【疾走詩人】ゴブリンスレイヤーRTA 精霊使いチャート (神楽風月)
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ある冒険者たちの挑戦(ザ・ガントレット)

 RTA作品は初めてなので初投稿です。
 このためにゴブリンスレイヤーTRPGを読み込み小説を見直しアニメをマラソンしました。

 ※本作品はゴブリンスレイヤーTRPGweb公開シナリオ「ある冒険者たちの挑戦(ザ・ガントレット)」のネタバレを含みます。


 はい、よーいスタート。

 偶然(チャンス)宿命(フェイト)を因果点でねじ伏せるRTA実況、はぁじまぁるよー!

 

 ニューゲーム選択と同時にタイマースタート。

 本RTAはラスト・ダンサー兄貴のレギュレーションを使用し、トロフィー【小鬼殺し3号】を取得と同時にタイマーストップです。

 縛りらしい縛りはありませんが、今回は精霊使いをメインにして走ります。パッチが当たりいろいろと変化があった本作ですが……いきなり≪幻想(GM)≫による世界観の説明ムービーが入りました。飛ばします(無慈悲)

 

 磨かれた冒険者ギルドの受付に一枚の冒険記録用紙(アドベンチャーシート)が置かれるとキャラクリ開始です。種族は「森人(エルフ)」を選択します。先ほども言いましたが今回は精霊使いで走るので触媒なしに精霊術が使えるようになる【精霊の愛し子】を取得するためです。

 

 続いて性別ですが「女」を選択しました。

 兄貴も言っていましたが四方世界では女だとゴブリンのせいで非常に大きなデメリットを背負うことになりますがRTAにおいてはそんな状況になった時点で再走確定なので気にしなくてもOKです。それに女神官ちゃんに声をかけたとき彼女が警戒しないというメリットがあるので意味はあります。

 

 身体的特徴の項目にカーソルを動かすと、冒険者登録用紙を記入している自キャラにカメラが移動します。森人なのでこのまま(デフォルト)でも十分ふつくしいのですが私はエンジョイ勢なので前もってメモっておいた設定を手入力していきます。どうせ千数時間かかるし一時間ぐらい誤差だよ誤差!

 はい、綺麗なおねえさん森人の完成です。CVも僕っ娘キャラでいやー捗るわぁ。

 小ネタですが、このとき入口でもじもじしている女神官ちゃんが確認できます。可愛い。

 

 カメラが冒険記録用紙に戻りました。ここから細い指先が羽ペンを持っているのを確認できるあたり芸が細かいですね。手フェチになりそう。次は第一能力と第二能力ですが、私は固定値信者なので固定値を使用します。

 

 経歴ですが精霊術を3レベルにしたいので出自は「詩人」を選びます。【芸能:即興詩(初歩)】が生えましたが成長させるつもりはありません。来歴は【幸運(初歩)】のために「平穏」を取ります。最後に邂逅ですが「婚約者」ですね。邂逅にデータ的な意味はありません、ただ「俺の嫁」と言いたかっただけです。

 まぁゲーム中許嫁とか出て来たらNTR気分を味わうんですがね!(吐血)

 

 第一能力へのボーナスですが呪文使いなので迷わず魂魄点に振ります。

 魂魄点は【交渉:誘惑】に用いるステータスなので絶世の美少女になりました。心なしかキャラがキラキラ輝いている様に見えるでしょうが実際に輝いてます。単なる演出なので光源にはなりません。

 

 状態の決定に進みました。ここでは生命力と移動力と呪文使用回数を決定するんですが、私は固定値信者なので固定値を使用します。固定値だとどうあがいても呪文使用回数が2回以上にはならないので優先度は「移動力>呪文>生命力」という形になりました。

 恵まれた移動力36に対しての、生命力11というクソみたいに貧層なおねえさんが完成しましたね。森人はみんな金床になる運命なのだろうか……。

 

 さぁ職業の選択です。出自ボーナスで【精霊使い:1】になったので3まで上昇させました。残りの経験点は温存です。

 

 続いて技能と呪文ですが、技能は呪文使用回数が増える【魔法の才(初歩)】と、複数回遠隔攻撃が可能になる【速射(初歩)】を覚えます。

 呪文は足止め用の【泥罠(スネア)】、無力化するための【酩酊(ドランク)】、悪用の利く【使役(コントロールスピリット)】を習得します。四方世界では一日に使用できる呪文の使用回数が少ないため、技能やアイテムでは代用できないものを覚えましょう。

 

 そして装備品ですが、パッチ導入によって最初から所持している扱いになりました。このおかげで装備を購入するため冒険者登録する前に工房に走る必要がなくなり、時短になりました。

 そしてここでオススメセットを選択することで時短を狙うことも可能ですが、ここに並んでいるオススメセットはあまりオススメできないセットですので私なりのオススメセットを購入します。

 まず武器は投石杖(スタッフスリング)を購入します。実は短弓(ショートボウ)は罠です。投石杖は両手が塞がりますが速射に対応している上に最初から命中+2の補正が付きます。それと呪文使いには杖を持ってほしい願望もあります(重要)

 ここに石弾(ストーンブリット)と石弾袋をセットで購入しましょう。合わせて命中+3なのでゴブリンぐらいなら技能無しでも8割くらいで当たります。また、弾が切れたら【幸運】判定で戦闘中でも入手できるので、敵の数が多くなる本RTAでは大変有効です。

 続いて防具は旅人の外套(シャープ)を購入します。これに特別な効果があるわけではありませんが、デザインが気に入っているので購入しました。

 あとは精霊使いの鞄を購入します。【精霊の愛し子】があるので必要ないんですが、愛し子が習熟レベルになると触媒を使用したさいに達成値が上昇します。精霊使いの鞄は触媒が無限に湧いてくるすごいヤバい装備なので初期投資として購入しましょう。

 そしてこのゲームで一番やっかいな消耗を押さえる強壮の水薬(スタミナポーション)を一本購入しフィニッシュです。

 

 次は冒険者になった経緯や動機ですね。ランダム決定を押して――……はい、運命の恋人と出会うために旅立ったようですね。やったぜ許嫁なんておらんかったんや!

 ここで啓示が出たらそれはそれでラスト兄貴のバケツ戦士っぽくて面白かったんですが……まぁいいでしょう。許嫁がいるよりはマシです。

 

「それではこのように登録しますが、よろしいですか?」

 

 受付嬢さんの可愛い声で問いかけられるので「はい」を選択しましょう。最後に確認のサインを求められます。ここでようやく名前の入力になりました。

 ここは先人兄貴たちに倣って【疾走詩人】とします。女の子なのでホモじゃないです。腐れているかまでは分かりませんが。

 

 ここまで入力が終わるとカメラが引いて三人称視点になります。

 受付嬢さんが冒険者ギルドのお決まりの定型文(チュートリアル)を話し、白磁の認識票を渡したところでようやくキャラ操作が解禁になりました。すぐに依頼を受けるか確認されますがここは「いいえ」を選択し、女神官ちゃんが冒険者登録するのを待合スペースで待ちましょう。その間に本RTAの概要についてお話します。

 

 本RTAは“なんか変なの”ことゴブリンスレイヤーの一党(パーティ)に加わるメインストーリーのうち、アニメルートで走りたいと思います。これは呪文使い系チャートだと最後の防衛線で出現する小鬼英雄(ゴブリンチャンピョン)の討伐はともかくとして、手数の不足からゴブリン自体の討伐数が不足する恐れがあるからです。

 アニメルートだと地下水路で驚くほどゴブリンが出現するため、ここで一気に討伐数を稼ぐという算段になります。

 

 そしてこの解説をしている間にモブ冒険者たちが峠のマンティコアや都のデーモンの噂を話しているのが聞こえてきました。原作者兄貴も言っていましたがアニメ版ルートに突入するには「勇者ちゃんの魔神王討伐速度」が重要とのこと。

 これは冒険者たちがどれだけ大局を動かすような大きな冒険に身を投じたかに関わってくるそうで、待合スペースでの放置によってフラグが立ちます。当然RTAとしては原作ルートのほうが安定して早いです。

 

 女神官ちゃんが冒険者登録を終えたようです。新人剣士くんに話しかけられる前に声をかけましょう。このとき女キャラだと安定して女神官ちゃんに警戒されず近づけます。剣士くんの後に話しかけると会話が長くなり若干のロスです。

 森人なので確実に女神官ちゃんより年上のはずなので、お姉さんらしい余裕をもった選択肢を選びましょう。決して「ハァイ、ジョージィ?(ねっとり)」とかいうネタ選択肢を選んではいけません(戒め)

 

 適当に会話していると横から剣士くんが声をかけてきます。はい、みなさんおなじみの原作第1話のゴブリン退治クエストですね。受けることで小鬼殺し√に入ることができますので、もちろん参加しましょう。

 参加すると画面右上に現在のクエストが表示されます。「ある冒険者たちの挑戦(ザ・ガントレット)」というクエスト名は、第1話のオマージュですね。

 そしてこのクエストの最初の判定である【怪物知識】判定が入ります。呪文使い系なら職業レベルを加算でき、かつギルドの怪物事典を閲覧することができるためさらにボーナスが入ります。ここまでお膳立てされると、詩人さんならで余裕で成功ですね。ちなみに成功するとクエスト中彼らの行動AIが変わります(生存フラグが立ちます)

 なお、このクエストではアイテムを購入するなどといった準備時間というものが存在しません。まぁ、初期作成の冒険者になにかしら準備ができるような金が残っているはずもなく……そんな世知辛い話はさておいて。

 それではゴブリン退治に! イクゾー!(デッデデデデデ)

 

 親の顔より見た呪術師(シャーマン)のトーテムが飾られている洞窟近くに到着しました。ここで長い距離を徒歩で移動したことによる【長距離移動】チェックが入ります。

 失敗すると消耗し、消耗ランクが上がると判定が不利になっていきます。体力持久の低い森人なのでここはさすがに失敗前提ですが、消耗度で最大値を引いても気にしなくていいです。ここで強壮の水薬服用し(オクスリをキメ)て疲労をポンと取ります。これ以降3時間の間消耗度がワンランク低い扱いになりました。

 ちなみに鎮痛剤だともっと効果が高いです。オクスリをキメて走るシャブリンスレイヤーRTA、誰か走って?

 

 続けて【観察】か【第六感】判定が入ります。ゴブスレさんも言っていましたが昼間はゴブリンたちにとって夜中、警戒が一番強くなる時間帯なので見張りがいるんですね。ここで見張りを発見できないと生存フラグがへし折れます。

 観察は斥候or野伏が得意な判定ですが、第六感は精霊使いも得意な判定ですのでまぁまず失敗しません。失敗したら因果点で成功させます(ぶん殴ります)

 

 因果点とは努力と友情と根性で無理やり成功させるもの、と思ってくれて構いません。判定は「2d6+【幸運】≧現在の因果点」だった場合に成功し、判定の結果を一段階良くしたり賽子を振り直したりすることができます。

 これを祈念と呼びますが、無限に使えるわけではありません。成否に関わらず因果点がどんどん上昇していくため、いずれ失敗するようになります。ただし因果点が溜まること自体にデメリットはありません。むしろ一定の因果点を溜めるとクエスト終了時に追加で経験点がもらえるのでうまあじです。率先して使ってみましょう。

 

 というわけで幸運にもゴブリンの見張りを発見しました。

 先ほどギルドでゴブリンの怪物知識判定に成功していますので生存フラグがさらに強化されます。具体的には原作で犯した後衛を残して先行するとかいう愚を行わなくなりました。

 そして発見されたゴブリンですが、ここでは戦闘しません。そもそも一匹だけなので戦闘が始まっても高確率で士気(モラル)チェックに失敗して逃亡します。

 追いかけて倒すなら別ですが、今回は奇襲を発生させる予定なので攻撃しません。それでは松明をつけて慎重に洞窟へ入りましょう。

 

 洞窟内はかなり狭いので圃人(レーア)以外は消耗判定が入り、加えて圃人以外が両手で武器を振り回すと命中にペナルティを受ける狭さであることがわかります。ここでまた消耗判定が入りますが強壮の水薬をキメているので気にしなくても大丈夫です。キメてないとここで消耗ランクが上がり立ち回りがかなり不利になります。

 初見時ここですべての判定にペナルティを受けゴブリンにリョナられた兄貴たちも多いのではないでしょうか? この消耗ペナルティと命中ペナルティは初期作成キャラだとかなりきつく、特に長剣(ロングソード)を持った剣士くんは剣をぶんぶん振り回すだけの扇風機になりかねません。

 ちなみに消耗ランク1の場合の、剣士くんが片手持ちの場合のペナルティは-5、両手持ちの場合は狭いことも含めると-4ですのでアニメの剣士くんは一応データを確認した上で命中しやすいほうを選んだみたいですね。

 

 原作でおなじみのトーテムが見えてきました。原作では壁を掘り抜いたと言っていましたがアニメではこっそり横穴らしきものが確認できます。そしてゲームでは判定に失敗すると気付くことすらできません。

 というわけで奇襲に抵抗するための【第六感】判定に成功しましょう。失敗しても因果点でぶん殴るのでへーきへーき。そのための右手、そのための【幸運】です。

 

 後ろからの奇襲に気付くことができました。横穴から14体のゴブリンが出てきます。原作よりも多くてヤバいです。戦場は狭いため圃人でなければ二人並んで戦うのが限度です。もちろんゴブリンは何匹並んでも大丈夫です。いやらしいですね?

 不意打ちを防いだので隊列を並べ変える余裕ができました。ぶっちゃけ剣士くんが前に出たところで扇風機になるだけですけど、何気に彼は【挑発(初歩)】を持っています。前線を支える肉壁にとても便利です。

 

 そして戦闘のポイントですが、継戦カウンターをなるべく溜めないよう手早く終わらせることです。アニメのように武闘家ちゃんが前に出られないなんてことはなくなっているので、彼女には撃破役を頼みましょう。

 

 ここで火力があるからと魔術師ちゃんに呪文を使わせてはいけません。彼女は呪文を2回しか使えないのに他の攻撃手段を持っていないからです。学院で優秀な成績を修めたというだけに【魔法の才(初歩)】を所持しているんですが、そんなことを言ったら女神官ちゃんなんて才能もなしに3回も奇跡を使える才能の塊(チートオブチート)なんだよなぁ……。

 

 そんなわけで魔術師ちゃんには年上のお姉さんとして呪文使いとしてのお手本を見せてあげましょう。まずは誰よりも先手を取り(4敗)適度な達成値で(21敗)【泥罠(スネア)】を張ります。【酩酊(ドランク)】でまとめて無力化も試しましたが、この後増援として出てくるホブゴブリンの処理に困ります。

 まぁ【泥罠】のデメリットとして味方にも影響があるため、うっかり大成功(クリティカル)を出したり(1敗)仲間が転倒したら(10敗)当然リセです。

 正直ここが一番苦労しました。なんでこいつら投石紐(スリング)どころか手頃な石のひとつも持ってないんだ……。

 

 はい、ゴブリンが漏れなく転倒したので弓持ちを優先して駆除しましょう。

 転倒ペナルティは-4で、起き上がったラウンドの終了時まで継続するため最速で動けば2ラウンドの間強力なデバフを与えられることになります。しかもこれ呪文維持なしの上に5m移動毎に抵抗判定が必要なので、効果範囲的に起きたあと移動すればまた転倒するという、実質4ラウンドという凶悪呪文です。転倒or移動不可の二択を迫るため、きっとGMも頭を悩ませるでしょう。

 もちろん詩人さんにも2ラウンド目から攻撃に参加してもらいます。そのための投石杖ですからね。女魔術師? ああ適当に手頃な石を拾わせましょう。戦闘中なら「1d6-1」個手に入るので。まぁ石弾袋ないので1ラウンドごとに袋から取り出すとかいうかったるいことやらなきゃならないので誤差です。

 剣士くんと武闘家ちゃんと詩人さんでボコボコにするとラウンド最後の行動順でホブゴブリンが登場します。まぁ、当然のように転びますが。

 では転倒したホブゴブリンに魔術師ちゃんの【火矢(ファイアボルト)】を当てましょう。アニメで割と狂った笑みを浮かべていた彼女です、「5d6+3」点という高火力をぶつけてくれます。さすがの火力だ、馬力が違いますよ。

 まぁ呪文のダメージも装甲で耐えられるので一撃で倒すに期待値では全然足りません。今回は若干ダメージが低かったため当たればダメージの大きい剣士くんにボコってもらいました。

 なおホブゴブリンは統率を持っているため、ゴブリンを自分と同じタイミングで行動させることが可能です。少しでもゴブリンが残っていると支援効果で威力と装甲を上昇させてくるので手番を渡してはいけません。

 

 ホブゴブリンを片付けるとムービーが挿入されます。そう、我らがゴブリンスレイヤーさんのご登場ですよ。まるでボス登場シーンですけどこれでも原作の主人公キャラなんですよねコイツ……。

 ゴブスレさんはこのラウンドの最後の行動順で行動してくれますがこのチャートではちょうど一匹しか残らないよう調整してあります。剣を投げてあっさりと処理し戦闘終了です。二匹以上残ってしまったらリセです。

 

 戦闘が終了するとゴブスレさんとの合流イベントが発生します。呪文の残り回数とかそう言うのを確認してくるので人数が増えれば増えるほどロスが増えます。が、呪文使い系チャートだと一発の火力はともかく手数が圧倒的に足りないので仕方ありません。今回は全員生存してもらって詩人さんの足りないぶんを補ってもらいましょう。

 

 ではゴブリンスレイヤーさんからみんな仲良く臭い消しの洗礼を受けたら、残るゴブリンを駆除するため奇襲に使われた横穴へ進んでいきましょう。ゴブスレさんがいればあとは作業みたいなものです。原作と同じように神官ちゃんに【聖光(ホーリーライト)】が指示されました。

 横穴を下っていき【聖光】で目くらまししたらゴブスレさんが短槍(ショートスピア)でシャーマンの胸をぶち抜いたことを確認したらすぐに引きましょう。

 全員追いかけてくるのを確認したら【泥罠】を敷いて漏れなく転倒させましょう。今回は因果点があり余っているのでただの成功を大成功にランクアップさせました。大成功も大失敗もないゴブリンたちは漏れなく全員転倒するので、ゴブスレさんが燃える水(ペトロレウム)で全員消毒してくれます。

 最後に広間に降りてシャーマンへゴブスレさんがとどめを刺して、玉座の後ろの倉庫に隠れていた子供を処理したらクエスト終了です。

 

 本日はここまで、御視聴ありがとうございました。




 剣士くん、武闘家ちゃん、魔術師ちゃんのデータはサンプルキャラクターを想定しています。


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ある冒険者たちの挑戦(ザ・ガントレット)【裏】

 それは多くの若人が冒険者となることを決意する、初春の朝のことだ。

 この辺境の街でも例外ではない。乗合馬車か、徒歩か、そこまでは分からない。しかし故郷を後にした多くの若人がギルドへの登録を行いに並ぶ。通常の業務と並行してこなそうものなら、いくつかの春を経験しもはやベテランの域となった三つ編みの受付嬢でさえ疲労の色を隠せない。

「ようこそ冒険者ギルドへ! 本日はどのようなご用件ですか?」

 それでも笑顔を絶やさないのはベテラン故だろう。古びたバケツヘルムの戦士に多少は顔を引きつらせはしたが。

「冒険者登録をしたいのだけど」

 銀の髪に紅紫色の瞳を持つ、痩身小柄な森人(エルフ)の少女が、自信に溢れた笑顔を浮かべている。手に持つのは月を模した頭を持ち天鵞絨のような飾り布のついた杖……一見して魔術師かとも思ったが、きっとそれは投石杖(スタッフスリング)だろう。験を担いだ真っ白な旅人の外套(シャープ)の下に吊るされた精霊使いの鞄、そのとなりに、石弾(ストーンブリット)の袋がぶら下がっていた。

 新人冒険者希望にしては、ずいぶん珍しいものを持ち歩いている。呪文に自信があるのなら真言呪文の発動体となる杖を握るか、そもそも武器を持つことが少ないのだから。

「はい、文字は書けますか?」

「時間ばかりはあったからね。これでも詩を嗜んでるくらいさ」

「では、こちらに記入をお願いします」

 羽ペンを持つ姿すらさまになる。細い指がしなやかに動いて、冒険記録用紙の空白を埋めていく。

「年齢は400歳、職業は精霊使いですね」

「うん。でも、あんまり年齢の話はよしてほしいかな? あんまり若すぎるせいで、舐められてしまうかもしれないし」

「あはは……」

 定命(モータル)の身としてはなかなか頷きづらい言葉だ。

「では、これがギルドでの身分証になります。なくさないでくださいね?」

「うん」

「依頼はあちらに張り出されていますので、等級に見合ったものを選ぶのが基本ですが……個人的には下水道や溝浚いで慣れていくことをおすすめしますね」

「ふぅん」

「いかがでしょう?」

「考えておくよ」

「わかりました。それでは今後の活躍をお祈りしています」

「うん、ありがとう」

 長く年を重ねた余裕のようなものを見せて、その森人は待合スペースに腰を落ち着ける。そのまま物珍しそうに、面白そうに周囲を見回す。今日初めて森を出てきたのかもしれない。ありふれた辺境の街なのに、まるで都に出てきたおのぼりさんのよう。

 春は多くの若人が冒険者になることを期待する季節だ。彼女の見せた初々しい姿に心をいやされながら、さぁ次の仕事をこなそうと気合いを入れ直す。

「はい、ようこそ冒険者ギルドへ! 本日はどのようなご用件ですか?」

 

 

「――依頼はあちらに張り出されていますので、等級に見合ったものを選ぶのが基本ですが……」

 聖印を兼ねた手の錫杖に、着替えを含めたいくばくかの荷物。見るからに新米でございといった神官の登録を終え、定型文を並べていたところだ。

「やぁ、ちょっといいかな?」

 さきほど冒険者登録を終えた森人が、その神官に声をかける。黙って話を聞いてみれば、どうやら一党(パーティ)を組むつもりのようで声をかけたようだった。なるほど一人で冒険に挑むよりは死ぬ確率が低くなる。初めての冒険で命を落とすなど、よくある話だ。

「――そういうわけでさ、せっかく冒険者になったんだし、下水道掃除なんかではなく、冒険に行きたいと僕は思ってね」

 新米冒険者がそう思うことも、よくある話だ。

「ひとりじゃ不安だろう? だからといって、僕から男の人に声をかけるのもなにか、はしたないように思えてさ」

 そんなときに君がちょうど登録を終えていたんだと、その森人は言う。

「っと、名乗ってなかったね。僕の名前は詩人、疾走詩人……気軽に詩人さんと呼んでほしい」

 白く細い手を指し伸ばし、握手を求める。

「これからよろしく」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 どこかお姉さんのようなその森人のことを、悪い人ではないだろう、と感じた。それどころか、なにか頼りがいのあるように見える。同じ新人だというのに、こんなに違いがあるのだなと思った。

 気付けば女神官は、詩人を名乗る少女の手を握り返していた。

 

 

「なあ、俺たちと一緒に冒険に来てくれないか!」

「ふえっ」

 不意に声をかけてきたのは、傷一つない胸甲(ブレストアーマー)と鉢巻を締め、腰に長剣(ロングソード)を吊るした若者だ。彼の首にも、ふたりと同じ白磁の小板がぶら下がっている。

「おやおや、これが噂に聞く只人(ヒューム)のナンパかい?」

「そんなつもりじゃないよ!」

「冗談さ」

「そっちの君、神官だろ? こっちは魔術師……かな?」

「あ、えと、はい。そう、ですけど」

「見てわからないかな? どこにでもいる精霊使いさ」

「ああ、ごめんごめん。でもちょうど良かった。俺の一党、聖職者がいなくって……」

 見ればその剣士の向こうには、髪を束ねて道着(クロースアーマー)を纏った勝気そうな娘と、紅玉の杖(ガーネットスタッフ)を手に冷たい視線を向ける眼鏡の娘。

「なるほど。剣士くんに、武闘家ちゃんと、魔術師ちゃんか……ちょっと悪いんじゃないかな? バランスが」

「そんなこと言わなくたっていいだろ? とにかく急ぎの依頼で、せめてもう一人欲しかったんだ。そっちも一党を組んだみたいだから、二人も増えるだなんて幸運だなって思ってさ。頼めないかな?」

「急ぎ、と言いますと……?」

「ゴブリン退治さ!」

 聞けばちょうど良いことに、先輩冒険者たちが持っていかなかった依頼が一枚、掲示板に残っていたという。近くに住んでいることは知って居たが、追い払えもするからと放置していたという。

 しかし最近になって凶暴化し、ついには村を襲って種もみを盗まれ、羊を盗まれ、その羊飼いの娘を攫われ……ことここに至れば手段など選んでいられない、と。

「ん、いいんじゃないかな?」

 初めての冒険が、ゴブリン退治。よくある話だ。

「僕は引き受けてもいいと思う。君は、どうだい?」

「私は――いえ、私も、いいと思います」

「本当かい! やったな皆! これでもう冒険に出られるぞ!」

「はは、只人(ヒューム)の男の子はずいぶん元気だ」

 腕を上げて喜ぶその姿を見て、楽しそうにけらけら笑う。

「せっかくだからゴブリンがどんな生き物か見ていきたいんだ。図鑑をね、ちょっとだけ」

「ゴブリンなんて、わざわざ調べていくほどのものじゃないでしょ?」

「いいだろ? 本物を見る前に、図鑑にはどう書いてあるのか、って知りたいんだ」

 

 

 細い首を大きく反らして、強壮の水薬(スタミナポーション)を一気に飲み干す。

「ふぅ……体力のない僕にはちょっと辛かったな」

「おいおい、大丈夫か?」

「只人と比べないでくれたまえよ。君らは長い距離を歩くのに慣れているかもしれないけれど。僕ら森人は苦手なんだよ、そういうのは」

 ここまでの道のりでどこかお姉さんぶった態度を取っていた彼女だが、唇を尖らせるさまはまるで子供のようだ。

「まぁたしかに、ちょっと細すぎるよなぁ」

「樽よりはマシだろう? 鉱人(ドワーフ)みたいな……」

 がさがさと藪をかき分け林の中を進んでいくと、洞窟が見えた。

「あっ、ゴブリン!!」

「GORURU!?」

 剣士が声を上げるのと、ゴブリンがこちらを見て驚くのとは同時だった。そいつは慌てて背中を見せると、洞窟の中へと逃げていった。

「ここで間違いないみたいね……」

「そうだね」

「気をつけて進もう」

「うん」

「……どうかしたの?」

「ん」

 考え込むようなしぐさと生返事を返す詩人に、魔術師は問いかける。

「ゴブリンが、見張りなんて立てるっけ? って思ってさ」

「そういえば……」

 ギルドで確認した怪物図鑑には、そんな話は書いてなかった。

「……女を攫い、巣の中で繁殖する」

 ぽつりと詩人が漏らした言葉に、一党の空気が一気に下がった。

「図鑑にはそう書いてあった。逆に見張りを立てるだなんて、一言も書いてない……」

「……気をつけて進もう。みんなは俺の後ろに」

「ああ。頼りにしてるよ、少年」

 

 

 ひょう、と生温かい風が吹き抜ける。狭い通路の天井からは木の根がぶら下がり、入口はもう見えなくなっていた。松明の頼りない明かりだけでは、なにか大切なものを見落とすかもしれないように思えてしまう。

「まただ……」

「入口にもあったわよねぇ」

 不気味なトーテムを見て、不安そうに剣士と魔術師が不思議そうに言葉を交わす。

「なんだろうね、これ……図鑑には乗っていなかった」

「案外、ゴブリンだけじゃないんじゃないの?」

「はは、魔神(デーモン)でもいるのかな? そんなの倒せたら、俺ら魔神殺し(デーモンスレイヤー)って呼ばれるんじゃないか……」

「……あんたなんてまだまだ未熟でしょ」

「俺たちなら、赤竜(レッドドラゴン)だって余裕だぜ? きっと……」

 叩き合った軽口も、今はどこか空虚に感じる。

 ――どこかで、ベーコンを炙り焼き(フライ)するような音が微かに聞こえた。

「今、何か聞こえませんでしたか?」

「うん……聞こえた」

「後ろだっ!」

 いち早く気付いたのは暗視を持つ詩人だった。その声で弾かれるようにして剣士が松明を思い切り投げると、頼りない松明の明かりに、ゴブリンの群れが照らし出される。

「くっそ不意打ちかよ!」

「だが防げた。ならこちらのものさ」

 詩人は杖を構えなおす。

「≪土精(ノーム)水精(ウンディーネ)、素敵な褥をこさえてくんろ≫!」

 朗々と歌い上げた呪文は精霊術の【泥罠(スネア)】だ。

「ここで【泥罠】? 【火矢(ファイアボルト)】じゃないの!?」

「当然だろ。それじゃ一匹しか倒せないじゃないか、日に二回しか使えないのに。そもそも僕は【火矢】を覚えてないんだ」

 それにあの大群をよく見ろよ、と杖を指し示す。そこには【泥罠】に足を取られて転がったゴブリンどもがいた。

「てか俺たちも転びそう!」

「がんばれ男の子!」

「私女の子ォ!」

「ごめんね!」

 武闘家の抗議に心の籠ってない謝罪を返す。なぜならそれどころではないからだ。

 詩人は飾りのように吊るされた布に、石弾をひっかける。

これでもくらえ(Take That, You Fiend)! 僕の石弾(ストーンブラスト)!」

「それただの石弾(ストーンブリット)でしょうが!」

 詩人も杖を大きく振るい、弓持ちのゴブリンから優先して片付けていく。なにぶん数ばかり多いが、所詮はゴブリン、転んで動けなくなったやつらを片付けるのはわけない話だ。転ぶのを避けて動かないのならば、そのまま投石の餌食になるだけなのだから。

「――大きいの、来ます!」

 女神官が、ゴブリンとはとうて思えないほどに大きな怪物が、奥からやってきたことを口にする。

「おい、おいおいおい、おいおいおいおいおい!!」

「こんな狭いところにどうやって入ってきたのよアレ!?」

「たぶんここから出たことないんじゃないかな!?」

「無駄にデカい引きこもりね!?」

 巨大なそれが唸り声をあげ、粗末とはいえ痛そうな棍棒を振り上げて走ってくるのだ。原始的な恐怖が新米冒険者たちを支配する。

「よし転んだ! 魔術師ちゃん【火矢】! 今度こそ【火矢】だ!」

「指図しないでよっ! 噛んじゃうでしょ!?」

 自分で言ったんだ、覚えているんだろう? とばかりに詩人が言えば、悪態をつくように魔術師が答える。

(サジタ)……点火(インフラマラエ)……射出(ラディウス)!」

 狙い過たず、その【火矢】はでかぶつの体を貫いた。

()った!」

「やってないよ生きてる生きてる!」

「変なフラグ立てないでよもおー!」

「少年トドメトドメ――!」

「くっそ、やってやろーじゃねぇか!」

 両手で握られた剣士の長剣が、でかぶつの首に振り下ろされる。延髄を斬ってしまえば人型の生き物ならだいたい死ぬだろう、そんな考えから剣士はそうした。そしてそれは確かに正しく、一瞬だけびくりと体を刎ねさせたかと思えば、そのまま動かなくなった。

「まだいるよ、ゴブリンはさ!」

 詩人の杖から石弾が投げ飛ばされる。それは弓を持ったゴブリンの頭蓋を確実に砕く。

「でも弓持ちはアレでおしまいね」

「ああ、これで僕らは一安心」

「俺の心配は!?」

「してるとも」

「私の心配もしてよねっ!」

「してるってば」

 剣士と武闘家が確実にゴブリンを倒していく。

 さぁ、あと一匹――そう思ったところで、そのゴブリンの頭に剣が突き刺さる。

 どこから飛んできた、と。もと来た道を見れば、頼りない松明の明かりに照らされた闖入者がそこに立っていた。

「――……元気なのは構わないが、あまり騒ぐと奴らが集まってくるぞ」

 そいつは、冷たい声音でそう言った。

 

 

 薄汚れた鉄兜と革鎧、鎖帷子を纏った前身は、怪物の血潮で赤黒く染まっている。使い込まれて傷だらけの小盾と、中途半端な長さの剣……新人の自分たちのほうがよっぽどいい装備をしていると思ってしまうような、装備に身を固めている。しかし首にぶら下がった小板は、銀。

「……ッ、あの、あなたは……?」

 女神官が意を決して誰何した。

小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)

 ――竜や吸血鬼ではなく、最弱の怪物である小鬼を殺すもの。

 平素に聞いたら笑ってしまうほど滑稽な名前でも、ゴブリンと初めて戦った彼らにとって、まったく笑えるようなものではなかった。

「ええと……なんで銀の冒険者が、こんなところにいるんだい?」

「ゴブリンを殺しに来た」

「なんで?」

「ゴブリンがいたからだ」

「なるほど」

 話が通じない人なんだね? と詩人は諦める。

「トーテムがあった」

「うん」

「シャーマンがいる」

「そうかい」

「襲ってきたゴブリンはこれで全部か?」

「そうだよ」

「そうか」

「うん」

 詩人は笑顔を張りつけて、女神官のほうへと向き直る。

「僕には無理」

「えっ、ええっ?」

「僕は思うんだ。ああいう手合いも、懺悔しに神殿にくるだろうって。いずれ出会うなら、君の経験にしてほしいと」

「えぇ……?」

 失礼だとは承知の上だが、妙な詭弁を弄するあたりが白粉を塗った闇人(ダークエルフ)みたい、と思ってしまった。

「私もまだ未熟な身なんですけど……」

「そうは言うけど、獅子は我が子を千尋の谷に落っことした、って言うだろう?」

「落っことしちゃだめですよ?」

「難しくてさ、只人の言葉」

「あんた都合悪いと森人の真似するのね」

 魔術師は思わずため息をつく。

「森人なんだけどな、僕」

「闇人かと」

「なんだとーぅ!?」

「静かにしろ、奴らに気付かれる」

 ゴブリンスレイヤーを名乗る男が、いつのまにか後衛組(じゅもんつかいたち)に近づいていた。

「おおう!? びっくりし……た……?」

 詩人は気付いた。

 ゴブリンスレイヤーと名乗る男が、血まみれになったボロ雑巾のようなものを片手にもっていることを。

 詩人は気付いてしまった。

 前衛組(せんしとぶとうか)が、静かになっていることを。

 そして――ゴブリンの返り血を浴びた程度では、そうはならないだろうというくらいに汚れてしまった二人の姿を。

「それ、なぁに?」

 笑顔を張りつけて、問う。

「慣れておけ」

 

 

「ここで【聖光(ホーリーライト)】だ」

「はい……」

 ついさっきまで、頼りないが信頼できると思った仲間たちが、みな光を失った目をしている。頼りになるはずの銀等級は、ゴブリンを殺すためなら仲間を血に塗れさせることも厭わない男だった。

「……奴らはにおいに敏感だ。特に女や子供、森人はな」

「俺、完全にとばっちりじゃん……」

「装備の金臭さを消すためだ」

「……そこまでするかよ」

「そこまでしなければ奴らは殺せん」

 まだ経験の浅い白磁の彼らにも、ゴブリンのためなら容赦のない男であることは理解できた。ゴブリンの巣穴であれば、これ以上頼りになる銀等級もいないだろうが……。

「やれ、【聖光】だ」

「≪いと慈悲深き地母神よ、闇に迷えるわたしどもに、聖なる光をお恵みください≫……!」

 ゴブリンスレイヤーが地面を蹴って駆け出す。同時に女神官が突きだした錫杖から、太陽のごとく燦然と煌く光が闇を切り裂いて、その巣穴に潜むゴブリンたちの目を焼いた。

「十二、シャーマン一、残り十二」

 ゴブリンスレイヤーの、投擲を得意とする只人の腕から短槍(ショートスピア)が投げ放たれる。それはまっすぐ飛んでいき、玉座のそばでふんぞり返るゴブリンシャーマンの胸を貫いた。

「よし、退くぞ」

「ええええ!?」

「退くぞ!」

 このまま踏み込んで暴れるものだと思っていた剣士の驚愕。遅れるなとばかりに強く言われ、慌てて駆けだした。

「【泥罠】だ」

「≪土精、水精、素敵な褥をこさえてくんろ≫!」

 ゴブリンスレイヤーの指示で、詩人が【泥罠】の詠唱を朗々と歌い上げた。やや遅れて逃げてきた剣士の後ろに【泥罠】が敷かれ、あとを追いかけてきたゴブリンどもがみな転倒していく。

「ふん」

 手に持った瓶を投げつける。それは一匹のゴブリンに命中したが、すぐさま割れてなんの痛痒にならない。しかし中から漏れた黒くおかしな臭いのする液体が、【泥罠】で転んだゴブリンたちに飛び散った。

「じゃあな」

 松明を投げると、ぼんっ、と音を立てて燃え上がる。

 次いで上がるのはゴブリンの悲鳴。

「生きたまま火葬かぁ」

「えっぐ」

「い、今のは……」

「ペトロレウムとかいう、燃える水だ。高いわりに、効果は薄いな」

「あ、な、中! さ、攫われた人たちが!」

「この程度の数の死体では、大して炎も広がらん」

「十体以上いるんだけど!?」

「いずれ鎮火する」

 こともなげに言い放つ。

「行くぞ」

「どこへだい?」

「ゴブリンを殺しにだ」

「なるほど」

「他の道にゴブリンがいるかもしれん」

「うん」

「理解したか?」

「そうだね、ゴブリンだね」

「そうだ、ゴブリンだ」

 皮肉も通じないとばかりに、詩人はため息をついた。

 

 

「上位種は無駄にしぶとい」

 死んだふりをしていたゴブリンシャーマンの頭を叩き割ると、ゴブリンスレイヤーはひとりごちる。

「君はゴブリンしか頭にないんだね」

「ああ」

 シャーマンが作らせたのだろう、人骨の玉座を蹴り砕く。バラバラになったその椅子の影に、腐った戸板があった。

「へぇ、ゴブリンの宝物殿か」

「いやただの倉庫でしょ……」

「はは、物は言いようだよ」

「興味ない」

 只人ならばかがまねば入れない小ささの、そこの扉を蹴破った。

 そこには、小鬼の子供が4匹、身を寄せて縮こまっていた。

「――……子供」

「ゴブリンだ」

 大きさなど関係ないとばかりに、彼は棍棒を振り上げた。

「子供も……殺すんですか……!」

「当たり前だ」

「マジかい……」

 僕には信じられないよ、と眉をひそめる。

「奴らは恨みを一生忘れん。生き残れば、学習し、知恵をつける。そして巣をつくり、村を襲う。生かしておく理由がない」

「善良なゴブリンが、いたとしても……?」

「探せばいるかもしれん……だが、人前に出てこないゴブリンだけが、良いゴブリンだ」

 振り下ろした棍棒が、ゴブリンの頭を砕き、脳漿をまき散らした。



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強きものども

 綺麗なお姉さんが好きなので初投稿です。


 詩人さんが料理に目覚めたかもしれないRTA、はぁじまぁるよー!

