誘(半ば脅迫)を受けているが、もし戦えばどちらが泣きを見るかは明らかである。

黒歌
結構人気なお姉ちゃんキャラ。狼が感じた気配は黒歌のもの。
悪魔に追われて1ヶ月程前に葦名に逃げ込み、以来お米ちゃんに匿って貰っている。
今作では今12歳。志狼達より2つ上である。
えげつない程の信仰によって神の包容力を得たお米ちゃんのお陰で、精神的にはかなり回復している。
因みに原作通り家事は壊滅的であり、全てお米ちゃんに任せっきり。なので発言権が低いと言うか、お米ちゃんに口答え出来ない。

モブ神父
典型的なクソ狂信者。イメージはナチスのゲルマン民族至上思想。
因みに悪魔や堕天使もこの手の勧誘を行っている。
例によって、世界中に宗教侵略しまくって無理矢理知名度を上げた聖書陣営は、それをしておらず信徒が少ない(ように見えるが、実は日常生活に溶け込みすぎて態々意識しなくなっただけ)日本神話陣営を嘗め腐っている。


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第3話 赤龍、覚醒

「ハァ、ったく漸く帰れる···」

数札の本が入ったウエストポーチを揺らしながら、イッセーは帰路に着く。その内容は、陰陽五行思想に関する本や日本含む主要な神話の本。

志狼から、自分の留守中に読んでおけと宿題を出されたのだ。メモを持ってそこそこ離れた図書館に行き、漸く見付けたのである。

「ん?」

そんな中、イッセーは違和感を感じて立ち止まる。

其処は、小さな神社の参道前。しかし、明らかに何かがおかしいと、子供特有の鋭敏な感覚と、そして本格的な忍稽古を付けられた経験が叫んでいた。

(うなじがチリチリする···これって、シローと組手してる時と同じ···?)

うなじが粟立ち、胸騒ぎがする。イッセーはまだ知らないが、それは強い殺気を感じた際に起こるものだ。

(それに、変だ。周りに人がいない···それどころか、車の音も聞こえない?)

そして、違和感の正体に気付く。

人の出す音が、一切聞こえないのだ。木々のざわめき、風の音。それらの中に、普段は多分に含まれる人の気配が、今は一切しない。

「あの、神社か?」

電柱の脇に、ポーチを置くイッセー。そして、参道の階段をゆっくりと登って行く。

(あ、人だ)

「あの···」

「ッ!?」

階段の途中に立っていた男。何故か上を向いており、声をかけられるまでイッセーに気付かなかったようだ。

「何故子供が此処に···致し方無い。後で記憶処理を施すかッ!」

「うわっ!?」

すると、男は突然イッセーに掴み掛かる。何とか躱したイッセーだったが、その男の眼には恐怖を覚えた。

(け、稽古中のシローとおんなじ···いや、もっと怖い眼!)

濃密な殺気に当てられ、怖じ気付くイッセー。しかしその身体は殺気に対し、反射的に構えていた。

「ハァッ!」

再び踏み込み、掴み掛かって来る男。対してイッセーは、身体に染み付いた癖で、その手首を掴む。

「うッりゃァッ!」

「ゴッハァ!?」

そこから重心を落とし、豪快な背負い投げを決めた。まさか子供に投げ飛ばされるとは欠片も思わなかった男は、身体が硬直。結果、石畳に打ち付けられる衝撃を逃がせず、呆気なく意識を手放す。

「あっ···だ、大丈夫。息はしてる···」

咄嗟に男を殺してしまったかと確認するが、どうやら気絶しただけのようだ。

「えーっと、こう言う時は···取り敢えず、1人とは考えづらいよな。明らかに見張り···見張り?まぁガバガバだったけど見張りとしとこう。

だったら奥に、何か見られたくないものがあったりする筈···」

その方程式から導き出されるのは、当然ながら相手は何らかの()()であると言う事。そこまで行き着いたイッセーの脳裏に、志狼の教えが走る。

 

―――敵との戦いにおいて、もし相手が何らかの組織であった場合、一番不味いのは、人相を覚えられ、情報を持ち帰られる事だ。

まぁ戦う事など早々無いと思うが、マスクと、着ていればパーカーのフードで顔を隠せ―――

 

ポケットから志狼の手作り布マスクを取り出して装着し、着ていたパーカーのフードを被った。

「まさかマジで実践するなんてな···」

そう呟きながら、足早に階段を駆け上がる。

「見張りはさっきの1人だけ?普通は何人かつけとく筈···んー、TRPGならアイディア振る所だよなぁ」

これまた最近志狼に誘われて始めたTRPGを思い出すが、思い出した所でどうしようも無い。

 

「止めてくださいッ!この子には罪は無いのです!どうか、どうかこの子だけは···」

「ならぬ!穢らわしきカラスと交わった貴様も、その血を引く小娘も!我が一族の恥ッ!生かしてはおかぬッ!」

「故に家とは縁を切ったではありませんか!」

「黙れッ!」

「うぐっ···」

「お母様ぁ!た、助けて···助けて、お父様ぁ···」

 

「···ッ!」

社の中。襖越しにもハッキリと聞こえる声。

母と娘が危険に晒されている。抵抗も出来ない。それを、複数の男が寄って集って泣かせている。

イッセーにとっては、それだけで充分だった。

 

―スパーンッ―

 

「なッ!?もう戻って···子供だと?」

「バカな!人払いの結界がある筈ッ!?」

障子を勢い良く開け放すイッセー。狼狽える男衆。数は5。武器は刀。

「オラッ!」

道すがらに掴んで来た一握りの砂粒を、イッセーは真ん中の男の顔に投げ付ける。

「ぐあっ!?」

砂粒が眼に入り、怯む男。その隙に脇を潜り抜け、男衆に向かって追い詰められている母娘の前で仁王立ちした。

「テメェら、恥ずかしくねぇのかよッ!」

怒りが臨界に達し、一理の恐怖をも吹き飛ばしたイッセーの怒号が飛ぶ。

「な、なんだ貴様ァ!」

「怖がる女の子と、そのお母さんを!いい大人が寄って集って苛めやがってッ!立派な刀持ってる癖に、弱いもの苛めしか出来ねぇのかッ!」

「ぐっ···」

余りの怒気に、一瞬たじろぐ男衆。

しかし、砂を取り払った真ん中の男が口を開く。

「黙れッ!その女は、賎しき堕天使と子を成し!この国を裏切ったのだッ!我らは国を護る防人の家ッ!下賎な魔のものと駆け落ちるなど、言語道断よッ!小僧ッ!貴様にこの問題の何が分かるッ!!」

「わがらねェよォ!何言ってるか、さーっぱりわがらねぇ!!

ようはお前ら、この人らが気に入らねぇから殺してぇってだけじゃァねぇかッ!!」

「違うッ!そんな単純な問題では無いのだ小僧ッ!」

「違わねぇよォ!俺にとってはなンにも違わねぇッ!」

「目障りな餓鬼めッ!ならばその穢れた母子共々、一刀の元に斬り捨ててくれるわッ!」

痺れを切らした1人が斬り掛かる。その標的は、イッセーと後ろの母娘だった。文字通り、イッセーごと斬り殺すつもりだ。

視線でそれを察したイッセーは、咄嗟に左腕を振り上げる。志狼との稽古で、攻撃を弾く動作をそのままに。

―――――その時、不思議な事が起こった。

 

BOOSTED(ブーステッド)·GEAR(ギア)!】

 

―ギャインッ―

 

「なッ···!?」

「こ、これは···!」

イッセーの左腕が、赤く輝くガントレットに変化した。そしてその強固な装甲が、イッセーに向かう刃を撥ね退けたのだ。

赤龍帝の籠手(ブーステッドギア)、だと···貴様ッ!赤龍帝だったかッ!」

明らかに、男達の眼の色が変わった。格下の雑魚を鬱陶しがる眼から、要注意な危険物を見る眼に。

「よく分かんねぇ。けど、使えるッ!」

「ほざけッ!所詮ただの餓鬼が、赤龍帝だからと言って我らに勝てるかッ!」

再び突貫してくる男。その太刀筋を、鍛え上げた反射神経で弾くイッセー。その顔に焦りは無く、逆に男は苛立ちが募る。

「おっりゃァ!」

 

―ドグッ―

 

「うごぁ!?」

そして大振りの唐竹割りを左に弾き、その回転を生かして右足で男の股間を蹴り飛ばした。男は股座を押さえてのたうち回り、戦意喪失する。

「ふん、小僧。貴様、中々のやり手のようだな。だが、4対1ではどうしようもあるまい」

4人は扇状に広がり、イッセーを狙う。対するイッセーは、再び志狼の教えを思い出していた。

 

―――多人数を相手にする場合、お前が刀等を持っていれば左端から、そうでなくば右端から狙うのが良いだろう―――

 

(···いや、ダメだ。どっちに行っても、その隙にこの人達が狙われる)

しかし、教えられた戦術が通用しないと理解する。

そうなれば必然的に、後手に回るしか無い。

「ハァッ!」

「ちぇいッ!」

右の男の水平斬りと、左の男の唐竹割り。イッセーは左にステップして回避し、空振って床に食い込んだ刀の刀背を踏みつける。そこから手首を左足で踏みつけ刀を落とさせながら、振り抜かれた水平斬りを装甲で覆われた左手でキャッチ。そのままその刀の刀背に背中を乗せるように転がり、手から刀を絡め取った。

「ヨシッ」

「お、おのれッ!」

「くッ、抜けん···!」

そしてイッセーは、奪った刀を担ぐように構える。

BOOST(ブースト)!】

「おっ?」

不意に籠手から流れた声。それと共に、イッセーの身体に力が漲った。

「チィエステェェイッ!!」

 

―ギャリンッ―

 

「ぐっ!」

「うりゃッ!」

「ごあっ!?」

力のままに、1人に突撃。受太刀で横に流されるが、すぐさま刀を手放して右肘を肋骨に叩き込む。

「ん、ありゃ抜けねぇ」

1人撃破し床に突き刺さった刀を抜こうとするイッセーだったが、どうにも抜けない。渾身の力で振り下ろしたせいで、深く刺さってしまったのだ。

「このォッ!」

「ぐおっ!」

先程刀を奪われた男が、イッセーの腹目掛けて蹴りを入れる。直前で間に手甲を挟んだイッセーだったが、衝撃で吹っ飛ばされてしまった。

そして流石に内臓まで衝撃が響き、ダウンしてしまう。

「ヒャハハハハッ!ザマァ見やがれ糞餓鬼ィ!」

「おい、もう餓鬼は放っておけ。こいつらを始末するぞ」

(···クソ、油断しちまった···)

苦痛よりも情けなさで、イッセーは歯を喰い縛った。

母娘は一抹の希望が目の前で潰え、絶望に眼を潤ませている。

 

「朱莉ィィィッ!!朱乃ォォォォォッ!!」

 

しかし、どうやら天運は彼女らに味方したらしい。

開け放たれた入り口から、真っ黒な翼をもつ男が飛び込んで来たのだ。

「お父様!」「貴方!」

「無事か!」

(へぇ、あれが親父さん···今、文字通り飛んできたよな。しかもあの翼···堕天使だの何だの言ってたけど、マジでいるのか···)

「よっとっとォ···」

腹の中の鈍痛を散らし、壁に手を着いて立ち上がるイッセー。

「き、君は···」

「通りすがりの、サムライボーイですよ」

外れ掛けたフードを被り直し、左腕を前に構える。

「その左腕···いや、取り敢えずはこの不届き者を叩き伏せるとしよう」

父親もリーダーを見据え、自らの内に宿るエネルギーを雷光の槍として顕現し構えた。

「···フッ。馬鹿め、バラキエル」

「何だと?」

一見この上無いピンチに見えるが、リーダーは鼻で嗤って見せる。そして懐から何やら札を取り出し、それを掲げた。

「水金行結界、雷鴉箱(ライカバコ)

唱えると同時。獣毛が舞い、更に白い霧が部屋を覆った。

「ぬぅっ!?こ、これは···力が、出ないッ!?」

「貴様は火行の飛行と光、そして木行の雷が脅威。故に水行の霧、金行の獣毛を触媒とする結界を張ったまで。

我らは神道の人間。結界を張れば、堕天使一匹を五行世界に引きずり込むなど容易い事よッ!」

「何と···」

「五行···シローがよく言ってたな」

結界と化した部屋の中、再び男衆が武器を構える。イッセーとバラキエルも構えるが、雷光の槍は細く頼り無い。またバラキエルと同じく木火行の龍を宿すイッセーも、先程のブースト···力量倍加能力を封じられてしまっていた。

「はァァァァッ!!」

「くッ!」

「とらァッ!」

「ぐおっ!?」

「大丈夫かおっさん!?」

「余所見とは随分余裕だな、小童ァ!」

「ぐぅっ···クソォ。力が、抜ける···」

浅いながらも一撃を受けるバラキエルと、防戦一方のイッセー。マスクに結界の霧が張り付き、呼吸も苦しくなる。

「どうすれば···」

「ぐっ···な、何だ···毒か!?」

「おっさん!」

不意に、バラキエルが膝を着く。背中に受けた傷には、微かに緑色の何かが付着していた。

「テメェ、おっさんに何しやがった!」

「フッ、答えてやる筋合いは無いが···まぁ良い。冥土の土産だ、教えてやろう」

イッセーの問いに対して、先程バラキエルに一太刀を浴びせた男が脇差しを抜いた。

その刃には、緑色の青錆が浮いている。

「この錆び丸の青錆毒、則ち金行!木行たる雷の力を持つバラキエルには猛毒よ!

本来ならば、火行の光で弱められてしまうだろう。だが今や此処は結界の中!光は封じられ、解毒するも適わぬだろう!」

バラキエルが己の攻撃で苦しむ様を見て気を良くしたのか、男は自慢気に語った。

(つまり、この霧を吹き飛ばす事が出来れば、おっさんは復活出来るって事か···でもどうすれば···

クソッ!頼むよ!確か、ブーステッドギアだっけか?アイツら、お前が出て来てビビってただろ?あんな奴らがビビるぐらい、スゴいモンなんだろ!?だったら、おっさん達を助ける力ぐらい寄越しやがれッ!)

 

「ウオォォォォォッ!!」

 

「ふん、餓鬼め自棄を起こしたか。ハァッ!」

「グハッ!?」

大気を揺らす程の叫びと共に放たれたイッセーの拳はしかし、受太刀で止められる。

そして腹に蹴りを喰らい、再び打ち飛ばされた。

「し、少年···」

「う、ぐうぅぅぅ···」

唸るイッセー。痛みと怒りに震える声は、再び奇跡を起こした。

 

SCREAM(スクリーム)!!】

 

「ゔぅぅゥゥォォォオオオオオオオオオオオッ!!!!』

 

赤龍帝の籠手の手甲に付いた宝玉部分がスピーカーのように変形し、イッセーの声を増幅していく。

 

『ハァァァア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!!!』

 

その声が、呪術用に儀式を施された霧を揺らす。その霧はイッセーの言霊を受け入れ、それに見合う形を創り出した。

 

――――ギャオォォォォォォォンッ!!!――――

 

「「「ど、ドラゴン、だとォッ!?」」」

 

紅く巨大な、龍の頭。それは霧が音によって仮初の実体を得た《まぼろし》。然れどイッセーの叫びは、周囲の霧すら取り込み、まぼろしの密度を引き上げる。

「ッ!き、霧が薄まって···マズいッ!?」

 

――(ゴウ)ッ!!――

 

ドラゴンの口から吐き出される、深紅の炎。

如何に密度が濃けれど、所詮、それはまぼろし。仮初の炎である。しかしそれ故に、物理的な破壊力ではなく、呪具への破壊力に長けていた。

まぼろしの炎が抱えた思念の熱に焼かれ、漂っていた獣毛が焼き切れる。

「くッ、ば、馬鹿なッ···」

「ぬぅっ!ち、力が戻ったッ!!」

「ハァ···ハァ···」

「礼を言うぞ、少年ッ!」

「良いってこと···ッシャァ!」

バラキエル、復活。滞っていた光力が巡り、体内の毒が弱まったのだ。

そしてイッセーも、鍛え上げた心肺能力で酸素を吸入。息を整え、気合いを入れ直した。

「おっさん、ちょっとその槍借りる」

「何?」

言うや否や、イッセーはバラキエルの雷光の槍を左手で掴んだ。ビリビリと若干の痺れが襲うが、奥歯を噛み締め握り潰す。

 

―バリィンッ―

 

ガラスが割れるような音と共に雷光の槍は砕け、しかしその光は霧散しない。

赤龍帝の籠手の宝玉に吸い込まれ、脈動と共に声が響いた。

 

LIGHTNING(ライトニング) SPEAR(スピアー)!!】

 

掌から生まれる、紅い光の槍。其処に緑の雷が絡まり、イッセーの雷光槍が完成する。

「チッ、今代の赤龍帝は化物かッ!」

「逃がしはしないぞ」

「ッ!バラキエル···」

出口側に回り込むバラキエル。そして正面には雷光槍を構えたイッセー。

「···これは、もはや無理か···がッ!?」

挟み討ちの形になり、戦意喪失するリーダー。イッセーはその首に雷光槍を打ち付け、意識を刈り取る。そしてバラキエルも、イッセーに習って両手の雷光槍で男衆を気絶させた。

「お父様ぁぁぁ!」

「あなたぁぁぁ!」

「朱莉、朱乃、遅くなって悪かった。怖かったろうな···」

母娘···朱莉と朱乃はバラキエルに抱き着き、バラキエルも優しく抱き締め返した。2人の頭を撫で、そしてイッセーの方を振り返る。

「少年!君がいなければ、2人の命は無かっただろう。

心から感謝する!本当に、ありがとう!」

「あはは、まぁ、うん。どういたしまして···」

一方イッセーは、アドレナリンが収まって実感が湧かない様子だ。

「しかし···やはり、日本には受け入れて貰えないのだろうか···」

「···あー、おっさん。ダチが言ってたんだけどさ」

暗くなるバラキエルの顔を見て、イッセーは放っておけないのか口を開いた。

「日本の神様って、そんなよそ者嫌いしないらしいぜ?見たとこ、おっさん達が何か悪いことしたって訳でも無さそうだし···ソイツら縛り上げて、神様に文句でも言ったら?堕天使ってそう言うもんだろ?」

「···そう、かもな。ありがとう、少年」

「役に立ったら良かったよ。じゃ、俺もう帰るんで」

「え、ちょ、ちょっと待ってくれ!」

「ゴメン待たない。怖がらせちまった分、家族にサービスでもしてあげたら?」

フードを被り直し、立ち去ろうとするイッセー。取り敢えず、落ち着いて状況を整理したかった。

「では、名前だけでも!私はバラキエルと言う!」

「···名乗られちゃ、返さないとな。

取り敢えず、今度···来週ぐらいかな。さっき言ったダチを連れて来るんで、そん時に名乗りますよ」

「···分かった!では、その時に!」

バラキエル達の眼差しを背に受け、イッセーは神社を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「グォエッ」

「あ、忘れてた」

最初に気絶させた見張り番の鳩尾を踏んづけて···

 

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

兵藤一誠
SAMURAI紳士と化した原作主人公。
多少ご都合主義でゴリ押しつつ、初戦闘をクリア。ブーステッドギアを初回で2回も変異させると言うえげつない伸び代である。
因みに戦闘スタイルは薩摩が生み出した某薩人マシーンがモデル。使えるものは何でも使うので、基本泥臭い戦いをする。
取り敢えず頭の中を整理する為、スピードワゴン如くクールさで去ろうとして、見張り君を踏んづけた。

バラキエル
堕天使組織グリゴリの幹部。名前は神の雷の意味。
今回はガッチガチに対策されて不覚をとったが、そもそも閉鎖されていない広いフィールドならばメチャクチャ強い···ハズ。

姫島家の刺客
日本を護る陰陽術使いの家。姫島朱莉の親戚。
基本来るもの拒まずスタイルの日本には珍しく、どうにも過激派っぽい。
家から堕天使とのハーフが生まれる事を容認出来ず殺しに来た訳だが、何でこの時期まで生かしておいたかは謎。原作でも、朱乃が朱莉を守れなかったバラキエルを憎んでいる事から、少なくとも小学生程度の年齢ではあったハズ。細かい事は知らんけど。
姫島は神社の家系=神道勢力=五行思想と言う風に連想したので五行使いに。錆び丸も、まぁ持っとって良いやろ。
この後バラキエルが速攻で天照のお社に直談判しに行き、多分勢力としての地位はブッ壊れる事になる。

~神器紹介~

赤龍帝の籠手
――ブーステッドギア――
赤龍帝ア・ドライグ・ゴッホが封じられた神滅具。
10秒毎に、所有者の能力を【BOOST】の音声と共に倍加する。
これを宿した者は赤龍帝と呼ばれ、昔から対となる龍と争い続けて来た。
忍義手と同じく、拡張の余地がある。

赤龍帝の共鳴箱
――ブーステッドギア・スクリーム――
持ち主の声を取り込み、増幅する変異機能。形代を消費し、【SCREAM】の音声と共に発動する。
音圧や振動、衝撃をブーストで累乗増幅し、パンチや武器に乗せる事で攻撃力を強化する。
形代消費·3(+2)

本来は、猛る叫びを武器に宿す異能。その機能は、増音機や、蓄音機に近い。
しかし、霧が満ちる地で使えば、使用者の怒号は龍の雄叫びとなり、まぼろしの炎を放つ。
(モチーフは仮面ライダー響鬼の装甲声刃(アームドセイバー)。まぼろしドラブレはダクソの龍体ブレスみたいになった)

赤龍帝の雷光槍
――ブーステッドギア・ライトニングスピアー――
取り込んだ雷光の槍を反芻し、龍のエネルギーで再現する。形代を消費し、【LIGHTNING SPEAR】の音声と共に発動する。
籠手の装甲が細く、薄くなる代わりに、雷光槍を振るう事が出来る。投げる事も出来るが、再生成に形代を消費する。
形代消費·2

堕天使バラキエルから呑み込んだ、敵を穿つ雷光の槍。突けば熱光が金行を貫き、払えば雷が水行を凪ぐ。相手を見極め、使うべし。


原作の龍殺しのアスカロンを取り込んだ所見て、あれ?これ忍義手化出来るんじゃね?と思ったので、今後ブーステッドギアは追加武装バンバンぶちこんで行きます。
形代云々は、ドライグが覚醒した時に説明します。


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第4話 鬼仏

(志狼サイド)

 

「うん···あぁ、じゃあ···」

通話を終え、俺は電話を切った。

「母さん達には、葦名の寺で一晩世話になると伝えた」

「便利なものだな。携帯電話だったか」

「子供用だがな」

子供ケータイをポーチにしまい、弦ちゃんに向き直る。

「そう言う弦ちゃんは、親には連絡しないのか?」

「あぁ。俺は元々、2泊3日の予定だったからな。昨日来て、今日楽しんで、明日帰る」

泊まり旅···俺も最初からそうすれば良かったか。いや、あの未だ子離れ出来ていない母さんは、あと1年は許してくれないだろう。なら良いか。

「して、弦ちゃんの神器は何だ?」

「あぁ、これだ」

そう言って、弦ちゃんは両手の甲を見せる。すると手の甲に花の形をした手甲が現れ、其処から袖の中まで黄色い蔦が巻き付いた。

「名前は分からんが、中々に便利でな。この蔦は俺の思い通りに動いてくれるし、何より···」

 

―バチッ バチチッ―

 

指の間に、火花が飛ぶ。紛う事無く、それは放電だ。

「こういった具合に、電気を放てるのだ。発電能力と言うのか?」

「成る程。雷返しを良く使っていた、弦ちゃんらしい神器だ」

「いや、それを言うならお前など、差し詰め雷返し返しじゃないか」

「猿真似は得意でな」

「狼なのにか?」

「狼なのにな」

「可笑しな話だ」

そう言って、弦ちゃんはフッと笑う。いやはや、鎬を削る戦いを交わした相手と、こうやって笑い合えるとはな。

「時に黒歌殿。俺の神器の名前を知ってはおられぬか?」

「ん~?あぁ···雷鞭(らいべん)夕顔(ゆうがお)、サンダーカリスティージャだと思うにゃ。割とありふれた神器だにゃ」

「夕顔か。別名カミナリバナ、道理で···」

夕顔は下し薬になるし、何より瓢箪の事だ。傷薬瓢箪を初めとする薬水瓢箪も、特殊な夕顔なのだ。

「持ってきましたよ、狼」

「あぁ、ありがとう」

戸を開け、御子が布に包んだ何かを持ってくる。それを受け取り開けてみれば、木彫りの鬼仏だった。

「狼、それをどうするのだ?」

「昔、俺は葦名の地の至る所に置かれた鬼仏を利用していた。これを使えば、様々な事が出来る。

その1つが、仏渡りと言う、鬼仏から鬼仏へのワープだ」

「「!?」」

「···木彫りで出来るかは分からんが」

取り敢えず、目の前に木彫り鬼仏を置いて座禅を組む。すると、青い鬼火が集まり、鬼仏に灯った。

 

――鬼仏見出――

――SCULPTURE'S IDOL FOUND――

 

「おっ」

「にゃっ!?」

「まぁ!」

どうやら、木彫りでも問題無いらしい。にしても、黒歌の尻尾がブワッと膨らんだな。やはり反射的に警戒するか。

「御子よ。この部屋の入り口近くにあった鬼仏、まだ置いているか?」

「えぇ、しっかり置いていますよ?」

「よし」

俺は腰を上げ、部屋を出る。少し歩くと、やはり鬼仏があった。

 

――鬼仏見出――

――SCULPTURE'S IDOL FOUND――

 

同じく座禅を組んで解放し、今先程見出だした木彫り仏を思い浮かべる。

そして一瞬で空気が変わり、目蓋越しに光が届いた。

「ま、マジでワープしたにゃ···」

「道理でああも迅速に葦名を駆け回れた訳だ」

「鍵縄が便利だったと言うのもあるがな」

しかし、形代は買えないみたいだな。まぁ良いだろう。

 

―――――

――――

―――

――

 

―――そなたなど、まだまだ子犬よ―――

 

「勝てぬ···」

朝。妙にリアルな夢から覚め、布団から起きる。

枕元には、朧気に光る鬼仏。もしや、今のが類い稀なる強者との再戦、か···

しかし、何故俺はこの子供の姿だったのか。義手忍具も使えぬし、体幹も弱い。オマケに、相手は思い出補正で強化されていると来た。

幸いと言うべきか鍵縄や道具系、楔丸は使えた。それを使って鬼刑部(おにぎょうぶ)には何とか勝てたが、お蝶殿···いや無理だ。勝てるかあんなモン。こちとらアイテムは傷薬瓢箪と丸薬と種鳴らししか使えないんだぞ。あ、でも飴系と、形代流しを使えば御霊卸しも出来るか。

「ん···んぁあ···あぁ、起きていたのか、狼」

と、隣で弦ちゃんが目を覚ます。

「あぁ、おはよう弦ちゃん。良く眠れたようだな」

「おはよう狼。やはり、故郷の空気を吸えば、寝心地が良い」

「全くだ」

時間を確認すると、8時25分。おっとまずい。

「もうすぐ仮面ライダー鎧武の時間だ」

「お前も好きか」

などと言いながら、俺達は奥の院に増設された居間に向かった。

 

―――

――

 

「いやぁ、にしても···ドロッドロだったな」

「まぁ、脚本がまどマギと同じだからな」

「あぁ···道理で」

「中々えげつないストーリーだにゃあ···」

朝食を食いながら鎧武を見終え、弦ちゃんのボヤきに答える。見た事の無い黒歌には、俺達がその都度説明しながら一緒に見た。

因みに、1回目の人生ではゼロワンの最終回まで見た。正直脚本は庇いようが無い、下の下な出来だったと思う。それぞれのライダーは充分以上に格好良かったけど。

「狼は主任が好きそうだな」

「まぁな。そう言う弦ちゃんは···バロンと重なる所があるな。理想の為に外道に踏み込んだり」

「それはもう言うな」

なんて事を喋りながら、俺達は苦笑いを向かい合わせる。いやはや、やはりえげつないな。

「···そう言えば弦ちゃん。雷鞭の夕顔を使えば、俺のように飛び回れるんじゃないか?蔦の強度は?」

「えっ、いやまぁ、ぶら下がったり振り子運動程度なら余裕だが···」

「よし練習だ」

「えっ?」

思い立ったが吉日。俺は居間に置いていたポーチから鍵縄を出し、弦ちゃんの手を引いて廊下に出た。そして窓を開ければ、手摺はあれど断崖絶壁。しかし、そこかしこに丁度良い出っ張りや木の根はある。

「えっ、志狼君?何してるにゃ?流石に危なく「とうっ」無いかにゃァァァァ落ちたァァァァッ!?」

手摺を乗り越え、躊躇無くジャンプ。そこから左手に持った鍵縄を投げ、木の根に引っ掛けて身体を引き上げる。そして木の根の上に着地し、今度は寺の屋根に鍵縄を引っ掛け窓に戻った。

「とまぁ、こんな具合に便利だぞ。さ、やってみろ」

「無茶言うなッ!断崖だぞッ!?落ちたらどうするッ!?」

「だから落ちたくなければ、この世にしがみつく気で蔦を飛ばせ。俺もお蝶殿からそうやって鍛えられた」

あぁ、俺の中にある()()()()が引き出される。

彼方此方と修行場を転々と連れ回され、今で言うなら超スパルタ式な、それでいて限界寸前まで力を出し切れば何とかこなせるような、そんな意地の悪い修行をさせられたものだ。中でも印象深いのが、15の時にさせられた薄井の森での修行。

霧とまぼろしが満ちるその森で、霧鴉を捕まえろと言われたのだ。数日分の最低限の水と食料、苦無(クナイ)を持たされ、森に放り込まれた。

霧の中で方向を見失いながらも駆け回り、何度も何度も追い駆けては逃げられ、何とか捕まえたと思ったら数枚の羽を残して跡形も無く姿を眩まされた時は流石に心が折れた。年甲斐もプライドも何もかもかなぐり捨てて森の真ん中で泣き伏せたものだ。

その後、まさか泣くとは思わなんだと詫びながら現れた養父上とお蝶殿曰く、俺の嗚咽からまぼろしの群れが生まれ襲い掛かって来たらしい。

そしてその後、薄井の猛禽は丁寧に手懐けるしかないと知った時、俺は拗ねた。3日は口を利かなかった。

「さぁ、猿になって来い」

「そこは鳥じゃウワァァァァァァァァ!?」

ウダウダ言っている弦ちゃんを、俺は窓から突き飛ばす。弦ちゃんは落っこちる途中で何とか蔦を飛ばし、木の根に引っ掛けたようだ。

「ホォォォォォォォォォ!?」

奇声を上げながら猛烈なスピードでスイングしていく弦ちゃん。その声を聞き、俺の脳裏には寄鷹衆が過る。あの凧から滑空してくる奴らだ。

「うっわ、志狼君えげつないにゃ···」

「これが忍式だ。死が目前にあれば、人間の心身は嫌が応にも目覚める」

「ぬぉぉぉアァァァァァッ!!」

「おぉ、帰って来た」

途中で何とか方向転換したらしく、弦ちゃんは見事戻って来た。だが手摺を越えられず、どうにか掴まって宙ぶらりんになる。

「良く出来たな。最初でこれなら上出来だ」

「黙れぇ!こんな場所から突き落とすなど正気の沙汰じゃないッ!抜けたか竦んだかで足腰立たぬわッ!!しまいにゃ泣くぞッ!!」

「と言うかもう泣いてるにゃ」

足腰を生まれたての子鹿のようにプルプルさせながら、震えた声で絶叫する弦ちゃん。涙で目元を潤ませながら抗議してくるが、まぁ結果良ければ全て良しだ。

「狼、流石に酷いのでは?」

「大丈夫だ。現に大丈夫だった」

「結果論だろうがッ!!」

「弦ちゃん、はいお茶」

「あぁ黒歌殿、かたじけない」

黒歌から震える手で湯呑みを受け取り、茶を飲む弦ちゃん。一杯飲む頃には、幾らかマシになっていた。

「フゥ···」

「えっと、弦一郎君?どうかしたのですか?」

御子の問いに答えず、窓から外を見下ろす弦ちゃん。そしておもむろに神器を出し、再び外に飛び出した。

「えっ、自分から行くにゃ!?」

黒歌の驚愕余所に、外では弦ちゃんが楽しそうに飛び回っている。

先程のスイングよりかは、幾らか俺の立体機動に近い動きが既に出来ていた。

「ホォォォォォォォォォウッ!!」

あぁ、実に楽しそうだ。

「···弦ちゃん、ヤバいクスリでもキメた?」

「少なくとも、脳内麻薬は確実に」

「才能があった···のでしょうかね···」

何はともあれ、弦ちゃんが立体機動を習得出来たようで良かった。

 

―――

――

 

「世話になった」

「昼飯も旨かった。それに土産の柿まで···すまんな」

昼下がり。俺達は仙峯寺の門前で、御子と黒猫に化けた黒歌からの見送りを受けていた。

手には、土産として御子に渡された丸々と熟れた柿が幾つか入った紙袋を持っている。

「いえいえ。その柿、葦名の特産品の太郎柿です。親御さんと、食べてください。

また、いらしてくださいね。狼、弦一郎」

「にゃー♪」

「あぁ、また来よう」

「俺は兎も角、狼は仏渡りもあるしな」

「中学に入ったら、親にスマホでもねだってみるか」

「じゃあ、その時はLINE交換しましょうね!」

「御子スマホ持ってるのか」

「便利ですからね♪」

袖の中からスマホを取り出す御子。ストラップの鈴がチャリリッと鳴り、白い御守りが揺れる。

「ハハハ、なら、俺も使い方を覚えねばな」

そう言って手を振る弦ちゃんと共に、俺は仙峯寺を後にした。そしてもう少し土産物を買うため、城下町を目指す。

城下町までは、時間短縮の為に人目のつかぬ場所に限り鍵縄を使った。

「狼は何を買う?」

「団子やおはぎと、地酒だな」

「ならば、俺も竜泉とどぶろくを買っていこう」

「俺は竜泉と猿酒だな」

「やはり、竜泉は外せぬ」

2人して酒屋に入り、酒とツマミを買う。その後も土産物を買い、1時頃に電車に乗った。

 

―――

――

 

「まさか降りる駅まで同じとはな」

「また会う時に、手間が減るな」

長いこと電車に揺られ、行きしなに最初に乗った駅まで帰って来た。

3つ目の乗り換えが被った辺りから何と無く察していたが、どうやら結構近所に住んでいるらしい。この辺では俺の通っている所ともう1つ小学校があるから、そっちに通ってるんだろう。

「と、俺の親の車があった。じゃあな」

「あぁ、またな弦ちゃん」

そう言って手を振り合い、俺達はそれぞれの帰路に就くのであった。

 

 

 

 

 

 

翌日、イッセーにドラゴンが宿ってて宇宙猫ならぬ宇宙狼になった。

 

to be continued···




~キャラクター紹介~

葦原志狼
WMKN(割りとマジで鬼畜な忍者)な主人公の狼。
話が積もり過ぎて、ついうっかり帰りそびれる。そのまま仙峯寺奥の院にて一泊。弦ちゃんとは完全に打ち解けた。前々世からの趣味で仮面ライダーが好き。
今回で仏渡りと休息が解禁。これまでは瓢箪系は一晩寝ないと補充されなかった。また、戦いの記憶やボスラッシュも解禁された。だが現在の状態が反映されるので、現状は鬼刑部にしか勝てていない。
薄井の森でのエピソードは捏造。でもあの忍の修行なら、こういう無茶苦茶してもおかしくないと思うの。
因みに帰ったらお母さんの説教を喰らいましたとさ。

葦斑弦一郎
オリジナル神器を宿した弦ちゃん。
前世の信条から、ヒーロー系の物語が好き。
オリジナル神器は雷鞭の夕顔(サンダーカリスティージャ)。作中で志狼が言った通り、夕顔は別名カミナリバナ。なので、その名の通り放電能力がある。そして蔦を伸ばす事で、鍵縄と同じ立体機動が出来る。
実は半ば高所恐怖症だった。これは前世からで、葦名城の天守閣は柵と屋根で下が直接見えないから大丈夫だった。しかし、今回志狼に断崖絶壁から投げ飛ばされた事で無理矢理克服する事になった。
因みにこの立体機動にハマり、スパイダーマンの如く飛び回れるようになった。
何気に狼のやった命懸けのぶっつけ本番式訓練は、神器の鍛練に最適だったりする。今回の場合、死への恐怖から蔦が太く、編み込み状の構造に変化している。

黒歌
突っ込みキャラと化しつつある猫魈おねえちゃん。
ともあれ志狼達への印象はかなり良い。
因みに原作通りはぐれ悪魔な彼女だが、SEKIRO要素の中に彼女達転生悪魔を元の種族に戻す方法がある。

変若の御子
お米ちゃん。
狼と弦ちゃんを一晩泊めてあげた。結構料理上手い。
意外と現代に適応しており、テレビやスマホを普通に使っている。Wi-Fiも、業者に頼んで完備している。
因みに最近のマイブームは猫状態の黒歌をモフる事。

~神器紹介~

雷鞭の夕顔
―――サンダーカリスティージャ―――
夕顔の花を象った、左右一対の手甲。念ずれば、放電が飛ぶ。発動中は、雷攻撃によるダメージと、状態異常「打雷」になった時のダメージを軽減する。
名の通り、蔦を鞭として振るう事が出来る。敵を縛り、感電させる事も出来る。
夕顔は、カミナリバナとも呼ばれる。木気たる花の形を成す雷の神器は、五行に合った相性である。


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第5話 赤龍帝と神雷の鴉

「···で、どう言う事だ?」

葦名帰りの翌日の放課後。志狼は一誠の家に呼ばれ、向かい合って座っていた。

「んーと、ちょっと待てよぉー···あ、あったあった」

一誠が本棚から取り出したのは、世界の神話に登場する魔物や天使、神について書かれた図鑑の類いだった。

「宿ってるヤツ曰く、自分は()()なんだってさ」

一誠が開いたのは、とある龍の記述が載ったページ。

 

幾度固めようとも、沈んでしまう城の地盤。魔術師達に生け贄と選ばれたインキュバスの子たるマーリンが見出だした地下の水溜まりの、更にその水底にあった2つの石から生まれた紅白の二龍。その片割れ。

ウェールズの赤き龍、ア・ズライグ・ゴーッホ。

 

『おいおい相棒、信じてないのか?』

一誠の言い方に不満があるのか、一誠の左腕に赤龍帝の籠手に変化し、緑の宝玉が明滅すると共に声が響いた。

「あーコラ、勝手に出てくるなって···まぁ良いや。シロー、コイツが自称ドライグ。

相方の白い龍と喧嘩しながら、持ち主が死ぬ度に他の人に取り憑くってのを、かれこれ数百年繰り返してるんだってさ」

「傍迷惑な。どうせ宿主の死因もその喧嘩に巻き込まれたからだろう。

虫下しでも、飲んでみるか?効くかもしれんぞ」

『おい!この俺を寄生虫みたく扱うな!』

「寄生虫の相手なら、蟲憑きでもう間に合ってる」

籠手に宿るドライグの事をボロックソに言いまくる志狼と一誠。それに対して抗議するドライグだったが、取り付く島もありはしない。

『···と言うか、お前も強力なドラゴンを宿しているじゃあないか』

「えっ?」

ドライグの言葉に、一瞬呆ける一誠。対して志狼は静かに眼を瞑り、神なる桜竜の五行界眼を発動する。

「し、シローお前も···?」

「あぁ。流石に、隠していたが···まさか、イッセーも神器持ちだったとはな···」

『ドラゴンは強者を引き寄せるからな』

驚く一誠と志狼に、ドライグが呟く。どの世界でも、龍は因果の中心に近い存在であるようだ。

『にしても、今回の相棒は中々面白いな。まさか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()亜種機能を、覚醒初日で生み出すとは』

「何?イッセー、どういう事だ」

「ん、あぁ。こういうのなんだが」

【SCREAM!】

イッセーは赤龍帝の籠手を差し出し、それを赤龍帝の共鳴箱(ブーステッドギア・スクリーム)に変化させた。

「これを使ったら、何かドラゴンの頭が出てきてさ。そんでブワーって火を吹いたんだよ」

「まて。まず其処までの過程を教えろ」

「あー、ごめんごめん。一昨日の話なんだけどな?」

 

―――

――

 

「···概ね、理解した」

一誠に説明を受け、志狼は腕を組んで一応納得する。

「にしても、日本の~···オンミョージュツ?ってスゲーんだな。聖書に載ってるような堕天使でも、場所さえ作れば無理矢理自分達のポケモンみたいなタイプ相性の中に引っ張り込めるんだから」

(···イッセーの話で、俺の神器がどれだけ規格外か分かった)

一誠の体験した水金行結界は、触媒と儀式によって結界を作り、その限られた空間内で、対象を五行思想の法則に引き摺り込む。だが裏を返せば、其処まで準備せねば、別の神話体系の存在を自分達の神話法則に当て嵌めるなど普通は出来ないのだ。しかし、志狼の場合は眼で観察し、対象の中に五行の属性を見出だすだけである。正にぶっ壊れ性能だ。

「にしても···残留思念を消費する、とは?」

『それは俺が答えよう』

赤龍帝の籠手の宝玉が光り、ドライグが語った。

曰く、ウェールズの白龍《アルビオン・グウィバー》を宿した、赤龍帝の籠手と対となる神器、白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)を持つ歴代の白龍皇と戦った過去の赤龍帝達の魂の欠片が、赤龍帝の籠手の中にこびりついているとの事。

歴代の赤龍帝達は、この残留思念に引き摺られて白龍皇と戦い続けた。それに抗おうとしても、結局は無駄だったと言う。しかし、一誠はどんなに抗おうと耐えられない筈の残留思念を、あろう事か消費してしまったのだ。

『と言っても、丸ごと1人分使った訳じゃない。残留思念の欠片を、少しずつ削るように使っていたのだが···どちらにしろ、俺もこんな事は初めてだ』

「ってな事らしいんだけど、志狼は何か分かるか?」

「···」

話を聞き、黙って手を顎にやる志狼。もっとも、志狼にはこの現象の正体については心当たりがあった。

「···形代忍術や、供養忍具の類いだな」

「カタシロ···?」

「···見た方が、早いだろう」

志狼は懐から形代を取り出し、左手に握りこんでその指を咥える。そして、思いっきり指笛を吹いた。しかし、音は鳴らない。

首をかしげる一誠に対して、志狼は手を開き、一誠に向けて音の塊を指で弾いた。

 

―ピュゥーゥイッ!―

 

「うわっ!?」

音が飛び、一誠の耳元で爆ぜる。思いもよらぬ場所から聞こえた指笛の音に、一誠は驚いた。

「供養忍具による、形代忍術の応用···指笛の、山彦(やまびこ)だ。音が遅れて発生する。

このような特殊な術に、形代を使う」

説明しながら、再び形代を取り出し一誠に見せる志狼。紙で切り取った人ににた形のそれを、一誠は見つめる。

「この形代は、人の未練だ。供養されず死んだ者に近付いたり、敵を殺したりすると、未練が形代に乗り、供養を求めて飛んでくる。

それに含まれる未練を燃やし、力とするのが形代忍術。故に未練を燃やすそれは、ある意味、供養であるとも言える」

「···えーっと、他人の『○○したかったー!』っていう気持ちを受け取って、その気持ちの力で戦う、みたいな?」

「その通りだ。そしてさっき、変化した籠手からまぼろしの龍が現れたと言ったな。その時、残留思念は消費したか?」

『いいや、あの時は何故か···』

「恐らく、結界の霧が原因だろう。俺もまぼろしは使えるが、霧が無い所で扱うには形代が要る。しかし、まぼろしと言う依代があれば、形代は必要無いだろう。

そもそも、まぼろしは未練が流され溶け込んだ水から発生した霧に、音で仮初の実体を与える(ワザ)。だが霧がなければ、同じく未練である形代を使う。

水行結界に使われた水···術式を受け入れやすいよう、呪術的な加工を施していた筈だ。それ故、イッセーの叫びに含まれる、龍の声を汲み取った···と、言った所か」

『フム。何と無くは分かった』

「···あはん?」

情報の洪水に理解を放棄し、宇宙猫と化した一誠。一方、ドライグは僅かながら理解出来たらしい。

「あ、そうだ忘れてた。次の土曜日、さっき言ってた神社に行くぞ。シローの事連れて来るって約束しちゃってさ」

「本人の関わり知らぬ所で···まぁ、良いだろう」

溜め息を吐きつつ、事後承諾する志狼。過ぎた事はどうしようも無いし、別予定がある訳でも無い。

「そう言えば、シローってどうしてこんな事知ってんだ?普通知らないよな?」

「あぁ、前世の記憶と技術があるんだ。戦国時代の忍者だった」

「···マジ?」

「マジだ。もう隠しておく必要も無いだろう」

「そっかー···何か納得」

『いやオイ!結構衝撃的な告白だぞ?やけにスンナリ受け入れたな?相棒』

「いや、だってよ。腕が喋るわ、堕天使とか悪魔とかいるわだぜ?今更親友がマジ忍者だからって、それが何だってんだよ」

『た、達観してるな~相棒は···』

一誠の呑み込みの早さに、流石のドライグも若干引く。

「その籠手···ブーステッドギア、だったか。俺の忍義手から、忍具を再現出来るやも知れぬ。今日はもう遅い故、明日見せてやろう。その残留思念とやら、もし尽きても代わりはある」

「よっしゃ!これで俺も忍者だぜ!」

「言っておくが···本物の忍稽古は、普段の修行ごっこよりも、更に理不尽だからな?」

「え、あれより···?」

基礎訓練しか知らない一誠は、志狼の発言に顔を青くする。

実際、霧鴉を捕まえろだの、飛んでくる矢や手裏剣を刀で叩き落とせだの、人間離れした神業を当然のように求められるのが忍の世界なのだ。

「では、俺は帰る。次の土曜日、だったな」

「おう!いつもの公園でな!」

 

―――――

――――

―――

――

 

「ほう、此処が」

土曜日。志狼は一誠に案内され、姫島神社を訪れた。

「ほら、行こうぜ」

「分かっている」

一誠に急かされ、階段を駆け登る志狼。社に近付くにつれて、人ではない気配を強く感じ始める。

「おっさーん!バラキエルのおっさーん!」

「おぉ、来たか少年!ご友人も、わざわざご足労感謝する!遠慮無く入ってくれ!」

一誠の呼び掛けに応じて、社の中から鴉の翼を持つ男が出て来た。上級堕天使、バラキエルだ。

2人はバラキエルに連れられ、居間に通される。そこには卓袱台があり、バラキエルの妻である姫島(ひめじま)朱莉(しゅり)と、娘の朱乃(あけの)が座っていた。卓上には急須と茶碗、そして煎餅の小袋や羊羹などのお茶請けが置いてある。

「どうぞ、座ってくださいな」

「···」

朱莉に促され、志狼は座布団に正座。一誠も習って座るが、如何せん正座慣れしていないせいで表情がひきつる。

「あぁ、無理に正座なんてしなくても大丈夫ですよ?崩して、楽にして下さい」

「あ、じゃあ遠慮無く」

早速胡座をかき、 楽な姿勢を取る一誠。志狼も、輪王座に座り直した。

「えー、ゴホン···この度は、我が妻と娘の命を救ってくれた事、この俺の危機も打開してくれた事、心から感謝する。ありがとう、少年」

「あぁ、えーっと、どういたしまして···取り敢えず、頭上げて下さいよ!感謝はしっかり受けとりましたから!」

卓袱台に着いたバラキエルが本題を切り出し、頭を下げた。それに対して、一誠は返事を返し、彼に頭を上げさせる。

「あぁ、分かった···して、少年。君とご友人の名前を教えてくれないか?

