海賊王におれは・・・・・ならないから! (ダーク・シリウス)
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湯浴み中の全裸で絶世の美女

おはよう、それともこんにちは?それともこんばんわ?俺の名前は兵藤一誠だ。突然何だが俺は変な事に巻き込まれたらしい。いきなり話の冒頭で何を言っているんだ?と思われるだろうがありのままを説明しよう。何も変わらない日常が突然一変するという体験や経験をした事があるだろうか?俺は勿論ファンタジー的な世界の人間であるためあるのだが・・・・・。

 

―――風呂に入ろうと脱衣所の扉を開けた矢先に、見知らぬ浴場に出てしまい湯浴みしているこれまた背中に何かの足跡、竜の足のマークのようなものを刻んでいる見知らぬ女と目が合った一瞬の沈黙。

 

「そのマーク、もしかして」

 

「・・・・・!?男!?」

 

濡羽色の長髪と瞳の女が俺を見るや否や敵視する目付きで睨んで「見たな」と呟いてきた。不可抗力とは言え、見ず知らずの女の裸体を見てしまったからには怒りを抱かれようと仕方のない事だが、彼女が顔も知らぬ者達の名を叫んで呼び寄せた。身長は優に2メートルは超えてマントを羽織り、水着のような衣装を身に纏っている蛇のように長い舌を口から出している緑色の長髪の女に、豊かな亜麻色で長髪の恰幅が良いどころではない体格で槍を持っている女の出で立ちに違和感を覚えた。

 

「姉様!」

 

「姉様一体どうしたの!?」

 

三姉妹?それとも慕って姉と呼んでいるのか定かではないが、彼女達も俺を見た瞬間に驚愕の面持ちをして臨戦態勢に入った。

 

「誰だあれは!・・・・・男!?男が何故この国に・・・・・!?」

 

「姉様!ローブを・・・・・!・・・・・一体何が起きたの・・・・・!?」

 

黒髪の女性は裸体を隠すバスローブを羽織る様に身に包みつつ、俺に注視する目線を向けてきながら事の経緯を口にした。

 

「背中を・・・・・見られた・・・・・!」

 

「「っ!!?」」

 

女性達がこの世の終わりといった風に目を瞠目し、敵意を隠さずに臨戦から攻撃の態勢に構えだす。

 

「―――では、死んでもらう他ないわね」

 

「え?背中を見たくらいで?―――いや、待ってくれ。全身全霊で謝るから、見たものは全て忘れる前提で俺の話を聞いてくれ」

 

「そなたが見た背中のこれはわらわ達がたとえ死んでも見られたくないものじゃ・・・・・!」

 

「アレが?何で?ただの入れ墨のような・・・・・」

 

「っ、見たもの全て・・・・・!墓場へ持ってゆけ!!『メロメロ甘風(メロウ)』!」

 

問答無用で両手を前へ、こっちに突き出しながらハートの形にした両手から波紋状のハートマークが飛び出して来て、当惑する俺に当たってしまうが・・・・・身体に何の変化も起きない。不思議で彼女に対して何がしたいんだ?と目で向けると彼女自身も当然の結果が起きず不思議そうにもう一度さっきの波紋状のハートマークを飛ばしてきた。でも、結果は変わらなかった。直撃する俺の体を通り過ぎて浴場の壁の向こうへと消えていく光景を一瞥して振り返り、攻撃してきた彼女と二人の女と一緒に『何が起きた?』的で疑問符を浮かべながら首を傾げた。

 

「なぜ石化せぬのじゃ・・・・・!?わらわの湯浴みの姿を見ても何ら心が動じておらぬのか!?」

 

「そんなバカな事はないわ姉様!姉様の裸体は老若男女問わず見惚れる美しさ!」

 

「おそらく死への恐怖心が凌駕したのだわ、情けなくも運の良い男・・・・・!」

 

物凄く動揺して何だかワケのわからない事を口にする三姉妹なんだけど、今の攻撃が対象を石化にするもんだったとはちょっと信じられず、危機感を抱かなかった俺に対して呆れて何とも言えなかった。

 

「あー・・・・・抵抗はしない。捕まえるなら構わないけど、俺の話だけは耳を傾けてくれないか?」

 

と、抵抗せずに降伏する俺だったけど・・・・・・処刑場に連行されてしまった。

 

「きゃ~~~~♡蛇姫様~~~~~♡」

 

「マリーゴールド様~~~~~♡」

 

「サンダーソニア様~~~~~♡」

 

処刑場を取り囲む観客席には女・女・女・女。女しかおらず処刑をする舞台の眼前に三人が居座る高台の席に座っていて、更にその奥には大きく『闘』という文字が描かれた外壁。立たされてる現状の俺の心境はとても複雑でならない。一方的に殺されるのは御免蒙るし話し合って平和的解決を臨みたいのに・・・・・。そんな俺は複数の蛇に拘束されている状態で事情聴取を行われ始めた。

 

「―――――では聞くが『男』・・・・・!!!そなた何の目的でどうやってこの島へ入った・・・・・!!」

 

「島?国?ここは何て島で国なのかすら俺自身も分からない。扉を開けた矢先にさっきの浴場にいたんだから」

 

「ウソをつけ!その様な滑稽話でゴマかされはせぬ・・・・・狙いがあるハズじゃ」

 

「狙い?いや、無いけどここはどこなのか教えて欲しいぐらいだ。分かったら即座にこの島から出ていくよ」

 

淡々と正直に嘘偽りも無く返答していくが、俺に対する疑心は少しも晴れていないようで彼女は見下した目で宣告した。

 

「・・・・・生きてここを出られると思うな。死は免れぬ・・・・・」

 

「おいおい・・・・・平穏に事を進めれないのか?えーと、蛇様だっけ?」

 

「男が気安くわらわの名を口にするでは無い・・・・・・『バキュラ』を闘技台へ!」

 

駄目だ、聞く耳を持ってないどころか俺を殺す気満々だ!

 

「ここは戦士の国アマゾン・リリー。強い者こそ美しい・・・・・精一杯戦って散るがよい・・・・・わらわ達が見届けてやる」

 

あ、国の名前教えてくれてありがとう。と言ったら無視されて処刑場と思ったこの闘技台に一匹の獣が現れた。この獣、黒豹が腹を空かしてる様子で舌なめずりする。ただ、俺が知っている黒豹より三倍ぐらい大きい。どうなっているんだ?

 

「その黒豹の名は『バキュラ』。この国の皇帝に代々処刑人として仕える肉食獣・・・・・処刑後は人の骨一本も残らぬ」

 

蛇が豹から逃げるように身体の拘束を解いて去っていっても、胡坐を掻いたまま高台にいる蛇姫に乞う。

 

「なぁ、俺は情報と知識が欲しいだけなんだ。お互い何も知らないままこんなことになってるんだし、話し合わないか?穏便に済ませたい」

 

「断わる。この国は男子禁制、数百年続くこの国の絶対の規律だ。ましてや一度入れば即処刑するのがこの国の決まりであり掟じゃ」

 

この国、この国と主張する蛇姫はこの国の中でトップに君臨する者だともう察した。逃げるだけなら簡単だけど、何も知らないまま逃げたら彷徨うだけだし・・・・・流れに身を任せるしかないか?

 

「ゆけバキュラ!」

 

「ガルルルルルルルルルァ!!!」

 

牙を剥いて襲いかかってくる黒豹。周囲の女達の反応を見る限りでは、俺が食い殺される事は確定、敗北は当然の姿勢で見守っている。

 

「俺は死ぬ気も殺されるつもりはないから、抵抗させてもらうぞ」

 

そんでもって、モフモフモコモコは俺にとっては宝だ。怪我をさせるような真似はしない、したくもないから―――ただの威圧で豹の意識を奪った。ついでに三姉妹にも周囲の女達にも軽く放ってみたら、客席にいる一部の女達がバタバタと気絶していく。

 

「キャー!」

 

「戦士達が気絶していく!」

 

「・・・・・!?これはまさか・・・・・!!」

 

・・・・・?思っていた反応と一部違うな、どうでもいいけど。

 

「もう終わりか?もしそうなら今度はこっちの番だ。俺の質問に応えて欲しい」

 

「・・・・・思い上がるな男。バキュラを倒した程度でそなたの死刑は変わらぬ」

 

「だーかーらー、人を簡単に死刑するのはどうかと思うぞ。ちょっとは人の話を聞いてくれっていくら偉いからって横暴過ぎるぞ」

 

辟易する思いで蛇姫に話しかけても変わらぬ思いと態度で鼻で笑われた。

 

「―――わらわは・・・・・何をしようと許される・・・・・・!!なぜなら・・・・・」

 

濡羽色の髪を触れながら微笑する蛇姫。

 

「そうよわらわが美しいから!!!」

 

客席にいる女達が目をハートにするほど色めきたつ。すげぇ、目がハートになるところなんて初めて見た!この国じゃ蛇姫はアイドル的存在なんだな。

 

「・・・・・ふふ、そなたも・・・・・そうであろう・・・・・?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

美感的のことを問われているんだろうな。是か非か答えれば是だけど・・・・・。

 

「確かに美しいと思うけどさ・・・・・・ぶっちゃけ、お前より美しい女は他にも知っているから」

 

特に美の化身と自他共に称している女神がトップだろ。それでも好きな女性の方が綺麗だと思うけどな。

 

「ああ、それと・・・・・今の発言・・・・・個人的に物凄くムカツクからお前のこと少し嫌いだわ」

 

「!!!?」

 

蛇姫が両手を胸に当てて酷くショックを受けた様子で仰け反った。

 

「そんなバカな事はない・・・・・わらわの虜にならぬ男などおる筈がない・・・・・あの男の存在にわらわは堪えきれぬ」

 

「おる筈がないって、全世界の男を虜にしたつもりでいるならそいつは思いあがりで傲慢だぞ」

 

「はうっ!?」

 

またショックを受けて顔色が悪くなった蛇姫。どれだけ自分に自信があるんだこの人は?呆れる俺に客席から「死刑!」「死刑!」「死刑!」と大ブーイングの嵐が・・・・・。

 

「マリーゴールド!サンダーソニア!」

 

高台から二人の姉妹が降りて来て俺の目の前に立つ。

 

「あの男の首を取るのじゃ!」

 

蛇姫の命を受けた彼女達に臨戦態勢の構えを取る俺の目を見開かせた。首が長くなり出し、髪も更に伸びて身体の体格が人から別の何かに変わり・・・・・。

 

「出たわ!ゴルゴンの呪い!」

 

「妹君達の蛇穴(さらぎ)の舞いが始まる!!」

 

『死刑!』『死刑!』『死刑!』

 

彼女達の体は胴体が長い蛇のように変わり果てた。神器(セイクリッド・ギア)の能力・・・・・じゃなさそうだ。蛇女の魔物の名前が客席から挙がったけど、どうなってるんだ?

 

「きゃ~~~~♡何て荘厳な姿っ!!」

 

「これこそが怪物ゴルゴンを倒して得た強さの戦士の証!」

 

「呪われた妹君達もまた素敵♡」

 

呪われた?うーん、やっぱり情報が少なさ過ぎてわからないことだらけだな。客席の女達は「死刑!」を連呼して場を盛り上げる声を発し続ける最中、王者の立ち振る舞いをする蛇姫が高らかに叫んだ。

 

「やれ!!サンダーソニア!マリーゴールド!女ヶ島侵入の大罪を!わらわの侮辱した罪を!極刑『武々』にて知らしめよ!」

 

「うふふ・・・・・丸飲みにしちゃおうかしら?」

 

「締め殺しちゃおうかしら?」

 

事態が悪化する一方だ・・・・・。

 

「お前等を倒したら俺の質問に応えてくれよ」

 

せめてそうでなければ困ると思って言ってみたら客席から哄笑の声が湧きあがった。おかしなことを言ったか?と不思議に思って首を傾げてしまう俺にマリーゴールドとやらが話しかけてきた。

 

「―――まだ命を諦めてないのなら教えておくけど、客席と闘技台の間の溝には落ちない方が良いわよ。落ちても良いけど・・・・・そこは剣で埋め尽くされてる」

 

どういうことだ?と確かめに視線を闘技場から落とすと剣でズラリと埋め尽くされている底があった。生身の人間が落ちたら運が良くても重症、最悪だったら死だろう。

 

「さ・・・・・始めましょ」

 

『死刑!』『死刑!』『死刑!』

 

公開処刑が始まった。巨大な蛇と化した姿で偃月刀を激しく振るってきた。気で具現化した双剣で応戦して戦い始める。客席からマリーゴールドを声援する声が湧く最中、彼女の口から何かを吐いた。上半身を仰け反らせてかわすと闘技台の柵が嫌な音を立てて溶けた。

 

「毒か?あぶねぇな」

 

「猛毒よ!残念っ!」

 

「どっちも同じだろ!―――川神流っ」

 

硬く握り締めた拳でマリーゴールドに殴りかかろうとした俺の背後から、蛇の尾が絡まって来て見動きを封じられた。

 

「マリー、私も遊ばせてよ」

 

尾だけ動かして寛いでいるサンダーソニアに捕まり万力のごとく締め付けられる―――がっ!身体を小さくして瞬時に脱出!

 

「男が、小さくなった!」

 

「男ってそんなことできるの!?」

 

客席の女達が驚きと好奇心で俺を見てくる。まぁ、できなくはないと思うぞ。元の大きさに戻れば「身体が大きくなった!」と叫ばれる。

 

「今度は優しく包んでくれよ。蛇の身体の肌触りは心地いいんだからさ」

 

「なら、今度はそれを感じる暇もなく絞め殺してあげるわ」

 

「できるものならやってみろ」

 

不敵の笑みを浮かべて俺を四人ほど増やした。魔法による分身体達で闘技台に増える俺に対してこの場にいる一同が目を見開かせる。

 

「男が、増えた・・・・!?」

 

「落ち着きなさいマリー、きっと私達に幻を見せているだけだわ」

 

―――本当に、そう思えるのか?四人の分身達がバッと駆け出して二人にそれぞれ二人ずつ攻撃を仕掛けた。幻では無いぞ。魔力の塊の分身だから実体化して物理攻撃も可能なんだ。

 

「くっ、なんなのこれは・・・・・っ!?」

 

「男め・・・・・っ!」

 

分身に翻弄されて本来の動きと攻撃が中々通じず、一人を相手してたらもう一人に攻撃されるというシビアな展開に闘技台の周囲は唖然の雰囲気で静寂していた。

 

「こうなったら、本物を殺してしまえば!」

 

傍観者気分で突っ立っている俺にサンダーソニアが睨視してくる。何か仕掛けてくる様子を見守っていたら豊かな髪が意思を持っているかのように蠢きだした。

 

「蛇髪憑き『八岐大蛇』!」

 

髪の毛を七匹の蛇と化して襲いかかってきた。本人も含めて八岐/大蛇なのか?牙を剥いてくる髪に俺がかわすと闘技台の柵を噛み砕くという有り得ない事実に驚嘆する。ただの髪の毛が変化した蛇だというのに、あれではまるで鉄の牙に等しい。

 

「キャー!行けー!サンダーソニア様~~~~っ!!!」

 

客席からの声援に包まれる中、それからも連続で襲ってくる蛇髪をかわし続ける俺に、意識を向けてる彼女の目と鼻の先で現れた分身体。二人がガッとサンダーソニアの顔を手で添える様に掴むとそのまま闘技台の床に思いっきり叩きつけた。一方マリーゴールドの方は必殺技にまで昇華した正拳突きを放つ二人に得物の柄を折られながら殴られ、衝撃を受け止めきれず上半身が仰け反り錐揉みしながら吹っ飛んだ。場の盛り上がりはすっかり沈黙で静まり返って目の前で起きた光景を信じられないと開いた口が塞がらない女達が多く見受けられる。

 

「・・・・・ソニア!マリー!・・・・・そなた達、一体何を遊んでおるのじゃ・・・・・!!!」

 

中でも一番この結果に許し難くお冠な蛇姫は、憤怒が籠った声音を言葉に宿して妹等に話しかけた。委縮する二人は恐れ戦きながらも処刑の実行を継続する。マリーゴールドが手の平サイズのマッチをどこからともなく取り出し、火を灯したと思えばその火で全身に纏い。

 

「蛇髪憑き『炎の蛇神(サラマンダ)』!!!」

 

炎と化した髪を燃え盛る二匹の蛇に実体化させた彼女に対してサンダーソニアも髪を『八岐大蛇』にして、俺に逃げ場を与えない。

 

「これ以上の無い攻撃!」

 

「どんなに増えても絶対に負けないっ!」

 

沈黙していた客席も昂る高揚感と、信用と信頼に満ちた確信を二人に送る声援が湧く一方。今日まで敗北した彼女達の姿を見たことないからだろうが・・・・・相手が最悪だったってことを教えようか。

 

迫りくる蛇髪達の目前で真紅の長髪が金髪に、片目の金が蒼と翠のオッドアイに、背中から金色の六対十二枚の翼を生やし、頭上にも金の輪を浮かべた姿に変えては、鋭利な刃物と化した翼で彼女達の髪の毛を切り刻んで攻撃を無効化。

 

『!!?』

 

また客席が絶句で開いた口が塞がらない程に静まり返った。二人の蛇女も絶句で動きを止めてる間に翼で長い体に巻き付けて引き寄せた。そうすれば肩をぶつけ合うように接触するサンダーソニアが燃え盛っているマリーゴールドから炎が移ってしまい。

 

「きゃあああああ~~~~~っ!!熱い!!!」

 

「しまった!ソニア姉様っ!!!早く離れてっ!!!」

 

燃える己から突き離して遠ざけるも、炎の熱で身悶えるサンダーソニアを今の状態では助ける事が出来ず見守ることしかできないマリーゴールドに異変が起きた。

 

「え!?」

 

身体がガク!と自分の意思に反して動き、引っ張られる。その理由は炎に包まれてじたばたと暴れてるサンダーソニアの―――尾と自分の尾が硬く結ばれている事だと気づくマリーゴールド。四人の分身体達がハイタッチし合ってるのを余所に、二人は今も尚も身に起きている事態を収拾することができないていた。

 

「熱い!!熱い助けて!!!」

 

「待って姉様っ!!私まで・・・・・!」

 

服に引火し身を焦がす炎によって、苦痛でサンダーソニアが周りが見えずに激しくのた打ち回る先を察知したマリゴールドが焦燥に駆られて疾呼した。

 

「ソニア姉様!!危ないそっちは剣の溝!客席に掴まって!」

 

辛うじて妹の声が耳に届いたのか、のた打ち回っていた身体が客席と闘技台の間に落ちる寸前で我武者羅に両手を伸ばして客席の縁を掴んで落下を防いだ。客席からどよめきが生じてサンダーソニアの安否を気に掛ける声が聞こえる時・・・・・。今まで彼女を苦しめていた炎が消えていたが、身に包んでいた衣服が焼失していた事に気づく。

 

『そなたが見た背中のこれはわらわ達がたとえ死んでも見られたくないものじゃ』

 

脳裏に過った言葉を思い出したら身体が動いた。宙に浮いてサンダーソニアの背中に翼を巻き付け、あのマークを隠した。

 

「男が追い打ちをかけてきた!!!」

 

「非道な!!!」

 

「ソニア様を串刺しにする気よ!!!」

 

ブーイングの嵐が客席から聞こえようと気にせず、彼女の背中に乗って佇む。

 

「男・・・・・何をっ・・・・・!!!」

 

「暴れるな。お前等が俺を殺したくても、俺はお前等を殺す気はない」

 

「生意気な!!マリー!!今の内にこの男を!!!」

 

自由が利くもう一人にサンダーソニアが催促するものの、マリーゴールドは俺達の様子を見てその場から動けずにいた。何時までも攻撃しない妹に疑問と苛立ちで振り返りながらもう一度催促の言葉をかけた。

 

「何をしてるの!?マリー!!」

 

「無理よソニア姉様・・・・・!!」

 

妹の言動に訝しげるサンダーソニアが耳にした。

 

「その男は私達を守っているから・・・・・!」

 

守っている?自分を?理解し難いと物語っている彼女の顔は客席からのざわめきの方へ向け始めた。

 

「見て!!サンダーソニア様の衣服が燃えて背中がはだけてる!!」

 

「あの男が翼を解いたら『ゴルゴンの目』が露わに!!」

 

彼女等の言葉に自身の状態を改めて気付いたサンダーソニアの力が徐々に抜けていく。不用意に殺せなくなった隙に問い掛ける。

 

「お前ら、その背中を死んでも見られたくないんだろ。だから暴れるな」

 

「!!!」

 

次の瞬間。高台にいる蛇姫が疾呼した。

 

「『武々』は終わりじゃ!!!ゴルゴンの目が晒される前に!!!みな会場を出よ!!!」

 

女達は蛇姫の言葉に呼応して一斉に闘技場の外へと駆け出して行った。一人も残らずいなくなるまではずっと変わらない姿勢で待っているとサンダーソニアが訊ねてきた。

 

「私は今、戦っていた敵だぞ・・・・・何故庇うのだ」

 

「さっきも言っただろ。お前等が死んでも見られたくないモンだろと。だからそれは俺との勝負は別の話だ」

 

しばらくして、闘技場から三姉妹と俺以外の者は誰もいなくなった。

 

「で、次はお前が相手をするのか?」

 

「・・・・・」

 

戦意を喪失した二人は戦う意思はもうないと蛇姫に向かって正座をしている。サンダーソニアの背中はどこにあったか知らない布をマリーゴールドが持って来て隠してる。謝罪してちょっぴり悔しそうに言うが蛇姫は妹達の言葉を気にせず強張った面持ちで言い返してきた。

 

「もうよい―――そんな気分ではない・・・・・」

 

「そっか・・・・・じゃあ、これで話を聞いてくれるんだな」

 

天使化を解いて俺も戦意を解く。ようやく質問攻めが出来ると踏んだ矢先に「城にこい」と言われた。

 

―――†―――†―――†―――

 

『皇帝の広間』

 

闘技場を後に俺は、この広間に連れて来られた。尊厳溢れ、京都の歴史ある建物のような木造で作られていた。天井を支える幾つもの支柱にカーテンが設けられていて、サンダーソニアとマリーゴールドと並んで腰を下ろしている俺の目の前にはカーテンで閉ざされたキングベッドよりも大きい寝具が置かれている。俺の頭上には大きなシャンデリアもあり、本当にここはどこなのか見当が付かないでいると二人から話しかけられた。

 

「・・・・・あなたにはお礼を言わなきゃね・・・・・ありがと」

 

「背中のものを見られたら私達はもうこの国にはいられなかった・・・・・」

 

「そこまでのものなのか?俺は現状が把握できていない程無知だからよくわからん」

 

バツ悪そうに話すとカーテンの向こう側から蛇姫が声を掛けてきた。

 

「入ってよいぞ・・・・」

 

「ん?」

 

「中に入れ男」

 

中に?二人を交互に目を向けると無言で頷かれ、カーテンの奥へと身を潜らせてみると・・・・・何故か上着を脱いで裸になってる蛇姫の姿が目に飛び込んできた。

 

「・・・・・痴女?」

 

「相変わらず・・・・・無礼な反応じゃ。まあよい・・・・・」

 

後ろへ右腕を回して背中に流れ落ちている濡羽色の長髪を横にずらした姿勢で、浴場で見たあのマークを見せつけてきた。

 

「―――このマークを・・・・・そなたは知っておるようじゃが、どこで知った。この印の意味が分かるか・・・・・?」

 

蛇姫からそう問われて俺は即座に言い返した。

 

「いや、単純に竜の蹄のマークかなって思っただけで何の意味があるのかさっぱりわからん」

 

「・・・・・そう、なのか」

 

背中に焼かれて刻まれた烙印に込められた意味は本当に分からない。それが死んでも見られたくない印だと言われてもピンと来ない俺に蛇姫は振り返った。

 

「そなたの感想は的を得ておる。が、知らぬのであれば・・・・・よい」

 

「そう言われると逆に気になるぞ。そのマークで処刑されかけたんだからな」

 

「それは、すまぬことをした・・・・・。だが、そなたにソニアの背中を隠してもらえなければ、わらわ達はこの国にいられなくなっておった。それだけはそなたに感謝している」

 

そこまで国中の女達が忌避するほどのものなのか?怪訝な思いで再度訊ねた。

 

「本当に誰にも死んでも見せられないものなんだな?」

 

「・・・・・そうじゃ」

 

「んー・・・・・だったら消してやるよ」

 

なに?と返してくる蛇姫を抱きしめる形で背中に腕を回して竜のマークに手を触れる。

 

「な、何をっ・・・・・!!!」

 

「ジッとしてろ。直ぐに終わる」

 

手に淡い光を纏って癒しの魔法を放つ。魔法的なモンだったら別の方法でしなくちゃならないけど、ただの烙印だったら可能だ。蛇姫を抱きしめて数秒、彼女から離れてこう言う。

 

「背中の烙印を消しておいた。これなら間違って誰かに見られたとしても問題ない」

 

「「「っ!!?」」」

 

信じられないと目を見開く蛇姫。姉妹を呼んで背中のマークを確認してもらい・・・・・。

 

「姉様・・・・・消えてる、烙印が消えてるわっ・・・・・!!!」

 

「信じられない・・・・・一体どうやって・・・・・・!?」

 

事実であると二人に大きな鏡を手渡し、蛇姫にも背中の状態を認知してもらった。健康的な肌色の背中にあのマークが消えているところを知った蛇姫は追究してくる。

 

「そなた、どうやって烙印を消したというのじゃ・・・・・」

 

「それはこれからお互い話し合えばすぐわかることだよ」

 

「ならばわしもその話し合いに交ぜてもらおうかニョ」

 

第三者の声が皇帝の広間に届き、杖と化した蛇を携えて小人のような老婆が何時の間にかそこにいた。

 

「ニョン婆・・・・・・!!」

 

「どちら様で?」

 

「アマゾン・リリー先々々代皇帝グロイオーサ様よ。皆からニョン婆って呼ばれているわ」

 

マリーゴールドに教えてもらったが、何故名前じゃなくてニョン婆って呼ばれるのか気になるところだが・・・・・?それにそんな人物がどうしてこのここにいるんだろうか。

 

「おぬし、蛇姫達の背中の烙印の意味を知らぬまま消したようじゃニョ」

 

「ああ、悪いか」

 

「良いも悪いも、おぬしは知って後悔せねば良い話じゃ」

 

なんだ、教えてくれるのか?ニョン婆へ振り向いたらハンコックが憤怒で叫んだ。

 

「ニョン婆、余計な口出しはするな・・・・・っ!!」

 

「この男の器を知らず皇帝が何たるか蛇姫よ。そなた、まことに三人の背中のマークを知らんニョならば教えようか」

 

教えてくれるなら聞かせて欲しいと首肯すると、ニョン婆も小さく頷いて口を開き語ってくれた。

 

「蛇姫達の背中にあった烙印の意味は、『天駆ける竜の蹄』・・・・・『世界貴族』の『天竜人』の紋章じゃ」

 

「天竜、人?」

 

「本当に知らぬとは、どこのド田舎に暮らしておったニョかおぬしは?」

 

と、呆れられた感じで言われたがしょうがないだろうと自己完結する。

 

「その紋章には、『世界貴族』に飼われた者に焼き付けられる一生消えることのない〝人間以下〟の証明の意味も込められておるニョじゃ」

 

「・・・・・」

 

死んでも見せたくない、見られたくない蛇姫達の気持ちがようやく理解したところで俺の中で天竜人に対する怒りの炎が燻ぶった。

 

「蛇姫達の背中の紋章が表に曝した瞬間。この島にはおらぬところであったが、そなたが消したことでその不安も無くなったっと過言ではない」

 

そうか・・・・・だったら不公平はだめだよな。そう思いながらサンダーソニアとマリーゴールドへ話しかけた。

 

「二人の背中のマークも消してやろうか?」

 

「で、できるの?姉様のように私達の背中のものまでも・・・・・」

 

「できるから言ってるんだ。何時までも嫌な思い出と共に刻まれたマークを背負うのは嫌だろ?」

 

「・・・・・貴方は一体、何者なの」

 

だから話し合いがしたいって始終言ってるじゃないか、と口にしながら二人の背中にも蛇姫のマークと同様に消してやった。後に感謝の言葉を送られるが気にするなと言った。

 

「それで男、感想はどうなのだ?」

 

「質問を質問で返すけど、今でも天竜人は奴隷を?」

 

「そうじゃな。女ヶ島から一週間以上の航海で辿り着く島、シャボンディ諸島に奴隷を売買している上に天竜人も奴隷を買いに訪れる事は度々ある。故に数え切れない数の奴隷を抱えて暮らしておるのは間違いないニョ」

 

「・・・・・そうか、じゃあ俺の感想はこうだ。―――天竜人って何処に住んでる?」

 

「ニャんじゃそれは?聞いてどうする?」

 

どうするも何も、決まってるだろ。

 

「人の人生を蔑ろにする奴から助け出した後、完膚なきまで潰すからだ」

 

「おぬし、自分が何を言っておるニョか分かっているニョか。世界を敵に回すもニョじゃ」

 

「上等だ!」

 

「「「!?」」」

 

面を食らった風に驚く三人を気にせずニョン婆に食って掛かりながら怒気を発する。

 

「人が人を買う何て動物や畜生じゃないんだぞ、世界や神が許しても俺は許せない!世の中は理不尽で溢れているだろうが、それでも人権を奪い人間扱いせず飼い殺しするような連中を野放しなんてできるか!」

 

「天竜人には誰も逆らわない―――それが世界の鉄則でもか」

 

「たかが天竜人がなんだ、神でも俺はァ逆らうぞ」

 

ニョン婆と面と面を向かい合って本気で言い、真剣な眼差しも送って断言する。

 

「だから居る場所を教えてくれ」

 

「・・・・・」

 

「それかシャボンディ諸島だな。あそこで奴隷を買いにきているなら何時か会えるだろうし」

 

俺が本気で言っているのが分かったのか、嘆息した風に息を吐いて頷いた。

 

「天竜人がおる場所は―――」

 

海軍本部『マリンフォード』の真後ろに聳え立つ、世界の海を二つに分断する形で隆起している赤い土の大陸(レッドライン)の頂上に世界貴族が住んでいる聖地マリージョアにいると教えてくれた。

 

「・・・・・そなた、本気でマリージョアへ行くのか」

 

「ああ、冗談じゃないぞ」

 

「天竜人に手を出せば世界政府は黙っておらんし、海軍本部の大将が現れるぞ」

 

「海軍大将?」

 

「海軍の最高戦力の者じゃ。人数は三人で三大将とも称され、全員自然(ロギア)系の悪魔の実の能力者・・・・・そなたがいくら強かろうが敵わぬ相手じゃ」

 

悪魔の実の能力者?なんだそれ?聞いた事もないなと風に首を傾げる反応を示せばニョン婆が教えてくれた。

 

「それすら知らんニョか?悪魔の実とは摩訶不思議な能力を宿っており、その実を食べると二度と海を泳げない代償に特殊能力を得るニョじゃ」

 

カナヅチにならなくちゃ摩訶不思議な能力を得られないって・・・・・アホの極まりじゃないか。

 

「んー、もしかして三人共悪魔の実を食べた?」

 

「ええ、そうよ。私とマリーは『ヘビヘビの実』を食べ、姉様は『メロメロの実』を食べた能力者よ」

 

サンダーソニアが教えてくれた。今まで何かの能力的な攻撃や言動をしてきたから何となくそう思ったけど、やっぱりそうなのか。

 

「二人はともかく、蛇姫はどんな効果の能力なんだ?」

 

「わらわに見惚れた者を石にする」

 

「あーうん、だから俺には効かないわけだ」

 

蛇姫に対して一瞬でも見惚れてないから石化にならない。ただ、その悪魔の実とやらは知らないから単純に考えてはダメそうだ。

 

「話を戻すけど、俺は悪魔の実の能力者じゃないんだ」

 

「では、どのようにしてあのような身体の変化が起きるのじゃ?」

 

「んーと、話しても構わないんだけど・・・・・信用してもらえないな。滑稽話として片付けられるのがオチだ」

 

「それを決めるのは話を聞いた後でする。申せ」

 

と、催促されたから身の潔白も兼ねて俺の素性を明かすのだった。

 

「・・・・・異世界から来た異邦人じゃと?」

 

「信じられないだろ?だから別に信じなくても良いさ。信じてもらおうなんて考えてないし」

 

「仮に事実だとして男・・・・・どうやってこの島に異世界から来たというの?」

 

「何度も言ってるじゃん。風呂に入ろうと扉を開けたらここに入ってしまったって。どうしてそうなったのかもわからないままなんだよ」

 

嘆息し己の身に起きた状況を未だ分からないままの状態の俺。さっさと色々と把握したいから教えを乞おうと口を開いたところで、蛇姫が俺より早く話しかけてくる。

 

「・・・・・そなたにはまた感謝せねばならぬな。一生()せないわらわ達の傷を()してくれた」

 

「礼は良いから話し合おうよ。俺、今の状況と状態が把握できずに困ってるんだ」

 

「そればかり求めるな。何か不都合でもあるのか?」

 

「物凄くあるんだ。家の浴場に入ろうとしたらこの島に来てしまったんだぞ。元の家に戻れない状態だし、もう嫌な予感しか考えられないんだ」

 

肩を落として首を垂らす俺に三姉妹は不思議そうに視線を向けてくる気配を感じる。

 

「そなたの心情はよくわからぬが・・・・・わらわ達が知る限りのことであれば何でも問うがよい」

 

「ああ、そうさせてもらう。聞きたいことは山ほどあるから俺が納得するまでは終わらないと思ってくれ」

 

それからの俺はマシンガンのようにあれこれと蛇姫達に質問攻めを繰り返した。そしたらどうだ・・・・・。十分

後の俺は・・・・・物凄く落ち込んだ。床に沈む勢いで落ち込んだ!

 

「・・・・・・」

 

「男・・・・・大丈夫であるか。この世の終わりとばかり顔が暗く表情が失っておるぞ」

 

「・・・・・他にどんな風に見えるんだよ。見えなきゃ眼科に行け」

 

「「が、がんか・・・・・?」」

 

・・・・・・そうか、そうなのか・・・・・何で俺はこんな目に遭うんだろうか・・・・・。

 

「チクショウ・・・・・何だよ大海賊時代って、何世紀前の話なんだよ・・・・・おもっきし異世界に来てるじゃん。何で風呂に入ろうとしたら異世界に入ってしまったんだよ俺は・・・・・滑稽過ぎるだろ」

 

―――と、以上が俺自身とんでもない事に巻き込まれた経緯であった。これから先俺はどう生きていけばいいのか、皆のところに帰れるのか不安で堪らない!

 

「聞きたい事はもう無くなったか?」

 

「いや、まだあるが今日はもう聞かない。今度はそっちが俺に聞きたい事があるなら何でも聞いてくれても構わないぞ」

 

「では問おう。そなたは天竜人の一件を終えたらどうする気でおる。行く宛てや帰る場所はあるのか?」

 

「ない。この島から出てもどこへ行けばいいのかわからないぐらいにな」

 

「本当にそなたは何者なのじゃ?」

 

「俺が何者って、お互い自己紹介も名乗ってすらないんだからそれこそわからないだろ?」

 

なぁ?と蛇姫の妹二人にも同意を求め、俺から名乗る。

 

「俺は兵藤一誠って言うんだ」

 

「ヒョウドウ・イッセイ?不思議な名じゃな。・・・・・わらわは女ヶ島アマゾン・リリーの現皇帝にして九蛇海賊団の船長ボア・ハンコックである。お前の隣に居るのは、わらわの妹のマリーゴールド、サンダーソニアじゃ」

 

皇帝に海賊団の船長って・・・・・凄いなおい。女帝ってことだろ。また俺はとんでもない人物と知り合いになったもんだよ。

 

「兵藤一誠といったな・・・・・。そなたは身体が小さくなったり奇怪な姿に変わるとは複数の悪魔の実を食べた者か?」

 

「違う。俺の力は悪魔の実の能力ではなくて神の恩恵みたいなもんなんだよ」

 

「神の恩恵?」

 

「うん、元の世界には色んな神様が実在していてな?その中の一人の神様が人間や人間の血を流す異種族限定で摩訶不思議な能力―――『神器(セイクリッド・ギア)』って力を宿したんだ。ただし、その能力を自由に扱うには様々な環境と切っ掛けが必要なんだけど、それが千差万別で大半が自分の身に不思議な能力が宿っている事を知らず一生を終える人間が多い」

 

と、当然の常識として教えれば「その恩恵を得ても海を泳げるの?」と聞かれた。

 

「泳げるぞ?」

 

「能力が使えない事は?」

 

「無い方では無いな。能力次第でそういう能力を使えなくする能力も存在するし」

 

異世界に興味を持ったマリーゴールドとサンダーソニアからの質問を答え、会話の花が咲き始める。ハンコックも時折話に加わって共に話し合い時間を過ごすと、不意に現在立たされている俺の環境の事を言われた。

 

「話を聞く限り、そなたは衣食住に困っておるのが現状であるな」

 

「そうなるな。奴隷達の解放と天竜人の件が終わったら近くの島、シャボンディ諸島ででもしばらく暮らすとしようかな。この世界はどんなところか分かったし」

 

場所教えてくれないか?と頼む。ここは男子禁制の女人国だから何時までも長居はできないはずだ。皇帝の立場でも掟や規律を安易に破る事もできないと思っていたら隣から

 

「因みにシャボンディ諸島ってどんなところだ?」

 

「年がら年中地面からシャボン玉が出る島よ。そのシャボンを特殊な方法で加工・特産品の道具として売られているわ」

 

「へぇ、そんな島なんだ?何日ぐらいで辿り着く?」

 

「一週間以上は掛ると思った方がいい」

 

そのぐらいだったら半日で辿り着くか?まぁ、行ってみれば判るか。

 

「んじゃあ、海軍本部とその島の方角は?」

 

「おぬし、まさかもう行く気でおるニョか?」

 

「善は急げって諺があるんだ。それにここは男子禁制の島なんだし、俺がいたら不味いだろ」

 

正論を言ったつもりが、サンダーソニアとマリーゴールドが何とも言えない表情で顔を見合わせ、ニョン婆は無言になりハンコックはジッと俺の事を見つめてくる。

 

「よもや、泳いでいくわけではあるまいな」

 

「空を飛んで行くけど?」

 

天使の翼を生やしてバサバサと主張する。納得したが神妙な面持ちとなったハンコックから提案を受けた。

 

「そなたの心遣いは感謝するが、わらわ達から恩を返したい。九蛇海賊団の船で送ってやろう」

 

「海賊の船で?途中で海軍と鉢合わせしたら俺も海賊の仲間として認識されやしないか?」

 

「大丈夫じゃ。わらわは世界政府が公認した王下七武海という肩書を持つ海賊の一人じゃ。海軍に捕まる心配はない」

 

「何かまた知らない単語が出てきたな。正義の味方が海賊を雇うってどういう理屈?」

 

ニョン婆が説明を買って話してくれた。

 

「異世界から来たそなたは知らニュ話じゃ。この世界には海軍本部、王下七武海の他に『偉大なる航路(グランドライン)』後半の海『新世界』に皇帝の如く君臨する三人の大海賊達がおる。その戦力は極めて強力かつ大規模であり、この三人を食い止めるための力として海軍本部・王下七武海が並ぶほどなニョじゃ」

 

一大勢力だけでは三大海賊を相手にできないってことか。海賊の手も欲しいほど強いなんて興味が湧いてきたな。

 

「そう言う理由なら安心か。ついでに三人の海賊の名前分かる?」

 

「『〝白ひげ〟エドワード・ニューゲート』『百獣のカイドウ』『〝ビックマム〟シャーロット・リンリン』じゃ」

 

メモメモ・・・・・。

 

「兵藤一誠」

 

「あ、イッセーって呼んでくれないか?兵藤って呼ばれるのは嫌いなんだよ」

 

「お主の一族の名であろう?それを嫌うとは珍しいニョ」

 

「一族が嫌いだから嫌いなんだ。で、なんだ?蛇姫」

 

「・・・・・いや、何でもない」

 

言いかけた口を閉ざして俺から顔を逸らされる。何を言いたかったのかわからず、その日の夜の夕餉の時間はアマゾン・リリーの女戦士達と一緒に過ごすことになった。最初は男だからという理由で警戒されたが、俺の機転もとい―――おもしろダンスを披露したことで笑いを取り、人気を得てみせた。

 

「だからお前ら、くーだよ、くー」

 

「くー!?」

 

「くーだ!」

 

「くーね!?」

 

その昔、修行中で父さんから勧められたダンスだったけど意外と異世界でも受けが良いな。そんな感じで食事会は大宴会と変わらない騒ぎで盛り上がり、異世界の料理を堪能してあまりの美味しさに九つの尾を生やしたら「男から尻尾が生えた!」と好奇の声が湧く。

 

「これなんて料理?」

 

「〝海王類入りペンネゴルゴンゾーラ〟女ヶ島の名物よ!」

 

「海王類?」

 

「海に棲息している普通の魚より超巨大な魚よ」

 

ほうほう、そんな魚がいるんなら釣ってみたいもんだな。初めて食す海王類という魚の肉を頬張ってそう思っている俺の尾や身体に女人達が遠慮なく触ってくる・・・・・。・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

「食い辛いなッ!?何だ人の食事中にッ!」

 

「仕方ないじゃない。あなたもう明日出航でしょ?記念に一度〝男〟に触りたいってコ達に・・・・・ほら大人気!」

 

一人の女人が『1タッチ20ゴル』と書かれてる木製の看板を持って、俺に向かって長蛇の列を作っている女人達の存在を教えられた。お前、何勝手に商売してんだよ!?

 

「稼いだ金は7割貰うからな」

 

「えっ!?せ、せめて5割・・・・・・」

 

「人の体を使って勝手に商売しているんだ、この国に永住できない俺が金の使い道なんて無いから蛇姫への献上金にする」

 

「そ、それズルい!」

 

皇帝に逆らえない事を分かり切っているから言っているんだ。てか、本当に食い辛いっ。

 

「ええい、〝俺〟を増やすからそっちで相手にしてくれ!」

 

「「「「「「「「「「よろしくっ!」」」」」」」」」」

 

「「「「〝男〟が一気に増えたー!?」」」」」

 

外海の男ってこんなことできるの!?と何か間違った認識、誤解を招いてしまったような声が聞こえる気がするが・・・・・うん、まぁ、気にしない方針でいこう。

 

―――†―――†―――†―――

 

数人ほど親密になった女人達と別れハンコック達三姉妹が暮らす九蛇城へ足を運ぶ。未知の料理を満腹になるまで食べた一誠は多幸感に浸って明日の出航に備えて寝る。そのつもりで戻ってきたんだけど一人の女人と急ぎ足で城に入ろうとする一誠とニョン婆がバッタリと鉢合わせした。

 

「どうした?」

 

「おぬしか。蛇姫が原因不明の病で倒れてしまったニョじゃ」

 

「え?今?」

 

あんなに元気そうに言動を振る舞っていた女帝が病に倒れたって?一大事だと一誠も同伴させてもらい、『皇帝の広間』に赴く。中国風の通路や階段を通り続けやがて大きな門のような扉を開けて中に入ると、天蓋付きのベッドに医師の女人とサンダーソニア、マリーゴールドが胸を抑えて荒い息を吐き風邪を引いた人のように顔が赤く汗を流していた。彼女を診断した医師に訊ねると。

 

「胸をずっと押さえているから心臓に異常があるのかと・・・・・!でもわからないの・・・・・見た事もない症状・・・・・どんな薬を処方していいのか・・・・・・!!」

 

「蛇姫様とても辛そう・・・・・!!」

 

「お食事も一切取って下さらず」

 

と、女人達がそう話を聞いているとニョン婆から言われた。

 

「おぬし少々外に出ておれ・・・・・」

 

「ああ、わかった」

 

何か遭ったら呼んでくれと一言残してこの部屋の下の階のテラスへと向かった。部屋を後にした一誠からハンコックへ意識を向けるニョン婆は、汗だくで荒く熱が籠った息を苦しげに吐き続ける女帝の病状を注視し、やがて吐露した。

 

「明日の朝・・・・・」

 

「はうっ・・・・・!!」

 

「蛇姫様っ!!?」

 

ただ言っただけで心臓を握り潰す感じで服を握るハンコックが敏感に反応した。それだけで全てを悟ったニョン婆は嘆息した。呆れて何とも言えないと額に手を当てて憂う。

 

「・・・・・そうか・・・・・・ああ何と言う事・・・・・・!」

 

皆の目がニョン婆に向けられ、どういうことだと耳を傾ける。

 

「・・・・・何とも場をわきまえぬ〝ウイルス〟め・・・・・!」

 

「え!!?ウイルス!?」

 

「何か心当たりでも!?」

 

先々々代皇帝だった彼女の、長い年の功ならではのハンコックの病状を見抜いた。ならば彼女の症状を治せる術も知っていると期待感が湧いた直後に女帝が熱で浮かれた顔をニョン婆に向けながら苦しげに問うた。

 

「・・・・・ニ・・・ニョン婆・・・苦しい・・・・・わらわは・・・・・死ぬのか・・・・・・?」

 

「・・・・・ああ・・・・・死ぬ・・・・・・」

 

病人相手に何て言い草だとマリーゴールドが怒りを露わにしながら焦る。

 

「な・・・何て事を!!!バカな冗談はやめてニョン婆!!!」

 

サンダーソニア達も同じ心情でニョン婆に視線を送るが、当の彼女はそれを介さず吐露する。

 

「先代皇帝も・・・・・この病で死んだ・・・・・!!先々代も同じだったそうじゃ・・・・・」

 

『!?』

 

「実はわしも同じ病にかかり国を飛びだし・・・・・生き長らえた」

 

告白するかつての皇帝だった老婆の言葉にマリーゴールド達は息を呑んだ。ならばいま現皇帝の身体を蝕み苦しませている症状は、ニョン婆を始め代々の皇帝達を死に誘わせてるものだと否が応でも理解させられる。このままでは彼女もいずれまだ若い歳で病死してしまうという事実もだ。

 

「ニョン婆、どうすればいいの!!?」

 

「このままじゃ姉様が・・・・・・!!どうやってニョン婆は外海で生きながらえたの・・・・・・!!?」

 

姉妹から一時の猶予も残されていない姉の為に治療の方法を聞きだす。必要あらば女ヶ島アマゾン・リリー総出で動かすことは厭わない程だ。彼女達の必死な気持ちを無下にしないとこう口にした。

 

「あの者に、イッセーに蛇姫を任せるニョが一番の治療じゃ」

 

「異世界からきたあの男に、姉様の症状を治せるというの?」

 

「異世界から来た男云々の話ではニャい。今の蛇姫の特効薬はあの者以外おらんニョじゃ」

 

そう言われてしまっては何も言えなくなる女戦士達は皇帝の広間を後にし、代わりに一誠と女帝だけの空間にして任せるしかなかった。

 

「で、俺しか治せば病気だって言われたんだけど・・・・・どうした、風邪か?」

 

「わ、わらわにもわからぬ・・・・・この胸の奥から苦しい感じは初めてなのじゃ」

 

額に手を添えられ熱を計る一誠。不思議と戸惑いの色を顔に浮かべ結局は分からず仕舞いで終わる。

 

「何もせず一緒に夜を過ごせばよいとニョン婆のお願いだからな。今夜は添い寝させてもらうぞ」

 

「・・・・・構わぬ」

 

横になるとハンコックも一誠に背中を向けて身体をベッドに沈める。長身で華奢な身体の背中が視界に入り、ポツリと尋ねた。

 

「そう言えばどうやって天竜人から逃げ切れたんだ?」

 

「・・・・・」

 

「言いたくないならいいさ。何となく思った事を呟いただけだから」

 

返って事無い彼女の声に早々に眠りにつこうと瞼を閉じた数秒後・・・・・。

 

「・・・・・世界政府が青褪めるような事件が起きた、その時にわらわ達は決死の思いで逃げたのじゃ」

 

独白するようにポツポツと語ってくれ始めた。一人の魚人、フィッシャー・タイガーという男が赤い土の大陸(レッドライン)を素手でよじ登り、聖地マリージョアを力の限り暴れ回り何千人という数の奴隷達を種族関係なく救いだした際に三人も逃げたと。その後、この女ヶ島へどうやって帰ればよいか彷徨っているところシャボンディ諸島でニョン婆を含め三人の人物の協力があって無事に戻って来られたのだと。それからハンコックが一度少しの沈黙を保つが、静かに口を開いた。

 

「くしくもわらわ達は奴隷であった時・・・・・余興で口にさせられた〝メロメロの実〟と〝ヘビヘビの実〟の能力のお陰で国をダマし秘密を守る事が出来ている。何度も申すがそなたがソニアの背中を庇ってくれなければ、わらわ達はもう・・・・・この島にはおれぬところであった。・・・・・誰にも過去を知られとうない・・・・・」

 

不意に背中越しでしか見えない、身体を震わせ悲しみと恐れが籠った声音がハンコックから聞こえてくる。

 

「―――たとえ国中を欺こうとも・・・・・わらわ達は一切のスキも見せぬっ。もう誰からも支配されとうないっ・・・・・!!!」

 

「・・・・・」

 

「誰かに気を許すことが恐ろしい・・・・・!!・・・・・恐ろしうて・・・・・かなわぬのじゃ・・・・・!!」

 

天竜人のもとで人間以下の奴隷の生活を強いられた故に心に深い傷とトラウマが植え付けられた。ハンコックの思いを知り、他の奴隷達も同じ心境をで今も生きているのかと思えばますます奴隷達を解放しなくてはいけないと強い意志を抱く一誠は、寝ながら天使の片翼を背中から生やして彼女を優しく温かく包み込む。

 

「心の傷は癒せないけど、俺はこうすることができる」

 

「っ―――――」

 

「もうお前の背中に恐怖の象徴は無い。人間以下の証が消えた瞬間からお前はボア・ハンコックという一人の人間に戻ったんだ。何も恐れることはないよ」

 

励ましの言葉を送られ始めて一誠に振り返った時、金眼が真っ直ぐハンコックに向いて見ていた。腕を伸ばして自分の髪ごと頭を撫でてくる。誰かに撫でられる事は初めての経験で、悪い気もしない事も相まって、翼から感じる温もりは不思議と心地良く、羽毛の感触がとても柔らかい。

 

「そなたは・・・・・奴隷であったわらわを・・・・・蔑むか?」

 

「蔑む理由がないし、寧ろ人を奴隷にする奴は誰であろうと嫌いだ」

 

女帝の頭を自身の胸に寄せて添い寝以上の密着度で身体を重ねる。

 

「また奴隷にする輩が現れたなら、全力で守ってやるよ。お前の心をな」

 

「・・・・・」

 

男の体臭を感じつつ人に安らぎを与える不思議な男だと思いを過り、抱きしめられたまま女帝は無意識に一誠の身体に身を預けて口元を綻ばせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう・・・・・イッセー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明朝、アマゾン・リリーの港に停泊している船の出航準備が整った。ハンコックと船へ出向くと女ヶ島に住む女人達が見送りに来てくれていた。これから乗り込む船を見上げれば二匹の巨大な蛇が、船と一体化するように海面から顔を出していた。

 

「でかい蛇だな蛇姫。もしかしてあの蛇が船を引いているのか?」

 

「・・・・・そうじゃ」

 

「・・・・・」

 

俺から目を逸らして相槌を打つハンコック。目を覚ましていた時から何故か顔を赤くして一度もこっちに顔を向けて来ない。

 

「キャー♡蛇姫様ー♡」

 

「なぜかしら、いつになくお美しさが迸っていらっしゃる!!」

 

「セクシャルないたずらが留まるところを知らない!!」

 

女人達の目が♡を浮かべてハンコックの美貌に酔いしれている。黄色い声が止まないどころか益々増える一方だ。この場にあの美の女神のお姉ちゃんを居させたらどうなるのか試してみたいもんだ。

 

「本当に送ってくれるんだな。俺一人でも方角がわかれば飛ぶんだけど」

 

「構わぬといった筈じゃ。そなたにわらわ達は多大な恩を受けた。これぐらいは当然のこと」

 

「ふーんそっか。じゃあ、ありがとうなハンコック」

 

この島に来て初めて名前を呼んでみたら、急に彼女は足を停めた。どした?と振り返ったら。真っ赤に染まった顔にうるんだ瞳、何に対して感極まったのか身体を打ち震わせていた。

 

「い、いま・・・・・何と申した・・・・・」

 

「ん?感謝の言葉を言った」

 

「そ、そこではない・・・・・わ、わらわの事を何と申したと・・・・・」

 

「ハンコックって言ったけど」

 

なに言ってるんだ?と首を傾げたら新しく欲したおもちゃを得た純粋な子供のように笑顔になった。

 

「・・・・・ハンコック・・・・・はぁ・・・・・」

 

昨夜の症状がまた出たのかさっきよりトマトのように顔が耳まで紅潮して、熱い吐息を吐きだした。

 

「っキャ~~~~~~~~~~~~~~~!!!♡」

 

「へ・・・・・蛇姫様が・・・・・笑顔!!?何カラット!!?今の輝き何カラット!!?」

 

「今までお見せになられなかった笑顔でさらにお美しさが天井知らずで超えたわぁ~~~~!!!♡」

 

周りのギャラリーが俺の心配と真逆な反応をして少し辟易する。隻眼の視界にニョン婆を捉え、彼女の方へ近寄って声を殺し訊ねた。

 

「なぁ、言われた通り一緒に添い寝して治ったみたいけど、まだ燻ぶり返したんじゃないのか?大丈夫なのかあいつ」

 

「心配無用じゃ。あれが平常心の蛇姫じゃ。ただ、自分の心境に戸惑いを感じておる。わしが後からそれとなく解消してやる」

 

あれで平常心って・・・・・俺を見つめてくるあの表情と目付き・・・・・まるで恋する乙女のような感じなのは気のせいだよな?

 

「イッセー様、またねーっ!」

 

「おーう、ハンコックが許してくるならなーっ!」

 

船に乗り込む俺に出迎えてくれる女人達に手を振って返す。随分と女人達に人気者になってしまったもんだと心中苦笑を浮かべながら、外海へ出る鉄製の門が開く様子を尻目で・・・・・。

 

「そなたが望むならばわらわは・・・・・」

 

何か呟いていたハンコックだった。

 

女ヶ島アマゾン・リリーを後にしたハンコック達一行はシャボンディ諸島へ航海すること早一時間後のことだった。

 

「ニョン婆、わらわはいったいどうしたのじゃ・・・・・。昨日は何ともなかったのに今はまともにイッセーの顔を見られぬ・・・・・名前を呼ばれただけで胸がときめいてしまう」

 

「蛇姫よ。そなたを苦しめておった病は〝恋煩い〟。先代達の死因は〝恋い焦がれ死に〟。そなたは今あの男に、兵藤一誠に恋しておるニョじゃ」

 

「恋・・・・・・」

 

「そう〝恋〟じゃ!!!―――想うても会えニュ苦しみはやがてその者を衰弱させ死に至らしめる!!先代皇帝達は・・・・・その想いを押し殺し・・・・・身を滅ぼした。あの男共に行く決断はそなたの命を救う」

 

船内の一室、ハンコックが寝る中国風で広い部屋のベッドに腰を下ろして目の前に佇む先々々代皇帝と密かに身に起きている状態を把握する。

 

「わらわが、恋・・・・・」

 

「昨日の内にそなたは兵藤一誠の優しさと器を知り、惚れてしまったニョじゃろう」

 

「・・・・・」

 

否定できない部分があり肯定とぽっと顔を赤らめ沈黙してしまうハンコックにニョン婆は両手を頬に添えた。その顔は物凄くだらしなく綻んでいる。若き頃の己を思い出している様子だった。

 

「恋する女か・・・・・ふふふ、わしにもその様な時代が・・・・・♡」

 

「・・・・・気色悪い顔をするでは無いわ。見ていて吐き気がする」

 

「やかましゃア!!!」

 

そんなハンコックとニョン婆の会話の一方、甲板の方では。

 

「この船を引っ張る蛇の主食って?」

 

「海王類の肉よ」

 

「海賊だから他所から物資を奪ってるのか?」

 

「ええ、長期遠征として商船や海賊船からね」

 

女戦士達と会話を弾んでいた。無遠慮に身体を触られながら。

 

「女ヶ島って女しかいないのにどうやって子供を作るんだ?」

 

「外海へ出た者が時折、身体に子を宿して帰ってくるのよ。逆に外界へ出ず島の中で一生を終える者も多いわ」

 

「へぇー徹底しているな男子禁制の制度。じゃあ皇帝ってどうやって選抜される?」

 

「主に国の中で一番の力を持ち、国中から信頼と信用、それと名声もあれば選ばれる。姉様は18歳の頃、まだ若い時にたった一度の遠征でその首に〝8千万〟の懸賞金をかけられたから当然ね」

 

そうして話し合いをしながら時間を潰し、果てしない大海原を進む船で穏やかに目的地まで航海をする。



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奴隷解放

シャボンディ諸島への航海はもう間もなく終わりを迎える。一週間以上の日日と時間をかけてようやく目的地に辿り着いた。

 

「おおー!!幻想的!!!」

 

島の外側から眺めれば海中へ根を張る巨大な縞々の木々が数え切れないほどにあり、聞いていた通りシャボン玉がたくさん飛んでいる。あれがシャボンディ諸島なのか・・・・・!

 

「すげー一体どうなってるんだ?海から木が生えてること自体不思議だ」

 

「マングローブという樹を知っておるか?」

 

「俺の世界にもあるぞ。って、まさかあれ全部マングローブなのか?」

 

「そニョ通りじゃ。あれは世界一巨大なマングローブ〝ヤルキマン・マングローブ〟という樹の集まりなニョじゃ。樹は全部で79本。その一本一本に町や施設があり―――それを79の島から成る〝シャボンディ諸島〟と呼ぶ。後半の海〝新世界〟へ行こうとする航海者達が集う島でもある」

 

「〝新世界〟・・・・・確かこの海域は偉大なる航路(グランドライン)、前半の海なんだよな?で赤い土の大陸(レッドライン)を超えた先は〝偉大なる航路(グランドライン)〟後半の海と呼ばれてる〝新世界〟だって」

 

その通りだとニョン婆は頷き、肯定してくれた。伊達に聞き込みをしていたわけじゃないからちょっぴりホッとした。無知のままじゃいられないからな元の世界に帰る方法を見つけるまで色々と調べて知らなくちゃいけない。

 

「そなた、また訊くが本当に聖地マリージョアへ行くつもりでおるニョか」

 

「男に二言はない。手始めにあの島の人身売買をしてる施設を全部潰し回る」

 

「決意は変わらニャい、か。ニャらばわしらが止める事はできニュ」

 

ごそっと衣服から複数の紙きれと手紙を取り出して俺へ手渡してくる。それを受け取ると何かの番号と店の名前、ニョン婆の名前と手紙が記されてるのを確認した。

 

「その手紙に書かれてるマングローブの番号にまず向かうニョじゃ。わしがその昔、蛇姫達を保護した際に協力して島に送り届けた友人がまだそこに居ればそれを見せると良い」

 

「そっか。そうしてみるよ」

 

ポケットの中に手紙等を仕舞う俺の目の前に女人達が荷物を持ってきた。はて、それはニョン婆の友人達に送る物かと思ったらどうやら違うようだ。

 

「この中には食料と外海の金を入れてある。わらわ達から離れてしまうそなたは衣食住に困るであろうから用意した」

 

「ああ、そう言えばそうだったな。ありがとうハンコック」

 

「ど、どういたしましてじゃ・・・・・♡」

 

「「「キャ~~~~~♡」」」

 

気が利く彼女に微笑んでお礼を言うとハンコックは顔を赤らめて照れた。一週間以上前の男を見下していた時期のハンコックの反応とは大きく異なり、人はこうまで変わるものなんだなと思いながら荷物を掴み肩に担ぐ。

 

「ハンコック達には色々と世話になったな。全部終わったらまた女ヶ島に戻って来ていいか?」

 

「っ・・・・・そ、そなたがそれを望むならば構わぬ・・・・・・歓迎しよう」

 

「ん、帰れる場所があるだけで安心だわ」

 

朗らかに笑いながら翼を生やして宙に浮く俺を見上げる彼女達に手を挙げる。

 

「それじゃ、またな!」

 

「「「またねー!!!」」」

 

翼を羽ばたかせて九蛇海賊団の船から飛び去ってシャボンディ諸島へと向かう。

 

「行ってしまわれたニョ蛇姫よ」

 

「・・・・・また戻ってくると申していたのじゃ。ならばわらわは待っている。それだけじゃ」

 

「あの男の首にそなたよりも高額の懸賞金がかけられて戻ってくることはまず間違いニャいじゃろう」

 

「そうであろうな。天竜人に手出しすれば中枢の者達は黙っておらん。その時こそ女ヶ島で匿えばよい」

 

と、そんな話がされている事を知らずに数字が書かれてるマングローブを通り過ぎていく。遠目から色んな町や遊園地っぽい施設を目視しながら真っ直ぐニョン婆が記した場所へとひとっ飛びする。13番グローブへと。

 

「―――あそこか?」

 

地面から発生するシャボン玉を触れながら飛び回り続けていれば、13番GR(グローブ)の場所にマングローブの根の上に一件の建物を見つけた。その前に飛び降りて―――不思議な事に文字が読めれる。

 

「シャッキー'SぼったくりBARって・・・・・ぼったくりを前提に営業してるのか」

 

こんな店を構えて生活ができているのか不思議でしょうがないものの、中に入ってみる。店内は30人程度が入れる広さと空間で、Uの字のカウンターの席の他、机を半分囲むような逸れた長椅子が一つだけある。この店に訪れたのは俺だけのようで、席に座ってたばこを吸ってる女性が少々暇そうにしていたが俺が入ってきたのを気付いて立ち上がった。

 

「あらいらっしゃい。なにする?」

 

「ああ、俺は客じゃないんだ。ここにシャッキーとレイリーって人がいる?」

 

「シャッキーは私よ。レイリーって人はまだ半月も帰って来てないの」

 

片方だけ出会えただけでもよかった。ニョン婆から預かった手紙を出して彼女に手渡すと読み始めた。

 

「あら、懐かしいわね」

 

「昔ハンコック達を保護した協力者がここにいるってニョン婆から聞いたんで来てみたんだ」

 

「そう、よくあの男子禁制の島にいて無事で済んだのね。ハンコックちゃん達と仲が良いの?」

 

「色々と遭った末に良好になったよ」

 

そうなの、と微笑んで灰皿にたばこを置いてシャッキーは、カウンターの机の一部を持ちあげてバーの店主らしい立ち振る舞いをする。

 

「グロリオーサの手紙にはイッセーちゃんのことをしばらく預かってほしいと書かれてあったわ」

 

「ん?そうなのか?」

 

「ええ、それにこれから君が何をするつもりでいるのかもね」

 

そこまで手紙に綴られていたことを知らなかった俺は短く相槌を打った。

 

「他人からすれば自ら命を捨てる無謀で愚行なことだけど、どうしてそうしようとするのか教えてくれる?」

 

「人の人生を、人権を奪うほど人は神か何かか?」

 

「例えそれが800年前、世界政府という一代組織を創造した20人の創始者達の末裔でも?」

 

「末裔は末裔に過ぎないだろ?血族がどれだけ優れても過去の偉人達に見倣う事を今の末裔達はせず、血筋と肩書きだけで神のごとく振る舞う輩は結局ただの人の子だ」

 

思っていたことを口にする俺を興味深げに注視してくるシャッキー。吹かしていた煙草を指に挟みながらこう言ってきた。

 

「仮に成功しても天竜人は奴隷を集めるわよ?それに世の中から奴隷はいなくならない。それでもするの?」

 

「目の前に理不尽に強いられ助けられる人がいたら助けたい性分なのさ」

 

困った性分だと自嘲する。シャッキーはそんな俺を純粋な目付きで否定も肯定もせず、自然な動きで飲み物を出してきた。

 

「真っ直ぐ思ってることを言う子は今時珍しいわ。今のご時世、悪い事をする子は大半悪い子ばかりだから尚更ね」

 

「世の中そういうもんだろ」

 

飲み物を飲もうと口に含もうとしたら、鼻腔に感じる仄かな酒の香り―――。

 

「俺酒飲めないから!」

 

「ふふ、子供なのね」

 

子供で悪いか!?危うく飲んでこの店を迷惑かけるところだったよ!酒を突き返す仕草をしたと同時に店の扉が開き、白髪に白い顎鬚を生やす眼鏡をかけた初老の男性が我が家当然のように入ってきた。右側の目に縦に走る傷痕があり、一切の隙もない動きと感じる強さでただの老人では無いことは明らかだ。

 

「いらぬならその酒を一杯貰おうか若い少年よ」

 

「あら、レイリー。お帰りなさい」

 

「レイリー?あんたがそうか」

 

タイミングが良いな。とシャッキーに目を配り、ニョン婆から受け取った手紙を彼に突き出した。

 

「この子、ハンコックちゃんと仲良しでグロリオーサから手紙を持って来てくれたのよ」

 

「おお、そうなのか。彼女達と知り合いとあらば女ヶ島へ入ったのだな?よく無事でいられたものだよ」

 

やっぱり男子禁制の場所だから入ったら即死なのか。俺、強くなっていて本当に助かったな。

 

「私はシルバーズ・レイリーという。君は?」

 

「兵藤一誠、イッセーって呼んでくれ」

 

握手を求めると快く応えてくれて手を握ってくれた瞬間。レイリーの目付きが一瞬だけ変わった。

 

「なるほど・・・・・一目見た時から君は凄まじい実力者だと察していたが、静かに〝覇気〟を纏っているのだな」

 

〝覇気〟?何の事だ?不思議に心の中で首を傾げてる俺の眼前で手紙に目を通し、ふむと顔を向けてきた。

 

「天竜人を襲うとは大胆だな。理由を聞いても良いかな?」

 

「奴隷の解放。それだけだ」

 

「政府を敵に回すが、後悔しないのだな?」

 

「人助けをするのにどうして後悔しなくちゃならない?」

 

至極不思議そうに言い返す。助けるのに理由なんて必要なのかと道理だ。精神論を語られても助けられるわけじゃないし行動あるのみだ。ちょっと猪突猛進、頭が筋肉なアレな感じの様だけど。

 

「数時間後、若い子の血気盛んな行動で世界中が度肝を抜かし、悪名が轟き知れ渡るわねレイリー」

 

「ふふっ、かつての親友もこんな感じで私達をひっかきまわしてくれたものだよ」

 

止める事も背中を押すわけでもなく、見守る男女として口を開いた。

 

「かつての親友?」

 

「ああ、そうだ。異世界から来た異邦人の君にはわからないだろう。私はね、海賊王ゴール・D・ロジャーの船で副船長をしていたのだよ」

 

手紙にそこまで綴っていたのかと思いながらも驚嘆する。目の前の初老の男が海賊王の船員であり副船長とは思いもしなかった。

 

「海賊王っていたんだな・・・・・世界の海を制覇したんだ?」

 

「暇な日がない程に世界中の海を航海し、様々な強敵と相対し、色んな景色をこの目で見てきたのは確かだ。上空一万メートル、深海一万メートルにそれぞれ空島と魚人島という島もあったよ」

 

「・・・・・」

 

「君も冒険に興味があるなら海賊王になるつもりで航海すると良い。その純粋無垢な光を宿してる目で見てきなさい」

 

顔も輝かせてレイリーの話を聞いていたらそんな指摘を受けた。上空と深海にそんな島が成り立つ場所があるとは是非とも行ってみたいものだと思った日は始めただろうな。

 

「さてイッセー君。君はまず聖地マリージョアへ行くのかい」

 

「ん、そのつもりだ。方角を教えてくれ」

 

「教えても良いが、一つ私と軽い運動をしないかな?」

 

運動?ランニングでもするのか?と小首を傾げた時、シャッキーがカウンターのどこにあったのか一本の剣を取りだした。それを受け取るレイリーは朗らかに話しかけてきた。

 

「天竜人に手を出すと言う事は海軍の大将と相手にしなくてはならないのと道理だ。異世界から来た君はどれほどの実力を持っているのか試させてもらうよ」

 

そういうことか。この人が認めてもらえない限り行かせてくれないって感じだな。手当たり次第他の人に聞けば済む事だろうけど、海賊王の副船長の実力・・・・・興味ある。異論はないと首肯して共に表へ出て店まで戦いの影響が届かないところまで離れて対峙する。そうでなきゃ法外な請求をされかねない・・・・・・(これ重要)。

 

「それじゃ始めようか」

 

「ちょっと待って、どうせなら全盛期のレイリーさんと戦ってみたいから」

 

指を軽く弾き魔法を発動する。レイリーの全身が淡い光に包まれて・・・・・顔に刻まれていた老いの証、皺が消えて肌が若返っただけじゃなく、彼自身も全盛期にまで若くなった。

 

「・・・・・これは」

 

「異世界の魔法でレイリーさん自身が今日まで刻んだ時を戻した。ま、平たく言えば若返らせたんだ」

 

「若返らす魔法とは・・・・・驚いた。確かにかつての力が漲ってくるよ」

 

なら、これで思う存分戦えるだろうと思いながら魔力で具現化させた剣を握る。

 

「ほう、それが異世界の力なのかな?」

 

「これはそのほんの一部だよレイリーさん。異世界の力はこんなものじゃないさ」

 

そう言って横薙ぎに振るい、飛ぶ光の斬撃を放った。

 

―――†―――†―――†―――

 

レイリーSeed

 

光る飛ぶ斬撃を放ってきたイッセー君は剣術の心得もあるようだな。軽くかわして姿勢を低く懐に飛び込んで斬りかかってみればあっさり受け止められた。若かった頃の全盛期だった私を完璧に捉えてる彼の左目は喜色の光が孕んでいた。

 

「レイリーさんは最初から海賊だったのか?」

 

「いや、盗んだ船で生活していたらロジャーに誘われてからだな」

 

「それでこの実力か?―――ははっ、最高だなこの世界は!」

 

好戦的な一面を見せ、激しく腕を振るい剣で斬りかかってくる。雑な振るい方では無い。洗礼された剣士のそれだ。それに呼応して彼は気付いているのか定かではないが光の剣に〝覇気〟を纏いだす。これならば自然系(ロギア)能力者の流動する体も実体として捉えることができるか。

 

「時にイッセー君、君は〝覇気〟という力は知ってるかね?」

 

「何度も聞く単語だな。女ヶ島でも聞いた」

 

異世界には〝覇気〟という概念や力がないのか。それで無自覚で放っている彼の潜在能力は凄まじい。

 

「いいかイッセー君。〝覇気〟とは全世界の全ての人間に存在する力だ・・・〝気配〟〝気合〟〝威圧〟・・・それら人として当たり前の感覚と何ら違いはない。―――ただし大半の人間はその気付かず・・・あるいは引き出そうにも引き出せず一生を終える・・・。〝疑わない事〟それが〝強さ〟だ!!!」

 

故に教えるべきだと〝覇気〟のイロハを教える。

 

「私の胴体を斜め右から斬りかかる」

 

スッと身体を横にずらす仕草をすれば、私が宣言した通りに斜め右からイッセー君は斬りかかってきた。

 

「?」

 

ふふ、不思議そうに見つめてくるな。

 

「相手の〝気配〟をより強く感じる力。これが〝見聞色〟の覇気!!これを高めれば視界に入らない敵の位置、その数・・・更には次の瞬間に相手が何をしようとしているのか読み取れる」

 

「・・・・・」

 

「次に〝武装色〟の覇気―――これは見えない鎧を着るようなイメージを持つんだ」

 

手の平を正拳突きをしてきた彼に突き出した直後、私の身体に衝撃を与えるほどのパンチを受け止めた。

 

「・・・・・」

 

跳ね返すつもりでいたが、中々どうして・・・・・異世界で培った強さはどうやら本物の様だ。

 

「今の拳は本気かな?」

 

「割と殴り飛ばすつもりで。本当に見えない鎧を殴ったような感覚だったから・・・・・今度は全力で殴っていいか?」

 

さっきの拳の一撃を上回る一撃を・・・・・膝まで鋼のように黒く染まった彼の腕に見覚えがある。ほう、これは意外だ。

 

「驚いたな。教えてもないのに〝武装色〟を硬化させることができるのか」

 

「ん?〝気〟を纏って硬くするイメージでしているんだけど」

 

イッセー君の世界では〝気〟という概念があるのか。それはもはや〝覇気〟に等しいのだがね。

 

「全力で殴りかかるのはまた今度にしてくれ。君の全力に私も応えるとこの辺り一帯はただじゃあ済まないからね」

 

「そうか、わかった―――からの〝嵐脚〟」

 

爆発的な脚力から発する鎌風を起こして飛ぶ斬撃をまた放ってくる。剣で斬り払って軌道を逸らし、背後の地面のように見えるマングローブの根を深く斬撃の痕を残した。

 

「これも元の世界で培った技かい」

 

「そうだ。あと脚力だけで空を蹴るようなこともできるぞ」

 

実際にそうして見せてくれたのだから驚嘆したものだ。

 

「イッセー君はその若さでここまで実力が高いとなると、どんな人生を過ごしてきたんだい?」

 

「諸事情で子供の時から修行の旅を世界中でしてきた。俺の世界には森羅万象、神々が実在している世界でさ、星の数ほど強い人達がいる中や過酷な環境の中で強くなった」

 

神が実在する世界か。私も行けるのならば行ってみたいものだよ君の故郷の星に。

 

「時に訊くが、君の世界では海賊はいるのかな?」

 

「いないよ。だけど海賊がいたという歴史と証は現存している。海賊時代で名を馳せた人物も名もだ」

 

「その中に私の名前とかないのかね」

 

「調べた限りじゃあ、ないなー」

 

そうか。それは残念だ。

 

「話を戻そう。〝見聞色〟〝武装色〟この2種類が『覇気』だ。―――しかし世界にはごくまれにこんな覇気を扱える者がいる・・・」

 

イッセー君に威圧する力を放ってみたら、驚いた様に目を大きく見張った。

 

「感じたかな?これが相手を威圧する力・・・〝覇王色の覇気〟・・・!!この世で大きく名をあげる様な人物はおよそこの力を秘めている事が多い。ただしこの〝覇王色〟だけはコントロールはできても鍛え上げることはできない。これは使用者の気迫そのもの・・・!!本人の成長でのみ強化する」

 

精神力は弱くない。これならばどんな強者でも―――。

 

「―――っ」

 

彼から伝わってくる威圧と殺気・・・・・まさか、この覇気すら会得していたとは・・・!!

 

「―――不思議だったんだ。単純に威圧や殺気を放っただけで皆が気絶するんだ。そうか、この世界じゃあ〝覇王色の覇気〟って言うんだな。疑問が晴れたよレイリーさん」

 

清々しいほど晴れやかな顔で言うこの子も異世界では『王の資質』を持つ者として産まれていたのか。彼の世界ではこの世界のように普通ではない様だな。

 

「色々と教えてくれてありがとう。今度は俺が色々と教えてあげるよ」

 

朗らかにそう告げる彼の背後の虚空に、不思議な円陣が幾つも浮かび上がって・・・・・炎、氷、雷、風と自然系(ロギア)の攻撃をしてきた。私は驚きながらも久しく忘れていた高揚感を抱きながら、異世界同士の私と彼で戦いを繰り広げた。その際、彼には驚かされるばかりだったと日記に記録しよう。

 

その後、私達が立っている場は殆どイッセー君の攻撃で戦いの爪の痕が残っている。実力は文句が無いほど強く、大将相手でも張り合える。彼自身の強さはこの世界でも通用するだろう。何よりも―――。

 

「参った、流石に手の数の多さでは負けたよ」

 

金色の十二枚の翼を背中から生やして私の手足を巻き付け、動きを封じるだけでなく刃物のように鋭くした翼で身体の急所を突き付けてくる彼に負けたのだからね。

 

「まだこんな隠し玉を持っていたとは。これは君の力かね」

 

「神が創り出した『神のシステム』の副産物、神器(セイクリッド・ギア)っていう力だ。人間や人間の血を引く異種族にしか宿らない摩訶不思議な能力でもある。悪魔の実と違って海にも嫌われないんだ」

 

「面白い力だ。私を若返らせたのもその能力のおかげかな?」

 

「そんなところだ」

 

四肢の拘束を解いてもらう彼から戦意が消えた。代わりに純粋な子供のように笑う笑顔を浮かべて口を開いた。

 

「レイリーさん、凄く強かったよ。悪魔の実の能力者でもないのにここまでこの世界の人間は強くなれるんだな」

 

「君の期待を裏切らないよこの世界は。ところで元の世界に帰る事は?」

 

「今のところできない。次元の話になるんだよ異世界を行き来するのは。海賊王になるよりも絶望的に難しい」

 

「そうか・・・・・気を落とさず元気でいなさい。もしも帰る事が出来るなら直ぐに帰るといい」

 

私から言える言葉はそれしかない。この世界にどこか故郷があるならばよいが、そうでないならばどうしようもない。協力したいのは山々だが・・・・・それしか言えないのだよ。

 

「で、どうだった俺の実力」

 

「問題ない。自然系(ロギア)の能力者の流動する体も実体として捉えることができるならば、君は負けることはないだろう」

 

「できるのか?掴めない雲を掴むような感じで、水に手を突っ込んでも手応えが無い感じなんだろう?」

 

「そうだ。だが、君は〝武装色の覇気〟を無自覚・無意識に纏って攻撃をしてきた。つまりいつも通りの戦い方をしても問題ないのだよ。本来、自覚持って扱えるよう特訓をしたいところであるが、君は止まらないのだろう?」

 

イッセー君は頷いた。

 

「大将とやらが来る前に全部終わらせてまた戻ってくる」

 

「それがベストだろう。何も好き好んで戦わなくていいのだからね」

 

他の海賊達も大将と出会ったらまず敵わない。〝覇気〟を扱えない海賊は尚更だ。

 

「それじゃ聖地マリージョアの場所の方角を教えてくれ」

 

「無茶をせずに帰ってくるのだぞ。ボア・ハンコックも帰りを待っているだろうから」

 

静かに腕を掲げ、彼が向かう場所へ指して示す。私が指す方角へ一瞥したイッセー君は宙に浮いて翼を羽ばたかせた次の瞬間に、光の如く聖地マリージョアへ飛んで行ってしまった。

 

「やれやれ、とんでもない子だ。シャッキーの言うとおり数時間後・・・・・世界が震撼する大事件の報が広まる事だろう」

 

レイリーの零した言葉は実際に現実になった。突如、仮面を被った少年が数多の巨大な怪物達を率いて聖地マリージョアを真昼間から強襲。天竜人が飼っていた奴隷達は一人残らず解放され聖地は壊滅状態、天竜人はほぼ全員半殺しに遭い十字架に張り付けられたばかりではなく、その場に駆け付けた『大将』が返り討ちに遭うという事態。その詳細は絶対世間に公できる筈もなく、世界政府と海軍本部は顔を蒼白しながら『イッセー・D・スカーレット』と言う名の少年の首に天竜人達からの強い希望、大将を打倒した強さの危険性を考慮し―――初頭から5億という懸賞金をかけた。

 

―――†―――†―――†―――

 

真っ直ぐ赤い土の大陸(レッドライン)へ目指す俺の目は要塞を視界に入れた。聖地マリージョアは海軍本部の真後ろにあるという情報をもとに目的地はもう直ぐなのだと、巨大な金色の龍の頭部の上で察した。

 

『要塞から騒がしい音が聞こえますね』

 

「そりゃあこんだけデカい生物が飛んでくれば騒ぎ出すだろう」

 

サイレンなのか甲高い音が上空にいる俺達の方まで聞こえてくる。警戒態勢をしているんだろうけど要塞の武装を見る限り巨大な3連砲の大砲のみ。ここまで飛んでくるとは思えないし何よりこの金龍を倒すほどのものではないだろう。気にせず行こうと告げて要塞・・・海軍本部を素通りする。

 

「素通りしたか・・・・・」

 

「こちらに見向きもせずあの怪物は飛び去って行きおったな」

 

「偶然にしては腑に落ちんな・・・・・直ぐに聖地マリージョアへ連絡しろ。もしもの事もあるからな」

 

海軍本部の最高司令官である元帥のもとに報告された巨大飛行生物の存在。それを直で確認したカモメの帽子を被り白を基調とした制服と〝正義〟と書かれた外套を羽織る元帥、同じ服装で白髪の短髪に白い髭を生やす初老の男は胸に何とも言えない不安を抱き、去って行った怪物がいた空を見上げる。 

 

「どうだ、古の時代から生きていたお前からしてこの壁は元の世界にあったか?」

 

『見た事が無い、の一言です。この赤い壁が世界を一周して繋がっているって話でしたね』

 

「そうだな。それじゃそろそろ魔法で姿を消そうか」

 

雲で覆い隠され頂上が見えない赤い土の大陸(レッドライン)の眼前に辿り着き、巨壁を前に上昇して雲を突き抜け飛び続ける怪物と共にその目で捉えた。『世界貴族』天竜人が住まう聖地マリージョアの住処の光景を。

 

『直ぐに始めますか?』

 

「ああ、解放した奴隷達を運ぶ準備をしていてくれ」

 

白銀の能面の仮面を顔に被って天使と化した一誠は数多の分身体を魔法で作り、分散して襲撃を開始した。

 

聖地マリージョアには〝人間以下〟として生かされ過酷な労働を強いられ、寝食している牢屋に閉じ込められてる奴隷や天竜人に侍らされてる奴隷達。または馬の代わりに天竜人に馬車の如く乗っかられて聖地の中を移動している奴隷達が主にいる。見つけるや否や、視認する暇もなく天竜人を粛清して奴隷を解放する。

 

「金色の龍がいる方へ走れ。お前達を解放するための乗り物がある」

 

「あ、ありがとうっ!」

 

少なくない数多くの奴隷を解放していく一誠。建物の中に入り奴隷を解放しつつ天竜人を半殺しにし、財宝も奪いつつ聖地の破壊活動も怠らない。

 

「―――暴れていいぞお前ら。逃げる奴隷以外なら殺しても良い」

 

あらかた奴隷の解放が進む時、ポツリと呟く一誠に呼応して色の付いた巨大な魔方陣が幾つも出現した。その魔方陣から―――禍々しい気配を纏い、醸し出すドラゴン達が〝召喚〟されて歓喜の咆哮を大気に轟かせる。更には影から黒い魔獣達を創造して破壊活動を活発化させていく。聖地を守る衛兵達はもう絶望する他なかった。自分達ではどう足掻いても敵わぬ化け物だと現実を突き付けられ、破壊をする化け物達に成す術もなかった。

 

「―――そろそろ終いにしよう。戻るぞお前ら!」

 

町を壊滅状態にまで暴れ回ったドラゴン達を呼び寄せる一誠の傍には―――逆さ十字架に張り付けられた天竜人等。ほぼ全員、老若男女問わずが半殺しに遭い虫の息の状態だった。その中の一人が掠れた声を辛うじて発した。

 

「き、ぎざ・・・・・だだで、ずむと・・・・・」

 

「世界政府を創り上げた過去の偉人達の血を引いてる〝天竜人〟・・・・・だからなんだ?俺からすれば何時までも古臭いもんの上に胡坐を掻いて偉そうにしたって所詮お前等も人間なんだよ」

 

「わ、我々を・・・・・侮辱、ずるがっ・・・・・!!!」

 

「創造主達も人間の王だったんだろ。だったらその人間の血を引くお前等は何時から神に成った?天竜なんて大層な名前にも負けてるし、下種人に改名したらいいんじゃね」

 

口の端を小さく吊り上げて嘲笑する一誠の前にドラゴン達が集結する。恐怖と絶望の象徴が天竜人に一生のトラウマとして植え付けられただろう。

 

「また襲撃しにくるぞ。その時にまた奴隷を飼っていた時は・・・・・お前ら天竜人の血は滅ぶと思え」

 

「―――お~、それは困るね~~~・・・・・」

 

サングラスとストライプの入った黄色のスーツを着用して、目が垂れてる男が〝光の速度〟で接近してきて出会い頭に蹴りを放ってきた。

 

「!」

 

ガッ!と瞬時で蹴りを繰り出して受け流す一誠は距離を取った。

 

「ほ~、わっしの速度と蹴りに反応するとはァ・・・・・初めてだねェ~」

 

「その外套・・・・・海兵のか」

 

「おやァ?わっしを知らないたぁ素人海賊なのかい」

 

「その素人海賊がこんな場所に一人でノコノコいると思うのか?」

 

「そんじゃァ、名前は何て言うんだい天使君」

 

「他人に名乗らせるなら自分から名乗るべきじゃないのか?」

 

軽く2メートルは優にある長身の中年の男は一誠の指摘にあっさりと応じた。

 

「海軍本部『大将』黄猿、名前はボルサリーノ」

 

天竜人に手を出せば大将が現れると何度も聞いていた事が実際に起きて、軽く驚嘆した。

 

「あんたが話に聞く大将か。長居し過ぎたようだな。さっさと事を済ませていなくなるつもりだったんだけど」

 

「これだけの暴挙をしておいて無事に帰れると思っていたら大間違いだよぉ~?」

 

「人間が人間を買う暴挙も大間違いじゃないのか。正義の味方の大将さんよ」

 

「ん~~~痛いところをついてくるが、お前さんの名前はまだ名乗ってもらっていないけどぉ?」

 

そう言えばそうだったな。とドラゴン達を魔方陣を介して身体の中に戻し、名を名乗ろうとした瞬間・・・・・。

 

「あー、ちょっと待ってて」

 

「うぅ~ん?」

 

本名を名乗ろうとしたが、異世界に来てまで本名を通す必要があるのか?不意にそんな考えが頭に過り、大将相手に待ったをかけた一誠は腕を組んで考え始めた。律儀に待つ姿勢でいる黄猿の目の前で考え込んで数十秒後。

 

「ん、俺の名前は―――イッセー・D・スカーレットだ。よろしく」

 

「イッセー・D・スカーレット・・・・・短い間だけどよろしくねぇ~」

 

「大将の実力・・・・・教えてもらうぜボルサリーノさんよ」

 

光の剣を具現化して一誠も光の速度で黄猿に接近した。大将黄猿も自身の半身以上の大きさの光の剣を作り出し、光速で一誠へ移動して斬りかかる。

 

「ぬぅ!!!」

 

「はっ!!!」

 

光剣同士がぶつかり合い、使い手によって鍔迫り合いが始まった。

 

「・・・・・フー・・・これは驚いたねェ~~~何の悪魔の実の能力か知らないが、〝覇気〟も纏っているとあらぁ、わっしも軽い気持ちで戦えなくなるねぇ・・・・・」

 

「ぶっちゃけ、ボルサリーノさんしかこの場に来てないんだろ。大方、天竜人の保護をしに来たであろう他の海兵達が大勢身を隠して機会を窺ってるし」

 

「〝見聞色〟の覇気かい・・・・・それだけの使い手が今の今まで無名でいたとは信じられないよぉ~?」

 

「諸事情があってね。話せば長いよ。絶対に信じられない前提でな」

 

火花の代わりに光の粒子が斬り合う度に迸り、一進一退の攻防が繰り広げ続く。

 

「ボルサリーノさん、剣術って習ってないでしょ。何気に隙だらけだ」

 

「わっしは〝ピカピカの実〟の『光人間』だからねぇ~~~」

 

「能力を頼り過ぎるのは駄目だと思う」

 

流動する身体には物理攻撃は不可能故に問題ないと言うボルサリーノに真顔で指摘すると、二本の指を眼前に突き出してきたと思えば眩い閃光を指先から放ち一誠の目を潰す。

 

「まぶっ!」

 

一瞬だけ見動きを止めた瞬間を逃さず横からの蹴りを繰り出す黄猿―――の気配を感知して片手で掴み防ぐ。

 

「やるねェ~~~」

 

「そっちも―――だ」

 

全身から迸る光と雷。掴まれてる足から雷光の攻撃が伝わり、ボルサリーノは少なからずダメージを食らったが足の裏から特大レーザーを放つ。零距離から放たれて無事で済む者はほぼいないだろう。レーザーに呑み込まれそのまま崩壊した建物の奥へと飛んで行く直後に大爆発が生じた。足を掴んでいた相手はいなくなっていた―――。

 

「おやぁ~~~?」

 

代わりに楕円形の金色の繭があった。否、よく見れば繭と思しき神々しい光を纏うそれは翼であった。興味深げに目を向けていたら、繭が満開した桜の花のように一気に開きだし、中にいた一誠が既に殴る姿勢に入っていた。

 

ドゴンッ!!!