 

 前回の続きからですが、広間の真ん中に攫われた村娘が転がっています。こう裸で転がされていると青少年のなにかが危ないですね。剣士くんの性癖が歪んでしまわないか私、気になります。

 ちなみにゴブリンが隠れていた倉庫ですがこちらに銀貨が「4d6+【幸運】」枚落ちていますので忘れずに回収しましょう。今回は14枚だったようです。やったぜ。回収するものを回収したらさっさと辺境の街に戻りましょう。

 

 ギルドに戻ってクエストの報告をします。報告を行うことで報酬と経験点が獲得できます。しかし本作の成長はTRPG要素が強く、今の時点ではレベルアップできません。レベルアップは宿に泊まるなどして「安全な場所での完全な休息」を行った場合に限ります。あるいはウィザードリィあたりを想像してくれるとわかりやすいかもしれません。

 

 報酬を受け取ったら宿を取って休みましょう。ここで剣士くんたち一党が全員生存していると初めての冒険に成功した記念の祝勝会に誘われます。レギュレーション的に起きている時間が長いほどタイムが伸びるのでさっさと眠りたいんですが、本チャートでは手数と火力が不足するので好感度を上げるために参加しておきます。

 そういえば魔術師さん弟くんがいるんだよねぇ、クッソ生意気なの。魔術師版ゴブスレ化しそうだったやつが……歴史、変わっちゃいましたねぇ?

 

 では適当なところで詩人さんに中座させましょう。ステを見てご理解いただけるでしょうが詩人さんは体力点がクソザコナメクジで生命力も11点しかない貧弱ガールです。走者は貧乳とか浮いた肋骨とか好きだからいいんですけども。こんな若者たちに混ざってどんちゃん騒ぎしてたら400歳お姉さんの消耗の危険が危ないです。

 さっさとギルドの二階に部屋を取り休みましょう。あ、女の子なので部屋にお湯を持ってきてもらい、体を清めます。身ぎれいにしていると信用にちょっと補正がかかりますし、なにより汚いままだと病気にかかる可能性が高いです。お風呂に入りたいところですがそんなものは辺境の街には存在しません。

 

 はい、おはようございます。

 

 起きたらギルドの待合スペースで朝食を摂りながら女神官ちゃんを待ちます。原作者様もRTA中に言っていましたが、剣士くんたちが生きていると女神官ちゃんはゴブスレさんと二股して(語弊のある言い方)ガンガン依頼を達成するので原作よりも早く昇級します。

 もともと昇級が遅かったのも銀等級(ゴブスレさん)の寄生を疑われていたかららしいですしね。女神官ちゃんは才能の塊なので詩人さんもその御利益にあやかるため、一緒に二股しましょう(誤解を招く言い方)。

 効率と昇級のバランスを考え「ゴブスレさん→剣士くん→休息→ゴブスレさん」という感じでクエストに参加します。このタイミングで特に難しいクエストは発生しないので最初のクエストと同じく因果力でぶん殴りつつ依頼を達成しましょう。

 

 (疾走詩人寄生中……)

 

 いやー、山砦のゴブリンたちは強敵でしたね。女神官ちゃんの覚えた【聖壁(プロテクション)】は原作でも最も使用頻度の多い魔法なだけあって、これを覚えた女神官ちゃんがいるとことゴブリン退治においては公式RTA状態になります。チャートを組む必要もありません。

 おかげで詩人さんも黒曜等級に昇級し、冒険者レベルも3になりました。

 この経験点で【精霊使い】を5レベルに成長させ、【野伏】を1レベルだけ習得しています。技能は【魔法の才】【幸運】【速射】【暗視】【精霊の愛し子】を習熟に、そして【機先】を新たに初歩習得します。精霊術は応用が利く【霊壁(スピリットウォール)】、ボス狩り用の【力球(パワーボール)】を新たに覚えました。

 アイテムのほうは強壮の水薬(スタミナポーション)に加えて治癒の水薬(ヒーリングポーション)を2本、【力球】の上質な触媒をひとつ、燃える水(ペトロレウム)をひとつ、そしてお守りに催涙弾を2つ購入します。あとはこまごまとした嗜好品を購入しましょう。妖精弓手の持っていた焼き菓子は王族にしか許されていない特別なものなので用意できません。干した果物あたりがオススメです。甘いしね。

 

 山砦を大炎上させてしばらく経つと都のほうで「辺境勇士、小鬼殺しの物語」より山砦炎上の段が広まります。これを聞いた金床娘が辺境の街にやってくるのでしばらく休息しておきましょう。乱数によっては若干遅れてくる可能性もあるので下手に依頼を受けていると消耗度が溜まった状態で出発することになりかねません。

 休憩がてらギルドの待合スペースで【芸能:即興詩】による恋文代筆の副業を行いましょう。思わぬ臨時収入になるかもしれません。

 

 妖精弓手、鉱人道士、蜥蜴僧侶の三人がギルドに入ってきました。今声をかけたところで無意味なので聞き耳を立てておきましょう。妖精弓手がオルグボルグの名前を出したら踏み込みます。

 なお只人だとここで【博識】判定に成功しないとゴブリンスレイヤーさんであることに気付けませんのでロスになりますことがあります。鉱人や蜥蜴はかみきり丸で気付くので、ここを短縮するなら森人ですね。なお圃人はどこでも気付けます。公式で謎の種族と言われているだけに本当に謎です。

 それはゴブリンスレイヤーのことだろうと受付嬢さんに話すと、ちょうどゴブスレさんが女神官ちゃんを引き連れてギルドに来ます。交渉技能があればタイム短縮が狙えますが、技能にそんな余裕がありませんでした。

 しばらく女神官ちゃんと待ちましょう。なお魔女さんとの会話は、女神官ちゃんが新人ふたりに絡まれないので発生しません。そもそも同じ白磁が囮に使われていると思っていたから声をかけたんですもんね。彼女、いっつも血まみれで帰ってくるので。

 

 はい、ゴブスレさんが戻ってきました。一人で行く気まんまんな彼ですが、休んでいたおかげで消耗していない詩人さんが同行を告げると「そうか」とだけ告げて許可を貰えます。ただしその直後に女神官ちゃんへ「休め、二人で行く」とか言うもんだからプチ修羅場が発生します。もう少し会話というものをしていただきたいですね……。

 ここで【先入観なし】があるとゴブスレさんが女神官ちゃんを気遣っていることが判明するので女神官ちゃんの困惑イベントを若干短縮することができます。何度も言いますが詩人さんの技能にそんな余裕はありません。

 

 それでは馬車を使った長距離移動クエストが発生しました。クエスト名は「旅の仲間たち」ですね。準備を整えたら急いで馬車に飛び乗りましょう。ロードオブザリングを彷彿とさせますが、こうした何気ない道中の野営など、冒険の合間にある日常シーンも本作の醍醐味です。RTAとしては倍速の対象ですが。

 移動中は【生存術】などで水や食料の補充が可能ですが、キャラクター同士の好感度はそれ以外で上げる必要があります。たとえば嗜好品を分け合ったり、食事を作ったり、歌うなどで盛り上げたりするのがそれにあたります。

 詩人さんは【芸能:即興詩】があるのでこれを使ってもいいですが、手堅く前もって購入しておいた干した果物などを分けましょう。甘いものは蜥蜴人以外に有効です。

 

 三日目の野営になれば冒険者になった理由などを問われます。俺の嫁こと詩人さんは空に浮かぶ月を見上げながら運命の恋人と出会うために旅立ったことを話します。いやー、カメラ目線になってるだけにちょっとドキッとしちゃいますね。美人だと何をしても絵になりますよ。

 

 はい、疲労が少し溜まった状態で到着しました。ゴブリンの巣となってしまった遺跡です。入口には原作どおりゴブリンと狼が見張りをしていますが、妖精弓手が曲芸じみた射撃でワンショットツーキルをかましてくれるイベント用なので気にしなくてもいいです。そのうえで臭い消しイベントが入りました。女神官ちゃんに助けを求めますが「慣れますよ」の一言。詩人さんも同じく「慣れますよ」と言っておきましょう。金床娘の引きつった笑みが可愛いですねぇ……(歪んだ性癖)

 はい、それはそれとして今回のダンジョンでは基本的にゴブスレさんの行動をサポートする形で行動しましょう。そもそも詩人さんは探索するための技術が低すぎてお話になりません。現状はぶっちゃけ仲間の優秀さを見せるといった側面が強いですし、短縮ポイントも特にありませんのでずんずん進んでいきます。

 

 原作どおり森人冒険者の生き残りを見つけました。森人なので魂魄抵抗判定が発生します。【冷静沈着】があれば楽なんですが……ううむ、魂魄点は高かったのですが、詩人さんも吐いちゃいましたね。直ちに消耗度が「1d3」上昇してしまいますが、タイム的なロスもないのでこのまま進めます。消耗は強壮の水薬で補いましょう。 

 そしてダンジョンの地図を手に入れました。ここから先はゴブリンを見つけ次第殺していきますが銀等級パーティなので作業です。

 

 ゴブリンを殺して回りながら奥へ進んでいくと、とうとう到着しました。ゴブリン屠殺祭りの会場です。

 詩人さんも【酩酊】を使用できますが、鉱人道士ひとりで十分なのでお任せしてしまいましょう。詩人さんの呪文には重要な役割があるというのもありますが、なにより死んだ目をしながらゴブリンの武器を奪って喉を刺して回る作業が待っているので。

 原作よりちょっと数が多いですがタイム短縮のため頑張って走り回ってもらいます。そのために移動速度に全振りしたようなものですよ。

 

 はい、ゴブリンを皆殺しにすると奥から人喰鬼(オーガ)が現れます。データ上は人喰鬼の将軍(オーガジェネラル)ですが、どっちにしろ強敵には変わりありません。このクエストもクライマックスです。

 ぶっちゃけこいつを正攻法で倒すのはかなりキツいです。きついですが、このためにチャートを組んできました。イベントを発生させるより倒したほうが早いので。

 先人でオーガ討伐を達成したのは火力に特化させた狂戦士兄貴ですが、今回詩人さんに行ってもらうのは呪文の悪用を用いたマンチ攻略です。

 では開幕【火球(ファイアボール)】が飛んできます。こいつのダメージはおおむね「3~4d6+6」点、期待値で16.5~20点。着弾地点はさらに3.5点ほどダメージの上昇があり、範囲はだいたい5m。確かに喰らってしまえばひとたまりもありませんが、対処法はあります。

 原作では女神官ちゃんが【聖壁】を張って居ましたが、これは呪文維持が必要な奇跡であるため消耗が激しいです。しかも限界突破(オーバーキャスト)なんてしてるもんですからヘロヘロでした。なので今回は詩人さんが覚えたての【霊壁】を敵の目の前に張りましょう。呪文が長いので若干タイミングがシビアです。また、属性は視線の通る氷か風を選びましょう。この【霊壁】は呪文維持の必要がなく「HP:50 装甲:10」を持つ障害物として扱われます。

 念のため補足しておきますが、【火球】などの「対象:すべて」の魔法は任意で対象から外すことが可能です。なので目の前に出したからといって自爆することはありません。

 で、今の攻撃で【霊壁】には装甲を引いて15点のダメージが入りました。高い乱数を引いてしまっていたようで少しヒヤヒヤしますが、とりあえず女神官ちゃんの呪文使用回数を温存することに成功しました。

 

 続いてゴブスレさんや蜥蜴僧侶さんたちに足止めしてもらいつつ、女神官ちゃんには【聖壁】を張ってもらいます。詩人さんも同時にもう一枚の【霊壁】を張りましょう。今度の属性は炎です。

 

 はい、もうお分かりですね? 牧場防衛線で小鬼の王(ゴブリンロード)でやったやつの、元の作戦のほうです。

 

 ちなみに【聖壁】は5mずつ移動することが可能なので、このオーガさんを炎の壁に押し付けてもらいましょう。呪文抵抗判定? そんなものは因果点でぶん殴ればいいんです。

 炎属性の【霊壁】は触れたさいに抵抗の判定もなく、しかも装甲を無視して「2d6+5」点のダメージを与えるという効果を持ちます。その上、触れ続けているとラウンド終了毎にもダメージを与えてきます。これが6ラウンド(3分間)持続するんですね。

 なので期待値で合計「60」点のダメージを受けることになります。これでは再生力を差し引くと全然足りません。が、ここでダメ押しです。【聖壁】の内側にもう一枚炎の【霊壁】を張ってやります。これで神官ちゃんが呪文維持のために頑張る必要がなくなりました。

 では仕上げに燃える水を上から投げ入れてあげましょう。こいつは「2d6」点のダメージだ! ふはは! 「6d6+10」点のダメージは痛かろう! 毎ラウンド期待値31点では自慢の再生力も無意味だねぇ!? この疾走詩人様を孕み袋だぁ? 貴様にも一方的に嬲られる恐怖を教えてあげるよぉ!!

 おやおやぁ? ダメージを少しでも減らそうと、氷の壁を壊そうとしてますねぇ……んー、でも残念。君の近接ダメージ期待値は16点だから、仮に【加速(ヘイスト)】を使っても持続時間以内に破壊することは不可能なのだよ……(暗黒微笑)

 

 疾走詩人さんの3分クッキング、本日の料理は「ローストオーガ」でした。御視聴ありがとうございまいした。




 剣士くんたち一党が生存していた場合の話は原作者のAA作品から持ってきました。

 【霊壁】の効果ですがQ&Aを確認してきまして、可能であると判断しました。

 因果点の利用法はTRPGルールブックを確認するにあたり、他PCにも用いることができるような記述であったため女神官ちゃんの【聖壁】にも利用できるという裁定にしました。


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強きものども【裏】

 よくある話だ、と口をそろえて言う。

 新米の冒険者が、最初の冒険にゴブリン退治を選ぶことも。巣穴に運悪く上位の個体がいるということも。そして運良く、依頼を達成するということも。

「生き延びたこの幸運に――乾杯!」

「かんぱぁい!」

 一党の頭目(パーティリーダー)が大声で宣言すると、合わせて彼女らも、なみなみと酒の注がれた杯を掲げる。

 ああ、これもよくある話だ。初めての依頼を達成したそのお祝いに、全員で酒を飲むと言うことも。

「この宴会で報酬ほとんど使っちゃうのはどうかと思うけどね」

「いうなよ!」

 そこにゴブリンスレイヤーの姿はない。

 巣のほとんどを倒したのはお前たちだ、と報酬も受け取らなかった。

「うぅ~……まだ臭いし取れないしぃ……」

「血って落ちにくいわよねぇ……」

「そうだね、うん」

 だがきっと、誰もが今日のことは忘れないだろう。

「忘れよう? 飲んでさ」

「忘れられたらいいですけどね……」

 ちがいない、と誰かが笑った。

 

 

「――……あのとき笑ったのって、誰だっけ?」

 布に燃える油をしみこませ、それを鏃に巻きつける。

 その作業を行いながら、詩人は女神官に問いかけた。

「さぁ……なんだか、ずいぶん昔のようにも思えてしまいます」

「昔のことを思い出せなくなるのは、老化の兆しらしいぜ? 只人(ヒューム)ってすぐおばあちゃんになっちゃうんだから。気をつけなよ?」

「あはは……」

 森人(エルフ)のものさしで言われても、と。女神官は苦笑いを浮かべる。そんな彼女の首には、黒曜の小板がぶら下がっていた。

「それにしても、君はほんとうにお仕事熱心だよねぇ、もう黒曜級だなんて」

「詩人さんだって、同じじゃないですか」

「僕は君についていっただけだぜ?」

「間違いなく詩人さんの実力ですよ」

「そうかな?」

「そうです」

「無駄話は終わりだ。……やるぞ」

「はいはい」

「わかりました」

 投石杖(スタッフスリング)の代わりに短弓(ショートボウ)を握りしめ、女神官が火をつけた矢をつがえる。見据えた先には、森人の古い山城。

「これから毎日、砦を燃やそうぜ……っと」

 

 

 彼についていけば、何とも簡単な仕事だ。徹底した合理主義というか、効率、というものを突き詰めている。剣士たちとの冒険にもそれは生かすことができていて、体力のない詩人でも冒険を続けることができていた。そればかりか、安息日の暇な時間はギルドの片隅で、こうやって代筆行を行う余裕もあった。

 それだけに、ほんとうに自分に実力があるのか分からないでいる。これでは冒険に出た意味が、無いのではないか?

 ああ、何か、心躍るような冒険が舞い込んでこないものか――……

小鬼を殺すもの(オルクボルグ)よ」

 ん、と首を上げる。

 ずいぶん久しぶりに聞いた言葉で、聞きなれた者が呼ばれた気がしたからだ。見ればなんともまぁ珍しい、上の森人(ハイ・エルフ)がいるではないか。自分みたいなただの森人ではない、本物の妖精の末裔だ。

 彼らはただの弓矢で魔法のようなことをやってのける。詩人も一度だけ見たことがあるが、ただの弓矢が船を沈めるとは何事かと思った。

「ええと……樫の木(オーク)、ですか?」

「違うわ。小鬼(オルク)小鬼を殺すもの(オルクボルグ)よ」

 受付嬢が困惑している。確かに森人の言葉で言われても、只人(ヒューム)たちには分かりづらいだろう。しょうがない、ここは助け船を出してやりますか。詩人は傍らに立てかけた杖を持ち、立ちあがった。

「ここは只人の街だよ? オルクボルグじゃあ伝わらないさ。もちろん、小鬼斬り(オルクリスト)もね」

 割って入られてか、上の森人は怪訝な顔をする。

「あなたは?」

「僕かい? 僕は小鬼を殺すもの(オルクボルグ)を知っているだけの、ただの綺麗なお姉さんさ!」

「詩人さん!」

 小鬼を殺すもの(オルクボルグ)を知っていると聞いて、受付嬢は助かったとばかりにほっと胸をなでおろした。

「で、オルクボルグってなんです?」

「ほら、彼だよ。ゴブリンスレイヤーさん」

「ああっ! ゴブリンスレイヤーさん!」

 受付嬢がその名を言うや、名前を呼ばれた男がギルドへと足を踏み入れる。

「――ゴブリンか?」

 お決まりのセリフを放ちながら。

 

 

「きっと冒険の話さ」

 二人は、女神官と待合スペースでゴブリンスレイヤーを待っていた。

「上の森人に、鉱人(ドワーフ)の精霊使い、そして蜥蜴人(リザードマン)の竜司祭! なんとも心躍る一党だ。そこに只人の彼と君、森人の僕が入れば、まるで寝物語に聞いたあの冒険譚みたいだ。……まぁ、父さんの話してくれたそれは、即興詩だったんだけどね? 圃人(レーア)が主役の」

「そうなんですか?」

「最後はさ、生きたまま幽界に入ることのできる、とてもとても恐ろしい力を秘めた指輪をね、持ち帰ってしまい――……」

 思わず言葉に熱がこもる。

 あのとき聞いた話を忘れられないでいるのだ。特に、幽界に入ることのできる指輪なんて、まるで――

「っと、帰ってきたみたいだね」

 詩人は投石杖を手に持ち立ちあがる。ここでゆったりとした歩みを見せれば年上の余裕を見せられるのだろうが……冒険のにおいを感じた詩人には、とうてい無理だった。

「ゴブリンでしょ?」

「ああ、ゴブリンだ」

 ゴブリンスレイヤーは短く答える。

「俺一人でいく」

「つれないなぁ。仲間だろ? 少なくとも僕はそう思っている」

「好きにしろ」

「うん、好きにしよう」

 長く共に冒険をしていれば、なんとなくわかるものだ。彼は別に、悪気があって言っているわけではないということを。

「お前は休め」

「君は馬鹿か」

 だからこう言うだろう事もなんとなく分かっていた。思わず頭を抱え、ため息を一つ。

「せめてこう、もう少し。こう、さぁ!」

 言いたいことはあるが上手く言葉にできない。即興詩を嗜んでいるとはいえ、難しいものは難しい。

「そうですよ……! せめて、こう、決める前に相談とか……!」

「――? しているだろう」

 心底不思議そうに、その鉄兜を傾けた。

「あ……これ、相談、なんですね……?」

「そのつもりだが」

「君はじつに馬鹿だな……」

 彼と共にいる限り、僕はこの言葉を幾度となく繰り返すだろう……そんな予感が、した。

 

 

 瞬く間に三日が過ぎた。二つの月の下にどこまでも続くように広がる荒野。その真ん中で、冒険者たちは焚き火を囲んでいた。

「知っているかい? 紅の月(Garnet Moon)緑の月(Green Moon)は、光と秩序と宿命の神様と、闇と混沌と偶然の神様の瞳なんだぜ?」

「そうなんですか?」

「父さんはそう話してくれたよ。まぁ、即興詩だから本当かどうかは知らないし、いったいどこの伝承なのかも知らないのだけど。少なくとも父さんはそう信じているみたいだった。ああやって僕らを見守っているのだ……ってね」

「あなたもたいがい、変なことを知ってるわねぇ」

 妖精弓手が呆れたように肩をすくめる。この三日間、手を変え品を変え、面白おかしい話を言って聞かせる詩人のそれは、この冒険の恒例行事になっていた。

「ところで、みんな、どうして冒険者になったの?」

 ふと、思いついたように妖精弓手は言う。

 すぐさま「そりゃ美味いもん喰うために決まっておろう」と鉱人道士は答える。少しはにかみ「外の世界に憧れて」と口にしたのは妖精弓手。さすがに蜥蜴僧侶の「異端を殺して位階を高め竜となるため」は少し理解が及ばなかった。それは信仰からくるものだろうと、「私もそうですから」と女神官だけはほんの少し同意を見せたくらいか。

「ゴブリンを……」

「アンタのはなんとなくわかるからいいわ」

「おい耳長の」

「僕も長いけど」

「面倒じゃな!? いや金床の」

「僕も小さいわけだけど」

「ややこしくするでないわ!」

「ははは」

 詩人はけらけら笑い、夜空を見上げた。

「それで詩人殿は、如何な理由で冒険者となったのですかな?」

「僕かい?」

「ええ。皆口にしたのですから、言わねば不公平でありましょうよ」

 そう蜥蜴僧侶が問いかけると、詩人は少し考えた上で口を開く。

「僕は……そうだね、好きな人に会うため、かな?」

「おおう。思ったよりも乙女な理由が出てきたわい」

「ロマンチック~」

「それでその好きな人には、出会えましたかな?」

「うーん……もう少しで手が届きそうなんだけどねぇ」

 詩人は空に向かって手を伸ばす。まるでその彼方に、その相手がいるように。

「父さんの話してくれた、魔法の指輪でもあれば違うのかもしれないけれども。どうにも遠いんだよね……彼は、いつも僕の後ろで見てくれていて、ちょっとの勇気が欲しい時、必ず僕の背中を押してくれるんだ。けれど今は、うん、空の上から眺めているみたい。今ここで言えば、君に伝わるかもしれないな、なんて……」

「それは……」

 はっ、と。女神官はつい先日に聞いた、幽界へと至る指輪の話を思い出す。マズいことを聞いてしまったと、その空気が妖精弓手や鉱人道士、蜥蜴僧侶に伝わり――

「……って言うと、まるで死んだ人を想ってるみたいじゃない?」

「詩人さん!?」

「ははは」

 人を喰ったような笑いを上げて、詩人は改めて()()()を見つめた。

「早く会いたいなぁ、僕の愛しい人」

「まったくこの短い耳長のは。人を喰ったようなことばかり話しよる」

「おいおい、短いのに長いってどういう」

「旨い! なんじゃいなこの肉は……」

「聞けよ、僕の話」

「おぉ口に合ったようでなにより。沼地の獣の肉ですぞ」

「おお、旨い旨い」

「これだから鉱人は……」

「そうよねぇ!」

「野菜しか喰えん兎もどきにゃこの旨さは分かるまい!」

「む……」

 言われっぱなしは気に食わないと、詩人は唸り声を上げてそれを取り出した。

「それは?」

「芋堅干」

「いもけんぴ」

「あまいよ?」

「……あんたも、もうちょっと、こう、なんか、あったでしょうよ」

「拙僧、甘いのはちょっと……」

「いやそうじゃないでしょ」

「あまいのに」

「あんたの基準はそれしかないの?」

 そういえばこいつ、干した果物とかたくさん持ち込んでたなと、妖精弓手は肩を落とした。

 

 

 妖精弓手の放つ矢が、空を翔け魔法のような軌跡を描いて二匹のゴブリンの頭を射抜く。

「すごいです……」

「やっぱり上の森人の弓術は頭がおかしいね」

「見事……魔法のたぐいですかな?」

「ふふん。十分に熟達した技術は、魔法と見分けがつかないものよ?

「それをワシの前で言うかね……」

「あなたも練習すれば、これくらいできるわ」

投石杖(こんなの)でも?」

「……たぶんね!」

「顔を逸らすなよお姫様」

「おいおい、こーんな金床娘のどこがお姫様じゃい」

「ははは」

 何も知らぬは幸せなりて、と詩人は乾いた笑いをあげる。

「一、二……」

 数えて、ゴブリンスレイヤーが死体となったゴブリンの腹を裂く。

「ちょ……何してんのよ?」

「奴らはにおいに敏感だ……特に女、子供、森人のたぐいはな」

 引きずり出した肝を、手ぬぐいに包む。

「い、嫌よ! ちょっ――コイツ止めてよ!?」

「慣れますよ」

「そうだぜ、お姫様」

 

 

「奴らのねぐらは左側じゃ」

 小唄まじりにT字路を確認した鉱人道士が、自信たっぷりに口髭をひねりながら断言する。

「確かか?」

「そら鉱人だもの。ミスリルの鎖帷子を賭けても良いわい」

「それじゃあ僕は、逆の道におやつの芋堅干を賭けようじゃないか。一本ね」

「……おまえさん、賭けを成立させる気、無いじゃろ?」

「君だってそうじゃないか。どこにミスリルの鎖帷子なんて持っているんだか」

「かーっ、可愛くないのぉ! もっと年上を敬ってはどうじゃ?」

「おや、君はおいくつだったかな? ちなみに僕は四百歳だけども」

「……さ、三百と八つ」

「おやおや、ずいぶんと老けこんでていらっしゃる」

「ほんとよねー、サバまで読んで。鉱人は懲りないコト」

 仲良く姉妹のようにくすくす笑う森人二人に、鉱人道士がぶすくされた様子で髭をひねった。

「どうしたね、小鬼殺し殿」

 あれはじゃれ合っているだけなのだと思うようにして、蜥蜴僧侶が押し黙るゴブリンスレイヤーに問う。

「こちらから行くぞ」

 中途半端な剣の切っ先で右を示す。

「ゴブリンたちは左にいるんじゃないの?」

「そうだぜ? それとも、君も賭けに参加するつもりかい?」

「違う……だが手遅れになる」

「何が?」

「行けば分かる」

 そう淡々と告げる彼に従って右の道へ。そう進まないうちに、ムッと鼻を突く臭いが漂いだした。

「なにこれ……」

「ゴブリンの汚物溜めだ」

「おぶ……ッ!」

「意識して鼻で呼吸しろ。直ぐに慣れる」

 臭気の源は向こう側だろうと分かるほどの臭いが漂う、腐りかけた木の扉が嵌った部屋の前へとたどり着く。ゴブリンスレイヤーはそれを蹴り破ると、吐き気を催す臭いが噴出する。

 そしてその部屋には、鎖に繋がれ、右半身を潰された森人がいた。

 

 

「呪文はいくつ残っている?」

 小休止で、ゴブリンスレイヤーが問う。詩人は指を三本たてて答えた。詩人は、いつもの軽口を紡げずにいる。

「わしはまぁ、呪文にもよるが四回か五回といったとこか」

「拙僧も三回はいける。が、【竜牙兵】の奇跡には触媒がいる。これに関してはあと一回だと思ってもらおう」

「そうか」

「あの……飲みますか? 飲めますか」

「……ありがとう」

 詩人は首を振ったが、妖精弓手は女神官から水袋を受け取り、のどを潤す。

「あまり腹に物を入れるな。血の巡りが悪くなり、動きが鈍くなる」

「ゴブリンスレイヤーさん!」

「行けるならこい、無理なら戻れ、それだけだ」

「馬鹿言わないでよ……私が戻ったら誰が罠の探索をするのよ!」

「やれるものでやるだけだ。……お前はどうだ?」

 詩人は静かに頷いてみせる。

「あんた、ほんと大丈夫なの? さっきから、ちっとも話さないじゃない……」

 詩人は、妖精弓手の言葉を聞いて、静かに口を開いた。

「心配するなよお姫様」

 紅紫色の瞳が、ぎょろりと妖精弓手を見た。

 彼女は決して萎えてなどいない。ゴブリンの汚物溜めにいた「根無し草(森人の冒険者)」の姿を思いだすたびに、胸の奥にぐつぐつとマグマのような感情が湧きおこる。一度解放してしまえば、抑えきれそうにないと、口をつぐんでいたのだ。

「なら、行くぞ」

 ゴブリンスレイヤーが立ちあがる。小休止終了の宣言だった。

 

 

 地図の通りに進んだ一行は、ほどなくして回廊へとたどり着く。そこには数多くのゴブリンがいた。さて、どうやってこいつらを皆殺しにしてくれよう……詩人は思考をめぐらすが、良いアイディアは浮かばない。

「問題にもならん。手間がかかるだけだ」

「……とても、そうは思えないけれど」

「その口ぶりですと、以前にも経験がおありのようだが……以前はどのような手を?」

「状況によって異なる……だが、簡単なのは毒気を起こすことだ」

「ほう」

「硫黄と松脂を混ぜて、焼く。すると火山のそれと同じ毒気が生まれる。空気より重いから、奴らの巣穴に沈んでいく。放っておけば勝手に死んでいく。楽だ」

「……そのうちホントに神さんから叱られっぞ」

「知らん」

 女神官が何かを訴えるように、じぃ、と見つめる。

「今回は使わん。効果が出るまで、時間がかかる」

「速度の問題かよ」

「そうだ」

「そうかい」

「今回は速攻で始末する。後腐れなく、だ」

「……参考までに、その方法は?」

「僕はいやーな予感がしてきたぜ……?」

「知らん」

 ゴブリンスレイヤーは淡々と口にする。

「俺たちはゴブリンとは戦わない――殺すだけだ」

 

 

 鉱人道士の【酩酊(ドランク)】によって昏倒したゴブリンたちを、女神官の【沈黙(サイレンス)】で音もなく殺していく。詩人は刃の付いたものを持っていなかったため、ゴブリンの腰から拝借した粗末な短剣(ブラント)で喉を突きまわる。

 ――これが血の海というやつかい。

 もし即興詩を作るなら、これはどう表現しようか。まるで現実感がないように、そんなことを考えてしまう。

 ずん、と大気が震えた。

 沈黙の中でその衝撃だけが伝わり、誰もが立ち止まる。

 ゴブリンスレイヤーが素早く盾を構え、油断なくゴブリンから奪った剣を抜き放つ。またひとつ、ずん、という衝撃。

 そして暗闇の中から、そいつが姿を現した。

「オーガ……ッ!」

 ようやく音の戻った世界で、妖精弓手の声が木霊する。

「ゴブリンどもがやけ静かだと思えば、雑兵の役にも立たんか……貴様ら先の森人とは違うな。ここを我らが砦と知っての狼藉と見た」

 裂けた口から吼えるような声音を漏らした。

「…………なんだ、ゴブリンではないのか」

「オーガよ、知らないの……!?」

「知らん」

「君はじつに馬鹿だな! ほんとうに馬鹿だな!!」

 まさかこの場でこのセリフを言うとは思いもよらなかった。詩人は頭を抱えたくもあったが、あの化け物から目を離せばどうなるかもわからず、ただただそう口にすることしかできなかった。

「貴様ら! この我を、魔神将より群を預かるこの我を、侮っているのかッ!」

「上位種がいるのは分かり切っていたが……知らん」

「君が馬鹿なのはわかったから、ちょっと黙っててくれないかな!?」

「そうか」

 なるほど、面倒くさいことを引き受けてくれるのか、と。それきりゴブリンスレイヤーは静かに口をつぐんだ。

「本当に黙るとか君はじつに馬鹿だね!?」

「……俺に、どうしろというのだ」

「いつまで愚弄する気か! その愚かさ、その身を持って味合わせてくれるッ!」

「ほら怒ったじゃないか!」

「知らん」

「漫才やってんじゃないわよあんたら!」

「やりたくてやってるわけじゃ……ッ!」

「≪火石(カリブンクルス)……成長(クレスクント)……」

 その青白く巨大な左手に、ボウッと、赤々と燃える炎が現れる。

「【火球(ファイアボール)】がくるぞぉ!」

「散って!」

「じゃがこれでは、どこに逃げても……!」

「≪いと慈悲深き――」

 女神官が【聖壁(プロテクション)】の奇跡を唱え、

「≪氷姫(アタリ)よ氷姫、これなる勇者に舞踏をひとつ、お目にかけてはくれまいか≫!」

 それを詩人は杖で制し、代わりに朗々と歌い上げる。

「【霊壁(スピリットウォール)】!」

「――投射(ヤクタ)≫!」

 すんのところで氷の壁がオーガの目の前に現れ、直後に【火球】が爆ぜる。爆音を轟かせるも、それは確かに全員を【火球】から守りおおせた。

「ぎりぎりセーフ、だぜ」

「詩人さん!」

「小癪な小娘め……!」

 何かが砕けるような音がする。あまりにも大きなオーガの歯ぎしりが、そのように聞こえたのだった。

「ねぇみんな。お姉さんをさ、ちょいと手伝っておくれよ」

「手があるのか」

「もちろん」

「わかった」

 なにをすればいい? と。

「あいつ、そこから動かさないで欲しいな」

 ほんのちょっと(三十秒)でいいからさ、と。

「わかった」

 ゴブリンスレイヤーが氷の壁を大きく迂回するように駆け出す。

「なにやるのか知らないけれど!」

「任せたぞ金床二号!」

「僕の愛しい人は小さいのが好みなんだよッ!」

 まったくもう……と呆れたようにため息をひとつ。

「【聖壁】、お願いね?」

「分かりました!」

 女神官が錫杖をぎゅっと握りしめる。

「檻みたいに囲むよっ!」

「はいっ――≪いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の御力でお守りください≫!」

 女神官の詠唱と同時に、詩人も朗々と火の精霊に呼びかける言葉を紡ぐ。

「【聖壁】!」

「【霊壁】!!」

 二つの呪文が完成したのは、ほぼ同時。何度も何度も、二人で困難を乗り越えてきたのだ。合わせることなど、わけのないことだった。

「ぬ――ぅ、ぐおぉおお!?」

 氷の【霊壁】と、【聖壁】に挟まれ――そして、炎の【霊壁】に押し付けられたオーガが唸り声を上げた。

「火の【霊壁】……!?」

「そぅら、もういっちょ!  駄目押しだぜ!」

 言うや、詩人は杖を振るって朗々と歌い上げる。その詠唱に、女神官は詩人がやろうとすることを察した。

これでもくらえっ(Take That,You Fiend)! 【霊壁(スピリットウォール)】!」

 炎の壁二枚に挟まれたオーガから、ベーコンを炙り焼き(フライ)するような音と、焦げ付く臭いが漂う。

「コイツはおまけだっ!」

「ぐ、ぉおおおおおおおお!?」

 三枚の【霊壁】に囲まれたオーガめがけて、詩人は上から、燃える水を投げ入れた。

「はは! ははははは! 火の【霊壁】は熱いだろうねゲスやろう? どうも再生しているみたいだけれども、それがいつまで持つかなくそやろう! よくも森人(なかま)をやってくれたなちくしょうめ! おまえのせいで僕ぁゴブリンの肝塗れだよこのやろう! おまえにも一方的に嬲られる痛みと苦しみと恐怖を教えてやるんだからなッ!!」

 紅紫色の瞳をぎょろりと見開いて、さんざんため込んだ怒りを乗せて、疾走詩人はオーガめがけて恨み節を歌い上げた。

「はーっはっはっはっは! 燃えろ燃えろぉー!!」

 オーガの上げる苦悶の声すらかき消すほどに、詩人は高らかに歌い上げた。

 

 

「…………普段怒らない子がキレると怖いわね」

「……じゃな」

 ただただ遠巻きに、妖精弓手と鉱人道士が語りあう。




紅の月(Garnet Moon)緑の月(Green Moon)
 ニコニコ動画で放送されたアニメ版に流れたコメントより。ようするにGMのことを指している。よく思いついたな……と感心しきり。
「愛しい人」
 正しい発音は、いとしいしと、である。
「芋堅干」
 髪についていることで有名なヤツ、執筆中たまたま食べてた。
「……さ、三百と八つ」
 原作の元になったAAで鉱人道士が言っていた年齢。
ほんのちょっと(三十秒)
 1ラウンドである。

 2021/01/11_誤字修正しました


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水の都の小鬼殺し

「(´・ω・`)<しかたあるまい」なゴブスレさんが可愛いので初投稿です。


 ぶっちゃけゴブリンの討伐数が圧倒的に足りてないRTA、はぁじまぁるよー!