改めて名乗るが、俺はバラキエルだ。こっちが妻の朱莉で、この子が朱乃と言う」

「あ、この前はすいません。名乗らずに帰っちゃって···俺、兵藤一誠って言います!あだ名はイッセーです!そんでこっちが···」

「···葦原、志狼。イッセーからは、シローと呼ばれている」

一誠と志狼はそれぞれ名乗り、ペコリとお辞儀した。

「一誠君に、志狼君か···見ただけで分かる。かなり強いな?特に志狼君は。

師事は、誰に?」

「···明かせぬ」

「む、そうか···」

戦国時代の筋金入りの忍者に鍛えられたとは、流石に言えない。故に志狼は、黙秘権を行使した。

「そういやバラキエルのおっさん。あの後、日本の神様とはどーなったんだ?」

「おぉ、それだがな。要約すると、『今回の件は100%日本側の非だった。詫びとしてハーフ狩りに荷担した奴らは国八分レベルで干しとくし、慰謝料と保護と住居、必要ならば武術鍛練も約束する』って言ってくれてな。天照様が、直々に書面まで書いてくれたんだ」

ホレ、とバラキエルが指差す先には、何やら重要そうな書類が額縁に入れて掛けてある。恐ろしく達筆な筆文字が書かれており、左下には真っ赤な天照の印が押してあった。

「スゲェじゃん!」

「まさか、天照大御神が、直々にとは···」

「あぁ···そしてそれに当たり、俺は堕天使陣営から日本神話陣営に鞍替えする事にした」

「···は?」

バラキエルのまさかのカミングアウト。茶碗を口に持って行こうとしていた志狼の手が、ピクリと震えた。

「···出来るのか?」

「妻子を護れるし、何より神の子を見張る者(グリゴリ)には人間蔑視が酷い奴がかなり多くてな。一応、人間文化にハマってる奴も居るには居るんだが···流石に、少しばかり居心地が悪かった。良い機会だから、アザゼルの奴に辞表を叩き付けてやったさ。

何時も何時も、妻子持ちの俺に対して呪詛を吐いてやがったからな。正直うんざりだった」

「総督命令だの何だのと毎回晩酌に付き合わされたって、いっつも愚痴ってましたもんねぇ」

「···情報量が、多いな」

「あー、取り敢えずだ。俺達は日本神話に下った。これから日本神話に指定された場所に引っ越し、其処で暮らす事になったのだ」

ハハハと笑いながら、バラキエルは腕を組む。対して志狼は、グリゴリのパワハラ事情に顔を引き攣らせていた。

「···俺達も、明確に日本陣営に所属した方が、良さそうだな。後ろ楯が無いのは、危険過ぎる」

「バラキエルのおっさんに口利き頼むのか?」

「いや。葦名の知人に、日本神話と深いコネを持つ人が居てな。俺とイッセー、そして新しい友達の弦ちゃんも含めて、保護して貰おう。何より、俺の忍の技は、受けが良い」

「あー、確かに。便利だもんな、供養忍具ってヤツ」

【SHURI-KEN!】

新しく修得した赤龍帝の籠手の亜種機能の1つ、赤龍帝の鱗手裏剣(ブーステッドギア・スケイルシュリケン)を発動させる。手首に手裏剣状の鋭い鱗を生成し、それを射出するのだ。一誠は目下練習中だが、狙って飛ばすにはかなり苦労している。

因みにこれらの供養忍具に類似した機能を、一誠と志狼は籠手龍具と名付けた。

「い、イッセー、くん!」

「ん?どうしたの?あけのちゃん」

遠慮がちながら、朱乃が一誠に話し掛ける。

「あの、その左手···他にも、あるんですか?」

「···見たい?見せてあげよっか?」

「うん!」

可愛らしく頷く朱乃。どうやら浪漫(ろまん)が分かるタイプらしい。

「おぉ、ならば俺も見てみたいな!朱莉、薪か何かあったか?」

「私が風邪で寝込んだ時に、貴方が力加減を間違えて割ったまな板がありますよ」

「あ、あの時は悪かったって。俺も包丁握った事無かったし···」

タジタジになりながら、台所へと向かうバラキエル。一誠と朱乃は外に出た。

認識音声とバキンッバキンッと言う変形音を発てて、シルエットを変形させる赤龍帝の籠手を眺める朱乃。そんな2人を尻目に、志狼はバラキエルの元に歩み寄った。

「えーっと、どこやったかなぁ···確か、この辺に···」

「バラキエル殿」

「ん、どうした志狼君」

「先程の、辞表の話···アザゼルとやらに、イッセーの神器の事は、話されたか?」

「···いや、話してない。俺がギリギリ、1人で撃退した体で話したよ。アイツなら、確実にちょっかいを出しに来るだろうからな」

「···有り難い」

「良いんだ。お前達は子供だろう。例えどれだけ強かろうと、出来た大人ってのは、子供を護るもんだ」

「···流石は、妻子持ちだ」

「伊達に11年、親父はやっていないさ。おっ、あったあった」

フッと微笑みながら手を動かし、目的のまな板を見付けたバラキエル。

綺麗に真っ二つに割れたそれを抱え、志狼と共に、待たせていた一誠達の元に向かう。

 

その日、一誠は連続手裏剣投げで12枚と言う新記録を叩き出した。

 

to be continued···




~キャラクター紹介~

葦原志狼
主人公隻狼。
イッセーの赤龍帝の籠手の事を知り、自分の神器と前世についてカミングアウトした。
同時に、本来別の法則の元で生まれたものを五行世界に引き摺り込む事が如何に面倒であるかを知り、改めて五行界眼のブッ壊れ性能ぶりを認識する。
細指が無くても指笛は吹ける。流石に泣き虫は指だけでは無理だが、指輪を着けるだけなので忍義手無しでも使えるっちゃ使える。
バラキエルの事は信用に値すると判断した。
遠く無い内に、お米ちゃんのコネで日本神話の神様と接触する予定。

兵藤一誠
SAMURAIソウルを抱く原作主人公。
話の中から要点をかい摘まんで聞く能力に長けており、「要するに○○って事だよな」と言った要約が得意。但し限度はある。
肝っ玉も座っていると言うか、常識に囚われず見たものを受け入れる能力も高い。これは超常存在を相手取るなら必須技能と言える。
女の子が見ている手前、カッコ悪い事は出来ないと集中しまくった結果、手裏剣投擲12枚連続命中と言うかなりスゴい記録を打ち立てた。因みにそれまでの記録は9枚。

バラキエル
良いお父さん。
子供相手にも対等に話せるし、人間見下さないし、大人としての信念もある。
前々から堕天使組織神の子を見張る者(グリゴリ)では居心地が良くなかったので、この機会に堕天使総督であるアザゼルに辞表を叩き付け、日本に鞍替えした。
一応今は神使見習いやら、獄卒見習いやらを試験的にやってみようと言う研修期間中。地獄は人員不足であり、尚且つ人間に対しては無害だったのでそこそこ歓迎されていたりする。

姫島朱乃
悪魔化フラグが折れた少女。
浪漫変形の類いが結構好き。エンジニア兼諜報工作員とかにしようかなーと考えていたりいなかったり···

~神器紹介~

赤龍帝の鱗手裏剣
―ブーステッドギア・スケイルシュリケン―
手首から鋭い鱗を生成し、手裏剣のように飛ばす変異機能。【SHURI―KEN】の音声で待機状態に変形し、形代を消費して、発動する。
この機能を顕現している間は1回で倍加が止まり、以降は10秒毎にストックされる。ストック分の倍加を掛け、威力を上げる事が出来る。
形代消費·1

龍鱗を飛び道具に出来た者は、そうは居まい。赤龍帝の鱗ともあらば、無いに等しいだろう。
鱗の刃は、鋭く堅い。工夫を凝らせば、甲冑や超常の壁すら穿つだろうか。


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第6話 薄井の守護狼

(志狼サイド)

 

「···ふむ。分かりました。蚕姫様に掛け合ってみましょう」

「忝ない」

「気にしないで下さい。我々の仲ではありませんか」

夜。仙峯寺奥の院。

イッセーについての説明と頼みに、御子は快く頷いてくれた。

「取り敢えず、来週末。イッセー共々、両親を連れて来る。共に、説明を頼みたい」

「えぇ、勿論。では、そうですね···この御守りをお持ち下さい」

そう言って、御子は御守り袋をくれた。受け取ってみると、中に粒のような感触。どうやら、米が入っているらしい。

「これは、退魔師や陰陽師の方にお渡ししている御守りです。それを見せれば、此処にするりと通して貰えるでしょう。それに、城下町の路地裏に隠されているまじない屋にも入れるようになります。

謂わば、葦名の裏側へのパスポートですね。御霊降ろしの飴や、神吹雪なんかがご入り用ならば、是非いらして下さい」

「ふむ···良いのか?忍だったとは言え、俺はまだ子供だぞ?」

「確かに、肉体はそうですね。でも、それに精神年齢が引っ張られている様子はあまり無かったので」

「いや、年相応な所はあるぞ。弦ちゃんにやったみたく、割とえげつない事もサラッとするし」

「自覚あったんですか···それでも、例えば悪戯なんかはしないでしょう?」

「当然だ」

他人に迷惑がかかるし、何より人間として恥ずかしい。

「そうやって即答出来る貴方を、私は信用します。貴方なら、己の為すべき事を為す、その為に使ってくれると」

「···では、貰おう」

信用されているな、俺は。裏切らぬよう、肝に銘ぜねば。

「お米ちゃん!大変にゃ!」

戸を慌ただしく開け、黒歌が飛び込んで来る。

「何事ですか?」

「葦名の北の方のあの森に、悪魔が侵入しやがったにゃ!」

「何だと?」

御子の反応より先に、俺の声が漏れた。

「葦名の北に離れた森、薄井の森か」

「そうそれ!あの霧が掛かりっぱなしの、あの森!」

俺の背中に、ゾワリと嫌なものが走った。

「···黒歌殿。もしや悪魔には、密猟を行う輩がいたりするか?」

「いる。って言うか、しょっちゅう其処らで幻獣なんかに手を出しまくってるにゃ。私だって、それと似たような口だし」

「となると、急がねば。奴らの目的は、恐らく薄井の猛禽だろう」

霧鴉達···薄井の猛禽の捕獲は、正攻法ではほぼ不可能に近い。何せ、忍具《霧がらす》と同じく、霞のようにかき消えてしまうからだ。

だが、超常を宿せども所詮は生物。何らかの方法で眠らせるなどしてしまえば、後は為すがまま。オマケに相手は悪魔だ。当然魔法を使うだろうから、常識は宛にならぬ。

もし、羽だけでも悪意ある悪魔に渡ろうものなら···そして万が一、薄井の猛禽そのものが捕まってしまったとしたら···

それをどう活用するかは、前世の義父、梟の戦いを振り返れば、火を見るより明らかである。

「くっ、神霊達の罠と抵抗は!?」

「え~っと···ダメ。蹴散らされてるっぽいにゃ」

「···薄井の森に、生前入った事のある者はいませんからね。土地を少しでも離れたせいで、力も薄れているのでしょうか···」

「何よりその者達は、恐らく平和の中で育った神なのだろう。野山で狩る獣相手なら兎も角、少なくともそれらとはかけ離れた姿であろう悪魔相手では、攻撃する対象と言う認識が追い付かぬのやも知れぬ」

「うぐぐ···妖怪とももっと積極的に交流していれば、こんな事には···最寄りの陰陽師も、最近は少し忙しいようですし···」

悔しがり奥歯を噛み締める御子。どうも、現状の葦名はかなりの戦力不足らしい。

「···俺が行こう」

「え?狼、今何と?」

スクリと立ち上がり、グリグリと身体を解す。そして、竜胤の業で鍵縄と手裏剣車を取り出した。

「し、しかし···貴方は、飽くまで客人です。客人を戦わせる訳には···」

「問題無い。葦名は、我が故郷も同じ。この地を護るに、それより理由は要らぬ。

そして、忍義手を取り戻してからは···1つだけなら、そのまま忍具を使えるようになったからな」

「···死なないで、下さいね」

「···努めよう」

半ば諦め混じりな苦笑いと共に、御子は折れてくれた。

「良いの?正直、アンタは強いとは思うけど···」

心配してくれたのか、声をかけてくる黒歌。対して俺は、黙って鬼仏と向き合った。

今の形代は、全盛期の半分である10。形代流しを一度使うとして、15。形代消費が1と、最も軽い手裏剣を使えば···充分だ。

「して、敵は斬るか?それとも、生け捕りか?」

「出来る事なら、生け捕りを。情報は引き出さねばなりません」

「御意」

手裏剣車を仕舞い、任務を請け負った。

とは言え、身体は未だ10歳の子供。油断や慢心は大敵である。オマケに数珠玉で伸ばした身体力も、どうやら還元されてしまっているらしい。数珠玉が40個、竜胤の業に入っていた。

···取り敢えず、20個分伸ばしておくか。

「···よし、行くか」

「···私も、行くにゃ」

準備を整え、窓際で鍵縄を構えた所で、黒歌が声をあげた。

「黒歌···危険、なのでは?悪魔に、追われているのでしょう?」

「確かに、そうだにゃ。でも···割と新参な志狼が頑張ってる手前、先輩がじっとしてちゃ、格好付かないでしょ?

それに···あの屑共を野放しにしてたら、腹の虫が収まらないし」

窓の縁に座り尻尾をくねらせ、月光を背に妖しく微笑む黒歌。12の子供とは思えぬ程の妖艶さと共に、悪魔の好きにさせてやるものかと言う敵意がひしひしと伝わって来た。

「···どうやって、戦える?」

「樹の上から奇襲。後は、仙術で気弾を放ったり出来るにゃ」

「···前衛は、任せろ。背中は、任せるやも知れぬ。念の為だ」

眼を真っ直ぐと見つめ合い、互いに頷く。

「···では、私は止めません。狼、黒歌をお願いします」

「御意」

「え、私が御守りされる側?」

「年期が違うのだ」

軽口を叩きながら、窓の外の木の根に狙いを定める。

「では、行ってくる」

「御武運を。私は、陰陽師の応援を呼びます」

両手を合わせる御子に見送られ、俺と黒歌は窓から飛び出した。

 

(NOサイド)

 

―カヒュンッ―

 

夜の谷に、乾いた音が響く。そして、月夜の空に2つの影が舞った。

木や岩、崖を足場にして、黒歌と志狼は薄井の森へ急ぐ。

「···ねぇ」

そんな中、曇った表情を浮かべていた黒歌が口を開いた。

 

―カヒュンッ―

 

「···どうした」

「その···聞かないの?」

「···何をだ」

 

―カヒュンッ―

 

一瞬樹の枝の上で足を止める志狼。しかし黒歌に短く問い返しつつ、再び跳躍する。

「何をって、その···私に、何があったか、とか」

「聞いて、欲しいのか?」

「いやっ、そう言うわけじゃ···ただ、こう···匂わせるワードが結構出てるのに、気にならないのかな、って···」

「···」

 

―カヒュンッ―

 

「あ、ちょっと!」

黙って前進する志狼に、慌てて追随する黒歌。何も言わない志狼に対して、黒歌は多少の不愉快を覚える。

「じきに、森だ。片付けてから、ゆるりと話そう」

「···分かったにゃ」

小さくボソリと承諾し、志狼に続く黒歌。

間も無く、霧が立ち込める森に入った。霧とまぼろし満ちる、薄井の森だ。

 

―ギャーッ ギャーッ―

 

「騒がしい···向こうか」

夜にしては、多過ぎる鳥の声。その中でも声の密度が高い方向を聞き分け、霧の中を志狼は進む。

そして数分と経たず、無数の鴉に襲われている怪しい4人組の男達を見付けた。

「クッソ、鬱陶しい鴉共がッ!」

「攻撃がッ、思うように当たらねぇ!」

男達はそれぞれ魔力弾等を放って攻撃するが、鴉の群れ···霧鴉達はその攻撃を悉くすり抜ける。

「間違いない。あれは悪魔だにゃ」

「そうらしいな···あの真ん中の男が持つ鳥籠···もしや、既に捕まったか」

志狼の言う通り、男達の陣形は、鳥籠を抱えた1人を他の3人が外向きに取り囲むと言うもの。必死に守っている所を見ると、どうやら捕まえる事に成功したらしい。

「ガァァァァーッ!!」

「ッ!あれは···!」

そこに、他の霧鴉よりも明らかに巨大な影が飛び込んだ。

赤茶けた羽を持つ、体長1m、翼長3mを優に越えるであろう、巨大な鴉である。

 

―ボボボボゥッ!―

 

「ぎゃっ!?」

「熱ッ!?」

それが他の霧鴉と同様に霞とかき消え攻撃を避けると、何とその回避の軌跡に紅蓮の炎が迸った。悪魔達は盛大に狼狽え、火傷を負った腕などを庇う。

「な、何あれ!妖怪!?」

「霧鴉の、ヌシ···焔鴉(ほむらがらす)。義手忍具として、世話になった」

志狼の言う通り、加勢にやって来たのは、長寿の霧鴉が五行の力を引き出す境地に至った個体。即ち、霧鴉のヌシである。

「チィ、使いたくなかったんだが···合わせろよッ!」

「分かった!」

悪魔達は何やら言葉を交わし、1人が両手を開くように構えた。その右手には、得体の知れない何かが握られている。

「うりゃッ!」

 

―バゴォォォンッ!!―

 

男が頭の上で両手を叩き合わせて、掌の中の物を握り潰した。すると、そこを中心に小規模の銀河系のようなエフェクトが発生し、中から無数の星が飛び出す。

(ッ!馬鹿な!?)

「な、何よあの魔法!?」

志狼が内心で驚く中、その星は霧鴉のヌシ、焔鴉に殺到。破壊力のある小爆発を伴って、焔鴉に衝突した。

しかし焔鴉も、伊達に永く生きてはいない。初弾の爆裂を回避し、それによって弾けた炎で他の星も誘爆させたのだ。

しかし、悪魔はそれも織り込み済みだった。

「今だ!」

「くたばれェェェェ!!」

星の爆発を発生させた悪魔の相方と思われる男が、焔鴉の回避した先に拳を向ける。その手には、掌に収まらない程巨大で、メロンのように筋張ったエメラルドグリーンの蛞蝓(ナメクジ)が握られていた。

「いかんッ!」

「ごへぁッ!?」

「ちょっ、志狼!?」

それを認識した瞬間、志狼は躊躇い無く飛び降りる。そして瞬時に取り出した楔丸の柄頭で、拳を構えていた男の脳天を打ち据えた。

「貴様ッグハァッ!?」

自分に気付き攻撃を仕掛けて来た敵に、志狼は右上への斬り上げを繰り出す。そして、その勢いのまま後方にロンダートして離脱した。

寄鷹斬り・逆さ回しである。

「な、何だ貴様ッ!」

「が、餓鬼がァ!」

「···試すか」

激昂する悪魔に対して、志狼は冷静に手裏剣車を取り出す。装填されているのは、まぼろしクナイ。

志狼は、それを持った左手を勢い良く振るった。

 

―シャリリッ シャララッ シャリリッ シャララッ―

 

「うがっ!?」

「な、何だこれはァ!?」

放たれた、4本のクナイ。鈴にも似た音を経て飛ぶその後を、黄金色に光るまぼろしの蝶々が追い掛ける。そしてクナイと共に、標的にぶつかった。

その痛みと衝撃で悪魔達は怯み、また守られていた男は鳥籠を落としてしまった。

「···やはり、な」

 

―カヒュンッ―

 

小さく呟きつつ、志狼は鍵縄で鳥籠を回収する。

(形代消費が、2つから1つに減っている···やはり、霧がある所ならば、まぼろしを作る分の形代が浮くらしいな)

本来、まぼろしクナイの形代消費は2。しかし、今回4本放ったが、消費した形代は1ずつ、合計4だ。

「この餓鬼ッ!返しやがれッ!」

「貴様のモノでは無い」

 

―ガィンッ―

 

敵の魔力弾を弾きながら、志狼は取り敢えず鳥籠を頭上にいる黒歌に向けて放り上げる。そして、空かさず籠を持っていた男に接近。有無を言わさず、脳天を思い切り蹴り落とした。霧鴉の捕獲に用いたであろう何らかの術を、自分に使われないようにする為だ。

仙峯寺拳法、菩薩脚が炸裂し、籠の男は瞬時に昏倒する。

「グワァァァァーッ!!」

更に、焔鴉も攻撃を再開。鋭い爪や嘴、そして羽から生じる爆炎で、次々と悪魔を薙ぎ倒す。

志狼もそれに加勢し、まぼろしクナイで蝶々を飛ばして悪魔達を翻弄した。

「ひぃッ!ば、化物ォ!」

「貴様らには、言われたく無い」

 

―ドガッ―

 

「ガフッ!?」

最後の1人の首を鞘に納めた楔丸で打ち据え、意識を刈り取る志狼。他の悪魔達が気絶しているのを確認し、樹上の黒歌に合図を送った。

「す、スッゴいにゃぁ志狼···」

「これでも、前世程は動けていない。それより、籠の鳥を放ってやれ」

「ん、分かったにゃ」

メキッと音をたてて、籠を裂くように壊す黒歌。華奢な身体からは想像出来ないが、それでも元妖怪。人間よりも剛力だ。

「ガァァー···」

「おーよしよし、怖かったにゃ」

「もう、大丈夫だ」

怯えているのか、羽毛を膨らませて震える霧鴉。よく見れば、嘴や羽の色艶から、若い個体である事が見て取れる。

「フム···焔鴉に差し出してみろ」

「あ、そっか。長老みたいなもんだもんね」

志狼の提案に乗り、籠を焔鴉に差し出す黒歌。すると焔鴉はその中を覗き込み、ククッ、ククッと呼び掛けるように鳴いた。

「クァッ!クァッ!」

それに答えるように、霧鴉は籠から飛び出した。

焔鴉の足元に寄り、擦り付く霧鴉。焔鴉は、やれやれと言った様子でそれを受け入れる。

「さて、後はこの悪魔共を縛り上げて、連行するだけにゃ」

「···その前に」

志狼は悪魔達の懐をまさぐり、気になっていた2つのモノを探す。そしてそれを見付けて、両手に掴んだ。

1つは、エメラルドグリーンの巨大な蛞蝓。そしてもう1つは、捕食器官(バッカルコーン)を目一杯伸ばしたクリオネのような軟体生物。

「上位者の、先触れとなる精霊···がッ!?」

 

――――――――――こわいよ···なんで、おともだちをころすの?なんでそれを、わたしにくっつけるの?こわい···さみしいよ···だれか···たすけて···

 

突如として、衝撃を受けたように踞る志狼。その脳内には、上位者の先触れに籠った強烈な残留思念が流れ込んでいた。

「ちょ、志狼!?大丈夫にゃ!?」

「···泣いて、いる」

「え?」

「淋しいと、怖いと、助けてくれと···何処かで、少女が、泣いている···」

「ちょ、ちょっと!」

譫言(うわごと)のように呟く志狼に、黒歌の眼が心配で染まる。

「憐れな、娘が···」

「しっかりして!」

 

―ゴンッ―

 

「うごっ!?」

正気とは思えない状態となった志狼の頭に、黒歌が鉄槌を振り下ろす。そこそこ鈍い音をたてた拳の打撃で、志狼の意識は現実世界に引き戻された。

「···済まぬ。兎を、追ってしまった」

「兎?」

「俺の神器は、手にしたものに宿った残留思念を読み取るのだ。その記憶が、兎だ」

一呼吸置き、志狼は立ち上がる。もう大丈夫そうだ。

「おやおや、片付いとるねぇ。ウチら要らんかったかな」

「「ッ!?」」

と、後ろからの声。慌てて振り向くと、黒いビジネススーツのような服を着た糸目の女と、少し若い青年が立っていた。

「って、陰陽師のお姉さん!脅かさないで欲しいにゃ!」

「ちゅーたかたてクロにゃん、どないなアプローチ掛けても、どーせビックリしとったと思うで?」

彼女と黒歌は面識があるようで、軽口を交わす。

「しっかしまぁ、コイツらをあんさんらだけで仕留めおったんかいな。いやーあっぱれあっぱれ」

「下っ端の悪魔でしょうが、それでもたった2人で···」

「あーいや、殆んどこっちの志狼と、あとカラスの親玉がやっつけてくれたにゃ···ってあのでっかいカラスいないにゃ!?」

黒歌が驚く通り、焔鴉は音も無くその場を去っていた。薄井の猛禽故の隠密能力である。

「ほー、ほなその少年(ボン)が、あの御子サマが言うとった子ぉかいな」

「···葦原、志狼です」

「おう!ウチは黒沢天猫(くろさわアマネ)。現代陰陽師やっとるもんや。天に猫って書いて、アマネな?」

「猫というよりは、イタチかカラスか、狐に似ている」

「カカカッ、確かに女狐とかよう言われるわ!で、コッチが弟子兼助手の証枝翔太(あかしえショウタ)。今年で18や」

「20台届いてなかったのか」

「いや、僕としては君のような子供が悪魔を下した事の方が驚きですよ」

「ほ~らショウ!とっとと縛り!」

驚く志狼に、呆れで返す証枝。その間に、黒沢は悪魔を縛り上げる。

「うっしゃ、これでヨシっと。さーて、シロのボン。このタワケ共はウチらが責任もって事後処理しとくわ。

っと···そう言や、何やそのヌメヌメ」

悪魔達を縛り終えた段階で、漸く志狼の持つ得体の知れない軟体生物の話題に触れる黒沢。

「···恐らく、何処かの上位者···神の、産物と言うか、先触れと言うか···」

「ん~···なーんや最近けったいなテロリスト共が使(つこ)うとるヤツに似とるなぁ···

でも、それには何か···何やろ。ボンの手に、()()()()()()()()()()()っちゅうか、そんな気配がするねんなぁ···うッ!?」

気味悪げに蛞蝓をつついた途端、黒沢は顔をしかめて小さく飛び退いた。

「ぼ、ボン!お前さん、これそんな触って何ともあらへんのか!?」

「···残留思念が流れ込んで来たが、一応正気のつもりだ」

「先生、どういう事ですか?」

「あーショウ、こらアカンわ。何や知らんけど、このヌメヌメにはどっかのものごっつエグい()()()の力と思念の欠片が乗っとる。

その思念は何故かボンに向いとるみたいやから、ボンは正当な持ち主、みたいな感じで平気なんやろかなぁ···さながら寄生虫の最終宿主やな。クワバラクワバラ」

青い顔をして、ペットボトルの水で手を洗う黒沢。証枝と黒歌が混乱する中、志狼は内心で頭を抱えていた。

(···あの黒い男(上位者)か···)

少なくとも、それ以外に心当たりが無い。

「あー、シロのボン。お前さんが何でその神さんに眼ぇ付けられたか知らんけど···取り敢えず、悪いけどそのヌメヌメ共はボンが持っといてや。ウチらが預かれたらベストなんやろけど、如何せんボンが持ってる方が安定するみたいやでな···はー情けな」

「···承知」

申し訳無さげな黒沢の指示に頷き、志狼は先触れ達を竜胤の業で収納する。同じ蛞蝓である貴き餌も仕舞えたように、何の抵抗も無く入って行った。

「ほー、それがボンの神器か。ま、取り敢えず御子サマん所帰ろか。

詳しゅう話しちゃるさかいな。あ、車持って来とるから、後ろん席乗ったらええわ」

「···少し、待っていて下され。黒歌と、話がある故」

「···へぇ~?」

志狼の頼みに、ニッチャリと意地悪げな笑みを浮かべる黒沢。

「そーかそーか。ほんなら、邪魔はしたらアカンな~。おーいショウ、さきソイツら、荷台に積んどこ」

「あ、はい。分かりました」

(···何か勘違いされた気がする)

変な気を利かせた黒沢によって、志狼と黒歌は2人きりになった。

 

「···何故、踏み込まないか···だったな」

「えっ?あ、あぁうん。そうだにゃ」

志狼が話し掛けると、黒歌は戦闘前の会話を思い出した。

「···前世で、13になった頃。義父上に連れられ、遊郭に行った事がある」

「へ?」

いきなりおかしな所から話が始まり、困惑する黒歌。

「色仕掛けに乗らぬように、耐性を付けておけとな。そして、通されたのだが···相手の遊女が、何故か素人でな」

「えーっと、うん···遊郭って言ったら、今で言う所の所謂風俗店ってヤツかにゃ···」

「あぁ···当時の俺は今と違い、あまり口数が多くなかった。気の効いた言葉も掛けてやれず、遊女も緊張で固まってしまい、どうにも空気が悪かったが···そんな時、遊女の飼い猫が寄って来たのだ」

「えっ、遊女って猫飼えるの?」

意外だったのか、聞き返す黒歌。あぁと頷き、志狼は視線を斜め上に上げながら続ける。

「その遊女から、聞いた話だが···遊女は、冬も素足が粋。故に、脚にすり寄ってくる猫は流行っていた、らしい。

その猫を撫でる内に、お互いに緊張が解れた···まぁ結局何も出来ず、義父上には呆れられたがな」

「···えっと、それで?」

「最初、猫に避けられてな。見かねた遊女が、教えてくれた。

『猫は、自分から歩み寄るのは好き。でも、近付かれるのは嫌い。だから、猫が近付いてくれるのを待つのですよ』、とな」

小さく2歩、黒歌から距離を取る志狼。そして目線を黒歌に合わせ、半ば伝わっているであろう意思を口に出す。

「俺は、敵は兎も角、人の機微に疎い。下手に踏み込んで傷付けるより、信用を得て自分から話して貰おうと思っていた。

何より、俺は猫が好きだ。猫としても人としても、美しいお前を傷付け、嫌われたくは無い」

「え···?へっ?ちょっ、はぁッ!?」

唐突な志狼の口説き文句に、一拍遅れて頬にカッと朱が差す黒歌。何でも無い事のように言われると、どうにも弱いようだ。

「故に、俺は詮索はしない。お前が俺を信用し、話してくれる時を待つ。

さぁ、行くぞ。黒沢殿達が待っている」

「···あっ、ちょっとぉ!」

割と終始振り回されっぱなしな黒歌。しかも志狼は全部本気で言っているのだから尚質が悪い。

「···あ~こわいにゃぁ~、この天然タラシ···」

朱い頬をカリカリと掻きながら、黒歌は志狼に着いて行くのだった。

 


 

「おー、あったあった」

四肢を拘束し口と眼を塞いで4人乗りオフロードトラックの荷台に積み込んだ悪魔達の懐をまさぐり、目的のものを見つけ出す黒沢。それは、志狼が手に入れたものと同じ、2匹の不気味な軟体生物である。

「先生。他の奴は持ってませんでした」

「成る程。っちゅー事は、この2匹1組を、4人の内2人が持っとって、その1組をシロのボンが手に入れた、と」

「···あの、先生。それは触って、大丈夫なんですか?何か、さっきは触れたらヤバいって···」

「ん?あぁ、これは平気っぽいわ」

軽く言いつつ、軟体生物を布袋に入れる黒沢。その手を念の為、酒で流して浄める。

「と言うより、どっちか1組がボンに渡れば、神さん的には満足やった、っちゅー感じかな~コレは。せやから多分、こっちにも思念自体は乗っとったんやろな。せやけど片方がボンの手に渡ったさかい、こっちの思念は解消された、ってな所やろ。

しかし、まさかこんな所でサンプルが手に入るとはなぁ···」

車のエンジン掛けながら、証枝に自分の推測を語る黒沢。怪異と向き合う職業故か、その声には若干好奇の色が滲んでいる。

「ま、人間が無闇矢鱈と神秘に深入りし過ぎたらアカンでな。

好奇心は猫をも殺すで。こう言うのは、人の身であれこれ()()()には荷が重いわ。日本の神さんらにも、掛け()うて貰お」

理性的な決断を下し、黒沢は車内に常備しているニコチンパイプを咥えるのだった。

 

to be continued···




~キャラクター紹介~

葦原志狼
天然タラシな戦国忍者。
遊郭のエピソードは完全に捏造だが、まぁ忍者としては有り得るんじゃね?って事で。
前世程は動けないが、それでも大人をノックアウトする程度は余裕。何故なら戦闘経験の密度が違うから。
仙峯寺拳法は優秀なので、お気に入りだったりする。
何やらけったいなモノを手に入れてしまったが、呆れはしつつも受け入れてしまっている。ヌルヌルは貴き餌(源の宮の蛞蝓)で慣れてるし。
残留思念を読み取る能力は、フレーバーテキストの正体の深読み、と言うか定説。

黒歌
志狼に割と振り回されっぱなしな猫魈お姉ちゃん。
シリアスシーンでは猫語尾が外れる。
志狼の天然タラシスキルにドギマギしちゃうお年頃。自覚があるので「私チョロくないかにゃ?」と思っているとかいないとか。
現代陰陽師の2人とは、お米ちゃん経由でそこそこ交流はある。

黒沢天猫
癖が強めな関西弁を話す、プロの現代陰陽師。キャラのモデルは、《ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか》のロキ(しかし胸は美乳程度にある)。
志狼はシロの少年(ボン)、黒歌はクロにゃん、お米ちゃんは御子サマ、弟子の証枝翔太はショウと呼ぶ。
フレンドリーで、割と他人と打ち解けやすいタイプ。糸目で細めな顔から、狐のようだと良く言われるらしい。
仕事中は必ず護符や呪符、神社の御手水(おちょうず)や清め酒を入れたペットボトルを持ち歩いており、得体の知れないモノに触れた後は必ず手を洗い流す事を習慣付けている。また、怪異の変化を破る際にのみ喫煙もする(獣系の妖怪は煙草の紫煙を嫌う)。因みにニコチンパイプは吸う訳では無く、単に口が寂しいだけ。
生まれつき霊感が強く、神や人外の類いの波長を感じ取りやすい体質なので、件の軟体動物に込められた上位者の残留思念を強く感じ取ってしまった。但し、職業柄精神力はかなり強いので、全身に悪寒が走るだけで済んだ。
また、プロの肩書きを持つだけあって、引き際も弁えている。神秘に対して、人間の心が如何に脆弱であるかを理解しているので、常に深入りし過ぎないよう気を引き締めている。

証枝翔太
黒沢の弟子兼助手の青年。
霊感が強く、とある出来事から黒沢に弟子入りしている。
あまり進んで前には立たず、勝手に動かない慎重なタイプ。その教えやすい性格故に、黒沢には割と可愛がられている。
基本誰に対しても敬語で話す。

焔鴉
義手忍具【ぬし羽の霧がらす】の羽の持ち主。生物濃縮によって、葦名の地の名も無き神を大量に取り込んだ長老鴉である。
翼を持ち、風に乗って飛ぶものは、五行においては火行に属する。故に、羽から炎が迸る。

~アイテム紹介~

エーブリエタースのサキブれ
とあるジャキョウにもたらされた、オゾマしきシンピ。これは、それをツカみウみダされたヒギ。
ジョウイシャのサキブれたるナンタイセイブツ、セイレイをショクバイに、ミスてられたジョウイシャ、エーブリエタースのイチブをショウカンするもの。
かのクロきジョウイシャはワラいながら、ムスメをニンゲンにナげてヨコした。スベては、オノレのエツラクのタメに。

カナタへのヨびカけ
オゾマしきシンコウがウみダした、
ジャキョウのヒギ。

コウジゲンアンコクにすがりツヅけたジャキョウトタチは、ツイにアンコクのジョウイシャとマミえた。トロウにオわっていたハズのイノりは、かのクロきジョウイシャのメにトまったのだ。ゼッコウのガングとして。サイコウのクグツとして。


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第7話 日ノ本の庇護、黒猫の過去

『大変お待たせ致しました!申し訳ありません!
あと3月からBloodborne始めました。ローゲリウス初見撃破、アルフレート君は先触れ連打で完封。辺境アメンドーズは処刑人の手袋だけで封殺しちゃったぜ』
「漸く手を出したか」
『序盤のフロムの洗礼は心砕けそうになったぜ』
「で、SEKIROは?」
『金も時間も御座いません』
「アメンドーズに握り潰されちまえ」
『もう握り潰されたよ。教室棟行く時に。まぁ自衛隊に入ってからマトモに触れてねぇがな。ちょくちょく家に帰ってプレイしてるよ』


(志狼サイド)

 

「いやぁ、楽しみだな!」

「そうね。いっぱい楽しみましょ」

楽しげな様子の両親と共に、電車に揺られる。ふと向かいを見れば、イッセーとそのご両親も同じような状態だ。

「じゃ、行き先の案内は任せたぞ!」

「···承知」

父に頷き、俺は窓の外を眺めた。

変若の御子と約束した通り、俺と両親と兵藤一家と言う面子で葦名を目指している。変若の御子との顔合わせと言うか、説明会のようなものを行う為だ。

元々家族ぐるみで仲が良い上に、都合良く休日も重なっていたので、全員で葦名に旅行に行くと言う名目だ。

「なぁシロー、ちょっと良いか?」

「どうした」

イッセーに呼ばれ席を立ち、そしてドアの側に寄る。

「葦名ってさ、神様がいっぱいいるんだっけ?」

「居るな。土地神の類いや、少し違うがそれに近付いたヌシの類いが」

「じゃあ、妖怪とかもいんのか?」

「···あぁ」

葦名在住の妖怪なら、黒歌殿が居る。しかし、彼女も他所からやって来た流れ者。前世では、怨霊の類いは出ようとも、人を化かす化生の類いは出なかったな。

あの黒い上位者に固定させた記憶によれば、『SEKIROに妖怪は登場しない』と宮崎ディレクターが直接否定していた筈だ。

「···前世の時代には居なかったが、前に葦名を訪れた際に、新入りの妖怪と知り合った。

何より以前、今日会いに行く相手が、妖怪と交流していれば等と言っていた。その話が進んでいれば、あるいは見知らぬ妖怪を眼にするやも知れぬ」

「へぇ~、結構楽しみだな」

そう言って、ひひっと笑うイッセー。やはり年頃の男子は、好奇心が旺盛だ。

「さぁ、もうすぐ到着だ」

 

―――

――

 

「ん、狼!此方だ!」

「おう」

到着早々、俺が全員を先導して、甘味処あしなに向かった。既に、弦ちゃんとその家族が席に着いている。

俺達は、その隣のテーブルに着いた。

「弦、前に言ってた友達か?」

「えぇ、山吹色の上着の方が」

「志狼、お前狼って呼ばれてるのか」

「えぇ、まぁ」

そんな話をしている内に、店員が茶を持って来た。金髪ロングを後ろで纏めた、糸目の優男だ。

「···新人か」

「どうやらそうらしい。おばちゃん曰く、先週入ったばかりなんだとか」

もくもくとオハギを食べながら、情報を共有してくれる弦ちゃん。

「それで志狼。何か大事な用事があるって言ってなかったか?」

「まずは、腹拵えを済ませませた方が良い。用事は、午後から。

因みに、俺は此処のオハギが好きだ」

自分の一行にメニューを渡しながら、温かい茶を啜る。元々は茶屋なだけあって、此処は茶も中々美味い。

「ん~っと、じゃあ俺はオハギにしよ」

「私は草餅にしようかしら」

「じゃあ俺は、そうだなぁ···じゃ、この甘さ控えめのきな粉餅にしようかな」

「うーん、どうしよう···あ、みたらし団子にしようかな」

「私はオハギにするわ」

「決まったな。すいません」

呼び鈴が無い故に、店員に声を掛ける。返事をしたのは、さっきの糸目の男だ。

「オハギ3つ、草餅、きな粉餅、みたらし団子をそれぞれ1つずつ」

「はぁい分かりました。少々お待ちくださいな~」

少々京都訛りのある返事をして、あの店員は奥に引っ込んだ。

「しかし、何とも運の良い事だ」

「全くだな。都合良く、全員休日で集まれるとは」

俺の呟きに、弦ちゃんも同調する。普通は、外せない用事の1つや2つあって当然なのだ。

「まぁ良い。用事は午後からだ、それまでは楽しもう」

「そうだな。俺も、葦名博物館に脚を運びたいと思っていたのだ」

そう言って弦ちゃんは朗らかに笑い、湯呑みの茶を啜った。

 

―――――

――――

―――

――

 

「おぉ、立派なもんだなぁ」

昼下がり。葦名をさらりと味わった俺達は、仙峯寺の門を潜った。大きく、そして精巧な造りの外観に、父は呟く。

「···」

対して、俺は黙って中を見渡した。

すると、1人の僧侶が眼に留まる。サッサと箒で床を掃く彼の腰には、俺が御子から受け取ったものとそっくりな赤い御守りが揺れていた。

「···少々、宜しいか」

「おや、どうしたかな?」

話し掛けると、此方に眼を合わせる僧侶。その僧侶に、俺は御子から貰った件の御守りを黙って見せる。

「!···成る程」

「案内を、頼めるか」

「えぇ、承っておりますよ。どうぞ此方に」

「承知。全員、着いて来てくれ」

僧に先導されるまま、俺達はその後ろに続く。親達はそんな状況に困惑し、首を傾げつつも着いて来た。

増設された廊下を渡り、奥の院まで通される。

「お待ちしておりました、狼」

「よう、シロのボン!」

座布団に正座した御子が、顔を上げて此方を見た。隣にいた天猫殿も、にこやかに手を振ってくる。

「御子、天猫殿。コイツがイッセー。俺の友人であり、神器の保有者だ」

「ほぉ、この歳にしちゃ芯が確りしとんな。男前やで、イッセーのボン」

「宜しくお願いしますね、イッセー君」

「あっ、ハイッ!ありがとうございます!」

天猫殿と御子に声を掛けられ、弾かれたようにお辞儀をするイッセー。まぁ、2人ともかなりの美人。多少緊張するのも仕方無い。

「狼、弦一郎君、イッセー君。そして、保護者の皆様。今日は、遠路はるばるお越し頂き、有り難う御座います」

そう言って、御子は頭を下げる。保護者組は理解する材料が足りないようで、チラリチラリと顔を見合わせていた。

「今回この場でお話しするのは、あなた方の子供達の将来に、大きく関わる事です。信じられない事、理解し難い事も多くあるでしょう。ですが、一先ずは私の説明をお聞き下さい」

 

―――

――

 

「まさか、そんな事が···」

御子から説明を聞き、唖然とする父。最初こそ信じられなかったようだが、俺達が神器を出したり、黒猫だった黒歌が目の前で人型に変化して見せれば、本当の事だと受け止めたようだった。

「前世の記憶か···いや、道理で年の割に賢い訳だ」

「弦も、国語で変な間違い方をしていたのは、戦国時代の文法が抜けきっていなかったからなんだな」

「父上!?何も此処で言わずとも!」

悲鳴じみた声をあげる弦ちゃんに、父親はガハハと笑う。どうやら、雰囲気は悪くなさそうだ。

「で、我々の事は、日本の神様が保護してくれるんでしたか?」

「はい。人外がもたらす脅威からは、全力を尽くして御守りいたします」

俺の父からの問いに、真っ直ぐ目を合わせてハッキリと答える御子。その態度に、父もフッと息を吐く。

「では、お願いします。どっちにしろ、悪魔だの何だのに我々がどうこう出来るとは思えませんし」

「···」

そう言って、父は小さく笑った。しかし、母の表情には曇りが見える。

「志狼···危ないんじゃあ、ないの?こんな世界に、関わって···」

どうやら、俺の身を案じてくれているようだ。優しくて心配性な母らしい、当然の心理だった。

「···確かに、危険はあるかも知れない。だが、俺はこの力と生を得た。力を持っているならばならば、為すべき事を、為すまで。

何、自衛隊と変わりは無い。人の目に着くか、否か。それだけだ」

「まぁ、ウチら日本の()()も、万年人不足にヒィコラ言うとりますでな。多少忙しゅうなるでっしゃろで、普通の職よりゃキツいかも知れまへんけど···その分1人1人に気ぃ使(つこ)うて、大事に育てますさかい」

危ない分お給金もええしな、と糸目を更に細めて笑いながら、俺の頭をワシワシと撫でる天猫殿。その手は義父上のそれに似ていて、修羅場を潜り抜けて来た、重く、しかし暖かい手だった。

「···っちゅぅても、別段家族から切り離すとか、そないな事はしまへんでご安心を。普段の生活の中に、ちょーっぴりだけ、裏方の勉強やら稽古の時間が入るだけですさかい」

「···塾のような、具合か」

「おーそれやそれ!流石はシロのボン!