 

「っっっ~~~~~!!?」

 

見えない衝撃波、腹部を殴られた確かな打撃の感触を感じた時には身体をくの字にして後方へ吹っ飛び、瓦礫と化した建造物の裏まで壁をぶち抜いて吹っ飛ばされた。

 

「やってくれたなボルサリーノさんよ。足の裏からレーザー撃つなんて」

 

極太のレーザーに呑み込まれていた筈の一誠が無傷の姿でそこに立っていた。対して遠くまで吹っ飛ばされた大将黄猿も光と化して飄々とした態度で一誠の前に戻る。

 

「そっちもやってくれるじゃないのぉ・・・・・殴られる体験なんて数十年振りだよぉ?」

 

「だったら今度はその頭に拳骨を食らわせようか」

 

「そいつは遠慮するよォ・・・・・―――八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)

 

空中に移動し、両手の指で作った円から無数の光の弾丸を雨のように発射する黄猿。その攻撃に対して金色の翼で守りの姿勢に入り光の弾丸を防ぎながら彼の大将の許へと飛翔する一誠。

 

「そろそろ帰らせてもらうよ」

 

そう言いつつ横薙ぎの蹴りを繰り出し、ボルサリーノの蹴り技を誘った。二本の足が直撃すると同時に―――大将の背後の虚空から波紋が生じ、そこから金色の鎖が飛び出して来てボルサリーノの胴体に巻き付いて身体に沈むかのように溶けて消えて無くなった。鎖が消える現象に不思議に思いながら、手を突き出してくる一誠の攻撃の姿勢に光と化して回避しようと―――できなかった。その疑問が湧く前に雷光が〝生身の体〟に直撃する。久しく感じなかった激痛が全身から脳天まで伝わる。

 

「ぐうぅ~~~~~!?」

 

「能力が使えなくなったボルサリーノさんは、もう脅威と感じないな」

 

仮面の中で不敵の笑みを浮かべる天使の翼がギラリと鋭利な刃物と化した。〝ピカピカの実〟の能力が使えなくなった?身体を縛って消失した鎖がそうしたのかと自問自答している間に、手を突き出す一誠に呼応して身体が勝手に宙を浮き、十二枚の翼で斬りつけられる。黄色いスーツが自分の血で赤く染まり、理解に追いつく間もなくボルサリーノ腹にトドメの雷光の魔力の塊で具現化した巨拳で身体に叩き込まれる大将の視界は真っ白に染まった。次に襲いかかる激しい衝撃で一誠の前で地面に倒れ伏した。

 

「「「き、黄猿さんが倒されたぁあああああああああああっ!!!?」」」

 

「大将の一角、討ち取った」

 

天竜人の保護を目的とした海兵達が、戦いの末に起きた結果に驚きを露わに姿を現した。その後、海兵も蹂躙し、海軍本部の湾内の広場に突き刺した十字架に張り付けた敗者黄猿を晒す。この者を倒したのは己だと騒ぎを起こして主張すると〝光人間〟のように光と化して消失した。

 

 

 

 

 

 

 

「起きたか黄猿」

 

「センゴクさん、すいませんねぇ・・・・・」

 

「謝る必要などない。それよりお前を負かした者は一体誰なのか、何の目的で天竜人に襲撃したのか分かる範囲で教えてもらうぞ」

 

数時間後。医務室で全身に包帯を巻かれた黄猿が目を覚まし、傍には数人の中年から初老の男性が揃って立っていた。事情聴取を受け、現場に居合わせて起きた経緯を求める上司達に一つも隠さず告白する黄猿であった。

 

「あのコの目的は天竜人の奴隷の解放」

 

「・・・・・それだけか」

 

「ええ、聞いた話ではねぇ~~~・・・・・また襲撃しに来るとも言っていましたし、天竜人が奴隷を飼う限りは何度でも繰り返すでしょうセンゴクさん」

 

「で、名前はなんじゃ黄猿」

 

「イッセー・D・スカーレットと名乗っていましたよぉ~。〝覇気〟も使えるようですし、一筋縄にゃいかんですよ。わっしの光速に反応する実力も持っていましたからねぇ~~~」

 

故に敗れてしまったのだと溜息を吐いた大将黄猿からの一誠の危険度を聞き、元帥達の中で格付けは決まった。

 

「どうするセンゴク。次期七武海の候補でも決めておくか?」

 

「馬鹿を言えガープ!天竜人を半殺し、聖地を壊滅させた者を抱えられるわけがない!政府からも何を言われるかわかったものでもないんだぞ!?」

 

「まぁまぁ、そうカリカリすんな。ほれ、せんべいでも食べてリラックスでもしとれ」

 

「この非常事態にせんべいなど食っていられるかぁっ!!!」

 

能天気な事を言う昔から長い付き合いである同僚の言動にフラストレーションが蓄積する一方の上司だった。

 



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百獣海賊団カイドウ

天竜人が住む聖地マリージョアを壊滅させてから一週間が経過した。人間以下の奴隷に堕ちた者達の体に刻まれた焼印を消して前半の海『偉大なる航路(グランドライン)』、後半の海『新世界』の東西南北の町まで送り天竜人から強奪した財宝を渡しその後は自己責任として放置した。流石に一人一人の故郷まで連れて行けなど、今のおれには到底難しい事だから申し訳ないと言ったが、元奴隷の人達は「解放してくれただけで一生の恩です!」と笑って許してくれた。そんな行いは更に一週間もかかったおれは、新世界にいて我が物顔で空を遊泳中とあることに今巻き込まれた。

 

ドゴンッ!!!

 

「―――――」

 

『ッ―――!?』

 

まさか―――空から人が降ってくるように落ちてくるとは思いもしないだろ!

 

最初は頭と頭が衝突して例えようがない痛みも一瞬で一気に襲ってきて、頭にぶつかってきたそれを掴みながら睨み付ける。大きな龍の指に摘まれてるのは鬼のような2本の大きな角に腰まで伸びる長いナマズ髭を蓄え、通常の人間がが見上げるほどの常人の数倍はある体躯をした筋骨隆々の大男。左腕に髑髏と鱗のような刺青、右腹部に大きな十字傷がある。大男は手で頭を抱えて唸っていた。

 

「クソォ、頭痛ぇな・・・・・」

 

『それはこっちの台詞だ!なんなんだお前、いきなり空から降ってきやがって!』

 

ぶつからず落下地点だった下へ見下ろせば、名も知らぬ島に落ちていたかもしれない。なんだって空から降ってきやがった?そんな疑問を抱いている俺に謎の大男が言葉を投げてきた。

 

「おいお前・・・・・悪魔の実の能力者か」

 

『違う。信じちゃくれないだろうがこの世界とは別の世界から来た』

 

「別の世界だと?何言っていやがる」

 

『別に信じてくれなくていい。それよりも何で空から墜ちてきた?てか、その前提でどうやって空に昇ったんだ?』

 

「おれの趣味は自殺だ」

 

趣味は自殺だって言う人間は初めて見聞したよ。しかし、大男の巨人と見紛う強靭な肉体を注視して『下に墜ちてもお前、死にそうな感じしねぇなぁー』と感想を抱いた。

 

『アホだろ。趣味が自殺なんて。お前のことは自殺願望者って呼んでいいか?』

 

「ふざけるな。おれの名は―――カイドウ、百獣海賊団のカイドウだ」

 

カイドウ・・・・・ただ者ではないと思ってたけどまさかあの海賊の船長だったとはなー・・・・・。

 

『仕方ないから家まで送てってやるよ。場所はどこだ』

 

カイドウの家まで送ってやろうと方角を教えてもらい、猛スピードで空を駆ける。

 

何時間もかかったのかわからないがカイドウの家もといナワバリに辿りついた。島は・・・・・なんだか鬼の顔を彷彿させる建造物?があって一瞬鬼ヶ島かと思った。その島とは別の島があったけど今は目前にしている島へと近づいた。

 

『あそこか?』

 

「ああ」

 

訊ねると肯定するので真っ直ぐ仮称鬼ヶ島に降り立った。同時に何故か騒がれた。

 

「敵襲ー!!敵襲ー!!!」

 

「キング様達を呼ぶんだぁ!」

 

ワー!ワー!ワー!ギァー!ギァー!ギァー!

 

・・・・・まぁ、そんな反応をされるのは無理もないか。

掌の中のカイドウを地面に降ろすや否や、頭の存在に気づく部下は安堵で胸を撫で下ろしたりそういう気持ちを醸し出してカイドウに追求しだした。

 

「カ、カイドウ様。この化け物は」

 

「酒を用意しろ。それと飯もだ」

 

「は、はい!」

 

開口一番でそれかよ。命令された何十人もの部下達は、弾かれたように鬼のような顔をしたドクロの建造物の中へ駆けていく様子を見ていた俺にカイドウが話し掛けてきた。

 

「お前も酒盛りに付き合え」

 

『いいのか?じゃあ遠慮なく。飯は中でか?』

 

「その無駄にデケェ身体をどうにか出来るもんならな」

 

なにも知らないカイドウに言われたくはないが、龍化から人化になって見せるとカイドウに睨み付けられるような眼差しで見下ろされる。

 

「本当は悪魔の実の能力者じゃないだろうな」

 

「ちげーよ。なんだったら泳いで見せたろうか」

 

ウォロロロロ・・・・・と独特な笑いかたをするカイドウが歩き始め、おれもついていく。なんつぅか、恐竜と歩いている感が凄まじくするな。相手はある意味では恐竜だけど。

 

 

???side

 

カイドウ様が戻ってきたかと思えばどこぞの馬の骨ともわからない若造を連れてきた。カイドウ様が連れてきた海賊かと思って部下に聞いてみたが、そうではないらしい。名を馳せてる海賊でもなく正体不明の奴かと思ったら。

 

「ですが、どうやら悪魔の実の能力者らしいです。カイドウ様並みのバカデケェ怪物で」

 

「カイドウ様はどうする気なのかわかるか」

 

「さ、さぁ・・・酒と食事を用意するように言われていましてそれ以上のことは」

 

食事?戦力に加えるために盃を交わすのかカイドウ様は?

 

 

 

 

「おー」

 

運ばれてきた料理の数々。中には故郷の食材の料理を使った料理もあって感動的だった。結構な数の料理だが、カイドウの胃袋の大きさを考慮すればこのぐらいでなければ満足しないだろう。流石異世界。

 

「すげーな。特にお前の瓢箪。何だよその大きさ、初めてみたぞ」

 

「ウォロロロロ・・・・・やらんぞ。これは俺の酒だ」

 

「酒かよそれ。胸焼けどころじゃない量を飲む気すらないから」

 

小さな湯船に入れられる量を超えた酒をがぶ飲みするカイドウを見ただけでも胸焼けしそうになるから飲むところだけは見ないようにして、盃を持ってカイドウと乾杯する。

 

「これでお前の傘下に加わったことにはならないよな?」

 

「俺の部下になるなら幹部にしてやってもいいぞ。歓迎する」

 

「出来ればお友達からよろしく」

 

ざわめく周囲を他所に手短な料理を食べ始める。カイドウも酒八割飯一割の感じで食べ、聞いてきた。

 

「おい、お前の名はなんだったか」

 

「ん?ああ、言ってなかったな。イッセー・D・スカーレットだ」

 

「・・・・・ここ最近、億超えのルーキーが手配されたばかりの名前だな。お前なのか」

 

「おれに手配書?見せてくれるか?」

 

最近飛んでばかりだったから世間の情勢は疎い。カイドウが手配書を部下に持ってこさせ、直接俺に渡してくれたから内容が把握できた。

 

イッセー・D・スカーレット

 

500000000

 

 

「・・・・・5億?いつの間にこんな額・・・・・天竜人を全員半殺しにして大将の一人をぶっ倒したからか?」

 

「それが本当ならばその額は納得のいく数字だ」

 

「カイドウには負けるよ。人生の先輩でもあるんだから当然だけどさ」

 

骨付き肉を食いながらあることを疑問に抱く。あ、うまっ。

 

「世界貴族に関する情報とかはないのか?」

 

「知らねぇな。海軍や世界政府が情報操作をしてるんだろうよ。お前の手配書だけが加えられていたからな」

 

ふーん、と気のない返事をして改めて自分の手配書を見る。億超えの賞金首になるには長く海賊や海軍相手にしながら生きていくか、格上の相手を打破、もしくは島や国を何度も滅ぼすほどのことをしなくてはならないのだと、ハンコックから教えられたが・・・・・。

 

「少なく感じるな。また天竜人と海軍大将を倒せばあがるのか」

 

「世界を敵に回すか。海賊になるつもりはねぇんだろ」

 

「懸賞金が懸かるのは何も海賊だけじゃないと思うんだがな。だけど、もっと悪戯に賞金を上げてみたくなるな」

 

不敵に笑いながらそう言うと、カイドウが口の端に零れた酒を腕で拭きながらあることを言ってくれた。  

 

「なら、手っ取り早く他の海賊の首を取ればいい」

 

「カイドウ的に認めている海賊は?」

 

「リンリンと白ひげのジジイだな」

 

「誰だ、リンリンって」

 

「ビック・マムっていうババアだ」

 

教えられた海賊の名前が出て来たけど、居場所がわらかないんだよな。

 

「居場所は知ってるのか?」

 

「何だ、行くのか」

 

「一度は顔を拝んでみたいからな。もしも何かの拍子で戦いになったらその時にでも倒してみるよ」

 

「だったらババアのところに行ってみろ。もののついでに奪ってきてほしいもんがある」

 

それを聞くとデカい石と言われた。カイドウが石を欲しがる理由はあるだろうけど、それが何なのかわからないが軽く了承した。相手は良心的な人間じゃないなら心を痛まずに奪えるな。

 

 

カイドウside

 

 

出発は明日にすると言って外で野宿をする奴がいなくなったのを見計らい、三人の俺の部下が顔を出してきた。

 

「カイドウさん、あいつをどうするおつもりで」

 

「何もしねぇ。ひとつ頼み事をした程度だ」

 

「戦力にもしねぇんですか。それなのに飯を一緒に食ったのかよカイドウさん」

 

「ウォロロロロ・・・・・。俺の傘下に加えたらあいつをお前らと同格の扱いにしてやるつもりだ」

 

「そこまであの男を買っているのですか」

 

「ああ、世界を敵に回すことを当然のように言いやがるからな。その証言通りに奴は天竜人を半殺しにして大将の一人を倒したと言う」

 

こいつらは信じられねえとぼやきやがった。俺の言葉を信じられねぇのか。

 

「奴がそんなことを?無名の輩が?」

 

「いや、現実的に奴も懸賞金が掛けられていた。お前らよりかなり低いがな」

 

奴の手配書を見せてやり無名の輩ではないことを教えた。

 

「たったの一度で5億?何かの冗談では」

 

「そう思うのはお前らの自由だ。だが、あいつに頼んだことを成し遂げたらその考えは改めておけ。足下をすくわれるぜ」

 

ウォロロロロ・・・・・と笑いながら酒盛りを続ける。頭の隅でどうやってあいつを取り入れようか考えながらな。

 

 

 

 

 

一泊させてもらった早朝時に誰からも見送られる前にとっとと旅立ってビック・マムのナワバリへ直行する。教えてもらった方角へ一っ飛びして果てしない大海原を越え続け数時間。目的の島を肉眼で捉えることができた。何だか馬鹿デカいドラム缶のような形状をした元の世界でも上位に誇るものが聳え立っている。カイドウの話だとあの中にデカい石があると言うが、はてさて・・・・・どこにあるのやら。カイドウが認める海賊の一人が統べる島だから幹部も居座っているだろうし、できるだけ物静かに探そうかね。町中を探索しながら。

 

 

―――拝啓。父さんと母さん。俺は今、お菓子の家もといお菓子だらけの町に来てしまったようだ。チョコレートの噴水にお菓子の建物。至る所から甘い匂いがする他にも出店でも見たことも聞いたこともないお菓子が販売されている。そして島民たちもおかしい。手だけ長かったし足だけ長かったり、この世界にもいるとは思わなかった獣人には目を疑った。他にも奇妙な人種がいっぱいいて目を奪われがちだ。特にナヴィの能力で調べたら巨大なドラム缶もどきは『ホールケーキ(シャトー)』、城だったことが驚きだ。

 

「(ニーズヘッグ。ここ、お前の理想郷かもしれねぇぞ。食い物ばかりの国だ)」

 

《たまんねぇな!な、なぁ、俺を召喚してくれよぉ~!》

 

「(ああ、お前の出番が来るだろうから必ず出してやる。この国に住んでいる人間には手を出さない条件付きでな)」

 

『それならニーズヘッグを囮兼陽動に出せば探し物もスムーズにできると思うが』

 

「(異世界とはいえできるだけ海賊じゃない人間に被害を出したくないのが心情だ。まぁ、それもアリなのは否定しないが・・・・・うん、敵の戦力を知るためにもするか。悪魔の実の能力者とやらがお前らに通用するのか興味あるし、弱点は海だってわかってる。水の中に閉じ込めれば力も振るえないだろう)」

 

身に宿るドラゴン達が笑った。

 

「(と、いうことでお前ら。非戦闘員の民間人に手を出さず暴れまわれ)」

 

次の瞬間。俺は皆を龍門(ドラゴンゲート)を開いて一斉に現世へ解き放った。当然、突如現れた怪物達に民間人は阿鼻叫喚を巻き起こした。暴れ始めた家族を他所に俺は悠然と歩きながら大きい石があるだろう巨大なドラム缶みたいな数多の人の気配が感じる城へと向かう。

 

 

???side

 

 

町で未知のバケモノ共が暴れている報告を受けた。部下や弟たちは偶発的な襲撃を収拾するために動き回っているが俺の出る幕はないだろう。どこから現れたか知らないがこの国を襲ったバケモノは憐れだな。理知を備えていればここはどこで誰が治めている国なのか知っていれば死なずに済んだだろう・・・・・。だが、そう思っていた俺はその予知を裏切られた。こっちに通信が入り弟からの助力を求められた。どうやら桁違いな強さを有していてペロス兄でも困難を極め、モンドールの能力ですら納めきれないデカさのバケモノらしい。助力を了承し俺も騒動の中心へと向かうべく現場へ赴き―――そいつと出会った。

 

 

 

この世界は異様に色んな人間がいるようだ。チェスを模した格好の人間がこの城の警備兵『ホーミーズ』。他者の魂で擬人化した存在とか、元の世界にもそんな存在はいるかどうかもわからないけれど・・・・・。

 

「まぁ、さほど強くはないな」

 

腕を振るって悠璃の大鎌の能力を駆使して一掃する。悲鳴を上げながら倒れていくホーミーズから魂が出てきて、天に召されたか起き上がる気配はなく沈黙した。幹部以下はこの程度ならわざわざ戦う必要もないな。何となく力試しをしたかったから透明を解いた今、再び透明になって歩いた。透過にもなって天井や壁、床に沈んで赤い石を探す。城にいる人間達は町で暴れているバケモノの鎮圧に駆り出されて警備も薄いと思うから、透明人間になったことも加味して楽々と探索ができる。―――だから、目的の石を発見することが叶ったわけだ。城の中の構造なぞ全無視して移動しまくったから今どの位置にいてどの辺りにいるのかは分からないけれど石造りの空間に数え切れない箱に囲まれ、上階には金庫の役割をしてる檻の中に大きな赤い石があった。

 

「宝箱みたいなものも持っていけばいいか?」

 

入ってこられるのも面倒だから重厚な木製の扉を施錠して、空間に穴を開けて鬼ヶ島に直接行き来できるようにする。そんで檻を取っ払って赤い石や数多の宝箱を魔法で浮かせカイドウのところに持って行った。途中、擦れ違う百獣海賊団の船員達におっかなびっくりした顔をされたけど、気を辿って酒盛りをしているカイドウと会えた。

 

「カイドウ、持ってきたぞー。これでいいんだよな?」

 

「・・・・・本当にリンリンを出し抜いてそいつを持ってくるとはな。しかも宝まで持ってきやがったのかお前」

 

「海賊なんだから喜ぶかなって。でも、お前って酒の方が喜びそうだけどな」

 

「ウオロロロロッ!ああ、確かに俺は酒の方が宝なんぞよりいい。しかし、お前は直接それを持ってくるとはぁ俺の幹部達ですらできもしねぇことをしたな。称賛に値する。だが、リンリンの幹部共と戦わなかったのか」

 

「頼もしい家族達が城下町で暴れまわってくれている。警備が薄いところを狙ってコレを持ってきたから誰一人戦ってないよ」

 

「家族ぅ?お前ひとりだけお前の世界から来たんじゃないのか」

 

「それは追々教えるよ。んじゃ、一先ずこれらを表に置かせてもらうよ」

 

皆を迎えるためにこれは置いていく。絶対に百人でも持てそうにないこれは一体どうやってあの城の中に置いたのか疑問が残るが、鬼ヶ島の出入り口から少し離れた場所に置いてホールケーキ城の中へ戻り外に躍り出た。

 

「おーおー、暴れてるなー」

 

城下町は地獄絵図に等しい状態になってた。ニーズヘッグが食い荒らしただろう見える範囲の建物が滅茶苦茶になってて今もなお暴れているアジ・ダハーカ達はビック・マムの海賊団員と戦っている。・・・・・三人ほどか、戦闘狂のグレンデルとかなりいい勝負をしていて、あいつが押されている。飴や餅のようなもので動きを封じられ、口も塞がれたらいかにグレンデルでも反撃は難しい。他の皆は俺が戻ってくるまで暴れているつもりでいるが何度かフォローして対抗していた。

 

「ま、そろそろ終わりにしようか」

 

遥か上空に飛翔して太陽を彷彿させる巨大な火炎球を十個ほど作り地上に落とす。ドラゴン達が空から落ちるおれの火炎球に気付き、空へと飛んで回避した直後。町が真っ赤な光に包まれた。鈍い地響きと共に生じる轟音、一つだけでも直径百メートルの範囲まで広がりそれが十個。爆発が収まる頃には町は殆ど消し飛んでいて無事な人間は殆どいないだろう。

 

『我が主、目的は果たしたか』

 

「ああ、終わった。お前らはどうだった」

 

『グレンデルが苦戦を強いられていた以外は程々であったな。ニーズヘッグは無限に菓子を生み出す者を嬉々として相手をしていたが』

 

『ケッ!悪魔の実のとかの能力があそこまで厄介だったとは思わなかったんだよ!』

 

おれの周囲に集まった家族達が口々に感想を述べる。やっぱり悪魔の実の能力者には一目を置くようだ。それを知れただけで充分。皆をおれの中に戻しとっとと退散しようとしたが強い眼差しを感じたから下へ見下ろす。

 

屈強な肉体にジャケットを羽織り、カウボーイブーツを履いた短髪の男。左腕の刺青、ベルトのバックル、ジャケットの背面などにドクロの意匠が施されている。顔側面から口元に渡る傷があり、口元はファーによって隠されている。明らかに身長は五メートルはあるか。クレーターだらけの地面にまで降りて宙に漂いながら対峙した。

 

「あの攻撃で生き残ってるとか運がいいんだな」

 

「よくもやってくれたな。おれの家族を、この国を滅茶苦茶にしてくれた罪は死罪すら生温い・・・・・!!」

 

「じゃあ極刑?」と問う間も無く男が飛び掛かってきたが軽くかわしてアジ・ダハーカ達がいる上空まで舞い上がった。―――それでもこっちに飛んできた、というか筋斗雲のように白い雲の上に乗っている巨人と見紛う巨大な老婆が二角帽から生やしたサーベルを振るってきた。

 

「てめぇの仕業かぁ~~~!!!」

 

「・・・・・」

 

見切って一撃をかわしながら魔人化して、片腕だけ巨大な異形にした手で巨体な老婆の体を掴み体力を奪いとった。

 

「うっ・・・・・!?」

 

「「「ママッ!?」」」

 

雲の上に膝をつき、俺に背中を跨がれたまま体力を奪われ続ける。

 

「大海賊だろうと、人間として生まれた限り体力を奪われちゃどうしようもないよな」

 

「お前ェ~ママから離れろォっ!」

 

喋る小さな太陽が炎のように激しく身体を燃え上がらせて、俺に炎を吐くがその炎に対して空気中から集めた水分で具現化した水龍で対抗し炎を消しながら太陽に噛みつかせた。

 

「炎なら水だよな」

 

「ぎゃあああああああああああっ!!?」

 

「プ、プロメテウス!?」

 

・・・・・生き物なのか?痛みを感じるみたいだけど、何とも言えないな。でもまぁ、もうここに長居をする理由もないな。

 

「悪いけど目的を果たしたからには、これ以上は戦う気はない」

 

「目的だと・・・・・!」

 

「・・・・・うーん、教えてやってもいいか?」

 

不敵な笑みを浮かべ、ある虚偽を告げた。亜空間から取り出した白いコートを取り出し、それを目の前で羽織った。コートの背中に書かれている『正義』の文字を見せつけて。

 

「おれは海軍の人間だ。お前らが保有していたあの石を頂戴すべくこの国を襲撃したまで。しかし―――たった一人の海軍の海兵相手に国を蹂躙された気分はどうだ?お前ら海賊は罪のない人々を脅かす存在だ。ある意味因果応報だよな。フハハハハッ!」

 

アジ・ダハーカの頭部に乗り、ついでにこの巨老婆も捕まえてもらいここから離れてもらうようお願いした。

 

「面目丸つぶれの大海賊。次に会う時は世界の覇権をかけた頂上戦争の時だ。さらば!」

 

「ふざけるな、ママを返せっ!」

 

腕を変形させて伸ばしてくる男に目を妖しく煌めかせ、動きを封じた最中、空間に穴を開けて、信憑性を増すために海軍本部と繋げた。海軍と書かれたデカい要塞へ向かうおれ達の姿を目に焼き付けてもらった後は空間を閉じ海軍相手に前回の白銀の能面と天使の姿になって海軍の前に現れた。

 

「よォ、ボルサリーノさんいる?」

 

 

???side

 

 

 

「セ、センゴク元帥!センゴク元帥ィ~!」

 

一人の海兵が汗を流しながら大慌てで元帥の事務室へと駆けこんだ。彼の慌ただしさに怪訝な表情をして報を催促した。

 

「何だ騒がしい、何事だ」

 

「い、一大事です!あのビック・マムが!湾岸内に連れてこられております!」

 

「な、何だとっ・・・・・!?それは一体どういうことだ!いや、誰がそんなことを仕出かした!」

 

「聖地マリージョアを壊滅、天竜人達を半殺しにしたあの男です!」

 

なっ・・・・・!と絶句したセンゴクと呼ばれた海軍総司令官は条件反射で立ち上がり、すぐさまこの目で確認をするべく事務室から飛び出して駆けだす。彼が湾岸内に辿り着いた頃には数多の海兵や将兵が武器を構え、空中にいる片手では数えきれないドラゴンと先の大事件を起こした張本人がビック・マムを連れて来た者に警戒していた。

 

「・・・・・信じられん光景だ。本当にビック・マムを捕えているのか」

 

一体どんな手を使って可能にしたのか気になるところだが、世界的犯罪者がどんな目的で厳重に鎖で縛って連れて来たのか問い質せねばならない。センゴクは誰よりも前に出て、警戒を最大にしながら口を開いた。

 

「貴様、ここに何の用だ」

 

「この海賊の引き渡し」

 

「それだけか」

 

「それだけ」

 

・・・・・短いやり取りで終わってしまった。嘘を言っているわけでもなさそうだが、不安が払拭できないでいて目を細めるセンゴクは更に訊く。

 

「七武海の座を狙っているのか」

 

「・・・・・七武海?いや、大海賊の一人でも捕まえれば俺の首に掛けられてる懸賞金がもっと上がるかなって感じに思ってるだけだな」

 

理解に苦しむ理由だ。

 

「聖地マリージョアを壊滅、天竜人たちを半殺しにした上にビック・マムを捕らえる・・・・・貴様は何を考えている。海賊でもない男がこれだけの所業をして一体何がしたいのだ」

 

「うーん。前者は奴隷解放をするために襲撃しただけで、この老婆に関しては今さっき言った理由だ。あんま善悪の判断でしたつもりはないな」

 

「・・・・・貴様は敵か味方なのか、どっちなのだ」

 

「さぁな。時と場合によったり、状況や理由によって敵にもなるし味方にもなる。まぁ、敵対するような真似や行為をしない限りはこっちから手を出さないでいるつもりだ」

 

静かに宙に浮き、ドラゴンの頭の上に乗って一言告げる。

 

「ああ、天竜人に関しては人間を奴隷にする考えをなくさない限りは何度でも襲うつもりだ。―――人の人生と人権を奪うのはこの世界で一番嫌いなことだからよ」

 

「貴様・・・・・ッ!」

 

「そこにお前ら海兵もいたら、容赦しないからよろしく」

 

ドラゴン達と共に光となってセンゴクたちの前で姿を消した。まるで魔法のようにビック・マムを残していなくなった状況の中でセンゴクは苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべる。

 

―――後日、おれの懸賞金が一気に数10億も跳ね上がり暫定であるが新たな大海賊の誕生!と世界中に知られることになった。それを知った時にはカイドウのナワバリに住み着いていて。

 

「カイドウさん、カイドウさん。何か俺が新たな大海賊になっているんだけど?」

 

「リンリンを失墜させたお前にそうなるのは当然だろう」

 

「俺は別に海賊として名乗ったわけじゃねぇ!」

 

「海賊相手に戦う奴は海賊以外誰がいる」

 

「ここにいるけど」

 

「おれの部下になれ」

 

嫌でーす、と言い返してカイドウから離れる。鬼ヶ島の城の中を歩けば百獣海賊団の団員達とすれ違う。すると横一列に並んでおれに頭を下だしてきた。

 

「イッセーさん、お疲れさんです!」

 

「「「「「お勤めご苦労様です!」」」」」

 

「や、おれ何の仕事もしてねぇから。てか、居候のおれに挨拶なんて」

 

過剰な反応でなくてもそんなことする必要はないと思って言ったら、彼等は焦った風に言ってきた。

 

「いやいや、とんでもないでしょ!あのビック・マムを倒したお人に無視なんてできないですって!」

 

「そうですよ!それに新聞見ましたぜ!今世間じゃアンタのことで大盛り上がりだ!」

 

「もしもイッセーさまとカイドウさまが手を組んだら世界の海は制したも当然!」

 

ってな感じで、ここしばらく自分達の頭のように敬語で話しかけたり畏敬の念を抱いて接してくるようになってしまった。海賊になるつもりはないからカイドウの敵になることも味方になることもないけれど、個人的な付き合いをしている方がお互い絶妙な距離感を保っていられる。向こうもそれが望ましいからかおれを勧誘することもあまりない。まぁ、その代わりに百獣海賊団の権限をくれたな。

 

 

カイドウのナワバリの地をいくつかおれの支配地にする権限。

 

船長のカイドウを除き以下の海賊団員に命令できる発言権。

 

百獣海賊団に何らかの貢献をすれば他にも権利を得られる。

 

 

ビック・マムを地に引きずり落とした褒美としてカイドウが何でも願いを叶えてやるというから、こんな権限を貰った。ここ鬼ヶ島から離れた『ワノ国』という江戸時代を彷彿させる国の土地をいくつか直接下見して自分の領土にした。ワノ国を支配しているのはカイドウともう一人であるが、俺の許可なしに俺の土地で暴力・戦闘は固く禁止にして、今は土地を耕している。

 

「はぁ~まぁいい。今日も畑を耕すからな。食料をもっと育てて増やせることができたなら『九里』の住民たちが働く意欲が増して今より九里の上りはちょっとでもよくなるんだ。それがあの土地の元締のジャックのためにもなる」

 

「「「「「かしこまりました!」」」」」

 

と、こんな感じでここしばらく俺は下見して知った荒れ果てた荒野の地で、畑を耕すことにしている。そんで朽ち果てている城を再生して荒れ地に移し替え居を構えた。そうしてしばらくたった現在では、荒野に緑を取り戻しておいて城の周囲には無事に野菜や穀物の芽が出てきている段階にまで至っている。こいつら団員達の協力の甲斐もあってようやくな感じになったわけだ。

 

彼等と別れて外へ赴く途中でまた誰かに声をかけられた。振り返れば長い2本の角を持ち、金属製の大きなマスクをつけた長髪の男。他の百獣海賊団の団員達と比較にならない威風と体格は他の連中と逸脱しているのは当然とばかり、カイドウの懐刀の一人がいた。

 

「なんだ?」

 

「まだ意味のないことをするつもりか」

 

「あのなぁー。別にお前のためにしているわけじゃないけど、九里の上りが悪いのは住民達の士気と意欲が低すぎるからなんだぞ?ちゃんと食糧を配って仕事をやればそれなりの成果と結果がでるんだ。問題はない筈だぞ」

 

「お前のすることに理解できん。何故カイドウさんはお前を好き勝手にさせているのかもだ」

 

「お前らができないことをおれがしてみせて貢献したからだろ?そのおかげでおれは海賊の一人に数えられそうになっているがな。それにおれに文句があるならカイドウに言えよ。ここに居候を許しているのだってカイドウなんだからな」

 

あの人にそんなこと言えるか。と言いたそうな顔を向けられても気にせず九里へ赴くために歩を進める。

 

 

―――九里 おこぼれ町―――

 

 

「さぁ、お前ら。今日も畑仕事をしてもらうぞ。仕事が終えたら美味い飯の時間だ!」

 

『オオー!』

 

老若男女の貧民達のやる気ある声が響き、農具を持って形に整っている田畑へ移動した。高い台の上に座って彼等の監督を勤める俺に報せる数人の男の話を耳にする。

 

「イッセーさん。他の所からもここの噂を聞いて仕事を参加をしたい人達がいるって話だが・・・・・」

 

「人が多いに越したことじゃない。誘えるなら誘ってくれ。来てくれる人数がこの地を豊かにしてくれるんだからな」

 

「ああ、わかったぜ!」

 

笑顔を浮かべて仕事に戻る男を見送り、視線を変えてこの田畑を作ってから3ヶ月が経過した結果を見て感慨深く視界に入れる。

 

「今月もこんなに作物が育ってるな!」

 

「新鮮な食べ物だから丁寧に扱ってちょうだいよ!」

 

「おーい、また鶏たちが卵をたくさん産んでくれたぞー!」

 

「新しい雛も無事に生まれておるのぉ」

 

と、そんな明るい声が聞こえてくる。3ヶ月前とは比べて生気が溢れている彼らの様子が伺えて微笑ましく見守るおれに子供達が収穫した野菜を笑って見せに来てくれた。これらを都や百獣海賊団に売り込みすれば九里の人達の収入となり、九里の上りが増えていく。そして飢饉に遭っている人達の腹にも収まって好いこと尽くめの筈だ。もう百獣海賊団からおこぼれを貰わなくてもいい生活になるまであともう少しだろう。皆にはもっと頑張ってもらわなくちゃな。

 

「皆さーん、お茶の時間ですよー!」

 

時は過ぎ休憩の時間になると仕事を一時中断、各々と用意されたお茶や料理を持ってきてくれた女性達の下へと向かって歩いていく人々。配膳を受けた人から地べたに座って食べ始め、美味しい団子やうどんを口にして笑みを浮かべる。口々に美味しいという姿は地獄で仏に出会ったようなものだった。

 

「はい、イッセーさん」

 

長身の艶やかな長髪の見た目が大和撫子風な人からうどんを持ってきてくれた。この畑の収穫で得た代金から経費として都へ買い出しに行って買えた、と喜んだ当人から受け取りきつねうどんをずるずると食べる。よもや、異世界でもうどんを食えるとは思いもしなかったあの日の感動が昨日のように美味しい。

 

「ん、美味いな。店に出しても恥ずかしくないぞ」

 

「これもイッセーさんが私達のために働きかけてくださったおかげです。こうして皆が満足な食事ができるようになったのですから」

 

「そう言ってくれるとこっちも頑張った甲斐があったってもんさ。この九里に住む他の人たちも噂を聞きつけてやってくるし、田畑も相応に増えて作物もさらに育てれるようになる。そうすりゃ、昔のように食べ物が困らなくなるだろう」

 

コクリと首を縦に振って同意する女性に俺の視線は、カイドウの部下たちが俺の領地にやってくる様子を釘付けにしながら空の器を手渡す。

 

「また都への売り出しを頼んだ。お前の顔が綺麗だから声をかければ客も来てくれるからな」

 

「お任せください。売れ残った物はいつも通りでいいんですね」

 

「新鮮な内に食べたほうが食材のためにもなる。処理はそっちで任せるよ」

 

 

 

 

 

カイドウ様がお呼びです。その伝言を聞き鬼ヶ島へ一っ飛びして直ぐにカイドウがいるところに訪れた。そこは百人は軽く余裕で居座れるフロアであって、塔や渡橋がある大広間。ここに来るのは初めてだな。大勢の部下たちも至る所にいて視線を浴びながら要件を問いただす。フロアの上階の部屋からおれを見下ろす懐刀三人衆を傍らにいさせてるカイドウに。

 

「どうした?また頼みごとか」

 

「そうじゃねぇ。聞きたいことがある」

 

「聞きたいこと?」

 

「異世界から来たって眉唾を吐くお前は一体何ができるっていう話だ。戦闘以外でだ」

 

藪から棒にどうしてそんな質問をしてくるのか不思議な思いであっけらかんと言った。

 

「何でもできると言ってもカイドウが期待している答えにはならないよな。何が出来てほしいことがあるかあるのか?」

 

「おれの海賊団の戦力の増強を望んでいる」

 

「戦力の増強・・・・・人員と武器か?」

 

「そうだ。何が出来る」

 

「うーん、人員は・・・・・まぁ、武器ぐらいは作れるよ」

 

「異世界の武器か。どんなもんだ」

 

「うん、『魔剣創造(ソードバース)』」

 

何でもなさげに言う俺の周囲に床から無数の刀剣類が飛び出してきて、それを見せびらかすように柄を握り構えて見せた。百獣海賊団の団員達はおっかなびっくりして愕然の面持ちで開いた口が塞がらないでいた。

 

「こんな感じに俺は武器を作れる能力を持っている」

 

「ナマクラの武器じゃねぇだろうな」

 

「失礼な!ちゃんとした本物の武器だよ!」

 

ダンッ!と足を強く床に叩くと更に数多の武器が飛び出してきて壁際にまで迫って団員達の顔の間近で止まった。

 

「無限に武器を作り出せれるのか」

 

「無限は流石に無理」と答えながら指を弾き、膨大な数の武器を自壊させて消したけど、滅茶苦茶な床に手を触れて綺麗だった頃の床に戻した。

 

「後は今床を直したように壊れた物を修復できるぞ。大きさは関係なくだ」

 

「他は」

 

こいつ、くだらねぇと思って催促しやがっただろ絶対。

 

「・・・・・マーキングした場所ならどこでも行くことができる。ここから直接海軍本部に繋げることがそうだって言えば分かるか」

 

「嘘だろう」

 

「嘘つくな」

 

「信じられん」

 

懐刀三人衆に即座否定された。

 

「よし、今否定したお前らを海軍本部のところに転移してやる。貴重な体験をしておれに感謝するんだな!」

 

あいつ等の足元に転移系の魔方陣を発動してこの場から本気で海軍本部のところへトばした。急に消えていなくなった三人衆にカイドウを除いて団員達は大きく目を見開いた。続いて大きな立体的な魔方陣の映像を発現してこの場の皆に今頃何をしているのかわからない三人の様子をテレビのように映した。

 

「あ、本当にあそこ海軍本部だ!ジャック様達もいるぞ!」

 

「海軍の連中ともう戦っているし」

 

「イッセーさんの能力は本物だ!すげー!」

 

褒めてくれてありがとうそこの人。その顔を忘れないでおこう。

 

「カイドウ、これでも信じられないか?」

 

「あいつらをここに戻せるな」

 

「然りだ」

 

指を鳴らせば海軍と戦っていた三人があの場から姿を掻き消してまたこの場に戦闘態勢の姿勢で舞い戻ってきた。

 

「「「・・・・・」」」

 

「なぁ、どんな気分?突然敵地にトばされて驚いた?驚いたよなぁ?」

 

いやらしいおれの質問に完全に無視して戦闘態勢を解いた三人衆。反応がつまらん奴らだな。

 

「いい能力だ。そいつは物でもできるのか」

 

「時間と手間をかければ島や国ごともできる方だ」

 

「なるほど・・・・・他はあるのか。お前の自慢な能力とかだ」

 

まだ追及してくるのか・・・・・うーん。

 

「自慢な能力って言われるとおれの世界にいる異種族に転生させることかな」

 

「転生、異種族?どんな種族が嫌がる」

 

「ぶっちゃけ言えば半永久的な寿命を持つ種族とバケモノ。転生するなら人間を止めなくちゃいけなくなるけど、おれみたいに」

 

「お前、人間ではなくてバケモノだったか」

 

「はっはっはっ、人の皮を完璧に被ってる龍だ。カイドウと初めて出会った時の姿以外にもなれるけどな」

 

「寿命が半永久的なのは本当なのか」と問われれば肯定してやった。

 

「おれはまだ若輩者だし、本当にそこまで生き永らえれる証拠もない。ま、百年も千年も生きたいって奴がいるなら転生してやってもいいよ。悪魔の実の能力と異なる面白い能力も得られるからな」

 

「どういう能力だ」

 

「いわゆる魔法だ。ただし、魔法を振るうには自身の体に宿る魔力っていう不思議なエネルギーを消費しなくちゃならない。消費して魔力がなくなったら魔法は使えないけれど、戦い方次第では悪魔の実の能力者を倒すことができる」

 

炎と雷に水の魔力を操って部屋いっぱいの大きな龍の形に作り上げて魔法の凄さを伝える。

 

「さっき三人を飛ばした能力も魔法でな。その他にも無機物や有機物を浮かしたりできて、電伝虫いらずの通信も可能だ。まぁ、魔法の説明はざっとこんな感じだ」

 

「―――お前、おれの部下になれ」

 

「海賊になるつもりはねぇって言ってるだろ」

 

魔法の凄さを伝わったようで嬉しいが、おれを抱え込もうとするな。魔力を消しながら呆れた風に溜息を吐くおれにカイドウがまた訊いてくる。

 

「その魔法とやらをおれの部下たちに与えれるか」

 

「与えることは可能だ。でも、過剰使用をする事でおれの精神が蝕まれて廃人になってしまうんだ。無論、使いものにならなくなるということだよカイドウ」

 

「・・・・・この場にいる部下十人ぐらいは問題ないか」

 

「その程度なら問題ない」

 

カイドウは周囲の部下たちに目を配り一部の団員に指を差して顎を動かした。不安そうな彼等は絶対的な強者に逆らえず恐る恐るとおれの前に立った。

 

「こいつらか?」

 

「そうだ、やれ」

 

「転生する種族はおれに判断させてもらうからな」

 

胸から浮かび出てきた意匠が凝った聖杯を手に取り、彼ら十人を転生してやった。聖杯は眩い光を放ち十人の体を包み込んで静かに消失した。

 

「終わったぞ」

 

「へ?・・・・・何ともないんですが」

 

「痛い思いをしながら身体が変化すると思ったか?それとも、こう、身体の奥から力が湧いてくる!?的な感じを期待してた?」

 

自身の体に何の変化も起きていないことに当惑している彼等に手を突き出して魔力で操る。

 

「残念。もう変化はとっくになっているんだよ」

 

『ぐ、あ、ああああああっ!?』

 

自分の意志でなく体を変化させられる彼等は慣れない痛みに悲鳴を上げ、人の形を崩して異形の姿へと変わっていった。俺達を見守るカイドウ達は静観を保って成り行きを見守る最中、目の前では体で息をしてようやく変化して落ち着いた彼等。俺の判断で彼等は五メートル級のグリフォン、キマイラ、フェンリル、ワイバーン、ケルベロスに転生してやった。

 

「ざっとこんな感じだカイドウ。お気に召したかな?」

 

「ウォロロロ・・・・・強ければ文句はねぇよ」

 

「じゃあ問題ない。おれの世界のバケモノだ。強く育てれば軍艦一隻は沈めることもできるよ」

 

「ほぉ、確かか。なら、そいつらの面倒はお前に任せる。好きに使え」

 

「そうやっておれを海賊の一員に組み込むんじゃねぇよ?こいつら幹部クラスまで鍛えてやるからよ」

 

色々と警戒しなくちゃならないことができたが、専属の部下を得られたおれであった。

 

「その他にお前しかできない能力はあるか」

 

「後は・・・・・そうだな。デカい島の規模ぐらい物が作れたり情報を収集することができるかな。あのデカい石を改めて見せてくれれば、多分翻訳することができるかも」

 

歴史の本文(ポーネグリフ)の古代文字を読めるってのか?」

 

ポーネグリフ?

 

「あの石に特別な価値でもあるのか?」

 

「文字は読めねェが、歴史の本文(ポーネグリフ)の中には『ロード歴史の本文(ポーネグリフ)』という赤い石がある。おれはそのロード歴史の本文(ポーネグリフ)に刻まれた古代文字、新世界に存在する最後の島『ラフテル』に辿り着く情報が知りてェ」

 

「『ラフテル』。確か、海賊王ゴール・D・ロジャーとその一団しか辿り着いていない島だったか?」

 

肯定するカイドウ。

 

「読めるかどうかはこれから調べてみる」

 

「ウォロロロ・・・・・なら、あとで連れて行ってやる。その前にお前にはしてもらいたい事がある」

 

不意に視線が懐刀の一人に変えたカイドウ。

 

「おいジャック」

 

「は」

 

「あいつと戦え。実際にどの程度か確かめてみろ」

 

え、ここで?と目を丸くする俺の前まで上階から飛び降りて来たジャックという男。巨体故に俺が見上げなきゃならないので、見下ろすジャックの目は睨みつけているように見えてしまう。

 

「手加減はしない。いいな」

 

「おれの意思は?」

 

「ない」

 

臨戦態勢に構える俺に合わせてジャックも拳を構え戦闘態勢に入った。互いが睨み合い、この場が緊迫に包まれ団員達が息を呑み、顔に緊張感が浮かんでいるがそんなの気にしない。するのは相手との勝負のみだ。

 

「ふん!」

 

「はぁっ!」

 

衝突した拳同士。鍔迫り合いをしているように押し合う力は拮抗して、同時にジャックの力量を感じ取った。手加減して勝てるような相手ではないことを。真正面から殴り合いをする明らかに不利な体格の差なぞ問題ないとばかり拳を打ち付け殴打の連続と鈍重の音が二人の間から響き渡る。全身を使って殴り合い続ける。

 

「じゅ、十億の男と渡り合っている・・・・・!!!」

 

「ビック・マムを倒したって話は嘘じゃなかったか・・・・・!」

 

団員達からどよめきが生じている。そっか、こいつも懸賞金かけられていたんだっけ?だったら当然・・・・・。

 

「懐刀の称号は伊達じゃないか。なら、さらに気合を入れてみようかなっ」

 

「・・・・・っ?」

 

俺の足元の影が異様に広がり、黒い異形や獣たちが這い出てくるように創造されて現れた。中にはジャックの巨体を上回るサイズの異形の獣もいる。

 

「何だ影から出てきたそれは・・・・・」

 

「悪魔の実の能力的なものだと思ってくれて構わないよ。実際は似て非なる俺の能力だけどな。解説してやるとバケモノを創造、産みだすことができる能力だよ」

 

指を突き出して指示を出せば異形の怪物たち、魔獣は一斉にジャックへ牙を剥いて襲い掛かる。ジャックは応戦して両肩に身につけていた白い角と思しきそれを掴み取り、被せていた白い布らしきものを外したことで露になった曲がりくねった刀、剣?ショーテルみたいだな。それを振るって魔獣たちを一掃して屠り始める。黒い靄と化して消えていくもまだまだ創造し続けるのでジャックにとっては埒が明かないだろう。攻撃の趣向を変える。控えていた魔獣たちは口を開いて光線を放った。迫りくる攻撃に反応しジャックの八メートルは優に超えている巨体で光線をかわされて、「ぎゃあああああ!?」と上階にいた団員に当たりそうになったあと爆発が生じた。

 

「あ、ごめ」

 

「てめーこの野郎!どこ狙ってやがる!?」

 

「避けたジャックに文句を言ってくれ」

 

金色の弁髪に口ひげを生やし左腕は機械化していて、サングラスをかけた顔にはX字のタトゥーがある肥満体の大男から怒声を浴びせられた。巻き込まれた一人だったんだろう。

 

「でも、自分の身も守れないようなら弱いって事だよな?」

 

「ああ!?」

 

「弱くないならかかってこいよ。相手になってやる」

 

「フン!ジャックを倒せてねぇお前の挑発なんか乗るか」

 

それもそうか。魔獣を消失させて俺自身が前に出ながら闇の力を解放した。

 

「悪いな。今度じっくりと勝負をしようか」

 

両腕を広げ両手を巨人の手のように大きく変えた状態で勢いよく左右に振るい、ジャックがショーテルで斬りつけようと左右へ鋭く振るったが、物体ではないので斬れず黒い半球状に包まれ捕まったジャック。

 

「はい、終わり」

 

闇の手を消せばジャックが俺の目の前で鈍重の音を立てながら倒れこむ。それ以降ピクリとも動かないので周囲の一同におれの勝利を窺わせた。

 

「何をした」

 

「ジャックの体力を全部奪った。全身に力も入らない状態だから今日一日はこの状態だ」

 

「その姿がそうさせるのか」

 

「そうだ。生きし生ける全ての生物の体力を奪う力だ。これでビック・マムも倒した。奪った体力は俺の糧となるからかなり有り余っているよ体力は。―――ということでクイーン、勝負!」

 

意気揚々と戦闘態勢で勝負を望む俺に「しねぇよアホ!」と即座否定された。が。

 

「やれクイーン」

 

「ええええええええええええええええええええええ!?」

 

ジャックの体力を回復している俺を他所に、逆らえない命令による決定が行われていた。魔法で大男の体を浮かして塔の壁際に押し込んでやれば、クイーンがやってきたものの気乗りしない様子であるのが明白だ。

 

「お前、覚えてろよ」

 

「それは言っちゃならないセリフだ。やられた悪役、チンピラが最後に言うやつだぞ」

 

「誰がチンピラだ!俺を一体誰だと思っていやがる!」

 

「それも言っちゃ駄目だって!自分から負けフラグを立ててどうするんだよ!」

 

「ごちゃごちゃうるせぇ!最初から叩き潰してやる!」

 

肥満体の体が変化していく。首が異様に伸び始め、筋肉質の四肢へと人型から変わり一瞬・・・・・龍になるのかと期待していたが、そうではなく恐竜の姿のブラキオサウルスであった。

 

「恐竜?悪魔の実って恐竜の能力もあるのかよ?」

 

「ムハハハ、驚いたか!」

 

「普通に驚いた。でも、俺も変身できるよ。―――龍化」

 

クイーンより何倍も大きな八つの頭を持つ黒いドラゴンへと変身した。

 

『―――ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

八つの口から大咆哮。空気が衝撃波となって団員達が鼓膜が破らんとする声量に耳を押さえたり、吹っ飛び壁に叩きつけられたりと二次災害に遭ってしまった。クイーンは巨体で踏ん張るが、余裕がなくなったのか緊張の面持ちで俺を見上げてくる。

 

「な、なんだそりゃっ!?てめ、本当になんなんだよ!」

 

『教えてやってもいいが、降参したほうが良いぞ』

 

「は?」

 

『おれの牙には俺しか解毒がない猛毒がある。喰らったらお前は数日以内で死ぬぞ?』

 

ポタリと牙から垂れる禍々しい液体が落ちるとジュワッと一部の床が腐敗した。それが戦闘の合図として全頭を近づけ大顎を開き、長い鎌首をクイーンの首や胴体に巻き付け動きを拘束した状態で尋ねた。

 

『草食恐竜の体って美味そうだよな』

 

「グオオオオオオオオ!?」

 

軋むクイーンの骨を聞きながら力いっぱい締め付けたあと、ジャックと同様に天井へ放り投げ押し上げるように打ち上げた。頭をどかせば重力に逆らえず床に落ちるその巨体に鼻と口先で突き刺して床へ叩きつける。何度も、何度も何度もだ。そうしてしばらく経った頃に止めると恐竜の姿の身体はボロボロでクイーンが意識を失ってるからか人の体に戻っていく。

 

「ジャ、ジャック様とクイーン様が立て続けに敗れた・・・・・!?」

 

「ま、まさか・・・・・キングさんまでも・・・・・?」

 

団員達の震える声がざわめきとなっても、三度目の戦いが始まるのかそうでないのか恐る恐ると見守る姿勢は変わらない中、カイドウに話しかける。

 

『これぐらいで十分だろ』

 

「お前、おれの幹部になれ」

 

『お断りするって。海賊になるつもりはないんだから。それに―――おれを配下にしたいんならお前の力を見せてもらわんとな。弱い奴の下でコキ使われたくないし』

 

挑発染みたことを言えばカイドウは徐に酒を呷ったあと、巨体を動かし巨大な棘付きの金棒を手に降りてきた。

 

「そこまで言ったんだ。相手になってやる。お前を負かしたらおれの傘下に加わってもらう」

 

「―――やれるものなら、やってみな!」

 

立て続けに三度目の闘いを繰り広げる俺は人型に戻り、封龍剣を取り出して構えば金棒を上段から振り下ろしてくるカイドウと激突して―――視覚外の空(天)が真っ二つに割れたことを知らないまま、激しい戦いを臨んだ。

 

―――†―――†―――†―――

 

 

「オァアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

「オオオオオオオオオオッ!」

 

豪快に振るう巨大な金棒に爪楊枝のような大剣が何度も激突して火花を散らす。内心、壊れやしないかと冷や冷やするがそんな心配をする暇もなくカイドウとの戦いは激しく苛烈だった。

 

「ハハハ!異世界の海賊はこんなに強いのか、面白い!」

 

巨大な火炎球を生み出して前に突き出しカイドウにぶつけると、あの男は紫電帯びる金棒一振りで火の粉を散らすように火炎球を掻き消した。

 

「雷鳴八卦ィ!」

 

「マジかっ!?魔力に干渉すんのか!」

 

次に俺に振り下ろす金棒での一撃を避けカイドウの頭上に瞬間移動し、炎を纏い腕を黒くする武装色の覇気で殴ろうとする。拳に一点に集束させ体内に直接攻撃するようなイメージで―――。

 

「川神流 無双正拳突き!」

 

殴る拳を巨大なドラゴンにして見上げるカイドウの顔面を突き刺して殴り倒す!

 

ドォン!!!

 

「!!?」

 

殴られるのは理解していたが、殴り倒されることは想定外だったのか信じられない顔を上げる。

 

「カ、カイドウ様が殴り倒されたァ!?」

 

「ウソだろ!あの最強で無敵のカイドウ様が!」

 

絶対的な自分達の頭目の見たことが無い光景に百獣海賊団の団員達はどよめいている。そんな彼等に向かって一言。

 

「最強?無敵?そんな概念を信じているのかお前等。俺達人間は死ぬ運命から逃れられない以上は最強も無敵も死を前にすればそんなの無意味だぞ」

 

『・・・・・ッ!』

 

「おれもカイドウも死は絶対に避けられねェ。死を超越しない限りは絶対に最強にはなれないし、無敵にもならない。そいつは生きている間の期間限定の話だ。よーく覚えておきな」

 

「小僧・・・・・!」

 

「この程度で倒れるなよ?拍子抜けだからな。お前も悪魔の実の能力者なら、能力を使って見ろ」

 

「ウォロロロ・・・・・だったら望み通りに叶えてやる。ついて来い!」

 

―――カイドウの身体が別の身体へと変わっていく。肌が青色に、顔が東洋の龍に、身体が極太で蛇のように長くなった。

 

「龍!?」

 

迫りくるカイドウの手に鷲掴みされフロアから遠ざけられていく。天井に向かうカイドウは岩盤など物ともせず顔から突っ込んで屋上へ躍り出た。

 

「ウォロロロ・・・・・ここなら思う存分に戦えるぞ小僧。あの時の龍の姿にもなれる」

 

「この島の頂上か」

 

周辺を一瞥して封龍剣を構え直す。そんなおれを不思議そうに首を傾げる思いのカイドウは話しかけて来た。

 

「どうした、龍にならないのか」

 

「いや、それだけデカい巨体になれば攻撃が当たりやすいだろって話だ。その誘いには乗らないぞカイドウ」

 

かかってこいと指を動かし挑発するとカイドウは大きく口を開いて膨大な熱を集束させた。そして―――。

 

熱息(ボロブレス)ッ!」

 

龍に相応しいブレスを放ってきた。それが嬉しくて笑みを浮かべたおれは足に力を入れて爆発的な脚力で前へ、ブレスへと自ら跳び封龍剣を振るった。

 

「龍滅斬!」

 

「!!!」

 

ブレスを真っ二つに切り裂きそのままカイドウの腹部に刻まれている十字の傷跡になぞって力強く切り刻んだ。

 

「ウァアアアアアアアアアアア~ッ!」

 

「お前が龍なら、この龍を封印、滅することに長けた封龍剣の力だって効くはずだよな」

 

下にまで届くカイドウの悲鳴と共に巨体が屋上に倒れこんだ。傷跡が開いたか滝のように大量の血が流れ戦場が赤く染まり池のように溜まっていく。

―――さて、どうするかな。このままカイドウを倒して賞金を上げてもいいんだがな。

と思考していたら変身を解いて人の姿に戻った脂汗を浮かべるカイドウ。金棒を杖にして膝をつく姿勢で開いたキズを片方の手で押さえおれを睥睨してくる。

 

「龍に対して絶大な力を発揮する剣を、どうして龍のお前がそれを持つ・・・・・」

 

「おれの敵には龍にもいるってだけの話なのさカイドウ」

 

おれ自身を数多に分裂させカイドウを取り囲む。

 

「!?」

 

「そういえばおれの戦い方を知らなかったよなカイドウ。この機に教え込んでやるよ。お前の敗北と共にな」

 

その時だった。この屋上に通じる木造の大きな扉が開いてカイドウの部下たちが、屋上の大穴から黒いプテラノドンが飛び出してきて現れた。

 

「っ!?カイドウさんの傷が開いているぞ!」

 

「まさか、カイドウさんがやられているのかよ!」

 

「待て、なんだありゃ・・・イッセーさんが増えているぞ!?」

 

ギャラリーが集まってきたな。これ、どうすればいい?

 

「まだ戦うか?おれの実力を知るための戦いをこのまま完封してやってもいいが。おれ、まだお前の全力を味わってないしおれも全力を出してもないし」

 

「・・・・・」

 

カイドウは近づくおれの問いに返さず立ち上がると、おれに向かって金棒で攻撃してきた。封龍剣で受け流しながら笑った。

 

「ウァアアアアアアア!!!」

 

「オオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

それからおれ達は三日三晩も戦い続けたのだった。



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ワノ国の河童

カイドウとの決闘を始めてから三日三晩が経過。寝る暇も食べる暇も休憩する暇も惜しんで戦い続けた。意外と力強く何日間も動けれる自身に驚き初めて知って以降もカイドウに負けないよう戦い続ける。だが、いい加減に面倒になってきてカイドウに自分の分身体で動きを封じてから直接ぶった斬って、殺しはせず気絶した相手に勝鬨の咆哮を上げた。

 

「カ、カイドウさんが負けたぁあああああああああああっ!!!」

 

「なんて奴だ」

 

「これがあいつの実力か」

 

・・・・・あ。

 

「おれがカイドウに勝ったからって百獣海賊団を乗っ取ったわけじゃないよな」

 

「「「当り前だ!!!」」」

 

よかったー!海賊にならずに済んだ!でもま、これでおれの方が一番強いとわかってくれただろう。そう思っているとカイドウがムクリと意識をすぐに取り戻して起き上がった。

 

「これでお前の部下になる話はお終いだ。おれより弱い奴の傘下になるつもりはない」

 

「・・・・・もう一度おれと戦え」

 

「しねェよ今日は。流石に俺も腹減ったし眠りてぇ。しばらくは別の島で過ごさせてもらうからな。また戻ってきた時にでも歴史の本文(ポーネグリフ)を読ませてもらうよ」

 

そう言っておれは―――シャッキーとレイリーがいるマングローブへ一気に転移で戻り、久しぶりに見る諸島のシャボン玉を視界に入れながら店の中に入ると二人が丁度対面する位置で話をしていて、その輪の中に入れてもらった。

 

「ただいまー」

 

「おおっ、お帰りイッセー」

 

「イッセーちゃん、本当にとんでもないことをしたわね。新聞見たかしら?」

 

見たと首を縦に振った俺に新聞を渡してくるシャッキーから受け取る。記事には大きくおれの事が載っていて、懸賞金が―――数10億ベリーかけられていた。

 

「ところでもうおれの事は伝わってるのかこれ」

 

「勿論だとも。1週間もあれば全世界に広まっている。だからどうしたんだい?」

 

うんと頷き俺の手配書を見ながら東の海にいる分身体の事を教える。

 

「ハンコック達のところにも届いているかなって思ってさ」

 

「ああ、彼女達の島は凪の海(カームベルト)の海域にあるからニュース・クーは行かんのだ」

 

どうして行かないのか不思議でならないが、だったらこの新聞をニョン婆に届けつつハンコックの顔を見に行くのも悪くないだろう。

 

「一度女ヶ島に戻ってみる。全部終えたら帰る約束したから」

 

「その後はどうするのかしら。元の世界に帰る方法を探すの?」

 

「そうするつもりだ。あと、白ひげ海賊の顔を見てみたいかな。居場所知ってるか?」

 

「ふむ、白ひげエドワード・ニュー・ゲートか。彼は特定の自分のナワバリを持たず海を航海しているからな。私も知らないのだ、期待に応えられずで済まないね」

 

「いや、知ってたら知ってたで教えてもらおうかなって思ってたし、知らないのは仕方がないよ」

 

「知ってたら戦いに行くのかい?」

 

「ああ、どのぐらい強いのか知りたいからな」

 

「そうか、ならば大きい酒を持参して持って行くといい。話し合いぐらいは応じてくれるはずだ」

 

酒が好きな人なのか?どのぐらいの大きさだと質問すれば軽く身の丈を超える酒瓶が必要だと言われた。そんなもんこの世界に販売されているのかと怪訝してしまう。巨人でもいるのかと、これも聞いたら。

 

「いるぞ?新世界のとある海で、エルバフという島に誇りを重んじる巨人族の戦士達が住んでいるのだ」

 

「この世界にもいるんかい。じゃあ、ドラゴンはいる?」

 

「ドラゴンか、見た事はないがいる噂は聞いたことがあるぞ。ああ、ミンク族と言う種族もおるぞ」

 

「ミンク族?」

 

「人の形をした獣とでも言おうか。その昔、千年も生き続けている『ゾウ』と言う超巨大な動物の背中に存在している種族と会った事が会ってな。肌に毛が薄い私達のことを『レッサーミンク』と呼ぶ」

 

・・・・・ファンタジーか!そしてそんな種族がいるとは何て魅力的な!

 

「最優先に会ってみたい!」

 

「ふふ、そうか。だが、簡単には見つからんぞ。『ゾウ』は移動し続けているから見つけることすら困難を極める」

 

それでも探し出してモフモフモコモコしてみせるぞ!元の世界へ戻す術を模索しつつ目標を目指してみるのも悪くないな!うん!

 

「これ以上ないって程に多幸感の表情を浮かべてるわねイッセーちゃん」

 

「いずれ見つけた時の為に手紙でも書いといてやろうか。無用な諍いが起きないようにな。ところで今までどこで何をしていたんだい?」

 

「ああ、ワノ国にいてな。カイドウのところに居候してた」

 

「・・・・・ロジャーに劣らず度肝を抜かせることをするのだな。あの男から離れているということは居候を止めたということかい?」

 

「んー、二人とハンコックに近況報告をしに来たかっただけ。またワノ国に戻るよ。あそこの住人たちが放っておけないからな」

 

耕す前と違って豊かになり食糧事情は解消されつつあると思いながら手紙を書くレイリーの姿に、モコモコの楽しみさを期待する。

 

―――ボア・ハンコックside

 

「・・・・・」

 

宵闇が地上を覆いどこまでも果てしない空は夜を迎えて数時間が経過した。夜空に浮かぶ煌めく数え切れない星の輝きは宝石の如く、幻想的な光を放つ満月と共に存在を示す。星と月に負けない程の光を背に受けながら女帝は城の窓から夜空を見上げ黄昏る。

 

「姉様、今日もあまり食事を食べなかったわね」

 

「ええ、このままじゃ何時倒れてしまうか・・・・・」

 

女帝であり姉でもあるハンコックを憂う二人の妹の眼差しは当人には気付かず、黒曜石のような黒い瞳は何かを思いながら遠い目をして息を零した。

 

(イッセー、そなたは今どこで何をしておるのじゃ・・・・・)

 

懸賞金に掛けられたことを知った時は大いに驚き、そして本当に天竜人に喧嘩を売ったことを知りこの額なのだろうと納得して心配しながらも自分の事のように喜んだ。毎日毎朝毎夜、一誠の事で頭がいっぱいとなるのが当然で時には夫婦生活をしている妄想さえしてしまい、ニョン婆に心底呆れ果てられる(当人はそんなこと知らない)。兎にも角にもハンコックは一誠に対する自分の気持ちを自覚し知ってしまったのだ。

 

―――恋を。

 

(ああ・・・・・!妾の愛しいイッセー・・・・・!この身に翼があればすぐにでも飛んで駆け付けれるというのに・・・・・)

 

恋焦がれる乙女が頬に手を添えて腰をくねらせたり、百面相する奇異な光景、姉妹は物凄く不安そうに見つめ、老婆はやれやれと頭に手を当てて呆れて―――。

 

「・・・・・お前、そういうキャラだったか?」

 

可哀想な子を見る目で空中から声をかける男の存在に驚きで気づき我に返る。

 

「イ、イッセー!?いつの間に帰っておったのじゃっ」

 

「今さっき、ただいまハンコック」

 

「お、おかえりなのじゃ(って、このやり取りはまるで新婚したばかりの夫婦ではないか・・・・・!?)」

 

「お主、今までどこに行っておったニョか」

 

「カイドウのナワバリに居候してた」

 

「・・・・・お前という奴は人の想像を遥かに越えたことをする」

 

「近況報告を兼ねて帰ってきたんだ。悪いけど腹減ったから飯食べたい」

 

ニョン婆との会話の中で拾った空腹状態な男にハンコックはすぐさま行動に出た。配下の者達に料理の仕度させて仮称一誠の未来の妻として自分も用意すると意気込み、首を傾げる一誠は「気にするな」とニョン婆から諭された。

 

「近況報告ならあなたは凄いことしたわね」

 

「天竜人の強襲に続いて大海賊の一人を落とし、新たな海賊の名が世界に知れ渡ってるじゃない」

 

「あー、やっぱり知れ渡ってるのか」

 

「ええ、貴方の写し絵を大きく張ってるほどにこの島の者達は知ってるわ」

 

翌朝、マリーゴールドの言葉の意味を知った時。一誠は羞恥心でいっぱいになりながら女ヶ島の女人達に追いかけ回される羽目になった。

 

「ふむ、お主とハンコックが婚約を結べばこの島の安泰は約束されたようなものじゃな」

 

「おい、それは海賊としての立場になった俺とっていう限定の話だろ。嫌だぞ、海賊になるのは」

 

「海賊になろうがなるまいが、世界中にお主の悪名の代名詞という手配書が配られておる。海賊と肩を並べる犯罪者のお主はもうただの一般人として扱われぬニョ」

 

地味にショックを受ける。

 

「にしてもハンコックとの結婚を否定しない辺り、お主は満更でもないというわけかニョ」

 

「まぁ、嫌いではないからな」

 

「ほう、なら結婚を望むハンコックがそなたにプロポーズしたら受け入れるニョか」

 

「俺は元の世界じゃあ、片手じゃ数えきれない女性と結婚をする予定だ。ハンコックがハーレムを許すなら結婚を真剣に考えるよ」

 

―――部屋から聞こえてくる一誠の会話は、部屋の外で紅潮してるハンコックに聞こえていた。五月蝿いほど動悸が高鳴り鼓動を打ち震わせ、自分と結婚を考えてくれる男と結ばれた時の想像をしてしまい、意識が昇天してしまった。そのあと直ぐに廊下に倒れてるハンコックを見つけ介護されるのだった。

 

 

 

何でか気を失ってるハンコックを寝室に運んでから翌朝を迎えた。ニョン婆から気持ち悪い笑みでハンコックと一緒に寝ておれ、と言われその通りにしたら。

 

「ね、寝ている間に初夜を迎えてしまったのじゃ・・・・・!?」

 

「ニョン婆に言われて添い寝しただけだから」

 

あらぬ勘違いをさせてしまった。

 

 

 

数日ほど女ヶ島で寝ては食う生活をして英気を養わせてもらったお礼にビック・マムから奪ってとっておいた財宝の一部を渡す。

またワノ国に戻って貧民達の畑作業を豊かにしていく傍らで。

 

「まずは体力作りから始めよう。その為には軽くワノ国中を一緒に走り込むぞ。変身した姿でな」

 

カイドウに充てられた団員十名の強化に精を出していた。後に怪物達の走る日課により最初はたったの十名だったのが、何時しか多人数にも増えたことになるとは、一誠もまだ知らなかった

 

 

カイドウSide

 

「ジャック。あいつにつけた監視役からの情報はどうなっている」

 

「これまで報告した通りとは何ら変わりありません。九里の全住民達と農作業し、食糧を増やし続けているだけでなく、我々百獣海賊団の備蓄分も回り始めております。また九里の上がりも月日が経過するにつれ少しずつですが増加しております」

 

「別に困っちゃあいねェが、あいつがおれのナワバリに居座ってから少なからずおれの海賊団の食料事情は豊かになってねェか?」

 

「認めたくない事実ですがその通りです」

 

あいつは、一体なにがしてェんだ?愚民共の手助けをしようが構わねェがなにを考えてるのか理解ができん。

 

「・・・・・以上が今まで通りの行動の報告です」

 

「他にもあるのか」

 

「最近のあの男は、我々の船にも手を出し始めて改造を始めました」

 

「なんだと?」

 

「海に潜水できる小型の船から特殊な砲弾で海中から砲撃を可能にした武装を搭載。水陸両用に改造した船首から火炎放射や飛ぶドリル、ガトリングガンを模した大砲等・・・・・クイーンの兄貴が納得する武装を造り上げました」

 

・・・・・おれの海賊団の船の強化の話か。あの小僧は他の方面から強化して行っているのか。

 

「それは使えるのか?」

 

「俺とクイーンの兄御も見ている中で何度も試験を行いました。単独でも集団でも使える方かと思います」

 

「そうか。それなら問題ねェ」

 

と、言った直後に噂の小僧が銃を持って来やがった。

 

「カイドウ、カイドウ。面白い武器作ってやったぞ」

 

「なんだ」

 

「これ、対悪魔の実の能力者専用の銃だ。中身の銃弾は海桜石で作ったからこれならロギア系の能力者でも能力を封じ込めるぜ」

 

「それの量産をしろ」

 

思わず命令してしまうと小僧は不敵な笑みを浮かべた。最初から俺がそう言うだろうと見越していたような生意気な笑みだ。

 

「もう千丁は量産したぞ。弾は一万発な」

 

こいつ、有能か・・・・・。

 

 

九里―――おこぼれ町

 

荒れ果てた荒野だったとは思えない土地は緑豊かになっている中、九里の住民達の手で新たに耕されていく数多の畑と収穫されていく野菜と穀物。収穫したそれらを花の都へ持っていき売買して金銭を得たり、直接百獣海賊団に売り込んで金銭を得る九里の貧民達は満足に腹一杯食べれる状態に戻った。うん、安心したな。と、思ったところにおこぼれ町に江戸時代劇で見た格好をしてるお役人さんっぽい一団がおとずれてきた。貧民達は不安な色を隠さずに一団と相対した。

 

「ここ最近、花の都に違法な取引を行っている者達がここにいると情報があった」

 

「と、とんでもねぇ話ですお役人様。オラ達は大看板様への上がりのために商売をさせていただいておりますんだ」

 

「それは誰の許可を得てしている」

 

問い詰めるお役人に貧民達は一斉におれたちの方へ振り向いた。

 

「あー俺達だ」

 

「誰だ貴様」

 

「おれはイッセー、百獣海賊団に貢献しているものだ。ご覧の通りカイドウさんの部下と一緒に大看板ジャックへの上がりのために農作業をしている。これはカイドウさんから直々、おれに様々な権利を与えてくれているから花の都で収穫した作物を売買させてもらっている」

 

「・・・・・」

 

「真意を知りたいならカイドウさんに訪ねてみれば?ここの畑は百獣海賊団にも献上しているけど、花の都での商売を許されないならその通りにするよ」

 

と説明して納得させる試みをする。駄目なら力で納得してもらわなきゃならないがな。

 

「あい解った。一先ずこの事はオロチ将軍に報告させてもらう。よいな」

 

「良き返事を待っている」

 

去っていくお役人達を見送る。取り敢えずは難を逃れたかな?貧民たちから感謝されて気にするなと言って返す。それから素朴な疑問を一緒に耕している団員に尋ねた。

 

「ところでオロチ将軍ってのは誰だ?」

 

「カイドウさんが後ろ盾してやっている、共にワノ国を支配している黒炭オロチって将軍です」

 

「ふーん、どうしてカイドウがそんな奴なんか潰さずにいるんだ?」

 

「そりゃあ、手を組んでいる相手を殺す理由はないでしょう」

 

「海賊ってそんな利己的なもんだったか?」

 

ま、どうでもいいことか・・・・・。おれには当人達の関係にさほど興味はないし。あるとすれば―――。

 

「ワノ国で一番強い、強かった侍は?」

 

「強かったと言えば唯一、初めてカイドウさんに傷をつけた光月おでんって侍ですぜ。10年ぐらい前に釜ゆでの刑で処刑されましたけどね」

 

「へぇ、光月おでん・・・・・興味が沸いたな。そいつの墓とかは?」

 

「オロチ様の命で釜ごと海に捨てられて遺体はないですが、おでん城跡地に仮初の墓標ならありますぜ」

 

海に捨てられたか。ならワンチャンありかな?

 

「カイドウを傷つけた武器があるなら是非とも欲しいところだな」

 

「そいつは探そうにも無理ですよ。どこにあるのかもわからないんですから」

 

ほうほう、それは・・・・・探しようがあるじゃないか。好都合だ。宝探しは好きだからそのおでんと関係者の人物を探せば自ずと見つかるかもな。

 

と―――いうわけでワノ国中を調べ回ってみた。刀だというから鍛冶師がいる筈だよな。それも名刀を打てる鍛冶師だ。そんな人物だけを特定して探すのはかなり大変だろう。実際、色んな人達から大勢有名な鍛冶師の人の事を尋ねても花の都では情報を得らず仕舞いだった。九里のおこぼれ町でもいないかと、もう故人の者かもしれないと思いで尋ねたら・・・・・誰も知らない結果で終わってしまった。残念だと肩を落として九里に存在している人がいる場所を転々と移動していたら妙な人に捕まった。

 

天狗のような仮面に天狗のような服装をした変な人だ。場所は編笠を作っている村。ここは確かおこぼれ町で栽培している農園に手伝いに来てくれてる人の出身だったっけ?

 

「おぬしか。ここ最近、おこぼれ町で畑を耕し収穫した作物を食うに困る人々に与えている者とは」

 

「おれができる事をしているだけだ。えーとどちら様?」

 

「―――わしは飛徹。刀鍛冶師だ」

 

「鍛冶師!!」

 

もしかしてこの人が持っているかもしれないと可能性を見出して話を進める。

 

「おれはイッセー・D・スカーレットだ」

 

「イッセーと申すか。おぬしは海外の者であろう。よもや、カイドウの手先ではあるまいな」

 

「手先ではないけど貢献しているかな?そうすれば自由が利いてこうして貧民たちと畑を耕し収穫した作物を食べさせることが出来るから」

 

「どうして海外の者が関係ない者たちの為にそこまでする?」

 

理由は一つしかないだろう。

 

「助けられるなら助けたい。ただそれだけでありおれの偽善な想いさ」

 

「・・・・・」

 

「この村からおこぼれ町で農作業の手伝いをしてくれる人と知り合いがいる。やっぱり九里に住む人たちはカイドウとオロチによって貧しい生活を強いられている様みたいだから何とかしたいと思ってる。だから手始めに食糧事情の解決を勤しんでいる」

 

真っ直ぐ見据えてくる飛徹の眼差しを見つめ返して嘘偽りない言葉で述べる。

 

「今はそれでよくても、何時かカイドウ・・・いや、オロチはそれを許しはせず奪いにやってくるぞ」

 

「その時は、コイツでそいつの首を切り捨ててやるよ。邪魔なだけだし」

 

亜空間から封龍剣を取り出してこいつで切り捨てると飛徹に言い切った。飛徹は座った姿勢から前屈みになっておれの剣を凝視し始めた。

 

「なんだ、この剣は・・・・・こんな造形は見たことが無い・・・・・神秘的な・・・・・」

 

「こいつはおれ自身しか持てない剣だ。先日カイドウと戦ってこの封龍剣で斬って勝った」

 

「あのカイドウに勝っただと!?」

 

「まだ健在だけどな」

 

おれにカイドウを殺す理由はないから殺す気はない。でも、賞金首の額はカイドウを捕まえれば上がるだろうしそっちの意味での理由ならあるがな。

 

「ウソをつけ!!」

 

「いや、本当だから。信じられないのは当然だろうがおれは嘘は絶対に言わないぞ」

 

それよりも―――とある物に視線を送った。壁に掛けられている一振りの刀だ。

 

「さっきから妙な気配を発する刀があるんだけど、アレなに?」

 

「・・・・・あれは『大業物21工』に位列する刀。その名も『二代鬼徹』」

 

「大業物21工?なんだそれ?」

 

「海外の者でも知らんのか。世界に数多ある刀(剣・槍等)の中で名工達の作った武器をこう呼ぶ。『良業物50工』、『大業物21工』、『最上大業物12工』とな」

 

へぇ・・・・・・。

 

「じゃあ、おれの封龍剣はそれに例えると?」

 

「最上大業物の部類に数えられる。だが、それはあくまで名工達の間で定めた位列である。わしから見ても・・・・・この剣はこの世で作られたものではない恐ろしすぎるほど異常なものだ」

 

触るも非礼だと付け加えて言うが、さっき触ったよな?

