駆逐艦白露の日常 (七対子)
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第1章
1話 始まり


※3月2日 台本形式をやめました。
 2022年 8月25日 内容を書き直しました。


 今から20年以上前、海に突如として現れた軍艦の力を宿した化け物。その化け物達に人類は制海権を奪われてしまう。人類は、その化け物達を深海棲艦と呼び、ありとあらゆる兵器を駆使して戦ったが、多数の死者を出した。しかし、数年後に在りき日の艦艇の力を宿した者達が現れ、徐々に制海権を取り戻していく。人類は、このもの達をこう呼んだ。“艦娘”と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、現在。とある町の裏路地にて…一人の少女が不良達と喧嘩をしていた。ただ、少女は全くの無傷で、不良達は傷だらけだ。

 

「いってぇ、ダメだ…噂は本当だったのか!逃げるぞ!」

 

「はいはい…逃げろカスども…二度と近づくなば~か…」

 

 少女は、適当に歩きながら空を見る。こういうことは、大体出かけたりしたら日常茶飯事だ。まぁ、今は夜中の12時前だが。

 

「…はぁ、退屈だな……帰るか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっと…ただいま~…と」

 

 少女が帰ってきた場所は、かなり大きな施設で倉庫や埠頭が多数あった。ここは、海軍の施設で艦娘の訓練を主にしている訓練校だ。戦艦級から駆逐級まで幅広い艦種のもの達がいる。艦娘は全員がもともと人間であり、全国から適性の集まった女性に限定されている。中には、深海棲艦の襲撃で戦災孤児になったものもいるのだとか。基本的に同じ名前を持つ同型艦は存在せず、各艦種に一人ずつしか確認できていない。少女は人目につかないように、寮の方へと向かう。そして、窓を開けて静かに入る。本当なら出かけるときはちゃんと申請をしないといけないし、門限もちゃんと決まっている。この少女はほぼ毎回門限を破っているため、こうして静かに入ってきている。

 

「さてと…見つからないといいけどな…」

 

「見つからない?毎回毎回こんな時間に帰ってきておいて何を言ってるんですか?白露さん!」

 

「……んだよ。鹿島さん…何時に帰ろうが私の勝手だろうが…」

 

 白露と呼ばれた少女は、後ろの方を見ながら答える。後ろには、鹿島と呼ばれた女性が腕を組みながら立っていた。白露は構わずに進もうとするが、鹿島は白露の肩を掴んだ。

 

「まだ話は終わっていませんよ白露さん!あなたはどうしていつもいつもそうなんですか⁉演習でもいつも一人で突っ走って、出撃では命令無視!街に出ては毎回喧嘩沙汰!いい加減にしてください!」

 

 白露は、舌打ちをしながら鹿島の腕を掴む。かなり力を入れているようで、鹿島は表情を歪めていた。そして、鹿島を睨みつけながら静かに口を開いた。

 

「…私に指図するな」

 

 鹿島の腕を離し、白露はそのまま歩き出す。鹿島は腕をさすりながら白露を見る。首を横に振りながら、自室へと戻ろうとする。途中、廊下の端に誰かがいるのが見えた。

 

「鹿島、大丈夫?」

 

「香取姉さん。えぇ、私は大丈夫」

 

 立っていたのは、姉妹艦である香取だ。実は、香取は3年前に白露を保護した人物だ。休みをもらい、街に出かけた際に偶然白露と双子の妹と出会った経緯がある。親に捨てられたのか、戦災孤児だったのかわからなかったが、二人はかなりボロボロの状態だったらしい。その時から白露は反抗的な態度をしていた。妹の方は反抗的な態度は無かったが。白露は、上官に対する命令無視は日常茶飯事、協調性もほとんどなく周囲には常に冷たく当たっている始末だ。

 

「白露さん、またなの?どうしてあの子はいつも…」

 

「戦闘能力も高くて、座学も今期の子ではトップの成績なのに…本当に、どうして…」

 

「わからないわ…あの子の過去のことはわからないもの……後日、話をしてみましょう。話せる機会があればいいのだけど…」

 

 二人は、そのまま部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぁ~…まったく、どいつもこいつもよ…」

 

 白露は、階段をのぼりながら自室の前に来る。ドアを開けようとすると、部屋に明かりがついているようだった。白露は頭を掻きながらドアを開ける。ドアを開けると、畳の上で読書をしている少女がいた。肩までかかる黒髪に犬のようなくせ毛が特徴だった。その少女は白露を目にすると少し呆れたように話しかけた。

 

「お帰り白露。また町に出て喧嘩かい?」

 

「時雨…まだ起きてたのか…」

 

 時雨と呼ばれた少女は本を閉じる。時雨は白露型駆逐艦の2番艦だ。白露とは双子の姉妹でもある。ここに配属されたときから改二と呼ばれる状態だったため周囲から一目置かれている。艦娘は艤装を装備することで海を駆け、深海棲艦と対等に戦う力を持っている。しかし、改二と呼ばれる状態になるには経験と艤装の練度を高める必要があるのだが、初めから改二の状態だったものはほとんどいないらしい。

 

「ったく、まだ起きてたのかよ…先に寝てろっての…」

 

「毎日毎日喧嘩ばっかりしている双子の姉を心配しない妹がいるかい?おおよそ予想は付いてるけど、また向こうから絡まれたんでしょ?」

 

「向こうが勝手に突っかかってきたんだよ。だから返り討ちにしてやっただけだ」

 

「普通に無視すればいいのに…強いのは知ってるけど、あんまり喧嘩しない方がいいよ…敵が増えるよ…」

 

「知るか、その時は全員半殺しにする」

 

 やれやれ、と思いながら時雨は本をしまう。言っても聞かないことはもうわかっているから。何せ上官達にすら楯突くし、周囲の同期にも似たような態度をとるほどだ。小さい時はこんな性格ではなかったのに、ある日を境にこのような性格になってしまった。時雨ももう諦めているほどだ。白露は、そんな時雨をよそに寝間着に着替えている。そして、自分のベッドに横になった。

 

「とりあえず私は寝るからな」

 

「はいはいわかったよ。じゃあ僕も寝るかな」

 

 時雨もそのままベッドに入る。しかし、入った布団はどういうわけか白露のベッドだった。しかも、白露の右腕に抱き着いている。

 

「…おい」

 

「どうかした?」

 

「どうかしたじゃねえよ。なんで私の腕に抱き着いてるんだ?あんたもう18だろうが…」

 

「姉がまたフラフラと出てって喧嘩しないようにするためだよ!」

 

「どうせまた甘えたいだけだろうが…昔っからこういうところは変わらないよな…」

 

 時雨は、昔からこういう甘えん坊な一面がある。小さい時から親と接することができなかったのもあるのか、ことあるごとに白露に抱き着いてくることがあった。時雨は白露の態度については諦めているが、白露も白露で時雨のこういった一面に対しては諦めている。

 

「…もう勝手にしやがれ…」

 

 結局、そのまま抱き着かれながら白露は眠りについたのだった。

 

 



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2話 唐突な出撃

キャラ紹介します!

白露
この物語の主人公。年齢は18歳。時雨とは双子の姉妹。過去の出来事がきっかけでぐれてしまい、喧嘩沙汰や命令違反などなど問題ばかり起こしている。しかし、座学の成績や実力はトップクラスで一部の者からは慕われている。

時雨
白露の双子の妹で、物静かでクールな性格。反面、かなり甘えん坊な一面がありよく白露の布団に潜り込むことがある。養成所に入ったころから改二と呼ばれる状態だったため海軍の者から注目されているらしい。

それでは2話目。楽しんでいただければ幸いです。

※3月2日に台本形式やめました

2022年11月4日 内容を少し書き換えました。


「う~ん」

 

 目覚まし時計が鳴ると同時に目覚めた白露。腕には時雨が抱き着いているため、目覚まし時計を止めようにも止められない。無理にでも腕からはがしていこうかと考えたが、その前に時計を止めた少女がいた。時計がなる前に起きていたのだろう。寝間着姿ではなくすでに制服だ。

 

「おはよう白露姉さん。昨日は何時に帰ってきたの?」

 

「村雨か…相変わらず朝早いな…」

 

 時計を止めたのは、白露型3番艦である村雨。長い髪をツインテールにしているのが特徴だ。姉妹艦の中では、朝は一番強い方だ。村雨は白露の現状を見て糸目になる。時雨が甘えん坊なのは知っているがなぜこういう状況になっているのか不思議に思っているのだろう。

 

「ところで、どうしてそんな状況になっているわけ?」

 

「…知るかよ。こいつが勝手に腕に抱き着いてきたんだよ…」

 

「ふ~ん、なるほどね。でも、もう起きる時間だし、時雨姉さん起こして準備したら?」

 

「あんたに言われんでもやるよ…まったく。ほら時雨!起きろ!」

 

 白露は乱暴に時雨をゆする。すると、時雨は一気に目を開けた後、目をこすりながら体を起こす。時雨は朝がかなり弱いため、いつも誰かに起こされているのだ。すごい時は、体をゆすっても起きないほどだ。

 

「…あぁ…白露…村雨も…おはよう…」

 

「本当に時雨姉さんは朝弱いわね…まぁ、朝弱いのはもう一人いるけどね…ちょうど一番上のベッドに…」

 

 村雨は、3段ベッドの一番上に上る。そして、そこで寝ている少女に大声で話しかけた。

 

「夕立いいいいいい!起きなさああああああああああああああい!」

 

「ぽぎゃあああああああああああΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

 村雨の声で起きたのは、白露型4番艦の夕立。真っ赤な目に犬耳のようなくせ毛が特徴の少女だ。夕立も時雨と同様、ここに入ってきたときから改二と呼ばれる状態だったそうだ。実力もまだ訓練生ながらかなり強い分類に入るらしい。そのため、海軍内でもかなり注目されている。ちなみに、村雨とは一つ違いの実の姉妹である。夕立は、布団を一気にめくった後に叫びだした。

 

「もう!いきなり大きな声を出されたらびっくりするっぽい!」

 

「あのね夕立…目覚まし時計の大きな音で起きないのに、どうして私の大声で起きるのよ…」

 

「…へ?目覚ましなってた(・・?)」

 

 その返答に、村雨は少し頭を抱える。まぁ、もう慣れっこのため梯子を下りながら入り口の方へと向かう。

 

「とにかく、3人とも早く準備してよね。先に食堂の方に行ってるわ」

 

「わかったよ」

 

 村雨を見送った後に、白露もベッドから出てまずは洗面台の方に向かう。顔を洗い、歯磨きをした後に、また自室に戻り制服に着替える。他の二人も制服に着替え、洗顔と歯磨きを終えた後に食堂の方に向かった。二人ともかなり眠そうではあったが白露は気にせずに先を歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――食堂

 

「ふぁ~…眠いっぽい…」

 

「やっぱり朝は慣れないな…寝ても寝ても足りない気がする…」

 

「……はぁ」

 

「…夕立と時雨姉さんに限ってはいつも通り眠そうね…白露姉さんは、毎回退屈そうな顔をしてるわね…」

 

 食堂に集合した4人。とりあえず、中に入り朝食をとりに行く。厨房の前には憲兵や整備士、艦娘達が並んでいた。その中で、ピンク色の髪をした目つきの鋭い少女が話しかけてきた。

 

「あら白露さん。昨日も帰りが遅かったようで…」

 

「うるせえな…文句でもあるのか?いちいち突っかかってくるなよ不知火」

 

 話しかけてきたのは同期である不知火。なぜか白露のことをライバル視しているようで、毎回突っかかってくる。何事にも手を抜かない性格で、悪く言えば変に生真面目で時折周囲と衝突してしまうほど難しい性格をしている。

 

「あなたみたいな人が成績も優秀で、実力が高いのが理解できませんね」

 

「おい、突っかかってくるなって言ったろ…」

 

「なら、実力行使でもしますか?」

 

「弱いくせに粋がるなよ!」

 

「はいは~い!喧嘩はその辺にして、ご飯行きましょ!」

 

「そうそう!うちの不知火が変に突っかかって悪かったわね!」

 

 喧嘩になりそうだったので、村雨が間に入り止めてくる。さらに、不知火の後ろにいたのは、不知火の姉妹艦である陽炎だ。陽炎型の長女ということもあり、かなり面倒見がいい性格をしている。しかし、癖の強い性格をしている不知火に対しては世話を焼いているようだ。陽炎は不知火の耳を引っ張りながら、早急に前の方に行く。不知火は耳を引っ張られていることでかなり痛そうだ。

 

「何をするんですか陽炎!痛いです!」

 

「あんた本当に大概にしなさいよ!天と地ほどの実力差があるのに突っかかるな!」

 

 呆れながらその様子を見る白露。全員で適当にトレイを受け取り席が無いか見渡す。しかし、珍しく混雑しているのか、空いている席が見当たらなかった。

 

「白露達~!よかったらこっちに来いひん?不知火の態度の詫びも兼ねるで~!」

 

 白露達を呼んだのは、陽炎型3番艦の黒潮。同期であり、かなりの常識人だ。関西出身ということもあり、関西弁を多用する。見ると、横には陽炎と不知火もいる。こってり絞られたのか、不知火は少し不機嫌そうだ。空いている席も無いため、お言葉に甘えて席に着くことにした。席につき、食事に手を付けると陽炎がおもむろに体を伸ばしながら話した。

 

「はぁ、昨日の訓練も疲れたわ…体がだるくて仕方ないわ…」

 

「今日が終われば明日はオフなんですから、文句を言わないでください陽炎」

 

「あんたは本当にくそ真面目ね…」

 

「昨日の訓練で疲れるか…」

 

「いやいやいや白露…あんたが異常なのよ!艤装を付けて、おもり状態にして、ランニング1時間よ!無理よこれ!途中何人リタイア出たと思ってるのよ!あんただけよ!涼しい顔して走ってたの⁉」

 

 昨日、艤装をおもり代わりにして、運動場を1時間ランニングするというものだったが、白露だけ涼しい顔をして走っていたようだ。他の者は、すぐにばててしまっていたか、どうにか1時間を走りぬいたらしい。陽炎はどうやらそれが羨ましいらしい。

 

「ねぇ、その体力私にも分けてよ!」

 

「あんたでどうにかしろ…」

 

「ケチ!ドケチ!」

 

 騒ぎ出す陽炎をなだめる黒潮。ある程度陽炎が落ち着いた後、白露に質問をする。

 

「そういえば、4人はどこの鎮守府に希望をだしたん?」

 

「僕達は全員柱島だよ!」

 

「あら、意外やね…全員ってことは白露も?白露のことだから、大本営とかに希望を出してるのかと思ったわ…柱島は、まだ設立されたばかりやろ…」

 

 時雨が言ったことに困惑を隠せない黒潮。黒潮の言う通り、柱島は最近できたばかりの鎮守府だ。まだ艦娘も着任していないし、正直白露は今期の中ではトップクラスの実力者だ。大本営で務めてもいいと思うほどに。実際、素行はどうあれ、白露は各鎮守府からスカウトが来ていたほどだ。

 

「あぁ…それはたぶんだけど…」

 

「余計なことは言わなくでもいいだろ…」

 

 時雨が伝えようとするが、白露が横やりを入れる。しかし、陽炎達はかなり気になっているようで食い入るように白露達を見る。その様子を見かねたのか、村雨が代わりに答えた。

 

「他の鎮守府から勧誘が来てはいたんだけど、新しくできた鎮守府なら自由にできると思ったみたい。白露姉さん、指図されるのは嫌いだから…」

 

「あぁ…確かに…あんたの性格ならそうなるか…」

 

 村雨の話に納得したようでそのまま食事を始める陽炎達。しかし、夕立は村雨の耳元で小声で話す。

 

「…ねぇ村雨お姉ちゃん。白露お姉ちゃんが柱島に行く本当の理由って…村雨お姉ちゃんのことが心配だからじゃ…」

 

「それ以上は言わないの夕立…確かに私が柱島に行くって決めたときに、付いてくって言ったけど…」

 

「だいたい、村雨お姉ちゃんが柱島に行くのはそこに着任する提督さんが…」

 

「お願いだからそれ以上は言わないで!」

 

「…あ…はい…」

 

 そして、食事を始めようとするが、突然サイレンが鳴り響く。サイレンが鳴り始めるときは、大体が深海棲艦が攻めてきたときだ。陽炎は手を止めると少し怒ったように話し出す。

 

「また深海棲艦なの!本当に空気が読めない奴らなんだから!」

 

 そう言って立ち上がり、入り口のほうまで向かう。その様子を見て、白露も立ち上がり入り口の方に向かうと放送が入る。

 

『鹿島です。深海棲艦がすぐ近くの海域まで侵入してきたと情報が入りました。現在、大本営の艦隊が出撃中であることもあり、すぐに応援が来れない状態です。そのため、近海付近で出撃中の呉鎮守府に応援を頼んでいますが、どれほど時間がかかるかわかりません。なので、こちらから相手を迎撃します。これからいうメンバーはすぐに出撃準備をお願いします』

 

 そして、鹿島が順に名前を読み上げていく。その中には、白露はもちろん時雨達もいる。しばらく出撃が無かったのもあるのか、白露は拳を鳴らしながら気怠そうに呟く。

 

「そっか出撃か…なら久しぶりに暴れるか」

 

「…白露、勝手なことは控えてよ。それで何度も鹿島さんに叱られてるんだから」

 

 時雨の話を適当に聞き流しながら入り口から出る。そして、そのまま工廠の方へと向かう。工廠に来ると、鹿島から招集されたメンバー達が集まっていた。それぞれが集まり何かを話しているようだったが、白露は目もくれず準備をする。しかし、その目はかなり退屈そうであった。

 

 



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3話 S級艦娘

※新しいタグと章を追加しています。

ここから、異能力を持っている艦娘が出てきます。
楽しんでいただければ幸いです。

※3月2日に台本形式をやめました
2022年11月4日。内容を少し変えました。


「……」

 

 放送室で資料を眺めている鹿島。一人一人の情報を見ながら、別の資料にも目を通した。

 

(艦娘にはランクが存在する。一般の人にも霊力というものがあって、その霊力の数値によって変わる。異能力を持っている人も少なくない。艦娘の霊力値では1000以上がB級、1万以上がA級。そして、霊力が3万以上のものをS級。数百人いる艦娘の中では、数十人しかいない。たかが、10だろうが1だろうが、上に行くにはどういうわけか壁がある。日本でも、S級艦娘は12人。今期の中では初めからS級なのは2人。訓練生から2人S級が出たのは10年前だけ)

 

 鹿島は、窓の外を眺める。今出撃している者に、そのS級がいるから心配はないと思うが、それでも気が気じゃなかった。なぜなら、その1人はかなりの問題児なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、二日酔いのついでに朝ご飯まで食えず、おまけに応援はまだ来ないという始末、今日はとことんついていないなぁ」

 

 第一艦隊旗艦を務める那智はダルそうな顔で走行する。よほど飲んでいたのか顔色が悪い。隣を走行していた第2艦隊旗艦を務める利根は、呆れた様子でそれを見ていた。

 

「ほらほら、つべこべ言わずにさっさと行くぞ。しゃべっている間に敵が近づいているのだからなぁ。大体、酒は控えろと妙高に言われておろうに…っと、ほれ、ちょうど目の前に深海棲艦の群れじゃ」

 

 利根は、目の前にいる深海棲艦達を指差す。数は、戦艦5、空母3、重巡2、軽巡2の連合艦隊編成だ。こちらは、那智と利根を含めて12人。要は連合艦隊ではあるが、重巡2の駆逐艦が10人だ。ちなみに、改2と呼ばれる状態なのは那智と利根、夕立と時雨の4人だ。

 

「ん~…。むしろあの数なら吾輩達だけでもなんとかなるのではないか?火力だけなら向こうが上だが……鹿島、敵艦隊は吾輩達の目の前にいるやつらだけかの~?」

 

『いいえ、まだ反応がいくつも見られます。おそらく、あと6・7艦隊はいるかと』

 

「…なんとまぁ…」

 

「敵がいくらいても大丈夫よ!この雷に任せなさい!!」

 

 自信満々に答えるのは暁型駆逐艦3番艦雷。訓練生の中では上位に入る実力者だ。座学も非常に優秀で、補習なども受けたことはない。そして、隣を走行していた白露は雷に声をかける。

 

「なら応援が来るまで私と勝負でもするか雷?」

 

「ちょっと白露…勝手な行動はやめなさいって。そのせいであなた何度も……って白露!」

 

 しかし、構わずに白露は一人先行してしまう。呆気にとられていた那智達も急いで白露の後を追う。しかし、白露が速すぎてなかなか追いつけなかった。

 

「こらああああ!白露!勝手な行動はするなと言っているじゃろう!早く戻って来んかあああ!」

 

「……はぁ、ねえ那智さん、私も先行していいかしら?」

 

  那智はしばらく考えた。雷は他の艦娘とは少し違っていたから。それに、雷もかなり実力が高い。雷なら何とかできるかもしれない。

 

「わかった。責任は私がとる。行ってこい」

 

「ありがとう那智さん!!」

 

 雷は、猛スピードで白露を追っていった。気のせいか体に雷のようなものを纏わせているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先行した白露は敵艦隊の目の前まで来ていた。相手は白露を見て一斉に砲撃を行う。白露に砲撃の雨が降り注いだ。しかし、轟音とともに戦艦タ級が宙に舞いあげられその後爆発したのだ。あっけにとられている深海棲艦は先ほどまでタ級がいた位置に目をやる。

 

「何だよもう終わりか…つまんねえの…」

 

 そこには白露が立っていた。かすり傷一つもない。あの集中砲火の中、どうやってタ級の懐に飛び込んだのか、周りにいる深海棲艦達は唖然としていたがすぐに白露に狙いを定める。面倒くさそうにしながら対応をしようとすると、周囲に電撃が走り、深海棲艦たちは電気ショックを受けたように体を跳ね上げた。近くには雷がおり、体や砲塔から雷を纏わせている。

 

「全く、勝手な行動をするなってみんなに言われたでしょ。本当に聞き分けのない子ね」

 

 雷は普通の艦娘とは違う。なぜなら彼女は異能持ちだから。彼女は10万V並みの電撃を放出させることができる。それを砲塔に集中させることで貫通力を上げることができ、さらにわずかな電波を拾いだれがどこにいるのかも把握することができる。彼女は数少ないS級艦娘の一人、霊力は3万3千だ。

 

「本当能力チートだなお前…」

 

「あなたも似たようなものでしょう?身体の筋力を何倍にできるんだっけ?」

 

「正確には筋力を倍にして身体能力を底上げできるらしいけどな…」

 

 そう、白露もごくわずかしかいないS級ランクの一人。霊力は雷と同様霊力は3万3千だ。異能は自身の筋力を倍に上げる肉体強化(フィジカルアップ)と呼ばれるものだ。雷は、白露の背中側に行く。そして、砲塔を構えた。

 

「一人より二人の方が効率いいわ。私も手伝うから」

 

「一人でいい」

 

「二人!」

 

「一人でいいって言ってんだ!」

 

「二人の方がいいってば!」

 

 言い争いをしつつ、敵を殲滅していく二人。白露は相手を殴り、さらに砲撃を打ちながら。雷は能力で敵を制圧していく。そんな二人を遠目に見ながら、共に出撃していたもの達がつぶやく。

 

「本当にいつみても…次元が違いすぎますよあの二人…」

 

 と朝潮がつぶやくと…

 

「私もいつか、あの二人のように…」

 

 と不知火がつぶやく。

 

「いや無理でしょあれ…」

 

 と呆れ半分に言う陽炎。そんな中、那智と利根がこんなことを言い始めた。

 

「……なぁ利根」

 

「なんじゃ、那智?」

 

「この戦いあの二人だけでいいんじゃないか?」

 

「そうはいっても、ここにいる限りは吾輩らも参加しないとだめじゃろ……まぁ、あそこはあの二人に任せて、吾輩達は違うところに行こうか!実戦訓練じゃ!」

 

「え…えっと、あの戦いの中に行くんですか…?」

 

「そうじゃ朝潮!……あ、いやいや周りに来そうな深海棲艦を叩きに行くぞ。巻き込まれたらひとたまりもないからの…」

 

 そして、二人から距離をとりながら深海棲艦達に向かっていく。その後、援軍が来るまで戦っていたが、ほとんどが白露と雷によって殲滅されていたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Wow、Congratulation(゚Д゚;)あなたたちすごいのネ~!どうですか~、うちの鎮守府に来ませんカ~!大歓迎するよ~!」

 

「めんどくさいからパス」

 

「私ももう行くところ決めてるのよ」

 

 話しかけてきたのは援軍に来た呉鎮守府所属の金剛型戦艦1番艦金剛、イギリス生まれということもあり、若干英語交じりの言葉を話す。提督に対する愛が強すぎるせいで提督は苦労しているという噂があるのだとか。二人の戦いを目の当たりにしたからか二人に興味津々だ。しかし、二人の返答を聞いてかなり残念そうに話した。

 

「ふ~む、それは残念で~ス…でも機会があればまたどこかで会いましょうネ~!」

 

 そう言って金剛の率いる艦隊は帰っていった。白露達も訓練校へ帰るために走行する。ほとんどが白露達によって倒されたため、全員がほぼ無傷だ。

 

「みんな、お疲れ様。敵艦隊は殲滅できたし、帰ったらゆっくり休んでいいぞ」

 

「本当に!じゃあ帰ったら寝る!」

 

「それはダメだ」

 

「どうして~~!?」

 

「座学はさすがに受けないとあとあと響くよ」

 

「い~や~だ~時雨お姉ちゃ~~ん!帰って休みたいっぽい~!!」

 

「まぁ今回出撃したメンバーの座学は午後からになるだろうから午前中はしっかり休め」

 

「やった~~!」

 

 戻る途中に座学が午後に移ったことに対して、夕立が喜びの声を上げる。夕立はかなり勉強が苦手なため、よく教官である足柄にどやされては課題をたんまり出されている。それに付き合うために村雨や時雨が勉強を教えることが多いらしい。白露は基本的に興味が無いため無視しているとか。そして、一同は無事に訓練校に帰島し工廠で艤装を解除する。一旦体を休めるため、白露達は寮の方に行こうとするが那智に呼び止められた。

 

「白露、鹿島から連絡が入ってな。これから会議室に来てほしいとのことだ」

 

「はぁ…面倒くさいから嫌だよ」

 

「いいから行け…じゃないとそれ相応の罰を受けてもらうことになるぞ…罰を受けるのも面倒くさいんだろう。ならさっさと行け」

 

「そうじゃ白露。問題を先延ばししてはいかんぞ!こういう時は素直に行ってさっさと終わらせて来い!わ~はっはっは!」

 

「痛えなこんにゃろ!わかったよ行けばいいんだろうが!」

 

 利根に背中を叩かれ、いらいらしたのか乱暴に手を払いのけながら会議室に向かう白露。その様子を時雨は心配そうに見つめていた。怒ったときの白露は正直何をしでかすかわかったものじゃないからだ。

 

「昔は本当にあんな感じじゃなかったのに…」

 

「時雨姉さん、何か言った?」

 

「あ…ううん。なんでもない!僕達は先に部屋に行って休んでよう!」

 

 何回か白露の方を見た後に、時雨達もその場を後にした。喧嘩をして鹿島を殴らないかかなり心配だったが、何も起こらないことを祈るしか時雨にはできなかった。そんな時雨の心配をよそに、白露はすれ違う人達を睨みつけながら会議室へと向かう。白露の怖さを知っているためか、全員が白露と目を合わせようとせずに距離を置いている。そうこうしていると、いつの間にか会議室の近くまで来ていた。

(まったく、何の話をするんだか…)

 

 

 








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4話 自分勝手な理由

お気に入り登録があってびっくりしました(汗)
4話目です。会話メインになっているのと、ちょっと短いです(汗)楽しんでいただければ幸いです。


※3月2日に台本形式をやめました。

2022年11月20日 内容を少し書き換えました。


 少しイライラしながら、会議室の前に来た白露。深くため息を吐いた後、ノックをし中に入ろうとする。その瞬間、ドアが勢いよく開け放たれ、目の前には鹿島が立っていた。相当怒っているのか、表情はかなり険しい。

 

「白露さん、呼ばれている理由はわかりますか?」

 

「知るか」

 

 適当にあしらいながら中に入る。中に入ると、香取もおり椅子に座っていた。

 

「白露さん、まずは出撃お疲れ様です。一旦、そこの椅子に座っていただけますか?」

 

 乱暴に椅子を引き座る白露。目つきは鋭く、香取を睨んでいるように見えた。鹿島は、白露の目つきに少し威圧されたが、何とか平静を保ち香取の横に座る。鹿島が座ったのを確認すると、香取が話し始める。

 

「白露さん、なぜあなたは毎回一人で行動をするんですか?いつも鹿島に言われているはずです。艦隊行動を乱さないようにと。上官に対する反抗的な態度や命令無視まで…一体どうして?」

 

「久々の実戦だったから暴れてやろうと思った。それだけだよ…」

 

 そっぽを向きながら答える白露。話がつまらないのか足や腕を組みながら話を聞いていた。少し時間を空けても、話をする様子は見られなかった。

 

「あなたが強いのはわかります。S級クラスで、たった一人で艦隊を殲滅できるほどの実力を持っていることも。ですが、今回のような行動をするのは危険があるんですよ…」

 

「結果的には敵を壊滅状態にできただろうが…それで結果オーライだろ…」

 

「なぜそこまで、戦うことにこだわるんですか?」

 

「……」

 

 白露は黙った。正直、戦うことに対してこだわりはない。ただ、暴れたかったから。それだけだ。だが、暴れても暴れても心が満たされるわけではない。白露は少し退屈だった。

 

(さっさと終わらねえかな…嫌なんだよな…本当に)

 

「白露さん…なぜそんな反抗的な態度を?一部の子達には、そんな様子を見せないのに…むしろ、反抗的な態度をとるのは…そう、私達や提督さん達とか…」

 

 その言葉を聞き、鹿島達を睨みつける。鹿島は、その視線に殺気のようなものを感じた。白露は、少し時間を空けた後におもむろに口を開く。

 

「……嫌いなんだよ」

 

「え?」

 

「大嫌いなんだよ!どうせ何か不都合なことがあれば捨てるんだろ!私の親みたいにさ!」

 

「し…白露さん…何を言って」

 

「もう私に構うんじゃねえよ。話すだけ無駄だ!」

 

「待ってください白露さん!まだ話は終わっていません!」

 

 白露は、乱暴に椅子を蹴った後に部屋を出て行ってしまう。香取と鹿島はその場に力なく座り込む。鹿島はよほど堪えたのか、机に突っ伏してしまった。

 

「…はぁ…香取姉さん。どうして白露さんは、あそこまで敵意を…?」

 

「…3年前に出会った頃からああだったわよ…詳しく聞いたわけじゃないからわからないけど、親に捨てられたトラウマか…周囲の人達が手を差し向けてくれなかったから、それで恨みを持っているのかもしれない…」

 

 白露と時雨は幼いころ、行く当てがなく盗みや窃盗を繰り返していたところを香取が見つけ保護したのだ。正直、親に捨てられたのかどうかはわかっておらず、白露がそう話しているだけに過ぎない。前に時雨にも聞いたこともあるが、よく覚えていないのだとか。その時に香取はこの二人が艦艇の魂を持っているのではないかと感じ適性検査をすることにした。結果二人は白露型の1番艦と2番艦ということが判明したのだ。白露はこの時からずば抜けた能力を発揮し戦艦を相手にできるほどの強さを持っていた。だがその分自分勝手な行動が目立っていた。演習や出撃時は一人で敵を相手にし、門限を毎回破っては町の不良達と喧嘩沙汰、教官に対する反抗など問題は多々あった。

 

「香取姉さん、私あの子が柱島に行った後がとても心配です」

 

「柱島には時雨さん達も行くし大丈夫だと思いたいけど、そこの提督達とうまくやっていけるか確かに心配だわ…」

 

 香取と鹿島はそんな不安を抱いていた。訓練課程を終えた艦娘がそれぞれの鎮守府へ配属するのは1週間後。何事もなければいいのだが正直、今考えてもどうしようもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、まったく…」

 

 白露は、自室に戻るために寮の中を歩いていた。本当にイライラすることばかりだ。周囲に指図されるのは性に合わない。自分のやりたいようにやる。たとえ鎮守府に着任しても、自分のやり方は変えないつもりだ。周りになんと言われようと。すると、部屋の前に時雨が座っていた。白露を待っていたのか、手には本も持っている。

 

「…何やってるんだよ?」

 

「喧嘩っ早い姉を心配して待っていたに決まっているじゃないか」

 

「…ふん…村雨と夕立は?」

 

「中で待っているよ。2人も心配してた」

 

「あっそ」

 

 興味無さそうに部屋に戻る白露。時雨も部屋に戻る。戻った直後に、夕立が白露に詰め寄り、村雨がそれを制した。白露は気にする様子もなく座敷に横になった。

 

「白露お姉ちゃん。また怒られたっぽい?」

 

「だったらなんだよ…関係ないだろ…」

 

「だって、白露お姉ちゃん強いし、今回も雷と一緒に敵を殲滅したのに…」

 

「あのね夕立…白露姉さんは確かに強いけど、それで陣形や作戦を無視していいわけじゃないの。今回もきっとその話でしょ?」

 

 白露は舌打ちをしながらそっぽを向く。これ以上話をしていても面倒くさいためだ。村雨達もこうなった白露はおそらく話しかけても答えないため、諦めてそれぞれ時間を潰すことにした。しかし、1週間後に鎮守府に着任することもあるのか、夕立が楽しそうに話し出す。

 

「そういえば、1週間後にとうとう鎮守府に着任っぽい!楽しみだね!」

 

「えぇ、柱島に行くからね!この3年間、厳しいこともあったけど、楽しかったわね!同期の皆もそれぞれの鎮守府で頑張ってほしいわ!」

 

 二人の様子を微笑みながら見守る時雨。白露の方に視線を移すも、やはり興味が無いのかそっぽを向いて横になったままだ。

 

(何事もないと思うけど、やっぱり心配だな…)

 

 白露のことが少し心配だったが、1週間後に5人柱島に着任する。そのあとも、何人か異動してくるという話だったし、たぶん大丈夫だろうと思うが、問題は提督達とうまくやっていけるかどうかだった。

 

 



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5話 着任

台本形式やめました!
白露「なぁ、書き溜めてあったなら台本形式を直してもよかったんじゃないか?」
 いやぁ、直す気力が無くて…
白露「ガチャ(# ゚Д゚)」
 ちょっと待ってΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)怒らないでください!

 ということで5話です!読みづらかったらすみません^^;

※元ネタありのキャラクター入ってます!いうの忘れてました…

2022年11月27日 内容を少し変えました。


 あれから1週間経ち、とうとう柱島鎮守府へ配属することになった白露達は鎮守府へ向けて移動していた。その中で特に緊張しているのは村雨だ。少しそわそわしている様子で、どうにも落ち着かない様子だ。手を動かしたり、足を組んだり組みなおしたりしている。

 

「…うぅ…すごく緊張してきた…。どうしよう…」

 

「姉さん。きっと大丈夫ですよ!いざ着いたら、その緊張はきっと無くなりますよ!はい!」

 

 そう促すのは白露型5番艦春雨。ピンク色の髪をサイドテールにしているのが特徴だ。周りに気を使う性格で自分のことをそっちのけにしてしまうことがあり姉妹達から心配されていることが多い。ランクはB級だ。

 

「緊張しすぎだよ村雨…楽に行こう!」

 

「そ…そう言われても時雨姉さん…白露姉さんもかなり落ち着いているし…」

 

「私は出撃で暴れられたらそれでいいんだよ…鎮守府のことなんて知るか」

 

「白露姉さんらしい答えね…(;・∀・)」

 

 白露の答えに、肩を落とす村雨。同じく少し困った様子の時雨と春雨。夕立に関しては暇すぎて眠っている始末だった。しかし、ああだこうだ話していると、鎮守府の近くに来ていたらしく、すぐにでれるように準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――柱島鎮守府 執務室

 

「来ましたか」

 

「お、やっと来たのか」

 

 執務室の窓から外の光景を見ていた二人の青年は車を確認すると外へ出る支度を始める。少し早歩きで入り口の方へと向かう。

 

「なぁ、白露ってやつ、少し癖が強いみたいだな!やっていけそうか?」

 

「なに、上手くやりますよ。資料を見る限り、色々あったみたいですし…」

 

「何だ?近々話し合いでもするのか?」

 

「えぇ、そのうち。多分向こうから来てくれるかもしれませんが」

 

 そう言って、入り口のドアに手をかける。一度深く深呼吸をした後に、ゆっくりと扉を開けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、やっと着いた!さてと……ふぅ……行きましょうか!」

 

 村雨は、車から降りると深く深呼吸をする。そして、意を決したように歩き出す。

 

「あ、待って!夕立も行く!」

 

「村雨姉さん!待ってください!」

 

 村雨を追うように、夕立と春雨も足早に正面入り口まで向かっていく。その三人を面倒くさそうな様子で白露が追っていく。するとちょうど入り口のドアから二人の青年が出てきたとこだった。玄関から出てきたのは白髪で目つきが鋭くどこか狐のような顔をした青年と服のボタンをしておらずラフな格好をしバンダナを巻いている青年が出てきた。白露達は二人の前に整列し敬礼をする。二人もそれに応え敬礼を返す。

 

「初めまして。私はこの鎮守府の提督を務めさせていただいている鳴海京(なるみきょう)といいます。同期からはよく鳴狐というあだ名で呼ばれています。不慣れなこともありますがどうぞよろしくお願いいたします」

 

「俺はここの副提督を務めている桐生仁(きりゅうじん)だ。堅苦しい挨拶は苦手だからよ、お前らも楽に自己紹介していいぜ!」

 

 京という青年は丁寧な口調で白露達に挨拶をし、仁という青年はラフな感じで挨拶をした。白露達は一瞬驚いたがすぐに自己紹介を始める。

 

「白露型1番艦白露、以後よろしく…」

 

「僕は白露型2番艦時雨、提督、副提督これからよろしく!」

 

「白露型3番艦村雨、これからよろしくね!!」

 

「白露型4番艦夕立っぽい!よろしくっぽい!」

 

「白露型5番艦春雨です、よろしくお願いします」

 

「では、挨拶も済んだことですしさっそく中をご案内します。その前に、荷物をもってあなた方が使うお部屋をご案内しますね」

 

 挨拶を済ませさっそく中に入る一同、気のせいか村雨は京のほうをたびたび見ては頬を赤く染めている。そういえば自己紹介してる時もずっと京のほうを見ていたような…と内心白露は思っていた。

 

(村雨、なんか提督のほうずっと見てるな…そういえば、前に助けてもらった人に似てるって夕立が言ってたっけか…)

 

 自分たちの部屋へ案内される中白露はそんなことを考える。以前町に出かけたときに、不良に絡まれたことがあったのだが、外の時に士官学校の学生に助けられたという話を聞いていた。おそらくその人物が京なのだろう。考え事をしているうちに、部屋の前についた。

 

「ここがあなたたちの部屋になります。養成学校の寮部屋より過ごしやすいかと思いますが何か不便があったらいつでも言ってください」

 

案内された部屋は大部屋で5人で過ごすには十分すぎるほどの広さだった。部屋に入った夕立はよほどうれしいのか部屋に入るとさっそく寝転がった。

 

「はわ~寝心地いいっぽい!今日はぐっすり眠れるっぽい…」

 

「夕立、まだ寝ちゃだめよ。施設案内があるでしょ?」

 

「まぁ、施設案内といってもほとんど訓練校と変わらないと思うぜ、ほとんどの鎮守府作りはほぼ訓練校と同じなんだとよ」

 

「そうですね、施設案内といっても場所がどこにあるのかの確認程度ですかね。おそらくすぐに終わると思いますよ。あとはここで働いている人の紹介くらいですかね」

 

「なら施設案内が終わったら自由に過ごしていいのか?」

 

「いえ、今後の方針を話さなければならないので執務室に向かいます。自由行動はその後ですね」

 

「…あっそう」

 

「ちょっと白露、失礼だよ」

 

「構いませんよ。さて荷物を置かれたみたいですし早速行きましょうか」

 

 施設案内といっても本当に作りはほぼ一緒だったため案内は10分もかからなかった。その後ここで働いている憲兵や整備士・調理師の紹介を済ませ、一同は執務室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――執務室

 

 案内が終わったため執務室に集まった一同。全員が席に座ったのを確認すると京は方針について話し始める。

 

「まず今後の日程なのですが、みなさんご存知の通りここはまだできたばかりで着任しているのはあなたたち5人だけです。さすがに5人だけでは艦隊を運用できないためしばらくは訓練のみという形となります。近々軽巡の方が2人、重巡の方が3人、空母の方が2人転属する予定です。しばらくは暇な日が続くことになりますがご了承ください」

 

「なんだよ、出撃はなしかぁ。暴れてやりたかったのに」

 

「ははは、白露だったよな?ずいぶん元気がいいなぁ!俺と勝負するか?」

 

「あんた弱そうだからパス」

 

「おいおい、これでも格闘戦は自信あるんだぜ…」

 

 出撃がないことに愚痴る白露、そんな白露に仁は勝負を申し込むがあっさり断られてしまった。時雨はそんな様子を見かねて、仁に話しかける。

 

「ごめんよ副提督、白露も悪気があって言ってるわけじゃ…」

 

「いいっていいって、こういうやつは嫌いじゃない」

 

 時雨が白露に代わって謝罪するが仁はこういった対応になれているのか気にしていない様子だった。時雨は、その様子を見て少し安心した様子だった。白露のことを煙たがられるのではないかと心配だったが杞憂に終わりそうだ。

 

「出撃の件はこの辺にして、次の話は秘書艦を誰にしようかなのですが…」

 

「あ…じゃあ私!私がやりたいです!ぜひお願いします!」

 

 緊張した面持ちで、手を上げる村雨。京は周りを見てみるが、村雨以外手を上げる様子が無かったためそのまま村雨に決定した。

 

「では村雨さん、明日の07:00にここに来てもらえますか?」

 

「は…はい!よろしくお願いします!」

 

「では本日の話はここまでです。各自自由に過ごしてください。」

 

その言葉に夕立は早く寝ると言いながら執務室を出ていき、春雨と時雨は部屋にいるのは退屈だからと散歩に向かい、白露は適当にぶらつくといい執務室を出た。ただ村雨だけは出ていこうとせず京をじっと見つめていた。京も村雨の意図に気づいた様子で執務机に戻ろうとしなかった。

 

「…仁、すみませんが少しの間席を外してくれませんか?」

 

「あいよ、話が終わったら教えてくれや。俺は、食堂の方にでも行って何か手伝ってくるからよ!」

 

 仁は、そのまま執務室を後にする。そして、執務室には村雨と京だけが残る。しばらく沈黙が続くと、京がおもむろに口を開いた。京も少し緊張しているのか、しきりに手を動かしていた。

 

「…3年ぶりですか…とても立派になられましたね」

 

「私のこと覚えていてくれたんだ。お久しぶりです、京さん」

 

「えぇ、本当に久しぶりです。あの時の出来事がまるで昨日のようです。確かあの時はあなたが不良に絡まれていまして…」

 

「そうそう……ちょうど外出していた時だったんですけど、その時に京さんに助けられて…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――3年前 とある町

 

「なぁ彼女、俺たちといいことしないか」

 

「やめてください、私もう寮に帰らないといけないので…」

 

「悪いようにはしないって、ほら一緒に行こうぜ」

 

「やめてくださいって言ってるじゃないですか」

 

 この時、街に出かけていた村雨だったが、帰り道に不良二人に絡まれていた。どうにかして、やり過ごそうとしたのだが、向こうもかなりしつこく絡んできた。しかも、手を引っ張り強引に連れて行こうとしたほどだ。

 

「放してください!あなた達とはいっしょに行きませんよ!」

 

「全く騒がしい女だな、ちと痛い目にあわすか」

 

 そう言って不良が村雨に殴ろうとしたとき、不良の手が何者かに摑まれる。相当強い力で摑まれているのか全く動かない。その時に不良の手を握っていたのが京だった。京もこの時、外出していたのか私服だったらしい。

 

「お二方、彼女困ってるじゃないですか。」

 

「なんだよお前放せよこの!」

 

 そう言って京は手を放すが勢い余って不良は転んでしまった。京の行動にイラついたのか、転んだ不良は京に怒鳴りつける。

 

「何しやがる!」

 

「あなたが勝手に転んだんでしょう?」

 

「この野郎調子に乗りやがって!」

 

 近くにいたもう一人の不良が京に殴りかかった。しかし、殴ろうとした勢いを逆に利用され投げ飛ばされてしまう。投げ飛ばされて先に転んでいた不良がいたため衝突してしまった。京は呆れながら、手を振っており不良達に目もくれず村雨に近づく。しかし、後ろから不良達が殴りかかろうとしていた。直後、京が地面を踏んだとたん、轟音とともに地面がえぐれる。一瞬何が起こったのかわからなかったのか不良たちはその場で固まってしまう。

 

「私は争いごとは基本好みません。しかし、これ以上やるのであれば手加減はしませんよ…」

 

 鋭い眼光で不良たちを睨む京。京に恐れをなしたのか不良達はかなり震えていた。しばらく震えていたが、悲鳴を上げながら逃げていった。京は深呼吸をした後に、改めて村雨に向きなおる。

 

「…ふぅ、お怪我はありませんか?」

 

「は…はい…おかげさまで…」

 

「立てますか?」

 

「えっと…その…腰を抜かしちゃって…」

 

「では、私に掴まってください。送りますよ」

 

「え⁉ちょ⁉」

 

 そう言って、京は村雨をおんぶする。急なことに驚いてしまったが、足をうまく動かすことができないため、そのままお言葉に甘えることにした。少し恥ずかしかったが、足が動くようになればまた自分で歩けばいい。

 

「そういえば、あなたの家は?」

 

「え…ええっと…その…私、一応海軍の者でして…そこの寮に…」

 

「もしかして、艦娘の方ですか?私も海軍を志していまして。何事もなければ、私は3年後に軍に就くことになるんです」

 

「そうなんですか。私も3年後に、どこかの鎮守府に着任することになるんです」

 

「ふ~む…そういえば、3年後に新しい鎮守府が作られているはずです。首席で卒業できれば、そこの提督になるかもしれませんね。あくまで可能性ですが」

 

「じゃあ、あなたがそこの提督になったら、私が真っ先に鎮守府に着任しますね!」

 

「楽しみにしています。さて、艦娘の寮ということはここから歩いても30~40分くらいですか。少し雑談でもしながら行きますか」

 

 そして、寮に着くまで色々な話をした。お互いの訓練での出来事や座学、友人や姉妹艦の話など。夢中で話をしていたら、あっという間に寮まで着いてしまった。その時には、村雨も立てるようになっていた。

 

「あの、今日はありがとうございました!」

 

「いえいえ、当然のことをしたまでですよ。それでは」

 

「あ、待ってください!名前を聞いてもいいですか?」

 

「おっとこれは失礼。私は鳴海京。同期からは鳴狐と呼ばれています」

 

「私は村雨です。白露型駆逐艦3番艦です」

 

 そして、そのまま分かれることになった。村雨は、しばらくその場に立ち尽くした。京の姿が見えなくなった後に寮の方に戻ったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「懐かしいですね。あの頃、京さんが私を助けてくれて」

 

「そのあとしばらく村雨さんは立てませんでしたよね。寮に着くまで、私がおんぶしていましたっけ?」

 

「むぅ、その話はしないでください。恥ずかしいです///」

 

「ふふふ、これは失礼」

 

 その後、しばらく昔話をして盛り上がっていた。しかし、執務室の外から二人の会話を聞いているものがいた。適当にぶらつくといっていた白露だ。残っていた村雨が少し気になり、執務室の前まで来ていたのだ。

 

「…まさか村雨がここを選んだのにそういう理由があったとはね…たく…夕立の言おうとすることを阻止していると思ったら…どうなっても知らねえぞ…」

 

 そう言って、また執務室から離れていく。しかし、どこに行っても暇なため、結局部屋の方に行って少しだけ横になることにした。

 

 




お休みはさむので、書き溜めてたもの修正して何話か一気に投降するかもです!


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6話 一日の終わり

鳴海「はい。というわけで私の元ネタは刀〇乱舞です!喋り方云々に関しては、作者は全く知りません!」
白露「知らないのに何で出した…」
鳴海「単純に見た目だそうです。設定上ちゃんと名前があります。キャラ崩壊もあるのでご注意を…」

ということで6話です!


 夕食時になり白露型一同と京・仁たちは食堂に来ていた。食堂には憲兵たちや整備員などもおりにぎわっていた。食事を受け取り適当に席に着いた一同は食事を始めた。

 

「ふぁ~~よく寝たっぽい。寝てたらお腹すいたっぽい!」

 

「5時間くらい寝てましたね…夜寝れますか夕立姉さん」

 

「それは大丈夫春雨!寝れなかったら体うごかすっぽい!」

 

「体動かしたら余計に寝れなくなりそうですけど…」

 

「Σ(゚□゚;)…ならどうすればいいっぽい」

 

「あとでホットミルクでも入れるよ。そしたら寝れるかも」

 

「お~さすが時雨おねえちゃんっぽい!」

 

 夕食時だからか夕立はいつも以上にはしゃいでいた。その光景を見て時雨や春雨が楽しそうに相槌をしている。

 

「にぎやかなのはいいこった。飯がいつも以上にうまく感じる。これに酒もありゃもっと楽しいんだがな」

 

「飲みすぎはよくないですよ、仁…」

 

「わってる、執務もあるからな」

 

 酒を飲みたそうにしている仁に京がくぎを刺す。各々が談笑しつつご飯を食べている中、村雨が京にこんな質問をした。

 

「そういえば提督ってどうして鳴狐って言われてるんですか?」

 

「実は私にもよくわからなくて」

 

「え…わからない(;・∀・)」

 

「おそらく、顔立ちと目の下の入れ墨のせいでしょうか?だから鳴狐と言われてるんじゃないかと思います」

 

 実をいうと京もなぜ鳴狐と言われているのか把握していないのだ。士官学校時代にいつの間にかそういわれていたらしく、なぜそのようなあだ名になったのかさっぱりらしい。ただ顔立ちがとても狐に似ておりさらに目の下に入れ墨があった。その見た目から鳴狐と言われていたのではないかと解釈しているらしい。

 

「でも、それだけの理由なら鳴狐って言われないと思うんですけど…」

 

「あぁおそらく…」

 

 春雨の言ったことに対して、京はこう説明した。なんでも勝負ごとになった際に叫んだりするらしい。見た目によらずかなり熱血な一面もあるらしく、その光景を見た誰かが勝利の雄たけびを上げる鳴く狐=鳴狐と言われたのではないかと考えてるらしい。噂なので信憑性に欠けるが。

 

「提督さん、意外と勝負ごとにこだわるっぽい?」

 

「まぁこう見えて負けず嫌いな面もありまして」

 

「あぁ、確かに対人練習で誰かに負けたりしたらめちゃくちゃ悔しがってたよなお前」

 

「負けたらすぐ自主練をして負けないように努力していましたね。そのおかげで首席で卒業できましたし。こうして鎮守府の提督として着任できたわけですからね!」

 

「おぉ!すごい!」

 

「そんで、俺が次席で卒業したから、ここで副官として着任することになったんだ。他にも提督になろうとしている奴らはいたが、大本営やら警備府の方についているかだな。まぁ、警備府に行った奴らは、実質深海棲艦が出ないかの見張りをするだけだから、いろんな意味で大変だろうよ」

 

 現状艦娘の数が少ないのもあり、艦娘が所属している場所は鎮守府に限られてしまっている。警備府は日本各地の島や町にあるが、ドローンなどを使った見張りしかできないのが現状だ。幸い、各鎮守府にはジェット機などがあるためすぐに駆け付けることは出来るが。

 

「…あんたら、かなり優秀なんだな…」

 

『いやいや、それほどでも…』

 

「…お二方、十分すごいと思いますけど(;・∀・)」

 

 白露が言ったことに対して、二人は手を振りながら否定する。しかし、村雨はそんな二人に静かに突っ込みを入れるのだった。その後食事を終え、しばらく談笑をした後に白露達は入浴の準備をするため、一度寝室の方に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてもあの二人とんでもない奴らだったんだな。見かけで判断するなっていう言葉が身にしみてわかったわ…」

 

「もう、白露姉さん提督たちをどういう目で見てたの?」

 

「あぁ?まぁ、軟弱提督…」

 

「今なんて言った…」

 

 風呂場に向かう途中で提督達の話題になる一同。提督の悪口を言った途端、村雨の雰囲気が変わる。思わず寒気を覚えたが気にしないようにした。そして村雨の前では提督の悪口を言うのはよそうと思うのだった。

 

(あぁ、これはもう確定だな…)

 

(これは提督に好意持ってるな…)

 

(うぅ、村雨お姉ちゃん怖かった…)

 

((・・?))

 

 各々が心の中でそんなことを考えていると風呂場についた。脱衣所に入ると服を脱ぎ、タオルを持って浴室に入る。浴室は中央に広い浴槽があり、右隣りに洗い場、左には人ひとり入れるほどの浴槽4つほど並んでいた。

 

「ふ~ん、中は結構広いんだな」

 

「訓練校のお風呂は温泉みたいに広かったよね」

 

「そういうのは気にしないっぽい。早く入るっぽい!!」

 

 そういって夕立は中央の浴槽に飛び込んだ。そんな夕立に対して村雨はすぐに注意する。

 

「こら夕立、お風呂の中は走っちゃダメだっていつも言ってるでしょう!」

 

「でも…」

 

「でもじゃない。怪我したらどうするの?」

 

「ごめんなさい…(´・ω・`)」

 

「もう、次はこんなことしたら駄目よ」

 

「はぁ~い…」

 

 村雨に注意され、少しへこんでしまう夕立。姉妹であるが、その様子はまるで親子のようだった。その様子を見ながら、時雨は白露に話しかける。

 

「ねぇ白露、僕達も昔あんな風に親に注意とかされてたのかな?」

 

「知るかそんなの。てか、もう昔の話はしないって約束しただろ…」

 

「そうだったね、ごめん…」

 

「姉さん達、早くお風呂に入りましょう。今日は疲れました」

 

「そうだね、お風呂に入って疲れをとって寝よう」

 

 そう言って三人も遅れて風呂に入るのだった。そのあと、みんなで背中を洗ったり雑談をした。風呂場から出たころには夜の9時半を回っていた。消灯時間までにはまだ時間があるが早急に着替え髪を乾かし、部屋へ戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

ーーー寝室

 

「う~ん、はぁ今日は疲れたわ~、ぐっすり眠れそう」

 

 村雨は伸びをしながらそう言った。一番緊張していたこともあるのか、疲れてしまうのは無理もないだろう。京と再会できたことに心から喜んでいたのだから。

 

「確かに今日はよく眠れそうです。何か緊急事態でも起こらない限り爆睡できそうですね」

 

「私的には暴れられなかったから何か起きたほうがありがたいけどな…」

 

「もう、白露姉さんはすぐそうやって愚痴るんだからぁ…」

 

「大丈夫だよ村雨、白露がどこにも行かないようしっかり僕が抱き着いてるから」

 

「おい…なんで一緒に寝る前提なんだ…」

 

「冗談だよ白露、さすがに毎日はベッドに潜りこまないから」

 

「それでも潜り込みそうで怖いわ…」

 

「みんなうるさいっぽい…早く寝るっぽい…」

 

「そうですね、明日に備えて寝ましょうか」

 

 そう言って春雨が電気を消した。それぞれがベッドに行き就寝する。みんなよほど疲れていたのかすぐに眠ってしまった。しかし、白露だけは寝ようとせずみんなが寝静まった後、そっと部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 白露が向かったのは執務室。まだ誰かいるのか明かりがついていた。中に入ると、そこにはまだ京がおり書類の確認を行っていた。

 

「仕事中邪魔するぞ」

 

「おや白露さん。どうしたのですかこんな時間に」

 

「あんたに言っておきたいことがあってね」

 

 それを聞いた京は神妙な面持ちになる。確認していた書類を置き白露をまっすぐ見つめる。

 

「聞きましょう」

 

「まず一つ目、私が出撃するとき艦隊の命令には従わない。私個人で深海棲艦を殲滅させてもらうから」

 

「それはなぜです?」

 

「私一人でやったほうが効率がいいの。他の連中がいても邪魔なだけ…」

 

 白露の言ったことに京は何となく察していたのか無言でうなずく。しかし、京はこう切り出した。

 

「あなたの言ったことはなるべく尊重しましょう。しかし、時と場合によってはそれができないかもしれません。いくらあなたがS級でもね」

 

「そう。そういうことなら我慢してあげる。それじゃ」

 

 そう言って白露は執務室を出ていこうとする。しかし、ドアの前に立つと京のほうに向きなおった。

 

「最後にもう一つ。みんなあんたのこと好印象みたいだけど私はまだあんたを認めたわけじゃないから。何かしでかしたら、あんたを痛めつけて二度と提督業できなるしてやるからな」

 

「肝に銘じておきます。それと私からも一ついいでしょうか」

 

「なに…」

 

「そう警戒しなくてもいいですよ。私が聞きたいのはあなたが戦いにこだわることです」

 

 白露の殺気に動じず、逆に京が質問をする。そして、一つの書類を白露に見せた。遠めだったので何が書いてあるのかわからなかったが、おそらく白露が訓練校にいたときの書類か何かだろう。

 

「あなたは演習や出撃時に、確かに一人で先行し敵を壊滅させたことが多かった。しかし、そのほとんどの出撃であなたの姉妹達は一緒に出撃しています。逆に、姉妹達が出撃していなかったときは先行はほとんどしていませんでした。まぁ、勝手に砲撃などを打つことはあったみたいですが。つまり、あなたが一人で先行していたのは、姉妹達を守るため。姉妹達に怪我を負わせたくないから先陣を切るのではありませんか…。あなたは姉妹達のことをどう思っているのかは存じ上げませんが、皆さんあなたのことを慕っているみたいですし。昔何かあったんですか?」

 

 白露はその質問にただ黙っていた。ただ、じっと京のほうを見つめている。答える気がないと思ったのか、京は静かに話し出した。

 

「まぁ、これはあくまで私の仮説です。あなたの事情を詮索するつもりはありません。もう消灯時間です、部屋に戻られてはいかがですか」

 

「いわれなくても…そうするよ」

 

 白露はそういって執務室を出ていった。白露が出て行った後、深く深呼吸をする京。さすがS級とだけあって、威圧感はかなりのものだった。ある程度ここに来ることは予想していたし、準備もしていたが、それでもかなり緊張した。椅子にもたれかかりながら、京は静かにつぶやいた。

 

「白露さん、あなたは確かに強い。S級ランクになるのもうなずける。しかし、もし姉妹達に何かあった時のあなたが心配です…」

 

 

 

 

 

 

 

 白露は部屋に戻るとベッドに入り目をつむる。しかし、隣のベッドに眠る時雨がうなされていたため寝ようにも眠れなかった。

 

「…さん。置いていかないで。一緒にいてよ…お母さん」

 

 寝言なのか、泣きながら時雨は訴えていた。昔の夢を見ているのだろうか…白露は時雨のベッドに近づき時雨に声をかける。

 

「時雨……おい時雨」

 

 そう言って時雨の肩を触る。時雨はゆっくりと目を開ける。白露の姿を見て安心したようだが、表情は少し暗い。

 

「白露…あの時の夢を見たんだ。お母さんが僕達を置いていっちゃったあの夢」

 

「……忘れろ。そんなこと」

 

「けど…やっぱりお母さんに会いたいよ…」

 

 そう言って時雨は寂しそうな顔をした。見ていられなかったのか白露は時雨のベッドの中に入る。

 

「…白露?」

 

「別にいいだろ…さっさと寝るよ」

 

 白露は時雨に背中を向け寝てしまう。時雨は白露の背中にくっつくと安心したのかすぐに眠った。白露は寝ながら京に言われていたことを考えていた。姉妹を守るために戦いにこだわるのではないか。この言葉が頭から離れなかった。鹿島や香取、教官を務めた艦娘に言われなかったことを言ったのだから。

 

「…守るとか、そんなん知るかよ。私は私のやり方でやるだけだ」

 

 




書いていた物語を直すのも大変ですね…。
ゲームとかいろいろしてたら、投降遅くなりました(;・∀・)
次回明日投稿します!


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7話 呉との演習

7話です!ここからどんどんキャラが増えていきます。
楽しんでいただければ幸いです。


「う、う~ん…」

 

 目覚まし時計の音とともに白露は目を覚める。いつもなら村雨が止めてくれるのだが、秘書艦として先に執務室に行っているため止める者がいない。時雨が背中に引っ付いて動けないため白露は時雨を起こそうとする。

 

「時雨~、起きろ。背中に引っ付かれたら動けないっての…」

 

「……う~ん…」

 

「おい、起きろって!」

 

「うん……う~ん……体起こしてくれる…」

 

「仕方ないなぁ…」

 

 しぶしぶ言いながら、白露は時雨を起こす。まだ眠いのか時雨は目をこすっている。少しすると、春雨もゆっくりと体を起こしていた。春雨も朝が弱く休みの日は10時間以上寝てしまうほどだ。朝が一番強いのは村雨だけである。白露も弱いほうではないが目覚まし時計が鳴らなかったら何時間寝れるかわからないらしい。

 

「ふぁ~、おはようございます。お二人とも…」

 

「あぁおはよう。悪いんだけど夕立起こしてくれ。私はちょっと顔洗って歯磨いてくるから…」

 

「わかりました白露姉さん」

 

 そう言って、白露は洗面所へと向かい春雨は夕立を起こすため夕立のいるベッドへと向かう。そして、肩をゆすって声をかける。

 

「夕立姉さん。起きてください」

 

「むにゃ~……まだまだやるっぽい~…」

 

「一体どんな夢を見ているんですか……いいから起きてください夕立姉さん!」

 

「う~ん……あと少し…」

 

「……あ!白露姉さんが戦いに行こうとしてる!」

 

「え⁉本当に!夕立も行くっぽい!」

 

「…起きましたね、夕立姉さん…では、準備しましょうか」

 

「……春雨…嘘ついたっぽい…」

 

「はい。夕立姉さんを起こすために嘘つきました。行きましょう」

 

「…ぽ~い…」

 

 夕立は不貞腐れながらベッドから出る。時雨もそれに続きベッドから出て洗面所に向かう。そして、準備を終えた後に執務室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 執務室の前に来た白露達。ノックをした後に、中に入る。中に入ると、京と仁、村雨がおり書類の整理やスケジュールの確認を行っているようだった。

 

「おはようございます皆さん。昨日はよく眠れましたか?」

 

「うん、よく寝れたっぽい!ただまだ眠いっぽい…」

 

「まだ寝足りないんですか?夕立姉さん」

 

「いつも眠そうにしてるんだから放っておけ…」

 

 夕立の様子に白露は呆れ半分に言う。全員がきたのを確認すると、京はスケジュールを確認しながら話した。

 

「あ、そうだ皆さん。本日急ですが、呉鎮守府の艦隊と演習を行うことになりまして」

 

「演習!何時に!何時にやるっぽい!!!」

 

「うぉ、いきなり元気になった!」

 

 眠そうだった夕立はいきなり顔を輝かせ元気になる。その様子を見て仁は驚いてしまう。京は続きを話すべく軽く咳ばらいをした。

 

「本日の13:00に行う予定です。相手は戦艦2、駆逐2、軽巡2ですね…」

 

「こっちにとってずいぶんと不利なんだな…」

 

「あぁそのことでしたらご安心を。呉鎮守府から何人かこちらに助っ人してくれるみたいです」

 

 現状こちらは駆逐艦五人しかいないため呉から数人を助っ人として来てくれるらしい。数は軽空母二人、戦艦一人だそうだ。

 

「えぇ、戦艦1人っていうのはダメっぽい…」

 

「あのね夕立、こっちには白露姉さんがいるのよ。戦艦が何人いても変わらないと思うわよ…」

 

 確かにこっちにはS級の白露がいるため助っ人がいても何ら変わらないかもしれない。ただ向こう側はまだ戦力が整っていないのでフェアにやりたいとのことらしい。

 

「というわけで、本日の演習の割りふりですが村雨さん、時雨さん、夕立さんと助っ人の三人になりますね」

 

「ちょっと、私はいないの?」

 

「白露さんは6対1でやることになりますね…旗艦の方がどうしてもとおっしゃってまして」

 

「へぇ、その旗艦って?」

 

「金剛ってやつだ」

 

「はぁ!金剛!」

 

「おや、知り合いでしたか?」

 

「知ってるも何も…前に援軍として来たやつだよ…英語をちょくちょく話してたな…」

 

「ほう…なるほど…」

 

 なぜ金剛が白露と1対6でやりたいのか理由はわからない。いったい何を考えているのか。会って聞いてみなければ何もわからないが。午後まで時間があるため、全員が適当に時間を潰して過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後になり呉鎮守府の面々が埠頭に集まった。メンバーは金剛型4姉妹、軽空母の祥鳳、瑞鳳、軽巡の球磨と多摩、駆逐艦の睦月に如月といった面々だ。そして呉鎮守府の提督は一歩前に出て敬礼をする。整った顔立ちに黒髪のショートヘア、身長が高いのが特徴的だ。

 

「初めまして。急なことに対応してもらって申し訳ない。呉鎮守府提督の須藤伊織だ。よろしくな。今日はお互い楽に行こう」

 

 須藤と名乗った提督は急な演習を申し込んだことを謝罪する。堅苦しいことが苦手なのか、ラフな対応で挨拶をする。須藤が挨拶を終えた後、京達も敬礼をし挨拶をする。

 

「ご苦労様です。私は柱島の提督をさせていただいております鳴海京といいます」

 

「副提督をやらせてもらっている桐生仁。よろしく」

 

 挨拶を済ませ、さっそく演習の準備に取り掛かる一同。そんな中金剛は白露に話しかけてきた。

 

「ヘーイ、白露~、お久しぶりネ~!!」

 

「あぁ、どうもしばらく」

 

 白露はそっけない態度をとる。そんな時、銀髪で腰まで届く髪をした女性がこちらに近づいてきた。服装からして同じ金剛型だろうか。少し違うところがあるとしたら、サングラスをかけて杖を突いているところか。

 

「お姉さま、この方があの白露さんですか?」

 

「YES。白露はとても強いんだよ~榛名」

 

 榛名と呼ばれた女性は、白露がいる方向を見るが、どこにいるのかわかっていないのか手を伸ばし探しているような様子だった。

 

「あんた、もしかして目が…」

 

「えぇ、3年前に。でも榛名は大丈夫です」

 

「あんたも演習に出るの?」

 

「いいえ、私は伝令係なので戦闘員ではありません」

 

「そう、んでこっちに助っ人してくれるのは?」

 

「向こうにいる比叡と祥鳳と瑞鳳ネ~」

 

 そう言ってすでに海に出ている比叡と祥鳳と瑞鳳に指をさす。比叡は元気そうな様子で話しているが、瑞鳳と祥鳳は少し暗い感じだ。さらに、どういうわけか瑞鳳は左の顔と左手を包帯で巻いていた。

 

「瑞鳳は3年前の事件で左半身に火傷を負ってね。それで包帯を巻いてるネ」

 

「…。確か、ドックに入ればある程度の傷は治るんじゃ?」

 

「あの傷は、出撃の時にできた傷じゃ無いネ~…。それと、ドックの効果は、傷を治すんじゃなくて、疲労の回復と、傷の治りを早くすることデ~ス…。仮に出撃中にできた傷だとしても、損傷が激しすぎたら、さすがに治らないヨ…手足が切断されたり、神経が切れたりしてしまったら、もうアウトね…」

 

 確かに、ドックに入ればある程度の傷は治るが、金剛の話では効果は二つ。疲労の回復と、傷の治りを早くすることらしい。艤装による加護のおかげで砲弾を食らっても耐えられる。しかし、大破になればなるほど加護は消えていってしまう。そうなったら、ドックに入るだけでは傷は治らない。そうなったら手術などが必要になってしまうほどだ。

 

「んで、あんたは海に出ないのか?」

 

「Oh、すっかり話し込んじゃったネ~、それでは白露~、またあとでね~」

 

 そう言って金剛は勢いよく海にでた。助走をつけて行ってせいか水柱が立つ。そんな様子を白露は呆れながら見ていた。

 

「本当騒がしいやつ…」

 

「あれがお姉さまのキャラなので許してあげてください」

 

「はいはい……んで、あんた提督達がいる場所まで行けるのか?」

 

「はい。目がこうなってから、音にはかなり敏感になったので、提督達がいる場所はわかりますよ。だから、大丈夫です」

 

 適当に返事をしながら待機場所に向かう白露。榛名の様子が少し気になったため、少しだけ振り返ってみるが、躓いたりすることもなく提督達のもとへと向かっていた。それを見届けた後に、ため息を吐きながら待機場所に座り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――沖合

 

「僕の名前は時雨、よろしく。それでこっちの二人が村雨と夕立」

 

「旗艦を務める村雨です。よろしくお願いしますね」

 

「夕立っぽい!よろしくっぽい!!」

 

「金剛型2番艦の比叡です。気合、入れて、行きます!」

 

「軽空母祥鳳です…その…よろしくお願いします…」

 

「瑞鳳だよ…よろしく…」

 

 沖合で時雨達は比叡達と挨拶をしていた。比叡は元気よく挨拶をしたが祥鳳と瑞鳳は人見知りなのか少し暗い感じで挨拶をした。時雨達も反応に困っていると、比叡がすぐにフォローを入れる。

 

「あぁ、この二人ちょっと人見知り激しくて…あんまり気にしないでください。あ、そうだ。私戦艦なんですけどどちらかというとサポートが得意でして。なので私は敵の錯乱に徹しますね!!」

 

「サポートに回る戦艦さんって珍しいっぽい」

 

「察してください…命中率にばらつきがありまして…」

 

 そう言って比叡は落ち込んでしまう。比叡は、呉の中では命中率がかなり低いらしく、確率は2割ほどらしい。比叡の様子を見て、夕立は慌てて謝罪をする。

 

「あわわ、ごめんなさい(;’∀’)だから落ち込まないでぇ(^-^;)」

 

「まぁまぁ。あ、作戦はどうします?」

 

「とりあえず、相手の出方を見てからでもいいと思うけど…状況に合わせて、やっていこうか。旗艦は村雨なんだし!」

 

「了解!適宜私が指示を出すので、よろしくお願いしますね!」

 

『了解!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、私達はいつも通りやるよ~。こっちは空母がいないから制空権は取れないけど砲雷撃戦でうまく乗り切るよ~!!」

 

「ふふふ、腕が鳴りますね!」

 

「さてと、久しぶりに暴れるクマ~、多摩、いつものやるクマ」

 

「了解にゃ!」

 

「私達は隙があったら魚雷を打ちますね!」

 

「睦月達にサポートは任せて!」

 

 呉鎮守府のメンバー、金剛、霧島、球磨、多摩、睦月、如月の六名だ。こちらもこちらで話し合いをしているところだ。

 

「さてと…向こうの注目するべき子は、時雨と夕立って子ですネ!」

 

「確かに、訓練生時代のデータを見ましたけど、今期の中でも屈指の実力を持ってます。それに、接近戦を持ちかけることが多かったみたいですから、今回の演習でも仕掛けてきそうですね…」

 

「それにそれに~!向こうには、祥鳳と瑞鳳がいま~ス!制空権は間違いなくとられるから、そこのところ注意で~ス!」

 

「うわ~……それ最悪クマ…」

 

「もうなるようになるしかないにゃ…気引き締めるにゃ」

 

 話し合いを終え、いつでも演習が可能なことを合図する金剛。そして、それを見た須藤が、演習の開始を告げた。

 

『両者、準備はいいな。では、演習開始!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし!それじゃあ、祥鳳さん、瑞鳳さん。索敵機の発艦をお願いします」

 

「…了解…索敵機、発艦します」

 

「同じく…発艦する」

 

 村雨の指示で、索敵機を発艦する二人。数分が経った頃に祥鳳に打電が入る。どうやら、金剛達の艦隊を見つけたらしい。

 

「敵艦隊発見しました。…どうします?様子を見ますか?」

 

「いえ、向こうには空母がいませんし、こちらからガンガン仕掛けちゃいましょう!最初は、お二人で先制攻撃をして、そのあとに、時雨姉さんと夕立で突撃しちゃいましょ!」

 

 村雨の指示を黙って聞いていた瑞鳳は村雨をじっと見つめる。その視線に気づくが、それでもじっと見つめていた。さすがに気まずくなったため村雨は声をかける。

 

「あ…あの、何か(;・∀・)?」

 

「……いや、随分と思い切った作戦をするんだなって……格上相手に、普通そんなことする…?駆逐艦の二人が突撃とか、私達はやらないし…」

 

「……なるほど、そう思っても仕方ないかもですね。でも、この二人近接戦闘はかなり優秀なんですよ!砲雷撃の腕もピカ一ですし!」

 

「そうっぽい!夕立と時雨お姉ちゃんがいれば、あっという間にやっつけてあげる!」

 

「機動力には自信があるし、心配しなくても大丈夫!」

 

「……なら、いい」

 

 瑞鳳はそう言い、弓を構え艦載機を発艦している。祥鳳もそれに続いている。二人が艦載機を発艦したのを確認した時雨と夕立は、それぞれ船速を早め金剛達のもとへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Oh……さっそく見つけられましたネ~…さすがあの二人…仕事が早いネ~」

 

 索敵機を見つけた金剛は、腕を組み楽観的な様子でいる。深呼吸をした後に、真剣な表情になり艦隊に指示を出した。

 

「皆さん!注意してくださいネ~!おそらく、祥鳳と瑞鳳が艦載機で仕掛けてくるはずです!霧島の読みが正しければ、そのあとに時雨と夕立がこちらに来る。さらには、比叡が私達を撹乱するために砲撃を行ってくるはずデ~ス!」

 

「っ⁉金剛お姉さま!艦爆・艦攻来ます!」

 

「早速ですか~!全艦、対空射撃用意!」

 

 金剛達は、敵機を撃破するために対空射撃を行う。しかし、全部は防ぎきれず艦攻・艦爆が降り注ぐが、かろうじてそれを避ける。しかし、それもつかの間、今度は砲撃がこちらに襲ってきた。

 

「う~ん、さすが比叡!タイミングバッチリデ~ス!」

 

「呑気にそんなことを言っている場合じゃないにゃしぃ!こっちも早く反撃しないと!」

 

「慌てないでください睦月さん!私が合図したら、如月さんと一緒に魚雷を撃ってください!おそらくですが、そろそろあの二人が来ますよ!」

 

 霧島の読み通り、金剛達の近くまで接近してきていた二人。それぞれ砲撃を構え、攻撃準備を行っているところだった。攻撃の準備をしているところを確認した霧島は攻撃の合図を行う。

 

「今です!魚雷発射!」

 

 魚雷を発射する睦月と如月。その魚雷を回避するために、夕立は金剛達から見て左。時雨は右側に避けた。その一瞬の隙を霧島は見逃さなかった。

 

「よし、読み通り!金剛お姉さま!」

 

「OK!バーニングラアアアアアアブ‼‼」

 

 霧島と金剛は時雨に向け砲撃を集中させる。まずは一人ずつ、確実に倒していくつもりだ。時雨は攻撃を仕掛けることができずに防戦一方になっている。それと同時に、霧島、睦月、如月は対空射撃もきっちりしている。

 

「時雨お姉ちゃん!」

 

「よそ見している場合にゃ…」

 

「お前の相手はこっちクマ!」

 

 夕立には球磨と多摩が接近する。二人は呉鎮守府の中でも接近戦にかなり長けているのだ。それぞれ、拳法を会得しているのもあり軽巡の中でも実力はかなり高い。それを知っているためか、艦載機を通じて様子を見ていた瑞鳳がため息交じりに話した。

 

「はぁ…さすがに球磨と多摩じゃ分が悪いか……比叡、頼める?」

 

「いつでもどうぞ!」

 

 そう言って比叡の右腕に乗る瑞鳳。何をしているのか疑問に思った村雨が話しかけようとしたその時、瑞鳳を思いきり投げ飛ばしたのだ。その様子を見て、村雨は目を見開き驚いた。

 

「何をしているんですか一体⁉」

 

「実は瑞鳳近距離戦のほうが得意で…」

 

「本当に空母なんですかあの人はΣ(゚Д゚)」

 

 しかし、状況を理解して頭を切り替える村雨。夕立の方は瑞鳳が行ってくれたからいいとして、問題は時雨の方だった。

 

「どうしよう…時雨姉さんの援護をしたいけど…」

 

「あ!では、祥鳳。ちょっと賭けになりますけど、なんでもいいから艦載機飛ばしてくれませんか?」

 

「え…艦載機…ですか…」

 

「はい!時雨さんの能力が高ければ、きっとできますよ!」

 

「…作戦は?」

 

「いいですか…作戦は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むう、ちょこまかと鬱陶しいっぽい!」

 

「それが球磨達のやり方クマ~」

 

「もらったにゃ!」

 

多摩の砲弾が夕立に直撃する。大破に近い中破判定だ。夕立は数m吹っ飛んでしまう。その隙を見逃さず、球磨は夕立に突撃していく。

 

「うぐ、やっちゃったっぽい…」

 

「これでとどめクマ!」

 

 球磨が夕立に砲撃しようとしたその時、球磨に雷撃が直撃。さらに瑞鳳のとび蹴りが炸裂し球磨が吹っ飛んでいく。状況を飲み込めず呆然とする夕立。そんな夕立をよそに、瑞鳳は首を鳴らしながら話しかける。

 

「ほら、ぼさっとしてないでやるよ」

 

「ぽ、ぽい」

 

「球磨~、大丈夫にゃ?」

 

「残念ながら今ので大破判定クマ…離脱するクマ」

 

 先ほどの雷撃と飛び蹴りで大破になってしまったらしく埠頭のほうへと引き上げて行く球磨。球磨の様子を見ながらぽつりとつぶやいた。

 

「仕方ないにゃ、一人でやるにゃ……っ⁉」

 

 一瞬、目を離したすきに懐に瑞鳳がいる。体制を立て直すために、後ろに下がろうとするが、瑞鳳の膝蹴りが腹部に命中する。さらに、後ろから夕立が蹴りを入れると、直後に砲撃を数発入れる。それもあってか多摩も大破になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さすが白露の妹ネ~、そう簡単にやらせてくれないネ~。おまけに、球磨と多摩が離脱ですか…」

 

「瑞鳳がきたのもありますね…。こっちはこっちで、比叡達の援護射撃のせいで中々向こうに集中できませんね」

 

「ノープロブレム!問題ナッシング!このまま押し込むよ~」

 

 構わず時雨に砲撃する金剛と霧島。比叡達の援護射撃に構わず時雨に砲撃をする。一旦時雨を大破にさせ、そっから夕立と瑞鳳を順番にやる。まずは、戦力を削りたいからだ。

 

「何とか隙を見つけないと…いったんみんなと合流した方がいいかな…」

 

『時雨姉さん、今からそっちに向けて雷撃を放つから合図をしたら飛んで!』

 

 あれこれ考えていたら、村雨から通信が入る。何が起こるかわからなかったが、今は村雨を信じるしかなさそうだ。

 

「了解、信じるよ!」

 

 直後、艦載機が金剛達に向け突進してきた。雷撃を放つつもりなのだろう。霧島はすぐさま艦載機を打ち落とすべく砲撃をする。しかし、全部を落としきれず雷撃がそのまま突っ込んだ。しかし、それを睦月と如月が砲撃でそれを防ぐ。しかし、同時に睦月と如月に衝撃が走った。どうやら、二人にも雷撃が直撃し大破になってしまった。

 

「まさか祥鳳!やりますネ~!」

 

 直後、金剛達の周囲に砲撃が着弾し、水柱が舞う。水柱が無くなり、周囲を見渡すと時雨の姿が見えなかった。周囲を見渡してもどこにもいなかった。

 

「姿が見えない。いったいどこへ?」

 

「まぁまぁ…こういう時は~…」

 

 そして、自分の艤装を叩き静かに目を閉じた。周囲に集中していると、上の方から音が聞こえてきた。

 

(真上から艦載機の音…まさか!?)

 

「霧島!真上」

 

 瞬間、時雨が真上から魚雷と砲撃を放つ。祥鳳が発艦した艦載機に捕まり真上から金剛達に迫ったのだ。金剛達はすぐに砲撃をしようとするが間に合わない。そして、金剛に魚雷が直撃。大破判定となった。

 

 

 

 

 

 




はい、呉の人達はちょっとした事情を抱えています。
設定上ドックはありますが、傷を完全に治すことは出来ないことになってます。
時間ができたら、次話を投稿しますね!


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8話 1対6

時間あったので、続けて投稿します。
白露と金剛達との戦いです!


※2022年12月25日 内容を少し追加しました


「はぁ、負けたね~…やっぱり強いのネ~……ていうか、艦載機に乗って上から来るのって、よく多摩が使う戦法ネ…比叡、さては教えましたネ…?」

 

「え…えぇ、それは…やっぱり勝ちたかったわけですし!」

 

「……まぁ、いいです……本当に、あなた達は強いでス!」

 

「いや、祥鳳さんのおかげだよ。祥鳳さんのサポートがなかったら最後勝てなかったかもしれない」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

「それにしても、瑞鳳さんの近接格闘すごかったっぽい。今度教えてほしいっぽい!」

 

「は、はぁ…」

 

 演習が終わり、各々が感想を言い休憩していた。しかし、しばらくしたら金剛達主力と白露との演習がある。まだ次の演習まで時間はあるが白露は準備運動を行っていた。

 

「白露姉さん、まだ演習まで時間があるわよ?」

 

「いいじゃん別に。向こうも少し疲れてるんだから、同じ条件でやるさ!」

 

 そういって、白露は走り出す。全速力で走っているのか、すぐに見失ってしまった。

 

「あ、ちょっと白露姉さん!」

 

「構いませんよ!」

 

「だけど…」

 

「あの子はそれでいいの、自由にやらせてあげましょう」

 

 止めに入ろうとした村雨を今後は引き留める。なぜか紅茶を飲んでおりかなりリラックスしているような様子だった。

 

 数十分後、演習の時間になり金剛達は沖合に待機していた。メンバーは金剛、比叡、霧島、祥鳳、球磨、多摩の六人だ。しばらくすると白露は帰ってきた。かなり動いてきたのか肩で息をしていた。

 

「さてと…やるか!」

 

 海上に出ていた金剛達は白露の気配に一瞬寒気を覚えた。それは柱島の面々も同様だった。勝負を楽しみにしていたのか白露は笑っていた。艤装を展開させ、一気に沖合へと向かっていく。その様子を見て、須藤が話し出した。

 

「さすが、S級クラス。気配が全く違う」

 

「ええ。彼女の力は計り知れません…」

 

(なんでうちに来なかったんだ…白露)

 

 実をいうと、須藤は白露に呉鎮守府に来ないかと声をかけていたことがある。しかし、面倒くさいという理由で来なかったのだ。S級ほどになると、喉から手が出るほど欲しい逸材だ。さらに雷にも声をかけるが、舞鶴鎮守府へ行くことを決めていたため雷もスカウトできず今に至る。現在確認されているS級は白露達を含めて十二人。うち四人は鎮守府に所属しておらずフリーエージェントだそうだ。さらに言えば、それぞれ異名を持っているらしい。

 

(白露はS級十二位。異名は剛拳だったな。そんで、舞鶴へ行った雷が十一位。異名は雷神。S級で最下位とは言っても、一戸艦隊を相手にできるほどの奴だ。けど、金剛達の連携は大本営を除いて、他の鎮守府と比べてもトップクラス。伊達に地獄を見ちゃいないんだ。そう、俺達は…)

 

 無意識に力が入ったのか拳を握りしめる須藤。須藤の様子が気になり、京は須藤に話しかける。

 

「須藤提督。どうかしましたか?」

 

「っ!?何でもない。大丈夫だ」

 

「いよいよはじまるな。一体どっちが勝つか?」

 

「金剛達には悪いが…おそらく白露が勝つだろうよ…」

 

「なぜそう言い切れるんです。金剛さん達の強さはかなりのものだ。戦闘ではほとんど傷を負わないで勝利するほどだと聞いておりますが」

 

「金剛もおそらく気づいているよ。白露には勝てない。なんでもタ級を一撃で倒したんだとか。そう金剛に聞いてる」

 

「まじかよ!?あのタ級をか!そんなすげえ奴が、どうしてうちに来たんだよ…」

 

(多分、私のことが気になってついてきたって口が裂けても言えない…(;・∀・))

 

 須藤達の話していることに対して、村雨は心の中でつぶやく。白露は正直どこの鎮守府でもよかったらしいが、村雨が気がかりでついてきたのではないかと思っている。そんなことを言ってしまえば、おそらく白露から鉄槌をされそうなので村雨は黙っていることにした…。

 

「さてと、皆さん。作戦は先ほど話した通り。おそらく、この戦い10回やって10回負けてしまうでしょう。でも気楽にいつも通りいくヨ!」

 

「で…ですね金剛お姉さま…ひえ~…何分持ちこたえられるかな~…」

 

「わ……私の計算では…10分持ちこたえられるか持ちこたえられないかですね…」

 

 相手はまだ、着任してから間もないとは言え、S級の一人だ。正直、何分持ちこたえられるかしか考えれなかった。金剛も負けることはわかっている。それでも、演習を頼んだのは白露の実力を知りたかったからだろう。そして、白露の準備が終わり、演習の合図が響き渡った。それと同時に、お互いが動き出す。まず動き出したのは祥鳳で、艦載機を放ち雷撃・機銃で応戦する。白露は、それを難なく砲撃・機銃で撃ち落としていった。それをみて、金剛はすぐに指示を出した。

 

「球磨、多摩!白露が近づいてきたら魚雷。そして、突撃お願いしま~す!」

 

 金剛の指示で、白露が近づいてきたと同時に、魚雷を放ち突撃をする二人。その様子に白露は呆れた様子だ。

 

(あの二人が突撃?何考えてんだか…)

 

 さほど気にしていないのか金剛達を牽制する白露。先ほど放たれた魚雷が白露の目の前まで迫っているのを確認しそれを封殺する。直後、白露に接近していた多摩が白露に殴りかかった。

 

「食らえ虎拳!」

 

「!?」

 

 白露に殴りかかる多摩。さらに主砲を構え白露に砲弾を繰り出す。白露はそれを危なげなく避けた。

 

「ちょっとこれは予想外だったかな!さっきの演習では見せてなかったな!」

 

「奥の手は最後まで取っておけって言われなかったかにゃ!」

 

 ゼロ距離で殴り合う二人。さらに球磨が加勢に入る。球磨の拳が白露の頬をかすめる。よほどの重みがあるのか球磨の拳は轟音を出していた。

 

「熊拳!」

 

「うお!?あぶね!二人がかりだとさすがに厄介だな!」

 

「今です!ファイヤァァァァァ!!!」

 

 予想以上に戸惑う白露。さらに、白露が攻めあぐねている間に主砲を放つ金剛達。主砲が放たれた後、球磨と多摩はすかさず白露から距離をとる。結果、白露に砲撃の雨が降り注ぎ、さらに祥鳳が放った艦攻が容赦なく白露を襲った。

 

「すごい!金剛さん達が白露姉さんを圧倒してる!」

 

「見事な連携!軽巡の二人の機動力を活かすとは」

 

「さすがに今回は金剛達に分があるか?」

 

「いや…白露はまだ負けていないよ。今は我慢しているだけ。すぐにわかるよ」

 

 時雨の予想は的中していた。直後轟音が鳴り響き多摩が埠頭まで吹き飛ばされていた。かなりの衝撃のようで弾は腹を押さえうずくまっている。

 

「さ…さすがにこれはきついにゃ…」

 

 そうつぶやく多摩。一同は、多摩から沖合に目を移すと、白露が尋常じゃない速さで砲撃を躱していた。さらに、砲撃の目をかいくぐりながら球磨に向けて主砲を放ち大破に追い込んだのだ。砲撃の雨を躱しながら金剛達に迫る白露。距離は数百メートルまで迫っていた。

 

「比叡姉さま!弾幕を!!」

 

「駄目、目で追えない…」

 

 直後祥鳳が宙に舞い上がる。さらに、主砲と魚雷を叩きこまれ大破判定を受ける。そして、霧島・比叡の順に拳を叩きこみ砲撃と雷撃を食らわした。残るは金剛ただ一人。

 

「やっぱりこうなりましたか…あなた強いね~。でも、予想より持ったほうかな…」

 

「最後に聞かせてほしいんだけど…なんで6・1で戦おうと思ったんだよ…」

 

「あぁ、そんなの単純です!ほかの方と混じってやったらあなたは気を使ってしまうからね~。あなた一人のほうがあの子達を気にせず思う存分戦えるでしょ~!!」

 

「…他にも理由があるんじゃねえの?」

 

「…う~ん……あなたの実力が知りたかった…ってところかな!まぁ、戦ってみて安心しましたヨ!」

 

「……あっそ」

 

 そして、白露が放った攻撃により勝敗が喫した。その後、全員が埠頭に戻るが、金剛は負けた悔しさからなのかしばらく叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~~、惨敗したネ~~(´;ω;`)あなたたち強いのネ~~」

 

「とはいっても最初のほう空母のお二方が助っ人してくれたから、そこはカウントなしってことでいいんじゃないか?」

 

「白露さん。勝負ですから負けは負けです。こう見えてお姉さま負けず嫌いで…」

 

「演習で負けようものならしばらくこんな感じです…」

 

「うっわ、めんどくさ…」

 

「ま、まぁ許してあげてください(^-^;こういう人なんです(;^ω^))」

 

 演習が終わり食堂で休憩している一同。金剛は机に突っ伏して泣きわめき、それを比叡達が慰めていた。京と仁、そして須藤は少し離れた席からその光景を見ていた。

 

「やれやれ、金剛は負けたらすぐこれだ…」

 

「ふふふ、いいじゃないですか。見てて飽きない」

 

「本当、場の空気が和む。ああいうやつがいるだけで辛いこととか吹っ飛んでしまいそうだ」

 

「確かに彼女のおかげで救われたこともある。彼女はうちにとって太陽のような存在だよ…」

 

 そう言って、少し悲しげな顔をする須藤。気になったのか京はこんな質問をした。

 

「あの、申し上げにくいことなのですが。昔何かあったのですか?」

 

「…悪いが、そのことは答えれない。なるべく思い出したくないからな」

 

「…失礼しました」

 

「…そうだ、実は人を探しているんだ。三つ編みで黒髪の、前髪がぱっつんの艦娘を見かけたことはないか?北上っていう名前だ。ほんの些細なことでもいい」

 

 そう言って、須藤は京達に質問した。京と仁は顔を見合わせ少し考えた後こう切り出した。

 

「噂程度ですが、三つ編みでおさげの髪をした女性が暴力団をつぶして回っているという話を士官学校時代に聞いたことがあります」

 

「そいつはめっぽう強いって噂だ。たった一人で何百っていう数を相手にしたっつう話があったくらい…それから、なぜかいつもこんなことを言われているって。薄田ってやつはどこだってな…」

 

「ただ、場所についてはよくわからないのです」

 

「いや、それを聞けただけで充分だ…」

 

 そう言って須藤はお茶を一口飲みその後席を立ち一服してくるといい外に出た。そして、壁に背中を預け、たばこを吸いながら空を見上げる。結局北上の行方は分からないまま。あの出来事があってもう3年が立とうとしている。一体どこにいるのだろうか。そういう人物がいたという情報はある。しかし、その街に行っても結局会えずじまいだ。いつになったら戻ってきてくれるのだろう。もう二度と会えないのだろうか?と須藤は思った。

 

「…提督?」

 

「如月…」

 

 様子を見に来たのだろうか、少し不安そうな顔をしている。如月の心情を察したのか須藤は話し始めた。

 

「今回も北上がどこいるのかわからずじまいだ…一体あいつはどこほっつき歩いてるんだろうな…」

 

 タバコの火を消し携帯灰皿に入れながら須藤は悲しげな顔をした。如月は須藤の横に来ると壁にもたれかかる。

 

「北上さん、戻ってくるでしょうか…また一緒になれるでしょうか?」

 

「必ず見つけて昔みたいにバカ騒ぎしようぜ…」

 

 しばらく沈黙が続く。その後勢いよくドアが開け放たれ睦月が顔を出した。

 

「もう、二人とも何してるの!これから親睦を深めるための食事会だよ!!早く来てよ~!!」

 

 睦月だけじゃなく金剛や球磨、祥鳳が顔をのぞかせている。それを見た須藤は笑顔で言った。

 

「わかった。今行く」

 

 そう言って、如月とともに食堂へと戻った。その後、金剛が須藤に猛アタックしたり球磨と多摩に近接戦闘を教えてほしいと夕立が詰め寄ったり、金剛達が白露に質問攻めと騒がしい食事会になったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は~終わった終わった。食事ありがとうな。また、演習を頼むかもしれないからよろしく。それから、近々提督会議があるかもしれない。封筒が届くはずだから、その時に確認してくれ」

 

「はい。本日はありがとうございました!お気をつけて」

 

 食事会を終え、須藤達は呉に帰るため船に乗る。それを見送るため、京達は埠頭に並んでいる。白露もそれを見送ると、早々にその場を立ち去り寮のほうへと戻る。そして、なぜ金剛が自分と6対1で戦ったのかを考えた。さっき言っていたことが、どうも腑に落ちなかったからだ。

 

(一体何がしたかったんだ…?何の目的で私とやったんだよ…)

 

 考えてもさっぱりわからなかったため、変に考えずに早々に部屋に戻って休むことにした。今日はもう演習を終えたら暇ができるからだ。

 

「白露お姉ちゃ~ん!」

 

「…あん?」

 

「組手しよ!」

 

「……私は部屋に戻って休もうと思ってんだよ…」

 

「演習だけだと物足りなかったっぽい!だから組手しよ!白露お姉ちゃんも物足りなかったでしょ?」

 

 夕立の言ったことに、少し考える白露。確かに物足りなさはあった。部屋に戻っても暇だし、夕立と組手をして時間をつぶすのもありかと思った。

 

「…わかったよ…」

 

「やった!やっぱり白露お姉ちゃんは優しいっぽい!」

 

「……いいからさっさとやるぞ…」

 

「ぽい!」

 

 そこから夕飯の時間になるまで、白露と夕立はずっと組手をしていたらしい。夕飯時には、夕立がとてもキラキラしている状態だったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ、満足したか、金剛?」

 

「YES!とっても満足したね!」

 

 演習後、船の中で金剛と須藤が話していた。この演習を提案したのは実は金剛だ。以前、白露と会ったときに、どうしても気になったらしい。だから、負けてもいいから戦ってみたかったのだ。どうやら、他の目的もあったらしいが。

 

「……それで、どうだったよ?白露と戦ってみて」

 

 須藤の言葉に、金剛は先ほどまでと打って変わって真剣な表情になる。そして、一度深呼吸をした後に、ゆっくりと話し出した。

 

「強いのは間違いない…S級というのも頷ける…。でも、今のままではこの先、きっと大きな壁に立ちはだかるでしょう…資料も読みましたけど、過去の出来事があの子の本当の強みを潰している。あとは、そうですね~…あの子自身も、きっと気づいていないと思います」

 

「…そうか。金剛が言うなら間違いないな。でも、それさえ無ければ、もっと強くなるんだな」

 

「もちろん!それを克服すれば、きっと強く…………すみません……ちょっと外に出ます…」

 

「お……おう…」

 

 金剛が外に出る理由は、大体予想がついているためあまり気にしないようにした。須藤は、手に持った資料を読みながら、椅子にもたれかかる。その資料は、白露のことについてだった。

 

(駆逐艦白露…双子の妹でもある駆逐艦時雨とともに、3年前に保護される……ね。おまけに、保護される前は7年間も路上暮らし…生きるために盗みも働いていた…と。多分、金剛が懸念していた過去の出来事っていうのは、このことなんだろうな…)

 

 須藤は、資料を机に置き、立ち上がった後に背伸びをする。一服をするために、須藤も外に出ることにした。そして、静かにつぶやいた。

 

「次会う時には、もっと強くなってるといいな。白露よ…」

 

 




はい、ということで呉との演習は終わりです。
話しにも出てきましたが、S級は十二人。白露は、その最下位です。強いけど…。
それと、北上の名前も出てきました。呉鎮守府のみんなが過去に何があったのかは、先の話で出てきます。
では、これにて。


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9話 散々な歓迎会

はい、9話です!
ここで、白露達に新たな仲間が加わります!

※2023年1月4日 内容を少し書き換えてます。



 演習があって数日、柱島に転属してきた艦娘が執務室に来ていた。それぞれ机の前に並び挨拶をする。

 

「長良型軽巡1番艦長良です。よろしくお願いします」

 

「長良型軽巡2番艦五十鈴です。水雷戦隊の指揮ならお任せを」

 

「摩耶ってんだぁ、よろしく!」

 

「鳥海です。ご指導ご鞭撻よろしくお願いします!」

 

「羽黒です……よろしくお願いします」

 

「飛鷹です。航空戦なら任せて」

 

「ヒャッハー! 隼鷹だよろしくなぁ!」

 

「あんたまさか酒飲んだの(# ゚Д゚)」

 

「飲んでない飲んでない! ノリだよノリ! だから怒んないで~(;゚Д゚)」

 

「ははは! にぎやかだなおい!!」

 

「本当にぎやかになりますね」

 

「私今後が少し心配です(特に隼鷹って人……)」

 

 京と仁はそれぞれそんなことを思うが、村雨は今後が少しだけ心配になってしまう。そんなこんなで挨拶を終えた一同。挨拶が終わると各施設の案内のため村雨は執務室を後にした。そして、京と仁は書類作業に取り掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり作りは元居た鎮守府とほぼ一緒なのね。これなら大丈夫そう」

 

「五十鈴さん達のいた鎮守府ってどこなんですか?」

 

「私達岩川鎮守府に所属してたの!」

 

「岩川鎮守府って、戦う提督がいるって有名な!!」

 

「やっぱその噂流れてるんだ……┐(´д`)┌ヤレヤレ」

 

「自重してほしいんだけど聞いてくれないのよね(;・∀・)」

 

 長良と五十鈴は肩を落としながら話す。岩川鎮守府は重巡や軽巡・駆逐艦がメインの鎮守府で、何でもそこの提督は自ら戦場に出るという噂があるらしい。まさか本当だとは村雨は思わなかったが……。すると、摩耶が思い出したように長良に尋ねる。

 

「そういえば、青葉や鬼怒の奴は元気にしてるのか?」

 

「青葉は相変わらず取材だのなんだのと鎮守府を駆け巡っているよ……」

 

「え、青葉!? あの首狩り青葉Σ(゚Д゚)」

 

 首狩り青葉。深海棲艦の首を根こそぎ狩ることからこの二つ名になったらしい。しかも、十二人のS級の一人であり異能力を持っていると噂だ。村雨も訓練生時代に青葉の噂を聞いたことがある。なんでも、青葉は狂人という話があるのだ。

 

「確かに見たことあるけど、あの戦い方はすごかったわね~」

 

「姿消すことができるっていうのはもはやチートだよ……」

 

「姿消せるの!?どういうことですかそれ!?」

 

「青葉は異能持ちなのよ。能力は、姿を消したり認識をずらすことができる。まぁ、すごさは実際に見たほうがいいかもね」

 

 飛鷹と隼鷹の言ったことに、村雨は驚きを隠せない。さらに、五十鈴が青葉の能力について補足説明を行った。そして、腕を組んだままこんなことを話した。

 

「いやいや鬼怒も負けてないわよ……」

 

「え?そうなんですか??」

 

「S級の一人よ…一部からシザーウーマンって言われてるほど…喧嘩好きで戦闘狂…鎮守府にいるときは喧嘩しよう喧嘩しようってうるさいのよね…」

 

「なんですかそれ!?」

 

 村雨らしからぬ顔をしてしまうほどのリアクションをする。さらに鬼怒は、S級のうちの一人だという。その後、長良から驚きの事実を告げられる。

 

「まぁ今は刑務所に入ってるんだけどさ……」

 

『…え?』

 

「事実よ。なんでかは言わないけど……」

 

 まさか刑務所に入っているとは思っていなかった一同。それほどまでに、危険な人物なのかと思ってしまう。話をしていると、ほとんどの施設を案内されたので部屋のほうへと向かっていると、白露とばったり会った。

 

「あら、白露姉さん。どっかに行くの?」

 

「ただの散歩だ散歩……」

 

「およ、白露じゃん!!」

 

「あら久しぶりね!訓練以来かしら」

 

「あぁお二方久しぶり……」

 

 摩耶と五十鈴は以前に訓練校に赴き対空訓練の指導を行ったことがある。その際に白露の尋常じゃない強さを目にしていた。たった一人で艦載機すべてを打ち落としていたのだから無理もない。そのころから、二人は白露のことを気に入っており、ことあるごとに白露に絡んでいる。白露は鬱陶しそうにしているが

 

「なんだお前ここに配属してたのか! お前のことだから大本営とかもっとすごいとこに配属したのかと思ったよ」

 

「やだよ、そんな面倒くさそうなとこに行っても自分の好きなようにできないしな……」

 

「相変わらずね白露、少し安心したわ」

 

「何に安心してるんだか…」

 

「でも、こうしてお前と一緒に戦えるとは思ってなかったわ!これからよろしくな!」

 

 白露に手を指し伸ばす摩耶。その手を、鬱陶しそうにしながら叩き、そのまま歩いていった。白露を見送った後に、ぽつりと摩耶がつぶやいた。

 

「あいつ本当に変わらねえな…いや…少しだけ変わったか?」

 

「ほえ~、あの子が白露かぁ。確かにすごい気配を感じるわ!」

 

「あの子確かS級の一人よね。一人でタ級を倒したって聞いたけど……」

 

「えΣ(・□・;)まじかよ……」

 

「すごいですね。タ級って深海棲艦の中でも強い分類のはずなのに……」

 

「事実ですよ。白露姉さん一人で深海棲艦に突っ込んでは戦艦級でも一撃で沈めています。そのせいで、教官達に幾度となく怒られてたわね~……あ、ここが皆さんの部屋です。軽巡のお二人と、重巡の三人、空母の二人とそれぞれ割り振られてます」

 

 話をしているとそれぞれの部屋までついた。この後はそれぞれ自由行動になるため全員散歩や部屋で時間を潰すことにしたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕食時になり全員が食堂に集まる。歓迎会を兼ねた食事が始まるためそれぞれが席に着いた。そして、京が席から立ち乾杯の音頭をとる。

 

「それでは、皆さん今日は大いに飲み食べましょう。それでは乾杯!」

 

『かんぱ~~~~い!!』

 

「ヒャッハー!酒だ、酒!今日は飲むよ~」

 

「ほどほどにしなさいよ……(#^ω^)」

 

「ははは(^-^;もちろん……」

 

「じゃあ俺も少し飲むか、やっぱ酒を飲まねえとやってられないわ」

 

「ほどほどにお願いしますね……仁」

 

 酒が飲めるからか、隼鷹がはしゃいでいた。それを飛鷹が咎めて、隼鷹が怯えているようだった。毎回、酒を飲むときはこんな様子なのだろうか…と遠目で見ている白露は思った。ただ、人数も揃ったし、これで出撃もできる。それに、いつも以上ににぎやかになりそうだと思った。一人で食事をしていると、摩耶と五十鈴、さらに鳥海が白露の近くに来た。

 

「おい白露、お前前にタ級を一撃で倒したんだって!」

 

「それがどうかした?」

 

「どうやったらそんな強くなれるんだ!?教えてくれないか!」

 

「断る」

 

 摩耶から強くなる秘訣について聞かれるが、白露はそれを即座に断る。摩耶は、横でふてくされながら文句を言っているが、白露は気にも留めない様子だった。摩耶を見かねてか、五十鈴がすぐに話しかける。

 

「まぁ、摩耶はどっちかっていうと対空よりだしね……ねぇ鳥海……」

 

「確かに、対空特化で砲撃は中の上なんだけどね……そもそも、近接戦闘できなくてもいいじゃない…」

 

「いいじゃねえか、近接戦闘できればそんな苦労しなさそうだしよ!」

 

「もう摩耶ったら」

 

 摩耶は砲撃戦・雷撃戦ももちろんするが対空のスペシャリストであるため敵を沈めるほどの砲撃をしないのだ。そのため、本人は近接戦闘を覚えたいため演習に行く際、必ずビデオを持参しているのだとか。ただ、近接戦闘をしているものは数えるものしかいないため結局無意味になってしまうのが多いのだとか。

 

「だいたい、私に頼むんだったら他の人に頼めばいいじゃないか……」

 

「お前があたしの中で一番近接戦闘で強いって思ってるんだよ! だから教えてくれよ!」

 

「断るって言ってるんだ!」

 

「チェ、白露はけちだな……」

 

「なんとでも言え!」

 

 そう言いながら白露はご飯をほおばる。摩耶もいじけてしまったのかご飯を掻っ込む。しかし、勢いよく掻き込みすぎたせいかせいか、二人とも喉に詰まらせてしまい慌てて水を飲んでいた。その様子を五十鈴はあきれた目で、鳥海は少し困った様子で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、ずいぶんにぎやかになったね…」

 

「本当ですね。にぎやかになりました」

 

 遠目の席で、白露達のやり取りを見ていた時雨と春雨。近くには、夕立と長良、羽黒がいた。ここに来たばかりの長良達にとっては、白露が摩耶のことをとても鬱陶しそうにしているようにしか見えなかった。

 

「摩耶ちゃん、白露ちゃんに何か頼んでいるみたいですけど、あの様子を見たらだめそうですね…白露ちゃんも迷惑そうにしているし」

 

「う~ん、どうだろう…内心嬉しそうに見えるけど…」

 

「え?そうなんですか?」

 

「うん。ああは言ってるけどさ…本当はすごく優しいんだよ白露は。今はまだ、あんな感じだけど、いつか教えてくれるんじゃないかな」

 

「そうそう!白露お姉ちゃんは、最後はなんだかんだ言って、言うことを聞いてくれるっぽい!だから、すごく優しいっぽい!」

 

「なるほどね~。人は見かけによらないもんなんだな~…」

 

 二人の説明に納得した様子で頬杖をついている長良。そして、時雨と夕立を順番に見る。二人のことをじっと見つめた後に、小声でつぶやいた。

 

「二人も十分に強いね…これは、近いうちに抜かれるかもな…」

 

「ん?何か言ったっぽい?」

 

「…あ、いや何でもないよ!それにしても、白露は本当に強いね…私、ある程度力が強い人のオーラがわかるんだ…」

 

「何それすごいっぽい!今度夕立にも教えてほしいっぽい!」

 

「いやいや、これは経験だから、教えても覚えられないって…」

 

 長良の言ったことに、興味津々で夕立が聞くが、糸目になりながら無理だという。その言葉に夕立は凹んでしまうが気にしないことにした。だが、それと同時に退屈しないところだと思った。しかし、あれこれ考えていると何やら騒がしい声が聞こえてきた。

 

「ヒャッハー!酒はやっぱ最高だぜ~~」

 

「おいおい、さすがにもうだめだ!これ以上飲むな!?」

 

「村雨さん!すぐに止めますよ!」

 

「了解です提督(^-^;)」

 

「ああもう! どうしてこうなるのよ~~~(# ゚Д゚)」

 

 飛鷹の目を盗んで酒をがっつり飲んでしまった隼鷹。そのせいで歓迎会どころではなくなってしまった。あまりにも騒がしかったためか、時雨や長良も加勢し何とか止めたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――翌日

 

「隼鷹…何か言うことは?」

 

「…すいませんでした…」

 

「は(# ゚Д゚)」

 

「ご…ごめんって!本当にごめん!もうあんなことしないから!」

 

「……はぁ…隼鷹さん。1か月間禁酒で」

 

「そ…そんなぁ…」

 

「文句ある?」

 

「な…ないです…」

 

 京の言ったことに、隼鷹は不服そうだったが、飛鷹の圧に怖気づいてしまう。少し困った顔で回りを見る。仁は窓のほうを見て知らん顔をしているし、村雨もかなり困った顔をしていた。

 

「えぇ…では、隼鷹さんのことは一旦飛鷹さんにお任せするとして、我々は書類の整理でもしましょうかね…」

 

「あ、提督。大本営から書類が届いていますよ」

 

 村雨から書類を確認する京。その内容は、3日後に大本営に秘書艦とともに来てほしいという内容であった。

 

 



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10話 提督会議 前編

お待たせしました。第10話です!
今回は各鎮守府の提督達のお話です。前後編に分かれるかな(^-^;
では、どうぞ!

※2023年1月23日 内容を少し直しました


「…え?3日後ですか?」

 

「…はい。早急に準備を進めましょうか!というわけで、仁。その間は留守は任せますからね」

 

「あいよ、任せとけ」

 

「さてと、3日後に出撃させる艦隊のメンバーを選出しておきますか」

 

 実は、3日後に艦隊の初出撃があるため、そのメンバーも選出しなければならないらしい。白露は確定として、あと5人。誰にしようか迷っているところだ。椅子にもたれかかり、天井を見ながら考える。しばらく考えた後に、意を決したように目の前にある書類に名前を書いていった。

 

「…まぁ、なるようになるでしょう…」

 

 その後、艦隊メンバーを食堂に集めた後に、大本営へ出張すること、3日後に出撃を行うメンバーの発表を行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして3日後、大本営にすぐに向かうためにヘリで向かうことになった京と村雨。運転は憲兵に任せ、二人は後部座席のほうに座る。見送りには、仁と出撃を行うメンバーが集まっていた。艦隊メンバーは摩耶を旗艦に、五十鈴、白露、夕立、飛鷹、春雨だ。

 

「それでは仁。留守の間は、艦隊運用をお任せしますね」

 

「あいよ。こっちは任せな!土産待ってるぜ」

 

 そして、ヘリが出発した後に、出撃メンバーは艤装を装備するために工廠のほうへと向かう。工廠に向かう途中に、摩耶が全員に話しかける。

 

「よし!今回の旗艦はこの摩耶様が務めるから、なるべくいうこと聞けよ!あぁ、白露は自由にしていいからな。敵を見つけたら、即倒しちまえ!」

 

「いいのそれ…?それじゃあ、陣形崩すわよ」

 

「いいんだよ。あいつは強いし」

 

 摩耶の言ったことに、飛鷹が心配そうにするが、摩耶は気にしていないのか楽観的だった。五十鈴も大丈夫と言っているし、夕立と春雨も特に心配していないようだった。その後、飛鷹は白露の強さを改めて知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――大本営

 

「はわ~…大本営ってすごい大きいんですね~」

 

「さすが、海軍の総本山だけあって施設も充実してますね」

 

 大本営についた二人は、周囲を見渡しながらつぶやく。訓練校や鎮守府と違って、本館や工廠の大きさが全然違った。さらには医療施設に、娯楽用のグラウンドなど他の設備も充実しているようだった。考えながら歩いていると、いつの間にか本館前の前に立っていた。村雨は緊張しているのか顔がとてもこわばっていた。

 

「そんなに緊張せずに、楽に行きましょう」

 

「き…緊張しますよ…大本営の呼び出しなんですから(´;ω;`)」

 

「大丈夫、私がいますから」

 

 京は村雨の手を引きドアを開け中に入る。中は、洋館のような作りをしておりところどころに装飾品やシャンデリアがついていた。中を見回しながら歩いていると、階段の近くには白い軍服を着た赤い髪の女性と両隣には村雨と同じくらいか少し小さい少女が歩いていた。二人とも同じような制服をしているし、おそらく同型艦だろう。赤い髪の女性が二人に気づき話しかけてくる。

 

「あら鳴海!しばらく見ない間にずいぶん立派になったね!」

 

「赤神中将!お久しぶりです!」

 

 赤神桃(あかがみもも)。横須賀鎮守府の提督で、士官学校には教官として何回か来たことがあるのだ。ただ、赤神が誰かと戦うと必ず怪我人が出ていたこともあり訓練生からとても恐れららていたらしい。自分よりも体格がいい男性を涼しい顔で投げ飛ばしていたほどなのだから。京も数回、赤神と戦ったことがあるが10分も持たなかった。

 

「1年ぶりくらいか。あんたもとうとう提督になったんだね」

 

「えぇ、最近になってようやく提督業に慣れてきましたよ。それに、異動してきた艦娘の方達もいますし、今日から本格的に出撃していく予定なんです」

 

「そうかそうか!気張っていきなさいよ!ところで、隣の子は秘書艦?」

 

 挨拶を終え、村雨に視線を移す赤神。急に話しかけられたのと、相手が中将だからか村雨は極度の緊張のせいで声がこわばってしまう。

 

「お、おおおおおお初にお目に、かかります!わわわ私は白露型3番きゃんのむらしゃめです!」

 

「む、村雨さん。一度深呼吸をしましょう…」

 

「あはははは!そんなに緊張しなくてもいいよ!楽にしていいんだよ!」

 

 村雨の反応に高笑いする赤神。よほど反応が面白かったのか腹を抱えながら笑っていた。赤神の様子を見て、村雨も少し安心したようだった。

 

「そういえば赤神さん。両隣にいる子達は?」

 

「ん?あぁ、この子達は私の秘書艦でね。ほら、二人も挨拶!」

 

「朝潮型3番艦満潮よ、よろしく」

 

「同じく10番艦の霞よ、よろしく」

 

 満潮と霞と名乗った二人はそれぞれ挨拶をする。赤神の話では、二人は改二と呼ばれる状態らしく、横須賀鎮守府の中でも実力はかなり高いらしい。二人以外にもとんでもなく強い艦娘がいるらしいが、その話をしようとしたとき、広間にあった大時計が10時の鐘を鳴らしていた。

 

「おっと、こんなとこで立ち話をしていると会議に遅刻しそうね。そろそろ移動しようか」

 

「そのほうがよさそうですね、行きましょうか」

 

 会議の時間は11時を予定しており、まだ余裕はあるが早めに行って、余裕をもって待機しようと思ったのだ。適当に会話をしながら歩いていると、5人は会議室に到着した。ノックをしてから中に入る。すると、すでに先着がおり黒髪ショートのおしとやかそうな表情をした女性と、武人を彷彿とさせる出で立ちをしているポニーテールの女性が立っていた。なぜ武人のようなのかというとその女性は腰に木刀を刺しているからだ。

 

「宮本中佐、相変わらず早いな」

 

「昔から癖でして。それに早く来たほうがのんびりできます」

 

 宮本紗季(みやもとさき)。海軍の中でも随一の指揮官として名を轟かせ“天眼”の異名を持っている。なんでも宮本が指揮する艦隊は中破以上になったことがないんだとか。京は挨拶をするために宮本に近づく。宮本も席から立ちあがり敬礼を行う。

 

「お初にお目にかかります。私は柱島の提督をしています鳴海京です。そしてこちらが秘書艦の村雨さん」

 

「よろしくお願いします」

 

「あら、ご丁寧にどうも。宮本紗季です。今後ともよろしくお願いします。そしてこちらが私の秘書艦の」

 

「軽巡矢矧よ、よろしくね」

 

 矢矧と名乗った女性は京達に敬礼をした。京たちもすぐに敬礼を返す。挨拶をし終えた後、矢矧は京に話しかける。

 

「鳴海提督、少し相談があるのですが」

 

「相談ですか?」

 

「はい。後日演習をお願いしたいのですが…もちろん、提督からは許可をいただいています!」

 

「えぇ、私は構いませんが、艦隊のみんなに相談をしてからでもいいでしょうか?」

 

「構いません。ぜひ、お願いします」

 

 どうやら演習を行いたかったらしい。提督である宮本も笑顔で矢矧を見守っているし、柱島とどうしても演習を行いたい理由がありそうだ。疑問に思ったためか村雨が問いかける。

 

「あの、どうしてうちと演習をしたいのですか?」

 

「あぁほら、そちらの鎮守府に白露ちゃんがいるでしょう?矢矧がぜひタイマンでやりたいと前々から言ってて」

 

「そんな、いくら何でもタイマンなんて…どうなるかはわかりませんよ…」

 

「それなら大丈夫。矢矧はS級艦娘ですから!」

 

「……え?」

 

「天剣の異名を持っているの。S級9位よ。結構噂があったと思うけど」

 

 天剣。軽巡の中でもトップクラスの速さを誇りその速さを生かした剣技、砲雷撃戦を得意としていると士官学校にいたころに聞いたことがある。まさか、目の前にいる矢矧がその天剣だったとは思っていなかったが。

 

「えぇ、聞いたことがあります。なんでも、敵の砲弾を真っ二つにしたんですよね?」

 

「え!?そんなことができるんですか!?」

 

「え、えぇまぁ…」

 

「私も見たことあるけどあれはすごかったな~」

 

「そういう赤神中将もできるじゃないですか?」

 

「さすがに深海棲艦の銃撃は受けたことないからなぁ」

 

「それ以前に司令官は出撃しないでしょ…」

 

「仮に出撃したら私達が許さないわよ」

 

「わかってるよ二人とも」ヾ(・ω・*)なでなで

 

「わかればいいのよ///」

 

「っ///」

 

 頭をなでられている二人は、うれしいのか頬を赤く染め顔がにやけていた。その光景をみて村雨は本物の親子のようだと思っていた。さらっととんでもないことを赤神は言っていたような気がするがもう気にしないことにした。提督もそうだが、他の提督達もやはり強者が多そうだった。話しているうちにドアが開き、茶髪で子供っぽい顔をした若い軍服を着た男とオッドアイでセーラー服の下にインナーを着た女性が入ってきた。

 

「あ、どうも皆さん!」

 

「こんにちは!」

 

「あら、榊原中佐に古鷹ちゃん。こんにちは」

 

「あらバカップル!今日も熱いね!」

 

「からかわないでほしいっす」

 

「あぅ~///」

 

 榊原慎之介(さかきばらしんのすけ)。岩川鎮守府の提督で戦う提督で有名。銃を使った戦闘が得意で前戦に出る際は特殊なスーツを着る…らしい。秘書艦の古鷹は、提督である榊原と恋仲で古鷹も艦娘随一の狙撃手として有名だ。

 

「バカップル???付き合ってるんですかΣ(゚Д゚)」

 

「この二人は岩川鎮守府のバカップルで有名なのよ…」

 

「岩川鎮守府って…戦う提督で有名な( ゚Д゚)」

 

「いや~それほどでも///」

 

「慎ちゃん!誉め言葉じゃないんだからね!」

 

「ちょ!今は提督って言ってほしいっす…」

 

「あ///ごめんなさい…」

 

 矢矧の言ったことに、村雨は驚きを隠せない。村雨の話に、榊原は照れた様子だった。古鷹が怒るが、つい名前で呼んでしまったためか、二人とも顔を赤くしている。それを見て赤神と宮本は笑顔を見せていた。村雨と矢矧、満潮と霞はこの光景をただ茫然と見つめていた。できれば惚気るなら別の場所でしてほしいのだが…。そんな状況をお構いなしに京は挨拶をする。

 

「お初にお目にかかります。柱島鎮守府提督の鳴海京です。あなたの噂はよくお聞きしています」

 

「あ、これはお見苦しいところをお見せしました。僕は榊原慎之介。階級は中佐です。よろしく!」

 

「秘書艦の古鷹です。よろしくお願いします」

 

「あ、柱島鎮守府の秘書艦村雨です。よろしくお願いします」

 

 お互いに挨拶を済ませた後、各自席に座る。その後、次々と各鎮守府の提督達が入ってきた。その中には、以前演習をした須藤の姿もある。

 

「はろ~みんなお久~」

 

「失礼するぞ」

 

「失礼します」

 

 先に入ってきた女性は三条華凛(さんじょうかりん)。佐世保鎮守府の提督で、提督をする傍ら、陸軍と協力してテロリスト達を殲滅しているらしい。赤神とは同郷で、肩までかかる黒い髪をポニーテールにしているのが特徴だ。次に入ってきたのは、服部源蔵(はっとりげんぞう)。佐伯湾鎮守府の提督であの服部半蔵の子孫らしい。スキンヘッドで無表情のため見た目は少々怖い。京はすぐさま立ち上がり、挨拶を行う。

 

「初めまして、私は…」

 

「柱島の提督、鳴海京。噂は聞いている。俺は佐伯湾の提督をしている服部源蔵だ。これからよろしく頼むぞ」

 

「私は佐世保鎮守府提督の三条華凛。これからよろしくね、鳴狐さん」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 どうやらふたりは京のことを知っていたらしくすぐに挨拶は済んだ。須藤とは以前にあっていたため挨拶は軽くした。すると、今度は各鎮守府の秘書艦だろうか。次々と会議室に入ってくる。以前演習に来ていた金剛の姿もあった。

 

「提督、先に行かないでくださいよ~」

 

「会議に出るの久しぶりだな~」

 

「あぁ、こういう時は紅茶が飲みたいネ~…」

 

 最初に入ったのは、佐世保鎮守府の秘書艦秋月。対空能力に長けており空母戦では随一の実力を持っている。次に入ってきたのは佐伯湾鎮守府秘書艦の伊401ことしおいだ。村雨は、金剛の姿を見ると、挨拶を行った。

 

「あ、金剛さんお久しぶりです!」

 

「おお、村雨~GoodMorning」

 

「あら、あなたが柱島の秘書艦さん。私は秋月、よろしくお願いします」

 

「私はしおいだよ!よろしくね!」

 

「よろしくお願いします」

 

 挨拶を終えると秋月としおいは京のもとへ近づく。どうやら挨拶をするようだ。

 

「初めまして。佐世保鎮守府の秘書艦をやらせてもらっています秋月です」

 

「佐伯湾鎮守府秘書艦のしおいだよ!よろしくね」

 

「ええ、よろしくお願いします」

 

 それぞれが挨拶を終え席に着く。席に座った後に、金剛が京に話しかけてきた。

 

「そういえば、鳴海提督。白露は元気にしているの?」

 

「えぇ、それはもう。今頃出撃して、深海棲艦を一人で殲滅しているのではないでしょうか?」

 

「…え?白露…?S級12位のあの白露!」

 

「駆逐艦でも1・2を争う実力を持つあの白露か!?鳴海、まさかお前の鎮守府にいたとはな」

 

 金剛の言ったことに、三条と服部は驚きを隠せない。白露はそれほど有名らしい。もちろん、雷も白露と同じくらい有名であるが、白露の場合、どこの鎮守府に所属するのか公にしておらず、さらに新設された柱島に所属しているとは思っていなかった。そのためか、三条と服部は身を乗り出し京に頼みごとをする。

 

「なら今度うちと演習を鳴海君!ね!?ね!?」

 

「いや、先にうちだ!うちの鎮守府と演習を!」

 

「残念、舞鶴が先に演習の申し込みをしちゃいました」

 

「あぁ、横須賀も演習を頼みたいな~……鳴海、いいよね?」

 

「は…はぁ、私は構いませんが…後日日程を調整しますので…それまで待ってもらても?」

 

「…いいだろう。みんなも異存はないな?」

 

 話がトントンと進み、後日京が日程を調整することで全員が納得した。その様子を見ていた秘書艦達。その中で、最初に秋月が話し始めた。

 

「なんだか、話がトントン拍子で進んじゃったみたいですけど、白露さんってそんなにすごいんですか?」

 

「矢矧さんやしおいと同じS級の艦娘よ。序列は12位。あのタ級を一撃で沈めたみたいだし…」

 

「…満潮ちゃん、今なんて?しおいちゃんもS級なの⁉」

 

「うんそうだよ!序列10位、異名は海龍だよ!」

 

「さ…さらっととんでもないことを言った(;’∀’)」

 

 しおいがS級であることに驚愕する村雨。今この空間に2人もS級がいるのだから驚くのも無理はない。だが、周りはこの2人がS級でも、接し方は対等だ。村雨はその様子を見て、少し安心する。そして、その様子を見ていた榊原と古鷹は小声で話し始めた。

 

「まさか本当に柱島に所属していたなんて。青葉もよく情報を入手したっすね…」

 

「青葉は前々から気になっていたみたいで直接訓練校に行って情報を集めていたみたいだよ…」

 

「全く、迷惑をかけていなかったらいいんですけど」

 

「向こうから苦情が来てないから大丈夫だよ(^-^;)」

 

 どうやら岩川鎮守府所属の青葉は、白露がどこにいるのか知っていたらしい。普段から取材だのなんだのとあちこちへ赴いているためこういったことはすぐに榊原まで報告するらしい。おかげで榊原はそんなに驚くことはなかったが。すると、ドアが開き二人の老人が入ってくる。その姿を見た一同はすぐに立ち上がり敬礼をした。入ってきたのは元帥山本勘兵衛と大将の齋藤慎二だ。

 

「皆、長旅ご苦労。忙しい中よくぞ集まってくれた。これより会議を始める。皆座ってよいぞ」

 

 そう言って山本は腰かけそれに倣い一同は着座し、会議が始まった。

 

 



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11話 提督会議 後編

UA 1000突破しました!
そして、お気に入りしてくださっている方誠にありがとうございます!
11話です!楽しんでいただければ幸いです。

※2023年2月13日に内容を少し変更しました。


 会議が始まり数分。今回の会議の議題について説明があった。まずは、柱島鎮守府が新たに新設し、そこの提督として京が、副提督として仁が着任したこと。そして、各鎮守府の状況についてだ。深海棲艦に攻め込まれていないか、また、出撃の様子はどうか。最後は、最近活動が活発化しているテロリスト達についてだった。最後の議題については、陸軍でも対処はしているが、海軍内でもある事件をきっかけにこういったテロリスト達の動きに警戒しているのだ。

 

「まぁ、今回の議題についてはこんなところだな。改めて、柱島鎮守府に提督として鳴海京、副提督として桐生仁が着任している。皆、何かあったら彼らを助けてやってくれ。それと、S級艦娘の一人で、“剛拳”の異名を持つ白露が着任している。すでに、呉鎮守府が柱島と演習をしているが、他の鎮守府ももし演習を組みたいときは言ってくれ」

 

「あ~…あの、元帥。そのことなのですが、もうすでに鳴海提督に許可をいただきまして」

 

「早!もう予定を組んでいるのか(;゚Д゚)」

 

「えぇ、先ほどうちの矢矧が白露とどうしても演習をと…。そのあとに、金剛さんが言った一言で、他の皆さんも演習をと大騒ぎに…」

 

 宮本の言ったことに、山本は納得したように頷いた。ただでさえ、現在確認されている艦娘達の中でも最強クラスのものだ。どうしても実力を見たいというのがあるのだろう。金剛は、白露が鎮守府に配属される前に一度実力を見ていたし、今回の演習でも強さがわかったはずだ。

 

「うんうん…白露は確かに強かったで~ス!もちろん、舞鶴に行った雷も負けていませんがネ~!」

 

「いいな~…先に演習をしているなんて…それに、宮本…雷の実力も見ておきたいから、柱島と演習した後は、舞鶴とぜひ演習をしたいわね!矢矧もいいでしょ⁉」

 

「え…あぁ…横須賀とはちょっと…」

 

「何よ~!うちにもS級がいるのよ!見たいのよ、S級対決!」

 

「ちょ!ちょっと待ってください(;’∀’)さすがに、天と地の実力差がありますからそれだけは!」

 

「ちゃんと手加減させてあげるから!」

 

 横須賀提督の赤神が、雷の名前を聞いたときに、舞鶴にも演習を頼む。さらに、横須賀にもどうやら、S級の艦娘がいるようで、矢矧とのS級対決を望んでいるようだが、宮本と矢矧はその頼みに対して困っている様子だった。

 

「…ごほん。演習については、後日改めて日程を決めればよい。申請してくれればいつでも演習を組んでやるから。話が脱線しているのだが、本題に入ってもよいか?」

 

 一度咳ばらいをし、全員に確認を行った大将の斎藤。全員の視線がこちらに向いた後、斎藤は話し始める。先ほど言っていた、各鎮守府の状況とテロリストについてだ。

 

「先ほども言ったように、今日の会議では各鎮守府の状況とにテロリストの動きがないかについてだ。皆、異常はないか?」

 

「舞鶴はいつもと変わりなく。時々大群で鎮守府近海に攻められることがありますが、ほとんど矢矧が倒してくれていますからね。それに最近雷ちゃんが入ってくれたからとても楽ですよ。遠征に出しても、中破になる子は少ないです」

 

「佐伯湾も変わりない。むしろ前より敵が来る頻度が減ったな。まぁ、そのおかげで俺は調べ物に集中できるわけだがな。出撃でも、大体がelite級と邂逅するが、問題なく対処はできている」

 

「呉も服部さんのとこと同じ状況です。攻めてくる敵が前より減っている。遠方に遠征するときはさすがに深海棲艦と邂逅していますがね。空母や潜水艦が来ても、問題なく対処が可能です」

 

「あぁ、岩川も敵はそこそこくるっすけど、大丈夫っす。ただ、長良と五十鈴が抜けた穴が大きくて…戦力はそろってるから、何とかなってるっすけど…」

 

「横須賀は深海棲艦に攻められる頻度が多いですね。そのおかげで大破になった子がいたくらい。幸い轟沈には至りませんでしたが…まぁ、うちには実力者が多いから、それも助かってるけど。近海に攻め込まれる頻度が多いから、遠征にはなかなか出せていないですね…」

 

「佐世保は今まで通りね。たまにflagship級が来るくらいだけど、それに横須賀と同じでうちは実力者が多いから助かってます。遠征も特に変わりないですね」

 

「柱島は今のところはぐれ艦隊が何回か来る程度です。できたばかりの鎮守府ですから敵も把握していないのかと。出撃・遠征に関しては、本日から本格的に行っています」

 

「ふむ、今の話を聞く限り横須賀鎮守府が集中的に狙われているということになるのか」

 

 全員の話を聞いた後に、元帥である山本が口を開き、しばらく沈黙が流れる。話を聞く限り深海棲艦が横須賀に狙いを定めているは確かだ。何の目的があって、横須賀を攻めているのかはわからないが。現状確認できている深海棲艦は最高でもflagship級。中には言葉を話すものもいると聞いている。昔と違って、相手も知能を持ってきているのかもしれない。

 

「赤神中将、集中的に狙われる要因について、心当たりはあるか?」

 

「う~ん…思い当たる節がないんですよね…戦力が整っていることくらいしか…」

 

「まぁいい。また何か変わったことがあれば、すぐに報告してくれ。もしも自分達だけで対処しきれないような場合は、すぐに応援を呼ぶように」

 

「えぇ、もちろん」

 

「さて、では次はテロリストの動きについて話そう。服部、頼む」

 

「了解、では近頃のテロリストの動きについて報告する。最近は三条中将が艦隊指揮の傍ら、テロリストの殲滅、陸軍もテロリスト達を捕まえているから、数を減らしてきている。だが、どうもある武術家のもとへテロリストが集まっているとの情報が入った。証拠を集めている最中に、その武術家は失踪しているらしいがな…」

 

 服部は手に持っていた資料をみせしおいに配らせた。その資料をこの場にいた全員が目を通す。資料には、明智という武術家の名前があった。2週間以上前に陸軍が調査に行った際は、すでに同情はもぬけの殻だったらしい。

 

「明智?…合気道の道場を開いているとこか?噂では、反艦娘思想を持っているとか…」

 

「その通り。どうもそこの家は艦娘を化け物と罵りこの世に災厄をもたらす兵器だと考えているらしい」

 

「ちょっと、なんであたし達がそんなこと言われないといけないのよ!」

 

「そうよ、悪いのは深海棲艦でしょう!意味わかんない!」

 

 明智家の考えに満潮と霞は憤りを隠せない様子だ。確かに艦娘をよく思っていないものもいる。そういった連中がテロリストに加担することは少なくない。たまに、鎮守府の近くでデモを行っている団体もいるが、テロリストよりはましだ。

 

「全く、テロリストを集めてどうするつもりじゃ?われわれ海軍にクーデターでも起こすのか?」

 

「その可能性は十分にあるかと」

 

 服部の言葉に一同は息をのむ。ただでさえ深海棲艦の相手に手を焼いているというのに、陸ではテロリストが動いている始末だ。陸軍も対処はしてくれるが、もし海と陸から同時に攻められるようなことがあればひとたまりもない。服部の話に、呉の提督である須藤は険しい表情をしながら服部に話しかける。

 

「服部さん。そこの家に出入りしていた奴で、陸軍だった奴はいますか?」

 

「現状、そのような報告はないな」

 

 服部の言葉に須藤は拳に力を入れる。陸軍に対して何か因縁でもあるのか、表情はさらに険しくなった。その様子を見て金剛は心配そうに須藤を見ている。服部は少しため息を吐きながら話し始める。

 

「須藤、気持ちはわかるが今は抑えろ」

 

「っ!?失礼…」

 

「服部、海軍や陸軍に明智家に出入りしていたやつはいるのか?」

 

「いや、現時点ではない。証拠を集めようとしても、なかなかぼろを出してくれなかった…証拠がでたら、とっとと陸軍に渡してますよ…」

 

「いや、それを聞けただけで充分だ。危険なことをさせてすまないな」

 

「…問題ない。それに、俺も前みたいな事件が起きるのは嫌だからな…」

 

 深くため息を吐きながら、椅子に腰かける服部。服部の言ったことに、全員がうつむく。全員の反応に京は戸惑い、沈黙が続いたのにこらえきれなかった。

 

「あ…あの、事件とは?」

 

「む?…須藤、話していなかったのか?」

 

「……えぇ」

 

「…そうか。鳴海、それから村雨。大湊事件という話は聞いたことがあるか?」

 

「確か、3年前に起きた事件で死傷者が多数出た事件だと……須藤提督、まさか」

 

 須藤はそのままうつむく。京はその様子を察してかこれ以上深くは追及しなかった。しばらくの間のあと、山本が手を叩き全員の視線を集めた。

 

「辛気臭い話はここまでにしよう。過去の出来事は変えられん。大事なことは、今後どうしていくかじゃ。テロリストの件については、これからも陸軍と協力して対処していく。三条も引き続き、テロリストの殲滅に協力してくれ」

 

「了解です!」

 

「では今日の会議は以上とする。皆々、警戒を怠らないようにしてくれ。この後は…皆腹が減ったろう?食堂で食事を準備しているからそこへ移動しよう」

 

「そうか、久しぶりに間宮さんの料理が食べられるんだ!ラッキー!!」

 

「ちょうど腹が減ってたっす。長距離移動で疲れたっす!」

 

 その言葉に赤神や榊原らが真っ先に移動しようとしていた。それに続き三条や赤神の秘書艦の満潮と霞、古鷹たちが続く。

 

「桃、あまりはしゃがない。ご飯は逃げないって…」

 

「本当、三条提督を見習ってよ司令官…」

 

「霞…それが司令官なんだから仕方ないって…」

 

「しんちゃ…提督!待ってください!」

 

 取り残された宮本・服部・須藤・京らはこの光景に唖然とした表情で見送っていた。しばらく唖然としていたあと、京が驚いた様子で話しかける。

 

「あの、会議が終わるといつもこうなんですか?」

 

「大体こんな感じなんです」

 

「私も最初驚いたわ」

 

 京の問いに宮本と矢矧は答える。何度もこの光景を見ているのかもうあきらめているようだ。服部も少し頭を抱えているし、須藤も少し困惑気味だった。

 

「まぁいつかなれるさ。俺たちも行こう。遅れるとあいつらが何をいうかわからん」

 

 服部の言葉に一同は席から立ち移動する。京と村雨も移動を始めた。村雨は深く深呼吸をした後に、安心した様子で京に話しかけた。

 

「なんか変に緊張してた自分がバカみたいです…」

 

「本当ですね。皆さん優しそうな方でよかったです」

 

「提督も緊張してたの?」

 

「正直、動悸が収まりませんでしたよ」

 

「え~、いつも通りに見えましたよ?」

 

「緊張すると私、笑顔じゃなくなるんですよ…」

 

「あ~なるほど…」

 

 意外と、こういうことに緊張するんだな…と村雨は思った。京はなんでもできるイメージであったのだが、その話を聞いて、ギャップがあることに少しだけ驚いた。会議での出来事を話しながら、食堂につく二人。食堂につくと、豪勢な食事が並んでおりすでに食堂についていた赤神と榊原が豪快に食べていた。京と村雨も食事を始めるが、ほとんどの料理を赤神と榊原、さらには三条が食べほしたため。二人はさらに驚愕したらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、みんなご苦労だったな!これからも精進してくれ!」

 

 それぞれが鎮守府に戻るため、山本がそれを見送る。 京と村雨もヘリに乗り込み、柱島へと向かった。 京は、帰りのヘリの中で、副提督の仁に今から戻ることをメールで伝える。 しばらくすると、仁から返信があった。内容を確認すると、出撃は問題なく、白露が無双して誰一人被弾することがなかったそうだ。京はその内容を見て少し笑ってしまった。

 

「提督?なんで笑っているんですか?」

 

「あぁ、失礼。どうやら、白露さんが一人で艦隊を殲滅してしまったそうです」

 

「あぁ…なんか予想通りというかなんというか…」

 

「あ、そうだ。仁に演習のことを伝えなければ。さて、白露さんはどういう反応をするのやら」

 

 そうつぶやきながら、メールを打っていく。舞鶴所属の矢矧から、白露に演習を頼まれたこと。今後日程を調整し、演習を行うことを。どんな演習になるのか。矢矧の実力がどれほどのものなのか、京は少し楽しみだった。

 

 




提督会議終わりです。
提督の一人である赤神は、元ネタはM〇Dに出てくるオリジナルキャラをモチーフにしています!M〇Dって書いて伝わるかな(^-^;
今後も他の作品からキャラクターが出てくることがあるので!
ではでは、次回もなるべく早く投降できるようにしますね!


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12話 いきなり来る演習

はい、提督会議があったときの柱島の様子です!
楽しんでいただければ幸いです。

※2023年2月13日 内容を少し書き換えました。


 大本営で会議が行われているころ柱島の鎮守府近海の警戒任務を行っていた摩耶率いる艦隊は戦艦を含むはぐれ艦隊と遭遇していた。しかし、敵の砲撃を食らうまでもなく白露によって殲滅させられた。この光景を見て飛鷹は漠然とする。本当に白露一人で殲滅してしまうとは思っていなかったからだ。

 

「ちょっと嘘でしょ…本当に一人で殲滅しちゃった(;゚Д゚)」

 

「いや~毎度見ても本当あいつの戦いはすごいなぁ!」

 

 飛鷹が驚いているのをよそに、いつの間にか持参していたのかカメラで撮影しながら摩耶は答えていた。よほど近接戦を覚えたいのか摩耶は生き生きとした表情で撮っている。その様子を見て五十鈴は呆れ半分に言った。

 

「なんでカメラなんか持ってるのよあんた。というかいつの間に持ってきてたの?」

 

「白露に戦っているとこ撮ってもいいかって言ったら、勝手にしろって言われたんで持ってきた!」

 

 どうやら事前に許可をとっていたらしい。白露も基本そういうとこは適当に流しているためそんな気にしないようだ。そういうやり取りをしていると白露が戻ってきた。かなり余裕なのか、それとも退屈だったからなのか白露の表情は少し不服そうだ。そんな白露を労うため、夕立と春雨が近づき声をかける。

 

「白露お姉ちゃん、お疲れ様っぽい!」

 

「お疲れ様です姉さん!」

 

「…あいよ。にしても、手ごたえ無いやつばっかりだったな…骨のあるやつはいないのかよ…」

 

 戦艦を何隻も相手にしたにもかかわらず白露は無傷に近かった。白露の戦闘を目の当たりにした飛鷹はS級艦娘がどれほどのものなのか改めて実感した。

 

「さてと、警戒任務はここいらで最後だ。そろそろ帰投すっぞ」

 

 摩耶の掛け声で艦隊は鎮守府へ向け帰島する。白露はまだ満足していないのかもう少しこの海域をふらついていたいといったが燃料などの関係もあり断念した。戻る途中にでもはぐれ艦隊と接敵でもすれば、痛めつけようと思っていたのだが、そんなこともあるはずなく、鎮守府に着いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――執務室

 

「副提督、警戒任務終わったぞ」

 

「おう、お疲れさん。周辺はどうだった?」

 

「ほとんど白露が片付けた。一人で戦艦どもを沈めたよ」

 

「だろうな、あいつ本当に強いな!」

 

 摩耶の報告に仁は腹を抱えて笑った。以前の演習で戦艦を圧倒するほどの力を見せたのだ。こうなることは予想済みだったのだろう。しばらく笑った後に、仁は先ほど京から来たメールの内容を摩耶に伝える。

 

「そういえば、さっき京から連絡があってな。会議中に他の鎮守府から演習の申し込みが殺到したらしい」

 

「まじで!どうすんだよ、一気に来られても困るぞ」

 

「そこはみんなで話し合って決めるから、日程はまだ決まっていない。でも、舞鶴とは近日中に演習をしたいんだと…。全鎮守府からきたもんだから先が大変だぞこりゃ…」

 

 京からの連絡が入った時、仁は頭を抱えたらしい。来てから半年もたっていない、資材などに余裕がない。主力が決まっていない。こんな状態で演習を組んでも困ってしまうからだ。舞鶴とは近日中にすることになるが…。しかも、演習をすることになった経緯が白露が絡んでるのだから驚きを隠せない。そんな様子をよそに、摩耶は報告を終えたため帰ろうとしていた。

 

「さてと、報告が済んだからあたしはもう行くわ」

 

「あぁ、報告ご苦労さん。今日はゆっくり休んでくれ」

 

摩耶を見送った後、仁は背もたれに体重を預け大きく深呼吸する。まだ確認するべき書類があるからだ。とは言っても、判子を押すか、内容を確認してサインをするかだが。

 

「ふぅ、あとは報告書を確認して判子やらサインすれば終わりだな。そんで時雨が帰ってきたら今日はもうやることなしっと」

 

 時雨は現在、資材を確認するため工廠へと向かっている。警戒任務は一日に三回以上する。まだできたばっかりの鎮守府のため資材はまだ余裕がないのだ。そのため何回か確認する必要があり秘書艦がそれを行っている。仁が休んでいると執務室のドアが開き時雨と一緒に白露が入ってきた。

 

「副提督、今戻ったよ」

 

「おうお疲れさん。白露もな。今日も大活躍だったな」

 

「骨のあるやつがいなくて退屈だったよ…」

 

 白露は残念そうにソファーへ腰かけた。その様子を見ていた仁が、先ほど京から聞いたことを話してあげた。

 

「そういえば、さっき京から連絡入ってな。舞鶴鎮守府と演習をするらしいぞ。俺らがあちらにお邪魔するらしい」

 

「え!?そうなの。ここの警備はどうするのさ?」

 

「大本営の人達がこっち来て警備してくれるらしいぞ。もう手続きは済んでるそうだ」

 

 基本、演習では大本営の艦娘が来て警備するという決まりがあるらしく、通常一週間前に申請をする必要がある。大本営の艦娘は強者ぞろいのため安心して警備を任せられるとのことだ。前に須藤らが来た時も大本営に護衛を頼んでいたらしい。何人かは鎮守府に残してきたらしいが。白露は、その話に興味がわいたのかソファーから少し身を乗り出していた。

 

「なんで急に演習なんて…理由でもあるのか?」

 

「何でも、向こうの秘書艦から直々の頼みで、白露とタイマンで勝負がしたいんだってよ」

 

 その言葉に白露も時雨も驚きを隠せなかった。S級の白露とタイマンで相手をするなど自殺行為にも等しかったからだ。金剛達でも艦隊を組んで6対1でやってきたほどだ。タイマンでやりたいと頼むほどの者となると、白露と同じS級しかいないだろう。白露は立ち上がり、仁に近づく。気のせいか、少しだけ白露は笑っているような気がした。

 

「で、相手は強いわけ?」

 

「“天剣”と言われている軽巡洋艦だ。白露と同じS級だよ。序列は9位」

 

 白露はしばらく黙っていたがS級艦娘と聞いて気分が高揚しているのか拳を強く握っていた。同じS級と戦うのは、訓練生時代に雷とやって以来だったからだ。

 

「演習はいつやるのさ?早くやりたいよその軽巡と!」

 

「近日中だ。本当なら申請して1週間くらいはかかるらしいが、向こうで直接頼んだから、近日中には演習を行えるらしいぞ」

 

 その言葉を聞いて白露は興奮を抑えられないのか早々に執務室を後にして外へと出た。自分と同じS級。しかも向こうから直々にご指名を受けたのだ。白露は笑っていた、相手がどれ程強いのか想像するだけで興奮するから。こんな気持ちになったのは雷とやって以来だろうか。

 

「…そっかそっか…」

 

 そういいながら、白露は執務室を出る。握りこぶしを何度も握り、拳を鳴らしながら訓練場のほうへと向かう。部屋に戻ってじっとしていようか迷ったが、演習の話を聞くと楽しみで仕方なかった。

 

「早く演習が来ないかな…楽しみすぎるよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――訓練場

 

「ぽおおおおい!!」

 

 訓練場では、体力的にかなり余裕があったのか、夕立が射撃訓練を行っていた。付き添いで春雨も近くにおり、見学している様子だった。

 

「夕立姉さん。本当に元気ですね…(;^ω^)はい…」

 

「それはもう。さっきはほとんど白露お姉ちゃんが片付けちゃったからね。さすがに暴れたりなかったっぽい」

 

 そういいながら、海上に出た的を射抜いていく。3つ出た的のうち、2つは真ん中に命中したが、1つだけ角をかすった。

 

「今の今までで、命中率は6割5分といったところですか…はい。夕立姉さんもすごいです…」

 

「む~…でも、白露お姉ちゃんは8割超えてるし、時雨お姉ちゃんと村雨お姉ちゃんも7割近くだよ…」

 

「近接戦闘でも十分すごいじゃないですか!」

 

「…そう…かな。なら、今度は近接戦闘の訓練をするっぽい!どうやって演習をしようかな~!」

 

 艤装をしまい、近接戦闘の訓練を行うためにあたりを見渡す夕立。何をしようかと迷っていると、ちょうど白露がこちらに歩いてきているのが見えた。気のせいか少し笑っているように見える。

 

「白露お姉ちゃ~ん!夕立これから近接戦闘の訓練をしようと思ったっぽ~い!よかったら組手しよ~!」

 

 それを聞いた瞬間、白露は一気に夕立に近づき顔面目掛けて殴りかかる。しかし、夕立はそれを予測していたのか両手でそれを受け止めた。

 

「…ちょうどよかったわ。体を動かしたかったところだったんだ!」

 

「なんか、すごくうれしそうな顔をしているっぽい!何かいいことでもあったの?」

 

「近日中に舞鶴と演習をするんだってよ!提督会議で決まったらしいぞ!」

 

「演習⁉近日中に!本当に⁉それ聞いたら、夕立もやる気出たっぽい!思う存分に、訓練するっぽい!」

 

 猛スピードで、殴り合いをする二人。二人の様子を見ながら、春雨は少し困惑した様子だった。演習ということは、自分もでることになるのだろうかと。正直、春雨は戦闘が苦手なほうだったから。

 

「うわ~…やってるね。やっぱり夕立も演習って聞くとこうなるよね…」

 

「時雨姉さん。お疲れ様です…はい」

 

 白露の様子を見に来たのだろう。時雨がこちらに近づいてきていた。手にはタブレットを持っている。おそらく、今後のスケジュールでも確認しているのだろう。

 

「春雨、後であの二人にも伝えてほしいんだけど、舞鶴との演習三日後に決まったんだ。僕達が向こうに行くことになったよ。ここの護衛は、大本営の艦隊の人達がしてくれるって」

 

「わかりました…はい。提督と村雨お姉さんは、何時に戻られますか?」

 

「多分、夕方じゃないかな?ヘリで向かったし、かなり早いと思うけど」

 

「了解です」

 

「じゃあ、僕は戻るね。この話は、後で提督達から改めて聞かされると思うから」

 

 伝えることを伝え、時雨は執務室のほうへと戻っていく。白露と夕立は3時間以上ずっと組手をし、夕立のぼろ負けで終わってしまった。春雨から演習の日程を聞かされると、夕立は大はしゃぎだった。そして、京と村雨が戻り、夕食時になった際に改めて、三日後に演習をすることになったことを伝えられた。

 

 




次回は、舞鶴鎮守府との演習です!
また癖のある新キャラが出てきます!


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13話 舞鶴演習

はい、13話です!
舞鶴との演習です!
楽しんでいただければ幸いです。

※2023年2月20日 内容を少し書き換えて、タイトルも変えました


 あれから三日後、舞鶴鎮守府に演習に来た柱島鎮守府のメンバー。埠頭に着くとそれぞれが挨拶を行う。隣には矢矧の姿もあった。

 

「本日はよろしくお願いします。宮本中佐」

 

「よろしくお願いします。鳴海少佐。矢矧の我儘を聞いてくれてありがとう」

 

「鳴海提督。私の我儘を聞いてくれて本当に感謝してます。それと、艦隊のメンバーとの演習も引き受けてくれてありがとうございます」

 

「とんでもありません。私達も貴重な経験をいただいてとても感謝しております。本日はよろしくお願いします」

 

 挨拶を済ませ、演習場所に向かう一同。白露は矢矧の元へと近づく。矢矧も白露に気づきこちらに歩いてきた。

 

「あんたが矢矧?」

 

「えぇ。阿賀野型軽巡3番艦。“天剣”の異名を持っているわ。序列は9位。今日はよろしくね。白露」

 

「あぁ、勝負が楽しみだ!」

 

 矢矧の差し出した手に、白露は応じ握手をする。そして、演習を観戦するためにテントの方に向かっていく。それぞれ出撃するメンバーは、舞鶴が旗艦を能代に阿賀野、酒匂、島風、天津風、雪風。柱島は旗艦を摩耶に長良、羽黒、時雨、村雨、春雨の6名だ。近くには夕立がいるのだが、演習のメンバーに名を連ねていなかったからか、頬を膨らませている。

 

「うぅ、暇っぽい。出撃したい…」

 

「今は我慢。提督がいろんな編成でやってみたいっていうんだから。次の演習で出撃できるから、今は我慢する」

 

 どうやらかなり拗ねているらしくご機嫌斜めだ。村雨があやしているがしばらく機嫌は直りそうもない。舞鶴鎮守府のメンバーはもう沖に出ているため村雨は第一艦隊とともに沖へと出た。夕立は「行ってらっしゃ~い」といい手を振っている。その様子を見かね、白露は夕立に近づき慰める。しかし、文句ばっかり言っていた。

 

「夕立…早く戦いたいっぽい」

 

「元気出せ。次やるんだろ?それまで待ってろよ」

 

「暇っぽい…」

 

「我慢しろ」

 

「……白露お姉ちゃん。演習まで組手してほしいっぽい」

 

「嫌だよ。私だって演習があるんだぞ…私だって我慢してるんだ。だからあんたも我慢しろ」

 

「い~や~だ~!!体動かしたいっぽい~~!夕立と組手してよ~~~!!!」

 

 夕立は白露に抱き着き、泣きながら懇願した。無理やり引きはがそうとしても、力強く抱き着いているためなかなか引きはがせない。それを見かねて、やむなく組手をすることにした。やるって言った瞬間に、夕立は飛びながら喜んでいた。

 

「相変わらず押しに弱いわね白露」

 

「…雷」

 

 夕立とやり取りをしていると、後ろから雷が話しかけてきた。後ろには第6駆逐隊の暁、響、電がいる。訓練校以来だから一か月ぶりだ。

 

「…本当にここに所属してたとはね」

 

「あら、意外かしら?」

 

「あんたのことだから自分が家事とかで活躍できそうなところに行くかと思ったよ」

 

 雷は訓練校にいたときから世話好きで有名だった。掃除に洗濯、料理など自分で手伝えることはなんでもした。勉強に困っている人にも積極的に教えてたし、職員達にも何か手伝えることがないか、それこそ職員達でさえ頭を抱えるほど訪ねて回っていたほどだ。白露の質問に、後ろにいた暁と電が答えた。

 

「それがね…ここの鎮守府、他と比べて料理できる人とか意外と少ないみたいなの」

 

「だから雷ちゃんはここを選んだのです。他の鎮守府は家事ができる人が多いみたいなので…」

 

 舞鶴の調理場は、万年人手不足らしい。ここに所属している艦娘達も手伝っているようなのだが、戦力になっているかと言われると何とも言えない。例えば、阿賀野はだらしないし、能代はカレーばかり作るし、矢矧は料理しようとすると日本刀を持ち出すし、酒匂は料理自体苦手だし……などなどな理由で雷がここに来たらしい。雷が来たことによりここの調理場事情は軽減したらしい。

 

「最初ここ来た時びっくりしたわよ。料理する人少なさすぎるんだもん」

 

「調理場に2.3人しかいなかったもんね。それはびっくりするさ」

 

 雷と響がそれぞれ話す。後ろで聞いていた暁と電も首を縦に振り同意していた。話を聞く限りここの鎮守府は相当苦労したらしい。柱島は料理人が多いし、副提督の仁も料理ができるほどだ。一体ここの調理場はどんな環境なのだろう…と少し考えてしまった。

 

「白露お姉ちゃん、そろそろ組手して!」

 

「わかったわかった。そういえば雷。あんたは演習に出るのか?」

 

「私は観戦だけ。メインは矢矧さんとあなたみたいなものだし」

 

「…またあんたとやりたいな」

 

「また機会があればやりましょう。じゃあ、後でね」

 

「あぁ、また後でな」

 

 雷はそのまま演習を観戦しに、白露と夕立は組手をするため広場のほうへと向かった。

 

 

 

 

 

―――沖合

 

「さてと!久しぶりの演習だからみんな怪我しないようにね!」

 

 沖合に出ていた舞鶴鎮守府のメンバーは合図が鳴るまで準備運動を行っていた。特に旗艦の能代は一番気合が入っているのかかなり入念に行っている。そんな能代を心配しているのか、阿賀野が声をかける。

 

「能代も無理しないでね、久しぶりの旗艦だから張り切ってるんでしょ?」

 

「出撃するときは矢矧ちゃんが旗艦すること多いからね、酒匂も一緒に出撃したいのになかなかさせてくれないし…」

 

 出撃するときは基本矢矧が旗艦をすることが多い。能代が旗艦を務めるのは大半が演習の時だ。酒匂も基本演習しか出してもらえず出撃することはほとんどない。まぁ、白露達と同期ということもあるためというのもあるかもしれないが。

 

「酒匂に至ってはまだ経験不足だからね…提督も矢矧もまだ心配なんだよ。だから演習してあの二人を見返してやるくらい強くなろう!!」

 

「阿賀野お姉ちゃん…わかった!頑張る!!」

 

 阿賀野の言葉に酒匂は笑顔を見せる。その光景を見ていた能代はほっこりする。こういう時はちゃんとお姉ちゃんとして振舞うのに、部屋にいるときなどは寝ている時が多いし、何に対しても少しだらしない。一部からだらし姉と揶揄されることもあるくらいだ。一方駆逐艦勢は。

 

「早く演習始まらないかな…おっそ~~い!」

 

「ほらほら、島風落ち着きなさいって。もうすぐ始まるから…」

 

「島風さんは相変わらず元気ですね!雪風も頑張ります!」

 

(うん…こっちもいつも通りね)

 

 島風は、演習が始まらないためか遅いといって駄々をこねていたり、それを天津風が落ち着くように話しているし、雪風は無邪気な様子で気合を入れている様子だった。その様子を見て、能代は目を細めてほっこりしている様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、あたしらもさっさと準備するか!」

 

 摩耶達も話し合いを行っていた。火力のほうではこちらが有利。機動力は舞鶴のほうが上といったところだろう。何せ、日本最速と言われている艦娘、島風がいるのだから。島風のみではなく、自立型の連装砲が3体もいるのだ。厄介さだけなら一番かもしれない。

 

「みんな、手筈通りにな!あたしと羽黒、村雨と春雨は相手の出方を見つつ砲雷撃を開始。時雨と長良は相手に突っ込んでかく乱してやれ!」

 

『了解』

 

「あ、そうそう。雪風にも気をつけろよ」

 

「雪風?そんなに強いの?」

 

「ん~…強いってのもあるけど…いろんな噂があるんだ。えっと確か…なんだっけ?」

 

「なんでも、史実の影響があるのか運がすごくいいみたいですね。砲雷撃もほとんど外したことがないって聞いたことがありますけど…」

 

 時雨の問いに対して、摩耶の代わりに羽黒が答える。雪風は、史実では被弾したことがほとんどないと言われていたり、戦場から必ず帰ってきたと聞いたことがある。いったいどれほどの実力があるのか。戦ってみないとわからなかった。あれこれ考えていると、向こうも準備が整ったようで宮本から開始の合図があった。

 

『それでは、どちらかの旗艦が大破、もしくは全滅したら即終了です。演習はじめ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くわよみんな!」

 

『了解!』

 

 開始の合図とともに能代達は単継陣で走行する。機動力を活かし早急に勝負をつけるつもりだ。

 

「阿賀野姉、水偵を飛ばして!早急に見つけて対処するわ。武闘派の長良もいるからね。こっちに突っ込んでくるかも!」

 

「了解!たまにはお姉ちゃんらしいところ見せないとね!」

 

 阿賀野は、すぐに水偵を飛ばす。しばらくすると、水偵から打電が入る。どうやら相手を見つけたようだ。

 

「水偵から打電。時雨ちゃんと長良がこっちに近づいてきてるわね」

 

「…やっぱりそう来るか…時雨までいるとは思わなかったけど…さすがあの白露の妹ってところなのかしら…?」

 

 阿賀野の報告に、呆れ半分にこたえる能代。普通なら相手に近づくだけでも自殺行為だというのに。だが、長良は佐伯湾にいた時から砲雷撃戦はもちろん接近戦は得意だった。S級を除いたら、実力はかなり上のほうだ。情報では、時雨も基本スペックは高く、訓練生の時からかなり優秀だった。正直油断はできない。

 

「すぐにあの二人を迎撃。そのあとに、相手の主力を…⁉」

 

 直後、砲撃が能代目掛けて飛んでくる。すんでのところで何とかかわすが反応が遅れれば中破は免れなかった。おそらく、摩耶達の遠距離砲撃だろう。砲撃音が近くから聞こえなかったから。その隙に、長良と時雨は砲撃が届く範囲まで来ていた。

 

「いつの間に…本当…遠距離砲撃も優秀なんだから…」

 

「おう!あの二人もうこっちに近づいてきてる!面白そう!私もやろう!」

 

「ちょっと島風⁉待ちなさいよ!」

 

 そう言って、島風は先行する。天津風も島風を追い先行してしまう。急な出来事であったため能代は一瞬固まってしまう。気づいたときには、二人とはかなり距離が開いてしまった。

 

「二人とも!あぁもう仕方ない!雪風、あれやって!」

 

「はい!了解です!」

 

 そう言って、雪風は糸で括り付けたさいころを取り出す。それを持参した茶碗の中に入れ回す。数字は6の目を出していた。

 

「数字は6。幸運の女神のキスを感じます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、あの子の速さは尋常じゃない速さだよ!」

 

 先行してきた島風と対峙している時雨は、砲撃を当てようとするが動きが速すぎるため中々当てることができずにいた。おまけに、3体自立型の連装砲がいる。実質4対1で戦っているようなものだ。長良は別方向から能代達に迫っている。摩耶達も遠距離砲撃に集中しているため、一人で対処するしかない。

 

「ふっふ~ん、あなたって遅いのね!」

 

「君が早すぎるんだ!」

 

 島風の連装砲からの砲撃を何とかかわしつつ砲撃を行う時雨。だが次の瞬間、砲撃が時雨の艤装に命中し中破判定を受けてしまった。連装砲からの砲撃はすべて避けたはずだった。島風は見たところ砲塔は持っていない。

 

(え⁉今、何が⁉)

 

 後方を見る時雨。目を凝らしてみると、そこには連装砲を構えている天津風の姿があった。距離はおそらく300~400m以上といったところだ。よほど腕がよくない限り、1発目から当てることは難しいはずだ。

 

(結構距離が離れているはずなのに砲撃が命中するの!?しかも、一発目から!ただの偶然?それにしては弾着が正確だし何か別の理由が…)

 

 試行錯誤しているうちに無線から悲鳴が飛び交う。先行していた長良、そして遠方から援護射撃を行っていた摩耶達からだった。

 

「みんな!?いったいどうしたの」

 

『ついさっき、砲撃が私に命中しちゃって…大破判定を受けちゃった…』

 

『私も村雨と同じ状況。雷撃が直撃して大破判定だよ…』

 

『あたしらは砲撃食らって小破だ。向こうはスナイパーでもいるのか?』

 

「え!?みんな砲撃や雷撃を食らったの?」

 

『あぁ、しかも全員一発目からだぜ。かなりの命中率だよ』

 

 全員の話を聞き、時雨はある仮説を立てた。向こうにはかつて幸運艦といわれた雪風がいる。もしも、雪風が関係しており、異能を持っていたとすれば、この状況にも納得がいくからだ。

 

「まさか雪風が!?」

 

「おぅ!正解だよ~。雪風は異能艦なんだ~!でも呑気に考えごとしていていいの?」

 

 直後、時雨の背後に島風が回り込み抑えこむ。そのすきに連装砲が時雨目掛け砲撃を浴びせ時雨は大破判定になり先行していた3人は離脱。その後、遠距離射撃を行っていた摩耶達も大破判定を受け柱島鎮守府のメンバーは大敗した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だあああああくそおおお!負けた~…」

 

「う~…まさか一発目で大破になるなんて思わなかったですね」

 

 摩耶と羽黒が話しながら埠頭に戻っていく。それに続いて、村雨、春雨、長良が話をしながら戻っていた。時雨は、海面に座ったままその様子を眺めている。舞鶴のメンバー達も埠頭に戻っていたが、雪風がこちらに近づいてくる。そして、手を差し伸べてきた。

 

「ありがとう」

 

「いえいえ!あ、自己紹介がまだでしたよね。雪風って言います!あなたは時雨ですよね、噂は聞いていますよ!訓練生時代の時から、改二の状態だったって!」

 

「うん。どういう訳かわからないけど、夕立も僕も改二の状態だったんだ。普通なら、艤装の練度を上げないとならないはずなのに…」

 

「いいな~…雪風も早く改二になりたいな~…」

 

「もう!二人とも遅いよ~!早く埠頭に戻って休もうよ~!20分後にメンバーを入れ替えてまた演習だよ~!」

 

 話していると、島風が二人をせかしてくる。確かに、20分の休憩後に、メンバーを入れ替えて演習を行うことになっている。中には、連続で演習を行わなければならないものもいるのだ。

 

「は~い!今戻りますね~!」

 

「あ、そうだ雪風。君の異能力って…」

 

「はい!休憩の時に話しますね!」

 

 二人は、そのまま埠頭に戻り休憩をとることにした。そして、休憩中に先ほどの出来事について話をすることにした。

 

 



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14話 第2戦

※2023年3月13日 内容を少し変え、タイトルも変えました。


「は~…負けたなちきしょ~…」

 

「摩耶…そんなに落ち込まなくても(;^ω^)」

 

 埠頭に座り、先ほどの演習が悔しいのか摩耶が拗ねている。それを隣で鳥海が慰めているが、数十分この状態だ。

 

「大体よ~。雪風の奴、あれ異能だよな?あんな異能持ってたのかよあいつ…」

 

「確かに…今までの演習では、見せていなかったからね」

 

「能代曰く、島風が先行しちまったから、やむを得ず使ってもらった…だってさ。あんなんチートだろ…」

 

 摩耶は、数メートル先にいる雪風を見る。雪風も埠頭の端に座っている。周りには時雨と村雨、天津風がいる。雪風の手にはお椀とさいころを持っている。どうやら能力の説明をしているようだ。摩耶達の様子を横目に、雪風は時雨達に能力の説明を行っているようだった。

 

「つまり、このさいころを使って私が艦隊の皆さんの運を上げていたんですよ!それで皆さんの砲雷撃が100%当たるようにしたっていうわけです」

 

「なるほど、それであの距離から当たったわけか。合点がいったよ」

 

 雪風は異能艦であり能力は艦隊の運を上げる幸運(フォーチュン)ダイス。さいころの出目で砲雷撃の命中率の上昇、敵からの砲雷撃の命中率を下げることができる。宮本の指揮と雪風の能力を組み合わせれば小破どころかかすり傷を付けずに戦闘に勝つことができるのだとか。

 

「さいころの出目の効果は、6の目が砲雷撃100%命中。3だったら、攻撃は半分の確率で当たらない。1なら100%当たらないって感じです」

 

「その能力チート過ぎない?100%勝てるんじゃ?」

 

「それがそうもいかなくて…一日に3回かしか使えないんですよこの能力」

 

「そうなの?」

 

「事実よ。使うほど雪風の運がなくなっていっちゃうみたいで」

 

「確かに、能力が無限に使えるっていうのはさすがにないか…」

 

「はい…ですがこの能力を使えば演習では100%勝てます!」

 

「せ…せめて演習では使わないでほしいよ…」

 

「そ…そうね…激しく同意よ…」

 

 雪風の異能を聞き、驚愕する時雨と村雨。1日3回という制限があるものの、さいころの出目次第で戦局が覆る。それほどの能力なんだから。

 

「雪風といえば、史実では不沈艦、強運艦って呼ばれたみたいだけど、やっぱりその能力もその史実に関係しているのかな?」

 

「…さぁ、雪風もさっぱりですよ…でも、そうですね。出撃ではとても助かっています!ね、天津風!」

 

「えぇ、とても助かってる。雷も着任したし、雪風が能力を使うことも少なくなったし!」

 

 雪風達と盛り上がっていると京と宮本が時雨達に近づいてきた。誰かを探しているようで少し慌て気味だ。

 

「すみません、夕立さんをみませんでしたか?次の演習のメンバーなのですが…」

 

「夕立?あぁ、さっきすごく拗ねてたからね…もしかしたら白露と組手をしているのかも。そろそろ戻ってくるんじゃないかな」

 

「確かにすごく拗ねてたわね…白露姉さんと組手して、テンション上がっているんじゃないかしら?」

 

「お~い!」

 

『あぁ、噂をすれば…(;^ω^)』

 

 話をしていると遠くから夕立と白露が埠頭へ向かってきていた。夕立は手を振り白露はあくびをしながら歩いていた。夕立を見ると、かなりキラキラしているようだった。3重キラでもしているのではないかと思うほど…。

 

「ただいまっぽい!」

 

「ただいま…」

 

「夕立さん、探しましたよ…次の演習がありますので、準備をしてくださいね」

 

「わかったっぽい!夕立、すぐに準備をするっぽい!」

 

「あ、演習は10分後ですからね!」

 

「了解っぽ~い!」

 

 そういって夕立は、艤装を装備するためか工廠のほうへと向かう。白露もあくびをしながら日陰のほうへと向かう。どうやら一休みするらしい。移動するときに「私の番来たら呼んで」と言っていたから。二人の様子を見て、村雨は少し肩を落とした。

 

「まったく、夕立ったら…」

 

「まぁ、夕立さんが見つかってよかったです。時雨さんは連戦ですが、よろしくお願いします」

 

「了解!僕も行くかな」

 

 時雨も準備をするために工廠のほうへと向かう。それを見送り、京は次の演習に出るメンバーを確認した。メンバーは、旗艦を鳥海、長良、時雨、夕立、飛鷹、隼鷹の6人。舞鶴は旗艦能代、阿賀野、暁、響、電、天津風の6人だ。飛鷹と隼鷹がいるから、制空権は取れるが、能代と阿賀野、天津風は舞鶴の古株だ。油断はできない。しかし、先ほどの夕立の様子を思い浮かべる。あの3重キラでもしたような様子を…。

 

「あ~…村雨さん…」

 

「なんでしょう提督?」

 

「先ほどの夕立さんの様子を見る限り……楽勝な気がしてしまうのは気のせいでしょうか?」

 

「……確かに…確かに楽勝な気がしてきました」

 

「ま…まぁ、演習の様子を見てみましょうか…」

 

 そして、数分後、二人の思ったことは現実になることになる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………んで、連戦になったわけだけどね阿賀野姉…」

 

「ん?なぁに、能代?」

 

「な…なんか、向こうの夕立ちゃん、すごくキラキラしてるんだけど(;’∀’)何なら、あの子一人で私達を倒しそうな勢いなんだけど(;゚Д゚)」

 

「……う~~~~~~~ん……………………下手したら負けるね」

 

「や……やっぱり」

 

 現在、能代と阿賀野は夕立の様子を見て絶句している。事前情報では、夕立はかなりの実力を持っている。何せ、単騎でも深海棲艦を数体撃退できるほどだと聞いている。その夕立がとてつもなくキラキラしているのだ。

 

「…ハラショー。夕立はさすがだね…これは負けたね」

 

「ひ…響~!そんなことじゃダメじゃない!やる前から諦めたらどうするのよ!レディーとしてどうなの!」

 

「暁…夕立の実力は知っているじゃないか…今期の中では白露、雷を除いたらトップクラスだよ…」

 

「…………」

 

「あ…暁ちゃん!後ろに下がらないでほしいのです!」

 

 暁は、訓練生時代のことを知っているからか、ゆっくりではあるが後ろに下がろうとしている。それを電が必死に止めている。天津風は、その様子を見て少し困惑している様子だ。さらに、能代と阿賀野はその様子を見てさらに、顔を引きつってしまっている。

 

「…えっと、響。一つ聞いていい?」

 

「なんだい、能代さん?」

 

「その、白露と雷を除いて、夕立ちゃんの実力はトップレベルって言ったけど、具体的に実力はどれくらい?ついでに、霊力も教えてくれたら…」

 

「あの二人を除いたら、夕立は訓練生トップの2万4千。次に、時雨の2万2千」

 

「うわ~…ちょっと待ってよ…私と同等…時雨ちゃんで阿賀野姉より5000も上じゃない…負けたわね!」

 

『潔い(;゚Д゚)』

 

 清々しいほどの笑顔に、一同は驚愕する。こんなに清々しい笑顔の能代は初めて見たからだ。しかし、能代は深呼吸をした後に、気を引き締めた表情で話した。

 

「でも、やるだけやるわ!みんなやるわよ!ただじゃやられない。一矢報いるわよ!」

 

 能代が決意を固めたと同時に、演習の合図がなる。それと同時に、能代達は船速を早める。まず警戒すべきなのは、飛鷹と隼鷹の先制攻撃だからだ。制空権も取られる以上、まずはそれを対処しなければならない。

 

「能代、9時の方向から艦載機が近づいてるわ!」

 

「さっそく来たわね!総員、対空射撃用意!」

 

 能代の指示で、全員が対空射撃を行う。早めに対処をしたこともあるのか、全員が被弾をすることはほとんどなかった。艦爆・艦攻を難なくよけ、次の行動に移ろうとする。

 

「ぽ~い!」

 

「…ん(・・?)」

 

 しかし、次の行動に移ろうとしたときに、前方から夕立の声がする。首をかしげながら、能代は視線を向けると、目視できる距離に夕立が近づいてきているのが見えた。能代は頭を抱える。先ほどと同じように、また相手が突っ込んできたからだ。しかも今度は一人。

 

「またなのもう…今度は夕立ちゃん一人!まずは、夕立ちゃんを大破判定にするわ!」

 

 そして、砲を打つが、能代達の動きに気付いたのか、夕立は縦横無尽に駆け回りこちらに近づいてきた。しかも、一発一発をすべて避けきっている。

 

「早いわね!まったく攻撃が当たらない!」

 

「なんなのよもう!本当にあの子一人で私達をやるつもりなの⁉」

 

「ぽおおおおおおおおい!」

 

「え⁉ちょ⁉まっ!」

 

『うわあああああああああああああ(;゚Д゚)』

 

 そして、突撃してきた夕立になすすべもなく砲撃雷撃を当てられていく。旗艦の能代から順に大破になっていき、ものの数分で柱島が勝利した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆ…夕立ちゃん一人に完膚なきまでに叩きのめされるなんて…」

 

「…ここまでやられるとは思わなかったわね…」

 

「ハラショー。さすが夕立だね。あんな動きをされたら、こっちもすごくやりにくい」

 

「響…あなた本当に冷静ね(;^ω^)」

 

 埠頭についてから、能代達は夕立一人に負けてしまったことに少し凹み気味だが、響はかなり冷静だった。夕立に負けなれているのか、違う理由があるのかはわからないが。

 

「能代姉、盛大にやられたわね」

 

「あら矢矧。もう準備万端?」

 

 前方を見ると、矢矧が刀を持って近づいてきていた。アップでもしていたのか額には少し汗が滲んでいる。

 

「えぇ、準備万端よ!向こうも同じみたいね」

 

 矢矧は、柱島のメンバーがいる方向に視線を向ける。見ると、白露が艤装を装備した状態で立っており、いつでも海に出られる状態だった。白露もかなり動いていたのか、タオルで顔を拭いていた。そして、勢いよく海に出て沖合へと向かっていく。

 

「…さてと、私も行ってくるわ!どれほどの実力なのか見せてもらうわよ!」

 

「頑張ってね矢矧!」

 

「応援してるね~」

 

 能代と阿賀野に見送られ、矢矧も勢いよく海にでて白露のいる沖合へと向かっていった。

 

 




次は白露と矢矧の戦いです!

※雪風の異能はとある漫画をもとにしています。


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15話 S級対決

矢矧と白露の演習になります!
矢矧は個人的に推しキャラです!


「さてと、やっと私達の出番ね。アップは済ましたかしら?」

 

「当たり前。この時を楽しみにしてたんだから!」

 

 とうとう矢矧と白露のS級対決がきた。この戦いを見るために舞鶴鎮守府に所属している艦娘、憲兵、整備士などが観戦に来ていた。

 

「うわすごいギャラリーが集まっちゃったわね…」

 

「仕事をそっちのけで見たくなりますよ。S級同士の戦いなんですから」

 

 観戦する舞鶴鎮守府や柱島鎮守府の面々は両者を応援し盛り上がっている。盛り上がっている中、白露は矢矧に疑問を持つ。矢矧は艤装を装備していない。装備しているのは刀のみだ。

 

「あのさ、なんで艤装を装備していないわけ?」

 

「あぁ、艤装は見えにくいくらい小さくなっているだけ。それに、この刀は特殊艤装よ。この刀を持っているだけで海に立てるくらいだからね」

 

 確かに、矢矧は刀のみで深海棲艦を沈めることができるくらいだし正直艤装なしでもやっていけるだろう。そんな中始まりを告げるアナウンスが響き渡る。

 

「それでは、双方準備良いですね。演習開始!」

 

 開始の合図とともに白露は砲弾を矢矧に向け発射する。しかし、矢矧はよけることなくその砲弾を持っていた刀で真っ二つに切ってみせた。

 

「!?」

 

 白露は構わず砲弾を発射する。しかし、何度打っても矢矧はそれをことごとく切り落とすのだった。その様子を見た村雨と京は驚愕した。

 

「すごい!砲弾を全部切ってる!」

 

「さすが天剣の異名は伊達じゃないですね…」

 

 砲撃が無理だと察した白露は今度は接近戦を試みる。一瞬で距離を詰めると矢矧に殴りかかるが矢矧は艤装をすぐに展開させ白露めがけて砲撃を放つ。白露はそれをぎりぎりでかわし今度は蹴りを放とうとするが矢矧は刀を白露めがけて振り下ろす。

 

「っ!?くそ!」

 

 白露は体を捻らせかわし一旦矢矧から距離をとる。一瞬の出来事だったが観戦していたギャラリーは一気に盛り上がる。

 

「すご~~い!はっや~~い!!私もあんな風に動きたい~~~~°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°」

 

「島風はしゃぎすぎよ…」

 

 特に速さにこだわりを持つ島風は一番はしゃぎ飛び回っていた。天津風はそんな島風を何とか押さえつける。そんな中、同じS級である雷は戦いを真剣に見つめていた。

 

(両者互角っていったところね。この戦いきっと長期戦になるわね。制限時間内に終わるかしら…でも、やっぱり矢矧さんはあれ(・・)を使わないのね。まぁここじゃ当然か…)

 

 雷は、冷静に状況を分析していた。白露はおそらく全力でやっている。霊力を使って身体能力を強化しているだろう。しかし、矢矧はおそらくまだ余裕がある。霊力はおそらく開放していない。おそらくこの戦いでは、矢矧は霊力を解放することはないだろう。

 

 一方、白露は矢矧の戦闘に度肝を抜かれていた。艤装を展開していないにも関わらず一瞬で行える砲撃。さらに、遠距離で砲撃をしても刀で斬られる始末。接近しても攻撃を行う暇すらないのだから。

 

「素晴らしい反応速度ね!あなたの提督に無理言って頼んだ甲斐があったわ」

 

「あんたも早すぎだよ。だいたい、砲撃を斬るなんて聞いたことないわ…」

 

「経験よ経験。ずっとやってればなれるわ」

 

「そうですか!」

 

 バンッっと轟音が鳴り響き水しぶきが舞う。さっきよりも速いスピードで白露は矢矧に詰め寄る。しかし、矢矧は前方目掛けて刀を横に振る。前方から来ることを読んでいた矢矧だったが白露は真上へ飛びその攻撃をかわし蹴りを入れる。それを矢矧は一瞬で艤装を展開し白露に砲撃をくらわし中破判定を出す。しかし、轟音と共に矢矧に水柱が立ち中破判定を受ける。何があったかわからなかった矢矧だったがすぐに状況を理解する。

 

(まさか、距離を詰める途中で雷撃を打つとはね。これは予想外だったわ…)

 

 しかし、お互い中破。限りなく大破に近いので一発でも砲撃を食らえば大破判定になる。

 

「ねぇ、矢矧さん。もうお互い一発でも食らえば大破になるからさ~、接近戦でかたを付けない?」

 

 矢矧はしばらく考えた。お互いに中破、しかも一発でも食らえば大破になってしまう。砲雷撃戦をしてもケリがつかない。そうなればやはり接近戦でかたをつけるのがいいだろう。

 

「いいわ。その案乗ってあげる」

 

 にやっと白露は笑みを浮かべゆっくりと矢矧に近づき矢矧もまた白露に近づいていく。お互いの距離が手を伸ばせば届く距離まで来たとき白露が仕掛け拳を矢矧の顔面目掛けて殴ろうとする。しかし、それを読んでいたかのように矢矧はよけ刀を横に振る。白露は体を後ろにそらせ斬撃をよける。よけては殴り、よけては斬るを繰り返す両者。刻一刻と時間が経ちそして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまで、両者中破によりこの勝負引き分けにする!」

 

 このアナウンスが響き渡った直後、埠頭から歓声が上がる。それほどまでにこの勝負に見ごたえがあったのだろう。各々が感嘆の声を上げる中、雷は埠頭にいる全員に声をかけた。

 

「さぁ、今日は大いに飲んで大いに食べましょう!料理できるものは至急食堂へ直行よ~~~」

 

 その言葉とともに鎮守府に掛け声が飛び交い食堂へ直行するものがいた。あ、これいつもの流れじゃないかと心の中で白露は思っていた。そんな中、矢矧は白露の気持ちを察してか声をかける。

 

「ごめんなさい、うちの鎮守府、演習が終わるとだいたいこうなのよ…演習の際は必ずギャラリーが来るし…」

 

「普通、大規模作戦終わったらするんじゃないの、この祭り騒ぎ…」

 

「うちではこれが普通よ…あきらめて」

 

 その後、お祭り騒ぎになった舞鶴鎮守府の面々に白露が質問攻めされたという…。

 

 




2話連続投降です!
次回は、柱島に戻った後の白露達の話を書きます!


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16話 柱島帰島

お待たせしました。16話です!
ここから物語が動き出してきます。
白露「具体的にどんな?」
それは見てからのお楽しみです!
白露「あ…あぁ…」


 舞鶴鎮守府の演習の次の日、演習に出向いた面々は柱島鎮守府の埠頭まで来ていた。そこには大本営からきた艦隊がそろっておりその中の旗艦と思われる人物が京に挨拶をした。

 

「演習ご苦労でした。大和型2番艦武蔵、護衛任務無事完了しました」

 

 武蔵と名乗った艦娘は敬礼とともに京や艦隊のメンバーに挨拶をする。京もすかさず敬礼をし武蔵や大本営の艦隊に挨拶をする。

 

「鎮守府の護衛ご苦労様であります。柱島鎮守府の提督の鳴海京といいます」

 

 お互いに挨拶を済ませると武蔵は先ほどまでと打って変わってラフに話してきた。

 

「堅苦しいのはここまでにしよう。私は堅苦しいのは苦手でな」

 

 どうやら堅苦しいのは苦手らしくすぐにため口調になった。そんな中武蔵の後ろにいる青い髪をした少女が武蔵に話しかけてきた。

 

「武蔵さん、この後うちらはどうするんじゃ?」

 

「あぁ浦風、今日一日滞在してその後大本営に戻ることになってるぞ」

 

 浦風と呼ばれた少女は若干不満そうな顔を見せた。よほど大本営に帰りたいようだ。まぁ慣れていないところだから無理もないだろう。そんな中、荷物や艤装をもって白露たちが埠頭に出てきた。

 

「あれ、浦風じゃん!?あんたこんなとこで何してんの?」

 

「白露!?久しぶりじゃね!本当にここに配属してたんか!」

 

 白露と浦風は訓練生時代お互いに気が合い、よく話していることが多かった。ただ、特殊な理由があったため周囲はこの二人が一緒にいるときはなるべくかかわらないようにしようと決めていたほどだったらしい。特に人間は…

 

「あっれ~、白露じゃん久しぶりだね!他の皆は?」

 

「おう谷風、他の皆もすぐ出てくるから安心しな」

 

 谷風と呼ばれたおかっぱ頭の少女は浦風に抱き着きながら話しかけてきた。谷風は白露達と同期でかなり活発な性格をしている。ただ勉強は相当苦手だったためよく時雨達に頼んで勉強を教えてもらっていたそうだ。話しているうちに乗ってきた船から柱島の艦隊メンバーが次々と埠頭に集まり大本営からきた艦隊のメンバーと話に花を咲かせていた。

 

「谷風!それに浦風も!久しぶりだね二人とも!」

 

「二人とも久しぶり!」

 

「お~~!時雨と村雨も久しぶり!!」

 

 到着早々みんな盛り上がり柱島の面々が荷物を置きに行ったのは30分後だったらしい…。

 

 

 

 

 

食堂にて―――

 

「はぁやっと帰ってきたって感じ…」

 

「お疲れさん、にしても白露はほんま有名人じゃな!大本営でもかなり話題になっとるよ」

 

「意識したことないけど、そんな有名なのあたし?」

 

「そりゃもう駆逐艦の中でもトップクラスの戦果、艦娘全体でも10番以内だったら有名にもなる。どういう鍛え方すればそんなになるんじゃ?」

 

 大本営にはそれぞれの鎮守府の戦果などが報告されるのだがその中に艦隊個人の戦果が書かれることがある。駆逐級や戦艦級、flagshipやeliteなど何隻轟沈させたのかなどが報告されるらしいのだ。

 

「一体誰から聞いたその話?」

 

「司令部にいる浜風からだよ!報告書見て2度見したらしいよ…」

 

 浦風の隣に座りながら谷風が話をしてきた。この話に興味がわいたのか時雨や摩耶、そして大本営の天龍などといった面子が近くの席に座ってきた。

 

「へぇ~興味あるな!ちなみに白露は一体どれくらい敵を轟沈させてきたんだ?」

 

「確か、訓練生時代含めて軽く6000以上いっとるで」

 

「「!?」」

 

「じゃあ、こっち配属されてからどんくらい轟沈させてんの?」

 

「大体2500ってとこかな。一日に何体轟沈させたらこんな数になるのさ…?」

 

 柱島に配属されてから早1か月以上が過ぎている。だいたい45日だと仮定すると一日に55.5体轟沈させている計算になるのだ。

 

「そりゃあの無双っぷり発揮されればそんな数になるわな。艦隊組まないで単艦で出撃することもあるもんなお前!」

 

「「え!?」」

 

「いいのかよそれ!?最低でも4隻はいないとダメなんじゃ…?」

 

「それが、うちの提督白露となんか条件みたいなの約束したみたいでその特権みたいな?」

 

「いやS級艦娘なら誰でも持ってる特権じゃ。なんせ一人でflagship級相手にできる戦力じゃけぇ、問題ないじゃろ?」

 

 S級艦娘は単艦で出撃するのを許可されているため自分の判断で何回でも出撃できるらしい。現にその特権を利用して何人かの艦娘は鎮守府に属していないのだとか…。ただし、週に何回かは必ずどこかの鎮守府に赴き演習や出撃を行っているらしい。ここ数年で、新しくできたルールらしいが。

 

「あ!そうだ白露の戦闘ビデオにとってるんだった!こいつらに見せていいか白露?」

 

「別に構わないけど…」

 

「そうと決まれば善は急げだ!どこで見る摩耶!?」

 

「おっしあたしの部屋に集合だついてこい!!」

 

 そう言って摩耶と天龍は走り出し興味があるのか谷風と浦風も席を立ち摩耶達についていくのだった。

 

「よかったの白露?」

 

「別に私の戦闘見ても何も影響ないから大丈夫でしょ…それにやっと静かになったんだから少し休憩させてよ」

 

 摩耶達がいなくなった後、白露はため息を吐きながら台所にある冷蔵庫へ向かった。冷蔵庫からお茶を取り出しコップに注ぐ。少しずつ飲みながら座っていた席に座りなおした。白露を見て時雨もお茶をとりに行き白露の隣に座りなおした。

 

「疲れてるんだったら部屋に行って寝てきたら?大本営の皆は今日一日いるみたいだし少しくらい休んでも大丈夫だと思うよ?」

 

「昼寝して一日の時間を無駄にしたくないからその案は却下…。あと夜寝れなくなるからね」

 

「そういうところはまじめだよね」ホホエマ~

 

「どういう意味さそれ?」

 

「そのまんまの意味だよ」キリッ!