 

 それでは前回の続きから。【霊壁(スピリットウォール)】三枚張りによるローストオーガの錬成に成功しましたので、詩人さんの貴重などや顔をご覧ください。ゴブスレさんなんて感心しきりですわ。他の人はだいぶ困惑顔ですが。まぁ呪文を使えばだれでもこんな感じで倒せますよ。あとは敵の大成功(クリティカル)さえなければ。

 それはともかくオーガを倒してしまえばこんなシケたところに用はありません。遺跡の外に出ましょう。すると森人(エルフ)たちが馬車で迎えに来てくれていますのでさっさと乗り込みます。

 

 はい、ギルドに到着したので報告を行います。ここで【怪物知識】判定に成功していると人喰鬼の将軍(オーガジェネラル)クラスだったねぇという話になって昇級に有利になります。報酬もがっつりいただいたので装備の修理や足りなくなった道具類を補充し十分に休息を取りましょう。

 今回の冒険でゴブスレさんがケガを負うことなく依頼達成したため、三日も寝込むイベントが発生しません。なのでまた次のクエストが発生するまで「ゴブスレさん→剣士くん→休息→ゴブスレさん」の順番でクエストを受注しましょう。

 黒曜等級でもクエスト自体は変わらず因果力でぶん殴れば十ぶ――……あの、ゴブスレさん? 海ゴブリンはゴブリンではないですよ? いやまぁ……行くけどさぁ……。

 

 (疾走詩人寄生中……)

 

 はい。ゴブスレさんが途中で依頼を放り投げたせいで1回失敗してしまいましたが鋼鉄級に昇級し冒険者レベルも4になりました。職業レベルは新たに【魔術師】を2レベル生やしました。【魔法の才(熟練)】の前提を満たすためですね。おかげで呪文使用回数が4回に増えています。習得した呪文は悪戯も悪用もできる【幻影(ビジョン)】と、今回活躍するであろう【力場(フォースフィールド)】です。

 真語呪文を覚えたので発動体を購入します。せっかくなので投石杖(スタッフスリング)が発動体になるよう加工してもらいましょう。当たり前ですが走者の趣味ですのでやらなくても大丈夫です。

 

 そしてゴブスレさんが圃人斥候(レーアスカウト)の昇級審査を引き受けて郵便馬車で運ばれる特別な依頼書を受け取ったイベントが発生します。ようやく水の都の地下迷宮ですね。いやー、ここまで長かった……。

 夕食中にゴブスレさんが二択を迫ってくるので「同行する」を選びます。そして妖精弓手と女神官ちゃんに水責めとか火責めとか毒気を禁止されるシーンですね。

 走者はこのときのゴブスレさんがどうしても、

「(´・ω・`)<しかたあるまい」

 みたいに聞こえてしまい、好きです。

 

 水の都に到着しました。ぶっちゃけ通常プレイなら観光したいところですがこれはRTAなのでさっさと神殿に向かいます。女神官ちゃんがなんか緊張して足が遅くなるので物理的に背中を押して移動させます。

 

 デカァァァァァいッ説明不要!! で有名な剣の乙女さんが出てきました。ここは会話が長いためトイレタイムに使えます。それにしても剣の乙女さんが話すゴブリンの被害ってどうにも……って感じですよね。

 では昔の地図を貰ったら、さっそく地下水路に潜りましょう。ぶっちゃけ地図があるので迷いませんし、出てくるゴブリンはゴブスレさんが片付けてくれます。

 ぶっちゃけ片付けてもらっちゃ困るんですけどね。詩人ちゃんのゴブリン討伐数はそんなに多くありません。トロフィー「小鬼殺し3号」の条件のひとつはイベント終了時点でのゴブリン100匹以上ですので。

 まぁ毒気の罠が仕掛けられた部屋で一気に稼ぐ算段ですからいいんですけどね。あそこチャンピョン撤退するまで何気に無限湧きですし。ここでは投石杖でちまちまと削りましょう。

 

 はい、少し進んだところでゴブリンが船で来ました。呪文使い、特に精霊使いならコイツの処理はくっそ簡単です。火属性の【霊壁(スピリットウォール)】を船の上に敷いてやります。ふっふっふ……狭い船の上じゃあ逃げ場はないよねぇ? 船ごと燃えてしまえ!

 え、火責めとか燃やすのとかじゃないかって? 詩人さんには何も言われてないしセーフですよ。よしんばアウトだとしても、それじゃあ【火矢(ファイアボルト)】での攻撃ができないじゃないですか(詭弁)

 そんな騒がしくしたつもりはないんですが沼竜が出てきました。まぁこのワニさん訳アリだからどっちにしろ出てくるんでしょうけどね。

 ゴブスレさんの「(´・ω・`)<ゴブリンではないのか」というセリフを聞いて癒されながら逃亡しましょう。正面からゴブリンの船三隻がやってきますが妖精弓手に睨まれてるので原作同様の対処をしてもらいましょう。

 あー、私のゴブリン討伐数がワニの腹の中に消えていく……。

 一度地上に戻ったらゴブスレさんが手紙を出したり道具を補充するので別行動を取りましょう。貴重なお風呂シーンを見ることができますが森人(エルフ)は火や水の精霊が入り混じるお風呂は苦手なので自動でお断りされます。残念だったな!

 地下水路に再突入するのは翌日なのでアイテムの補充などを済ませたらさっさと寝てしまいましょう。

 

 ゴブスレさんがカナリアを連れてきたかしら。地下水路に再突入するかしら。かしらかしらご存知かしら? カナリアは少しの毒気で騒ぐのかしら……はい、というわけで毒の罠がある部屋までずんずん移動しましょう。どうせなにもありません。

 

 さぁやってまいりましたゴブリン討伐の稼ぎ場所! 鉱人道士と妖精弓手が穴と言う穴を埋めて回ろうとしますが、ここは頼れるお姉さんにお任せあれ、ですよ。

 まずは【使役(コントロールスピリット)】を使用し火の自由精霊(フリースピリット)を召喚します。続いて覚えたての【力場】を使用しましょう。別に順番は逆でもいいです。

 この【力場】は障壁を生み出す呪文でドーム状なら半径4m程度ではありますが、内と外を物理的(・・・)に分断する障壁を生み出す呪文です。耐久力を持ちこの耐久力に満たないダメージならいくら受けても大丈夫という凶悪呪文です。原作では10フィート(3メートル)のタイルが縦3横3並ぶ玄室と表記がありましたが、アニメでは神官ちゃんの【聖なる壁(プロテクション)】で半分に分断できる程度になっているので大きくても5mです。アニメ特有の過剰な表現かもしれませんが。

 いずれにせよ【力場】なら十分に毒ガスを防げます。詩人さんの呪文ひとつで鉱人道士の呪文回数を温存できるのだからお得ですね。

 詩人ちゃんの唱えた【力場】は……まぁ覚えたての魔術師レベルですからねぇ、耐久力は「15」になりました。これだとチャンピョンの命中判定の出目が「6」以上で、かつ威力ダイスが期待値を超える場合に割れてしまいます。ざっくり2割かな?

 割れた場合は女神官ちゃんに【聖壁】でカバーしてもらいましょう。

 

 突入してきたゴブリンの一部が部屋に充満した毒気で死にました。それでも扉が開いて新鮮な空気が入ったぶん元気に突っ込んできますねぇ。障壁をバンバン叩いてますが割れる気配がありません。めっちゃ強力やんけ。

 さてこの【力場】、呪文維持が必要な呪文ですが、呪文維持に成功すると形を変更することができます。なんなら半径0.5mの穴を開けることも可能です。

 そう、穴を開けることが可能なのです。もうお気づきですね? では自由精霊に【熱波】を使用させましょう(暗黒微笑)

 ふはは! ゴブリンごとき私が直接手を下すまでもない! ムリヤリ近づいて来たらダメージが上昇するのでじゃんじゃん溶ける溶け――……あっ

 

 ゴブリンチャンピョンの撤退条件満たしちゃった……

 

 このイベントでのチャンピョンは「時間経過か一定以上の負傷」で撤退してしまいます。

 無限湧きが発生するイベントですので、最大20体のゴブリンがボスの統率補正かけたり雲霞のごとく迫りくるためめちゃくちゃ難易度の高いクエですが、【熱波】のように広範囲に持続する範囲攻撃呪文があると余裕です。

 で、チャンピョンが撤退すると士気(モラル)チェックが入りゴブリンも逃げてしまいます。本来なら適度にチャンピョンへの攻撃を外したりすることでダメージを調整する必要がありましたが……部屋に突入してきた瞬間に溶けていくゴブリンが気持ち良すぎて失敗してしまいました。だいたい20体ぐらいでしょうか……? まぁ最後の防衛戦で薙ぎ払えばいいので問題ありません。

 では少し奥を覗いていきましょう。まだ行けるはもうあぶないというのはよく言われますが残念なことにこれはRTA、死へ進まなければならないときもあるのです。

 ゴブスレさんも「(`・ω・´)<ゴブリンは皆殺しだ」と息巻いて追撃の準備をしているので賛成してくれます。鉱人道士はすこしボヤくようですが原作と違って呪文にだいぶ余裕がありますので問題はありません。

 

 発見しました。ついでにさっき倒し損ねたゴブリンたちが集まっています。

 詩人ちゃんは【暗視(習熟)】を持っているので奥のほうになんか鏡があることと、そこからゴブリンが出入りしているという情報を得ることができました。

 原作では情報を得るためひと当てしたようですが、ここは詩人ちゃんが頑張って【怪物知識】判定に成功しましょう。目標値はなんと脅威の「17」! ですが詩人さんの基準値は「10」なので期待値で成功しま――はい、因果点でぶん殴りましたので大丈夫です。

 たまたま【幸運】にも名前を呼んではいけないアイツの情報をどこかで読んでいたようですね。たぶん第一話でゴブリンを図鑑で調べたときでしょう。見事なフラグ回収です。

 で、この名前を呼んではいけないアイツですが、3回行動します。手下がいるため支援効果によりさらにもう一回行動してきます。つまり4回行動です。

 ぶっちゃけ呪文使いにしてみればこいつは鬼門です。頼みの呪文が使えなくなるのが非常に痛い。何気に魔法の視覚を有しているので【暗黒(ダークネス)】が通じません。【霊壁】も考えましたがこいつ【解呪(ディスペル)】持ちの特殊個体なんですよ。明らかにオーガよりもめんどいです。持ってなかったら押しつぶして蒸し焼きにできたのに。

 なので今回はゴブスレさんに頑張ってもらいたいと思います。

 なんのために詩人さんが人喰鬼(オーガ)をローストにしたと?

「(`・ω・´)<手段ならある」

 その言葉が聞きたかったッ!

 我ら和マンチ同盟、詩人さん視点では何するのかワカンナイでしょうがゴブスレさんには切り札があるのは理解しているっ! 囮が欲しいなら詩人さんの【幻影(ビジョン)】がある! やっちゃえゴブリンスレイヤー!

 

 これでもくらえっ(Take That, You Fiend)

 

 ふぅ……工事完了です。

 ゴブスレさん妖精弓手からなんか言われてますけど、

「(`・ω・´)<他に方法がなかった」

 で押し切ろうとしています。

 正史のようにゴブスレさんが蹴り飛ばされないようここは助け船を出して好感度を稼ぎつつ、無駄なダメージを防いでおきましょう。アニメでのあの転げ方はヤバい。

 そしてゴブリンを殺すことにかけてはさすがの一言、転移の鏡にも向けて放っているもんですから向こうのゴブリン大虐殺です。あとは広間に残った残党どもを自由精霊の【熱波】で消毒しましょう。いやー、地下迷宮は強敵でしたね。

 ……で、最後の一仕事が残っています。

 この転位の鏡を使えないようにするためみんなで頑張ってコンクリートで表面を塗り固めなければなりません。問題は乾燥するまで待たなきゃいけないんですがコンクリートの乾燥ってかなり時間がかかったはずなんですよね。調べてみたら種類や配合等にもよりますが一日はかかると……これを待っていたらかなりのロスになります。

 なので今度こそ【風化(ウェザリング)】を使ってもらいましょう。あとはこの鏡を水路に運んで沈めてしまえばOKです。

 詩人さんも「えっ……僕にこれを運べと……?」みたいな顔をしますが頑張ってもらいましょう。大丈夫大丈夫、みんなやってることだから……。

 

 本日はここまで、御視聴ありがとうございました。



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水の都の小鬼殺し【裏】

「どうぞ、町まではゆっくりお休みください」

 上の森人(ハイ・エルフ)たちの馬車に乗りこむと、今までに積み重なった疲労がどっと現れる。体力の少ない詩人にとって、今回の冒険はいささか、大変なものであった。

「ねぇ」

「なんだい、お姫様」

「どうしました?」

「あんたたち、いっつもこんなことばっかりしているの?」

「ちょっと? 僕をこいつといっしょにしないでくれないかい?」

「……ええ」

「おい、僕は違うだろ?」

「いっつも、こんな感じです」

「君もそこは否定するところだぜ?」

「でも、こう見えて、結構、周り見ているんですよ。この人」

「ちょっと??? 僕の顔を見ようぜ????」

 女神官はわざとらしく咳ばらいをひとつ。

「詩人さんは物知りですから、とても頼りにされてますよ」

「とってつけたようなフォローだね????」

「……あんた、白粉塗ってそう(ダークエルフみたい)とか言われたことない?」

「お姫様とはいえ限度というものがあるんだぜ????」

 

 

「――……あの日以来、あの鉱人(ドワーフ)僕のこと“白粉の”とか言うんだけどさ? キレていいよね? これ?」

「知らないわよ」

「どうしてみんな僕に厳しいんだ……」

 詩人は嘆くようにテーブルに突っ伏す。真語呪文の発動体を埋め込んだ投石杖(スタッフスリング)の布が、ゆらゆらと揺れた。

「泣きたい……旦那に甘えたい……」

「泣きたいのはこっちよ……てか旦那いたのあなた?」

「うん」

「ちょ、え? 結婚してたの!?」

「そりゃあもうラブラブさ。毎日のように、俺の嫁は可愛い、俺の嫁は可愛いって」

二階(へや)で!?」

「夢の中で」

「馬鹿じゃないの?」

「ははは」

「……ていうか、泣きたいのはこっちなんだからね? 私、学院では才能があるともてはやされて、首席で卒業したくらいなのよ? それが、後からほんの少し勉強しただけのあなたに追い越されそうなんだから……」

「それは生きてた年月の違いさ。只人(ヒューム)の君よりは長く生きてるからね……ぶっちゃけたかだか15年でその実力なら早いほうさ。僕は君よりもずーっと積み重ねて積み重ねて……ようやくこれなんだぜ?」

「褒めてるんだか慰めてるんだか……」

「褒めているのさ」

 僕は他人を貶めたりしない、と。生真面目な顔をして答える。

「おい」

 そうやって女の子同士の親睦を深めていたところに、ゴブリンスレイヤーが声をかけた。「おや、ゴブスレくん」

「ゴブリンだ」

「はいはい」

 傍らの杖を握りしめ、よいしょ、と立ちあがる。

「おばさんくさいわよ、四百歳児」

「なんだとーぅ!」

「行くぞ」

「あー、はいはい今行くから……おまえ、あとで覚えておけよな!」

「忘れなかったらね」

 詩人を追い払うように、魔術師はひらひら手を振ってみせた。

「くそー、年上を敬うってことをしないのか……それでゴブスレくん? どこのゴブリンだい?」

「漁師町だ。海ゴブリンに漁場が荒らされていると聞いた」

「あー……」

 ゴブリンには生息地や体色の違いから、様々な呼ばれ方をすることがある。ゴブリンスレイヤーにとっては、そのどれもゴブリンには違いない。

 違いない、が……。

「ゴブスレくん?」

「なんだ?」

「いや、うん、海ゴブリンだね?」

「そうだ」

「そうかい」

「ああ、ゴブリンだ」

「そうだね、ゴブリンだね……」

 説明が面倒くさかった詩人は、訂正することを諦めた。

 

 

「その後のフォロー、僕がやったんだけど? なのに依頼未達成扱いなんだぜ? なんだか僕、損な役回りをこなしてる気がするんだけどさ、そこのところどう思う?」

「詩人さんの人柄によるものだと思います」

 あいまいな笑みを浮かべて、女神官はごまかした。

 まだ昼間のギルド内は、気の早いやつらの酒盛りでにぎわっている。戦闘時を除けば、もともと冒険者に昼夜の別はない。そして詩人たちも、その気の早いやつらの一味であった。

「ところで、その、ゴブリンスレイヤーさんは?」

「なんかさっき、手紙を持って受付さんのところに歩いていったよ? あれは恋文だぜきっと」

「こ、恋文っ!?」

「そうさ。そりゃもう、熱烈なファンレターで」

「ゴブリンを退治してくださーい、ってか?」

「そうそう。よくわかってるじゃないかよ鉱人のくせに」

「あれれ? なーに焦っちゃてたのかなー?」

「そ、そんなんじゃありませんっ!」

 このこのっ、と妖精弓手にからかわれ、女神官はぷいと顔を反らした。

 そのたまたま逸らした視線の先に、ゴブリンスレイヤーがいる。

「あ、ゴブリンスレイヤーさん」

 こっちです、と手を振り招く。

「ゴブリン退治だ」

 こいつの言葉はいつもこれだ。それ以外は「ああ」とか「そうか」とか、そのくらいしか聞いたことがない。

「報酬は一人金貨一袋。来るのか、来ないのか、好きにしろ」

 どっかと腰を据えたゴブリンスレイヤーは、短い言葉でそう締めくくる。

「……だいたい、わかりました。わかっていたつもりですけど、わかりました」

 こめかみを押さえて、女神官は頷いた。

「あなたの行動にいちいち驚いていては身が持たないということが」

「今さらかい」

「そうか」

「律儀だねぇ君も、わざわざ答えるとか」

「前にも言いましたが、選択肢があるようでないのは、相談とは言いません」

「選択肢はあるだろう」

「一緒に行く行かないは選択肢とは言いませんっ」

「そうなのか」

「そうなんです」

「……ふむ」

「そこで不思議そうに首を傾げるところが君らしいよね」

「そうか」

「てか、行かないって言ったら一人で行くつもりだったでしょ?」

「当然だ」

「だろうね」

「ま、わしらにも相談するだけ、かみきり丸も柔らかくなったものよ」

「良き傾向でありましょうな」

「では、私たちも好きにします。ついていきますね」

「構わん」

「小鬼たちは数が多い……呪文使いも多いほうが良いでしょうな」

「詩人さんもそれでいいですよね?」

「そもそも僕は、いつだって好きにやらせてもらっているよ」

 投石杖に吊るした天鵞絨の布を揺らして、ふふんと笑う。

「それがオーガをやったあの顛末ってわけじゃが……」

「あんたもたいがい、オルグボルグに毒されているわよねぇ」

「失礼だね。僕は生まれてからずっとこうだよ」

「そっちのほうが問題がありましょうや、と拙僧は思うわけですが……いや、言っても仕方のないことですかな」

「本当に失礼だね?」

「言っておくけど、あんたたち、ゴブリンに火責めを使うとか、禁止ね」

「どうして僕を含めるのかな?」

「駄目よ」

「聞いてる?」

「水責めもですよ?」

「水もか」

「ねえ?」

「毒気もなし!」

「毒もか……」

「僕の扱い、ひどくない?」

「当たり前でしょ?」

「ちょっと????」

「しかたあるまい……」

 どこか気落ちしたように、ゴブリンスレイヤーが言葉を返した。

 

 

「大きかったね」

「不謹慎ですよ」

「いや、だって、ねぇ? だろう? お姫様?」

「なんで私にふるのかしら?」

「つれないこというなよ。僕ら仲良し金床同盟だろう?」

「急にあんたとの縁を切りたくなったわ……」

「ははは」

 人を喰ったように笑う。

「それにしても、ずいぶんゴブリンがいるものだね。持つかな、僕の石弾(ストーンブラスト)

「そりゃ石弾(ストーンバレット)じゃろが」

「ははは。十分に熟達した技術は、魔法と見分けがつかないものよ?」

「マネしないでよ」

「がっはっは、似とる似とる!」

「似てないってば」

 妖精弓手がゴブリンに突き刺さった矢を回収する。

「言っとくけど、ゴブリンの矢は使いたくないからだからね。別にゴブリンスレイヤーのマネじゃないんだから」

「うんうん、分かってる分かってる」

「本当にわかってる?」

「だから僕のこれも、別に君やゴブスレくんのマネじゃないんだから、なんてね」

 言って、まだ使えそうな石弾を拾い上げる。幸運にも、そこそこの数を回収できた。

「それにしても、気が滅入ってくるよ。もう五回目だろ? ゴブリンとの戦闘」

「気が抜けないわよねー……」

「迷宮都市の冒険者なぞは、これが日常だと聞きますがな」

「まったく、いつまで続くんだか……」

 屈強な蜥蜴僧侶ですら、思わず愚痴を漏らすほどだ。女神官も、その表情に緊張の色が濃い。足取りも、どこか不確かだ。

「ここは石壁だ。壁を抜いての奇襲はないだろう」

「……嫌なことを思い出させないでください」

「悪かった」

「これだけゴミが多いなら、臭い消しは必要なかろ」

「……嫌なことを思い出させないでくださーい」

 妖精弓手が女神官のマネをして答える。

「……ん」

 不意に彼女はその長耳をせわしなく上下に動かし、点を仰ぎ見た。

「なんか変な感じが――……地下水路で、雨?」

「多分雨が振っとるのは上だの。排水溝だの運河だのから、こっちに回ってくるんじゃ」

「水が溢れないといいけれど」

「光源が消えればこちらが不利だ」

 ゴブリンスレイヤーは忌々し気に松明を捨てて、角灯(ランタン)を取り出す。

「角灯のほうが両手が空いていいんじゃないかい?」

「割れたらしまいだ。松明なら武器になる」

「なるほど。君はやっぱり、おもしろいね」

「そうか」

「うん。考え方が、僕の旦那に似てる」

「そうか」

「てか、え? あんた結婚してたの!?」

「そりゃあもう円満夫婦さ。毎晩毎晩、俺の嫁は可愛い、俺の嫁は可愛いって」

「うっそでしょ!?」

「ほほう……して詩人殿。いつの間に逢瀬を重ねていたのですかな? 拙僧ら、同じ宿とはいえ一度もお会いしたことがなく」

「夢の中でね」

「だと思いましたとも」

「あんたねぇ……!」

「ははは」

 

 

「――何かくるわ」

 長耳が世話しなく上下に動くと、妖精弓手が矢筒に手をかけた。

 雨の向こう側、水煙が薄く靄となった水路の彼方へと、全員が目を凝らす。

「ゴブリン!」

「の!」

「船!?」

 次の瞬間、船上のゴブリンは手製の弓を弾き絞り、放つ。降り注ぐ藪須磨はてんでバラバラではあるが、雨のごとく狭い空間を覆い尽くす。

「≪いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の御力でお守りください≫……!」

 女神官の【聖壁(プロテクション)】がそれを遮った。

「あまり長くは……!」

「十分だ」

「どうするの?」

「決まっている、いつもと変わらん。ゴブリンどもは皆殺しだ」

「なら僕にお任せあれ、だ」

 ずいと前に出ると、朗々と歌い上げる。

「ちょ、それ――!」

「そぉら、【霊壁(スピリットウォール)】!」

 妖精弓手が止めようとしたが遅かった。船上を縦に分断するように、火の壁が現れる。それは木造の船の上で、チリチリとゴブリンの肌と甲板を燃やしていく。いかに水の上に浮かんでいるとはいえ、呪文の炎で炙られてしまえばひとたまりもなかった。

「おっけー、これで沈む」

「私火責めは駄目って言ったわよね!?」

「火責めじゃないよ。船の上なら【霊壁】の炎を避けられないから、ゴブリンを倒すのに都合がいいなと思っただけで、船は偶然燃えてしまったんだ。よしんば狙ったとしたら、【火矢(ファイアボルト)】で燃えたゴブリンが船の上にいたら同じことが起きたはずだぜ? つまりこれは不可抗力で、僕は悪くない」

「なるほど」

「オルグボルグに余計な知恵を与えちゃダメでしょ!? ゴブリンみたいなやつなんだから!!」

「そうだな」

「君もそこで納得しちゃダメじゃないのかな?」

「かまわん」

「そうかい」

 鉱人道士が「勘弁してくれぃ……」とぼやいて、酒瓶の栓を抜いた。

「白粉のがやんちゃするのはいつものことじゃろ」

「ははは、白粉って言ったの許さないからな?」

「とにかく……少し休みませんか? みなさん、ちょっと消耗しているようですし……」

「いや」

 ゴブリンスレイヤーが首を横に振る。

「すぐに動くべきだ」

「同感ですな。手早くことは終わらせましたが、小鬼めらずいぶん騒々しく沈みましたからな。雨で音が妨げられているとはいえ……」

 他の者が感づいているやも知れぬ。その言葉が続くことはなく、ぱしゃり、と水の跳ねる音がした。

「……小鬼から逃げて狼に捕まるのはゴメンよ」

「ずいぶん古いことわざをもってくるじゃないかお姫様」

「なんか来たわよ白粉森人!」

「おまえお姫様とはいえ限度があるからな!」

 二人の長い耳が上下に揺れる。

「ゴブリンか」

「ちっげーよ!」

 その焦り具合に身がまえた冒険者たちは次の瞬間、濁った水から突きだす巨大な白い顎を目撃した。

「AAAAARIGGGGGG!」

 冒険者たちはなんの躊躇もなく戦略的撤退を選ぶ。

「あれはゴブリンではないな……」

「見れば分かるでしょ!?」

「君はじつに馬鹿だな!」

「まさか沼竜がいるなんて……!」

「鱗の! あれはお主の親戚じゃろ!?」

「あいにくと拙僧、出家してよりこのかた親戚づきあいなどないもので!」

「鉱人を食べさせてその間に逃げましょう! きっと食あたりを起こすから!」

「賛成だぜお姫様! 鉱人には寄生虫がうじゃうじゃいるそうだからね!」

「ぬかしおる!」

「前からもなにか来る――またゴブリンの船!? それも複数!!」

「あんまり僕走りたくないんだけど! また【霊壁】で燃やしてやろうか!?」

「燃やすってあんたやっぱり燃やすつもりで――!」

「……この先に脇道はあるか?」

「ちょっと!? 何を思いついたのか知らないけれど、毒気とか燃やすのとかは……!」

「しない」

 

 

 目の前でゴブリンどもが沼竜の腹の中に消えていく。その沼竜の尻尾には、女神官の唱えた【聖光(ホーリーライト)】がかけられていた。

「やつら、沼竜を冒険者と勘違いしよったわ」

「奴らは、冒険者が明かりをつけて移動するもの、と学習している」

「そうなの?」

「そうだ」

専門家(ゴブスレくん)の言うことだし、そうなんだろうね」

「調べて、研究したからな」

「なるほど」

「毒気も、火攻めも、水攻めもできないのであれば、この程度が関の山だ」

「十分でしょ」

「……気に食わん」

「何よ、切り抜けられたからいいじゃない」

「違う」

 忌々しいとばかりに履き捨てる。

「奴らは略奪民族だ。ものを作るという発想自体を持たん」

「つまり?」

「奴らは船に乗っていた」

「……誰かが船について小鬼ばらに教えた、っちゅうことか」

「でも、それだけならまだ、シャーマンとかが、思いついたのかもしれませんし――」

「かもしれん。だが、奴らがここで自然に増えたのだとすれば、なぜあの……なんだ」

「沼竜ね」

「そうだ。アレの存在を知らないのだ? 知っていれば、船を用いるなどとは思わんはずだ。奴らは、臆病だからな」

 ふぅーん、と詩人は考え込む。

「人為的な小鬼禍(ゴブリンハザード)、とでも言いたいのかな? 君は」

「そうだ」

「マジかよ……」

 詩人はため息をついて、頭を抱えた。

「君とのゴブリン退治は、いつも何かしら裏がある気がしてくるよ」

「俺のせいではない」

「そうだろうけども……」

「いずれにしろ、準備が足りん。呪文も消費した……なら、戻るぞ」

 ゴブリンスレイヤーがした一時撤退の提案に、誰も否とは答えなかった。

 

 

「で、それは何なわけ?」

 翌日、再び地下へ降り立った妖精弓手は、腰に手を当てゴブリンスレイヤーを見やる。

「……? 鳥を知らんのか」

「知ってるわよ!」

「カナリアだ」

「だから、知ってるってば……」

「たぶん、どうして小鳥を連れてきているのか、知りたいんじゃないかな?」

「だって小鳥よ? 気にならない? 例の巻物(スクロール)みたいに、触ったら大参事~とかじゃないでしょうね?」

「小鳥が人を殺せると思うのか」

 妖精弓手の耳が大きく跳ねて、鉱人がくつくつと笑いを漏らした。

「カナリアは少しの毒気で騒ぐんだって、僕の旦那が言っていたよ」

「よく知っているな」

「彼の故郷でね、邪教徒が地下で毒気を使った事件があったんだって」

「ちなみに小鬼殺し殿は、どこでその知識を?」

「炭鉱夫だ。世の中、俺の知らない知識を知っている奴のほうが多い」

「そうともそうとも。だから君も、もう少しみんなと会話をするべきだぜ?」

「しているじゃないか」

「君のそれは会話とは言わない」

「……そうか」

「じゃあ、油断しない範囲で、なにか適当に話しながら行こうか」

 詩人は杖の先で、地下の奥を示した。

 

 

「――ねぇ、下着って必要あるのかしら?」

「急に、何を言いだすんだい。お姫様」

「前にオルグボルグに聞いたけど、『俺に聞くな、詩人にでも聞け』って」

 カナリアの籠を手に、先頭を進むゴブリンスレイヤーを睨む。

「僕もよくわからないかな」

「そーよねぇ?」

「僕の旦那はつけてないほうが好みみたいだしね?」

「あんた、変な薬やってないわよね……?」

「ははは」

「否定しなさいよ?」

「気を引き締められよ、各々方?」

「ほら、怒られたじゃないか」

「あんたのせいでしょ」

「ははは」

「あんたって、よく笑ってごまかすわよねぇ……」

「そんな性格しとるから、妄想の中でしか結婚できないんじゃないのか。白粉の」

「おまえぜったいに許さないからな?」

 言い合っていると、閉ざされた巨大な木製扉の前につく。

 明らかに、なにがしかの魔術がかかっている扉だ。この湿気の多い地下で、腐りも痛みもしていない。劣化しているのは鍵穴くらいのものだからだ。

「まずはこの部屋、ですね」

「頼んだぜお姫様」

「はいはい、っと……鍵はかかってないわね。罠もなさそう。本職じゃないから、恨まないでよ?」

「白粉って言ったことだけは恨むけどな!」

「行くぞ」

 ゴブリンスレイヤーが玄室の扉を蹴破る。

(ゴブリン)が出るか(デーモン)が出るか。ああ、幽霊(ゴースト)かもしれないけれど……」

「見て!」

「なんてひどい……!」

「……現れたのが囚われの騎士とは、さすがの僕も驚きだよ」

 玄室の中央、そこで晒しものにされているかのように、大きく両手足を広げた誰かが縛り上げられている。ぐったりとうなだれているその人物は、長い金髪の女性であるらしい。くすんだ色の金属鎧を纏っていた。

 女神官はさっと囚われの女騎士へと駆け寄ろうとして、

「な、何です?」

 ゴブリンスレイヤーに引き止められる。

「見ろ」

 言うや、その女騎士の髪がずるりと落ちた。

「これは……!」

 そこに、白骨となった髑髏があった。頭に大きな穴が開いている。おそらくは、頭を殴られて殺されたのだろう。してやられたと思った瞬間、背後で玄室の扉が閉じた。

 

 

 金糸雀がけたたましく騒ぐ。

「毒気……!」

 玄室の隙間から、扉の向こうから、ゴブリンどもの甲高い嘲笑が聞こえる。無駄なあがきだと、悪辣な考えの詰まった小さな怪物たちがあざ笑う。

「ダメ、他に出口は見当たらない!」

「これはいかぬな、一網打尽とされてしまうぞ」

「毒気で死ぬとも限らんが、碌な目にはあわんじゃろうな……」

「落ち着け。俺たちはまだ、生きている」

「そうさ。こんな時こそ、お姉さんにお任せあれ、だ」

「手があるのか?」

「ちょいと二手、頂戴な」

 ゴブリンスレイヤーは、頷くように雑嚢を漁る。二手欲しいと言った彼女の鼻先に、取り出した黒い塊を突きつけた。

「これは?」

「手拭いで包んで、口と鼻を覆え」

「これは――なるほど、炭かい」

「知っているなら早くしろ。多少は毒気を防ぐ。二手ぶんにはなるはずだ」

「用意周到だね」

「毒気がわかっても、防げないのでは意味がないからな」

「なるほど。カナリアを連れていただけはあるわけだ」

「急げ」

「はいはい」

 手ぬぐいに炭を包んで口元を覆う。ゴブリンスレイヤーは全員分用意してあるとばかりに、雑嚢からさらに布と炭を取りだして行く。

「拙僧も手伝おう。あまり毒気は効かぬ故」

「頼む」

「急げよ白粉の!」

「ほんっと許さないからな!?」

 詩人は投石杖を握りしめ、構えた。

「≪掲げよ燃やせや松明持ち(ウィル・オ・ウィプス)。沼地の鬼火の出番ぞな≫!」

松明持ち(ウィル・オ・ウィプス)!? 火の自由精霊(フリースピリット)なんか呼び出してなんになるのよ!!」

「だから二手欲しいって言ったんだ。いいから目ぇ見開いてお姉さんの活躍を見とけよ! ≪魔術(マギナ)……結束(ノドゥス)……」

「【力場(フォースフィールド)】か!」

 鉱人道士がその呪文を聞き、何をするつもりかを理解する。

 わかっているじゃないか鉱人、とばかりに詩人はにやりと笑った。

「白粉のの周りに固まれぃ! 締め出されるぞ!」

「……生成(ファキオ)≫!」

 半球状の【力場】が、玄室の壁沿いに展開される。鉱人が想定するよりもはるかに巨大なサイズの障壁が、外と内とを完全に分断した。

「ふふん、どやぁ。これがお姉さんの実力だぜ?」

「ふつう自分で言う……?」

「いやはや鉱人殿もそうですが、詩人殿もずいぶんと手管が多い」

「にしちゃ壁の呪文が多くないか? 白粉だけに漆喰かぁ?」

「おまえだけ外に放りだしてもいいんだからな?」

「おお、怖や怖や……」

「どれくらい持つ?」

「ゴブリン程度なら大丈夫だろうけど、それ以上は難しいね。思いっきり殴られたらパリンと割れるよ」

 ゴブリンスレイヤーはしばし考える。上位種か、あるいはゴブリンに知識を与えたなにがしかがいることは予想がついている。

「石櫃を動かして阻塞にする。毒気が収まれば奴ら、突っ込んでくるぞ」

「そうだろうね」

 だからこそ、と。

「――松明持ち(ウィル・オ・ウィプス)か」

 詩人はにやりと笑う。

「まとめて燃やすつもりさ。まさか火責め水責め毒気はナシ、とか言わないだろうね?」

「やっぱりあんた白粉森人だわ」

「なんだとーぅ!?」

 

 

 そこはさながら、礼拝堂のような場所であった。

  石櫃の奥から続く階段を下り、その末端から登りに転じた、その果ても果て。小ぢんまりとした室内には石から掘り出された長椅子が並び、奥には祭壇。そして水面のごとく奇妙に揺らめく、姿見のような大鏡が壁に埋め込まれて掲げられている。

 まるで神殿、あるいは聖域と呼ぶべきだろうか。

「なん、です、か。あれ……」

「ゴブリンではないな」

「君はじつに馬鹿だな。見ればわかるだろ?」

「わかんない……けど、目玉、だと思う」

「見るからに混沌の眷属でありましょうや」

「なんか知っとるかいの? 漆喰娘」

「温厚な僕だってマジで怒るんだかんな?」

 詩人はその怪物の姿をまじまじと見る。

 床からわずかに浮遊し、幾何学的な瞳をぎょろりと血走らせている。その眼球をつつむ瞼と形容すべきか、そこから幾本かの触手を生やし、その触手の先にもまた小さな眼球があった。

 まさに目玉の怪物としか形容のしようがない。詩人はその怪物を「知らない」と言おうとして、はたと思いだす。

「そういえば、なにかで読んだことがあるな……」

「ほう」

「……邪眼の怪物だ。名前を呼んではいけないたぐいの」

「名前なぞ、大目玉でかまわん」

巨大な目玉の怪物(ビック・アイ・モンスター)、略して大目玉(ベム)ってのはどうじゃ?」

「いい名前があるぜ? 土下座衛門だ」

「異国風の名前ですな」

「もっと()()()名前にしなさいよ」

「ははは。……冗談はさておいて。睨まれると呪文が使えなくなるぜ?」

「ええっ!?」

「おいおい、わしらは石でも投げとけっちゅーことか?」

「視界を遮ればいい」

「魔法の視界を得る邪眼もちだぜ? こっちの視界が遮られるだけだし、しまいにゃ分解光線が飛んでくるよ? 喰らったらチリも残らないさ」

「なんちゅー怪物じゃ……」

 さてどうする、と腕を組んで考え込む。円陣を組んでアイディアを出していくが、どれもが詩人に却下されていく。

「目玉だけならなんとかやれそうなんじゃがなぁ……さっき逃がしたゴブリンもいるときたもんだ」

「しかもあの鏡、どうやら魔法のアイテムみたいだぜ? おそらく≪転移(ゲート)≫の。下手したら数十匹と湧いて出るぜ?」

「なによそれ、矢が何本あっても足りないじゃない」

「何か手はないものですかな? 小鬼殺し殿」

「……手段ならある」

 しばし考えて、ゴブリンスレイヤーは断言した。

「なんだよゴブスレ君、もったいぶっちゃってさ。あるなら早く言ってくれよ」

「確認するが、ここはもう街の外でいいな?」

「と、思うがの。結構歩いたし、感じとしてもだいぶ離れとるじゃろ」

「詩人」

「はいはい」

「あいつはゴブリンではないな?」

「何する気か知らないけれど、ゴブリンでないことが重要なのかい?」

「ああ」

 ゴブリンスレイヤーははっきりと断言した。

「ゴブリンじゃないよ」

「そうか」

「囮か何かが必要かい? 【幻影(ビジョン)】がある。効果のほどはどうだか、わからないけどね」

「いらん」

 雑嚢をまさぐって、一歩前へ。

 手に取りだしたるは一本の巻物(スクロール)だ。

「……呪文封じの邪視って巻物もアウトだっけ?」

「まだこちらに気付いていないなら関係あるまい」

 ゴブリンスレイヤーはそのスクロールを、大目玉めがけて発動させた。

 

 

「――火責め水責め毒気はナシ、って私言ったわよね!?」

 鏡の向こうのゴブリン諸共、≪転移≫の巻物によって噴き出した海水によって千々に切り裂かれて吹き飛んだその礼拝堂に、妖精弓手の怒声がこだまする。

「まぁまぁ、お姫様。あれしか手がなかったんじゃあ仕方ないんじゃないのかい?」

「視線が向けられていない隙に呪文で天井を崩して潰すか、あるいは奴の身動きがとれん通路におびき寄せ、弓矢を射かける方法もあった」

「ほら、これよりマシだろう?」

「だが身動きのとれん通路があるとも限らんし壊して進むかもしれん。天井を崩せば俺たちも生き埋めになるかもしれなかった。確実な手は、これしかなかった」

「失敗して生き埋めになるよりはマシだろ?」

「それに、俺が禁止されたのは“ゴブリンに”火責めや毒気を使うことだ」

「あー……んー……なるほど?」

 そういえば、そんな約束だったな。これは旗色が悪いや、と。詩人は視線を泳がせた。

「あの目玉と、あわよくば鏡を壊せれば良いと思っていた。残念だが、鏡のむこう側のゴブリンに当たってしまったようだが」

「ほらぁ! あんたの悪知恵うつっちゃったじゃない!」

「僕は悪くないだろっ!?」

「そんなんだから白粉森人とか言われるのよ!」

「また言った! 今度の今度こそ許さないからな!? 僕ぁ訴えるよ、そして勝つよ!?」

「どこに訴えるつもりよ!」

「君の姉上様」

「ちょ、それ卑怯でしょうよ!? ねぇ様は関係ないでしょうよねぇ様は!!」

「ひとを白粉呼ばわりするからだろ! 手段を選んでやらないだけだよ!!」

 ぎゃーのぎゃーのと騒がしく、森人ふたりが言い争う。

「いやはや、三人寄れば姦しいと申しますが……」

「二人でも十分騒がしいのぉ」

 やれやれ、と。

 蜥蜴僧侶と鉱人道士が互いに肩をすくめた。




白粉塗ってそう(ダークエルフみたい)
 悪いこと考えるエルフへの最大限の侮辱になるんじゃないかな?
「鉱人には寄生虫がうじゃうじゃ」
 圃人はこれの料理が得意だとかなんとか。

 2021/01/11_誤字修正しました


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ある冒険者たちの結末

俺の嫁が可愛いので初投稿です。


 ゴブリンにガツンと一発喰らわせるRTA、はぁじまぁるよー!