とまぁ、基本的にはそんな具合ですわ。あ、でも例外的にちぃっと遠征とか入る時もありますけんども···そん時は、ウチらみたいなベテランが確り着きますさかい、ご安心を!」

元気良く、そう言い切る天猫殿。しかし、声に籠るピリピリとした覇気が、その言葉に込められた強い責任感をありありと感じさせる。

「···志狼が、本当にやりたいなら···お母さんには、止められないわね」

「···有り難う、母さん」

小さく笑って、母は言った。

大切に想う者の危険を憂う気持ちは、俺にも良く分かる。また、その者が自ら、茨の道を選んだ気持ちも。

だから俺は、心からの感謝を、口に紡いだ。

 

「···いいにゃぁ」

 

他の誰にも気付かれぬ程に、小さく、か細く呟かれた一言。しかし、俺とイッセー、そして御子は顔を見合わせる。どうやら、2人にも聞こえたらしい。

「···黒歌殿」

「ん?···えっ、もしかして聞こえちゃってた?」

「あぁ、聞こえた」

「俺と、みこさまも聞こえたぜ」

「あとウチもな」

と、天猫殿が口を開く。どうやら、彼女にも聞こえていたようだ。

「ぁぅ···」

黒歌殿は頬を恥ずかしそうに赤く染め、顔を逸らした。

「···黒歌殿。俺達は、神や仏では無い。いや、御子は現人神だが···しかし、心を読める類いでは無い筈だ。故に、黙っていては分からぬ事が多い。

だが···求めてくれるのならば、それに応える事は出来よう。何か求めがあるならば···口に出しては、くれぬだろうか···」

「···」

(···しまった)

声に出してから、心の中で後悔する。

俺は、前に不用意に踏み込まぬと言った。だが今日、こうやって踏み込んでしまった。己で決めた戒めすら守れぬとは···

「···済まぬ、黒歌殿。踏み入り過ぎた。約束を、破ってしまった」

「えっ?···あぁ、あれ···」

若干面食らった様子の黒歌殿。どうしたのだろうか。

「もしかして、あの自分から話してくれるまで待つ、ってやつの事言ってるのかにゃ?」

「そうだが···?」

「···フフッ」

呆れたように、小さく笑う黒歌殿。はて、可笑しな事を言ったつもりは無いのだが···

「大丈夫にゃ。それぐらい気にしない気にしない!

···でも、確かに頃合いかも···うん。話そうかにゃ。あ、でもお米ちゃんと志狼、それと···お姉さんだけかにゃ。他の人には、悪いけど···」

「お嬢ちゃん、皆まで言うな!聞かれたくない事も、二三はあるだろう。邪魔はしない」

そう言って、父は皆を連れてこの部屋から出た。何と言うか、良い(おとこ)である。

「にゃはは、すごく、ありがたいにゃあ···」

ポツリと溢し、黒歌殿は語り始めた。

 

(NOサイド)

 

「まず、私の身の上に絡んでるキリスト教の勢力について。軽くだけど、説明するにゃ」

黒歌は人差し指を立て、語り始めた。

「1つ目、《教会》。所謂キリシタンの類いだにゃ。昔から宗教侵略を仕掛けまくってて、いろんな所から嫌われてるみたい」

「俺と弦ちゃんが初めて来た時に、居た奴らだな」

志狼の呟きに、コクリと頷く黒歌。更に話を続ける。

「そして2つ目、《堕天使》。コイツら正直はあんまり知らないから、詳しくは言えないにゃ。

最後に3つ目、《悪魔》。問題はコイツらだにゃ」

3本目の指を立てて、顔を引き締める黒歌。その眼に宿る感情は、燻り消えぬ恨み、怨念の類いだ。

「悪魔は、他の種族を自分と同じ悪魔に転生させる道具を持ってるんだにゃ。チェスの駒の形をした、悪魔の駒(イーヴィルピース)っていうヤツ。

そして、これを使って転生させられた悪魔···転生悪魔は、駒の持ち主の眷属、つまり所有物になるの。お姉さんは、知ってると思うけどね」

黒歌の言葉に、黒沢は唇を一文字に結んで顎を引いた。

「···無理矢理に、主従の契りを結べる、と言う訳か」

「そう。そんな転生悪魔な私が、今や悪魔からはお尋ね者···さて、何でかにゃ?」

「···!」

志狼の眼が、微かに見開かれる。主従関係については、前世もあって敏感なのだ。

「···主人殺し、か」

「うん、正解」

志狼が溢した回答に、哀し気に答える黒歌。

「···だが、訳があるのだろう?」

「せや。ウチはヒト観る眼ェはある方やで?少なくとも、クロにゃんが大した理由も無しにそんな事するようなやっちゃ無い事は、確り分かっとるつもりや」

「···ほんっと、悪魔とは大違い···ありがとにゃ、皆」

自分を信じる志狼達の言葉に、黒歌は胸の底から熱いものが込み上げるのを感じた。

「···妹が、居たのにゃ。白音っていう、物心ついて間も無い、可愛い妹が。

お母さんも死んで、糞親父からも逃げ出して···その果てに、悪魔に拾われた。

白音の前では、優しくて良いご主人様を繕ってたんだけど···その本性は、珍しい種族を自分の眷属にしたいだけのコレクター。

只でさえ、私達はすっごく珍しい猫魈。しかも、仙術っていう自然や自分、他人の気···生命力みたいなものを操作する能力があってにゃ。アイツは、それに飛び付いたって訳···」

哀愁から一変、苦虫を噛み潰したように歯を剥き出し、唸るように語る黒歌。黒沢もその先を察し、小さく舌打ちする。

「仙術って、使いこなせば周りの気で妖力を水増し出来たりするから、とっても便利なのにゃ。でもその反面···」

「···誤れば、正気でいれぬ、と言う事か」

「ほんっと、察しが良いにゃ?志狼は···」

志狼がすらりと察せた理由。それは、前世において使っていた、御魂降ろしの経験故だ。

 


 

人ならぬ御霊は、降ろせば力となるが、

代わりに差し出すものなくば、やがて狂う

 


 

「自然の気の中にも、邪気って言う類いの気があるんだにゃ。それを取り込まないように上手く選り分けられないと···」

己の中に、己以外を取り込む。肉体的には、そうせねば生きられないものだが、魂魄にとってはそうでは無い。そもそも、高次元な思考の出来る生物の魂は、己の中に異物が入って来る事に耐えられるよう出来てはいないのだ。

「私は仙術を使いこなす為に、必死で努力したにゃ。でも独学だから、どうしても行き詰まっちゃって···そんな時にあの男、私が強くならなきゃ白音も仙術使いにするしか無いって言ったんだにゃ。さっき言った通り、白音はまだまだ子供。3つ上の私が手こずる仙術なんて、扱い切れっこ無いにゃ」

「故に、お前は妹を護る為に···」

「まぁね?で、結果的に白音は護れたにゃ。だけど···」

「···どうした?」

口をつぐんで、眼を下に泳がせる黒歌。微かにだが息が乱れ、明らかに苦しそうな様子だ。

「···おい、これを飲め。気が和らぐ」

「お、曲がり瓢箪か」

見ていられず、志狼はまだら紫の曲がり瓢箪を差し出す。それを見て、黒沢は僅かに反応した。職業柄、世話になる事もあるのだ。

「んっ···うげっ、にっがぃ···」

紫瓢箪を呷り、その苦さに盛大に顔を顰める黒歌。しかし、僅かに飲み下した一口にも満たない薬水でも、小さな子供の身体には十分だったらしく、呼吸の乱れは既に治まりつつあった。

「落ち着いたか。苦しいならば、言わずとも···」

「ううん、言うにゃ。寧ろ、聞いて欲しいぐらいだから」

何度か深呼吸して、志狼と眼を合わせる黒歌。ブレる事無く、真っ直ぐと志狼を見つめるその瞳には、強い芯が宿っている。

「···あの男を殺した時···よりにもよって、見られちゃったんだにゃ。白音に」

「「「ッ!」」」

情景が脳裏に浮かび、3人は思わず眼を剥く。最愛の家族に、手を汚した自分を見せ付けてしまった、その有り様に。

「武器になるような物なんて無かったから、覚えたての仙術で気の流れを狂わせてやったのにゃ。そしたら水風船みたいに、ぶしゃっと爆ぜて···当然、周りは血の海。私も血まみれにゃ。

そして私自身、悪魔殺しなんて初めてだったから、心の余裕が無くて···白音と一緒に、逃げようとしたのにゃ。真っ赤になった手を伸ばしてね···

でも、あの子の中では、あの男は優しいご主人様。自分を利用する為に拾ったなんて、知る訳も無かったにゃ。だから、私の手を打ち払って、言ったの···」

 

――――いやっ!来ないでっ!――――

 

「っ···」

「ッ···」

「そんな···」

3人は、胸の奥がギリギリと締め付けられるのを感じた。10代半ばにも届かぬ少女が背負うには、余りに悲惨で、剰りに救いが無さ過ぎると。

「別に、アイツを殺した事は後悔してないにゃ。彼処じゃ毎日訓練ばっかで全然楽しくなかったし、此処の住み心地も最高だし···

でも、出来る事なら···もう1回、白音に会って···話したいにゃあ、なんて···」

黒歌の声が、段々と湿り気を帯び始める。目元には涙が滲み、無理矢理笑っていた口元は、今や歯を喰い縛っていた。

「黒歌」

黒歌に駆け寄り、左手を黒歌の頬に、右手を後頭部に添える志狼。そして、その頭をゆっくりと撫でた。

「え?し、しろ···?」

「良く、頑張った。護るべき家族の為に、良くこれまで耐え忍んだ」

称賛の言葉を贈りながら、取り出したハンカチで涙を拭う。更に左手で黒歌の手を取り、握りながら言葉を紡いだ。

「良く、話してくれた。勇気を持って、その秘密を打ち明けてくれた。

そのお陰で、分かった。

お前は、寒かったのだろう?胸の奥が。そして、人に打ち明けられぬからこそ、それを和らげられなかったのだ」

「せやけど、今喋ってくれたからな!今はもう寒ぅ無い!ウチら集まって、押しくら饅頭や!ほら!御子サマも()ぃな!

ほれ、押ーしくーらまーんじゅー押ーされーて泣ーくな!」

「きゃっ!」「ぬおっ!?」

変若の御子を引っ張り起こし、志狼と黒歌を熱烈に抱き締める黒沢。戸惑いこそしたものの、御子も同じように優しく包容する。

「うむ···少しは、暖まったか?」

「っ~···」

外側の2人によって密着した志狼に至近距離で問われ、黒歌の頬にカッと朱が差した。

「···ずるいにゃ。年下の癖に」

「伊達に年は喰っていない」

(そう言う事じゃ···あぁもう、こう言うのがあるから憎めないにゃあ···)

「···黒歌。黒歌って呼んで。殿、なんて付けなくていいにゃ」

「···承知した、黒歌」

(はぁ~、青春やなぁ···)

そんな2人の様子を見て、黒沢と御子はにんまりと微笑み合うのだった。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

葦原志狼
何故か口説きスキルがどんどん上がっていく戦国忍者。
今回から遂に親公認の忍者候補生。イッセーや弦ちゃんとも仲良く訓練出来るよ!やったね!
Bloodborneキャラメイクの過去では、前世は《村の生き残り》、今世は《プロフェッショナル》の神秘+技術ビルドだと思う。実際SEKIROにはパワー系の技も無いしね。

葦斑弦一郎&兵藤一誠
今回あんまりスポットは当たらなかったが、地味に日本勢力への所属が確定すると言う最大の強化フラグが立った。
同時に、家族ぐるみで日本勢力に保護される事に。これで原作みたく、両親が洗脳させられたり、ご近所さんが端金を握らされて立ち退かされる事も無いだろう。
過去は各々、イッセーは《特筆なし》の神秘&筋力ビルド、弦ちゃんは《一族の末裔》+《従軍経験》の技術&神秘ビルドになると思う。

黒歌
本格的にヒロイン化してきた猫魈お姉ちゃん。
生まれやその後の事情的に、過去は《悲惨な幼年期》か《過酷な運命》。戦法的には神秘&技術ビルドになりそうで、尚且つしぶとく生き延びる力も強そうなので、恐らく《悲惨な幼年期》になる。猫の鉤爪もあるので、技術振りだとかなり強そう。

黒沢天猫
良き姐さんキャラになった現代陰陽師。
過去は確実に《プロフェッショナル》。基本的には前線に出ないので、現状は技術メインのビルド。神秘にもちょっと振ってる感じ。

変若の御子
結構出番を端折られちゃったお米ちゃん。
保護者への説明はほぼほぼお米ちゃんがやったけど、長々と書いても蛇足って事でバッサリカット。
実は現人神なので、上位者に近い存在だったりする。良く良く考えてみると、ミコラーシュが目指していた目標への通過点である《上位者の受肉》の成功例なのかも知れない。瞳は授けられないけど。
性質的に見れば、《一族の末裔》の血質&神秘99のビルドになる筈。テレビとかスマホを容易く使い熟す辺り、技術も相当高い模様。


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第8話 地獄の工房

(志狼サイド)

 

「うむ、これで良かろう」

俺の視界に満ちる、純白の糸。それがスルスルと動き、身体に巻き付き始める。

そして見る間に精密に編み込まれ、真っ白い羽織として完成した。

左右を見れば、イッセー、黒歌、弦ちゃんも同じく白い羽織を羽織っている。

「おっ、色が···!」

声を上げるイッセー。その羽織が左の袖口から順に、鮮血のような濃い緋色の地と、椿の葉のような光沢のある緑の鱗模様に染まる。

俺の羽織も同じように色が変わり、此方は下に行く程暗くなる橙色だ。

弦ちゃんは黒地に金の稲妻模様、黒歌は黒の無地。同じ黒地ではあるものの、弦ちゃんの羽織には光沢があり、逆に黒歌のものは表面が艶消しになっている。

「まぁ!とっても立派で、良くお似合いですよ!」

御子はそう言って、喜ばしそうに微笑んだ。確かにこの羽織、とても軽くて着心地が良い。

「有り難う御座います、蚕神殿」

そう言って、俺は目の前に立つ長身の女性に頭を下げる。

相手は白い着物を纏い、背中と額にそれぞれ蚕の羽と触覚を持ち、眼は緑の複眼。紛う事無く、蚕の女神である。

「うむ。変若の君に頼まれた故に、特別じゃぞ?」

「「「ありがとうございます!」」にゃ!」

そう。此は御子が頼んでくれた、特別の羽織。神の世界に行く際に、切符代わりになる物なのだと言う。この為に、態々蚕神殿に仙峯寺(この場所)までご足労願ったのだ。

「概ねの形は創ってやった。後は各々、動き易いよう高天原(たかまがはら)で仕立て直して貰うと良い。そんじょそこらの鎧兜より、余程丈夫じゃ。因みに洗濯しても大丈夫じゃぞ。

それにしても、人の子を高天原に招くなど、いつ振りじゃろうかのう···安倍晴明以来か」

「とんでもないビッグネームが出て来たにゃ···!」

思わず口元を引き攣らせる黒歌。と言うか高天原に人間が行った前例があったのか。

「では、沙羅(さら)さん、更紗(さらさ)さん。お願いします」

「はい!さぁ行きますわよ更紗さん」

「分かっていますわ、沙羅姉さま」

今度は空間を暖簾のように切り開き、2人の美女が現れる。

彼女達は道祖神。土地を災いから護り、次元や境界線を司る神だ。

「では、日本神話の期待の新人の皆さんと記念撮影しちゃいましょうか!」

「あら、それは名案ですわね、おつむの緩い沙羅姉さまにしては」

「あ゛?」

さらっと姉を罵倒する更紗殿に、俺達は一瞬呆ける。当の沙羅殿は、犬歯を剥き出して怒りを隠そうともしていない。

恐らく、日常茶飯事なのだろう。姉妹仲はかなり悪いと見える。

「はいはい笑って下さーい?ハイ、チーズ!」

「ちょっと更紗さん!」

沙羅殿をほったらかし、勝手にパシャリと自撮り式で撮影を済ませる更紗殿。何と言うか、イイ性格をしているようだ。

「更紗さん、いい加減にして下さい。仕事をこなさねば、上司に怒られるのは貴女達ですよ?」

「あ、ハイ···」

御子の一声で、更紗殿が冷や汗をかく。当たり前だ。戦国時代から現人神をやっていて、貫禄が付かない訳が無い。

「···ゴホンッ。では気を取り直して、高天原にご案内ですわ」

「そうしましょう。ごめんなさい沙羅姉さま、少し悪乗りが過ぎましたわ」

「良いのよ更紗さん。さ、早く致しましょう」

頭を切り替え、仕事を全うする沙羅殿。先程と同じように切り開かれた空間に、俺達は足を踏み入れた。

 

―――

――

 

「ぬぅっ···」

真っ暗な、それでいて各々の姿は明瞭に見える不思議な空間を歩く事数分。沙羅殿達が空間を切り開き、溢れてくる光に思わず眼を覆った。

「···おぉ」

「これは···!」

やがて眼が慣れると、その光景に思わず感嘆の声が漏れる。

幻想的な黄金色の太陽に、桃の木の繁る森。その中を貫く道の先には、大きな街が(そび)えている。

「···高天原、か」

「綺麗だにゃ···」

文字通りこの世成らざる絶景に少々見惚れつつ、俺達は歩き出そうとした。

「あ、その羽織があれば、高天原では空を飛べるんですよ」

「何だと···」

更紗殿に言われ、身体に意識を集中してみる。すると身体が軽くなり、ふわりと僅かに浮き上がった。

「では参りましょう。天照様の所まで」

熟れた様子でフワリフワリと空を舞い、沙羅殿はそう言って笑った。

 

―――

――

 

「道祖神、沙羅」

「同じく、更紗」

「よし、通れ」

門番の許しを得て、立派な社の門を潜る。

此処に来るまで空から見渡した高天原は絶景の一言で、神々しく神秘的。心が洗われた気分だ。

あと、古風な建物の中に普通に電化製品が普及していたのは地味に驚きだった。

「いよいよ、天照様との謁見ですわ」

「余り必要では無いので、緊張し過ぎないように。では、私達はこれで」

障子の前まで来ると、沙羅殿達は下がって行った。どうやら管轄は送迎までらしい。

『ようこそ、次世代の戦士達。歓迎しよう』

襖の奥から響く声。若く、凛々しく、美しく、そして言い表せぬ覇気を持った声だ。

そして、襖が開く。その奥にあったのは···小綺麗だが、意外と普通な和室だった。

『まさか、この俺が神に歓迎される時が来るとはな』

「おっ、起きたかドライグ」

イッセーの左腕が赤龍帝の籠手となり、手の甲の緑の宝玉が明滅して声を発した。ドライグは普段眠っているらしく、また気紛れに起きるのだそうだ。

「まぁ、一先ずだ。歓迎されているなら、遠慮せず入る事こそ礼儀だろう。丁度、長机と座布団もある。座らせて頂こう」

「そうだな」

弦ちゃんに同意し、俺達は部屋の中に敷かれた座布団に座る。

それにしても、天照大神の姿が見えないが···

『済まないが、もう少しばかり待ってくれないか。急に野暮用が舞い込んで来てね』

と、頭上から先程の声。見上げれば、天井にスピーカーが埋め込まれていた。

「成る程。お気になさらずとも、大事ありませぬ」

『そう言っていただけると有り難い。直ぐに片付けるから···』

『あぁそこ触っちゃ――――』

 

――バギャンッ!ドゴンッ!――

 

「ごぅえっ!?」

突如として響く、とんでもない金属音。そして、向かって右側、入り口の正面に向き合う形に付いていた障子を突き破って、何か···否、誰かが吹き飛んで来た。

「あ゛···うぅっ···ゥおう゛ッ···」

「だ、大丈夫ですか!?」

飛んで来たのは、絶世の美女。骨格に寸分の歪みも無く、顔も端整。首もとで切り揃えられた金髪も、まるで上質な絹糸のよう。美しい身体が描く緩やかな曲線は、まさに女性の理想形。

問題なのは、そんな美女が腹を押さえて踞り、顔面蒼白になってえずいている事だ。流石に見惚れよりも心配が勝つ。

「すみません天照様!」

彼女を追って部屋に飛び込んで来た青年が叫び、その手を取って引き起こす。彼の額には小振りな2本角が生えており、恐らく鬼なのであろう事が分かる。

「いやいや、今回悪かったのは私さ。不用意に触った私が悪い···と、済まないね訪問者諸君。見苦しい所を見せてしまった」

何とか立ち直った美女···天照大神は、腹を擦りながら俺達の向かい側に座った。

「いえ、お気になさらず···」

「流石にビックリしちゃったけど、まぁ大丈夫ですにゃ」

「えっと、アマテラス様、ホントに大丈夫ですか?」

「うむ、心配してくれて有難う赤龍帝君。大丈夫さ、神様を傷付けられる呪紋(じゅもん)は刻んでなかったから。

私達は魂に依存してるからね、それを攻撃する特別な施術をした武器じゃないと傷付かないのさ。痛いのは痛いけど・・・

あと、それ良いね。威力も申し分無いし、本格製造の許可出すよ」

「···ッ!それは···」

特別な武器でなければ傷付かないと言われ、不死斬りでしか傷付かぬ九郎様を思い出す。そしてふと、鬼の青年が持ち上げた武器を見て、思わず眼を見開いた。

「ん、興味あるかい?見るぐらいなら良いよ」

そう言って、彼はそれを俺に渡して来た。

手で握る引き金付きの握り(グリップ)に、前腕部と()()を固定する革ベルト。それが付いた土台の上に、まず武骨なシリンダーが乗っている。そしてその先端部には、鋼鉄製の巨大な黒光りする矢尻が付いたピストンが差し込まれ、固定されていた。

「俺ら、地獄の工房で働いてるんだ。亡者に使う武器が、石臼とかノコギリとか棍棒とか、そんなのばっかりでさ。折角なら、新しい武器も開発してみようってなったんだ。その試作品の1つだよ」

「おー!カッケェ!」

イッセーの言う通り、これは男の浪漫を盛大に擽る武器である。だがそれを抜きに、俺はかなり驚いていた。

何故なら、この武器に見覚えがあるからだ。

「···パイルハンマー、か」

そう。まだ若干簡素ではあるものの、俺が前々世でプレイしたフロムゲー、《Bloodborne》に登場するパイルハンマーと言う武器そのものなのだ。

「おっ、正解!良く分かったねぇ」

「···これは、イッセー向きだな。少なくとも、俺や弦ちゃん、黒歌には合わん」

俺達は恐らく、どちらかと言うと技量タイプだからな。だが、イッセーなら筋力タイプ···いや、そう言えば神器の応用でまぼろしを使うな。あれは神秘か?うむ、神器もある意味、寄生虫のようなものだ。間違いではないだろう。

「うーん、これに興味あるなら、見学してみる?ぶっちゃけ、今日来て貰った理由は顔合わせだけだからね。

それに、今後君達の武器を作ってくれるのも地獄の工房だ。交流には丁度良いんじゃないかな」

「行こうぜシロー!面白そうだし!」

「武具職人との交流は大切だからな」

「よし、行くとしよう」

「か、顔合わせだけって言っても···良いんですかにゃ?」

「良いよ良いよ。そもそも今日は最初から工房を見学して貰う予定だったからね」

もう其処まで手配済みだったとは。いやはや恐れ入る。

「じゃあ唐竹(からたけ)君、案内は頼んだ」

「分かりました」

天照様の以来を、快く承諾する鬼の青年。どうやら彼の名前は唐竹と言うらしい。

「失礼します。じゃ、行こうか」

襖を開け、外に出る唐竹殿。彼に先導され、俺達も部屋の外へ踏み出した。

 

―――

――

 

大きく、重そうな扉。唐竹殿がそれを開けると、奥は人通りの多い大きな通路だった。

「ようこそ、此処は閻魔庁。君達のよく知っている閻魔大王が、死後の裁判を行う所だよ」

そう説明する唐竹殿。確かに、忙しなく動く人(鬼)員の手には、資料であろう巻物等が抱えられている。裁判に使うのだろうか。

「おー!って事は、あのでっかいオジサンがエンマ様?」

「どれ···ッ!?」

イッセーが指差した先にあったのは、3mはあろう巨大な机と、其処に座る()()···巨大な骸骨の集合体だった。

しかし、これもまた強烈に見覚えがある。

(ダークソウルの《最初の死者ニト》!?いや、確かにモデルの1つに閻魔大王があって、子殺しを犯した大王グウィンをロイド裁判で裁いた裁判長だったらしいが···)

まさか、俺と言う存在を概してこの世界にフロムゲーが侵食しているのか?《彼方》や《先触れ》の事もあるしな···ん?でっかいオジサン?

「イッセー、お前にはあの閻魔大王が人に見えているのか?」

「え?まぁ、スッゲェでかいけど、それ以外は割と普通のオジサンだぜ?」

「···五行界眼の本質を見抜く力か?それとも、神秘に触れて精霊に寄生され、啓蒙が溜まったか?」

「あー、志狼君だっけ。君には見えてるっぽいね。

実は彼、閻魔大王の概念から分化した派生概念なんだよね。死後の裁判は閻魔大王ら十王が行うけど、人手が足りないからああやって手分けしてるのさ」

「成る程。差し詰め、最初の死者の概念と言う事か」

「よく知ってるねぇ」

しかし、そうか。神とは哲学や概念が擬人化した存在。神仏習合によって概念が統合し一体化した神格がいるならば、逆もまた然りと言う訳だ。

「さ、工房は此方だよ」

手招きする唐竹殿に従い、俺達は脇道に入る。暫く進むと、金属を削る音や叩く音、そしてやいのやいのと騒ぐ声が聞こえて来た。壁に並ぶ扉の1つに付いた、《工房》と書かれた看板が見えた。

「ちょっと煩いけど、悪いとこじゃないから。さ、どうぞ」

唐竹殿が扉を開ける。其処は大きな部屋で、壁には所狭しと武器が並んでいた。その部屋の左右端には作業台があり、職人と思わしき鬼達が金属に加工を施している。

部屋の中央には高めの長机があり、設計者であろう鬼達があぁでもないこうでもないと言い合っている。

「す、すっごい音に声にゃ···」

「鉄を加工するには音が出る。声が小さければそれに負けて聞き取れないからな」

それにしても、随分と議論が白熱している。何を話しているのだろうか。

「だから!今その新しい武器について頭捻ってんだろうが!」

「だったらとっとと新しい案出してみろってんだ!」

うむ、設計と製作の擦れ違いみたいなものか。

「難しいんだよ!何だパワフル且つ柔軟に対応出来るって!」

何がどうしてこうなったのやら···しかし、パワフル且つ柔軟に、か···もしかしたら、役立てられるかも知れんな。

「あー、皆!注目!以前から話にあった、見学者の子達が来たよ!」

唐竹殿の一声で、工房内の視線が俺達に集中する。

「あー、天照様が言ってた···そうか、今日だったか」

「わりぃな坊主に嬢ちゃん。今忙しいんだ」

どうやら、間が悪かったらしい。まぁ、新しい物を作るとはそれだけ難しいと言う事だ。

「あ、パイルハンマー通ったぞ。良かったな(かぶら)

「えっ、マジ!?やったぜ!」

作業台に向かっていた金髪の鬼が跳ね寄り、唐竹殿から試作品のパイルハンマーを受け取る。どうやら企画人物らしい。

「天照様分かってるゥ♪何時でも何処でも火力は正義!火力は爆発だ!」

···彼に持ち掛けて見るか。

「蕪殿、で宜しいか」

「ん、どうした?」

「少々、あなた好みであろう武器を思い付きまして」

「ほう!是非お聞かせ願おう!アイディアは工房の宝だ!」

「少し絵に興します。紙と、鉛筆をお貸し願いたいのですが···」

「おぉ、良いぞ。ホイ」

快く紙と鉛筆を渡してくれる蕪殿。早速作業台の空いているスペースを使い、要点を押さえた省略図を描き上げる。

「···どうでしょうか」

「どれどれ···ほう、面白いじゃないの!」

「問題はこの着火機構だと思います。何を燃やすやら···」

「大丈夫大丈夫。地獄には自然発火する岩とか普通にあるから。

にしても、何処でこれを?」

「···少し、厄介な上位者に絡まれた際、啓蒙されました。

このような武器の案は、かなりあります。俺の仲間に、合いそうな物も」

「なーるほど、アイディア料代わりに作って欲しいって事だな?」

「···はい」

これは、子供がするには、余りにも傲慢な交渉である。何せ、此方は全くの素人なのだから。

「···じゃ、イメージを興しといてくれ。大まかに、どんな機構があるかだけで良い」

「!···感謝の極み」

「良いって事よ!新しいアイディアはあって困るもんじゃねぇしな。

ま、俺はこのパイルちゃんやら新武器の開発と改良があるから、その後になっちまうが···」

「構いません。作っていただけるなら何より」

どうやら、約束は取り付けられたようだ。第一印象が良かったお陰だろうか。

「それと、この工房に木彫りの鬼仏を置かせて頂けませんか?行き来の手間を省けます」

「んー、それはちょっち厳しいかもな。閻魔大王には掛け合ってみるが」

「承知···」

まぁ、そう都合良くは行かない。親睦を深められただけ、良しとしよう。

 

(NOサイド)

 

「よし」

志狼達が日本神話に所属してから、4年。地獄の工房が設計の吟味に吟味を重ね、彼等の為に拵えられた、特別の専用武器と戦装束が仕上がった。

彼等は地獄の訓練場で、装束に身を包み、武器を握っている。

 

―ガッションッ―

「うむ、悪くない」

弦一郎の手に握られているのは、大きな鍔が特徴的な肉厚の刀。そしてその軽合金で出来た刃は、仕掛けによって中央から展開。切っ先から鋼線が張られ、鍔が持ち手となり大弓に転じる。

その反動で、彼の羽織る腰を絞った唐草模様入りの黒いコートがふわりとはためいた。

背中には、細い矢を満杯に詰めた矢筒を背負っている。

 

―カィインッ―

「結構、手に馴染むにゃ」

黒歌が握るのは、日本刀をベースに柄をサーベルの物に変え、柄頭にも小振りな刃の付いた双刃刀。

その小太刀の根元を握り左右に引き分ければ、小気味良い音を響かせて分断。大小の二刀流となる。

彼女の纏う戦装束は、洋風かつ懐古的。その形は何処か中世貴族の礼服めいた意匠があり、胸元のスカーフは白く、それ以外は黒や焦げ茶。左側面に白の羽根をあしらった、海賊帽子にも似た前尖りの中折ハットからは、猫耳が出ている。

ピッチリとしたズボンを履いた左腰には、細長い銃身が特徴的なフリントロック銃を引っ掛けたフックホルスターが着いている。

 

―ガシャンッ―

「やっぱこれだよな、ドライグ!」

『あぁ。男足るもの、ロマンに生きるのは当然だ』

一誠の武器は、彼が気に入っていたパイルハンマー。しかもご丁寧に、ワインレッドとエメラルドグリーンに彩られた専用型である。

そしてその装束は、紅い鱗模様のインバネスコートと黒いズボン。脛には小さなベルトが巻かれ、疲労軽減のツボを刺激する工夫が為されている。

胸元には龍の頭を象った軽合金の胸当てがあり、頭には黒歌のそれと原型デザインを共有する中折ハット。しかしその鍔には荒々しく切り込みが入っており、ドラゴンの刺々しい角や鱗を彷彿とさせるデザインだ。

 

「···やはり、これだな」

そう言う志狼の装束は···前世まんまである。

脚の足袋に、腕の手甲。橙色の上衣に、少し太股にゆとりのある焦げ茶色のズボン。違いを挙げるとするならば、首に巻いていた麻色のマフラーがスカーフに変わっている事ぐらいだろう。

しかし、その左腕の手甲には鍵縄とその巻き取り機が内蔵されており、またかつてのように縦横無尽に空中を飛び交う事が出来るだろう。

「では···やるか」

各々が顔を引き締め、訓練場の向かいを見遣る。その先には、4つの人影が立っていた。この訓練の手合わせ相手である。

 

「倅の友よ···参れィ!」

「お願いします!行くぜドライグ!」

BOOSTED(ブーステッド)·GEAR(ギア)!】

一誠の相手は、髭を蓄え太い三つ編みに後ろ髪を結った、身長2mを優に超える巨躯の大忍(おおしのび)···梟。

 

「さて、私から1本取れるかな?花嫁殿?」

「は、はなッ!?···もう、からかって!」

「ほほ。狼狽えれば負けるぞ?黒猫殿」

黒歌をからかい悪戯っぽく笑うのは、伸ばした()()を後ろで括り両手に針のように細長いクナイを構えた美しいくノ一···まぼろしお蝶。

 

「弦一郎ッ!お主の成長、示して見せよッ!!」

「ふっ···あぁ。息を飲ませて見せるとも、雅孝(まさたか)!!」

弦一郎と対峙するは、愛馬鬼鹿毛(おにかげ)に乗り、片鎌槍を構えた鼻の赤い武士···鬼庭(おにわ)刑部(ぎょうぶ)雅孝(まさたか)

 

「さぁ、久しき手合わせよ···参れ!隻狼ッ!」

「参ります···!」

そして志狼の相手は···右手にダマスカス鋼のような複雑な波打ち模様が入った刀を握り、獰猛な笑みを浮かべる隻眼の老剣士···剣聖、葦名一心。

 

嘗て狼の前に立ち塞がった、類い希なる強者達。彼等との戦いに、一誠達は何を見出だすのだろうか。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

葦原志狼
地獄の工房を狩人の工房方面に舵切らせた戦国忍者。現在中学2年生。
戦闘服は結局前世と同じ形に落ち着いた。一心と手合わせする事になったが、未だに使える忍具は1つだけである。
手の凝っていない簡単な秘匿幻術の類いは、本質を見抜く五行界眼の性質で素通りするように看破してしまう。

兵藤一誠
何故か狩人スタイルに行き着いちまった原作主人公。
ドライグの出番少なくなりがち。
男の子だからロマン武器にときめくのは当然なのです。と言う事でパイルハンマー装備。赤龍帝の籠手で事足りているので左手武器は無し。
装備一式のイメージは、赤龍帝カラーの狩人装備&灰狼の帽子+胸当て。

葦斑弦一郎
スタイリッシュ弦ちゃん。
志狼原案の新武器は面白く、かなりお気に入り。
唐草模様入りのコートは腿丈で踏んづける事も無い。
前世で教育係だった刑部に成長を見せようと張り切っている。

黒歌
少なくとも作者は手持ち武器を使ってる作品は見た事が無い猫魈お姉ちゃん。
お蝶殿にからかわれたものの、その内容に関しては満更でも無い模様。
装備はお察し通り、マリア様の色違い。あと緑の宝石のブローチも付いていない。

蚕神
イメージは《真夜中のオカルト公務員》に登場した蚕神。地味に作者の性癖どストライクだったりする。

沙羅&更紗
双子の道祖神姉妹。まんま《貧乏神が!》に出て来たあの人達。

閻魔大王代理
見た目はまんま最初の死者ニト。普段は右手に大剣を持っていない。


狼の師匠であり義父。地獄に落ちこそしたが、現在は獄卒の訓練教官として働いている。

お蝶
狼の師匠であり義母とも言えるくノ一。
若返っているのは、作者がpixivで若いお蝶殿のイラストを見ちまったから。
老齢の技術と若者のシャカリキを両立させている。

鬼庭刑部雅孝
弦ちゃんの教育係だった武士。またの名を音割れ刑部。
弦ちゃんの成長に期待してワクワクしている。

葦名一心
SEKIROのラスボス。中の人がエボルト。
死後も鍛えまくっており、恐ろしい強さになっていると思われる。


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第9話 強者との試合

―チリリン···チリリン···―

 

何処からか響く、澄んだ鈴の音。それと共に、真っ白な靄が訓練場を包み込んだ。

すると、周囲の風景がグニャリと歪み、各々の戦場へと変化した。

一誠と梟は、葦名城天守閣。黒歌とお蝶は、平田屋敷地下の隠し仏殿。弦一郎と刑部は、葦名城大手門。そして、志狼と一心は、あの決戦の芒の原。

志狼の持つ竜胤の力。その中の1つである、《主観認識と世界のリンク》。それを日本独特の変態技術で疑似再現した、蜃気楼シミュレーション結界である。

そして、各々の戦いが始まった。

 


 

「ムゥんッ!」

 

―ギャインッ―

 

「ッぎィ···何の!」

【SHURI‐KEN!】

開幕早々、一誠から見て逆くの字型に駆け出して距離を詰め、横一文字に大太刀を振り抜く梟。一誠はそれをスウェーバックしながらパイルハンマーの刃で弾き、赤龍帝の鱗手裏剣を発現。後ろに倒れる重心に任せてバックステップしながら、鱗手裏剣を3枚飛ばす。

「甘ァいッ!」

しかし、流石は大忍び。左前ステップで難無く回避し、更に右腕の捲き込みで大太刀を左下に振るった。それにより重心を引っ張り、独楽のように回転。それと同時に、何時の間にか左手に握っていた赤いアイテムをばら蒔く。

 

バラララララララッ!

 

「どわっ!?」

 

けたたましい爆音と、僅かな閃光。そして巻き起こる、刺激臭を伴った紫煙。

忍具の1つ、紫煙火花である。

【Boost!】

「ゲッホゲホッ···クッセェ!」

『気を付けろ!来るぞ相棒!』

「ぬェいッ!」

 

―ギャギィンッ!!―

 

「ッくゥ···!」

鋭い踏み込みからの、横凪一閃。咄嗟に倍化した膂力とパイルハンマーの外装で受け止めたものの、紫煙火花の煙に噎せていた一誠は大きく体幹を削られ、後ろに押し飛ばされてしまう。

「ぬェりゃあッ!」

此処ぞとばかりに、梟は大振りな唐竹割りを狙い大太刀を上段に構えた。

常人離れした体躯から繰り出されるその一太刀には、言うまでも無く化物めいた重さが伴う。対して一誠は体勢を崩され、右膝をついている状態であり、回避は絶望的。しかし、切れ目の入った狩り帽子の鍔から覗く一誠の瞳は逸らされる事は無く、逆に大きく見開かれていた。

(此処だッ!)