 

「もしかしてその名工達が作った武器ってワノ国で?」

 

「うむ。我が先祖も『古徹』もワノ国出身でありあの二代鬼徹を打った。しかし、今となってはわし以外の名工は殆どおらん時代だ。そして業物の武器も数多の海外の者たちの手に渡っている始末。中には砕けている武器もあろう。実に残念なことだ」

 

目をつむり嘆息する飛徹。そんな彼に俺に宿っている蒼い龍が、「分かるわその気持ち」と共感してるし。

 

「まぁ、武器は持ち主に使われてこそが本当の在り方だって言うから残念がることもないか?せっかく打ったのにお蔵入りするぐらいなら作らない方がいいと思うし」

 

「その持ち主に厄災をもたらすことになってもか」

 

「妖刀でもあるのか?それは持ち主の器量、使い手として相応しくなかっただけの話じゃないか?」

 

勝手ながら壁に掛けられてる刀を魔法で浮かせて、飛徹の前で握って鞘から抜き放った。

 

「これが人を呪い殺す妖刀ならば勝負しようか」

 

「お、おい貴様なにをする気だやめろ!?」

 

「おれの運とこいつの二代鬼徹の呪い。どっちが強いのかをな」

 

真上に放り投げで横に腕を伸ばしたまま落ちてくる刀を待つ。飛徹は目玉が飛び出そうなほど開いた口が塞がらず見守ってくれている最中、二代鬼徹の鋭利な刃は真っ直ぐおれの腕を捉え―――途中で峰から落ちて腕に触れることなくそのまま床に軽く突き刺さった。

 

「・・・・・っ!?」

 

「持ち主に呪いを振るう妖刀・・・こんなものか」

 

床から抜き取り鞘に納めて壁に掛け直す。そして直ぐに飛徹からのお説教を頂戴したのだった。

 

「二度とこんな危険なマネをするではないぞ!!!」

 

「すみませんでした」

 

それからなんやかんやで飛徹と話を続け、美少女こけしコレクションを嬉しそうに(いやらしい顔で)見せながら教える飛徹の自慢話を長々と付き合った。美少女こけし・・・・・何がいいんだ?そんな話は夕日が顔を出した頃にまで続いたので、そろそろ帰らなければならなくなった。

 

「・・・・・あ、もう夕方か。帰らないと」

 

「む、もうその時であったか。もっと語り聞かせたかったのだが」

 

もう勘弁してください!

 

「・・・・・帰る前にもう一つ」

 

「なんだ?」

 

―――おれは飛徹に対して魔法を使った。

 

「おでんが持っていたという刀、あるなら見せてくれないか?」

 

「・・・・・承知した。直ぐに持って来よう」

 

悪いな。でも、盗みはしないから安心してくれ。ちょっと『複製』をさせてもらうだけだからさ。

 

それ以降のおれはというと・・・・・。

 

「イッセーさん。最近刀を持つようになったんですか?」

 

「知ってるだろ?おれは武器を創造することが出来るって」

 

「確かにそうでしたね。これでイッセーは鬼に金棒だ」

 

「おいおい、そいつは鬼より超コエーカイドウの為にある言葉だろ。カイドウに金棒ってな」

 

「ギャハハハ!」

 

「確かにそうだ!イッセーさん上手い!!」

 

「近い内にお前達の武器も作ってやるよ」

 

「ありがとうございます!」

 

二振りほどの刀を腰に佩くようにした。名前は『閻魔』と『天羽々斬』だ。そんな折におれは出会った。

九里の住民達の農作業の監視中に三度笠を被り和服を着た緑色の肌をした変な人―――人?が、おこぼれ町の畑に現れるや否や。

 

「それは・・・・・おでん様の刀・・・・・!!」

 

「え?」

 

「どこで奪った、その刀を返してもらうっ!!!」

 

鍔が無い刀で斬りかかり、座っていた高台が斬られて崩れた。条件反射で『閻魔』と『天羽々斬』を抜き放ち鋭くて速い斬撃に対応する。

 

「待て待て!!お前の勘違いだ。この刀は複製したもんなんだ!!」

 

「拙者の目はごまかされん!!」

 

「大体お前は何しにここに来たのか理由を言え!!」

 

「食料を拝借―――いや、分けてもらいに来た」

 

「働かざるもの食うべからず!!盗人なら容赦せん!!分けて欲しいなら農作業の手伝いをしろ!!」

 

躊躇のない斬撃を白羽取りで刀を捉え固定、盗人の目は見開いて驚いた瞬間にどてっぱらを蹴って飛ばす。

 

「うぐっ・・・・・!!」

 

「それと、お前も力があんまり入っていないだろ。刀に感じる力があまり伝わってこない。長い間碌な飯を食ってないなお前」

 

「拙者は武士として空腹などに負けは・・・・・」

 

「武士以前に人間・・・・・なのかお前?ま、腹減っちゃ戦はできないって言葉を知らないとは言わせないぞこの馬鹿助」

 

バ、馬鹿助・・・!!とショックを受けた盗人を無視して見ているしかできなかったカイドウの団員に催促させた。

 

「この馬鹿助にありったけの飯を用意するようおこぼれ町の住民に言っておいてくれるか」

 

「え、捕えないんで?」

 

「面倒くさいからしたくない。お前がしたいならすればいいさ。ただし、この盗人さんは強いから気を付けな」

 

まだ弱い自分はそんなことしたくない、とこの場から踵を返して駆け出していく。で、こいつには―――。

 

「おい馬鹿助。ここに来たからには俺のルールで働いてもらうからな。まずは収穫ごろの作物を収穫しろ」

 

「せ、拙者も!?」

 

「餓死して生き恥晒して死にたいか?」

 

それは嫌だ、と思ったか逡巡した様子で少し沈黙する馬鹿助は作業してる九里の住民達とまじって収穫の作業を始めた。

 

しばらくして―――。

 

「拙者の名は河童の河松と申す」

 

腹いっぱい食べ終えた馬鹿助が招いた城の中で自分の名を教えてくれた。はて、河童とな・・・・・。

 

「本当に河童?その笠を取って皿を見せてくれよ」

 

「ダメだ!!ヤメろ、離せ!!」

 

笠を取り外そうとしたら全力で抵抗された。そんなに拒絶されちゃ仕方がないな・・・・・河松から離れ座り直す。

 

「単刀直入に訊くが、どうして作物を拝借しようとした」

 

「・・・・・それは言えぬ。だが、どうしても必要だったのだ」

 

「ふーん。他の奴もいるんだ?そいつに食料を提供するためか」

 

沈黙を貫いたのでどうやら図星のようだ。

 

「食うに困っているなら衣と住も困ってそうだな」

 

「だとしたら、何だと言う」

 

「いや、手を貸そうと思っているだけだ。ここ、おこぼれ町と花の都のえびす町のどっちか住めばいいんじゃないのか?」

 

「拙者等はわけあって人の住む所では住めんのだ」

 

訳アリか・・・・・だとすれば。

 

「鈴後はどうだ?あそこは確か無人になっている無法地帯。生活できる環境が出来るならそこでもいいだろ。暖かい着物も食料もあったら、住めば都になる」

 

「その通りだが、どうしておぬしはそこまで拙者を・・・・・」

 

「目の前に困っている奴がいたら助けたくなる性分なんでな。何ともそんな性格をしているとたまに思う時があるよ」

 

苦笑を浮かべるおれを河松は丸い目を向けて見つめてくる。

 

「おぬしは変わっておるな」

 

「よーく言われるよ。で、この刀を見ておでんと言ったよな?カイドウに傷を負わせた強い侍の」

 

「・・・・・おぬしはカイドウの手先か」

 

「天狗山飛徹と同じこと言うな。貢献しているけど仲間でも味方でもないから安心してくれ。あいつが誰かに倒されようが死のうが俺には関係のない立場でいさせてもらっているからな」

 

「飛徹殿と会っておるのか。ならば尚更その刀はどうやって・・・・・!」

 

「ちょっと見せてもらったんだって。で、こうして複製したんだ」

 

俺の周囲に複数の刀が床から飛び出してきた。河松はその複数のおでんの刀を見て唖然とした顔で驚いていた。

 

「俺は見ただけでその武器とほぼ遜色のない武器を創造する特殊な力を持っているんだ。カイドウを斬った刀なんて凄く興味あったから。是非見たくて思わず複製したんだ。それでも信用成らないなら飛徹に訊いてみるといいさ。俺は一切あの男から盗んでいないからな」

 

「・・・・・今見せられた手前、信じぬわけにはいかぬ。正直拙者の目を疑ってしまうが」

 

まだ半ば納得していないって感じだが、信用だけはしてくれたか。はぁ、盗んでいたら確実に敵対していただろうな。よかった、悪事を働かなくて!やっぱり海賊にはならない方がいいねうん!

 

「刀の件については一先ず信用しよう。しかし、カイドウに貢献しているとはどういうことだ?」

 

「一言で言えば九里の住民達の手助けするため、だな。食うに困っていたから俺ができる事をしたいからその権利をカイドウから得ているんだよ。貢献すれば色んな権利を与えてくれるからそうしている」

 

「海賊に協力することで九里の者達を助けていると申すのか。カッパッパッパ・・・・・何と豪胆な男だ」

 

何故か笑われた。いや、笑っている声なのかカッパッパッパって・・・・・?

 

「まぁ、そんなことよりもだ。これからもここに来るなら提案がある」

 

「提案?」

 

「一度、鈴後に行ってみて住める場所がなかったらこの城に住んでみないか?」

 

「!?」

 

「おでんの関係者なら百獣海賊団や将軍オロチ達に追われている立場かもしれないんだろ?逃げ隠れる生活は見知らぬ連れの方も辛いはずだ」

 

金色の錫杖を具現化して創造の能力を使い、一瞬の光と共に二つの宝珠を創り出した。

 

「これをやるよ」

 

「これは一体・・・・・?」

 

「それを身に着ければ別人に姿を変えられることが出来る。河松がワノ国中を歩き回れるようになれば行動範囲も格段に違うだろ」

 

着けてみるよう催促させ、手首にはめた河松はあっという間にどこにいても不思議ではないワノ国の男性と化したので鏡で見させるとビックリ仰天。自分の顔を触れて確かめる様は本当に信じられないという表れを浮かばせている。

 

「拙者が、別人になっておる・・・・・!」

 

「それがその宝珠の力だよ。外せば元の姿に戻るが、壊れたらその力が無くなって解けてしまう。扱い方には気をつけてな」

 

「・・・・・かたじけない」

 

深々と感謝の念を示した土下座をする河松にもう一つ。

 

「その代わりと言っちゃなんだがお願いがある」

 

「お願いとは?」

 

「カイドウの部下達に聞いた話だが、おでんの遺体は釜ごと海に捨てたらしい。だからおでんの遺体の捜索の手伝いをしてくれるか」

 



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カイドウの息子現る!

河松と出会いから数日も経たある日のこと。またカイドウの部下の一人があることを言ってきた。

 

「そろそろ『火祭り』の時期なんですけどイッセー様は参加なさるんで?」

 

「火祭り?どこでやるんだ?」

 

「花の都と鬼ヶ島です。ワノ国の将軍オロチ様と侍衆や忍者衆が鬼ヶ島にやったきてその日一日は明日まで飲み明かすんですよ」

 

「へぇ、今時の海賊は祭りもやんのか。それ、楽しい?」

 

「そりゃあもう、楽しい以外言葉はないですって!」

 

海賊の祭りか。興味があるな。

 

「てなわけでカイドウ。おれも火祭りに参加していい?」

 

鬼ヶ島に訪れて酒盛りしてるカイドウがよく使ってる瓢箪に入れた酒をプレゼントしながら聞いてみたのだった。

 

「わざわざおれに聞かずとも、お前は勝手に参加するだろうが」

 

「念のためにな。あと、個人的に仲がいい海賊も連れてきていい?」

 

「プハァ~・・・・・うぃっく、どこのどいつだ・・・・・まァ、骨のあるやつなら構わねェよ」

 

ん、あとはあっちの都合を聞くだけだな。

 

 

レイリーside

 

私の目の前に小さく丸い円陣に描かれた紋様が突然現れたかと思えば声が聞こえて来た。

 

『久しぶりレイリーさん』

 

「イッセーくん?キミかい?これは通信が出来るもののようだね」

 

『そ、驚かせたらごめんな。誘いの話をしたくてさ』

 

彼から誘いの話とは。一体なんだろうね。

 

『近い内にワノ国を支配しているカイドウが祭りを始めるらしいんだ。飲み放題の酒と食べ放題の料理が振る舞われるっぽいから、レイリーさんとシャッキーさんは―――』

 

「勿論行かせてもらうよ」

 

昔の旧敵カイドウとはいえ、酒が飲み放題とならば無礼講なのだろう。ふふ、まさか想像にもしなかったことをすることになるとは。これもイッセー君の不思議な力なのかな。

 

 

ハンコックside

 

 

イッセーのことを想って肉料理の特訓中のことであった。わらわの目の前で小さく丸い紋様が浮かび上がった。なんなのじゃこれはと思っていると声が聞こえてきた。

 

『ハンコック。イッセーだけど今大丈夫か?』

 

「イ、イッセーっ!?」

 

『おう、久しぶり。それとこの通信手段は教えてなかったな。驚かせたか』

 

「う、うむ。よもや、そなたの声が聞こえるとはの。して、わらわに話し掛けてきたのは?」

 

『ああ、大海賊カイドウが支配する国で近々祭りをするらしいんだ。その祭りにハンコックと一緒に楽しみたいから誘いの話をな』

 

ドッキーン!!!

 

「(イッセーがわらわと一緒に楽しみたい・・・・・つまりこれは)」

 

キタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(結婚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!

 

『どうだ?無理ならいいが』

 

「む、無理なのではないのじゃ。そなたの誘いを無下にはせん」

 

『それはよかった。それじゃ祭りの日の当日に呼ぶよ。ああ、ハンコックだけじゃなくてマーガレット達も参加させて欲しい。飲んで食べて大騒ぎするだけの祭りだからさ』

 

了承するとイッセーの声が聞こえる不思議な紋様が消えてしまった。近い内にイッセーと楽しい祭りを過ごす・・・・・イッセーと過ごす夜・・・・・・イッセーと・・・・・あっは~ん❤️❤️❤️

 

 

「イッセーさま。誰と話していたんで?」

 

「ボア・ハンコックって海賊は知ってるか?」

 

「そりゃあ勿論。今年、王下七武海に加盟した女帝・・・・・って、まさか・・・・・」

 

「そのまさかだ。海賊女帝ボア・ハンコックを火の祭りに呼ぶつもり」

 

『『『工工工エエエエエエェェェェェェΣΣ(゚Д゚;)ェェェェェェエエエエエエ工工工』』』

 

 

火祭り―――

 

ワノ国で年に一度行われる死者を祝福する意味も兼ねている祭り。鬼ヶ島もそれに倣い年に一度の金色神楽を十年前から始めた祭りだ。その祭りに百獣海賊団とワノ国の将軍オロチと侍"見廻り組〟と忍び"お庭番衆〟以外の一団が海外からやってきた。

 

「うぉおおおおおおっ!!?」

 

「あ、あれが噂に聞く女海賊団・・・・・ッ!」

 

「女ばっかりじゃねェかっ!うひょーっ!ほとんど服着てねェぜ!」

 

「女ヶ島って島に住む奴は皆女ばかりだと聞いているが、あいつらがそうなのか・・・・・!」

 

「う、美しすぎるっ!七武海になった、たった一度で8千万の懸賞金になった女傑・・・・・」

 

「ボア・ハンコック・・・・・この世の美しさを嘲笑うかのような絶世の美女・・・・・!」

 

「おい、知ってるか。あの集団を呼んだのってイッセーさんらしいぜ」

 

「マジかよ!!!」

 

 

 

「海外の男達がこんなにいるところに来るなんて初めてだわ」

 

「あっちの男共もこっちに興味深々みたいね」

 

「色んな男達がいて面白い!」

 

「今夜は飲んで食べる祭りだってイッセーから説明されてるし、今日は楽しもう」

 

「あ、無理矢理迫ってくる男がいたら攻撃していいって言ってたよね?」

 

「海賊同士の初の交流だ。力を示す一環でもあるのだろう」

 

 

 

ライブフロアを一望できる上階の一室に訪れ、カイドウや懐刀のジャック達とハンコックたちを引き合わせた。

 

「カイドウー連れて来たぞ。王下七武海の海賊女帝ボア・ハンコックと特別ゲストに―――海賊王の副船長を連れて来たぞ」

 

「・・・・・お前らは」

 

「やぁ、何十年振りかなカイドウ」

 

「元気にしてるみたいね」

 

「ええええ~っ!!!め、冥王レイリィーっ!!?」

 

「海賊王の元副船長シルバーズ・レイリー」

 

「何故ここに」

 

ふふん、驚いている驚いている♪さすがのカイドウもレイリーを凝視して目を離さないでいるな。

 

「どこぞの海賊を連れてくるのかと思えばお前が来るとはな。この場で捕らえてひとつなぎの大秘宝(ワンピース)の在り処を吐かせてやろうか」

 

「ふふふ、今日は祭りだと聞いて参加させてもらいに来たのだよ。私から全てを知りたいというならそれ相応の対応をさせてもらう」

 

「因みにレイリーさんを捕まえようってんなら、俺がこの場に連れて来た手前だから守らせてもらうぞ」

 

〝閻魔〟と〝天羽々斬〟の柄を触れながら言う。

 

「知りたいなら酒を飲ませつつ話をすればヒントぐらいは教えてくれると思うぞ」

 

「イッセー君の言う通りかもしれないよカイドウ。今日は無礼講なのだろう?お互い仲良く酒を飲み明かそうじゃないか」

 

「・・・・・」

 

しばしの見つめ合いがされる間、カイドウの部下達におれ達の分の酒と料理の手配を頼むとハンコックから話しかけられた。

 

「イッセー、海外の男は大きい者もいるのじゃな」

 

「おれは男も女も3メートル以上の身長の人間が当たり前のようにいるこの世界に驚かされてばかりだ」

 

「そなたの元の世界にはいないと申すのか?」

 

「巨人族ならともかく、人類はいないな。昔は3メートルの人間ぐらいはいたらしいけど現代の人間の基本的な身長は2メートルぐらいなんだ」

 

神ならいるけど人間のカテゴリー別だからカウントはしない。それから、何時まで見つめ合っているんだ?

 

「カイドウ、レイリーさんが好きだからってそんな熱い眼差しを送っちゃあ困るだろ?」

 

「あら、カイドウって男が好きになってしまったのかしら?昔の貴方とは思えない子になったわね」

 

昔の貴方・・・・・?

 

「シャッキーさん。カイドウのこと知ってる?」

 

「ええ、実は私その昔海賊だったのよ。その時に今の大海賊のカイドウやビック・マム、白ひげと同じ海賊船に乗ってた仲なのよ」

 

「・・・・・若さを保つ秘訣は?美人過ぎるだろ」

 

「うふふ、内緒♪女の秘密をそう簡単には明かせないわ」

 

魔法で若くしたレイリーさんですら白髪白髭だった初老の男なのに、シャッキーさんは皺が一つもないこの差は一体・・・・・。というか、元海賊だったのが意外過ぎた。

 

「来たぞカイドウよ!」

 

そこへチョンマゲ頭に王冠を被った、大きな顔と2本の出っ歯が特徴の男が現れた。カイドウのことを気の知れた中気の知れた間柄のような言動でこの部屋に入ってきて直ぐに絶世の美女であるハンコックを一目見て。

 

「ムッハー!な、何という美しい女子がおるんじゃ!カイドウ、その者は誰なのじゃ!」

 

鼻息を荒くハンコックの美貌に魅了されたとして目玉がハートになっている。こいつ、あとで石化されるな。

 

「カイドウ、どちらさんだ?」

 

「オロチと言えば覚えがあるだろ」

 

オロチ・・・・・ああ、将軍オロチのことか。

 

「この女はおれの部下が連れて来た―――」

 

「誰がお前の部下だァッ!!!」

 

一瞬でカイドウの頭上に移動して鋭い蹴りを放って床に叩きつけた!まったく、フザけんな!

 

「おい将軍オロチ!!俺が連れて来た連れに手を出したらバックにカイドウがいようと容赦はしないからな!!」

 

「何という無礼な奴め!このワノ国を支配するワシに逆らうというならばこちらも容赦はせぬぞ!貴様を処刑した後はその女子をワシの正妻にする!」

 

無知とは罪だということはこのことだな。

 

「サンダーソニア、マリーゴールド。ハンコックを妻にするってよ」

 

「そんなこと私達が許さないことを知っているでしょう」

 

「お前みたいな男が姉様の伴侶に務まらないわ」

 

「ワシは将軍であるぞ!」

 

だから何だと、言いたげなサンダーソニアとマリーゴールドは嘲笑う。

 

「自分の思い通りになる女がいいなら他をあたりな。ハンコックは絶対に思い通りにはならないから」

 

「先程から生意気な・・・・・!!ワシが一言申せばお前ひとり等直ぐにあの世に葬れる―――!」

 

「イッセーを殺すじゃと?」

 

あ、怒気のオーラを放つハンコックが怒りの形相を浮かべだした。

 

「この不届き者めが。わらわの愛しき人を亡き者にするならば容赦はせぬ!!!」

 

初めて出会ったときに問答無用で放った技―――両手でハートマークを作り、そこから放つ光線で、相手を石化させる能力を使った。

 

「〝メロメロ甘風(メロウ)〟!!!」

 

ハート型の光線がオロチを通り抜け―――一瞬で石化した。

 

「邪心を持った者の末路は、こういう感じか。おれ、邪心持ってなくてよかったよ」

 

「純粋が一番だよイッセー君」

 

「ええ、その通りよ」

 

オロチ様!!?と縦長の禿げ頭、胸付近まである長い耳たぶなど、七福神の福禄寿のような容姿をしたサングラスをかけ袈裟を着ている男がどこからともなく石化のオロチの傍に現れた。

 

「邪魔者はあのままにして祭りを楽しむのが吉だな」

 

「もとより、イッセーを亡き者にする男など万死に値する」

 

「おいおい、心配してくれるのは嬉しいけどおれは死なないぜ?」

 

頼んできた酒と料理がカイドウの部下達が持ってきてくれた頃合いを見計らったかのように、フロアでも大層賑やかな雰囲気を醸し出した。

 

「んじゃ、カイドウ。乾杯しようぜー」

 

「オロチはあのままなのか」

 

「ハンコックしか解除できないかもしれないけど、どうせ何時かカイドウがオロチを殺してワノ国を支配するだろうからあのまんまでいいんじゃないか?死んでなきゃ永遠に石化したまま生きれるんだし。ああ、ワノ国の侍と忍者を丸ごと手に入れるなら尚更いいか?」

 

「・・・・・ウォロロロ。お前、俺の部下になれ」

 

「だーかーらー、ならないって言ってんだろうがこのボケ!」

 

ゲシッ!とカイドウの脚に蹴りを入れる。こいつ、何時になったら諦めてくれるんですかねェ!?

 

将軍オロチの漬物石と化したそんなこんなになってしまった中、火祭りは問題なく始まった。九蛇海賊団の船員達とお近づきになりたいという邪心を持つ者達の頑張りが実を結んだのかは定かではないが、フロアを見下ろせば楽しそうに笑みを浮かべていた。喧嘩も祭りの醍醐味として受け入れられ、九蛇海賊団の女戦士と揉め合い=力の勝負をしても更に大盛り上がりしてた。

 

「はっはっはっ。カイドウ、まだ飲めるだろう。私を酔い潰させるにはこの程度の量では足りんよ」

 

「ウォロロロ・・・当たり前だ。まだまだ飲めるに決まっているだろう馬鹿野郎」

 

すっかり飲み仲間となっている二人は見ているだけで胸焼けがしそうな量を湧き水の如く飲んでいく。他クイーンは縁の方にダンスをして祭りを盛り上げているし、ジャックとキングは静かに飲食をしている。

 

「ハンコック、どんな気分だ?他の海賊とこうして同じ空間でお祭り騒ぎの中にいるのをさ」

 

「何とも言えないの一言だ。じゃが、わらわはイッセーがおればどこでも幸せを感じれる」

 

「愛しき者と言ってくれたしなー」

 

からかいを含んだ意味合いで言えば、はうっ!?と今更恥ずかしがって林檎のように赤面した顔で羞恥でいっぱいなハンコックを見て、とても微笑ましく感じた。

 

「ははっ、ハンコックほどの美女に好かれるのは男として冥利に尽きる。俺の為に怒ってくれてありがとうな」

 

「イッセー様、アップルパイをお持ちしました」

 

「おーっ!無理難題か作れないなら仕方ないと思いつつもマジで作ってくれたのか!ありがとう!」

 

カイドウの部下が持ってきてくれた見紛うことのない俺の好物。海賊時代にもアップルパイが作れる人がいることも、アップルパイも存在している時点で不思議なものだがこの世界でも食べられるなら凄くありがたい!ってことで早速食べる!

 

「~~~うま~いっ!!!!!」

 

「っっっ!!!」

 

「なんだ小僧、珍妙なその姿は」

 

「ほう、何と可愛らしい姿にもなれるのだな」

 

「可愛いわイッセーちゃん」

 

ショタで九つの尾と頭に獣耳を生やす姿になって、周囲の声など聞き流して一心不乱に数か月ぶりのアップルパイを食べる。う~ん、美味しい!

 

「ん、ちょっとトイレ行ってくる」

 

しばらくして皆にそう一言述べてトイレへ行ってくる。場所なんて知るはずもないからそこら中にいるカイドウの部下に訊けばいいか。と、思ったけど・・・・・。俺と同じ目的でトイレに行く酔っ払い達がトイレの前で列を作っていた光景を見て、部下が多すぎるのも考えものだなと思ってしまった。仕方がなく海で済ませることにした。

 

「・・・・・酒くさ」

 

身に染み込んでいる酒気を感じ取り魔法で手と一緒に清潔する。中に戻るからまた臭いが染みついちゃうだろうがな。

 

「・・・・・君は」

 

「ん?」

 

城の中に戻り通路を歩いていると白髪の乱れ髪をなびかせる角を二本生やす両胸に紋が入った上着、帯を腰に巻いた仁王襷、下駄和装の出で立ちの―――般若の面を被った人物と出くわした。

 

「どちら様?」

 

「僕はヤマト。カイドウの息子だよ」

 

「へェ、カイドウの・・・・・カイドウの息子ォΣ(Д゚;/)/ッ!?」

 

思わず二度見してしまった!え、カイドウに子供!?

 

「あのデカブツに子供がいたのか!?初めて知ったぞ!絶対家族がいないと思ってたから!」

 

「僕もあんな父は、好きではないからね」

 

「え、なに突然のカミングアウト。おれにどうしろと?」

 

「いや、城の中で君の話が持ちきりだったから直接会いたかったよ」

 

ヤマトは仮面を外して素顔を見せてくれた。うわァ・・・・・あんな顔の親にこんな綺麗で美人な娘が生まれるなんて、生命の不思議さを垣間見た・・・・・って。

 

「え?お前息子って言ったよな!?」

 

「昔ある侍を見て憧れたんだ。だから僕はその侍のように男になったんだ」

 

憧れを抱くならまだマシも、女なのに男だなんて・・・・・これ、流した方がいいのか?

 

「今暇だよね?よかったら退屈している者同士、話をしない?」

 

「まぁ・・・いいぞ。ヤマトのことも気になったし話し合おう。因みに聞くがおれの話の内容って?」

 

「あの父を倒したとんでもない強さの男が―――って」

 

「どうでもいい内容だな。カイドウは俺より弱かった。ただそれだけだし。また戦うなら、今度はこの刀も使ってやる」

 

腰に佩いている刀を触れる。釣られてヤマトも刀を見る。

 

「お前の父親を斬ったおでんの刀だ」

 

「えっ!おでんの!?本物なの!?」

 

「複製した物だけど、本物と遜色のないぞ」

 

凄い食いつき。なんだ、おでんの何なんだ?

 

「おでんのこと気になるのか?」

 

「僕はおでんに憧れているんだ。十年前、父とオロチに釜茹での刑で一時間も耐えた伝説の処刑は今でも瞼の裏に焼き付いているぐらいだ」

 

憧れているある侍っておでんのことか。それに直接処刑の現場にいたのか。

 

「だから僕はおでんになりたいと父に言ったらぶっ飛ばされて手錠を嵌められているんだけどね」

 

「手錠?」

 

両手首を見せてくるヤマト。視線の先に鎖が千切れた手錠がしっかりと嵌められている。だけど、どうして取ろうとしないんだ?

 

「僕はこの島から離れられない。閉じ込められているんだ」

 

「どうしてだ?」

 

「この島から離れたらこの錠が爆発する!正直ウソかもしれないとも思っている・・・!!だって実の子を親が爆発するか!!?」

 

愛情があればしないだろうが、ヤマトの父親はアレだからなぁ・・・・・。

 

「―――でも万が一のことを考えると足がすくむんだ・・・・・!!僕の親はあいつなんだから!!」

 

どんな性格なのか熟知しているから言える発言か。

 

「取ってやろうかそれ」

 

「え!?いや取るって僕これに10年も自由を奪われて・・・・・」

 

戸惑うヤマトの錠を触れる。

 

「大丈夫だ。できる。外すだけでいいな?」

 

「いや・・・・・!!念の為!!一応!!遠くへ投げてくれ!!たぶん爆発はしないんだと思うんだけど」

 

深呼吸して錠を握り締めると壊れてヤマトの手首から外れた。直ぐに通路の奥へ投げた。

 

「外れた!!」

 

信じられないと錠が無い己の手首を見つめる彼女―――一拍遅れて投げた錠が数人の人間を優に巻き込む大爆発した。その爆発で生じる衝撃波はおれ達にも襲い吹き飛ばされた。これには悲鳴を上げた!

 

「うおおおおおおおっ!?」

 

「わあああああああっ!!畜生あの・・・牛ゴリラめ~~~!!!僕を殺す気だった!!!」

 

吹っ飛ばされる身体の姿勢を共に立て直して、俺はヤマトの憤怒の叫びを聞く。

 

「よくわかった!!!あいつはもう親でも何でもない!!!僕の敵だ!!!」

 

「あー、その気持ちだけはおれも心からわかるよ。おれも昔、クソ兄貴に殺されたことがあるからな」

 

「君もか!?でも嬉しいよ。僕の気持ちを共感してくれて、ありがとう!!!」

 

ガシッ!と手を掴んで握り締めてくるヤマト。えーと、どういたしまして?あー、宴会を楽しんでいた大勢の連中が何事だと爆発現場に集まってきたな。周囲一帯は爆炎と黒煙に包まれて元凶の俺達だということはまだ気づかれていない。

 

「これからどうする気だ?」

 

「勿論、海に出るよ!!!僕もおでんみたいに自由に生きてみたいんだ!!!」

 

断言するほどヤマトの決意は固く意思も強い。ようやく縛られていた自由を解き放たれて心底から喜々として言う彼女におれは止めるつもりはない。彼女の人生は彼女のものだからだ。

 

「そうだ。ねーねー、君も一緒に僕と海に出ないかい?きっと楽しいよ!」

 

「おれもか?」

 

「うん!」

 

「んー、海賊になるつもりはないぞ?」

 

「大丈夫!海で自由に生きるだけだからさ!」

 

絶対にその過程で海賊になってしまう可能性があるんだよ!その辺の考慮もしてくれっ!

 

「―――ともかく、おれは連れがいるところに行かないといけない。一緒に行くか?」

 

「うん、いいよ」

 

この黒煙に紛れて転移魔法で一旦城から出て外から入り直す。うう、罪悪感が・・・・・後で直しに行かないと。ライブフロアへ顔を出して上階に上がる。すると、ヤマトはカイドウの所だとは思わなかったのか、しかめっ面の表情になった。カイドウも自分の子供が現れて見つめた視線はヤマトの手首にある筈のない物が無くなっていることにも気付き、おれに訊いてきた。

 

「小僧、ヤマトの手錠を外しやがったのか」

 

「悪いか?というかだな。自分の娘に爆発する手錠を嵌めて殺すつもりだったのがいただけないぞカイドウ!」

 

「そのバカ息子がバカなことを言い出してきかないのが悪い」

 

「おでんに憧れるのが何が悪いってんだ。もしかして父親じゃなくて赤の他人に憧れるのが許せない嫉妬か?残念がったり寂しいからこの島に閉じ込めて父親の自分を見て憧れるようにしたのか?もしそうなら酌量の余地はあるけど?」

 

え、そうなの?という目で父親を見上げるヤマトの隣でカイドウの返事を待っていると。徐に金棒を振るい落としてきた!軽々と避ける。

 

「フザけたこと言ってんじゃねェよ!!!」

 

「ははは、照れるなって。ちゃんと口で伝えないと思いが伝わらないぞヤマトのお父さん!」

 

「ブチ殺してやるっ!!!」

 

「だってよヤマト!一先ず共闘でもするか?」

 

笑って提案するとヤマトも笑って俺の隣で一緒にカイドウに向かって金棒を構えた。

 

「この牛ゴリラ!実の子供を殺す気だったなんてもう僕の敵だ。絶対に許さないからな!!」

 

「黙れバカ息子!」

 

こうして親子喧嘩+αの戦いの幕が開いたことで祭りは別の意味で大騒ぎと化した。まぁ、その際?石化してしまった石像が戦いの余波に巻き込まれて砕けてしまったのは仕方がないよな?

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

火祭りの翌日―――。

 

訃報―――火祭りの最中に将軍オロチ死す。という看板やチラシがワノ国の国民達の目に入り一同騒然と化した。将軍無き従者達である忍者軍お庭番衆と侍衆見廻り組は百獣海賊団に吸収され、ワノ国は実質カイドウと百獣海賊団が支配することになった報せも一緒に。

 

「小僧、お前がワノ国の将軍になれ」

 

「は?理由は?」

 

「我が息子ヤマトと夫婦の契りを結んでもらうためだ」

 

「おいこら。実質俺とお前は義父と義理の子となって百獣海賊団の仲間入りになるだろうが。断る!」

 

「このクソオヤジ!僕とイッセーは海に出て冒険をするんだ!イッセーのことは嫌いじゃないけど僕の人生をお前が決めるな!」

 

鬼ヶ島にて、祭り後の後片付けが忙しなくしている百獣海賊団。カイドウに告げられたヤマトとの婚姻話におれとヤマトは真正面から否と言い返した。この野郎、別の方からおれを引き込み始めやがったな。

 

「お前が将軍となれば支配するワノ国のことはお前の好きなようにさせる。おれ達百獣海賊団への発言力も更に高まる」

 

「それ今までと変わりないだろ。それがお前にとってなんのメリットになる」

 

「今後もお前の創る異世界の武器の提供をしてもらうためだ。無論、お前が造る兵器もな」

 

そういうことか。異世界の武器とおれが作る兵器は百獣海賊団にとって魅力的なんだな。

 

「国を好きなようにねェ・・・・・」

 

カイドウと手を組む結果になるだろうが、九里の住民達の事もある。いまさら放置なんて良心が痛むからしないけどさ。

 

「本拠地を〝花の都〟に移さないのか?もうワノ国はお前の国みたいなもんなんだろう?」

 

「ああ、いい都になるだろうな」

 

となると、この鬼ヶ島から離れるのか?

 

「鬼ヶ島はどうするんだ?」

 

「鬼ヶ島ごと〝花の都〟に移す」

 

「いやいや、冗談言うなよそんなこと・・・・・」

 

「つまらねェ冗談をおれが言うかよ」

 

マジでできるのか?島一つ分をどうやってかは判らないけど、本当にできるのなら脱帽ものだ。

 

「場所は?」

 

「光月の象徴があるオロチが住んでいた城のところだ」

 

ああ、あそこ・・・ってこの島丸ごと移したら死人が出るじゃないか!

 

「今すぐってわけじゃないよな?」

 

「ああ、今日中にするつもりだ」

 

それを聞いて俺は、ヤマトを連れて脱兎のごとく〝花の都〟へ駆けこんだ。

 

「イ、イッセーどうしたんだい!」

 

「あんのバカの尻拭いをするために大改造をするんだよ!ちくしょう、時間がねェー!」

 

時間がないと言っても一瞬であの規模の島を転送するなんて無理だろう。ならばおれがその間にやれることと―――大改造しかないだろ。よし、辿り着いた。空から見ても・・・・・うん、確実に数人死ぬ程度じゃすまされないな

 

「あの島を丸ごとここに落とすなんて正気の沙汰じゃないだろ」

 

「だけど止めることは無理だよ」

 

「なら、受け入れ態勢を整えるだけだ」

 

手の中に現れる金色の錫杖を握り締め、無限の創造の能力を使い始める。

 

 

カイドウside

 

 

小僧がバカ息子を連れてどこかに行ったがおれの決定は変わりない。奴らがいなくなったあと、〝焔雲〟を発生させて『花の都』へ飛ばし始めた。「鬼ヶ島」の屋上からゆっくりと迫って行くワノ国の光景を眺めていれば俺の懐刀の部下共が話しかけて来た。

 

「カイドウさん、あの小僧を本当に将軍に・・・ヤマトぼっちゃんと婚姻させるのですか」

 

「お前達は反対か」

 

「おれ達の傘下に入るわけじゃねェんでしょう?別に関わっているだけ邪魔ってわけじゃねェんですけど」

 

「奴の行動は我々の利益になっていますが、最後まで油断できない事実があります。何を考えているのか理解に苦しみます」

 

キング、クイーンはともかくジャックの言い分は同感だ。

 

「ワノ国の為におれ達を倒すつもりならとっくの昔にしているぞあの小僧は。おれを倒すだけの強さがあるにも拘らずにもな」

 

「「「・・・・・」」」

 

興味と感心あれど深い所までは首突っ込む気が無い。小僧は本気でワノ国を救うつもりはねェってことだ。浅い部分、愚民共の命と不自由のない生活を守っているだけでそれ以上の事はするつもりはない。奴に付けた監視からの報告でおれはそう認識している。

 

「小僧がヤマトと契りを結ぼうがしまいが奴らはつるんで行動をするつもりでいる。直ぐにおれの考えに見抜かれたが問題ねェ。奴に権力を与えているのも懇意の関係を築いているだけだ。敵対するよりも俺の利益になる関係でいる方が合理的だ」

 

話している間に「鬼ヶ島」はワノ国に到達、その上に飛ばし続けた。そして「花の都」に辿り着いたと思えば・・・・・この島を載せても問題ねェとばかりな滝のように溢れる膨大な水が流れ落とす龍の手を彷彿させる巨大な桜の木を視界に入った。

 

「小僧・・・・・!!!」

 

奴の考えを悟り「鬼ヶ島」を収納できる空間に潜り込んだ。上から桃色の桜の花弁が舞い落ちて「鬼ヶ島」を彩る。ここで飲む酒はまた格別に美味しいだろう。ウォロロロ・・・・・!と思っていたら小僧が現れた。

 

「悟ってくれてありがとうよ。花見酒と月見酒が同時にできる場所を用意してやったぜ」

 

「ウォロロロロロ!!!最高の眺めといい都が手に入った。お前おれの幹部になれ」

 

「幹部にもなるつもりはねェよ!それと将軍の件だが、ワノ国を開国していいなら引き受けてやって良いぞ」

 

「海賊の楽園にするつもりだ。開国は構わねェ」

 

なにそれ、見てみたいと感想を口にする小僧にウォロロロロと笑いだす。

 

「なら、お前も海賊になれ」

 

「御免蒙る」

 

その日のうちにヤマトを九里の郷に連れてきた。おでんに憧れてるなら当然知ってるよな。

 

「僕をどこに連れてくれるんだい?」

 

「おれの城。元はおでん城だったものだけどな」

 

「っ!!?」

 

それともう一つ。

 

「おでんって家族はいたか?」

 

「うん、いたよ。子供も二人。だけど、父達がおでん城を焼いたからもう死んでしまってるけどね。おでんの妻トキも射殺されてる」

 

おでんと違って遺体はどこかにあるか?

 

「遺体、というより遺骨があるなら甦らせることはできるな」

 

「えっ?冗談でしょ?」

 

「おれは隠し事はするが嘘は吐かない。勿論冗談も言わないぞ。試しにやってみせようか?」

 

え、いや、そんなことしなくてもいいよ!と慌てふためくヤマトをおでん城があるおこぼれ町へ案内するおれだが・・・・・。えびす町や編笠からやって来た人達との協力あって広大な畑から阿鼻叫喚が聞こえてくる。どうしたんだとヤマトと駆け出した先に。

 

「お頭!こいつらこんなに食い物や酒、金まで溜め込んでいましたぜっ!」

 

「返してくれっ!それはイッセー様からいただいた物なんだっ!」

 

「邪魔だ!老い先短いジジイが!」

 

「ああっ!畑を荒らさないでおくれ!」

 

「やめてくれぇっ!」

 

「うるせぇっ!」

 

盗賊とおぼしきみすぼらしい格好の男達が畑を荒らし、畑を守ろうとするおこぼれ町の人達の慟哭。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

語るまでもなく、おれは畑を荒らす輩を許すつもりはないから刀を抜き放って静かな怒りを露にする。

 

ヤマトside

 

ゾクッと悪寒をイッセーから覚えた。昨日であったばかりの男だけどイッセーが怒ると感情が消え失せた途端、彼から覇気が放たれたのが判ったあと瞬きした瞬間に殆どの野盗達全員が地面に倒れていた。

 

「ったく、畑を滅茶苦茶にしやがって。囚人にしてやろうか」

 

倒れてる野盗達の中でたった一人、立っている山のような形の桃色の髪に肥満体の大男・・・・・えっ。

 

「お前ェはだれど」

 

「この畑の主だが?よくも人の作物や九里の人達に手を出したな」

 

二振りの刀を前に構えて彼に攻撃しようとするイッセーだけど、慌てて僕はイッセーの肩を掴んで静止の行動を取った。

 

「待って!彼を攻撃しないでくれ!」

 

「なんでだ?知り合いなのか」

 

「彼はおでんの家臣だった人だ」

 

「この畑泥棒が・・・・・?」

 

胡散臭そうな目付きをするけど本当なんだ!

 

「盗みをしてるのは彼がおでんの家臣だからだ。いまこの国は父とオロチが支配しているから『光月』やおでんの関わりある人達は皆粛清されているんだ。彼もその一人だから花の都には入れないし、食料や飲み水がろくに手に入らない生活を強いられてるんだよ」

 

知っている情報を打ち明けてなんとか事情を知ってもらうけれど、収まってくれることを願うばかりだ。

 

「事情は理解した。だが、それと畑荒しの件は別の話だ」

 

「でも、イッセー!」

 

「ここまで畑を豊かにしてきた苦労を蔑ろにする奴等は謝罪で済ませろと言いたいのかヤマト」

 

それは・・・・・!

 

「だから、こいつらを全員捕まえて―――」

 

そう言うイッセーはその後・・・・・彼等を全員、あろうことか。

 

「おら、荒らした畑とその分を直して耕せ!その後は飯食べてまた畑仕事だ、いいな!」

 

農作業の労働力にしてしまった。えっと、平和的なのかな・・・・・?それにあの人は・・・・・。

 

「カッパッパッパ、久しいな。まさかおぬしも畑仕事させられるとはなアシュラ」

 

「河松、あの小僧は一体何なんだ」

 

「一先ず、カイドウ オロチの手先の者ではないと申す。拙者と日和様の援助をしてくれておるからな」

 

「日和様は生きて!?今どこにおるど!」

 

「後で案内いたす。今はおぬしが荒らした畑を元通りにしなければ」

 

「・・・・・わかった」

 

何やら話をしているけれど、まさかもう一人のおでんの家臣と会えるなんて・・・・・。

 

「河松のことも知ってるようだな」

 

「釜茹での処刑をされたおでんとその家臣達の顏は忘れられないよ」

 

「家臣って何人いるんだ?」

 

「九人。でも、殆どが死んでしまっている―――そう思っていたよ。あの二人を見るまではね」

 

赤鞘の侍達が生きていた・・・・・!だとしたら、彼等が父を倒す機会を窺っているのかもしれない!!!イッセーに振り返ってある事を願った。

 

「イッセー、海に出たら行きたいところがある」

 

「どこだ?」

 

「幻の島『ゾウ』!!その島にはおでんの家臣、赤鞘の侍がいるかもしれない。何せその二人はミンク族だから!!」



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赤鞘の侍

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その日の夜。ヤマトと河松、畑荒しの頭ことアシュラ童子をおでん城に招き入れた。二人に伝える事があるためにだ。驚くだろうな。

 

「二人共、オロチが死んだってこと知っているか?」

 

「なっ!!!」

 

「オロチが、死んだ・・・・・?」

 

「知らなかったか。ま、厳密に言えば・・・・・こんな感じだ」

 

記念に持ち帰った石化したオロチの石像を置いた地下の牢屋に案内する。二人にとっては久しぶりに因縁の相手と再会することになっただろうが、石と化したオロチがいる姿に河松とアシュラは愕然とした。

 

「これが、オロチ・・・・・?」

 

「一体どうしたらこうもなる

・・・・・」

 

「今は石化してるが、石化した力を解けば恐らくオロチは復活するだろう。だが、俺はそうする気はない」

 

振り返る二人の視線を浴びながら踵を返して地下牢から遠ざかる。ついてくる三人を居間に連れて招くそこには幼女がいた。

 

「ただいま日和」

 

「ただいま戻りました日和様」

 

「日和様・・・・・!!」

 

河松の連れ―――おでんの娘である幼女はおれ達の帰りに笑顔で迎えてくれた。アシュラは日和を見て驚いた後に、よくご無事で!と安堵した。

 

「イッセー、この子は?」

 

「おでんの娘」

 

「えっ!?」

 

吃驚するか?もしかして「光月」は皆死んでいると認識しているのか?

 

「〝光月〟の血はまだ絶えていなかった・・・・・!!」

 

唖然とするヤマトを見て河松が訊いてきた。

 

「この者は何者であるか?」

 

「名前はヤマト。これからおれと海に出て冒険するつもりのおでんに憧れている者だ」

 

「おでん様に憧れて・・・・・?」

 

「僕は10年前のあの日。おでんの処刑を見ていた。釜茹での刑『伝説の一時間』を見たんだ!!」

 

当時の事をまだ鮮明に覚えているらしいヤマトはおでんについて語り出す。

 

「あんな立派な侍は他にいない。殺したのはオロチと僕の父だ!!悔しかった・・・・・でもそれ以上に胸が熱くて、涙が止まらなかった・・・・・!!」

 

和装の中に手を突っ込んで何かを取り出した。少し古びた書物?を掲げた。

 

「―――その後 僕は九里で光月おでんの『航海日誌』を拾った。これは、この日誌の存在は父達も知らない!!ここには彼の豪快な人生と彼の感じた世界の全てが、『大切な事』が書かれている!!」

 

「「!!?」」

 

おでんは海に出た事があるのか?後で読ませてくれないかな。

 

「おでん様の日誌だと・・・・・」

 

「そのような物が存在していたとは知らなんだ・・・・・」

 

家臣の二人すら知らなかったおでんの日誌は衝撃を与えるのに十分だった。唖然とヤマトの手の中にある日誌を見つめている。

 

「大切な事って、それは何だヤマト」

 

「それは教えるより読んだ方が早いかな。勿論、おでんの娘の君もね」

 

おれに手渡してくるヤマトから受け取り、日和の傍に寄って大きな体の河松とアシュラは後ろから一緒におでんの日誌を読み明かすことにした。

 

―――数時間後―――

 

「おでん様・・・・・」

 

「・・・・・」

 

ヤマトがおでんに憧れる理由もわかったような気がした。こんな人物がこの世にいたとは、もう二度と会えないのは残念極まりないな。

 

「これは、おでんの遺体探しに精を出す必要があるな」

 

「おでん様の遺体?何をする気だど」

 

「ああ、光月おでんを甦らせる」

 

「「っ!!?」」

 

信じられないだろうがな、と付け加えてある事を告げる。

 

「将軍オロチがいない今、次のワノ国の将軍はカイドウの命令でおれが将軍となることになった」

 

「な、なんとっ!?」

 

「―――だが、この日誌は10年後に起きる未来を考慮すればおれはその10年後。将軍の座を明け渡そう。当然、カイドウをこの国から追い出さなければいけないがな?」

 

「イッセー、君がしないのか?」

 

「する理由はないからしない。それにカイドウを倒すのはおれじゃなくて10年後の者達だろうな。それまでワノ国は保させて見せるよ」

 

そう決めたおれは後日―――新たな将軍としてワノ国改め―――「新鬼ヶ島」にてカイドウと手を組む儀式、盃を交わした。

 

「ワノ国は滅び新鬼ヶ島となった。そして我々『百獣海賊団』と新たに手を組むことにした将軍の名は懸賞金額45億9450万ベリーのイッセー・D・スカーレットだ!!!」

 

「よろしくな!!敢えて言わせてもらうけど、支配なんか興味はない。が、海賊の楽園を見てみたいからカイドウと手を組んだ。基本、カイドウと百獣海賊団の問題や闘争には一切おれは手出しも協力も関りもしない。その代わりお前達百獣海賊団の強化に努めるからな頑張れよ百獣海賊団の諸君!!めざせひとつなぎの大秘宝(ワンピース)!!!」

 

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!

 

ライブフロア中にいるカイドウの部下達からの大歓声の雄叫びが鬼ヶ島中に響き渡る。

 

「というわけでこれからもよろしく、カイドウ。そして頑張れよ」

 

「部下にしてやれねェのは残念だが、手を組んで肩を並べるってんなら歓迎するぜ」

 

笑みを浮かべるカイドウを他所に。将軍になったいま、よーやくおれの部下になれって言われずに済むわァーと心の中で思っていた。それからその日はずっとおれの将軍の即位の祝いとして火祭りのような宴会が行われた。っておい、酒を勧めてくれるな。おれはまだ未成年だから!え、俺みたいな年頃な奴はもう飲んでる?いやいや、それでも飲まない、飲まないから―――!!!

 

「カイドウ様、イッセー様ー!!!」

 

慌ただしくカイドウの部下が片手に新聞を持って走ってきた。

 

「どうした?そんなに慌てて」

 

「た、大変ですっ!インペルダウンからビック・マムが脱獄したそうです!」

 

「あのビック・マムが?」

 

部下の人から新聞を貰い読み始めるカイドウの肩に載って俺も一緒に読み始める。

 

「脱獄ってことはインペルダウンって監獄の事かカイドウ?」

 

「ああ、主に捕まえた海賊共を閉じ込めておく場所だ」

 

「んじゃあ、カイドウの海賊団の強化に繋がる人材が大勢いるってことだな。多く見積もっても千人ぐらいはいるんじゃね?選り取り見取りじゃん」

 

「その発想は考えていなかったな・・・・・ウォロロロ!!!!!」

 

なんだ?急にカイドウが大笑いし始めた。キング達も不思議そうに目を向けだす。

 

「カイドウ、面白いことでも書かれてるのか?」

 

「ああ、お前のことも載っている」

 

「俺のこと・・・・・?」

 

じーと新聞の記事を改めて読み始める俺の視界に・・・・・。

 

 

『新世界の海で最も悪名高い大海賊〝白ひげ〟エドワード・ニューゲート。〝ビック・マム〟シャーロット・リンリン。〝百獣海賊団総督〟百獣のカイドウ。〝天竜〟イッセー・D・スカーレット。以下四人が「四皇」と呼ばれる!!』

 

と、記事に載っていた・・・・・。え・・・・・は・・・・・?

 

「よ、四皇・・・・・?おれも・・・・・?」

 

「ウォロロロ・・・・・!!リンリンが脱獄して復活したからだろうな。新世界の海で懸賞金と実力がある奴と言えばおれとお前、リンリンと白ひげのジジイ以外いねェ」

 

クイーンがこれ見よがしにおれとカイドウのことを、これから皇帝の如く新世界の海に君臨する四皇の一人になった話を伝えだす。

 

「世界政府と海軍からすればお前も海賊であろうがなかろうが、おれ達を同列扱いにする称号を定める腹だったんだろうよ」

 

あはは・・・・・おれ、海賊の家業をしてもいないのに他の海賊の三人と同じ扱いをされるのかい?面白い冗談を記載するんだなァ・・・・・。ショックのあまりカイドウの肩からヨロリと崩れ落ちて、四つん這いで情けない恰好のままヤマトに近づく。

 

「ヤマト・・・・・一度船に乗ればおれも海賊の仲間入りだぜ」

 

「えっと、海軍も君のこと放っておけない存在だからしょうがないんだと思うよ?」

 

「くそぉ・・・・・おのれ、海軍・・・・・!」

 

 

レイリーside

 

 

「ふふふっ、今頃非常に世界政府と海軍に恨んでいるだろうね。彼も〝四皇〟という立場にされることになろうとは想像もしていなかっただろうに」

 

「それは私達も同じよレイさん。流石ねイッセーちゃん。これからもどんどん有名になって海賊王にもなるんじゃない?」

 

「彼が海賊王になる気があるならね。さて、イッセー君。キミはこれからどうするのか楽しみだよ」

 

 

ハンコックside

 

 

「姉様!イッセーが新世界の皇帝の一人になったわ!」

 

「国の者達もこの報せに大賑わいよ」

 

「そうか。しかし当然の結果じゃ。わらわはイッセーがただの賞金首に収まる器ではないことを悟っておった」

 

「しかし、この結果はあの者にとって遺憾にょはずじゃ。何せ他にも四皇と呼ばれる海賊と同類、イッセーも海賊扱いされることに変わりはにゃいのじゃから」

 

「「確かに」」

 

「それ故、再び世界政府や海軍に喧嘩を売るかもしれん」

 

「「確かに!」」

 

「ふっ、もののついでに天竜人にも八つ当たりしそうじゃなイッセーならば」

 

「「「否定できない」」」

 

 

とある新世界の海―――。

 

「親父、とうとうあんたが海の皇帝の一人に称されたよい。よかったじゃねェかよい」

 

「グラララ・・・・・〝四皇〟なんて肩書なんざどうでもいい。おれぁ〝白ひげ〟だ」

 

「他に大海賊だった百獣のカイドウにビック・マム・・・は分かるけどよい。この〝天竜〟ってやつは何者なんだ?聖地マリージョアの壊滅と天竜人の半殺し事件、ビック・マムを倒した男がたったの二度で45億の首が懸けられた後に『四皇』なんざ、話が出来過ぎるよい」

 

「いつか相まみえるかもしれねェ。もしも出会った時、確かめればいい」

 

 

新世界―――万国(トットランド)―――。

 

「ママっ!よかった、あんたの帰りをずっと待ってたぜペロリン♪」

 

「黙りなっ!直ぐにあの小僧の居所を探しなァっ!!!このオレの顏に泥塗った挙句、面目も潰しやがった小僧の首を取るまでは絶対に許しちゃあおかねェ!!!」

 

「そ、それがママ聞いてくれよ!あの野郎、ママと同列扱いされているんだ!あいつも『四皇』って呼ばれるようになったんだ!」

 

「なんだってぇえええええええええ~っ!!?」

 

世界中に知れ渡る新世界で皇帝の如く君臨する四人の強者達の事は、瞬く間に人々の記憶に認知され震撼させた。それに対してイッセーは海軍と世界政府に憤慨するも着々と出向の準備を進めていった。

 

「―――よし、現段階でおれの最高の船が出来上がってきたぞ」

 

港町で造船して出来上がった自分の船を満足げに胸を張る。だが人はそれを船と言えるのだろうかという疑問の塊の船であった。

 

「ヤマトー。まだ完成してないけど船見たいか?」

 

「行く行く!!」

 

ヤマトを連れ出し港にある船まで赴いた。そこには―――。

 

「大きい船・・・・・父達の船より大きいね」

 

「全長250m。甲板で農業できる畑のスペースが欲しかったからな。海で航海する間は自給自足を強いられる。家畜の鶏も船に乗せるつもりだ。毎日栄養満点の卵が食えるようにな」

 

まだ海に進水させていない形だけの船が造船ドックに囲まれていた。

 

「船の後方に桜の木があるのは?」

 

「観覧用かな。そこで食事を楽しむことも出来るようにした」

 

船の中に乗り込むと足場は緑色の芝生だ。ヤマトは船に植物がある新鮮さに面白いようで寝転がっては芝生の柔らかさを堪能しだした。

 

「足場が柔らかい!船って木造だけじゃないんだね!」

 

「ほぼ八割は遊び心で造ったからな。船の内部も凄いぞー」

 

「見せて!」

 

子供のようにはしゃぐヤマトを引き連れて船内を紹介する。場所は九里南西の港の伊達港だ。今じゃ廃港になってるけどおれにとっちゃ作業しやすいところだった。

 

「まずは地下一階!複数の格納庫を始め、偵察かつ海底の遊覧ができ沈没船をサルベージする潜水艇のドックや兵器開発の工場。まだ空きが広く多く残っているけどこれから増えていくと思う」

 

「僕は泳げないから海の中を眺められるなんて楽しみだよ!」

 

「続いて甲板に戻って一階!船の後方は主に自給自足の為に作物を育てる畑で占めている。その広さはほぼ半分だ」

 

「雨風や嵐の時はどうする?」

 

「この辺りは地下一階に降下する場所だから、もしも敵海賊や海軍との戦闘には地下に収納して自然からにも守れるよ」

 

船の前方へ移動する。その途中、甲板の床に埋まっている大きなガラス玉があることに気づかないはずがない

 

「ねぇ、イッセーこれはなに?この大きなガラス玉に何か入ってるよ家みたいなのが」

 

「ああ、それは激しい運動をすることを可能にした魔法のガラス玉だ。それに触れたらガラスの中に入れるんだ」

 

言った傍から触れてガラスから放たれる光に包まれてヤマトと一緒に吸い込まれていった。

 

「と―――まぁ、こんな感じだ」

 

「す、凄いね・・・・・」

 

スノードームの中は広大な土地と広々とした風呂場である温泉だ。この中でならどれだけ戦闘訓練しても船に影響は出ず、訓練の後は温泉で汗を流す感じだ。船の三階にも入浴所はあるからどっちでも入れる。

 

「そうだ、聞きたいことがあるんだけど」

 

うん?とおれに顔を窺わせるヤマトにこれだけは聞かないといけないと思う質問を投げた。

 

「ヤマト、寝る部屋はどうする。おでんに憧れてるお前は男になったと言い張るけど実際の性別は・・・・・」

 

「僕は男だからイッセーと一緒に寝るよ」

 

「・・・・・一緒に風呂に入ることも抵抗は?」

 

「・・・・・」

 

おい、そこで顔を染めて恥ずかしがるな!こっちが戸惑うから!

 

「んと・・・・・イッセーとなら、入ってもいいよ?」

 

「・・・・・」

 

「だ、だけど見るだけだからね!触っちゃダメだよ!こ、こっちの心の準備と言うかなんと言うかええと・・・・・っ!」

 

男と主張しても女心は捨てきれていないヤマトの羞恥心ぶりに、思わず弄りたいぐらい可愛かったのは心の中でそのお想いをとどめた。

 

 

船の完成までまだ時間が掛かる頃、将軍のおれにお目通りしてもらいたいと相手がいると異世界の怪物に転生したカイドウの部下に言われ、会ってみた。

 

「お初に御目にかかります将軍様。拙者、狂死郎一家の頭を張っております狂死郎と申します。以後お見知りおきを」

 

身長は3メートルは優にあるリーゼントが特徴の狐目の大男。監視の目が届かない部屋の中で日和とここ最近雇った頭山盗賊団のアシュラや変身を解いてる河松と同席してもらっている

 

「狂死郎か。おれに会いたいってのは何でだ?もはやこの国はカイドウそのものの国になった。おれじゃなくてカイドウに会うべきじゃ?」

 

「そんなことはございません。オロチ将軍の代わりに新たな将軍となりもうしたイッセー将軍に鞍替えをする話をしなければとございまして」

 

「おれに鞍替えしてもこの国のためにすることなんて精々、貧困の住民達を援助するぐらいだぞ」

 

「あなた様の噂は、風の如く花の都まで流れてきておりました。そして、カイドウ様を倒した話も」

 

規制してないから直ぐに話が広まるものか。さて、狂死郎・・・・・・黒炭家御用達の両替屋であり花の都で遊郭を経営して裏社会を取り仕切っているヤクザみたいな男か・・・・・ん?

 

「・・・・・お前、俺に隠していることがあるな?」

 

「はて、何のことでしょうかわかりませぬが」

 

「もう一つ、名前があるみたいだな。―――赤鞘の侍のひとり傳ジローさんよ」

 

「「!!?」」

 

「・・・・・・」

 

真っ直ぐ狐目を表情筋も一瞬でも変わらないまま向けてくる。なるほど、凄い自制心だな。悟られまいとしているのが伝わってくる。

 

「この男が、傳ジローだど?何を馬鹿な事を言っているんだお前」

 

「拙者達が知っておる傳ジローはこの様な顔の者ではないぞイッセー」

 

「悪いけど嘘でも冗談を言ったつもりじゃないからな。おれの目は相手のあらゆる情報が分かる能力を持っている。カイドウが龍に変化できるようにな。この男は間違いなく傳ジローだ。おでんの処刑以降のこの十年間で顔が変わったんだろうさ」

 

そう言うおれの話を頼りに日和は狂死郎の前によって恐る恐ると問うた。

 

「傳ジロー、あなたなの・・・・・?」

 

「・・・・・」

 

日和の目から逸らさない狂死郎。

 

「狂死郎。お前にいいことを教えてやろう。今、河松におでんの遺体の捜索をして貰っている。遺体が見つかればおでんを甦らせることが出来るんだ」

 

「っ・・・・・」

 

「無論、これも嘘ではない。ちょっとついてきな」

 

監視の目はしばらく眠ってもらうことにした後、おこぼれ町のとある民家へまで皆を引きつれた。

 

「夜分失礼、イッセーだ。入って良いかな?」

 

「はい、どうぞ」

 

許可を得て中にお邪魔する。この民家の主は年老いた女性だ。顔はしわくちゃで髪が白の一色、身体も子供のように小さい老婆が正座している姿勢で日和達を外に待たせて先に入るおれを出迎えてくれた。

 

「久しぶり。暮らしの方はどうだ?」

 

「ええ、貴方様のおかげで暮らしやすくなりました。本当にありがとうございます」

 

「そうか。それは何よりだが、今日は連れを会わせに来たんだ」

 

日和を招き老婆の前に引き合わせた途端。老婆が目を見開くほど驚いて立ち上がった小さな身体は震るえ、ゆっくりと少女に近寄った。

 

「日和・・・・・っ」

 

「え・・・・・?」

 

抱きしめられて困惑する日和を見て意味深に微笑むおれを河松が訊いてきた。

 

「あの老婆は?日和様の事を知っておるようだが・・・・・」

 

「知ってるも何も・・・・・」

 

指を弾き音を鳴らした。その音に呼応して老婆の手首にあった―――河松が持っている別人に姿を変える宝珠が壊れた。そして一瞬で老婆から美しい女性へと様変わりしたのだった。

 

「日和を産んだ実の母親だからなこの人」

 

「「「―――――」」」

 

赤鞘の侍達だったらよーく知っている人物だろう。おでんの刀探しの際、ついでにおでん一家のことも聞き回っていた時に知ったんだよな。おトキの遺体の在り処を。

 

「は、母上・・・・・?」

 

「ええ、そうよ・・・・・日和。今まで苦労を強いてごめんなさい」

 

河松へ目を向けるおトキ。

 

「貴方も今まで日和を守ってありがとう河松。心から感謝を・・・・・」

 

目から涙を流す河松がその場で跪いておトキに頭を垂らした。

 

「め、滅相もございませぬ・・・・・!おトキ様・・・・・拙者は当然の事をしたまでで・・・・・ぐすっ」

 

「アシュラ、貴方も変わりないようで安心したわ」

 

「おいどんは・・・・・死に損なっただけだ」

 

「そんなこと言わないで、おでんさんの家臣として生きてもらわないとあの人に蹴り飛ばされるわよ?」

 

そして狂死郎にも話しかけようとしたが、一体誰なのか分からないでいるおトキにフォローする。

 

「この男は傳ジローだ」

 

「え、傳ジロー!?顔が前と違って随分と変わって・・・・・」

 

驚く彼女の前でいきなり正座し出す狂死郎は、頭に手を回したかと思えば・・・・・リーゼントを外したって、それ外れるのか!?被り物だったのかい!河松とアシュラも吃驚だよ!

 

「おトキ様、日和様。お久しゅうございます。拙者は傳ジローでございます」

 

「真か・・・・・!」

 

「信じられん・・・・・顔の容姿が別人過ぎる」

 

「怒りという妖怪に取り憑つかれたのだアシュラ」

 

自身が傳ジローと認めた後におれへ話しかけてくる。

 

「イッセー殿の死者の蘇生の力は、亡きおでん様にも通用するのでござるか」

 

「おう、亡骸があればの話だ。大釜ごと海に捨てられているなら希望はあるぞ」

 

「いつか必ず、おでん様も蘇生してくださるか」

 

「約束する。おれは約束を守る男だ」

 

断言する。元々そうするつもりだったから言った言葉は違うつもりはない。おれもおでんに会って見たいからな。

 

「然らば拙者はこれより、イッセー殿を仮初の主君として仕えることをこの刀に誓いまする」

 

腰に佩いていた刀を鞘ごとおれの前に突き立てて宣言する狂死郎の言葉の意図を察した。

 

「おでんの復活までだな」

 

「如何にも」

 

「なら、おれはしばらく海に出るつもりだ。その間、将軍の代理を任せるよ。オロチが将軍だった頃からいたんなら百獣海賊団からも信頼と信用されているだろうし」

 

「・・・・・拙者が将軍の代理を、ですか」

 

「ミンク族の赤鞘の侍の二人を会って見たいんだ。だからおれが戻ってくる間はお前が将軍で河松とアシュラは貧困者達の援助な。将軍代理の狂死郎の従者としてでも、百獣海賊団の一員となって内情を探るのも良しだ」

 

異論は認めないと決定事項を伝えると狂死郎は頭を垂らした。

 

「その任命、しかと承りました」

 

「カッパッパッパ、傳ジローがそうならば拙者等もそうするべきだろうアシュラ」

 

「まだ信用しとらんが信頼はする。おトキ様を蘇らせた事実は変わらん」

 

「んじゃ、そういうことで。でも、アシュラは百獣海賊団に入ってもらいたいかな?監視は付けられるだろうけど傳ジローと仲がいいなら色々と情報を共有できるだろ?」

 

ふざけるなっ!とアシュラの怒鳴り声が聞こえるまで時間は掛からなかった。しかし、おれと狂死郎の説得で不満と納得がしないつつ百獣海賊団の密偵として動いてもらうことになった。

 

「とまァ、そんな感じでおでんの家臣の一人だったアシュラを百獣海賊団に入る承諾をしてくれたぞカイドウ。強さもジャックに劣らずだ」

 

酒盛りしているカイドウに伝えに鬼ヶ島に訪れた。強い兵隊が増えたことに愉快そうに笑みを浮かべた。

 

「ウォロロロ・・・・・よくやった小僧。おでんの元家臣の強さはおれも認めていた。おれの下につくなら過去の事は全て水に流そうじゃないか」

 

「それとしばらくおれとヤマトは海に出る。ラフテルの手掛かりを探しに行ってくるその間は狂死郎親分におれの将軍代理を任せるけどいいな」

 

「狂死郎か・・・・・あの男ならば構わねェ。残り二つのロード歴史の本文(ポーネグリフ)の発見、期待してるぞイッセー。それでバカ息子の同行を許してやる」

 

「お、小僧じゃなくなったな。どういう心境だ」

 

「おれと肩並べるようになった男だ。呼び方も変わる」

 

認めてくれたわけか。でも、百獣海賊団の為に戦うつもりはないと釘刺しておかないとな。

 

「ポーネグリフの件は見つけたら連絡するよ。それまで狂死郎の事はよろしく頼む。あいつが放つ言葉はおれの発言力だと認識してくれ」

 

「あァ、部下共に言い聞かせておく。その代わりに必ず見つけろ。古代兵器の在り処もだ」

 

「古代兵器?」

 

歴史の本文(ポーネグリフ)に記されているという古代に造られた兵器の事だ」

 

それ、絶対海軍が許さない存在だろ。ま、見つけたらの話だ。運に頼るしかない。



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念願のミンク族

大冒険へ行く刻が迫って行く中、船の完成までに百獣海賊団の強化を施すことを忘れず。今では転生した団員は百人以上も超えた。カイドウはこの結果を特に何も言わなかった。自身の海賊団が強くなるなら問題視もしないんだろうな。それはともかく、おれが海に出ることをおこぼれ町の人達に伝えると大騒ぎになった。行かないでくれっ!!という制止の声が飛んでくるが何とか説得に応じてくれて納得してくれた束の間。

 

「イッセー様!これをどうか持っていってくだせェ!!」

 

「ここまで生活を豊かにしてくれたお前さんに恩返しだ!!!」

 

「無事に元気な孫も生まれましたのじゃ!!どうか、イッセー様に名付け親をしてもらいたい!!」

 

「私達は大丈夫ですよ!!あの狂死郎親分なら安心ですから!!」

 

「それにあの赤―――」

 

「お、おいっ、それ以上は言っちゃダメだ!!」

 

一緒に広大な畑を耕し作物を育てて来たえびす町の人達までたくさんの贈り物をしてくれた。それも怒涛の勢いで圧倒されてしまうおれに微笑むヤマトまで。

 

「イッセー様の奥さんもどうぞ!」

 

「これをたくさん食べてどうか元気な子を産みなさいな!」

 

「ちょ、僕はイッセーの妻じゃないんだ・・・・・!」

 

「おっと、そうだったんですか。お似合いですのに」

 

自分は関係ないという立ち位置にいようが一緒に行動しているのを知っている人達が放っておくわけないだろう。

 

「人望厚いですな」

 

「すっかり人気者だ」

 

ヤマトと狂死郎も贈り物を城に移す作業を手伝ってもらった後、覇気の試行錯誤を始める。この世界では黒く染まって硬質と化するこの現象は覇気と認知されていることが分かってから、時間が空いたらもっと覇気を高めるようになった。

 

「イッセー殿、それはもしや〝流桜〟を取得しようとしているので?」

 

「〝流桜〟?」

 

「さよう。海外では〝覇気〟と呼ばれておるものがこのワノ国では〝流桜〟と呼ばれている」

 

刀を鞘から抜き放って構える狂死郎。その刀はおれの目の前であっという間に真っ黒に染まった。

 

「〝流桜〟は〝流れる〟という意味を持っている。必要な場所の〝覇気〟を武器や身体に流し込むことができるならば、イッセー殿の力になるでしょう」

 

覇気を流す・・・・・・あーなるほど。〝いつもしていた〟やつか。

 

「狂死郎。ちょっと特訓に付き合ってくれ」

 

「かしこまりました」

 

城の外へ赴き、畑から離れた場所で狂死郎と対峙する。複製したおでんの刀を抜き放ち〝流桜〟を流し込むようにして纏うと刀が黒く染まった。

 

「その刀・・・・・まさかおでん様の?」

 

「複製した。本物は天狗山飛徹のところにあるから盗んでないぞ」

 

「後で確認しましょう。もしも嘘であったら承知いたしませんぞ」

 

本当に悪事を働かずしてよかったと思っていたら狂死郎が飛び掛かってきた。鋭い一撃を振るってくる刀に向かっておれも刀を振るうと―――刀同士が触れていないのに見えない何かとぶつかった狂死郎は一方的に吹っ飛んでいった。

 

「え?」

 

呆けるおれは空中で体勢を立て直した狂死郎から称賛の声を受けた。

 

「・・・・・お見事!!それが〝流桜〟の力でございますぞイッセー殿!!」

 

「凄い、イッセーもあっという間に習得しちゃった」

 

「ヤマト、お前もコレができるのか?」

 

「うん、できるよ」

 

ヤマトが金棒に覇気を纏わせると横凪ぎに振るった。当てる対象がいないのにただの空振り―――と思ったが地面が勝手に深く抉れた。

 

「ほら、こんな感じにね」

 

「〝覇気〟を飛ばすこともできるのか!!?」

 

これは面白い!!色々な応用が出来そうだ!!魔力と気の応用と変わらないけどな!!

 

「〝流桜〟を極めたら面白いことになりそうだ」

 

「イッセーならできるよ。僕もまだまだ強くなってみたい」

 

「約束の時まで拙者も強くならねばなりません」

 

「なら、今日は模擬戦でも明け暮れるか?」

 

臨戦態勢の構えをするとヤマトと狂死郎も構えだして三つ巴の戦いに応じてくれた。おれ達は真剣な勝負をして―――。

 

「待って待って!!イッセーが何十人も増えるのは反則だよ!!?」

 

「イッセー殿は忍術も使えるのでござるか!!」

 

「ふはははっ!!!このぐらいの困難を乗り越えなければ強くならないぞ!!」

 

一方的な蹂躙の勝負をし終えた後は冒険に出ることをレイリーに伝えにシャボンディ諸島へ足を運んだ。二人から「そうか」と短い反応を頂戴した。

 

「いつかそうするだろうと思っていたよ。カイドウの娘と一緒にだろう?」

 

「うん、誘われたからな。一緒に旅に出る予定だ」

 

「ふふ、その間に彼女と恋仲の関係になるかもしれないだろう。楽しい冒険をしなさい」

 

「それについて話したい事があるんだ。おれの船とこのシャボンディ諸島に直接魔法で行き来できる扉と鍵を作るつもりなんだ。冒険中、暇な時でいいからレイリーさんの指導を受けたい」

 

そんなことも出来るのかと、感心するレイリーは口元を緩めて笑みを浮かべた。

 

「私の指導を受けずとも君は十分強いよ」

 

「実力的な意味ならまだまだだ。そして技術面も。ワノ国じゃあ覇気のことを〝流桜〟と呼んだり不必要な場所に覇気を集めて相手を弾く技術は知らなかった。レイリーさん、知ってたろ?」

 

「ああ、知っていたとも」

 

「だよな。だとすれば他の覇気も極めればもっと強くなれると思うんだヤマトと一緒に」

 

深々と頭を垂らす。

 

「本当に暇な時でいい。ちょっとしたヒントでも伝授するだけでもありがたい。どうかおれ達に修行をつけてほしい」

 

「・・・・・」

 

視線を感じるまま返事を待つ。拒否されたら残念極まりないが身を引くけど・・・・・。

 

「イッセー君は強さを求めて何を目指すんだい?」

 

レイリーの質問に対してこう答えた。

 

「世界をこの目で見てみたい」

 

「そうか・・・・・そうなればいつか必ず君は海賊王になるかもしれないぞ?それでもいいのかね」

 

「世界を冒険する過程でなるならなるしかないかもな。海賊王なんて肩書は興味ないけどワンピースはどんなものなのかは見てみたい」

 

「ふふ、あくまでただこの世界を一周して行くのが目的だとは変わっている。・・・・・顔を上げなさい」

 

その通りにすると柔和な笑みを浮かべているレイリー。

 

「年に一度、ワノ国の火祭りに私を連れてくれるなら私の弟子にしてやろうイッセー君」

 

「―――!」

 

善意で修業をつけてくれるレイリーに嬉しくて笑みを浮かべ感謝の念を込めて頭を下げた。

 

「ありがとう、レイリーさん!」

 

亜空間から感謝の印としてワノ国の酒を大量に取り出して二人に譲った。

 

「はい、ワノ国の酒をプレゼントだ」

 

「おお、こんなにもくれるのか。ありがたい」

 

「この店の酒もあるからシャッキーさんの分もあるよ」

 

「あら、ありがとうイッセーちゃん」

 

こうして最高の師を仰ぐことが出来たおれはワノ国に戻ってヤマトに伝えると凄く驚かれた。

 

「海賊王の副船長に修行つけてもらえるなんて凄い!」

 

「暇な時だけだから毎日船にいるわけじゃないと思うからそのつもりでな?」

 

「うん、わかった。船の方は?」

 

「ああ、もう形になってきているけどまだ数ヵ月はかかりそうだ」

 

「そっか、それでも楽しみだなー!」

 

うきうきと胡坐掻いた状態で体を揺らすヤマトから、今か今かと子供のように待ち遠しそうにしていた。思わず笑みを浮かべてしまう。

 

「この新世界の海専用の記録指針(ログポース)も手に入った。ヤマト、海に出たら誰に会って見たいとかあるか?」

 

「うーん。やっぱりおでんの家臣だね。ミンク族と会って見たい」

 

「〝ゾウ〟って生きているんだろ?ビブルカードってやつがなきゃ辿り着けない幻の島」

 

「うん、そうだよ。普通は探すのも困難極めるけども、それが出来るよ」

 

おでんの日誌を取り出すヤマトはその日誌に挟まれていた白い紙の破片を抜き取った。おれに見せるそれは一人勝手にどこかへ目指すように動いている。

 

「これがビブルカード?」

 

「そう。これが〝ゾウ〟へ導く僕等の指針だよ。おでんは日誌の中にこのビブルカードを残してくれたんだ」

 

おお、ということは・・・・・!!

 

「行けるんだな、幻の島に!!」

 

おでん、あんたの置き土産を利用させてもらうよ。ミンク族と触れ合うおれの野望が叶う時だ!!!

 

「こうしちゃいられない。直ぐにでも完成しなくちゃ!!」

 

ふはははっ!!!待っていろ、ふわふわモコモコ達よー!!!

 

 

 

 

―――と、張り切った甲斐もあって完成させた船。そしてこの世界に来てから一年近くが経過した。進水式も終えたこの船での出航の日が来た。九里の郷の人達や百獣海賊団の団員達が手を振って見送りしてくれ、河松とアシュラ、狂死郎―――日和と老婆に変身してるトキの姿も視認して手を振り返す。

 

「そんじゃ行くぞヤマト。大冒険に!!」

 

「うん!!!」

 

おれだからできること。魔法で船体を宙に浮かせてワノ国が隔離されている原因、断崖絶壁および淡水が流れる巨大な滝を見下ろしながら悪天候な海域を抜けた後は船を進水する。

 

「どんな島があるのか、どんな海賊がいるのか、楽しみだなぁー!」

 

おれ、海軍から海賊として認識されないよなと思うおれを乗せる船は〝ゾウ〟に向かって大海原を突き進む。

 

「どんな場所なのか・・・・・楽しみだ」

 

〝ゾウ〟の居場所を記すビブルカードの動く先へおれ達は導かれるように航海した。

 

「そんじゃ、目的地が辿り着くまでの間は家畜の世話と畑でも耕そうかな」

 

「本当に自給自足をする気なんだね。手伝うよイッセー」

 

ほのぼのと後悔するだけでは退屈な海の旅だろう―――とこの世界の海の航海を侮っていたおれはこの世界の航海の危険さを物凄く体感するまで知らなかった。

 

「は!?」

 

晴天だった空が雨雲で暗く覆われたかと思えば、雨雲から鋭い槍のように降り注ぎ、どすっ!と甲板を突き刺して空いた穴におれは絶句した。

 

「何だこの雨!!?何で船に穴が開く!!?」

 

「驚いている暇ないよイッセー!!畑や家畜が危ないよ!!」

 

「初の航海早々に酷い目に遭うなんてっ!!」

 

だが、これだけで終わらなかった。

 

「イッセー!!海が渦を巻き始めたよ!!」

 

「渦潮・・・・・いや!!」

 

渦巻きに飲み込まれかけている船を、海面から鋭い突起物が生えた何かが顔を出した。それも船を挟める程の大きさ・・・・・。

しかもクワガタみたいな大きなノコギリのハサミを大きく広げて狩り場に嵌まったおれ達という餌を待ち構える。

 

「蟻地獄かっ!餌になってたまるか!」

 

手を突きだして魔力をぶつけようとした時だった。渦から元の世界じゃあ見たことがない巨大魚が飛び出してきた!!狙う餌を変えたのか、巨魚を狙って渦の中心から跳ねるように跳躍した蟻地獄もどきは、巨魚の身体にノコギリバサミで捕らえそのまま渦の中に引きずり込んだ。身代わりになってくれたおかげで渦は収まり穏やかな海に戻った。

 

「・・・・・冒険って凄く危険が伴っているんだね」

 

「おれも始めて知ったところだ・・・・・。元の世界にもあんな海洋生物は存在しないぞ」

 

「楽しくはあれど危険がいっぱいだってことだね」

 

「怖いか?」

 

「ううん。寧ろ、危険を乗り越えてこそ冒険なんだとワクワクしときた!!」

 

瞳を輝かせておらっしゃるなぁこの冒険好きの僕っ子は。まァ・・・・・おれもそうなんだけどな!

 

そしてその日の夜は船を空中に浮かせた状態で寝ることにした。夜食は九里の人達から貰った食材で調理した料理で、作ったおれも食べるヤマトも美味しいと感想を溢しながら今日の航海の話で盛り上がった。

 

それから風呂場はこれまた大浴場で、複数の湯船を設けたガラス玉の中に入った。

 

「恥ずかしがるなら一緒に入らなくても」

 

「・・・・・だ、大丈夫だから。平気だから気にしないで」

 

頑なに一緒に入ろうとするヤマトに少し呆れながらも、あまり見ないようにしてやるのが武士の情けだろうと思い、肩を並べて入っても身体にタオルを巻くヤマトを直視せずやったあとは。

 

「ベッドはこんな感じでいいんだな?」

 

「・・・・・うん」

 

同じ寝室にベッドをふたつ。ヤマトは身長は高いから相応の大きさのベッドにしたから、転げ落ちることはないだろう。顔が赤いヤマトが覚束ない足取りで自分のベッドに向かおうとするのを、流石に気になった。実際、おれも体が風呂上りとはいえ、それとは別の異様な血の巡りと熱を感じてしょうがない。

 

「ヤマト、風呂の時から顔が赤いぞ。どうした?」

 

「・・・・・わからない。夕食を食べてからお腹の奥から熱が感じて治まらないんだ」

 

「変なの混じってたか・・・・・?でも、見たことのある食材ばかりで知らないのは聞いて問題はないと教えてもらったんだが」

 

熱が孕んで潤ってる瞳、荒い吐息、身体から発汗。見た目だけだと風邪を引いたと思うヤマトの状態だけど・・・・・。

 

「ふぅー・・・ふぅー・・・ふぅー・・・イッセー・・・・・!!」

 

ベッドに引きずり込み押し倒したおれを逃さんとのし掛かり、獲物を狙う猛禽類の眼になってらっしゃる。もしかして発情しちゃってるのかなァ・・・・・。あとで絶対あの食材を調べ直すとしてだ。こいつを相手にしなくちゃならないか。

 

 

 

―――一週間後。

 

天気、海の気候の様変わりに翻弄されながらもこの世界で初めての航海を何とか二人だけでもやってのけている。前触れもなく海が真っ二つになって、海底ヘ真っ逆さまに落ちてしまった時は酷く焦ったけどな!元の世界の海の航海術の常識が信じられないほどあてにならない!おれの常識が覆されるこの世界の海の常識!