 

「真顔で言うな!」

 

「(#^ω^)」

 

「怒るな!!」

 

「( ノД`)シクシク…」

 

「ウソ泣きするな!!」

 

「冗談だよ冗談…」

 

「まぁ、いつものことだからわかってるけどさ…」

 

 

 

 

 

 

 

「香取と鹿島が心配だから様子を見てきてほしいと言っていたが杞憂だったようだな」

 

「うまくやっているようですね。単艦で出撃するのはどうかと思いますけど…」

 

「まぁS級は連合艦隊とflagship級相手にできるんだし大丈夫だろう」

 

 白露と時雨の会話を遠目で見ていた武蔵、そして大鳳は白露が問題なく過ごしていることに安堵する。養成所にいる香取と鹿島に白露の様子を見てきてほしいと頼まれていたため食堂にいる白露達を見に来たのだ。まぁ、ここにいる艦隊のメンバーとうまくやれているから特に問題はないだろう。

 

「さてと、じゃああの二人に連絡しとくか。その後部屋に戻ろうと思うが大鳳はどうする?」

 

「せっかくですしあの二人とお話でもしようかと」

 

「わかった。またあとでな」

 

 そう言って、武蔵は食堂の出口へ向かっていった。大鳳は白露と時雨の席に近づき二人に確認をとってから前の席に座った。

 

 

 

 

 

「あぁ、彼女は問題なくやっているみたいだ。提督とも問題なくやっているようだ、あぁ、あぁわかった。ではな」

 

 電話を終え武蔵は借りている部屋へ戻るため宿舎へ戻る。宿舎に入り廊下を歩いているとある部屋から大歓声が上がっているのが聞こえた。何事かと思ったのでその部屋へ入ることにした。

 

「邪魔するぞ、大歓声が聞こえたのだが…」

 

「あぁ、武蔵さん。実は今摩耶にビデオを見せてもらってたんだ」

 

「ビデオ?なんのビデオだ?」

 

「白露の戦闘風景だ!」

 

 部屋にはテレビが備わっていたためそれにビデオカメラを繋げてみているようだ。見てみると出撃した風景を撮影しているのだろうか、あたりは海に囲まれている風景で深海棲艦がいる。その中で白露が単艦、しかも無傷で相手を圧倒している風景が映し出されている。

 

「確かにすごいな。さすがS級といったところか」

 

「これだけ暴れてたらあの戦果の数にも納得がいくよ」

 

「そういえば白露はまだ食堂にいるのか?」

 

「あぁ、今頃大鳳と話でもしているんじゃないのかな」

 

「あたしの予想だけどたぶん寝るぞ白露」

 

「なんでだよ、あいつそんなに眠そうじゃなかったぞ?」

 

「天龍、表情に出さないやつなんだあいつ。まぁ食堂にでも行ったらわかるだろ」

 

 そう言って摩耶はビデオを止め食堂へ行こうとする。天龍達もついていくが武蔵は部屋に戻るのだった。そして食堂へ戻った摩耶達は白露が寝ているのかどうか確かめたが予想は的中だった。

 

「すぅ、すぅzzz」

 

 案の定、白露は時雨の肩にもたれ規則的な寝息を立てていた。よほど疲れがたまっていたのだろう、当分起きそうにない。

 

「ほらな、言ったとおりだったろ?」

 

「あの暴れていたやつだとは思えねぇなこの寝顔見ると」

 

 そう言って、天龍はまじまじと白露の顔を見る。さっきまでの目つきの鋭さとは打って変わり子供っぽさが残る顔だった。

 

「話していたらいつの間にか寝ちゃって。よほど疲れがたまっていたのね」

 

「向こうに行ったときに夕立の組手に付き合って、それで矢矧さんと演習してその後は向こうの人達に質問攻めされてたから、たぶんそれでだよ…」

 

「う…ん、Zzz」

 

「部屋に連れてったほうがいいかもなこりゃ」

 

「じゃあ僕が連れてくよ」

 

 そう言って、時雨は白露をおんぶし自室に戻ろうとする。滅多に見られないからと浦風も時雨の後についていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当、寝顔を見るとぶちかわええの、滅多に見られないわ」

 

「ふふふ、本当。当分見れそうにないよ」

 

 部屋までに行く途中浦風と談笑しつつ部屋まで来た時雨。部屋につくとそこには村雨と夕立がおり夕立は自分のベッドで昼寝、村雨は読書タイムだ。

 

「あら時雨姉さん。浦風もいらっしゃい」

 

「ごめん村雨、ベッド直してくれない」

 

「わかったわ」

 

 村雨は白露のベッドを直し時雨と浦風は白露を起こさないように白露をベッドに寝かせる。ベッドに寝かせた後、白露は突然うなりだし寝返りをうった。

 

「あら、どうしたのかしら?」

 

「珍しいね、どうしたんだろ?」

 

「う…ん、…ん、…お、…ん、…ど…して、おい…いで…、か…、さん…」

 

「少し苦しそうじゃな、起こしたほうがいいかの?」

 

「いや、寝かしておこう。疲れていたし…」

 

 浦風は時雨の顔を覗き込むがどこか寂し気で悲しそうな顔をしていた。浦風は察したのかこれ以上追求しようとしなかった。浦風は白露が起きた時のために何かドリンクを持ってくると言って部屋を後にし、時雨と村雨は部屋に残り談笑に花を咲かせるのだった。

 

 




16話はここまでです!
次回は白露達の過去がわかってきます。
ではでは。


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17話 動き出す歯車

『やだよ、なんで私たちを置いていくの!?私たちも一緒に行く!』

 

『だめ、あなたたちはここにいて。絶対に帰ってくるから、私が帰ってくるまでここでおとなしくするのよ!いいわね』

 

 そう言って、目の前にいる女の人は私達の前から姿を消した。言いつけ通り何日も待った。だけどあの人は帰ってこなかった。なんで私達を置いていったの?どうして約束を守ってくれなかったの?早く帰ってきてよ…。

 

 

 

 

 

「!?」

 

 周りを見るといつの間にか部屋にいたのだろうか、自分のベッドで横になっていたようだ。体は汗で濡れており、喉はからからだ。食堂へ行こうとするが目の前の机にちょうどドリンクがあったのでそれを一気に飲み干す。あの夢を見るのはいつぶりだろうか?本当に嫌な夢だ。

 

「まったく、なんで今更こんな夢…もう見ないと思っていたのに…」

 

 愚痴を言いながら時計を見ると夕方の5時半を過ぎていた。確か食堂にいたのは2時過ぎだから3時間と少し寝ていたようだ。嫌な夢を見たせいか少し体がだるかった。

 

「ん~~あぁ、身体固まってる…訓練場でも行って体動かそう…」

 

 白露は部屋を後にし、訓練場へと向かった。まだ夕食まで1時間近くあるため身体を動かしたらちょうどいい時間になるだろう。

 

 

 

 

 

 訓練場に入るとところどころに整備士がいた。演習で使った艤装をしまっているのだろう。適当に挨拶を交わしながら奥のほうへ入り体育館の1/4程度の部屋へ入る。ストレッチをし終えると昔誰かに教わった武術の動きをする。教えてもらったのは夢に出てきたあの人だ。なんで教わったのかそれは覚えていない。そもそも艦娘になる前の生活はどのように送っていたのかあいまいなのだ。思い出そうとすると頭痛と嘔気がするほどだ。深呼吸をしながらゆっくりと動いていく。全身の力を抜き流れに任せて身体を動かしていく。ゆっくり動かした後、動きを加速させ早い動きをしていく。正拳、下段・上段蹴りなど様々な動きをしていく。ある程度体を動かした後、深呼吸をし全身の力を抜いていく。時計を見るとちょうど夕飯時だ。体育館を出た後、白露は食堂へと向かった。

 

 

 

―食堂―

 

 食堂に入ると、もうみんな集まっていたらしく席についているものが多かった。台所へ行きトレイをとり晩御飯をもらう。今日のご飯は混ぜご飯にから揚げにサラダ、みそ汁、漬物だ。空いている席を探しているとちょうど時雨や浦風たちが前の席に座るように促してきた。その行為に甘え前の席に座った。

 

「白露、大丈夫か?顔色がちーと悪いで…」

 

「あぁ大丈夫。変な夢見ただけだよ…」

 

「ならええが、気分悪かったらすぐいうんじゃよ…」

 

 ご飯を食べながら白露の心配をする。浦風の言う通り白露の顔色は少し悪く目は少し虚ろだった。しかし、食欲はちゃんとあるのか食事をとることはできるようだ。ご飯をがつがつ口に入れている。

 

「そんな一気に口に入れるとむせるよ」

 

「いいだろ、腹減ってるんだから」

 

 適当に答えつつ食事をとる白露。ご飯を一気に食べるとおかわりをするため台所のほうへと行く。そんな様子を見つつ浦風は時雨に話しかけた。

 

「本当に大丈夫なんじゃろか…」

 

「なんか無理してるように見えるから、あとで僕のほうでしっかり言っておくよ」

 

 話をしていると、ちょうど京と仁が食堂へ入ってきた。どうやら執務のほうは終わったようだ。いつもなら少し遅めに来るのだが今日は早く終わったらしい。

 

「おや、二人ともお疲れ様です」

 

「お疲れ提督、副提督」

 

「・・・」

 

 京は二人に挨拶をするが浦風は二人を睨みつけたまま黙っていた。浦風の視線に気づいたのか京は浦風に話しかける。

 

「どうしました?私の顔に何かついているのでしょうか?」

 

「別に…それとうちに話しかけんでくれないかの。おぬしらみたいなのは大嫌いじゃけ」

 

「ちょっと浦風!ごめん二人とも、浦風は度を超える人見知りというか…」

 

「浦風に話しかけないほうがいいよ、人間嫌いだし…」

 

 ご飯をお替りしに行った白露が戻ってくる。浦風は極度の人間嫌いであり訓練生になりたての頃、斎藤大将に向かって暴言を吐いたほどだったという。以来、浦風に近づこうとする者はおらず変に手を出すと半殺しにされると大本営の者たちで噂になっているらしい。

 

「気分を害されたようなら失礼、私たちは失礼しますね」

 

「ごめん二人とも」

 

「いいっていいって、俺たちは慣れてるからよ」

 

 そう言って二人は食事をとりに台所へと向かった。台所に行ったのを見送ると時雨は浦風に向き直り先ほどの態度について触れた。

 

「浦風、やっぱり人間は嫌い?」

 

「あんたには悪いけど人間は嫌いじゃ…表向きではああでも腹の底は何考えとるのかわからんからの。それに、あの日以来もう人間は信用できん…絶対にな…」

 

「…変わらないな、浦風…」

 

「あんたは変わったようで変わらんの。我儘なとこはあるけど少し顔つきが変わったじゃろ?」

 

「そうか?」

 

「そうじゃ、前は目つき鋭くてみんな怖がってた。けど、ここの環境と姉妹達と接して変わったか?」

 

 確かに、前と比べるとみんなに話しかけられる頻度が増えた気がする。訓練生時代、最初はほとんど話しかけてくる奴は少なかった。話しかけてきたやつといえば姉妹艦の村雨達、雷、浦風に時々来ていた摩耶に五十鈴、話しかけてきたのはだいたいこのくらいか。時間がたつにつれて徐々に話しかけてくるやつはいたけど、頻度は少なかったな。

 

「確かに最近話しかけてくる奴増えたな。演習とか言っても結構質問攻めされること多いし…」

 

「まぁそういうことはいいわ。今はご飯を平らげるとするかの!」

 

 そう言って浦風はご飯を済ませ席を立つ。トレイを台所に戻し部屋に戻ると言い食堂を出ていった。

 

「時雨~、私そんなに目つき変わった?」

 

「だいぶ変わったと思うよ。昔なんて目つき悪かったし態度も悪かったし。今と比べると本当ひどかったよ(;´・ω・)」

 

「そう…か。そんなに変わったんだ…」

 

 そう言って白露は箸を止め上を向いた。そういえばいつからこんな性格になったんだっけ?昔はこんな性格じゃなかった気がする。そもそも昔っていつだ?艦娘になるもっと前?まだ小さかった時、時雨といっしょに遊んだり男の子泣かしたり遊びまわったりしていたあの頃。確かあの時時雨以外にも人がいて、あの夢に出てきた人…私達を…おいていったあの人もいて…

 

「…っ!?」

 

「白露!?大丈夫?」

 

 また思い出そうとするとまた頭痛がした。しかも今日の頭痛はひどい。こんなに痛くなったのは初めてだ。

 

「あ~ちょっと気分悪くなってきた…部屋行って休むわ…」

 

「そうしなよ、ご飯は僕が片付けておくから」

 

「悪い…」

 

 白露は席から立つと食堂を出た。今日はきっと疲れているのだろう。部屋に行って休めば少しは楽になるはずだ。そう思いながらゆっくりとした足取りで部屋へ向かう。その時…

 

『どこにいるの?』

 

「え?」

 

 どこからか声がし白露はあたりを見回す。しかし、あたりを見回しても誰もいないためおそらく空耳だったのだろう。

 

(なんだろう、今の声。どこかで聞いたことあるような)

 

 どこかで聞いたような声だった。でも思い出そうとしたらまた気分が悪くなってしまうと思い深く考えないことにした。さっさと部屋に行って休もう。そう思い、部屋に戻るのだった。

 

 

 

 

 

――大本営近くの港

 

 夜になると港近くには見張りをしている憲兵や艦娘達が交代で見回りをしている。昔ある事件があった際に何かあってもすぐに対処できるように元帥が憲兵とともに艦娘も警備にあたるようにしたのだ。最初は艦娘だけで行っていたらしいが陸軍の最高司令官が必死に元帥を説得した結果今の体制になったらしい。

 

「今日も何事もなく平和だな、こういう時は酒でも飲みたいぜ…」

 

「横山さん、もう少しで交代の時間ですから少し我慢を…」

 

「わかってるって。まじめだね君は」

 

 彼の名は横山和彦(よこやまかずひこ)、陸軍所属で大本営の警備を任せられている。短髪で右目の下に泣きボクロがあるのが特徴的。実力も高く、以前クーデターが起こった際、一人で一騎当千の働きをしたほどの実力者。酒とたばこ好き。

 

「ならいいですけどね…」

 

 彼女の名前は綾波、大本営所属の艦娘で“黒豹”の異名を持つ。長い髪を右側にサイドテールにしている。一か月で500以上の深海棲艦を沈める実力者。ちなみに改二だ。

 

「まぁ、あと10分ぐらいで交代だし気を抜かずに見回りを…ん?」

 

 話をしていると前方に見慣れない女性が歩いていた。街灯の光しかないためよく見えないが茶髪のショートで服は質素なのものでジーパンとシャツだがところどころボロボロだ。しかも裸足だった。

 

「申し訳ないがここは一般人立ち入り禁止なんだ。正面の方に…」

 

「娘を探しているんです、探させてくれませんか?」

 

「いや、しかし…」

 

 何やら事情があるようでこのまま言っても下がってくれそうにない。どうしようか考えていると綾波が無線を取り出す。どうやら元帥に連絡するようだ。するとすぐに許可が出たのか綾波が横山に向けOKサインを出す。それを見た横山は綾波と一緒に女性を大本営内に案内するのだった。

 

 

 

 

 

――執務室

 

 執務室の前に来るとドアを3回ノックする。返事が来るとドアを開け敬礼をする。執務室には元帥である山本と秘書艦である大淀がいた。

 

「二人とも見回りお疲れ様。その方が客人かな?」

 

「はい、娘さんを探しているとのことですが何やら深い事情がありそうで…」

 

 横山は女性のほうに向きなおった。山本も女性の風貌をみて事情があることを察したようだ。服はボロボロ、裸足なのだから。

 

「では、あなたはこちらの席に。二人は部屋に戻って休むといい」

 

 横山と綾波は再度敬礼をし執務室を後にした。山本は大淀にお茶を頼み女性を席に座らせる。椅子に腰かけると女性に話しかけた。

 

「私は山本勘兵衛。海軍の最高司令官と思ってくれればいいでしょう。突然ですがあなたの名前は?娘さんを探しているとのことですが?」

 

「名前はわからない…10年より前の記憶はないの…」

 

「なんと!?では今までどのような生活を?ボロボロではないですか…」

 

「山に入って、虫とかあとは野生動物を捕まえて。一応武術の心得はあるので…」

 

 なんとも壮絶な生活をしていたようだ。それは、こんな姿になる。最初に風呂なり新しい服をやるなりするべきだったかなと内心思った。

 

「粗茶ですが」

 

「あ、ありがとう…」

 

 お茶を受け取った女性は大淀にお礼を言う。なんとなくだが誰かと雰囲気が似ていた。茶髪のショートで目は明るい青色だ。

 

「話を戻しますが、娘さんの特徴は?」

 

「ごめんなさい、それもわからないの。ただ双子の子で…」

 

(まいったな。双子というだけでは探すのはとても苦労しそうだ。わしも忙しいからこの方に付きっ切りというわけにもいかないしの…)

 

「ただ…」

 

 すると女性はお茶の入った湯呑をテーブルに置くと山本に少し戸惑ったような口調で話しかけた。

 

「娘はここにいたような気がするんです。なんとなくだけど…二人は前にここにいたんじゃないかなって。だからここに」

 

 なるほど、ここに来たのはそういう理由だったのか。本人も嘘はついていないみたいだし、それに袖振り合うも他生の縁だ。何か縁があるのかもしれない…

 

「では、ここで働きませんか?ここで働いていたらいつか娘さんとも会うかもしれないし、衣食住だって保証します。どうですか?」

 

 女性は少し考えていたが小さく頷く。どうやらここで働くようだ。

 

「でも、私は何をすれば?」

 

「食堂の仕事やあとは、家事などをを任せたい。ただ、人数も多いので大変だと思いますが…」

 

「構いません。さすがに山に籠るのももう嫌ですから…」

 

「元帥、名前もないのもちょっと不便ですからこの方に名前を付けませんか?記憶が戻るまでですけど」

 

「確かに名前がないのは不便だな。しかし、どういう名前にしようか」

 

 ふと外を見るとちょうど月が見えていた。きれいな満月だ。雲一つない透き通った月だ。それを見た山本は女性にこう名付けた。

 

「では、月夜(つくよ)。あなたの名前は月夜だ」

 

 月夜と名付けられた女性は大淀に連れられ執務室を後にした。この出会いが後に海軍内で大きな事件となり白露と時雨、そして月夜。この三人が火種になることをまだ誰も知らない。

 

 




白露「私達の過去少しだけわかったな…」
時雨「本格的にわかるのは次回以降かな…」
 というわけで、今回はここまでです!ではでは!


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18話 出会い

どうも、18話でございます。
ここから、白露と時雨のキーキャラクターが登場します!
それでは、楽しんでいただければ幸いです。


 雲一つない晴天の空の下。白露と時雨は鎮守府近くの町に来ていた。ちなみに、二人とも私服だ。白露はジーパンに黒いタンクトップの上に赤いパーカー。時雨は黒いスカートに白い七分袖のYシャツに黒いチョッキを着ている。時雨はちょうど買い物がしたかったとのことだが…

 

「どうしてこうなったんだ…」

 

 正直それは建前で本当のところ先日あった頭痛のせいだろう。たぶん、提督達に見られていたな。今日の朝大本営の皆を見送った後…

 

『白露さん。今日は非番です』

 

『は!?なんでさ!』

 

『たまには町にでも行って羽伸ばしてこい。時雨も一緒だからよ』

 

 

 

 

 

 

 

 そして今に至る。

 

「全く、みんなして心配性っていうかなんていうか…」

 

 そんな愚痴を言っていると、時雨が手を引きショッピングモールへ足を運ぶ。はしゃいでいる時雨を見てこんな日もたまにはいいかと思うのだった。

 

 

 

 

 

――ショッピングモール内

 

 さすがに街の中で一番でかいショッピングモールだ。人も多ければ店も多い。服やアクセサリー、飲食店などいろいろな店があった。

 

「白露、あの服屋行かない?」

 

「あ~いいよ…」

 

 適当な服屋に行くと時雨は服を物色する。時雨は意外とおしゃれ好きで私服はいろいろな服を持っている。ワンピースやデニムにパーカー、数えたらきりがないくらいだ。ちなみに白露は着れれば何でもいいと言っているがなんだかんだいって服を着こなしているほどで服のセンスは抜群だ。

 

「う~ん、悩むなぁ…これもいいしこれも…」

 

(本当、こういう時は子供だな…。まぁいいか、今日ぐらいは…)

 

 しばらくすると買う服を決めたらしく七分丈のジーパンに肩の部分がはだけたシャツ、黒いインナーを買ってきた。次にアクセサリーショップに行くため二階にある店に行く。アクセサリーショップに行くとネックレスやブレスレット、イヤリングなどいろいろなものがあった。

 

「・・・」

 

 店の中を歩いているととあるネックレスが白露の目に留まった。ローマ字のイニシャルのネックレスでシンプルな形のものだったがどうにも気になってしまった。

 

(カップルとかそういうやつらがつけてるって聞いたことあるけど姉妹でも別にいっか)

 

 白露はSのイニシャルのネックレスを二つとろうとしたがSを一つ。Hを一つ取り会計に行こうとする。

 

「あれ、白露。どうしてSとHなんだい?」

 

 見ると時雨も買うものを決めたらしく手にブレスレットを持っていた。

 

「…なんとなくっていうか一つはあんたのだよ」

 

「え!?いいよ自分で買うから!」

 

「いいって。たまには・・・さ」

 

「まぁそこまで言うなら…」

 

 会計を済ませ、他の店を物色し終えショッピングモールを出た。近くにカフェがあったためそこで休憩をとる。外にあるベンチに座ると時雨はさっき買ったネックレスについて聞き始めた。

 

「あのさ白露、さっきのネックレス、なんで二つともSにしなかったの?一つは僕にならなんでS二つじゃないの?」

 

 確かに白露と時雨のペアルックなら二つともSが自然だろう。だがあえてそうしなかったのは白露なりの理由があった。

 

「Sはあんたに。それでHは私。確かに最初はS二つにしようと思ったよ。でも、なんか私達の真名が懐かしくなったっていうかなんというか」

 

 真名は艦娘になる前の本当の名。もちろん他の艦娘達も持っているが基本的に使うことはあまりない。鎮守府にいることの方が多いから真名で呼び合うこともほとんどない。真名を持っていないものもいるほどだ。

 

「あぁなるほどね、それで白露がHで僕がSか…」

 

「そう、だからSはあんたにやる。まぁ出かけるときにでもつけ…」

 

「おやおや、ずいぶんかわいい姉ちゃん達いるじゃん。今暇?」

 

 話をしていると、チャラいやつらが目の前にいた。ナンパでもしに来たのか。見ると4人、明らかにやばそうな連中だ。

 

「ごめんなさい、僕達これから行くところあるから…」

 

「へ~女の子なのに僕っていうんだ」

 

「ボーイッシュな子も嫌いじゃないな~。ますます気に入ったよ」

 

 そう言って、時雨に手を伸ばそうとするが白露が手を払いのけた。

 

「聞こえなかったのかてめえら。私達はこれから行くところがあるんだ」

 

「なんだよつれねえな。なら力づくでも連れてくぜ」

 

 そう言って、強引につかもうとしたそのとき、男が盛大に顔面からづっこけた。もちろん白露ではないし時雨でもない。男が立っていた横を見ると、武術用の道着だろうか。赤茶色の道着をきた白髪の男性が立っていた。年齢的に50から60代半ばだろうか。

 

「やめんか、若造。お嬢さん方を無理やり連れてこうなど男として情けない」

 

「なんだこの爺!邪魔するなら容赦しねぇ!」

 

 老人につかみかかろうとするが老人はその力を利用し投げ飛ばした。合気道という技だろう。

 

「こいつ調子に乗りやがって!」

 

 今度は近くにあった椅子を使い殴ろうとする。しかし、老人はよけることなく蹴りで椅子を弾き飛ばす。弾き飛ばした後、男の腹部めがけて肘打ちをくらわせる。直後後方から殴りかかろうとするもう一人の男が殴りかかろうとする。老人は視線を向けるがその前に白露が顔面に蹴りを入れた。なおも襲い掛かろうとしたが白露は我慢の限界だったのか、轟音と共に地面を蹴りクレーターを作ってみせた。

 

『・・・・・・え?』

 

「なんと!?」

 

 その場にいた全員が凍り付いた。何の変哲もない少女がクレーターを作ったのだから。固まって動けない男達に白露が静かに話した。

 

「うぜえんだよてめーら…死にたくなかったらさっさと失せやがれ!」

 

 白露が叫ぶと男達は叫び狂いながら逃げていった。全くこういうのがあるから街に来たくない。今までのことを見ていた店員や客たちに詫びを入れ白露はカウンターに足を運ぶ。

 

「ごめんよ店員さん。そこの修理費はいくら?」

 

「あ、は、はい…ええっと…」

 

「…とりあえず、今度ここにでも請求しといて…」

 

「は…はぁ……え”!……あ、あなたはもしかして…」

 

「あ~まぁご想像にお任せするわ…」

 

 そう言い残し白露は時雨とともにカフェを出ようとした。しかし、その二人を止める者がいた。あの老人だ。

 

「待ってくれお嬢さん方。少し聞きたいことがあるんだ。主に君に…」

 

 二人を呼び止め老人は白露に向き直る。どうやら白露と話がしたいらしい。

 

「なにさ?」

 

「さっきの、クレーターを作った時の動き。あれは武術の動きだろう。わしも武術家だからああいった動きの型はわかるんだ。あの動き、どこで習ったのじゃ。見覚えがある」

 

「知ってどうするのさ?私ら先を急ぐからこれで…」

 

 適当にあしらい白露は老人の前を通り過ぎた。老人は引き留めようとしたが時雨が申し訳なさそうに老人を引き留めた。

 

「ごめんなさい、姉も悪気があるわけじゃないんだ。もし何かあったらここに連絡して。時雨って名前をいったらたぶんわかってくれるから。それじゃ!」

 

 そう言って時雨は白露の後をついていく。老人はただ黙ってもらった紙を見つめていた。

 

 

 

 

 

 時間は少し戻り白露がクレーターを作った瞬間

 

(バカな。あの動きはあの子が使っていた動き。あの子が自分で作った、天翔龍合気道柔術の動き。なぜそれをあの子が?それにあの雰囲気あの子に似ている。確かめなければ。あの子の手掛かりになるかも。)

 

 白露に近づきどこで武術の動きを覚えたのか聞こうとするが適当にあしらわれ去ってしまう。呼び止めようとするがもう一人の少女に止められた。目の色は青色。どことなく自分の知っている子に似ていた。

 

(この子の目は…あの子と瓜二つ。どういうことだ、あの子は…それにあの子の子は…もう)

 

 ただただ、目の前のことに困惑する。その少女は詫びを入れ紙を渡すと姉である少女を追いかけて去ってしまった。確かめる必要がある。袖に入れてある携帯電話を取り出し紙にある電話番号にかけた。娘の、そして孫娘の手掛かりを探すために。

 

 

 

 

 

――柱島鎮守府執務室

 

 執務室では京と仁、そして村雨の3人が書類整理をしていた。近海の警備をしていた摩耶から戦艦や空母といった深海棲艦と交戦したが夕立や隼鷹、長良たちの活躍で難なく勝利したとのこと。最近深海棲艦の動きが活発になってきている。元帥に報告しなければいけないと思ったその時、電話が鳴った。村雨が電話をとり相手と話をする。話を聞いている限りどうやら海軍の人ではないのだろう。

 

「提督、提督と話がしたいという男性が…」

 

「わかりました。変わります」

 

 村雨から電話を受け取り電話の相手と話をする。一般の人が電話をかけてくるとはとても珍しい。あるとしたら艦娘になりたいとかそういった電話か緊急の時ぐらいなのだから。

 

「お電話変わりました。柱島鎮守府提督、鳴海と申します」

 

『お忙しい中失礼。少々お聞きしたいことがあるのじゃが…』

 

 電話の声から察するに相手は老人のようだ。一体どういった要件なのだろうか。

 

「はい、答えられる範囲でしたら何なりと」

 

『実は出かけた町先で艦娘の子達と会いまして。一人は時雨という名前らしいのじゃが』

 

「え!?二人にあったんですか!?」

 

 驚いた。まさか二人に会うなんて。電話をしてきたとなると時雨が連絡先を教えたのだろう。時雨の名前が出たということは間違いない。

 

『えぇ、それで少し気になったことがあったからできれば時雨さん達と話をしたいのだが何とか時間を作っていだだくことはできないじゃろうか?』

 

 正直、日々戦っている自分達にとってそこまで時間はないし万が一深海棲艦が来た際に対処できない。それに二人はここのエースといってもいいほどの実力者。外出はそんなにできないからできるとすれば。

 

「では、あなたがこちらに来てくださることができれば二人に私から話を通しておきますが」

 

『あぁそれで構わんよ。ありがとう。二日後に行きたいのじゃがいいじゃろうか?』

 

「構いません。失礼ですが名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

『おやこれは失礼した。先に名乗っておくべきじゃった。わしは佐藤一星(さとういっせい)というんじゃ』

 

「はい佐藤…………えぇ!佐藤一星!?」

 

 佐藤一星。海軍でも彼の名を知らないものはおらず海軍や陸軍の対人格闘は彼の武術が基本となっているそうだ。臥龍合気道柔術という武術を考案した人物らしい。なんでも、海軍元帥とは知り合いらしい。

 

「し!失礼しました!?まさかあなただったとは!?」

 

『はっはっは。よいよい。わしの武術が海軍で使われているのはわしとしても本望じゃ。もし元帥殿に連絡するときがあればよろしく伝えてくれ。では二日後に』

 

「わかりました。お待ちしております」

 

 電話を置くと深く深呼吸する。とんでもない相手が来客としてくるとは予想していなかった。しかしなんで白露と時雨達と会ったのだろう。そもそも話とは…

 

「にしても、とんでもねぇ相手が来ることになったな」

 

「佐藤一星って人そんなに有名なんですか?」

 

「少なくとも、軍では彼の名を知らない人のほうが少ないでしょう。軍の対人格闘は彼の武術を元にしていますから」

 

「それで、来るのはいつなんだ?」

 

「二日後です。白露さん達には私から話を通しておきます」

 

「あいよ、じゃあ俺は憲兵たちに知らせとくわ」

 

「お願いします」

 

 仁は憲兵に知らせるため執務室をでた。京と村雨は執務室に残り残りの書類を片付ける。二日後に大物が来るのだ。それに部屋を少し綺麗にしておかねばならない……と思ったらしい。

 

 



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19話 蘇る記憶

 あれから二日後の午後、京はいつになくそわそわしており仁も心なしか緊張気味に見える。どうしてこうなってるのかというと…

 

「でだ…その爺さんはいつ来るわけ?」

 

「もうすぐ来るはずですよ。予定では1時に来る予定です」

 

「まさかこないだあった人がそんなに有名な人だったなんてね。僕達になんのようなんだろう?」

 

 そう、佐藤一星がこの鎮守府に来るからだ。軍に対人格闘を教えた人物で軍の中では彼の名を知らないものは少ない。それほどの人物が来るのだ。緊張するのも無理ないだろう。ちなみに出撃は午前中に済ませてあるため白露と時雨は午後は非番なのだ。とはいっても白露はいつも通り、単艦で出撃しかなりの数の深海棲艦を沈めたらしい。艦隊で出撃した後の単騎とはかなり体力的に余裕があったようだ。先日のことでストレスでもたまってたのだろうか。直後に、突然電話が鳴る。京は電話をとると憲兵から来客が来たとの連絡だった。憲兵もかなり震えた声で話していたようで京が何回も聞きなおしていた。どれだけ緊張しているのだか。そんな変なやり取りを終えしばらくすると憲兵に連れられた一星が執務室に来た。京と仁はすぐさま一星に敬礼し挨拶をした。

 

「よ、ようこそいらっしゃいました。改めまして。私はここの提督の鳴海京です」

 

「同じく副提督の桐生仁。以後お見知りおきを」

 

「固い挨拶はしないでくれ。わしはそこまですごいことをしたわけではないのだから」

 

 執務室に入ると一星は憲兵にお礼をいい京達に向き直り挨拶をした。京は憲兵に戻ってよいことを伝えると憲兵は扉に激突しながらも執務室を後にした。さすがに緊張しすぎではないだろうか…

 

「おかけください」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 椅子に腰かけ村雨からお茶をもらう一星。もらったお茶を手に持ち一口そそると一星は満足げな笑みを浮かべた。

 

「あぁ、やはり休憩がてらの熱いお茶は最高じゃな。老体の身には特に染みる」

 

「よくいうよ。こないだあれだけ動いてたくせにさ…」

 

「ちょっと白露!」

 

「あぁいいよ。若いもんはこれぐらい元気でなくちゃな。はっはっは!」

 

 一星は白露の態度を気にも留めずむしろ大いに笑った。仁と同じような竹を割ったような性格だ。

 

「して、今日はこの二人に用があるとか?」

 

「あぁそうなんだ。少し込み入った話になるのじゃが…いや、せっかくだし君達にも聞いてもらおうか。おそらく君たちにも関係ありそうだしの…」

 

 そう言って、一星は京や仁、村雨にも座るように促した。それほど長い話になるのだろう。

 

「それで僕達に話って何なんだい?」

 

「う~むそうじゃな。どこから話そうか…そうだなまずは君が使っていた武術について話そうか」

 

 一星は白露のほうを向き話し始めた。どうやら先に白露の武術について話すようだ。

 

「私の武術?昔誰かに習ったような気がするけどそれがどうかしたの?」

 

「君の使っていた武術、あの武術はうちの流派の動きなんじゃ」

 

「ということは臥龍合気道柔術ですか?」

 

「いや、正確には近いがそうじゃない。あの武術はな。あれは…わしの…愛娘が考案した武術なんじゃ」

 

 どういうことなのだろうか。臥龍合気道柔術は軍の人間や一部の人しか使えない。そもそも、白露は臥龍合気道柔術を教わっていない。艦娘は基本砲雷撃戦しかしないため対人格闘についての講義などはしないのだ。ただ、希望者のみ武術を教わることができるが白露はそういったことはしていない。ならなぜ白露がその武術を使えるのか。正直疑問だ。

 

「あの子が考案した武術は天翔流合気道柔術。型はほぼわしのと同じじゃが違うのは体の使い方。しいて言うなら流れのようなものじゃな」

 

「流れ?流れって?」

 

「天翔流の場合は衝撃を吸収して力を波及させるんじゃ。まぁ、俗にいう中国拳法の発勁を組み合わせたものじゃ。これはかなりの技術が必要でな。習得するにもかなりの時間が必要なはずじゃ」

 

 白露は黙って聞いていた。いや聞かざるをえなかった。自分の使っている武術が何なのか。それを誰から教わったのか自分の中でおおよそ検討がついているから。そして、自分達が何者なのかも察してしまったから。

 

「…それでじゃ。娘はな、この武術を自分で作った後、ある武術家の家に嫁ぐことになった。じゃがそこの家は反艦娘思想の家であってな」

 

「まさか、明智家!?」

 

「そうじゃ、さすがに情報はいっとるか。そこの家に嫁いだ後、あの子は子供を二人生んでな。双子の子じゃ。電話や手紙くらいしかやり取りしていなかったから写真はあまりないがな。じゃがその8年後。連絡は突然途絶えてしまった。明智家に行って直接聞いてみたが娘は孫達ともども事故死したと聞いてな」

 

「事故死ですか。でもそれが白露姉さん達と何の関係が?」

 

「確かに関係があるのかと言われれば疑問があるのも当然だと思うが…何か察したんじゃないかな。特に京君?」

 

「…孫娘二人に、艦の魂が宿っていた可能性が高い。そういうことですか?」

 

 瞬間、仁、村雨、白露、時雨は凍り付いた。明智家はその三人を事故死に見せかけて殺した。そういう考えが浮かんでしまったから。そして、今までの話を聞く限りだと艦の魂を宿している二人は生きている可能性があるということだ。

 

「それでな…娘の子供達の名前は…(ほむら)(しずく)と言うんじゃ」

 

「な…なん…で…」

 

「どうして僕達の真名を知っているの?僕たち以外知らないはずなのに」

 

 白露と時雨の告白に京達も驚きを隠せなかった。もしもその話が事実なら…

 

「おいおい…まさか、明智の娘って!?」

 

「そう、おそらく君達のこと。そして君達は…わしの、孫娘なんだ」

 

 一星は懐から一枚の写真を取り出した。その写真には二人の幼い子供が写っていた。一人は茶髪のショート、もう一人は黒髪を三つ編みにしおさげにしている。

 

「ちょっと、どういうことよこれ…あんたが私達の祖父…じゃあ…母さんは…か…あ…さん…うぐ!?」

 

 突然、白露が頭を抑え込み倒れこむ。時雨達は白露に駆け寄り声をかけるがなおもうめいている。

 

(なん…だ!?今までの…頭痛とは比べ物にならない。吐き気も…それになんだ…この記憶!?)

 

 白露が思い出していたのはあの時の光景。幼いころ母と時雨と一緒に過ごしていたあの光景。しかし、突然その幸せそうな光景は一変した。映りこんだのは誰かに追われているのだろうか。複数人の人から白露達が逃げている。雨のひどい日だった。何とか追っ手をまき、どこかの倉庫に身を潜めている。でも、母親らしき人物は倉庫から出ていこうとする。それを白露が必死に呼び止める光景。

 

『やだよ、なんで私たちを置いていくの!?私たちも一緒に行く!』

 

『だめ、あなた達はここにいて。絶対に帰ってくるから、私が帰ってくるまでここでおとなしくするのよ!いいわね』

 

『いかないでお母さん。ここにいてよ!』

 

 必死に母親を止める白露達。それを母親は泣きながらあやしていた。

 

『ごめんね…二人ともごめんね。私がもしいなくなっても強く生きて。今後つらいことがたくさんあるだろうけど…強く生きるの!』

 

 そう言いながら二人を抱きしめる。直後、母親は白露達の後頭部に衝撃を与えた。直後二人は倒れ気を失いかける。意識が遠のく中最後に見た光景は泣きながら倉庫を出ていく母親の姿だった…

 

「母さん…」

 

 あの時のことを全部思い出し、そして白露は意識を失った。

 

 




はい、白露達の過去がやっと明らかになりました!
白露「やっとかよ…」
はい、すみません(;・∀・)
白露「で、次回はそのあとの話になるので、よろしく」


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20話 憂鬱

お久しぶりです!
仕事が忙しくてなかなか投稿できませんでした…
前回白露が意識を失った後のお話です!


 白露が意識を失い、自室に連れてきてから数時間経つがいまだに目覚める気配がない。お見舞いに来た艦隊のメンバーは白露、時雨の過去を、そしてクーデターを起こす可能性が高い明智家の娘だということも提督から聞いた。そして、客としてきた一星が祖父であること。母親が殺された可能性が高いことすべてを聞いた。その後、白露型の5人と一星を除いた艦隊のメンバーは食堂に集まり白露が目覚めるのを待っていた。白露たちの過去を聞いたためか全員が口を開く気配がない。生まれたときから艦娘として生を受け、しかも家が反艦娘思想のせいで母親が死んだかもしれないのだ。

 

「…本当に、運命というのは残酷なものです。なぜ、このようなことが起きてしまうのでしょうか…」

 

 そんな中、京は重い口を開く。艦娘も好きでなったわけではない。最初に人類に誕生した艦娘も、急に力が目覚めたらしい。その後、研究機関が研究しようとしたりでいろいろあったらしい。まぁ、元帥がうまく立ち回ってくれたおかげでそんなことはなかったが。

 

「なぁ提督、その明智ってやつ私達で何とかできないのか?」

 

「憲兵達や服部提督が動いていますが、ほとんど証拠をつかめていないらしいのです。彼らは表向き合気道の道場を開いているだけですし…出入りしている人間もテロリストの人間という確証を得られませんでした。それに、今は行方をくらましていると聞いていますし…」

 

 質問してきた摩耶にそう答える。服部が情報を探っているものの、どうもしっぽをつかめていない。今はただ待つしかないのだ。またしばらく沈黙が続いた。

 

 

 

 

 

白露達の自室

 

 白露はいまだ眠っている。周りには時雨と一星。村雨、夕立、春雨がいる。全員白露達の話を聞いているため表情は暗い。特に時雨と春雨は今にも泣きそうだ。夕立は白露のことが心配すぎてずっと手を握っている。10分ほど沈黙が続いていると白露がうなりだし、ゆっくりと目をあけた。

 

「…あれ、ここ部屋」

 

「…白露、気が付いた」

 

「白露お姉ちゃん!よかったっぽい、目が覚めた…」

 

「…夕立、苦しいって…」

 

 目が覚めたばかりの白露に、夕立は抱き着く。よほど心配だったのだろう。夕立も白露が目覚めたことに安心したのか泣きそうだ。

 

「気が付いたか、焔」

 

「あぁ、目覚めは悪いし…体が重い…」

 

「なら休んでなさい。無理はせんほうがいい」

 

「いいよ、起きるって…」

 

「いいから、休んでなさい」

 

「まったく、心配性のじいさんだなあんたは…」

 

 白露は起きようとするが、一星は無理をしないように促す。それに渋々従った。横になった後、少し間をあけてから話し始めた。昔何があったのかを。

 

「…私さ、思い出したよ。昔何があったのか。10年前かな。あたしらが艦娘だって知った父さんに、殺されかけてさ。それで、母さんがそれを拒否してさ。逃げて逃げて、追い詰められた時に、母さんが殿務めて。あたしら気絶させて、そのままどっか行っちゃって…」

 

 静かに話を聞いていた一星達。話を聞いて、時雨達は静かに泣いていた。一星も上を向き涙を見せないようにしている。

 

「ずっと、母さんに捨てられたのかと思ってた。待っても…ずっと待っても…帰ってこなかったから。そんで…生きるために盗み働いて…それから…」

 

 白露も泣きながら話していた。話している最中に、一星はそっと白露の頭に手を乗せた。一星は白露の頭を撫でてやり、静かに話し始める。

 

「もうよい。辛かったじゃろう。今は泣いていい」

 

「…う…うぅ、ひっぐ…うぅ」

 

 白露は大声を上げて泣き始めた。つられて時雨達も泣き始めた。母親は自分達を捨てたのではなかった。追手の殿を務めるために、自分達を安全な場所に隠したのだ。必ず帰ると約束して。でも、帰ってこなかった。何日も、ずっと待っても。

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく泣き続けた後、落ち着いてきたのか体を起こしてベッドに座っていた。時雨は泣きつかれたのかベッドに横になっていた。村雨は時雨のことが心配なようで時雨の近くにいる。夕立と春雨は外の空気を吸いに行くといい、外に出ていった。

 

「落ち着いたか?」

 

「うん…心配かけた…提督達は今どこ?」

 

「食堂におる。行くか?」

 

「うん、いく…」

 

 力のない足取りで白露は食堂へ行く。一星も一緒だ。食堂に入ると、提督達は暗い雰囲気でいた。白露達に気づくと、京は席から立ち上がる。それを白露は軽く手を振って、京達のいる机へと来た。

 

「ごめん、みんな。心配かけた…」

 

「…思い出したんですか…昔のことを…」

 

 白露は、昔のことを全員に話した。さっきよりは落ち着いていたが、泣きすぎたせいで声が少し枯れていた。話を聞いていたメンバーは、各々暗い顔をしていた。羽黒なんかは聞きながら泣いていた。摩耶も五十鈴も目の下に涙を浮かべていた。

 

「なんであんたらが泣いてるんだよ…」

 

「…大変な人生を送ってきたんですね…」

 

「明智家絶対許せねぇ…あたしが引導わだじでやる“ぅ」

 

 白露の話を聞いて、号泣する者達。そして、暗い表情をしながら酒を飲む者たちもいた。

 

「やっぱり、今日の酒はまずい…」

 

「あんた、また酒を飲んでるの…」

 

「いいじゃん、こういう時は飲みたいっての…」

 

「じゃあ、私も飲む…」

 

「私も…」

 

 隼鷹の話に乗って、長良も五十鈴も酒を飲む。しかし、飲みなれていないのか、すぐに酔いつぶれ寝てしまった。そんな光景をみて白露は愚痴をこぼす。

 

「飲みなれてないなら飲むなっての…」

 

「…白露さん、みんなあなたのことを心配していたんです。それに、あなたの過去のことも知っています。だから、一人で思いつめないでください。ここには仲間がいます」

 

 ここにいる全員は白露のことを認めているし、誰も嫌っている者はいない。だからこそ、白露の過去を聞いて胸を打たれたのかもしれない。現にこうして泣いている者や悲しんでくれる者もいるんだから。

 

「わかったよ、私もここは結構気に入ってるからね…まぁ、もう少し私は休むよ。ちょっとゆっくりしてる」

 

「なら、わしも少し休んでいこう。それと提督殿、あとで少しだけ時間よろしいかな?」

 

「えぇ、構いません」

 

 白露と一星は食堂から出て、部屋まで戻る。戻る途中で一星は白露を引き留めた。何やら話があるようで目は真剣だ。

 

「焔。少しいいかの?」

 

「何さ、じいさ…、おじいちゃん」

 

「言いにくそうじゃの。呼びやすい方でよい」

 

「…わかったよ。んで、話って?」

 

「おぬしの父親。明智についてじゃ。10年前に星羅が死んだと聞かされたときにの、あやつらはおぬしたちは事故死したと言っていた。死体も見るに無残な状態であったと聞かされていたんじゃ。じゃがの、どうも様子が変だったんで知り合いに頼んで調べてもらったんじゃ。そしたら、おぬしが言ったこととほぼ同じことを言われての」

 

「一体何を言いたいのさ?母さんは私たちを安全な場所において殿を務めたってさっき…あ…」

 

 白露は何かを察したのか、思考が少し止まった。もし察していることが本当ならば…

 

「母さんはどこかで生きている!?そう言いたいの?」

 

「うむ。あくまで可能性の話じゃが。じゃから、このことは雫には…」

 

「わかった…あの子には黙っておく。変な希望与えるのもやだし…」

 

 白露はうつむいた。母親が生きているかもしれないのはあくまで可能性の話。それを時雨に話しても酷な話だ。そんな白露をみて一星は頭を撫でてやる。

 

「わしもできる限り調べてみよう。じゃから、今はゆっくり休みなさい。さてと、わしはおぬしの部屋で少し休んで、雫が目を覚ましたら提督殿と話して帰るとするかの」

 

「ねぇじいさん」

 

 歩き出した一星を白露は呼び止めた。少しの間があった後、白露は一星の方へ向き話し始める。

 

「…また、ここにきてくれるよね?」

 

「…あぁ、またここに来る」

 

 白露達が部屋に戻ると、時雨がちょうど目が覚めたらしく少し話をした後に一星は部屋を後にする。時雨は寂しそうにしていたがまたここに来ることと、連絡先を伝えた。そして、一星は提督と少し話をした後に鎮守府を後にした。その後、しばらく白露達は出撃を控え心身共に休めるように提督から命令があったそうだ。

 

 




今回はこんな感じです!
次回はまた、演習回でございます!


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21話 横須賀大演習

お久しぶりです!
最近モチベが上がらずなかなか手が付けられていませんでした…。
今回は横須賀での演習になります!


 一星が鎮守府に訪れて数日、白露は立ち直りいつも通りに過ごしているが時雨はまだ心の整理がつかないのかまだ少し元気がない。そんな中、よその鎮守府と演習することになり今横須賀鎮守府にいるのだが…

 

「あのさ…演習するって聞いたから来たわけだけど…」

 

「なんていうか…あれよね…」

 

「確かにね…」

 

「どうしてこうなったんでしょう…」

 

『一気に4つの鎮守府が集まるって聞いたことないぞおおおおおおおおおおおおお!?!?』

 

 白露・霞・しおい・秋月は一斉に叫びだす。そう、今現在一つの鎮守府に4つの鎮守府の面々がいる。しかも、各鎮守府のほぼ全員がだ。普通ならこんなことはあり得ない。各鎮守府に護衛に行く大本営の艦娘にも限界があるからだ。しかし、元帥の話では…

 

『わしの信頼する艦娘たちにおぬしらの鎮守府の警備をさせるから心配ない。それにおぬしら中々日程を決められなかったのだろう?安心してよい。各鎮守府の警備は任せなさい』

 

 とのこと…

 

「だいたい急すぎるのよ!!なんで今日なの!?横須賀は激戦区なのよ!?あの人わかってるのねぇ!!」

 

「霞、落ち着きましょう。今更あれこれ言っても仕方ないですよ?」

 

「あんたは逆に落ち着きすぎでしょ!」

 

 横須賀鎮守府所属の霞と朝潮は騒ぎ出したり…

 

「なんか祭りみたいだな!演習が楽しみ!」

 

「イヨちゃん…祭りじゃ…祭りじゃないから…」

 

 佐伯湾所属の潜水艦イヨは楽観的でそれを姉妹艦のヒトミが心配したり…

 

「本当に大丈夫でしょうか…」

 

「元帥さんお墨付きだし、鎮守府は大丈夫でしょう」

 

「大丈夫大丈夫、本当に強い人達だから!」

 

 佐世保所属の秋月は少し心配するが…駆逐艦夕雲と空母瑞鶴は楽観的に捉えていたりと反応は様々だ。

 

「…そんで…一番気になったんだけど…」

 

 白露は自分の真後ろを見る。そこには祖父である一星の姿があった。

 

「なんで爺さんがいるんだよ( ゚Д゚)」

 

「…また来ると言ったろ?」

 

「いや確かにそうだけどさ!?」

 

「いや~まさか臥龍合気道柔術の第一人者である一星殿に会えるとは光栄だわ。しかもあなたのおじい様なのね。白露」

 

「本当びっくりしたわ…まさかこんな大物に会えるなんて」

 

「・・・ただただ、感謝」

 

「よしてくれ、わしはそんな大物ではない」

 

「なら!せめて後程組手を!!ぜひぜひ」

 

 桃や華凛、そして源蔵は一星に興味津々。もうみんながてんやわんやになっている。

 

「本当にどうしてこうなった…」

 

「いいじゃないですか。たまにはこういうのも…」

 

「そうそう提督の言う通りよ白露姉さん!ストレス発散に存分に暴れましょう!」

 

「村雨…なんかキャラ変わってないあんた…」

 

「早く戦いたい早く戦いたい早く戦いたい!!」

 

「夕立!あんたは少しは落ち着け!!」

 

 演習までまだ時間はあるがこの場にいる全員相当やる気のようだ。やはり先日話したことが効いているのだろうか?そんな中時雨はみんなとは少し離れたところにいた。正直まだ心の整理がついていない。今自分が演習に出ても足手まといになるだけだ。だから今は心の整理がつくまで演習や出撃は控えている。

 

「全く、ずいぶん暗いわね…そんなんじゃ、私の不幸が移るわよ」

 

「え?」

 

 後ろを見ると、横須賀鎮守府のエースである山城や扶桑、最上、朝雲、山雲がいた。全員が横須賀所属だ。ここ横須賀には時雨を抜いて、西村艦隊の全員が所属しているのだ。

 

「みんな!ここにいたんだ!まさか西村艦隊が全員集まれるとは思わなかったよ!」

 

「えぇ、私もびっくりよ。また会えてうれしいわ。時雨」

 

「正確には艦の記憶があるから自然とわかるというかなんというか…複雑よね…」

 

「朝雲…それは言わないの!」

 

「そうそう、雰囲気が台無しよ~」

 

 艦の記憶があるためか、全員と会ってもすぐに打ち解ける時雨。西村艦隊のメンバーと再会できたからかさっきより明るい表情になっていた。やっぱり連れてきてよかったと白露は思った。気分転換に外の空気を吸うのは良いことだし引きこもっていたら気がめいるため余計暗くなってしまう。そう思って白露は時雨を連れてきた。まさか過去の艦隊のメンバーと会えるなんて予想していなかったが。そう思っていると、唐突にしおいが話してきた。

 

「そういえばさ白露ちゃん!矢矧さんと互角だったって本当!」

 

「え?あ、そうだけど…」

 

「実はね!あとでS級同士の演習やるっていう話なんだ!!でも、山城さんは乗り気じゃないみたいで…」

 

「え、なんで?」

 

「…それはね…」

 

「あの白露さん!どうしたらあなたみたいに強くなれるんですか!教えてください」

 

「あ、あたしも知りたい」

 

「あたしも!」

 

「護身術をマスターしたい!」

 

「私も興味あるわ!」

 

「巻雲も!!」

 

 などと、しおいとの会話中に横やりを入れられた白露。全員が一気に詰め寄ってきたため、白露はうっとうしそうに。

 

「だあああああああうっさい!そんなもん知るかあああああああ!他を当たれ他をおおおおおおおおおおおお!!」

 

 白露は叫ぶと一目散に走りだす。こんな質問攻めはうんざりだ。演習までどこかで待機しようとしたとき隣を見るといつの間にか一星も走っていた。どうやら提督達から逃げているらしい。

 

「お互い苦労するの~。質問攻めはこりごりじゃ」

 

「爺さんもか!?てか、なんでそんなに走れるのさ!?」

 

「伊達に鍛えておらん!!」

 

「あんた今何歳なのさ!?」

 

「こう見えて60歳じゃ!!」

 

 走りながら話しつつ、逃げていく二人。追われていながらも会話をする余裕があるなどやはり、血のつながりがあるというのかどこか似ている二人であった…。

 

 

 

 

 

「はぁ~、組手は今度頼もうかしら…でもここは激戦区だし…暇はとれそうも…う~ん」

 

「あきらめなさい、司令官」

 

「向こうもやりたがってるわけじゃないし、無理に行っても嫌われるわよ?」

 

「はぁ~い…」

 

 大物に会えはしゃいでいた桃。組手を申し込んだがあえなく断られたためかなり落ち込んでいた。そんな桃を、秘書艦の霞と満潮が慰める。桃と同様、白露に近接戦を教えてもらいたがっていた者達もあえなく失敗。かなり落ち込んでいた。

 

「まぁ、今は演習に集中しよう。俺のとこと、赤神、お前のとこが最初だ」

 

「…仕方ないか。霞、旗艦任せるわ」

 

「了解よ」

 

 演習のメンバーは以下の通りだ。

 

佐伯湾鎮守府:旗艦イムヤ、ゴーヤ、ニム、神風、叢雲、長波

 

横須賀鎮守府:旗艦霞、三隈、利根、朝潮、望月、弥生

 

 それぞれの艦隊が沖合に出る。出番のない他の鎮守府は埠頭で待機している。艦隊を見送った後、桃は源蔵に話しかける。

 

「それで、源蔵さん。今回はなんで大規模な演習を行なうことになったわけ?何か理由があるんじゃないの?」

 

 源蔵は桃の質問に対し静かに口を開く。

 

「それはお前もわかっているんじゃないのか?ここがただの激戦区だと思ったか?」

 

「なるほど理解したわ。他の三人はこのこと気づいているかしら?」

 

「きっとあの三人も感づいているだろうさ。さっきから視線があちこちに行っているからな」

 

 この大演習を行うのには理由があった。横須賀が激戦区なのはただ単に深海棲艦がここを徹底的に落とそうとしているわけじゃない。ある理由があったからだ。

 

「まったく、せっかくの演習見るの楽しみだったのに…霞も感づいているみたいだし…私は散歩ついでに、テロリストが潜んでいないか探してきますか…」

 

 そう言い残し、桃は埠頭を離れていく。それを見送り源蔵は静かにつぶやいた。

 

「さて、こちらも動くか。イヨ、聞いてたな。仕事だ」

 

 

 

 

 

 

 

「…司令官が動いたわね。私は私でこっちに集中しとこうか。まだ相手も仕掛けてこなさそうだし…」

 

 

 

 

 

 佐伯湾鎮守府旗艦のイムヤは霞達の様子や源蔵、そしてイヨの様子を見てことが動いたことを察した。

 

「こっちはイヨが動いたわね。何もなければいいけど…」

 

 

 

 

 

 埠頭で待機している京、仁、そして華凛も警戒を強めていた。

 

「いつ何があっても動けるように警戒を怠らないようにしてくださいね、仁」

 

「わってるさ、任せな」

 

「全く、なんでこんな時に…」

 

 

 

 

 

「さてと、そろそろここを潰すか!4つの鎮守府のやつらを一気につぶせるなんてな~!!」

 

鎮守府内のとある一室。地下倉庫のような部屋にいる一人の男性はパソコンの画面を見てにやつき、行動を起こすことを楽しみにしていた。

 

 

 

 




はい、今回はこんな感じです!
最後に少し不穏な空気が流れましたが、そこは次回に回したいと思います!
ではでは!


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22話 襲撃

 質問攻めしてくる者たちから離れ鎮守府の入り口まできた白露と一星。入り口付近まで来たとき、それ以前にこの鎮守府から感じる視線が気になっていた。

 

「爺さん、この鎮守府…」

 

「あぁ間違いない。何者かに狙われておるのう。しかも複数おる」

 

 この鎮守府に来てから何やら違和感のようなものを感じていた。視線や殺気などが常にある。おそらく提督達も気づいているだろう。

 

「まぁ、今はやつらが尻尾を出すのを待とう。下手に動いたらよくなさそうじゃ」

 

「そのほうが得策か。まぁ、いつ来てもいいように準備はするか…」

 

 一度鎮守府内に戻る二人。しかし、念のため鎮守府の外へ殺気を放ちながら戻るのだった。

 

 

 

 

 

――沖合

 

「よし、私たちの勝利ね」

 

「なんなのよもう!あと、利根さん!一体どんな鍛え方したら水中にいる私たちに爆雷なしで攻撃できるのさ!?大体!大本営所属だったのよね!?どうして転属したわけ!?」

 

「あぁ、この脚力は生まれつきでな。鍛え方どうこうとかじゃ…あと、転属したのは海よりも深く山よりも高い理由があって…」

 

 勝負は横須賀鎮守府の勝利に終わった。利根の索敵に加え超人的な脚力。そして、霞の状況判断能力で物の数分で佐伯湾鎮守府のメンバーを圧倒していた。

 

「さてと、次は私たちね。とりあえず準備は出来てるかしら鳴海君」

 

「えぇ、こちらも準備はできていますよ」

 

「…準備は怠っていないでしょうね?」

 

「えぇ、皆さんにも伝えてあります」

 

 演習のメンバーは以下の通りだ。

 

佐世保鎮守府:旗艦神通、雲龍、葛城、瑞鶴、川内、秋月

 

柱島鎮守府:旗艦五十鈴、摩耶、鳥海、夕立、飛鷹、隼鷹

 

「今日はよろしくね神通!」

 

「はい、よろしくお願いします五十鈴さん。こうしてお手合わせできるのはいつ以来でしょうか?」

 

「う~ん、養成校に訓練した時以来だから1年と少しかしら?」

 

「もうそんなに立つんですか?時間は早いですね…」

 

「…もしもの時の準備は万端?」

 

「…えぇ、早急に対応できるよう準備は整えていますよ…」

 

「五十鈴さ~ん!!早く来るっぽい!」

 

「神通さん、もうそろそろ所定の場所まで行かないと!」

 

 次の演習まであと数分であるため所定の位置で待機していなければならない。結構話し込んでしまっていたようだ。

 

「じゃあ、またあとで。ちゃんと演習出来たらの話だけど…」

 

「私たちも負けませんよ。ちゃんと演習出来たらですけど…」

 

 そう言って、二人は所定の位置に向かう。だがこの時、横須賀鎮守府の近海に魔の手が忍び寄っていた。

 

 

 

 

 

(イヨからまだ連絡がこない。敵を見つけることができていないのか)

 

 イヨを捜索に出してから数十分経つが一向に連絡がこない。同じく鎮守府を捜索している桃からも一向に連絡がこないのだ。そんな中、潜水艦隊に所属しているヒトミが両腕を抱え小刻みに震えだしていた。ヒトミがこのような状態になるのはたいてい悪いことが起こる前兆だ。

 

「ヒトミ、どうした?」

 

「・・・・」

 

 声をかけるもやはり震えている。口をぱくぱくさせさっきよりもひどくなってきている。

 

「ヒトミ!大丈夫か!?」

 

 声をかけ、ヒトミに触れた服部。次の瞬間、服部の頭に映像が流れ込んできた。深海棲艦の大群が押し寄せ、武装した人間たちがこの鎮守府を襲っている惨状を。ヒトミは服部の腕を強く握りしめる。そして、ゆっくりと口を開き泣きそうな顔をしながらしゃべり始めた。

 

「提督…もうすぐ…もう少し…したら……ここ…危ないよ…逃げよう…」

 

「もうすぐ?まさか!?」

 

 直後、横須賀鎮守府に警報が鳴り響き轟音とともに建物が崩れ落ちた。鎮守府にいる憲兵や整備士達が慌てふためき叫び声をあげながら逃げ回っている。

 

『こちら瑞鶴!索敵機から打電。近海に深海棲艦が大群で押し寄せてきてる!敵の規模は数百…いや数千規模よ』

 

『提督!まずいよ!武装した人たちが鎮守府の門まで来てる。板挟み状態だよ!!』

 

 最悪のタイミングだ。このままではあの事件の二の舞になってしまう。どうにかして打開しなくてはならない。しかし、直後に通信が入る。通信をしてきたものはこの鎮守府のエースである山城からだった。

 

「安心しなさい、ここにはS級の艦娘が3人。それに戦える連中がたくさんいるでしょう。戦えないものは安全な場所に避難なさい。まったく、本当に不幸だわ…」

 

 山城は、通信を終えると単騎で出撃する。山城は12人のS級の一人。天災児(クレイジーニアス)の異名を持つ艦娘だ。序列は6位。この絶望的場面でも顔色一つ変えず、余裕な表情で海をかけていく。

 

「じゃあ、戦える皆は援護をお願いね!私があいつらの中心部まで行ってやっつけてくるから」

 

 しおいも海に飛び込み、沖合に向けて出撃する。遅れて佐伯湾所属のゴーヤ、ニム、ハチも海に飛び込んだ。そして、埠頭から離れていた白露も艤装の準備を済ませ海に出ようとしていた。

 

「全く、本当空気読まない連中だな。夕立達が向こうにいるから先にそっちか…テロリストどもは提督達や憲兵に任せるよ」

 

 悪態をつきながら歩いていると時雨が白露の手を握り立ち尽くしていた。何か言いたげな表情をしており、何度も白露に話しかけようとしているが言葉が出てこないようだった。

 

「なんだよ時雨、用があるなら…」

 

「…よね?」

 

 時雨は泣きそうな顔をしながら、白露に話しかける。以前に過去を知ったからか、これ以上身内を失いなくないという思いからなのだろう。白露に何度も確認するように話しかけた。

 

「帰ってくるよね?絶対に…白露まで僕を置いていかないよね?絶対に帰ってくるよね…」

 

 白露は黙って時雨を見つめる。時雨の言葉にため息をつき頭をなでてやりながら白露は答えた。

 

「帰ってくるよ。あたしの心配よりあんたは自分の身を守りな。テロリストがこっち来てるんだから。だいたい私の強さ知ってるでしょ?さくっと倒してくるからあんたは自分の仕事する」

 

 そう言って、白露は海に向け走り出す。埠頭から一気に海へ飛ぶと演習に出ていたメンバーがいる所定の位置まで駆けていった。時雨は白露を見送ると、テロリストたちの対処をするため京と仁のいるところまで駆けだした。この状況を打開するために。

 

 



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23話 攻防戦

 沖合まで行き、柱島のメンバーがいる場所まで走行している白露。今演習に出ているメンバーは実弾と演習弾のどっちも持っているが、正直劣勢になるのは間違いない。数千規模で深海棲艦が襲ってくるとは誰が予想できただろう。かといって、一度体制を立て直すために鎮守府に戻ったところでテロリストどもがいるため°ちみち危険だ。

 

「なんでこんな時に板挟みの状態に!第一、深海棲艦どもが数千規模で急に攻めてくるってどういうことだよ!」

 

 悪態をつきながら走行する白露。以前から横須賀は激戦区だという話は聞いていたがここまでの規模で攻められるのは初めてだ。常日頃から深海棲艦がここに攻めてくるのは何か理由があるはずなのだ。

 

(ここが激戦区な理由…深海棲艦が攻めやすい環境だったから?いや、ここにはS級の艦娘がいるみたいだしそんな安易な考えはないはず。だとしたら、何かに引き寄せられた?それとも何か目的が?)

 

 横須賀に来てから常にあった視線。その視線が何なのかずっと気になっていた。誰かに監視されていた。それも、横須賀にいる全員が気づかないほど。

 

「まさか、横須賀に裏切り者が…そいつが深海棲艦を呼び寄せてるのか…?」

 

 考えを張り巡らせていると、西側から砲撃音が聞こえてきた。場所からして、艦隊のメンバーが待機する場所だ。何度も砲撃が鳴っていることから考えると戦闘が始まっている。

 

「とりあえず、向こうは提督達に任せるしかないか…爺さんもいるし何とかなるはず」

 

 白露は、砲撃音のする方向へと一気に駆けだす。今は目の前のことに集中するしかない。

 

 

 

 

 

「くっそ、こんな規模で来るなんて聞いてねえぞ!数がわかってたら、もっと対応を考えられたろうに!」

 

 摩耶が悪態をつき、対空戦に集中している。弾を実弾に変え、相手を牽制しつつ後退しているがいかんせん相手の数が多すぎる。少しでも気を抜いたら被弾してしまうほどだ。

 

「鎮守府にはテロリストがいるらしいわ!戻って補給できたとしてもテロリストを何とかするしかない!」

 

「その前にこの状況を打開しないと!明らかにこっちが不利です!」

 

 深海棲艦は数で圧倒し確実にこちらを潰そうとしている。正直、無事に鎮守府まで戻ることは不可能、さらに戻ったとしてもテロリストの襲撃。まともに補給できる状況ではない。

 

「夕立ちゃん直上!!」

 

 飛鷹の叫びに、夕立は真上を見る。真上に艦載機が飛び交い艦爆や雷撃が迫る。すんでのとこでかわしたが全部を交わしきることはできず被弾してしまう。さらに、夕立の目の前に重巡リ級が砲塔を夕立に向ける。かわし切ることはできない。

 

「あ…やばい…」

 

 砲撃が夕立に向け発射される。夕立を助けるため鳥海や五十鈴が夕立のもとへ向かおうとするが間に合わない。しかし、轟音と共に深海棲艦や夕立を狙ったリ級が撃沈されていた。白露が夕立に向かっていた砲弾をはじき魚雷を目の前の深海棲艦たちに発射していたのだ。

 

「白露お姉ちゃん!」

 

「あんたらは一旦鎮守府に戻って体制を立て直してこい。ここは私が何とかする」

 

「でも!」

 

「待ちな夕立、あたしらがいても足手まといだ。白露!すぐに戻る!それまで耐えていてくれ!」

 

 摩耶は夕立を背負い鎮守府へと向かう。他のメンバーも鎮守府に戻ったためこの場所には白露と深海棲艦たちのみになった。鎮守府へと戻るメンバーを背中越しに見ながら白露はつぶやいた。

 

「期待しないで待つさ…」

 

 

 

 

 

 東側へと向かった山城は無事に神通たちと合流する。神通がうまく立ち回ってくれたおかげで被害は最小限にとどめられていたようだ。

 

「みんな無事ね!あなたたちはすぐに鎮守府に戻って体制を立て直してきなさい。ただし、テロリストたちには十分に注意すること。状況によって向こうの協力をしてもらうかもしれないからそれは頭に入れておいて」

 

「了解しました!ご武運を」

 

 神通たち佐世保鎮守府のメンバーは早急に鎮守府へと戻る。直後、山城の周囲に砲撃が着弾し上空には艦載機が飛び交っている。そして、山城の方に砲弾や艦爆などを襲ってくる。しかし、こんな状況でも山城は余裕な表情だった。

 

「本当……不幸だわ!」

 

 山城は左腕を勢いよく横に振る。すると、周囲に衝撃波のようなものが発生し、深海棲艦をなぎ倒していく。すかさず、山城は砲撃を行い深海棲艦を轟沈させていく。さらに、自信の周囲に竜巻を発生させ砲撃や艦爆を防いでいく。

 

「とりあえず、私の異能のことでも話しておきましょうか…。私の異能は天災(ディザスター)。あらゆる天災を操る能力よ。まぁ、体にかかる負担がでかすぎるから、乱発は出来ないけどね…。いってもわからないと思うけど…」

 

 山城は周囲を見渡す。まだ深海棲艦は腐るほどいる。一瞬たりとも気を抜けないのは変わりない。山城は気を引き締め、目の前にいる深海棲艦達に集中した。

 

 

 

 

 

 北側へ向かっていたしおいたち潜水艦隊は目の前の敵の数に驚愕していた。普段なら6隻が普通の艦隊が今は、視界を埋め尽くさんとばかりの数なのだから。

 

「こ、こんな数初めてでち…」

 

「でも、やるしかないよね…」

 

「無傷で帰れなさそう…」

 

 しおいの後についてきたゴーヤ、二ム、ハチは不安そうな声を上げる。しかし、こんな状況でも、いやこんな状況だからかしおいは明るく声をかける。

 

「大丈夫!あたしが先陣きってあいつら引き付けるから!三人は敵の気づかない範囲のとこから雷撃を打って!!」

 

 そしてしおいは先陣を切っていく。敵陣に向けスピードを上げていきあっという間に敵の目前まで近づいていく。

 

「あ~もうやるしかないでち!!私たちは指示通りに遠距離から援護するよ!」

 

 ゴーヤたちは、戦線から少し離れた場所から雷撃を放つ準備をししおいの合図を待つのだった。そして、先陣を切ったしおいも一気に雷撃を放っていった。

 

 

 

 

 

―――鎮守府

 

 鎮守府では武装したテロリストたちが鎮守府に向かって銃撃していた。数は約100人前後。憲兵たちが何とか食い止めているが、それでも押し切られてしまい侵入を許してしまっている。テロリストたちは銃のほかにもナイフや手斧など様々な武器を持っていた。そんな中、桃は刀を持ちテロリストのいる方に歩いていく。何やら文句を言いながら。

 

「せっかくの演習だったのに……山城には反対されてたけど、S級対決見てみたかったのに……その演習を台無しにしやがってくそがあああああああああああ!!」

 

 せっかくの演習を邪魔されたからか桃は吠えながらテロリストたちに突っ込んでいく。しかも、刀一本でだ。普通なら自殺行為にも等しい。テロリストたちは桃を見つけるなりすぐに銃口を桃に向けた。桃に向かって鉛玉が飛んでいくが桃にあたることはなかった。なぜなら、桃が弾丸をすべて切り落としていたからである。

 

「な、なんてやつだ…弾を切りやがった!」

 

 テロリストが驚くのもつかの間桃は一気にテロリストとの間合いを詰める。

 

「くたばれ外道ども!!」

 

 桃はテロリストの持っていたアサルトライフルを一刀両断すると同時にテロリストたちを吹き飛ばす。あっけにとらわれていた者たちはすぐに桃に攻撃を仕掛けようとするがそれを華凛が刀で斬り伏せる。もちろん峰内なのだがかなり鈍い音が聞こえていた。

 

「桃、気持ちはわかるけどここは冷静に…って、あら」

 

 気が付くと華凛は槍を持った者たちに囲まれており、このままでは串刺しにされてしまう。テロリストたちが華凛に迫ってきているからだ。

 

「くたばりやがれ悪魔がああああああ!」

 

 叫びながら突進するテロリストたち、しかし華凛は回転切りを放ちテロリストたちに斬撃を放った。手加減をしていなかったらおそらく即死していただろう。

 

「くたばるのはあんたらのほうだ!!この狂信者どもが!」

 

 桃と華凛は目の前のテロリストたちを一掃していく。あまりの速さにテロリストたちはついていけず次々と倒されていく。それを監視カメラの映像で見ていた男はただただ、呆然と見つめていた。

 

「おいおい、まじかよこんなにやられていくのか。でもこれは正直予想済みだ。さてと、ここの地下に隠しておいたロボットたちを起動させて…よしこれでいい。後はやつらに向けて…」

 

「ねぇ、こんなところで何してんの?」

 

「どわ!!」

 

 不意に後ろから声をかけられた男は驚きのあまり椅子から落っこちてしまう。後ろにいたのはスクール水着を着用し帽子をかぶっている潜水艦のイヨだ。

 

「あんたでしょ?ここに深海棲艦を呼び寄せたの」

 

 イヨは男に詰め寄りながら銃を構える。銃を構えられても男は焦ることなく素直に質問に答えた。

 

「確かに俺がここに深海棲艦を呼び寄せていた。仕掛けに関しては依頼主からもらっただけで詳しいことはわからないがな…。まぁ居場所がばれた以上、俺もやるべきことをやるか」

 

 男はポケットからリモコンを取り出しスイッチを押した。瞬間、地上から爆発音が聞こえさらに地鳴りのような音が聞こえてきた。

 

「ちょ!?何をしたのさ!?」

 

「こうなることはある程度予想してたからな、だから準備しておいたのさ」

 

 そう言って、男は自分の手に持っているリモコンをイヨに見せる。そして、男は自分の懐に手に入っている銃を取り出しイヨに向ける。

 

「さてと、じゃあ俺はここいらで退場させてもらうぜ。俺の役割はもう終わったからな」

 

 男は自分のこめかみに銃を当て自害しようとする。だが、それはできなかった。なぜならイヨが一瞬のうちに男に詰め寄り銃を叩き落としたからだ。漠然とする男に向けてイヨはアッパーをくらわした。

 

「あんたにはいろいろと聞きたいことがあるからね。まだ死んでもらっちゃ困るよ」

 

 男を気絶させるとイヨは男の操作していたパソコン画面に目を向ける。そしてイヨはパソコン画面に映っている内容を見て驚きを隠せなかった。

 

「やばいよこれ!!提督達が…みんなが危ない!」

 

 

 

――鎮守府本館

 

 戦えない者たちを本館に避難させた源蔵。先ほど爆発音がしたためその方向へ向かおうとする。ちょうど、霞たちが向かった方角だ。直後、無線から連絡が入る。イヨからの通信だ。

 

「イヨか?どうした」

 

『提督!大変だよ、今そっちに人型のロボットが向かってる!数からして200はいる』

 

 最悪のタイミングだ。爆発音がした方角から推測するとおそらく資材庫。そこには燃料や弾薬などがある。おそらく資材はほとんどが燃えた。そうなると沖合で戦っている者たちまで救援に向かえない。陸はテロリスト、さらにロボットとなると対処するのに限度がある。

 

「くそ!こんなタイミングで…テロリストたちは三条たちが何とかしている。となると…」

 

 源蔵は無線の電波を調整し資材庫に向かった京と仁に無線をつなぐ。現状ロボットたちに対抗できるのはこの二人、そして一星だろう。

 

「京!資材庫近くにいるな!」

 

『はい、こちらは大爆発を起こしたようで資材は半壊。犠牲者がいないのが幸いです』

 

「わかった。だが京、至急対処してほしいことがある。どうやら人型のロボットが周囲にいるらしい。見つけ次第破壊を…」

 

 直後、無線機からノイズが響き通信が切れてしまう。最悪の事態を想定し源蔵はすぐに資材庫に向かう。だが、銃声が響き突然銃弾が源蔵の頬をかすめる。銃声のした方角を見ると武装しているロボットが複数体いた。

 

「くそ、どうしてこうも嫌なことが続くんだ…」

 

 ロボットたちに囲まれている源蔵は頭を抱えた。ロボットたちは源蔵に向け銃を撃つ。しかし、打った先に源蔵はいなかった。ロボットたちは周囲を見渡すもやはりいない。

 

「おいお前ら、どこを見ている?」

 

 源蔵はいつの間にか、本館の屋根におりロボットたちを見下ろしている。傷一つなく余裕の表情だ。ただし、いつもと何ら表情は変わらないが…

 

「俺の動きを終えないのであれば、お前たちは不良品だな」

 

 そう言って、源蔵はクナイを投げつける。ロボットたちに突き刺さった直後、電流が流れロボットたちは動かなくなった。

 

「…伊賀の末裔をなめるんじゃない…」

 

 

 

---資材庫

 

 源蔵から通信が途切れてから数分、資材庫にいる柱島のメンバーと横須賀のメンバーは救援に向かうために燃料や弾薬を準備しているとこだった。資材こそ爆発で半壊したが鋼鉄製のコンテナに厳重に保管してあったものもあるため被害は最小限で済んだようだ。

 

「皆さん、準備は!?」

 

「いつでも行けるわ!私たちは北に向かった潜水艦隊の元へ行く。柱島のみんなは西に行った白露のとこに行きなさい。燃料と弾薬忘れんじゃないわよ!」

 

 霞率いる満潮、利根、最上、三隈、朝潮はすぐに埠頭へと向かう。村雨たちも準備ができたらしくすぐに埠頭へと向かおうとするが燃料、弾薬を持った春雨が霞に向かって叫んだ。

 

「あの、山城さんのところには?救援に行かなくていいんですか」

 

「私たちが行っても巻き込まれるだけ。あの人の能力は化け物クラスだもの。そんなことより早く行きなさい。いくら白露がS級クラスだからって燃料と弾薬には限度があるんだから」

 

 確かに、いくらS級の白露でも燃料と弾薬に限界がある。しかも、山城のような能力を持っているわけじゃない。ただ、身体能力や肉体を強化するだけだ。

 

「みんな、準備できたわね。私たちはこれから白露姉さんのところに救援に行きます。もしも途中、五十鈴さんたちと合流したら弾薬を補給を。決して無理はしないように」

 

 村雨たちも救援に向かうため埠頭に向かう。だが、向かう途中村雨たちの前方に突然ロボットが現れた。武装しているアサルトライフルで村雨たちを撃とうとするが、それを京が刀で切り落とす。

 

「行ってください、ここは私と仁で死守します。村雨さんたちは早く白露さんのところへ」

 

 京と仁は人型ロボを制圧していく。京たちの援護をしたいところだが早く白露の元へ向かわねばどうなるかわからない。村雨は埠頭へ向かおうとするが途中京に振り返る。

 

「京さん、無事でいてください」

 

 埠頭へ走り去る村雨を見送りながら京はつぶやいた。

 

「村雨さん。あなたも無事でいてください」

 

 京と仁は目の前のロボットに集中するため剣を振り下ろした。狙いは京達のようで、村雨たちには銃口を向けていない。

 

「…さてと、久しぶりの実戦ですが、仁、いけそうですか?」

 

「俺はいつでも行けるぜ、体動かすのは久しぶりだ。最近料理人の手伝いと、書類とにらめっこばっかりだったからな…」

 

 仁は、肩を動かしながら愚痴をこぼす。刀こそ持っているものの、仁はどちらかというと格闘戦のほうが得意だ。グローブを手にはめると、軽く飛び跳ねている。

 

「では、いきますか!」

 

 京と仁はロボットたちに向かっていき敵を切りつけ殴り飛ばしていく。この状況を打破していくために。

 

 

 

 

 

―――本館

 

「始まってるの…にしても、本当に鎮守府の作りはほぼ一緒なんじゃな。家具の位置などは少し違うようだが…」

 

 戦えない者たちを本館に逃がした後、一星は念のため本館に残り、万が一のために護衛をしている。ここにいるのは、主に料理人やB級の中でも下位の分類に入る艦娘たちだ。今いる艦娘は夕雲に巻雲、菊月、長月だ。他の艦娘たちは他の場所で戦っている。S級の三人が万が一うち漏らしなどをしたときのために防衛線を貼っているのだ。時雨もそっちの方に行ったようで今はここにいない。

 

「一星さん…だったっけ。どうやったら、あなたみたいに強くなれるんですか?」

 

「それ、私も知りたかった。私も強くなりたい!」

 

 白い髪を肩にかかるくらいに伸ばし、耳に補聴器のようなものをつけている菊月と緑色の髪に肩までかかるくらいに伸ばしており、上の髪が左右に伸びているようなくせ毛の長月は一星にそう話した。さらに、緑入りの長髪を三つ編みにしている夕雲とピンク色の髪をし眼鏡をかけている巻雲も興味があるようで一星に視線を向けている。

 

「…そうじゃな、まずはその武術をよく知ることじゃな。あとは、一年間は股割という柔軟運動をじゃな…」

 

「一星さんちょっと待って!」

 

 菊月は、耳の補聴器を調整し何やら集中しだす。何事かと思い理由を聞こうとしたとき、菊月はいっきに叫びだした。

 

「みんな逃げろ!下に何かいる!!」

 

 直後、床の下から爆発音が響き、テロリストとロボットたちがはい出てきた。全員が銃やナイフなどを持っている。最悪なのはここには一星しか戦えるものがいないことだ。

 

「これは予想外じゃの…まさか下から出てくるとは思わなんだ…それにしてもお嬢さん。よくわかったの」

 

「え…えっと、私はこれを付けているから周りの音を聞けるというかなんというか…」

 

「呑気に話している場合ですか!早く非難しないと!」

 

「おぬしらは逃げなさい。ここはわし一人でいい」

 

「でも、あなた一人じゃ!」

 

「いいから!早くいきなさい!」

 

 一星の言葉に、憲兵たちを呼んでくるといい料理人たちとともに避難する夕雲たち。全員を見送った後、一星は敵陣に向かって突っ込んでゆく。テロリストの一人が投げナイフを投げるも、一星はそれをつかみ逆にテロリストの肩に投げた。そして、一人一人投げ技で倒していく。テロリストたちは、仲間に銃弾が当たるのを恐れたためナイフや手斧で応戦するが一星はそれを軽々といなしていった。そんな中、ロボットは一星に向け銃撃を放つ。一星はそれをよけつつロボットに向け走り出す。そして、関節部分を破壊していきうまく機能できないようにしていった。

 

「まったく、仲間まで打てるように設定でもしているのか…機械のことはよくわからんわ…」

 

 そんな愚痴をこぼしながら、テロリストたちに銃撃が当たらないように立ち回っていく。戦いは慣れているが、守りながら戦うことはとても難しいのだ。敵ではあるが、情報が欲しいのでストレスを抱えながら一星は戦っていった。

 

 




白露「…山城って人強くね…」
まぁ、結構強いです…はい
白露「作者…しおいも強いのか?」
しおいも強いです!でも、S級の上位の人達はもっと強い設定です!
白露「そ…そうか(;・∀・)」


 というわけで、今回はここまでです!


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24話 最凶の艦娘

お久しぶりです!
仕事とモチベーションが上がらず遅くなってしまいました…。
24話です!楽しんでいただければ幸いです。


 沖合の東にいる山城は、半数近くの深海棲艦を殲滅していた。山城は能力や砲撃をすることで敵の戦力をそぐことができた。何せ、台風や地震のような衝撃波を引き起こすことができるのだから。

 

「霞たちは私のことをよく知っているからおそらく北のしおいか西の白露のほうへ向かったわね。鎮守府のほうは何とか無事だと願いたいけど…今は気にしてられないわね」

 

 半数以上の深海棲艦を撃破できても空母や戦艦クラスがまだ残っている。

 

「援軍でもいてくれたら助かるんだけど、簡単に来ないわよね…」

 

 愚痴を言ったそのとき、山城の通信機に連絡が入る。よく聞こえなかったが女性の声で話しかけてきた。通信機を用いるということは艦娘であることは間違いない。

 

「・・・バ・・・これより・・・深海・・・殲滅・・・します」

 

 通信状況が悪いため山城は相手に向けて大声で話した。砲撃や艦載機が飛び交っているため話すことに時間を割くことができないのだ。

 

「よく聞こえなかったわ!もう一度言ってちょうだい!」

 

 通信機越しに聞こえてきたのは、山城もよく知る人物。同じS級の艦娘であり岩川鎮守府のエースとして活躍している、7位の最凶の艦娘。首狩り、ソロモンの狼の異名を持つもの。

 

「我青葉、これよりあなたの援護に入ります。」

 

 直後、深海棲艦たちの首が切られていた。深海棲艦たちも何が起こったのか把握できなかったがすぐに理解した。すぐ近くに大鎌を持つ青葉が立っていたからだ。青葉をみた深海棲艦たちは一斉に砲撃や艦載機を集中させるが砲弾が青葉をすり抜けていくため当てることができなかった。

 

「まったく、本物の私を見抜けないようじゃまだまだですね…」

 

 青葉は砲撃や雷撃を放ちつつ深海棲艦に一気に詰め寄り首を刈る。戦艦、空母、重巡を一気に刈りつくし気づけばさらに半数の深海棲艦が撃沈していた。

 

「さて、どうしますあなたたち?今なら見逃してあげますけど?」

 

 生き残った深海棲艦に問いかける青葉。勝てないと察したのか生き残った深海棲艦たちは撤退を開始した。完全にいなくなったのを確認すると青葉は山城の元へ近づいた。

 

「青葉!?どうしてここに?」

 

「話はあとです山城さん、ここ以外に深海棲艦がいるところは?」

 

「ここから西のほう。そこにしおいたちが、さらに西には白露が戦っているわ」

 

 青葉は山城の話を聞き、あごに手を当てどちらに援護に向かうべきか考えた。

 

(しおいさんのほうはおそらく問題ないでしょう。海上戦ではあの子はずば抜けた戦闘力を持っている。となると、やはり白露さんのほうでしょうね。私が調べた情報が正しければ、あの子の能力は一対多数に向いていない)

 

「了解しました。私は白露さんの元へ行きます。山城さんは鎮守府に戻ってください。あと鎮守府のほうは大丈夫です。何せ鬼神が戦っていますから!ではでは~」

 

 そういって、青葉は西へ向かった。山城は鎮守府に戻るため走行しようとするが能力を使ったせいで体が思うように動かなかった。

 

「くっ。やっぱり思うように動いてくれないわね。本当不幸だわ。でも、青葉が鎮守府は大丈夫って言ってたわね…それに鬼神がどうのって…まさか(◎_◎;)あの子が刑務所から出てきたんじゃ(;・∀・)」

 

 山城は、自分の考えが間違っていることを願いつつ鎮守府へと向かう。だが、のちに自分の考えが正しかったと思うことをまだ知る由もない。

 

 

 

 

 

―――sideしおい

 

 しおいの活躍により深海棲艦を半数以上撃破した。だが、装甲の高い戦艦、特にflagship級はよくて中破止まり。ほかにも重巡や正規空母flagship級が残っている状況だ。

 

「さすがに装甲が固い深海棲艦は一発じゃ倒しきれないか…まぁ、向こうは私たちを攻撃できないしまずまずかな」

 

 潜水艦である以上重巡、空母、戦艦はしおいたちに攻撃できない。駆逐艦、軽巡、軽空母を徹底的に攻撃したため相手はしおいたちを攻撃する手段はないのだ。

 

「しおい!!こっちの残弾が尽きたでち!ゴーヤたちはどうすれば!?」

 

 魚雷を撃ち尽くしたゴーヤたちはしおいに指示を仰ぐ。しおいは先ほど霞たちから援軍が来ると通信を受けたのでゴーヤたちに一時後退するように指示をした。

 

「ここは、私がやっておくから、みんなは一時後退して霞ちゃんたちと合流して。そこで燃料や魚雷を補給してもう一度ここにきて」

 

「了解でち!」

 

 ゴーヤたちは鎮守府のほうまで後退する。ゴーヤたちを見送ったしおいは海面から顔を出し目の前にいる深海棲艦たちに問いかけた。

 

「ねぇ、まだやるの?あなたたちは私に攻撃を当てることはできないよ?」

 

 深海棲艦たちはしおいの質問にただ黙っていた。その中で、空母ヲ級flagshipはしおいに話しかける。

 

「フザケルナ、ココマデ来テ諦メルモノカ!鎮守府ヲ壊スマデ我ラハ諦メンゾ」

 

「おお!あなた喋れるタイプの深海棲艦なんだね!でも……そうか…」

 

 ヲ級flagshipの話を聞いたしおいは残念そうにため息を吐きながらつぶやいた。

 

「最後のチャンスだったのに…じゃあもう手加減はいいよね…みんなも一時後退したしちょうどいいや!」

 

 しおいは海面から出ると、水に手を触れる。すると、しおいの周りの海面が生き物のようにうねりだし深海棲艦たちを襲う。あるものは海面に引きずり込まれ、あるものはむち打ちを食らったように遠方へ吹き飛んでゆく。しおいは加減していたのだ。本気を出せばゴーヤたちを巻き込みかねなかったから。

 

「さぁて、伊号潜水艦の本気、見せちゃうよ!!」

 

 荒波が深海棲艦を襲い、そして撃沈していく。海面に引きずり込まれた深海棲艦は水圧によって撃沈していく。普通なら海に潜っても平気なはずなのだがしおいの能力によっていくら深海棲艦といえども沈むのだ。

 

「馬鹿ナ!ナゼダ!?タカガ水ゴトキデ私タチガ!?」

 

「私の能力は水流操作(ハイドロハンド)、水を自在に操る能力なんだ。だから、海は私の領域!そして私の操る水は、鉄のように固い!!」

 

 しおいの操る水が深海棲艦に猛威を振るう。これによってさらに半数の深海棲艦が撃沈されていく。

 

「テ…撤退ダ!コンナ奴トヤッテイタラ命ガイクツアッテモ…」

 

「逃がすと思う?」

 

 撤退しようとしていたヲ級を霞が砲撃、さらに雷撃を放ち大破状態にする。ほかの深海棲艦は援軍に来た横須賀鎮守府の艦隊が沈めていく。さらに、ゴーヤたち潜水艦組も深海棲艦を撃滅していく。

 

「クッ、殺セ…」

 

「あんたにはいろいろと聞きたいことがあるから捕虜よ」

 

 

 

 

 

―――side白露

 

 夕立たちを逃がし、深海棲艦たちと戦っていた白露は正直かなり苦戦していた。白露は一対一の勝負は強く、一戸艦隊、連合艦隊にも引けを取らない実力を持っているが、今回は数千を超える大群。戦艦、空母、重巡、軽巡、駆逐艦すべての艦種がそろっておりその中にはflagship級などの強化個体がいる状況だ。

 

「あんなこと言ったけど正直かなりきついな。あたしの能力はただ身体能力を上げるだけだしな…」

 

 白露の能力は身体能力を強化するだけで砲撃や雷撃は他の駆逐艦と同等なのだ。戦艦クラスを一撃で撃沈することができるのは普段の数倍の力で殴った瞬間に砲撃を放つことが鍵なのだ。それは相手が一戸艦隊や連合艦隊のときにできることであって大群相手にすることは不可能ではないがかなりリスクを負うことになる。

 

「なら、相手を盾にしつつ隙を見て戦艦、空母を叩く」

 

 白露は人型の軽巡に腹パンを加えると首をつかみ背中に担ぐ。背中に担いだことで後方からの攻撃を防ぐ目的があるのだ。次に前方にいる深海棲艦に砲撃で牽制しつつ担いでいる軽巡から魚雷を抜き取る。軽巡を海面にたたきつけると口に魚雷を突っ込み前方にいる敵に向かって投げ飛ばす。投げ飛ばした軽巡に砲撃をし、魚雷を爆発させた後、後方にいる空母の集団に一気に詰め寄り艦載機を封じるため帽子のような装備を破壊する。しかし…

 

「ッ!?」

 

 砲撃が白露の偽装をかすめる。すんでのとこでよけきったが直後に被弾し小破してしまう。砲撃をしたのは重巡ネ級。重巡の中でもトップクラスのものだ。

 

「ふざけやがってこの…!?」

 

 続けざまに白露に砲撃が飛び交う。よけるのが精いっぱいで攻撃に転じることができない。さらに、海中には雷撃が放たれているため海面にいるのも危険な状態だ。

 

(まずい、このままじゃ沈む…この状況を打破するにはどうすればいい。戦艦たちから片付けるか…それとも装甲の弱い駆逐艦や雷巡あたりか。でも今のままじゃ近づけない、どうすれば…)

 

 状況を打破する策を考えようとするも多勢に無勢。どうすればいいのかわからない。その時、不意に空を見上げた白露は艦載機が空を覆っているのを見てあることを思いついた。それは、訓練生時代によくやっていたこと。一人で艦載機全部を全滅させた時にやっていたあれを。

 

「あ…そうか。こうやればいいのか!」

 

 白露は近くにいたネ級を踏み台にして、空へ飛ぶ。向かったのは艦載機でそこの上に白露は乗る。乗った後に、次から次へと踏み台にして移動していく。

 

(打ってみな。そのぶん、空の戦力は減るけどな!)

 

 深海棲艦たちは白露めがけて砲撃や徹甲弾を放つが、白露には当たらず艦載機に当たっていく。その分、艦載機は撃墜されていき、空の戦力が減っていった。そして、撃ち落された艦載機が海面についたとき、残っていた艦爆などが爆発し深海棲艦たちが沈んでいった。

 

(それでも、現状きついのは変わらないな…さてと、どうしたもんか…)

 

 そう思っていた矢先、遠方から砲撃音が聞こえ深海棲艦に砲撃が降り注いだ。遠方にいたのは援軍に来た柱島鎮守府のメンバーだ。

 

「白露姉さん!」

 

「姉さん!今行きます!」

 

 援軍に来た村雨と春雨は白露に向かって走行する。ほかにも待機していた長良、鎮守府に一度戻った摩耶、鳥海、羽黒もいる。

 

「馬鹿!二人とも来るな!…!?」

 

 白露は春雨の背中にある小型のドラム缶に目を向ける。春雨は訓練生時代輸送任務を行うことが多かった。戦いは得意なほうではなかったからだ。

 

(あの子の背中にあるもの…燃料と弾薬か!)

 

 白露は深海棲艦を牽制しつつ村雨たちに近づく。二面方向からきているため深海棲艦たちも対処しきれていないのだ。村雨たちと合流すると補給を行うため白露は海面に跪く。

 

「春雨、どれくらいかかる?」

 

「すぐに!補給をするのは慣れてます!」

 

「よし、皆さん!白露姉さんと春雨を囲んで!ただし、少しずつ移動しつつでお願いします。この二人に指一本触れさせません!」

 

「もちろん、あんたにだけいい恰好させないわよ白露」

 

「さっきの借りは返すぜ。だからくたばんな」

 

 村雨たちは目の前の敵に砲を向け一斉に打ち出す。深海棲艦も負けじと砲撃を繰り出すが、少しずつ移動している村雨たちに砲撃は当たらない。そうこうしているうちに白露への補給が完了した。

 

「補給完了しました!」

 

「うし!みんな、ご苦労さん!あたしより先に沈むなよ!」

 

「それはお互い様だ馬鹿たれ!」

 

 摩耶の言葉に笑みを浮かべながら白露は戦艦たちに突っ込む。なるべく、早く、砲撃を与えないほどに早く動き戦艦たちを沈めていく。まだ、深海棲艦が優位だが戦艦をつぶせばこちらが優位になる。対空要因に摩耶がいるのだ。艦載機のうち漏らしは少なくなるはず。そう考えた矢先。

 

「きゃあ」

 

 春雨が重巡から雷撃を受け中破してしまう。陣形を複縦陣で保っているが数で圧倒されているため退路がほぼ断たれているのだ。

 

「くそ!こんな時に雷がいてくれたら、周りの奴らを制圧できているのに」

 

『他人の力を当てにしてはいけませんね~…てゆうか、いない人の助けを求めるのはダメでしょう白露さん、剛拳の異名が泣きますよ』

 

 突如、通信機から女性の声が聞こえたかと思うと、村雨たちの周囲にいる深海棲艦の首がはじけ飛んだ。一瞬何が起こったのかわからなかったのかその場で固まる村雨たちと深海棲艦。ふと、村雨たちの横を見るとピンク色の髪をボニーテールにし、大鎌を持った女性が立っていた。

 

「あ、青葉!?なんでここに!?」

 

「あぁ、話はあとです。今は目の前の敵を…ってもう逃げちゃってますね…」

 

 周囲を見ると青葉の攻撃に恐れをなしたのかいつの間にか深海棲艦は撤退を始めていた。こちらは被弾している状況なのでさすがに追う気になれない。それよりも鎮守府のほうが心配だ。

 

「さてと、いろいろと言いたいことはあると思いますが、ひとまず鎮守府に戻りましょう。あ、鎮守府は大丈夫です。なんせ鬼神が戦っていますから!」

 

「ちょっと待って…鬼神…てことは(*_*;…もしかしてΣ(・□・;))」

 

「えぇ、あなたの姉妹艦が、鎮守府で戦っていますよ!」

 

 




はい、今回はここまでです。
次回は鎮守府の方で何が起こったのかを書きます!


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25話 力の差

 お久しぶりです!仕事やらゲームやらでいろいろしていたら遅くなってしまいました…。それではは25話、どうぞ!


※かなりのキャラ崩壊含みます。ご注意ください。


 霞や村雨たちが援軍として沖に出た後、京と仁は人型ロボの撃破を行っていた。埠頭のほうはあらかた片付き鎮守府の正門当たりまで来ているところだ。そこでは、すでに半数のテロリストたちが桃や華凛の活躍により鎮圧されていた。

 

「赤神さん、三条さん無事ですか!?」

 

「あぁ鳴海!見ての通りここは半数鎮圧した。だけど、変なロボがいるせいで手間取ってるんだ」

 

 テロリストとロボを同時に相手しているため攻撃しながら京の質問に答える桃。華凛も相当手間取っているらしく肩で息をしているほどだ。

 

「服部さんと佐藤さんは!?あの二人はどうした?」

 

「あの二人は艦娘寮の近くにいるはずよ、あなたたちはそっちに…いや京君、あなたはここに残って。正直きついわ」

 

「わかりました。では仁、あなたは艦娘寮に…」

 

『その必要はないよ。こっちは制圧できたからさ』

 

 女性の声で急に通信が来る。今この場にいるものではない。海上に出ているはずのものでもない。その声を聴いたとたん、桃は驚いた様子だった。

 

「その声…もしかして…!?全員伏せろ!!」

 

 直後、風圧が京たちの真上を通過する。その風圧によってロボやテロリストたちが吹き飛ばされていた。風圧が飛んできた方向を見ると薄い赤色の髪を特徴とし、日本刀を持った囚人服を着た女性がいた。

 

「まったく、切れない刀は性に合わないな…なんで青葉は私にこれを持たせたのかな。どうせなら真っ二つに切って赤い血が噴き出しているのを見たかったっての…」

 

「あ…あなたは、鬼怒!刑務所に入っていたはずじゃあ!」

 

 鬼神鬼怒。S級の艦娘の一人で序列八位。岩川鎮守府に所属している艦娘だ。訳あって、今は刑務所に入れられている。

 

「あ~、なんか元帥からの命令らしくてさ…青葉と一緒にここに来た…」

 

「青葉が!?ここにいるの!?」

 

「いや、青葉は海上のほうに行ったよっと…」

 

 左手に持っている刀を大きく横に振る鬼怒。直後、風圧がテロリストを襲いなぎ倒す。ロボットたちは鬼怒に照準を合わせたのか一斉にとびかかる。しかし、鬼怒は興味もなさそうに一気にロボットたちに詰め寄り真っ二つにした。

 

「つまらねえの…もっと骨のあるやつ連れて来いよ…」

 

 鬼怒は周りを見つつ相手を探したがすべての敵を鎮圧したため相手がすでにいなかった。艦娘寮にいた源蔵と一星。避難していた艦娘達が正門に集まった。

 

「みんな、怪我はないか?」

 

「えぇ、何とか…さて、こいつら縛って尋問しますか」

 

 

 

 

 

 

 

戦いが終わるころにはもう日が沈みかけていた。深海棲艦とテロリストの手により横須賀鎮守府は半壊。資材も大半を失ってしまった。幸いなのは死者が出なかったことだ。早急に対処できたことが大きなカギだったのだろう。

 

 沖合に出ていた者たちも埠頭に到着し簡易的な検査を終えたのち建物がほとんど壊れていない艦娘寮のほうにいる。ただ、白露は小破。山城、春雨は中破してしまったため念のため傷の手当てをしてもらっている状況だ。そんな中、捕虜にしているテロリスト、空母ヲ級flagshipは桃、霞らの尋問にあっていた。

 

「さてと、一体誰の命令でうちの鎮守府をつぶしたのかしら…正直に答えてくれたら1/4の比率で半殺しにしてあげるけど(#^ω^)」

 

「1/4なんて生ぬるいわ司令官…今すぐにでも半殺しにしてあげるわよ(O O#)」

 

「ヒィィィィィ(;゚Д゚)」

 

「…本音は?」

 

『よくも演習をつぶしてくれたなてめえら!今すぐ殺してやるよ~(# ゚Д゚)』 

 

 スパァァァァァァン…と大きな音が鳴ると桃と霞はうずくまっていた。いつの間にか持参していたのか大きな針戦を持った利根が二人を叩いたのだ。

 

「そんなしょうもない理由で殺す必要ないじゃろう…本当中身は子供じゃな…」

 

 利根は大きくため息を吐くと針戦をしまって近くの床に腰かけた。二人に代わって源蔵が尋問する。

 

「お前たち、まさか明智とかゆうやつから依頼を受けたのではあるまいな」

 

「んなもん知るかよ…」

 

 テロリストの一人がそう答えたが、源蔵の鋭い眼光の前に怖気づいたのか焦った口調で話し始めた。

 

「本当だ!俺たちはただ多額の金を払うからここを消せと言われただけだ。明智ってやつが関わっているのかどうかは知らねぇ!それは本当だ信じてくれ!」

 

「どう見ます。源蔵さん?」

 

「嘘はついていないようだな…となると、そこにいるマッドサイエンティストと深海棲艦に聞くか?」

 

 源蔵はテロリスト達から目を離し深海棲艦と地下でとらえたものに目を移した。そこではすでに満潮が尋問を行っていた。

 

「で…マッドサイエンティストさん?あなたはなんでここに深海棲艦を呼び寄せることができたのかしら?」

 

「んあ?あるやつに深海棲艦を呼び寄せるものをもらってな。それで、深海棲艦をここに呼んでたってわけ」

 

「あんたはなんでここを襲撃したわけ?」

 

「ナニカヒキツケラレルヨウナ感覚ガシタ。ソレデココニ…」

 

「深海棲艦をここに呼ぶ兵器ってのは?」

 

「もう壊した。正確には俺が見つかった時点で壊せるようにしてい…ゴハッ」

 

 

「なら寝てろ…外道が!」

 

 全部言い切る前に満潮がマッドサイエンティストを殴っていた。満潮もいろいろ思うところがあったのだろう。その顔は怒りに満ちていた。頭を叩かれた桃は痛みが和らいだのか源蔵の元へ近づき捕虜をどうするか相談していた。

 

「服部さん、こいつらどうします?」

 

「とりあえず大本営に突き出すぞ。そのあとは向こうに任せるさ」

 

 今後のことを話すと二人は捕虜から離れ青葉と鬼怒の元へ近づく。二人がなぜここに来たのか理由を聞くためだ。

 

「それで、あなたたちはなんでここに来たの?鬼怒の話じゃ、元帥の命だって聞いたけど?」

 

 質問をされた鬼怒は面倒くさそうな態度をとりながら桃の質問に答えた。

 

「今朝、看守から急に牢を出るように言われてさ。訳聞いたら横須賀のほうが危険だっていう話があったし、それに…テロリストと深海棲艦やれるって聞いたからここに来たってわけ。ま、つまんなかったけど…」

 

 鬼怒の話を聞いた後、桃は青葉のほうを向く。青葉はニコニコしながらここに来た理由を話した。

 

「何やらテロリストが物騒な動きを見せていましてね~。私独自に調べていたら、深海棲艦を呼び寄せる兵器を開発した科学者が横須賀方面のある方に渡したという情報を得まして。そしたら、ここで大規模演習を行うと聞いたもので、元帥に聞いて、提督に頼んで、ここに来たわけです!」

 

 何を考えているのかわからない顔で話す青葉。ただ、嘘は話していないようなので源蔵と桃はこれ以上追求しなかった。

 

「まぁ、来てくれて助かったわ。本当にありがとう。よかったら泊っていったら?幸い寮のほうは無事だし」

 

「せっかくですけど、迎えはもう呼んでるんです。そろそろつく頃だと思いますが…」

 

 青葉が話すと外からヘリの音が聞こえてきた。おそらく岩川鎮守府の者たちだろう。

 

「お、来ましたね。鬼怒、行きますよ」

 

「へいへい…」

 

 青葉と鬼怒は提督と艦娘たちに挨拶をすると寮を出ていく。見送りをするため、提督・秘書艦の9人が外へ出る。ちょうど精密検査を終えたのか白露、春雨、山城らが寮のすぐそばまで来ていた。

 

「おっと、これはお三方!お疲れ様です」

 

「お疲れ青葉、これから帰るの?」

 

「えぇ、向こうに行ってやることがまだあるので!」

 

「・・・」ジ~

 

「何?」

 

 青葉と山城が話している中、鬼怒は白露を見ていた。顔から足まで物色した鬼怒は白露に話しかけた。

 

「お前弱いな…」

 

「…は」

 

 鬼怒の一言に白露は頭に血が上った。白露は鬼怒に近づき顔を寄せると鬼怒の言った一言を聞きなおした。

 

「もう一回言ってみろよ?」

 

「聞こえなかった?お前弱いって言ったんだよ。そんなのでS級名乗ってんのか?」

 

「鬼怒…その辺で」

 

「姉さん!喧嘩はダメです!」

 

 二人が制止するが完全に頭に血が上った白露が鬼怒を殴り飛ばしていた。春雨は白露を止めようとするが白露は鬼怒に向け走り出し攻撃しようとしている。その光景をちょうど外に出ていた提督・秘書艦達が目撃していた。

 

「ちょ!?白露姉さん何やってるの!?」

 

「白露さん!やめてください!」

 

 京達の制止もむなしく鬼怒に襲い掛かる白露。白露は鬼怒の腹に向け拳を振るうが、鬼怒に当たる寸前白露は壁際に吹き飛ばされていた。鬼怒が白露の左頬に蹴りを入れたのだ。

 

「期待外れだな。青葉!本当にこいつS級なの?」

 

「えぇ、彼女は間違いなくS級ですよ。だから鬼怒、その辺にしておきなさい!!」

 

「待てよ、まだ戦いは終わってねぇぞ…」

 

 白露は立ち上がるが蹴りが効いたのか足がふらついていた。それでも鬼怒に攻撃しようと再度走り出す白露。面倒くさそうにしながらも応戦しようとする鬼怒。その時…

 

やめろって言っているのが聞こえないんですかねぇ?

 

 空気が一瞬で変わった感覚がした。とんでもない重力がのしかかったような。急に北極にきてしまったような寒気がした。その中心は青葉であり、先ほどまでの雰囲気とは違いとても冷たい目をして白露と鬼怒をにらみつけた。

 

双方攻撃をやめてくれませんか?じゃないと首刈る…

 

「・・・」

 

「・・・悪かったって青葉」

 

「・・・よろしい。いや失礼しました皆さん。ついつい…あれΣ(・□・;)皆さん大丈夫ですか?」

 

 あたりを見ると、腰が抜けてしまっているものや震えているものがいた。白露は地面に手をつき体を震わせ、提督達も一瞬の出来事に固まってしまっている。

 

「あわわわわ(;゚Д゚)」

 

「こ、こ…怖い…」

 

「( ゚д゚)…チ~ン」バタッ

 

「ば、化け物…」

 

(こ…これが首狩り青葉…)

 

(まじもんの化け物。…恐ろしい奴だ)

 

 周りの反応に青葉は慌てた様子で謝罪する。しかし、先ほどの印象が強すぎるせいか秘書艦達(気絶した秋月は除く)は遠ざかってしまった。

 

「ば~!」

 

 そんな中、遠くから青葉の名前を呼ぶ声が聞こえる。だんだんと近づきはっきりと聞こえる声で青葉の呼ぶ声が聞こえ、肩までかかるピンク色の髪を小さくサイドテールにまとめた女性が青葉に飛び付いた。

 

「青葉~!」

 

「衣笠!迎えに来てくれたんですか?」

 

「うん、古鷹お姉ちゃんも一緒だよ!」

 

 衣笠と呼ばれた女性は青葉から離れ子供っぽい笑顔で話しかける。しかし、青葉は顔面蒼白で震えた口調で衣笠に話しかけた。

 

「えっと…衣笠、今古鷹と言いました…?」

 

「…言ったよ?」

 

「さっきの様子、見てました?」

 

「遠目だったけど、ばっちり見てた!」

 

 青葉は体まで震え始め衣笠の後ろを見る。少し遠くにいたが古鷹が笑顔で近づいてきている。目は笑っておらずショットガンを持っていた。

 

「ふ、古鷹!?さっきのはその!?…」

 

「あ~お~ば~(#^ω^)」

 

「ご…ごめんなさ~~~いΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

 青葉は古鷹に土下座して謝る。古鷹はかなり怒っているらしく土下座した青葉に対して強い口調で話しかける。

 

「人の前で霊力を完全に開放しちゃダメだってあれほど言ったでしょ!なんでこんなことしたのか説明して!」

 

「あ、はい…その…白露さんと鬼怒の喧嘩が止まらなかったので…それで、おとなしくさせるために…(;´・ω・)」

 

 古鷹は鬼怒のほうを見るが、鬼怒は古鷹から目を背ける。次に白露を見たが地面に手をつき項垂れていた。

 

「それで、先に仕掛けたのはどっち?」

 

「・・・」

 

「鬼怒ちゃん!」

 

「…あたし…」

 

 鬼怒は観念したのか自分が先に仕掛けたことを認める。古鷹は白露に近づくと肩に手を触れ優しく話しかけた。

 

「青葉と鬼怒ちゃんが迷惑かけてごめんね。悪気はないと思うんだ。反省しているみたいだし許してくれないかな?」

 

「・・・いや、あたしも悪かった。ごめん・・・」

 

 白露は顔を上げると力ない声で謝罪した。

 

「立てる?」

 

「あ、うん立てる」

 

 白露が立ち上がるのを見ると古鷹は青葉と鬼怒を呼び出し謝罪するように話す。二人は素直に応じ白露に謝罪。古鷹は提督達と秘書艦達に謝罪し衣笠と青葉、鬼怒を連れて横須賀を後にした。

 

 




はい、ということで鬼怒はかなりやばい感じの設定です。
次回も気長に待ってくれると幸いです。


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26話 夜、食堂にて

こんばんわ!
仕事や趣味のゲームでなかなか執筆できていないです…。
自分のペースで投稿していくので、気長に待っていただけると幸いです…。
それでは、26話です!


 古鷹達が横須賀を後にし、白露たちは食堂に集まっていた。食堂に入ると秘書艦達の緊張が解けたのか泣きだしてしまうものがいた。

 

「司令かああああああああああん!怖か”った“よ”~~~~」

 

「もう二度とあの人に会いたくない…」

 

「わかったから二人とも離れてくれないかな(-_-;)」

 

 桃は霞と満潮にホールドされているため動くことができずにいる。

 

「秋月お姉ちゃん!起きてよ!」

 

「・・・はっ!・・・あれ?ここ食堂?」

 

「よかった~(´;ω;`)気が付いた~(泣)」

 

 気絶していた秋月に泣きそうな表情で話しかけていた初月。秋月が目を覚ますと泣きながら抱き着いた。苦しそうにしながらも秋月はそれを受け入れ初月の頭をなでている。

 

「もう、しっかりしてよね。仮にもうちの秘書艦でしょ…」

 

「そうですよ秋月姉さん。お初さんに心配をかけないでください…」

 

「ごめんみんな…心配かけちゃって…」

 

 秋月は姉妹艦である照月たちに謝罪する。佐世保の秘書艦であり第一艦隊の旗艦を務めることもあるため鎮守府のことを任されていることが多いのだ。水雷戦隊を率いる川内型の三姉妹を差し置いて、秘書艦や第一艦隊旗艦に抜擢されることがあるのは提督である三条の絶大な信頼を寄せているからであり川内達もそれを理解しているのだ。

 

「秋月さん。目が覚めましたか」

 

「神通さん、ごめんなさい。ご迷惑をおかけして…」

 

 秋月の目が覚めたことを確認しに来た神通に秋月は申し訳なさそうに謝罪した。しかし、神通は秋月を攻めることはしなかった。

 

「あなたは悪くありません。あの場面に初めて遭遇したら誰でもああなりますよ…」

 

 神通は秋月を慰めると少し離れたテーブル席の方に目をやる。そこには白露型姉妹5人と山城、扶桑、しおいが座っており何かを話している様子であった。

 

「あ、あの…神通さん…」

 

「どうしました?」

 

「あの、あの場面って何ですか?秋月お姉ちゃんたちはいったい何を見たんですか?」

 

 純粋な疑問であったのだろう。初月に悪気はなかったがその話を聞いて秋月は身をすくめ震えだしてしまう。慌てて照月たちが駆け寄るも秋月はさらに震えだし歯をがちがち鳴らしている。

 

「秋月さん!落ち着きなさい、私達がいます」

 

 神通は秋月の背中をさすりながら話しかける。秋月は少しづつ落ち着きを取り戻したが両肩を抱え込みうつむいていた。秋月が落ち着いたのを見ると神通は静かに口を開いた。

 

「初月さん、秋月さんたちが何を見たのかということでしたね。先ほど鬼怒さんと白露さんが喧嘩をしたことは知っていますね。その時に、青葉さんが霊力を開放したんです」

 

「でも、霊力を開放しただけでそこまで?」

 

「S級の中でも青葉さんと鬼怒さんは狂人と言われていることで有名です。特に青葉さんの霊力は異質で周囲の人に影響を与えるほどだといわれています。だから、青葉さんが一人でいる場合以外は霊力を開放することは硬く禁じられていると言われています」

 

 そこまで説明を終えるともう一度白露たちのいる席に向き直る。その表情は真剣であったが手が震えており恐怖を押さえようとしている様子だった。

 

「私も一度見たことがありますが膝まずいて動くことができませんでした。今回の白露さんのように…」

 

「同じS級なのに、そこまでの差なんですか?」

 

「ちょっと待って、霊力って確か数値化されてるよね?白露ちゃんの霊力でどれくらいなの?」

 

 艦娘や能力を持っているものは霊力を数値として出すことができる。人によって異なるが1万以上を出すものがいるらしい。ちなみに、B級は1000以上、A級は1万以上、S級は3万以上となっている。

 

「確か、3万3千ほどで雷さんと同率でしたね。青葉さんで7万以上だとか」

 

 同じS級でも約4万の差があることに初月たちは驚愕した。自分たちでも天と地の差があるにもかかわらずS級の中でも白露は一番下なのだ。神通は白露を見ながら小声でつぶやいていた。

 

「ただ、それ以前の問題があるみたいですね。白露さんの場合は…」

 

 

 

 テーブル席に座っている白露型5姉妹と山城、扶桑、しおいはお茶を飲みながら無言で座っていた。今回の一件で圧倒的な力を見せつけられた白露は腕を組みうつむいている。時雨たちも白露を心配そうに見つめるがなんて声をかければいいのかわからない状態だ。そんな中、山城は白露に話しかける。

 

「ねぇ白露、質問いいかしら?」

 

「・・・答えられる範囲なら適当にどうぞ」

 

 山城の声掛けに反応する白露だが普段と違い全く覇気がない。鬼怒や青葉に力の差を見せつけられてかなり落ち込んでいるのだ。

 

「あなた、限界突破(リミットオーバー)は会得しているの?」

 

「・・・いや」

 

 山城の質問に対して白露は力なく答える。質問の意味を理解していないのか夕立は首をかしげていた。

 

「リミットオーバー…?…何それ?」

 

「自分の力を100%以上出すこと。元の霊力に0.5倍の数値を上乗せして砲撃や雷撃の威力を上昇したり、身体能力を最大限発揮することって座学で習ったじゃない(-_-;)」

 

「そうだっけ?…」

 

「夕立姉さん…本当に戦い以外興味ないんですね…(^^;)」

 

 村雨の回答になお夕立は首を傾げている。そんな夕立を春雨は少しあきれた様子で、そしてあきらめたような様子でいる。

 

「でも、リミットオーバーを会得するのってかなり時間がかかるんじゃ?仮に会得できたとしても、青葉さん達に勝てるの?それに、A級の人達でも会得している人がいるって聞いたわ。今の白露姉さんだと、A級の人達にも負けちゃうことに…」

 

 村雨が言ったことに対して夕立は納得がいっていない様子で話しかけようとするがそれを時雨が制する。村雨の問いに対して口を開いたのは同じS級であるしおいだった。

 

「十中八九、A級の上位クラスには負けると思うよ…」

 

 しおいの問いに村雨たちは驚きを隠せなかった。S級はflagship級の艦隊相手に一人で戦えるほどの霊力や実力を持っている。それなのになぜA級クラスに負けるのか疑問だった。

 

「あのね、元の霊力の0.5倍よ。霊力が2万9千あったとして0.5倍すると4万3千以上になるのよ。霊力が3万3千ほどでリミットオーバーを会得していない。間違いなく負けるわよ。大本営の精鋭、そしてA級の上位クラスにはね」

 

 山城の言ったことに対して、一瞬静まり返る一同。その中で、時雨が話し出した。

 

「大本営の精鋭って?聞いてる範囲だと、第1艦隊は武蔵さんが旗艦だよね?第2と第3は?」

 

「えぇ、第1は武蔵が旗艦をしている。霊力は2万9千9百よ。そして、第2艦隊は吹雪、霊力2万9千7百。第3は今は筑摩なんだけど、霊力2万4千でリミットオーバーは会得していないわ。それで、綾波が2万7千、時津風2万5千、同率で天龍、足柄。もしもこの連中が束になってかかってきたらあなた確実に負けるわ」

 

「確実に負けるって…じゃあ今出てきた4人は!?」

 

「全員、リミットオーバーを会得しているわ。時間制限が限られているし、霊力が3万以上いっていないから結局、S級にはなれていないわけだけど」

 

 大本営の精鋭部隊は連合艦隊をも圧倒できることで有名なのだ。中でも第二艦隊旗艦の吹雪はもともとランク外だった。しかし、並みならぬ努力でA級まで上り詰めたらしい。吹雪の人柄やその功績を模範にしている艦娘も少なくないほどだ。その者たちに負けると山城が言うのだからリミットオーバーを会得しているのとしていないのとでは相当違いがあるらしい。

 

「あのさぁ、リミットオーバーを会得するにはどうすればいいのさ?」

 

「それはわからないわ。きっかけは人それぞれだもの。私の場合は自分の不幸を呪ってその憎しみを深海棲艦にぶつけてやろうと思ったら会得したわ」

 

 山城の答えを聞いた白露はしおいの方を向く。しかし、しおいは気まずそうにしながら白露を見ておりゆっくりと口を開いた。

 

「実はその…私もまだ会得していないんだ。いろいろ試してみてるんだけど…」

 

「S級で会得していないのはあなたとしおいと雷よ。矢矧から上のS級はみんな会得している。中でも、5位以上は臨海突破(クリティカルオーバー)を会得していると聞くわ」

 

 クリティカルオーバー、それは自身の能力を120%以上出し切ることでリミットオーバー時点の霊力にさらに0.5倍上乗せした状態であることだ。ただし、身体にかかる負担が強すぎるためクリティカルオーバーはよっぽどのことがない限り使用することを禁止されているのだ。

 

「もしもリミットオーバーを会得出来たら…あいつに…」

 

「無理ね」

 

 白露のつぶやきに山城は即座に反応する。白露は山城に何かを言おうとしたが口には出さなかった。リミットオーバーを会得していても鬼怒は白露よりも序列が上。さらにリミットオーバーを会得している時点で勝てるかどうか怪しいのだから。

 

「まぁ精進しなさいな。あなた次第でリミットオーバーを早く会得できるかもしれないしね。まぁ、あなたの場合はそれ以前のことが考えられるけど」

 

 山城の言ったことに白露は首を傾げている。いった意味が理解できなかったからだ。

 

「…正直言ってあなたは言動や行動がわがままだったり一見周囲に強く当たっているように見えるけど、本当のところ姉妹思いの部分もある。それが仇になっているのよ。姉妹のことになると見境が無くなるでしょ?」

 

「っ!?」

 

 確かにそうだ。姉妹のことになると頭に血が上って感情的になってしまう。自分のことも言われると頭にきてしまうがそれ以上に姉妹のことを言われると許せないのだ。だから、今までも姉妹たちを傷つけたものは容赦なく倒してきたのだ。

 

「どんな時も冷静に、もちろん怒りも大事だけどむき出しにしないこと。その怒りは秘めなさい」

 

「・・・善処するよ」

 

 白露の返事を聞いた山城はお茶を一気に飲み干すと席から立ち上がった。

 

「じゃあ私は部屋に戻って休むわ。みんなはどうするの?」

 

「私も戻るか。今日は疲れた」

 

「私も帰ろ~っと。お風呂にはもうどぼ~んしたしね」

 

「夕立もねる~」

 

「じゃあ私も。春雨は…あら(^-^;)もう眠そうね」

 

「うにゅ~…」

 

「私はもう少し残るわ。よかったら時雨もどう?」

 

「え、僕もかい?扶桑」

 

「ほら、せっかく西村艦隊が集まれたんだからもう少し話さない?山城は今日のことがあるし」

 

「あぁ、時雨、明日にでも連絡先教えて!」

 

「あ、うん」

 

 山城は時雨に伝えると食堂を後にした。他の艦娘たちや提督達も食堂を後にし山城を除いた西村艦隊のメンバーで話に花を咲かせたが話が終わったころには夜の12時を回っていたのだとか…

 

 

 

――柱島鎮守府沖合

 

 柱島鎮守府から離れた沖合で警備をしている髪をサイドテールにし、弓道着に青いズボンをはいた女性は周囲の警戒をしつつ無線で連絡を取っていた。

 

「こちら沖合ですが特に異常はありませんね。そちらのモニターで何か確認できましたか?」

 

『いや、こっちのレーダーに何も映っていないから深海棲艦はいなさそうだ。こんな夜遅くまでご苦労様』

 

「了解しました。すぐに帰島します」

 

 無線を終えた女性は鎮守府に帰島しつつまた無線を使い始める。どうやら別の場所に連絡を取っているらしい。

 

「こっちは異常なかったわ。そっちはどう?」

 

『こっちはflagship級が出てきました。さすがに艦載機だけではきつかったので少し能力を使わせていただきましたよ』

 

 無線の相手もどうやらどこかの鎮守府の警備を担当してるらしい。とても穏やかな声で話しているが能力を使用したという発言から能力者であることには間違いなさそうだ。

 

『そういえば、母さんから連絡があって最近テロリストや深海棲艦の動きが活発になっているようで。それで、私達無所属の艦娘もどこかの鎮守府に配属されるみたいですね』

 

「えぇ、さらに訓練生たちも鎮守府に配属させるそうで。何かあったときの対処が難しいからとか」

 

『まぁ、まだ元帥も提督達に話していないみたいですしどこに配属されるかはお楽しみですね。ではもうすぐ鎮守府なので切りますね。加賀さん』

 

「えぇ、また会いましょう。赤城さん」

 

 加賀と呼ばれた女性は埠頭につくと艤装を解除し宿舎へと向かった。向かう途中に空を眺めると一言つぶやいた。

 

「…何かの予兆なのかしら。最近空気が重いわね…」

 

 



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27話 襲撃後…

お久しぶりです!
かなり時間がかかってしまい申し訳ないです…。
ゆっくりではありますが、少しづつ小説を書いていこうと思うので、気長にお待ちいただけると幸いです。
それでは、27話です!


27話

 

――横須賀鎮守府

 

「……は~…S級対決~…」

 

「まだ言ってるわよこの司令官…」

 

「だって見たかったんだもん!」

 

「山城さんに力の差があまりにもありすぎるから却下って言われたじゃない!白露は霊力3万3千。しおいは霊力3万8千。山城さんに限っては霊力8万2千よ。この差わかる?」

 

「山城に加減してもらえば…」

 

「くどい…いい加減にしないとしばくわよ司令官」

 

 山城達のS級対決を見たかった桃は駄々をこねる。それを秘書艦である霞が咎めていた。山城と白露、しおいでは力の差がありすぎる。現に白露は鬼怒に負けていたほどだ。山城と戦えば瞬殺されていたに違いない。それほど、S級達の間でも力の差があるのだ。桃は一旦切り替え目の前に集中する。

 

「改めて見ると盛大に壊れてるわね~…」

 

 桃は鎮守府の現状を見てため息をついた。あれだけの大群で攻められているのだ。施設の大半が破壊され使い物にならなくなっていた。幸いにも死者が出なかったことが何よりだが当分ここは機能しないだろう。

 

「ここが機能しなくなったらここの所属のみんなはどうなるの?代わりの施設なんて今のところないでしょ」

 

 華凛の言葉に桃はさらにため息をついた。確かに代わりの施設なんてないし作ってもいない。艦娘はたった数百人しかいないのだから。

 

「司令官、今元帥から連絡があって今からここに来るって。大将達や須藤提督や宮本提督、榊原提督も来るそうよ」

 

「あら、何か緊急のことかしら?」

 

 元帥が来るという報告に桃は疑問を浮かべたがおそらくここの襲撃のことについてだろうと納得した様子でいる。ただ大将達が来ることには少し納得がいかなかった。しかし、来ることには変わりないので桃は他の提督達に無線で連絡を入れ食堂に集まるように伝えた。

 

「さてと、とりあえず行きますか」

 

「えぇ」

 

 

 

 

 

 

 

――食堂

 

 食堂にはすでに数名の艦娘が待機しておりそれぞれで朝食を迎えていた。珍しく時雨や夕立も起きており時雨は西村艦隊のメンバーと、夕立は五十鈴や摩耶たちとともに神通、瑞鶴らと話をしていた。

 

「そうだ、時雨、これをあなたに上げるわ」

 

 山城は時雨にヘアピンを渡す。山城と一緒のデザインで赤い珠が付いたものだ。

 

「いいのかい?山城のなんじゃ…」

 

「これは西村艦隊でおそろいのやつよ、みんな持ってるしいつかあなたと会ったときに渡せるように用意していたの。お守り代わりにつけておきなさい」

 

 よく見ると、全員が髪や服につけており同じ柄のヘアピンをつけていた。時雨はヘアピンを受け取ると左前髪にヘアピンをつけた。

 

「どうかな…?」

 

「似合ってるから大丈夫よ」

 

「えぇ、よく似合っているわ」

 

「本当!よかった」

 

 時雨ははにかみながら話をすると、山城はふと思い出したように懐から携帯を取り出した。

 

「そうだ時雨、連絡先教えて頂戴。それとラ〇ンも!」

 

「あ、そうだった。今準備するよ!」

 

「なら西村艦隊のグループにも招待しなくちゃ!」

 

 ライ〇を交換しグループにも加わった時雨は前日とは比べ物にならないくらい明るい表情をしていた。艦時代の記憶とはいえかつての仲間とこうして話すことができているのだ。時雨もうれしいのだろう。そんな中、各鎮守府の提督達が一斉に食堂に集合する。さらに秘書艦たちも一緒であった。

 

「司令官、何か緊急のこと?」

 

「えぇ、元帥と三大将、須藤提督と宮本提督、榊原提督がこの鎮守府に来るわ」

 

 桃の話を聞くと食堂にいた者達は驚いた様子でいた。元帥だけならともかく三大将や他鎮守府の提督も来るのだから。

 

「時間は?」

 

「もうすぐ来るわ。ヘリで来るみたいだからあと15分ほどかしら。この鎮守府にいる全員を集めて頂戴。出迎えるわ」

 

 それを聞いた満潮は無線で鎮守府全域に連絡を入れる。鎮守府にいた者たちは放送を聞いたものは埠頭近くに集合した。艦娘たちもすぐに食堂に集まり元帥達が来るのを待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

――15分後

 

 ヘリコプターが埠頭につき提督服を着た6人の男女と眼鏡をかけたロングヘア―の女性、秘書艦の矢矧と金剛、古鷹がヘリコプターから降りてきた。降りてきたと同時に埠頭にいた憲兵、整備士、桃らは元帥達に向け敬礼を行う。元帥たちも敬礼を返し桃のいる場所まで歩き始める。

 

「出迎えご苦労。急に押しかけて申し訳ない」

 

「いえ、お気になさらず。それにしてもずいぶん急ですね。兄さんたち三大将まで来るなんて」

 

 桃は元帥の後ろにいる赤い髪を後ろにまとめた男性の方を見る。赤神悠(ひさし)。桃の実兄にして26歳の若さで海軍大将に上り詰めた男である。第二艦隊の指揮を任されており榊原と同様自ら前線に赴くほどの実力を持っている。

 

「急ですまんな桃。こっちも緊急だったもんで…」

 

「話は中に入ってからしましょうか。立ち話もあれだしね」

 

 黒く長い髪を後ろに縛り帽子をかぶっている女性は中に入って話をしないか促す。小笠原三笠。海軍大将の一人にして第三艦隊の指揮を任されている。対人格闘にも優れている。見た目よりだいぶ年は高いようなのだが…。

 

「そうですね。皆さん、食堂の方へ」

 

 桃は憲兵や整備士に解散するよう伝えた後、食堂の方を指し元帥達を案内する。案内する途中、時雨と白露、そして一星が食堂の方へと向かっていた。一星は元帥達に気づくと会釈をし元帥達に近づいた。

 

「元帥殿、しばらくですな」

 

「一星殿、その節はどうも」

 

 山本と一星は挨拶を終えると握手を交わす。それを見ていた三大将の一人、斎藤は一星に近づくと顔面目掛けて殴りかかる。それを一星は軽々と交わし斎藤に向け殴りかかるが斎藤も軽々と交わすのだった。

 

「これ斎藤。久しぶりに会うからってそこまでしなくてもよいではないか」

 

「失礼元帥、旧友と会うとどうしてもやりたくなってしまう」

 

 山本は斎藤に注意するがどうやら二人の間ではこのやり取りが日常茶飯事らしい。

 

「爺さん、この人知り合いなの?」

 

「あぁ、同じ武術家として何度か戦ったことがあるし海軍に武術を教えるきっかけになったのも慎二が紹介してくれたからじゃ。腕は鈍っていないようで安心したぞ」

 

「お前に後れを取るわけにもいかんからな。デスクワークの片手間鍛えておるわ。それにしても爺さん?」

 

「おっと、そうじゃった。あ、いや先に中に入ろう。話はそのあとじゃ。ここだと長くなってしまう」

 

 一星の話に元帥達は食堂に入る。それに続き白露達も食堂に入るのだった。中には、すでに山城やしおいがおりお茶を飲みながら待機していた。元帥達が来たのを確認すると二人は立ち上がり敬礼をする。

 

「元帥、はるばるご苦労様です」

 

「うむ、鎮守府防衛ご苦労であった。楽にしていい」

 

 二人は敬礼を終えると、席に座りなおした。提督達も席に座った後に各鎮守府の秘書官たちが食堂に入る。食堂に入ると適当な席に座った。

 

「皆、急にこのような形で会議を開くことになったことを許してほしい。これより今後の方針を話し合いたいと思うのでよろしく頼む」

 

 全員が席に座った後、勘兵衛は今後の方針について話した。まず、横須賀鎮守府が半壊しているため当分横須賀のメンバーは、訓練学校に拠点を移すこと。訓練学校の作りは他の鎮守府とほぼ一緒であり、燃料や弾薬などもある。大本営との距離も近いこともあるため何かあったときにすぐに対処できる。次に、訓練生を各鎮守府に配属させること。テロリストや深海棲艦の動きが活発になっているため、訓練学校を襲撃された際に訓練生達だけでは対処が難しいと判断した結果だ。憲兵達もいるが、横須賀のように大規模で攻められる可能性もあるほか、大本営の艦娘がすぐに駆け付けられるとは限らないと判断した結果だ。各鎮守府には座学や訓練を行う艦娘を配置させるが、鎮守府に所属している艦娘にも座学や訓練を行ってもらう可能性がある。最後に、無所属である艦娘を配属させること。現在、S級艦娘がいない鎮守府は、呉と佐世保の二つ。そして、戦力を考えて柱島と佐伯湾、訓練学校改め横須賀第二基地にも艦娘を配属させることになった。

 

「まず、それぞれの鎮守府に配属させるものをいう。佐世保鎮守府には航空母艦赤城を、柱島には航空母艦加賀を、横須賀には航空母艦翔鶴を、佐伯湾には軽空母鳳翔を配属させる」

 

 勘兵衛の発言に、提督達は驚きを隠せなかった。特に佐伯湾に配属される鳳翔は天夜叉の異名を持つS級二位の艦娘であるからだ。さらに、赤城は炎帝の異名を持つS級5位、加賀は絶対零度の異名を持つS級4位の実力者であるためだ。翔鶴はS級ではないが、限りなくS級に近い実力を持っているほどだ。

 

「元帥、うちに翔鶴を配属させる理由は?」

 

「翔鶴はS級に最も近い艦娘の一人であるし、山城との相性もいい。山城の負担を軽減させるには彼女が最適だと考えたからじゃ」

 

「なるほど、確かに彼女なら山城の後方支援に適任でしょう」

 

「元帥、我々の鎮守府には?」

 

 突然、伊織が勘兵衛に質問してきた。伊織の質問に勘兵衛は少し考えた後に、口を開いた。

 

「呉鎮守府には…二航戦の飛龍と蒼龍を配属させる」

 

「っ!?お待ちください!あの二人は!」

 

「須藤!落ち着け」

 

 斎藤の声に伊織は渋々と席に座りなおす。飛龍と蒼龍の所属に納得していないのか俯き、険しい表情をしていた。そんな、伊織を察してか秘書艦の金剛が勘兵衛に問いかけた。

 

「元帥、その二人を配属させるのは何か理由が?」

 

「うむ…これは二人の意思じゃ。儂も二人を止めたのじゃが、呉鎮守府に配属させてくれと意見を曲げようとせんかった。もう一度、おぬしらの力になりたいのじゃろう。すまん須藤。後日、二人とゆっくり話をするといい。儂からは、今は何も言えん」

 

 勘兵衛の問いに伊織は少し納得したのか、先ほどの険しい表情を見せなかった。しかし、どこか悲しげな表情を見せ俯いていた。

 

「それから、駆逐艦白露、そして時雨。君達を一時的に大本営に配属させる」

 

 勘兵衛は唐突な話に白露と時雨は驚きを隠せなかった。京も表情には出さなかったが驚きを隠せないでいた。

 

「元帥、なぜこの二人を大本営に。うちには加賀さんが来ますし、大本営もかなり戦力が整っているはず……まさか元帥」

 

 京は何かを察したのか、勘兵衛の問いを待った。勘兵衛は京の意図を察してか、ゆっくりと話し始める。

 

「…明智家が、君達を狙っている。確かに加賀を配属させるが、今回の件があった以上、かなり危険が伴うはずじゃ。だから、戦力が十分ある大本営に一時、君達を保護する」

 

「あやつら、今度会ったら容赦せんわ」

 

 勘兵衛の話に、一星は怒りを隠せないでいた。しかし、勘兵衛たちは白露と時雨が一星の孫であることを知らないため、なぜ、一星が怒っているのか理解できなかった。

 

「一星、どうした?この二人とお前に何の関係が?」

 

 斎藤の言葉に、一星は一度白露を見た。一星の意図を察したのか白露は無言で頷く。それを確認すると、一星は斎藤に話しかけた。

 

「この二人は、わしの孫娘だ」

 

「孫!?ということは星羅ちゃんの…誰かに似ているとは思ったが…」

 

「それと、この二人は明智の実の娘でもあるんだ」

 

 一星の発言に、一同は息をのんだ。明智が白露と時雨を狙う理由が艦娘であるからだ。明智家は反艦娘思想の家系だ。話を聞いていた勘兵衛は、白露と時雨を凝視した。そして、確信したのだ。以前大本営に来た娘を探していた月夜が何者なのかを。

 

「元帥、もしかして月夜さんは…」

 

 大淀は、元帥に小声で話しかける。大淀の問いに、勘兵衛は無言でうなずく。あとで、詳しく話をする必要がある。

 

「でしたら、早急にこの三人を大本営に保護しましょう。この二人が明智の娘で、さらに一星さんの孫であるのなら、二人だけではなく、一星さんも狙われるかもしれません」

 

「赤神大将の意見には私も賛成よ。今すぐにでも、この三人を保護するべきかと」

 

「・・・うむ」

 

 勘兵衛は、二人の意見に対して考え込む。確かに、現状危険があるため早急に大本営で保護するべきだろう。しかし、大本営には彼女たちがよく知る人物がいる。だが、以前の記憶がほとんどない。その状態で会わせると、三人はショックを受けてしまう。だが、遅かれ早かれいずれ知ることになってしまう。

 

「わかった。本日中に3人を大本営に異動させよう。鳴海、彼女達の荷造りはしといてくれ。それから一星殿。道場の件はいったんお弟子さんに任せて、あなたもすぐに大本営に…」

 

「・・・まぁ、現状じゃ仕方ないわな…時雨もそれでいい?」

 

 白露は時雨に確認をとる。時雨も賛成のようで無言でうなずいた。一星も二つ返事で了承し、荷物や道場については後程、弟子に連絡するようだ。

 

「よし、これで会議は終了する。皆、急で本当にすまなかった。それと、一星殿、白露と時雨は少し残ってほしい。大事な話がある」

 

 その後、提督と秘書艦達は解散し、大淀と勘兵衛、白露たちは食堂に残った。勘兵衛は一枚の写真をみせ一星達に話をした。一星はかなり驚き、動揺した様子でいたこと。時雨は大泣きしていたこと。白露もしばらく放心状態であった。そこから先はあまり覚えていない。母親が生きている。ただそれしか頭になかったそうだ…。

 

 




さて、白露達が大本営に行くことになりました。
次回は、大本営に行くまでのお話になります。
新キャラも多数出てきますので、お楽しみに!
ではでは!


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28話 大本営

柱島鎮守府

 

 あの後、柱島に戻った京たちは白露と時雨がしばらく大本営に異動することを全員に伝え荷造りを始めた。夕立は「二人も行くなら夕立も行く!!」と駄々をこねたが村雨から説得を受け、ビデオ通話があるからいつでも連絡できることを伝えると渋々納得。その後、大本営の船に乗り白露達は大本営へと向かった。一星も弟子に道場を任せ、荷物を後日送ってもらうように頼んだそうだ。護衛艦に乗ると、大本営の艦隊だろうか。6人の女性が三人の前に立った。

 

「初めまして、大本営第二艦隊旗艦を務めさせていただいている吹雪です」

 

「同じく随伴艦綾波です」

 

「時津風だよ~。よろしくね」

 

「秋雲です。よかったらあとで絵を書かせて!」

 

「軽空母龍驤や、よろしゅうな!」

 

「航空戦艦伊勢。よろしくおねがいします」

 

 大本営に所属している艦娘達はほとんどが異能もちであることは有名だ。さらに、個々の能力も高く霊力1万5千以下を下回っている艦娘はいないといわれている。特に、旗艦の吹雪はランク外からA級に上り詰めたことで有名だ。この六人に護衛をしてもらえるのはとても心強い。

 

「・・・白露型駆逐艦1番艦白露。よろしく」

 

「同じく2番艦の時雨です。よろしく」

 

「佐藤一星じゃ。臥龍合気道術の師範をしておる。よろしく」

 

「あなた達の安全は私達が保証します。だから、白露ちゃんと時雨ちゃんは出撃はしないようにお願いしますね。大本営のお客さんだから」

 

「あたしとしては、出撃したいんだけど…まぁ、あなたたちの指示には従ってあげる」

 

 白露は、そっけない態度をし艦内へと向かった。時雨も申し訳なさそうな表情をし、艦内へ向かうのだった。

 

「武蔵から聞いとったが、確かに我が強い子やな。白露っちゅう子は…」

 

 龍驤は、率直な意見をいう。大本営の間でも、白露の話題は聞いている。わがままで自分勝手な行動をとるという噂で有名なのだ。他の5人も同じ意見のようで、少し困った様子で立ち尽くしていた。そんな彼女達を見かねて、一星は6人に声をかける。

 

「すまぬ、許してやってくれ。事情が事情なのだ…」

 

「いえ、お気になさらず…」

 

 吹雪達は、柱島に来る前に元帥から白露たちの事情を聴いていた。そして、第二艦隊を率いる赤神大将も。大本営に母親がいること、10年前以前の記憶を失っていることも。

 

「さてと、私達はもしものときに備えて持ち場にいます。一星さんは中で休んでいてください。大本営まですごく時間がかかってしまうので。何かあったら、船員や赤神大将に聞いてください」

 

 吹雪は、そう言い残し持ち場に戻る。他の5人もそれぞれの持ち場に戻っていった。そして、一星も艦内へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

―――艦内

 

 side白露

 

 中はずいぶん広い。正直、何かをして気分転換でもしたかったが、朝にあの事を聞いてからやる気が起きない。元帥が言っていたことも頭に入らなかったし…時雨…いや、雫は大泣きしているし、爺さんは複雑な表情していたしでもうわけがわかんない。ちなみに、雫…もう時雨でいいや…時雨は自室で休んでいる。朝から大泣きしていたし、泣き疲れていたのだろう。私は、部屋にいても暇だから、こうして艦内をフラフラしてるわけだけど。

 

「…母さんに会ったら、どうすればいいんだろう…」

 

 母さんは、記憶をなくしている。私達のことも覚えていない。娘だと名乗っても、きっと…

 

 そんな考え事をしていると、月当たりの角で人にぶつかってしまった。軍服を着ていて、赤い髪の人だ。

 

「おっと、すまない。大丈夫か?」

 

 赤神大将だった。この人ずいぶんお人よしだ。私がぼうっとしててぶつかったのに…

 

「あたしは大丈夫だよ。それにしてもお人よしだな…」

 

「ははは、妹からもよく言われていたよ」

 

 妹とは、横須賀の赤神桃提督だ。そういえば、この二人どういった経緯で提督になったんだろう。疑問に思って、質問しようとしたけど急に警報が鳴り響いた。

 

「どうした。敵か?」

 

『はい、深海棲艦の反応がでました。艦種は、ヲ級elite2、ツ級フラ2、重巡ネ級3、戦艦ル級フラ5の12』

 

「わかった。吹雪達にすぐに対処するように伝えてくれ。君も来るか、吹雪達の実力を見てみるか?」

 

 まぁ、暇だったし付き合ってみるか…

 

 

 

 

 

 

 

―――海上

 

 無線を聞いた吹雪達は、すぐに艤装を展開し海上へ出る。敵は、数キロ先におり連合艦隊を組んでいる。最近、動きが活発になっているし連合艦隊でかかってきてもおかしくはない。現に、最近は連合艦隊編成で来ることが多いのだ。

 

「さてと、龍驤さんは戦闘機でヲ級の艦載機を迎撃。それから、左舷の艦隊の動きを錯乱してください。伊勢さんは、龍驤さんと同じく左舷の艦隊を。隙があれば砲撃、白兵戦を行ってください。残りは右舷の戦艦5、重巡1の艦隊を。行きますよ!」

 

 そう言って、二手に分かれる吹雪達。普通ならば、連合艦隊相手に二手に分かれることはない。だが、彼女たちの実力があればこの程度の敵は余裕といっても過言ではない。

 

「よっしゃ、伊勢、うちが敵を撹乱するからそのうちに得意の接近戦かましたれ~~!」

 

「了解!なるはやでお願いね!」

 

 龍驤は、艦爆、艦攻を目の前の艦隊にぶちまける。ヲ級は中破、ツ級、ネ級はそれぞれ小破の状態だ。深海棲艦たちが対空戦闘をしようとしたときには、伊勢の砲撃が襲い、さらに伊勢の居合がヲ級2隻を轟沈させる。そして、周りにいた深海棲艦達を砲撃する。ネ級2隻が残ってしまったが、龍驤の艦爆により轟沈された。

 

「なんや、もう終わりか?うちらは先船に戻ってよ。あの4人なら平気やろ」

 

「了解。吹雪ちゃん、先船に戻ってるね」

 

 

 

 

 

 

 

『吹雪ちゃん先船に戻ってるね』

 

「了解、こっちは任せてください」

 

「なになに、もう終わったの向こう?」

 

「ずいぶん早いですね。こちらも早く終わらせましょう」

 

「早く終わらせて、イラスト書きた~~~~い!!」

 

「時津風ちゃん、いつも通り先行して能力使って敵の足止めと雷撃、砲撃!そのうちに私達は雷撃するよ!」

 

『了解』

 

 指示通り、時津風は先行する。敵は時津風が目の前まで来たのを確認すると砲撃を放つ。しかし、砲撃は時津風に当たることはなく時津風は敵陣のど真ん中までくる。

 

「|一時停止」

 

 瞬間、敵の動きが止まった。そのすきに、時津風は雷撃と砲撃を放ち深海棲艦を中破まで追いやる。すばやく敵陣から抜けると、吹雪達の雷撃によりネ級は轟沈。ル級フラは大破になっていた。

 

「あとは私がやります」

 

「お願いね」

 

 綾波は、格納庫からヌンチャクを取り出すと敵陣に先行。砲撃を行いつつ接近してル級フラを殴っていく。殴り、さらに殴り敵を轟沈させる。気づけば、敵艦隊は全滅していた。

 

「よし、終わったし帰ろう」

 

 吹雪は、全員に声をかけると護衛艦へと戻っていった。

 

 

 

 

 

Side白露

 

 すごい。連携もそうだけど、個々の能力が高い。左舷に行った二人もそうだけど、駆逐艦だけで戦艦達を相手にするなんて。しかも最後は、あの綾波ってやつが一人で。ヌンチャクを使って沈めるなんて。大破っていうのもあったと思うけど…。けどその前に、時津風ってやつ先陣切ったときに、何か違和感を感じた。数秒、ほんとに数秒だけど、砲弾が止まったような。敵陣突っ込んだ時もそうだ。相手は砲撃を向けることがなかった。

 

「何者なんだよ一体」

 

「すごいだろ、あれが大本営第2艦隊の精鋭達だ。全員が霊力を2万超えてる」

 

(2万越えか…そういえば確か、横須賀の演習の時…)

 

 白露は、以前山城が言っていたことを思い出す。吹雪はもちろん、綾波、時津風がリミットオーバーを習得していること。戦ったらおそらく白露が負けるであろうことを。

 

(吹雪は2万9千越え、時津風2万5千、綾波が2万7千。もし、あいつらがリミットオーバーをしたら、私は負けるのか。大本営行ったら、さしで勝負してやる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員お疲れ様。大本営につくまで、かなり時間があるから警戒は怠らないように。俺らもレーザーで監視はするが、万が一の時のためだ。よろしくな」

 

『了解』

 

 迎撃が終わり、吹雪達は再び護衛艦に乗り、周囲の警戒を行う。警戒といっても、目視や電探を使って周囲を警戒しているだけだが。そんな中、白露は左舷側にいる吹雪に近づいた。

 

「少しいい?」

 

「…どうしたの?」

 

「単刀直入に言うよ。大本営についたら、私とさしで勝負して。リミットオーバー習得しているんでしょ」

 

 白露の問いに、吹雪は少し戸惑ったような様子を見せたが、白露の問いに柔和な表情で応じた。

 

「いいけど、さしで勝負したいのはなんで?」

 

「…あたしはリミットオーバーを会得していないから。それに…いろいろ理由もある」

 

 白露は、さしで勝負したい理由を吹雪に話した。吹雪は白露の話を静かに聞いていたが、白露が話し終えるのを確認し、話し始めた。

 

「まぁ、リミットオーバーを会得できるかはあなた次第だよ。人によって、会得方法が違うのは知ってるよね?」

 

「前に、山城の話を聞いてるよ…」

 

「そうか。確かに人によってばらばらだけど、でも、あなたの守りたい気持ちがあるのなら、きっとリミットオーバーを会得できるよ。あなたは、本当は優しいから」

 

「…はぁ(;゚Д゚)私が!?」

 

「だって、そんなに家族、妹や仲間のことを思ってるし、態度は少しあれだけど、あなたの言動は本音とは真逆なんだよ。だから、あなたは強くなれるよ。私が保証する」

 

 山城の時もそうだったが、こう経験が多い人だと人の性格とかわかってしまうのだろうか。白露はそう思った。

 

「さしで勝負するのは、向こうついて少し落ち着いてからにしよう。あなたは、少し休んだら?大本営に着くまでに、4時間以上はかかるし…」

 

「…わかった。そうする」

 

 大本営につくまでに、まだ時間がかかる。護衛艦の中で休んでおいた方がよさそうだ。母さんのこともそうだけど、時雨の精神面もあるからそばにいてあげないと。白露はそう思い、護衛艦の中へ入っていった。白露が中に入ったのを確認すると、吹雪は空を仰いだ。吹雪がリミットオーバーを会得したのは、5年前だったか。特型駆逐艦の妹達が増えてきて、訓練学校にちょくちょく顔を出していった時だったような気がする。訓練生との合同任務でどこかの海域に入ったときだ。Elite級の深海棲艦に襲われ、妹たちが危険になったときだった。「守る」。その気持ちを思ったときに、急に力があふれるような感覚になったのだ。

 

「懐かしいな。もう5年か…」

 

「な~に黄昏てんのさ?」

 

「綾波ちゃん!?」

 

 空を仰ぎ、独り言をつぶやいていると、いつの間にか綾波がすぐ近くに来ていた。出撃の時と違い、ためごだ。

 

「また、昔のこと思い出してたの?妹達はみんな無事だったし、死者も出なかったんだからいいじゃん」

 

「時々、思い出しちゃうんだよ…たまに夢にも出る。でも、あの経験があったから今のあたしがいるんだって思うし」

 

「…何度も言うけど、背負い込みすぎるなよ。第二艦隊の旗艦であり、特型の長女でもあるんだから。みんなあなたのこと尊敬しているし、姉として慕っている」

 

「わかってる。何かあったらすぐいうよ」

 

「なら、いいけど」

 

 綾波の言葉に、吹雪は笑顔で答える。綾波は吹雪の言葉に少し安堵していた。ちなみに、吹雪は綾波より年上で、普段綾波は敬語を使って話すのだが、吹雪と二人きりの時はためごを話す。付き合いが長いのもあるが、二人の間にそれだけ信頼関係があるのだ。

 

「さっき、話聞いちゃったけど、白露とタイマンするんだって?」

 

「うん、落ち着いたらあの子と戦うよ」

 

「なら、私もあいつとやりたいかな。接近戦の戦いをしっかり教えてやらないと((´∀`))ケラケラ」バキバキ

 

「綾波ちゃん…感情高ぶってるよ…」

 

 本当、感情が高ぶると昔に戻るのは変わらない。あの頃は本当にひどかったが、今は大分ましにはなったと吹雪は思った。

 

「さてと、周囲の警戒に戻ろうか」

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に戻った白露は、ベッドで横になっている時雨の隣で横になる。大本営につくまで、まだ数時間ある。それまでは暇で仕方ない。何もすることがないからここにいるというのもあるが、時雨のことが気がかりだった。今はぐっすり寝てるからいいけど…。まぁいいや。今は寝よう。白露はそう思いベッドに横になった。

 

 




綾波「私のキャラ、すごいことに(;゚Д゚)」
吹雪「綾波ちゃん、時津風ちゃんはこの物語では戦闘狂です!」
綾波「わお……」
吹雪「さて、大本営には曲者が多いです。登場をお楽しみに!それではまた!」


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29話 再会

お久しぶりです!
なかなか時間を作れず執筆ができませんでした(^-^;
それでは、29話です!


 数時間後、無事に大本営についた一行は埠頭につき荷物をおろしていた。荷物といっても、余った燃料や弾薬などだが。一星と白露、時雨は持ってきた荷物をもって護衛艦から降り、吹雪の誘導のもと、大本営の執務室へ向かう。一星は普通だが、白露と時雨は少し眠そうだ。廊下を歩いていると、前方から浦風が近づいてきた。

 

「吹雪さん、お疲れ様やね。白露、時雨、久しぶりやな」

 

「浦風、久しぶり。元気そうだな」

 

「会うのは久しぶりじゃ。朝ライン来たときは驚いたわ」

 

 柱島に帰る途中に、白露は浦風にラインを送っていた。「あとで大本営に行く。時雨と私の爺さんも一緒だ」と。そのことを聞いて、浦風はすぐに執務室へと来たが元帥の姿がなかった。数時間後に、元帥が戻ってきたときは胸倉をつかみ、なぜ白露が大本営に来るのか問い詰めた。テロリストに狙われているため、大本営に一時的に保護することを聞いたのと同時に、他にも何かあるのかを聞いた。大本営に母親がいることも。薄々だが、食堂に来たときに、誰かに似てるような気がした。まぁ、人間嫌いだったから話はしなかったが。

 

「…あんたが白露の爺さんか?」

 

「あぁ、祖父の佐藤一星じゃ、孫娘が世話になっとる」ペコ

 

 一星は、浦風にお辞儀をする。浦風は面倒くさそうに返事をすると、白露の横を横切る。その時に、そっと耳打ちをする。

 

「おぬしの母さん、昼頃になると食堂におる。目の色や顔立ちは時雨、髪の色はおぬしにそっくりじゃったからたぶん、その人じゃ」

 

 白露が何か言う前に、浦風は手を振りながら廊下を歩いて行った。いろいろと聞きたいことはあるがそれはあとになりそうだ。

 

 

 

 執務室に来ると、元帥と大淀がいた。4人が机の前まで来ると、元帥は話し始める。

 

「大本営へようこそ。三人には、しばらくの間ここにいてもらうことになる。それから、客人としての扱いになるので、白露及び時雨は出撃を控えること。ただし、ここの艦隊との演習は許可するものとする。それから、横須賀でもすでに話したと思うが、ここには君たちの母親がいる。会うときは、覚悟をもって、それから混乱を招かないように…」

 

「わかっておりますとも。今は家族とは名乗らん」

 

「申し訳ない。さて、吹雪、三人を部屋に案内してやってくれ。三人は、旅の疲れを癒してほしい」

 

「お三方、こちらです」

 

 吹雪の案内で、部屋に移動する。執務室のある本館から、少し歩いたところに寮がある。ちょうど空き部屋があったため、そこに案内した。一星、白露と時雨のに分かれることになった。

 

「じゃあ、夕飯の時間までゆっくりするとしよう。何かあったら、隣に来てくれ」

 

「わかった。とりあえず荷物をまとめるよ。そのあと、そっちに行く」

 

 白露と時雨は、とりあえず荷物を開き、着替えや洗面道具などを取り出し引き出しの中に入れる。ここでは、客人扱いになっているから制服はそんなに着ることはないだろう。そこでふと、白露は疑問に思った。出撃したとき、被弾したら大体服破れたりするが、そのあと、誰が直してるんだろうか。必ず替えの服あったから今まで疑問に思わなかった。とりあえずそのことは今は考えないことにした。荷物を出し終え、白露は時雨の方を見る。時雨も荷物をちょうど出し終えたようだ。

 

「終わった?」

 

「うん、終わった」

 

「じゃあ、爺さんとこ行くか」

 

 とりあえず、隣の部屋に行く。隣の部屋もほぼ同じ作りで、違いがあるとすればベッドの位置が違うくらいだった。一星は机にかけており白露達が入るのを確認すると、ベッドに腰かけるよう促す。そして、今後のことを話し合った。

 

「さてと、ここに来たはいいが、星羅が記憶を無くしているとなると、会ってもわしらのことを思い出すとは限らん。会ってもいいが、わしらが家族であることを伝えるのは伏せよう。混乱を招くかもしれんからな」

 

「わかってる。少し話すことはあるかもしれないけど、家族であることは言わないでおく」

 

「・・・・・」

 

 二人の話に、時雨はうつむいている。母親に会いたいという気持ち、けど娘であることを話せないということは酷だ。今すぐにでも母親に甘えたい。でもそれは今は出来ない。そんな時雨を見かねて、白露は頭をなでてやる。

 

「雫、気持ちはわかるが今は耐えてくれ。儂らがついとるから大丈夫じゃ。それに、星羅もきっとわしらのことを思いだすはずじゃ」

 

 時雨は無言でうなずく。正直言って、星羅が家族のことを思い出す保証はない。明日か、それとも数年先かそれはわからない。一星も白露も不安なのだ。

 

「私達がいる。だから、大丈夫。泣きたかったらいつでも泣きなよ」

 

 時雨は我慢できなくなったのか、また泣き出してしまう。白露は時雨を抱き寄せあやすがそれでもしばらく泣き止むことはなかった。すると、ドアがノックされる。一星がドアを開けると、白髪の少女が立っていた。

 

「あの、大丈夫ですか?泣き声が聞こえたのですが?」

 

「すまん、この子も少し混乱しててな。この子達と知り合いかな?」

 

「浜風…浜風じゃん!」

 

「白露、それに時雨も!いったいどうしたの時雨」

 

 浜風と呼ばれた少女は、時雨に近づき肩を擦ってやるが、なかなか泣き止む気配はない。浜風も何が何やらわからない状態であったが、一星が事情を説明する。事情を聴くと、浜風は納得した様子で話し始める。

 

「そうですか。確かに、誰かに似ていると思っていたのですが、二人のお母さまだったのですね。以前、少し話をしたことがあります。確か、双子の娘さんを探していて、自分は武術家の家に生まれたとおっしゃっていいました」

 

「それは本当か!?」

 

「はい。寮がたまたま一緒ですので、お話をする機会があって。よかったら、来ますか?今なら寮にいると思います」

 

「…時雨、行ってみる?」

 

 時雨は先ほどより、泣き止んでいたが目の下は赤くなっていた。それでもやはり母親に会いたいのか、無言でうなずいていた。一星も同じ思いのようで、浜風の提案に乗った。

 

「では、寮に案内します。えっと、覚悟をもって接してください。私からはそれしか言えません」

 

 浜風の案内で、一般人がいる寮へと向かう。そこには、整備員や憲兵などがいる。セキュリティなどもしっかりしており、監視カメラなどが設置されている。そこに向かっていると広場の方で騒ぎが聞こえた。気になったため、見に行くと憲兵や整備員などのやじ馬が殺到していた。人ごみをかき分け、中央にくると女性と憲兵が戦っているようであった。一人は、憲兵隊の中でも屈指の強さを持っている横山。もう一人は赤茶色の髪をし、目は時雨と同じような青色をしていた。

 

(母さん!)

 

 横山は星羅に対して、かなり苦戦しているようで肩で息をしている。星羅は余裕なのか、かなり涼しい顔をしていた。

 

「あの、そろそろやめませんか?今回で30回くらいやってると思うのですが?」

 

「いや、まだだ。まだまだやれるさ!」

 

 そう言って、星羅に左ストレートをするが、星羅はそれを右手で受けると、右腕を引き左腕で横山を殴る。すると、横山は数m先にいるやじ馬たちのもとへ吹き飛ばされた。

 

「これで私の全戦全勝。もうあきらめてください…」

 

「いや、これでは俺の気が済まん!強くなって、またあんたに再戦をしてやるよ」

 

 横山はそう宣言するが、星羅は迷惑この上ないのかかなり困った様子だった。やじ馬たちが戻っていくので、星羅と横山も寮の方へ戻ろうとする。その時に、白露達と目が合う。星羅は少しきょとんとした表情であったが、白露達のもとへ近づいてきた。時雨は少し戸惑ってしまったのか白露の後ろに隠れてしまう。

 

「こんにちは。もしかして、今日からここに来るお客様ですか?」

 

 やはり、白露達のことをみても何も覚えていないようだ。三人が受け答えに困っていると、浜風が助け舟を出した。

 

「月夜さん、こちら佐藤一星さんと、艦娘の白露さんと時雨さん。今日からしばらくこちらにいることになります」

 

 名前を聞いても特に反応がない。やはり思い出していない。白露と一星がようやく状況を飲み込み、星羅に向けて挨拶をした。

 

「私は白露。あぁ、本名は佐藤焔。後ろに隠れているのが妹の時雨で、本名は雫」

 

「佐藤一星じゃ。臥龍合気道柔術の師範をしておる。して、この子達はわしの孫じゃ」

 

「…あの、以前どこかでお会いしましたか?」

 

 この言葉に三人は一瞬動揺してしまったが、元帥との約束があるため家族とは名乗らなかった。

 

「…いや、初めてだと思うが…」

 

「…そう…ですか」

 

「じ、じゃあ私らは行くから、また機会あったら、よろしく」

 

 そう言って、三人は足早に寮のほうへ戻る。浜風は星羅――もとい月夜を連れて、寮のほうへと戻っていく。しかし、月夜は何か違和感を感じていた。確信ではないが、ずっと胸騒ぎがしていた。

 

(何かしら、なんでこんなに胸が苦しいのかしら。あの三人、やっぱり前にどこかで会っている。でも、どこで?顔は覚えていないのに、なんでこんなに胸が苦しいの…)

 

 よくわからないざわつきが襲った。その後、夜なかなか寝付けなかった。あの三人のことが気がかりで・・・。

 

 



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30話 各鎮守府の動き

お久しぶりです!期間が空いてしまい申し訳ないです…
一旦各鎮守府の様子になります。
新キャラ続々出ます!


柱島鎮守府 

 

 あれから二日後。京含め艦隊メンバーや憲兵たちが埠頭に待機していた。目の前には護衛艦が停泊しており、護衛艦から弓道服を着用し、髪をサイドテールにした女性がおりてきた。それを確認した京たちは敬礼をし、女性も持っていた荷物を置き敬礼を行う。艦隊のメンバーはそわそわした様子でおり、特に村雨や夕立、摩耶が緊張した面持ちでいた。

 

「遠路はるばるご苦労様です。ここの提督をしております、鳴海京といいます」

 

「副提督を務めている桐生仁だ。よろしくな」

 

「お出迎え感謝いたします。航空母艦、加賀です。よろしくお願いします」

 

 一航戦加賀。絶対零度の異名を持つS級4位の艦娘。艦載機運用能力にもたけており、能力を解放すれば深海棲艦を一瞬で倒すほどの実力を持っている。

 

「では、さっそくお部屋へご案内します。旅の疲れもあるでしょう。ゆっくり休んでください。村雨さん、案内をお願いします」

 

「は、はい!では、ご案内します」

 

「では、お言葉に甘えて」

 

 加賀は、提督の言葉に甘え村雨に部屋まで案内してもらった。案内してもらう途中にここの艦娘たちの練度、どういう人なのかを聞いた。全員練度は高く、個々の能力も高いこと。提督も副提督も提督になってまだ日は浅いものの、優秀で指揮能力も高いことを聞いた。ここに来る前に資料は一通り目を通していたが、やはりここにいる本人たちに聞いた方が早いのだ。一通り聞いた後に、部屋までついたため鎮守府の案内まで部屋で休むことにした。

 

「…やっぱり、全員能力は高そうね。ただ、心配な子たちが少しいるわね。今後、少しでも力になれるようにしないと」

 

 加賀はそう誓い、呼び出しがあるまでベッドで横になることにした。

 

 

 

 

 

佐伯湾鎮守府

 

 執務室には、提督である源蔵。秘書艦であるしおい。そして、現在待機中の艦娘達が勢ぞろいし、目の前にいる艦娘に緊張した面持ちで敬礼していた。それもそのはず、目の前にはこの世に最初に誕生した艦娘であり、S級ランク序列2位の軽空母鳳翔がいるのだから。目の前にいる鳳翔のオーラに気圧されているのか、普段ポーカーフェイスの源蔵でさえ緊張で少し声が震えていた。

 

「お初にお目にかかります。私は、ここの提督をしている服部源蔵であります。以後、お見知りおきを」

 

「秘書艦のし、し、しおいです!よろしくお願いします!!」

 

 しおいも相当緊張しているのか、かなり声が上ずっていた。他の艦娘も同様のようでかなり手が震えていた。

 

「これからお世話になります。軽空母、鳳翔です。皆さん、楽にしてください。できれば私のことを特別な目で見たり、そんな委縮しないでください。いつも通りでいいですよ」

 

 そう言って、笑顔で対応する鳳翔。その対応に緊張がほぐれたのか、全員の表情が少しだけ和らいだ。一通り挨拶を終えた後、秘書艦のしおいが鎮守府の案内を務めたそうだ。

 

 

 

 

 

横須賀第二鎮守府

 

 まだ、移動してきたばかりなので燃料も弾薬もほとんどなく、あるとしたら執務机と書類とパソコン、それと憲兵と整備士と艦娘たちしかいない。そんな中、執務室で提督である桃と秘書艦の霞、満潮。さらに、山城が新たに加わる艦娘と挨拶を交わしていた。

 

「航空母艦翔鶴です。ご指導、ご鞭撻よろしくお願いします」

 

 A級艦娘の翔鶴だ。翔鶴は大本営にいる武蔵、吹雪と同等の実力を持っていることで有名だ。しかも、一切異能力を持っていないにも関わらずだ。桃達も噂程度でしか聞いたことがないが、山城のバックアップとしてはとても適任なのだ。艦載機運用能力では空母の中でもトップクラスの実力を持っているのだから。

 

「提督の赤神桃よ。今はこんな感じだけど、しばらくしたら、ここの運用も可能になると思うから、それまで我慢してね。わからないことがあったら私なり、他の子達にも聞いて」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

呉鎮守府

 

 執務室の机に、項垂れながら座っている伊織。そして、複雑な表情でいる金剛、比叡、霧島。帰ってきたことがうれしいのか、はしゃいでいる皐月と文月。何かを悟ったような表情をしている瑞鳳が執務室に集まっていた。机の前にいるのは、左足の膝下が義足で杖を突いている女性と車椅子に乗っている女性だった。かつて、伊織のもとで苦楽を共にした元S級艦娘たちだ。

 

「二航戦航空母艦飛龍。本日より艦娘として復帰するよ。伊織、みんな、久しぶり」

 

「同じく蒼龍。前戦で戦うのはもう少ししてからだけど、またここで働くからよろしくね」

 

 明るい表情で挨拶をする二人とは対照的に、伊織は重い口を開いた。

 

「…なんで…なんで、戻ってきた。お前たちは…もう…」

 

「戦えないっていいたいの?」

 

 何かをいう前に飛龍が遮った。その表情は、何かを決意したような表情であった。

 

「確かに昔みたいに海上を移動するのは難しいよ。左足は義足だし、蒼龍に限っては車椅子じゃないと日常生活もまともに過ごせないよ。けど・・・もう一度あなたの役に立ちたいって思ったから、私達はここにいる」

 

「私も、飛龍と同じ。もう一度役に立ちたいって思ったからここに戻ってきた。確かに今は車椅子だけど、大本営にいる夕張に専用の艤装を作ってもらってるんだ!だから、また海で戦えるから安心して!」

 

「だが!」

 

「この話はもう終わり!!早く部屋に案内してもらえないかな?長旅で結構疲れてるから…」

 

 飛龍は一方的に話を終わらせる。飛龍と蒼龍の表情を見た伊織は、納得がいってなかったが半ばあきらめた様子で深々と椅子に腰かけた。

 

「わかった。ただし、無理はしないでほしい。これが条件だ…」

 

「…ごめん」

 

「ごめんね、伊織…」

 

「さてと、皐月、文月、二人を部屋に案内してくれ」

 

 伊織から声をかけられると、待ってましたと言わんばかりに二人は大喜びし、飛龍と蒼龍のもとへ駆け寄った。

 

「蒼龍さ~~ん。車椅子押してあげる~!!」

 

「飛龍さん、早く行こう!!」

 

 よほどうれしいのか、二人をせかす皐月と文月。その二人に少し戸惑いながらも、飛龍と蒼龍は受け入れていた。しかし、状態が状態ということもあるため飛龍は少し困り気味だ。

 

「わかったから、急かさないで皐月!」

 

「文月、少しゆっくり押してくれると嬉しいかな」

 

「えへへ、ごめんね!」

 

「はぁ~い!」

 

 その光景を見て、少し昔を思い出したのか笑みを浮かべる須藤。二人が来てくれたのはうれしいが、二人の状態に配慮する必要がある。今後もやることがいっぱいだ…

 

 

 

 

 

 

 

佐世保鎮守府

 

 ここには、航空母艦の赤城が着任した。正直言って、挨拶をしたまではよかった。瑞鶴を含めた空母勢が大喜びしていたし、川内型三姉妹も緊張こそしていたがとても嬉しそうだった。そこまではよかった…。何回も言うが、そこまではよかった。大切なことなのでさらにもう一回言うが、そ・こ・ま・で・はよかった…。時間は夕食時になり、食堂で歓迎会を開いていた時だ。並べた料理が、ことごとく消えていく。赤城がものすごいスピードで食べていくからだ。そんな赤城を見た、鎮守府のメンバー(瑞鶴を除く)は自分の中のイメージがガラスのように砕け散るような感覚にとらわれた。

 

「すみません!お代わりありますか!?」

 

「赤城姉、もうご飯何個食べたの?いやむしろ何人前食べたの?それに、みんなびっくりしてるからその辺にしておいた方がいいって」

 

「そういわれても、私はおなか一杯食べなきゃ、あとあと力が出ないんです!あと、水分も大量に補充しておかないと!!」

 

「水分はわかるから、もうその辺にして!!ここのストックしてある食糧が枯渇する~~~(;゚Д゚)」

 

 瑞鶴の説得で、食事をやめた赤城。今後の食糧事情が問題になった佐世保鎮守府であった。

 

 

 

 

 

 

 

side大本営

 

 執務室で、資料を眺めている元帥の勘兵衛と秘書艦の大淀。今二人が行っているのは、訓練生の詳細についてだ。訓練生達を各鎮守府に異動させなければならないため、だれをどこに所属させるのかを検討しているのだ。訓練生は26人。それぞれの能力などに合わせて鎮守府に配属させる必要がある。また、養成校で教官をしていた艦娘たちもそれぞれの鎮守府に配属させる必要がある。

 

「ふぅ、やることが満載だな。大淀、お茶を持ってきてくれるか?少し休憩しよう」

 

「はい、今お持ちします」

 

 大淀は、給湯室に行きお茶を入れに行く。時計を見ると、夜の10時を過ぎていた。夕食を食べ終えたのが7時過ぎであるため、三時間近く資料とにらめっこしていたようだ。そろそろ終わりにしてもいいのだろうが、テロリストのこともあるため早急に決めなければならないのだ。幸いにも、大将である斎藤が訓練校から戻ってきているため、仕事量が減っているのは事実なのだが、それでもやることが多い。

 

「ここには佐藤さん達がいる。それに…つく…あぁ星羅さんか。彼女もいるから、今後の対応を考えなければ」

 

 独り言をしていると、大淀が執務室に戻ってくる。お茶を勘兵衛に入れ秘書机に戻るが、かなり疲れがたまっているのか眠そうな顔だ。

 

「大淀、君はもう上がっていい。部屋に戻ってゆっくり休め」

 

「しかし、元帥が仕事をしているのに秘書艦である私が休む…訳…zzz……は!?(;・∀・)すみません」

 

 やはり、体は正直なようで睡魔には勝てないようだ。勘兵衛はそんな大淀の姿を見て、少しだけ笑った。

 

「やはり体は正直だな。いいから休みなさい。私も、あと少し資料を見たら寝ることにするよ」

 

「…わかりました。ではお先に失礼します」

 

「あぁ、お疲れ様」

 

 大淀は、眠り眼をこすりながら、部屋へと戻っていった。勘兵衛は、残りの資料に目を通そうとすると、執務室のドアが開いた。普通ならノックをしてはいるはずなのだが、大本営でノックをしないで入るものが一人だけいるのだ。それは、大本営の総旗艦を務める艦娘だ。

 

「元帥、入るぞ。本当にあなたという人は、さっき大淀に言ったことは嘘だろう。なぜ、周りの人のことは気にするのに、自分のことをおろそかにするのだ…」

 

「長門…戻ったか」

 

 長門型戦艦長門。大本営の総旗艦でありS級3位の実力者だ。任務で大本営を離れていたのだが、つい先ほど戻ってきたらしい。

 

「元帥、もっと自分を大事にしてくれ。あなたは本当に無理をしすぎるからな」

 

「すまない、善処するよ。ところで任務の方はどうだった?」

 

 勘兵衛は、長門に任務のことを聞いた。長門がしている任務は各海域の調査だ。深海棲艦の動向。新種がいないかどうか。さらに、海外まで足を運ぶことがあるらしい。まぁ、海外には長門と同等。もしくはそれ以上の艦娘がいるわけだが。

 

「…それなんだがな。新種らしき深海棲艦が発見された」

 

「何!?それは本当か?」

 

「あぁ、限りなく人に近いような新種だ。軽巡、駆逐艦がいたな。あとは、鬼を訪仏とさせるような容姿をしていた。北方、西方、東方で目撃されている。ただ…」

 

 長門は、一呼吸置いた後に話し始める。少し迷いがあるようであったが、意を決したように話し始めた。

 

「北方と西方にいるその新種は、どうも我々を見たら逃げるようなんだ。戦いもせず、なぜだか、怯えたような様子だったそうだ」

 

「ふむ…」

 

 深海棲艦は、基本的に人間や艦娘を見たら攻撃をするはずなのだが、なぜその新種たちは戦いを避けるのか、今後もそれを調べていく必要がある。しかし、今は別の問題があるため、そっちの方に目を向けるわけにはいかないのだ。

 

「わかった。引き続きこのことは調べていくことにしよう。長門はしばらく待機。何時になるかわからんがここも危険なことが起こるかもしれん」

 

「明智のことか?確か、佐藤一星さんや白露と時雨がここにいるのだったな」

 

 長門は姉妹艦である陸奥から、客人として一星や白露たちがいることは知っていた。そして、明智が白露たちを狙っていることも。そのために、任務をさっさと終わらせて大本営に戻ってきたわけであるが。

 

「そうだ、今後のことを考えて君にはしばらくここにいてもらいたい」

 

「わかった。私もこの機会を存分に使わせてもらうよ。周りの子達もそうだが、陸奥に一番心配されているからな…」

 

 そう言って、長門は自室へと戻っていく。戻る前に、勘兵衛に早く休むように釘を刺しておいた。勘兵衛は、少しだけ資料に目を通した後自室へと戻ったそうだ。

 

 

 

 

 

Side長門

 

 やはり、大本営は落ち着くな。食事は出るし、風呂には入れるし。任務中は、艦の中で過ごしていることが多いし、ほとんどがシャワーだし、食事は出るが美味とはいいがたい。かれこれ、4週間以上は海の上にいることが多かったからな…。そんなことを考えながら、廊下を歩いていると前方から見慣れた4人組が近づいてきた。その4人も長門を見るや否や長門まで走って近づいてきた。

 

「長門さん!お久しぶりです!任務お疲れ様です!」

 

「今回もずいぶん長かったわね。まぁ、別に戻ってきても来なくても変わらないと思うけど…」

 

「また、ぼのたんは失礼なこと言って…本当は長門さんのこと心配で心配でたまらなかったくせに、このツンデレぼのたん!」

 

「漣ちゃん…曙ちゃん怒っちゃうから、そういうことやめようよ(;・∀・)」

 

 第7駆逐隊の朧、潮、漣、曙の4人組だ。この4人は本当に仲が良くいつも一緒にいることが多いのだ。曙は言動はあれだが、艦隊のみんなのことをよく見ており艦隊のことを第一に考えているのだ。

 

「あぁ、みんな。ついさっき帰ってきたところだ。全員変わりないか?」

 

「もちろん、みんな元気にやってますよ!でも、演習ばっかりで退屈してますよ…私達、出撃しても近海警備くらいですからね…」

 

 確かに、第7駆逐隊は演習をやっている比率が多い。出撃はするが、近海のみだ。まぁ、それには理由があるから仕方ないことなのだが。この子たちは、実戦経験が浅いからな。実戦経験が浅いといっても、たしか5年前に遠方の出撃をしたはずだ。確か、吹雪が一緒だったはず。それ以来、あまり出撃をさせずにこうしてやっているわけだが。

 

「そうか。でも、それは我慢してくれ。吹雪の一存だからな」

 

「それはわかってるわ。でも、不満はあるわよ。みんなと一緒に出撃できないし。艦隊には組まれないことが多いし」

 

「でも、私たちを思ってくれてるのはうれしいよね。あの時、吹雪お姉ちゃんいなかったら私達どうなってたことか…」

 

「朧たちがこうしていられるのも、吹雪姉のおかげだからね」

 

 やっぱりそうなるな。吹雪はちゃんとこの子たちのことを思ってのことだから、もう少しだけ実戦演習を行った後に、艦隊に組ませることになるかもしれない。もしそうなるとしたら、きっと第2艦隊に組まれることになるだろうな。

 

「わかった。お前たちのことは吹雪に伝えておくよ。きっとわかってくれるさ。じゃあ、お休み。早く寝るんだぞ」

 

 第7駆逐隊にそう伝え、長門は自室に戻った。自室には陸奥はいなかったが、やはり自分のベッドはとても落ち着いた。しばらくはここにいるし、ゆっくり骨休みをするとするか。そう思い深い眠りについた。

 

 



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31話 大本営の精鋭

 白露達が大本営にきて、今日で四日目。大本営の艦隊で出撃しているのは第1艦隊のみで、吹雪率いる第2艦隊と筑摩率いる第3艦隊は大本営にいる。今日なら吹雪達と演習できる。ただ、今日は訓練生達が各鎮守府に配属されることになっている。そのことでごたごたしていなければいいのだが。それにしても、なんかここの艦隊のメンバー。すごい嬉しそうにしているんだよな。なんでだろ…。そんなことを思い、時雨達と一緒に食堂に入ると見慣れない女性が座っており、艦娘や職員達と話しているようだった。髪は腰までかかるくらいの長髪だ。

 

「白露、あの人だれだろう?」

 

「さあ、見慣れない人だな。艦娘が集まってるくらいだからあの人も艦娘か?」

 

 時雨と話しながらカウンターへ向かおうとするが、その女性が白露達に気づいたようで席から立ち近づいてきた。敬礼をした後に自己紹介を行う。

 

「はじめましてだな。私は大本営の総旗艦を務めている、戦艦長門だ。任務でここを離れていたんだが、しばらくここに滞在することになった。よろしく」

 

 長門と名乗った女性が挨拶を済ませると、白露と時雨もそれに倣い敬礼をする。一緒に来ていた一星は軽く会釈をし自己紹介を行った。

 

「白露です。よろしく」

 

「時雨です。よろしくお願いします」

 

「この子達の祖父で、佐藤一星じゃ。よろしく」

 

「それにしても、あんた任務でここを離れていたって。かなりの実力者のようだけど…もしかしてあんたも?」

 

 白露は率直に疑問をぶつけた。総旗艦である艦娘がここを離れてまで行うこと。まして、一人で任務を遂行するほどだ。それほどの実力を持っているのはS級クラスしかいない。

 

「そうだ、私はS級3位の序列を持っている。異名は暴獣だ」

 

 やはりそうか…と白露は思った。長門のオーラが尋常じゃない。青葉達よりも少なくとも頭二つ以上は出ている。白露が今長門と戦えば確実に負けるであろう実力。下手したらS級総出でも勝てるかどうか怪しいレベルだ。

 

「まぁ、そう固くなるな。何か相談事でもあるのなら私はいつでも話を聞くぞ。それと、吹雪がお前に用があるとのことだ。探していたぞ」

 

 どうやら吹雪が白露に用があるようだ。白露も探していたしちょうどいいだろう。長門と別れ白露は早急に朝食を済ませる。職員に吹雪を探していることを伝えてもらうと、演習場に来るようにとの指示があった。演習をするのだろうか?と白露は思いながら演習場に向かうのだった。

 

 

 

演習場

 

 さすがに、大本営の演習場とだけあってかなり広い。演習場が三つもあるとは予想していなかった。何度か大本営に来たことはあるが、その時は大体正面の海域だった。白露達3人は第1演習場と書かれたシャッターの前にいる。右側にドアがあったためそこから中に入った。中には吹雪のほかにも第2艦隊のメンバーである綾波と時津風がいた。綾波と時津風は白露とタイマンで演習をするという話を聞き興味本位できたという。

 

「まさか、吹雪以外にも客がいるとは思わなかったよ…」

 

 白露はそんな愚痴を言う。吹雪は非常に申し訳なさそうな顔をしている。綾波と時津風はというと非常に笑顔だ。

 

「前に吹雪と一緒にいた会話を聞いてしまいました!なので、こういうことが好きそうな時津風にも話して、ここに来たわけです」

 

「綾波から聞いたらすごい面白そうだったからね!私もこの演習に参加するよ~」

 

 白露は、頭を押さえて項垂れる。単純に面白そうだからという理由で参加するとは思っていなかったからだ。しかし、大本営でも屈指の実力を持っているメンバーでありリミットオーバーを習得している数少ないものたちだ。演習をしてもなんら問題ないだろう。

 

「わかった。演習はするよ」

 

「ありがとう白露ちゃん。じゃあ、最初は私から。休憩をはさんだ後に、綾波ちゃん、時津風ちゃんの順番でいい?」

 

「いいよ。それでやろう。それで、時雨と爺さんはどうする?ここに残る?」

 

「うん、せっかくだし見学するよ」

 

「わしは戻ろうかの。慎二から組手の相手をしてくれと頼まれていての。ちょうど、演習場の近くだからそこに行くとする」

 

 どうやら一星は大将の斎藤から組手を頼まれたようだ。斎藤は、訓練校の責任者の任を解かれたため大本営に戻ってきたのだ。昨日の夜にたまたまあったときに…

 

『最近体がなまっておるのじゃ。久しぶりに組手に付き合ってくれ』

 

 と言われたそうだ。ちょうど近くにある場所でやるからそこに来てほしいとのことだった。一星は演習場をあとにし、白露と吹雪は艤装を装備し海上に上がる。海上といってもでかいシャッターの中でやり、人工的な波があるため実戦に近い演習を行えるのだ。時雨達が見守る中、白露と吹雪は向かい合う。

 

「演習に付き合ってくれてありがとう。まさか、あの二人も来るとは思わなかったけど」

 

「白露ちゃんのことを聞いてどうしてもって。それに、あの二人はうちでもかなりの精鋭だから戦って損はしないと思うよ」

 

「わかってるさ。あいつらもリミットオーバーを習得しているんでしょ。なら結果オーライさ」

 

「ありがとう。じゃあ、始めようか!」

 

 吹雪はそう言って構える。第2艦隊の旗艦を任せられるほどの実力者だ。A級とはいえ油断はできない。だから、全力で戦う。今持ってるすべてを吹雪にぶつける。

 

「あぁ、始めようか!」

 

 白露は吹雪にとびかかっていった。自分の足りないものを得るために。

 

 

 

 

 

 白露が演習をしているころ、訓練生たちは各鎮守府に配属された。鎮守府に配属される割り振りは以下の通り。

 

大本営

 

占守、国後、択捉、佐渡、対馬

 

 

 

柱島鎮守府

 

五月雨、海風、山風、江風、涼風、鹿島

 

 

 

呉鎮守府

 

鈴谷、熊野、足柄

 

 

 

舞鶴鎮守府

 

千歳、千代田、大鷹、妙高

 

 

 

横須賀鎮守府

 

松輪、日振、大東

 

 

 

佐伯湾鎮守府

 

子日、若葉、那智

 

 

 

佐世保鎮守府

 

霰、高波、早霜、香取

 

 

 

岩川鎮守府

 

藤波、浜波

 

 




大本営第2艦隊の吹雪との演習が始まりました!
最近仕事が忙しいため更新が遅くなるかもしれません…
気長に待っていただけると幸いです!