 

―ボンッ!―

 

突如。梟の腹に炸裂する、紅いエネルギー弾。一誠が赤龍帝の籠手から放ったそれはしかし、細かい軽合金の板を編み込んだ忍装束を傷付けられなかった。だが、問題は微塵も無い。何故ならそれは、貫通力では無く()()()()に意味があるからだ。

「ぬおっ!?」

爆ぜたエネルギー弾は衝撃を生み、大太刀を振りかぶっていた梟の重心を後ろに弾く。

回避が出来ないならば、迎撃(パリィ)すれば良いだけなのだ。最も、簡単に出来るかどうかは、別問題ではあるのだが。

「ぜェりゃッ!」

 

―ギャギンッ―

 

先程とは一転、体勢を崩した梟に、一誠はパイルハンマーの横振りを見舞った。

素早く反応し何とか脚甲で防ぐ梟だったが、更に体勢を崩されて後退りする。当の一誠はと言えば、振り抜いた腕を肩甲骨でロックする事で急停止させ、慣性を利用して極太の杭をコッキングしていた。パイルハンマーの変形攻撃である。

【Boost!】

「やるぜドライグ!」

『応ッ!』

【Explosion!】

2回の倍化で4倍になった身体能力。そして地獄の武器工房が造り上げた究極の浪漫武器、パイルハンマー。その2つが一体となった真価が今、発揮される。

「ハァァァ!」

大きく引いた拳に力を籠め、グリップ側面のボタンを親指で押す。それを合図に内部のコンプレッサー機構が作動し、周囲の空気を取り込んで装甲内のボンベに圧縮注入。

「でェやッ!」

そのまま鏃を突き出すと同時に、人差し指でトリガーを引いた。

 

―バッギャァァァンッ!!―

 

「ぬおぉぉぉぉッ!?」

圧縮空気とバネ圧の解放により、凄まじい衝撃を伴って打ち出される杭。梟は咄嗟に身を捻り、真正面からの直撃は避けたものの、忍装束は抉られるように大破。本人も大きく吹き飛ばされる。

「惜っしい!でも、良いの入ったんじゃないですか?梟のおやっさん!」

「ククク、確かにな。今の一撃は、中々に堪えたぞ···

倅の盟友!いや、一誠よ!この時代において、よくぞ此処まで練り上げた!褒美を取らす!」

梟が叫ぶと、何処からとも無く蒼白く霞掛かった1羽のフクロウが現れた。

「我がフクロウ、見せてやろう!」

蒼い鬼火のような朧の光を纏い、フクロウが旋回する。全盛の力の総てを揃え、此処からが本番だとばかりに梟は叫んだ。

「第2ラウンドってか!うっし、まだまだ行けるよなァ、ドライグ!」

『あぁ!当然だとも!』

【Boost!】

翠の宝玉を輝かせ、一誠は臆さず駆け出した。

 


 

「さぁ、参ろうか」

揺ったりとしたお蝶の口調と裏腹に、鋭く投擲されるクナイ。黒歌はそれを、猫科動物の動体視力と瞬発力を活かしたステップで躱す。

そのまま距離を詰め、両手に握った双刀···赤葉(しゃくよう)で刺突の連撃を繰り出した。

 

―カインッ キィンッ―

 

「ほほ、危ない危ない」

迫り来る刃はしかし、脚甲仕込みの華麗な足技で難無く弾かれる。老齢に達する事で獲た、徹底的に無駄を削いだ効率的な身体操作と、若い活力が合わさり、黒歌の体幹を大きく削った。

普通ならば、このままバックステップで距離を取るだろう。しかし黒歌は下がった右足の踵を地面に打ち付け、逆に左前へと落ちるように踏み込んだ。

 

―ギャリリンッ―

 

「ほう?」

追撃を防ぐ為に右肩に担がれた赤葉の長刃を、涼しい顔をしながらまぼろしクナイで受け止め滑らせるお蝶。その口角は僅かに上がっており、面白いものを見たと言いたげである。

「てっきり、後ろに跳び退くと思ったのだがな」

「いや、バクステしたらまぼろし飛ばして来るでしょ」

「フフ、流石は猫魈。勘が良いの」

お蝶は指の間にクナイを挟んだ手を口元に添え、妖しい笑みを浮かべる。その姿はまるで、「そうでなければ詰まらない」と言外に示しているようだ。

「さぁ、て···楽しませて貰うよ、花嫁殿」

「だからまだそんな関係じゃ――――うわっ!?」

頭上の鋼線に飛び乗りながら、お蝶は動揺した黒歌にクナイを投擲。黒歌は何とか避け、頭上を取ったお蝶を恨めしげに見遣る。

「あの距離じゃ、二刀流(これ)だとどうしようも無さそうだにゃ」

 

―キンッ―

 

小気味良い音を発てて、赤葉を双刃刀に連結。そして空いた左手に、腰に付けていたカービンモデル並みに銃身長の長いフリントロック銃···戦乙女(ヴァルキューレ)を構えた。

そして再度投げ付けられるクナイを跳んで躱し、柱を蹴って再びジャンプする事で高度を稼ぐ。所謂、三角跳びだ。

其処から手足と尻尾をバランサーとして体軸を定め、更に仙術で強化した動体視力も駆使して、お蝶にヴァルキューレの銃口を振り抜いた。

 

―BANG!―

 

「ぬぅ!?」

滞り無く滑るように動く銃口から射ち出されるのは、形代を核に黒歌の気を内部機構で練り上げて創られた水銀弾。お蝶は予想外なタイミング、姿勢からの銃撃に驚きはしたものの、銃口の向きから何とか反射的に身を反らし、忍装束の装甲で斜めに受け流す。

されど、気の扱いに長けた黒歌が放った強烈な水銀弾の衝撃によって、お蝶は足場としていた鋼線から叩き落とされた。

一方黒歌は強靭な脚力で既に別の柱へと着地しており、落下するお蝶に向けて赤葉の切っ先を向ける。その落下地点へと狙いを定め、黒歌は全骨格のバネを使って三度跳躍。今度は斜め下に、鋭利な刃を突き出して。

 

―ザクッ―

 

「がっ!?」

その切っ先は、過たずお蝶の心臓を貫いた。お蝶は短く呻き崩れ落ちる···と思われた瞬間、何と霞のように掻き消えてしまった。

「やっぱり、幻術···」

そう。これは音の嘘を霧に投影し、受肉させて出来たまぼろし。気配に違和感のあった黒歌は、納得して呟く。すると、頭上から声が響いた。

「フフフ、怖いねぇ。何の躊躇いも無く、心臓を貫くなんて···やるじゃあないか、黒歌殿?」

「まぁね。伊達に逃亡生活してた訳じゃないにゃ」

黒歌が巨大な十一面観音菩薩像の方を振り返ると、傷1つ無いお蝶が何事も無かったかのように佇んでいる。

「さぁ、惑え。我がまぼろしに」

 

―パキッ―

 

お蝶のフィンガースナップと共に、足元の霧から刀や鍬、鎌で武装した半透明の人影の群れが現れる。更にお蝶はクナイを握った手を振るい、黄金色の蚕に良く似た蝶の群れを創り出した。

「じゃ、此方も出し惜しまず行くにゃ」

そう言って、黒歌は腰のポーチから小振りなヤツデの葉団扇を取り出す。そしてそれを、露を払うような動作で振り抜いた。

すると、黒歌を中心に小さな旋風が発生する。その風は黒歌の動きを支え、また背中を押す追い風となるだろう。

「さぁ有象無象共、掛かってらっしゃい!こういうのも悪くないにゃ!」

 

―バキィィンッ!―

 

黒歌は好戦的に笑みながら追い風を背に受け、加速しながら赤葉を分断した。

 


 

「行くぞッ!鬼鹿毛ッ!」

「ヒャルルルルルッ!!」

鬼刑部の呼び掛けに答え、体躯に恵まれた彼の愛馬、鬼鹿毛が嘶く。するとその身体は逆巻く炎に包まれ、瞬く間に肉は蒸発。黒い骨に紅い炎を纏う、地獄の妖馬となった。

数百年に渡り、等活地獄で獄卒として亡者を踏み砕き引き回した鬼鹿毛。結果、その魂魄は地獄に染まったのだ。

「な、何と!?」

思いも寄らぬ鬼鹿毛の変異に、たじろぐ弦一郎。しかし気を取り直し、左手に変形させた専用武器たる弓刀···葦名の弓刀を構え、神器である雷鞭の夕顔を出現させる。

「はァァァァッ!!」

鬼鹿毛を駆り、突撃する鬼刑部。突き出される槍を、弦一郎は防刃仕様の靴で踏み付けて後ろに跳んだ。

同時に矢筒から矢を3本抜き取り、空中で連射する。放った矢は全て甲冑に命中し、鬼刑部の表情を歪めた。

その隙を好機と見た弦一郎は、膝を曲げて着地すると同時に脚のバネを解放。下向きの加速を全て踵から地面に叩き込み、弓刀を刀に変形させながら逆袈裟斬りを放った。

流石にそれにまで当たってやる程、鬼刑部は甘く無い。槍を振るい、迫り来る斬撃を弾き上げる。だがしかし、それすらも弦一郎の想定内であった。

「フッハッ!でぇやッ!」

弾き上げを読んでタイミングを合わせ跳び、其処から身体を捻る。そしてその回転のまま、鋭い2回転斬りを繰り出した。

多少変則的ではあるが、夢の再戦から習得した志狼より逆輸入された巴流奥義、桜舞いである。

「ほう。その歳で、此処まで磨くとは···」

「おぉ、驚いたか?さっきは鬼鹿毛に驚かされたが、どうやら仕返しは上手く行ったようだ。

()()()()()な!」

「···」

「···」

「ボルルルルッ」

2秒程の、気まずい沈黙。それを破ったのは、薄ら寒いとでも言いたげな鬼鹿毛の身震いだった。

「···行くぞ弦一郎!」

「来い!雅孝!(有り難う雅孝)」

盛大に滑った駄洒落を流してくれた刑部に胸の奥で感謝しつつ、迎撃の構えを取る弦一郎。対する刑部は鎌槍の穂先を鬼鹿毛の尻尾に撫で付け、燃え盛る地獄の炎をその刃に移す。その炎を纏った槍で、弦一郎に突きを放った。

 

―ガキンッ―

 

「うおっアッツ!?」

「デヤァァァッ!!」

 

―ガギャンッ!―

 

「ぅごぁッ!?」

突きを受けつつバックステップし、引き射ちに転じようとする弦一郎。しかしその思惑を、竿の尻に紐を括り付け間合いを延ばした鎌槍での薙ぎ払いが刈り取った。

「どうした弦一郎!我が技、忘れたとは言うまいな!」

「ッ、当たり前だ···少しばかり、ヒヤリとしたがな」

半分嘘である。実は若干記憶が朧気で、今のもかなり危なかったのだ。

「今度は此方から行くぞッ!」

雷鞭の夕顔を延ばし、地面に撃ち込んで巻き取って間合いを詰める。そしてその勢いのまま、弓刀を大きく斬り上げた。

当然のように鎌槍でガードされるが、それを気にせず鋭く切り返す。すると、刃の軌跡を囲うように無数の斬撃が発生。更なる追い撃ちを掛け、継ぎ太刀の一瞬の隙を塗り潰し殺す。

巴流秘伝・渦雲渡り。

「ぬおぉっ!?」

「まだまだッ!」

ラッシュの最後、逆袈裟の斬り上げ。其処から更に弓へと変形し、大きく後ろに跳びながらその滞空時間で3発の矢を放つ。その矢は胸当てと兜に当たるが、1本は切り落とされてしまった。

「それで良い!喰らえッ!」

 

―ヴォウンッ ガギャンッ!―

 

「な、何とォ!?」

矢を切り払った隙を突き、弦一郎は鞭の先端を弓の持ち手に括り付け、三日月状の刃として大きく振り抜いた。この一撃で鬼刑部の鎧は大破し、更に雷鞭の夕顔の発電能力により感電させられる。

「ぬぅ、今のはまさか···」

「あぁ。お前の技、少々真似てみた。何せ、弓は斬撃武器だからな!」

「···何を言っているのだ?」

特撮世界でのみ罷り通る常識を語り、鬼刑部を困惑させる弦一郎。しかし悲しいかな。この葦名の弓刀を設計した際、蕪も同じような事を考えていたのだ。故にこの葦名の弓刀は中反りと先反りのミックスのような形であり、かなり反りが深いのが特徴である。

「しかし、1本取られた事は確か。此度は我の敗けだ」

「立ち会い感謝する」

お互いに武器を納め、固く握手する2人。その顔には、満足げな笑みが湛えられていた。

 


 

「幾百年振りよな、隻狼」

肩にダマスカス柄の入った大太刀を担ぎ、懐かしげに笑う一心。それに対して、志狼は言葉では答えぬものの、脚を揃えて静かに一礼した。

「カカカッ···言葉は不要、と言う事か···参れ、隻狼」

「···参る」

 

――夜叉戮――

 

柔らかな空気が一変。眼を鋭く細め、口をキリリと結ぶ一心。志狼は形代流しで形代を補給し、更に夜叉戮の飴を噛み締める。かなり打たれ弱くはなるものの、その分火力が出るのだ。

 

―BABABABABABANG!!―

 

「ぐぉあッ!?」

それが、悪手だった。

一心は懐から取り出した拳銃を6連射し、脆弱になった志狼の体幹と体力を一気に削り取った。

何とかギリギリ落とされはしなかったものの、大きく後ろに押し飛ばされる志狼。その隙、この歴戦の猛者が見逃す筈も無く。

「チィアッ!」

 

―ザシュッ―

 

「ごハァッ···!」

一心は一時の納刀から独特の溜めを取り、居合いを一閃。するとその刃は空気を斬り割き、其処から発生した第二の刃、不可視の刃が垂直なギロチンのように志狼を斬り付けた。

葦名無心流秘伝・竜閃。

強烈な初見殺しに見舞われ、志狼は死ぬ。

「おい、隻狼···それは無いじゃろう?」

 

――回生――

 

「···抜かりました」

薬水瓢箪を呷りながら、苦い顔をする志狼。銃の威力も然る事ながら、技のキレが段違いである。

「と言うか、M500など何処で手に入れたのですか。しかも6連射仕様」

「おぉ、これか?カカカッ、良い銃じゃろう。10年程前に、工房の技師が拵えてくれてな。儂の自慢の1丁よ」

そう言って、胸元のホルスターから大口径のリボルバーを取り出す一心。

S&WM500。454カスール弾よりも強力な弾丸を撃てるよう設計された、所謂ロマン砲、ハンドキャノンの類いである。

艶消しの渋い燻銀色のそれには、良く見れば側面に龍が掘り込まれている。枯れ掛けの渋さの中に少し茶目っ気のある、一心に良く似合う銃だった。

しかも本来の装弾数は5発だが、一心のモデルは6連装仕様に改造してあるのだ。

「···気を取り直して···」

志狼は心を落ち着け、楔丸を納刀。息を吐き出し、全身の力を抜く。

「ほう···面白い」

その構えを取る志狼に、一心もニヤリと笑い同じ構えを取った。

「「·····」」

お互いに脱力し、雑念を全て削ぎ落として相手を視る。瞬の探り合いは、唐突に終わりを告げた。

「シッ―――」

 

―ドゾルルルルッ―

 

「なっ!?ぐおっ!?」

動いたのは、同時。しかし志狼は楔丸の柄から手をスルリと外し、代わりに手の中に召喚したものを握り潰した。

その手を起点に、真っ黒な虚無が開かれる。そしてその中から飛び出した無数の触手が、抜刀に刹那間に合わなかった一心に襲い掛かった。

秘技・エーブリエタースの先触れ。

完全なる予想外の一撃に、一心は押し飛ばされ跪く。志狼は大忍び刺しの踏み込みを応用して距離を詰め、胸に楔丸を突き刺した。致命の一撃、忍殺である。

「ぐ、ぬぅゥ···クッハハハハハ!!血が、滾って来たわァ!!」

一瞬よろめくものの、確りと地面を踏み締めて持ち直す一心。そして地面に腕を突き立て、鬼刑部と同じ十文字の鎌槍を引きずり出した。

 

―ビッシャァァァンッ―

 

「とァッ!」

一心の槍が雷光を纏い、恐ろしい早さで振り抜かれる。その雷は真っ直ぐ志狼に向かうが、それに対する対処法ならば、慣れたものである。

「ハッ!」

大きく跳躍し、楔丸で雷を受ける。其処から体軸を捻り、桜舞いへと派生。放たれた雷を捲き込み打ち返した。

「ぬおッ!?」

打雷の感電で動きを停める一心。好機と見たその隙に、志狼は掌に軟体生物を召喚。ミブ風船を割るように合掌して拝み、右手を空に掲げた。

其処に拡がる、暗黒の宇宙。その中で瞬く綺羅星が、一心に向かって殺到する。

「ぐぬぅ!?ッチェアッ!!」

小爆発を伴う脅威の流れ星を、一心はその爆煙ごと斬り附せる。先程は不発に終わった、世界すらも置き去りにする斬撃の嵐によって。

葦名流秘伝・一心。

(···やはり、増えているか)

それを見た志狼は、一粒の冷や汗を垂らした。前世では精々、納刀後1秒半程だった斬撃の嵐。しかし今し方目の当たりにしたそれは、目算で約3秒。更に斬撃の密度も段違いであり、少なくとも以前の5倍は濃い。

「カッカッカッ!これまた面妖なモノを使うようになったのう隻狼!地獄で延ばしたこの秘伝一心ですら、全ては捌き切れなんだわ!」

「···衝撃波さえ幾つか切り払える方が、可笑しいのです」

「今更何を!儂が人の身で刃を飛ばしてから、もう四、五百年は経っておるじゃろう?少なくとも、4世紀は言うのが遅いわッ!」

 

―ギャリンッ!―

 

台詞ごと切り捨てるように放たれる、上段からの強烈な振り下ろし···葦名一文字。志狼はそれを左手に出現させた暗い紫の鉄扇···鳳凰の紫紺傘を開いて受ける。

同時に傘をガリガリと回転し、軸をブレさせて一心の体幹を削った。

「ハッ!」

其処から勢いを殺さず、鉄扇を畳んで楔丸と共に✕の字に斬り付ける。

仕込み傘・放ち斬り。

「ぐぬっ···クカカカカカッ!やはりその鉄扇は厄介じゃのぉ!」

獰猛な笑みを浮かべ、崩れた体勢を建て直す一心。志狼も3歩引いて、崩れ掛けた体幹を整えた。

「お前の本領···見せてみよッ!」

鎌槍と大太刀を携え、何度目かの突撃を掛ける一心。志狼もまた、それに真正面から受けて立つのだった。

 

―――

――

 

(志狼サイド)

 

「うンめェ~!」

山盛りご飯の上に乗せた肉を頬張り、正に至福と言った顔で唸るイッセー。

此処は葦名のとある山中。川の畔にある開けた砂利場。其処で1m四方の大きな木炭コンロを囲み、俺達はBBQパーティーをしていた。

「いやーそれにしても、やっぱ梟のおやっさんつえェや!後半なんか何も出来なかったし」

「否!坊主も中々どうして、良い勘をしておるわ。ドライグとの連携も見事であった。あの右腕の武器も良く馴染んで···あぁっ!お蝶!それ儂が育てておった肉じゃぞ!」

「ほほ、何の事やら···うむ、美味美味」

イッセーの事を自慢気に語る義父上の肉を、お蝶殿が幻術でシレッと掠め取る。それを見て、一心様は「あの日の宴会を思い出すのォ」と笑った。恐らく、お蝶殿が極上の地酒、竜泉を掠め取ろうとしたと言う時の事だろう。

「弦一郎、この赤身良い具合に育ったぞ」

「おぉ、忝ない」

弦ちゃんは刑部と仲良く談笑しながら、焼けた肉を少しずつ食べていた。どうやら脂っこいものは余り得意で無いらしく、3対2ぐらいの割合で野菜を多めに食べているようだ。

「ほれ花嫁殿。たんと食って、精を付けられよ。肝も心臓も腸も、新鮮な今、味わわねば損と言うものよ」

「ちょ、もうお皿に山盛りだから!食べるからちょっと待って!」

黒歌はお蝶殿に次々と肉を追加されている。ああ見えて、お蝶殿は割と世話焼き好きなタイプだ。俺も子供の頃、良く飯を作って貰った。

あと、黒歌をからかっているのもお蝶殿なりの愛情表現だったりする。さながら目の前でヒラヒラと舞い、人を惑わして遊ぶ蝶のようだ。

「久々だねぇ、こんなに良い肉は」

そう言って肉をパクパクと食う、灰と黒の斑髪の美女。彼女は義父上のフクロウで、名は虚羽(うろは)と言うらしい。長寿によって天狗の亜種となったそうだ。

「···こう言った事は、良くするのですか?」

「ん?あぁ。非番を取って、集まり騒ぐ。儂らにとっては、良くある事じゃな。まぁ、月に2、3回と言う所か···ッくぁ~!旨いッ!」

そう言って、ホルモン串を齧りながら缶ビールを呷る一心様。何と言うか、凄く似合っている。

因みにだが、この肉は全て此処にいる人員で調達した猪や鹿の肉だ。ご飯は言わずもがな、変若の御子のお米である。

「おーぅい、シロのボ~ン!」

と、離れた所から声が。見ると、天猫殿がレジ袋片手に、此方に手を振っていた。

「ミコ様から、何やおもろそうな事しとるって聞いてな!飛び入り参加や!沢の海老やらツマミやら、他にも色々買うてきたで~!」

「おっ、でかしたぞ天猫よ!」

ツマミと言う単語に、いの一番に反応する一心様。天猫殿は手に持っていた袋を渡し、此方に駆け寄ってくる。

「ボン、例の神さんの居所やけど···だーいたい絞れたで」

「!」

その報告は、俺が長年求めていたもの。遂に目星が付いたか。

「場所は、太平洋側の孤島。可笑しな土着信仰に、結滞な神さんが面白半分で介入した···ってな具合やろな。神さん居らんでも、何や関連あるもんぐらい見付かるやろ」

成る程。奴の好きそうな事だな。

「ま、捜索については後日って事で。今日は楽しもうや!ジュースも買うてきたで!」

そう言って、天猫殿はコップを渡して来る。

まぁ、この面子での貴重な宴会だ。楽しんでも、罸は当たるまい。そう思いながら、俺は喉を潤すべく、天猫殿にコップを差し出した。

 

 

 

 

 

「うぅ~ん···ひゅっく···」

「うわっ、こんなデカいのに焼酎一杯でベロベロ!?だ、大丈夫かよおやっさん!?」

「おやおや全く、みっともないね酔っ払いが。子供に心配されてどうするのやら」

「カハハハハハ!相も変わらずすーぐ真っ赤になりよる癖に、毎度辛い酒を飲みおるわ!」

「じゃ、ウチは帰るから。じゃあね」

「お、おぉいうろはぁ~、待ってくれ~ぇい···」

 

···潰れて介抱されてる情けない義父上は、見なかった事にしよう···

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

葦原志狼
えげつない初見殺しに逢った戦国忍者。
義手忍具は紫紺傘。しかし結局負けた。流石に進化したラスボスを初見クリアとは行かなかったらしい。
今回、エーブリエタースの先触れと彼方への呼び掛けを使用した。モーションはBloodborneよりも隙が無く、また仏教的なアレンジも加えられている。
天猫からの報告で、今後の予定が確定した模様。

葦名一心
戦国最強お爺ちゃん。人類に生まれ落ちたバグ。
文字通り地獄の鍛練によって、剣のキレは数倍にまで高まっている。
国盗りを成し、猩々の修羅化を一時的にとは言え防いだ事から減刑され、現在は地獄の警察機関の特別講師として指導を行っている。
葦名の酒をこよなく愛するが、同じぐらい現代の安酒も好き。ビールとか。
因みに、最近は漫画本集めにも嵌まっている模様。ヤバい予感しかしない。

葦斑弦一郎
成長性Aな弦ちゃん。
志狼から逆輸入された桜舞いをマスターし、多少変則的な所からでも繋げられるようになった。
雷鞭の夕顔と葦名の弓刀を組み合わせた薙ぎ払いは、下段攻撃扱いである。
駄洒落が少し好きなようだが、ウケは良くない。
肉ばかりは食べず、野菜とバランス良く食べるタイプ。焼き肉の食べ放題には向かない。

鬼庭刑部雅孝
マ゛ァイネ゛ェェムイズ!ギョウブゥマ゛サタッカァオ゛ニワ゛ァ!!
元弦ちゃんの教育係。
本人は其処まで強化されていないが、愛馬鬼鹿毛がヤバい事になってる。イメージはゴーストライダーのヘルホース。
鬼鹿毛の火を武器に纏わせ、ブラボの発火ヤスリのような炎エンチャが出来る。
元山賊の親分且つ弦一郎の教育係だった為、面倒見が良い。肉奉行、鍋奉行に向いている。

兵藤一誠
全盛期の梟相手に良いとこまで行った原作主人公。
ドライグが死角をカバーしサポートしてくれたお陰で、何とか善戦出来た。
戦法はヤーナム狩人+見切り等の忍の体術。原作で言うドラゴンショットをガンパリィに使う。


全盛期以上の動きが出来る大忍び。大体心中梟と同スペックの戦力。
今回の1件で、かなりイッセーを気に入った。孫みたいな存在になる事だろう。
酒が弱く、直ぐ真っ赤になる。そして酔うと途端に情けない姿を晒す。
虚羽には、原作の天守閣戦時点で愛想を尽かされている。

虚羽
梟の元ペット。現在は地獄の警察機関の特殊部隊で働いている。
梟に対しては愛想を尽かしており、今回は肉に釣られて渋々従ってただけ。
フクロウなだけあってかなりのモデル体形であり、また原種が大型であった為、身長も180cm以上とかなり大柄。
その無駄無く引き締まった筋肉と、割と大きめな胸や尻、そしてキリッとした顔立ちから男女共に凄くモテる。仕事服にしているボディラインの出る忍者装束もその一因なのだろう。翼を出す為に背中が大きく空いたデザインである。
イメージは、けものフレンズのコノハ博士を色っぽく成長させ、眼を少し鋭い吊り眼にした感じ。

黒歌
マリア様スタイルな猫魈お姉ちゃん。
専用武器である赤葉は、マリア様と同じ音が鳴る素敵仕様である。
実は赤葉の分離音、お蝶のまぼろしを消すに足る音量がある為、後半戦は割と簡単だった。最終的に決着は着かなかったが、体術や搦め手も中々のモノとお蝶に褒められ終了。
以降お蝶殿に気に入られ、可愛がられている。

お蝶
志狼の体術の師匠。まぼろしの使い手。
黒歌の事が気に入ったので、ちょいちょい世話を焼く事になる。因みにこの世話焼き好きはオリジナル要素。狼を育てたなら、少なからず母性的な側面もあったんじゃないかな~···と言う妄想が溢れた結果がコレ。
若返った姿をしているのは、その方が色々とお得だからである。この辺の根性は蝶と言うより寧ろ女狐···おっと誰か来たようだ。

黒沢天猫
日本神話お抱えの現代陰陽師。オーパーツやアーティファクトの出所の調査をしている。
今回彼女がもたらした情報は、志狼達に新たなる神秘との邂逅を与えるだろう。

~武器・アイテム紹介~

・エーブリエタースの先触れ(形代消費1)
上位者先触れである、軟体動物の一種。
志狼が手にした、異形の神秘。形代を消費し、暗黒空間から棄てられた上位者の一部を召喚する。

これを使うと、志狼の耳には何処からか、啜り泣くような声が聞こえると言う。哀れな娘の、助けを呼ぶ泣き声が。
それに耳を傾け、また胸を痛めるからこそ、この秘技は志狼の意思に応えるのだろうか。

・彼方への呼び掛け(形代消費7(志狼は信心スキルによって5に軽減))
上位者先触れである、軟体動物の一種。
志狼が手にした、異形の神秘。形代を消費し、暗黒の宇宙から小爆発を起こす星の群れを召喚する。

これを持って合掌し、天に掲げて呼び掛ければ、虚空から神秘は降って来る。或いはそれは、哀れな美しき娘が望み、そして得られなかったモノの名残であろうか。

・パイルハンマー(イッセー仕様)
筋力補正S
技術補正B
神秘補正C
地獄の工房の変態技師、蕪の手になる仕掛け武器。
圧倒的な一撃と、使い手に要求する技量の高さ、つまりは浪漫に武器の魅力を見出だした彼が手掛けた、第一号の武器である。
隙が大きく、扱いが難しい。しかしそれこそが、彼の求めた物である。
彼は何時も呟く。「詰まらない武器が、優れた武器になる訳が無いんだ」と。

材料に老朽化した地獄の釜や人斬り包丁、金棒を鋳溶かし合わせた地獄の鋼が使われており、他に類を見ない頑強さを持つ。
また亡者を蒸かし、沸かし。切り裂き、潰し殺して来たその素材には、ある種の神秘、地獄の怨念が宿る。
鏃に刻まれた特殊な呪紋は、その力を引き出す回路であり、肉体を持たぬ魂のみの存在にも有効打を与え得るだろう。

・赤葉
技術補正S
神秘補正B
地獄の工房が、黒歌の為に造った双刃刀。その刀剣は仕掛けにより2つに別れ、素早い連撃を繰り出す。
地獄の鋼を焦熱の獄炎で鍛えたその刃は、霊的な力を良く通す。故に仙術使いの黒歌には、この上無い武器だろう。
工房の変態が介入した事で、分断する際に大きな音が鳴る。それは図らずとも、幻術への見事な対抗手段となった。

・ヴァルキューレ
神秘補正S
血質補正A
地獄の工房が手掛けた銃。形代を触媒に持ち主の性質に合わせた銃弾を創り出す優れもの。なので、弾込めの必要が無い。
黒歌が握れば、金気を練り上げ水銀弾を生成する。奇しくもその様は、嘗てとある地で獣を狩った、月の上位者の戦士達のようである。

・小さな羽団扇(形代消費5)
天狗の持つ、様々の神通力を宿した団扇。それを限定的に再現し、扱いやすく縮小化したもの。
振るう事で追い風を起こし、ステップやジャンプ、ローリングを加速する。

本来、天狗はこの葉に己の羽を編み付ける事で神通力の幅を広げる。だが地獄の鬼の変人は、直接の攻撃力よりも副次的な補助としての使い方を見出だした。則ち木行の疾風を纏い、己の脚の出を速めるのだ。文字通り、神風の如く。

・葦名の弓刀
筋力補正C
技術補正S
神秘補正B
弓の名手たる弦一郎の為に、工房が造った専用の仕掛け武器。
地獄鋼と地上の軽合金を鋳溶かし混ぜ合わせたその刃は、仕掛けにより大弓に転じる。
中反りと先反りを合わせた、かなり反りが深い刀身は、回転を多用する巴流と相性が良く、また変形後も鋭い双刃刀として振るう事が出来る。
彼の変態は言った。「斬撃と射撃。それを両立して初めて、本物の弓と言えるのだ」と。

基本的に、地獄で造られた武器は神秘補正が馬鹿高いです。


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第10話 扁桃の監視者、星の娘

https://souls-seed.blogspot.com/p/bloodborne.html?m=1
↑参考資料、シード兄貴のサイト


(志狼サイド)

 

「・・・着いたか」

船に揺られて数時間。前に進む縦揺れから、停泊中の横揺れに変わった。仮眠から目を醒まし、他の仲間の身体を揺する。

「ん・・・シロー、もう着いたのか?」

「うにゃぁん・・・」

「うぅん・・・ウゥッ・・・」

イッセーと黒歌は、伸びをしながら身体を起こした。しかし、弦ちゃんは未だに寝床に寝そべり、頭に手を当てて唸っている。

「・・・大丈夫か、弦ちゃん」

「これが・・・・大丈夫に・・・見え、る・・・うぅっ・・・」

青い顔をして、中々起きられない様子の弦ちゃん。どうやら船に酔いやすいタイプだったらしく、行きしなに胃の中のものは全て吐いてしまっていた。

故に船長から渡された酔い止めを飲み、さっさと寝てしまったのだ。

「おぉ、君らも起きたか。大丈夫かね、弦一郎君?」

「相変わらず、酷い・・・」

「あー、何べんか乗ったら慣れるさかい、それまで我慢するしかあらへんなぁ」

仮眠室の扉を開け、翼を隠したバラキエル殿と天猫殿が入って来る。初任務となる今回、流石に中学2年生の俺達や1つ上の黒歌だけでは不味いだろうと、日本神話が護衛に付けてくれたのだ。

曰く、神は人の世に余り干渉出来ないが、人と子を成したバラキエル殿ならば、子供との関係上、ある程度の人間界への干渉も出来るらしい。

また、この島は空間に異常があり上手く接続出来ないと沙羅殿、更紗殿は言っていた。故に、俺達は船で海を渡ると言う方法で現場に向かっているのだ。

「しかし、何ともまぁ不気味な所だ」

船・・・小型漁船の甲板に上がり、バラキエル殿が呟く。

前方にあるのは、霧に覆われ水に半ば浸かった、舟屋のような構造の家々・・・の、()()。柱は折れ曲がり、天井は崩れ掛け、あちこちに不規則なフジツボの群れが張り付いていた。

船を降り、張り出した堤防のような所に降りると、何とも言い難い、生臭い腐臭のような異臭が漂って来る。

「・・・()()、か」

鼻を覆いつつ口から溢れる、小さな独り言。

漁村・・・この場合のそれが指すのは一般の漁村では無く、BloodborneのDLC(ダウンロードコンテンツ)古き狩人達(The old Hunters)の最終エリアの事である。

元ネタはクトゥルフ神話のインスマスであり、半魚人の魚要素を抜いて代わりにシュールストレミングで補ったような敵、ディープワンズが登場するのだ。

「うげぇ、まるでインスマスだ···」

「いん···?何だそれは」

イッセーはクトゥルフ神話を知っているので、真っ先に連想したようだ。逆に、他はそれ程クトゥルフ神話に詳しくは無いらしい。

「総員、武器は振るえるようにしておけ。何が来るか分からん」

バラキエル殿の指示に従い、俺は楔丸を抜刀。他もそれに習い、各々の武器を握った。

 

「よっと」

―ガキンッ!―

【BOOSTED·GEAR!】

 

イッセーの方から、赤龍帝の籠手の声と大きな変形音が響く。それを発したのは、手に握られた2つ目の専用武器。

反った長柄の先端に、陽炎を纏って真っ赤に燃える炉と撃鉄を備えた巨大な鉄鎚が付いた大型のバトルハンマー···地獄工房の最初の仕掛け武器、爆発金槌である。

やはりイッセーは火薬庫の武器と相性が良いようだ。

 

―カチャッパキィンッ―

「よくそんな重たいもの持てるわね···流石の私もそれはちょっとしんどいにゃ」

 

そう言って黒歌は、大振りなダガーを2枚の歪んだナイフに分断する。

赤葉にも似たギミックと変形音のこの仕掛け武器は、《影の刃》と名付けられたものだ。

副武装として新しい武器を使い始めた2人は、今回戦闘になればこれを使う積もりである。

因みに、天猫殿は船で留守番だ。直接的な戦闘力に乏しい故に、帰還手段の防衛に専念して貰う。

『気を付けろ相棒。可笑しな気配がする。黒歌も気付いているだろう?』

「うん。何かジメジメした、イヤ~な気配だにゃ···」

顔をしかめつつ、払うように影の刃を振るう黒歌。良く見れば、尻尾の毛がブワリと膨らんでいる。余程不快なのだろう。

「よし、行くとしよう」

バラキエル殿と俺が先導し、黒歌が中央で警戒。後方は弓刀を構えた弦ちゃんが気を配ると言う陣形で、少しずつ前進する。

(・・・そうだ)

進むに連れて、明らかに濃くなっていく異様な気配。そして、ねっとりと身体に絡み付くような、視線のような意識を向けられている感覚···

ふと、周囲を五行界眼で視てみる。

「ぬぅっ!?」

俺が視たのは、原型がかなり残っている2階建ての家。その屋根の上に、()()は佇んでいた。

 

身体を覆う、青黒くも灰色にも見える肌。

背骨と肋骨だけのような、有り得ない程に細い胴体。

同じく筋肉と呼べるものがまるで付いていないように見える、不気味なまでにガリガリな脚。

右に4本、左に3本。合計7本ある、肘に当たる関節を2つも備えた6本指の長い腕。

そして、アーモンドの上からアミガサタケの網を被せて硬い毛を生やしたような、奇怪な頭部。

それらを持つ、異常な風貌の巨人のような何か。

俺は、それを、知っている。

 

「アメン、ドーズ···!」

アメンドーズ···Bloodborneに登場する、上位者の一種。名の意味は、アーモンドの日本語方言、あめんどうの複数形である。英名には、脳の中に存在するアーモンド型の神経の塊、扁桃体の意味を持つアメンダーラが当てられている。

『···!』

俺が名を呟いた瞬間、アメンドーズはグルリと此方に顔を向けた。そしてそのまま、じっと見つめるようにフリーズする。

「ん?志狼君、どうかしたか?」

ポンと肩を叩いてくるバラキエル殿。振り返れば、他の仲間達も心配そうな顔をしている。恐らく、俺が急に脚を止めて声を上げたからだろう。

そして、分かった事もある。イッセーや弦ちゃんは兎も角、人外側の存在であるバラキエル殿、特に気配等に敏感である筈の黒歌にさえ、アメンドーズの姿は見えていないと言う事だ。

「総員、此処を動くな。暫し、考える時間をくれ」

「え?」

「志狼、何か視えたの?」

「あぁ」

黒歌の問いに短く答えつつ、俺は頭を回す。

このアメンドーズは、どうやら俺達を攻撃するつもりは無いらしい。じっと見詰めてくるだけで、大して危害を加えてくるような素振りも無いからだ。敵意の類いは無いのだろう。少なくとも、今の所は···

次に、名前に反応した点。それは即ち、その名前で呼ばれた事があると言う証明に他ならない。上位種族に呼ばれたか、それとも下級種族からそう呼ばれ奉仕されたかは定かでは無いが。

後は···

「此処にいる意味、か」

アメンドーズの名前の元ネタ、アーモンドを意味するヘブライ語のシェイケディームは、《監視》や《目覚め》を意味する《シャカッ》や《サクダ》と語源を同じとする。つまり、単純に考えるならば何かを監視している、もしくは目覚めを待っている、と言った所か。そして、Bloodborneでは、隠し街ヤハグルにて、メンシス学派の儀式に呼び寄せられた多数のアメンドーズが見られた。ならば、やはり此処でも何らかの儀式を行っていると言う事か?

「···嫌な予感がする」

うむ。非常に良くない予感がする。先を急いだ方が良いか。しかし、行くとしても何処へ···?

「···む?ぬおっ!?」

俯いていた顔を再び上げると、何時の間にかアメンドーズが顔をズイッと此方に寄せて来ていた。些か心臓に悪い···ん?

「彼方へ、行けと?」

アメンドーズは、7本ある長い腕の内の1本をまっすぐ伸ばし、一方向を指差していた。そして驚くべき事に、呟くような俺の問いに、ゆっくりと頷くような動作さえして見せる。

其処に、少なくとも俺達を陥れようとするような悪意は感じなかった。

「···分かった。よし、此方に進もう」

「散々1人で考え込んで、急にどうした?」

「何かいんのかよ、シロー?」

「···言った所で、理解し難いだろうが···不可視の上位者···神のような存在が、その民家の屋根に居る」

「「「はぁ!?」」」「ウソでしょ!?」

皆はアメンドーズのいる方を見るが、やはり眼には映らないらしい。

「名はアメンドーズ。悪意は無さそうだ。

そして、此方に行けと指差した。他に手掛かりも無い」

皆は怪訝そうな顔をするが、まぁ仕方無いだろう。寧ろ、直ぐに正気の心配をされないだけ大分マシか。

「···まぁ、シローが言うなら従うぜ」

「イッセー···」

と、真っ先に脚を進め始めたのはイッセーだ。

『相棒、俺は正直疑わしいと思うぞ?確かにここは可笑しな気配に包まれてこそいるが、そんなものがいれば確実に俺が気付く』

「つってもなぁ。確かシローの神器って、()()()()()()()()()()()()()()()()を見抜けるんだろ?そんな特別な神器持ってりゃ、俺らに全く判らねぇ何かが見えてもおかしくねぇ。

それに、そもそもドライグ。お前みたいなのが、実際に居るんだぜ?だったらそんな奴がいねぇって言い切るなんて、ほぼ無理だろ。見えないからって、いないってのとは結び付かねぇよ。えーっと、何だっけ?あれだ。あのー、しゅー、しゅー···シュレッダーの猫?」

「シュレディンガーだ」

「そーそ!それそれ!」

やはりイッセーは発想が柔軟だな。しかし、シュレディンガーの猫か。中々に良い例えだ。

見えていない場所の可能性は、実際に見るまで証明のしようが無い。実際、心霊は普通の人間には見えない。上位者だって、普通の人間からは認識の位相がズレて···ん?そう言えば、何故悪夢の中に生きるアメンドーズがこの次元に···次元?