 

「イッセー、海獣が襲ってきたよ!」

 

「ほんとに何なんだ、この世界の海はァ~!!?」

 

身体が獣で尻尾が魚のヒレと化している狼。襲ってくるので斬撃を飛ばして当てたが、どうやら最初の襲撃は囮のようで四方八方から同じ海獣達が海から飛び出してきた。

 

「食えそうになさそうだな」

 

手を突き出して海狼達の動きを空中で固定するとヤマトから「どうするの?」と聞かれる。

 

「逃がしてもまた追いかけて来そうだからな・・・・・餌にしようか」

 

この世界に来てから眼帯を外していた右目に召喚用の魔方陣を展開して、そこからとあるドラゴンを召喚する。

 

「こいつらを食っていいぞニーズヘッグ」

 

《いただきま~すっ!!!》

 

黒い鱗と黄土色の蛇の腹、龍と化するカイドウと同じ長細い蛇タイプのドラゴンが喜々として大きく口を開いては海狼達を捕食始めた。おれの目から飛び出す化け物にヤマトは愕然としていた。

 

「イ、イッセー・・・・・これは・・・・・」

 

「こいつの名前はニーズヘッグ。おれの中に宿っているドラゴンの一体だ。異世界の怪物達を宿しているんだおれは」

 

「あんな大きなものを身体に宿して・・・・・君は大丈夫なのか?」

 

「魂として肉体と一緒に封印している形で宿しているんだ。身体が破裂することもないよ。でもまぁ、こいつを含めて封印から解き放つと人類が絶滅しかねない凶暴だったり凶悪なドラゴンが他にもいたりするんで、頻繁に外に出さないでいるんだ」

 

そう話している内に海狼達を完食していたニーズヘッグに頼み込む。

 

「しばらくの間、海中でおれ達を襲ってきそうな海の生物達から守ってくれ」

 

《グヘヘヘッ!!!く、喰ってもいいんだよな?》

 

「当然だ。おれが呼ぶまで好きなだけな」

 

海の中に飛び込んでおれ達の警護兼捕食しに行ったニーズヘッグを見送った。

 

「もしかしてだと思うけれど、父を倒した時って本気じゃなかった?」

 

「おれの中に宿るドラゴン達を嗾けなかったのが不思議か?いや、全力で倒したさ。ただ、ドラゴンを全員外に放ったらそれはもう人の戦いじゃなくなる。一方的な蹂躙だ。それでもドラゴン達を対抗しうる悪魔の実の能力があることは認知しているがな」

 

ドラゴンと言えども生物である。倒す方法や手段は存在する。楽観的にはなれないな。でもそれがいい。一方的な最強だの無敵だのなんて、人生においてそんなのつまらないこの上にないんだ。

 

「それにしてもやっと本調子が戻ったか」

 

「え?」

 

「効果が長すぎるんだよ。六日前からずっとよく―――」

 

言いかけた次の瞬間。手で人の口を塞いで言葉を遮ったヤマトの顏はトマトのように真っ赤だった。からかうのは止めて真剣な話をするためにヤマトの手をどかす。

 

「契りを結んでしまった以上は、お前を手放す気はないからなヤマト」

 

「・・・・・僕でいいの?親はあの実の子を殺そうとした最低の父だよ」

 

「父親は関係ないだろ。おれはお前がいいんだ。お前はどうなんだ?」

 

「僕は・・・・・僕もイッセーがいい。手錠ひとつで縛られて自由がない僕を解き放ってくれた。こうして自由に生きて行けるようになったのもイッセーのおかげだから。これからもイッセーと一緒に生きていきたい」

 

決まりだな。

 

「今日もあの食材で作って食べるとしようか」

 

「ええっ!?そ、それって・・・・・!!!」

 

「いやか?」

 

「う・・・・・い、いやじゃない・・・・・っ」

 

ふふ、照れて可愛いな。ああ、それと言わなくちゃな。

 

「おれは元の世界にいる家族達とも結婚する気だ。ヤマトもおれの家族にしたいがいいか」

 

「構わないよ。何時か元の世界に帰ることも話してくれたし、海賊の世界じゃない世界を見てみたい」

 

そう言ってくれるヤマトと一緒に野菜畑の所へ向かい、〝ゾウ〟に着くまで農作業を勤しむこと数時間後。視界が深すぎる霧によって前が見えないのと船を押し返し侵入を阻む海流の海域に入った。

 

「ヤマト」

 

「うん、おでんの日誌でも書かれてるよ。―――この場所こそが僕達が目指していたところだ」

 

濃霧の向こうに何かが動いている影も肉眼で捉えている。それが何かなのかは日誌でも記されているが、実際この目で見るまではおれもヤマトも半信半疑だったが・・・・・。ヤマトと一緒に顔を見上げて口をあんぐりと開いたまま唖然とした。

 

「影の正体は・・・・・まさか、本当に・・・・・」

 

「日誌で知っていたけど・・・・・」

 

〝ゾウ〟の正体は・・・・・〝象〟そのものだった!!!全長も高さも100メートルや1000メートルどころじゃないぞ、数10km以上はある!!!

 

「見えてるかお前等」

 

『この異世界にこの様な生物がいるとは信じがたいことだ』

 

『この規模の生物だと数百年以上は生きていると思うな』

 

『凄まじい・・・・・』

 

うちのドラゴン達をも圧巻させるほどの存在を前にしばし思考が停まったが、おれ達に背を向ける〝ゾウ〟が足を前に動かしたから遠ざかってしまった。

 

「いつまでも呆けてる場合じゃないか。行くぞミンク族に会いに」

 

「うん!!」

 

その前にニーズヘッグを呼び戻す。放っておくと海洋生物が滅んでしまうわ。そして〝ゾウ〟を見たニーズヘッグは。

 

《た、食べ放題だァ~っ!!?》

 

「食べるな!」

 

案の定な反応を示したので困ったものだ。

 

 

何とか〝ゾウ〟の皮膚に船を錨で固定して離れ離れにならないようにして次の事を考える。

 

「これ、登らないといけないんだよな。断崖絶壁も過言じゃないこれを」

 

「おでん達もこれを登ったんだね。登山というより登象?」

 

「今までの人生で象の足を生身で登る経験なんて初めてだ」

 

僕もだよ、と同感なヤマトと一緒に登象を始めた。こんなことせずともヤマトを抱えて飛んだりすることも出来るが、海賊王達もここを通ったからにはおれ達もその道に通ってみたい。

 

「登りきる頃には翌日かなヤマト」

 

「アハハ、どうだろうねー」

 

せっせと灰色の皮膚を掴んで足場にしたりして攀じ登る。それだけ繰り返し続けていくと夕日が顔を出す時間となるまで経ち、見上げ続けていた視界にようやく、ようやく・・・・・てっぺんが見えた!!!

 

「「着いたー!!!」」

 

数時間も掛けて登り切った達成感から喜びを体で表現する!!いやー、元の世界でもこんな高さの絶壁を登る事なんて昔の修行以来だ!!!

 

「あ、砦だよイッセー。誰かいる」

 

ヤマトが目の前の石造りの門や物見やぐらを見つけた。そこには見張りらしき獣がこっちを見ていた。

 

「おーい、お前達がミンク族かぁー?」

 

「そうだ。ゆガラ達は?」

 

「ワノ国からやってきた!!この国にいる赤鞘の侍に手紙を持って来た!!」

 

懐から数枚分の手紙を出して見せつける。門番は顔を見合わせて一人が門を開けてくれたり、一人は鐘の音を鳴らし始めた。

 

「入らせてくれるみたいだな」

 

「やっと会えるんだ・・・・・!!」

 

招かれるミンク族の砦の中―――モコモ公国。案内された先には。

 

「久々の客人だー!」

 

「ガルチュー!!」

 

「よく来た客人ガルチュー!!」

 

種類問わず様々な動物達が二足歩行で人語を操る大勢のミンク族から大歓迎された。

 

「なにここ・・・・・天国・・・・・!?」

 

「イッセー!?どうして泣いているんだ!?」

 

念願のミンク族・・・・・モコモコし放題・・・・・!!ガルチューという意味は解らないが郷に入っては郷に従えだ!!!

 

「うぉおおお!ガルチュー!」

 

「あ、イッセー!!」

 

今はこの幸せを満喫、噛みしめたいいいいいい!!!ガルチュー!ガルチュー!!ガルチュゥー!!!

 

―――数分後。

 

「ほら、もう行こうよ!」

 

「ああ、待ってくれヤマト!まだガルチューし足りないぃっ!」

 

「会ってから!!!」

 

ヤマトの手によって引きずられてこの国の王様がいる建物へと強制連行される。渋々としながらも目的を果たすため向かうおれ達が出会った王は・・・・・5メートルは超える犬のミンク族だった。

 

「ゆガラ達がワノ国から来た者達か」

 

「そうです。お会いできて光栄ですイヌアラシさん」

 

「私の名を知っているようだな。誰から聞いたのかね」

 

「河童の河松、アシュラ童子、傳ジロー。そして彼女が持っているおでんの日誌から知りました」

 

ヤマトがその日誌を見せ、犬のミンク族であるイヌアラシは俺の言葉にサングラス越しに目を見開き立ち上がった。

 

「おでん様の日誌・・・・・!!?」

 

「偽物かどうか拝見をしても構いません」

 

イヌアラシは王座から近づいてきて震える手でヤマトから日誌を受け取り、ページを開いて確認する。

 

「・・・・・本物だ。ああ、間違いなく。この日誌に染みついたおでん様の微かな匂いもだ」

 

彼はそれを大切そうに胸に抱きしめて涙を流す。

 

「おれからはワノ国にいる赤鞘の侍の3人からの手紙を」

 

「彼等は元気であったか」

 

「はい、元気ですよ。無論おでんの娘である日和とその妻であるトキさんも」

 

「っ!?トキ様だと!!?あのお方はお亡くなりになったハズだ!!!」

 

「はい、その二人からの手紙も預かっています」

 

新たにもう二通の手紙を懐から取り出してイヌアラシに渡す。三人の同志よりもトキと日和の手紙を見始める彼の言葉を待って数分後。おれを見つめる視線が向けられ、その場で胡坐を掻いて頭を垂らした。

 

「〝イッセー殿〟!!」

 

「へ?」

 

「トキ様と日和様ともう一度会わせていただき真に感謝する!!そして亡きおでん様をも甦らす力添えをするゆガラに感謝し足りない!!」

 

「えっと、おでんの遺骨が見つからないと出来ない話だからなそれは」

 

「トキ様の手紙にもそう書かれてあった。無論承知の上だ」

 

ならいいんだけど。過剰な期待を抱かないで欲しいだけなんだよ。

 

「あの、ネコマムシは?」

 

ヤマトの問いにイヌアラシはバツ悪そうに答えた。

 

「あの猫とはおでん様の処刑の日以降、険悪な関係だ夜の6時にならないと目を覚まさない」

 

「え!?何でそんなことに!?」

 

それ、河松達は知っていたのか?

 

「どうにかその関係、修復してくれないか?復活したおでんがそんな関係の二人を見たら呆れると思うぞ」

 

「・・・・・」

 

あ、押し黙った。そっちがそうなら・・・・・。

 

「部外者の言葉じゃ駄目なら部外者じゃない人の頼みなら利くな」

 

「え?」

 

「なに?」

 

二人を他所にワノ国に繋げる亜空間を開いて―――夕食真っ最中の変化を解いたトキと日和に近づき、イヌアラシの前に連れだした。

 

「え?え?イッセーさん?」

 

「すまん、力を貸してくれ」

 

「え?あ、イヌアラシ?」

 

「お、おおっ・・・・・トキ様・・・・・!!!」

 

「イヌアラシ、久しぶり!」

 

「日和様・・・・・!!!」

 

再会した3人の時間を邪魔しちゃ悪いからしばらく待つことにした。

 

「イッセーって凄いんだね」

 

「できる事をしただけだ」

 

「それは他の人が出来ないから凄いんだよ?」

 

そうかもしれないがおれと同じことが出来るならそれほどすごいことじゃないと思う。と言えば呆れられるかなーと思っていたら。

 

「む?なんだこの奇怪な穴は・・・・・」

 

「あ、河松と狂死郎にアシュラ」

 

「イッセー殿。この穴は?―――イヌアラシ、イヌアラシかおぬし!」

 

「河松!それにアシュラ・・・・・ゆガラはどなたか」

 

「傳ジローだよ」

 

傳ジロー!?おぬし顔が変わり過ぎるぞ!!というツッコミは何となく想像できた。穴の向こうから連れ出してイヌアラシと対面を果たせる。

 

「ところでトキ達の家に来たってことは様子見か?」

 

「その通り。頻繁に訪れると百獣海賊団に怪しまれるのでな」

 

「河松。どういうことだ?」

 

「話せば長くなるがその前にネコマムシはおらんのか?」

 

「険悪な関係なんだってさー」

 

「おぬしら、あの時からまだ喧嘩をしておったのか!?」

 

これには河松も驚いていた。知らなかったのかい!

 

「というわけで、赤鞘の侍とおでんの家族から喧嘩を止めるようにお願いします。部外者の言葉よりも耳を傾けるだろう」

 

「イヌアラシ・・・・・」

 

「いえ、あのトキ様・・・・・」

 

「イヌアラシ、ネコマムシと仲直りして!」

 

「ひ、日和様・・・・・」

 

おお、効果覿面だ。イヌアラシが焦ってる。

 

「時にイッセー殿。ここはどこですかな」

 

「モコモ公国。ミンク族が暮らしている〝ゾウ〟の背中に栄えている国だよ」

 

「ここがイヌとネコの故郷か・・・・・」

 

「カッパッパッパ。おぬしの妖術は凄まじいな」

 

妖術ではなく魔法であるがな。

 

「イヌアラシ。ネコマムシの所へ案内して」

 

「しょ、承知しました・・・・・」

 

あっちはあっちで話が纏まったか。

 

 

 

夜の6時となってからネコマムシがいる〝くじらの森〟というクジラのような形をした巨大樹の下に広がる森へ向かった。当然門番もいたがイヌアラシの顔パスで門を潜り、本当にクジラみたいな大樹が生えてるのを見てしばし驚嘆して眺めていた。

 

ゴロニャ~~~~ゴ!!!

 

木造の大きな家から聞こえる猫の声と同時に飛び出してきた大きな影。化け猫のようないかつい容姿をした大柄な男。顔全体を覆うライオンのような髪と顎髭、顔の左側を縦断する傷痕、大きな尻尾が特徴。キセルを吸い、腹巻を巻いている。片手に持つ両端に刃が付いた三叉槍でイヌアラシに突き付けて殺気立っていた。

 

「おうゆガラ・・・・・この時間にわしの前に現れちょうて・・・・・」

 

「ネコマムシ!喧嘩を止めなさい!!」

 

「・・・・・は?」

 

トキの叱咤に呆然とするネコマムシという者は何度もトキを見て信じられない者を見る目で瞬きする。

 

「ト、トキ様・・・・・?」

 

「本当にイヌアラシと喧嘩をしているのですね。今すぐ険悪な関係を止めて和解しなさい」

 

「いえ、あの、その前にトキ様がどうしてここに・・・・・」

 

「おいどん達もおるぞ」

 

「アシュラ!?それに河松と・・・・・誰じゃいゆガラは」

 

「傳ジローだよ」

 

傳ジロー!?ゆガラ顔が変わり過ぎちゅうきにゃあ!!というツッコミは何となく想像できた。

 

「ネコマムシ、お願いイヌアラシと喧嘩をするの止めて」

 

「日和様・・・・・!!」

 

「・・・・・ネコ、このお二方にこうまで言われてしまえば否が応でもそうするしかないとは思わんか」

 

「・・・・・一体全体これはどういうことじゃきぃ。説明せぃイヌ」

 

「説明が拙者がしよう」

 

傳ジローと揃って呼ぶイヌアラシとネコマムシが語り出す傳ジローの言葉に耳を傾ける。おれの事やトキの事も含めて語り終えるとネコマムシがおれに顔を押し付けて来た。

 

「ゆガラ!おでん様を甦らすことが出来るっちゅうのは本当なのじゃき!?嘘だったら許さんぜよ!」

 

「遺骨があれば出来る話だよ。それを河松に探してもらっている。てか、証拠にこの場にトキがいるじゃん!」

 

「ネコ、河松達がイッセー殿に信用をしているのだ。そしてトキ様を甦らせた事実は変わらない」

 

鬼気迫る勢いで迫ったネコマムシを俺から引き剥がすイヌアラシはこっちに視線を送ってくる。

 

「彼がいなければトキ様は甦らずおでん様も甦らない。こうして日和様も同志も揃うこともなかった。違うかネコ」

 

「むぅ・・・・・確かにそうじゃき。しかし、あガラはわしらの味方でもない話」

 

「ああ、どちらかと言えば中立だ。おれは九里の住民達の貧困生活を豊かにしたいからカイドウに貢献している程度だ。百獣海賊団も光月もおれはどっちの味方じゃないが力添えはするって感じだな。おでんの復活もそれだ」

 

「では君は一体何をしたいのだね。一歩間違えればカイドウを敵に回すことになるぞ」

 

「それはそれで別に構わない。別にカイドウが生きようが死のうがおれは関係ないしな」

 

淡白な言い分にネコマムシは特に何も言ってこなかった。

 

「それよりも赤鞘の侍って九人いるんだよな?他は?」

 

「他の者達は私の能力、〝トキトキの実〟で二十年後の未来に飛ばしました」

 

二十年後・・・・・?

 

「未来に飛ばせる?もしかして過去に戻ることも?」

 

「過去には戻れません。自分と他者を未来に飛ばすことしかできないのです」

 

そんな悪魔の実があるのか・・・・・。

 

「今もその能力は?」

 

「使えないようです。どうやら一度死ぬと能力が使えなくなるようです」

 

「その能力の悪魔の実はもう手に入らないってことか」

 

「いや、そうではないぞ。能力者が死亡するとその能力の実は再び海のどこかで具現化してまた同じ能力を得られるのだ」

 

「どういう原理だそれ?因みにおでんは能力者?」

 

「違うな。おでん様は能力者ではなくともカイドウに傷を負わせたのだ」

 

ワノ国最強の侍・・・・・伊達じゃないな・・・・・。

 

「ところで彼女はイッセー殿の仲間かね」

 

「ああ、おれの妻のヤマトだ。一応、百獣のカイドウの娘という肩書があるけど」

 

カイドウの娘ェっ!!?と異口同音で驚く赤鞘の侍達。あれ、そう言えば河松達も教えてなかったっけ。

 

「・・・・・イッセー」

 

「ん?」

 

「その、君の妻って口にされると正直恥かしい・・・・・こんな気持ちになるのは初めてだよ」

 

「飛躍過ぎたか。言い直して恋人からかな」

 

「ん・・・・・」

 

顔を染めて恥ずかしがるヤマトを微笑んで和んだところでネコマムシが提案した。

 

「ゆガラ達!!今夜は泊まるじゃき!!トキ様を甦らせた恩人を盛大にもてなすぜよ!」

 

「それは嬉しいけれど、イヌアラシとネコマムシ。和解しろよな」

 

「むぐっ・・・・・!」

 

「じゃなきゃ、そんな二人を見せたくないが為におでんの復活はしないぞ」

 

ちょっと脅し文句で言うと観念した様子で二人は顔を見合わせた。

 

「ネコ。よいな」

 

「・・・・・わしらのせいで迷惑を掛けるわけにはいかん」

 

「ああ、おでん様の為だ。休戦だネコ」

 

と言って二人はおれ達の目の前で和解の握手を交わした。後に二人が和解したことはモコモ公国中のミンク族達の間にも伝わって和解を記念にお祭り状態と化したのは言うまでもない。



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二人目の仲間

ネコマムシが開いた宴は盛り上がった。流石に国全体まで巻き込むのは申し訳なかったからおでんの身内限定ということにして貰った。積もる話もあるだろうからそうしたが、ネコマムシが率いる侠客団(ガーディアンズ)が参加してきてさらに賑やかになった時にヤマトから聞かれた。

 

「ねぇイッセー。聞かなくていいの?」

 

「何をだっけ」

 

「この国にあの赤い石があるって日誌で知ったでしょ?」

 

ああ、ロード歴史の本文(ポーネグリフ)か。

 

「でもあれはこの国とって神聖の物だ。そう易々は見せてくれないだろ」

 

「ええぜよ」

 

「「Σ(゚Д゚)あっさり!!いいの!?」」

 

「ああ、君達にはそれだけの恩がある。魚拓のように写し絵をするならしてもいい」

 

この国の王達からの許可が簡単に貰っちゃった・・・・・。

 

「ゆガラ達もあの赤い石を求めておるなら魚人島へ行ってみるがいい。あそこにもあったぞ」

 

「・・・・・一致してる」

 

「魚人島か。行ってみるよ、ありがとう」

 

「ゴロニャニャ!礼を言うのはこっちぜよ!!わしらにトキ様と日和様を引き合わせてくれたゆガラが困っちょる時には力を貸そう!」

 

「遺憾だがネコと同意見だイッセー殿」

 

ミンク族の助力を約束されちゃった。でも、これは友好的な関係を築いたってことだよな。フワフワ、モコモコが毎日・・・・・幸せ過ぎる。天国か。

 

―――翌日―――

 

「では、拙者達はそろそろ戻らねば怪しまれる故に」

 

「おう、次に会う時は決戦ぜよ」

 

「その時は錦えもん達と合流している頃でもあるな」

 

「それまで二人とも2度と喧嘩しては駄目ですからね」

 

「ダメだよ!したら怒るから!」

 

「「しょ、承知しております」」

 

ワノ国へ戻る一行を見送った後、イヌアラシとネコマムシの案内でクジラの形をした大樹に連れて行ってもらった。あの赤い石がある場所は隠し扉の奥にあってこれは絶対に見つからないだろうと思った。

 

「本当にあった・・・・・これで3つ目だ」

 

「もう3つも見つけていたのか?だが、この文章を解読できねば意味がないがな」

 

「出来る人はいるのか?」

 

「いる、いや・・・いたというべきか。西の海(ウェストブルー)に『オハラ』という島があった。そこには考古学者達がこの歴史の本文(ポーネグリフ)の解読をしたと聞いた」

 

そんな凄い人達がいるのか。だけど「いた」っていう単語が引っ掛かるな。

 

「だが、歴史の本文(ポーネグリフ)を解読するのは世界政府や海軍にとって禁忌(タブー)。それ故、海軍によってたった一人の少女を除いて『オハラ』は地図上から抹消された」

 

「住民達もか?」

 

「そうぜよ」

 

徹底しているな・・・・・世界政府にとって世間に明かされたくないことでも記されているのか。それともラフテルにあるのか?

 

「生き残った少女って誰だかわかる?」

 

「ニコ・ロビンという者じゃき。わずか8歳で懸賞金額7900万ベリーを懸けられちょる」

 

「8歳でそんなに!?」

 

「世界政府にとって歴史の本文(ポーネグリフ)を解読できる者は徹底的に存在すら許さないってことか」

 

まだ存命していると考えると・・・・・探し当ててみるのも悪くないか?

 

「生きているなら仲間にしてみたいな」

 

「世界政府に狙われるぞ?」

 

「世界政府に喧嘩売ってるから今更だわ」

 

おれの手配書を二人に見せた。それには45億の賞金とおれの写真が名前と共に載っている。

 

「おれ、四皇の一人だからさ」

 

「なっ!!?」

 

「ニャッ!!?」

 

目玉が飛び出すほど驚く(いや、本当に文字通りでおれも驚いた)二人の隣で目の前のロード歴史の本文(ポーネグリフ)の複製をした後はそれを魔法で手のひらサイズにまで小さくしてポケットにしまった。

 

「いま、何をしたのだ?」

 

「複製させてもらった。神聖な物を盗むわけにはいかないからな」

 

「ゆガラは一体何者ぜよ?」

 

「異世界から来た異邦人、といってもわからないよな」

 

長居をする理由もなくなったから別れの時が来た。船に戻る際は行き交うミンク族達とガルチュー!をしながら進んで二人の王に見送られる。

 

「それじゃまた来るよ!」

 

「元気で!」

 

「さらばだイッセー殿」

 

「ゴロニャニャニャ!!何時来ても歓迎するぜよ!!」

 

背中に翼を生やしてヤマトを横抱きに持ち上げた状態で〝ゾウ〟から飛びだって下へ落ちていく。

 

歴史の本文(ポーネグリフ)のことクソオヤジに教えるのか?」

 

「場所は教えないさ。モコモ公国はおれの理想郷だからな」

 

カイドウでも俺のお気に入りの場所を破壊するなら許さないからな!!

 

「次は魚人島だがヤマト」

 

「うん、魚人島は海底一万メートルにあるって書かれてる。だけど、そこまでの深海に行くためにはシャボンディ諸島で船を包むシャボンをコーティングしなきゃいけないみたいだよ」

 

「シャボンディ諸島・・・久々に行ってみるか」

 

船に到着して〝ゾウ〟から錨を外す。また来ることになる日は用意してもらった〝ゾウ〟のビブルカードで辿ろう。そう思いながら船ごとおれ達は一気にシャボンディ諸島へ転移した。

 

「はい、到着」

 

「え、もうっ!?」

 

「行ったことがある島だったら行き来できるんだよ」

 

「そうなんだ。異世界の魔法って凄いや。ところでここがそうなの?」

 

首肯してマングローブの根に跳び移る。後からヤマトも跳び移った。

 

「ここは数多の巨大なマングローブっていう木の根で島になり立っているんだとさ」

 

地面から出てくるシャボン玉に足を踏んでみると、意外と頑丈で両足で乗っかってみると、おれを載せる割れないシャボン玉にヤマトは目を輝かせ一緒に乗り始めた。

 

「凄い!!僕も乗る!!」

 

「よし、シャボン玉に飛び乗りながら13番マングローブに行こうか」

 

「おー!!」

 

でも途中で出来なくなって地道に歩くことになったのであった。そこのマングローブの根の上に建てられてるぼったくりをする店の扉を開け放って、カウンターに立ってる女性に声をかける。

 

「シャッキーさん。久しぶり」

 

「あら、イッセーちゃん。それにカイドウの娘の」

 

「ヤマトです」

 

「そう、ヤマトちゃん。いらっしゃい。今日はどうしたの?」

 

「魚人島に行きたいからコーティングの依頼をしてくれるところを教えてほしくて」

 

「それならレイさんに頼んだ方がいいわ。って言いたいところだけど彼はいま出掛けてしまってるから頼めないわね。急ぎなら他のコーティング屋に頼むといいわ。50番から59番GRが造船所やコーティング屋職人エリアだから」

 

タイミングが悪かったか。それじゃしょうがない。

 

「ところでイッセーちゃん。悪魔の実に興味があるなら1番GRに行ってみたら?」

 

「どうして?」

 

「目玉商品としてオークションに出品されるからよ。だけど主催者はドンキホーテ・ドフラミンゴっていう海賊だから気を付けてね」

 

海賊がオークション?真っ当で善良なオークションじゃないだろうなぁ。

 

「時間は?」

 

「もう始まっている頃かしらね。目玉商品だから最後に出すはずだから多分今から行っても間に合うわ」

 

「わかった。行ってみるよ」

 

店を後にしてオークション会場へ向かってみた。外見は立派な建物で中に入ると数百人もの人がステージに意識を向けて主催者であろう金髪にサングラス、フラミンゴのようなピンク色の羽毛のコートという派手な出で立ちをした男が立っていた。

 

「悪魔の実か・・・・・どんなものかな?」

 

「ま、相手が海賊だから罪悪感は感じないけどな」

 

男の傍に運び込まれる瓢箪のような形をした黄色い果実。あれが悪魔の実?と思ったら―――オークション会場が至る所から火災が発生し出した。仕舞には客に紛れていた者達が突如立ち上がって火炎瓶や爆弾、武器を持って会場を滅茶苦茶にしながら暴れ始め出した。おれ達が通ってきた通路も炎で塞がれた。これは・・・・・。

 

「人為的な放火。しかも計画的な犯行だなこれ」

 

「冷静だね!?ていうか、何時の間に悪魔の実を!!?」

 

「海賊相手だから奪う躊躇いはないんだよね」

 

主催者のドフラミンゴとやらは悪魔の実が忽然となくなったことに唖然としていたが、おれの手中にある悪魔の実には気付かないでいる。亜空間の中に仕舞って魔法で水を呼び出して会場中に広がる炎を消化したら発生する水蒸気の煙に紛れて踵を返す。

 

「50番GRに行こう」

 

 

後に死傷者が出たオークション会場の主犯は未だ捕まっていないのことだが、おれには関係のないことで職人にシャボン玉のコーティングを依頼した。コーティングは数日間も必要だと言われ、碌に探索していなかったシャボンディ諸島を観光することにした。ヤマトと一緒に地図を広げて確認する。

 

「えっと今いるのは20番GR。まだ〝無法地帯〟か」

 

「だから私達を襲ってくるんだ、ね!!」

 

振るう金棒で襲撃者を吹っ飛ばすヤマト。おれ達の周囲は倒れ伏せている数人の襲撃者がいて、おれは尋問用として一人無傷で捕らえて情報を聞き出していた。

 

「で?無法地帯だろうがどこだろうがお構いなしに襲ったり攫ったりする連中はこの島にいると」

 

「へ、へいそうです!」

 

「攫った人間はどうする気なんだよ」

 

「そりゃあ人間屋(ヒューマンショップ)に売り込むためです!!人身売買で攫った人間を金に換えるために!!」

 

ほほう・・・・・それはそれは、有意義に時間を潰せれそうな。話を聞いていたヤマトも実の父親に爆弾付きの手錠を付けられ自由がなかった経験からか、怒りを露にした。

 

「イッセー、奴隷にされてる人を助けに行こう!!奴隷だなんてそんな自由のない人生は酷過ぎるよ!!」

 

「考えと気持ちが一致してるな。おいお前。全ての人間屋(ヒューマンショップ)を案内しろ。ああ、拒絶はするなよ?お前を殺して他の連中に聞くだけだ。けどおれは人を殺したくないんだから―――おれに殺させてくれるなよお前?」

 

「わ、わかった!!わかったからこ、殺さないでくれ!」

 

ということでおれ達は世直しってわけじゃないが奴隷解放のため、人間屋(ヒューマンショップ)を全部巡り回った。

 

 

ドゴォオオオン・・・・・ッ!!!

 

案内された先々で悉く人間屋(ヒューマンショップ)を襲撃し、首輪を付けられ閉じ込められている人間という名の商品達を解放していった。

 

「これで全員だよ」

 

「わかった。はい、次の人」

 

握り潰した首輪を遠くへ投げた後に爆発する。外された人々は絶望から救われ涙目で解放された喜びで涙と笑顔になっていく。

 

「ありがとう!!あんたらは人生の恩人だ!!」

 

「助かったー!!」

 

「自由だわっ!!」

 

対して店の者はワノ国へ送還だ。奴隷にされた人達の気持ちを味わってもらうために囚人扱いだ。精々頑張れよ。

 

「さてと、これで全部人間屋(ヒューマンショップ)の店を潰し巡ったな」

 

「うん、これでしばらくは拐われることも売られることもないね」

 

捕まっていた人達は海軍に保護を求め、60番GRに向かって行く様子を見送った。二度と捕まらないでほしいと願うばかりなのだが。

 

「良いことしたつもりなんだけどなー」

 

「奴隷にされかけた人達を助けたのになんでだろうね」

 

現在おれ達は海軍に取り囲まれています。何だかって?罪名は強盗だってさ。

 

「抵抗は無駄だ!!大人しく投降しろ!!」

 

「おれ達は何も悪さしていないけどー?奴隷にされかけた人達を解放しただけでーす」

 

「それが許される行為でないから捕らえに来たのだ!」

 

ほうほう・・・・・つまりそれは。

 

「公な罪を知ってて黙認、もしくはグルなのか海軍は」

 

「何て奴らだ!!」

 

正義の味方が呆れるおれとそんな海軍に怒るヤマト。どちらにしろ捕まる気はさらさらないから―――。

 

「ならびに1番GRの人間屋(ヒューマン)オークション会場の放火の容疑者として連行する!!かかれー!!」

 

「「それは濡れ衣だ!!」」

 

抵抗するがな!!!

 

 

60番GR―――。

 

 

海軍および政府が出入りする駐屯所にて二人の連行の失敗が通達された。

 

「29番GRで〝職業安定所〟放火の容疑者達の拿捕失敗に終わった模様です!」

 

「容疑者達は海賊か」

 

「いえそれが、指名手配されていない無名の者達でして詳細は不明です」

 

「なんにせよ全力で二人を捕らえろ!」

 

「少将!!人間屋(ヒューマンショップ)に捕まっていた者達が保護を求めにやってきております!!」

 

「何だと。奴らめ我々の足止めをするために解放したのか。ええい、その者達の対応する者達を除いて主犯の二人をこの島から逃がすな!!」

 

シャボンディ諸島に配属された海兵の上司の疾呼により部下達は大慌てで動く最中。一人の海兵がとんでもない報せを口にした。

 

「大変です!!〝天竜人〟がこの島に来ます!!」

 

「な、なんだとっ~!!?」

 

 

 

「これでしばらくは問題ないだろ」

 

「わぁ・・・・・この僕は別人過ぎるよ」

 

40番台のGRのショッピングで海軍の包囲網でも行動できるための変装をし終えた。ヤマトはおれの魔法で黒髪に赤い瞳の少年となって浴衣姿に変え、おれは金髪で頭から狐耳を生やし腰に九つの尾を生やす姿になった。浴衣姿に穿いた下駄で歩く。

 

「イッセーの魔法って本当に便利だね。何でもできちゃうんだから」

 

「何でもはないさ。出来ないことは少なくともあるぞ。挙げたらキリがないけどな」

 

「それでもこの姿だったら海軍はバレないよ」

 

「全く、濡れ衣を着せられることになろうとは思いもしなかったわ」

 

誰だ、おれ達が放火したって言った奴は。いい迷惑だ。でもま、こうして服を買い揃える切っ掛けはできた。

 

「ねーねー。このシャボンディパークってのが気になるよ」

 

「遊園地の事だな。きっとヤマトも楽しめるよ」

 

「ほんと!?行ってみたい!!」

 

コーティングが終わるまで時間はたっぷりある。遊園地に赴いてシャボン玉で利用した遊具だらけの光景に顔を輝かせ、最初に乗ったのはジェットコースターだ。

 

「「いやっほ~~~い!!!」」

 

この世界でも遊園地があってジェットコースターが乗れるなんて楽しすぎる~~~!!!次はのんびりとメリーゴーランドに乗ってゆっくりと回り上下に動く乗り物を楽しんだ後は、名前は忘れてしまったがゆっくりと数十メートルも上ってから一気に凄い勢いで落ちる乗り物に乗った。その後は自分でコースターを回す乗り物だ。けど、ヤマトが面白がってはしゃぎすぎて・・・・・。こっちが吐き気が催すほど回して壊してしまった。

 

「コラー!!」

 

「ゴ、ゴメンなさい・・・・・オエッ」

 

「や、やり過ぎだヤマト・・・・・うぷっ」

 

き、気を取り直して次はゆったりと高いところまで上って眺められる観覧車。

 

「世界はこんな乗り物もあるんだね」

 

「他にもきっとあるさ。それもおれ達が見たことも聞いたこともない物がたくさんな」

 

「イッセーの世界にも遊園地はあるの?」

 

「あるよ。だけど、シャボンディ諸島はないしシャボン玉を使った遊園地はないよ。だからそれを考慮して不思議なんだ」

 

感嘆の息を漏らすヤマト。あんま分かっていないだろうけれど気にする事でもないな。今が楽しければそれでいいのさ。

 

「もしこの世界に神様がいたら感謝したいな」

 

「なんでだ?」

 

「君と出会わせてくれたからだよ。僕は君と出会って幸せだからさ」

 

「・・・・・」

 

「だからありがとうねイッセー」

 

感謝の言葉を口にして笑うヤマトに釣られて小さく笑うおれは「どういたしまして」と返す。観覧車から降りて次の遊具へと遊び回った。元の世界でも遊園地なんて片手で数えるぐらいしか行ったことが無いおれにとってもこの世界で楽しみたい。

 

「次はアレ、揺れてる大きな船!!」

 

「ゴンドラって名前だ」

 

「ゴンドラかぁ~!!」

 

 

 

 

 

24番GR―――。

 

 

「何だと、全ての人間屋(ヒューマンショップ)やオークション会場まで潰されたえ!?」

 

「はっ、犯人は二人で今海軍が全力で対応しております」

 

「わざわざここまで来たのにとんだ無駄足だえ!!おい、潰された店の商品はどうしたえ」

 

「全員保護しました」

 

「なら全部こちらに寄こすんだえ。無駄足を踏んだぶん金を使わずタダ手に入れるえ」

 

武装した数多の海兵と海兵の上官に命令を下すは天竜人。他に家族らしき男女二人もいた。一年前、イッセーに聖地マリージョアの襲撃の際に殆どの天竜人達が無残な姿で磔された事件はまだ新しい。天竜人の傍らには見目麗しい踊り子の衣装を着させた三人の女性や筋骨隆々の大男の奴隷に付けた首輪から伸びる鎖を握ってペット扱いにしている。それなのにそれを咎める者はこの世にいない。海兵と天竜人がいる町には彼等以外の人間すべてが地面に膝をついて天竜人と目を合わせないようにしているからだ。それはその場にいる海賊も例外ではなかった。

 

「・・・・・わかりました。直ちに手配します」

 

海軍も天竜人に意見も逆らいもせずYESマンとして従う。人身売買は世界中で「禁止(タブー)」にも拘らずだ。

 

「―――うん?何で膝をついているんだろうこの人達」

 

「―――何かの伝統行事かなにかって感じじゃないな。何かに怯えている表情だ」

 

膝ついていないおろか、この状況を把握も理解していない二人組の男がやってきた。周囲の人達を不思議な顔で見ながらも通り過ぎろうとする二人に天竜人が静止した。

 

「おいそこの下々民共。待つえ。何故動いている」

 

「ん?下々民?誰のこと?」

 

「お前達以外誰がいるえ。何故我々の目の前で勝手に動いているえ」

 

「人間だからとしか言えないな。しかも、誰かと思えば天竜人か」

 

「お父上様。あの人間を捕まえてほしいアマス。尻尾だけをはぎ取ってクッション代わりにしたいアマス」

 

「おお確かに。毛並みが綺麗だえ。捕まえよう。おい」

 

女性が九つの獣の尾を生やす幼子を一目見て気に入った天竜人の命に従う鎧を着込んだ従者達。周囲の海賊や一般人はあの幼い子はもうダメだと達観していたが。

 

「ふぅん・・・・・まだ性懲りもなく人を奴隷にしているのか」

 

冷めた目で尻尾の中に突っ込んだ手には白銀の能面の仮面。それを顔に付けると幼子の身体が大きくなって・・・・・。

 

「ヤマト、悪い。これから大騒ぎになる。楽しむ暇が無くなるぞ」

 

「いいよ。目の前で奴隷にされている人達を放っておけないからね」

 

背負ってた金棒を手に取り構える少年から少女に戻ったヤマト。海兵は傍らにいる男に目と口をあらん限り開いて愕然とした。長い金髪、背中から六対十二枚の金色の翼を生やした者は見紛うはずがない。

 

『よ、四皇・・・・・イッセー・D・スカーレット~~~!!?』

 

「色々と問い詰めたいがな!!勝手に四皇なんて称号を付けた海軍に!!」

 

次の瞬間。一誠の全ての翼が天竜人と海兵を滅多切りにして一方的な蹂躙をしている間。ヤマトは従者達を撃退した。金棒で鎧を粉砕して従者達を殴り飛ばす。

 

「イッセー、この人達も首輪がついてる。多分爆発するやつだよ」

 

「因果応報だな」

 

奴隷の女性と大男に近づき首に嵌められている首輪を触れては、一瞬で外して爆発する前に天竜人へ投げた。

 

「後は落ち着く場所でその蹄の痕を消すとしよう」

 

ドォオオオオン!!!と爆発音と共に一誠達は一瞬でこの場からいなくなった。町は一気に騒然と化して四皇の一人が天竜人に手を上げた話は瞬く間にシャボンディ諸島や海軍本部にも伝わった。

 

 

海軍本部―――

 

 

「なんだと!!四皇がシャボンディ諸島に!!?」

 

「ええ、出会い頭に天竜人を攻撃した後に天竜人の奴隷を解放して姿を暗まし模様です」

 

「また奴隷の開放か・・・・・となれば奴が動き出す時は聖地マリージョアが襲撃するだろう。直ぐに海兵を出動させろ!!前回の二の舞にさせてやるな!!大将も待機させろ!!」

 

「センゴク元帥一大事です!!聖地マリージョアが・・・・・四皇イッセー・D・スカーレットに襲撃されています!!!」

 

「くっ!シャボンディ諸島にいた報告から間もないというのに聖地マリージョアに・・・・・・!!一体どんな魔法を使っているのだ奴は・・・・・・!!」

 

「それと信じ難い情報ですが・・・・・四皇イッセーの仲間と思しき者は四皇百獣のカイドウの娘だと宣言しています」

 

「なっ!!?なんだとぉっ!!?」

 

 

聖地マリージョア―――

 

 

「前回の襲撃からよくとまぁ、こんなに世界から奴隷として集めたもんだな」

 

「小さな子供までいるなんて・・・・・世界貴族、天竜人・・・・・何て奴らだ!!」

 

「それを黙認しているのが世界政府と海軍なんだよ。正義の味方が聞いて呆れるわ」

 

おれが暴れ回って火の海にした聖地マリージョアから逃げ惑う奴隷達を収監する巨人が乗っても丈夫な箱にヤマトが導く。対しておれは殆どの天竜人達を再び逆さ十字架に磔にして奴隷達の痛みを数千分の一程度を与えているところだ。今なお聖地マリージョアを暴れてもらっているのは創造した魔獣達だ。蓄えていた財産や私物も収集してもらっている。前回より奴隷堕ちにされた人々の数も少ないようだから直ぐに―――。

 

「そこまでじゃ」

 

整列して銃を構える大勢の海兵達とバラを胸にさした赤いスーツと軍帽を着用、髪型は角刈りで、左半身にかけて桜吹雪の刺青を彫っている三メートルは超えてる大男が現れた。

 

「一度ならず二度までも・・・・・聖地マリージョアと天竜人を襲う物好きな輩がいるとはのぉ」

 

「んー?どちらさんだ?てっきり黄猿のボルサリーノさんが来るかと思ってたんだがな」

 

「勿論わっしもいるよ~・・・・・」

 

頭上から聞こえた間延びした口調が聞こえたと同時に光が襲ってきた。光を纏う拳で弾いたら間を置かずの光剣を打ち下ろしてきたボルサリーノさんから距離を置いてかわした。

 

「久しぶりボルサリーノさん。元気してた?」

 

「元気にしてたよォー。君を捕まえる為にねェー」

 

「因みにそこの人は誰?」

 

「わっしと同じ海軍大将の赤犬と呼ばれてるよォー」

 

大将が二人か。おれの襲撃を海軍の最高戦力を二人も今度は相手をしなくちゃならないのか。

 

「今度はわしがお前を相手にする。四皇だろうが何じゃろうが、正義の名の下に貴様を捕まえる。ボルサリーノ、貴様は天竜人の救出じゃ」

 

「おォ~そいつはサカズキでも譲れないからねェ~?」

 

・・・・・ヤマトにはキツイ相手か。

 

「ヤマト、ボルサリーノは光の速度で移動したり攻撃したりするぞ。ロギア系の能力者だ」

 

「一応、僕でもロギア系の能力者に攻撃は通ずるけどね。相手が速いんじゃ厳しいかな」

 

「だろうな。だったらおれが相手をする。その間はヤマト、他の奴隷達の収容を続けてくれ」

 

魔法でおれを分裂させて分身体を増やす。既に熾天使化(セラフ・プロモーション)になっているけど油断できない相手だ。

 

「自分を増やしちょるんことが出来るんか」

 

「気をつけなよォサカズキ。そのコは〝覇気〟を扱えるからねェ」

 

「そういうわけだ」

 

「ぬぅっ!?」

 

一瞬で大将赤犬の懐に移動して武装色の覇気を、〝流桜〟を纏い握った拳で殴った。殴った感触はしっかりとあり気合を込めた一撃でサカズキを殴り飛ばした。

 

「う~ん?変わった〝覇気〟を使うねェ・・・・・」

 

「ワノ国で習得した。ワノ国じゃあ覇気のことを〝流桜〟と呼ぶんだってさ」

 

「そうかい・・・・・君達はワノ国から来たんだねェ」

 

「物のついでに言うと、あそこにいる角が生えたおれの仲間は四皇カイドウの娘だから」

 

「って言うと、君とカイドウは手を組んでいるのかい?」

 

「その先の情報はおれを捕まえてからな」

 

複数の分身体達の翼が鋭利な刃物と化し、黒く染まり〝流桜〟を纏ってボルサリーノさんに向かって掲げる。

 

「今回も勝たせてもらうよ。懸賞金額も上げて欲しいからな」

 

「だったら同じ四皇を捕まえなよォ~・・・・・。こっちとしてもそれが一番楽だからねェ」

 

「そうだな。次は白ひげでも倒しに行こうかな。カイドウは一度倒したし・・・・・あ、今のは聞かなかったことにして?」

 

無理だよォーといって分身体達と交戦を始めるボルサリーノさんを他所に海兵達も天竜人の奴隷達の解放?にヤマトに襲い掛かった。おれは・・・・・。

 

「〝冥狗〟!!」

 

マグマと化した腕を突き出し、強力な掌底攻撃を行うサカズキに掌を突き出して掴み取った。

 

「溶岩の能力者か?」

 

「わしは〝マグマグの実〟のマグマ人間じゃけ。素手でマグマに触れて自殺願望かおどれは」

 

「―――生憎、おれの身体は修行の末マグマに浸かっても平気な体質を得たんでな。マグマに溶かされないぜ」

 

掴んだサカズキの拳を放さないまま〝流桜〟を纏った六対十二枚の翼の斬撃を放った。

 

「ぐうウッ!!!」

 

「動きが厄介なボルサリーノより遅いし、そして何より・・・・・」

 

他の分身体達がサカズキを囲んだ。その手には天竜人を磔にしたままの〝流桜〟を纏った十字架を持っていた。

 

「天竜人の解放をしなくちゃならない海軍にこれは効果覿面だろ」

 

「貴様ッ・・・・・!!」

 

「マグマによる攻撃は控えた方がいいよ。天竜人が溶けちゃうからな」

 

ボルサリーノさんのところでも天竜人を脅しと盾に使って十字架で攻撃している。

 

「た、助けるんだえ~~~っ!!?」

 

「まったく、厄介極まりないことをしてくれるねェ・・・・・!!海賊と変わらないよそれは~」

 

そうそう、ますます攻撃し辛くしてくれよ天竜人。てかそこ、海賊と一緒にするな!!!

 

「おれの目的は天竜人の奴隷の解放だけだ。奴隷達の慰謝料として全財産を奪うが邪魔してくれるなよ」

 

「くっ・・・・・!!!」

 

己の能力の力を熟知しているサカズキは苦虫を嚙み潰したような顔をして、おれの分身体の一人に純度100%の錠をサカズキの手首にガチャッと嵌められた。これで悪魔の実の能力は使えなくなった・・・・・なったんだよな?

 

「ワノ国生産の海楼石の錠だ。純度も100%だから結構キツいだろサカズキさん」

 

「おのれィ・・・・・・ッ!!!」

 

「てなわけで・・・・・ボルサリーノさん共々、倒させてもらうぜサカズキさん」

 

呆気ない大将との戦い・・・・・今度はゆっくりじっくりと勝負してみたいな。今はヤマトと冒険が最優先だからその暇はない。そういうことだからサカズキに天竜人付きの十字架で殴ったり翼で切り刻んだりして無力化にしていく。ボルサリーノさんが横やりしてくるが同じ海楼石の錠を嵌めてからヤマトでも太刀打ちできるようになった。海兵も大将と天竜人を脅しに使われれば手も足も出せず、おれ達が去るまで見ていることしかできなかった。

 

「奴隷の人達は全員入ったよ!!」

 

「よし、ならここにいる理由はない。ズラかるぞ。―――ああ、こいつらも連れて行くか」

 

 

―――海軍本部

 

「センゴク元帥ッ!!!聖地マリージョアは再び壊滅!!全ての世界貴族と大将赤犬さんと黄猿さんがシャボンディ諸島で磔にされている報せが入りました・・・・・・!!」

 

 

「黄猿だけでなく赤犬まで倒されたか・・・・・」

 

「天竜人を盾にされとったら強大な能力も安易に振るえんからの。そこを突かれてしまったんじゃろうな」

 

「やってくれる・・・・・イッセー・D・スカーレット・・・・・!!」

 

「今度もまた聖地マリージョアを襲撃してくるじゃろう。そん時こそが奴を捕らえる機会じゃセンゴク」

 

 

ヤマトには申し訳なく、奴隷達を世界各地に点々と送り続け人がいる町で、天竜人の紋章を消し新たな人生を歩んでもらう。莫大な金の一部を提供して心から感謝の念を向けてくる元奴隷の人達に見送られながら何度も繰り返す。新世界、偉大なる航路(グラウンドライン)、東西南北の海と世界を飛び回った。その際に、何かあったらと電伝虫を渡す。最後の人達は西の海(ウェストブルー)に送って船のコーティングが終わるまで見知らぬ大きな町で滞在を決めた時だった。おれはすれ違う艶のある黒髪に青い瞳、くっきりと筋の通った高い鼻が特徴のクールビューティーの少女を視界に入れた。

 

「・・・・・」

 

何となく彼女の事が気になり情報収集することにした。立ち止まって振り返り彼女の後ろ姿を見ながらナヴィの能力を使ったところ・・・・・。

 

「イッセー、どうしたの?」

 

「見つけた」

 

「え?」

 

「行くぞ」

 

「ちょ、何がって待ってよイッセー!」

 

ここで逃したら探すのはきっと困難だろう。だからこそ彼女と接触したいがために彼女の肩をポンポンと触れながら話しかけた。

 

「突然失礼。―――ニコ・ロビンだな?」

 

「・・・・・」

 

「おれはこういうものだ」

 

懐から取り出すおれの手配書を見せ、青い瞳を見開いて警戒心を抱かせてしまった彼女に告げる。

 

「おれの船に歴史の本文(ポーネグリフ)がある。それを解読してくれないか?」

 

「・・・・・歴史の本文(ポーネグリフ)が?」

 

「ああ、嘘じゃない。どうだ?」

 

「・・・・・私にそれを解読させて何を得たいのかしら」

 

「ラフテルの手掛かりと全ての歴史かな。知ってた?赤い歴史の本文(ポーネグリフ)が四つあってそれらを解読すればラフテルがある場所に記されているのが分かるんだって」

 

既にそれを三つ確保しているとも告げる。彼女はおれの言葉に偽りかどうか判断を考えている感じで疑心暗鬼な眼差しを向けている。

 

「どうだろう。一緒に残りの赤い歴史の本文(ポーネグリフ)ことロード歴史の本文(ポーネグリフ)や他の歴史の本文(ポーネグリフ)を探しながら冒険しないか?」

 

「・・・・・」

 

「お前に海軍や世界政府の追ってがやってこようと絶対に守ってみせる。なんせはた迷惑なことに人を四皇の一人の扱いにしてくれた海軍と世界政府に良い感情を抱いてない。だから世界貴族の天竜人と聖地マリージョアを二度も襲撃して奴隷を開放してきたからな」

 

耳を傾けていた彼女は特に何も言わず青い瞳を向けてくるだけだった。ダメかなと断れるのかと思っていた時にニコ・ロビンが口を開いた。

 

「私を仲間に入れて後悔しても知らないわよ」

 

「過去のトラウマで他人を案じる心ならお前は優しい女だよニコ・ロビン」

 

手を出す俺に応じて右手を差し出す彼女は握手を交わしてくれた。

 

「よろしくロビン」

 

「私もよろしく!名前はヤマトだ!」

 

「よろしく二人共。早速だけれど見せてもらえないかしら赤い歴史の本文(ポーネグリフ)というものを」

 

「ああ、わかったけど気を付けてくれよ。数時間前に聖地マリージョアを襲撃して大将二人と世界貴族をシャボンディ諸島で磔にしたからかなりの厳重警戒態勢を敷いていると思うから」

 

「シャボンディ諸島・・・・・?偉大なる航路(グラウンドライン)にあるところから来たの?」

 

首肯する。

 

「これから魚人島へ向かうつもりだったんだ。コーティングを依頼して作業が終わるまで船を動かせない」

 

「ここはシャボンディ諸島じゃないわよ」

 

「ロビンの疑問は尤もだ。だから戻るときはこうする」

 

シャボンディ諸島に繋げる空間の穴を広げたら潜るおれに続くヤマト、最後にロビン。周囲のヤルキマン・マングローブを見回して先ほどまでいた町と今いる場所を繋げる空間の穴が閉じる様子を見つめた。

 

「あなた、能力者だったの?」

 

「違うぞ。まぁ、似て異なる力を持っているけど」

 

「うん、イッセーは本当に凄いんだよ!!」

 

褒めても何も出ないぞヤマト。さてさて、船に戻るか。海兵がそこら中にいようと―――。

 

「こ、こちら16番GR!!発見しました四皇イッセー・D・スカーレットが!!!至急応援を!!」

 

複数の海兵が現れるや否やいきなり発砲してきながら電伝虫で応援を呼んだ。

 

「あ、見つかったな」

 

「どうする?」

 

「取り敢えずこうする」

 

魔方陣を展開して大量の煙幕を放出すると海兵の目から姿を暗まし、魔法で別人の姿に変えて宿泊施設があるGRへ転移する。

 

「コーティングは数日も掛かるからそれまでこの姿でいよう」

 

「いつの間に?二人の顔と体形が別人だわ」

 

「ロビンも顔が別の女性だよ」

 

「因みにおれも女性にしてみた。でもそんなことより船が心配だな。おれはともかくヤマトの顔がコーティング職人に知られてるから、海兵達がおれ達の船を探して50番GRで捜索している可能性が大きい」

 

あっ、と口から漏らすヤマトも気づいたようだ。

 

「どうする?」

 

「一旦船に戻るか。心配だし」

 

停泊している船へ向かうと駆け走りまわる海軍と擦れ違ったり視界に入ったり、やっぱり厳重な警戒がされているなと感じた。姿形を変えている今、おれ達の事なんて気付かれることはないが怪しまれるのはどうしようもない。

 

「ねぇ、もしかするとあなたなら魚人島に行く術があるんじゃないのかしら」

 

「え?あるの?」

 

ロビンの問いになくはないと首肯する。

 

「そうだな。コーティングせずとも行ける手段はある。だけどそれを頼らず海賊達がしている手段で行ってみたいんだ」

 

「そう、だったらもう一つの方は緊急事態にするのね」

 

「ん、その通りだ」

 

話ながら目的の場所へ赴き辿り着いた。おれ達の船にはコーティング作業をしている職人達がいて今でも頑張ってもらっていた。どうやら海軍に気付かれていないようだな。

 

「大丈夫みたいだね」

 

「あれがあなた達の船?」

 

「おれが造った」

 

作業している人達に声を掛けながら甲板に乗ってスノードームに触れた。光に包まれてスノードームの中に入るおれ達。

 

「不思議・・・・・ここってガラス玉の中なんでしょう?どういう原理でできてるの?」

 

「口で語るのは少々小難しいぞ?それは後で説明するとして・・・・・ロビンに見せたいもんはコレだ」

 

ポケットから赤いキューブを取り出し地面に置いて魔法を解除する。赤い石は元の大きさになって表面に刻まれた古代文字がロビンの視界に映しこんだ。

 

「・・・・・本当に歴史の本文(ポーネグリフ)だわ。それに赤い歴史の本文(ポーネグリフ)は初めて見た」

 

「残りの二つは四皇カイドウのところにある。それも見たいなら連れて行ってやるぞ。これを手土産に持って行くつもりだからその時に見れるだろうから」

 

「ええ、お願い。イッセー、読んでもいい?」

 

「好きなだけいいぞ。ああ、解読し終えたらメモに翻訳してくれ」

 

了承するロビンはジッと歴史の本文(ポーネグリフ)を見つめ始める。その間はヤマトに外へ出る方法をロビンに伝えるようにお願いしてからスノードームの外へ出た。そろそろ飯時の時間だから料理を作らないと。一階のキッチンに立って料理を作っていると二人がLDKに顔を出してきた。

 

「終わったか?」

 

「ええ、今まで読んできた歴史の本文(ポーネグリフ)とは異なることが記されていたわ」

 

ロビンからメモを受け取り、内容を読み取る。やっぱりおれが解読したのと同じだな。

 

「どこかの海域の海図が書けそうだなこれも」

 

「他の赤い二つのロード歴史の本文(ポーネグリフ)もそうなのね」

 

「これで残りは一つ。ラフテルに何があるのか楽しみだね。海賊王になっちゃうけれど」

 

「海賊王になんか興味ないわ。おれ達は冒険をするだけなんだぞ?」

 

「だけど他の海賊と戦うのでしょ?」

 

「「勿論」」

 

襲い掛かってくる相手に無抵抗でいる筈がないとの気持ちでヤマトと声を揃えて頷いた。

 

それからコーティング作業が終わるまで海軍の包囲網の中、息を殺す気分で待っていた。そのおかげで顔を変えてるおれ達を見ても海軍が探してる人物とは違うから疑われず、海賊船を探して見つけると破壊して海賊達を捕らえていった。勿論、おれ達の船の調査も行われた。

 

「この船の持ち主はお前達か」

 

「ええ、冒険家なんでね。このおでんを模した船首を見てわかるかと思いますがおでん屋も生業にしているんですよ」

 

「中を確認させてもらうがよいな」

 

「どうぞ」

 

おでん屋に相応しくない物は魔法で隠蔽してる。部屋の隅から隅まで調べあげる海兵達はしばらくして、この船は海賊の船ではないことを電伝虫で上官に報告した。

 

「ご協力感謝する。次行くぞ!」

 

去っていく海兵達。彼等を見えなくなるまで見送ったあとヤマトに話し掛ける。

 

「海賊船にしなくてよかったろ」

 

「うん。おでん屋で見逃してくれて安心したよ」

 

「世渡り上手なのね」

 

ロビンに不敵な笑みを浮かべた後、LDKに入り百獣海賊団からもらった電伝虫でワノ国に繋げた。

 

プルルル・・・・・プルルル・・・・・・プルルル・・・・・ガチャ

 

『誰だ?名を名乗れ』

 

「イッセー・D・スカーレットだ。カイドウと話をしたい」

 

『イ、イッセー様ですか!!?す、すみませんでした!!直ちにカイドウ様の所へ電伝虫を移動させますので!!』

 

おー凄い慌てぶりだ。顔が分からない相手だと対応が大変だな。後ろから見守ってくる二人の視線を受けながら待っていると電伝虫が吊り上がった鋭い目つきとナマズ髭を生やし出した。面白いなこの電伝虫の特性。

 

『何の用だ』

 

「勿論朗報だよカイドウ。ラフテルを導く3つ目のロード歴史の本文(ポーネグリフ)を見つけたぞ」

 

『何だと・・・?嘘ついてんじゃねぇだろうな』

 

「嘘吐くためにわざわざお前に連絡なんてすると思うか?事実だよ」

 

『だったら連絡せずに直接持って来い。それとも解読は済ませたのか』

 

「ああ、俺とさっき仲間にしたニコ・ロビンという考古学者が解読した文章は一致してる」

 

『ニコ・ロビン・・・・・ああ、オハラの生き残りの小娘か。よく見つけたな』

 

「まぁな。ラフテルの手掛かり、そしてお前が海賊王になる王手をかけたなカイドウ。飲む酒も美味しく感じるだろ」

 

『ウォロロロ・・・期待しているぞイッセー。その調子で古代兵器の情報を手に入れろ』

 

「それはどうでもよくね?興味ないぞそんなの。お前の方が古代兵器に劣らない力を持っているくせにさ」

 

『お前も人の事言えねェだろう』

 

そりゃあそうとも。だってドラゴンなんだし。

 

「因みにこの会話のやり取りだけどさ。海軍に盗聴されてたりとかしてないよな?」

 

『ああ?してるだろうよ』

 

「しているのかよ!!?それを早く言えよ!?」

 

 

―――海軍本部。

 

二人の会話の内容は黒い盗聴電伝虫によって海軍本部全体が戦慄した。四皇同士が手を組んでいたこととラフテルの手掛かりであるロード歴史の本文(ポーネグリフ)を三つ所有、さらにはオハラの生き残りとされるニコ・ロビンの存在が明らかとなった今、海軍本部と世界政府はイッセーの捜索に全力で追跡する姿勢に入った。

 

「カイドウとイッセーが既に手を組んでいたというのか。なんと厄介極まりのないことだ・・・・・!!」

 

「その上、ラフテルの手掛かりもあと一つで揃っとる状態とはな」

 

「シャボンディ諸島に十中八九いるのは間違いない。だが、奴らは巧妙な手段で我々の目を欺いている以上は魚人島へ逃れられる危険性は高い。赤犬と黄猿が治療している今、青雉を向かわせる他ないのだが」

 

「三大将全員が四皇一人相手に破られた事実は避けたいところじゃろセンゴク」

 

老兵の言葉にぐうの音も出ないセンゴク元帥は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。

 

「七武海にでも行かせるか?」

 

「あの海域で最も近くにいる女帝でも一週間以上は掛かる。無駄だ」

 

「ほんじゃあワシが行ってみっか?」

 

「バカなこと言うんじゃないガープ!!海軍の『英雄』のお前まで倒されてでもしたらそれこそ海軍の信頼が世界に危ぶまれるだろう!!」

 

「じゃがな、二度も天竜人の襲撃を許してしまってる時点で世界に衝撃が走っとるぞセンゴク。おまけにシャボンディ諸島で磔された三大将二人付きでじゃ。もう周りを気にしておる場合ではないかもしれんぞ」

 

「ぐっ・・・・・!!」



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海賊王 百獣のカイドウ ビック・マム上陸!

数日も待ってようやくコーティング作業が完了した。海軍の厳重すぎる警戒心に疑問も抱かせずに悠々とシャボン玉に包まれた状態で海底へ沈んでいく船と一緒に、しばらくの海上との別れを惜しむ間もなく、俺達の目は海中の光景に奪われた。元の世界じゃあ絶対にお目に掛かれない十メートル級以上は優にある巨大魚がたくさん泳いでいたのだ。

 

「でっっっかい魚が多いな!?」

 

「本当だね!この船を丸のみできそうな魚がいっぱいだ!!」

 

「途中で船ごと食べられないといいのだけど」

 

「「物騒なこと言うなよ!!」」

 

でも、一理あるからその通りだけどな。魚や海流には気を付けないと。

 

「上を見るとどんどん光が遠ざかっていくね」

 

「深海に進めば進むほど、光が届かなくなるもんなんだよ。さて、魚人島までに着く間の注意事項でもお復習するか」

 

職人から聞かされた海中で航海する際の注意事項を二人に教える。

 

「まず、シャボン玉を複数同時に穴を開ける行為は禁止。岩礁にぶつかって船が壊れてもシャボン玉が割れるからダメ。海王類に食べられる事もあるから気を付けろ。だってさ」

 

「どっちにしろ、海底でも危険な航海しなくちゃならないんだね」

 

「安全な場所なんてどこにもないと示唆してるようなもんだ」

 

「そうね。気を付けていきましょ」

 

潜水艇や潜水艦でもない限り海中を潜航することは殆どないから勝手が違う。初の潜航に緊張感を覚えながら奈落の底を彷彿させる深海の闇へ移動する俺達であった。その間、何度も肝が冷えた身の危険を体験したものの、何とか俺達の全滅や船の破損などせずついに―――目的の場所一万メートルの深海に辿り着いて巨大な球状のシャボン玉の中にある島を見つけることが出来たのだった。そんな島の真上に断然小さいがシャボン玉に包まれた建物があった。

 

「あれが・・・・・!」

 

「不思議だな。深海にシャボン玉みたいなのが島を囲っていること自体信じられない」

 

「本当にね。だけれど、あそこにあるのよね?」

 

何があるのか、ロビンの言葉の心意を察した。

 

「日誌に書かれている通りだったらな」

 

ヤマトと一緒にそれを頼りに航海しているようなものだから本当にあるのか、自分の目で見ないと断言できない。最悪、何者かが持ち去ったって可能性もあるから確証もないしな。・・・・・あれ、動かせる奴がいるとしたら巨人並みの力が無いと無理だよな?

 

「イッセー、早く入ってみようよ!」

 

未知の島に上陸したいヤマトに催促されるまでもなく、この世界の魚人を見て見たい俺も船を動かして入れそうなところを見つけて入国するのだった。

 

そして―――。

 

「あった・・・・・よかった、あったぞロビン。ロード歴史の本文(ポーネグリフ)。読んで見てくれ」

 

「これで四つ! 最後の島『ラフテル』に行けるんだね!」

 

「わかったわ」

 

俺達は四つ目の赤い石(ロードポーネグリフ)の発見を叶い、ロビンの解読によってヤマトが言ったとおりにラフテルへの道を拓くことが出来た。それからは魚人島を後に三人で様々な島へと冒険に出たのだった。

 

 

 

数ヶ月後 新鬼ヶ島―――。

 

 

 

「ようカイドウ。久しぶり」

 

「なんだ、もう帰ってきやがったのか」

 

「お前にとっちゃあ早く戻ってきた感じなのか? もう少し喜んでくれてもいいのに」

 

久方ぶりに旧ワノ国もとい新鬼ヶ島に戻った俺は、この場にこの数ヵ月の間で増えた仲間を連れてカイドウに会わす。

 

「カイドウ、お前が海賊王になる準備を用意してやったぞ。宴の準備を済ませておけ」

 

「ロード歴史の本文(ポーネグリフ)を見つけたんだな?」

 

「すでに解析も済ませてある。あとこれ、魚人島の酒だ」

 

「ウォロロロロロ・・・・・!! 流石だなイッセー、お前は最高の相棒だ・・・・・!!」

 

カイドウは深い笑みを浮かべ、勝手に拝借した巨大なヒョウタンに入れてもらった魚人島の酒を勢いよく飲んでから傍に控えさせているキング達に叫んだ。

 

「今すぐ遠征の準備をしろ!! 世界を獲りに行くぞォ!!!」

 

「「「は!」」」

 

大看板達が動き出しても俺達は動かなかった。カイドウの次の視線がこの場に連れて来た見知らぬ数人に向けているからだ。

 

「で、そいつらは誰だ?」

 

「この数ヵ月で見つけた悪魔の実の能力者だ」

 

「ほぉ? どんな奴らだ。名乗ってみろ」

 

と、興味を持って命令してきた相手にこいつらはピクリとも動かなかった。そして一人は俺の後ろに隠れる臆病さを見せつける。

 

「どうした。なぜ名乗らねェ」

 

「おれ達の頭は四皇の一誠だ。何でお前に従わなくちゃいけねェんだよ」

 

傲岸不遜な態度を取る2mも優に超えてる身長とオレンジ色の髪に黄色の瞳の大男ヴェージ。青色のビジネススーツのポケットに手を突っ込んでカイドウ相手に喧嘩腰になる度胸があるのが窺わせる。

 

「ああ、そうだ」

 

赤紫色のドレッドヘアー、サングラスを付けタトゥーを掘った筋骨隆々さを覗かせる上半身裸の巨漢ガンヴァ。

 

「・・・・・ううぅ」

 

カイドウの厳つい姿に怯えて俺の後ろに隠れているグラマーな体つきの白髪に乳白色の少女ヒナタ。

 

「「「「・・・・・」」」」

 

無言で佇む目元しか見えない全身黒一色の謎めいた雰囲気を纏う者ギリュー・ヴラド。強面で気性が荒そうなオオメジロザメの魚人メガロー。片眼鏡を付けた執事服で身に包む精悍な初老の男性セルバンデス。丸坊主に法師の衣をで身に包む青年ワオウ。以下七人の言動を見聞したカイドウに一応説明する。

 

「最初は百獣海賊団に勧誘したんだが、紆余曲折の出会いで俺の仲間になりたいって聞かなくてな」

 

「てめぇの部下にしたわけだな」

 

「成り行きでな。まぁ、こいつらの能力は言うよ。"ネコネコの実〟幻獣種モデル〝白虎〟。〝ヒトヒトの実〟モデル〝千手観音〟。〝リュウリュウの実〟古代種モデル〝インドミナス・レックス〟。〝ワニワニの実〟古代種モデル〝デイノスクス〟。〝ジュウジュウの実〟古代種モデル〝メガテリウム〟。〝ホエホエの実〟古代種モデル〝リヴィアタン・メルビレイ〟。〝トリトリの実〟古代種モデル〝アルゲンタヴィス〟。何度か小規模の海軍の要塞を攻略してきたから実力は折り紙付きだ」

 

「お前に隠れてるガキもそうなのか」

 

「能力を使わせると二重人格じゃないかって疑ってしまうほど好戦的になる。普段は極度の人見知りと臆病で俺とヤマト、ロビンじゃないとこうして隠れるんだわ」

 

幻獣と古代種の能力者の面子にカイドウも戦力として欲しがるだろうが、この六人が百獣海賊団に加わるつもりがないなら諦めてもらうしかない。まぁ・・・・・そんなことよりもだ。

 

 

カイドウの号令により百獣海賊団は長期の遠征に新・鬼ヶ島を後にした。俺達もその長期遠征に同伴することで、四つの赤い石(ロードポーネグリフ)が示す場所へ航海し、海賊王ゴールド・ロジャー海賊団が辿り着いた最後の島に・・・・・俺とカイドウもその地に足を踏んだ。

 

「―――ここが、ラフテルか」

 

「はっはっはっ! 本当に莫大な宝がある! なのにとんだ笑い話だな!」

 

カイドウの隣で大いに笑いだす。それだけじゃない。百獣海賊団の殆んども涙が出るほど笑いだした。

声は出さないがカイドウも笑みを浮かべると部下達の方へ振り返った。

 

「この島に踏み込んだ瞬間おれは海賊王となった!! だがこれで終わりじゃない。覚悟しろ次は世界の王を目指す!! 気合を入れろよお前等!!!」

 

『ウオオオオオオ~~~~~~!!!』

 

海賊王程度では満足しないカイドウの目指す目標を聞き雄叫びを上げ、張り叫ぶ百獣海賊団。

 

「ついては―――」

 

俺の方に視線を送ってくるカイドウ。

 

「イッセー。更に戦力が必要だ。世界中から海賊を徴兵して回り続けろ」

 

「お前に見合う海賊って新世界しかいないんじゃないか?。それこそ同じ四皇―――無理か」

 

「白ひげのジジイとババアが言うこと聞くはずがねェだろ」

 

うん、だろうな。

 

「最強の海賊王の海賊団の傘下に加われるならば、喜んで入りたがるだろうけどお前の寝首を掻く我の強い海賊団も加えてもいいのか?」

 

「ウォロロロロロロロロ。構わねぇよ、どうせ失敗するだろうからな」

 

既にそうしようとしている連中を手引きしているんだが・・・・・その程度ではカイドウには通用しないことを知っているから問題ないか。

 

「お前がそう言うなら分かったよ。世界の冒険のついでに見つけ次第勧誘する。それでいいだろ」

 

「ああ、それでいい」

 

了承してくれたカイドウはこの後、ラフテルで大宴会を開催することを決めて部下達に準備を促した。大急ぎで宴会の準備に駆けまわる百獣海賊団の光景を見ていると、ロビンが一人で森の奥へと行こうとしている背中にヤマトを誘って追った。

 

「ロビン、何かあるの?」

 

「わからないわ。でも、何かありそうじゃない?」

 

「最後の島だから否定できないな」

 

ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟はどうやら物ではなかったみたいだし、他にも何か隠されている物もあるかもしれない。

 

 

―――まぁ、結局何もなかったけど!!!

 

 

 

『二番目の海賊王!』 『海賊王 百獣海賊団総督 百獣のカイドウ!』 『最強の海の王者再び誕生!』

 

『海賊王の背後に四皇天龍の影アリ!』 『天龍イッセー・D・スカーレットも海賊王か!?』

 

 

後の世―――海軍本部。

 

 

四皇の二人がゴールド・ロジャー以来誰も到達できなかった最後の島へ辿り着いたニュースが新聞となって、世界中の人類にもそれが知れ渡った頃。

 

「『百獣海賊団総督 百獣のカイドウ』『天龍イッセー・D・スカーレット』が最後の島(ラフテル)に辿り着いたか」

 

「厄介なことになったの。海軍本部全戦力と七武海の総力で組んだ二人の四皇に挑んでも必ず被害は甚大じゃろう」

 

「ああ、心して掛からねばなるまい。奴らは世界の禁忌の根源を触れてしまったのだからな。これからすぐ奴らと戦争を臨むことになるだろう」

 

「ワノ国に向けて戦力の招集が必要になるか。これから忙しくなるわい」

 

 

 

 

―――万国(トットランド)

 

 

「おれを差し置いて小僧共が海賊王だとォ!?」

 

新聞を引き裂いて怒髪冠を衝くビック・マム。激怒してる母親に子供達の中には恐れと緊張で表情を強張らせている。眦を裂いて苛立ちで歯を食いしばって怒るビック・マムは玉座から立ち上がって地団駄を踏む。その度に部屋が揺れて床が蜘蛛の巣状にひび割れる。かつてない母親の怒りの具合に誰も進言できないでいる。不用意に喋れば怒りの矛先が自分に向かい、殺されかねないことを動物でも本能で分かってしまうからだ。

 

「どいつもこいつも調子に乗りやがって!! あいつらの首をこのおれが直々に取ってやる!」

 

「マ、ママ・・・・・もしかして攻め込むつもりなのか? ペロリン♪」

 

「当たり前だァ!! 天龍のクソガキに国を荒らされた挙句おれの顔に泥を付けられたままなんだ!! カイドウ諸共あのクソガキをブチ殺しにワノ国へ行くよお前達ィ!!!」

 

 

 

とある新世界の海の島にいる白ひげ海賊団にも海賊王の再誕の一報が届いていた。

 

「親父、カイドウ達が海賊王になったって・・・・・」

 

「ああ、そうだな。おれにとってはどうでもいいことだがな」

 

「ワノ国が心配だよい。カイドウが海賊王になったことであの国の住民達も無事で居られる筈がないよい」

 

「・・・・・」

 

「ビック・マムもこの機にワノ国へ向かうだろうよい。そうなればますますワノ国は戦火の海に呑み込まれる。・・・・・親父」

 

「ダメだ。おれ達もワノ国で戦えば更に被害が広がるだけだ。何度も話し合っただろう」

 

「親父・・・・・」

 

 

 

 

あれから時間帯が真っ暗な夜になって闇夜を照らす燃え盛るキャンプファイヤーを囲って大賑わい。無礼講の宴会は大盛り上がりだ。

 

『ギャハハハハハッ!!』

 

『ワーッ! ワーッ!』

 

『アハハハハッ!!』

 

『ワハハハハッ!!』

 

いつになくカイドウも大笑いしていて、今日ぐらいはいいだろうと控えてた酒を飲んでラフテルに到達した祝いを楽しんだ。ヤマトとロビンも自分なりに楽しんでいる様子。身体をカイドウと同じ身長に大きくして肩を組んで酒を飲み交わす中、音頭を取るクイーンを中心に宴会は最高潮の高揚感で団員達の歓声が沸き、熱気が凄く感じる。死ぬ気で楽しんでいるのが明らかで海賊王となったカイドウを祝い、その海賊の団員たる自分達も誇れることに歓喜している。宴会は次の日の朝になるまで続きそうだが、俺達は抜けて船で先に寝ることにした。自室に戻りベッドに寝転んだ矢先、誰かが訪ねて来たノックが聞こえた。

 

「ロビンか」

 

「ええ。あなたに一言お礼を言いたくて」

 

「お礼?」

 

部屋に入ってきた彼女に首を傾げる。ラフテルに連れて来たことか?