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32話 姉妹艦

どうも久しぶりです!いったん柱島の様子になります!


 吹雪と白露が演習を行っているころ、各鎮守府に訓練生が配属された。柱島に配属されたのは残る白露型の全員と練習巡洋艦の鹿島だ。鹿島は訓練校で、駆逐艦寮の寮長を務めていたため駆逐艦達はとても世話になっていた。しかし、白露に関してはかなり反抗的だったため毎日毎日言い争いに発展していたわけだが…。話を戻して、執務室に来た6人は執務机の前に立つと敬礼をし挨拶をした。執務室には京と仁、村雨のほかに夕立、五十鈴、摩耶の3人が来ていた。夕立に関しては、新しい妹ができたことがよほどうれしいのか°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°とこんな表情をしていた。

 

「初めまして、練習巡洋艦の鹿島と申します。以後よろしくお願いします」

 

 鹿島から順に、五月雨、海風、山風、江風、涼風と続く。そして、挨拶が終わった後に夕立が五月雨達に向かって抱き着いた。

 

「妹だぁぁぁぁ!!うれしいっぽ~~~~い!!私夕立!よろしくっぽ~~~い!!」

 

 一人一人に抱き着きながら挨拶をする夕立。みんな驚いていたが、全員それを受け入れていた。ただ、山風は人見知りが激しいようで…

 

「私にかまわないで!」

 

 と言ってしまったため、夕立は“(゚Д゚;)”といった表情をして、部屋の隅でへこんでしまった。見かねた村雨が夕立に近づき慰めてあげるが…。

 

「妹に嫌われた…(;_;)」

 

 と言って、聞きそうにない。山風は少しだけおろおろしてしまい、どうしていいかわからずに周りを見る。そんな中海風は「こういう時は素直に謝った方がいいよ」と助言をし、山風は素直に応じ夕立に謝る。すこし驚いてしまって口にしてしまったことを伝えると夕立は「(´▽`*)」と安心した表情でいる。全員が胸をなでおろし、姉妹として一緒にやって行けそうだと思ったと同時に、少し癖のある姉さんだと思った。それと、鹿島はもちろん五月雨達も白露と時雨のことは聞かされていた。さらに言えば、白露の噂は訓練生時代によく聞かされていたため少しだけ安堵しているのも事実らしい。噂で聞いた白露はすごく怖すぎたから。一通り挨拶を終えた後に村雨と夕立達で五月雨達を案内することに。村雨達が退室した後に、鹿島は京達と話をする。もちろん白露達のこともそうだが、訓練生の今後の方針についてを話し合うために。

 

「改めて、よろしくお願いします提督さん。今後のことについて少しだけお時間ください」

 

「構いません。私も話をしようと思いましたから。今後について」

 

 何分、初めてのことになるため、今後一体どのように指導していくべきかがわからないのだ。本来なら訓練校できちんとした座学と実戦演習をしていかなければならない。教官も複数いるのが普通なのだが、各鎮守府に配属されてしまっている。岩川鎮守府だけは教官として働いていたことがある阿武隈がいるため例外にはなるのだが。

 

「では、現状彼女達は座学も実践演習もある程度は身に着けています。まぁ、砲撃と雷撃訓練などの基礎演習を身に着けていると思ってください。現状足りてないのは、応用演習と実践、それと残っている座学ぐらいですね…」

 

「けどよ、お前さん一人で全部教えるって言っても、無理があるだろ。本来なら各教官ごとに教えるはずのものをよ…」

 

「そこは、他の方でカバーしていくしかなさそうですね。元帥達も手探りのようですし、我々も手探りでやっていきましょう。何かあれば都度報告すればいいでしょう」

 

 とりあえず、一通りのことは決まった。座学のことは鹿島が教えられるし、実戦演習などは鹿島のほかにもここの艦隊のメンバーでやれる。摩耶や五十鈴が適任だろう。実戦演習で何度か訓練校に足を運んでいたから。

 

「では、そのようにしますね。それと、白露さんはここではどんな様子でしたか?武蔵さんからは、特に問題はないと聞かされていましたが…」

 

 武蔵から聞いてはいても、やはり白露のことは気にかけていたようで問題を起こしていなかったかどうか心配だったようだ。

 

「口は悪いが、優秀だよあいつは。それに、艦隊の奴らの信頼も厚い。あいつは今後もここでやっていけるさ。まぁ、今は大本営にいるから、様子はわからんがな…」

 

 鹿島の問いに、仁は答える。数か月の間ではあるが、白露は訓練校とは少しづつではあるが変わっていた。訓練生時代のことはよくはわからないが、ここでの生活の中で白露は確実に変わりつつあった。特に、祖父の佐藤一星が来てから、母親のことを思い出したときから目つきや態度が少しずつ丸くなっている。

 

「それを聞いて、少し安心しました。正直かなり心配でしたから…」

 

 鹿島もその話を聞いて安堵する。あの問題行動が絶えなかった白露が変わっていったのだから。また問題行動でも起こしているのではないかと考えたから。今は大本営にいるため話すことはできないが、いつか戻ってきたときにゆっくり話をしたいものだと、そう思った。

 

 

 

 

 

 鎮守府内を案内している夕立と村雨。後ろには、五月雨達がついてきている。大体の作りは訓練校と一緒であったため軽く紹介した程度であるが…。それから、白露の話になって盛り上がっているところだ。訓練生時代に起こした数々の問題行動や前はかなり怖かったこと。特に、山風は怖がりな性格でもあるため白露と話せるかどうか不安だったそうだ。今はここにはいないので何とも言えないのが現状だが…それならと夕立はこんな提案をした。

 

「あ!それなら、今日の夜にでも白露お姉ちゃんとビデオ電話しよ!そしたら、白露お姉ちゃんと話せるっぽい!!」

 

『え“、今日(ですか…)』

 

「ぽい?」

 

 夕立の提案に、全員は青い顔をした。自分の中のイメージが強すぎるせいか、やはり内心怖がっているようだ。

 

「あ、あの今日ですか?本当に今日するんですか…」

 

「そ、その心の準備が…」

 

「や、やっぱり噂のことがあるし、正直怖すぎて…その(*_*;)」

 

 五月雨と海風と江風は言った。最近の白露は口調こそ荒いものの、前に比べてかなり丸くなってきているためそこまで怖くはないのだが…。

 

「大丈夫よ、私たちがいるし白露姉さんは最近そこまで怖くはないわよ」

 

『それでも怖いイメージが強すぎる(んです!!)』

 

 村雨がフォローするが、やはり怖いイメージが強いようだ。どうにかして怖いイメージを払拭しなければいけないのだが、やはり今日にでもビデオ電話で挨拶をさせた方がいいと思った矢先、村雨に電話が入った。どうやら京からのようだ。

 

「はい、村雨です。どうしたんですかそんなに慌てて」

 

『村雨さん!緊急の連絡が入りました。舞鶴所属の響さんと電さんがテロリストに襲われたようです』

 

「え!?響ちゃんと電ちゃんが!」

 

『はい、幸いにも二人は無事のようですが。ですので、いったん執務室に来ていただけませんか?』

 

 電話を切ると村雨は夕立にみんなの案内を任せ執務室に戻った。電のことは心配だが、正直響についてはあまり心配していない。響は特殊な事情があるためだ。その事情というのは異能に関係している。本人ですらわかっていない、呪いの力が。

 

 



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33話 呪い

※グロ注意 流血表現を含みます


 舞鶴に配属された千歳、千代田、大鷹、妙高が配属された後に、響と電は町に向かっていた。ちょうど外出届を出していたため鎮守府近くにあったバス停から30分圏内にある街に買い物に行くところだ。ちなみに、二人は私服だ。電はジーパンに黄色いシャツ。響は青色のワンピースを着ている。

 

「響ちゃんと一緒に出掛けるのは久しぶりなのです。最後に出かけたのは鎮守府に配属される前だったから、4か月くらい前でしょうか?」

 

「そうだね、最後に行ったのが2月らへんか…今は6月だからね。それにしても、もう6月か。3月に鎮守府に配属されてからもう3か月になるとはね。時間の流れとは早いものだよ」

 

 鎮守府に配属されてから、早3か月がたとうとしている。その間にいろいろなことがあった。白露のいる鎮守府と演習してバカ騒ぎして、そのあとはテロリストの活発化。深海棲艦が横須賀をつぶしたりと色々起こりすぎてる。買い物中に変なことがなければいいのだけれど…そんなことを響は思っていると、入り口から大きいバッグを持った男性客が入ってきた。サングラスに帽子を深くかぶり黒いシャツに黒いジーパンを着ている。見るからに怪しい。むしろ怪しすぎる。

 

(変なことを考えていたら、フラグがたってしまったのかな…)

 

 その男性は、一度響達を見た後に席に座る。何やら、携帯を見ているようだが一通り確認した後にカバンをあさっている。何をしているのか気になってずっと確認していたら、男はカバンからマシンガンを取り出し、運転手に銃を突きつけた。

 

「おい、いったんバス止めろ。じゃねえとぶっ殺すぞ」

 

「ひっ、は、はい…」

 

 運転手は、言われたとおりにいったんバスを止める。それを確認した男は、席に向き直り客たちに銃を向けこう言い放った。

 

「よし聞けお前ら!このバスは占拠した!変に動くなよ。ぶっ殺してやるからな!」

 

 銃を向けられた客達は半分パニックになるもの、恐怖におびえるものなど様々な反応を見せた。男は、その反応を見て狂ったように笑うと、響達の前に来た。

 

「お前ら艦娘だよな!悪いけど、ここで死んでくれや。お前ら殺せば俺はたんまり金が入るんだからな!」

 

 やはりか、と響は冷静に思った。テロリスト達は主に艦娘や鎮守府を狙っている。特に明智家と内通している奴らは、白露達と母親を狙っているようだが、中には無差別に狙いをつけている者もいるのだから。

 

「あのさ、殺すなら私一人にしてくれないかな。この子は生かしてほしい」

 

 響は男に向かってそういう。電は響の言ったことに納得いっていなかったが響はそれを手で制した。しかし、男は首を横に振り銃を響に突きつける。

 

「できねえ相談だ!艦娘どもは皆殺しにする。この世に不幸を呼び寄せるらしいからな!悪いが死ねや」

 

「…そうか、これだからテロリストは嫌なん…」

 

 話している途中に響は眉間を打たれた。客達は銃声と響の血を見てもはや錯乱状態に陥った。運転手も恐怖で震えあがっていた。響を打った男は電に銃を突きつけた。

 

「今度はお前の番だな!どうしたよ、恐怖で声すら出なくなったか!」

 

 電は、男を見つめたまま黙っていた。表情を一切変えずに、恐怖のような感情すらない。電は男が打ったはずの響のいる方へ指をさす。そして、電は男にこう言い放ったのだ。

 

「相手を間違えているのです。あなたは…」

 

 直後、男の腹部に衝撃が走った。かなり強い衝撃だったのか、男は耐えきれずに座り込んでしまう。そして、顔を上げると驚愕した。そこには、撃ち殺したはずの響が頭から血を流しながら立っていたからだ。

 

「ひどいじゃないか。10代後半の子に向かって銃を打つなんて…」

 

「お、お前!?なんで生きてる…確かに…確かに頭を打ちぬいて!?…こ…この野郎!!」

 

 男は半狂乱状態になり、マシンガンを響に向かって打ち続ける。響はさらに打たれ、体中に穴が開いていき血が噴き出る。しかし、響は構うことなく男に近づき男から銃を叩き落とした。そして、血まみれの状態になりながら男にこう言い放った。

 

「レディに対して、ずいぶん手荒な扱いをするじゃないか。ねぇ、テロリストさん」

 

「あ…うぁ、ば…ば…化け物がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「なんとでもいいなよ、この外道が!!」

 

 響は男の首を殴り気絶させた。そして、近くにいる客に憲兵を呼ぶように促した。まぁ、錯乱状態になっているため、聞き分けを持ってもらったわけではないのだが。仕方ないので、電に頼んだ。電は、携帯で提督に連絡。さらに、憲兵にも電話して犯人を捕まえるように頼んだ。

 

「まったく、響ちゃんは毎度無理しすぎなのです!傷がいくら再生しても、痛みは感じるのでしょう!お願いですから、もう無理はしないでくださいよ!!」

 

 電は、響に向かって怒鳴った。響は訓練生のころ、周りから傷の治りが速いことを指摘されたときに包丁で自分の身を傷づけたことがある。本人は、見た方が早いといってやったことなのだが周りから見ればかなり衝撃的だったはずだ。おまけに、出撃した際は必ず誰かをかばおうとする。確かに再生能力は異常なのだが、痛覚はちゃんとあるため想像を絶する痛みを感じることがあるのだ。

 

「…善処するよ」

 

「そういって、いつもしていないのです!!」

 

「うっ…わかった、わかったよ…もうこんな無理はしないから。そう怒らないでくれ…」

 

 電はさらに怒鳴って、響を黙らせた。さすがの響でも電には頭が上がらないようで無理をするといつもとがめられる。とりあえず、響達は憲兵や提督達が来るまで待機していることにした。ちなみに、タオルと着替えなどを頼んで…

 

 

 

 

 

 数十分後、鎮守府から提督と暁、酒匂の三人。町の方からは憲兵が来てくれた。憲兵達は響の姿にかなり驚いていた。何せ血まみれの状態でいたためだ。提督である宮本が事情を説明すると、少しだけ納得してくれたようだが。憲兵達がテロリストの逮捕、バスに乗っていた客達の事情聴取をしていたころ、暁は響にタオルと着替えを渡した。シャワーでもあればいいのだがあいにくそれはないので、鎮守府から持ってきたペットボトルに入れたお湯を渡してあげた。響はそれで体を洗うと、タオルで拭き着替えをした。

 

「ふぅ、よかった。服につけてたバッジは無事だった。これは私の宝物だからね…」

 

「響、バッジのことより自分の体のこと気を使ってよ!痛み感じるのに、至近距離でマシンガンを受けるなんて!」

 

「さっき電にも言われたよ。本当に無理しないようにするから、そんなに怒らないでくれ…」

 

 響は暁にもとがめられた。よほどみんな響のことを心配しているようだ。鎮守府に帰ったら大変なことになりそうだ。遠目から響達のことを見ていた宮本は、憲兵のほうに向きなおり話を聞く。男が誰の指示でこんなことを起こしたのか聞くためだ。

 

「それで、男は誰にやとわれていたの?」

 

「それが、闇ネットのようなもので艦娘に懸賞金のようなものが出てるみたいです。駆逐艦なら500万単位で。それから、どういった経緯で彼女達を艦娘だと知ることができたのかは、何者かが鎮守府、もしくは大本営から情報を得た可能性が高いかと。ネットによるハッキングか内通者がいるかは定かではありませんが…」

 

 ネットによるハッキングならいいが、内通者がいるとしたらそれは厄介だ。早急に調べてもらう必要がある。ただ、しっぽが出るかどうかはわからないが。とりあえず元帥に報告しなければ。

 

「わかったわ。そのことについては、元帥に報告しておく。そちらも、宮部さんに報告をお願いします」

 

「はい、それでは容疑者を連れていきます」

 

 宮部とは、陸軍の最高指揮官であり元帥の古い友人らしい。なんでも3年前の事件があった際に、元帥の前で土下座し怪我をしたものと同じ場所に傷をつけようとしたのだとか。幸い、元帥と小笠原大将に止められたわけだが。陸軍を見送った後、宮本は響達を連れ、一度鎮守府に戻った。そして、元帥にこの事件を打診した後、響に説教をしたそうだ。

 

 

 

――舞鶴鎮守府執務室

 

 舞鶴鎮守府についた後、響達は報告のため執務室に来た。報告したはいいが、その後なぜか響は正座させられ目の前には、矢矧と雷が立っている。かなり怒っているようで、笑っているが目は笑っていなかった。

 

「響、何か言いたいことはあるかしら」

 

「訓練生時代からかなり無茶してたけど、まさかここでもこんな無茶をするとは思わなかったわ…ねぇ、響(#^^#)」

 

 木刀を構えながら響に質問する矢矧と訓練生時代のことをとがめる雷。さすがにフォローのしようがないため、提督である宮本は椅子に座り三人を見守っている。

 

「えっと、その…あれは不可抗力というか…」

 

「護身術を心得ているのであれば、もっといい方法があったでしょう!あの場所には一般人もいたのよ!私達はあなたのことを理解してるわ。どんなに傷つけられても再生してしまうことも。でもね、一般人はそうはいかないのよ!あんなもの見たらトラウマレベルよ!そのことはわかってるの!!」

 

 矢矧の怒号に、響はかなり縮こまってしまっている。確かに、あの場所には一般人もいた。今回の一件で精神的にダメージを負ってしまう人もいるかもしれない。そうなったら、鎮守府のみんなにも、下手したら海軍そのものに迷惑をかけてしまうことになる。

 

「ご…ごめんなさい。そんなつもりは…」

 

「…だったら、もう無理しないで響。暁も電も心配してたわよ。特に暁は泣いてばかりだったんだから」

 

 響は、泣きそうになりながら謝った。そんな響を見て、雷は無理をしないように釘をさす。それでも無理をしそうであるため、少し心配であるが。

 

「ところで矢矧さん。なんでわざわざ執務室で響に説教を?」

 

「私が木刀で響を殴ったら困るから」

 

「矢矧さん、そんなキャラだっけ…」

 

「学生時代、剣道やってた時に、セクハラしてきた男子生徒に向かって竹刀を思いっきり振り下ろしたときがあってね…」

 

「えぇ…」

 

 矢矧のカミングアウトに戸惑う雷。正直、そんなことがあったとは思いもしなかったからだ。普段の矢矧は面倒見がよく真面目で、時に厳しく、優しい一面があったから。

 

「まぁ、意外だろうけど私こう見えて野蛮っていうか、そういう一面も…!?」

 

 矢矧は、話している途中になぜか窓の外を見た。何事かと思って宮本と雷、響は窓の外を見るが特に変わった様子はなかった。疑問に思って雷が矢矧に質問した。

 

「矢矧さん、どうしたの?」

 

「え、なんか変な感じがして…なんていえばいいのかしら。誰かが強い力に目覚めようとしているような、そんな感じが…」

 

 雷にはそんな感じはしなかった。もちろん響も「?」と頭に何個も出ている感じだ。ただ、宮本は矢矧の発言に何かを察した。

 

(誰かが、リミットオーバーを習得しかけているのかもね。誰かまでは、わからないけど…)

 

 

 

 

 

―――

 

 刑務所の牢獄内で横になっていた、長良型5番艦の鬼怒。脱走しないように足かせがついており、手にも鎖でつながれた手錠がかけられている。刑務所内にいても囚人達と殴り合いが続いたため、このような処置がとられたらしい。退屈すぎて仕方なく、横になって目をつむっていると、なぜか体に電流が走ったような、少しではあるが何かを感じた。

 

(…?なんだ、この感覚…)

 

 それは、岩川鎮守府で新聞を作っていた青葉も感じた。いつだったか、鬼怒や矢矧がリミットオーバーを習得したときと同じような感覚が走った。

 

(誰かが、リミットオーバーを習得しようとしている。いや、入りかけといった方が正しいかもしれませんね…。可能性があるとしたら、しおいさん、雷さん、白露さんの誰かですか…)

 

 根拠があるわけではない。ただ、リミットオーバーを習得しているS級艦娘たちはいずれも同じような感覚にとらわれた。山城も、赤城も、加賀も、長門も、鳳翔も、そして、日本最強の艦娘でありS級1位の女性も。全員が同じ感覚にとらわれた。誰かが、第2の力を手に入れようとしている。そう、全員が思った。

 

 




久しぶりに連続で投稿です!
響の能力なかなかえぐい…
ではまた!


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34話 vs吹雪

お久しぶりです!リアルが忙しすぎて、なかなか投稿できませんでした。
今回は白露達の話に戻ります。
楽しんでくれれば幸いです!


 時間はさかのぼり、響達が襲われる少し前…。大本営の演習場で、演習を行っている吹雪と白露。演習が開始されると、白露は吹雪に向かって、砲撃を行いつつ近づいていく。吹雪はそれを横によけつつ砲撃で白露を牽制。白露はそれをよけ、一気に吹雪にまで詰め寄り近接戦に持ち込む。しかし、吹雪はそれを読んでいたのか、軽々しく白露の拳をよけていく。

 

「なんで!?なんで、当たらない」

 

 白露は驚きを隠せない。得意の接近戦で、戦艦級を一撃で沈めてきた。何度も、何度も。しかし、何度やっても当たらない。それならばと、近距離で砲撃を行う。さらに、魚雷も発射した。しかし、吹雪は飛び上がり白露の真後ろに回る。白露は、とっさに蹴りを入れるが吹雪は後方に移動し、攻撃をかわしていた。

 

「なんでだよ、なんで攻撃が当たらない。金剛とやったときも、深海棲艦達にも、簡単に当たってたのに!」

 

「金剛さん達の場合は、あなたのことを調べないで、戦ったような感じだよ。申し訳ないけど、演習する前に、あなたのことを調べさせてもらったよ」

 

 吹雪は、白露と演習を行う前に事前に白露のことを調べていた。演習のビデオを何度も見て、白露の癖、動きなどを調べてきたのだ。吹雪の経験とビデオを見て研究を行ったことで、白露の攻撃を読むことができていた。

 

「あなたはまず、砲撃で牽制しつつ、相手に近づこうとする癖がある。砲撃も雷撃も確かにすごい。確率で言ったら、8割以上はいってる。でも、特筆すべき点は、やっぱり接近戦。タ級を一撃で沈めるほどだし、一気に敵まで詰め寄る速さもすごい。でも…」

 

 吹雪は、魚雷を白露めがけて発射する。白露はそれをよけ、吹雪に詰め寄ろうとするが、吹雪は砲撃を白露に向け放つ。すんでのところで白露は交わすが、さらに魚雷が数本。白露に近づいてきた。

 

「やっぱり、足りないのは場数と経験。それと、咄嗟の対応力。あなたは、一撃必殺に頼りすぎてる。こないだの横須賀の戦闘でも、一対多数での戦闘ではあなたは持ち前の戦闘能力を発揮できていない。だから、あんな結果になったんだよ。それから、もう一つ鍛えなければならないのはあなたの精神面。どんな時でも冷静に!感情は秘めて!!」

 

 吹雪は、白露にそう言いつつ、砲撃を繰り出していく。白露は、それをよけていくが防戦一方で攻撃に転じることができない。吹雪が砲撃と雷撃を白露に発射し、白露はそれを空中に飛びよける。その時、「ピュ~」と口笛を吹くような音とともに白露に強い衝撃が走り、海面にたたきつけられるように倒れ中破判定になった。何が起こったのかわからなかった白露だが、ふと自分の服を見たときに氷のようなものがくっついていることに気づいた。

 

(なんで氷が…さっきの衝撃はこの氷?…そういえば…)

 

 ふと、白露はある噂を思い出した。大本営には氷を操る能力を持つ駆逐艦がおり、その駆逐艦は【魔氷使い】の異名を持っていると。

 

「もしかして、魔氷使いって!?」

 

「そう、私がその魔氷使い。今のは私が作った氷の刃だよ」

 

 そう言って、吹雪は自分の手のひらを白露に見せる。吹雪の手のひらには、空中に浮かぶ小さい氷が何個も浮いていた。そして、吹雪はそれを白露めがけて吹き付けた。

 

魔笛散弾射(まてきさんだんしゃ)

 

 氷の刃が白露を襲う。白露は、それをよけるが砲撃、雷撃も同時に来るため攻撃に転じることができない。よけるので精いっぱいなのだ。

 

(どうすればいいんだよこれ!近づこうとしても、砲撃と雷撃。おまけに氷弾も来る。空中によけても同様だし、接近戦も読まれてる。本当にどうすればいいんだよもう!!)

 

 白露は考えるがなかなかいい策が出てこない。いくら考えても、いい案が出てこない。吹雪に研究されている以上、金剛達との演習も、矢矧との演習の映像も見られているだろう。

 

(イチかバチか…やってみるか!)

 

 白露は、吹雪めがけて突進する。吹雪は冷静に、魚雷と砲撃を放ち遅れて氷弾を打ち出す。このままでは、白露はまともに全部の攻撃を受けることになってしまう。しかし、白露は海面に砲撃を放ち魚雷を封殺。魚雷が爆発したはずみで水柱が立ち、砲撃と氷弾の弾頭がそれる。それを、スライディングしながらよけ吹雪に一気に詰め寄る白露。そして、吹雪めがけて殴りかかる。

 

「食らいやがれ~!!」

 

「!?」

 

 吹雪はよけきることができず、砲身を盾にして攻撃を防ぐ。しかし、威力が高かったためか吹雪は中破になってしまう。

 

「あらあら、吹雪が中破になったところを見るのは久しぶりだ…」

 

「ここ数年くらい、小破以上になったことがなかったからね。出撃でも、演習でも…」

 

 吹雪が中破になったのを見て、綾波と時津風は少々驚いた。正直、吹雪の性格上相手を徹底的に分析しているため、よくて小破で白露に勝つと思ったからだ。咄嗟の対応力の低さや感情をむき出しにして戦う白露であるため、吹雪の戦闘に戸惑って負けると踏んでいた。だが、予想は外れた。戦闘能力のセンスはやはりずば抜けているようだ。

 

「こりゃやるのが楽しみだな…!」

 

「綾波ちゃ~ん、感情高ぶってるよ~…でも、私もやるのは楽しみだな~!!」

 

 二人は笑って戦闘を見つめていた。まだ経験が少ない白露ではあるが、やはりS級クラス。一時でも油断していたらおそらく負けるだろう。だからこそ楽しみだった。自分達の力を思う存分に発揮できるから。その二人を見ていた時雨は、少しではあるが悪寒を覚えた。この二人の霊力に気圧されてしまったのか、鳥肌が立ち震えが止まらない。

 

(…この二人、絶対やばい…リミットオーバーを習得しているっていうのと、霊力が僕より上っていうのもあるけど、さすが大本営の精鋭…。個の力でも、絶対強い…)

 

 時雨の霊力で約2万2千。A級の中では、ギリギリ上位に入る実力を持っている。しかし、たった数千の差があるだけで、実力に大きな差が出てしまう。訓練をすれば霊力が上がり、実力も高くなる。実戦を得ていれば、さらに上がる。しかし、大本営で場数を踏んできたもの達だ。霊力の質というものが違うのかもしれない。

 

(きっと、白露も気づいてる。この人達は、すごく強い。下手をすれば、リミットオーバーを開放しなくても負けてしまうかも…)

 

 海面にいた白露も、時雨と全く同じことを考えていた。経験と場数が違う。そして、この三人の霊力の質もやばい。たった数千白露より下のはずなのに、感じるオーラが違う。リミットオーバーを習得している影響なのか、それとも何か違うものがあるのか理由はわからない。

 

(…油断してたら、確実に負ける…。リミットオーバーを出されずに…絶対負ける…。一瞬でも気を抜いたら、絶対やばい…)

 

 白露は、吹雪に向けて砲を構えながらいつでも動けるようにしていた。でなければ、確実にやられてしまう。中破になった吹雪の雰囲気が変わったからだ。さっきと同じような表情で、顔色は変わっていないはずなのに、なぜか畏怖を覚えてしまう。

 

「…中破になったのは久しぶりだな…。最後になったのは、たしか5年前だったかな。姉妹艦が増えて、第7駆逐隊と一緒に合同訓練を行ったときだった気がする…」

 

 吹雪は、昔を語りながら白露に近づく。白露は、それに対して少し後ずさりした。おそらく、本気で来る。さっきのはまだ6~7割ほどの力でやっていた。だが、さっきの攻撃で吹雪にスイッチが入ってしまったかもしれない。

 

「私を中破にしたお礼。リミットオーバー見せてあげる。これが私の…全力!!」

 

 一気に、吹雪の周りの空気が冷めていく感覚にとらわれた。温度が冷えてきているためか、周囲がダイヤモンドダストのような空気になっていく。さっきより数段やばい。確実に…。そう思い、白露は吹雪から距離をとろうとした。しかし。

 

「逃がさない!」

 

 吹雪が、自身を含めた周囲に冷気の風を発生させた。風にあたってしまったことにより、白露はわずかであるがダメージを追ってしまった。退路を断たれてしまい白露は焦る。もう、吹雪に向かっていくしかない。

 

「くそ!もうやけだ!」

 

 白露は、吹雪に向かって突撃していく。さっきとは違い、吹雪は氷弾を打ち出すことはない。白露は先ほどと同じように、吹雪に殴りかかった。砲撃音とともに吹雪に、黒煙が立ち込める。

 

(…あれ、なんでよけなかった…)

 

 白露は、疑問に思い吹雪のほうに向きなおった。その瞬間、白露は空中に打ち上げられていた。吹雪にはダメージが通っていない。体には氷が張り付いていた。そのおかげで、吹雪はダメージを軽減していたのだろう。

 

「これが、魔氷使い…」

 

「ひとまず、第一戦お疲れ様」

 

 そう言って吹雪は、手のひらに先ほどとは大きさがまったく違う氷を作り出す。大きさでいえば、バレーボールほどの大きさだ。その氷を、吹雪は向け飛ばし白露は大破判定になった。

 

 



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35話 vs綾波

 演習が終わり、演習場のベンチに座りため息を吐く白露。それもそのはず、まさかA級の吹雪に負けるとは思っていなかったからだ。今まで、深海棲艦や他鎮守府の金剛達、そして矢矧とやったときは負けたことはなかったのに。矢矧とは互角ではあったが…。しかし、やはり吹雪に研究されていたこともあるだろう。得意の接近戦が当たらなかったのだから。

 

「…やっぱり、第2艦隊の旗艦は伊達じゃないのか…ていうか、なんでS級のあたしがあんたに…」

 

 白露は、吹雪にそんな愚痴を吐いた。確かに、霊力だけでいえば白露のほうが上だ。S級にも達していない吹雪が白露に勝つとは想像していなかった。いつものように勝つか、よくて引き分けになるのかだ。雷とやったときも、矢矧とやったときも引き分けだった。ただし、鬼怒とやったときは負けてしまったが。

 

「…いったでしょ。あなたの場合は、精神面に咄嗟の時の対応力がダメなの。戦闘センスは抜群だけど、感情的になったりすると、攻撃が荒くなって大降りになっちゃうんだよ。その分隙が大きくなるし、攻撃も少しではあるけど当たらなくなっちゃう。だから…まずはどんな時でも…対応できる精神つけないと、また横須賀の時の…二の舞だよ…」

 

 吹雪は、肩で息をしながら話していた。リミットオーバーをしたことで、体に負荷がかかってしまっているようだ。なので、吹雪も今白露の隣に座り休んでいるところだ。ちなみに、次に戦う綾波は海面に出てストレッチをしている。時津風はというと、スマホをいじって暇をつぶしているようだ。時雨はというと、白露の隣に座っているが、少し不安そうだ。わずかではあるが鳥肌が立っている。

 

「…時雨~、どうしたのさ?」

 

「…いや、あの二人もすごく強い人なんじゃないかって思って…二人の戦い見てた時、なんかすごい雰囲気だったし…」

 

「あっちゃ~、霊力に充てられたか…あの二人、ちょっと興奮してたか…」

 

「充てられたって?」

 

「霊力が高ければいいっていう問題じゃないんだって。A級の上位にもなれば、霊力の質が上がって、相手に与える影響が強くなるんだって。恐怖とかもその一つ」

 吹雪の言ったことに、白露は疑問に思った。確かに、霊力が強ければ相手に影響を与えることがあるという。前に青葉がそうだった。青葉の霊力が異質だったのもあると思うが、白露はあの時、地面に膝をつくことしかできなかった。

 

「…それに対応するには?」

 

「ないよ。基本的には…でも、恐怖っていうのは持っていていいと思うよ。恐怖っていうのは、人間誰しも持ってるし、だから、それに対処することも大切なんだよ。強がりはよくないよ…」

 

 吹雪は以前と同じように、柔和な表情で二人に話しかけた。やはり、経験の場数というものが違うのだろうか。まだ、実戦に入って数か月しかたっていない白露と時雨は本当の修羅場を経験していない。戦場で恐怖というものを感じたことがなかったからかもしれないが。それに加えて、この三人は大本営直属の精鋭だ。どれだけ困難な任務をこなしてきたのか想像できない。

 

「お~い、白露~。早く来いよ~!さっさと戦いたいんだよあたしは~!!」

 

 海面に出ていた綾波は白露を急かしている。やはりかなり興奮しているのか口調がさっきと全然違う。やはり、霊力が影響しているのか時雨が震えてしまっている。

 

「綾波ちゃ~ん、口調荒くなってるよ~…あと、霊力が表に出てるよ~…」

 

「言われなくてもそっち行くって…あと、あんたキャラ変わってね…?」

 

「これがあたしの素だよ!なるべく礼儀もって接するようにしてるけど、やっぱこういう時は素でいる方がいいわ!」

 

 吹雪は、綾波に突っ込みを入れるが、やはり口調は元に戻らない。白露も綾波の急変ぶりに少し驚いている。霊力に充てられているが、綾波より霊力が上のためかそれほど気にはならないようだ。時雨は震えてしまっているため、吹雪が時雨の手を握り安心させている。白露はその様子を見届けた後、艤装を展開させ海面に出た。

 

「さてと、さっさとやるか!私はいつでもいいぞ!」

 

「じゃあ、さっそく」

 

 綾波は、そう言って白露にかかっていった。白露はそれをかわし、体を反転させ回し蹴りを行った。しかし、綾波はそれを足で制して格納庫にしまってあったヌンチャクを取り出し殴りかかる。それを白露はかわし、砲撃を行おうとするが綾波は回し蹴りを行う。白露は少し体をそらしそれをよけるが、すかさず綾波はヌンチャクを白露の頭上めがけて殴りかかった。白露は、何とかそれを手で制するが衝撃が強かったためか少し足がふらついてしまった。

 

「ぐぅ、なんて攻撃だよ!」

 

「はっは~!やっぱ最高だわ!吹雪みたいに研究して対策するより、こうやって真っ向から勝負した方がいいわ!」

 

 綾波はそう言って笑い、白露に砲撃を行う。ぎりぎりでよけた白露は、すかさず砲撃を行った。綾波も負けじとそれをよけ、砲撃を行う。接近戦で砲撃戦を行う二人。二人は砲撃を行いつつ、雷撃を放つタイミングをうかがっていた。しかし、お互いの接近戦の能力が高いためかなかなかそのタイミングをつかむことができないでいた。

 

(両者タイミングをうかがっているけど、なかなか打つことができないみたいだね。タイミングを合わすことができなかったら、自分も巻き添えを食らっちゃうからね…)

 

 吹雪は、二人の戦闘を見て冷静に分析していた。時雨は先ほどより楽になったのか、震えは止まっていたが、まだ鳥肌が立っていた。吹雪は、時雨の様子を見て手を離した後、今度は時津風のほうに向きなおる。時津風は携帯を見るのをやめ、二人の戦闘を見ていたがかなりそわそわしている状態になっていた。

 

(…大丈夫かなぁ、変なことにならなきゃいいけど)

 

 吹雪はそんなことを思いながら、演習を見つめていた。時津風の性格だ。おそらく、演習をしたくてしたくて仕方ないのだろう。先ほどより、どんどんそわそわしていっていた。そんな中、海上に出ている白露と綾波はそんなことをつゆ知らずに戦っていた。雷撃を放つことが困難であると判断した二人は、やむなく接近戦の殴り合いを行う。綾波は、白露に向けヌンチャクで再び殴りかかる。

 

(また、さっきと同じパターンかよ。もう、読み切ってるっての!)

 

 そう言って、白露はそれをよけようとした。しかし、パァァァァンという衝撃音とともに、白露の頭に衝撃が走っていた。何事かと思い綾波の方を向くが、特に変わった様子はない。砲はしまってあるし、魚雷を打った形跡もない。ならなぜと思っていると、綾波は口を開いた。

 

「不思議そうだな。なんで、攻撃が当たったんだって顔だ。教えてあげようか、なんで攻撃を当てられたのか」

 

 そう言って、綾波は手を振ってみせた。何をやっているんだと思い白露はその様子を凝視していた。すると、綾波の手が二重に見えるようになっていた。

 

(は!?何が起こって!?)

 

「これがあたしの異能、分身(アバター)。まぁ、見ての通りちょっとだけ体を分けることぐらいしかできないんだけどさ…。さっきのは、これをやってあんたを殴ったわけ。まぁ、威力はそのまんま上乗せされるわけだから…当たるとかなり痛いかもな!」

 

 そう言って、白露に向かってくる。すると、綾波が二人に増えていた。さっき、体の一部を分けることぐらいしかできないといっていたにもかかわらずだ。

 

「これが、あんたのリミットオーバーか!?」

 

『そうだ、これがあたしの全力だ!!』

 

 綾波は、白露に突撃していく。ただでさえ、一対一でもかなり厄介な相手だ。それが二人になっているのだからたまったものではない。しかし、構わず綾波は白露に殴りかかる。綾波は、白露に高速の攻撃を行う。白露は、それを後ろに下がり避けつつ左に移動し、左にいる綾波の足を引っかけ転ばせる。そのあとに、雷撃を放ち一本は手にもった。綾波がよけたのを確認した後に魚雷を投げつける。魚雷は見事に命中し、綾波は中破よりの小破になっていた。すると、もう一人の綾波も同じ状態になっていた。

 

「なるほど、その分身は一心同体ってわけね」

 

「あぁ、お互いが実像でありどっちかがダメージを追ったら片割れも同じ状態になる。それが、この能力のデメリットだよ…」

 

 綾波は、首を回しながらそう言った。確かに、分身して連撃を行えるのはかなりのメリットだ。しかし、その分のデメリットも激しい。どちらかがダメージを追ったら、どちらも同じ状態になってしまうのだ。そんな話をしている中、演習を見ていた時津風が…

 

「ねぇ!!私もう我慢できない!!演習参加していいかな!!!」

 

『あぁ、もうどうとでもなりやがれ!!!………………あ』

 

 時津風の発言に、二人は思わずそう言ってしまった。そして、後悔した。二人は、ゆっくりと時津風のほうに向く。すると、“にやぁ”と笑みを浮かべながら艤装を展開させ、海面に出ようとしていた。吹雪は“┐(´д`)┌ヤレヤレ”という様子で座っており、時雨は…

 

(…白露、頑張って(^^;))

 

 といった様子で見守っていた。

 

「時津風!!抜錨するよ~~~!!!が~るる~~!!!!」

 

『どうしてこうなった~~~(;゚Д゚)』

 

 後悔してももう遅い。こうして、1対2の状態に強制的になってしまった…。

 

 



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36話 2対1

吹雪「あ、言い忘れてました。私の異能は幽〇白書に出てくるとある妖怪の能力をもとにしています!技名もそうですね!」
白露「…作者…本当にいろんなアニメ好きだな…」
吹雪「それはさておいて!ではさっそく本編です!」


 時津風が演習に乱入したことで、強制的に2対1の状況になってしまった白露。綾波はいまだに分身している状態だ。さらに、以前感じた違和感の正体が正しければ、おそらく時津風は時間を操る異能を持っている。そんな状況で来られたらたまったものじゃない。白露は時津風からなるべく距離をとろうとした。しかし…

 

「早送り!」

 

 時津風は、一瞬で白露の目の前まで来ていた。そして、連装砲で砲撃を行う。白露はそれをかわし時津風に砲撃を行おうとする。しかし、分身した綾波が砲撃、雷撃を行ったためそれをよけ、魚雷を封殺する。どちらを優先して倒そうか考え、白露は綾波に向け増速。分身は一心同体であるため、どちらかを攻撃し戦闘不能にすれば時津風に集中できると考えたためだ。綾波に近づき、近接攻撃を行おうとしたその時…

 

「一時停止!」

 

 瞬間、目の前に砲撃と雷撃が集中していた。後方、側方にも魚雷と弾が数m先に集中していた。

 

「くそが!」

 

 白露はいったん飛びそれを全部避けたあと、時津風に砲撃を行う。しかし、それは時津風に届くことはなかった。今度は、白露が放った弾速が遅くなったのだ。時津風は鼻歌を歌いながら余裕でよけ、直後に弾速が元に戻っていた。

 

「…あんたの能力チートかよ…。時間でも操る能力でも持ってるのか?」

 

「そうそう!私の異能は時の番人(タイムキーパー)。私から半径10mの距離なら時間を1秒だけ操る能力なんだ。でも、1秒あればだいぶ違うよね。移動も、砲撃も、雷撃も、全部の時間を遅くしたり、早くしたりすれば時津風は無敵だよ~!」

 

 自分の能力の説明をしながら、両手でピースをする時津風。その様子を見るとかなり幼そうに見えた。身長がかなり小さいこともあるだろうが。白露より頭一つくらい違うんだろうか。

 

「まったく。こんなガキに負けてたまるかっての!向こうも片付けなきゃならねぇのに!」

 

「…は?」

 

 白露の言葉に、時津風は先ほどの様子から一変する。先ほどのはしゃぎようは消え、急に真顔になった時津風。綾波は(;一_一)といった様子で頭を抱えていた。白露は頭に(。´・ω・)?を何個も並べ二人を交互に見た。すると、時津風はかなり怒った口調でこう言った。

 

「私は…私はこう見えても18よ!!!」

 

「え!?マジでΣ(・□・;)全然見えない!」

 

 白露は驚きを隠せなかった。確実に自分より年下に見えたからだ。身長は小さいし、口調も行動もかなり子供っぽい。そう見えてもおかしくはない。ただ、今の一言で時津風にスイッチが入ってしまったようだ。

 

「…確実につぶす!!リミットオーバー!!!」

 

 一気に霊力を開放した時津風。綾波とアイコンタクトをとると、白露に向け突撃する。白露は、いったん距離をとり時津風から攻撃しようとした。しかし、その前に時津風が動いた。

 

「一時停止」

 

 瞬間、白露の動きが止まる。そのすきに時津風と綾波は砲撃と魚雷をありったけぶち込む。白露の数m手前で止まり、砲撃と魚雷が白露を取り囲んでいた。

 

「生意気言ってるのも今のうちだよ!!これでもくらえ!!」

 

 時が動き出した瞬間、四方八方にある砲撃と雷撃が一気に白露に近づいた。白露が気づいたときには、もう逃げ場がなかった。全部食らえばおそらく即大破になってしまうだろう。周囲の状況を飲み込んだ時には白露は半ばあきらめかけていた。

 

(…やばい、もうだめだこれ…周りは砲撃と雷撃だらけ。もう逃げ場がない…。ふざけるなよくそ…。どうすればいい…どうすれば…………)

 

「白露!」

 

 時雨の叫び声とともに我に返った白露だったが、その時には白露のいた場所は大爆発を起こしていた。演習弾とはいえ、軽く吹っ飛ばせる威力があるため周りを埋め尽くさんとする砲撃と魚雷を食らえばひとたまりもないはずだ。

 

「白露…本当に負けちゃった…」

 

 目の前の状況に力なく答える時雨。全力を出した二人に負けてしまったと力なく答えた。しかし、吹雪は違った。海上にいる時津風と綾波も全員が同じ感覚にとらわれた。

 

「この感じ…もしかして…!?二人とも!気を付けて!」

 

 吹雪が叫んだが時すでに遅く、時津風が真上に吹っ飛ばされていた。かなりの力で殴られたのか天井近くまで吹き飛ばされていた。綾波も一瞬のことであっけにとられてしまい何が起こったのかわからなかった。

 

「この感じやっぱり…いや、正確には入りかけてるっていうのが正しいか!でも厄介だな!」

 

 綾波は時津風のいた場所に視線を向けつぶやいた。そこには白露が立っており、被弾しているもののほとんど被弾が少ない状況だった。あの状況でどのように動けば、被弾せずに済むのか全く見当がつかなかった。

 

「…え、これでもまだリミットオーバー習得していないのか…」

 

「力を完全には習得できてねえよお前は!それにしてもお前、あの状況でどうやって!?」

 

「…一部の範囲の魚雷を爆発させて、そこから逃げた。それだけだ!」

 

 白露は、綾波に向けて突撃する。一瞬姿が見えなくなるほどの速さで綾波に近づき近接攻撃を放とうとする白露。綾波も一瞬で近づかれてしまったため防御をとることができない。

 

「くそ!間に合わな…」

 

「これで、終わりだ!!」

 

 砲撃音が演習場に響き渡ると、綾波が壁際まで吹き飛ばされていた。そして、大破判定になり白露が演習に勝利した。

 

 

 

 

 

――演習が終わり数十分後…。

 

「あぁ、疲れた疲れた…体だるい~、ちょっと気持ち悪いよ~…動きたくな~い…」

 

「はぁ、はぁ…やっぱり…きつい…体力が…持たない…うご…けねぇ」

 時津風と綾波は、演習が終わった直後、地面に突っ伏し動けないでいた。よほど体にかかった負荷が強いのか、指一本動かせないようだ。白露もリミットオーバーの一歩手前の状態になったためか、ベンチに座り肩で息をしていた。かなり体力を消耗したのかしばらく動けそうにない。

 

「はぁ、はぁ…ここまできついとは…思わなかった。これが、リミットオーバーか…、でも入りかけって?」

 

「白露、あんまり動かない方が…」

 

「今はみんな休んでて、今第2艦隊のメンバー呼んだから」

 

 白露を心配して時雨が声をかける。吹雪も第2艦隊のメンバーを呼び動けない3人を介抱してもらおうと思ったのだ。吹雪はだいぶ体が楽になったのかベンチから立ちあがっていた。全員で待機していると、入り口付近からパンパンと手を叩くような音が聞こえた。その方向に目をやると、銀色の髪を後ろでまとめ、緑色のリボンをした作業服を着た女性が立っていた。

 

「すばらしい戦いだったわ。さすがS級の白露ね!今の戦い、なまらすごかったわ!」

 

『なまら…?』

 

 その女性の方言だろうか、なまらという言葉に白露と時雨は頭に?マークを出しながら困惑した表情でいた。

 

「夕張さん!なんでここに?」

 

「うあ~、あれ~夕張さん、おはよ~」

 

「お…お疲れ様です…夕張さん」

 

 吹雪と時津風と綾波は夕張という女性に挨拶を行う。軽巡洋艦夕張。大本営に所属している艦娘だ。自ら出撃することもあるが、主に工廠で兵装の手入れや改装、さらには艦娘専用の武器を作ることがあるらしい。

 

「本当に素晴らしかったわ。でも、あなたの戦い方効率悪いわね。白露、私が専用の武器を作ってあげてもいいわよ」

 

「え、私に?」

 

「えぇ、綾波ちゃんのヌンチャクとか、矢矧の刀とか、そういうのを作ったのは私よ。あとはここの工廠長も武器作りに携わってるけど!だから白露!ちょっと手のサイズはからせて!拒否権はない!!!」

 

「え…えぇ(――;)」

 

 白露は困った様子で、手のサイズをはからされていた。正直、体がだるすぎて動く気にはなれないため、されるがままにされているわけだが。そんな感じでいると、入り口の方から第2艦隊の龍驤と伊勢が来た。秋雲は庭でスケッチをしているらしい。吹雪は動けているため問題ないだろうという判断だそうだ。

 

「にしても、ほんまどうしてこうなるのをわかってて、リミットオーバーをするんや?体にかかる負荷が強すぎるから、あまりしないようにしているのやろが?」

 

「だ…だって~」

 

「…全力でやったら…白露に…勝てるかもって…」

 

「それでも、ここにもしものことがあったらどないするんや!?お前らここの精鋭なんやで!吹雪ちゃんはともかく、お前らリミットオーバー習得して、1年しかたってないやろうが!」

 

『は…はい』

 

 龍驤の言葉に、時津風と綾波は反論するが、龍驤の強気な発言に縮こまってしまった。そんな様子を吹雪は“┐(´д`)┌ヤレヤレ”といった表情で見ている。伊勢も少し困り顔だ。フォローのしようがないため仕方ないが…。その後、二人は時津風と綾波を担いでドックへと向かった。吹雪は、もう少し白露達といようと演習場に残った。ちょうど夕張が白露の手のサイズをはかり終えたため、工廠へ寄らないか促し吹雪ともども連れて行こうとする。その前に、一星たちのもとへ向かうため、近くにある道場へ立ち寄った。

 

 

 

 

 

 

 

―――道場

 

「ふん!」

 

「せい!」

 

 掛け声とともに、二人は殴り合う。拳をいなし、よけ、相手にパンチ、蹴りをくりだしている。斎藤が一星に向けパンチをするが、それを一星が利用し投げ技を繰り出す。しかし、斎藤は地面にたたきつけられることはなく、両足を床につける。

 

「ぬ!?そうきたか!」

 

「ふん、まだまだ!せあ!!」

 

 斎藤は、一星を壁際に投げ飛ばす。しかし、一星は空中で体を回し壁に足をつけ、斎藤に向けとびかかる。そのまま回し蹴りを行うが斎藤に止められてしまった。そのまま、二人は距離をとるとにらみ合いを行う。

 

「ふぅ、ふぅ…腕は鈍っていないようで安心したぞ慎二。相変わらず、力強い拳じゃ」

 

「…おぬしも腕は鈍っていないようじゃな。やはり力を利用されるのはやりづらいわ…」

 

「…ふ、ふははははは!」

 

「はははははは!やはり楽しいわ!おぬしとやりあうのは」

 

 お互いの実力が衰えていなかったことに安堵したのかに高笑いする。そのまま、床に座り込むと昔を懐かしむように語り合った。

 

「おぬしと初めて会ったのは40年以上前だったな慎二。確か格闘技の大会であったのがきっかけじゃ」

 

「あぁ、決勝戦でやりあったのがきっかけだったな…。なかなか決着がつかずに、そのまま引き分けだったな」

 

 そういうと、お互いに一気に近づき、右手の腕を組み腕相撲の姿勢をとる。

 

「確か、ここ40年で1000戦、1000分けだったな。一星」

 

「あぁ、連戦引き分けじゃからな。そろそろけりをつけようか!」

 

 お互いに一気に力を入れる二人。力は拮抗しており、なかなかどちらかに傾く様子はない。一時斎藤が劣勢になるも体制を立て直し、一星が劣勢になっても同じような状況になる。その体制を数分間保った後、お互いに力を抜いた。

 

「…これで、1001わけじゃな…」

 

「…やはり、決着はつかんの~。一星よ…」

 

 腕相撲をやめ、床に再び座りこむ二人。そのまま、少し座っていると入り口の方から人が歩いてくるのが聞こえた。入口の方を見ると白露達が来ていた。

 

「爺さん、こっちは終わったよ」

 

「おじいちゃん、組手はどうだった?」

 

「おう、焔、雫。こっちももう終わったとこじゃ。まぁ、引き分けだったがな」

 

「え!?引き分け!?あの斎藤大将に!?」

 

「斎藤大将が勝てない相手もいるんですね…引き分けだなんて…」

 

 引き分けだったことを伝えると、夕張と吹雪がかなり驚いていた。それもそのはず、斎藤は元帥を除いて、格闘戦で一度も負けたことも引き分けになったこともない。ほとんどの戦いで勝ってきたからだ。その斎藤相手に引き分けとは、さすが軍に格闘技を教えた佐藤一星というべきなのだろう。

 

「さてと、わしは仕事があるから戻るとするか…おぬしはどうするんじゃ一星?」

 

「わしはこの子らと施設でも見学するかの。何やら面白そうなことをしそうだしの」

 

 そう言って、道場から出る一同。その後、斎藤は本館のほうへ、白露達は工廠へと向かった。

 

 




3話一気に投降します。
時間あるから明日も投稿できるかな…。
ではでは、またお会いしましょう!


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37話 変人

 本館と少し離れた場所にある工廠へと向かった白露達。やはり大本営ということもあって、かなり敷地が広かった。遠目だったが、バスケットコートやサッカーコートなど娯楽に使える施設や医療施設などがあった。工廠は医療施設の少し離れたところにある場所にあるため一同はそこへ向かっているところだ。向かっている途中に、工廠の方からピンク色の髪を腰より下まで伸ばし、もみあげ部分を結んでいる女性が出てきた。大淀と同じような制服を着ているためおそらく艦娘だろう。

 

「あ、明石。お疲れ様!」

 

「…あぁ、夕張。おはよう…また武器作り?」

 

「そう、今日は白露ちゃんの武器をね!」

 

「あぁ、あのお客さんか…」

 

 工作艦明石。大本営所属の艦娘だ。時々工廠で艤装の手入れなどを行っているらしい。大半は夕張や工廠長らが行っているのだが。夕張と明石が話し終えた後に白露たちが挨拶をする。

 

「白露型1番艦の白露。よろしく…」

 

「同じく2番艦の時雨、よろしくね」

 

「…佐藤一星じゃ。よろしくお願いする…」

 

「工作艦明石よ。まぁ、そんなにないと思うけど怪我とかしたときは私を頼っていいからね。艦娘としているけど、本職は軍医だからね」

 

「え、軍医なの?」

 

 明石の言ったことに時雨は、率直に尋ねた。確かに、艦娘になる以前は別の仕事をしていたかもしれないし、医者がいても不思議ではない。ただ、明石の放つオーラが少し異質だったからだ。まぁ勘だが。

 

「えぇ、そこにある医療施設の施設長も務めているわ。まぁ、ここに配属されて、まだ2年もたってないけどね…あと、死なない限り何度でも治してやるわよ。たとえ、心臓とかがえぐれてもね…」

 

 そう言って、明石は手を振りながら歩いて行った。さりげなく怖いことをいっていたが、いってる意味がよくわからなかった。普通心臓がえぐれたら即死じゃないかと思うから。そんな中、白露が明石に対して愚痴を言った。

 

「…なんか、ずいぶん変わってるなあいつ…なんだよあの態度…」

 

「なんか、今まであった中で一番変わってる気がする…」

 

 白露の言ったことに対して、時雨も同意する。確かに頭のねじがぶっ飛んでいそうだからだ。そんな中、一星は顎に手を乗せ、何かを考えているようだ。それに気づいて、吹雪は一星に尋ねた。

 

「どうかしましたか?佐藤さん」

 

「いや、どこかで見たようなことがあるのじゃが…はてはて…いったいどこで見たのやら…」

 

「そんなことはいいから、早く工廠へ行きましょ!ほらほら!」

 

 夕張は、全員を急かし工廠の中へ入るように促した。中に入ると、内装はかなり広くあちらこちらに部品のようなものや艤装などさまざまなものが並んでいた。あとは、整備士が何やら調整していたり何かを作っている様子も確認できた。夕張は奥にある扉まで来ると、そこをあける。中に入ると入浴場くらい広い部屋だった。夕張の専用の部屋なのか扉部分にきっちりと【夕張】と名前まであった。適当な場所に座るように促すと、夕張はそそくさと道具をとりに行った。

 

「なんか、ずいぶんすごいものがあるんだなここ…」

 

 白露は、適当な椅子に座った後周囲を物色し始める。さっきの広場同様、色々な部品や艤装の一部分などがあちらこちらにある。中でもひときわ気になったのが、車椅子状の鉄の何かだ。時雨も気になっているらしく、それを観察していた。なぜこんなものがあるのか時雨は吹雪に質問した。

 

「吹雪さん、これって何?」

 

「えっと、海外にいる艦娘の艤装を参考に作っているらしいよ。今呉鎮守府にいる蒼龍さん用の艤装みたい」

 

『蒼龍…?』

 

 名前を聞いてもピンとこないようで、二人とも頭に?マークを浮かべている。「あぁ、そうか」と吹雪は納得したような様子で話し始めた。

 

「蒼龍さんは、二航戦の空母だよ。もともとは大湊鎮守府の所属だったんだけど、事件があって以降は前線から身を引いてたんだ。でも、先日艦娘として復帰することになったからその艤装を今作っているんだよ」

 

「大湊鎮守府…事件………憲兵が反乱を起こした、あの大湊事件か!?」

 

 吹雪の話に、一星は驚きを隠せなかった。大湊事件。3年前憲兵が起こした反乱により、1人が死亡。数名が重軽傷を負い、大湊鎮守府が機能しなくなるほどの大惨事が起こった事件だ。いまだにその首謀者の憲兵はつかまっていないのだとか。白露と時雨も訓練校時代に座学で習っている程度しか知らないため、詳細はわからない。大湊事件のことを聞こうとしたその時、夕張が奥の部屋から戻ってきた

 

「戻ったわよ~。それにしても、大湊事件ね…もし詳細を知りたいなら、本館にある資料室に行きなさい。そこに、少しだけど情報がある。詳細を聞きたいなら、大淀なり磯風っていう子に聞きなさい。さてと…じゃあ、作りますか!あなたの武器!小さめのものだから、すぐに終わるわよ!」

 

 そう言って、夕張は鉄を高温のバーナーで熱してトンカチやレンチ?のようなものを使って何かを作り始めている。小さめのもののようなので、30分もかからないらしいが作っている途中、何やら不敵な笑みやよだれを垂らす様子がみられていた。その光景を見ていた白露と時雨と一星は…

 

『…ここは変わり者が多いのか…(~_~;)』

 

 と思ったらしい。

 

 

 

 

 

 しばらくすると、夕張が嬉々とした表情で「できたわ~!!」とはしゃぎ白露に武器を持ってきた。その武器は指にはめるリング状のグリップのようなものであった。左右両方につけるもののようで、確かに小さいから持ち運びも楽そうだ。

 

「名付けて、ジャックポットナックル!こんな小さなものと思っても、威力は戦艦の砲撃並みの威力があるわ!」

 

「…いやいや、こんな小さなものが戦艦の砲撃並みの威力があるわけ…」

 

「だったら試してみなさいよ!そこに厚みがある鉄板用意したから!砲撃食らわせないと、壊せないようなものが!」

 

 そう言って、夕張は少し先にある鉄板を指差した。白露にそれを殴るように言うと、白露は渋々その鉄板に近づく。そして、右ストレートを全力で殴った。すると、轟音とともに鉄板がへこんでいた。

 

「…え?」

 

「うわぁ…これまたずいぶんとへこんだわね…さすがS級…(*_*;)」

 

 その光景に、冷静に感想を述べている夕張。今の光景に他の三人はかなり驚いていた。それもそうだ。こんな小さなグリップのようなもので、厚みがある鉄板がへこんだのだから。

 

「あぁ、艤装に使われている素材を使って作ったのよ。そりゃ、こんな威力出るって。まぁ、とっといて白露。いつか戦いで使いなさい」

 

 驚いている三人に夕張は説明した。それでも納得していないようだったが、特殊な素材を使っているということなのであれば納得せざる終えなさそうだ…。とりあえず、白露は夕張にお礼を言い、他の三人とともに工廠を後にした。

 

 

 

 

 

「…にしても、すげえなこれ。こんな小さなものでもあんな威力だなんて」

 

「ほんとびっくりだよ…これなら接近戦でも砲撃をしなくて済むね!」

 

「確かに効率よくなりそうだ。弾消費しなくて済むし!」

 

 白露は、表情にあまり出さなかったが武器をとても気に入ってるようで、手でもてあそんでいた。時雨も興味があるのか、武器をまじまじと眺めていた。

 

「ねぇ、僕にも触らせて!」

 

「片っぽだけな」

 

「うん、大丈夫!」

 

「…仲がいいですねあの二人」

 

「あぁ、星羅が行方不明になってからというもの、あの二人はずっとつらい思いをしてきたからの…。大本営に保護されるまで生きるために盗みも働いていたようじゃから…」

 

 その光景を後ろから見ていた一星と吹雪は、笑みを浮かべながら二人のやり取りを眺めていた。そういう一星もつらい思いをしてきたはずだ。娘と孫が死んだと聞かされていたのだから。三人をみた吹雪はふと思い出したように話しかけた。

 

「そういえば、三人はこれからどうするんです?お昼まで少し時間ありますし?」

 

「あぁ、私これから資料室に行こうと思ってて。爺さんと時雨は?」

 

「じゃあ僕も」

 

「わしも行くかの。わしも少し調べてみたいものがある」

 

「じゃあ、本館の方へ。私が案内しますね」

 

 吹雪に連れられ、本館にある資料室に案内された三人。資料室もかなり広く、本棚やパソコンなどいろいろなものがそろっていた。本棚だけでも、何個あるのかわからないぐらいだ。中には管理人らしい人がおり、その人からパソコンでも一応調べ物ができることを聞いた。そして、パソコンを使って大湊事件について調べ始めた。一星は、パソコン関係は苦手なため、管理人に明石のことについて聞き、その資料を見に行った。

 

「確か三年前の6月末だったっけ?大湊事件があったの…」

 

「うん、三年前の6月末だよ。毎年その事件があった日に訓練校も含めて、各鎮守府で黙祷を捧げていたからね…」

 

 時雨と話しつつ、大湊事件のことを調べる白露。時雨もパソコンの画面を眺めている。そうこう話していると、大湊事件の資料を見つけた。

 

(2144年6月29日。大湊鎮守府で、憲兵が反乱を起こし死者1名、重軽傷者複数を出した。主犯格の憲兵は逃走し行方をくらまし、その後陸軍と海軍の関係が悪化。一時陸軍は海軍基地に立ち入ることを禁止され…)

 

「…こういう記事を見たいんじゃないっての…」

 

「なら、蒼龍さんについて調べてみよう。さっき大湊所属って言ってたし」

 

 それもそうか、と白露は納得し蒼龍について調べた。蒼龍のことを調べると、以前の資料だろうか。蒼龍のことについて詳細な記録が載っていた。

 

(二航戦蒼龍、真名武田 蒼(たけだ あおい)。21歳。大湊鎮守府所属。異能力を持っていることもあり空母の中でも屈指の実力を持つ。異能は暴風(ブラスト)。風を自在に操る能力を持つ。霊力…)

 

「6万って…S級じゃんこの人!?」

 

「嘘!?S級!?じゃあ、なんでこの人前線を離れて…」

 

 資料の下の方までくると、大湊鎮守府での記録がいくつかあった。ちょうど大湊事件のことについて書かれた部分になったとき、驚愕のことが書かれていた。

 

(大湊事件時、脊髄を損傷。下半身に障害を負い、前線復帰不可能と判断する)

 

「…まじかよこれ、じゃあ他の人達も」

 

 白露は大湊鎮守府所属だった艦娘達について調べた。ちょうど、転属先のことについてや提督が誰だったのかも書かれていた。

 

(提督:須藤伊織。秘書艦大井:戦死。二航戦飛龍:左足切断により除隊。二航戦蒼龍:脊髄損傷により除隊。金剛型戦艦榛名:事件により失明、軍病院に入院。球磨型軽巡木曽:PTSD発症により軍病院に入院…)

 

 色々なことが書かれていた。提督が呉鎮守府の須藤提督だったこと。以前演習を行った呉鎮守府のメンバーは大湊に所属していたことも。そのことを考えれば、あの時須藤の表情が険しくなったことも頷ける。

 

「憲兵の反乱でここまで…一体、何があったんだ。この鎮守府に…」

 

「教えてあげようか?」ひょこ

 

『うわああああああああああああああああああああ(;゚Д゚)』

 

 急に出てきた声に白露と時雨は驚いて大声を上げてしまう。その声の主は、口に指をあてている。腰までかかりそうな黒髪に赤い目。長袖のセーラー服に薄い黒のスカートをはいている少女だった。

 

「すまない、配慮が足りなかった。私は磯風。陽炎型12番艦だ。この事件のことなら、当事者達と話をしたことがあるから知っているよ」

 

「…あ…あぁ、陽炎型っていうことは、浦風たちと同型艦か。あと、夕張が言ってた3年前の事件の詳細を知っている…」

 

「び…びっくりした。急に話しかけらたから…」

 

 そう話していると、一星が慌てた様子で白露のもとへ戻ってきた。手には資料を持っている。おそらく、立ち読みでもしていたのだろう。

 

「二人とも大丈夫か!?叫び声が…」

 

「し~…」

 

 磯風が二人と同様に口に指を当てる。一星は周りを見渡した後に、磯風が二人を驚かせてしまったのだと状況から判断した。

 

「すまない。私が驚かせてしまったんだ…。それと、臥龍合気道柔術師範の一星殿にあえるのは光栄だ」

 

「あぁ、海軍で私の武術が役に立ってくれているのであればわしとしても本望じゃ」

 

 そう言って二人は握手を交わす。横須賀の時みたいに組手をせがまれることがないため一星も接しやすいのだろう。かなり表情はいい。

 

「爺さん。明石のことについて調べてたんだっけ?」

 

「あぁそうじゃ。どこかで見たことがあると思ったら、もともと陸軍に所属していた軍医だったようじゃ。陸軍にいる友人から聞いたことがあったわ」

 

「陸軍に友人って…どんだけパイプ広いんだよあんた…」

 

「まぁ、格闘技大会に出ていたからそれなりにな」

 

「それなりって…」

 

 一星の言ったことに白露は困惑気味な表情をした。海軍・陸軍に友人がいるのだ。それこそ空軍にでも友人がいそうなくらいだからだ…。そして、一星は資料に書いてあった明石のことについて話し始めた。

 

「それで、明石は陸軍にいたころ、その技術でありとあらゆる病気や怪我を治してきたようじゃ。ただ、奴は少し異質でな。解剖や手術させできれば、敵味方などどうでもいいという思想を持っていたらしい。そのせいで、周りから煙たがられていたくらいじゃ。そして、奴はこう言われたらしい。起死回生(リバイバル)とな」

 

「リバイバル…日本語で起死回生か…すごい異名だね」

 

 一星の説明に時雨は驚いた。まずはその思想だ。治せれば人などどうでもいいなんて、医者として頭がどうかしてるレベルだ。だが、それ以前に気になったのが狂医師という異名だ。まるで他にも明石と同じようなものがいそうだから。

 

「補足説明だが、明石のほかにもいるんだ。そういうやつらが…。そいつらは狂種と呼ばれていてな、現在5人確認されている。大量虐殺(ジェノサイド)破滅(パグローム)無手勝流(エゴイスト)追跡者(トラッカー)起死回生(リバイバル)の5名だ」

 

 一星の言ったことに補足説明をする磯風。大本営所属の艦娘だ。おそらく他の国に行くこともある。その時にいろいろと情報を聞く機会もあるのかもしれない。それに、他の鎮守府にいるものからも何かしら情報がいきわたるはずだ。3年前の事件でも当事者から話を聞いているのだ。詳細を聞けるかもしれないと白露は思い磯風に尋ねた。

 

「話の途中で悪いけど、3年前の事件について聞かせてくれない?」

 

「…わかった、話すよ。3年前大湊鎮守府で一体何が起こったのか…」

 

 そう言って、磯風は語り始めた。3年前一体、何が起こったのかを…。

 

 




明石「以上で37話は終了ね。狂種っていう名前は、とあるボ〇ロ曲をもとにした小説に出てくる内容が元ネタね」
白露「作者好きだからね、あの小説」
明石「さてと、次回は一旦呉鎮守府のお話になるわ。では、作者に代わって。また会いましょう」


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38話 傷跡

※グロテスクな表現があります。


―――呉鎮守府

 

「ふぅ、資料とにらめっこはやっぱり疲れるな…午前中で何とか終わりそうだが、目がいかれちまいそうだ…」

 

「テイトク~、そろそろ紅茶にしませんか~?私も資料とにらめっこで、疲れてしまいマシタ~…」

 

「紅茶の前にお昼ご飯ですよ金剛姉さま…。もうすぐお昼の時間ですし」

 

「…それもそうネ~…」

 

 午前中に資料をずっと整理していたため、伊織と金剛はかなり疲れたようだ。紅茶にしようといった金剛に榛名が釘を刺した。もうすぐ12時を回るため、三人は食堂へ向かう。榛名が杖を突いていることもあり金剛が隣に付き添う形で食堂へ向かった。

 

 

 

 食堂へ来ると、先客がおり端の席に飛龍と蒼龍、皐月と文月がいた。皐月と文月は元気がなく皐月は飛龍、文月は蒼龍の膝の上にいた。起床時間に急に飛龍達の部屋に飛び込み泣き崩れたそうなのだ。飛龍と蒼龍は二人をあやして、しばらくすると泣き止んだそうなのだが、しばらく離れてくれそうに無さそうらしい。

 

「昼食か四人とも?」

 

「そう、今から四人でご飯。まぁ見ての通りこの子達は離れてくれそうにないけど…」

 

「だって…怖い夢見たし…飛龍さんが、僕をかばって…」

 

「その話はもうしない約束でしょ?もうどこにも行かないから、元気出して」

 

「…うん」

 

 皐月の発言に対し、飛龍は頭を撫でてやりながらやさしく話し始める。おそらく3年前のことを思い出してしまったのだろう。この二人は飛龍と蒼龍が重傷を負ってしまった光景を見ていたから。この時期になると大体そうだ。伊織もそうだが、ここにいる全員が思い出してしまうのだ。3年前の事件を、あの時の光景を…。

 

「……………大井」

 

「テイトク?」

 

「!?何でもない、飯にするぞ」

 

 そう言って、カウンターまで食事をとりに行く伊織。そんな光景を見て金剛は心配そうな表情でいる。ずっと伊織のことを見てきたのだ、伊織が心を寄せていた人はもういない。そのせいで、一時期自殺を考えていたほどだ。守るべきものを守れなかったのだから…。

 

「姉様。私達も」

 

「えぇ、わかりました。あ!そうそう、飛龍、蒼龍。あとで、私の部屋に来てくださ~い。…………大事な話があります」

 

 真剣な表情でいる金剛。飛龍と蒼龍は了承し自分達も食事をとりに行こうとする。それを皐月と文月が二人の分もとってくるといいカウンターまで向かった。

 

「金剛のあの表情…感づいてるかな?飛龍…」

 

「かもしれないね…真剣な表情してたし、こりゃやばいわね…」

 

 二人は全員がカウンターまで行ったのを確認すると小声で話し始める。二人が急に鎮守府に復帰したのは理由があったからだ。S級がいない鎮守府をまた誰が狙うかわからない。それにある人物から手紙が届いたのだ。それによれば…

 

(伊織達がまた狙われているかもしれない。もしものことがある前に、鎮守府に何とか着任してくれないかな?皆には申し訳ないけど、あたしはまだ帰れない。大井っちを殺した奴らの場所を見つけるまでは…だからお願い)

 

「…はぁ…金剛に感づかれちゃったよ…北上…」

 

 飛龍は盛大にため息を吐いた。あとで、込み合った話になりそうだから。

 

 

 

 

 

 食事をもらった後に、金剛達とともに席に着いた伊織達。皐月達も食事を飛龍達にもっていき、そのあとに自分達のをとりに行き飛龍達と一緒に食事をとった。すると、出撃を終えてきたのかここの艦隊のメンバーたちが食堂に集まってきた。その中には、最近配属された鈴谷と熊野と足柄がいた。

 

「あ、提督じゃん!ち~す(‘ω’)ノ」

 

「ごきげんよう提督」

 

「お疲れ様!今日もビシバシ鍛えてあげたわよ」

 

 鈴谷はどこにでもいそうな女子高生という印象だ。活発で誰に対してもフレンドリーに話しかけるため個々のメンバーともうなじんできている。まぁ、例外はいるが…。熊野はどこかの金持ちのお嬢様っていう印象だ。実際実家が金持ちらしいが…。足柄は見ての通り、何に対してもストイックでかなりの努力家という印象だ。合コンにたまに出ているらしいがなかなかいい相手が見つからないのが悩みの種らしい。他にも球磨と多摩、瑞鳳と祥鳳もいた。しかし、問題児がいる。その人物は…。

 

「ぷっぷくぷ~!!お昼ごはんだぴょん!!今日のご飯何ぴょ~ん?」

 

 睦月型4番艦の卯月だ。卯月のいたずらにはほどほど困らされる。まぁ、いたずらといっても部屋の隅に隠れて驚かしてきたり、急に飛び付いてポケットの中にあるサインペンをとったりとかわいらしいものではあるが…。卯月が着任したのは1年前だからあの時の詳細は知らない。でも、ここの艦隊のメンバーの過去を知っているから少しでも全員を明るくしたいのだろう。1年前に着任したといえば青色の髪が特徴の水無月もそうだ。水無月も皐月と同じ僕っこでボーイッシュな面がある。この鎮守府で古株なのは、金剛型4姉妹、球磨、多摩、祥鳳、瑞鳳、睦月、如月、皐月、文月だ。

 

「…なんか、皐月ちゃんと文月ちゃん元気がないけど、どうかしたの?」

 

「…そういえば、あの子の命日…もうすぐだったわね。提督…」

 

「命日?…ですか」

 

 何気なく尋ねた鈴谷。それに反応して足柄がつぶやく。熊野も疑問のようで一体誰の命日なのかちょっとだけ興味ありげだ。足柄の言葉に反応して食堂にいる全員の眼が暗くなる。鈴谷と熊野は全員の雰囲気が変わったことに少し驚いたが、足柄は動じることはなかった。

 

「…私達、もう仲間でしょ提督…。私達は3年前のことはよく知らない。ここにいる皆しかわからない苦しみもあると思う。でも、仲間だったら隠し事は無しにしない?同じ苦しみを共有することも、仲間として必要なことだと思うの…」

 

「…なら、食事が終わった後にでも話そう…。この後出撃とかないだろ…。全員、それでいいか?」

 

 伊織の問いかけに、全員が無言で頷く。全員が食事を終えた後に、一つのテーブルに座る。休憩時間が終わっている時間帯のためここには伊織達しかいない。ちなみに憲兵はここには所属していない。それには理由があるから。

 

「さてと…まずどこから話そうかね…」

 

「あ、あのさ提督。その前にちょっといいかな?」

 

「え、あぁいいぞ鈴谷。なんだ?」

 

「…あの、ここに憲兵がいないのはなんで?あと…瑞鳳さんと飛龍さんと蒼龍さんの怪我もその時に…?」

 

 その言葉に、三人の眉がわずかに動いた。相当いやな思いがあるのか、三人とも嫌悪感が隠せないようだ。その様子に鈴谷が小さく悲鳴を上げてしまった。

 

「やめろ三人とも…。まずは憲兵がいないことだな。それは俺達の意志だ。あの事件があって以降、俺達は憲兵を信用できなくなった。それで、元帥に頼んでここだけ憲兵を配属させないようにしたんだ。今の憲兵が反乱を起こさないと信じたいが…どうしても受け入れられないんだ…まぁ、代わりの奴らならいるけどな」

 

 すべての憲兵がそうではないことはわかってる。だが、以前あったトラウマは消えないのだ。しかし、代わりになっている人達とはいったい誰なのか少し気になった。ここに整備士以外の人は見たことがない。だとしたら傭兵なのか、それとも…

 

「それはわたしたちなのです!」

 

「われわれがいれば、かんたんなぼうえいくらいならできるのです!」

 

 机の上を見ると、いつの間にいたのか手のひらサイズの小人らしきものがいた。軍服を着ているもの、制服を着ているものなど様々だ。

 

『………………人形が喋ったあああああああああああああああああああああ(゚Д゚)』

 

「ちがうのです!われわれはようせいなのです!!」

 

「ちょっと待ってください!妖精なんて聞いたことがないですわよ!」

 

 確かに妖精なんて聞いたことがない。座学でもそうだ。今までそんなことは聞いたことはない。

 

「あぁ、これは私から説明させてもらうけど…実は妖精の存在は前々から確認されていたのよ…でも、この子達なかなか姿を見せてくれないっていうのと普段は艤装の中とかにいて出てこないのよね…おまけに人見知りだし…それで、どうせ見ることができないなら教えなくていいか~ってことになって…」

 

「どういう理由ですかそれは~~~Σ(・□・;)」

 

 普通、座学でこういうことは学ぶべきではないだろうか…。驚愕の事実に戸惑う一同。伊織達も最初見たときはびっくりしたが元帥のお墨付きならばいいだろうと思っていた。しかし、教えられなかった理由がまさか妖精がなかなか出てこないことだったなんて…。話が脱線してしまったため伊織は一度咳払いをする。

 

「次に、瑞鳳達の怪我だな。確かにこの怪我は憲兵達のせいだ…。瑞鳳は左半身にやけど、飛龍と蒼龍は見ての通りだ…」

 

「何なら、私の怪我の度合い…見てみる?」

 

「ちょっと瑞鳳!?いいの!?」

 

 伊織が説明した後に、瑞鳳が口を開いた。普段めったに口を開くことが少ない瑞鳳がだ。怪我の度合いを知っているのは古株のメンバーだけだ。瑞鳳の言ったことに祥鳳は何か言いたげだが、瑞鳳はどちみちあとで見られることになるから今見せておいた方がいいといい包帯を解き始めた。左腕から解き、腕があらわになってくると皮膚が赤黒く変色している。その光景に鈴谷達は言葉を失った。もちろん卯月と水無月も。だが、左顔面のやけどはそれ以上にひどかった。左腕同様皮膚は赤黒く変色しており、眼球は露出し大きく白目が出ている状態だった。

 

「…まぁ、これが私が憲兵にやられた怪我だよ…」

 

「…い、今の医療技術があれば、その皮膚も治るんじゃ…」

 

「忘れないためにとっといているんだよ…この傷は…」

 

 鈴谷の問いにすぐさま答える瑞鳳。それだけ憲兵が憎いのだろう。その目は憎悪に満ちていた。

 

「…そろそろ本題に入って、さっさと終わらせない…。聞いてて気分いいものじゃないし…」

 

 飛龍が少し視線をそらしながら話した。飛龍も蒼龍も憲兵のせいで大怪我を負い前線から身を引くことになった。二人も、伊織も相当憲兵が憎いはずだ。

 

「じゃあ、この話はこれで終わりだ。じゃあ、本題に入るぞ…。3年前一体、何が起こったのか」

 

 そう言って、伊織は3年前のことを話し始めた。あれは、6月29日の夜。豪雨が降りしきっていた夜だったそうだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回:大湊事件
白露「大湊事件………………てことは過去!?私らの出番は!?」
磯風「大丈夫だ!少ししたら出る(^^♪)」
時雨「いや、まる一個の話数じゃ収まらないよね…」
磯風「…じゃあ…しばらく待て!」
『ちょっとΣ(・□・;)』



大井「はぁ、やっと私の出番ですか!!まぁ…あれですけど…」
伊織「ネタばれ注意な…」
北上「私もようやく出番来たんだから…………は~~~…」
伊織「おい、ため息吐くな…」
木曽「そうだよ姉貴、やっと出番が…………は~~~…」
伊織「だからため息吐くなって(――;)」
『は~~~~~~~~…』
伊織「おいこら(# ゚Д゚)」


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39話 大湊事件 前編1

今回から過去の話になります。話数が長くなりそうなので、前編・中編・後編の何部かに分かれるかと…。
それでは、どうぞ!



―――3年前、6月29日午後5時執務室…

 

「雨ですね~…提督…」

 

「雨だな~…大井…」

 

 窓を見ながらつぶやく大井と伊織。本日は見ての通り豪雨であるため出撃などは控えている。その結果、今日は書類業務がほとんどになってしまい仕事がなくて暇な状況なのだ。ちなみに大井は秘書艦だ。服装は、白色の制服を着ている。艤装はいわゆる改二という状態らしい。霊力は2万9千とかなり高い。

 

「こうも雨が降ってると、やる気でねぇよな…」

 

「そうだね~、こうも雨がひどいとやる気起きないよね~。ね~、大井っち、提督~!」

 

「…いや、お前ここで何やってるの?」

 

「…北上さん…部屋で休んでたんじゃ…?」

 

 いつの間にかいたのか北上が目の前にいた。北上は【憤怒の北上】の二つ名を持っているS級の艦娘だ。霊力は4万7千、序列9位。服装は大井と同じ白い制服。艤装も改二の状態らしい。自室で休んでいたはずなのだがどうやら何もやることがなくここに来たようだ。テレビとかあるんだからそれで時間でもつぶしてればいいのにと思うのだが…。

 

「そうくまそうくま!こうも雨が降ると気が滅入るくま!」

 

「こういうときは…ソファーで…丸くなる…にゃん…」

 

「ちょっと待てΣ(・□・;)お前らまでなんでいるんだよ(;゚Д゚)」

 

 さらに球磨と多摩が執務室に入り込んでいた。この二人も普段は部屋でごろごろしていることが多い。だが二人も執務室に来てしまったらしい。幸いにも仕事がなくて暇なのは事実なのだが…。むしろ話し相手が増えてありがたい気がするが…。いや、有難迷惑のほうが正しいかもしれない…。

 

「もう姉ちゃん達!!ごめんよ提督、みんな暇らしくて…」

 

「あぁ木曽、大丈夫。こうなることは何となくわかってた…」

 

「確かに姉さんや北上さんの性格を考えれば…ここに来るわよね…」

 

 大慌てで執務室に入ってきたのは球磨型の末っ子、重雷装巡洋艦の木曽。右目に眼帯をつけ緑色のショートヘアが特徴だ。ちなみに改二。姉達が部屋にいなかったためここにいるだろうと踏んだらしい。木曽が謝罪するが何となくこうなることはわかっていたため伊織と大井は咎めることはなかった。しかし、この後も執務室に来客がくることになる…。

 

「ねぇ、提督!もうすぐ晩御飯の時間だよ、晩御飯に瑞鳳の卵焼き、食べる?」

 

「いえいえ、私の和風料理だって負けていませんよ!調理している人達に頼んで、作らせてもらうのでどうですか!?」

 

「ドーモ瑞鳳=サン、祥鳳=サン………。なんでここにいるの…?」

 

「もうすぐ晩御飯の時間って言ったでしょ?」

 

「もうすぐ行くから、手解いてくれない…俺には大井がな…」

 

「いいじゃん、少しくらい!」

 

「いやだから…もう手遅れだな瑞鳳…」

 

 悪ふざけで伊織に抱き着いていた瑞鳳だったが、伊織の注意を受けてもなかなか離れようとしなかった。伊織に促され大井の方を見ると、大井はその光景に対して【ゴゴゴゴゴゴ】(#^ω^)とオーラが出ておりかなりやばい状態になっている。瑞鳳は慌てて離れて、謝罪するが時すでに遅し…。

 

「提督に何をするんですか瑞鳳~~~~~!!!(# ゚Д゚)」

 

「ひゃ~~~~~~~~~~~~~Σ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

 瑞鳳は慌てて、執務室から出ていき大井は追おうとするが、あとで変な事したらしばき倒してやる…と思ったらしい。まぁ、さすがにそこまでしないことは全員わかっていることなのだが。

 

「もう、提督も嫌ならいやってはっきり言ってください。じゃないと、変な感じに言い寄られますよ!」

 

「俺にはお前だけだって、前に言ったろ。アクセサリーの指輪じゃなくて、いつか本物の指輪買ってやるって。もちろん結婚指輪( ̄― ̄)b」

 

「ちょ…Σ(・□・;)ここで言わないでください!」

 

「はい、惚気話ありがと~う!大井っちが顔真っ赤になって襲ってくる前に逃げろ~!」

 

「逃げるくま多摩~」

 

「にゃ~!」

 

「あ、ちょっと姉ちゃん達!まって~(゚Д゚;)」

 

「待ってください!私も行きます~!!」

 

 慌て気味に執務室から出ていった面々…。行先はおそらく食堂だろう。もうすぐしたらご飯だし。二人だけの空間になりしばらく沈黙が続く。

 

「…もう、なんであなたはあんなはずかしいこといえるんですか?」

 

「?…だって事実じゃん!」

 

「せめて時と場所を…!?」

 

 そう言い切る前に、伊織は大井にキスをしていた。咄嗟のことに大井は思考が追い付いていなかったが伊織が離れると、ようやく思考が追い付き顔を真っ赤にしていた。

 

「今は二人だけだからいいだろ?まだお互い未成年だし、結婚は当分先だからな…。まぁ全員にいじられるこの時間楽しもうぜ。大井!いや、今は二人っきりだし、真名の椎奈(しいな)って呼んだほうがいいか?」

 

「…ずるい人…。約束守ってくださいね!私以外の人に目移りしたら許しませんよ、伊織さん!」

 

「わかってる、じゃあ俺らも行こうぜ」

 

 大井の真名藤井椎奈。二人っきりの時は大抵伊織は真名で呼ぶらしい。それはさておき、執務室を出て食堂へ行く二人。外を見るとさらに雨がひどくなってきていた。今日はなんか嫌なことでもありそうだと思いながら歩いていく二人。この時、ここにいる全員、数時間後にあんな事件が起こるなんて思いもしていなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

―――食堂

 

 食堂に入ると、憲兵や整備士達、執務室に来ていた北上達と待機していた者達がいた。その中で、こちらに気づいたメンバーが手を振っている。

 

「お~い、バカップル!早くこっちに来て、ご飯食べよ~!」

 

「しれいか~ん!早く早く!」

 

「僕もうおなかペコペコだよ!」

 

 航空母艦飛龍。S級の艦娘で序列6位。霊力は6万5千、異名は岩龍だ。飛龍が声をかけたのを皮切りに、近くに座っていた文月と皐月も二人を急かした。そんな中、呆れた様子で話し始めるものが数人。

 

「ご飯は逃げないよ三人とも…それから、ご飯前にあまり騒がない!」

 

「そうにゃし~…ご飯は逃げないよ…ね!如月ちゃん!」

 

「そうね睦月ちゃん、こういう時はやっぱり美しく!」

 

「いやなんの話ししてるの?如月ちゃん…」

 

 航空母艦蒼龍。風斬鬼(ふうざんき)の異名を持つS級艦娘、序列7位。霊力6万だ。蒼龍は呆れ半分にそう話すと、睦月も如月もそれに同意する。しかし、如月に関しては少し訳の分からないことをいっている。美しさに相当こだわっているようで、常に髪を気にしていることが多い。

 

「わかってるよ皆、さっさとご飯取りに行って飯にするぞ」

 

『は~い』

 

 そう言って、全員が席から立ちカウンターまで向かう。各自食事をとり終え席につこうとした矢先、違うテーブルに座っていた憲兵の一人が不気味に笑い出した。いったいなんだと伊織が思っていると、その憲兵が気づいたのか皮肉気味にこう言った。

 

「まったく、相変わらず仲良しこよしが過ぎますな~提督殿。そんな兵器達と和気あいあいとするなんて、どうかしているんじゃないですかな?」

 

「…またそれかい、薄田(すすきだ)さん…言ったろ、そんなことをいうならここを出てってくれってな」

 

 薄田 竜。憲兵隊に所属している屈指の実力者だ。しかし、艦娘のことを兵器だなんだ言っているためここのメンバーからかなり嫌われている。目にかかるくらいの髪を右側にかけており目の色は若干紫色をしているのが特徴だ。薄田の話に、周りにいる憲兵も小声で何か話していた。よく聞こえなかったが、どうやら薄田の話に賛同しているようであまりいい気はしなかった。艦娘達も全員嫌悪感を押さえられずにいる。特に飛龍は…。

 

「何よ、喧嘩売ってんなら買うわよ?」

 

「やめろ飛龍。そういうわけで薄田さん。せっかくのうまい飯がまずくなるのは嫌なので、外へ行ってもらって構いませんか…」

 

 そう言って、憲兵達をにらむ伊織。相変わらず薄田は不敵な笑みを崩さなかったが素直に従い憲兵達とともに食堂を後にした。全員が行き終わるのを確認すると、伊織はテーブルについた。すると飛龍が憲兵に対して愚痴を言った。

 

「まったく、なんであいつらはあたしらに対して皮肉言うのかな!」

 

「確かにあったま来るよね~…いっそのこと半殺しにする…?」

 

「よしてください二人とも!あういう人は無視しましょう」

 

 飛龍の愚痴に北上が同意し、物騒なことを口走る。それを大井がとがめるが、北上はよほど頭にきているのか適当に返事をした程度だった。他のみんなも同様のようで全員顔色がよくない。

 

「まぁ、あいつらはもう行ったし、飯食おうぜ!今日はカレーだしな」

 

「そうで~す!暗い雰囲気はナッシングネ~!こういう時こそ明るくいきましょう!!」

 

「さすがお姉さま…懐が大きい…」

 

「比叡お姉さま…使いどころ間違えているかと…」

 

「あはは…」

 

 伊織が全員にご飯を促す。それに賛同して金剛も明るく話しかけた。比叡はそんな金剛にあこがれのまなざしで見つめているが、霧島が比叡が言ったことに対して鋭い突っ込みを入れる。それに榛名が困惑してしまっている…。全員伊織が言ったことにそれもそうかと納得し手を合わせ始める。それを確認した伊織も手を合わせ始め大きな声でこう言った。

 

「いただきます」

 

『いただきま~す』

 

 そして、和気あいあいと食事を始めた。ごはんが足りずお代わりにいくもの、悪ふざけで他の人のカレーをとろうとする人など、全員が楽しそうに食事を行っていた。この時、魔の手が忍び寄っているとも知らずに…。

 

 

 

 

 

 

 

―――廊下

 

 食堂から出て、廊下を歩いていた薄田達憲兵隊。ここに努めてから1年以上、ずっと計画していたことがあった。もうその準備はできている。あとは実行に移すのみだ。

 

「いよいよだな薄田さん。なんで俺らは兵器であるあいつらを守ってやらなくちゃならねぇんだ」

 

「本当だよ、なんであんな得体のしれないものを軍においてるんだろうな。海軍元帥殿は…」

 

「何が日本の希望だよ。結局何もできずに町破壊されたりするじゃねえか。それなのに和気あいあいと…」

 

 ここの憲兵達は艦娘達のことを快く思っていない。得体のしれないものだから、兵器と呼ぶし、そんな兵器なんてここにはいらないと考えているほどだ。

 

「だから、今日やるんでしょ?せっかくあいつらに対抗できるような武器をこちらも手に入れたんだ、盛大にやってやりましょう。あいつらを…つぶすんです!」

 

 そう言って、薄田は笑みを浮かべ拳に力を入れた。そう言って、憲兵の宿舎まで行く。何をするかはもう決まっている。ここ、大湊鎮守府をつぶす。それが、ずっと計画していたことだった。

 

 




次回は、前編2を投稿します!
グロテスクな表現を含む描写がありますので、苦手な方はご了承ください。


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40話 大湊事件 前編2

 食事が一通り終わり雑談をしていた一同。食事を終えた後は必ず行っている。最初は出撃のこととかの反省などを行うが、後半は必ず雑談になる。それがここの日常だった。

 

「いや~、それにしても榛名の戦闘は毎回見てもしびれるネ~!さすが、うちの第1艦隊旗艦だよ~!」

 

「あ、ありがとうございます!榛名、これからも頑張ります!」

 

「本当にどうやったら、あんな動きをできるのか…私は、命中率ばらつきあるのに…」

 

「比叡お姉さま…そんな落ち込まずに…」

 

 当時、榛名は第1艦隊旗艦を務めていた。その機動力と的確な砲撃と指示により艦隊を幾度も勝利に導いてきたほどだ。姉の金剛を差し置いて旗艦を務めるほどだ。旗艦としての能力は随一といっていい。そのおかげで、周りのメンバーの強みも活きるしS級である3人も安心して戦いに集中できるのだ。

 

「確かに、榛名の指示に従っていればあたしらは楽できるからね~。ねぇ、大井っち」

 

「確かに、榛名さんの指示があれば私たちは無敵です!」

 

「私達も能力使わずに艦載機に集中できるからやりやすいよ!まぁ、私の能力は陸じゃないと発揮できないけど…」

 

「もう、みんなしてそんなに私をほめないでください!」

 

 第1艦隊のメンバーに褒めちぎられ顔を真っ赤にする榛名。あたふたしている姿を見て、みんなほっこりして眺めている。ちなみに主力は、榛名、金剛、大井、北上、飛龍、蒼龍の6人だ。他のメンバーは第2艦隊を務めている。6人の話を聞いていた木曽は、机に項垂れながら愚痴をこぼした。

 

「いいよな、俺もいつか姉ちゃんみたいになりてぇよ…」

 

「球磨達も第2艦隊を立派に努めているくま。だから木曽、落ち込まないで自分のやっていることに自信を持つくま!」

 

「そうにゃ木曽、自信を持つにゃ。多摩達も立派に勤めをはたしているにゃ。まぁ、命中率にばらつきがあって、自信を持てないやつがここにいるけど…」

 

「ヒェェェェェェェ(;・∀・)すいませんすいません」

 

「ちょっと多摩さん…言いすぎです…」

 

 第2艦隊のメンバーは、球磨、多摩、木曽、比叡、霧島、瑞鳳の6人だ。第2艦隊も出撃することがあるのだが、比叡に命中率のばらつきがあるため、決定打にどうしてもかけてしまうらしい。まぁ空母の瑞鳳がいるし、霧島に球磨達がいるから何とか戦果を挙げることができるのだが…。それでも、比叡はかなり落ち込んでしまうらしい。睦月や祥鳳は基本的にローテーションでどちらかの艦隊に組まれることが多い。実力はあるのだが、万が一の時の備えらしい。

 

「ほんと、にぎやかだねぇ…うちの艦隊は」

 

 その光景を微笑みながら見ている伊織。これから先もきっとこんな光景が続いていくんだろうと伊織は思っていた。しかし、そんなこともつかの間、工廠の方で爆発音のようなものが聞こえた。かなりの大爆発だったのか地響きが起こったと思うほどの衝撃であった。

 

「どうしたんだ一体!金剛、比叡、榛名、霧島、お前らは整備士達の非難を優先しろ!」

 

『了解!』

 

「瑞鳳、祥鳳、球磨、多摩。お前らは工廠のほうへ行って被害の確認を!」

 

『はい!』

 

「飛龍、蒼龍、皐月、文月は憲兵の宿舎行って状況を伝えて来い!大井は俺と一緒に執務室に、残りはここで待機!テロリストが動いているかもしれない。万が一の時に備えて準備しておいてくれ!」

 

『了解!』

 

 そう言って、各自指示に従って動く。深海棲艦の襲撃であれば、サイレンが鳴り響くはずだ。それがないということは、おそらくは人間の仕業。テロリストの可能性が高い。状況を伝えるためすぐに執務室に来た伊織と大井。通信機を使い大本営に連絡を取る。何回かコールがなった後に秘書艦の大淀が出た。

 

『はい、こちら大本営です。須藤提督、いかがなさいました?』

 

「大淀さんか!?つい先ほど、工廠で大爆発がありました。おそらく何者かがここに襲撃した可能性があります!」

 

『襲撃!?わかりました、すぐに応援を行かせます!応援は…え?あ、はい。今元帥に代わります』

 

『…須藤、応援はすぐ行かせる。ちょうど、そこの海域の近くに鳳翔が出払っているところじゃ。こちらからも何名か応援に向かわせる。だから、耐えてくれ須藤』

 

「元帥、ありがとうございます。必ずここを持たせます!だから、安心して…」

 

 直後、大本営との通信が切れてしまう。何度呼びかけても、通信が聞こえることはない。通信妨害を受けているか、通信を切断された可能性がある。伊織は、通信をたたきつけると艦隊のメンバーに連絡をとろうとした。しかし、どの通信も妨害を受けておりどこにもつながらなかった。

 

「どうなってやがる!?大井、俺らも行こう!ここにいちゃ埒があかねー…」

 

「…危険があるかもしれません。なるべく慎重に行きましょう!」

 

 そう言って、二人は執務室を飛び出した。まずは、本館から近い工廠へと向かう。なぜ爆発が起こったのかを見るために。

 

 

 

 

 

 

 

―――大本営

 

 通信が切れた直後、何度も通信を調整してみて呼びかけるも応答が来ることはなかった。焦りを感じた大淀は、すぐに艦娘と憲兵を招集する。テロリストだけではなく、万が一深海棲艦が来たときに備える必要がある。早急に埠頭に集まるように伝えると大淀も準備するため執務室を後にしようとした。

 

「まて、大淀。儂も行こう」

 

「え!?元帥自ら出撃など、ここの指揮はどうするのですか!?」

 

 元帥の言ったことに信じられない表情で発言する大淀。それもそのはず、大本営の指揮を任されている元帥がここを離れるなどありえない。しかし元帥は満面の笑みでこう言った。

 

「ここには斎藤達がいる。ここの指揮は大丈夫じゃ。それに、これは儂のわがままじゃ。儂がいかねばならんような気がする。じゃから、儂のわがままに付き合ってくれ大淀」

 

「しかし、元帥!?」

 

「大淀、行かせてあげましょう。な~に、私がいるわ。元帥の命は必ずお守りする」

 

 ドアの方を見ると、大将の一人である小笠原三笠がいた。三笠も出撃するつもりなのか、手には軍刀を携えている。

 

「おぬしも行くのか、小笠原…」

 

「えぇ、ここは斎藤さんに任せてあります。我々も行きましょう、元帥」

 

 そう言って、足早に執務室を後にする。そのあとを追って大淀も執務室を後にした。本館からでて、埠頭まで来るとヘリの近くに憲兵と大本営の精鋭である筑摩、磯風、利根がいた。今出撃できる艦娘はこの3人のみだ。しかし、この3人だけでも十分すぎるほどの戦力であるため問題ないだろう。全員が集まっているのを確認すると、元帥は早急に説明を始めた。

 

「皆、もう情報はいきわたっていると思うが、大湊鎮守府が先ほど、何者かの襲撃があった。通信が途絶えてしまい、向こうの状況がどうなっているのかわからん!すぐに、大湊鎮守府に救援に向かう。説明している暇はない、すぐに向かうぞ!!」

 

『は!!』

 

 ヘリに乗り込むと、すぐさま大湊鎮守府に向かう。ここからだと、ヘリでもおそらく数時間かかってしまう。何とか耐えてほしいと祈る。しかし、この時大湊鎮守府は悲惨な状況になっていたのだ…。

 

 

 

 

 

―――大湊鎮守府から数十キロ離れた沖合

 

 大本営の命により、北方方面に出撃していた鳳翔。任務中に大湊鎮守府が襲撃されていることを聞き、全速力で向かっているところだ。

 

「まさか…こんなことが起こるなんて…お願い、みんな…飛龍、蒼龍…無事でいて!」

 

 全員の無事を願い速度を増速させる鳳翔。突如、砲撃が鳳翔を襲った。左舷の方を見ると、戦艦ル級、軽巡チ級、重巡ネ級などのflagship級が何隻もいた。急いでいるというのに足止めを食らってしまう。状況が状況のためいらだちを隠せなかった。

 

「…急いでいるんです…どいてください!!」

 

 鳳翔は腰に携えている身の丈ほどの長刀を構え、深海棲艦に突撃していく。深海棲艦たちは鳳翔目掛け砲撃を行うが、直後鳳翔は深海棲艦達の後ろにいた。これといって、変わった様子はない。変わった様子はなかったが、直後深海棲艦達が炎上し轟沈していた。一瞬で斬ったのだ。たった一振りで。

 

「大湊鎮守府まであと数十キロですか…。深海棲艦達が邪魔してくるかもしれませんね…近づかないように殺気を放っておきますか…」

 

 直後、鳳翔の周囲に圧のようなものがかかる。深海棲艦達が近づかないように殺気を放った。今は一分一秒の時間がもったいない。だから、急いで向かう必要がある。船速を増速させ、急ぎ大湊鎮守府へ向かった。

 

 

 

 

 

―――大湊鎮守府

 

 執務室から工廠に向かっていた伊織と大井。施設はほとんど爆破されており、燃料や弾薬などもほとんど使い物にならなくなっていた。そして、先に来ていた瑞鳳達は、工廠付近にいた整備士達の救助を行っていた。全員かなりの重傷を負っている状態だった。

 

「みんな、無事か!?」

 

「提督!整備士の人達が重傷を負っちゃって…すぐに病院に行かないとまずいよ」

 

「わかってる。だが、何者かの通信妨害によって連絡が取れないんだ。おかげで、ここにいる全員とも連絡がとれねぇ」

 

「では提督、一体どうすれば!?」

 

 瑞鳳は、すぐに整備士達を病院に行かせるよう話すが、通信妨害を受けている以上すぐに病院に行かせることはできない。おまけに、鎮守府全体とも連絡がとれない。そんな、状況であるため祥鳳もどうすればいいのかわからない。そんな中、球磨と多摩は整備士達を担ぎこう言った。

 

「今はできることをするしかないくま!まずは整備士達を安全な場所に連れていくくま!!」

 

「そうにゃ!今はこの人たちを運ぶにゃ!」

 

 そう言って、一人ずつ整備士達を本館のほうまで運ぶ二人。伊織達も整備士達を担ぎ、本館まで行こうとしたとき、近くに憲兵が数人いることに気づいた。伊織は少しでも、人手が欲しいので憲兵達に話しかける。さっきは険悪ムードになっていたが、今はそんなことをいっている場合ではない。

 

「おいあんたら!この人達運ぶの手伝ってくれ!さっきの爆発で重症みたいなんだ!」

 

「………」

 

 憲兵は、伊織の言ったことにただ黙っていた。こっちに来て、手伝おうとする様子もない。無視されたことに対するいら立ちか、この状況で何もしないことに腹が立ったのか伊織の口調が荒くなった。

 

「おい聞いてんのか!!黙ってみてる暇があれば手伝え!!」

 

「…えぇ、いいですよ。まぁ、手伝うといっても死体処理なら手伝ってあげますよ」

 

「はぁ!?なんの冗談を!?」

 

「いえいえ、冗談じゃなくて…本気ですよ…」

 

 そう言って、憲兵は手に持っている何かを伊織に見せた。手のひらサイズの金属製のもので、先端にピンのようなものがついていた。

 

(手榴弾か!?なんでそんなもの…まさか、こいつら!?)

 

 伊織がそう思った瞬間、憲兵が本館に向かおうとしていた瑞鳳めがけて投げ始めた。それは、瑞鳳の足元に落ちた。それに気づいた瑞鳳は抱えていた整備士を慌てて投げ飛ばした。次の瞬間、手榴弾が爆発音とともに燃え始め瑞鳳の左半身が燃えてしまう。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!熱い熱い熱い熱い!!熱いぃぃぃぃぃ!!!」

 

「瑞鳳!!」

 

 体についた火を消すため、瑞鳳は海に飛び込んでいった。祥鳳は叫び瑞鳳を負って海に飛び込んでいく。その光景を呆然と見つめた後、伊織と大井は憲兵に向け走り出していた。

 

「てめえら、よくも瑞鳳を!!」

 

「許せない…仲間を傷つけた罪は重いわよ!」

 

 憲兵に殴りかかる二人だが、憲兵は煙球を巻き逃げていった。感情的になって、憲兵を探そうとした伊織だったが、海に飛び込んだ瑞鳳、それに整備士達の避難が優先だった。伊織と大井は海に飛び込んだ二人を探す。

 

「瑞鳳!祥鳳!どこだ、返事をしてくれ!!」

 

「提督!!私達はここです!」

 

 少し離れたところにいたが、瑞鳳と祥鳳は海面に浮かんでいた。しかし、瑞鳳は顔を上げずに項垂れている。左半身のやけど、さらにその状態で海に飛び込んだのだ。よほどの激痛があったに違いない。すぐに二人を引き上げたが、瑞鳳の左半身は見るも無残な状態になっていた。皮膚はただれており、左目が露出している。

 

「て…ていと…く…瑞鳳が…」

 

「今は何も言うな!すぐに本館に行って、安全な場所に避難してろ!球磨!多摩!すぐに来てくれ、早く!!」

 

 本館の方からちょうど球磨と多摩の二人が来ていた。二人は瑞鳳の怪我にかなり驚いていたが、状態が深刻であるためすぐに本館に担いでいった。他の整備士達も無事に本館まで連れてくると球磨と多摩に応急措置を頼む。

 

「とりあえず、できるとこまでしとくくま。簡単な応急措置しかできないけど…」

 

「二人は行くにゃ。憲兵の裏切りが事実なら、飛龍達が!!」

 

 確かに、憲兵の宿舎に行った飛龍達が危ないかもしれない。しかし、飛龍と蒼龍はS級だ。そうやすやすとやられるはずはないはずだ。それなら、まず真っ先に行くべきなのはおそらく金剛達だ。

 

「いや、まずは金剛達だ。あいつらにもこのことを伝えないと!」

 

「なら、提督は金剛さん達のところへ。私が飛龍さんのもとへ向かいます」

 

「大井!この状況で別行動は…」

 

「この状況だからこそです。通信妨害が起きている限り、向こうも状況をつかんでいません。それなら、別行動をして効率をよくしましょう。私は大丈夫です、護身術は得ていますし!」

 

 そう言って、笑顔で答える大井。確かに、別行動をした方が効率がいい。状況が状況だ、時間を無駄にしている場合ではない。

 

「わかった。気をつけろよ」

 

「提督こそ」

 

 そう言って、二人は別行動をした。伊織は金剛達のもとへ、大井は飛龍達のもとへと向かった。

 

 




瑞鳳「うわ~…と、とんでもない状況に…原作で私が好きな提督方…申し訳ないです…」
祥鳳「こんな感じで、どんどんと犠牲者が出てきます…これからもグロテスクな表現を多数含みますのでご了承ください」

次回も楽しんでいただければ幸いです。ではでは!


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41話 大湊事件 中編1

こんばんわ!大湊事件中編になります!ここから怒涛の展開になる予定です。
グロテスクな表現を含みます。


「お~い、憲兵~~!どこにいるのさ、鎮守府が大変なことになってるんだよ~!お~い、お~いってば~!」

 

 憲兵隊の宿舎に入り、憲兵達を探していた飛龍達。飛龍は大声を上げて、憲兵達に呼びかけるが、いっこうに返事がない。まして、人がいる気配もない。それならばと蒼龍が無線を使って連絡をとろうとするが、ノイズが激しく連絡がとれない状況なのだ。どうすればいいのかわからず、とりあえずこうして宿舎を歩き回っているわけだが。

 

「無線は使えないし、ここには誰もいないし困ったな…。どうする飛龍、一度ここから出る?」

 

「…そうだね、この子達もいるし一度ここから出た方がいいかもしれないね…」

 

 宿舎から出るように促す蒼龍。確かにここに誰もいないのであれば長居しても仕方ない。一度本館に戻り憲兵がいないことを報告するべきだろう。無線が使えないのであればなおさらだ。そう思い戻ろうとした矢先、下の方から何やら物音のようなものが聞こえた。

 

「ねぇ、なんか物音聞こえなかった?」

 

「文月も聞こえた!なんの音だろう?」

 

 皐月と文月がそれに反応する。音の方から察するに、武器庫の方だろう。ここには、武器庫があるしもしかしたら、この騒ぎを聞きつけて、武器庫で準備をしているのかもしれない。呑気なことをしている場合かと飛龍は思うが、あれこれ考えても仕方ない。

 

「よし、行ってみよう。そこに憲兵達がいるかもしれない。会ったらしばいてやる(#^ω^)」

 

「飛龍…やってもいいけどほどほどにね。この子達の前で暴力系統はダメだよ…」

 

 憲兵に愚痴を言う飛龍に対して、蒼龍がほどほどにするように促す。まぁ、何かあれば止めればいいし問題ないか…と思いながら武器庫のほうへと向かう。武器庫は1階の端の方にあり、厳重な鉄の扉で守られている。一呼吸おいて、飛龍はその扉を開ける。扉を開けると、そこには憲兵が複数おりそれぞれ武器を準備しているようだった。

 

「やっと見つけたよ…あなた達呑気に何してるのさ!鎮守府が大変なことになってるんだよ、さっさと手を貸してよ!」

 

 愚痴を言う飛龍に対して、憲兵達は何も言わず無反応だ。武器を持ったまま黙ってこちらを見つめている。そんな憲兵達に対して、飛龍は腹が立ったのかさらに怒鳴り散らした。

 

「聞いてるの!!さっさと準備して、手を貸してって!工廠付近で爆発が!」

 

「…えぇ、存じておりますとも飛龍殿」

 

 飛龍の言ったことに答えたのは、薄田だ。不敵な笑みを浮かびながら返答する薄田。その不敵な笑みに対して、蒼龍も腹が立ったのか少し怒気を含めながら薄田に問いただした。現状が現状だ。ゆっくりしている暇はないのだ。

 

「ふざけてるの薄田さん…こんな状況でよく笑ってられるね」

 

「それはそうですよ蒼龍殿。この状況を作ったのは我々なんですから」

 

「………は?」

 

 薄田の言ったことに対して、飛龍が怒りのこもった表情でいた。今言ったことが事実なら、目の前にいる憲兵達は裏切ったことになる。

 

「ずっと計画していたことです。やっとその日が来ました…。だから、あなた達死んでください」

 

 そう言って、銃を構える憲兵達。その光景を見て飛龍と蒼龍は身の危険を感じ、皐月と文月達を連れて外へ逃げた。直後、銃を乱射した憲兵。憲兵達の銃撃を逃れ飛龍達は窓から外へと飛び出た。飛龍達は状況を飲み込むのに時間がかかったが、さっき言ったことが事実であれば早急にこのことを伝えねばならない。

 

「一度本館の方へ行こう!伊織達と合流しないと!」

 

「逃がすとお思いですかな!」

 

 飛龍達が本館へと向かおうとすると、宿舎から薄田達が出てきた。手には重火器を持っており飛龍達を逃がそうとする様子は無さそうだ。今この場には皐月と文月がいる。守りながら戦うのは飛龍達にとって不利だ。

 

「…どうにかしてこの子達を逃がそう、蒼龍」

 

「そうだね、この子達だけでも逃がさないとね…」

 

「そんな!?飛龍さんと蒼龍さんは!?」

 

「いやだよ、二人も一緒に!?」

 

「駄々をこねない!私達がこいつら何とかするから二人はそのすきに本館へ行って!」

 

 飛龍はそう言って、地面を思いきり踏みつける。途端に憲兵達の足元から岩が突き出てきた。憲兵達はそれを直に食らい数メートル先に吹っ飛んでいった。続いて、蒼龍も左腕を振り上げると突風が憲兵達を襲う。吹き飛ばされた憲兵達は壁際に勢いよくぶつかっていく。その間に、皐月と文月は本館のほうへと向かっていった。

 

「気を付けてください皆さん…。この二人は異能持ちですからね…。まぁ、防具を着てるからそんなにダメージは少ないでしょう」

 

 薄田の言う通り、ダメージは少ないのかすぐに立ち上がる憲兵達。飛龍達は舌打ちをしながら憲兵達に向かっていく。正直、この戦いは二人にとって不利だった。人間相手に能力を全力で使うわけにはいかない。下手をしたら殺してしまうからだ。手加減しながら能力を使う必要があるため神経をかなり使うことになる。それをわかっているからか、憲兵達は躊躇なく銃を二人に打ってきた。飛龍は自身を硬化させそれを防ぎ、蒼龍は自身に風をまとわせそれを躱した。

 

「飛龍、このままじゃ不利よ!いったん体制を立て直しましょう!」

 

「わかってるよ…でも、このままじゃ皆に危害が!だからここで食い止めるよ!」

 

 そう言って、飛龍は能力を使い地面から石つぶてを憲兵達に飛ばす。しかし、やはりダメージが通っていないのか憲兵達は平然とした表情でいた。それならばと、蒼龍がかまいたちを起こすがやはり憲兵達に傷をつけることはできなかった。そんな中、薄田は不敵な笑みを浮かべながら話し始めた。

 

「いいんですか?ここで油を売っても?」

 

「は!?それどういう意味!?」

 

「言葉通りの意味ですよ…。私達はここの全員をつぶそうとしているんですよ?ガキどもを見逃すとでも?」

 

 言葉の意味を理解できなかったが二人だが、少し時間をおいてからようやく二人は理解した。もし、その言葉が正しければあの二人が危ない。

 

「まさか…皐月、文月!?蒼龍、すぐ行くよ!」

 

「了解飛龍!だから、あんたらはここでじっとしてて!」

 

 蒼龍は、風を引き起こし憲兵達を足止めした。風がやんだ時には二人はもうおらず皐月達のもとへ向かったようだ。

 

「ふふふ、いいですよ二人とも。せいぜい我々の手のひらで踊りなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 憲兵の宿舎へと向かっていた大井。途中、銃撃が聞こえたため全速力で向かっている。飛龍と蒼龍のことだ。心配はいらないと思うが、相手は深海棲艦ではなく人間だ。能力を使用するにも加減をしなければならないはず。そうなれば不利だ。もしも憲兵が準備をして今回のテロを起こしているのであればかなり厄介だ。

 

(おまけに、向こうには皐月ちゃんと文月ちゃんがいる…。守りながら戦うのは…)

 

 そう考えていると、前方から二人が走ってきていた。よほど焦っているのか、呼吸は荒く肩で息をしていた。飛龍と蒼龍の姿がないため、大井は二人に問いただした。

 

「二人とも!飛龍さんと蒼龍さんは!?」

 

「僕達を逃がすために、まだ向こうで戦ってる。お願い!二人を助けて!」

 

「憲兵さん達が裏切ったの!だから、二人は文月達を逃がすために…」

 

(やっぱり、この反乱は憲兵によるものなのね…)

 

 二人の言ったことに、大井は怒りを隠せなかった。そのせいで瑞鳳達は負傷したのだ。憲兵達は艦娘達を快く思っていないどころか兵器と思っている者達だ。こんなことが起こる前にどうにかできなかったのかと自分を責めるがもう遅かった。今は、援軍が来るまでどうにか持ちこたえるしかないのだ。

 

「わかったわ、二人はすぐに本館に行って!あの二人は私が…」

 

「お~い!みんな無事!」

 

「よかった、二人とも無事だね!」

 

 飛龍と蒼龍は皐月と文月が無事なのを見て安堵する。さらに大井も合流した。大井がいれば憲兵達が来てもどうにかなるはずだ。異能こそないものの大井もここのエースだ。きっとどうにかなる。

 

「とにかく、無事でよかったよ…一度本館に戻って体制を立てなお…」

 

 飛龍がそう言いかけたとき、視界に妙なものを見た。赤いレーザーポイントのようなもの…。それが皐月に当たっていた。そのレーザーポインターを目で追っていったとき憲兵の宿舎の屋根の上から、スナイパーライフルのようなもので皐月を狙っているものがいた。

 

「皐月!!逃げて!!」

 

「え…?」

 

 飛龍は皐月を突き飛ばした。直後、銃撃音とともに飛龍の左足に激痛が走る。左足を見ると、何かが突き刺さっているようで赤いセンサーのようなものが点滅しながら音を立てていた。ピコ、ピコっと音を立てながらどんどん点滅が速くなっていく。状況を見て、ようやく思考が追い付いた飛龍が叫びだした。

 

「全員!!逃げて!!!」

 

「飛龍さん!?」

 

 皐月が叫んだ時には、飛龍がいた場所は爆発していた。よほどの威力だったのか周囲にいた大井たちは数m吹き飛んでいた。時限式の徹甲弾のようなものだったのかもしれない。それが、飛龍の左足に突き刺さっていたのだ。

 

「あ…うぁ…飛龍…さん…飛龍さああああああん!」

 

「何よ…うるさいわよ…」

 

 そう言って、煙の中から飛龍が出てきた。おそらく自身を硬化させたのだろう。ところどころに傷があったものの、どうやら無事のようだった。

 

「くそ…あいつら調子に乗りやがって…もう手加減しない。確実にぶっ殺して…!?」

 

 そう言って、立ち上がろうとした飛龍だったが左足に力が入らなかったのか、こけてしまった。どうにかしようとして、立ち上がろうとするが何度やっても立ち上がれなかった。その光景を見ていた皐月達はその光景を見て驚愕した。なぜなら…。

 

「…ひ…飛龍…さん…足が…左足が…!?」

 

 皐月がそう発言し、飛龍も自分の左足を見た。左足を見たときには、ひざ下の足が無かった。自身を硬化させたのにも関わらず、左足が吹き飛んでしまったのだ。

 

(な!?なんで…硬化させたのにも関わらず…なんで…!?)

 

「う………うあああああああ!!!!!足が!?足があああああああああああ!!!!」

 

「飛龍!?すぐに本館に!?ここは危険よ!早く!」

 

 蒼龍が飛龍を担ぎ、大井もすぐに状況を理解し飛龍を担いだ。憲兵も本気だ、こちらを本気で殺しに来てる。たとえそれが子供であっても。皐月と文月も泣きながら飛龍に駆け寄っていた。この子達はまだ12だ。世間一般では小学6年生だ。こんな光景を見たらショックを隠せないだろう。何とか二人を立たせ一緒に本館へと向かう。

 

(飛龍さんが負傷した以上…こちらも憲兵達に容赦はしない。でも、金剛さん達も危ない。お願い、みんな…伊織さん無事でいて!)

 

 そう祈るしかなかった。通信が途絶えている以上、向こうはどうなっているのかわからない。だから、ただ祈るしかなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

―――整備士・調理師の宿舎

 

 金剛達は、整備士・調理師の宿舎で避難活動をしていた。全員かなり混乱しているのか、叫んでいる者もいた。そんな彼らをなだめつつ、金剛達は必死に本館のほうへと誘導しているところだ。

 

「みなさ~ん、落ち着いて本館の方へ行くネ~!」

 

「ヒェ…みんな混乱しちゃってるよ~…」

 

 やはり4人だけではきついのか、全員をうまく誘導することができないのか困り果てていた。無理もない。こんな大爆発が起きているのだ。混乱するのも無理はないはずだ。

 

「一体どうすればいいのでしょうか…」

 

「今はやれるだけのことをやりましょう榛名…皆さんをまずは本館へ!」

 

「お~いみんな!大丈夫か!」

 

 榛名が不安を隠せない中霧島がそれをなだめていた。そうこうしているうちに、遠くから伊織がこちらに近づいてきていた。一人で来るなんて自殺行為にも等しい。複数で来るならまだしも、伊織一人で来るとは4人とも思っていなかったからだ。

 

「テイトク~!?何をしてるんですか!?まさか一人で来るなんて!」

 

「その話はあとだ!それより大変なんだ!憲兵どもが裏切った!」

 

「え!?憲兵が!?どうして!?」

 

「目的はおそらく…ここをつぶすことだ!だから、憲兵を見つけ次第迎撃を!」

 

「そんなことをいっている場合ですか?」

 

 そうこうしているうちに、榛名の後ろにいつの間にか憲兵がいた。そいつは榛名の頭をわしづかみにする。その憲兵の手は大きな機械のようなものでおおわれていた。その手につかまれていた榛名は苦しそうな声を出していた。

 

「何するですか!?榛名から手を放すネー!!」

 

「できない相談ですね。あぁ、それとこのアームはスタンガンの数倍の威力を持っていましてね。起動したらどうなるか私にもわかりません」

 

「え…い…や…やめ!?」

 

「ではさようなら」

 

 そう言って、憲兵はその機械を起動させ、アームから電流のようなものが流れた。そのとたん、榛名がけいれんを起こし、目や鼻から血を出しながら叫び始める。

 

「うああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

「榛名あああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

「!?…このくそ野郎がああああああああああああああああああああああ」

 

 伊織は、憲兵に向かって切りかかる。しかし、憲兵は斬撃をよけると、姿を消した。誰か一人を狙ったのか、ピンポイントで榛名を狙ったのかわからない。いや、榛名は第1艦隊旗艦だ。その旗艦をつぶせばここの艦隊の機能が失われると思ったのかもしれない。

 

「おい、榛名しっかりしろ!?榛名!?」

 

 そう叫んでも、榛名はけいれんを起こすだけだった。白目をむいており、意識があるのかわからない。何度呼びかけても、何も反応を起こさなかった。

 

「榛名…おい…榛名…頼むから返事してくれよ…おい!?」

 

「…あ、ああ…榛名…」

 

「……!?テイトク、一度本館へ!榛名を連れて早く行きましょう!今のままじゃ!」

 

 そう言って、金剛は全員に本館へ行くよう促す。今は援軍を待つしかない。こちらは負傷者が多数いる。ならば今は籠城するしかない。現状じゃ…それしか思いつかなかった。

 



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42話 大湊事件 中編2

※グロテスクなシーン、流血表現含みます。


 食堂で待機していた北上、木曽、睦月、如月達は無線を使うことができずずっとここで待機していた。他のみんなが外へ出て数十分立つがいっこうに誰も来ない。そんな状況を不審に思った北上は食堂を出ようとしていた。それに続き、木曽も一緒に出ようとしていた。

 

「なんか胸騒ぎがするなぁ…あんたらはここで残ってな~。ちょっと、外みてくるわ…」

 

「確かに、ここまで何もないのはおかしい…俺も一緒に行くよ!」

 

「ちょっと待つにゃし~!睦月達は命令があるまでここで待機してなきゃ!」

 

「そういわれても、誰もここに来ないんじゃ仕方ないじゃん!無線も使えないんだし…あたし達が外みてくるからあんたらはここにいろ!」

 

 そう言って、北上と木曽は食堂から出て本館の入り口のほうまで向かう。向かおうとすると、後ろの方から足音が二人に近づいてきた。後ろを見るとそこには、睦月と如月がついてきていた。

 

「あんたら、残ってろって…」

 

「如月ちゃんと相談して、睦月達も一緒に行くことにしたの!」

 

「仲間が危ない時に、私達が残ってるのはよくないと思って!だから、お供しますよ北上さん!」

 

 そう言って、二人は小走りで先に行ってしまう。北上は呆れてため息を吐きながら頭を抱えた。しかし、少しした後に笑顔に変わり悪態をつきながらも二人のあとを追う。木曽もわかっていたのか、笑いながら走り出す。それがここの鎮守府の日常とでもいうべきか…。それが、少し可愛いらしくはあるのだが。そう思い北上はいつもの口癖をつぶやいた。

 

「本当…うざい…」

 

「それがあいつらだろ…もう諦めようぜ」

 

 そして、四人は本館の入り口まで走っていく。途中、窓から外の景色を見ていたのだが外は思ったよりひどいことになっている。工廠の方は爆発で炎上し、その火がどんどん広がっているようだった。さらに反対方向を見ると、整備士や調理士などが逃げまどっていた。外の景色を見ていた北上は、途中で足を止めた。木曽も何かに気づいたようで外を見た。ちょうど伊織や金剛達が本館のほうへと向かっているのだが様子が変だった。比叡は何か叫んでいるようだったし、伊織も金剛も榛名を担いでいる。霧島は下を向きうつむいているし、何か変だった。

 

「榛名、どうかしたのかな?」

 

「様子が変だな…榛名さんに何かあったのか?」

 

「二人とも!早く入り口のほうまで行きましょう!避難している人もいるかもしれないわ」

 

「わ…わかったよ如月!早く行くよ木曽!」

 

「お…おう!」

 

 如月に急かされ、再び走り出す。そうやって、入り口のほうまで近づいてくると何やら叫び声がこだましていた。その中には、瑞鳳と祥鳳の声も聞こえた。やはり何かあったのかもしれない。そう思い、入り口まで来るとそこには壮絶な光景があった。おそらく工廠にいた整備士達だろう。そのほとんどが、重度のやけどを負っていた。だが、それよりも瑞鳳がひどかった。左半身の重度のやけど、左の顔面も赤黒くなっており眼球が露出している状態だった。

 

「痛い痛い痛い!!熱い…熱いよおおおおおおおおおお!!」

 

「瑞鳳…しっかり、もうすぐ大本営の人達が来てくれるから…」

 

 …なんだこれ、と北上は思った。なんだこの光景は。なんで罪のない人たちがこんなことになっているんだ。どうして瑞鳳までもと思った。その光景に睦月と如月も固まってしまっている。こんなひどい状態だと思っていなかったのだ。ここまで負傷者が出ているなんて…と。だが、この後も心をえぐる光景を見ることになる。次に入り口に来たのは、憲兵の宿舎に行っていた飛龍達だ。飛龍達を見て北上達は一瞬安堵したが、飛龍の状態を見て絶句した。飛龍の左足が無かったのだ。一緒に入ってきた大井達は無事だったが、皐月と文月が泣き崩れている。精神に来たのか睦月と如月は膝から崩れ落ちる。だが、それにさらに追い打ちをかけるような光景を目の当たりにした。次に伊織と金剛達が来たのだが、榛名が目や口から血を出していた。意識があるのかわからず何度呼びかけても反応がなかった。

 

「…は…ははは…なんだよこれ…何さ…この光景…嘘だよねこれ…嘘だと…言ってよ…」

 

「お…おい北上姉ちゃん!?冷静になれよ…ただでさえ姉ちゃんの能力、怒れば怒るほど…」

 

「…あぁ…わかってるよ…」

 

 そう言って、北上は歯ぎしりをし拳に力を入れていた。仲間がこんな状況になっているというのに、怒りを抑えられるはずがない。木曽が何とかなだめるが、いつ暴走(・・)してもおかしくはない。こんな状況で、北上の暴走を止められるのはおそらく蒼龍しかいない。だが、憲兵が反乱を起こしている状況下では難しくなる。そんな中、伊織が叫び始めた。

 

「怪我人には応急手当を!使えるものはありったけ使え!もうすぐ大本営から援軍が来る!それまではここで籠城だ!何とか持ちこたえるぞ!」

 

「ちょっと待てよ…こんな状況下で籠城なんて!」

 

「仕方ねえだろ!全員守らねえといけねえんだ!お前らもぼーっとしてないで付き合え!」

 

 北上が伊織に物申すが、伊織の剣幕に気圧され仕方なく従う。北上と木曽は全員の応急手当てを手伝った。ほとんどが重度のやけどを負っている。応急手当だけじゃだめだ。本格的な治療を行わないといけない。特に瑞鳳と飛龍、榛名は重傷だ。応急処置じゃ限界がある。だが、応急措置を終えた後に、飛龍が叫びだし入り口まで行こうとしていた。

 

「放してよ!あいつらぶっ殺してやる!もう許さない!」

 

「飛龍やめて!その怪我じゃ無理よ!」

 

「そ…そうだよ飛龍さん…お願いだから…じっとしてて」

 

 蒼龍と皐月が飛龍を止め、何とか飛龍を押さえるが飛龍は納得がいっていない様子だった。しかし、皐月の泣きそうな様子を見て飛龍はしぶしぶ座り込む。正直戦える状態ではなかった。左足が無いのだ、下手したら全員の足を引っ張ってしまうことになる。だが、ここで引き下がる飛龍ではなかった。

 

「ねぇ、何か支えになるようなものもってきて。杖みたいなものでもいい!」

 

「飛龍!だから、こんな状態じゃ!」

 

「わかってるよ自分がこの状態じゃ足手まといになるぐらい!だけど、籠城するんなら私の能力は絶対必要よ。それにあいつら、子供だろうが容赦しない。この子達だって危ないんだよ!ここで指くわえてじっとしてるなんてまっぴらごめんだよ!!」

 

 飛龍が怒鳴り散らし場に静寂が生まれた。憲兵達は容赦なく全員を襲っている。戦力は一人でも多い方がいいはずだ。数秒沈黙が続いた中、蒼龍がため息を吐きながらつぶやいた。

 

「…………わかった」

 

「蒼龍さん!でも!」

 

「まて蒼龍!それは俺も反対だ!許可できない!」

 

「ただし!私が飛龍の近くにいる。そうすればカバーくらいはできるよ。それに、これは私のわがまま…嫌とは言わせないよ…飛龍」

 

「………わかったよ蒼龍」

 

 皐月と伊織が反対したが、蒼龍の真剣なまなざしに折れ渋々納得。皐月と文月に杖のようなものがあるか探しに行かせた。そんな中、外で爆発音が響きだす。おそらく憲兵達だろう。他の施設を攻撃しているのかもしれない。このままじゃいつ本館を攻撃されてもおかしくはない状況だ。

 

「ちっ…あいつら、そろそろここに来るな!どうにかして、ここを守らねえと…」

 

「提督、憲兵達は入り口から堂々とここを潰そうとは限りません…念のため入り口付近と裏の方と二手に分かれた方がいいかと…」

 

「…それもそうだな。よし、俺と大井、球磨、北上、木曽は入り口側、蒼龍、飛龍、金剛、多摩は裏側の方を頼む。残りは万が一のことを考えてここで待機。いいな!」

 

 大井の助言に応じる伊織。入り口側と裏の二手に分かれることにした。北上ほどではないにしろ、球磨型の全員は武闘派だ。伊織を含めて相当な戦力になる。裏に向かう蒼龍達は飛龍が怪我をしているためそのカバーをしなければならない。蒼龍がいるが火力が欠ける。それを補うため基礎戦闘力が高い金剛と多摩を入れる。比叡と霧島、睦月達はここで待機だ。そうこうしていると、皐月と文月が戻り飛龍に長い棒を渡す。掃除用の自在ぼうきを持ってきたようだ。飛龍はほうきになっている部分を外すと、棒を支えにして何とか立ち上がる。それを蒼龍が背負った。全員が準備できたのを確認すると、伊織は静かに口を開いた。

 

「みんな…必ず生きるぞ。死ぬことは俺が許さない。援軍が来るまでの辛抱だ…。何とか耐えてくれ!」

 

「わかってま~す!!ここで死ぬことはもちろんNothingで~す!それに榛名をこんな目に合わせたやつらをぼこぼこにしてやらないと気が済まないよ…」

 

「私の足と瑞鳳の分もね…あいつらただじゃおかない!」

 

「あたしも我慢の限界だからさ…さっさと行こう…あいつらぶっ飛ばして牢屋にぶち込んでやる!」

 

 金剛と飛龍と北上は俄然やる気だ。ここまでやった憲兵をもう許すわけにはいかない。必ず牢屋にぶち込まないと気が済まないようだ。援軍が来るまでどれほどかかるのかわからないが、どうにかしてここを死守する必要がある。だから、全力でやる。

 

「皆さん…武運長久を!では、行きましょう!」

 

 大井の掛け声とともに全員が動き出す。伊織達は入り口側、飛龍達は窓から裏の方へ出る。案の定、憲兵達は本館を取り囲んでいた。律儀にもこちらが動き出すのを待っていたようだった。伊織達が出てきたのを確認した直後、憲兵達は銃撃を放つ。

 

「標的が出てきたぞ!ハチの巣にしてやれ!」

 

「やれるもんならやってみなよ…!」

 

 北上が一気に憲兵達に詰め寄り一人の憲兵を殴り飛ばす。すると、周囲にいた憲兵が数m吹き飛んだ。憲兵達は唖然としていたが、思考が追い付くと北上に銃を向け打とうとする。しかし、それを伊織達が止め憲兵達を一人一人いなしていった。しかし、憲兵達は特殊な防具などをそろえてきている。ダメージもろくに通らない上にこちらは艤装を装備できない。伊織も今は刀のみしかもっていない、圧倒的にこちらが不利だ。それと、北上が暴走しかけてきているため何が起きるかわからない。万が一北上が暴走したら止められるものは同じS級のみだ。

 

「北上姉ちゃん!気持ちはわかるけど耐えてくれ!もし姉ちゃんが暴走したら、他のみんなも危ないんだぞ!」

 

「…っ!?……わかった、努力するよ…」

 

「…ふぅ、何とか収まったくま…とりあえずは一安心くま…」

 

 北上が少し落ち着いたことに安堵する球磨。憲兵達を殴り飛ばしながら北上を見ていたが、本当にいつ暴走してしまってもおかしくはない。大井や木曽がいることで少しは怒りを抑えられるはずだが、ふとしたことで押さえられなくなるかもしれない。

 

(北上の二つ名の由縁…怒れば怒るほど霊力が上昇する異能…憤怒(イーラ)。本当に厄介な異能くま…)

 

 そう考えていた矢先、本館の裏から衝撃音と悲鳴が聞こえてきた。おそらく憲兵達だろう。蒼龍達も戦いを始めているようだ。援軍がいつ来るかわからないが、どうにかして憲兵達を食い止めなければならない。そんな中、伊織が全員に声をかけ奮起させる。

 

「みんな、耐えろよ!ここを乗り切って、こいつら牢屋にぶち込むぞ!」

 

『了解!』

 

 

 

 

 

 一方、裏の方で憲兵達を応戦していた蒼龍達。飛龍が地面から土柱を出し、憲兵達を舞い上げる。それを蒼龍が風を起こし、海へと突き飛ばした。金剛も多摩も憲兵達に応戦している。しかし、憲兵達は執拗に飛龍を狙っている様子だった。左足がなくなっているのだ。向こうは飛龍が弱点だと考えているようだ。

 

(想像してたけど、やっぱり飛龍を狙うよね…今の飛龍は自分じゃまともに動けない。私が近くにいるけど、それでもカバーしきれない!)

 

 飛龍は自身を硬化させ憲兵の攻撃を防いでいるが、精彩を欠いているためすべてを防ぎきることはできていない。蒼龍も風を起こし応戦しているが限界がある。金剛も多摩も憲兵達に応戦するので精いっぱいだ。

 

「まったく…いちいちウザイにゃ!こっちは艤装を装備できないし…憲兵どもは特殊装備を装備しているし…!」

 

「こちらは体術のみ…これじゃいつこっちがやられるかわからないで~す!」

 

「それでもやるしかない!どうにかして、持たせるよ!」

 

 そう言って、能力をフル活用して応戦する蒼龍。かまいたちや暴風を起こし、憲兵達に攻撃するが効果は薄い。海に突き飛ばしても、すぐにこちらに戻ってくる。どうすればいいのかわからなくなったとき、飛龍に数人の憲兵が切りかかろうとしていた。飛龍は能力を使用し周りに土柱を作り憲兵を突き飛ばす。しかし、今度は銃撃を行おうとしていた。それを蒼龍が風を起こし攻撃を防ぐ。

 

「助かった蒼龍…」

 

「無理しないでって言ってるでしょ!片足だけで、ただでさえバランス崩してるっていうのに!」

 

「悪いけど、それでも私はやるよ!こいつらぶっ飛ばして、牢屋にぶち込んで…」

 

 飛龍がそう言いかけたとき、遠くから銃撃音のようなものが聞こえた。何事かと思ったとき、本館の窓から叫び声が聞こえた。声から察するに文月の声だ。文月はしきりに蒼龍の名前を叫んでいる。ふと我に返って、蒼龍の方を見ると、口から血を吐き出し、腹部から大量に出血し倒れこんでしまった。銃撃音があった方向を見たとき、宿舎の屋根の上に憲兵がいた。おそらくスナイパーだ。

 

「……あ……こ…の!?くそ野郎がああああああああ」

 

 飛龍は叫び、地面に転がっていた手のひらサイズの石を能力を使って舞い上がらせそれを殴り飛ばした。かなりの速度だったのか、宿舎の屋根が吹き飛んでいた。しかし、屋根の上にいた憲兵はもういなかった。蒼龍が打たれたことに動揺してしまったのか、金剛も多摩も少しの間放心状態になってしまった。それを憲兵が切りかかろうとするが、飛龍がそれに気づき石つぶてを飛ばした。

 

「ぼさっとするな金剛、多摩!あんたらは憲兵に集中しろ!!」

 

「あ…わ…わかったで~す!」

 

「…了解にゃ!」

 

 やはりかなり動揺している。先ほどより動きに精彩が欠いていた。飛龍は、憲兵達に攻撃を行いつつ、蒼龍のもとへと近づいた。出血が多いせいなのか、意識がなかった。文月に蒼龍が打たれたことを伊織に言うように伝えると、飛龍は必死に蒼龍に呼びかける。

 

「蒼龍!しっかりしてよ蒼龍!…こんなとこで死ぬことは…許さないよ!」

 

 そう言って、飛龍は周囲に目を向ける。周囲には憲兵達が銃をこちらに向けていた。金剛と多摩は別の憲兵に気をとられているため飛龍達に近づけない。

 

「さてと…これで遠慮なくリンチにできるな…」

 

「やれるものならやってみなよ…ただでは死なないよ!」

 

 憲兵が銃撃しようとしたとき、飛龍は能力を使って吹き飛ばす。せめて一矢報いる、蒼龍を守りながら必死に戦った。少しでも、時間を稼ぐために。

 

 

 

 そして、今ここにいる憲兵達は数分後に後悔することになる。飛龍と蒼龍に傷を負わせたことに、自分達が誰を敵に回したのかを…。

 

 




今回はここまでになります!
大湊事件もあと二つで終わります!
ではまたお会いしましょう!


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43話 大湊事件 後編1

 入り口付近で応戦する伊織達。何とか時間を稼げているが、正直かなり苦戦している。憲兵達の武器破壊を行っているがいつどうなってもおかしくなかった。しかし、それに追い打ちをかける出来事が起こった。入り口から睦月が顔を出した、かなり焦っている様子だ。その様子を見て、伊織が叫ぶ。

 

「睦月!?何してる!中に入ってろ!」

 

「みんな!大変だよ!蒼龍さんが…蒼龍さんが打たれて、重傷だよ!」

 

 睦月の報告に全員が唖然とした。蒼龍が打たれたとなれば、裏の方はかなりやばい状況だ。このままじゃ、裏に行った全員が危険だ。そう思った瞬間、ぞわりと嫌な空気がした。嫌な予感がし北上の方を見ると、北上の周りが妙な空気に代わっているような錯覚に陥った。北上の眼の色が変わり、さらに霊力が上がってきている。

 

「…みんな、ここから逃げて…ここはあたしが何とかする。そのあとに、裏の奴らも全員やってやる…本館にいる連中はあたしに任せな」

 

「待て北上!この状況で逃げられるわけ…」

 

「わからない提督さぁ…」

 

 振り返った北上に、先ほどのような面影はなかった。その目は憎悪に満ち、目は赤くなり瞳孔が開いている状態だった。北上の様子を見て全員が寒気を覚える。確実に暴走しているからだ。

 

さっさと行けよ…あたしがあたしじゃなくなる前に!!

 

「…わかった、死ぬなよ北上!お前ら!ここから離れるぞ!」

 

「でも提督、北上姉ちゃんを置いていけるわけ…!」

 

「俺達がいても巻き込まれるだけだ!いいから行くぞ!」

 

「提督、球磨は裏の方に行くくま!提督には大井と木曽が付くくま」

 

「球磨……死ぬなよ!」

 

 そう言って、大井と木曽を強引に連れていく伊織。球磨は急ぎ裏の方に向かう。鎮守府から離れる伊織達を見送り北上は改めて憲兵に向きなおる。もう加減も何もない。怒りに任せて暴れるだけだ。仲間が傷つけられたのだ、半殺しにしてでも止める。

 

お前ら、覚悟しろよ…死ぬ準備できてるんだろうな?

 

 そう言って、北上は適当な憲兵に向かって走った。いや、正確には一歩で憲兵の懐に入ったというべきか。懐に入った瞬間、その憲兵は吹き飛んでいた。かなりの威力があったのか、宿舎のある方まで吹き飛び、建物が崩壊していた。一瞬のことで唖然としていた憲兵達だったが、我に返り北上に銃を向けようとした。しかし、北上は地面を踏みつけ衝撃を加え、憲兵のバランスを崩した。その後、回し蹴りを行いその風圧で複数の憲兵が吹き飛んでいた。

 

「全員気をつけろ!こいつの異能は怒れば怒るほど強くなる。それに、理性がなくなるから本能のままに戦闘行為を行う。この状態はかなり厄介だ。早急に片付ける…」

 

 そう言い、ふと上の方を見るとヘリコプターの音、さらに艦載機のような音が近づいてくることに気づいた。まさか援軍が到着したのかと思った。大本営からの援軍だとかなり厄介だからだ。それに、上空にわずかに見える艦載機。ここから近くの海域に出撃していた艦娘はいない。それに、空母の中で近海の海域ではないが、北方に出撃していた艦娘は誰か事前に把握していた。その情報が正しければあの艦娘がここにきていることになる。

 

「…おいおい、まさか…あいつが来てるのか…!?この世に最初に誕生した艦娘が!?」

 

 

 

―――本館裏

 

 蒼龍が重傷を負い、形勢が一気に不利になった飛龍達。金剛も多摩も何とか応戦しているがどんどん押され始めてきている。飛龍も蒼龍をかばいながら、ほとんど動かずに戦っているためいつどうなってもおかしくない状況だった。異能を駆使して戦っているものの、憲兵達は銃などを持っている。体のあちこちに傷を負っているため、出血量も尋常じゃなくなっている。そのせいか、頭もぼーっとしてきているほどだ。

 

(やばい…頭がぼーっとしてきた…なんかくらくらするし…)

 

 意識が遠のきそうになりながらも必死に耐え、防衛に徹している飛龍。金剛達の方を見ると、金剛も多摩も負傷し相手にとらえられていた。ここまでか、と思い空を見上げた飛龍は上空に艦載機のようなものが飛んでいるのが見えた。遠目からだったためはっきりとはわからなかったが、赤い迷彩柄の艦載機だった。赤い迷彩柄にしている艦載機を使うのは、空母の中でも一人しかいない。まさかと思っていると、その艦載機が急降下し憲兵達へ機銃を放つ。そこまで威力が大きいものではないのか、憲兵達に当たっても軽くよろける程度だったが、それでも憲兵達は苦渋の表情を浮かべる。そして、埠頭の方を見ると海の方から一人の女性がこちらに来ているのがわかった。薄い赤色の弓道着に青い袴、身の丈ほどの刀を持っているのが特徴だった。その人は、飛龍のよく知る人物、路頭に迷っていた飛龍と蒼龍を引き取り、強く育ててくれた母親のような存在、軽空母鳳翔だった。

 

「…………母さん」

 

 鳳翔の姿を見たとき、飛龍は意識を失ってしまった。意識を失った飛龍を仕留めようと憲兵達が一斉に銃を向けたが、いつの間にか銃の先端が切れていた。唖然としていた憲兵達だったが、いつの間にか目の前に鳳翔が立っていたのだ。沖合から猛スピードで陸まで上がってきたのだ。鳳翔は飛龍と蒼龍のもとへ駆け寄ると膝まずき、ゆっくりと二人に触れる。

 

「…飛龍…蒼龍…」

 

「おい!?お前いつの間に…!?いったいどうやって!?」

 

「………あなた達がやったの…?」

 

 ゆっくりと立ち上がった鳳翔。憲兵達に向きなおると、霊力を一気に開放し周囲に圧を加える。それはその場にいた金剛と多摩でさえ耐えがたいほどの重圧だった。憲兵達がたじろぐ中、鳳翔はもう一度、憲兵達にも聞こえるような声でこう言った。

 

「もう一度聞くわ…あなた達がやったの…!」

 

「く!?殺せ!!」

 

 鳳翔の後ろにいた憲兵二人が鳳翔に切りかかる。しかし、鳳翔は左手で持っていた刀でまず右側にいる憲兵を突き上げ、その後左にいる憲兵を突き上げる。そして、抜刀し回転斬りを放つ。二人の憲兵に斬撃を加えた後、鳳翔は抜刀した刀を前方にいた憲兵に投げた。投げた刀は回転しながら向かっていくが、憲兵はそれを左によけようとする。だが、刀は軌道を変え憲兵に向かっていき切りかかる。その後も、周囲にいた憲兵達にブーメランのように向かっていき、鳳翔の手に戻った。それを鳳翔は深く深呼吸をしながら鞘に戻していった。

 

「相手はただ一人だ!一斉に…!」

 

「あなた達が見えたのは刀だけですか?」

 

 鳳翔がそう言った直後、周囲に糸のようなものが出現し憲兵達に襲い掛かった。そして、一瞬のうちに周囲にいた憲兵達が鎮圧されていた。死んではいないものの、深手を負ったのか立ち上がることはなかった。

 

「……ほ…鳳翔さん!?」

 

「みんな!無事くま!?…あ…ほ…鳳翔さん!?」

 

 焦った様子で駆け付けた球磨。鳳翔の姿を見て安堵する反面、状況を見て絶句する。飛龍と蒼龍は倒れており、二人とも瀕死の重傷だったからだ。

 

「三人とも!この二人を安全な場所に!私は入り口付近にいる憲兵を…」

 

 そう言って、入り口に向かおうとしたとき鳳翔の無線に連絡が入る。無線が入り鳳翔が上空を見上げると、2機のヘリコプターが近づいてきているのが見えた。その2機は大本営のもので一機は鎮守府を通り越し、もう一機は鎮守府の上空で停止した。すると、ヘリの中から二人飛び降りてくることが分かった。艤装のようなものを装備していることからおそらく艦娘だ。遠目からなのでよく見えなかったが、下着が見えるのではないかと思うほど足を露出しており、チャイナ服のようなズボンをはいていた。その二人は入り口付近に真っ逆さまに落ちていた。

 

「あの二人は、利根さんと筑摩さん!でも、この強大な霊力…あの二人じゃ危険ね…皆さん!あとは頼みます!」

 

 そう言って、鳳翔はすぐに入り口付近へと向かった。

 

 

 

 

 

 霊力が暴走し、暴れまわっていた北上。もう理性はほとんど失い本能のままに憲兵達に殴りかかっている。攻撃が単調になっている分、憲兵達は北上に致命傷を与えてきているが同時に憲兵達も被害が増してきている状態だった。そのため一部は遠距離から、残りは近距離から攻撃を行っていた。そうこうしていると、上空から何かが落下しかなりの衝撃が周囲にきた。衝撃が来た方を見ると、クレーターができておりそこには艤装を身に着けた二人の艦娘がいた。大本営第3艦隊旗艦の利根と随伴艦の筑摩だ。

 

「ほほう…これは相当なことになっておるの~…よもや憲兵どもが裏切るとはな…」

 

「さすがの私も…これには我慢できませんね…」

 

「今更援軍が来たからなんだ!こいつらも一気にやってしま…」

 

「せい!!」

 

 爆音とともに、憲兵が吹き飛ばされていく。最初何が起こったのか理解できなかったが、利根が一気に憲兵まで詰め寄り蹴りを加えたのだ。かなりの衝撃だったようで、蹴られた憲兵の防具はへこみ、口から血を噴き出していた。

 

「油断はよくないの~。言っておくが、わしの能力は脚力だけを強化させる異能でな。区分としては肉体強化(フィジカルアップ)らしいがな…」

 

「くそ!この野郎っ!?」

 

 直後、憲兵達に砲撃が当たった後、一人の憲兵が投げ飛ばされていた。投げ飛ばされた憲兵によって、さらに複数の憲兵が吹き飛ばされていた。憲兵が吹き飛ばされた方向を見ると、そこには筑摩が立っていた。さらに、筑摩は近くにあった瓦礫に近づくとそれを右手で軽々と持ち上げたのだ。

 

「…えっと、私意外と力持ちなんです…なんちゃって♪」

 

「う……うわああああああああああああああああ!!!」

 

 そう言って、筑摩は瓦礫を憲兵達に投げつけた。その結果、憲兵達のほとんどを鎮圧。残りは数人の憲兵と暴走している北上だけになった。状況を不利と感じた憲兵達は逃げ出し、二人は憲兵達を追おうとする。しかし、暴走した北上が二人に襲い掛かった。かなりの実力があるとはいえ、二人はA級だ。北上にかなうはずがない。

 

「…まずいのう…筑摩~。吾輩らで北上を止められるかの~…?」

 

「…正直厳しいです…こちらもただでは済まないかと…」

 

 そう言って、構える二人。しばらく場に沈黙があった後、北上が動き出す。それに応戦しようとした二人だったが、直後三人の間に斬撃が起こった。斬撃が起こった方向を見るとそこには鳳翔がいた。

 

「二人は憲兵を追ってください!北上さんは私が何とかします!」

 

「…わ、わかりました!武運長久を!」

 

 利根と筑摩は憲兵達を追っていく。そして、鳳翔は北上に問いかける。暴走している状態であるためおそらく何を話しても無駄であるが、それでも少しでも理性があるのならそれに賭けたかった。ここには提督である伊織達がいない。鎮守府から逃げたのだろうがそれでも危険だ。

 

「北上さん!私の声が聞こえるなら、一緒に須藤提督のもとへ行きましょう!須藤提督達に危険があるかもしれません。だから一緒に…」

 

 しかし、北上は鳳翔に向かって突撃した。鳳翔はそれをよけ北上と距離をとる。北上はずっとうなっておりもはや話を聞いてくれるような状態ではなかった。

 

「異能に呑まれましたか…少し痛いですが…我慢してください」

 

 鳳翔は北上に向かっていく。北上を止めるために…。

 

 




こんばんわ!
次回で大湊事件は最後になります。
それではまた!


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44話 大湊事件 後編2

こんばんわ!大湊事件、これで話は終了になります!
グロテスク・シリアスななシーンありますのでご了承ください。
それでは、本編です!


 鎮守府から離れた伊織達。町へ続く街道をひたすら走り続けていた。裏の方で戦っていた蒼龍達が気がかりだったが、どうか無事であると信じたかった。北上が暴走していたためすぐに逃げなければこちらが危うかったかもしれない。今更こうすればよかったと思っても今は先のことを考えなければならない。まずは、町まで行って体制を立て直す必要がある。

 

「とりあえず、町にいる憲兵どもに事情を話す。それから、無線で大本営に知らせるぞ!」

 

「…この話、町の憲兵は信じてくれるでしょうか?」

 

「…わからねえ…信じてもらえなかったとしても、無線ぐらいは借りられるだろ!」

 

 走りながら、方針を決める伊織と大井。信じてもらえるかは別として、まずは大本営と通信する必要がある。応援が大湊まで来ているが、自分達の状況をどうにかして伝えなければならない。そんな中、木曽が下を向き何かを考えているようだった。それに大井が気づき木曽の名を呼ぶがなかなか返事が来なかった。大井は大声で木曽の名を呼んだ。

 

「木曽!聞こえているの!何を考えているの!?」

 

「え…ごめん姉ちゃん…。少し気になったことがあって…」

 

「気になったこと?」

 

「あぁ、あの場に薄田いなかったよな…あいつ一体どこ行ったんだ?」

 

 木曽の言葉に全員が足を止めた。確かにあの場に薄田はいなかった。いったいどこに行ったのだろうか。逃げたのかと思ったがそれを大井は否定した。本館に戻る途中、蒼龍から宿舎で薄田達に襲われたからだ。本気でこちらをつぶしにかかっていることも聞いたため、必ず鎮守府にいたはずだ。そうこう考えていた時、伊織は草むらが少し動いたように感じた。何事かと思い、そこを凝視すると、猛スピードで薄田が大井に向かっていく。手には刀を持っており大井に向かって切りかかろうとしていた。

 

「逃げろ大井!?」

 

「え…?」

 

「大井!!」

 

 薄田が刀を振り下ろす。その光景を見た木曽は青い顔をし驚愕の表情を浮かべた。大井もその光景を見て顔を青くする。伊織が大井をかばい左腕を負傷したのだ。傷が深いのか左腕はぶらぶらと下がっていた。その様子を見て薄田は高笑いした。

 

「はははははは!やはりこの方をかばうと思っていましたよ提督殿。仲間が重傷を負ったと知れば、北上殿は必ず暴走する。そして、北上殿は自分が暴走する前にあなた達を逃がそうとする。まぁ、そこにいる木曽殿がついてきたことは少々誤算でしたが…まぁいいでしょう。こちらも数はそろってますし」

 

 薄田が左手を上げると、周囲に6人ほどの憲兵が現れた。全員刀のみだったが、顔触れを見るあたりここの憲兵の中で強い分類の奴らだ。加えて、こちらは3人。さらに伊織が負傷したことでかなり不利だった。精神的にも来ている。特に木曽は表情がこわばり震えてしまっている。

 

「薄田!お前の思い通りにはさせねえよ。これでも俺は大湊の提督だ!こいつらは絶対守る。たとえ手足がなくなろうが、お前らに一矢報いてみせるぜ!」

 

「…やれるものならやってみてください…あなたがかなりの実力者なのは知ってる…でも、片腕だけじゃ、私には及ばない」

 

 そう言って、伊織に切りかかる薄田。伊織は抜刀し、薄田の剣を受け止めるが片腕だけじゃきついのか、膝を地面についてしまう。大井は伊織に加勢しようとするが、他の憲兵達が邪魔して行かせてくれそうにない。大井が憲兵と応戦したのを皮切りに、他の憲兵も木曽に向かっていく。それに、木曽も何とか応戦するが、恐怖心が勝っているのか精彩に欠けていた。大井達に二人ずつの憲兵が応戦し2対1の状況になっている。憲兵達も全力で戦っているがさすが艦隊きっての武闘派だけあって、なかなか致命傷を負わすことができていなかった。薄田伊織になかなか致命傷を負わすことができなかった。片腕のみとはいえ、海軍屈指の実力者だ。だが、それも時間の問題。このままいけば、確実にこの3人を殺すことができる。そのためにこちらは準備してきたのだ。しかし、上空からヘリコプターの音が聞こえてきたことで薄田達は少々焦った。援軍が到着したとなれば鎮守府にいる憲兵はほぼ壊滅している。そうなればこちらも時間の問題だ。そして、憲兵達は作戦を変更。一人を徹底的につぶそうと思った。薄田はそのまま伊織に。残りの6人は一斉に木曽に向かっていく。この中で一番精神的に来ているのは木曽だ。だから、まずは木曽をつぶし、そのあとに他の者をつぶす。木曽はあまりに突然のことに頭に手を乗せうずくまってしまうが大井が憲兵達を蹴散らし、何とかそれを阻止した。

 

「木曽!怖いのはわかるわ!でも今は集中して!」

 

「う…うん!」

 

 何とか立ち直り、憲兵に向かっていく木曽。怖いのは全員同じだ。応援が近づいてきている今、何とか時間を稼ぐしかない。そんな中、薄田は伊織に対して攻撃を速めてきた。一気に片を付ける気だ。伊織が何とか攻撃を防いでいくが片手だけではすべてを防ぎきれず、刀を上に打ち上げられてしまう。薄田がそのすきを見逃さず、伊織の心臓に向け突きを放ってきた。伊織もよけきれず、刀が迫ってきたその時、伊織の前に割って入ってきたものがいた。伊織の前に立ったものは心臓を貫かれ、吐血してしまう。伊織の前に立ったのは…。

 

「…お…おい…な…何やってんだよ…………大井!!」

 

 秘書艦の大井だった。大井は刀を抜かれた後、力なく倒れてしまう。それを伊織が支えるが、心臓を貫かれたこのだ。かなりの重症だ。薄田は伊織を殺せなかったことにいら立ちを見せ伊織も殺そうとした。しかし、上空からいきなり何かが落下し薄田のすぐ横に衝撃が走る。何事かと思い横を見ると、艤装を身に着けた少女と黒い髪を後ろにまとめた女性がいた。

 

「…これはこれは三笠殿と磯風殿…なぜこちらに?」

 

「それはこちらのセリフよ薄田君…一体何をやっているのよ!?」

 

 そう言って、薄田に切りかかる三笠。それを薄田は軽くいなし、距離をとる。もはやこれまでと思ったのか薄田は踵を返し、逃げようとしていた。磯風と三笠はそれを追おうとするが、他の6人がそれを阻止しようとする。磯風は体術で、三笠は剣術でそれに対応する。木曽も体力的にきついのか、地面に膝をつき肩で息をしていた。三笠たちが来なかったらどうなっていたかわからないほどだ。そんな中、一人の憲兵が地面に煙幕を投げつけ視界を奪う。しばらく警戒していた二人だったが、煙が晴れるともう憲兵の姿はなかった。そして、時間差で上空に待機していたヘリから降りてきた勘兵衛。伊織達の状態を見て、怒りを隠せなかった。

 

「三笠!磯風!おぬしらは憲兵を追え!」

 

『は!』

 

「衛生兵!すぐにこちらに来てくれ!一人瀕死の重傷だ!」

 

 勘兵衛の命に複数人の衛生兵がおりてきた。すぐに大井のもとへ行き応急処置を行うが、出血がひどく意識レベルも低下してきていた。そんな中、大井は伊織に静かに話し始めた。

 

「…い…伊織さん…」

 

「いいから休んでろ大井!しゃべるな!」

 

「…最後に…もう一度…あの言葉を…」

 

「は!?お前何言って…」

 

「…うれしかった…あの言葉を聞いて…こんな…わ…たし…でも…ゆ…びわ…もらっていいんだって…結婚…できるんだって…」

 

 その言葉を聞いて、すべてを悟った伊織。近くにいた木曽も大井の状態を見て察してしまう。もう助からないと…その光景を見て、木曽は大泣きして地面に頭を打ち付けた。状況を信じたくなくて。伊織も信じたくなかったが、大井の言葉に耳を傾け、大井を抱きかかえ大声で叫んだ。

 

「あぁ…約束したろ!いつか本物の指輪買ってやる!そんで、さっさとこんな戦い終わらせて、幸せになって…家庭もって…ずっと…ずっと一緒に生きていくんだよ!!だから…死ぬな…死なないでくれ!!生きて俺とずっと一緒にいてくれよ!」

 

 そう言って、涙を流す伊織。涙が大井の顔に流れ落ちたとき、大井の眼から光が失っていき、小さな声で最後にこう言った。

 

「…め………い………何…………きこ……………ない」

 

 そして、大井の手は力なく地面に落ちた。衛生兵が伊織から大井を引きはがし懸命に処置を行う。心臓部分を針で縫い、人工呼吸などを行った。そうこうしていると、鎮守府方面から複数こちらに向かってきているものがいた。鳳翔と金剛、そして球磨と多摩だ。現状を見た全員はすぐさま伊織達に近づく。そして、大井の状態、伊織達の様子を見て察した。大井はもう助からないと。鳳翔もこうした場を幾度も経験してきたのだ。状況を見て、力なく項垂れた。そして、賢明な処置もむなしく、大井は息を引き取った。愛する者、そして姉妹たちに囲まれて…。

 

 

 

 

 

―――大本営

 

 数時間後、大本営に運ばれた大湊鎮守府の者達。医療施設に運ばれ、重傷を負ったもの達は治療を受け今は病室にいる。瑞鳳はやけどのせいか、かなり苦しそうにしておりベッドの上で暴れまわったため今は鎮痛剤を投与し眠っている。榛名はいまだに意識が戻っていない。そして、伊織達は医療施設のエントランスにいた。全員治療を終えたのだが、大井を失ってしまった喪失感、仲間が傷ついたことで精神的に来ているのだ。睦月達は今もずっと泣いている。祥鳳も心の傷が大きいのか、人が通り過ぎてしまうだけで怯えてしまうほどだ。木曽もごめんなさいとずっと言葉をずっと繰り返している。球磨と多摩は木曽にずっとついているが、二人もつらいのか今にも泣きそうな顔をしていた。伊織もエントランスの端に座りずっと項垂れている。

 そんな中、入り口から頭に包帯を巻いた北上が入ってきた。鳳翔との戦いで気絶させられ、本館の方で寝ていたようだ。意識が戻り、伊織達がここにいることを聞いてきたのだ。北上は周りを見渡し、みんなの様子を確認した。そして、ふと気が付いたように伊織に話しかけた。

 

「…ねぇ、提督…。大井っちは…?」

 

 北上の問いに、伊織は力なく廊下の先を指差した。廊下の奥の突き当りに【霊安室】と書かれた場所があった。北上が再度伊織に向きなおるが、伊織はただただ項垂れているだけだった。そして、北上はゆっくりとした足取りで霊安室に向かう。少しためらった後、霊安室に入る北上。中にはベッドに横たわる大井と近くにはろうそくが立てかけてあった。ゆっくりと近づき大井に触れる。頬は冷たかった。今すぐにでも目が覚めそうだったが、脈はなく肌は白い。現状に思考が追い付き、大井が死んだと理解したとき、北上は泣き崩れた。自分が暴走していなければ結果は変わっていたかもしれない。その自責の念と、腹立たしさが交差した。

 

(…何がS級だよ…何一つ守れてないじゃんか!)

 

 そのまま、しばらく泣き崩れた。大声を上げて…。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の朝、事態を収集するために全員から話を聞いた勘兵衛達。テロに加担した憲兵達は何人か捕まえたが、薄田を含む数人の憲兵を逃がしてしまった。伊織に話を聞いていた勘兵衛だったが、昨日の一件でショックが強いのかまともに会話できる状態ではなかった。さすがにこれはまずいと思い、部屋に戻らせようとしたが榛名が意識を取り戻したと知らせが届いたため、伊織とともに榛名のもとへ向かった。医療施設に行き、病室に入ると金剛達がいた。しかし、全員が辛そうな表情をしており、比叡に至ってはずっとうつむいていた。

 

「…榛名、目が覚めたのか?」

 

 伊織が榛名に話しかける。榛名は伊織のいる方を向くが、焦点が合ってないのか、ずっとあたりを見回している。そして、榛名から衝撃の発言を聞いた。

 

「…提督、そこにいるのですか?」

 

「…………は?」

 

「テイトク、落ち着いて聞いてください…。先日のことが影響して…視力が…」

 

「……なんで…どうしてこんな…」

 

 伊織は金剛の言葉を聞いて、膝から崩れ落ちてしまう。先日、頭に直接スタンガンを食らったせいで、脳にダメージを追ってしまったらしい。しかも、視力をつかさどる部分であったため今後視力が回復する見込みはないのだという。もう艦娘として戦うこともできない状態になってしまったのだ。だが、さらに追い打ちをかけるしらせを伊織は聞いてしまう。突然病室のドアが開き、そこから文月が泣きそうな顔をして伊織達を見ていた。

 

「…文月…どうした…?」

 

「………蒼龍さんが……脊髄損傷だって……もう歩くことができないって……」

 

「…あ……あぁ……………うああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 その知らせが、さらに伊織を苦しめた。もちろん、他のみんなも…。榛名も、瑞鳳も、飛龍も、蒼龍もみんな重傷を負ったのだ。憲兵のせいで、これまでの生活が狂ってしまった。大井は死に、鎮守府は壊滅。憲兵もそうだが、何より自分達が憎かった。もっと、早く薄田達を鎮守府から追い出していれば、こんなことにならなかったかもしれないのだ。だが、何もかも遅すぎた…。

 

 その後、元帥の命で大湊鎮守府所属の者はしばらく休養。その間にカウンセリングなどを行った。榛名、飛龍、蒼龍、瑞鳳は怪我のため入院。伊織、木曽、祥鳳も軍病院の精神科に入院。ただ、木曽はPTSDが発症したことにより数年の戦線離脱を余儀なくされた。そして、このことに責任を感じた北上は大本営に書置きを残し消息不明になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事件から1年半がたった時、海軍が新たに呉鎮守府を創設。そこの提督として、戦線復帰した伊織が着任。大湊鎮守府所属のメンバーも着任し他を寄せ付けない圧倒的な連携で、数々の戦果をもたらすことになる。全員の心に、何をしても埋まることがない大きな穴を残したまま…。

 

 



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45話 バスケット対決?

こんばんわ!
今回から大本営の話に戻ります!
それでは、どうぞ!