「···!この霧、空間を滲ませる結界の類いか!」

そうか、そう言う事か。繋がったかも知れない。

もしそれならば、何とか説明は付く。悪夢と言う無意識の次元に潜む上位者たるアメンドーズが、今此処にいる事も。フロムの世界を知る俺が、それを次元越しに認識出来る事も。

実際、ダークソウルでは始まりの火、太陽の光が消えてしまったにも関わらず、確か100年以上も世界が明るいままだったと言う描写があった。そしてそれが何故かと言えば、始まりの火から派生した並行世界の太陽の光が、次元の壁を超越して世界に降り注いでいたから、だったらしい。他にも、Bloodborneでは音が次元を越えると明言されていたりもする。

要するに、ソウルボーンシリーズでは、光や音等の感覚に情報を伝える要素が時空を越える事が、往々にしてあるのだ。SEKIROでは逆に、鈴の音を使って未確定の過去を選択したりしていたが。

また、アメンドーズが此方を認識出来ている事からも、アメンドーズのいる次元と俺達のいる次元の境界が曖昧になっていると言う事は明らかだ。そして、ダークソウルやSEKIROに於いては、次元や空間がずれている所には霧が掛かる。場所によって方位が歪む仙峯寺でも、その歪む場所から出入りすると外の景色に急に霧が掛かったりしたものだ。

結論として、この霧は時空に作用する何らかの結界の類いである。故に沙羅殿、更紗殿が干渉出来なかったのだ。

 

「グォオォォォォォ!!」「死ネェェェェェッ!!」

 

「ッ!」

「何かが戦っているな、注意しろよ」

荒々しい叫び声と、木や鉄がぶつかり合う音。それも1対1でなく、不特定多数同士だ。

「物陰で待っていろ。バラキエル殿はこれを噛み締めて、同行してくれ」

「分かった!」

俺が渡した月隠(がちいん)の飴を口に放り込み、存在を稀薄にして飛び立つバラキエル殿。俺も同じく月隠の飴を噛み、屋根に鍵縄を放つ。

その民家を越えた向かいの、広場のような所で、その戦いは起こっていた。

「なっ、何だアイツらは!?」

その光景に、バラキエル殿は息を呑んだ。しかし、それも仕方無いだろう。何せ、下で殺し合っている連中の容貌が、明らかに異常で、余りにも冒涜的だったからだ。

其処では、2種類の異形が殺し合っていた。一方は、居るだろうと半ば思っていたディープワンズ。それらは銛や鉈で武装している。しかし、それと殺し合っているもう一方が問題だった。

 

「言ノ葉モ忘レシ、エ損ナィガァァァ!」

「此処既ニ、我ラノモノナリ!足踏ミナ入レソ!」

ぬめった皮膚に、骨が無いようなグネグネした2対4本の腕。

股はあるものの、太くぶよぶよと膨れて蛞蝓の腹のようになった下半身。

ディープワンズに比べて妙に人の特徴を残した顔の付いたその頭には、髪が変質したであろう触手が生えている。

何処か宮の貴族共にも似たソイツらは、言うなれば蛞蝓人間、と言った所か。

奴らはやたら古い言い回しの言葉で叫びながら、奥の崖に在る洞窟から次々と出てくる。どうやら此処は蛞蝓人間の拠点であり、ディープワンズが襲撃者のようだ。

「志狼君ッ!コイツらは一体···少なくとも、俺は見た事が無いぞ!?」

「少し、時間を···」

再びフロム脳を回転させ、考察に入る。

まず、ディープワンズ。あれはBloodborneにも出てきたので、まだ判りやすい。だが、あの蛞蝓人間共は見当も付かない。

まず蛞蝓と人間と言えば、漁村にいた養殖人貝(ようしょくじんばい)が殻を脱ぎ捨てた姿、蛞蝓女(スネイルウーマン)を思い出すが、コイツらは全く違う。

まず、コイツらは蛞蝓女と違い、人間的な要素と軟体生物の要素が共存していない。蛞蝓女は全身の表面が等しく真っ白で粘膜質、尚且つシルエットや顔の形も整っていたのに対し、此方の蛞蝓人間共は中途半端に二足歩行の名残が在りつつ、皮膚は表皮質と粘膜質が斑に入り乱れている。

一方、漁村の蛞蝓にゴースの寄生虫を宿した養殖人貝は、そもそもが宿主同士で似通った生き物であった故に上手く苗床と化し、元となった蛞蝓要素と上位者ゴースの《ヒト型の腕・胴体・頭》と言う形質が共存したのだ。

詰り、あの蛞蝓人間は元は人で、寄生虫によって変異しかけている種族と言う事だ。

そして、その形質が見えている以上、五行界眼が通りやすい。無理矢理こじつける必要が無い訳だ。

パッと視ただけで、ディープワンズは木行、蛞蝓人間は水行と分かる。

「バラキエル殿。魚には光が、蛞蝓には雷が有効だ。襲われた時の参考に」

「うむ、分かった」

「そして、奴らは確実に何らかの上位者の肉体の欠片等を使い、実験をしている。恐らく、あの洞窟の中だ」

「そんな事まで分かるのか?一体、どれだけの知識を持っているんだ?」

「···すみませぬが、明かせませぬ」

軽く詫びながら屋根から飛び降り、イッセー達と合流する。

「シロー、どうだった?」

「腐った半魚人と蛞蝓人間の抗争だ。イッセー、副武装に雷光槍を出しておけ。弦ちゃんも同じく。半魚人は木行、蛞蝓人間は水行だ。

黒歌は、水銀弾を撃つならなるべく半魚人を狙え。

目標は、奥にある崖の洞窟。奥まで駆け抜けるぞ」

「あいよ!」「分かったにゃ」「承知した」

襲われなければ放置で良いが、恐らくそう上手くは行くまい。此処は隔絶された孤島と言う閉鎖空間。こう言った環境では、自然と集落は排他的になるものだ。故に、此方は完全武装で行く。

「よし···行くぞ!」

俺の合図と共に、それぞれが一斉に駆け出した。

 

(NOサイド)

 

「ル゛ワ゛ァァァァッ!!」「ォアァァアアアアアアッ!!」

物陰から飛び出した志狼達を見るなり、一斉に襲い掛かるディープワンやスネイルマン。志狼の読み通り、彼らはかなり排他的な性格のようだ。

「フッ」

 

―カンッ ジャクッ―

 

志狼は喉奥が泡立っているような叫びと共に突き出された銛を見切り踏みつけ、カウンターで心臓を貫きディープワンの1体を倒す。そしてそのまま形代を7つ消費し、死んだ敵の血を楔丸に纏わせた。

忍殺忍術・血刀の術。

其処から更に渦雲渡りを繰り出し、周囲の敵を圧倒的なリーチでもって蹂躙する。

 

「フンッ!」

―BANG! ゴジュボッ―

 

銛で突いてくるディープワンに対し、ヴァルキューレの水銀弾でガンパリィを取る黒歌。そして影の刃を腰のホルスターに仕舞い、体勢を崩したその脇腹に、指先が鋭い鉤爪になった籠手を嵌めた右手を突き入れる。それと同時に、籠手に刻まれた呪紋が発動。肉食動物が縄張りのマーキングに付ける引っ掻き跡のような呪紋···《爪痕》のカレルが効果を発揮し、更に敵の内臓を引っ掻き回す。

「でやッ!」

 

―ブチブチッブシャァァァッ!―

 

更に、腕を振り抜くように引き抜き、内臓を引き摺り出した。

狩人の(くら)い一面、内臓攻撃。これを喰らって、まともに生きていられるモノはそう居ない。

 

―カチャッパキィンッ―

 

「そんなもっさりした動きじゃ、私は狩れないにゃ!」

其処から素早くヴァルキューレを仕舞い、影の刃を分断。隙ありと近付いて来たスネイルマンの攻撃をステップで躱し、左右から刃で挟み込むようなステップ攻撃を繰り出す。

そして、周囲に群がる敵に対し、無差別に素早い連撃を叩き込んだ。

「猫の素早さ、嘗めんじゃないわよ」

 

「ウッリャアッ!!」

―ボガァァンッ!バキンッ―

 

前方の敵に、火の灯った爆発金槌を振り下ろすイッセー。その重打は炎を迸らせる爆発を伴って敵を叩き潰し、更に其処から金槌を突き出して変形攻撃に派生。再び小炉に火を灯した。

「オォらよッ!」

 

―ヴォアォォォウッ!―

 

直後に四方から襲い掛かる敵。イッセーは落ち着いて利き足を踏ん張り、爆発金槌を思いっ切り振り回す。

炎の軌跡は円を描き、周囲の敵を叩き飛ばした。

「へっへーん、どんなもんよ!」

『流石は相棒だ』

地獄仕込みで鍛えた故に、グロテスクは見馴れたもの。故に、イッセーの動きには淀みが無い。

 

「フッ、ハッ!」「ぜぇいッ!」

弓兵の弦一郎が敵を射貫き、近付くモノはバラキエルが潰す。雷を使う者同士、気配を感じ合っての連携だ。

「狼ッ!行くぞッ!」

「承知」

「デェヤァァァッ!」

 

―ビッシャァァンッ!!ビッシャァァンッ!!―

 

弦一郎が放った雷を、志狼が返す。その二重攻撃は、広範囲の敵を瞬時に丸焦げにした。

「雷が、通るか···」

スネイルマンにも雷が効いた事を確認し、志狼は戦いながら頭を回す。

(ゴースの寄生虫を宿す蛞蝓女は、雷光への絶対耐性があった。ゴースの固有能力が、雷を操るモノだったからだろう。しかし、この蛞蝓人間共には雷が効いた。詰りコイツらに宿っているのは、ゴース由来の力ではない。

ならば、力の源であろう上位者も、自ずと絞れる。最も、それがBloodborneの作中に登場した上位者ならば、だが···)

「···大方、片付いたな。よし、前進する」

この件に関わる上位者を推理しつつ、志狼達は地上の敵を殲滅。洞窟の中へと、脚を進めた。

 

(志狼サイド)

 

漁村の薄暗い洞窟の中を、俺達は進む。所々にある蒼白い明かりは、どうやら奇妙な軟体生物が発している光らしい。

「うわ、気持ち悪いにゃぁ···」

不快そうな表情を隠そうともしない黒歌。耳は真後ろに伏せられており、尻尾は大きく左右に揺れている。確か、どちらもイライラしたりしている時の反応だった筈だ。

前方から湧き出してきたり、天井で待ち伏せしている蛞蝓人間共を相手しながら進めば、まぁ苛立ちもするだろう。

それはさておき···壁の軟体生物が放つ、()()()()。これもまた、相手の系譜を知る重要な手掛かりである。

蒼白い光は神秘の月光。そしてBloodborneに於いては、月光を司る上位者は《姿なきオドン》である。であるならば、この軟体生物はオドン、もしくはそれに連なる上位者の影響を受けていると言う事になるだろう。

此処まで来れば、最早ほぼ決まったも同然だ。

その確信を更に確固たるモノにする為、俺は竜胤の業からソレを取り出す。

薄井の森で、悪魔達から没収した軟体生物の片割れである、大きなエメラルドグリーンの蛞蝓···エーブリエタースの先触れ。

普段からボンヤリとした光を放っているこいつだが、此処ではハッキリと強く光り、脈動している。

「間違い無い、か」

であれば、俺達のすべき事は決まっている。この最奥に居るであろう、哀れな娘を保護する事だ。

「にしてもここ、意外とシンプルな造りだな。殆ど一本道と階段だけだし、偶にある分かれ道っぽいのも全部部屋ばっかりだ」

「そうだな」

イッセーの言う通り、この洞窟はかなり単純な構造だ。何度か階段こそあったものの、迷うような要素はほぼほぼ無いと言って良い。大抵のフロムゲーは、ノーマップで迷いながら道を覚えるモノだと言うのに···まぁ、何事も無いに超した事は···

 

―カチッ―

 

「···カチ?」

「あれ、俺?」

足元から聞こえた、僅かなスイッチ音。自覚があったのか、イッセーが頬をひきつらせる。

フロム、洞窟、一本道。何も起こらぬ筈が無い。そしてこう言う真っ直ぐな道のお決まりと言えば···

 

―ドゴンッ ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ―

 

「「大岩トラップゥゥゥ!!!?」」

 

そう、これだ。前方から巨大な丸い岩が転がって来る。こう言うダンジョン系ステージの定番である。

「飛び込めェェェェェ!!」

後ろにあった部屋の入り口まで全力疾走し、何とか飛び込み遣り過ごす。大岩の向かった先から何かが潰れる音と断末魔のようなものが響いた気がしたが、気にしないようにしよう。

「あーこっわ!何であんなトラップがあるんだよ···」

「心臓が口から飛び出すかと思ったわ···」

「同感だにゃ···」

息を切らしながら悪態を吐く仲間達。俺もまさか現実で大岩転がしを見る事になるとは思わなんだ。

「っと、そう言やぁ···何だこの部屋?」

イッセーの呟きに釣られて、俺は部屋の中を見渡す。

部屋の奥に、風呂のような大きさの岩石をくり貫いた生け簀のようなもの。綺麗に削っていたであろう表面には、かすかに鍾乳石が固着しており、少し凸凹している。

所々剥がれているが、其処を見る限り···厚みは、5ミリ強、と言った所か。

鍾乳石は、大体1ミリ10年と言われている。ならば、此処は少なくとも50年前にはこの形で、何らかの実験が行われていたと言う事だろう。だが、このプールは空っぽ。しかも内側は苔生(こけむ)しており、相当な時間放置されていたであろう事は想像に難くない。

「この形···明らかに、水を貯める用だよな。風呂みたいな水抜き穴もあるし」

「壁に軟体生物が張り付いていた事から、軟体生物の養殖槽では無いだろう。ならば···先程のディープワンを見るならば、魚、か?」

「うーん···分かんね。シロー、頼む」

「言われずとも、考えている」

仮に、此処を魚の養殖場としよう。ならば、何故こんな所で養殖していたのか。

普通の食養魚ならば、海に木枠と網の生け簀を作った方が簡単だ。食用では無い。そしてこの場所である事から考えて、何らかの実験動物を養殖していたと考えるのが自然。

そして、其処で一定の成果を得た結果、あのディープワン達は生まれたのではないか?

生け簀···育てる···此処は上位者、見棄てられた娘の影響の強い場所だ。軟体生物は影響を受け輝いた。ならば、魚も変異したのか。

何によって?···上位者の、寄生虫によってだろう···繋がった!

「精霊の、中間宿主の養殖場!」

「おっ、何か分かったっぽいな!」

「あぁ、恐らくな。

此処では、魚を生け簀で養殖していた。餌に使ったのは、恐らく壁に付いていた光る軟体生物だろう。それによって、魚の体内に精霊···神秘の寄生虫を宿し、それを村の民が喰う。この中間宿主の養殖の為に、此処は作られたんじゃないか?」

「またぶっ飛んでんなぁ···」

「それならば、この島の民に軟体動物型と魚型が居る理由も説明が付く。

恐らくこの島の民は、自分達で上位者、神になろうとして実験をしていた。その中で、2つの派閥に分裂したのだろう。

1つは、上位者の影響で光を宿した軟体生物を、直接喰う事で取り込む派閥。仮に直接派としよう」

「えっ、あの蛞蝓みたいなの食べてたって事···?」

鳥肌を立てる黒歌を余所に、考察を続ける。

「もう一方は、軟体生物を一度魚に喰わせ、その魚を喰う事で自身を変化させようとした派閥。言うなれば間接派だ」

実際、軟体生物は水行。木行の魚の餌になる。そして、神秘の寄生虫、葦名で言う所の名も無き小さな神々は、こう言った五行の輪廻に乗りやすい性質がある。

「恐らく、先に変異を果たしたのは間接派だっただろう。軟体生物を直接喰うよりも、それを餌にしたものを喰う方が、大量の精霊を取り込めるからだ。知ってか知らずかは定かでないが、生物濃縮によってな」

実際、この理論には前例がある。葦名の白蛇やヌシ鯉、焔鴉達だ。あの生き物らもそう言った生物濃縮の果てに、小さな神々、またはそれが生む成分を大量に取り込み続けた結果、あのような超常に至ったのだ。

「そしてそれ故に、間接派は直接派を下級種族として扱ったのだろう。人とはそう言うものだからな。

だが、時間が経つに連れ、直接派も変異を成し遂げたのだ。代替わりによる、進化の定着化によって」

まこと小さな変異であれど、変異した内容が近ければ、子にも受け継がれやすい。そして、此処では既に最低50年以上、多く見積もれば70年は経っている。子の代、孫の代、曾孫の代となって、種としての確立が進んだのだろう。突然変異の形質は、孫の代以降に現れる。これが、かの有名なメンデルの遺伝の法則。異常形質の遺伝子は、孫の代に2割5分で発現する。

そして、神に近付く進化を貴ぶ島民にとっては、人の姿であるままの方が忌み子に当たるのだろう。人間らしい形を残した個体がほぼ居なかったのは、そう言う事。恐らく間引かれたのであろう。

「これは推測だが、間接派は種としての完成した後、知能が下がっていったのだろう。さっき蛞蝓人間が、言葉を忘れた、と罵倒していた。実際、ディープワンズからは唸り声や叫び声しか聞こえなかったからな。人から外れて進化した結果、知性を司る脳も変質したのだろう

それ故に、支配権を直接派に奪われ、追放されたと言う訳だ」

いやはや、何と言うか、何処まで行ってもフロム世界だ。悍ましく、闇深く、救いが無い。

それにしても、深きものどもが軟体動物に追いやられるか。クトゥルフ神話のクトゥルフ陣営と古のもの陣営の戦いとは、丸っきり逆の結果だな。

「···よし、大体纏まった。行こう」

「うむ。全く分からなかったがな!」

「右に同じ」

「以下同文にゃ」

「しゃあねぇよ。だってシローだもん」

「···泣きそう」

まぁ、啓蒙高過ぎる考察を垂れ流した俺も悪いが···

「ぬおっ!?」

部屋を出ると其処には先程のアメンドーズがしゃがみこんでいた。どうやって入って来たんだ?

「おいおい、今度はどうしたシロー」

「···何でも無い。急ごう」

まぁ、よく見ればまだ少し透けている。位相は此方に無いのだろう。相変わらず悪意も感じないし、混乱を招くくらいなら黙っておくが吉か。

 

―ズシンッ ズシンッ ズシンッ ズシンッ―

 

「···(喧しいな!)」

振り返らずとも分かる。最後尾をアメンドーズが着いて来ているのが。恐らく腕で身体を支えて歩いているんだろう。シュールが過ぎるぞ上位者···

「と、此処か」

そんな事を考えていると、遂に最奥へと到着した。其処にある大きな扉は、大きな鍵で厳重に封鎖されている。

「イッセー、()れ」

「りょーかい!やるぜドライグ!」

『任せろ!5回分のパワーだ!』

【Explosion!】

「ゥオッリャァッ!!」

 

―バガァァァァンッ!!!―

 

渾身の力を込め、爆発金槌を振り下ろすイッセー。2の5乗、つまり普段の32倍の力で叩き付けられた爆発金槌は、轟音と共に扉を粉々に打ち砕いた。

「よし、開いたな!」

『万能マスターキーとはよく言ったものだ』

満足げなイッセーを尻目に、俺は躊躇無く扉の中に飛び込んだ。

「あ、ちょっとし、ろ···!?」

「どうした黒歌ね、ぇ···!?」

「な、何だあれは!?」

仲間達は、部屋の奥を見て絶句した。あぁ、俺も驚いている。まさか、本当に想像通りのモノが居たとは。

 

枝分かれした触手で形作られた、未発達な背中の翼。

管状の黄色い触手が生えた、丸っこい頭部。

肩の部分や手首から、触手が分化した両腕。

蛞蝓人間のそれにも似て、しかし不思議と何倍も神秘的で美しい下半身。

俺の知る姿よりもかなり小さく、あって3m弱が精々であろう背丈。

《星の娘、エーブリエタース》

 

前々世では、Bloodborneで1、2を争う程に好きだったボス。しかし、彼女の今の姿を見て、真っ先に心に浮かんだ感情は···()()だった。

 

両腕には楔が打ち込まれ、鎖が壁に伸び繋がっている。

翼や身体は鎖で雁字搦めに縛られ、開く処か、動かす事すらまともに出来はしまい。

胴体や足には、無数の傷痕が生々しく残っていた。

 

そんな彼女は顔を伏せ、小さく、小さく啜り泣いていた。まるで、諦めども諦めきれない願い、救いを望み、待ち続けているように。

「ひ、酷い···!」

「な、何だよ、これ···これが、神様なのか···?そうだとしたら、何で···ありがたい筈の神様に、何でこんなひでぇ事してるんだよ!?」

「何と···惨い···」

黒歌は口許を押さえ、イッセーは怒りに叫び、弦ちゃんは凄惨な光景に思わず顔を背け掛ける。

かく言う俺も、同じような心境だ。そして、理解出来た。理解出来てしまった。この島の民が、エーブリエタースをどう認識していたかを。

「奴らにとって、この娘は神では無かった···神へと転じる為の、唯の()()()()···生きた、素材の源だったのだッ···!」

 

―ガンッ―

 

思わず、壁を楔丸の柄頭で殴り付ける。

そう、島民はエーブリエタースを、神と見ては居なかったのだ。

「聖体拝領···その、素材だッ···!」

「聖体拝領、だと!?」

聖体拝領···バラキエル殿が反応した通り、大元はキリスト教の概念。

神に至った者の肉体をその身に取り込み、己を神に近い使徒へと転じる儀式である。

『グオォォォォォ···』

跪き、手で顔を覆うアメンドーズ。それは紛れも無い、深い悲しみと己への不甲斐なさから来る懺悔であった。

「お前の、妹か」

『グゥゥゥ···』

何度も、何度も頷くアメンドーズ。その様は何とも苦し気で、人のそれと何の違いもありはしなかった。

今分かった。アメンドーズは、己の妹を救ってくれる者を待っていたのだ。位相がズレて、この次元に干渉出来ない自分の代わりに。

如何程の無念であったか、如何程の苦痛であったか。察するに、剰りが有り過ぎる。

「···イッセー、黒歌、弦ちゃん···この娘は、泣いている」

「「「···」」」

「果てしない苦痛と、果てしない孤独と、果てしない絶望の奥底で···救いを求め、自由を夢見て、泣いている」

「「「ッ···!」」」

「救うぞ、この娘を!拭うぞ!あの涙をッ!!」

「「「おうッ!」」」

腹の底から響く、覇気のある声。そして、各々がすべき事を瞬時に実行した。

まずは、全員でエーブリエタースに駆け寄る。すると、彼女は僅かに顔を上げた。

「もう少し、待っていてくれ。必ず、お前を助ける」

「あとホンのちょっとの辛抱にゃ!」

「絶対助けるからなーッ!」

「泣く子が居れば、手を差し出すが強者の勤めだ!」

俺達の声掛けに、ほんの僅かにだが、エーブリエタースのエメラルド色の眼に光が灯った。

「じゃ、まずは痛み止めにゃ!」

黒歌はエーブリエタースに駆け寄り、掌を押し付け眼を閉じる。体内の気を読み、操作しようとしているのだろう。

「どうだ黒歌!」

「うーん···よし、大丈夫!質が違うだけで、気の流れ自体は人間に似てるにゃ!」

「ならば痛みを!」

「今やってる!」

胸の気脈越しに全身の気を掴み、感覚を操作し痛覚を麻痺させる。応用として、触媒があれば幻覚を見せられるらしい。今回は何も触媒が無いので、手を直接触れて集中する必要があるようだ。

「よし!これで痛くない筈にゃ!」

「よっしゃ!次は俺だ!ちょっとごめんよ!

ドライグ!8回分だ!」

『よし来た!』

【Explosion!】

イッセーはエーブリエタースの膝に足を掛け、腕に突き刺さった杭に左手を掛ける。そして、8回分の倍化、256倍の握力で、杭を握り潰した。直ぐ様逆の杭も、同じように手早く破壊する。

「バラキエル殿は、腕と翼で受け止めていただきたい!俺と弦ちゃんで、鎖を断つ!」

「よし!望む所!」

「わ、分かった!」

最後に、俺と弦ちゃんが彼女の両脇に回る。お互いに息を合わせて刀を上段に構え、地面を踏み砕かんばかりの重い踏み込みと共に一気に振り下ろした。

 

―バギャンッ!―

 

葦名流・一文字。

 

左右それぞれから叩き込まれた渾身の一太刀は、見事に鎖を断ち斬った。

「おぉっと」

そして、倒れ込む身体をバラキエル殿が受け止める。流石は筋肉質な堕天使、彼女程度の体重なら余裕なのだろう。

「一応、応急処置として血は傷を避けるように巡らせとくにゃ」

黒歌の仙術のお陰で、腕から溢れていた白い血は勢いを失い、ほぼほぼ止血が完了する。取り敢えず、俺のマフラーを真ん中から割いて、それを巻いて傷口を保護しておこう。

『ゴォオゥ···』

「···あぁ。どういたしまして」

これでもかと姿勢を下げ、土下座のようなポーズを取るアメンドーズ。感謝の気持ちを受け取りつつ、俺は入り口を見遣る。

 

「返セ、ソハ我々ノモノナリ!」

「貴キ肉ナリ!」

 

蛞蝓人間共が、通路の奥からやって来る。どうやら、そう簡単には返してくれぬようだ。しかし···

「我々の、()()、だと?」

「···反吐が出るにゃ···」

「この鬼畜共めが!」

「ムカつくなぁ、一々一々よォ!!」

奴らの一言が、俺達の逆鱗を擦り上げた。奴らを生かしては置けぬ。

『···グォオオオッ!!』

「ど、どうしたアメンドーズ!?」

突如叫んだアメンドーズは、俺に頭を押し付けるように寄せる。すると、何とその頭はスルリと俺の中に入って来た。

 

―――――阿瞑棠頭(あめんどうず)―――――

 

俺の中に、魂が入って来る感覚。これは···御霊降ろし、か?

あぁ、身体に何かが溢れ出す。これは何だ?雨のような、嵐のような、何か···何かが底から、滴るように···

「死ネェェェェェ!!」

振り下ろされる石の棍棒。楔丸で容易く弾くと、自然と大きく踏み込みが出た。

 

―ゴゥンッ ヴァオウッ ドゴッ―

 

繰り出したのは、拝み連拳。しかしその拳は、暗黒の宇宙、或いは神秘の輝きを纏っていた。

打ち飛ばされた敵は、岩壁に激突し息絶える。それ程の力が、拳に宿っていた。

「う、ウソ···志狼、何なのよその気!?」

「···アメンドーズ」

黒歌が問い掛けてくるが、ボソリと呟くのみ。敵の縦列を見据え、楔丸を上段に構える。

 

葦名流・一文字。

 

構えの全てを注ぎ、真っ直ぐと前に振り下ろす。すると剣撃から白い光が飛び、地面を爆ぜさせた。

其処に、追い打ちでもう一太刀振り下ろす。

 

一文字二連。

 

またもや同じく爆発を伴い、白い光線が飛んだ。

「か、刀からレーザー···」

「何なのよそれ···」

この二撃にて前方の敵は全滅した。後は、来た道を駆け登るだけ―――――

 

―がくんっ―

 

力が抜け、視界が闇に染まる。大きな手で掴まれるような感覚と、黒歌の悲鳴だけを感じながら、俺の意識は落ちた。

 

(???サイド)

 

「ヘェ?まさかこんな結果になるなんてねぇ···」

「満足か?()()

「あぁ、面白かったよ、()()

志狼達の居る島の上空にて、2人の人間らしきモノが話し合っていた。

片方は、黒いスーツを着た、お洒落なサラリーマン風の男。

もう片方は、真っ黒に紅い縁取りのローブを纏った男。

双方曰く、サラリーマンは偽善、ローブは破滅と呼ばれているらしい。

「それにしても、よくもまぁお前がこんな手間のかかる空間(もの)を創ったな?」

「まぁな。アイツの記憶にあるゲームの()を、ちょっとばかし参考にしただけさ」

感心か呆れか、はたまた両方かを含めた偽善の問いに、破滅はカラカラと笑いながら答える。しかし、フードの下にある筈の肌色も、それどころか口の中の粘膜の赤も、歯や眼球の白さえ見えない。唯々、宇宙ようなの暗黒の無貌が、其処にあるのみである。

「と言うか、あの娘を作る為だけにまた派生存在の化身を創ったんだろ?しかも、()()()()()()()()()()()()()()を」

「あぁ、あれ?あれはほぼ偶々さ。偶然面白そうな素材がお忍びで人間界でお楽しみしようとしてて、偶然この世界に面白そうな玩具があった。だから、その素材を使って面白そうなモノを創って、面白半分に人間に与えてみただけさ。まさか、あのカス共が独学で彼処まで変態するとは思わなかったけどね?でも、その偶然が愉快な必然を呼んだ。

どうだい?何ともボク達らしいだろう?」

「まぁ、確かにな。お前は意外と、そう言う所は年単位で凝るタイプだ。60年ぐらい前の、()()()()()の時もそうだったしな」

「あーあれ!懐かしいねぇ♪ま、結局あれは下らない事を決めた蛆虫共のせいでお蔵入りになったけどねぇ···つまんね~の」

「ったく、よくもまぁあんな忌々しいアイツを思い起こさせるような物を造らせたもんだ。あぁムカつく」

「もう良いじゃん。オレはそんな事より、アイツらがどんな結末を迎えるか楽しみだよ。ま、()()()()()()()の話だけど」

「少なくとも、俺はお前を全力で邪魔する事にするぜ。予定通りに、な」

「エクセレーント!そうでなきゃ面白くないもんね!

でも、お前はアイツらと組めるかな?だって、()()()()()なんだぜ」

「お前が俺だからこそ、止めさせて見せるさ。お前と同時にこの世界に送り込まれた、偽善のヌラルリァットホティプの端末として」

「ならば、当然ワタシも全力で破壊しよう。破滅のヌラルリァットホティプの端末としてな」

ニタリと笑ったような雰囲気を出す破滅。対照的に、偽善は無表情のまま、背後に開いた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の中に消えた。

 

 

「さぁて、これからどうなるのかな?乞うご期待だね。ねぇ、そう思うでしょ···

 

 

 

 

 

 

 

 

どくしゃのみなさん?」

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

葦原志狼
(フロム)脳細胞がフルスロットルな戦国忍者。
実は神器の性質のお陰で理解力が上がってるんだとか何とか。
某種兄貴の考察サイトの記憶も保存されているので、半ばカンニング考察してる。
因みにエーブリエタースは素で美少女と認識してる。故に美少女をこんな目に遭わせた奴ら赦すまじ。
上位者の精神で御霊降ろしをすると言うとんでもない体験をする。因みにこれが原因で更にヤバい事になるのだが、まぁ今は良いだろう。

葦斑弦一郎
船に弱い弦ちゃん。
弓のセンスの応用か、雷を狙った場所に飛ばすのが上手い。志狼と即興で二重打雷を難なく成功させる程。
葦名流は苦手ではあるものの、一文字ぐらいなら1人前に放てる。

兵藤一誠
武器を持ち替えた原作主人公。火力は何時だって正義だ。
直情型ではあるが決して馬鹿では無く、柔軟な発想力と許容力を持つ。
地味に8回分のブースト、256倍のパワーを扱えるレベルに達している。この時点で原作開始時より数倍強い。しかもまだ人間である。

黒歌
イッセーと同じく、武器を持ち替えた猫魈お姉ちゃん。
右手の手甲の仕様は、実は最初から。
近接戦、中距離戦、応急処置までこなせる割と万能型な性能になった。

バラキエル
終始志狼の考察に驚かされっぱなしな雷光の堕天使。
「この子達、度胸と行動力ありすぎないか?」
一応、敵の撃破数はトップである。まぁ当然っちゃ当然だが。

黒沢天猫
お久し振りの現代陰陽師。今回は船の防衛の為にお留守番。因みにディープワンズに襲撃されて1人で何とか防いでたりする。縁の下の力持ちである。
アメンドーズには度肝を抜かれた。

アメンドーズ
精神生命体状態の上位者。
心の構造がほぼほぼ人間のそれ。妹であるエーブリエタースを助けられない事に耐え、志狼達のような存在を待っていた。サイズはかなり小さめで、ヒゲのような触手も無い。かなり若く、比較的こちらの次元に近い、異次元の浅瀬に存在する個体である。
志狼に対しては恩義を感じ、助力を惜しまなくなるだろう。
因みに最後、それまでの描写からは有り得ない事が起こっている。感の良い読者ニキなら、何がおかしいか、何が原因か分かる筈。

エーブリエタース
Bloodborneユーザーを魅了する絶世の美少女。
この子が酷い目に遭ってる様は書いてる方も辛かった。
苦痛に堪えかねて脳の瞳を自分から閉じ掛けており、アメンドーズを認識出来ていない。


偽善
真っ黒なスーツを着こなす、謎の男。かなりイケメン。
もう片方の黒い男、破滅とは対立関係にあるようだが、険悪な雰囲気は無い。
最後に彼が消えたゲートは、実は特撮要素である。

破滅
真っ黒なローブを纏った、謎の男。容姿不明。
一人称が安定せず、言動は快楽主義者のそれに近い。
過去に人間が産み出した()()()()()に関わっていたようだが···?

~武器・アイテム紹介~

・爆発金槌
筋力補正A
神秘補正B
志狼によって地獄工房にもたらされた、最初の仕掛け武器。地獄の拷問道具を鋳融かし、仕上げたもの。
空気に触れれば瞬時に数千度以上の熱をもって自然発火する、煉獄の岩石を詰めて造られた小炉付きの大振りなハンマーは、撃鉄を叩き起こす事で炎を纏い、次の一撃に爆炎を撒く。
亡者を焼き尽くし、叩き潰す。その端的な威力は、地獄の鬼にも痛く好評である。
「正義は勝つ。そして火力は何時だって正義だ。あんたもそう思うだろう?」

・影の刃
技術補正A
神秘補正C
地獄工房の手になる、特注の仕掛け武器。
大振りのダガーは仕掛けによって2枚に別れ、二振りの薄い歪んだ刃となる。
似通った形の刃が重なっている事から、影の名が付けられた。
刃には希少な隕鉄と地獄鋼の合金が用いられ、ステップ、ダッシュ、ローリング等、速度の乗った攻撃で真価を発揮する。
モデルは慈悲の刃であり、造型やギミックも同様。但し地獄鋼の影響により、暗く蒼い刀身には、紅い炎の波紋が浮かぶ。

・爪痕の籠手
内臓攻撃の威力を高める(+30%)
黒歌の為に拵えられた、右手用の特殊防具。指の先端は鋭く尖り、手の甲には爪痕のカレルを模した呪紋が刻まれている。
突き立て、まさぐり、抉り出す。狩人の昏い一面、内臓攻撃の威力を、格段に引き上げる。その性質上、どちらかと言えば武器に近い。
蒼く焼き入れられた地獄鋼は、血糊を弾き雫と流す。相手の悪意に、それを乗せた血に、主の手を浸さぬように。

・阿瞑棠頭の御霊降ろし
形代消費10(信心により8に軽減)
悪夢に潜む上位者を降ろす、異色の御霊降ろし。
悪夢の浅瀬に棲む上位者、アメンドーズの力を、ごく一時的に借りるもの。
掌に暗黒の綺羅星を宿し、刃や忍具は神秘を纏う。鋭く振るえば、そのまま敵を穿つだろう。
しかし、悪夢は重く絡み付くもの。動きが鈍り、ステップ不可となる。

阿瞑棠は当て字です。実際にはこの字は使われません。しかし、それぞれ全てにしっくり来る意味を与えてあります。
さぁ、フロム脳ニキ諸君。考察要素を与えよう。脳の瞳を総動員し、考察に励みたまえ。


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第11話 駒王に尖兵

「では、入って来て下さい!」

先生の言葉に従い、志狼達は教室の戸を開ける。

おぉ、と声が上がる中、2人はは教卓に上がった。

「葦原志狼。趣味は旅行と鍛錬。特技は料理と古武術。宜しく頼む」

「俺は兵藤一誠!趣味は筋トレと漫画集め!宜しくな!」

自己紹介が締め括られると、教室の女子からは黄色い歓声が上がる。双方共に締まった身体をしたかなりのイケメンなので、当然と言えば当然である。

尚、教室の男女比は志狼ら含めて3対7程。かなり偏っている。極近年まで女子校であり、其処から共学化した為だ。

「それと、隣のクラスにも俺らと同じ編入生が居るぜ!」

「共々、宜しく頼む」

「宜しくお願いします!葦原君の席は右後ろ、兵藤君は前方中央です!」

2人は担任に示された席に座り、馴れぬ景色に眼を馴染ませんと前を向いた。

 

(志狼サイド)

 

「だっはぁ~、疲れたぁ・・・」

「うむ・・・」

ぐでっと机に伏せるイッセー。つい今し方まで、クラスメイト(主に女子)から質問責めに遭っていたのだ。

かく言う俺も、かなり疲れた。

「と、急がねぇと。体育館だもんな」

「あぁ、行こう」

体育館シューズを手に席を立ち、歩きながらに頭を回す。

この学校・・・駒王(くおう)学園は、聖書の悪魔が仕切っているらしい。一応、日本神話とは正式な契約を交わした上で土地を借りているようだが・・・どうにも管理がお粗末であるとの事。何でも、貴族の統治の演習として、この街を治めているとの事。真面目ではあれども、まだまだ未熟。実際、黒歌とは違う類いのはぐれ悪魔も度々入り込んでいるらしい。

故に、最終手段として俺達が送られた。より良い関係の為、協力しろとのお達しだ。

「おい狼、また考え事か?」

「変わらないものですね」

「おっ、弦ちゃんに()()()()!」

と、背後から掛けられる声。振り返ると、其処には弦ちゃんと()()殿()が居た。

「久しいな、エマ殿。元気そうで何よりだ」

「ふふ。心配される程、柔ではありませんよ?」

「ッ!」

一瞬、エマ殿の気配が冷たく尖る。危険攻撃の前触れにも似たその殺気はしかし、数秒もせず霧散した。

「・・・成る程、磨きが掛かっている」

「一心様から、本格的に鍛え直して頂きましたから」

「なん、だと・・・」

修羅√で闘ったが、あの時点でエマ殿はべらぼうに強かった。あれが、まだ延びるのか・・・

「イッセー君!」

「おわっ!?」

と、そんな所にまた1人。女子がイッセーに抱き付いた。

「あぁ朱乃ちゃん、久し振りだな!」

「ずっと会いたかったんですわぁ♪」

言わずもがな、幼馴染みたる姫島朱乃殿。

甘え倒すようにイッセーに擦り付く彼女だが、実は3年生。俺達の1つ上の先輩だったりする。

「どうだ?お仕事は順調か?」

「あぁ~・・・大変ですわ」

そう言って遠い目をする朱乃殿。苦労が絶えぬのだろう。

「でも、着実に成長してはいますわ。熱心で真面目なのが美点です。

まぁ、ちょっと意地っ張りでプライドが高い所が玉に瑕ですし、まだまだ至らぬ所もありますが・・・」

「そうか・・・難儀だな」

「はい。でも、これも仕事です!可愛い後輩もいますからね!」

ふんすっ、と気合いを入れる朱乃殿。うむ、逞しくなったものだ。

「・・・おい、狼。何だあれ?」

「おぉ、弦ちゃん・・・あぁ・・・」

合流して来た弦ちゃん。その先に居たのは、数少ない俺達の男のクラスメイトの2人組。センターで髪を分けた眼鏡と、糸目の坊主頭だ。

その2人は、それはもうえげつない敵意を込めた眼で、イッセーを射殺さんばかりに睨み付けていた。

「クソッ!我が校の二大お姉様たる姫島先輩と何故あんなに親しげにッ!」

「しかも聴いたか!?朱乃ちゃんって!ちゃん付けだぞちゃん付け!ックゥ~、羨まけしからんッ!」

「・・・捨て置け。嫉妬だ」

「哀れなものだな」

「「イケメンは死ねェェェェッ!!」」

・・・何と言うか、稚拙な罵倒だ。それとも、挨拶感覚で罵倒を投げ付ける文化でもあるのだろうか。

あれではヤーナム野郎と大差無い。違いと言えば、湧いて来るのが苛立ちか共感性羞恥かぐらいである。

「行きましょう。彼ら、覗きの常習犯なんです」

「え、マジかよ朱乃ちゃん。今時覗きって・・・」

「それは頂けないな」

「えぇ。ですが、私には少し熱めのお灸を据える計画があります。準備も整い、今日実行するので、ここは1つお任せ下さい」

「お、おう・・・」

エマ殿の微笑みに、燃え盛る阿修羅像が重なって見える。これは、確実に地獄を見る嵌めになるな・・・

「・・・行こうか、シロー」

「そうだな・・・」

もうそろそろ良い時間だ。いい加減、体育館に行くとしよう。

 

───

──

 

「ふわぁ・・・話長かったなぁ・・・」

「全くだ。無駄に何度もループして、同じような話が堂々巡り。要点を掻い摘まんで話さねば、聴く側の頭にも残らず士気を落とすだけだと言うのに・・・」

 

校長の話が終わり、イッセーと弦ちゃんがグチグチと悪態を吐いている。だが、それも致し方無かろう。実際、こう言う場で校長が話せば、長いだけで全く頭に入らないものになりがちだからだ。

 

『新任教師、紹介』

 

司会のアナウンスと共に、檀上に1人の男が上がる。

新しい教師であろう彼は緩く波打った癖毛を揺らし、黒いシャツの上にワインレッドのベスト、同じくワインレッドのネクタイに黒いブレザーを着熟したその様を魅せる。

所謂日本人的な、其処まで秀でた特徴がある訳では無い顔立ちでありつつも、不思議な色気があり、独特な雰囲気を醸し出していた。

当然、女子生徒達は色めき立つ。

 

『えー、今年から、この駒王学園で勤務する事になりました、塗原(ぬりはら)畔裏(ほとり)と申します。

年齢は24歳。担当科目は家庭科と音楽。過去に古武術を嗜んだ経験があります。

自分で言うのも何ですが博識な方だと思うので、分からない事があれば気軽に頼って下さい』

 

柔らかく微笑みながら、洗練された一礼をしてみせる塗原先生。しかし、あの動きは・・・

 

「狼、気付いたか」

「あぁ・・・隙が無さ過ぎる。嗜んだと言う程度では無い」

 

弦ちゃんも気付いたらしい。あの男、中々の実力者だ。

「・・・しかし、まずは悪魔だ。今日、管理者と顔を合わせる。今はそれに尽きよう」

「・・・そう、だな。ああだこうだと言っても、今の所はさして怪しい点も無し。任務を優先するべきか」

弦ちゃんは頭を振り、思考を切り替える。

敵であると確認しないまま攻撃的な態度を取ると、碌な事にならない。

・・・それにしても、何か既視感があるような・・・気のせいか?

 

(NOサイド)

 

「兵藤君と、葦原君はいるかな?」

放課後。志狼達のクラスに、他クラスの男子がやって来た。

金髪でスリムで高身長。更に若干童顔なイケメンと言う女子の好物欲張りセットのような彼が来ようものならば、当然クラスの女子はさながら瞬間湯沸かし器のように沸騰する。

更に、ここは名門駒王学園。それも近年までお嬢様学校だった。当然、マナー等を口酸っぱく叩き込まれた女子が多い訳である。

「キャァァァ!木場君よぉぉ!!」

「葦原君と兵藤君を指名・・・閃いたッ!」

「薄い本が熱くなるわね!」

その結果がこれだ。多くの者が、ものの見事に腐れに飲まれた。

抑圧が強くなる程、その反動で趣味は捻じ曲がりやすくなる。お嬢様の集まるマンモス校ともなれば、最早純情のヘムウィック墓場街と言って良いだろう。校門の側にギロチンがありそうだ。

「・・・なぁ、あの女子達ってよ・・・」

「言うな。こう言った手合いは、火消しに何を言おうが逆効果だ。ほとぼりが冷めるのを、待つ他無い」

「うげぇ・・・」

げんなりとする一誠。一方の志狼も、表情こそ変わらないものの、内心では勘弁してくれ等と思っていたりする。

「あー・・・ンッン。初めまして、僕は木場祐斗。オカルト研究部のお使いだよ」

「成る程、分かった」

顔合わせの案内役を名乗る木場。成る程と2人は頷き、彼に着いて行く事となった。

途中で弦一郎とエマも拾われ、ぞろぞろと行進する。

「いやぁ、本来は副部長・・・姫島先輩が来る筈だったんだけど、急用が入っちゃったみたいでね」

「そりゃそうだよな。朱乃ちゃんこっち側だし。でもま、急用ならしゃあないか」

顔馴染みで気の置けない中である朱乃が来られないと言う事で、一誠は若干残念そうな様子である。

そうこうしている内に、目的地が見えて来た。校舎を抜けて暫く歩いた先、古い木造の旧校舎である。

「この旧校舎が、僕たちオカルト研究部・・・通称オカ研の拠点なんだ」

「危険じゃ無いのか?見るからにボロいぞ?」

「アハハ、大丈夫。中身はしっかり補強してあるよ」

弦一郎の疑問に答えつつ、木場は扉を開けて先行。志狼達もその後ろに続く。

少し進むと、黄色と黒のワーニングテープで封鎖されている区画が志狼達の眼に留まった。日常では見る事は無いであろうその虎縞模様に、思わず足を止める。

「ん、あぁ。彼所にはオカ研のメンバーの1人が住んでるんだ。人見知りが激しいから、入らないであげて」

「・・・承知」

湧き上がる好奇心に一時蓋をして、木場の案内に従った。そして旧校舎の奥、とある一室の扉を開く。

「ようこそ、オカルト研究部へ」

「おぉ・・・」

「あぁ・・・」

「うん・・・」

その部屋の内装に、志狼達はどう反応したものか困ってしまう。

赤黒い壁紙に魔方陣が描かれ、机には燭台(メノーラー)が置いてある。はっきり言うと、かなり趣味が悪い。

と言うか、仮にも悪魔がユダヤ教の祭具を用いるとはこれ如何に・・・

そして、部屋の中央に置かれた机を挟むように置かれたソファには赤毛の女生徒と、白髪の女生徒がそれぞれ座っている。

因みに白髪の方はかなり背が小さく、中学生と言って通用するレベルである。

「初めまして、日本のエージェント。

私はリアス・グレモリー。この街の管理をさせて貰っているわ」

まだまだ未熟だけどね、と笑ってみせるリアス。一方、向かいに座っている白髪少女は、チラチラと視線は向けつつも机に置かれた小箱からクッキーを取り出し、口に運び続けている。

「「「・・・」」」

「・・・あげません」

「こら小猫!」

その様子が気になってつい凝視してしまった志狼達に対し、白髪少女・・・塔城小猫はジト眼で睨みながらクッキーの箱を抱き寄せ庇う。大した食い意地である。

「あー、ごめんなさいね?この子は塔城小猫。1年生よ」

「ふむ・・・塔城、か」

何かを思い立ち、志狼は懐をまさぐる。そして、その中から何かを取り出し、小猫に向き直った。

「おい」

「?」

「おはぎ、食べるか」

「!」

志狼が取り出したのは、綺麗にラッピングされたおはぎだった。無論、服の中に入れていた訳では無い。竜胤の業で収納していたものだ。

「頂きます・・・!おいしい・・・!」

先程までの警戒心は何所へやら、早速ラッピングを剥がし、口に運ぶ。すると表情は驚きに染まり、眼はキラキラと輝き始めた。

「口に合ったのなら、良かった」

「これは何所で?」

「自作だが・・・?」

「これが・・・いや、確かにこの絶妙に不均等な形は手作り・・・」

うむむと唸りつつ、口は休む事無くおはぎを食み続ける。拳より一回り小さい程度の大きさのおはぎがその胃袋に収まるまで、20秒も掛からなかった。

「・・・ごちそうさまでした」

「あぁ」

態度は素っ気ないものの、明らかに雰囲気が柔らかくなる小猫。志狼は自分の選択が最善であった事を確信しつつ、リアスへと向き直る。

「ま、まぁ小猫ったら・・・ンッン。改めまして、ようこそオカルト研究部へ。葦原志狼君に、葦斑弦一郎君、兵藤一誠君、猩葦(あかよし)エマさん」

仕切り直して、にっこりと微笑むリアス。この時、一誠はかなりにやけそうになるのを我慢していた。

「朱乃からは、3人とも凄く強いと聞いているのだけれど・・・良ければ、うちの祐斗と手合わせして頂けないかしら。勿論、嫌なら構わないけど」

「ふむ・・・狼、どうする?」

「・・・俺は、イッセーを推薦する」

「え、俺ぇ!?」

驚く一誠に対して、志狼は淡々と続ける。

「イッセーの装備は、地獄の主戦力とほぼ同じ。脅威性のアピールとして、良い指標になるだろう」

「うーん、そっかぁ・・・」

実際、一誠の仕掛け武器は有事の際に兵士として駆り出される獄卒達にもかなり人気であり、《これが数万人規模で戦う》と言う基準を見せるにはもってこいである。

更に、基本手数がそもそも少ないので、相手に抜かれるデータそのものを抑えられると言う狙いもあった。

「えーっと・・・流石に対人で爆発金槌(バクツイ)はヤバいよな?」

「無論」

「じゃあパイルで」

パッと差し出された一誠の右手に、志狼がパイルハンマーを渡す。慣れた手つきで装着し、グリップを軽く握り込んだ。

(相棒、俺は使わないのか?)