 

 それでは前回の続きから。水の都の地下水路で見つけた鏡をコンクリ詰めにして水路にドボンしたところですが、あとは報告に戻ることくらいしかやることがありません。いちおうゴブリンの残党はいるっぽいので、遭遇(エンカウント)したら倒す程度の気持ちで進みます。

 

 神殿に戻ったら剣の乙女さんへのといつめイベントですが興味がないので道具類を補充するなどして時間をつぶしましょう。ここで広場でアイスクリンが売っているので、原作ゴブスレさんの代わりに聞いておきます。アイスクリンの情報があると帰りの馬車で蜥蜴僧侶さんの可愛い姿が見れますし、ゴブスレさんにも情報を渡せて好感度を上げることができますのでうまあじです。

 ではさっそく辺境の街に戻りましょう。途中槍ニキと魔女さんが乗った馬車とすれ違いますので急いで呼び止めましょう。ここですれ違ったままにすると槍ニキが若干不機嫌になりますので要注意です。

 そしてギルドに戻ってきて報告を済ませたら、最後の稼ぎ時です。難しい依頼はなるべくポイして効率重視で行きましょう。時間的にもイベントが発生しそうになったら依頼の中断も視野に入れましょう。

 

(疾走詩人疾走中……)

 

 はい、途中で青玉の昇級審査が入ってしまったので依頼を途中で中断しましたが、ひとまず満足いく程度の経験点は入手できました。

 それでは最後のレベルアップ作業ですが、精霊使いを6レベルに、魔術師を3レベル、野伏を2レベルに上昇させます。技能は【精霊の愛し子】を熟練へ、新たに【統率】を取得し【速射】と共に習熟へ。呪文はかなり凶悪な【燦光(イルミネイト)】と、手数を増やすための【分身(アザーセルフ)】を覚えましょう。アイテムは上質な触媒を中心に揃えました。

 

 朝のレベルアップが終わって二階からギルドへ降りてくると、ちょうどゴブスレさんが槍ニキに小鬼の王(ゴブリンロード)の話をしていました。なんとかタイミングよく間に合いましたね。

 いやー、それにしてもこのときの兄貴はカッコイイですねぇ……ん? いまなんでもするって言ったよね? それじゃあまずは……っと、アホなことを言っている場合ではありませんでした。せっかくのいいシーンなので詩人さんにも決めてもらいましょう。

 えーっとセリフはどうしようかな……けっこうあるな……うん、「僕は“いっぱい”奢ってもらっちゃおうかな?」にしておきましょう。なんであそこで一杯だけに限定したんでしょうかねぇ。んもー、槍ニキは詰めが甘いんだからもー。

 それではあの名シーンが始まりますよ? 皆さんご一緒に。

 

 冒険者(アドベンチャラー)に任せとけッ!

 

 宣言と同時に「依頼:牧場防衛戦」の受領が確認されました。今回のクエストで配られた因果点はなんと「8」! 難易度的には「非常に困難」に分類されます。つまりこれまで通りバカスカ因果点でぶん殴るのが難しくなりました。通常の判定ではできるだけ温存していきましょう。

 ここで大成功判定で防衛戦をクリアする必要がありますが、詩人ちゃんは【統率】を育てているのでモブ冒険者たちに指示を出す現場監督に近いことをやってれば大丈夫です。襲撃は夜なので魔法は絶対に温存しなければいけません。

 

 夜になりました。モブ冒険者が気付いて声を上げると、ゴブリンが肉盾を用意してきました。第一フェーズの開始です。

 詩人さんは【酩酊(ドランク)】を持ってますが魔女さんと鉱人道士さんにお任せします。あの人らほど呪文の使用回数に余裕がないからしょうがないです。詩人さんは屋根の上に隠れておき、肉盾が回収されたら【使役(コントロールスピリット)】を詠唱しましょう。召喚するのはもちろん火の自由精霊(フリースピリット)です。

 そうしたら【統率(習熟)】で詩人さんを支援させ「呪文行使判定+3」を受けます。そうしたら【分身】を唱えましょう。成功には期待値7以上が必要ですが因果点でぶん殴ります。どちらも失敗する確率はおおむね2割以下なのでだいたい成功します。祈りましょう。

 はい、無事因果点を使わずに【分身】が召喚できました。これは詩人さんの完全なコピーです。呪文の使用回数はもとより持ち物も全部コピーされていますので、二人で一緒に投石杖(スタッフスリング)を使って【速射(習熟)】で攻撃していきましょう。【速射】を使うと詩人さんひとりで2体同時、あわせて4体同時に攻撃できますが命中にペナルティを受けます。このために石弾(ストーンブリット)は大量に用意しておいてください。これがないといくらゴブリンとはいえ若干当てづらくなります。

 

 第二フェーズのゴブリンライダーが出てきました。槍衾を持ちあげた瞬間にコピー詩人さんに【使役(コントロールスピリット)】を詠唱させます。召喚するのはもちろん火の自由精霊(フリースピリット)です。こいつは10分しか持たないためさっさと【熱波(ヒートウェイブ)】を使わせます。もちろん本物詩人さんの自由精霊とダブルで。ダメージを負ったゴブリンが新米冒険者たちに横取りされますが仕方ないです。少なくともダブル【熱波】でゴブリンがドロドロ溶けていきますのでゴブリンの討伐数100匹以上は余裕で達成できます。ですが念のため負けずに詩人さんダブルの【速射】で頭をかち割っていきましょう。

 

 第三フェーズに突入しました。アニメルートなので固まって出てきてくれます。ここからは小遣い稼ぎの奴らは出てくるなと言うだけあって、チャンピョンが3匹にホブゴブリンが手下のザコあつかいで20匹、ゴブリンに至っては無限湧きです……プレイヤーの介入があったとはいえチャンピョン3匹はちょっとマズいんじゃないですかねぇ……?

 槍ニキと重戦士ニキが2匹を引き受けてくれるので、我らが詩人ちゃんは残る1匹を仕留めていきましょう。

 ちなみに即殺する案として【泥罠(スネア)】からの【隧道(トンネル)】という案がありましたが、ロケハン時に地下水脈があると殺せないという弱点が判明しました。なお殺し方としては開発陣も想定していたらしく、Q&Aにもきちんと記載されていた方法なので違法性はありません。うまく決まれば「25d6」というアホみたいなダメージが発生します。期待値で87.5点です。ドラゴンも死ぬんじゃないか? 奴は飛ぶけど。

 

 では今回組んだチャートをお見せしましょう。

 まずは分身に【泥罠(スネア)】を使わせ転ばせます。このさい【統率(習熟)】があるので【熱波】を中断させて自由精霊に支援してもらいます。これで呪文行使判定に+3され、ついでに上質な触媒を使いさらに+1、【精霊の愛し子(熟練)】で+2です。詩人さんの魂魄集中は6で、精霊術は6、基準値で18になったのでチャンピョンの抵抗値など軽くぶち抜けます。

 問題は向こうが大成功(クリティカル)にならないことを祈りまして――はい、全員転倒を確認しました。なお試走時に詩人ちゃんがうっかり大成功しちゃったせいで槍ニキたちが巻きこまれ、瀕死になるという事故がおきていますが気にしてはいけません。

 続いて転倒したチャンピョンに本体詩人さんで【力球(パワーボール)】を当てましょう。当然ながら上質な触媒を用いた上で支援効果を受け、基準値を18までガン上げします。【力球】はかなり特殊な魔法で、抵抗を抜けば装甲を無視した「達成値」点のダメージをぶち込むという凶悪な呪文です。ほとんどの呪文で装甲が有効なシステムのため、精霊術の単発火力としては最高クラスの一つだと考えられます。

 チャンピョンの生命力は26点なので、8以上が出れば確殺です。8以上が出る確率は4割なので祈れば出ます。出なければもう一回当てればいいです。

 それではささやき、いのり、えいしょう……念じて、

 

 これでもくらえっ(Take That, You Fiend)

 

 ダメージは――……ファッ!? 0点!?!?

 あ、いや、周りのゴブリンやホブは消し飛んでます。さてはコイツ呪文抵抗判定で大成功出しやがったな!? い、いやいや落ち着け落ち着け……呪文使用回数は分身含めてまだ3回残ってます! なんなら限界突破(オーバーキャスト)を叩きこんでやってもいいです。

 では転倒したやつが起きあがってまた転倒しましたのでもう一回当てます。やれぇい分身詩人さん! 今度は大成功出されても問答無用にぶち殺すため因果点をぶち込みます。オラァ! これでもくらえっ(Take That, You Fiend)

 よーしよし適応ダメージ30点、これでこいつも――ファッ!? なんで1点残ってるんです!? え、強化個体? 体力点+5? マジかよ!? いや、落ち着け俺。それでも奴は瀕死だからな。

 ハイエナみたいに横から掻っ攫われないうちにもう一発キャストします。因果点コミコミでぶん殴ってやる! これでしまいだこのやろう!!

 

 これでもくらえっ(Take That, You Fiend)!!!

 

 ――……はい、工事完了です。ゴブリンチャンピョンが消し飛び、トロフィー「小鬼殺し3号」を取得できたのでタイマーストップです。

 記録は……1613時間44分32秒ですね。アニメルートで余計な移動やクエストが発生したぶん遅くなったようですが、呪文使い系チャートでは私が暫定1位です。全RTAでよしんば私が3位だとしても、私が暫定1位です。

 

 完走した感想ですが呪文使い系チャートだと前衛がいないと狙われた時が非常に困りますね。呪文の効果の理解力が足りないとダメですし、最後みたいに敵の呪文抵抗判定の大成功などであっさり崩れる可能性もあるとなると、やっぱりゴブスレさんみたいに相手に賽子を振らせない呪文を使うのが一番でしょう。そして火力呪文だと殺しきれないときに殺される可能性が跳ね上がるので、基本は足止めがオススメだと感じました。

 なにより一番困ったのが【泥罠】の効果が敵味方識別なしのくせに床が土である必要があったり空飛ぶ相手には無意味だったりととにかく使いづらい点でしょう。もちろん一度敷いてしまえば呪文維持の必要がなくて5m移動する毎に抵抗判定を強制する足止め能力はかなり強力でしたが。今後新人冒険者たちには投石紐(スリング)と石の用意を義務付ける必要がありますね。青空訓練は第6巻でしたか。

 あとは女神官ちゃんの【聖壁(プロテクション)】がかなり汎用性が高すぎてヤバいです。ゴブスレさんの一党(パーティ)にタンク役がいないのはたぶん彼女のおかげでしょう。実のところ詩人さんに覚えてもらった呪文に壁系が多いのもそのあたりからヒントを得たためです。今回使用した壁系の用途としては、

 

 【霊壁(スピリットウォール)】……攻撃ができる盾。氷属性や風属性だと視線が通る為、投射でない魔法を一方的に当てることも可能。デメリットとしては効果時間が他の壁と違って短い点と、土属性なら上位互換に真語呪文の【石壁(ストーンウォール)】が存在すること。オーガ戦で使用した。

 

 【力場(フォースフィールド)】……完全に隔離し安全圏を作りだすための壁。物理的に遮られているため毒も通さないので玄室で使用した。呪文維持が必要だが【聖壁】と違って達成値での比べ合いがない。しかし、一方的に攻撃することができない、効力値によって耐久力が変わり、【霊壁】のように装甲がないため高火力呪文にはやや弱いなどのデメリットがある。オーガの呪文に対抗するための候補に上がったが、少なくとも効力値25以上が必要と分かったため断念した。

 

 といった感じでした。

 ちなみにゴブスレさんのクエストに同行すればゴブリン討伐数を簡単に満たすことができると思われるでしょうが、詩人さんみたいに直接戦闘能力が低い場合、そんなにゴブリンを殺せない場合が多いです。当たってもダメージが低く、ゴブスレさんにカウントを横取りされる場面が多々ありました。まるでスパロボのランカスレイヤーさんみたいですよ。

 

 では、名残惜しいですがこれでお別れです。御視聴ありがとうございました。

 

 また別のRTAでお会いしましょう。




 【分身】によるダブル【使役】はQ&Aの記述を見るにOKみたいです。ようするに新しい駒を増やす呪文なので。


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ある冒険者たちの結末【裏】

 2021/01/11_誤字修正しました


 金貨が一枚か二枚あれば、一ヶ月は暮らせてしまう。

 それが一袋、テーブルの上に置かれている。たった数年程度の金銭ではあるが、街での暮らしもそこそこ慣れて来た詩人はいまだに実感がわかず、預けることもしなければ使うこともしていない。

 そんな彼女の首には、いつの間にか青玉の身分証がぶら下がっていた。

「……家でも買おうかな」

 ふと、そんな言葉を漏らす。

「いや、でもなぁ……うーん……」

 

 

「――って、わけだけど。どう思うかな?」

「なにそれ嫌味?」

 付き合いも長くなってきた魔術師がため息をひとつ。

「好きにすればいいじゃない」

「いや、だって、家だぜ? 愛しい人といずれ暮らしていく愛の巣だぜ?」

「はいはい、脳内旦那ならなんでも“イイネ!”って言ってくれるでしょうよ」

「脳内じゃねーよ」

「でも会ってるのは夢の中でしょ?」

「そりゃあ、まぁ……今はね?」

「それを脳内旦那っていうのよ」

「君と僕とでこんなに意識の違いがあるとは思わなかった!」

 わりと真剣に相談したんだけどなぁー、と。詩人は待合スペースのテーブルへ突っ伏した。

「で、そんな悩める青玉サマは、まさかこんなくだらない相談のためだけに話しかけてきたわけ?」

 割と忙しいんだけど私も、と。

「ふぅ……ごめん、君にはまだ早かったかな……?」

「【火矢(ファイアボルト)】当てるわよこの四百歳児」

「なんだとーぅ!?」

「じゃあ年上ぽくなんか奢りなさいよ。こっちは万年金欠なんだからね?」

「嘘つけ、僕は君たちと冒険に出ることがあるけれど、あの報酬はそんなに安くないぜ? いったい何に使ってるんだい? 無駄遣いはお姉さん、感心しないな?」

「勉強のために決まってるでしょうが。こちとらアンタのせいで自信喪失中なんだから」

「おいおい……命短し恋せよ乙女、だぜ?」

「あー、はいはい。脳内旦那持ちはさすがちがうわー」

「しーんーじーろーよー!」

 きーきーうるさい、とばかりに手を振って、真新しい本を開いて読み始める。

「くそう、勉強し始めやがってー……どーにもこの街の只人(ヒューム)は年上を敬わない……」

「じゃあ敬いたくなるようなこと言ってみなさいよ」

「あ、聞いちゃう? ふうん、聞いちゃうんだ?」

「いいからはよ言え」

「ふふん、こないだ【分身(アザーセルフ)】覚えたぜ?」

「はぁ!? あんたなんてもの覚えてるのよ! あれめちゃくちゃ難しいじゃない!!」

「いやぁ、愛しい人がさ? おすすめしてくれたし……それに只人ってめちゃくちゃ持久力あるじゃん? 夜……大変かな、って」

 至極まじめな顔をして、二人がかりなら、と。

「……精神的なつながりがあったでしょ? 倍の負担にならないかしら」

「そんな! 愛しい人の罠だったのか!」

「しらんわ」

 もはや敬意の欠片もないとばかりに、適当にあしらい始める。

 

 

「すまん、聞いてくれ。頼みがある」

 いつもと違う雰囲気をまとって、ゴブリンスレイヤーが口にする。

 いつもならずかずかと無遠慮に受付へと行くやつが、しかし今回は、待合スペースの中心に無造作に踏み入ったのだ。

 低く静かな声で発した言葉は、そこにいた冒険者たちをざわめかせるのに十分だった。

「なにをやってるんだよ、ゴブスレ君……」

 彼の奇行には慣れてきたはずだったが、今回ばかりは理解ができないでいる。しかしその言葉は、他の冒険者のざわめきにかき消えてしまった。

「ゴブリンの群れが来る。村はずれの牧場にだ。時間はおそらく今夜。数は分からん……だが斥候の足跡の多さから見てロードがいるはずだ。……つまり百は下らんだろう」

 冗談ではない! 彼らのざわめきはより一層大きくなる。

 彼らのほとんどは、最初の冒険でゴブリン退治を引き受ける。だからこそ、誰も彼もがゴブリンの恐ろしさ――否、面倒くささを知っている。ましてや百匹。それも、魔力でも膂力でもなく、統率力に優れた変異種であるロードに率いられた怪物ども……それはもはや、ゴブリンの軍と呼んで差し支えないだろう。

「時間がない。洞窟ならともかく、野戦では手が足りん。手伝ってほしい、頼む」

 彼は、頭を下げた。しかし誰も、彼に言葉を返そうとはしない。

「おい……お前なんか、勘違いしてないか?」

 いや――槍使いの冒険者だけが、ゴブリンスレイヤーに言葉を返した。

「お願いなんざ聞く義理はねぇ」

 鋭い目でゴブリンスレイヤーを睨み、続ける。

「依頼を出せよ、つまり報酬だ。ここは冒険者ギルドで、俺たちは冒険者だぜ?」

 そうだ、そうだと野次が飛ぶ。

 彼は立ち尽くしたまま周囲を見回した。別に助けを求めたわけではない。

 二階のほうで妖精弓手が顔を真っ赤にして飛び降りようとして、鉱人道士らに止められていた。目の前の男と一党を組んでいる魔女は、つかみどころのない笑みを浮かべている。馴染みの受付嬢は慌てて奥へと姿を消し、疾走詩人は額を押さえて呆れかえっていた。

 そして彼は、自分が女神官を探そうとしていることに気付き――鉄兜の奥で目を閉じる。

「ああ、最もな意見だ」

「おう、じゃあ言ってみな。俺らにゴブリン百匹の相手をさせる、報酬をよ」

「すべてだ」

 そいつは迷うことなく、そうはっきりと言った。

 

 

「君はじつに馬鹿だな!」

 僕の背中を誰かが押した。押したのはきっと()()()だろう。詩人の胸には、そんな確信があった。

 ゴブリンスレイヤーが、命をも報酬に乗せた瞬間に、これ以上ない舞台を整えて。()()()はきっと、この瞬間を待っていたに違いない。

「銀等級がゴブリン退治だぜ? 相場が違うだろうよ」

「ど畜生め」

 このタイミングで口をはさむかこの白粉め、と。槍使いは詩人を睨む。

「お前の命なんぞいるか! ……後で一杯奢れ」

 相場だろうが、と。

「すまん。ありがとう」

「よせよせ! 退治してから言ってくれよそんな台詞は……!」

 槍使いが目を剥いて、ばつが悪そうに頬をかいた。

「……まったく、僕がいなけりゃどうなってたことか」

「どうにでもなってたんじゃない?」

「知ってるさ。ま、銀等級だしね」

 人がいいのは知っている。

 あとはタイミングの問題。

 だから()()()が押した彼女の背中は、もっとも最高のタイミングだっただろう。

「惚れ直すよ、愛しい人」

「それよりアンタ、報酬は()()でいいの?」

 魔術師の悪い顔に、詩人はにやりと笑い返した。

「じゃ、ふっかけにいってやろうじゃんか」

 傍らに立てかけた投石杖(スタッフスリング)を握りしめ、よいしょと立ちあがる。

「やぁやぁ、ゴブスレ君。僕の報酬の件だけど――……僕は“いっぱい”、奢ってもらっちゃおうかな?」

「わかった……助かる」

「助かる? そんなこというなよゴブスレ君。君が依頼を出した。それを僕らが引き受けた これはそれ以上でもそれ以下でもない話だぜ?」

「そうとも、俺たちゃ仲間でも友達でもないけれど、冒険者だからな」

 そうだ、彼らは、冒険者だ。

 胸には夢があり、志があり、野心があり――人のために戦いたかった。

 踏み出す勇気がなかった。でも、()()に背中を押された。

 押したのはきっと()()()がただろう。

「ゴブリン退治? いいだろう、そいつは俺らの仕事だぜ」

 冒険者はみな剣を、杖を、斧を、弓を、拳を掲げて鬨の声を上げる。

 だから()()()がたも声を上げる資格がある。

冒険者(アドベンチャラー)に任せとけ!』

 

 

 その戦いは、まったくもって順調だった。ゴブリンスレイヤーから受けた見識が、みごと華麗にハマっていく。

 肉の盾? 眠らせて回収してやればいい。

 呪文使いと弓持ち? そんなもの、石と矢とで射殺せばいい。

 ゴブリンライダー? 槍衾で串刺しだ!

 元より小鬼と冒険者。真正面から戦えば、運が悪くなければ負けることなどない。

「まったく、小遣い稼ぎにちょうどいいね」

 松明持ち(ウィル・オ・ウィプス)を傍らに、詩人は屋根の上に姿を現していた。ここからならば、弓持ち杖持ちのゴブリンどもが良く見える。

「金貨が小遣いとか、あんた金銭感覚ヤバくなってない?」

「……まぁ、そういうこともあるかな?」

 妖精弓手の一言に、こほんと咳ばらいを一つ。

「そういう君はどうなんだい?」

「森人にお金の価値とか難しくない?」

「おまえ梯子を外しやがって」

「いいからさっさと倒す。数ばっかり多くてヤになっちゃうんだから!」

「はいはい」

 詩人は投石杖を握りしめ、深く集中する。

「≪同一(イーデム)……」

 ここまでいろんなことがあった。

(ウンブラ)……」

 だからこの戦いは、その総まとめ。

「……存在(ザイン)≫!」

 詩人は【分身】の真言呪文を唱える。いまだ成功率はそう高くない。よくて四割あればいいほうか。だが、今日ばかりは不思議と失敗する気はしなかったし、事実それはなんの過不足もなく発動する。

「うっわ、ウザいのが二人に増えた」

「「怒るよ?」」

左右から(ステレオで)話しかけるのやめてくれない?」

「はいはい」

 本体が答えて、分身に石弾がぎっしりつまった袋を渡す。【分身】の持つアイテムはあくまで偽物、効果を発揮しないからだ。

「僕が二人に増えたんだ。殺せるゴブリンは、二倍どころの話じゃないぜ?」

「まぁゴブリンを一番多く殺すのは自由精霊(フリースピリット)みたいだけどね」

「いうなよお姫様……」

 げんなりしながら、二人の詩人は松明持ちに【熱波(ヒートウェイブ)】を使わせた。

 

 

「出たぞ! 田舎者(ホブ)――いや、それだけじゃない!?」

小鬼英雄(ゴブリンチャンピョン)……しかも三体!」

 唸るような雄叫びが血風吹き荒れる戦場にこだまする。

 オーガと見まごうような巨体。ちと農相に濡れた棍棒をもち、ゴブリンでありながら、戦場の行く末を左右しかねない強大な敵。

 だがしかし、冒険者たちの気迫が萎えることはない。ここにいるのは、大物食いを狙わずして何が冒険者かとばかりに闘志の高ぶる益荒男ばかり。

「っしゃあ! 大物か! いい加減、雑魚相手も嫌になってたところだ!」

 獰猛な笑みを浮かべて武器を担ぎ、率先して前に飛び出す重戦士。そのあとに、やれやれと面倒くさそうに盾を掲げた女騎士が続く。

「こっから先は熟練者(ベテラン)の戦場だ! 腕に自信のない奴ぁ引っ込んでな!」

 槍使いが新人冒険者を後ろに引かせるよう号令をかけると、槍を構えて突撃する。

「それじゃあ、残りの一匹は僕がいただこうかな」

 ひょいと屋根から飛び降りて、のんびりとした足取りで前に出る。

「愛しい人のハグが待ってるからね。ここらで武勇伝のひとつも上げたなら、きっと僕はどうにかされてしまうだろうさ」

「あんた妄想もたいがいにしなさいよ」

「おまえ覚えてろよ。お姫様の目の前で、熱烈ヴェーゼで赤面させてやる」

「できんのあんた?」

「……ちょっと恥ずかしいかな!」

「いや相手妄想じゃん」

「なんだとーぅ!?」

 油断はしていないが、緊張もしていない。

 紅紫色の瞳をきりりと引き締めて、艶のある唇は朗々と呪文を紡ぐ。

「≪土精(ノーム)水精(ウンディーネ)、素敵な褥をこさえてくんろ≫」

 そいつはチャンピョンの足元に泥沼を作る。ぬかるむ沼地に足を取られ、そいつらはあっけなく地面に転がった。

「さぁいくぜ! ≪天の火石に死霊の骸骨、この世の外から来たもの二つ」

 詩人の持つ投石杖に、不可視の力場が現れる。

 精霊術の力の源、幽世より来る力そのもの。

「ガツンと一発、これでも喰らえ(テイクザットユーフィーンド)!≫」

 思い切り、杖を振るう。普段は石弾を投げていたもので、これこそ本当の武器だとばかりに投げつけられた不可視の力場は、鎧も防御も関係なく、ゴブリンの体を抉り吹き飛ばした。

「やったぜ!」

「やってないやってない!」

「変なフラグ立てるんだからもぉー!」

 妖精弓手と魔術師が、馬鹿なことを口にした詩人を叱咤する。

 空間が歪み、吹き飛ばされた場所は土煙を上げていたが、その中心にいたチャンピョンは――無傷であった。

「そりゃあ、一発で殺せるとは思ってなかったさ」

 しかし詩人は油断などしていない。

 詩人の【分身】が、自信満々に彼女の隣へと立つ。

「一発で殺せないなら二発、三発重ねればいいだけさ」

「あんた時々脳筋になるわね!」

「なんとでも言え! ≪天の火石に死霊の骸骨――」

「この世の外から来たもの二つ――!」

 次は確実に仕留めるとばかりに、二人の詩人は同時に詠唱を重ねる。

「「ガツンと一発、これでも喰らえ(テイクザットユーフィーンド)!≫」」

 

 

「私たちの勝利と、牧場と、町と、冒険者と――……それから、いっつもいっつもゴブリンゴブリン言ってる、あのへんなのにかんぱーい!」

 妖精弓手の音頭にわっと冒険者たちが歓声を上げて次々に盃を掲げると、一気に干す。たしかこれで五度目の乾杯だったが、冒険者たちは気にしない。

「まったく……お姉さんは付き合いきれないぜ」

 鉱人道士が持ち込んだ秘蔵の火酒、そいつをうっかり口にしてしまった疾走詩人がひとりごちる。色白の肌に紅が差し、紅紫色の瞳はとろんとしている。

 ふと、ふわりと風が吹く。

 眠気を誘う心地よい春の陽気にも似ていたし、火照りを冷ます夜風にも似ていたそれを受けて、詩人はその華奢で小柄な体を、隣に座った外套の男の肩に寄りかからせた。

「君もそう思うだろ?」

 詩人は()()()を見上げて、にんまり微笑んだ。




 くぅ〜疲れましたw これにて完結です!
 思えば描写パートはかなり端折ってしまいどうだろうと思いましたが、RTAやしまぁええやろ、の精神で駆け抜けました。
 最後に、偉大な原作者様、先駆者ラスト・ダンサー兄貴、花咲爺兄貴、他兄貴姉貴様に敬意と感謝を込めて締めくくりたいと思います。

 THANK YOU FOR PLAYING !


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再走版
ある冒険者たちの挑戦(ザ・ガントレット)


再走しました。


 もう一度俺の嫁と一緒に走り抜けるRTA実況、はぁじまぁるよー!

 

 タイム計測はニューゲームを選択した瞬間から始めます。

 はい、よーいスタート。

 ゲームが始まったら≪幻想(GM)≫による世界観の説明ムービーが入りますので当然飛ばします(無慈悲)

 

 磨かれた冒険者ギルドの受付に一枚の冒険記録用紙(アドベンチャーシート)が置かれるとキャラクリ開始です。種族は「森人(エルフ)」、性別は「女」を選択します。前回も説明しましたが女神官ちゃんに声をかけたとき彼女が警戒しないというメリットがあります。ゴブリンに敗けたら孕み袋ですが俺の嫁がそんなことになるわけないだろ! いい加減にしろっ!

 

 身体的特徴の項目にカーソルを動かすと、冒険者登録用紙を記入している自キャラにカメラが移動します。では俺の嫁再臨の儀式を行いますので小一時間ほどお待ちください。

 冗談です倍速で進めます――……はい、また会えましたね。俺の嫁の再臨です。前回よりちょっと髪を伸ばしてみました。

 

 カメラが冒険記録用紙に戻りました。俺の嫁の手が綺麗でずっと眺めていたいところですが心を鬼にして第一能力と第二能力を決定します。もちろん私は固定値信者なので固定値を使用しますね。

 

 経歴ですが当たり前のように出自は「詩人」です。詩人じゃない詩人さんは詩人さんじゃないので当然ですよね。【芸能:即興詩(初歩)】が生えますけど今回も成長させる気は全然ありません。来歴は「平穏」ですね。詩人さんには平和な日々を送ってほしい願望もあります。最後に邂逅ですが「婚約者」一択。

 まぁランダム出現する許嫁とか出てきたらNTR気分を味わうわけですが!(血涙)

 

 第一能力へのボーナスですが呪文使いなので迷わず魂魄点に振ります。前回も説明しましたけれども魂魄点は【交渉:誘惑】に用いるステータスなので絶世の美少女になりました。心なしかキャラがキラキラ輝いている様に見えるでしょうが実際に輝いてます。単なる演出なので光源にはなりません。大事なことなのでもう一回説明しました。

 

 状態の決定に進みます。ここでは生命力と移動力と呪文使用回数を決定するんですが、私は固定値信者なので固定値を使用します。当たり前だよなぁ?

 固定値だとどうあがいても呪文使用回数が2回以上にはならないので優先度は「移動力>呪文>生命力」という形になりました。前回と同じく恵まれた移動力36に対しての、生命力11というクソみたいに貧層なおねえさんが再臨しましたね。

 森人はみんな金床になる運命なんですよ……決して私が貧乳浮いた肋骨細長いおみ足が大好きというわけではありません。嘘です大好きです。性癖に突き刺さりまくりですわ。

 俺の嫁はかわいい(語彙消失)

 

 さぁ職業の選択ですが、ここでいきなりの変更点です。

 出自ボーナス含め【精霊使い:2】を習得したら【魔術師:1】と【野伏:1】を習得させます。経験点はぴったり0になりました。

 

 続いて技能ですが変更ありません。呪文使用回数が増える【魔法の才(初歩)】と、風属性の大成功(クリティカル)率が上昇する【風の遣い手(初歩)】です(変更がないとは言っていない)。

 呪文は若干の変更があります。まずは足止めから攻撃まで幅広く使えるでおなじみの【霊壁(スピリットウォール)】と、移動用の【追風(テイルウィンド)】です。そして真言呪文は汎用性のある効果から妨害兼攻撃用として【突風(ブラストウィンド)】を選択しましょう。

 前回も説明しましたが四方世界では一日に使用できる呪文の使用回数が少ないため、技能やアイテムでは代用できないものを覚えましょう。個人的には妨害用、範囲攻撃、移動用の優先順位で習得するのがオススメです。

 

 そして装備品ですが、ここでもいくつか変更点があります。

 まず武器は投石杖(スタッフスリング)なのは変わりありません。石弾(ストーンバレット)と石弾袋も併せて購入しましょう。前回と違って最初から野伏なので前回より威力と命中が上昇しています。あんまり使いませんが。

 次に防具として外套(ローブ)を購入します。本当はデザイン的に旅人の外套(シャープ)が良かったんですがお金がありませんでしたのでできるだけ白いのを選びます。後々赤くなりますが。

 そして精霊使いの鞄を今回は後で購入することにして真言呪文の発動体を購入しましょう。杖型のを選ぶことで投石杖と悪魔合体させることができます。やっぱり呪文使いは杖を持ってなきゃね。

 そしてこのゲームで一番やっかいな消耗を押さえる強壮の水薬(スタミナポーション)を一本購入……したかったんですが残り銀貨3枚では何も買えませんのでフィニッシュです。

 

 次は冒険者になった経緯や動機ですね。前回と同じく運命の恋人に出会うため旅立っていただくことにしましょう。

 なんせ俺の嫁だからね。アクティブなんだよ、彼女(彼氏面院)

 

「それではこのように登録しますが、よろしいですか?」

 

 受付嬢さんの可愛い声で問いかけられるので「はい」を選択しましょう。最後に確認のサインを求められます。ここでようやく名前の入力になりました。

 ここは再臨を祝して【疾走詩人】とします。ハッピーバースディ! 俺の嫁の再臨だよ!

 

 ここまで入力が終わるとカメラが引いて三人称視点になり、受付嬢さんが冒険者ギルドのお決まりの定型文(チュートリアル)を話し、白磁の認識票を渡したところでようやくキャラ操作が解禁になりました。

 いつものようにすぐに依頼を受けるか確認されても「いいえ」を選択しましょう。はやる気持ちでボタン連打しすぎて「はい」を押してはいけません(1敗)

 ではいつものように女神官ちゃんが冒険者登録するのを待合スペースで待ちましょう。その間俺の嫁を360°あますところなく視姦げふんげふんカメラ速度などを調整しましょう。あ、このときショートカットに【追風】や【突風】をセットしておくと楽です。特にこの二つはよく使います。

 それでは視姦げふんげふんカメラ速度調整が終わったら俺の嫁の前にカメラを置いて疑似デート状態にしておきます。

 エルフ耳キャスター……スレンダーお姉さん……悪戯好きそうなツリ目……やはり俺の嫁はふつくしい……。

 

 はい、時間を忘れるところでしたがそんなことしている間にモブ冒険者たちが峠のマンティコアや都のデーモンの噂を話しているのが聞こえてきました。何回も説明するようですがアニメ版ルートに突入するには「勇者ちゃんの魔神王討伐速度」が重要とのこと。

 これは冒険者たちがどれだけ大局を動かすような大きな冒険に身を投じたかに関わってくるそうで、最初は待合スペースでの放置によってフラグが立ちます。当然RTAとしては原作ルートのほうが安定して早いです。

 でも私はこのアニメルートにちょっと希望を持っています。なにか面白いことが起こりそうですからね。

 

 おや、ようやく女神官ちゃんが冒険者登録を終えたようです。今回もまた新人剣士くんに話しかけられる前に声をかけましょう。剣士くんの後に話しかけると会話が長くなり若干のロスです。

 今回もまたお姉さんらしい余裕をもった選択肢を選びましょう。「だーれだ?」なんて選択肢がありますがこれは二週目の好感度を持ち越ししたとき用です。こんなん俺がやってほしいわ。

 

 適当に会話していると横から剣士くんが声をかけてきまして、おなじみ原作第一章、アニメ第一話のゴブリン退治クエストが発生します。もちろん参加ですよね? 画面右上にクエスト名である「ある冒険者たちの挑戦(ザ・ガントレット)」が表示されました。

 では頑張って構築しなおしたチャートを走ります。

 最初の判定である「怪物知識判定」ですが今回は失敗しても構いません。ただし綺麗なお姉さんの基準値は「知識集中5+精霊使い2」で「7」です。目標値は「9」なので大失敗(ファンブル)以外で成功します。成功しました。これでクエスト中剣士くんらの行動AIが変わりました(生存フラグが立ちました)

 なお、このクエストではアイテムを購入するなどといった準備時間というものが存在しません。まぁ、初期作成の冒険者になにかしら準備ができるような金が残っているはずもなく……そんな世知辛い話はさておいて。

 それではゴブリン退治に! イクゾー!(デッデデデデデ)

 

 親の顔より見た呪術師(シャーマン)のトーテムが飾られている洞窟近くに到着しました。ここで長い距離を徒歩で移動したことによる「長距離移動判定」ですが今回は強壮の水薬(スタミナポーション)がありませんので疲労をポンとは取れません。

 とはいえ所詮は「1d3」点の上昇なので今回は失敗してもかまいません。そもそも目標値も「15」と只人(ヒューム)以外成功させる気のない数値です。それにどうせ疲労ランクそんなに高くなるようなルートは走りませんので。

 なお、オクスリをキメて走るシャブリンスレイヤーRTA、倫理問題等により企画段階でとん挫中です。

 

 続けて「観察or第六感判定」です。昼間はゴブリンどもにとっての夜中、ならば警戒が一番強くなるのも道理ですよね? 本当はそんな知識ないわけですが……目標値は「13or15」なんですけど詩人さんの技能では出目「8」以上が必要です。2d6の確率分布的に言えば約41%ですので出ます。出なかったら因果点を使用しますが現在「5」点なので【幸運】含め成功率は約91%、どちらも失敗する確率は3%で蛇の目(ピンゾロ)より若干高い程度しかありませんので余裕です(1敗)

 

 というわけで今回も幸運にもゴブリンの見張りを発見しました。

 先ほどギルドでゴブリンの怪物知識判定に成功していますので生存フラグがさらに強化されましたね。まぁフラグ関係なく問答無用で何とかするつもりですが。

 そして発見したゴブリンですが、前回と同じくここでは何もしません。お前は最後に殺してやろう。

 それでは松明をつけて慎重に洞窟へ入ります。

 

 何度入ったか分からない洞窟へと侵入しました。何度も出入りしているのにぜんぜんガバガバにならないのはすごいですね。はい、狭苦しくて詩人さんも消耗してきましたねぇ……ちょっと肩で息をしているのがセクシーですが、消耗ランク的にはまだ1にもなっていません。

 剣士くんたちは只人なので最初の移動で消耗は受けていません。この狭い通路では武闘家ちゃんだけ消耗を受けませんでしたので、かなり余裕をもった探索ができそうです。

 まぁこれはRTAなので探索なんぞしませんけどね。

 

 原作でおなじみのトーテムが見えてきました。原作では壁を掘り抜いたと言っていましたがアニメではこっそり横穴らしきものが確認できます。そしてゲームでは判定に失敗すると気付くことすらできません。プレイヤーには見えているんだけどねー。

 というわけで奇襲に抵抗するための「第六感判定」が発生しました。まだ因果点が「6」点もあるしへーきへーき――……はい、後ろからの奇襲に気付くことができました。

 では横穴から14体のゴブリンが出てきます。改めて見るとめちゃくちゃ多いな……ゴブスレさん風に言うなら「14。ホブなし。術なし。弓あり」ですね。

 では隊列を並べ変えましょう。剣士くんは扇風機になるだけですがいないよりマシな壁になってくれます。【挑発(初歩)】持ちはこういうところが便利ですね。今回は活躍させる暇もありませんが。

 

 そんなわけで戦闘開始です。遭遇距離は「3m」とめちゃくちゃ近いですが何の問題もありません。女魔法使いちゃんには年上のお姉さんとして呪文使い(スペルキャスター)のお手本を見せてあげましょう(2回目)

 まずは誰よりも先手を取り(2敗)、呪文行使判定の出目は8以上で(1敗)、【突風】を使います。ここも変更点ですね。【突風】は効力値が15以上になるとダメージが発生する呪文になります。これのダメージは「2d6+魔術師レベル」点なので、ここでゴブリンの装甲ぶんを考慮に入れて出目「10」以上が出るとゴブリンは確殺できます(7敗)

 はい、魔法は武器や道具にはできないことをやる、というひとつのお手本が示されました。ぶっちゃけ女魔法使いちゃんべつに覚える魔法は悪くないんですけどね。一匹だけを相手にするんなら私だって【火矢(ファイアボルト)】を覚えますよ。難易度に対しての火力の効率はかなり優良ですから。

 正直前回めちゃくちゃ苦労したところでしたが、あっさり片付き綺麗なお姉さんの面目躍如、そして短縮ポイントとなりました。

 やっぱ呪文使いチャートは呪文の知識と理解力がものを言うな。【突風】なんて前回だったら見向きもしなかった呪文ですよ。ぶっちゃけ【火球(ファイアボール)】でも同じことができますが、【突風】はまた後で様々な使い道があります。

 

 剣士くんと武闘家ちゃんが油断しきったラウンド最後でホブが出現します。こいつ敵の数が半数以下になったときのラウンド最後に出てくる増援なんですが、お姉さんいっきに片付け過ぎちゃったぜ。

 このままでは武闘家ちゃんがアニメみたいに壁に叩きつけられちゃう~! となりますがご安心ください。前に出たのは剣士くんのみ、そして剣士くんなら最大ダメージをもらっても大丈夫です。

 なぜなら剣士くんは生命点「23」、胸甲(ブレストプレート)なので装甲「3」。一方ホブゴブリンは命中に大成功(クリティカル)かつ威力で最大値出したとしても「30」点ダメージしか出せません。生命点の2倍までなら死なないルールなので絶対死にません。やっぱり剣士くんを……肉の壁に……最高やな!(人間の屑)

 え? 痛打? 適用ダメージ倍? 祈りましょう。

 ホブゴブリンがでっかい金棒を振り上げました、痛そう。あー、直撃コースやな……祈念を使って成功させます。努力と友情という名の因果点をぶち込んで勝利を手繰り寄せました。たぶん原作の剣士くんたち、因果点の使い方をGMに教えてもらってない新人卓だったのでしょう。たしかこのクエストも作ったの≪真実≫でしたよね? 彼が教えるとは思えない……。

 はい、ようやくこっちのラウンドが回ってくるようですね。

 まぁやることといえば詩人さんが投石攻撃して、女魔法使いちゃんが【火矢】して、剣士くんが長剣で扇風機になっ(攻撃をはずし)て――……はい、ラウンド最後にゴブリンスレイヤーさんが登場します。

 別に倒せなくもないですが、ゴブスレさんが登場すると剣投擲で確殺してくれます。このモーションが私にはドラゴンズクラウンのファイターがやる剣投擲に見えるんですが邪推ですかね?