―――呉鎮守府

 

 伊織から、事件のことを聞いて足柄達はうつむく。そこまで、ひどい状況だったとは思っていなかったからだ。憲兵のせいで、大井が死に飛龍と蒼龍は除隊しなければならないほどの怪我を、瑞鳳は火傷、伊織と祥鳳、ここにはいないが木曽も精神的な問題で入院していたとは思っていなかった。足柄達はほんの一部のことしか事件のことは知らない。だから、どういうことを言えばいいのかわからなかった。

 

「…これが、事件の真相だ…。お前らは、これを聞いてどう思う?言っておくが、俺を含めた古株の連中は、憲兵を恨んでる。いっそのことこの手で殺したいと思うくらいな」

 

 伊織の表情は憎悪に満ちていた。それもそのはずだ。大井が伊織をかばって死に、仲間も傷ついた。心に空いた大きな穴は今後絶対に埋まることはない。何をしても、あの時の光景がよみがえる。この時期になると絶対に。皐月達も毎年泣き崩れてしまう。それほどまでに心の傷が大きいのだ。そんな中、鈴谷は重い空気の中口を開く。

 

「…それでも、すべての憲兵がそうじゃないよ…人間も…確かにテロを起こすような人達もいる。でも、ほとんどの人達が私達艦娘を受け入れてくれてるじゃん!大本営にいる横山さんだって、時々演習に行ったときは私達の面倒をよく見てくれてたし、宮部大将だって!…事件があった直後に、元帥に土下座して謝ったって…自分を傷つけようとしたって…だから、あたしはそれでも!それでも、憲兵や人間達を信じたいよ!」

 

 鈴谷の言ったことに、全員が黙って聞いていた。鈴谷の言ったことはわかる。だが、この大きなトラウマはなかなか消えてくれないのだ。伊織達もそれはわかっている。すべての者がそうじゃないことも、それでも無理だった。しばらく沈黙が続いた後、不意に伊織の携帯に着信音がなる。みんなに謝りながら電話に対応する伊織、席から少し離れた後「それは本当ですか!」と嬉しそうな声を上げていた。何度もお礼を言った後に電話を切る伊織。席に戻った後、嬉しそうな声でこう言った。

 

「みんな、木曽が…木曽が治療を終えて、ここに復帰するそうだ!」

 

 伊織の言ったことに、席から立ち上がる球磨。多摩も机に突っ伏していた状態だったが顔を上げ嬉しそうな表情をしていた。

 

「提督!それは本当くま!?」

 

「木曽が戻ってくるにゃ!木曽をいつでも迎えられるように、部屋を片付けておくにゃ!!」

 

 そう言って、球磨と多摩はそそくさと食堂をあとにし部屋へと戻っていった。二人の様子を見て、金剛も執務室に戻ろうとした。飛龍と蒼龍もそれに続き「またあとでね~」と手を振りながら食堂をあとにした。そのあとも、皐月と文月が「自主練に行ってくる~!」と食堂を後にした。直後、伊織の携帯に再び着信が入る。伊織はその電話に出ると、真剣な表情で話をしていた。かなり深刻なようで、顎に手を当てて何やら考えているようだ。電話を終えると、手を目に当て天を仰ぐ。その様子を見て、卯月と水無月が心配そうに話しかけた。足柄達も気になるようで伊織をずっと見つめている。

 

「しれいか~ん、どうしたぴょん?」

 

「何かあったの?しれい…」

 

「…あぁ、飛龍と蒼龍のことについてな…こっちに来る前に、大本営で霊力の数値やらいろいろ調べたんだが…二人の霊力がかなり落ちててな…飛龍は3万2千、蒼龍に至っては2万8千だとよ…」

 

 霊力が大湊所属時の半分以下になっている。やはり、3年のブランクは相当なようだ。これから、どういう風に二人を艦隊に組むべきか。これからもやることが山積みだ…。そんな考え事をしていると、卯月と水無月が伊織の両腕に抱き着いた。どうしたのか問うと、卯月と水無月がふくれっ面で話しかけた。

 

「…今まで本当のことを話してくれなかった罰ぴょ~ん…」

 

「…しばらく、しれいに抱き着くよ…僕達にずっと事件のことを黙ってた罰…」

 

 やれやれと思いつつも、伊織はしばらく二人に抱き着かれていた。確かに黙っていたことは悪かった。言うべきかいつも迷っていたから。だから、今日話せてよかった。少しだけ肩の荷が下りたような、そんな感じがした。

 

 

 

 

 

―――大本営

 

 磯風から事件のことを聞いた白露達。事件がそんな悲惨なものとは想像していなかったのか三人とも黙ってしまった。憲兵が裏切ったことにより、全員の運命が狂ってしまった。艦娘のことをよく思っていないものいる。テロのせいで、罪のない人達が犠牲になってしまうこともある。深海棲艦の相手だけで、どれだけ大変なのかわかっているのだろうかと思うほどだ。

 

「これが、大湊事件の全貌だ…。どうだ?これを聞いて、君達はどう思う?人間を恨むか?」

 

「…知るかよそんなもん…ただ、昔のこともあるから私は今も人が嫌いだよ…自分勝手だし、何考えてるかわからないし…それに憲兵恨むかどうかはあいつらの問題だろ…私は知るか…」

 

「…僕は…人によるかな…すべての人がそうじゃないし、一部の人は確かに悪い人もいる…けど、僕はやっぱり信じたいよ」

 

 白露と時雨は、それぞれ自論をいった。恨むかどうかは人それぞれだ。白露と時雨も過去につらい過去を経験した。白露は今でも人が嫌いだし、時雨はどんな人でも分け隔てなく接している。だから、それは人それぞれだ。一星も明智家のことは憎いし、明智家がいなければ星羅が記憶を無くすことはなかったのだ。それぞれの反応を見て、磯風は納得した表情で語った。

 

「わかった。それが君達の答えだな。まぁ、人それぞれだろうし、私は気にしな…」

 

 そう言いかけたとき、磯風の無線に何やら連絡が入る。磯風はそれに応じると、真剣な表情で話をしていた。何回か返事をした後に、白露達に向きなおる。よほどのことなのか少し焦り気味だ。

 

「すまないな、急用ができた。舞鶴所属の響と電がテロリストに襲われたようなんだ」

 

「え、響と電が!?」

 

「まぁ、幸いにも二人とも怪我はないそうだ。私はちょっと行ってくる」

 

 磯風はそう言って、資料室を後にした。磯風の言ったことに、白露は冷静だった。時雨も少し驚いていたが、すぐに冷静さを取り戻した。一星は二人の様子に少し困惑気味だったが。

 

「…まぁ、響のことだし、100%無事だわな…」

 

「確かに響だしね…テロリストも運が悪かったね…」

 

「…はて、それはどういう…」

 

「響はさぁ、どんなに傷ついても再生するんだよ。本人はよくわからない力って言ってたけど…まぁ、大本営の人間曰くその力は確実に異能なんだけど、分類としては肉体再生(オートリバース)…だったかな」

 

「前に、見たことがあるんだ。自分の腕を包丁で傷つけても、すぐに再生していた。本人は慣れてるって言ってたけど、相当な痛みを伴っていると思う」

 

 前に響の事情を知ったとき、同期のみんなはかなり驚いていた。いつ、どこでその能力が宿ってしまったのかさっぱりわからないのだ。響曰く、昔の記憶が曖昧なんだとか。その能力が宿ってしまったのは、史実の影響なのか、それとも違う何かなのか謎のままだ。白露はため息を少し吐くと立ち上がり、背伸びをする。そして、資料室を後にしようとした。

 

「とりあえず、私は一回部屋に戻るわ…ちょっと疲れた…」

 

「じゃあ僕も戻るよ、精神的に疲れた…」

 

「わしも戻るか…組手で疲れたわ…」

 

「全員疲れてるのな…」

 

 そう言って資料を戻し、資料室を後にする三人。しかし、戻ろうとする途中あることを思い出し三人して足を止めた。今の時刻は12時前だ。つまり、まだ昼食を食べていないのだ。それを思い出した三人は深くため息をついた。午前中が長すぎて、すっかりご飯を食べていないことを忘れていたのだ。仕方ないため、部屋に戻るのはあとにし食堂の方へ向かった。この時間は絶対星羅…もとい月夜がいるため、あまり気乗りしなかったが仕方なかった…。

 

 

 

 

 

―――食堂

 

 食堂に来ると、整備士や憲兵、海軍の者達がごった返していた。幸いにもここの施設は広いため、席を確保することはできそうだったが、ご飯をとるまでにかなり時間がかかりそうだ。なんせ列が長いのだ。このペースだといったい何分待つことになるのやら。そんなことを思っていると不意に後ろから「よぉ」と声をかけられた。後ろを見ると、左目に眼帯をつけ制服の上に黒いパーカー、スカートをはいている女性が立っていた。以前柱島に護衛に来ていた天龍だ。少し挨拶を済ませた後、天龍は白露に話しかける。

 

「吹雪と演習したんだってな!どうだったよ?強かったろあいつ」

 

「…盛大に負けたよ。研究に研究を重ねられてたみたいでさ…」

 

「ははは、そりゃそうだ!あいつの努力量は俺らの中では群を抜いてる。寝る間も惜しんで鍛錬してるぐらいだからな。…まぁでも、少なくともお前も少しレベルアップしないと勝てるやつにも勝てないぜ。下手したら俺でも勝てるわ」

 

「なんでさ?あんた2万5千だろ…霊力」

 

「いや、勝てる。霊力を開放しないって条件下だがな…。摩耶からお前のビデオ見せてもらったよ。動画を携帯に送ってもらってよ…。何回も見てみたけど、お前の動きは少し無駄が多いんだ。戦闘センスは抜群だ。でも、あと一押し…その無駄さえなくなれば、お前は誰も手が付けられないくらい強くなると思う。長門さんも言ってたぜ、伸びしろあるってよ!」

 

 無駄…ねぇと白露は思った。正直、そんなこと思ったこと無かった。ずっと我流の動きで戦ってきたから。今度、自分の戦闘風景を見てみるかと思った。摩耶からメールで送ってもらおうかと思ったとき、前の列が一気に進んだ。おそらく、数人の料理人が一人一人に食事を渡しているのだろう。そのおかげで、すぐに昼食を食べることができそうだ。ちなみに、メニューはかつ丼とみそ汁と漬物らしい。まぁ、腹が減ってたしいいだろう。そんなこんなで、メニューを受け取った白露達。月夜は奥の厨房にいるようで会うことはなかった。天龍と別れ、適当な椅子に座った白露達。早々に食事を終えた後、それぞれ部屋へと戻っていった。部屋に戻った後は白露達は午前中の疲れもあってか仮眠をとったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

―――午後2時

 

 白露は携帯のアラームの音で目が覚めた。時計を見るとちょうど2時だ。仮眠をとったのが12時半だったから、ちょうど1時間半が立っている。時雨はまだ寝ており白露の隣で寝ていた。白露は起き上がり背伸びをすると、ジャージに着替え一度外に出ようとした。しかし、さすがに何も言わないで出るのは申し訳なかったので一度時雨に声掛けをした。しかし、時雨はかなり眠いのか「…う…うん…」といってまた寝てしまった。白露は部屋を出て、一度外へ向かった。

 

 

 

 

 

 外に出て、適当に散歩している白露。とりあえず、工廠付近まで来ると、バスケコート付近から“ドン・ドン”と音が聞こえた。気になってコートの方へ向かうと、そこにはジャージ姿でスポーツ用のTシャツを着ている大鳳の姿があった。大鳳は適当にドリブルをつきながらゴールに向かって左手でシュートを放ち、それが綺麗な音を立ててリングをくぐっていった。シュートを打ち終えた後、白露の姿に気づいたのか、大鳳は白露に近づいてきた。

 

「こんにちは白露ちゃん。散歩?」

 

「あぁ、さっきまで仮眠とってたんだけど…部屋にいても何もないんだもん…暇だから散歩した」

 

「そう…ねぇ、白露ちゃん。バスケできる?」

 

「え…あぁ、訓練生時代に夕立によく付き合わせられてたし…」

 

 白露は訓練生時代に、休みの日は大体夕立のバスケに付き合わされていた。夕立は艦娘になる以前、出身地のクラブでバスケを習っていたらしい。村雨もバスケを習っていたようで、二人はよく休みの日はバスケをしていた。それに白露と時雨は付き合っていたことが多かったため、腕はかなり上達したのだ。大鳳からボールを受け取った白露は、スリーポイント付近から右手でシュートを放つ。ボールは綺麗な円を描きゴールに吸い込まれていった。

 

「わお、きれいなフォームね!」

 

「あんたもなかなかじゃん…」

 

「私も艦娘になる前はバスケをしていたからね。あ、そうだわ!ワンオンワンしない!」

 

「…構わないけど…」

 

 渋々大鳳のワンオンワンに付き合う白露。やはり経験者だけあって、スキルはなかなかのものだった。しかも、打ったシュートがことごとくリングに吸い込まれていく。フォームはお世辞にも綺麗とは言えない。左手で持ち顔の横にまでもってきているフォームだ。しかし、かなり練習していたのか外すことはなかった。白露も負けじと、ドリブルやシュートを駆使して得点を重ねていく。二人ともほとんど互角の戦いを見せ、数十分間ずっとデュースだったようだ…。そのため、ワンオンワンは途中で切り上げ、今度はスリーポイント対決をする。しかし、これも二人は楽々とシュートを決めていくため結局決着がつかなかったそうだ。

 

 しばらくすると、二人はベンチに腰掛け休んでいた。大鳳からドリンクをもらうと、白露は一気に飲み干す。夕立もかなり強かったが、大鳳はまた違った強さを持っていた。シュート力、ディフェンスはすごい。特にシュートはどんなに体制を崩していても必ず入れてきていた。空中のバランス感覚やシュートタッチはぴか一だ。

 

「にしても、あんた本当すごいな。誰かのプレイでもまねてるの?」

 

「ふふふ…気になります(^v^)ドヤっ」

 

 あ…しまったと白露は思った。もしも…もしも大鳳が夕立と同じように、興味のあるものはとことん覚えているタイプだったら、かなりややこしいと思った。一つのことで下手したら何時間も語れる口だとしたら…。そして、案の定、その不安は現実のものになる。

 

「では話しますね…………………す~~~~~~~~~~~~…………………

 

私の参考にしている選手は、アメリカプロリーグで100年以上前に活躍していたデレック・〇ィッシャーっていう選手なんですけど、その人オールスターにも選ばれていなければ、最優秀選手賞だとか、オールN〇Aチームにも選ばれていないような人なんですよ!でもですね!その人、ロールプレイヤーとして活躍して、一時期選手会会長も務めていたらしいんですよ!それで、その人の特筆すべき点はやっぱりシュート力で、どんな状況だろうが土壇場で逆転シュートを何本も決めている人なんですよ。俗にいうクラッチシューターっていう人なんですけど、その人の有名なクラッチシュートは0.4秒で逆転シュートを決めたっていうことがありまして、一点差で負けていたのにそのシュートが入って逆転勝ちしたんですよ!すごくないですか!!シュートフォームは綺麗とはいいがたかったですけど、むしろ独特だったんですけど、そのシュートで幾度もチームをすくってきたんです。絶対的エースがチームにいたんですけど、そのエースを見事支えてきたんですよ!しかも優勝5回ですよ5回!!!5回優勝することって、どんな一流選手でも難しいんですよ!あ、ちなみに最高優勝回数は11回らしいんですけど、でもそんなこと関係なしにすご…」

 

「ストップストップスト~~~~~~~~ップ!!!あんたの熱い思いはわかった!わかった、本当に分かったからΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)そこまでにして、日が暮れるわ!!!!」

 

 そう言って、大鳳は「あ(;・∀・)すみません、つい熱くなって…」と謝罪した。やはり、ここ大本営は変人が多いのだろうか…と思う白露だった…。

 

 




大鳳「私が話したバスケットボール選手は実際に〇BAで活躍していた選手です!作者はバスケットがとてもお好きなので…」
白露「最高11回はいったい誰なんだ?」
大鳳「ビ〇・ラッセルという人みたいですよ!興味がある人はぜひ調べてみてください!ではでは、またお会いしましょう!」


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46話 姉妹とのビデオ通話

こんばんわ!
バスケット対決をした後の話になります!楽しんでいただければ幸いです。


 大鳳の熱い思いを聞いた後、雑談をしていた白露と大鳳。しばらく話し込んでいると、白露の携帯に着信音が響いた。確認してみると、村雨からのメールだったようでこのように書かれていた。

 

《白露姉さん久しぶり!夕立が姉さんとビデオ通話をしたいって言っているんだけど、今日の夜時間空いてる?それと、今日白露型の姉妹艦達が着任してね、あと鹿島さんも!だから、姉妹達にも姉さんを紹介しようと思って!みんな訓練生時代の姉さんの噂聞いて、怖がっちゃってて(;・∀・)》

 

 というメールだった。まぁ夜は空いてるしおそらく大丈夫だろう。よっぽどのことがない限りは。爺さんにも一応言っておくか、あと時雨にも言っておかないと。そう思っていると、大鳳が気になったのか声をかけてきた。

 

「誰からだったの?」

 

「村雨から。今日の夜にでもビデオ通話できないかって…。夕立が私と話がってるみたいで。それと、今日姉妹艦達が着任したから、紹介もしたいって」

 

「あぁそうか、今日各鎮守府に訓練生が着任する予定だったわね。みんな無事に着任できたみたいね。まぁ、響ちゃん達が襲撃されたみたいだけど二人も無事みたいだし」

 

「あぁ、まぁとりあえず何もなくてよかったよ…。と、話してたらもうこんな時間か…」

 

 大鳳と話をしていたら、いつの間にか夕方の5時を回っていた。そろそろ時雨を起こさないと、晩御飯が食べれないかもしれない。そう思って、大鳳と別れ一度自室へと戻った。

 

 

 

 

 

 案の定、時雨はまだ畳の上で寝ていた。規則的な寝息を立てており、しばらく起きそうにない。しかし、もう夕方のため起こさないといけない。隣を確認したら、一星は起きており読書をしているようだった。晩御飯は6時過ぎからのため、それまでは暇をつぶしているようだ。白露は時雨の肩にそっと触れると、時雨を少し揺さぶって起こそうとした。

 

「時雨…起きろ時雨…もう夕方の5時だ」

 

「…う…う~ん……おはよう白露…もう晩御飯の時間…?」

 

「あと一時間したら、ご飯だよ…だから起きろ」

 

「…うん」

 

 そう言って、体を起こす時雨。まだ眠いのか、目をこすっている。そのあと、時雨は背伸びをしながらあくびをし、ストレッチをする。相当体は柔らかいようで、開脚をすると足が90°以上いっていた。ずっと武術をやっていたからだろうか、体の関節は柔らかい。白露も武術をやっているから体は柔らかい方だ。しなやかさだったらおそらく時雨に負けるが。ストレッチを終えると、だいぶ眠気が覚めたのかさっきよりも眠そうではなかった。それを確認すると白露はさっき村雨から夜にビデオ通話をすることも伝えた。

 

「そうか、夕立が…なんかみんなと話をするのも久しぶりな感じがするね!」

 

「たかだか、五日かそこらでしょうが…それだけで…」

 

「いいじゃないか、夕立も甘えん坊だし。それに姉妹達の紹介もあるんでしょ!楽しみだな!」

 

 時雨は、嬉しそうに話した。やはり、離れているから少し寂しい思いもあるのかもしれない。訓練生時代からずっと一緒だったから…。話をしていると、ノックする音が聞こえた。白露が「どうぞ~」と声をかけると、ドアから一星が出てきた。少し早いが食堂の方へ行かないかと提案をしてきたのだ。確かに30分前だったが少し早めに行った方が早くご飯を食べれそうだ。そう思って、白露達は食堂の方へ向かった。

 

 

 

 

 

―――食堂

 

 食堂に来ると案の定空いており、席をすぐ確保することができた。食事の方は準備中ではあるためまだ取りに行くことはできないが…。ただ、席に座り休んでいるものも多数いるため、今は水を飲みながら休んでいるとこだ。休んでいると、入り口付近から床まで届きそうな長いピンク色の髪をサイドテールにし、黒っぽい色が入っているセーラー服を着た女性が白露達に気づき近づいてきた。その女性は、訓練生時代に対潜訓練の教官としていろいろとお世話になった長良型軽巡洋艦4番艦の由良だった。由良はここの第3艦隊所属で改二の状態だ。

 

「久しぶり、白露ちゃん、時雨ちゃん!」

 

「由良さん!久しぶりです!今日は体調良いんですか?」

 

「えぇ、発作も起きてないし体調は万全よ。でも、今日は健診だったから出撃とかはしていないわ」

 

 由良は持病持ちで、てんかんと喘息を持っているらしい。そのため、定期的に医療施設に行って健診を受けているのだ。訓練校で教官をしていた時も体調をよく崩してたため、週に一回程度しか訓練を行えていなかった。だから、他の鎮守府から五十鈴が代わりに対潜訓練を行っていたのだ。

 

「由良さんもこれからご飯?」

 

「えぇ、これから席を探すとこ。まぁ、一緒に食べる人が今のとこいないから、一人で座ることになりそうだけど…」

 

「なら、私達のとこに来たら…。席空いてるし…」

 

「あら、いいの?」

 

「別にいいだろ、ねえ二人とも」

 

「僕は構わないよ!」

 

「わしも大丈夫じゃ」

 

「…じゃあ、お言葉に甘えて!」

 

 そう言って、由良は席に着いた。食事が可能になるまで、白露達は雑談に花を咲かせた。訓練生時代のことを、由良の時はどうだったのかなどを聞いた。由良が艦娘として大本営に配属されたのは4年前らしい。その時から、ぜんそくやてんかんの発作などがあったため最初の方は少し苦労したようだ。医療施設に定期的に通い、薬などを飲んでいることで発作などはそこまで起きなくなったようだが。そうこう話していると、食事の時間になったらしく、カウンター付近で食事が提供され始めてきた。席にある【食事中】の札を置き、全員食事をとりに行った。晩のメニューは、サンマ定食らしい。食事をとり席に着いた白露達。食事をとりながら、再び雑談を行った。

 

「にしても由良さん、訓練校の教官の任解かれたなら、少し暇なんじゃない?」

 

「そうね~。でも、そこまで暇ってわけではないかな。海防艦の子達がここに着任したわけだし…その子達にも座学や演習とかをやっていかなきゃならないわけだし…」

 

「確か、海防艦って最近になって表れた…」

 

「そう…今のところ平均年齢が10歳以下…その子達を戦場に出すわけにはいかないの。だから、今は訓練を中心にやっていく必要があるの」

 

「10歳以下って…僕達駆逐艦でも、平均年齢が16~18歳くらいなのに…」

 

 そう、海防艦の艦娘達はほぼ全員が10歳以下なのだ。大本営以外にも横須賀に海防艦が着任したのだが、現状戦場に出すわけにはいかないので元帥の提案で数年間は訓練中心にしていくらしい。毎年、世界各地で艦娘が誕生してきているが、20年以上前は日本しか艦娘がいなかったらしい。最初に誕生したのは現S級2位の鳳翔だ。その人を皮切りにどんどん艦娘が増えていったのだが、それでも数百人しか艦娘は世界にはいない。深海棲艦達は艦娘の倍以上はいるというのに…。

 

「そういえば、夕立ちゃん達は元気にしているの?」

 

「あとでビデオ通話するんだ…。風呂上がりのあとだから、9時くらいになるかな…」

 

「そうなんだ、白露ちゃん達と離れてたから、大喜びしながら話してくるんじゃない?」

 

「…確かにありそうだわ…」

 

「お姉ちゃぁぁん…って言って大騒ぎしそうだよ。僕も話すの楽しみだな!」

 

「なら、その時間はわしはそっちに行かない方がよさそうじゃな。自室で静かに過ごしているとしよう」

 

「ごめんよ爺さん…じゃあ、食べ終わったし行くか」

 

「そうね、今日はありがとうみんな。何かあったら、いつでも声をかけて!私は大体本館近くの寮にいるから!」

 

 そう言って、食堂を後にする由良。白露達はそれを見送った後、部屋へと戻っていった。その時、食堂の端の方で食事をとっていた星羅は三人の様子をじっと見つめていた。以前感じた違和感から一日たっているが、その違和感がいまだに消えないのだ。見たことがあるような感じがするのに、全く思い出せない。そんなもやもやをずっと抱えていた。

 

「…やっぱり直接話してみた方がよさそうね…でも、そんなタイミングあるかしら…」

 

 ため息を吐きながら食事をとる星羅。いつ、どのタイミングで三人と話そうか非常に迷っていた。おまけに横山に何回も勝負を挑まれるためそちらの対応もしないといけない。そう考えると、少しだけだるかったそうだ…。

 

 

 

 

 

 

 

―――数時間後、白露と時雨の部屋

 

 夜の9時過ぎ、白露と時雨は机の上にパソコンを置きビデオ通話を行おうとしていた。向こうの方から《姉妹全員集めるから少し待って》と連絡が来たため、待機しているのだ。それにしても、訓練生時代確かに素行が悪かったためそんなイメージを持たれても仕方ない。しかしだ…会う前なのに怖がりすぎはしないか…。いや、仕方ないのかもしれない。そんな感じで自問自答していると、着信が来た。

 

「来たね!」

 

「…そうだね…どんな反応するやら………………もしもし?」

 

『お姉ちゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!!!!!』

 

 ビデオ通話を開始したとたん、画面から夕立が大声で叫んできた。よほどうれしかったのか、画面に顔を近づけていた。そんな夕立を村雨は画面から引きはがしながら白露達に挨拶をする。その後ろには、春雨と見慣れない顔触れがいた。柱島に着任した姉妹艦達だ。かなり緊張気味なのか顔が引きつっており、気のせいか少しだけ震えているようだった。

 

『夕立がごめんね白露姉さん。この子、久しぶりに白露姉さんと話せるからうれしいみたいで』

 

「まぁなんとなくは予想ついてたけど…」

 

『だって…寂しかったし…』

 

「ごめんね夕立…寂しい思いをさせて、でもみんな元気そうでよかった!ところで、後ろにいる子達が同じ白露型の?」

 

『えぇ、そうなの!ほら、みんなも挨拶しましょ!大丈夫、怖くないから!』

 

 村雨が促し、みんなをカメラの前に立たせた。そして、白露達から見て左側から順に一人一人挨拶をしていった。まずは、青い髪を腰より下まで伸ばし、白いタンクトップのセーラー服を着ているのが特徴的な少女だった。

 

『さ…五月雨って言います!よろしくお願いします!』

 

 そう言って、頭を下げる五月雨。緊張しているのか、挨拶を終えた後少し泣きそうな表情をしていた。白露が「取って食いやしないって…」と話すと、少し安心したのか表情は少しだけ和らいだ。次に挨拶をしたのが白い髪を三つ編みにし、これまた腰よりも長くしている。服装は五月雨と同じような服を着ているのが特徴だ。

 

『白露型7番艦、改白露型としては1番艦の海風といいます!よろしくお願いします!』

 

 そして、次に前に出てきたのは腰まで伸びた緑色の髪をリボンで軽いポニーテールのようにした少女だ。服装は…先に挨拶した二人と同じであるため以下省略…。臆病な性格なのかかなりおどおどしており、挨拶をしようとしても声が少し震えてしまっている。海風が何とかなだめると、少しだけ落ち着き、さっきよりも震えが止まっていた。

 

『…え…えと…私、山風…そ…その…別に…構わなくても…うぅ』

 

 そう言って、海風の後ろに隠れてしまった。臆病半分、恥ずかしがりや半分なのかよくわからない子だ。次に出てきたのは、長い薄い赤色の髪を左右に結んでいるのが特徴の少女だ。

 

『改白露型の江風、えかぜじゃないよ…かわかぜだよ。覚えてくれよな!』

 

 ぱっと見の印象は強気の子だ。タイプ的には夕立が近いかもしれない。少し緊張気味だけど、しっかりと挨拶できているし大丈夫そうだ。最後に挨拶をしたのが、青い髪を肩より下の方まで伸ばし、左右に結んでいるのが特徴の少女だった。

 

『…涼風だよ…え…え~と…演習とかでは、あたいに任せてくれれば…百人力ぢゃから!!』

 

(…噛んだ…)

 

 緊張していたのか噛んでしまった涼風。恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしうずくまってしまった。一人一人の挨拶が終わった後、白露は少しだけ笑った。全員が相当緊張していたのを見て、自分のイメージがどれだけ怖い印象なのかがわかった気がした。五月雨と山風なんて少し泣きそうだったし。まぁ、訓練生の時はあれてたから仕方ないか…と思った。そんな様子を見て、時雨も少しだけ笑っていた。

 

「まったく…私のこと怖がりすぎだろ…さっきも言ったろ。とって食いやしないって…もっと肩の力抜け…」

 

「そうそう!普段こんな感じでも、白露意外と優しいから!」

 

『それでも怖いイメージが強かったんだよ(です)!!!』

 

『ぽい~…何度言ってもこれっぽい…』

 

『あはは…実際春雨達も最初会ったときは少し怖かったですからね…』

 

「……………ぷっ!……くふふ!」

 

 五月雨達の反応と夕立と春雨の言ったことに、白露は笑ってしまった。そんな様子を見て、五月雨達もそうだが、今までずっと関わってきた村雨たちも驚いた。白露がこんなに笑っているところを見たのは初めてだったから。訓練生時代は、ずっと目つきが悪かったしほとんど悪態をついていたことが多かった。しかし、なんだかんだ言っていつも面倒を見てくれてたし、ちゃんと姉妹のことを思ってくれてたから白露のことを信頼するようになってきたわけだが。やはり、ここまで変わってきたのは祖父の存在や母親の存在があるのだろうか…。それはわからない。わからないが、少しずつ白露は変わってきているようだ。

 

『白露姉さんが…笑ってる…』

 

「あ、悪い…あんたらの様子見てたら…ついな…!……いひひ!」

 

「戦闘以外で笑ってるの、僕も久しぶりに見た…」

 

『え!?そんなに久しぶりなのΣ(・□・;)』

 

「うん、最後に笑ったの、たぶんお母さんと逃げる前あたりだから…10年以上前かな?」

 

『えぇ…』

 

『あ…そういえば、質問なんだけど』

 

 時雨の言ったことに困惑している村雨をよそに、江風が不意に質問してきた。全員の視線が江風に集まったとき、江風はこんなことを聞いてきた。

 

『その、どうしてみんな白露の姉貴のことを尊敬というか…信頼したんだ?最初あったとき怖かったって…』

 

 江風の言ったことに考え込む村雨達。白露達も考えているが、心当たりが多すぎて確信が得られない。その中で、じゃあと手を上げたのは夕立だった。確かに、夕立はこの中で一番白露のことを尊敬している。夕立は一番好きな姉は実妹である村雨だが、尊敬している姉は白露だ。なんで、白露のことを尊敬するようになったのか、理由を話し始めた。

 

 

 

 あれは、訓練生だったころ。2年目の訓練になった直後で実戦演習として、近海の出撃を行ったときだった。その時のメンバーは白露と時雨、村雨、夕立、春雨、旗艦には陸奥がいたと思う。近海の演習だったため、一戸艦隊を撃滅した後にすぐ帰る予定だったそうだ。しかし、elite級の深海棲艦、しかも重巡、空母含む艦隊に襲われてしまったのだ。その時、自分の力を過信した夕立が先行してしまったらしい。その時、陸奥が大声で止めたそうだ。夕立はそれを無視した結果、被弾し大破。一歩間違えれば死んでしまうかもしれなかった時に、白露がすんでのところで助けてくれたらしい。ただし、思いきり殴られたそうだ。頬が腫れてしまうぐらい、それだけ思いきり殴られた。夕立はしばらく泣き崩れ、村雨達に抱えられ、訓練校に戻った後に検査を受け入渠。その時に、落ち込んでいる夕立を白露が慰めてくれたらしい。それ以来夕立は、この人みたいになりたいと強く思うようになったそうだ。

 

 

 

『懐かしいな…そんなことがあったわね…私もそんなことがあったから、白露姉さんのイメージが少し変わったのよね…』

 

 そう言って、昔を懐かしむ村雨。あの時は夕立が死んでしまうのではないかとひやひやしたが、白露が助けてくれたおかげで夕立は今ここにいる。さすがに、殴ったときはびっくりはしたが、それ以降白露に少しずつ歩み寄っていったのだ。確かに、言動は少し粗暴だがちゃんと自分達のことを考えてくれていた。姉妹として見てくれていたのだ。だから、ずっと信頼している。今までも、これからも。

 

『じゃあ、春雨の姉貴は?』

 

『えっと…私はですね…』

 

 

 

 

 

 春雨の場合、夕立のことが起きてから少し後のことだ。春雨は戦うことが得意ではなかったため、いつも出撃していた時は足を引っ張ってしまっていた。何度も被弾し、最悪大破寸前までいったことがある。出撃があるときは、いつもへこんでいた。埠頭の端で座り、項垂れながらずっと泣いていた時がある。ちょうど、その日は雨が降っていただろうか。ずぶぬれになっても、埠頭で項垂れていた。自分の価値が見いだせなかったから…。そんなときだった。不意に自分に雨が当たらなくなり、ふと見上げると、そこには傘を持った白露が立っていたのだ。相変わらず目つきは少し悪かったが、白露は春雨にこんな言葉をかけた。

 

『何やってんだよ…風邪ひくぞ…』

 

『…私…どうすればいいんですか?……戦いたくないです。戦いは苦手なんです…』

 

『はぁ…なんだよそんな理由で毎日ここにいたのか?だったら、あんたはあまり前に出るな。戦いが苦手だったら、後方に徹してろ………ほら、とっとと中入ってシャワーでも浴びとけ』

 

 そう言って、傘を渡し白露はそそくさと寮に戻っていったらしい。しかし、白露の言葉に吹っ切れたのか、その後の春雨は後方に徹し周囲のサポートを行うようになった。そうすると、被弾率は激減したそうだ。だから、あの時白露に話しかけてもらえたのは感謝しているし、この人とならずっとついて行ってもいいと考えたそうだ。

 

 

 

 

 

 昔のことを話し、嬉しそうにうつむいている春雨。白露も時雨も『なつかしいなぁ、そんなことあったっけ?』と懐かしんでいる。意外だったのか、五月雨達はみんな驚いていた。何せ噂話の白露のイメージが強すぎたためだ。しかし、今の白露や夕立たちの話を聞く限り、白露はあまり怖くなないのだ……………………と思いたかった。今はビデオ通話しかできないため、実際に接したらよく分からないから…。

 

『なるほどねえ。それで、白露の姉貴のこと尊敬するようになったんだ』

 

「あぁ、それ以来私にちょくちょく話しかけてくることが多くなってさ…夕立に関しては、ほとんどあたしに勝負挑んてたわけだし…」

 

『そのお礼に、夕立はバスケを教えていたっぽい!白露お姉ちゃんとやったらすごい楽しかった!』

 

「あぁ…そういえば、今日大鳳さんとバスケしてさ…結構強かったよ…」

 

『本当!?今度大鳳さんとワンオンワンしたいっぽい!!』

 

 やっぱり食いついてくるよな…と白露は思った。同じバスケ好きの夕立のことだ。きっと気が合うはずだ。多分、一人の選手だけで何時間も話せる口なんじゃないかと思うほど…。いや、間違いなく語れる…。断言できる。大鳳と夕立は同類だと…。

 

『あの、白露姉さん…少し相談が…』

 

 唐突に、村雨が神妙な面持ちで話してきた。何事かと白露と時雨が問い詰める。すると、村雨が少し目をそらし、『えっと、その…』と何度も口ごもっている。そして、意を決したようにカメラに向かって…。

 

『私をリア充にしてくれないかしらああああああああああああああああああああ(゚д゚)!』

 

「………………へ?」

 

「……………( ゚Д゚)ぽか~ん」

 

『……………Σ(・□・;)』

 

 相当力が入っているようで、手を合わせながら体を震わせている村雨。そんな村雨に白露は素っ頓狂な声を上げ、時雨は目を丸くし、夕立達は驚いている。

 

「と…とりあえず…いや、相手はわかってるからいいけどさ…ね、白露?…」

 

「………あぁ、わかった村雨…ていうか、そんな心配いらないんじゃないか?両想いだろあんたら…」

 

『え!?そうなの!?そうだったの(;゚Д゚)』

 

「いやむしろ気づいていなかったのかあんたは!!」

 

『まったくΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)』

 

 白露は、ずっこけそうになった。あからさまじゃん…着任初日のあの様子見てたら絶対そうじゃん。あのあと二人っきりになったじゃんと思った。

 

「…提督はアプローチかけてるのかな?」

 

「どうだか…あの人、恋愛事疎そうだからな…」

 

『そういえば…最近やけに一緒にご飯でもって誘われているような…』

 

「ちゃっかりアプローチうけてるじゃねぇか(# ゚Д゚)」

 

「鈍感にもほどがあるよ村雨!!」

 

『村雨お姉ちゃん……』

 

『えっと、応援してます…はい…』

 

『え…なに、その反応…みんなどうして憐みの眼で私を見るの…ねえ!!ちょっと!?』

 

 そんなやり取りをして、最後は少し雑談をして終わった。しかし、村雨の話のインパクトが強すぎた。最後は、村雨の恋話で終わってしまった。あぁ、本当にびっくりした。そんなこんなで、白露達はベッドに入り横になった。今日もいろいろと疲れた。二人は横になった後、すぐに眠ってしまったそうだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――村雨が恋話をしてた頃………

 

「………はっくしょん!…はっくしょん!…………ふむ………はくしょん!」

 

 自室で本を読んでいた京。風邪は引いていないはずなのだが、急にくしゃみが出てきてしまった。誰かが噂でもしているのだろうか?そんなことを考えていた。それとは関係なしに、京は最近悩んでいた…。何に悩んでいるのか、それは村雨と同じ理由だ。京は最近、少しずつ村雨にアプローチをしている。一緒にご飯を食べたりとか、散歩でもどうかと色々としている。しかし、所詮は鎮守府の中でだ。本格的にアプローチをするなら、鎮守府外に出る必要がありそうだ。

 

「…やれやれ…いつ村雨さんにこの気持ちを伝えましょうか…初めて会ったあの時から…ずっと思っていたこの思い…………ダメだ…タイミングがわかりませんねぇ…」

 

 そう思って、項垂れる京。今度仁に相談でもしてみよう…。そう思いながら就寝した。

 

 

 

 

 

 この二人は、後に距離が縮まるのだが…その話は…またいずれ…。

 

 

 

 

 

 



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47話 組手

こんばんわ!
ここから文字数が一万を超えます…。書きたいことを書いていったらこんな文字数になってしまいました…。
今回も楽しんでいただければ幸いです。


 昔、僕はおとなしい性格でよくお母さんと焔に甘えてた。今もそうだけど、今よりもっとすごかったと思う。今考えれば、艦時代の記憶があったせいかもしれないけど…。駆逐艦時雨は、佐世保の時雨と称されるほどの武功艦なんだけど、戦場では艦が沈んでいくのをずっと見てきた…。西村艦隊の時も。最後は魚雷を食らってしまったせいで沈んでしまうんだけど、艦時代の時も僕は相当壮絶な人生だったんだな…。今も、昔も、本当に…。

 

 

 

 

 

「…うん…」

 

いつもと違い、自然と目を覚ました時雨。窓を見ると、日が差し込んでいた。時計を見ると朝5時前だ。もう少し寝ようと思ったが、寝れそうにないためベッドから起き上がる。洗面所に行き、顔を洗い歯を磨くとジャージに着替えた。そして、引き出しにしまってあったSのイニシャルが入ったネックレスを首にかけた。白露を見るとまだ寝ていた。申し訳ないと思いつつ、白露を揺さぶって起こそうとした。どうしても付き合ってほしいことがあったから。

 

「白露…起きて、ちょっと付き合ってほしいことがあって」

 

「……うん…今何時だよ…」

 

「朝5時」

 

「……随分珍しいな…あんたが早起きなんて…それにジャージ?」

 

「とりあえず、準備できたら外に出てくれないかな?僕は外で待ってるから」

 

 そう言って、部屋から出た時雨。それを見送ったあと、白露はベッドから起き上がりジャージに着替え始める。部屋を出る前に、時雨の首にネックレスがあったのを思い出し、白露も以前買ったネックレスを首につけた。そして、洗面所に行き顔を洗い歯を磨いたあと外に出た。

 

 

 

 外に出ると、日差しが強く晴天の空だった。雲ひとつない。6月の中旬に差し掛かっているからか朝でも暑かった。ふと、日陰のところを見ると時雨はストレッチをしており、開脚や前屈運動をしていた。

 

「一体どうしたのさ時雨?」

 

「…なんかさ、いつまでも泣いてばかりじゃダメだと思って…僕も艦娘だし、強くならなきゃと思って…」

 

 そう言って、おもむろに立ち上がる時雨。何かを決心したような、そんな表情をしていた。時雨の真意がわかったのか、白露は体を少し動かし始める。ジャンプや前屈などをし体を温める。一体いつぶりだろう、時雨とやりあうのは。

 

「…久しぶりにやるか、組手!」

 

「…そうだね………手加減は無しだよ…焔!」

 

「……あぁ、行くぞ雫!」

 

 お互い真名で呼び合った後に、白露が走り出したのを皮切りに時雨も走り出す。まずは2人とも顔面に向けて右ストレートを繰り出す。2人の力は拮抗してるのか、お互いに同じくらいの距離後方に飛ぶ。その後、2人は再び近づき至近距離で殴り合う。最初は拮抗してたものの、徐々に時雨が押され始め防戦一方になっていく。防御に徹してる時雨に白露は、右ストレートをかます。しかし、時雨は左肘でそれを受け止めると白露の頬向けてカウンターを食らわせる。白露はそれをギリギリでかわすが、攻撃を止めてしまった。時雨はすかさず、白露に攻撃を繰り出す。その前に、白露は左ストレートをするが時雨は攻撃をやめ、それを避ける。そして、白露の左手を掴み投げ技をする。白露は両足を地面につけ、そのまま時雨に投げ技をする。しかし、時雨はしなやかな動きで地面に着地すると回し蹴りをして応戦。白露はバク転で避け距離をとった。

 

「…鈍ってないようで安心した」

 

「…久しぶりに戦ったけど、自分でもびっくり。相変わらず、焔はすごいよ」

 

「あんたも、充分にすごいよ…なんならあんたも接近戦で戦ったら?」

 

「…う〜ん………考えておく。まぁ、僕の艤装トンファーみたいな感じだし、夕張さんに頼もうかな…」

 

 少し考える時雨。たしかに時雨の艤装はトンファー式の艤装でそれを左右に持ち砲撃を行うのだ。武術を使えるのであれば、接近戦に使用するのもアリかもしれない。まぁ、それはおいおい考えればいい。今は、組手に集中だ。

 

「うし、じゃあやるか!」

 

「うん、やろうか!」

 

 そう言って、2人は組手を再開。しかし、なかなか決着がつかなかったそうだ…。

 

 

 

 

 

 決着がつかず、日陰で休んでいた2人。久しぶりに組手をしたが、やはりお互いの実力は拮抗しているようだ。白露が霊力を解放していれば、おそらく結果は違っただろうが。まぁ、腕が鈍っていないためそこは安心なのだが。

 

「…ねぇ、焔」

 

「ん~?」

 

「…お母さん…いつ僕たちのこと思い出してくれるかな?」

 

「…さあな~…時間が解決してくれることを祈るしかないんじゃない…」

 

「…やっぱりそうなる?」

 

「…うん、記憶喪失だからね…今日かもしれないし、まだしばらくかかるかもしれない…」

 

『………………はぁ……』

 

 本当に、月夜がいつ自分たちのことを思い出してくれるのかわからない。だから、自分達もどう接したらいいのかわからなかった。再会して以降、話す機会がほとんどないことにも助けられているが、きっとちゃんと話さなければならないときがくる。その時に備えておかないといけない。そんなことを考えながら、寝そべった二人。しかし、寝そべった瞬間二人は驚いて飛び上がってしまった。なぜなら、寝そべった視線の先に月夜の顔があったからだ。二人が少し戸惑いながら月夜を見ていると、悪戯が成功した子供のように笑っていた。

 

「ぷっ…ふふふふふ!」

 

「か…からかわないでくれよ…」

 

「あなた達が勝手に驚いたんでしょ…でもさっきの顔!…ふふふふ!!」

 

「笑わないでください!本当にびっくりしたんですよおか……月夜さん」

 

 危うく時雨が【お母さん】と呼びそうになったが、ぐっとこらえた。今はまだ話すわけにはいかない。今はまだ…。そんな二人の気持ちを知らずに、月夜はまだ笑っていた。よほど、二人の顔が面白かったのだろう。ツボにはまってしまったようだ。二人は、何を話せばいいのかわからないため、とりあえず月夜が笑い終わるのを待つことにした。

 

 数分後、ようやく笑いが収まった。その後、二人の間に入って座り少し話がしたいといってきた。本当は一星とも話がしたかったらしいが、たまたま早く起き、散歩をしていた時に二人の組手を目撃した。それから、終わるのを待っていたそうだ。

 

「それにしても、二人は強いのね!私もあなた達と一戦やってみたいわ!」

 

「私は別に構いやしないけど…なぁ?」

 

「…うん、僕も別に構わないけど」

 

「あらうれしい!今度機会があればやりましょう。それで、あなた達の武術はなんていう流派?」

 

「えっと、臥龍合気道柔術」

 

「…臥龍…臥龍…」

 

 白露が言ったことに、復唱しながら考え込む月夜。二人はその様子をしばらく見守っていた。一星から直々に教えを乞うていたのだ。臥龍合気道柔術のことを聞けば何かを思い出すかもしれない。しかし、数分立ってもうなってばかりだったので、しびれを切らした白露が質問した。聞き覚えはないのか、何か覚えていることは無いか。

 

「…どこかで聞いたことがあるような…ないような…」

 

「…そう…か…」

 

「でも…なぜかしら…あなた達の動きを見てると…なんか懐かしいような気がして…私は自分がどの流派の武術なのかわからないけど…あなた達の動きは私に似てる気がするわ」

 

 それを聞いて、胸が締め付けられそうになった。月夜の元々の基盤は臥龍合気道柔術だ。それにアレンジを加えて、独自に編み出したのが天翔流合気道柔術。白露達も我流ではあるが、その動きを真似て武術を会得した。月夜が見たことがあるのは無理もない。月夜の言ったことにうつむく二人。やはり記憶はそう簡単には戻ってくれないらしい。そうこうしていると、月夜がはっとした表情になり時計を確認していた。

 

「そういえば…今何時かしら!?」

 

「…えっと、6時前…」

 

「いけない!?朝食の仕込みをしなくちゃ!!今日当番なのよ!えっと、話せてよかったわ!また機会があったら話しましょう!」

 

『………はぁ~い…』

 

 そう言って、そそくさと食堂の方に向かっていった。その様子を見送った二人は、再び盛大にため息を吐いた。本当にいつ自分達のことを思い出してくれるのやら…。まぁ、考えていても仕方ないため、二人は一旦部屋に戻ることにした…。

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に戻ってくる前に、施設に備わっていたシャワー室に寄り汗を流した二人。シャワーを浴び終えた後に、二人は一星が起きているのを確認する。案の定、一星はすでに起きており一人のんびり過ごしていたらしい。二人も特にやることがないため、一星の部屋に入り先ほどあったことを話し始めた。組手をし終えた後に、月夜に話しかけられたこと。二人の動きに見覚えがあることを。静かに聞いていた一星は、複雑な表情をした後におもむろに話し始めた。

 

「そうか、あの子はそんなことを…やはり、心のどこかでは儂らのことを覚えているのかもしれん…」

 

「…早く思い出してほしいんだけど…こればかりは時間が解決してくれるしかないよな…」

 

「あぁ、だが臥龍合気道柔術のことや、二人の動きを見た感じ、記憶を思い出すのはそう遠くないかもしれん…。まぁ、わからないが…」

 

『……はぁ~~~……』

 

 そう言って、ため息を吐く三人。しばらく、沈黙が続いた。全員が俯き少し考え事をしていた。その時、ふと時雨がこんなことをつぶやいた。

 

「…そういえばさ…10年前、お母さんと僕達はどうやって明智家から逃げてきたんだろう?」

 

「どうしたのさ急に?」

 

「いや、単純に気になって…。お母さんは、僕達が艦娘だってことを知った後、すぐに逃げたんだよね。でも、その時追手がいたわけでしょ?その前に、お父さんから殺されかけたんなら、どうやって僕達を…?」

 

「あんたそんなことも忘れたの?あれはたしか……………………………………あれ…?なんでだったっけ……?」

 

 時雨の言ったことに白露が反応するが、白露も昔のことはほとんど覚えていないようだ。あの時、自分達はどうやって逃げてきたんだろう。その時の記憶が曖昧すぎる…。三人だけで逃げたのか?それとも、誰かが手引きして…?考えても考えても、なかなか思い出せない。数分間、ずっとうなっていた二人を見かねて、一星は呆れながらも口を開いた。

 

「まぁ、いつか思い出すときが来るじゃろう…お前達も小さかったし、覚えていないのも無理はない」

 

『はぁ~。仕方ないか…』

 

(…確かに、この子達はどうやって明智家から逃げたんじゃ…あの明智家のことじゃ…すぐにでもこの子達を殺そうとするはず。やはり、誰かが手引きしたのか…そうなると、明智家にいた誰かが…………知り合いに頼んで調べてもらうか。元帥に少し相談してみるか)

 

 二人の様子を見て、一星も少し考えた。やはり、明智家のことについて調べてもらう必要がある。あの時三人がどうやって逃げたのかも…。そう思っていると、ちょうど朝食の時間になったため、三人は食堂に向かった。

 

 

 

 

 

 食堂に来た三人は、食事をもらった後適当な席に座った。月夜は、食堂の奥にいたのかカウンターで会うことはなかった。ちなみに今日の食事は、サンマ定食。食事をしていると、唐突に「やっほ~!」と声をかけられた。声のした方を見ると、そこには夕張が立っていた。夕張もちょうど食事の時間のようだ。

 

「相席いいかしら!」

 

 白露は、二人の顔色をうかがう。二人も相席は構わないようで、夕張に空いてる席に座るように促した。夕張は喜んでお礼をいい、その後勢いよくご飯をかき込んでいった。何かうれしいことでもあったのか、表情は笑顔だ。気になったのか、一星が話しかける。

 

「何かうれしいことでも?」

 

「えぇ!さっき元帥に演習のお願いがあったみたいでね。呉鎮守府の人達から是非って!それで、私が蒼龍さん用に作った艤装を早くも試せるわけ!日時は三日後よ!」

 

「呉って、金剛達の…」

 

 事件のことを知ってからか、白露は少し暗い表情をした。あんな悲惨な事件があったのに、金剛があんな風に明るく振舞っていたことに心が痛んだ。姉妹艦である榛名が、目の前で殺されかけ、そして仲間まで失ったというのに。そんな白露をみて時雨も心配そうな顔をした。正直、時雨もあの事件のことを聞いて金剛達とどういう風に接すればいいのかわからなくなったから。そんな二人の様子を察してか、夕張は二人に声をかけた。

 

「いつも通りに接すればいいんじゃない?」

 

「…え?」

 

「そんな同情の眼で見られても、金剛さん達が困るだけよ…だったらいつも通りに接しなさいな。その方が、あの人達のためになるわ…」

 

 そう言って、食事を進める夕張。確かに、いつも通りに接した方が金剛達のためだ。今回の演習では、誰が来るのかはわからないがみんな元気にしているのだろうか。ここ数か月あっていなかったから、少し気になってしまった。まぁ、あの金剛のことだ。きっと元気にしているだろう。会って早々「Hey白露~!!」とか言いそうだ。そんなことを考えながら、白露は呆れ半分に言った。

 

「わかった。善処するよ…」

 

「…うん、それでいいわ!」

 

「そうだお嬢さん、少しいいかな?」

 

「何かしら?」

 

「あとで、元帥に話したいことがあるのじゃが、元帥はこの後おられますかな?」

 

「えぇ、いるわよ。何なら、執務室まで案内してあげる!」

 

 そう言うと、夕張は食事を終えた。10分もかからなかったような気がする。夕張は先に来ていた白露達よりも早かった。夕張の食事の速さに唖然としていた三人。三人の様子に気が付いたのか、夕張が話し出す。

 

「私、工廠でいろいろやっていたらご飯を食べるの早くなっちゃって…」

 

『は…はぁ…』

 

 そう言って、いつものペースで食べ始める三人。食べ終わったのは、夕張が食べ終わって10分後だった。正直言ってそれが普通だと思う。そう…普通なら。そんなこんなで食べ終わると、一星は夕張に連れられ執務室の方へ。白露と時雨は暇であるため、鎮守府内の散歩に向かった。

 

 

 

 

 

 執務室に来た一星と夕張。夕張はノックを三回すると中から「どうぞ」と声があった。「失礼します」といい二人は執務室に入る。中には、勘兵衛と大淀がおり何やら執務をしているようだった。一星がいるのを確認した勘兵衛は、何やら大事な話があることを察したのか神妙な面持ちになった。

 

「夕張、案内ありがとう。戻っていいぞ」

 

「はい!では、ごゆっくり」

 

 そう言って、夕張は退室した。勘兵衛はすぐそこにあるソファーに腰かけるように促した。一星が座るのと同時に、大淀が粗茶を出した。勘兵衛が腰かけたのと同時に一星が話し始めた。

 

「元帥殿、少し相談がありましてな…」

 

「…なんでしょう?」

 

「儂個人で、調べ物をするものどうかと思いまして…。実は明智家のことについて調べようと思いましてな。知り合いに頼むつもりでいます」

 

「明智家のことですかな?それなら、服部少将に私から…」

 

「確かに、あなたに頼むのが一番いいのかもしれないが儂個人も気になることができたもので…じゃから、よろしいですかな元帥殿、個人で調べ物をしても?」

 

 一星の真剣な表情を見て、勘兵衛はそれを快諾した。ただ、勘兵衛は少し気になったのか、一体誰にこのことを依頼するのか聞いてみることにした。

 

「して、一星殿。いったい誰に調査を?」

 

「あぁ、探偵事務所の娘々(にゃんにゃん)というとこの所長をやっている飛馬勝四郎(ひゅうまかつしろう)殿に…」

 

「ぶっ!げほげほ!!…勝四郎!あの勝四郎か!あやつ今探偵をやっていたのか!?」

 

「おや元帥、知り合いですかな?」

 

「知り合いも何も、かつての旧友です。格闘技大会でチームを組んでいたものの一人です。それにしても、そうか…今は探偵を…」

 

「…以前は何を?」

 

「以前は陸軍で働いておったのですが、3年前の事件で身内に不信感を持ってしまったらしいのです。それ以来、何も連絡がなく音信不通の状態で…」

 

「そうだったのですか…そんなことが」

 

「じゃが、元気そうで何よりです。今度儂からも連絡しましょう」

 

 勝四郎のことを聞いて、嬉しそうにする勘兵衛。陸軍に所属する勘兵衛の旧友は宮部九蔵(みやべきゅうぞう)、飛馬勝四郎、明石七郎次(あかししちろうじ)の三人。勝四郎は事件があった数日後に陸軍を退職しその後の足取りがつかめなかったが、探偵として働いているのなら安心だ。彼も服部と同じように情報収集能力には長けていた。彼の協力が得られるのならなんと心強いことか。それはさておいて、どうして【娘々】という名前の事務所になったのだろうか?そう思い一星に尋ねた。

 

「そういえば、なぜ勝四郎は事務所を【娘々】という名前に…」

 

「あぁ、それはですな…」

 

 聞いた話によると、助手を務めている二人の少女にこう言われたらしい…。

 

『私達が猫好きですし、それにこんな美少女がいるんですから名前もかわいくないと!!』

 

『拒否権はありません所長………決定事項……です…』

 

 とのこと…。それを聞いた勘兵衛は盛大に高笑いした。

 

「はははははははは!!!そうかそうか、やはりあやつも変わらんな!はははは!!…昔から押しに弱いタイプじゃったからな」

 

「ふふふ、嬉しそうですな元帥」

 

「えぇ、旧友が変わらず元気に過ごしているのなら何も言うまい…」

 

 そうして、しばらく旧友の話でもちきりになったようだ。さすがに、執務のことがあるので少しした後大淀に促され一星は退室。勘兵衛達は仕事にとりかかったそうだ…。

 

 

 

 

 

 

 

―――呉鎮守府

 

「…………は~~~~~」

 

 盛大にため息を吐いているのは、航空母艦の飛龍。なぜここまでため息を吐いているのかというと、それは昨日の夜に時間がさかのぼる。

 

 あの後、金剛から大事な話があるといわれ夜に蒼龍とともに金剛の部屋を訪れた。そこには、金剛型の4姉妹とテーブルの上に紅茶などが用意してあった。かなり込み入った話になりそうなのは覚悟していたがあんなにも、長話になるとは思っていなかったのだ…。

 

『それで、何?話って…』

 

『まぁまぁ、まずは座ってください二人とも』

 

 金剛に促され、席に着く二人。席に座ると、霧島に紅茶を渡された。金剛が作る紅茶はかなりおいしい。前の鎮守府でもよく作ってもらっていたっけ…。こんな状況じゃなかったらゆっくり飲めたのに…と飛龍は思った。

 

『さて…では単刀直入に聞きますよ二人とも…』

 

『…何?』

 

『…………なんで戻ってきたの?』

 

『それは前も話したと思うけど、私と飛龍はもう一度あなた達の役に立ちたくて』

 

『もう一度聞きますよ二人とも…………なんで…なんで戻ってきたの!』

 

 金剛はいつになく真剣な表情だ。口調もいつものようなえせ英語ではない。語気も強くなり、表情は怒っているようだった。そんな金剛の様子を見て飛龍はため息を吐いた。やはり腹の探り合いでは、金剛に敵う者はいない。隠し事をするのはできそうにない…。黙っている飛龍を見て、金剛はおもむろに話し始めた。

 

『私の考えを話しましょうか…。あなた達のことです。無理に元帥に頼んでここに配属させてもらったのでしょう。では、あなた達がどうして…なぜそこまでしてここに着任する必要があったのか…S級がここにいないから、それも理由の一つではあるでしょう…明智家のことがあって白露は鎮守府にいられない。柱島にS級の加賀が着任したのは仕方ない。岩川鎮守府の鬼怒は刑務所、青葉は鎮守府から離れられない。なら、舞鶴から矢矧か雷を着任させれば、それぞれの鎮守府の戦力は整う。鳳翔さんの家に住んでいれば、その辺の情報は届くはず…。ですが…それでもここに着任しようとしたのは、もっと別の理由。これは、私の推測でしかありませんが、誰かから何か連絡を受けた。ここ呉に何か危険が及ぶということを…』

 

『連絡?いったい誰から…?』

 

 金剛の言ったことに、比叡が質問する。金剛は、話すかどうか迷い少し時間を置いた後に意を決したように発言した。

 

『…連絡をしてきたのはおそらく……失踪した北上です』

 

 金剛の言ったことに比叡、榛名、霧島が衝撃を受ける。三年間も音信不通だったのだ。なぜ、三年も音信不通だった北上から連絡が来たのか。考えられるとしたら、事件がらみのことだ。金剛の推理を聞いた後、深く深呼吸をして飛龍が話し始めた。

 

『…本当に、腹の探り合いじゃ…あんたには勝てないわな……そうだよ、北上から前に手紙が届いたの…』

 

『…内容は?』

 

『伊織達が危ないかもしれない…どうにかしてここに着任してくれないかって…そんで、北上はあいつらを見つけるまでは帰らないって…』

 

 飛龍の言ったことに、金剛達は複雑な表情を浮かべた。北上が無事なのはうれしい。しかし、戻ってきてくれないのは悲しかった。伊織達は北上の帰りを待っているのだ。ここにいる皆、北上に早く会いたかった。

 

『…………まだ、あの時のことを引きずっているのでしょうか?あれは北上さんのせいではないのに…』

 

『何もできなかった比叡達にも非があります…本当に…何もできなかった…』

 

『…比叡お姉さま…』

 

 榛名も比叡も北上のことを責めようとしない。むしろ、北上を責めるものなどここにはいない。悪いのは反乱を起こした憲兵達だ。憲兵の反乱さえなければ、ここにいる全員が傷つくことはなかった。だからこそ、憲兵達が憎かった。あの幸せな日常が一瞬にして壊されたのだから。

 

『……あなた達がここに戻ってきた理由はわかりました。このことは、テイトクには伏せておきます。このことを知れば、テイトクは血眼になって、北上を探しそうだから』

 

『…………助かる、金剛』

 

『とりあえず、これで話は終わりです。それから、近々大本営と演習を行う予定です。蒼龍、あなたの艤装の調整をしたいみたいだしちょうどいいでしょう。今のあなた達がどれほどやれるのか、見せてもらいます』

 

 

 

 

 

 

 

 そして、今に至る。北上の件に関しては金剛が黙ってくれるからいいとして、問題は大本営との演習だ。全盛期と比べ霊力が半分以下に落ちている。正直、以前のように戦えるとは思えなかった。丸三年も前線から離れていたのだ。演習までに訓練はするが、本当にどこまで動けるやら…。そんなことを思っていると、ベッドで休んでいる蒼龍が話しかけてきた。

 

「…飛龍、どうしたの?」

 

「あぁ…いや、演習の時どこまで動けるかなって…」

 

「…確かにねぇ。私なんて、艤装の装着から始まるし…」

 

「おまけに…大本営には大鳳がいるわけでしょ…あの子のことだから、厳しい言葉受けそうだなって…」

 

「…………確かにね…」

 

 そう言って、二人してため息を吐いた。日時は三日後。それまでにどこまで感覚を取り戻せるか、不安で仕方なかった…。

 

 

 

 

 

 

 

―――大本営

 

 場所は再び戻り、大本営。暇で暇で仕方なく適当にぶらついていた白露と時雨。出撃はできないし、演習は可能だがやる相手がいないし、もうどうしていいかわからない状態だった。そしたらばと、バスケコートとサッカーコートがある場所へ向かってみるも誰もいない。もはや、暇つぶしがない状態だった。

 

「……どうしたものか…」

 

「……うん、どうしようね…」

 

「工廠にでも行ってみる?」

 

「昨日行ったから、いいんじゃない?」

 

「う~ん…」

 

 あれこれ考えているうちに医療施設の前を通りかかった二人。その時、医療施設の入り口から緑色の髪に右目に眼帯をつけている女性が出てきた。年齢的に白露達より上だろうか?幼さが残っている顔立ちだが、どこか落ち着いている。服装は病院で着るような簡易的な服装だった。白露達も見たことがあったためその女性を凝視すると、前に資料室でみた大湊鎮守府所属だった雷巡の木曽だ。木曽は白露達に気づくとこちらに近づいてきた。

 

「お前ら、白露と時雨だよな。姉ちゃん達から話は聞いてるよ」

 

「…あ、えっと、確かにそうだけど…あんた、体調の方は大丈夫なの…?」

 

「あぁ、こないだ治療を終えてさ。日常生活も問題なく過ごせるようになってきたから、もうすぐ鎮守府に復帰するんだ」

 

 そう言って、笑顔を見せる木曽。ここ三年ずっと医療施設にいたため外に出る機会がほとんどなかった。ビデオ通話で時折呉鎮守府のメンバーと話はしていたものの、万全な状態ではなかったため長く話すことはなかった。しかし、最近状態が良くなったためこうして外を出歩くことも増えたのだ。

 

「そういえば、鎮守府にはいつ復帰を?」

 

「三日後だ。ちょうどその時にここで演習があるみたいだし、呉鎮守府のみんなと一緒に帰るんだ」

 

 時雨の質問に答えた木曽。確かに三日後に演習があるため、一緒に帰るのはちょうどいいだろう。多分呉鎮守府のメンバーも木曽の復帰を喜ぶに違いない。でも、きっと過去に起きた事件のせいで、埋まらない溝があるのも事実だ。あの日々が戻るわけではない。現実を突きつけられたら、木曽は耐えることができるのか。二人は事件のことを知っているため木曽になんて声をかければいいのかわからなかった。そんな二人を察してか、木曽は明るい表情で話しかける。

 

「そんな顔をしないでくれ。俺は大丈夫だ!まぁ、ほとんど中にいたことが多かったから少し散歩でもしてくるよ!じゃあな!」

 

 手を振りながら、去っていく木曽。白露達もそれに応じ呆然と立ち尽くした。この調子で、本当に金剛達が来たときに、いつも通りに接することができるのか心配だった。

 

「本当に、いつも通りに接することができるのかな…」

 

「なるべく明るくいくか…余計な心配かけるのも嫌だしな…」

 

「なんの話をしているの」ひょこ

 

『ひゃああああああああああああああああああああΣ(゚Д゚)』

 

 時雨と白露が話し込んでいると、どこからともなく月夜が現れた。急な出現に白露と時雨は腰を抜かしそうになる。驚いている二人を見て、これまた月夜は悪戯が成功した子供のように笑っていた。

 

「あははは!やっぱりあなたたち面白いわね!」

 

「だから急に出てきて驚かすなっての(# ゚Д゚)見てみろ!妹の雫なんて、どこぞの明日のジ〇―みたいになってるじゃんか!」

 

「……チ~ン……(゜_゜)」体全身真っ白…

 

「…あ…あらあら…ごめんなさい…」

 

 時雨の惨状に、申し訳なさそうにする月夜。朝食を終え、時間ができたため散歩していたら、医療施設付近にいる二人を発見。普通に話しかけるのもあれなので、静かに近づいてきてこうして驚かせてみたのだ。そしたら、予想以上の反応をしたのだが刺激が強すぎたようだ…。

 

「……まったく…用があるなら、普通に話しかけてきてよ…」

 

「……そうね、今度から普通に話しかけるわ…二人が驚かないぎりぎりの範囲で!(……ふふふ…とかいいつつ、やっぱり驚かせてあげようかしら(*´ω`*)。反応みてたら面白いし)まぁ、これからも仲良くしましょ!」

 

 白露は話を聞いていると、なぜだが下心が見えた感じがした…。具体的にどんな感じかというと…【ひひひひひひひ(゜-゜)】という感じのオーラが月夜の背後に見えたような感じがしたのだ。本当にこの人はつかみどころがない…。ふと、白露はこの感じに既視感を覚えた。まだ幼かったころ、月夜はいつもこうやっていたような感じがしたから。

 

『呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~ん!!』

 

『ひゃ~~~~~~~~~~~~~~~( ゚Д゚)』

 

『…あはははは!二人の反応面白いわね!今後もやっていこうかしら!』

 

『やめてよ!びっくりしちゃうじゃん!見てよ!雫なんて、びっくりしすぎて体全体真っ白じゃん!』

 

 ふとこんな光景を思い出した。思い出した途端、白露は笑いをこらえられなかった。白露の様子を見て、少し回復した時雨が話しかけた。びっくりしすぎて真っ白になっていたが、白露の様子を見て少しだけ復活したようだ。

 

「どうしたのさ焔?」

 

「…いや、なんか懐かしいような気がして…いひひひ!」

 

 盛大に笑っている白露。時雨もそんな様子を見て、少しだけ笑った。そんな二人の様子を見ていた月夜は、おもむろに白露の頭を撫でた。白露も少し驚いてしまい、びくっと体を震わせた。しばらくなすがまま撫でられていた白露だったが、どうしたのか聞いてみた。すると、思いもよらない言葉を聞くことになった。

 

「……また…また昔みたいに()()って言ってくれないのかしら?」

 

「えっ!?」

 

「……()()()()()はない…だったっけ?」

 

「っ!?」

 

 その言葉に、二人は固まってしまった。確かに、今月夜が言った言葉は昔二人がよく言っていた口癖だったからだ。10年前に別れてからはほとんど使うことはなかったが。そんな二人の様子を見て、月夜は我に返ったような様子だった。おそらく無意識だったのだろう。少し焦り気味だ。

 

「ご、ごめんなさい!つい!二人を見ていると、なんかこの言葉がいきなり頭に浮かんで…」

 

 最後まで言い終える前に、白露と時雨に抱き着かれた。二人は、体を震わせており今にも泣きそうだった。月夜は困惑してしまったが、二人をあやし落ち着かせようとした。しかし、なかなか離れてくれずしばらくこの状態が続いた。

 

 

 

 

 

 

 

「…は~、今日の訓練ぶち疲れたわ~…こういう日は、ご飯をたんと食べんと気が済まんわ…」

 

「久しぶりに第3艦隊のメンバーとやったけど…やっぱり手ごわいね~。いやむしろ、ここの人達みんな強いか~」

 

「浦風と谷風もここに配属されて3~4か月経つけど、動き良くなってきてるぞ…なぁ日向?」

 

「天龍の言う通り、お前達もなかなかよくなってきている。三日後の演習でも、いつも通りにやっていれば大丈夫だろう」

 

 浦風と谷風の言葉に、天龍と日向は太鼓判を押す。現時点での霊力は浦風1万9千、谷風1万7千だ。なかなか強い分類に入るのだが、やはり大本営の古株達と比べたらかなり差はある。訓練についていけるだけでもすごい分類だ。ちなみに、第1艦隊のメンバーは三日後に呉鎮守府の主力と演習を行うことになっている。もちろん、第2、第3艦隊のメンバーも演習を行う予定だ。だからこうして他の艦隊とも訓練を行っているのだ。そんな中、大鳳はかなり険しい表情をしており顎に手を当て何か考え事をしているようだった。そんな大鳳に旗艦である武蔵は話しかけた。

 

「どうしたんだ大鳳?」

 

「…いえ…なんでも…」

 

「…二航戦の二人か?」

 

「…………」

 

 こういう時の大鳳は、あまり話しかけない方がいいのだ。質問に答えなかったり、険しい表情をしているときは相当機嫌が悪い証拠だ。それに、二航戦が復帰すると聞いた時、真っ先に食ってかかったのは大鳳だった。それには、大鳳なりの理由があるのだが…。武蔵は大鳳の様子を見て、これ以上この話に触れない方がよさそうだとため息を吐きながら周囲を見渡した。その時、医療施設付近にいた白露達を見つけ足を止めた。何やら、少し様子が変だったから。

 

「…武蔵さん、どうしたんじゃ?」

 

「あ、あぁ、あそこに…」

 

「…あっれ~…白露と時雨だ…あと…あれは月夜さん?どうしたんだろ?」

 

 足を止め、白露達を凝視する第1艦隊。遠目からなので、わかりにくかったが、月夜が二人を抱き、何やら声をかけているようだった。二人は体を震わせ泣いているように見えた。その様子を見ていた浦風が、舌打ちをしながら向かおうとしていた。

 

「…あんの女ぁ…あの二人に何したんじゃあ…」

 

「まった浦風!」

 

「何するんじゃ谷風!」

 

「なんか事情がありそうだよ。谷風達が割って入ってもややこしくなるだけだって…」

 

「そうだぜ浦風。俺達が行ってもややこしくなるだけだ。行こうぜ…なぁ、武蔵さん」

 

「…あぁ、事情は今度聞いてみればいいだろう…みんな行くぞ」

 

 浦風は少し納得していないようだったが、武蔵の声掛けに渋々歩き出す。これはややこしいことになりそうだと思いながら武蔵は歩き出す。大鳳のこともそうだが、浦風も少しフォローしておく必要がありそうだ。部屋に戻ったら、二人にどういうフォローをしようか考えようと思う武蔵だった。

 

 

 

 

 

 

 

 月夜に撫でられて、少し落ち着いた白露と時雨。月夜は終始おどおどしていたが、二人が落ち着いたのを見ると謝罪してきた。

 

「本当にごめんなさい…私もどうしてあんなこと…」

 

「……いや、いいよ…何か思い出したことでも?」

 

「え…えぇ、断片的にだけど…女の子二人が、私に話しかけてきている様子が…」

 

「……そうか……まぁ、いつでも話しかけてきていいからさ。私達はとりあえず、部屋に戻るよ…それじゃあ!」

 

「…じゃあ、またね…月夜さん!」

 

 そう言って、二人は去っていった。その二人の様子を見て、月夜は立ち尽くした。さっきなぜあんなことを口走ってしまったのだろう…。本当によくわからなかった。やはり、自分はあの二人を知っている。それに、二人の祖父と名乗った男性もだ。思い出しそうで、思い出せない。ただ、断片的にだが思い出してきた。顔は思い出せないが、自分を強く育ててくれた人と、自分を慕っていた子供達のことを…。

 

『ほれ〇〇!儂に攻撃をしないと、防戦一方になってしまうぞ!このご時世、何が起こるかわからん。護身術を得ていたら、少しは安心じゃ!!』

 

 

 

 

 

『○○○○!私、かけっこでも、喧嘩でも、なんでも一番になるからね!』

 

『もう…喧嘩はダメだよ…○○○○に憧れるのはいいけど…』

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 まただ、また何かを思い出したような…。でも、思い出そうとしたら少し頭痛がした。昼まで少し時間があるし部屋に戻って休もう…。そう思い、月夜は寮へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――一星の部屋にて

 

「…お久しぶりですな。勝四郎殿…」

 

『おや、一星殿しばらく…どうしたのですかな?何か依頼でも?』

 

「えぇ、早急に調べてもらいたいことが…」

 

 そう言って、依頼をする一星。勝四郎と呼ばれた男性は一星の話を聞いた後、二つ返事で依頼を快諾した。

 

『…なるほど、それでしたら私にお任せを…』

 

「助かります。あぁ、それと元帥殿が会いたがっていましたよ。会ってやられてはいかがかな?」

 

『……えぇ、私の気持ちが整理され次第…になりますかな…まぁ、考えておきます』

 

 そう言って、電話を切る勝四郎。電話を切った後、一星はおもむろに懐にある写真を取り出した。昔撮った娘との写真だ。今は、本当に祈るしかなかった。自分達を思い出してくれることを。

 

 



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48話 組手とビデオ通話と演習と

こんばんわ!今回はまた組手やビデオ通話回になります!
それではどうぞ!


 あの後、いったん部屋に戻ってきた白露と時雨。さっきは本当にびっくりした。昔使っていた口癖を言われるなんて…。本人も無意識だったようだが、もしかしたら記憶を思い出すのもそう遠くはないかもしれない。月夜は少し困惑していたが、仕方ないだろう…。

 

「…母さん、私達と接していたらもしかしたら記憶戻るかな?」

 

「今日の感じ見てたら、そう遠くはないと思いたいけど…でも、お母さん少し困惑気味だったし…」

 

 それもそうか、と白露は思った。本人も困惑しているのなら時間をかけて待つしかない。だから、今は待とう。思い出してくれる日まで。話していると、ドアにノックがあり一星が部屋に入ってきた。何やら話があるようで表情は少し神妙だ。

 

「おじいちゃん、どうしたの?」

 

「少し話があってな。時間大丈夫か?」

 

「大丈夫だよ」

 

「わかった。話というのは、明智家についてわしの知り合いに調べてもらおうと思ってな。おぬしらが10年前どうやって逃げてきたのか。そして、今の明智家がどういう状況なのかな。一応、元帥の方でも調べてくれるようじゃがな」

 

 適当な椅子に腰かけると一星は話し始める。白露達も気になっていたことだ。調べてもらうのはありがたい。それにしても、本当にこの人はパイプが太すぎる。いったいこの日本にどれほど知り合いがいるのか…。海軍には大将の斎藤、陸軍にも知り合いがいるのだ。一星の話によるとすぐにでも調べてくれるそうなのでおそらく三日後には真相を知れるだろう。

 

「…さてと、昼まで時間があるな…何をして暇をつぶそうか…」

 

「爺さん、その前にいい?」

 

「うん…?どうかしたか?」

 

「…実は…」

 

 白露は先ほどの経緯を話した。月夜が唐突に、二人の昔の口癖のことを話したこと。本人は困惑していたが、昔の記憶を少しずつ思い出しつつあることを。一星はその話を聞いて、少し嬉しそうにしていた。このまま月夜と接していけば、記憶がすぐにでも戻るかもしれないから。

 

「そうか、記憶が…。このまま接していればあ記憶が戻ってくれるかもしれないな」

 

「でも、本人も少し困惑していたみたいだし…私みたいに、昔のこと思い出したときに気分でも悪くなられたら…」

 

「確かにのう…。こればかりは、焦らずに行こうか…」

 

 そう言って、椅子にもたれかかる一星。白露も時雨もため息を吐いて少し項垂れた。それにしても…何もなくて暇だ…。唐突に思ったが、本当に暇すぎる…。どうやって時間をつぶそうか考えていた三人。すると、ドアの方から急にノックの音が聞こえた。時雨が「どうぞ~」と話すと入ってきたのは浦風と天龍だった。浦風は一星の方を見て少しにらんだ後、白露のほうに向きなおる。何か話があるのだろうか、表情は少し真剣だ。浦風の様子を見た一星は「わしは少し席を外すかの…」といい、部屋を後にした。一星が退室した後浦風は話し始める。

 

「白露、午後空いておるか?」

 

「見ての通り、暇すぎて仕方ないんだ…」

 

「なら道場に付き合ってくれんかの?よかったら、時雨もどうじゃ?」

 

「え、僕も?」

 

「少し気分転換じゃ!どうじゃ?」

 

 浦風の提案に白露と時雨は顔を合わせ少し考えた。確かに、何もなさ過ぎて退屈だ。浦風たちと組手をして、少し気分転換をするのもいいかもしれない。久しぶりに浦風と組手をして、ストレス発散でもしよう。そうして、二人は浦風の提案に賛成した。そして、なぜ天龍がいるのかも聞いてみた。

 

「俺もお前らと組手っつうか手合わせしたくてよ。俺も混ざっていいか?まぁ、俺の場合木刀使うことになるけどよ」

 

「おいおい、私ら素手なのに、あんたは武器使うのか?」

 

「まぁまぁいいから。ちょっとレクチャーしてやる。前に言ったろ、お前の動きは少し無駄が多いってよ…」

 

「…はぁ…わかったよ…じゃあ、昼飯食った後に道場行けばいいか?」

 

「ええよ!一時半くらいにどうじゃ?」

 

「じゃあ、それで」

 

 約束をすると、浦風と天龍は退室した。それにしても、レクチャーね…。刀装備していたから何となく予想はついたが、やはり天龍は刀を使ってくるか…。剣士と戦うのは矢矧と戦って以来か…。天龍はいったいどれほどの実力を持っているのか…。大本営第1艦隊所属だしかなり実力を持っていそうだ。

 

「…さてと、昼までどうする?」

 

「………とりあえず寝る」

 

「また寝るのか(*_*;)」

 

「午後にまた組手するからね…それまでに、体力の回復を…………ZZZ」

 

「寝るのはやΣ(・□・;)」

 

 そうして、畳の上で寝る時雨。白露もやることがないので、畳の上で少し横になることにした。

 

 

 

 

 

 

 

―――一般寮の廊下にて

 

 白露達と接した後、頭痛を覚えたため部屋に戻ろうとする月夜。さっきよりは楽になっているが、それでも少し痛んだ。確か部屋に前にもらった頭痛薬があったはずだ。それを飲んで、昼まで休もう。そう思ったとき、前方から白髪で左目が髪で少し隠れている少女が歩いてきた。陽炎型の浜風だ。これから事務仕事なのだろうか。手には資料を抱えている。浜風は月夜に気づくと、軽く会釈をした。しかし、月夜の顔色が優れていなかったので心配そうに話しかけてきた。

 

「あの、月夜さん。大丈夫ですか?顔色が優れないようですが…」

 

「えぇ、少し頭痛がして。部屋に戻って、薬を飲んで休むわ」

 

「でしたら午後も少し休まれた方が…。食堂の方には、私から話しておきますが」

 

「大丈夫よ!ベッドで休んでたら、よくなるわ!それじゃあ!」

 

「あ、月夜さん!」

 

 月夜は手を振りながら、部屋のほうまで歩いて行った。本当に大丈夫だろうかと浜風は思いながら資料をもって寮を出た。本館のほうまで向かっている途中、ちょうど浦風がこちらに来るのがわかった。浦風はこちらに気づくと手を振りながら近づいてきた。何か用でもあるのだろうか?

 

「お疲れ浜風!白露の母さんここにおるのか?」

 

「え?えぇ、先ほど部屋に戻られましたけど…少し頭痛がするみたいで。ところで浦風…月夜さんに何か用なんですか?」

 

「決まっとる。白露達泣かせたみたいじゃから……………………しばきに来た(#^ω^)」

 

「ちょっと待って!!それはダメ!!」

 

「なぜじゃ!親友泣かせたんじゃからこれくらい当然じゃろ!」

 

「駄目ったらだめです!!いくら浦風でも、さすがにそれは許しません!第一、白露さん達のお母さんだったらなおさらです!」

 

「…ッ」

 

 浜風の言ったことに、浦風は少し困惑した様子でいた。浦風も白露達を思ってのことなのだが、こんなことをすれば白露達は怒るだろう。ただでさえ、白露達も困惑しているのだ。自分が介入したら、余計にややこしくなってしまうかもしれない。

 

「…わかった、そこまで言うなら何もせん…すまんのう…それじゃ…」

 

「……ねぇ、浦風」

 

「なんじゃ?」

 

「…浦風は、人間嫌いなのよね…」

 

「おぬしも前から知っておるじゃろ…何をいまさら…」

 

「……本当は信じたいんじゃないの?人間を」

 

「……うちは、ずっと人間のことを信用せんよ…」

 

 そう言って、浦風は本館の方へと歩いて行った。浜風は、そんな浦風の様子を後ろから見守っていた。()()()のことがあって、浦風は人間を恨んでしまった。それは今も変わらないと思う。だけど、艦娘と友好的に接しているのはなぜなのか。艦娘も人間だ。たとえ艤装をつけても、能力があったとしても普通の人間とほぼ同じだ。浦風が普通の人間だけを嫌っているのは何か理由があるはずなのだ。浦風を見送った後に浜風は歩き出す本館の方へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は昼時になり、食堂で昼食を食べる白露達。さっきまで寝ていたからか、少し眠そうだ。そのため、時雨はコーヒーを飲んでいる。白露は、あまりコーヒーを飲まないためお茶を飲んでいる。一星も同様だ。昼食をとりに行ったとき、ちょうど月夜と出くわしたのだが、軽く挨拶をする程度で終わってしまった。まぁ、他にも人がいるわけだから長話をするわけにはいかない。話を戻して、昼食を終えた後白露と時雨は道場の方へと向かった。時間は一時過ぎ。まだ早かったが、少し時間があった方がゆっくりできる。それに準備とかもしたいからちょうどいいだろう。そして、道場の方へ来るとすでに天龍と浦風がおり二人も何やら準備をしていた。全員同じことを考えていたようだ。ちなみに全員ジャージなど動きやすい恰好をしている。天龍に関してはタンクトップだ。

 

「おう!来たな二人とも!」

 

「あんたら早いな…」

 

「俺達も、少し早めに来て準備してたんだ。どうする?普通に一時半でいいか?」

 

「私らもとよりそのつもり。少し準備するから待っててよ」

 

 天龍の提案に、約束通りの時間でいいという白露。柔軟や軽い運動などをし体を温める。天龍も浦風も体を動かしていたからか、少しだけ額に汗をかいていた。時間は一時半になり、道場の真ん中の方へ集まった。最初の組み合わせは天龍と白露。時雨と浦風だ。

 

「うし、んじゃ各々で組手やってるか。浦風達はそっち半分な!」

 

「ええよ天龍さん!気を付けるんじゃよ!」

 

「負けねえよ、たぶん…」

 

「たぶんって…あんた前勝てるって言ってたじゃん…」

 

「不意打ちでもくらわない限り、勝てると思うがな…」

 

「意味わかんねえよ…」

 

「まぁ、話はこれくらいにして…始めるか!」

 

 そう言って、天龍は木刀を構えた。白露もそれに習い構え始める。そして、天龍は真っ先に木刀を白露に振り下ろした。白露はそれを右によけ、天龍の手をつかみ投げ技を繰り出そうとした。しかし、天龍は腕をつかまれる前に木刀を横に振る。それをよけ後方に下がった後、天龍に突っ込み回し蹴りをする白露。しかし、あっさり避けられ下から突きを繰り出される。ぎりぎりのところでそれをよけ、天龍に向け殴りかかる。しかし、木刀でそれを軽くいなされていく。吹雪の時もそうだったが、攻撃がほとんど交わされる。いや、受け流されているといった方が正しいかもしれない。受け流すポイントがほとんど変わらない。白露の腕の同じ場所に木刀を当てている。いったいどんな鍛え方そすれば、ここまでピンポイントで攻撃を受け流せるのだろうか。

 

(吹雪もそうだったけど、こいつもやり連れえな!攻撃が全部受け流される!)

 

「おいおい…霊力開放しなきゃそんなもんかぁ…じゃあまず、お前の余計な動きを指摘してやろうか?」

 

 そう言って、白露の拳を受け流した後、木刀を腕に当てる天龍。そのまま、天龍は語り始めた。

 

「お前の場合、力任せに相手を殴ろうとするから、その分攻撃が大降りになっちゃうんだよ。腕もそうだが、体全体が少し力んでるな…。もっと力抜け、もっと脱力するんだ。見本見せてやる」

 

 天龍は白露から少し距離をとると、木刀を下げ無防備の状態になる。深く深呼吸をした後、体全体を少しだけ揺らした。体全体の力が抜けていっているのか、動きが滑らかに見えた。

 

(…脱力…脱力することで…技の速さも…威力も…上がる!)

 

 そして、一気に白露に詰め寄り居合斬りをする天龍。白露はそれを両手で防いだ。しかし、白露は数メートルも吹き飛ばされていた。何があったのかわからなかった白露だが、少し時間がたち状況を理解した。防御をした両手がかなりヒリヒリしていた。天龍の居合は相当な威力だったのだろう。真剣だったら、おそらく死んでいたかもしれない。

 

「な、力だけじゃねえんだよ。こういう戦いわな。力こそすべてとか訳の分からないこと抜かしてる奴はいるが、剣術だろうが、格闘だろうが、棒術だろうか、力を入れすぎるのはよくねえんだ。それさえ無くせば、お前は近距離戦では最強クラスになれる。だから、それを意識して戦ってみな!それで、俺に勝って見せろ!!」

 

 木刀を構え直す天龍。まるで、いつでも攻撃してきても構わないというような構えだった。白露も天龍の助言を聞き構え直す。そして、天龍に言われたことを意識し体の力をどんどん抜いていった。確かに、型はできていても力任せにやっていることが多かった。しかし、天龍の助言を得ることで何かが変わったかもしれない。それほど白露の体は余計な力が入っていなかった。

 

(脱力…力を抜け……集中…集中、集中!)

 

 一瞬……本当に一瞬の出来事のように思えた。動きを追うことはできていた。しかし、予想以上に白露は早かった。その早さで一瞬のうちに天龍の懐に詰め寄った。

 

(こいつ!いつの間に!)

 

 白露は、天龍の腹部に殴りかかる。天龍はそれを木刀で防ぐと、木刀の柄の部分で白露めがけて殴る。それをよけられるが、すかさず木刀を振り下ろす。しかし、それもよけられ一度距離をとられる。まさか、今の助言ひとつでここまで動きがよくなるなんて思わなかった。こんなことになるなら、助言をするんじゃなかったと思った。白露は、どんどん動きがよくなっていく。もう止めようがなかった。

 

(くっそ!こんなことになるなら、助言するんじゃなかったぜ!!)

 

 そして、白露は下から天龍の顎めがけて殴りかかろうとする。天龍はそれをよけようと後方に下がろうとした。しかし、天龍の腹部に衝撃が走った。白露は左腕で天龍の腹部に殴りかかったのだ。右手で、天龍の顎にめがけた攻撃はフェイント。本命はこっちだったのだ。さらに、白露は右足で天龍の顔めがけて回し蹴りを行う。しかし、天龍はそれを読み防御の姿勢をとった。

 

(顔面目掛けての回し蹴り……はフェイントで、本命は左足の関節部!……止めた!!)

 

 攻撃を防いだと確信する天龍。天龍の読み通り、攻撃は天龍の足まで来ていた。しかし、天龍の予想を超えることが起こった。白露は、天龍の足に攻撃が当たる寸前、地面に足をつけ攻撃しなかった。予想外の出来事に天龍は困惑するが、それを好機とみて白露に突きを放つ。しかし、天龍の顔面に白露は左ストレートを放つ。威力はそれほど高くないものの、天龍をよろけさせるには十分だった。

 

「あんたの助言で、少しわかったよ。戦い方の基本ってやつ!それと、もう一つ分かった!あんたの弱点!!」

 

 そう言って、白露は天龍に殴りかかる。天龍は、それを先ほどと同じように受け流していくが白露がフェイントを入れたとたん天龍はそれを防ごうとした。白露はそれを見逃さず、足に蹴りを入れ体制を崩させる。天龍が足を崩したのと同時に、腹部めがけて肘内をくらわせた。

 

「あんたの弱点は…その良すぎる目だ!多分、左目が死角になるから洞察力を鍛えたんだと思うけど、それが仇になったんだ!そのせいで、フェイントの動きまで目が追うようになっちまった。あんたは確かに強い!あたしが今までやった中で、あんたはかなりやり辛い。攻撃をピンポイントで受け流すんだからな!けど、弱点さえわかれば簡単だ!それに、剣士としてだったら、矢矧のほうが断然強いわ!!」

 

 そして、そのまま天龍は起き上がることだできずにそのままうずくまってしまう。何度も起き上がろうとするが、攻撃が効いているのか起き上がることができなかった。

 

「……くそ~、やっぱり強いなお前…助言するんじゃなかったぜ…それと…俺と矢矧を比較しない方がいいぞ…矢矧は、かなり強い」

 

「…え?前やったとき、引き分けだったし…」

 

「引き分け?お前、矢矧の本当の力見たのか?あいつ、霊力6万だぞ」

 

「……は!?あれで6万だ!?どういうことだよ!?」

 

「……あぁ、たぶんあいつ霊力開放していなかったんだろうなぁ…まぁ、仕方ないか…あいつ、味方が近くにいたら全力出せないらしいからな…」

 

「…あんたは、矢矧の全力見たことあるの?」

 

「いや、ねえよ…噂で聞いた程度だ。まぁ、その噂も信憑性に欠けるがな。異能力者なのか、それとも普通の奴なのか、それすらもわからねえよ…」

 

 そう言って、起き上がる天龍。ダメージが大きいのか、まだ立つことはできなかった。それにしても、矢矧がまさか全力で戦っていなかったとは思ってなかった。霊力が約3万も離れていたなんて。しかし、矢矧が全力を出していなかったとなるともしかしたら舞鶴の人達は知っているかもしれない。今度雷にでも聞いてみるかと白露は思った。

 

「そういえば、浦風達の方はどうなってるかね…?」

 

「さぁ、対人格闘じゃ浦風中々だからな…案外いいとこ行ってるんじゃ…」

 

 そう言って、時雨と浦風がいる方を見る二人。すると、すでに決着がついており浦風は地面に顔を伏せていた。時雨も肩で息をしていたが、深く深呼吸をし背伸びをする。少しだけ余裕があるのか、顔は余裕だった。

 

 

 

 

 

―――白露達が組手をしていた同時刻

 

 時雨と浦風は向かい合い、お互いの手と手が届く範囲のところにいた。浦風と組手をするのは初めてだったが、浦風は対人格闘能力では同期の中でトップクラスだったのだ。それに、大本営第1艦隊の所属だ。それだけでも、手ごわいことが想像できる。

 

「おぬしとやるのは、初めてじゃな。今日はよろしゅうな!」

 

「うん、よろしく浦風!じゃあ、さっそくやる?」

 

「あぁ、手加減はせんよ時雨。じゃから……全力で来んかい!!」

 

「言われなくても、全力でやるよ!」

 

「おらあああ!」

 

「せやああああ!」

 

 浦風の雄たけびを皮切りに、時雨も声を出しお互いに頭突きをする。頭突きの威力はお互いに拮抗しているようで、二人は少しだけ後方に下がる。数歩下がった直後、浦風は時雨に詰め寄り右ストレートをかます。時雨は、それをよけ投げ技を行おうとする。しかし、浦風はそれを払いのけすぐさま時雨に攻撃を行う。スタイル的に、ボクシングのラッシュに近かった。攻撃を与える隙を与えない早い動きで、時雨に攻撃する隙を与えない。そのため、時雨もよけるのに精いっぱいだった。攻撃をよけ続け壁際まで来ようとしたとき、時雨は体を反転させ壁際まで走る。

 

「こら!逃げるのか!」

 

「まさか…こうするんだ!」

 

「ちょ!?嘘やろ!?」

 

 壁際まで来た時雨は、壁歩きをし浦風の後方をとったのだ。あまりの突然の出来事に、浦風は目を見開き驚く。それほどまでにしなやかな動きだった。動きに見惚れてしまうほどすごかったのだ。

 

「次は僕のターンだね!」

 

「っ!?」

 

 時雨は、壁際まで追い込んだ浦風を攻撃する。浦風は、顔を守りながらそれをよけ続ける。攻撃をよけ続けられるので、時雨は浦風の肩をつかみ動けないようにしてから腹部めがけて、膝蹴りを行う。浦風はそれをよけきれずまともに食らってしまう。一瞬の隙をつき、時雨は投げ技を行い浦風を投げ飛ばした。浦風は、地面を転がった後すぐさま立ち上がり時雨の方を向く。時雨はすでに追撃を行おうとしており、浦風の目の前まで来ていた。危うく膝蹴りを顔面に食らいそうになったが、それをぎりぎりでよけ時雨の腹部にパンチを入れる。時雨がよろけるのを確認すると、浦風は顔面に左ストレートを放つ。しかし、時雨はよけ後ろ向きから飛び上がり、浦風の顔面に蹴りを入れた。よほど、威力があったのか浦風は地面に突っ伏してしまう。だが、浦風は気合で起き上がりタックルをし時雨を壁際まで押し付けようとした。壁際まで来た寸前、時雨は左足で壁を蹴りその勢いで浦風の顔面に膝蹴りを行った。数m吹き飛んだ浦風は、そのまま起き上がることができずに地面に突っ伏してしまった。

 

「僕の勝ちでいいかな、浦風?」

 

「…あぁ、あんたの勝ちじゃ…強いのう…おぬし…」

 

「…どうだろう…よくわからないや…」

 

「……そうやって白露とおぬし自身比較するんか?」

 

「…え?」

 

「おぬしが白露慕ってるんは知ってる。けど、近くにいすぎたからこそなのかもな、おぬしは白露と自分を比較してしまったんじゃよ。自分は白露に敵わない、いや敵うはずがない。そうやって、逃げてきたんじゃないの?あんたは、十分強い。きっと、いつか誰もかなわんほど強くなるのかもな。おぬしも、白露も…」

 

 そう言って、あおむけになる浦風。その顔は、どこか満足そうだった。時雨の本心が見えたうれしさなのか、それはわからないが。そして、何やら小言で何か話したような気がした。本当に小さな声だったので、よく聞き取れなかったが。

 

「…………………うちも…」

 

「え?」

 

「いや、なんでもない。さてと、向こうも終わってるらしいの。天龍さん、終わったか?連戦できそうか?」

 

「馬鹿言うなよお前…また今度にしようぜ…さすがに連戦はきついって…幸い、演習まで何度か時間あるし、その時でいいんじゃないか?」

 

「確かにうちも…時雨の一撃が効いて…」

 

「あう…えっと、ごめん…」

 

「謝ること無い、勝負じゃろ!さてと、じゃあ戻って……寝る!」

 

「俺も寝る!」

 

「寝るのかよ!」

 

「こちとら、朝から演習ばっかなんじゃ!じゃから寝る!寝ないとやってられん!」

 

「俺も、自主練で疲れてるんだ!だから寝るぜ!」

 

「……じゃあ僕も寝る」

 

「あんたらそろいもそろって、一日何時間寝れば気が済むんだよ(;゚Д゚)」

 

 白露の怒号が響き渡るが、三人の決心は固いらしくそそくさと道場を後にした。しばらく、突っ立っていた白露だったが、三人を見送った後…

 

「……資料室にでも行って、時間つぶそう…」

 

 そう思って、道場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その日の夜、呉鎮守府のとある一室にて。

 

「なんか、みんなと話すの久しぶりのような気がするけど、気のせいかな蒼龍…?」

 

「そうね~、なんか久しぶりのような気がする。ここに着任して、一週間もたってないような気がするけど…あれ、一週間たったっけ?」

 

「わからない…まぁそんなことは置いといて、やろうか」

 

 そう言って、飛龍はパソコンをスカ〇プ。スカ〇プのフレンド欄には、名前があり全員で八人。まぁ、鳳翔をはじめ赤城や加賀、翔鶴、瑞鶴達がいるわけだが、全員が艦娘としての名前ではなく真名で登録してあった。ちなみに、こういう時の通話は基本的に全員が真名で呼び合っている。飛龍の真名は陽菜(ひな)、蒼龍は(あおい)だ。スカ〇プを開き、ビデオ通話が開始されると真っ先に出たのは加賀だった。

 

「久しぶりね二人とも。調子はどうかしら?」

 

「いい感じだよ!私も蒼も見ての通り。元気にしているから大丈夫だよ、(れい)姉さん」

 

 加賀の真名は玲。鳳翔に拾われたときに名前が無かったため、その時につけてもらった名前らしい。赤城もその時に一緒に名前を付けてもらったとか。次に通話に出たのは、赤城と瑞鶴の二人だった。

 

「みなさん、お久しぶりです!元気にしてたかしら。陽菜も蒼も変わりないようで安心したわ」

 

「玲姉!陽菜姉も蒼姉も久しぶり!!」

 

(あかり)姉さん、萃香(すいか)!久しぶり~!」

 

 そう言って、蒼龍、もとい蒼はカメラに向かって笑顔で答えた。灯は赤城、萃香は瑞鶴の真名だ。そして、次に二人同時に通話に参加した。一人は翔鶴、もう一人は母親である鳳翔だった。

 

「遅くなりました~!みんな久しぶりです!」

 

「みんな元気そうで安心したわ。変わりないようね」

 

「母さんこそ…。それに立羽(たては)も!」

 

 立羽は翔鶴の真名だ。ちなみに鳳翔の真名は椿(つばき)。まぁ、あんまり呼ばれることはないらしいが…。全員が集まったわけではないが、ひとまず話を始めることにした。全員の近況報告といったところか。最初は玲からだった。

 

「こっちは全員個々の能力は高そうだわ。それぞれ役割に徹しているという感じかしら。でも、私から見て心配な子は二人。訓練生の子でも一人いたわ。今後、どうなるかはわからないわね…」

 

「あら、玲さんがいるのは柱島だったわね。心配な子達って?」

 

「重巡の摩耶さん、駆逐艦の夕立さんと山風さんね。その三人よ」

 

 灯の質問に玲はそう答えた。摩耶はここ最近、何やら近接戦闘を覚えようとしているらしいが、型がなっていないこともあるし、実戦では全く使用することは無さそうなので正直言って時間の無駄だ。しかし、本人は白露のことを尊敬しているようでどうしても覚えたいらしいが…。次に夕立。個の戦闘力は艦隊の中でもトップクラスではあるが、時折一人で突っ走ってしまう傾向があり陣形を乱してしまうことがあるらしい。最後に山風だが、性格のせいなのかわからないが、砲撃や雷撃などを当てることができないようなのだ。今後の訓練で鹿島がついてくれるから大丈夫だと信じたいが、それが心配らしい。

 

「こんな感じかしら、私もできるだけ彼女達と接しては見るけど…」

 

「あんまりきつく言いすぎたらだめよ。玲はクールすぎることがありますから!」

 

「それは言わないで母さん…。気にしているのよ…」

 

ひゃあふぎはわたひのふぁんでふね(じゃあ次は私の番ですね)!」

 

「灯姉!?いつの間にせんべえ食べてたのΣ(・□・;)」

 

「灯姉さん…」

 

「相変わらずだね…」

 

 いつの間にかせんべえを食べていた灯。鋭い突っ込みを入れる萃香に呆れ半分に見つめている蒼と陽菜。まぁ、いつもこの調子なので慣れてはいるが…。せんべえを食べ終えると灯は…。

 

「ここご飯とてもおいしいですよ皆さん!!母さんの料理もおいしいですけどここのご飯m」

 

「ぎぎぎぎぎぎ(#^ω^)」無言で弓を構える

 

「………………あ~、ここも皆さん能力は高いですね。さすが、三条提督が指揮するだけはあります。全員がとても強い」

 

「……」じ~

 

「………ちら…(´・ω・`)ショボーン」

 

「……」

 

「……ちら……ちら(´・ω・`)ショボーン」

 

「よくわかったわ。萃香、灯さんをよく監視しておいて」

 

「ちょっと玲さん( ゚Д゚)どうしてそうなるんですか!」

 

「大方、また食べ過ぎて食糧難にでもさせたんでしょう…。あなたという人は、あれほど行く前に注意していたというのに…」

 

「あ~か~り~(#^ω^)」

 

「ひぃぃぃぃぃ(゚д゚)!母さん!怒らないで!お願いですから怒らないで!」

 

「萃香!遠慮はいりません……やりなさい!」

 

「了解!さあ、灯姉…覚悟はいい?(^^♪)」

 

「ひやあああああああああああああああああああああΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

 スパァァァァンととてもいい音が聞こえ、萃香が針戦を使い灯をひっぱたいていた。灯の頭には大きなたんこぶができ机に突っ伏してしまった。その様子を見ていた椿は呆れて頭を抱え、困り顔をしていた立羽が話し始めた。

 

「じゃあ次は私が!ここは、最近移動してきたばかりですし、まだ本格的に演習や出撃などは行えていなくて…。でも、皆さんとてもいい人達ばかりで、すごくなじみやすいです!」

 

 そう言って笑顔で答える立羽。屈託のない笑顔に一同は立羽の周りがキラキラしているような錯覚に陥った。

 

(……天使かしら)

 

 と陽菜。

 

(……相変わらずかわいいわね~)

 

 と蒼。

 

(さすが我が妹!純粋ですね!今度一緒にご飯食べ放題でも連れて行ってあ…)

 

(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ(#^ω^))

 

(げふんげふん、もとい買い物でも!)

 

 灯が思っていることに対して、怒りオーラを隠さない萃香。

 

(……後で萃香に灯から目を離さないように伝えておこうかしら…。でもそうしたらこの子にストレスが…う~ん)

 

 困り気味の椿と反応は様々。そんな中、玲が陽菜と蒼に話しかけてきた。二人のこともそうだが、三日後に控えた演習のことだろう。家族ラ〇ンでこのことは伝えていたから、全員が知っているのだ。

 

「そういえば、三日後に演習があるそうね。どう?艤装の方は?蒼は大本営に行ってからの調整なのよね?」

 

「そうなんだ…。私は向こう行ってから調整するから、本格的な演習には参加しないよ。でも陽菜は…」

 

「私は、実戦演習もするからさ…。正直どこまで動けるか不安だよ。三年も前線から離れてたから、艦載機運用能力も落ちてるし、海上もなかなかうまく滑れなくてね…」

 

 陽菜の言葉に、全員が少しだけ黙った。陽菜は、散歩がてらに海上を滑ることはあったがそれでも以前のように滑れなくなっていたのは確かだ。おまけに杖を突いているのだから、バランスを保つことは難しいだろう。さらにそんな状態で弓を射るとなればさらに難度が高いはずだ。少しの沈黙の後、椿がおもむろに口を開いた。

 

「…二人とも、正直言って二人にはもう戦ってほしくない。でも、二人の意思が固いからこれ以上は何も言わないわ。だけど、これだけは覚えておいて。呉鎮守府の皆さんは、今は普通に見えるけど誰か一人でも欠けるようなことがあれば、全員の心は今度こそ壊れるわ。首の皮一枚つながってるような瀬戸際の状態なの。だから、気を付けて…」

 

「…わかってる。母さん」

 

 その瞬間、また一人通話が開始される。名前欄には桜と書かれていた。桜は椿の実の娘で、玲達にとっては一番上の姉だ。最近、めったに通話をしてくることはなかったのだが久しぶりの通話に全員が心躍った。しかし、なぜかカメラは映らず代わりに、子供の元気な声がこだました。

 

『ばあば~!お姉ちゃ~~ん、久しぶり~~~~!』

 

「あ…あらあら、咲!久しぶりね、ママは?」

 

『ママ今来るよ~!でも、今カメラ壊れてるから会話だけだって』

 

 咲と呼ばれた少女に椿は嬉しそうに話しかける。咲は桜の娘で、年は5歳になるらしい。え、椿の年齢はいくつ?…企業秘密です…。それはさておき、突然の声に一番嬉しそうにしているのは萃香だった。

 

「咲!久しぶり!萃香お姉ちゃんだよ~!」

 

『あぁ、萃香の声だ~。久しぶり~』

 

「なんで毎回私は呼び捨てなの~~~Σ(・□・;)」

 

「あきらめなさい萃香。同じ立場で見られているのだから」

 

「そんな殺生な玲姉!!!」

 

『あ!玲お姉ちゃんの声がする~!!』

 

「咲、久しぶりね。いい子にしてたかしら?」

 

『うん!咲いい子にしてたよ~』

 

「なんで玲姉とかはお姉ちゃんつけるの~~~(´;ω;`)」

 

「だって同じ立場に見られてるんだから仕方ないじゃん…」

 

 と陽菜。

 

「萃香も子供っぽいところあるからね~。御年20なのに…」

 

 と蒼。

 

「大丈夫よ萃香。きっと咲もあなたのこと大好きだから、あえて呼び捨てにするのよ!」

 

 と立羽。

 

「あらあらやっぱり立羽は優しいわね!やっぱり今度、ご飯食べ放題ごちそうしt…」

 

「ガシ………………………ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ(#^ω^)」

 

「げふんげふん……そうだ、なら超大盛カレー、早食い選手権にでm…」

 

「パキパキ……(# ゚Д゚)」

 

「……………………じゃあ、食べ物フェスいきまs…」

 

「バッターホォォォォォォォォォォォォォムラァァァァァァァァァァァァァン(# ゚Д゚)」

 

「ヒデブ~~~(゜゜)~」

 

 スパァァァァンというすさまじい音とともに灯が壁際まで吹き飛ばされる。そのまま灯は、チーン(゜.゜)と魂が抜けてしまったのかしばらく動きそうになかった。

 

「食べ物のことしか頭にないのかあなたは~(# ゚Д゚)そんなことのために、立羽姉を連れまわさないでよ(# ゚Д゚)」

 

「こら萃香!だめよ姉さんに暴力をするのは!」

 

「でも立羽姉…」

 

「言い訳却下!せめて……せめてご飯抜きとかの刑にしなさい!!」

 

「そっち~~~~~~Σ(・□・;)」

 

「た…立羽~~~~~!それは、それだけはご勘弁!立羽~!立羽~~~~(;゚Д゚)お慈悲を~~~~~_(._.)_」

 

「……話についていけないわ…」

 

「あきらめましょうか…玲」

 

「本当に変わらないな…みんな…」

 

『キャッキャ!やっぱりお姉ちゃん達面白い!あははは!』

 

 呆れている加賀にフォローを入れる椿。そんな様子を呆れながらも見守る陽菜。声だけでも面白いのか、咲は大笑いしている。そうこうしていると『もう…いったい何の騒ぎです~』と桜の名前欄から唐突に声がした。その声の主に対して、咲は『ママ~』といっていた。

 

「……桜、久しぶり」

 

『母さん、みんな……久しぶり』

 

 桜と呼ばれた女性は、元気が無いようなのか少し小さめの声であいさつした。カメラがあれば表情を見ることができるのだが、それは仕方ないだろう。

 

「もう、桜姉さん。最近どうして電話とかしてくれなかったの~?」

 

『ごめんなさい陽菜…。どうしても…心の整理というか…』

 

「私達は気にしてないって言っているのに…。ねえ蒼」

 

「そうよ、桜姉さん。私達は気にしてないから、いつでも連絡してよ」

 

『……けど二人とも…』

 

 桜の言ったことは、おそらく三年前の事件のことだろう。二人は気にしていないのだが、どうしても気にしてしまうらしい。それだけ、正義感が強いのかもしれない。下手したら、この中で一番。そんな中椿がおもむろに口を開く。

 

「あなたが、あの時あの場所に来ていたとして、何か未来が変わったかしら?答えは誰にも分らないわ。未然に防ぐことができたかもしれないし、そうでなかったかもしれない…。それに、あなたが()()()()を嫌っていることは知ってる。そのせいで、周りから煙たがれていたことも…。だから桜、あなたは来るべきその日まで力を温存しておきなさい」

 

『……………………うん、わかった母さん』

 

 椿の言ったことに、少しの間があった後桜は了承した。桜の言ったことに少し安堵椿。最近ほとんど連絡を取っていなかったし、顔も見せてくれないから少し心配だったのだ。まぁ、結婚しているし咲もいる。家庭のこともあって大変なのかもしれないが…。そんな中「あ、そういえば」と萃香が思い出したように話し出した。

 

「母さんのとこって、どんな感じなの?佐伯湾鎮守府に配属したんでしょ?」

 

「あぁ、私のとこですか。そうですね、なんといいますか…。みんな気を使ってしまっているのか、なんか神様でも見ているようなまなざしで見られることがあって…。初日なんて、みんな緊張していて少し大変でしたよ…」

 

「だって母さんだし…」

 

 と陽菜。

 

「母さんだもん…」

 

 と蒼。

 

「…畏敬の念を持たれても仕方ないと思うわ…」

 

 と玲。

 

「この世に最初に誕生した艦娘で、S級の2位ですからね…。それは仕方ないですよ…」

 

 と灯。

 

「お母さん、強いから仕方ないよ…」

 

 と萃香。

 

「やっぱり、そう思われてしまうんですね…(;´д`)トホホ」

 

「大丈夫ですよ母さん!母さんの自慢の料理と、その笑顔があれば皆さん普通に接してくれるようになりますよ!下手したら、佐伯湾の皆さんが母親のように慕ってくれるかも!」

 

『あらあら…立羽はやっぱり優しいのね…よかったわね、母さん!』

 

「ちょっと桜姉!それじゃあ、私達がお母さんに意地悪しているみたいじゃん!」

 

『ふふふ、冗談。みんな母さんのこと慕ってるの、わかってるから…』

 

「みんな自慢の娘ですもの。ちゃんとわかってるから安心して!」

 

 その後は、しばらく雑談が続きビデオ通話はお開きとなった。その後は、各々がそれぞれ時間をつぶして過ごしたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――とある町の酒屋

 

「…ふぅ」

 

 酒屋の二階にあるリビングのソファーで、深く腰掛けている桜。髪の色は赤紫色で、長い髪をポニーテールのようにしているのが特徴的だ。リビングは広く、部屋の隅にはテレビ、テレビとソファーの間にはテーブル。反対方向には台所と、食事の時によく使用する大きめのテーブルと椅子があった。娘の咲を寝かしつけた後、ソファーに座り休んでいた。妹達と話すのは久しぶりだったため、どんな反応をされるかと内心びくびくしていたのだが、全員普段通りに接してくれてよかった。母さんも元気そうだったし何よりだ。だが、本当に時々思ってしまう。あの時、もしあの時自分があの場にいたら何か変わっていたのではないかと。少し、目をつむり考え込む桜。考え事をしていると、下の階段から誰かが上がってくる音が聞こえた。下から来たのは、紫色の髪にもみあげが長くそれを髪留めで縛り、ウサギ耳のようなフードが付いたパーカーを着ているのが特徴の女性だ。

 

「店長、下の片付け終わりました。それから、(まさる)さんもすぐ上がってくると思います」

 

(ゆかり)ちゃん、お疲れ様」

 

 夕月(ゆづき)縁。桜のもとで住み込みで働いている女性だ。主に店番や配達などを行っている。バイクなども運転できるため、長距離の移動を行うことがあるらしい。大本営にもよく行くとか。桜が考え事をしていると気づくと、少し不満げな表情で桜に話しかける。

 

「もう、また悩んでいるんですか店長…」

 

「あはは…バレた…?」

 

「当たり前です。店長わかりやすいですもん。大方、三年前自分が出ていればあんなことは起こらなかったんじゃないかって思ってるんじゃないですか?」

 

「せ…せいか~い…」

 

「…はぁ、あの時てんちょ…いえ、桜さんが出ていたとしても、結果は変わらなかったと思います。ここから、大湊鎮守府までの距離はかなりあります。海上を移動しても何時間もかかります。それに、憲兵の反乱を予想できた人はいません。だから…」

 

「自分を責めないでって?確かにそうかもしれないけど…でも、いいのかしらこのままで…私はここで呑気に暮らしていていいのかなって思うことが…」

 

「あなたは考えすぎです!桜さんのおかげで、救われた命はあるんですよ!現に私だって、あの時桜さんに助けてもらわなかったらどうなっていたことか…」

 

「そうだよ桜。桜のおかげで助かった命もある。それは、僕も同じさ」

 

「あなた…」

 

 階段下から現れたのは、桜の夫で遠藤優。眼鏡をかけた黒髪のショートヘアが特徴的な男性だ。背も少し高い。170センチ以上だろうか。優は、桜の隣に座ると優しく微笑み手を握る。そして、優しく話しかけた。

 

「僕は君のおかげで、今ここにいる。縁ちゃんも言っていたが、君に救われた人はたくさんいるんだ。もちろん、君が自分の力を嫌っているのは知っているよ。お義母さんもそのことに責任を感じていたしね。でも、その力は誰かを傷つけるためじゃない、誰かを守るためにあるんだと思う。だから、今は来るべき日まで僕達と一緒にいてほしい」

 

「あなた…ありがとう。縁ちゃんも」

 

「はい!」

 

 そう言って、おもむろに窓の外を見る桜。きっと、いつか自分が出る日があるだろう。その時は、日本が、いや世界が危険な状況になるかもしれない。今はその時まで、この平和なひと時を過ごしていよう。来るべきその日まで…。

 

 

 

 

 

―――三日後、呉鎮守府埠頭朝5時

 

「さてと、大本営に行くのも久しぶりだな…。忘れ物ないかな、帽子に軍刀に携帯、財布…それとたばこに、ライター…」

 

「テイトク~。昨日から確認しているから大丈夫だよ~。それに一応日帰りの予定だし、そんなに心配しなくても…」

 

「…それもそうか、お前ら準備良いか?」

 

 伊織は、全員がいるのを確認しそして、護衛艦に乗り込んだ。ちなみに、呉鎮守府の護衛についてくれるのは佐伯湾のしおい率いる潜水艦隊達だった。メンバーは、しおい、ゴーヤ、イヨ、イムヤ、ハチ、イクの六名だ。挨拶は旗艦であるしおいが代表して行った。

 

「護衛は、私達潜水艦隊に任せてください!須藤提督、皆さん、行ってらっしゃい!」

 

「鎮守府をよろしく!行ってくる!」

 

 そして、護衛艦が大本営に向けて出港した。出港した直後、伊織の携帯にメールが届いた。メールの内容を確認すると、呉鎮守府の近くの町に住んでいる妹からだった。たまに、鎮守府に来て伊織の様子を見に来ることがある。マイペースな性格でのほほんとした性格なのだが、怒らせると怖い。伊織ですら頭が上がらなくなるほど超怖い。ちなみにメールの内容は。

 

『今日大本営で演習なんでしょ?あそこの人達、すごく強いって聞くし、お兄ちゃんの鎮守府の人達でも苦戦するかもね…。まぁ、怪我がないように頑張ってってみんなに伝えて!あと、金剛さんの紅茶、また今度ゆっくり飲みたいなぁって伝えといて!』

 

 との内容だった。伊織は、メールを見て少しだけ笑うと水平線の向こうを見た。今の自分達がどれほどやれるのかわからないが、全力でぶつかるのみだ。

 

「よし…行くか!」

 

 そう気合を入れて、大本営へと向かった。

 

 




桜「…私の本格的な登場っていつになるのやら…」
縁「一章では本格的な出番ないそうですよ…」
桜「そんな~(;´д`)トホホ」
縁「そういえば、桜さんの髪の色って、原作とアニメで違うみたいですね。作者が見た感じらしいですけど…。それから、私のモデルはボーカ〇イドの結〇ゆかりです!こんな感じでいろんなキャラが出てくるのでよろしくお願いします!それでは!」


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49話 曲者揃いの大本営 前編

『大鳳、あんた筋良いよ!今後いい空母になるよきっと!まぁ、装甲空母っていう艦種だから私達とはちょっと違うけど…。艤装もボウガンだし…』

 

『さすが、運動部だけあって機動力もあるし、艦隊にあなたがいれば安心だね!』

 

『…でも私…ここにきて日が浅いですし…』

 

『もう!どうしてマイナス思考なの!?いいからあなたは自信を持つ!大本営第1艦隊だよ!主力だよ!即戦力だよ!』

 

『わ、私S級じゃ…』

 

『だ~か~ら~!私達とあなたを比べない!私達とあなたは違うの!タイプが違うの!だから、あなたはあなたにしかできないことがあるのよ!それを重点的にやる!職人気質ってやつ!』

 

『そうそう、私達と比べちゃダメ。大鳳には大鳳にしかできないことがあるんだから…ね?』

 

 私が大本営に配属された直後、ちょうど二人と話す機会があった。その時、大湊鎮守府が創設されたばかりで、二人は条件付きで各鎮守府に赴いていた時だ。スポーツでいうなら、フリーエージェントというやつかしら?艦種は違ったけど、色々アドバイスももらってすごくよくしてくれた。だから、私は二人のようになりたい。この二人のように強く。そう思っていた…。でも、事件があって二人は前線に復帰できないほどの大怪我を負った。時々顔を見に行ったりしたんだけど、二人のあの顔は忘れられなかった…。魂が抜けたような、あの二人のはずなのに、まるで人形のような、そんな表情をしていた。治療やカウンセリングのおかげで、何とか立ち直ってくれてそのあとは、育った家に戻って居酒屋の手伝いをしていたみたい。けど、最近になって突然呉鎮守府に復帰。理由はわからないけど、うれしい反面怒りもあった。理由はいろいろある…。だから…私は……………………。

 

 

 

 

 

「……はっ!?」

 

 がばっと、布団から飛び起きる大鳳。時計をみると、朝の5時を過ぎていたところだった。今日の演習予定時刻は確か9時ごろ。朝食やブリーフィングの時間を考慮すると起きていた方がいいかもしれない。だが、目覚めが悪いせいか少し頭がぼーっとしていた。正直もう少し寝たい。だが、二度寝したら絶対起きれない…。100%起きれない。

 

「…仕方ないわね…起きようかしら…」

 

 布団から出て、洗面所へ向かった大鳳。洗面所の方へ来ると、武蔵が眠そうな顔で、しかも寝ぐせまみれで歯を磨いていた。武蔵は大鳳に気づくと、左手を上げて挨拶をした。

 

「…おはよう大鳳…早いんだな…」

 

「なんか、急に目が覚めちゃって…。武蔵さんこそ、早いですね」

 

「昨日寝れなかったんだ…。今日の演習が楽しみすぎてな…」

 

「あはは…またですか…」

 

 武蔵は、演習や出撃の前日になると大半は寝れないらしい。理由は、武蔵が話しているように楽しみすぎて興奮してしまうから。武蔵は、勝負ごとになると早くやりたくて仕方なくなるらしい。少しは寝てほしいものだが…。

 

「それはそうと、大丈夫なのか?」

 

「何がです?」

 

「あの二人にあったら、冷静でいられそうか?」

 

「……」

 

 大鳳は、顔を洗った後しばらく無言でいた。そして、歯を磨いた後早急に洗面所を後にした。武蔵は大鳳を見送った後、寝ぐせを直し背伸びをした。そして、大きくため息を吐いた。

 

「…厄介なことになりそうだ…何かあったら止めないとな…」

 

 

 

 

 

 

 

―――8時30分

 

「よっと、ふ~。やっぱ船に揺られるのは疲れるなぁ…。陸に上がると、だいぶ楽だぜ…」

 

「そ…そ…そうですね~テイトク…船に揺られるのは、やはり疲れ…ウプ…お…おろろろろろろろ」

 

「ひ…ヒエ~!?お姉さまが!?お姉さまがまた吐いてる!!!榛名!榛名あああ!袋!?すぐに替えの袋ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「ああああ大丈夫です比叡お姉さま!この霧島が替えの袋をちゃんと!!」

 

「ありがとう霧島!それではこれを………てこれ荷物入れじゃん!?」

 

「ええええええええ(゚д゚)!ご、ごめんなさいすぐに!!」

 

「もう…二人とも慌てすぎです…はい、替えの袋です…」

 

「さ…サンキュー榛名…」

 

 離陸した直後、船酔いしてしまった金剛が埠頭で吐いてしまう。金剛は船酔いしやすく、薬を常備してはいるのだが今回波が激しすぎたようで、船酔いが強く出てしまったようだ。そんな様子を見ていた鈴谷達新参組は呆れた表情でその光景を見ていた。

 

「……何これ?」

 

「…さぁ…ま、まぁわたくしたちは演習の準備をしていましょう!確か、本館近くに行くんですよね!ねぇ、球磨さん!…あれ、球磨さん?」

 

 熊野は、球磨に確認を求めるが球磨の姿は少し先のほうにあった。隣には多摩もいる。二人はあたりを見回し、何かを探しているようだった。そして、心なしか少しそわそわしている。無理もない、今日木曽と三年ぶりに会うのだから。電話などで連絡を取り合ってはいたが、やはり会いたい気持ちが強かったのだろう。

 

「提督!早く行くくま!早く木曽に会いたいくまぁ…」

 

「あぁ、わかってる。みんな、まずは本館前の広場行くぞ」

 

『は~い』

 

 そう言って、本館前へと移動を始める一同。移動前に、足を止め周囲を見渡している飛龍。動きそうになかったため、蒼龍が声をかけるが、ぼーっとしているのか反応がなかった。

 

「飛龍…飛龍ってば!」

 

「あっ…ごめん…何?」

 

「みんな移動始めてるよ。私達も行こう」

 

「あ…うん」

 

「ちょっと二人ともどうしたの?早く行こう」

 

「……本館前でブリーフィングとかするみたいですし……早く行きましょう。蒼龍さんに限っては、工廠の方に行くみたいですし」

 

 なかなか移動しない二人を心配して、瑞鳳と祥鳳が近づいてきた。さすがに、ゆっくりしていられないので、少し早めに移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 本館前に来ると、テントのようなものが何個かあり、その中に元帥と三大将が椅子に座り待機していた。こちらに近づいてくる伊織達を見ると、それぞれこちらに近づいてきた。別のテントに待機していた第1から第3艦隊のメンバーもそれぞれこちらに近づいてきた。そして、お互いに敬礼をし挨拶を行った。

 

「遠路はるばるご苦労だった須藤。演習は予定通りの時間でよいかな?」

 

「えぇ、予定通りの時間で大丈夫です。それまでは、ブリーフィングの時間でよいですか?」

 

「あぁ、自由に使ってもらって構わない。斎藤もそれでよいかな?」

 

「えぇ。構いません。それと須藤、艦隊のみんなも、知ってると思うが…」

 

 そう言って、本館の方へ手を向ける斎藤。伊織達はその方向を見ると、明石に連れられ木曽が荷物をもってこちらに来た。久しぶりだからか少し緊張気味だ。何を話せばいいのかわからないのか、困った表情で明石の方を見ている。明石が適当な様子で手を振ると、木曽は意を決して話し始める。

 

「きょ…今日から呉鎮守府に復帰する。みんな…ただいま!!」

 

『き~~~~~~そ~~~~~~~~!!!!!!』

 

「ごふっ!!」

 

 突如、球磨と多摩が木曽に向かってダイブした。突然のことに木曽は後ろに倒れ込んでしまう。球磨と多摩はよほどうれしいのか、目には涙を浮かべていた。

 

「会いたかったくま~!復帰してくれてうれしいくま~!」

 

「元気そうで良かったにゃ!これからはずっと一緒にゃ!」

 

「…うん…ただいま…」

 

「元気そうで良かったよ木曽…」

 

「提督、久しぶり…」

 

 少し苦しそうにする木曽であったが、木曽も姉妹に会えたことがうれしいのか目には涙を浮かべていた。その様子を見ていた伊織は、木曽の前でしゃがみ挨拶をする。復帰が決まったと聞いたときは本当にうれしかった。ただ、飛龍と蒼龍同様霊力がかなり落ちているため、今後は遠征任務などを重点的に行って体を慣らしていく必要がある。以前は、1万4千以上あったものの現在は6千ほどまでに落ちてしまっているそうだ。

 

「…さてと、ほら球磨、多摩。お前らも演習の準備あるんだから、向こうのテント行くぞ。積もる話はその時にな」

 

「…仕方ないくま…二人とも行くくま!」

 

「ほら、木曽も行くにゃ」

 

「ちょっと…引っ張らないでくれ…」

 

 三人は、そのままテントの方へ向かっていく。それを見届けた伊織は元帥たちに一礼し艦隊のメンバーとともにテントの方へ向かう。その光景を見届けた後、斎藤達も所定の位置へ向かう。

 

「よし、わしらも準備するか。第1艦隊はこっちに来てくれ!」

 

『了解』

 

 ブリーフィングを行うため、持ち場へと向かう第1艦隊のメンバー。持ち場へ向かう途中、大鳳は呉鎮守府のメンバー…正確には飛龍と蒼龍に視線を向けていた。飛龍と蒼龍も視線に気づき、大鳳の方に向く。お互いが視線を向けしばらく硬直状態になる。

 

「……大鳳」

 

「…………」

 

 大鳳はそっけない態度で、持ち場へと向かっていった。飛龍と蒼龍は大鳳を見届けた後、持ち場へと向かった。覚悟はしていたが、やはり大鳳は復帰に対して快く思っていないようだ。

 

「…行こう、飛龍」

 

「…うん」

 

 

 

 

 

 

 

―――呉鎮守府側のテント

 

「さてと、ほんじゃブリーフィング始めるぞ。まず最初は、金剛旗艦の以下霧島、多摩、皐月、瑞鳳…そんで飛龍。この六名だ。飛龍の状態も考慮して、輪形陣で中央に飛龍と瑞鳳を配置。前方に金剛、右側に多摩、左側に霧島、後方に皐月だ。航空に関してはうちのほうが有利ではあるが、向こうには大鳳がいる。空母の中でも屈指の実力者だ…あいつ一人で敵艦隊を壊滅させたこともあるからな。浦風と谷風はまだ大本営に配属して半年もたってないが、第1艦隊に配属されてるほどだ、油断はするな。それと…厄介なのが…」

 

「旗艦の武蔵…そして、天龍と日向。武蔵は砲撃はもちろん近接格闘にも優れています。砲撃の威力が段違いだから、余波だけでも被弾してしまいマ~ス…。天龍は矢矧ほどではありませんが、洞察力に優れてる。回避行動…対空要因にはもってこいデ~ス。日向は瑞雲を飛ばして、弾着観測射撃をほぼ9割以上は当ててくる。本当に厄介な相手ネ~…。さすが、大本営第1艦隊ネ…」

 

「…あぁ…だから、まずは」

 

「やっほ~!!お話し中ごめんね~。蒼龍~、迎えに来たよ~」

 

「あ、は~い。じゃあみんな、頑張ってね!」

 

 話してる最中に、夕張が顔や腕に黒墨が付いた状態で来ていた。蒼龍の艤装の試運転は、演習用のシェルターで行うので、二人はそこに向かっていった。蒼龍達を見送った後、伊織は話を戻した。

 

「話を戻すぞ!まずは、大鳳を徹底的にやる。制空権をとられたら厄介だからな…。そのあとは、浦風たちを…。武蔵と天龍と日向については金剛、お前の判断に任せる」

 

「了解でおろろろろろろろろろろろろ!!」

 

「ヒエェェェェェェェェェェェェェェェΣ(・□・;)また吐いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ(゚Д゚)」

 

「┐(´д`)┌ヤレヤレ」

 

「……本当になにこれ?」

 

「あきらめろくま鈴谷…金剛は実はこういう大事な演習や出撃前は…必ず吐くくま!」

 

「いやどや顔で言う必要ないんじゃないか球磨姉ちゃん…それと…これどういう状況なんだ…?」

 

 木曽は球磨の膝の上に乗りあすなろ抱きされている。嫌というわけではないのだが、さすがに全員の前だから恥ずかしさもある。

 

「久しぶりに会えたんだからこれくらいさせろくま~」

 

「帰ってきたら、次は多摩にゃ!」

 

「いやいやいや…あの~、ちなみに拒否権は?」

 

『ない!!』

 

「えぇ…(;・∀・)」

 

「木曽さ~ん。二人とも、木曽さんにすごい会いたがってたからうれしいんだよ~」

 

「それはわかってるけどさ文月…さすがに恥ずかしい…」

 

「はいはいはい、それは置いといて…第1艦隊は沖合に出て準備してくれ」

 

『了解!』

 

 

 

 

 

 

 

―――大本営側

 

「さてと、久しぶりの演習だ。思いきりやってこい。細かい指示は武蔵に任せる」

 

『了解』

 

 艤装を装備して、沖合に向かう第1艦隊。沖合に向かう途中、入念に艤装の確認をしている大鳳。航空戦ではこちらが不利。向こうは空母が二人だ。艦載機の数ではこちらが劣ってしまう。だが、こちらもいろいろと準備してきたのだ。

 

(絶対に負けない。必ず勝つ!)

 

 艤装を持つ手に力を入れる大鳳。気合を入れて、沖合へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「やばいやばい…演習の時間をすっかり忘れてた…演習前に金剛達に挨拶しようと思ってたのに!」

 

「部屋でのんびりしすぎたね…もう演習始まっちゃってるかな?」

 

 少し焦り気味に走っている白露と時雨。演習をすることは知っていたが、時間のことをすっかり忘れていたのでこうして急いでいるわけだ。寮から出て、埠頭付近に向かっていると憲兵とすれ違ったのだがその時に声をかけられた。

 

「そこの焔ちゃん、雫ちゃん、止まりなさい!」

 

「なんだよ急いでるん…だ………何やってるの月夜さん…?」

 

 見ると、月夜が憲兵の格好をしていた。ずいぶん様になっているが、一体何をしているのか。月夜は口元に指を立てておりあたりを見回している。誰かから逃げているのだろうか?そう思っていると、建物の方から横山が走ってきた。誰かを探しているようであたりを見回している。こちらに気づくと、近づき声をかけてきた。それに月夜はぎこちない敬礼をしていた。

 

「すまねえな…月夜さん見なかったか?手合わせしたくて…」

 

(あぁ、そういうこと…)

 

「月夜さんなら、あっちに行ったよ」

 

「……そうか、サンキュー」

 

 大方、組手したくなくて横山から逃げていたのだろう。それで憲兵の格好をしていたわけか…と白露は納得した。時雨もそれに気づき、横山に嘘を言い遠ざけようとした。しかし、横山は途中から振り返ると…。

 

「な~んて、バレてないと思いましたか月夜さん!憲兵の格好していてもバレバレですよ」

 

「嘘!?なんでバレたの!?」

 

「敬礼の仕方!それは海軍方式だ!憲兵隊は、横に脇を広げるんだよ!」

 

「オーマイガ…」

 

「つうわけで、まずは一発ぶちかます!」

 

 横山は月夜に向けて右ストレートを放つ。しかし、月夜はそれをよけ腕をつかむと、横山を空中で何度も何度も回してから、建物の方へと投げ飛ばした。投げ飛ばされた横山は受け身をとることができずそのまま壁に激突した。

 

「もうなんでこんなに勝負を挑んでくるんですか!?力の差は歴然じゃないですか!?というわけでお二人とも、また機会があれば話しましょう!サラダバ~~~~( ^^) _U~~」

 

 とてつもない速さで逃げていく月夜。逃げていく途中「はははははは!」と高笑いしながら走っていった。もはや楽しんでいるレベルではないだろうかと思うほどだ。まぁ、昔からあんな風に明るい性格だったし当然といえば当然かもしれない。

 

「…私達も行くか…」

 

「そ、そうだね!お母さん元気そうで良かった!じゃあ、埠頭の方に…」

 

「ヒャッハ~!演習の時間だぁぁ!吹雪お姉ちゃん出るよ~!!みんな早く行くよ~~!ほいさっさ~~~~!!」

 

「漣ちゃん!待って!吹雪お姉ちゃん達の演習まだ先だから!あ~~!あと前見て前!」

 

「あ…やば!」

 

 漣と呼ばれた少女はそのまま白露達に突進してしまう。白露達も声に気づき、漣を抱えるように受け止めたためお互い被害は少なかった。にしても…吹雪お姉ちゃん?制服も色違いではあるが、吹雪と綾波が来ている服装と同じような服だ。艦種は特型だろうか?そう思っていると、漣を追ってきた三人の少女たちが白露達の前に来た。一人は金髪のショートに右目の下に絆創膏を貼り、一人は紫色の髪を左にサイドテールにしているのが特徴、最後の子は黒髪を肩あたりまで伸ばしており少しおどおどしているのが特徴だった。

 

「うちの漣がごめんなさい!演習で吹雪姉が出るからそれで興奮しちゃって…。あぁ、あたし綾波型駆逐艦の朧、よろしくお願いします!白露さん、時雨さん!」

 

「綾波型駆逐艦の曙よ。うちの馬鹿がごめんなさいね…」

 

「綾波型駆逐艦の潮です…。えっと、よろしくお願いします!」

 

「…はっ!えっとごめんなさい。綾波型駆逐艦漣です!」

 

 金髪の子が朧、紫色の髪の子が曙、おどおどしているのが潮で、ピンク色のショートヘアをツインテールにしているのが漣だ。綾波型といっていたから、やはり特型駆逐艦のようだ。大本営にいるからかなり実力はありそうだ。しかし、今回の演習に出ないということは艦隊に組まれていないのだろうか?疑問に思って自己紹介がてら聞いてみることにした。

 

「白露型1番艦の白露。よろしく」

 

「同じく2番艦の時雨。よろしくね!」

 

「んで、聞きたいんだけど大本営に配属されてるくらいだからあんたらも強いのか?」

 

「いいえ、確かに大本営に配属されてるけど…私達ちゃんとした出撃とかはここ数年してないのよ…吹雪姉の一存でね…霊力は1万5千あるんだけどね…」

 

 呆れ半分に曙は言った。曙たちの話では、どうやら5年前のあることをきっかけに演習を主として出撃はあまりさせない方がいいという判断だったそうだ。実力はあるようなのだが、4人はちょっとした問題があるらしい。あまり話したがらなかったので聞かなかったが…。すると、漣ははっとしたような表情で全員に声をかける。

 

「そんな話はいいよ、早く演習場に行こうよ!」

 

「あ、ちょっと待って漣ちゃん!」

 

「…もう、本当にあの子は…」

 

「ごめんなさい、朧たちもう行きます!」

 

 漣のあとを追い、三人も後を追っていった。白露達も早急に演習場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふぅ、さてこの演習どうなるかのう、斎藤」

 

「さぁ、向こうは飛龍がいるから意外と苦労するかもしれません。左足の影響もありますからな…」

 

「…やはり復帰させるべきではなかったのだろうか…」

 

「言ってもあの二人は聞かなかったでしょう…もう過ぎたことをいっても仕方ありませんぞ、元帥」

 

 ベンチに座り沖の方を眺めている勘兵衛と斎藤。呉鎮守府のメンバーは確かに全鎮守府の中でもトップクラスの実力を持っている。その実力は、他を寄せ付けない連携によって生み出されているのだが、今回は飛龍がいる。飛龍がいることで連携に支障が出てしまうかもしれないのだ。訓練はしているのだろうが、それでも苦戦するのは目に見えている。それに加え、こちらは大本営でも最強の艦隊だ。浦風と谷風は配属されて日が浅いが、それでもここの精鋭たちについていけるほどの実力を持っている。正直言って穴がない。

 

「まぁ、ゆっくりと見させてもらいましょう。今回の演習を…」

 

「…そうだな、斎藤…」

 

「それはさておいて……おぬしら、くつろぎすぎじゃないか?」

 

 斎藤は、隣のテーブルに座っている三笠と赤神を見た。みると、二人はお茶を飲んでおりテーブルにはせんべいなどのお菓子がおいてあった。さらに隣には第2、第3艦隊のメンバーがいるのだがあるものは将棋を指していたり、あるものは絵を書き、あるものはトランプをしている。真面目に演習場に目を向けているのは吹雪と龍驤、筑摩、陸奥くらいか…。

 

「まぁまぁ、こうしてゆっくりお茶を飲むのもいいですよ。ねえ赤神君?」

 

「そうですね~三笠さん。見てるこっちもハラハラしますから、お茶とかを飲んでのんびりするのもよいかと…」

 

「…は…はぁ…」

 

 どういう理屈だ…と内心思ったがこういう状況なのは毎回なのでもう慣れっこだ。仕方ないのでこちらもお茶でも飲むとしよう…と思っていると、後方から「吹雪お姉ちゃ~ん!」という声がした。声のした方を見ると、第7駆逐隊の4人と白露と時雨がこちらに来ていた。第7駆逐隊の4人はそのままこちらのテントへ、白露たち二人は呉鎮守府のテントへと向かっていった。そして、こちらに来ると漣はまっすぐ吹雪のもとへ行き飛び付いた。吹雪はそれを受け止め一回転すると、漣を下ろし落ち着かせた。

 

「おはよう漣ちゃん。朧ちゃん達もおはよう。演習見に来たの?」

 

「もちろん!吹雪お姉ちゃんの活躍みるために漣たち見に来ました!」

 

「まったく、私はこの子に付き合わされただけだから!別に応援しに来たわけじゃ…」

 

「ま~たそう言って、本当は吹雪お姉ちゃんや綾波お姉ちゃん達を応援しに来たくせに…このツンデレぼのたん!」

 

「あんた喧嘩売ってんの(# ゚Д゚)」

 

「おーっと、曙選手!?怒り心頭ですよ~って、ひぃぃぃぃぃ(;゚Д゚)」

 

 漣のいじりに、曙は怒り心頭で追い掛け回す。その様子を見ていた吹雪は少し困り気味だ。潮は二人を止めるため慌てて二人を追っていく。朧は三人を見送りながら吹雪に申し訳なさそうな顔で近づいてきた。

 

「ごめん吹雪姉…毎度騒がしくなっちゃって…」

 

「大丈夫だよ、それに曙ちゃんも素直じゃないことは知ってるからね」ナデナデ

 

「えへへ///」

 

「あ“あ”ぁぁぁぁぁ(゚д゚)!朧ずるい!!漣もぉぉぉ!吹雪お姉ちゃん漣にも~!」

 

「はいはい、よしよし」

 

「やばいキタコレ!あざ~す!!」

 

 吹雪に撫でられてご満悦の朧と漣。そんな光景を呆れた様子で、肩で息をしながら見ていた曙。散々追っかけまわして疲れてしまったようだ。そんな曙を潮はフォローする。

 

「まったくもう…どうしていつもいつも…」

 

「まぁまぁ曙ちゃん…。漣ちゃんもわざとじゃないんだし…」

 

「それはわかってるけど…」

 

「そうですよ~曙~。普段から心に余裕を持っておかないと、いざというときに困りますよ~。だから、戦闘時でも視野が狭まってしまうんです。普段から余裕もっていきましょう」

 

「…綾波姉は落ち着きすぎでしょ…だいたい演習前に将棋指してるって…」

 

 声のかけられた方を見ると、綾波が一人で将棋を指しているようだった。将棋を指す片手間、左手で本を持っていた。おそらく将棋本だろう。一人で指している綾波に対して、曙は綾波の前に座り、途中まで進んでいる駒を進めた。

 

「あら、付き合ってくれるんですか?」

 

「一人で指しててもつまらなそうと思っただけ、悪い?」

 

「全然…むしろうれしいです」

 

「…ねえ、感情高ぶったときに口調変わるんなら、普段からその口調でいればいいのに…」

 

「なんか、礼儀を正すようにしたらいつの間にかこの口調になっちゃって…吹雪とは素で喋れるんですけど…」

 

「どうしてそうなったんだか…王手だよ綾波姉」

 

「やりますね~、将来軍師とか向いてたりして!」

 

「からかわないでよもう…」

 

 その光景を、潮は安心しきったような、慈愛の込めた表情で見つめていた。昔は本当に誰とも関わろうとしなかったから、変わってくれたことはすごくうれしい。それもこれも、吹雪や綾波たちのおかげだろう。あの時…5年前のことが無かったら本当にどうなっていたかわからない。朧も漣も、もちろん曙もここにきて救われた。だから、この人たちのように強くなりたい。いつかこの人たちとともに肩を並べて戦いたいと思っている。そう思ってふと沖合の方を見る。沖合の方を見ると、各艦隊が所定の位置につこうとしているところだった。もうすぐ演習が始まる。なら、自分は演習を眺めていることにしよう。そう思って、近くにあった椅子に座った。

 

 

 

 

 

 

 

 呉鎮守府側に来た白露達。白露達に気づいた伊織がこちらに近づいてきた。事件のことを聞いていたから、どう声をかければいいのかわからなかったが二人の様子を察した伊織が話しかけてくれた。

 

「久しぶりだな二人とも…元気にしてたか?」

 

「えっと、その…まぁ、ぼちぼち…な…」

 

「…その様子から察するに、俺たちの過去は知ってるのか?」

 

「……」

 

「…そうか、まぁ過去を知られたからといって俺たちの接し方は変わらないから安心してくれ。むしろ金剛はいつも通りに明るく接するだろうからな!まぁ、座ってくれ」

 

 そう言って、適当な椅子に座るように促す伊織。二人は、空いている椅子に座り周りを見渡す。周りを見ると、以前来ていたメンバーはもちろん見慣れない艦娘たちが何人かいた。知っている顔は比叡と榛名、球磨、睦月、如月、祥鳳だ。あとは訓練生時代にお世話になった足柄、三日前にあった木曽。全員こちらに気づくと笑顔で会釈する。もうすぐ演習だから、そっちに集中したいのかもしれない。全員が沖合のほうに向きなおっているから。ちなみに木曽は球磨の膝上に乗っているため恥ずかしさ半分もあるのか、目を合わせようとしなかった。そんな中、こちらに近づいてくる5人の艦娘。そのうちの一人、茶髪にボニーテールが特徴で白色の制服の上に黒いパーカーを着ている。二人に近づいてくると、顔から足先まで物色した後に笑顔で挨拶をする。

 

「初めましてだね~!あたし文月っていうの、よろしく~!」

 

 そう言って、二人に抱き着く文月。抱き着き癖でもあるのだろうか?それとも甘えん坊なのかわからないが…。文月は挨拶を終えると、同じような服を着た二人の間に戻った。そして、二人から見て左側にいるピンク色の髪を腰より下まで伸ばしている子が挨拶をした。

 

「卯月だぴょん!駆逐艦白露と時雨ぴょんね!噂は聞いてるぴょん!よろしくぴょ~ん」

 

「あ、じゃあ次は僕!水無月だよ!よろしくね!えへへ!」

 

 卯月が挨拶を終えた後、右側にいる水無月と名乗った水色の髪をした少女が挨拶をした。二人とも明るい性格なのか、人懐っこい笑顔をしていた。三人とも睦月型らしく、文月は昔からの古株、卯月たちは一年前に呉に着任したそうだ。そして、三人の後ろにいた水色の髪を腰まで伸ばしている女性と栗色の髪をポニーテールにしている女性、服装は茶色の長袖の制服を着ている。二人とも同じ服だからおそらく姉妹艦だろう。

 

「最上型、航空巡洋艦の鈴谷だよ!よろしく~」

 

「同じく、熊野ですわ~!よろしくお願いいたします」

 

「白露だ、よろしく」

 

「時雨だよ!よろしくね!」

 

 そう言って、握手を交わした四人。鈴谷達もおそらく白露の噂は聞いているだろうがやはり以前と雰囲気が違うのか普通に接してきている。以前だったら、目を合わせようとするやつすらいなかったのに…。挨拶を終えた後、不意に机にあった端末から音声が入った。おそらくもう演習に入るのだろう。声の主は長門だ。今回の審判?を務めるらしい。白露達も今回の演習を見るため、端末に集中し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沖合では、すでに両艦隊が配置についていた。飛龍は懐に入れていた日の丸の付いた横線の入っている鉢巻を額に巻き気合を入れなおす。久しぶりの演習だ、だが以前と同じような状況ではない。左足は義足だし右手には杖を突いている。まぁ、特殊な加工をしているから海の上を走れるわけだが。右手につけている杖はかなり実用的で、腕に巻き付けるタイプで伸縮式の杖だ。しばらく待機していると、長門から連絡が入った。

 

『双方配置についたな。審判はこの長門が務める。双方どちらかの旗艦が轟沈判定、もしくは艦隊が全滅すればどちらかの勝利だ。質問はあるか?……よし、それでは双方健闘を祈る。それでは始め!!』

 

 長門の声を皮切りに、双方の艦隊は動き始めた。金剛達は輪形陣で動き始める。まずは相手の位置を知る必要がある。金剛は飛龍と瑞鳳に指示を与える。

 

「飛龍、瑞鳳。艦載機を発艦して相手の位置を探ってください」

 

「…索敵機を出すんなら、私一人でもいいんじゃない?」

 

「瑞鳳、あなたの意見もごもっともですが…飛龍、あなたがどれだけできるのかを知りたい。だから、念のためで~す!」

 

「…わかった。じゃあ飛龍、出すよ…」

 

「オッケー。索敵機を出すよ……おっと…あだ!」

 

 飛龍は杖をしまい、弓を構えて発艦しようとするが海面の動きに足をとられてしまい危うくこけそうになった。何とかバランスを保ち、艦載機を発艦させる。それを見届けた瑞鳳も艦載機を発艦させた。

 

「……では、二人が相手を見つけるまでなるべくゆっくり移動しましょう。向こうには大鳳がいます!相手に先に見つけられたらとても厄介で~す」

 

「その前に何とか私達で見つける…でもさ飛龍、もっと集中して。艦載機の動き、かなり悪いよ…」

 

「……わかった」

 

 艦載機運用に集中しつつ、移動をする飛龍。金剛達も飛龍に合わせて移動を始める。相手に見つかる前に何とかこちらから先に仕掛けたい。先に仕掛けられたら確実にこちらが不利だからだ。そう思っていた矢先、二人の索敵機から連絡が入った。

 

「索敵機から打電。相手がこっちに近づいてきてる。…え…なんで、周りには何もないはずなのに、どうして向こうはこっちに気づいてるの!?」

 

「まって瑞鳳、私の索敵機が何かを見つけた。……これは…瑞雲…」

 

「……!?皆さん!?よけてください!砲撃が来ます!!」

 

 霧島の怒号と同時に、砲撃がこちらに近づいてきた。全員それを何とかよける。しかし、威力が大きすぎるのか、全員が余波だけで四方に吹っ飛ばされていた。特に飛龍はうまくバランスを保つことができなかったため、数m以上吹き飛ばされ陣形からはみ出てしまった。

 

「飛龍!!全員、飛龍のもとへ急ぐで~ス!陣形を保ちつつ、相手に反撃します!!」

 

『了解!』

 

 そう言って、飛龍のもとへ近づく金剛達。飛龍のもとへ近づくと瑞鳳は飛龍を強引に立たせた。

 

「ほら!しっかりしろ!」

 

「…っつ~…ごめんみんな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まったく、私の瑞雲を見つけられないようじゃ話にならんな。おかげで難なく近づけてしまっているではないか…」

 

「我々戦艦の砲撃だけで、あれだけ吹き飛ぶのか…昔の状態だったら、こんなことは起きなかったろうに…」

 

 威嚇射撃だけで、陣形が乱れてしまっている呉鎮守府のメンバーを見て憐みの眼で見る武蔵と日向。日向は演習が開始されたと同時に瑞雲を発艦。かなり上空まで瑞雲を発艦させていたためなのか、それとも相手の警戒が薄かったのかはわからないが、おかげで難なく相手に近づけてしまった。距離的にぎりぎり目視できる範囲だったが、二人の砲撃範囲が広いため難なく砲撃が届いてしまう。これに大鳳が艦載機を発艦させていたらおそらく即刻演習は終わっていただろう。

 

「…とりあえず、相手に近づくぞ。大鳳は艦載機を発艦。相手をかく乱させろ。それに準じて、私と日向が砲撃を行う。天龍と浦風、谷風は雷撃を放て」

 

『了解』

 

 そして、総員増速し相手になるべく近づいていく武蔵達。相手との距離が数十キロくらいになり、お互いが真横の位置になったときお互いの旗艦が一斉に叫びだした。

 

「撃てぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「てぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!打ち込むネェェェェェェ!!」

 

 お互いの艦隊が砲撃戦をする。金剛達は、金剛と霧島が中心に、武蔵達は武蔵と日向を中心に砲撃戦を行った。武蔵達は金剛、霧島を中心に砲撃を行った。まず狙うはやはり中心にいる飛龍達だ。飛龍はともかく、瑞鳳がいたら艦載機を放たれてしまう。大鳳がいるからいいものの念には念を入れようと思った。天龍達は雷撃を、大鳳は艦載機を発艦させようとしていた。

 

「!?大鳳、よけろ!!」

 

「ッ!!」

 

 砲撃は大鳳に集中していた。砲撃だけじゃない。艦載機から放たれる雷撃や爆雷がすべて大鳳に向かっていた。大鳳は艦載機を発艦させることができず回避することだけで手いっぱいだ。

 

(なるほど…先に大鳳をつぶすつもりか。制空権を有利にするためだろうな…)

 

「大鳳!」

 

「手出し無用です!!」

 

「ほう、その意気だ!」

 

 大鳳の発言に、武蔵は狙いを敵に定めていく。大鳳はその間に陣形からどんどん離されていった。これが実戦だったら確実に轟沈されているのではないかと思うほどだ。大鳳が離されると、谷風が焦った口調で話した。

 

「ちょっと大鳳さん離されてるよ!大丈夫なの!?」

 

「そうか、お前たちは初めてだったな。大丈夫だ。大鳳は一人でも問題ない。空母の中でも、機動力はピカ1だからな!」

 

 武蔵はそのまま、金剛達に向かって砲撃を放つ。日向も天龍も構わず相手に砲撃を行っていた。谷風は少し心配だったが、武蔵の言葉に相手に集中することにした。浦風は特に気にしていないのか砲雷撃をしていた。とりあえず谷風も砲雷撃を行うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 武蔵達を牽制しつつ、大鳳を引きはがすことに成功した金剛達。引きはがしたはいいが大鳳に攻撃がまったく当たらない。回避力が高いためか攻撃をことごとくかわされるのだ。なかなか当たらないことにしびれを切らしたのか、金剛は少し考えた後に皐月に指示を出した。

 

「皐月!大鳳に近づいて砲雷撃、必要に応じて接近戦も行ってください。瑞鳳は艦攻、艦爆を発艦。これを大鳳に集中。私達は武蔵達を牽制します!とにかくやばい状況なので、急ぎでお願いしま~ス!!」

 

『了解!!』

 

 鬼気迫る金剛の指示に対して、皐月は大鳳のもとへ単騎で乗り込み、瑞鳳は艦攻、艦爆を発艦させた。皐月は速度を増速させ砲雷撃が届く距離まで来ると砲撃を行う。皐月の霊力は5千5百でB級だ。A級の大鳳に単騎で勝てるはずはない。しかし、瑞鳳の援護があるため実質2対1だ。だから勝機はある。

 

「ごめんね大鳳さん。でも、作戦だから仕方ないよね!艦載機を発艦させる暇すら与えないよ!」

 

 皐月は、大鳳に砲撃を行う。大鳳はその砲撃をよけ艦載機を発艦させようとするが、瑞鳳が発艦させた艦攻、艦爆が襲い掛かる。大鳳は攻撃の雨に回避することしかできなかった。大鳳は攻撃の雨をバックステップやバク転でそれをよけ続け、足元まで来ていた雷撃をバク転と同時に飛び上がりそれをよける。よけた後、海面に落ちるように体をつけ艦爆を横によける。その間に大鳳の目の前まで来た皐月は携帯していた演習用のドスを大鳳に振り下ろす。しかし、それを読んでいたのか大鳳は楽々とよける。後方に下がり距離をとろうとするが皐月はすかさず追い付きドスを何度も振り下ろした。皐月がいったん距離をとった瞬間皐月がいた場所に雷撃が迫ってきていた。

 

(しまった!?)

 

 大鳳は、右に移動し直撃を免れたが雷撃を受け小破になってしまう。その間に皐月が後方に回りドスで攻撃しようとした。

 

(へっへ~ん!これでおしまい!!)

 

 しかし、そのドスが大鳳に届くことはなかった。大鳳に当たる直前、「バーン」という銃撃音とともに皐月が数m吹き飛ばされていた。判定は轟沈判定。しかもたった一撃でだ。皐月は海面に倒れた後、何が起きたのか理解できずずっと空を見ていた。

 

(あれ…今何が起きたの…?僕…大鳳さんに攻撃しようとしたのに…)

 

 大鳳を見ると、未だに艦攻、艦爆を避け続けていた。しかしよけている最中に再び「バーン」という音とともに艦載機が撃墜されていた。粗方艦載機を撃墜し終えると、ボウガンを下ろし皐月の方へ向き直る。表情は少し怒っているような険しい顔だった。

 

「不思議そうな顔ですね…。なんで自分が攻撃されたのかわからなかったみたいですね。では、種明かしをしましょうか。種はこれですよ」

 

 大鳳は、ボウガンの先を皐月に向けた。見ると、弓を射出する下の方に穴が三つあるのを確認した。さらに、引き金をかける部分も普通のボウガンとは異なり人差し指をかける部分の下にも引き金のような部分があった。大鳳は自分の武器を見せた後に説明を始めた。

 

「これは特殊艤装でして。私のボウガンは、近接用の武器に改造してもらってるんです。ここ数年、出撃すると、深海棲艦が目の前にいることが多かったので。ちなみに、近接用の方はショットガンのようになっていて至近距離で当てれば即轟沈です。対深海棲艦用遠近両用武器ハイドラ。それが私の専用武器です。それから、正直言ってもうあなたたちは負けているようなものです」

 

「……え?」

 

「まぁ、見ていればわかりますよ。取り合えず、あなたは長門さんのもとへ行きなさい」

 

 そう言って、大鳳は武蔵達のもとへと向かっていった。皐月はしばらく放心状態だったが上空を見たときに大鳳の言っていることが分かった気がした。はるか上空に、艦載機のような影が見えたような気がしたから。

 

 

 

 

 

 

 

 皐月が轟沈判定になったことを知った金剛達。しかも、どういう理由かは知らないが瑞鳳の艦載機が撃墜された。このまま艦載機を発艦されたら手が付けられない。早急に解決策を考えなければならない。

 

「…飛龍、いつもやっていたあれ、今もやれますか?」

 

「え、あぁうん。前みたいに精度は落ちたけど、今もできるよ」

 

「わかりました!ではそれを武蔵達に放ってください!相手に少しでも損害を与えないと、こっちの損害が!」

 

「……ん?くんくん…」

 

 金剛は話している途中に、多摩が鼻をぴくつかせている。砲撃が飛び交っている中だったが、多摩は上空の方に目を向けた。目を細めよく見ると、上空の方に艦載機のようなものが数機近づいてくるのが見えた。日向の放った瑞雲ではない。

 

「敵機直上!!近づいてくるにゃ!!」

 

「っ!?対空戦闘用意!早く!!」

 

 対空戦闘をする金剛達、しかし上空に放たれた機銃は2~3機に当たった程度で艦爆の雨が金剛達に降りかかることになった。結果、金剛小破、霧島中破、多摩中破、飛龍は能力による硬化をしたことでほぼ無傷の状態だった。上空にあった艦載機は間違いなく大鳳が放ったものだった。しかし、金剛達は困惑した。あの時、皐月と瑞鳳が攻撃していた時に艦載機を放つタイミングがなかったはずだからだ。だが、困惑している暇はない。向こうは大鳳の小破を除いてほぼ無傷。こちらは5人、圧倒的不利だ。

 

「全員、いったん距離をとって体制を立て直します。このままじゃまずい!!行きますよ!」

 

『了解!』

 

 まだ戦いは始まったばかり。このままでは終われない。何とかして一矢報いる。そのために何とかして策を考えなければ…。そう思った。

 

 




金剛達の演習回です!今回少し長くなります!


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50話 曲者揃いの大本営 中編

白露「とうとう50話か…」
時雨「早かったような長かったような…」
白露「今第1章だよな…いつ終わるんだ?」
時雨「今回の演習が終わった後に、佳境に入るみたい!」
白露「そ…そう…」

ということで50話です!楽しんでいただければ幸いです。


※結局前・中・後編に分けました



 金剛達が体制を立て直そうとする中、埠頭で見ていた呉鎮守府のメンバー、白露と時雨はタブレット端末と沖合を交互に見ていた。沖合をずっと見ていた伊織は近くにいた足柄と祥鳳に声をかけた。

 

「…二人とも、見えたか?」

 

「いえ、まったく…大鳳が着任されたときからよく見てきたつもりだけど…あんな動きのなかでいつ艦載機を発艦させたのか…祥鳳は?」

 

「……ごめんなさい…私もまったく……」

 

 伊織も祥鳳もそうだが、大本営に努めていた足柄もまったくわからなかったそうだ。さらに、タブレットの方を見ていた比叡、見ていたタブレットを球磨と木曽のもとへもっていった。榛名も気になっているようで比叡のあとを椅子をもってついていった。比叡は榛名の手を引き球磨達の近くに座った。

 

「球磨…わかりました?」

 

「まったく…粗方予想はしてる。おそらくだけど、回避している最中に発艦させたんだと思う」

 

「回避中って、そんな無茶苦茶な…」

 

「…いえ、案外的を射ているかもしれません。ちょうど、大鳳さんが回避行動をしている際にボウガンの射出音のようなものが聞こえたので…」

 

 「うそでしょ」と比叡が驚いた表情で聞いていた。ずっとタブレットを見ていたが、そんな様子は見えなかったから。それを見ていた白露達もずっとタブレットを凝視していた。確かに艦載機を発艦させた様子は見られなかった。あるとしたら、回避行動中のどこか。それをずっと見ている白露。鈴谷達はさっぱりわからん…といった様子で諦めている。三人の駆逐艦たちもそうだ。しかし、白露と時雨はちょっとした違和感を感じ、回避行動中の大鳳をずっと見ていた。何度も何度も見てみた。そして、スローにして見たときにその違和感に気づいた。

 

「……あっ!?」

 

「え、なになに!?」

 

「…ここ、ここの部分。スローにするぞ」

 

 そう言って、白露は映像を巻き戻しスローにした。球磨達もそれを見るために白露達のもとへと来た。大鳳が艦爆、艦攻を避けバク転している最中。最初にバク転したとき、その時に艦載機を射出。弾倉を空中に投げバク転する中でリロードを行う。そして、2撃目の艦載機を発艦させていた。回避行動で、しかもバク転しながらなんて…。普通ならできない。いや、大鳳だからできたことなのかもしれない。大鳳の艤装がボウガンのようになっていたから。

 

「ありえねえ…こんなの…」

 

 吹雪達と戦った白露だからわかる。ここの連中はやばい。本部に勤めている精鋭たちだ。かなり実力があるのは大方わかっていた。だけど、あの金剛達を相手に大鳳を除いてほぼ無傷。もう勝敗は喫しているようなものだ。もう、金剛達に勝ち目はない。

 

「……変わり者も多いと思ったけど、ここの連中マジで化けもんだわ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沖合では、金剛達がいったん距離をとり体制を立て直していた。金剛小破、霧島、多摩中破、無傷なのは飛龍と瑞鳳のみ。向こうは大鳳の小破を除いてほぼ無傷。ただでさえ日本海軍大本営の精鋭たちだ。並みの深海棲艦だったら数分もたたないうちに轟沈されるほどの実力を持っている連中だ。大鳳をつぶすことに集中していたが、このままでは誰一人轟沈判定を出すことなく負けてしまう。ならば、先に駆逐艦二人を狙いその後厄介な四人を叩けばいい。そう思い、金剛は艦隊に指示を出す。

 

「瑞鳳、飛龍は艦爆、艦攻を出して浦風と谷風を徹底的に攻撃してください。それと多摩。玉砕覚悟だけど、天龍に突貫して差しの勝負に持ち込んで。この中で近接戦を最も得意としているのはあなたです。合図を出したら、すぐに仕掛けてください。私と霧島は武蔵と日向に砲撃します。陣形は単縦陣!早々に蹴りをつけるネ~!そして飛龍は艦載機を放ちつつあれを日向と武蔵に打ち込んでください!!」

 

「はいよ~、了解」

 

 艦載機を発艦させながら呑気に返事をする飛龍。艦載機を発艦させた後、懐から手のひらサイズの石ころを取り出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「向こうは体制を立て直すようだな。こちらもいったん体制を立て直す。大鳳が合流するまで総員減速」

 

『了解』

 

「ふ~、天龍、飛龍の艦載機運用能力どうだ?日向、お前からも意見が聞きたい」

 

「……俺から言わせれば、あんなの初心者に毛が生えたようなもんだ…まぁ、三年もブランクあるからしょうがねえだろうし、艦種違う俺が言うのもあれだけどよ…でも、あれじゃ実戦じゃやってけねえぜ。出撃したとしても、即轟沈もんだ…」

 

「私も天龍と同じだ。艦載機をまともに運用できない。回避もできない。あれじゃあ、実戦は無理だ」

 

 武蔵は納得し腕組みをする。確かに今の飛龍の状態だと、今後艦隊の行動に支障が出てしまう。現に艦隊屈指の実力を持っている呉鎮守府にもかかわらずこのざまだ。飛龍も自覚しているのかもしれないが…。あれこれ考えていると大鳳が合流した。小破になっているものの、表情は涼しげで余裕そうだ。

 

「大鳳さん、お疲れ様」

 

「お疲れやね大鳳さん。さすがやわ!」

 

「いえ、全力でやっただけですし」

 

「もう、相変わらず謙遜するんだから…大本営でも、全空母の中でも屈指の実力持ってるんだから《我をたたえなされ~~ははは( ´艸`)》・・・・・みたいな感じで威張ってもいいと思うよ~…」

 

「ははは…そんな…私はそんなキャラじゃないですよ…」

 

「ええやないの!大本営装甲空母大鳳ここにあり!って騒ぎ立てれば誰も寄り付かんて!!」

 

「だから!!私はそんなキャラじゃありません!!!」

 

 「ははは」と谷風と浦風は高笑いをする。普段から敵艦隊と遭遇してもこれほどの余裕をもって会話できる。それだけ大本営の者たちの練度は高いのだろう。配属されて半年もたっていないとはいえ、浦風と谷風もさすがといえる。同期に白露と雷というS級艦娘たちがいたのもあるのかもしれないが、二人の経験値も他の者と引けをとらないほどだ。だが、慢心は禁物。演習だからいいものの、出撃時でも警戒を怠ってはならない。怠ったら命取りになる。三人の様子を見て天龍が釘を刺した。いつも艦隊の誰かが間の抜けた会話をしたとき、必ず天龍が釘を刺している。武蔵は厳しいイメージがあるが、実は少し甘いらしい…。

 

「こら!しゃべってねえで警戒怠るな!向こうはまだ空母が無傷なんだぞ!」

 

「も~…わかってるよ天龍さん…ちゃんと警戒…っ!?」

 

 谷風が喋っている最中、顔の横を何かがすり抜けた感覚がした。直後、数m先の海面に水柱が立った。相当な威力だったのか水しぶきが凄まじい。谷風の真横をすり抜けた何かは浦風、日向も襲った。浦風は難なくよけたが、日向はよけきることができず航空甲板に直撃してしまった。そのせいで、航空甲板は使えなくなってしまった。

 

「…なんじゃ今の?」

 

「……飛龍の石つぶて…砕破だったか…左足の影響があるからコントロールは不安定みたいだな……しかし、よくも…航空甲板を……おかげで瑞雲を発艦させることができなくなってしまったではないか~(#^ω^)」

 

『お…おう(;・∀・)』

 

「大鳳!!」

 

「ひゃい日向さんΣ(・□・;)」

 

「弾着観測射撃の準備頼む(# ゚Д゚)」

 

「ははは……了解…」

 

 そして、大鳳は飛ばしている艦載機から敵の情報、正確には霧島がどこにいるのかを把握した。相手の中で警戒すべきは霧島だ。場の把握能力などでは彼女ほど適した艦娘はいない。だから最初は彼女をつぶそう。うん…そうしよう…と日向は思った。

 

「日向さん、お願いします!」

 

「よろしい…全砲門撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「金剛さん達逃げて超逃げて~~~~~~~~~~~~~~~~(゚д゚)!」

 

 直後、金剛達…正確には霧島に弾着がピンポイントで直撃する。霧島の頭に砲撃が直撃し一気に轟沈判定を受けてしまう。これで残り4名。

 

「霧島!?くっ…瑞鳳は引き続き艦攻、艦爆を発艦。飛龍の可能な限り発艦、そして相手に砕破を飛ばしてください。多摩、もうこれは賭けです!相手艦隊に突撃!」

 

『了解!』

 

 金剛の指示に合わせ。飛龍、瑞鳳は艦載機を発艦。多摩は相手に突撃していった。金剛は砲撃で駆逐艦二人をつぶそうと考えた。しかし、金剛の放った砲撃は二人に当たることはなかった。それどころか、多摩の突撃と同時に二人もこちらに近づいてきているのだ。飛龍が艦載機で二人を応戦するも機銃で何機か撃ち落されてしまう。その間に多摩は二人に砲撃。二人はそれを回避して行く。

 

(白露に比べればまだこの二人は楽にゃ!多摩一人でもなんとか!!)

 

「とか思ってるんやないの?多摩さん」

 

 浦風は多摩に話しかけた直後後方に飛び上がる。直後、浦風のいた場所から魚雷が数本多摩の方に向かってきていた。多摩はそれを機銃で破壊し水柱が舞う中突っ込んでいくと、後方にいた谷風に向かい砲撃で牽制。浦風に接近戦を持ち込んだ。浦風は多摩の接近戦を回避しつつ砲撃を行おうとするが多摩の速さについていけず防戦一方になってしまう。

 

(くっそぉ、回避するだけで精いっぱいじゃ…。ここは、谷風からの援護を待ってそこから一気に形勢を逆転する!)

 

 浦風は、回避に専念し谷風からの援護を待つ。谷風は砲撃範囲内に近づいたとき、多摩に向かって砲撃を放った。しかし、多摩はその砲撃を顔面すれすれのとこで避け浦風からいったん距離をとった。

 

「おぉ…」

 

「ほう、なかなかやるのぉ。多摩さん…」

 

「これでも地獄を生き延びてきたにゃ…。【猛虎】の異名は伊達じゃない!!」

 

 多摩の動きに称賛を与える谷風と浦風。さすが三年前の地獄を生き延びただけはある。それだけ多摩の動きはすごいのだ。だが、多摩の強みは接近戦だけではない。砲撃や雷撃の能力はもちろん高い。しかし、本当の強みは別にある。それは、天性の勘と鋭い爪だ。曰く、多摩の爪は鉄の強度をほこり並大抵の深海棲艦なら一撃で葬ることができる。しかし、flagship級以上になるとさすがに無理らしいが。それでも、軽巡級ではかなりの実力を持っている。霊力もここ数年で力をつけたことで2万6千と呉鎮守府ではトップクラスの実力者なのだ。

 

「とりあえず、多摩一人でもお前ら二人は相手できるにゃ!だから、おとなしく倒されろ!」

 

「誰がうちらだけじゃと言った?経験じゃうちらは不利じゃ…。だけど、こっちは大鳳さんがおる。言っている意味わかるか?」

 

「……えっ?」

 

直後、多摩の上から艦攻、艦爆の雨が降り注いだ。多摩はよけきることができずに、轟沈判定となった。これで、残るは金剛、飛龍、瑞鳳のみ。

 

「さぁ、やったれや武蔵さん!!」

 

「言われずとも…。全砲門斉射!撃てぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 浦風の合図で、武蔵達は一気に砲撃を行う。砲撃は、金剛達に降り注ぎ、瑞鳳は直撃し大破に、旗艦である金剛は飛龍のガードにより難を逃れるも飛龍は硬化が間に合わず、中破になってしまう。その間、さらに距離を詰めてきている。これでは、完全に詰みだ。

 

「まずい…まずいまずい!!こうなったら、旗艦の武蔵だけでも…」

 

「あぁ…ごめん、これもう無理かも…」

 

 金剛が何とかしようともがこうとするが、すでに周囲には大鳳の放った艦載機が飛び交い、武蔵達もすでにこちらに近づいていた。もう金剛達に勝つすべはなかった。近づいてきた武蔵達の砲撃が金剛達を襲い、全員が轟沈判定となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――演習場

 

「う~ん、同調率も問題なし…。蒼龍、調子の方はどう?」

 

「いい感じ!これなら問題なくいけそう!あとは…」

 

「あとは艦載機を射出するための武器ね…。車椅子状だから弓を引くのもあれだし……。だから、これ!!」

 

 そう言って、取り出しだのはクロスボウ状の武器だ。大鳳のそれとは違い、弓をセットしトリガーを引くタイプの物のようだ。

 

「車椅子上の艤装だから、弓じゃなくてボウガン状の武器にしたんだ!それだったら、簡単に艦載機を射出できるだろうしね!」

 

 蒼龍はボウガンを渡されると、試しに接地してあった的に向かって撃ってみた。矢は真ん中に当てることは出来なかったが、真ん中から少しそれた場所に当てることができた。

 

「ばっちり。さすがね夕張!」

 

「にひひ!艤装関連だったらいつでも言って(^_^)b」

 

 艤装の調整を終え演習場から埠頭の方へ向かう二人。蒼龍は普通の車椅子に乗り換え手ぶらだ。艤装の方は呉鎮守府の面々が帰る際に一緒に積んでいくらしい。

 

「それにしても、今回の演習大丈夫?飛龍が艦隊にいるんだし…義足の方は大丈夫なの?」

 

「それが少し微妙で…。海上も杖ついて走行していたぐらいだし…大変なことになってるかも(^^;)」

 

「…………ごめん今なんて…?」

 

「大変なことになってる…」

 

「違うその前…」

 

「杖ついて走行してる…」

 

「杖ついてって…ちょっとそれ!?」

 

 夕張が何かを言おうとしたとき、埠頭の方から怒号が聞こえていた。声から察するにおそらく大鳳の声だ。何かあったのか気になり足早に埠頭に向かう。埠頭につくと、大鳳が飛龍に向かい何か叫んでいる。相当ご立腹のようだった。

 

「ふざけているんですかあなたは!何ですかあの戦い!艦載機もまともに射出できない、たかが威嚇射撃で体制を崩す。艦載機運用能力も素人に毛が生えたようなもの。そんな状態で呉鎮守府のために戦いたいですって!またみんなの役に立ちたい。戯言をいうのも大概にしてください!!それで実戦に行って、死ぬつもりですかあなたは!もし仲間が傷ついて轟沈にでもなったら、責任をとれるんですか!!!」

 

「大鳳!もうその辺にしておけ!」

 

 武蔵が大鳳を引き留め落ち着かせる。大鳳はまだ食って掛かりそうだったが、武蔵が首を振りこれ以上関わらないように釘をさす。大鳳は歯ぎしりしながら武蔵の手を振り払いその場を去ろうとする。去り際に飛龍に向けてこう言った。

 

「…………失望しましたよ……あなたには…」

 

「大鳳!」

 

「失礼します。ここにいては気分が悪くなるので…」

 

 足早にその場を去る大鳳。途中蒼龍を見かけると、興味無さそうに目を背け工廠の方に向かった。夕張も少し思うとこがあるのか飛龍のもとへ向かおうとしたが、その前に龍驤が飛龍に、正確には呉鎮守府の第1艦隊に話しかけた。

 

「なんやずいぶん盛り上がってたみたいだけど、大鳳の気持ちも理解してやり~や。自分らそのまんまじゃ本当にこの先危ういで…」

 

「……いったい何が言いたいのデス。龍驤」

 

「そのまんまの意味や金剛。お前の頭なら気づいているんちゃうか?……いや、気づいてても気づいてなくてもいいわ。とりあえず…」

 

 いったん、キャップをかぶりなおし第1艦隊のメンバー、呉のメンバーに顔を向ける。

 

「……なってないの~。全然なってない……特に飛龍。今のまま実戦に行ったら10分も持たないで」

 

「……まるであなたたちがやったら、10分もかからないで演習を終われそうな口ぶりだね…龍驤ちゃん」

 

「ちゃん付けするな。今うちはあんたを先輩として見ていない。一人の艦娘として、同等の立場としてあんたと話しているんや!まぁ、第1艦隊相手に40~50分弱は生き残れたことは褒めてやるわ。せやけど、武蔵達は優しすぎるわ。本気やったら初手であんたはやられてた。日向の瑞雲を見つけられない時点でもう負け確や。でも、ここまでもったのは金剛の指揮があったから。だから生き残れたんや。あぁ、あとさっきのことな!うちら第2艦隊があんたらとやったらジャスト10分……いや、早くて5分や!5分で決着つけたる!ラン&ガンの速攻スタイルであんたらつぶしてやるわ!……まぁ精進しいいや。地に落ちた龍さんよ…」

 

 龍驤は手を振りながらテントの方へと戻っていった。龍驤の話がきたのか第1艦隊のメンバーはうつむく。しかし、間髪入れずに夕張が飛龍に近づき義足と杖を交互に見た後飛龍に詰め寄った。

 

「ねぇ…」

 

「な、なに?」

 

「これどういうこと?」

 

「……と、いうと?」

 

「義足と杖で海上を走行していたのはどういうことなのかって聞いてるの!」

 

「え…えっと、その……なんていうか…………て…え!?ちょ(゚Д゚;)」

 

「こんの馬鹿者がぁぁぁぁぁ!!!こんな状態で弓引け回避しろ高速戦艦達に追いつけると思ったのかあああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

「痛い痛い痛い!!ちょちょちょまっ!!待って!!本当に待ってΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!」

 

 急に飛龍の頭を鷲掴みにし説教をする夕張。その形相はかなり真剣かつ鬼のような形相をしており、飛龍でさえたじろいでしまうほどだった。夕張は飛龍を見た後呉鎮守府の面々、さらに提督である伊織を睨みつけ手招きをする。伊織達は嫌な予感がしながらも夕張に近づいていく。そして…。

 

「全員そこに正座しろおおおおおおおおおおおおおお(# ゚Д゚)今から説教だこらあああああああああああああああああああああああああああああああ!!どうして演習前に私に相談しなかったあああああああああああああああああああああああああああ(# ゚Д゚)」

 

 そして、呉鎮守府の全員(蒼龍除く)は正座させられしばらく説教を食らった。説教をした後に飛龍の襟をつかみ夕張は工廠の方へと向かっていった。飛龍は途中「助けて~~~(;゚Д゚)」といい手を振ったが説教を食らってしまったため誰も助けることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ~。飛龍さん引きずられてる。もう、どれだけよ~…」

 

「ほらほら、対局中によそ見は厳禁ですよ。曙」

 

「……はぁ、もう私が打っても意味ないわ…もう詰みよ綾波姉…」

 

「あ、本当だ!……さてと、それじゃあ私も準備しますか!」

 

 周りを見ると、第2艦隊のメンバーはそれぞれ準備をしていた。時津風は足を開脚させていたり、伊勢は刀を見て傷が無いか確認している。吹雪、秋雲、龍驤はすでに海上に出ていた。呑気に将棋を打っていたのは綾波だけのようだ。

 

「ほら、さっさと行ってきなさいよ。遅れるわよ」

 

「えぇ、行ってきます」

 

 綾波は艤装を展開し海上に向かう。吹雪達に近づき、一度呉鎮守府の方を見た。向こうの第2艦隊のメンバーは足柄、鈴谷、熊野、文月、卯月、祥鳳の六人だ。綾波は熊野の方に目を向けるとボソッとこういった。

 

「……少し気になりますね~」

 

「お!やっぱり気になっている子がいるんやな!大方熊野っちゅう子が気になってるんちゃうか?」

 

「わかります?」

 

「わかるわかる!なぁ、秋雲~?」

 

「そりゃ、この秋雲さんだってわかるさ~!だって、熊野さんのあの武器。レイピアってやつでしょ?」

 

 見ると、確かに熊野の腰にはレイピアが携帯してあった。銀色の装飾が施してありあの手の武器を作れるのはおそらく夕張か工廠長の日村平八くらいだろう。綾波のヌンチャクや鳳翔の刀も然り、ここの工廠長の腕はとてもいい。さらに言えば、元帥の知り合いなんだとか。

 

「……………へへへ」

 

「綾波ちゃ~ん…。ほんの少しだけ本心が出てきかけてるよ~…。お~い、戻ってきなさ~い!長女命令ですよ~!」

 

「あ……ごめんなさい…」

 

「素が出るのは私と一部の人にしておくこと。ていうか、昔は誰にでも素だったのに…。どうして礼儀正しくなっちゃったかな…?」

 

「……さぁ、なんでだろ…」

 

 そう言って綾波は少し嬉しそうにうつむく。そうこうしているうちに時津風と伊勢が合流。合流した後に全員沖合へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ。嫌だぁぁぁぁぁぁ。よりによって第2艦隊と演習じゃない…。あのメンバー本当に強いのよ~……」

 

「あ…足柄さん?どうかしたんですか?……ていうか、いつもの覇気どうしたんですか?いつもなら【この飢えた狼と言われた足柄に任せなさい!私に任せればこの演習おちゃのこさいさいよ~~!】……とか言いそうじゃ~ん?」

 

 確かに、鈴谷の言う通り足柄はもともと大本営に勤めていたし艦隊でも屈指の実力者。リミットオーバーを会得しているのもあるし、ローテーションで第1艦隊と第3艦隊を行き来していたこともある。そんな足柄でもやりたくない相手であるのだから相当なのだろう。足柄を見て不安に思っているのはおそらく新人の鈴谷と熊野だろう。ある程度実力を持っている文月、卯月、祥鳳の三人は特に緊張などはしていないのだが、三人の反応は…。

 

「演習久しぶりだな~。負けないようにがんばろ~!!」

 

「お~だぴょん!う~ちゃんも頑張るぴょん!

 

「あ…えっと…制空権とかはお任せを…」

 

 ……特に問題なさそうである。どちらかというと、少し楽観的である。そんな不安を抱きながら沖合へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――演習開始5分前

 

『よし、お前達!遠慮はいらないぞ。いつも通りにやって、大本営第2艦隊の力を思い知らせてやれ!』

 

『了解!』

 

 気合を入れる吹雪達。最近は同じ艦隊内での演習ばかりであったため久しぶりの他鎮守府との演習に心が躍ってるのだ。特に熊野のことが気になっている綾波は早くやりたくてやりたくて仕方ないようだ。一方の呉鎮守府はというと…。

 

「嫌ぁぁぁぁぁぁ!!もうすぐ始まっちゃうどうしようどうしよう!!陣形は単縦陣で行くし、索敵は祥鳳と鈴谷と熊野がやってくれるし…砲撃も…」

 

「足柄さ~ん…本当に大丈夫?」

 

「よほど第2艦隊とやりたくないようですわね…」

 

 足柄が相当てんぱっている。そんな足柄を見て鈴谷と熊野も不安がより増してしまった。そんな中、無線で伊織が話しかけてきた。

 

『足柄さん、お気持ちはわかりますけど作戦通りに行きますよ…。向こうがラン&ガンでやってくるんだったら、こっちは相手と距離をとって砲雷撃と祥鳳の航空戦で何とかやっていきましょうや…』

 

「お……おう…」

 

「元気ないよ足柄さ~ん!文月達も頑張るからみんなもがんばろ~!えいえいお~!!」

 

『お…お~…』

 

「声が小さいぴょ~ん!!もう一回いくぴょ~ん!」

 

「もう一回!えいえいお~!」

 

『お~~!』

 

 気合を入れなおして陣形を組む足柄達。陣形を組み所定の位置につくと審判を務める長門から無線が入る。どうやら演習の時刻になったようだ。

 

『各員、所定の位置についたようだな。ではこれより演習を開始する!健闘を祈る。それでは、はじめ!』

 

 開始の合図とともに、足柄達は動き出す。相手から先制攻撃を受けるのは避けたいところだ。向こうには龍驤と伊勢がいる。龍驤は大本営の中でも屈指の実力者だ。初手の攻撃でこちらが不利になることも十分にあり得る。伊勢は航空能力は低いものの、それをカバーする砲撃力と接近戦が厄介だ。吹雪達駆逐艦組も能力が高く砲雷撃戦になると勝てる見込みがなくなってしまう。だからそれを避けたい。なんとしてでも。

 

「祥鳳、索敵機を飛ばして相手の位置を把握して頂戴。鈴谷と熊野も瑞雲を飛ばして。可能なら爆撃もお願い!」

 

『了解』

 

(さてと、向こうはどう動いてくるかしら…。今までの第2艦隊なら、龍驤の先制攻撃から始まりあとは吹雪達の砲雷撃戦。それが決まれば、早くても10分以内にこちらが全滅する。だから、こちらもまずは奇襲から入る。それで、向こうのペースを崩せば、何とかなるはず!)

 

「敵艦隊発見。…陣形単縦陣。まっすぐこちらに向かってきます。向こうは……索敵機しか出していない…みたいです。こちらの動きをうかがっているので…しょうか?」

 

「ごめんなさい、瑞雲撃ち落されちゃった…伊勢さんって人かな?三式弾持ってるみたい…」

 

「……は?」

 

 祥鳳達の発言に足柄は素っ頓狂な声を上げる。どういうことだ…。今までの第2艦隊の動きではない。こんなはずはない。龍驤が索敵機だけ出してるなんて。そうこう試行錯誤をしているうちに再び動きがあった。

 

「綾波さんが、単騎でこちらに向かってきます。ものすごいスピードです」

 

「っ!綾波を牽制して!近づかれたら厄介よ!」

 

 足柄の声に、全員が砲撃を放つ。綾波が向かってきているであろう方向に何発も。しかし、牽制は意味をなさず綾波はまっすぐこちらに向かってきていた。もう目視できる距離まで来ている。この状況に足柄は焦る。早く何とかしなければ。そう思っていたが、綾波は予想を超える動きをしてきた。綾波はそのまま熊野の方に向かってくると、錨を使って熊野の艤装に引っ掛けた。

 

「……へ?」

 

「ちょっとこの人お借りしますね~!」

 

「え!?あの…ひゃああああああああああああああ(;゚Д゚)」

 

 そして、そのまま熊野を連れていく。鈴谷は熊野を追おうとしたが長距離砲撃の嵐が襲った。これでは助けに行こうにも行けない状態だ。さらに、熊野がいた場所に砲撃が来たため後方にいる三人と分断されてしまった。

 

(……まさか、向こうの狙いは私達を分断させること…。綾波を熊野にぶつけて、私と鈴谷はおそらく吹雪と時津風。文月達3人に秋雲、龍驤、伊勢の3人ね…。ちょっと厄介ね…戦力的に厳しいわ…)

 

 砲撃をよけていった先に、足柄の予想通り吹雪と時津風がこちらに来ていた。この感じではもう詰んだな…と足柄は思った。霊力的にも向こうが上。実力的にも向こうが上。場数が違いすぎるのだ。

 

「仕方ないわね…鈴谷。全力を尽くすわよ…」

 

「は…はい!」

 

 足柄のもとへ近づいてきた吹雪達は一定の距離で減速し足柄達の様子をうかがう。向こうも覚悟を決めたのか逃げる気はさらさらないようだ。

 

「時津風ちゃん、作戦通りにね!」

 

「うん、もちろん!」

 

 

 

 

 

 

 

 後方にいた文月達は、前方にいた足柄達と分断されてしまったため仕方なく砲撃から逃げていた。こちらに来るのはおそらく龍驤達だ。となると、航空戦になる可能性が高い。向こうには伊勢もいる。しかし、決定的な違いは航空戦艦の伊勢がいるということ。伊勢は低速であるためおそらくここに来るまでには時間がかかるであろう。それでも、とても厄介だった。

 

「……私が艦攻、艦爆を発艦させて相手を牽制します。…時間は稼げると思いますが…」

 

「…祥鳳さん?空に何か見えないかぴょ~ん?」

 

 卯月の言う通り、空を見ると複数の影が動いているような気がした。数は6。しかし、鳥ではない。それは龍驤の放った艦載機だ。それはまっすぐこちらに向かってきていた。

 

「これは修羅場になりそうぴょ~ん…」

 

 そう言って、卯月は少し困った表情をした。なぜなら対空はそんなに得意ではないから…。しかし、そんな中でも文月は明るく元気な声で二人を励ました。

 

「大丈夫~!いつも通りやっていたらきっと大丈夫だよ~!」

 

「…………天使が……天使がここにいるぴょん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――綾波・熊野side

 

「ちょっと!?どこまで引きずっていく気ですの!放してくださいまし!!」

 

「あ、ならそのお願いかなえてあげましょうかね!」

 

 綾波は、錨を思いきり振り上げ熊野を投げ飛ばす。熊野は叫び声を上げながら空中で何とか体制を立て直し海面に勢いよく着地した。よほどの距離を引きずられてきたのだろう。鈴谷達を目視できる距離だったがとても小さく見えた。

 

「さてと、ここまでくれば流れ弾も当たらないでしょう…。思いきり接近戦を行えます…」

 

「……わざわざ接近戦を持ち込むためにここまで連れてきたんですの?」

 

「えぇ、だってその獲物を見せられたらこっちだってやる気になりますよ…。だから、見せてください…あなたの戦いを!」

 

 綾波は、格納庫からヌンチャクを取り出し構える。その姿を見て、熊野もため息を吐きながら腰に携えたレイピアに振れる。ぶっつけ本番での近接戦闘だ。訓練はしていたがあくまで専用の道具を使ってのことだ。正直勝てる自信はない、それでもやるしかない。

 

「……わかりました。この熊野、あなたに敬意を払い全力でお相手しましょう!」

 

 レイピアを抜き、熊野も構える。両者が構えしばらく膠着状態が続いた後、綾波が先に仕掛ける。猛スピードで熊野に接近。そして、ヌンチャクを振り下ろす。まずは、熊野の左腕に目にもとまらぬ速さで攻撃を仕掛ける。それを熊野は体をひねり躱す。躱した直後、熊野は綾波に突きを仕掛けるが、綾波は屈み込み躱した。その後は両者一歩も引かず攻撃を仕掛ける。おそらく、遠目から見たら二人の攻撃は全くと言っていいほど見えないだろう。それほどのスピードで攻撃をしているのだ。

 

「はあああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

「とぉおおおおおおおおおおお↑おおおおおおおおおおおおおお↓」

 

 奇声を上げながら、攻撃を受け流す熊野。攻撃を受け流しているとはいえすべてを受け流せているわけではない。ところどころにダメージを受けていた。それでも、綾波の攻撃についていけているだけでも上出来といっていい。綾波は大本営でも屈指の実力者。実質上駆逐艦でもトップ3に入るレベルであるからだ。ある程度攻撃を繰り返した後、熊野と綾波は一度距離をとる。距離をとった後熊野はレイピアを軽く振り、自分の顔の前に垂直に構え「ふんす!」と鼻息を荒げていた。熊野の剣術を見て、綾波は純粋に感嘆していた。近接戦闘では艦娘でも屈指ではないだろうか。白露とやったときも楽しかったが熊野とやっても楽しい。楽しくて仕方なかった。だが、やはり白露には到底及ばない。熊野相手ではおそらく異能を使う必要もないであろう。きっと将来化けるかもしれないと綾波は率直に思った。

 

「中々いい腕です。これなら今後も問題なくやって行けそうですね!」

 

「おほめの言葉有難く頂戴します。幼少期からフェンシングを習ってきて正解でしたわ!」

 

「ほ~…それはとても素晴らしいですね!」

 

 綾波は再び熊野へ突進していく。さすがに疲労があったのか熊野は反応できず綾波の攻撃を許してしまい小破の状態になった。攻撃を受け熊野はすかさず反撃に出る。しかし、熊野の攻撃はいなされなかなか当たらない。熊野は考える。どうにかして隙は作れないのかと。考えに考えた、だがこれはもう賭けのようなものだった。だがもうやるしかない。熊野は隙を何とか作るために綾波に攻撃を仕掛ける。綾波はヌンチャクでそれを楽々といなしている。表情はとても余裕そうで涼しい顔をしていた。

 

(…その顔をしているのも今のうちですの!)

 

 熊野は綾波の足元に思いきり横払いを繰り出す。その攻撃に綾波は飛び上がり回避する。それを熊野は見逃さなかった。自分の罠にまんまとはまってくれた。好機は今しかない。

 

「あらあら、よける場所はそれでいいのですの?」

 

「ッ⁉」

 

「綺麗に捉えました!!」

 

 熊野は一気に突きを繰り出した。狙うは綾波の胸元。これで一気に大破にまで持ち込む。それが熊野の狙いだった。しかし、綾波は胸元にレイピアが当たる寸前、体をひねりぎりぎりで躱した。綾波のほうが一枚上手だったのかもしれない。

 

「狙いはよかったですね。でも、これで終わりです!」

 

 勝ったと綾波は思った。これで、熊野に攻撃を当てれば一気に勝負を決められる。そう思っていた。しかし、綾波はなぜか違和感を感じた。先ほどからずっとそうだ。熊野の攻撃を受けているとき、レイピアから変な音が聞こえていたのだ。何かの摩擦音…、撃鉄音とでもいえばよいのだろうか。その音がずっと絶えなかった。

 

(あれ…何かおかしい。なんだ、さっきからずっとそうだ。この音はいったいなんだ?いったいどこから?)

 

「言ったはずですよ…。綺麗に捉えましたと!!」

 

 綾波はレイピアの方に目を向ける。すると不思議なことに、レイピアの長さが変わっていた。いや、正確には剣が伸びている。熊野のレイピアは特殊な加工をしており内側に何個も仕込み刀を入れているのだ。それが鞭のようにしなり綾波の背後まで迫っていたのだ。

 

(お願い…届いて!)

 

「ッ!?こんの!!」

 

 しかし、剣先が綾波に届くことはなかった。綾波はヌンチャクを背中に回し攻撃を防いだのだ。常人なら反応できないような場所、しかも死角からの攻撃であるのにそれを防いだのだ。もはや天性の才能、いや野生の勘とでもいえばいいのだろうか。なんにしても熊野は千載一遇のチャンスを逃してしまったのだ。熊野の攻撃を防ぎ一度海面に着地した綾波は、熊野に目にもたまらぬ速さで攻撃を仕掛けた。熊野はもう体力的にも限界であったのか、それとも万策尽きたのか抵抗することはなく一気に轟沈判定になってしまった。

 

『熊野轟沈判定。熊野はこちらに来てくれ』

 

「…………負けてしまいました…」

 

「……筋はいいけど、体力があまりなさそうだな…まずは基礎体力から鍛えていくのがベストかもな…」

 

「…へ?」

 

「…あ、いや…あははは(;・∀・)」

 

 一瞬口調が素に戻ってしまった綾波。先ほどまでの雰囲気から一変したため熊野は少し驚いてしまった。だが、すぐに長門のところまでいかなければならなかったためあまり気にせずに離れていった。熊野を見送った後、綾波はその場から動こうとせずしゃがみこんだ。熊野との戦闘で疲労が出たからではない。むしろ余裕がある。それでも動こうとしないのは自分が戻る必要がないからだ。

 

「さてと…それじゃあ、高見の見物でもさせていただきますか…」

 

 




熊野「あらあら…まぁまぁ…負けてしまいました…」
綾波「いいじゃないですか!健闘したんですし!」
熊野「あとは皆さんの健闘次第ですね…」
綾波「それでは、次回予告です!」
 熊野が綾波に敗れ、2対3の状況になる。足柄、鈴谷VS吹雪、時津風。文月、卯月、祥鳳VS秋雲、伊勢、龍驤。龍驤の言うように、大本営第2艦隊は速攻で相手を倒すタイプ。足柄達は果たして、何分持ちこたえられるのか?果たして勝機はあるのか⁉
足柄「99.99%ないわよ!!!」
鈴谷「私達の勝率たったの0.01%ってどういうこと⁉」
足柄「仕方ないじゃない!第2艦隊よ!大本営よ!!強いに決まってるじゃない!!」
 こほん…。そういう茶番はさておいて…。
足柄「茶番て何!!」
 次回、曲者揃いの大本営後編。
大鳳「あ、進んだ!」
足柄「急に出てこないでよ!!」
大鳳「仕方ないじゃないですか!!出番ほしいんですよ!!」
大井「それ考えたら私はどうなるんですか!!!もう死んでる設定ですよ(# ゚Д゚)」
全員『……あ…』
大井「……あ…………じゃなああああああああああああああああああい(# ゚Д゚)」


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51話 曲者揃いの大本営 後編

こんにちは、お久しぶりです!
ということで後編です!