(んー・・・ま、危なくなったら使うよ)

(・・・あぁ、分かった)

脳内でドライグと話しつつ、 一誠は木場の後ろに続く。旧校舎前の小振りなグラウンドで、5m離れた所で向き合った。

左足を引き、右腕を胸下に添えるような一礼・・・狩人の一礼をする一誠。それに対し、木場は剣道式の礼で応じる。

「では、始めッ!」

リアスの掛け声をゴングとし、木場は最短距離を突貫。そして虚空から一振りの剣を生み出し、鋭い突きを放った。

「よっと!」

一誠はその切っ先を避けつつ、右足でその剣の腹を踏み付ける。鍛え抜かれたストンプに耐えられず、切っ先を地面に埋められた剣は甲高い音と共にへし折れた。

「なっ!?」

「フンッ!」

重心の崩れと動揺で、思わず硬直する木場。それを好機と見た一誠は、パイルハンマーの鏃を突き出す。

「くっ!」

「っと、惜しい」

木場は重心を起こす事を瞬時に諦め、逆に左手を地面に着いて左前方に飛び込む事で回避。図らずも、ヤーナムローリングに良く似た回避を行った。

「うりゃっ!」

「うおっ!?」

しかし、一誠も梟相手に良い所まで行ける実力者。前に出た左足を踏ん張って強引に反転し、パイルハンマーの変形攻撃で斬り返す。

一誠の強靱な体幹に驚きつつ、バックステップで距離を取ろうとする木場。だが、開けようとした距離も一誠の大きな前ステップで一気に潰され、更なる追撃が振り抜かれた。

 

─ガギャンッ!─

 

溜めを最小限に、控えめの威力で撃ち出されるパイル。その先端は木場の顔を掠め、殺気を伴った圧をぶつける。

「まさか、ここまでとは・・・」

そう呟くと、木場の姿は掻き消えた。

一誠は一瞬混乱したものの、肌に感じる風と気配を読む事で、何とか後ろから振り抜かれた中段横一文字を弾く。そして左手で無防備になった首を掴み、腹に鏃の先端を添えた。

「ま・・・参りました」

「ふぅ・・・お疲れさん」

双方構えを解き、握手を交わす。

「こ、これにも反応するのか・・・自信無くしちゃうなぁ・・・」

「いや、一瞬マジで消えたかと思ったぜ」

そう言って笑う一誠だったが、普通悪魔の、それも速度特化である騎士の駒のスピードに、人の身で反応する事はまず不可能である。

「ほら、言った通り。強いでしょう?リアス」

「あ、朱乃!」「お、朱乃ちゃん!」

「只今戻りましたわ、リアス。そしてお疲れさまです、イッセー君」

音も無く現れた朱乃。それぞれに挨拶をして、一誠に歩み寄る。

「相変わらず、見事な戦いぶりですわね」

「へへ、まぁな!伊達に地獄で鍛えてねぇって!まぁ、それを知らなかったから油断しても仕方無かったし、最初からあのスピード出されたら流石に勝てねぇかもだけど・・・

と、そう言えば・・・」

一誠の視線が、朱乃の右手に移る。其処には、一本のステッキが握られていた。焼鉄色をしたその表面には、薄らと美しい波打ち模様が渋く光っている。

「その杖は?」

「あぁ、これですか?これは私の専用武器です。地獄工房から仕上がったと連絡があったので、受け取ってきたんですわ」

スルリと杖の表面を撫でる朱乃。志狼は勿論その杖の正体を知っていたが、敢えて黙っておく事にする。

「所でイッセー君?見ての通りリアスはかなりの美人で巨乳ですが、まさかあの胸にデレデレするような事は・・・

ありませんでしたわよね?」

「ヒェッ!?」

瞬間、その微笑みから温度が消え去る。その末恐ろしい気配に、一誠は身の毛が弥立つのを感じた。

「朱乃殿、その辺りで」

「・・・分かりました。志狼さんに免じて、今回は許してあげます」

「ふぅ・・・」

何とかギリギリ許され、胸を撫で下ろす一誠。後ろ暗い事があったらしく、どうやら彼女には頭が上がらないようだ。

「えーっと・・・そうだ、祐斗!貴方から見てみて、兵藤君はどうだった?」

「あ、イッセーで良いですよ」

「あら、ありがとう。それで、どうだった?」

「うーん・・・」

少し唸り、木場は回答を練る。そして、口を開いた。

「まず、とんでもない実力です。こんな見るからに暴れ馬な武器を使いこなす筋力も然る事ながら、3m以上の後退にピッタリと追随する踏み込みの鋭さ、武器を振るう時に的確に重心を操作するバランス感覚、僕の剣戟に容易く反応する反射神経・・・どれを取っても、人並み外れたものがあります。

何より、勘の良さには驚かされました。一瞥もせず背後からの奇襲を察知するなんて・・・」

「いやぁ、気配とか空気の流れで何となく・・・それに、パッと消えては死角に回って斬り掛かるって、俺がメインで教わってるおやっさんの常套手段だからよ。馴れてた」

「一体どんな人に教わってるんだい・・・?」

「シローの師匠の1人。因みにシローにはあと2人師匠がいて、1人以外は免許皆伝だって」

「へ、へぇ・・・」

明らかに引き攣った表情で、奇異なものを見る目を志狼に向ける木場。最早人間であるか疑わしいとでも言いたげである。

「そう言やぁ、木場って何本も剣出して使ってたよな。お前の神器か?」

「ん、あぁ、そうだね。魔剣創造、ソードバース。ありとあらゆる魔剣を創り出す事が出来る神器だよ」

「何だと・・・!」

その性質に、志狼は大きく反応した。

「おい、その魔剣創造とやら・・・もしや、創作物に登場する魔剣も創れるのではないか?」

「え?さ、さぁ、やった事が無いから判らな・・・ちょ、圧!圧が!圧が凄いんだけど!?」

「あー、シロー結構ヲタクだからな。アニメとかに出てきたモンが再現出来るかもって感じでワクワクしてるんだよ」

「こんな狼初めて見たぞ・・・」

のほほんと解説する一誠と、顔を引き攣らせる弦一郎。

一方志狼はこれでもかと眼を輝かせているのだが、如何せん無表情で眼だけをカッ開いてるものだから威圧感が半端では無い。

「よし、今度お勧めの漫画や小説を幾つか持って来る。血界戦線、Bloody cross、HELLSING、鬼滅の刃、仮面ライダーも捨てがたい。駄女神ユリス・・・は、止めておくか。呪いの三剣(トライ・カース)はデメリットが大き過ぎる。

兎に角、サブカルチャーには一度眼を通すべきだ。再現の出来る出来ずに関わらず、あれはお前の糧になる」

「マジで漫画で強くなった実例が居るモンなァ、うち・・・」

 

「ぶぇっくしっ!」

 

一誠が遠い目で呟いたと同時刻、地獄の某所で1人の男が盛大にくしゃみをかましていた。

「え、えーっと・・・早くも打ち解けたみたいで何よりだわ」

「打ち解けた・・・とは、ちょっと違うんじゃないか?」

呆れ顔の弦一郎の突っ込みが、空しく響く。しかしリアスは訂正しない。何故なら既に情報過多で、二日酔いするタイプのサメ映画を3周したような気分になっているからだ。

「あの、葦原先輩」

「どうした」

そんな中、小猫が志狼の袖を引っ張る。何やら気になる事があるようだ。

「あの、おかしな事を聞きますけど・・・黒い猫を、飼っていますか?」

「・・・あぁ。毛並みが綺麗な、自慢の愛猫だ」

「そう、ですか・・・」

複雑な顔をする小猫。その顔で、志狼は少なからぬ事を悟った。しかし、それを見て取られる程、志狼も未熟では無い。最早デフォルトと化したポーカーフェイスで、感情を隠す。

「毛でも、付いていたか」

「!あ、はい。袖の所に・・・も、もう取れましたから!」

「そうか・・・あいつは、干したての洗濯物の匂いが好きでな。良く畳んだ服の上で寝ている。その時に、付いたのだろう」

「そ、そうですか」

飽くまで知らぬ振りを通す為、出鱈目を言って小猫にフォローを入れる志狼。一方小猫はそれを聞いて、何とも言い難い、先程とは別ベクトルに複雑な顔をした。

(・・・後が怖そうだし、黒歌さんには黙っといてやるか)

(へぇ、黒歌姉にそんな趣味が)

因みに弦一郎は何かあると察したようだが、逆に一誠には黒歌に対する決して小さくない風評被害が生まれてしまっていた。

 

「すぅー・・・うん、良い香り!」

 

尤も、あながち完全に風評被害とは言い切れない所もあるようだが。

「所で貴方達、入る部活は決めてあるのかしら?良ければオカ研に招待したいのだけれど・・・」

「私は家庭科部と罰ゲーム研究会所属です」

「我々も、自分で部活を立ち上げるつもりだ」

「そ、そう・・・」

スカウトが玉砕し、ションボリと凹むリアス。志狼達の戦力が、かなり魅力的だったのだろう。

「因みに、どう言う部活にするつもりなんだい?」

「「「葦名・ヤーナム戦技同好会」」」

「これまた妙ちきりんな・・・あ、ごめん・・・」

思わず漏れた本音を謝罪する木場だったが、志郎達は気にしないと言う。どうやら馴れっこのようだ。

「だが、イギリスでは人気だったぞ」

「え?教えたの?」

「あぁ。向こうにもアーチェリーやらフェンシングやらクレイモアやら、武術系のクラブがあったからな。

是非見せてくれと言われたから、俺と狼の試合を()()()やった」

「・・・それで、結果は?」

「あぁ、彼奴ら面白いぐらいに大かぶれしてな。特にサブカルチャーヲタクの類いが。

で、もう口頭だけで何度も教えるのは面倒だから、ノートで指南書を作って基礎だけ教えてやった」

「因みに、俺と弦ちゃんの試合はSNSに投稿されている」

「えー・・・今度探してみよう・・・」

どうやらコイツら、イギリス留学中に割ととんでもない事をして来たらしい。

まぁNINJA VS SAMURAIなど、外国人のテンションが電子レンジで加熱された生卵みたく爆発して当然ではあるのだが。

「と、そろそろ良い時間ですね。この後、あの変態2人組に渡すものがあるので、私はこれで」

「あー、俺達も今日は帰らせて貰っても良いか?」

「え、えぇ。またね」

「では」

引き攣った笑みを浮かべて手を振るリアス。そんな彼女を背にして、志狼達はオカ研を後にするのだった。

 

(えぇっと、効くのはこれかしら)

その日、リアスはコンビニでキャベ〇ンを買い・・・

 

「・・・彼ら本当に人間なのかな」

木場は見付けた試合動画に絶句し・・・

 

「姉さま・・・」

小猫は久しく感じていなかった姉の匂いに、感傷を見出していた。

 

 

 

「なぁ、松田・・・」

「何だ、元浜・・・」

「俺ら、こんな時間まで何してんだろうな・・・」

「俺に聞くな・・・」

一方その頃(午後6時頃)。変態2人組は揃って仲良く、トイレの住人になっていた。エマの毒牙に掛けられて、まだ暫くは動けまい。

 


 

「・・・参る」

薄暗い洞窟を抜けた海岸。黄金色の異常な月が照らす、真っ白いエイのような異形の死骸が打ち棄てられたそこで、志狼は呟いた。

 

─ウゥゥ・・・アァァ・・・─

 

海を、その先の異形の月を見つめて、嘆くように泣く異形。

背は高いが痩せ細り、背中にはマントにも似た羊膜のような膜が垂れ、右手に握った肉塊は、肉の紐によってその異形の臍に繫がっている。その泡立つ肉塊・・・胎盤の縁には、金属質な刃のようなものが付いていた。

老いて朽ちた老人のような、または生まれたての赤子のような、歪な存在。

 

─────ゴースの遺子─────

 

志狼は楔丸を抜刀。柳に構えながら、ゴースの遺児目掛けて駆け出した。

 

「ほう、もう此所まで来たか。安心してクリアしろよ?お前の神器も、大丈夫なようにご都合主義的を掛けてやったからな・・・あばよ」

 

【NURIHARA!ACCESS GRANTED!】

 

それを崖の上から見下ろしていた、黒い影にも気付かずに。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

葦原志狼
英国帰り戦国忍者。尚、英国で結構な事をやらかした模様。
前世からのヲタク気質故に、押しが強い。
留学という名目で英国遠征に行っていた。獲たモノは多い。
勿論天猫も一緒に行った。
で、まさかのゴースの遺子戦。まぁ色々とありましてん。

葦斑弦一郎
英国帰り弦ちゃん。志狼と同じくやらかした。
長い髪をポニーテールにしており、体育で走る様が良い絵になると写真部や新聞部から人気が出る事になる。
英国では一般生徒の前で普通に浮き船渡りやら桜舞いやらカマしてた。

兵藤一誠
人外レベルの原作主人公。練度がエグい。
梟を相手に五分五分以上に戦えるようになってきた為、背後からの殺気にとても敏感。半分は天性の才能だが。

猩葦(あかよし)エマ。
実は転生してたエマ殿。家庭科部と罰ゲーム研究会を兼部。
変態2人組にプレゼントしたのはチョコレートである。尤も、ヒマシ油*1とデナトニウム*2とサッカリンナトリウム*3を混ぜ込んだ劇物指定待った無しの殺人チョコレートではあるが。
因みに薬学専攻であり、今世でも医者を目指している。
葦名にコンタクトを取れたのは中学3年生になってから。

姫島朱乃
オカ研副部長。イッセーのヒロイン最有力候補。
この世界線では日本神話所属であり、工作員兼アドバイザー兼監視員としてオカ研に所属している。
悪魔にはなっていない。

リアス・グレモリー
オカ研部長。
一応常識人寄りにキャラメイクしたつもり。そして苦労人成分を小さじ1杯入れようとしたら計量カップに山盛り入れちゃった。ゴメン。
抜かる所はまだあるが、少なくとも原作のバイサーのような事件は起こらない。

塗原畔裏
まぁ、皆さん薄々気付いてるでしょう。なので多くは語りません。

*1
超強力下剤。ナチスが拷問に使ったとも言われる。3時間はトイレの住人になる。

*2
ギネス認定苦味物質。耳かき1杯で浴槽並々の水が苦くて舐められなくなる。摂取すれば味覚がぶっ壊れる。

*3
ギネス認定甘味物質。メタリックな甘味と形容され、単体で摂取すると神経がバグって信号が近い苦味まで感じる。味覚がぶっ壊れる。



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第12話 助言者への救い

(志狼サイド)

 

「ィヤ゛ァァァァァア゛ァァァッッッ!!!」

 

羊膜を翼のように揺蕩わせたゴースの遺子が、甲高く空に哭く。その悲鳴染みた絶叫に引かれてか、上位者ゴースの遺体に雷が落ち、継いで浜辺にも雨霰のように雷が降り始めた。

 

────

 

「フッ、ハッ!」

しかし、原作と違う動きをされようと焦らない。俺の上に降って来た雷を、跳躍して刀で受け、そのまま雷返しを放つ。

 

─ビシャァンッ─

 

「ゥオウ・・・」

──打雷──

 

雷に打たれ、しばし動きを止めるゴースの遺子。その隙に錆丸・表裏で素早い連斬の追い打ち。

 

「オォウッ!?」

──中毒──

 

大きく怯み、蹌踉めく遺子。その様は、まるで淤加美一族や落ち谷衆のようだ。

それも当然。俺は既に、五行界眼で奴を見た。その中に、木行の特性を見出したのだ。

更に其処へ、仙峰寺拳法奥義、菩薩脚のコンビネーションで追撃する。

「ヤ゛ァァァァァァッ!」

「其処!」

 

─ガギャリリリッ!─

 

上段振りが見えたタイミングで、鳳凰の紫紺傘を開く。回転する鉄扇が振り下ろされた胎盤を弾いて受け流し、間髪入れず放ち斬りに繋いだ。

「グォウッ・・・

ギャァァァアァァァッ!!ギャァァァアァァァッ!!」

怯みの次は、二連高跳び叩き付け。1回目を視線を外して背中に殺気を感じながら潜り抜け、2回目は再び紫紺傘を開いて受けて放ち斬りに繋げる。

「ギャァァァアァァァッ!!」

再び呼雷。今度はゴースの遺体のみに落雷し、それが伝播して絨毯攻撃になる。

空かさず遺子の背後に回り、その背中に向けて突きを放った。するとバックスタブが成立し、遺子は膝を突く。

「ハッ!タァッ!」

その腰を踏み付けて跳躍し、雷光絨毯を遣り過ごして落下忍殺を決めた。

(とど)め!」

背中の不死斬りを抜刀。そして未だ立ち直れぬ遺子の頸へと、落ちる滝のように赤黒い瘴気塗れの刃を振り下ろした。

 

──ア・・・アァ・・・──

 

「・・・フゥ」

血払いをし、不死斬りを納刀。緊張が切れて、息が漏れる。

 

──上位者斬り──

──SUPERIOR SEVERED──

 

脳内に光る、2つの文字列。それは紛れも無く、あの上位者、ゴースの遺子を弔った証だった。

「・・・」

じんわりと、唯々じんわりと、この達成感を噛み締める。

再起不能に陥る事、実に18回。

長かった。地味に長かった。何せ、1度回生不可能の死に追い遣られたら深い眠りに落ちて朝に目覚め、次の夜、次の夢を見るまで再挑戦が出来ないのだ。因みに、ゴースの遺子戦だけで、である。エーブリエタースに(まみ)えてから、今まで幾度と無く悪夢を訪れ、自他共に膨大な数の屍を積み上げた。

それでも、まだ一周目であり(悪夢は巡っておらず)、何より色褪せない知識があったので、この程度で済んだ。因みにルドウイーク殿はギリギリ1発で介錯出来た。

「さて・・・もう、一仕事だ」

くるりと振り向くと、ゴースの腹から影が立ち上っている。

悪夢の主、老いたるゴースの赤子である。

「眠り給え、(ふる)き赤子よ」

朧気に人型を模る影の心臓に、楔丸を突き立てる。影は形を失い、溶けるように散っていった。

 

──あぁ、ゴースの赤子が、海に還る・・・呪いと海に底は無く、故に全てを受け容れる・・・──

 

──悪夢狩り──

──HUNTED NIGHTMARE──

 

悪夢は、明けた。空に浮かんでいた黄金の月は消え、水平線の彼方に朝日が顔を出し始める。

「よし、後は・・・あの人だ」

俺は浜に現れた灯火を使い、狩人の夢に戻った。夢の工房は轟々と音を起てて燃え上がっており、夢に終わりが近い事を現している。

「お帰りなさい、狼様」

階段の前で、ドレスで着飾った身長の高い美女がお辞儀をしてくれる。

彼女は人形。この夢の中で、狩人の世話をする者。灰に近い銀髪と球体関節になった手の指が特徴で、この世界の癒し枠である。

「あぁ、只今。だが、すぐまた少し出る」

「そうですか。行ってらっしゃい、狼様」

「あぁ」

スタスタと狩人悪夢の墓石に向かい、手を翳す。小さく手を振ってくる人形に此方も手を振って返し、狩人の夢を後にした。

 

───

──

 

「狩人よ、君は良くやった。長い夜も、もう明ける」

夢の裏庭、白い花畑の大樹の下。ゲールマン殿は杖を持ち、此方に微笑む。

「さぁ、私の介錯に身を任せたまえ」

「・・・出来ませぬ」

「ほう・・・そうか、君も何かに呑まれたか・・・」

「いいえ、違います。貴方に、会わせねばならぬ人が居るのです」

「ん?はて、一体誰かな?」

「─────ゲールマン先生」

「っ・・・!?」

花畑に入って来た、貴族風の衣装を纏った女性。その顔は人形と同じであり、また体格も瓜二つである。

「マリ、ア・・・?」

「お久し振りですね、ゲールマン先生。会いたかった・・・」

車椅子の側に膝を突き、ゲールマン殿の左手に自分の右手を重ねるマリア殿。その頬に、ゲールマン殿は右手を添えた。信じられないモノの存在を、確かめるように。

「あぁ、マリア・・・本当に、マリアなのか・・・?」

「はい。間違い無く、貴方のマリアです」

「あ、あぁ・・・!」

ゲールマン殿の瞳から、ぽろぽろと滴が零れる。そしてマリア殿を抱き締め、破顔して嗚咽を漏らし始めた。

「あぁ、マリア。愛しいマリア・・・済まなかった。私は君の気持ちにつけ込んで、あんな・・・あんな、悍ましい・・・」

「良いのです、良いのですよ、ゲールマン先生。私は、貴方を愛しています」

そんなゲールマン殿を、マリア殿もまた優しく抱き締め返す。

儚く、然れど美しい。望んでいた光景だ。

「ゲールマン先生・・・彼が、コレを届けてくれたのです」

「これは・・・!」

マリア殿が取り出したのは、小さな髪飾り。捨てられた古工房から、俺が回収した物だ。

「ゲールマン先生・・・これは、私の為の物ですか?」

「あぁ・・・あぁ、そうだ。そうだとも・・・だが、その前に、君を・・・私は・・・あぁ・・・」

顔を手で覆うゲールマン殿。しゃくり泣きを繰り返す彼に、マリア殿はそっと寄り添う。

「・・・ありがとうございます」

「・・・な、何を・・・?」

マリア殿が告げる、感謝の言葉。ゲールマン殿は顔を上げ、赤く泣き腫らした眼を点にする。

「私にさせた事を忘れ、罪から逃げれば、楽だったでしょう・・・でも、貴方はそれをしなかった。罪を背負い、悔い、贖罪の為に、弔い人になった。

それを続ける限り、貴方の中には、私は生きています。

私を忘れないで居てくれて・・・真の死者にさせないでくれて、ありがとう」

「ま、マリア・・・マリア・・・ぁ」

そしてマリア殿はゲールマン殿の頬に両手を添え、確りと眼を合わせて、その言葉を贈る。

「私は、貴方を赦します」

「ッ!」

 

「・・・美しい」

1枚の絵画にしたいその光景を見て、俺は呟く。

体感時間で3時間以上、一切攻撃せずにマリア殿の攻撃を凌ぎながら説得した苦労も、これで報われるというモノだ。

『ほぉ、こんな可能性があったとは・・・流石に読めなかったなぁ』

全身が総毛立つような、頭に響く声。空を見上げれば、真っ赤な月から名状し難い化物が降りて来る。

鬣のような触手に、露出した牙のような肋骨。何より真っ黒な穴がぽっかりと空いた無貌。

「月の魔物・・・いや、黒い上位者、貴様か」

『やっぱり分かるか~』

おちゃらけたような声が響く。やはり気に入らん。

『さぁ、俺を倒して見せろ。そうすれば、晴れてこの夢はお前の物だ』

「・・・ゲールマン殿、マリア殿。下がっていて下さい」

「いや・・・見届けさせてくれ。君の狩りの行く末を」

「先生は任せたまえ。私がカバーする」

「・・・御意」

黒歌の赤葉にそっくりな双刃刀、落葉(らくよう)を構え、マリア殿が立ち上がる。ならば、彼等を尊重しよう。

『因みに、俺を倒せば結構便利な特典が手に入っちゃうぜ。頑張るんだな』

「・・・参る」

形代流しを使い、傷薬瓢箪で回復。阿攻の飴を噛み締めて忍具を錆丸に付け替え、俺は駆け出した。

 

(NOサイド)

 

「ゲールマン先生」

「何だね?マリア」

志狼と月の魔物との戦いを見ながら、マリアはゲールマンに語り掛けた。

「私は今まで、あの悪夢の時計塔に閉じ籠もっていました。それが貴方の・・・せめて名誉を護る行いであると信じて」

「あぁ・・・」

「ですが、彼は言ってくれました。『それでは彼を呪うだけだ。膿は抜いてやるべきなのだ』、と・・・そして、この髪飾りを渡してくれました」

左の掌に乗せた小さな髪飾りに視線を落とし、小さく微笑むマリア。髪飾りには愛の残滓が籠もり、故に少し、温かい。

「あぁ。あの子は、私にもヒントをくれたよ。私が君に教えた、あの子守唄・・・Баю-баюшки-баю(バユ・バユシュキ・バユ)。鼻歌で、歌っていたんだ」

「・・・歌ったのは、あの人形でしょうか。

正直、少し悪趣味だと思いましたよ?未練を人形に落とし込むなんて」

「うぐ・・・中々、痛い所を突かれたな」

苦笑いをするゲールマン。そしてフッと息を吐き、背後の燃える洋館を見遣った。

「それに、彼が言うには、私の遺志の片鱗が残っていたそうです。気付かなかったのですね」

「あぁ、私は盲目だった・・・彼女には、悪い事をしてしまったかも知れないな・・・

私の勝手でミコラーシュと共に作り上げ、また私の勝手で辛く当たってしまった。曲がりなりにも、あの何の罪も無い人形は私の子も同じ・・・親として、愛でるべきだったのかも知れない。思えば、名前さえ付けてやっていなかった」

「その役目は、彼が継いでくれます」

後悔に表情を沈ませるゲールマンに、マリアは月の魔物と戦う志狼を見ながら言う。

戦況は、ハッキリ言ってかなり優勢。鋭いヒット&アウェイと、錆丸の素早い連撃。それは確実に月の魔物の体力を削り、更に青錆毒が身体を蝕む。

そして遂に体幹が崩れ、狩人達で言う所の内臓攻撃、致命の一撃たる忍殺が入った。

「お見事!鮮やかなものだ」

「えぇ。鋭く、最短距離で、慈悲深い。貴方のスタイルに似ているかも知れませんね」

志狼の忍殺と、ゲールマンの葬送。それらは何の偶然か、相手への一握の慈悲であった。

 

『ゴァアッ!』

「ぬぅっ!」

月の魔物・・・否、黒い上位者の無貌が紅く突き刺すように光り、志狼の体力を死亡寸前まで一気に削る。リゲインの恩恵を受ける事は出来ない志狼だが、しかし前に出る。其処に一切の躊躇は無い。

「喰らえ・・・()()()!」

志狼は背中に背負った不死斬り・・・では無く、布を巻き付けられた大剣を掴み、振るう。

その瞬間。大剣の鋼の刀身は青緑の昏い光の大刃に覆われ、振るわれると共に光波が迸る。

 

奥義・月光斬

 

「おぉ、あれはルドウイークの!」

「月光の聖剣・・・彼の遺志もまた、継いだのでしょうね」

形代を1つ消費して放たれるその神秘の光刃は、黒い上位者、その化身であり容れ物でもある月の魔物の身体を見事に叩き切った。

『は、はは・・・おみ、ごと・・・』

 

──悪夢狩り──

──HUNTED NIGHTMARE──

 

満足そうに笑って、黒い上位者は斃れた。それは、悪夢の主が消えた事を意味する。

「あぁ・・・もう、お別れの時間のようだね、マリア」

ゲールマンが自分の手を見ると、その手は輪郭がぼやけ、青白い液体のように、穏やかに崩れ始めている。現実に死に、されど悪夢に囚われ生きていた彼は、夢の目覚めたと共に散る運命である。

「マリア。君は、どうするのかな?」

「私は、彼と共に。貴方と共に逝こうとも思いましたが・・・どうやら、私はまだ、必要とされているようですので」

「あぁ、それで良い。永い、永い刻の間、君を縛り続けてしまった。だが、今やその枷は無い。君の生きたいように、生きたまえ」

「はい・・・ゲールマン、先生・・・」

ポロリ、ポロリ。マリアの眼から、小雨が降る。自分が愛した師が、今、永き檻から解放されるのだ。

しかし、それはまた永遠の別れでもある。故に彼女は泣き、されど微笑んで送るのだ。

「全て、永い夜の夢だった・・・愛しているよ、マリア」

そう言って、ゲールマンは白く散った。彼の魂を掠うように、一迅の風が純白の花弁を舞い上げる。

「・・・ありがとう、狼君。先生は、報われただろう」

「ならば、何より・・・っ」

マリアに答えると、志郎を目眩が襲った。

崩れ落ち掛けたその肩を、マリアが支える。

「君も、目覚めるのか」

「あぁ・・・」

白く濁っていく意識の中で、志狼は確かな達成感を噛み締めていた。

 

───

──

 

「・・・朝か」

志狼は、新たな朝に目覚めた。ベッドから降り、カーテンを明ける。

柔らかな陽射しがその顔を照らす、実に清々しい朝だった。

 

 

 

《実績解除:次元の窓》

 

「ん!?」

最後の最後で、台無しになったが。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

葦原志狼
何時の間にかヤーナム攻略してた戦国忍者。
最も、ちょこちょこショートカットしてたのでかなり攻略は早かった。ヤーナムで立体機動は便利過ぎる。
そしてゲームには存在しないNEWエンディングを開拓した。
最後の実績解除により、フロムゲー伝統のとある要素が解禁され、また現代風にアレンジされて発現する事になる。

時計塔のマリア
ゲールマンの愛弟子にして恋人。
カインハースト出身であり、ゲールマンを慕っていた。故にゲールマンらの罪の証拠たる漁村を秘匿し、時計塔で番人となっていた。
しかし、志狼の説得により道を譲り、ゲールマンをゴースの怒りと彼自身の自責の呪縛から解放する事を選択。生存√となった。

最初の狩人、ゲールマン
総ての狩人の原点。
墓を暴き、上位者の怒りに触れて狂気と獣の病を振り撒く先触れとなった彼は、己の冒涜を悔い、助言者となった。
彼の振るう大鎌、葬送の刃は、多くの苦しみを乗り越えた者への、一閃の慈悲である。偶然か必然か、その本質は楔丸と同じであった。
悪夢の中に生きていた彼は、未練と使命から放たれ散った。

月の魔物
青ざめた血。無貌の黒幕。
bloodborneの隠しボスであり、志狼を転生させた黒い上位者の化身。
不完全なその肉体の中では、獣性の虫と神秘の精霊が統合されずに混在している。故にゲールマンは人形に延命装置としての役目を与え、旧き友の使命の成就を待ち続けた。
これを狩った事で、志狼の内には青ざめた血が流れた。その全て、黒い上位者の掌の上で。

~用語紹介~

・Баю-баюшки-баю\バユ・バユシュキ・バユ
ロシアの子守唄。内容は、「ベッドの端で寝ていると、灰色狼男がお前を森に連れ攫ってしまうよ」と言う中々恐ろしいモノ。
bloodborne旧バージョンでは、人形がこの歌を歌う事があった。
bloodborne内でロシア系の名を持つのは、ゲールマンのみ。そして、それを教わる立場に居たのは・・・

・月光の聖剣
教会の英雄、聖剣のルドウイークが、《導き》と共に見出した神秘の大剣。
かの英雄の手を離れても、その月光は色褪せぬ。
鎮魂から英雄的行為へ、弔いから殺戮へ。振るう力は変わらねど、刃の心は移り行く。
遂には使い手が移ろい、今は忍の慈悲である。


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第13話 次元の窓

【取り敢えず】何だコレ・・・【こんにちは】

 

1:名無しの不死者

これで、良いのか?

 

2:名無しの不死者

おっ、新しいスレ民か?

 

3:名無しの不死不死者

スレ立て乙

 

4:名無しの不死者

新人さんは久し振りやな。取り敢えずイッチにはコテハン付けてもろて。

 

5:名無しの不死者

イッチ?俺の事か?コテハン・・・?済まぬが、よく分からん。

 

6:名無しの不死者

あー、完全に初心者な感じやな?イッチは君の事。スレ立てたら大体そう呼ばれるわ。コテハンっちゅーのは、固定ハンドルネームの略やな。今名無しの不死者ってなってるとこあるやろ?意識すればそれ変えれるで。特徴とかは、名前の後ろに@付けてそこからくっ付けるとええで。

 

7:多弁な狼

これで、良いか?

 

8:名無しの不死者

おkってかその特徴はSEKIROか?

 

9:名無しの不死者

取り敢えずステータスよろ

 

10:多弁な狼

ステータス、か・・・

年齢・17歳(高校2年)

念珠・6

攻め力・42(戦いの記憶・残り21)

スキルツリー及び義手忍具・全解放

鬼仏・自宅、仙峰寺奥の院、葦名の城下町、地獄工房、夢の洋館、葬送の花畑

周回数・3周(修羅→不死断ち→人返り)

これで良いか?

 

11:名無しの不死者

うん、ツッコミたい所は幾つかあるけど後に回そう。

イッチのとこはどんな世界だ?原作があるやつか?

あと、特定のレスへの返事は>>〇(レスの番号が入る)だから使ってくれ。

 

12:多弁な狼

>>11承知。これで合っているか?

現代日本だ。原作は、多分あるだろう。あの黒い上位者が『ナントカの世界だ』と言っていた気がする。

妖怪や神々が実在する世界で、俺は日本神話に所属している。

 

13:名無しの不死者

また気になるワードが・・・

うーん、まだちょっと特定には漕ぎ着けへんかな。似たような作品沢山あるし。

 

14:名無しの不死者

学校の名前とかは?

 

15:多弁な狼

>>14駒王学園だ

 

16:名無しの不死者

ハイスクールD×Dじゃねぇか!

 

17:名無しの不死者

あのドラボ並にインフレ激しい世界に特典がフロムゲーってマ?

 

18:名無しの不死者

いや、良く良く見るとさ・・・記憶の数おかしくね?

 

19:名無しの不死者

あ、確かに・・・

 

20:名無しの不死者

42まではアプデで心中ボス追加されたし3周してるから分かるけど、残りは何だ?

 

21:多弁な狼

戦いの記憶か。

聖職者の獣・ガスコイン神父・血に乾いた獣・教区長エミーリア・星界からの使者・星の娘、エーブリエタース

ヘムウィックの魔女・恐ろしい獣・ヤーナムの影・白痴の蜘蛛、ロマ

黒獣パール・再誕者・殉教者ローゲリウス

アメンドーズ・悪夢の主、ミコラーシュ・メルゴーの乳母

聖剣のルドウイーク・初代教区長ローレンス・失敗作たち・ゴースの遺子

最初の狩人、ゲールマン・月の魔物

だな

 

22:名無しの不死者

ファッ!?

 

23:名無しの不死者

いや待て待て待て待て!?

 

24:名無しの不死者

だなって、ブラボやんけ!?

 

25:名無しの不死者

え、多重転生?それとも特典?

 

26:多弁な狼

一応、多重転生と言えばそうだな。まずSEKIROの狼として3周して、その後この世界に来た。だが、そもそもSEKIRO世界への転生そのものが特典の1つだ。

 

27:名無しの不死者

そこんとこkwsk

 

28:名無しの不死者

kwsk・・・詳しく、か。

俺の特典は、ソウルボーンシリーズに関する考察知識の完全保管。そして、SEKIROとして経験を積み戦闘技能を修得する事。

その後、あの黒い上位者がオマケに竜胤の力を、認識を物質世界に反映させる神器、神なる桜竜の五行界眼(パーフェクタブル・ファイブエレメント)として俺に宿した。コレを使えば、相手の中に五行思想の属性を見出し、弱点を創り出す事が出来る。

 

29:名無しの不死者

オマケで付けて良いレベルのチートじゃ無くて草

 

30:月光と獣の剣士

新たなフロム系転生者が現れたと聞いて

新人君、今北産業(今来たから3行で説明して)

 

31:名無しの不死者

剣士ネキ!剣士ネキじゃないか!

 

32:名無しの不死者

スレ初心者に分かり易くスラングの意味を教える先輩スレ民の鏡

 

33:多弁な狼

>>30

隻狼になってハイスクールD×Dに転生

何故か混ざってたブラボ要素(DLC込み)を攻略

家で目覚めたら何か此処にアクセス出来るようになっていた

これで良いか?

 

34:月光と獣の剣士

成る程、大体分かった。

私も君と同じようなクチでね。上に書かれてた黒い上位者・・・多分私を転生させたヤツだと思う。

某愉悦主義なトリックスターでしょ?

 

35:多弁な狼

完全に其奴だ。俺は無差別に選ばれ娯楽として転生させられたが、其方も同じか?

 

36:月光と獣の剣士

まんまだね。私は通り魔に後ろから刺されて死んで、目が覚めたら赤ん坊。そんでもって暫くしたら、突然ヤーナムに放り込まれたんだ。

で、もう目指す宛も無いからヤーナムを9周したんだよ。いやー、スレを知らなきゃとっくに血に酔ってたね。何度現実逃避して地底人になった事か・・・

 

37:名無しの不死者

いやー、改めて聞くとホント壮絶だよな剣士ネキの境遇

 

38:月光と獣の剣士

人も境遇も何もかも冷たい。何というか、温かいのは返り血ぐらいのもんですよ。

 

39:多弁な狼

上級騎士ニキを知っていたか

 

40:月光と獣の剣士

種ニキも知ってるよ

 

41:多弁な狼

それは有り難い。

そう言えば、剣士ネキ殿の特典は何なのだ?

 

42:月光と獣の剣士

殿は付けなくて良いよ。

私の特典は、理性の保存とセイバー系オリジナルライダーの聖剣。それも2本もだ。

更に倒した強者の血の遺志をワンダーライドブックに込める事で、リードで召喚、必殺リードで技の再現が出来るようになってるね。

 

43:多弁な狼

済まん、仮面ライダーは01までしか履修出来ていないのだ。

 

44:月光と獣の剣士

あー、じゃあ私のデータを送ってあげるよ。脳内で再生出来るからね。

《kamenrider,saber@moonlight&beast.com》

 

45:多弁な狼

忝い。早速観てくる。

 

46:名無しの不死者

行ってしまわれた・・・

 

─────

────

───

──

 

98:ヴィジランテ・ベリアル

いやー、何とか娘のピンチを救う事が出来たぜ

 

99:名無しの不死者

滅茶苦茶ビビり倒されてたがな

 

100:多弁な狼

手作りクッキーを摘まみながら観てきた

新しいメンバーがいるな

 

101:名無しの不死者

おぉイッチ、お帰りナス。

 

102:多弁な狼

ナス・・・ねばねば・・・

 

103:月光と獣の剣士

そのネタ分かる人少ないと思うよイッチ

私はその人で腹筋鍛えたクチだから大丈夫だけど

 

104:多弁な狼

分かってくれると思っていた

して、ベリアル殿か

 

105:ヴィジランテ・ベリアル

おう!ウルトラマンベリアルだ!尤も、URUTORAMANスーツ版だがな!

 

106:多弁な狼

URUTORAMANは分かります。成る程、格好良さそうだ。

娘とは、まさかジード?

 

107:ヴィジランテ・ベリアル

ああ。俺は僕のヒーローアカデミアの世界でな。世界中跳び回って好き勝手やってたら、何時の間にか体細胞クローンが作られててな。その組織を潰して、クローンの娘を取り上げたんだ。まぁお尋ね者だから子育てなんざ出来ねぇから、ジード原作みてぇに人様の家庭に丸投げしちまったが・・・

今し方、USJ襲撃イベントが終わった所だな。

 

108:月光と獣の剣士

私の所は丁度先週襲撃があったね。出久が鳴らした共鳴鐘で呼び出された。

で、狼君。セイバーはどうだった?

 

109:多弁な狼

まず製作陣に確実にフロム脳が居るなと思いました

 

110:名無しの不死者

え、そうなの?

 

111:多弁な狼

因果応報の予定調和に反逆する諸行無常主義の主人公と言う構造はまんまSEKIROだ。

未来を見せる暗黒剣も、闇=不確定な未来の可能性と言うダークソウルの哲学に当て嵌まる。

何より主人公達に真面な説明がされないのがかなりフロムらしい。

あと、人が変貌させられたメギドの本質は恐らく影だ。人間をスクリーンとして、内側からメギドと言う影を投射する。言わば映画のような物だ。故に外から最光や烈火の光を当てられると、内側からの影が掻き消されて素のスクリーンが露わになる。

ダークソウルの擬態にも似た印象を受けた。

 

112:名無しの不死者

お、おう・・・

 

113:名無しの不死者

ヲタク特有の長文解説

 

114:月光と獣の剣士

共感頂けて嬉しい限り。私の至った結論と同じだ。

 

115:名無しの不死者

啓蒙高いヲタク同士のシンパシー

 

116:ヴィジランテ・ベリアル

ウチのアイテム開発部のヤツらも、新人が入ったらこんな感じだったなぁ

 

117:名無しの不死者

そう言えば、ベリアルニキは今何のアイテム使ってるんだっけ?ジードライザー?

 

118:ヴィジランテ・ベリアル

あぁ。ギガバトルナイザーと、ジードライザーのベリアル融合獣オンリーバージョンであるベリアライザーだ。ジードライザーは娘に贈ってやった。

まぁ、ギガバトルナイザーは怪獣そのものじゃ無く、怪獣やウルトラマンのデータが入ってるんだがな。そのデータを抽出して、カプセルにしてる訳さ。

因みに、今はゼットライザーを鋭意製作中だ。

 

119:名無しの不死者

中々にヤバくて草

 

120:多弁な狼

マリア殿が、音銃剣錫音がレイテルパラッシュに似ていると反応した。

 

121:月光と獣の剣士

え、マリア様までいるの?つか何所で観てたの?どうやって観せたの?

 

122:多弁な狼

あぁ。アリア・・・人形ちゃんがデータを取り込んだらプロジェクターみたいに投影してくれた。

 

123:月光と獣の剣士

えぇ・・・?な、何その機能・・・?

 

124:名無しの不死者

あのフロム脳の剣士ネキが困惑しておられるw

 

125:名無しの不死者

そら(あの癒し枠の人形ちゃんがそんな事になったら)そう(なる)よ

 

126:多弁な狼

一応、俺が受け取ったデータを遺志として吸収し、光と音に転換したんだろうと考察している。レベルアップ機能の応用ではないか?