 

「言ってなかったけれど、私はある歴史の『空白の100年』の謎を解き明かし、真相を知りたかったの。その為に歴史の本文(ポーネグリフ)を探し求めていた」

 

「ラフテルに来てそれが分かったって?」

 

「ええ、ここまで辿り着くために30個もある歴史の本文(ポーネグリフ)の石碑を見つけ解読しなくちゃならなかったけれどね」

 

たった30個。広すぎる世界から見つけるのは困難だろうに。海賊王ゴールド・ロジャーとラフテルに辿り着いたおでんが遺した日誌を持っていたヤマトと出会わなかったら俺もこの島にこれもしなかっただろうな。

 

「じゃあ、これからどうするつもりだ? 夢を叶ったんだろう」

 

「これからもこの船に乗せてくれる?」

 

「うん? それは構わないぞ。というか、ロビンを狙うだろう海軍や世界政府から守るつもりだし」

 

手招くと近寄ってくるロビンの手を掴んで引っ張り、一緒にベッドに寝転んだ。

 

「俺の傍にいてくれるなら、絶対に守ってやるよ。その為の強さだからな」

 

「・・・・・ありがとう」

 

少し照れくさそうに微笑するロビン。釣られて微笑んでいたらヤマトと白髪の少女が来て、出入り口の所で案山子のように固まっていた。

 

「ま、まさかロビンも・・・・・?」

 

「何のことかしら?」

 

「え、えっと、その・・・・・っ」

 

頬を赤らめしどろもどろと口に出せないほど恥ずかしいことを考えている様子のヤマト。ここに来た理由を察して魔法でヤマトを傍に寄せる。その後、白髪の少女も寄ってきた。

 

「たぶん、こういうことしたくて来たんだと思う」

 

「・・・・・お邪魔かしら?」

 

俺達がそういう関係である事を知らなかったロビンは気を遣おうとしたが、気にするなと返す。

 

「いや、この際だ。見て見るか?」

 

「え?」

 

そう提案をした以降。俺の部屋でロビンとヒナタも夜を過ごすようになった。

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

ラフテルを後に新鬼ヶ島へ戻った百獣海賊団は海賊王とそのクルーになった祝いの宴会を開いた。大勢の笑い声が未だに絶えないこ騒ぎは、おれ達が借りた広間の一室の中まで聞こえてくる。新聞を配達するカモメから購入した新聞を広げ、読むにつれて眉根を寄せた。

 

「・・・・・・・・・・ええぇぇぇ」

 

「どうしたのイッセー」

 

「海賊王が天龍もなのかって記事が載ってる」

 

「あのウシゴリラと一緒にラフテルに行ったからだろうね」

 

「いやいや。海賊でもないのに海賊王なんておかしすぎるだろ。なんでおれまで含めるんだよわけわからねェ」

 

懸賞金額もカイドウと同じく上がってるけど・・・・・お。

 

「ヤマトにも懸賞金がかかってるぞ。5千万ベリーだ」

 

新聞に挟まっていた一枚の紙を、ヤマトの写し絵と八桁の数字が記されてる手配書を渡す。自分の手配書を見て何だか嬉しそうに口元が笑みで浮かんでいた。

 

「へー! ついに僕にも! でもなんで?」

 

「天竜人の件じゃね?」

 

それと四皇=おれの仲間だからかな。具体的な理由は分からないけど気にすることでもないだろうな。

 

「一誠様、ヤマト様。お茶でございます」

 

精悍な顔つきの初老の男性がそう言って淹れてくれた茶を持ってきてくれた。感謝の言葉を送って茶を飲んだ。

 

「飲みやすい温度に心が落ち着くお茶の匂い・・・・・美味しい」

 

「流石だな」

 

「お褒めの言葉感謝いたします」

 

恭しくお辞儀をするこの老執事セルバンデス。新世界のとある海の国の城に仕えていた執事だったが、名だたる大海賊の襲撃を受けて国の兵士達と防衛したが能力者であることも含めセルバンデスを残して兵士や国の民の全てが滅ぼされかけた。その国が天竜人に献上金を支払っているにも拘らずにだ。海軍が駆け付けてくる前にそこへ、遅れて買い出しに訪れたおれ達が加勢して大海賊団を撃退したものの、王族全員が殺害された。その後、他の海賊から守るために四皇の名を利用し、天竜のナワバリとして旗を立て破壊尽くされた街を完全に復興したところで海軍が到着してきた。四皇の俺を見るや否や、血気盛んに襲ってきたので返り討ちにしていくとセルバンデスが加勢してくれたのだ。だから問うた。

 

『海賊として名乗る気はなくとも降りかかる火の粉は払うし、天竜人を何度でも襲う側に加担するのか?』

 

『もはや国を守るための献上金を払うだけの財政がない以上、この国は見放されたも当然です。ならば仕える王が亡き今、この国を守らんとするあなた様に仕えることでこの国を守ってもらいたく存じます』

 

『ならば契約だな。お前の生が続く限りはこの国を守ってやる代わりに、その力を国の為に振るってもらおうか』

 

『あなた様のためではないのですな?』

 

『力ではなく有能な執事として働いてもらいたい』

 

『ほっほっほっ。面白い若人ですな。かしこまりました。では、これよりこのセルバンデスは国の為にあなた様にお仕えすることをここに誓います。手始めに、国を満足に守れない無能な者達の排除に力を振るいまする』

 

『成立だな。なら、報酬の前払いとしてこの国の死んだ王を甦らせてやる』

 

そんなエピソードを脳裏に過らせると怒声が聞こえだした。もういつものことなのでおれ達は慣れてしまった日常としてスルーする。

 

「相変わらずうるさい方々ですな」

 

「初めて会った時以前からあんな感じらしいからな」

 

「一誠の力に感動してこの船に乗るまではよかったのに、静かにいられないのかな」

 

どっちかが喧嘩腰、挑発すればそれに反応して喧嘩を買うのがもはや特性としか言えない連中だ。顔を合わせ口を開けば喧嘩をする奴らだ。喧嘩は絶対にするなと言ってもどこかでするだろうからな。止められないし止める気はないおれと同じ気持ちの連中は、敢えて放置するのだ。

 

「ねえ、次の冒険は何時する?」

 

「必要な物質を整えたらすぐだ。二日後かな」

 

「そっか!」

 

おでんの日誌に書かれてる場所はまだ行っていないからそこか、と予想をしていたら黒ずくめの青年が短く呼んできた。ジャックがこっちに来る、と。すぐに顏が厳つい目つき大男が部屋に入って来た。

 

「どうした」

 

「部下からの報告で新鬼ヶ島にビック・マム海賊団が上陸したそうだ。カイドウさんがお前を呼んでる」

 

 

少し前の話―――。

 

 

百獣海賊団がラフテルの島へ辿り着いた祝いの宴会は大盛り上がり。海賊王となったカイドウも気をよくして祭りの気分を楽しみながら酒を飲んでいた。もう少ししたらイッセーの奴を誘って飲むかと考えていた時だった。

 

「カ、カイドウ様!!」

 

焦った表情を顔に浮かべ、気分良く飲んでいたところに部下がやってきた。

 

「ああ?」

 

「ご報告いたします!! 現在巨大な艦が南東の海より接近中です!!」

 

「艦だと? どこの艦だ」

 

「そ、それがビック・マム海賊団の艦です!!」

 

聞いた瞬間。握っていた瓢箪を握り潰して眦を怒りで裂いたカイドウの気分は最悪になった。よりによって楽しい気分に浸っていたと言うのに、海賊王の宴会をぶち壊しにやってきた愚か者を容赦はしない。

 

「あのババア!! ・・・・・俺の祭りを台無しにするつもりか!! 撃ちまくれ!! 絶対に入国させるな!!」

 

「既に迎撃態勢に入っています!! ですが、ビック・マム海賊団が鯉に艦を引かせ滝を登って突進中とのことです!! 」

 

「なぜ〝滝登り〟の方法を知ってんだ!?」

 

「ほ、報告ゥ!! ビック・マム海賊団が滝を登りきり新鬼ヶ島に上陸しましたぁー!!」

 

「―――今すぐイッセーの奴を呼べッ!!」

 

 

 

 

滝を登り旧ワノ国に辿り着いたビック・マム海賊団は九里南西の廃港に艦を停泊させて九里に上陸した。ビック・マムの子供達も大勢船から降りて新鬼ヶ島の地を踏みしめた。

 

「着いたぜワノ国・・・・・!! 待っていろよ天龍のクソガキ、カイドウ・・・・・!!!」

 

「ママ、道中住民がいたら?」

 

「おれを怒らせたらどうなるか見せしめに滅ぼしな!!」



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海賊王&四皇VS四皇

「ジャックから話しは聞いた。それで、全面戦争をおっ始めるつもりなのか?」

 

「今話している時間はねェ。単刀直入で言う。リンリンとそのガキ共をこの新鬼ヶ島から追い出す協力をしろ」

 

カイドウのところに向かう最中、派手に飲食していた兵士たちが大慌てで戦争の準備に急かされて動いていた。寝耳に水もいいところなビック・マム海賊団の入国に新鬼ヶ島が始まって以来の大事件。

 

「それは構わないが奴さんどこにカイドウがいるのか分かってないだろ? 連中は今どの辺りだ?」

 

「すでに九里に迫ってきてる」

 

あらら、それは一大事じゃないか。よりにもよっておれが収めてる郷に上陸して住民達に危害を齎すことがあれば・・・・・。四皇と海賊王が収める国に喧嘩を売る奴はそれ相応の代償を支払ってもらおうか。

 

「お前に会わせる奴らはいたが、それもババアを片付けてからだな」

 

「ふぅん? 戦いの最中でもできないのか? 幹部だったら目立つだろ。ま、お前の方が一番目立つがな」

 

「テメェの方が目立つだろうが」

 

「身長的な意味でだよ!」

 

 

 

 

―――そんな話を戻ってヤマト達も避けられない戦いになるだろうと悟った表情をしていて、喧嘩している連中にもこれから戦闘が始まることを伝える。

 

「ガシャシャ!! 下等種族共を海の底に全員沈めてやる!」

 

オオメジロザメの魚人、メガローが凶悪で鋭利な歯を覗かせる笑みを浮かべ、好戦的な態度を示す。

 

「ったく、はた迷惑な海賊王に巻き込まれるのは面倒なもんだぜ。あと、上陸してるから海の底には沈めれないぞ」

 

「同感だ。海賊と手を組んでいるとはいえ、こっちは海賊ではないのだからな」

 

ヴェージとガンヴァはあまりやる気を感じさせないが、攻めてくるなら仕方なしに応戦するという風体だった。

 

「悪いな。ヴェージ、ガンヴァ。おれ達はこういう末路なのさ」

 

「既に心に決めておりますとも」

 

気にしないで欲しいと、セルバンデスの言葉に本当申し訳ないと思わせるわ。

 

「・・・・・問題ない」

 

「おう、頼むな」

 

全身黒ずくめの者、ギリュー・ブラッティはそう言ってくれ、白髪で乳白色の瞳の少女ヒナタもオドオドと口を開いた。

 

「わ、私・・・・・」

 

「ヒナタは弱くないことをここにいる全員が知っている。戦わずにいてくれてもいいし、共に戦ってくれるなら心強い。とにかくお前のことは頼りにしている。いつも通り小さくても勇気を出して行動して欲しい」

 

「あ、ありがとうございます・・・・・が、頑張りますっ」

 

ヤマトとロビンに挟まれた席に座ったまま大袈裟に頭を下げるヒナタを一瞥、目を閉ざしてる若い法師に視線を送った。

 

「ワオウ、お前も戦うか?」

 

「あなたが治めている里の危機です。勿論、無辜の民を守るために戦います」

 

全員の言葉を聞き、他の皆の顔を目で見回す。

 

「うし、なら行くぞ。四皇ビック・マム海賊団とは今までにない激戦と成り得るだろうから気を付けろ」

 

「おい、今四皇の名前をさらっと出しやがって。いまこれから戦う相手は四皇の連中かよ」

 

ガシガシとオレンジ色の髪を掻いて至極相手にするのが面倒くさそうな表情を隠さないヴェージ。ふむ、と顎に手をやって激戦区の海域へ見るセルバンデス。

 

「この国に元四皇を含め三人の皇帝が集う瞬間を目の当たりにすることになるとは。いやはや長生きすると人生は何があるのか分かりませぬな」

 

「楽しそうでねセルバンデスさん」

 

「私、好奇心旺盛なもので。これは歴史的に残る戦いになり、その大戦に私達も関わる・・・・・ふふ、年甲斐もなく興奮してきますよ」

 

ワオウの指摘にほくそ笑むセルバンデスの知らないところを知れて軽く驚嘆した。意外と好戦的なんだな。

 

「ガシャシャ!! 大海賊時代以降初めての大戦争!! その中心となって戦える喜びは俺も感じるぜ!! 話が分かるじゃないかジジイ!!」

 

痛そうに眉根を寄せているセルバンデスの背中を叩きながら大笑いするメガロー。対照的に淡々とガンヴァは催促してきた。

 

「戦うならさっさと行こうぜ」

 

「ああ、わかった」

 

―――一方。ビック・マム海賊団は電撃的な速度で九里のおこぼれ町に侵入し悪逆非道、無慈悲による住民達の命を蹂躙―――。

 

「ん~・・・・・イイ匂いだねェ・・・・・・そしてこの甘さはおれ好みの美味しい食べ物だよ」

 

「まだまだたくさん作りますから、どうぞ食べてくださいね!」

 

「そうかい!! それじゃあ遠慮なく食べさせてもらうよ」

 

甘味処にてビック・マムはおしるこの味に心を奪われ、おこぼれ町と住民達に襲撃せず大きな寸胴鍋分も食べていた。甘ったるい匂いを嗅ぎ付け、この店に訪れては店主がにこやかにおしるこを提供したことから始まり、今ではビック・マムの子供達にも海外から来た客としておこぼれ町の住民達から料理を振る舞われている始末だ。

 

「ママ・・・・・襲撃はどうするのだ」

 

「こんな甘くて美味しい食べ物があるんだ。小僧共をブチ殺した後はおれのためにおしるこを作ってもらうから手を出すんじゃないよ」

 

気まぐれな一面もあるビック・マムは今その気まぐれを窺わせて部下達の心情を呆れにした。甘味ひとつで住民達は幸運にも住処や命を守られたのだ。どれが時間稼ぎにもなっていることを誰一人露にも気づいていない。

 

「おい、カイドウとイッセーの奴はどこにいるか知ってるかい?」

 

「それならここから真っ直ぐ進むと花の都っていう場所があって、そこにある巨大な髑髏の城におりますよ」

 

「そうかい。教えてくれてありがとうねェ」

 

何も知らずに呑気に教えてくれる甘味処の店主を、後の為に優先的に保護することを決め満足するまで腹いっぱいおしるこを食べるつもりでお代わりを求めたビック・マムであったが。

 

「・・・・・のんびりおしるこを食っていたのかビック・マム」

 

「おや、自分からわざわざ殺されに現れるとはねェ」

 

「馬鹿言え、ここは俺が統治している場所なんだ。誰一人命を奪っていないなら情状酌量の余地はあるかな?」

 

一誠が率いるヤマト達とビック・マム海賊団の前に姿を現したことで、お代わりはできないかと思われたが。

 

「まだ食うつもりなら待つぞ」

 

「殊勝な考えだね。じゃあ、もう少し待ってな。まだまだおしるこは食い足りないからよォ」

 

「自分の国に帰るなら、おしるこのレシピを渡すぞ」

 

「必要ないよ。クソ生意気な小僧共を殺したらこの国をおれの物にするからねェ・・・・・!!」

 

「できるのか? 一度無様におれに捕まったことがある四皇最弱のお前が、おれとカイドウと同時に相手にできるとは考えにくいもんだよ。好き勝手に国を荒らされたこと、忘れたわけじゃないだろうに」

 

本当に待つ姿勢でいる一誠の前でビック・マムはそれから何度もおしるこをお代わりしては食べ続けた。

その裏で一誠はおこぼれ町の住民達を甘味処の店主以外を避難活動をカイドウの部下達にさせている。

 

ここが戦場と化して町が滅びることを考慮してだ。

 

「ぷはぁ・・・・・!! 美味しかったよおしるこ。また後で食べさせておくれ」

 

「はい、かしこまりました」

 

「なら、花の都で買い出しに行ってくれ。こいつの胃袋は底なしだから材料が足りなくなる。ああ、こいつが今まで食ったおしるこの代金は俺が払う」

 

「わかりました一誠様」

 

店主は何の疑いもせず、言う通りに花の都へ買い出しに赴いたその姿が見えなくなるまでおれ達は待った。

 

「意外だな。すぐに襲ってくるかと思ってたんだが」

 

「あの店主はおれに親切をしてくれたからねェ。おしるこを食べさせてくれたんだ。この店だけは特別に壊さず残してやるのことに決めたのさ」

 

「そうか。なら、守ってみろよ」

 

空が暗雲で覆われ始め、雷雲の中から巨大な龍が姿を現した。そして、おこぼれ町に数多くの百獣海賊団の兵士が全員武器を持って到着した。

 

「まだババアを殺してねェのか」

 

「場を整える時間が欲しかったからな。今なら避難を終えた住民のことを気にせず戦える」

 

「甘いな。愚民共が減ろうが補充ができるだろう」

 

「元ワノ国の原住民だぞ? 海外から連れてくる人とは違って替えの利かない人材だ。武器製造の技術だってこの国の住民じゃなきゃいけないことぐらいお前だって理解しているだろ? それを継承させるための人間だって必要だ。毎日お前が飲んでいる酒も誰が作っていると思っているカイドウ」

 

カイドウにそう話しかけ言い続ける。

 

「まぁ、ビック・マムの国から大量の人間が簡単に手に入るから更に生産の力が増すだろうよ。四皇の国だ。さぞかし新鬼ヶ島のいい戦力となってくれるんじゃないか」

 

「ウォロロロロロ・・・・・。確かにその通りだ。さっさと始めるぞイッセー」

 

「ああ、始めよう」

 

ビック・マム海賊団へ手を突き出す。

 

「世界最強の海賊王、百獣海賊団!! お前達の力を四皇弱小のビック・マム海賊団に教えてやれ!!」

 

『ウォオオオオオオオオオオオオオ~~~~~!!!!』

 

「生意気な小僧ォ!! テメェの首だけはおれの手で獲ってやる!! いけェ!! 野郎どもォ!!」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ~~~~~!!!!』

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

魔剣創造(ソード・バース)!!」

 

百獣海賊団の兵士全員の前に魔剣を創造した。相手は四皇の兵士、並みの相手じゃないからな。ならば、強力な武器で戦力を埋めて戦うべきだ。各々はおれが創造した刀剣類を握り、掴み取って駆け出して行った。ビック・マム海賊団も駆けだし、二つの大海賊の兵士たちが、おこぼれ町を戦場にして衝突した。まずは兵士たち同士がぶつかり合い、倒しにかかり出した。

 

「相手は悪魔の実の能力者がこっちより多い。実力も劣っていないから一人じゃなくて複数で組んで戦え・他の皆にもそう戦うよう伝えろ」

 

「「「わかりました一誠様!!!」」」

 

近くにいた兵士達に伝え回ってもらう俺にヴェージが口を開いた。

 

「心配性だなうちの大将は。それ、おれ達にも言っているなら、おれ達が負けるとでも思ってんのか?」

 

「何も思っていないなら早死にするぞヴェージお前。ここにいる殆どの人間はビック・マム海賊団と戦ったことが無い。警戒して当然だろ」

 

目を真っ直ぐ向けつつ真剣な顔で言う俺から離れるメガローが、ヴェージに嘲笑を浮かべながら話しかけた。

 

「ガシャシャ!! おう、あっけなく無様に死ぬ下等種族はこれ以上のない面白い見物だ。精々イッセーの警告を忘れずに倒されないでいるんだな!!」

 

頭と耳に無線機のイヤホンを付けるメガローは先に駆けだし、チェスを模した兵士達に対して暴れ回れ出していった。

 

「ヒナタ」

 

白髪の少女、ヒナタにも声を掛ける。

 

「ヒナタ、お前も戦う気なら無茶をする前提に死なない程度に戦えよ」

 

「は、はいっ・・・・・・!」

 

怖くても向き合おうとする彼女の頭に手を置いて撫でから、仮面を被り両腰の鞘から刀を抜いて戦場へと駆け出す。

 

 

メガローside

 

 

一誠作の巨大なハルバードを豪快に振るい、一度に十人以上のチェスの駒兵達、チェス戎兵を薙ぎ倒す腕力と戦い方は魚人族として相応しい姿を見せつける。威風堂々たる戦いぶりに圧倒されるもチェス戎兵達は臆さず果敢に挑む。

 

「わらわらと蛆虫みてぇに湧いてくるな下等種族共!!!」

 

力任せに敵を吹き飛ばし、放たれる銃弾や砲弾にはハルバードを力強く振って弾き、防ぐ技量は確実に強者の類のもの。

 

「ガーシャシャシャ!!!」

 

「この鮫野郎!!」

 

上空から飛び掛かってくるビック・マムの子供にも軽くいなし、胸倉を掴むと地面に叩きつけたその後に地面が凹むほど踏み抜いた。

 

「雑魚は沈んでいやがれ!! ―――永遠になァ!!」

 

メガローの身体に変化が起きる身体に腰から二股の尾ビレが生え体躯も20m近く巨大化した。身長だけでも巨人族並みに高く、人を丸のみにできる凶悪な牙を生え揃った大きな口を窺わせ、小さくなったビック・マム海賊団の兵たちを見下ろす。―――魔法で宙に浮きながらでだ。

 

「悪魔の実の能力者!?」

 

「〝ホエホエの実〟古代種モデル〝リヴィアタン・メルビレイ〟。俺はイッセーと出会いを経て最高の力を得た最強の魚人だ!」

 

地面に武装色で硬質と化した巨大な頭で突っ込んだその威力は、広範囲で地面にクレーターを作るほど誇っていた。更には―――地面に向かって海のごとく沈み泳ぐメガローは魔力で地面の質を変えながら自由に泳いで見せた。

 

「ば、馬鹿な・・・・・地面を泳いでいるだと!?」

 

「ガーシャシャシャッ!! さぁ、最高の殺戮のショーの始まりと行こうか 下等種族共!」

 

 

ギリューside

 

 

「はぁ・・・・・今のはメガローの仕業か」

 

既に獣型の姿でいるギリューはティラノサウルスの風貌に似た恐竜の姿で呆れ口調でため息を吐いた。〝リュウリュウの実〟古代種モデル〝インドミナス・レックス〟。それが口にした悪魔の実の能力だ。

 

「殺せ!!」

 

悪魔の実の能力者に対する戦い方を熟知している上官の命令に従って、チェス戎兵達はあの手この手でギリューを攻撃する。

 

「・・・・・ふん」

 

鼻で笑いギリューの身体が周囲の風景と溶け込んでチェス戎兵達の目から姿を消した。慌てて見つけようと探すチェス戎兵達を嘲笑うかの如く殴る、蹴る、尾で薙ぎ払い飛ばすギリュー。更には口からビームを出した。

 

「ギャアアアアアアアアアッッ!!!」

 

味方諸共、攻撃に巻き込んでしまってもギリューは大して気にしなかった。自分達は百獣海賊団の味方ではないので心にも痛まないのだ。

 

 

ガンヴァside

 

 

剛毛で覆われた巨大な体躯、四肢に長い鉤爪があり、尾は太く長い。二本足で立ち上がって鉤爪の付いた強い前足でチェス戎兵に攻撃する〝ジュウジュウの実〟古代種モデル〝メガテリウム〟の能力者、ガンヴァ。

 

「後ろを狙え! こいつの動きは鈍いぞ!」

 

「そんなこたァ知ってんだよ」

 

舌を鋭くゴムのように伸ばして背後に立つチェス戎兵達を鞭の如く弾き叩く。

 

「だがな。あいつに悪魔の実の能力とは別の強い力を与えてくれた。最高だぜこの力は。ものにするのに時間は掛かったがな」

 

鉤爪に雷を帯びた風を纏うガンヴァ。それを駒のように身体ごと回転しながら一度振るうと飛ぶ斬撃と化して、刻まれたチェス戎兵は次に電撃を食らって倒れる。

 

「次は早く動けるよう特訓だな」

 

 

 

ヴェージside

 

 

「あの鮫野郎がっ!」

 

〝ワニワニの実〟古代種モデル〝デイノスクス〟の獣型姿で八つ当たり気味周囲に攻撃する。巻き込まれたチェス戎兵兵は無事では済まさず、魔力で地面を操作してチェス戎兵に当てる。槍のように回転しながらビック・マム海賊団のチェス戎兵を倒していくヴェージと対峙していた周囲のチェス戎兵は何時しかいなくなっていたが、己を見下すメガローと何時か絶対に決着をつけるという意欲の炎を燃やし、次の敵の所へと移動する。

 

 

セルバンデスside

 

「ふむ、まだビック・マム海賊団の戦力は上のようですな」

 

羽毛が色鮮やかな大きな鳥が、セルバンデスが〝トリトリの実〟古代種モデル〝アルゲンタヴィス〟の姿で空に留まって戦況を分析、その情報を他の味方に無線機のイヤホンで伝え、サポートに徹していた。

 

「個の強さも兵の数もビック・マム海賊団がまだ優っている状態。中々に手強いですねさすがは四皇と言うべきですか」

 

そんな誤算など一誠にとっては小さな誤差でしかないだろう。セルバンデスは悪天候の空を見上げながら悟った。

 

 

ウオオオオオオオオオオッッッ・・・・・!

 

 

明後日の方角から獣の咆哮と共に空から雷が落ちたを確認、自然で落ちた雷ではないことを察した。

 

「ヒナタさん。戦う決意をしましたか」

 

 

 

ヒナタside

 

 

「ううう・・・・・戦いを早く終わらせる・・・・・!」

 

そうすればこんな怖い戦いは終わって温かくて優しい時間を過ごせることができる。その思いからヤマトとロビンに見守られながら〝ネコネコの実〟幻獣種モデル〝白虎〟の獣型に変身した。

 

「皆の武器を、奪う・・・・・!!」

 

真っ白な毛並みから稲妻が発生してチェス戎兵から武器を引き寄せて巻き上げる。そして奪った金属の武器を生成、堅固な鎧、鋭利な金属の爪として身に纏った。更には空から雷の雨を降らせその中で暴れ回るヒナタは―――。

 

「―――オラオラァッ!! さっさとぶっ倒れやがれこの(ピー)がァッ!!!」

 

能力を使うと臆病の性格はどこへ行ったのやら、荒い言葉遣いと好戦的なまでの攻撃を繰り広げるのであった。メガローですらヒナタの豹変に驚愕を禁じ得なくて、「能力を使わきゃ下等種族だが、使えばおれより強ェ・・・・・小動物の皮を被った何かかよありゃあ」と感想を述べるほどだ。因みにそんなヒナタの戦いぶりをカイドウは見ていて愉快そうに笑みを浮かべていた。

 

「ウォロロロロロ・・・・・。イッセーの部下共はいい戦力だ。天龍と呼ばれてる小僧の配下なら、九頭龍とでも称してやるか」

 

本人が聞いたらなんだそりゃあ、と呆れていたところだろう。

 

 

ワオウside

 

 

彼は〝ヒトヒトの実〟モデル〝千手観音〟の能力による変身した姿でチェス戎兵を一網打尽にしつつ、武装色使いの幹部相手に手数が多い攻撃で圧倒している。ほぼ千の数の張り手やワオウも魔力で属性攻撃を放ってビック・マムの子供の幹部まで倒してる。

 

「早々に決着をつけ、安寧を取り戻さなくては」

 

 

荒ぶる炎の嵐、稲妻を帯びた嵐、 全てを凍てつかせる氷の嵐を具現化してみせている一誠は確実にビック・マム海賊団の戦力と兵力を削っていた。そこへ坊主頭でピアスを付け、肩口が異様に大きいファーコートを身に着けた男が、ビック・マムの息子シャーロット・ダイフクが身体をさすって人間ではない何かをベルトから出した。それの正体は矛を携えてる、超人系悪魔の実の能力〝ホヤホヤの実〟による召喚された魔人なのだ。

 

魔人を駆使して一誠に攻撃を仕掛けたが。案山子のように棒立ちな坊主頭の男の懐に飛び込んで刀の代わりに魔方陣から取り出した銃器で射撃した。

 

ドン!! ドン!! ドン!!

 

ゼロ距離で坊主頭の男を撃った。ただの銃弾なら反撃できるが、一誠が撃った銃弾は能力者の能力を封じる海楼石を加工した特殊な銃弾だ。

 

「な、なんだ・・・・・力が・・・・・!?」

 

魔人の姿が掻き消え、ダイフクが膝をついて焦りの汗を浮かべる。

 

「海楼石の銃弾だ。能力者にはかなり利くだろ?」

 

驚倒一色なダイフクを更に海楼石で加工した鍵穴がない拘束具を付けて放置する。不意に空を見上げると金棒を振るカイドウと黒い雲を乗って剣と髪を燃やしているビック・マムが衝突して戦っていた。

 

「他の皆も能力を使ってるみたいだし、おれも変身するかな」

 

空高く飛び、空中で真紅のドラゴンに変身した一誠を見たビック・マム海賊団は愕然の面持ちを浮かべて見上げ、百獣海賊団は絶対の勝利に歓声を上げた。

 

『ビック・マム海賊団。最初で最後の降伏勧告だ。今すぐ分かり易く地面に平伏して投降しろ』

 

さもなくば、と半数のチェス戒兵を魔法で空高く浮かせる。口内で一点に集中、圧縮した魔力を解放。極太のビームが極光の柱と化してチェス戒兵達へ走り直撃し煌めいたその刹那。空が真っ赤に染まるほど天候が変わり、地上は爆発で生じた余波によって、爆風が敵味方問わずおこぼれ町の家々など、なにもかも全て凪払っては更地にしたのである。唯一、農園は魔法の結界で守護されていたので無事だ。

 

「ウォロロロロ!!! いい破壊力だなイッセー!!」

 

それを心から楽しげに笑うカイドウ。対して唖然とチェス戒兵の消滅を見せつけられたビック・マムの子供達は言葉を失い、身体の浮遊感を覚えた時は、空高く己の意思に反して地面から浮かべられていたことに気づいた。

 

『次はお前達だ。その気になればおれ一人でお前らを消し去ることが簡単なことを、今分かっただろう?』

 

「・・・・・ッ!!」

 

『空中でも能力が使えるだろうが、おれはそれ以上の攻撃を以て凌駕する。ああ、一人ずつ問い詰めるが、一人断ったら指名した五人もれなく消滅するからそのつもりで。無論、沈黙は拒絶と見なして指名した十人殺す』

 

完全な理不尽極まりない脅しにビック・マムの子供達は戦慄を禁じ得なかった。大切な家族を、兄弟姉妹を犠牲になど言語道断。そんなことするぐらいなら己が犠牲にして守らんと―――そんな自己犠牲をする考えを持つ者は何人いるだろうか。

 

「お前、天龍!! おれの可愛い子供達に―――!!!」

 

「ウォロロロロ!! 黙って見ていろリンリン。これから面白いショーが始まるんだからよォ」

 

一誠に飛び掛からんとするビック・マムだが、カイドウに目の前を立ち塞がれて邪魔をされる。

 

『それじゃ、最初はそこの飴男。降伏するか否か、選べ』

 

呼ばれた男は周囲の視線を浴びながら逡巡してから口を開いた。

 

「選ぶ前に質問だ。降伏したら私達をどうするつもりだペロリン♪」

 

『知りたいなら降伏してみろ。そうしたら他の連中も興味を持って同じ選択をするだろうよ』

 

「ペロスペローッ!! わかってるだろうねェ!! 降伏なんてするんじゃないよォ!!」

 

恐い母親から怒声を投げられた。それは他の子供達にも降伏は許さないと言っているのと道理であり、死を選べと命令しているようなものだ。

 

「・・・・・降伏は、断るっ!」

 

『では、これから消滅する五人を選んでもらおうか。ただし、誰も選ばない選択は無しだ。もししたら、命の代わりにお前の大切な物を奪う』

 

「できるものならやってみせろッ!! おれ達はお前には屈しはしないぞ!!」

 

言質を取ったことで周囲の空間から鎖が飛び出してペロスペローと呼ばれた男を縛り上げ、身体に沈んだ。そしてさらには、一誠の双眸が妖しく煌めく瞬間を見た男がどんどん老けて、実際の年齢よりも年を取って老人となってしまったのだ。

 

『おれの能力で悪魔の実の能力を封じた。その能力を解かない限りは一生、お前の強みの筈だった悪魔の実の能力は使えない。そして、お前を老人にした。元の若さに戻すのもこの世界で若さを関係する悪魔の実と俺しかできない』

 

「っ!!?」

 

地面に降ろされたペロスペローは自分の能力を振るおうとしたが、本当に悪魔の実の能力が食べる前の自分だった頃のように、本当に能力を封じられてしまったことが判明して絶望した。百獣海賊団の兵士達に告げる。

 

『お前等、そいつは能力が使えない生身の老人だ。殺さず丁重にもてなしてやれ』

 

―――ニヤァ、と一誠の言葉の意図を察した者達は邪な笑みを浮かべ顔を青ざめるペロスペローに近寄る。身の危険しかない感じない現状に一誠に仰ぐ。

 

「こ、降伏する!! だから能力の封印を解いて元の若さに戻してくれ!!」

 

『それは無理な相談だ。お前が判断した選択だぞ? 命があるだけでもありがたいと思え。お前という犠牲がこれから同じことを問うこいつらの助けとなるのだから、心から感謝されることを喜びに思え』

 

死か能力を封じられ老人にされるか―――能力者にとって最悪な選択を問いと共に押し付けられるビック・マムの子供達の中に能力者はいないが、それでも全て拒否すると一誠の力によって―――老人にされてしまう。その現実に―――。

 

『さぁ、次は誰にしようか』

 

「「「・・・・・ッ!!!」」」

 

ビック・マムより質が悪すぎるッ!! そう思わずにはいられないが、今度は脚が長い長身の女が問われた。

 

『足長女、お前は降伏するか?』

 

「降伏などしない。老人にしたければすればいい。だが、覚えておけ。お前を倒しにカタクリが―――」

 

『四皇にもなれない格下の相手におれが負けるとでも?』

 

双眸がまた妖しく煌めいて足長女の身体が老人となった。それから続けて問い掛けたら、誰一人仲間を、家族を犠牲にせず己が老人となることを選ぶ選択をしていった。そして、とうとうビック・マム海賊団の幹部は全員老人だらけとなり、百獣海賊団の兵士から嘲笑の声を向けられる。それを見た大看板のジャック達は顔をしかめた。

 

「あの野郎、その気になれば世界中の人間を老人だらけに出来るのかよ」

 

「カイドウさんも防ごうがない」

 

「敵にすれば災害、いや人害になる」

 

後の九頭竜達は。

 

 

「ほう、年を取らせるならば若返らせることも可能なのでしょうか」

 

「四皇の幹部を赤子の手をひねるように無力化しやがった」

 

「あの男こそ世界最強だろ」

 

「他にも力を隠していそうだな」

 

「あれも魔法か・・・・・?」

 

「素晴らしい。無血で戦争を止められる力を持っていようとは」

 

「本気も出していないねイッセー」

 

「誰も敵わないわ、あれじゃあね」

 

「ヒャッハーッ!!」

 

 

一連の様子を見ていたカイドウは勝敗は決したとビック・マムに告げる。

 

「てめェの敗けだリンリン。お前も降伏しろ。もうお前が連れてきた幹部や兵は使えモンにならなくなったぞ」

 

「黙りなッ!! おれはまだ敗けちゃいねェよ!!」

 

『威勢いいなビック・マム』

 

空にいるカイドウの隣まで浮かぶ一誠。

 

『だが、下の奴らはともかくおれ達相手に勝てる筈がないだろ。というか、老婆をいたぶる趣味はないんだよおれは』

 

だから、と口にする一誠の全身が真紅の光に包まれカイドウに向かった。その光を浴びたカイドウの全身が全長百メートルとなり、一誠はカイドウの真紅の鎧状態となってビック・マムと対峙した。

 

『お前にも問おう。古代兵器顔負けの破壊力を持つおれ達相手に、勝てるのかビック・マム?』

 

「ウォロロロロロロロロ!!! イッセー、お前の力は最高じゃねェか!!!」

 

金棒を天に向かってかざすカイドウに呼応して雷雲が金棒に雷を落とした。更には炎も纏いだし紫色の炎雷の金棒と化した。

 

「残念だったなリンリン。これで終いだ」

 

「そんなモン、当たるワケが―――!!?」

 

回避しようとするビック・マムを予想していた一誠が彼女の持つ剣と太陽と黒い雲を消失させたことで、真っ直ぐ地面に落ちるしかできなくなったビック・マムをカイドウが追い打ちをかけた。

 

「〝炎雷 八卦〟!!!」

 

「!!?」

 

雷を帯びた紫焔の金棒が稲妻の如く振り下ろされ、ビック・マムを地面に叩きつけた。迸りながら天に昇る炎雷の柱はどこまでも伸び、それが大海賊同士の戦いの終幕を告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四皇ビック・マム海賊団を打倒し、それから一誠とカイドウと話し合いで百獣海賊団の傘下に加えることで話が決着した。無論、それを断じて否と拒むビック・マムの反応は予想済みだ。なので絶対に逆らえない状況化を作ることにした。一誠がビック・マムの(ソウル)を半分だけ抜き出し、それを専用の鳥籠に収めた。

 

「これに刺すと(ブスッ)」

 

「ギャアアアアアアアアアアアッ!!?」

 

「こんな感じに激痛を感じさせるから逆らえなくさせることができるぞ」

 

「それは壊すことはできるのか?」

 

「この鳥籠に入っている限りは絶対に壊れない。その方が魂を握られている実感を与えられるからな」

 

こいつ、鬼だ。とクイーンはそんな思いを抱いていると、一誠が振り返ってニコリと浮かべる笑みを向けられた。

 

「鬼だと思ったろクイーン。お前の魂も握ってやろうか? 優しく徐々に力を込めて痛みつけてやるぞ」

 

「そ、そんなわけねェだろ!! 絶対にするなよお前っ!! いいな、絶対にだぞ!!?」

 

「ふん、過剰にビビって情けないなクイーン」

 

「なんだとキング!! おいイッセー。この拷問好き野郎が魂を握られる気分を味わいたいそうだぞ!!」

 

「おー、そうかそうか。それじゃあやってやろうじゃん。クイーン、そいつを押さえておいてくれ。痛がる生意気でムカつく相手を見てみたくないか?」

 

「よしきた、任せろ」

 

「ふざけるな!!」

 

そんなおふざけも程々にしてから幹部達の命も握る為に半分だけ奪い、若さと能力を使えるように戻した後は新鬼ヶ島から追い出して―――数日後。再び一誠達は海へと旅立った。



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タイヨウと魚人、フィッシャー・タイガー

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それはとある島フールシャウトという島に寄り道した時の話。一誠とヤマトが冒険に出る目的の一つ、おでんを人々に食べてもらうこと。付き合ってくれるメンバーだけ同行してもらい、そうじゃない面々は船に残ってもらうことにした。外出用に四皇〝天龍〟として仮面を被ってヤマト、セルバンデスともう一人と大量の食器や箸とフォーク、巨大な荷台に乗せるための巨大な鍋を準備してから船から降りた。

 

「個人的にお前も残る側だと思ってたんだがメガロー」

 

「長時間待つのは嫌だからな。あと小腹が空いてんだ。おれもおでんを食いてェからついてきた」

 

ドシドシと巨躯の身体を支える足が前に運ぶ度に鈍重な音を鳴らすメガローは、荷台に乗せた事前に調理し終えたおでんが入ってる大きな鍋を見て言った。

 

「相変わらずの食欲だな。好物は海王類のステーキだっけ?」

 

「肉厚で食い甲斐があるからな。だからジジイの作るステーキは最高だぜ。あー、思い出すとますます腹が減ってきたァ・・・・・!!」

 

「もう目の前だから我慢しろよ」

 

人が住む家々の建造物が肉眼でも確認が出来て―――おれ達は絶句した。既に何者かに連れ去られた跡しかなく、住民達が人っ子一人も遺体すらなく姿を消していた。

 

「海賊の仕業か? だが、人の気配が・・・・・」

 

無傷で放置されてる建物を見回し、そして家の影から大きな人影が出て来た。赤い身体をした巨躯の胸に太陽のようなシンボルマークを掘った、人間ではなくメガローと同じ魚人だ。

 

「てめェ、タイガーか」

 

「メガロー・・・・・どうしてお前がここにいる」

 

「それはこっちのセリフだ。噂には聞いたがタイヨウの海賊団とかいう頭になっているんだってな?」

 

どうやら知り合いらしい。尋ねてみた。

 

「友人か?」

 

「そんなんじゃねェよ。同じ魚人街に住んでいた仲だっただけだ。俺からすれば地上に出て冒険する変わり者でおかしな奴だがな」

 

「そう言うお前は、昔から人間を見下していたのにどうして人間と行動をしている」

 

「ガシャシャ!! 下等種族でもおれァ気に入る人間ぐらいはいるってことよ」

 

鍋の蓋を開けて、おでんを食べようとするメガローを好きにして視線を下に落とす。幼い少女がタイという魚人の脚に引っ付いてこっちを見てくる。

 

「もしかして、この島の住民かその少女は?」

 

「・・・・・ああ、そうだ。この島まで連れて来た」

 

連れて来た? 元々は別の場所にいて目の前の魚人がここまで船に乗せていたということか。

 

「なんだ、意外と優しいんだな」

 

「違う、押し付けられただけだ」

 

「たとえそうだとしても拒絶できたはずだろ。案外お人好しなところもあるから少女に懐かれてるんだ。それが証拠だろ」

 

「ガシャシャ!! ヤキが回ったかタイ!!」

 

「黙れメガロー!!」

 

面白がって笑いながらおでんを食べるメガローと怒鳴るタイ。少女に器によそったおでんを差し出す。

 

「食べるか? 美味いぞ。熱いから少し冷めてから食べろよ」

 

「い、いただきます・・・・・お、美味しいっ」

 

「おう、タイガーも食うか? 美味いぜ」

 

「いらねェ。この事を船にいる連中にも伝えなきゃいけねェんだ」

 

魚人族だらけの船かな? おれも見てみたいな。・・・・・無理かな?

 

「タイガー、と言ってたな。おれはイッセー。これからこの少女をどうするか訊いてもいいか?」

 

「イッセー・・・・・その仮面は見覚えがある。マリージョアを暴れ回って奴隷達を解放したっていう四皇か」

 

「お、知られていたか。人権を奪い人間を奴隷にする天竜人が嫌いだからついでに半殺しをして解放したんだがな。これから今後もするぞ」

 

「・・・・・」

 

凄く警戒している目で見られるが、こっちはおでんの処理をどうしようか悩まなきゃいけない。

 

「あ、そうだ。もしよかったらお前ンとこの仲間におでんを食わせてくれないか? メガローでも食いきれないからさ」

 

「そういうことならおれが持っていってやるぜ。タイガーとは久方ぶりに話してェからな。いいだろ」

 

珍しく提案を物申すメガローにナイス!! と心中で称賛した・

 

「よし、他の海賊の魚人族と触れ合う口実が出来た!!」

 

「おい、おれは許したつもりはないぞ。ついてくるな」

 

「海賊相手に遠慮する必要がどこにあるんだっけメガロー」

 

「ないな!!」

 

そんなこんなで半ば強引に船に戻るタイガーと同行することに決めた。肩を並べて歩く二人の背中を見つめているとセルバンデスが顎に手をやりながら不意に口にした。

 

「魚人族のタイガー・・・・・もしや」

 

「どうしたのセルさん」

 

「三年前、イッセー様がマリージョアを襲撃する前よりも天竜人から奴隷達を解放、マリージョアを大暴れした者がいたのです。その者の名前はフィッシャー・タイガー。彼であることは間違いないかと」

 

「「!!」」

 

その情報はヤマトと一緒に知らなかったおれは驚嘆の念を吐いてタイガーを改めて見つめた。確かその名前・・・・・ハンコックから聞いたのと一緒だ。まさか、その人物とこの場で出くわすとは・・・・・。

 

 

―――ガチャッガチャッガチャッ!!

 

 

無数の銃がおれ達を囲むように付きつけられる。そうした者達は―――海軍の海兵達、そして縦に伸びる長い髪の海兵の上官。

 

「私は海軍本部ストロベリー少将。キミがこの島に来ることはある島の者から報告を受けている」

 

「―――――」

 

絶句している様子のタイガー。待ち伏せされていたとは思わなかったんだろうな。おれもその一人だったが、それはどうやら向こうも同じだったようだ。ストロベリー少将がおれにも話しかけて来た。

 

「よもや、タイヨウの海賊団だけでなく四皇天龍までこの島に来ていたとは予想外だ。だが、絶対の正義の名の下に・・・・・」

 

「一つ聞いていいかストロベリー少将」

 

話を遮ってまで訊きたいことはただ一つ。

 

「この島の住民はどこにいるのか知っているなら教えてくれるか? この少女は関係ないと思うが」

 

「ああ・・・・・世界政府が『世界徴集』を行った故にマリージョアへ運送された」

 

「「「!?」」」

 

「すべては世界貴族、天竜人のためだ。そしてそこの少女も『世界徴集』の対象者でもある」

 

「なんだと・・・・・!!」

 

怒気を露にするタイガーに天竜人のところへ連れ戻されることを少女は酷く怯え、タイガーのズボンを強く握り締めた。まさか、天竜人の奴隷だったのか?

 

「元々は天竜人の所有物だ。海賊から取り戻して何が問題ある」

 

・・・・・つまりは今マリージョアへ行けば奴隷達がわんさかいるってことか。そしてそれをこの場で告げておれ達に倒される前提でしているならば、おれを釣るためのエサかな?もしそうならお前等海軍の考えがよくわかったよ。だが敢えてそれに乗っかってやる。

 

「でもな。おれは人の人権を奪う奴等は嫌いなんだよ。たとえ誰であろうともな。お前、おれを怒らせない方が賢明だぞ。龍の逆鱗を触れていいものじゃない」

 

「正義の為に犠牲はつきものだ。この場にいる我々がお前達に破れることになろうとも相手が巨悪だろうと決して屈しはしない」

 

「なら問おうかこの場にいる海軍!! お前等の家族も喜んで正義のための犠牲に天竜人の所有物として差し出せるのか!?」

 

「・・・・・」

 

「それが正義のための犠牲とならば、お前達も自分の家族を犠牲にするべきだろう!! 天竜人を守るのが義務があれば尚更だよな海兵達!! 」

 

おれの問いに海兵達は誰一人答えなかった。ったく、シラけるなおい・・・・・。

 

「自分達が正義や秩序の為に命をなげうって全うする覚悟があるから、天竜人の暴走した権力に巻き込まれないから安心しているなら、それは大間違いだぞ。天竜人は海兵も見下し気まぐれでお前達にも矛先を向けるだろう。一生奴隷としてな。それは少将のお前も例外ではないぞ?」

 

「そんなことは海軍の海兵全員が承知の上だ」

 

「へぇ? じゃあ、お前等を捕まえて天竜人の奴隷にしても覚悟が出来ているんだな」

 

海兵達から動揺の気配がこの時感じられた。

 

「今思いついた。今後見つけた海軍は全員、天竜人の奴隷にしてやろう。天竜人を守るのが義務なら、天竜人のご機嫌を取るのも海軍の義務だよなァ?」

 

「貴様・・・・・!!」

 

「一時の間だけ、お前等の記憶を封じて頃合いを見て封じた記憶を解こう。その頃は立派な天竜人の奴隷として生きているだろう。そして自分達が海兵だと主張しても連中は果たしてお前達を奴隷から解放するかな?」

 

「―――撃て!!」

 

ストロベリー少将の命令で海兵達は銃声を鳴らす。飛んでくる銃弾は全て、おれが途中で停止させて海兵に返した。敵に当たるはずの銃弾が自分達の身体を貫く、悲鳴を上げる海兵達はあっという間に戦闘不能に陥り、ストロベリー少将だけとなった。

 

「遠距離攻撃は通用しないぞ?」

 

「ならば、近接戦闘はどうだ!!」

 

上から飛び掛かってくるストロベリー少将。対応しようとする俺よりも動く巨体があった。

 

「食べた後の運動をさせてもらうぜ」

 

武器を持ってきていないがメガローは拳を突き出してストロベリー少将と衝突した。

 

「イッセー様。ここに海兵がいるとすれば・・・・・」

 

「だろうな。ということでタイガー、さっさと船に戻ってくれ。軍艦が迫って来ている頃だろう」

 

「お前たちはどうする」

 

「おれ達の存在は予想外だったみたいだから船への被害は多分無いと思うけど、心配だから戻る。後で勝手に合流するから無事でいろよ」

 

メガローにも声を掛ける。

 

「先に戻ってるぞメガロー」

 

「おうよ!!」

 

ついでに海兵の武器を回収っと荷台を引いて、少女を抱えて走るタイガーを視界に入れながら船へと戻った。軍艦の影は見当たらない。ヤマトが安堵した。

 

「よかった。無事みたいだね」

 

「さっきも言ったが、おれ達の存在は予想外だったみたいだからな。今すぐ出航するぞ。タイガーを助ける」

 

「うん!!」

 

船にいるギリュー達にはセルバンデスから伝えてもらい船を出航させる。全速前進する船は時間を掛けてようやく何かを取り囲んでいる数多の軍艦が捉えた。砲撃の音が聞こえてくる。やっぱりタイガーの船を沈めようとしているのか。船首が魚の船を見つけると、おれは船から飛び出し、空から手を突き出して魔法を使った。魚人族が乗っている一隻だけ残して他は海から高く浮かせ、逆様にしては海兵を海へ全員落としたらこっちに引き寄せる。タイガーの船は、どうやら捨てる気のようだ。そして陸から負傷したメガローが現れ船へ転移させる。その後、軍艦を奪った魚人達が島から離れる様子を見てヤマト達にその軍艦を追いかけてもらったら、浮かせていた軍艦はまた一隻のこして残りは新鬼ヶ島に転送しよう。百獣海賊団のちょっとした土産になるだろう。

 

 

 

「ざまァねェな鮫野郎。下等種族にボコられて戻ってきやがったのか?」

 

「ンなわけねェだろうが!! きっちり痛めつけてから戻ったんだよ!!」

 

「ああ、痛み分けという引き分けで終わらせたのか。イッセーから魔力を与えられたのに勝てないとはな」

 

「なんだとこの鰐野郎が・・・・・!!」

 

船に戻れば一触即発の喧嘩腰になっていた二人を見てため息を吐く。

 

「ヴェージ、メガローを煽るな。戦闘になればいくら強い力でも戦えば怪我ぐらい負うことは誰でもあるんだ。おれだってそうさ。それが弱さだというなら今度はお前も将校クラスの海兵と戦ってみろ。怪我したらメガローに対して人のことが言えないぞ」

 

「・・・・・チッ」

 

指摘すれば何も言い返さず不機嫌な顔でそっぽ向くヴェージから、セルバンデスに手当をしてもらっているメガローに意識を向ける。

 

「お前もご苦労だった。将校クラスはやっぱり強いか?」

 

「中々骨のある奴だったのは確かだぜ。魔力を使わずに戦ってこのザマだがな」

 

「戦い方は戦闘の度に変わっていく。それらすべてが経験となり強くなるのも道理だ」

 

「ガシャシャ!! 四皇様が言うと説得力があるなァ!!」

 

怪我しても元気があるメガローの視線は軍艦に変わった。

 

「それで、これからどうするつもりだ? タイガーを何時までも追いかけるわけじゃねェんだろ」

 

「ああ、もう次の行き先は決まった。―――天竜人に集められた奴隷達を解放しに行くぞ。これが海軍の、おれを誘うための罠だとしても助けに行かなくちゃな。まったく奴隷を集めるなって警告したのに無視しやがって・・・・・まだ恐怖感が足りなかったようだ」

 

「であれば、今度こそは天竜人に対して見せつけに何人か殺しでもしますか?」

 

ワオウがそんなこと言い出す。

 

「いや、そんなことしたら簡単すぎて意味がない。奴らには今まで奴隷にして来た人間達の憎悪と怨みを思い知らせる方法でないとダメだ。そうだな・・・・・魂を奪って脅迫観念を植え付けるか」

 

「なるほど、魂を介して痛めつけるのですね」

 

「人は恐怖よりも肌で感じる方が嫌がるもんだからな。いい嫌がらせになるだろうよ」

 

いや、それは嫌がらせどころの話じゃないって・・・・・。と心中で呟いた一誠とワオウを除いた全員だった。

 

「おい、お前等!!」

 

ふと、軍艦の方から声が掛かった。一人の魚人が甲板から催促の言葉を飛ばして来た。

 

「タイガーさんがお呼びだ!! メガローとイッセーという人間だけ話があるってよ!!」

 

「メガロー、問題は?」

 

「ねェよ」

 

手当は殆ど終わっており、包帯を巻いた痛々しい姿でもメガローは軍艦に赴く意を示す。一緒に軍艦の方へ乗り込むと負傷者だらけの魚人族達と、タイガーと幼い少女が食堂と思しき大量の椅子と長い机がある部屋に集まっていた。

 

「おい、あいつメガローじゃないか!?」

 

「同名の奴かと思ったんだが、あいつかよ・・・・・!」

 

「人間と一緒にいるなんて・・・・・」

 

「散々人間を見下していた奴がどうしてなんだ」

 

あっという間に同族のメガローが注目の的になった。

 

「お前、魚人街にいた頃なにしていたんだ?」

 

「別に何もしちゃあいねェよ。って、んん? そこにいるのはチビガキ共じゃねェか? ガシャシャ!! 懐かしいなおい!!」

 

鋭利なノコギリのような形状をした鼻の大柄な男と下顎から2本の牙を生やした大柄な男。後ろで束ねた髪、渦巻いた眉毛ともみあげが特徴で、着物の上に外套を羽織り下駄を履いている。その二人に対して言うメガローに問うた。

 

「どういう関係?」

 

「なに、ただのヤンチャ坊主共がちょっかい出して来たもんだからよ。逆に返り討ちにしてやった程度だ。こいつらはタイガーによく懐いていたがおれにはてんで懐かねェ可愛くもない奴らだったぜ」

 

「懐くかよアンタには!!」

 

「ワシらからすれば、お前さんは全ての魚人の恐怖の大王じゃからな。理由もなく街を破壊し、暇だからと魚人街や魚人島の者達を殺し回っておったその凶暴性は誰もが忌避し、恐れておったもんじゃ。じゃから魚人島から追放されたんじゃ」

 

そんなことしていたのかお前、と責めるような目つきで睨む。そんなおれに気にしていない風な態度で「そういやァそんなことしていたな」と風に昔のことを思い出していた。

 

「おれ、そんなことしていた奴を仲間にしてたなんて知らなかったわ。今更な話だが」

 

「ほんと今更だな。だが、どうでもいいだろそんなこと」

 

「まァな。昔の恐怖の大王とは思えない大人しい魚人しか見ていないからな」

 

その一言で信じられないと、メガローのことをした顎から本の牙を生やした大柄な男が言う。

 

「お前さん、この男が大人しいわけが無かろうて。暴れるのが生き甲斐じゃと何かを破壊しない日が無かったのじゃぞ。タイの大兄貴じゃなければ誰も止められんほどじゃ」

 

「あー、だから顔見知り以上の関係だったなわけね。納得したわ。お前、ほんと暴れ過ぎ。反省しろ」

 

「ガーシャシャシャッ!!」

 

笑ってごまかせると思うなよ全く・・・・・。

 

「話は済んだか」

 

タイガーが口を開いた。

 

「悪いな。メガローが懐かしい顔があったみたいで思ったより会話の花が咲いたわ」

 

「気にするな。そいつは大体、相手のことなんざ無視して毎度面倒事を起こす奴だ」

 

「そうかよ。それで、本題はなに?」

 

「まずは礼だ。海軍から逃がしてくれて感謝する。おかげで軍艦を奪いやすくなったからな」

 

気にするな、と手を振って示す。

 

「これからどうする気だ。その少女の今後についてだ。天竜人の奴隷に親が連れ去られたんじゃどうしようもないんだろ?」

 

「ああ・・・・・もうしばらく一緒にいることになるだろう」

 

「それが賢明だろうな。海軍もまさか小さな少女を狙ってくるとは思わなかったし、お前達が守らなきゃならなくなったしな」

 

まァ、ここの魚人達と馴染んでるみたいだから安心だろう。

 

「ニュ~、残念だなコアラ。せっかく故郷に帰れたと思ったのに・・・・・」

 

「連れ去られた後じゃ、おれ達にはどうしようもない」

 

「その代わりにおれ達とずっと船にいられるな!! 寂しい思いはさせないぜ!!」

 

実際に本当に仲が良い関係を築いていた。何気に強かというかまだ幼いのに凄いな・・・・・。

 

「タイガー、話は終わりか? おれは船に戻るぞ」

 

「礼は要らないのか。この軍艦の積み荷や宝でもいいぞ」

 

「これからマリージョアへ行くつもりだからな。のんびりはできんのさ」

 

「警備が強化されていると聞く。簡単には奴隷達を解放できないぞ」

 

「問題ない。遺憾だがおれは四皇の一人だぜ。その程度なら大したことじゃないさ」

 

ポンとメガローに触れる。

 

「気が済んだら船に戻って来いよ。あと暴れるなよ」

 

「分かってる」

 

「・・・・・メガローを置いていくのか」

 

え”と魚人達の顔色が一斉に変わり、心底嫌そうなだったり怖いものを見る目で見るようになった。

 

「タイガーと久しぶりに話がしたいって言っただろ? なに、迷惑するようなことしたら呼んでくれ」

 

「いるだけでトラブルを招くから連れて行ってくれないか」

 

「メガローさん?」

 

今度はちょっと、本当に一回ぐらい謝れよお前コラ!! と怒気を込めて笑顔を浮かべるとメガローはおれから逃げるように顔を逸らしやがった。

 

「あのメガローが・・・・・」

 

「なんなんだあの人間は。奴を圧倒してやがる」

 

「何となくじゃが、大人しくしている理由が分かった気がする」

 

結局、メガローを連れてはタイヨウの海賊団とすぐに別の道に航海することにした。タイガーが心底から迷惑がられちゃしょうがないからな。

 

「さて、メガローの傷が完治したら天竜人を半殺しに行くぞお前ら」

 

「マリージョアへ向かうつもりですか?」

 

「そうだ。でも、今回は朝っぱらからじゃなくて夜中に忍び込んで解放する手段で行く。警備がどう強化されているのかまだ知らないからな。三大将の誰かが居ついてもおかしくもないから調査もする。ギリュー、お前も頼んでいいか?」

 

「わかった」

 

「イッセー、僕達は?」

 

「調査が終わるまで待機だ。まず面倒な大将を無力化しなくちゃ厄介すぎるからな」

 

 

そう決め合ったおれ達は夜になるまで待った―――。

 

 

深夜―――。

 

夜の帳が降りて夜中に警備をしている兵を除いて全員が夢の中へ旅立っている時間帯に、マリージョアへギリューと侵入した。分身体を大多数作って天竜人がいる居住区にいる警備兵は出会い頭に魔法で眠らせて無力化にし、警備兵に変身して異常が何もない風に装う。しかし、破壊し尽くした建物をこんなに早く復興させるとは・・・・・。

 

「さて、警備が強化されている話だが・・・・・あんまり変わってないのか?」

 

あまりにも拍子抜け過ぎる。これも罠だろうか? そう思うおれは時間を掛けてすべての奴隷達の把握をし後からヤマト達を呼んで奴隷達の対応をしてもらう。

 

「セルバンデス。お前の国に奴隷達を住まわせていいか」

 

「構いませんとも。少なくなってしまった民の国に住みついてくれる人がいるなら歓迎いたします」

 

「よし、なら始めるぞ。奴隷解放だ」

 

 

海軍本部―――。

 

 

「げ、元帥!! センゴク元帥!! い、一大事でございますッ!!」

 

寝室で寝ていたセンゴクは叩き起こされ、ただ事ではない事態が起きていると察しながら耳を傾けた。

 

「何事だ・・・・・」

 

「聖地マリージョアに火の手が回っております!! 襲撃が受けていると思われます!!」

 

「っ―――何だと!? まさか、天龍か!! 他に報告は!?」

 

「以前ありません!! 既に壊滅状態であると思われます!! 天竜人の安否は未だ不明です!!」

 

してやられた、そう思わずにはいられないセンゴクは報せに来た海兵に、聖地マリージョアへ出航する準備が出来次第、救援しに行くよう指示を出した。

 

「軽々と襲撃してくれるっ、おのれ天龍・・・・・!!」

 

その報告を受けた頃には聖地マリージョアは火の海が広がっており、また十字架に張り付けられ魔法で老人にされた天竜人の魂を抜き取り、命を握っていることを実感させていた。『世界徴集』で奴隷として集められた奴隷達はセルバンデスの国に繋がっている空間の穴へと続々と潜っていく。

 

「お前等、本当に懲りない奴等なのがよくわかった。だから決めたよ。―――ここを滅ぼすわ」

 

「ふ、ふざけるなだえ!! そんなこと神である我々が許すとでも―――!!」

 

「許可なんて必要か? それと知らないだろ。神は反逆される立場でもあるんだぜ?」

 

不敵に物申す一誠がそう言っている間にも海軍が赤い土の大陸(レッドライン)を挟んで2つ存在する巨大な港、赤い港(レッドポート)からシャボン玉で飛ぶリフト『ボンドラ』によってマリージョアへ出入りしようとしていた。しかし、それぞれそこにはガンヴァ達がいてリフトの綱を切り落として、魔力でリフトを破壊、マリージョアへ上がって来られないように阻んでいた。リフトの壊れ様を確認した後は撤退。

 

「駄目です、赤犬さん!! リフトが落とされていて我々がマリージョアへ昇ることが不可能になっております!!」

 

「天龍め、こざかしい真似をしよってからに・・・・・!!」

 

「これじゃあ海兵達がいけれないねェ~・・・・・」

 

「おれが氷で道を作ろうが乗せて上に運ぼうが、直ぐには着けれねェなこれは」

 

大勢の海兵、将校、大将達も現地にいて修復しないと出入りできない状態になっているボンドラの前で立ち尽くしていた。修復するにも相当の時間が用意て、今日中にマリージョアへ昇ることは不可能な状態に焦らされている。

 

「じゃがそれしか方法がないんじゃ。さっさとやれクザン」

 

「はいはい、わかってるよ」

 

アイマスクに青いシャツに白いベストを着用した長身の男の手が氷に覆われ、そして一瞬で大人数でも乗れる氷の足場を作り出した。急いでそれに海兵達が乗るとクザンと呼ばれた男は氷の足場を真上に伸ばして運ぶ。

 

「―――サカズキさんがマグマで赤い土の大陸(レッドライン)の中を溶かして道を作るもんだと勘繰っていたんだが、まさか氷で運ぶとは予想外だな」

 

一行を乗せた氷の足場を支える柱を袈裟斬りで両断。間も置かずに赤い土の大陸(レッドライン)から遠ざける蹴りで吹っ飛ばした。

 

「貴様っ、天龍ゥ~!!!」

 

「制空権確保している以上は、これ以上先には行かせないぞ」

 

天使の姿で海へ落ちる海軍達を見下ろす一誠が現れたことに、大将達は黙ってはいなかった。

 

「〝八尺瓊勾玉〟」

 

空中に移動し、両手の指で作った円から無数の光の弾丸を雨のように発射する。

 

「〝大噴火〟!!」

 

拳を巨大なマグマに変化させ、噴出する。

 

暴雉嘴(フェザントベック)!!」

 

雉型の巨大な氷の彫刻を作り出し、相手に突進させる。

 

と三人はそれぞれ離れた相手へ攻撃した。しかし、それらは全て歪んだ空間に吸い込まれ―――自分達の真上に広がった空間の穴から三人の攻撃が飛び出して来た。氷の大地は砕かれ、マグマで溶かされ、とうとう足場が完全に崩壊して海兵の中で厄介そうなクザンをマリンフォードまで転移させたことで、彼等がマリージョアへ辿り着く手段を奪った。

 

「俺に飛び道具やその類の攻撃は一切通用しないぞー」

 

「おのれ、おのれェ~~~~~!!!」

 

暗闇の海へ落ちる海軍一行。能力者は沈むしかないが、ボルサリーノだけは無事に港へ光速で移動したので無事だった。

 

「本当にキミは厄介すぎるねェ~・・・・・クザンはどうしたのか教えてもらってもいいかなァ~?」

 

「マリンフォードに送った。それじゃ、また会おうなボルサリーノさん」

 

「また会ったら捕まえるよォ~」

 

できるならやってみろ。そう言い残して光と化した一誠は眩い閃光と共にボルサリーノの前から消失した。一緒に落ちた海兵によってサカズキは海から引き揚げられたが、任務は失敗に終えたことは確かである。

 

その後―――。

 

セルバンデスが暮らしていた国は海賊の襲撃を受ける前よりも人が溢れ、心に傷を負った者同士助け合って明日を生きようと、タイヨウの海賊団のマークとは違う掲げた太陽のシンボルマークの旗の下で誓った。

一誠の意思で誰が奴隷だったかを分からなくするため、奴隷全員が奴隷の烙印の上から太陽マークの焼印を入れて―――。

 

 

 



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海軍の英雄との邂逅

『聖地マリージョア消滅 犯人は天を恐れず天を地に平伏さん者 四皇天龍』 『一部を除く天竜人が全員老人に』 『未知の病か呪いか』

 

世界中に報せられる新聞の記事を読んだ人々は皆震撼した。これで三度の天竜人襲撃事件が行われたのだ。直接政府を本気で倒さんとしている姿勢でいるという事を誰もが悟ったのである。ある者は畏怖し、ある者は尊敬、ある者は恐怖、ある者は感謝をした。

 

 

 

そんな記事を読み終えてからヤマトと海へ飛び出し一年が経ち、現在東の海を航海し続け一ヵ月以上は経ったと思う。海賊船や海軍の軍艦と出会わず穏やかな時間が過ぎていくばかりだが、各々は退屈な時間を過ごしていなかった。絶えない喧嘩の声、模擬戦、読書、料理作りなどなどしている日々の中、人の気配がする島へ辿り着きそこへ上陸した。

 

「おーい、島の人に酒場の場所を教えてくれたよー!」

 

「到着して早々に行動が早すぎるぞヤマトのやつ」

 

「一番楽しみにしていたからな」

 

上陸して直ぐ酒場に行くことになったが、優先すべきことはないので酒場の料理を食べることにしたおれ達。ヤマトの先導で目的の場所へ足を運んで先に扉を開けて中に入る彼女に続いて入ると、中は大賑わいを醸し出していた。その中に交じらせてもらい、久しぶりの島の食事をたくさん食べた。

 

「お姉さん、この島に村はここだけか?」

 

「他にも村がいくつもありますよ。山の奥には貴族様たちが暮らしている国もあります」

 

「へぇ、散歩がてら見てこようかな。中に入れそうもなさそうだったら」

 

「近づかない方がいいですよ。捕まって何されるかわかりませんからね」

 

そう言われて興味を持つ仲間がいるんだよなァ。そう、酒場を後にしてすぐに山の方へ指すヤマトが言ってくるわけで。

 

「イッセー、山の方へ行ってみようよ!」

 

「うん、ステイだヤマト。山は逃げないからちょっと待とうか。買い込んだ酒を船に運ぶから」

 

「食料も念のために大量に確保した方がよろしいかと思います」

 

「んじゃァ、山狩りでもするか? 食える獣ぐらいはいるだろうから狩ってきてやるぜ。なんせここに大食いの極潰しがいるんで食料の減りが早いもんな」

 

「魚が区別できるのか怪しいところだ。おれが狩って来た方が無難だろう。腹に入れられるものなら何でもいいと誤って毒物まで集めかねないからよ」

 

「「ああ?」」

 

「村の中で喧嘩はお止めなさい。村人たちのご迷惑ですよ」

 

「・・・・・はぁ」

 

「私は船で留守番するわ」

 

「あ、あの・・・・・私も留守番します」

 

「暇だから俺も山狩りしてくるぜ」

 

留守番する2人と山狩り、その付き添いをする5人と山中を探検する3人と別れることになった。山狩り組には動物を絶滅するまで絶対に狩り尽くすなと言っておかないと、喧嘩しながら張り合いそうだからなこいつらは。

 

そんなこんなで山中を探検するおれとヤマトにギリューが同行することになった。おれたちの傍に歩かず影から護衛に徹するギリューだが島を歩けばいつものことなので放置する。

 

「いつも思うんだけど、ギリューはどうしてあんな格好をしているんだ?」

 

「忍者に憧れてるからだ。だから本物の忍がいるワノ国から来たおれ等を護衛に徹して忍になりきってるんだよ」

 

「えっ、ギリューって仲間になった理由ってまさか・・・・・」

 

「ワノ国に忍術を駆使する忍と会わす条件で、あいつが孤独に生活していた島から連れ出した」

 

まぁ、本人は自分の意思で居たようだけど井の中の蛙大海を知らずな悪魔の実の能力者だから、交換条件として仲間になってもらった。

 

「今度、ワノ国に戻ったら狂死郎にはギリューに忍術を教えてもらう忍者を探してもらおうかなー! うちに忍術が使える仲間は心強いからなー!」

 

お・・・・・気配が変わったな。まだまだ忍者になり切れてないぞギリュー。

 

「それにしてもヤマトと2人きりになるのは久しぶりだな」

 

「そうだね。仲間が出来てからイッセーとだけいることは殆どなくなったからね」

 

「今ならイチャイチャできるけどどうする?」

 

「イ、イチャイチャ・・・・・ッ!! って、イッセー・・・・・・誰か来るよ?」

 

彼女の腰に腕を回して言ったら顔を赤らめるヤマト。でも、俺たちやセルバンテスたち以外の人間がやってきたようだ。ラフな格好をした白髪で白いひげを蓄えてる初老の大男。でも、ただの老人とは思えない生命力、オーラ、そして強者の風格を感じる。

 

「村の人かな」

 

「いやー、あんな一般人がここにいるとは思えにくいな。絶対孫がいたら鉄拳制裁をする怖い爺ちゃんって感じがするんだもんよ」

 

「誰が鉄拳制裁をする怖い爺ちゃんじゃ。初対面の相手に随分と言うではないか若造が」

 

あ、聞こえてた。「でも実際は?」と訊いてみたら、老人は不敵な笑みを浮かべながら握り拳を見せつけた。

 

「はん、相手がワルガキだろうが悪党だろうが誰であれワシの拳で懲らしめてやるわぃ」

 

「当たってた」

 

第一印象って、そうじゃない時もあるけど案外見た目通りになるんだよな。

 

「お爺ちゃん、奥に何かある? 観光スポットとか」

 

「こんな島にそんなもんないわぃ。あったとしても山賊共の根城やゴア王国っていう胸クソ悪い国があるだけじゃ」

 

「胸クソ悪い?」

 

「行ってみりゃあ判る。ああ、山賊共には手を出すんじゃないぞ。ワシの孫を預けておるから孫に何かしたらただじゃおかんからの」

 

孫? ・・・・・いや待て、今なん言った?

 

「本当に孫がいた!? というか、山賊に自分の孫を預けるってどういう神経しているんだ!? 親はどうした親は!」

 

「はん? なんか言ったのかのぉ~?」

 

耳が遠い老人のように耳に手を添えて訊き返してくる目の前の老人・・・・・。

 

「・・・・・ヤマト、孫が山賊になっても気にしない老人だこの人」

 

「いや、山賊の人たちの中に親族でもいるんじゃないのかなイッセー」

 

「いないだろ山賊が身内って。じゃなきゃ悪人を鉄拳制裁するって言わないだろ。山賊の連中とこの老人、絶対に逆らえない上下関係で築いてるって」

 

「力関係で脅して? でも自分の孫を山賊たちに預ける意味あるかな?」

 

「環境が環境だから・・・・・悪ガキのまま成長するんじゃないか? 山賊のもとで育てられたらとてもじゃないが子供に悪影響を与えるだけだろ」

 

と、本人の目の前で老人の育成は正しくないと言ってやったら、当たったら痛そうな拳骨が迫って来た。ヤマトと同時に躱したら背後にあった木がへし折れた。

 

「また好き勝手に言ってからにぃ!」

 

「事実を言われて逆ギレかよ!!」

 

「うるさいわぃっ!! しかもお前たち、イッセーとヤマトと言ったな・・・・・片や四皇と片や四皇の小娘が東の海に来ておったとは何という偶然じゃ」

 

「・・・・・もしかして、海兵?」

 

何となく訊ねて見たら老人は自分の両手の指の骨の関節を鳴らし始めた。

 

「ああ、そうじゃ。ワシは海軍中将、ガープじゃ」

 

「ガープ・・・・・モンキー・D・ガープ? おいおい、ゴール・D・ロジャーとレイリーさんを幾度も追い詰めた海兵かよ」

 

「やはり冥王レイリーと会っていたようじゃのシャボンディ諸島で。お主等、この島に来て何を企んで居る?」

 

「「ただの観光」」

 

2人で揃って言う。暴れる気も人間たちを殺戮し回るつもりも毛頭もないからな? そこだけはどうか信じてほしいものだ。

 

「観光じゃと? カイドウと同盟を結んだ天龍がただの観光で島に寄ったというのか」

 

「別に俺は海賊でもないんだ。食料の調達やその島の珍しさを見聞するため島に寄って何が悪い? まぁ、カイドウから強い海賊には勧誘しろと言われてるけどさ」

 

「ここでお主等をとっ捕まえたほうが少しは平和になるるじゃろうて・・・・・」

 

「孫がいるところまで戦火を広げたいのか?」

 

目元を僅かに動かす反応をするガープ。身内のことになると黙っていられない家族愛があるようだ。

 

「誓って言うさ。島の住民には手を出さない。人の命を奪う行為の意味でな」

 

「それをワシが信じるとでも? 三度も天竜人に襲撃した悪党が」

 

「誰一人も命を奪わなかったぞ? それにおれが悪党なら天竜人は極悪人だよな? 海兵のお前も守るべき無辜の人間たちを奴隷にする天竜人の言動を許すってのか?」

 

「・・・・・」

 

「もしそうなら―――自分の孫も天竜人の奴隷にされても受け入れるって言うんだな。下々の民は天竜人の所有物だと幼い女の子まで『世界徴集』をしようとした頭の髪が高く伸ばしてる将校クラスの海兵が言ってたぞ」

 

次の瞬間。さっきより速度が上がった拳が襲ってきて、首だけ躱したらもう一つの拳がうねりを上げながら、こっちの拳が本命だと言わんばかりに両腕をクロスして防ぐおれを殴り飛ばした。

 

「ぐっ!?」

 

海軍の英雄の一撃・・・・・老いていようとサイラオーグを思い出させる威力だなっ! 木々を薙ぎ倒しながらかなり吹っ飛ばされる身体に天使の翼を生やして地面を突き刺す。

 

「なろうっ・・・!!」

 

上空に飛び上がり、一気にヤマトの棍棒を殴り彼女まで殴りかかるガープの懐に飛び込んで仕返しに本気で殴りかかった。

 

「おらァっ!」

 

「!!?」

 

今度はガープが森の中を決河の勢いで木々をへし折りながら吹っ飛んで行った。すぐには戻って来れまい。その間に二人の安否確認する。

 

「イッセー!」

 

「ヤマト、無事か」

 

「う、うん。凄く強い人だ。押し負ける寸前だったよ」

 

「ギリューは」

 

「・・・・・ここに」

 

どちらも無事のようで安心したが用心を越したことじゃない。

 

「さっきの海兵がプライベートだろうと軍艦で来ているはずだ。セルバンテスたちにこの事を伝えて。警戒だけはするようにと」

 

「出航しないのか?」

 

「少し、俺たちが拳骨爺ちゃんと拳での語り合いをしなくちゃいけないだろう」

 

ほら、話している間にピンピンと元気そうな老兵が飛び掛かってきているし。

 

「よろしくギリュー」

 

「・・・・・承知した」

 

森の奥へ駆けていくギリューの気配を感じながら、俺たちの前にまた現れる海軍の英雄。

 

「ガープのお爺ちゃん。世界政府と海軍はまだ『世界徴集』を続けてるのか?」

 

「悪党に応える義理などないわぃ」

 

「じゃあ、天竜人なんていう人類の害や海でしかない権力の座布団の上に胡坐掻いているだけの輩を守ってる海軍は一体何なんだ? すぐ後ろに振り返れば悪党と変わらない言動をしているじゃんか。どうして見て見ぬ振り、聞こえない振りをしているのかさっぱり理解できないな」

 

殴りかかって来るガープの拳に拳で殴りつけ、流桜で弾き返す。

 

「ぐぬっ!?」

 

「はぁっ!」

 

すかさず棍棒でフルスイングするヤマトが空気の塊を打つように放つも、ガープはそれを拳で明後日の方へはじき返す瞬間と同時に武装色で黒く染まった両腕を、殴る俺に対応してきた。

 

「ぶっちゃけ言えば、天竜人という悪党を守っている海軍と世界政府も悪党に加担している、正義を建前にしている犯罪集団じゃん」

 

「ワシら海軍を犯罪集団だと・・・・・言いよるではないか小僧が。その口をワシの拳で黙らせてやる!!」

 

「はぁっ!」

 

すかさず棍棒でフルスイングするヤマトが空気の塊を打つように放つも、ガープはそれを拳で明後日の方へはじき返す瞬間と同時に武装色を纏った拳で殴りかかるおれに飛び掛かって来た。

 

「事実だろ。シャボンディ諸島で白昼堂々と人間が人間を売買している店の存在を知らないとは言わせないぞ。どうしてお前が言う悪党からそう言う人間を敢えて守らないのか言ってみろよ」

 

ガープは拳で返事をして来た。おれも拳で応じる。

 

「海軍は本当に青い海と世界を平和と秩序にしたいのか? おれは物凄く疑問なんだよな~」

 

「黙れ小僧。貴様が平和と秩序を口にするなど片腹が痛いわ!!」

 

「片腹痛いだと? お前は間近で見たことがあるのかよ。天竜人に奴隷として引き裂かれる人間達の光景をよ。あれが未来の平和と秩序だっていうならさ・・・・・本気で潰しにかかるぞ天竜人共をよ。それを守る海兵と世界政府もだ!!」

 

怒涛の殴り合いしながら叫ぶ。翼を刃と化して四方八方から切り刻む意思を込めて振るっているが、致命傷になるところは確実に防いでいる目の前の老兵の実力は疑いようがない。どの世界にも体を鍛えた老人はどうして強いんだろうか・・・・・。

 

「その前に、お前のこと試させてもらうぜ。天竜人に自分の孫が奴隷にされたらお前はどう動くのかをな」

 

「貴様ァッ!!!」

 

おっと、かなりのお怒りだ。でもま、それも直ぐに終わる。

 

「じゃーな。英雄ガープさん」

 

マリンフォードへガープが発動した転移式魔方陣に足を踏み込んだ瞬間に送り届けた。一日二日でこの島に来れるとは思えないから、こっちのやりたい放題だ。

 

「ようし、山賊のところに行こうか」

 

「本当にあの人の孫を天竜人の奴隷にするつもりなのかいイッセー」

 

「試すって言ったろ。直接本人じゃない方法でも他にもそういう認識させることはできるのさおれは。まず孫とやらの顔を見なくちゃ始まらない。あのガープが自分の家族が奴隷にされた気持ちを味わってもらわないと、本当の平和とは何かなんて知った風に言えないだろう?」

 

ワオウが現状を憂いているところだ、とヤマトの手を引っ張って山賊の根城へと足を運ぶ。道らしい道がない獣道に進みうっそうとした森の中を歩いて、木から木へと飛び移るギリューが戻って来る気配と少なくない数の気配が一か所にいるのを感じながら雑談を交わしていたら、木造の大きな造形物が俺たちを出迎えてくれた。

 

「あそこだな」

 

 

セルバンデスside

 

 

「英雄ガープ、まさかこの島に来ていたとは」

 

報せに来てくれたギリュー様の、イッセー様の伝言をお聞きした後に空から偵察を始めた所、寄港している軍艦が一隻発見しました。イッセー様のことですから英雄ガープを無力化にしたところでしょう。その事実を今だ海兵達は気付いていない様子・・・・・。

 

「今すぐ島から離れるつもりは無いなら、警戒だけしろというイッセー様の伝言は逆に気にするなと暗に言っておられるのでしょうな」

 

一先ずは山狩りしているメガロー様のところへ戻りますか。

 

「セルバンテス殿、軍艦はありましたか?」

 

「ええ、停泊しておられました。イッセー様の伝言通りに海軍のことは気にせずこのまま山狩りを続行いたしましょう。仮にこちらに襲撃してくるならばその時はその時で」

 

「軍艦の食糧を奪い取ってもいいんだがな。取り敢えずあの下等生物よりデケェ獲物を探さないとよ」

 

ズシズシと足音を立たせながらさらに山奥へと進むその背中を視界に入れつつ追う。

 

「軍艦の確認ついでに川がある場所を把握しました。恐らく何らかの生物はいましょう」

 

「おっ? そこはどこだ。あの野郎よりも早く案内してくれや執事」

 

「ワニがいらしたら、ステーキが最適でしょう。是非とも狩ってくださいませ」

 

「ガシャシャシャッ!! おう、狩ってやんぜ見つけたらな!!」

 

 

ヴェージside

 

 

あの鮫野郎よりもデケェ獲物を確保しなくちゃならねェのに、小せェ動物しか見当たらない!! クソがッ!!

 

「おい、そんな殺気立ってじゃあ動物共が怯えて出てこないって」

 

「してねぇッ!!」

 

「怒鳴ってる時点でしてるっての。と言うか考えてみろ、メガローの顔を見ただけで動物共は一目散に逃げて捕まえられないってことぐらいよ」

 

・・・・・確かに。ガンヴァの言う通りだな。

 

「んで、あいつはそれなりに遅い。お前等、競争して速かったのはお前だろ」

 

「鈍足のあいつより圧勝だったのは確かだな」

 

「(どっちも微妙だったがな)それにこっちがデカい獲物を見つけようが・・・・・」

 

ガサッ。

 

おれ達の目の前を横切る巨大な猪。だいたい5メートルってところか。

 

「向こうからこうして来てくれる機会もあるから慌てるなってことだ」

 

「ああ・・・・・そうみたいだなァ」

 

逃がしやしねェぞ猪・・・・・!! あ、待てコラァッ!!? ビビッて逃げるんじゃねェぞ!!!

 

 

 

ロビンside

 

 

山の方で爆音と土煙が幾つか昇ってる。大層激しい山狩りね。行かなくてよかったわ。

 

「みなさん、張り切ってますね。でも、海軍が気づいてしまうのでは・・・・・」

 

「そうね」

 

報せに戻ってきたギリューから海軍の存在。本格的に私達を捕まえにこようとするならば迎撃をしなくてはならない。船番も兼ねて残って正解ね。

 

「海軍が現れたら船を守らなくちゃならないけど」

 

「ま、守ります・・・・・っ。この船は皆の帰る場所だから・・・・・!」

 

「ありがとうヒナタ。私も頑張るわ」

 

でも・・・その頑張りをしなくちゃならないのは、たぶん近いと思う。

 

「ただいまー」

 

イッセーの声が聞こえた。随分と早い帰りだと思いながら三人を見て、イッセーとギリューが三人の子供を脇に抱える姿に素朴な疑問をぶつけた。

 

「どうしたのその子達」

 

「しばらく連れ回すことにした。英雄ガープの孫に初代海賊王ゴールド・ロジャーの息子というトンデモないモンを発掘しちゃったからな。ついでにこの島にいる貴族の息子付きだ」

 

・・・・・あのゴールド・ロジャーの息子って、とても信じ難い事実じゃないかしら。海軍も世界政府もまだ気づいていないかもしれない存在に私は驚嘆の念を抱いた。

 

「この島にモンキー・D・ガープが来ているのも何となく納得できるわ。海賊王ゴールド・ロジャーの息子を秘密裏に見つけて山賊に育てさせていたんだ。推測だけど恐らくゴールド・ロジャーがガープに自分の息子を託したんじゃないかな」

 

「海軍の海兵が海賊の頼みを聞くなんて・・・・・」

 

「でなければ、海賊王の息子を山賊に育てさせないだろ。ま、生まれてくる子供に罪はないけどな」

 

3人の子供たちを甲板に持ち運んだメガローが座っても壊れない巨大なソファに乗せた。さっきから静かだと思ったら眠っていたのね。

 

「この子たちを育てた山賊は?」

 

「演出の為に一撃だけ攻撃した。英雄ガープの孫が天竜人の奴隷になったらどう動くのか試してみたいからな」

 

「本当にするの?」と訪ねたら、彼は悪戯っ子のような笑みを浮かべた。

 

「いーや? そういう奴隷になった海軍の肉親がいるって事実という嘘を知ってもらいたいのさ。英雄ガープにな」

 

 

ガープside

 

 

どういう悪魔の実なのかマリンフォードに送られ天龍の若造にしてやられたあの後、もう一度フーシャ村に戻り孫たちを預けておる、見るも無残に破壊された山賊共の根城と包帯を巻いてる山賊たちを見て嫌な予感がしてならなかった。

 

山賊共の頭、センゴク達には言えん赤子の面倒を見てもらう条件で数々の犯罪を見て見ぬ振りしていた旧知の女に問い詰めれば、「お前の孫達を天竜人に渡す、ガープが来たらそう伝えろ」とワシに対する伝言を残して孫たちを連れ去ったという。

 

既にこの島から離れて姿を暗ましている相手に探しようがなく、マリンフォードにとんぼ返りしてセンゴクを介して今もなお『世界徴集』している天竜人の馬鹿どもに―――。

 

「なんじゃと、もういっぺん言ってみぃ」

 

「ダメだと言った。お前の孫が天竜人の奴隷になっているならば我々はどうすることもできん。元帥の私でも天竜人に交渉する権利もないのだからな。よもや、天龍がそんなことをするとは思っても見なかったが・・・・・」

 

ワシの願いは聞き受けれんと拒否するセンゴク。海軍は天竜人の手足のような組織、己が神のような存在として世界を支配した気でいるアホな連中に孫たちが奴隷として酷い仕打ちをされているはずじゃ。天龍の若造、ワシを試すというのはこういうことか・・・・・!!

 

「セ、センゴク元帥ィ~!!」

 

「何だ、騒々しい」

 

元帥専用の執務室に雪崩れ込むように入って来た一人の海兵が焦った顔で荒い息を吐きながら報告した。

 

「て、天龍がッ、単独でマリンフォードに現れましたッ!! しかも海兵の家族全員を天竜人に献上する、と襲撃しています!!」

 

「な、なんだとっ!?」

 

踵返して部屋から出てマリンフォードを見下ろせば、悲鳴と怒号がそこらじゅうから聞こえてくる原因である、背中から生える十二枚の翼で海兵の家族達を包む込むように捕らえてる数多の天龍の姿が視界に入る。捕らえられた者達は聖地マリージョアの風景が見える広場へと連れ去られて行く。

 

 

 

 

「そらそら、さっさと天竜人の奴隷の証を身体に焼き付けろ。そうしたらお前等の若さを戻してやるからな。おれは約束を守る男だから安心してどんどん連れて来る海兵の家族を全員もれなく奴隷にしてやれ」

 

天龍こと一誠は年老いた天竜人達を利用し、拉致した海兵の家族の身体に竜の爪の焼印を焼き付けさせていた。自分達の奴隷にさせる代わりに若さが取り戻せるという甘言に、最初は集められた天竜人の誰もが信用できず反発した。しかし一誠が数人の年老いた天竜人を若き頃の姿に戻すところを見せれば、他の天竜人は否が応でも従わずにはいられなかった。自分の若さが取り戻せる絶好の機会を逃したくない一心で、我先と海兵の親類の身体に押し付けるのだ。人間以下の証である天翔ける竜の蹄の焼印を。

 

「天龍、貴様ァ~~~!!!」

 

マリンフォードとここ聖地マリージョアと繋げている空間を潜って来る数多の海兵を率いて来たガープを始め、三人の大将とセンゴク元帥。

 

「一体これはどういうつもりじゃ!」

 

「どういうつもりもなにも、見ての通り天竜人たちに人材を提供しているんだが? お前達が知っているにも拘らず見て見ぬ振りをして聞かない振りをして、知らない振りをして来たことをな」

 

ッ!!?

 

「天竜人の下で働く人間は老若男女問わず、相手が貴族だろうと王族だろうと全ての人間は天竜人の所有物だと訊いている。なら、海軍に属する人間も全員そうだろう? その理屈であっているならおれは何も間違っていない行いをしている。責められる謂れはないぜ」

 

「それは屁理屈じゃ!!」

 

「んじゃ天竜人の下に集められた人間達は、自分達の意思で人間以下の証を身体に刻まれているのだと言うんだな?」

 

海兵達に向かって手を翳し、視覚では認知できない力で海兵達の上着のみ消し飛ばして上半身裸にする一誠。

 

「そう言えば海軍も天竜人の私兵だったな。ならさ、天翔ける竜の蹄の印をその身体に入れるべきじゃないか?」

 

「ふざけるなッ!! これ以上貴様の思い通りにはさせんぞ!!」

 

「いーや、無理だな」

 

意味深に言った一誠の言葉の後、天竜人達が異を唱えだした。

 

「手を出すではないこの愚か者ッ!!」

 

「貴様等のせいで元の若さを手に入れる好機を失ってしまうだえッ!!」

 

「そうざます!! この役立たず共!! 大人しく引っ込んでいるざます!!」

 

「我々の邪魔をするではない!!」

 

天竜人達があろうことか自分の若さを得たいがために天龍を守らんと海軍をけん制したのだ。これに海軍は浮足が立ち優越感に浸っている天龍の仕業だと気づいていても、天竜人に逆らうなどと海軍は出来る筈もない。センゴクは握り拳を作って発する声に怒気を滲ませる。

 

「貴様、天龍・・・・・!!」

 

「おれは戦ってもいいが、そっちは天竜人の命令に逆らってまで戦う愚か者はいるかな? もし間違って天竜人に負傷でもさせたら、そいつの一家は路頭に彷徨う方がマシな罰を受けるだろうから気を付けろよ~」

 

邪な笑みを浮かべ、挑発する一誠に対して海軍の方は憎たらし気に睨むしかできず、三人の大将達ですら天竜人に逆らえずただ佇んでいるしかできなかった。

 

「さて、天竜人のご要望を叶えないとな。マリンフォードに住まう海兵の家族を一人残らず差し出してもらおうか。もちろん天竜人に逆らう海兵はこの場にいないよな?」

 

「ッッッ!!!」

 

「因果応報だ海軍。今の今まで天竜人の玩具にされた人間とその家族の憎悪と悔恨の思いを、海軍にも知ってもらうぞ。それが嫌なら、天竜人をどうにかするんだな」

 

「天龍ッ・・・・・!!」

 

天下の天竜人を意のままに従わす天龍に海軍は、一人だけ、ガープだけが一誠に攻撃を仕掛けまたどこかへ転移させられて以降、マリンフォードに住まう海兵の家族を天竜人の強い要望により、奴隷として差し出してしまう。大切な家族が天竜人の奴隷にされた事実は海兵に酷く胸に苦痛を与え、青い海の秩序と平和を守る海兵の自分達の家族には奴隷にされることはない、という勘違いと幻想を二つの天によって最愛の家族を奪われたことで気付かされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と―――今頃慌ただしくなっている海軍本部の事が載っている新聞と共にあった、渾名と金額が更新されたおれの手配書からフーシャ村があった島から連れ出した三人の子供たちに視線を変えた。

 

「エース、サボ。お前らこっちにこい」

 

なんだよ、と言いながら左目の下に傷跡がある子供ことルフィまで来ておれの前に立つ。そばかすがある子供と帽子をかぶった子供に話しかける。

 

「お前らをしばらく連れ回すが、何時か島に返してやる。その間、この船で大いに海の旅を楽しんでもらうが、力がないままなのはいただけない」

 

二人の前に三つの悪魔の実を用意する。

 

「この悪魔の実を食べて能力を得るか、生身の身体で強くなるかはお前たち次第だ」

 

「これが悪魔の実? ルフィが全身ゴムになったっていう」

 

「それをおれ達にくれるのか?」

 

「別に食わなくてもいい。食べて強くなりたいなら一つだけ選んでくれ」

 

生身でも強くなれる保証はある。悪魔の実を食べて海に泳げないカナヅチになるリスクはあるが、海に落ちない場所でなら力を発揮できる。三つの悪魔の実を見て悩む二人は、エースだけが手を伸ばして食べることを選択した。

 

「まずっ・・・!!」

 

味に関しては知らんがな。

 

「食べたな。エースが食べたのは全身が火になる自然系の“メラメラの実”だ」

 

「それって、ルフィの身体がゴムみたいになるってことなのか?」

 

「そういうことになるな。でも、戦い方次第で負けるだろうから最強になった気分でいるなよ。ということで今から鍛えてやろう」

 

残った実を仕舞って三人をトレーニングができる異空間へと案内する。船に置かれてる大きなガラス玉に触れ、発する光に包まれながら中へと入る。どこまでも広がる草原に立った矢先に轟く爆発音が聞こえてきた。

 

「うおっ!? な、なんだいったい?」

 

「何時ものメガローとヴェージの喧嘩だ」

 

気にするなと言いながらそれぞれ特訓の内容を告げる。

 

「ルフィは全身ゴム人間だから腕や足を膨らませることができるはずだ。まずはそれを意識してやってみようか」

 

「エースは最初から全力で炎を放ってみろ。それから徐々に感覚的に炎による技を身に付けよう」

 

「サボ、お前は地道な特訓をしていこう。生身の身体でも、覇気ってのを扱えるようになれば悪魔の実の能力者相手でも問題なく戦えるからな」

 

それぞれ頷く三人とこうして鍛えることにしたのだった。



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空島と水の都

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次なる島を指す『記録指針(ログポース)』に導かれるように長い航海するおれ達はその途中、無人島に遭難していた大人と子供を保護して島に送り届けてからでおでんの日誌に綴られている『空島』へと向かった。

 

「まだ朝の時間帯なのにこの一帯の海域だけ暗雲。・・・・・おでんの日誌通りなら―――」

 

「全員、船の中に入るか何かに全力でしがみ付け!! 突き上げる海流(ノックアップストリーム)が来るぞ!!」

 

海中から爆発的に突き上がった莫大な量の海水の柱が天を衝くように立ち昇り、おれ達を乗せる船は海柱が発生した際に生じている突風に押し出されながら空高く天へ―――。

 

「着いた~!! 空島だぁ~!!」

 

歓喜に叫ぶヤマト。雲の上に島があるなんて、一部の人間しか知らない現実だろう。カイドウは知っていそうだな。

 

「雲の海ってんなら、泳げれるのか?」

 

「海底が無い海だぞ。泳げようと真っ逆さまに上空一万メートルから落ちるって」

 

「ガシャシャシャ!! そんなこともわからねェなんて馬鹿な下等種族だな!!」

 

「んだと!!」

 

だからそこで喧嘩するなよお前等・・・・・。

 

「セルバンデス」

 

「心得ております。この島にしかない物資を搔き集めましょう」

 

「ああ、頼む。ルフィ、エース、サボ。お前達も買い出しを頼むからな。セルバンデスの言うことは絶対に従えよ」

 

「「「わかった!」」」

 

おれ達が乗っても立つことが可能な雲に喜々と降りたおれ達は空島を観光するのだった。雲なのにふかふかな感触を覚えながら町へ赴く。どうやって作ったのか分からない登った階段の先にある建造物の光景と植物に大変興味を持ち、空島名産の食事を堪能し、空島の生活と文化を支えてる貝殻の(ダイアル)はヤマトと一緒に好奇心旺盛で触れて確かめ、たくさん手に入れた。

 

 

空島の住民の多くは、髪の一部を触角のようにした「天然アドバルーンヘア」(通称:天アド)という髪形をしている。挨拶は「へそ」。通貨単位は「エクストル」で、1万エクストルが1ベリーに値する。・・・・・なんで挨拶の言葉が「へそ」なのかは意味不明だが、(ダイアル)は本当に便利過ぎる。青海で養殖できないかな?