「熊野さんが轟沈判定ぴょん…。これ、勝てるのかぴょん…?」

 

「…綾波さんはあの場から動く気はないようですね…。何か考えがあってのことなのでしょうか…?」

 

 熊野が轟沈判定を受けたことで、卯月達の士気が下がってしまう。正直言って熊野は今期の新人艦娘の中でも実力が高かったからだ。フェンシングを応用した近接戦闘はさることながら、砲撃も雷撃も索敵能力もとても優秀な部類に入るからだ。その熊野がやられたのだからもうこちらが不利なのは明確だ。おまけに向こうは航空戦艦の伊勢がいるからさらに不利…。

 

「どうするぴょん?こっちは駆逐艦二人、軽空母一人。向こうは戦艦がいるぴょん…。一撃でもくらったら、やばいぴょん…」

 

「…これはもうスピードを活かしていくしかないですね……。伊勢さんは速さがない…。だから、龍驤さんの攻撃を回避しつつ、少しずつダメージを与えていきましょう…。そうするしか…」

 

 祥鳳の助言に、一度後方に後退しようとする三人。とりあえず伊勢の砲撃が厄介すぎる。龍驤の艦載機も厄介だ。だから、その艦載機を迎撃しつつ祥鳳の艦載機で向こうに打撃を与えるしかない。そのため、祥鳳は艦載機を発艦。まずは、向こうに先制攻撃を与えるしかない。空には龍驤の艦載機がある。まだこちらには来ていないが、そろそろこちらに向かってくるだろう。文月達はいつでも迎撃できるように機銃をもち準備をする。機銃を構えたとたん、空にあった艦載機が三人に一斉に向かってきた。文月達は機銃で何とか艦載機を迎撃、祥鳳は艦載機からの攻撃を回避しつつ自らの艦載機操作に集中する。何とか攻撃を回避し再び距離をとろうとする。しかし、艦載機はまだ残っている。10機ほどだった艦載機は6機ほど残っている。おそらくまた艦載機が来るからまだ増えるであろう。

 

「……っ⁉……すみません。艦載機が全部落とされました…。伊勢さんの三式弾が見事に当たってしまいました……」

 

「それなら仕方ないね~…。艦載機を迎撃しつつ、もう一回迎撃機を発艦して!」

 

「りょ…了解です…」

 

 正直、艦載機からの攻撃を回避しつつ艦載機を発艦させるのは厳しい。しかし、何とかして反撃しなければならない。向こうはこちらに近づいてきている。伊勢の砲撃範囲内に入ってしまったらひとたまりもないのだ。本当にどうにかしなければ、あっという間に負けてしまう。そうならないようになんとか距離を保とうとする。しかし、直後に近くに砲撃が飛び交う。いったい何が起きたのかよくわからなかったが、それは祥鳳の焦った声で明らかになった。

 

「まずいです……相手が数十キロ範囲内に来ました…」

 

「えぇ!?もうきたぴょん!!祥鳳さんの艦載機は!?」

 

「何とか迎撃しようとしていますが、回避されてなかなか当たりません。それに……龍驤さんのほうが上手です……。私の艦載機はことごとく落とされていきます…」

 

「そ…そんな~…これじゃあ文月達ピンチだよ~…」

 

 文月の言う通り、これじゃあ勝ち目がない。夜戦でもあれば結果は変わるのだろうが、今は昼戦のみ。勝てる見込みはもう少ない。あれこれ考えている間に、龍驤達がもう目視できる距離まで近づいてきていた。見ると、龍驤が艦載機を発艦させこちらに向かわせてきている。おそらく艦攻だ。

 

「はわわわわ(゚Д゚;)艦載機を迎撃ぴょん!!雷撃だけは勘弁ぴょんΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

 卯月達は慌てて、艦載機を撃ち落そうとする。しかし、なかなか当たらずに数百メートル付近まで迫ってきている。3機ほどは上空に、残りはこちらにまっすぐ来ている。何とか機銃で撃ち落とすが、撃ち落したはずの艦載機が()()()()()()()()()()()()()()()、機銃が当たったとたんに消えたように見えた。何が起こったのかわからずにいると海面から雷撃が来ていた。今度は雷撃を封殺するもやはり何も起こらない。爆発音も何も聞こえない。困惑しているうちに伊勢からの砲撃が文月達を襲ってくる。何とか回避しているが、いつ当たってもおかしくはない状況だ。さらに、上空から艦載機が近づいてきている。上空からきているということは艦爆だ。今度は艦爆を落とそうとするが、こちらも先ほどと同様消えてなくなった。文月達はさらに混乱した。普通なら消えないはずだ。ならなぜ消えた。そうこう考えていると、祥鳳に砲撃が襲う。祥鳳はすんでのところでよけ何とか小破で済んだが、よけきれなかったらおそらく大破になっていたであろう。それほど伊勢の砲撃は正確だった。あんな遠距離から砲撃を当てるのは至難の業だ。これほどまでに正確なのはおそらく弾着観測予測だ。しかし、周囲に瑞雲も艦載機もないはず。祥鳳ははるか上空を見渡す。すると、数機の艦載機が上空を飛んでいるのが見えた。さっきの偽物の艦載機は囮。その間に空母の祥鳳をとる算段だったのだろう。やはり、実力でも向こうが上だ。おそらくこれでは勝てない。

 

「……これは、もう私達の負けかもしれませんね……」

 

 祥鳳は二人に聞こえないように愚痴をこぼした。そして、弓を引き艦載機を放つが先ほどのような覇気はもうなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「お、いい感じに向こうが混乱してる混乱してる!やっぱり、秋雲の異能が役に立ってるね!」

 

「にひひ!相手を騙すのや日常生活用品から燃料、弾薬補充だったらこの秋雲にお任せ~!あたしが異能を解かない限り、効果は続くからね!」

 

 陽炎型19番艦秋雲。霊力2万1千。異能、不可思議な絵画(トリックアート)。日常生活品から武器まで幅広いジャンルのものを絵にかきそれを具現化させる能力。長期遠征が多い第2艦隊の間では非常に重宝されている能力で食べ物や燃料などの補給をよくやっている。自身が異能を解くか、何かしらの強い衝撃があれば能力は消えてしまう。先ほどの艦載機は秋雲が龍驤の艦載機を似せて作った絵だ。雷撃も艦爆もすべて偽物。文月達を困惑させるために作ったものだった。案の定、文月達は困惑し取り乱している。その間に伊勢たちが叩けば楽々と戦いを終わらせることができる。余裕の表情を浮かべている秋雲と伊勢に対して龍驤だけは険しい表情をしていた。先ほどの飛龍の時といいやはりいつもと様子が違う。いつもならあっけらかんとした様子でいるはずだ。でも今は違う、真剣そのものだ。

 

「…………でや……」

 

 龍驤は握りこぶしを作り肩を震わせている。こういう時の龍驤は大体怒っているとき、それも相当だ。自分にとって嫌なことをされた時と似ている。龍驤はうつむいていた顔を一気に上げ叫びだした。

 

「なんでや!!お前はいつからそんなに弱くなったんや!!!あの時のお前はそうじゃなかった、昔のお前やったらそんなすぐに勝負は投げ出さなかったはずや。…なのに、いつから……いつからそんな臆病者になった!!お前はもっと格好良かった、同じ軽空母でも尊敬できるほど、誇りに思えるくらい!なのに…なのに……あの時のお前はどこに行ったんや!!祥鳳おおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 龍驤は叫びながら艦載機を発艦させる。数は12機。もう徹底的につぶそうと思った。祥鳳の態度が龍驤の逆鱗に触れてしまったのだ。龍驤は諦めるやつが大嫌いなのだ。祥鳳はもう勝負を諦めている。祥鳳は艦載機を発艦させているが伊勢の三式弾でほとんどを撃墜されている。あとは龍驤が3人を攻撃し大破まで持ち込めばもう勝ちだ。龍驤は艦載機を半分を水平に、半分を上空に上げた。文月達は応戦しているが練度の違いがあるのだろう。すべてを撃ち落すことは出来ていない。そして艦攻、艦爆を文月達にくらわせあっという間に轟沈判定を出して見せた。

 

『文月、卯月、祥鳳轟沈判定。三人はこちらに来てくれ』

 

「ふえ~……負けちゃった~…」

 

「もう、最悪ぴょん…」

 

「……」

 

 意気消沈し持ち場に向かおうとする三人。持ち場に向かおうとする三人に龍驤が近づいていく。正確には祥鳳だ。龍驤は祥鳳の胸倉をつかむとそのまま叫びだした。

 

「お前、何や今のは!!なんで勝負がついていないのに負けるって意気消沈してんのや!!この子らはまだ諦めていなかった。なのに…お前が先に諦めてどうするのや!!空母やろが!制空権とってなんぼやろ!!あの時のお前はどこに行った⁉あの時の自信を取り戻せ祥鳳!」

 

「ちょっと龍驤!やめなさい、熱くなりすぎよ!」

 

『龍驤、気持ちはわかるがもう三人は轟沈判定だ。これ以上何かするのであれば、それ相応の処分を受けてもらうぞ』

 

「っ!……さっさと行き…お前には失望したわ…」

 

 伊勢と長門に咎められ、龍驤は乱暴に祥鳳を突き飛ばす。そのまま、龍驤は離れていった。文月も卯月も龍驤の行動に驚いていたが、しばらくすると落ち着きを取り戻し長門たちのもとへといった。そんな中、祥鳳はその場にとどまり龍驤の背中をずっと見ていた。龍驤に言われたことが効いたのだろう。その言葉がずっと離れなかった。祥鳳は小さな声で、震えながらつぶやいた。

 

「……あの時の……あの時の私達はもういないんですよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘でしょ……もう私達だけじゃん⁉足柄さん、どうしよう⁉」

 

「……は……は……ははは……もう終わったわこれ(-人-)チ~ン」

 

「ちょ!?祈らないで⁉糸目になりながら悟らないで(;゚Д゚)ねぇってば!!」

 

「もう無理に決まってるでしょ(゚Д゚;)この状況みて勝てると思う⁉あなたはまだ新人、私は霊力2万5千!?向こうは吹雪が霊力2万9千7百、時津風私と同じ霊力2万5千!!おまけに二人とも異能持ち……これもう詰んでるのよおおおおおおおおおおおおΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

 発狂する足柄、鈴谷はそんな足柄に突っ込みを入れる。正直言って、足柄の言う通りこの勝負はもう負けが確定してしまっている。こうなるともう手のつけようがない。本当にないのだ。

 

「大体第2艦隊との演習って時点でやばいのよ!!意味わかる?ラン&ガンのスタイルで来られたら本当にもう終わりなのよ⁉今回は違う意味での攻撃だったけど、開始何分だと思ってるの⁉」

 

「な…何分たったんです?」

 

「ちゃっかり5分…」

 

「え“Σ(・□・;)」

 

「いやいやいやこれ本当よ…だから、せめてあと5分…5分だけ…!?」

 

 そうこう話している間に、二人に砲撃が襲う。二人は何とかしてそれを躱しひたすらに、全速力で移動する。後方には吹雪と時津風が追っかけている。その二人を見て足柄は叫びだす。

 

「逃げるのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

「いやいやいやいや(;゚Д゚)なんで私達逃げてるのおおおおおおおお!?」

 

 今現在、二人は吹雪達から逃げているところだ。足柄はなぜか二人と対面した直後に逃げ出し今の状況に至る。鈴谷は当然困惑しているが、旗艦が足柄なので従うしかない。しかし、逃げている意味がまったく分からない。

 

「とりあえず、今は逃げるわよ!時津風の能力が厄介だからね!」

 

「でも、それとこれとどういう関係が!?」

 

「多分、もうそろそろ追い付かれるからね。その時に時津風を狙うわ!合図したらそっちの方に向いて砲撃よ!」

 

「りょ…了解」

 

 足柄は、後方にいる吹雪達に目をやる。時津風は吹雪の後ろに隠れて見えないが、足柄の勘が正しければもうそろそろ仕掛けてくるはず。あとは、どのタイミングで何を使ってくるかだ。目視の距離で半径30mから20m前後。時津風の能力範囲は半径10m。急加速してこちらに近づいて能力範囲内になったら使ってくるはず。だから、自分の勘を信じるしかない。そう思ったその時、急に風の流れが変わったような感覚がした。方向は足柄達から向かって右側。同時に〈ガチャ〉っという音が聞こえた。その音を聞いて足柄は焦った口調で指示を出した。

 

「伏せなさい!鈴谷!」

 

「!?」

 

 伏せたとたん、二人の真上に砲撃が通り過ぎる。一歩よけるのが遅かったら直撃していただろう。右側を見ると、時津風がもう目の前まで来ていた。さっきまで、後方にいたはずなのに。

 

「あなた、いつの間に!?」

 

「私の能力で二倍速あったの忘れてない?」

 

「ッ!?」

 

 足柄達は時津風から距離をとろうとすると、後方から砲撃が飛んできた。それを左に移動して避ける。そして、同時に分析を始めた。吹雪達との距離は20mから30mあったはず。いったいどうやって距離を詰めてきたのか。確かに時津風の二倍速があれば距離を詰められそうではある。だが、時津風の時間操作の限界は一秒。一秒で真横まで来れるだろうか…、純粋な疑問だ。

 

(……いや、二倍速だけで詰めてきたんじゃない…あの子が操れるのは他にスロー、一時停止、巻き戻し…連続で時間を操れることもできたはず。なら、最初に二倍速で一気に10m範囲に近づいてきて、一時停止を使って真横まで詰めてきた。そう考えるのが妥当ね…)

 

 これからどうするか…。純粋に考えてやばい状況だ。時津風には追い付かれたし、吹雪も時津風と合流した。もう絶望しかないのだ。

 

「…………ごめん鈴谷……これもう詰みだわ(-人-)」

 

「だから⁉糸目にならないで、悟らないで!諦めないで!祈らないで!?」

 

「……でもまぁ、やれるだけやってみるわよ!!」

 

 足柄は二人に向かって砲撃を放つ。吹雪達は左右に避け、それを回避。こちらに向け砲撃をしてくる。なんとかそれを回避し砲撃を行っていく。時津風がいつ能力を使ってくるかわからないため随時警戒していないとだめだ。吹雪もいる、吹雪はおそらく能力は使ってこないだろうがそれでも手強いのは確か。おそらくこちらの動きを分析しているはずだ。

 

(さてさて、どうするか………はぁ、やっぱりこうするしかないかしら…)

 

 足柄は、急に四つ這いになり構える。鈴谷は一瞬困惑したが訓練でも同じことをしていたためすぐに理解した。おそらくあれをやる気だろう。短期戦で決めるならもうこちらも覚悟を決めるしかないだろう。

 

「鈴谷~、あれをやるわ。しっかりついてきて」

 

「は…はい…正直ついていくのきついですよ…」

 

「私の動きについてこれるだけで上出来よ!あなたも熊野もとても優秀よ!……さて、やるわ!」

 

 一気に足柄の周囲の雰囲気が変わる。足柄は霊力を開放し一気に片を付けるつもりなのだろう。ただ、足柄の疲労がとてつもないためあまりやろうとはしないがことがことだ。

 

「…霊力開放!ついてきなさい鈴谷!」

 

「あぁもうどうにでもなれええええええええ!!」

 

 足柄は異能もちだ。足柄の異能は獣身化(ビースト)。狼並みの身体能力に嗅覚も向上される能力。狼並みの身体能力なので、早さもかなり上がるのが特徴だ。おそらく速さだけでいえば舞鶴にいる島風を上回るであろう。その速さについていける鈴谷も尋常じゃないのは確かだろう。足柄は一気に吹雪の前まで近づくと頭をつかもうとする。しかし、その前に時津風が能力を使う。

 

「スロー」

 

「鈴谷あああ」

 

「はい!」

 

 鈴谷が時津風に砲撃、吹雪の逃げる方向に雷撃を放つ。そのまま打っても意味がないためだ。時津風の能力時間は一秒。一秒先の動きを予測しないといけないためかなり至難の業であるのは間違いない。しかし、鈴谷は何とかやってのける。ピンポイントで吹雪と時津風の逃げる方向に攻撃を放つことができたのだ。吹雪達は若干慌てるもそれを回避する。足柄はまず吹雪に砲撃と雷撃を放ち牽制し、時津風の方に向きなおる。足柄はその速さを活かし一気に時津風に迫る。迫られた時津風は能力を使い足柄を引きはがそうとする。

 

「巻き戻し」

 

 足柄は一秒前の状態に戻る。しかし、それを予測していたのか足柄は仕掛けてこなかった。時津風の方を見て少し笑っているように見えた。時津風は相手の意図がわからず距離をとろうと左側に走行する。しかし、そこで吹雪の叫び声が聞こえた。

 

「時津風ちゃん!!」

 

「っ!?」

 

 時津風の逃げる方向には、鈴谷がすでに待ち構え砲撃をしようとしていた。鈴谷は、いや正確には足柄もあの一瞬でお互いがお互いの意図を、何をしたいのかをあの一瞬で理解したのだ。時津風をまずつぶすために。

 

(こんの!!)

 

「当たれえええええええええ!!」

 

「ふんぬううう!!!」

 

 時津風は、気合ではるか上空へ飛び上がる。飛び上がった直後に足先に砲撃がかすったが小破に至るまでではない。砲撃を当てられなかったことに唖然としてしまう鈴谷。それが隙となってしまった。

 

「鈴谷!避けなさい!!」

 

「…あ、しまっ!?」

 

 直後、吹雪からの砲撃を食らってしまう。だが、吹雪からの砲撃では中破どまり。砲撃を食らった鈴谷は我に返り、何とか距離をとろうとした。しかし、時津風がすかさず鈴谷に砲撃をくらわせる。比較的至近距離であったため、すぐに大破になってしまった。

 

「……ふざけるなよぉ、私を……私を倒すことができるのはぁ……私より上の奴らだけだああああああああああああああ!!」

 

「はいは~い…時津風ちゃ~ん…興奮しな~い……」

 

 吹雪と時津風の集中砲撃を受け轟沈判定を受ける。これで残っているのは足柄のみ。足柄は、鈴谷が轟沈判定を受けたのと同時に即座に後方に下がり二人から距離をとろうとした。しかし、動きを先読みしていた吹雪によって逃げることができず至近距離で砲と雷装を向けられていた。

 

「演習お疲れさまでした!」

 

「……やっぱり敵わないわね…あなたたちには…」

 

 足柄は砲撃と雷撃を同時に受け轟沈判定を受ける。その結果呉鎮守府の全員が全滅。その間約10分。あっという間に、為すすべなく惨敗してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう、終わった終わった。やっぱりあいつら強いのな、指揮とってる俺も本当に驚くわ…」ズズズ

 

「ええ本当にあなたの艦隊は早く終わるわね…。あっという間の10分ね…」ズズズ

 

 呑気にお茶を飲みながら感想をいう。第2艦隊は本当に速攻で敵艦隊を殲滅するため、大本営の【電光石火】などと言われていることが多いのだとか。まぁ、本人たちは否定しているらしいが。お茶を飲んでいると、艦隊のメンバーがこちらに来ているのが見えたためお茶を飲む手をやめ埠頭のほうまで迎えに行く。迎えに行くと吹雪達は普通だったが、龍驤は少しイライラしたような様子だった。端末でも見ていたし無線でも聞いていたが祥鳳に対してかなり怒っていた。まぁ、龍驤は真面目な奴だし曲がったことは大嫌いだ。おまけに、勝負事、特にこういった演習関連で手を抜いた奴は大嫌いだ。今回の祥鳳は特にそうだったのだろう。

 

「…………みんな、とりあえずお疲れ様。向こうにお茶とか菓子とかあるからゆっくり休みながらくつろいでくれ」

 

『了解』

 

「…はぁ、疲れた疲れた……おやつ~、お茶~…」

 

「まったく、時津風は本当にマイペースだな…この秋雲さんにはわからないよ~」

 

 時津風と秋雲はいつも通りの様子で休憩スペースへと向かう。吹雪と綾波はというと…。

 

「吹雪お姉ちゃん!綾波お姉ちゃん!お疲れ様です!」

 

「二人ともお疲れ!すごい戦いだったね!」

 

「…ふん、まぁ二人なら当然の結果なんじゃない…」

 

「また曙はもう…もうちょっと素直になりなよね…」

 

「ほらほら、みんなはしゃがない。休憩スペースで次の演習でも見ながらお茶とか飲もう」

 

『は~い!』

 

「ははは、本当に元気な四人だな吹雪」

 

「ほんとだね、いつかあの四人と一緒に出撃したりして!」

 

「駆逐艦6人で出撃なんて、自殺行為もいいとこだろ」

 

 第七駆逐隊のみんなに囲まれて楽しそうにしている。同じ特型駆逐艦でもあるし、約5年間付き合っているのもありかなり親密だ。特に漣は二人を前にとてもはしゃいでいる。そして、伊勢と龍驤は…。

 

「…………」

 

「…あ…あの龍驤…?」

 

「……はぁ、すまん。ちと寮に戻って休むわ。昼になったら呼んでくれへんか?」

 

「え……えぇ…」

 

 龍驤は一旦寮の方へと戻っていった。おそらくだが、祥鳳に対するイライラや嫌悪感などがあったのかもしれない。このままここにいたら何をするかわかったものじゃないから一旦寮の方へといったのかもしれない。

 

「…やれやれ、大鳳といい龍驤といい…ここの空母は好戦的だな…」

 

「赤神大将…好戦的…って言っていいのかはわからないと思うよ(;・∀・)」

 

「そうそう赤神君。きっと二人ともちょっと混乱して、気持ちがごちゃごちゃになってるからあんなこと言っちゃったのかもしれないわ」ひょこ

 

「うお!?びっくりしましたよ、三笠さん…」

 

「あらあらごめんなさい!もう少ししたら私達の艦隊の番だからね!ほらほら、みんな出番よ!」

 

 三笠の声掛けに立ち上がる第三艦隊のメンバー。そのまま艤装を展開させて海上へと向かう。第三艦隊は旗艦筑摩を筆頭に龍田、由良、陸奥、磯風、舞風の六人だ。第1艦隊に比べれば火力に欠け、第2艦隊に比べれば速さに欠けてしまうが、全員がとても能力が高くそれぞれ得意分野があるのだ。長期戦に持ち込めればおそらく連合艦隊に匹敵するほどの実力を持っているだろう。

 

「それでは皆さん。全力で戦って、勝ちましょうか!」

 

『了解!』

 

 第3艦隊のメンバーはそれぞれ沖合へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

「さてと……こっちは比叡旗艦に随伴艦に球磨、睦月、如月、水無月、二回目になっちまうけど瑞鳳。頼むわ」

 

『了解』

 

「りょうか~い……ひぇ~……」

 

「……比叡…どうしてそんなに憂鬱くま…?」

 

「……よりによって……職人気質の第3艦隊が来ましたか……」

 

「あぁ…確かに第3艦隊は職人気質が多いくま……砲撃が得意で腕力だけを向上させる異能を持つ筑摩…近接戦闘もさることながら機銃を使った戦いに対空戦もそこそこすごい龍田、お寺出身で術とかを使うことができる由良、火力だけなら大本営屈指の実力を持つ陸奥、全部の能力が平均以上で器用貧乏気質の磯風、ダンスを応用した動きで敵をかく乱する舞風……」

 

「……つ、強者しかいないにゃしぃ……(;・∀・)」

 

「ほらほら、マイナス思考でどうするんだ!やれることやって、一泡吹かせるぞ!」

 

『は…はい…』

 

(だめだこりゃ…完全に意気消沈してる…)

 

 この2戦で2敗。しかもどっちも全滅している。それだけ向こうが強いのは確かなのだろうが…。しかし、第3艦隊が相手ならまだチャンスはある……のだが第3艦隊と言えど全員が歴戦の猛者。勝てる勝率は低い。

 

「と・り・あ・え・ず…瑞鳳の索敵、先制攻撃しつつ比叡の砲撃でかく乱。球磨達の雷撃で勝負をつけられたらいいんだけど……いかんせん…相手が相手だからな…(;・∀・)」

 

「みんな!!健闘を祈るネ~~(*^^*)」

 

 金剛の明るい声に場が少しだけ…ほんの少しだけ明るくなったが、海上に出た比叡たちは少しだけ胃の調子が悪くなったそうだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………あぁ、全員準備はできたか…?』

 

「はい、私達の方は大丈夫ですよ!長門さん!」

 

『うむ、比叡、準備はできてるか?』

 

「胃は痛いし吐き気しますしさっさと終わらせて戻りたいです…」

 

『よろしい、でははじめよ…』

 

「待ってください!?もう少しだけ準備時間を!!!」

 

『そう言ってから何分立ったのだ比叡……覚悟を決めろ!時間は待ってくれないし逃げても何にもならん!!』

 

「それはそうですけど!?」

 

『でははじめ!!』

 

「始まっちゃったΣ(・□・;)」

 

 長門が開始の合図をした。文句を言っていても仕方ない、比叡たちは動き始めた。まずは瑞鳳が索敵機を出し相手の位置を確かめる。索敵ではこちらが有利だ。向こうで索敵機を出せるのは三人だけ。しかし筑摩は索敵と雷撃を苦手にしている。砲撃だけなら強いのだが他はからっきしなのだ。あとは由良と龍田だが、おそらく龍田は索敵機を積んでいないはず。対空と砲撃重視で来るはずなので電探を装備しているはず。わからないのは由良だ。索敵機を飛ばしてくるのか、それとも何か別のことをやってくるのかが本当にわからない。由良は特殊な術を使ってくる。それを使ってこられたらたまったものじゃない。厄介さだけで言ったら由良が第3艦隊の中でも一番かもしれない。

 

「瑞鳳、相手は見つかりましたか?」

 

「……いた、八時の方向。どうする?先制攻撃する?」

 

「お願いします!私は砲撃準備をするので、球磨さん達は雷撃の準備を!相手に近づき次第打ちます!」

 

『了解!』

 

 瑞鳳は艦攻、艦爆を3機ずつ発艦。先制雷撃で相手を削ることができればこちらが有利になるのは確実。しかし、龍田と器用貧乏気質の磯風がいるため対空射撃で数機落ちるのは確実だろう。とにかく数機落とされてもいい。残った数機で相手を牽制し比叡の砲撃でかく乱さえできれば。しかし、案の定数機落とされてしまう。残ったのは2機。何とか相手に攻撃をするが相手はこれをよけてしまう。

 

「だめ、攻撃が当たらなかった…」

 

「でも十分です!瑞鳳、相手との距離は?」

 

「もうすぐ目視できる距離かな…」

 

「よし、全員増速!相手の距離を詰めながら私が砲撃して相手をかく乱します!瑞鳳はまた艦載機を発艦させて!今度は艦戦を」

 

『了解』

 

「さぁ、これで乱れて!」

 

 比叡は砲撃を放つ。命中率がないのが痛いがそれでも砲撃を放ち続けるしかない。これで相手をかく乱することができればいい。だが、相手は予想を超える動きをしてくる。相手はこっちにまっすぐ向かってきている。砲撃を恐れずに、もしかしたら当たるかもしれないのに。それでも、まっすぐこっちに向かってきていた。

 

「ちょっと比叡!相手がこっちにまっすぐ向かってきてる!」

 

「わかってます!私の砲撃が当たらないのをいいことに!!」

 

「……はぁ、仕方ない。球磨達が先行してくるくま!睦月と如月借りるくま!」

 

「球磨さん…お願いします!」

 

「よし、行くくま二人とも!」

 

『了解!』

 

 三人は、先行し筑摩達のもとへと向かう。まずは相手に雷撃を放つ。まっすぐ、それも単縦陣で来ているのなら、よける方向に雷撃を散りばめれば何人かはよくて中破にできるはずだ。そして、相手の艦隊が目視できる距離まで近づいてきた。距離的に5km圏内。球磨達は相手に雷撃を放つ。そして、予想通り相手は雷撃をよけるためそれぞれの方向によける。ちょうどよける先に雷撃が近づいていく。

 

(当たれ…当たるくま!!)

 

 球磨は祈る。当たってくれ。当たったらこちらが有利になる。しかし、祈りもむなしく相手は雷撃に気づきそれをよけたり、砲撃で雷撃を無効化した。

 

「まったく!やっぱり並大抵じゃ傷つけられないくま!」

 

「気づいているのなら最初からやらなければいいのではないですか球磨さん…みなさん、相手を砲撃します」

 

 筑摩達は球磨達に砲撃を放つ。しかし、球磨達も負けじとこれをよける。現状だとまずいためいったん距離をとろうとする。比叡達と合流しなければ一気に不利になってしまう。

 

「睦月、如月!いったん距離をとって比叡達と合流するくま!」

 

 球磨達が比叡達と合流するため相手に背を向ける。増速しようとしたその時背後から口笛のような音が聞こえてきた。音が聞こえた直後、球磨達の真下から衝撃が走り三人は宙に浮いた。空中だと回避ができない。勢いがつきすぎたせいか体制を立て直すことができない。

 

「陸奥さん、お願いします」

 

「了解、長門のいる手前いいとこ見せないとね!全砲門斉射!撃てえええええ」

 

 陸奥が空中にいる三人を狙いだす。轟音とともに陸奥の周辺の海面が荒れる。戦艦、しかも世界に名をはせたビックセブンの一人。その砲撃が球磨達を襲う。一撃でもくらえばかなりの確率で轟沈判定だ。

 

「ええいくそおおおおおおおお!睦月いいいいいいいいいいいい!!」

 

「は、はい!!」

 

 睦月が空中で体をひねると同時に球磨と如月が睦月と同じ動きをした。その回避で陸奥の砲撃を避けることに成功した。睦月は異能艦であり能力は共鳴(レゾナンス)。半径6m以内にいる人間と自分の動きと同じ動きをさせる能力である。ただし、人数にも限度がある。自分を含めて3人まで。それが睦月の能力の限界である。海面に着地すると、そのまま増速し比叡たちのもとへと向かう。合流させまいと筑摩が由良に指示を出した。

 

「由良さん!あの三人を合流させてはいけません。最低でも一人…いえ、優先は睦月さん。彼女の異能は少しだけ厄介です。お願いします!」

 

「了解。それじゃあ、またこの子で迎撃しようかな…来なさい廉貞(れんてい)!!」

 

 直後、睦月の真下から何かが動く感覚がした。睦月がそれに気づき回避した瞬間、海面から巨大な金魚のような、角の生えた魚のような生き物が出てきた。回避できなかったらどうなってたことかわからない。再び空中に舞い大きな隙が生まれていたかもしれない。廉貞と呼ばれたその生き物は海面に戻った後再び睦月を襲うようなことはしなかった。そして、そのまま比叡たちのもとへと向かった。

 

「……奇襲は失敗…逃げられてしまいましたね…」

 

「ごめんなさい、あの三人が空中にいたときに私が仕留められていればよかったのだけれど…」

 

「いえ、大丈夫です。焦らずに行きましょう!由良さんもありがとうございます。この先は由良さんは術を使わず、索敵機や砲撃、甲標的などで相手を迎撃しましょう。おそらくですが、もう向こうに奇襲は通用しないでしょう。それに由良さんの体のこともあります。ここは無理せずに行きましょう」

 

「あはは…筑摩さん、こんな時も由良の体を心配しなくても…」

 

「駄目だ由良さん。陰陽師の末裔ということもあるし、術を使うだけでも体に負荷がかかる。それに持病もあるのだ。無理をさせては、長良さんにどやされる…」

 

「……あ、はい……」

 

 そう、由良は陰陽師の末裔。先ほど出てきた廉貞という金魚は由良が使役している式神。由良は他にも複数体式神を使役している。式神を出すときはかなり体力を消耗する。しかも、磯風の言う通り由良は持病がある。てんかんと喘息を持っているためあまり無理をすることは出来ない。教官として働いているときもそうだったが、週に2~3回明石のもとへ行き検査を受けているのだ。持病を持つ前は前線でバリバリ働いていたのだが、戦場で発作を起こしてからというもの、出撃する頻度が大幅に減ったのだ。長良が由良に無理をしないように釘を刺したのも大きい。無理をすると長良に怒られる。烈火のごとく怒られる。だから、艦隊の全員は由良に無理をさせないのだ。たとえ演習でも。

 

「はいはい、ではでは、磯風さん、舞風さん。先行して相手をかく乱してもらっていいですか?」

 

「あぁ、私は準備万端だ!舞風は?」

 

「私も行けるよ!向こうにいる全員と楽しく踊ってくるよ!!」

 

 舞風はそう言って、嬉々とした表情で先行していく。その様子をみて磯風が少しだけ頭を抱えた後に舞風を追っていった。

 

「さて、それでは私達も準備しましょうか。龍田さん、念のため対空射撃の準備と接近戦の準備を。瑞鳳さんが艦載機を発艦させてくるかもしれないし、比叡さんに飛ばされてこちらに接近戦を仕掛けてくるかもしれません」

 

「えぇいいわよ~。殺す気でいっていいのかしら?」

 

「…う~ん、それは任せます…」

 

「ふふふ、りょうか~い!」

 

 筑摩達も警戒を怠らない。瑞鳳が艦載機を発艦させてくるかもしれないから。空母である以上こちらに攻撃してくるのはおそらく確実。しかし、接近戦も得意としている以上こちらに奇襲に来る可能性もある。万が一のために準備をしておく。こちらも接近戦が得意の龍田もいるし筑摩ももちろん接近戦が得意だ。接近戦はこの二人がやるとして、由良と陸奥には砲撃の範囲内に来たら攻撃してもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……奇襲が失敗…敵はこちらに近づいてきてる…。それに磯風さんと舞風さんがこちらに来ていますね…球磨さん。こちらに戻ったら接近戦の準備を!磯風さんもいますが、舞風さんが厄介です。こちらに近づかれたら、下手に砲撃できません」

 

『わかったくま…すぐにそっちに合流する。睦月、如月、増速してさっさと合流するくま』

 

 無線から少しした後に、球磨達が無事に合流してきた。おそらく由良はもう仕掛けてこないだろう。だから、警戒すべきは先行してきてる二人と陸奥の砲撃だろう。まずはその対策をとらねばならない。あの二人の速度だ。ものの数分でこちらに来る。目視できる距離に来たら砲撃を行うしかない。瑞鳳には筑摩達への攻撃に集中してもらおう。遠距離で攻撃できるのは瑞鳳だけだ。

 

「瑞鳳、筑摩さん達へ迎撃お願いします。私達はあの二人に砲撃!」

 

『了解』

 

 指示通りに瑞鳳は艦載機を発艦。筑摩達へ攻撃を行う。比叡達は磯風達への迎撃のため砲を構える。そして、二人が一気にこちらに近づいてきたため近づけさせまいと砲撃を放った。

 

「全砲門、斉射ああああああああ!」

 

 砲撃の雨が磯風達を襲う。水柱の陰に隠れて見えにくかったが、わずかに見えた二人の様子からおそらくダメージは受けていないだろう。砲撃の雨をうまくかいくぐったようだ。このままだと、こちらに近づかれてしまう。しかし、砲撃もむなしく二人はこちらに近づいてきた。そして、舞風はこちらに近づきながら砲撃を行い比叡達の合間を縫うように動いてきた。舞風に砲撃をしようとしてもうまく味方の前に立たれてしまうため砲撃を行うことができない。その間に磯風がまず睦月に向けて砲撃。舞風の方に集中していた睦月は砲撃をもろに直撃。中破になってしまう。

 

「っ!?この、舞風…お前しつこいくま!!とりあえずこっちにこい!!」

 

「じゃあ、捕まえれるものなら捕まえてみなよ!!多分一人じゃ無理だろうけどね!!」

 

「何が何でも捕まえる!」

 

 舞風を追い捕まえようとする球磨。しかし、捕まえようとしてもぎりぎりのところで躱されてしまう。手が届きそうになってもその前に躱される。そして、味方に近づかれ砲撃できない状態にさせ、そのうちに磯風が砲撃し攻撃。今度は瑞鳳に向けて撃ったが瑞鳳はこれを難なく躱す。磯風にも砲撃を行うが、磯風は適度な距離を保っており砲撃をうまく回避している。比叡の砲撃は期待できない。残っているのは睦月と如月。しかし、二人の攻撃もむなしく磯風が放った雷撃が当たってしまい睦月は大破、如月は中破になる。そんな中、しびれを切らしたのか瑞鳳が艦載機を発艦させた直後に叫ぶ。

 

「もう見てられない!私が磯風の方に接近戦するから、あなたたちは舞風に集中して!!」

 

「ちょっと待って瑞鳳!冷静に!」

 

 瑞鳳は聞き耳持たずに磯風の方に向かう。磯風は瑞鳳が来ているのを確認。さらに、後方を一瞬だけ見ると、瑞鳳に砲撃をし牽制しながら後方に下がっていく。瑞鳳は念のため装備しておいた機銃で磯風に砲撃するが、磯風は難なく躱す。それに加え、的確にこちらに砲撃や雷撃を放ってくる。一瞬でも気を抜けばこちらがやられてしまう。

 

「くっそこの!!さっさと当たれっての!あと近づかせろ!!」

 

「申し訳ないが遠慮しておく…それと、あなたはもう終わりだ。残念ながら」

 

 直後、磯風は空中に高く飛び上がる。瑞鳳は磯風の行動に目を向け次に何をするのか警戒した。しかし、それがよくなかった。上を向いた後に、瑞鳳に強い衝撃が走った。しかも、轟沈判定だ。何が起こったのかわからなかった瑞鳳だったが、すぐに理解した。いつの間にか、筑摩達が目と鼻の先まで来ていたのだ。先ほどの攻撃は由良の甲標的。磯風が後方に下がってきたときに甲標的を放っていたのだ。そして、磯風はあの一瞬で甲標的がいつ来るのかを理解し、それと同時に高く飛び上がったのだ。冷静であれば瑞鳳は避けれていただろう。しかし、感情的になってしまったことで甲標的に気づけなかったのだ。

 

「だから言っただろう。あなたはもう終わりだと」

 

「磯風さんありがとうございます。さて、では一気に勝負をつけましょう。陸奥さん、砲撃範囲内ですね?お願いします!」

 

「了解。さぁ、行くわよ!」

 

「舞風さん!離れて!」

 

 筑摩の合図に全速力で比叡達から距離をとった舞風。その直後、陸奥の砲撃がマシンガンのごとく比叡達を襲った。よけることができなかったため比叡達はもろに陸奥の砲撃を何発も食らうことになった。その結果、比叡達は一気に轟沈判定。結局3戦全敗。一人も中破以上になった者はおらず大本営の圧勝で終わった。

 

 




足柄「信じられない!!全敗で終わったじゃない(# ゚Д゚)」
比叡「ヒエエエエエエエエエエエエエエエ(;゚Д゚)終わっちゃったああああああああ」
金剛「くっ!やはり大本営はやっぱり曲者ぞろいおろろろろろろろ」
大鳳「…………いい加減吐くのやめましょうよ…」
伊織「…ごほん、ほらほら負けが確定しちまったんだからしょうがない…次回は演習後の話だな…」


※一部修正しました


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52話 思い

前話で出てきた由良の術の元ネタはとあるジ〇ンプ漫画に出てきた陰陽術師を元ネタにしている。その人の名前もゆらという名前だったとか…

お久しぶりです!今回52話になります
少しでも楽しんでいただければ幸いです。


演習が終わる数十分前:工廠裏

 

「……はぁ……」

 

 大鳳は、工廠裏で体育座りしてため息を吐いていた。ここにきて最初に思ったことは【やってしまった】…だった。ごちゃごちゃになった自分の気持ちをそのまま飛龍にぶつけてしまった。あんなことを言うつもりはなかった。でも怒りが勝ってしまった。大鳳は真面目過ぎるのだ。あんな状態で、まして杖を突きながらなんて自殺行為にもほどがある。ここにずっといたら工廠の入り口の方で飛龍が絶叫を上げながら夕張に引っ張られていた。おそらく義足のことであろう。「いい義足作って海上を走行させてやる!」っていう話声が聞こえたから間違いない。見つからないようにここで隠れていたが、大鳳はこっそり入り口の方を見る。おそらくまだ出てはこないだろうが鉢合わせにはなりたくない。もう少しだけここにいようと思ったとき、足音がこちらに近づいてきてるのが聞こえた。

 

「あ、大鳳さんだ!やっほ~!お疲れ様!!」

 

「……あら、未来ちゃん、お疲れ様」

 

 大鳳に近づいてきたのは工廠で整備員として働いている山本未来(みく)という女性だ。短大を卒業したのちにここに勤めているのだとか。緑色の長い髪をツインテールにしているのが特徴である。なんでも、あの山本元帥の孫なのだとか。もう一度言う、山本元帥の孫だ。万が一変なことをしようものなら元帥が黙っていない。話を戻そう。未来はそのまま大鳳の隣に座り持っていた缶コーヒーを開け飲み始めた。どうやら休憩時間らしい。

 

「落ち込んでどうしたの?」

 

「あぁ、いえその……」

 

「…………あぁなるほど!もしかしてさっき工廠に入った飛龍さん?」

 

「ふぇ⁉い、いやええっとその…」

 

「図星だ!大鳳さんわかりやすいね」

 

「う…うぅ…」

 

 大鳳は自分の膝に顔をうずめる。未来の言葉に少し落ち込み気味だ。未来はコーヒーを飲みながら大鳳の様子を見る。しばらく見ていてもずっと項垂れていたので声をかけてみた。

 

「噂で聞いたことあるんですけど、大鳳さんて、飛龍さんのこと尊敬してます?」

 

「……そう……ですね……尊敬している先輩です……私がここに配属されたときも…アドバイスをくれてよくしてくれたんです。……4年と少し前だったかな…」

 

 言葉を詰まらせながら大鳳はゆっくり話し出した。その顔は少し嬉しそうではあった。きっとその時の日常が楽しかったのだろう。4年前は大湊鎮守府が創設されたばかりの年。飛龍と蒼龍はフリーエージェントとしてではなく鎮守府所属になったため演習などでしか会うことはなかったが、それでも会ったときはすごいうれしかった。その時もいろいろとアドバイスをもらったから。その時間が大鳳にとって生きがいであった。あの事件が無ければ。

 

「でも……事件があってからあの二人は前線に出れないほどの怪我を負って……あの時の光景が忘れられないんです。あの二人であるはずなのに……まるで抜け殻のような……そんな様子でした……。あの事件から3年経って、最近急に復帰するって聞いたときは……その…」

 

「…気持ちがごちゃごちゃになっちゃった?」

 

「ごちゃごちゃ……ですか?……そうですね……怒り半分……うれしい半分でしたね…」

 

「せっかく戻ってきたのに、そんな怒らなくても…」

 

「戦争なんですよ!万が一死ぬようなことがあったら…本当に…」

 

「…あぁ…大鳳さん真面目だもんね…あんな状態で戦争に出られたら、嫌なわけだ…だから、戻ってきてほしくなかったんだ…」

 

「……」

 

 大鳳はそのままうつむいた。未来に話したことはすべて本心。そして、未来に指摘されたこともそれも本心。今の大鳳の気持ちはかなり複雑だった。今後あの二人が前線に出て万が一のことがあれば大鳳もどうにかなりそうだった。だからさっきあんなにきついことを言ってしまった。飛龍は黙って聞いていた。その時の飛龍はとても悲しそうな顔であったが。

 

「でも、このままじゃよくないよ!あとでちゃんと仲直りしよう!」

 

「え…そう……ですね…頑張ります…」

 

「うん!」

 

 未来と話して少しだけ気持ちが楽になったような気がする。もしも後で時間があるなら少しだけ話をしよう。もしこのまま分かれて二度と会えなかったら…それこそ後悔してしまいそうだから…。

 

 

 

 

 

 

 

「ほら!新しい義足完成!これで杖なしでも海上を走行できるはずよ!」

 

 工廠に連れてこられた飛龍。飛龍に夕張は新しい義足を作りそれを装着してもらう。今飛龍は工廠裏にある海面におり海の上を立っている状況だ。そのまま重心を前に傾け海上を一気に駆け抜ける。杖を突いているときより安定性が一気に上がった。重心も左足にかけやすいしバランスも安定している。海上においてある柱も一気に避けさらに設置してある的めがけて弓を引く。演習時よりもやりやすく、発艦した艦載機も中央を射抜くことは出来なかったが的に当てることができた。

 

「…すごい、ここまで安定してるなんて…」

 

「まぁ、あくまでそれは海上用…。日常生活では普通の義足を履いて杖ついて過ごして」

 

 夕張の言ったことに飛龍は納得して陸に上がる。この義足はあくまでも海上用。重心がかけやすいから陸でも使いたいものだが。しかし、夕張は陸用の義足も今度作って送ると言ってくれた。その時に、拍手をしながらこちらに近づいてくるものがいた。音のしている方向に目を向けるとオレンジ色の髪の色を肩ぐらいまで伸ばし、航空隊員がかぶっているようなゴーグルの付いた帽子をかぶり糸目が特徴な男性が近づいてきていた。

 

「いやはやこれはこれはすごい!さすが夕張さんが作っただけはあります。とてもいい出来ですな!」

 

「ひ⁉日村工廠長!!」

 

 近づいてきたのは日村平八。ここ大本営の工廠長をやっているものだ。元帥の友人で同じ格闘仲間である。だが、戦闘員としてここにいるのではなくあくまで整備および開発の責任者としてここにいる。矢矧や鳳翔の刀、青葉の武器を作ったのも日村だ。白露の武器は夕張が作ったが、日村は夕張にS級たちの武器作りを担当させているのだという。日村は師匠として見守りをしているのだとか。

 

「え⁉あっ⁉なんでここに⁉」

 

「ただの散歩ですよ!たまたま見かけたもので。それにしても、やはり艦娘の艤装とは不思議なものです。その艤装で、海上を滑り武器を持ち深海棲艦と戦えるとは…」

 

 日村は、感慨深い目で飛龍を見つめる。日村はずっと疑問だった。なぜ艦の魂を宿すことができるのが子供を含めた女性だけなのか。なぜ深海棲艦に対抗できるのは艦娘だけなのか。そういうのが無ければ、本当は自分たちが戦いたいのだ。これ以上若者が傷つくのは見たくない。3年前のような事件はもうこりごりだった。そして、日村は優しい声で飛龍に話しかけた。

 

「飛龍殿」

 

「…はい」

 

「…あなたはその状態でも戦いますか?蒼龍殿にも言えることですが、霊力も半分以上下がっている。艦載機運用能力も大幅に下がりまともに戦える状態ではない。それでもやりますか?」

 

「私は……」

 

 飛龍は口を噤む。少し震えていたような様子だった。さっきの演習で自信もプライドもずたずたになってしまった。大鳳に咎められたこと、龍驤に言われたことなどが心に突き刺さっていた。自分がこの先戦っていけるかどうかわからない。下手したら死ぬかもしれない。こんなことならもう戦わない方がいいのかもしれない…そう思った。

 

「……あなたと同じような顔をした人を自分はよく知ってる」

 

「……え?」

 

「自分が勘兵衛殿…あぁ、元帥の知り合いというのは知ってると思います。自分達は7人で格闘大会によく出ていたことがありましてね。その時に、メンバーの中でなかなか才が開花しなかった仲間がいました……彼も君と同じような顔をしておりました…」

 

 腕を組みながら埠頭の端に腰かける日村。昔を思い出したのかその表情は少し哀愁漂う表情をしていた。少しの沈黙の後飛龍がおもむろに口を開く。昔のことが気になったのと日村が言っている人物のことが気になったからだ。

 

「その人、そのあとどうしたの?」

 

「時間はかなりかかりましたけど、無事に才は開花しましたよ。4・5年はかかりましたかね…。そのあとは、あなたが憎んでいる憲兵隊に入りましたが、3年前にやめましたよ…」

 

「なんで?」

 

「あなたと同じ理由ですよ。事件があった日に憲兵を信じられなくなってしまった。自分の持った正義感が、身内の不祥事を許せなかったんでしょう…。彼は軍を除隊し、今は探偵をやっているそうです。情報収集能力に長けてましたからね」

 

「そう……なんだ…」

 

「あなたが憲兵を憎むのは結構。今は怪我を負って全盛期ほど動くこともできない。…しかし、それを理由に妥協することは許しません。今一度、鎮守府のために戦いと思うなら…持てる力を存分に使いなさい!」

 

 日村は飛龍に説いた。今すべきことは何か、鎮守府のために何ができるのかを。飛龍は先ほどの演習で何もかもズタボロになった。でも、仲間は自分を信じてくれている。特に、皐月と文月は。飛龍は拳を握りしめる。一度揺らいでしまったが、今の言葉で決心がついた。一度決めたことだ。最後までやりきる。たとえこの身が朽ちようとも。

 

「夕張、義足ありがとう。私テントの方に戻るよ」

 

「……はぁ、無理はしないでよ」

 

 飛龍は普段の義足に履き替えると夕張にもらった艤装をもってテントの方へと戻っていった。その後ろ姿を見て夕張はため息交じりに日村に言った。

 

「日村工廠長…いつから見てたんです…?」

 

「さて、何のことですか?」

 

「あなたも人が悪い……飛龍がここで艤装の調整しているときから見ていたでしょ…」

 

「はははは!さすがあなたも警戒心が強いというべきかなんというべきか!ははははは!」

 

「……やれやれ…(;・∀・)」

 

 夕張は両手を広げながら少しだけ呆れた。この人は本当につかみどころがない。そういう印象だった。常に笑っているし、目が細いというのもあるし本当に表情がよくわからないから何を考えているのかわからない。まぁ、この人がいるからここの工廠が成り立っているし、もうどうにでもなれ…と思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 演習が終わり、しばらくした後各自食堂で昼食をとっていた。大本営側と呉側でテーブルが分かれていたが各々で和気あいあいと食事をしていた。一度演習の場を離れていた龍驤と大鳳も食事をしていた。その場で観戦していた白露と時雨も食事をとっていた。ただし…負けたことがショックなのか足柄は食事に箸を突き刺しながらぶつぶつつぶやいているし、比叡は魂が抜けているし祥鳳も食欲がないのか食事を半分も食べていない状況だった。

 

「……うわ~…あの三人明らかに落ち込んでんじゃん……」

 

「う……うん…すごい状況だね…」

 

 その様子を見て白露達は率直な感想を述べた。コテンパにやられてしまったし、龍驤や大鳳に言われたことが効いているのかもしれない。それにしても、落ち込みすぎではないだろうか?特に足柄は…。そう思いながら食事をしていると、飛龍と蒼龍が食事を終えたのかトレイをカウンターの方にもっていく。すると、ちょうど食堂の担当だったのか給糧艦である間宮がいた。

 

「あら二人とも、お疲れ様!」

 

「間宮さん!お料理ご馳走様!美味しかったよ!」

 

「あらうれしい!また来るのを待っているわ」

 

 二人はカウンターから離れ食堂を出ようとする。出ようとしたときにたまたまトレイを下げようとしていた大鳳と遭遇してしまう。三人はしばらく顔を見合わせたがなかなか会話をする様子はなかった。

 

「……」

 

「……」

 

「……あぅ…」

 

「……あ~…えっと……大鳳?」

 

「…」

 

 大鳳はそっぽを向いて足早にカウンターの方へと向かっていった。先ほどのことも効いているのか飛龍は大鳳の態度に少し落ち込んでしまった。ふらふらとしながら出ていく二人。一方で大鳳はというと…。

 

(うわああああああああああああああ(;゚Д゚)やってしまったあああああああああ!!喋れるチャンスだったじゃん!!今だったじゃん(# ゚Д゚)うわああああああああああああああΣ(゚Д゚;≡;゚д゚))

 

 白目をむきながら、トレイをカウンターの方へともっていく。その様子に間宮が…。

 

「……大丈夫…大鳳ちゃん?」

 

「…へ…あぁ、ええ……はい……」

 

「心ここにあらずって感じだけど(;・∀・)」

 

 トレイを下げた後、大鳳もフラフラとした様子で食堂を出ていった。白露と時雨はその様子を見て何かありそうだな……という予想をある程度は考えた。それからは特に変わりなく全員が食事をしていた。しかし、比叡と足柄と祥鳳は相変わらず落ち込んでいる様子であったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呉鎮守府のメンバーが帰る時間になりそれぞれが埠頭に集まってきていた。準備を行っている中飛龍達のもとに白露が挨拶に来た。初めて会うこともあり少しだけぎこちなかったが。

 

「……よ~」

 

「あ~、えっと白露…だったよね?」

 

「そ、会うのは初めてだよな…一応挨拶に来た」

 

「そかそか!調子はどう?」

 

「まずまず…最近出撃はできないし、演習もそんなにしてないし暇だよ……吹雪にも負けたし…」

 

「…え⁉吹雪に⁉意外だね…」

 

 飛龍は意外そうな表情で白露に話しかける。やはりS級である白露だ。同じ駆逐艦、ましてやランクだけでは白露の方が上だからだ。だが、飛龍は少し考え頭をひねらすうちに蒼龍が近づいてきて話しかけてきた。

 

「多分負けて当然だとは思うよ…白露はS級とはいえまだ新人のレベルだし…それにこの子は本当の死線を知らない。吹雪が艦娘になったのは10年前、そしてここの第2艦隊旗艦になったのは6年前。そこからあの子はいくつも死線を潜り抜けてきてる。リミットオーバーを会得して5年。白露は習得していないみたいだし…」

 

 蒼龍の説明に飛龍はポンと手を叩き納得する。吹雪は駆逐艦では実質上トップの実力を持っているのは間違いない。熟練した技術、戦術、洞察力。どれも群を抜いている。負けてもおかしくはない。おそらく同じS級でも雷は吹雪に負けるであろう。

 

「…まぁ、訓練次第であなたはまだ強くなれる!私が保証する!だから精進して!!」

 

「…言われなくてもするさ…強くなって、もっと上を目指す」

 

「おおいい心意気だね!期待してるよ!」

 

 飛龍は満足げな笑みを浮かべる。そして白露の頭を少しだけ乱暴に撫でると手を振って船の方へと向かう。蒼龍もそれに続いて船の方へと向かった。ある程度歩いた後に白露の方へと振り返り大声で話しかける。

 

「頑張れよ!大型ルーキー!柱島に帰ったら、加賀姉さんによろしく言っといて!」

 

「あぁ、うん…………( ,,`・ω・´)ンンン?加賀姉さんΣ(・□・;)」

 

「そう!私達の義姉!」

 

「(゚Д゚;)」

 

 とんでもないことを言ってきた飛龍に、白露は驚きの表情を向ける。これは柱島に行ったらとんでもないことになりそうだと思った。会ったこともないし話でしか聞いてことがないからわからないが加賀はS級の4位。そんな実力者を義姉に持っているなんて思いもよらなかった。白露はしばらくその場に立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……は~、半日終わっちまったな…結果は惨敗か…」

 

「盛大に負けてしまいましたね…提督」

 

 大本営から出発し、部屋の一室で休んでいる伊織と榛名。何とかなるんじゃないかと思ったがやはり大本営の精鋭。ここまで敵わないとは思わなかった。おそらくだが他の鎮守府が演習しても敵わないだろうと思う。

 

「…そういえば、飛龍達はどこに行ったんだ?さっきまで中にいよな?」

 

「飛龍さん達なら、甲板の方に行ってますよ。ちなみに金剛姉さまも甲板です。……いつもの船酔いで……」

 

「お…おう……」 

 

伊織は困った顔で榛名の答えに耳を傾けた。いつも思うことだが、艤装で海の上を走行しているときは全然平気なのになぜ船の上にいるときは酔ってしまうのか…。本当に謎で仕方なかった。

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ…」

 

「……結局、大鳳とは話せなかったね…飛龍」

 

 甲板の手すりに手をかけ項垂れる飛龍。その横で蒼龍が海面、正確には大本営のある方に目を向けていた。まだ出発してから時間がたっていないため大本営が目視できる距離だ。帰った後にどういう訓練をしていこうか…。正直言って悩んでいた。新しい艤装をもらったし海上を走行することもできる。ただし、艦隊に組んでもらえるかは多分微妙だろう。飛龍も蒼龍も。だけど、できることをやるしかない…。やるしかないのだ。大鳳と龍驤に言われたことが心に来てる。でも、信じてくれる仲間がいる限り自分達は戦う。絶対に。

 

「……大鳳と和解できなかったのは残念だね」

 

「…うん」

 

「多分そういうわけじゃないと思うヨ!!」

 

『うわああああああああああああああああΣ(゚Д゚)びっくりさせるな(ないで)~~~金剛!!』

 

 いつの間にいたのか金剛が隣にいた。たぶん吐きに来たのだ。涙目になっているし、口はかなり震えている。しかし、手には望遠鏡を持っている。おそらく大本営の方を見ているのだと思う。

 

「…覗いてみて、埠頭の方…」

 

 金剛に促され、飛龍は望遠鏡をのぞく。そして、埠頭の方向をのぞいてみる。埠頭には大鳳がこちらを向いてたたずんでおり表情は少し寂しげだ。しばらくたたずんでいるとこちらに向かって深く一礼をした。その瞬間、飛龍は一気に風が吹き抜けるような感覚がした。蒼龍も飛龍から望遠鏡を借り大本営の埠頭を見てみる。蒼龍も同様その光景に驚いている様子だった。しばらく放心状態でいると金剛が様子を察して話し始めた。

 

「…きっと、あの子は混乱しているんだよ。あなた達が戻ってきてくれたこと。だけど、その状態で戦争に戻ったら…危ない目にあう…下手したら死ぬかもしれない。だから、あんな冷たい態度をとってしまった。でも、本音は真逆なんだよ。あの子は、あなた達との再会を喜んでる。きっと時間はかかるけど、いつかあなたと話せるときが来るよ」

 

 飛龍は、金剛の言葉に口を噤む。大鳳の本当の気持ちを知れたから。飛龍と蒼龍は大本営の方へ向かい微笑む。いつかゆっくり話そう。その時は喧嘩なんてしないでしっかりと。

 

「さぁ、今は英気を養って呉に帰ってちゃんとした訓練をしっかりとおろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろ!!!」

 

「…………今いい雰囲気だったのに…(^-^;)」

 

「比叡~、霧島~!誰でもいいから袋もってきて~~」

 

「は!はいただいま!!今袋を…ヒエ~~~(;゚Д゚)」

 

「あぁ!!こけた!!」

 

「……あぁ、ごめん。やっぱり袋はいい…」

 

「海に吐かせた方がいいわ…」

 

 しばらく海に吐いた金剛。しばらく甲板で金剛の様子を見た後に一同は中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

―――大本営埠頭

 

「…………」

 

 埠頭に立ち、呉に帰る船を見送る大鳳。深く一礼をし、今一度船に向きなおる。結局話すことができなかった。話すチャンスはあった。でも、プライドが邪魔して無理だった。結局ここで見送ることしかできない。深く一礼をすることが精いっぱいだった。でも、いつかまた会えることができたらその時はちゃんと話そう。きっとその時には気持ちの整理がついていると思う。そう願って…。

 

「行ってもうたな…大鳳…」

 

「龍驤さん…はい…行ってしまいました…」

 

 気づくと、後ろには龍驤がいた。どうやら、大鳳と同じように呉の船を見送っていたようだ。腕を組みながら大鳳に近づくと船の様子をしばらく見ていた。そしておもむろに話しかける。

 

「なぁ大鳳…気づいたか?」

 

「……えぇ、そうですね…」

 

「具体的には?」

 

「……やはり、昔ほど覇気がないというか…皆さん全力を出せていないような…」

 

「やっぱりそう思うよな…………そうやな、あいつら全員昔ほど実力がない…おそらくやけど、霊力も下がってると思うし金剛も完全に艦隊を活かしきっておらん…。やっぱり指揮能力は榛名の方が上やな…。金剛は所詮、艦隊のムードメーカー…。艦隊の全員をわかりきっているとは思うが…それでも、ダメやな…」

 

「…………また昔みたいに戻れるでしょうか…あの人達は…」

 

「……あいつら次第や…まぁ、あいつら多分わかってると思うし…何とかなるとは思うで…」

 

「…なら、次会うのを楽しみにしています…」

 

 大鳳はそのまま本館の方へと戻っていった。龍驤はそのまま埠頭に立ち船の方を見据えている。腕組みをしながらつぶやいた。

 

「……また会うのを楽しみにしているで…地に落ちた戦士ども…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――その夜、とある料亭にて

 

「いやはや。とうとうこの計画を進めるときがきたか。それで博士。例の物はちゃんと用意してくれたのですかな…?」

 

 博士と呼ばれた男性は、ある資料を話しかけた老人に渡した。老人の特徴は少し髪が長く顎髭やちょび髭を生やしたのが特徴だ。老人はその資料に目を通す。その資料に目を通した後に横にいた二人の男性の方に手渡す。一人の男性は短髪の黒髪。右目の下に痣があるのが特徴だ。そして、もう一人は目の下にかかるくらいの長い髪が特徴だ。二人もこの資料に目を通すと、机の上に置いた。その資料を読んだ老人はかなりご満悦のようだ。

 

「なるほど、確かに…。これで大本営にいる呪われた奴らをつぶせる」

 

「私の研究が役に立ったようで何より。そのモルモットどもはあなたにくれてやりますよ。5年も研究に研究を重ねてやっと表に出せるときが来たのだから」

 

「そろそろだな…」

 

「えぇ、そうですね父上…」

 

「あぁ、艦娘を…佐藤の血筋をつぶす」

 

 その光景を、隣の部屋の暗闇から覗いているものがいた。金髪の髪を腰まで伸ばし両目の下に黒いメイクを入れてるのが特徴の少女だ。その女性は、板と板の隙間から情報を引き出しているところだ。彼女は、飛馬勝四郎の部下。探偵事務所【娘々】で働いているものだ。名前は、狐田雲雀(きつねだひばり)。勝四郎と同じように諜報に長けている。雲雀は今料亭の職員としてもぐりこんでいるところだ。ここ最近の情報でここの料亭で何やら起こることは把握していた。だからこうして今ここにいるのだ。

 

「して、明智殿。計画はいつ始めるので?」

 

「三日後だ。その時に大本営をつぶすさ」

 

(あの大本営をつぶすね…あなたたちがつぶせるのなら、とっくの昔にこの国は終わってるわよ…)

 

 どうやら話し合いが終わったようなので、雲雀はその場を立ち去る。そして、携帯でことを所長の勝四郎に送ろうとする。内容を書いていると背後から気配がしたような気がして後ろを振り返る。しかし、誰もいない。気のせいかと思い廊下を歩こうとすると、首筋にナイフのようなものを当てられているような気がした。

 

「後ろががら空きですよ。お嬢さん…」

 

「ッ⁉何を!……あれ」

 

 手で後ろにいる人物を払おうとするがすでに誰もいなかった。つい数秒まで確かにいたはずなのだが。しかし、雲雀は冷静に分析する。こんな芸当をできるのは雲雀の知っている限りではあの連中しかいないからだ。

 

「……いるんですよね知念(ちねん)さん。いるなら出てきてください」

 

「…やはり、あなたも依頼されてきたのですか?雲雀殿」

 

 雲雀が声をかけると、後方の陰から急に人が出てきた。スキンヘッドに釣り目。オレンジ色の道着を着ている。中国拳法を習っている人たちが着ているような服装だ。名は薬師寺知念。彼も依頼を受けてここに潜入している。その人物は、佐伯湾にいる服部源蔵だ。薬師寺も伊賀忍者の末裔なのだ。

 

「依頼ってことは…あなたも大本営から?」

 

「えぇ、正確には大本営から依頼を受けた服部殿から…」

 

「あぁ、はい。よくわかりました…」

 

 二人はそろって歩き出す。お互い目的は果たした。あとは帰るだけだ。幸い警備は手薄だし、襲われたとしてもこの二人なら対処できる。

 

「さてさて、じゃあ所長に連絡をして…と」

 

「私も服部殿に連絡をせねば…」

 

「…大本営…崩れると思います?」

 

「100%ないでしょうね…返り討ちに会うのが目に見えてる…」

 

「…でも、例のモルモットって…」

 

「……それでも、大丈夫だと思いますよ…それにしても…5年前…ですか…あの事件があったのも5年前でしたな…」

 

「嫌な事件でしたね……大型豪華客船サンシャイン号。たった一人を除いて、乗員乗客すべての人間が失踪したんですからね…」

 

「そういえば、例の資料は?」

 

「ちゃんとコピー済みですよ…大丈夫です」

 

「…あの3人が無事に逃げれた理由は?」

 

「それも調べ済みです。所長にすでに連絡済みです」

 

 二人はそのままその料亭を後にした。その情報はそれぞれ服部と飛馬勝四郎に行き届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――佐伯湾鎮守府

 

「ふむ…来たか…」

 

 服部は執務室でパソコンに来たメールを確認する。メールを確認すると、服部はすぐに電話をとり大本営へと連絡を入れる。三日後に襲撃があること。それに向け準備をしておくことを伝えておいた。とうとう運命が動き出す。この出来事がきっと白露達に大きな変化を与えるかもしれない。

 

「提督?何かあった?」

 

「あぁ、大丈夫だ。近いうちに大本営が襲撃されるという連絡を受けてな」

 

「……ふぇ⁉大本営が⁉大丈夫なの?」

 

「大丈夫さ、あの大本営だ。つぶされることはきっとない。…ただ」

 

 呉鎮守府の護衛任務から帰還したしおいに事の顛末を教える源蔵。大本営のことだしきっと何も心配もない。ただ、心配なのはモルモットのことだ。コピーされた資料によればそのモルモットというのは5年前に失踪した人物達が関係しているようだ。物騒な言葉が並んでいる。人体実験を行っただの、様々な兵器を作っただの…。本当に物騒なものばかりだ。

 

「……………」

 

「…提督…少し怖い顔してるよ…」

 

「…いつも通りの顔だが…」

 

「ポーカーフェイスしてても、目の下が少しピクついてるし顎の下に手を置いているときは大体怒っているときだし…」

 

「…お前もだいぶ観察力がついたな……見てみろ」

 

 源蔵はしおいにタブレット端末を手渡す。タブレットには先ほど送られた資料のコピーが添付されていた。その内容を見てしおいは顔を青ざめる。内容には信じがたいことが書かれていたからだ。

 

「提督、これは…」

 

「…しばらく俺とお前の秘密だ。元帥と三大将にも伝えておく…。いずれバレるかもしれないが、今は内密にだ」

 

 しおいは源蔵の言ったことに頷く。驚愕の内容だったから、しばらく口外は出来なさそうだ。本当に今後とんでもないことが起きてしまうに違いない。そう思った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――大本営、一星の貸し部屋にて

 

「間違いないのですか?勝四郎殿」

 

『えぇ間違いありません。三人は何者かの手引きによりあの家から抜け出した。その人物までは突き止められませんでしたが、明智家にいた誰かが逃がしたようです』

 

「やはり……か」

 

『そして、元帥にも伝わっているようですが三日後に襲撃が来る。決して油断しないよう』

 

「ありがとう勝四郎殿。では…」

 

 一星は電話を切る。深く深呼吸をし、白露達のいる部屋に赴く。三回ノックをし「どうぞ」と声がすると一星は部屋へと入る。白露と時雨はすでに寝間着になっておりいつでも寝る準備ができている状態だった。一星は椅子に腰かけると先ほど知った情報を二人に話し始めた。

 

「まず最初に、おぬしらが明智家から逃げられたのは明智家にいた何者かが手引きをしたらしいのだ。だが、誰かまでは残念ながら特定することができなかったがな…」

 

「なんでだよ…」

 

「…情報が少なすぎるのだ…いかんせん10年前のことだしの…」

 

「……はぁ、まぁいいさ…今度糞親父にあったら聞くさ…」

 

「それともう一つ。元帥にも伝わっているようだが、三日後に明智家がここを襲撃してくる。決して油断してはならん」

 

「わかった…」

 

「……いよいよ……なんだね……」

 

「あぁ、いよいよじゃ雫…」

 

「……」

 

 白露は無言で右手を前に差し出す。二人は白露の意図がわからなかった。なかなか手を差し出してこない二人にしびれを切らし頭をかきながらつぶやいた。

 

「……サクッと倒して、母さんの記憶戻して…のんびり過ごしていくよ…」

 

「白露…うん…そうだね…」

 

「ふふふ…そうじゃな…」

 

 三人は手を合わせ誓いを立てる。この戦い負けるわけにはいかない。明智家を倒してなんとしてでも星羅の記憶を取り戻す。そして、柱島に戻ってまたバカ騒ぎをするのだ。そう、絶対に…。

 

「さて、ではわしらの今できることは三日後に備えてしっかり休むことじゃな…。元帥も何やら準備をしているようだし、のんびり待っているとしよう」

 

「あぁ、そうしよう…とりあえず準備して寝る」

 

「お休みおじいちゃん…」

 

「あぁ、お休み」

 

 一星は、部屋へと戻っていった。そして、二人だけになるとお互いにベッドの方へと入る。そして、横になってしばらくすると時雨が白露に話し始める。

 

「ねぇ白露…」

 

「ん~?」

 

「……お父さんってどういう人なんだろ…」

 

「私達を殺そうとした人間……それで十分だよ…」

 

「……僕たちを逃がした張本人ってことは?……」

 

「んなもんあるわけねえだろ…わかったらさっさと寝ろ…」

 

「…………うん」

 

 そう言って、二人はそのまま眠りについた。三日後の決戦に備えて…。

 

 

 

 

 

『…………行け…………二度と帰ってくるな』

 

『お………さん?』

 

『……だ……行………で…』

 

『……さん…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お母さん!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ⁉」

 

 がばっと一気に起き上がる月夜。どうやら夢を見ていたようだ。今日は疲労がすごかったため9時くらいには寝ていた。今の時間が11時だから2時間くらいしかたっていない。それにしてもリアルな夢だった。最初の人物は誰だろう。黒いジーパンに七分丈上のTシャツを着ていたが……。あとに出てきた……、自分のことをお母さんと呼んでいたのは誰だ。赤茶色の髪の女の子と黒いおさげの女の子だ。いったい誰なんだろう…。思い出そうと思っても思い出せない。

 

「…なんなのかしら…いったい誰なの…私がお母さん?…」

 

 考えても考えても思い出せない。仕方ないと思いつつももう一度寝ることにした。三日後にとてつもないことが起きるとも知らず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふむ…」

 

 執務室にて服部から送られてきた資料に目を通す勘兵衛。その資料を見て勘兵衛は目頭を押さえる。にわかには信じられない内容だった。人体実験、研究、しかもその被験者となっているのが5年前の事件の失踪者と来たもんだ。その時に事件の担当をしたのが第2艦隊だった。当時のことはよく覚えている。たった一人の生存者を除いて乗員乗客が失踪。その生存者は救出された後大本営でそのまま保護。吹雪によく懐き今でも姉として慕っていると聞く。

 

「なんの因果なのか…これも運命というものなのか…」

 

 勘兵衛はそのまま資料を机に置いた。そのまま天井を仰ぎ深いため息を漏らす。奴らがここを攻めてくるのは三日後。それまでに準備をしておかなければならない。横須賀が攻められたときのように深海棲艦が攻めてくる可能性もある。できることはすべて準備しておかなければ。

 

「……この戦いが終わったら……その先には何が待ち受けているのか……本当に…わからないものだな」

 

 勘兵衛は窓から見える海の向こうを見据える。何か大きなことが、大きな力が近いうちに来そうだから。世界を巻き込みかねない、そんな大きなことが…。

 

 

 

 




登場人物紹介
・山本未来(やまもとみく)
 元ネタはとあるボーカ〇イドキャラクター。緑色の長い髪をツインテールにしているのが特徴。短大を卒業したのち大本営整備士として働くことになる。元帥の孫で髪の色は曾祖母の血を濃く受け継いでるそうだ。整備士としてはとても優秀で趣味は機械いじり、音楽鑑賞、カラオケ。好きな食べ物はネギ。明るい性格で誰とでもコミュニケーションをとることができるとか。

・狐田雲雀(きつねだひばり)
 探偵事務所【娘々】に所属している探偵助手。腰までかかる金髪に目の下に黒い横線のメイクをしているのが特徴的な少女。諜報に長けており依頼された情報収集は100%こなすほど優秀な人物。双子の妹も探偵事務所に所属しており妹は格闘に優れているそうだ。雲雀自身も対人格闘を会得しているが妹と比べて劣っている。元ネタはとあるM〇Dのオリジナルキャラクター。

・薬師寺知念(やくしじちねん)
 服部源蔵と同じく伊賀忍者の末裔。表向きはとある寺で住職をしているが裏向きでは服部の依頼で諜報員として働くことがある。見た目はスキンヘッドにオレンジ色の道着を着ているのが特徴だ。ちなみに多少の忍術と格闘戦に優れているそうだ。


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53話 因縁 前編

どうもです!53話になります!いよいよ第1章も佳境です!


「…………うん…」

 

 早朝に目を覚ました白露。窓を見るとまだ日は登っておらず少しだけ薄暗かった。時計を見るとまだ4時くらいだった。早めに寝たからだろうか…。隣のベッドでは時雨が規則的な寝息を立てて寝ている。

 

 ……いよいよ今日だ。明智家がここを襲ってくる。三日前に爺さんから教えてもらった情報によれば何か兵器のようなものがあるらしい。それに気を付けないといけない。それに、個人的に話があるやつが一人いる。

 

「……あんたのこと絶対ぶっ飛ばしてやるからな…糞親父!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………結局あの後寝れなかった……」

 

 白露は結局外を出歩くことにした。適当に散歩していると【ドンドン】とリズムのいい音が聞こえてきた。音からしたらバスケットボールをつく音だ。音のする方を見に行くと予想通り大鳳がバスケをしていた。しかし、少し違っていたのはあの時と違ってシュートが全然入っていなかったことだ。何度も何度も左手を振りイライラしたように頭をかいていた。落ちたボールを拾おうとしたとき白露がいることに気づいた。白露は軽く会釈をし大鳳も笑顔で対応した。そして、白露は前から思っていた疑問を大鳳に言った。

 

「大鳳さん…あんた左利きなの?」

 

「えぇ、一応左利きよ。どうして?」

 

「演習の時、ボウガンを右手で持ってたからさ…」

 

「…あぁ、私ぎっちょで…ボウガンは右手で持った方が楽なのよ。あとはそうね…ペンとか箸とかも右手でも持てるし…」

 

「実質上両利きじゃん…」

 

「かもしれないわね(笑)そうだ白露ちゃん!シュート対決しない?」

 

「いいけど、音響かない?」

 

「大丈夫大丈夫!建物は完全防音だから、外の音が響きにくいのよ!」

 

「な、なるほど」

 

 白露はそのままコートに入り、大鳳からパスを受けた後にスリーポイントを放つ。しかし、ボールはゴールに入らなかった。「あれ」…と白露は首を傾げ呆然とする。呆然とした後に舌打ちをしながらボールをとりに行く。そして、ゴールから離れると再びスリーポイントを放つ。しかし、またもゴールに嫌われてしまった。

 

「…んだよ入らねえな…」

 

「……もしかしたら、心に迷いがあるのかもしれないわね…」

 

「……え?」

 

 大鳳はそう呟きながらボールを拾い上げる。そして、再びシュートを放つ。そのシュートは一度ゴールに入りかけた後バウンドし、そのままゴールの周りをぐるぐる回りながらゴールに吸い込まれた。

 

「私もなんだと思うけど、たぶん何か迷いとか悩みとかがあるからシュートが入らないんじゃないかな?」

 

「……大鳳さんは何となくわかるけど、私は別に…」

 

「あら、気づかれてた(^-^;)。まぁ、ご察しの通りなんだけど……でも何となくなんだけど、白露ちゃんの顔、いつもより暗い気がするの…。思い出したくもないこと、もしくは何かを思い出してしまったんだけどそれを認めたくないような…そんな顔……」

 

「……」

 

 白露はただ黙ってそれを聞いていた。ボールを持ったままただ黙る。しばらく沈黙した後にもう一度シュートを打った。すると、何度かバウンドはしたもののゴールの方へと吸い込まれていった。

 

「…黙秘は肯定ととらえていいのかしら?」

 

「……想像に任せるよ…」

 

「……そう。さてと、襲撃に備えて少し準備しておこうかしら」

 

 大鳳はそう言ってコートを去っていく。白露は大鳳の背中をぼーっと眺めていた。情報によれば今日のうちのどこか。明智家が攻めてくる。だから、それに備えておかなければならない。白露はボールをコートサイドに置きその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――午前7時30分…食堂

 

 白露達は食堂に来て食事をとっていた。周りには憲兵隊、そして浦風、谷風、陸奥、長門らがいた。明智家が襲撃してくる日だというのになぜか全員いつも通りの表情でリラックスしたような様子でいる。内心、いやおそらく顔にも出ているのだろうが白露達はその様子を愕然とした表情で見ていた。

 

「……あのさ…」

 

「…何?」

 

「言うな焔…言いたいことは何となくわかるわい…」

 

「わかってるならいいや……いややっぱり言うわ…ここにいる全員……いつも通りすぎない?」

 

「確かに…僕もそう思うよ…」

 

 3人はそのまま食事をとる。本当に襲撃が来ると知っているのだろうか?だが、ここには浦風達がいる。それにここの最高戦力の一人である長門もいる。襲撃が来るのは間違いなく知っているはずだ。なのに…なんなのだこの余裕は?だが、ここには変人もいるしある意味で納得してしまうような気がする。ていうかもう気にしない方がいいのかもしれない。じゃないと変なストレスがかかってしまいそうだから。そうこう考えていると、外から爆音が聞こえてきたような気がした。それにわずかだが地響きもしている。

 

「ッ⁉なんだこの揺れ⁉」

 

「もしかして、敵が⁉」

 

 二人は慌てて席から立つが、周りの反応を見ると特に気にしていないのか少しだけ沈黙した後に再び食事を始めた。まるで、いつも経験しているような感覚で。その様子を見て再び白露達は驚愕する。横須賀の時はここまで冷静な奴らはいなかった。憲兵達も逃げまどっていたほどだったのに。しばらく固まっていると、今度は天井から爆音が聞こえたと同時に武装した兵士達が下に降りてくる。その兵士達は周りを見ると銃を構えて叫びだす。

 

「はっははは!お前らよく聞け!!今からここを占拠する!だからおとなしく」

 

「やかましいわ…今食事中なんじゃ…あっち行け!」

 

 叫んだ兵士に向かって浦風は叫ぶ。浦風の言葉に兵士達は一瞬思考が停止する。周りにいる憲兵達も陸奥達も同様冷静に食事をとっている。しかし、はっとしたのか兵士達は再び銃を構え直した。

 

「てめえらふざけてるのか!何呑気に飯食ってやがる!!おい打て!」

 

「はいは~い、茶番はそこまでにしてあなた達はご退場くださ~い!」

 

 間宮が叫び何かスイッチを押したような音がしたかと思うと、兵士達がいた場所に大きな穴が開いた。兵士達は一瞬「へ?」という素っ頓狂な声を上げた後に真っ逆さまに地の底に落ちていった。

 

『いやああああああああああああああああああああああああああああああああああ』

 

『え~(;´・ω・)』

 

 白露達はその光景にただただ唖然とする。しばらく沈黙していた一同だったが、残っている食事を食べ終えると、それぞれが準備して席を立つ。手には剣や銃を持っておりすでに戦闘準備万端だ。そして、浦風達もそれぞれ席を立ち入り口まで向かおうとしていた。

 

「うちらも行くか」

 

「準備万端!行こうか!」

 

「長門はここにいてね…あなたが出たら死人が出るわ…」

 

「あぁ、わかった」

 

 長門はそのまま席に座りお茶をすする。そして、長門を除く全員が食堂から退出した後に白露ははっとして長門に詰め寄った。

 

「いやいやいや⁉出なくていいの⁉ここ襲撃されてるんだよな⁉なんでここにいるんだよΣ(・□・;)」

 

「私が出る幕でもないからさ。テロリストだけだったら憲兵隊だけでも十分対応できる」

 

「もし深海棲艦が来たら?」

 

「その時は第1・第2艦隊のみんなが対応するさ。第3艦隊は念のためここに残っている」

 

「……おう……」

 

 白露はもう訳が分からなかった。大本営の基準が他の鎮守府とは違いすぎる。それだけここにいる者達が強いのだ。テロリストなんて眼中にないくらいに。そんな中、時雨は思い出したように間宮に話しかけた。

 

「あ、そういえばいきなり落とし穴が出てきたけどそれってなんで?」

 

「あぁ、それは日村工廠長と夕張ちゃんが考えたの!もしものための罠としてね!そしたら見事にはまってくれたわ!」

 

「は、はぁ……」

 

 やはり、ここの工廠にいる人たちは変人なのだろうか?そう思う一同。そう思いながら白露達も食堂から出ようとしていた。その様子を眺め長門が声をかける。

 

「…行くのか?」

 

「これは私達の問題でもあるからね。あと、糞親父ぶっ飛ばさないと気が済まないから」

 

「わしもいろいろと言いたいことがあるからな…」

 

「…僕も行く。家族の問題だし…」

 

 長門は静かに見送った。三人を見送り一人になった食堂で静かにお茶を飲む。きっと何も心配はいらないだろう。まぁ戦闘に出れないため暇ではあるが、陸奥の言う通り本気でやったら死人が出てしまうためここでじっとしている方がいいだろう。そう思っていたのだが…。

 

「……しまった……私はいつ部屋に戻ればいいのだろう(;・∀・)」

 

 そう呟き、天井を眺める長門だった…。

 

 

 

 

 

 

 

 食堂から外に出て周囲を見渡す白露達。周囲を見渡すとテロリストと憲兵達が入り混じり乱戦になっていた。混乱とまでは行っていないがところどころで絶叫がこだましている。しかし、乱戦になっているとはいえ押しているのはやはり憲兵達だ。次々とテロリスト達が倒れているのがわかる。ひとまず食堂回りは大丈夫そうだ。しかし、他のところではどうなっているかわからない。工廠、宿舎、本館付近でも爆発音が聞こえている。

 

「とりあえず、私は門の前まで行ってみる!ついでに親父達も探さないとね」

 

「わしは外の方へ行ってみようかの…もしかしたら安全な場所でこの光景を見物しているかもしれないからの…」

 

「じゃあ僕は宿舎の方!お母さん食堂にいなかったし、まだ宿舎にいるのかも!」

 

「よし、じゃあ行こう!二人とも気を付けて!」

 

 三人はそのまま走り出す。くだらない戦いに終止符を打つために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 門の方へ向かう白露。テロリストと憲兵が乱戦を繰り広げる中突き進む。どこを見渡しても憲兵とテロリスト。とにかく敵の大将を見つけなければ話にならない。そんなこんなで突き進んでいるとなんと大将である小笠原三笠が何とフラフラと歩いていた。しかも刀一本で。

 

「あら白露ちゃん!こんな時にお散歩?」

 

「…………いやちょっと待て(゚Д゚;)散歩してるのあんただよな⁉どっからどう見てもあんただよな⁉」

 

「あらバレた(笑)いいのいいの。私強いし!」

 

「だからって刀一本で…………ってやばい来てる⁉後ろ来てるけど⁉」

 

 後ろを見ると、テロリストたちが銃をもってこちらを見ている。数は10人前後。しかし、三笠はずっと白露の方を見ており後ろの方を気にも留めていなかった。

 

「あ~大丈夫大丈夫!」

 

「いやだから⁉」

 

「だから……」

 

 テロリストが三笠達に向け銃を撃つ。しかし、それは三笠に当たることはなかった。むしろ三笠は涼しい顔をしてずっとこちらを見ているだけだった。

 

「な⁉」

 

「……言ったでしょ。私強いから」

 

 テロリスト達がうろたえもう一度銃を撃つ。しかし、先ほどと同じようにやはり弾が当たることはない。三笠の手にはいつの間にか刀が握られておりそれを後ろ手に持ち構えているようだった。

 

「な⁉なぜ当たらないんだ⁉」

 

「なぜって……切ってるからに決まってるでしょ…」

 

 三笠は向きなおるとテロリストに向かって一気に走り出す。そして、居合で一気にテロリストを殲滅した。その光景を唖然とした表情で見つめている白露に三笠は剣を向けながら笑顔で言った。

 

「お行き。決着を付けてきなさい。それから、門の方は心配しなくていいわ。もうすでに殲滅してあるはずだから!」

 

 言ったことが分からなかった白露だが三笠が示した方向に走り出した。三笠は剣を仕舞い再びゆっくりと歩き出した。テロリストと言えどつまらないものだ、もっと骨のあるものはいないのかと思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――大本営近くの森林にて

 

「くそ!いったいどうなっている⁉テロリストどもがことごとくやられているではないか⁉門の方はどうなっている⁉正面突破はできるのか⁉」

 

 怒号を上げモニターを確認する老人。名前は明智源五郎(あけちげんごろう)。格闘家の一族で現在の明智家の当主だ。格闘技大会でも何度か優勝しているほどの実力を持っている。そんな源五郎の様子を見ながら前髪を目元まで伸ばしている男性が冷静な様子でモニターを分析する。

 

「……無理そうね。父上…」

 

「なんだと⁉怜王(れお)、それはどういうことだ⁉」

 

「すでに殲滅されている…たった一人に…」

 

「はぁ⁉」

 

 怜王と言われた男性はモニターを渡しながらつぶやく。俗にいうオカマだ。正面入り口の方はすでに殲滅され一人の男性がたばこを吸いながらテロリストの山に座っている映像が流れている。

 

「くそぉ…もっと増援を送れ!それと、例の物を起動させてあのモルモットを使え!」

 

「はいはい…」

 

 怜王は言われたとおりにある機械を起動させモニターをいじる。そして無線で正面入り口の方に増援を送るように指示を出した。さらにモニターを確認すると、画面に白露が映し出されたのを確認した。

 

「あらあら…あの小さかった姪っ子がこんなに大きくなったなんてね…どうするの兄さん?行くの?」

 

「姪っ子…。あの忌々しい呪いの娘か⁉小次郎(こじろう)、お前が行け!あいつを始末してこい!」

 

 右目の下に痣があり小次郎と呼ばれた男性は木に持たれていた体を起こしそのまま歩き出した。そして、一言だけつぶやいた。

 

「言われなくても行くさ…決着を付けにな…」

 

 

 

 

 

 

 

―――大本営門前

 

「…く…くそ……一体……お前は何者だ?」

 

 山積みにされたテロリストのてっぺんに座りたばこを吸っている憲兵は退屈そうな表情でいる。この憲兵こそここ大本営最強の憲兵である横山和彦だ。横山は吸い終わったたばこを携帯灰皿の中に入れ勢いよく山から下りる。そして、門のほうまで移動しながらつぶやいた。

 

「……横山和彦。実質上の陸軍№3…って言ったところか…」

 

 横山はそのまま前方からくるテロリストたちに目を向ける。数は数十人規模。だが、横山にとってはそんな数は相手にはならない。横山を潰したいのなら数千規模のテロリストでもない限り無理だろう。それほどの実力を持っているのだ。携帯していた刀に手をかけそのまま歩く横山。相手が銃を向けたその時横山も一気に走り出す。銃撃を躱しながら近づいていきテロリスト達を一人一人なぎ倒していく。

 

「おいおいちょっと待て!こっちに銃を向けるな!」

 

「お前が向けてるんだろ!いいからとっととどけ!」

 

「…ハイハイ…仲間割れしてる場合があったら俺を倒すのに集中したらどうだよ…」

 

 猛スピードでなぎ倒していく横山。一瞬のうちにテロリスト達を瞬殺し気づけば全員が切り伏せられていた。

 

「まったく、俺を倒したきゃもっと骨のあるやつを連れて来いっての…」

 

「…………うわ~……つえ~(゚Д゚;)」

 

「ん?」

 

 後ろを見ると、白露が唖然とした表情でこちらを見ていた。それもそのはず目の前には5・60人前後のテロリスト達が倒れているのだから。しかも全員が銃などの武器を持っている。それに加えて横山は刀一本。その状態でテロリストをなぎ倒したのだから相当な手練れなのだろう。

 

「おお、お前さんかい!行くんなら行きな!多分この先にお前の一番会いたい奴がいるだろうよ」

 

「その必要はない…」

 

「あん?」

 

「っ⁉」

 

 入り口の方を見ると、明智小次郎がこちらに近づいてきた。武器も何も持っている様子はない。丸腰できたのだろう。小次郎は肩を回しながら白露の方を見据えている。白露も小次郎を見据えておりそのまま睨み合いになる。

 

「…………久しぶりだな」

 

「久しぶり……糞親父!」

 

「……久しぶりの再会なのに、ずいぶんな言われようだな…」

 

「私ら殺そうとしたくせに、ふざけたこと言ってんじゃねえ!」

 

「…………まぁいいさ……おいあんた、悪いが違うところに行ってくれ。これは俺達の問題だ」

 

 横山は刀を仕舞い素直にその場を移動する。そして去り際に白露に静かに言った。

 

「……負けるなよ」

 

「……わかってる」

 

 横山が二人からある程度距離ができた後に、白露と小次郎はお互いに走り出す。そして、拳と拳がぶつかり合った。白露達の10年分の時間。その思いをぶつけるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――宿舎

 

「はぁ、はぁ……お母さん!」

 

 時雨は宿舎に向け走っていた。予想通り宿舎側でも戦いが始まっており銃撃戦などの乱戦が起こっていた。月夜がいるであろう宿舎はもうすぐだ。少し焦りながら走っているとすぐそばに磯風と筑摩が座っているのが見えた。

 

「ねぇ二人とも!月夜さん見なかった⁉」

 

「あぁ、月夜さんなら宿舎で休んでいるよ」

 

「ありがとう!!…………………………………………って何やってるの二人ともΣ(゚Д゚)」

 

「見てわからないか?将棋だ」

 

「今白熱してるところでして!」

 

「いやそういう話じゃなくて(;゚Д゚)」

 

 月夜の場所を教えられすぐさま行こうとした時雨。しかし、数秒止まった後に振り返り絶叫する。目の前にはこの状況にもかかわらず呑気に将棋をしている磯風と筑摩がいたから。二人は時雨の絶叫を気にすることなく将棋を進めていた。

 

「筑摩さん、これで王手だ!」

 

「あらあら甘いですよ磯風ちゃん!これで王手は回避です!」

 

「む⁉そう来たか……そしたらば…」

 

「ちょっと⁉呑気に将棋をしている場合じゃあ⁉あぁ、二人とも(;゚Д゚)上!上にいるぅぅぅぅぅぅぅΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

 上を見ると、屋根を伝ってきたのであろう。テロリスト達が二人めがけて落下してきていた。手にはナイフなどの武器を持っている。それに加え二人は手ぶらだ。艦娘は艤装を装備しているときは常人を超えた能力を持ち並みの武器では傷つけることは出来ない。しかし、艤装を装備していなければ普通の人間と変わらない。現に大湊事件でも死傷者が出たほどだ。しかし、二人は慌てること無くテロリストを見据えると呆れたようにつぶやいた。

 

「……せっかくいいとこであったのに……」

 

「空気を読んでくれないから困ってしまいますね…」

 

 直後、鈍い音とともにテロリスト達が空中を舞った。何が起こったのかわからなかった時雨だが、筑摩の手に将棋の駒が握られていることに気づいた。勝負中に磯風からとったコマなのだろう。それを指で弾きテロリスト達に当てていたのだ。磯風も二丁の銃を取り出し屋根の上めがけて打ち出す。真上、前方などあちこちにいるテロリスト達に。弾はすべて命中しており屋根の上にいたテロリスト達が次々と倒れていった。

 

「磯風さん!あなたは屋根の上に!」

 

「了解した。投げてくれ筑摩さん」

 

 磯風は筑摩の腕に乗り筑摩はそのまま磯風を屋根まで投げ飛ばす。勢いよく飛んだ磯風はそのままテロリストを蹴飛ばす。そして次々と殲滅していく。相手も近接戦闘や銃撃戦で応戦してきたが磯風は回避しながら着実に殲滅する。器用貧乏気質の磯風だ。得意なこともなければ不得意なこともなく弱点がほとんどない。下に残った筑摩は腕力だけを強化する異能肉体強化(フィジカルアップ)で腕力だけを強化することができる。相手を投げ飛ばし、装備を整えている相手だろうが一撃で倒すことができる。たった二人しかいないが人間を制圧するなら十分すぎる。

 

「行ってください時雨さん。ここは心配いりません!」

 

「あ……うん、ありがとう!!」

 

 時雨はそのまま宿舎へ向かい走り出す。念のため後ろを振り向き二人の様子をうかがうが特に問題なく敵を制圧できていた。時雨はそのまままっすぐ月夜がいる宿舎へと向かった。しばらく走り入り口を勢いよく開ける。中は職員達が避難していたのかとても静かで人がいる気配はない。

 

「月夜さん!いますか⁉いるなら返事をしてください!」

 

 時雨は廊下を走りながら月夜を探す。先に避難しているのか呼んでも返事がない。走り回っても相変わらず中は静かだ。避難しているのかと思い入り口のほうまで戻ろうとしたとき2階の方から大きな音が聞こえてきた。男性の声なのでここの職員の人かもしれない。逃げ遅れたのかここにずっといたのかはわからないが。時雨は声のした方に向けて走り出す。そして部屋の前まで来るといきなり部屋の中からテロリストと思われる男性が吹き飛ばされていた。そして、中からゆっくり出てきたのは他でもない月夜だった。

 

「もう……今日は休みだから久しぶりにゆっくり寝ようと思ったのに…せっかくの休日が台無しじゃない(# ゚Д゚)どうしてくれるのよもう!」

 

「( ゚д゚)ぽか~ん…」

 

 時雨はその光景にただただ呆然と見つめていた。今この人はなんていったんだと思った。せっかくの休日?ゆっくり寝る?この状況なのに?と…。月夜は近くで唖然としている時雨を見ると笑顔で話しかけてきた。

 

「あら時雨ちゃん!どうしたの?お散歩?」

 

「…………はっΣ(・□・;)月夜さん⁉こんなところで何しているの⁉襲撃が来るって連絡はなかったんですか⁉」

 

「あぁ襲撃?え~っと…え~っと……………………………………………………あ(゚д゚)!そういえば三日前にそんなこと言ってたわね!」

 

「いやどうして忘れるんですかΣ(゚Д゚)襲撃が来たら困るからすぐ避難できるようにって……………………ていうか外にいた二人はどうして月夜さんがここで休んでるって⁉ここにいる皆そろいもそろって呑気すぎるよ!!」

 

「いやぁ……ごめんなさい私昔から呑気でね…あははははは…………………は?」

 

 月夜は一瞬困惑したような表情で固まる。今自分が言ったことが理解できなかったから。今自分は昔といった。一瞬だが、本当に一瞬だが昔の光景が見えたような気がしたのだ。

 

『もう!〇〇さん!本当に呑気すぎますよ!明日格闘大会ですよ!何お菓子食べながら休憩してるんですか⁉』

 

 

 

 

 

 

 

『お母さんって……本当に呑気だよね……』

 

『今〇と同じこと思ったよ…』

 

 誰なんだろう。思い出せそうで思い出せない。のどまで出かかっている。あともう少し…もう少しで……

 

「……ん?」

 

 この女の子達はいったい?自分のことをお母さんって言っている。

 

「……さん?」

 

 誰だ…一体…。

 

「月夜さん⁉」

 

「はっ!」

 

 気が付くと、時雨が心配そうな顔でこっちを見ていた。月夜は時雨を安心させようと頭を撫でてやりながら話した。

 

「ごめんなさい。少し考え事をしていたから……でももう大丈夫。外に出ましょうか」

 

「…う、うん。行こう!」

 

 時雨はそのまま玄関の方へと向かう。月夜はその後ろ姿を見ながら後を追う。後ろ姿を見ているとなぜかさっき出てきた女の子と少しだけ姿が重なったような気がした。やっぱり自分はこの子を知っている。そう思いながら玄関へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっくしょん!はくし!はっくしょん!!」

 

「あら磯風さん?風邪ですか?」

 

「いや……多分噂だ…」

 

「あ…あぁ…」

 

 ある程度のテロリストを殲滅した後に二人は立ち尽くしながら話す。敵は少なくとも30人前後はいたと思うが物の数十分で制圧してしまったため正直言って暇なのだ…。だからこうして立ち尽くし二人は話しているわけだが。

 

「そういえば筑摩さん…」

 

「どうしました磯風さん?」

 

「月夜さんが宿舎にいたのなら避難させてあげればよかったのではないか?狙われているのだろう?」

 

「……………………あ、そういわれてみれば…」

 

「…………」

 

 二人はそのまま顔を見合わせながら立ち尽くす。たっぷり沈黙の時間が続きそのまま二人は開き直ったように…。

 

『まぁいいか!あの人強いし!ねぇ!磯風(筑摩)さん!!!』

 

「さてさて、ではこれからどうする筑摩さん?また将棋の続きをしようか?」

 

「そうですね!……あぁ、でも駒が…」

 

「…………あぁ、そういえば……」

 

 二人はそのまま再び立ち尽くす。将棋の駒は筑摩がテロリストを鎮圧するために投げ飛ばしていたからだ。だから駒はどこかに行ってしまったのかもしれない。

 

「…………違う場所に行って増援に行きましょうか…」

 

「そうしましょうか…」

 

 仕方ないのでそのままテロリストがいるであろう場所に行こうとする。その時に大本営にサイレンの音が響き渡る。これは深海棲艦が襲撃したときのサイレンだ。横須賀が襲撃されたときと同じ。何か深海棲艦を呼び寄せるための機械が相手にわたっているのであろう。しかし、二人は何の焦りもなく歩き出す。

 

「心配いらないな筑摩さん」

 

「えぇ、なんせうちの第一・第二艦隊ですからね!それに、日村工廠長たちが何か作っているみたいですし!」

 

「よし!じゃあ私達は……」

 

 瞬間、二人の間に何か強い風が通り抜けたような感じがした。すると、目の前の建物が一部穴が開いており相当な威力があったのだろう。振り向くとそこには大柄で筋肉屈強な男が立っていた。身長は190cmはありそうで二人が見上げるほど高かったのだ。その男は周りを見渡しながらため息交じりに話しだした。

 

「……なんとまぁ…ずいぶんなやられようだな…。テロリストといってもこの程度か……全く使えないやつだな」

 

 そう言って、倒れていたテロリストを蹴飛ばした。蹴飛ばされたテロリストはそのまま二人の目の前に飛ばされる。筑摩がそれを受け止めるが筑摩は数mほど押されてしまった。筑摩はそのままゆっくり跪くと男に語り掛けた。

 

「あなたは何者です?ただの一般人……というには無理がありそうですが?」

 

「……あぁ…一応明智家の師範代だ。まぁそんなことはどうでもいい。お前らどうせこれから死ぬんだからな…」

 

「何を言っている?私達はここの精鋭だ。いくら格闘を習っているあなたでも私達には及ばないと思うが?」

 

「……いや、お前達をやるのは俺じゃない………そいつだ」

 

 男は穴の開いた壁の方を指差す。二人は後ろを振り返ると黒いボディスーツのようなものを着ておりヘルメットのようなものをかぶっている人がいた。先ほど二人の間を通り抜けたのはおそらくこいつだ。さっき通り抜けた強い風。それから察するに相当の実力を持っている可能性がある。二人は警戒しながら黒スーツを見据える。そして男は二人を無視して宿舎の方へと歩いていた。

 

「おい!どこへ行く⁉」

 

「お前らにかまってる暇はないんだ。俺は仕事があるからな。確か星羅っていう名前だったな。そいつを殺しに行く」

 

「っ⁉ちょっと待て⁉」

 

 磯風が走り出そうとすると、轟音とともに磯風が黒スーツにつかまれ数m先まで吹き飛ばされていた。筑摩は目を見開き磯風達のいる方を見据える。警戒していたはずなのに全く見えなかった。初速があまりにも早すぎるのだ。筑摩はしばらく唖然と見つめていた後磯風の名を呼ぶ。

 

「磯風さん⁉」

 

「…………あぁ、何とか大丈夫だ」

 

 磯風は黒スーツの手をつかみ自分の顔面目掛けてきた攻撃をよけていた。反応できていなかったらどうなっていたかわからない。それほど重い攻撃だった。まるで武蔵の砲撃を至近距離で受けているのではないかと思うほどに。そもそも、こいつが人間なのかどうかも怪しい。力は人間のそれではない。もっと別の何かの、それこそ深海棲艦なのではないかと思うほどに。

 

「っ⁉筑摩さん!」

 

「えぇ、わかっています!」

 

 筑摩は黒スーツのもとへ走り出し磯風から引きはがす。何とか数m先へと投げ飛ばすが、黒スーツは難なく着地した。そして、磯風は慌てて周りを見る。周りを見ても先ほどの大柄の男はどこにも見当たらなかった。おそらく宿舎の方へと向かったのだろう。

 

「まずい!あいつがどこにも…」

 

「磯風さん。どうやらそれは後回しになりそうです。今は目の前の敵に集中しましょう」

 

 黒スーツはどうやら二人を見逃しそうにない。そいつはずっとこちらを見据えていたからだ。あの二人ならきっと大丈夫。そう思うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うん、外は落ち着いてるみたい。筑摩さん達が制圧してくれてるのかも!」

 

 時雨は玄関から少しだけ顔を出しながら外の状況を見る。外は思ったより静かであったためおそらく安全に避難先まで行けるかもしれない。遠くの方から砲撃音や叫び声などが聞こえているがおそらく大丈夫……だと思う。

 

「よし!行こう月夜さん!」

 

「え……えぇ…」

 

 時雨と月夜は急ぎ足で工廠の方へと向かう。工廠は一応ここの避難先らしく大本営ではかなり安全らしい。だが、正直ここにいる人達だったら全然問題ないんじゃないかと思う。襲撃が起きても全然動じる様子はなかったし、むしろ余裕か…と思うほどだ。でも明智家が関わっている以上月夜が危険になるかもしれない。いくら大本営屈指の実力を持つ横山に勝っているからといって向こうがもっと強いかもしれない。だから時雨は周りを警戒しながら歩いていた。しばらく歩いていると後ろから誰かが走ってくる音が聞こえてきた。慌てて後ろを見ると、大柄で巨漢の男がこちらに猛スピードで走ってきていた。正確には月夜に向かって走ってきていた。月夜も後ろの男に気づいていた。身構えていたが時雨は月夜をかばうように前に立ち男に向かって蹴りを放つ。しかし、男はそれをよけること無く時雨の足をつかみ壁際のほうまで投げ飛ばした。時雨は壁に何とか着地して難を逃れる。男は時雨と月夜を交互に見ると静かに語りだした。

 

「さすがだな…お前の娘だけあって動きもそっくりだぞ…」

 

「……えっ?」

 

「……ふむ、やはり記憶がなくなっているのは本当だったのか。いったいどうやってあの状況から生き残った?確かに俺がとどめを刺したはずなのだがな…」

 

「あ…あなたはいったい何を⁉」

 

「…ッ⁉」

 

 ドクン…と時雨の心臓が脈打つような感覚がした。今この男が言ったこと。それは10年前の出来事を行っているのだろう。あの時の追手はこの男だったのだ。そして、時雨達を逃がすためにこの男に挑んだ。そしてそのあとに記憶を無くし10年も時雨達を探すために彷徨っていたのだ。ドクン…ドクンと脈が大きくなっていく気がした。怒りがふつふつと湧き上がっていた。あの出来事が無ければ今も三人で幸せに暮らしていたのだろうから。

 

「まぁいいさ。今からお前を殺してそのあとにお前の娘だ。心配するな、すぐに…っ⁉」

 

 男は顔面に飛んできた蹴りをすんでのところで受け止める。左を見ると時雨がいつの間にかすぐ横まで来ていた。そこそこ距離はあったはずなのだ。それなのに一瞬でこの距離を詰めてきた。

 

(なんという脚力だ。艦娘としての力もあるのかもしれないが、もともと備わっていたのかもしれないな。さすが佐藤の血筋といったところか)

 

 男は素直に感嘆していた。それほど素晴らしい逸材であったから。だが、残念ながら時雨では相手にならない。もっと手ごたえのあるもので無ければ男は満足しないであろう。

 

「お前のせいで…お前が!!」

 

「怒りは時に必要かもしれないが…その怒りはこの場ではふさわしくないな」

 

「ッ⁉」

 

 男は時雨めがけて拳を振るう。時雨は、そのまま重心を後方に預けると一回転して男から距離をとる。しかし、すかさず男は距離を詰め時雨に攻撃を行う。時雨は何とかそれを避け攻撃の機会をうかがう。巨漢のわりに攻撃が速いためカウンターをくらわせるタイミングがなかなかつかめない。

 

「ほほう。なかなかいい速さだ。楽しませてくれる!」

 

「ッ⁉いい加減に…………してよ!!」

 

 時雨はわずかなスキを見逃さず腹にパンチをくらわせた。数mほど吹き飛ばした者のダメージは少ないのか男はけろっとした表情で時雨を見据えていた。時雨は少しだけ焦った。白露ならどうしていただろうと。どうすればこの状況を打破できるのかと。

 

(だめだ。マイナスに考えちゃだめだ!落ち着け…落ち着け…どうしたら⁉)

 

「迷いがあるな…やはりお前では相手にならぬわ!」

 

「ッ!しま…」

 

 時雨はそのまま男に首をつかまれる。よほどの力なのか息が苦しかった。時雨は何とか抵抗しようとするが力が思ったように入らなかった。

 

「時雨ちゃん⁉」

 

「よく見ておけ…お前の娘がこれからどうなるのかをな!」

 

「ッ⁉訳の分からないこと言わないでよ!」

 

 月夜はそのまま男に突撃する。男はそれを片手でいなしよろけさせた。月夜もかなり動揺しているせいなのか、いつもならすぐに体制を立て直せるものの今回はそうはいかなかった。その間に男は時雨を絞め殺そうとさらに手に力を込めだした。しかし、時雨もそれに抵抗し体を大きく揺らし始める。

 

「…とりあえず…放してよ!!」

 

 時雨は足を後方にのけ反らせ、そのまま真上に足を突き出し遠心力を使って男の手から解放される。男は一瞬唖然とし時雨に追撃しようとしたがそのまま腹に何発も攻撃をくらわされる。思いのほか攻撃が重いのか男は反撃することができなかった。時雨は感情任せに叫ぶ。今まで貯めていた思いを吐き出すように。

 

「だいたい、急に現れてなんなのさ!僕達を殺すだの…お母さんを10年前殺そうとしただの、君達の勝手な都合で僕達引き裂いて!本当にいい加減にしてよ!!」

 

 時雨は連続で拳を振るった後、顎にアッパーをくらわせる。男はそのまま宙に浮き地面に倒れ伏せた。時雨はそのまま深く深呼吸をしてゆっくりと振り返る。月夜はそのまま呆然とした表情で時雨を見ていた。さっき言われたことが頭から離れなかったから。今目の前にいるのが自分の娘だと。

 

「あ……あなたは…」

 

「…………僕はあなたの娘………………でも、急に言われても混乱するよね…その…ゆっくりでいいから。ゆっくり僕達のことを思い出してくれれば」

 

 信じられなかった。でも、ずっとどこかであったような気がした。最初にあったときからずっと。そうなれば、もう一人の赤茶色の髪をした子も自分の娘ということになる。あの時二人が抱き着いてきたこと。そしてあの時の記憶で出てきた二人は今近くにいるのだ。ゆっくりと立ち上がり時雨に近づこうとしたその時、轟音とともに時雨が吹き飛んでいた。何とか攻撃を防いでいたようだったが左腕を負傷したのか痛みをこらえていた。時雨が立っていた場所を見ると男がけろっとした表情で立っていたのだ。

 

「戦場で気を抜いたら死ぬと教わってこなかったのか?これだから戦場慣れしていないやつは…」

 

 男はゆっくりと時雨に近づいていく。月夜は男を止めようと立ち上がろうとするが、突然頭痛が襲いその場にうずくまってしまう。何度も何度も激しい頭痛が襲った後、頭に浮かんできたのは昔の…10年以上前の記憶だった。

 

『このご時世どうなるかわからん。もしもの時のために護身術を身に着けていなさい。きっと役に立つはずだ』

 

『もう!〇〇さん!呑気すぎですよ!明日大会ですよ!何お茶すすりながら休憩しているんですか⁉』

 

『いっちば~~ん!!』

 

『ちょっと焔!そんなに叫んじゃダメだって!』

 

『お母さん見てみて!お母さんの動きの真似!』

 

『僕達もお母さんの動きできるようになったよ!』

 

『これで悪ガキども成敗できるね( ̄▽ ̄)』

 

『護身術をそんなことに使っちゃだめだよもう!!』

 

『やだよ、なんで私たちを置いていくの!?私たちも一緒に行く!』

 

『だめ、あなたたちはここにいて。絶対に帰ってくるから、私が帰ってくるまでここでおとなしくするのよ!いいわね』

 

『嫌だよ…おいていかないで…お母さん!』

 

 今までの楽しかったこと。苦しかったこと。そして、あの忌々しい10年前のこと。全部が全部脳裏によみがえってきた。

 

……そうだ…あの時…あの時自分は追手を何とかするために……あの二人を置いて行ってしまった。必ず帰ると約束して……でもそれは出来なかった。確か大雨が降っていた時だ。あの男と戦っていて、それで私は氾濫した川に落ちて…。そうだ…私は……私は!!

 

「さてと、それじゃあこいつをひねりつぶすか!」

 

 男は時雨に突撃していく。猛スピードで走り抜けたからか轟音とともに時雨の目の前まで迫った。時雨は体制を立て直そうとするが左腕の痛みでうまく立て直すことができない。攻撃が時雨の目の前まで来たその時、月夜が立ちはだかり片手でそれを受け止めた。直後、男の腹に強い衝撃が走り何メートルも吹き飛ばされていた。一瞬何が起こったのかわからず固まる時雨。月夜はゆっくりと振り返ると静かに微笑んだ。今までの星羅とは何かが違った。そう、何かが。

 

「10年……かしら?今まで待たせてごめんね……雫」

 

「ッ⁉今……今なんて⁉」

 

「雫……積もる話はあとよ…今は目の前の敵に集中しましょうか!」

 

 月夜、もとい星羅は時雨の頭をなでる。話をしたいのはやまやまだが、今は目の前にいる敵を何とかしなければならない。それにけたましいサイレンもなっているのだ。大変な状況なのは変わりない。

 

「そういえばこのサイレンは敵が襲ってきてるのかしら?」

 

「この音は深海棲艦が来ている音だよ!でもここの精鋭たちが相手しているからきっと大丈夫だと思う!」

 

「あら素晴らしい!じゃあとっととこいつを倒しましょうか!」

 

 星羅は今一度男の方へ振り返る。ダメージを追っていたのか腹部を押さえていたもののやはり男の表情は変わらない。表情が変わらないのが逆に怖かった。本当にダメージが入っているのか、それとも我慢強いのかわからないから。

 

「できるのか?お前たちに?」

 

「できるわよ……私達なら!」

 

 三人は再び構える。昔星羅は間違いなくこの男に負けた。でも、娘の前でかっこ悪い姿をさらすわけにはいかない。それに記憶を無くしても武術の心得はずっとあった。山にいたこともあったからあの時よりずっと感覚が研ぎ澄まされたと思う。だから負けない。絶対に…。

 

 

 

 




星羅「やった~~~~~~~~~~~~!!!とうとう私の記憶が~~~~!!」
白露「……やっと…やっとかぁ…」
時雨「今後の三人の絡みが楽しみだね!」
星羅「さてじゃあ次回は!」
 
次回「因縁:前編2」

白露「……知ってた……」
時雨「わかってた……」
星羅「今回長いみたいだし、仕方ないわよね…」



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54話 因縁 中編

※9/26  中編に変更しました。


―――大本営沖合

 

 サイレンが鳴り響き、沖合に数千を超える深海棲艦が大本営めがけて進撃してくる。それを第1・2艦隊は襲撃に備えて待機していた。目の前の大群を前にしても全員が焦る様子なくそれを見つめていた。入って間もない浦風と谷風は少し表情が強張っているものの、さすが白露と同期だけあって冷静にその状況を見つめている。そして、なぜか第3艦隊の陸奥と夕張が近くで何やら艤装を調節しているようだった。陸奥は(・へ・)と真面目な表情をし、夕張は生き生きとした表情でパソコンをいじっていた。目の前の大群をまるで気にも留めない様子で。

 

「……ねぇ夕張……」

 

「何かしら陸奥さん?」

 

「ここで深海棲艦を迎え撃つの第1・2艦隊のはずよね?なんで第3艦隊であるはずの私がここにいるのかしら?」

 

「何って、………………………………実験に付き合ってもらうために決まってるじゃないですかあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」

 

「いやなんでえええええええええええええええええええええええええええええええΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

 陸奥は絶叫する。夕張はこういったことにたいしてとても……そうとても変人としか思えないほどの人間だ。こういった実験は本当にいろいろと疲れる。そのことを知ってか知らずか第1・2艦隊は“(-人-)”こんな表情をしておりみんな察した様子で立ち尽くしていた。陸奥は全員に…………。

 

(こいつらあとでしばき倒してやろうかしら(# ゚Д゚)……………………ふぅ……待ちなさい落ち着いて…落ち着くのよ私……考えてみればみんな被害者だわ(;・∀・))

 

 陸奥は最初怒りが沸点に達しそうだったがすぐに冷静になる。考えてみればみんなこういう被害にあっていた。ことあるごとに実験だなんだのと言われ付き合った結果何時間も一緒にいることになる。今回白露はそこまで時間はかからなかったらしいが。仕方ないのでもう諦めよう。諦めて実験に付き合ってあげよう。それで目の前の敵が殲滅できるなら万々歳だ。そんなこんなで陸奥は自分の艤装を確かめる。今装備している艤装は普段装備している物ではなく夕張が作った特殊艤装だ。普段の艤装の倍の砲塔が付けられている。陸奥のある特性を活かすために砲を何個もつけたのだ。さらに内装もかなり強度な作りになっているらしく外側からも内側からもダメージが通らない設定になっている…………らしい。されるがままにされている陸奥だがさすがに向こうも黙っているわけがなく砲撃やら艦載機やらがこちらに放たれていた。さすがに陸奥も焦り夕張に指示を出す。

 

「夕張‼‼早くしないとまずいんじゃないの⁉」

 

「あぁ大丈夫、ちょうど終わったから!……よし、これでいいわ。陸奥さん、連続で打ってみて!」

 

「よし…全砲門斉射!連続で打つわよ!」

 

 陸奥が砲を打つと周りに衝撃が走る。とてつもない威力なのかその場にいた全員が衝撃波で今にも吹き飛んでしまいそうなほどだった。正直立っているのがやっとなくらいだ。陸奥は砲撃を打つ時にマシンガンのように連続で打つことができる。普通ならコンマ数秒かかるが陸奥は弾の装填を異常に早くできるのだ。火力だけなら大本営随一なのだ。その砲撃を食らえばたとえflagship級だろうが一撃で大破だ。相手はノーマル級やらelite級からflagship級までわんさかいたのだが、陸奥の砲撃で半数以上は轟沈、もしくは大破状態だ。その様子を見ながら夕張は生き生きとした表情で奇声を上げていた。

 

「うっひゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!試作品だけどこの威力なまらやばいわね~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

『うわ~……変人が……変人がいる~……』

 

「…………あのさ夕張……威力はすさまじいんだけど……この重さだと多分……私さらに移動速度が落ちてしまうんだけど……」

 

「…………」

 

 陸奥の言ったことに口を噤む夕張。たっぷりの沈黙が続き……続き……すごく続いて言った一言は……。

 

「しまった私としたことがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

『うるせえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ(# ゚Д゚)黙っとけこの変態科学者があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!』

 

「酷すぎない(゚Д゚;)ねぇ酷すぎない!!私そんな言われある!!ねえ!!ねえってば!!」

 

「大体こんな時に実験に付き合わされる私の身にもなってよ!!普通なら目の前の敵に集中するべきよね!!」

 

「いいじゃない!結果的に半数は壊滅状態なんだから!!」

 

「確かに半数は撃破できたが夕張…お前もう下がっていい……あとは我らだけで充分だ…」

 

「陸奥さんも戻って大丈夫です!戻ってテロリストの殲滅の手伝いを…」

 

「ちょっと武蔵さん!吹雪ちゃん!!もう少し私の実験を!!」

 

『命令だ(です!)(# ゚Д゚)いいから行け(行ってください)!!』

 

「お願いだからお慈悲を~~~~~!!」

 

『潰されたいのか(氷漬けにされたいんですか)⁉(#^ω^)』

 

「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい(゚Д゚;)わかったから許してええええええええええええええええええええええええええ!!!」

 

 大慌てでこの場を去っていく夕張。その光景を見た後に陸奥はゆっくりとした動きで「あとはお願いね…」と言い残しこの場を去っていった。その光景を見た後に武蔵と吹雪は同時に声を上げる。

 

『全艦抜錨!敵を殲滅せよ!!』

 

 全員が抜錨し敵艦隊へ突っ込んでいく。陸奥の砲撃のおかげで半数は壊滅状態。敵は艦載機や砲撃でこちらに攻撃を仕掛けてくるが大本営屈指の実力を持つ艦隊になかなか攻撃を当てることができない。武蔵達第1艦隊は左翼へ、吹雪達第2艦隊は右翼へとそれぞれ向かう。陣形は単縦陣、攻撃力重視の陣形だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――Side第1艦隊

 

「さてと…日向よ。この戦い何分で片が付きそうだ?」

 

「さぁな……30分以内には終わるんじゃないか?……いや、さすがにそれは無いか…。1時間未満だ」

 

「ふふふ、なら全力で行かねばな!準備はいいかお前達!目の前の敵に攻撃をくらわせてやれ!!大鳳、お前は制空権の確保を重点的にやれ!」

 

『了解!』

 

 武蔵の合図で全員が砲雷撃を仕掛ける。武蔵と日向の砲撃だけでほとんどの深海棲艦が壊滅、もしくは轟沈している。さらに天龍、浦風、谷風の雷撃で大破していた敵は轟沈している。制空権は大鳳が完全に制圧しており敵の艦載機がことごとく撃ち落されている。その間に武蔵達の砲撃、天龍達の援護があればもう余裕なのだ。

 

「……はぁ、予想はしていたがやはりこの程度なのか…flagship級がいるといえど、やはり退屈だな…なぁ?」

 

 武蔵は退屈そうに周りを見渡す。長門を差し置いて武蔵はここ大本営の最高戦力の一人といっても過言ではない。吹雪や筑摩ももちろん強い。しかし、個の実力だけでいえばA級の中でも最強と言ってもいい。それほどの実力を持っているのがこの武蔵だ。しかし、浦風と谷風はそんな武蔵の言ったことに糸目になりながら…。

 

「……いやそれ考えてるの武蔵さんだけじゃと思うよ……」

 

「なんだと⁉」

 

「むしろ私達はまだ新人だからそういうのわからないわ…」

 

「予想はしていたがやはりそういうものなのか⁉」

 

 武蔵はぎょっとして全員に問いかける。全員が少し考えた後にゆっくりとした口調で話しだす。しかも戦闘中であるので周りに砲撃を行いながらだ…。

 

「確かに物足りなさは感じるような気がするけどよ~。前半は陸奥さんが壊滅させたわけだし…。ぱっと見elite級大半じゃね?」

 

 対空戦と周囲に砲雷撃を繰り出しながら話す天龍。時に刀を使って弾をはじくあたりやはりさすがといえる。矢矧のように弾を斬ることは出来ないが…。

 

「む~…だが油断は禁物だ。この大群じゃいつどのように戦局が変わるかわかったものではない…」

 

 瑞雲の爆撃と弾着観測射撃で敵を殲滅する日向。こちらもやはり余裕のようで表情は楽々といった様子。

 

「もう皆さん本当に呑気ですね…。こんな大群を前によく会話する余裕が…」

 

 呆れ半分の大鳳。航空戦では優勢をとりほぼ敵の艦載機を撃墜している。さらに至近距離まで近づいてきた駆逐級を目視せずにショットガンで打ち抜いている。もはや戦闘にすらならないほどの領域だった。

 

(だめじゃ…考えたらだめじゃ…この人達本当に強すぎるわ…)

 

(谷風達もこの人達のレベルに近づけるのかな…?いやいや、同期に白露達がいるしワンチャン!)

 

 そんな様子を眺めて期待と呆れとが入り混じっている浦風と谷風。仕方ないので適当に敵に向けて砲撃と雷撃を食らわしている。確かに余裕すぎる。陸奥の砲撃で大半が壊滅しているからと言ってここまで楽なのだろうか?第2艦隊も出撃していることもあるのだろうが…。そう思いふと周囲を見てみると敵陣の真ん中に第2艦隊がいるのが見えた。そして、こちらが楽だった理由がようやくわかった気がした。なぜなら、第2艦隊が猛スピードで敵をなぎ倒していく姿が見えたから。

 

「…のう谷風…」

 

「ん~、何浦風?」

 

「ここに来てから毎回思うことじゃけど…ここの連中ほんまに化け物揃いじゃのう…」

 

「……それ今言うことかい?」

 

 その光景を見て二人してため息を吐いたのは言うまでもない……。

 

 

 

 

 

 

 

Side第2艦隊

 

「次、右翼の空母艦隊!次は左翼の戦艦!次前方の水雷戦隊!」

 

『了解!!』

 

 吹雪の指示で敵艦隊を倒していく第2艦隊。敵に攻撃を与えない圧倒的なスピードで敵をなぎ倒していく。Elite級だろうがflagship級だろうが関係ない。全員の個性を活かしていけばもう余裕だ。吹雪の氷、綾波の分身(アバター)、時津風の時の番人(タイムキーパー)。いくら数だけでも多い深海棲艦達でもこの三人の異能、そして秋雲の不可思議の絵画(トリック・アート)を使えば弾と燃料は無限。伊勢と龍驤が砲撃し放題、索敵機出し放題なわけだ。そのおかげで周囲にいた敵はあっという間に殲滅された。

 

「……なんか物足りないな…本当にこいつら主力か?」

 

「なんか退屈すぎて仕方ないな~……。ねぇ秋雲~……アイス…」

 

「今そういう状況じゃないよな⁉確実に違うよな!!なぁ!!!」

 

 勝負がついたような雰囲気になってしまった。そのせいで時津風はもう飽きてしまったようで秋雲にアイスをねだっている。まだ周囲に敵がいるため伊勢と龍驤は警戒を解かない。しかし、全員が全員深海棲艦の強さに疑問を抱いた。flagship級、elite級が多数いたにも関わらずこちらに被害が出ずに済むだろうか?以前横須賀が責められたときも大群が押し寄せたが、その時はS級の三人がいたし山城は回避が苦手であったたことと異能で来る体への反動が強すぎるせいもあって被弾した。青葉が急遽援軍に来たため何とかなったが。しおいは先に駆逐、軽巡級を潰したことで被害は抑えられた。海中戦ではしおいは最強の分類に入るからだ。白露はまだ本格的な実践が浅いのと圧倒的な大群の前に苦戦を強いられた。その時は援軍がきたから何とかなったし青葉も来たから難は免れた。正直S級だからというのもあったと思う。しかし、果たして一人で何とかなるのだろうか。それがずっと疑問だった。

 

「……もしかして、その深海棲艦を押し寄せるものって、致命的な欠陥があったんじゃ?」

 

「欠陥?」

 

「例えば、特殊な電波のせいで本来の力を発揮できなかったとか?」

 

 吹雪の疑問に全員がその話に耳を傾ける。深海棲艦が砲撃などをしてきてもお構いなし。龍驤の爆撃によってほとんど轟沈。さらに伊勢の砲撃で即轟沈。それを繰り返していればおのずと全滅する。これでゆっくり話せるものだ。

 

「せやけど、横須賀の時はS級の三人がいたんやで?白露と山城はともかく、しおい余裕やったやろ?それに青葉もいたわけだし…」

 

「あの場に私達がいたわけじゃないからわからないけど、今回もそれと同じような数なわけでしょ?」

 

「いえ…たぶん今回だけだと思います。今使っているその機械が、欠陥品なんじゃないかと…」

 

 伊勢と龍驤の疑問に吹雪が自分の考えを述べる。おそらく、今明智家のバックについている者達は明智家を利用している。何かの実験なのだろうか…何か狙いが…。

 

 そう思っていた時、鎮守府から無線が入ってきた。無線からして大淀だろう。全員が無線を開くと少し慌てたような声色で大淀が話した。

 

『皆さん!深海棲艦の群れは殲滅できましたか⁉もし殲滅できたのならすぐにこちらに戻ってきてください!!』

 

「こちらはもうほとんど殲滅した。それでどうした大淀?何かあったのか?」

 

『こちらの戦局が一気に覆されたんです!数人の戦闘用スーツを着てヘルメットをかぶっている人達が圧倒的な強さで憲兵達を倒しているんです!そのうちの一人は筑摩さんと磯風さんが対峙しています!』

 

「正確な数は?」

 

『8人程度です!少数ですがかなりの手練れです!なので急いでください!!』

 

「了解した。すぐに向かう」

 

 武蔵は無線を切ると、すぐに全員に指示を出した。大本営に来た新手がかなりの手練れなら憲兵だけでは対処できないだろう。筑摩と磯風がそのうちの一人と対峙しているとのことだが二人でも苦戦する可能性は十分にある。第3艦隊と長門がいるからと言って油断はできない。

 

「よし!早急に帰還する。全員ついてこい!」

 

『了解!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――大本営本館内

 

「行くぞ行くぞ!元帥を殺せばここは機能しなくなるはずだ!」

 

 6人ほどのテロリスト達が元帥のいる執務室を目指し走っていた。執務室は本館の三階にあり大きな扉が特徴的な場所だ。このグループ以外にもそこを目指している者達がいるので元帥に退路はない。余裕で制圧できるだろうと考えていた。しかし、その安易な考えはすぐに改められることになる。一室の部屋からものすごい勢いで扉が開きそこから人が飛び出してきた。続いて、白い軍服に身を包み赤い髪を後ろに結んでいる男性が出てきた。ここ大本営の三大将の一人である赤神だ。テロリスト達はすぐに赤神に銃を向ける。近くにいる味方などお構いなしだ。そんな相手を見かねて赤神はため息交じりにテロリスト達に向かって走り出す。相手が銃を打ち出す前に敵のど真ん中に突っ込み抜刀。まずは前方にいた敵を横なぎに。そして、後方にいた一人を鞘で腹を突き空中に上げる。そのまま左にいる敵を蹴り、右にいるものを峰内に。さらに剣を鞘に戻し空中に突き上げられていた敵の腹部に重い一撃を加えた。

 

「話にならないな……本当にこいつらテロリストか?深海棲艦のほうがまだ骨があるぞ…」

 

 ため息を吐き廊下を歩く赤神。本館に侵入してきたテロリスト達はもうほとんど殲滅した。元帥に近づけることもなく楽々と。本当にテロリストの奴らは骨がない。深海棲艦とやりあった方がまだましだ。自分も対深海棲艦用の特殊なスーツを着て出向くことがあるし…。刀を手でもてあそびながら退屈そうに歩く。外にでも出て他の奴らを殲滅でもしようかと思ったその時、下の方から轟音がこだました。何事かと思って窓の方をみる。見ると、憲兵達がなぎ倒されておりどうやら黒いスーツを着た何者かによるものだった。すぐさま元帥に報告し少々その黒スーツを観察してみた。圧倒的な戦闘力に機動力。どう見ても人間の動きではなかった。相当の腕のようで見てるこっちも鳥肌が立つほどだ。

 

「……おお、これはすごい。久しぶりに骨のあるやつじゃないか…桃がみたら喜ぶだろうな!」

 

 赤神は助走をつけ窓を割りその黒スーツめがけて飛び込む。その黒スーツも赤神に気づいたようで赤神の方を向く。しかし、向いた瞬間に赤神が切りかかる。それをその黒スーツが受け止め赤神を振り回し投げ飛ばした。赤神は身をひるがえし地面に着地する。その表情には笑みがあった。久しぶりの強敵だ。笑いが抑えられなかった。

 

「久しぶりだ。お前みたいに強い奴は!それにしても、ずいぶん人間離れしている動きだな……。お前本当に人間か?まさか深海棲艦だとか言わないよな?」

 

 赤神の質問に相手はだんまりしている。話しかけても無駄かと思い相手に向かおうと思ったその時、再び轟音が響き右側に同じ黒スーツがいるのが見えた。どうやらひとりだけではなく複数いるようだ。あちこちから轟音が響きだしているし悲鳴のような声も聞こえてきた。

 

「おいおい…さすがに俺一人じゃ厳しそうだぞ⁉」

 

 二人一気に来られる赤神。最初に距離が近い奴を相手にしようかと考えそいつに詰め寄ろうとする。しかし、思ったより遠くにいたやつがすぐ近くまで詰め寄っていた。

 

(しまった⁉)

 

 慌てて攻撃を防ごうとする赤神。その時、相手の前に薙刀のような武器が地面に突き刺さり黒スーツの進行を妨害する。直後第3艦隊の舞風が相手に蹴りを入れる。さらに猛スピードで近づいてきた龍田がその黒スーツを薙ぎ払った。そのおかげで赤神は前方にいた敵に集中できそいつの攻撃をよけた後に斬撃を食らわせることができた。

 

「ナイスタイミングだ二人とも。テロリストの殲滅はすんだか?」

 

「おかげさまだよ赤神大将!この人達舞風と踊らなきゃ気が済まないみたいだね!」

 

「テロリストの相手はつまらなかったとこよ!でも目の前にいる敵はずいぶんやりがいがありそうね」

 

「……ついでに俺も混ぜろよ……退屈で仕方なくてな」

 

 正面入り口から来た横山も赤神達に合流する。これで4対2、戦力的には五分五分か赤神達が優位かだ。

 

「横山…相変わらずお前は仕事が早いな…」

 

「仕方ねえだろ…相手が弱すぎたんだよ…でも、こいつは良さそうだ!」

 

「だったら……こいつもさっさと終わらせるぞ!」

 

 4人はそれぞれ構える。目の前の強敵に、今まで戦ってきた中でもかなりの強敵に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――とある山岳

 

「くそくそくそくそくそくそ!!!!なぜだ!なぜつぶれない!横須賀のように壊滅状態にもできていないじゃないか!なぜ、なぜ深海棲艦達が壊滅されるんだ⁉テロリストどもも何にも役に立っていないではないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 明智源五郎は発狂し叫びだす。こんなにも苦戦するとは思わなかった。それほどまでに大本営の者達は強いのだ。何せ海軍の総本山だ。全員が全員強くても不思議ではない。源五郎の様子を怜王は呆れながら見つめていた。こんなことになることは怜王はわかりきっていた。何をどうしても敵わないことは。情報によればここには艦娘の中でもS級の3位が…そして白露もS級の12位。S級に最も近い艦娘が二人、海軍三大将、陸軍のNo.3と戦力は向こうの方が上だった。そんな天と地の差にいるような者達に勝てること自体ほとんどないのに。そう思っていると、茂みの方から足音が聞こえてきた。何事かと思いそちらを見ると見たことがある顔が目に映った。それはかつてのライバルであり、因縁の相手でもあるもの。佐藤一星だった。

 

「ようやっと見つけたぞ源五郎!まったくこれほどてこずらせてくれるとは思っていなかったぞ!やっと昔の因縁をはらせるものじゃ!」

 

「っ⁉一星……貴様、どうしてここに⁉」

 

「どうしてここに?貴様を打ちのめすために決まっているではないか!儂の娘と……そして孫娘に手を出してくれたからに……打ちのめすだけでは足りぬ……貴様ら明智家を滅ぼさねば気が済まぬ!」

 

 近くにあった木を殴り大穴を開ける一星。その怒りは相当なもので、鋭い眼光は源五郎に恐怖を与えるのに十分なほどだった。現に源五郎は怖気づいたのか後ろに数歩下がっている。

 

「…ええい!怜王!お前が相手せい!儂はここを離れる!」

 

「待て源五郎!逃げるのか!」

 

「ちょっと…せっかくなんだから相手してよ…私暇なんだから」

 

 一星は源五郎を追おうとするがそれを怜王が制す。相当戦いたかったのか、手足を動かしている。ある程度動かし終えた後に怜王は一気に一星に飛び掛かる。一星はそれを軽々と避け怜王の力を利用し投げ飛ばす。しかし、怜王はすぐに体制を立て直し殴りかかる。さすが源五郎の息子だけあって速さも力もかなりのものだ。

 

(くっ!さっさと源五郎を追いたいところじゃが、まずはこいつを何とかせねば!)

 

 一星は早急に片を付けようと怜王に攻撃を仕掛ける。まずは顔面目掛けてのパンチを、しかし怜王はそれを軽々と避け一星の腹に一撃を加える。遊び半分なのか、純粋に戦いを楽しんでいるのか怜王の表情には笑みさえこぼれていた。しばらく乱戦になる二人。押しているのは怜王の方だったが一星は違和感を覚える。おそらく実力は自分と同等かそれ以上のはず。しかし、なぜか一星は考え事をするほど余裕があった。

 

(どうなっている。いったいなんじゃ……。なぜ……なぜこいつから殺気を感じられん……)

 

 もう訳が分からなかった。怜王の眼を見て、そして拳を合わせたことで何かがわかったような気がした。怜王の目的が、なぜ自分と今対峙しているのかを。

 

(……惜しいな。殺す気でやっていたならわしを倒すことができただろうに!)

 

 一星は一気に怜王に詰め寄り腹に一発。さらに顎に一発を入れ怜王を地に伏せた。怜王はなぜかそれに満足しているのか表情には笑顔が見られていた。

 

「……いったいなぜじゃ……なぜおまえから殺気が感じられん。お前の目的はなんじゃ?何を目的で…」

 

「……目的ね……そうね……私の……いいえ…私達の目的は……」

 

 そして怜王が言ったことは衝撃だった。10年前の真実、あの三人がどうして逃げ延びたのか。怜王達の目的。そして、明智家のバックにいる者達が何をしようといているのかを。

 

「なん……じゃと!」

 

「事実よ。今言ったこと全部ね」

 

 一星は慌てふためきすぐに大本営の方へ向かった。怜王の言ったことが真実であれば、あいつを殺させるわけにはいかない。なんとしてでも。

 

(頼む!間に合ってくれ!)

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…なんなんだ一体?少なくとも深海棲艦のflagship級の実力はあるぞ。この黒スーツ…」

 

「二人がかりでこれとは……さすがに想定外でした…」

 

 予想以上の実力に苦戦する筑摩と磯風。二人がかりでやっていても傷一つつけることができない。それどころかこちらが押されている。二人はここの精鋭、それも職人気質の第3艦隊所属だ。筑摩は霊力2万4千、磯風は霊力1万9千だ。その二人をもってしても苦戦を強いられる目の前の敵はおそらくこの二人を上回る実力を持っている。正直二人はどう対処するべきか迷っている。第1・第2艦隊の面々ならこの状況を打破できるかもしれないが一つの能力に秀でている二人には決定打に欠けてしまうのだ。状況を打開しようとした二人だがその前に黒スーツが磯風の方に向かった。磯風の方に向かう前にどうにかそれを防ごうとした筑摩だが黒スーツの体当たりに対応しきれず吹き飛んでしまう。磯風はぎりぎりそれを避け銃撃を浴びせるが傷一つつかなかった。

 

(だめだ、どうやっても傷をつけられない。スーツのせいなのか⁉それとも何か別の理由が⁉)

 

 直後、磯風の左わき腹に強い衝撃が走った。黒スーツが左腕で磯風をなぎ倒したのだ。磯風は数十m以上吹き飛ばされてしまう。よほどの衝撃だったのか磯風はなかなか立つことができなかった。

 

「磯風さん⁉……っ⁉」

 

 黒スーツは筑摩に攻撃を移す。筑摩はそれを避けつつ相手に攻撃を仕掛ける。今度は手加減しない。もう手加減する暇がない。全力でやる。たとえ相手が人間だろうが、深海棲艦だろうが関係ない。

 

「少し痛いかもしれないですが、致し方ありませんね!」

 

 筑摩は霊力を一気に開放し、腕に力を込める。そして、相手が近づいてきたと瞬間に腹部めがけて思いきり殴った。強い衝撃が周囲に巻き起こり土煙が舞う。これで仕留めたかと思ったが相手は倒れること無く筑摩に反撃してきた。間一髪のところでそれを避け相手から距離をとる。敵は重い一撃を食らってもなお平気で立っている。ダメージが通っていないのかと思ってしまうほどに。

 

(嘘…あれを食らって立っていられるなんて…やっぱり相手は人間ではないのかも…)

 

 仮に人間でなかった場合おそらく普通の武器では通用しない。それこそ艦娘の艤装が必要になってしまうであろう。しかし、こんな場所で艤装を使えば他の者たちも巻き込みかねない。

 

(やはり素手でやるしかない。でもどうやって倒せば!)

 

 あれこれ考えたがその間に相手に詰められてしまう。筑摩は相手の攻撃をいなしながら反撃に転じるが相手はひるむ様子もなく攻撃を繰り出していた。筑摩は急所を何度も何度も攻撃する。それでも相手にダメージは通っていなかった。その時、攻撃をかいくぐられ喉元をつかまれてしまう。そのまま宙に上げられ息ができなくなってしまう。足をじたばたさせもがくがよほどの力なのかふり解くことができない。相手が筑摩をそのまま叩きつけようとしたとき、筑摩はいつの間にか地面に落ちており拘束から解放されていた。酸素を一気に吸い何が起こったのかわからず周囲を見ると、相手の左腕が反対方向に曲がっていたのだ。

 

「ははは!なかなか苦戦しているようではないか。儂も手伝わせてくれ!」

 

 敵の左腕を折ったのは三大将の一人である斎藤だ。斎藤も前線に出ていたのであろう。服のあちこちにすすのようなものがこびりついている。しかし、筑摩達二人がかりで傷一つつけられなかったのに斎藤はたった一発で左腕を折った。さすがここ海軍の大将を務めるほどの男。噂では深海棲艦を素手のみで退けたことがあるのだとか。

 

「磯風は向こうでノックアウト中か。お前も休んでおれ。ここは儂がやろう!」

 

「斎藤大将!しかし!」

 

「安心せい。それに明石も連れてきておる。傷の手当でもしてもらえ」

 

 周囲を見ると、明石が磯風の治療を行っているようだった。包帯や何のために使うのか手術用のメスのようなものも持っていた。明石の腕は相当なようですぐに包帯を巻き終えている様子だった。

 

「……さてと、じゃあやろうか!」

 

 斎藤はまず敵の顔面に拳を入れる。間髪入れずに次の攻撃を腹部に、さらに顎に入れていく。相当な威力なのか相手はのけ反り攻撃の隙を与えない。筑摩が霊力を解放し攻撃を放ってもびくともしなかった相手がこうも簡単にのけ反るなんて思ってもいなかった。

 

(一体どうゆう鍛え方をすればここまで…この人はいったい何者なの…)

 

「ほらほら、考え事をしている暇があるならさっさと安全な場所へ行くわよ…」

 

「え…あっ」

 

 明石が急に筑摩の横に現れ強引に磯風のいるところに運ばれる。傷はほとんど受けておらず擦り傷程度であったので明石は何もせずにため息を吐いた。そして、興味ありげに斎藤が戦っている相手を観察し始めた。

 

「押しているのは大将の方か…でも、どうなるかしらね…」

 

「…というと?」

 

「相手が黙って攻撃を受けているだけだと思う?何か起こるわよきっと」

 

 そう言った途端、斎藤が吹き飛ばされ壁に激突していた。見るとさっきまで折れていたはずの相手の腕が元通りに戻っていたのだ。攻撃をしていなかったのはおそらく左腕の回復に時間をかけていたからなのであろう。筑摩は驚愕した。普通なら再生能力は誰ももっていない。舞鶴にいる響をのぞいたら誰一人いないはずなのだ。斎藤は瓦礫から出てくるとすぐさま相手に反撃に向かった。相手も万全な状態に戻ったからか斎藤に向かい攻撃を繰り出していた。

 

「……ふうん……再生能力持ちか…益々興味が増したわ!」

 

 明石が立ち上がったとたん後方から強い衝撃が走った。後ろを見ると違う黒スーツがこちらを見ていたのだ。黒スーツは全員で8人。うち二人がここにいることになる。明石は嬉々として相手を見つめており手にメスを持ちながら話し出す。

 

「本当にすごいわね。あなたもあいつと同じように再生能力でも持っているのかしら?それとも違う何かがあるの?……まぁ言っても何も答えてはくれないか…。だからさ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたの体……解剖させてくれない?

 

 ぞわっと、明石に寒気を覚える筑摩。一気に周囲の圧が変わった。きっと明石は霊力を解放したのだろう。感覚的には青葉が霊力を解放させた時と似ている。しかし、それ以上の寒気を覚えた。目の前の光景から目を背けたいのに体が固まって動けない。それほどまでの力が働いているような感じがした。そして、敵が明石に向かってくる。それを明石は難なく避け相手の体にメスを入れる。メスを入れられた相手の右腕は力なくぶら下がっている。

 

「……はいはい…悪いけど神経を切らせてもらったわ。さてと…次はどこを切ろうかしら⁉足、腹、それとも頭⁉ふふふ、やっぱり解剖は楽しいわね!人間の構造ってどうなってると思う⁉筋肉や血管、神経まですごく興味深い構造をしているのよ!人間の体って未だにわかっていないことが多くてね、凄腕の医者でも解明できないほどのものがっ」

 

 バーンと、轟音とともに黒スーツは明石の頭をつかみ建物の壁際まで移動し叩きつけていた。右腕はいつの間にか再生しており動かせるほどまで回復していた。神経を切られて力なくぶら下がっていたというのにだ。

 

「…………やっぱり再生するのね……舞鶴に行った響とはどういう関係なのかしら?」

 

 しかし、明石は余裕の表情で相手を見つめており傷一つ付いていなかった。それどころか相手の手首から先が力なくぶら下がっていた。明石は退屈そうな顔で足先から頭で物色するとため息交じりにつぶやいた。

 

「もう飽きた…………死ね」

 

 明石は三本のメスを相手の左胸に突き刺すと一気に押し出し、抉り、心臓を取り出す。明石の手にかかれば心臓の一つや二つえぐり取るのは雑作もない。何せ人間を生きたまま解剖できるほどの技術を持っているのだ。その心臓を握りつぶすと相手は一気に苦しみだした。しかし、しばらく苦しんだ後何事もなかったかのように突っ立っていた。

 

「嘘でしょ…なんで…」

 

 再び明石に襲いだす黒スーツ。明石は攻撃を避け続けながら考える。確かに心臓はつぶした。それでも動いているということはもっと違う何かがあるはず。再生だけではない違う何かが。明石は相手の体を傷つけながら何か秘密が無いか探った。すると、明石は嬉々とした表情になり今度は左太もも付近にメスを突き刺し抉る。なんと左太ももからも心臓のようなものが現れた。明石はそれを握りつぶすと相手は力なく倒れ伏した。

 

「…なるほどね、そういうことか……あぁ…………全艦隊、もしくは憲兵、海軍、工廠にいる全員に言うわ。今ここ襲ってる黒スーツ達、どうやら心臓を複数持ってるみたいよ~…。それが核となって相手の原動力になってるのね…とにかく、そいつら見つけたら、体中傷つけてその核を探しなさいな。私が今倒した奴は二つ心臓を持っていたわ。それを潰せば相手を殺せる。でも用心しなさいな、敵はかなりの強敵よ」

 

『おい明石か⁉こんな間の抜けた通信している奴は⁉』

 

「あらその声は武蔵かしら?……えぇ、たった今一匹倒したわ…というわけで…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こいつ解剖してもいいわよね⁉

 

『勝手にしろ⁉どうせ止めても聞かんだろう!私達はもうすぐそっちにつく!他の敵はどうした⁉テロリストは⁉』

 

「…………一体は斎藤大将と交戦中、大淀…他は?」

 

『は⁉…はい!二体は赤神大将、横山さん、龍田さん、舞風さんが交戦中。工廠付近に一体、本館付近に1体。埠頭付近に2体!』

 

「だってさ…あとは任せた…」

 

『え…え⁉ちょっと明石さん⁉』

 

「私はこれからこいつを解剖するの。ということで」

 

 明石は黒スーツの死体をもって医療施設の方へと向かっていった。途中斎藤の方をチラ見する。力は拮抗しているが再生能力を持つ相手に少々手こずってるようだ。まぁそれは仕方ない。斎藤は拳ひとつで決定打を与えられる攻撃を与えられないのだから。

 

(長期戦になりそうか…?……あ、大丈夫そうだ)

 

 直後、明石の後ろを猛スピードで横切るものがいた。その者はまっすぐ黒スーツに向かっていき相手の心臓を一突きにした。一突きにしたのは三大将の一人である小笠原三笠。粗方テロリストを殲滅した後暇すぎて散歩していたのだ。その時に大淀からの通信を聞き急遽こちらに向かってきたのだ。

 

「面白そうなことしてますね!私も混ぜてください」

 

「三笠か、本館と工廠は大丈夫なのか?」

 

「本館は由良ちゃんが行ってくれたわ。工廠は日村さんがいるから大丈夫でしょう」

 

「むっ…日村工廠長か…確かにあの人なら大丈夫そうだ…」

 

「ですよね!っておっと⁉」

 

 心臓を突き刺したはずなのに相手はけろりとしていたのだ。明石がやったように苦しむ様子はなかった。

 

「心臓が違う場所にでもあるのかしら?」

 

「どうやらそのようだな。ではやるべきことは一つだな」

 

『心臓を見つけるまで切りつける(殴りつくす)!!』

 

 二人そろって、相手をただひたすらに攻撃を繰り返していく二人。それを見ていた明石はなんと単純なのか…、と心の中で思った。まぁ、もう自分には関係ない話だしどうせこの二人なら勝つから大丈夫であろう。工廠の方もあの工廠長がいるから大丈夫だ。ただ問題があるとすれば本館の方にいる由良であろう。由良は持病の問題があるし、最近発作が起きていないからいいものの、いつ何時どうなるかわからない。

 

(念のためそっちの方に兵を回してもらうか)

 

 明石は念のため本館の方に援軍を頼みその場を後にする。もうここは大丈夫だ。あとは時間の問題だから。

 

 

 

 

 

 

 

「ええいくそ!こいつの心臓はどこにあるんじゃ⁉」

 

「何か秘密があるはずです!切りつけていればいずれは!」

 

 攻撃を交わしながら弱点を探す斎藤と三笠。明石は難なく見つけたのだ。だから確実にわかる方法があるはず。それを見つければ何とかなる。相手の状態を観察していく三笠。頭、腕、胴体、足。すべてを観察していくと、圧倒的に再生が速い場所があった。三笠は再生速度が速かった左足を重点的に攻撃していく。すると、相手は苦しみだしたのだ。

 

「見つけたわ、弱点!」

 

「よくやった三笠!」

 

 斎藤は、もう一つ再生が速かった右腕を殴る。そして、そこをひねりつぶした。さらに相手は苦しみだし膝まづいたのだ。

 

「よし、これで勝負はつい……」

 

 直後、斎藤の頬を拳がかすめた。どうやらまだ核が残っていたようだ。だが、相手はもう虫の息だ。

 

「……なんだ、まだ生きてやがるのか。だがもうお前は終わりだ。最後の核を当ててやろうか?」

 

 斎藤は相手の頭を握りつぶす。ヘルメット事ひねりつぶし最後の核を潰した。そして、相手は完全に力尽きた。これで残り6体。

 

「全員よく聞け!例の黒スーツ、どうやら再生箇所が異常に早い場所がある。そこが核だ!そこを重点的に狙え!」

 

「さてと…どうしますか斎藤さん?」

 

「……ひとまず本館だ。由良が気になる…」

 

「…了解」

 

 その場を去っていく二人。その様子を遠目から見つめていた筑摩。もう何が何だがわからなかった。自分達が手も足も出なかった相手を、あの二人は簡単に仕留めてしまったのだから。

 

(…本当に…あの人達は何なんですか…?私は本当にここでやっていけるんですか…?利根姉さん……なんでここを離れてしまったんですか…)

 

 筑摩は項垂れた。己の未熟さが情けなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

「…あらあらまぁまぁ、黒スーツ2体倒したんですって!本当に素晴らしいわねここの人達は!」

 

「お母さん⁉だから呑気にそんなこと言っている場合じゃないって‼‼‼」

 

「呑気にそんなこと言っている場合なのかお前たちは!えぇ!!」

 

 攻撃を受け流しながら適当に、笑いながら答えている星羅。もはや目視するまでもない。(―人―)とこんな目をしながら攻撃を受け流す星羅。高笑いしながら相手に打撃を加え吹き飛ばす。これもう自分はいらないのではないかと時雨は思った。だって、星羅だけで相手を圧倒しているから。自分は少しだけ手を貸しているだけ。そう、ほんの少しだけだ。いかんせん星羅が強すぎるせいで時雨は正直出番がない。

 

(これ本当にお母さんだけでいいんじゃないの…?)

 

……あ、そうこう考えてたらまた相手が吹っ飛ばされた。霊力を解放していない条件下ではあるが対人格闘だけなら、おそらく星羅が上だ。ここ大本営の横山と指しで勝利しただけはある。

 

「ね、ねぇお母さん…。もうこれお母さんとあの人との勝負でよくない?」

 

「何言ってるのよ雫…結構いい勝負してるじゃない!」

 

「いやいやいやいや!これほぼお母さんとあの人との戦い見たいなものだから!僕少しだけ力貸しているようなものだよ!」

 

「あらそうなの!?」

 

「今更!!!」

 

 もはや相手を見ずとも相手を圧倒している星羅。常時笑顔であるため何を考えているのかわからない。

 

(はぁ……さすがに雫には衝撃が強すぎるかしら…。まぁいいか。久しぶりに本気出したし。山籠もりで大分力がついたしね…多分……あぁ、横山さんとも一対一でやってたっけ!そうだそうだ!それでも力尽けたな!いや~。いいね!)

 

「お前!そんな呑気な顔している場合か!」

 

「だってあなた、前より弱いんだもん…」

 

 今度はアッパーを食らわして相手をなぎ倒す星羅。相手が衰えたのか、それとも星羅が強くなったのかはわからない。しかし、星羅が相手を圧倒しているのは確かだ。

 

(おっかしいな…本当にこの人こんなに弱かったっけ?)

 

 星羅の一撃が効いたのかなかなか相手は立ち上がらない。念のため、近づいて確認しようとしたとき、いきなり起き上がり手にはナイフを持っていた。星羅が近づいてきたときに攻撃を仕掛けるつもりだったようだ。

 

「お母…………おぉ(゜.゜)」

 

 星羅はあらかじめ予想していたのか指二本でナイフを受け止めていた。かなりの握力なのかナイフは微動だにしない。男もかなり力を入れているようだがそれでも全然動かない。

 

「あなた本当に大したことなくなっちゃったわね…ちゃんと修行してたの?それとも私が強くなっちゃったのかしら?」

 

 星羅は男の腹に渾身の一撃を加える。男は血を吐き出しその場に倒れ伏した。

 

(あっれ~…本当にこんな感じだったっけこの人(^-^;)う~ん…う~む……やっぱりおかしい、この人なんか動きがぎこちなかったのよね。それに……そもそも、あの時私がこの子達と逃げれた理由…そこまではまだ思い出せないしおぼろげだけど…もしも私のこの仮説が正しければ……私達が助かったのは…)

 

 そうこう考えていると、いきなり後方から建物が壊れる音がした。何事かと思い振り向くと、瓦礫の中に白露がいた。体中痣や傷ができており、相当な戦闘なのか肩で息をしていた。そして、穴の開いた建物から小次郎が出てきた。小次郎も肩で息をしておりお互いにダメージが大きいようだ。

 

「……あなた!」

 

「…………星羅…………雫…」

 

 小次郎は、星羅達を見て一瞬表情がこわばる。だが、一度ゆっくり深呼吸をしもう一度星羅達に向きなおった。

 

「生きてたのか…まぁいい…お前らはあとだ。今は、こいつとの勝負が先だ」

 

「言ってくれんじゃん糞親父…!」

 

「いい加減糞親父というのはやめてほしいが…まぁいい」

 

 小次郎は少しだけ笑うと構える。白露も瓦礫の中から出ると、ゆっくりと歩き出し小次郎のもとへ向かった。

 

「勝負つけるぞ糞親父!!」

 

「…来い!」

 

 お互いもう意地のぶつかり合いだった。どちらも防御などお構いなしに攻撃を繰り出す。白露はこの短期間で、かなりの成長を遂げ攻撃の速さが尋常じゃないほど上がったのだ。普通の人間なら目で追えないほどの速さだ。それを小次郎は何とか避けつつ白露に拳を振るっていた。

 

(……なんで?)

 

 この時、星羅は少し違和感を感じていた。もし本気で殺す気なら、こんな正々堂々と戦わなくていいはず。もしあの源五郎がこの戦いを仕掛けていて、星羅達を本気で殺す気ならずるい手を使ってでも殺そうとするはず。それなのに、なぜ……なぜ小次郎から殺気が感じられないのか。それに、星羅達を見たとき、ほんの一瞬だが表情が強張った。それに、拳にも力が入っていたのだ。明らかにおかしい。小次郎は、そもそも自分達を狙っていないのではないかと思った。何か、別の狙いがあるのではないかと。

 

「お母さん!とにかく、白露に加勢しよう!」

 

「…ダメよ!」

 

「なんで!今目の前で!」

 

「これはあの二人の戦いよ!私達が手を出してはいけないわ…」

 

「…でも!」

 

「絶対ダメ!……絶対…」

 

 星羅は二人の戦いをただただ静かに見守った。時雨の肩に手をかけ、ただ静かに…。時雨も何か言いたげだったが、星羅の言葉に耳を傾け二人の戦いを見守った。お互いが意地のぶつかり合いだった。それほどまでに、壮絶な攻防だった。戦いを見守っていると、本館の方からものすごい衝撃が走ってきた。おそらく、本館の方で戦っている誰かだ。

 

「な…何この揺れ⁉」

 

「…これ…もしかして由良さん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――本館付近

 

「…………うわ~……」

 

「…こ、これはすごい…」

 

 斎藤と三笠は、本館付近にいる由良のもとへ来ていた。しかし、正直言って援軍に来るまでもなかった。なにせ…例の黒スーツは、ぺしゃんこにつぶれているのだから…。もう一度言う。つぶれているのだ。まるで粘土みたいに、ぺしゃんこに。その近くには、由良と巨大なマンモスのような生き物がいた。おそらく、由良の式神であろう。

 

「あ、お二人とも。お疲れ様です!」

 

「え、え~っと由良…この子は?」

 

「あ、この子は巨門。私の式神です!」

 

 巨門と呼ばれた式神は一瞬まばゆい光に包まれたかと思うと、赤い髪に黒色の着物を着た女性の姿になった。

 

「では主よ。またいつでもお呼びください」

 

「えぇ、お疲れ様!」

 

 巨門はそのまま消えていった。斎藤達はその光景を口を大きく開けて眺めていた。さすが、陰陽師の末裔だ。こんな黒スーツでは歯が立たなかったようだ。

 

「よし、これで残り5体か…」

 

「……あの、斎藤さん…」

 

「なんだ三笠?」

 

「……なんか、余裕な気がしません?」

 

「確かに…」

 

「……(。´・ω・)?」

 

 二人の話に?マークを浮かべる由良。だが、二人の話はあとあと現実になる。工廠の方はあっという間に終わってしまうし、横山達も苦戦はするものの大丈夫だし、埠頭付近にいる黒スーツ達もあっという間に倒されてしまうのだ。

 

 ……まぁ、この話は……また次回に!!!

 

白露「唐突な次回予告Σ(・□・;)」

 

 




次回:因縁 後編
筑摩「うぅ…姉さん…利根姉さ~ん(´;ω;`)」
磯風「ち…筑摩さん…そんな泣かんでも…」
利根「そうじゃぞ筑摩!泣いている暇があったら鍛錬をせい!!!」
筑摩「そんなぁぁぁぁぁ( ;´Д`)」










ちょっとしたネタバレ
大本営第三艦隊旗艦はもともと利根が担っていたらしい。しかし、とある理由で転属し今は横須賀第2鎮守府にいる。利根もかなりとがった性能で、砲撃が苦手な代わりに、索敵と雷撃に優れている。異能持ちで、能力は脚力のみを強化する肉体強化【フィジカルアップ】。


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55話 因縁 後編

――――工廠付近

 

 工廠付近では、黒スーツがなぜが倒れ伏しており、目の前には機関銃のようなものに乗っている日村の姿があった。表情もかなり余裕のようで笑みすら浮かべている。

 

「…身体能力的に深海棲艦のそれですか…でも、ここを攻め落としたいのであれば、もっと戦力を持ってくるべきでしたね。なにせ、ここには深海棲艦用の兵器がづらりと並んでいるのですから」

 

 周りには、機関銃やミサイル、大砲などかなりの量の兵器が並んでいた。それらを駆使して日村は相手を退けていたのだ。一歩も工廠に踏み込ませていない。おまけに、日村は元帥である山本とは旧知の中だ。対人格闘も優れているのだからほとんど隙が無い。

 

『工廠長⁉もしかして、今兵器を試しているところですか⁉』

 

「おやおや、これは夕張殿!えぇ、ちょうど今兵器を試しているところですよ!」

 

『なななななななんと‼‼私も今工廠の近くにいるんです!だから、私にも見させてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ(;゚Д゚)』

 

「はははははは!それは難しい相談ですね!今から特大花火を打ち上げる予定ですから!」

 

『ま、待って!本当に待ってくださいΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)』

 

「ではではでは!特大花火、た~~~~まや~~~~~~!!!」

 

『ちょっとおおおおおおおおおおおおおおおおおおお(゚Д゚;)』

 

 直後、地面から強い衝撃が走り、敵は空高く舞い上がる。そして、日村がスイッチを押したのと同時に全砲撃が集中し敵は跡形もなく消えてしまった。夕張が猛スピードで工廠まで来ていたが時すでに遅し。

 

「あああああああああああああああ!もう、見たかったのに…」

 

「まぁまぁ、また今度ですね!」

 

「そんな~(゚Д゚;)」

 

「さてさて、では私はこれで…」

 

 日村はそのまま工廠の方に戻っていく。夕張も仕方ないので艤装を仕舞いに工廠の方へと向かった。そして、埠頭付近で何やら爆発音のような音が聞こえてきた。おそらく艦隊が帰島したのだろう。どうせあいつらは瞬殺されているだろうなと思いながら、工廠の方へと戻っていった夕張であった。

 

 

 

 

 

―――埠頭付近

 

 夕張の予想は的中しており、案の定埠頭にいた敵達は瞬殺されていた。一方は武蔵と天龍が、もう一方は吹雪と綾波が。それぞれ、敵の攻撃を与える暇さえなく、ただただ一方的に。

 

「これが最終兵器?ちっとも強くないじゃねえか…なぁ?」

 

「筑摩と磯風は苦戦したと言っていたが、あの二人には荷が重かったか…?得手不得手を補い合っているからこその第3艦隊だからな…」

 

「由良さんと龍田さんなら、何とか切り抜けられる気はしますけどね…ねぇ、綾波ちゃん?」

 

「あの二人、第3艦隊でもかなりの強者だからな~…」

 

 ああだ、こうだと話し合っている4人。その光景をあっけにとられながら見ている艦隊のメンバーは、拍子抜けしたのか肩を落としていた。大淀が大慌てで報告してきたのに、何だこのざまはと…。これじゃあ焦ったこっちがバカみたいではないかと思った。

 

「……のう谷風…」

 

「言わなくてもいい…大体わかってる…」

 

 浦風と谷風は察したような表情で目の前を見る。本当に、第1・2艦隊の旗艦は化け物だ。そう近いうちにS級になってもおかしくはないのではないかと思うほどに。

 

(じゃけど…この二人よりも強いのがS級たちじゃ。白露も、雷も…覚醒したらこの二人を簡単に倒せるのかもしれないの……うちもなれるかの…二人みたいに)

 

 浦風はそう思いながら周りを見る。工廠の敵は倒したからこれで残り2体。最後に明智家の連中をとらえればそれで終わりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――本館付近

 

「うわうわうわ(゚Д゚;)龍田さん⁉本当に早く何とかして!さすがにずっとよけきるのはきついよ!!」

 

「えぇわかってるわ~。今やるわね~!」

 

 黒スーツの攻撃を全力でよける舞風。そのすきに相手に攻撃を与え弱点を探る龍田。何とか右わき腹にある弱点を見つけそこを攻撃する。相手は苦しみだすが、それでもまだ舞風に攻撃を仕掛けている。舞風は回避に特化しているため攻撃力がほとんどないのだ。できなくはないのだが、同時に複数こなすとなると能力を最大限発揮できないのだ。

 

(さすがに私一人じゃ厳しいわね~。このままじゃじり貧よ~…。私も近接戦闘はできるけど、天龍ちゃんほどじゃないし~…)

 

『苦戦しているのなら手伝うぞ』

 

「はい…?」

 

 直後、猛スピードで相手に切りかかる赤神と横山。体全体を切りつけられた黒スーツは、苦しみだしそのまま倒れ込んだ。周囲を見ると、赤神達が相手をしていた黒スーツがボロボロになり倒れ伏しているのが見えた。

 

(……これもしかして私達いらなかったんじゃ~(~_~))

 

「遅いよ二人ともぉぉぉ!!私もう踊り疲れちゃったよ~!!!」

 

「すまねえな…思ったより手間どった…なぁ赤神?」

 

「確かに手こずったが、弱点さえわかれば雑作もない。そうだろ?」

 

「……いつかお前とも決着を付けないとな…」

 

「この問題が解決したら決着を付けるとしよう」

 

 刀を仕舞い、フラフラと歩き出していく二人。もう黒スーツ達は全滅した。あとは首謀者達をとらえるだけだ。

 

「……はぁ…」

 

「うん?どうしたの龍田さん?」

 

「ねぇ、舞風ちゃん。なんか私達の存在意義を考えさせられちゃうわね…」

 

「…………確かに…」

 

 そのまま二人してため息を吐いた。第1・2艦隊と比べて個の力では弱すぎる。それを痛感してしまったから。とりあえずもうほぼほぼ勝負はついたようなものなので、二人はそのまま本館の方へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――寮付近

 

『報告します。例の黒スーツの全滅を確認。テロリストも壊滅状態!残るは首謀者のみです』

 

 大淀の報告を聞いた白露達。あとは、明智源五郎と目の前にいる小次郎、そして怜王の三名のみになった。もうほぼかたはついた。勝負をする意味はないはずなのだが、白露と小次郎はお互いに殴り合っていた。もうテロ云々の話ではない。これは家族の問題でもあるから。お互いの意地と意地がぶつかり合う。それを星羅と時雨は見守っていた。

 

「けりは付きそうか?」

 

「長門さん⁉」

 

 二人に近づいてきたのは、ここ大本営の最高戦力である長門だった。大方もうほとんどかたが付いたから食堂から出てきたのであろう。ことの顛末を見守るためにここに来たようだ。そして、長門を筆頭に憲兵達も近づいてくる。中には銃を小次郎に向けているものがいた。

 

「全員手を出すな!これはあの二人の戦いだ!手を出そうとするものなら、この長門が許さん!武器を納めろ!」

 

 長門の声で、武器を構えていた憲兵達はそれを納める。長門も察していた。あの二人から尋常じゃないほどの思いがぶつかっていたことを。

 

「長門さん。少々…」

 

「む?」

 

 憲兵から何やら報告を聞く長門。それを聞き、長門は二人に声をかけた。

 

「たった今明智源五郎、そして怜王の二人が拘束されたそうだ。一星殿ももうすぐこちらにつくそうだ」

 

「……そう、源五郎さんと怜王君がね…」

 

「これで、残るはあいつのみだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…もういい加減…あきらめろよ糞親父!」

 

「はぁ……はぁ……お前こそふざけているのか?……なぜ()()()()()?」

 

 小次郎に言われたことに対して、白露は肩を震わせる。しかし、そんな白露の様子を見てもお構いなしに小次郎は問いかける。

 

「何を迷う?……お前達を殺そうとした男が…今目の前にいるんだぞ?……ずっと俺を憎んでいたはずだ……10年前の記憶を無くしても…お前の憎悪は…親に殺されそうになったことへの憎悪は消えていないはずだ!…さぁ、俺を殺してみろ!今ここで!」

 

 白露は、拳を強く握りしめる。確かに、今目の前にいる男は自分達を殺そうとした。そのせいで大人は嫌いになったし、思い出すまで母さんのことも嫌いだった。沸々と、白露の中で怒りがこみあげてくる。この10年分の怒りすべてが…。

 

「…言われなくても…言われなくてもそうしてやる!!」

 

 白露は猛スピードで小次郎にかかっていく。小次郎は、白露のスピードに反応できず顔面に拳を食らい、そのまま倒れ伏す。そして、白露が馬乗りになり小次郎の顔面目掛けて追撃を放とうとする。それを、慌てた様子で憲兵達をかき分け、目の前の出来事を見ていた一星が、そして、星羅も同時に叫びだした。

 

『焔!だめ(だめじゃ)!殺しちゃ(殺しては)!!』

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 轟音が鎮守府に響き渡る。目の前の光景に一瞬目をつむった一星と星羅。ゆっくりと目を開け、目の前の光景を見る。よく見てみると、小次郎の顔の横に白露の右こぶしがあった。最後の最後で、白露は攻撃を外したのだ。白露はゆっくりと立ち上がり、そのまま小次郎を見下ろしていた。

 

「……どうした…殺すんじゃなかったのか?」

 

 小次郎の問いに、白露はただ黙る。ずっとうつむいて、体を震わせているようだった。しばらく沈黙が続き、おもむろに口を開く。

 

「前に……夢で見たんだ。多分…私達が逃げるときの……じいさんに誰かに手引きされたんじゃないかって言われたときの夜だった。その時は半信半疑だったよ。あと…雫に言われたのもあったし、今あんたと戦って……正直…確信に変わったんだ…あの時……10年前……私達を逃がしたのは……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あんただろ……………………父さん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉を聞いて、小次郎は少し黙った。少し時間をかけ体を起こすとおもむろに話し出した。

 

「……さっさと殺せ…」

 

「……でも!」

 

「こうなることが俺の望みだった。未練も何もないさ……」

 

「焔、私が話を付ける…」

 

「か…母さん…記憶が…」

 

 星羅は二人に近づき、白露に話しかける。話したいことは山ほどあるが、今は10年前のことだ。

 

「……なんで私達を生かしたの?明智家は反艦娘思想でしょ?あの時、私はこの子達を殺させないために逃げようとした。危険を冒してまで、私達を逃がす必要はなかったはずじゃない…」

 

「……正直…家のことなんでどうでもよかった…親父は……あいつは俺達のことなんてどうでもよかったんだ。ただ、子孫を残すための道具にしか過ぎなかったのさ。母さんのことも……あいつにとってはただの道具だったのさ。母さんが死んだとき、それを痛感したよ……」

 

 過去のことを話す小次郎。源五郎は、小次郎たちをただの道具でしか見ていなかった。それを確信したのは最愛の母が亡くなったとき。その事実を知って小次郎は絶望した。だから、家のことなんてどうでもよくなった。源五郎に言われるがまま人生を歩んできた。しかし、星羅と結婚し日常を送るうちに、そして白露達が生まれたときにそれは変わった。だんだんと、人生が楽しくなってきた。暗闇にいた自分を、光のある方へ導いてくれるような、そんな感じがしたのだ。

 

「……楽しかったさ。あの日々が。……けど、焔と雫が艦娘だって知ったとき……親父の耳に入ったときは、もう気が気でなかったよ。何とか親父にばれないように……お前達を逃がす手立てを立てたんだ。俺と……怜王とな…」

 

「怜王君が⁉怜王君もこのことに関わっているの⁉」

 

「あぁ…俺とあいつでお前らを逃がした。親父達に気づかれないようにな…………結果的に、お前らの所在がバレちまって、星羅が死んだって聞いたときは……頭がどうかしそうだったよ……」

 

(そうか。あの夢はそういうことだったのね……)

 

 あの時、自分達に向けられていた二度と帰ってくるなといった人物。あれは小次郎だったのだ。しばしの沈黙があった後、星羅は小次郎に話しかけようとするが遠くの方で老人の怒号のようなものが聞こえてきた。おそらく、源五郎の声だろう。放せだの、儂を誰だと思ってるだの、そんな怒号が聞こえてきた。さらにもう一人、こちらに近づいてきている人物がいた。それは、先ほど一星に負けた怜王だった。手には手錠をかけられている。

 

「……久しぶりね、義姉さん…無事で何よりよ…」

 

「怜王君……久しぶり……」

 

「……焔も、雫も……すっかり大きくなったわね…私はうれしい…」

 

「ええいくそ放せ!!!あやつらを殺さねば気が済まぬわ!この悪魔どもめ!!!こうなったら、最後の奥の手を見せてくれるわ!!!」

 

「……もうせっかくいい雰囲気だったのに……兄さん…あの糞親父殺していいかしら?」

 

「……」

 

 小次郎は少し考えた。今あいつはなんていった?最後の奥の手……黒スーツどもはもう全滅しているし、雇ったテロリスト達ももう壊滅状態のはずだ。ただの杞憂だと願いたい。でも何かが引っ掛かった。

 

「……星羅、うちの師範代と戦ったよな?そいつ……何か違和感がなかったか?」

 

「え?……確かに、昔より動きがぎこちない感じがしたけど……普通に私が強くなっただけかなって(笑)」

 

(おかしい……10年前、星羅を殺しかけたのはあいつだぞ……動きがぎこちないですまないだろ……じゃあ、一体………そういえば数日前…)

 

 数日前、源五郎はその男に何かを渡していたような気がした。確か、戦いの前にこれを打てだの…そんな話を聞いたような気がする。あれは博士と呼ばれていた男が源五郎に渡したもの。実験段階のものだが、適当に使えと。そういう話をしていたような。考えているうちに、前方から轟音が聞こえだし、周りにいた憲兵達が一気に吹き飛ばされていた。その音の正体は、まっすぐこちら。正確には白露の方へと向かってきていた。

 

「避けろ!!」

 

「え?」

 

 小次郎は、白露を突き飛ばす。その瞬間、目の前を何かが通り越した。そして、小次郎の右腕は肘から先が吹き飛ばされてしまっていたのだ。一瞬何が起こったのかわからなかったが、何かが通り抜けた先を全員が見つめる。その先には、先ほど星羅が倒したはずの大男が立っていた。しかし、肌は異常に白くなっておりその姿はまるで深海棲艦のそれだった。

 

「と、父さん何やって⁉」

 

「お父さん!」

 

 時雨が小次郎に近づき、星羅も大男の前に立ちはだかる。そして、その場に居合わせた一星も、長門も。

 

「……やっぱりか……こいつ……深海棲艦の細胞を……」

 

「は?…なんだよそれ?」

 

「あの黒スーツどもは、深海棲艦の細胞を撃ち込まれた元人間だ!……どうやら、こいつもそれを打っていたらしいな……」

 

「……ふむ、陸奥には止められているが、ここは私がやろう。すぐに終わらせるさ」

 

 長門は、拳を握り臨戦態勢に入る。しかし、白露はそれを制し長門の前に出る。

 

「まった……ここは私がやるよ……」

 

「む?しかしだな……」

 

「言ったろ、家族の問題だって……それに、父さんやられて黙ってられるかっての!」

 

「……わかった。勝てよ」

 

「言われなくても!それに、もともと人間とは言え、実質上深海棲艦なんだろ!なら、これ使っても構わないよな!」

 

 白露は、ポケットからジャックポットナックルを取り出す。万が一のためにもってきておいたのだ。まさか、こんなに早くに使うことになるとは思いもしなかったが。大男が身をかがめ構える。白露は、一度深呼吸をした後に相手の間合いに入り腹部に一発拳を入れる。大男は、数m先まで吹き飛んだ。ここにいる者たちに被害を出させないため、白露はそのまま大男のもとへと突っ込んでいく。大男も体制を立て直すと、白露めがけて拳を振るう。先ほどよりも格段に強くなっており、早さも人間の比ではなかった。おそらく、星羅と一星では歯が立たなかっただろう。不意打ちとはいえ、小次郎の腕を吹き飛ばしたほどなのだから。

 

(っつ~!吹雪達と訓練しておいてよかったと思うよ!前の私だったら、この動きについていけなかったかもしれない!)

 

 少しづつ、星羅達から距離をとっていく白露。比較的人手のいるところから離し、相手に連撃を加える。ジャックポットナックルを使用していることで一撃一撃がかなり重い。相手もかなりダメージを負っているはず。しかし、ほとんど怯む様子はない。黒スーツ達のように核のようなものは存在しないだろうが、それでも耐久力は異常だった。

 

「だぁくそ!いい加減倒れろっての!」

 

 攻撃を繰り出す白露。しかし、攻撃がはじかれたのと同時に白露の腹部に衝撃が走る。白露の眼に負えない速さで、大男が拳を振るっていた。その衝撃で、白露は吹き飛ばされていた。

 

(くっそ…深海棲艦でもないのにこの強さ……一体どんな薬を使ったらああなるんだよ…)

 

「白露!」

 

「っ…ぐ…」

 

 時雨の声で、何とか起き上がる白露。こんなにも大きな傷を負うこと自体初めてだった。小次郎との連戦で、体中ガタが来ている。それでもやるしかない。体中の力を抜き、目を閉じる白露。今までここでやってきたことをすべて思い出す。吹雪達との演習、天龍との稽古、時雨との組手。全部思い出す。

 

(……あの時、綾波が私のリミットオーバーは入りかけって言ってたっけ…………まぁ、そんなことどうでもいいか……今、私ができることは目の前の化け物倒すこと……それから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆を……家族を……守ることだよな)

 

 一気に集中力を高める白露。その瞬間、白露の周りに圧のようなものが加わった。霊力も格段に上がっている。周囲にいるものが肌で感じてしまうほどに。その光景を見ていた長門は少し笑い、安心したようにつぶやいた。

 

「……習得したようだな…リミットオーバーを…」

 

 埠頭の方で、黒スーツの処理をしていた武蔵達。リミットオーバーを習得している武蔵、吹雪、綾波、時津風はその圧を肌で感じていた。あの時の中途半端な状態ではない。完全なリミットオーバーのそれだったからだ。吹雪は嬉しそうにつぶやく。

 

「…やっとわかったみたいだね…あなたの力の源」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(すげえ……力がどんどんみなぎってくる感じだ……あの時の感じとは全然違う。これがリミットオーバーなんだ…)

 

 白露は、拳を握りしめながら肌で感じる。今ならどんな敵でも勝てそうな気がする。そんな感じがした。その時、大男がこちらに猛スピードで接近し白露に拳を振り上げる。白露は、すんでのところでそれを避け、相手の胸に拳を入れる。さっきの威力とは段違いだった。たった一発で、相手の骨が砕けるような音がした。先ほどの黒スーツのように再生するような様子は見せない。

 

(やっぱり、こいつには核のようなものはないんだ。てことは、中身は人間のまま。骨とかを砕いてしまえば、こいつは動けなくなる…だったら!)

 

 白露は、相手にアッパーを食らわせ宙に上げると、そのまま連続で拳を入れる。体全身に拳を入れ続ける。あちこちの骨や内臓が砕けるような音がした。それでも関係ない。もうこいつは人間ではないのだから。

 

「くたばりやがれってんだ!!!

 

 

 

 

 

 

 

くそったれえええええええええええええええええええええええええええええ!!!」

 

 全力の右ストレートを、相手の顔面に入れる。めきめきと音を立て、そして海の方へと吹き飛ぶ。着水すると、轟音と同時に大きな水柱が上がる。かなりの威力だったようで、しばらく水しぶきが降り注いでいた。白露は、肩で大きく息をしながら目の前を見つめる。あの大男は海の底からぷかぷかと浮いてくるだけだった。どうやら完全に倒すことができたようだ。目の前の光景を見て、小次郎は少しだけ笑った。安心したような、少し寂しいような。そんな感じがした。

 

(一番一番ばっかり言っていた奴が……こんなにも強くなりやがって)

 

「ほらほらどいたどいた!けが人いるんでしょ?さっさと通す!」

 

 後ろの方から声がしたため、小次郎をはじめ星羅、時雨、一星らが振り返る。振り返るとそこには、手術着のようなものを着た明石が、血まみれの状態でメスをもって立っていたのだ。その光景を見て、その場にいた全員の血の気が引いてしまった。そして、星羅が叫びだす。

 

「ここの医者は本当にどうかしているのかしら!!!なんで血まみれの状態で立っているのΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)大体、目が怖い!!あなた私達のことモルモットか何かとしてしか見ていないでしょう(;゚Д゚)」

 

「そうだけど悪い?」

 

「そこは嘘でも否定してほしかったわ!!!!!!」

 

「あきらめろ星羅……それが、起死回生(リバイバル)という人間なのじゃ……」

 

「そんなぁ……」

 

「ほら、いいからどいた」

 

 明石は、小次郎の前に立ち腕の状態を見る。しばらく見た後に周囲を見渡し、小次郎の腕を探しそれを持ってくる。そして、針と糸を取り出し、目にもとまらぬ速さで縫っていく。メスなども使用し、そして神経から筋肉まで細部を縫い合わせていく。縫い終わったときには小次郎の腕はぎこちなさがあるもののちゃんと動いていた。

 

「……すごい、ここまで……」

 

「あとはちゃんとリハビリすること……この感じなら1週間もあれば治るわ。じゃあ私は戻る。あぁ、あとあそこにある死体も持っていくわ

 

 

 

 

 

 

 

解剖するからね!」

 

 明石は、極悪の笑みを浮かべ海の方へと歩いていく。その光景を見ていた一同は背筋に寒気を覚えながら思った。こいつと関わらない方が身のためかもしれないと。しばらくぼーっとしていたが、後ろから聞こえてくる源五郎の声で我に返った。

 

「なぜじゃなぜじゃなぜじゃ!!せっかくの計画が台無しではないか!怜王、小次郎!!お前達が糸を引いていたとはな!!許さんぞ!!!儂の顔に泥を塗るようなことをしよって!!!貴様ら全員ただじゃおかんぞ!」

 

 喚き散らす源五郎に向かって、白露、星羅、時雨の三人が近づく。星羅は少しニコニコした表情で。時雨は相手を見下すような表情で。白露は怒りの表情で源五郎を見る。

 

「なんじゃこの悪魔ども!!儂に何か用が!!」

 

『一回死んで来い!この腐れ外道が!!!!!!』

 

 三人して腹部に拳を入れる。よほどの威力であったのか、源五郎はかなり吹っ飛び、口から泡を吹いて倒れてしまった。その光景を見ていた怜王は盛大に高笑いし、小次郎もあきれた様子でそれを見ていた。源五郎はたたき起こされ、そのまま連れ出されていく。そして、怜王と小次郎も憲兵に連れられて行く。おそらく、陸軍の本部に連れて行くのであろう。入り口付近には大型のトラックなどがあったし、テロリストを連れていくには十分すぎるほどだからだ。

 

「あ、待って!」

 

 時雨が二人を呼び止める。後ろには星羅と白露、そして一星の姿があった。怜王と小次郎は少し目線を合わせた後、少しだけ笑った。そして、怜王が静かに話し始めた。

 

「…話しかけない方がいいわよ。私達は一応テロリストだからね…」

 

「でも、僕達を助けてくれたのは変わりないよ!何とかならないの!便宜を図れば!」

 

「……少なくとも、今までのテロで明智家が関わっていたこともあったからな……俺達もそこにいたわけだし……実刑は免れないだろうさ……」

 

「で…でも……」

 

 うつむく時雨に、怜王はそっと頭を撫でた。そして、白露の方へ視線を向ける。

 

「本当に、強くて、優しい子に育ってくれたのね………やっぱり、義姉さんの血が濃いのかしらね!私は本当にうれしいわ!」

 

「……こんな時にふざけなくても(^-^;)」

 

「しんみりしたまま別れたくないの!実刑が出たとしても、きっとまた会えるわよ!」

 

 怜王は明るく、なぜか勝ち誇ったような表情をした。その姿に、時雨はくすっと笑った。そして、憲兵に促され二人は入り口の方へと向かう。途中、小次郎が振り返り一言だけつぶやいた。

 

「……またな」

 

「…………また」

 

「またね、お父さん……」

 

「ちゃんと罪償ってこないと、発頸食らわせるわよ~(笑)」

 

「……娘達を助けてくれたこと感謝するぞ」

 

 小次郎は、少しだけ笑いながらその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっと、戦いが終わった。そう思った瞬間、一気に力が抜けたような感じがした。白露達はその場に座り込んでしまう。

 

「…何はともあれ…終わったな……」

 

「…うん……本当……よがっだ!お母さんの記憶ももどっだし!」

 

「星羅、お前記憶が!」

 

「えぇ、父さん。10年も音信普通で申し訳なかったわ……だけど、私はもうこの通り!!!元気100倍よ!!!!!!」

 

 指を天に指しながら、謎のポーズをとって自慢げにいう星羅。時雨がうれし涙を流していて、一星もそれに驚いているのに、本当にいろんな意味で空気をぶち壊してくれるというか、さらっと流されたようなそんな感じがした。

 

「……お前は昔から変わらんな……」

 

「……まぁ、これが私だから。でも、そうね……またこうして家族がそろうのはうれしいわ!」

 

 星羅は涙をぬぐいながら時雨を抱きしめる。やっと、やっと会えたのだ。記憶を無くしていても、ずっと探し続けていた娘達に、ようやく会えたのだから。

 

 白露も、さりげなく星羅に近づき服の袖を引っ張る。そして、泣きそうな顔をしながら、精いっぱい笑って声を必死に絞り出した。

 

「……お帰り……母さん!」

 

 星羅は、少しだけ沈黙し、白露の頭をなでる。星羅も、精いっぱいの笑顔でこう返答した。

 

「ただいま!」

 

 三人はそのまま抱き合う。10年分の時間を取り戻すかのように。その様子を、一星は静かに見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふ~、終わったの~……さてと、大淀。陸軍に連絡してくれ。今そちらにテロリストどもが護送されていったとな」

 

「はい、すでに連絡済みです元帥」

 

「仕事が早いな。では大淀、第1から第3艦隊、そして3大将、長門に召集をかけてくれ」

 

 ピクっと、大淀の指が動く。ここ大本営の最高戦力達全員を招集するということは、よほどのことがあるときだけだ。大淀は静かに頷き、全員に召集をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十分後、召集された全員が集まる。久しぶりに全員が集まるのだ。全員が緊張した面持ちで座る。負傷した筑摩と磯風は手や頭に包帯を巻いているが、明石の施術によりほとんど痛みはないようだ。山本は全員に視線を向けた後におもむろに話し出す。

 

「……まずは全員、今回の戦闘ご苦労であった。皆の活躍のおかげで、被害は最小限に抑えられた。感謝する」

 

 山本は深々と頭を下げる。頭を上げると、神妙な面持ちで話し出した。今回襲撃してきた黒スーツの情報を共有するために。以前服部から届いた報告書の内容を。

 

「して、本題だが……今回襲ってきた黒スーツのことだ。服部からの情報でな、その者たちが、深海棲艦の細胞を打たれた元人間であるとの情報があった」

 

 全員がその情報を聞いて目を見開き驚く。ただの人間ではないことはわかっていた。しかし、深海棲艦の細胞を打たれた人間であると誰が想像できただろうか。仮にそれが本当だとしたら、日本だけの問題では済まなくなる。

 

「…やはりなのですか?元帥?明智小次郎がそのようなことを言っていたと聞きましたが」

 

「服部からの情報でもあったからな、まず間違いない……明智家は博士と呼ばれていた人物からその黒スーツ達を提供されていた。テロに利用するためにな。斎藤、お前も戦ってわかったと思うが、あの強さは尋常じゃない……普通の人間なら瞬殺されてもおかしくはないだろう……」

 

「あの元帥?仮に人間だとしても日本はもちろん、世界各国で行方不明者などは出ていないはずです。それに、違法行為をしている研究者達は、ほとんど追放されています。そんなことできますか?」

 

 小笠原の質問に対して山本はしばし沈黙する。確かに、ここ数年で多数の行方不明者は出ていないし、違法行為を行ったとされる研究者達も追放されているのだ。世界の情報網はかなりのものだ。その網を抜け出してできるはずがない。そう、できるはずがないのだ。山本は拳を握りしめながら吹雪達第2艦隊を見据える。吹雪達は元帥の視線に気づき首を傾げる。自分達に関係があることなのだろうか?