 ちなみに倒したほうが戦闘自体は早いんですがその後の追加イベントで死んだふりしていたゴブリンが女神官ちゃんに飛びかかるのをゴブスレさんが剣投擲して防ぐというムービーが入るので逆に長くなります。

 

 ではゴブリンスレイヤーさんからみんな仲良く臭い消しの洗礼を受けたら、残るゴブリンを駆除するため奇襲に使われた横穴へ進んでいきましょう。ゴブスレさんがいればあとは作業みたいなものですが、一周目で知識を蓄えた私が支援する詩人さんならその作業感はさらに加速するっ!

 まず横穴を下ります。女神官ちゃんに【聖光(ホーリーライト)】で目つぶしをしていただいて、ゴブスレさんが短槍(ショートスピア)でシャーマンの胸をぶち抜いたことを確認したら【突風】を使いましょう。

 【突風】の効果範囲は「術者を中心とした半径60m」で「その始点と終点にあるものを吹き飛ばす」という異常な効果を持ちます。【火球】の範囲がせいぜいで「着弾点から半径5m」と考えるとその効果範囲の広さがわかるかと思います。ぶっちゃけ大軍宝具とか言われても違和感ないです。下手すると最後の防衛線が「もうあいつひとりでいいんじゃないかな?」状態になってしまいます。

 はい、それでは達成値で15以上を取り(2敗)、威力で出目10以上を出し(11敗)、ゴブリンどもを一掃しましょう。水攻めでゴブリンの巣を洗い流してるゴブスレさんも関心しきりですわ。

 ちなみにシャーマンはかろうじて生きてます。何気に生命点と装甲が高いですしね。最後はゴブリンスレイヤーさんがまだ一匹しか斬っていない中途半端な剣(ショートソード)で頭をかち割って状況終了です。

 あとは玉座の後ろの倉庫に隠れていた子供を処理してしまいましょう。

 ちなみにここで知力抵抗判定に失敗すると女神官ちゃんと同じく「子供まで殺すんですか?」とか言い始めるようになるため、成功させるとゴブスレさんと一緒にゴブリンを処せます。ゴブリンの討伐数を稼ぐのに重要です。前回は何気に失敗してしまいましたね。

 女神官ちゃんは確定ですが……今回は剣士くんも失敗したようですね。

 それに対しての詩人さんの回答は、うーん……よし、これです。「僕らが生きるためだ」にしましょう。酸いも甘いもかみしめた詩人さんらしい言葉ではないでしょうか?

 

 

 それでは本日はここまで、御視聴ありがとうございました。



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ある冒険者たちの挑戦(ザ・ガントレット)【裏】

「ん……」

 どうやら、居眠りをしていたようだ。

 貧弱なこの体では長い距離を歩くことは難しいと、なけなしの路銀をはたいて乗った乗合馬車に揺られていたが、これはあまり快適ではないな……そう思っていたのだが。思ったよりも慣れるものなのだな、と。

 

 季節は初春。多くの若人が冒険者となることを決意する季節。

 

「ふぅー……いてて……」

 腰をとんとん、と叩く。真言呪文の発動体を兼ねる投石杖(スタッフスリング)を頼りに、彼女はゆっくりと歩みを進める。

 それにしてもおかしな夢を見たものだ。もはやうすぼんやりとしか思いだせないが、冒険者ギルドに登録する夢を見た。そこで可愛らしい只人(ヒューム)の女神官と友達になって、若い剣士や魔法使いを仲間にし、なんか変な鎧兜の男と数多の冒険に出る。

 なんというか、おかしな夢を見たものだ。

 あるいは精霊使いの第六感か、もしくは時の精霊(クロノス)のイタズラかもしれない。幽世の存在と親しめる才能は、時に不思議な夢を見せる。初めて訪れたはずなのに、どこか懐かしい……この西の辺境の街で、彼女は迷うことなく冒険者ギルドへと歩みを進めた。

 

「ようこそ冒険者ギルドへ! 本日はどのようなご用件ですか?」

 

 親の顔より……と言うと、育ててくれた両親に失礼か。初対面なのにどこか見慣れた、三つ編みの受付嬢の前に立つ。

「冒険者登録をしたいのだけど」

 銀の髪に紅紫色の瞳を持つ、痩身小柄な森人(エルフ)の少女は、自信に溢れた笑顔を浮かべた。見るからにベテランそうな受付嬢とて、彼女が夢の中で幾度となく繰り返(リハーサル)したとは思うまい。

「はい、文字は書けますか?」

「時間ばかりはあったからね。これでも詩を嗜んでるくらいさ」

「では、こちらに記入をお願いします」

 夢のおかげか、羽ペンを持つ姿すらさまになる。細い指がしなやかに動いて、冒険記録用紙の空白を埋めていく。

「年齢は400歳、職業は……精霊使いですね」

 手に携えるのは月を模した頭と天鵞絨の飾り布のようなものが付いた杖。こんな恰好では、精霊使いには見えはしないだろう。そうしたところで精霊使いだと驚かせてやるのは彼女の趣味の一つである……なのに目の前の受付嬢は、さほど驚いた様子もない。

「うん。でも、あんまり年齢の話はよしてほしいかな? あんまり若すぎるせいで、舐められてしまうかもしれないし」

「あはは……」

 ほんの少し生まれた悔しさから、定命(モータル)には頷きづらいジョークを飛ばす。受付嬢の苦笑いに、ほんの少しだけやり返した気分になった。

「では、これがギルドでの身分証になります。なくさないでくださいね?」

「うん」

「依頼はあちらに張り出されていますので、等級に見合ったものを選ぶのが基本ですが……個人的には下水道や溝浚いで慣れていくことをおすすめしますね」

「ふぅん」

 直感が告げる。後衛の自分一人じゃ無理だろ、と。

「いかがでしょう?」

「考えておくよ」

「わかりました。それでは今後の活躍をお祈りしています」

「うん、ありがとう」

 長く年を重ねた余裕のようなものを見せて、広く取られた待合スペースに腰を落ち着ける。精霊使いとしての第六感が、愛しい人が自分を見ていることを告げた。そちらに視線を投げかけるようにくるりと視線をめぐらせて、ちょっとだけサービスするようにポーズを取ってやる。

 自分をたくさん褒めてくれながら、ああ、今、目の前に座った……なんて。

 まるでデートのようで、少し顔がニヤけてしまった。

 

 

「――依頼はあちらに張り出されていますので、等級に見合ったものを選ぶのが基本ですが……」

 聖印を兼ねた手の錫杖に、着替えを含めたいくばくかの荷物。見るからに新米でございといった神官が登録を終えたのが見えた。それは、どこか見覚えのある只人の少女だ。

 いや、これはきっと……、

きみ(・・)の差金かい?)

 きっとそうだ、そうに違いない。彼女の直感がそう告げる。幸いなことに、これが外れたことは数少ない。なにより彼女は幸運でもあった。

 だからこそ、彼女の行動は早かった。

 

「やぁ、ちょっといいかな?」

 さきほど冒険者登録を終えた女神官に声をかける。

「はい?」

 見れば見るほど、夢で見た少女に似ている。なら決まりだ。きっとあなた(・・・)の導きだろう。詩人として父より受け継いだ才能が、彼女の脳裏に即興詩を書きあげさせる。そうなれば後は早いものだ。夢見る少女を手玉に取るなど精霊と語らうよりも容易いこと。勝手に運命を感じてくれれば、説得するよりもよほど早く話は終わる。

「――そういうわけでさ、せっかく冒険者になったんだし、下水道掃除なんかではなく、冒険に行きたいと僕は思ってね……君も、ひとりじゃ不安だろう? だからといって、僕から男の人に声をかけるのもなにか、はしたないように思えてさ」

 そんなときに君がちょうど登録を終えていたんだと、締めくくる。

「っと、名乗ってなかったね。僕の名前は詩人、疾走詩人……気軽に詩人さんと呼んでほしい」

 白く細い手を指し伸ばし、握手を求めた。

「これからよろしく」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 あっというまに言いくるめられた女神官は、気付けば彼女の手を握り返していた。

 

 

「なあ、俺たちと一緒に冒険に来てくれないか!」

「ふえっ」

 不意に声をかけてきたのは、傷一つない胸甲(ブレストアーマー)と鉢巻を締め、腰に長剣(ロングソード)を吊るした若者だ。彼の首にも、ふたりと同じ白磁の小板がぶら下がっている。

「おやおや、これが噂に聞く只人(ヒューム)のナンパかい?」

 冗談、愛しい人以外はお断り。なんて心の中で付け加える。

「そんなつもりじゃないよ!」

「冗談さ」

「そっちの君、神官だろ? こっちは魔術師……かな?」

「あ、えと、はい。そう、ですけど」

「見てわからないかな? どこにでもいる精霊使いさ」

「えっ、そうなの?」

 受付嬢では失敗したが、狙い通りに騙されてくれたところにちょっとだけ気分が良くなる。少しくらいは話を聞いてあげてもいいかな、と思うくらいには。

「ごめんごめん。でもちょうど良かった。俺の一党、聖職者がいなくって……」

 見ればその剣士の向こうには、髪を束ねて道着(クロースアーマー)を纏った勝気そうな娘と、紅玉の杖(ガーネットスタッフ)を手に冷たい視線を向ける眼鏡の娘。

「なるほど。剣士くんに、武闘家ちゃんと、女魔法使いちゃんか……ちょっと悪いんじゃないかな? バランスが」

 少なくとも斥候(スカウト)野伏(レンジャー)は必要だ。敵はいつも真正面から突っ込んできてくれるわけじゃないのだから。

「そんなこと言わなくたっていいだろ? とにかく急ぎの依頼で、せめてもう一人欲しかったんだ。そっちも一党を組んだみたいだから、二人も増えるだなんて幸運だなって思ってさ。頼めないかな?」

「急ぎ、と言いますと……?」

「ゴブリン退治さ!」

 聞けばちょうど良いことに、先輩冒険者たちが持っていかなかった依頼が一枚、掲示板に残っていたという。依頼主の語るところによれば、近くに住んでいることは知って居たが、追い払えもするからと放置していたか。

 しかし最近になって凶暴化し、ついには村を襲って種もみを盗まれ、羊を盗まれ、その羊飼いの娘を攫われ……ことここに至れば手段など選んでいられない、と。

「ん、いいんじゃないかな?」

 初めての冒険が、ゴブリン退治。よくある話だ。

「僕は引き受けてもいいと思う。君は、どうだい?」

「私は――いえ、私も、いいと思います」

「本当かい! やったな皆! これでもう冒険に出られるぞ!」

「ははは、只人(ヒューム)の男の子はずいぶん元気だ」

 腕を上げて喜ぶその姿を見て、楽しそうにけらけら笑う。

「でも、ゴブリンだからって油断をしちゃあいけないね」

「大丈夫だって、ゴブリンだぜ?」

「そうなのかもしれないけれど、本当にそうなのかは分からないものさ。まぁ……ちょっと本で調べていってもいいんじゃないかな?」

 

 

「ふぅ……ふぅ……」

「おいおい、大丈夫か?」

「大丈夫じゃない、とまではいかないけれど。長い距離を走れる只人と比べないでくれたまえよ。僕ら森人はね、苦手なんだよ、こういうのは」

 詩人は最年長の余裕を見せたかったが、ここまでの道のりはさすがに苦しい。肩で息をしながら、思わず唇を尖らせてしまった。

「まぁたしかに、ちょっと細すぎるよなぁ」

「樽よりはマシだろう? 鉱人(ドワーフ)みたいな……」

 がさがさと藪をかき分け林の中を進んでいくと、洞窟が見えてくる。

「あっ、ゴブリン!!」

「GORURU!?」

 剣士が声を上げるのと、ゴブリンがこちらを見て驚くのとは同時だった。そいつは慌てて背中を見せると、洞窟の中へと逃げていった。

「ここで間違いないみたいね……」

「そうだね」

「気をつけて進もう」

「うん」

「……どうかしたの?」

「ん」

 考え込むようなしぐさと生返事を返す詩人に、女魔法使いは問いかける。

「ゴブリンが、見張りなんて立てるっけ? って思ってさ」

「そういえば……」

 ギルドで確認した怪物図鑑には、そんな話は書いてなかった。

「……女を攫い、巣の中で繁殖する」

 ぽつりと詩人が漏らした言葉に、一党の空気が一気に下がった。

「図鑑にはそう書いてあった。逆に見張りを立てるだなんて、一言も書いてない……」

「……気をつけて進もう。みんなは俺の後ろに」

「ああ。頼りにしてるよ、少年」

 

 

 ひょう、と生温かい風が吹き抜ける。狭い通路の天井からは木の根がぶら下がり、入口はもう見えなくなっていた。松明の頼りない明かりだけでは、なにか大切なものを見落とすかもしれないように思えてしまう。

「まただ……」

「入口にもあったわよねぇ」

 不気味なトーテムを見て、不安そうに剣士と魔術師が不思議そうに言葉を交わす。

「なんだろうね、これ……図鑑には乗っていなかった」

「案外、ゴブリンだけじゃないんじゃないの?」

「はは、魔神(デーモン)でもいるのかな? そんなの倒せたら、俺ら魔神殺し(デーモンスレイヤー)って呼ばれるんじゃないか……」

「……あんたなんてまだまだ未熟でしょ」

「俺たちなら、赤竜(レッドドラゴン)だって余裕だぜ? きっと……」

 叩き合った軽口も、今はどこか空虚に感じる。

 ――どこかで、ベーコンを炙り焼き(フライ)するような音が微かに聞こえた。

「今、何か聞こえませんでしたか?」

「うん……聞こえた」

「後ろだっ!」

 いち早く気付いたのはよく聞こえる長い耳と、暗視を持つ詩人だった。その声で弾かれるようにして剣士が松明を思い切り投げると、頼りない松明の明かりに、ゴブリンの群れが照らし出される。

「くっそ不意打ちかよ!」

「だが防げた。ならこちらのものさ」

「ちょっと! なんか数多いわよ!?」

「この程度なら楽なものさ」

 詩人は杖を構えなおす。

「≪ウェントス()……クレスクント(成長)……オリエンス(発生)≫!」

「【突風(ブラストウィンド)】の術!?」

 なんでそんなものを、と女魔法使いが絶叫する。それに対して、詩人はにやりと笑みを浮かべた。

「そうれ、【突風(ブラストウィンド)】――!」

 詩人のはるか後方……洞窟の奥から、ゴブリンの群れ目がけて魔術の突風が吹く。どう、と風が吹き抜けたかと思えば、ゴブリンどもを見えないハンマーでぶん殴ったような衝撃が襲う。たまらず体をのけぞらせ、くの字に折り曲げ……14匹ものゴブリンがその場に倒れ伏した。

「すっげ……」

 ゴブリンの群れから後衛を守るように、武器を構えていた青年剣士が思わずつぶやいた。

「【火球(ファイアボール)】でも同じようなことができるさ」

「私、【火矢(ファイアボルト)】しか使えないわよ……」

「それも悪くないさ、一匹だけならね。まぁ、弓でも石でも、同じことができるといえば……そうなんだけどさ」

「頑張って覚えようかしら……?」

「ああ、オススメするよ。僕としては小回りの利く【力矢(マジックアロー)】のほうが好みだけれども、あえて属性を偏らせておくのも悪くないしね? 僕もたいがい、風が性に合う性格だし」

「っていうかあなた、精霊使いじゃなかったの?」

「精霊使いだよ? 魔術も使えるし、弓……は性に合わなかったから、投石だね。ま、見ての通り頼りになる綺麗なお姉さんさ」

「それ、決め台詞?」

「そうさ?」

 女魔法使いが、くすり、と笑った。

 ひとまずゴブリンの群れという危機が去り、緊張を緩めることができる……そう思った矢先だ。詩人の耳に、どすどすどす、と重く鈍い足音が聞こえた。

「って、まぢかよ……!」

 おかわりだ、とばかりに剣士の後方を指差す。

「――大きいの、来ます!」

 女神官が、ゴブリンとはとうて思えないほどに大きな怪物が、奥からやってきたことを口にしたのは、それと同時だ。

「おい、おいおいおい、おいおいおいおいおい!!」

「こんな狭いところにどうやって入ってきたのよアレ!?」

「たぶんここから出たことないんじゃないかな!?」

「無駄にデカい引きこもりね!?」

 巨大なそれが唸り声をあげ、粗末とはいえ痛そうな棍棒を振り上げて走ってくるのだ。原始的な恐怖が新米冒険者たちを支配する。

「ちょ、どうするのよアイツは!」

「少年! ちょっと踏ん張ってくれたまえよ!」

「まじかよ! 頼れる綺麗なお姉さんじゃなかったのか!?」

「僕のこの貧弱な体を見てみなよ! いや後ろは向くなよ!? 前だけ見て想像するんだ!!」

「してる場合!?」

「ああもう! 撃つわ! 撃つわよ!?」

「お、お願いしますっ!」

「頼むから早くしてくれよ!? 俺が死んじまう!!」

「少年なら一発くらいなら死なないさ!」

「それ本気!?」

「冗談に決まってるだろ!! ――避けろぉおおお!!」

 巨大な怪物が振り上げた金棒を、剣士がすんのところで回避する。

「さ、≪サジタ()……インフラマラエ(点火)……ラディウス(射出)≫!」

 女魔法使いの杖から、【火矢】がほとばしる。それは狙い過たず、巨大な怪物の肩を貫いた。

「やった!」

「やってないだろ!」

「まだ生きてますよ!」

「フラグなんか立てないでよね!」

「そ、そんなに言うことないでしょ!?」

 四方から突っ込まれ、女魔法使いは顔を真っ赤にする。

「いいから、早く倒さないと少年が死ぬぜ?」

「俺死ぬの!?」

「ごめん死なないと思う。生きている限りいずれは死ぬけどね!」

「どっち!?」

「賽子の目が知ってるさ!」

 適当に軽口を交わして勇気づけながら、詩人は石弾(ストーンバレット)を投擲する。頭部に命中するも、表皮をほんの少し傷つけただけだった。

「ああもうぜってぇー生き延びてやる――!!」

 両手で握った長剣をぶんぶんと振り回す。当たらずとも牽制にはなる、攻撃を受けないという意味では、一つの正解だ。

 だがそれだけでは、いつ敵の金棒が当たるか分からない。当たればただでは済まないだろう……手札をもう一つ、切るかどうか、詩人が思考をめぐらせていた時だ

 ホブゴブリンが唐突に動きを止める。金棒を振り上げた恰好のまま、急に全身の力が抜けて、どう、と膝から崩れ落ちた。

 前のめりに倒れるのをかろうじて避けた剣士は、そいつの後頭部に、深々と剣が突き刺さっているのを目撃する。

 その剣は一体、どこから飛んできた、と……もと来た道を見れば、頼りない松明の明かりに照らされた闖入者がそこに立っていた。

「――……元気なのは構わないが、あまり騒ぐと奴らが集まってくるぞ」

 そいつは、冷たい声音でそう言った。

 

 

 薄汚れた鉄兜と革鎧、鎖帷子を纏った前身は、怪物の血潮で赤黒く染まっている。使い込まれて傷だらけの小盾と、中途半端な長さの剣……新人の自分たちのほうがよっぽどいい装備をしていると思ってしまうような、装備に身を固めている。しかし首にぶら下がった小板は、銀。

「……ッ、あの、あなたは……?」

 女神官が意を決して誰何した。

小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)

 ――竜や吸血鬼ではなく、最弱の怪物である小鬼を殺すもの。

 平素に聞いたら笑ってしまうほど滑稽な名前でも、ゴブリンと初めて戦った彼らにとって、まったく笑えるようなものではなかった。

「ええと……なんで銀の冒険者が、こんなところにいるんだい?」

「ゴブリンを殺しに来た」

「なんで?」

「ゴブリンがいたからだ」

「なるほど」

 話が通じない人なんだね? と詩人は諦める。

「トーテムがあった」

「うん」

「シャーマンがいる」

「そうかい」

「襲ってきたゴブリンはこれで全部か?」

「そうだよ」

「そうか」

「うん」

 詩人は笑顔を張りつけて、女神官のほうへと向き直る。

「僕には無理」

「えっ、ええっ?」

「これは僕の直感なんだけどね。きっと君なら波長が合うと思う」

「えぇ……?」

「それに君も、いずれは神殿の司教として働く、かもしれない。人見知りじゃ神官は務まらないだろう? いろんな人が懺悔に来るんだぜ? そんな君のためを思って、僕は心を鬼にするわけさ」

 失礼だとは承知の上だが、妙な詭弁を弄するあたりが白粉を塗った闇人(ダークエルフ)みたい、と思ってしまった。

「私もまだ未熟な身なんですけど……」

「そうは言うけど、獅子は我が子を千尋の谷に落っことした、って言うだろう?」

「落っことしちゃだめですよ?」

「難しくてさ、只人の言葉」

「あんた都合悪いと森人の真似するのね」

 女魔法使いは思わずため息をつく。

「森人なんだけどな、僕」

「闇人かと」

「なんだとーぅ!?」

「静かにしろ、奴らに気付かれる」

 ゴブリンスレイヤーを名乗る男が、いつのまにか後衛組(じゅもんつかいたち)に近づいていた。

「おおう!? びっくりし……た……?」

 詩人は気付いた。

 ゴブリンスレイヤーと名乗る男が、血まみれになったボロ雑巾のようなものを片手にもっていることを。

 詩人は気付いてしまった。

 前衛組(せんしとぶとうか)が、静かになっていることを。

 そして――ゴブリンの返り血を浴びた程度では、そうはならないだろうというくらいに汚れてしまった二人の姿を。

「それ、なぁに?」

 笑顔を張りつけて、問う。

「慣れておけ」

 

 

「ここで【聖光(ホーリーライト)】だ」

「はい……」

「お前は【突風】だ」

「分かってるよ……」

 ついさっきまで、頼りないが信頼できると思った仲間たちが、みな光を失った目をしている。頼りになるはずの銀等級は、ゴブリンを殺すためなら仲間を血に塗れさせることも厭わない男だった。

「……奴らはにおいに敏感だ。特に女や子供、森人はな」

「俺、完全にとばっちりじゃん……」

「装備の金臭さを消すためだ」

「……そこまでするかよ」

「そこまでしなければ奴らは殺せん」

 まだ経験の浅い白磁の彼らにも、ゴブリンのためなら容赦のない男であることは理解できた。ゴブリンの巣穴であれば、これ以上頼りになる銀等級もいないだろうが……。

「やれ、【聖光】だ」

「≪いと慈悲深き地母神よ、闇に迷えるわたしどもに、聖なる光をお恵みください≫……!」

 ゴブリンスレイヤーが地面を蹴って駆け出す。同時に女神官が突きだした錫杖から、太陽のごとく燦然と煌く光が闇を切り裂いて、その巣穴に潜むゴブリンたちの目を焼いた。

「十二、シャーマン一、残り十二」

 ゴブリンスレイヤーの、投擲を得意とする只人の腕から短槍(ショートスピア)が投げ放たれる。それはまっすぐ飛んでいき、玉座のそばでふんぞり返るゴブリンシャーマンの胸を貫いた。

「よし、やれ」

「まったく人付き合いが悪いと思えば、人使いも粗いなぁ!」

「早くしろ!」

「分かってるっての! ≪ウェントス()……クレスクント(成長)……オリエンス(発生)≫――これでもくらえ(テイクザット、ユーフィーンド)! 【突風(ブラストウィンド)】!」

 どう、と魔力の突風が吹く。それは広間のゴブリンの頭をガツンと一発ぶん殴ったかのような衝撃を与え、速やかに断末魔を上げさせた。

 

 

「上位種は無駄にしぶとい」

 死んだふりをしていたゴブリンシャーマンの頭を叩き割ると、ゴブリンスレイヤーはひとりごちる。

「君はゴブリンしか頭にないんだね」

「ああ」

 シャーマンが作らせたのだろう、人骨の玉座を蹴り砕く。バラバラになったその椅子の影に、腐った戸板があった。

「へぇ、ゴブリンの宝物殿か」

「いやただの倉庫でしょ……」

「はは、物は言いようだよ」

「興味ない」

 只人ならばかがまねば入れない小ささの、そこの扉を蹴破った。

 そこには、小鬼の子供が4匹、身を寄せて縮こまっていた。

「――……子供」

「ゴブリンだ」

 大きさなど関係ないとばかりに、彼は棍棒を振り上げた。

「子供も……殺すんですか……!」

「当たり前だ」

「マジかい……」

 僕には信じられないよ、と眉をひそめる。

「奴らは恨みを一生忘れん。生き残れば、学習し、知恵をつける。そして巣をつくり、村を襲う。生かしておく理由がない」

「ふむ……」

 そう言われると、なるほど、と。彼の行動が腑に落ちるような気がした。

「つまり――君はゴブリンと戦争しているんだね」

「違う」

「違うんかい」

「俺はゴブリンを殺すだけだ」

「まったく、わけがわからないよ……」

 ため息とともに、ゴブリンスレイヤーの隣に立つ。

「別に、お前がやる必要はない」

「やるに決まってるだろ。つまるところこれは、僕らが生きるためなんだ」

「そうか」

 納得したように、ゴブリンスレイヤーは棍棒を振り上げる。詩人も、両手でしっかりと握った投石杖を振り上げた。

「善良なゴブリンが、いたとしても……?」

「探せばいるかもしれん……だが、人前に出てこないゴブリンだけが、良いゴブリンだ」

 振り下ろしたふたつの棍棒が、ゴブリンの頭を砕き、脳漿をまき散らした。



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旅の仲間たち(ザ・フェローシップ)

サブタイトルが新しいので初投稿です。


 呪文の悪用がやめられない俺の嫁と行くRTA、はぁじまぁるよー!

 

 前回の続きからですが、まぁ当たり前のように村娘ちゃんが広場中央に転がっていますので救出します。女神官ちゃんが呪文使用回数を2回も残しているので回復して差し上げましょう。【突風(ブラストウィンド)】の衝撃でその辺にゴブリンの死体が散乱していますが、四方世界はダークファンタジーなので村娘ちゃんのSAN値もジッサイご安心だ。たぶんね。

 では今回も倉庫の中にある財宝を拾って帰りましょう。まぁぶっちゃけ銀貨しかいりませんけどね。今回は――……おほーっ! 17枚も手に入れましたよ最高じゃん!!

 

 

 ギルドに帰ってきました。受付嬢さんに依頼のご報告ですわ。今回のMVPは間違いなく詩人さんですね。【突風】を使いこなす大魔女ですよ、こいつぁ……精霊使いなのに精霊術一度も使ってないけども。

 さて報酬を受け取ったら新人剣士くん一党の祝勝会に参加します。ていうか彼ら冒険した感じあんまりないんじゃないかな……? ほとんど詩人さんが片付けたぞ今回。前回は比較的彼らにも頑張ってもらったんですがねぇ……。

 そして前回と同じく適当なところで詩人さんと中座しましょう。詩人さんはほんとうに体力のない貧弱森人(エルフ)ですからね。

 でもそんな体力ないところとか好き、可愛い。

 二階に部屋を取って、体を清めるお湯と一緒に戻りましょう。俺の嫁にはいつも綺麗でいてほしいからね。汗くさいのもそれはそれでげふんげふん。

 

 はい、おはようございます。

 起きたらギルドの待合スペースで朝食を摂りながら女神官ちゃんを待ちます。今回も剣士くんたちとゴブスレさんを二股して(語弊のある言い方)ガンガン依頼を達成させていきましょう。効率と昇級のバランスも考えますが、今回は【追風(テイルウィンド)】があるためゴブスレさんと行く長距離クエストは前回より早く行動できます。

 なので前回と同じく「ゴブスレさん→剣士くん→休息→ゴブスレさん」と行動するだけでも大きくタイムを更新できたポイントとなりました。短縮してもこのタイミングで特に難しいクエストは発生しないので最初のクエストと同じく因果力でぶん殴りつつ依頼を達成しましょう。

 

 (疾走詩人寄生中……)

 

 いやー、山砦のゴブリンたちは強敵でしたね。女神官ちゃんの覚えた【聖壁(プロテクション)】は原作でも最も使用頻度の多い魔法なだけあって、これを覚えた女神官ちゃんがいるとことゴブリン退治においては公式RTA状態になります。チャートを組む必要もありません。

 ただし移動が【追風】による高速移動に変わったため、試走では都合よく雨が降りませんでした。なのでゴブスレさんの作戦では近くの川を氾濫させるというものでしたが、そこは頼れる綺麗なお姉さんこと詩人さんの【突風】を使いましょう。

 前回も説明しましたが「術者を中心とした半径60m」で「その始点と終点の間にあるものを吹き飛ばす」という異常な効果を持ちます。また効力値が最低だとしても抵抗の意思がなく固定されておらず風の抵抗を受けやすいものであれば終点までぶっ飛びます。

 何が言いたいって言うと、たとえば川の水を斜め上にぶっ飛ばして放水するとかいうマネができるんですね。試走では【雨乞(コールレイン)】を習得しましたがこちらのほうが汎用性が高く手楽です。ゴブリンの巣穴を水攻めするときとかね!

 ともあれ、このクエストを攻略すると次は旅の仲間たちが辺境の街にやってくるあのイベントが発生します。そう、原作第一巻の山場のひとつ、オーガ戦への序章です。

 それに備え、改めてチャートを組み直しました。

 

 というわけで燃える砦をバックに今回の依頼達成ぶんの報酬を含めた成長を解説します。

 まず冒険を重ねたおかげで黒曜等級になり、冒険者レベルも3へ。

 ここまでの経験点で【精霊使い】と【魔術師】を3へと成長させます。

 技能は【魔法の才】【幸運】【風の遣い手】【精霊の愛し子】を習熟へ、そして【統率】を新たに習得し一気に習熟まで上昇させました。これにより風属性の魔法は少しだけ大成功(クリティカル)しやすくなる他、回復量やダメージに+1されます。

 習得した呪文は凶悪な効果を持つ精霊術の【恐慌(フィアー)】、真言呪文では今後活躍する予定の【解錠(アンロック)】と、使ってみると非常に便利な【分身(アザーセルフ)】を習得しました。ぶっちゃけここから詩人さんはほぼほぼ【分影】を維持します。夜寝る前に唱えると次の夜までずーっと残るから便利ですよ。その日使わなかった呪文の使用回数を消費するので無駄がないですし。

 アイテムのほうは防具を趣味と実益を兼ねた旅人の外套(シャープ)に変更して装甲を上げます。あとは消耗品として強壮の水薬(スタミナポーション)治癒の水薬(ヒーリングポーション)を2本、そして分身用の石弾セット、最後に臭い消しを購入します。

 そしてこまごまとした嗜好品ですが、まぁ今回も干した果物あたりで十分ですよね。さすがに森人の昆虫食とかやるのはちょっと好感度下がりそうですし。

 

 山砦を大炎上させてしばらく経つと都のほうで「辺境勇士、小鬼殺しの物語」より山砦炎上の段が広まります。前回と同じですね。金床娘が辺境の街にやってくるまでしばらく休息あるのみ、です。なんなら分身を作りだして溝浚いでも可です。溝浚いガチャ面白いですが運が絡みすぎてRTAには向かないので好きではありませんが。

 なので前回と同じく休憩がてらギルドの待合スペースで【芸能:即興詩】による恋文代筆の副業を行いましょう。え? 僕? もちろん隣に座りますわ。カメラで詩人さんの横顔を御参拝ですよ。

 

 はい。前世も含めれば何百回と一緒に冒険した妖精弓手、鉱人道士、蜥蜴僧侶の三人がギルドに入ってきました。今声をかけたところで無意味なので聞き耳を立てておきましょう。妖精弓手がオルグボルグの名前を出したら踏み込みます。

 それはゴブリンスレイヤーのことだろうと受付嬢さんに話すと、ちょうどゴブスレさんが女神官ちゃんを引き連れてギルドに来ます。このあたり変わりませんね。四人は奥へと消えていくので、しばらく女神官ちゃんと待ちましょう。

 

 はい、ゴブスレさんが戻ってきました。一人で行く気満々ですが、今回も詩人さんが同行を告げます。「そうか」ってお前あっさりしすぎだルォ? もう少し会話と言うものをしようぜ? こっちは世界を縮めるために頑張っているんですよ! いやまぁ君には関係ないけども。

 

 それでは馬車を使った長距離移動クエストが発生しました。クエスト名は「旅の仲間たち(ザ・フェローシップ)」ですね。何気ない道中の野営などRTAとしては倍速の対象ですが、等速で流したい気持ちにさせてくれますね。

 まぁそんなセンチメンタルなこと言わず【追風】で速度を上げます。呪文使用回数が不安かもしれませんが、大丈夫です。詩人ちゃんには【分身】があります。【分身】を馬車に乗せて瞑想させつつ【追風】を使いまわしましょう。

 ちなみに前回使わなかった瞑想ですが、これは3時間かけて行うことで呪文回数を1回回復させることができるものです。小休止が3時間以上取れるのであるならば呪文使いはやって損はありません。

 で、【追風】は乗り物の速度を1.5倍にする呪文です。片道4日ほどかかったあの旅路がおよそ2.6日で到着してしまう計算ですね。くっそ早いな……。

 これでは3日目の野営で冒険者になった理由を問うことができませんね? しかしご安心ください。これはRTAとはいえ私はエンジョイ勢ですのでもちろんイベントを発生させます。2日目の夜会話でこちらから話題を振って差し上げろ。あとは勝手にイベントが進行するから楽なもんだぜ!

 では空気を読むのが上手い常識人こと蜥蜴僧侶さんから冒険者になった理由を問われます。俺の嫁こと詩人さんは――……げっふ!?(吐血)

 

 運命の人が一人とは限らないってどういうことですか詩人さん!?(血涙)

 

 え……あ、冗談?

 やだもー、やめてよね! ぼかぁ心臓が弱いんだ! 一瞬RTAやめたくなりましたよもー! ほんと詩人さんは小悪魔さんだことっ! でもそこが好きっ! 全身ドMに改造されちゃ~う。

 まぁ正直な話、寿命が違いますからねぇ。一人と限らないっていうのはしょうがないことですよね……(瀕死)

 

 はい、疲労が少し溜まった状態で到着しました。ですがここに到着するまでに瞑想を行ったので呪文の使用回数は満タンです。ゴブリンの見張りは妖精弓手が曲芸じみたワンショットツーキルをかましてくれるのでなんの問題もありません。

 ではいつもの臭い消しイベントですね。ゴブリンの肝一番搾り! 対象は妖精弓手ですねぇ……いやぁいつ見てもこの引きつった顔は可愛いなぁ(歪んだ性癖)

 女神官ちゃんも頭からどばーっと洗礼を受けるのを見て、詩人さんは余裕の笑みですよ。なぜなら彼女は今日、臭い消しを持ってきていますからね。こいつの効果はぎりぎり3日、あと半日は持――……ねぇゴブスレさん? なんで俺の嫁に近づいてウボァー! やりやがったなこの野郎! 事と次第によっちゃ――え? なに? 分身で増えたアイテムはなんの効果もない……? 途中で効果が切れたら台無しだ……? あ、はい……そうですね……。

 

 はい。原作どおり森人冒険者の生き残りを見つけました。今回も森人なので魂魄抵抗判定が発生します。目標値「15」って割と難易度高いよねぇ……あちゃー、今回も詩人さん吐いちゃいましたか。直ちに消耗度が「1d3」点上昇しますが、まぁタイム的なロスはないですしね。甘んじて受けておきましょう。

 

 はい、ゴブリンを殺しながら奥へ奥へと進んでいきまして、ようやく到着です。今回のゴブリン屠殺会場も満員御礼。これ殺すのマジで手間なんですよね……ていうか今回詩人さんが2人に増えているので操作の手間も2倍です。持ってくれよ私の指……。

 なお今回の詩人さんは【酩酊(ドランク)】を使用できないので自動的に死んだ目をしてゴブリンの喉を突きまわる作業になります。しかも2倍の速度で。

 

 私の指という尊い犠牲を出してしまいましたがゴブリンの駆除が完了しました。

 はい、奥のほうから今回の食材こと人食鬼(オーガ)が現れます。てめぇ今回も丁寧(ざつ)に調理してやるからな! それではこのクエストのクライマックスを華麗に彩るチャートをお見せしましょう。

 開幕【火球(ファイアボール)】の詠唱が始まりますので、分身詩人さんの【霊壁(スピリットウォール)】で割りこみます。せっかく【風の遣い手】を習得しているので風属性で詠唱したいところですが、相手は火なのでなんとなく水属性にしましょう。まぁ意味があるかどうかと言われると微妙ですが。

 ともあれ【霊壁】がオーガの【火球】をがっちりと遮りました! さっすが綺麗なお姉さん! 頼りになりますよ!!