 

「さて・・・・・そろそろ行くとしようか」

 

「目指すは黄金の大鐘楼!!」

 

皆が集まり次第、船を出航させて神が住まう地である『アッパーヤード』へ向かった。空島にないはずの広大な大地へ。その全貌が肉眼でも捉えられる距離になれば巨大な森がおれ達を出迎えてくれた。

 

「空に陸があるなんてどういうことだ?」

 

「十中八九、突き上げる海流(ノックアップストリーム)によって空島にまで打ち上げられたんだろう」

 

「確か、この空島の下にはジャヤって島があったよね。じゃあ元々一つの島が超巨大な突き上げる海流(ノックアップストリーム)で二つに裂かれちゃったってこと?」

 

「辻褄が合うわね」

 

試しに空島へ寄る前に寄ったジャヤの地図とこの島の地図を合わせたら意外な事が判明した。

 

「ドクロみたいな島に見えるな」

 

「で、これからおれ達はどこに行くってんだ」

 

「おでんの日誌によればこのドクロの右目に黄金郷があり、天にまで伸びてる植物の先に巨大な黄金の大鐘楼があるようだ。おれ達はそれを見に行って大鐘楼を回収する」

 

「ワノ国に置くのか?」

 

船に置いてもおれは構わないが、どうするから見てから考えるとしよう。船を岸に寄せて錨で固定。神の島(アッパーヤード)に上陸するおれ達はジャングルの中を歩き冒険をする。なのだが。

 

「止まれっ!!」 

 

「ゲリラではないな何者だ!!」

 

背中に羽が生え、武器を持った衛兵らしき空島の住民達と出合い頭に警戒されてしまっている。

 

「青海から来た空島を観光しに来た一行でーす」

 

「ここはどこだか知っての侵入か!」

 

「青海にあった島の一部だろ? あー・・・・・名前のことなら神の島アッパヤードか?」

 

「そうだ。このアッパーヤードは我々衛兵や神しか許されぬ聖地である。青海の人間が無作法に入って良い場所ではない。早々に立ち去れ!!」

 

そう言われて素直に従うわけにはいかないんだが。・・・・・・ん?

 

「全員、警戒しとけ。巨大な何かが接近してくるぞ。」

 

「え?」

 

なんだそれは? という気持ちを露にするみんなからの視線を一身に向けられた時それは現れた。この空島で長いく生きただろう数百メートルは優にある巨大な蛇に対して、まず衛兵たちが襲われる。おれ達に構っているよりも超巨大ウワバミに専念しなければ喰われかねないからだろうが、これは好都合だ。

 

「よし、今の内に黄金郷に向かうぞ」

 

「あの大蛇は!?」

 

「基本的に無視だ。空から行くぞ!!」

 

魔法で全員を浮かし、目的の場所へと連れてひとっ飛びする。ウワバミと衛兵たちがこっちに意識を外している瞬間の好機は、例えこの場から離脱する姿を気付かれていようとあっという間に遠ざかってしまえば見失うだろうさ。

 

 

そして―――。

 

 

「すげェ・・・・・本当に黄金だらけだ」

 

「眉唾もんかと思えば、実在していたのか」

 

「長生きするものですね。よもやこのような光景を見られるとは」

 

黄金で出来た古代の建造物。所々に空島にまで打ち上げられた衝撃と永い年月で壊れている建物が目立つ。それでも、おれ達を圧倒させるこの光景は目に焼き付けさせるには十分すぎる黄金郷に辿り着いたのだった。

 

「さて、ここらで探検しよう。まだ残っていた財宝は見つけ次第回収だ。壊れた黄金の建物の残骸でも構わないぞ」

 

「先におれが見つけてくるー!!」

 

「あ、待てルフィ!!」

 

「抜け駆けすんな!」

 

先駆けるルフィ達に続き、他のみんなも散らばって探索しようとする。。

それから、皆が戻ってくるのを待っていれば黄金の財宝をたんまりと両腕では抱えきれない量を持ってきて来た。しかもまだたくさんあると言う。それは魔法で増やした分身体達に回収してもらい、おれ達はまた空を飛び巨大な蔓へ向かって移動を開始した。螺旋状に回りながら上へ上へと天辺まで登り詰めるのもあっという間で・・・・・。

 

「あれ、ない?」

 

これ以上先に進めないところで止まり、大鐘楼の影の形も見当たらなかった。

 

「おでんの日誌の日誌には、雲の上にあったって書いてあるのに」

 

「堕ちたか、鐘楼を乗せた雲が分離して離れてしまったかだが・・・・・ちょっと待ってろ」

 

皆から離れ飛ぶ。アッパーヤードを一周するようにぐるりと円を描きながら徐々に大きく回って動いたら、煌めく何かを発見した。そこに向かうと・・・・・おおっ、これか!!!

 

お目当ての物を見つけ創造の力で複製したそれを、魔力で雲から浮かせて引っ張るように皆のところへ戻ると、ヤマト達が感嘆の息を吐いた。

 

「凄い、これがそうなんだね!! なんて美しいんだ・・・・・」

 

「本当にあったとは驚きだ。これ全部が黄金で出来てるなんてな」

 

「見つけたならさっさと船に戻ろうぜ」

 

同感だ。船に戻るとしようか。またあのエンジェル島に行ってのんびりしたいしな。こうして無事に目的の代物を手に入れたおれ達は、戻った船でエンジェル島へとんぼ返りする。数日だけ過ごした後は―――。

 

「「「うわあああああああっ!!? 落ちるゥ~っ!!!」」」

 

ぎゃあああああっ!! と目玉と歯茎が飛び出てるガキんちょ達の絶叫を愉快に聞きながら、上空一万メートルからの自由落下して青海へ帰ったのだった。

 

 

旧ワノ国 新鬼ヶ島

 

 

青海に戻った後、お土産用に複製した黄金の大鐘楼をカイドウに献上してみた。どこに設置しようかと相談してみれば花の都の中心部に置けと言われたからその通りに置いた。既に久里へ移住を果たした花の都の住民達の代わりに百獣海賊団の団員達が入れ替わるように元住民達の民家を我が物顔で住んでいたり、海賊なのに商売をしていた。―――まぁ、そうするよう狂死郎に指示を出したんだがな。

 

『花の都の住人を全員、久里に移住させる!?』

 

『ああ、全員労働力として働いてもらうためだ。カイドウもそうつもりだろうからな』

 

『おぬし、それは無茶な話だぞ。一体花の都にどれだけの住人がおると思っておるのだ』

 

『逆だ。事前に住民を避難させるための移住なんだ。百獣海賊団の本拠地が花の都に移った今、決戦の場は一体どこになる』

 

『・・・・・花の都になるど』

 

『そう言うことだ。そして移住先は久里以外適していない。と言うか現状、花の都と久里、兎丼の囚人採掘所に希美のおこぼれ町にしか殆んど人が住める場がないんだ。環境的にも久里の方が個人的にいいと思っている。何よりここは旧おでん城があるところだ。ワノ国の原住民の心の拠り所にするなら久里が一番いいハズだ』

 

『『『・・・・・』』』

 

『それにお前たちの戦いはまだ終わってないんだろ。なら、カイドウを倒す刃を研ぐ時間があるなら命を守る方法も企てないと』

 

『・・・・・相分かった。仮の主君のお考えは否と答える理由はござらん。して、労働力にするというのは一体何をさせるのですか』

 

『これからワノ国は外国から人間が集まってくるだろう。それに備えて農業を中心に働いてもらいたい。ああ、採掘場の方は?』

 

『仮の主君のご命令通り、勤務と食事の改善を施しましたところ以前よりだいぶ良くなりました。何より私に対する支持と発言力は高くなり、あなた様から任された将軍の立場のおかげで採掘場の権利をクイーンからもぎ取ることが出来ました』

 

『おお、真か!! これで全ての採掘場にいる囚人達を何時でも解放できるということなのだな!!』

 

『戦力は多い方がいい。だが、武器はどうするんだど。武器が無ければ戦えん』

 

『それも考慮してある。な、狂死郎』

 

『ええ、既に動いております。カイドウが目指す海賊の楽園とやらを考慮した方法ならば、自然と誰の手にも武器を持てる環境にしてみましょうぞ。これも将軍の地位を代理として拙者に任せてくれたあなた様のおかげで事が順調に進めます』

 

『油断とスキを見せるなよ。監視をしてる忍者がいないとは限らないからな。カイドウと百獣海賊団の忠実な人間として動け。信用と信頼が人との付き合いにおいて最強の武器となる。相手が相手だから遺憾だろうがそれだけは忘れるな』

 

―――と、いう感じでこの光景を窺えば狂死郎の計画は順調だということが明らかだ。さて、大鐘楼を置く場所にあった家屋は思い出している間に百獣海賊団の団員達によって撤去されていた。事前カイドウに伝えたからか、黄金で出来た大鐘楼を一目見ようと百獣海賊団が集まってきて、感嘆や驚嘆の息を漏らしつつ魅入っていた。

 

「すげー、アレ全部黄金で出来てるのかよ」

 

「こりゃあ一部でも売れば高く売れるだろうな」

 

「バッカ!! そんなことしたらイッセーさんに殺されるぞ!!」

 

「よくこんな物を見つけるなんて。さすがにカイドウさんと肩を並べる四皇だぜ」

 

大鐘楼を設置し終えたおれは、ざわめく彼等に振り返って一言申す。

 

「この大鐘楼は鳴らしてもいいし、触っても構わないが、一部でも盗んだ奴は処刑するからそのつもりでいろよ。ドラゴンの逆鱗に触れる大馬鹿者がカイドウの部下にいることはないと思ってるけどな」

 

『も、もちろんですっ!!』

 

釘を刺したところで効果があるかは判らないが、取り敢えず大鐘楼を置く用事は済ませ、新鬼ヶ島を後にどこかの海に航海している船へと転移して戻った。

 

 

―――水の都ウォーターセブン

 

 

次に寄港した島は巨大な噴水が目立つ珍しいところだった。船でも通過できる広い水路に進む途中で、島民の人から停泊する場所を教えてもらった。島の裏側の岬に錨を降ろし陸地に足を運ぶ。

 

「みんな! 早く行こう!!」

 

「上陸するたびにヤマト様は嬉しそうですね」

 

「冒険をする事が夢だったからな」

 

誰よりもはしゃいで、誰よりも楽しむヤマトが先行していく後ろ姿におれ達も追いかけていく。

ヤマトが向かう先は事前に決め合った海列車の見学だ。新聞で島々へ続く海道に線路が敷かれ海の上に走っているかのように見える鉄の乗り物、列車が完成したことが載っていたからな。おれ達もそれなりに興味があったから一目見ようと思っていたんだが・・・・・。

 

 

わしはロジャーという男に力を貸したことをドンと誇りに思っている!!!

 

 

どーやらそれどころじゃないらしいな。

 

「あの野郎・・・・・」

 

何だか人の集まりが多い気配のところへ来てみれば、倒れてる負傷した魚人を取り囲む海兵と黒一色の服を着込んだ者達、彼等から遠巻きに見ている野次馬の一般市民達の姿を建物の屋根の上から見下ろしていると横から呟く声を耳朶が刺激した。

 

「メガロー、知ってるのか」

 

「顔見知り程度だ。すぐに顔を見なくなったがこんなところにいたのか」

 

「それ、魚人島で大暴れしたお前が追放されたから会えなくなっただけだろ」

 

あ、押し黙った。図星のようだなこいつ。しかしあの魚人がロジャーの船を造った船大工か。レイリーさんとも顔見知りなのは間違いないか。

 

「ん、あの魚人を助けにでも行くか」

 

「今からなら僕は行くよ」

 

「いや、こういう時はタイミングが大事だ。セルバンデス、エニエス・ロビーってのは?」

 

「司法の島の名前です。世界政府直属の裁判所がある「司法の島」で、ここ『偉大なる航路』前半にある別称不夜島(昼島)。あそこで罪を犯した者を裁判し判決を定められますが、一度も無罪放免された例外なく「正義の門」からタライ海流で大監獄インペルダウンか海軍本部に連行される」

 

タライ海流? それも聞けば、三角形の位置にある海軍本部マリンフォード・大監獄インペルダウン・司法の島エニエス・ロビーの間で流れる海流だそうだ。その海流に乗って航海すればその三つの場所に行き来できるらしい。

 

「しかし、マリンフォードとインペルダウンへ向かうには正義の門という巨大な門を通過せねばならないと耳にしたことがございます」

 

「海は広いのにタライ海流から抜け出せないのか」

 

「通常の船ではタライ海流を抗うことは不可能かと。船が空を飛ばない限りは」

 

ほほーん・・・・・船が空を飛ばない限り、ね。

 

「おい、どうするんだ。魚人の奴が運ばれていったぞ」

 

おっとガンヴァの言う通りだな。

 

「そんじゃ、さくっと魚人の救出してくる。皆はここで待ってくれ」

 

 

 

海賊王ゴールド・ロジャーの船を造ったとして極刑「死刑」を執行するために十年懸けて完成した海列車に乗せて連行されるという皮肉なことになってしまった世界一の船大工を救わんとする一人の弟子の少年が海列車に撥ねられてからしばらく。海列車が世界政府直属の裁判所がある司法の島エニエス・ロビーに到着した。罪人を裁判所へ連行する途中、二人の巨人が門番している門を通過して島の中心にまで海兵と世界政府の人間達が移動したところで―――。

 

「聞いたぜ、その魚人を死刑にするんだってな?」

 

空から訪問者が現れ地上にいる者達に声を掛けた。相手が誰なのかその姿を見てほぼ全員が仰天した。

 

「き、貴様は四皇の天龍!!?」

 

「なんでこの島に来ているんだ!!!」

 

「げ、迎撃をしろ!!! それとマリンフォードに至急に連絡するんだァ!!!」

 

慌てふためき銃を構える海兵達から発砲されても見えない何かに弾かれて天龍には通用しなかった。

 

「その魚人、死刑にするなら誰が殺しても同じだよな?」

 

「な、なんだとぉっ!!?」

 

「手を貸してやるよ。おれは優しいからな」

 

天龍がそう言うと天にむかって翳した掌に膨張を繰り返す火炎の球、それを放たれるその光景を見て海兵と役人たちが四方八方に逃げ出し、処刑するはずの魚人が無造作にその場に放置されたまま巨大な火炎球がエニエス・ロビーの中心部に落ち、天を衝く勢いで空へ舞い上がる炎の嵐が巻き起こった。

 

「龍の炎は全てを燃やし尽くす。骨すらな」

 

炎の嵐があった場所だけ黒く焦げ、業火によって焼失しただろう姿形もない魚人の火葬を最後まで見届けた後、天龍が光と化してエニエス・ロビーから消え去ったことで、遅れながらマリンフォードに天龍の出現の一報が送られ、自由過ぎる四皇天龍の行動が読めないことに元帥と海軍の英雄は頭を悩ませた。

 

 

「とまぁ、そういうわけでレイリーさん。預かってくれない?」

 

「もちろんだとも。大切な友を助けてくれて感謝するよ一誠君」

 

「世間的に死んだことになるだろうけど、魚人島に住んでもらうようにお願いできるか?」

 

「善処するよ。だが、否と言うのであれば私は彼の気持ちを尊重したい」

 

「んん~・・・・・しょうがないな。死ななければいいよ。あ、話は変わるけど。ロジャーの息子と一緒にいるんだけど会ってみる?」

 

「おおっ、あいつの息子か。本当に作ったのだな。是非とも一目見たい。何時か会いに行くよ」

 

「じゃ、待ってるよ」

 

 

密かに救出した魚人を頼れる元海賊王の副船長に預けウォーターセブンにとんぼ返りをした。すぐにヤマト達のところへ戻り姿を見せたらメガローが訊いてきた。

 

「あの野郎は?」

 

「頼れる人に預けた。元海賊王のクルーにな」

 

「ゴールド・ロジャーの? 誰だそいつは?」

 

「冥王シルバーズ・レイリー」

 

「生きた伝説の名があなたから聞くことになろうとは驚きましたな」

 

あてなく歩き回っていた仲間達と買い物したり食べたりして、客に扮して造船所に足を運んで大砲を見たりと回った。それとなく犯罪者というレッテルを張られた魚人が住んでいた場所を訊き込み調査したところ―――廃船と鉄屑ばかりが打ち上げられた場所に訪れた。

 

「廃船ばかりだな」

 

「そうだな。えーと、トムズワーカーズの本社はっと」

 

人の気配をする方へ進み橋の下の倉庫のような扉を叩くとしばらくしたら、片手に酒の瓶を持った一人の長身の女性が出てきた。

 

「なんだいあんたら・・・・・」

 

「よう、随分久し振りじゃねェか。あーココロつったか?」

 

「・・・暴れん坊のメガロ-? こんなところに何しに来たんさね。ウォーターセブンで暴れまわるつもりなら止めておきな」

 

「暴れねぇよ。あのフグ野郎の事で話をしに来ただけだ」

 

メガロ-とは旧知の仲らしい。

 

「こいつがフグ野郎を助け出した。まだあいつは生きてるぜ」

 

「なんだって・・・・・?」

 

おれを見るココロという人に説明を付け加える。

 

「レイリ-さんのところに預けた。海賊王ゴールドロジャーの副船長だ」

 

「レイリ-。久し振りに聞く名前だね。だけど、世界政府からトムさんを助け出したなんてとてもじゃないけど信じられないよ」

 

「おれ、四皇の天龍って呼ばれてるけどそれでも?」

 

手配書を見せつければ、ココロさんは目を丸くした。

 

「あんた、海賊だったんかい」

 

「海賊じゃないよ!!」

 

なんて失敬なことをいうんだこの人は!?

 

「違うなら何だってんだい。四皇の奴らは海賊だよ。お前さんもどう違うってんだい」

 

「海賊旗を掲げてない!! というか、そんなことより例の魚人は本当に助けてレイリ-さんのところに保護してもらったから死んじゃいないことを伝えに来たんだ」

 

「それを証明できることがあるなら信じるよ」

 

証明ね。なら、ほい。シャボンディ諸島に直接空間を繋げて傷だらけの魚人に包帯を巻いてるシャクティを見守るレイリ-さんの姿が視界に映り込む。

 

「レイリーさん」

 

「ん? おお、これはまた不思議な。それにココロじゃないか。久し振りだな」

 

「レイリー、それにトムさん!!」

 

躊躇なく空間を潜って気絶してる魚人に駆け寄るココロさん。これで信用してくれただろう。

 

 

それから数時間後、すっかり暗くなったウォーターセブンの廃船島の橋の下倉庫にでココロさんの手引きで一人の青年と会わされた。トムさんを青年にも会わせてほしいと願われ、また繋げると意識を取り戻し、レイリーさんと会話していたようで何が面白かったのかツボに入って笑っていた。

 

「トムさんッ!!?」

 

「おお、アイスバーグ。たっはっはっはっ、ドンと死ななかった」

 

「ば、バカ野郎ォー!!!」

 

もう死んだと思っていた師を一目見て泣きながら怒る青年アイスバーグ。怪我人を殴るんじゃないぞ。

 

「ん? そこにおるのはメガロ-か? 懐かしいな」

 

「はん、あん時から変わらずのようだな。魚人街にある舟を造れる船大工になるって夢はまだ諦めてねェのか」

 

「そのノアの方舟を壊さんとしたお前を食い止めるのに随分とてこずったもんだ。壊しておらんだろうな」

 

「してねェよ。タイ以外におれ様と張り合える奴はお前しかいないんだからな。あれはお前に対するエサにしてるんだ。またやりあおうぜ」

 

言外に壊されたくなきゃ闘えと脅してるよなお前。そんなメガロ-にトムという魚人は溜め息を吐いた。

 

「相変わらず困った奴のようだな。まぁそれはさておき、わしを救ってくれたのはお前さんなのだな? レイリーから聞いた。見ず知らずのわしを助けてくれて感謝する」

 

「ゴールド・ロジャーの船を造った船大工を失うのは惜しいのと、レイリーさんの友人だから助け出したのさ。だけど、二度とウォーターセブンに戻れなくなったけどこれからどうする」

 

「船造りは止めん。わしの生き甲斐だからな。できればウォーターセブンに戻ってまた前のような生活と時間を過ごしたいところだが、わしはもはや歴とした犯罪者。そうすることもできねェな」

 

「トム・・・・・」

 

誰だって幸せな時間を取り戻したいと願う時がある。トムもまたその一人で罪を帳消しできたら、家族と仲間達と船を造り続けたかっただろうな。

 

「ふむ・・・・・一誠君、キミならなんとかできるのではないかな?」

 

「おれが?」

 

「あっ、そうだよイッセー!! 姿形を変えられる魔法とか道具とかこの人にもやって上げれば問題ないんじゃないかな!!」

 

ヤマトの言葉に納得する。あーそういうことかと。

 

「レイリー、どういうことだい?」

 

「一誠君はかなり特殊でね。彼に頼めばある程度のことぐらいは何でもやってくれてしまうのさ。それこそ不可能を可能にするほど、それも世界政府から一人の魚人を自ら殺したように目を欺け、密かに助け出してみせるようにね」

 

そういうことだと一つ頷き、トムに問う。

 

「トム、だったか。昔のまんまとはいかないが、海軍や世界政府の目を欺いてウォーターセブンでまた生活が送れるとしたらどうしたい?」

 

「一体何をするつもりだ?」

 

「なァに、ちょっとお前を変装させるだけさ。姿と名前をな」

 

数年後―――。

 

天才的な造船技術を駆使した二人の大工職人が後のウォーターセブンに現れて職人達を魅了した後、一人は今後ウォーターセブンの市長として、もう一人は造船所の社長としてそれぞれ働きながら周囲に慕われる存在となったのである。

 

「いやァ、まさかのお礼にこんなモノが手に入るとは思いもしなかったわ」

 

「どうするのそれ?」

 

「取り敢えずコレクションとして複製する。オリジナルは手元に置くしコピーした方はいずれカイドウに渡そう―――古代兵器プルトンの設計図をな」



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海軍の失墜

「・・・・・」

 

海軍本部マリンフォード。正義を掲げ海の秩序と平和を守り保たんとする世界最大組織のトップを悩ませる事案が絶たないでいた。マリンフォードの各場所、それこそ海兵が住む建物や本部内、軍艦やドックに音声と映像を見聞できる摩訶不思議な物が毎日のように出現して―――天竜人の奴隷にされた海兵たちの親族が常日頃どんな生活を送っているのか見せつけられているのだ。ハッキリ言えば、天竜人の天翔ける竜の蹄の焼印をその身体に刻まれた人間がどうなるか海軍は認知している手前、実際に見せつけられるとどうなるか言うまでもない。

 

「・・・・・失礼します・・・・・」

 

報告にしに来た将校クラスの海兵が暗い顔でセンゴクの下へ訪れた。

 

「・・・・・サクレッス中将が自殺を図っておりました。自宅で首を吊ろうとしたところ他の者たちが発見し、必死に説得をして停めましたが・・・・・」

 

「・・・そうか」

 

「・・・・・他、大尉以下の海兵が数百人の規模で反旗を翻し、聖地マリージョアへ強行しようと軍艦を出航していたところ発覚。これをゼファーさんを筆頭に滞在中の大佐たちが取り押さえました」

 

「・・・・・家族を取り戻しにか」

 

「・・・・・はい。天竜人を手に掛けること辞さない極刑覚悟での・・・・・全員、身内を奴隷にされた海兵で構成されていました」

 

天龍によって滅ぼされたマリージョアの復興は、海兵の家族が日夜休まず働かされている映像が今でも放送されている。

 

『働け~! 休まず働くだえ~! 神々が住まう地を復興させる栄光に感謝しながら働くんだえ~!』

 

『このノロマ! 誰が休んでいいと言ったアマス!? 今日の食事は抜きにするアマスよ!』

 

『貴様等は“人”ではない! 家畜以下だ! 死ぬまで使い潰すだけの極潰しだえ~!』

 

 

『パパ~! 痛いよ、お腹空いたよ~!』

 

『うわ~ん! うわ~ん!』

 

『あなた・・・・・助けて・・・・・っ』

 

 

人を人として見ない、扱わない天竜人と奴隷以下の扱いを受け心身共に壊されていく海兵の家族たち。その音声と映像はマリンフォード中に放送されているのだ。これも天龍の能力によってだ。

 

「・・・・・センゴクさん。どうにもならないのですかっ」

 

海兵が煮え切らない、気持ちを押し殺したような声音で訊き固く握る拳が震えている。センゴクは静かに瞼を下ろす。

 

「・・・・・家族はいるのか」

 

「っ・・・・・奴隷にされました。今、助けを乞うた女性と泣いていた子供たちが私の妻と子です」

 

「・・・・・すまない。私でもどうにもならない。この世界の神は天竜人なのだ。神に逆らう道理はない」

 

その言葉の後、強い視線を感じ取ったセンゴクは閉じた瞼を開けば、海兵の顏は意を決したようにセンゴクを睨みつける感じで見つめていた。

 

「私は・・・この世から犯罪者を無くし、愛している家族と平和に暮らすことで海兵として命を懸けて来ました。ですが、俺の命より大切な家族が天竜人の奴隷にされてしまった。センゴクさん、あなたは分かりますかこの気持ちをッ」

 

「・・・・・」

 

「天龍のおかげで、俺はいま正義とは何なのか自信もって言えなくなりました。犯罪者や海賊から海の平和を守らんとする海軍が、俺の家族を奴隷扱いする天竜人が本当に守らなければならない存在なのかと。センゴクさん、奴隷をする人間は赦す者と赦される者を区別されるのですか? してもいいのですか?」

 

家庭を持たないセンゴクは家庭を持つ海兵の気持ちをわかるはずがない。海軍の元帥というトップの立場の人間として、冷徹でなければいけない時もある。それが今なのだが―――。

 

映像が突然パッと変わった。映るのは天龍の顏だ。

 

『やーやー、マリンフォードの皆さん。四皇天龍だ。自分たちの家族が奴隷にされた気持ちはどうだったかな? 神の下僕に送り出せて嬉しいかな? 歓喜の涙を流せたかな? なんせこの世界の神なんだから神の望みを叶えるのが神より下の人類の義務なんだから当然だよなー?』

 

「天龍・・・・・ッ!!」

 

『さて、自分の愛する家族が天竜人のために働いているところを毎日見せて来たが、これでも守るべき罪のない人類を奴隷にして心身共に壊し、命を弄ぶ愚行をする天竜人を許せるのかな? これからその投票をしてもらいたいと思っているんだ。協力はしてくれるよな?』

 

朗らかに言う天龍を阻止したくても出来ないセンゴクは見守るしかできない。

 

『許せないなら湾内にまで武器を持って捨てて集結しろ。制限時間は30分以内だ。協力者にはお前たちの家族を取り戻させよう。マリンフォードからマリージョアへ繋げる道を30分後に用意する。天竜人に対する反逆の覚悟がある者は武器を持たず大切な家族を自分の手で取り戻しに来い。それ以外の者は一切邪魔をせず見守っていろ。でなければマリンフォードを滅ぼしてやる』

 

それじゃーなー。と言って映像が減っていく時間となった。天龍の後手に回ってしまい、センゴクが動く前に目の前にいた海兵が踵を返して駆け出していった。確実に自分の家族を連れ戻す為だろう。天竜人に逆らってでもだ。

 

しかし、彼等の邪魔はさせんとばかりにマリンフォードの上空に黒雲が発生。雷鳴が轟き何時でも雷がマリンフォードに降り注ぐぞとばかり、天龍からの警告を訴えているかのようだった。天龍の放送を見聞した海兵たちは動揺とどう動くべきか当惑している間にも、武器を持って湾内に向かう海兵たちの目撃が絶えず武器を次々と捨て、集い始める海兵の数は30分後にもなると1000人も超えた。

 

そして黒雲から天龍が姿を現し、同時に聖地マリージョアへ繋げる大きな空間の道を広げて作った。

 

「それじゃあ、神の反逆タイム開始だ。自分の家族を見つけて連れ戻してこい」

 

言われるまでもないと海兵たちはマリージョアに繋がった空間を潜って、復興作業をしている奴隷たちの下へ駆けだして行った。

 

「天龍ゥッ~!!!」

 

黄金の煌めきと共に眼鏡を掛けた巨人が姿を現す。

 

「お、仏の能力者だったかセンゴクさん」

 

「貴様、一体何を目論んでいるッ!? 自ら天竜人の奴隷にしておいて今度は海兵たちに家族を解放させるなどッ!!」

 

「まぁだ判らないのか? そんなんだから海兵たちの心が離れていくんだよっと」

 

閃光が飛んできて蹴りを入れる。光が人の形を作り、大将黄猿が伸ばす脚と交差した状態で挨拶を交わす。

 

「久しぶりだなボルサリーノさん」

 

「本当にキミは何をしたいのかねぇ~? 今回ばかりはおいたが過ぎるよ~?」

 

「人間の心を試したまでさ。人が大切なモノと引き裂かれ、手の届くところで取り戻せるとしたらどうするのかをさ」

 

「そのせいで何十、何百の海兵が反旗を翻したか、貴様はわかっちょるのか!!」

 

赤犬サカヅキが拳をマグマにして殴りかかるが、素手で受け止める天龍。

 

「そいつは海兵も人間だっただけに過ぎない。理由が家族の為に規律を破ってでも取り戻したい故の行動だったら、何もおかしいことじゃないだろ。だからおれは自らの手で取り戻させようと思ったのさ」

 

「まるで試練を与えるためにしたような口ぶりだなお前さん」

 

もう片方から青雉クザンが氷で覆った手の平を突き出してくる直前、その手だけ別の空間へと出る空間で回避し、クザンの手はサカヅキの真後ろに発現した空間から飛び出した。

 

「ぬおっ!? おいクザン!!」

 

「あらら、こりゃあ厄介な能力だ」

 

「同士討ちを狙うとはねェ~」

 

天龍の身体から衝撃波が放たれ、三大将は弾かれる風に吹っ飛んだ矢先にセンゴクの手から放たれる衝撃波を食らってしまった天龍。

 

「っ・・・! 衝撃波か!」

 

「これ以上は貴様を好きにさせん!」

 

「天竜人を犯罪者にするつもりはないのかよ? 今まで散々見せつけたのに考えは変わらないとか」

 

「天竜人は世界政府を創造した王の末裔! 彼等無くして今の海軍は存在しなかった!」

 

「神以前に自分で王だって言ってんじゃん。王ってことは人間だろ? 揃いも揃って下品で気品のない王の末裔たちだな」

 

指を弾いた瞬間。黒雲から降り注ぐ雷がマリンフォードの建物を打ち砕く。

 

「俺は言ったぞ。邪魔するならマリンフォードをどうするかをな。おれを相手するよりマリンフォードを守るのが先じゃないか?」

 

「貴様ァァァ~~~!!!」

 

「ふはははっ!!! それじゃ、おれはこれで失礼させてもらうぜ!! ―――ああ、因みに古代兵器プルトンとやらの設計図は手に入ったことだけ教えてやるよセンゴクさん」

 

「なっ!?」

 

懐から取り出す古びた紙の束をヒラヒラと見せびらかす。果たしてそれは本当かどうか定かではないが、一番上の表紙にプルトンと書かれているのが見えた以上は、無視できない代物と化した。大将たちの攻撃を躱し、いなし、防ぎながら天龍はセンゴクに話しかける。

 

「取引でもするか? 今すぐ天竜人を地に下ろすなら渡してやってもいいぞ? おれは約束を守る男だからな。そっちがそうするなら渡そう」

 

「できるかそんなこと!!」

 

「あら残念。じゃあカイドウに渡すとしよう。じゃあな」

 

上空から雷が落ちてきて、4人の攻撃が一瞬だけ止まった隙に海へと逃れるように潜った。すぐさまクザンが海中を凍らせに動くが、氷結に巻き込まれたかは判断できない。

 

「おのれ、またしてもあの小僧にっ!!!」

 

「こうも安易にあしらわれるとなると、大将クラスがもう何人か足りないかねェ~」

 

「それに自由過ぎるからな。いつどこで現れてくるのか他の四皇たちより分からなすぎる」

 

「そのうえ天龍の船すら把握できとらん。こちらは奴の後手に回るばかりだ。やつの船の捜索に力を入れなければならん。古代兵器の設計図が本物ならば世界政府と海軍にとってかなりの脅威となる!!」

 

黒雲が消える頃にはマリンフォードは半壊状態となっており、マリージョアでは海兵たちが天竜人や近衛兵相手にしながら家族を解放して連れ戻すことが叶ったが、天竜人の反感を買ってしまった。元帥と大将はこれにより責任を課せられることに。

 

―――奴隷の焼印を刻んだ海兵の家族の引き渡しと世界中の種族を5000万人をマリージョアの復興に宛がうため強制的に連行しろと。さらにその中には世界政府直属の人間と海軍も含まれていたのだ。

 

「これは絶対に果たしてもらうだえ! 貴様らの教育不届きがこのような結果を招いたのだからえ!」

 

「・・・・・わかり、ました」

 

世界政府と全海兵の総数兵力を搔き集めても1000万人も届かない。世界政府と海軍は東西南北から罪のない人々や罪人、監獄船や大監獄から囚人を搔き集めてでも天竜人たちの要望に応えねばならなかった。

しかし―――。

 

「センゴク元帥!! 天竜人から奴隷を解放した海兵が引き渡し要求を断り、中には辞職を申す海兵や徒党を組んで謀反を起こす者が後を絶えません!!」

 

「くっ!! やはりこうなってしまったか・・・!!」

 

「い、一大事ですっ!? ゼファーさんとガープさんが対立して戦い始めてしまいました!!」

 

「なんだとっ!?」

 

 

海軍本部ドック

 

「ガープ、俺を止めてくれるな!!」

 

「止めるわっ!! そこの海兵たちと家族を軍艦に乗せてどこへ行こうとするんじゃ!!!」

 

紫髪の巨漢の老人とガープが拳のみの殴り合いの戦いをしている中心に、人間以下にされた家族を軍艦に乗せる海兵と、阻止しようとする海兵の味方撃ちが始まっていた。

 

「こいつらを天竜人から引き離す。センゴクが奴隷引き渡しの要求を受け入れた以上、この海軍に安全な場所などない」

 

「この世界に安全な場所等ありゃあせんわゼファー」

 

「だとしても、海兵が海兵を・・・黙認で仲間の家族を売りつけるような真似はおれには到底できん。おれも愛すべき妻子を奪われた経験上、あいつらの気持ちは痛いほどわかる」

 

機械化の右腕であるバトルスマッシャーで殴りつけるゼファーと左拳で応戦、突き出し合う二つの拳がぶつかり鍔迫り合う力が相手を押し込まんとする。

 

「だからおれはあいつらを逃がすんだガープ」

 

「軍法会議もんじゃぞそれは。お前も罪を問われるぞ」

 

「はっ! 天竜人の傀儡になり下がった正義のない海軍に未練なんてないさ。しかも罪のない5000万の民間人を奴隷にしようとする天竜人に従う道理もないわ!」

 

握った拳を開いてガープの拳を掴み、積み上げていた木箱に向かって無造作に投げてぶつけた。

 

「例え天龍の小僧が元凶でも、おれの教え子の家族まで生贄に捧げることを許容するならば、もはや海軍に正義は失ったも当然だガープ!!」

 

軍艦が動き出す。

 

「先生!! 早く!!」

 

「ガープ、こんな形でお前と道をすれ違うことになったのは残念だが・・・正義と信念を無くした海軍に居続ければ天龍の影響で大切なものを失うことになるぞ」

 

ドックから遠ざかる軍艦へ力強く跳躍して甲板に乗ったゼット。奴隷以下の焼印を刻まれた妻子を守らんとする海兵の思いを知ったゼファーという老兵は彼等のため海軍に反旗を翻したのだ。

 

 

―――面白い、そこまでする海兵がいるとはな。なら、お前たちを相応しい島へと案内してやろう。

 

 

どこからか見ていた天龍の魔法でマリンフォードから離脱する軍艦は光に包まれた。そしていつの間にか天竜人の奴隷にされた人間が多い太陽のシンボルの旗が数多くある島の港にいたのであった。

 

「・・・・・ここは? どこの島でしょうか先生」

 

「わからない。だが、マリンフォードからかなり離れた海域の島であることは確かだ」

 

そう話しているゼファーの目の前に大きな鳥が舞い降り、老執事の男の姿に戻った。

 

「ようこそタイヨウの国に。わたしたちは貴方がたを歓迎いたします」

 

「タイヨウの国・・・?」

 

「はい。この国は天竜人に人間以下にされた人間が多い国でございます。もしも皆様もそうであるならこの国に永住することをお勧めいたします」

 

自己紹介が遅れました。私はセルバンテスと言います。以後お見知りおきを・・・・・。

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

世界経済新聞を見ていた時、ふと思った。

 

「セルバンテス」

 

「なんでしょう」

 

「この新聞を刷っている世界経済新聞社ってどこにあるかわかるか?」

 

鞄に入れた新聞を運んでくる帽子を被ったニュース・クーというカモメが飛んで行った空へ見つつ訊くと、セルバンテスは否と答えた。

 

「申し訳ございません。彼の本社の場所は把握しておりません。興味が湧いたのですか?」

 

「ああ、海軍が5000万人の奴隷を集めているという話題が載っていなかったからな」

 

「おそらく世界政府が隠ぺいしているからでしょうな」

 

「おおっと、それはそれは・・・・・事実を教えなくてはいかないだろう」

 

悪戯っ子のような笑みを浮かべるとセルバンテスはおれの横に電伝虫を置きだした。何時の間に持っていたんだ?

 

「では、本社に連絡をいたしましょう」

 

「番号は分かるのか?」

 

「新聞に載っておりますよ?」

 

・・・・・それは、気付かなかったな。

 

 

世界経済新聞本社

 

世界の何処かに存在するポット型の社屋。

気球と無数の鳥の力で社屋ごと空を飛ぶ事ができ、危険が迫った際、即座に撤収・逃亡が可能。

時に政府や海賊、犯罪組織にとって都合の悪い事実も容赦なくバラ撒くゆえ敵が多い事から考案されたシステムで、いざとなれば本社だけで発行→増刷→配達の全てを賄える設備さえ内蔵している。

 

社長は赤と白模様の羽付きの黒い帽子をかぶり黒いマントで身に包んだ外見が金眼で黄色い嘴の白い鳥。名前はモルガンズ。そんな彼宛てに一本の連絡が入った。電話に出た社員は最初は聞き間違いかと再度名前を訊き返したが、同じ名前を告げられ顔中汗まみれとなった。

 

「しゃ、社長! よ、四皇の天龍からお電話ですっ!!!」

 

「クワッ!? よ、四皇の天龍からだとっ!!?」

 

個人的にとある四皇の一人と繋がりがあるので驚かないつもりが、ここ最近話題になっている男から直接連絡してくるとは予想外だった。そして社長として何やらビックニュースな匂いがしてくる。社員と変わって話に応じる。

 

「もしもし?」

 

『お、社長さんか? 単刀直入で言うが俺と同盟を結ぶ気あるか?』

 

「同盟、だと?」

 

『そう。今日の新聞を見たんだが、俺の原因でもあるんだけど天竜人の要望で5000万人の奴隷を集める海軍のことが載っていなかったからさ』

 

「は?」

 

なんだそれ、おれ、知らないぞ? 思考が停止しかけたモルガンズは爆弾発言を訊かされる。

 

『もしもしてくれるなら、一部だけ最後の島ラフテルの場所を示すヒントを教える。そして古代兵器プルトンの設計図も見せてやろう』

 

「なっ、なんだとっ!?」

 

『ああ、別に今すぐ答えが欲しいわけじゃない。というか、海軍に盗聴されてるだろうから断られる前提で提案している。二日後、もう一度かけ直す。それでいいか?』

 

なぜわざわざかけ直すのかわからないが、盗聴の可能性を考慮してるということは警戒しているのだろう。モルガンズは二言返事をして通信を切ったところで本社の扉が開きだした。

 

「へぇ、ニュース・クーを追いかけたらここが世界経済新聞社の本社か」

 

「なぁああああああああっ!!?」

 

モルガンズを含め社員全員が目玉を飛び出してしまうほどビックリ仰天した。なんせ・・・四皇天龍とその仲間たちがぞろぞろと普通に入ってきたのだから驚愕せずにはいられない。

 

「ど、どうやってここに来たんだっ!!?」

 

「ニュース・クーを追いかけて来た。時間はかかったが、ようやく見つけたよ」

 

「・・・・・さっきの電話は一体」

 

「最後のはフェイクだ。海軍にそう思わせるためのな。で、同盟の件は本気だから」

 

客間ってある? と訊かれるモルガンズは焦った表情で周囲を見回すが、客を出迎える空間などありはしないので自室に案内する他なかった。

 

「じゃ、よろしく」

 

「こ、こっちだ・・・・・」

 

モルガンズの自室へ招かれ本来自分が座る席を天龍に座らせ、足りない椅子は仕事場から社員に持ってこさせて座った。

 

「それで、最後の島ラフテルの場所を示すヒントとやらは本当に?」

 

「おう、これだ」

 

丸めた大きな紙をテーブルの上に広げると、魚拓されたポーネグリフの文字がモルガンズの視界に飛び込んできた。

 

「ポーネグリフか?」

 

「さすがに知っていたか。ただこれは普通の歴史の本文(ポーネグリフ)じゃない。赤い石の真の歴史の本文(リオポーネグリフ)というのが4つほど、その石に刻まれた文字を解読すればラフテルへ導いてくれるんだ」

 

「・・・ッ!」

 

世界中の海賊が夢に見た海賊王ゴールド・ロジャーが最初に到達した最後の島への手掛かりを自分が知ることになったビック・ニュースに目を輝かす。

 

「お、教えてくれ。ラフテルとはどんな島だ? 莫大な財宝が眠るとは本当なのか?」

 

「それは秘密だ。財宝については―――ああ、本当だ。ロジャーは嘘を吐いていなかった」

 

ドサッと古代兵器プルトンの設計図をテーブルの上に乗せた。

 

「これが古代兵器の設計図だ」

 

「こ、これが・・・!」

 

見たくて仕方がないモルガンズは手翼を動かしたが、設計図を先に触れる天龍に遮られた。

 

「おれが提供するのは色んな情報だ。そしておれが望むのは御社との同盟だ。さて、返答は如何に?」

 

「―――――」

 

モルガンズは目の前の情報の宝箱の魅力に、抗うことなど考えなかった。誰もが知らない情報を、誰もが喉から手が出るほど欲しがる情報をこの男は提供してくれるというのだ。

 

「・・・いいだろう。世界経済新聞社は四皇天龍と同盟を結ぶ!!」

 

「契約成立。それじゃサインをお願いしよう。損はさせないぜ?」

 

「クワハハハハッ!! ホットなニュースをよろしく頼むぜ!!」

 

この日。四皇と新聞王が密かに同盟を結び、それ以降は天龍が直接見た映像を世界経済新聞社にも見えるようになってホットなニュースが記事となっていくのであった。

 

当然海軍と天竜人の件も記事に載り―――海軍が5000万人の奴隷を集める事実を知った世界各地の民間人達は、海軍に対する支持率と信頼度がガタ落ちになるのも時間の問題だった。この新聞で世界政府とそのトップである五老星という五人の老人が焦らずにはいられなかった。

 

「海軍が俺たちを天竜人の奴隷にするため『世界徴集』だとっ!?」

 

「う、噓よ・・・海軍がそんなことをするはずが!」

 

「お、おいっ!! 海に海軍の船が何隻もこっちに来るぞ!!」

 

「まさか、この新聞の記事は本当だっていうのか!!」

 

「に、逃げろっ!!」

 

記事によって力のない民間市民たちは海軍すら海賊のように見えてしまい、悲鳴を上げて逃げ惑う人々に上陸した海兵たちは―――天竜人の命令により海賊のごとく東西南北の島々に住まう種族を問わず5000万人の人類を『世界徴集』を建前にして任務を全うするのだった。たとえその島に四皇が縄張りにする島であろうともだ。

 

「センゴクめ、そこまで堕ちてしまったか・・・・・?」

 

「親父、魚人島も狙われてるんじゃねぇかよい」

 

「ああ・・・・・念のために魚人島へ向かうぞ野郎ども!!」

 

たとえ相手が七武海だろうと天竜人の命令ならば絶世の美女の海賊でも対象になる。

 

「蛇姫様! 海に海軍の軍艦がたくさん来てるわ!!」

 

「ほう・・・愚かにもわらわたちも奴隷にしてくれようとはな」

 

「まさか七武海の地位を剥奪かニョ・・・・・(最悪、イッセーを呼ばねばなるまい)」

 

「全兵士達に迎撃態勢を!!」

 

「我等の力を見せつけてやるのよ!!」

 

「「「はいっ!!」」」

 

 

 

 

「ウォロロロロ・・・・・ッ。世界が慌ただしくなってきたな」

 

「あの小僧がここまでするとは」

 

「もはや海軍は海軍ではなくなったも当然だなこりゃあ」

 

「カイドウさん、俺たちは?」

 

「何もしねェ。イッセーの奴が何を考えていようとも関係ない。寧ろこの状況を作るのが奴の狙いかもしれないからな」

 

どういうことだ? と懐刀三人衆は揃って首を傾げた。カイドウでも一誠のやろうとしていることは全てわかるはずもないが、無駄なことをする男ではないと信用している。

 

 

後に海軍の5000万人の『世界徴集』はマリージョアの復興のためとは言えども、奴隷としての強制連行であることを世に知らしめ世界政府が創造されて以来の二つ目の黒歴史を作ったのだった。

 

 

 

 

「マオウ、とうとうメッキが剥がれたぞ海軍は。天竜人の命令なんて断ることができる戦力を抱えているのにだ」

 

「イッセー殿はこれを狙っていたのですか?」

 

「うーん、海軍にも奴隷にされた人間の痛みを知ってもらうところまでは狙ったことなんだが。それ以降は俺も予想外もいいところだ。まさか大胆にも海軍自ら奴隷を搔き集めることをするなんて思いもしなかった。これは責任を感じるな。やっぱり天竜人は世界の膿みたいなやつか。こーなるなら殺すべきだったか?」

 

「あ、イッセー。新聞と一緒にあったイッセーの手配書の金額が跳ね上がったよ」

 

「今更どうでも・・・・・」

 

「『海賊 天龍イッセー・D・スカーレット』の懸賞金額が僕の父より高くなるなんてねぇ」

 

「・・・・・ヤマト、今何()った?」

 

「え? 僕の父より・・・・・」

 

「違う、最初の方だ」

 

「海賊 天龍・・・・・あ」

 

「とうとう、私たちは海賊にされましたか。髑髏を掲げておりませんのにやるせないですな。どうしますイッセー殿」

 

「・・・・・海軍の軍艦を見つけ次第、全部ぶっ潰す!! 龍の逆鱗に触れた奴は容赦しないぞ、もう誰が海賊だぁああああ!!!」

 

「泣くほどショックなんだねぇ・・・・・」

 

「同情を禁じ得ません。私たちは天竜人に対すること以外何もしていないというのに」

 



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守るために

東の海(イーストブルー) ゴア王国 フーシャ村

 

一隻の軍艦が停泊して降りて来た老兵の海兵に不安な表情を浮かべる村人たち。

 

「ガープさん! 海軍が5000万人の人間をマリージョアの復興のために集めているって本当か!?」

 

「私たちも天竜人のところへ連れて行く気なんですか?」

 

「海賊も不安だが今の海軍も不安で堪らねぇんだガープさん!!」

 

「俺たちはどうなるんだ!?」

 

一身に浴びる村人たちの不安と恐怖、疑念・・・・・他の感情を抱えてる彼等彼女等に安心させる言葉を掛けてやれないガープはこう言った。

 

「・・・・・この村、いや東の海(イーストブルー)の島々におる王族と貴族以外の全ての人間も聖地マリージョアへ連れて行くことになっておる」

 

『―――っ!!?』

 

「じゃが、一つの島に住む一部の者たちのみマリージョアへ連行しないでもらえるよう頼み込んだ。それがこのフーシャ村・・・・・」

 

だがしかし、ガープは一部の人間のみと意味深に言った。つまりは・・・・・。

 

「すまん、この島の他の者たちは全員救えん。フーシャ村のお前たちだけしか対象から外せれんかった」

 

多くの海兵たちがフーシャ村から離れ、ゴア王国や他の村々へ駆けだして行く。その日の内に軍艦へ乗せられていく人々は100人を超え、ガープの計らいで軍艦が離れるまで家の中で待機されたフーシャ村の人々。

 

平和の象徴とされた東の海(イーストブルー)ですら、天竜人にとって下々が住まう海の一つしか認識されていないのだ。

 

 

女ヶ島 アマゾン・リリー

 

全戦士たちが上陸してきた海兵に迎撃しているもの、軍艦は五隻以上あり海から一斉砲撃を受ける女ヶ島は、あちこちに炎が燃え上がり蛇の形をしていた巨像が折れ、闘技場や町が破壊されていた。

 

「おのれ男!! 放せ!!」

 

元王下七武海、海賊女帝の部下だろうとそうではなくても海兵は関係なく拿捕した女戦士たちを軍艦へ連行していく。

 

「姉様!! 海兵に島の半分も攻め込まれているわ!!」

 

「捕えられた戦士たちも多い!!」

 

ヘビヘビの実の能力を使い迫りくる海兵たちを薙ぎ倒しても数は一向に減るどころか増える一方。更には素で強い海兵と交じって能力者もいるのだ。―――時をも凍らせんとする氷結が地面を這い三人を取り囲む風に氷壁を作り、更に動きを封じる氷の槍が壁から数多に生えて伸びたそれはハンコックたちの身体に突き刺さって、氷でできた牢獄が三人を閉じ込めた。

 

「そうだ。お前たちは噂通り強いから、おれが捕まえにこなくちゃならなくなったんだよ」

 

「青雉・・・ッ!!」

 

「天竜人からの面倒な命令でお前さんらを拿捕しなくちゃならないんで、大人しく捕まってくれや」

 

「ふざけるなッ!? 誰が天竜人の奴隷に成り下がってなるものか!!」

 

怒り狂い叫ぶハンコックの言葉など耳を傾けない青雉クザンは、三人を氷の中に閉じ込めんと氷の槍から凍らせ始める。

 

「取り敢えずしばらくは氷の中で眠ってくれ」

 

淡々と任務を果たすクザンの前で無力な三人は、悔しい表情を浮かべながら凍り付く身体と同時に敗北を味わわされる。

 

―――ポンポン。

 

「・・・・・?」

 

「やぁ、こんにちはクザンさん」

 

クザンの背中を触れる誰か。背後に振り返るとこの場にいる筈がない男―――四皇天邪龍のイッセーが立っていた。相手が誰なのか理解した直後のクザンは思いっきり横っ腹を蹴られ、町の建物を巻き込んで吹っ飛んで行った。

 

「「「イッセー!?」」」

 

「助けに来たぞ。やっぱりこうなったか」

 

炎で氷の牢獄を溶かし三人を解放する。傷ついた身体に癒しの力で治し終えたらハンコックが一誠に抱き着いた。全身で歓喜を表す女帝は助けに来てくれた愛おしい男の登場に至極感動している。

 

「ああ、イッセー!! わらわたちを助けに来てくれたのじゃな!!」

 

「責任の一端はおれにあるからな。おれの仲間たちが今、軍艦にいる女戦士たちを助けに暴れてもらっている。ふっ・・・・・何せおれは海賊にされたからなぁー」

 

「「(きっと八つ当たりも込めているんでしょうね)」」

 

「なんか思った?」

 

勘が鋭い男に瞬時に揃って首を横に振ったサンダーソニアとマリーゴールド。そんな四人がいる場に、口の端から一筋の血を流しながらクザンがスタスタと元の場所に戻る姿を見せつける。

 

「なるほど・・・・・いつからか知らんが、天龍と海賊女帝は繋がっていたとはな」

 

「まぁーな。新聞の記事を見て、まさかなと思って来てみればこの状況だ。人のこと海賊扱いにしやがってお前等。絶対に許さないからな!!」

 

「・・・・・怒る基準がわからねェな」

 

ポリポリと頭を掻きながらも地面を凍らせて攻撃を仕掛けるクザンに合わせ、一誠も地面を凍らせて相殺して見せた。

 

「どういうことだお前さん。氷系統の能力者なのか?」

 

「敵に教えると思うか?」

 

無数の氷の刃を展開、ガドリングガン兵器のように射出する相手に、クザンは冷静で氷の壁を形成して防御する。本当にこの若い男の言動と能力は理解に苦しむ一方で扱いに余る。氷壁が赤くなったのを見た瞬間に躱したクザンが立っていた場所が熱の光線の通り道となった。

 

「時にクザンさんって肉弾戦はイケるほう?」

 

「あ~、ボルサリーノと似た感じだ」

 

「そうか。じゃあ次は肉弾戦をしよう」

 

黒と紫が入り乱れ赤い宝玉が埋め込まれてる籠手を装着した一誠が展開した無色の半球のドーム。

何か仕掛けたと感じ取ったクザンは能力を駆使しようとしたが、使い慣れてる能力が不発で終わったことに最初は理解できなかった。

 

「能力が使えない?」

 

「正解!」

 

懐に飛び込んできた一誠の拳がクザンの腹部をめり込んだ。

 

 

 

ヤマトside

 

「はあっ!」

 

「ぐあああっ!?」

 

牢屋を見つけ、出くわした海兵を金棒で殴り飛ばした。その拍子に檻の鍵を落としたようで鍵で鉄格子を開け、捕らわれていた戦士たちの解放をする。軍艦に捕まっているかもしれないと言うイッセーの読み通りだった。

 

「助けに来たよ!」

 

「誰だお前はっ!」

 

「僕はヤマト、イッセーの仲間だ! 早く出て!」

 

イッセーという名前を知っている反応をする彼女たちは、すぐに檻から抜け出して、まだ他にも捕まっている仲間の救出に僕から鍵を受け取って動く。その間にここまで駆け付けてきて、銃をこっちに向けてくる海兵から一斉に撃たられた。助けた彼女たちを守るために金棒を回しながら振るって銃弾を弾いては、海兵に飛び込み金棒を上段から思いっきり打ち下ろした。

 

「・・・・・退路、確保した」

 

「うわっ、ギリューか! ありがとう!」

 

 

ロビンside

 

 

「・・・・・青雉がここに」

 

私の過去から因縁ある男の存在に動悸が激しくなるのを嫌でもわかる。だからこそ、彼の存在を知った私は海兵に隙を与えてしまった。

 

「ロビンさんに手を出すなっー!!!」

 

白い毛並みで立派な巨大虎が私から海兵を守ってくれた。能力を使えばメガローを超える実力者なのに、この子は気弱な性格で大人しく優しい子。

 

「ごめんなさい、ありがとうヒナタ」

 

「戦いの最中に考え事は危ないぞ!!」

 

「気を付けるわ」

 

そう、いまの私は心強い仲間がいる。そして、海軍だろうと世界政府だろうと天竜人だろうと関係ない彼が私を守ってくれている。

 

「きっと彼は青雉と戦っているわよね」

 

「集中しろー!」

 

 

メガローside

 

 

ボカァァァァァァンッ!!!

 

「ガーシャシャシャ!!!」

 

軍艦を一隻破壊できる快感は最高だっ! 捕虜はいたが檻を開けてやったから勝手に出ていくだろうと放置して軍艦を沈めたところ、別の軍艦が派手に爆発した。

 

「まったく、メガロー殿。軍艦を破壊しないでもらいたいところですよ。危うく私まで沈むところでした」

 

あの野郎の仕業だろうと確信してると、何か詰め込んだ大きな袋を持っている坊主がおれにそう言ってきた。

 

「お前が遅れたからだろうが。何していやがったんだ」

 

「少々金品と食糧を拝借していました。勿体無いので」

 

この下等種族は、いまの世の中を憂い憂いているとかほざいているが、実際こいつは平然と悪さをする。こうして他の連中から悪そびれなく盗みもするから悪徳坊主だろうこいつ。

 

「さて、他の軍艦からも拝借しましょうかね。ふふ、今回は大量ですよー」

 

「お前、仏とやらが泣くぜ」

 

「祈ったところで現実的に何か変わるわけではありませんよメガロー殿」

 

「そうかよ」

 

やっぱりこいつは慈善の皮を被った悪徳坊主だ。

 

 

ガンヴァside

 

 

「ガンヴァ、そっちは片付いたか」

 

「当然だ。他の奴等も軍艦を無力化にしたようだな」

 

複数の軍艦から火の手が上がるか、強い力で海に沈められていた光景を見回し状況を確認する。お、襲撃を受けていないと思ってた軍艦が爆発した。どこの誰かが暴れているんだろうよ。

 

「そういやヴェージ。あのチビどもはどうしているんだ」

 

「執事の爺と留守番だ。ガキどもはかなり不満がっていたがな」

 

「海軍相手に戦わせるつもりはないってことか」

 

「だろうよ。んじゃ、次の軍艦を襲うぞ」

 

メガローと関わらなければこうも落ち着いて騒がないのに、なんで顔を突き合わせたら即口喧嘩するんだかな。馬が合わないってんならそれまでだが。

 

「んだよ、おれを見て」

 

「お前とメガローは毎度喧嘩して飽きないのかと思っただけだ」

 

「サメ野郎から突っ掛かってくるから相手をしているだけだ」

 

「じゃあ、相手をしなきゃいいだけの話か」

 

「無視ずっとしつこくいちゃもんをつけてくんだよ」

 

構ってちゃんかよメガローの奴・・・・・。

 

 

 

 

ハンコックside

 

大将青雉相手に肉弾戦を持ち込んだイッセーは、青雉の氷の身体に触れても影響が出ていないのは不思議でならない。でも、そんなの気にするわらわを知らずイッセーは青雉相手に拳を嵐のように付きだして追い詰めていった。

 

「おらおらおらーっ!!!」

 

「っっっ・・・・!!?」

 

どうして氷の能力を使わない、もしくは使えないかわからないが・・・・・これだけは言える。

 

イッセー、わらわと結婚してっ!!!

 

わらわを助けに来てくれた雄姿を見て、もう格好良すぎるのじゃ!! この昂り・・・・・もう抑えきれんっ!!

 

「あっ、姉様!?」

 

「姉様!!」

 

駆けるっ、駆けるっ! 駆けるっ!! 愛しい男のもとへと!! そしてわらわとイッセーの新婚生活を邪魔をする者に愛の鉄槌を下さねば溜飲が下がらん!

 

 

 

 

 

 

「わらわとイッセーの邪魔をするでない不届き者め!」

 

「え 何の?」

 

いきなり乱入してきて話が見えないことを言いながらクザンさんに鋭い蹴りを放ったハンコック。でも、一緒に戦うというなら吝かではない。

 

「・・・・・ボア・ハンコック」

 

能力が使えずとも大将の名は伊達ではないクザンさん。さて、このまま攻めいれようと思った矢先に複数人の海兵たちが駆け付けてきた。

 

「クザンさん! 謎の敵に一隻だけ残して他の軍艦全て沈められました!」

 

「・・・・・お前の仕業か?」

 

「知らないぞ」

 

真顔で嘘を吐いた。当然クザンさんは俺の言葉を信用しちゃいないみたいだから訊くなって話だ。

 

「で、どーする? このまま俺等に負ける戦いをするか? 胸張って罪のない人間達を強制的にマリージョアに連れ去るのがお前等の仕事なんだろ?」

 

「その原因を作ったお前さんが言うかね」

 

「違うね。元々の原因がお前等の背後にあって、お前等は見て見ぬふりをし被害者の言葉を聞かない振りをしていたんだ。天竜人の玩具として人間以下の奴隷にされた人間達を今まで見殺してな!! 海賊よりよっぽど悪だよお前等海軍は。だから少なくない数の海兵たちが海軍から離反されるんだよ」

 

籠手を解除して魔法を使えるように戻し、亜空間から天翔ける竜の蹄の焼印を取り出して熱を宿す。

 

「そういやぁ、大将って天竜人の直轄の部下なんだっけ? ―――なんでその証を持ってないんだぁ?」

 

チラッと海兵たちを見て悪戯っ子の笑みを浮かべる。

 

「ついでだ、お前等の身体にこれを刻んでやる」

 

「「「なっ!」」」

 

「フハハハァッ!!! 天竜人に従うなら全員焼印されろー!!」

 

赤熱してる焼印を数十も分裂させて、縦横無尽に駆け巡らせる。竜の蹄のマークを押しつけられるのが危機と感じたか、抵抗し始めるも死角や隙を見せた瞬間に海兵の身体のあちこちに焼印が押しつけられる。

 

「ぎゃあああああっ!!?」

 

「や、やめろっ。嫌だぁあああああああああっ!?」

 

「嫌だ、人間以下になりたくないぃいいいいっ!!」

 

それが嫌ならもっと本気で抵抗しろってんだ。おっと、氷の脅威が襲ってきた。

 

「能力が使えるようになったなら―――」

 

「残念♪」

 

クザンさんの脚元付近の空間から能力封じの鎖を放って氷の能力を封印する。両足を縛ってから今度は両手を縛り、Yの字に立たせる。

 

「能力が使えるからって四皇が負けるとでも思ったんのか? そもそも俺を四皇に認定したり、しまいには海賊扱いにしやがって海軍と政府め!! 俺は悪いことしてないんだけど!?」

 

「四皇の一人を倒して、天竜人を襲撃して、海軍に楯突いている時点でそうなる未来だったんだよお前」

 

「前者はともかく後者は完全にお前等のせいじゃん!! 奴隷を解放して何が悪い!!」

 

こいつは念入りにヤキをいれんといけないらしいなぁっ・・・!! 死ぬまで消えないように残してやる。手元に戻ってきた焼印を掴んでクザンさんに近づいた。

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

海軍本部マリンフォードにボロボロな軍艦一隻が帰航の途に就いた。発見した、目撃した海兵は酷い災害に遭ったとしか思えない軍艦に乗っていた海兵たちもそうであって、停泊した軍艦に乗り込む海兵たちが目にしたのは・・・・・。上半身裸で天翔ける竜の蹄の焼印を一人残らずされ、絶望した顔の海兵とそのマークを腹と背中に輝かせている大将青雉がいた。何か遭ったのか聞き取り調査と並行に手当を始める最中、センゴクが青雉に問うた。

 

「何が遭った」

 

「拿捕に向かったボア・ハンコックが支配する島で天龍と交戦。御覧の通り俺も負けた上にコレを焼印されたんですよ」

 

「・・・・・元王下七武海と四皇天龍が繋がっていたと?」

 

「かなり親密な関係のようで。それに奴には複数の仲間がいることも発覚しました」

 

「・・・・・藪を突いて出てきたのは蛇ではなく、龍だったか」

 

「おそらく女ヶ島は密かに天龍が支配する島になっていたんでしょうね」

 

してやられたとしか思えない話に苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべたセンゴク。

 

「どうしますセンゴクさん。三大将のおれらが束になっても勝てないんなら、王下七武海の協力も不可欠ですよ。二大勢力で総戦力を以て倒すのが当初の予定だったはず」

 

「・・・・・今は何もできん。兵が足りない状況だ。女ヶ島は四皇天龍が縄張りの島と認定する」

 

次の瞬間。マリンフォードの石壁に描かれた“正義”が上書きされるように竜の蹄のマークに光り輝いた。次いで青空から赤熱した焼印が何千何万も降り注いで地上にいる全ての海兵を狙って落ちて来た。その異常現象を起こした元凶が空から現れた。

 

「天龍ッ!!!」

 

「マリンフォードにいる全ての海兵に天翔ける竜の蹄の焼印をほどこしてやる。お前等のやっていることは天竜人とさして変わらんからな」

 

「ふざけるな!! お前の好きにはさせんぞ!!」

 

「散々おれの後手に回って、世界中の罪のない人類を敵に回したような悪の親玉が何言ってんだ」

 

天龍が何百も分裂した光景に目を愕然と大きく見開いたセンゴク。

 

「お前等海軍を天竜人の奴隷と同類にしてやる。ハハハッ!! この世界の海の島にいる人間達を守るのが人間以下なんじゃ頼りないよなっ!!」

 

「おのれ、おのれ天龍ぅぅううううううー!!!」

 

何百人の天龍に襲われ抵抗する海兵たちが一人、またひとりとその身体に人間以下の証を刻まれていく。人だけでなく建物にも天竜人の証が施され海軍本部マリンフォードは第二のマリージョアと化していった。

 

「お前らのやり方じゃあ平和も秩序も守れやしない!! 神への反逆をしない限りは永遠にな!! 海賊王カイドウが後に作る後の暴力が支配する世界となるだろうよ!!」

 

高らかに宣言する天龍を誰もが止められない。家族を奴隷にされてない独身の海兵達までも人間以下の証を刻まれた現実は変えられない。

 

 

 

世界経済新聞社

 

「クワハハハハッ!! ビック・ニュースがないなら自分で作るってか!! すぐに記事にするぞ!! 表と裏に大きく載せるんだ!!」

 

「わかりました社長!!」

 

後日―――。

 

海軍が天竜人の紋章をその身体に刻まれた写真が全世界にばら撒かれ、世界は海軍を人間以下の天竜人の奴隷という認識したことで世界政府に加盟した国家の王族達は海軍の未来に不安を抱かざるを得なかった。

 

 

 

 

「ハンコック。今回の一件でわかっただろうが海軍はお前のこと七武海の地位と称号をはく奪したっぽい。三大将か総戦力で来られるとハンコック達だけじゃどうしようもないから、天龍の名で守られるなら貸すぞ」

 

「イッセーとの関係・・・・・!!」

 

なんかトリップしだした。大丈夫か?

 

「気にせんでええ。いつものことニュ。それより、蛇姫がただの海賊になってしもうたとならばこの島は安全ではなくなってしまった・・・・・」

 

「いっそのこと、おれとハンコックが結婚したとデマを世界中に知れ渡れば、連中はおれとハンコックの関係上おいそれと襲ってこなくなるだろうがな」

 

「結婚っ!!!」

 

何ぜそこで強く反応する? ニョン婆はおれとハンコックを交互に見ていやらしい笑みを浮かべ、サンダーソニアとマリーゴールドは妙案ねみたいな顔をするのも何故なんだ。デマ言ったろデマ。

 

「でもイッセー。あなたの名前を借りれるのはありがたいけれど、旗がないと女ヶ島は誰の縄張りか分からないわよ?」

 

「俺は政府と海軍に海賊にされたけど海賊じゃない!! だからこの先ずっと旗なんて掲げないから、縄張りにするつもりはない。友達の島なんだぞ」

 

「うーん・・・それじゃあ効果が薄いわねぇ。姉様と結婚した姿の写真を見せられればいいのに」

 

結婚した写真を世界中に? 悪くはないが・・・・・。それも出来なくはないし・・・・・。

 

「ハンコック、偽装でも俺と結婚したこと世界中に知れ渡ることになるぞ。構わないか?」

 

「構わない!! むしろわらわはイッセーと結婚したいのじゃ!!」

 

「・・・・・まじ?」

 

おれのことが好きだってことか? そんな素振りや言動をしていなかったのに・・・・・。

 

「おれは、異性に好かれやすいから複数人以上の女を娶るつもりだ。正妻とか妾とかそんな考えを持っているなら正直結婚は出来ない。平等に愛したいからだ」

 

「構わぬ。いや、むしろわらわがイッセーの一番を目指せるなら好都合じゃ。相手が誰でもわらわは後れを取らん」

 

喧嘩は厳禁だぞ。付け加える俺の言葉を受け入れるハンコック。ならいい。

 

 

 

 

 

 

―――一ヶ月後。

 

新世界のとある島で世界経済新聞社の社員を招いて、元海賊王の副船長と九蛇海賊団と百獣海賊団に祝福されながら、ある四皇の男と四人の美しい女性が結婚式を挙げた。新鬼ヶ島にその光景の映像が流れ大いに盛り上がった。その中で終始笑っていた大男が凄く珍しいものを見たと百獣海賊団一堂は思ったとかなかったとか。

 

逆に世界政府と海軍は、この一件で強い警戒心を抱くようになり戦力の増加と強化を図るようになった。



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邂逅 最強の海賊

西の海(ウエストブルー)

 

 

風の噂、旅の噂で聞いた話でこの海のどこかの島に莫大な財宝があると聞き、噂程度の情報は頼りないが探してみることにしたおれ達は、更なる聞き込みをしてとある島に上陸を果たした。島の名物をたらふく食べた後、実物をお目にかかりに足を運んだ。

 

「さ、さみぃ・・・っ!!」

 

「だから言ったのにメガロー。温かいもんを着ろって」

 

「ま、魔法なら寒さを防げると思ったんだよっ」

 

「防げるけど教えていないからできないだろ。バカだなぁー」

 

「ハハハッ!! イッセーの言うことを聞かねぇからだサメ野郎!! このまま水揚げされたサメの冷凍保存に自分からするなんて、人を笑わせる才能があるんじゃねーの?」

 

「んだとこの下等種族がっ!!」

 

そこは氷の大地で吐く息が白くなるほどの環境だった。たった一人防寒着を装備しなかったことに小ばかされたことに、怒りで拳を挙げるメガローから逃げるヴェージ。あっ、揃って滑って強く頭を打った。

 

「バカですな」

 

「どっちもバカだ」

 

「似た者同士とはこういうことでしょうな」

 

「・・・・・どっちもどっちだ」

 

「「聞こえてんぞテメェらー!!?」」

 

おれ以外の男が吐露する言葉に仲良く異口同音で張り叫ぶ二人は案外仲がいいとおれも思う。

 

「ですが、丁度着いたようですな」

 

「?」

 

「ヤマト、下だ下」

 

セルバンデスの意味深な言葉に首を傾げるヤマトに教える。他の皆も視線を足元に落として氷の大地を見ると・・・・・ぶ厚い氷の大地の下には想像を絶する量の黄金の煌めきがあった。

 

「「「おおお~!!」」」

 

子供三人組も興奮するほどの財宝の山が氷の大地という名の壁に守られている。億はくだらない量の財宝だ。巨人の両手でも溢れそうなほど蓄えて来た海賊は凄いと驚嘆する。

 

「どうやって氷の下に財宝を集めているんだろう」

 

「割る他ないでしょうな」

 

「簡単に割れてしまう氷じゃないだろこりゃあ」

 

「逆だ。そう言うことが出来る人間、もしくは力か技術があるからだろうよ」

 

「イッセー殿の言う通りですな。そしてそれを可能とするかもしれない者が向こうから来ましたよ」

 

ワオウの言葉におれ達は来た道へ振り返る。刀剣類、重火器を武装した集団が敵意をこっちに向けてくる。

 

「財宝泥棒め!! お前たちに八宝水軍の財宝を渡しはしないぞ!!」

 

「いや、いらないし。相手が海賊ではない限り人の財宝を奪わないぞ」

 

とは言っても、信用してくれない相手だ。こっちの言い分を無視して発砲、雄叫びを挙げながら大挙して襲い掛かって来た彼等をセルバンデスが言う。

 

「イッセー様、八宝水軍とはここ『花ノ国』のギャングで、20年以上前までは首領・チンジャオというものが引退するまで海賊でしたよ」

 

「ギャングで海賊? ・・・・・なら、遠慮なしってことか」

 

相手が王族か貴族、国の為に蓄えているのならともかく海賊でギャングなら話は別だ。

 

「メガロー、体が温まる運動ができるぞー」

 

「やってやらぁっ!!」

 

他の皆も戦う意思を窺わせ、四皇天龍が率いるメンバーと八宝水軍との戦いが勃発した。何やら白い髭を蓄えた巨漢の老人までもいて、頭突きをしてくるから思いっきり殴ったら錐状に尖った頭になってびっくりした。しかもそのまま真っ逆さまに落ちてぶ厚い氷の地面を割って膨大な量の財宝まで落ちてしまった老人を好機として見た。

 

「何か偶然にも氷が割れて財宝への道ができた! お前ら、全部手に入るまで足止め頼んだ!」

 

「さっさとしろよ!」

 

財宝の山に俺も落ちて展開した巨大な魔方陣にブラックホールのように吸い込ませる。あの老人が少しばかり気を失っていたようで邪魔してこなかったが、粗方回収を終える頃には目が覚めて自分の財宝が奪われる光景を目にして鬼の形相をするほど怒り狂った。

 

「貴様ァァァァ~~~~!!!」

 

「この世界に奪われてもいい奴がいてよかったよ。一切の罪悪感と躊躇せずに奪えるんだからな」

 

闇のオーラ、魔人の力を解放して巨漢の老人と正面から激突―――。

 

・・・・・数時間後

 

拘束した元海賊 首領チンジャオが海軍に引き渡し、懸賞金5億4200万ベリーを得れた。ふふ、また儲かったな。

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

5000万人の民間人の徴集は困難を極めるが、復興作業はスムーズに進んでいたマリージョア。朝昼晩もローテーションで昼夜問わず作業を続けさせられ、完璧に復興した期間はかなりの時間を要したが、彼等彼女等を元の故郷の島に返還する気などない天竜人は奴隷として囲った。人間以下の証をその身に刻まれたまま海兵だけは解放され、数年振りのマリンフォードへ帰還する直後であった。

 

「ほぉ? 海兵は目の前にいる奴隷を見て見ぬ振りをして自分たちだけ解放されるのか?」

 

この機を待っていたかのように今や最凶最悪の四皇である天龍が姿を見せた。

 

「だが許さん。今すぐ奴隷も解放して来い」

 

「ふ、ふざけるなっ!! 貴様の言うことなど誰がするものか!!」

 

「そうかそうか。じゃあ一部の天竜人を除いてこれから天から地へと引きずり落とすが邪魔をしてくれるなよ? 仏の顏は三度までっていう言葉を越えた連中にもう容赦しないから」

 

マリージョアへ向かうための乗り物が目の前で破壊され、空飛ぶことが出来る天龍を止めることが出来ずその日・・・・・たった一人の天竜人を残して他すべての天竜人と全ての奴隷が聖地マリージョアから姿を消した。世界政府と海軍は物凄い慌てぶりで全兵力を以て捜索を開始するも、天竜人の所在と安否を知るのは―――。

 

『クワハハハハッッ!! 最高のスクープを提供してくれて感謝する!!』

 

「喜んでくれているならこっちも動いた甲斐があったもんだ」

 

『ああ、これからもよろしく頼むぜ天龍!! ところで天竜人はどこに連れ去ったんだ?』

 

「ボーイン列島っていう島に。だけどその島の正体は島サイズの超巨大食肉植物「ストマックバロン」だがな」

 

『・・・・・流石に死ぬよな?』

 

「生きようが死のうがお互い関係ないだろ? それにあの島に住んでいる人間が一人いたから素直に生きる術を身に着けられたら生き抜けれるだろうよ」

 

ガチャと受話器を電伝虫の甲羅の上に戻して世界経済新聞社との通信を切ったところ、ヤマトが寄って来た。

 

「誰と話していたの?」

 

「先日の天竜人を拉致した件で世界経済新聞社と話してた」

 

「確か、美味しい食べ物が自然と沢山ある島に置いてきたって言ってたよね」

 

「そう、しばらく滞在していたせいで美味すぎるあまりお前らを豚みたいに太らせた原因の島にな」

 

うぐっ!? とヤマトは嫌な出来事を思い出され顔を引き攣った。おれも当時のことを思い出して溜息を吐いた。

 

「・・・・・さすがにあの姿でお前を愛する事はできなかったよ」

 

「で、でもイッセーの為に頑張って痩せたよほらっ!?」

 

高い身長、くびれた腰にすらりとした長い美脚。体脂肪が少ない腹部に曲線を描く豊かな胸。数年も共にいながらも彼女の顏は今も綺麗だと思っている。今現在おれ達は常夏の島におり、ビーチを楽しんでいるのでヤマトは水着姿だ。大きめのパラソルの下で人の両手を掴んで自分の脇腹を掴ませては触らす彼女に・・・・・ふむ。

 

「夜間に摘まみ食いしたな? 若干増えてるぞ」

 

「何でぇー!?」

 

悲鳴を上げる自由と冒険好きな彼女に、非情な現実を教えてやったのだった。

 

巨大なビーチチェアに寝転ぶ俺の真横に居座るヤマトといずれ訪れる未来を楽しみだと笑い合う。まぁ、三人がいなくなった代わりにと言ってはなんだが・・・・・。海賊に認定されて腹が立ったから、海軍が悔しがるような計画を実行していた事が今年中に完成する報告がセルバンデスから届いた。故に天竜人は人質のようなものだ。仲間にもおれの計画を知っている。完成が楽しみだな。

 

「次はどんな島に行く?」

 

「まだ見ぬ島がたくさんあるからな。寄る島が全ておれ達の冒険を待っている」

 

「そうだね!!」

 

笑いを零すおれ達のところへセルバンデスがやってきた。

 

「イッセー様。軍艦が三隻こちらに近づいてきます」

 

「おーご苦労。人がバカンスをしている時に襲ってくる困った連中の因果応報を受けてもらおうか」

 

「たくさん奪えるね!!」

 

確かに奪った物資は豊かになりますなぁ~。

他の皆のところへ合流するべくビーチチェアーから起き上がって足を運ぶ。ただ、軍艦にあろうことか海軍の英雄まで乗っているとは思いもしなかったがな!!

 

「げぇー!!? ジ、ジイちゃん!!」

 

「なんでジジイがここにいるんだよ!!」

 

「ル、ルフィ・・・!? それにエース!? お前等、どうして・・・・・」

 

おれはガープを一目見るなり―――。ガープはおれを見るなり―――。

 

「船に乗り込め!! あの海兵の拳骨は死ぬほどイタいぞお前等っ!!」

 

「貴様が原因か若造っ!!!」

 

魔法による遠隔操作で無人の船を動かし、海へ進む船へルフィとエース、サボを除く俺たちは三人を抱え魔法で飛んで飛び乗り逃げに徹する。だが、そう簡単に逃がしてくれないのが英雄だ。標的をおれに絞り武装色を纏って怒りの拳を突き出してきたッ!! 紙一重躱し、受け流してみんながこの島から離れる時を稼ぐ。

 

「イッセー!!」

 

「先に行けッ!! この爺ちゃんと遊んでから追いかける!!」

 

「ほざけ小僧っ!!」

 

 

「海賊を逃がすなー!!」

 

「ここで捕らえるんだ!!」

 

「ガープ中将の援護をするのだ!!」

 

おい、今なんて言った?