 

「……小笠原の疑問はもっともじゃ……しかし、どうやら5()()()の事件に関係しているとのことなのじゃ。吹雪達第2艦隊が関わった、あの事件……」

 

「5年前って……まさか元帥!」

 

「そう…大型豪華客船サンシャイン号……船員船客が集団失踪したあの事件の行方不明者があの黒スーツであるという情報なのじゃ!」

 

 吹雪は椅子から立ち上がる。あの事件は今でも覚えている。たった一人の生存者を除いて、船員、船客が失踪したあの事件。吹雪達だけではない、この場にいる全員が驚きを隠せない。長門は腕に力を入れ怒りを抑える。人体実験などあってはならないのだ。

 

 赤神は長門や吹雪達の気持ちを察してか元帥に問いかける。

 

「し、しかし元帥!あくまでもそれは可能性でしょう!そのような根拠は…」

 

「確かに、あの事件の関係者という可能性は100%というわけではない……それに関しては、今明石に調べてもらっている。あの黒スーツのDNAと、あの事件の行方不明者全員のDNAを調査してもらってな。そのために、あの黒スーツを調べてもらうよう儂が依頼…」

 

 話している途中に、扉が勢いよく開いた。そこには、明石が資料をもって立っており、周りの反応などお構いなしにずかずかと入ってきた。大切な会議であるというのに。

 

「明石!会議中だぞ!」

 

「いいじゃないですか長門さん……せっかく結果を持ってきてあげたんだから…」

 

「もうわかったのか!」

 

「私を誰だと思ってるの?まぁ、いいわ。とりあえずこれ……」

 

 明石は山本に資料を渡す。資料を急いでみる山本はその結果に驚愕する。次第に資料を読んでいた手に力がこもる。一番来てほしくない結果だったから。

 

「…明石……この情報は本当か?99.9%……そうなんだな」

 

「えぇ、99.9%……あの事件の失踪者よ……」

 

 全員がその結果を聞き固まってしまう。もはや、これは日本だけの問題ではない。世界各国の問題だ。テロリスト達が、あの黒スーツ達を兵器として扱っていれば、世界は崩壊してしまう。一刻も早く対応を考えなければならない。深海棲艦の問題もある。最近では新種が確認されたほどだ。

 

「……わかった。このことについては、後日改めて全鎮守府の提督達を集めて話し合おう。そして、2か月後には世界会議だ!それまでにテロや深海棲艦達の対策をせねばならん!皆、今まで以上に警戒を怠らないように!」

 

『了解!』

 

 山本の話に、吹雪はただただ黙っていた。あの時の生存者、あの事件のあと大本営に一時保護し、その後艦娘となった少女のことを考えていた。今でも自分を姉として慕ってくれているし、メールや電話のやり取りもしている。心臓の鼓動が速くなるような感じがした。信じたくない。もしかしたら、あの中に少女の家族がいたかもしれない。そう思うと、気が気でなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その生存者の名は朽木暁(くちきあかつき)。艦娘としての名は、特3型暁型1番艦…暁……。暁こそが、あの事件の唯一の生存者だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっくち!」

 

「どうしたんだい暁?風邪でも引いた?最近無理をしていたからそれが祟ったのかな?」

 

「響には言われたくないわよ!もう(# ゚Д゚)」

 

 遠征中だった暁達第六駆逐隊。最近訓練続きだったこともあり、響に茶化されてしまう暁。頬を膨らませながら、そっぽを向く。普段から自分の身を顧みない響に言われても仕方ない。最近は、そこまで無理はしていないのだが……。

 

「そういえば、最近元気ないわね…そんなんじゃだめよ!元気がないなら、あとで私がスタミナ料理を作ってあげるわ!!!」

 

「だから大丈夫だって言ってるじゃない!雷も悪乗りしないでよ!」

 

「はわわ…喧嘩しないでほしいのです…皆には仲良くしてほしいのです!」

 

「喧嘩じゃないから大丈夫よ!電はその辺気にしすぎよ!」

 

 雷と電の場合は、おそらく素なのだが暁はむきになる。今日は自分が旗艦だから張り切っていたのに、どうしてこうもいじられてしまうのか……。せっかく意気込んでいたのに台無しだ……。そう考えていた時、ふと大本営のことを思い出した。今朝がた提督から聞いていたからだ。

 

「そういえば、今日大本営が襲われてるんだっけ?」

 

「……さっき連絡がきたじゃないか……テロリスト達は殲滅した。一件落着だよ暁」

 

「わかってるわよ響。……でも、なんか昔のこと思い出しちゃって……」

 

「昔?」

 

「うん……5年前のこと……家族で旅行してたんだけど……私だけ生き残って……」

 

「あぁ!そのあと吹雪姉にお世話になったって話よね!吹雪姉は雷達からしたら、本当に尊敬するお姉さんよね~!雷も吹雪姉みたいになりたいなぁ……」

 

「あなたの場合霊力だけなら吹雪姉越してるじゃない(# ゚Д゚)何よもう私に喧嘩打ってるの⁉」

 

「失礼な!!!確かに霊力だけなら吹雪姉越してるけど、吹雪姉を尊敬しているのは変わりないからね!!!訓練生のころ、色々アドバイスももらったんだから!!」

 

「ふふふ、甘いね雷。私はアドバイスだけじゃなくて、一緒にご飯を食べたり休みの日に出かけたりしたんだよ。素晴らしくハラショーだね!」

 

「電だって、吹雪お姉ちゃんに撫でてもらったりほめてもらったりしたのです!」

 

「むぅ!私は一緒に寝たり、ご飯も食べたり、お風呂に入ったりしたのだから!!!」

 

『あ“(# ゚Д゚)』

 

「……え?」

 

 暁の発言に、三人は眼の光が消え暁を見据える。表情は無表情で恐ろしいことこの上ない。たっぷり沈黙が続いた後、三人が言ったことは……。

 

『なんてうらやまけしからん(のよ!)(です!)地獄に落ちろ(ですうううううううううううううううう)おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

「なんでそうなるのよおおおおおおおおおおおおおおおおおΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)助けて吹雪姉ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!」

 

『逃がすかあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ(逃がさないのですうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう)(# ゚Д゚)』

 

 暁は猛スピードで逃げ出す。それを三人は追いかける。途中敵艦隊と遭遇するが、ほとんどを雷が轟沈させる。その後、無事に鎮守府に帰島するが、しばらく暁は三人に尋問される羽目になったとか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――夜 大本営執務室にて

 

「まずは、星羅さんの記憶が無事に戻ってくれてよかった。これで、無事に帰ることができますな、一星殿」

 

「娘を保護してくれたこと、誠に感謝します元帥殿。これで、安心して帰れる」

 

 執務室に一星、星羅、白露、時雨の4人が集まっていた。今回の事件が無事に終わったため、柱島に帰ることになったのだ。しかも、翌日に。なんでも、事件が終わった連絡を受けた柱島鎮守府が早急に迎えに来ることになったそうだ。鎮守府は加賀一人で十分だそうだ。なんでも加賀が…。

 

『鎮守府は私一人で守れます。なので、白露さん達を迎えに行ってあげてください。それに、白露さんに早く会いたがっている子達もいるみたいですから』

 

 とのことだ。京を含め、白露型全員と摩耶、五十鈴らが来るそうなのだ。明日の午後にここに来るそうだ。ほんの10日そこそこしか会っていないだけなのに、何年もあっていないような感じがした。

 

「明日ってこれまた急ね……またしばらく会えないのかしら……残念ね…」

 

「あぁ、つく……星羅さん。そのことなんですけど、明日から柱島の方で働かれることに」

 

「え⁉本当!!!一緒に行っていいのですか(゚д゚)!」

 

「ひっ(゚Д゚;)」

 

 ものすごい勢いで、星羅が大淀に詰め寄る。星羅の勢いに一瞬大淀はたじろぐが、首を何度も振る。その様子に星羅は目をきらきらと輝かせながら白露と時雨に抱き着いた。よほどうれしいのか感情が高ぶっている。

 

「やったわああああああああ!!これで勝負を挑んてくる横山さんともおさらばできるし、何より家族で過ごせる時間が増えるわ~~~!!」

 

「ちょ!お母さん、苦しい!」

 

「が…死ぬ死ぬ死ぬ!首が……母さん!マジで死ぬ”。い……イキガ(;゚Д゚)」

 

「は⁉ごめんなさい、うれしくてつい……」

 

 星羅から解放され、一気に酸素を吸う二人。白露に関しては膝をつき肩で息をしている。よほどの力だったようだ。霊力を解放していないとはいえ、格闘戦ではやはりこの中で星羅が強いのかもしれない。

 

「…こほん。何はともあれ、これで一件落着ですな!今日はゆっくり休んで、明日に備えてください。それと荷物をまとめておくことを忘れずに。では、戻ってよろしいですぞ」

 

「まった!その前に一つ。父さん達は、父さん達はどうなるの?」

 

 白露が、小次郎と怜王のことを聞く。源五郎はおそらく重い罪にとらわれるだろうが、あの二人は自分達を助けてくれた。テロリストに加担していたとはいえ、自分達を救ってくれたことには変わりない。山本はしばし考えた後に口を開いた。

 

「…刑が正式に決まったわけではないからわからないが、あの二人は悪くて無期懲役。よくて禁錮数十年といったところか……。源五郎に関しては、重くて死刑だろうな。テロの主犯なのだから」

 

「そう……か……」

 

 山本の話に白露はうつむく。時雨も少し落ち込んでいるようで下を向いていた。その様子を見つめながら山本は笑顔で答える。

 

「まぁ、陸に儂の友人がおるから掛け合ってみよう。いい返事がもらえるかもしれん。このことは儂に任せてくれ!さあ、もう夜も更けてきた。部屋に戻って休むといい!」

 

 手を叩きながら、部屋に戻り休むよう促す元帥。今ここであれこれ考えても仕方ないと思った白露達は、執務室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寮に戻り、部屋に戻ってきた白露達。星羅も白露達の部屋に泊まることにした。今までの、10年分の時間を取り戻すように。一星も消灯時間まで一緒にいることにした。白露達との出会い。柱島での出来事を話した。星羅も白露のしてきたことや、他の鎮守府にいる猛者たちの話を聞いて、子供のように目をきらきらさせていた。早くみたくて仕方ないのだろう。そして、柱島鎮守府に行くのがとても楽しみになった。

 

ある程度話した後に、消灯時間になったため一星は部屋をでる。白露達も寝間着に着替え、布団を敷き寝ることにした。寝ることにしたのだが……。

 

「……あのさ母さん。これどういうこと?」

 

「何が?」

 

「……どうして川の字?」

 

「せっかく再会できたんだから、一緒に寝ましょう!!!ねぇ雫!」

 

「そうだよ焔!お母さんとやっと会えたんだから思う存分に甘えようよ!」

 

「子供かあんたは(# ゚Д゚)てか、さっそく母さんの腕に抱き着いてるし!」

 

 現在、真ん中に星羅。星羅の右腕側に白露、反対側に時雨がいる状況だ。星羅がどうしても3人で寝ようといってきたためこのようになった。時雨は遠慮なく星羅の腕に抱き着いている。

 

「まぁまぁまぁよいではないかよいではないか!!」

 

「誤解を招きそうな表現だなおい⁉……………はぁ、まあいいか……なんか今日は疲れた……さっさと寝よう」

 

「そうね、明日のこともあるしもう寝ましょう」

 

「そう……だね……安心したら……眠い……」

 

 時雨はそのまま眠りについた。星羅もよほど疲れていたのか、時雨につられ数分で眠りについた。少しの時間起きていた白露は、星羅が寝たのを確認するとさりげなく手を握る。さすがに時雨ほど甘えることは抵抗があるためだ。

 

(……あったかいな、母さんの手……これからはずっと一緒か……10年越しだったけど……約束を……守って……くれたんだな……ずっと……待ってた……)

 

 白露は、そのまま眠りについた。明智家はもう崩壊した。これで、安心して帰れる。柱島でまたバカ騒ぎして、深海棲艦を倒して、日常を送る。その生活に戻るのだと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、これはまだ始まりに過ぎなかった。ここから更なる、大きな戦いが始まることの……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――とある無人島

 

 暗闇の中、海を見据える少女がいた。少し灰色が混じったような、腰までかかる髪をポニーテールに結び眼鏡をかけている。服装は黒いジャージに短パンが特徴だ。一つ普通の人と違うことと言えば、手には艦娘の持っているような砲を、背中には艤装を背負っている。そして、周りには深海棲艦の残骸らしきものが散乱している。駆逐級から戦艦級までの深海棲艦達が。

 

明華(あすか)!寝床を確保してきたぜ!向こうでは美海(みう)がもう準備してる!」

 

 明華と呼ばれた少女は、振り返り歩き出す。艤装を小さくし、陸の上に上がると背伸びをした。

 

聖奈(せな)、ちゃんと食糧とか確保してるよな?あと水と…」

 

「失敬な!俺だってちゃんとしてるぜ!」

 

「大方美海に手伝ってもらったりしたんじゃねえか?」

 

「うっ(゚Д゚;)」

 

「図星だな…」

 

 聖奈と呼ばれた、肩までかかる赤毛に赤いTシャツ、ジーパンをはいているのが特徴の少女はたじろぐ。図星を言われたため困惑しているのだ。

 

「まぁ、いいさ。しばらくはこの辺にいることになりそうだし、気長にいこうや」

 

「あぁ、静かでいいしな、ここ。でも、ここに滞在した後はどうする?」

 

「そうだな~……とりあえず、本土近くまで行ってみるか?最近あそこらへん深海棲艦多く出没するみたいだし!」

 

「…へ!上等、俺ら3人がそろえば怖いものなんてねえよ!」

 

 二人はそのまま歩き出す。次の目標は本土近くの深海棲艦達。それまでに英気を養うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――???

 

 何も聞こえない。目の前も真っ暗な、どこかわからない空間に、人の形をした何かが集まっていた。肌は異常に白く、中には頭に角のようなもや尻尾を生やしている者もいる。そして、頭に角を生やし、黒い髪に黒いワンピースを着たものが話し出す。

 

「イヨイヨダナ……全ク……覇権争イデココマデ時間ヲ費ヤシテシマウトハ……」

 

「仕方ナイジャナイ……海ハ広スギルンダモン……」

 

「二十年ダゾ!誰ガドコにツクノカ、ココマデ…」

 

「ダカラ戦イデソレヲ決メタンデショ……力ノ差ガアリスギテ死ニソウニナッタ事もアルケド……」

 

「マァイイワ。各々、チャント持チ場ハ確認シテイルデショウネ?」

 

「キッハハハハハ!当リ前ジャナイカ!コノ時ヲ楽シミ二シテタンダカラナ!!」

 

 全員の顔を確認するリーダー格は笑みを浮かべる。とうとうこの時が来たのだ。感情が高ぶってしまう。

 

「ヨロシイ。デハ行コウカ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

我ラノ力ヲ奴ラニ見セツケテヤロウ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも!お久しぶりです!
最後の方に伏線が多くありました。それは今後の話で回収していきたいと思います!
次回は後日譚を書きますので、楽しみにしていただけたら幸いです!


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56話 後日譚

こんばんわ!
今回で第一章完結となります!
それでは、どうぞ!


 朝日が窓から差し込む中、星羅はゆっくりと目を開けた。昨日の疲れもあるためか、体が少しだるい。そして、左腕には時雨が抱き着いているため、身動きが取れない。まぁ、昔から甘えん坊だったし仕方ないか…と思った。そして、ふと右の方を見ると、白露の姿が見えなかった。周囲を見渡してもどこにもいない。

 

(トイレにでも行ってるのかしら?)

 

 何となく布団を触ってみるが、暖かさがまったく感じなかった。部屋を出てから大分たっているのだろうか。

 

(……あの子のことだから心配ないと思うけど、念のため探してくるか…)

 

 ゆっくりと時雨の腕を解き、頭を少し撫でる。規則的な寝息を立てているため、まだぐっすり寝ている。音を立てないように、ゆっくりと部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 廊下の方に出ると、周りはかなり静かだった。まだ朝早いのもあるのだろうが。星羅は外に出ようか迷ったが、まずは寮内を探してみることにする。寮内にいるとしたらトイレの方だろうか。そう思いながらトイレの方に向かい白露の……正確には焔の名前を呼んだ。

 

「焔~、いる~?」

 

 間延びした話し方で名前を呼びトイレの一つ一つを念のため覗き込んだ。そして、奥から二番目のトイレを覗き込んだ時、白露が倒れているのを見つけた。

 

「焔……焔!大丈夫!」

 

 白露を起こし、名前を呼ぶ星羅。白露はうなってはいるものの目を開けなかった。それに、体がかなり熱い。

 

「すごい熱……早く医者の所に!あぁ、その前に雫達起こさないと!」

 

 白露をおぶり、急いで部屋の方へ戻る。部屋の前まで来ると時雨と一星をドア越しにたたき起こした。

 

「雫!父さん!起きて!焔が倒れてたの!二人とも!」

 

 星羅が呼びかけると、ドアが二つ同時に開いた。二人とも慌てて飛び起きたようで少し肩で息をしていた。

 

「ちょ!大丈夫白露⁉」

 

「焔⁉大丈夫なのか⁉」

 

「酷くうなされてるの……早く医者の所に連れて行かないと!」

 

 そう言って、慌てて寮を出ていく星羅。時雨と一星も一緒に寮を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………よりによって、あなたがいるなんてね(#^ω^)ピキピキ」

 

「いるに決まってるじゃない……大本営医療施設の責任者でもあるんだから……」

 

「あなたみたいな人を私は医者とは認めないわ!!」

 

「あっそ……なんとでもいいなさい。さてと、で、どんな症状なわけ?」

 

「こいつ絶対ぶっ飛ばす(# ゚Д゚)ゴゴゴゴゴゴ」

 

「お、お母さん落ち着いて(;゚Д゚)」

 

 明石がいることに対して怒りを隠せない星羅。その様子を見て時雨は慌てふためき、一星は頭を抱えている。星羅は自分の認めない相手に対してはこのように喧嘩っ早くなってしまう。おそらく、白露の喧嘩っ早さは星羅譲りなのかもしれない。そんなことお構いなしに、明石は白露の状態を見ていく。

 

「白露~、聞こえてるなら私の手を握りなさ~い」

 

 明石の手に、弱々しく手を握る白露。相変わらずうなってはいるものの、やはり目を開ける様子はない。その時、体温計の音が鳴りそれをとる。見ると、40度以上の熱があった。

 

「高熱に、意識がはっきりしない……ねぇ……こりゃ、リミットオーバーを会得した影響かもね」

 

「というと?」

 

「リミットオーバーを会得した後はね……大抵こんな感じで症状が出るものなのよ。時雨、あんたならわかるんじゃない?綾波と時津風の様子、間近で見てたわよね?」

 

「あ、そういえば……」

 

 時雨は、吹雪達と演習したときのことを思い出す。あの時、確かに三人はかなり疲労感を訴えていた。綾波と時津風に関しては動けなくなっていたほどだ。それほど、リミットオーバーが体に与える影響は大きいのだろう。

 

「まぁ、これから訓練をしていけば、体にかかる影響も少なくなってくるわ。とりあえず、点滴をするわね。午後にはちゃんと帰れるようにね」

 

「ちょっと大丈夫なの?今日一日ここで様子を見た方が……」

 

「今日迎えに来るんでしょうが…私がちゃんとするから大丈夫よ」

 

「嘘ついたら承知しないからね(#^ω^)ピキピキ」

 

 適当にあしらいながら、点滴をとりに行く明石。そして、白露の方を見る。相変わらず苦しそうにしているが、今は見守るしかないだろう。とりあえず、元帥に言っておいた方がいいかもしれない。そうこう考えているうちに、明石が点滴をもって戻ってきた。おそらく、昼くらいには起きるだろうという話だった。半信半疑ではあったが、とりあえず白露をそのままベッドに寝かせ、三人は医療施設を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――執務室

 

「なんと⁉白露の体調が…」

 

「どうも昨日のことが原因らしいのです…リミットオーバーを会得したからだと……」

 

「う~む…確かに、限界突破を会得したものはしばらく体調を崩してしまうものが多かったな…。まぁ、明石が処置をしてくれたのなら問題ないでしょう!」

 

 一星は山本に白露の状態を報告する。リミットオーバーを会得したものは全員が全員、同じような症状が出るというのだ。高熱に、意識障害。中には数日間目を覚まさなかったものもいた。明石がいれば大丈夫であるというが、正直あの狂人を星羅は信用していなかった。人をモルモットのようにしか見ていない明石のことを。まぁ、腕は確かだから仕方ないが。

 

「まぁ、予定通り夕方には迎えに来てもらうよう柱島に連絡を取っておきます。今のうちに荷物の準備をしておいてください」

 

 三人は、とりあえず執務室から退出し食堂の方へと向かう。夕方まではまだ時間がある。それまでに荷物をまとめておかないといけないが、その前に朝食だ。三人は、色々と話しながら食堂の方へと向かっていった。その様子を、後ろの方から浦風が見つめていた。白露がいなかったことを不審に思い、あとをつけていたら白露の体調が悪いと聞いたのだ。浦風は腕を組みながら、反対方向へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――病室  Side白露

 

「……うん…」

 

 目が覚めると、いつの間にかベッドで横になっており右腕の方に点滴がされていた。意識がおぼろげだったため、はっきりとは覚えていないが確か朝方に急に体がだるくなり、気持ち悪くなってトイレに行ったんだった。そのあとは、よく覚えていない。今でも体がだるいし、頭がすごく重い。食欲もないし気持ち悪い。

 

「……誰もいないのか?」

 

 白露は周囲を見渡すが、周囲には誰もいないようだ。ベッド周りを見ると、ボタンがあったためそれを押した。しばらくすると、眠そうな顔をした明石が部屋に入ってきた。手にはメスを持っており、それを手でもてあそんでいた。どうせまた解剖でもやっていたのだろう。

 

「あぁ、目が覚めたようね…今あんたの家族呼ぶから、じっとしてなさいな…」

 

「…私は…てか、いつ運ばれてきたんだ?」

 

「朝の6時くらいだったかしら……あんたの家族が血相変えてここまで運んできたのよ…あんたの母さんは、私のこと信用していないみたいだけど…」

 

「……血まみれで人の治療とかしてたら、そりゃそうなるわな……」

 

 明石は、適当に返しながら体温計を白露の脇に入れ、白露の状態を見ていく。熱は39度台で相変わらず高かったが、意識もしっかりしているしこれなら何とか大丈夫だろう。あとは食欲とだるさが取れればいいが、しばらくは続くだろう。

 

「まぁ、迎えが来るまでゆっくりしてなさいな……あと、入り口の前にいる誰か…別に入ってきていいわよ~」

 

 明石がそう促すと、入り口から浦風が入ってきた。手には何かのドリンクだろうか、2本ほどもっている。

 

「すまんの~、明石さん!ち~と、白露と話させてもらうよ」

 

「勝手にしなさい」

 

 そう言って、明石は部屋を出る。浦風は近くにあった椅子を寄せ座る。そして、ドリンクを白露に渡してやった。さすがに寝たまま飲ませるわけにはいかないので、ベッドの背中部分を動かし起こしてやった。

 

「それにしても、ずいぶんな目にあったね白露。さすがに可哀想じゃけ~…」

 

「私もこうなるなんて思わなかったよ……体が重いし、だるい……」

 

「本当に悲惨じゃね……まぁ、とりあえず水分だけでもとっといたほうがええ。朝から何も飲み食いしてないんじゃろ?」

 

「助かる…」

 

 白露は、もらったドリンクを一気に飲む。何も飲んでいなかったから喉がカラカラだったから助かった。半分ほど飲み一息つく。一息ついた後に浦風は白露に話しかけた。

 

「今日発つんやね…」

 

「…あぁ、迎えが夕方に来るらしいからな……いろいろお世話になったな浦風」

 

「ええよええよ!まぁ、うちは組手したくらいやけど(笑)はははは!…………まぁ、そうやな…お前さんの母さんと爺さんのことは、うちはあんまり認めてないが…」

 

「あんたは本当に相変わらずだな……まぁ、それがあんたなんだろうけど……あんたの過去(・・)は知ってるし、今更どうこう言わないけどさ…」

 

「…………すまん…………おぬしらの家族とはうまくいきそうにない……うちの人間嫌いは……治りそうにないわ……昔の……あの施設に浜風と一緒にいたときに……うちらは虐待されとった。その時に、浜風が殺されそうになって……それで、職員たち半殺しにして、海軍にしょっ引かれていつの間にか艦娘になっとった……まぁ、今の生活はそこそこ楽しめてるけどの……」

 

「…………いつか変わるといいな…浦風も…」

 

「そうなるとええが~……」

 

『……はははははは!』

 

 二人は顔を見合わせ、そして笑う。お互いがお互いのことをわかっているから、もうこれ以上話す必要はないだろう。浦風も過去の出来事のせいで人間を憎んでしまった。現に訓練生のころに斎藤大将に向かって「汚い手で触るな」と言ったほどに。白露も人間が嫌いだったから浦風とは大分気があった。ただ、少し違ったのは摩耶や五十鈴、雷らがどういうわけか自分にまとわりついたことくらいか。浦風は艦娘とは友好的に接していたから…。そうこう話しているうちに、入り口のドアが開き星羅と時雨、一星が顔をのぞかせていた。浦風は若干不機嫌な顔をするが、白露に向きなおる。

 

「それじゃあ白露。帰るまでゆっくりしとき」

 

「あぁ、悪いな浦風…」

 

 浦風は入り口まで歩く。そして、入り口で星羅達とすれ違いざまに話し出す。

 

「のう…白露の母さんだか、爺さんだか知らんが、親友のこと傷つけたら許せんけえの!」

 

「ちょっと浦風!二人ともごめん…浦風はその…」

 

「あらあらあら!焔のこと親友って言ってくれてうれしいわ!これからも仲良くして頂戴ね!ね°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°」

 

「気にしとらん。若い奴はこれくらいでないとの!わははははははは!」

 

「お……おう……(な…なんか調子狂うの……(;´・ω・))」

 

 二人の反応が予想外であったためか浦風はたじろぎながらその場を後にした。時雨は浦風の後姿を見ながら二人に問いかけた。

 

「本当にごめんよ……浦風も事情があるから……」

 

「今は深くは聞かないわよ……事情がありそうなのは何となく察してたから…そんなことより!調子はどう焔?あの子が飲み物を持ってきてくれたのね…私達も飲み物とか、ゼリーとか持ってきたんだけど、いる?」

 

「今はいらない……飲み物だけあればいいよ…」

 

「わかった、ここに置いておくわね」

 

「…そういえば、今何時くらい?」

 

「えっとね……朝の9時くらい!」

 

「荷物の準備は僕達がしておいたから大丈夫!」

 

「それと、迎えが思ったより早く来そうでの!2時くらいには着くそうじゃ」

 

「あれ、夕方だって…」

 

「……それがね」

 

 時雨が少し困った顔で話しかける。なんでも、いつも寝坊する夕立が今日は5時くらいに起きたこと。そして、全員をたたき起こし出発しようと駄々をこねたこと。幸か不幸か早起きしても支障がない者達ばかりだったので、朝食を終え準備を整えた後に出発したそうだ。

 

「まったく夕立は(;´・ω・)」

 

「それだけ会いたいんだよ…多めに見てあげよう」

 

「そうそう!誰かに会いたい時って大抵そんな感じよ!私も妹弟子に可愛い子がいたのよね~…姉さん姉さんって甘えてきた子がいて(〃▽〃)ポッ」

 

「……おぬしは男女問わずに人気だったからの~…結婚するって聞いたときは、うちのもん全員が黙ってなかったわい…」

 

「お母さんそんなに人気だったんだ(゚д゚)!」

 

「いや~それほどでも(*´ω`*)」

 

「ほめてないからね……あぁ、ちょっとトイレに…」

 

 白露は、ベッドから立とうとするが足がふらついてしまい転びかけてしまう。それを星羅が受け止めると、白露をおんぶした。突然のことに白露は驚いてしまう。

 

「ちょ⁉母さん!」

 

「いいじゃないいいじゃない!お母さんに存分に甘えなさい!」

 

「じゃあ僕は点滴を押していくよ!」

 

「さぁさぁ、さっさと行って、迎えが来るまでゆっくりしていましょ!そうしましょう!うひゃひゃやひゃひゃ!」

 

「……おぬしはどこぞの変態か?星羅よ……」

 

「……もう、どうにでもなれ…」

 

 白露は、されるがままに連れていかれる。なぜか不敵な笑い声をあげる星羅に対してもう何も突っ込まない白露と時雨。こんな性格になったのはいったい誰の血なんだろう。確実に一星ではない。だとしたら、祖母の血なのだろうか…?まぁ、色々憶測を立てても仕方ない。

 

 そして、トイレから戻った後白露はベッドでもう一度休み、星羅と時雨も近くの休憩所で休むことにした。一星は暇なので、もう一度図書館の方へ行ったのだとか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――時刻は2時ごろ、埠頭にて

 

「とうとう柱島に戻るのか…」

 

「向こうに行ったら摩耶によろしく言っておいてくれ!」

 

「ここで学んだこと、今後も存分に活かしてね白露ちゃん!」

 

「五十鈴姉さんと長良姉さんによろしく言っておいてね!ね!」

 

「…由良さんの場合は多分、二人来ると思うけど…」

 

「……嘘(;・∀・)」

 

 埠頭で柱島の面々を待つ白露達。荷物は全部持っているし、忘れ物もない。そして、埠頭には元帥、三大将はじめ第1から第3艦隊の全員がいる。少しの間だけだったが本当にお世話になった。戦闘面のこともそうだし、精神的な面でもいろいろ教わった。特に吹雪にはいろいろアドバイスをもらったし。そうこう話しているうちに、沖合の方に船が近づいているのが見えた。おそらく柱島の者達だ。気のせいだろうか…猛スピードでこちらに近づいているものがいないか?それを後ろから誰か追いかけているような?

 

「……えちゃ~~~~ん!」

 

「ん?(-_-;)」

 

「白露お姉ちゃ~~~~ん!時雨おねえちゃ~~~ん!!」

 

「夕立だ!お~い!」

 

 夕立が猛スピードでこちらに近づいている。時雨もそれにこたえ手を振る。後ろの方では、村雨と摩耶、五十鈴に長良がこちらに近づいてきていた。白露はだるそうに手を振る。一星は一回あったことがあるため驚きはしないが、星羅に関しては夕立を見て…

 

(何あの子!可愛すぎない(〃▽〃)ポッ焔と雫のことお姉ちゃんとして慕っているの!)

 

 夕立の反応を見て、目を輝かせる星羅。そして、柱島にいる、白露の仲間たちがいる場所がどんな場所なのかがすごい楽しみだった。そして、夕立はまっすぐ白露のもとへ来ると飛び掛かろうとしていた。

 

「久しぶりっぽ~~~~い!」

 

「ちょっと待った夕立!」

 

「ぐえ!」

 

 飛び掛かろうとしていた夕立を時雨は制する。腹のあたりを押さえられたからか夕立は変な声を出してしまう。そして、慌ててきた村雨が夕立に怒鳴る。

 

「もう夕立!白露姉さん今具合が悪いから、早く船に乗せて休ませようって朝話したじゃない!!」

 

「うぅ、ごめんなさい…」

 

「もう、ちゃんと朝話を聞きなさいよ…」

 

「はぁ…はぁ…はぁ…夕立……お前本当にこういう時はすげえな…」

 

「は…早すぎて……死ぬかと思ったわ…」

 

 遅れてきた摩耶と五十鈴が埠頭に来る。二人とも肩で息をしており慌てて夕立を追いかけてきたそうだ。さらに遅れて長良がやってくる。長良は目を細めて周りを見渡す。夕立達の様子を確認した後に、見送りに来ていた由良のもとへ近づく。由良の表情は笑ってはいるが、少し強張っている。

 

「久しぶりだね由良!」

 

「えぇ、久しぶりね長良姉さん!五十鈴姉さんも元気そうで安心したわ!」

 

「無理はしてないでしょうね?」

 

「もちろん!ちゃんと定期的に検査も受けているし、最近発作も起きていないから!」

 

「うん、だといいけどね……どうせ昨日の襲撃の時に式神でも呼んだんでしょ?ね~第3艦隊の皆さん?」

 

『ドッキィィィ(゚Д゚)』

 

「あ、そういえばこないだの演習もあったんだっけ?まさかその時も式神呼んだ?」

 

((いいいいいいいいいいいいいいいやああああああああああああああああああああああああああああバレテルうううううううううううううううううううううううううΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)))

 

「…うんその反応見る限り呼んだね由良…」

 

「た…確かに呼んだけど…無理のない範囲だったし(;´・ω・)」

 

「…うんうん、無理ない範囲ならいいけど、体調悪くなったら、すぐに休みなさいよ…」

 

「は…はい…」

 

「じゃあ妹をよろしくね!もし無理させたら……わかるよね筑摩さん?」

 

「ももももももちろん(;゚Д゚)旗艦として誠心誠意努めさせていただきましゅ!」

 

((あ…噛んだ))

 

 長良の無言の威圧にたじろいでしまう筑摩。それもそのはず、長良は岩川鎮守府の精鋭だった艦娘。軽巡でもトップ10の実力を持つほどだ。霊力2万5千5百と実力なら筑摩より上なのだから。

 

「……なんか、みんな元気そうで安心した…」

 

「そういうお前は、なんかずいぶん弱々しいな!熱下がってないのか?」

 

「まだ39度台だよ…」

 

「よし船来たらとっとと寝ろ!横になって休んでろ!水分とれ!アイスでも食ってろ!」

 

「わかったよ…」

 

「あらあなた、少しいい方きついけど優しいのね!気に入ったわ!」

 

「……なぁ、この人誰?」

 

「あぁ、申し遅れたわ!焔と雫の母です!」

 

「焔と雫?」

 

「摩耶…焔と雫は白露と時雨の真名よ真名!」

 

「あぁ、そういえばそうだったな五十鈴…」

 

「なるほどなるほど…二人のお母さまね…」

 

「へ~…」

 

「すごくきれいっぽい!」

 

「そうね~……」

 

『…………………………』

 

 一瞬し~んとする一同。星羅の顔と白露と時雨の顔を見る。何度も何度も三人の顔を見比べ…………。

 

『……え?えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええΣ(゚Д゚)』

 

 絶叫する。どっからどう見ても3姉妹しか見えない。それほど星羅は実年齢より若く見られるらしい。まぁ、童顔だし仕方ないが。

 

「ちょっと待て!20代に見えるぞ(;゚Д゚)本当にお前らの母さんか⁉」

 

「あらうれしい!お上手ね!私こう見えても38歳なのよ!」

 

「嘘でしょ!その見た目で38歳ですって!ありえないわああああああああ(゚Д゚)」

 

「おおお!白露お姉ちゃんと時雨お姉ちゃんのお母さんすごい美人っぽい!」

 

「確かに姉妹って思われてもいいかも!」

 

「…………」じ~

 

 摩耶と五十鈴がうろたえ、夕立と村雨が驚きの眼で見ている中、長良はじっと星羅のことを見つめていた。星羅もその視線に気づき首を傾げる。たっぷりの時間沈黙が続いた後、長良が星羅の手を取り真面目な顔でこう言った。

 

「弟子にしてください!!」

 

「…へ?」

 

「私強い人のオーラとかすごい分かるんです!あなたは白露と同じくらい、下手したらそれ以上の強さです!だから弟子にしてください!」

 

「あらうれしい!いいわよ!ガンガン鍛えてあげる!」

 

「やったぁ!」

 

 長良の様子を見て、摩耶と五十鈴はジト目で見る。まぁ、戦いは好きなほうではあるし、むしろ男をなぎ倒すくらいの力を持ってるけど…。対人格闘だけなら摩耶たちより強いけどと思った。そんな長良を見て、摩耶は白露に話しかける。

 

「おい白露!あたしにも格闘教えろ!」

 

「…いいぞ~」

 

「そろそろ教えてくれなきゃ、おめえのこと恨む………( ゚Д゚)」

 

「…どうした鳩が豆鉄砲食らったような顔して?」

 

「…もう一回言って?」

 

「いいぞ~」

 

「ワンモア」

 

「だからいいって言ったんだ…」

 

 白露の言ったことに対して、驚いて固まってしまう摩耶。言われたことがようやく理解できたのか摩耶は°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°とこんな表情をしながら浮かれたように騒ぎ出す。

 

「やったあああああああああああああ!お前本当にいいやつだよ!訓練生時代から積極的に話しかけておいて正解だったなああああああ!」

 

「…うるさい、頭に響く…」

 

 そんなこんなでバカ騒ぎする一同。そうこう話しているうちに船が埠頭に止まり、中から京と仁、春雨が降りてきた。春雨は車椅子を持ってきている。おそらく白露のための物だろう。

 

「白露姉さん。これに乗ってください!」

 

「…いいよ、自分で歩ける…」

 

「そんなこと言って、さっきふらついて倒れそうになった子はどこの誰だったかしら~( ´艸`)」

 

「むっ」

 

「お母さんにおぶってもらってたよね~白露( ̄▽ ̄)」

 

「ぐぬぬ…」

 

「ほら、遠慮なさらずに!」

 

「…わかったよ春雨…乗るから…」

 

 観念したように、車椅子に乗りそのまま船の方へと向かう白露。白露に第2艦隊、浦風と谷風らが別れを告げ、白露も軽く手を振ってこたえる。白露達を見送った後に京と仁は星羅のことを見て……。

 

「あの、ところでこの方は?」

 

「…提督、こちら白露姉さんと時雨姉さんのお母さまです…」

 

「ほう…なるほど…」

 

「ほえ~…母さんね……」

 

『…………(゚д゚)!はいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)』

 

「あらうれしい反応ありがとう!そうです!私が二人の母です!(*^^*)」

 

『いやいやいやいや若すぎる!!!20代に見えますよ(見えるぞ)!』

 

「やっぱりお母さん、実年齢より若いみたい( ̄― ̄)」

 

「ふふふ、これは柱島での生活が楽しみね!これからよろしくね!提督さん!……さぁ、さっさと行って、船の中でも探索しましょうか!」

 

「あ、ちょっとお母さん!」

 

 荷物をもって、足早に船に乗る星羅。それを追うように時雨も船に乗る。船の方に乗り、もう一度大本営のみんなに軽く会釈をした。そして、中へ入ろうとしたが…

 

「ちょっと待ったああああああああああああああああ!」

 

 遠くの方から横山が走ってくるのが見えてきた。おそらく、最後に星羅に挑むつもりなのだろう。星羅は糸目になりながらも足早に中の方へと入っていく。それに対して、横山は船の方に行こうとするが…。

 

「ふん!」

 

「ぐはっ!」

 

 赤神にラリアットを食らわされる。そしてそのまま倒れ伏してしまった。

 

「お前な…こんな時に…」

 

「最後もう一回挑みたかったんだよ…一回も勝てなかったけどな…」

 

「…………ゴホン……では一星殿。お気をつけて」

 

「またな一星。機会があるときにまた組手でもしよう」

 

「では元帥殿、慎二、また」

 

 一星も荷物を持ち船の方へと向かう。そして、京達もそれに続き船に乗り込む。大本営の者達に別れを告げ、柱島へと出港した。

 

 

 

 

 

 

 

――――艦内

 

「では、柱島に着くまでゆっくり休んでいてください」

 

「わかってる。ちゃんと休むから……まぁ、入り口からこっち見てる5人が気になるけどな…」

 

 入り口の方では、五月雨、海風、山風、江風、涼風の5人がのぞいてきている。白露がどんな人物なのかを直に見て確かめるためだろう。しかし、入り口付近から見ているばかりで、いっこうに入ってくる気配がない。そんな5人を見てしびれを切らした春雨が手招きをする。

 

「ほら、みんなもこっち来てお話ししましょう!」

 

『ドキッ(;´・ω・)』

 

「……前も言ったろ……とって食いはしないって……」

 

 そう言われて、恐る恐る入ってくる5人。白露を前にして少し緊張しているのか、全員が顔が強張っていた。特に山風は泣きそうな顔をしているくらいだ。そんな5人を前にして白露が少しため息交じりに話し出す。

 

「…あのさ、そんなに私がこ…」

 

『すごく怖いです!』

 

「…おいおい…」

 

「もう…みんな大丈夫ですって(;´・ω・)」

 

「そ…そんなこと言われてもですね……」

 

 と五月雨。

 

「い…いざ目の前にすると…心臓がバクバクと…」

 

 と海風。

 

「こ…こ…怖い」

 

 と山風。

 

「あ…足が震えて……」

 

 と江風。その様子に白露がため息を吐き、春雨もため息を吐く。さらに海風が、五月雨もため息を吐く。そして、その様子を見ていた涼風が唐突に。

 

「今はぁって4回言った?」

 

『……はい?』

 

「はぁ……が4回だけに“し・は”…………32!……な~んちゃって(笑)あははははは!」

 

 涼風だけがなぜか爆笑する。そして、その場にいた全員が場の空気に凍り付いてしまう。しばらく沈黙が続いた後に、海風と江風が…。

 

「江風~(#^ω^)」

 

「りょうか~い(#^ω^)」

 

『こんな時に何をやっているんだ(いるんですか)!!』

 

「ごふっ」

 

 涼風の頭にチョップが食らわされる。白露の目の前でまさかふざけるとは思っていなかったからだ。ただでさえ怖いのに(五月雨たちの中で)、こんなことをして何を言われるか。恐る恐る白露の方を見る一同。当の白露はというと…。

 

「…………やばいやばい寒い……布団にくるまって寝る。あんたらも気を付けろよ…」

 

『あ…はい…』

 

「ちょっと待った!あたいのギャグはそんなに寒いのか!そうなんですか⁉」

 

「むしろ自覚ない方がやばいわ…」

 

「あたいは少しでもみんなを楽しませようとしてるのにいいいいい!こんなのあんまりだああああ⁉」

 

「いやむしろ冷えまくってるよな…」

 

 と江風。

 

「寒すぎて言葉が出ません…」

 

 と海風がつぶやく。それを言われてさらに涼風は落ち込んでしまう。そんな様子を見ていた白露が唐突に笑い始める。前もビデオ通話で見ていたが、直で見ると黙っているときのギャップがありすぎて少し驚いた。

 

「あははははは!あんたらいっつもこんな日常送ってるのかよ(笑)あははははは!」

 

「ちょっ⁉そんなに笑わないでよ!あたい泣くぞ~!そんなに笑われたらあたい泣くぞ~!!」

 

「悪かったよ………………まぁ、これからよろしくな。じゃあ、ちょっと休ませてくれ……だるくてしょうがない…」

 

 そう言って、白露は布団をかぶり目をつぶる。よほど疲れがたまっているのか、すぐに寝息を立てて寝てしまった。

 

「…ね!怖くないでしょ?」

 

「な…なんというか、ギャップが…」

 

『確かに』

 

 涼風の言ったことに、全員が同意し胸をなでおろした。正直不安だったから。自分達が白露とやっていけるかどうか。でも、この様子ならきっと大丈夫であろう。全員が安心したのを見た春雨はゆっくりと立ち上がる。

 

「さてと、では白露姉さんの邪魔にならないように私達は外にでましょう!」

 

『は~い』

 

 春雨に続いて部屋を出ていく一同。その中で、山風だけ一度白露の方を振り返る。しばらく白露のことを見ていたがすぐに部屋を出ていった。ただし、少しだけ不安があった。訓練生時代、山風は戦闘があまり得意なほうではなかったから。

 

(認めてくれるかな。私のこと……)

 

 そう思いながら、山風は部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

――――艦内食堂にて

 

「はぁ、満喫満喫!艦内を探索したら、疲れたわ…」

 

「…ははは、お母さん…ものすごい体力だね…僕もうかなり疲れたよ……」

 

 机に突っ伏す時雨。対する星羅はかなり元気できらきらしたような表情だった。一星は甲板の方にいるらしく今は別行動中だ。そんな星羅の様子を見て、その場にいた摩耶、五十鈴、長良は絶句する。この人絶対艦娘より強いんじゃないかと思うくらい。あの時雨がこんな疲れているところは初めて見たのだ。遠征でも出撃でもここまで疲れている様子はなかったのに。

 

「な、なぁ時雨…参考までに、どうしてそんなに疲れているんだ?

 

「……お母さんに腕を引っ張られて、あちこち猛スピードで連れまわされていたら、こうなった……」

 

「…お……おう」

 

 摩耶の言ったことに、時雨は力なく答える。その答えに、摩耶は困ったような返事をした。なるほど、腕をつかまれそのまま連れまわされていたら、かなり疲労がたまる。いくら時雨でもそれは疲れるだろう。

 

「あ…あの~…」

 

「うん?何かしら?」

 

「星羅さんの武術って、一星さんの武術を改良したんですよね?何をどう改良したんですか?」

 

「あぁ、なるほど!私の武術はね、中国拳法を取り入れている部分もあるのよ!そうね、発頸とかがいい例ね!」

 

 長良の質問に笑顔で答える星羅。星羅の武術は中国拳法を取り入れていたものもあり、それにより攻撃の幅がかなり広がったようだ。合気道は基本的に関節技や技を受け流すことに長けているが、星羅が考案した天翔流合気道術は、技を受け流すこととその衝撃を利用した打撃が同時にできるためほとんどといっていいほど隙が無い。格闘技大会もそれで何連覇もしたほどだという。

 

「いや~、それもあって周りから姉さん姉さん言われるし、周りから弟子にしてほしいって来るくらいだから困っちゃって~。あはははははははは!」

 

(あ~、やばい……この人に変に戦いを挑めないわこれ…)

 

 あわよくば手合わせでもしたいと考えていた長良だったが、星羅の話を聞いてやめておこうと思った。何せあの横山でさえ一度も勝てなかったほどだ。実力だけでいえば、おそらく海軍の三大将クラスであろう。

 

「おい時雨!お前の母さん強すぎだろ!いったいどんな鍛え方をすればあんなになるんだ!」

 

「そんなこと僕に言われても……なんでも、お母さん記憶のなかった10年間ずっと山籠もりしてたみたいで、イノシシとか熊とか相手取っていたって聞いたけど…」

 

『ファッΣ(・□・;)』

 

 ひそひそ話で話す一同。星羅はその様子を目を丸くしながら見つめていた。「うんうん、仲が良くてよかったわ!」と思いながら。ちなみにいうと、星羅は柱島でまたまた数々の伝説を残すのだが…それはおいおい話すとしよう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――甲板

 

「ふぅ、やはり外の空気はいいわい…」

 

 外の空気を吸いに来ていた一星。中で休んでいるのもいいが、やはり外に来るのが一番いい。ずっと中にいると気が滅入りそうだった。何となく海の方を見ている一星。深海棲艦もいないためかなり穏やかに見える。だが、一星は一瞬誰かがこちらを見ているような視線を感じた。

 

(視線!どこから)

 

 あたりを見回しても誰もいない。深海棲艦かと思い海の方を見てみるが、やはり誰もいない様子だった。

 

「…………気のせいか…昨日の今日だから、疲れているのかの……中に入って休むとするか…」

 

 中に入っていく一星。先ほどの視線が何だったのかわからなかったが、昨日の戦闘もあったため気が張り詰めているのだと思った。

 

 

 

 

 

 しかし、はるか遠くからこちらを見つめているものがいた。死人のように白い肌に腰までかかる長い髪。さらに特徴的なのが、駆逐イ級を小さくしたような帽子をかぶっていることだ。その者は白露達のいる船をじっと見つめた後に、海の底へと潜っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――数時間後、柱島鎮守府

 

 途中、深海棲艦に襲われることはあったが、無事に帰還した一同。埠頭には、護衛をしていた加賀、飛鷹、隼鷹、羽黒らが出迎えていた。船から降りた京達に敬礼をしながら出迎えた。

 

「ご苦労様です提督。こちらは何事もなく終わったわ」

 

「ご苦労様です加賀さん。あぁ、そうだ紹介しましょう。こちら白露さんと時雨さん。お二方の母親の星羅さんと祖父の一星さんです」

 

 京が加賀に白露達を紹介する。星羅の年齢を摩耶からメールで聞いていた飛鷹らは何も突っ込まなかった。ただ心の中で『この人若すぎる(゚д゚)!』と思ったらしい。

 

「航空母艦加賀です。以後お見知りおきを」

 

「車椅子で失礼…白露だ。同じS級同士…仲良くしよう」

 

「……そうね……よろしくお願いするわ」

 

 握手をする二人。白露は加賀の手を見ながら首を傾げる。加賀はそのまま手を解き、そのまま立ち去ってしまった。それに続き、中の方へ戻っていく一同。白露は、しばらく握られた手を見つめていた。それに気づき、時雨が声をかける。

 

「どうかした?」

 

「…………いや、なんでもねえ…………私達も中に入るか」

 

「そうだね!白露は部屋に行って休んで。荷物の整理は、僕とお母さんでやっておくよ」

 

「…悪い」

 

 そう言って、中に入っていく。これからまたここでの生活が始まる。また、騒がしい日常に戻るんだと白露は思った。星羅もいるし、一星もちょくちょく遊びに来る。そして、新しい妹がいるのだ。わくわくが止まらなかった。

 

「うん、待てよ…鹿島さんもここにいるんだっけ?」

 

「そういえば、いるって聞いたよ…さっき見なかったけど…どこにいるんだろう」

 

「…お呼びになりましたか?」

 

『うわあああああああああああああ(゚Д゚)』

 

「酷いですね…私も出迎えていたのに……少し遠目からあなた達二人を見つめていたのですよ…正直、白露さんが加賀さんを突っぱねたり…攻撃的な対応をするんじゃないかと思いましたけど…グスッ……本当に成長しましたね…武蔵さんから聞いたときは半信半疑でしたけど……こんな立派になるなんて…私はうれしいです……」

 

「い……いきなり脅かさないでよ…」

 

「…びっくりした…急に横に来られるんだもん…」

 

「あら失礼!では改めて、海風さん達の教導艦としてここにいます鹿島です!よろしくお願いしますね!」

 

 急に飛び出した鹿島は、二人に挨拶を済ませるとそのまま中の方へと向かっていった。白露の成長を見れたからなのか少し嬉しそうだ。訓練生の時は散々鹿島に反抗していたが、たぶん今はあの時のような関わりにはならないだろう。家族と再び会えたからなのか、白露も以前のような攻撃的な態度をとらなくなってきている。口調や性格は変わらないが…。

 

「にぎやかになりそうだな……」ボソッ

 

「うん、何?」

 

「なんでもない…………まずは体を全快にして、またここで頑張るか…」

 

 その後、白露は部屋で休み、食堂の方では白露達の帰還を喜んだ夕立が騒ぎまくり、隼鷹が酒を浴びるように飲もうとしているのを飛鷹や説教をし、京が無言で刀を抜き隼鷹に圧力をかけ、仁が笑顔で拳を鳴らしながら隼鷹に近づいたりと、色々とカオスな状況になったらしい。最終的に、全員で腕相撲をすることになり、結果は星羅と一星のダブル優勝で終わったらしい。なんでも、一星と星羅が他の全員を瞬殺したのだとか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一章 完

 

 

 

 



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番外編
佐世保鎮守府のドタバタな日常


こんばんわ!
今回から各鎮守府の番外編になります!
それではどうぞ!


 佐世保鎮守府。そこは、各鎮守府の中でも屈指の実力を持っている者達が集まっている……という噂がある。ただ、そこの水雷戦隊は各鎮守府の中でもトップクラスの実力らしい。提督である三条華凛を筆頭に、改二の川内型三姉妹、秘書艦の秋月らを主力に数々の戦果をもたらしている。それに、空母の瑞鶴、雲龍三姉妹らがいるため航空戦でもかなり有利に戦えているらしい。最近は赤城も加入したこともあり、一気に戦力が上がった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はずなのだが……………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――食堂

 

「はぁ、おいしいですね~…やっぱりご飯はゆっくり食べるのがいいですね~…」

 

「赤城姉……本当にどれだけ食べるのよ…」

 

 今現在、食堂では赤城がご飯を食べている。それも、何人前…下手したら何十人前も……。その場にいる者たちは赤城の食欲に凍り付いている。最初にここに来たときから見れば多少は慣れたはずなのだが、赤城の底なしの胃袋には毎度毎度驚くばかりだ。そんな様子を瑞鶴は呆れた様子で見ている。さらに横には雲龍型三姉妹もおりそれぞれご飯を食べているところだ。そんな中、雲龍が唐突に話し始めた。

 

「赤城さん……本当にずいぶんな食欲ですね…」

 

「えぇ…それはもちろん!たくさん食べなければ力が出ませんからね!」

 

「…そうですか、でもご飯を食べるときは、何かしらに調味料を付けたりするでしょう。私は嫌いな食べ物があったからもあるんだけど、今はこれをかけることによってその嫌いな食べ物も食べられるようになったわ……あなたにはあるかしら!」

 

 そして、雲龍は目の前にある魚や卵焼き、サラダにマヨネーズをかけていく。とても普通にかける量ではなく明らかに多すぎるくらいだ。

 

(うわ~……雲龍のマヨラーがきたよもう……てかこの展開既視感あるわね(;´・ω・)確か…そう!〇魂のあの回だ!)

 

 雲龍のしていることを冷静に考える瑞鶴。雲龍のマヨラーは日常茶飯事であるためもう慣れっこだ。赤城に比べたら本当に雑作もないことだ…本当に。

 

「…いいですか、前も言ったかと思いますが、私は生粋のマヨラーと言われていますが、実は卵の類が本当に苦手でしてみただけで吐き気がしてしまいます」

 

(あ~…うんこれもう銀〇だ…確実にあのアニメだわこれ……)

 

(ちょっと瑞鶴先輩!空を仰がないでください!毎回雲龍姉が赤城さんにマウントとってるんですよ!大体、マヨネーズあんなにかけたら病気に!)

 

(考えてみなさいよ葛城!あの赤城姉がそんなマウントに乗ると思う!むしろ笑いながらそれをいなすわよ!大体、雲龍のマヨラーはもうあれ治らないからね!あと、あの量は赤城姉にマウントとるための自作自演だから(゚Д゚;))

 

 雲龍のやっていることに、ひそひそ話で話す瑞鶴と葛城。正直、雲龍のマヨラーは今に始まったことではない。前々からなのだが、実はそこまでの量を普段はかけていないし、ただ単に赤城に対してマウントをとるために行っているだけだ。正直もう見慣れてしまった…。

 

(今に見てなさいよ……いやがちで……あの赤城姉が雲龍のマウントに乗るわけ…)

 

 瑞鶴が赤城の方を見ると、なぜか醤油を片手に持ち、それを食事にぶっかけている赤城の姿があった……。

 

(マウントに乗っているだとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお(゚д゚)!)

 

(マウントにのらないんじゃなかったんですかあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああΣ(゚Д゚;≡;゚д゚))

 

 二人して驚く。あの赤城が、真剣な表情で食事に大量に醤油をかけている。その姿に雲龍も目を見開き驚く。

 

「な、な、な⁉一体何をかけているんですか!」

 

「醤油でございますよ~」

 

(しょ、醤油!食事に醤油をあんなに!……はっ!ま、まさか…この人も本当は!)

 

 醤油をかけ終え、入れ物を机に置く赤城、ゆっくりと箸をとり、目を見開き真剣な表情で話し始める。その目は、まるで目の前の獲物をしとめようとする虎のような目だった。

 

「いいですか、私は生粋の醤油ら―と呼ばれていますが…大豆の類が嫌いでしてね…においをかいだだけで吐き気がしてしまいます」

 

(嘘ついてる…この姉間違いなく嘘をついている。大体あなたは嫌いなもの0でしょうが(# ゚Д゚)その胃袋はブラックホールだと自分で言っていたじゃないかぁ(#^ω^))

 

「それを克服するために…私はこうして食事に醤油をかけるようにしましてね。あむ…………

 

 

 

 

 

ごふぁΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……思ったよりしょっぱいですね…さすがにかけすぎましたか…」

 

「自滅してるじゃない!だいたい、あなたは嫌いなものないでしょうが!!」

 

「てへっ☆」

 

「てへっ☆……じゃねえよ(# ゚Д゚)大体、雲龍も雲龍でもうマウントとるの大概にしなさいよ!そのせいでマヨネーズをどれだけ消費していると思ってるの!」

 

「仕方ないじゃない…私はマヨネーズが好きなんだから…あむっ…………やばい…かけすぎた…」

 

「あなた達ね~(#^ω^)……あ~ごめんなさいもう手遅れね…」

 

 頭に?マークを浮かべる二人。静かに横を見ると、どす黒いオーラを身にまとい、鬼の形相でいる秋月の姿があった。秋月はこういうことに関することにはうるさいくらいだ。食材を大事にし、粗末にすることは許さない性格だから。だから、二人のやっていることが許せなかったのだろう。

 

「お二人ともおおおおおおおおおおおおおおお(#^ω^)」

 

『あ…やばい死んだこれ…』

 

 秋月の姿を見て、直感的にそう思った二人。お互いにゆっくり顔を見合わせると、笑顔で語りだした。

 

「……ふっ。最後の晩餐にはとてもよかったです。ねえ!雲龍さん!」

 

「……そうね、とても良い食事だったわ…」

 

 カチーン(――#)

 

「ふざけるのも大概にしてくださあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああい(# ゚Д゚)」

 

『いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)』

 

 二人の絶叫とともに“デュクシ”という効果音が連続で聞こえてくる。相当滅多打ちにされているのか地面が揺れているような感覚がした。

 

「…今日も平和ですね~」

 

 天城はその光景を見ながら、食事にポン酢をかけている。ちなみに、天城はポン酢派だ。この光景を見てよく平和だと思えたものだと二人は絶句する。もう気にしてはダメだと思い二人も食事を再開する。葛城は目の前にある目玉焼きにマヨネーズと醤油をかけ、瑞鶴は卵かけごはんにしょうゆをかけ食べている。ちなみに、遠くの席の方では…。

 

「えへへ!ネギマシマシの牛丼に~!お味噌汁に~!お漬物~!えへへへ(*^^*)」

 

『あぁ…癒される~…天使だわこの子は……』

 

 牛丼定食を笑顔でほおばる初月の姿が。そして、その光景を見て癒されている照月、涼月、川内型三姉妹がいたそうだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――出撃時…瑞鶴Side

 

「はぁ…ひどい目にあったわ…さすがに秋月の前ではああいうことはやめた方がよさそうね…」

 

「…いや、当たり前だからねそれ…むしろあの子の前でよくやろうと思ったわね…」

 

 食堂で秋月にしばかれた雲龍が海を走りながらつぶやく。それに瑞鶴は鋭い突っ込みを入れた。現在出撃中で、瑞鶴を旗艦に以下雲龍、葛城、夕雲、巻雲、風雲の6人。正直、夕雲と巻雲に経験を積ませるためらしくこの編成には深い意味はないらしい。夕雲と巻雲は、以前華凛に助けられてから華凛に懐き、あまりにも懐いてしまったため訓練校にはいかずに佐世保鎮守府に所属することになったそうだ。そのため、座学も佐世保で受けると同時にこうした出撃も定期的に行っているらしい。ただ、二人とも霊力がB級クラスということもあるためこれからまだまだ訓練をしていく必要がある。そのため、空母を主力に先制攻撃を仕掛け相手を無力化し、最後は夕雲達にとどめを刺してもらう算段だ。ちなみに、風雲は佐世保鎮守府に所属して2年以上は立つので、それなりに敵を撃退できるらしい。ただ、風雲本人もB級クラスであるため何とも言えないが…。そして、瑞鶴は霊力21000のA級。雲龍霊力18500のA級。葛城14900のA級クラスだ。並みの深海棲艦ならこの三人でもなんとかなる。

 

「あの~…瑞鶴さん?」

 

「うん?どうしたの夕雲?」

 

「その、霊力を上げるためにはどう訓練すればいいのでしょうか?」

 

「あ!巻雲も気になります!教えてください!」

 

「う~ん…じゃあ私も!少し興味があります!」

 

 夕雲達は率直にどうすれば強くなれるのかを聞いてきた。その問いに、瑞鶴は肩をプルプルさせながら何かを言おうとする。三人とも頭に(・・?)を浮かべる。しばらくすると、瑞鶴が顔を上げ、目を大きく見開きながら叫びだす。

 

「私が聞きたいわよそんなこと!!訓練はさぼっていないし、座学もきちんとやってたし!!毎日自主練もして、筋トレもして!基礎体力だってめちゃくちゃつけてるのに私だって霊力上がらないのよΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)数か月に1回ある霊力値調べるテストでも私ここ2~3年ほとんど霊力が変わってないのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお(;゚Д゚)」

『ビクッΣ(・□・;)』

 

「大体、S級の人達はどう鍛えたらあんなに強くなるわけ⁉今年だって白露と雷は初めからS級だったっていうじゃない(;゚Д゚)吹雪だって努力でA級の上位よ!もうすぐS級なのよ!!!なのになんであの二人はS級なわけ⁉ありえなくない!それに、訓練生からS級だった人って、10年前の赤城姉と加賀姉くらいよ!何よ!10年に二人現れる計算なの⁉大体、私の姉達みんな強すぎるのよ!翔鶴姉だってもうすぐ霊力3万行きそうだし!飛龍姉と蒼龍姉だって怪我する前はバリバリS級だったし!赤城姉と加賀姉は言わずもがな!お母さんもS級2位だし、桜姉もめちゃくちゃ強いし!もう何なのよ!私の身内はS級しかいないのかΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)強者しかいないのかΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)誰か私の内なる力を目覚めさせてよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお(# ゚Д゚)」

 

「お…落ち着いてください瑞鶴さん!」

 

「そ、そうですよ!努力していればいつかきっと強くなれます!巻雲達も、訓練を頑張っていますしいつかは強くなれます!」

 

「そうですよ!あぁ、そうだ!瑞鶴さんにほらこれ!赤城さんからもらった特製お守り!なんでも、この中にある豆を食べたら、某スーパ―サ〇ヤ人並みにつよk…」

 

「そんなものでスーパー野菜人並みに強くなれると思うのかああああああああああああああああああああああああああああああああああああ(# ゚Д゚)」

 

 風雲からお守りを取り上げ、遠くの方に投げ捨てる瑞鶴。風雲はその様子を目を丸くしながら見ていた。せっかくもらったのに…と少し残念そうな顔で。

 

「あ!そうだ!赤城さんと聞いて思い出しました!赤城秘伝強くなれる秘訣本をもらっていたんでした!あとで皆でよみm」

 

「あの姉が真面目にそんなこと書くわけねえだろうが(# ゚Д゚)どうせ食レポの話だああああああああああああああああああ!(ガシッ……パラパラパラパラパラパラパラ……ポン)……よし当たってたあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 今度は巻雲が懐から本を取り出すが、念のため中身を確認した後に、お守り同様投げ捨てる。巻雲は「ええ!食レポの本だったんですかあああああΣ(゚Д゚)」とびっくりした様子でそれを見ている。瑞鶴は鬼の形相で夕雲を睨みつけると、夕雲は慌てた様子で首を横に振っている。自分は何ももらっていないということをアピールするために。

 

本当にぃ?

 

「コクコク(;゚Д゚)」

 

「あの~、瑞鶴?」

 

「ん?」

 

「さっき赤城さんに特製醤油もらったんだけど、どうすればいいかしらこれ?」

 

「食って一変死ねええええええええええええええええええ(# ゚Д゚)」

 

 醤油をそのまま雲龍に投げつける。雲龍はどうやら、赤城から醤油をもらっていたらしい。

 

「そろいもそろって、あの姉からいらないものをもらっていたわけか⁉あの姉がそんな真面目なことをすると思うのか(# ゚Д゚)」

 

「……瑞鶴先輩?」

 

「何!!」

 

「ひっ(゚Д゚;)…………あれあれ…」

 

 葛城が指をさした方を見る。指をさされた方向を見たとき、そこに深海棲艦が近づいているのをみた。距離はずいぶんあるが、おそらくすぐにこちらに来るだろう。相手は、戦艦2、軽空2、駆逐2の編成だ。敵艦を見るや否や、瑞鶴が…。

 

「敵艦発見!アウトレンジ決めるわ!雲龍、葛城!艦載機発艦、先制攻撃で相手に打撃を与えるわよ!」

 

『了解!』

 

 すぐに切り替えて、相手に攻撃を加える。艦爆、艦攻を相手に向けて発艦。先制攻撃で相手をすぐさま大破に持ち込んでしまった。

 

『……この人達……本当にこういう時ってすごいよね~……』

 

 三人してそう思う。そして、とどめを夕雲達で行った。相手が大破しているから簡単だ。とどめを刺した後に、瑞鶴の無線に連絡が入った。

 

「はい、こちら瑞鶴」

 

『あ、瑞鶴さん。こちら神通です』

 

「神通、どうしたの?…………もしかして…」

 

『…はい…そのもしかしてです…こちら帰島するのが少し遅くなります…提督には伝えてありますので…』

 

「ア……ハイ」

 

 通信を切り、そのまま立ち尽くす瑞鶴。しばらくし、艦隊の全員に告げた。

 

「は~い注目~…例の二人がまた問題起こして、秋月達が遅れて帰島するそうで~す…私達は先に帰りま~す…」

 

「えぇ!…またなのあの二人…」

 

「懲りないわねあの二人も……秋月にしばかれるわね…」

 

 葛城と雲龍は、そのままため息をつく。あの二人は本当にこっちに来てから問題ばっかりしか起こしていないような気がする。まぁ、あの白露が同期にいたのだから納得してしまいそうだが…。そう思いながら帰路に就いた…。

 

 

 

 

 

 

 

―――少し前、秋月Side

 

「……陽炎さん、不知火さん……無理な攻撃は避けてくださいといつも言っていますよね?どうしてあの時、あんなことをしたんですか!」

 

 秋月は、陽炎と不知火に説教をしている。少し前、目標を殲滅し帰島しようとしたのだが、深海棲艦の反応があったため陽炎と不知火が先行してしまったのだ。正確には、不知火が一人で突っ走り、陽炎がそれを追ってしまったのだが。

 

「…不知火に落ち度でも?」

 

「落ち度しかねえだろうがこの愚妹が(# ゚Д゚)大体、白露に対して対抗心燃やしているのはいいけどこっちの身にもなりなさいよ!そのせいで私がどれほど苦労をしてきたと思ってんだええ!今回だって、不要な追撃をしないように命令されてたじゃない!」

 

「倒せると思って何が悪いんですか⁉敵は駆逐級2体ほどでしたよ!」

 

「潜水艦がいないとも限らないじゃない!!」

 

「その時はその時です!私が殲滅してみましょう!」

 

「行き当たりばったりでやってるんじゃないわよ(# ゚Д゚)」

 

「二人とも…こんな時に喧嘩は…」

 

『黙れこれは私達の問題だ!』

 

 二人は、止めに入った秋月を殴り飛ばす。そしてそのまま、睨み合いを続ける。ちなみに、こちらのメンバーは秋月を旗艦に、川内型三姉妹、陽炎、不知火の6人だ。二人の様子に川内があきれた表情で二人を止めに入った。

 

「…二人とも…もうその辺にしておいた方がいいよ…いや、まじで…」

 

「これは私と不知火の問題ですよ川内さん!邪魔しないでください!」

 

「そうです!大体、旗艦に秋月さんが指名されているのを私は納得しません!川内さん達ならともかく…同じ駆逐級の秋月さんに命令されるのは!」

 

「秋月が何で秘書艦兼第1艦隊旗艦を務めているのかわかる…?状況判断能力、戦闘能力もさることながら、艦隊の個々の能力を把握してるからだよ…まぁ、もういいか。あなた達終わりだよ…」

 

 川内は糸目になりながら状況を察する。不知火たちの後ろに、どす黒いオーラをまとった秋月が立っていたから。赤城達の時と同様、かなり怒っている様子だった。

 

お話があります二人とも…少々こちらに来ていただきましょうか…?

 

「…私は霊力15000です!あなたには決して負けません!」

 

「……いや不知火…冷静に考えなさい…私達、ここの人達の霊力値知ってるわけじゃないけど…ここの秘書艦兼第1艦隊旗艦を務めているってことは…」

 

「察しがいいね陽炎…秋月は霊力24000……リミットオーバーは習得してないけど…普通に強いからね…」

 

「お・し・お・き・DEATH!」

 

『ひっ(;゚Д゚)』

 

 陽炎達の絶叫が響き、“デュクシ”という効果音が響く。その光景を糸目になりながら見つめ神通が瑞鶴達に連絡を取ったそうだ……。

 

 

 

 

 

 

 

―――埠頭

 

「うぅ……体全体が痛い……」

 

「こ……これも全部不知火のせいよ…あとで覚えておきなさいよ…」

 

 埠頭につき、陽炎と不知火は体全体を擦りながらつぶやく。前の方では秋月達が歩いており、秋月に関してはおなかを押さえている。

 

「うぅ……あの二人と赤城さんが来てから……おなかの調子が(;´・ω・)」

 

「……秋月さん…あとで胃薬と白湯でも?」

 

「お願いします…神通さん…」

 

 ため息を吐きながら、食堂の方へと向かう二人。秋月はひどく項垂れており、神通も秋月の背中をさすってあげる。川内もあくびをしながら寮の方へと戻っている。そして、本館の方から華凛が陽炎達に向かって歩いてきた。

 

「……二人とも…またやってくれたわね…」

 

『だって不知火(陽炎)が!』

 

「言い訳却下!あぁ、あとあなた達、すぐに演習の準備して頂戴。あの子がどうしてもって聞かなくてね…」

 

「…ですが、不知火達は今帰ってきたばかりで…」

 

「だから……秋月殴られて、妹のあの子が黙っていると思う?」

 

 華凛の後ろをみると、艤装を背負いどす黒いオーラをまとった初月が立っていた。そのオーラは、下手したら秋月以上のものだった。二人は、その様子を見て絶句する。後ろから那珂が察したような様子で二人に忠告をする。

 

「あの子、姉妹に何かあったら例え相手が戦闘不能でも叩き潰すから気を付けてね…」

 

「……那珂さん…今なんて?」

 

「…気を付けてね?」

 

「いえ、その前…」

 

「戦闘不能でも叩き潰す」

 

『……』

 

 二人は顔を見合わせる。直感的にやばいと思い、その場から逃げようとしたが、その前に初月につかまってしまった。

 

「二人とも?まだまだ余裕あるよね?ちょっと演習に付き合ってほしいんだ…あ、模擬弾は用意してあるから、そこで弾変えておいてね!」

 

「あ……いや(;´・ω・)ちょっと疲れたな~って…ねぇ不知火?」

 

「え……えぇ、不知火達は用事があるので……これにて…」

 

「秋月お姉ちゃん殴ったよね?」

 

『い…いやあれは事故で…』

 

「殴ったよね…」

 

『あのですね……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殴ったよね……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『は……ハイ(゚Д゚;)』

 

「拒否権無いから(# ゚Д゚)」

『ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)』

 

 その後、二人の悲鳴が響き渡り初月に滅多打ちにされたそう。逃げようとする二人に初月は容赦せず、気絶するまで砲を撃ち込んだそう。ちなみに、初月はここに着任して2年経っており、霊力は二人より上の19000だそう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――3時:食堂

 

『チ~ン(゜゜)』

 

 陽炎と不知火は、机に力なく倒れ伏している。よほど初月との演習が効いたのか、しばらく起きそうにない。

 

「…だい…丈夫なのかな?」

 

「こ…ここまでするなんて…初月ちゃんのことは怒らせない方がいいかも(;゚Д゚)」

 

「……そもそも、二人の自業自得よね…ふふ……ふふふ」

 

 目の前に座るのは、朝潮型駆逐艦霰、夕雲型駆逐艦の高波と早霜。現在非番のため、時間を潰すためにここにいる。そしたら、陽炎達が机に突っ伏しているのを目撃したのだ。

 

「…んちゃ……確かにこの二人の自業自得……特に不知火は……あの白露に毎回食ってかかってたって…」

 

「そ…それでどうなったかも?」

 

「噂によれば…1000戦全敗だって…それで、訓練とかで一人で突っ走るようなことが多かったったから、周囲に迷惑をかけていたって…」

 

「う…うわぁ」

 

「……強い人とは戦いたくないです…それ以前に、自分の実力を見極められないようじゃね…」

 

 高波は驚き、早霜は呆れる。そんな無謀なことをするほどだとは…。悪く言えば馬鹿だ…と思った。そう思っていると、入り口の方から、秋月型4姉妹、瑞鶴、雲龍型3姉妹が食堂に入ってきた。おそらく、3時のおやつのプリンでも食べに来たのだろう。

 

「さてと、では提督が買ってきてくれたプリンを皆さんに配りますね!」

 

『は~い』

 

「え~っと…はい照月!」

 

「ありがとう!」

 

「…で、涼月!」

 

「はい!」

 

「……あと、瑞鶴さん、雲龍さん、天城さん、葛城さん……私と……え~っと…………ん(・・?……あれ(;´・ω・))」

 

 冷蔵庫の中を確認する秋月。プリンのふたには名前が書いており、ちゃんと一人一人にあたるようになっている。今冷蔵庫の前にいる秋月達以外の者は、すでに昼食後に食べている。だが……初月のプリンだけが無かった。冷蔵庫のどこを探しても見つからない。

 

「…おかしいわね…初月、プリンまだ食べてないよね?」

 

「食べるわけないじゃないか!お姉ちゃん達と一緒に食べようとしていたんだから!」

 

「…そうよね…じゃあなんでプリンがないの……」

 

「おやおやおや…もしかしてこれをお探しですか?」

 

 声のした方を見る一同。食堂の入り口では、赤城が壁に寄りかかりながら立っており、その手にはプリンがあった。おそらく初月の物であろう。

 

「ふふふふふ…このプリンは私がいただきました!」ピュ~~~~~~~ン

 

「ちょっと待って赤城姉!それ初月のプリンだからああああああああああああああああああああああああああああああああああ(゚Д゚;)」

 

 瑞鶴の叫びもむなしく、赤城は高笑いをしながら立ち去ってしまう。その光景にあっけにとられていた一同。しばらくして、初月が肩を震わせながら叫びだす。

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああん!僕のプリンがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

『あんの人はあああああああああああああああああああああああ(# ゚Д゚)うちの妹を泣かしたなああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』

 

「照月!涼月!」

 

『はい!』

 

「赤城さんを追うわよ!初月のプリンを取り返す!」

 

「赤城さんは神出鬼没よ!手分けをして探しましょう!」

 

「では、涼月は寮の方へ行きます!それと、川内さん達を助っ人に!」

 

 秋月達は、勢いよく飛び出していく。少し遅れた後に、瑞鶴もはっとしたようにあとを追いかけていった。

 

「ああああもう!あの姉は本当に面倒ごとしか起こさないんだからあああああああああああああああああああああああああああ(# ゚Д゚)」

 

 そして、瑞鶴の後姿を見送った後に、顔を見合わせながら雲龍達も歩き出す。

 

「私達も!」

 

「行きましょうか!」

 

「うちの天使を泣かした罪は重いわよ…赤城先輩(#^ω^)」

 

 三人も食堂を出ていく。その光景を見ながら、霰達はお茶をすすっていた。自分達はここにいよう…うん…そうしよう……と思ったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――艦娘寮方面

 

「はぁ、はぁ……確か、川内さん達はお部屋の方に戻っていたはず。あの三人を加えれば、百人力です」

 

 涼月は、艦娘寮の近くまで来ていた。川内達は初月のことを妹のように可愛がっているし、このことを聞けば、すぐにでも赤城を探してくれるだろう。

 

「…ついでに、赤城さんのことを見つけることができれば万々歳なのです……が(;゚Д゚)」

 

 何気なく上の方を見る涼月。入り口のところには小さな屋根のようなものがついており、そこの上に赤城が座って涼月を見下ろしていたのだ。

 

「あらあら♪見つかってしまいました…これにて失敬!」

 

「赤城さんはっけ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)皆さんこっちに来てくださあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああい!!!!」

 

 猛スピードで、屋根の上まで行く赤城。それを涼月は見失わないように走っていく。すると、2階の窓から川内達がこちらを覗き込んでいた。涼月の叫び声を聞いて気になったのだろう。

 

「涼月⁉どうしたのそんな大きな声出して?赤城さんがどうかした?」

 

「川内さん!赤城さんを追ってください!お初さんのプリンがとられたんです!」

 

 カチ~ンという効果音が川内達の方から聞こえたような気がした。そして、赤いオーラを身にまとい表情はかなり怒っているようだった。

 

ふふふふふ…自分の物ならまだしも……初月のプリンを奪うとは…赤城さんもいい根性してるねえ(#^ω^)神通…赤城さん夜戦に誘っていい?

 

…構いませんよ姉さん!ついでに私も混ぜてください(#^ω^)

 

「面白そうだから那珂ちゃんも参加しよう!

 

 

…………赤城さん殴らないと気が済まない(#^ω^)那珂ちゃん優しいから、顔だけは勘弁してあげよう…

 

「おっけ~…二人とも準備はいいね…じゃあ行くよ!!」

 

『了解!』

 

 川内と神通は、窓から屋根に飛び移り、那珂は下の方に行き赤城を追う。猛スピードで赤城に近づいていき、数m先まで詰め寄った。

 

「初月のプリン返せ!」

 

「ふん!」

 

 川内が赤城に突進していくが、赤城は後ろに飛びそれを躱していく。川内はそのまま屋根の瓦に突っ込み滑り落ちていってしまう。

 

「うわっ!うわわわわわ(;゚Д゚)うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

「姉さあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

「こんのおおおおおおおおおおおおおおお!川内ちゃんを落としていった罪は重いよおおお!」

 

「はははははは!私を捕まえたいのなら…殺す気で来なさい!」

 

 そう言って、赤城は下の方にいる那珂のほうまで一気に飛んでいく。那珂は赤城を受け止めようと、その場で構えた。そして、神通は赤城を追うように屋根から飛んでいく。

 

「さぁ!私を受け止めてみなさああああああああああああい!」

 

「わざわざこっちに向かってくれるなんて!むしろありがたいよ!」

 

「那珂ちゃん!赤城さんを捕まえて!そしたら、私が後ろから押さえます!」

 

 那珂の目の前まで来る赤城。そして、すぐ後ろには神通が赤城をとらえようとしている。しかし。

 

「な~んちゃって♪」

 

「へ(;゚Д゚)」

 

「えΣ(゚Д゚)」

 

 ごつ~んと鈍い音が聞こえ、那珂と神通が激突してしまう。赤城は、空中で身を翻し那珂を躱したのだ。二人はそのまま地面に倒れ伏してしまう。

 

「私の異能を忘れたわけではありませんね。私の異能は発火能力(パイロキネシス)。何もない場所から炎を出すことはもちろん、爆発や摩擦熱などを操ることができます!その気になれば、空だって飛べるんですよ!さてさて、ではさっさとここを立ち去りましょうかね!」

 

「っ!逃がすわけには!」

 

「さようならああああああああああああああああああああああああ!」

 

 猛スピードで逃げていく赤城。いつの間にか、遠くの方に行っており涼月が追い付けない距離にいた。涼月はその速さに脱帽してしまう。

 

「早すぎる!私じゃ追い付けそうにない!誰か赤城さんをとめてくださああああああああああああああああああああああああああああああああああああああい」

 

 

 

 

 

 

 

「はははははははは!やはり皆さん甘いですね!鍛え方が足りません♪あ~はははははは!」

 

「…もううるさいですね…誰ですか一体こんな時に騒いでいる人……ん(゜゜)」

 

 寮の入り口から、先日ここに着任した練習巡洋艦の香取が出てきた。すると、赤城が猛スピードで目の前まで迫っていたためその場に固まってしまう。赤城は目の前で急停止すると、爆音と爆風とともに上に飛び上がっていく。その光景に、香取は目を見開いて固まった後、白目をむき倒れてしまった。それを後ろからきていた夕雲、巻雲が目撃し香取に近づいていた。

 

「ごめんなさい香取さああああああああああああああああああああああああああああん!」

 

「かああああとりさあああああああああああああああああん(;゚Д゚)」

 

「はわわわわわわΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)香取さんの魂が(;゚Д゚)上に登ってしまいそうです!急いで戻さないと!」

 

 二人は慌てて香取の魂を戻す。しばらくした後に、香取は気が付いたがその前後の記憶が少しあいまいになってしまったそうだ。

 

(やれやれ…こういうのに少し耐性がついてほしいものですが…)

 

「やっと見つけたわよこの暴食女王がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ(# ゚Д゚)」

 

「暴食女王とはなんと失礼な(# ゚Д゚)大食い女王と呼びなさい!!」

 

「そんなもん知るかあああああああああああああ(# ゚Д゚)」

 

 瑞鶴と雲龍三姉妹が赤城めがけて走ってくる。赤城は近くの屋根に飛び移ると高笑いしながら走っていく。瑞鶴は全速力で赤城を追っていき、葛城はしばらく走ると壁の前で立ち止まる。

 

「雲龍姉!」

 

「えぇ!」

 

 葛城は、雲龍を屋根の方に投げ飛ばす。そして、雲龍は屋根に飛び移りそのまま赤城を追う。だが、距離が遠いため追い付けない。

 

「な~はははははは!私に追いつこうなど100年早…」

 

 赤城は、屋根と屋根を飛び越えようとしたときにバランスを崩して地面のほうまで落ちて行ってしまう。一瞬何が起こったのかわからなかった赤城だったが、屋根の真下に瑞鶴が捕まっているのが見えた。赤城が屋根に移ろうとしたときに手で足を引っかけたのだろう。

 

(なるほど、パラクールで壁伝いに上ってきたのですか!なかなかやりますね!)

 

「プリン返しなさい!」

 

「なっ!しまった!」

 

 瑞鶴が赤城に迫り、プリンを持っていた右手を蹴り上げる。その時、プリンが空中を舞っていき雲龍のいるところまで落ちていく。

 

「よしとった!」

 

「逃がしません!」

 

「ちょ(;゚Д゚)うわあああああΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

 赤城はそのまま瑞鶴を蹴り屋根のほうまで戻っていく。瑞鶴はそのまま壁の方に向かい、顔面から壁に激突してしまう。赤城はそのまま雲龍を追う。

 

「雲龍姉!こっち!」

 

「えぇ!」

 

「させません!」

 

 赤城は、葛城の方に真っ先に飛んでいく。雲龍が投げるであろうプリンを狙って。しかし、プリンはなぜか赤城の方に飛んでくる気配はなかった。

 

(な⁉プリンが飛んでこない!いったいなぜ⁉)

 

 よく見ると、雲龍の手にはプリンが握られていた。葛城の方に投げるふりをしていたのだ。雲龍は、プリンをもって屋根を走り少し先に待機していた天城に向かってプリンを投げる。

 

「天城!受け取りなさい!」

 

「は( ゚Д゚)はい!あわわわわわ(゚Д゚;)と…とりました!」

 

(なっ⁉なんと!見事な連係プレイ!葛城さんを囮に、本命は少し先にいる天城さん!私が葛城さんのほうに向かうようフェイントをかけるとは……ですが!それでも甘い!)

 

 赤城は、天城の方めがけて足先に爆風を起こす。その勢いで、前方にいる天城に向かっていく算段だ。

 

「天城!左に投げなさい!」

 

「ふぇ⁉なんですか(;゚Д゚)」

 

「左よ天城!左に投げるの!!」

 

「よくわかりませんが、てい!」

 

 天城は、左にプリンを思いきり投げる。赤城は勢いを殺すことができず、天城の前を通り過ぎてしまう。天城が投げた先には、照月が待っておりプリンをつかむと全速力で逃げ出した。

 

「プリン取り換えしたわ秋月姉えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」

 

「逃がしませんよおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

「川内さんパス!!」

 

「なに⁉」

 

 さらに屋根の上には、先ほど屋根から落ちてしまった川内が待機していた。落ちた末にできてしまったのか、体に擦り傷のようなものができていた。川内はプリンを受け取ると食堂まで向かっていく。

 

「ぬううううううううううううううううう!川内さん!覚悟!」

 

「受け取れええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ‼‼秋月いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」

 

 川内は、食堂付近に待機していた秋月に向かって思いきりプリンを投げる。剛速球できたプリンを秋月が受け取ると食堂に向け一気に走り出す。赤城はそれを阻止すべく、秋月の方に全速力で向かっていく。秋月は、赤城に追いつかれまいと急いでかけていく。

 

「逃げしません!」

 

「ぬううううううううううううううううううううわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ初月いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 食堂の扉を開け、ヘッドスライディングで土ぼこりを上げながら入っていく秋月。そのまま止まると、目の前には初月が心配そうな様子でいた。無事にプリンを取り換えることができたが、秋月が死にそうな顔をしていた。

 

「……と……取り返したわ……初月………ガクッ(チーン(゜゜)~)」

 

「秋月お姉ちゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん」

 

「……はぁ、プリン取り換えされてしまいましたね…」

 

「ちょっとちょっと何の騒ぎよ一体!」

 

「おや提督?どうしました?」

 

 入り口の方では、騒ぎを聞きつけた提督である華凛が来ていた。執務室で書類仕事を整理していたのだが、騒ぎを聞きつけてここに来たらしい。

 

「赤城、事情を話してもらうわよ…」

 

「…えぇ、わかりました…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はぁ!抜き打ち訓練だああああああああああああああ(゚д゚)!』

 

 

 

 

 

「えぇまったくもってその通り(*^^)v」

 

 なんでも、初月のプリンを奪ったのは全員の抜き打ち訓練だったらしく、寮にいる川内達を巻き込むために初月のプリンをとったらしい。赤城の衝撃の告白に3時のおやつの時間を削られ、休み時間を台無しにされてしまった秋月達は怒りを隠せない様子。華凛は呆れており、食堂で待機をしていた者たちは訳が分からないといった表情でいる。

 

「いやぁ、初月さんのプリンをとったら効果抜群で感動しましたよ!ぱちぱちぱちぱち( ̄▽ ̄)それに、抜き打ちの訓練をしたことで、皆さんの危機察知能力も高まりましたで」

 

『なってないわあああああああああああああああああ(# ゚Д゚)』

 

「しょばあああああああああああああああああ(゚Д゚;)」

 

 赤城は思いきり吹き飛ばされ壁に激突する。そのまま、地面に倒れ伏せ動けなくなってしまった。そんな様子を見て秋月達は怒りを隠せずに食堂を後にする。

 

「せっかくの3時のおやつが台無しじゃない!もう赤城さんのことなんて知りません!」

 

「お姉ちゃん達とプリン食べたかったのにあんまりだあああああああああああ!」

 

「ないわ!赤城さんまじないわ(# ゚Д゚)そんなことで私は屋根から落ちていったのかええ!」

 

「那珂ちゃんと神通ちゃんなんておでこにたんこぶできちゃったよ!どうしてくれるのさもう!」

 

 各々が文句を言いながら食堂を出ていく。その様子を見送った後、赤城は力なく立ち上がる。

 

「手加減を知らないのかしらあの子たちは(;´д`)トホホ」

 

「まったくいつまでこんなことしてるつもりよ…」

 

「つまみ食いの件ですか?私はやめるつもりは…」

 

「そうじゃなくて……いつまでこんな茶番をやっていくつもり?もうみんなあなたのことを特別な目で見やしない。畏怖するものは誰もいないわ…」

 

 赤城が最初ここに着任したときは、瑞鶴以外のものが全員畏敬の念で赤城を見ていたのだ。赤城より上…正確には長門を除いたS級5位以上の者達は鎮守府に所属していなかったのもあり、艦娘達からは尊敬と同時に恐れられていたのだ。

 

「…………そうですね…そろそろやめてもいいかもしれませんね……あの子たちも私をここの仲間として見てくれていますし、最初ここに来た時のあの眼はされなくなりましたからね…………だがしかああああああああああああし!つまみ食いはやめる気はありませんし、食事の量を減らす気もありません!それが私、赤城という人間ですから‼‼‼」

 

「……はぁ…ほどほどにしなさいよ……まぁ、夕食時にでも、みんなに謝っておきなさい…」

 

「もちろんしますよ…私なりのけじめをつけます…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――夕食時

 

「はい皆さんちゅうも~く\(^o^)/」

 

『あん(# ゚Д゚)』

 

「そ……そんな怒らなくても(;゚Д゚)」

 

 夕食時になり、全員が集合している中、赤城が立ち上がり全員の注目を集める。特にプリン争奪戦を繰り広げていた秋月達は怒った表情で赤城を見つめていた。

 

「なんですか赤城さん…言うことによっては、許しませんよ…」

 

「まぁまぁ秋月さん……さっきのことはさすがに私もやりすぎました……だから、そのお詫びにこういうことを考えてみました…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の奢りで、肉、お野菜などふんだんに使ったバーベキューをしようと思ったのですがどうですかあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ??????」

 

「その案!引き受けましたああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」

 

『えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええΣ(゚Д゚)』

 

 赤城の言ったことに、秋月は間髪入れずに返事をする。その返答に驚きを隠せない一同。特に初月は、なぜ秋月が赤城の案に乗ったのか理解できていなかった。

 

「あ、秋月お姉ちゃん…よく考えたほうが……」

 

「考える必要はないわ初月!だって、肉よ!もしかしたら牛肉が食べれるのよ!」

 

「ぎゅ、牛肉…」

 

「もうこの際だから、赤城さんのお金が許す範囲で好きなもの頼みましょう!お肉とか、お肉とか、お肉とか!」

 

「じゃあこうしよう!お肉頼んで、デザートのプリン頼んで!あと焼きそばも頼んで!」

 

「おいしいお野菜も頼んで……かぼちゃとか、玉ねぎとか!あとキャベツと!」

 

「おおお!なんか、想像するだけですごい楽しみになってきた!そうと決まればさっそく何頼むか考えないとね!」

 

『ということで決まりいいいいいいいいいいいいいいいいい°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°』

 

『え…ええ(;゚Д゚)』

 

 秋月と初月の反応に全員あっけにとられてしまう。しかし、初月がかなり喜んでいるため、一同は「まぁいいか…初月が喜んでるし…」と思ったそうだ。その光景をみて、赤城は胸をなでおろした。しかし……。

 

(ふぅ……まぁまぁ結果オーライ結果オーライ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

むしろ、計・画・通・り♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当日のバーベキューの日に…私がその食材を存分に味わって……ぐへ!ぐへへへへへへへへ)

 

「な~んて考えていないよね赤城姉(ガシ)(#^ω^)」

 

「…………へ(゜_゜>)」

 

「……あの子達が悲しむからさ…今考えたことは墓場まで持って行ってあげるから、変なことしたら、わかってるよね?」

 

「…いやいやいや…さすがにつまみ食いなんかするわけ……」

 

「母さんに言いつけるよ?」

 

「ひっ(゚д゚)!それだけは!それだけはどうか!あぁ瑞鶴!瑞鶴うううううううううううう(;゚Д゚)お慈悲を~~~~~~!」

 

 二人の光景を見ていた華凛は「二人して何をしているのだか…」と思ったそう。そして、ふと思い出したようにこうつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さんも、つまみ食いとかそういうのは気を付けてね!食べ物の恨みはかなり怖いって聞いてるからね!」

 

「……参考までに提督…一体誰に喋っているのですか?」

 

「決まってるじゃない秋月!お茶の間よ!」

 

「意味わかりませんけど(;・∀・)」

 

「というわけで!佐世保鎮守府の日常はこれにて閉幕です!次回は、未だ謎多き岩川鎮守府のお話をするわ!ではでは~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐世保鎮守府のドタバタな日常:終わり

 

 




赤城「ふぅ、┐(´д`)┌ヤレヤレひどい目にあった…ということで、次回はあの忘れ去られていたバカップル達が!」
 ズダダダダダダダダダダダダ
赤城「なっ(゚Д゚;)一体何です!」
 突然赤城の周りの壁が崩れる。そして、中から二人の男女が現れる。
榊原「あ!どうも!提督達の会議以来出番がなかった、戦う提督こと「魔弾の射手」榊原慎之介っす!」
古鷹「秘書艦の古鷹です!ちなみに…その…提督である榊原さんとは恋人同士です///」
榊原「あはは…///」
赤城「いよっ!バカップル!」
 ズダダダダダダダダダダ
赤城「ちょっ!マシンガンを打たないでくださいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
榊原「…外野はほっておいて…次回は、俺達岩川鎮守府の日常を送ります!」
古鷹「それでは予告です!」







 岩川鎮守府、そこは戦う提督がいるという噂で有名だ。それと同時に、S級の青葉や鬼怒が在籍していることもあり戦力は申し分ない。
 だが、この鎮守府は、誰も近づくものがおらず…さらに、誰もここで働きたがらないという話がある。一部の者からは、ここの鎮守府はこう呼ばれていた。





問題児達の集まり……と



次回:番外編 魔窟の巣



藤波「はぁ…私達なんでここに着任しちゃったんだろうね~浜ちん…」
浜波「そ…そ…そんなこと……は…浜波に……聞かれても!」

 乞うご期待ください!


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魔窟の巣

おはようございます!
今回は岩川鎮守府の日常です!キャラ崩壊、独自設定あります。
それでは、どうぞ!


――――埠頭

 

 ………………………………………………………皆さんこんにちは…。岩川鎮守府所属、夕雲型駆逐艦11番艦の藤波です!今藤波は、浜ちん……あぁ、同型艦で13番艦の浜波と一緒に埠頭の端で釣りをしています。なぜ釣りをしているのかって?藤波達は今非番なんです。だからこうして釣りをしているわけですが……。

 

 まぁ、こんな話はどうでもよくて…。この鎮守府…いろいろな意味でやばいです……。え?戦う提督がいるから当然?あの最凶と呼ばれているS級の青葉と鬼怒もいるからそりゃやばい?いえいえ…それがそうでもないんです。他の人達でもやばい人はいるんです…。全員が全員やばい人じゃないんですよ……。あぁ、なんかこんな説明していると、ちょっと疲れてきたな…。

 

「ふ……ふーちゃん…どうしたの?そ……空なんて……仰いで?」

 

「……ねぇ浜ちん……藤波達どうしてここに着任しちゃったんだろうね…?」

 

「そ……そんなこと……は…浜波に言われても…」

 

 相変わらず声が小さくて早口だね浜ちん……あ、サバが釣れた…晩御飯のおかずかな?いい感じいい感じ。チカにサバにアジか…意外と釣れたかな?

 

「おぉ、何やごっつ釣れたやんか!ええ感じやな!」

 

「…あぁ、黒潮さん!こんにちは!」

 

「こ……こんにちは……く…黒潮さん」

 

 陽炎型3番艦の黒潮さん。2~3か月前に着任したばかりの人で、なんでもあの白露と雷と同期の人なんだって。あぁ、ちなみにここの鎮守府ではまともな人です!ここに来たってことは、藤波達に何かようなのかな?

 

「何か御用ですか?」

 

「せや!司令はんが二人を呼んでおったで!何か用があるんやないか」

 

「…わかりました。浜ちん、行こ!」

 

「あ……で…でも……魚…」

 

「ええよええよ!魚はうちが食堂にもっていくわ!」

 

「ありがとうございます!」

 

 さてと……一体何の用なのかな?あ~……今後の訓練とか、座学についての話かな?まぁ、行ってみないとわからないか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――本館 執務室前

 

 さてと……うん……よかった、静かだ。あぁ、なんでこう思ったのかっていうと、大体の確率で騒がしいことがあるから…騒がしい人はまぁ、特定の人に限られるんだけどね……例えば……

 

(いいいいいいいいいいいいいいいいやああああああああああああああああああΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)なんで私が旗艦なんですか⁉嫌ですううううううううう!)

 

 ……ていう感じで、金髪ツインテールで常に前髪を気にしているような人が騒いでいたり…

 

(ふええええええええええええええええええええええええええええん!怖かったですううううううううううううううううううううううう!なんで毎回こんなことが起こるんですかあああああああああああああああああ!)

 

 ……とか、すごく臆病で帰ってくるたんびに泣いているような軽巡級の人がいるもんだから騒がしい。騒がしくないっていうことは、今出撃中なのかな?だめだ…朝ぼーっとしてたから覚えていないや…。まぁ、いいか…とりあえず入ろう…。

 

「司令、失礼するよ!何か用?」

 

「あぁ二人とも!二人にちょっと頼みたいことがあって。まぁ、ちょっとした仕事の説明みたいな感じなんすけどね!」

 

 この人はもちろん、ここの提督の榊原慎之介。戦う提督で有名だから、みんな知ってるんじゃないかな?いやもう本当に有名だよこの人…。ぶっちゃけ艦娘いらないんじゃないかな?この人さえいれば…。まぁ、それはさておいて……仕事の説明って何だろう?もしかして、秘書の仕事かな?

 

「あぁ、たぶん察しがついていると思うんすが…秘書艦として書類仕事とかをしてほしくて…秘書の仕事については、古鷹に聞いてください!じゃあ古鷹、よろしく頼むっす!」

 

「はい!任せてください!」

 

 この人は、ここの秘書艦の古鷹さん。この人もすごく強い。艤装が改二の状態っていうのもあるけど、【鷹の目】の異名を持ってるんだもん。海の上でも普通に相手の頭を打ちぬくスナイパー…って感じかな。あと…この人怒らせたらだめだから(;・∀・)。何せ、あの青葉さんでさえ土下座したっていう話だからね!いや本当に!すごく優しいよこの人!一部からお姉ちゃんって言われてるからね!でも優しい人ほど怒らせちゃいけないっていうからね!気を付けてね!

 

「え…えっと、藤波ちゃん?どうかした…」

 

「はΣ(゚Д゚)なんでもないです!はい!」

 

「…あ…うん…じゃあ二人とも、こっちに来てくれる」

 

「……え……えっと……ふ……古鷹お姉ちゃん…」

 

「ん?何浜波ちゃん?」

 

「…あ…あの……な…なんでそこに…加古さんが寝てるの?」

 

「……ん(゜゜)」

 

 浜ちんに言われて気が付いたけど…ソファーで加古さんが寝ていた。……え~と……この人もここの主力で第1艦隊に所属しているんだ。改二だし異能持ちらしいんだけど、藤波達は知らない。あぁ…あと、この人……やばい人分類です。加古さんが自分で言ってたことなんだけど……

 

『あたし、昔少年院にいてさ……まぁ、喧嘩ばかりしてたし……学校にいたやつ半殺しにしたこともあるからさ……。あぁ、あと暴走族相手取ったこともあったっけ…』

 

 ……とか言ってたんだ…。やばくない?人を半殺しにするなんてさ……。でも、大半はどこかで寝てるらしいんだけどね…。出撃時以外は…。

 

「何となくそこで寝たかったんだって。今は寝かせておいてあげて」

 

「う……うん」

 

「じゃあ、秘書の仕事の説明をするね!私は大体ここにいるけど、当番でもう一人日替わりで仕事をするんだ。基本的に書類の整理とファイリングと、資材の確認とかもするんだ。二人にはこれをやってもらうね。じゃあ、ここに座って」

 

『は~い』

 

 藤波達は古鷹さんの隣に座って、秘書の仕事を教えてもらった。楽かと思ったんだけど、これがすごく大変で、サインの必要な書類やら資材の細かな情報やらを記したものやらたくさんありすぎて…。大本営に提出する書類もあるから間違った情報は書けないし、かなり大変だ。これを毎日やっている古鷹さんと司令はすごいな…。藤波達も頑張らないと…。

 

「…よし、二人とも。ちょっと工廠の方に行くからついてきてくれる?」

 

「わかりました」

 

 藤波達は古鷹さんの付き添いで工廠に行くことにした。資材の確認をするみたい。ここ最近出撃が多かったからね~。資材少し減ってるのかな?まぁ、確認してみないとわからないけど…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――工廠

 

「え~っと…燃料、弾薬、鋼材に、ボーキサイトも特に変わりなしっと」

 

 工廠に来たけど、特に数字に変わりはなかった。あとはそうだな~…整備士の人達が藤波達の艤装を点検してくれてるし、何ら変わりはなし。古鷹さんと浜ちんは今別のところにいる。これだったらここの仕事は終わりかな。終わったら何をするのかな?また戻って書類の整理かな?

 

「……戻ってまた書類の整理かな…なんて思っていない?藤波ちゃん?」

 

「え⁉あ、磯波さん!」

 

 急に後ろから抱き着かれたからびっくりした。この人は磯波さん。特型駆逐艦吹雪型9番艦。この人と関わると、偶に心を読まれているんじゃないかって思うときがある。だって、考えたことをそのまま言われることがあるんだもん。今だってそうだったし。なんでも、磯波さんは異能を持ってるって話なんだけど、確か異能は…

 

「ん?もしかして、私の異能のこと?」

 

「ふぇ(゚д゚)!え、えっと…」

 

「確かに最初は驚いちゃうよね藤波ちゃん…私の異能はね、一応念話(テレパシー)の分類らしいんだけど、相手の考えてることもわかるし、自分の考えていることや相手の考えていることを他の人達に伝えることができるの。そのせいで、変な人達に私の力を利用されたこともあったんだ…」

 

「…磯波さん…」

 

 さっきも言ったと思うけど…ここの人達はいろいろな意味でやばいって…。つまりはこういうことなんだ。自分の力を利用された人、自分の力で人を傷つけた人とかたくさんいる。だから、ここはこう呼ばれているんだ…。“問題児達の集まり”…もしくは“魔窟の巣”だって…

 

「…あ!」

 

「ふぇ⁉なに磯波さん」

 

「……あ~…いや…触ってみたらわかるよ…」

 

 いわれるがまま磯波さんの手を触った。……そしたら、いつも執務室で聞くような声が聞こえてきた…。

 

『いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいやああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!もうなんでこうなるのおおおおおおお!私の言うことちゃんときいてよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)』

 

『ふぇええええええええええええええええん!もうやだあああああああああああああああああああああああああああ!!長良おねえちゃああああああああああああん!助けてえええええええええええええ!』

 

「…うわ~…」

 

「…またこうなったんだ…」

 

「藤波ちゃん!艦隊のみんなが戻ってきたから迎えに……あら、磯波ちゃん」

 

「古鷹姉さん…またあの二人が慌てふためいているよ…」

 

「あぁ……」

 

 正直いつものことだからね~…あの二人が慌てふためくのって…。なんでも、前は長良って人がここの旗艦やってたんだけど…柱島に行っちゃったらしいんだ。その人が曲者がそろってるここの艦隊をまとめていたんだって。それと、もう一人。その人の妹艦の五十鈴さんもいわばここのまとめ役だった。その二人がいたから、古鷹さんの負担も軽減出来てたみたいなんだけど…。

 

『あの白露が柱島に行くんだもん!長良は柱島に行くわ!』

 

『私も気になってたし、この五十鈴も行こうかしら!』

 

 ……ていう理由で異動しちゃった…。なんか…うん……武闘派なのかな…。はぁ…そんなこんなで藤波達は埠頭の方に行くことにした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――埠頭

 

「うわああああああああああああん!もうやだああああああああああああああああああ!私旗艦に向いてないですよおおおおおおおおおおおおお!」

 

「…あ…阿武隈さん…落ち着いてください…」

 

 …うわ~…案の定叫んでるよこの人…。あぁ、今叫んでいる金髪のツインテールの人が阿武隈さん。最近は旗艦を任せられていることが多いんだけど、見ての通りかなり臆病というか、ビビりな人…。でも、この人昔窃盗や万引きとかいろいろとやらかしているみたい。本人曰く、悪い友達に無理やりやらされたってことみたいだけど、罪は罪だからその友達と一緒に捕まりました…。んで、阿武隈さんを慰めている人が、特Ⅱ型綾波型6番艦の狭霧さん。灰色っぽい髪を腰まで伸ばしているのが特徴的な人だ。狭霧さんはここでは普通の人だ。藤波達にいろいろと教えてくれるし!……え?信じられない?いやいや本当に…何もやらかしてないから…本当に。

 

「ううう……私もう出撃したくないよおおおおお!」

 

 スタイルがよくて美人さんだけど…ネガティブな発言が多くて常に泣いているこの人は名取さん。長良型の3番艦だ。一見何もやらかしていないイメージがあるけど……実はこの人、昔脅されて詐欺の手伝いを強制的にやらされてたんだって。見た目からは想像もつかないよね…。でも、そんなこんなで捕まっていた時期があったんだってさ…。

 

「おいおい…こんなんでいちいち泣いてんじゃねえよ…死んでもいねえんだからさ…」

 

 電子タバコを銜えながら話しているのは特1型駆逐艦吹雪型4番艦の深雪さん。ぱっと見やくざかって思えるくらい目つきが鋭い時があるし、話し方も少しとげがあるし…正直言って少し怖い。あとこれ磯波さんから聞いた話なんだけど…この人元レディースの総長だったって(;゚Д゚)なんでも…あの加古さんと昔殴り合ったことがあるって!?やばすぎない!本当にやばいよねこの人もΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)……あぁ、なんで電子タバコを吸っているのかというと……

 

(特型の末っ子どもがさ…『深雪姉たばこなんて吸ってたら病気になるわよ!長生きしたいんなら体にいいもの吸ってよ!ぷんすかヽ(`Д´)ノ』…とか…『深雪姉さんには…長生きしてほしいな…』…とか…『そんなんじゃだめよ!病気になるわよ』…とか…『嫌なのです!深雪お姉ちゃんには早死にされたくないのです!』……って言われたからさ……ちび達のために電子タバコにしたんだ…)

 

 ……だって…結構優しいよね…この人…。

 

「…(にこにこ(^^))」

 

 なぜか笑っているピンク色の髪を小さくサイドテールにして、後ろ髪が肩までかかっているこの人は青葉型2番艦の衣笠さん!この人も改二。スタイル抜群だし、顔もいいし、胸もでかいし、正直すごいんだけど、この見た目で16歳みたいΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)本人も言ってたし、他のみんなも言っているから間違いないの!霊力はB級で、ここではそこまで強いわけじゃないらしいんだけど…正直藤波はこの人のことがよくわからない。性格が子供っぽいこともあるのかな?出撃のことを遊びに行くって表現するのも少し変だし…。それに、何だろう…戦ってる時も本当にB級なのかなって疑いたくなるレベルなんだよね…なんでだろう?まぁ、他のみんなもあまり衣笠さんのことは話さないし、藤波の気のせいなのかな。

 

「……なんかその…すみません……」

 

 この人はこの鎮守府唯一の軽空母、龍鳳さん。制服の上に緑色の法被?着物?を着ているのが特徴的な人だ。戦闘の時以外は食堂のお手伝いをしていたり、洗濯とかもしてくれているんだ!ここではものすご~くまともな人で、面倒見もいいしお姉さん的な存在の人!結構苦労人なのか…胃薬をよく飲んでたような…。

 

「……はぁ…もう…またなの阿武隈ちゃん…もっと自信を持っていいんだよ?長良ちゃん達は長良ちゃん達のやり方…阿武隈ちゃんは阿武隈ちゃんのやり方があるんだから…」

 

「そんなこと言われても、無理なものは無理ですうううううううううううううう!だって皆さん私の言うこと聞いてくれないんですもんんんんんんんんんんんんんんんんんんん(゚Д゚)」

 

 阿武隈の言ったことに対して、古鷹は艦隊の全員を睨む。しかし、全員が慌てた様子で首を横に振っている。そして、深雪が弁明した。

 

「ちょっと待った!古鷹さん、私達の言うことも聞いてくれ!阿武隈の指示は、なんというかまとまりがないというか、優柔不断というかさ!もうひっちゃかめっちゃかなんだよ!」

 

「…確かに、指示が右へ行ったと思ったら左へ行くというか…」

 

「言ったことが真逆になってしまうんですよね~…」

 

 深雪の言ったことに対して、狭霧と龍鳳が同意する。正直、古鷹もこういうことなのではないかとある程度予想はしていた。大体いつもこんな感じだから…。

 

「……とにかく、阿武隈ちゃん。あとで執務室に来て。それと名取ちゃんも。4人は、念のため精密検査をして、そのあとは自由でいいから!藤波ちゃん達も自由行動でいいよ、書類仕事とか手伝ってくれてありがとう!」

 

「い、いえ!むしろ教えてくれてありがとう古鷹さん!浜ちん、行こ!」

 

「ふぇ⁉ふ…ふ…ふーちゃん!ま…まって!」

 

 藤波達は、とりあえず寮の方へ行くことにした。あんまりやることもないからさ…。寮の方に行ったとしても、たぶん暇だと思うけど…。

 

 

 

 

 

 

 

―――寮内

 

 ……。はい、というわけで、寮内に戻ってきました。やることがなかったんで、戻ってきちゃいました。…………。さて、どうしましょう?浜ちんと一緒に来たわけだけど……。…あ!そうだ!初雪さんが非番だったっけ!それと、敷波さんと初風さんも!初雪さんがいるということは、間違いなく部屋でゲームをしているはず。いや本当に間違いない。だって、あの人は…

 

『もうやだ帰りたい…。かえってゲームをしたい…』

 

 ……とか…。

 

『面倒くさい…早く出撃を終わらせたい…』

 

 なんて言ってたり…。初雪さん、色々とゲーム機を持っていたりするからさ…。……まぁ、初雪さんは結構楽しい人なんだけど、サボり魔というかさ、何に対してもやる気がないみたい。ここでは比較的にまともな人なんだけどね。

 

 あ!そう思っているうちに、初雪さんの部屋の前だ!部屋の中からワァーワァーギャーギャー聞こえてくるから、他にも誰か来てるのかも!さっそくノックして開けてみよう。

 

「入ります~。初雪さん、今大丈夫ですか?」

 

「ごめん藤波、今敷波と初風と対戦中なの…」

 

 部屋に入ると、ごろごろしながら初雪さんがゲームをしていた。その横には、綾波型駆逐艦2番艦の敷波さん。陽炎型駆逐艦7番艦の初風さんがいた。やってるゲームは……。なんて言ったっけ?スマ〇ラ…だっけ?相当接戦なのか、三人とも食い入るように画面を見つめている。

 

「ええいこのこのこのこの!いい加減倒されろって!」

 

 今話し出したのが敷波さん。ええと…この人の過去もなかなかやばい…。窃盗、万引き、暴力沙汰…。その他もろもろ…。それもあって、少年院にいた人。確か、特型駆逐艦の中でも強い分類に入るんじゃなかったっけか?霊力が一万後半だったから間違いないはず。でも、特型のトップ3はものすごくやばいって敷波さん自身も言ってたっけ…。特型駆逐艦ってやべぇ…。

 

「あぁ、もう!こうなったら先に敷波を!」

 

「ちょ!あぶな!」

 

 んで、もう一人が初風さんね。この人も前は窃盗、万引き、暴力沙汰以下略…。そんな感じの人ですはい……。まぁ、こうして藤波達と普通にお話とかしてくれるからいいけど。言い方が少しきついことがあるけど、でも基本的に優しくて。こないだだって、色々教えてくれたしね!一言余計なことも言ってたような気がするけど…。でも、そのあと普通に謝ってくれてたし。

 

「ふふふ、これで漁夫の利だね!」

 

『ああああああああ!』

 

 あ、決着がついたみたい。初雪さん強いな…。さすが自称ゲーマーなだけある。……ん、あれ?敷波さんと初風さんが少し怒っているように見えるな…。

 

『こんの卑怯者おおおおおおおおおおおおお(# ゚Д゚)せめてどっちかの決着がついてからにしなさいよおおおおおおおおお』

 

「何を言っているのさ。これが勝負の世界というものだよ」

 

『ぐぬぬぬぬ』

 

「…………あぁそうだ。藤波、浜波…よかったら一緒にやらない?バトルロワイヤルじゃなくて、チーム戦でケリを付けよう」

 

『ぴくっ』

 

「い…い…いや…浜波は…ゲームは…苦手で…」

 

「藤波はいいよ!ちょうど暇だったし」

 

「よし…どうする二人とも?」

 

「よし乗った!」

 

「じゃあ、チームは初雪と藤波。私と敷波でいいわね」

 

「負けた方がアイスを奢るで…」

 

「おっけー」

 

 おぉ、アイスを奢るのか…。これは負けてられない!頑張ろう!…………でも、何だろう…さっきから違和感があるんだよね…。誰かに見られているような、そんな感じ。でも、藤波達以外に人はいないし…初雪さん達も気にしていないみたいだし…。

 

「…ん、どうしたの藤波?」

 

「あの、初雪さん。なんか視線を感じませんか?」

 

「……大丈夫、いつものことだから…」

 

「え…でも…」

 

 それでも不安なんだけど…。なんでこの三人普通でいられるの…。藤波達ここに着任したばかりだからわからないけど…。え、何?これが普通なの?

 

「ほら、藤波…キャラ早く選んで…始まらないよ…」

 

「あ、ごめんなさい敷波さん」

 

 仕方ない…今はゲームに集中するか…。頑張って、アイスを奢ってもらおう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま…負けた~~~…」

 

「初雪~…覚えてろよ…」

 

 結果は初雪さんと藤波の圧勝で終わった。てか初雪さん強すぎだよ…。なんなのさこの強さ。この強さを戦いの方にもってってくれないかな…まぁいいか。これで藤波達にアイスが…

 

 

 

 

 

 

 

 カシャ

 

 

 

 

 

 

 

「⁉」

 

 ……え?今カメラの音しなかった?あれ…え⁉

 

「……あぁ、そうだ。藤波、初春にもっていってほしいものがあるんだ。ちょっと行ってきて」

 

「え…あぁ、はい…」

 

「浜波もね…扇子借りてたんだ。多分部屋にいると思うから」

 

「は…はい」

 

 藤波達は初雪さんに頼まれて扇子を初春さんに届けに行くことにした。初春さん、すごく古風な喋り方をするんだよな…自分のことわらわっていうほどだもんな…。藤波達のこと気にしてくれてたから別にいいけどさ…

 

 

 

 

 

(ふっふ~ん。なかなかいい写真が取れましたね~。さてさて、どうやって驚かせてあげましょうかね!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ、すまんの届けてくれて!初雪め、やっと返してくれたか…」

 

 この人は、初春さん。ここでは常識人枠。何もやらかしていない普通の人。初春さんは、藤波達を見た後に周囲を見渡す。誰か探しているのかな?

 

「二人ともよく聞け。周囲に誰かいると思っても、見つからん時は見つからん。急に目の前から現れることがあるから気を付けるんじゃぞ」

 

「(・・?)…えっ?どういう意味ですか?」

 

「今にわかる。では、気を付けての」

 

 そう言って、初春さんはドアを閉めた。どういう意味だろう。見つからないときは見つからなくて、急に目の前に現れるって。

 

「まぁいいや。浜ちん、行こう!」

 

「う…うん」

 

 さてと、次はどうしようかな。食堂にでも行ってゆっくり過ごすかな。うん、そうしよう。……でも、なんかさっきから視線が気になるんだよな…本当に誰かに見られているような。それに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カシャ

 

 

 

 

 

 

 

 っ⁉まただ、またカメラの音。小さい音だけど、確かに聞こえた。どこから!いったいどこから聞こえてきてるの。遠くの方を見ても、誰もいない。浜ちんは…気づいていない。…やっぱり気のせい?いや、でも…

 

「おやおやおや、どうかされました?挙動不審ですよ?」

 

『ひっ⁉』

 

 藤波も浜ちんもびっくりして周囲を見る。でも、やっぱり誰もいなかった。間違いなく声をかけられたはずなのに…なんで…

 

「こっちです!」

 

『うわあああああああああああああああああああああああああああああああΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)』

 

 急に目の前に現れたのは、S級艦娘の一人であり、日本の艦娘でも屈指の狂人って言われている青葉さん。藤波は、この人のことが本当にわからない。わからないし、不気味で…怖い。時々、すごく虚ろな目をすることがあるし…それに、いろんな噂が絶えない。人を何度も殺したことがあるとか、本当は死刑判決を受けていたとか。ど、どうしよう。え?藤波達何をされるの?

 

「そう警戒せずに。少し青葉とお話ししましょう!二人ともこちらへ!」

 

「え、あの⁉」

 

「ちょ…ちょ…あの⁉」

 

「はいはいはい!拒否権はありません!ほらほらほら!」

 

 結局、強引に連れていかれてしまった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「適当に座ってください。お茶でも出しますか?」

 

「え、えぇ。お構いなく…」

 

 二人部屋で、机が二つ。もう一つのベッドには多分衣笠さんが寝ているのかな。それから、机周りとかには写真が多く飾ってあった。古鷹さん達が映ってる写真と、ここの鎮守府の人達が映っている写真が多い。でも、何だろう。違和感が…。あ…青葉さんが映っていない。カメラもって、鎮守府内回っていることが多いのに…。

 

「どうぞ」

 

「あ、どうも」

 

 そんなこんなで考えていると、青葉さんがお茶を持ってきた。これから何をされるんだろう…。

 

「さっきも言ったじゃないですか。警戒しないでください。ちょっとインタビューでもと思って」

 

「は、はぁ。インタビュー?」

 

「えぇ。ここに着任してきて、どんな感じですか!印象は?」

 

「え…えーと…た、楽しい…」

 

「嘘ですね…」

 

 青葉さんの言ったことに、藤波は少し驚いちゃった。何を言ってるのこの人。確かに、どうしてここに着任しちゃったのかなって思ったけど…。

 

「二人からは恐怖しか感じません。ここにいる人達のことについていろいろ思うこともあるでしょう。ただ、そうですね。あなた方は怯えています。主に私を見たときにですけどね…。ただ、一つ言っておきます。この鎮守府ではね。本当に恐ろしい存在がいますよ。一番やばいのは私じゃない。違う人ですよ。それにです…私は可愛い方ですよ。自分でいうのもなんですけど…。やばいのは…もっとやばいのは狂種達です。その中でも、破滅(パグローム)追跡者(トラッカー)が一番やばい。あの二人は、本物の狂人ですよ」

 

「え…え?」

 

「……それから、もうすぐ鬼怒も帰ってきてしまいます…。帰ってきたらもっとやばいことになってしまいますよ。鬼怒は、戦闘狂ですからね」

 

 え…青葉さんでましな方なの…。ど…どういうこと。この鎮守府で一番やばい奴って…誰なの一体。それに、鬼怒って…え。刑務所に入っているあの⁉

 

「……あぁ、すみません。さて!続きを話しましょう!して、ここの印象は!改めて!」

 

 あぁ、結局そうなるのね…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました!お二人とも、戻っていいですよ!」

 

 あぁ、疲れた。結局一時間以上も話しちゃった。あぁ、疲れた。浜ちんもすごい疲れてる。部屋に戻って休もうかな…。あぁ、どうしようかな。あ、浜ちんが何か気になっているのか、棚に近づいて行っているな。あれは…カメラ?しかもおもちゃのかな?

 

「あ…あ…あの、青葉さん……こ…これって何?」

 

「それに触るな!!」

 

 浜ちんがカメラに触ろうとしたときに、青葉さんが叫ぶ。その声に、浜ちんも藤波もびっくりしちゃった。よほど大事なものなのかな。

 

「……すみません。それには触らないでください…大事なものなんです」

 

 なんだろう。一瞬青葉さんが悲しそうな顔をした。いったい過去に何が起こったんだろう。藤波達は、青葉さんに謝りつつ部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、何もすることがないから藤波達は執務室に向かうことにした。部屋にいても何もないし。それで、今執務室に向かっているところなんだけど…。

 

「いやああああああああああああああああああああああああああああああああΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)それどういうことですかああああああああああああああああああああああ!!」

 

「絶対ダメですううううううううううううううううう!そんなことになったらこの鎮守府がめちゃくちゃになってしまいますよおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 いったい何が起こったんだろう…。というか、まだ阿武隈さん達いたんだ…。なんで騒いでるの…。とりあえず、中に入ってみよう。

 

「司令、失礼するよ!いったいどうしたの?」

 

「あぁ、藤波…実は問題が…」

 

「藤波ちゃあああああああああああああああああああああああああああああああん!鬼怒ちゃんここに戻ってきたらだめだよね!絶対ダメだよね!」

 

「お願いだからダメって言ってええええええええええええええええ!鎮守府が半壊しちゃうよおおおおおおおおおおお!」

 

 えぇ…藤波に言われても困るよ……浜ちんもよくわかっていないんだよ…。古鷹さんは…うん…同じく困ってるね…青葉さんも、鬼怒さんが戻ってくるって話してたけどどんな人なんだろう。

 

「あの、古鷹さん。鬼怒さんってどんな人なんですか?」

 

「…喧嘩好きで、戦闘狂…」

 

「えぇ…」

 

 そ…それだけ…。あ、電話が鳴ってる。誰からだろう?司令が電話をとって内容を確認してるけど…。あれ、どんどん青ざめていってない?電話の方から叫び声が聞こえてきてるし…え?どういうこと?あ、司令が電話を叩きつけるように切った。

 

「古鷹あああああああああああああ!すぐに青葉を呼ぶっす!それから、戦闘員をなるべく集めるっす!」

 

「え⁉あ、はい!なんで⁉」

 

「鬼怒が艤装を展開して、海上に行ったって刑務所から連絡が!近いところにあるから、きっとすぐにでも」

 

 そう話してたら、後ろの窓の方が急に暗くなった。なんだろう。人の形してないかな。司令が振り返ったときに、窓が粉々になった。そしたら、艦娘だよね…。薄い赤色の髪に、阿武隈さんと同じような服装を着てる。黒っぽいセーラー服に、手袋に…手には…………か…刀Σ(゚Д゚;≡;゚д゚)二本持ってるよこの人!え!誰⁉

 

「き…き…鬼怒ちゃんΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

「…おお、阿武隈。名取もいるじゃん!久しぶりだな!」

 

『あわわわわわわ(;゚Д゚)』

 

「おいおいおい…そんなビビるなよ…久しぶりに喧嘩でもするか?あん?」

 

「鬼怒ちゃん!戻って来て早々、問題を起こさないで!」

 

「んだよ古鷹ぁ。別にいいだろ。向こうにいても退屈で仕方なかったんだよ…囚人どもは弱すぎるしよ…。だから、誰でもいいから私の相手しろよ!」

 

「青葉あああああああああああああああ!早く来るっすううううううううううううううううう!それから、加古おおおおおおおおおおおおおお!」

 

 司令が叫んだとたん、扉が勢いよく開いた。そこには、加古さんを担いだ青葉さんが立っていた。加古さん眠そうなんだけど…大丈夫なの…。

 

「青葉~…提督~。あたしいるか?」

 

「念ですよ念…加古はもしもの時のために近くにいてください…」

 

「はいよ~…」

 

「さ~てと、鬼怒、久しぶりですね。あなたが向こうにいて退屈だったのは重々承知してますよ…だから、表出ましょうか?」

 

「は!いいね!久しぶりにやりあうか!」

 

 そう言って、青葉さんは鬼怒さんと窓の外へ行っちゃった。加古さんも窓の方から出ていった。それで、阿武隈さんと名取さんは震えているし…古鷹さんは頭を抱えている。司令もなんか考えこんじゃってるし…。ていうことはあれか…ただでさえあれなのに、もっとやばい鎮守府になっちゃったわけだ…。

 

 …あ、外の方では轟音が聞こえている。かなりの衝撃なのかな?地面が揺れているような変な感じがする。S級の7位と8位だもんね…それはすごいわ……………

 

 

 

 

 

 

 

 はぁ、こんなので藤波達大丈夫かな?……少し心配になってきちゃった。…………………………と…まぁ、これがここの様子だよ。……ん?佐世保の時より内容が薄いような気がするって?そう言われてもさ…青葉さん達の喧嘩でそれどころじゃないらしいから……もしも次話す機会があったら、近況報告でもするね…。それじゃあ、藤波の話はこの辺で、ではでは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、やれやれ、ひどい目にあいました…」

 

 青葉は、鬼怒と3時間ほど喧嘩をした後に、自室に戻る。部屋には衣笠がおりパソコンで何やら動画を見ているようだった。最近流行りの遊びの動画でも見ているのだろうか。

 

「あ、青葉!お疲れ様!」

 

「はいお疲れ様です。衣笠、また遊びの動画ですか?」

 

「うん、そうだよ!参考にしようと思って!あといろんな都市伝説とかも調べてるんだ!」

 

「何が楽しいのやら…ほどほどにしてくださいよ」

 

「はぁ~い」

 

 うん、えらいえらい。と青葉は思った。そして、自分もパソコンを開き何やら記事を書く。藤波達の話を書くつもりなのだろう。青葉の趣味は新聞づくりと写真だ。撮った写真もパソコンに入れつつ何を書こうか考える。そして、ふと浜波が気にしていたおもちゃのカメラの方に視線を移した。そして、それに近づいていきゆっくりと手に持った。

 

「もう1()0()()になるんですか…」

 

 青葉はそんなことをつぶやきつつカメラを置き、机に戻って再び記事の内容を考える。そして、ふと写真用のカメラに視線を向けると、レンズがこちらに向いているようだった。その時、青葉の心臓が脈打つのを感じた。冷や汗もかき息も荒くなっていく。

 

『お、いいねぇ…〇〇ちゃん!これなら……』

 

『ほら…さっさと【……】を使って働け』

 

『いいよいいよ!これだったら……』

 

 うるさい…

 

『ほらほら、さっさと…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ⁉」

 

 青葉は慌ててレンズを反対側に向ける。レンズがこちらを向いていたことで嫌なことを思い出してしまった。だいぶ前のことなのに、今でも思い出してしまうのだ。

 

「…青葉、大丈夫?」

 

「え、あぁ、はい!青葉は大丈夫ですよ!まぁ、鬼怒と喧嘩で少し疲れているのかもしれません。30分ほど仮眠をとりますね!」

 

 そう言って、青葉は布団に入り仮眠をとることにした。疲れているときはこうするのに限る。夕食時まで時間があったため、衣笠も青葉を寝かすことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆様、岩川鎮守府の日常はいかがでしたか?青葉の過去に何が起きたのかなどは、またいずれお話しするとします…。では今度こそさようなら!

 

 

 

 

 

次回は、雷達のいる舞鶴鎮守府の日常をお送りします!

 

 




榊原「本当に、どうしてこうなってしまったのか…」
古鷹「大変なことになってしまいましたね…」
雷「そんなんじゃだめよ!何があっても元気に行かないと!」
『うわ(;゚Д゚)びっくりした~!』
雷「ふふん!この雷の出番ね!も~っと私に頼っていいのよ!!ということで次回予告ね!」





 舞鶴鎮守府は、軽巡と駆逐艦を主として戦っていた鎮守府だ。最近は念願の軽空母達を迎え、航空戦もかなり楽になってきたらしい。さらに、S級の矢矧、雷を筆頭に優秀な人材が多い。そんな中で、奮闘する雷が、炊事、家事、戦闘まですべてこなしていく日々を送っていた。

次回:番外編 Side舞鶴鎮守府:雷のもっと頼って大作戦!!!
雷「次回もご期待ください!」


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雷のもっと頼って大作戦!!!

お久しぶりです
今回は雷が主役となっております!
では、どうぞ!!


 朝6時、目覚まし時計が鳴るのと同時に、雷は目を覚ます。布団から起き上がり、背伸びをした後に窓を見る。そして、元気よく声を上げる。

 

「さてと、今日も一日頑張るわよ!」

 

 歯磨き、洗面を終え、制服に着替えると早々に部屋をでる。そして、真っ先に食堂の方へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございま~す!」

 

 料理人達に挨拶を終え、エプロンをした雷は、すぐに料理に取り掛かる。憲兵、艦娘、提督達のご飯数十人分だ。雷の包丁さばきはかなり早く、サラダやみそ汁の具材。はたまたおかずまで、あっという間に切っていく。料理人達も負けていなかったが、速さは雷の方が上だった。そして、全員が思った。下手したらこの子一人で何とかなってしまうのではないか……と…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おはようございま~す…」

 

「おはよう!」

 

「おはよう……ございます…」

 

「あら、三人ともおはよう!」

 

 食堂にやってきたのは、島風・天津風・雪風の3人組。一番早く来ることが多いが、島風と雪風は少し眠そうだ。

 

「島風と雪風は相変わらず朝が弱いわね…。そんなんじゃだめよ!いざって時に寝ぼけたままで出撃してしまうことになるわ!」

 

「起きて少ししたら大丈夫だも~ん…雷が異常に元気すぎるんだよ~…」

 

「雷さんのパワー…雪風達にも分けてください…」

 

「ほら!しゃきっとする!朝ごはん食べて、しっかりと栄養を付けないと!ほら!」

 

 そう言って、ご飯大盛りの食事を三人に渡す。天津風がこんなにいらないと話すも強引に手渡した。まぁ、食べれる量ではあるため大丈夫ではあるのだが。そして、雷は何となく時計を見る。時刻は7時くらいだ。

 

「あらいけない!暁達を起こさなきゃ!電はともかく、暁と響は朝が弱いし!」

 

 雷は急いでエプロンをとり、部屋へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――第六駆逐隊の自室

 

「早く起きるのです!じゃないと雷ちゃんにどやされてしまうのです!」

 

「…う~ん…あと5分…」

 

「ZZZ…ZZZ……ハラショー…」

 

「二人とも起きてください!起きるのです!」

 

 電の必死の声掛けもむなしく、二人は布団から出ようとしない。あたふたしていると、廊下の方から足音が聞こえてきた。それがこちらに向かってきて、ドアが一気に開け放たれる。ドアの方には雷が立っていた。

 

「二人とも起きなさあああああああああああああい!朝7時よ!起床時間よ!ご飯できてるわ!顔洗って歯磨いて着替えてさっさと準備しなさああああああああああああい!じゃないと電撃食らわせるわよ!」

 

『は、はいただいまΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)』

 

 布団から飛び起き、早急に準備を進める暁と響。前に寝坊したときに電撃を食らわされ、強制的に起こされたことがある。かなり痛かったため、金輪際こんなことはごめんらしい。だから言ったのに…と電は心の中で思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふぅ、そういえば、今日は出撃の日だったわね。編成は誰とだったっけ?」

 

「暁…忘れたのかい?今日は能代さんが旗艦で、暁、私、千歳さん、千代田さん、大鷹さんじゃないか」

 

「そ…そうだったわね」

 

 響にそう言われて頬を膨らませる暁。いつものことだから、響はさほど気にしなかった。食堂に付き、朝食をとる4人。朝食をとった後、暁と響は出撃前の最終確認で執務室に向かうことになっている。時間は0900であるためまだ時間には余裕がある。

 

「隣いいかしら?」

 

 食事をしていると、三人の女性がトレイをもって4人の前に立っていた。暁達と出撃する千歳、千代田、大鷹の空母3人組だ。3人もこれから食事をとるようだ。

 

「3人ともごきげんようです!」

 

「доброе утро(おはよう)」

 

『おはようございます!』

 

「みんなおはよう!響ちゃんに限ってはなんて言っているのかわからなかったんだけど…(;´・ω・)」

 

「ドーブラエ ウートラ。ロシア語でおはようだよ(ネット参照)(^-^)b」

 

「いや誰に向かって親指立ててるの?」

 

「画面の向こうにいる皆さん」メタ

 

「えぇ…」

 

 響の言っていることに困惑する千歳。響はたまにおかしなことを言う。まぁ、この雰囲気が場を和ませてくれるから助かってはいるのだが。

 

 話は変わって、空母の3人組はまだ訓練課程の状態でここに配属されたため、経験や練度がほとんどない状態だ。加えて、ここには空母がいなかったため正直右も左もわからない状態なのだ。幸い、大本営からビデオ通話で龍驤が訓練を見てくれているから助かってはいるが。さらに、宮本も空母を指揮するのは初めてになる。それもかねて今回の出撃で空母を入れているらしい。

 

「うぅ…なんか、不安で食事がのどに通りません…」

 

「わ…私も…緊張ですごく気持ち悪い…」

 

「もう、大鷹さん!千代田さん!そんなんじゃだめよ!しっかりとご飯を食べないと、力が出ないわよ!」

 

『そう言われても~…』

 

 二人は緊張のせいか、ご飯を半分も食べていなかった。千歳は逆にご飯をモリモリ食べている。出撃前だというのに、表情には余裕があった。逆にリラックスしすぎのような気もするが。

 

「もう仕方ないわね。台所いって、栄養のあるゼリーか何かをとってくるから…」

 

『あ…ありがとう雷ちゃん…』

 

「ふふん、も~っと頼っていいのよ!」

 

 そう言って、ルンルン気分で歩いていく雷。その様子を見て、千歳はほほえましいなと思いながら食事を食べる。そして、質問をした。

 

「ねぇ、雷ちゃんって頼られるのが好きなの?」

 

「そ、それはもう…家事から戦闘までなんでも任せてほしいって言っているほどなのです…」

 

「お!それじゃあ、今度雷ちゃんにお酌してもらおうか…」

 

「千歳姉(#^ω^)」

 

「…………冗談です(;・∀・)」

 

 千代田の圧に千歳はビビりながらお茶をすする。千歳は酒が好きで、毎日晩酌をしている。たまに飲みすぎて二日酔いになるほど。おおよそ、雷をべた褒めして酒をあおって飲むつもりだったのだろう。千代田の圧に大鷹はビビって少し距離を置いてしまう。そんな中雷が戻ってきた。

 

「はい、持ってきたわよ!…あれ?どうしたの?」

 

「なんでもないわ雷ちゃん!ゼリーありがとう!よかったら、今度得意料理教えてくれない?」

 

「あら!いいわよ千代田さん!も~っと雷に頼っていいんだからね!」

 

 千代田の言ったことに、嬉しそうに笑う雷。その様子を見て、暁達は糸目になりながらお茶をすする。千代田は、雷の頭をなでながらこう思った。

 

(この子に悪い虫が来ないようにしないと……ここなら大丈夫だと思うけど…この子純粋すぎるわね…特に千歳姉には悪だくみさせないようにしないと!)

 

(…………(・・?))

 

 そんなことはつゆ知らず、雷は頭に?マークを浮かべるだけだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、提督。艦隊、出撃しますね!」

 

「えぇ、行ってらっしゃい!」

 

「行ってらっしゃ~い!」

 

 艦隊の出撃を見送り、提督の宮本と雷は手を振る。全員が沖合に出た後に、執務室へと戻ろうとする宮本。その後ろ姿を見て、雷が胸を張って話し出す。

 

「司令官!書類に執務仕事、この雷に任せてもらっていいのよ!」

 

「…あぁ、雷。今日は休んでいいわよ…出撃続きだし、家事だっていろいろしてくれてるじゃない…だから、この後は休んで…」

 

「雷は大丈夫よ!はい、ていうことでさっそく執務室に行って早く仕事を終わらせるわよ!」

 

「あ、ちょっと雷!」

 

 宮本が止めるのを無視して、雷は早歩きで行ってしまう。その様子を見て、宮本は頭を抱えていた。じっとしているのも仕方ないため、宮本は雷についていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、執務室につくと矢矧が書類作業をしていた。矢矧は二人に気づくと軽く会釈をする。そして、雷の存在を知ると矢矧は真っ先に宮本を見る。宮本はハンドサインを送る。

 

(雷を何とかして!(;゚Д゚))

 

((―人―b))

 

 宮本の意図をくみ取り、矢矧はすぐさまラ〇ンを送る。少しすると、スマホから着信音がなる。送り主からは「了解なのです!」と返信があった。

 

「雷、悪いんだけど電が頼みごとをしたいみたいなの。そっちに行ってくれないかしら?」

 

「えぇ?今来たばかりなのに…。それに、頼み事はあとで大丈夫よ…。電には私から言っておくから…」

 

「え…あ、いや…」

 

「私がいれば、書類仕事なんてお茶の子さいさいよ!も~っと私に頼っていいんだからね!」

 

「あ…いや…だから…」

 

「ほらほらほら!さっさとやりましょう!」

 

 そう言って、雷は書類整理に取り掛かろうとする。宮本はすぐさま矢矧にアイコンタクトをする。そして、矢矧もすぐにラ〇ンを送る。送り主は電だ。

 

(電Σ(゚Д゚;≡;゚д゚)ヘルプ!!早く来て!!!)

 

 矢矧がヘルプを求めているのに対して、雷は書類整理を始める。しかも、かなり上機嫌な様子で。

 

(ふっふ~ん。さてと、司令官からもっと頼ってもらうには、雷が頑張らないとね!)

 

 宮本と矢矧が試行錯誤をしているのをつゆ知らず、雷は書類整理に取り掛かる。ルンルン気分で書類整理をしていると、廊下の方から足音が聞こえてきた。よほど急いでいるのかものすごい勢いだ。そして、執務室のドアが勢いよく開けはなられる。すると、そこから電が出てきた。

 

「雷ちゃん!」

 

「あら、電?どうしたのよ…?」

 

「早急に頼みごとをしたかったのに!どうしてすぐに来てくれないのですか⁉」

 

「え…だって…」

 

「雷ちゃんは何かに集中すると、携帯を見るのが遅くなることがあるではないですか!だから、矢矧さんに連絡して雷ちゃんがここにいることを確かめたのです!それなのに、電の頼みごとをそっちのけにするなんて!」

 

「え…えぇと…」

 

「とりあえず!早く来るのです!」

 

「ちょ⁉待って!雷はまだ何もできていない!待って電!書類仕事が終わったら行くから!」

 

 雷の有無を聞かず、電は雷の腕を引っ張っていく。二人の様子を見て、宮本と矢矧はお互いに顔を合わせ手の上に顎を乗せる。その姿は、エ〇ァの碇ゲン〇ウのようだった。

 

「さて、提督…雷が戻ってくるまでどれくらいだと思う?」

 

「電の足止めを含めても…もって30分…」

 

「じゃあ…わかってるわよね提督?」

 

「えぇ…もちろん…」

 

 そう言って、二人は目の前にある書類の山を見る。厚さ20cmはあるであろう程だ。深呼吸をしながら、ペンを握りしめる二人。一気に目を開けると、二人は猛スピードで書類の山を片付け始める。とある目的のために。

 

『あの子が帰ってくる前に、書類を8割は終わらせて見せる!!』

 

「だいたい!あの子は休まなすぎなのよ!休んでいいって言っているのに、どうしてこう頼ってちゃんなのよ!」

 

「本当にどうすればいいかしら矢矧…あんまり強く言ったらあの子が傷ついちゃうかもしれないし…」

 

「確かに…あの子意外と考えが極端だからね……まぁ、この話はあとよ提督!今は、書類の山を!」

 

「そうね…今はこれに集中よ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、これを直してほしいの電?」

 

「なのです!響ちゃんがこういうの得意なんですけど、今は出撃中ですので…」

 

 電に連れられた雷は、オルゴールを手渡された。壊れてしまったのか、ねじを回しても動かないらしい。響が細かい作業が得意らしいのだが、今は出撃でいないため雷に頼んだのだ。書類仕事などをやらせないようにする名目もあるが…。

 

「ふっふ~ん。任せなさい!雷にかかればお茶の子さいさいなんだから!」

 

(よかったのです…こっちに集中してくれた…)

 

 電は少しだけホッとする。しかし、おそらくこの作業も長くは続かない。もって30分ほどが限度だろう。電は、どうするべきかを悩んでいるとあることを思いつく。すぐさまメールを送信し、部屋まで来てもらうようにと伝えた。すると、すぐに【OK】のスタンプがきた。雷は、電がそんなことをしているとはつゆ知らずに作業に没頭する。分解から中身を見て、それを直している最中だ。

 

「電、このオルゴール。確か吹雪姉にもらったのよね?」

 

「なのです。着任祝いにもらったものなのです。前々から欲しかったオルゴールだったので」

 

「まぁ、それを言ったら雷達全員もらってるんだけどね。暁はお守り。響はブレスレット。雷は包丁!」

 

 雷達は、着任祝いにそれぞれ吹雪からプレゼントをもらっていた。ちなみに、特型駆逐艦の面々は全員何かしらプレゼントをもらっていたらしい。それぞれが欲しかったものや吹雪が選んでくれたものなどさまざまらしい。そんなこんなで雷がオルゴールを直していく。時間的にちょうど30分程度だ。

 

「さてと、オルゴールも直ったことだし、雷はこのまま執務室に行って書類仕事を手伝って…」

 

 直後、“バーン”という音とともにドアが勢いよく開け放たれる。ドアには雪風、島風、天津風トリオが立っている。手にはゲームコントローラーが握られている。三人してゲームでもしていたのだろうか?そして、雪風が元気よく話し始めた。

 

「雷さん!よかったら一緒にゲームしませんか⁉手伝ってほしいんです!モン〇ンで‼‼」

 

「え⁉でも雷これから執務室にって書類仕事を…」

 

「提督達に任せておけば大丈夫だよ!雷今日は非番なんだからさ、島風達と一緒にゲームしようよ!」

 

「で…でも…」

 

「二人が言ってるんだから、やりましょう。それに、この中で雷が一番ゲーム上手なんだから…」

 

「ゲームなんていつでもできるじゃない。それに、雷の優先順位の中では、司令官達を手伝うことが一番…」

 

 そう言った途端、三人があからさまに落ち込み床に座り込んでしまう。雪風と島風なんてぶつぶつと何かを話し出す始末。

 

「はぁ…雷さんに頼りたかったのにな~…もういいです。雪風達だけでクエストやるからいいですよ~だ…」

 

「うっ…」

 

「雷は島風達と関わるより仕事の方が大事なんだね~…島風達のことどうでもいいんだ~…ふぅ~ん…」

 

「グサッ(゚Д゚“)」

 

「……雷~。書類仕事と私達…どっちをとるのかしら~?雪風と島風を悲しませるのは許さないわよ~…」

 

「うぅ…」

 

「さぁ、どっちをとるのかしら~…?」

 

 光のない目で雷を睨む天津風。その威圧感に雷は一瞬電を見るが、電は知らないというような態度をとっている。

 

(電ぁ…さてはあなたが…)

 

(雷ちゃんがせっかくの休みなのに仕事しようとするからです。して、どちらをとるのですか?せっかくこの三人から頼られているのに、それを無下にするわけにもいきませんよね?)

 

(むむむ…)

 

 口パクでやり取りをする二人。雷はもう一度三人を見る。雪風と島風はさみしそうな顔で、天津風は変わらない表情で雷を睨んでいる。そして、観念したように雷は大声を出す。

 

「あぁもう!わかったわ!雷の力が必要なんでしょ!どんなクエストでも、この雷にかかればお茶の子さいさいよ!さぁ、もっとこの雷を頼りなさい!」

 

『その言葉を待っていました!』

 

「さぁ、さっそく雪風達の部屋に参りましょう!」

 

「早く行こう!雷おっそ~い!」

 

「ちょっとΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)手を引っ張らないでえええええええええええええええええええ」

 

 二人に手を引っ張られ、雷は猛スピードで雪風達の部屋に向かうことになった。その三人の様子を電と天津風は笑いながら見ていた。

 

「ありがとうなのです天津風ちゃん」

 

「いいのよこれくらい。休みの日も絶対仕事しようとするんだから…」

 

「たまには息抜きしてほしいのです…。でも、何でもかんでも自分を頼ってほしいというから…」

 

「将来悪い男にたぶらかされないか心配ね…」

 

「なのです…」

 

 二人はそう言って肩を落とす。雷は周囲の人に頼ってもらいたいという欲求が強すぎる。周囲からしてみればありがた迷惑なくらいだ。だから宮本達は何とかして雷を休ませてあげたかった。だからこうして電に頼ったわけなのだ。

 

「まぁ、私は行くわ!また何かあったら私達に相談してね!」

 

「ありがとうなのです!天津風ちゃん!」

 

 天津風はそのまま雪風達を追っていく。電はそのまま部屋に残ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――雪風達の部屋

 

「やった~~~~~~~!!!とうとう…とうとうミラ〇レアスを狩れましたあああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

「さすが雷だよ!雷がいれば百人力だよ!それに、すっごく早く狩れるしね!!」

 

「ふふん!この雷に任せれもらえれば当然よ!も~っと私に頼っていいのよ!」

 

(…本当に…この子は単純よね~…)

 

 モン〇ンのラスボス的な立ち位置にいるとあるミラボ〇アス狩れたことで喜ぶ雪風と島風。二人の言葉に胸を張っている雷。その三人を微笑ましく見つめている天津風。4人で今の今までゲームをしていたところ、時刻は正午を過ぎていた。ちょうど昼ご飯の時間だ。

 

「あら、もうこんな時間じゃない⁉お昼ご飯を食べなきゃ!」

 

「はい!たくさん戦った後はご飯を食べるのに限ります!そしたら、またそのあとは4人でゲームしましょ!何ならスマ〇ラを!!」

 

「おう!そうだ!もしも、岩川所属の初雪さんが非番だったら、オンラインプレイでもしようよ!」

 

「あらいいわね!私達ちょうど暇だし、やりましょう!」

 

「とりあえず、その話はお昼を食べてからよ…別にゲームなんていつでもできるわけだし…ほら、早く行かないとお昼が食べれなくなるわ!」

 

 4人は部屋を出て食堂に向かう。行く途中に雷が思い出したように雪風達に話しかけた。

 

「そうだ、3人は先に行っててくれる?ちょっとよるところがあるから!」

 

『はーい!』

 

 そう言って、雷は階段を駆け上がっていく。3人はそれを見送った後に食堂へと向かう。しかし、途中で立ち止まると島風と天津風が慌てた様子で階段の方を向いて叫ぶ。

 

「しまった!もしかして、執務室の方に向かったんじゃΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

「どうしようどうしよう!このままじゃ、雷が仕事始めちゃうよ!」

 

「…大丈夫ですよ二人とも」

 

『何が大丈夫なの(゚Д゚;)だって雷が⁉』

 

「…幸運の女神が微笑んでるんです…絶対大丈夫」

 

 そう言って、雪風は手のひらを見つめる。雪風の手には、さいころが転がっており、その目は6を出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だだだだだだだだだだだだだだだだだだだ

 

『……あ…察し(;・∀・)』

 

 バーーーーーーーーーン

 

「司令官!矢矧さん!仕事を手伝いに来たわ!この雷がいれば、書類仕事なんてお茶の子さいさい…」

 

『ごめんなさい。もう終わったわ(;・∀・)』

 

「ガーンΣ(・□・;)」

 

 勢いよく執務室に来た雷。書類仕事を手伝おうとしたが、もうすでに二人が終わらせてしまっていた。雷が雪風達とゲームをやっていたのは約3時間半。それだけあれば、猛スピードで書類をさばいていけば昼には終わる計算だった。終わったのはかなりぎりぎりだったが、それでも雪風達がなんとか時間稼ぎを頑張ってくれた。

 

(…危うくこの子に仕事をさせるところだった…ふぅ…)

 

 胸をなでおろす宮本。安心して雷の方を見るが、雷は魂の抜けたような表情をして宮本を見つめていた。しばらく沈黙が続いてしまったため耐えかねた宮本が雷に声をかける。

 

 すると……

 

「二人のばかああああああああああああああ!どうして私を頼ってくれないのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

『え…ええ(゚Д゚)』

 

「二人が頼んでくれれば、私は喜んで手伝ったのに!ゲームをするのもよかったけど、それでも司令官達のために何かをしたかったのよおおお!」

 

「お、お、落ち着いて雷!ね!ね!!」

 

「あ!そうだわ!雷、あとで阿賀野姉が頼みたいことがあるって言ってたわ!」

 

「何々⁉どんな頼み事!この雷に任せて頂戴!」

 

 雷のあまりに剣幕にたじろぐ宮本だったが、矢矧が機転を利かせたことによって雷の機嫌が直った。目を輝かせる雷に矢矧は真剣な表情で話した。

 

「最近、阿賀野姉の寝つきが悪いみたいでね…まぁ、あんな性格だから生活習慣が乱れてるんだと思うけど…だから、昼ご飯を食べた後に阿賀野姉の部屋に行ってきてくれる?今日は非番だから、日課のお昼寝をしていると思うの。寝すぎないように見張ってきて頂戴」

 

「わかったわ!も~っと雷に頼っていいのよ!」

 

「あと、夕方に能代姉がカレーを作らないか見に行って頂戴!」

 

「は~い!」

 

 ルンルン気分で出ていく雷。雷を見送った後に今度こそ胸を撫でおろした二人。とりあえず、執務仕事をさせないことは達成できた。あとは時間が過ぎてくれるのと、阿賀野と能代でどれほど時間を稼げるかだ。

 

「ナイスファインプレーよ矢矧!(・∀・)b」

 

「これくらい楽勝よ( ̄▽ ̄)b」

 

 二人は笑顔で親指を立てる。仕事も終わったため、そのまま食堂に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――昼食後、阿賀野型の寝室

 

「……さてと、阿賀野さんは今何をしているのかしら?」

 

 今現在、雷は扉の前に立っている。阿賀野は大体非番の日は昼寝をしていることが多い。それが、【だらし姉】というあだ名がついた由来だ。雷はゆっくりと深呼吸をし、ドアをノックする。昼食後であるため、さすがに昼寝はまだしていないと思うが…。中から「は~い!」という元気な声がこだまし、中から酒匂が出てきた。

 

「雷ちゃん、待ってたよ!」

 

「……あれ、阿賀野さんは?」

 

「阿賀野お姉ちゃんは、そこ!」

 

 指をさした方向には、阿賀野がすでにベッドで横になっていた。まだ寝てはいなかったが、携帯をいじっておりいつでも寝れるようにしているようだ。

 

「ちょっと阿賀野さん。ご飯を食べた後に横になったら体に悪いわよ…」

 

「……うーん、まぁまぁ雷ちゃん。そう言わずに、おいでおいで!」

 

 手招きをして、雷を呼ぶ阿賀野。やれやれと思いつつ、雷は阿賀野に近づく。ベッドに近づいた瞬間、阿賀野が雷の手を引っ張り強引に抱き寄せた。

 

「ちょっと阿賀野さん⁉」

 

「まぁまぁまぁ、よいではないかよいではないか!偶には一緒にお昼寝でもしましょうよ!」

 

「え⁉あ、ちょっと!」

 

「じゃあ、酒匂も一緒にお昼寝し~ようっと!」

 

 前には阿賀野、後ろには酒匂と完全に板挟みにされてしまった雷。雷はなおももがこうとするが、二人に完全にホールドされてしまっているため身動きが取れない。そして、しばらくすると二人は眠ってしまった。

 

「もう、せめて目覚ましだけでもセットしておかないと!」

 

 雷はポケットから携帯を取り出し、アラームを設定する。時間は2時間後の3時だ。それだけ寝れば、阿賀野達には十分だろう。3時以降になったら、能代のところに行きカレーを作らないようにしなければならない。能代も厨房を手伝ってくれることがあるのだが、ことあるごとにカレーばかりを作ってしまう。

 

「……はぁ、雷は一緒にお昼寝をしたかったわけじゃないのに…でも、ご飯を食べた後だからか…少し…眠い……」

 

 そして、雷もいつの間にか規則正しい寝息を立てて眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

―――1時間後

 

「……まったく、やっと休んでくれたのね…雷も本当に頑固なんだから…レディーとしての自覚がないのかしら…」

 

「暁、今はレディーとかそういうのは関係ないと思うよ。雷は頑張り屋だし、みんなの役に立ちたいんだよ。今はお昼寝中だし、起こさないでおこう。それに、この光景はすばらしくハラショーだ」

 

 こっそり部屋をのぞきに来たのは、出撃から帰ってきた暁と響。矢矧から阿賀野達の部屋にいることを伝えられ様子を見に来たのだ。雷のことだから起きていて何かしらしているのかと思ったが、結果は見ての通り。まさか一緒に寝ているとは思っていなかったが。

 

「さてと、雷は寝ていることだし私は部屋に戻るとするかな。暁は?」

 

「私も部屋に戻るわ。戻って吹雪姉にいろいろ聞きたいことがあるし…」

 

「今は出撃中かもしれないよ。ただでさえ頻繁に出撃があるらしいし、長期の遠征任務もあるらしいしね」

 

「ちゃんと確認はとってるわよ。午後は空いてるって!だから、ビデオ通話でいろいろ聞くわ!」

 

「実にハラショーだ。私も吹雪姉と話すとしよう!電もいるから、長電話になりそうだね。充電しながらやるとしよう」

 

 そう言いながら二人は部屋に戻っていった。その後、案の定長電話になったらしいが、終始楽しく電話をしたそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――さらに一時間後

 

 携帯の目覚まし時計の音が鳴り響き、雷は目を覚ます。ゆっくりと体を起こし、体を伸ばす。音を止め、ベッドから降りると阿賀野と酒匂を起こそうとする。

 

「二人とも~。起きる時間よ~。起きないと夜眠れなくなるわ~」

 

「…は~い、今起きるね~…」

 

 酒匂は目をこすりながら体を起こす。ベッドから出てそのまま窓の方に向かう。そして、窓を開けて外の空気を眺めた。起きた後の酒匂のルーティンなのだろう。しかし、阿賀野はなかなか起きる気配がなく、むしろ布団をかぶりまだ寝ようとしていた。

 

「阿賀野さん、起きないと夜眠れなくなるわ!」

 

「う~ん、あと5分…」

 

「あと何分とか思ってるから起きれるものも起きれないのよ!ほら、さっさと起きる!」

 

「あと5分だけ~…」

 

 阿賀野の対応に少しむっとした雷。体に電気を帯びたかと思うと、一気にそれを阿賀野めがけて放出する。

 

「いいからさっさと起きなさ~~~~~~~~~~~い!!!」

 

「いぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

 電撃を食らった阿賀野は体全身を震わせながら飛び上がる。ベッドから飛び上がると床をそのまま転げまわった。体をぴくぴくと震わせながら涙目で雷に訴える。

 

「い…雷ちゃん…痛い…」

 

「自業自得よ!さっさと起きて!夜しっかり寝たいなら、ちゃんと起きててよね!」

 

「は…はい…」

 

 そう言ってゆっくり起き上がる阿賀野。まだ眠いのか、あくびをしながらふらふらと歩いて行った。とりあえず部屋の外に出るつもりなのだろう。雷も二人が起きたことを確認したため、部屋から出ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さてと!」

 

 今現在、雷は食堂の前にいる。なぜ食道の前にいるのかというと、理由は単純。今日は能代が食堂の手伝いを意気込んでいたためだ。前にも説明したかと思うが念のためもう一度説明をしておく。能代は料理を作るときは必ずと言っていいほどカレーになってしまう。もう一度言う。カレーを作ってしまうのだ。なぜかはわからない。そして、本人もどういうわけかそれを理解していない。雷はそれを食い止めるためにここに来たのだ。夕食の仕込みは早くても3時半から4時くらいにはすることになっている。時間通りなら能代はここにいるはずだ。

 

「なんでカレーを作ってしまうのか。その秘密、見せてもらうわよ!」

 

 雷は扉を開け、そのまま調理場まで向かう。調理場には仕込みを行っている職員の者達に紛れて、能代も手伝いを行っていた。ちょうど具材を確認していたらしくまだ料理をしていなかった。

 

「能代さん!」

 

「あぁ、雷。あなたも手伝いに来たの?」

 

「えぇ、矢矧さんに頼まれてね!(実を言うと能代さんの監視なんだけどね(;´・ω・))」

 

 雷はさりげなく能代の横に立つ。そして、夕食の仕込みをしつつ隣にいる能代に目をやる。作ろうとしているのはみそ汁だろうか?豆腐やわかめ、玉ねぎなどの具材が並んでいた。

 

「え~と…水を入れて、具材を煮込んで、みそと調味料と…」

 

(うんうん、今のところは順調ね!)

 

 作業が順調なのを確認し一安心する雷。これなら大丈夫そうかと思ったが、数秒後にとんでもないものが出てくることになった。

 

「…あとは、カレー粉に…」

 

(うん?)

 

「隠し味にチョコレートとコーヒー豆…」

 

(んん??(*_*;))

 

「…あぁ!スパイスに!」

 

「待って待ってちょっと待って能代さんΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

 雷は慌てて止めに入る。幸いにもまだそれらの調味料を入れる前だったので、ちゃんとまだみそ汁だ。止めに入っていなかったら一体どうなっていたことか…。

 

「…え?どうしたの?」

 

「どうしたの?…………じゃないわよ(# ゚Д゚)どうしてみそ汁作るだけなのに、カレー粉にチョコレートにコーヒー豆、スパイスが出てくるわけ⁉もはやそれカレーよカレー!!」

 

「えええええええええええええええ!そうだったのおおおおおおおおおおお(;゚Д゚)」

 

「自覚していない方がおかしいでしょうがああああああああああああ!!」

 

 二人して絶叫する。はたから見れば一体何が起こっているのか疑問に思ってしまうほど。というかもはやコントの状態だ。能代がボケで雷が突っ込み役のようになってしまっているほど。

 

「とにかく!今から私の言うことをちゃんと聞いてよね!じゃないとカレーを作ってしまうから!拒否権はないわ!」

 

「え…そんなこと言われても…」

 

「拒否権はないって言ってるの!いいから私の言うことを聞いて!」

 

「は…はい…」

 

 能代はそのまま雷の言うことを聞きながら料理をしていく。途中、違うものを入れてしまいそうになることがあったが、何とか雷がそれを阻止し無事にみそ汁が完成したのだった。

 

 しかし、みそ汁が完成したのもつかの間鎮守府中にサイレンが響き渡った。おそらく領海内に深海棲艦が侵入したのだろう。雷と能代はすぐさま外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令官、状況は?」

 

『鎮守府近海に戦艦級2隻、空母1、重巡3よ。全艦がflagship級よ。今矢矧に出てもらっているわ』

 

「……そう、なら私は念のため周囲の警戒を…」

 

 雷は、念のため電磁波で周囲を確認する。その時に、何か違和感を感じた。雷のいる場所からおそらく数十キロ圏内の場所。そこの海底に何かがいた。数は12。

 

(…っ⁉嘘でしょ!)

 

「司令官!数十キロ圏内の海底に敵がいるわ!数は12!矢矧さんが向かった場所にいる深海棲艦はおそらく囮よ!」

 

 雷は工廠に走りながら通信を入れる。反応が強かったためおそらくflagship級であることは確実だ。雷は工廠につくとすぐさま艤装を装備する。出撃準備は万端だ。

 

『雷、今どこ?対処できる?』

 

「今工廠よ!すぐ出撃できるわ!」

 

『雷、すぐに出撃して頂戴。念のため能代達にも出撃してもらうわ!』

 

「了解」

 

 雷はすぐに海上へと向かう。反応があった場所へと直行すると、そこには戦艦4、空母3、重巡5の連合艦隊が待ち受けていた。しかも、全艦がflagship級とかなり手ごわい編成だった。しかし、雷は焦ること無く冷静だ。全艦がflagship級なのは初めてだが、単騎で出撃している数もかなり多い。連合艦隊編成は慣れっこだ。

 

「ふふん、この雷に勝てると思ってるのかしら?」

 

 直後、相手の戦艦達が一気に砲撃を始める。雷は能力を解放し瞬時にそれを避ける。そして、相手に電撃を纏った砲撃を食らわしていく。だが、さすがはflagship級。小破までもっていくことができなかった。いくらS級と言えど、雷は駆逐艦。砲撃の威力にも限界がある。

 

(なら、雷撃で一気に……だめね。それでも仕留めきれないか…。なら、いったん相手全員の動きを止める!)

 

 雷は一気に距離を詰めていく。空母が艦載機を発艦しようとするが、雷はそれを砲撃で阻止する。相手の砲撃の雨が降り注ぐ中、雷はそれを回避しつつ相手のど真ん中まで来た。そして、懐にしまってあった大きな針のようなものを取り出すと、一気にそれを周囲に投げる。深海棲艦達に突き刺さるのを確認すると、雷は一気に電流を流し込む。すると、周囲にいた深海棲艦達は一気に電撃を受けその場で動けなくなってしまった。

 

「ふふふ、いい出来ね。さすが夕張さんだわ!白露が武器を作ってもらったって聞いたときに、わざわざ大本営に連絡して作ってもらった甲斐があったわ!あとで夕張さんに連絡しなきゃ!」 

 

 雷が放ったのは、夕張が作った雷専用の武器。名は避雷針(ひらいしん)。20cmほどの針とそれをつなぐワイヤーがついているのが特徴だ。対多数戦を得意とする雷にとってこれほど有用な武器はないだろう。相手に針を刺し、そこから電流を流し込めば一気に制圧することができる。

 

「動きが鈍くなってる分、いい的よ!」

 

 雷は、砲撃と魚雷を一気に放つ。しかし、それでも決定打に欠けてしまった。相手はよくて中破レベル。おまけに、雷が持っている避雷針は8本。他の4体はまだダメージが少ない。重巡級が一気に雷に砲撃をしてくる。雷は一旦距離をとる。

 

「……さすがに、flagship級だと少し分が悪いわね。相手も装甲が固いしどうしたものかしら…」

 

 雷は相手を制圧する能力には長けているものの、相手を仕留めるとなると火力が足りないのだ。たとえ避雷針でカバーしたとしても、砲雷撃の火力が足りなければ意味がない。

 

「…なら、その分スピードで翻弄してやるわ!」

 

 雷は身体に電気を纏い、一気にスピードを上げていく。相手に砲撃を食らわせ、いったん距離をとり、また相手に攻撃をする。ヒット&アウェイで相手を攻撃していくことにする。さらに、避雷針で動きを封じ、そのすきに雷撃を存分に食らわせる。その戦法をすることで、重巡級は3体撃沈。空母大破、戦艦を中破にまでもっていった。残りの者を撃沈させようと構えた瞬間、相手が一気に切り倒された。何事かと思い、周囲を見るとそこには沖合に出撃していた矢矧の姿があった。急いできたのか、少し肩で息をしている様子だった。

 

「雷、無事ね」

 

「矢矧さん!思ったより早かったのね!」

 

「……えぇ、まぁ…少し疲れたわ…」

 

「……矢矧さん…もしかして…」

 

「お~い!二人とも無事~!」

 

 話をしていると、遠くの方から島風が近づいてきているのを確認した。周りには、能代や天津風、雪風もいる。おそらく加勢に来たのだろう。

 

「えぇ、見ての通り無事よ」

 

「よかった、二人とも。周囲に敵影は?」

 

「…………うん、電探に感はないし、それらしい気配もないし大丈夫」

 

 雷は電探と能力を使い周囲を確認する。幸いにも、周囲に敵はいなかった。最近、elite級やflagship級の襲撃が増えてきている。何かの予兆なのだろうか。

 

『みんな、お疲れ様。こっちでも確認したけど、周りに敵はいないわ。みんな帰ってきて大丈夫よ!』

 

「了解よ。じゃあ、みんな帰りましょうか」

 

 矢矧が全員に帰島を促す。全員で鎮守府に帰還する際に、雷は小声で矢矧に話しかける。

 

「矢矧さん、もしかしてあれを使ったの?」

 

「……えぇ、まあね…少し本気を出させてもらったわ。おかげで疲れたけど」

 

 矢矧はそのまま、足早に鎮守府に戻っていく。雷も後を追い、鎮守府へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、疲れた…」

 

「……そうだね、少し疲れた。今日はぐっすり眠れそうだ」

 

 夜になり、寝室に集まった暁型一同。寝る準備は万端であり各々が布団の上にいる。今日はいろいろあって本当に疲れた。暁と響は出撃。電は雷が仕事しないように見張り。雷は、家事に戦闘に、色々やったからかなり疲労感があった。

 

「確かに疲れたのです。今日はもう寝るのです…」

 

「はいはい。じゃあ電気消すわよ!みんないいわね?」

 

「あ、ちょっとまって雷。せめて豆電球に…」

 

「何よ暁…もしかして暗いのが怖いの?」

 

「べ…別にそんなんじゃないし!」

 

「じゃあいいわね!消すわよ!」

 

「う…ひ…響!暗いの怖いでしょ!い…一緒に寝てあげるわ!」

 

「……やれやれ、そういうことにしてあげるよ…でも、布団なんだし近くにいるから怖くは……あ、はいわかったから。一緒に寝ようか」

 

 暁が響きの布団に潜り込み一緒に寝ようとしている。やれやれ…と雷は思った。暁は前からこうだ。何かと誰かの布団に潜り込む。まぁ、日常茶飯事だし気にすることはない。雷は全員が布団に入ったのを確認するとベッドに入り眠ることにした。

 

(は~あ…明日は確か出撃があったな…その前に家事に洗濯に……どうやってみんなに頼ってもらおうかな~…まぁ、明日にでも考えよう)

 

 雷は、数分後に規則的な寝息を立てて、深い眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――鎮守府近海

 

「……はぁ、はぁ、はぁ…」

 

 矢矧は、夜に艤装を装備し海上に出ていた。手には刀も持っている。周囲には自分を囲うように的があり、少し遠くの方にも的が一つ置いてあった。自分の周囲にある的は真っ二つに切られているものの、遠くにある的だけは中途半端に切断面があるだけだった。矢矧は海上に座り込み空を仰いだ。

 

「駄目ね…やっぱり()()()()()できない…どうしても…」

 

 矢矧は自分の手を見る。この力が宿ってから一体何年たったのだろう。前と比較すれば、だいぶましにはなってきたのだろうが、戦闘になればマイナスになってしまう。単体で出撃しない限り、おそらくこの力は使えない。

 

「訓練あるのみね…」

 

 矢矧は、的を片付けると鎮守府に戻っていった。全員がもう寝ているため、なるべく静かに行動したそうだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――雷のもっと頼って大作戦!!! 終わり

 

 



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佐伯湾の夜の日課

こんばんわ!お久しぶりです!
今回は佐伯湾鎮守府のお話です!
それでは、どうぞ!


「…………はぁ」

 

「し、しおいちゃん…珍しいわね…どうしたの?ため息なんてついて…」

 

 時刻は20:30。今現在、食堂にしおいと鳳翔の二人がいる。鳳翔はもともと居酒屋の店長をしていたこともあり、提督である服部に許可をとって夜に酒やつまみなどを鎮守府にいる者達に振舞っている。鳳翔も出撃などがあるため日時は不定期ではあるが。今夜もしおいをはじめ憲兵や整備士達も来ているのだ。たまに酔いすぎて悪酔いしてしまうものがいるらしいが、その時は鳳翔が実力行使で黙らせることがあるらしい。一度鳳翔に実力行使を食らおうものなら、以降その者達はおとなしくなってしまうとか。

 

「…鳳翔さ~ん…話を聞いてくださいよ~…」

 

「はいはい、じゃあしおいちゃんの好きな料理作るから。飲み物は?」

 

「…メロンソーダをお願いします…」

 

 鳳翔は冷蔵庫から炭酸水とメロンシロップを取り出す。氷を入れたコップにその二つを入れていきしおいに出してあげた。そして、一度厨房の方に行き料理を作る。しおいはメロンソーダを一気に口に流し込み一息ついた。

 

「…はぁ、なんか前と比べたらflagship級やelite級の深海棲艦は増えてきてるし、近海まで攻められることもあるし、何なんだろう…。うちは潜水艦と駆逐艦が多いから、敵を倒すのに時間がかかっちゃうし…幸いにも、全員戦い方を理解しているから大破までいったことはないけど…重巡級は那智さんのみ…空母も鳳翔さんだけだしな~…」

 

「はいお待たせしおいちゃん。お刺身の盛り合わせとあら汁!」

 

 愚痴を言っていると、鳳翔が料理を持ってきてくれた。しおいは海鮮系が大好きで、よく鳳翔のところへ来ては、刺身とあら汁を頼むのだ。しおいは、箸をとり料理を食べていく。やはり最高だ。普段ここで食べる料理もおいしいが、鳳翔の作る料理はさらにおいしい。

 

「何か悩み事しおいちゃん」

 

「鳳翔さ~ん、最近強い敵が多くないですか?」

 

「そうですね…以前と比べると、flagship級やelite級が増えてきましたね。近海まで迫ることもありますし。ですが、私達のやることは変わらない」

 

 それもそうか…としおいは納得する。しかし、鳳翔もここ最近の深海棲艦の動きはおかしいと感じた。以前と比べると活発になってきている。佐伯湾はここ最近深海棲艦の襲撃が少なかったのに。

 

(確かに、flagship級やelite級の動きが活発ね。何かの予兆なのかしら……深海棲艦の大侵攻以降こんなこと無かったはずなのに……そういえば、長門さんが新種を確認したと言っていたわね。もしかして、それと関係が?)

 

 考えを張り巡らせている鳳翔。だが、今考えても仕方ない。そう思い、一度厨房の方に行こうとすると食堂の扉が開いた。扉の方には、神風型の5人。神風、春風、朝風、旗風、松風が来ていた。

 

「…はぁ~。今日も強敵ぞろいだったわね~…。大体、何なのよ今日の敵は(#^ω^)戦艦ル級フラ1、重巡リ級elite3、軽巡ホ級elite2、駆逐イ級1…。何なのよこれは(# ゚Д゚)」

 

「か…神風姉様(;゚Д゚)そんなに怒らなくても…ね(;´・ω・)」

 

「考えてみなさいよ春風!私達全員B級なのよ!!全員の霊力は1万切ってるんだからね!5人全員合わせても、しおいちゃんの霊力といい勝負なんだからね!」

 

 神風達の霊力は全員が9千弱と霊力が低く、さらに神風型ゆえの特性なのかステータス値が低い。しかし、潜水艦達と組むことで全員がなかなかの戦果を挙げている。全員がそれぞれの戦い方で戦地を切り抜けているのだ。

 

「まぁまぁ、みんなそれぞれの戦い方で戦果上げられてるんだからいいじゃない!神風姉さんは刀を使った白兵戦、春風姉さんは鉄の強度を持っている番傘を使った戦い、旗風が爆弾付きのクナイ、松風は………………特に何もないわね…」

 

「それを言うなら、朝風の姉貴だってそうじゃないか…」

 

「失敬な!私はサポートで艦隊を助けているのよ!」

 

「それを言うなら僕だってそうだ!」

 

 ワァーワァーギャーギャー…と朝風と松風は騒ぎ出す。そんな二人を横目に3人はそれぞれ席に着く。朝風と松風は大体こんなふうに喧嘩をすることが多い。まぁ、いつも通りのことだから正直慣れっこだ。

 

「…鳳翔さ~ん。オレンジジュースとリンゴジュースとぶどうジュース!あと、唐揚げとお茶漬け!」

 

「は~い。ちょっと待っててね」

 

「あ、私牛乳!」

 

「じゃあ僕はウーロンハイ!」

 

「誰よ酒頼むバカは(# ゚Д゚)あなたまだ未成年でしょうが!鳳翔さん、ウーロン茶よ!松風にはウーロン茶だからね!」

 

「…冗談だよ神風の姉貴。いつもやってるじゃんか…」

 

「言っていい冗談と悪い冗談があるでしょうが(# ゚Д゚)」

 

「はいはい。喧嘩はその辺にして。私もわかってるから。はい、まずはみんなに飲み物ね!」

 

 鳳翔はまず、全員に飲み物を持ってきてあげた。持ってきてもらった飲み物で全員が乾杯をする。まずは飲み物を一気飲みする。そして全員が同じタイミングで声を上げた。そして、神風は疑問をしおいにぶつけた。

 

「ねぇしおい…最近強い敵増えてきてない…?」

 

「…そうなんだよね…なんか、flagship級が増えてきてるし…ここら辺の海域は全然襲撃が無かったはずなのにさ…」

 

「…だったら、あたしらが艦隊を片付けてやるさ!なぁ、白雪、叢雲!」

 

 話しかけてきたのは、ここの主力である駆逐艦の3人。長波と白雪と叢雲だ。全員の霊力が1万5千以上を超えている。さらに、出撃回数もかなり多い。実力はここの艦隊でも屈指だ。さらに、潜水艦のイムヤ、イヨ、ゴーヤらが一緒に出撃することで多大な戦果をもたらしている。

 

「あら、主力のお三方!調子はどう?」

 

「まずまず。でも、ここ最近被弾することが増えてきたよ…。なぁ?」

 

「そもそも、なんでここ最近flagship級ばかりなのかしらね…。普通のタイプもいるけど、一匹二匹?」

 

「本当に、戦艦級から空母級まで攻めてくるようになってきたよね。そういえば、ここ最近妙な深海棲艦がいたよね。なんか仮面をつけてたような…」

 

 ここ最近のことについて話す3人。まれに出撃するときに仮面をつけた深海棲艦を見ることがある。本当に目撃した数が少ないため、確証は得られないが。念のためこのことは提督には報告してある。

 

「まぁ、なるようになっていくしかないか…。鳳翔さ~ん、オレンジソーダ三つ。あと刺身頂戴!」

 

「は~い待ってね!神風ちゃん達に唐揚げとお茶漬けね!」

 

『わ~い!!』

 

 神風達は唐揚げとお茶漬けをほおばっていく。全員が同じタイミングで箸を進めていき、同じタイミングで同じ反応をする。そして、鳳翔はすぐに長波達にオレンジソーダと刺身を用意し三人に渡してあげた。そして、以前翔鶴に言われたことを思い出す。きっとみんなが母親のように慕ってくれると。料理を出したらきっと大丈夫だと。

 

(ふふふ、しょうか…あぁ…立羽。あなたの言ったことは正しかったです。皆さん、以前のような目で私を見ることはなくなりました)

 

 鳳翔は目を細めながらしみじみ思った。S級2位として。そして、この世に誕生した最初の艦娘として、ずっと戦い続けてきた。周りの者からは畏怖の目で見られていた。最初にここに来た時もそうだった。全員が鳳翔を畏敬の念で見ていた。

 

(…艦娘として力が覚醒して20年…。ずっと、畏敬の目で見られてきた。でも、今はこうして楽しくやっています。みんなに土産話ができたかしら)

 

 そうこう考えていると、ここに所属している艦娘達が続々と食堂に入ってきた。中には憲兵や整備士達もいる。居酒屋を開いていた時もそうだったが、意外と自分は頼られているのかな?と思う。常連客は必ずいたし、必ずと言っていいほど相談事をしに来ていた客がいた。今もそんな感じの状況なのだろうか?と思った。

 

「あ!そうだ!菊月ちゃん!聞こえていますか!もし聞こえるならすぐに食堂に来ることをお勧めしますよ!特製パフェ、ミックスチョコましましで出しますよ!」

 

 そう言った直後、廊下の方から足音が大きくなってこちらに近づいてきていた。勢いよくドアが開け放たれると、菊月と長月が立っていた。鳳翔の声を聞いてすっ飛んできたのだろう。

 

「鳳翔さん!特製パフェ早く出してくれ!待ちきれない°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°」

 

「私もだ!早く☆」

 

「ふふふ、はいはい!」

 

「…本当によく聞こえるよなお前…異能だっけ?」

 

 菊月に率直な疑問を浮かべる長波。以前横須賀が襲われたときも、床下にいたテロリスト達に気づいたほどだった。他の者が気づかなかったのに、菊月だけは音で気づいたのだ。

 

「あぁそうだ。私の異能は反響音(エコーサウンド)。大体10キロ圏内か…話し声から腹の虫までわずかな音でも聞き分けることができる。まぁ、この能力のおかげで、大分苦しい思いもしてきたがな…」

 

「…その補聴器が、能力を抑制してくれているんだっけ?」

 

「夕張さん特製の補聴器だ。これを使ってからは、大分よくなったよ。人並みの聴力に調節できるからな」

 

「でも今鳳翔さんの声を…」

 

「今日は鳳翔さんがここで料理を作る日だぞ!耳かっぽじって、よく聞いておかないといけないじゃないか!デザートが何なのかを!(^^)!」

 

「あ…あぁ」

 

「はい!お待たせ二人とも、特製パフェ!」

 

『ヒャッハ~!!待ってました~~~°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°』

 

 勢いよくパフェにがっつく二人。目をきらきらさせながらパフェをほおばっていく。よほどおいしいのか、顔も周りがきらきらと輝いているように見えた。

 

「うまい!やっぱり鳳翔さんのデザートはうまい!」

 

「下手したらファミレスのパフェよりもうまいぞ!さすが鳳翔さんだな!」

 

「あらあら、おだてて何も出ませんよ」

 

 そう言って、鳳翔は一度厨房の方へ戻る。鳳翔は二人に言われたことがよほどうれしかったのか、鼻歌を歌いながら何やら料理を作り始めた。数十分後には食堂中に匂いが漂い始め食堂にいた全員がその匂いに腹の虫を鳴らした。

 

『こ…この匂いは!』

 

「はい!では特製ラーメン!先着にはネギ増しチャーシュー増しさらにはミニ豚丼もついてきますよ~!」

 

『是非ともくださあああああああああああああああい!!』

 

「はいはいはい、順番です!何ならくじ引きです!すぐに並ばないとラーメンは出ませんよ!10秒数えますからその間に整列してください!ひとーつ!」

 

 数を数えたとたんに、その場にいた全員が一斉に並びだした。数分とかからずに綺麗な一列が出来上がった。それを見た鳳翔が棚から入れ物を取り出した。おそらくくじ引きが中に入っているのだろう。

 

「はい、ではこの中にあるくじを引いてくださいね!あたりとはずれがあるので。あぁ、それと先着約50食分ですからね!はずれの人は普通のラーメンですよ!」

 

 最初に並んでいたのは主力である長波。長波はゆっくりと手を伸ばしくじを引くと祈るように中を見た。

 

(当たれ…当たってくれ…………ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ(゚Д゚;))

 

「外れちまったあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 そして絶叫する。よほどネギ増しチャーシュー増しミニ豚丼が食べたかったのだろう。長波は項垂れてそのままラーメンをもらった。そして、ラーメンをもらって席につこうとしたとき…。

 

「よっしゃあああああああああ当たったあああああああああああ!!!」

 

「やった当たったわああああああああ!」

 

「やったああああああああああああああ!」

 

 次々にあたりを引いていく者達。その光景を目の当たりにした長波は身体を震わせながら絶叫する。

 

「なんでだ!なんでそんなにあたりを出すんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

「単純に運がないんでしょう。そこはすんなり諦めなさい…」

 

「てめぇ、叢雲!お前だってあたりを引けるかどうかわからないだろうが!」

 

 自信満々にくじを引いていく叢雲。くじを見て不敵に笑う。そして、長波に見せると満面の笑顔で…。

 

「安心しなさい。私も外れたから!」

 

「ズコオオオオオオオオオオオオオオオオオΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

 長波はそのままずっこける。自信満々にくじを引いていたにもかかわらずまさかのはずれを引く叢雲。なぜか満面の笑顔であったが。長波はゆっくりと起き上がると、叢雲に怒鳴り散らす。

 

「お前ふざけんな!何自信満々に引いておいて外れ引いてるんだ!」

 

「別にいいじゃない。私達は運が無かったってこと…割り切りましょ」

 

「あのなぁ…」

 

「…あ、ごめん。私あたり引いちゃった」

 

 横を見ると、当たりを引いた白雪の姿が。非常に申し訳なさそうな顔で二人を見ている。二人は少しの沈黙の後に。

 

『白雪いいいいいいいい!ここはあんたもはずれを引く流れでしょうがああああああああああ!』

 

「なんて理不尽な(゚Д゚)」

 

 そんなこんなで、全員がくじを引いていく。そして、全員がくじを引き終わりそれぞれ食事を堪能した。あまりのおいしさに、全員がとても幸せそうな表情をしていたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――21:30

 

 鳳翔は台所に立ち食器の片づけをしていた。食洗器があるため、食器類はそれで一気に洗える。あとは、それを棚にしまっていくだけだ。それと同時に、酒とグラスを二つほど用意する。いつも通りならそろそろ提督と那智が来るはずだからだ。ちなみに、しおいも今手伝いをしており、テーブルを拭いてくれている。テーブルを拭いたら部屋に戻って潜水艦娘達と話をする予定だ。

 

「しおいちゃん、お手伝いありがとう!もう戻っていいわよ!」

 

「はい!じゃあおやすみなさい鳳翔さん!」

 

「はい、おやすみなさい」

 

 しおいは元気よく食堂を出ていった。本当に明るい子だ。あの明るさのおかげで艦隊のみんなも助かっているのかもしれない。どんなに苦難な状況でも。聞けば、横須賀襲撃の際も笑顔を絶やさなかったのだとか。

 

「あの子がいれば、ここは安泰ですね…」

 

「……それを言えば、あなたもそうでしょう?鳳翔さん」

 

「あら提督!いらしていたんですね!」

 

「あぁ、那智も一緒だ」

 

 後ろを見ると、提督である服部源蔵と教導艦としてここに着任してきた那智がいた。ちょうどしおいと入れ違いになったようだ。

 

「鳳翔さん。とりあえず日本酒を…」

 

「私はビールを頼む!」

 

「はいはい、おつまみに枝豆は?」

 

「もらいましょう」

 

 鳳翔は、いったん厨房の方に行き日本酒とビールを二人に持ってくる。そのあとに枝豆を持ってきた。二人は一口酒を飲むと大きくため息をついた。

 

「…ふぅ…ここ最近の深海棲艦の活性化…二人はどう思う?」

 

 ふいに源蔵が二人に質問を投げかけた。さっきしおいも話していたが、最近になって深海棲艦が活発化、しかもflagship級が増えてきている。少し前ならこんな状況はほとんどなかったはずなのに。

 

「…可能性があるとしたら、新たに目撃された新種…その存在が関係しているのではないかと私は思っています」

 

「私も鳳翔さんと同意だな。新種が関係しているとしか思えない。住処を追われたのかはわからないがな…」

 

 二人とも同じ意見のようだ。新種が関係しているとしか思えない。ここまで深海棲艦が活発化してきているのだから。これからは、もっと激しい戦火になってくるだろう。今までの敵と同じと思っていたら、いつかきっと死人が出てしまうかもしれない。それほどの覚悟を持たなければ。

 

 そう思っていると、不意に鳳翔から携帯の音が鳴る。鳳翔は携帯を取り出し食堂を後にする。

 

「こんな時間に誰からだろうな?」

 

「…おそらく孫だろう。この時間帯になると、大体電話が来るらしい」

 

「孫って…鳳翔さんはいったい何歳なんだ(;´・ω・)かなり若く見えるぞ…」

 

「…人は見かけによらんさ」

 

「は…はぁ…」

 

 そんなこんなで二人は酒を飲んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…もしもし桜?それとも咲かしら?」

 

『ばあば~!咲だよ~!』

 

「あらあら咲!いい子はもうすぐ寝る時間よ。ママとパパは近くにいるの?」

 

『うん、もうすぐ寝る時間だからその前に電話したの!』

 

 鳳翔にとって、この時間が一番好きだった。娘達と話す時間もとても好きだが、やはり孫と話をする時間が一番だ。咲は今日一日あったことを楽しそうに話していた。幼稚園で会ったこと、家でのことなどだ。それを鳳翔は相槌を打ちながら聞いていた。しかし、途中から咲の話のペースが落ちていき、気のせいか声も小さくなってきている感じがした。

 

「咲?咲~、寝ちゃったかしら?」

 

『…ま…だ…うにゅ~…』

 

「あらあら…もうお眠ね(;・∀・)」

 

『咲~、もう寝るわよ~。ばあばとのお話はまた今度ね~』

 

『は~い…』

 

 今度は娘の桜の声がした。それから、咲を抱きかかえるような音と扉が開く音などが聞こえてきた。おそらく寝室にいるのだろう。

 

『ごめんね母さん。咲が話をしたかったみたいで…』

 

「いいのよ。私はこの時間が一番好きだから!」

 

『ありがとう…それで、そっちの状況はどう?』

 

「……前と比べると深海棲艦が増えてきているわ。それに、ほとんどがflagship級よ…」

 

『……そう……母さん、いつも言っていることだけど…』

 

「無理だけはしないで…でしょ。わかってるわ。寄る年波には本当に勝てないからね…昔ほど、体は動かなくなってるからね…」

 

 鳳翔は自分の手を動かしながらつぶやく。昔と比べると、体力的に落ちてきているのは確かだ。だが、自分が戦えるうちは何が何でも戦い抜くつもりだ。艦娘となったあの日から、最愛の人を無くしてしまったあの時からずっと心に誓っていた。

 

『……ねぇ、母さん』

 

「うん、何?」

 

『……父さんが生きてたら…今の私達を見てなんて言ってくれるかな?』

 

「……う~ん…そうね~…優しい人だったから、無理しないでくれとか言うんじゃないかしら?」

 

『だといいけど…』

 

「桜…わかってると思うけど…」

 

『えぇ、いずれ()()()()ことになるわね……その時まで、家族との時間を過ごすわ』

 

「…………桜」

 

『…何母さん?』

 

「………………あぁ……やっぱりなんでもないわ。また…」

 

『うん、またね』

 

 そう言って電話を切る。鳳翔は深呼吸をしながら食堂の方へと戻る。食堂の方へ戻りながら鳳翔は左手の薬指をみる。指には指輪がつけてあった。指輪を触りながら鳳翔はつぶやく。

 

「……あなた……お願い……あの子達を守って……どうか見守っていて」

 

 鳳翔は、食堂の扉へと扉をかける。手をかけた瞬間、何やら違和感を感じる。周囲を見渡すも何もない。

 

(気のせい……にしては、空気が違いすぎる。監視でもされてるの…)

 

 鳳翔は、警戒を強めながら中へと入っていく。中へ入ると、ちょうど潜水艦隊の子達がいた。メンバーはここの主力であるイムヤ、イヨ、しおい、そしてヒトミがいた。ヒトミは小刻みに震えている。

 

「ヒトミちゃん!どうしたの?何か見た?」

 

「15分前ほどに、何やら嫌な感じがしたというらしい。それで、念のためここに来てもらった」

 

 源蔵は、鳳翔に事の経緯を説明する。鳳翔が食堂を出た数分後にイヨから連絡があったのだ。ヒトミの様子がおかしいと。それで、ヒトミをここに連れてきてもらったわけだ。

 

「姉貴、ゆっくりでいいから話して…」

 

「……う…うん。な……何か……何か強い力がこの鎮守府に来てる。確証は…得られない……でも…………すごく嫌な感じがする…」

 

 震えながらそう話すヒトミ。ヒトミの話を聞いて鳳翔は確信した。先ほどの違和感の正体を。

 

「提督、念のため艤装装備の許可を」

 

「……わかりました。無理だけはしないように」

 

「待ってください!鳳翔さんが行くなら、私達も!」

 

「イムヤさん、ここは私が行った方がいい。多分、あなた達では太刀打ちできない。何、少し挨拶をしてくるだけですよ!」

 

 そう言って、鳳翔は食堂を出ていく。鳳翔を見送った後、源蔵は指示を出した。

 

「しおい、イヨ。お前らも念のため艤装を装備して海で待機していろ。万が一の時のためだ」

 

『了解』

 

 しおいとイヨも食堂を出ていった。ヒトミがここまで震えているほどだ。きっと相手はS級クラスかもしれない。念には念を入れていた方がいい。何事もなければいいのだが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鎮守府内にある大型クレーンの上に、白い長髪をツインテールに結び、全体的に黒を特徴とした服装を着ている者がいた。しかし、ブラジャーにパンツ、その上に革ジャーしか着ておらずかなり露出度が高い。その者は鎮守府内を嬉々とした表情で見渡している。

 

「ヘェ…ココガ鎮守府ナノネ、ナカナカ強イ力ヲ持ッタ奴ガイルジャナイノ…」

 

 鎮守府内を見渡しながらつぶやくその者は、一旦空を仰いだ後に後ろの方を見る。周囲を警戒していたつもりであったが、後ろから何やら気配を感じた。おそらく、この鎮守府で一番強いものの気配を。

 

「警戒ヲシテイタツモリダッタノダケド…一体イツカラソコニイタノカシラ?」

 

「ほんの数分前ですよ…真剣に鎮守府を見ていらしたので、少し様子を見させていただきました」

 

 後ろにいたのは、艤装を装備した鳳翔だった。手には身の丈ほどの刀を持っておりいつでも抜刀できるように右手は刀にかけており臨戦態勢をとっている。

 

「…あなた、何者です?その見た目からして深海棲艦ですね。ですが、人の言語を理解しているようですし最近現れた新種ですか?」

 

「ウ~ン…言ッテイル意味ハヨクワカラナイケド……ソウネ、私ハ周リカラコウ呼バレテイルワ。南方棲鬼……ッテネ」

 

 鳳翔は、南方棲鬼を凝視する。しばらく様子を見た後に鳳翔は臨戦態勢を解く。南方棲鬼は首を傾げ不思議がった。普通敵が目の前にいるのに臨戦態勢を解くのは自殺行為に等しいからだ。

 

「何ノツモリ?」

 

「あなたからは殺気が感じられない。何もしないなら早くお帰りなさい」

 

 南方棲鬼は肩をすくめるとクレーンを降りようとする。しかし、降りる前にもう一度鳳翔に向き直った。

 

「随分ト優シイノネ…日本ノ艦娘ハ。他ノ国ハ、私達ヲ見タラスグ殺シニカカルトイウノニ。ソレトモ、力ヲ解放シタラ、戦ッテクレルノカシラ!」

 

 南方棲鬼は鳳翔に向け圧をかける。すると、鳳翔もすぐさま霊力を解放し圧をかける。かなりの重圧なのか、周囲の空気が揺れるような感覚がする。南方棲鬼は嬉々とした表情で鳳翔を見て拍手をするほどだった。

 

「素晴ラシイ力ネ!見二来テ正解ダッタワ!」

 

「…お望みならいつでも力を見せていいのですが、ここだと場所が悪い。いずれ戦場であったときに戦いましょう」

 

「エエ、待ッテルワ。ソノ時ヲ!」

 

 南方棲鬼は強い衝撃とともに姿を消した。完全に気配が無くなったのを確認すると、鳳翔は深く息をする。今まであった中でも特に強い力を持っていたのは明らかだった。A級艦娘、特に上位クラスの者達でも太刀打ちできるかどうか怪しいレベルだ。それほどの圧だった。鳳翔は無線を取り出すと、源蔵に連絡する。

 

「提督、敵は退きました」

 

『……鳳翔さん、あなたから見てどうでしたか?あの新種は…』

 

「かなり強い力を持っていました。もし戦闘になっていれば、この鎮守府は壊滅していたかと…」

 

『……とにかく、何事もなくて何よりです。もう戻って構いません』

 

「はい」

 

 鳳翔は、大型クレーンから飛び降りる。途中、袖に仕込んでいた糸を鉄骨部分に引っ掛けて降りていく。海の方にいたしおいとイヨの方を見る。二人とも平然としている様子だったが、おそらくさっきの様子を見て気圧されたのだろう。少し震えている様子だった。

 

「新種達との戦闘は避けられない。それまでに、全鎮守府の艦隊の練度を向上させなければいけないかもしれないわね…」

 

 鳳翔はそう呟きながら工廠の方へと向かう。今後はより一層気を引き締めなければならない。明日からどのように訓練をしていこうか。そう考えながら、艤装を仕舞いに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ね…ねぇ、しおい…みた?」

 

「……うん」

 

 海面から上がり工廠の方へと向かうしおいとイヨ。先ほどの様子を見て体の震えが止まらなかった。新種の深海棲艦と鳳翔の力がとてつもなかったから。仮に戦闘になり、自分達が出て行っても足手まといになるだけだ。それほどの実力差を感じた。

 

「あ……あの圧とんでもなかったよ。い…イヨ達、あんなのを目の前にして勝てるのかな?」

 

「……」

 

「し…しおい?」

 

 イヨはしおいの方に向きなおる。しおいの表情は少しだけ笑っていた。おそらく不安もあるかもしれない。だが、鳳翔の圧を目の前にして楽しみ半分もあった。いつか自分もあの領域に達することができるかもしれない。白露がリミットオーバーを会得し強くなったのだ。自分もいつかきっと強くなれると思った。

 

「…でも、楽しみだな!私もきっと、訓練をしていけば鳳翔さんみたいに!」

 

「しおい…」

 

「やろう、イヨちゃん!訓練して、強くなって、あいつらを打ち負かそう!」

 

「……うん!」

 

 二人はそう誓って急ぎ足で歩き出す。訓練して強くなる。そして、いつか鳳翔のようにと。途中鳳翔とすれ違うと笑顔で鳳翔に挨拶をした。鳳翔はその二人を見て優しく微笑む。自室に戻りながらこうつぶやいた。

 

「ふふふ、強くなりなさい若人!いつか世代交代が来る日を楽しみにしています!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――佐伯湾の夜の日課 終わり

 

 




しおい「お~。終わった!」
イヨ「あれ、なんか展開早くない?」
鳳翔「作者が全キャラ出すの大変みたいで……この後も多分キャラを絞って番外編を書くことになりそうみたいで…」
イヨ「えぇΣ(・□・;)そんな⁉」
鳳翔「だって、あと大本営と横須賀と呉が残ってるんですよ。というわけで、次は大本営の様子をお届けします!それでは次回予告です!」



縁「皆さんこんにちはこんばんわ!夕月縁(ゆづきゆかり)です!桜さんが開いている酒屋で住み込みで働かせてもらっています!次回は私がメインで、大本営の艦娘さん達と関わっていく話になりますのでよろしくお願いします!」
次回:大本営休日組の一日
お楽しみに~!