 では視線も通ってますのでこのまま詩人さんに【恐怖】を使用してもらいます。このとき抵抗を抜くのはもちろんですが、必ず効力値が「20」以上になるようにしましょう。【風の遣い手】があるから出目11以上で大成功ですが――駄目か。ですが達成値16なので問題ありません。そのための因果点。そのための【幸運】です。

 ちなみに現在値は未使用のため「7」、【幸運(習熟)】のため「2d6+2」で7以上であれば成功です。確率としては87%なのでまず出ます。出ました。

 

 黒き太陽の子こと大量の蝗に襲われる幻覚に恐 れ お の の く が い い !

 

 ふははは! 怖かろう! 恐ろしかろう! この【恐怖】、効力値20以上は「知識判定と抵抗判定以外のすべての判定に-2のペナルティ」と「逃亡しようとする」のふたつ! これが6ラウンド続く!

 逃亡するには主動作で「逃亡宣言」を行う必要があり、これに対して移動距離以内にいるキャラは移動妨害判定による逃亡阻止を試みることが可能です。ぶっちゃけ今逃がしてもクリアにはなんら問題はありません。後で出てくる可能性があるだけです。

 ですが今回はここで倒します。ゴブスレさんや蜥蜴僧侶さんに逃がさないようお願いしましょう。逃げる相手にならゴブリン狩りでめっぽう慣れてるゴブスレさんなら余裕で妨害してくれます。駄目だったら因果点をぶち込めばいいです。

 はい、オーガが逃亡に失敗したので-4のペナが入ります。合わせて-6ですね。今回は因果点を使わずに済みました。、

 あとは6ラウンドで仕留めればいいわけですが、ここで詩人さんが【突風】を使います。もはやおなじみの呪文になりましたね。これも効力値「20」以上でぶん殴る必要があります。出目11が出ればいいんですが――ちっ、出ませんでした。が、因果点でぶん殴りました。72%なら余裕で出ますよ。これでオーガに「2d6+3点&5m移動&転倒」の効果を与えることができました。

 今、転びましたね? では女神官さんに【聖壁(プロテクション)】を使ってもらって押さえつけてもらいましょう(暗黒微笑)

 地面と【聖壁】で完全にサンドイッチになった人喰鬼などまな板の上に登った鯉と同じよ! お前の敗因はたった一つ。シンプルな答えだぜ! 精神効果への耐性を持っていないのが悪い!(理不尽)

 ではアニメ最終話でゴブスレさんが小鬼の王(ゴブリンロード)の喉を折れた剣で抉ったように、動けないオーガの延髄を断って、工事完了です。

 

 

 まぁ、お前は、なんだったか……ゴブリンのほうが手強いな……というゴブスレさんの言葉をじみじみと噛みしめながら本日はここまで、御視聴ありがとうございました。



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旅の仲間たち(ザ・フェローシップ)【裏】

 よくある話だ、と口をそろえて言う。

 新米の冒険者が、最初の冒険にゴブリン退治を選ぶことも。巣穴に運悪く上位の個体がいるということも。そして運良く、依頼を達成するということも。

「だが、あそこまで周到に用意された巣は()()だ。奴らはマヌケじゃあないが、馬鹿だ。上位種……シャーマンがいなければ、ああまではならん」

 そう言葉を紡ぐのは、小鬼を殺すもの(ゴブリンスレイヤー)

「普通ならせいぜい穴を掘るか、縄を張る程度の罠しか作らん。それでも、何も知らない新人冒険者は引っかかるが……まぁいい」

 途中で面倒くさくなったのだろう。

「俺は行く。後は勝手にしろ。俺の報酬はいらん、勝手に来ただけだからな」

 

 

「――あれはなくないか!?」

 だいぶ酒精が周り顔を真っ赤にした青年剣士が言う。

「いや、助けてもらったことには感謝してるけどさぁ……でもなんかもっと、一言なくないか?」

「聞けば、ここの名物冒険者みたいよ。いっつもゴブリンゴブリン言ってるって」

「ゴブリン退治だけで銀等級になった、小物狩り専門とかね」

 洗ってもなかなか落ちない血の汚れと生臭さに辟易しながら、各々好き勝手に恨み節を口にした。

「まぁでも、最初の冒険で命を落とさないだけマシだろう?」

「……だよなぁ」

「よくゴブリンに手籠めにされて、神殿に入る女の人がいるって言うしね……」

「しかもあのゴブリン、武器に毒が塗ってあったじゃん? あれ破傷風みたいな感じで薬も飲めなくなったんだとか」

「それは……まだ【解毒】の奇跡を授かってない私では、治療は無理でしたね……」

「人付き合いも悪いけど、いちおう銀等級なだけあるってわけさ」

「詩人さん、妙に彼の肩を持ちますね?」

 女神官が不思議そうに問う。

「そりゃあ、彼がいなかったら誰か死んでいただろうからね。恩を口にしないのは森人(エルフ)として失格だよ。そこに本人が、いなくともさ?」

闇人(ダークエルフ)の間違いじゃない?」

「なんだとーぅ!」

「まぁまぁ……それよりこうやって生き延びたんだ! この幸運を喜ぼうぜ!?」

「そうね、そうしましょう!」

「はいはい……一体何度目なんだか」

「僕ぁそろそろ辛くなってきたぜ、体力ないからな」

「ははは、そう言わずに。じゃ――生き延びたこの幸運に、乾杯!」

「かんぱぁい!」

 一党の頭目(パーティリーダー)が大声で宣言すると、合わせて彼女らも、なみなみと酒の注がれた杯を掲げる。

 ああ、これもよくある話だ。

 初めての依頼を達成したそのお祝いに、全員で酒を飲むことも。

 そして五度目、六度目の乾杯の音頭が上がるということも。

「この宴会で報酬ほとんど使っちゃうのはどうかと思うけどね」

「いうなよ!」

「てか、まだ臭いし取れないし……」

「血って落ちにくいわよねぇ……」

「そうだね、うん」

 一体この話も、何度目だったか……と誰かが笑った。

 

 

「――……あのとき結局、何回同じ話したんだっけ?」

 布に燃える油をしみこませ、それを鏃に巻きつける。

 その作業を行いながら、詩人は女神官に問いかけた。

「さぁ……なんだか、ずいぶん昔のようにも思えてしまいます」

「おいおい。昔のことを思い出せなくなるのは、老化の兆しらしいぜ? 只人(ヒューム)ってすぐおばあちゃんになっちゃうんだから。気をつけなよ?」

「あはは……」

 森人(エルフ)のものさしで言われても、と。女神官は苦笑いを浮かべる。そんな彼女の首には、黒曜の小板がぶら下がっていた。

「それにしても、君はほんとうにお仕事熱心だよねぇ、もう黒曜級だなんて」

「詩人さんだって、同じじゃないですか」

「僕は君についていっただけだぜ?」

「間違いなく詩人さんの実力ですよ」

「そうかな?」

「そうです」

「無駄話は終わりだ。……やるぞ」

「はいはい」

「わかりました」

 森人の古い山城めがけて、短弓(ショートボウ)を構えて引き絞るゴブリンスレイヤーを背にすると、詩人は森の中へと消えていく。

「えーっと……川はどっちだったかな?」

 如何な森人とて、水と食料がなければ等しく死は訪れる。いわんや、樹木を利用した山砦をや。近くに水源があるのは当然のこと。

 ほどなく歩けばそこそこの深さがある川を見つけることができた。川岸に、ゴブリンにもてあそばれた傷が残る冒険者たちの死体が打ち上げられている。きっと、死んだから川に捨てたのだろう。

「……あぁ、いやだいやだ」

 背後で盛大に山砦が燃え盛る。丁寧に埋葬している暇はあるまい、森が燃えては大参事だ。ほんの少し彼女たちの冥福を祈り、死体の首から認識証を拾い上げると、詩人は投石杖(スリングスタッフ)を構える。

「こんな気分で冒険なんて、したくないね……」

 真に力ある言葉(トゥルーワード)を紡ぎ出す。すぐさま、ずん、と頭に重石が乗せられるような負担がかかると、詩人の思い描く通りに突風が吹きすさぶ。

 魔力の風は川の水を大量に巻きあげて、彼方で燃える山砦へと飛んで行った。

 

 

 なんともまぁ、楽な仕事だ。

 徹底した合理主義。効率厨(マンチキン)は賽子を振らないと聞くが、ゴブリンスレイヤーはまさにそれ(・・)である。

 剣士たちとの冒険にもそれは生かすことができていて、体力のない詩人でも冒険を続けることができていた。生活も安定しているため、生活が厳しいときに行っていたこの代筆業も半ば趣味で続けている。それすら暇なら、魔導書を開いては忘却した「真に力ある言葉(トゥルーワード)」の再記憶をするだけだ。

 ――それにしても愛しい人は本当に僕のことが好きだな。隣に座って僕の横顔を見るだけなんて、君は本当に暇な人だね。

 頬が緩んで、にやけそうになる。誤魔化すように、余裕ぶった表情でギルドで騒ぐ冒険者たちを見ていると、不思議な一行がやってきた。

 森人の自分よりもさらに長い耳は、上の森人(ハイ・エルフ)か。傍らには鉱人(ドワーフ)など、なんと頓狂な組合せだろう。その上あの蜥蜴人だ。たまたま行先が同じになったと言われたほうが納得のいく、珍妙な一党がやってきたのだ。

 ――まぁ、僕には関係のないことか。

 それより愛しい人とのデートが最優先である。触れ合うことはできないけれど、そばに寄り添うだけでも通じ合う心がある。ああ、これは詩の一節に使えるな……なんて考えながら頬杖をついた。

 

 

小鬼を殺すもの(オルクボルグ)よ」

 ん、と首を上げる。

 ずいぶん久しぶりに聞いた言葉で、聞きなれた者が呼ばれた気がしたからだ。見れば先ほどの一党が、受付嬢を困らせているではないか。

「ええと……樫の木(オーク)、ですか?」

「違うわ。小鬼(オルク)小鬼を殺すもの(オルクボルグ)よ」

 確かに森人の言葉で言われても、只人(ヒューム)たちには分かりづらいだろう。しょうがない、ここは助け船を出してやりますか。詩人は傍らに立てかけた杖を持ち、立ちあがった。

「ここは只人の街だよ? オルクボルグじゃあ伝わらないさ。もちろん、小鬼斬り(オルクリスト)もね」

 割って入られてか、上の森人は怪訝な顔をする。

「あなたは?」

「僕かい? 僕は小鬼を殺すもの(オルクボルグ)を知っているだけの、ただの綺麗なお姉さんさ!」

「詩人さん!」

 小鬼を殺すもの(オルクボルグ)を知っていると聞いて、受付嬢は助かったとばかりにほっと胸をなでおろした。

「で、オルクボルグってなんです?」

「ほら、彼だよ。ゴブリンスレイヤーさん」

「ああっ! ゴブリンスレイヤーさん!」

 受付嬢がその名を言うや、名前を呼ばれた男がギルドへと足を踏み入れる。

「――ゴブリンか?」

 お決まりのセリフを放ちながら。

 

 

「きっと冒険の話さ」

 二人は、女神官と待合スペースでゴブリンスレイヤーを待っていた。

「上の森人に、鉱人(ドワーフ)の精霊使い、そして蜥蜴人(リザードマン)の竜司祭! なんとも心躍る一党だ。そこに只人の彼と君、森人の僕が入れば、まるで寝物語に聞いたあの冒険譚みたいだ。……まぁ、父さんの話してくれたそれは、即興詩だったんだけどね? 圃人(レーア)が主役の」

「そうなんですか?」

「最後はさ、生きたまま幽界に入ることのできる、とてもとても恐ろしい力を秘めた指輪をね、持ち帰ってしまい――……」

 思わず言葉に熱がこもる。

 あのとき聞いた話を忘れられないでいるのだ。特に、幽界に入ることのできる指輪なんて、まるで――

「っと、帰ってきたみたいだね」

 詩人は投石杖を手に持ち立ちあがる。ここでゆったりとした歩みを見せれば年上の余裕を見せられるのだろうが……冒険のにおいを感じた詩人には、とうてい無理だった。

「ゴブリンでしょ?」

「ああ、ゴブリンだ」

 ゴブリンスレイヤーは短く答える。

「俺一人でいく」

「つれないなぁ。仲間だろ? 少なくとも僕はそう思っている」

「好きにしろ」

「うん、好きにしよう」

 長く共に冒険をしていれば、なんとなくわかるものだ。彼は別に、悪気があって言っているわけではないということを。

「お前は休め」

「君は馬鹿か」

 だからこう言うだろう事もなんとなく分かっていた。思わず頭を抱え、ため息を一つ。

「せめてこう、もう少し。こう、さぁ!」

 言いたいことはあるが上手く言葉にできない。即興詩を嗜んでいるとはいえ、難しいものは難しい。

「そうですよ……! せめて、こう、決める前に相談とか……!」

「――? しているだろう」

 心底不思議そうに、その鉄兜を傾けた。

「あ……これ、相談、なんですね……?」

「そのつもりだが」

「君はじつに馬鹿だな……」

 彼と共にいる限り、僕はこの言葉を幾度となく繰り返すだろう……そんな予感が、した。

 

 

 瞬く間に二日が過ぎた。二つの月の下にどこまでも続くように広がる荒野。その真ん中で、冒険者たちは焚き火を囲んでいた。

「こんな話を知っているかい? これは、ある神官戦士の話さ。猛女と呼ばれた彼女は、その膂力を持て余していたんだ。どんな武器も軽すぎて、とうとうそのへんの大木をね、引っこ抜いて戦い始めるという滑稽話なんだけども」

「なにそれ。その猛女って、巨人ってオチだったりしない?」

「いや、それが只人でね?」

「それ本当に只人?」

「ああ。でも鎧は立派なものを着ることができてね……あんまり重すぎて、酒場の床を踏み抜いてしまうんだ!」

「そんなへんなやつが本当に居るのかしら」

「いたら面白いじゃないか。少なくとも、似たような男は知っているだろう?」

「ああ……なるほどねぇ」

 妖精弓手がゴブリンスレイヤーを横目で見ると、呆れたように肩をすくめる。

 手を変え品を変え、面白おかしい話を言って聞かせる詩人の話は、実に飽きることがなかった。

「ところで……みんなはどうして冒険者になったんだい?」

 ふと、思いついたように詩人は言う。

「そりゃ、旨いもん喰うために決まっておろう」

「だと思った……」

「耳長はどうじゃ?」

「そりゃあ……外の世界に憧れて、ってとこね」

「拙僧は、異端を殺して位階を高め竜となるため」

「えっ」

「異端を殺して位階を高め竜となるため」

「は、はぁ……まぁ、宗教は分かります。私も、そうですから」

「ゴブリンを……」

「アンタのはなんとなくわかるからいいわ」

「おい耳長の」

「僕も長いけど」

「面倒じゃな!? いや金床の」

「僕も小さいわけだけど」

「ややこしくするでないわ!」

「ははは」

 詩人はけらけら笑い、夜空を見上げた。

「それで詩人殿は、如何な理由で冒険者となったのですかな?」

「僕かい?」

「ええ。皆口にしたのですから、言わねば不公平でありましょうよ。なにより言い出しっぺというやつで」

 そう蜥蜴僧侶が問いかけると、詩人は少し考えた上で口を開く。

「愛しい人に会うためさ」

「おおう。思ったよりも乙女な理由が出てきたわい……」

「僕は、詩人だからね。多かれ少なかれ、そういうところがあると思っているよ」

「それで、その愛しい人とやらには、会えましたかな?」

「うーん……どうだろうねぇ」

 詩人は空に向かって手を伸ばす。まるでその彼方に、その相手がいるように。

「いつも、僕のそばにいてくれるんだけどね。どうにも、遠くてさ……まぁ、うん。彼は、森人では、ないから、ねぇ……」

「それは……」

 少しずつ沈んでいく詩人の言葉に、女神官が息を飲む。マズいことを聞いてしまったと、その空気が妖精弓手や鉱人道士、蜥蜴僧侶に伝わり――

「……って言うと、まるで死んだ人を想ってるみたいじゃない?」

「詩人さん!?」

「ははは」

 人を喰ったような笑いを上げて、詩人は改めて()()()を見つめた。

「まぁ、運命の人が一人とは限らないけどね」

 どこかで血を吐く声がした。

「それはまた、ずいぶんと愛が多いようで」

「冗談だぜ? 僕は一途なんだ。そりゃあもう、彼が死んだら、悪いわるぅい、死人占い師(ネクロマンサー)になろうか考えるくらいさ。死んだ後も、離してやるもんか、絶対に。なーんて……ね?」

「まったくこの短い耳長のは、人を喰ったようなことばかり話よる」

「おいおい、短いのに長いってどういう」

「旨い! なんじゃいなこの肉は……」

「聞けよ、僕の話」

「おぉ口に合ったようでなにより。沼地の獣の肉ですぞ」

「おお、旨い旨い」

「これだから鉱人は……」

「そうよねぇ!」

「野菜しか喰えん兎もどきにゃこの旨さは分かるまい!」

「む……」

 言われっぱなしは気に食わないな、と。詩人は唸り声を上げて雑嚢を取り出す。

「そうまで言うなら、僕もとっておきを出すしかないね」

「どうせ草じゃろ。それか、干した果物」

「あんたほんと甘いの好きだもんねー」

「失礼だね」

 取り出したのは、黒い粉の入った袋だ。

「なんじゃいそれは」

「世にも珍しい真っ黒い砂糖~、とか言うんじゃないわよね?」

「君たちは僕を何だと思ってるのかな????」

 カップにさらさらとその粉末を入れて、あつあつのお湯を差し入れる。妖精弓手が鼻をひくひくと動かして、思わず眉を顰めた。

「あんた、これ……タンポポじゃん」

「タンポポ、ですか?」

「根を乾燥させ、炒ったものですな。薬湯として、好んで飲む土地もあるとは聞きますが……拙僧の記憶が確かならば、森人にタンポポ喰いとは……悪食の類では?」

「そうだけどさ。愛しい人の生まれた土地は、こう言うのを好むんだよ……確かに僕も最初はどうかと思ったけれど、恋する乙女は無敵だぜ?」

「あたしパース」

 苦くて飲めたもんじゃない、と手を振り拒絶する。

「まぁ、僕も昔は苦手だったからね。分からなくもないよ。でも今じゃ、この苦みが僕の頭脳を覚醒させる気がして中々好みなんだぜ?」

 言いながら、山盛りの砂糖を一杯、二杯……、

「にが、み……?」

 女神官の首が、だんだん傾いでくる。入れた砂糖が十を超えるころになってようやく、詩人はそのタンポポの汁に溶けきれなかった砂糖を、スプーンですくってじゃりじゃりと食べ始めた。

「本当はここに牛の乳を入れるんだけどね?」

「あ、はい……」

 それ以上口にはすまい、と。それきり女神官は口をつぐんだ。

 

 

 妖精弓手の放つ矢が、空を翔け魔法のような軌跡を描いて二匹のゴブリンの頭を射抜く。

「すごいです……」

「やっぱり上の森人の弓術は頭がおかしいね」

「見事……魔法のたぐいですかな?」

「ふふん。十分に熟達した技術は、魔法と見分けがつかないものよ?

「それをワシの前で言うかね……」

「あなたも練習すれば、これくらいできるわ」

投石杖(こんなの)でも?」

「……たぶんね!」

「顔を逸らすなよお姫様」

「おいおい、こーんな金床娘のどこがお姫様じゃい」

「ははは」

 何も知らぬは幸せなりて、と詩人は乾いた笑いをあげる。

「一、二……」

 数えて、ゴブリンスレイヤーが死体となったゴブリンの腹を裂く。

「ちょ……何してんのよ?」

「奴らはにおいに敏感だ……特に女、子供、森人のたぐいはな」

 引きずり出した肝を、手ぬぐいに包む。

「い、嫌よ! ちょっ――コイツ止めてよ!?」

「慣れますよ」

「そうだぜ、お姫様」

 詩人はにやついて、妖精弓手が小さい悲鳴とともにゴブリンの肝汁がぶっかけられるのを見届ける。そして死んだ目をして、次は私の番とばかりに頭を差し出す女神官。もはやすべてを諦めた顔をして肝汁がかけられた。

「さて、いこうか」

「待て」

「そうよ……待ちなさいよ……」

「詩人さんも臭い消しが必要ですよね?」

 三方をゴブリンスレイヤー、妖精弓手、女神官に囲まれる。

「いやぁ、今回は遠慮するよ。臭い消しをね、持ってきたから」

「あ、こいつずっこい!」

「ずるいですよ!」

「ふっふっふ……僕はコーヒーを飲んで、常に頭を冴えさせているからね」

 分身とともに、ドヤ顔で胸を張る。

「そうか」

 うなずくゴブリンスレイヤーは、しかし分身の詩人の頭からそいつをぶっかけた。

「あああああっ!? な、何をするんだい!?」

「分身の持つ道具は、効果のない偽物だ」

 お前がそう言ったんだろう、と不思議そうに答える。

「そ、そりゃそうだけども……」

「そういうことだ」

 言うや、不意打ち気味に詩人の頭へ肝をぶちまける。

「ぎゃああああ!?」

「臭い消しの効果は三日だ。そんな効果の薄れたもので、見つからないとも限らん」

「君、僕のこと嫌いだろ!?」

「えり好みはしない」

 何を当たり前のことを、と。不思議そうに返された。

 

 

 ほどなく、見張りの死体を藪に隠した一行は遺跡へと踏み込んだ。白亜の壁に囲まれた狭い通路は、徐々に下り道になっているようだ。前衛を務めるゴブリンスレイヤーは、手にした剣で、行く手の床と壁をこつこつと叩く。

「拙僧が思うに、これは神殿だろうか?」

「このあたりの平野は、神代の頃に戦争があったそうですから」

「その時は砦か何か……造りとしては、人の手によるもの……のようですが」

「兵士は去り、代わりに小鬼が棲まう、か。残酷なものだ」

 ぐるぐるとゆるく螺旋を描いて続く道は知らずの内に平衡感覚を狂わせていく。

「なんぞ気持ち悪いの、ここは」

 鉱人道士が額の汗を拭って毒づいた。

 ややあって、ようやく下り路が終わる。通路はそこで左右に分かれていた。

「待って」

「どうした」

「動かないで」

 そっと前方の石畳の隙間汚、細い指先でなぞり入念に調べる。

「鳴子か」

「たぶん。真新しいから気付いたけど……」

「うっかりしていると、踏むってわけかい」

「そうね。気をつけて」

「ゴブリンどもめ、小癪な真似をしよる」

 ゴブリンスレイヤーが松明で床を照らし、左右の壁に明かりを近づけて調べる。はるか古代の人々が残した灯の煤以外、何も見つからないようだ。

「……」

「気に食わないかい?」

「ああ」

「どうしました?」

「トーテムがさ、見当たらないって」

「あ、そういえば……」

 ゴブリンスレイヤーとの付き合いが短い妖精弓手、鉱人道士、そして蜥蜴僧侶は首をひねる。

「つまり、えっと、ゴブリンシャーマンがいない、ってことです」

「あら。呪文遣い(スペルキャスター)がいないなら楽じゃないの」

「察するに……いない、と言うのが問題なのだろう。小鬼殺し殿」

「そうだ。ただのゴブリンどもだけでは、こんなものは仕掛けられん」

 ゴブリンスレイヤーは黙り、考え込む。

「……足跡は分かるか?」

「ごめんなさい。石の床だと」

「お姫様に無理なら、僕も無理だぜ?」

「どれ、わしにも見せてみろ。石と鉄なら鉱人の領分じゃて」

 小唄まじりにT字路に近づいて、左右をくるくると歩いて回った。

「奴らのねぐらは左側じゃ」

 自信たっぷりに口髭をひねりながら断言する。

「確かか?」

「そら鉱人だもの。ミスリルの鎖帷子を賭けても良いわい」

「そうか」

 小さく頷き、押し黙る。

「どうしたね、小鬼殺し殿」

「……こちらから行くぞ」

 中途半端な剣の切っ先で右を示す。

「ゴブリンたちは左にいるんじゃないの?」

「何か考えでもあるのかい? さては一網打尽にする算段かな?」

「違う……だが手遅れになる」

「何が?」

「行けば分かる」

 そう淡々と告げる彼に従って右の道へ。そう進まないうちに、ムッと鼻を突く臭いが漂いだした。

「なにこれ……」

「ゴブリンの汚物溜めだ」

「おぶ……ッ!」

「意識して鼻で呼吸しろ。直ぐに慣れる」

 臭気の源は向こう側だろうと分かるほどの臭いが漂う、腐りかけた木の扉が嵌った部屋の前へとたどり着く。ゴブリンスレイヤーはそれを蹴り破ると、吐き気を催す臭いが噴出する。

 そしてその部屋には、鎖に繋がれ、右半身を潰された森人がいた。

 

 

「呪文はいくつ残っている?」

 小休止で、ゴブリンスレイヤーが問う。詩人は指を三本たてて答えた。分身も同じしぐさをする。どちらの詩人も、いつもの軽口を叩こうとはしない。

「わしはまぁ、呪文にもよるが四回か五回といったとこか」

「拙僧も三回はいける。が、【竜牙兵】の奇跡には触媒がいる。これに関してはあと一回だと思ってもらおう」

「そうか」

「あの……飲みますか? 飲めますか」

「……ありがとう」

 詩人は首を振ったが、妖精弓手は女神官から水袋を受け取り、のどを潤す。

「あまり腹に物を入れるな。血の巡りが悪くなり、動きが鈍くなる」

「ゴブリンスレイヤーさん!」

「行けるならこい、無理なら戻れ、それだけだ」

「馬鹿言わないでよ……私が戻ったら誰が罠の探索をするのよ!」

「やれるものでやるだけだ。……お前はどうだ?」

 詩人は静かに頷いてみせる。

「あんた、ほんと大丈夫なの? さっきから、ちっとも話さないじゃない……」

 詩人は、妖精弓手の言葉を聞いて、静かに口を開いた。

「心配するなよお姫様」

 紅紫色の瞳が、ぎょろりと妖精弓手を見た。

 彼女は決して萎えてなどいない。ゴブリンの汚物溜めにいた「根無し草(森人の冒険者)」の姿を思いだすたびに、胸の奥にぐつぐつとマグマのような感情が湧きおこる。一度解放してしまえば、抑えきれそうにないと、口をつぐんでいたのだ。

「なら、行くぞ」

 ゴブリンスレイヤーが立ちあがる。小休止終了の宣言だった。

 

 

 地図の通りに進んだ一行は、ほどなくして回廊へとたどり着く。そこには数多くのゴブリンがいた。さて、どうやってこいつらを皆殺しにしてくれよう……詩人は思考をめぐらすが、良いアイディアは浮かばない。

「問題にもならん。手間がかかるだけだ」

「……とても、そうは思えないけれど」

「その口ぶりですと、以前にも経験がおありのようだが……以前はどのような手を?」

「状況によって異なる……だが、簡単なのは毒気を起こすことだ」

「ほう」

「硫黄と松脂を混ぜて、焼く。すると火山のそれと同じ毒気が生まれる。空気より重いから、奴らの巣穴に沈んでいく。放っておけば勝手に死んでいく。楽だ」

「……そのうちホントに神さんから叱られっぞ」

「知らん」

 女神官が何かを訴えるように、じぃ、と見つめる。

「今回は使わん。効果が出るまで、時間がかかる」

「速度の問題かよ」

「そうだ」

「そうかい」

「今回は速攻で始末する。後腐れなく、だ」

「……参考までに、その方法は?」

「僕はいやーな予感がしてきたぜ……?」

「知らん」

 ゴブリンスレイヤーは淡々と口にする。

「俺たちはゴブリンとは戦わない――殺すだけだ」

 

 

 鉱人道士の【酩酊(ドランク)】によって昏倒したゴブリンたちを、女神官の【沈黙(サイレンス)】で音もなく殺していく。詩人は刃の付いたものを持っていなかったため、ゴブリンの腰から拝借した粗末な短剣(ブラント)で喉を突きまわる。

 ――まったく、人の二倍働いてもなお多いとか……。

 自分と、精神的なつながりのある分身。そのどちらもがゴブリンの喉を突いて殺しているのだ。まったく頭がおかしくなりそうだった。

 帰りたい。さっさと体を清めて、愛しい人に抱かれる夢にふけりたい。その思いが一番強くなるころ、ようやく、すべてのゴブリンを刺殺し終えた。

 そう思っていたころだ。ずん、と大気が震えたのは。

 沈黙の中でその衝撃だけが伝わり、誰もが立ち止まる。

 ゴブリンスレイヤーが素早く盾を構え、油断なくゴブリンから奪った剣を抜き放つ。またひとつ、ずん、という衝撃。

 そして暗闇の中から、そいつが姿を現した。

「オーガ……ッ!」

 ようやく音の戻った世界で、妖精弓手の声が木霊する。

「ゴブリンどもがやけに静かだと思えば、雑兵の役にも立たんか……貴様ら先の森人とは違うな。ここを我らが砦と知っての狼藉と見た」

 裂けた口から吼えるような声音を漏らした。

「…………なんだ、ゴブリンではないのか」

「オーガよ、知らないの……!?」

「知らん」

「君はじつに馬鹿だな! ほんとうに馬鹿だな!!」

 まさかこの場でこのセリフを言うとは思いもよらなかった。詩人は頭を抱えたくもあったが、あの化け物から目を離せばどうなるかもわからず、ただただそう口にすることしかできなかった。

「貴様ら! この我を、魔神将より群を預かるこの我を、侮っているのかッ!」

「上位種がいるのは分かり切っていたが……知らん」

「君が馬鹿なのはわかったから、ちょっと黙っててくれないかな!?」

「そうか」

 なるほど、面倒くさいことを引き受けてくれるのか、と。それきりゴブリンスレイヤーは静かに口をつぐんだ。

「本当に黙るとか君はじつに馬鹿だね!?」

「……俺に、どうしろというのだ」

「いつまで愚弄する気か! その愚かさ、その身を持って味合わせてくれるッ!」

「ほら怒ったじゃないか!」

「知らん」

「漫才やってんじゃないわよあんたら!」

「やりたくてやってるわけじゃ……ッ!」

「≪カリブンクルス(火石)……クレスクント(成長)……」

 その青白く巨大な左手に、ボウッと、赤々と燃える炎が現れる。

「【火球(ファイアボール)】がくるぞぉ!」

「散って!」

「じゃがこれでは、どこに逃げても……!」

「≪いと慈悲深き――」

 女神官が【聖壁(プロテクション)】の奇跡を唱え、

「≪氷姫(アタリ)よ氷姫、これなる勇者に舞踏をひとつ、お目にかけてはくれまいか≫!」

 それを詩人は杖で制し、代わりに朗々と歌い上げる。

「【霊壁(スピリットウォール)】!」

「――ヤクタ(投射)≫!」

 すんのところで氷の壁がオーガの目の前に現れ、直後に【火球】が爆ぜる。爆音を轟かせるも、それは確かに全員を【火球】から守りおおせた。

「ぎりぎりセーフ、だぜ」

「詩人さん!」

「小癪な小娘め……!」

 何かが砕けるような音がする。あまりにも大きなオーガの歯ぎしりが、そのように聞こえたのだった。

「あの森人のように、楽に生かされると思うな!」

「やれるものなら、やってみなさい……ッ!」

「そうだぜ、お前は僕の逆鱗に触れているんだ――ッ!」

 妖精弓手は女神官を背に庇い、短弓を引き絞る。

 詩人は目を見開いて睨み、杖を構えた。

「ゴブスレくん」

「なんだ」

「一手くれ」

「わかった」

 二人の会話は、たったそれだけ。お互いに、やることに対して説明の少ないタイプだ。だからこそ、それだけの会話で伝わったのだろう。

「いくぜくそやろう! ≪黒蝗の王(パズズ)よ、太陽の子よ、恐れと怖れを従えて、風に乗りて参られませ≫!」

 精霊使いの鞄の中から、イナゴの死骸がオーガめがけて投げつけられる。

 そいつはまるで突然生きているかのように羽ばたき、増え、真っ黒な霞のごとき塊となってオーガへと襲い掛かる――!

「ぬ、ぅ――おぉおおおお!?」

 オーガは青黒い肌を粟立たせ、恐怖に顔を歪め、膝を震わせる。

「【恐怖(フィアー)】か!」

「ふははは! 怯えろ! 竦め! どんな戦士でも、根源的な恐怖にゃ勝てないものさ!」

 まるで悪役のようなセリフを吐いて、

「――≪ウェントス()……クレスクント(成長)……オリエンス(発生)≫!」

 その陰で、詩人の分身が【突風】の呪文を唱えた。

 それは、どう、とオーガを横殴りに吹き飛ばす。まるで狙っているかのように、ゴブリンスレイヤーが壁を超えて回り込みやすい位置へと倒れ込んだ。

「【聖壁(プロテクション)】だ! 押さえつけてやれ!」

「はいっ――≪いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の御力でお守りください≫!」

 詩人の掛け声と同時、女神官の使う奇跡がオーガを上から押しつぶすように押さえつけた。

「ぐ、ぬおおお……!」

 全身を恐怖で支配されたオーガは、ただひたすら、この戦場から逃げだそうともがく。まるでそれしか頭にないかのように。

「ふん……ざまぁみろだ。お前は、恐怖に怯えるみじめな将のまま、死んでいくんだ」

 詩人はただそれだけ吐き捨てて、

「ゴブスレくん。あとは頼んだよ」

「ああ」

 もはや貴様にかける言葉などない、とばかりにゴブリンスレイヤーへすべてを任せた。

「まぁ、お前は、なんだったか……ゴブリンのほうが手強かったな……」

 淡々とゴブリンスレイヤーは、オーガの延髄に剣を突き立てる。詩人の言葉通り、そのオーガは、恐怖に顔を引きつらせたまま絶命した。




古今東西、耐性がないボスが悪い。


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水の都の小鬼殺し

 俺の嫁に左右から挟まれたいRTA、はぁじまぁるよー!

 

 それでは前回の続きから。黒き太陽の子の力を与えられたゴブスレさんにオーガの首をリボルクラッシュさせた俺の嫁こと我らが詩人さん渾身のWどや顔をご覧ください。しっかりシンメトリーなあたりネタを仕込んでいますよ詩人さん。ちなみにゴブスレさんは【恐怖(フィアー)】の効率的な使い方を考え始めた模様。術者から逃げるならその逃げ道に罠を仕掛ければいいんじゃないかな?

 そんなことはともかく、やることやったらこんなシケたところはさっさと立ち去りましょう。

 すでに表には上の森人(ハイ・エルフ)の馬車が待っているので、さっさと乗りこんで辺境の街へと帰還を果たしましょう。

 あ、当然ながら【追風(テイルウィンド)】で速度を向上させます。今回呪文は3回しか使ってないからね。分身詩人さんも含めたらあと3回は残ってますよ。やっぱり呪文使いチャートは呪文への理解力が肝だな。

 ともあれ、これで往復8日の旅路をたったの5日程度に短縮することができましたよ!

 

 ギルドに到着したので報告を行います。当然のように人喰鬼の将軍(オーガジェネラル)をリボルクラッシュしてきたことを報告すれば昇級に有利になること請け合いですね! え、人格? いやもちろんいいに決まってるじゃないですか。私もよく褒められますよ? 君はいい性格をしているね、って。

 はい、今回もゴブスレさんがケガを負うことはありませんでしたので3日寝込むイベントはキャンセルです。なのでまた次のクエストが発生するまで「ゴブスレさん→剣士くん→休息→ゴブスレさん」の順番でクエストを受注しましょう。

 ふっふっふ、黒曜等級でもクエスト自体は変わらず因果力でぶん殴ります。しかも今度は時期的に海ゴブリン発生しないは――……は? え、このタイミングで君ら剣無くしたん? まじかよ……いや、まぁ、手伝ってもいいけどさぁ……。

 

 (疾走詩人引率中……)

 

 はい、お手伝い終了しました。まぁー下の等級のクエストを手伝ったところで経験点はまずあじでしたね。そもそも剣を取り戻すだけなのでギルドを通した依頼ではありませんでしたし当然かもしれません。

 まぁそれはそれとして冒険者レベルも4へ上昇、冒険者同士のお手伝いも行ったということでギルド内部の評価も上がり無事鋼鉄級へ昇級もしました。この経験点で【精霊使い】を4へ上昇させ、【使役(コントロールスピリット)】を習得しています。余った経験点で【野伏】を2レベルへ。冒険者技能は【魔法の才】と【風の遣い手】を熟練へ上昇させています。

 特に今回の【風の遣い手】はかなり凶悪ですね。熟練ともなれば出目10以上で大成功(クリティカル)です。確率としては16.67%ですので、かなり大成功しやすいものと思ってもらって構いません。また副次効果としてダメージと回復量が+2点上昇するので、次に習得する予定の切り札【力球(パワーボール)】の火力アップにつながります。

 

 そしてゴブスレさんが圃人斥候(レーアスカウト)の昇級審査を引き受けて郵便馬車で運ばれる特別な依頼書を受け取ったイベントが発生します。ようやく水の都の地下迷宮ですね。いやー、ここまで長かった……。

 夕食中にゴブスレさんが二択を迫ってくるので当然ながら「同行する」を選びます。

 そして妖精弓手と女神官ちゃんに水責めとか火責めとか毒気を禁止されるシーンですがゴブスレさんの「(´・ω・)<しかたあるまい」がたまらなく可愛い。

 

 はい。【追風(テイルウィンド)】の効果であっというまに水の都に到着します。観光なんて後回しですね。鈍足のデバフでも受けてるのかって思うくらい足の遅い女神官ちゃんの背中を物理的にプッシュしながら神殿に向かいます。

 

 デカァァァァァいッ説明不要!! な、トイレタイムです。

 剣の乙女さんの話すゴブリンの被害にゴブスレさんも「(`・ω・)<気に食わん」と気になってるご様子……まぁ確かに普通のゴブリンの被害では、ないよねぇ……。

 では昔の地図を貰ったら、さっそく地下水路に潜りましょう。ぶっちゃけ地図があるので迷いませんし、出てくるゴブリンはゴブスレさんが片付けてくれます。

 今回は詩人ちゃんのゴブリン討伐数は比較的足りてます。最初の洞窟で一気に稼げたというのも大きいです。やっぱりまとめて薙ぎ払える範囲魔法は神やな。

 あとは毒気の罠が仕掛けられた部屋でさらに稼ぐ算段です。前回はチャンピョン撤退させて問題発生でしたが、今回はそんなこともありませんし。それでもまぁ、ここでは投石杖(スタッフスリング)でちまちまと削りましょう。

 

 はい、少し進んだところでゴブリンが船で来ました。でも前回と同じく【霊壁(スピリットウォール)】で片付けるのも芸がないですよね? 【突風(ブラストウィンド)】で水を巻きあげて転覆させます。ふはは! 高波に煽られて沈むがいい!