 

「誰が海賊だそこのお前ぇええええええっ!!」

 

ガープから緊急離脱!! 不名誉な事を言ってくれた海兵の懐に飛び込んで飛び蹴りを食らわす。

面白いぐらい吹っ飛んでも他の海兵が止まることはなく、おれやヤマト達に襲い掛かって来る。

 

剣を大きく振り上げて、バズーカや拳銃、ライフル等で攻撃する海兵に向かって手を突き出して、全員を浮かせる。ガープもその中の一人で格闘術しかできないタイプの相手はこうするのが一番だ。

 

「飛んでけっ!!」

 

見えない攻撃、衝撃波を放ちガープ達を遠くの海へ吹っ飛ばす。と言っても島から25メートル離れたところまでだがな。それでもすぐに島へ舞い戻る時間は掛かるだろう。ということでおれも先に出向させた船へ遅れて追いかけてヤマト達と合流するか。

 

「ただいまー」

 

「お帰り!! 大丈夫だった?」

 

「ああ、大丈夫だ。海兵も軽く海まで吹っ飛ばしたからすぐには追いかけて来られない。今の内に潜水する。船の中に入れ」

 

おれの指示に従う一同。後部甲板の農園が船内に降下して固く蓋されて閉じる。潜水モードの際の舵はメガローに任せている間、おれだけ船内に入らず警戒していると追いかけて来る軍艦を捉えた。全身ずぶ濡れのガープもだ。

 

「天龍、孫達を返せぇええええええっ!!」

 

「数年後にフーシャ村に帰す!! その後の三人は海賊になっているだろうがな!! フハハハッ!!」

 

「ふざけるなぁああああああ!!」

 

船は完全に海中に沈み、ガープの砲弾も届かないところまで潜水したことで一息ついた。

 

「ふー、ジイちゃんと会うなんて思いもしなかったよ」

 

「全くだ。しかもかなり怒っていたな。こりゃあおれ達が捕まったら拳骨十回で済まないぜ」

 

「うへぇ~・・・嫌だよ。おれゴムなのにすげー痛いんだぞ」

 

「そんなに痛いのかよ」

 

「「スゴく痛いんだ」」

 

身内にしか分からない話題の花を咲かせたルフィとエースの存在がバレてしまったな。バレたところで現状変わらんがな。

 

「お前等、今からフーシャ村に戻るか?」

 

一応聞いてみたがNOと言い返された。まだまだこの船で冒険をしたいとのことだ。まぁ、わかっていたことだがな。

 

「念のために次の島まで潜航するぞ。窮屈な思いをさせるが、暇なら修行でもしてろ。もしくは付き合ってやる」

 

「おう!! よろしく頼むよ!!」

 

「あのジジイに勝てるぐらい強くならないとな」

 

「おれももっと強くなりたいぜ」

 

退屈なのは嫌だと早速三人が乗り気で修行を臨み、特別な修行部屋へと向かって行った。

 

「元気ですな」

 

「まだ子供だからな。セルバンデス悪いけど、修行が終わったらあいつらは腹減らしているだろうから料理を作ってくれ」

 

「かしこまりました」

 

頼みごとをお願いしたおれも三人を追いかけて修行部屋へと赴いた。次の島までと言ったが次の島は一体どんなところなのか楽しみだな。

 

☆★☆★☆

 

ガープから逃れた後、新世界の海のどこかの島に上陸くしたおれ達は酒場で食事をしていた。相変わらずメガロ-とヴェージが喧嘩腰になってこの場で暴れそうな様子を気にせず注文した料理を食べていた時だ。店内の空気をガラリと一変させるほど、纏う雰囲気を漂わせる人物が存在感を周囲に圧倒させながら入ってきた。その人物に続くもの達もただ者ではなく一人一人が強者だ。

 

「「・・・・・」」

 

喧嘩していた二人でさえ口を閉ざして入ってきた一団を注視するほどだ。無視できない存在だと認識したようだな。

 

「イッセー、もしかして」

 

「間違いないだろ。お前ら出るぞ」

 

誰も異論はないと席から立ち上がって店を後にしようと扉に向かった。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

静かにおれと腰に穿いたおでんの刀を見る視線を感じ、この後起こるだろう未来を想像して準備を始めることにした。

 

「おいマルコ」

 

「わかってるよいオヤジ」

 

 

ヤマトside

 

酒場から出て直ぐイッセーは必要な物資を集めると急いで離れるかのよう島を後に船を出した。すると、僕達が進む向こう側から海軍の軍艦が二隻。

 

「戦う?」

 

「女ヶ島の一件でヤマトとロビン以外の皆も顔を知られたからなぁ。やるぞお前等」

 

「久々に暴れてやるぜ!!」

 

「下等種族共を海底へ叩き落してやらぁっ!」

 

巨大な海水の球を作り出し軍艦にぶつけた。火薬類の武器はこれで使い物にならなくなっただろうよ。

そんな軍艦の二隻の間に船を割るように通った瞬間。

 

「軍艦を落とせ!!」

 

「なっ!? て、天龍だぁああああああああああああ!!?」

 

天使の姿に仮面を被っているイッセーの姿を見て海兵達は絶望した顔になった。軍艦一隻に800人はいる計算だけどそんなもの数の内には入らない僕達だった。特に幻獣種の悪魔の実を食べたヒナタは自衛力が発揮すると・・・・・。

 

「ウォオオオオオオオオオオッ!!!」

 

全身の毛が金属のように堅固な鎧と化した。海兵のサーベルなど物ともせず弾き魔力を得て口から火炎と全身から雷を放って広範囲攻撃をするものだから、仲間の中で能力を使えばヒナタがイッセーを除いて僕と同等に強い。

 

「“ゴムゴムのピストル”!!」

 

「燃えろ“火拳”!!」

 

「おりゃあー!」

 

ルフィ達も将校クラスの海兵じゃなきゃタイマンで勝てるレベルまで強くなった。イッセーの修行の賜物だね。

 

「天龍、死ねぇ!!」

 

この軍艦の事実上のトップの将校の海兵の大雑把な攻撃をイッセーが翼で受け止める。するといつの間に持っていたのか、天竜人の蹄の焼印を用意して海兵の腹部に押し付けた。

 

「ぐあああああああっ!?」

 

「人間以下に成り下がってしまった気分はどうだ? なぁ、どんな気分だ?」

 

「き、貴様ぁあああああああああ・・・・・!!!」

 

「これで少しは奴隷にされた無辜の人間の痛みと気持ちを共感するんだな」

 

―――一時間後。二隻の軍艦を相手に大勝利した。船内は強制的に連行された人間はおらず、ワオウが軍艦の物資と金品をいつも通り拝借してくれてこっちの船が潤った。海兵たちを全員マリンフォードへ直接転移で送り、軍艦二隻を回収に掛かる時だった。

 

「イッセー、大きな船がこっちに来るよ!!」

 

「海軍じゃないんだな」

 

「うん、クジラみたいな船!」

 

僕達の船首はおでんじゃなくて三つ目のドラゴンの顔になってる。そこがイッセーの新しい船長室となっていて、口を開くことも出来るんだ。その中からイッセーが砲弾を投げたり、火を噴いたり、僕が金棒で砲弾を打ったり、のんびりと寛ぐ別室もある。

 

「セルバンデス」

 

「確実に白ひげ海賊団の船で間違いないでしょう。私達と交戦する可能性がありますが如何致します?」

 

わざわざ追いかけに来た、もしくは偶然か・・・・・うーん。

 

「ヤマト、ハンコックを呼んで来てくれ。相手は同じ四皇の海賊団。幹部もこっちの骨が折れそうな強者ばかりだろうから念のために戦力を整えたい」

 

「わかった!!」

 

イッセーの頼みを聞いて甲板にある扉の無い機械的な門に走り、起動して繋がった女ヶ島のハンコックがいる城へと急いで向かった。

 

そして―――。

 

白ひげ海賊団の船、モビー・ディック号と同じ高さで250メートルと長い天龍の船が無人の海軍の軍艦を介して、遅れて九蛇海賊団を率いたハンコックが駆け付けて来てくれ・・・・・明らかにカイドウよりは身長低くても、一般人からすれば巨大の部類に入る身長だ。三日月のような白い口ひげを蓄えた、常人の数倍はある体躯の筋骨隆々の大男で、頭に黒いバンダナを巻いており地肌に直接コートを羽織っている。そんな老人が鈍い足音を立たせながら近づき、巨大な薙刀を片手に鋭い眼差しで見下ろしてくる。

 

「白ひげ海賊団の船長エドワード・ニューゲートか」

 

「天龍のイッセー・D・スカーレットだな。最近海軍相手に暴れ回っている小僧がこんなところで出会うとはな」

 

「出会う? 酒場で俺を見てたじゃん。四皇になったばかりの若造を追いかけて来るほど何か用なのか?」

 

最近じゃあ赤髪海賊団って言う海賊が名を挙げている。おれが四皇になってなきゃ赤髪海賊団の船長が四皇の名を欲しいままに得ていただろうな。

 

「ああ、単刀直入に訊く。おめェの腰にある刀・・・よーく見覚えのある俺の弟だった奴のもんでな。一体どこで手に入れたのか教えてもらいてェんだ」

 

「おでんの刀のことか? こいつは複製したもので本物はおでんの『親類』が今でも管理しているぞ白吉っちゃん」

 

「・・・・・どこでそれを知った」

 

おおう、凄いプレッシャーだ。まるで「お前にお義父さんと呼ばれる覚えはない」みたいな感じかも。ヤマトに目を配らせ、和服の中から古びた一冊、おでんの航海日誌を取り出して見せつけてくれた。

 

「おでんの日誌を呼んだ」

 

「・・・・・」

 

白ひげが無言で手を伸ばして来た。見せろと言わんばかりにだ。ヤマトはそれに察して日誌を手渡したところ、おれ達なんか気にせずその場で読み始めた。今攻撃しても軽く防がられるだろうな。

 

「・・・・・確かにおでんの字だ。こいつはあの男の物で間違いないな」

 

「信用してくれてどうも」

 

他に聞きたいことはあるか? と訊くと白ひげは思ったことを口にする。

 

「そうだなァ・・・・・おでんの家臣共は?」

 

「何人か知らないけど、他は元気だ。故郷の“ゾウ”でイヌアラシとネコマムシもな」

 

「グラララ・・・・・そうか。あのイヌとネコも『20年後』の為に自分の故郷に戻っていたか」

 

懐かしそうだな。会わせてみるか?

 

「あーちょっと待っててくれるか?」

 

直接ミンク族の住まう地に空間を繋げて二人を呼ぶ。よー、久しぶりー。いま白ひげと居るんだけど会う? そっか、会うなら今行こうすぐ行こう。という流れで大きなイヌとネコを連れて来ました。

 

「おお・・・懐かしいではないか。随分と懐かしい顔ぶれが揃っている」

 

「ゴロニャニャ!! 久しぶりだぜよ皆!! それにイゾウも!!」

 

「イヌとネコ!! 本当に久しぶりだよいっ!!」

 

「元気だったか!!」

 

おそらく幹部の団員がイヌアラシとネコマムシに寄って和気藹々と会話の花を咲かせるのであった。その間、白ひげが話しかけて来た。

 

「おめェ、今どうやって連れて来たんだ?」

 

「おれの能力としか言えないな。マーキングした場所ならいつでもどこでも離れた空間と繋げて行き来できるんだ」

 

「そいつはァ便利な能力だな。だからあの二人を連れて来られたのか」

 

納得してくれて何よりだ。

 

「まだ何かあるなら一晩ここで過ごすか? ワノ国のおでんを振る舞ってやるぞ」

 

「グララッ。そいつはいいな、是非とも食べさせてもらおうじゃないか」

 

という事でその日の夜は軍艦の甲板で大宴会をすることになった。九蛇海賊団と白ひげ海賊団からも宴会の為に料理を作って酒も用意してもらったことで何の不備もなく食べて飲んで大いに笑った。特別ゲストとしてレイリーさんとシャクティさんも呼ぶと、すっかり白ひげと酒を飲み明かす。さらには―――。

 

「おでんの妻とその子供も連れて来たぞー!!」

 

「まぁっ!! 皆久し振り!!」

 

「こっちも久しぶりだよいっ!!」

 

「おトキ様!! 日和様!!」

 

「おお、これはまた懐かしい人を連れて来たなイッセー君!!」

 

共通ある人物達との再会に場は大盛り上がり。一夜限りの再会といえど皆はこの大宴会を楽しんだのは確かだな。ああ、そうだ。

 

「レイリー、こいつがロジャーの息子のエースだ」

 

「ロジャーの・・・ああ、本当にあの男の面影がある。ふふ、懐かしく感じて来たよ」

 

何時か会わすと話したことも忘れず履行したのであった。レイリーの目尻に雫が溜まって本当に懐かしいものを見ている様子だった。

 

翌日・・・・・。

 

甲板で雑魚寝したおれ達は起き上がり、ここに連れて来たおトキ達を別れの挨拶をさせてから元の場所へ送り出した。おれと白ひげも自分の船に戻ろうとしたがおれから頼みごとをした。

 

「白ひげ、一度だけ俺と勝負してくれないか。あんたの強さを骨の髄まで感じてみたいんだ」

 

「随分と好戦的だな若造。だがいいだろう。昨夜は大いに楽しませてくれた礼だ。お前の気が済むまで付き合ってやる」

 

「おお、ありがとう!! じゃあ、戦う前にっと」

 

レイリーさんと同じく白ひげを若返らせる。若々しい体つきになりバンダナを巻いた頭からは金髪が伸びた白ひげに彼の海賊団は、えええええええええええええええっ!? と絶叫した。白ひげ自身も自分の体の変化に驚きを隠せないでいるほどだ。

 

「親父が・・・若返っただと!?」

 

「全盛期の白ひげと戦いたくてな。数十年前ぐらい若返らせてもらった」

 

「・・・・・小僧、お前は一体何者だ? 悪魔の実の能力者では片づけられないぞこれは」

 

「知りたかったら俺を倒してからだ」

 

おでんの二振りの刀を抜いて構える俺に、薙刀を構える白ひげ。

 

「いざ、尋常に勝負!!」

 

「こい小僧!!」

 

武器に流桜と覇王色の覇気を纏って振るう俺と同じことをする白ひげの薙刀が、見えない力と力が衝突して互いの武器が触れず、鍔迫り合いをする。否、おれが押し負けそうになっている!!

 

「―――さすが、強いっ!!」

 

「グララララッ!! この程度でぶっ倒れんじゃねぇぞ。おでんやロジャーはもっと耐えていたぞ!!」

 

「発破かけてくれてありがとうな!! ますます倒してみたくなるじゃんかよ!!」

 

おれの気が済むまでと言ってくれたので全力で実行することにした。ロジャーのように覇気だけで戦ってみたら三日三晩も経過していて、俺自身も最強の男との戦いでさらに強くなった感じがした。やはりこの世界の強者は本当に強くて刺激的だな!!



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再会と変化

 

南の海(サウスブルー)

 

 

とある島に上陸したおれ達。のどかな島と町に辿り着き、島民に島の名前を教えてもらって分かったのが『バテリア』だ。しばらく滞在することにして問題を起こさず自由に行動する最中、エースが少し様子がおかしい。

 

「どうしたんだエース?」

 

「ああ。さっきからそわそわしてよ」

 

「・・・いや、なんか心が落ち着かないんだ」

 

自身でも理解が苦しむ心情のエースに船にいるか提案の話しをかける。エースは一瞬だけ逡巡してから問題ないと首を横に振った。

 

「・・・・・いや、大丈夫だ」

 

「そうか。もしも異変を感じたら必ず隠さず言うんだぞ」

 

それが上陸する前のことで、久々の上陸という事で男女に分かれて行動をする事にしたのだった。おれは自由気ままにひとり島中を歩き回っては観光気分を浸っていた。そんな時にこの島の島民が眠る墓標を見つけて何となく足を運んだ。少なくない数の墓石に刻まれてる名前をひとつひとつ視界に入れ―――不意に足を停めてしまうほどおれの目を釘付けにさせる名前の墓石があった。

 

「『ポードガス・D・ルージュ』?」

 

ポードガス・D・って・・・・・エースと同じ・・・・・まさか、あいつの母親か? 透視の能力で地中を透かしてみれば、埋葬されてる人骨と一緒に埋まっている黄金の剣があった。さらに異世界にいる家族の能力も使って情報を閲覧すれば・・・・・。

 

「―――こいつは偶然か? いや、必然だったらおれがやることはもう決まっているな」

 

意を決して行動を始めた。それが今後どうなるか知らない。おれの知っちゃこっちゃない。

 

数日後―――船を出航する。久々に町中でのんびりとリフレッシュできたみんなに注目してもらった。

 

「イッセー、その棺桶はなんなの?」

 

「うん、バテリアで死んだ人の遺骨を納めてる棺桶だ」

 

「・・・お前、そんな趣味があったのかよ」

 

「ガンヴァ、おれにどんな趣味があるのか後で二人きり話し合おうか。とにかくみんなに死者蘇生の瞬間を見てもらいたくてな。ヤマト、おでんを復活させると言った話をこの遺骨で再現してみるぞ」

 

話だけでは曖昧でどんな風に死者を甦らすのかわからないだろう。故にここでお披露目をするわけだ。棺桶の蓋を外して、事前に着せた白いワンピース姿の遺骨の姿がみんなの視界に入る。

 

「刮目せよ。死者蘇生を!!」

 

胸から浮かび出て来た聖杯の能力を発動、その効果が淡い光に包まれる遺骨に発揮するのだった。骨しかなかった遺骨が肉が付き、臓器、血管、筋肉、眼球、肌、髪の毛が再生していく様子を最後までおれ達は見届け、瞼を下ろすそばかすがある女性になったのだった。

 

「こ、これが死者蘇生だと・・・・・」

 

「本当に甦ってンんのか・・・?」

 

目の前の光景に半信半疑するのは無理もないが現実だぞ。

 

「イッセー殿。なぜ今になってこのようなことをなされたので?」

 

「勿論理由がある。それはだな―――この女性はエースの母親だからだ」

 

そう告げた直後に甦った女性、ポードガス・D・ルージュの瞼がピクっと動いた。それから徐々に閉ざしていた目を開けてぼんやりとした眼差しで見渡す。

 

「・・・・・ここ、は?」

 

「初めまして。ここは船の上だ。ポードガス・D・ルージュで間違いないな?」

 

「・・・・・政府の人なの?」

 

「生憎そうじゃないぞ。今やお前が死んで十数年が経っている世界だ。そしてお前を甦らせたのは会わせたい奴がいるんだよ」

 

彼女から離れ、エースの傍に寄り背中を押して彼女に近づかせる。ルージュはそんなエースの顔を見つめこう呟いた。

 

「・・・・・エース?」

 

「・・・・・ッッ」

 

「ああ・・・エース。最初に抱いた赤ん坊が、私とあの人の愛しい子がこんなに素敵に成長していたなんて・・・・・」

 

棺桶の中から腕を伸ばし、エースの背中に回して抱きしめるルージュ。抱擁を返さないエースは戸惑っているだろうけど、生きている人間の、母親の温もりをこの瞬間初めて感じているはずだ。

 

「あなたを残して先に死んでしまってごめんねエース。もっとこうして抱きしめてあげれなくてごめんね」

 

「・・・お」

 

「エース、私の愛おしいエース・・・ありがとう。立派に成長してくれて本当にありがとう」

 

「お・・・おふく、ろっ」

 

「今まで頑張って生きてくれてありがとう」

 

「―――あああっっ!!!」

 

それからのエースは母親を抱きしめて、全身を震わせて泣き出した。何とも切なく釣られて泣きそうな感動シーンを見せつけられジーンとなった。

 

そして後日。エースの母親はフーシャ村に送り届け住まわせた。その際一文無しと家無き彼女の為に一からおれ達が作り、彼女にはパン屋として頑張ってもらうことにした。余談だが、ルフィ達が世話になっていた山賊たちのところに顔を出して驚かしたようだ。

 

「・・・・・イッセー、さん」

 

「ん? お前がさん付けするとはな。どうした」

 

パン屋の裏方で作業をしていたところにエースがやってきた。ルフィとサボと一緒じゃないのがまた珍しい。

 

「・・・・・おふくろのこと、ありがとう」

 

「気にするな。それとこれはお前が持つべきだろう」

 

ずっと持っていた鞘に収まってる金色の西洋剣を手渡す。手の中にあるその剣を、なぜ? と不思議そうに見つめるエースに告げた。

 

「それはゴールド・ロジャーを支えてきた剣だ。お前の母親と同じ墓の中で眠っていたんだが、武器を使うならその剣を受け継ぐべきだ」

 

と、提案したがエースは物調面の表情を浮かべて剣を渡し返して来た。

 

「いらねェ。あのクソオヤジが使っていた武器なんて使いたくもねェ」

 

「・・・・・海賊王の息子として思うところがあるのか?」

 

「鬼の血を引いているんだぞおれは」

 

鬼の血、ね。アホか、とそう言ってエースの額に強めのデコピンをした。

 

「それ言ったらヤマトも同じだぞ。自分を卑屈にするなよエース。生まれた子供は親を選べれないが、生まれた子供がどう生きるかその子供次第なんだ。親や親の血なんて関係ないぞ」

 

「・・・・・」

 

「それでも気になるってんなら、お前は一度死んで生まれ変わるべきだ。だがな、お前自身がどう思っていようとお前を愛する仲間や家族がいるんだ。そいつらのために生きる大切さを絶対に忘れるなよ。海賊王の息子だからってお前が生まれてきて嬉しい奴はいるし、生まれてきてよかったって思うことが必ずあるんだからな」

 

ロジャーの剣でトントンと片に叩きながら述べる。

 

「とりあえず、船とエースの母親のパン屋と行き来できるようにしてある。会いに行きたいなら一言言ってから行けよ」

 

「・・・わかった。ありがとう」

 

ロジャーの剣、『エース』はおれが所持することにした。何時かエースが願ってきたら譲渡するが、それはいつになることやら。

 

 

海軍本部―――。

 

 

「なに・・・? 今なんと言った、もう一度言ってくれ」

 

報告に上がって来た海兵の口から信じ難い話を聞かされた。そんな、まさか、あり得ないとセンゴクの心境はどうか聞き間違いであってほしいと願うのだが。

 

「は、はっ・・・天龍が天竜人の返還に対して全奴隷の解放と奴隷制度の撤廃、世界政府の公認の独立国家に世界貴族認定を求め、政府はこれを認めました。事実上、四皇天龍と以下幹部達も政府すら手が出せない絶対聖域を手に入れたことになります」

 

「なん、だと・・・!?」

 

四皇が世界政府公認の独立国家を築き上げた。他の四皇は縄張りや自分の国を持っているが、島と国に関しては非加盟国であるので問題視はしないが公認ならば話は別だ。海軍や世界政府が手を出せない犯罪者の国など存在してはならないのだ。ましてや天龍がそれを手に入れてしまえば、更に何を仕出かすかわかったものではない。

 

「・・・天竜人はどうなった」

 

「今現在、全ての奴隷の解放を行っているので誘拐された天竜人はまだマリージョアに返還された報告は有りません。その際、天龍が・・・・・」

 

―――反故したら、天竜人を始めとするエニエス・ロビーとマリンフォードとマリージョアを滅ぼす。

 

「・・・・・あの男なら本当にやりかねん、か」

 

後日、全てを反故してなかったことにする算段も考えていたが、先読みしていた天龍に看破されたかのように釘を刺された政府は、天龍の風雲のような行動力と四皇としての実力に危惧し、天竜人の返還が叶うならば認めざるを得なかったのだ。

 

☆★☆★☆

 

カイドウside

 

「おいどういうことだ」

 

「おれもどういう事なんだと言いたい件があるんだが・・・・・」

 

新聞の記事の件について呼び出した小僧が困惑した表情で言い返してきやがる。

 

「なんでビック・マムがここにいるわけ?」

 

おれの隣に甘ったるいモンを飲んでいるリンリンに対して、何も知らない小僧は理由を求めて来た。

 

「マンママンマ・・・・・おれとカイドウは同盟を組んだのさ!!」

 

「同盟~? 海賊王に同盟なんてする必要あるのかよ? というか、おれという者がいながら別の四皇と手を組むなんてジェラシーを感じるぜ」

 

「世界を征服するには数も必要だ。白ひげのジジイ以外のおれ達が揃えばもはや海軍は無いも当然。迅速的に戦力を整えるに越したことじゃねェ」

 

何か言いたげな顔をするが、異論を言わない辺りリンリンと同盟を組むメリットはあることを理解しただろう。リンリンのガキ共は良い戦力になる。

 

「裏切られないようにしときなよ。海賊は裏切られてなんぼなんだからな」

 

「そう言うお前も海賊に認定されたじゃないか」

 

愉快に言うリンリンをイッセーが短気になって激怒した。

 

「うっさいわこの三下クソババア!! こっちは勝手に世界中から海賊に認識されてはた迷惑なんだよ!!」

 

「誰が三下だクソガキッ」

 

こいつ、怒り易くなったな。海賊に認定されてからか?よほど海賊として扱われたくないようだな。

 

「懸賞金順で言えばお前が一番低いじゃん? カイドウは海賊王だから除外されるからな。四人目の皇帝が現れない限りビック・マムが三下だ。理解したかバーカ!!」

 

「おいカイドウ!! おめェこのガキの教育がなっちゃいねェじゃないか!!」

 

「事実だろうが。ウォロロロ」

 

「はぁー!!?」

 

現実を受け入れやがれ。

 

「リンリンのことは教えた。お前はなんなんだ。独立国家を得て世界貴族になった理由は?」

 

「単なる海軍と世界政府への嫌がらせ」

 

嫌がらせ・・・だと? 何を考えてやがるんだこいつは。

 

「散々辛酸をなめさせられた捕まえなきゃならない相手がさ、独立国家と世界貴族に認められて手が出せなくなったらどう思うよ?」

 

「それだけのために世界貴族になったって言うのかイッセー」

 

「ふふっ、いずれ暴力の世界を作るカイドウの海賊団による蹂躙が始まるんだ。世界中の貴族の中で唯一安全が保障される国があるとすれば、百獣海賊団の恐怖と絶望から逃れたい一心で、安心安全な国へ藁をすがる思いで集まってくるだろうよ。そこがまさか、地獄の出入り口に繋がっているとは思いもしないだろうがな」

 

国? 支配している国でもあるのか? 

 

「四皇という自覚を持ったのか? 自分の国を抱えるようになったか。戦争を知らねェ王族貴族がお前の国に集まるってんならどうするつもりだ?」

 

「うちの宿泊施設は高いからなァ。一年以上宿泊して支払いができなくなったら新鬼ヶ島で働かせる。ま、死ぬだろうがな?」

 

「ウォロロロ・・・・・」

 

言えているな。確かにその通りだ。やはりイッセーの言動と行動力はおれの予想を遥か上回ることばかりだ。リンリンに言う。

 

「どうだリンリン。おれの義息子はお前のガキ共と違ってここまでできるぞ」

 

「はんっ!! だから何だって言うんだい。おれがその気でやらりゃあ、うちの息子と娘達もこの生意気なガキに後れを取らせやしないよ!!」

 

「ふーん? ま、これからも精々頑張れば? 現状四皇の三下ババアさんよ」

 

「このクソガキャアアアアアアッ!!」

 

おい、ここで暴れるんじゃねェよ。そう言うとイッセーが両腕を巨人よりデカい異形の手に変え、飛び掛かったリンリンの両手を掴み力の根競べを始めた。

 

「お前、そう言うことも出来るのか」

 

「逆にカイドウは出来ないのかって話だけど」

 

「無理だな。悪魔の実の能力は強化と覚醒は出来るが、動物系の悪魔の実の能力者は身体の一部だけを変化させることは出来ない」

 

納得したイッセーはリンリンを解放した。

 

「ところでカイドウとビック・マムは肩並べて一緒に酒とおしるこを飲んでるけどさ、もしかして昔から付き合いがあるのか?」

 

「ああ、昔同じ海賊船に乗った程度だ」

 

「そん時のカイドウは海賊見習いで船に乗ってきたのさ。あん時のこの小僧は、おれが初めて話しかけても無口で可愛げがなかったがな」

 

「無口? 人見知りだったなのかカイドウ」

 

「ちげーよ。白ひげのジジイに誘われたその日に乗ったらババアに話しかけられたから、なんだこの女はって思ったんだよ」

 

「それからこのおれがカイドウを弟のように可愛がってやったのさ。こいつが能力者になったのも、おれが動物系の幻獣種“ウオウオの実”を与えてやったからなのさ」

 

イッセーにとっておれ達の過去話は興味惹かれるようだが、昔のことをほじくり返されるのは面倒この上ない。

 

「へぇ、じゃあカイドウはビック・マムに感謝しなくちゃならない立場か」

 

「マ~ハハハ!! 小僧わかっているじゃないか。そうさ、カイドウはおれに一生の恩を返さなくちゃならないのさ」

 

「昔の話だ」

 

そう言い捨て酒を呷るおれを他所にこいつらは、仲が悪いとは思えないほど話し始める。

 

「おまえ、カイドウから聞いたよ。異世界から来たって?」

 

「海賊時代ではなくなった世界だ。それが?」

 

「おまえの世界は一体どんな世界なのか興味あるねェ。美味しいお菓子もあるのかい?」

 

「あるけど、同じお菓子があるだけだ。この世界のお菓子の技術には負けるよ」

 

「なんだい、つまらねェ世界だね」

 

「その代わり、半永久的に生きられる術はあるがな」

 

半永久的だと・・・・・?

 

「信じられない話だね。不老不死の人間でもいると言うのかい」

 

「いるぞ? それに人間を辞めて別の種族に転生したら千年は軽く生きられるし」

 

「・・・・・おまえもそうなのか?」

 

「まだ、若輩ものだがそうだ」

 

半永久的に生きられるか・・・・・興味深い事が聞けそうだな。

 

「おい、それが本当ならおまえはその術を知っているのか」

 

「知ってるもなにも、カイドウの部下におれの世界の生き物に転生させてるのがそうなんだがな」

 

あれがそうなのか?

 

「まぁ、長生きできるだけで病気で死んだり誰かに殺されたりすれば死ぬことは変わらんよ」

 

「そうかい。特別死なねェわけじゃないのはわかった。じゃあ、あのバケモノ共もおまえの世界の生き物だってことかい」

 

「ああ、そうだ」

 

バケモノ? おれの知らないことをこいつらは知っているのか。まぁいい・・・。

 

「イッセー、久々に魚人島の酒を飲みたくなった。持って来い」

 

「おまえに顎を使われる理由はないんだが?」

 

「なら、おまえの好物を大量に作って用意してやる。それでいいだろ」

 

「―――今すぐ行ってきまーす!!」

 

180度の否定した小僧が180度の真逆な反応をしてあっという間に居なくなった。なんて扱いやすい・・・・・。おれはこんな単純なこと知らずにいたのか。

 

メガローside

 

カイドウに頼まれたからと国外追放された魚人島に戻ることになるとはなァ~・・・・・。だが、ま、そんなことどうでもいいと思っている。なんせ、こうして追放されようがされまいが古巣へ自由に戻ってくるんだからよ。

 

「うわぁあああああああっ!? メ、メガローだぁああああああああああっ!!?」

 

「バカな、メガローだと!? あいつは国外追放されたんじゃないのかよ!!」

 

「逃げろっ!! あいつが今すぐ暴れ回るぞ!!」

 

ガシャシャシャッ!! 懐かしい光景だなオイ。だが、そうだなァ?

 

「退屈しのぎと暇潰しで、久々に大いに暴れてやるか」

 

「「止めろバカ」」

 

チッ、下等種族のこいつら来やがったのか。イッセーの奴が寄こしたのか?

 

「テメェ等。何でここにいやがるんだよ。イッセーから言われたのか」

 

「イッセーからは魚人島にいる間は自由に動いていいって言われただろ」

 

「おまえが古巣に戻ったらまーた暴れ回るだろうからってよ、ガンヴァに頼まれて一緒に見張りに来ただけだ。何か仕出かしたら即イッセーにチクるぞ」

 

あいつは一切関係なくテメェの意思で魚人街にまで来たってのか。海の中じゃおれの独壇場だって言うのによ。

 

「それと昔おまえがいた場所の見物もあるがな。案内してくれや」

 

「デケェ沈没した船と貝殻があるな」

 

面倒くせぇ・・・!! イッセーや能力を使えば強ェあの白髪女ならともかく、なんでこいつらを楽しませなきゃならねェんだよ。

 

「勝手についてくりゃあいいだろう。イッセーにチクるならそうしろ、おれは自由に暴れさせてもらうだけだ」

 

「この野郎、開き直りやがったな」

 

「いらねェ騒動を起こすなバカサメ!!」

 

誰がバカサメだッ!! ―――いや、こいつらを巻き込んで暴れてやりゃあ共犯になるな? ガシャシャシャ!!

 

「・・・なんだ、メガローの奴なにか企んでるぞ」

 

「嫌な予感しかないぞおい。この感じはおれもイッセーに説教を巻き込まれ―――あっ!!」

 

ヴェージの奴ァ気付いたようだな。さすが付き合いが短くない下等生物だ。

 

「周りに被害を出さないよう全力で停めんぞ!! こいつ、おれ達を共犯扱いにする気だ!!」

 

「は? 意味が解らねぇよ共犯だと?」

 

「察しろよバカ!! メガローを止める際にこの街に被害を出したら、おれ達も暴れた共犯でイッセーに説教されるってことだよ!!」

 

そう言うこった!! ってことで、一緒にイッセーに怒られようやぁあああああああああああ!!

 

「「本気で止めろお前ェー!!?」」

 

 

 

「・・・・・で、結局は魚人街を全壊にしてしまったというわけなんだガンヴァとヴェージ」

 

止めに行ったら自分達まで結果的に破壊をしたし破壊を許してしまったり・・・・・魚人島から逃げるように転移魔法で戻った船の甲板の上で正座させてる三人に向かって尋ねた。

 

「おまえ達の意思でメガローを気に掛けたのはいいんだが、一人で破壊するよりその三倍の破壊を街に齎してどーするんだよ。魚人街を潰滅って・・・・・」

 

「「す、すまねェ・・・・・」」

 

「ガシャシャシャ!! いい破壊っぷりだったぜこいつらもよ!!」

 

「おまえは反省しろ!!」

 

ドラゴンの拳(覇王色と流楼込み)で思いっきりメガローの脳天に殴った。

 

「ったく、不幸中の幸いと言うべきか。魚人街は無法地帯だからリュウグウ王国に何の影響が出ないからよかったよ」

 

「ミイラ取りがミイラにされた結果になってしまったのがすまないと思うが、魚人族の海賊団が襲ってきた原因でもあるんだよ」

 

「魚人海賊団?」

 

「奴らの相手もしなくちゃならなくなったから、さらに戦闘が発展してしまったんだ。一概におれ達だけが悪いってわけじゃないことを解ってくれよ」

 

タイガー達が魚人島に戻ってきたのか?

 

「おいメガロー。魚人海賊団ってタイガー達か?」

 

「(悶絶中)~~~っ、ちげェよ。なんか新魚人海賊団とか言う連中だ。頭はホーディー・ジョーンズってサメの魚人だったぜ」

 

また新しい魚人の海賊団が旗揚げしたのか。初めて聞いた名前だが、実力があるのにまだ海賊として名も上げていないのなら警戒を抱かせるな。

 

「それで、このバカサメの思惑に乗せられたわけだが、連中は戦いの途中でこんなモンを使ってたんだ」

 

ガンヴァが何かが入っている袋を懐から取り出して渡してきた。中身を取り出すと小さなカプセル、何かの薬物と見受けれるものだった。

 

「これは?」

 

「それを飲んだら一時的にパワーアップするらしい。実際、本当に飲む前と比べて強くなったからな」

 

「念のためだとおまえが寄越した空気を得る魔法の道具で、戦いの場の地の利をこっちに持ってこれたから勝てたが、やつぱり海の中での戦闘は難しいぜ」

 

メガローを止めるべく使うことになるとはな。また作らないといけないか。

 

「一応、おまえが興味を抱くだろうと連中が持っていた薬を全部かっぱらって来たがいるか?」

 

「取り敢えずは預かる。薬の効果がわかったらカイドウに渡すか」

 

「魚人にしか効果がないもんだったらどうするよ」

 

受け取る袋をポンポンと手の中で弄びながら断定する。

 

「ハッキリ言えるのは、おれ達には必要ないものだ。力が増大するドーピングみたいな薬は副作用が付き物だからな」

 

「確かにな。おれ達には魔力がある。薬なんかよりは便利な力だぜ。それはそうと、酒は手に入ったのか?」

 

「ああ、ついでにお菓子の契約もしてきた。快く承諾してくれたよ」

 

「何で菓子なんだ?」

 

その内分かる。ということで直接カイドウへ酒を届けに新鬼ヶ島へ空間を繋げて赴いた。

 

「カイドウ、酒を持って来たぞ」

 

「おう、ご苦労だった」

 

要望の酒をカイドウに渡して、それからそこらへんにる団員に「クイーンはどこにいるかわかる?」と訊くと案内してくれた。

 

「クイーン様!! イッセー様がお越しになられました!!」

 

「あ~ん? おれは忙しいんだ、小僧の相手をする気は一切ねェって伝えろ」

 

「そうか。じゃあ魚人島から持ち出したドーピング剤はいらないか。邪魔したな」

 

何やら作っている自称筋肉の風船がこっちを見ずに言うものだから、踵を返して去ろうとした矢先にクイーンの制止の声が聞こえて来た。振り返れば作業していた手を止めてこっちに顔を向いていた。

 

「今なんて言った? 魚人島のドーピング剤だと?」

 

「直接見たわけじゃないけど、仲間が言うには戦った無法者の魚人達が薬を飲んで一時的なパワーアップしたってさ。百獣海賊団にくれてやろうかと思ったけど、おれの相手をする気が無いんなら処分するしかないだろ。カイドウもがっかりするだろうな。人間にも効果あるなら是が非でも部下達に使わせたいだろうに」

 

その薬剤が入っている袋を手の中で弄び見せつければ、興味を持ったようで副作用のことを訊いてきた。

 

「過剰な服用をすれば老化になる。それだけだ」

 

「ほう。魚人族共は便利な薬を生産していたのか」

 

「クイーンも出来るだろうと思ったんだけどいらないなら捨てるぞ」

 

「誰がいらないと言った。寄こせ」

 

投げ放った袋を片手でキャッチするクイーン。中身を取り出して早速成分を調べ始めに掛かるようだ。

 

「おい、ドーピング剤と使いどころを間違えれば老化する、さっきの薬の副作用のことも他の連中にも教えてやれ。クイーンが手掛けるんだ。それ以上の強力な副作用を伴う劇薬になるだろう。一日1錠、服用したらしばらく薬を飲むのを控えろ。四皇天龍からの厳守だいいな」

 

「かしこまりました!!」

 

用件を済ませたことで、魔法でみんながいる船へと転移して戻った。



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幼い歌姫との邂逅

 

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新世界のとある島を見つけ上陸するべく船を進めた。晴天に恵まれたおれ達は意気揚々と上陸したもののすぐに異変に気付いた。

 

「ここ、荒廃してる島か」

 

「街並みが廃墟だね」

 

復興作業の手が入っていない街並みを通り、ここは昔国が存在していたという事が明らかだ。人の気配は殆どないに等しいが・・・・・いるな。

 

「人の気配を感じる。話を聞きに行くぞ」

 

「うん」

 

ヤマトと一緒に赴き街から離れた海を一望できる場所へ足を運ぶにつれ聞えて来る歌声。透き通った声、目を閉じてこの歌を何時までも聞いてみたいという魅力さがある。そんな歌を歌っている人物の後ろ姿を捉えると、その場で立ち止まって歌い終わるのを待った。途中で停めさせるのは無粋だからな。

 

「~~~♫ ~~~♬ ~~~♩」

 

おれ達に気付かず歌い続けるのは、赤色と薄いピンク色のツートンカラーの髪が特徴的な少女だ。密かに少女の情報を能力で探って見たところ・・・・・はっ? ・・・・・マジ、で? 衝撃的な少女の事実に大きく目を張った矢先、歌が止まった。

 

「・・・・・ねぇ、さっきからそこで黙って見られると気が散るんだけど」

 

「気付いてたか。すまない、おまえの歌を邪魔しちゃ悪いと思ってたからな。教えてほしいがこの島の住民か?」

 

「そうだと言えるし、そうじゃないとも言えるわ」

 

「えーと? もしかして島の外から移住してきたの?」

 

だったらなに、とおれ達はあまり歓迎されてないようだった。

 

「おれはイッセー・D・スカーレット。こっちは自由と冒険が大好きなヤマトだ」

 

「よろしく!! キミの名前は何て言うのかな?」

 

「・・・・・ウタよ」

 

「ウタか。単刀直入に言うが、ウタの音楽の才能を非加盟国の為に使ってみないか?」

 

提案を述べるおれに訝しむウタ。

 

「非加盟国? って国のために? それで私の歌がどうなるってのよ」

 

「おまえの透き通った歌は絶対にこの世界の人間を生きる活力を与える。特にお金を払わないと海軍に守ってもらえないでいる、お金を払っても食べる物を買えない貧乏な国はこの世界には沢山ある。そんな人々には生きる気力、心の拠り所が必要なんだ。その一つが心に届く歌だ」

 

「・・・・・」

 

「おれの言っていることは綺麗事に聞こえるだろう。実際その通りだ。それでも放っておいていい筈がないのさ、目の前に今を苦しむ人間達をよ」

 

少女の瞳に真っ直ぐ見つめ、おれの視線を反らさず受け止めるウタは耳を傾ける。

 

「それに外から来たウタがもしも会いたい人がいるなら一緒に探すことも出来るぞ」

 

「っ・・・・・」

 

「歌うことで有名になったら、会いたい人が来てくれるかもしれない。いないならそこまでだがその過程で、歌を通じて世界中の人々を幸せにすることができる。いや、ウタしかできないことだ」

 

おれが出来るとすれば土台を作る程度だと付け加えた。

 

「返事は今すぐじゃなくていい。おれ達は数日ぐらいこの島に留まる。港で待っているよウタ。仮に他にも連れて行きたい人がいるなら一緒に船に乗せるよ」

 

邪魔した、そう言い残してヤマトと一緒に来た道へ戻る。

 

「イッセー、会いたい人って誰だかわかるの?」

 

「ああ、情報を探ったところ。ウタは義理だが赤髪のシャンクスの娘だ」

 

「えっ、海賊王ゴールド・ロジャーの船員だったあの!?」

 

「そうだ。だから最悪・・・無理矢理にでも他にもこの島いる人間も一緒に連れ出すぞ」

 

船に戻る道中、海を見渡せる場所を通った時に他の皆と鉢合わせして一緒に島を探検した。その結果二つほどの発見をした。ルフィ達が美味しそうだと手を出しかけたキノコは、毒キノコだと知っていたセルバンデスが慌てて食べてはならないことを厳命したほどヤバいらしい。

 

「知識しか知りませんでしたが、一度食べれば不眠症になる他、数時間以内に死に至るモノです。さらに感情のコントロールが効かず凶暴化になるとも」

 

「そうか。止めてくれてありがとう。お前等、見分けつかないのにキノコを手出しするんじゃない!! おれ達まで殺す気か!!?」

 

ゴンッ!! ゴンッ!! ゴンッ!!

 

「「「いてぇ~っ!!?」」」

 

たんこぶが出来るぐらいの強さでそれぞれ一人に三回拳骨した。セルバンデスがいなかったらマジでヤバかったからな!!

 

「それでワオウはそれか?」

 

「なにかないかと探したところ、映像電伝虫達を発見しました。どうやら新種のようですな」

 

「この島国が荒廃した原因でも映されてるのか?」

 

「どうせ海賊だろうな」

 

軽い気持ちで一部始終を記録されていた映像を見た。・・・・・なんですかねコレ。

 

「なんだこのデカブツは?」

 

「普通の生き物じゃない、それだけは確かですな」

 

「・・・・・国が滅んだ元凶はこいつで間違いない」

 

「あっ、消えた・・・」

 

誰かと戦っていたように見えたが、その人物の顔がよくわからなかった。怪物は倒されて消えたか、何かしらの理由で消えたか予測がつかない。

 

「この世界にこんな存在もいるとは信じられないな。悪魔の実の能力者だったら海軍は―――いや、世界政府と海軍はこの存在のこと知っているか?」

 

「知らない方がおかしいかと。おそらく大将以上の海兵が認知していると思います」

 

だよな・・・。

 

「そう言えば、この島の名前はわかったか?」

 

「ええ、音楽の島“エレジア”です。かつて赤髪海賊団が滅ぼしたと言い伝えられている島でした」

 

「音楽の島か!! そんな島だなんて、ますますこの島が化け物に壊滅されたのが残念だならないな。うん・・・? 赤髪海賊団が滅ぼした? なんか矛盾してるな。セルバンデス、タイヨウの国にいるゼファーって海兵は元大将だったよな? そいつからエレジアに現れた化け物のこと聞きだしてくれるか?」

 

これを証拠に持って行かせるおれから映像電伝虫を受け取るセルバンデスは、了承して転移魔法の門へ向かう。

 

 

同時刻―――。

 

 

「ねぇ、私の歌が必要だって言う人が来たんだけど」

 

「人? どんな人だね?」

 

「多分、イイ人そう。イッセー・D・スカーレットとヤマトって男の人と女の人」

 

「そうか。ウタはどうしたい?」

 

「・・・わからない。ゴードンも一緒に連れて行ってくれるらしいけれど、あの人は私の歌を通じて世界中の人々を幸せにすることができる。って言うの」

 

「・・・・・」

 

「もしも本当にそうなら、やってみたいって感じなの。ゴードン、どうかな」

 

「・・・ウタの気持ちを尊重する。ウタが歌う理由が何か忘れていなければ、この島から離れて世界を見て聞いては、歌うことで世界中の人々を幸せにできるかもしれない」

 

「そうかな?」

 

「ああ、だからウタの歌を聞いてイッセー・D・スカーレットという者がそう言ったのだろう?」

 

「うん」

 

「では、後はウタ次第だ。私も連れて行ってくれるなら一緒に船に乗ろう。断ればいつも通り生活をしよう。彼はまだいるかな?」

 

「港にいるって。数日間は私の為にいるらしいよ」

 

「ならばその間ゆっくり考えなさい。自分が決めたことに後悔しないように」

 

「わかったよ」

 

 

海軍本部―――。

 

 

「天龍の居場所が判明しました!!」

 

「どこにいた。いや、どこにいる」

 

「数年前に赤髪海賊団の襲撃、潰滅に遭った音楽の島エレジアです」

 

「あの島か。一体何の因果か・・・・・そのまま監視をさせろ。今や独立国家と世界貴族に認定された世界最悪の犯罪者だ。今は大人しいが問題を一つでも侵したら、即それらの権利と権限を剥奪して捕えてやる」

 

「で、ですが・・・・・この事を知ったガープ中将が血相変えて軍艦に向かわれました」

 

「すぐに連れ戻せ!?」

 

 

―――数日後。

 

 

今日も返事を待っていたらヒナタが教えてくれた。海の方へ見やれば軍艦が遠めでも見えるぐらい現れていてた。その数は十隻以上。あのー? おれは貴族に認定されてるのにどうしてそんな物々しい軍艦を引っ張ってきているんでしょうかー?

 

「ルフィーッッッ!!! エースゥッッッ!!!」

 

「ジジイだ!?」

 

「ヤバイッ!! 逃げなくちゃ捕まっちゃうよ!?」

 

まだ距離もあるってのにこの地声・・・・・メガホンでも使ってるのか? だけどさぁ~・・・・・。

 

「世界貴族の一人なのになんで追い回されなくちゃならないんだよって話だよなー」

 

「まったくですね。こちらから海軍に攻撃すれば、それを理由に貴族と独立国家の権限と権利をはく奪する気満々でしょう」

 

ワオウに同感するよ。だからさっきの言葉が出て来るんだよ。ルフィとエースを見る。

 

「この二人を生贄に差し出せば平穏が訪れるか?」

 

「えええー!?」

 

「ヤメロッ!? 怒るジジイの拳骨は痛いんだぞ!!」

 

冗談だ冗談。でもどうすっかな。まだ返事を聞いていないから待っているんだが・・・・・。今日も来ないとなると海軍に囲まれて捕まる恐れがあるんだよな。脱出は容易いけどさ。

 

「あっ、来たよイッセー!!」

 

ヤマトが叫ぶ。荒廃した街に続く道に私物を詰め込んで膨らんんだ鞄を背負う、ウタと頭に傷跡があるサングラスを掛けた大男がいてこっちの現状に気付いているかいないか知らないが、ゆっくりと歩いてくる。そんな二人に待ちきれず魔法で甲板に召喚した。

 

「え、ここって?」

 

「悪いが海軍が来ているんでな。すぐに出航するぞ」

 

「あれ、お前ウタ? ウタじゃんか!!」

 

「え、ルフィ!?」

 

おや、顔見知りだったか。ま、それは後で知るとして船を動かすか。

 

「待たんか天龍ッ!!」

 

あの海軍の英雄様は砲弾を投げて来るしな!! それに対して抗議を申しつけるおれだ。

 

「オイコラッ!! こっちには民間人がいるんだぞ!! 砲弾を投げるなんて、お前の孫もろとも船を沈める気かっ!!?」

 

「その民間人を海賊の道に引きずり込もうとしているのはどこのどいつじゃー!!!」

 

ブチンッ!!

 

「誰が海賊だクソジジイィイイイイーッ!」

 

「うわぁー!!! イッセー、攻撃しちゃダメだよー!?」

 

「メガロー様、船を出してください」

 

「ああ、わかった」

 

「そんじゃ、おれ達ァ砲弾を迎撃するか」

 

「おれらも真似して砲弾で砲弾を当ててみるか?」

 

「何でもいいですから応戦しますよ」

 

「・・・・・」

 

「ヒナタ、ウタちゃん達を船の中へ」

 

「う、うん」

 

わぁー!! ぎゃー!! ドカーンッ! ボカーンッ!

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

数ヵ月後。

 

新世界とある島。

 

「お、お頭ぁー!!」

 

1隻の海賊船にニュース・クーから新聞を受け取った船員がよんでいたところ、幹部の一人が新聞に載ってる記事を見て驚愕した。船員から奪い取って席に座ってる船長へ駆け出していった。

 

「どうした。騒がしいな」

 

「こ、これを見てくれっ!!」

 

テーブルに叩きつけ広げた新聞には、非加盟国に対する歌で慰労するボランティア活動をしてる少女の写真が載っていた。

 

「ウタが、あの島から離れて四皇天龍といるようだ!!」

 

「な、なんだと!!」

 

他の幹部達も信じられないとざわめつく。船長は写真の女の子の顔、笑顔を浮かべてるその近くには左眼の下に切傷がある幼い男の子も写っていた。

 

「・・・どんな偶然か、また巡り合ったようだな」

 

「連れ戻しに行くか?」

 

船長は自分の呟きを拾い問う煙草を吸っている男に小さく笑って言い返した。

 

「いや、好きにさせよう。見ろ、ウタが笑っているじゃないか。天龍はどうやら悪いやつじゃないようだ」

 

「ルフィと一緒にいるとは思いもしなかったがな!!」

 

「ああ、そうだな!!」

 

「次に会う時が楽しみだ。おれ達を越える海賊になると豪語したんだからよ!!」

 

「よーし、今日は飲むぞー!! ウタとルフィの未来を祝してかんぱーい!!」

 

「おおう、かんぱいだー!!」

 

急に酒を飲み交わしながら騒ぎ始める幹部達。船長もそれに交らないわけがないと酒を片手に飲み始めるのだった。



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約束と未来

島全体に巨大な岩壁が立ち並んでおり、岩壁の高台に町があるそんな島におれ達は辿り着いた。天気は生憎の雨で建物の中に籠る者は多い中、俺はこっそり傘差して島の町中を歩いていた。この国の―――ドレスローザの王は元海賊にして王下七武海であるドンキホーテ・ドフラミンゴは元ドレスローザであるリク王に対して国家転覆をした疑いがあるらしい。ま、十中八九そうなんだろうがな。元々国を統治していた王が海賊に王座を譲るはずがない。疑問はどうやってしたかだが、おれには何の関係もない―――。

 

ドンッ・・・・・!!!

 

「・・・・・?」

 

銃声? ・・・・・気になるな、行ってみるか。悲鳴も聞こえる場所へ足を運べば、血を流して倒れている女性に寄り添って慟哭の声を上げている・・・・・おもちゃ? なんて珍妙なと思いつつ紙袋と女性を横に抱えては、片足だけでどこかへ移動するので後を追いかけた。

 

時間をかけて女性を運んだおもちゃは、ひまわりがたくさん咲いている畑にいた子供の許へまできた。既に死んでいる女性は子供の母親のようで、母親の死に泣く子供におもちゃはこれから一緒に暮らすことを言った。ふむ、そう言うことだったら・・・・。

 

「なら、おれの船で生活をしないか?」

 

「なに者だ!?」

 

「ただの通りすがりの冒険家だ。一部始終を見させてもらった。今ならその母親を生き返らすことが出来る。どうだ? 生き返らしたらしばらくおれの船で生活しないか?」

 

案の定、おれの言葉は信じられないと拒絶された。飛び掛かる兵隊のおもちゃを掴み止めたまま幼女に聞いた。

 

「お母さんを生き返らしたらしばらくおれの船で生活しないか?」

 

「・・・・・ほんとうに、お母様が生き返るの?」

 

「ああ、嘘じゃない。取り敢えずおれの船でしてやろう」

 

「行くなレベッカ!! この男は信用できない!!」

 

「であれば、行動で示そう。信用を得る為に」

 

転移魔法で船へ三人と一緒に戻り、レベッカという幼女に食事と風呂を提供している間に兵隊のおもちゃの前で女性の死者蘇生を施した。

 

「・・・・・ここは?」

 

「初めまして。ここはおれの船の中だ。自分が死んだこと自覚しているか?」

 

「・・・・・はい、ですがどうして私は・・・・・」

 

「お前の娘もこの船の中に居てもらっている。会いに行くといい」

 

レベッカのことを言ったら、はっと我に返ったような反応を示し深々とおれに頭を垂らしたら娘のところへと向かった彼女を、兵隊のおもちゃと見送った。

 

「さて、おれの言葉は嘘じゃないことを示した。これで信用してくれ」

 

「・・・・・ああ、きみを信用する。それから感謝する。ありがとう・・・!!」

 

こっちも頭を下げて来るのでようやく話ができると思って事情を聴く。

 

「ところでおもちゃ、だよな? この国はお前みたいなおもちゃが他にもいるのか?」

 

「違う・・・信じてもらえないだろうが、私は人間だったのだ」

 

「人間?」

 

首を傾げる。人間がおもちゃに・・・・・? いや、魔法で王族が蛙になった話もあるんだ。可能性を考慮すれば悪魔の実の能力者が人をおもちゃにしたのかもしれないな。

 

「事情があるようだな。その身体になった原因が摩訶不思議な力だったら、五分五分の確率で元の姿に戻るかも」

 

「ほ、本当か・・・!?」

 

「ただし、その姿でしかできないこともあるかもしれない。これからお前がどうしたいのか、それ次第で敢えて試さない。だから事情を教えてくれないか?」

 

兵隊のおもちゃはおれにおもちゃになった経緯を教えてくれた。今王族となったドンキホーテ・ドフラミンゴによる国家転覆でリク王の危機に駆け付けた際、片足を失った次に賊に与していると思しき幼女に触られたらおもちゃの姿にされたことを。

 

「ふむ、やっぱり海賊の仕業か。それでその姿にされたら身体以外にも変化はあるか?」

 

「ある。私を知る者達は皆、私のことを覚えていなかった。姿がおもちゃでも声だけは人間だった頃の私の声だ。しかし、誰一人として私を覚えていない。私の存在が他者の記憶から消えているのだ」

 

「・・・・・それは、厄介な能力だな。となれば、おもちゃから人間に戻ったらお前という存在をドレスローザの人間達は思い出すのかもな。だとすればドンキホーテ・ドフラミンゴ達もお前の存在を忘れているとなるのか」

 

顎に手をやって未来を想像して考え込む。

 

「兵隊のおもちゃ。その姿でも協力してくれる者はいるか?」

 

「・・・・・小人のトンタッタ族ならあるいは」

 

「小人? トンタッタ族?」

 

「うむ。皆、手のひらサイズの大きさでありながら人の何倍も強い力がある昔からドレスローザに住んでいる妖精だ」

 

ほう・・・・・!! とても興味深い種族がいるのか。是非とも会ってみたいものだな。

 

「彼等なら、賊共の目を盗んで計画を立てられるだろう」

 

「そうか。因みにおもちゃでも空腹と疲労は?」

 

「悔やむがおもちゃになってから何も感じられなくなったのだ。死にゆく妻の体温ですらも」

 

どれだけ絶望したんだろうな。自分のことを忘れて気付かれず愛した女が死んでいく様を目の当たりにして・・・・・。

 

「兵隊のおもちゃ、一矢を報いたいならはしばらくその姿でいた方が都合がいいかもな。誰も彼も忘れられて、今後もドレスローザにおもちゃにされた人間が増えるなら木を隠すなら森になる」

 

「・・・・・確かにそうかもしれない。だが―――」

 

「それとおもちゃにする人間を調べることも出来る筈だ。機を窺いおもちゃにする元凶をどうにかすれば、おもちゃにされた人間が元に戻り、ドンキホーテ・ドフラミンゴの悪事が瞬く間に国内や国外へ広まって海軍や世界政府にも伝わるはずだ」

 

何か言いかけた兵隊のおもちゃを制し、言い続けた。

 

「そうなればドンキホーテ・ドフラミンゴはただでは済まなくなる。いまの兵隊のおもちゃができる唯一の方法だ」

 

「・・・・・」

 

今すぐ倒したい気持ちはあるだろうが、ドンキホーテ・ドフラミンゴを倒しても誰が王になる? 国家転覆を許してしまった王が王族に返り咲くとならば市民はそれを許すか? 俺はそれが判らない。

 

説得、話し合いを続けた末に兵隊のおもちゃは今の姿で出来ることをする事に決めた。次は―――。

 

「レベッカって女の子とあの女性は時が来るまで預かっていいか。また俺のいないところで殺されるか捕まることになったら敵わないからな」

 

四六時中ずっと二人の傍にいる事はできない。それが兵隊のおもちゃにとって痛感させた出来事であり、永遠の別れをさせてしまった。今のドレスローザより安全な場所ならばという苦渋の選択をしたかもしれない兵隊のおもちゃは言った。

 

「・・・・・約束してほしい。必ず取り戻したドレスローザに―――」

 

「皆まで言わなくていい。絶対に真の平和を取り戻したこの国に送り届けるよ」

 

「・・・・・よろしく頼む」

 

兵隊のおもちゃの了承を得て、身の安全と衣食住が不自由ないグラン・エレジアで件の二人を暮らさせることにした。その後、ドレスローザから離れるおれ達は。

 

「という話し合いをした末に、預かることになったドレスローザの元国王の娘とその子供だ。船の生産職に働いてもらうから」

 

「うわぁ、新しい女の子! 私はウタだよ。あなたは?」

 

「え、えっと・・・レベッカ」

 

「よろしくねレベッカ!」

 

ウタが心底嬉しそうにレベッカを見ては、彼女の手を取って早速交流を交わしたのだった。ルフィ達もウタ以外の女の子の友達になろうと積極性を見せる様子をおれ達は見守った。レベッカも自衛の力ぐらいは身に着けさせるとするかな。

 

「あ、そう言えばイッセーがいない間にセルバンデスから連絡が入ったよ。計画の要が完成したって」

 

セルバンデスの伝言を思い出した風に言うヤマトの言葉。ついに―――完成したおれの計画が報告を受けた。喜々としてみんなにも見せてやろうと案内したのが・・・・・。

 

「おいおい、こりゃあ・・・デカ過ぎだろ。一体どのぐらいあるんだ」

 

「船、なのか?」

 

「島一つぐらいの大きさだな・・・・・」

 

連れて来た場所は全長数十kmは優にある巨大な船。船内にはカジノ、劇場、水族館、プール、サーキット、ゴルフ場、巨大観覧車、闘技場など様々なアトラクション施設がある。無人の船の中を歩き回って仲間に驚嘆させていく。道幅は全て巨人が横並びで五人歩けるほどが広いのが密かな特徴だ。さらに後部には超巨大過ぎる円型のクワがある一つの島を挟んで連結するためだ。

 

「ここは、娯楽を楽しむための巨大な船かイッセー? 聞いていた計画の話が趣きが違ってるぞ」

 

「違ってないぞ。非加盟国の人間達を集めてこの船で独立国家を目指す。海軍を悔しがらせることもな」

 

「じゃあ、どうしてこんな娯楽の船を?」

 

「ここで生み出す利益、資金を海軍に譲渡してやるんだよ。ふふ、四皇が稼いだ金を海軍が使うなんて皮肉じゃないか? それに天竜人はおれの手の中にある。海軍と世界政府にとっておれやお前達を手出せば天竜人の命がないも当然。天竜人を交渉の材料に使えば連中は否が応でも従うしかないだろう?」

 

まぁ、拒絶したら明日の世界経済新聞社の新聞に、世界政府が天竜人を見捨てた記事が世界中に届くがな。

 

「ということでわかったな?」

 

「ああ、お前は天竜人よりコエー奴だってことを再認識させられた」

 

「おいおい、おれはこう見えても敵に容赦しないだけの優しい男だぞ」

 

「いやいや羊の毛皮を被った魔王だろう」

 

「天使のような悪魔とも言える」

 

まったく失礼なことをいう奴がいるな。―――事実だから言い返せないのも極めて遺憾だけどな!!ああ、因みに名前はグラン・エレジアだ。

 

 

 

 

ゴードンやウタを船に招いてから歌の歌唱力で非加盟国や天竜人への天上金で国家が飢餓地獄となった国に対して慰安活動を始めた。飢えと貧困で明日を憂いる民間人には、ボーイン列島から食材を提供して救いながらウタに歌ってもらって、グラン・エルジアの移住を提案した。お前達を助ける。この島で野垂れ死にしたくない意思があるなら、おれに付いてこい―――と。戦争して敵国を倒して得る金品で海軍に守ってもらおうとする国に対しても。

 

他国を滅ぼして得た金は、また次も手に入ると限らない。その場凌ぎで加盟国に入っても、海軍の助けが間に合わなかったら意味がないぞ。その時はどうする? また天上金を払うことになったら次も払えるのか?

 

王族を説得して戦争を止めさせ、島に国が複数あるなら合併してひとつの国にすればひとつの島として天上金は減ることもアドバイスした。

 

そんなこと繰り返していたら世間はおれのことを救国の救世主なんて呼ばれるようになり、グラン・エルジアは非加盟国にとって夢の楽園と称されるようになった。加盟国ではない国を一切守らないだろう海軍に代わって、ここ数ヵ月でグラン・エルジアやタイヨウの国に集まる非加盟国の一般市民達、総勢数十万規模を守ることになるとは・・・・・思いもしなかったぜ。

 

「カジノの従業員兼市民も大分集まったねイッセー」

 

「ほとんどそれが非加盟国の人間達なんだがな」

 

「仕方がないでしょう。海軍は有限でお金を払う者にしか優しくなく守らない正義の組織なのですから」

 

「ワオウ、思いっきり毒と皮肉を言ってるぞ。事実だがよ」

 

グラン・エルジアの街中を歩き、働いている元非加盟国の人達と見つつ警邏してる。運転する車でだ。一時停止した最中、高いビルに大きな映像電伝虫による映像で大きく映っている放送機器にウタが映っていた。世界中に向けて彼女の歌が人々の心に響き渡らせる時間のようだ。まだ幼い故に体力がないから長く歌えないが、それでもしっかり届いているに違いない。

 

「ゴードンの方も順調のようだったな」

 

「子供から大人まで、音楽の素晴らしさを教えていますからな。だからこそ、まだ無名だったこの船の名前をグラン・エレジアにしたのでしょう?」

 

「それに、あれからまたエレジアに戻って使える楽器を集めたもんね」

 

「ああ。意外にもたくさんあったし、有効的に活用しないと。それに空島で得たトーンダイアルでウタの歌を記録して色んな島国に提供してウタの歌を聴いてもらおう」

 

「ウタ殿の歌声が人々の生きる糧と幸せになること願うばかりですな」

 

「そんな新時代を作るのが今の少年少女達だワオウ」

 

「うん、きっとそうだよね!!」

 

そしてそれに便乗するのがおれ達だ。だからおれ達は、おれは負け組に埋もれるつもりはないぞ? なァカイドウ―――。

 

「頼むよウタ~。将来おれの船の音楽家として乗ってくれよ~」

 

「いやだって何回も言っているでしょ!!!」

 

「ウタ、ルフィがダメならおれの船にも乗ってくれないか?」

 

「おれもおれも、ウタみたいなやつと一緒なら大歓迎だぜ」

 

「論外!!」

 

仕事を終えたウタを労いに来てみれば、わんぱく坊主達がウタを勧誘していた。ウタを船に乗せてから、海賊の船に乗る誘いをして断られる光景も見慣れて来たな。

 

「あ、イッセー!! この三人をどうにかしてよ!!」

 

そしておれを見るなり、ルフィ達から逃げるようにおれの後ろに回って懇願する。まったく、と思いを抱いて三人に向かって言う。

 

「ウタを誘いたい気持ちは非常に理解するが、男がフラれた以上は潔く諦めるのも肝心だぞお前等。今誘ってもウタの心は変わらないぞ」

 

「だってイッセー。ウタの歌はすげぇーんだぞ。一緒に海賊をやったら絶対に楽しいんだ」

 

「言っただろうルフィ、理解できるって。だがな、今のウタはおれの船で世界に歌を轟かせる大切なことをしているんだ。悪者の海賊の船に乗ったらそんなことできなくなるだろう?」

 

「イッセーだって悪者じゃん」

 

・・・・・ほほう? サボ、そいつァどういうことかな~ん?

 

「おれが悪者だからって海賊だと思っているのかサ~ボ~く~ん? (バキバキ)」

 

「えっ、いや、そ、そんなこと思っていないぞ・・・?」

 

笑ってない般若顔で指の関節を鳴らすおれをヤバいと察したか、冷や汗を掻いて二歩程おれから後退するサボ。つられてルフィとエースも緊張の面持ちを浮かべていた。

 

「世の中には音楽が好きな海賊団がいてもおかしくはないんだ。そんな海賊や海賊になってもいいという人間を探して我慢しろ」

 

「ブーブー!!」

 

口先を尖らせ凄く不満顔を浮かべ納得しないルフィに魔法の言葉を送ってやろう。

 

「―――これ以上文句言うならお前のジイちゃんのところに連れて行くぞ? おれと一緒にいること自体が許さないでいるようだから、きっと怖い顔で拳骨をして怒って説教されるだろうなァー」

 

「ごめんなさいっ!!」

 

効果覿面だなガープ。ルフィが頭を下げるほど厳しい祖父なのか・・・・・?

 

「なら話は以上、これでお終いだ。もうウタに海賊になる誘いをしてやるな。絶交されてもおれ達は知らないから。それでもいいなら嫌われるぐらいもっと誘え」

 

それは嫌だ。そんな感じな気持ちを顔に出すエースとサボは、ウタにごめんなさいをしてウタも受け入れた。

 

「そんじゃ、運動着に着替えてウタも含めて体力作りをするか。何事も長時間、激しい運動が出来るようになればやりたいことがたくさん出来るようになるからな」

 

「はーい」

 

「「「わかった」」」

 

その後は何十人分も食料を食べる未来が想像に難しくないのだ。主にルフィの胃袋までゴムだから尚更だ。

 

「ねェ、その後またイッセーの故郷の歌を聞かせてよ。『翼をください』のような楽しくて盛り上がるステキな歌をもっと知りたい」

 

「おーいいぞ。それを基にウタがアレンジしてみて歌ってみろ」

 

「うん、何時か必ず歌うね」

 

可愛く笑うウタにおれも笑い、彼女を肩車してやってルフィ達と一緒にトレーニングルームへ足を運ぶ。ヤマトとワオウもついてくる。

 

「イッセー、ルフィ達も成長しているね。何時ごろ元の島に送り返すの?」

 

「ん、そうだな・・・・・5年以内にはするつもりだ」

 

そのぐらいの期間があればもう十分強くなっているはず。それぐらいあいつらは素質が芽生えてきているんだからな。

 

 



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幸せ

 

とある島―――。

 

「私は心から幸せだった」

 

待ってくれ、あともう少しで金が貯まるんだっ!! 彼女を救い出す必要な金が―――!!

 

「返せ、彼女を返せえええっ!」

 

「大人しくしていろ!!」

 

「そいつも連れていくだえ。二人仲良く奴隷にしてやるだえ」

 

「はっ!」

 

おれが奴隷にされるために連れていかれるなら、彼女を解放してくれ!! 金をもう少しで揃えるんだ!!

 

「お前、いいこと教えてやるだえ。世の中は金と力がある者こそ何でも支配できるんだえ。それができない輩は人間以下のゴミクズだえ」

 

「おっしゃる通りです。この世界は神たる天竜人の所有物であり、全て天竜人に従う摂理であります」

 

ふざけろ天竜人、ちくしょうっ、こんな奴らなんかにっ・・・! 何が神だ、何が天竜人だっ・・・・・!! 彼女を救えるならおれはどうなっても構わない、金と力がない今の自分自身がこんなに悔しくて憎く思ったことはないっ!!

 

「さっさと帰るだえ。天龍に見つかってしまうことになれば私の身が―――」

 

「おや、奇遇だな天竜人の御人!! 」

 

快活な声が聞こえてきた。周りの人間は跪いて顔を俯いて天竜人と視線を合わせないようにしているのにだ。誰だ、と思っていたら・・・・・。能面の仮面を顔につけてる男の背中から金色の翼を十二枚も生やして、背筋が凍る恐怖とプレッシャーがおれにまで伝わってくる。

 

「奴隷を引き連れてる現場を目撃されちゃあよ、おれに粛清してほしいといっているもんだぜ天竜人さんよぉ?」

 

「ひ、ひいいいいっ!? て、天龍ぅぅぅっ!!?」

 

あの天竜人が腰を抜かして、顔を青ざめて恐怖で脂汗を流した。コイツがあの天龍・・・・・!? 何度も天竜人を襲う世界的犯罪者のっ。それに手に持っているのは・・・・・焼印? まさか・・・・・。

 

「もう仏の顔も三度までだから、容赦はしないぞ天竜人」

 

焼印が赤熱し出した。触れれば火傷どころではないと誰が見ても明らかだった。

 

「せっかく独立国家と世界貴族を認定してもらったってのに、お前のせいでそれが剥奪されるじゃんか。どーしてくれる」

 

「ま、待つんだえっ!? こ、この下々が欲しいならくれてやるえ!! だから、だから―――!!」

 

「乗ってきたお前の船にある全部もよこせや」

 

あの天竜人を脅す人間が目の前にいた現実に目を疑い天龍は、天竜人が手放した奴隷と彼女の首輪を素手で引きちぎって解放してくれた。

 

「さて、行くぞ」

 

「え?」

 

「お前らを引き取るついでに天竜人の船の積み荷の運搬の手伝いをしてもらうぞ。」

 

何を言っているんだ・・・? 見ず知らずのおれ達を助けてなんの得が・・・・・。

 

「それとお前にとって大切な女なら、しっかり手を繋いでいろ。その絆はおれが守ってみせる」

 

「―――――」

 

相手は世界的犯罪者。おれより年下の男。なのに、見せてくれるその背中は眩しくてとても大きく見えてしまう。この男はもしかしてとてつもないことをしてくれるかもしれない。大切な彼女を天竜人から守ってくれたことも含めて、深く感謝したおれは気づいた時にはこう言っていた。

 

「おれはテゾーロ。あんたの役に立ってみせる。だからおれを仲間に―――!!」

 

「違うな。お前は愛した女のために役に立て。守る力が欲しいなら手元にある力を与えてやろう」

 

配下にするわけでもなく、ステラのために生きろと言う天龍。その言葉を従うことにおれは頷き、それから彼が経営してるグラン・エレジアというカジノの代理オーナーとゴルゴルの実を与えてくれた。この船の守りの番人として・・・。

 

「おれの留守の間、この船にいる全ての人間達を守ってくれ。何か要望があるならば必ず言うように」

 

「ああ、わかった。まかせてくれ、受けた恩は必ず報いてみせる」

 

「ステラの話もしっかり聞くんだぞ。島で暮らしたいと言ったら、自然に囲まれた場所で暮らさせろ。おれが連れてってやる。そこで仕事が終わったら帰れるようにする」

 

「ありがとう、私とテゾーロのために何から何まで」

 

「どういたしまして。それじゃ、さっそくだがグラン・エレジアを出航させるぞ」

 

何やら急な用事が出来たようで、グラン・エレジアは天龍の手によって別の海域へと移動を始めた。

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

―――女ヶ島。

 

 

「一度ならず二度も攻めてくるとは!!」

 

「しかも、今度は大将が一人だけじゃないっ!!」

 

「厄介極まりない・・・っ」

 

ハンコック達は厳しい苦戦に強いられていた。押し寄せてくる数多の海兵を相手にする中でも、5人の強者の風格を窺わせる海兵によって、九蛇海賊団は壊滅的被害を受けていた。

 

「天龍はおらんようじゃな。まぁいい、さっさとケリをつけちゃる」

 

「何も気付かずに大事なモンが失うのは、まぁ・・・仕方がないってことで」

 

「わっしらもいつまでも負けてばかりじゃあ大将の立つ瀬がないからねェ~・・・・・」

 

赤犬サカズキ、青雉クザン、黄猿ボルサリーノ。

 

「らははは!! 残念だな、この島はかわいこちゃんがいっぱいなのに捕まえなきゃならないとは」

 

「それが定めとならば仕方がねェことですさァ」

 

そして誰もが認知していない二人組もおり、その実力は三大将クラスであることをハンコック達は身を以て体感した。

 

「姉様、イッセーは・・・・・」

 

「もうじき来るはずじゃ。それまでーーー」

 

「そうはさせないよォ~」

 

黄猿の足から太いレーザーがハンコック達を貫かんと放たれ、目の前が真っ白で光速の攻撃に直撃する直前に、彼女達の目の前に現れた人影がレーザーを真上へ反らして守ってみせた。

 

「人の妻を攻撃してくれるなよ」

 

「イッセーッ!」

 

「おいでなすったか天龍」

 

「こなくちゃならないだろうって。ところで見知らぬ二人がいるな新参者?」

 

イッセーの問いに肯定するボルサリーノ。

 

「新しく大将を二人も増やしたんだよォ~。キミのおかげでねェ~?」

 

「で、ハンコックを捕まえておれを誘きだしに来たと」

 

「話がわかるんじゃないの。ボア・ハンコックはただの海賊。捕まえない道理はないんで」

 

「それを邪魔するっちゅうんなら、貴様もろとも捕まえちゃる」

 

出来るのか? と言うイッセーを中心に負荷が掛かった。―――重力だ。

 

「ということで、大人しくして頂やすぜ天龍」

 

「うーん、大人しくしてたらハンコックが捕まえられる。邪魔しなければいまの立場と権力は守られるか。ま、決めるまでもないがな」

 

イッセーが全身から衝撃波を放ち、重力を吹き飛ばした。それが5人に対する答えだと、暗に告げた矢先に触手のように伸びる木の蔓が襲いかかってきた。妖しく煌めく瞳がそれを停止させて、上空から無数に飛来してくる光のレーザーを、ロジャーの剣『エース』の一振りで全て弾き、立つ地面が赫々と染まり次に起こる熱の爆発がイッセーを飲み込むつもりが、強い踏み足の衝撃で拡散させた後に瞬間冷凍されたが、自力で氷の中から脱した。

 

「最後の氷はやめろぉっ!? 昔氷漬けにされて氷と丸ごと食べられた記憶が甦ってしまったじゃんか!!」

 

「どういう人生を過ごしたんだお前」

 

「5人でもダメージが入らないとは厄介だねェ~」

 

「伊達に四皇ではないようだ」

 

「感心しとる場合か藤虎」

 

「さて、どうするか」

 

五人の大将を相手に余裕のあるイッセーの腕に着けてる小型の電伝虫が鳴り出した。

 

『イッセー様。準備が整いました』

 

「おし、やれ」

 

『はっ!!!』

 

何かを指示したその時に、島全体が震えるように揺れた。クザンが訊く。

 

「お前さんの仕業として、何をした?」

 

「女ヶ島とおれの船のグラン・エレジアと連結しただけだ」

 

「連結じゃと」

 

「そうだ。ハンコックとこの島を護るために結婚したってのに、こんな現状になるならこうするしかないだろ? 世界貴族の一人の王としてこの島を独立国家であるグラン・エレジアの領土の一部にする。ということでお引き取り願おう海軍諸君」

 

指を弾くイッセーに呼応してサカズキ達が一瞬にして軍艦の甲板の上に移動させられた。女ヶ島に上陸していた他の全海兵もそうであった。さらには信じ難いことに、眼前の島の背後に光に包まれている超巨大な艦の姿があった。女ヶ島も光に包まれると眩い閃光と共にこの海域から消失したのだった。

 

 

 

 

 

「イッセー、本当に島を動かしているのだな」

 

「グラン・エレジアの後部の超巨大なクワで、海中の女ヶ島の土台の部分を切り取って挟んでいる状態だ。正直、おれと結婚しているからって島が守れる保証は半信半疑だったからこの手で実行してみた。船で生活している人間達が女ヶ島に入らせないようにするが、ハンコック達は自由に出入りしててくれ」

 

グラン・エレジアは女ヶ島と新世界の海に転移して戻り、航海は超巨大海楼石製の三対六のバトルシップと船底に同じ大きさと数のスクリューが稼働して船を動かしている。ハンコック達はグラン・エレジアの王座の間に案内され、設置されている円卓の前に腰を下ろしていた。

 

「感謝するわイッセー」

 

「大将が来るだけじゃなく複数で来られた時はゾッとしたわ」

 

どういたしまして。そう言うイッセーはハンコックに告げた。

 

「ということで、女ヶ島はおれの船の一部となったから女ヶ島はおれの物だ。ハンコックは女帝を止めて本格的に嫁ぐ形で側にいてくれないか? おれの愛しい女として」

 

「ッ!!!」

 

ズッキューンッ!!

 

この瞬間、ハンコックの心はイッセーの嫁としている決心をした。愛しい男に全てを任す。己の心と身体を、女ヶ島の全権を、何もかも全てイッセーの意のままに従うことを。

 

「や、流石に女帝を止めさせるのは駄目か。次の女帝が決まるまで今の地位はそのままで傍にいてもらう方がいいか」

 

「なんであれ、わらわはイッセーの傍にいることに異存はない。二人とも、よいな」

 

「「ええ、姉様のご自由に」」

 

妹達も反対しないと肯定する言葉の後、王座の間の扉が開き一人の男性が入って来た。

 

「これでキミ達の安泰は守られたも当然だな」

 

「「「レイリーっ!?」」」

 

「報せるべきことだからおれが招いた」

 

「その通りだ。しかも私とシャッキーもこの船に住むことにした。この船を守る恩恵として彼の権限で飲食は無料、好きなだけカジノを楽しめるのだよ」

 

娯楽の謳歌が出来るとレイリーは満面の笑みを浮かべた。この場にいないシャッキーは自身の店の準備で忙しくも、カジノの中で大いに客達からぼったくる気満々でいることをイッセーとレイリーを除いて、ハンコック達は知らないでいる。

 

「それにしてもイッセー君。その剣はロジャーが使っていた愛剣『エース』だね。どこで見つけたんだい」

 

「息子の方のエースの母親の墓の中に眠っていた。その母親を甦らせてエースが暮らしていた村に生活してもらっている」

 

「死者を甦らすことも出来るのかキミは。・・・ではロジャーも?」

 

「残念ながら骨がないとできないんだ」

 

そうか、と相槌を打っただけで残念がらないレイリー。特に会いたいと思ってはいないのだろう。しかし、心のどこかで彼なら・・・・と思っていたりいなかったりする。

 

「さて、イッセー君。次はどうするつもりなのかね?」

 

「そうだな・・・一先ずこの船で次の島へ向かうつもりだから、しばらく仲間達と一緒にハンコックと過ごすかな」

 

結婚後、ハンコックは女ヶ島の女帝としての立場があり別居状態が続いていた事を考慮しての提案に、ハンコックは尻尾があったら千切れんばかり振っているだろう、そんな歓喜の色を顔に浮かべていた。

 

「あ、そうだ。九蛇海賊団にグラン・エレジアの海賊同士の戦いを行わせるコロシアムの運営とこの船の警備を任せてもいいか?」

 

「そのようなものがこの船にあるのか? だが、そなたの頼みならば引き受けよう」

 

「ありがとう。おれ達がいない間にでも海賊達はカジノをしにやってくるだろうから一般人に対応させるのは難しいからな。信頼できる海賊なら任せられる。助かるよ」

 

「それくらいのことならばイッセーの役に立ってみせよう」

 

島ごと自分達を守ってくれるイッセーの頼みを何故断るのか逆にあり得ない。船の一部となったのならばグラン・エレジアは自分達の家当然だ。守り役に立つのは当たり前だと断定するハンコックは満面の笑みを浮かべたイッセーが後日、アップルパイを食べる姿にキュン死した。

 

「それと、女ヶ島におれ達の仲間も入っていいか?」

 

「無論じゃ。むしろイッセーの仲間なら遠慮なく来ても構わぬ。女ヶ島はいまやイッセーの船の一部、了承を得ずとも自由に出入りしてくれてよい」

 

「ありがとう。一応聞かないといけないから、男子禁制の島でもあるんだし」

 

「島の風習や掟がイッセーをそうさせるのならば、わらわの代で撤廃してみせよう」

 

いや、そこまでしてもらわなくてもいいから!! と焦るイッセーにお構いなしと動くハンコック。ニョン婆の猛烈な抗議など聞く耳は持たず男子禁制の制度を撤廃したのだった。



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アラバスタとオハラ

オハラの部分の話を少し変更しました。


甦生したスカーレットとその子供のレベッカを一時預かり、グラン・エレジアでの生活に馴染んできたところ、船は砂漠だらけの島に寄港した。初めての砂漠の島にヤマトは大はしゃぎ、

 

「砂だらけだー!! あっちゃーっ!?」

 

「そりゃ、砂は日差しを受けてるから熱いだろ」

 

「「「あっちゃあああッ!!!」」」

 

「ガキ共もなにやってんだ」

 

砂漠にダイブして砂の熱で熱がるヤマトとルフィ達。セルバンデスと日差し避けのフード付きローブを人数分、大量の水を入れた大樽を用意していたら、ガンヴァとヴェージが何か呆れていた。

 

「ところで人はいるの?」

 

「散らばってるが、たくさんいるぞ。どこも同然遠いがな。歩いたら数時間は掛かる」

 

「えー・・・この熱い中をそんなに歩くの?」

 

熱さが鬱陶しいとげんなりするウタ。隣にいるレベッカも汗を掻いて暑苦しそうにしている。

 

「歩けば、な? ウタとレベッカは知らんだろうかおれ達は飛んでいくんだ。今回は飛ばないがな」

 

飛ぶ? 首をかしげるウタとレベッカが次に驚くまで一分後だった。

 

「グラン・エレジアは陸海空、どんな障害をも乗り越える自由な巨船!! つまり砂漠の世界でも進むことが可能なのさ!!」

 

パドルシップの底力をナメンナヨー!!海から陸に上がりだすグラン・エレジアは砂を掻いて進み出す。

 

「「「「マジか」」」」

 

「マジですよ。イッセー様の設計上狂いはございません」

 

これだけ広大な島だ。住民の皆さんの迷惑は掛けないさ!!