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大本営休日組の一日

こんばんわ!
今回は大本営のお話になっています。
それでは、どうぞ!


―――07:00 執務室

 

「…………ふむ」

 

 執務室内にて、元帥である山本勘兵衛は報告書を見ていた。先日佐伯湾に現れた新種の深海棲艦。自身を南方棲鬼と名乗り、おそらく強さだけならS級に匹敵するであろう深海棲艦。それと遭遇したのだ。今後おそらく、熾烈な戦いになってくるであろう。南方棲鬼は周りからそう言われているといった。ならば、それと同じクラスが他にもいるということになるのだ。

 

(…………全艦隊の練度を向上させる必要がある……か。確かに、A級上位クラスでも太刀打ちできないほどの実力を持っているのなら、各鎮守府の練度を底上げしなければならぬ。早急に対処せねば)

 

 顎に手を当てながら考える勘兵衛。試行錯誤をしていると執務室のドアが開いた。ドアには大淀がおり少しあくびをしている。

 

「ふぁ~……眠い…やっぱり夜遅くまで起きているのは身体に毒…………Σ(゚Д゚)」

 

 大淀は目の前を見て、鳩が豆鉄砲を食らったような表情をする。勘兵衛は首を傾げながら大淀を見ている。大淀はしばらく勘兵衛を見た後にはっとした表情になった。

 

「元帥!?いったい何時にここに!?」

 

「…朝5時から」

 

「昨日寝たのは何時ですか!?」

 

「夜中の2時じゃ」

 

「寝てください(# ゚Д゚)」

 

「いやしかしだな…これから艦隊の練度を底上げしなければならないのだ。休んでる暇など…」

 

「寝てください(#^ω^)」

 

「あ、いやだからな…」

 

「寝ろおおおおおおおおおおおおお(# ゚Д゚)」

 

「こ、こら大淀!なんじゃその口調は!?」

 

 大淀は勘兵衛に怒鳴りつける。勘兵衛はいつもこうだ。何かしらある時はすぐに無茶をする。平均睡眠時間約4時間。一般的に7時間半は寝ていないといけないのを3時間半も下回ってしまっている。それでは寿命が縮んでしまう。

 

「だいたい!元帥はいつも無茶しすぎです!周りの人に気を使いすぎて、自分がつぶれてしまったらどうするのですか!?あなたはここの最高司令官ですよ!トップですよわかってますかΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)あなたがそんな調子じゃ、息子さんとお孫さんに顔向けできないじゃないですか!」

 

「明日ちゃんと寝るから大丈夫じゃ!儂は昔から鍛えておるでの、これくらいじゃ死にはせん!」

 

 それを聞いた大淀は、すぐに携帯を取り出す。誰かに連絡を取っているのだろうか。ものすごいスピードで指が動いていく。勘兵衛は大淀が何をしているのか気になったのか話しかける。

 

「大淀、一体誰に連絡を?」

 

「…………」

 

「お…大淀?」

 

 大淀は無言で携帯を仕舞うと、すぐに机に向かい作業をする。勘兵衛の言ったことに答えずに黙々と。勘兵衛はしばらく様子をうかがっていたが、直後廊下から誰かが駆け足で来るのが聞こえてきた。その音が執務室の前まで来ると勢いよくドアが開け放たれる。そこには、孫である未来がいた。

 

「おじ~ちゃ~ん…」

 

「み…み…未来(゚Д゚;)」

 

「一体何回無茶をすれば気が済むの!しっかり寝てよ!ご飯食べてよ!休んでよ(# ゚Д゚)」

 

「ちょっと待て!ご飯はしっかり食べておる!それに、寝れるときにしっかり寝てるからΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

「寝れるときじゃダメなのよ!毎日しっかり7時間半以上は寝てよ!じゃないと、徹夜している人と同じ脳の状態になったちゃうじゃない!記憶力が低下しちゃうのよ!」

 

「い…いやしかし!」

 

 勘兵衛は、未来に何かを言おうとするが、その前に未来が携帯を差し出す。勘兵衛はその意図が分からなかったが携帯を受け取り画面を見る。見ると通話状態になっているようだった。恐る恐る耳に当てる。

 

「え…えっと、そこにいるのは誰かな…?」

 

父さん…

 

「ギクッ(;゚Д゚)」

 

 電話の向こうにいるのは、勘兵衛の息子である山本平治(やまもとへいじ)。海軍に所属しており階級は大佐。現在海外に出向いている。

 

「へ……………平治!?」

 

『父さん…また無理をしたそうですね…』

 

「い…いや儂は!」

 

『帰ったら覚悟していてください!

 

「は…はい…」

 

 そのまま電話を切られる。ゆっくりと携帯を未来に返した後に勘兵衛は叫びだした。

 

「み…未来うううううううううううううΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

「知らないもん!こうなったのはおじいちゃんの責任!反省してよね!」

 

「そ…そんなぁ…」

 

「ははははははは!さすがの元帥も息子と孫には頭が上がりませんな!格闘技大会無敗のあなたが!」

 

 入り口の方を見ると、三大将の斎藤、小笠原、赤神がいた。斎藤は笑っているが小笠原と赤神は少し不機嫌な様子だった。

 

「げ~ん~す~い~!」

 

「あなたという人は~!」

 

「ゴクッ(;゚Д゚)」

 

『さっさと休めえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ(# ゚Д゚)』

 

「わ…わかった(゚Д゚;)今すぐ休むからああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

 そう言って、そそくさと執務室を後にする勘兵衛。勘兵衛の様子を見届けた後にその場にいた5人はため息をついた。

 

「ふぅ…未来ちゃん。助かったわ!」

 

「大丈夫です大淀さん!約束、ちゃんとわかってますよね?」

 

「はい、間宮券2枚!」

 

「ありがとう!…あれ、2枚?」

 

「今日友人が来るんでしょ?オフの日だし、ゆっくりして!」

 

「はい!」

 

 未来は笑顔で執務室を出ていく。未来を見送った後に4人はそれぞれ席に着き書類仕事を行っていく。すると、電話が鳴り響き大淀がそれに対応した。

 

「はい執務室。はい……はい通してください。では」

 

 大淀は受話器を置き窓の方を見た。窓の方を見るとちょうど未来が本館から出ていくところだった。その光景を見ながら笑顔でつぶやく。

 

「ふふふ、ゆっくり楽しんでね。未来ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――大本営入り口

 

「…ええっと、身分証明書に許可証に荷物の内容と……はい大丈夫です!」

 

「ありがとうございます!」

 

 バイクを走らせ倉庫の方に向かっていく紫色の髪にもみあげを長く伸ばしており、ウサギのマークがあるパーカーを着た女性が入っていった。名前は夕月縁(ゆづきゆかり)。酒屋【撫子(なでしこ)】で住み込みで働いているものだ。今日は酒の配達のため大本営に来ている。月1くらいの頻度で大本営に来ることが多い。ここに来るたびに艦娘達と交流したり友人である未来と談笑をしている。店長である桜に翌日休みをもらっているため、今日はここ大本営に泊まるつもりだ。倉庫から台車を持ってきて酒が入ったかごを乗せる。泊り道具の入った荷物も一緒に持ち酒保の方へもっていった。

 

「すみませ~ん!酒の配達で~す!」

 

「はいよ~。いつもありがとうな縁ちゃん」

 

 酒保にいるおじさんに酒を届けた縁。そのまま大本営の本館の方へと向かう。本館の方へ来ると、未来が入り口の方で待っているところだった。

 

「縁ちゃん!」

 

「未来ちゃん!久しぶり!」

 

 縁と未来は以前ストリートバスケの大会で知り合った仲だ。最初はお互いに別のチームに所属していたため敵として戦うことが多かったが、現在では同じチームに所属しているらしい。

 

「まずは荷物もっていこうか!私の部屋まで行こう!」

 

 二人はまず宿舎の方へと向かう。未来の部屋で荷物を置いた後に再び外に出る。そして、そのままバスケコートの方へと向かう。二人は現在ジャージのためすぐにバスケを始められる状態だ。コートに近づくにつれドリブルの音が聞こえてきた。見ると、そこには大鳳がいた。今日はオフのようだ。未来は手を振りながら大鳳を呼ぶ。

 

「大鳳さ~ん!」

 

「あら未来ちゃん!それに縁ちゃんも、久しぶりね!」

 

「大鳳さん、お久しぶりです!腕は鈍って無いようで安心しました!」

 

「オフの日はちゃんとドリブル練習にシュート練習をしっかりしてるからね。縁ちゃんは鈍っていないでしょうね?」

 

「う~ん、ボールは毎日触ってますけど、仕事もあるからなかなかできてないですね…」

 

「よし、なら最初は全員でフリースロー対決かしら!未来ちゃんもそれでいい?」

 

「もちろん!」

 

 最初に大鳳がフリースローラインに立ちシュートを放つ。そのシュートはリングに吸い込まれていく。続いて未来、縁が続き二人もシュートを決めていく。全員が10本放ち、大鳳は7/10。未来が6/10。縁が7/10という結果だった。

 

「ちぇ~…一本差か…」

 

「6割以上決められてるから大丈夫じゃない?」

 

「決めてる人は9割いってるもん!私の目標は50/40/90のフィフティーンフォーティーンナインティーンなんだから!」

 

「み…未来ちゃん、それかなり難しいことよ…」

 

 50/40/90とはいわゆるバスケ用語で、フィールドゴール率50%。3ポイント成功率40%。フリースロー成功率90%以上を指す。実際にN〇A選手で成功した選手は数える程度しかいないのだとか。

 

「じゃ、じゃあ次はどうする?1体1?それとも2対1?」

 

『2対1で!』

 

 そう言って、ゴール下からハーフラインまでボールを運んでいく未来と縁。ディフェンスは大鳳だ。ハーフラインまで来たときに一気にギアを上げ、未来がボールを運んでいく。それを大鳳が構えるが、すぐに未来は縁にパス。大鳳はすぐに反応し縁のもとへ。縁もすかさずにパスを出し未来がレイアップを決める。そして、未来がディフェンスになり大鳳と縁がハーフラインまでパスを回す。そして、縁が大鳳にパスを出したときに大鳳はスリーポイントを放つ。ボールはそのままゴールに吸い込まれていった。そして、再びディフェンスになり今度は縁が猛スピードでゴールに向かっていき大鳳を避けレイバックを決め切った。

 

 それを何度か繰り返した後に、コートの外から元気な声が響きだした。人数は5人。全員が10歳前後であろう幼い少女だった。

 

「おお!縁さんっす~!久しぶりっす~!しむしゅしゅしゅ~!」

 

「こら占守!突撃しないの!」

 

「縁さん久しぶりです!」

 

「会いたかったぜ~!縁さん!」

 

「お久しぶりです。ふふふ」

 

 コートに入ってきたのは、海防艦の占守、国後、択捉、佐渡、対馬の5人。全員が10歳前後であるため出撃はせずほとんど座学のみを行っている。定期的にここに来る縁にとても懐いており、縁がここに来るたびに駆け寄ってくるほどだ。

 

「あら、皆久しぶりね!元気にしてた?」

 

「もちろんっす~!占守達元気にしてたっす~!座学は大変っすけどね~!佐渡なんかこないだ寝てたっす~!」

 

「ちょ!教えるなよ占守!」

 

「だって事実っす~!へへ~ん!」

 

「むき~(# ゚Д゚)こんにゃろぶっ飛ばしてやる!」

 

「鬼さんこちら~!捕まえれるものなら捕まえてみろっす~!」

 

「こら占守!あんまり人をからかわないの!」

 

「佐渡ぉ!そんな言葉使うんじゃありません!」

 

 占守が煽り、それを佐渡が追いかけていく。続けて国後と択捉が二人を追いかけていった。それを見届けた後に、対馬が…。

 

「……危険がいっぱい…ふふふ」

 

 といいその場を離れていった。あまりに早い出来事だったため、縁達はその場に立ち尽くす。しばし時間がたった後に続きを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、動いた動いた!」

 

「いい汗かいたね~!」

 

「バスケって、こんなに辛かったかしら…」

 

 三人はコートを出て食堂の方に向かっている。気づけばもう1時間近く。ずっとバスケを行っていた。2対1、3ポイントシュート、1対1。これをやっていたらあっという間に時間が過ぎてしまった。そして、食堂に向かっている最中に先ほど来ていた占守達を見かけた。見ると、とても大きな犬と遊んでいた。犬の大きさはおそらくゴールデンレトリバーより少し大きいんじゃないかと思う。狼のような見た目だったがとても人懐っこく占守達に腹を見せていた。大鳳はそのままその犬に近づいていく。

 

慶郎(けいろう)。占守ちゃん達と遊んでいたの?」

 

「あれ、前来たときこんな犬いたっけ?」

 

 縁は率直に疑問を口に出した。以前ここに配達に来たときは、こんな大きな犬を見かけなかったからだ。

 

『あぁ、お初にお目にかかります!私、式神の慶郎って言います!』

 

「…………犬が喋ったああああああああああああああああああああああああ(゚Д゚;)」

 

 縁は驚いて後ずさりする。まさか犬が喋るとは思ってもいなかった。その縁の様子を見て大鳳が説明をする。

 

「縁ちゃん。この子はね、由良さんの式神の慶郎っていうの。今はこんな姿だけど、人型で姿を現すこともあるのよ」

 

「え、式神?人型にもなれるの!?」

 

『あ、百聞は一見に如かずって言いますし、お見せしましょう!』

 

 そう言って、慶郎が光りだしたかと思うとそこから少女が現れた。巫女服に銀髪のショートヘア。特徴的なのが尻尾に犬耳が生えている。

 

『これが、人型の時の私の姿です!どうでしょう?』

 

「きゃあああああああああ可愛いいいいいいいいいいいい(n*´ω`*n)」

 

『ぐえ!?』

 

 縁はそのまま慶郎に抱き着く。見た目の可愛さからついつい抱き着いてしまったようだ。

 

「ああ、こんな可愛い妹が欲しかったわ!いや本当に!」

 

「ちょ!縁さん慶郎さんが苦しそうっす!」

 

「いくら式神でも、首絞められたらひとたまりもないから!」

 

 占守と国後が慌てて縁を引きはがす。縁は我に返って、慶郎から離れる。

 

「はっΣ(・□・;)ごめんなさい、つい…」

 

『はぁ、はぁ、はぁ…死ぬかと思った…いや死なないけど…』

 

「あれ、あなたが出てきているということは、由良さんは?」

 

『あぁ、主は体調が悪くて今は寝ています。まぁ、海防艦の子達と好きに遊んでいいって言われているので、こうして出てきているわけです!』

 

「なら、由良さんのところにお見舞いに…」

 

『今、主の近くに武曲(ぶきょく)がいます!私から伝えますので!お三方は行って大丈夫ですよ!』

 

 縁達はそのまま宿舎の方へと向かっていく。慶郎は、縁達の姿を見送ると、再び犬の姿に戻り占守達と戯れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、じゃあ由良さんの部屋の前に来たわけだけど」

 

 現在、三人は由良の部屋の前に来ている。大鳳がノックすると、部屋から甲冑を着た武人らしき者が部屋から出てきた。しかし、その姿を見て縁と未来は小さく悲鳴を上げてしまう。なぜなら、見た目が完全に骨だったから。

 

「あら武曲さん!こんにちは!由良さんは?」

 

『主は今、横になって休まれています。起きてはいますが』

 

「ありがとう!さて、二人とも!由良さんに……あれ、二人とも?」

 

 二人は大鳳の呼びかけにも答えずそのまま固まってしまっている。何度呼びかけても答えは返ってこない。しばらくして、二人が我に返ると。

 

『いいいいいいいいいいいいいやあああああああああああああああああああああああああああああああ(゚Д゚;)お化けえええええええええええええええええええええええええΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)』

 

『お!?お化け(;゚Д゚)』

 

「二人とも。この方は式神の武曲さんで…」

 

『へ!?式神!?式神なのΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)』

 

「…うん、うれしい反応ありがとう。そういえば見たこと無かったわよね…。見た目はこんな感じだけど、すごく真面目な方よ…」

 

 二人はおっかなびっくりお辞儀をしながら中へ入っていく。武曲は少しおどおどしながら三人を通した。そしてベッドの方へ近づき由良に挨拶をする。

 

「由良さん。おはようございます。体調は?」

 

「うん、見ての通り。少しだるくて…。久しぶりに発作が起きてしまったものだから…」

 

 由良は起床後にてんかんの発作が起き倒れてしまったようなのだ。幸いにも慶郎と武曲が出てきたため早急に対処ができたらしいが。その後はずっとベッドで横になり休んでいたらしい。

 

「由良さん、食欲はある?あとで何か持ってくるよ!」

 

「ありがとう未来ちゃん。じゃあ何か果物持ってきてくれるといいかな。あまり食欲が無くて…」

 

「わかった!」

 

「あと、縁ちゃん。七駆のみんなが会いたがっていたからあとで会ってあげて」

 

「わかりました!」

 

 そのあとは少し雑談をした後に、部屋を後にした。時計を見ると、11時を過ぎていた。なので、食堂の方に行くことに。昼までにはまだ時間があるため食堂で雑談をすることにした。だが、やはり大半はバスケの話だ。最近のストリート大会の方はどういう状況なのかとか、そういう話が多い。

 

「それでね、前ここに来た白露ちゃんって子とシュート対決とワンオンワンしたんだけどね!」

 

『ほうほう!』

 

「バスケ初めて3年とは思えない完成度でね!」

 

『ふむふむ!!』

 

「シュートはほとんど外れないし、技術はあるし、是非とも白露ちゃんとストリートバスケで対決をしたいと思ってて!」

 

『確かに!話聞いてたら是非とも戦いたい!』

 

 案の定バスケの話で盛り上がる。大鳳は以前ここに来た白露の話を二人に聞かせる。二人とも目を輝かせている。さらに姉妹艦である夕立と村雨がバスケ経験者であること。時雨も夕立からバスケを習っていたことを聞いた。

 

「嘘!?それならもう一人加われば、バスケのチーム作れるよ!」

 

「ストリートバスケでも対決できる日が来そう!?大鳳さん!是非ともその子達を誘いましょう!!」

 

「う~ん…ストリートバスケの大会でもしその子達が出場したとしても、最後の一人が誰になるのか…」

 

『あぁ、確かに…』

 

 大鳳の言葉に肩を落とす二人。あわよくば対戦をしたいと思ったのだが、最後の一人がいないとなれば仕方ない。しかし、大鳳は心当たりがないか考える。

 

(う~ん…誰かいたかしら…柱島にバスケやってた人…白露ちゃんから聞いた話だと、時雨ちゃん、夕立ちゃん、村雨ちゃんはバスケをやっていた。でも、他の人達はバスケはおろかスポーツをやっている人は少なかったわね…スポーツ万能…スポーツ万能…………)

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ(゚д゚)!」

 

『うえ!?どうしたの大鳳さん!?』

 

「…いた…。一人いた!スポーツ万能で、ガチでやったら一か月である程度マスターできる天才が!!」

 

『いるの!?それは誰!』

 

「摩耶ちゃんって子!あの子スポーツ万能で、本気でやったら一か月で基礎は固まるの!」

 

『何それすごい!!!』

 

 柱島所属の摩耶は運動神経が桁違いという話らしい。大鳳は天龍から聞いたらしいのだが、天龍曰く。

 

(あいつスポーツやらしたら一か月後には大抵マスターしてるぜ…。一回卓球やったことあるんだけどよ。一か月後には、動きが卓球何年もやってたような動きだったぞ…)

 

 とのことらしい。

 

「じゃ、じゃあその5人といずれストリートの場で!」

 

「戦えるかもね!」

 

『おおおおおおおおおおおおおおお!』

 

 そうこう盛り上がっていると、昼食の時間となったため三人は食事をとりに行く。各々好きな定食を頼みそれを食べていく。そして、未来は事前にもらっていた間宮券でデザートを頼んだ。もちろん縁にも。頼んだのは間宮特製アイス。縁がここに来た際は必ずと言っていいほど間宮アイスを頼む。縁はこれが一番好きらしいのだ。

 

「う~んおいしいいいいい!やっぱりこれが一番よねええ!」

 

「…本当、縁ちゃんアイスが好きね…」

 

 縁の様子を見て、目を細めながら話す大鳳。そんな様子をつゆ知らず縁はアイスを食べていく。アイスを食べていると、不意に入り口から縁を呼ぶ声がした。

 

「縁さ~ん!久しぶり~~~!ほいさっさ~~~!!」

 

「こら漣!いきなり飛び付くな!!」

 

 入り口からきていたのは第七駆逐隊の4人だった。由良から全員が縁に会いたがっていると聞いたからちょうどよかった。特に漣は縁に抱き着いている。縁は嫌がること無く漣を抱き寄せた。朧、曙、潮も縁に近づく。

 

「縁さん!久しぶりです!」

 

「ごめんなさい縁さん…。漣!いい加減離れろ!」

 

「もう、またそんなこと言って。本当は縁さんに抱き着きたいくせに…このツンデレぼのたん!」

 

「カチーン(一一”)……漣~。今日という今日は許さないわよ!!」

 

「へへ~ん。捕まえれるものなら捕まえてみろおおお!!」

 

 曙はそのまま漣を追いかける。縁は「元気があっていいわね~…」と呑気に考えていた。縁の様子を見て朧と潮が話し出す。

 

「ごめんなさい縁さん。あの二人はなんというかその…」

 

「喧嘩するほど仲がいいといいますか……本当はあの二人仲がいいから…」

 

「わかってるよ。あの二人すごく仲がいいし、私にこうして仲良く接してくれるし!それに、二人もね!」

 

「…はい!」

 

「えへへ!」

 

 縁はそのまま二人の頭を撫でてあげる。二人は相当ご満悦な様子だ。その二人の様子を見て漣が叫びだした。

 

「ああああああああああああああああ(;゚Д゚)朧と潮!!二人だけ抜け駆けして!!!縁さん!漣にもおおおおおおおおお!!!!」

 

「はいはい、よしよし」

 

「やばいキタコレ!あざあああああす!」

 

 漣も加わり三人を順番に撫でる縁。その様子を曙は息を切らしながら見ていた。

 

「ぜぇ…ぜぇ…もう…本当に…」

 

「曙ちゃ~ん、大丈夫?アイス食べる?」

 

「……一口ください未来さん…」

 

「半分でもいいよ?」

 

「…お言葉に甘えて」

 

 未来の隣に座りアイスを分けてもらう曙。アイスを食べたからか、曙の周りはキラキラした様子だった。大鳳はその様子を見て。

 

「うんうん。今日も平和で良かった!」

 

 と思ったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、縁さん!この後はどうするんです?何なら、漣たちの部屋に来てゲームでもしませんか!?トランプ?人生ゲーム?それともスマ〇ラ!?」

 

「あらいいわね!時間はあるし、いっそのこと全部やってしまいましょう!」

 

「やったあああああ!」

 

 縁の手を引き入り口の方へと向かう漣。それを朧たちも追っていく。

 

「あれ、未来ちゃん。行かないの?」

 

「縁ちゃん、先に行ってて!私工廠に行って少し仕事してくる!大丈夫、30分で終わるから!そのあとは由良さんのところに果物持っていくね!」

 

 そう言って未来は工廠の方へと向かっていった。縁達は先に漣達の部屋へ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――工廠

 

「夕張さ~ん!来ましたよ~!」

 

「あぁごめんね未来ちゃん。どうしてもこれだけ調整したくて…」

 

 夕張の目の前には大きな艤装だった。以前陸奥が使った特殊艤装だ。火力が上がるのはいいが、移動速度がどうしても遅くなってしまう。そのため砲をいくつか取り、移動しやすくしたそうだ。

 

「あとは、こことこことここを調整するだけ!」

 

「了解です!今やりますね!」

 

 工具箱から道具をとり、早急に艤装を調整していく。夕張と一緒に行うことで作業効率が格段と上がった。物の数分で砲が取り除かれていく。そして、最後の砲を取り除いたときにはきっかり30分で終わっていた。未来は工具を手でもてあそんだあとに工具箱に戻した。

 

「じゃあ、私は縁ちゃん達と遊んできますね!」

 

「は~い!楽しんでね!この埋め合わせは後日きっちりやるわ!」

 

 夕張の言ったことに手を振り答える未来。鼻歌を歌いながら食堂の方へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――漣達の部屋

 

「うう、絶対に負けません!」

 

「……申し訳ないけど勝たせてもらうね~潮ちゃん」

 

 縁は潮の持っているトランプに手を伸ばす。トランプは2枚。縁はまず右に手を伸ばす。すると、潮は安心しきった顔を。左に手を伸ばせば困ったような顔をする。そのままそれを抜き取ると数字の3だった。縁の持っているカードの数字も3だった。

 

「やった勝った!!」

 

「そ…そんなぁ…」

 

「潮って本当にわかりやすいよね…。顔に出てるよ…」

 

「朧ちゃ~ん、じゃあどうすればいいの…?」

 

「ポーカーフェイスを覚えないと…」

 

 泣きそうな顔をしながら朧に助けを求める潮。潮は素直すぎるためこういう手のゲームは必ず負けてしまう。それがよく訓練にも出ることがあるらしい。その時、ちょうど入り口から未来が入ってきた。

 

「お待たせ~!あれ、潮ちゃんどうしたの?」

 

「未来さん、潮がババ抜きで負けちゃったの」

 

「あ…あぁ(^-^;)」

 

「み…未来さん。なんですかその憐みの目は(´;ω;`)」

 

「と…とりあえず、違うゲームしようよ!ね!」

 

「よし!それじゃあ、人生ゲームしよう!」

 

 漣が提案したのは人生ゲームだ。これだったら、読みあいも何もないため楽しくできそうだ。何より潮が泣かなくて済む。そして、人生ゲームを始めることになった。最初は縁からだ。

 

「よし、私からね!数字は……4ね」

 

 縁は4マス進む。内容は就職マスでデザイナーだった。給料は1万。続いて、潮、漣、曙、朧、未来と続いていく。全員それぞれそこまでひどいマスではなかったため、金額等で差がつくことはなかった。しかし、4週目ぐらいになると…。

 

「マスが3つと……え⁉怪我をして入院。30万失う…」

 

 縁が急に不幸な目に合うマスにたどり着いてしまう。さらに…。

 

「え⁉事故を起こして慰謝料を払うことに…80万円失う…え⁉」

 

 そんなこんなで不幸な目に合うマスに当たってしまった縁。結局最下位になってしまった。終わってみれば順位は1位朧、以下潮、漣、曙、未来、縁となった。

 

「わ……私って運無いのかしら…Ω\ζ°チーン」

 

「ゆ……縁さんしっかり…」

 

「…そ、そうだ!今度はスマ〇ラしよう!3対3のチーム戦をしようよ!ね?」

 

 漣の提案で今度はス〇ブラをする一同。漣、縁、潮対未来、曙、朧のチームで対戦することになった。両者防戦一方でなかなか決着がつかない時間が多かった。

 

「くぅ~。朧でも仕留めきれないなんて!曙、ちょっと手伝って!」

 

「今援護するから!漣を仕留めるわよ!」

 

「ま~たそんなこと言って。漣と対戦して一体どれほど負けてきたと思ってるのぼのたん!初雪お姉ちゃんと修行して得たこの実力を見よ!」

 

『ばああああああああああああ(;゚Д゚)落とされたあああああああああああ!!!』

 

「はははははは!崇めよ称えよ漣こそが全知全能…」

 

「はい、ごめんね漣ちゃん。これでおしまい!」

 

「ぎゃあああああああああああああああΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)未来さん嘘でしょ!ねえ嘘でしょ!」

 

「だって、私だってゲームはちょくちょくやってるし。何なら縁ちゃんと対戦してるしね!」

 

「……じゃあ、決着つけようか未来ちゃん」

 

「そうだね縁ちゃん…」

 

『どっちが最強か!!!』

 

「あ、潮ちゃんは何もしないで眺めていていいよ!」

 

「これは私と縁ちゃんの勝負だからね!」

 

「あ……はい」

 

 そうして、数分間にわたって二人は激闘を繰り広げた。二人ともなかなか落とされずサドンデスに突入するが、結局最後まで生き残った潮が1位になったことで、漣チームが勝利したそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――夕食前

 

「あぁぁぁぁぁ(;゚Д゚)腕が痛い~~~~~」

 

「こ…コントローラー強く握りすぎて、腕が振るえる~~」

 

 未来と縁は腕を振りながら死にそうな顔をしている。それもそのはず、あの後チーム戦を繰り返していたが、最後には必ず二人の一騎打ちになっていたからだ。全部が全部サドンデス。それを何十回もやっていたらそうなる。

 

「二人とも強すぎるよ~。もっと漣達に手加減してほしかったな~」

 

「手加減されても二人に勝てる気がしないわよ全く…」

 

「で…でも私達全員でかかれば何とか行けたんじゃ?」

 

「潮、たぶん朧たち全員でかかっていったとしても勝てる保証ないよ…」

 

 七駆の全員がそんなことをつぶやきながら食堂へ向かう。食堂にはすでに食事をしに来ているものでごった返していた。縁たちは食事を受け取ると適当な椅子に座り食事をした。

 

「あぁ、おいしい。やっぱりここのご飯は最高だわ!」

 

「縁さん、本当にここのご飯好きだよね」

 

「うん!桜さんが作った料理もすごい美味しいけど、やっぱりここのご飯も最高だわ!」

 

 曙の言ったことに対して縁は満面の笑顔で答える。縁は月に一度ここで食べるご飯をとても楽しみにしているのだ。特に晩御飯は。縁はそのままものすごい勢いでご飯を食べていく。あっという間に米を平らげると、カウンターのほうまで歩いて行った。どうやらお代わりをもらうつもりらしい。

 

「本当によく食べること…」

 

「いいじゃないか。たくさん食うことはとてもいいことだぞ!」

 

「うん?……な!?長門さん!」

 

 隣の方を見ると、いつの間にか来ていたのか長門が座り食事をしていた。朧たちは慌てて席から立ち敬礼をする。その姿を見て長門は笑いながら話した。

 

「はははは!楽にしていい、今は食事中じゃないか。こういう時は肩の力を抜け」

 

「ただいま~!ってあら、長門さん!お久しぶりです!」

 

「久しぶりだな縁。元気にしていたか?」

 

「はい!おかげさまで!」

 

 実は長門と縁は以前からの顔見知りだ。それは縁が住んでいた場所が深海棲艦の襲撃にあった際に長門を含めた艦娘達に救われたからだ。そのあと縁は桜の店に身を寄せ、酒を大本営に届けることになった際に長門と再会したのだ。

 

「長門さん、任務の方大変なんじゃないですか?」

 

「まぁな。あちこちの海域の調査をするものだから骨が折れる。今は世界会議まで休暇中だから、こうしてのんびりここで過ごしているわけだ」

 

「あ…そうか、もう2か月後なんだ。世界会議…」

 

「そうだ。正直世界会議も疲れるんだ。各国の首脳が集まるわけだし、艦娘も来る。各国の艦娘で癖の強い奴が何人かいてな…。その者たちと関わるってなると…」

 

「は…はぁ」

 

 いきなりどんよりした雰囲気になる長門。毎年長門は世界会議に参加しているのだが、そのたびにこんな様子になる。それほど各国の艦娘は個性派ぞろいなのかもしれない。まともな艦娘もいるかもしれないが。そもそも、狂種と呼ばれる艦娘達も来るはずだ。その者たちと関わるだけで心身ともに疲れるのだろう。

 

「まぁ、しっかりとやってくるさ」

 

「頑張ってくださいね!長門さん!」

 

「あぁ、縁もしっかりと羽を休めろよ」

 

 長門はそう言って席を立った。縁達も食事を終えた後は早急に食堂を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――入浴場

 

「はぁ……疲れが取れるわ~」

 

「本当、極楽極楽…」

 

「おばさんか…」

 

「いやおっさんか…?」

 

「いや大ちゃんだ!」

 

「未来ちゃん!唐突にジャ〇ーズネタやめようよ!」

 

 現在、未来と縁は入浴中だ。現在はこの二人のみ。体もすでに洗っているためあとは風呂につかるのみ。なぜか、未来は唐突にネタ発言をしたわけだが…。すると、入り口のドアが開き二人入ってくるのが見えた。

 

「なんじゃ楽しそうじゃの~…」

 

「ひっ!?浦風ちゃん!」

 

 入ってきたのは浦風と浜風だ。浦風は人に対してはかなりあたりが強いため怖がられているのだ。かくいう縁も浦風のことは苦手だ。何を言われるのかわからないから。二人して縮こまっていると浜風が気を使ったのか浦風に話しかける。

 

「浦風!威圧的な態度をとってはだめだとあれほど…」

 

「はぁ…わかっとる。うちも関わる気はないけ~」

 

 そう言って、浦風は洗い場の方へと向かう。浜風は二人に一礼した後に洗い場の方へと向かった。

 

「あ…相変わらず浦風ちゃんは怖いね…」

 

「本当に浦風ちゃんは怖すぎて怖すぎて…」

 

 ひそひそ話で話す二人。話をしていると浦風がこちらを見ている様子だった。話し声が聞こえたのかこちらを睨んでいるように見える。二人は終始怖がりながら、そそくさと入浴場を後にする。早急に髪を乾かし、寝間着に着替えた後に部屋まで戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――未来の寝室

 

「はあああああああああ…部屋まで来たらどっと疲れが……」

 

「本当、今日も疲れた…すぐに寝れそう…」

 

 二人は、部屋まで来るとすぐにベッドに横になる。歯磨きなども済ませてあるためもう眠れる状態だ。今日一日遊び尽くしたため相当疲れているようだ。

 

「ねえ縁ちゃん。次来るのはいつになる?」

 

「多分また一か月後くらいかな?何事もなければね」

 

「じゃあ、日にちが近くなったら教えて!あと、バスケもしっかりしておいてよ!」

 

「確かに、練習しておかないとね。今日久しぶりにしたらきつかったし…」

 

「よし決定!私も鍛えておくね!」

 

「うん!」

 

「さってと……じゃあ電気消すね~…もう眠い…」

 

「うん、お休み」

 

「お休み~」

 

 そう言って電気を消す未来。縁もゆっくりと目を閉じ、そのまま眠りについたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえず、今回はここまで!
縁「はい!では今回こんな感じでしたがいかがでしたでしょうか!海防艦の子達可愛いですね!次回は横須賀鎮守府の【不幸】が口癖の山城さん中心のお話になります!」



 ……皆さんこんにちは。扶桑型戦艦2番艦の山城です。聞いての通り私は不幸戦艦などと呼ばれています。なぜか私に砲弾が集中しやすかったり、物がこっちに飛んできたり、変なところで転んだり……。けど、そんな私でも、なぜか今日は変に良いことが…。

次回:番外編 Side横須賀鎮守府 戦艦山城の比較的幸運な一日
 私って不幸戦艦のはず…………よね?


 おっさんか→いや大ちゃんだ。はとあるジャ〇ーズグループの歌の歌詞の中にあるセリフが元ネタです!


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戦艦山城の比較的幸運な一日

おはようございます!
今回は横須賀の山城が中心の話です!


 …………皆さんこんにちは。私は扶桑型戦艦2番艦の山城こと黒沢八重(くろさわやえ)といいます。え?不幸型戦艦…ですって。言ってくれるじゃないの。ん?某ホラーゲームの登場人物みたいな名前ですって?…あぁ、そういう名前だから仕方ないです。あと、扶桑姉さまとは顔は似ているって言われてるんですけど、実は親戚関係なの。ちなみに扶桑姉さまの名前は黒沢紗枝(くろさわさえ)っていうのよ。あら、こっちもこっちで某ホラーゲームに出てきた登場人物の名前に似てるって?気にしないでください。

 

 さて、それはさておいて……私は今、ショッピングモールのくじ引きのところに来ています。まぁ、不幸が常に私に付きまとっているわけだからあまり期待していないけど…。最近あった不幸なことはなんでした?ですって?そうね~。じゃあ最近あったことを抜粋するわね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まず一つ目。食堂からアイスを食べながら出てきたところ、海水を頭からもろに被りました。演習をしていた子達が思いっきり水柱を上げたみたいなの。そのせいで、アイスは食べられなかったわ…。

 

 

 

 

 

 

 

 二つ目。訓練で瑞雲を飛ばしながら砲撃を打とうとしたら、瑞雲が操作不能になっちゃって私の頭にもろに当たりました。

 

 

 

 

 

 

 

 三つ目。朝起きて廊下を歩いていた時に、月当たりの部分で角材を持っていた整備員と衝突。角材の角がもろに頭に当たったりと…散々な目にあってきたわけ…。とまぁ、こんな感じで不幸があるわけだから、あんまり期待はしていな……。

 

「おめでとうございま~~~~~~~~す!一等賞、イタリア旅行3泊4日七名様ご招待だ~~~!!」

 

 …………あれ?私って何?某ラ〇ベに出てくる主人公みたいな感じなの?上〇さん?〇条さんなの?ていうかあれ…………私って不幸体質……のはずよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――横須賀第2鎮守府

 

『ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)あ…あの山城(さん)が、一等賞を当てただとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお(゚Д゚;)』

 

「ああもううるさいわね!そうよ!どういうわけか、一等賞を当てちゃったわけ!」

 

 案の定、鎮守府に戻ってきたら騒がれる山城。今現在執務室に来ているわけだ。ここには今提督である赤神桃、秘書艦の霞、満潮。そして、西村艦隊のメンバーでもある扶桑、最上、朝雲、山雲がいる。全員が山城の報告を聞いて目を見開き絶句している。365日ほぼ毎日不幸な目にあっているあの山城が一等賞を当てたからだ。

 

「……まぁ、結局これ持って帰ってきちゃったけど……どうしようか迷っててね。私がここを離れたら…」

 

「いいじゃない。行ってこれば!」

 

「…提督、話聞いてた?」

 

「こういう状況だからこそよ。少しでも楽しい思い出を作ってきなさいな!ここには翔鶴がいるし、何とかなるわよ!なんなら西村艦隊で行ってきなさい!」

 

 なぜか楽観的な桃。それでも険しい顔を山城がするが、周りも桃の意見に同意なのかすごい笑顔だ。

 

「いいじゃないの山城。せっかくの機会なんだから行って来ましょう」

 

「む~…」

 

「そうそう、せっかくだし行ってこようよ!西村艦隊のみんなでさ!」

 

「え?決定事項なのかしら(;゚Д゚)」

 

『もちろん!』

 

「あ…でも西村艦隊といってもここにいる面々は6人しかいないわよ…。あとの一人は?」

 

 桃の疑問に全員が黙る。確かにここにいる西村艦隊のメンバーは6人しかいない。だが、イタリア旅行の人数は7人だ。あと一人はというと…。

 

「…あ!時雨!」

 

 柱島にいる時雨だ。だが、向こうも向こうの都合があるはずだ。そう簡単に行けるとは思えない。あれこれ考えていると、朝雲が携帯をいじっている様子だった。どうやら時雨に連絡を取っているらしい。出撃中だったら連絡はまだ来ないと思うが。しかし、すぐに朝雲の携帯に着信が入った。

 

『提督達に相談してみるよ!もしかしたら休暇をもらえるかもしれない!』

 

 とのこと。

 

「やったね!これで西村艦隊全員で旅行に行けるね!」

 

「……そうね~。不幸な目にあわないことを祈るばかりね~…ははは~(棒読み)」

 

 そう言って、フラフラと執務室を後にする山城。それに扶桑もついていく。その様子を見ていた桃は笑顔であったが…。

 

(確かに常日頃不幸体質だからね山城は……今日良いことがあっても、この後はとてつもなく不幸なことが起きそうな予感が……(^-^;))

 

 そんな心配事をしている桃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――食堂

 

「……はぁ……」

 

「や…山城?そんなに思いつめなくても…」

 

 現在食堂でお茶を飲んでいる二人。時刻は午後2時。おやつを食べに来たところだ。イタリア旅行に行けることになったにもかかわらず、山城はかなり憂鬱そうだ。いつもいつも不幸な目にあっているから正直気乗りしないのだ。

 

「姉様、考えてみてくださいよ…。今の今まで私達がいいことあったりしましたか?もうね、嫌になっているんですよ。私嫌ですよ。イタリアでも不幸な目にあうの…」

 

「……まぁ、確かに…」

 

「どうしたのじゃ?そんな落ち込まなくてもいいだろう!イタリア旅行が当たったのだろう!?しゃきっとするのじゃ‼‼」

 

 話しかけてきたのは利根だ。山城の背中をバシバシ叩きながら盛大に高笑いしている。扶桑はあわあわした様子で利根を見ており、山城は少し鬱陶しそうだ。

 

「利根……あんたねぇ…」

 

「まぁまぁ、こういう日もあると思ったら少し楽なんじゃないか?不幸な目にあっていることが多いのだから、たまにはこんな日もあっていいだろう。さ!せっかくおやつを食べに来たのだ!さっさとおやつを食べようか!」

 

 そう言って、利根は厨房の方へと向かう。そして、適当に厨房を見渡して棚にしまってあった箱を手に取って山城達に見せびらかした。

 

「山城~、おぬしも食べるかこれ?」

 

「あぁ、私はもう少ししたら冷蔵庫にある羊羹を……って利根!それは!!」

 

 山城が何かを言う前に、利根はそれを口に含んでしまう。山城は「遅かったか…」と頭に手を乗せ項垂れた。すると、利根は何度かむせ込んだ後に口の中から泡を吹き出す。利根は箱をひっくり返してみると、そこには【石鹸】と書かれてあった。

 

「私達は2週間後にイタリアに発つからね!その間はここを任せるわよ利根」

 

「ぶっ!ゲホゲホゲホ……わ、わかった!2週間後だな!はあ、それにしてもまさかこれ石鹸だったとはな…なりふり構わず食べようとするのもではないなまったく……山城~。もしくは扶桑でもよいぞ~!冷蔵庫か棚の中に何かないかの~?」

 

「棚の中にクッキーがあったから、それを食べてもいいと思うわ」

 

「すまんの~扶桑!では吾輩はそれを食べるとするか!」

 

「あ、海防艦の子達の分もあるから食べ過ぎないでね!」

 

「わかったぞ~!ちゃんと名前も書いてあるから大丈夫じゃ!」

 

 棚の方にはよく見ると松輪、日振、大東と名前が書いてあるのが見えた。名前が書いていないのが自由に食べていいものとなっているらしい。利根はその中の一袋を手に取りテーブルの方に向かっていった。その様子を見届けた後に山城達も冷蔵庫の方に向かい二人分の羊羹をとる。そしてテーブルに戻った後にそれをゆっくりと食べることにした。しかし、山城は常に周囲を警戒している様子だった。

 

「こういう時に限って、何か起こったりしないでしょうね!?」

 

「や、山城…だからそんなに気にしすぎなくても(^-^;)」

 

 扶桑に促され警戒を解く山城。お茶をゆっくりと飲んだ後に羊羹を食べようとする。その時に、入り口の方から元気な声がこだましてきた。

 

「おおお!山城さん!くじ引きで一等賞を当てたんですよね!そんな日は気分アゲアゲで行きましょう!」

 

「山城さん!一等賞おめでとうございます!この朝潮、あの山城さんが一等賞を当てたなんて感無量です!!」

 

「イタリアに行ったらお土産期待しているわ~!何かアクセサリーがいいわね~」

 

 近づいてきたのは朝潮、大潮、荒潮の三人だ。今日は訓練があった日なのだが、どうやらもう終わっているらしい。訓練後は大抵食堂に来て甘味を食べるそうだ。さらに、山城がいたから今朝あったことをお祝いに来たのだろう。荒潮に関してはお土産を期待しているようだが。

 

「はいはいわかったから。少し静かにして頂戴。今羊羹を食べているところだから」

 

 口に入れようとしたとたんにまた周囲を見渡す山城。今度は机の下、椅子の後ろ、上の天井を見渡した。

 

「や、山城(^-^;)だからね、そんなに警戒しなくても……」

 

「……よし、大丈夫ね」

 

 そう言って羊羹を食べだす山城。羊羹を食べた山城はとても幸せそうな顔をしていた。何なら山城の顔がかなりきらきらしていたほどだ。その光景を目の当たりにした朝潮たちは驚きを隠せなかった。

 

「や、山城さんが(゚д゚)!あの山城さんがすごく幸せそうな顔を!」

 

「は…初めて見ました!」

 

「す…すごい幸せそう!」

 

 そんなこんなで、何事もなく羊羹を食べることができた山城は幸せそうなひと時を過ごしたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、何も起きないことがこんなにも幸せなことだったなんて。本当にいい日ですね!扶桑姉さま!」

 

「えぇ、本当に何事もないからうれしいわ!」

 

 現在うきうき気分で外を歩いている二人。少し先の海岸沿いの方では海防艦の子達が訓練をしている様子だった。どうやら対潜演習を行っているようだ。何個も爆雷を落としている様子が見える。そして、部屋のほうまで戻ろうとしたときに前の方から三隈がやってくるのが見えた。

 

「あら!お二人ともごきげんよう!」

 

「三隈、散歩でもしてるの?」

 

「えぇ、あとちょうど山城さんに渡そうと思っていたものがありまして。はい、これをどうぞ!」

 

 そう言って、渡してきたのは傘だった。黒色が特徴的で少し大きめのサイズだった。おそらく二人分入れるであろう程に。

 

「もしよろしかったら使ってくださいませ!一等賞を当てたプレゼントです!」

 

「は…はぁどうも…」

 

 傘を渡すと三隈は食堂の方へと向かっていく。それを見送った後に二人は再び歩き出した。しかし、すぐ近くで爆音が響き渡る。音のした方を見ると、何やら大きな水柱が立っていた。跳ね上がった水は真っ逆さまに二人の方へと向かってくる。山城はすぐに傘のボタンをはずし開く。幸いにも傘があったおかげでずぶぬれにならずに済んだ。

 

「…………お……おおお( ゚Д゚)」

 

「か…傘があってよかったわね山城(;゚Д゚)」

 

「ご…ごめんなさい!爆雷をとんでもない方向に飛ばしてしまって!!本当にごめんなさい!」

 

「すみませんすみません!わざとじゃないんです!本当にすみません!」

 

「あ…姉貴と松輪を責めないでくれよ!頼むよ!なぁ!」

 

 近づいてきたのは最近着任した松輪、日振、大東の三人だ。全員がまだ10歳であるため今は訓練と座学のみを教えている。おそらく、爆雷を投げる際に勢いよく投げすぎたのだろう。それで山城達の近くで爆発してしまったのだろう。

 

「あぁそんなに謝らなくてもいいわよ。傘があったおかげで濡れなかったわけだし」

 

「そうよ、そんなに謝らないで!あらあら、松輪ちゃんに限っては泣きそうな顔をしてるじゃない。怒らないから大丈夫よ!」

 

「ふええええん、ごめんなさああああい!!」

 

「だ、だから泣かなくてもいいから(^-^;)ね!」

 

 扶桑は三人をあやしているが、松輪が極度の緊張からか泣き出してしまった。山城はその様子を少し困った顔で見ていたが、ふと上を見た際に思わず感嘆してしまった。そして、その様子を全員に話し出した。

 

「皆、上を見て!」

 

「え…あら、虹じゃない!」

 

 さっきの水柱の影響で、上には虹ができているようだった。雨上がりの大きな虹ではなく小さめの虹ではあったものの、とてもきれいな風景だった。それを見て泣いていた松輪も泣き止みとても感動している様子だった。さらにその光景を見ていた山城は…。

 

(あぁ、空はとても青いし今のところ不幸な目にあっていないしこんなきれいな虹も見れるなんて!今日はなんていい日なの°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°)

 

 と心の中でつぶやいていたそうだ。ちなみに、その様子を見ていた松輪達も山城の幸せそうな顔を見て驚きを隠せなかったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――自室

 

「はぁ…最高ですね扶桑姉さま!」

 

「えぇ、いつもいつも不幸な目にあっていることが多いから今日はとても素晴らしい日だわ!」

 

 自室に戻り、今現在まで起こっていることに感激している二人。普段から頭に水をかぶってしまったり物に激突したり敵に狙われやすかったりで散々な目にあっていることが多いのだが、こうして良いことが立て続けに起こっているととても幸せな気分になる。今はやることが無いためこうして部屋にいるのだがそれでも十分だった。何なら今死んでも何も悔いはないと思ってしまうほどだ。今はやることが無いためこうしてのんびりしている。そんなふうに過ごしているとドアがノックされる。部屋に入ってきたのは西村艦隊の面々だった。

 

「山城~、お邪魔するね~!」

 

「お邪魔しま~す!」

 

「お邪魔するわ~」

 

「あら皆、どうしたの?」

 

「何って、せっかくイタリア旅行に行くんだから、どこに行くのかあらかじめ決めておこうかと思ってさ!」

 

 最上が代表して用事を伝える。せっかくの旅行なのだ。行きたいところを今からピックアップするつもりなのかもしれない。あとは時雨を交えて話し合えばいいだろう。さっきメールが帰ってきたから今は非番なのかもしれない。提督から許可を得ているのかはわからないが。

 

「さてと……時雨は今電話でれるかしらっと」

 

「そうね~、出れるといいんだけど…」

 

 満潮が時雨にビデオ電話をする。しばらくすると時雨が電話に出た。どうやら自室のようだ。後ろにはベッドで横になっている白露の姿が見えている。

 

『皆!久しぶり!』

 

「時雨!久しぶりね!調子はどう?」

 

『僕は元気だよ扶桑!みんなも元気そうで良かった!』

 

「……ねぇ時雨、後ろで休んでいる白露のことが気がかりで仕方ないんだけど…」

 

『あ、ごめん山城。白露はリミットオーバーを習得した影響で体調を崩してて……』

 

「やっぱり…」

 

『え?やっぱり?』

 

「山城は前に変な感じがしたって言っていたの。何か、体に電流が流れたような感じがしたって。それで、もしかしたら誰かがリミットオーバーを習得したんじゃないかって」

 

 時雨の疑問に扶桑が答えた。山城は白露がリミットオーバーを習得したタイミングで体に電流のような感覚がしたらしい。それでもしかしたら白露なのではないかと思っていたらしい。以前そのことで話し合ったことがあったから。

 

「白露~…大丈夫なの~?」

 

 山城の言ったことに白露は手を上げて答えているが何となく力が入っていないような感じがしている。どうやらまだ本調子ではないようだ。

 

「その様子じゃ、まだまだ本調子ではないようね…」

 

『あ、ちょっと待ってね山城!』

 

 時雨の画面が揺れ白露の方に近づく。どうやら何か話があるらしい。白露は時雨の携帯を持つと弱々しく話し出した。

 

『よぉ…久しぶり…』

 

「あんた、本当に大丈夫なわけ?」

 

『まだ熱が下がらないんだ…5日間39度台だぞ…ずっと寝てばっかだよ…』

 

「…これはまだ症状が続きそうね…私は完治するまで1週間だったけど、あなたはもっとかかりそうね…」

 

『まぁ、完治するまで薬飲んで、少しでも食べて寝ておくよ…』

 

「えぇ、そうしなさい。わざわざありがとう。休んでいいわよ」

 

 白露は時雨に携帯を返すとすぐに眠った。時雨は携帯をテーブルに置き再度山城達と話し出した。

 

『あのね、提督に旅行のこと話したら快諾してくれたんだ!僕もみんなと一緒に行けるよ!』

 

「やったわね~!久しぶりに西村艦隊で集まれるわ~!」

 

「そうと決まれば、どこを観光するか考えないとね!ここはやっぱり水の都かしら!」

 

「いや、花の都も…」

 

「あ…私教会を回りたいわね!」

 

「僕は大聖堂とか」

 

『やっぱりローマな!』

 

 ああだこうだ話し合う7人。観光地を決めるのに2時間以上もかかってしまった。幸いにも3泊4日あることだし、各々の行きたいところはある程度行けそうだ。行きたいところを一通り決めた後に食事の時間帯になったため解散することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、とても有意義な時間だったわ°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°」

 

「本当ね!それにここまで何も起こっていないし!」

 

 食堂に向かうため廊下を歩いている6人。かつてないほど、山城と扶桑が輝いている姿を見て4人は驚きを隠せない。

 

「ね…ねぇ満潮…」

 

「何…最上さん?」

 

「気のせいかな?僕あの二人がすごくキラキラして見えるよ(;゚Д゚)」

 

「多分気のせいじゃないわ。ねぇ、朝雲…」

 

「そ……そうね、いつもすごく暗い雰囲気を出していたから…ねぇ山雲」

 

「そうね~、偶にはこういうこともあっていいんじゃないかしら~!その分後がこわ……ムグ!?」

 

『それは言わないの!今あの二人に聞かれたら(;´・ω・)』

 

 小声になって慌てて山雲の口をふさぐ。幸い二人には聞かれていなかったそうで胸を撫でおろした。そうこうしているといつの間にか食堂に付き、カウンターで食事を受け取ると、同じテーブルに着いた。

 

「はぁ、こうして明るい気持ちで晩御飯を食べられるなんて、今日はなんて幸運なのかしら!」

 

「そうよね~。大体の確率で足が引っ掛かってご飯をぶちまけてしまうこともあるし…」

 

「誰かがこぼしたお茶を頭から被ってしまうこともあるし…」

 

「魚の骨がのどに刺さったり…」

 

「箸が折れたり…」

 

『いろいろ起こるし( ̄д ̄)』

 

『あ…あぁ(^-^;)』

 

 大抵の確率で起こる不幸な出来事を羅列していく二人。少し時間を置いた後に食事を食べ始めた。この時、二人は少しだけ周囲を見渡すそぶりを見せたがとりあえず何も起きることは無かった。その後、無事に食事が食べ終わり入浴の時間まで少し雑談をすることになった。主に今日あったことについてだ。

 

「あっはっはっは!そうか、三隈が傘を渡してあげたからずぶ濡れになることはなかったんだね!すごい偶然だねそれ!」

 

「ちょっと笑いすぎよ最上!まぁでも、あの後見れた虹がすごくきれいでね」

 

「いいな~、山雲も見たかったわ~!今度海防艦の子達に頼んで爆雷を思いっきり投げてもらおうかしら~!」

 

「やめておきなさいよ、私みたいにずぶ濡れになるわよ…」

 

「そうそう、見るなら自分で爆雷を投げなさいよ…」

 

「そういうことでもないと思うけどね朝雲(^-^;)」

 

 その後もしばらく雑談が続き、時計を見ると夜の8時を過ぎていた。いったん解散し各々が自由時間になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 解散後に山城と扶桑は入浴場へと向かう。8時以降なら人は比較的少ないはずだ。脱衣所に来ると、案の定人はほとんどおらず山城と扶桑の二人だけだ。服を脱ぎタオルをもって浴室の中に入る。体にお湯をかけた後に大きな浴槽の中に入った。

 

「はぁ、本当に今日は幸運な一日でしたね~。姉様…」

 

「本当ね山城。今日は本当にいい日だったわ」

 

「昔からずっと不幸な目にあってきて、そのせいで周りから煙たがられて…散々な毎日でしたね」

 

 昔二人はその不幸な体質のせいで周りから避けられていた。一緒にいたら絶対に不幸な目にあうなどと言われ友達もいなかった。正直生きている意味を見出せなかったときに艦娘として適性があることを知った。知ったのは偶然海軍の者が地元で適性検査を実施していたからだったが。まぁ、艦娘としても不幸な目に散々あっているがここには信頼できる仲間がいる。たとえ不幸があっても仲間たちがそれを紛らわせてくれた。

 

「でも、ここにきて本当によかったです。たとえ不幸な目にあっても、皆がそれを忘れさせてくれますから」

 

「…そうね、山城」

 

「さて、体を洗って上がりましょうか」

 

 二人は洗い場に行き、頭と体を洗った。一通り洗い終えると、脱衣所に戻り着替え、髪を乾かした後に部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ~あ…いろいろ幸運な一日だったけど、さすがに疲れたわね。扶桑姉さま、おやすみなさい…」

 

「えぇ、お休み山城」

 

 歯磨きを終えた後に二人はすぐに布団に入り寝る体制に入る。山城は目をつむりながら少し考えた。

 

(明日もいい一日になってくれるかしら。それともまたあわただしい一日になってしまうのかしら?)

 

 そう考えていると、いつの間にか深い眠りに入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――翌日

 

 朝日が窓から差し込み自然と目を覚ます山城。時計を見ると6時と早かった。気分はかなり良く体のコンディションは最高だ。体を起こし背伸びをする。そして、廊下に出て洗面所へと向かった。

 

「さてとっと!今日もいい日でありますように……ってあば!」

 

 すると、急に横から出てきた整備員と激突してしまう。正確には、整備員の持っていた角材にだ。整備員は大慌てで山城に謝る。

 

「あああああΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)すみませんすみません!窓の部品が壊れていたところがあったので、朝一に修理しようと思ってきたんです!本当にすみません!!」

 

「あ…あぁ…気にしないわ…」

 

 山城は頭を押さえながら洗面所へ向かう。顔を洗い歯を磨いた後に寮を出て食堂の方へと向かうことにした。しかし、今度は向かう途中で海の方から轟音が鳴り響く。何事かと思い音のした方を見たら、大きな水柱が目の前で立っているのが見えた。

 

「…え(;´・ω・)ええええええええええええええええええええええええ!!Σ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

 そして、思いきり頭から被ってしまった。まだ寝間着の状態だったため着替えは大丈夫だが、朝から嫌なことが立て続けに続いてしまったため山城はもう気分が最悪な状態だ。しばらくすると海の方から海防艦の3人が山城に近づいてきた。おそらく朝練でもしていたのだろう。

 

「ごめんなさいごめんなさい!!わざとじゃないんです!また爆雷があらぬ方に飛んでしまって!」

 

「本当にすみませんでした!」

 

「ごめんなさい!許してくれよ!なぁ!!」

 

「……あぁ、気にしていないから大丈夫よ……」

 

 3人にそう言ってゆっくり歩いて食堂に向かう。食堂の前に立ちゆっくりと扉を開ける。

 

すると、今度はトレイでご飯を持ってきた最上が勢いよく躓いてこけてしまう。その拍子にトレイが空中を舞い山城の頭に落ちてきた。

 

「ああああああああああああああΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)山城ごめん!わざとじゃないんだ!」

 

「…………」

 

 山城はそのまま立ち尽くす。そして、肩をぶるぶると振るわせていき不敵に笑い始める。その光景を周囲の者は青ざめた様子で見ている。最上も山城が笑っている様子を見て恐怖しているほどだ。そして、勢いよく顔を上げて叫びだす。

 

「…やっぱり……やっぱり不幸よおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、憂さ晴らしのために艤装を装備して出撃したと?無線で山城から連絡がきたときはどうしたものかと思ったけど…」

 

「ごめんよ提督…。山城、相当頭にきていたみたいで」

 

「はぁ、まぁ普段から散々不幸な目にあってきてるから昨日の出来事がうれしかったんだと思うけど…一応、無線をつないでみようかしら」

 

 桃は何気なしに無線で山城に連絡してみる。無線をつなげると、砲撃の音や轟音が響いていた。さらに、山城の叫び声まで。

 

『沈め沈めえ!あんたら全員海の底に沈めてやるわあああああ!私の受けてきた不幸をお前達も味わええええええええええええええええええええ!!!』

『……………………』

 

 無線の内容を聞いてお互いに黙る。しばらく沈黙が続いた後に、二人は両手を合わせながらこうつぶやいた。

 

『敵ながら同情します…。深海棲艦の皆さん…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――鎮守府近海

 

「…はぁスッキリした!久しぶりに暴れると気持ちいいわね!異能も使ったし!」

 

 周囲を見ると、深海棲艦の残骸らしきものが散乱していた。砲撃などはもちろん竜巻や衝撃波を使って蹴散らしていたのだろう。

 

「さてと、鎮守府に戻ってご飯でも食べようかしら!」

 

 そう思い、鎮守府に戻ろうとする。しかし、上の方から何かが落ちてくる音がした。何事かと思い上を見ると敵が飛ばしていたであろう艦載機が自分の頭にぶつかった。幸い、魚雷は打っていたらしく爆発することはなかったが。

 

 山城は、目をぴくぴくさせながらつぶやいた。

 

「やっぱりもう少し深海棲艦を狩ってやろうかしら!隕石でも落として一気に沈めてやるわ!」

 

 そう言って、さらに沖合の方へと向かっていった。その後しばらくは本当に隕石を落として深海棲艦達を狩りまくっていたそうだ。鎮守府に戻ったのは昼前で、戻ってきたときには暴れまわってスッキリしていたのか、表情はキラキラしていたそうだ。なお、この日以降再び不幸なことが続いたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦艦山城の比較的幸運な一日 終わり

 

 




山城「はぁ……やっぱり私ってどっかのラ〇ベの主人公みたいな感じなのかしら?次回は呉鎮守府の話よ。そういえば、あの子の命日だったわね……」



6月29日。それは、大井の命日。毎年、この日になると思い出す。あの日のことを…。


次回:Side 呉鎮守府 悲喜交交(ひきこもごも)


お知らせです!
ストックしていた話が尽きたので、次回から投稿が遅くなります…。
一か月以内に投稿出来たらいいかな…
最新話は鋭意製作中ですので、気長に待っていただけたら幸いです


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悲喜交交

お久しぶりです!
今回で、各鎮守府の番外編は最後です!
それではどうぞ!


 あの日のことは忘れない。6月29日。この日になると思い出す。あの日のことを…。あの出来事があって、日常が変わってしまった。あの日から、憲兵を憎んだり人間のことを好きになれなかったりした。自分も含め、皆そうだ。特に皐月と文月は。どうしても、あの日のことを思い出してしまう。大井が死んだ日を。飛龍と蒼龍、瑞鳳が大怪我をしたあの日を。

 

『…め………い………何…………きこ……………ない」』

 

 大井が死んだあの日の光景をいるも思い出す。あいつらのことが憎い。いっそのことこの手で殺してしまいたいくらい………と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っ⁉」

 

 がばっと、勢いよく起き上がる伊織。呼吸が荒く、全身に冷汗が出ている。ゆっくりと息を整え、時計を見る伊織。時刻はまだ4時前後だ。変に目が覚めてしまったため、一旦窓の方を眺める伊織。いくら時がたってもあの日の光景は忘れることはない。最愛の人を無くしてしまったあの日から。

 

「……大井……いや、椎奈…俺はどうすればいいんだろうな…」

 

 そう言って項垂れる伊織。あの日の傷は今でも癒えない。憲兵達が憎い。ただ、それだけしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、行ってくるぜ」

 

「えぇ。テイトク、三人とも。気を付けて」

 

 伊織と球磨、多摩、木曽の三人は自家用ヘリで大湊鎮守府跡地に向かうところだ。秘書艦である金剛は伊織達を見送っている。伊織達はヘリに乗り込むとそのまま飛び立っていく。金剛はヘリが見えなくなるまで見送ると、そのまま執務室へと向かう。執務室にはすでに榛名がおりソファーに座り休んでいたようだ。

 

「誰でしょう?金剛お姉さまですか?」

 

「イエース!私ですヨー!榛名」

 

 金剛は榛名の隣に座り陽気に話しかけた。榛名は金剛がきたことを確認すると少しだけ笑い上を向く。そして、静かに語りかけた。

 

「…あれから3年…もう3年になってしまうんですね…」

 

「……えぇ、あの子が亡くなってからもう3年になってしまいました…」

 

「お姉さま…提督は大井さんのことをいつまでも思っています。お姉さまは気づいているのでしょう?」

 

 金剛は以前から伊織のことが好きだった。大湊鎮守府に所属していた時からずっと。だが、金剛の思いは空振りに終わってしまい伊織は大井と恋仲になった。金剛はそれでもよかった。伊織達が幸せならそれで。今も伊織が大井のことを思っているのは変わらない。時折伊織が大井のことを思い出してしまい落ち込んでしまうことがある。だから、少しでも明るくいてほしいと願っているのだ。

 

「提督があの子をずっと思っていることはわかっています。でも、それでもいい。私は、少しでもテイトクには明るくいてほしいです。だから、私がやることはこれからも変わらないネ~!!」

 

「お姉さま…」

 

「……さて、辛気臭い話はここまでにするネ~!ティータイムにでもして執務仕事をさっさと終わらせましょう!」

 

 金剛は意気揚々と執務机に向かう。今は金剛が提督代理だ。目の前にある書類の束を勢いよく見ていく。書類仕事をしている音を聞きながら榛名はソファーにもたれかかった。

 

(皆さん表向きは気丈に振舞ってはいる…でも、あの日の傷は今でも癒えてはいない。それに、もしこの鎮守府の誰かが欠けてしまったら誰かの心が壊れてしまうかもしれない。でも、きっと大丈夫。ここの皆さんなら)

 

 榛名はそう思いながらゆっくりと目を閉じた。金剛の執務仕事の音を聞きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――飛龍達の自室

 

 部屋の畳に座り窓の方をぼーっと見つめている飛龍。膝上には皐月が横になっていた。少し前に文月とともに部屋に来て飛龍に甘えているのだ。文月もベッドの上で横になっている蒼龍の隣にいる。

 

「飛龍…飛龍!」

 

「うぇ!…あぁごめん。何?」

 

「どうしたのさ、ぼーっとして?」

 

「あぁ…なんか昔のこと思い出してさ……あれから3年……もう3年じゃん…」

 

「そうだね…もう3年になるのか。あの事件が無ければ、今もみんなでバカ騒ぎしてたのかな…」

 

 蒼龍は天井を向きながら昔を思い出す。楽しかったこと、苦しかったこと。本当にいろいろあった。あの事件があったせいで、大井は戦死し飛龍は左足を失い、蒼龍は脊髄損傷になった。そのあとはしばらく廃人のようだった。カウンセリングや家族達の支えがあったから立ち直ることができたが。

 

「…事件が無ければ、私達は力を失うこともなかったのになぁ」

 

「…飛龍さん?」

 

「ん?何皐月?」

 

 皐月は飛龍のことを心配そうに見ていた。何かを言いたげだが、迷っているのか目がかなり泳いでいた。そして、意を決したのかゆっくりと口を開く。

 

「あの時、僕がもっと強かったら飛龍さんが左足を無くすことはなかったのかな…」

 

「え?」

 

「だって…飛龍さんは僕のことをかばって…」

 

 飛龍は皐月のおでこにデコピンを入れる。皐月は少しだけ頭を押さえた。飛龍は皐月の頭を撫でながら話し出す。

 

「私達の母さんが言ってたんだけど、あぁ…血のつながりはないんだけどね…その人がね、答えは誰にもわからないって言ってたんだ。あの時皐月が改二の状態だったら何か変わってたかもしれないし、そうでなかったかもしれない。結果は変わらなかったかもしれないし、誰にもわからないよ」

 

「でもさ…」

 

「たらればの話はこれで終わり。前に言ったでしょ。この話はもうしないって。皐月と文月があの後、一生懸命に努力して改二になったのは伊織から聞いたし少しづつ強くなってってるよ。霊力は、まぁ気にしないで(;・∀・)」

 

「なんで訓練したら人によっては改二になるのに、霊力は全然上がらないんだろう…」

 

 訓練によって、艤装の練度が上がり改二という状態になるものもいる。現にここでは皐月と文月、睦月、如月、金剛型姉妹、木曽がいる。飛龍と蒼龍もそうだ。ただし、改二になるのと霊力が上がるのとでは訳が違うらしい。皐月も改二になる前後では霊力がそこまで上がっていなかった。

 

「なんか、頑張っても頑張っても他の人達と力の差が出るような気がしてさ…ねぇ文月~」

 

「……」

 

「あれ、文月~?」

 

 皐月は文月の名を呼ぶが返答がない。蒼龍が気になって文月の顔を見ると規則的な寝息を立てて眠っているようだった。

 

「寝ているみたいだよ皐月」

 

「な~んだ…」

 

「…おっと、もうこんな時間か。皐月、ごめん私用事があるから!」

 

「は~い。行ってらっしゃい」

 

 飛龍は義足を履き、杖を突き入り口へ向かう。飛龍を見送った後に皐月は蒼龍の横に向かい横になった。

 

「あれ、皐月?」

 

「僕も少し眠いから一緒に寝ていいよね?」

 

「少し動きにくいからあまりくっつかないでほしいかな…」

 

「今日くらいいいじゃないか~」

 

「わかった。今日だけね」

 

 そう言って、皐月は蒼龍の背中に引っ付く。そして、ゆっくり目をつむりしばらくすると規則的な寝息を立てていた。蒼龍も二人に引っ付かれていたためかいつの間にか眠りについていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え~っと、蒼龍さん達に伝えなければならないことはっと…あぁそうそう、次回の出撃の件でっと」

 

 霧島は手に持っているファイルをもてあそびながら廊下を歩いていた。とうとう次の出撃で飛龍と蒼龍が本格的に編成されることになる。その報告をしに来たのだ。霧島は蒼龍達の自室の前に来るとノックを数回する。

 

「飛龍さ~ん……は出かけている時間か(;´・ω・)蒼龍さん、いますか~?」

 

 声をかけてみるも返事はない。たしか皐月達も来ていたはずだったがその二人の声もしなかった。再度ノックをし声掛けしてみるもやはり返事は見られない。

 

「あれ、いないのかな?勝手に開けるのはあれだけど……失礼しますよ~」

 

 霧島はそっとドアを覗き込む。覗き込んだ先には蒼龍達が川の字でベッドの上で眠っていたところだった。霧島はその様子を見て少しだけ笑った後にそっとドアを閉めた。その時に廊下から卯月と水無月が通りかかろうとしていた。

 

「あ!霧島さん!お疲れぴょん!」

 

「お疲れ霧島さん!ここ飛龍さんと蒼龍さんの部屋だよね?」

 

「し~…」

 

 霧島は口に指を当てる。そして、ファイルの中にあった紙に何かを書いたかと思うと扉の前に持参したセロテープで張り付けた。そして霧島はその場を後にする。卯月達はその様子を見届けた後に扉の前を見る。そこには【お昼寝中】と書かれてあった。

 

「なるほど、皐月達と蒼龍さんはお昼寝中ぴょん」

 

「起こしちゃうのもあれだし、ここは邪魔しない方がいいね」

 

『し~!』

 

 二人はゆっくりとその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かといって、卯月達暇ぴょん…というわけで今現在執務室の前にいるわけですかどうぴょん水無月!」

 

「うんうん大賛成!何か仕事があれば手伝えばいいし!」

 

「仕事が無ければ駄弁ればいいぴょん!というわけで、ノックノック!」

 

 卯月がノックをして執務室の中に入る。中には、金剛と榛名、さらに鈴谷と熊野がいた。仕事はあらかた片付いているのか全員紅茶を飲みながら話をしていた。

 

「おお、卯月と水無月じゃん!ち~っす!」

 

「ご機嫌用お二人とも」

 

「鈴谷さんに熊野さん!ごきげんようぴょん!」

 

「何々~?どうかしたの?

 

「卯月達暇ぴょん!話し相手になってぴょん!」

 

 卯月はスキップしながら近くにあったソファーに座り込む。水無月も卯月の隣に座った。そして、卯月は足をバタバタさせながら話し出した。

 

「ふっふっふ、卯月達少しづつ実力がついてきてるぴょん!心なしか霊力も少し上がってきているような気がするぴょん!なんならみんなを守ってあげてもいいぴょ~ん!」

 

「……溺れる卯月久しからず…」

 

「…鈴谷さん、それどういう意味ぴょん?」

 

「地位・富・名声などを笠に着て威張り散らしているような者は、遠からず没落するものだ…という意味ですわ!ネット参照です!」

 

 鈴谷が言ったことに熊野が補足説明をする。その説明を聞いた金剛、榛名は笑いをこらえきれずにいる。水無月は意味がわからないのか頭に?マークを浮かべている。卯月は考えに考えながら熊野に聞いた。

 

「それってつまり、調子に乗っているものはいずれ地の底に落ちるって意味でいいぴょん?」

 

「まぁ、ざっくりいうとどうですわね!」

 

「卯月は調子こいてないぴょん(# ゚Д゚)」

 

「そんなこと言って~。本当は調子こいてんじゃないの~?」

 

「だから、調子に乗ってないぴょん!!鈴谷さんはすぐにそうやって卯月のことをからかうぴょん!!卯月はみんなを少しでも明るくしたいからこうやっているのに~~!!」

 

 卯月はよほど頭にきているのか、かなりご立腹の様子だ。その様子を見て鈴谷達は笑いをこらえられなかった。金剛もその様子を笑いながら見ている。金剛は知っている。卯月の行動は鎮守府の皆を少しでも笑顔にしたいんだと。この時期は古株の全員がいつも暗くなってしまう。でも、卯月が来てからこの時期は全員明るくいることが多くなってきた。卯月の行動にはどれだけ助けられていることか。

 

「もうこうなったら、皆が納得するくらい強くなって強くなって強くなってやるぴょん!そして、そんな評価を見返してやるううううううう!!」

 

「わかったわかったで~す卯月。だから落ち着いてください」

 

 卯月は頬を膨らませていたが渋々納得しソファーに座りなおす。そして、金剛も机に座りなおしみんなと一緒に雑談に花を咲かせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――大港鎮守府跡地

 

 あの日以降、ここは立ち入り禁止区域になっている。ただ、鎮守府はあのままの状態になっておりところどころに焼け跡や建物が崩れている場所もあった。伊織達は鎮守府の前を歩いている。正確には大井が戦死した場所へと向かっていた。

 

「ここは相変わらず変わらねえな…」

 

「提督、あの一件以降ここはそのままになっているんだから当たり前だくま…」

 

 それもそうかと思いながら周囲を見渡す伊織。本当にここは変わっていない。毎年ここの光景を見ていたら思い出す。楽しかった思い出や辛かった思い出を。そして、あの時に起こった出来事も。あれこれ考えながら大井が戦死した場所へ着いた伊織達。そこにはすでに花束がおいてあった。

 

「あいつ…先に来てたのか…」

 

「もしかして…北上が⁉ここに来てたのかくま!なら、近くに!」

 

「無駄だよ球磨。花束をよく見てみろよ」

 

 花束をよく見てみると、花弁が少しだけ散っているようだった。おそらく今日おかれたものではない。一日二日前の物だろう。多摩も周囲の匂いを嗅いでいるが表情は暗かった。

 

「北上の匂いも薄い。ここに来たのは昨日か一昨日にゃ…」

 

「…まったくあいつは…たまには顔くらい見せろくま……」

 

 無言で花束を置く伊織。そしてそのまま手を合わせる。球磨達もそれに続いて手を合わせた。しばらく手を合わせた後に伊織がおもむろに話し出した。

 

「最初にここに着任したとき、一緒に来たのがお前らだったよな」

 

「そうくまね~。最初にここに来たのが球磨達だったくま。あの時は少しバタバタしてたくまね~」

 

「大井が北上にべったりで、木曽は張り切っていたけどいろいろ空振りに終わったりしてたにゃ…」

 

「それは言わないでくれよ姉ちゃん…そんで、そのあとは金剛達がきたり、飛龍達が来たり、皐月達も来て一気ににぎやかになったよな…楽しかったな~あの時は…本当に」

 

 またしばらく沈黙が続く。沈黙が続いた後に伊織はその場に座り込む。

 

「悪い、少し一人にしてくれないか…」

 

 球磨達は鎮守府の正面入り口の方へと向かっていった。伊織は花束を置いた場所に視線を移し最近のことを話しだした。

 

「なぁ大井。飛龍と蒼龍が戻ってきたんだ。全盛期の半分以下しか力が残ってないんだぜ…そんな状態だったってのに、また俺達の力になりたいって言ってさ…」

 

 そのまま項垂れる伊織。戻ってきたうれしさと同時にかなり複雑な気持ちだった。新種も現れている以上かなり厳しい戦いになるであろう。あの状態で戦場に出てほしくない。そういう気持ちもある。

 

「かなり複雑だよ。あいつらが戻ってきたのはすごくうれしい。皐月達も喜んでる。けどよ、もしあいつらに何かあったら…」

 

 伊織はしばらくその場で項垂れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あの時、どういう選択をしていればよかったくま…」

 

 正面入り口に来た球磨達は当時のことを話していた。あの時、鎮守府内で籠城することを選んだ。しかし、結果として北上は暴走。伊織達はやむを得ず鎮守府から離れることになった。援軍も来たが何もかも遅かった。

 

「多摩は裏の方で金剛と飛龍と蒼龍と一緒に戦ったにゃ。でも、蒼龍も負傷してしまった。北上は暴走して手が付けられない状態だったし…」

 

「あの時俺は何もできなかった…。そのせいで、提督は傷を負って…大井姉ちゃんは…」

 

 あの時のことを思い出したからか、木曽は目に涙を浮かべていた。多摩は木曽の横に立ち頭を撫でてあげる。深海棲艦と戦うのとはわけが違った。あの時全員が全員正しい判断ができていたのかわからない。何が正しかったのかも今ではわからない。

 

「お前が悪いんじゃないくま。悪いのはあの憲兵達だ。だから、泣かなくていいくま」

 

「……うん」

 

「…さてと、そろそろ提督も落ち着いているかもしれないくま。一旦合流するとするくま」

 

 三人はひとまず伊織と合流することにした。案の定伊織は少し落ち着いており球磨達を見た後に鎮守府を後にすることにした。ちょうど昼時だったため近くの町で昼食をとることにしたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――広〇県某所

 

 海辺にあるとある港の方に杖を突きながら飛龍は歩いていた。電車やタクシーを使ってここまで来たが来るまでに大変だった。左足は義足だし杖を突いているし。途中変なもの達に絡まれたりと散々だった。まぁ、変に絡んできたものは返り討ちにしてやったが。飛龍は埠頭の方で黒いパーカーに身を包み釣りをしている者の横に立つ。フードを深く被っているため顔は見えなかったが。少し間を開けた後におもむろに話し出した。

 

「……久しぶりだね。北上」

 

「……あぁ、こうして会うのは3年ぶりだね…」

 

 釣りをしているのは3年前から行方知れずになっていた北上だった。先日密かに飛龍に連絡を取り二人きりで会う約束をしていたのだ。金剛に北上の依頼で呉に所属したことがばれてしまったこともあるが。

 

「あちこちで暴力団とか潰して回っているみたいじゃない?情報収集でもしてるの?」

 

「…あぁ、あの糞憲兵と繋がってるって噂があったところがほとんどだったけどね。でも尻尾はなかなかつかめなかった」

 

「ある程度は情報手に入れてるの?」

 

「あるところに雇われているってことはわかってる。でも、それ以上はわからないね…」

 

「…そうか」

 

「そういえば、金剛にもうバレたんだよね…相変わらず勘が鋭いね~あいつは…」

 

「…ねぇ北上、戻ってくる気はないの?」

 

 飛龍は北上に問う。呉鎮守府の全員が北上の帰りを待ち続けている。特に球磨達は。それに、北上のことを責めるものは誰もいない。しかし、北上は手に力を入れながら話す。

 

「帰る気はないよ」

 

「なんでさ?皆あんたを待っているんだよ…伊織なんてあんたの情報が入り次第すぐに探し出してるって…球磨達だってあんたのこと…」

 

「あたしは戻る資格なんて無いって…あの時暴走に暴走を重ねた結果…伊織は負傷したし、大井っちも死んで……あんたと蒼龍は前線に出れないほどの傷を負った…」

 

「私達の怪我はあんたのせいじゃ…」

 

「とにかくさ…あたしは帰れないさ…あいつらを見つけるまではね…」

 

「……そうか」

 

「飛龍もやるかい?…おっと、あんまりここいらでは艦娘の名前は呼ばない方がいいのかな?今は人がいないからいいけど…」

 

 北上は釣り竿を飛龍に渡す。飛龍は竿を受け取ると海に向けて竿を振る。北上も釣れていないようでバケツの中は空だ。釣りをしながら飛龍は話す。念のため真名で北上を読んだ。

 

「…(みやび)、ちゃんと制御できてるの?」

 

「…………ふとした時に暴走しそうになるよ…陽菜」

 

「…でも、大分力をつけているみたいだね。昔の私でも、あんたに勝てるかどうかわからないくらいね」

 

 飛龍は、北上の力を肌で感じていた。3年前の比ではない。今でもS級に分類されているのであれば、おそらく山城と同格。もしくはそれ以上かもしれないほどだ。北上は手に力を込めながら話し出した。

 

「それはうれしいね~。あの糞どもにあたしの力を見せるのが楽しみだよ…」

 

「まったく…おっと、釣れたかな?」

 

 飛龍はリールを巻いてみるが、魚に逃げられてしまったのか針には何もいなかった。しかめっ面で針を見る飛龍に北上は面白かったのか笑い出していた。

 

「あはははは!運が無いね~……さてと、じゃああたしは行くかな。ここにいても釣れなさそうだしね」

 

「…そうか、おお……あぁ…椎奈のところには顔出したの?」

 

「一昨日ね…命日には伊織達が必ず来てるからね…」

 

「そう、竿ありがとうね。私も用事があるから町に行くよ。また会おう雅」

 

「あぁ、またね」

 

 飛龍は杖を突きながら埠頭を歩いていく。その様子を見届けながら北上は道具をしまい、乗ってきたバイクの方へと向かう。道具をバイクに乗せ、ヘルメットをかぶった後にその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、買った買った!皐月達喜んでくれるかな?気に入りそうなアクセサリーやらお菓子やらいろいろ買ってきたけど…」

 

「はぁ~さすがにヘリの移動は疲れたぜ…あと球磨よ~…お前飯食いすぎだろ…って飛龍、帰ってきたか!」

 

「お~伊織!まさか一緒のタイミングで帰ってくるなんてね!」

 

 飛龍と伊織達は一緒のタイミングで帰ってきた。ちょうど夕飯時であったためそのまま食堂の方へと向かう。食堂にはすでに全員がおりご飯の準備はいつでもオッケーのようだ。

 

「提督~、早く晩御飯を食べよう!!鈴谷おなか空いたよ~!」

 

「卯月もおなかぺこぺこぴょん!早く食べるぴょん!」

 

「飛龍さ~ん!お土産何~?早く見せて~!」

 

「飛龍さ~ん!こっちこっち~!」

 

 伊織達は、それぞれ席に着く。飛龍は皐月達にお土産を見せてあげた。お菓子やアクセサリーなどがあり皐月と文月はとても喜んでいる様子だった。そして、各々が晩御飯をとってきた後に席に着く。今日のご飯はカレーのようだ。

 

「よし…皆、飯の前にいいか?」

 

 伊織は、席から立ち上がり全員を見る。かなり真剣な様子で全員が伊織に顔を向けていた。

 

「今日は、大井の命日だ。古株のものも、新しく入ってきたみんなも昔のことを聞いたり、思い出したりして思うことはあると思う。俺からいうことは一つだ。皆絶対に死ぬな!死ぬのは俺が許さねえ!いいな!」

 

『了解!』

 

「よし、そんじゃあ!いただきます!!」

 

『いただきま~す!』

 

 全員が食事を食べ始めた。各々がそれぞれ決意を秘めながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悲喜交交   終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回   第2章  開幕





今年も一か月切ってしまいましたね…
なるべく早く次回投稿したいと思います!ではでは!


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第2章
57話 病み上がり


こんばんわ!
とうとう第2章に入りました!
今年最後の投稿になります。1年本当に早いですね…。
それでは、どうぞ!

他作ネタ含みます。


「……う~ん」

 

 ベッドの上から起き上がる白露。自分の手を見ながら目をつむる。少しだけ霊力を解放してみる。すると、周りの空気に圧のようなものが加わる感じがした。白露は目を開け、一気に拳に力を入れる。

 

「よし!万全だ!」

 

 白露は一気に起き上がる。しかし、起き上がったと同時に体に違和感を感じた。体が重いようなそんな感覚が。とりあえず、一旦部屋を出て洗面所へと向かった。歯磨きや顔を洗いそのあとに食堂に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…おはよう」

 

「おう白露!やっと全快したのか!」

 

 食堂に入るのと同時に摩耶が話しかけた。久しぶりに食堂に来たのを見てうれしかったのか表情は笑っているようだった。近くには五十鈴や鳥海もいる。時雨や夕立達はまだ来ていないようだった。まだ朝7時前というのもあるのだろう。今食堂にいる人達は全員が朝強い人たちだ。他には提督である鳴海京、副提督の桐生仁。教官である鹿島、厨房の方には星羅もいた。星羅は白露を見た後に手を振りながら声をかける。

 

「焔~!おはよう!調子はどう?」

 

「あぁ、もう万全だよ母さん。あとさ、一応鎮守府の中だし今は艦娘としての名を…」

 

「いいじゃない焔。他の子達が白露って言っても、私はずっと焔って呼ぶわよ!10年分の時間が空いちゃってるからね。雫のことも名前で呼ぶわ!」

 

「…もう勝手にしてよ…あとさ…何やってるの?」

 

 白露が星羅を見ると、四つの包丁を手に持ちお手玉のように宙に投げて回していた。星羅はそれを涼しい顔でやっている。その様子を見ていたもの達も目を丸くしながら見ている。

 

「料理後の軽~い準備運動よ~!」

 

「あ…あぁ…」

 

⦅…やっぱり白露(さん)の母親だ…。めちゃくちゃだ…⦆

 

 驚愕しながらその様子を目の当たりにする。白露は少しだけ呆れながらテーブルに向かう。正確には鹿島の方に。

 

「鹿島さん。少しいいか?」

 

「ふぇ…えぇいいですよ」

 

「じゃあこの後埠頭の方に来てくれないか?少し付き合ってほしいんだ。あと提督」

 

「はい?」

 

「あとで話あるから…」

 

「はぁ…」

 

 白露と鹿島はそのまま食堂から出ていく。その様子を見ながら京と仁は顔を見合わせる。さらに摩耶達も京達に近づいた。全員が少し間があった後に話し始める。

 

「皆さん…今日の白露さんどうしたのでしょう?」

 

「…なんか変だったな。いつも好戦的なあの白露が?前に反抗的な態度をとっていた鹿島に用事頼むか?」

 

「まだ体調万全じゃないんじゃない?」

 

「いやいや五十鈴、あいつの顔すがすがしいほどによかったぞ…」

 

「摩耶、一体どうしてそれがわかるの?」

 

「勘!」

 

「なになになに?いったいどうしたの?」

 

『あぁ実は……いやいやいや包丁の数Σ(゚Д゚;≡;゚д゚)増えてますけど(゚д゚)!』

 

 星羅の方を見ると、なぜか包丁の数を二つ増やしてお手玉のように回している様子だった。その様子を驚愕しながら一同は見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ~…眠いなもう…」

 

「本当に眠いっぽい…」

 

「二人とも本当に朝弱いわね…」

 

「そうですね…はい…」

 

 時雨、夕立、村雨、春雨は支度を終え埠頭付近を歩いていた。時雨と夕立が眠気覚ましに海の方に行きたいとのことだった。時雨は朝にコーヒーを飲むことが習慣だがそれはご飯を食べる時だ。埠頭を歩いていると、海の方に白露が艤装を装着し海を走っていた。海の上には訓練用に使う柱が立っている。近くには鹿島がおりその様子を見ている様子だった。

 

「あれ、白露姉さん?」

 

「今更基礎練習ってどういうことっぽい?あれ訓練生の時にする奴だよ…」

 

 村雨と夕立は率直に疑問を言う。時雨はその様子を凝視していた。何か動きがぎこちないような感じがあった。いつもの白露とは程遠いような。すると、白露が柱に足が引っ掛かるような様子が見えた。そのあとに、白露は鹿島の方に向かっている。何やら助言を求めているのだろうか?時雨は二人のもとへと向かう。村雨たちも一緒についていった。

 

「二人ともおはよう!」

 

「あら皆さん!おはようございます!」

 

「二人ともどうしたの?それに白露、さっきの」

 

「あぁ…」

 

 白露は顔を背けながら返事をする。その様子を見て鹿島が代わりに話し始める。

 

「白露さん、どうやらまだ本調子ではないみたいで…」

 

「え…えっと、まだ調子が悪いんですか?…はい…」

 

「いえ、10日間もずっと横になっていたみたいですからね。おそらくそれで体の筋力なども落ちているのだと思います」

 

 白露は埠頭に上がると、艤装を仕舞いに工廠の方へと向かう。その様子を見ながら鹿島も工廠の方へと向かっていった。時雨達は全員顔を見合わせながら話し始める。

 

「えっと、どういうことっぽい?」

 

「つまり、白露姉さんは病み上がりで体が相当鈍ってるってことなのね!」

 

「筋力も落ちているから、しばらく出撃とかしなかったりして…」

 

「演習とか訓練だけやることになるってことですか…はい…」

 

 全員しばらく顔を見合わせながら黙る。しばらく黙った後に全員が目を見開き大声を上げた。

 

『ええええええええええええええええええええええ‼‼‼‼嘘でしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――執務室

 

「あ……あの白露さんが(;゚Д゚)」

 

「喧嘩っ早いあの白露が(;´・ω・)」

 

「教官の言うことも聞かなかったあの白露が…」

 

「演習の時に一人で突っ走ってたあの白露が…」

 

『しばらく訓練のみだとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)』

 

「うるさい‼‼黙れこら‼‼‼」

 

 現在白露は執務室で提督達に今後の方針を話していたところだ。案の定京と仁、さらに摩耶と五十鈴に驚かれる。埠頭の場を見ていた時雨達は細い目で見ており、最近着任した五月雨達5人は頭に?マークを浮かべていた。それほど、白露の言ったことに対して驚きを隠せないのだろう。

 

「朝走行訓練やら砲撃訓練やったけど、前ほど精度がよくないんだ…。体にも力が入りにくいしさ…」

 

「は…はぁ、それはつまり…?」

 

「えっと、10日間寝ていたことで体の筋力が落ちているんだと思います。先ほど見た際に砲撃が4割、走行の際に柱に足を引っかけてしまうところを見ました。しばらく訓練を実施して体を慣らしていく必要があるかと」

 

「な…なるほど」

 

 鹿島の言ったことに対して京は納得していた。確かに、10日間ほとんどベッドの上で過ごしていたのだ。体が鈍っていても仕方ないかもしれない。実際に白露が海上を走行したところ7回も柱に躓き、砲撃率も普段は8割を超えているはずなのだが、今回に限っては4割と半分ほどの確率だったほどだ。

 

「砲撃率は4割ほどですか…。半分を切ってしまってますね…」

 

「おまけに7回も柱に躓いたね…。隊列を組んでいたら、下手したら陣形から外れちまうぞ…」

 

「10日間も寝ていましたから、普段なら筋力を戻す期間は1か月ほどかかるといわれていますが、白露さんなら2週間か3週間弱でほぼ戻るかと」

 

「2週から3週か…」

 

 白露は手を開閉しながらつぶやいた。艦娘だし異能を持っているのもあるから常人と比べて治りは早いとは思う。だが、最高で3週間弱も戦線から離れるとなると実戦での感覚も鈍ってしまうかもしれない。だが、今は体を慣らすことが優先だ。

 

「わかりました。この件は白露さんと鹿島さんにお任せします。摩耶さん、艦隊を率いて沖ノ鳥島方面へ出撃お願いします。最近、そこで深海棲艦の動きが活発のようです」

 

「はいよ!任せとけ!」

 

「五十鈴さんは第2艦隊を率いて、近海の警戒をお願いします」

 

「任せて!」

 

「五月雨さん達は座学と演習をお願いしますね。その辺は鹿島さん、お願いします」

 

(……五月雨さん達の演習……は(゚д゚)!ピコ~ン。閃いた!)

 

 京の話していることに対して、鹿島は何かを閃いた様子だった。何やら白露の方を向いている。白露も視線に気づく。鹿島は五月雨達の方に視線を向けている。白露はその意図を理解したのか静かに頷いていた。二人のやり取りに周囲は気づいていない様子で出撃組は早々と執務室を後にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――14:00 埠頭

 

「……ば~…疲れたっぽい」

 

「途中まで船で移動するとはいえ、出撃はやっぱりきついな。沖ノ鳥島なんて南の方だし…」

 

「敵もそこそこ強かったし、さすがに堪えたね…」

 

 出撃から帰ってきた摩耶達第1艦隊。摩耶を旗艦に夕立、時雨、村雨、飛鷹、隼鷹だ。敵はflagship級が多くいた。戦艦級こそ少なかったが、空母や重巡級が多かったためかなりの苦戦を強いられた。新種と思われるものはいなかったのが救いだ。

 

「はぁ~…疲れた~…やっぱり出撃のあとは酒を!」

 

「隼鷹(# ゚Д゚)」

 

「は…はい…」

 

「あはは、二人のやり取りを見るのは久しぶりだよ!ってあれ、五月雨達と鹿島さんと白露が…」

 

 時雨が沖合にいる五月雨達に気づく。見ると、五月雨達と白露が演習をしている様子だった。鹿島も大声で五月雨達に指示をしている。五月雨達は白露の動きについていけていない様子でかなりあたふたしている様子だった。

 

「おお!やってるやってる!なんか見てるとうずうずしてくるな~!なぁ夕立!」

 

「…………」

 

「あ…あれ夕立?お~い夕立~(;´・ω・)」

 

 摩耶の声掛けに対して何も反応を見せない夕立。気のせいか背後にドス黒いオーラを放っている様子だった。摩耶はそのオーラに気圧され速足で後ずさる。そのあとに村雨に小声で話し出した。

 

「な…なぁ、夕立の奴どうした…」

 

「こ…これ多分…五月雨達に嫉妬してる(;゚Д゚)」

 

「えぇ……と…とりあえず向こう行ってみるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「五月雨さん!動きがまだ遅いです!敵のいい的になってしまいます。攻撃態勢に入るのをあと1秒早く!海風さんは、変に相手の動きを見すぎ!あれこれ考えているうちに攻撃を受けてしまっていますよ!江風さんは猪突猛進すぎ!攻撃しすぎて回避できていません!もっと回避することを覚えて!涼風さんは攻守の切り替えが遅い!もう少し判断能力を早めること!一番の問題は……山風さん!砲撃があらぬ方向に行っています!回避できるのはいいです!しかし、砲雷撃がまだまだです!」

 

『は…はい~…ていうか白露姉さん強すぎる~』

 

「お疲れさ~ん。やってるな~」

 

「あら摩耶さん!皆さんも、お疲れ様です!」

 

「……あの~ちょっといいっぽい?」

 

「あぁ夕立さん……ひΣ(゚Д゚)」

 

 夕立の剣幕に後ろに下がってしまう鹿島。白露は埠頭に上がりながら夕立を糸目で見ており、摩耶達も摩耶達で少し距離を置いている。五月雨達は訳の分からない顔で見ている。夕立は五月雨達に近づくと一言いう。

 

「5人とも…少し来るっぽい…」

 

「行かない…」

 

 江風が即反論する。他の4人も同じ意見のようで首を縦に振っている。しかし、夕立はそんなことをお構いなしにものすごい剣幕で怒鳴る。

 

「いいから来いって言ってるだろうがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ(# ゚Д゚)」

 

『ヒイ(゚Д゚;)』

 

「来いよこらぁ!糞どもがぁ!ゴミどもがぁ(゚Д゚#≡#゚д゚)」

 

『いやあああああああ助けてえええええええええええええ』

 夕立は怒鳴りながら5人を連れていく。その様子を、全員が唖然として見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員、そこに正座っするっぽい!この馬鹿野郎どもが!」

 

「はいぃ(# ゚Д゚)何を言ってるんだこの」

 

 江風が何かを言う前に夕立は右ストレートを入れる。江風は思いきり殴り飛ばされ壁のほうに行ってしまう。五月雨達は叫びながら江風に近づいた。

 

『うわぁΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)江風えええ!!』

 

「あ…謝ってください!夕立姉さん江風に謝ってください!」

 

 海風があわあわしながら夕立にいう。しかし、夕立は目を思いきり広げ鬼の形相で叫びだした。

 

「皆が謝れ!皆が詫びれ!天国にいたくせに地獄にいた顔してんじゃねええええええええええええええええええええええええええ(# ゚Д゚)」

『おう(;゚Д゚)』

 

「白露お姉ちゃんと戦ってただけのくせに何をやつれた顔してんだよ!土下座して謝れ!今すぐ切腹しろおおおおおおおおおおおおお‼‼‼」

 

「なんてことを言うんですか夕立姉さん!」

 

「うるさい黙れこの三つ編み泣きボクロが!黙って聞けよいいかあああああああ!!」

 

 夕立は海風の頭をつかむ。目を思いきり広げ、鬼の形相で見つめる。その剣幕に海風はかなり青ざめている。

 

「白露お姉ちゃんと戦えるんだぞおおお!戦ってる時は白露お姉ちゃんと拳を交えることができるでしょうがあああ(# ゚Д゚)白露お姉ちゃんと一回戦うごとに砲撃100発、雷撃100発、拳100発打てるでしょうがあああああ!今言ったこと全部適当だけどなああああああ(# ゚Д゚)あああああ、なんて幸せっぽ~~~~~~~~~~~~~い‼‼‼」

「なにふざけたことぬかしてるんだよ!白露の姉貴と戦ってみろ!力の差に絶望して、心が折れるんだよ‼‼‼」

 

「嫌だ何それ可哀想!江風って本当に強い人と戦えることをそんなふうに思ってるの⁉実戦経験少ないもんね!遅れてるはずだわ‼‼あああああああああ可哀想おおおおおおΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

「ぷっつ~ん(# ゚Д゚)……はぁ‼‼‼あたいなんて深海棲艦100体沈めてるもんね‼‼」

 

「比較にならないよそれは‼‼‼やだやだやだ、それじゃあ強くなれないわ‼‼」

 

「言ったなこの(# ゚Д゚)そんじゃあここの誰もが認めるくらい強くなってやるわああああああ‼‼‼」

 

 夕立達のやり取りに、呆れた顔で見ている一同。夕立はこうなったら止まらない。落ち着くまでしばらくかかったそうだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ということで、よろしくお願いしますっぽい!」

 

「あいよ…」

 

 現在、夕立と白露が海上に出ている。夕立が駄々をこねて、白露と演習をすることになった。それを埠頭の方で見つめる鹿島達。摩耶達も検査などを終え観戦している。村雨は報告があるため執務室の方に行っているところだ。

 

「はぁ…夕立の姉貴のやつ、思いきり殴りやがって…ほっぺが痛いぜ…」

 

「江風さん、変に夕立さんと張り合わない方が身のためですよ…あの子は戦闘ごとになるとものすごい強さなの。それに、霊力は2万3千で白露型の中では実質2番目の強さよ」

 

『す…すごい(;゚Д゚)』

 

 夕立の強さに驚く五月雨達。夕立は座学こそ成績が皆無に等しかったが、戦闘能力は白露の代の中ではトップクラスの実力者だった。改二と呼ばれる状態でもあったしこの鎮守府の中でもかなり強い。

 

「…えぇ、突然の演習ありがとうございます…それではお二人とも、準備の方は?」

 

「私はおっけ~…」

 

「夕立も準備おっけ~ぽい!」

 

「…では、はじめ!!」

 

 はじめの合図とともに、夕立が白露に一気に詰め寄る。一瞬のうちに白露の目の前まで来ると零距離で砲撃を行う。白露はそれを難なく避け左ストレートを夕立に向ける。夕立はそれを右手でいなすと連続で拳を入れる。白露も夕立の拳をいなしながら攻撃を行っていた。

 

「白露のやつ、前より攻撃が早くなってねえか?」

 

「摩耶さんもそう思いますか?確かに、訓練生だったころよりずっと早い気が」

 

「大本営にいたときに天龍さんにアドバイスをもらっていたからね。それでだと思う」

 

「あぁ、なるほどな。確かに、あいつの攻撃速度はかなり早かったからな」

 

 白露の攻撃速度に感嘆している摩耶達。以前天龍にアドバイスをもらっていたためそれが活きているようだ。それについてきている夕立もさすがと言える。夕立と白露はしばらく接近戦を行う。徐々に白露が押され始め、夕立が優位に立っていた。

 

(あともう少しっぽおおおおおおおおおおい‼)

 

 夕立は、白露の拳を跳ね返す。白露はその攻撃によろけてしまいわずかな隙ができてしまった。すかさず追撃を放とうとする夕立。白露はガードに間に合いそうにない。

 

「もらったっぽおおおおおおおおい!」

 

 白露の腹めがけて右ストレートを入れる夕立。白露に攻撃が当たろうとした寸前、体を反転させ夕立に回し蹴りを行った白露。夕立は急なことに対処できずに顔面に攻撃をもろに食らってしまう。夕立は攻撃を食らった後にすぐさま反撃に出ようとするが、白露がすかさず砲撃を行った。夕立はそれを避けいったん距離をとる。しかし、今度はすかさず白露が距離を詰め夕立に殴りかかる。

 

「す…すげえ!形勢逆転だ!」

 

「早い。訓練生時代よりさらに力を上げている。これは、今度の霊力を調べる検査が楽しみですね!」

 

 摩耶と鹿島はその様子を見て感嘆する。ほんの少しの期間ではあったものの、白露がそこで学んできたことはかなり大きかった。以前は潜在能力は高くても、力任せに戦っていることが多かった。だが今は自分の特性を最大限に活かしているように思える。

 

「くぅ。白露お姉ちゃん、前よりすごく早くなったっぽい!避けるので精いっぱいだよ!」

 

「じゃあ、もう少し早くいくか!」

 

 白露はさらにギアを上げ拳の速度を速めた。すると、夕立は攻撃速度についていけなくなり体に何発も拳を食らった。腹に拳をもらい空中に舞いあがったと思うと、白露に最後の一撃を食らい鹿島達が観戦している埠頭のほうまで吹っ飛んでいった。白露は深く深呼吸をしながら夕立の方を見る。やはり病み上がりの影響で疲労感が強いようで肩を息をしていた。夕立は体をゆっくりと起こすと目を糸目にしながらつぶやく。

 

「やっぱり白露お姉ちゃんは強いっぽい…でも楽しかった!また今度やるっぽい‼」

 

「あいよ、いつでも相手になってやる」

 

 夕立はルンルン気分で海から上がっていく。白露もゆっくりと走行し埠頭の方に近づいた。海からは上がらずにその場にとどまった。

 

「鹿島さん、もう一ついいか?」

 

「え?えぇいいですよ。何か?」

 

「ちょっと確認ごとだよ。山風、来な」

 

 山風は名前を呼ばれ体を震わせる。急に名前を呼ばれたため驚いたようだ。周囲にいたものも疑問に思ったようで全員が少し困惑している。

 

「ま、待ってください白露姉さん。だったら私達も」

 

「いいからいいから。あんたらそこで見てな」

 

 何か言いたげな海風をよそに、白露はそのまま沖合の方へと向かう。山風は少しおどおどしながら艤装を展開させ海に出る。その様子を見ながら海風がつぶやいた。

 

「大丈夫でしょうか?」

 

「白露さんのことだから何か考えがあるのだと思いますが…」

 

 鹿島も顎に手を当てながら考える。手に持っているタブレットを見ながら山風のデータを見る。砲雷撃能力は2割を切っている。砲撃の構え方なども特に問題は見られていないのに。

 

(やはり、山風さんが砲雷撃を当てられないのは別の問題が?今は見守るしかありませんね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沖合では、山風と白露が距離をとり向かい合っていた。山風はびくびくしながら白露を見ている。白露はため息を吐きながら話しかける。

 

「そんな怖がらなくていいって。とって食いはしないんだからさ。それに、これからすることは簡単なことだ」

 

「か…簡単?」

 

「あぁ、山風。あんたは私に砲撃を打てばいい。それだけ。私はあんたに向かってゆっくり前進していく。まっすぐ進むから、しっかり当てろよ」

 

「…え?」

 

 それを聞いた山風は驚いた様子だった。埠頭にいた鹿島達も驚く。あまりにも簡単すぎる。それでと自分に砲撃を当ててくれと言っているようなものだったからだ。白露は、全員の反応をお構いなしにゆっくりと前に足を出した。

 

「じゃあ行くぞ山風。当てろよ」

 

 ゆっくりと、夕立と戦っていた時よりもかなり遅く白露は進みだす。歩いている速さと同じくらいに。山風は砲を構えると白露に向かって打ち出す。しかし、弾はそれ白露に当たることはない。よくて挟叉の状態だった。白露を通り越して弾が着弾したりあらぬ方向に着弾することもある。

 

「嘘だろ全然当たってねえじゃん。姉貴の奴何かしてるのか?」

 

 江風が驚いたようにつぶやく。周りにいたもの達も同意見のようでかなり驚いている様子だった。しかし、時雨は冷静に状況を分析し話し出す。

 

「いや、白露は本当にまっすぐ行っているだけだ。多分、さっきの演習でなぜ山風が砲雷撃を当てられないのか気づいたんじゃ?それを確かめるためにわざと…っと白露が山風の前まで来てるね」

 

 見ると、白露は山風の数メートルほど前まで来ていた。山風は砲撃を一発も当てることができていない。白露はため息を吐きながら、少し怒りのこもった声で静かに話しかけた。

 

「ふざけてるのかお前…」

 

 白露は、すぐさま山風の頭に手刀を入れる。かなりの痛みだったのか山風は頭を押さえながらうずくまってしまう。そんな様子をお構いなしに白露は話した。

 

「当てられるわけがないだろうそんなんじゃ!そもそも()()()()がないんじゃな!」

 

 白露の話したことに鹿島ははっとする。そして気づいた。山風がなぜ砲雷撃を当たることができていなかったのかを。

 

(そういうことだったんだ!山風さんは普段から思考がマイナスすぎる。それに、姉妹達にもかなり依存的だ。それで砲雷撃の精度にも影響が…)

 

 山風は普段から自分に自信を持っていなかった。おそらくその自身のなさが砲雷撃の制度に影響しているのかもしれない。さらに、白露の言った当てる気が無いということ。おそらく、どうせ打っても当たらない。そういう思考があるのではないかと鹿島は考えた。

 

「これくらい至近距離なら当てられるよな?私に攻撃してみろよ」

 

「……無理」

 

 さらに白露は手刀を入れる。山風は頭を押さえながらうずくまったままだ。白露は構わずに手刀を入れ続ける。

 

「反撃しないとやられるぞ。実戦だったらお前これで死んでるかもしれないんだぞ!今まで弱い敵だったからそこまで危険はなかった。でも、今後もそうとは限らねえ!周りにいるやつもお前を守れねえ状況になるかもしれない。そうなったときに、お前はどうするつもりなんだよ!黙ってやられるつもりか‼」

 

「……りだ」

 

「え、何だって?」

 

「お前には無理だ…」

 

「…は?」

 

「お前には無理だ。どうせやったってできない。やるだけ無駄。今までずっとそう言われて生きてきた!」

 

 山風の言ったことに手を止める白露。山風は泣きながら声を絞り出すように話し出す。

 

「何をやっても、ずっとそう言われてばかりだった。親にも、周りの人達にも……私のやることなすこと全部否定されて……だ…だから…」

 

「だから自分のやっていることに対して自信を持てなくなったってか…?」

 

「…うん……あだ!」

 

 今度は山風にグーで頭を叩く白露。先ほどの少し怒った表情とは違い、少し糸目になりながら叩いていた。山風は頭を押さえながら白露を見る。白露は盛大にため息を吐きながら話し出した。

 

「訓練生時代もここに来てからも、お前を否定していた奴はいたか?」

 

「…………」

 

「いたのか?」

 

「…いない。むしろ励ましてくれた」

 

「わかってるじゃねえか。お前を否定するような奴はここにはいないよ。皆あんたのために力を貸してくれるさ。もっと自分に自信を持て。仮にお前を否定するような奴がいたら私達が黙っちゃいねえ。やるべきことをしっかりやれ。どうしようもない時は私達を頼りな。」

 

 白露は山風を立たせると頭を少し撫でてあげた。少し撫でてあげると埠頭の方へとゆっくり向かっていく。山風は呆然と立ち尽くしていたが白露が山風の方に振り返り一言だけつぶやいた。

 

「…励めよ」

 

 白露はそのまま埠頭に向かっていく。山風はしばらくした後に埠頭の方へ戻っていった。今までとは違って、少し心が軽くなったようなそんな感じがしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…本当お前って意外と人のこと見てるよな…そのスキルどこで磨いたんだ?」

 

「知るか。いつの間にか身についてたんだよ」

 

「お!今までとは違って少し丸くなったか!やっぱり母さんと会えたことが関係しているのか白露!ん?ん?」

 

 埠頭に戻ってきた白露をからかう摩耶。白露は少し腹が立ったのか摩耶の胸倉をつかみそのまま後ろに投げてしまう。摩耶は悲鳴を上げながら海の方に落ちて行ってしまった。その様子を周りにいる者達は口を開けながら見ている。特にここに来たばかりのもの達は白露を怒らせない方が身のためかもしれない……と思ったらしい。

 

「とりあえず、私は風呂にでも行くわ。あんたらも来るか?」

 

「ぽい!夕立行くっぽい!皆も行こう!」

 

 夕立に強引に連れられて行く五月雨達。その様子を見届けた後に鹿島は嬉しそうに笑っていた。あの喧嘩っ早かった白露がここまで成長しているとは思っていなかったから。言動は少しとげがあるが…。

 

「本当に成長しましたね白露さん。私はうれしいです」

 

「鹿島さん、僕も行くね。出撃したから少し疲れちゃったよ」

 

「は~い、ゆっくりしていってくださいね時雨さん!」

 

 時雨も白露達を追いその場を後にする。鹿島は手を振り見届けた後に寮の方に向かおうとする。しかし、数歩歩いたところで立ち止まり少し考える。何か忘れているような…と思い後ろを見るとずぶぬれで埠頭から上がってきている摩耶の姿があった。

 

「ま…摩耶さん(;゚Д゚)大丈夫ですか⁉」

 

「白露の奴…手加減を知らないのかよ…あいついじるのやめようかな…」

 

 摩耶は先ほどのことを少し後悔しながら、寮の方へと戻っていった。鹿島は目を丸くして少し考えた後に歩き出す。

 

(人をいじるのはほどほどにしておくべきですね…なるほどなるほど…)

 

 そう思いながら戻っていったそうだ…。

 

 

 

 



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58話 波乱の幕開け

お久しぶりです!
かなり遅いですが、あけましておめでとうございます!
新年一発目の投稿です!それでは、どうぞ!


 あの後、入渠施設に来た白露達。今ここにいるのは村雨と春雨を除いたメンバーだ。春雨は今五十鈴たちとともに近海の警戒に出ている。真ん中にある大風呂に五月雨達5人と夕立。隣にある一人用の風呂に時雨と白露がそれぞれ入っていた。白露はかなり疲労感があるのか壁際に背中を預けて上を向いていた。先ほどのこともあるのか白露は上を向きながら話し出す。

 

「山風~…昔何があった?」

 

 話しかけられると思っていなかったのか肩を震わせる山風。言おうか迷っているのか少し挙動不審な様子だ。

 

「なんだよ、皆に話してねえのか?ゆっくりでいいから話しな…」

 

 白露に促され、ゆっくりと口を開いた山風。周りを気にしつつゆっくりと話し出した。

 

「えっと……さっき白露お姉ちゃんにも言ったけど、私昔やることなすこと全部否定されて生きてきた。親にも、周りにも…。親はなんていうか、いろんなことに対して否定的な意見だったから。私が一生懸命書いた似顔絵とか、テストの点数とかも全部否定されてたから…。そのせいで自信なくなっちゃって…周りにも否定されてたから…」

 

「それでなおのこと自信を無くした……ってことか?」

 

「……うん」

 

 山風の話を聞いた一同。少し間を開けた後に夕立が話し出す。少し怒気を含んだ様子で。

 

「山風のことを否定した両親も許せないし、周りの奴も許せないっぽい!こんな可愛い妹をいじめるやつは夕立がやっつけてあげる!それにしても……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初からやることなること否定する親ってどうなの(#^ω^)山風の親今度半殺しにするっぽい!

 

「ちょ⁉ちょっと待って!半殺しにしなくていい!」

 

「甘いな夕立……今度なんて生ぬるい…今すぐにでも半殺しにしてやんよ(#^ω^)」

 

「だ…だから!半殺しにしなくていい!親はもう罰を受けた!…その……いわゆるネグレクトってやつで…親と離れたから」

 

 夕立と白露の言ったことに対して山風は話した。親とはいろいろあったため施設に預けられたこと。その後艦娘の適性があったため海軍に入った経緯も。だが、当時のことがトラウマになったことで自分に自信を持てなくなったそうだ。

 

「山風、さっきも言ったろ。ここにはあんたを否定する奴はいないんだ。あんたを否定する奴は私達が許さないからよ」

 

「……うん」

 

「それにしてもよ~。山風の姉貴の話を聞いてたら、なんか足つってきたな~…さっきの疲れのせいかな~…」

 

「涼風、大丈夫?」

 

「あぁ、大丈夫五月雨の姉貴…()()()()()()()っていうだろ( ・´-・`)」

 

 涼風の言ったことに、周囲が一気に寒くなったような感じがした。風呂に入っているのに、水風呂に入ったような感覚が。涼風の言ったことに白露と時雨はそそくさと風呂場を後にしようとした。

 

「上がるか…」

 

「そうだね…」

 

「ちょっと待った!あたいのギャグはそんなに」

 

『寒すぎるわ(# ゚Д゚)』

 

「涼風!本当にいい加減にしてください!あなたのギャグで一体どれほど周囲の温度が氷河期になってると思ってるんですか⁉」

 

「氷河期は言いすぎだろ海風の姉貴!せめて氷点下って言え!」

 

「寒くなることには変わりないんですね!」

 

 大声で騒ぐ海風と涼風。その様子を見ながら入り口のほうまで来る白露と時雨。ドアを開けようとしたとき、加賀が風呂場に入ってきたようだった。

 

「賑やかね」

 

「か…加賀さん!」

 

 白露と時雨は敬礼を行う。白露の声に気づき、慌てて海風たちも立ち上がり敬礼をする。加賀はその様子に少しだけ笑った後に静かに話し出した。

 

「堅苦しい挨拶はなしにしましょう。今はここの仲間であるのだから」

 

「え…あ…その」

 

「そういうことは気にしないから。皆楽にしていいわ」

 

「…あのさ加賀さん」

 

「何かしら?」

 

「……いや、やっぱり後でいい。ほら皆上がるぞ~」

 

『は~い』

 

 加賀に何か話そうとした白露だったが、全員を連れて風呂場を後にした。加賀はそのまま奥にある一人用の浴槽に歩いていく。ゆっくりと入っていき一息つく。ここに配属されてから2週間以上は立ったろうが、未だに周囲のものは加賀に対して少し緊張している様子がある。提督と副提督は普通に接してくれているので助かっているが。加賀自身表情があまり変わらないのもあるからそれも無きにしも非ずだろうが。

 

「…はぁ、やっぱり少し疲れるわね…いつになったら皆慣れてくれるのかしら…」

 

 そう愚痴を吐いていると、何やら気配のようなものを感じた。周囲を見るが誰もいない。先ほど出た白露達は脱衣所の方で何やら騒いでいる。おそらく涼風がまたギャグでもいったのだろう。気のせいかと思い浴槽のふちに寄りかかる。しかし、今度は後ろの方から気配を感じた。気のせいか“デーデン”という効果音が響いているような感じがする。

 

「デーデン。デーデンデーデンデーデンデーデン!ってあだ(;゚Д゚)」

 

 加賀は間髪入れずに後ろに手刀を入れる。よく見ると、いつの間に入っていたのかシュノーケルを付けた星羅が中から出てきた。白露達が入る前からずっと潜っていたのだろうか?それにしても最初に入ってきたときに気配を感じなかった。おそらく星羅は武術だけでなく気配を消す能力も相当高いようだ。

 

「痛いじゃない加賀ちゃん…」

 

「何してるんですか星羅さん…というか、加賀ちゃんって…」

 

「まぁまぁ呼び方はいいでしょう…で、私がここにいるのはあなたと話がしたくてね!ちょうどあの子達が入ってきちゃったからひやひやしちゃったけど」

 

「…星羅さん、あなたいつからここに?」

 

「多分30分前から!」

 

 星羅は加賀が帰島したタイミングでここに潜んでいたらしい。その時はちょうど白露達も演習していた時だ。その時からずっとここに潜っていたのだろうか。しかも、加賀がちょうど奥の浴室に入ることを予測して。星羅は隣の浴室に移りシュノーケルを外しながら話す。

 

「ねぇ加賀ちゃん。あなた低体温症なんじゃない?」

 

 加賀はその問いに眉がピクっとなる。星羅の方を見てから少し間を開けた後に口を開いた。

 

「どうしてそれを?」

 

「だって、今7月に入ったところでしょ?それなのに、弓道着の下に来ているのは大体ヒートテックシャツ。飲んでいるものは大抵暖かいお茶が多いし、おまけにここのお風呂。かなりぬるめに設定してあるでしょ?あとはそうね。あなたの手に触ったとき、手先がかなり冷たかったのもあるし」

 

「……はぁ、あなたの言う通りです。異能力の関係もあるのか、常人より体温が低いんです…」

 

「何度くらい?」

 

「34度台です。おかげで、常日頃から寒気があるし、食欲がない日もありますし嫌になりますよ」

 

 加賀は異能の関係もあり、常日頃から手足が冷えやすいという。季節問わず、ずっとらしい。今はそれほどでもないが、昔はそれで苦労したそうだ。

 

「異能力を持っていたら必ずしもいいとは限りません。人によっては体に影響をもたらしてしまう人もいる。私みたいに…」

 

「ふぅ~ん。多分あの子も…焔も気づいていると思うわ」

 

「焔?……あぁ、白露さんですか?」

 

「前にあの子と握手したでしょ?その時、自分の手をずっと見つめていたから、たぶんあなたの体のこと気づいているんじゃないかしら…あの子もなかなか勘がいいから」

 

「……そうですか……まぁ、このことは出来るだけ内密に」

 

「えぇ、秘密は守るわよ。さてと、あの子達まだ外にいるわね!少し驚かせてあげるかしら( ´艸`)」

 

 ひひひひひ…と変な笑い声とともに一気に入り口の方に行く星羅。入り口から出たとたんに脱衣所から悲鳴が聞こえだした。星羅がいることに驚きを隠せなかったのだろう。白露の怒号が聞こえているのがその証拠だ。

 

「母さん!いつからここに(;゚Д゚)」

 

「あなた達が入る30分前からよ~!やっぱりあなた達反応いいわね!驚かせるかいがあるわ!」

 

「驚かせなくていいわ!寿命が縮むでしょうが!その証拠に見てみろよ!時雨…あぁ雫なんてどこぞの明日のジ〇ーみたいになってるだろうが!真っ白になってるだろうが!」

 

「あれ~時雨の姉貴のやつ、気づけば肌が純白だな…真白という字のごとく!」

 

「涼風一回黙れ(#^ω^)」

 

「し……白露の姉貴…(;´・ω・)どうしたの拳なんて振り上げて?え(;゚Д゚)ま…待って!な…なんで拳をあたいに振り下ろそうと!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ‼‼‼

 

 最後は涼風の絶叫が響き渡った。やれやれ……と思いながら加賀は壁際に背を預ける。少しだけ口角を上げた。

 

「本当に…賑やかな艦隊ねここは」

 

 加賀は少し風呂に浸かった後に、浴槽を出て体を洗うことにした。しかし、あまりにも脱衣所の方がうるさかったので気になり入り口の方に出るとタオルが顔面に当たってしまう。どうやら江風が投げたようだ。加賀はしばらくした後にドスの聞いた声で言った。

 

「…………頭に来ました」

 

「ちょ…ちょっと待って加賀さん(;゚Д゚)わざとじゃなくて!な…なんか両手から冷気が出てるんだけど!……冷たあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

 その後冷気を帯びた手で江風の首を触る加賀。あまりの冷たさに江風の叫び声がこだましたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、まったくどうしてこうなった…」

 

「いや~楽しかったわね!なんかいろいろとスッキリした感じがするわ°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°」

 

「そう思ってるの母さんだけだと思うんだけど!あと、まぶしい(;゚Д゚)キラキラしすぎだ!」

 

 現在白露と時雨と星羅が鎮守府内の廊下を歩いていた。五月雨達とは別れている。特にすることもないためこうして歩きながら雑談をしているところだ。大体は星羅のいたずらの件の話だが。

 

「大体、なんであんなところに…30分以上も奥の浴槽に潜ってたのかよ…」

 

「少し加賀ちゃんと話がしたいと思っていたのよ。それに焔。加賀ちゃんと握手して何か違和感を感じたんじゃない?」

 

「え?……あぁ、やけに手が冷たすぎるな~とは思ってたけど。やっぱりその関係?常にインナーは来てたし、熱いお茶ばかり飲んでるし…」

 

「まぁ素晴らしい!私と考えていることが同じね!でも、今度本人から聞きなさい。あの子から他言無用って言われているのよ」

 

「そうか、あの時白露が自分の手を見ていたのはそのことだったんだね。それにしても、なんか二人だけ気づいているのに僕だけ気づけていないって、なんか複雑だなぁ…(;´д`)」

 

「まぁまぁ、雫もいずれ気づけるようになるわ!大事なことは人間観察よ!大事なことだからもう一度言うわ。人間観察よ‼‼」

 

『わかったわかったから(;・∀・)』

 

 星羅の話したことに対して、二人は同時につぶやく。星羅が記憶を取り戻して、3人でこうしてゆっくり話すことはなかったからなんだか新鮮な気分だ。

 

「あとはここにあの人もいればね~…」

 

「……父さんか…あと、怜王って人も」

 

 3人は顔を見合わせてそしてため息を吐いた。元帥の話では刑はかなり重くなるだろう。最悪終身刑だ。テロに加担していたこともあった。自分達に殺されることを願って。あの時自分達のことを助けてくれたのに。少し暗くなっていると、白露の携帯に着信が入った。画面を見ると村雨からのようだった。

 

「もしもしどうした?」

 

『白露姉さん。時雨姉さんと星羅さんは近くにいる?』

 

「二人とも一緒だけど」

 

『なら3人で執務室に来てくれる?提督から話があるみたい』

 

「わかった、すぐ行く」

 

 携帯を切り、村雨からの伝言を伝え一緒に執務室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――執務室

 

「…………やっぱり終身刑になったんだ…」

 

「えぇ、テロの首謀者の源五郎は死刑。小次郎さんと怜王さんも皆さんを助けてはいたもののテロに加担していましたからね。終身刑になったそうです…」

 

 京からの知らせを聞いてうつむく3人。あの二人が望んでいたこととは言えやはり複雑だ。しばらく無言の状態が続き、京がゆっくりと口を開いた。

 

「あぁ、そうそう。もうすぐ新しく憲兵の方たちがここに来る予定でしたね。お三方、迎えに行ってくれますか」

 

「え、私達?」

 

「3人じゃないとダメなんですよ!私達は今書類仕事で手が離せなくて…迎えには仁も一緒に行かせます!では仁、頼みましたよ」

 

「あいよ。ほんじゃ3人とも行きますか」

 

「ちょ⁉なんで私達が行くんだよ⁉憲兵の迎えなら他でも…」

 

「いいからいいから!ほれ行くぞ!」

 

 仁に無理やり連れていかれる3人。一気に玄関から外に出ると、すでに摩耶や五十鈴らが待機しているようだった。さらに憲兵も3人ほど待機している。憲兵達がここに配属されるのであれば、自分達はいらないと思うのに。

 

「おい副提督。私達までここにいる理由いるか?」

 

「まあまあ。もうすぐわかるよ……お?そうこうしてたら来たぜ」

 

 鎮守府に車が一台入ってきた。車はそのまま本館前に近づき入り口前で止まる。後部座席から降りてきたもの達を見て白露達は驚きを隠せなかった。そこから降りてきたのは終身刑になったはずの父小次郎と叔父である怜王だったからだ。

 

「と…父さん!あと怜王……さんも」

 

「あら、親戚なんだからそこは怜王兄さんでもいいわよ!何なら怜王兄と呼んでちょうだい!」

 

「なんで終身刑になったのにここにいるんだよ!何がどうなって…」

 

「…司法取引。明智家と協力していたテロリストどもの情報を提供する代わりに、刑を軽くしてもらった。…………そしたら、憲兵としてここで働かされることになったよ。海軍の奴らの監視下に入るっていう条件でな」

 

 白露の問いに小次郎が答えた。どうも陸軍のトップと話をしたらしい。テロに加担したことは許されるべきではないが、白露達を助けたこと。さらに明智家を滅ぼすために画策していたこと。そのことを考慮してのことだという。白露達との関係もあるらしいが。その話を聞いて星羅と時雨も嬉しそうだ。家族がここにそろったのだから。3人が驚いている中、摩耶が二人の方に近寄る。そして右手を差し出した。握手でもするつもりなのだろう。小次郎が手を差し伸べようとすると、摩耶はすかさず小次郎の頬を殴りさらに怜王も殴った。二人はそのまま倒れてしまう。

 

「三人に苦労をさせた罰な」

 

「ず…ずいぶん手荒な歓迎ね…兄さん」

 

「そ…そうだな…」

 

 続いてきたのは五十鈴。五十鈴は二人に手を差し伸べる。そして、二人は五十鈴に手を差し伸べるものの五十鈴も平手打ちをかました。しかも、摩耶が殴った同じ場所に。

 

「ごふぁ(;゚Д゚)」

 

「…いてえ…」

 

「私も摩耶と同じ気持ちだからね」

 

 頬を擦りながら五十鈴を見る怜王。ここの人達は血気盛んなのかしら……と思った。その次に来たのは姪である白露…もとい焔だ。しかし、近づいてきたそうそう手刀を入れた。手加減しなかったそうでかなり痛そうだ。

 

「ひ…ひどいわ焔(;´・ω・)」

 

「実の父と叔父にこんなことするか…普通よ…」

 

「手荒い歓迎を受けたわね二人とも…」

 

「なんというか…ごめんね」

 

 さすがに星羅と時雨は何もしないようで、二人にちゃんと手を差し伸べた。白露は白露でそっぽを向いている。気のせいか少し肩が震えているような感じがした。星羅は二人の耳元で話し出した。

 

「話さないだけで本当はうれしいのよあの子。二人に手刀を入れたのは照れ隠しよ照れ隠し!ふふふふふ、可愛いわねあの子(笑)」

 

「白露、最近になってやっと少し素直になってきたんだよ!お母さんに会えたのもあってね!昔のこともあって一時期荒れていたんだけど…」

 

「あらあら、やっぱり苦労したのね…私達のせいで(´;ω;`)焔、泣きたかったら私の胸で泣きなさいな…」

 

「…おかまのあんたに言われてもな…」

 

「酷い!確かに言動とかはお姉でも、心はしっかり男よ男!ちゃんと異性も好きなんだから!ねえ兄さん!ねえ!」

 

「…………」

 

「なんで黙ってるのよ‼‼」

 

「れ…怜王さん…じゃなくて、怜王兄。落ち着いて」

 

「これが落ち着いていられないわよ雫!!」

 

 ワーワーギャーギャーと騒ぎ立てる怜王。その様子を見てゲラゲラと笑う星羅。近くにいた仁も笑いを押さえられない様子だ。さらに摩耶と五十鈴は少し呆れ気味に様子を見ている。

 

「な…なんかイメージと違うわね(;´・ω・)本当にテロに加担していたのこの二人?」

 

「た…確かに全然違うな…なんか…殴ったこと謝らないとな…」

 

 その後、しばらく騒いでいた怜王だったが時雨達のおかげで何とか落ち着いたそうだ。そのあと殴ってしまったことを謝罪した摩耶達のこともあって無事に小次郎たちと和解したそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――執務室

 

「いいですね~。またにぎやかになりますねここは」

 

「えぇ本当に。白露姉さんたちもすごく楽しそうです」

 

 執務室から玄関の様子を見ていた京と村雨。しばらく見ていると、どうも怜王と仁が意気投合したそうで何やら組手を始めている。おまけに星羅も参加している。どうもかなりの力量のようで何やら地面が揺れているような感覚がした。

 

「な…なんかすごいことになっていませんか(;・∀・)」

 

「…そ…そうですね…仁もいつも以上に楽しそうだ…ライバルが増えてうれしいのでしょう…」

 

「一番のライバルは?」

 

「もちろん私です!」

 

 おお(;゚Д゚)…と驚いた顔で京を見る。体つきはかなり細いはずなのにかなり力は強いようだ。以前助けられたときも地面に風穴を開けたことがある。どんな鍛え方をすればここまで強くなれるのだろうか。そう思っていると電話が鳴り響いた。京が電話に出るとかなり大きな声が聞こえた。かなり焦ったいるようだ。

 

『鳴海!そっちは大丈夫なのか⁉何も起こっていないか!鎮守府は!』

 

「げ…元帥⁉えぇ。こちらは大丈夫ですが。ど…どうしてそこまで焦っているのです!」

 

『大変なことが起こった!今までこんなことはなかったのじゃ!』

 

「い…一体何が?」

 

『大本営第3艦隊が全員大破して戻ってきたのじゃ!おそらく新種の深海棲艦。しかも、たった1体にだ!』

 

 その知らせを聞いて、京は危うく電話を落としそうになった。大本営に所属している者達は全員がかなりの実力者。第3艦隊も第1・第2艦隊と比べると見劣りするが、各々が一つのことに特化しそれを生かした戦術で戦果をもたらしてきた。その第3艦隊がやられたとなると、その新種はかなりの強敵だ。早急に対策をとらなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――時はさかのぼり、大本営埠頭

 

「ちょっと!いったい何があったの⁉全員大破なんて!」

 

 大将である小笠原は現状を見て驚愕した。第3艦隊の全員が大破している。かろうじて筑摩が自力で歩いているが、他の者たちは皆動くことができていない。特に由良はかなりぐったりしている様子だった。筑摩は何とか声を絞り出し小笠原に報告した。

 

「ほ…報告します。太平洋沖にて、深海棲艦1隻に敗北。か……艦種はおそらく……駆逐級…………です」

 

 報告と同時に力尽きる筑摩。そして、この知らせはすぐに全鎮守府に知らされることになった。

 

 

 

 

 

 




次回は、大本営第3艦隊に何があったのかを書きたいと思います!
ではでは!


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59話 鬼級と野良艦娘

どうもお久しぶりです!夜中に失礼!
最新話がとうとう完成しました!
それではどうぞ!


―――太平洋沖

 

 警戒のため出撃していた大本営第3艦隊。今現在深海棲艦との交戦はなく、深海棲艦もいる気配がない。以前の大本営襲撃で数を減らしてしまったのだろうか?索敵機にも反応はないし目視でも確認できない。

 

「ここら一帯にはいないようですね。先の襲撃でこの辺にはいないのでしょうか?」

 

「海もずいぶん静かですね…ね。嵐の前の静けさみたい」

 

 筑摩と由良がそんなことをつぶやく。あれこれ考えていると小笠原から無線が入った。

 

『お疲れ様皆。周囲はどう?』

 

「ここの周囲には深海棲艦はいないようです。索敵機で周囲を見ましたが…」

 

『了解。なら一旦戻ってきて頂戴。そこに深海棲艦がいないのであれば、後日違う海域に出撃してもらうから』

 

「了解しました。これより帰島します」

 

 無線を切り、大本営へと向かう第3艦隊。深海棲艦がいないとは限らないため、念のため索敵機を飛ばしておく。さらに、磯風と舞風も電探に集中している様子だ。警戒は怠らない。慢心は禁物だ。すると、筑摩が飛ばしていた索敵機から打電が入る。

 

「索敵機より打電!ここから数キロ先に深海棲艦の反応を確認!数は……え…1?」

 

 筑摩の言ったことに全員が顔を見合わせる。1体のみとしたらはぐれものだろうか?全員が顔を見合わせる。1体のみなら何とかなるかもしれない。だが帰島命令が出たからここは下手に手を出さない方がいいだろう。最近新種も確認されているのだから。

 

「ここは無理をせず帰島しましょう。ここの海域を離れて…」

 

 そう言った瞬間、何か圧のようなものを感じた。動こうと思っても動けない。そんな感じが。恐る恐る深海棲艦の反応があった場所に目を向けてみる。すると、目視できる範囲に深海棲艦がいた。駆逐イ級を模した帽子?のようなものを被っており、艤装には大きな腕のようなものがある。ゆっくりとこちらに近づいてきており艦隊全員に目を向けているようだった。遠くからなのではっきりわからないが、何かつぶやいているように見えた。体中から冷や汗が止まらない。今すぐここを離れなければやばい。本能がそう感じている。さらに距離を詰め、声が届く範囲まで近づいてきた。

 

「アノ時感ジタ気配ハオ前達ノ中ニハイナイヨウダナ…」

 

 深海棲艦が静かに話し始めた。あの時感じた気配とは誰のことだろう。以前大本営近くまでこいつは来たのか?

 

「確カ船二乗ッテイタハズナンダガ……別ノ場所ニデモ行ッタカ?」

 

(まさか白露さんのこと!)

 

「…マァイイ。オ前タチハ肩慣ラシダ。ドレホドノ実力ナノカ見セテモラウゾ」

 

 そう言って相手は構える。筑摩達も構える。体の震えが止まらない。それでもやるしかない。相手は1体。舞風の能力は最大限発揮できないだろう。

 

「由良さん!甲標的で先制雷撃を!陸奥さんと磯風さんは砲撃で牽制を…」

 

 筑摩が指示を行っていると、突然轟音が鳴り響いた。正確には舞風のいるところから。そこを見ると、いつの間にか深海棲艦がいた。そして、舞風は10mほど吹き飛ばされていた。しかも、大破の状態だ。意識を失ってしまったのかピクリとも動かない。

 

「……舞風……よくも!」

 

 磯風は砲を相手に向ける。しかし、その前に陸奥が磯風の襟をつかんで全速力で深海棲艦から離れた。その瞬間、由良の指笛とともに鹿のような生き物が突撃する。その隙に、距離をとり筑摩が舞風を抱きかかえる。

 

「陸奥さん!あの深海棲艦に砲撃を!」

 

「了解!全砲門斉射!」

 

 陸奥の砲撃が深海棲艦に向かう。しかし、相手はほんの少し体をずらし砲撃を避けた。弾道を予測していたのだろうか。かすり傷すらつかない。筑摩は焦った。負傷者がいる中で戦うのはこちらが不利だからだ。

 

「龍田さん、接近戦頼めますか?磯風さんは龍田さんの援護を。陸奥さんは隙があれば砲撃を!由良さんは待機!」

 

「死なない程度に頑張るわ…援護お願いね!」

 

『了解!』

 

 龍田はそのまま接近戦に持ち込む。相手は回避に専念している様子だ。その隙に筑摩は無線をつなげる。

 

「報告します!新種の深海棲艦と遭遇!舞風さんが大破!至急応援を…」

 

 筑摩が報告をする前に、何か轟音とともに横を通り過ぎた。後ろをゆっくりとみると、陸奥が倒れていた。おそらく中破の状態。前を見ると、龍田と磯風が近接戦闘を行っている様子だ。二人ともかなり集中しているのか陸奥の状況に気づいていない様子だった。

 

(まさか砲撃を行ったの…?でも…戦艦クラスを一撃で…)

 

『筑摩⁉どうしたの筑摩⁉応答して、筑摩⁉』

 

 目の前の状況に頭が追い付かない筑摩。小笠原からの連絡も頭に入ってこない。目の前にいる深海棲艦の艦種はわからない。だが、戦艦クラスを一撃で中破させたのだ。flagship級以上の実力、下手をすればS級に匹敵するほどの実力を持っている。

 

「筑摩さん。由良が式神を出して隙を作ります。その隙に撤退をしましょう!分が悪すぎる!」

 

 由良の言ったことも頭に入らない。筑摩は完全に放心状態になっている。その間にも龍田と磯風が徐々に押され始めている。深海棲艦は二人の攻撃を大きな腕で止めている。

 

(嘘…動かない!)

 

(こいつはいったいなんだ⁉今までの深海棲艦とは全然違う!)

 

「……ハァ…話二ナラン…オ前達ハ弱スギル…」

 

 そのまま砲撃を行う。砲撃一発で二人は大破になってしまう。威力はかなりのものなのか二人とも吹き飛ばされてしまった。深海棲艦はゆっくりと筑摩の方を見つめゆっくりと前進してくる。だが、筑摩は動くことができない。

 

「筑摩さん指示を!……筑摩さん‼」

 

「由良!どいて!」

 

 陸奥の声とともに、由良は筑摩を連れ動き出す。陸奥は深海棲艦に砲撃を打った。しかし、砲撃は当たることは無かった。そして、深海棲艦の砲撃が陸奥を襲う。ほんの2~3発撃っただけで陸奥は大破になってしまった。由良は筑摩を必死に揺さぶるが反応が無い。

 

「…モウ一度聞ク…アノ時感ジタ気配ヲ持ッタ奴ハドコダ?」

 

 数m先まで近づき静かに話し出す。白露に相当興味があるのだろう。だが、由良は相手を睨みながら話す。

 

「…たとえ知っていたとしても、教えると思う⁉」

 

「……フ~ム…ソレモソウカ……ナラ力ヅクデモ聞キ出スカ」

 

 深海棲艦は由良達に砲を向ける。その途端、海面から角の生えた金魚のようなものが飛び出した。その隙に由良は指笛を拭き、狼のような姿をした式神を呼び出す。

 

「慶郎!大破した人達をすぐに連れて行って!」

 

『し…しかし主は⁉』

 

「いいから行って‼‼」

 

 由良は落ち武者のような姿をした武曲を呼び出した。武曲はそのまま敵に向かい薙刀を振るうが攻撃が来る前に武曲の腹に風穴を開けられてしまう。さらに、その余波で由良が中破になってしまう。筑摩はようやっと我に返り敵に砲撃を打つ。しかし、それを難なくよけられてしまい大きな腕のような艤装で殴られてしまう。しかも大破だ。

 

(重巡クラスを一撃で大破⁉こいつは本当にS級クラスなのかも…これは、出し惜しみをしていられない‼私の力全部振り絞ってでもこいつを!)

 

 由良が懐から何かを取り出そうと瞬間、視界がいきなりぐらついた。由良はそのまま海面に倒れてしまう。

 

「由良さん!まさか発作が!」

 

 敵はその隙を見逃さず由良に近づき蹴りを入れた。由良はそのまま吹き飛ばされてしまいその場には筑摩と深海棲艦のみ。相手は筑摩に興味のない目で睨みつける。

 

「オ前、ドレホド精神ガ脆インダ。マルデナッテイナイナ…」

 

 筑摩の頭をつかみ自分の顔に引き寄せる。筑摩の目をまっすぐ見つめ静かに、腹の底まで響くような暗い声でつぶやく。

 

「大本営ノ精鋭ト聞イテ呆レル。ツマラン…。ソウダ…アノ強イ気配ヲ持ッタ奴二伝エテクレナイカ。イズレオ前二会イニ行ク。私ハ水鬼ト呼バレテイルンダ……クチ」

 

 話している途中にいきなり海面から大きな腕のようなものが出てきた。さらにそこから出てきたのは大きな骸骨のようなものだった。筑摩はそれを見て由良の方を見る。見ると由良が意識を失いそうになりながらも札を前に差し出していた。

 

「し…式神…破軍。あとは…頼んだわ…」

 

 由良はそのまま力尽きた。そして、由良が意識を失った途端に由良から鹿のような生き物が現れ由良と筑摩を連れその場を全力で後にする。

 

『は…破軍兄さん!ここは任せますよ!』

 

 破軍と呼ばれた式神は深海棲艦をつかみかなり力を込めていた。深海棲艦は顔色一つ変えずに話し出す。

 

「…アノ軽巡カラ出テキタノカ?オ前面白ソウダ…」

 

『主を傷つけた罪は重いぞ…』

 

「ソウカ…デハヤルカ!」

 

 その瞬間、いきなり衝撃波のようなものが伝わる。それは数十キロ先にいた慶郎にも伝わるほどだった。逃げていた慶郎が後ろを見ながら驚いた様子で叫ぶ。

 

『無理無理無理無理無理無理無理!あんな奴と戦うなんて絶っっっ対無理‼‼‼破軍兄さんが戦っている!それに、破軍兄さんが出てきているってことは主の身に何かが!…ってあれ?』

 

 さらに横を見る慶郎。横を見ると全速力で来たのかものすごいスピードで由良と筑摩を背負った鹿のような生き物が近づいてきた。

 

禄存(ろくぞん)!出てきたの⁉』

 

『あそこは破軍兄さんが食い止めてます!僕達は急いでここを離れましょう!』

 

『い…言われなくても逃げるわよ!あの深海棲艦、確実にS級クラスよ!』

 

『なら、すぐに戻って、このことを報告しましょう!全鎮守府にこのことを伝えないと、絶対に痛い目を見てしまいますよ!』

 

 二人…正確には2体が急いで海域を離脱する。破軍はそれを見届けた後に深海棲艦に向きなおる。

 

『お前はいったいなんだ?水鬼と呼ばれているといったな?』

 

「アァ、私ノ名前ハ駆逐水鬼ダ。最近コッチ二来タバカリナノデナ…イイ相手ガイナイカ探シテイタンダ」

 

 破軍はすかさず右こぶしを駆逐水鬼に向ける。駆逐水鬼は片手でそれを受け止めると、大きな腕のような艤装で殴った。威力は相当なものだったのか破軍はよろけてしまう。さらに、破軍の体が少しずつ透けていくような感じがした。

 

『……時間切れが。主が気を失ってしまっているからな…だが、時間稼ぎは出来た』

 

「安心シロ。殺ス気ハ無カッタサ。ダガ、私以外ノ奴ハソウハイカンゾ。近々私以外ノ奴ラガ動ク。私ヨリ強イ奴ラダ。ソレニ私ハ姫・鬼級ノ中デハ下ノ方ダ」

 

 駆逐水鬼は踵を返し破軍から離れていく。ある程度離れると海に潜り消えていった。破軍はそのまま光に包まれ消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――大本営医務室

 

 筑摩から話を聞く元帥である勘兵衛、大将の小笠原、斎藤、赤神。話を聞いて驚愕した。深海棲艦一体が一戸艦隊を全員大破にしたのだから。

 

「奴は話の途中で自身の名前を言っていました。自分の名前は水鬼と……さらに、クチ……と言いかけていました。そのことから、駆逐級であることは間違いないかと…。駆逐級がいるんです…他にもあいつと同じようなものがいる。だから…」

 

「十分じゃ筑摩。お前は休んでいい。心身ともに休んでおけ…今のお主では、出撃は出来んだろう」

 

 筑摩は無意識だろうが、肩がかなり震えている。おそらく、その深海棲艦に恐怖心を抱いているのだろう。肩が震えていた。勘兵衛は三人に向きなおり指示を出す。

 

「赤神!第2艦隊を太平洋沖に出撃させ海域を調べさせろ!斎藤、第1艦隊を招集して鎮守府周辺を警戒。第3艦隊は心身ともに休みをとるのだ。それから、この情報は全鎮守府に伝える。すぐにだ!」

 

『了解』

 

 指示を出された後に、赤神はすぐに第2艦隊に指令を出す。斎藤も第1艦隊に指令を出している様子だった。小笠原はその場に残る。第3艦隊は全員が今負傷している。とりあえずは待機だ。待機していると、小笠原と勘兵衛の前に何やら空気が変わるような感じがした。そして、目の前に僧侶のような恰好をしたものが出てきた。髪型は黒発にショートヘア。着物は黒を基調に。首元には大きな数珠のようなものをかけている。その者は二人の前に膝まずき礼をする。

 

「あなたは?」

 

『主より破軍の名をいただいております。あの深海棲艦…駆逐水鬼と名乗っていたものと一戦交えましたが、奴の力は尋常じゃない。筑摩殿から聞いていると思いますが…』

 

「えぇ、S級クラスは確実のようね。第3艦隊でも子供扱いだったんですもの…。おそらく、ここの連合艦隊で五分か…それとも、ぎりぎり負けるかね…それに…そいつの狙いは白露なんでしょう?」

 

『はい。間違いありません。あの時感じた気配の主…そして、船に乗っていたという発言から間違いなく』

 

「元帥…柱島に一番に連絡を取るべきです!そして、白露が狙われていることを伝えなければ!」

 

「うむ、すぐにこのことは伝える。して、破軍よ。他にも何か奴から聞き出せたのか?」

 

『はい、奴はこうも言っていました。近々、自分以外のものが動き出す。奴らは自分よりも強い。自分は姫・鬼級の中では下の方だと…』

 

「奴で下の方だというのか……わかった、ありがとう。戻ってよいぞ破軍よ」

 

『はっ』

 

 破軍はそのまま消えた。勘兵衛は早急に執務室へ戻っていく。そして、筑摩と小笠原だけが残される。小笠原は適当に椅子を持ってくると筑摩の近くに座った。

 

「とんでもないことになっちゃったわね…まさかあなた達でも太刀打ちできないやつが現れるなんて…」

 

「小笠原さん…皆さんは?」

 

「ん~?あぁ、他の皆は無事よ。命に別状はないわ。ただ、由良は少し無理をしすぎたみたいでね。明石が言うには、しばらくは出撃なしだって」

 

 筑摩はそれを聞いてうつむく。以前長良に言われたことを思い出す。無理をさせたら承知しないと。これでは長良に顔向けできない。

 

「姉さんならどうしていたんだろう…」

 

「……筑摩、しばらく休んでなさい。それから、あなたと利根を比較しないの。あなたはあなたなんだから。さてと、じゃあ私も戻るかな」

 

 小笠原は立ち上がり一旦自室へと戻っていく。小笠原は頭をかきながら考える。筑摩も優秀だ。なのに、なぜ駆逐水鬼との戦いで放心状態になってしまったのか。考えられるとしたら利根が横須賀へ異動したことが関係しているのだろう。利根が異動してからことあるごとに筑摩は「姉さんなら…」とぼやいていた。利根に対する依存が強かったのもあるのかもしれない。

 

「…利根がいてくれたら…ってぼやいても仕方ないわね…私も私であの時ちゃんと警戒を怠らないように指示しておけば…あぁだめだめ!たらればの話をしても仕方ないわね。今できることをやりますか!」

 

 小笠原はそう意気込んで自室へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――数時間後 太平洋沖

 

「ここら辺に駆逐水鬼…って呼べばいいのか?そいつがいたんだよな?」

 

「うん。間違いないよ。でも、深追いは禁物。あの第3艦隊が敗れたんだもの。私達でも太刀打ちできるかどうか怪しい」

 

「わかってる…間違いなく私達の中で死人が出るな…」

 

 その言葉に、艦隊全員が気を引き締める。その深海棲艦一体で連合艦隊並みの実力。そして、S級に匹敵する実力。たとえ吹雪達がリミットオーバーを解放したとしても勝てるかどうかだ。吹雪は何とか勝ったが、今の白露と戦ったら話は別。確実に負ける。白露と同等かそれ以上のものと戦うことになるからだ。

 

「龍驤さん、伊勢さん。索敵機からの情報は?」

 

「それらしいものはいないらしいわ…深海棲艦一体もおらんで…」

 

「こっちもそれらしき影はいない。この海域を離れたんじゃないかな?」

 

 吹雪は二人の知らせを聞き無線をつないだ。ここにきてかなりの時間がたったような気がするが、それらしいものは確認できなかった。ならば、一旦鎮守府に戻るべきだろうと判断したからだ。

 

「こちら第2艦隊。深海棲艦はいません。水鬼と呼ばれるものもいませんでした」

 

『わかった。一旦戻ってきてくれ。くれぐれも油断はするなよ』

 

「了解。よし、じゃあ皆。一旦戻って…」

 

「待った吹雪ちゃん!索敵機から打電や!ここから南東10キロ以上先に、深海棲艦と艦娘が戦ってるらしいで!」

 

「戦闘⁉でも、ここの海域に出撃している艦隊は私達のみのはず⁉その艦娘達の所属はわかりますか?」

 

「いいや、知らん顔や…おそらくどこの鎮守府にも所属はしておらん…数は3人や」

 

「司令官、どうします?」

 

『突然力が覚醒したもの達なのか…一旦その場所に行ってくれ!必要なら艦娘達の保護を頼む』

 

「了解、これより向かいます!」

 

 吹雪は無線を切り艦隊を率い南東に向かう。新種が出現している今、3人だけでは危険が大きい。赤神が言ったように突然力が覚醒したもの達ならなおさらだ。艦娘としての知識や能力がほとんどない可能性もあるから。急いでいると、砲撃音が聞こえる距離まで近づいてきた。目視もできる。しかし、吹雪達はその様子を見て驚愕した。交戦していたと思われる艦娘達は無傷。相手はelite級の空母や軽巡が2隻ずつ。あとは駆逐艦が2隻の艦隊だった。空母がいれば制空権をとられ不利になるはず。それをたった3人で無傷で済むとは思っていなかったからだ。その艦娘達の特徴は、一人は灰色っぽい髪をポニーテールにし眼鏡をかけており、もう一人は黒髪を三つ編みにしおさげにしている。最後の一人は赤色の髪が特徴的な少女だった。吹雪は、3人を見た瞬間に“ドクン”と心臓が脈打つのを感じる。眼鏡をかけた少女とおさげの少女に懐かしい気配をしたからだ。

 

「吹雪…あの二人」

 

「…うん間違いない。あの二人特型だ」

 

「じゃあ、最後の一人は?」

 

「ありゃー多分陽炎型だ。気配がそんな感じがするんだ。なぁ時津風」

 

「ん~?そうだね…」

 

 吹雪達は静かに話した。この三人は駆逐艦、特型と陽炎型であることは間違いない。艦娘は、艦時代に縁のあるものや姉妹艦とあったときは何となく気配でわかるらしい。理屈はわからないが。眼鏡をかけている少女は吹雪達が静かに話しているのを気に入らなかったのか少し怒り気味で話し始めた。

 

「なんだよあんたらは!いきなり来て何こそこそ話してるんだ!」

 

「あぁごめんなさい。この子達悪気はないから」

 

「あんたに聞いてねえよ!あたしはそこの4人に話してるんだよ!」

 

 伊勢はすぐに謝罪をするが、眼鏡の子にそう言われたため龍驤の方を見る。少しだけ悲しそうな様子で。龍驤はそんな伊勢を見かねたのか背中をさすりながらつぶやいた。

 

「まぁまぁそう気にせんで…久しぶりに話す機会があったから張り切ってたもんな…出番も正直少なかったし(メタ)…」

 

「久しぶりに話す機会があったから話しただけなのに…(;´д`)トホホ」

 

 伊勢達の様子を見て吹雪達は苦笑いをするがすぐに3人に向きなおる。この3人がどこにも所属していないのならすぐに保護をする必要があるからだ。吹雪は少し前にでる。

 

「私は大本営第2艦隊旗艦の吹雪。あなた達を保護しに来たの!それから、あなた達はいったい誰?艦娘としての名は?」

 

「はぁ名前だぁ…?知るかよそんなもん。だいたい、艦娘ってやつになったの半年前だしな」

 

(半年…たった半年であそこまでの戦闘力を得るなんて…)

 

 普通なら訓練課程を得て、艦隊としての連携や練度を高めていく。人にもよるがそれはかなりの場数や経験を要する。それをたった半年で、しかもelite級がいる艦隊を倒すとは。この三人はかなりセンスがいい。しかも潜在能力が高いだろう。

 

「なぁ明華(あすか)。こいつらだけだと物足りなかったし、あいつらもやっちまおうぜ!」

 

「そうだな聖奈(せな)。ちょっと物足りなかったところだ。お前らまとめてかかって来いよ!」

 

 赤毛の聖奈と呼ばれた少女は、眼鏡をかけた明華という少女に話しかけ吹雪達に挑発する。明華も相当やる気のようだ。時津風はその話にいらだった様子を見せ、伊勢と龍驤も表情は険しい。しかし、吹雪はそれを手で制す。そして、綾波と時津風に目を合わせた後に話し出した。

 

「こっちも3人でいいよ。3対3でやろう。綾波ちゃん、時津風ちゃん。やるよ」

 

「はぁ?んだよ、なめてんのか?」

 

「いいや。私達3人で十分だって言ってるの。全員でやったら数分で終わっちゃうからね」

 

「…んだと!」

 

 明華は拳に力を入れる。吹雪の挑発に頭に来ているようだ。

 

「おい2人ともやるぞ、こいつら叩きのめしてやる!」

 

「よし、乗った乗った!秋雲ちゃん、伊勢さんと龍驤さんは待機していてください」

 

「あいよ~。3人なら大丈夫やと思うけど、もしもの時はうちらも手出しさせてもらうからな~!」

 

「時津風~、頭に血上って相手を半殺しにするなよ~。じゃないと秋雲の不可思議の絵画(トリック・アート)でアイスとか出さないからな~…」

 

「私も警戒を怠らないでおくからね!深海棲艦が来たら困るし」

 

 吹雪は安心して前に出る。それに続いて綾波と時津風も前に出た。相手の三人もゆっくりと前に出た。そして徐々に距離が詰め始めたときにお互いに一気にスピードを上げた。

 

「二人とも全力で行くよ!」

 

「二人とも、あたし達の力を見せてやろうぜ!」

 

 第2艦隊の精鋭である吹雪達3人。そして、野良艦娘の3人の戦いが始まった。吹雪達は船速を早め龍驤達から距離をとる。相手もそれにならい吹雪達と並走している様子だった。

 

「2人とも、まずはあの3人を引き離すよ。綾波ちゃんは眼鏡の子、時津風ちゃんは赤毛の子、私はあのおさげの子をやる!」

 

『了解!』

 

 吹雪達はそのまま相手に進路を変える。相手もこちらに来る様子だった。しかし、吹雪は相手の動きに疑問を覚えた。隣との距離が近すぎる。吹雪達は一定の距離を保っているが相手はそうではない。陣形などを教わっていないためおそらく我流のものだろうが警戒は怠らない。慢心はだめだ。

 

「砲撃準備!まずは3人を引きっ」

 

 瞬間、目の前にはおさげの少女しかいなかった。他の2人はまるで消えたように見えた。何が起こったのかわからなかったが、後ろを見ると綾波と時津風の横に前にいたはずの2人がいた。明華と呼ばれた少女は綾波を蹴り飛ばし、聖奈と呼ばれた少女は時津風に砲撃を行っていた。2人とも予想外の動きに一瞬動揺を見せたが、すぐに距離をとりそれぞれが違う方向へ散り散りになった。吹雪は目の前の少女に集中する。

 

「まさか、そっちも同じこと考えていたとはね!なんか、手間が省けたよ!」

 

「調子に乗っているのも今のうちですよ…あの二人、結構強いですから」

 

「それを言ったら、綾波ちゃんと時津風ちゃんも強いからね。駆逐艦の中ではトップ5の実力なんだもん。さてと、じゃああなたの力見せてもらうよ」

 

「じゃあ、遠慮なく!」

 

 その瞬間、再び目の前にいたはずの少女が消えた。吹雪は一瞬の出来事に困惑してしまう。さっきといい今といい何が起こっているのかわからなかった。

 

(また消えた⁉いったいどこに!)

 

 周囲を見渡していた時、後ろから砲撃とともに強い衝撃を覚えた。後ろを見ると、おさげの少女がおり砲を打っている様子だった。吹雪は一旦距離をとる。幸いにも被弾は小破に至っていないようだった。吹雪は冷静に状況を分析する。さっき2人が消えいつの間にか後ろにいたこと。そして、おさげの少女が目の前から急に消えたことを。考えられるにおそらく異能だ。

 

「……さっきのこと、それに今のことから考えるに…あなた、異能は|瞬間移動なんじゃない?」

 

「やっぱりわかりますよね…えぇ、私の能力は瞬間移動。異能で瞬間移動できる人数は2人分ですけどね」

 

 吹雪は、その説明を聞いて少しだけ笑う。少女も吹雪の様子に疑問を持っているようだった。こんな状況だというのに何を笑っているというのか。

 

「あの、なんで笑っているんですか?」

 

「え?あぁ、ごめんね。もったいないなぁって思って。その力をうちにもってきてくれたら、すごい助かるだろうな~って思って」

 

「……たぶん、無理ですよ」

 

「なんで?」

 

「あの二人……特に明華は人間不信が強くて…半年前に急にこの力を得てから、周りの人に化け物扱いされちゃって…。親達は、私達のことを見て理解してくれて艦娘に理解のある街へ引っ越して…ちゃんと訓練校にも通わせようとしてくれて…でも駄目だった。明華はもう人間のことを信じられないし、聖奈もそれに同意したから…それで旅に出ようとしたから……だから…あの二人を放っておけなくて…」

 

(……あぁそうか…この子達もそうなんだ…自然に力を覚醒したことといい、人間を信じられないといい……境遇は違うけど、浦風ちゃんに似てるな…)

 

 吹雪は静かに聞いていた。何か事情があって海軍に来ていないのではと思っていたが、まさかそこまでの事情があったとは。浦風も以前、施設で虐待を受けていたと聞いている。浜風も同じ施設出身だったはずだ。だがある日、浜風が危うく殺されかけその時に浦風が艦娘としての力を覚醒させ施設のものを半殺しにしたと聞く。その時に艤装も発現していたはずだ。大半のものは艦娘としての資質はあっても、艤装を自然に発現することは出来ない。ほとんどは妖精というものが艤装を作ってくれているらしい。まぁ、妖精はめったに目の前に現れることはないし、噂程度にしか聞かないから真実はわからない。あとは整備士のものが艤装を作ったりするが。吹雪はゆっくりと前に進む。そして、真剣な様子で話し始めた。

 

「それで、あなたはどうするの?私と勝負を続ける?それとも降参する?」

 

「……勝ち負けはどうでもいいです!艦娘として、あなたと手合わせお願いします!」

 

「うんうん、いいね!その心意気、しかと受け取ったよ!だから私も全力で行く。あなたが異能を見せてくれたから、私も異能を見せてあげる!」

 

 吹雪は霊力を解放する。自身の手に平に氷の粒をいくつも出す。吹雪はゆっくりと自分の顔の前に差し出す。そして、自身の異能を説明した。

 

「私の異能は見ての通り、氷を操る能力なんだ。技の名前とかは、秋雲ちゃんが呼んでた漫画からとったんだけどね。異名もそうらしいけど……」

 

「……?」

 

「あぁ…なんか幽〇白書ってやつからきてるらしいよ(メタ)」

 

「は…はぁ…」

 

「というわけで…行くよ!魔笛散弾射!」

 

 吹雪は、氷の刃を飛ばす。少女はすぐに瞬間移動を使い回避する。しかし、吹雪は回避する場所を読んでいるのか、すぐに砲を打つ。再び回避をするがそれも吹雪に読まれている様子だった。

 

(あれ、回避する場所が読まれてる⁉なんで!)

 

「あなたわかりやすいね……この数回、あなたは大体私の後ろか少し離れたところに移動するね。もっと移動する場所を考えないと、すぐに対処されちゃうよ」

 

 吹雪は少女に近づき、腕をつかみ取り押さえる。少女は抵抗する様子もなかった。吹雪は少女に触れた瞬間、再び“ドクン”と心臓が脈打つのを感じる。やっぱりそうだ…と確信した。この子は姉妹艦だ…と。

 

「あなた、吹雪型だね…」

 

「え?吹雪型?」

 

「あぁ、それは大本営に行った後のお楽しみかな…でも、あなたは吹雪型の誰かってことはわかる。さてと、じゃあ他の二人が終わるのを待ちますか…」

 

 吹雪は他の二人の戦闘が終わるのを待った。少女は吹雪の様子を見ながらひとまずじっとしていることにした。他の二人の戦いは、吹雪達とは違いかなり熾烈になっていたのを知らずに…。

 

 




次回は綾波と時津風の戦闘を書きたいと思います!
それで、白露達の様子を少し書く予定です!
ではでは!


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60話 格の違い

こんばんわ。最新話になります!それにしても、時間が過ぎるのは早いですね…。
では、どうぞ!


ーーーSide時津風

 

 

 

 離れた場所に来た時津風と聖奈と呼ばれた少女。二人とも最初は睨み合いをしており時折遠目に見えていた吹雪達の様子を見ていた。時津風はわかりきっていたことだったのか特に気にすることはなかったが、聖奈は驚愕していた。瞬間移動を使ってもなお勝てない相手だったとは思わなかった。吹雪と戦っていた少女、美海の能力をもってすれば深海棲艦すらも対応できない能力のはずだった。だがそれを吹雪がいともたやすく攻略したからだ。

 

「さ・て・と!じゃあ私達もやろうか~!」

 

「…あぁ、そうだな」

 

 時津風と聖奈はお互いに構える。聖奈は砲を構えているものの、時津風はなぜか手をゆらゆらと振り、そして手を後ろに回していた。聖奈はその様子に青筋を浮かべる。時津風はまさに余裕といった様子だったからだ。

 

(かなり余裕…俺と戦うのはあくまでも暇つぶしってか!ふざけやがって!)

 

 聖奈の様子を見て時津風は少しだけ呆れていた。まるで飽きたおもちゃを見ているかのように。時津風は正直、聖奈を全く相手として見ていない。相手は格下。気配からわかった。多分能力を使わなくても勝てる。そう思っていた。だが、新種の深海棲艦が出ていること。たった1体で第3艦隊を全員大破させたこともあるため決して慢心はしない。たとえ相手がたった半年でここまでの戦闘力を得ていたとしても。

 

(この子私と同じで頭に血が上りやすいんだよね~…私も人のこと言えないか~…まぁ、とりあえず様子見様子見)

 

「そっちから来ねえなら、俺から行くぞおお!」

 

(あ、向こうからきてくれた…)

 

 聖奈は砲撃を行う。数は3発。時津風はそれを難なく避けさらに距離をとる。聖奈はさらに青筋を浮かべ時津風を追いかける。

 

「待てよこら!逃げるのか、あぁ!」

 

(さてと、どうするかな…こっちから仕掛けてみる?でもな~…吹雪ちゃんの相手が異能を使っている以上この子も異能を持っていないとは限らないんだよね~)

 

 時津風は警戒していた。もしも、万が一相手が異能を持っていた場合に自分が不利になることを。だからまずはある程度の距離を保ち相手がぼろを出すのを待つことにした。だが、時津風は待つのが苦手なほうだ。待てたとしても多分3分くらいが限界だろう。

 

(弱ったな~……待つのは苦手なんだよな~……う~ん…う~ん)

 

「……あああああ!もどかしいなああああああああああ‼‼」

 

「あん、なに叫んでんだよお前。隙だらけだぞ!」

 

 聖奈は間髪入れずに砲撃を行った。しかし、時津風はまたもやそれを難なく避ける。

 

(んだよまったく!ぜんっぜん当たらねえ!ていうかこいつ本当に何なんだよ!隙だらけに見えて全然隙がねえ!……こりゃちょっと本気を出さねえとな…それに、こいつの本気を出させねえと気が済まねえ!)

 

 聖奈は船速を一気に上げる。時津風に追いつこうとするために。時津風はその様子を後ろ目に見ながら走る。おそらく仕掛けるならそろそろだろうと時津風は思った。時津風は体を翻し砲を構える。聖奈も砲を構え打ってきた。今度は数は6発。時津風は右によけながら砲を打とうとした。だが、一瞬違和感を感じた。普通の砲撃音ではない。風切り音のようなものが混じっていたような、そんな感じが。さらに、数発がこちらに向かってきているような感じまでした。時津風は慌てて能力を発動する。能力時の番人(タイム・キーパー)を使い自身の移動速度を速めた。

 

「うわ!何々⁉」

 

「ははっ、やっと本領発揮してきたな!ほんじゃ、一気に行くぜ!」

 

 聖奈はさらに砲を打ってきた。今度はさっきの何倍もの数だ。時津風は体制を立て直しさらに、異能を使い弾速を遅めた。

 

「気のせいかな…弾速がさっきより遅く感じるんだけど…」

 

「……まぁな…()()()()だよ。あと()()()も上げてる」

 

 聖奈の言ったことに眉を顰める時津風。言葉の意味が分からなかったが、聖奈の打った弾をよく見てみる。その間1秒にも満たなかった。弾の周りには風のようなものがまとわりついていた。そして、時津風の能力が切れたとたん弾がこちらに近づいてきた。

 

「な…なんで⁉一時停止!」

 

 時津風は逃げに徹する。しかし、その隙を聖奈は見逃さずに時津風に近づく。距離は10m以内に達していた。時津風は慌ててしまったため聖奈の接近に気づくのに遅れてしまった。

 

「巻き戻し!」

 

 聖奈は数mほど離れる。聖奈は一瞬困惑したが、すぐに冷静になり一気に時津風に近づき首元まで手を伸ばす。時津風は聖奈の手を払い砲を打つ。聖奈はその行動を不審に思った。さっき聖奈が時津風から離れたのは異能によるものだと考えた。きっと時間を操る能力だと。だが、なぜ喉元まで手を伸ばしたときに手を払ったのか、さらに砲を打ったのかを。

 

「なぁお前さ…時間を操れる能力なんだよな!なんで同じ時間操作を使わねえ、それに今俺の攻撃を躱して砲を打った。それには理由でもあるんじゃねえの?例えば、タイムラグとかよ!」

 

(っ⁉こいつ、私の能力の弱点を見抜いた!)

 

 時津風の能力は万能ではない。時津風の操れる時間操作はスロー、巻き戻し、2倍速、一時停止の4つ。同じ時間操作を2回以上使えないこと。一度使えば、次に使えるのは10秒後という大きな欠点があった。普段は第2艦隊との連携によってそれをカバーできるし、時津風の戦闘能力をもってすれば余裕で他の時間操作の時間を把握できていた。だが、今回は聖奈の異能によって焦りが生じてしまった。時津風が最初に時間操作を行ったのはおよそ7秒前の2倍速。順にスロー、一時停止、巻き戻しの順。次に使えるのは3秒後。だが、この3秒が…時津風にとってかなり遅く感じた。時津風は聖奈に捕まり手を後ろに回され首を絞められる。

 

「俺の能力教えてやろうか!俺の能力はな、砲の中に風を入れることで弾速を早めたり回転率を上げることができる。たとえ空砲でも、風を使うことで威力もそのままにできる。貫通もできるしな。美海に名前考えてもらったら空気砲(エアバレット)って名付けしてもらったけど」

 

(か…風⁉そうか、さっきの風切り音は異能力によるもの!くっそ油断した!こいつ想像以上の実力を……けどさ、調子に乗るなよな!私に勝っていいのはさ…私より強い奴だけなんだよおおおおおおおおおおおおおおおお‼‼‼)

 

 時津風は魚雷を聖奈に向ける。聖奈は魚雷が発射されるのを警戒し、手を放し距離をとる。時津風は聖奈が手を離した瞬間に2倍速を使い聖奈に一気に近づく。まずは腹に一発、次に首に手を回し閉める。聖奈は暴れようとするが、すぐに膝を蹴り膝まづかせた。

 

「私を追い込んだのは褒めてあげるよ。だけどさ…調子に乗るなよ!私をちょっと油断させた程度で…たった数発攻撃を入れたくらいでさ…調子に乗るなよなぁ!」

 

(や……やべぇ……お…俺、とんでもない奴を敵に回しちゃったのかも…)

 

 聖奈は、冷や汗をかきながら、両手を上げ降参の意思を告げる。じゃないと、時津風に殺されそうな感じがしたから。確かに、調子に乗っていたところはあったと思う。3人一緒なら深海棲艦を一掃できていたから。だが、今実感した。上には上がいると。

 

「こ…降参する…降参するからさ…命だけはさ…」

 

「…………あっ!いけないいけない!ついつい熱くなっちゃった!ごめんね~!大丈夫大丈夫!ちゃんと保護するからさ!だから仲良くしようよ~、ね~」

 

(こ……怖かったぁ。死ぬかと思ったよ…)

 

 時津風と聖奈との勝負はついた。残りは綾波と明華という少女のみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーSide綾波

 

(お、吹雪と時津風は終わったか。残りは私達だけか)

 

 綾波は明華と接近戦を行いながら周りを見ていた。吹雪と時津風の戦闘が終わった。残るは明華のみだ。綾波は一旦距離をとる。そして、戦闘態勢を解いた。明華はその様子を見て舌打ちしながら話し出す。

 

「なんだよ、戦いをやめるのか!」

 

「あなたねえ…周り見えてますか?残りの2人はもう降参しているんですよ…わかってますこの状況…」

 

「……わかってるよそんなこと。2人が降参したことも…。あたしがあんたに敵わないこともさ……」

 

(……なんだ、意外と自分の実力、それに相手との実力差がちゃんとわかるらしいな。頭に血が上りやすくて、それでいて猪突猛進かと思ったけど。それに、こいつ砲撃と雷撃は最小限…ほとんどは自身の拳…ねえ。いいね、こいつ気に入った!)

 

「…でもよ~…あの二人が降参したのはいいとして、あたしとあんたの戦いに決着つけるのに理由なんていらないよな!あたしは白黒つけないと気が済まないんだよ!あんたもそうだろ!戦いが生きがい。戦いが楽しくて仕方ないんだ!」

 

 綾波は明華の話を聞いて、少しだけ口角を上げた。こいつは自分と似ていると。接近戦を好んでいることも。綾波は格納庫からヌンチャクを取り出す。明華と全力でやるために。

 

「あっはは!いや~いいですね~…あなた私と似てますよ~…………とても気に入りましたよ!だから、全力でかかってきなさいな!」

 

「言われなくてもやってやるよ!」

 

 明華は一気に綾波に近づき接近戦に持ち込む。綾波はそれを避けつつ明華に攻撃を入れていく。明華はそれを避けること無く攻撃を受け続けた。防御なんて考えていない。まるで玉砕覚悟に見えた。

 

(一体何を考えているんだ。普通攻撃なんて受け続けるか?これじゃあ大破にまであっという間だぞ…)

 

 しかし、徐々に違和感を感じ始める。明華の攻撃が徐々に威力が増しているように感じた。綾波がさらに明華に攻撃を入れ、攻撃を受けると数メートルほど吹き飛ばされた。

 

(こいつ…攻撃を受けるたびに拳の威力が増していってる?まさか、異能持ちか?)

 

 綾波は、明華の顔面に蹴りを入れる。しかし、明華はそれを片手で受け止める。さっきまでとはやはり何かが違う。力も増しているのだろうか。

 

「あなた、まさか異能持ちですか?」

 

「あぁ、一応な。あたしの能力はダメージを受ければ受けるほど力が増すんだよ。砲撃も魚雷もそうだ。まぁ、ダメージを受けていくから下手したら死ぬかもしれないけどな。まぁ…さしずめ死線(デッドライン)ってとこか…」

 

(おいおい…それじゃあ諸刃の剣だろ…ダメージを受ければ受けるほどってことは、瀕死になればなるほど強くなるってことだよな…)

 

 明華の話を聞いて、綾波は考える。あんまり戦闘を長引かせない方がよさそうだと思った。早いところけりをつけないと、明華の性格上血だらけになろうが戦闘を続行させそうだ。あまり楽しんでいる余裕はいと思った。

 

「申し訳ないですけど、早々に蹴りを付けさせていただきますよ!」

 

 綾波はギアを上げ、明華に猛攻を仕掛けた。明華はそれを避け続けるが、綾波の攻撃に徐々に押され始めた。まずは腹に一発、さらに首の後ろに一発を入れ明華を気絶させた。

 

「まだまだ粗削りだな……もうちょい訓練したらよくなるよあんた」

 

 綾波は明華を背負い龍驤達が待つ場所へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 綾波が龍驤達のいる場所につくと、すでに吹雪と時津風も待機していた。そばには聖奈と美海もいる。ただ、聖奈に関しては時津風に少し怯えているようだった。

 

「お~終わったな~!赤神大将にはうちが報告しといたから、さっさとこの3人連れて帰るか~!」

 

「賛成~!疲れた疲れた…秋雲~、アイス」

 

「お前その子怯えさせたろうが!アイスは抜きだ!」

 

「ええええ⁉そんなあああ!いいからアイスうううう‼‼」

 

「だめったらだめだ!しばらくお前には不可思議の絵画(トリック・アート)使うか!」

 

「ほらほら喧嘩しない!いいから帰ろう、鎮守府に」

 

 吹雪の一声で鎮守府に向かう一同。その後ろを聖奈と美海がついていく。明華はまだ気絶しており綾波に背負われている。聖奈と美海はお互いに顔を見合わせる。

 

「なぁ美海…俺らはとんでもない人達に喧嘩を売っちゃったな…」

 

「…そうだね…上には上がいるみたい…明華もわかったんじゃないかな…勝てないって」

 

「俺らも鎮守府に付くことになるのかね?」

 

「多分ね…明華は納得してくれるかな?」

 

「なんか…この人達がいれば明華も納得しそうだよ。強い相手に挑むの好きだし。……鎮守府ってところに付いたら、久しぶりに親達に連絡するか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー大本営

 

 大本営に付き、少しすると明華が目覚める。吹雪達は一旦工廠付近で3人に待機するようにと言われた。3人はそれに従い艤装を外して待つことにした。待っている間に聖奈は艤装の格納庫の中にしまっていた携帯を出す。親に連絡をするためだ。

 

「明華、今回のこと親に連絡するつもりだけどお前はどうするんだ?」

 

「あ~…確かに最近連絡してなかったな……あたしもするよ」

 

「じゃあ私も!」

 

 3人がそれぞれ親にラ〇ンを送る。大本営に保護されたことを。おそらくしばらくここに身を寄せることを。少しすると3人の携帯に着信音がなる。3人とも母親からのようだった。それぞれの返信内容は、無事でよかったや落ち着いたら連絡を頂戴などの内容だった。親達は現状のことについては理解はしてくれている。周囲に化け物扱いされたことで人間不信になってしまった明華。聖奈もそうだ。引っ越しをして、艦娘の訓練校に通わせることも考えていたが2人が拒否し旅をすることにした。美海も2人が心配だからとついていくことにした。異能に目覚めたのも旅をしてしばらくしてからだった。そのおかげもあって深海棲艦と対峙したときも勝ててはいた。今回は吹雪達に惨敗してしまったが。その後、吹雪と綾波、時津風が3人のもとへと来た。どうやらこの後ちょっとした検査をするらしい。3人はとりあえず吹雪達についていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さてと、君達にはこれからちょっとした検査を受けてもらうぞ。吹雪達にも立ち会ってもらう」

 

『は……はぁ…」

 

 現在、3人は大本営の工廠におり吹雪と綾波、時津風も一緒にいる。目の前には大将である赤神がおり目の前には何やら機械のようなものがあった。大きな画面にカメラのようなものもついている。

 

「3人ともこの前に立ってくれ。これは特殊な機械でな。艦娘の適性があるものの艦種がわかるし、それから霊力値もわかるんだ。便利だろ!今頃各鎮守府に簡易的に霊力を測定できる機械を送っているみたいだけどな!君達の艦種は吹雪型、綾波型、陽炎型というのはわかっているんだ。そこの3人が気配で分かったそうだからな」

 

 なるほど…と3人は思った。この3人が一緒にいるのはそれを確かめるためなのか…と納得する。3人は機械の前に立つ。しばらくすると、画面から結果のようなものが出たようで横にあったプリンターのようなものから紙が出てきた。赤神はそれを確認する。

 

「…3人の予想は正しかったぞ。まずは明華ちゃん、君は綾波型の5番艦、天霧だ。霊力は2万、A級だ。次に聖奈ちゃん、君は陽炎型16番艦の嵐。霊力は1万8千。次に美海ちゃん、吹雪型10番艦の浦波、霊力は1万7千だ」

 

「なぁ?あたし達はこれからどうなるんだ?」

 

「まぁ、ここで保護っていう形の着任になるだろうな。今後どうなるかは元帥次第か…まぁ、状況が状況だからしばらく吹雪達に面倒を見てもらうことになるがな。まぁ一旦執務室でも行こうか。そのあとは吹雪、任せたぞ」

 

 全員一旦執務室の方へと向かう。そのあとは、元帥と少し話した後にそれぞれの艦隊に挨拶をすることになった。第3艦隊は全員負傷中のため後日になるが。それを終えた後は吹雪達に鎮守府内を案内されたそうだ。そして、しばらく大本営に身を寄せることになったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー同時刻 柱島鎮守府

 

 京から事の発端を聞き執務室で待機している白露。周りには摩耶や五十鈴、時雨と村雨もいる。大本営第3艦隊が全員大破して帰ってきたと聞いたときは正直信じられなかった。演習を間近で見ていたからわかる。大本営にいる者達は全員強者揃いだったからだ。その後、しばらくした後は野良艦娘の3人を保護したという通達があったが、その情報が頭に入らないほどだった。第3艦隊が遭遇した駆逐水鬼という新種の狙いが白露と来たものだからなおさらだ。

 

「それにしてもお前、変な奴に興味持たれるな…明智家といいその新種といい…」

 

「……あぁ」

 

 白露は腕を組み考える。情報ではおそらくS級クラスは間違いないこと。もし自分が戦ったらどれほど通用するのかを。いつ遭遇するかわからない。すぐにでも体の調子をもとに戻したいくらいだった。白露は立ち上がり足早に執務室を後にしようとする。そんな白露に京は話しかける。

 

「白露さん。どちらへ?」

 

「トレーニングだよトレーニング!すぐにでも体の調子を戻さないとな!」

 

 白露は執務室を後にし、そのまま外に向かう。本館の入り口まで来たときに扉の前に星羅が立っていた。ちょうど入ろうとしたところだったのかぶつかりそうになってしまった。

 

「わっと危ない!ごめんね焔。雫は中?」

 

「あぁ、今執務室にいるところだよ」

 

「ありがとう!それと、この後少し付き合って!雫も連れてくるから待っててくれる?」

 

「母さん、私はこれからトレーニングに…」

 

「いいからいいから!これから二人に私の武術を教えるわ。だから付き合って」

 

 星羅の話を聞き、白露は頷く。確かに、白露達の武術は星羅の動きを真似したものだが、本格的に習っていない。今教えてもらっても損はないだろう。しばらく入り口で待機していると、星羅と時雨が早歩きで来ていた。星羅は表情こそいつも通りだが少し焦っているように見えた。

 

「さてと、お待たせ!確か、ちょっとした体育館みたいなところがあったわよね。そこに行きましょう」

 

 3人は工廠の奥にある体育館まで向かう。そこに着くや星羅は腕を回したり少し屈伸運動などをする。白露と時雨はお互いに顔を見合わせる。これから何を教えてくれるのだろうか。気になったため白露が話しかけた。

 

「母さん。いったい何をするんだ?」

 

「…さっき小耳に挟んだけど、大本営の人達が負傷したって聞いてね。おまけに1人?…にでしょ。実力もかなりのものだっていうからね。本当はここの人達に教えられたらいいんだけど、武術を習っていない人もいるみたいじゃない。だから、まずは2人に私の武術…その技を教えておこうと思ってね」

 

 星羅は、その場に構える。白露に向かって手招きをし目の前に立つように促す。白露はそれに応じ構える。星羅は白露が構えるのを確認するとおもむろに話し出した。

 

「これから2人に教えるのは私が一番多用している技よ。私はこの技を作るのに2年くらいかかったかしら…。まぁ、口で説明するのもあれだし…焔、私に思いきり攻撃してきなさい!ちゃんと異能を使って、身体能力を強化して頂戴!」

 

「ちょ⁉私が異能を解放して全力でやったら、どうなるかわからないって⁉」

 

「いいからいいから!大丈夫。私を信じなさい」

 

 少し腑に落ちないところもあったが、白露は異能を解放する。そして、自分の右こぶしに力を入れ星羅に向かって殴りかかる。星羅は、それを左手で受け止め白露の拳を受け流したと同時に右こぶしを白露の左脇腹に入れる。直後、白露は壁際まで勢いよく吹き飛ばされていた。かなりの衝撃だったのか、轟音が響き白露は床に倒れる。時雨も何が起こったのかわからなかったようで白露と星羅を交互に見合わせる。白露も相当のダメージが入ったようで立つことができなかった。

 

「…何が…どうなって…」

 

「驚いたでしょ?私の武術が中国拳法を取り入れていることは父さん…あぁおじいちゃんから聞いているわね。今のはその応用。焔の拳の威力を受け流して、その力を体の中にとどめつつ、右こぶしを打つと同時にその力を出したわけ。これは発頸の応用よ!とりあえず、今のあなた達が次の出撃までにどこまで覚えられるかはわからないけど、びしばし鍛えていくから、覚悟しておいてね(笑)さ、雫。次はあなたの番!」

 

「え⁉僕⁉」

 

「だって、今焔のびてるし…」

 

 時雨は白露の方を見る。まだ立つことができないようで、腹を押さえてうずくまっている。さらに星羅の方を見る。やる気満々のようでキラキラした表情で手招きをしている。一回技を受けてみろ。そういうことらしい。時雨は少しだけ泣きながら構え、覚悟を決めて星羅の方に向かう。しかし、白露と同じようにかなりの勢いで吹き飛ばされてしまった。

 

「は~。やっぱり体を動かすのはいいわね!少しだけ休憩した後に、本格的に技を教えるからね!」

 

『は……はい……』

 

 白露と時雨はお互いに顔を見合わせる。お互いに同じことを思っていたのか同時に話しかける。

 

『つ……強すぎる……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー1時間後 

 

「ふふふふふふ!とうとう来ました!この機械!霊力値をすぐに調べられるこの機械が!あ~、早く白露さんと加賀さんの霊力値を調べたいな!こんな状況で不謹慎な感じもするけど(;・∀・)……でもでも、いいですよね!もう皆さんの霊力値調べちゃってるし!それにしても、皆さん優秀ですね~!A級がほとんど!春雨さんと五月雨さんがB級ランクですが、それでもちゃんと役割を理解しているし、うんうん。やっぱり皆さん優秀です!ものすごく優秀です‼‼‼」

 

 鹿島は外を歩きながらつぶやく。とうとう霊力を調べられるのだ。こんな状況なので不謹慎かもしれないが、それでもこの日を楽しみにしていたのだ。それで、今は白露を探しているし時雨と加賀もまだ霊力値を調べられていない。だから今鎮守府中を探しているのだがいったいどこにいるのやら。それならばと思い、工廠の前まで行ってみる。そしたら、何やら衝撃音が聞こえた。すごく独特な音だった。思いきり風を切るような音が。少し気になり、奥の方に行ってみる。するとそこには星羅と白露と時雨がおり何やら稽古をしているようだった。星羅が二人に殴りかかり二人はそれを左手で受け止める。その直後、二人は右こぶしを反対側に突き出した。その時、白露の拳から衝撃波のようなものが出て鹿島の顔面に風がきた。

 

「う~ん、焔は衝撃を受け流してすぐに放出できるけど…威力は体に吸収できないみたいね…雫は体に衝撃を吸収できるけど放出はできないみたい…でも、やっぱり二人ともセンスがいいわね!教えて1時間でここまでできるなんて!」

 

「はぁ…はぁ…けど、これかなりきついよ…」

 

「衝撃を吸収して、それを体にとどめた後に発頸の応用で威力を増して放出するなんて…」

 

「あ、言っておくけどこれ基礎の基礎よ!応用できれば投げの時とか、関節技を使うときにも使えるようになるわ!さてと、じゃあ休憩!」

 

 星羅がそう言ったと同時に二人は床に倒れるように横になる。よほど体にかかった負荷が強かったのか二人とも肩で息をしている。そんな二人の様子を見ながら鹿島は恐る恐る中に入っていく。星羅は入ってきた鹿島に気さくに話しかけた。

 

「あら鹿島ちゃん!どうしたの?そんな恐る恐る入っちゃって」

 

「あ…あぁ実は、白露さんと時雨さんに用があって。先ほど、艦娘の霊力値を調べられる機械が届いたので、それでお二人の霊力を調べておこうかと。お二人とも、大丈夫ですか?」

 

「私は大丈夫…疲れて体を動かしたくない…」

 

「お…同じく…」

 

「それでは!」

 

 鹿島は二人に機械を向ける。白露と時雨の順に機械を向けた後に、持ってきていたタブレットに数値を打ち込んでいく。

 

「ええと、白露さんが霊力4万4千で前回より1万1千アップですね!時雨さんが2万2千で変わらずです」

 

「……鹿島さん、今なんて?私が4万4千?」

 

「えぇ、4万4千……………………えええええええええええええΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)4万4千‼‼‼ちょっと待ってくださいよ!たった数か月で1万以上も霊力が上がるなんて聞いたことないんですけどΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

 鹿島は白露の霊力値を見て驚く。白露がここにきて約3か月経つが、そんな短いスパンで1万以上も霊力が上がるなんて聞いたことが無かった。リミットオーバーを会得したのも影響しているのだろうか?