 え、水攻めではないよ? 詩人さんには何も言われてないしセーフ! よしんばアウトだとしても、船をひっくり返そうとしたら水だけ巻きあがっちゃっただけだからセーフなんですよ(詭弁)

 そんな騒がしくしたつもりはないんですが(十分騒がしい)沼竜が出てきました。

 まぁこのワニさん訳アリだからどっちにしろ出てくるんでしょうけどね。

 いつものゴブスレさんの「(´・ω・`)<ゴブリンではないのか」というセリフを聞いて癒されながら逃亡しましょう。正面からゴブリンの船三隻がやってきますが妖精弓手に睨まれてるので原作同様の対処をしてもらいますね。

 あー、私のゴブリン討伐数がワニの腹の中に消えていく……。

 一度地上に戻ったらゴブスレさんが手紙を出したり道具を補充するので別行動を取りましょう。貴重なお風呂シーンを見ることができますが森人(エルフ)は火や水の精霊が入り混じるお風呂は苦手なので自動でお断りされます。残念だったな! 残念だったよ!

 地下水路に再突入するのは翌日なのでアイテムの補充などを済ませたらさっさと寝てしまいましょう。

 

 ゴブスレさんがカナリアを連れてきたかしら。地下水路に再突入するかしら。かしらかしらご存知かしら? カナリアは少しの毒気で騒ぐのかしら……はい、というわけで毒の罠がある部屋までずんずん移動しましょう。どうせなにもありません。

 

 さぁやってまいりましたゴブリン討伐の稼ぎ場所! 鉱人道士と妖精弓手が穴と言う穴を埋めて回ろうとしますが、ここは頼れるお姉さんにお任せあれ、ですよ。

 まずは1手目、詩人さんによる【解錠(アンロック)】です。

 走者はこいつをただ鍵だけ解除するものだと思ったら「鍵や()()()()など物理的な開閉をコントロールする機構」を開けられる状態にする魔法でした。同時に「望むなら対象を開きます」ともあります。高効力値になれば「物理的な罠も作動しない状態に変形させる」というやたら凶悪な呪文なんですねぇ……。

 というわけで【解錠】を知る詩人さんにこのような扉などあってないようなもの! 扉、バーン! 頑張ってかんぬきかけたゴブリン涙目っ!

 そして分身詩人さんによる【突風(ブラストウィンド)】、ドーン!!

 なお、この【突風】という呪文は「障害物をできるだけ避けて」始点から終点まで風を起こす呪文です。穴さえ開いていれば突風は吹くんだよなぁ……(暗黒微笑)

 ま、最低限仕事するなら大失敗以外ですが、できれば効力値は20以上あるのが望ましいですね――……おっ、【風の遣い手】効果で大成功になりました! ダメージが「4d6+6」点ダメージ、対象を転倒させて5mぶっ飛ばす効果発生!

 あ^~、ゴブリンがぶっ飛ぶ音ぉ~! 両隣からも聞こえたのでだいぶ巻きこみましたね。カウントどれくらいになったろ? ていうか奥のほうで転んでるの小鬼英雄(ゴブリンチャンピョン)じゃね? なんか体力バー半分切ってるんですけど。期待値より高めのダメージが出たっぽいですねぇ……。

 あ、逃げた。えぇ……まぁいいか。状況が30秒(1ラウンド)で終了したのでかなりの時間短縮になりました。

 では鉱人道士の呪文使用回数がだぶつくぐらいに余ってるので先に進みましょう。ゴブスレさんも「(`・ω・´)<ゴブリンは皆殺しだ」と息巻いて追撃の準備をしているので賛成してくれます。

 

 はい、礼拝堂(ボス部屋)を発見しました。ついでにさっき倒し損ねたゴブリンたちが集まっています。まぁさっきの部屋のゴブリンはチャンピョン以外皆殺しにしたので、ここにいるゴブリンはチャンピョン以外の無限湧き分ですね。まぁ最大でも50体前後しか湧かないので実際無限ではないですが。

 詩人さんは【暗視】を持っているので奥のほうになんか鏡があることと、ゴブリンがそこから無限に湧いて出てくるのを発見できました。そして当然ながら、その鏡を守護する大目玉がいることも知ることができます。

 原作では情報を得るためひと当てしたようですが、ここは普通に「怪物知識判定」を行いましょう。まぁ失敗してもプレイヤーがなんとかするので大丈夫です――が、今回は因果点を使わずとも成功してくれました。さすがは俺の嫁、頼れる綺麗なお姉さん!

 とはいえぶっちゃけこいつどーしよーもないんですよねぇ……頼みの粉塵爆発(イベント)は雑魚が邪魔で邪魔で……。

 前回はゴブスレさんによる水攻めでしたが、今回も同じじゃあさすがに芸がないですよね? というわけで今回は【恐怖】を使いましょう。今回は時間に余裕があるので【使役】で水の自由精霊(フリースピリット)を呼び出します。そして【命水(アクアビット)】で全員の疲労を回復します。その後は【統率】で支援させましょう。

 そしてここで蜥蜴僧侶さんには【擬竜(パーシャルドラゴン)】と【竜牙刀(シャープクロー)】、【竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)】を使用してもらいます。

 詩人さんは【精霊使い:4】、魂魄集中は「6」、【精霊の愛し子(習熟)】で触媒を使うことによって+1、自由精霊の支援効果は「呪文行使判定+3」、つまり基準値は「14」です。大失敗(ファンブル)しなければ因果点でぶん殴ることで6ラウンドやりたい放題ですわ。ちなみに風属性なので出目11以上で大成功になるあたり凶悪です。

 ここで注意していただきたいのは、「可能な限り逃亡する」なので、どうあがいても逃亡ができないような状態にすると普通に戦闘になります。前回はオーガを押さえつけましたが、あれは【聖壁(プロテクション)】による移動妨害判定に成功すれば逃げられる可能性があったからなので、実はぎりぎりセーフな判定だったりします。

 というわけで、くらえ【恐怖】! 因果点でぶん殴って大成功にした、ブラックでRでXな奴らが増殖する恐怖を味わうがいい! あ、効果範囲に巻きこまれていたゴブリンは移動妨害をしたら基本無視します。でないと新しいゴブリンがおかわりで出てくるので。あと、チャンピョンだけは殺しておきましょう。ここで殺しておかないと、後々非常に面倒くさいことになります。

 で、大目玉ですが逃亡しようとします。ゴブスレさんや蜥蜴僧侶さんで必ず阻止しましょう。特殊能力の3回行動ですが、これは主動作で視線能力にのみ使えるもののため、逃亡宣言で主動作自体をつぶしてしまうことで潰せます。

 はい、今回は蜥蜴僧侶さんが止めてくれました。移動妨害は体力集中ですので、体力点の上がる【擬竜】が有効だったんですね。これで6ラウンド中判定に-6のペナが与えられます。これで回避の期待値「15」と、かなり当てやすくなりました。

 最後に逃げようとするゴブリンたちは女神官ちゃんの【聖壁】による移動妨害効果を使用して喰いとめておきます。逃げようとする奴なんぞメイン盾たる女神官ちゃんひとりで余裕っすわ。

 あとはチャンピョンと大目玉をひたすら殴りましょう。逃げようとするやつをぶん殴るだけなので、【恐怖】の効果が切れる前には片付きます。もともとチャンピョンは体力半分切ってますし、【竜牙刀】の火力はけっこう高いですしね。詩人さんなんか分身で火力が純粋に2倍ですし、妖精弓手さんに至っては【速射(伝説)】なので大弓(ヘビーボウ)による矢を1ラウンドに3発ぶち込めます。さすが一党最年長、2000歳児は経験が違いますよ。基本的に野伏一本槍なのでとにかく火力が高く、キャラ再現動画によると大目玉ぐらいは3ラウンド程度で沈めることが可能のようです。……なんでこんな火力持っててあのオーガを殺しきれなかったの?

 まぁ実際のところオーガのときは短弓でしたし、なおかつ彼女の火力は動かない状態でないと発揮できない類のものなので、装甲は厚いわ再生するわなオーガでは相性が悪かっただけなんですがね。

 はい、そんな話をしている間に大目玉とチャンピョンが殺せたので【突風】で残りのゴブリンを一掃して状況終了です。前回よりも大きく時間がかかってしまいましたが、それでも別解としてはよいのではないでしょうか? なにより妖精弓手さんの超火力を堪能できる場所でしたしね。

 

 ……で、今回もまた最後の一仕事が残っています。

 念のためこの≪転位(ゲート)≫の鏡の向こうに残党がいないかを確認して、そのあと使えないようにするためみんなで頑張ってコンクリートで表面を塗り固めましょう。前回もそうでしたが、今回も【風化(ウェザリング)】の出番です。あとはこの鏡を水路に運んで鎮めてしまえばOKです。

 何度見ても詩人さんの「えっ、本体の僕もやるの……?」っていう引きつった顔が可愛くてしょうがないですね。大丈夫、今度は【使役】で呼び出した精霊にも頑張ってもらうから……一人当たりの重量は減ってるし……(目逸らし)

 

 

 本日はここまで、御視聴ありがとうございました。




「妖精弓手は【速射(伝説)】」
 アニメ第7話にて矢を3本持ち次々と射るシーン。およびアニメ第9話より、矢を3本番えるシーンがあることからの推測。しかもちょうど玄室トラップと大目玉後の戦闘なので時間軸も合う。
 TRPGのルール上、一度に3体の相手を攻撃できるのは技能が伝説級である必要があり、そのためには冒険者レベル9以上、野伏7レベル以上が前提である。また装備の大弓(ヘビーボウ)は小説第2巻で大目玉に矢を射かけるシーンにて使用していることを確認済み。
 そうなると彼女の火力は最低でも「2d6+9」点。期待値で命中すると仮定した場合の効力値補正を含めると1ラウンドで「4d6+9」点×3くらいは飛ぶ。正確に計算すると「+1d6」ぐらいは増える。
 本編では3ラウンドとか言ったが、ぶっちゃけ大目玉の装甲を加味しても1ラウンド平均「45」点ほど飛ぶため実は2ラウンドで溶ける大火力となる。……被害を考えなければ、だが。
 なお人喰鬼の将軍(オーガジェネラル)時は短弓(ショートボウ)だったことは小説第1巻で確認済み。なおかつこのとき速射は2本までしか射ってなかった(アニメ第4話)ので、おそらくこのときの冒険者レベルはレベル8だと推測できる。なので本走時は単純に火力が足りないと判断してチャートに組み込めなかった。
 何が言いたいかと言うと2000歳児は人喰鬼の将軍(オーガジェネラル)のときの経験点で成長したんだろうな、ということ。

「蜥蜴僧侶さんの【竜牙刀(シャープクロー)】」
 火力の話になったので補足的な意味だが、実は装甲を無視できる攻撃になる。原作では彼は神官戦士とか言われているが、人喰鬼の将軍(オーガジェネラル)に有効打をあまり与えられていないところを見るに竜司祭を優先してあげているために戦士技能がかなり低い可能性が高い……具体的には戦士1~2レベルではないだろうか?
 こうなるとアニメでのあの命中はかなり幸運だったのかもしれない。


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水の都の小鬼殺し【裏】

「どうぞ、町まではゆっくりお休みください」

 上の森人(ハイ・エルフ)たちの馬車に乗りこむと、今までに積み重なった疲労がどっと現れた。

「にしても、オーガめに【恐怖(フィアー)】を通すとはの」

 やりおるわい、と髭をしごいて鉱人道士が言う。

「珍しいじゃないか鉱人。森人を褒めるとか。明日は槍……いや、斧か鎚の雨かな?」

「わしだって褒めるときは褒めるわい」

 せっかく褒めてやったのに、と渋面を作る。

「まぁ……実際のところはけっこう賭けでね。愛しい人に背中を押されてなかったら、けっこう危なかったかな」

「その、愛しい人、ってなんじゃい」

 そいつは精霊か? と。

 精霊使いの中には都市に適応した者もいる。しかし、多くの精霊使いは石畳や街灯に精霊を見出すことはない。だからこそ、鉱人道士が見えない精霊がいたとしても不思議ではないが……。

「さあ?」

「さぁって、お前さんなぁ……」

「いくら頼れる綺麗なお姉さんだって、わからないことくらいあるさ」

「言いたくない、の間違いじゃないの?」

 唐突に妖精弓手が割って入る。

「……君も大概、好奇心が旺盛だね? お姫様」

「だってそんな感じがするもの。あんた白粉塗ってそう(ダークエルフみたい)とか言われたことあるでしょ?」

「それを言ったら戦争だぜ????」

 

 

「――……というわけでね、僕とお姫様は今、ちょっとした戦争中なんだよ。味方を増やそうと剣士くんに声をかけてみたんだけれども、どうやらすでにお姫様の手のひらの上らしい。腐ってもお姫様は上の森人(ハイ・エルフ)だからね。男の子はすぐ参っちゃうんだ」

「お、おう……」

 手伝ってもらっている手前、なんとも言い難い。新米戦士もまた、彼女に白粉疑惑をかけている者の一人だ。

「君も気をつけたまえよ? 男はすぐ鼻の下を伸ばして美人についていくんだからね!」

「あ、はい。そうですね」

 物探しの蝋燭を手に持つ、見習聖女は半分聞き流している。ギルドで暇そうに代筆業をやっている彼女に時折捕まっては聞かされるのろけ話でお腹いっぱいだからだ。

「昨日なんて、彼ってば僕の分身ばかりを可愛がるんだ……いやさ? 確かにどちらも僕ではあるんだ。でもね? ここはちゃんと本物の僕を可愛がるべきなんだよ! どうして自分でネトラレ気分を味わわなきゃいけないんだ。まったく彼は嗜虐的だ……そこがいいのだけれども! 僕ぁ全身を被虐的に改造されてしまいそうだよ!」

 しかも問題の相手は誰も見たことがないのだから、妄想の類では? とも考えている。

「聞いてるかい?」

「聞いてる聞いてる」

「ちょー聞いてます」

 いざというとき以外、手を貸さない約束ではあったが……口出しも、もう少し勘弁してもらえばよかったと、二人は今さらながら後悔する。

 

 

「で、お仲間は増えたのかしら?」

「ほんと腹立つなその笑み」

 険悪そうに仲良くじゃれ合う森人二人を、女神官はあいまいな笑みを浮かべて見守ることにした。お互いに憎くて嫌いあっているわけではないのだ、と。

 まだ昼間のギルド内は、気の早いやつらの酒盛りでにぎわっている。戦闘時を除けば、もともと冒険者に昼夜の別はない。そして詩人たちも、その気の早いやつらの一味であった。

「ところで、その、ゴブリンスレイヤーさんは?」

「なんかさっき、手紙を持って受付さんのところに歩いていったよ? あれは恋文だぜきっと」

「こ、恋文っ!?

「そうさ。そりゃもう、熱烈なファンレターで」

「ゴブリンを退治してくださーい、ってか?」

「そうそう。よくわかってるじゃないかよ鉱人のくせに」

「あれれ? なーに焦っちゃてたのかなー?」

「そ、そんなんじゃありませんっ!」

 このこのっ、と妖精弓手にからかわれ、女神官はぷいと顔を反らした。

 そのたまたま逸らした視線の先に、ゴブリンスレイヤーがいる。

「あ、ゴブリンスレイヤーさん」

 こっちです、と手を振り招く。

「ゴブリン退治だ」

 こいつの言葉はいつもこれだ。それ以外は「ああ」とか「そうか」とか、そのくらいしか聞いたことがない。

「報酬は一人金貨一袋。来るのか、来ないのか、好きにしろ」

 どっかと腰を据えたゴブリンスレイヤーは、短い言葉でそう締めくくる。

「……だいたい、わかりました。わかっていたつもりですけど、わかりました」

 こめかみを押さえて、女神官は頷いた。

「あなたの行動にいちいち驚いていては身が持たないということが」

「今さらかい」

「そうか」

「律儀だねぇ君も、わざわざ答えるとか」

「前にも言いましたが、選択肢があるようでないのは、相談とは言いません」

「選択肢はあるだろう」

「一緒に行く行かないは選択肢とは言いませんっ」

「そうなのか」

「そうなんです」

「……ふむ」

「そこで不思議そうに首を傾げるところが君らしいよね」

「そうか」

「てか、行かないって言ったら一人で行くつもりだったでしょ?」

「当然だ」

「だろうね」

「ま、わしらにも相談するだけ、かみきり丸も柔らかくなったものよ」

「良き傾向でありましょうな」

「では、私たちも好きにします。ついていきますね」

「構わん」

「小鬼たちは数が多い……呪文使いも多いほうが良いでしょうな」

「詩人さんもそれでいいですよね?」

「そもそも僕は、いつだって好きにやらせてもらっているよ」

 投石杖に吊るした天鵞絨の布を揺らして、ふふんと笑う。

「まぁそれでオーガをやっちまうんだから大したもんじゃが……」

「あんたもたいがい、オルグボルグに毒されているわよねぇ」

「失礼だね。僕は生まれてからずっとこうだよ」

「そっちのほうが問題がありましょうや、と拙僧は思うわけですが……いや、言っても仕方のないことですかな」

「本当に失礼だね?」

「言っておくけど、あんたたち、ゴブリンに火責めを使うとか、禁止ね」

「どうして僕を含めるのかな?」

「駄目よ」

「聞いてる?」

「水責めもですよ?」

「水もか」

「ねえ?」

「毒気もなし!」

「毒もか……」

「僕の扱い、ひどくない?」

「当たり前でしょ?」

「ちょっと????」

「しかたあるまい……」

 どこか気落ちしたように、ゴブリンスレイヤーが言葉を返した。

 

 

「大きかったね」

「不謹慎ですよ」

「いや、だって、ねぇ? だろう? お姫様?」

「なんで私にふるのかしら?」

「つれないこというなよ。僕ら仲良し金床同盟だろう?」

「あんた、私たち戦争中だとか言ってなかったっけ?」

「新しい敵が出て来たら同盟を組むのは当然じゃないか」

「敵ではなかろうに」

「ははは」

 人を喰ったように笑う。

「それにしても、ずいぶんゴブリンがいるものだね。持つかな、僕の石弾(ストーンブラスト)

「そりゃ石弾(ストーンバレット)じゃろが」

「ははは。十分に熟達した技術は、魔法と見分けがつかないものよ?」

「マネしないでよ」

「がっはっは、似とる似とる!」

「似てないってば」

 妖精弓手がゴブリンに突き刺さった矢を回収する。

「言っとくけど、ゴブリンの矢は使いたくないからだからね。別にオルクボルグのマネじゃないんだから」

「うんうん、分かってる分かってる」

「本当にわかってる?」

「だから僕のこれも、別に君やゴブスレくんのマネじゃないんだから、なんてね」

 言って、まだ使えそうな石弾を拾い上げる。幸運にも、そこそこの数を回収できた。

「それにしても、気が滅入ってくるよ。もう五回目だろ? ゴブリンとの戦闘」

「気が抜けないわよねー……」

「迷宮都市の冒険者なぞは、これが日常だと聞きますがな」

「まったく、いつまで続くんだか……」

 屈強な蜥蜴僧侶ですら、思わず愚痴を漏らすほどだ。女神官も、その表情に緊張の色が濃い。足取りも、どこか不確かだ。

「ここは石壁だ。壁を抜いての奇襲はないだろう」

「……嫌なことを思い出させないでください」

「悪かった」

「これだけゴミが多いなら、臭い消しは必要なかろ」

「……嫌なことを思い出させないでくださーい」

 妖精弓手が女神官のマネをして答える。

「……ん」

 不意に彼女はその長耳をせわしなく上下に動かし、点を仰ぎ見た。

「なんか変な感じが――……地下水路で、雨?」

「多分雨が降っとるのは上だの。排水溝だの運河だのから、こっちに回ってくるんじゃ」

「水が溢れないといいけれど」

「光源が消えればこちらが不利だ」

 ゴブリンスレイヤーは忌々し気に松明を捨てて、角灯(ランタン)を取り出す。

「角灯のほうが両手が空いていいんじゃないかい?」

「割れたらしまいだ。松明なら武器になる」

「なるほど。君はやっぱり、おもしろいね」

「そうか」

「うん。考え方が、愛しい人に似てる」

「なっ」

 女神官が声を上げて、

「へぇ」

 にやにやと、妖精弓手が詩人を見つめる。

「あんた、ああいうのが趣味なの?」

「冗談。彼のほうがずっとずっといい男だよ? イケメンかどうかと言われると、怪しいけれどもね」

「して、それは実在するものなのですかな? 詩人殿」

 拙僧ら、同じ宿とはいえ一度もお会いしたことがなく……と問う。

「毎晩会ってるさ、夢の中でね」

「それは妄想の類では?」

「夢魔の類かもしれんぞ」

「ははは。そしたら僕は、とっくの昔に枯れ果てているさ」

 

 

「――何かくるわ」

 長耳が世話しなく上下に動くと、妖精弓手が矢筒に手をかけた。

 雨の向こう側、水煙が薄く靄となった水路の彼方へと、全員が目を凝らす。

「ゴブリン!」

「の!」

「船!?」

 次の瞬間、船上のゴブリンは手製の弓を弾き絞り、放つ。降り注ぐ藪須磨はてんでバラバラではあるが、雨のごとく狭い空間を覆い尽くす。

「≪いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の御力でお守りください≫……!」

 女神官の【聖壁(プロテクション)】がそれを遮った。

「あまり長くは……!」

「十分だ」

「どうするの?」

「決まっている、いつもと変わらん。ゴブリンどもは皆殺しだ」

「なら僕にお任せあれ、だ」

「言っとくけど!」

「火攻めはダメ、だろう?」

 そんなことしないさ、と投石杖をしっかり握り、構えた。

「≪ウェントス()……クレスクント(成長)……オリエンス(発生)≫」

「風で吹き飛ばすって訳ね!」」

 そして、にやり、と。詩人は投石杖を握っていない左手を、下から上へ。

「【突風(ブラストウィンド)】!」

 魔力の風が水路の水を巻き上げる。それは大津波となってゴブリンの船を襲い、あっというまに乗っているゴブリンごと波間の藻屑にしてしまった。

「どやぁ!」

「水攻めもダメって言ったわよね!?」

「水攻めじゃないよ。船の上に乗っているゴブリンを攻撃しようと思ったら、ちょっと呪文を紡ぐのに失敗したんだ。そよ風が吹くよりマシだろう?」

「なるほど」

「あんたも納得しないの! どうせこいつのことだから、適当言ってごまかしてるだけなんだから!」

「そうだな」

「ちょっと??」

「ゴブリンを殺したのだからどちらでも構わん」

「僕が構うよ???」

 鉱人道士が「勘弁してくれぃ……」とぼやいて、酒瓶の栓を抜いた。

「白粉のがやんちゃするのはいつものことじゃろ」

「ははは、白粉って言ったの許さないからな?」

「とにかく……少し休みませんか? みなさん、ちょっと消耗しているようですし……」

「いや」

 ゴブリンスレイヤーが首を横に振る。

「すぐに動くべきだ」

「同感ですな。手早くことは終わらせましたが、小鬼めらずいぶん騒々しく沈みましたからな。雨で音が妨げられているとはいえ……」

 他の者が感づいているやも知れぬ。その言葉が続くことはなく、ぱしゃり、と水の跳ねる音がした。

「……小鬼から逃げて狼に捕まるのはゴメンよ」

「ずいぶん古いことわざをもってくるじゃないかお姫様」

「なんか来たわよ白粉森人!」

「おまえお姫様とはいえ限度があるからな!」

 二人の長い耳が上下に揺れる。

「ゴブリンか」

「ちっげーよ!」

 その焦り具合に身がまえた冒険者たちは次の瞬間、濁った水から突きだす巨大な白い顎を目撃した。

「AAAAARIGGGGGG!」

 冒険者たちはなんの躊躇もなく戦略的撤退を選ぶ。

「あれはゴブリンではないな……」

「見れば分かるでしょ!?」

「君はじつに馬鹿だな!」

「まさか沼竜がいるなんて……!」

「鱗の! あれはお主の親戚じゃろ!?」

「あいにくと拙僧、出家してよりこのかた親戚づきあいなどないもので!」

「鉱人を食べさせてその間に逃げましょう! きっと食あたりを起こすから!」

「賛成だぜお姫様! 鉱人には寄生虫がうじゃうじゃいるそうだからね! 圃人がいたら美味しく料理しちゃいそうだけど!」

「ぬかしおる!」

「前からもなにか来る――またゴブリンの船!? それも複数!!」

「あんまり僕走りたくないんだけど! 今度は【霊壁】で燃やしてやろうか!?」

「燃やすってあんたねぇ――!」

「……この先に脇道はあるか?」

「ちょっと!? 何を思いついたのか知らないけれど、毒気とか燃やすのとかは……!」

「しない」

 

 

 目の前でゴブリンどもが沼竜の腹の中に消えていく。その沼竜の尻尾には、女神官の唱えた【聖光(ホーリーライト)】がかけられていた。

「やつら、沼竜を冒険者と勘違いしよったわ」

「奴らは、冒険者明かりをつけて移動するもの、と学習している」

「そうなの?」

「そうだ」

専門家(ゴブスレくん)の言うことだし、そうなんだろうね」

「調べて、研究したからな」

「なるほど」

「毒気も、火攻めも、水攻めもできないのであれば、この程度が関の山だ」

「十分でしょ」

「……気に食わん」

「何よ、切り抜けられたからいいじゃない」

「違う」

 忌々しいとばかりに履き捨てる。

「奴らは略奪民族だ。ものを作るという発想自体を持たん」

「つまり?」

「奴らは船に乗っていた」

「……誰かが船について小鬼ばらに教えた、っちゅうことか」

「でも、それだけならまだ、シャーマンとかが、思いついたのかもしれませんし――」

「かもしれん。だが、奴らがここで自然に増えたのだとすれば、なぜあの……なんだ」

「沼竜ね」

「そうだ。アレの存在を知らないのだ? 知って居れば、船を用いるなどとは思わんはずだ。奴らは、臆病だからな」

 ふぅーん、と詩人は考え込む。

「人為的な小鬼禍(ゴブリンハザード)、とでも言いたいのかな? 君は」

「そうだ」

「マジかよ……」

 詩人はため息をついて、頭を抱えた。

「君とのゴブリン退治は、いつも何かしら裏がある気がしてくるよ」

「俺のせいではない」

「そうだろうけども……」

「いずれにしろ、準備が足りん。呪文も消費した……なら、戻るぞ」

 ゴブリンスレイヤーがした一時撤退の提案に、誰も否とは答えなかった。

 

 

「で、それは何なわけ?」

 翌日、再び地下へ降り立った妖精弓手は、腰に手を当てゴブリンスレイヤーを見やる。

「……? 鳥を知らんのか」

「知ってるわよ!」

「カナリアだ」

「だから、知ってるってば……」

「たぶん、どうして小鳥を連れてきているのか、知りたいんじゃないかな?」

「だって小鳥よ? 気にならない? 例の巻物(スクロール)みたいに、触ったら大参事~とかじゃないでしょうね?」

「小鳥が人を殺せると思うのか」

 妖精弓手の耳が大きく跳ねて、鉱人がくつくつと笑いを漏らした。

「カナリアは少しの毒気で騒ぐんだって、愛しい人が言っていたよ」

「よく知っているな」

「彼の故郷では有名な話でね。とある邪教徒が、地下道で毒気を使った事件があったんだって」

「ちなみに小鬼殺し殿は、どこでその知識を?」

「炭鉱夫だ。世の中、俺の知らない知識を知っている奴のほうが多い」

「そうともそうとも。だから君も、もう少しみんなと会話をするべきだぜ?」

「しているじゃないか」

「君のそれは会話とは言わない」

「……そうか」

「じゃあ、油断しない範囲で、なにか適当に話しながら行こうか」

 詩人は杖の先で、地下の奥を示した。

 

 

「――ねぇ、下着って必要あるのかしら?」

「急に、何を言いだすんだい。お姫様」

「前にオルグボルグに聞いたけど、『俺に聞くな、詩人でも聞け』って」

 カナリアの籠を手に、先頭を進むゴブリンスレイヤーを睨む。

「……僕は、時と場合によるけれども、必要だとは思うな」

「えー?」

「下着姿で寝ると喜ぶんだよ、彼」

「あんたギルドで淫乱白粉森人って呼ばれてるの、知ってる?」

「誰だそんなこと言いだした奴は!」

「知らないわよ……」

 いつの間にか呼ばれていたんだから……などと言い合っていると、閉ざされた巨大な木製扉の前につく。

 明らかに、なにがしかの魔術がかかっている扉だ。この湿気の多い地下で、腐りも痛みもしていない。劣化しているのは鍵穴くらいのものだからだ。

「まずはこの部屋、ですね」

「頼んだぜお姫様」

「はいはい、っと……鍵はかかってないわね。罠もなさそう。本職じゃないから、恨まないでよ?」

「白粉って言ったことだけは恨むけどな!」

「行くぞ」

 ゴブリンスレイヤーが玄室の扉を蹴破る。

(ゴブリン)が出るか(デーモン)が出るか。ああ、幽霊(ゴースト)かもしれないけれど……」

「見て!」

「なんてひどい……!」

「……現れたのが囚われの騎士とは、さすがの僕も驚きだよ」

 玄室の中央、そこで晒しものにされているかのように、大きく両手足を広げた誰かが縛り上げられている。ぐったりとうなだれているその人物は、長い金髪の女性であるらしい。くすんだ色の金属鎧を纏っていた。

 女神官はさっと囚われの女騎士へと駆け寄ろうとして、

「な、何です?」

 ゴブリンスレイヤーに引き止められる。

「見ろ」

 言うや、その女騎士の髪がずるりと落ちた。

「これは……!」

 そこに、白骨となった髑髏があった。頭に大きな穴が開いている。おそらくは、頭を殴られて殺されたのだろう。してやられたと思った瞬間、背後で玄室の扉が閉じた。

 

 

 金糸雀がけたたましく騒ぐ。

「毒気……!」

 玄室の隙間から、扉の向こうから、ゴブリンどもの甲高い嘲笑が聞こえる。無駄なあがきだと、悪辣な考えの詰まった小さな怪物たちがあざ笑う。

「ダメ、他に出口は見当たらない!」

「これはいかぬな、一網打尽とされてしまうぞ」

「毒気で死ぬとも限らんが、碌な目にはあわんじゃろうな……」

「落ち着け。俺たちはまだ、生きている」

「そうさ。こんな時こそ、お姉さんにお任せあれ、だ」

「手があるのか?」

「あるともさ。一手くれよ」

「分かった」

 ゴブリンスレイヤーは、頷くように雑嚢を漁る。一手くれと頼んだ彼女の鼻先に、取り出した黒い塊を突きつけた。

「これは?」

「手拭いで包んで、口と鼻を覆え」

「これは――なるほど、炭かい」

「知っているなら早くしろ。多少は毒気を防ぐ」

「用意周到だね」

「毒気がわかっても、防げないのでは意味がないからな」

「なるほど。カナリアを連れていただけはあるわけだ」

「急げ」

「はいはい」

 手ぬぐいに炭を包んで口元を覆う。ゴブリンスレイヤーは全員分用意してあるとばかりに、雑嚢からさらに布と炭を取りだして行く。

「拙僧も手伝おう。あまり毒気は効かぬ故」

「頼む」

「急げよ白粉の!」

「ほんっと許さないからな!?」

 詩人は投石杖を握りしめ、構えた。

「≪クラヴィス()……ノドゥス(結束)……リベロ(解放)≫」

「ほぉ?」

 その真に力ある言葉(トゥルーワード)を知る鉱人道士は、面白い術を使う、とばかりに口の端を釣り上げた。

「【解錠(アンロック)】!」

 かんぬきをかけられたかと思った扉が、ばん、と力強く開かれた。

 扉の先で騒いでいたゴブリンが、何が起こったのかが理解できていないようにきょとんとしてこちらを見ている。

「なによあの数!?」

「奥になんかデカいのがいるぞい!」

「予想通りさ!」

「≪ウェントス()……クレスクント(成長)……オリエンス(発生)≫――!」

 詩人の分身が、今度は【突風】の呪文を紡ぐ。紡がれた呪文は狭い部屋を荒れ狂い、毒気を流し込んでいた隙間や、大きく開かれた扉を潜り抜け、そこにいたゴブリンどもをまとめて吹き飛ばした。

「ふふん、どやぁ。これがお姉さんの実力だぜ?」

「ふつう自分で言う……?」

「いやはや。詩人殿は風の呪文に関してなら、右に出るものはおりませぬな」

「ほんっと、悪知恵は働くわよねぇ。ふつうこんな使い方しないでしょ?」

「しないのか?」

「するよねぇ?」

「あんたらの基準でものを語らないでくれる?」

 

 

 そこはさながら、礼拝堂のような場所であった。

 石櫃の奥から続く階段を下り、その末端から登りに転じた、その果ても果て。小ぢんまりとした室内には石から掘り出された長椅子が並び、奥には祭壇。そして水面のごとく奇妙に揺らめく、姿見のような大鏡が壁に埋め込まれて掲げられている。

 まるで神殿、あるいは聖域と呼ぶべきだろうか。

 そこに、先ほど逃がしたゴブリンが集まっている。チャンピョンは傷を癒すためか、座りこんでよくわからない草やらをゴブリンに持ってこさせ、口の中に放りこんで数回噛んではそれを傷口に張りつけていた。

「なん、です、か。あれ……」

 しかしそんな様子よりも、なお目を引くのは玄室の中央に鎮座する怪物だ。

「ゴブリンではないな」

「君はじつに馬鹿だな。見ればわかるだろ?」

「わかんない……けど、目玉、だと思う」

 床からわずかに浮遊し、幾何学的な瞳をぎょろりと血走らせている。その眼球をつつむ瞼と形容すべきか、そこから幾本かの触手を生やし、その触手の先にもまた小さな眼球があった。

「見るからに混沌の眷属でありましょうや」

「なんか知っとるかいの? 白粉の」

「温厚な僕だってマジで怒るんだかんな?」

 詩人はその怪物の姿をまじまじと見る。

 まさに目玉の怪物としか形容のしようがない。詩人はその怪物を「知らない」と言おうとして、はたと思いだす。

「そういえば、なにかで読んだことがあるな……」

「ほう」

「……邪眼の怪物だ。名前を呼んではいけないたぐいの」

「名前なぞ、大目玉でかまわん」

巨大な目玉の怪物(ビック・アイ・モンスター)、略して大目玉(ベム)ってのはどうじゃ?」

「いい名前があるぜ? 睨みつける者、だ」

「変な名前をつけないだけマシね」

「土下座衛門でもいいぜ?」

「なんで変な名前にするのよ」

「ははは。……冗談はさておいて。どうする? 睨まれると呪文が使えないぜ?」

「ええっ!?」

「おいおい、わしらは石でも投げとけっちゅーことか?」

「視界を遮ればいい」

「魔法の視界を得る邪眼を持ってるからね。壁を出そうにも、しまいにゃ分解光線さ。喰らったらチリも残らないね」

「なんちゅー怪物じゃ……」

「名前を呼んではいけないヤツだからねぇ……」

 さてどうする、と。

「手はあるのか?」

「なくもないけど」

「何をすればいい?」

「呪文を使うから、アイツにこっちを向かせないでほしい」

「分かった」

 ゴブリンスレイヤーが妖精弓手を見る。

「頼む」

「え、私? いや、まぁ確かに私が一番身軽だけども……えぇ……?」

 あの群れの中に突っ込むの? と。

「俺も囮になる。分散するぶん、多少はマシだろう」

「マジで頼むわよぉ……?」

「わしは白粉の嬢ちゃんを守ればええんじゃな?」

「拙僧はいかがいたしましょうや」

「竜牙兵を。ゴブリンを倒す手が足りなくてね。あと、あいつを逃がさないようにしてくれれば」

「あの、私は?」

「【聖壁】で、ゴブリンの足止めかな」

「なるほど、なるほど……オーガと同じ末路にするつもりですな?」

「端的に言うとね」

「ちょっと、本当にうまく行くの?」

「大丈夫。たぶんね」

「たぶん、ってあんた……」

「デーモンだろうがなんだろうが、生き物だもの。根源的な恐怖には敵わないものさ。それに知っているかい? 蝗の群れは悪魔の王の化身とも呼ばれるんだぜ? 自分らの親玉が来たら、恐ろしいものさ」

「本当に?」

「愛しい人の国ではね」

「デーモンの世界でそうなのかは不明じゃん!」

「ははは」

 適当なことを話して誤魔化しているようにすら思える。

 だが彼女なら、何とかしてくれそうだ、という信頼もあった。

「それじゃ、いくぜ?」

 精霊使いの鞄から、詩人は蝗の死骸を取り出した。

 それを合図に、妖精弓手とゴブリンスレイヤーが玄室へと躍り出た。

「こっちよ!」

 妖精弓手は大目玉めがけて弓を射ると、自分を向いた大目玉の視線を大きく避けるように玄室を疾駆し、

「お前らの相手は俺だ!」

 ゴブリンスレイヤーは剣を投擲し、ゴブリンチャンピョンの気を引く。

「≪禽竜(イワナ)の祖たる角にして爪よ、四足、二足、地に立ち駆けよ≫」

 蜥蜴僧侶は奇妙な合掌とともに【竜牙兵】の詠唱を始め、

「≪黒蝗の王(パズズ)よ、太陽の子よ、恐れをと怖れを従えて、風に乗りて参られませ≫――!」

 詩人は精霊に語りかけ、蝗の死骸を投げつけた。

「【竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)】!」

「【恐怖(フィアー)】!」

 死骸のはずの蝗が羽ばたき、増え、群れなし、大目玉らに襲い掛かる――!