 

 

―――サンディ島 アラバスタ アルバーナ宮殿

 

 

「ほ、報告いたします!! 巨大な船がこちらに接近しているとのことです!!」

 

「船? この広大な砂漠に巨大な船がどうやって進んでいるというのだ」

 

「し、しかし現にここアラバスタに接近しており―――!!」

 

「急報!! 巨大船が西南の階段前に停止しました!! 海軍や海賊の船ではない模様です!!」

 

信じられない報告が現実味を帯びた。正義の船でも悪の船でもない不可思議な船から敵意はないように窺える。

 

「国王、相手の狙いはわからない以上我々にお任せください」

 

「ああ、頼む」

 

相手の真意を探るべくして、国を害する者達ならば容赦なく迎撃する。そうでなくとも厳戒態勢を布き相手の言動を窺うつもりで動いた。市街地を掛ける国王軍達の姿に市民達は当惑と困惑し、何か遭ったのかと不安の色を顔に浮かべる。警戒の色を浮かべる兵士達が西南の階段へ着いた頃には―――巨大な船から大勢の人間達を引き連れる赤髪隻眼の男と鉢合わせしたのだった。

 

 

 

 

 

「お初にお目にかかる。おれはグラン・エレジア王国の王、天龍と申す。突然の来訪に要らぬ騒ぎとご迷惑をかけたことに深く謝罪の念を抱く」

 

宮殿の王座にいるアラバスタ王国の国王ネフェルタリ・コブラとの謁見が叶うことになった。この国の兵士達が船にやってきたので自ら説明したところ、国王が直接顔を見てみたいと言うことになり今に至る。

 

「天龍・・・幾度も天竜人に手を出し、拉致した天竜人の解放を条件に世界政府と海軍を脅して独立国家と世界貴族の認定をさせた男がどうしてここにいる」

 

「そう警戒しないでくれ。単なる王族同士の交流が目的だ。砂漠の世界に住む人間達に是非ともうちの船に来て遊んで欲しい思いもある」

 

「それを、断ったらどうする気だね」

 

「他の町々に訪ねて、膨大な量の水の提供をしてあげようかなと思っている。うちの船には海水を真水にする濾過装置があるからな。もし水不足している町があるなら手助けをしたい」

 

それが本当ならば雨が降らなくなって干害しまった町に対して非常に助かる事なのだが、相手は天竜人に手を挙げる危険極まりない男。警戒と用心をして対応せねばなるまいと国王は問うた。

 

「・・・・・その濾過装置とやらを我が国にも提供してくれることはできるかね」

 

「だとすると、かなり長いパイプとポンプが必要になるな。同様に時間も掛かる。それでもいいならお手頃価格で提供しよう」

 

コブラ王は舞い込んできた危険な男との取引を成立させ―――天龍一行は2年間サンディ島に停留することとなった。

 

メガローの協力でサンドラ河に濾過装置の土台を建設。念には念を入れて海楼石製のポンプとパイプを作り、各町々にまで繋げ伸ばして貯水池と貯水タンク、風呂もとい公共銭湯なども作っては人々を圧巻させて大いに喜ばした。その間、何度も海賊の襲撃もあったが全て守った。それ故に国王コブラからも信頼され友人となり、民衆からは英雄として国王以上の熱狂的な支持を受けていた。

 

そしてウタの歌をサンディ島全土の町に聞いてもらい魅了した人々から、“砂漠の歌姫”と称されるようになった。

 

「イッセーくん。今年も世界会議(レヴェリー)は開催するが、きみは知っていたかね?」

 

「各国の王が集い会合する催しだったよな。」

 

「そうだ。この海と世界について語り合い王が決めたことは、海軍にも影響が出る重要で重大な会議だ」

 

大浴場で裸の付き合いをしている時、コブラ王が教えてくれる王達の会合に参加するか否か・・・・・。

 

「参加は自由なのか?」

 

「170ヶ国の政府加盟国の内、代表として50の国の王が集まらねばならない」

 

コブラ王の話を聞けば―――加盟国の中から50の国の王達が一堂に会し、世界中の由々しき案件を言及・討議し、今後の「指針」を決定する。ただし、各国の首脳はどれも癖が強く、国によって貧富や宗教が異なるため、やりとりはうまく進まないことが多い。また世界中の首脳が集まるため、些細な争い事も戦争のきっかけとなる。議長は毎回持ち回りになっているそうだ。

 

「ふぅん。じゃあ、王下七武海の制度の撤廃も可能なわけだ」

 

「賛否の数で賛成派が多ければな。・・・・・イッセー君、もしや望んでいるのかね?」

 

「世界政府公認の海賊なんてあり得ないだろ? 海賊および未開の地に対する海賊行為が特別に許されているなら国の乗っ取りだって許されちゃうんじゃないのか? 現にドレスローザは海賊に王座を奪われた王がいるし、王国を乗っ取られてるわけだしさ」

 

「確かにそうだが・・・王下七武海は四皇に対する抑止力の勢力として政府が設けた必要な制度だ」

 

わからなくはないが・・・コブラ王に指さして指摘する。

 

「それ、自分の国も海賊に乗っ取られてももう一度言えるのか?」

 

「・・・・・」

 

沈黙するコブラ王。自分の国も乗っ取られはしまいという他人事のような考えはしていたのかねこの王様は。

 

「海賊は色んなのがいる。国家を転覆させる海賊がいるなら、国家を二分にして反乱軍の内乱を引き起こす海賊だっているはずだ。もし王下七武海の誰かがこの島に来たら何か企んできたと思った方がいいぞ。例え正義の味方のような言動をしてでもだ」

 

「きみにそれほどまで言わせる海賊がいると言うのかね」

 

「王なら国にとって最悪な想定を常に考えなくちゃ守れないぞコブラ王」

 

「・・・・・耳が痛いな。だが、きみの言う通りだ」

 

いい王様だな。ダメだしされてるのに真摯に訊き受けるとはな。湯船に浸かってそれから少しの間は沈黙を保ったが話を切り出した。

 

「突然だけどおれ達はこの国を出るからな。依頼も果たしたしこの国も十分探索できた」

 

「そうか・・・きみ達には感謝する。濾過装置で雨が降らなくなっても他の町が水不足にならず済む」

 

「濾過装置に関して何か問題が起きたら電伝虫で連絡してくれ。すぐに駆け付けて問題を解決するよ」

 

「わかった。では値段を言ってくれるかね。かなりの高額でも何とか揃えて払うよ」

 

と言うコブラ王にどれぐらい吹っ掛けてやろうかと脳裏で思っていたが・・・・・。

 

「うんや、金よりいくつか了承してほしいことがある」

 

「了承? なんだね?」

 

「一つはおれとコブラ王の同盟だ。サンディ島で問題が起きたらおれも協力して解決する。そしてこっちの問題をコブラ王も協力してほしい」

 

最初の一つは二つ返事で受け入れてくれた。

 

「もう一つはコブラ王の娘、ビビがいつか大人になったら一時預からせてくれ。ウタと一緒に世界中に向けて歌ってもらいたいからだ」

 

「私の娘も歌わせたいのかね?」

 

「ああ、ビビは成長すれば美しい王女になる。それから彼女以外にも歌姫を7人集めたいと思っている。歌で世界中に届けて歌で世界の人々に幸せになって欲しい、ウタの願いを叶えるために」

 

「・・・素晴らしい夢を抱いているのだなあの少女は」

 

「だから応援したくなるのさ。何の夢も望みもないおれなんかよりずっと立派だ」

 

二つ目のおれの要望にコブラ王は了承してくれたので交渉は成立したも当然だ。後は時を待つだけ。

 

「最後は、この島出身の動物の超カルガモをたくさん引き取りたいんだが」

 

「超カルガモをか・・・・・ふむ、それは少々時間は掛かるがいいかね」

 

「目途がついたら連絡してくれれば大丈夫だ」

 

「わかった。必ずきみの要望に応えよう」

 

握手を交わし合うおれ達。

 

「しかし、きみ達が去ってしまうとビビも寂しがるな。特にイッセー君に懐いているから非常に残念がるやもしれん」

 

「何なら、おれの船とこの王宮のどこかと行き来できる装置を用意してやろうか。それならいつでも会えることができるぞ」

 

「海水を真水に濾過する装置だけじゃなく、そんなことも?もしや大移動せずにこの首都アルバーナと他の町々と直接行き来できることが?」

 

「できるがなにか」

 

その話をしてから出航を数日伸ばしたその後。グラン・エレジアに青い髪の少女がよく遊びに来るようになったのであった。ただ、初日に来るとは思わなかったので、セルバンデスと今頃宮殿内は騒動と化しているだろうと想像したのだった。

 

 

ウタside

 

イッセーのおかげでもう一人の女の子の友達が出来た。ネフェルタリ・ビビって女の子と仲良くなりレベッカと一緒に歌を歌ったりルフィ達も混ぜて遊んだりと、エレジアにいた頃よりずっと毎日楽しくて嬉しい生活が送れている。

 

「ウタって本当に歌が上手だね!」

 

「うん、何度聞いてもウタは凄いよ。わたし、ウタの歌が好きよ」

 

そう言ってくれる二人も私は好き。だからイッセーのお願い、私以外の女の子と一緒に歌って欲しいと聞いた時は楽しそうだと思った。だから今、ゴードンに歌い方を教わって練習中だ。そんな私達を見てゴードンは嬉しそうに、楽しそうにしている時が多い。

 

「さぁ、今日の練習は終わりだ。気を付けて帰りなさい」

 

はぁーい!!

 

「ウタ、行こ?」

 

「今日はアラバスタの料理を食べさせてあげるね」

 

「うんっ」

 

ゴードンに歌を習っているわたし以外の子供もたくさんいる。一人で歌うより皆と一緒に歌う楽しさを知ったいま、この生活を手放すことが難しくなったかも。音楽室を後にする他の子達と一緒に私達も出ようと歩く。

 

ゴードンside

 

静寂に包まれた音楽室に子供達がいなくなったのを見計らったように、私しかいない時に入って来たイッセー君と言葉を交わす。

 

「ウタ達はどうだ?」

 

「とても楽しく歌っているよ。他にも友達をたくさん作って、エレジアにいた頃よりは笑うようになった」

 

「あんたの頑張りも含まれているだろうに」

 

「私は当たり前のことをしているだけだ。あの子を引き取ってから世界一の歌手として育てて来た」

 

「・・・赤髪のシャンクスか。きっとウタの現状を知っていると思うが、連れ戻しに来ると思うか?」

 

ウタと赤髪海賊団の間の問題に懸念する彼を安心させる。

 

「心配しなくていい。彼等は話が分かる海賊団だ。ウタの活躍を知っているなら見守ってくれている。もちろんきみの人柄を感じ取れているなら尚更だよ」

 

「おれの人柄ねェ~。世界政府と海軍、天竜人相手に喧嘩をふっかけて敵対した四皇だぞおれ」

 

「それを知った私は心底驚いたものだ。しかし、実際に話し合ってみれば赤髪海賊団と似た雰囲気を持っているきみと他の仲間達で安心したよ」

 

「言外に海賊だと認識してたのか」

 

海賊と認識されたくない彼にとって至極遺憾の意を示すように深く肩を落としてしまい、私は自分の無意識な発言に申し訳なくなって謝罪した。

 

「ああ、気にしないでくれ。勝手に落ち込んでいるだけだ。でもそうか、赤髪海賊団と似た雰囲気とは随分と賑やかな海賊なんだな」

 

「きみと同様に海賊とは思えないぐらいにな」

 

「でも、そんな男がウタを手放す理由が判らないんだが? ゴードンなら理由を知っているだろ」

 

知っている。私はその当事者の一人だ。だからこそ、何も知らないウタは赤髪海賊団と海賊を恨んでいる・・・・・。

 

「今教えてくれなくてもいい。いつかウタに告げるなら俺にも教えてくれ」

 

私の心情を酌んでくれた彼に頭を下げて感謝と謝罪の念を伝えた。

 

 

 

世界会議(レヴェリー)

 

コブラ王がイッセーに参加を持ち掛けた世界各国の政府加盟国170ヵ国の内、50の国の王達が一堂に会して行われる会議が、聖地マリージョアで始まろうとしていた。王達は7日間も世界中の由々しき案件を言及・討議し、今後の「指針」を決定する。

 

「今回は政府を直接倒さんとする革命家ドラゴンと多くの天竜人を拉致して解放条件に世界貴族を認定させた四皇天龍の危険性について話し合いをしたい。万が一にもこの二人が手を組むようなことがあったら革命軍の思惑が現実的になる恐れがあるからだ」

 

「最近では超巨大な船を手に入れ、カジノを運営するようになったではないか」

 

「そもそも天龍は四皇だったカイドウを海賊王に祭り上げさせた海賊だ。そんな男が天竜人になるなど・・・・・」

 

「革命家よりも性質が悪く、そして何を考えているか不透明過ぎて逆に恐ろしいな。世界政府と海軍が目の敵にするのも頷ける」

 

「今は酔狂なことに非加盟国に対して歌によるボランティア活動をしているそうじゃな」

 

「マーハハハ!! カーバじゃないか天龍と言う奴は」

 

危険性について話し合う最中に、イッセーを馬鹿にする王の発言に場は一瞬静まり返り―――次に目を見開くことになった。

 

「ほぉ? 人のやり方を馬鹿にする口はこれか。すぐに閉じないとな」

 

動物の毛皮を纏っている一人の王が、突然に雷光を受けた。全身に巡る雷による激痛で絶叫をあげる王に他の王達はただ見守るしかできなかった。それからしばらくして見えない敵からの攻撃に警戒と恐れを抱く、そんな、世界会議となってしまったのであった。なお、敵は最後まで発見されることはなかった。

 

 

 

「あ、戻ってきた。どこに行ってたのさ?」

 

「王達の会議を覗いてた。おれと革命家ドラゴンって人の話をしてた」

 

「革命家ドラゴンは有名よ。直接世界政府を倒そうとする勢力のトップの男であり、素性が知られてない謎に包まれた男でもあるわ」

 

ロビンの知識に軽く相槌を打ち、次の目的の島―――ロビンの故郷オハラに船を進ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エレジアを思い出させる荒廃した島だな。あの巨大な倒木は?」

 

「全知の樹よ」

 

「全知か。大層な名前の木なら普通の木ではなさそうだな」

 

「ええ、あの下には図書館が存在しているの。今はもう燃え尽きているでしょうね」

 

ひたすら偉大なる航路の西方の海を突き進み、地図から名前が消えたというロビンの故郷を探したところ。ようやく辿り着くことが叶った。おれはロビンとだけで行動し、ヤマト達は自由に散策してもらっていた。それが彼女の願いだからだ。どこかに案内され着くまで沈黙が続いたが、ロビンの様子が・・・・・。

 

「うそ・・・・・どうして・・・・・!!」

 

「??? どうしたロビン」

 

空いた口が塞がらず何か信じられないモノを見たか知ったような反応をするロビン。おれの目には地面から生えている草や崖沿いと大海原が見えるだけで特に変わったものはない。でも、ロビンには激しい違和感を覚えさせる何かがあるようだ。

 

「私の記憶が間違いなければ、ここに私の友達が・・・・・青雉に凍らせられた場所なのに、彼がいない・・・・・!!」

 

「彼? それに青雉か。しかも凍らせられた、ねェ・・・・・」

 

彼が凍らせられたはずなのにその氷像がない。導かれるのは・・・・・。

 

「氷が融けた上に目覚めて自力で島から脱出したか、後から青雉が能力を解除して放置した。それ以外だったら融けた後に彼とやらを捕食した肉食生物の腹の中か、の予想だが」

 

「・・・・・」

 

苦悩の表情を浮かべるロビン。自力で脱出したなら望みもあるだろう。青雉が能力を解いた後でもな。

 

「考えても仕方がない。仮に生き延びているならどこかの島で会えるはずだ。違うかロビン」

 

「・・・・・ええ、そうね」

 

「よし、次に行こう。図書館跡地に連れて行ってくれ」

 

踵を返して全知の樹のところへ先に歩く。ロビンは少しその場に佇んで、遅れて案内してくれた。

 

 

 

 

「よい、っしょ!!」

 

出入り口を塞いでいた燃え尽きた大木の破片をどかし、道を解放した。見渡す限りドコモ真っ黒に焦げていて魔力で光球を用意しないと何も見えないほどに暗い。

 

「さすがにここまで燃え尽きているか。上から落ちてきた大木も他にもあるし」

 

「・・・・・」

 

ここで生きながら焼かれ息絶えた人間の人骨が少なくないのか。ん? この人骨だけおかしいな。

 

「ロビン。この魔訶不思議な骨になっても尚、花弁がついているのは誰だ?」

 

「・・・・・クローバー博士よ。私に考古学を教えてくれた」

 

「ほー、そうなんだ。取り敢えず、ここにある人骨は全部回収するか」

 

魔法で見える範囲の人骨を宙に集める。下敷きになっている骨もあるだろうからそれらも探す。全部終えると外に戻ったら骨を地面に置く。

 

「・・・・・イッセー、その杯は何?」

 

胸から出した聖杯に質問をするロビンには敢えて答えず、生命の理を覆す能力を使った。器の中で並々と溜まり出す液体を花弁が付いた頭蓋骨に掛ける。するとどうだろうか。その骨が光を放ち、人の形作ると素っ裸な初老の男性がおれ達の目の前に。

 

「!!?」

 

今まで見たことがないロビンの驚く表情。更に彼女を驚かせることが起きた。老人の瞼がゆっくりと開き、太陽の光を眩し気に細めて手で覆い隠す。

 

「おはよう、目が覚めたようだな」

 

「・・・? 誰じゃ?」

 

「今はおれのことより、彼女の話し相手になってくれ」

 

「―――――」

 

もう溜まらない涙が頬に流れて汚しているロビンを見て老人はゆっくりと口に出した。

 

「おぬし・・・・・もしや、ロビンか・・・・・?」

 

「・・・ぐすっ、うん、クローバー博士」

 

「おお・・・・・ロビンか。オリビアと瓜二つになるほど成長したのじゃな」

 

抱擁し合う二人から離れ、他の人骨にも聖杯の液体をかけて使者を復活させていく。その中の一人がロビンの母親らしくて、ロビンが白髪の女性も目覚めた。

 

「お母さん!!!」

 

「・・・・・? あなた・・・・・ロビン? でも、私はどうして生きているの・・・・・?」

 

尤もな疑問はロビンが答えてもらう。魔法で全員分の服を着させて皆が落ち着くのを待つこと10分。

 

「・・・・・そうか。あれから大変な思いをしたのじゃな」

 

「けど、私達が甦るなんて奇跡的で思いもしなかったわ」

 

「私も・・・みんなとこうして再会できるなんて思わなかった」

 

・・・・・そろそろいいかな? なんか海の方から近づいてくる気配も感じ始めた。

 

「ロビン、全員を船に連れて行くぞ。海から迫って来る強い気配を感じる」

 

「誰?」

 

「おれ達以外はみんな敵でしかないからな」

 

ヒュ~・・・・・ドンッッ!!!

 

「―――砲撃ッ!?」

 

ほらやっぱり。さっさと戻らないといけない時に一人の男性が待ったをかけた。

 

「待ってくれ!! 泉に我々が落とした大量の本がまだ眠っているはずなんだ!! それだけどうか回収したい!!」

 

「本の価値を知っているのは考古学者のお前達だけだ。水の中に捨てられた本は価値のない本だと認識されるだろうから後でまたここに来る時に回収すればいい。今は船が大事だ」

 

「背に腹は代えられない事態じゃな。みんな、今は堪えてくれ」

 

転移魔方陣で船に戻り、散策してるみんなも魔法で船に戻して出航する。さっきから砲弾をぶっぱなしてくるやつはどこの・・・・・。

 

「天龍ゥ~~~ッ!!!」

 

「ゲェッ!! じーちゃんだァー!!」

 

「早く逃げようぜ!! 捕まったら殺されちまう!!」

 

「なんでここにいるんだァー!?」

 

子供三人が騒ぎ立つ。もう目の前にいる犬が船首の軍艦から、バカデカい声を張り上げる老いてなお屈強な老人に心底怯えている。おれも今は戦う余裕がないから要望に応えて船を魔法でオハラの島の向こう側へ跳躍し、大逃げする。

 

ほどなくして落ち着きを取り戻した船の中でロビンがおれを紹介した。

 

「お母さん。紹介するわ、彼は私の夫のイッセーなの」

 

「ロビン、あなた結婚していたのね・・・・・今は幸せ?」

 

「ええ・・・私の夢には敵が多すぎても彼は守ってくれるから」

 

「そう、よかった・・・・・イッセー君。どうか娘のことよろしく頼むわ」

 

「もちろんだ」

 

「だけど、お母さんも一緒に愛されたらいいんじゃない? まだ若いのだから」

 

お茶目な事を言うようになったロビンが新鮮だったが、まさか生き返らせたお礼として母親まで夜の部屋に訪れてこようとは想像もしなかったおれだった。

 

そしてオハラの考古学者達はその後、ラフテルへ案内をしたら「ここに住む!!」と言い出されロビンの母親はオリビアもラフテルに残った。時々出入り可能にしたゲートから船に戻ってきては娘と一緒に俺と夜を過ごすことがあるがな。



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邂逅の鷹の目と急変

世界最強の剣豪と邂逅。でも戦闘は無し。


 

 

穏やかな天候と近くに巨大な海王類が海面から顔を出してまた海中に潜った姿を目撃した。海賊も海軍も見当たらない静かな大海原に航海中は平穏だった。ただ、船の上は相変わらずの騒がしさだがな。さらにちょっとだけいつもと違う。

 

「はいイッセー、おぬしの為に作ったアップルパイじゃ」

 

「おお・・・!!」

 

船にハンコックが居るようになった。王下七武海の地位を捨て、正式におれの船に乗ることで妻でありながら仲間になった。手作りのアップルパイをたくさん乗せた皿を突き出すハンコックに嬉しく覚えるおれは、一つのアップルパイを取って食べる。・・・・・。

 

「ど、どうじゃ・・・・・?」

 

「うーん・・・・・悪くない。でも、もう少し甘い方が好きかな。カスタードとか一緒に焼くといいかも?」

 

「まだまだイッセーを満足させる好物には届かぬか。だが、わらわは頑張るのじゃ!」

 

こんな感じで献身的に動くから同じ妻のヤマト達と言い合いや喧嘩は殆どしないので、船内は好ましい状態になっている。ただ、何事にも例外はある。

 

「あ! イッセーだけ美味しそうな食い物を食ってる! おれにもくれよ!」

 

ルフィがおれの好物に無遠慮で腕を伸ばしてアップルパイを取ろうとする。それに対してハンコックが眦を裂いて伸びた手に鋭い蹴りを放って弾いた。

 

「無礼者め! これはわらわがイッセーの為に作ったモノじゃ! 貴様にくれてやるモノなど何一つないわ!」

 

「いってぇ~!!」

 

子供にも容赦がないハンコックの纏った覇気で蹴ったから手が痛いのは当然。まぁ、仮にも海賊(王)を目指しているなら理不尽さも受け入れなきゃなルフィ。

 

「どんまいルフィ。他の料理だったらあげるけど、好物のアップルパイだけは譲れないから」

 

「ケチ! 一個ぐらいいいじゃんか!」

 

「じゃあお前も食べている途中、お前の目の前にある大好きな骨付き肉を文句言わずに取っていいんだな?」

 

「・・・・・(ひゅ~ひゅ~)♪」

 

口笛が下手だしごまかしも下手だな。

 

「そう言うことだ。ケチと言うならお前もケチな事をするんじゃないぞ」

 

「ぶーぶー!」

 

不満気に頬を膨らませ文句言うルフィに拳を見せつけると脱兎のごとく俺たちから離れて行った。

 

「ありがとうなハンコック」

 

「そなたの妻として当然のことをしたまでじゃ。あ、イ、イッセー・・・!!」

 

綺麗な黒髪をよしよしと撫で、感謝の意を示せば彼女は顔を仄かに赤らめ小猫のように大人しく照れた。ハンコックは今日も可愛いなーと和んだ時。俺の視界に別の光景が突如浮かび上がった。海の彼方から何かが飛んできてこの船を両断するのを。ハンコックの驚きの声を置き去りに船首まで跳躍してドラゴンの頭の上で『閻魔』を構えて数秒後。小型の船に乗っている人が見えた途端。脳裏に過った光景と同じ光のようなモノが飛んできてこっちに迫って来た。それに向かって刀を振って受け止めた。

 

「~~~~~このぉっ!!!」

 

受け止めた瞬間理解した。これは『飛ぶ斬撃』だ。しかもかなり圧が強く押し返すことはできないと判断して真上、上空に打ち上げて船を真っ二つにする斬撃を防いだ。

 

「イッセー、今のは!?」

 

「ただの斬撃だ。相当強い奴がこの船を斬ろうとして来たんだ」

 

それが誰なのかは分からないが危ないな。やってくれるよ。

 

「・・・・・セルバンデス、斬撃を飛ばす・・・いや、世界で一番強い剣士っていたっけ?」

 

「おりますよ。ジュラキュール・ミホーク。またの名を“鷹の目のミホーク”。“海兵狩り”の二つ名も持つ世界一の剣豪の男です」

 

「世界一か、この世界のそんな剣士なら斬撃を飛ばすぐらい造作もないってことか」

 

「彼の海賊“赤髪のシャンクス”と決闘の伝説も有名で語り継がれているぐらいですからね。現在は“王下七武海”に加盟しておられます」

 

意外な接点の事実を知ったことで船から降りて魔力で海面に立ち、先制攻撃してきた男を見た。

 

色白肌に黒髪、くの字を描くように整えられた口ひげとモミアゲ、そして“鷹の目”という異名の由来となった独特の模様を描いた金色の瞳と鋭い目つきが特徴の男。

 

衣装は羽飾りのついた大きな帽子に、裏地や袖にペイズリー風の模様のあしらわれた赤+黒地のロングコート、白いタイトパンツにロングブーツという、西洋の上流階級のような出で立ちをしている。

 

そして背中には自身が扱うには巨大な十字架を彷彿させる刀を差している。乗っている棺桶みたいな船の中で背もたれの座席に座っている。

 

「最初に質問していいか。いきなり攻撃してきたのは?」

 

「ヒマつぶし」

 

「・・・・・」

 

ヒ、ヒマつぶしで人の船を真っ二つにされかけた理不尽!!!

 

「・・・・・聞くけど、おれ達に対して謝罪はない? 海軍や世界政府と敵対関係だが海賊じゃないからさ」

 

「ないな」

 

「・・・そうかそうか・・・・・。なら、自分の船も失っても文句はないんだな」

 

謝ってくれるなら話し合いで済ませるつもりだが、そうじゃないなら敵だわ。“エース”と“閻魔“を手にして“鷹の目のミホーク”と対峙するが、その裏を掻いて彼が乗っている船の真下から海水を操作して鋭い槍と化して船底を大きく貫いた。世界一の剣豪だろうが生身の人間であることには変わりない。

 

「貴様・・・」

 

おっと、彼の剣豪様から凄い覇気が・・・・・だが、因果応報というものじゃないか。

 

「最初に素直に謝ってくればよかったんだよ。単なるヒマつぶしで人の船を真っ二つにしようとした報いだからな。おれは天竜人より怒らせたら怖い龍だぜ?」

 

そう言って海面を蹴って“鷹の目のミホーク”に斬りかかった。俺の船はその間に横から通り過ぎてこの場から離れていく。

 

「ふははは!! さぁどうする“鷹の目のミホーク”さん。世界最強の剣士も大自然の前では無力に等しいだろう。船が完全に沈没する前に俺を斬り倒したら助けてやるよ。沈んだらお前の負けだけどな?」

 

「・・・・・その言葉、忘れるなよ」

 

おっと、彼の剣豪様の剣技に殺気が籠り出したぞ。こいつは油断もできないな。あの“赤髪のシャンクス”と決闘したって話の実体験を俺も味わえるとは嬉しいねぇ!!!

 

 

 

「イッセーはあのままでよいのか?」

 

「多分問題ないよ。彼は何事もなかったかのように戻ってくるし」

 

「では、一人分の料理を追加して待っていましょうか」

 

「ふふふ、そうね。きっとそうなるわ」

 

「マジで言ってるのか?」

 

「あいつは何だかんだお人好しだかんなァー」

 

「「・・・・・」」

 

「これも運命が巡り合わせた結果ですな」

 

「あいつと出会った奴に取っちゃあ最悪だろ」

 

 

 

その日の夜―――。

 

「ハイこちら全身ずぶ濡れでおれに負けた世界一の剣豪さんは、本格的な拠点がないようなのでおれ達の船とグラン・エレジアに拠点としてもらい一緒に居てもらうことになりました!!」

 

「・・・・・」

 

『そうなると思った』

 

瞑目して現状を受け入れたかそうでないか判断はできないが、甘んじてこの船に居座るつもりの“鷹の目のミホーク”。彼と彼自身の荷物を回収して船に戻れば、こんなことになるだろうと予想していた仲間が殆どだったから軽い反応で返された。

 

「・・・・・次は陸地で決闘してもらう」

 

「その前に皆に謝罪しろ。ヒマつぶしで船を斬ろうとした剣豪さんよ」

 

「えっ!!?」

 

「おい、そんな理由でおれ達は気付かずに船諸共海に沈まれかけてたのかよ」

 

「・・・・・出会ったら最悪なのはどっちもどっちだったか」

 

おいそこ、それはおれも最悪なのか後で教えてもらおうか。

 

「・・・・・すまなかった」

 

「軽いなオイ。まぁ、謝罪の言葉を聞けたからヨシとするがな。セルバンテス、上等な赤ワインを用意してあげて。どうやら好物のようで積み荷に赤ワインがたくさんあったから」

 

「かしこまりました」

 

濡れ鼠な“鷹の目のミホーク”の服と体を魔法で乾かしてやって、一人分が追加された席に座ってもらい、とっくに出来上がっている料理を囲んで一緒に夕餉の時間を過ごした。

 

 

 

―――ある日。

 

「天龍め、どこにいるのだ・・・・・見つけ出して早く捕まえなければ我々の損失がはかり知れんことが多くなる」

 

「そうカリカリして見つかるもんなら苦労せんぞセンゴク。見つけたとしても四皇を相手に簡単に捕まる男ではなかろう」

 

「認めたくはないが海軍本部の最高戦力である大将を悉く無力化にされたがな。海軍の英雄のお前でもだ」

 

「ぬぅ・・・ふん。そのうち返り討ちにして捕まえてやるわぃ」

 

「ああ、頼んだぞ。天龍をどうにかするのがカイドウやビック・マム、白ひげよりも重要―――」

 

「セ、センゴク元帥ぃ~!!!!!」

 

「なんだ、騒々しいぞ。・・・まさか、天龍がらみの事件か?」

 

「は、はい。その天龍についてのご報告なのですが・・・その、事件と言ってよいのやら・・・・・」

 

「ええい、さっさと報告をしろ! 判断はこの私がする!」

 

「す、すみません! ご報告します! ―――天龍が天竜人を全員連れて自ら自首をっ、投降しました!!」

 

「「―――はっ?」」

 

海兵から持たされた報告によって二人は間抜けな表情を晒したその日から事態は一変して急変していく。



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出会いと別れと再会

話しを変更&新しく加えました。


『四皇天龍、ついに捕縛!!』『四皇の一角が崩壊』『次の新たな四皇は“赤髪のシャンクス”か』

 

 

「・・・・・ぬふふん」

 

はいこんにちは。大監獄インペルダウンからお知らせします。今現在おれは白黒縞々の囚人服を着て投獄されています。海楼石の枷を着けられてるけど悪魔の実の能力者じゃないから意味をなさないけどな! いやー、監獄の中ってこんな感じなんだなー。今いる場所は石造りで出来た牢屋の中。そしておれを警戒してかジーと見つめて来る壁や床、天井にまで隙間なく埋め尽くされた監視用の電伝虫・・・・・いや、控えめに言っても気持ち悪いわっ!? ビック・マムの時もそうだったのかよこの状況!! 嫌すぎる!! しかも鉄格子の外には看守の人達が並んで突っ立っていて、何時でも俺を撃てるようバズーカとか銃とか所持しているし。

 

「うーん、こうもカタツムリが多いと・・・・・食用のカタツムリのことが思い出しちゃうな。こいつ等って食べられるかな?」

 

っ!?

 

何気なく漏らした一言が全ての電伝虫が怯えて殻の中に引っ込んだ。おいおい、目を引っ込めたら映像が映らなくなるんじゃないか? ああ、そのための二重による監視だったりする? まぁいい、重要なのはこっちだ。看守の人に頼んで(脅迫)持ってきてくれた新聞を見て表情には出さず心の中で歓喜極まった。

 

―――よっしゃ! 四皇の称号が別の海賊になったぁああああああああああああ!!!

 

やっぱり一度捕まってれば肩書は綺麗にできるもんだな! おれ、本体じゃないけど!!

 

 

遡ること一日前。

 

 

「常日頃から思っている。どうにか四皇と言う肩書を外したい」

 

「無理だと思うよ。捕まらない限り」

 

「捕まったらなくなるのかセルバンデス?」

 

「大監獄インペルダウンや監獄船に一度収監されれば肩書など無意味でありますからな。仮にイッセー様が敢えて捕まれば四皇の称号は別の海賊に成り代わります。しかし、せっかく海軍と世界政府と交渉して得れた貴族と中立の立場も失います」

 

「うーん、そうか。貴族は正直単なる嫌がらせだからどうでもいいんだが中立の立場は維持したいなー。もういっちょ交渉してみっかな。グラン・エレジアは中立の船にって」

 

「まさか、それを成功したら捕まる気でいないよね?」

 

「ぶっちゃけ、体験してみたいと思う」

 

マジで? って顔をするヤマト達。

 

「キミが捕まったらこの船はどうするのさー!」

 

「普通に動かせるから問題ないけど」

 

「ルフィ達はどうすればいいの?」

 

「いや、普通に戻れるってフーシャ村に。というか、一度落ち着け? 体験したいとは言ったが何もおれ自身ではないから」

 

「・・・・・どういうこと?」

 

訝しむヤマトに説明を・・・かくかくしかじか。

 

「つまりはイッセーと姿形が同じな分身体を使って自分の代わりに捕まってもらうってこと?」

 

「そうそう。所謂、影武者みたいなやつ。そうすればヤマト達と離れず、おれは四皇の肩書を捨てることができる且つ―――世界政府と海軍の目を欺いた情報を世界に流すというドッキリ作戦が出来るってわけ」

 

「いつもしていることをするつもりなんだねイッセー。ちょっと海軍が憐れに思えてきたよ」

 

「因みにその作戦を世界経済新聞社のモルガンズ社長に提案したらOKを貰ったぜ」

 

「うわー八百長・・・・・」

 

「ただただ海軍を陥れるための行いをするのですね」

 

その通り! だけど普通に捕まるのはつまらないから・・・・・天竜人を餌にしてやろうか。返還を求められてるがいつ返そうか決めてないからまだ返していないんだよなー?

 

そういうわけで分身体に天竜人を全員シャボンディ諸島へ連れて行ってもらい、モルガンズの部下達が事前に配置についている場所で海兵を呼び出し、海兵の前で自首した。

 

「もうしわけありませんでしたー!!!」

 

『ええええええええええええええええええええええええええええ!!!?』

 

髪の毛が吹っ飛んでスキンヘッドになってしまうほど海兵も超ドッキリ!!! まぁ、それからどうなったのかは語るまでもないだろう。あの天龍が大人しく捕まるはずがない! 絶対何か企んでいるからすぐ殺した方がいい! なんて話は挙がってたみたいだが、結局殺さずLEVEL6って場所に投獄することになったからそこが海軍の甘い所なんだよなー。

 

という経緯を経た現在。そんな仕込みのためにあちらこちら説明しに回ったが「何を考えてるんだお前」みたいな反応が殆ど一致したが、気にせず俺がしたいようにするために捕まってもらった。LDKにて海軍の対応に内心苦笑な思いを抱いてればヤマトが問うてきた。

 

「イッセー、これからどうするつもりなの? 偽物とはいえ捕まったんじゃ外に出られないと思うけど」

 

「うん? 変装すればいい以外は何一つ変わらないぞ。いつも通り冒険を楽しむんだ」

 

「・・・・・あれ、もしかして別に何も失ってはいないってこと?」

 

「四皇の称号以外は特に何も、物理的に失っちゃあいないな」

 

綺麗さっぱり清算? をしただけだ。この船とグラン・エレジアだって奪われたわけじゃないし。あの船にはテゾーロが守ってくれている。

 

「じゃあさ、天竜人を解放しちゃっても大丈夫?」

 

「問題ないかな」

 

定期的に見に行くし、もしも奴隷がいたなら夜襲を仕掛けることなく、連中から奪った半分の魂を介して攻撃するさ。

 

「そっか、キミが問題ないなら僕は良いよ。これからも一緒に冒険できるなら尚更ね」

 

「世界を何周しても冒険をしよう」

 

「うん!」

 

子供のように純粋無垢な笑顔を浮かべるヤマト。セルバンデスからお茶を受け取って飲もうとしたところでガンヴァが報せに来てくれた。

 

「海軍の軍艦が迫って来てるぜ。それもすごい数だ」

 

「本物のおれを捕まえたと勘違いした海軍が、お前達を捕まえに来たんだろうな。・・・・・んー大将クラスのクザンさん達がいないな。よし、迎撃すんぞ」

 

「ハハハ、そうこなくちゃな。だが、お前は戦ったらバレるぞ。いいのか?」

 

「変装ぐらいはするって。セルバンデス、ミホークさんにも言っといてくれ。一緒に戦うのも戦わないのも自由だって」

 

「かしこまりました」

 

真紅の龍を模した全身型鎧を魔力で具現化して纏い甲板に出れば、軍艦が十隻も砲弾を撃ってきながら迫って来ていた。そのうちの一つが直撃コースだったけど、突然真っ二つに斬られ空中で爆散した。誰がやったのかはもう明白だ。

 

「おやミホークさんも参加ですか。戦わずとも良いのですよ?」

 

「平穏な暮らしを保つためだ」

 

「そんじゃ、とっとと終わらせるとしようか。あ、ワオウ。海軍の積み荷の回収を頼む。今回は大量だぞー」

 

「ええ、喜んで。すべて回収いたしますよ」

 

「本当に悪徳坊主だなお前はよ」

 

「ガシャシャーッ! 先に行ってるぜ!! 久々に暴れ回ってやる!!」

 

「てめぇサメ野郎、抜け駆けすんな!!」

 

「・・・・・騒がしい連中だ」

 

「フフフッ、元気が有り余っていたようね」

 

「み、みんなの家を守るっ」

 

「これも冒険の醍醐味ッ! さぁ行こうみんな!!」

 

と、外で暴れている頃。監獄内にいる分身体はと言うと・・・・・。

 

「牢屋の中に引き籠って暮らすだけの生活はつまらないから、抜け出してやったぜ♪」

 

「だ、脱走~!!! 天龍が枷を着けたまま脱走~!!!」

 

「フハハハ!!! ほらほら、おれに付き合えよ看守諸君達よ~!!! ついでにお前らも脱走しなければ檻から出してやるよ。毎日退屈な時間の生活とのおさらば!! おれと一緒に監獄内を暴れようぜ!! さぁ、インペルダウンツアーの開始だ!!」

 

ウォオオオオオオオオオオ~!!!

 

囚人達を閉じ込めていた檻の扉が開錠されて、水を得た魚の如く檻から飛び出して看守の人達を襲い始めた。

 

海軍本部―――。

 

 

「天龍が動き出しました!! しかも、他の囚人達を解放しながら脱出を目論んでいる模様!!」

 

「やはりか!! あの男が黙って捕まるような男ではないことはわかっていた!! そのために大将も配置していたが、結果はどうなるか・・・・・!!」

 

「わしもインペルダウンに行った方がええんではないかセンゴク」

 

「ダメだ。また奴の能力でどこかに飛ばされるのがオチだ。今はインペルダウンの事変の収束を待つしかできない」

 

 

LEVEL5

 

極寒の気温と監獄内なのに雪と何でも捕食する白い狼が闊歩する階層を走り抜けるおれ達。途中で木を伐採して鋭い刃と化した葉っぱごと持っては、襲い掛かってくる狼の群れを蹴散らしていく。

 

「テキーラ・ウルフだ! 気を付けろー!」

 

雄叫びを上げながら走る走るおれ達。そして上の階層へ繋がる連絡路の階段を見つけ登れば、こっちの状況を把握していた看守たちが武器を装備して構えていた。

 

「「撃てぇー!!」」

 

「「「「「「おらぁー!!」」」」」

 

「「「「「「ウアアアアアアア!?」」」」」」

 

どっちも発砲の合図を出したが、槍のように投げた大木が銃弾に負けるはずがなく、看守の方が一掃された! なんかその拍子に罠が作動してしまったが問題ない! いやー、みんな意外と力持ちだな。

 

「到着LEVEL4!」

 

大きな木製の扉をけ破り、また待ち構えていた看守の数が数十人以上と出くわし、回収した大木を投げて敵を倒していく。

 

「看守から武器と枷の鍵を奪い取れ! 他の囚人達の解放も忘れるなよ!」

 

「よっしゃー!」

 

ここまでは順調だ。ここからが大変そうだ。なんせ・・・・強敵の数がそれなりにいるからな。その報せはすぐに来た。

 

「ご、獄卒獣だー!」

 

その1 シマウマ、サイ、コアラ、ウシみたいな二足歩行する変な生き物と出くわした。

 

「獄卒獣って?」

 

「あいつらは全員悪魔の実の能力者で覚醒した姿なんだ! パワーが強くて倒しても直ぐに復活するタフネスな奴等だ!」

 

悪魔の実の能力者かよあの出で立ちで。しかも奴らの傍にいるピンクのボンデージ姿の身長が高い目が隠れるほど長い髪の女がいる。

 

「ここから先は一歩も通さないわ~ん!」

 

「回ってろ」

 

「いや~ん!!?」

 

くいっと指を動かすと獄卒獣達と名も知らない女が宙に浮き始め、体が激しく回り出し一人で停めることができないまま回るしかできなくなった。その間に囚人達と走って行く。目指すは保管庫だ。

 

「ほらほら、進め進めー!!」

 

「あの厄介な獄卒獣を赤子の手をひねるように無力化にするなんてやるじゃねぇか!」

 

「ふはは! あの程度は造作もない!」

 

 

「そこまでじゃおんどれや」

 

 

和気藹々となりかけてた矢先、視界を埋め尽くす溶岩の手が襲い掛かった。横に力強く弾いて反らして眼前の人物を見る。その人物を見たLEVEL6の囚人達の顏が絶望に染まった。

 

「な、なんでインペルダウンに大将がいるんだよぉー!!?」

 

「しかも、赤犬のサカズキさんか。オヒサー」

 

手を振って朗らかに挨拶しても攻撃してきた大将赤犬は地面を蹴って赫灼に染めた拳で殴りかかって来た。その拳から躱し、巻き込まれた囚人達を気にせずこっちからも殴りかかって応戦する。

 

「天龍貴様、最初からこれが狙いだったんかい・・・!!!」

 

「いやいや、今まで悪いことした償いをしようと捕まってあげたんだよ? でも、暇すぎて監獄内を探検しようと思っただけなんだ。信じてくれよ」

 

「貴様の口から出る言葉なんぞ、誰が信じるちゅうか!」

 

「酷い!」

 

殴り合いの応戦をしてる最中、明後日の方に毒々しい紫色の三つ首の竜が他の道に向かって行った囚人達に攻撃していた様子が視界に入った。

 

「おい、アンタ! ゲリ野郎のマゼランが来るぞ! ここは逃げた方がいい!」

 

「マゼラン? 確かこの監獄の所長だったか。理由は?」

 

「ゲリ野郎はドクドクの実の能力者で毒人間だ! あいつの毒を食らったら命がいくつあってもないぞ!」

 

それを聞いた瞬間。即行動に出た。

 

「逃げるぞお前たち! 命があっての物種だ!」

 

「「「へい喜んで!」」」

 

「待たんか! 逃がさん!」

 

「牢屋に戻るんだよ勘違いすんなバーカ! また遊びに来るから待ってろよー! ハハハー!」

 

来た道に戻る脱獄者のおれ達。しかし毒の能力者がいるとは厄介だ。攻略は出来るけど長い付き合いになりそうだ。

 

 

 

 

 

海軍本部。

 

「インペルダウンから報告! 天龍達の脱獄は赤犬さんと監獄所長マゼランの防衛による失敗しました! 現在LEVEL-6の牢獄の中に・・・・・」

 

「・・・・・なんだと?」

 

「信じられん・・・・・」

 

「え、いえっ、あの実際に天龍と居合わせ一戦を交えた赤犬さんからの報告ですので事実なのですが・・・・・」

 

「違うわぃ。あの小僧が素直に引き下がったこと事態が信じられんのじゃ。あいつがその気ならとっくの昔に脱出しておるわ」

 

「軽々と天竜人を拉致できる男だぞ。能力が封じられていようとサカズキを相手に遅れを取るような男ではない。インペルダウンで何をしようとしている。何を企んでいるあの若造は」

 

「自分が捕まることで世界に影響を与える何かを求めている? もしくはインペルダウンに捕まっている間に世界の情勢を見据えるためか?」

 

「・・・・・なんにせよ。忌々しい男を牢獄の中に閉じ込めることができた。これで世界が静かになる」

 

今の今までのことがあった二人にとって不気味でしかなかったが、結果オーライということで悩みの種だった問題が解決したと心から安堵するが、それは全て偽りであることを知るのは先の話。天翔ける龍は今も大海原にいるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――五年後。

 

 

エース、サボが17歳になったその日。年齢的にも実力的にもいい頃合いだった。フーシャ村から発しようとする二人を見送る日となった。

 

「エース、無茶だけはしちゃダメよ」

 

「わかってるお袋」

 

母親のルージュの心配を憂いすら感じない様子のエースだが、最後に抱擁されようとすると俺たちが見ている手前恥かしがって遠慮してたが、サボと視線を交わし一緒に後ろから蹴って背中を押してやって抱擁させた。

 

「エース、サボ。餞別だ」

 

「短刀?」

 

「おれが作った海楼石の武器だ。能力者相手に戦える武器は増やしておいて損はないだろ」

 

「そっか、ありがとうな。今日までのことも含めてよ」

 

「ああ、最初はどうなるんだと思っていたんだが、あんたに連れ回された旅は楽しかったよ」

 

「ははは! 誘拐した甲斐があったなそりゃあ!」

 

英雄ガープの反応を見たくてこの島から連れ去ったが、海を冒険する楽しさにそんなこと気にしない図太い神経な三人だった。それがまぁ、立派に成長しちゃって。

 

「二人とも元気でな。お前らの活躍の話を待っているぞ」

 

「あんたに鍛えられて強くなったんだ。エースより先に新聞におれの名を広めてやるぜ」

 

「上等じゃねぇかサボ。どっちが早く賞金首に挙がるか勝負だ」

 

そういう勝負はしなくてもいいんじゃないかなー。普通に仲間を集めて冒険をする楽しみで十分だろうに。

 

「いいなー、お前ら。おれも早く冒険がしてぇよ」

 

「だったらお前も出発するか? ただし、この二人のどっちかの船に乗る条件で」

 

「いやだ! おれは自分の船で冒険したいんだ!」

 

「まったく、変なところで子供なんだから」

 

とルフィの反応に呆れるウタもすっかり成長している。そして何故か・・・。

 

「何時までも子供のままじゃあ、イッセーみたいな強くて格好いい大人になれないよルフィ」

 

「ムカッ! そんなことねェよ! おれだってあっという間にイッセーも追い越すんだ!」

 

「まだ勝ててないがなー」

 

「でた、負け惜しみ~!!」

 

事あるごとにルフィの前でくっついてくる。ルフィへの当てつけか、それとも・・・・・。

 

「・・・・・ん、そろそろ出発した方がいいぞ」

 

「そうだな。そうするか」

 

「ルフィ、おれ達はお前を待っているからな。早くこっちにこいよ」

 

「ああ! 待ってろよ二人とも。おれもつぇー仲間を集めて立派な海賊になる!」

 

三人の交わした約束は、いつか叶うことを願う。エースとサボが船を漕いでそれぞれ違う道へと進んでいく。

 

「二人とも元気でねー!」

 

「またいつかどこかの海で会おう!」

 

ヤマトとおれ、他のみんなも二人に別れの言葉を送り海の彼方、この先まで見えなくなるまで見送ったのだった。

 

 

そしてさらに二年後。ルフィも旅立ちエースとサボと同じように見送った。今後の弟子たちの成長が楽しみだ。なにより・・・・・。

 

「20年後まであと二年だな」

 

「カイドウを倒すのは誰だと思う?」

 

「“新時代”を拓く若い世代だろうさ。おそらくルフィ達のような」

 

「一回り歳をとっても、僕たちも負けていられないね!」

 

「そうだな。“新時代”を作る方法は色々ある。ルフィ達は【海賊王】になってから作るだろうから」

 

現海賊王カイドウを倒さなきゃいけないぞお前ら。それが出来るまで強くならなくちゃ夢のまた夢だ。

さーておれ達も出航するか。せっかく東の海にいるから適当な海賊船を探して捕まえよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南の海に初めて上陸する島を発見した。ルフィは珍しく故郷の島に戻って遊ぶと言い出して今日は一緒に行動をしない。いざ散策すると老人ばかりがいる村に着き、この島のことを訊くと“ソルベ王国”という名前で、北部に行けば城と城下町があるという。

 

「ここは世界政府の加盟国か?」

 

「そうだよ。でもねぇ、ここ南部は年寄りばかりで病気になっちまうと天上金は払えねェー!!」

 

「そしたら牢獄さ!」

 

「以下も以前は南部だけ『奴隷政策』をしようとした最悪の国王なんだよ!!」

 

「天竜人の手先さ!」

 

「革命軍に入ったくまちーの方がよっぽど優しいさ!」

 

聞けば聞くほど現国王の評判は最悪な代わりに、老人たちの間では「くまちー」という人物を深く好印象を抱いている。

 

「革命軍? それなりに新聞に載っていたな」

 

「そんな人がこの国で牧師として暮らしているなんて意外だねー」

 

「それよりもイッセー殿。現国王は天竜人の手先だとか。如何致しますか?」

 

一番重要な事を言わずともいいことを敢えて問うワオウに。地面に転がっている小石を摘まんで、人差し指と親指で圧砕してみせた。

 

「潰す。それ以外の選択はないだろ。『奴隷政策』なんて馬鹿馬鹿しい政策を実行する王は天竜人と同レベルだ」

 

「ってことは・・・・・暴れていいんだな?」

 

「民間人にまで被害は絶対に出すなよメガロー。下準備をしてから暴れていい」

 

ニヤリと凶悪な牙と獰猛な笑みを浮かべる魚人さん。老人たちが教えてくれた「くまちー」のいる教会に赴くと、賑やかな声が聞こえてくる。

 

「すみませーん。ここにくまちーって人はいるって聞いたんだけどー」

 

外から呼び掛けてすぐ、俺達より圧倒的に身長が大きい大男が教会の中から出てきた。

 

「私がくまだ。何か用か」

 

「・・・・・」

 

「どうかしたか?」

 

「あ、いや・・・老人たちから訊いてない特徴に、こんな大きい牧師だとは思いもしなかったから驚いていた。巨人族の子供とか?」

 

「いや、私はいたって普通の人間だよ。ところで、君達は海外から来た者だね?」

 

「世界中を冒険し回っている愉快な者達だよ!」

 

「冒険!?」

 

うん? 子供の声が聞こえたな。教会の奥から桃色の髪に目元に青い石みたいなものがくっついている幼い少女が駆けてきた。

 

「お父さん、海を冒険している人が来てるの!?」

 

「こら、ボニー!」

 

「あはは、ボニーったら冒険をしている人と会うのは初めてだもんねー」

 

さらに別の女性が現れた。少女の母親か、彼女にも体に青い石がくっついていていた。

 

「・・・・・えっ、あなた」

 

「うん?」

 

素顔を晒しているからか、俺を見てびっくりしている。元四皇の男だと気付いたのなら問題ないが・・・・・くまの身体を強く叩きながら指を差してくるのは何故なんだ?

 

「く、くまちー!! この人だよ、私を助けてくれた!!」

 

「えっ!?」

 

「・・・・・ん?」

 

彼女を助けた? いつどこで? 人助けをする時は大体、天竜人の奴隷解放ぐらいなんだが・・・待てよ?

 

「もしかして、天竜人の奴隷になっていた?」

 

「そうだよ! 竜の蹄の焼印も消してくれたじゃん!」

 

・・・・・覚えてねェー。何百何千の人間を助け、竜の蹄の焼印を消したから一々人の顔を覚えちゃいないぞ。

 

「悪い、助けた奴隷の数が多いから全然覚えはない。だが、お前がそう言うんだったらそうなんだろうな。あれから幸せに暮らしているようでよかったよ」

 

「うん、本当にありがとう!!」

 

笑う彼女はジニーと名乗り、子供はボニーと教えてくれた。そして・・・・・。

 

「ジニーを助けてくれてありがとう!!!」

 

思いっきり泣いて俺より大きい顔をくっつけながら抱きついてくるくまちーことくまに押し潰されそうだっ。・・・・・けど、俺が助けた一人が本当に幸せに暮らしてくれて嬉しいのは確かだ。

 

「お父さん泣き虫!」

 

「嬉しいあまりに泣いているんだよボニー」

 

「そーなの?」

 

「うん。さ、くまちー。中に入ってもらおうよ」

 

「あ、ああ・・・そうだな」

 

助かった・・・・・くまの涙でずぶ濡れだけども。魔法で服を乾かす様子をボニーにキラキラと見つめられ、どうしたと聞くと。

 

「一瞬で乾いた! どうやって?」

 

「魔法だ」

 

「魔法ー!? もっと見せて魔法!!」

 

あらやだ純粋で可愛い反応。ボニーの要望に応え水で作った数々の動物たちにおおはしゃぎしては、触れようと乗っかろうとして逆に全身ずぶ濡れとなり、魔法で乾かすともう一度濡れに触りに行った。

 

「すごーく楽しそう」

 

「ああ、ジニーとボニーは外に出せないんだ」

 

「理由は?」

 

「病気のせいだよ。日の光や月の光を浴びると全身に石が出来て死んでしまうんだ」

 

母親のジニーも同じ病状ってことか。ああ、だから教会なのに窓という窓を木の板で塞いでいるのか。

 

「この島の医者・・・・・いや、手の施しようも、か」

 

「そうなんだ。・・・もしよかったらでいいんだ。二人の病気を治せる医者を知らないか?」

 

くまの嘆願におれはセルバンテスに知っているかと目で訴えた。彼はボニーの青い石を触れてとても難しい顔つきとなった。

 

「見たことも聞いたこともない病状です。おそらく体の細胞から石になっているのではないかと」

 

「細胞レベルの話か。そこまでなると科学の力を借りないと治せないだろうな」

 

「科学・・・・・」

 

「薬も科学で作られているからな。天才的な科学者がいればあるいは。そう言う人間は知ってる?」

 

くまに科学者の人間に心当たりがあるかどうかの話になる。さて、どうだろうか?

 

「・・・・・海軍の科学者『Dr.ベガパンク』という人物なら知っている」

 

「知っているんだ。じゃあ、後は居場所さえわかれば連れて来られるな」

 

くまがギョッとおれの発言に目を見開いた。

 

「本気か!?」

 

「嘘は言わないぞ。居場所を知っているか?」

 

「それはもちろんだが・・・・・とても簡単に会えるような男ではないぞ」

 

「問題ない問題ない。俺達なら余裕だ」

 

ベガパンクの居場所を教えてもらおうと口を開きかけたが、ボニーがもっと魔法が見たいとせがまれた。

 

「もっと!!!」

 

「・・・・・ははは、いいだろう。疲れて眠ってしまうまで魔法を楽しんでもらうか」

 

「やったー!!」

 

ベコリ王は夜になってからだな。まぁ、元々そうするつもりだったがな。

 

「くま、数日はこの島にいるつもりだ。よかったら夜に俺達の船にこないか? 月の光の対処もするから」

 

「キミの船に? そう言えば名前を聞いていなかったが、名前は何て言うんだい?」

 

俺はその言葉を待っていた。ニヤリと悪戯っ子の笑みを浮かべ手配書を見せるとくまは腰を抜かして倒れるほどビックリしてくれた。

 

「よ、四皇の天龍!!?」

 

「天竜人が大嫌いな元四皇、イッセー・D・スカーレットでーす」

 

ジニー!? と俺のことを知っていただろう彼女に動揺して叫んだくまにジニーはお腹を押さえてケラケラと笑っていた。この女、ワザとだなー?

 

「ボニー、夜になったらお前と同じ女の子を紹介するよ。きっと友達にもなってくれると思う」

 

「本当!? わーい!!」

 

教会の中から滅多に出られない生活を強いられて、同年代の子供と遊んだことはないだろう。大喜びをしてその場で小躍りをするボニーを見て。

 

「セルバンテス、シャッターを閉じて今夜三人を案内してくれ。俺達は夜に決行する」

 

「かしこまりました」

 

声を殺し、老執事に囁いて頼んだ。

 

・・・・・だが、そうすることが叶わなくなるとは俺達は思いもしなかった。その日の夜、くま達を迎えにまた教会に向かう途中だ。南部の村が大規模に燃えていたんだ。炎に焼かれる人間や村に火を放つ兵士に襲われる人間が目の前に。

 

「なんで!?」

 

「老人達の救助が優先だ!! 兵士は捕まえて吐かせろ!!」

 

火の鎮火に村の上空に展開した巨大な魔方陣から雨を降らして燃え盛る火災を消化していく。

老人達が逃げる先には、朝おれ達が訪れた教会だ。くまに助けを乞いに向かったんだろう。

 

「大丈夫か!!」

 

「あ、ああ・・・ありがとう・・・・・痛みが消えていく・・・・・」

 

「どうしてこうなったのかわかるか?」

 

出血がひどい、老人の怪我を癒しの力で治しながら事情を訊く。老人は泣きながら教えてくれた。

 

「ベコリ王がまたやりやがったんだ・・・・・!! 天上金が払えないわしらを国の足手まといを燃やすって16年前の悪夢の再来を繰り返しやがったんだ・・・・・!!」

 

「―――」

 

ガっと俺の服を掴んで老人は叫んだ。

 

「あいつは人間じゃない!!! 人を大量に殺し始めた!!!」

 

傷を癒したのにその思いを俺に強くぶつけた後、老人がこと切れた風に全身から力が抜けた。・・・・・気を失ったか。

 

「イッセー」

 

火災も大量の雨で消えていく最中、ギリューが集めた情報を教えに来てくれた。

 

「・・・・・以上だ」

 

「わかった。悪いがギリュー、おれは今“キレ”ている」

 

「っ・・・」

 

ギリューから緊張を感じた。おれの怒りを感じ取ったからかな。だが、止めれない感情は抑えきれないばかりか溢れ出る一方なんだよ。

 

「今まで殺しはしてこなかったが、天竜人の手先だろうと殺さずいつもの通りしようと思ったが・・・今回はダメだ」

 

―――龍化

 

『ベコリ王とその配下の兵士を皆殺しにする』

 

巨大な真紅の龍に久方ぶりに変化した俺は、驚愕するギリューを置いて北部へと飛んだ。

 

『オオオオオオオオオーッッッ!!!!!』

 

ソルベ王国の王城はあっという間に着き、王に抗議している民間人が多い。しかも銃声が聞こえた。ますます許せない王に怒り。

 

「な、なんだあのバケモノはぁああああああああああああああっ!!?」

 

「国王、お逃げ下さい!!!」

 

『逃がすか!!! ここで悉く死に晒せ!!!』

 

城の真上に移動し、そこからドラゴンブレスを放った。城が丸々と呑み込み包まれる。

 

ボカァアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!

 

爆砕した城に降り立ち、咆哮を世界に轟かせる。

 

 

「イッセー・・・あんな姿になれるなんて、今まで知らなかった」

 

「城を軽々と破壊しやがった・・・・・すげェ」

 

「・・・・・怒っている、ロビン、イッセーが」

 

「それだけ許せなかったのよ彼は」

 

「ガシャシャシャ!! やっぱりあいつは最高につえェな!!」

 

「これで世界の平和から害悪が一つなくなりました」

 

「「・・・・・」」

 

「あいつにしてはハデにやりやがったな」

 

 

まいったな。あのクソ王が死んだのかこれじゃわからないな。まぁ、生体反応は感じられないから死んだと思うべきか。民間人も城から離れて逃げ惑ってちゃってるわ。

 

「・・・・・ん? あれは・・・・・」

 

おれを見上げるくまと目が合った。元の人型の姿に戻り、くまのもとへ降りた。

 

「キミだったのか。さっきの巨大なドラゴンは」

 

「まーな。おれ自身も色々と事情があってな。それよりも城、壊して悪いな」

 

「いや・・・私も壊していただろう。キミほどではないと思うけど」

 

本当にごめんな!!

 

「今回の一件、どうなると思う? ベコリ王は殺したと思うけど」

 

「生きていなければ、巨大な怪獣に島を襲われたと思われるだけだろう」

 

「それがおれだとは思いもしないだろうけれど、海軍が動くと思う?」

 

「動くと思うよ。島にまだ怪獣がいたらね」

 

その怪獣がおれだから、さっさといなくなった方がいいかね。

 

「一先ずは怪我人の対応に戻るよ」

 

「わかった。イッセー、ありがとう」

 

「ははは、怪獣にお礼を言ってどうするんだよ」

 

 

 

後に「ソルベ王国」であった事件は「一人革命」と呼ばれる。さらに後日、「国の村を焼き尽くし大量に国民を殺した怪獣を使役し、暴力で王位を奪った悪の支配者」としてくまが新聞の記事に大きく載った。



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天才科学者 ベガパンク

 

壊してしまった王城は作り直されることなく、ソルベ王国の国民達からの願いを断り切れずくまは―――古い教会に住む「国王」となった。だが、問題はすぐに起きた。

 

「は? ベコリ王、生きてたのか? 殺傷力100%のブレスで城諸共吹っ飛ばしたのに」

 

「どうやらそのようだよイッセー。しかもこの国に戻ってくるんだって」

 

「世界政府を味方につけ軍艦の準備もしているらしいと、先々代の国王ブルドックが言ってたわ」

 

「悪の支配者バーソロミュー・くま」と城を破壊したドラゴンの姿の俺と一緒に記事に載ってる新聞を渡された。

 

「ふーん、俺達のことは気付いていないようだな」

 

「どうするイッセー?」

 

どうする、か。それはくま次第ではあるんだがな。

 

「くまがこのまま国王としているなら、殺しきれなかった責任として返り討ちにしてやる。でもくまが自分自身でするなら、手伝いたいと思っている。本人が良ければの話だけど」

 

「手伝いとは、あの難病のことですかな?」

 

「ああ、天才科学者ベガパンクと会ってみたいしな。あわよくばこっちに引き込めないかと試してみたい」

 

「政府側の人間だぞ。できっこねェって」

 

さて、科学者だからな。頼み事ぐらいはできるかもしれないぞ。俺は悟った顔でガンヴァに口を開いた。

 

「ガンヴァ、科学者はな・・・・・いつも金欠なんだ」

 

「何だ突然」

 

「物作りは何時も金がかかるモノなのさ。おれ達のグラン・エレジアだって天竜人から奪った金を使って完成させたほどだ。つまり、膨大な金さえある環境ならば鞍替えしてくれる可能性も捨てきれないのさ」

 

「なるほど。グラン・エレジアは娯楽施設。毎月多額の利益が得ておりますから科学者にとって最高の金づるもといスポンサーとなりますな。ですが・・・・・」

 

ワオウが懸念していることを口にした。

 

「グラン・エレジアの利益を提供するほどの科学者でなければドブに捨てる行為ですぞ?」

 

「そいつはこれから直接確認すればいいだけの話だ。そしてその日は必ず近いだろうよ」

 

そう宣言してから数日が経ったある日。警邏していたセルバンテスから沖に三隻の軍艦がソルベ王国に迫っていると知ったおれ達はくま達に「ベガパンクを探しに行くからここで待ってろ」と一言告げてから、海に出て軍艦にいた愚王諸共・・・・・。

 

「今度は直接、だ」

 

「こ、殺せ海軍!! この―――ぎゃああああああ!!!」

 

当然全てを沈めた―――。

 

「大量です♪」

 

「本当にお前は悪徳坊主だな」

 

「海に沈むより有意義に使う方が金品や食料も幸せですぞ」

 

沈む前におれ達が戦っている間に軍艦から全ての物資を拝借したワオウ。おかげでうちは潤うが、生粋の坊さんがする事じゃないのは確かだな。

 

「それじゃ、このままベガパンクのところに行くぞ」

 

「くま野郎はいいのか?」

 

「ああ、いい。くまを犯罪者にしたくないからセルバンテスに警戒してもらった。いつか自分で探しに海へ出ると思うけど、それならそれでいい。いつかどこかの海で会えるかもしれないから」

 

船はそのままソルベ王国を後に進んだ。ベガパンクを会いにしばしの別れだ。さて、どんな人間だろうなベガパンクさんとやらは。

 

 

―――新世界 冬島

 

 

目的の人物がいる島に辿り着いた。当然ながらこの島は海軍と政府の直轄の島だ。ここで暴れればあの勢力も黙っちゃいないがおれ達には関係ない。

 

「皆はソルベ王国に戻す。そこで待ってくれ。俺が説得してくる」

 

「わかった。行ってらっしゃい」

 

ソルベ王国の海岸に船ごとヤマト達を転移魔法で送還。赤い龍の鎧を着込んだ状態で機械の研究所へ侵入を果たす。・・・・・何だあの頭、頭蓋骨と脳がどうなっているんだと思うほど風船がパンクしそうな長い頭になっているぞおい。おまけに童話から出てきた感じの格好と大きな鉞を持っている男もいるし。どっちも俺に気付いていないようだな。

 

「お前がベガパンクか?」

 

「「!!?」」

 

片やビックリしすぎて頭を強く打ち、片やようやく俺の存在に気付いて臨戦態勢の構えを取った。

 

「だ、誰だ!?」

 

「ベガパンク、あんたの科学の技術を見込んである母親と娘の病気を治してもらえないか?」

 

「な、なんじゃと? そのために私に訪ねてきたのか」

 

そうだと頷く。

 

「病名は知らないが、細胞レベルで日の光と月の光を浴びると体に石が出来る特徴の病気だ。知っているか?」

 

「・・・・・それは“青玉鱗”じゃな。治る」

 

おお、知っている上に治せるのか。来た甲斐があったよ。

 

「方法は?」

 

「新しい幹細胞を作り移植する。結果サイボーグを作る様な手間と費用が掛かる」

 

「サイボーグを作れるのか、やっぱり」

 

「じゃが、クローン兵の素体となる人材が見つからん。もしもその素体の人材と莫大な手術費を提供してくれるなら治してやろう」

 

「うーん、クローン兵の方は当人が良ければいいと思うが、素体は心当たりがあるぞ。手術費はおれが払う」

 

「ぺぺぺ!! 話が早い!! では私はここで待って―――」

 

「いや、すぐだ」

 

ソルベ王国の教会前に空間を繋げてすぐに出入りが出来るようにした。

 

「こっちだベガパンク」

 

「な、なぁあああああああっ!? べ、別の場所を繋げたのか!? 空間系の悪魔の実の能力者じゃったか!!」

 

「早く来い」

 

催促して教会に来てもらいくま一家とベガパンクの両者を会わせたところ。

 

「こ、こんな人間がこの世にいたのか!!!」

 

「それは私も今そう思っていた・・・・・!!」

 

「何という体躯!! 筋肉を調べさせてくれ!! 科学の発展の為に!!」

 

お互いの体の大きさと頭の大きさを指摘しあった。ボニーがベガパンクの頭を見て「うわー!!すっげー頭!! キモッ!!」と言う始末。ジニーも放心している。

 

「病気の母親と子とはその二人か・・・クソ生意気な子じゃな。嫌いじゃないが」

 

「ベガパンク、こいつだったらいいか?」

 

「理想的な素体じゃ!! 寧ろ血の提供とクローン兵の作る許可をくれれば手術費はゼロにしてもいい!!」

 

「何の話だ?」

 

そりゃくまは預かり知らないところの話だったな。ベガパンクから説明を受けくま、理解したと頷いた。

 

「どの道断ることはないが、手術費まで君が出してもらわずともいいだろう」

 

「いや、こっちにもメリットがあると思っての提供だ。ベガパンク、世界政府からおれ達に鞍替えする気ないか?」

 

「オイ私は政府側の人間じゃぞ!! というかお前さんは何者なのか訊いておらんぞ」

 

「ん」

 

手配書を見せるとベガパンクの目玉が飛び出すほど「えええええええええええっ!?」と驚いた。ボディガードも汗を大量に流して緊張が顔に出ている。

 

「つ、捕まっているはずではないのか!?」

 

「あっちは俺の分身体だ。こんな風にな」

 

魔法で魔力の塊の俺を数人分裂して各々戦隊ポーズをして披露し、ボニーには大うけした。一方のベガパンクは顎が地面に着くほどあんぐりとしていた。人間って驚くと人体が変わっちゃうんだな・・・・・。

 

「ど、どうなっておる・・・・・悪魔の実を複数食ったのか?」

 

「いんや? 悪魔の実は食っていないぞ。ま、秘密があるのは確かだがな」

 

様々な属性の魔力をお手玉にして披露する。ますます理解ができんといった具合で苦悩するベガパンクだった。

 

「言っておくが、俺のことは秘密にしてくれよ。せっかく四皇の肩書を消したんだからな」

 

「どうして四皇の肩書を自ら手放す真似を?」

 

「おれは普通に冒険がしたいだけなのに、ただ奴隷を解放する為に天竜人を何度も襲ったり、カイドウとビック・マムを倒しただけで海賊とか四皇にされたんだぞ。―――そんな肩書と称号何ているかー!!!」

 

心からの本音と魂の叫びで教会が震えた。おっと、驚かせてごめんな?

 

「いや、そこまですれば当然の結果であろうに」

 

「うっさい! 仕舞には海賊王にされかけたんだぞこっちは! ラフテルに案内しただけで!」

 

「ラフテルか・・・・・!! 教えてくれ、ラフテルには何があった? ラフテルはどこにある? ワンピースとはどういう物だったのか興味あるわい!」

 

「いや待てパンクのおっさん! それを知っちゃダメだろ、世界政府と海軍に追われるぞ!?」

 

「科学の発展の為には犠牲が付きものじゃ戦桃丸君!!」

 

「全然関係ねェー!!」

 

ボディガードみたいな男は名前は戦闘丸か。

 

「なんなら古代兵器の設計図もございますが・・・見たい人ー」

 

「そんな物まであるのかお前さん!? みたいに決まっておるじゃろう!!」

 

「なら、こっちに鞍替えしろベガパンク。知っているだろうけどうちは世界屈指の娯楽施設を作ったグラン・エレジアってカジノを運営している。カジノで得た利益を提供してもいいぞ」

 

設計図を札束のように持ち、ビシバシとベガパンクの頬を叩く。おい恍惚とした表情を浮かべるのは止めろ喜色悪い。

 

「元とは言え、海賊・・・・・すまぬ、四皇・・・・・ええい、大いに不満なのはわかるがそう怒り狂った目で睨むではない!!」

 

そりゃあそうだろう。海賊と四皇と呼ばわれる筋合いはないんだから!!

 

「おれに鞍替えするメリットがない、そう言いたいんだな。あるぞ」

 

「ほう、例えばなんじゃ」

 

「まずその一、今じゃソルベ王国を暴力で王位を奪った他称“暴君”バーソロミュー・くまのクローン兵。一国の王をクローン兵にしたら政府は黙っちゃいないと思うぞ。自分の思い通りに指示を出すようにしろとか言い出すに決まっている。世界政府の最高権力者の五老星と天竜人だぞ? まともなことを言うはずがない」

 

「・・・・・」

 

「その沈黙は、どうやら思い当たることがあるんだなベガパンクも。次にその二だ」

 

ベガパンクにさらに告げる。

 

「そこの戦桃丸とやらが言ったようにラフテルと“空白の100年”を知ったことがバレたら、全力でお前を殺しにかかるぞせいふが直々に」

 

「“空白の100年”も知っておるのか・・・・・では、ニコ・ロビンも知ったのか?」

 

「ああ、全部知っている。だから俺が守っているし直接滅んだオハラの島にも行って、クローバー博士達を甦らせた。今ラフテルで暮らしているよあの人達」

 

「なっっっ!!?」

 

おっと・・・話がそれたな。

 

「本題に戻ろう。治せるなら治してほしい。できるんだよな?」

 

「ああ・・・勿論じゃ。じゃがまずはくまの検査をしたい!!」

 

「あ、その前に。お前の研究所に小さい電伝虫が隠れていないか探った方がいいぞ。政府側の人間とはいえ、見張られているはずだからな。というか、言い出した俺が調べてやるよ」

 

足元の影からネズミ型の魔獣を地面が黒く塗り潰されるほど大量に創造して、ベガパンク研究所を探らせた。案の定、ベガパンクはやはり気になって仕方がないと質問責めして来た。

 

「お前さんは本当に何者なんじゃ。いくら悪魔の実の能力者でもおかしすぎる。獣を生み出す悪魔の実などない筈じゃ」

 

「俺の秘密を知っているのはカイドウとビック・マム、それにボア・ハンコックと少ない。公にできるほど簡単じゃないんだよ俺の秘密は。それでも知りたいって言うんなら、こっちに鞍替えしろ。色々と特典が付いてくるぞ」

 

「むぅっ・・・!!」

 

程なくして魔獣達が小さな電伝虫を複数見つけて戻って来た。

 

「ほら、あったようだぞ。おそらく政府と繋がっている」

 

「まさか・・・・・いつの間に仕込まれていたのじゃ」

 

覚えの無い電伝虫の発見に天才科学者も動揺を隠せない。魔獣に電伝虫を食わせてやって情報を遮断。

 

「おそらく近日中に海軍が来るだろうけど、絶対に無茶な要望は拒絶しろよ。お前が嫌な事をさせられると思うし」

 

「例えばなんじゃ」

 

「うーん、クローン兵を量産するっていうんなら、素体となるくま自身も思考と自我の無い完全なサイボーグにしろとか言い出しそうだな。そうすりゃ、何でも忠実に命令を従う機械人形と化するだろう」

 

「・・・・・それでも断れ切れんかったらどうするんじゃ」

 

当然の疑問をぶつけてくるベガパンクに黄金の龍を象った錫杖を具現化して握った。

 

「大丈夫。くま自身を増やせばいいだけだ」

 

「「???」」



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赤い龍と黄色い猿

 

 

「じゃあ、ボニーとジニーを先に治療してもらおうかベガパンク。くまの方はその後からでも遅くはないだろ?」

 

「確かにそうじゃが、それではくまと2人が長らく離れて暮らすことになるぞ。よいのか?」

 

ベガパンクは気持ちを確かめる問いをジニーに投げた。ジニーは苦笑しながら頷いた。

 

「ボニー1人だけならともかく、私も一緒だから大丈夫だよ。それに会えなくても手紙のやり取りだってできるし、早く治して三人で外に出てピクニックがしたい!!」

 

「ジニー・・・・・」

 

「大丈夫だよくまちー。ちょっとまた長く離れて暮らすことになるけどこれが最後だから。心配しないで? ほら、ボニーも」

 

娘を抱き上げるジニー。ボニーはくまに抱き着き、くまもボニーとジニーを抱きしめ合って次に会うまでの挨拶を語った後。教会の中でベガパンクの研究所の中の空間を繋げて、母娘とベガパンクと戦闘丸を研究所に送った直後。他の科学者から監視用の電伝虫が途絶えた異変でか、その日の内に海軍が冬島に来たことを知らせに来てくれた。

 

「ベガパンク、やっぱり海軍が来たそうだ。不審人物のおれと政府の電伝虫からの通信が途絶えたからだろうな。どう対応する?」

 

「ま、何とかなるじゃろう。海賊の頼みを断ったと言えばな」

 

「まーた監視用の電伝虫を仕掛けられてるし、今度は内通者も紛れさせるだろうから気を付けろよ。あと、くまのことは一切漏らすな。ボニー達もだ」

 

「わかっとるわい」

 

「わかった。ジニーもお父さんのこと今は内緒にね。誰にも言っちゃダメだよ」

 

「はーい」

 

口裏合わせを決め合う間にこの場にやって来た一人の海兵・・・・・あらまぁ、お久し振りなお人だった。

 

「失礼するよォ~・・・・・」

 

「先手必勝!!」

 

扉から入って来た背が高い海兵ことボルサリーノさんの腕を掴んで両腕に海楼石の手錠をはめた。油断大敵過ぎやしないか? まァ、この人は自然系の悪魔の実の能力者だから物理はほぼ無効にするし警戒する相手ではないと無防備をどうしても晒してしまうもんか。

 

「んんんー? 今の声・・・・・おっかしぃねェ~? ここにいる筈がないんだけどもしかして天龍、君かい?」

 

「ははは、声だけで判別できるほどお互い長い付き合いも仲良しこよしした覚えはないんだがなボルサリーノさん?」

 

認めればボルサリーノは「驚いたねェ~」とサングラス越しで見えないが目を丸くしたと思う。

 

「おいおい、じゃァあっちの君は何なんだァ~?」

 

「インペルダウンを丸ごと爆発するための偽物だよ。いやァ、四皇の肩書を捨てたいからわざと偽物に捕まってもらって晴れておれはただの冒険者として海を航海で来たよ。初めて海軍と政府に感謝したぜ」

 

「肩書を捨てるだけで海軍を利用するんじゃないよまったく」

 

「利用できるもんは利用する。そっちだって海賊同士が潰し合えば楽でいいだろう?」

 

「否定はしないよ~」

 

ボルサリーノさんから離れ、ベガパンクの横に立つと質問を投げてきた。

 

「それで、ベガパンクをどうする気だい天龍。まさか誘拐しようってわけじゃないだろうねェ?」

 

「や、この二人の病気を治す依頼をしていた」

 

「ん~? 本当にそれだけかい? 君と何の関係があるのかわからないねェ~」

 

そりゃそうだろうよ。一切交流していないし、おれは覚えちゃいなかったんだからな。

 

「ぶっちゃけ言えば、こっちの母親は初めて天竜人から解放した元奴隷で、こっちの子は・・・言わずともわかるだろ?」

 

「なるほど・・・・・でも、だからって君が母娘を助ける義理はないじゃないかい?」

 

「確かに義理はないな。払う手術費だって莫大で馬鹿にできないし、母親に借金返済を求めても一生でも払えきれないさ。―――だからって自分が出来ることを誰かにしてやらないのは個人的に嫌だ。これはおれの身勝手な正義だよボルサリーノさん」

 

帽子を取って頭を掻くボルサリーノさんは、ベガパンクに話しかけた。

 

「こっそり“海賊”と交渉はマズイよベガパンク」

 

「誰が海賊だァー!!! もう俺は海賊じゃないぞ!!!」

 

怒るおれを他所にベガパンクは呆れ口調で言いながら息を吐いた。

 

「私はこいつのこと海賊とは一切知らなかったんじゃ。だから知る前は手術をする事を約束した。莫大な費用も用意するともな」

 

「しかも、彼女は確か革命軍の軍団長の・・・・・あァ~なるほど、ソルベ王国の悪の支配者と『革命軍』のくまと繋がっているなこりゃ~」

 

あっさりと身元がバレてしまった!!?

 

「だったら尚更、交渉しちゃいけないよベガパンク。“軍の科学者”が犯罪者の家族を助けるのは。今すぐその二人の身柄を拘束しなきゃいけない状況だよ今。さもないとベガパンク、君も犯罪者を加担する者として捕まえなくちゃならないよ」

 

間違ってはいないがボルサリーノさんよ。今の状況判っているのか?

 

「能力を封じられてるのにどうやってだ? 寧ろ、今拘束されているのはボルサリーノさんの方だぞ」

 

「・・・・・」

 

ジャラと鎖の金属音が寂し気に鳴った。

 

「何度もおれに負かされて、総大将相手に勝ったおれにボルサリーノさんが勝てる道理あるのかな? 引き連れた海兵もおれの敵じゃないし」

 

闘気で具現化した剣をベガパンクに突き付けた。

 

「政府と海軍にとって天才科学者を失うのはかなりの損失だともおれは認識している。違わないか?」

 

「・・・・・そうだねェ~」

 

「インペルダウンにいる偽物のおれも大爆発して囚人を閉じ込める機能が無くなってしまえば、大変なのも政府と海軍だ。違うか?」

 

「・・・そうだねェ~」

 

「んでもって、能力を封じられたボルサリーノさんを今なら深海一万メートルにまで沈めることもできる。違うか?」

 

「そうだねェ~」

 

詰んだ、そう考えに至ったのか降参の意を示す両手を上げたボルサリーノさん。

 

「わっしは何をすればいい」

 

「全ての黙認と黙秘。それと政府にはおれがベガパンクを無理矢理従わせようとしたことと、それを阻止したこと、またベガパンクを狙いに来る理由でしばらくベガパンクの護衛につくと言え」

 

「おやァ? バラしてもいいんだね君のことを?」

 

「何すっ呆けてんだよ。報告する気でしょボルサリーノさん」

 

「当然だよ~」

 

「だからだよまったく。ああ、それとこの二人が完治するまでボルサリーノさんもここで過ごしてもらうから」

 

決定事項、異論は言わせない姿勢のおれに逆らえない状況のボルサリーノさんは、指示通りに動いた。政府と連絡している時もおれの言ったとおりに言ってくれた。

 

「―――ってことで、ボルサリーノさんをしばらく大人しくしてもらった」

 

「・・・・・(呆然)」

 

研究所に集まってもらってボルサリーノさんの件を皆にも伝えることも忘れないおれの話に、開いた口が塞がらないくま。そして何故か何人か呆れているおれの仲間達。

 

「とうとう大将までか」

 

「今更ではありませんか。天竜人を笑って暴虐する方ですよ」

 

「「「ああ、確かに」」」

 

鎖は外しているが、手錠は着けたままなボルサリーノさんを隣に置いてそう説明したところ、反応がイマイチだった。

 

「おォ~こいつ等が天龍のお仲間達か、初めて見るねェ~・・・・・」

 

「愉快な仲間達だよ」

 

「そうかい。それに“鷹の目”もいるとはねェ・・・・・ボア・ハンコックと違って現“七武海”のお前さんがどうして天龍といるんだァ?」

 

ボルサリーノさんが黒い刀剣を背中に差す男に問い詰めた。“鷹の目”ジュラキュール・ミホークは淡々と答えた。

 

「食客の身だ。今の俺はそれ以上でも以下でもない」

 

「つまり、“七武海”の称号と地位を剥奪されても構わない。そういうことかァ~?」

 

ほらみろ。大将がそう言うんだからその未来の可能性が出たじゃないか。

 

「ボルサリーノさん、それだよ」

 

「んんん?」

 

「ベガパンクが現在の“七武海”よりも意のままに動かせる強い兵器を作り政府と海軍がそれを手に入るなら、ミホーク達はいらなくなるだろ。正義の味方が海賊を雇うなんて『海軍』として面目が立たないからな」

 

おれの推測の話を聞き沈黙するボルサリーノさんに向かってまだ言い続ける。

 

「さっきベガパンクと少しばかり話したが、血の提供があればクローンが作れると聞いたんだ。ということは、他の“七武海”の強いクローン兵だって作れるだろうよ。はは、ミホークと同じ姿をしたクローン兵か。単純な強さだけなら遜色はないと思うぞミホーク」

 

「そうか。だから“七武海”加盟時に血の提供を求められていたのか。このおれのクローンを作るために」

 

ベガパンクへ鋭い眼差しを向けるミホーク。てか、そうなのか? ということはハンコックも自分の血を提供しちゃった?

 

「だからおれはミホークに“七武海”撤廃後の身の振り方を問うたんだ。そして今現在、ただおれ達の船に乗り有事の際は手助けすることで衣食住を提供する、そう言う約束を交わしているんだ。ま、俺の予想が現実に帯びたな」

 

何時現実になるか分からないが、確実に厄介な人類を作り出すぞベガパンクこいつは。

 

「ねぇ、イッセー。結局はこれからどうするの? 大将を放置はできないよね?」

 

「できないな。どうせ今頃海軍は―――」

 

 

 

 

 

「―――なんだと、インペルダウンにいる天龍は偽物だと!?」

 

「本物は、相も変わらず海の上おったってことかい・・・・・!!」

 

「はっ!! 今はベガパンクを狙っている様子で黄猿さんが単身で護衛に努めておられます!!」

 

「いや黄猿だけでは無理じゃ。今頃捕まってベガパンクの身柄も確保しておるわぃ」

 

「ああ、大将を全員相手に勝つ男だ。動かせる船を全て出せ、天龍を探し出しベガパンクを救助する!!」

 

 

 

 

「―――って、躍起になってボルサリーノさんよりもベガパンクを助けに精を出す海軍が、冬島に集まるだろうからな。だからしばらくベガパンクはジニーとボニーの治療の為に専念している間におれ達はこの島から離れて次の島に行くぞ」

 

「え、まさか・・・・・黄猿を連れて?」

 

「うん」

 

「「おい!!」」

 

ガンヴァとヴェージがおれの精神が信じられないと怒鳴って来た。

 

「まぁまぁ、今のボルサリーノさんは能力が封じられた生身の人間だ。海楼石の手錠の鍵はベガパンクに渡してあるから、どうしたっておれ達には敵わんよ。その上、海軍大将だ。交渉材料にも使えるから手元に置いても損はしない」

 

「生身でもつェーのはいるぞ」

 

「承知の上だ。ということでもう少しくまとベガパンクに話すこと話したら出航するから準備してくれ」

 

分身体にボルサリーノさんに見張りを付けて、皆と船に向かってもらった間にくまと話し合う。

 

「くま、あの二人と過ごしたいなら方法はあるぞ」

 

「何だいそれは」

 

「この数珠を付けて別人に変身する事だ」

 

「別人に・・・・・?」

 

数珠を手に取るくまに頷く。

 

「それは別人に変身する魔法を込めてある。外せば元の姿になるから身体に変化はない。だから新聞の記事で知られたくまの姿が別人の姿なら誰にも気づかれることはほぼ無いようになる。試してみろ」

 

わかったと頷くくまが大きな手首に俺が作った数珠を通すと・・・筋骨隆々でスキンヘッドの大男に変わった姿を鏡で確認すれば驚愕の色を浮かべた。ベガパンクも超ビックリ。

 

「こ、これが私なのか・・・!!?」

 

「そうだ。それが別人に変身した姿だ。絶対にわからないだろ」

 

「あ、ああ・・・・・凄いなこの魔法の道具」

 

「本当にお前さんは何者なんじゃ。魔法の道具とやらは一体なんじゃ。すぐに解明してみたい!!」

 

出来る物ならやって見ろ、と挑発的にベガパンクへ言った。

 

「そう言えばさ、『革命軍』のトップってドラゴンだよな? フルネームとかある?」

 

「確か・・・モンキー・D・ドラゴンだ」

 

「モンキー・D? ・・・あれ、もしかしてルフィの父親か?」

 

当の本人も父親が誰なのか知らないと言い切るほどだったから詳細は不明だったけれど。そうか、革命軍のトップが・・・・・。

 

「え、あの子が!?」

 

「なんと、ドラゴンに子供がおったのか!!」

 

こっちはこっちでどっちも驚いているし、革命軍のトップと知り合いだったベガパンクにまた意外だった。

 

「うんそう。今はゴムゴムの実を食べたゴム人間だ」

 

「ゴムゴムの実? そのような名前の悪魔の実はないぞ」

 

「え、ない? 実際にゴム人間になってるぞ」

 

「いや、それは間違ってはおらん。私が言いたいのはゴムゴムの実という名の悪魔の実がない、という点じゃ。悪魔の実の図鑑にも載っておらんからな。あれには本来の別の名が付けられておる。それは―――」



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