 

127:月光と獣の剣士

いやぁ、え?人形ちゃ・・・いや、うん・・・んん?それなら、まぁ・・・無くは、無い・・・か?

いかん、脳が理解を拒否してる。鎮静剤飲まなきゃ・・・

 

128:名無しの不死者

イッチの言葉がランランの邪眼レベルで草w

 

129:名無しの不死者

草に草を生やすな

 

130:名無しの不死者

済みません・・・

 

131:名無しの不死者

ええんやで

 

132:名無しの不死者

 や さ し い せ か い

 

133:名無しの不死者

 や さ い せ い か つ

 

134:名無しの不死者

ここまでテンプレ

 

135:名無しの不死者

ここからテンプル

 

136:多弁な狼

金剛山の仙峰寺ぃー!

 

137:名無しの不死者

ちくわ大明神

 

138:名無しの不死者

誰だ今の!?

 

139:名無しの不死者

つか地味にイッチのノリが良い

 

140:多弁な狼

 

141:名無しの不死者

お、何かあったかイッチ?

 

142:多弁な狼

黒歌が俺の体操着を嗅いでた。しかもまだ洗濯してないやつ。

【体操着を胸に赤面して固まる黒歌】

 

143:名無しの不死者

 

144:名無しの不死者

 

145:名無しの不死者

 

146:名無しの不死者

4ね

 

147:名無しの不死者

今年のクリスマスツリーには星の代わりにイッチを吊してやる

 

148:月光と獣の剣士

愛には色んな形があるからね!

 

149:名無しの不死者

つか何で黒歌と一緒に怨念そこんとこkwsk説明して下さい俺は今冷静さを欠こうとしています取り敢えず原作知らねぇならワイらの質問に答えろおk?

 

150:多弁な狼

承知

 

to be continue・・・




~キャラクター紹介~

葦原志狼/多弁な狼
転生者掲示板にアクセス出来るようになった戦国忍者。
へその緒3本使って月の魔物倒したからね。次元の1つや2つ超えられるよ。
ネバネバは分かる人には分かる。某変態ゆっくり実況者のネタ。
黒歌の体操着クンカクンカ事件についてはあんまり気にしてない。尚、性癖には刺さってる模様。

黒歌
フェチバレした猫魈お姉ちゃん。
今までは洗濯した後の物を嗅いでたが、今日は目の前の使用済み体操着と言う誘惑に負けた。スケベにゃんこ。
まぁ原作の時点で大概スケベだしまぁ多少はね?
靴下には手は出さない。好きなのは汗の臭いなので。

月光と獣の剣士
bloodborne×セイバー系オリジナル仮面ライダーのヒロアカ世界転生者。通称剣士ネキ。
出久とは幼馴染み。個性が発現すると同時に植物状態になり、ヤーナムに閉じ込められていた。
一時期現実逃避から完全に地底人化し、理想値の全強化スタマイ深淵血晶を求めてアメンドーズマラソンを万単位で周回した。妥協はしなかった。
小さい頃出久にプレゼントした守り鈴でUSJ襲撃事件時に召喚された。
協力開始時には、「問おう。貴公が今宵の狩り主か」と言って出現する。

ヴィジランテ・ベリアル
剣士ネキとは別世界のヒロアカ転生者。通称ベリアルニキ。
スーツ名はURUTORAMANーBe:REAL。ベリアル因子の生体ナノマシンを生成する激強個性。
某可哀想な人とか文明自滅RTA走者(キエテカレカレータ)のそっくりさんを部下として抱き込んでいる。

アリア(人形)
志狼に名付けられた人形ちゃん。
まさかのプロジェクター機能にマリア様もドン引き。

時計塔のマリア
狩人の夢の居候。
「何て機能付けてんですかゲールマン先生・・・」
ゲールマン(え、何その機能知らん・・・)
カインハースト出身なので、レイテルパラッシュとコンセプトが似た音銃剣錫音に興味を持った。

~用語紹介~

・転生者掲示板
今流行りのアレ。
この世界ではフロムの伝統、オンラインプレイによるメッセージの現代版アレンジである。なので何も問題は無い。
管理者はお察しである。

・別世界の転生者
このキャラ達の小説も書きたい。特に剣士ネキ。


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第14話 原作突入と血の女王

245:名無しの不死者

えぇ・・・原作ブレイク甚だしいな

 

246:名無しの不死者

取っ付きパイラーイッセーにシモンの弓剣持ち弦ちゃん、マリア様時々ババア装備の黒歌・・・

うーんこの

 

247:月光と獣の剣士

しかも日本地獄じゃ空前の火薬庫ブームなんでしょ?狩り武器をノリノリで振り回す獄卒・・・何それ見てみたい

 

248:多弁な狼

爆発金槌と獣肉断ちが人気だ

そろそろ学校に行く時間なので離脱する

 

249:ヴィジランテ・ベリアル

楽しんで来いよ

 

250:名無しの不死者

つか、そろそろ原作開始じゃね?

 


 

(志狼サイド)

 

「では、行って来る」

「行ってらっしゃい」

黒歌に短く挨拶し、アパートを出る。

「よぉシロー、おはようさん」

「おはよう狼」

「あぁ、おはようイッセー、弦ちゃん」

2人と合流し、恙無く登校した。

教室に荷物を置いて体育館へと移動し、上着とポロシャツを脱いで朝の稽古を始める。

借りているロッカーから取り出した双方の得物は、樫の木刀。弦ちゃんは弓も背負っている。

「来い、狼よ・・・」

「参る・・・!」

 

─カンッギンッ!ガィンッ!─

 

弦ちゃんの初手桜舞い。弾く。その着地狩りに大忍び刺し。

「ぐおっ!?」

「まだだ」

更に飛び上がった先から仙峰脚に派生し、最後の横薙ぎ蹴りから続け様に寄鷹斬り・逆さ回しへと繋げる。

ゲームと違い、流派技を切り替える必要が無い故のコンボである。

「くっ、負けぬぞッ!」

距離を取った此方に対して、弦ちゃんは弓を連射。3連発を弾いた直後、弦ちゃんの鋭い踏み込みからの切り上げ、追い斬りが来る。

これは本来、手裏剣等で牽制し更に追い打ちを掛けると言う忍びの技術だが、心中の弦ちゃん戦から俺が逆輸入した。これが中々に強いのだ。

しかし、こちとら心中弦ちゃんを20回は倒し、内3回はほぼ完封だ。このパターンは、身体で覚えている。

「くっ!」

 

─キンコンカンッキンッ─

 

バックステップ4連射で距離を取り、かと思えば追い斬り。前後に揺さ振ってくる。

 

─ガンッキャンッ!がキンッ!バガンッ!─

 

――――

 

「フンッ!」

─がキンッ!─

 

畳み掛けるように桜舞いから上空切り落とし。間髪入れぬ突き攻撃。見切って踏み付け、からの拝み連拳・破邪の型で反撃。ラストのショルダータックルで体幹を崩し、逆手に返した木刀の柄頭で心臓を軽く叩く動作をする。

「くっ、負けたか」

「ああ、1本だ」

弦ちゃんを引っ張り起こし、互いに一礼。それぞれの得物を置いた。

「お、お互いに1発も攻撃を喰らわず、体幹だけで勝負が着いた・・・やっぱ、すげぇな」

「まぁ、まだセーブはしてるがな」

「あぁ。神器も全て解放すれば、こう易々とはいかぬ」

因みに、朝練が出来るのは俺と弦ちゃんだけ。イッセーはハンマーを使って、放課後にグランドで模擬戦だ。

「さて、片付けて教室に戻ろう」

「そーだな」

それぞれの得物をロッカーに仕舞い、肌着の上に脱いでいた制服を着直す。しかし、袴等も用意すべきかも知れんな。

「キャァァァァァ!!」

「奴等か」「奴等だな」「またアイツらかよ」

女子更衣室から聞こえた悲鳴。俺達は直ぐさま駆け出し、心当たりである2人組を探す・・・が、探すまでも無く走って来た。

「げっ!何でお前らが此所に!?」

「えぇい強行突破だ!」

「させぬ」

まず俺が胸ポケットからボールペンを2本取り出し、クナイの要領で2人の額に投擲。怯んだ2人にイッセーと弦ちゃんがそれぞれ肉薄し、弦ちゃんは掴み攻撃の腹パンを、イッセーは内臓攻撃にも似たボディアイアンクローを叩き込む。

「ごぶぇ!?」「がばぁっ!?」

弦ちゃんの腹パンは内臓を破裂させる威力があるし、イッセーのアイアンクローは鬼胡桃を握り潰す。勿論手加減は心得ているが、一般人では少なくとも1時間は起きられないだろう。

「あ、3人共ありがとう!」

「助かってるわ、何時もコイツら捕まえてくれて!」

手際良く2人組をふん縛る女子達に軽く会釈し、俺達は教室へと戻った。

 


 

321:名無しの不死者

アホみたいに強くて草

 

322:多弁な狼

ライブ中継は、上手くいったらしいな。

 

323:ヴィジランテ・ベリアル

あぁ。ウチの娘とも、1度手合わせ願いたいモンだな。

 

324:名無しの不死者

出た、親バカ陛下。

 

325:月光と獣の剣士

イッセー君の内臓攻撃は見事だったね

 

326:多弁な狼

彼奴の握力は今84キロ。鬼胡桃を握り潰した。

 

327:名無しの不死者

ヒェッ

 

328:名無しの不死者

脳筋ビルドやな・・・

 

329:多弁な狼

>>328

いや、筋神ビルドだ。

 

330:月光と獣の剣士

あぁ、神器が神秘扱いなのね。

 


 

「あ、俺は用事があるので先に帰る」

「ん、おう」

「じゃあなーシロー」

放課後。稽古を始める前に断って、俺は下校する。学校に程近いアパートである為、10分程で到着した。

「只今」

「おかえり~志狼~♪」

カーペットに寝そべった黒歌が、満面の笑みで迎えてくれる。うむ、可愛らしい。そんな彼女の頭をわしゃりと撫で、鞄を置いた。

「少し、出掛けてくる。夕飯は、冷蔵庫の唐揚げを食べると良い」

竜胤の業に手土産を幾つか忍ばせながら、昨日の作り置きが入った冷蔵庫を指す。

「・・・女?」

「まぁな」

「浮気者~!」

「いや、エブの所だ」

「何だ、エブちゃんか。じゃあ女王様の所?」

「あぁ」

スルスルと制服を脱ぎ、ジーンズジャケットを羽織る。髪を解いて結び直し、再び扉を開けた。

「行って来る」

「ん、行ってらっしゃいにゃ」

何時の間にか音も無く俺の背後を取っていた黒歌が、背中にぐりぐりと額を擦り付けてくる。

うむ、いい加減、そう言う関係になるのも頃合いかも知れん。これは完全に猫の愛情表現だ。ここまでされて、知らぬ存ぜぬで通せる程、俺も鈍感では無い。

「・・・早く帰って来なきゃ、ヤだから」

「・・・承知」

小さく頷き、俺は家を出た。

 

───

──

 

「済みません・・・最上階まで」

「・・・承りました。少々お待ち下さい」

電車を乗り継ぎ、到着した目的地。巨大なビルのロビーで、受付に()()()()を見せた。間も無く中央エレベーターが到着し、その会社の社員に混じって其所に乗り込む。

俺の存在は、この空間で明らかに浮いていた。皆誰しもがチラチラと此方を伺うが、俺は気にせず、階数のランプを見上げるのみ。

やがて、それぞれの職務場所のある階で社員は降りて行き、最後の最上階まで一緒だったのは2人だけだった。恐らく、幹部なのだろう。

「さて、社長室は・・・あっちか」

案内板を見て道を把握し、最短で社長室へと向かう。3分程で着き、物々しい頑丈そうなドアをノックした。

「忍びです」

「あぁ、入りたまえ」

重い扉を開き、赦しを得たその部屋へと入る。

「良く来たな、(サクラ)の香りの影の者」

正面の事務机に座っているのは、長い金髪の女性。起伏は少なくともスラリと美しいその肢体をビジネススーツに包んだ彼女の、しかし最も眼を引く部分は、その頭部。鈍い真鍮色の兜で顔を隠し、そのカリスマに満ちた声を響かせていた。

そんな彼女・・・穢れた血族の女王、アンナリーゼ様の前に、俺は跪く。嘗て、今は亡き主を前にそうしたように。

「フフフ、こら貴公。此所は既に玉座の間では無く、また私も一個人に過ぎぬ。その礼節は、もはや不要だ」

「は」

アンナリーゼ様に言われた通り、俺はスクリと立ち上がる。そして、懐から手土産を取り出した。

「手製のおはぎと・・・酒を・・・」

「おぉ貴公、気が利くな・・・ほう、竜泉か。これはこれは・・・フフ、有り難く戴こう。思えば最初に貴公と謁見した時も、この酒を渡してくれたな」

手土産を受け取ると、懐かしむように、兜の向こうで眼が細められる。声色も柔らかく、喜んで戴けたようだ。

「して、今日は何用かな?」

「エブの様子と、しばし話を」

「ククッ、このケインへルツコーポレーションの社長に雑談しに来る等、世界広しと言えども貴公だけだな」

愉快そうに立ち上がったアンナリーゼ様は、机の上にあるチェスのクイーンを模った置物に触れた。

「さぁ、近う寄りたまえ」

「御意」

机の側に寄ると、アンナリーゼ様は机上の駒を鍵のようにカチリと捻る。すると机周辺の床がガコンと動き、下方へと動き出した。そう。フロムの伝統、エレベーターである。

このエレベーターは柱として全階を貫き、地下まで通じているのだ。

「玩具やテレビであやしてこそいるが、あの子もやはり寂しがり屋でね。貴公が来るのを、心待ちにしているのだよ。あの幼いアメンドーズも、偶に顔を見せに来るがな」

「どうやって来てるんだアイツは・・・」

アイツは今、姫島家の神社で世話になっている。朱乃殿とも仲良くしているらしい。

と、そんなこんなで地下に着いた。気圧のせいで耳が痛む。

『・・・!』

「久し振りだな、エブ」

地下は明るく、子供部屋のような雰囲気だ。中央には大画面のテレビ、壁際には本棚。反対側には玩具が大量に入った棚。

そしてテレビを見ていた彼女・・・エーブリエタースは、俺達が入ると此方を振り向き、嬉しそうに擦り寄って来た。

『おにいちゃん!』

「あぁ、良い子にしていたか?」

『うん♪』

「あ、こらこら・・・ふっ」

触手で俺を抱き締め、幼子のように頬擦りして来る様は、実に可愛らしい。うむ、俺が守護らねば・・・

『そうだおにいちゃん!みてて!』

「ん、どうした?」

エブは俺を放し、少し離れる。そして祈るように胸の前で両腕を合わせると、その身体が光り始めた。

「こ、これは・・・!?」

「お、にぃ、ちゃん!」

その光が霧散すると、其所には美少女がいた。

青白くスラリとしたローブドレスを纏い、ウェーブの掛かった黄金色の髪を揺らして、翡翠色の瞳が俺を見詰めている。

背中には細く枝分かれした触手の翼が生えており、その異色が尚一層の事、彼女の神秘的な美しさを引き立てていた。

啓蒙が溜まった。

「・・・エブ?エブか?」

「そう、だ、よ!おにぃ、ちゃん!」

鈴の音にも似た愛らしい声と、流れ星が弾けるような儚げな笑顔。若干未発達で幼げなその顔は、一切の歪みも無い完璧な構造だ。

「ど、どうやって・・・」

「まんがとか、あにめとか、どうがみて、がんばった!」

辿々しくも一生懸命な口調に、心臓が撃ち抜かれる。何と可愛らしい事か。

「最近は、私の配信も観てくれているようでな。そう言う所からも、情報を集めて練習したらしい」

「凄いぞ、エブ。大した奴だ、お前は」

思わずエブの頭を撫で繰り回してしまう。いや、仕方無いだろう。これは可愛過ぎる。前々世から大好きだったのだ。

「うっ・・・ちょっと、つかれちゃった、かも・・・」

「大丈夫か、エブ」

「うん」

そうは言うものの、彼女の人化は少し曖昧になりつつある。腕は綻んで触手になりかけ、頬にもあの鱗のような筋が入り始めた。

「あ・・・みないで、おにいちゃん・・・」

「いや、羞じる事は無い。寧ろこの方が俺は好きだ」

「え?」

勢いでカミングアウトしてしまったが、俺は所謂人外フェチなのだ。こう言う人外要素の混じった美少女は刺さる。

「貴公には想ってくれる少女がいたのでは無いか?」

「無論、黒歌も無碍にする気はありませぬ。ですが・・・魂には、抗えませぬ」

「ふ、正直な奴だ」

確かに誠実では無いかも知れない。しかし、これは持って生まれた、消しようの無い(さが)なのだ。

「近い内に、この子もデビューさせてやろうと思っている。私の母君に、現在依頼中だ」

「何と・・・」

それは目出度いな。デビュー配信は見逃せぬ。

「れんしゅうも、いっぱいしてるの!」

「そうか、楽しみにしておこう」

「うん!」

思いがけぬ所で、今後の大きな楽しみが増えた。

 


 

483:多弁な狼

エーブリエタースが擬人化してた

 

484:月光と獣の狩人

ちょっと待ってイッチそれもっと詳しく

 


 

「あの、付き合って下さい!」

「えっ?」

校門前で、突然告白された弦一郎。何やら因果が渦を巻き始めたようだ。

 

 

『さぁてと、シェップウルフかストーンウルフか、うまいことえらべよ?おおかみくん♪』

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

葦原志狼
わりかし女誑しな戦国忍者。
リアルである故の多彩な戦術をモノにしている。既に人間の戦い方じゃ無い。
黒歌の好意に気付いているが、どう返せば良いか迷っている。泣かせる気は一切無い。心を開いてくれているので、此方も応えるべきなのだろう・・・
黒歌は好き。モン娘は大好き。

葦斑弦一郎
心中の域に至りそうな弦ちゃん。
掴み攻撃の腹パンは強烈。内臓潰れるような音がしてる。
部活帰りに何か告白されて困惑してる。しかも相手はおかしな気配がするし・・・?

兵藤一誠
握力つよつよ原作主人公。
変態2人組を止める側。自分が覗く側だった世界線を知ったら多分のたうち回る。
因みに鬼胡桃は大体70~80㎏の握力で潰せる。

黒歌
志狼大好きな猫魈お姉ちゃん。
最近よくアピールしてる。志狼がちょっと反応に困ってるのも知ってる。
志狼が女誑しなのはよく分かってるので、もはやとやかくは言わない。けど正妻は譲らない。

アンナリーゼ
カインハーストの穢れた血族の長、血の女王。
本来は血族の遺志を得た者の精神に寄生する意思を持った幻だが、現在は志狼の神器で受肉しており、半実体となっている。
人間としての名前はアンナライズ・アヴルィッヒ・ケインヘルツ。捻りもへったくれも無い。
ケインヘルツコーポレーションの代表取締役社長。血の知識を応用して、医療分野の開発を行っている。ここ数年で本拠地を日本支部に切り替えた。
また、Vの者として配信活動もしている。

エーブリエタース
啓蒙高いエイリアン系美少女。
漁村から救出された後、日本神話の管轄で保護されていたが、途中から志狼の紹介でケインヘルツコーポレーションに移動。不特定多数の人型をしたモノに囲まれる事がトラウマになっており、現在は隔離状態。だが不満は無い。
「いろんなおはなししてくれるアンナママすき!
たまにきてくれるアメンちゃんと、しろうおにいちゃんもだいすき!」


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第15話 堕天使と混沌と協力者

(志狼サイド)

 

「で、どう思う?」

「「罠」」

「だよな」

エブの擬人化術を見た翌朝。弦ちゃんから報告を受け、イッセーと共に即答する。

何でも、架空の学生服を着た下級堕天使と思しき女に告白されたらしい。

「バラキエルのおやっさんも、堕天使には人間蔑視が根強いって言ってたしなぁ」

バラキエル殿曰く、大抵の堕天使は人間を蔑んでいるか、そうで無くとも下級存在として認識しているらしい。まぁ自分達が当然に出来る事を出来ない種族を、そう見てしまうのは仕方無いだろう。しかし、そうやって容認出来るのは此方への不干渉が前提だ。

「で、次の土曜日にデートがしたいと申し出られた」

「よし。ではそれに乗れ。俺達がそれに張り付き、怪しい動きをすれば取り押さえる」

「バラキエルのおっさんも、ちょっと声掛けようぜ。朱乃ちゃん経由で根回ししとく」

「頼むぞイッセー。俺は部長殿に報告を入れる。それと、天猫殿にもな」

やる事は決まった。決行の土曜日までに、根を回しておかねば。

 

(NOサイド)

 

「ごめんなさい、お待たせしちゃいました?」

「いや、俺も今さっき来た所だ。気にする事は無い」

土曜日。弦一郎と女堕天使、天野夕麻との狐狸合戦(デート)が始まる。

弦一郎の服装は、黒っぽいジーンズに暗い紺色のロングジャケット。髪はポニーテールに括ってあり、小量抄き込んだ香油がふんわりと香る。

天野はというと、長い黒髪に良く映える白のワンピース。ふっくらとした健康的な唇には薄らと紅が乗っており、然り気無いナチュラルメイクも完璧。自分美しさに妥協はしないタイプなのだろう。

「それは良かっ・・・ッッ!!!?」

安堵したような仕草が一変、明らかに動揺し硬直する夕麻。その視線は、弦一郎のジャケットの襟に突き刺さっていた。

「ん?どうかしたか?」

「あ、えーっとその・・・その、羽根飾り、素敵だなーって・・・」

「あぁ、これか。良くして貰っている知り合いからの頂き物だ」

そう言って弦一郎は襟に付けていた黒い羽根飾り・・・()()()()()()()()()を撫でる。

(フム。やはりバラキエル殿の言う通り、堕天使には羽だけで分かるモノなのだな)

堕天使同士は羽を見るだけで、顔を見るのと同じ程度に相手を識別出来る、とはバラキエルの談である。故に、下級堕天使相手にはこれ以上無い牽制効果があるのだ。

(こ、これは堕天使の羽!それも最上位堕天使の!?しかも知り合いですって!?な、何で人間が!?)

(と、考えているのが手に取るように分かるな)

どうやら天野の方は、バラキエルとは面識は無かったらしい。しかし、物の見事に精神を掻き回されていた。

 


 

651:多弁な狼

さて、弦ちゃんと堕天使のデートが始まった。

 

652:ヴィジランテ・ベリアル

何事も無く終わる・・・とは、思えんな。

 

653:名無しの不死者

あのレイナーレが真面な選択をするとは思えないんだよなぁ

 

654:名無しの不死者

そう言や剣士ネキいねぇな。こう言うのはいの一番に首突っ込みそうなのに。

 

655:多弁な狼

オリヴィエ少女とマリア様その他大勢の生存ルート開拓すると新周回を回しているらしい

 

656:名無しの不死者

オリヴィエ?ブラボにそんなキャラ居たっけ?

 

657:多弁な狼

>>656 ガスコイン神父の娘だ。因みに俺の世界線では生存ルートだ。ゲームの選択肢に囚われないやり方で、朝を迎えさせる事が出来た。

 

658:名無しの不死者

ファッ!?

 

659:名無しの不死者

下水豚内臓攻撃説が真しやかに囁かれるあの少女か!?

 

660:多弁な狼

あぁ。狩人の夢で保護して寝かせていた。だが、夜明けを迎えたら居なくなっていたのだ。

恐らく、悪夢から醒めたのだろうが・・・イギリスでも、ほんの少しだが探しはしたのだがな。心配だ。

 

661:月光と獣の剣士

ワタシハヤッタンダァァァァァァ!!ヒャアハハハハハハハハハァ!!

 

662:名無しの不死者

ファッ!?剣士ネキ!?

 

663:名無しの不死者

アルフレート君になっとるやんけ

 

664:多弁な狼

成し遂げたか

 

665:月光と獣の剣士

【寝ているオリヴィエを膝枕して撫でながら花壇に座り、人形と談笑しているマリア】

 

666:名無しの不死者

ヌッ

 

667:名無しの不死者

ミ°ッ

 

668:名無しの不死者

尊っっっ!!!?

 

669:名無しの不死者

(尊過ぎて)逝きますよー逝きますよー

 

670:月光と獣の剣士

やったぜ(完全勝利)

因みに私の全上位者パワーを注ぎ込んで、あのヤ〇チンクソ上位者の干渉を遮断する御守りを作った。オリヴィエちゃん、アリアンナちゃんと同じくカインの末裔だからね。アイツに目を付けられたら妊娠させられちゃう。

 

671:多弁な狼

自分の娘たるエーブリエタースを見棄てて去り、更にアリアンナの赤子を自分の神秘で塗り潰したオドンを俺は赦さない。

 

672:ヴィジランテ・ベリアル

うぐっ・・・

 

673:名無しの不死者

止めろイッチ、後者は兎も角前者はベリアルニキに効く。

 

674:ヴィジランテ・ベリアル

いや、えーっとその・・・うん・・・

 

675:名無しの月光と獣の剣士

ん?どうかしたのかな?ベリアルニキ

 

676:ヴィジランテ・ベリアル

いやぁ、その・・・前に潰したマフィア共がな、個性増強剤の材料に使ってたのが、共振増幅の個性を持った小娘だったんだが・・・

 

677:名無しの不死者

アッ(察し)

 

678:名無しの不死者

ウルトラマンベリアル、共振増幅、小娘・・・あぁ、リリちゃんか。

 

678:名無しの不死者

リリちゃんですね

 

679:月光と獣の剣士

完全にリリちゃんです本当にありがとうございます。

 

680:ヴィジランテ・ベリアル

あぁそうだよ!名前ももろにリリ・アーカイヴだったよ!しかも何か確実に俺の事意識しちまってるっぽいんだよ!どうすりゃ良いんだよこんちきしょう!!

 

681:月光と獣の剣士

年の差はお幾つ?

 

682:ヴィジランテ・ベリアル

向こうが今年で16、こっちが27。11歳差。

 

683:名無しの不死者

そんな致命的でも無い絶妙な年の差で草

 

684:名無しの不死者

やったねりっくん!ママ(同い年)が出来るよ!あ、この時空ではりっちゃんか。

 

685:ヴィジランテ・ベリアル

ウガァァァァァァァァァァァ!!!

 

686:月光と獣の剣士

年の差てぇてぇだ!年の差てぇてぇだろう!なぁ、年の差てぇてぇだろうそれ!てぇてぇだ!てぇてぇ置いてけよ!

 

687:名無しの不死者

うわぁ妖怪てぇてぇ置いてけだ!

 

678:多弁な狼

済まない。今更だが、リリ・アーカイヴとは誰だ?

 

689:名無しの不死者

あぁ、イッチは未履修だったか。

 

690:名無しの不死者

ウルトラマンベリアルを主人公とし、更にダークザギ、ジャグラスジャグラー、イーヴィルティガ、カミーラの4人とチームアップしたウルトラマンシリーズ初のミュージカル作品《DARKNESS(ダークネス) HEELS(ヒールズ)》の続編漫画、《DARKNESS(ダークネス) HEELS(ヒールズ)Lili(リリ)─》のヒロイン。

可愛い上にガッツも結構あって、闇の存在であるベリアルに助けられた恩義から関わっていくことになるが・・・って感じやな。

闇の巨人らの結構コミカルな遣り取り、迫真の戦闘シーン、葛藤に揺れる心理描写、どれを取っても文句無しや。

因みに作者の趣味で毎週色んな怪獣やら宇宙人とリリちゃんが戦わされるリリファイトっちゅうのもあったな。

 

691:多弁な狼

実に興味深い・・・

 


 

─────

────

───

──

 

「フム、何事も無かったか」

夕この一日。暮れ時。公園にいる弦一郎と天野夕麻を寄鷹筒で覗きながら、志狼はボソリと呟く。

2人を監視してはいたものの、おかしな動きは特に無かった。強いて言うなら、相手側がほんの僅かにギクシャクしていた事だろう。

「今の所、精神的な細工の気配もあらへんな」

「あ、天猫さん!?いつ来たんだよ!」

「今さっき。漸く仕組みが終わってな」

 

「今日は楽しかったわ。ありがとう、弦一郎君」

「それは何より。大して秀でた所も無い計画だと思っていたが、楽しんでくれていたのならば幸いだ」

「ふふ・・・じゃあ、また今度ね」

「あぁ、また」

小さく手を振って立ち去ろうとする天野を、弦一郎も微笑みながら手を振って見送る。内心では肩透かしを喰らったような気分でこそあったものの、何事も無いに越した事は無いのだ。

『オイオイ、なァに日和ってんだよォ?』

「「!?」」

しかし、そうは問屋が卸さない。

空間から闇が滲み出し、歪な穴を形成する。その中から切り取られるように、真っ黒なローブを羽織った暗黒の無貌・・・()()が姿を現した。その背後には、虚ろな眼をした信者と思しき複数の人間が立っている。

「ヴァルツァー!」

『ったくレイナーレちゃんよォ?折角ボクがお膳立てしてやったってのに、尻尾巻いて逃げちゃう訳?』

「し、仕方無いでしょう!最上位堕天使との繋がりがあるかも知れない相手を、後先考えず殺せる訳無いじゃない!」

『ハッ、そんなのどーでも良いじゃんねぇ?至高の堕天使になっちゃえば、その最上位堕天使とやらも雑魚と蹴散らせるだろう?』

「それでも・・・!」

「やはり、目的は俺の抹殺だったか」

 

─ビリッ─

 

ジャケットの内ポケットから取り出した札・・・封装符を破り、封入していた戦装束を纏う弦一郎。志狼と一誠は近くに隠れ、様子を窺う。

『へぇ、やる気満々?じゃあこっちも受けて立とうじゃない』

そう言って破滅が取り出したのは、黒く縁取られた2枚のメダル。それを背後にいた信者2人の身体に、1枚ずつ埋め込んだ。

「うぅっ!?ぐあああああ!?」「あがぁぁぁぁぁあッ!?」

赤黒い光を発して、信者の身体はバキバキと悍ましく変形していく。それを尻目に、破滅はレイナーレの手を引き闇の門を開いた。

『じゃあ、楽しんでね。そこで隠れてるお3方も』

「「「ッ!」」」

そう言い残し、破滅とレイナーレは消える。バレているならば気負いも無しと、志狼と一誠は飛び出した。

「シロー!何だコイツら!」

「碌なモノでは無いと言う事しか分からん」

「変若の(おり)のような物か・・・」

志狼と一誠も隠していた封装符を破り、それぞれの戦装束に身を包む。そして竜胤の業で葦名の弓刀とパイルハンマーを取り出し、それぞれを渡した。

「ギュギリリリリリリィ!!」

「ギシャアァァァァオッ!!」

「あ、あれって・・・!」

「何だと!?」

「まさか・・・!」

肉体の変質が終わった信者の成れの果て達は、各々が特徴的な雄叫びを上げる。その姿に、志狼達は見覚えがあった。

片方は、筋肉質な茶色い身体に、側頭部から生えた水牛のような角、そして鼻先にも角を備え、太い尻尾を生やした竜のような異形。

もう一方は、眼が退化したデンキウナギのような黄色い見てくれに、先端が三日月状になった2本の回転する角が側頭部に付いた異形。

「ゴモラに、エレキング!?」

「ウルトラ怪獣が、何故この世界に!?」

そう。ウルトラマンに登場した怪獣、ゴモラとエレキング・・・正確に言うなれば、その2体の怪獣の形質を持つ、怪人であった。

 


 

723:ヴィジランテ・ベリアル

あれは・・・ゴモラにエレキング。それも人体に後天的に怪獣の遺伝子を無理矢理組み込んだ即席のキメラだな。

しかもあのメダル、Zの怪獣メダルか。ウチのセレブロもあれでソシャゲ中毒者になってるぜ。

 

724:月光と獣の剣士

あの真っ黒野郎、間違い無く黒い上位者の化身だね。全く碌な事をしない。

 

725:名無の不死者

>>724

そもそも神が碌な事をした例しが無い定期

 


 

「天猫殿!」

「任しとき!」

志狼の呼びかけに是と応え、黒澤は懐から取り出した札を四方に放つ。その札はそれぞれが公園の四隅に張り付き、強力な結界を形成した。

「壁は作ったで!」

「忝い!」

「助かる」

「ありがとな!」

天猫が張った結界によって、公園は周囲から隔絶されている。故に、遠慮は要らない。志狼は朱雀の紅蓮傘を左手のガントレットに装着し、チラリと目配せ。一誠と弦一郎はそれぞれ頷き、2人でエレキングに対峙した。

「参る・・・!」

そして志狼は楔丸を抜刀し、ゴモラを睨んだ。

 

(志狼サイド)

 

「ギシャアァァァァオッ!!」

「!」

ゴモラの頭部、三日月状の角が光り始めた。来る技は読めているので、前ステップで距離を潰してその瞬間を待ち構える。

「ガァァァァァァアッ!!」

絶叫と共に、角に凝縮されたエネルギーが放たれた。ゴモラの花形、超振動波だ。

だが、俺はそれを待っていた。紅蓮傘を開き、超振動波を受け止める。思った通り、鉄扇の傘はビリビリと震えて振動を吸収してくれた。

 

─ブシュゥゥッ─

 

「返すぞ」

熱を持って煙を立ち上らす鉄扇を畳み、放ち斬りを繰り出す。溜め込まれた熱が真空波を生み、ゴモラの鱗を深く削った。

「ギシャオゥッ!?」

真正面からモロに喰らい、大きく蹌踉めき怯むゴモラ。これが効かねばと、次は尻尾を薙ぎ払ってくる。

 

─危─

 

下段。

高く飛び越え、逆に奴の頭を踏み付けて宙返り。更に着地と同時に楔丸を持った右手を引き絞り、切っ先を突き出しながら突貫。鱗を貫く事は叶わなかったが、その勢いのままに上空に跳躍。大忍び落としを決める。

言い手応えだ。体幹をかなり削れただろう。

「ギャァァオッ!!」

 

─危─

 

「ぐおっ!?」

カウンター気味の掴み攻撃。上手く躱せず、ガッチリとホールドされてしまった。

「ボシュゥゥゥ!」

 

─中毒─

 

「ぐぉあッ!?」

更に、至近距離から毒を吹き付けられてしまった。しかもこの毒、かなり強い・・・!

「ゴクッ・・・不味い」

 

─治毒─

─耐毒─

 

毒消し粉を飲んで直ぐさま解毒し、体勢を立て直した。そして形代流しで首筋を削り、丸薬を飲んで治癒させる。

「まだまだ・・・」

この程度ならば、恐るるに足らず。

 

(NOサイド)

 

「ギュギリリリィ!!」

「甘いッ!」「効かねぇよ!」

エレキングが放った放散電撃はしかし、弦一郎と一誠の雷返しによってそっくりそのまま跳ね返される。

「ギュアッ!?」

「フッハッ!タァッ!!」

更に畳み掛けるように繰り出される、弦一郎の完璧な桜舞い。エレキングの体表は斬撃への耐性に乏しく、ドス黒い血が噴き出す。

LIGHTNING(ライトニング) SPEAR(スピアー)!!】

「フッ!ウリャッ!」

其所を追い討つように、一誠が赤龍帝の雷光槍で突いた。更に志狼の仕込み槍のように瞬時に縮めて引き寄せ、パイルの変形攻撃で斬り付ける。

そして間髪入れず、溜めきらずに杭を撃ち出して追撃。血飛沫を散らして吹き飛ぶエレキングだったが、尻尾で衝撃を回転に変換し受け身を取った。どうやら経験に関係無く、身体を使い熟せるようだ。

「チッ、思ったよりも刃の通りが悪い・・・デンキウナギのように、筋肉の上に脂肪の装甲が付いているタイプか。

ならば!」

弓刀を弓に変形し、形代から生成した銀矢を矢筒から引き抜く。そして雷鞭の夕顔から雷を生み、銀矢に乗せて放った。

「ギュリバガッ!?」

霹靂と化した一矢は、エレキングの胸に命中。防電装甲である脂肪層を貫き、無防備な内臓へと雷撃を届ける。

 

――打雷――

 

流石の電撃怪獣も、内臓に直接通電されては堪らない。大きく痙攣し、口からスパークと共に大量の血反吐と煙を吹き出した。

「今だイッセー!」

「任せろ!3回分を喰らえッ!」

【Boost!Explosion!!】

 

─ドバギャァァァンッッッ!!!─

 

身体の内側を雷撃で焼かれて硬直したエレキングに、一誠がパイルの最大溜め攻撃を撃ち込む。その地獄鋼の鏃に彫り込まれた呪紋が発した神秘は、エレキングと化した男の歪に変質した魂に文字通りの大打撃を喰らわせた。

「ギャギュッ・・・ギョパッ・・・」

血と共にドス黒い肉片を吐き出して、エレキングは力尽きる。白い肌は瞬く間に赤黒く変色し、肉体は加速度的に液状化し崩壊。蓄積していた電気エネルギーが空中放電を起こし発散された。

「ぬぅ、危ないな」

「こりゃ、下手に倒したらまる焦げだぜ」

雷鞭の夕顔と赤龍帝の雷光槍でそれぞれ飛んでくる放電を弾き、顔を顰める弦一郎と一誠。しかし、その身体には真面なダメージなど入っていない。踏んで来た場数の賜物だろう。

「ごはぁ!?」

「シロー!?」「狼ッ!」

そんな2人の後ろから、志狼が弾き飛ばされて来る。口からは血が零れ、見るからに重傷だ。

「大丈夫か!?」

「ぐっ・・・防ぎ損ねた」

傷薬瓢箪を呷り、ゴモラを睨む。傷は塞がったが、一方のゴモラは殆ど出血もしていない。傷と言えば、鱗が多少削れている程度か。

「くっ、まるで甲冑武者・・・相性が悪い・・・」

刃が通じない相手に、苦虫を噛み潰す志狼。すると突如、後ろから真っ赤な光が溢れ出した。

 

(志狼サイド)

 

「ごめんなさい、待たせてしまって」

背後に出現した、真っ赤な魔方陣。その奥から、部長殿率いるオカルト研究部が現れる。

「ええてええて。そもそも吹っ掛けられたんはこっちやでな。それに、ウチの結界や。入って来るのにも苦労しはったやろ。時間取ってもうて、堪忍な」

「えぇ。日本製は高性能なモノが多いけど、神話勢力のエージェントも同じようね」

「ほぉ、随分と褒めてくれはるやん」

天猫殿と軽口を交わし、ゴモラを睨め付ける部長殿。その右手に赤黒いオーラを纏い、空いた左手で眷属に指示を飛ばしている。木場と塔城はそれぞれ左右に展開して警戒。成る程、普段から確りと連携訓練をしていると見える。

「さて、此所は私が日本から借り受け、管理を任されている大事な土地なの。貴方のような勝手を、赦す訳には行かないわ。最も、大遅刻の末じゃ格好も付かないけれど・・・貴族として、義務は果たす。

滅びなさい!」

部長殿が魔力球を生成し、ゴモラに放つ。赤黒く禍々しいそれは、目の前の目標目掛けて猛スピードで襲い掛かり・・・()()()()

「なっ!?私の滅びの魔力が!?」

 

──テキタイシャ、《コントンのオとしゴ》にシンニュウされました──

 

脳内に直接響く、焦燥感と危機感を掻き立てる警告。そして眼前の空間が歪み、闇が滲んで染み出すようにそれは現れた。

それは、脈動する闇。ドス黒く濁った汚水の上に使い古した機械油を流したような、名状し難い流動するマーブル模様を浮かべた人間大の丸い塊。

ぐるぐると忙しなく動き回る模様は、何故かその全てが瞳のようで・・・その幾つかと眼が合った気がした。

「視るなッ!!」

「ひっ!?」「なっ!?」「ぐぉっ!?」「うげっ!?」

咄嗟に立ち上がって楔丸を横に掲げ、仲間があの闇を注視しないようにする。そして自分は紫瓢箪を呷り、何とか怖気を堪えた。

「あの黒い男の、置き土産か・・・ッ」

 

───イキなハカラいだろう?セイゼイ タノしんでくれ♪───

 

脳裏に奴の声が響く。酷く愉快そうで、嘲るような、冒涜的な声だ。

「成る程・・・協力者が参入すると、同時にあの侵入者も現れるか」

共鳴鐘に惹かれる鐘女が鳴らす、不吉な鐘の音のようなモノだろう。

「くっ、滅びの魔力が効かないなんて・・・!」

「刃も、通じている気がしない!」

部長殿の魔力弾や木場の剣戟にも、あの侵入者・・・混沌の落とし子はとんと堪えた様子を見せない。寧ろ動きは活発化し、表面からウゾウゾと無数の触手を展開してやたらめったらに振り回してくる。

「ぬぅ、厄介な・・・」

「ギシャァァァ!!?」

「ッ!?」

無差別に振るわれた触手は、何とゴモラにも命中。そのまま侵蝕し、いとも容易く呑み込んでしまった。

「捕まれば即死と思った方が良いな・・・弦ちゃん!イッセー!神ふぶきを!」

「分かった!」「アレだな!」

懐から神ふぶきを掴み出し、周囲に蒔く。葦名の水で漉かれた紙吹雪は無数の無垢な魂を宿し、それを蒔く事で怨霊の類いへの特効を付与するのだ。

 

──祓い──

 

明るい紫のエフェクトが発生し、俺達の得物が瑠璃の浄火にも似た炎に包まれる。

「部長殿、此所はお任せを」

「っ・・・いいえ!此所を護る領主として、手を借りなくとも!」

ムキになった部長殿が放った特大の魔力球はしかし、落とし子には通じない。だが刺激はしてしまったらしく、落とし子は無数の触手を部長殿にけしかけた。

「拙いッ!」

横を抜けようとする触手は切り払えたが、それでも他の触手が周囲から弧を描くように部長殿へと殺到する。不死斬りは今は使えず、月光聖剣も振り抜くに遅い。

「ひっ!?」

鋭い触手の先端が、部長殿に届く・・・その刹那。

 

───キョウリョクシャ《ギゼンのじゃぐらすじゃぐらー》がアラワれました───

 

「ハァァァァッ!」「おらよッ!」

 

黄金雷光の一閃と、青白いオーラの剣戟。2本の残像がそれぞれの得物を追い、触手の群れを悉く迎撃した。

その斬撃の主は2人。片方は我々もよく知る人物だが、もう片方は覚えが無い。

「大丈夫ですか?リアス」

「朱乃!・・・と、どちら様かしら?」

蒼い地獄鋼のステッキを持った朱乃殿と、蒼白い靄を纏った人型の影。紅い眼が爛々と輝き、その手には日本刀に酷似した刀剣を握っている。

『ん、俺か?ンな事ァどうでも良いだろ。まぁ、敵では無ぇさ。攻撃してくれるなよ?』

「それを信用できるとでも?もしかして、朱乃のお知り合い?」

「いえ、敵意や殺気を感じなかったので左側は任せたのですが・・・」

『ま、お前達にゃ信用なんざ無理だろうなァ・・・だが、お前は判るだろ?狼君』

肩を竦め、飄々とした態度で返す影。その態度に、部長殿は顔を顰める。胡散臭さに表彰があれば、銀賞以上は堅いだろう。

しかし、名指しで言われた通り、俺は知っている。あの蒼白い靄は、小さな共鳴鐘の協力者の証だ。信用はしても良い筈だ。

「部長殿、この男は協力者のようだ。協力者同士は、自爆技を除いて有りと有らゆる友撃ちが効かぬ。此所は有り難く、協力を受けるべきだろう」

『クククッ・・・流石はヤーナム経験者、協力の仕様には明るいな。

それと、俺からアドバイスだ。アイツは混沌。生も死も内部に混在しているから、普通にやっても殺せねぇ。此所まで言えば、狼君なら分かるだろう?』

「・・・成る程。天猫殿、不死斬りを」

「ま、情報ソースも怪しいけど他に手もあらへんか。シロのボン、弦ちゃん、不死斬り承認や!」

「御意。弦ちゃん」

「おう」

天猫殿の承認を受け、俺達は懐から赤墨で書かれた特別の札を取り出した。それを空中でヒラリと翳せば、目の前の空間が裂ける。

「暫し時間を」

『おう、稼いでやるよ。遅れるなよ、雷光の』

「ご心配なさらずとも、不覚は取りませんわ」

協力者と朱乃殿は目配せし、それぞれの得物を構えた。更に朱乃殿は手に持ったステッキ・・・仕込み杖の仕掛けを起動。鋼鉄の杖身を振るうと、細長い鉄柱は展開。鋸刃を並べた伸縮鞭となった。更に自分の雷光をエンチャントし、大きく振るって伸びてくる触手をバリバリと空気を焦がしなら斬り捨てる。

「出でよ、《拝涙》!」「出でよ、《開門》!」

それぞれが貸し与えられた不死斬りを取り出し、背中に背負って抜き払う。朱い瘴気と()()()がそれぞれの刀身を包み、不死を狩る力を放った。

『ッ~!』

その瞬間、混沌の落とし子は明らかにギクリと震え、俺達へと意識を向けてくる。どうやらこの不死斬りが怖いらしい。

『□□□□□□□~ッッッ!!!』

名状し難い絶叫と共に、触手の槍衾を嗾けてくる落とし子。それを2人で薙ぎ払い、協力者や朱乃殿と並んだ。

「待たせたな」

「時間稼ぎ、感謝する」

「お気になさらないで下さい」

『役者は揃ったな。うっし、そんじゃまアイツを斬りますかァ!』

協力者が先行し、朱乃殿も続く。正面の触手は刀が斬り捨て、側面から回り込んでくるものは仕込み杖の鋸鞭が纏めて絡め薙ぐ。即興ながら見事な連携である。

「ハァッ!」「デェアッ!」

そうして出来た正面の隙に斬り込み、2人で秘伝・不死斬りを放った。二振りの不死斬りは不定形の落とし子にバツの字を刻み、どっちつかずの性質を蝕む。

「やはり、蟲憑きと同じような状態だったか・・・」

蟲憑きの場合、人の死体に仏の浄火が変質した蟲が憑く事で魂を縛っていた。故に生と死、両方の性質が1つの身体に混在していたのだ。ここから生み出された忍殺忍術が、傀儡の術である。

一方、この落とし子も生死双方の属性を体内に併せ持っている。故にこそ、不死斬りが有効なのだ。

『□□□□□□□□□~ッッッ!!!』

「ぬぅ・・・守りを固めたか」

痛手を被った落とし子は、触手を幾重にも身体に巻き付け防壁とする。しかも表面には、先程取り込まれたゴモラのものであろう鱗が浮き出ている。

「ふむ、硬いか」

「あぁ、矢も刃も通らん」

 

────

 

「効かぬ」

槍のように突き出された触手を踏み付け、楔丸で斬り付けてみる。しかし、ギャギリッと言う耳障りな音と火花が散るだけ。真面に傷も入らない。

『だとしても、コイツは只の《ガード》だ。何時かは崩れる』

「でしたら、崩して見せましょう」

「ああ。手数は巴流の得意分野だ!」

「よし、やるぞ」

俺の合図で、それぞれが散開。協力者は中国の柳葉刀(りゅうようとう)の技にも似た振り回すような剣術で刻み込み、朱乃殿は雷光を込めた仕込み杖で強かに打ち据える。

「合わせろよ狼ッ!」

「遅れは取らぬ!」

「「ハァッ!」」

そして俺と弦ちゃんは、それぞれの不死斬りで巴流奥義・浮舟渡りを叩き込んだ。数の暴力には流石に手も足も出ないらしく、落とし子の触手がどんどんと削られてゆく。

『□□□□□□□□□~ッッッ!!!!!』

その触手のスキマから、真っ赤な光が漏れ出し始めた。コレは、ゴモラの超振動波か。

「させるか!ラスト頂き、7乗分喰らえッ!」【Explosion!】

 

─バッギャァンッ!!─

『□□□□□□□□□□□~ッッッッッッ!!!!?』

 

しかし、放つ事叶わず。月隠の飴で潜伏していたイッセーが完全に虚を突く形で、落とし子の背後からパイルの変形後最大溜め攻撃を直撃させた。強烈なバックスタブによって決定的に体幹が崩壊した落とし子の中央に、赤い急所が浮かぶ。

「決める!」

その急所を、赤の不死斬りで貫いた。落とし子はビクリと痙攣し、その身体を崩壊させる。

 

──混沌斬り──

──CHAOS dSEVERED──

 

「ッ・・・」

落とし子が崩れ落ち、赤黒い粒子と消えると同時。俺の脳の中に、何かが流れ込むような感覚があった。

これは、啓蒙・・・脳内の精霊が、卵から孵化して齎されるもの。

「ぬおっ!?」「ぐあっ!?」

イッセーと弦ちゃんも、頭を抱えて呻く。どうやら、向こうにも啓蒙が入ったらしい。輸血液は使っていないのだが・・・もしや、漁村の洞窟で既に感染していたのか?