 

 

「――BEEEHOOOLLLLL!」

「なんかめっちゃ叫んでる!?」

「あれどこから声が出ているんだろうね」

「知らないわよっ!!」

「ははは」

「笑ってる場合!?」

「冗談冗談」

 投石杖に石弾(ストーンバレット)を装填する。

「けど効果はあったわけだ。僕の狙い通りに、ねっ!」

 大きく杖を振るうと、石弾が勢いよくゴブリンの頭部へと飛んでいき、その頭蓋を砕いて赤い花を咲かせた。

「逃げるので必死になっておりますなぁ」

「なんじゃ鱗の! 逃げ首は恥とかいうんじゃあるまい?」

「まさか! 竜とは恐れられるものなれば!」

 蜥蜴僧侶の持つ竜牙刀(シャープクロー)が、逃げようとする大目玉を切り裂いていく。念のため目玉を潰しながらの攻撃であるようだが、いくら目玉をつぶされようが、そいつは逃げることだけで頭がいっぱいのようだ。もっとも、頭がどこにあるのかは分からないが……。

 

 

「さぁ、最後の大掃除だぜ! ≪ウェントス()……クレスクント(成長)……オリエンス(発生)≫――【突風】!」

 ごう、と玄室に突風が吹き荒れる。まるで嵐のごとく、逃げようとしたゴブリンどもをまとめて薙ぎ払い、巻き上げ、空高く吹き飛ばす。ほんの5mほどの高さだが、墜落したゴブリンどもは残らず、床に真っ赤な血の花を咲かせて絶命した。

「ま、こんなものかな?」

「お疲れ様です」

 【聖壁】の維持を解除して、女神官が労う。

「うぇえ……気持ち悪いよぉ……」

 そして、ぶちまけられたゴブリンの血をもろに被った妖精弓手が、ぐずぐずとすすり泣いていた。今回は血まみれになる必要はないとばかり思っていたところへの、完全なる奇襲を受けた形となる。

「ああ、ごめんね。お姫様?」

「あんたわざとでしょ!?」

「僕を疑うのかい? この目を見てくれよ、お姫様には、とてもそんなこと思っているように見えるのかい?」

 わざとらしくキラキラと潤ませた瞳を向ける。

 分身と一緒に、だ。

「あんたほんっと性格悪いわね!?」

「失礼だな。僕は褒められたことしかないね。君はいい性格をしている、って」

「このタンポポ食い!」

「ははは。何とでもいいたまえ」

「白粉森人!」

「お姫様だろうが絶対に許さないからな!?」

「じゃれ合うのは後にしろ」

「「じゃれてない!」」

 ふぅ、と面倒くさそうにゴブリンスレイヤーがため息をついた。

「さて、小鬼も混沌の眷属も倒したとなれば……気になるのは、これですな」

 祭壇に据え付けられた巨大な姿見のような、鏡だ。

 表面は水面のように揺らめいて、奇妙な反射を繰り返している。

「御神体か何か……でしょうか?」

「分かるか?」

「いくら物知りな僕だって、知らないものは知らないよ」

「そうか」

 女神官が、身を乗り出して祭壇へと近づく。

「うかつに触れるとマズいのではありますまいか?」

「とはいっても、調べないことには……」

「わしらン一党にゃ、斥候(スカウト)だの盗賊だのおらなんだからなぁ」

 と、女神官の白い指先が、柔らかく表面を撫でた瞬間であった。

 とぷん、とわずかにその指先が鏡に沈んだのである。

「……っ!?」

 思わず指をひっこめると、鏡面が水面のごとく波打った。

「おいおい……こりゃあ」

「知っとるのか?」

「≪転移(ゲート)≫を作りだす古代の遺物じゃないか」

 ややあって、鏡面が奇妙な光景を映し出す。どことも知れぬ、異様に乾いた碧の砂が敷き詰められた荒野。不気味に澱んだ夕焼けに黄ばんだ太陽がぎらぎらと煌いている。

 なにより得体のしれない粉ひき機のようなものを懸命に動かすいくつかの人影――

「ゴブリンか」

 ゴブリンスレイヤーが呟いた通り、そこにはゴブリンどもがいた。

「父さんに聞いたことがある……あれは成金冒険者一党の冒険で、混沌の魔術師が」

「そんなことはどうでもいい」

「聞けよ、僕の話」

「ゴブリンの住処だ」

「つまりは、誰かがコレでゴブリンを呼びよせて――……」

 妖精弓手が怖れるように後ずさる。

「どうするんだい?」

「決まっている。ゴブリンは皆殺しだ」

「いや、鏡のほう」

 詩人を始め、彼ら冒険者には使い方こそ分からない。だが、これを自在に使いこなせるようになれば……一体どれほどの価値が生まれることだろう?

「ゴブリンに奪われてまた利用されても敵わん。コンクリートででも塗り固め、水路に沈める」

「マジかよ。もったいないなぁ……」

「ゴブリンどもに使われるよりはマシだ」

 ゴブリンは皆殺しだ、とばかりに。

 ゴブリンスレイヤーは剣を抜いた。

「……めんどくさいからまとめて【突風】で薙ぎ払ってもいい?」

「いや……なら【使役(コントロール・スピリット)】だ。火の精霊を呼べ。【熱波(ヒートウェイブ)】であのおかしな装置ごと焼き払ったほうが早い」

「それもそうか」

「いや、あんたら……私火攻めはダメって言ったわよね?」

「火攻めではない」

「精霊術だからね」

 妖精弓手は、思わず天を仰いだ。



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ある冒険者たちの結末(ザ・エピローグ)

 俺の嫁と一緒にガツンと一発殴りに行くRTA、はぁじまぁるよー!

 

 それでは前回の続きから。水の都の地下水路で見つけた鏡をコンクリ詰めにして水路にドボンしたところですが、あとは報告に戻ることくらいしかやることがありません。今回も呪文の回数には余裕があるので無理はしないように進みます。いちおうゴブリンの残党はいるっぽいので、遭遇(エンカウント)したら倒す程度の気持ちですね。

 

 神殿に戻ったら剣の乙女さんへのといつめイベントですが興味がないので道具類を補充するなどして時間を潰します。とはいえ詩人さんの消耗品って石弾(ストーンバレット)しかないんですよね。しかも今回のチャートでは【速射】もないですし。

 あ、今回も広場でアイスクリンが売っているので、原作ゴブスレさんの代わりに聞いておきます。蜥蜴僧侶さん頑張ったからね、アイスクリンで餌付けしないと(使命感)

 

 ではさっそく辺境の街に戻りましょう。当然ながら【追風(テイルウィンド)】を使用しています。今回は戦闘が若干長引いたので、槍ニキとはすれ違いません。小麦粉抱えた槍ニキと一緒の馬車に乗って戻ります。気まずぅい……。

 そしてギルドに戻ってきて報告を済ませたら、最後の稼ぎ時です。今回も難しい依頼はなるべくポイして効率重視で行きましょう。時間的にもイベントが発生しそうになったら依頼の中断も行います。

 

(疾走詩人疾走中……)

 

 はい、そろそろイベントが起きそうだったので依頼を中断して戻ってきました。【追風】のおかげで長距離移動のあるうまあじなクエストにも参加できたので満足いく程度の経験点は入手できています。なので最後のレベルアップを行っていきましょう。

 最後のレベルアップ作業ですが、【精霊使い】を5レベルへ、【魔術師】を4レベルへ、【野伏】を3レベルへ上昇させました。前回と違ってちょっと平たい成長です。技能は【精霊の愛し子】を熟練へ、新たに【呪文熟達:攻撃呪文】を習熟へ、さらに【呪文増強:威力】を初歩習得しました。

 追加で習得した呪文はおなじみの【力球(パワーボール)】、そして真言呪文は【混乱(コンフューズ)】です。今回はまぁ使わないけど、将来的にね……(暗黒微笑)

 アイテムは上質な触媒をそろえておきましょう。

 

 朝のレベルアップが終わって二階からギルドへ降りてくると、ちょうどゴブスレさんが槍ニキに小鬼の王(ゴブリンロード)の話をしていました。今回は余裕をもって間に会わせています。

 それにしても、いやー、今回もこのときの兄貴はカッコいいですよねぇ。口は悪いですけどゴブスレさんを一生懸命助けてやろうと頭を回しているんですよね。依頼を出されちゃあしょうがねぇな、みたいな感じに持っていこうと……でもゴブスレさん空気読まないから全ブッパですよ。これ実卓でやったらGM大困惑ですよね?

 それにしてもゴブスレさんの全部って、剣の乙女も思わず立ちあがりそうですよね。あの人いたら何を要求していたのやら……っと、アホなことを言っている場合ではありませんでした。せっかくのいいシーンなので詩人さんにも決めてもらいましょう。

 前回は「僕は“いっぱい”奢ってもらおうかな」でしたけど……うーん、今回はどうしよう……けっこうあるのが悩ましいんですよね……よし、今回は「一緒に探してもらうよ、僕の“運命の人”を」にしましょう。やっぱり詩人さんには私を探してほしいといいますか、彼女の冒険はこれからも続きますからね。せっかくなら、面白い奴と一緒がいいですよね?

 それではあの名シーンが始まりますよ? 皆さんご一緒に。

 

 冒険者(アドベンチャラー)に任せとけッ!

 

 宣言と同時に「依頼:牧場防衛戦」の受領が確認されました。今回のクエストで配られた因果点は相変わらずの「8」! 「難易度:非常に困難」に分類されるこのクエストは一巻最後の山場なだけに、因果点でバカスカ殴れません。前回は何とかなりましたが、今回も何とかなるとは限りませんからね。

 トロフィー取得のためにはここで大成功判定で防衛戦をクリアする必要がありますが、詩人さんは今回も【統率】を育てているのでモブ冒険者たちに指示を出す現場監督に近いことをやってれば大丈夫です。襲撃は夜なので魔法は絶対に温存しなければいけませんが、今の内に【分身(アザーセルフ)】を詠唱し直しておきましょう。クエスト中に切れたら悲惨ですからね。そしたら【瞑想】を行って呪文使用回数を回復しておきます。

 

 夜になりました。モブ冒険者が気付いて声を上げると、ゴブリンが肉盾を用意してきました。第一フェーズの開始ですが、今回の詩人さんは肉盾を回収できるような呪文を持ちあわせておりません。まぁぶっちゃけ【突風(ブラストウィンド)】を詠唱してもいいんですけどね。大軍宝具と言われても違和感のない範囲を薙ぎ払うので。

 とはいえそれをやると装備品扱いの肉盾がヤバいことになりますし、小遣い稼ぎの冒険者たちから大ひんしゅくを買います。

 様々な呪文を覚えたせいで「真に力ある言葉(トゥルーワード)」が暴発しないようゆっくりと話す魔女さんが範囲魔法で薙ぎ払わないのと同じ理屈ですよ。ぶっちゃけ100匹程度ならゴブスレ一党+槍ニキ魔女さんで十分です。

 とはいえ何もしないのも手持無沙汰なので、分身詩人さんでいつものように自由精霊(フリースピリット)を呼び出しましょう。上質な触媒と【精霊の愛し子(熟練)】の補正でおおむね72%で出ます。前回より若干達成値が下がってますので祈りましょう。

 はい、出ました自由精霊。今回は属性は風にしておきましょう。あとはW詩人さんで投石杖(スタッフスリング)による投石を行っていきます。ゴブリン程度なら期待値で死にます。

 

 第二フェーズのゴブリンライダーが出てきました。槍衾を持ちあげた瞬間に分身詩人さんが召喚した自由精霊に本体詩人さんを支援させて、本体が【使役】を詠唱します。そして今回召喚するのは風の大精霊(グレータースピリット)です。

 詩人さんの精霊術の基準値は「11」ですが、上質な触媒と【精霊の愛し子】、そして自由精霊の支援補正によって「17」にまで上昇しています。そして大成功をすれば最低でも効力値「32」になって召喚が叶います。それも【風の遣い手】によって16%にまで確率が上昇してますし、因果点の使用も考慮に入れると、どちらかが成功する確率は7割を超えます。

 というわけで運命のダイスロールは――……っしゃ! 一発成功とは幸先がいいですね。これによって詩人さんは風の大精霊を召喚したことによりトロフィー「風よ我に従え」をゲットしました。いやまぁこれは関係ないんですが、重要なのは支援効果の「呪文行使判定+5」の効果です。

 では続いて分身詩人さんに自由精霊を元の次元へ送り返してもらい、もう一度【使役】を詠唱します。今度は大精霊の支援を受けての召喚ですので基準値がなんと「19」に上昇します。今回も一発成功するとは思いませんが――……はい、因果点を使ってぎりぎり大精霊を召喚できました。今度は水の大精霊にしてトロフィー「水よ我に従え」をゲットします。本編とはマジで関係ないんですけども。

 で、そんなことをしている間に第二フェーズが終了します。蜥蜴僧侶さんと槍ニキとがめちゃくちゃ暴れまわりますので、前回より若干遅くはなりますが基本何もしなくてもクリアは可能です。大精霊を召喚したら申し訳程度に投石しておきましょう。

 

 第三フェーズに突入しました。アニメルートなので固まって出てくるのは前回ご説明した通りです。チャンピョン3匹ホブ20匹、ゴブリンに至っては無限湧きという、相変わらず実際にやられたらGMを殴り飛ばしてるかもしれない配置ですよ。

 では、そんな奴らをぶっ飛ばす今回組んだチャートをお見せしましょう。とはいえ、やることはほとんど変わりません。ぶっちゃけ射程内に入ったら【力球】でごり押しするだけです。【泥罠(スネア)】なんていらんかったんや!

 まずは小手調べ、この程度で死んでもらっちゃあ困るぜ~? 分身詩人さんが水の大精霊の支援を受けて【力球】を詠唱します。

 詩人さんの精霊使いと魂魄集中を足して11! いつもより上質な触媒と【精霊の愛し子】が加わり+1と+2! さらに【呪文熟達:攻撃呪文】と支援効果の+2と+5を加えれば! 貴様の呪文抵抗力をうわまわる「2d6+21」の達成値だぁああ!(ウォーズマン理論)

 あ、ダメージになると【風の遣い手】で+2の【呪文増強:威力】で+1なので、期待値に直すと「31」点ダメージですね。上手く決まればオーガジェネラルすら2発で蒸発します。運が良ければ前回1点残ったコイツすら一発で蒸発します。ぶっちゃけ前回よりごり押しに磨きをかけたビルドなんですね、今回のチャートは。

 それでは皆さんご一緒に。

 ささやき、いのり、えいしょう……ねんじて、

 

 これでもくらえっ(Take That, You Fiend)

 

 ダメージは――……なんと「36」点! 大成功じゃねぇか! Fooo↑ 気持ちぃ~!!

 周りのホブも合わせてチャンピョンが消し飛びましたねぇ。いやー、あっという間に終わりましたよこの再走も。それではトロフィー「小鬼殺し3号」の取得を確認して……確認……おわっとらんやんけ!? うせやろ!? 何匹や? 何匹足らんのや!? 足りとるんと違うんか! ええい今から数えとる暇はあらへん!

 くっそ……支援させるなら水じゃなく風にすべきでした、【吹雪(ブリザード)】で何匹と巻きこめたのに……! というわけで本体詩人さんを風の大精霊で支援させて毎度おなじみの【突風】を使用します。これで基準値「15」なので達成値的にダメージは確定しますので大失敗さえなければOKです。やっぱり【突風】最高や! 【力球】なんていらんかったんや!

 喰らえ【突風】! 達成値は――「19」って振るわねぇな!? まぁダメージが出ればいいんです。【風の遣い手】と【呪文増強:威力】でダメージに+3点されていますので「2d6+6」点ですね。相手はゴブリンなので5以上出ればOKですが――……ファ!? ぎりぎり「5」とか!! 賽子の揺り戻しこえぇ……!

 

 ですが左上にトロフィー「小鬼殺し3号」の取得を確認することができましたのでタイマーストップです。

 記録は……1602時間56秒14秒……うそやろ10時間ちょいしか短縮されへんのかい……!! というのも原因は分かっています。基本的にこの時間は起きている時間で計測しているため、移動時間を短縮したぶん若干起きていた時間を長めにしていたというのがあります。特に嫁の視姦げふんげふん【分身】の維持を寝る前の日課にしていたことや、あと単純に今回は戦闘を長引かせてしまったという点でしょうか。ラスト・ダンサー兄貴も言っていました、これは早寝RTAだと……。

 それでも、まぁ、呪文使い系チャートでは私が暫定1位ですね!

 

 

 はい、完走した感想ですが呪文使い系チャートはやはり呪文の知識がものを言いますね。あと【追風】で短縮できるだろうと思っていましたがその分だけ時系列という壁に阻まれやすいです。

 そして【突風】って思ったよりめちゃくちゃ使いやすいですね。効力値さえ高ければ類を見ない範囲火力を誇ります。劇場版でも【稲妻(ライトニング)】で周囲のゴブリンを薙ぎ払っていましたが、それ以上に無双できます。なにせ真後ろにも攻撃できるというのが大きいですし、風が回り込めるなら壁も関係なく殴れるのが強いです。なにより悪用が利きました。近くの川から大量の水を飛ばしてゴブリンの巣を水没させたりとか。毒気を流し込んだりとか。ゴブスレさんにもぜひ覚えておいていただきたいものです。まぁ使いすぎたので「これ精霊使いチャートじゃねぇな……」になりましたが。

 あー、巻物(スクロール)の制作ができるルールないかなぁ……(鬼畜)

 ちなみに【○○の遣い手】は重複します。何だったら【力球】は風と水と空間の複合ですが、【呪文熟達:攻撃呪文】や【呪文増強:威力】と合わせると熟練にするだけで+10点のダメージ増加が見込めます。空間の遣い手は存在しないのでこれが限界ですけどね。

 さすがに詩人さんで2回も走ったので、次回は別のキャラクターで走りたいかなと思っています。走る時間があれば、ですが……。

 では、名残惜しいですがこれでお別れです。御視聴ありがとうございました。

 

 また別のRTAでお会いしましょう。



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ある冒険者たちの結末(ザ・エピローグ)【裏】

2021/01/24 誤字報告より誤字修正を行いました。ありがとうございます。


「せっかく来てやったのに、全部終わってるとかどういうことだよゴブリンスレイヤー!」

「すまん」

 ゴブリンスレイヤーの、短い謝罪。

 帰りの馬車に漂う、気まずい雰囲気。

「……何とかしなさいよ、白粉森人」

「君、そろそろ温厚な僕も訴えるよ?」

「どこによ?」

「君の姉上」

「ちょ、ねぇ様は関係ないでしょ、ねぇ様は……!」

 見るからに動揺する妖精弓手に、詩人ははぁ、とため息を一つ。

「……そういえばさ。昨日の広場で、面白いお菓子を見つけたんだ」

「話題変えるの下手か!」

「僕にだってできることとできないことがあるよ!」

「面白い菓子とはなんだ?」

「あんたも普通ここで喰いつく?」

「いやもう少し空気読もうよゴブスレ君?」

「む……」

 ぐだぐだではないか、とばかりに鉱人道士が酒瓶の栓を抜いた。

 

 

「――……って、わけでさ? ほんと、あのときは疲れちゃったぜ」

「それを俺たちに言われてもなぁ……」

 青年剣士が苦笑いを浮かべる。

「というか、詩人さん? 依頼(クエスト)を放り投げてでも戻らなきゃならない、って何があったんですか?」

 剣士の隣に座る女武闘家が、疑問を投げかけた。

「そうよね。あなた大概突拍子もないことやるけど、これまで依頼を放り投げたことなんてなかったし……」

 女魔法使いもそれに続いた。

「まぁ、最低限のことはやってあるから、そんなにギルドの印象が悪くなることはないと思うけど」

「まぁ、ゴブリンは全部倒したからね。あとは荷物を運ぶだけだったし」

「年寄りの多い村で、あの重い荷物の量は、けっこう厳しいんじゃないかしら……」

「まぁ、ちょっと時間がね、ぎりぎりだったんだ」

「ぎりぎり?」

「うん」

「なんだ、なにか約束とかしてたの? それなら言ってくれればよかったのに」

 青年剣士は人柄よく笑う。

「ごめん、約束じゃなくて。僕の勘」

「勘かよっ!」

「明日、何か大きなことが起こる……ような気がする」

「ような気がするって……」

 呆れたように女武闘家がため息をつく。

「……ま、でも。精霊使いの勘なら信じてもいいんじゃない? 精霊使いは、第六感が鋭くなる、って言われているし」

「だよなぁ。詩人さんの勘で、何回か俺たちも助かったし」

「何かある、って言うなら。何かあるんでしょうね」

 しかし青年剣士たちは、呆れながらも、詩人を心から信じていた。

 

 

「すまん、聞いてくれ。頼みがある」

 いつもと違う雰囲気をまとって、ゴブリンスレイヤーが口にする。

 いつもならずかずかと無遠慮に受付へと行くやつが、しかし今回は、待合スペースの中心に無造作に踏み入ったのだ。

 低く静かな声で発した言葉は、そこにいた冒険者たちをざわめかせるのに十分だった。

「本当に何かあったよ……」

 青年剣士が思わずつぶやいた。

「嫌な予感はあったけど」

 なにをやってるんだよ、ゴブスレ君……と。彼の奇行には慣れてきたはずだったが、今回ばかりは理解ができないでいる。しかしその言葉は、他の冒険者のざわめきにかき消えてしまった。

「ゴブリンの群れが来る。村はずれの牧場にだ。時間はおそらく今夜。数は分からん……だが斥候の足跡の多さから見てロードがいるはずだ。……つまり百は下らんだろう」

 冗談ではない! 彼らのざわめきはより一層大きくなる。

 彼らのほとんどは、最初の冒険でゴブリン退治を引き受ける。だからこそ、誰も彼もがゴブリンの恐ろしさ――否、面倒くささを知っている。ましてや百匹。それも、魔力でも膂力でもなく、統率力に優れた変異種であるロードに率いられた怪物ども……それはもはや、ゴブリンの軍と呼んで差し支えないだろう。

「時間がない。洞窟ならともかく、野戦では手が足りん。手伝ってほしい、頼む」

 彼は、頭を下げた。しかし誰も、彼に言葉を返そうとはしない。

 

 

「なぁ……っ!」

「やめておけよ」

「でも……!!」

「そうよ、やめなさい」

 青年剣士が声を上げようとした。だが、それは詩人と、女魔法使いによって止められる。

「私らじゃあ、ここで手を上げたところで流れが変わるわけじゃないわ」

「だけど……!」

「私らこないだようやく鋼鉄級になったのよ? まぁ詩人はいつのまにか青玉になってるけども……それでも、私らが口を出しても」

「あー……馬鹿にされるだけで続く人がいない、わよねぇ……」

 女武闘家も、ようやく得心がいったとばかりにため息をつく。

 そうだ、頭を下げたゴブリンスレイヤーに今向けられているのは、馬鹿にするような嘲笑でしかない。強くはない、ただ面倒くさいだけのゴブリンを相手に「手伝ってくれ」などと……いったい誰が引き受けよう?

「ゴブスレくんはなぁー、不器用だから……いや、でもまぁ……」

 彼なら何とかしてくれるだろう。と。

 予想通り立ちあがった男を見て、詩人はにんまりと笑った。

 

 

「おい……お前なんか、勘違いしてないか?」

 槍使いの冒険者が、ゴブリンスレイヤーに言葉を返す。

「お願いなんざ聞く義理はねぇ」

 鋭い目でゴブリンスレイヤーを睨み、続ける。

「依頼を出せよ、つまり報酬だ。ここは冒険者ギルドで、俺たちは冒険者だぜ?」

 そうだ、そうだと野次が飛ぶ。

 彼は立ち尽くしたまま周囲を見回した。別に助けを求めたわけではない。

 二階のほうで妖精弓手が顔を真っ赤にして飛び降りようとして、鉱人道士らに止められていた。目の前の男と一党を組んでいる魔女は、つかみどころのない笑みを浮かべている。馴染みの受付嬢は慌てて奥へと姿を消し、疾走詩人は肩をすくめて立ちあがった。

 そして彼は、自分が女神官を探そうとしていることに気付き――鉄兜の奥で目を閉じる。

「ああ、最もな意見だ」

「おう、じゃあ言ってみな。俺らにゴブリン百匹に相手をさせる、報酬をよ」

「すべてだ」

 そいつは迷うことなく、そうはっきりと言った。

 

 

「君はじつに馬鹿だな」

 こつん、と。

 いつのまにか後ろに立っていた疾走詩人の投石杖(スタッフスリング)に、ゴブリンスレイヤーは頭を小突かれていた。

「目の前の男は銀等級、それも辺境最強だぜ? 相場が違うだろうよ」

 だよなぁ? とばかりに槍使いを見れば、

「ど畜生め」

 このタイミングで口をはさむかこの白粉が、と。槍使いは詩人を睨み返した。

「お前の命なんぞいるか! ……後で一杯奢れ」

 相場だろうが、と。

「すまん。ありがとう」

「よせよせ! 退治してから言ってくれよそんな台詞は……!」

 槍使いが目を剥いて、ばつが悪そうに頬をかいた。

「……まったく、僕がいなけりゃどうなってたことか」

「どうにでもなってたんじゃない?」

「知ってるさ。ま、銀等級だしね」

 人がいいのは知っている。そうでなければ銀等級になれるわけがない。

 だから、あとはタイミングの問題だった。

 だからこそ、あなた(・・・)が押した彼女の背中は、もっとも最高のタイミングだっただろう。

「惚れ直すよ、愛しい人」

「まーた脳内彼氏の設定なんか出しちゃって」

「聞き捨てならないね?」

「はいはい、喧嘩しないの」

 女魔法使いが呆れかえって立ちあがる。

「ほら、どんどん名乗りを上げていくわよ?」

 早くしないと報酬、取りっぱぐれるわよ? と。

「おっと、危ないところだ」

 妖精弓手が冒険の約束を取り付け、鉱人道士が酒樽でよこせと言い、蜥蜴僧侶がチーズとアイスクリンのためにと立ちあがる。

「それじゃあ僕は、一緒に探してもらうからね。僕の“運命の人”をさ」

「わかった」

「とはいえ、目星はついているけどもね。あとは最後のピースが必要なだけで」

「なら、それを用意しよう。何が必要だ?」

「君が聞いたことがあるかどうか、わからないけれども……そいつは久遠の闇を駆け抜ける唯一の光、あるいは火花。そう、≪(スパーク)≫と呼ばれていて――」

「心当たりはある」

「――本当かい!?」

「だが、手に入るかは分からん」

「いや、情報だけでも十分さ! これで一歩前進できるからね」

 求めるものが、ようやく近づいてきたと。詩人はいままでにないくらい顔をにやけさせる。

「そうと決まれば、この綺麗なお姉さんにお任せだ」

「……助かる」

「助かる? そんなこと言うなよゴブスレ君。君が依頼を出した。それを僕らが引き受けた。これはそれ以上でもそれ以下でもない話だぜ?」

「そうとも、俺たちゃ仲間でも友達でもないけれど、冒険者だからな」

 そうだ、彼らは、冒険者だ。

 胸には夢があり、志があり、野心があり――人のために戦いたかった。

 踏み出す勇気がなかった。でも、誰か(・・)に背中を押された。

 だから、踏み出せた。小さくも、この偉大なる一歩を。

「ゴブリン退治? いいだろう、そいつは俺らの仕事だぜ」

 冒険者はみな剣を、杖を、斧を、弓を、拳を掲げた。きっとあなた(・・・)も、何かを掲げたにちがいない。

 ――だから、名乗りを上げよう。

冒険者(アドベンチャラー)に任せとけ!』

 

 

 その戦いは、まったくもって順調だった。ゴブリンスレイヤーから受けた見識が、みごと華麗にハマっていく。

 肉の盾? 眠らせて回収してやればいい。

 呪文使いと弓持ち? そんなもの、石と矢とで射殺せばいい。

 ゴブリンライダー? 槍衾で串刺しだ!

 元より小鬼と冒険者。真正面から戦えば、運が悪くなければ負けることなどない。

「まったく、小遣い稼ぎにちょうどいいね」

「ゴブリン一匹で金貨一枚が小遣いとか、俺ら明日からなんか大変な目に合いそう……」

「やめてよそういうフラグみたいなの言うのは!」

「そうよ、もっと楽しいことを言いなさい!」

「なんか理不尽じゃね!?」

 青年剣士一党とともに、詩人はゴブリンたちを討伐していく。彼らはもともと才能に溢れた若者たちだ、ただただ群れで襲ってくるゴブリンなど。頼れる仲間の支援さえあればものの数ではない――!

「くそっ! じゃあ俺! このゴブリンを倒した報酬で憧れの片手半剣(バスタードソード)を――!」

「やめなさい!」

「私フラグ立てるなって言ったわよね!?」

「ははは」

「詩人も! 笑いごとじゃないでしょ!?」

 危うくゴブリンごときに殺されてしまうフラグが立ってしまうところだったと、目を吊り上げて青年剣士を怒鳴りつける。

「まぁ、いいんじゃないかな? 夢は大きいほうが」

「そうさ! 夢はでっかく、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)だ!」

 青年剣士が目の前のゴブリンを切り払う。その大ぶりに剣を振った隙を狙って狡猾なゴブリンが後ろから飛びかかるのを、女武闘家が殴り飛ばすのだ。

「サンキュー!」

「ほんっっっっと! 私がいないとダメなんだから!!」

「お前がやってくれると信じてただけだよ」

「っっっ!! バカっ!!!」

「戦場でいちゃつくなぁ――!」

 女魔法使いが杖を構え、前衛二人をどやしつける。

「≪サジタ()……ケルタ(必中)……ラディウス(射出)≫――【力矢(マジックアロー)】!」

 そして、なにか独り身の疎外感を感じながら、その怒りやらを込めた三本の【力矢】をゴブリンの喉元めがけて射出した。

 

 

「出たぞ! 田舎者(ホブ)――いや、それだけじゃない!?」

小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)……しかも三体!」

 唸るような雄叫びが血風吹き荒れる戦場にこだまする。

 オーガと見まごうような巨体。血と脳漿に濡れた棍棒をもち、ゴブリンでありながら、戦場の行く末を左右しかねない強大な敵。

 だがしかし、冒険者たちの気迫が萎えることはない。ここにいるのは、大物食いを狙わずして何が冒険者かとばかりに闘志の高ぶる益荒男ばかり。

「っしゃあ! 大物か! いい加減、雑魚相手も嫌になってたところだ!」

 獰猛な笑みを浮かべて武器を担ぎ、率先して前に飛び出す重戦士。そのあとに、やれやれと面倒くさそうに盾を掲げた女騎士が続く。

「こっから先は熟練者(ベテラン)の戦場だ! 腕に自信のない奴ぁ引っ込んでな!」

 槍使いが新人冒険者を後ろに引かせるよう号令をかけると、槍を構えて突撃する。

「それじゃあ、残りの一匹は僕がいただこうかな」

「詩人さん!」

「ご武運を!」

「死んだら承知しないんだからね!」

「ははは。仲間思いの友達をもったなぁ、僕」

 なんと充実した人生か。そう思いながら、疾走詩人は分身と共に、のんびりとした足取りで前に出た。

「愛しい人のハグが待ってるからね。ここらで武勇伝のひとつも上げたなら、きっと僕はどうにかされてしまうだろうさ」

「あんた妄想もたいがいにしなさいよ」

「さすがにそろそろ俺らもフォローしきれないぜ?」

「そんなんだから淫乱白粉森人とか言われるのよ?」

「おまえら後でぜってー覚えてろよな!?」

 油断はしていないが、緊張もしていない。目の前には、地響きを立てて迫る恐ろしき巨大な怪物。それがまだ距離のあるうちに、よっつの紅紫色の瞳をきりりと引き締めて、艶のあるふたつの唇は朗々と呪文を紡いだ。

「≪宴の時間ぞ水精(ウンディーネ)、気ままに歌いて舞い踊れ≫」

 鞄の中から取り出した触媒を、ひょいと放り投げる。大気がそれに集まるかのように、ひゅぅ、と妙に湿った風が集まる。

 いや、湿っているのではない。そこらじゅうから、風と、水が寄り集まってくるのだ――!

「ちょ……!」

 目を見開いたのは知識のある女魔法使いだ。

「風と、水の――大精霊(グレータースピリット)……!?」

「おいおいおいおい、なんだよあれ……!」

「精霊よ……小さな神様みたいな力があるけど……」

「うっそだろ!?」

 詩人は、それを従えている。

 まさに、精霊の愛し子と呼ぶにふさわしい。

「さぁ、いくぜ?」

 詩人が、声を揃えて精霊にお願いする。水の大精霊は、詩人に寄り添うように、侍るように後ろへと立ち、力を貸し与えるように魔力を放つ。

「≪天の火石に死霊の骸骨、この世の外から来たもの二つ」

 詩人の持つ投石杖に、不可視の力場が現れた。

 それは精霊術の力の源、幽世より来る力、そのもの。

「ガツンと一発、これでも喰らえ(テイクザットユーフィーンド)!≫」

 思い切り、杖を振るう。普段は石弾を投げていたもので、これこそ本当の武器だとばかりに投げつけられた不可視の力場は、鎧も防御も関係なく、チャンピオンの体を、取り巻きのゴブリンごと抉り吹き飛ばした。

「すっご……!?」

「大精霊の力も借りてるのよ……当然じゃない……!」

 そこにあるのは、彼女への畏怖だ。伊達や酔狂みたいな言動しかない印象だったが、その力を見てしまえば、それも消え失せてしまった。

「どやぁ、これがお姉さんの実力だぜ?」

 わざわざそんな畏怖すら吹き飛ばすようなドヤ顔さえ見せなければ、だったが。

「はぁあああ……さっきまでかっこよかったんだけどなぁ」

「なんだとーぅ!?」

「いや、まぁ、詩人さんだしね」

「そうそう、詩人さんだからね」

「なんか納得いかないな……」

 この場で唇を尖らせるあたり、本当に自分たちよりも年上なのかと疑ってしまう。

「で、四百歳児」

「失礼だね?」

「あんたがチャンピオン倒したせいで、ゴブリン逃げていくけど」

 見れば、重戦士たちや槍使いが同じタイミングでチャンピオンの討伐を果たしていたころだった。確かにこれでは、ゴブリンどもが士気を維持するのも難しいだろう。

「おっと。じゃあ最後のひとかせぎだ」

「私もまだ三匹しか倒してないしね」

「競走するかい?」

「冗談。あんたみたいに範囲が馬鹿みたいに広い呪文は覚えてないの」

 だいいち、いまのあなたはふたりじゃない……と。呆れたように女魔法使いが肩をすくめた。

「それじゃ行くぜ?」

「ええ、失敗しないでよ? ≪カリブンクルス(火石)……」

「僕は頼れる綺麗なお姉さんだぜ? ≪ウェントス()……」

クレスクント(成長)……」

「……オリエンス(発生)≫!」

「――ヤクタ(投射)≫!」

 女魔法使いの唱えた三本の【火球(ファイアーボール)】と、詩人の荒れ狂う【突風(ブラストウィンド)】が、ゴブリンどもを一掃する。

 

 

「私たちの勝利と、牧場と、町と、冒険者と――……それから、いっつもいっつもゴブリンゴブリン言ってる、あのへんなのにかんぱーい!」

 妖精弓手の音頭にわっと冒険者たちが歓声を上げて次々に盃を掲げると、一気に干す。たしかこれで五度目の乾杯だったが、冒険者たちは気にしない。

「まったく、お姉さんは付き合いきれないぜ」

 鉱人道士が持ち込んだ秘蔵の火酒をうっかり口にしてしまった疾走詩人がひとりごちる。白い肌にほんのりと赤みが差している。とろんとした紅紫色の瞳で見上げるのは、雲一つない星空と、そこに浮かぶ二つの月。そして、あなた(・・・)

 火照る肌をなぜる、冷たい夜風が心地よい。

「なーにかっこつけちゃってるのよ」

 そこにやってきたのは、女魔法使いだ。

「素直に、かっこいいな、と憧れてくれてもいいんだぜ?」

「はいはい」

「ところで、剣士くんは?」

「彼? 鉱人の火酒飲んで、倒れちゃったわ。今はあいつに介抱されるところよ」

 くい、と親指で指し示す。

 強い酒精に喉を焼き、やや苦悶の表情を浮かべる青年剣士に肩を貸して、女武闘家が待合スペースの隅へと移動するところだ。二階への階段は、竜牙兵の踊り場となって通行止めである。

「残念だったねぇ、彼女」

 あそこが通れるなら部屋に連れ込めただろうに、と。

「あんた森人のくせに下世話よね?」

「愛しい人は只人だからね。森人の感覚でさ、二十年三十年してからじゃないと子供は……なーんて言ってたら、あっというまにおじいちゃんだもの」

「只人でもそんな淫乱じゃないわよ?」

「ところで、どいつだい? その、僕が淫乱だとかいう、噂を流した元凶は」

 彼に嫌われてしまったらどうするんだい? と。

「知るか」

 普段の言動から、誰からともなく口にされたことなのだから。

「ちくしょう。今こそそいつの恋文を読み上げるいいチャンスだっていうのに……」

「あんたえげつないこと考えるわね?」

「ははは。文字の読み書きくらい、できないやつが悪い」

 この冒険者ギルドに登録している、想い人のいる文字の描けない冒険者は、詩人に一度はお世話になっている。ゆえに彼女は、今酒場にいるほとんどの冒険者の弱みを握っているも同然だ。

「……ところで、さ」

「なんだい?」

「あの、変なの。ゴブリンスレイヤー……なんであいつ、すぐに依頼を出さなかったの? あなたが口を出さなきゃ……とんでもないことになってた、かもしれなかった」

「僕が知るかよ」

 あっさり、そっけなく。詩人はそう答える。

「それに、僕が口を出さなくても、彼は自分から一杯奢れって言いだしてだろうさ。ツンデレだしね」

 詩人の視線の先で、ちょうど新しい銘酒の栓を抜こうとしている男を見た。

「なんだかんだ、銀等級だぜ? ……詰めが甘いみたいだけど」

 その隣には、最初の一杯を舐めるように楽しむ魔女がいる。

「……教えてあげればいいのに」

「愛した男が楽しんでるんだぜ? あとでフォローしてやればいいんだよ。そのほうが、好感度が上がるしね!」

「…………」

「何か言いたそうだね?」

「いや、厚化粧だと大変そうだな、って」

「なんだとーぅ!?」

 はいはい、どうどう、おちついて。と。両手をなだめるように上下させる。

「――あーっ! オルクボルグが兜外してるー!」

 その時だ。

 妖精弓手の大きな声が、ギルド内に響き渡ったのは。

「えっ、嘘!?」

「おっと、これは一大事だ。僕ぁトトカルチョに参加していてね」

「私もよ!!」

 今、その結果が目の前で開かれようとしている。

「私、あえての女に賭けてたけど……あなたは?」

「そりゃあ、当然。イケメンに賭けてたさ」

 よっこいせ、と。投石杖を手に持ち立ちあがる。

「どんな物語だって、勇者はいつだって、カッコいいものだろ?」

 にんまりと笑って、詩人はそう締めくくった。




 くうつか。
 というか本当に再走するとは思いませんでした。でもタイム短縮できるチャートを思いついてしまったんだからしょうがないですよね。
 再々走はさすがに、ないと思います……。

 最後に、偉大な原作者様、先駆者ラスト・ダンサー兄貴、花咲爺兄貴、他兄貴姉貴様に敬意と感謝を込めて締めくくりたいと思います。

 THANK YOU FOR PLAYING !


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