「何だ、今のは・・・」

「弦ちゃんもか?頭の中で、何かがじんわりと・・・」

『ほぉ、運が良いね。お前らも啓蒙を得たか。

それと、ちっとばかしプレゼントだ』

そう言って、協力者は白の不死斬りに触れる。するとその面が黒く染まり、嘗ての黒の不死斬りとなった。

「なっ!?これは!」

『白黒のリバーシブルさ。何時か黒も必要になるかもだしな』

楽しげに説明した所で、協力者の身体が薄れ始める。

『おっと、今日は此処までらしい。機会があれば、また会おうぜ。じゃあな』

「ちょ、ちょっとまって!」

部長殿の呼び止めも虚しく、協力者は完全に消えてしまった。狩りを終えれば、協力者は消える。ヤーナムと同じと言う訳だ。

取り敢えず、事件そのものはこれにて終幕。残りは事後処理だな。

 


 

(ベリアルサイド)

 

あの仕草に剣術・・・それに眼の形は・・・もしかしなくても、アイツだよなぁ。ま、アイツならゲスな事ァしねぇだろ。

「ベリアルー!リクちゃんのバトル始まるよー!」

『決めるよッ、覚悟ッ!ジィィィードッ!!』

「おう、今行く」

怪獣メダルが出て来る時系列なら、心配も無さそうだしな。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

葦原志狼
かなり活躍した戦国忍者。
大振りな動きの多い怪獣相手なら、負ける事はそうそう無い。しかし大技の類いに若干乏しく、装甲の厚い相手には決め手に欠ける。これはロバートパパこと甲冑武者の時から変わらない。
赤の不死斬りの保有者として、異次元保管庫の鍵を持つ事が許されている。
ゲームと違い、不死斬りを普通の剣として振るう事も出来る。この際形代は消費しない。
<●>36

葦斑弦一郎
今回原作イッセーが嵌まるはずだった罠を敢えて踏んだ弦ちゃん。
正直天野は好みでは無かったが、一応楽しんではいた。
白の不死斬りの保有者として、異次元保管庫の鍵を持つ事が許されている。不死斬りを振るう際は、弓モードの弓刀を背中に背負う。

<●>2

兵藤一誠
ナイスバクスタを決めた原作主人公。
敵の隙を窺い、此処ぞと言う時に完璧に当てた。因みにパワーは倍加7回分、つまり128倍である。
<●>2

黒澤天猫
今回一枚噛んだ現代陰陽師。
結界スペシャリストであり、道祖神沙羅更紗の加護もあって本気になれば空間を隔絶するレベルの結界を作れる。また、その応用で封装符を発明した術者。
今回は完全に裏方だが、結界のお陰で周囲の被害はゼロ。縁の下の力持ちである。
因みにリアス達に連絡を入れたのも彼女だったりする。
<●>5

リアス・グレモリー
責任感があるっぽい駒王領主。
天猫からの連絡で急行したが、それが逆に侵入者の呼び水となった不憫な子。
まだプライドとか色々凝り固まってる所がある。反省。

レイナーレ
バラキエルの羽根を見てへっぴり腰になった女堕天使。
だけど絶対勝てる筈の無い奴が背後にいるであろう相手に対し、手を出さず撤退まで大人しくしようとしていたので、原作よりはまだオツムはマシ。

破滅/ヴァルツァー
引っ掻き回すトリックスター。
怪獣メダルの精製とか色々とこの次元じゃ有り得ない事をやってたりする。
ヴァルツァーと言う偽名は、黒のシュバルツから捩った安直な名前。正直呼び名に拘りは無い個体らしい。

破滅の信者
破滅に連れて来られた信者。その眼は皆一様に虚ろであり、生気の無い顔と餓死した表情筋を貼り付けている。
コレは最早、信者とすら呼べないのでは無かろうか・・・

ギゼンのじゃぐらすじゃぐらー
協力者として現れた謎の男。卓越した剣術を持つが、性格は飄々と掴み所が無い。
消える間際、弦一郎の白の不死斬りに嘗ての黒の側面を復活させた。真逆の2つを混在させる、コレは如何なる権能か・・・

コントンのオとしゴ
ニャルラトホテプがウみダしたゾウヒョウたるシンワセイブツ。ゾウヒョウであれどもコントンのケシン。フシギりイガイではコロせない。クらったモノをトりコんで、ジブンにサイゲンするノウリョクをモつ。

ヴィジランテ・ベリアル
協力者の正体に気付いたっぽいスレ民。だが心配は無さそうだとノータッチを決め込む。
因みに現在雄英体育祭の時系列である。
最近部下達が勝手に自分サイズのタキシードとか注文してる。怖い。

~アイテム・用語紹介~

・バラキエルの黒羽根
最上位堕天使が1人、バラキエル。その翼から抜き取った羽の1枚を加工し、羽根飾りとしたもの。
堕天使とって、羽は顔にも等しく見分けは容易である。なればこそ、堕天使に対する牽制にもなるだろうか。
その羽根には人を愛した堕天使故の、仲間を想う気持ちが籠められており、打雷のダメージを大幅カットする効果がある。

・神ふぶき
葦名で作られる、祓い道具。
葦名の水は、神を宿す。紙を漉くと言うが、葦名の水で行うそれは神を掬うと言う事でもある。
怨霊やこの世為らざるものに対し、高い攻撃力を与える。或いはそれは、水に溶けた魂達の、故郷を愛する護国の心なのだろうか。

変若の澱
変若水が深く、濃く澱んだもの。飲んだものは生半に死ねず、超人の怪力を得る。
桜竜に名もなき神々は吸い上げられ、代わりに水には竜胤が混じった。
それは非常に薄いものであるが、因果の中心点の力。それが、底無き滝を作っている。
葦名の下層は、因果の因に近い場所。其処に落ちたモノは、上層の世界に再び生み出される。変若の澱はこれを自分で繰り返し、因果と竜胤を濃縮したものである。
それは生死の在り方を歪める。決して触れる事なかれ。

封装符
志狼達に支給される戦装束。それを次元の裏に圧縮し、封じた札。
破れば戦装束が現れ、自動的に身を包む。
不死斬りを封じるものは、赤い字で書かれており、術者の承認無くして開かないようになっている。

白の不死斬り
過去に歪んでいた、黒の不死斬りが転じたもの。赤色金剛書たる赤の不死斬りと対になる、白色白蓮華の一振り。
銘は『法整』。あるべき姿を取り戻す。
しかし、今は裏に黒を持つ。黒は『開門』。黄泉への路を、竜胤の血にて開く、呼び水の剣である。


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第16話 異邦の聖女

今回の台詞内の《》は英会話です


(弦一郎サイド)

 

「さて、と。行って来ます」

自作の弁当を詰め終え、バッグを背負って家を出る。日本神話勢力から宛がわれた、好条件のアパートだ。

今日のおかずは、味の濃いてっちゃん焼き。自分の胃の調子を考えて、味噌の配合から拘った自信作だ。楽しみで仕方が無い。

「はぅ!?」

「ん?」

曲がり角から聞こえて来た、可愛らしい悲鳴。見てみると、キャリーバッグを引いていたであろう金髪の少女が、ものの見事にスッ転んでいた。その顔を覆っていたベールが、フワリと風に攫われる。

「あっ!」

「ほっ」

鍛え上げた脚力で塀を蹴り、巴流の旋回の応用で腕を振り抜いた。指先でベールを捕らえ、確りと掴んで舞い降りる。

「《す、すごい・・・!》」

「っと、英語か・・・ン゛ッン、《おい、大丈夫か?》」

聞こえて来たのは英語。ならば、問題無く話せる。伊達に英国留学は経験していない。

「《ありがとうございます!初めて英語を話せる人に会えました。この出会い、主に感謝を》」

少女は胸の前で手を組み、短く祷る。やはりキリシタンか。

変若の御子の元で見た狂信者のせいで印象が悪いが、どうもこの娘は放っておけぬな。

「《俺は葦斑弦一郎と言う。其方は?》」

「《あ、申し遅れました!私はアーシア・アルジェント、この街の教会に配属される事となった者です!》」

この娘、アルジェントは元気良くペコリとお辞儀をする。何だろうな、この加護欲を掻き立てられるような気分は。

「《そうか。縁があれば、また会えるだろう。気を付けるんだぞ》」

「《はい!ありがとうございました!》」

またペコリとお辞儀し、軽い足取りで駆けて行くアルジェント。それを見送って、俺は学校に─────

「はぅ!?」

─────・・・いや、行けぬ。何も無い所でこう何度もスッ転ばれては、もはや捨て置けぬ。

「《おい、ちょっと待て》」

 

───

──

 

「《あ、此所です!ありがとうございました!》」

「《気にするな。為すべき事を、為したまで》・・・にしても・・・」

街を歩く事、1時間半。朝食が少なかったのか腹を鳴らしたアルジェントにコンビニでチョコバーを買い与えつつ、遂にコイツの配属先に着いた。

(随分と草臥れた教会だな・・・)

しかし、其処はかなりボロボロな教会だった。壁の漆喰は剥げ、前庭は草だらけ。どう見ても人の手の入っていない、棄てられた廃教会である。

「《此所で間違い無いのか?本当に?》」

「《はい!》」

ううむ、どうもキナ臭い。つい最近、不埒な堕天使に遭遇したばかりだ。

御祖父様曰く、争いの場では、関わる者の欲や企てが渦を巻くと言う。もしや、俺達は既にその渦中にいるのでは・・・?

「取り敢えず、狼達には伝えるか・・・フ、もはやアイツが頭領と言うのも、慣れたものだ」

「《どうか、されましたか?》」

「《いや、何でも無い。縁があれば、また合う事もあるだろう。さらばだ》」

「《あの、良ければお礼に、中でお茶でも・・・》」

「《いや、ご好意有り難いが、まだ学生の身分でな。学校に行って来る》」

「《そ、そうだったのですか!?そう言えば学校の制服に鞄・・・そうとは知らず、こんなにお時間を・・・》」

あわあわと申し訳なさげに慌て始めるアルジェント。うむ、やはり放ってはおけぬ。何度か見に来た方が良さそうか。

「《おい、謝るなよ?俺が好きでやった事だ。善意に謝罪で返すのは無礼に当たる事もある。子供の内は、素直に受け取っておけ》」

「《は、はい・・・って、子供!?ゲンイチローさんも同い年ですよね!?》」

「《生憎と、此方は色々あってな・・・さらばだ》」

踵を返し、廃教会を後にする。チラリと肩越しに見れば、アルジェントは再三お辞儀をして教会の中に消えて行った。

「・・・」

それを見送り、俺はスマホを取り出しコールする。相手は直ぐに応答してくれた。

「済まない黒歌殿、折り入って頼みがある」

 


(NOサイド)

 

「な、何でアイツが・・・」

アーシアと共に廃教会前まで来た男、葦斑弦一郎。彼を見た瞬間、廃教会に創られたインナースペースに隠れていた天野夕麻、もとい堕天使レイナーレは、脳から血が抜けるのを感じた。

寄りにも寄って、アーシアを連れて来たのは最上位堕天使とコネクションがあるあの男。確実に碌な事にならない。

何より、破滅の化身(ヴァルツァー)が嗾けた怪獣擬きさえ、犠牲1つ出さずに倒された。あれは少なくとも、自分とその部下であるドーナシーク、カラワーナ、ミッテルトが協力すれば何とか苦戦はしないレベル。それを2体同時に相手取り、更に後から来た落とし子とやら共々撃破されているらしい。

「神器の抜き取り・・・リスクが多大き過ぎるわね・・・」

(ドーナシーク達は、昔から私に付き従ってくれている可愛い部下。勝算の薄い戦いに、放り込むのは惜しいわ・・・)

人間を見下す気質はありこそすれ、レイナーレは部下想いだった。

そも、このような危険な橋を渡ろうと決意したのも、組織内での冷遇に甘んじる自分や彼等の立場を少しでも引き上げ、あわよくば総督たるアザゼルから直々の寵愛を受ける為である。故に、彼等はレイナーレに取って、使い捨ての駒等では無く、護るべきモノだった。

『えぇ~?此所まで来て妥協~?』

「ッ!」

背後からの声。振り向けば、其処には何時になっても見慣れない、紅衣を纏った黒が居た。

「し、仕方無いじゃない!相手は最上位堕天使にパイプがあるのよ!そんなヤツが気に掛けた相手を殺せば、どうなるか分からないわ!

部下達には、そんなリスクは冒させられない!リーダーは私なんだから、従って貰うわよ!」

『ったぁく、面倒臭ぇなぁ・・・ま、良いや。あの子は回収して来るよ』

ヤレヤレと言った様子で左手に持ったデバイスを操作して長方形型の門(ヴィランズゲート)を開き、ヴァルツァーはインナースペースを後にする。

「くっ・・・まさか、こんな事になるなんて・・・この街を選んだのは、失敗だったかしら?」

爪を噛み、顔を顰めるレイナーレの脳裏にはしかし、状況とは裏腹に、《撤退》の選択肢は浮かんでいなかった。

 


 

「と、言う事があった訳だ」

「確実にまた厄介事だな」

昼休み。弁当をつつきながら報告する弦一郎に対し、初手の切り返しは一誠の一言だった。

「そうですね、十中八九は・・・」

「この前の堕天使絡みだろう」

低く呟くようなエマの言葉を、志狼が引き継ぐ。

「監視を頼んだ黒歌殿曰く、教会の中には動く物は無いとの事だ」

「・・・待て、それはおかしいぞ」

「あぁ、おかしい。どうやらアルジェントの気配すら無いようなのだ。黒歌殿も訝しんでいた」

最初に違和感に気付いたのは、監視員の黒歌。仙術で気配を探ろうとも、生き物の気配が殆ど無い。あってネズミや虫ケラの類いまでである。報告の際に、場所を間違えていないかと本気で確認した程だ。

「ふむ・・・皆さんは、何かあった際に直ぐに動けるようご準備を。私は、部長、生徒会長、そして日本神話への報告をしておきます」

「忝い」

「助かる、エマ」

「何時も悪いな、エマさん。俺もそう言う作業とか手伝えれば良いんだけど・・・」

「いいえ。貴方達は戦いが本業。此方は慣れていますので、お構い無く。気持ちだけ、受け取っておきますね。

では、これで」

空になった弁当箱を包み直し、席を立つエマ。一誠は腰掛けていた机から降り、エマが座っていた自分の椅子を片付ける。

尚、当然の如く変態2人組には睨まれていた。

 


 

「うぎゃぁぁぁぁぁ!?」

グリーンランドのとある田舎町。その外れにある森の宵闇に、悲痛な絶叫が木霊する。

悲鳴の主は、異形と化したはぐれ悪魔。

引き締まった筋肉質な肉体を黒い毛皮で包み、頭部には尖った三角耳。下半身は完全に大きな狼のそれであり、ケンタウロスの狼版と言えば分かり易いだろう。

尤も、美しい漆黒の毛並みは今や自らの血に塗れ、自慢の爪を備えていた腕は今し方片割れを切り飛ばされて地面に転がっていた。

対峙するは、長い銀色の直剣と大きな金色の散弾銃を携えた男。その男は聖職者の正装に身を包んでおり、背中には分厚いマントが重く垂らされている。長い茶髪を束ねたホーステールが風に揺れ、眼帯に覆われた左目で獲物を見据えた。

「く、クソが!何なんだよお前ェ!人間のエクソシスト風情が、この俺に楯突きやがって!今までのカス共みてぇに、俺に大人しく喰われやがれェ!」

腕を落とされて尚、はぐれ悪魔は飛び掛かる。無論恐怖はあれども、狼と悪魔、それぞれ特有のプライドによって、怒りが恐怖を凌駕したのだ。

 

─ガンッ ザグッ─

 

「うがっ!?」

しかし、ことこの男の前に於いては、それは悪手だった。

連射性能を斬り捨て、射程と1発の集弾性に特化した散弾銃・・・《愚者の弔銃》の、ロングバレルを瞬時に折り畳んだ至近距離射撃によって迎撃(パリィ)され、悪魔は出鼻を挫かれて体勢を崩す。そうして隙を曝した獲物の脇腹に、男は直剣を納刀して開けた右手を鋭く突き入れた。

「や、やめっ」

 

─ブチブチッ ブシャァッ!─

 

「ガバッ!?」

腹の中をまさぐり、中身を掴んで抉り抜く。血と臓物が搔き出され、周囲の血の海は瞬く間に満ち潮となった。

「ぢ、ぢぐじょう・・・な゛んで、おれ゛が・・・こんな゛・・・」

しかし、不幸な事にはぐれ悪魔は死にきれなかった。悪魔の生命力は、人間とは比べ物にならない程に高いのだ。

故に、地獄のような苦痛の中で尚、この世に縛られているのだ。

「1つ、訂正しておこう。私は、悪魔払い(エクソシスト)では無い」

静かに語り掛けつつ、男はバレルを畳んだままの弔銃を腰のコネクタに付け、納刀した直剣を()()()()()肩に担ぐ。

細身の直剣は一変、巨大な刃を持つ両刃の大剣となったそれ・・・《愚者の弔剣》を、男は構えた。

「只の────狩人さ」

 

─ゴシャッ!─

 

振り下ろされた鋼の大刃は、はぐれ悪魔の肉体を左右に切り離す。一瞬の残心の後に、彼は再び愚者の弔剣を背負い直した。

「お疲れ様です、剣聖様」

それを見計らい、背後から数名の男達が現れる。

彼等は皆、黒い法衣装束を纏い、ガスマスクを着けている。その内の幾人かは、背中に除草剤散布に使うようなポンプタンクを背負っていた。

「止め給え。私はそんな大層な者じゃ無い。只の・・・愚か者さ」

そう言って哀しげに顔を顰める狩人の血塗れた装束に、黒装束の1人がポンプで液体を吹き掛ける。すると、焼けた石に水を落としたような音と共に、狩人に付着していた血や肉片が溶け、消滅し始める。

タンクの中身は、法儀礼済みの聖水。悪魔の血肉に取れば、最悪の劇物なのだ。

「・・・何時も、済まないな」

「いえ、これが我々の仕事ですので」

無感情に投げ渡された返答に狩人は黙り込み、狩り手袋を嵌めた右手を握り締めた。

彼は恐れる。はぐれ悪魔の死体を蹴り転がし、聖水で()()する事を何とも思わぬ彼等を。何より、其処に重なる、()()()()()()()()を。

「では、我々はこれで」

浅く一礼し、黒装束の掃除夫達は去って行く。その後には、さっきまであったはずのはぐれ悪魔の死体は、舎利の欠け程も残っていなかった。

「・・・きっと・・・きっと誰も、君を嘆く者はないのだろう。

その死に骨も、灰も無く、もしや魂すらも、この世から忘れ去られるのか」

悲痛な面持ちと共に、死体のあった場所に片膝を突く。そして両手を組み、目を瞑って黙祷するのだった。神では無く、死んだ悪魔の魂を思って。

それは正しく、弔いであった。

 


 

「あぁ、ゴース。或いは、ゴスム・・・我らの祈りが聞こえぬか・・・」

ヴァチカン市国、カトリック教会の秘密研究施設。そこで、1人の男が祷っていた。

頭には檻のような物を被り、焦げ茶色のローブを纏ったその男は、手に持ったリモコンを操作する。すると、周囲を覆うディスプレイに、様々な映像が表示された。

「青ざめた次元の窓よ」

真っ青に染まった、巨大な月。

「蔭りを知らぬ極焔よ」

惑星を悉く照らす、紅蓮の太陽。

「深みに瞬く星々よ」

青昏い夜空に浮かぶ、天の河。

「大地を満たす混沌よ」

山を流れ落ち、海を沸かす溶岩。

「未知と神秘の深海よ」

この世の物とは思えぬ、深海生物の数々。

「あぁ、数多の神よ!未だ見えぬ上位者よ!やがてこそ舌を噛み、語り明かそう!

アッハハハハハハ♪」

楽しげに、愉しげに、男は笑う。その眼には、確かに光が見えていた。

その姿は、紛う事無き変態である。

「相変わらず、熱心な祷りですね。結構な事です」

「おや?」

何時の間にか現れた、色黒の男。その身には司教の地位を示す帯を携えており、そこそこの権限を持つ聖職者である事が見て取れる。

「これはこれは()()()()様。祷りに夢中で気付きませんでしたよ」

胡散臭くニヤニヤと笑いながら、変態は一礼してみせる。貧相に見える外見に見合わず、体幹には一切のブレは見られない。

「どうですか、ここでの暮らしは」

「窮屈です」

ニヤニヤ笑いは変えぬまま、されど即答した。

「貴方の持って来てくれる日本の娯楽物のお陰で、新たな思索に至れはしましたが・・・やる事と言えば、聖符の印刷や(まじな)いの刺繍程度。我ら()()()にとっては、造作も無い事ばかりです」

「それはそれは・・・所で、それ程までに気に入って頂けましたか?ジャパニーズMANGAは」

「勿論ですともッ!」

話題が変わった瞬間、変態の顔からニヤニヤ笑いが消し飛び、眼がギラリと鋭く輝く。

「空想の彼方だけで無く、自分を取り巻く森羅万象総てに上位者を見出す信仰体系!有害なモノさえ悪と断ずる事無く、それすらも神へと昇華し取り込む柔軟性!何よりも、眼に付くモノを悉く擬人化し尽くすあの発想能力!

あぁ、あれも立派な、1つの瞳の在り方だ!オゥ!MAJESTIC!」

「お、おう・・・」

身振り手振りと言うに余る程に全身を振り回し、興奮を熱弁する変態。さしものナイ司教もコレには若干引いている。

「・・・ん゛っん。では貴公。遠くない内に、とある案件で日本に人員を派遣せねばならないのだが・・・司教として、貴公を推薦しておくとするよ」

「何と!あぁ、何と素晴らしい!ホーッホッホーゥ♪」

ナイ司教からの好意に、脳内のお祭りが止まらない変態。もはやブレーキがぶっ壊れて興奮しっぱなしである。

 

「では、期待しているよ──────ミコラーシュ君」

「アッハハハハハハ♪オゥMAJESTIC!」

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

葦斑弦一郎
今回のメインキャラ。ロン毛イケメン紳士。あと何気に自炊が上手。
原作イッセーの代わりに、アーシアと遭遇。英語は英国留学のお陰で何の問題も無く会話が出来た。
レイナーレには滅茶苦茶脅威認定されている。レイナーレに対する勝利の鍵。

アーシア・アルジェント
原作ヒロイン。
健気で天然でドジなシスター。チョコバーを始めて食べてめっちゃ喜んだ。

葦原志狼
影が薄い戦国忍者。コイツ主人公です。
何も今回書く事が無い。

猩葦エマ
主に後方支援をしている薬師女子。
報告書など、頭を使う仕事を主に請け負っている。まぁやろうと思えば前線でも戦えるが。

レイナーレ
弦ちゃんにめっちゃビビってる原作の元凶。かなり部下想い。
ビビってるからこそ冷静であり、リスクマネジメント方面では原作とは比べ物にならない程に正気。着々と生存フラグを立ててこそいるものの、直ぐ側に特大の死亡フラグがいる。

ヴァルツァー
最近レイナーレが保守的思考に走り始めたのでちょっと不満。
レイナーレ達が控えているインナースペースを作ったのがコイツ。もう隠すつもりは無いですよ。あの作品の()()です。

剣の狩人
とある教会に仕える、狩人の青年。
その装備は、嘗てのヤーナムを駆けた英雄に酷似し、しかし思想は真逆である。
敵であれ、獣であれ、心があるならば、弔う事を忘れてはならぬ。

教会の変人、ミコラーシュ
名前を隠しきれなかった変態。
皆大好きマジェスティックおじさん。今作では日本のヲタク文化及び信仰体系にド嵌まりしている。
近々来日予定。
_且ノ

ナイ司教
あーもう何でこんなに沢山出て来ちゃうかなぁ此奴ら。


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第17話 異端の悪魔払い、聖女の苦悶

(志狼サイド)

 

「では、此方も独自に動くと言う事で」

「お願いするわ。力及ばず、申し訳無いけど・・・」

エマ殿と部長殿が、話を纏めた。

俺達も夜間、当番制で、交代でパトロールする事になったらしい。基本2人1組。俺とイッセー、弦ちゃんとエマ殿が、それぞれペアだ。

「でも、大丈夫なの?男子は兎も角、猩葦さんもパトロールって・・・」

「心配いりませんわ、リアス」

手入れをしていた仕込み杖の石突きを床に打ち付けて変形させながら、朱乃殿が微笑む。

「こう見えてエマさんは、私と引き分ける熟達の柔剣士。並大抵の相手では、相手にもなりませんわ」

「あぁ。俺も忍具無しには、勝率は7割を切る」

「その代わり、傘を持たれては一勝も取れなくなってしまいますがね」

朱乃殿と俺からの評価に、悩ましげに謙遜するエマ殿。しかし、本業が薬師と考えれば、これも驚異的な実力だ。

何より、女性特有の柔軟な肉体が放つ、神速の葦名十文字。最適な弾きを知らない者には、まず真面には防げまい。

「そ、そうなのね・・・では、お願いするわ。呉々も、気を付けてね」

「心得ております」

研ぎ澄まされた鋼のように透明感のある剣気を放ちながら、エマ殿は一礼する。その覇気に当てられ木場は冷や汗を一粒零し、塔城は髪をゾワリと逆立てた。

 

(NOサイド)

 

「此方も、異常無し」

「平和で何よりだな」

深夜。戦装束姿の志狼と弦一郎は、定められた通りに街を巡回していた。と言っても、同じく巡回している警官の類いとかち合わぬよう、軽業師のように屋根を伝って、だが。

そんな平和な巡回の中でも、志狼の眼は違和感を見逃さない。

「ん・・・弦ちゃん、彼処が怪しい」

「そうか?ならば行ってみよう」

志狼が指差したのは、ごく普通の一軒家。しかし志狼の眼には、その建物の入口を薄らと覆う、霧のような物が映っていた。

(あれは・・・ボスエリアに掛かる霧、か?・・・何にせよ、ただ事では無さそうだ)

腰の楔丸に手を掛け、警戒しながら家の前に降り立つ。正面から見れば、玄関は開け放たれており、何やら物々しい雰囲気だった。

「行くぞ」「ああ」

霧をくぐって玄関から踏み入り、曲がり角に注意しながら間取りを調べる。どうやら右手奥にリビングがあるようだ。

そして、若干の異臭・・・屍臭を、2人の鼻は嗅ぎ取った。

「黒だ」

「フン、憑いてるな」

顔を顰めて、皮肉を零す弦一郎。自らの第二の故郷を民草の血で穢される事が、度し難く赦せないのだろう。

「1」

「2の・・・!」

互いにタイミングを合わせ、ドアを蹴り開けてリビングに突入。その瞬間、2人は眼を見開く事になる。

「これは・・・!」

「なん、という・・・ッ!」

其所にあったのは、1つの男の死体だった。リビングにあると言うだけでも異質だが、問題はその状態。

爪は剥がされ、指は砕かれ、手足の関節に無事なものは無い。顔は頬肉を削ぎ落とされており、眼も鼻も潰され、口は歯が悉く折り取られている。所々には、焼き鏝でも押し付けられたのか、真っ黒に焦げた跡もあった。

何よりも冒涜的なのは、手足を釘で打ち付け、壁に磔にされている事だ。

そしてその壁には、雑な血文字で何かが書かれていた。

「くっ・・・」

「《“神に代わってお仕置きよ”》♪」

「「ッ!」」

「《って言うね、とあるエラ~いお方のお言葉を借りた次第で御座いますよォ》」

キッチンの奥から、巫山戯た口調で英語を話す男が現れる。キリスト教の神父服を纏った銀髪のその男は、銃身が十字柱型の特殊な拳銃と、刀身が光で出来た剣を装備していた。

よく見れば、手首や足首の袖口が血で汚れている。この惨状を造り出した下手人と見て、ほぼ間違い無いだろう。

「貴様・・・《この者が、一体何をした!貴様は何故、この者を殺し、辱めたッ!!》」

「《え~?だってコイツ、クソ悪魔と契約しちゃったゴミカス野郎なんですよォ~?あんなド屑共と連んでる時点で、有罪(ギルティ)じゃん!有害じゃん!生きる価値なんざナッシングじゃん!ってな訳でね。汚物は消毒しちゃった方が、世のため人のためってヤツでしょ?

うっひゃー!俺っち偉~い♪》」

「・・・もう良い。黙れ」

怒りで全身から熱気を噴き出し、バリバリと放電で空気を焦がしながら抜刀する弦一郎。志狼も同じく楔丸を抜き放ち、左手には義手忍具を構える。

「《カーッ!何?あんさんら、俺っちと戦っちゃうつもり?2対1っつってもさぁ、こちとらテメェらみてぇなカス共を何十人も地獄にご案内してるのよねぇ。分かる?つまりさ》───」

 

──危──

 

─ガキキンッ─

 

「《は?何防いでくれちゃってんの?》」

何の構えも無い状態から、危険察知が働く程の殺気を感じた志狼は、瞬時に前に踏み出す。そして素早く左手の義手忍具、仕込み傘・磁鉄軸を展開し、音も無く飛来する弾丸を完璧に弾いた。

不意撃ちが不発に終わった神父はあからさまに苛立ち、ゴキリと首を鳴らす。

一方、弦一郎は志狼に正面を任せ、背後で1枚の護符を破った。

()()、此方雷狗(らいく)!・・・応答を!

・・・チッ、伝符が効かぬか。妙な結界を張っていると見える」

弦一郎が破ったのは、本来ならば通信機の役割を持つ《伝符》。しかし、何らかの結界に妨害されたのか、音信不通に終わる。

「《へぇ~?さっきは俺っちにキレまくってた癖に、連絡とかしちゃうんだ~。もしかして、勝てる自信が無いのカナ?やいやい弱虫ビビってるぅ~?》」

「耳を貸すな雷狗。うつけの戯れ言だ」

「おい()()、余り馬鹿にしてくれるな。報・連・相を知らぬ阿呆に気を揺るがされる程、俺は未熟では無い」

軽口のように志狼に返し、弦一郎は凶暴に頬を吊り上げた。

「《あーりゃりゃ。めーんどくせぇヤーツ》」

「キャアアアァッ!?」

「「ッ!?」」

唐突に響いた、絹を裂くような悲鳴。志狼と弦一郎が眼を向けると、其所には1人の少女が立ち尽くしていた。

「アル、ジェント・・・?」

その少女は、弦一郎が助け、案内したシスター・・・アーシア・アルジェントである。

「《げ、ゲンイチローさん?・・・何で、どうして・・・フリード神父!これは、どういう事なのですか!?》」

「《えー?何の事ぉ?》」

「《この!惨状の事です!何で、こんな酷い・・・》」

「《あー、このゴミ屑の事?コイツねぇ~、クソ悪魔なんかと契約しちゃうマジで屑などーしようも無いヤツだからさ。正義執行!って感じ?悪魔信望者なんざブッ殺コロしちゃうのが世のため人のため~って、教会でも散々言われてるでしょ》」

「《そんな・・・それでも!こんな、残酷に・・・》」

「《ハンッ、流石は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、悪魔だけじゃなく信望者まで庇っちゃうなんてホント終わって》」

「《黙れ》」

もはや黙って見ているのも限界となり、アーシアを庇うように前に出る弦一郎。強きは弱きを護るべし(ノブレス・オブリージュ)を信条とする彼には、フリード神父が放った罵詈雑言は聞き流せないものだった。

「《ゲンイチロー、さん・・・》」

「《アルジェントがどのような理由で此処に居るか、俺の知った事では無い。だが少なくとも、コイツは俺の知る吐き気を催す邪悪の類いでは無い。心清らかな、か弱い乙女だ。

故に俺は、アルジェントを貶させん。力を持つ者としてな》」

「《ハッ、感動的なラブロマンスですかァ?甘ったるいったらありゃしねぇなッ!》」

 

─ギャインッ─

 

フリードの光剣と、弦一郎の弓刀が交差する。並大抵の武器では一方的に溶断する光剣だが、それは相手が普通の金属だった場合の話。数千年使い込まれた地獄鋼から鍛造した葦名の弓刀は、その熱量にも容易く耐えて見せた。

「《ったく、何なんですかねぇそのサムライソードは。普通鉄ならズバッと切れちゃうってのに》」

「《お生憎様、地獄製の特注品だ。貴様の安物のライター如きで、焼き切れる代物では無いッ!》」

 

─ダゴグッ ドゴッ─

 

「ガハァッ!?」

弦一郎の前蹴りが、フリードの鳩尾に命中。其所から更に掴みに派生し、渾身の鉄拳を腹に叩き込む。

「隻狼!アルジェントを!」

「承知。《おい、こっちに》」

「《は、はい・・・》」

弦一郎に任された志狼は、アーシアの手を取りリビングを出る。一応玄関を確認してみるが、やはり悪夢の霧で閉ざされていた。

「ならば・・・試してみるか」

志狼は踵を返して階段を登り、バルコニーに出る。見立て通り、その縁には悪夢の霧は掛かっていなかった。白痴のロマのいるビルゲンワースでは、悪夢の霧を抜けても横に飛び降りる事で脱出出来る。それを思い出し、同じ事が出来るのではないかと期待した通りだった。

「《掴まれ》」

「《は、はい!きゃっ!?》」

節制生活で平均よりも軽いアーシアを抱え、外に跳躍。鍵縄で勢いを殺し、スムーズに着地する。

「《無事か?》」

「《は、はい、大丈夫です・・・あの、ゲンイチローさんは・・・》」

「《心配するな。弦ちゃんはあんな外道に負ける程弱くは・・・》」

 

──危──

 

「ッ!危ない!」

「《きゃっ!?》」

殺気を感じ、咄嗟にアーシアを突き飛ばす志狼。その直後、数本の光の槍が彼の背中を貫いた。

「がはッ!?」

「《え・・・うそ、いや!そんな・・・!》」

「全く、余り手間を掛けさせるなよ」

胴体に大穴を開け、倒れる志狼。アーシアは掌から光を溢れさせ身体に触れようとするが、空から降りて来た堕天使がそれを阻む。

「《いや!やめて下さい!やめて!》」

「暴れるな!クソ、人間風情が!」

「かはっ・・・!?」

腹を殴られ、アーシアの意識は暗転。倒れ伏す志狼はそれを睨むが、しかし身体は言う事を聞いてくれない。

「じゃあな、劣等種」

そんな志狼を嘲りながら、堕天使は飛び去った。

「《スタコラサッサ~、っと、あーらまくたばってやんの》」

隙を突いて逃げ出したのか、玄関から飛び出して来たフリードもまた、死に体の志狼を鼻で嗤う。そして足元に何かを叩き付け、出現したポータルに消えた。

「待てッ!・・・隻狼!大丈夫か!?」

「くっ・・・ガキッ」

 

──死──

 

自決用の青い丸薬(噛み締め)を噛み潰し、即座に死ぬ。中途半端な回復で死にきれなかった身体を、噛み締めの即効毒が瞬く間に殺した。

 

――回生――

 

「くっ・・・ここからでは、もう矢も届かぬか。外れたら大事になる・・・クソッ!」

弓刀を変形させたものの、歯噛みし握り締めるに留める弦一郎。

己の得物の間合いは、己が最も良く理解している。如何に葦名一の弓取りと唄われた弦一郎であれども、並の鳥よりも余程早く飛び去る的に市街地で矢を射掛ける程、己の腕には酔っていない。

「また・・・俺は、護れなかったか・・・」

「雷狗・・・聴け」

無力感に打ち拉がれる弦一郎に、志狼が語り掛けた。

「主は、絶対。命を賭して護り、奪われども、必ず取り戻せ・・・

父上の掟だ。彼女は、主に在らずとも・・・友では、あろう。ならば、取り戻すぞ。共に」

「隻狼・・・あぁ、そうだな。アルジェントは、今朝方街を案内した長い付き合いだ。

全身全霊を賭けて・・・彼女を救う!」

弦一郎の眼が、鋭く輝きを増す。その決意は心の刃となり、折れる事は無いだろう。

「そうだ・・・それと、済まなかった。俺が護れれば、最善だった」

「全くだ!熟々(つくづく)お前は、護衛に向かないと見える!」

「耳の痛い話だ」

「だが・・・」

容赦の無い批判から一変、声色に信頼が宿る。

「取り戻す事に掛けては、お前は手練れだ。お爺様の次にな」

「国盗りと比べられては、少々恐ろしいがな」

がちっと拳を打ち合せ、互いの気持ちに区切りを着ける。そして志狼は、懐から取り出した伝符を破った。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

葦原志狼
またまた影薄い戦国忍者。コイツ主人公だよね?コードネームは隻狼。
またまた護衛対象を攫われた。飛んでくる槍から遠ざけたから仕方無いかも知れないが、そもそもその槍も元から志狼を狙って放たれたモノだったので、ぶっちゃけ普通に弾けば良かっただけだったりもする。まぁ咄嗟だからね。

葦斑弦一郎
ノブレスオブリージュ弦ちゃん。コードネームは雷狗。
大切なモノの為に頑張るけど報われない、健気可哀想な弦ちゃん。
オーズの「長い付き合い」と、デモンズの「全身全霊を賭けて」を使った。因みにデモンズはベルト音声が中の人ネタ。

猩葦エマ
交渉や説明を任されている薬師。
今の狼でも忍具無しには容易く勝てない達人級の柔剣士。弱点は傘。

フリード・セルゼン
ゲス神父。原作よりも拷問が苛烈。
原作描写では普通に日本語で喋ってたけど、多分悪魔の駒の翻訳機能だから今回日本語は喋らせていない。
実はキャラを掴みかねており、間違ってないかちょっと不安。でも確認しようにも原作はちょっと受け付けない。

アーシア・アルジェント
ド天然シスター。
何でフリードがこの子をひっ連れて来たかは謎。仕事終わりにオタノシミでもする予定だったんだろうか。
実はパニクりつつも志狼に治癒を施したが、そのせいで志狼はスムーズに回生出来なかったと言う、致し方無くはあれども戦犯行為を働いてしまった。

~アイテム紹介~

伝符
現代陰陽師が使う札の1種。天猫作。
手短な伝達の為に用いる使い捨て式通信用呪符であり、真ん中のミシン目で上下に破る事で起動する。下半分が送話符、上半分が受話符であり、送話符には《送耳》、受話符には《受口》の呪紋が描かれている。
親符と子符があり、志狼達の持つモノは子符。
親符は全体放送と選択送受が、子符からは親符と送受可能。それを傍受するだけならば、札を破る必要は無い。


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