 

「お……おおおおおお!すごいですよ白露さん!これで、あなたはS級10位になりましたよ!すごいです!ここまで成長するなんて…私は本当にうれしいですよおおおお!精神的にもすごく成長しましたし!」

 

「は…はぁ、それはどうも…いや、S級10位になったことは喜ぶべきかな?」

 

「すごいじゃないか白露!一気にランクを上げるなんて!」

 

「なになになに?そんなにすごいことなの!よくわからないけど、よかったわね焔!よし、じゃああともうちょっとしたらまた再開…」

 

「失礼するわね」

 

 星羅が話している途中に、入り口の方に加賀が立っていた。加賀はゆっくりと入っていく。鹿島と白露をそれぞれ見ているためおそらくこの二人に用があるのだろう。

 

「話の途中にすみません星羅さん。鹿島さん、白露さん、少しいいかしら?」

 

「えぇ、私は構いません。白露さんは?」

 

「あぁ、私も行く。もう動ける」

 

「星羅さん、白露さんを少し借りるわ」

 

「あ、は~い!いってらっしゃ~い!雫はそのまま私に付き合ってね!」

 

「う…うん」

 

 白露と鹿島は加賀に連れられそのまま体育館を後にした。時雨と星羅はそのまま体育館に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー加賀の自室

 

 二人は加賀の自室に連れてこられた。ここに来る途中に鹿島は加賀の霊力値を調べた。霊力値はなんと9万と桁違いの数値だった。白露もその数値に驚いていた。白露と約5万の差があるからだ。

 

「さてと…あなた達を呼んだのはね。S級達の霊力値について教えておこうと思ってね。他の人達に聞かれると、あまりの霊力差に自信を失わないか心配だったからよ。鹿島さん、確かそのタブレットで他のS級の霊力値を調べられたわよね?」

 

「えぇ、見れますよ。他の鎮守府で計測した数値も、このタブレットに随時更新されますから」

 

 鹿島は、タブレットを操作しS級ランクの数値が載っているページを出す。それを机の上に置き二人にも見えるようにした。下の方からまず雷。霊力は3万3千。次にしおい、霊力は3万8千。そして、白露の4万4千だ。そして、その上。矢矧からになって霊力値が少し跳ね上がっていた。霊力は6万。8位の鬼怒で霊力7万5千。7位青葉、霊力7万7千。6位山城、霊力8万2千。5位赤城、霊力8万5千。4位は加賀。霊力は前述したとおりだ。そして、3位以上、その者たちの霊力値を見て白露と鹿島は驚愕した。加賀の9万が可愛く見えてしまう。それほどの数値だった。3位長門、霊力12万5千。2位鳳翔、霊力13万。そして…1位。霊力16万。

 

「…な…なぁ加賀さん。数値バグっているのか?3位以上は霊力10万越えって…ていうか、1位の人の名前書いてないけど…」

 

「事実よその数字は。3位以上は霊力が10万越え。1位に関しては、世界の2強よ」

 

「え…えっと、なんで名前書いてないわけ?」

 

「日本最強の艦娘…そして、伝説…艦娘になってから、出撃した回数は片手で数える程度。ですが、その限られた出撃で多大な戦果をもたらした。出撃中はかすり傷すら受けなかったと言われています…名前が書いていないのは、本人の希望よ。まぁ、霊力値までは情報を規制していなかったみたいだけどね」

 

「え…えっと、加賀さん。あなたは1位の方と面識があるのですか?」

 

「……えぇ、ある。でも言えない。その人から固く口留めされているからね」

 

 鹿島の問いに、加賀が答える。1位とは面識があるようだが、今は言えないようだ。

 

「…まぁ、深くは追及しないさ。けど、3位以上が10万越えって…一体…けど、あまりにも差がありすぎるだろ!なんでそんな差が?」

 

「じゃあ白露。S級が何で3万以上って基準があると思う?明確にはわかっていないみたいだけど、3万以上になるのにかなりの壁があるみたいなの。たかが100だろうが、たかが10だろうが…その先に行くには、霊力の質、さらに天性の才能もあるみたい。あとはそうね。3万以上のものが当時少なかったっていうのもあったと思うけど。けど、何年かして霊力が急激に跳ね上がった人達が出てきた。それが10万越えの人達。霊力を10万越えまで行けるのはごく少数。それほどの領域に達するまでには、一体どれほどの鍛錬が必要になるのか…」

 

 二人は加賀の話を静かに聞いていた。S級の中でも壁がありすぎる。ましてや、他の者がこのことを聞いたらどうなるのか。あまりの差に絶望してしまうのか、それとも奮起するのか。それはわからない。だから、加賀はこの二人だけにS級の霊力値を教えたのかもしれない。鹿島は遅かれ早かれきっと知ることになってたと思う。タブレットで調べられるのはここの中では提督達と鹿島のみだから。

 

「……10万か……私もいけるかな…その領域に……」

 

「……やっぱり、あなたならそういう反応をするとは思っていた。精進しなさい白露。それと鹿島さん、急にこんな話をしてごめんなさいね」

 

「い…いえいえいえ!むしろ貴重なお話を聞けて光栄でした!」

 

 加賀はそのまま自室を出ていく。白露と鹿島もそれに続いて部屋を出る。鹿島は白露の方を見る。白露は笑みを浮かべているようだった。上には上がいる。その者たちをいつか超えられる日が来るのかと思うと、笑みが止まらなかった。

 

 

 

 



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61話 復帰戦

お久しぶりです!
今回は、白露の復帰戦です!
それでは、どうぞ!


ーーーマリアナ諸島方面

 

「……久しぶりの出撃だな~…さてと…どういうふうにやるかな~…」

 

「…なぁ、お前の復帰まで大体2週から3週って言われたよな…ものの1週間で復帰するってお前の能力どうなってんだ?」

 

 あれから1週間後、舞鶴鎮守府のもの達は深海棲艦が多数出現しているマリアナ諸島方面に来ている。しかも、どういうわけか白露までいる。時間がかかると思われていたが、ものの1週間でほぼ本調子に戻ってしまった。それで、現在復帰して艦隊を組んで出撃している。編成は白露を含め摩耶、飛鷹、隼鷹、時雨、夕立のメンバーだ。白露は腕を伸ばしたり首を回したりして体の調子を整えている。少しすると艦隊に無線が入る。提督である京からだ。

 

『皆さん。状況は?』

 

「特に変わりないぞ。深海棲艦すらいねえ」

 

『いや~それにしても皆さんの様子がよくわかりますよ。大本営から艤装に内蔵できるカメラが届くとは思いませんでした』

 

 先日、大本営から状況をすぐに把握できるようにと艤装に内蔵できるカメラが届いたのだ。さらに、それぞれの損傷状態、さらに心拍数なども把握できるようになっている。京のパソコンに現在出撃しているメンバーの状態を常に確認できるのだ。先日の件で、急遽大本営が用意したものだ。

 

『皆さん。白露さんが駆逐水鬼に狙われている以上無理は禁物です。邂逅次第すぐに撤退を』

 

「了解提督。白露もそれでいいよな?」

 

「……あぁ」

 

「なんだよ気乗りしてねえな」

 

 京の指令に対して、白露は少しだけ俯く。正直、その駆逐水鬼とやるのが少し楽しみだった。危険な存在だとわかっていても1回戦ってみたいと思っていたのだ。まぁ、今は復帰戦だしそこまで無理をする必要もないとわかっている。だから、少しだけもどかしかった。白露は手を開閉して感触を確かめている様子だった。おそらく時雨はその意図をくみ取っているのだろう。少しだけ苦笑いしていた。

 

(戦ってみたい…そう思っているんだろうな~…)

 

 心の中でそう呟く。だが、時雨としては出来れば邂逅したくないと思っている。万が一相手が大本営第3艦隊を相手にしたような立ち回りをしたらどうなるかわからないからだ。時雨は電探を常に確認し、さらに目視でも周囲を見渡すが何もいなかった。摩耶も周囲を見渡している。そして、索敵機を飛ばしている飛鷹と隼鷹に話しかけた。

 

「飛鷹、隼鷹。索敵機に反応は?」

 

「こっちにはないわ。半径10キロ圏内は探しているけど深海棲艦は見当たらないわ」

 

「こっちも何も反応ないね…まるで嵐の前の静けさみたいだ…」

 

 それを聞いて、摩耶は顎に手を乗せ考える。白露も時雨も少しだけ考えた。大本営第3艦隊も同じような報告をしていたからだ。あの時深海棲艦の反応はほとんどなかった。まるで、嵐のような静けさみたいだったと。白露は少し焦った様子で摩耶に話しかけた。

 

「おい摩耶!」

 

「わかってる!全員周囲の警戒は怠るなよ!もしかしたら、電探にも反応しねえかも知らない。この間の大本営の第3艦隊と同じ状況だ!多分駆逐水鬼が近くにいる!」

 

 全員がその言葉に警戒を高める。きっといる、この状況では。周囲の状況を確認していた時に、不意に全員の背筋が凍るような感覚がした。全員左舷側の方に視線を向ける。すると、海から少しずつ体を出す深海棲艦がいた。電探には反応が無かった。おそらくステルス性能を持っているのかもしれない。その深海棲艦は、体全体を海に出すと静かにこちらを見つめてきた。駆逐イ級を小さくしたような帽子をかぶり、大きな腕がついている艤装を身に着けている。間違いない、駆逐水鬼だ。駆逐水鬼はこちらをじっと見つめ、白露に視線を移すと何やらつぶやいている様子だった。そして、ゆっくりと白露に指を向ける。

 

「…………オ前カ?」

 

 瞬間、白露の背筋が凍るような感覚がした。白露だけではない。他の者全員が同じ感覚がした。こいつは強いと。白露も初めての感覚だった。

 

「探シタゾ…アノ時ノ強イ反応ハオ前ダ。オ前ヲ探シテイタ」

 

 ゆっくりと、駆逐水鬼の周りに深海棲艦が出てくる。艦種は重巡級2隻、軽巡級1隻、駆逐級3隻。しかし、いずれもflagship級だ。全員が構える。白露もジャックポットナックルを取り出し臨戦態勢に入る。その瞬間、目の前に駆逐水鬼がおり、白露の両手を握りしめていた。動こうと思ってもまったく動かなかった。

 

「コイツ少シ借リルゾ。オ前タチハソコノ奴ラト遊ンデイテクレ…」

 

 瞬間、その場に白露と駆逐水鬼の姿はなかった。一瞬のうちに移動したのだろう。周囲を見渡しても目視では確認できなかった。まさか一瞬のうちに白露を連れ出されるとは思っていなかった。摩耶は焦りながら無線をつなぐ。

 

「提督!白露は⁉」

 

『無事です!しかし、皆さんとはかなり距離を離されている。駆逐水鬼は指しで白露さんとやるつもりなのでしょう。皆さんは、まずは目の前の敵に集中してください。私は、白露さんに無線をつなぎます!」

 

「あいよ。皆、まずは目の前の敵に集中だ!flagship級だから気を抜くなよ!」

 

 全員が砲を構える。今は白露の無事を祈るしかなかった。特に夕立は白露が連れ去られたのをかなり気にしているようだった。

 

「し…時雨お姉ちゃん」

 

「夕立!今は目の前の敵に集中しよう!白露を信じるんだ!」

 

「う…うん!」

 

(白露…無事でいて…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 轟音とともに、二人は水面の上に立っていた。周囲を見渡してみるが何もいない。一瞬のうちにかなりの距離を飛ばされたらしい。摩耶達の姿が見えないのがその証拠だ。白露は目の前にいる駆逐水鬼を見つめる。駆逐水鬼は白露をただじっと見つめている。何かを確かめるように。

 

「ヤハリ、アノ時感ジタ気配ハオ前ダッタカ。探シテイタゾ」

 

「ご所望ありがとさん。正直、私もあんたとやりたいと思っていたんだ。あの大本営第3艦隊をぼこぼこにしたらしいからな」

 

「…大本営……アァ、アノ雑魚共カ。アイツラト戦ッタトキハ退屈ダッタ…弱スギタカラナ…」

 

(おいおい…あいつらは弱くねえよ。直に見たからわかる……たぶん予想外のことに動揺でもしたんじゃないか…?……けど、何だろうな…あまり関わりが無いけど…そういうことを言われると、すっげえむかつく!)

 

 無意識に手に力がこもる。今ここでやっておかなければ気がすまなかった。白露はゆっくりと構える。しかし、構えたと同時に無線が入った。どうやら京からのようだ。

 

『白露さん!ご無事のようで何よりです!目の前にいるのは駆逐水鬼ですね。相手は強敵です!決して無理をせず、隙があれば撤退を!』

 

「…あぁ、できたらな。提督、悪いけど少しの間無線切るわ」

 

『え⁉白露さん!』

 

 京が何かを言う前に白露は無線を切る。そして、まっすぐに駆逐水鬼に向かっていく。白露は、殴りかかると同時に警戒していた。特に艤装の大きな手を。報告では、それで磯風と龍田を鷲掴みにしたと聞いている。おそらく、その艤装は駆逐水鬼の意思で動かせる艤装。その証拠に、駆逐水鬼が砲を構えた際に、腕の動きは連動していなかった。だから、その艤装の動きに特に注意した。白露は、まず駆逐水鬼の腹に蹴りを入れる。しかし、駆逐水鬼は手で受け止めた後に白露を空中に投げる。そのまま砲撃を打つが白露は空中で身を翻し躱す。一旦距離をとり砲撃を打つが駆逐水鬼は難なくそれを避ける。やはり報告にあったように回避能力がかなり高い。白露は舌打ちをしながらもう一度構え直す。距離をとった状態での砲撃や雷撃はおそらく無意味。なら接近戦でやるしかなさそうだと考えたからだ。

 

「フム、ヤハリナカナカ強イナオ前。探シテイタ甲斐ガアッタ!」

 

「そりゃどうも。こちとら正直ありがた迷惑だよ!身内の騒動には巻き込まれるわ、お前に興味持たれるわでな!」

 

「フフフ、手ヲ抜イテイタガ、少シダケ本気ヲ出ソウ!」

 

 今度は駆逐水鬼から向かってくる。白露もそれに応じ駆逐水鬼に向かい右こぶしを振るう。それを躱され、砲撃を受けそうになるが後ろに下がることでそれを回避する。瞬時に距離を詰め接近戦に持ち込む。しかし、駆逐水鬼は砲撃を躱すのと同じように難なくそれを避けている。白露は攻撃を一旦止め、駆逐水鬼はその隙に距離をとろうとした。しかし、その隙を見逃さずに一気に近づき拳を2発食らわせた。ダメージは少なかったようで駆逐水鬼は余裕そうだ。白露は右こぶしを見つめる。殴ったあとにしびれる感覚があったからだ。

 

(こいつ、装甲もかなり固いな。被弾を見る限り小破にも至ってねえ…普通の深海棲艦なら、1.2発で大破、よかったら轟沈にまで持ち込めるのに)

 

 白露は焦る。確かに相手の装甲の固さなら第3艦隊が圧倒されたのもうなづけた。反応速度も攻撃力も防御力もかなりのものだ。多分長期戦になれば白露の分が悪すぎる。白露は復調したばかり。砲撃も雷撃も以前と同じ確率にはなったが、体力的な問題では少しだけ不安があった。駆逐水鬼は腕を確かめながら白露を見つめる。

 

「……マダダ、モット全力デコイ。マダ力ヲ隠シテイルンダロウ?」

 

 白露は無意識に半歩後ろに下がる。リミットオーバーを会得したのはごく最近だし、本調子になるまで使ってはいない。リミットオーバーを使って10日間も動けなかったのだ。今使えばまた動けなくなる。

 

「…引き出してみろよ…」

 

 白露が発したのはこの言葉だった。駆逐水鬼は自分の全力を引き出させたいのだ。だが、たとえ全力で戦ったとしても駆逐水鬼に勝てるとは思えない。京からも無理をしないように釘を刺されている。それに、今の攻撃と少しだけわかったような気がした。駆逐水鬼は、おそらく実力でいえば矢矧と同等以上だと。推定霊力は矢矧と同じで6万といったところだろう。白露は拳を強く握る。何発か攻撃して逃げるか…。いや、逃げたとしてもおそらく追い付かれる。どうにかして、こいつを撃退するしかない。

 

「……デハ…」

 

 駆逐水鬼は、白露に砲撃を行う。白露はそれを避けると砲撃を行う。弾は駆逐水鬼の足元に落ち水柱が上がる。すると、すぐに雷撃が5発近づいてきていた。駆逐水鬼はそれを飛んで避けすぐに前方を見るがいつの間にか白露は消えていた。一旦佇む駆逐水鬼。少しした後に、右に視線を向けると大きな艤装で薙ぎ払う。そこには攻撃を仕掛けようとしていた白露がおり不意打ちを受けたことで少し吹っ飛ばされてしまった。

 

(くそ、これも反応されるのか!だったら、もう少しスピードを上げていかないとやばいな!)

 

 白露はさらにギアを上げる。格闘戦、零距離砲撃いろいろ試してみるがことごとく避けられる。駆逐水鬼は応戦し右こぶしを放つ。白露は避けようとするが、直後大きな腕が襲い掛かる。すんでのところでそれを避けいったん距離をとり深呼吸をする。

 

(どんなに早く攻撃をしても避けられる。攻撃を食らうのを覚悟で行くしかないか…なら、母さんから教えてもらったあの技しかないか?やるだけやってみるしかねえ…)

 

 白露は、構えもせずに立ち尽くす。駆逐水鬼はその意図が理解できず少し驚いた様子だった。

 

「何ヲシテイル?」

 

「そのでかい腕で私を攻撃してみろよ。大サービスだ」

 

「…ホウ」

 

 駆逐水鬼は、ゆっくりと近づいていく。白露の額に冷や汗が出る。この技を習って1週間。まだ初歩的なところしかできていない。でも一か八かやってみるしかなかった。駆逐水鬼は、一気に白露に近づき右側の大きな艤装の腕を白露に放つ。それを左手で受け止め腕を引き衝撃を右腕の方に流していく。そして、右拳を駆逐水鬼の腹に入れた。駆逐水鬼は轟音とともに10数mは吹き飛んでいく。だが、それと同時に右腕に激痛が走った。

 

(いっつ~‼‼なんつう衝撃だよ!相手に打つだけでもこんな痛みが出るなんて⁉それだけ、私がこの技を使いこなせていないんだ!)

 

 右手を振りながら目を見る。水しぶきが上がっているところを見ると、駆逐水鬼がゆっくりと立ち上がる様子がみれた。多少ダメージが入っているのか腹部を押さえている様子だった。白露は驚愕した。全力で打ったはずなのに、駆逐水鬼は腹部を押さえている程度なのだから。

 

「効イタゾ。少シナ」

 

(ふざけるな…全力で打ったんだぞ!)

 

 白露は半歩下がる。駆逐水鬼は白露の様子を見て動きが止まる。そして、少し呆れた様子でため息を吐いていた。

 

「ナンダ…今ノデ全力ダッタノカ?マダ足リナイ。弱イナ…」

 

 駆逐水鬼は、身を翻しその場を離れようとする。離れようとする駆逐水鬼を見て白露は叫んだ。

 

「待てよ!逃げるのか!」

 

「…ソモソモ殺ス気ハ無イ、私ハナ…。他ノ奴ラハ知ランガ……私ト対等二戦イタイナラ、モウ少シ強クナッテクレ」

 

 そのまま、その場を去っていく。駆逐水鬼を見届けた後、白露はその場に力なく膝をついた。ゆっくりと深呼吸をした後に無線をつなぐ。

 

「提督、駆逐水鬼が撤退した…」

 

『…ひとまず、無事でよかったです。映像を見ていましたが、駆逐水鬼の強さはあなたを超えている。相手が殺す気で来たら、どうなっていたかわかりません。今摩耶さん達が戦闘を終えてそちらに向かっています。合流して、すぐに帰島してください』

 

「…あぁ、わかった」

 

 白露はその場に倒れ込む。そして、右拳を思いきり海面にたたきつけた。しばらくすると、戦闘を終えた摩耶達と合流。手こずったのか、摩耶と隼鷹が中破、夕立が小破だった。その後は、途中の海域に待機している船に向かい鎮守府に帰島した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー鎮守府

 

 帰島して工廠で艤装を解除した後に、艦隊一同は埠頭で待っていた京に報告を行った。駆逐水鬼と対峙した白露は、相手がおそらく矢矧と同等かそれ以上の実力があることを伝えた。京を含め、一緒に出撃していたメンバーは驚愕した。新種の深海棲艦の中で下の方だというのに、それでも矢矧と同等以上とは。報告後は、それぞれ解散となり中破になった摩耶と隼鷹は精密検査に、夕立を含め被弾の少なかったものは入渠施設に向かった。白露は、入渠施設にはいかず、埠頭の端でそのまま座った。落ち込んでいるというよりは誰かを待っている様子だった。

 

(…確か、予定ではそろそろ戻ってくるはずだよな…)

 

 しばらく待っていると、沖合の方から加賀が戻ってくるのが見えた。加賀は太平洋沖に出撃していた。ただ、京の話では新種とは遭遇せずほとんどがflagship級との戦闘だったらしい。だが、白露の見た感じ加賀はそこまで被弾していないように見えた。加賀は、白露の姿に気づくとすぐに近づいてきた。

 

「白露さん、災難だったわね」

 

「……あぁ」

 

「……私をここで待っていたってことは、何か頼み事かしら?」

 

 白露は、加賀の話を聞いて右拳を握る。実力差がありすぎるのはわかっている。だが、もっと強くなりたい。その思いが白露にはあった。

 

「加賀さん、私と演習してくれないか?」

 

「…やめておきなさい。私とあなたとでは…」

 

「実力差があるのはわかってる!でも、どうしても強くなりたいんだ!ハンデがあってもいい!だから、頼むよ…」

 

 加賀は、白露の目を見てしばらくするとため息を吐きながら海面から上がる。白露の横を通り過ぎようとしたときに一言だけつぶやいた。

 

「30分後にここにいて頂戴。提督には私から話をする」

 

 加賀は、そのまま工廠の方へ向かう。白露は、加賀の後ろ姿を見つめつつ右拳を握りしめた。圧倒されるとわかっていても、強くなるためには強いものと戦うしかないと思った。




次回は、白露と加賀の演習を書いていきます!
では、また次回!


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62話 ハンデという名の一方的な攻防

こんばんわ!思ったより早くできました!
それでは、どうぞ!


 あれから30分後、京から許可をとり加賀と白露が沖合で対面していた。事を聞きつけた星羅や小次郎、怜王、さらには仁と京、村雨もいる。

 

「なぁ京よ…ハンデをもらって演習するんだよな…加賀さんの装備、艦戦だけだぜ…」

 

 加賀は事前に、京に白露と演習するときは艦戦だけしか使わないことを明言してた。自分と白露とでは差がありすぎると、そう言っていた。だから、艦戦だけでいいと。しかも、矢は3本のみ。具現化できる機体数でいうと約18機だ。

 

「加賀さんにとって、白露さんと対決するにはそれで十分とのことでしょう」

 

「……圧倒的実力差があるのは明確だな…」

 

「本当ね~…10分持つかしら…」

 

「あぁ…焔が戦うところをこの目で見れるなんて!姪っ子の成長をこの目で見れるのよ‼‼兄さん、義姉さん!あの子を応援しましょう°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°」

 

『……聞いてない』

 

 小次郎と星羅は圧倒的実力差を見抜いているが、怜王は姪である白露の戦いを見れるためはしゃいでいる。星羅と小次郎は改めて前を見る。白露もわかっていて加賀と演習を組んだ。加賀は異能を持っているが、おそらく異能を使うまでもないはず。

 

「圧倒的実力差がある中で、普通演習を頼むか?」

 

「…仁…つったな…。初見で圧倒的実力差があるやつと戦う場合、何が必要だと思う?」

 

「え?…そうだな…相手が全力を出す前に倒すこととか?」

 

「…一理ある。まぁ、考えは人にもよるだろうが……短期決戦であればそれもいいだろうよ…けど、長期戦になったときに一番大事なのは、死なない立ち回りをすることだ。どんなに強い奴だろうが、必ず隙ができる。時間をかけ、相手の癖を見抜き、隙ができたときに攻撃をさしこめばいい。ただし、これは対人戦の話だ。艦娘や深海棲艦と戦うに当たってはわからん…」

 

「死なない立ち回り……か」

 

 小次郎の話を聞いて、京は考える。確かに、これからは死なない立ち回りをすることが大事になるかもしれない。新種が出てきている以上、これからも全員が帰ってこれるかわからない。下手したら死人が出るかもしれない。京は無意識に拳に力が入る。提督として、ここの全員の命を預かっているのだ。仁もその様子を見て同じことを思ったのだろう。拳に力が入っていた。その様子を後ろから見ていた村雨は、その気迫に少し後ずさっていた。というか、目の前にいる全員が強者の気配がするから少し近づきがたい。村雨は一旦無線をつなぎ、加賀と白露に連絡を取った。

 

「…は…は…はいは~い…二人とも…準備はよろしいですか~?」

 

『いつでもどうぞ』

 

『私もおっけー。ていうか村雨どうした?なんか声上ずってるぞ?』

 

「な…なんか目の前にいる人達が圧倒的強者感があって(;・∀・)」

 

『…はじめていいんだよな?』

 

「白露姉さん、いいから早くはじめて‼」

 

 村雨は半ば強引に演習を開始させた。無線越しに二人のため息が聞こえたような気がしたが気にしないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー沖合

 

「じゃあ加賀さん、やるか!」

 

「えぇ、いつでもいらっしゃい」

 

 白露は、加賀の一声と同時に一気に加速する。今加賀とはかなり距離があるためだ。加賀は白露が近づいてくる前に弓を構え、艦戦を射出した。白露は艦戦を確認すると砲を撃つ。しかし、何発撃っても当たることはない。撃ち逃した艦戦が白露に機銃を撃ってくる。白露はそれを避けながら加賀に近づこうとするが、一機一機がまるで生き物のように動き翻弄してくるためなかなか近づけない。機動力を活かし、さらに機銃を撃ってみるも駄目だった。

 

(くそ!まるで生き物みたいだ!撃っても避けられる!なんてやり辛いんだ!)

 

 ひたすら攻撃を避け続け、機銃や砲を撃ち続ける白露の姿を見て、加賀は冷静に分析していた。

 

(…いい動きね。他の子達だったらものの数秒で大破まで行けるんだけど、回避能力、観察力はピカ一ね。おそらく、一気にこっちに近づいて接近戦に持ち込む算段だったかもしれないけど…甘いわね。私の艦戦を潜り抜けない限り、近づけさせないわ)

 

 加賀は、艦載機を操れる数は10機にも満たないが一つ一つの機体を生き物のように操作できる。その能力もあって、深海棲艦との邂逅時はほとんど艦載機を撃墜されたことはない。そのおかげもあるのか、ここ最近は異能をほとんど使わないで戦闘を終えることができている。

 

(さてと、何分持つかしら?この状況を打破しない限り、こっちには来れないわよ…)

 

 この状況を埠頭から見ていた京達は驚愕していた。あの白露がここまで翻弄されているとは。普通の艦載機だったらおそらく数秒で撃墜できているはずなのに。

 

「すごい!白露姉さんを圧倒している!」

 

「同じS級でもここまでの差があるなんて…あの白露さんがまるで子供扱いではないですか…」

 

「焔~‼‼ファイトよ!いっそのこと当たって砕けなさい‼‼根性よ!ど根性‼‼‼」

 

 村雨と京は目の前の状況を信じられない様子で見ている。怜王は怜王で大きな声で白露を応援している。そんな中、小次郎と星羅は冷静に白露の動きを見ていた。

 

「これじゃあジリ貧ね…1分もしないうちにやられちゃうわよ…」

 

「あぁ…けど、あいつ何か狙っているかもな…普通のやつだったらこの状況になったら焦りだすんだが、あいつはまだ冷静だ」

 

「けど、防戦一方よ?いったい何を狙ってるのよ…」

 

「…一対多数の状況だったらお前はどうする?」

 

「う~ん…それは、まず一人ずつ確実に倒していくわね…万が一二人同時にかかってきたら、上手く立ち回って相手を相殺して…あ、もしかしてあの子⁉」

 

「あぁ、たぶん艦戦ってやつを相殺する気だ。生き物のように動いている以上、タイミングさえ合えばおそらく可能だ。ただし、接近して素手で軌道を変えでもしない限り無理だろうがな…」

 

 小次郎の考えていることは当たっていた。白露はまさにそれを狙っていた。白露は、攻撃を避けながらタイミングをうかがっていた。砲や機銃を撃ってもきりがない。一気に接近して、艦戦の軌道を変えて別の艦戦にぶつけるしかない。だが、タイミングを決めかねていた。一機一機がそれぞれ違う動きをしていたから。

 

(落ち着け…こういう時にこそ冷静にだ…目だけに頼っても駄目だ。周囲の気配も感じ取れ)

 

 白露は、一旦砲撃をやめその場に立ち尽くす。深呼吸をして目を閉じる。その間にも周囲から機銃が飛び交うがそれを避けていく。避けていく中で、艦戦の動きを読む。そして、目を開けると一気に右後方に向かう。一つの艦戦に近づき、砲で撃つでもなく下に潜り込んだ後に蹴りを入れた。すると、艦戦の気道が変わり他の艦戦に当たり、さらにもう一機に当たったのだ。その様子を見ていた小次郎はやっぱりか…という表情で見ており加賀も加賀で驚いていた。

 

「あらあら…なかなかいい考えね…まぁ、3機減ったところで変わらない。でも、慢心は禁物ね。まだ2本あるし、もう6機発艦しますか」

 

 加賀は、さらに艦戦を発艦する。これで、ギリギリ操れる9機だ。白露は、艦戦が減ったことを好機に一気に加賀に詰め寄ろうとする。しかし、たった今艦戦を発艦した加賀はその場を動こうとしなかった。白露がこちらに近づいてくるまでにまだ時間はある。白露の後ろには3機あるしまだ余裕はあるはず。だが、白露から決して目を離さなかった。白露の異能力で一気にこちらに近づいてこれることを考慮してだ。そして、挟み撃ちになろうとした瞬間に、白露は一気にギアを上げスピードを上げた。加賀の目の前まで近づき右拳で殴りかかる。

 

「まぁ、そう来るわね…」

 

「なっ⁉」

 

 しかし、白露の拳は簡単にいなされてしまう。左拳で追撃するがそれもいなされてしまい左の首筋に軽く手刀を入れられる。

 

「隙だらけ」

 

 今度は顎めがけて蹴りを入れようとするが、それも左手でいなされてしまう。白露は異能を全開にしてトップスピードで攻撃をしているにも関わらずだ。加賀は深呼吸をした後に身をかがめ右拳で正拳突きをする。白露はそのまま後方に飛ばされてしまう。さらに、上空から艦戦が向かってきていた。体制を立て直せず、そのまま機銃を浴びてしまう。判定は中破だ。機銃を浴び海面に倒れた後に、すぐに飛び上がり前方を見る。直後、背後から右の首筋にナイフのようなものを当てられた感じがした。心臓の鼓動が早くなる。ゆっくりと視線を右に向ける。そこには、加賀が手を白露の首元に当て立っていた。

 

「…まだやる?」

 

 静かに話す加賀。接近戦でも敵う気がしなかった。白露は両手を上げながらつぶやいた。

 

「参った…降参…」

 

 白露はそのまま膝をつく。接近戦でもここまで差があるとは思わなかった。動きを見た感じ何か武術を会得しているのは確かだろう。

 

「加賀さん、今の動き…」

 

「え?…あぁ、昔空手を習っていてね。それが役に立っているのよ」

 

「猛スピードで攻撃したのに見切られるとは思わなかったよ…」

 

「数をこなせば目が慣れてくるわ。それに、最初の攻撃の時点で損傷していないのはあなたが初めてよ。筋はいいわ。足りないのはやっぱり実戦ね。今後実戦を得ていく中でどんどん強くなるわ。もしもまた私と演習をしたいなら、声をかけて頂戴。時間があれば相手になるわ」

 

 加賀はそのまま埠頭の方に向かう。白露は大きくため息を吐きながら立ち上がる。加賀の背中に追いつくのに一体どれほど時間がかかるのか。おそらく年単位になるかもしれない。それほど遠く感じる。白露も埠頭に向かいながら静かにつぶやいた。

 

「…あまりにも遠いな…まったく…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…負けちゃったのは残念だけどね焔…自分に自信を持ちなさい!負けたとしても、それは今後の糧になるわ!この私が保証してあげる!そして、とっても素晴らしかったわ°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°本当に強くなって私はうれしいわ!」

 

「…れ…怜王兄…暑苦しい…それと声がでかい(;・∀・)」

 

 埠頭に着くや否やすぐさま怜王に声をかけられる。よほど戦いを見れたことがうれしかったようでかなりはしゃいでいる様子だった。少し困って星羅と小次郎に目を向ける。それに二人が気づき、怜王の方に近づいた。

 

「ほら怜王君、焔が困ってるわよ」

 

「いや~だって義姉さん…姪っ子が強くなったところを見ると嬉しすぎるのよ…兄さんもそう思うでしょ!」

 

「…まぁ、確かに前より強くなってるからな…だが、あんまり大声で話しかけなくてもいいだろう?」

 

 うんうん…と白露は首を縦に振る。うれしいのはわかるが、さすがに度を越えているような気がする。10年間叔父として何もしてやれなかったことも関係しているかもしれないが…。怜王はその話を聞いて納得したのか目を細めながら「わかったわよ…」と言っていた。そのあとは4人で少し雑談をする。しばらくすると、入渠を終えた時雨と夕立が合流する。夕立は演習を見れなかったことに少しだけ駄々をこねていたが、次の機会があることを伝えると少しだけ納得しているようだった。時雨は時雨で、星羅と小次郎の間に来ると二人の腕に抱き着いた。突然のことに星羅と小次郎は少し驚いてしまった。

 

「1回やってみたかったんだ!」

 

「あらあら、甘えん坊は卒業しないとだめよ雫」

 

「…お前な…世間一般でいえば高校3年くらいだろうが…」

 

「いいじゃないか!そもそも、あの人さえいなければこんなことにならなかったのに…」

 

「あの人……あぁ、糞親父か…」

 

「あぁ、確かにそのせいで義姉さんや焔と雫に迷惑をかけてしまったからね……

 

 

 

 

あぁ、こんなこと考えていたら腹が立ってきたわ(#^ω^)兄さん、これからあのクズを殺しに行きましょう!」

 

「……そうだな……今までのうっ憤を晴らしに行くか…」

 

「うん!行ってらっしゃい二人とも(笑)…………

 

 

 

 

ちょっとストップ!ストオオオオオオオオオオオップΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

 拳を鳴らしながら歩いていく二人を星羅は慌てて止める。それもそのはず、もう死刑は確定しているし行ってもあまり意味はない。今までの恨みがあるのはわかるが…。その光景を糸目になりながら見る白露と時雨。二人して顔を見合わせると少しだけため息を吐いた。

 

「父さん達も苦労してたんだな……」

 

「本当…あれだけ怒ってるのって相当だよ…」

 

「まぁ、もう私達には関係ないよな…」

 

「お父さんも怜王兄も楽しそうだしね」

 

『……にひひ!』

 

 二人して笑う。辛い思いをしたのは確かだが、今はこうして家族一緒に過ごせている。ここに所属している皆も納得してくれているし、怜王の強烈なキャラもあったのかもう皆と仲がいいくらいだ。遠目からその様子を見ていた京達もその光景を見て笑っていた。

 

「ははは、やっぱりいいですね~。にぎやかになりましたよ!」

 

「本当、怜王さんのキャラはよ(笑)はははは!」

 

「……なんか、家族全員で集まったときのことを思い出すわね…」

 

「…加賀さん、家族全員で集まったらそんなに賑やかなんですか?」

 

「妹達もバカ騒ぎするし、赤城さんも爆食を披露するし、てんやわんやよ…」

 

 加賀の言葉に村雨は少し困った表情でいた。しかし、にぎやかな空気も京の携帯が鳴ることで一変した。鳴ったのは仕事用の携帯。つまり大本営で支給されていたものだ。メールなどもパソコンと同期してあるため両方で見れるのだ。京はメールを見ると徐々に顔色を変えていく。そして、すぐに指示を出した。

 

「村雨さん!全員を食堂に集めてください!仁、一旦執務室に行って、状況を整理しますよ!」

 

「どうした、何かあったのか⁉」

 

 仁の質問に京はゆっくりと深呼吸をする。そして、全員を見据えた後に静かに答えた。

 

「…今度は、舞鶴と佐世保が新種と遭遇したようです。舞鶴は幸いにも重傷者は出ていません。しかし、佐世保では重傷者多数…一人が瀕死の状態だと…」

 

 その言葉を聞いて、一同は驚愕する。おそらく駆逐水鬼以外の新種だ。先ほど白露と戦ったし間違いない。それに水鬼はこうも言っていた。”殺す気はない。他の奴らは知らないが”…とも。白露は全身に冷や汗のような何かを感じた。もしも駆逐水鬼が本気でかかってきていたら…と思うと体が少し震えてくる。

 

 そして、加賀の方を見てみるが顔が青ざめているような表情だった。前に聞いた話では、加賀は養子として鳳翔さんに育てられている。他にも赤城や飛龍、蒼龍、翔鶴、瑞鶴もそうだという話だ。佐世保に所属しているのは赤城と瑞鶴。二人の身に何かあったのではないかと思うと、気が気でないのだろう。

 

「提督、瀕死の状態なのは誰ですか…?今ここでわかりますか⁉」

 

「今はまだわかりません…この後に具体的な情報が来るかと……あ、加賀さん⁉」

 

 加賀は、京が話し終える前に走り出す。向かったのは自室だ。急いで部屋まで来ると、机の上にあった携帯を見る。見ると、不在着信があり着信主は母である鳳翔だった。震える手で電話をかける。3回ほどコールがなった後に鳳翔の声がした。テレビ電話で話すときとは違い、艦娘としての名前を呼ばれた。

 

『…加賀?』

 

「母さん、何があったの?今、佐世保で一人が瀕死の状態だって…」

 

『加賀、落ち着いて聞いて頂戴……新種と遭遇したっていうのは聞いたわね…その新種と赤城と瑞鶴達が出くわしたの…その戦闘で瀕死の状態になったのは…………瑞鶴よ…」

 

 加賀は、その話を聞いて手から携帯を落とし立ち尽くす。思考が追い付かなかった。いったい何があって瑞鶴が瀕死の状態になったのか。その後、鳳翔の声で状況を整理できたが、鳳翔が話していた内容は半分以上頭に入ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー食堂

 

 村雨の指示で食堂に集められた一同。何事かとかなりざわついていた。遅れて加賀も食堂に入ってきたが、表情は暗かった。さらに数分後に京と仁が入ってくる。二人は急ぎ足で全員の前に来ると京が話し出す。

 

「皆さん、急に招集をかけてすみません…先ほど、大本営から連絡があり舞鶴と佐世保が新種と交戦しました。舞鶴は重傷者はいません。しかし、佐世保では重傷者が多数。うち一人は瀕死の状態です…」

 

 その言葉に全員が息をのむ。全員の様子を見てさらに京が話し出す。

 

「そして、舞鶴と交戦した新種は自身を軽巡棲鬼と名乗っていたそうです。駆逐水鬼と同じく鬼級のようです。ただ、問題は佐世保が遭遇した新種。なんでも、あの赤城さんと互角以上に渡り合ったといいます。名前は…戦艦レ級…」

 

「……は、レ級…?鬼級とかじゃなくて…?名前からして、イロハの分類だよな?」

 

 京の言葉に、摩耶がすぐに反応する。イロハの分類で確認されたのは戦艦タ級までだ。しかも、赤城と互角以上に渡り合ったということは、少なくともS級クラスでは5位以上の実力を持っているということになる。鬼級という分類でないにも関わらず、それほどの実力を持っているとは誰が想像できるだろう。しかも、一人瀕死の状態になっているのだ。白露は加賀の方を見る。加賀の様子から察するに、加賀と関係する誰かに何かあったのではないかと考え京にすぐに質問をする。

 

「なぁ提督、瀕死になっている人はわかるのか?」

 

「……瀕死の状態になっているのは、空母の瑞鶴さんです。また、重症者は空母雲龍、天城、葛城、駆逐艦秋月の4名です」

 

 それを聞き、やっぱりか…と思った。加賀がそれほどまでに取り乱したのは、姉妹の身に何かあったと思ったからだろう。そして、その予想は当たってしまったのだ。加賀は、ゆっくりと前に向かうと静かに話し出す。

 

「…提督、今から大本営に行きたいのだけれど…1日2日したら戻ってくるから…お願い」

 

「……すぐにヘリを手配します。加賀さんは、鎮守府正面で待機していてください。では、皆さん質問は?」

 

 全員の様子を見るが、新種の戦闘力を聞いてかなり動揺している様子だった。下を向いている者や椅子に座り項垂れている者もいた。京はまずいと思った。今の話で士気が落ちている。何か声をかけなければと思うがなんといっていいのかわからない。その時、横にいた仁が手を叩きながら話し出した。

 

「ほらほら、何しけた面してるんだ。確かに新種の奴らは強い。現に白露も負けたくらいだからな…。けど、できることはある。そいつらの特徴を知って、対処を考えることだ。個の力で敵わねえなら、全員の力を合わせて、この状況を打破していくぞ!ならやるべくことは一つ!訓練あるのみだ!やる前から意気消沈するな!ふんどし締めなおせよお前ら!」

 

『……了解!』

 

 全員が顔を上げ、各々が入り口の方へ向かっていく。その後ろ姿を見ながら京はつぶやいた。

 

「…さすが、こういうことはあなたが向いている…」

 

「何言ってるんだよ。俺は当たり前のこと言ってるだけだぜ!お前ら難しく考えすぎなんだよ!俺達にできることは徹底的に敵を調べて、徹底的に対処していくことしかないからな」

 

「まったく…本当に、あなたがここにいてくれて助かりましたよ…。では、私達も行きますか!」

 

「あいよ、今後のことを考えないとな!」

 

 二人も入り口の方に向かっていく。そして、白露も遅れて入り口の方に向かおうとするが不意に摩耶に声をかけられた。隣には長良もいる。

 

「おい白露!体も本調子になってきたんだから、そろそろ私に武術教えろ!」

 

「わかったよ…その前に柔軟だ柔軟…そんで、なんで長良さんまでいるんだ…?」

 

「星羅さんに弟子入りしたからね!私も一緒に修行に付き合おうと思って!」

 

 白露はため息を吐きながら入り口に向かう。入り口の方では時雨も待っており白露達が来ると一緒に歩き始めた。

 

「白露、これからどうする?」

 

「とりあえず、母さんを探すか…まだ修行の途中…」

 

『呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン(=゚ω゚)ノ』

 

『どっしぇえええええええええええええええΣ(゚Д゚)』

 

 外に出た瞬間、急に横から星羅と怜王が同時に話しかけてきた。奥には小次郎もおり、少し呆れた様子で二人を見ている。星羅と怜王は4人の様子を高笑いしながら話しかける。

 

「あははははは!楽しい楽しい!やっぱり反応良すぎ!」

 

「本当ね義姉さん!ここまでびっくりされるなんて思わなかったわ!」

 

「だ・か・ら!いきなり出てきて脅かすなっての(# ゚Д゚)私以外の3人が完全に放心状態になってるんだよ!どうするんだよこれ!……まぁ、探す手間が省けたからいいけどさ…(ボソ)」

 

(ちゃっかり聞こえてるんだけど…聞こえなかったことにしよう…指摘したら、たぶん攻撃されるわ…)

 

「あらあら、今探す手間が省けたって言った!ちゃっかり聞こえてるわよ焔!」

 

 星羅の思ってること虚しく、怜王が指摘してしまう。瞬間、白露の右拳が怜王の腹に命中し後方に吹き飛ばされる。かろうじて小次郎が左腕でそれを受け止める。怜王の方を見ると、腹を押さえて項垂れている様子だった。

 

「……なんか聞こえた?」

 

「いえ何も…ちょうど耳のところにハエが…」

 

「…あぁそう…おい3人とも!」

 

 白露の一声に、3人がはっとして目の前の状況を見る。急なことに驚いてしまったが、思考が追い付いたのか”またか…”という表情で星羅達をみた。本当に油断も隙も無い人だと思った。星羅達を見つけたし、移動しようと思ったとき加賀に声をかけられる。

 

「…白露さん…1日2日抜けるから…」

 

「わかってる…鎮守府は任せてよ」

 

 加賀はそのまま寮の方へ歩いていく。たぶん、精神的に堪えている。白露も星羅が死んでいたと思っていた時はかなり気落ちしたほどだし、今の加賀の気持ちがわかるような気がした。たぶん気持ちの整理に時間がかかるだろうし、今はそっとしておいた方がいいだろう。白露は深呼吸をした後に歩き出した。今はできることをやるしかない。とにかく、星羅に教えてもらっている技を会得しない限りは前に進まないと思った。

 

 

 

 

 

 




 最後にまた不穏な空気が…次回はまず舞鶴の方の話を書きます!またしばらく白露は出ません!
白露「嘘だろおい…」
涼風「姉貴、イカ食う?」
白露「えっと、なんでイカ?」
涼風「主人公がなかなかでないって…これ”イカ”に!イカだけに!」
白露「……」
涼風「無言で拳握らないでくれる(;´・ω・)」

 ではでは!


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63話 次元を裂くもの

白露「作者、なんでここまで時間がかかったんだ?」
作者「やりたいことが多すぎて、何から手を付けていいのかわからなかったから!あとスマ〇ラをすごいやっていたから!」
白露「おい(# ゚Д゚)」
 ということでお久しぶりです!最新話になります!では、どうぞ!


ーーー柱島に報告が来る1時間前 インド洋

 

 現在、インド洋に遠征に来ている舞鶴のメンバー。編成は旗艦矢矧を筆頭に、能代、雷、島風、天津風、雪風のフルメンバーだ。普段だったら船で来るのだが、今回は舞鶴からかなり遠い海域であったためインド近海にある人口島に戦闘機で来てその後海に出ている。正直、戦闘機に乗ってくるのは船で行くのとは訳が違うため少し疲れる。かといって文句を言っていられないのでこうして海に出ているわけだが。海に出て1時間は立っていない気がするがここまでで、水雷戦隊と空母機動部隊の2艦隊と接敵しているのみ。あとは全く深海棲艦と戦闘を行っていない。今のところこちらは被弾をしているものはいないし、弾薬や燃料にも余裕がある。

 

「ずいぶん静かね…ここら辺に深海棲艦が多数出てたって報告があったと思うんだけど…」

 

「やっぱり新種が出てきている影響もあるのかしら…こっちに来る前に、柱島の白露が駆逐水鬼っていう新種と戦っているんでしょ?しかも、報告じゃあなたと同格以上だそうよ…」

 

 矢矧は、能代の話を聞き拳に力が入る。一番下の実力と駆逐水鬼が言っていたが、大本営第3艦隊をぼこぼこにし、さらには白露が小破に持っていけなかったというほどだ。仮に自分が相手をしてもどうなるのか見当もつかなかった。まだ本気を出していない可能性もある。他の新種が出てきたら一体どうなるのか、そして他の新種がどれほどの実力なのかわからない。佐伯湾所属の鳳翔が南方棲鬼というものと接敵しているしいつ、どこでどうなるのかわからない。

 

「雷、周囲に反応はある?」

 

「……ないわね…数キロ先もまったく…」

 

「周囲に敵影は?」

 

「ないよ~」

 

「同じく…」

 

「雪風もありません!」

 

 雷達にも聞くがやはり何もいない。しかし、油断は禁物だ。白露達みたいに急に目の前に現れる場合もある。警戒を最大限しなければこちらがやられてしまう。考え事をしていると、提督の宮本から無線が入った。

 

『皆、状況は?』

 

「特に何も、まるで嵐の前の静けさよ…っといけない。大本営も柱島も同じような状況だったのよね…」

 

『とにかく、周囲の警戒を怠らないように注意して!まずは一旦基地に戻って立て直しましょうか」

 

「了解、全艦一旦基地に帰島するわ。皆いいわね」

 

 矢矧の声掛けに、全員が頷く。そして、単縦陣で基地の方に向かう。もちろん、周囲の警戒も怠らない。しばらく走行していると、最後尾にいた雪風が不意に周囲を気にし始めた。特に後ろの方を見ており、後ろを見ては首を傾げている。天津風も雪風の様子が気になったようで声をかけた。

 

「どうしたの雪風?」

 

「…いえ…なんか肩を叩かれているような感覚が…」

 

「え?誰もいないわよ…気のせいじゃないの…」

 

「ですよね…きっと気にしすぎですね…」

 

 少し気を張りすぎて疲れているのかもしれない。雪風はそう思い、前を向く。しかし、しばらくすると再び肩を叩かれる感覚がした。今度ははっきりとした感覚だった。雪風は冷や汗をかきながら恐る恐る後ろを見る。すると、そこには団子状のツインテールに腰まで届くような長い髪、最大の特徴は下半身が無く、代わりに口のような艤装がついている何かがいた。その者は口元に指を当てながら、雪風に砲を向けていた。何が起こっているのかわからなかった雪風だったが、相手の様子を見て思わず声を出した。

 

「や…矢矧さん!何ですかこいつは⁉」

 

 雪風の一言で、後ろを見る一同。急に雪風の後ろにいた深海棲艦に唖然としたが、矢矧はすぐにその深海棲艦に向かう。

 

(だめだ!間に合わない!)

 

 しかし、深海棲艦の打った砲は雪風に当たることはなかった。とっさに後ろに下がったことで躓き倒れたことで避けることができた。その瞬間を見逃さず、天津風が雪風を引っ張り距離をとり、雷が電撃を纏った砲撃を撃つ。そして、矢矧も一気に近づき居合を行うが、深海棲艦も素早くそれを避けた。矢矧達はすぐに臨戦態勢をとる。

 

「イイ反応ネ!先遣隊トシテ送ッテイタ艦隊ガヤラレタノモ頷ケルワ」

 

「あなた…一体いつから…?」

 

「アナタ達ガココラ辺二来テカラ…チナミニ、アナタ達ノ動キハワカッテイタワ…上ヲ見テ気ヅカナカッタ?」

 

 その言葉に、矢矧達はすぐに上を見る。ところどころに雲があるためわからなかったが、艦載機が一機飛んでいた。電探でもわからないぎりぎりのところを飛んでいたのだろう。深海棲艦は一人一人を物色するかのように、顎に手を当てながら矢矧達を見た。

 

(フンフン…中々二強イミタイネ。特二強イ気配ハ二人……ケド、ソコノ小サイ子ハマダ弱イ分類カ……。テコトハ、刀ヲ持ッテイル方トヤルノガ良サソウカ…多分全員トヤッテモ勝テルケド…駆逐水鬼モ1対1デヤルッテ言ッテタシ…私モヤッテミルカ!…ア、ソウダ…自己紹介ガマダダッタ)

 

 深海棲艦は右腕を腹側に、左腕を腰側に回し一礼する。そして、自身の名前を口にした。

 

「初メマシテ艦娘ノ皆サン。私ハ軽巡棲鬼。鬼級ヨ。早速ダケド、ソコノ刀ヲ持ッタ艦娘…私ノ相手ヲシナサイ…」

 

 その言葉を聞いて、矢矧は手に力がこもる。1対1で勝てる保証はない。現に白露も指しでやって押されていたのだ。雷と2人がかりでやれば何とかなるかもしれない。しかし、それを軽巡棲鬼が黙ってみているだろうか?おそらく駆逐水鬼と同じように矢矧を猛スピードで連れ去るかもしれない。矢矧は無線をつなぎ、提督である宮本に指示を求める。

 

「提督…どうする?」

 

『…1対1じゃ不利よ矢矧!わかるでしょ!白露でも駆逐水鬼とやって勝てなかったくらいなのよ。多分雷と一緒にやって五分五分ってところかしら。指示は私が出すから!』

 

「チョット~…私ハアナタトヤリタインダッテバ!邪魔サレナイヨウニシナイトネ」

 

 軽巡棲鬼は右手を高く上げる。すると、突如砲撃がこちらに降りかかった。砲撃が来た方を見ると、戦艦級が3隻、重巡級が3隻、軽巡級3隻、駆逐級3隻の連合艦隊が近づいていた。しかも、半分はflagship級、半分がelite級の艦隊だった。

 

「提督、今こちらに連合艦隊が」

 

『えぇ、見えてるわ……やむをえないけど、やるしかなさそうね。矢矧、15分だけ耐えて頂戴!他の皆は、連合艦隊を相手して頂戴!flagship級がいるし、戦艦もいるからなるべく距離を保って!』

 

『了解!』

 

 能代達は、連合艦隊の殲滅に向かう。雷は一瞬だけ矢矧の方を見るが、すぐに前を向き能代達のあとを追っていく。矢矧は、向こうは雷がいるから大丈夫だろうと思った。しかし、問題は自分が15分耐えられるかどうかだ。相手の実力が未知数なだけに、どこまでやれるかわからない。矢矧は、深呼吸をした後に相手に向かっていく。刀を相手にめがけて振り下ろすが、軽巡棲鬼はそれを難なく避け砲撃を行う。矢矧もそれを避け艤装をすぐに展開し砲撃で応戦する。刀を使う際は邪魔になってしまうため、普段は見えにくいほど小さくしているが、矢矧は艦娘の中でも瞬時に艤装を展開することには長けている。だが、軽巡棲鬼と戦っている以上こういう騙し討ちのような手は通じない。

 

『矢矧、得意の近接戦に持ち込んで相手に攻撃を隙を与えないで!あなたの早さならいけるはずよ!』

 

「了解。やるだけやってみる!」

 

 矢矧は、もう一度接近し近接戦に持ち込む。持ち前の速さを活かして切りかかるが、なかなか軽巡棲鬼に届かない。軽巡棲鬼は余裕の表情なのか、目をつむりながら攻撃を避けているように見える。それに、宙に浮いていることもあるのか動きがかなり独特だった。

 

(これは、かなり時間がかかりそうね!)

 

矢矧は、艤装を展開しすぐに砲撃、雷撃を放ってみる。砲撃はかわされ、雷撃はやはりというべきか、空中に浮いているのもあり当たらなかった。軽巡棲鬼は、目を開けると同時に砲撃を行う。矢矧はそれを刀で切りながら距離をとっていく。その後、機銃を撃たれるがそれも数発だけ被弾するのみでほとんどを刀で切るか受け流した。軽巡棲鬼は、その矢矧の様子を不思議に思っているのか首を傾げながら話し出した。

 

「ネエ、何カ隠シテナイ?」

 

 その言葉に少しだけ腕に力が入った。少しだけ心臓の音が早くなったような気がした。確かに、()()をやるのは今この瞬間のみだ。正直やるのは不安だがもうやるしかない。

 

「……提督、いいわね?」

 

『…えぇ。わかった。矢矧、全力でやりなさい!』

 

「…了解!」

 

 矢矧は、深呼吸をしながら刀を鞘にしまっていく。そして、居合の構えをする。軽巡棲鬼も何が出るのか楽しみなようで、口元がかなりにやけていた。

 

「ヤット本気二ナッテクレタノ?アナタ…一体何ヲ隠シテイルノカシラ…アノ子達ガイタラ、何カ都合デモ悪イノ?」

 

「急によく喋るわね…もったいぶらなくても、すぐに見せるわよ!」

 

 矢矧は、一気に軽巡棲鬼に近づき居合を行う。軽巡棲鬼は難なく後方に避けると、砲を矢矧に打とうとする。余裕余裕…と思っていたが、その考えはすぐに改められることになる。直後、軽巡棲鬼の周囲の空間が歪んだような気がした。その空間の歪みに気づき、さらに後方に下がった後に斬撃がきた。一体何があったのかわからなかったが、さらに空間が歪み斬撃が飛んできた。

 

「避けるときに後ろに下がっていたから、そこに斬撃を置いておいてよかったわ…」

 

 矢矧は、さらに距離を詰め軽巡棲鬼に攻撃を仕掛ける。砲撃を行いながら距離をとろうとする軽巡棲鬼だったが、いつどこに斬撃が飛んでくるのかわからないためか動きが少し雑になっている。しかし、攻めてきた矢矧に対して雷撃を放ち矢矧に命中した際に一気に距離をとる。そして、今起きたことを分析した。

 

(何ヨ今ノ⁉空間ガ歪ンデ、斬撃ガ飛ンデキタ!…イヤ、落チ着キナサイ…ドウ状況ガ一変シタトシテモ、私ガコイツニ負ケルコトハ無イハズ)

 

「何が起きているのか分からないって顔してるわね。私の能力はね…特定の空間を切り裂くことができる。私はこれを…【次元斬】と呼んでいるわ」

 

 矢矧が刀を振り下ろしたと同時に再び軽巡棲鬼に斬撃が飛んできた。軽巡棲鬼は、斬撃を避けながら矢矧の能力を分析していく。

 

(連続デ空間ヲ出セルノハ恐ラク3ツカシラ⁉多分、斬撃ハアイツガ刀ヲ振ッタ時ニデル。ダッタラ、相手ガ刀ヲ振ッテ斬撃ガ飛ンデキタ後二、一気二近ヅイテヤル!)

 

 矢矧が刀を振り、斬撃が飛んだ直後に一気に近づく。矢矧は、軽巡棲鬼から距離をとろうと後ろに下がるが、軽巡棲鬼が速すぎて近づかれてしまう。軽巡棲鬼は勝利を確信したかのように砲を構える。しかし、軽巡棲鬼はすぐに後ろに下がる。すると、矢矧のいた場所に斬撃がきたのだ。

 

(チョット待テ…一体イツ?刀ヲ振ッタ直後二斬撃ガ飛ンデ来ルンジャナイノカ?時間差デ飛バセルノカ…?)

 

 一旦距離をとりながら分析する軽巡棲鬼。矢矧も攻撃を仕掛ける様子はなくじっとこちらを見ている。正直余裕だと思っていたが軽巡棲鬼は焦りを感じた。矢矧の能力をどうにかしないと攻撃することすらもままならそうだ。砲撃は刀で切られるし、近づいてもすぐに艤装を展開して反撃する。

 

(マズイワネ…油断シテルトコッチガヤラレルカモシレナイ…」

 

 軽巡棲鬼はそう思いながら矢矧を見る。しかし、矢矧も同様焦っていた。矢矧は、能力を完全に制御できていないからだ。軽巡棲鬼の読み通り、連続で出せる空間は3つ。刀を振った直後、少し時間差で斬撃を飛ばすことができる。空間の大きさは約2~3mほど。飛ばせる範囲は大体半径10m前後。集中できれば空間を誤差なく飛ばせるが、乱戦状態になってしまえば誤差が激しくなってしまう。それもあって、艦隊を組んでいるときはこの能力を使うことができない。鎮守府内で矢矧の能力を知っているものはごく一部。提督である宮本と阿賀野、能代、雷のみだ。

 

(時間は5分もたってないわね。体感時間ではもっとたってるような感じもするのに⁉向こうは雷がいるだろうから、きっと大丈夫…雷が能力を全開で戦えば、たぶん15分はかからないはず!皆がこっちに来るまで、被弾は出来ない!)

 

 矢矧は、刀を鞘に戻し居合の構えをとる。なるべく時間を稼ぐため、自分から攻撃を仕掛けないようにする。相手の攻撃をまち、攻撃の隙をつくしかない。

 

(皆、頼んだわよ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 矢矧と別行動をとり、連合艦隊を相手取っていた能代達。さすがにflagship級・elite級というのもあり、雷が能力を駆使しても苦戦を強いられた。雷が持っている特殊艤装【避雷針】の数は8つ。さらに、相手を怯ませて砲雷撃を行ったとしても、相手の装甲が固いのもあり決定打に欠けた。さらに、舞鶴の艦隊は水雷戦隊と言うこともあり戦艦や重巡がいる艦隊と戦うのは時間を要してしまう。

 

(もう!白露だったらflagship級だろうが一撃で大破に持ち込めたんでしょうけど、私の異能はどうして決定打に欠けちゃうのよ!)

 

 そう考えながらひたすら攻撃を行う雷。能代達の援護もあり少しづつ数を減らしていく。さらに、島風の連装砲達も相手をうまく撹乱してくれている。これなら、何とか15分以内にかたは付きそうだった。

 

『雷はそのまま異能を使って相手を足止めして!島風は相手が混乱している間に魚雷をありったけ打ち込みなさい!残りは、距離をとりつつ砲雷撃をお願い!』

 

「了解!まずは雷の能力で怯んでいる奴らを叩くわ!全艦、雷撃撃つわよ!」

 

 能代達は魚雷を放ち、駆逐級、軽巡級が大破状態になる。それを、島風の連装砲が追撃し轟沈させた。相手陣の中央にいる雷は、戦艦・重巡級の砲撃を何とかかわしつつ【避雷針】を敵に刺し放電を行う。さらに、電撃を纏った砲撃を撃ち、戦艦級を中破状態にした。無防備な状態の雷に重巡リ級が砲撃しようとするが、それも能代達に阻まれてしまう。

 

「相手が悪かったわね!こっちは何年水雷戦隊で戦艦級達を相手していたと思ってるのよ!」

 

 能代達がありったけの魚雷を撃ち込んだことで、相手はほとんど大破状態。ほとんどがあと一撃を加えれば轟沈する状態だった。そこに雷がとどめを刺したことでこちらはそこまで被弾することなく済んだ。

 

「ふっふ~ん、本当深海棲艦って遅いよね!島風の連装砲君達も頑張ってくれたし!早く矢矧さんのところに行こう!」

 

「わかってるわよ島風!提督、こちら戦闘を終えたわ!矢矧は今どうなの⁉」

 

『急いで向かってちょうだい!矢矧が今中破状態よ!』

 

 それを聞き、能代達は息をのむ。あの矢矧が中破状態に追いやられるとは。矢矧が最後に中破になったのは白露との演習の時のみ。直感的にやばいと思ったのか、能代は急いで指示を行う。

 

「全艦、急いで矢矧のところに向かうわ!あの軽巡棲鬼ってやつ、想像以上の実力を持っているかも!」

 

 そのまま、矢矧のもとへ向かう。体感的には15分もかかっていないはず。その短時間で矢矧を中破にするとは思っていなかったのだ。

 

(矢矧は多分、異能を使っているはず!でも、矢矧は異能を完全に制御できていない…もしそこを突かれたら…)

 

 嫌な予感がした。少しでも早く矢矧のもとへと向かう。そして、砲撃音と斬撃音が聞こえ矢矧達のもとへ近づいてきたと思った矢先、突如轟音が鳴り響き能代達のもとに強い衝撃とともに水柱が立つ。何事かと思いそちらを見ると、矢矧が膝をつき項垂れている様子だった。被弾状況的におそらく大破に近い中破。ところどころに血が出ている。

 

「矢矧⁉」

 

「矢矧さん!大丈夫⁉」

 

 急ぎ矢矧のもとに近づく。矢矧は右腕を押さえながら前を見据える。そして、すぐ目の前にまた轟音と共に軽巡棲鬼がこちらに近づいた。軽巡棲鬼はつまらなさそうにしながら矢矧を見る。

 

「何ヨ…アンタ、能力ヲ完全二制御出来テイナイヨウネ…」

 

(こいつ⁉矢矧の弱点を⁉)

 

「の…能力?…矢矧さんは異能持ちなんですか?」

 

「…反応カラ察スルニ、知ッテイルノハ一部ナノネ…マァイイワ。私モ小手調ベデ来タヨウナモノダシ今回ハ見逃シテアゲル。次会ッタトキハ容赦シナイカラネ」

 

 軽巡棲鬼はそのまま踵を返し、矢矧達から離れていく。完全に姿が見えなくなったと同時に能代達は力が抜けたように海面に座り込んだ。そして、能代は無線をつなぎ報告を行う。

 

「提督、軽巡棲鬼が撤退したわ。状況は、矢矧が中破よ…」

 

『えぇ、こっちでも確認した。すぐに基地の方に戻って頂戴。ひとまず、皆お疲れ様…』

 

 報告を終え、矢矧を抱えながら立ち上がる能代。矢矧の方を見ると、拳にかなり力が入っており何度も「悔しい…」とつぶやいていた。そして、雪風は先ほど聞いた矢矧の能力について能代に聞いた。

 

「あの、能代さん。さっきのこと…」

 

「ん?矢矧が能力を持っているってことかしら?」

 

「はい、一体どんな能力なんですか?能代さんは知っていたんですか?」

 

 雪風の質問に能代が答えようとしたが、矢矧が能代の腕を叩く。どうやら自分で話をするようだ。

 

「黙っていたのは謝るわ。私の能力を知っていたのは提督と阿賀野姉と能代姉、それから雷だけ。あんまり使うこともなかったからね。いえ…使えなかったの方が正しいわ。私の能力は特定の範囲の空間を切れる能力なんだけど、完全に制御ができなくてね…乱戦状態になると、どこに斬撃が飛ぶのかわからないの。下手したらみんなを巻き込んでしまうことになるから、なかなか使えなかったのよ…」

 

 矢矧の話を聞き、少しの間無言になる。そして、島風が頬を膨らませながら両腕を上げながら叫びだした。島風の近くにいる連装砲達も同じ動きをしている。

 

「話してくれるのおっそ~い!もっと早く私達に教えてくれてもよかったじゃ~ん‼‼能力を知っていたら、いい立ち回りができていたかもしれないのに~~~‼‼‼」

 

『そうだそうだ~(・ω・)ノ』

 

 さらに、雪風と天津風も手を上げて同意する。その様子に矢矧は少し困った様子だった。それを見ていた能代と雷は笑いをこらえている様子だった。我慢できなくなったのか、能代は笑い声をあげた。

 

「あっははははは!確かに皆に話してもよかったかもね!矢矧があまりにも神妙に話していたから、ついつい隠しちゃってたわ…」

 

「…能代姉…そんなに笑わなくても…」

 

「ごめんごめん。でも、皆に能力を知っててもらえばどうにかできるわよ。ね、提督」

 

『えぇ、そうね!そろそろ皆に知ってもらえればいいと思うわ!』

 

 能代は無線をつないでいたようで、提督の宮本も能代の案に賛成する。それを聞き、矢矧は少し項垂れている様子だった。自分で抱え込みすぎたのだろうか…と内心思っていた。その様子を見かねてか、雷が胸を張って話した。

 

「大丈夫よ矢矧さん!困ったときはこの雷にどんと任せて頂戴!必ず助けるわ!」

 

「…………助かるわ、雷…」

 

 その後、一旦基地に戻った後に舞鶴鎮守府に戻った一同。その後、矢矧は他のメンバーに質問攻めにされたらしい…

 

 

 

 

 

 




次回は佐世保鎮守府の話になります。なるべく早く投降できるように執筆しますので、お楽しみに!


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64話 悪鬼羅刹

前回のあらすじ
矢矧、異能を解放…
軽巡棲鬼「ネエ、アナタノ能力…ヒトツ聞イテイイ?D〇Cノバー〇ルカ!!」
矢矧「なら一つ言っていい?D〇Cのバー〇ルよ!ということで、私の異能の元ネタはとあるゲームが元です!ということでお待たせしました!ちょっと作者が忙しかったみたいで…それでは、最新話よ!」


※暴力表現含みます。ご注意ください…
 


ーーーソロモン諸島近海の基地 

 

 現在、佐世保鎮守府のメンバーである秋月を筆頭に、瑞鶴、雲龍、天城、葛城、S級である赤城が基地内部で待機していた。艤装も装備しておりいつでも出撃が可能な状態だった。秋月や瑞鶴達はかなり顔を引きつっている様子だった。それもそのはず、S級の白露が駆逐水鬼と対峙して歯が立たなかったと報告がきたからだ。しかし、赤城はというと…

 

「ぐが~…ピュ~…ぐが~…もう食べられないです~…」

 

 寝ている状況だ。その様子をみて、瑞鶴は頭を抱える。こんな状況でよく眠れるものだと思った。こっちに来る前にしっかりと報告を受けていたはずなのに。

 

「赤城姉…起きてよ…」

 

「む~ん…おなか一杯……」

 

「お~い…起きろ~…お~い……おい…おいやい!いつまで寝てるのよ(# ゚Д゚)起きろ‼‼」

 

「むがっ」

 

 変な声を上げ、赤城は目を開ける。ゆっくりと体を起こし、背伸びをして首を鳴らす。そして、寝ぼけたような声で話をする。

 

「ふわ~…そろそろお昼ですか…?」

 

 その一言に、瑞鶴はカチンときたのか額に青筋を浮かべる。怒りが沸点まで達しそうだったが一度深呼吸をした。そして、赤城の表情を真似ながらこんなことを口にした。

 

「む~ん…おなか一杯……」

 

「…ほえ?」

 

「そろそろお昼ですか~?」

 

「…む?」

 

「なんて言っている暇がどこにあるのよおおお(# ゚Д゚)」

 

「ひえ( ゚Д゚)⁉ず…瑞鶴⁉…あれ、そういえばここは基地ですか!いけないいけない!ついつい昼寝をしていたらいつの間にここにいたのですか‼‼」

 

「なに呑気なことを言っているんだこの馬鹿姉が(# ゚Д゚)ここに来る前の報告聞いた⁉あの白露が…S級の白露が駆逐水鬼っていう新種と戦って勝てなかったのよ!もっと危機感を持て!」

 

「まぁまぁ、そんなことを言わずに肩に力を入れすぎるといつものパフォーマンスができませんよ…皆さんもそう思うでしょ!」

 

 赤城の言ったことに対して、怪訝な顔をする秋月と葛城。無表情の雲龍、困っている天城と反応は様々。しばらく無言が続いた後秋月を筆頭に順番に口を開く。

 

「赤城さんって、出撃前にそんな呑気なことを言うんですね…失望しました」

 

「瑞鶴先輩の気苦労がわかった気がするわ…」

 

「普段からご飯のことしか考えていない人だからね…」

 

「短い間でしたが…お世話になりました…」

 

「皆さんひどすぎる( ゚Д゚)⁉なぜそんなことを言うんですか⁉天城さんに至っては、まさかのお別れ前庭じゃないですか!瑞鶴も何とか言ってください!」

 

 赤城の訴えに対して、瑞鶴は腕を組みそっぽを向く。自分はもう知らない。そう思うときにするそぶりだ。その様子を見て、赤城は腕を振り上げながら訴える。

 

「むき~!こうなったら、出撃したら皆さんを見返す活躍をしてみせましょう!私一人で、十分です!」

 

『あ…どうぞどうぞ』

 

「ちょっと⁉そこはせめて”お手伝いいたします”……って言葉はないんですか(゚д゚)!」

 

 わ~わ~ぎゃ~ぎゃ~と騒ぐ赤城。赤城の様子を見て、周囲にいた整備員や基地の管轄を任されている海軍のもの達は呆れた様子で見ていた。そんな中、瑞鶴達の無線から連絡が来る。提督である三条からだ。ブリーフィングの内容の確認であろう。

 

『え~っと、皆聞こえてるわね。これから、ソロモン諸島近海の警戒をしてもらうわ。さっきも言った通り、白露が駆逐水鬼と戦って勝てなかった。他の新種もかなりの実力を持っていると考えていいと思うわ。決して油断せずにね。万が一接敵してしまった場合は、赤城、頼むわよ』

 

「ふふふふふ、もちろんですよ提督!この私にお任せください!」

 

 右手を上げ、指を突き出す赤城。その様子を見て、全員が呆れている様子だった。三条も無線越しにため息が漏れている。

 

「……皆さん、なんで呆れているんですか…」

 

『と…とにかく、皆頼んだわよ!旗艦は秋月、いつも通り頼むわよ」

 

「了解です!では、皆さん行きましょう!赤城さん、ふざけたポーズをしている暇があるならちゃんとしてください‼‼」

 

「…秋月さん…どうしてそんなに冷たいんですか……(;´д`)トホホ」

 

 秋月の一言に、落ち込む赤城だが、秋月達はそれを無視してそそくさと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー沖合

 

「瑞鶴さんと葛城さんは対空に専念してください!雲龍さん、天城さんは相手に艦攻・艦爆を!赤城さんは待機!」

 

『了解』

 

「了解で~す…( 一一)」

 

 現在、秋月達は空母3隻、重巡2隻、軽巡1隻を含めた艦隊と交戦している。秋月は適切に指示を出しているが、赤城は少し不服そうだ。先ほど、自分一人で十分だと豪語していたが、いざ出撃してみるとまさかの待機…。ここまで接敵した敵艦隊はほとんどが普通の深海棲艦か、もしくはelite級までの艦隊。それならば、秋月達でも十分に対処できると判断したからだ。この状況に、赤城はふてくされたのか口を尖らせ両腕を頭に回している。その後は案の定、相手を殲滅することができた。

 

「…皆さんは、私の実力をそれほど疑っているのですか~…あぁそうですか~…」

 

「赤城さん、ふてくされていないで索敵機を出してもらえますか?」

 

「いいでしょう!周囲の警戒なんて、この私にかかれば朝飯前…いや昼飯前ですよ!!」

 

 適当にあしらいながら、秋月は呆れながら前を見る。だが、赤城を見ながら秋月は考える。

 

(かなりふざけているように見えてるけど、やっぱりこの人はすごい…索敵機を飛ばしているだけでわかる。あの眼つき、それに弓を構えるまでの動作一つ一つがすごく綺麗だ…瑞鶴さんが尊敬しているのはわかる…………けど、やっぱりふざけている方の印象が強いんですよね~、あまりにも(;´・ω・))

 

 ふざけている印象の方が強いため、秋月は糸目になる。今見た感じの立ち振る舞いは強者のようなのだが、前科があまりにも多すぎる。主に食べ物関連…ついでに言うと、大抵ほぼ100%初月のもので、ことあるごとに鎮守府内でおいっけっこをする始末。正直慣れっこになってしまったのだが、もう嫌になってきている。しばらくした後に、赤城の無線に打電が入りそれを真剣な様子で聞いていた。

 

「索敵機より打電。3時の方向に、深海棲艦を確認しました。距離でいうと大体10キロ圏内でしょうか…数は1…艦種は不明です…」

 

 それを聞き、秋月達の表情が強張った。艦種が不明ということは、おそらく新種の1体であることは間違いない。赤城も真剣な表情を崩さない。おそらく艦載機の方に意識を集中しているのだろう。

 

「…この深海棲艦、ネ級のような大きな尻尾を持っていますね…ですが、表情がフードのようなものを被っていてよくわかりません……それに…」

 

 顎に手を当てる赤城。珍しくかなり考え込んでいる。そして、殺気のような威圧感を周囲に発する。普段、赤城に対して強気な態度で怒ることが多かった秋月や葛城でさえたじろぐほどの威圧感。瑞鶴は、その様子を見て赤城がかなり本気なのだろうと思った。

 

「私の索敵機に向かって挑発的な態度をとっていますね…どうやら私をご指名のようで…秋月さん、皆を連れて一旦基地に戻ってください。私は、あの深海棲艦と1戦交えてきましょう」

 

 秋月は、少し考えた。新種と遭遇したら、なるべく無理をしないよう提督から言われている。だが、赤城の表情を見る限りかなり本気の様子だ。一旦無線を入れ、三条に指示を仰ぐ。

 

「提督、新種と思われる深海棲艦を発見。赤城さんの索敵機に挑発的な態度をとっているそうです。赤城さんは新種と交戦。私達は一旦基地まで戻ろうかと考えています」

 

『…わかったわ。秋月達は周囲の警戒をしつつ、基地に戻って頂戴。赤城の実力であれば問題はないかと思うけど、決して油断しないでね!私も映像を見ながら、適宜指示を出すわ!』

 

「提督、私のことなら心配なさらずに。それに、久しぶりに喧嘩を売られたんです。買わないわけにはいかないでしょう!」

 

 赤城は、そう言って新種のもとへ向かおうとする。その後ろ姿を見て、瑞鶴は一度引き留める。

 

「赤城姉!」

 

「ん?どうしました瑞鶴?」

 

「…気を付けて」

 

 その一言に、赤城は笑いながら走行していく。それを見届けた秋月達は一旦基地の方へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてさてさて…喧嘩を売ってきた深海棲艦はどちらでしょうね~。確かここら辺だったと思うのですが…」

 

 赤城は、新種がいたと思われる場所まで来ていた。だが、索敵機で周囲を確認しても気配を探ってもそれらしいものはいない。むしろ静かすぎるくらいだった。赤城は頭をかきながら空を見上げる。

 

「見間違い…というわけではないはず。姿をちゃんと確認できたし、艦載機に挑発までしたくらいですから…ここで待ち伏せをしているのではなかったのでしょうか?」

 

 考えながら、何気なく上の方を見ていた赤城。しばらく見ていると、何やら艦載機のような音が聞こえてきた気がした。何事かと思い後ろを見たとき、艦爆が多数こちらに落ちてきているのが見えた。そして、それは赤城に雨のように降り注ぎ爆発する。赤城の後方、数キロ先に空母ヲ級4隻、戦艦2隻のflagship級の艦隊が近づいてきていた。それだけではない、重巡ネ級が3隻、軽巡へ級が6隻、駆逐ハ級が10隻。いずれもelite級、flagship級と強い。

 

「まったく、危うく被弾するところではなかったですか…」

 

 爆発の影響で、水柱が立ち、その中から赤城が無傷の状態で出てくる。そして、目の前を見据えた。圧倒的にこちらが不利の状況なのに、余裕の表情だ。

 

「しかし、詰めが甘いですね~。私が警戒を怠らずにここに立っていたかと思いましたか?」

 

 直後、敵艦隊に機銃が降り注ぐ。全艦隊に満遍なく機銃が当たった直後に爆発を起こし半数が壊滅状態になった。さすがに、戦艦級は大破にまで持っていけなかったが。赤城は、顎に手を乗せながら状況を分析した。

 

「ふむ、さすがに艦戦の機銃だけじゃだめですか…なら、艦攻・艦爆を放って、一気に仕留めますか!」

 

 さらに弓を構える赤城。弓を構えようとしたときに、相手の砲撃が赤城の周囲に降り注ぎ、さらに艦攻・艦爆が襲うが、赤城はことごとく避けながら弓を放った。艦攻・艦爆は一機も落とされることはなく、相手に命中していく。さらに、相手に当たる直前に赤城が指を鳴らすと大爆発を起こしていた。

 

「言っても無駄でしょうがね…私の能力を使えば、機銃や雷撃、艦爆に爆発属性を付けることが可能なんですよ…ま、もう轟沈してますし本当に意味ないか!てへっ☆」

 

 もうすでに轟沈している相手に対して、赤城は能力の説明をするがすぐにいつもの調子で頭に手を置きながら舌を出す。同時に周囲を見渡してみるが、やはり先ほど確認した新種らしきものはいなかった。

 

「…おかしい…先ほど確認した深海棲艦がなぜ現れないんです…索敵機も飛ばして、しっかりと確認していたのに。一瞬索敵機から意識を外したときに移動したのですか?」

 

 さらに考えを巡らせる。なぜ相手は、自分に挑発的な態度をとっていたのか?そもそも、自分を指名したのはなぜか。駆逐水鬼は、タイマンを張るために白露を指名した。だが、今回の相手はそうじゃない。最悪の考えが頭によぎる。心臓の音がだんだんと大きくなってくる。

 

「そもそも、挑発したのは私をおびき出すため…?私と1対1で戦うためではない……もしも…私の考えが正しいなら、瑞鶴達が危ない!」

 

 赤城は、速力を全開にして基地の方へと向かう。おそらく、相手の狙いは瑞鶴達だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…まったくこういうちゃんとしたときは格好良くて頼りになるのに…いつもいつもいつもいつも、ふざけてるし…食べてるし…人のおやつとるし…自滅するし…しばかれてるし」

 

「確かに、弓の構えからしてただ物ではない感じがあるのに…前科がありすぎてありすぎて…」

 

『嫌になりますよね~』

 

 基地に戻りながら、瑞鶴と秋月は赤城の文句を言いまくる。二人の言ったことに、他の4人も同意している。

 

「確かに、殺気の様子と普段の様子とでは全然違うわよね~…本当困っちゃうわ…」

 

「いや雲龍姉さんにも言えることだからね…」

 

「え?どこが葛城…私は何もしてないと思うけど…」

 

「あの~、雲龍姉さん。マヨネーズ使いまくったり、赤城さんと悪乗り結構してますよね…?」

 

「…………」

 

「おい!天城姉さんの言ったことに無反応とはどういうことよ!黙秘は肯定とみなすわよ(# ゚Д゚)」

 

「……スッ」

 

「おい逃げるな雲龍姉!いいからこっちに来なさいよ!」

 

 こっちも普段通りだな…と思いながら秋月は天を仰ぐ。瞬間、秋月の無線に打電が入った。

 

(あれ、赤城さんから…何かしら?)

 

 秋月は、無線に集中する。しばらくすると、血相を変えて周囲を警戒しだす。そして、慌てた様子で指示を出した。

 

「皆さん!至急索敵機を発艦してください!赤城さんが確認した新種は、向こうで確認できなかったそうです!もしかしたら、私達のすぐそばまで来ているかもしれません!」

 

「わかった!私と雲龍で索敵機を出す。天城と葛城は、先制攻撃をできるように準備しておいて!提督さんも異論はないよね!」

 

『えぇ、もちろん異論はないわ!赤城からこっちにも打電がきたわ。赤城の方で深海棲艦と対峙。すぐに迎撃して、そっちに向かってるところよ!もし新種と遭遇しても無理はしないで」

 

「了解です!警戒を怠らず、このまま基地を目指して」

 

 秋月が指示を出している途中、突然爆発音が響く。一瞬何が起こったのかわからなかったが、すぐに状況を理解した。秋月が中破の状態でその場に立っていたからだ。秋月も理解できなかったのかその場で固まってしまう。

 

「魚雷…いえ…甲標的⁉」

 

『瑞鶴、雲龍!索敵機で周囲は確認できる⁉」

 

「今してる!けど、周囲にそれらしいのはいない!」

 

「待って、私の方で敵艦を確認した。特徴は、さっき赤城さんが言った通りよ。1隻でこっちに来たみたい」

 

「では、天城さんと葛城さんは相手に先制攻撃を!無理は禁物です。相手と距離をとりながら戦いましょう」

 

 秋月の指示で、天城と葛城はすぐに艦載機を放つ。艦載機は相手の上空までいき艦攻・艦爆を放とうとするが、一機残らず撃墜されてしまう。上空には、敵の艦載機らしきものが飛び交っていた。おそらく艦戦だろう。

 

「嘘でしょ…艦載機全部撃墜された!」

 

「落ち着いていきましょう。瑞鶴さんと雲龍さんも攻撃に加わって!」

 

 瑞鶴と雲龍も艦載機を放とうと構えるが、周囲に砲弾が着弾しその余波で全員が吹き飛ばされてしまう。しかも、瑞鶴と雲龍は中破、天城と葛城に至っては大破状態だ。秋月は困惑する。まるで、戦艦と空母と雷巡を一つにしたような特徴だから。

 

『戦艦並みの砲撃力、空母並みの艦載機能力、おまけに雷巡並みの雷撃力を持ってるなんて…まともにやって勝てる相手ではないわ!全員、生き残ることだけ考えなさい!』

 

「了解、私は対空に専念します。皆さんは、艦載機を発艦してできるだけ相手を牽制してください。とにかく今は、赤城さんが来るまで逃げることを考えましょう」

 

 秋月達は、相手と距離をとるため速度を上げる。相手も砲撃を撃ってくるが、何とか回避をする。天城と葛城は一発でもくらえば終わりだ。守りながら戦うのは不利すぎる。特に相手がS級と同格の実力を持っているならばなおさらだ。秋月は、一旦相手の方を見る。すると、猛スピードでこちらに近づいてくる様子がみられた。

 

「皆さん!すぐに牽制を!」

 

「やってる!でも、相手が速すぎて攻撃が追い付かない!」

 

 一瞬、まさに一瞬だった。瑞鶴と言葉と同時に秋月の目の前に敵が立っていた。黒いフードを被っており髪は白色。大きな尻尾のような艤装がある。身長は秋月とほぼ同じくらいだろうか。敵は秋月の顔を凝視し、笑いながら話しかける。

 

「イイネイイネソノ顔!恐怖シテル目ダ!俺ハソウイウ顔ガ好キナンダヨ!」

 

 そのまま、秋月を尻尾で薙ぎ払う。轟音とともに秋月は吹き飛んでしまう。何が起こったのかわからず固まってしまう。状況を理解できたとき、天城と葛城は秋月のもとへ。瑞鶴と雲龍は万が一のために装備していた副砲を相手に打つ。しかし、相手はびくともせず余裕の表情だった。さらに、相手は瑞鶴達に目をくれず秋月達の方に砲撃を撃つ。幸い秋月達に命中せず、狭叉だったが余波が凄まじいのか秋月達はさらに吹き飛ばされてしまう。天城と葛城もその余波で動けないほどだった。

 

「ちょっと!こっちを向きなさいよ!私達と勝負しなさいよ!」

 

「ウルセエナ、俺ノ勝手ダロ」

 

 尻尾で瑞鶴と雲龍を薙ぎ払う。そして、二人を興味もないような様子だった。瑞鶴は大破に近い中破。雲龍は大破になってしまう。

 

「ソコデミテロヨ…アイツラデ遊ンダ後ハオ前ラダ。思ウ存分二痛メツケテ、ソノ後二沈メテヤル」

 

 それを聞いて、瑞鶴はすぐに相手に飛び付いた。秋月達のもとに行かせまいと相手を羽交い絞めにする。それでも、構わずに進もうとする相手に拳で殴ったりして邪魔をした。

 

「ふざけんな!それを聞いてみすみす黙ってみているわけないでしょ!」

 

「ウルセエナモウ…邪魔スンナヨ…」

 

 鬱陶しそうにしながら、進むのを止めない。雲龍も足にしがみつき何とか進めさせない。そして、秋月達に叫んだ。

 

「皆、私達がこいつを押さえている間にすぐに逃げなさい!早く!」

 

 しかし、3人は動こうとしない。かろうじて立ち上がろうとする様子があったが、力がうまく入らないのか海面に突っ伏してしまう。その様子を見て、瑞鶴は敵の顔面に副砲を撃ち続ける。

 

「いい加減止まりなさいよ!止まれってば!」

 

「ギャーギャーウルセエナ!オ前ラ邪魔ナンダヨ!」

 

 敵は、まず足にしがみついていた雲龍を蹴り飛ばし、背中にいた瑞鶴を左腕でつかみ海面にたたきつける。何度も何度も海面にたたきつけ、さらに左腕に蹴りを入れ折った。瑞鶴は痛みで叫びだすが、構わずに蹴り上げた。

 

「引ッ込ンデロヨ!俺ノ楽シミヲ邪魔スルンジャネエ!」

 

 瑞鶴を蹴り上げた後に、しっぽの部分に艦爆が落ちてきた。そして、3機ほどの艦載機が通り過ぎていく。何が起こったのかわからなかったが、瑞鶴の方を見ると足もとに弓が落ちていた。蹴り上げられたと同時に、矢筒から矢を取り出し、両足で弓を支えながら射出したのだろう。瑞鶴は少しだけ笑いながら話し出した。

 

「一矢報いてやったわよ…化け物…」

 

「オ前…フザケンナヨ、調子二乗リヤガッテ!」

 

 一気に瑞鶴のもとに近づき、腹を踏みつける。何度も何度も踏みつけた後、今度は尻尾で両足にかみついた後、宙に上げ海面にたたきつけた。叩きつけては顔面を殴るを繰り返した。瑞鶴の悲鳴が聞こえる中、秋月達はその様子を見て恐怖した。恐怖で体が動かない。声を出そうとしても出せなかった。やがて、瑞鶴は悲鳴を上げなくなり力なくぶら下がっていた。その様子をまじまじと見つめた後に、敵はつまらなさそうに言った。

 

「ンダヨ…壊レタカ?マァイイカ、新シイオモチャモアルシ……ソノ前二、コイツ消シ炭二シヨウ」

 

 そして、瑞鶴を宙に投げ飛ばす。尻尾についている砲を瑞鶴のいる方にめがけて構える。秋月達はその様子を見て理解した。このままでは、瑞鶴が消し炭にされてしまう。しかし、体を動かそうとしても動けなかった。

 

「や…やめ……やめろおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 葛城が叫びだすと同時に轟音が響き渡った。その音に、全員が目をつぶる。瑞鶴が死んでしまった。そう思ったから。ゆっくりと目を開ける。目の前を確認すると、敵の姿は数m先の方にあった。何が起きたのかと不思議に思っていると、ゆっくりと海面に着地する赤城の姿があった。腕には瑞鶴が抱きかかえられている。全身血まみれで、見るも無惨な状態だった。赤城はゆっくりと、怒気を含めた声色で話した。

 

「一体何をしている…」

 

 赤城の周囲に殺気のような威圧感が漂う。全員がその様子に畏怖を覚え、敵は興奮したように笑っていた。赤城は、敵を睨みつけている。よほど怒っているのだろう。普段の様子とは比べ物にならないほどだった。

 

「私の妹に…仲間に何をしている!」

 

「ウ~ン…ソウダナ…タダノ弱イモノ虐メダヨ。俺ハ、相手ヲ痛メツケル事ガ大好キナンダ!オ前ヲ挑発シテ、オビキ出シタノモソノタメダ」

 

「たかがそんな理由でこの子達を襲ったのか⁉」

 

「アン?オ前ナァ、コレハ戦争ダゾ。ドウイウ理由デ、ドウ痛メツケヨウガ俺ノ勝手ダ」

 

 赤城は、周囲を見る。全員がかなりの重傷で動けるかどうか怪しいレベルだ。しかし、赤城はゆっくりと深呼吸をする。

 

「…皆さん、動けますか?」

 

「あ…あの…腰が抜けちゃって…」

 

 秋月が力なく答える。やはりダメージと精神的な面もあって立つことは難しそうだった。

 

「提督から無線があり、川内さん達をこちらに向かわせています。現状を見て、すぐに第2艦隊を向かわせたそうです。ジェット機で来るみたいですから、あと数分かと」

 

 赤城は、瑞鶴を秋月達の近くで寝かせる。頭を少し撫でた後にゆっくりと立ち上がった。

 

「皆さん、瑞鶴を頼みます」

 

 赤城は一気に向きなおり、爆発音とともに消える。数m先にいた敵もいなくなっていた。おそらく赤城が連れて行ったのだろう。葛城は、ゆっくりと瑞鶴に近づく。かろうじて息はしている様子だったがかなり弱い印象だった。

 

「瑞鶴さん…瑞鶴さん!」

 

 ゆすってみるも反応がまったくない。おそらく瀕死の状態だ。早く医者に見せなければ手遅れになるレベルだ。今は川内達が向かってきている。川内達を待つことしか今は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 秋月達のいる場所から、かなり距離が離れた場所に赤城と深海棲艦はいた。赤城は、ここに来た直後に連れ出した相手を海面にたたきつけた。相手はすぐに体制を立て直し赤城に向きなおる。少し首や肩を動かしており、赤城を前にしても余裕の表情だった。

 

「ンダヨ、随分怒ッテルンダナ…」

 

「……あの子達を襲ったあなたと……こんな状況を生み出してしまった自分自身にね!」

 

 握りこぶしを作る赤城には、わずかに血が出ていた。あの時、自分が離れてさえいなければこんな状況になっていなかったはずだった。そのせいで、瑞鶴は瀕死になり、秋月達も重傷を負った。S級として自分が不甲斐なかった。

 

「…ソウイエバ、サッキ妹ガドウトカ言ッテタナ…アイツオ前ノ姉妹艦カ?随分雑魚ナンダナ。アンナ奴姉妹艦二持ッテ気ノ毒ダナ」

 

「何も知らない深海棲艦風情が、あの子のことを語るな!」

 

 赤城は、怒号を上げる。相手の言ったことに、赤城は相当頭にきていた。何も知らないくせに、瑞鶴のことを好き勝手言われたからだ。

 

「あの子は…ずっと訓練を重ねて、自分で考えて、努力してきた。あの子の才能は、まだ花開いていないだけ。あの子自身もきっとまだわかっていないだけ…」

 

 赤城は、ゆっくりと弓を構え、相手に向ける。その目は、殺気を帯びていて今にも敵を沈めようとする勢いだった。その目に、敵も興奮していた様子だった。

 

「アハハ!イイネ、ソノ目最高ダヨ!モウアイツラノコトナンテドウデモイイヤ…今ハオ前ヲ痛メツケルコトニスルヨ…ソウダ!名前聞イテナイヤ!」

 

「…赤城…航空母艦赤城…」

 

「…ハハ、イイネ。オ前アレカ…日本ノ中デ強イヤツダヨナ…最高ジャネエカヨ……俺ハ戦艦レ級ダ!!」

 

 レ級と名乗った深海棲艦は、赤城に向かっていく。赤城と戦艦レ級との戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 




次回、赤城対戦艦レ級の対決が勃発します!
なるべく早く投降しますので楽しみに待っていてください!


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65話 炎帝

めっちゃ久しぶりです!
モチベとか、やりたいこととかいろいろありすぎてなかなか手が付きませんでした…
それでは最新話です!


 戦艦レ級と名乗った深海棲艦と一騎打ちを行う赤城。向かってくるレ級に対して、一旦後ろに下がり艦載機を放つ。まずは艦戦を放ち、機銃を撃つ。異能力を含んでいるためレ級に当たった瞬間に爆発を起こし後退させる。だが、それで止まるはずもなくそのまま加速して赤城の目の前まで近づく。赤城は上に飛び上がり、レ級の頭に手を乗せ側転を行い背中を思いきり蹴り爆発を起こした。普通の深海棲艦であればこの攻撃で大破になるか轟沈するかのどちらかだ。しかし、吹っ飛ばされたレ級はほとんど損傷が無い。むしろ余裕の表情だ。

 

(…この攻撃で小破にまで至らないなんて…どれだけ装甲が固いんですか…これは、全開で行かないとやばそうですね!……ただ…)

 

 赤城は、格納庫から水筒を取り出し水を飲む。赤城は、能力の特性上、常人より体温が高く、さらに体内の水分や塩分のバランスを崩しやすい。そのため、出撃をする際は必ずと言っていいほど水筒を持ち歩いている。能力を節制しないと自分もリスクを負うためだ。

 

「アハハ!ヤッパイイナオ前!ヤリガイガアル!ツエエヨ!」

 

「私としては、あまり嬉しくないんですがね…あなた本当に何なんですか?イロハ級であるにも関わらず、その強さは何です?」

 

「ンア?サアナ…他ノ奴ラトヤリアッテタラ気ヅイタラコウナッテタンダヨ…俺ハ戦エレバソレデイイ。姫級ダロウガ鬼級ダロウガソンナノ関係ネエンダヨ!」

 

(姫級?鬼級よりもさらに上がいるということですか⁉……駆逐水鬼とやらで推定霊力は6万で矢矧さんと同格でしたね。白露さんの霊力は、確か4万4千。鬼級で各艦種に約2万以上の差があると仮定したら…姫級となると…………考えたくないですね…)

 

 赤城は、最悪の想定をする。世界で確認されている最大霊力は16万。10万越えは世界各国でも9人しかいない。仮にこの想定が正しいとしたら、今後戦況はひっくり返ってしまう。赤城は、必死に頭を振りその考えをやめる。それは後ででいい、今は目の前のことに集中しなければならない。

 

「オット、ツイツイ話シ過ギチマッタゼ…続キヲヤロウカ!」

 

 レ級は、赤城に砲撃を行う。赤城はそれを避けつつ、艦攻・艦爆を放つ。しかし、レ級もすかさず艦載機を放ちこれを迎撃。半分以上の艦攻・艦爆を失うが、残った機体でレ級を攻撃する。しかし、やはり小破まで至らない。赤城は舌打ちをしながら弓を構えるが、足元まで雷撃が近づいてきていたためそれを左によける。レ級はその隙を見逃さず砲撃をするが、赤城が手を振ったと同時に爆発が起き弾道が逸れた。レ級はその様子が面白いのか腹を押さえながら高笑いしている。

 

「アッハッハッハ!楽シイ楽シイ、ヤベエヨ!深海側デハオ前ミタイナ能力ヲ持ッテル奴ハイナカッタカラナ!」

 

 レ級は、砲撃を行いながら赤城に近づいていく。赤城は、能力で周囲に爆風を出しながら後退する。海面を見ると、魚雷が近づいていたため、それも能力を使い爆発させる。正直、神経がすり減りそうだった。砲撃・雷撃、さらには艦載機まで注意を向けなければならない。こんな相手は初めてだった。

 

(やはり艦載機だけでは限界がある!接近戦に持ち込んで、一気に叩くしか!)

 

 赤城は、艦戦の機銃で相手を牽制しつつ一気に目の前まで近づく。そして、両手が赤くなると同時にレ級の腹を突くと、爆発を起こし吹き飛ばす。さらに、艦攻・艦爆をありったけぶち込んだ。レ級の周囲に黒煙が立ち込める。だが、黒煙の中からレ級が高笑いを上げ、ゆっくりと出てきた。損傷状態はおそらく中破に近いはず。それでもなお余裕といった様子だった。

 

「アッハハハ!オイオイ、ソンナモンカヨ!」

 

「はぁ…慢心は禁物と習わなかったのでしょうかね…」

 

 赤城は、呆れながら指を鳴らす。同時に、再びレ級の周りで爆発を起こした。今度は一回のみならず、何度も何度も大爆発を起こす。深呼吸をしながら、一度水筒を取り出し水を飲む。息も上がっており肩で呼吸をしているほどだった。

 

「正直、これで轟沈、もしくは大破までいってくれればいいんですが…………っ⁉」

 

 赤城は、目の前の光景に息を呑んだ。黒煙が晴れ始めると、そこにはレ級が膝に手を突きながら立っていた。しかも、ただ立っているだけではない。体の周りに赤いオーラのようなものを出していたのだ。赤城は、背筋が凍るような感覚を覚え反射的に後ろに飛び距離をとった。今ここでレ級を倒さなければ後々とんでもないことになる。そう直感した。そんな赤城の様子に目もくれずレ級は話し出す。

 

「最高ダゼオ前!サッキノ雑魚共ヨリ全然ヤリガイガアル!ダカラ、モット俺ヲ楽シマセテクレ‼‼」

 

 レ級はさっきとは比べ物にならない速さで赤城の目の前に来る。一瞬反応が遅れる赤城。その隙を見逃さずレ級はさっきのお返しと言わんばかりに、腹に両手を突く。かなりの威力だったのか、轟音とともに赤城は何十メートルも吹き飛ばされる。水面を何度もバウンドし、海面に叩きつけられる。今の一撃で中破になってしまった。赤城は、一気に酸素を吐き出すとすぐに体制を立て直し艦載機を放つ。しかし、レ級はすぐに対空砲撃を行い赤城の艦載機を撃墜する。かろうじて、艦爆がレ級の周囲に降り注ぐが被弾まで持ち込めなかった。

 

「その赤い禍々しいオーラ…まさか、elite級の力を解放したというのですか⁉」

 

「アァ、ソウダヨ!俺ハ本気デ戦ウッテ決メタ相手ニハコウシテelite化スルノサ!コノ力ヲ解放シテ長ク持ッテル奴ハ少ナカッタナ!」

 

 赤城は、舌打ちをしながら指を鳴らす。先ほどと同じようにレ級の周囲に爆発が起こるがレ級は意に介さない。elite化したことによって装甲もかなり固くなっているようだった。おそらく、先ほどと同じような戦法では損傷すら与えられないだろう。おまけに、矢筒に残っている矢も残りわずか。これを撃ち尽くしても勝算はないだろう。直後、レ級が赤城に急接近し至近距離で砲撃を行う。赤城はそれを避けつつ後方に下がる。

 

「ハハハハ!砕ケ散レ!」

 

「そう簡単に砕け散ってたまるものですか!」

 

 赤城は、一度水面に倒れ込むと両手を海面につきブレイクダンスの要領で足を一気に突き上げ、レ級の顔面に蹴りを数回入れる。数秒後にレ級の顔面は複数回爆発を起こした。その隙に後方に下がる赤城。レ級を注視してみるが全くといっていいほど損傷がなかった。

 

「ドウシタ!ソンナモンカヨ、アァ‼‼」

 

 赤城は直感した。もはや今の力でレ級を倒すことは出来ないと。弓を体にかけるとゆっくりと深呼吸をする。レ級はその様子を不思議そうに見ていた。

 

「オイ、マサカ諦メタンジャナイダロウナ?」

 

 赤城は、構わずに深呼吸を続ける。数回深く深呼吸をした後に、ゆっくりと口を開く。

 

「あなたはここで沈めないといけない。そう思っただけです…それに、さっきも言ったでしょう。こんな状況にしてしまった自分自身が許せないと。その怒りを今あなたにぶつけないと、気が済まないんですよ!S級5位として、”炎帝”の異名に恥じぬよう、あなたを今ここで沈める!」

 

 直後、赤城の体から煙のようなものが出てきていた。赤城自身の温度が上昇しているのか、皮膚の色も少しだけ赤くなってきている。

 

限界突破(リミットオーバー)…………爆炎!」

 

 赤城の手から炎が炎がレ級に迫る。レ級はこれを避けようとするが、すぐに炎はレ級に方向転換する。レ級に振れた瞬間、先ほどとは比べ物にならない爆発を起こす。その爆発によりレ級はかなり吹き飛ばされていた。威力も相当のようでレ級は体制を立て直すことができない。赤城は、レ級を迎撃し腹を踏みつける。踏みつけた足からさらに爆発を起こした後、レ級の足をつかみ何度も海面にたたきつけた。何度も何度も、まるで八つ当たりをするかのように。

 

「あの子が受けた痛み、あなたにも味わってもらいます!」

 

「痛エナオイ!噛ミ砕イテヤル!」

 

 尻尾で赤城に追撃するレ級。しかし、赤城はそれを読んでいたのか一度レ級の足を離した後に屈んで避けた。

 

「だから、簡単にやられるわけないでしょうが!火山口(かざんこう)!」

 

 赤城は、右肩を突き出しレ級に体当たりをする。爆発と同時にレ級の体に炎がまとわりついていた。しかし、損傷状態は中破で変わらない。赤城は、舌打ちをしながらレ級を見る。全力で戦っているのに、大破にまで至らない。それだけ、レ級が強いのだろう。体制を立て直し、そのまま突進してくるレ級。赤城は、後方に下がりながら残り少ない艦載機を発艦。機銃や艦爆を放ち爆発を起こすが、レ級は構わずに突進してくる。

 

(なんと固い装甲!これほどなんて⁉)

 

「ハハハ!ナンダ今度ハ鬼ゴッコカ!逃ゲロ逃ゲロ!」

 

(どうする⁉もう矢が無い!接近戦で行くしかないか!いや、まだ手はある!)

 

 赤城は、能力で炎で作られた弓を作る。そして、弓を引くような動作をすると炎の矢が作られそれを射る。猛スピードでレ級に向かっていくが、レ級はそれを難なく回避し赤城に向かっていく。

 

(音速を超える速さなのですが、それを軽々避けますか⁉)

 

 赤城は、今度は両手に炎の刃を作る。レ級が尻尾を振るタイミングで、空中で回避し回転しながら切りつけていく。切りつけられた尻尾は時間差で大爆発を起こす。レ級は尻尾を見るが使い物にならないほどに壊れていた。それでも、レ級は笑いながら赤城に向かってくる。

 

(等活地獄…8つの地獄の名前を持つこの技を使っても大破まで行けないんですか…なら、仕方ない!)

 

 赤城は意を決し、レ級に接近し拳を入れる。肘から軽く爆発を起こし威力を上げたが、レ級は全く効いていないのか笑いながら尻尾を振り下ろす。赤城は身を屈むと、左手に熱を集中させレ級の腹部に勢いよく当てた。熱はレ級の内部まで通り、そのまま爆発を起こした。内部爆発だったためかレ級は体をのけ反らせる。おそらく被弾状況から大破だろう。しかし、レ級もそのままで終わるはずはなく、すぐに赤城に反撃する。かなりの早さだったため反応できず赤城も大破になってしまう。

 

「こうなったら、もう玉砕覚悟ですよ!」

 

「楽シイナァ!オ互イニ死ヌマデ戦オウゼ!」

 

 お互いに、零距離で戦う。お互いに大破状態。威力の高い攻撃を食らえばおそらく轟沈するであろうほどだ。今はお互いに隙を見ている状態だろう。しかし、数分間膠着状態が続いた後に、赤城はバランスを崩しよろけてしまう。体力の限界が近づいてきているのか、視界も少しかすんできていた。

 

(まずい…限界突破(リミットオーバー)の限界が⁉)

 

 レ級はその隙を見逃さず、すぐに尻尾を赤城に振り下ろす。赤城は、何とか足を踏ん張り右腕に炎を集中させ尻尾に殴りかかる。

 

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 

「オラアアアアアアアアアアアア!」

 

 二人が攻撃したと同時に大爆発を起こし周囲に水柱が立つ。ゆっくりと水柱と煙がはれてゆく。赤城とレ級はお互いに驚愕の表情でその場に立っていた。自分達の目の前には、深海棲艦と思われるものが立っていた。右腕でレ級の尻尾を。左腕で赤城の腕をつかみ微動だにしていなかった。その者は、二人をゆっくりと見た後に話し出す。

 

「双方、ソコマデニシテオキナサイ…」

 

「ナ、南方棲鬼⁉」

 

 南方棲鬼と呼ばれた深海棲艦は、ゆっくりと手を離す。直後に赤城はその場に膝をつく。かなり負担が大きかったのか、呼吸が早く、肩で息をしていた。南方棲鬼は、レ級に視線を向ける。その目は少し呆れているようだった。

 

「レ級…コレハドウイウコトヨ?私達ノ役目ハ、敵ノ戦力ヲ知ルコトヨ。殺スノハマダ先デショ…私ノ艦隊ノ子カラ聞イテイルワ、空母一人ヲ殺シカケタッテ…」

 

「ケドヨ、アイツガ調子二乗ッタカラ!ソレニ、今イイトコロダッタンダ!邪魔スルナヨ!」

 

「何ヨ…口答エスルノ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺スゾ!

 

 南方棲鬼の放った殺気が周囲に立ち込める。その圧に、赤城はたじろぐ。レ級もその圧に耐えかねて、数歩後ろに下がっていた。ゆっくりと息をした後に、踵を返しながら話した。

 

「ワカッタ!ワカッタヨ!俺モマダ死ニタクネエ。モット戦イヲ楽シミタイカラナ」

 

「…………フン………悪カッタワネ赤城……ダッタカシラ?ウチノ戦闘狂ガ申シ訳無カッタワ」

 

「あ…あなたは一体?」

 

「私ハ南方棲鬼。以前佐伯湾ッテトコニオ邪魔サセテモラッタコトガアルワ。マァ、今回ハ挨拶程度…マタ今度、ユックリト戦イマショウ。ソノウチ宣戦布告モスルダロウカラ、ソノ時ハヨロシク。マァ、アナタハ向コウ二イルオ仲間ト帰リナサイ」

 

 南方棲鬼は、そのまま赤城のもとを離れていく。赤城は、南方棲鬼達が離れた後に倒れ込む。そして、空を見上げながら無線をつなぐ。

 

「……川内さん、いますね?」

 

 無線をつなぎ、しばらくした後に川内が赤城に近づいてきたが、かなり震えているようだった。

 

「あ…赤城さん…」

 

「……ずっと見ていたのですね…私とレ級が戦うところをすべて……」

 

 赤城の言う通り、川内はすべてを見ていた。赤城が瑞鶴達のもとを離れた後、川内達は瑞鶴達のもとに到着していた。川内は瑞鶴達を神通達に任せ、赤城のもとへ駆けつけていた。しかし、圧倒的な実力差を前にその場に立っていることしかできなかった。川内自身も初めての感覚だったのだろう。普段ふざけている印象が強かった赤城が全力で戦い、引き分けた。その様子を見て、自分との実力差を痛感してしまった。越えられない壁…そんな印象を根付かせてしまうほどの。

 

「強くなれますよ…きっと…」

 

「…え?」

 

「川内さん、強くなるためには何が必要だと思います?」

 

 川内は、その問いに首を横に振る。訓練をしていれば強くなるだろうが、赤城はおそらくその答えを望んでいない。赤城は優しく微笑みながら答える。

 

「思いの強さ…ですかね…結局限界を決めるのは自分自身です。才能もあるかもしれない。けど、努力に勝るものはないと思います。努力に憾みなかりしか……というでしょう。あなた達は、きっと強くなる。いつか、きっと………」

 

 赤城は、そのまま力なく項垂れてしまう。川内が見ると、赤城は気絶しているようだった。川内は、赤城の言った意味を考える。確かに、今見た光景を見て川内は自分の限界を決めかねていた。それでも、今見た光景が忘れられない。あまりにも次元が違いすぎるからだ。

 

(そうだよ…限界を決めるのは自分自身だ……けど、今のを見て痛感したよ。私とこの人とでは次元が違いすぎる…私達もあのレベルに達することができるの?訓練してったら強くなれるの…)

 

 川内は、自分の実力に疑問を持ちながら、基地の方へと戻っていった。その後、基地についた後にすぐに大本営へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー大本営医療施設

 

 あれから数時間後、赤城は治療を終え病室の前にいる。隣には提督である三条もおり病室を見守っている。目線の先には瑞鶴がおり、心電図や酸素がつけられ、全身に包帯が巻かれている状態だ。赤城は、そのまま力なく項垂れ、口元をかみしめながら絞り出すように話し出す。

 

「…私があの時判断を間違えていなければ…こんなことには…」

 

「…赤城…あなたが悪いわけじゃ…」

 

 三条は、赤城に手を伸ばそうとするが途中でやめた。赤城になんて声をかければいいか分からなかった。あの時、自分も映像を見ていた。その時に別行動をとらないように指示をしていればと、後悔だけが残る。瑞鶴達がレ級に襲われているときも、もっといい手段があったはずなのに。そう考えていると廊下の方から足音と車輪が回るような音が聞こえてきた。視線を向けると、呉鎮守府所属の飛龍と蒼龍が来ていた。

 

「赤城姉さん!」

 

「…赤城姉さん…」

 

 二人の声に、赤城は反応することなく項垂れている。二人は、赤城を見た後に病室を見る。瑞鶴の無残な姿を見て言葉を失った。これほどの状態だったとは想像していなかったからだ。しばらくすると、横須賀鎮守府所属の翔鶴が走ってきた。かなり急いできたのか肩で息をしている。全員の姿を確認した後に病室を見る。翔鶴も飛龍達と同様言葉を失う。そして、ゆっくりと赤城に近づき肩に手を添えた。

 

「姉さん…」

 

 そのまま、赤城を抱擁する。赤城も翔鶴の背中に手を回す。体も震えており、声を押し殺しているようだった。飛龍と蒼龍も赤城に近づき背中を擦る。三条は、その様子を見て、少し席を外そうとその場を離れる。廊下の角に差し掛かったところで、鳳翔と加賀がちょうど来ていたところだった。

 

「三条提督」

 

「鳳翔さん、加賀……本当に…申し訳ない…」

 

 二人に頭を下げる。三条も責任を感じていた。こんな状況になってしまったことに。何より鳳翔の娘を瀕死の重傷にしてしまったことを。提督として、艦娘達の命を預かっているのに。鳳翔は、ゆっくりと三条の肩に手を置き首を横に振りながら話した。

 

「あなたのせいじゃありません…どうか自分を責めないで」

 

 そのまま、赤城達のいる方に向かっていく。加賀も三条に一礼しその場を離れた。三条は握り拳を握り、唇をかみしめながら廊下を歩いて行った。

 

「皆…」

 

「…母さん」

 

 鳳翔達の姿を見て力なく声を出す赤城。鳳翔達は少しの間、瑞鶴の方を見る。瑞鶴の様子を見て、鳳翔は目をつむり大きく深呼吸をする。そして、赤城に近づき頭を撫でる。

 

「…赤城…自分を責めないで頂戴…自分の判断や行動が正しいかどうかなんて…答えは誰にも分らないの…あの時こうすればよかったとか、たらればの話をしても意味はないわ。大事なのはこれからどうしていくべきか…未来のことを考えるしかないの……だから……泣かないで、赤城」

 

 赤城は、声を押し殺しながらその場に泣き崩れた。自分の無力さが情けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく経ち、赤城も落ち着きを取り戻す。そして、レ級と対峙したときの戦闘能力を話した。

 

「戦艦レ級……奴はかなり危険です……限界突破(リミットオーバー)を使用しても、奴を倒せなかった…」

 

「赤城姉さんでも倒せないとなると、S級でも5位以上の実力は確定ですね…」

 

「……いえ、おそらくですが、加賀さんでも勝てるかどうか…」

 

 翔鶴の言葉に赤城は答える。それを聞いて、全員が息を呑んだ。加賀でも勝てるか怪しいレベルとなると、3位以上の実力は確定だろう。さらに、赤城が限界突破(リミットオーバー)を使っても倒せなかったほどだ。そのときの赤城は霊力は12万を超える、それでも勝てないとなると、加賀が力を解放しても厳しいだろう。長門レベルになってようやく五分といったところか。

 

 そして、レ級が話していた内容を話した。自分は鬼級でも姫級でもないと。今現在、鬼級達しか確認できていない。駆逐水鬼でも推定霊力は6万ほど。実際に戦った白露とは約2万ほどの霊力差。姫級となると4万以上かもしくはそれ以上の差があるかもしれない。それが空母級、戦艦級となってくると正直考えたくなかった。

 

「けど、各地で出没している鬼級達はいったい何を目的にこんなことを…舞鶴の方でも、矢矧が軽巡棲鬼と戦って敗れたって話だし。それに、赤城姉さんや、瑞鶴達が…」

 

「それは…」

 

「こっちの戦力を知るため」

 

 飛龍の疑問に赤城は答えようとするが、それを鳳翔が遮る。全員が鳳翔に視線を移したのを確認すると鳳翔がゆっくりと口を開く。

 

「でしょう?駆逐水鬼も、軽巡棲鬼も殺す気でやればいつでも殺すことができたはず。でも、それをしなかった。単純に強者と戦いたいという気持ちもあるかもしれないけど…おそらく、襲われたのは日本だけではないはず。各地でこれと同じようなことが起きているかもしれない。奴らは、この状況を楽しんでいる」

 

「楽しんでるって、あいつらまだ本気を出していないっていうの!ふざけるな、たかが遊びで瑞鶴を痛めつけられたの!あいつらにあったら痛めつけてやる!」

 

「ほんと、許せないよね…ただじゃおかないよ!」

 

「待ちなさい二人とも、その状態で出撃してどうにかなる相手ではないわ!わかるでしょう!」

 

 飛龍と蒼龍に、加賀がすぐに強い口調で話した。二人はまだ復帰してろくに戦闘もしていない状態だ。その状態で出撃してもおそらく瞬殺されてしまうだろう。加賀の言ったことに、二人ははっとした表情をした。

 

「訓練も本格的にしてまもないのでしょう?感情的になって出撃して、新種と遭遇でもするのなら…瑞鶴の二の舞です…今はこらえてください…」

 

 翔鶴も加賀の言ったことに同意する。二人の話を聞き、飛龍と蒼龍はうつむく。しばらく無言が続く。すると、廊下の方から足音が聞こえ、音のする方を見ると明石が歩いてきていた。おそらく瑞鶴と秋月達の症状を伝えるためだろう。赤城はすぐに明石に近づいた。

 

「明石さん、瑞鶴の状態は?秋月さん達は、今どうしてます?」

 

「全身の骨折に、内臓破裂その他もろもろ…精神的なケアも含めて復帰まで一年ってところね。まぁしばらくはあのままね。目覚めるまでに1~2か月ってところか。秋月達は重傷を負ってるけど、命に別状はなし。今は別室で寝てるわ。傷が治ったら、すぐに戦闘に参加できるわよ」

 

 その言葉に、赤城はうつむく。瑞鶴が1年後に復帰したとしても、戦闘能力や霊力が落ちるだろう。おまけに、今回のことがトラウマでPTSDにもなるかもしれない。赤城の心情を知ってか知らずか、明石は赤城の肩に手を置きながら話す。

 

「まぁ、安心しなさいな。命は助かってるんだから。命がある限り、何度でも助けてやるわよ。治った後のことは知らん」

 

「知らんって、あんた医者でしょ!医者なら、最後まで責任持ちなさいよ!精神的なケアもあんたがするんでしょ!」

 

「精神的なことに関しては私は専門外、他のやつらにやらせるわ。あとリハビリもね」

 

「…てめえ、ふざけるな!」

 

 明石の言葉に、飛龍は掴みかかろうとする。しかし、すぐに鳳翔が制止し首を横に振る。飛龍は舌打ちをしながら近くの椅子に腰かけた。

 

「…まったく、鳳翔…娘ならちゃんと躾けておきなさいよ。あぁ、本当の娘じゃないか、養子か…」

 

「明石さん、血のつながりはなくても、この子達は私の自慢の娘達です。馬鹿にするのは、許しませんよ」

 

 明石は、適当にあしらいながらその場を去る。その後ろ姿を見届けた後に飛龍が話し出した。

 

「母さん!あいつ一発殴らせてよ!」

 

「やめておきなさい。今のあなたでは、おそらく彼女に勝てない…」

 

「なんでさ!あいつただの軍医でしょ!それに、艦娘としては工作艦なんだし」

 

「彼女は、狂種起死回生(リバイバル)なんですよ。それに、霊力は9万と聞いています。前線に出ることはないからS級という分類になっていませんが…本気で戦えば、かなり強い」

 

 それを聞いて、飛龍は驚愕した。まさかそれほどの霊力を持っていたとは思わなかったからだ。もし、明石が前線に出れば一体どれほどの実力なのかわからなかった。

 

(一体…各地で何が起こっているの…そもそも、なぜ今頃になって新種が…)

 

 鳳翔は腕に力を込めながら考えた。なぜ今頃になって新種が現れたのか、一体相手は何を考えているのか、考えてもわからなかった。ただ、今は瑞鶴の状態を見守るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー執務室

 

「……とんでもないことになってきているな。まさか、S級でも対処できないほどの深海棲艦が現れるとは…」

 

 窓の外を眺めながら、元帥である山本は口を開く。執務室には大淀と斎藤、三条もいる。S級5位の赤城でも勝てなかったほどだ。さらに、姫級という存在もある。実力が未知数なだけあって、今後の対処も考えていかなければならない。世界会議まであと1か月を切っている。それまでに、各国でどうにか対処せねばならない。

 

「赤城でも駄目だったとなると、4位以上でも厳しいですな…ここには長門もいるが、もし攻め込まれても対処できるかどうか…」

 

「…あぁ」

 

 斎藤の問いかけに目をつむりながら答える山本。しばらく立ち尽くした後に、何かを決意したように斎藤に声をかける。

 

「斎藤…彼女を呼ぶ。この状況下で、彼女が来てもどうなるかわからんが…」

 

「彼女………まさか⁉」

 

 山本の言葉に驚きを隠せない。その様子を見て、大淀も三条も不思議そうな顔だった。

 

「あの、元帥。彼女とは?」

 

「あぁ、大淀と三条は知らなかったな。無理もない。彼女が最後に出撃したのは、5年前の大侵攻以来じゃからな」

 

「5年前って、確かその時出撃していたのは鳳翔さんと長門さんと……あ、もしかして!」

 

「そう、S級1位。大和型戦艦、大和。彼女を呼ぶしかない」

 

 噂でしか聞いたことが無いS級1位の大和。とうとう彼女を呼ぶ時が来たのだ。世界の命運がかかっているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーとある酒屋

 

 店の外で、携帯をもてあそびながら座っている女性。鳳翔の実の娘である桜だ。数時間前に瑞鶴が瀕死の重傷を負い、今大本営医療施設にいること。そこに鳳翔達が集まっていることを聞いた。そのあとは、外に出て少し気持ちを落ち着かせている。何時間ここに座っているのかわからないが。

 

「……ママ?」

 

 ふと声をかけられ、後ろを見ると娘の咲と夫である優、さらに縁もいた。全員が心配そうに桜を見ている。

 

「…皆」

 

「……行くんだね、桜…」

 

「……えぇ。ずいか…萃香が重傷を負ったって……それに、戦況が覆ってきてる。山本さんからも連絡があった……私が行かないと…」

 

 立ち上がった桜に対して、咲は服の裾をつかむ。桜は咲の目線に合わせ屈むと、優しく頭を撫でてあげた。

 

「咲…ママ行ってくるね」

 

「時々電話くれる?」

 

「時々じゃなくて、毎日電話する」

 

「帰ってきてくれる?」

 

「もちろん。毎日は厳しいけど、時々帰ってくるから。ばあば達も一緒に」

 

「うん!咲知ってるよ!ママすごく強いもん!敵なんてあっという間に蹴散らしてくれるよ!」

 

「うん、頑張るね!」

 

 立ち上がった後に、縁が持ってきてくれたのか、スーツケースとカバンが玄関近くにあった。優も手にはお守りを持っている。そして、優は静かに大和を抱擁する。咲も桜の足に抱き着いていた。

 

「気を付けて。僕達はここで待っているから」

 

「…うん…あなた、縁ちゃん。咲のことお願い」

 

「はい…任せてください!」

 

「無事に戻ってくることを信じてるよ。君は、日本最強…S級1位、大和なんだから」

 

 桜は、荷物を持ち歩き出す。山本が指定した集合場所へと向かうために。桜は…もとい大和は深呼吸をしながら、意を決したように歩く。S級1位。大和型戦艦大和として、自分のできることをしていこう。そう思った。




次回は、大本営に行った大和と鳳翔さん達のお話を書こうと思います!白露達も少し出るかな…
ではでは!


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66話 本当の強さ

祝、艦これアニメ2期!
お久しぶりです!前回の投稿からかなり時間が経ってしまいました…。
小説を書くモチベーションが上がらなくて…。
ということで、最新話です!


 荷物を持ち夜の街を歩いていく桜、もとい大和は元帥の山本が指定した集合場所へと向かっていた。集合場所につくとすでに車が止まっており、助手席の前には腕を組み、車に体を預けていた海軍大将の小笠原三笠がいた。三笠は大和に気づくと、手を振る。大和もそれに答え手を振り返した。

 

「桜ちゃん、久しぶりね」

 

「小笠原さん、しばらくです…」

 

「びっくりしたわ。まさかあなたがS級1位の大和だったなんて」

 

 実はこの二人は昔からの知り合いだ。小笠原は鳳翔と古くから付き合いがあり、幼き日の大和と会っている。よく鳳翔が開いている居酒屋に呑みに行っていたのだが、その時も店の手伝いに来ていた大和とちょくちょく会っていた。しかし、小笠原は大和がS級1位、さらには艦娘であったことも知らなかったのだ。大和のことを知っているのは海軍内でもごく少数。元帥である山本、大将の斎藤、長門、横須賀にいる山城と鳳翔一家のみだ。

 

「さ、乗って。これから大本営に向けて出発するわ。すっ飛ばしていくから2時間ちょっとでつくかもね!」

 

 小笠原の言葉に甘え、荷物を後部座席に置き助手席に乗る大和。小笠原も車に乗り車を出す。夜で海辺に近いのもあるためか車どおりはほどんどなかった。大和は窓の外を眺めながらつぶやいた。

 

「小笠原さん、世界は今どうなってきているんですか…母さんから少しだけ話は聞いているんですけど…」

 

「…新種があちこちに出てきているわ。日本近海、ソロモン方面、インド洋で確認された駆逐水鬼、軽巡棲鬼、戦艦レ級に南方棲鬼。S級でも勝てなかった奴らよ。中でも、レ級と南方棲鬼ってやつはこの中でも桁違いの強さだと思うわ。多分だけど、まだまだ新種の深海棲艦はいると思う。まだ、出てきていないだけでね」

 

 その言葉に、大和は拳を強く握った。鳳翔から聞いた戦艦レ級、こいつは赤城と対等かそれ以上の実力を持っている。赤城が限界突破(リミットオーバー)を使用しても勝てなかった。しかも南方棲鬼はそのレ級を片手で止めている。鳳翔が佐伯湾鎮守府で会っており、少しだけ霊力を解放したが相手は意に介さず笑っていたほどだったと聞く。実力も相当だろう。さらに、姫級というもの達がいる。今後、人類側が苦戦するのは明らかだろう。

 

「全艦娘…いえ、世界中の艦娘が新種達に対応できるようにならないと。霊力差なんて関係ない。それを補ってどう戦うか…ですね…」

 

「桜ちゃん、やっぱりあなたが出撃しても厳しいのかしら…?」

 

「こればかりはわかりません。ただ、南方棲鬼という新種で赤城より上かもしれない。霊力は低くても9万前後といったところでしょう。最低ラインが6万台なんです。新種一体につき連合艦隊でやってもどうなるか…S級でも、艦種や個体によっては勝てるかどうかといったところでしょうか…」

 

 大和は、窓の外を眺めながらつぶやく。向こうもまだ様子見の段階だ。本気でかかってくればどうなってしまうのか見当がつかない。小笠原は、ハンドルを握る手に力が入る。筑摩達が率いる大本営第3艦隊も駆逐水鬼に様子見の段階で負けてしまったのだ。一体どうやれば勝てるのかが見当もつかなかった。

 

「相手の出方次第で、こちらも対応を考えていかなければなりません。今後は、個の力だけでなく、戦術面でも強化していかなければ…」

 

「えぇ、私達提督達だけではない。艦隊旗艦の指揮能力も強化していかないといけないかもね。でも、今考えても仕方ないわね。後日、提督達が集まるタイミングで話し合わないと。もうすぐ世界会議もある。その準備もあるからね」

 

 そのあとは、しばらく無言の状態が続いた。小笠原は、一瞬大和の方を見てみるが、表情は少し暗かった。おそらく瑞鶴のことを考えているのだろう。声をかけようか迷ったが、しばらくそっとしておこうと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 車で2時間ほどで、大本営についた二人。まず荷物をもって大和が使用する自室へと小笠原が案内した。早急に荷物を置いた後に、医療施設の方へと向かう。小走りで瑞鶴がいる部屋の前まで行く。そこには、母である鳳翔と義妹である加賀、飛龍、蒼龍がいた。鳳翔は大和の姿に気づくとゆっくりと近づき抱擁する。

 

「桜…いえ、ここでは大和と言うべきね…来てくれてうれしいわ」

 

「母さん…皆…久しぶり」

 

 大和の姿を確認した後に、加賀達も大和に近づく。こうして会うのは久しぶりのためか、大和は3人に抱き着く。一言二言話をした後に瑞鶴のいる方をみる。見るも無残な状態であったため、大和はすぐに目をそらした。そして、周囲を見渡し赤城と翔鶴がいないことに気づいた。

 

「あの、赤城は?翔鶴もいないようだけど…」

 

「赤城さんなら、今は秋月達のところにいるわ。少し前に目が覚めたみたいでね。それで、今はそっちに…。翔鶴は、飲み物をもらいに行ってるわ」

 

「じゃあ、私は一旦赤城のところに…」

 

「あぁちょっと待って大和姉…今はその…」

 

「…今はそっとしておいてほしいんだ。秋月達も、ショックが大きかったから…」

 

 3人の言ったことに、大和は歩みを止める。しばらく考えた後に、すぐ近くにあるベンチに座った。

 

(そうよね…当事者じゃないとわからない気持ちもある。私もさらっとしか聞いていないから、行ったところで何もできないかもしれない。私は私で、これから何ができるのかを考えていかないと…)

 

 瑞鶴の様子を見ながら考え事をしていると、飲み物を持ってきた翔鶴が戻ってきた。翔鶴は大和の姿を見ると、早歩きで近づく。大和も立ち上がり、翔鶴と抱擁する。

 

「大和姉さん。会えてうれしいです」

 

「…えぇ。翔鶴も変わりないようでよかった」

 

 翔鶴は、飲み物をベンチに置き、病室の中を見る。窓に手を置きながら、ゆっくりと話し出した。

 

「最後まで…諦めないで戦っていたそうです。秋月さん達を守るために。圧倒的な実力差があっても…それでも立ち向かったと…」

 

「…そうか…いつ目覚めるかはわかるの?」

 

「1~2か月ほど。明石さんが言うので間違いないかと思います…ただ、目覚めたとしても、その後どうなるかは…完全復帰までに約1年とのことですが…」

 

 大和は、それを聞いてうつむいた。瑞鶴が目覚めたとしても、以前のような状態に戻るかはわからない。今回のことが原因でトラウマを抱えてしまうかもしれない。飛龍と蒼龍も、大湊事件があった後は精神的にも不安定な時期があったし、日常生活を送れるレベルになるまでにかなりの時間を要した。1年後に無事復帰できたとしても、雷巡の木曾の例もある。下手したら、1年以上はかかるだろう。

 

「…もし……もしも私が早くにここに着任してて、すぐに応援に駆け付けられれば、何か変わったのかな…」

 

 小さな声で呟く。3年前の事件の時も、今も。自分が出ていれば何か変わっていたのだろうかと考える。だが、何が正しいのかがわからないのも知っている。鳳翔に散々言われたことだ。その時の行動が必ずしも正しいとは限らない。何か変わっていたのかもしれないし、そうでなかったかもしれない。少しすると、急に背中を思いきり叩かれた。一か所は上の方で、もう一か所は腰あたり。後ろを見ると、飛龍と蒼龍が少し怒った表情で大和を見ていた。今つぶやいたことが2人に聞こえていたようだ。

 

「大和姉さん。また自分がここにいれば何か変わっていたのかって言ったでしょ?」

 

「…あぁ、えっと…」

 

「たらればの話はしない!母さんから散々言われていることじゃん!あの時こうしていればよかったとか、もっと違う方法があったかもしれないとか、そういうのはわからないんだから!」

 

「次言ったら、水平線の彼方まで吹き飛ばしてあげるんだからね!昔ほどではないけど、人を吹き飛ばすくらいの能力はあるよ!」

 

「いふぁいいふぁい!ご…ごめ”ん”!もう言わないから!」

 

 2人に頬と脇腹を思いきりつねられる。2人は再三にわたって本当かどうか確認し、大和が頷いているのを見ると手を放した。

 

『わかったならよし!』

 

 頬と脇腹を擦りながら二人を見る。脇腹は蒼龍が手加減していたこともあるのかあまり痛くなかったが、飛龍は手加減しなかったようでヒリヒリするくらい痛かった。大和は、もう一つ気がかりなことがあったため口を開くが、その前に飛龍が答えた。

 

「瑞鶴が目覚めた後のこと心配しているんでしょ?大丈夫。あの子ならきっとね。負けん気が強くて、努力家で…ここ数年、霊力がほとんど上がらなくても、弱音を吐くことはなかった。むしろ一層努力していたし、悲観的なことを言うこともなかった。だから、大丈夫。あの子は強い。ここの強さだけなら、あの子は私達家族の中でも一番だし」

 

 飛龍は自分の胸を叩いて笑う。他の4人も同じように頷く。確かに、精神力だけでいえば瑞鶴はこの中でもかなり飛びぬけていた。演習でどれだけ負けようが、思い通りの動きができなくても、それを悲観的に捉えることは無かった。何がいけなかったのか、どういう立ち回りをすればよかったのか、反省し、研究をしていた。今回だって、死の恐怖があったはずだ。それでも、決して怯えず、逃げずに戦った。だから大丈夫だと信じているのだろう。

 

「…そっか…そうよね…」

 

 再度、病室の方を見る。今は瑞鶴が目覚めるのを待つしかない。目覚めた後は、自分達がサポートをしていこう。そう思い、ベンチに座ろうとするが、廊下の方を見ると元帥である山本がこちらに来ていた。何か用があるのか、全員の顔を確認していく。

 

「赤城は、別室かな?」

 

「えぇ、赤城なら秋月さん達のところにいます」

 

「ありがとう鳳翔。全員、これから執務室に来てほしい。少し話したいことがあるんだ。すまないが翔鶴、赤城を呼んできてくれないかな?儂らは先に執務室へ行っているから」

 

「はい、すぐに!」

 

 翔鶴はすぐに赤城を呼びに行く。そして、山本達は執務室へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー大和が来る少し前

 

「…う…うぅん…」

 

 目を覚ました葛城が周囲を見渡す。周りには、ベッドがいくつか並んでおり、秋月達もいるようだった。出血が激しかったこともあるのか、輸血を行っている様子だった。よく見ると、葛城の右腕にも輸血がされている。起き上がろうとして見るが、全身に激痛が走るため起き上がることができない。首だけを動かし、さらに周囲を見渡しているとベッド横に明石が立っているのが見えた。

 

「目が覚めたのね」

 

「明石さん…あの、ここは?」

 

「見ての通り、病室よ。大本営医療施設のね。あなたが目を覚ましたってことは、他の3人も目が覚めるわね」

 

 明石の言う通り、秋月達が目を覚ましていく。それを確認した明石は、病室を後にする。それからしばらくすると、病室に入ってきたのは赤城だった。4人の姿を確認した赤城は、安堵した表情で話しかける。

 

「皆さん…無事で何よりです…怖かったでしょう…」

 

 いつもふざけていて、人のお菓子をとって鬼ごっこをするときとは違い、優しい目で、話しかける。赤城の言葉にほんの少しの間があった後、秋月が声を絞り出す。口は震えており、今にも涙が出そうになっていた。

 

「あ……赤城さん……申し訳ありません……瑞鶴さんを…瑞鶴さんをあんな目に…私達の力が及ばず…本当にごめんなさい!」

 

 秋月は、我慢ができなくなり泣き出してしまう。葛城も、雲龍も、天城も目に涙を浮かべていた。レ級に一方的にやられたことと、瑞鶴を瀕死の重傷に追いやってしまったことが悔しかったのだろう。赤城は、全員の様子を確認した後にゆっくりと話し始める。

 

「自分を責める必要はありません…皆さん…とっても立派でしたよ。もちろん、瑞鶴も…」

 

「赤城さん…何を言って…」

 

「秋月さん。旗艦を務めたあなたに伺います。レ級と対峙した際、何を感じましたか?」

 

 秋月は、レ級の名前を聞き、戦闘時のことを思い出したのか体を震わせる。恐怖心が出てきたのか、歯をがちがちと鳴らしてきた。赤城は、その様子を見て察したのか目を閉じながら話した。

 

「そうでしょうね。あなた達とレ級とでは圧倒的な実力差がある。そして、このことが原因で秋月さんだけではなく、皆さんも死への恐怖心が芽生えたかもしれません。でも、それでいいんですよ皆さん。そんな強者を前に、恐怖心を抱いたとしても、私はあなた達を咎めたりしません。むしろ、お見事ですと褒めたいぐらいです。戦場に出ている者にとって、死への恐怖は誰にでもあります。もちろん、私も含めて。弱くていい。自分の弱点も含めて、どう向き合うか、どう対処していくか……強い部分だけを追求して、自分の弱点を認めようとしない人もいます。でも、自分の弱点と向き合い、それを補っていくこと。それが、本当の強さだと私は思います。だから、自分達を卑下しないでください。あなた達は、もっと強くなれる」

 

 赤城の言葉を全員が静かに聞いていた。強くなれる。その言葉を聞いて、全員が何かを決意したような、そんな目をしていた。それを見て赤城は、安心したように、肩の力を抜き深呼吸をした。正直、全員の精神面がかなり心配だったが、今の話をしてそれは杞憂に終わったようだ。まぁ、今言ったことは昔鳳翔に言われたことをそのまま言っただけだが。安心していると、ドアからノック音が聞こえてきた。ドアが開くとそこには翔鶴がいた。

 

「赤城姉さん、元帥から呼び出しが。それと、大和姉さんが来ています」

 

「っ!……すぐに行きます。では皆さん、私はこれで。ゆっくり休んでいてくださいね」

 

 全員に声をかけ廊下に出る。そして、急ぎ足で歩き出す。翔鶴もそれに続いた。

 

「翔鶴…大和姉さんがきたということは、事態はそれだけ深刻ということですね…」

 

「はい。この後、元帥から詳しくお話があるかと思われます。私達も今後どういう動きをするのか…」

 

 それを聞き、顎に手を当てながら考え事をする。正直、赤城も大和がきたからといって今の状況がどう転ぶかが想像できなかった。今確認できた新種はまだ数体。それよりも強い者達がまだいるはずだからだ。今の状況を打破するには、S級達だけではなく他の者達の戦力を上げる必要がある。だが、短期間で霊力を底上げするのは厳しい。今の実力で、どこまで相手に対応できるかが必要になってくるはずだ。

 

(秋月さん達はおそらく大丈夫。私の話を聞いて、目つきが変わった。きっとこの先も乗り越えてくれるはず。……問題は川内さんか……あの戦闘を見て、かなりメンタルに来ている。おそらく、自分が今後、戦場に出て通用するのかがわからなくなっている。さてさて…どうやってケアをしていきましょうか…)

 

「ね…姉さん!壁!」

 

「ん?…ぶべっ⁉……いけないいけない…」

 

「そっちは窓です!」

 

「へぶ‼‼」

 

 真剣に考え事をしすぎているせいで、周囲が見えなくなっているのか壁と窓に激突してしまう。頭を擦りながら、一旦考え事をやめる。今考えても仕方がないと思い、まずは執務室の方へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー執務室

 

 執務室の前に来た赤城と翔鶴。ノックをした後にドアを開ける。そこには、元帥と大和達のほかに3大将である斎藤、小笠原、赤神、三条が待機していた。大和は、赤城の顔を確認するとゆっくりと近づき抱擁する。

 

「赤城…無事でよかった…」

 

「あの、大和姉さん苦しいです!」

 

 少し強く締めすぎたのか、赤城は大和の背中を叩く。大和は謝りながら赤城から離れた。よほど苦しかったのか、赤城は深呼吸を何度もしていた。山本は一度咳ばらいをした後に話を始めた。

 

「よし、全員揃ったな。今後については、先にここにいた者には伝えているが、大和をここに着任させる。5年間のブランクがあると思うから、しばらくは大和は演習に専念してもらいたい。少し急ピッチになってしまうが、1か月以内にはコンディションを整えてほしいと思っている」

 

「えぇ、すぐに」

 

「それから、赤城。戦艦レ級と戦った君に直接聞きたい。仮に、S級以外のものが戦った場合…勝機はあるのか?S級なら誰なら勝てる…」

 

「……連合艦隊で挑んだとしてもおそらく瞬殺されます。奴に勝てるとしたら、S級でも3位以上かと…。ですが、奴よりも強い者もいます。南方棲鬼と名乗っていましたが…」

 

「…南方棲鬼…?確か、鳳翔が佐伯湾で遭遇したという…」

 

 南方棲鬼の名前を聞き、表情をこわばらせる鳳翔。赤城達も鳳翔の様子を見て何となく察した。戦いはしなかったものの、南方棲鬼の様子を見て鳳翔は強さを実感したのだろう。底知れない何かを感じたからこそ、各鎮守府の艦隊の戦力を底上げする必要があると進言したのだ。だが、もうすでに三つの鎮守府が新種と遭遇し敗北している。その関係で、海軍全体の士気が落ちているかもしれない。完全に後手に回ってしまっている。

 

「現状だと我らが劣勢なのは間違いないな…。世界各国では現状新種と遭遇したという話は聞いていないが…もしかすると、相手も各国を偵察しているかもしれぬ。全員、瑞鶴のことがあるのに大変申し訳ないが、明日には各鎮守府に戻ってもらいたいと思っている。そして、少しでもいい。艦隊の練度を上げてくれ。各提督達には、私から話しておく。斎藤、8月の世界会議までに、護衛として連れていく鎮守府を選定してくれ。数は二つ。その鎮守府に、近日中に演習を組んでもらう」

 

「了解しました」

 

「さて、やることは多いが、まずは全員体を休めることだな。部屋は用意してあるから、この後はそこで自由にしてもらって構わない。では、儂はもう少しここに残って…」

 

『おいこら(# ゚Д゚)』

 

「あ…はい……儂と三大将は残ってくれ。三条も用意した部屋で休んでくれて構わんから」

 

 大和達と三条は一旦執務室を出る。無言で顔を合わせた後に執務室から離れていく。そして、元帥が指定した部屋へと向かっていった。途中から、三条は寮が違うため大和達と別れる。大和達もそれぞれの部屋につく。部屋は大部屋ではないため、翔鶴と赤城と加賀、飛龍と蒼龍、大和と鳳翔で部屋を分けることにした。

 

「じゃあお休み…また明日」

 

『は~い。お休みなさ~い』

 

 大和と鳳翔も部屋に入りベッドに腰かける。それと同時に二人とも深くため息を吐いた。

 

「本当に…とんでもないことになったわね…」

 

「……うん、そうだね」

 

「咲は?寂しがっていたんじゃないかしら…?」

 

「強がっていたけど、かなり寂しがっていたと思う。できれば毎日連絡したいけど…」

 

「一月でコンディションを整えないといけないんでしょう…スケジュールもかなりハードになるわね…」

 

「…………母さん、人の心配しているなら自分の心配してよ…母さんだって、昔と比べると力が落ちてきているんだから」

 

「わかってるわ大和…ありがとう。さて、私達も寝ましょう。明日早いんだし」

 

 早急に寝間着に着替え布団に入る鳳翔。大和も寝間着に着替えて、布団に入り目を閉じた。そして考えた。今自分が何をするべきか。

 

(今自分ができること…早急にコンディションを整えて、すぐに出撃できるようにしないと。もし私が…いえ、私達が負けるようなことがあれば……あ、いけないいけない!マイナス思考はだめ!今はもう寝よう…明日から訓練だから…)

 

 そして、ゆっくりと深呼吸をしていく。呼吸を整えていくうちに大和は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー柱島鎮守府

 

「……えぇ、つい先ほど元帥から連絡が入りました。加賀さんが明日の早朝にこちらに戻ってくるそうです。艦隊全体の戦力を上げるため、加賀さんが戻り次第訓練を実施することになりました」

 

「あいよ提督…絶対駆逐水鬼を見返せるように強くなってやるさ」

 

「……ところで、これは一体どういう状況なんですか?」

 

 京が首を傾げながら周囲を見る。現在、元帥からの報告をするために訓練場にいるのだが、周囲には摩耶や長良、時雨に夕立など武闘派揃いが揃っている。もちろん白露もいるのだが、その白露は壁の方に逆さまになり倒れていた。訓練場の真ん中には星羅と怜王が仁王立ちで立っている。小次郎も一緒にいるのだが、倒れている者達を運んでいる。

 

「か…母さんと怜王兄と組手していたんだけどさ…全員がぼろ負け…摩耶に至っては、柔軟の時点で悲鳴を上げてたしな…」

 

「は…はぁ…これはまた…」

 

 目を丸くしながら星羅と怜王を見る京。星羅と怜王は余裕の表情で、しかも変なポーズをとっている。

 

「わ~ははははは!甘いわねあなた達!まだまだこんなのじゃ接近戦は極められないわよ!」

 

「そうよ皆!私と義姉さんを見習いなさい!」

 

『げ…元気だな~…二人は…』

 

 端の方に運ばれながら、同じことを思う一同。一体全体、どういう鍛え方をすればここまでになるのかわからなかった。あまりの様子に呆気にとられていた京だが、思い出したように時雨に話しかける。

 

「あ、そうだ時雨さん!10日後の西村艦隊とのイタリア旅行。言っていいと元帥から言伝がありましたよ」

 

「…え⁉行って大丈夫なの⁉だって、今かなり大変な状況なのに…」

 

「戦争が激化する前に、思い出を作って来なさいとのことでした。横須賀の方には、長門さんが応援として駆け付けてくれるそうです。なんでも、S級1位が大本営に着任したそうです」

 

 その話に全員が驚愕した様子だった。だが、ここにいる全員がS級1位がどういう人物なのか、艦種はなんなのかもわからない。うわさ程度しかわからないし、その噂も信憑性に欠ける。だが、S級1位がきたということは、少しでも戦況を変えれるかもしれないと希望が持てる。だが、自分達も練度を上げていかなければならない。

 

「行って来いよ時雨…少しでも思い出作って来な」

 

「白露……うん、お土産もたくさん買うね」

 

「雫!向こうの景色とか写真撮ってきて頂戴!」

 

「思う存分楽しんできなさい!こっちは安心していて頂戴!」

 

 少し困り気味に頷く時雨。みんなには申し訳ないが、お言葉に甘えることにした。だが、時雨はこの時、10日後に思いもよらない出来事が起こるとは思っていなかった…。何せ、山城はたった1回を除いて、不幸を呼び寄せることが多いのだから…。

 

 

 

 

 

 




山城「…なんか、最後に不穏な空気か(゚Д゚;)」

時雨「番外編の伏線がここで回収されるなんて…」

山城「ということで、次回はとうとう私達西村艦隊のイタリア旅行よ!にしても白露…あなた本当最近出番ないわね…」

白露「…うるせ」


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67話 西村艦隊のイタリア旅行①

こんばんわ~!
集中して小説を書いていったら、あっという間にできてしまった…。
今後は、1章の直しを集中してやっていこうと思うので、最新話はまた少し時間がかかりそうです…。
ではでは、最新話です!


※追記 第1章で名前だけ出ている狂種達の異名を以下に変えています。
大量虐殺(ジェノサイド) 破滅(パグローム) 無手勝流(エゴイスト) 
追跡者(トラッカー) 起死回生(リバイバル)
ちなみに明石は起死回生(リバイバル)です!


ーーー横須賀第2鎮守府

 

「…………」

 

「や…山城、そんなに険しい顔をしてどうしたの?」

 

「……え?なんでしょう姉様?私はそんなに険しい顔をしていませんよ…」

 

「か…鏡を見てごらんなさい。ほら…」

 

 扶桑が山城の前に手鏡を構える。山城自身も気づいていなかったが、かなり険しい顔をしていた。一見怒っているように見えるが実はそうではない。山城はかなり緊張していた。それは明日、いよいよイタリア旅行だからだ。今現在、それぞれが準備をしているところだ。2人もある程度荷物をまとめているので、あとは晩御飯を食べて、風呂に入って寝るだけだ。

 

「い…いよいよですね姉様」

 

「えぇそうね!明日が楽しみね山城!」

 

「ふ…不幸なことが…お…起きませんよね?」

 

「時雨が来るからきっと大丈夫よ!あの子がいればきっと不幸なことなんて起こらないわ!」

 

「た…確かに幸運艦と呼ばれたあの子と一緒にいれば大丈夫かもしれませんが…それでも不安です…」

 

 確かに、時雨は幸運艦と呼ばれるだけあって、普段から運がいいのは確からしい。本人曰く、くじ引きで3等以内を引いたことがあったり、アイスを食べたときに当たり棒が8割がた当たったりしたことがあるらしい。ちなみに山城は先日の一等賞を当てたときしかない。アイスも当たりを引いたことはこれっぽっちも無いのだ。考え事をしていると、不意にドアからノック音が聞こえ誰かが入ってくる。後ろを見ると最上が入ってきたようだった。手にはキャリーバックを持っている。

 

「二人とも~!準備できてる?」

 

「えぇ!大方準備できてるわ!……ところで最上…その袋は?」

 

 扶桑が指をさしたのは肩にかけていた袋だ。少し大きめのもので中から”かしゃかしゃ”と音が聞こえていた。最上は笑顔で中に手を入れると勢いよく取り出し扶桑に見せる。

 

「もちろん!瑞雲の模型だよ!」

 

 一瞬、扶桑は最上が何を言っているのかがわからずフリーズしてしまう。山城も同様に世界が白黒になったような感覚に陥った。そして、我に返り頭を左右に振った後に最上の手から瑞雲を乱暴に奪った。

 

「瑞雲はいらないわよ!」

 

「えええええええ(゚Д゚;)そんな~…もっていかないとほこりまみれになっちゃうじゃないか~!」

 

「瑞雲の掃除だったら三隈にでも頼みなさい!別にもっていかなくてもいいでしょう!」

 

「せ…せめて一つくらい(´;ω;`)」

 

「余計な荷物になるからいらない!」

 

「む~………ん?」

 

 ふと、荷物が置いてある方に目を向ける。キャリーバックの他にも、リュックがおいてあり、チャックが空いていたため中身が見えていた。その中を注視してみると、お守りのようなものが入っているように見えた。それも一個や二個じゃない。数えきれないほどのお守りがあった。中にはお札のようなものもある。

 

「ねぇ…二人とも。あのリュックの中身何…?」

 

『……不幸を跳ね除けるためのお守り……』

 

「別に一個だけでいいじゃないか(# ゚Д゚)二人も人のこと言えないじゃん!」

 

「うるさいわね(# ゚Д゚)こちとらどれだけ不幸な目にあっていると思っているのよええ!こないだも深海棲艦の砲撃がどういうわけか私に集中放火したり、演習で海防艦の子達が投げた爆雷が私の方に飛んできたり、羊羹を食べようとしたら利根がお茶を吹き出して羊羹にかかるし踏んだり蹴ったりなのよ!イタリア旅行に行ったら、確実に不幸な目に会うに決まっているじゃないのよ!これぐらいお守りが無いと不安なのよ!」

 

「だったら僕だって模型の一つ二つ持って行ってもいいよね!僕だって模型を眺めていないと落ち着かなくなっちゃうときがあるんだから!模型好きじゃないとわからないこだわりっていうものがあるんだよ!」

 

「4日くらい我慢しなさいよ!写真でもいいでしょ!」

 

「写真じゃダメなんだよ!現物じゃないと!」

 

「いい加減うるさいのよ!ていうかなんの言い争いをしているのよ!!」

 

『ごふ(;゚Д゚)』

 

 言い争いをしている二人の頭上に、突然キャリーバックが直撃する。かなり痛かったようで、二人とも頭を抱えてうずくまっている。すぐ横には満潮が立っており、どうやらキャリーバックを二人の頭上に落としたのは彼女のようだった。

 

「み…満潮…痛いよ…」

 

「何をするのよ満潮!キャリーバックを頭に落とす人がいる!」

 

「二人がくだらないことで言い争っているからでしょ!最上も瑞雲の模型なんかもっていかないの!手入れだったら三隈に頼みなさいな!山城も扶桑もお守りは1人1つずつにすること!わかった!」

 

『え~…』

 

「…わかった?

 

『は…はい…』

 

 あまりの剣幕に不服だった二人は黙ってしまう。最上は模型を片付けに行き、山城もカバンからお守りを出していた。満潮は二人の様子を見届けた後に扶桑の腕をつつく。目は少し呆れているようだった。

 

「扶桑もちゃんと注意しないとだめよ…こういう時はガツンと言わないと…」

 

「ごめんなさい満潮…私どうしてもそういうのは苦手で…」

 

「…まったくもう…尻拭いをするの私達なんだからね…ちゃんとしてよね…」

 

 満潮の言葉に、少し落ち込みながら山城の手伝いをする。満潮は落ちていたキャリーバックを拾い山城達がおいていた荷物の近くに置く。一度全員でここに集まって荷物を確認することになっているのだ。万が一変なものをもっていこうとしないか確認をするためだ。まぁ、もうすでに変な荷物を持っていこうとしていたようだが…。ここにきていないのは、朝雲と山雲だけだが、あの二人なら変なものを持っていくことは無いだろう。考え事をしていると、朝雲と山雲、少しへこみ気味に最上が帰ってきた。

 

「やっほ~!お待たせしたわ~!ちゃんと準備できているかしら~?最上さんがすごいへこみようなんだけど~?」

 

「模型を持っていくことができないことへのへこみだから気にしなくていいわよ山雲。朝雲は準備大丈夫なの?」

 

「持ちのろんよ満潮!」

 

「じゃあ、全員荷物の確認と行きましょうか。いいでしょ山城?」

 

「…はぁ…最上と言い争いをするし…キャリーバックは頭に直撃するし…満潮に怒られるし…お守りはそんなに持っていけないし…はぁ…不幸すぎる……なんなのよもう…」

 

「…おいこら旗艦!」

 

「わ…わかったわよ!皆バックの中身開けて!荷物確認するわ!」

 

 そして、全員が中身を広げる。4日分の服に、下着、寝間着。美容用品などが入っていた。キャリーバックの中には余計なものを入れていなかったようで、すんなりと荷物を確認できた。あとは、リュックやカバンに財布などの貴重品をいれればそれで準備万端だ。

 

「さてと…あとは時雨ね…明日出発だけど、時雨は今どうしてるんだったかしら?」

 

「もう昨日のうちに連絡があったじゃない…今日のうちに東京のホテルに一泊して、空港で直接集合って手筈よ」

 

 そう、時雨は今東京のホテルにいるらしい。メールによれば、父親と一緒だそうだ。柱島から直接行くのは遠すぎるため、一日前に東京で待機するそうだ。山城達の場合、場所が神奈川のため朝一の電車に乗って空港まで行くことになっている。

 

「ふ~ん…父親と…ねぇ…」

 

「…いろいろあったけど、関係は良好だそうよ。今は家族全員で組手したりしてるって。さぁ、確認も終わったし、ご飯行きましょう」

 

「そうね~!山雲おなかペコペコよ~!」

 

「私もおなかペコペコ~!ご飯大盛りにしようかな~!」

 

「…瑞雲の模型…うぅ(´;ω;`)」

 

 満潮達が部屋から出るのを見送った後、山城は少しだけその場にとどまる。そして、ゆっくりと立ち上がった後に少しうつむいた。時雨の話を聞き少し昔のことを思い出したためだ。親との思い出は一切ない。それどころか不幸体質のせいでいつも気味悪がられていたし、暴言暴力もあったのだ。扶桑も同じだ。親戚同士の集まりがあったときは二人だけいつも仲間外れにされていたほどだった。

 

「…親…か…」

 

「山城…私達も行きましょう。ご飯を食べて、お風呂に入って早めに寝ましょう」

 

「…はい」

 

 そして、二人も食堂の方に向かった。そのあとは、少しバタバタしたりはしたが、明日に備えてそれぞれがゆっくり休んだそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー東京 とある空港

 

「…………出発までまだ時間に余裕がある。すごくある…出発時間は午後の12:50…今の時刻は09:24…余裕があるのはいいわ…すごくいいけど……いいんだけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遅い!時雨!……いえ、雫はいつ来るのよ!9時半までには来て、空港で少しお茶とかご飯を食べて時間を潰して、出発に備える算段だったはずじゃない!約6分前になったのに、まだ来ないってどういうことよ!!普通は集合10分前までには来るでしょうが(# ゚Д゚)」

 

「や…八重!落ち着いて…落ち着いて!ね!」

 

 今現在、6人は空港のロビーで待機している。前日のメールで早くに空港に来て、時間を潰そうかという話になったのだ。しかし、時間の数分前になっても時雨…もとい雫が来なかった。携帯を見てもメールは来ていない。既読がついているから見てはいるだろうが返信が来ていないのだ。山城は貧乏ゆすりをしながらかなりいらいらしている様子だった。ちなみに、今は艦娘としての名前を言えないため、全員が真名で呼び合っている。山城は八重、扶桑は紗枝、最上は静香(しずか)、満潮は美代(みよ)、朝雲は朝香(あさか)、山雲は奈央(なお)だ。朝香は携帯をいじりながら話す。

 

「本当に朝が弱いみたいね…焔からのメールに書いていたんでしょう八重…」

 

「…えぇ…焔からメールが来たときは少しびっくりしたけどね…まさかあの子から来るなんて…しかも、雫の注意するべき点ですって…朝と寝るとき限定みたいだけど…」

 

 曰く、焔から雫についてメールが来ていたそうだ。内容はこうだ。

 

(1つ…朝が極端に弱いから無理やり起こせ…ただし、大声出しても、ゆすっても起きないときがあるからそのときは体ごと起こして揺らせ!それでも起きなかったらあとは知らん。2つ…寝るときに甘えモードになるときがある。現に私と母さんの布団に潜り込んで腕に抱き着いてくることが週に3~4日ある。誰かの腕に抱き着きたいって言ったときは潔く受け入れろ…以上)

 

 だそうだ。

 

「……皆、旅行中、雫が起きなかったらなんでもいいから無理やり起こすわよ!それから、夜誰かと一緒に寝たいって言われたら、受け入れなさい。3泊4日よ…確実に誰かのベッドにもぐりこむ…もしかしたら、3日のうちに全員の布団に潜り込んだり(;゚Д゚)」

 

「まぁ!それはそれで可愛いじゃない!せっかくの機会だし、その時は一緒に寝てあげましょう!」

 

「甘いですよ姉様!あの子もう18歳なんですよ!世間一般でいえば高3ですよ!わかってますか!」

 

「メールの続きに追伸があったのでしょう…甘えん坊になった背景が書いてあったとか…」

 

 その言葉に、八重はぐうの音も出なかった。焔のメールには続きがあった。追伸でこんなことが書かれていたのだ。10年間親に甘えることができなくて私に甘えることが多かった。やっと親に甘えられるようになったから、少しはましになったけど…。あとは、不安を紛らわせるために誰かのそばにくっつきたいんだと思う。だから頼むわ…と。

 

「……抱き着かれる…」

 

「…抱き着かれて一緒に寝る…」

 

「一緒に寝る…」

 

 美代、朝香、奈央は顔を見合わせる。雫に抱き着かれて一緒に寝る光景を思い浮かべた。焔の話によれば、完全に腕にしがみついて離さないのだとか。まだ会ってから間もないし、そんなに交流もないがその様子を想像するだけで、ギャップ萌えが生じてしまった。

 

「ね…ねぇ二人とも。な…なんていうか…その…」

 

「…さ…されてみたいって気もあるわよね?」

 

「すご~くギャップ萌えするわね!飛行機の中でもしてくれるかしら!」

 

 ピクっと、全員の眉が動く。八重はすぐに頭を左右に揺る。紗枝はすごく落ち着いた様子で全員を見ていた。他の4人は目は笑っているが、何やら背後に炎が出てきていた。

 

「それならさ~…誰が雫の隣に座るか決めようか~!僕も交流は少ないけど、なんだろう…今の話を聞いてちょっと興味が沸いたよ!」

 

「奇遇ね静香ぁ。私もそう思ってたわ~!」

 

「雫の隣は朝香で決まりね!」

 

「な~に言ってるの~!隣は奈央よ~!」

 

 全員がバチバチの火花を散らしているようだった。なんでこんなことで争ってるのやら…と八重は思ったが、雫の印象から人に甘える様子がなかなか想像できなかったのだろう。多分それで変に火がついてしまったようだ。八重は呆れながら右手を突き出す。

 

「だったら、私にじゃんけんで勝った人が雫の隣ね!」

 

『え⁉』

 

「はい、じゃ~んけ~ん…ぽん!」

 

 八重の掛け声に咄嗟に全員が手を出す。八重が出したのはチョキ。八重に勝ったのは美代の一人。つまり美代の一人勝ちだ。美代はガッツポーズをしながら椅子に座る。そして、3人にどや顔をする。3人は悔しそうな顔をしていたが、じゃんけんで決まったものは仕方ない。そうこうしていると、後ろの方から声がした。少し焦っているようで、足音が少し早かった。

 

「ごめんみんな!待った!」

 

「っ!遅い!15分も遅刻よ!あなたね!ちゃんと集合時間は守りなさ…」

 

 八重は雫の姿を見て言葉を失ってしまった。以前会ったときの制服の姿が印象強かったためか私服姿をみて言おうとしたことが吹っ飛んでしまった。何せ、服装はノースリーブのシャツにネクタイをして、青色のスカートをはいている(俗にいうロー〇ンコラボの服装)。その姿を見て、八重は強い衝撃とともに数m吹き飛んでしまう。

 

「チ~ン(*_*;)…」

 

「や…八重ええええええええええええ(゚Д゚;)」

 

「え…え⁉だ…大丈夫!」

 

 少しの間、気を失った後起き上がる八重。一瞬ぼーっとしていたが、頭を左右に思いきり振り雫に詰め寄る。そして、鬼の形相で怒鳴った。

 

「雫‼‼あなたね、約束の15分前に来ないってどういうことよ!皆20分前にはここに来てたのよ!集合時間の10~15分前に来るのが普通よ普通!いつまでも周囲に起こされてないで、自分で起きる努力をしなさい!わかってるの⁉」

 

「ひっ!ご…ごめんなさいやまし…八重…今日が楽しみすぎて、眠れなかったのもあって…あと、服を何着ようか迷っていたら…時間が押しちゃって…」

 

「言い訳却下!次からはちゃんとしなさい!………ふぅ…説教はここまでにして、皆も何か言うことがあれば…」

 

「…ど…どうしよう…すごくかわいい…」

 

「は…破壊力がすごすぎる…」

 

『た…耐えられないわ~…』

 

「あらあら、静香と美代は膝をついてるし、朝香と奈央は倒れちゃってるわね!」

 

 全員の様子をみて、八重は頭を抱える。雫の私服があまりにもすごすぎたから。ちなみに、八重と紗枝の服装はおそろいの白いワンピースに黒いパーカーを着ている。美代はジーパンに白いTシャツ、首にはパーカーを縛っている。静香は”瑞雲”と書かれたTシャツにジーパン。朝香は白いTシャツに赤色の半袖パーカーに短パンのジーパン。奈央も朝香と同じ服装をしている。全員の様子を見て、八重は眉をピクピクする。ギャップ萌えに苦しむのもいいが、この子にちゃんと注意してほしいものだと思った。

 

「……遅れたのは申し訳なかったな……如何せん、こいつがなかなか起きなくてよ…」

 

「お…お父さん!言わなくていいから!」

 

「……こいつ、夜寝れなかったのと、朝全然起きれなかったのもあってな……俺が声掛けても、揺すっても、体を無理やり起こしても起きやしねえ……最終的に、俺が手のひらのツボを押して、痛みでたたき起こして、そのあとすぐに肩のツボを押して、眠気を覚醒させた。起きたのは9時頃だ…。そのあとは服選びに手間取うわ…化粧をどうするかで手間取うでよ……」

 

『ちょっと何それΣ(・□・;)やだ超可愛いんですけど(゚д゚)!』

 

「あなた達!さっきからキャラが壊れすぎよ!」

 

「まぁ、それほど旅行を楽しみにしていたのね!うれしいわ雫!」

 

「う……うぅ……」

 

 もはやどうもできなかった。むしろ、どうすればいいかわからなかった。八重は頭を抱えた後に、父親である小次郎を見る。小次郎は非常に申し訳なさそうにし、頭を掻きながらつぶやいた。

 

「……娘を頼む……俺も親として、こんなことを言えたことではないが……10年……10年もこいつらに寂しい思いをさせちまった。こいつは意外と繊細だ…だから……」

 

「……はぁ。わかってます。この子は、私達が責任をもって預かります。だから、安心してください」

 

 八重の言葉に、小次郎は安心したように微笑む。そして、雫の背中を叩いた後に、踵を返した。

 

「……楽しんで来い……土産……待ってるぞ……」

 

「うん!行ってくる!」

 

 小次郎は背を向けたまま、手を振る。雫も手を振って小次郎を見送った。そして、小次郎の姿が見えなく経った後に静香が詰め寄り、雫に質問をする。

 

「ねえ雫!聞いていい?お父さんと何か話した?二人っきりだったんだよね?」

 

「え⁉……その…大変な思いをさせてすまなかっただとか、謝罪しか言わなかったよ…」

 

「…え?もしかして、シリアスな感じ⁉」

 

「う…うん……あのね、お父さん…僕達を逃がすこととか、実家を滅ぼすために、おじさんと画策したりしててさ……僕達を逃がしたのはよかったけど、そのあと……お母さんが行方知らずになって……かなり落ち込んだんだって……それで、自分の犠牲をもいとわなかったり……」

 

「はいストップ!」

 

 雫のほっぺに、紗枝はすかさず両手で引っぱたく。雫は訳の分からない表情でいたが、紗枝がやさしく声をかけた。

 

「あなたがいろいろ苦労したことは、焔から聞いているわ。でも、今はそんなことを言うのは無しにしましょう!せっかく旅行に行くんだから、楽しみましょう!ね?」

 

「……うん!」

 

「さ、雫も合流したし、どこかで時間を潰せるところを探しましょうか。朝香と奈央もさっさと起きる!」

 

 2人をたたき起こし、荷物をもって空港内を探索する。現在の時刻は10時前だ。とりあえず、喫茶店でもどこでもいいのであたりを見渡す。ちょうど空いている喫茶店があったので、そこで時間を潰すことにした。昼食もここで取れればいいだろう。適当に飲み物を頼み、全員がいろいろと話をする。最近の様子や鎮守府のことなどいろいろと。ただし、艦娘だと知られるのはまずいため、鎮守府のことを職場と言っている。万が一テロリストにでも狙われたりしたらひとたまりもないためだ。

 

「本当最近、私また不幸がおきすぎているのよね…」

 

「八重は本当に職場でも集中砲火を浴びるよね…特に頭に…前も僕が操縦(発艦)していたラジコン(瑞雲)が当たったし…」

 

「…うぅ…」

 

「羊羹を食べようとしたら人が吹きだしたお茶がかかったりしたものね……あれはすごく気の毒だったわ…」

 

「同情するなら運を頂戴…美代…」

 

「無理…」

 

「く…暗くなってしまうから違う話でもしましょう!そ…そうだわ!まずはローマに着くのよね!そのあとはどうするのかしら?」

 

「…ええっとですね姉様…ローマに着いて、まずはホテルでチェックインを済ませて大きい荷物を置きます。そのあとは観光ですね」

 

「首都のローマだから、観光できる場所がたくさんあるね!コロッセオに、大聖堂とかもあるよ!」

 

「ご飯とかも食べたりしてたらあっという間に時間が過ぎるわね」

 

「夜はホテルでのんびりして~、皆でゲームとかしたいわね~!トランプとか、いろいろ持ってきてるわ~」

 

「7人全員が泊まれる大部屋みたいだし、移動もしなくていいから楽ね…あとは誰がどこのベッドで寝るか…」

 

「それは向こうでおいおい考えればいいでしょう…っと、そうこう話してたら結構時間が過ぎたわね。ここでお昼を食べて、搭乗口の方に行きましょうか」

 

 時間を見ると、11時半近くになっていたため食事を頼むことにした。フレンチトーストやサンドイッチなどがあったためそれを頼む。しばらくすると、店員がメニューを持ってくるが、テーブルの近くまで来たときに躓いてしまい、お盆が空を舞う。そのお盆は、八重の頭上まで来ている様子だった。八重は現実を理解できず固まってしまうが、横に座っていた雫がすぐに立ち上がり空を舞っていたお盆を蹴り上げる。そして、落ちてきたお盆を手に取り、お皿と盛っていた食事をこぼすことなく乗っけることができた。その様子を見ていた店員はもちろん、周囲のものも呆気に取られていたが、状況を理解できたときに拍手をしていた。雫は少し恥ずかしいのか、照れている様子だった。

 

「も…申し訳ありません!大丈夫でしたか!」

 

「うん!ご飯もどこにも飛び散っていないから大丈夫だよ!」

 

「ありがとうございます!それと、すごく格好良かったです!ありがとうございます!」

 

 何度もお礼を言いながら、店員は下がっていく。その後も順に食事が運ばれてきたが、店員が躓くことは無かった。全員分の食事がきたときに、八重がおもむろに口を開く。

 

「ねぇ雫…次から気を付けなさい…スカートでしょ…」

 

「スパッツを履いているから、たぶん大丈夫だよ!」

 

「そ…そう…あと姉様…」

 

「うん?どうしたの八重?」

 

「な……なんか……雫がいれば私の不幸も起こらない気がします!だって、今私の頭に直撃しそうだったお盆が来なかったわけですし°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°」

 

「ま…まぶしい(;゚Д゚)ねえ皆…気のせいかな?僕、八重がイタリア旅行を当てたとき以来の輝きに見えるんだけど!」

 

「き…奇遇ね静香…私もよ…」

 

『雫パワー…恐るべし…』

 

「まぁ!よかったわね八重!これなら、イタリアへ行ってもきっと大丈夫ね!」

 

 きらきらした様子を見せながら、食事をする八重。食事を食べ終えて、店を出るまでずっと上機嫌だった。歩きながら鼻歌まで歌ってしまう始末だ。一行は、そのまま何事もなく搭乗口の方まで行くことができた。そして、八重がチケットを配ろうとする。

 

「え~っと…じゃあこれからみんなにチケットを……」

 

 しかし、配ろうとしたときに手を止め、先ほどのやり取りを思い出す。さっき、雫の隣をめぐってじゃんけんをしていたが、雫の席によってはもう一人隣に座れるのではないかと思った。チケットから全員に視線を向ける。案の定じゃんけんで負けた3人組が睨み合っているようだった。雫は訳の分からない眼で3人を見ていたが、美代と紗枝が雫を連れて空いている席まで歩いて行った。

 

「……このじゃんけんに勝ったら…」

 

「雫の隣に座ることができる!」

 

「負けませんわ~!あ、ちなみに奈央はグーを出すわ~!」

 

「…はい?」

 

「いやいや奈央…そんな典型的な罠に引っかかるわけ…」

 

「やっぱりパーを出すわね~」

 

⦅待って待ってどっち⁉グーなの!パーなの!⦆

 

「……あほくさ…」

 

 結果、二人は奈央があえてチョキを出すと予想しグーを出したが、パーを出した奈央が一人勝ちとなった。八重は呆れながらチケットを渡していき搭乗時間になるまで席で待機をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あわわわわ(;゚Д゚)ね…姉様!と…飛んでる!変な事故とか起きて、墜落とかしませんよね!」

 

「や…八重、心配しすぎよ!幸いにも、深海棲艦の攻撃は飛行機が飛んでいる高度まで来ることは無いみたいだし…」

 

「そうだよ八重!心配しすぎだよ!飛行機同士で衝突でもしない限りそんなこと無いって!…………しょ…衝突……あわわわわ(゚Д゚;)」

 

「静香も緊張しすぎよ!リラックスしましょう!ね!」

 

 無事に飛行機に乗ることができ、とうとうイタリアに向け出発した。席は全部で10列あり、席順は右側の窓から奈央、雫、美代、朝香、静香、八重、紗枝の順だ。八重と静香は不安で体を震わせている。静香に至っては、艦時代の記憶がよみがえってしまったためか白目を向いている。

 

「もう…飛行機くらいで心配しすぎよ…ねえ?」

 

「本当……これくらいで騒がないでほしいわ…皆、ガム食べる?気圧の変化で耳が変になるらしいし」

 

「は~い、食べるわ~!」

 

「じゃあ僕も」

 

 美代達は落ち着いた様子で座っている。売店で買ったものなのか、ガムを3人に配った。しばらくし、外を眺めてみるとフライトは順調なようで今現在は雲の上だ。シートベルトのマークも赤く点滅していないから問題は無さそうだ。だが、日本からイタリアまでのフライト時間は14時間。時差は8時間らしいから日本時間で明日の15時くらいに着く予定だ。その時のイタリアは朝の7時くらいだろう。その14時間で何をして時間を潰そうか悩んでいた。

 

「ねえ奈央、トランプ持ってきてたわよね?今ある?」

 

「ごめんなさいね~…。キャリーバックの中よ~…」

 

「美代~…何かある?」

 

「…ないわね…」

 

「雫は~?」

 

「…ごめん、僕もないや…」

 

 頬を膨らませながら背もたれにもたれかかる朝香。仕方ないので携帯をいじって時間を潰す。しかし、何か思いついたようで美代達の席に身を乗り出した。

 

「ねえねえ!モン〇トしない⁉4人でできるしちょうどいいわ‼」

 

「…モン〇ト?」

 

「雫知らないの?携帯アプリで4人でできるゲームよ!私達、3人でよくやってるの!さっそくアプリをダウンロードして、皆でやりましょ!」

 

「いいわね!時間を潰すのにもってこいね!」

 

「そこまで言うなら、ダウンロードしてみるかな」

 

 そして、雫は言われるがままにアプリをダウンロードする。チュートリアルなどいろいろやった後に、全員でクエストをする。すると、かなりはまったようで全員で何度もクエストを繰り返した。携帯の充電が20%を切るまで集中してやり込むと、雫のレベルもかなり上がっていたようだった。だが、それだけやっても1時間以上たっているか立っていないかだった。携帯の充電中、不意に八重達の様子が気になったため様子を見てみると、3人とも読書中のようだった。仕方ないのでラジオを聞いてみるが、最近の戦況についてや、事件や話題のあるものの話が中心だった。

 

「……暇ね」

 

「…そうね~…どうしましょ~?」

 

「……携帯の充電まで時間がかかるし…どうしようか…雫は何か思いつく?」

 

 美代が雫の方を見ようとしたときに、不意に肩にもたれかかってきた。急なことにびっくりしたが、眠れなかったことも関係あるのか少し眠そうだった。

 

「疲れてるんだったら、少し寝たら?」

 

「…う……うん…そうする……ごめん…少しだけ…」

 

 そう言って、雫は美代の腕に抱き着いて、すぐに寝息を立てた。美代はしばらく固まってしまうが、雫の様子を見て少しだけ笑いながら頭を撫でる。隣にいる奈央や朝香が羨ましそうに美代を見ているが美代は勝ち誇ったように左手の親指を立てる。その様子に二人は頬を膨らませているようだった。

 

「……何してるんだか…」

 

「いいんじゃない。美代達も雫のああいった様子がみれてうれしいんじゃないかな?」

 

「静香も雫の隣を狙ってたじゃない。本当は今すぐにでも抱き着かれたいんじゃないの?」

 

「時間があるからそのうちのどこかでしてもらいたいよ(*^^)v」

 

 呆れながら頭を抱える八重。一度深く深呼吸をして、上を見上げる。そして、紗枝の方も一度見てみるが、4人の様子を親のように見守っている様子だった。

 

(まぁ…たまにはこういうのもいいか……あ、忘れるところだった)

 

 八重は携帯をとりだし、雫達のいる方にカメラを向ける。写真を撮った後に、誰かにメールを送っていた。

 

「八重?誰かにメール?」

 

「えぇ、姉様。あの子に報告しとこうと思って」

 

「あの子…あぁ、なるほどね」

 

 メールを送り、背もたれに持たれる。ゆっくりと深呼吸をした後に、上を見上げた。自分の不幸体質があるから少し不安ではあるが、この機会を楽しんでこよう。そう思いながら、目を閉じて少し休むことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まったく、飛行機の中でいきなりやるとはな…」

 

 訓練場で携帯を眺めていた白露。携帯には、飛行機の中の様子が移されており文面にはこう書いてあった。

 

(早速飛行機の中で甘えているわ…まだ、出発したばかりだけど、楽しそうにしているわ)

 

 白露は安心したように笑い、背伸びをしながら立ち上がる。周囲には訓練中なのか、摩耶や長良、夕立が倒れていた。もちろん、すぐ近くには星羅と怜王がいる。全員近接戦闘の訓練中なのだ。白露は、一度上を見上げた後に二人に向かって駆けだす。それと同時に心の中でこう思った。

 

(楽しんで来いよ雫!こっちはこっちで、ちょっと大変だけどな!)

 

 西村艦隊の旅行は、まだ始まったばかり。そして、白露達の地獄の訓練も、まだまだ続いていきそうだった。



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68話 西村艦隊のイタリア旅行②

めっちゃ久しぶりです!前回の投稿から4か月以上たってしまいました…。
イタリア旅行の続きです。西村艦隊の面々の人間としての名はこちら。
山城→八重 扶桑→紗枝
満潮→美代 朝雲→朝香
山雲→奈央 最上→静香
時雨→雫

です!


「……うん」

 

 出発してから約6時間近く。少しうたた寝していた美代。右腕には相変わらず、雫が抱き着いて寝ていた。雫が寝ている間、美代は暇を潰すために携帯をいじったり、テレビを見たりしていたが、いつの間にか寝ていたようだ。周りを見ると、他の皆も寝ているようであり、特に朝香は体がかなりずれておりよだれを垂らしているようだった。やれやれと思いつつ少し座りなおす美代。しかし、ある問題があることに気が付いた。

 

(どうしよう…トイレに行きたいわ…)

 

 大分時間が経っているため、そろそろトイレに行きたくなったのだ。しかし、前述したように右腕には雫が抱き着いている。雫の腕をどうにかして解きたいが、美代に寄りかかっているためもあるのかなかなかほどけない。窓際にいる奈央を見ると、壁に寄りかかり寝ているが、何とか手が届きそうだった。雫を起こさないようにどうにか手を伸ばし太ももを叩き小声で話した。

 

「奈央、ねえ奈央!」

 

「…ん~……な~に~美代~…?」

 

「トイレに行きたいの!雫の腕を解くの手伝って!」

 

「ん~……わかったわ~」

 

 奈央は、眠い目をこすりながら雫を少しだけ起こす。そして、腕を少しずつ解いていった。かなり爆睡しているためか少し起こしても、腕に触れても雫は起きることは無かった。美代は席から立ち上がると少しだけ体を伸ばす。長時間同じ体制でいたためか、体の関節がなる。少し固まってしまっていたようだ。美代は一旦雫の方を見る。そして、頭を少し撫でてあげる。

 

「本当…普段の様子とはかけ離れているくらい甘えん坊ね…」

 

「そうね~…本当に甘えん坊さんだわ~」

 

 雫を見ながら、しばらくぼーっと立ち尽くす美代。少し俯きながら小声でつぶやいた。

 

「……いいなぁ……家族か…」

 

「ん~?そうね~…私達~、施設育ちだもんね~…」

 

 美代と奈央、朝香は全員同じ施設の出身だ。幸い、施設の環境は良かったため、それほど苦労はしなかった。今でも、お世話になった恩返しのために3人の給料から仕送りを送っている。だが、家族と一緒に過ごしている雫のことが羨ましいと思っているのも事実だ。親のような存在はいたが、美代達に肉親はもういないのだから。

 

「……考えても仕方ないか…トイレしてくるわ」

 

「待って~。奈央も行くわ~!」

 

 美代と一緒に奈央もトイレへと向かう。幸い、ほとんどの搭乗客が眠っているためか、トイレは空いていた。トイレを済ませ、席に戻っていくと、雫は奈央の席に方に体をもたれかかっていた。もちろん爆睡している。奈央は苦笑いしながら、雫の体を起こし、席に座った。美代も雫の様子を見ながら席に着いた。

 

「雫~、少し体を起こすわよ~」

 

「…う…う~ん……お母さん…」

 

 寝言を言いながら、奈央の腕に抱きつく雫。奈央は一瞬驚いた様子だったが、雫の頭を撫でて微笑む。美代は少し頬を膨らませながら奈央を見るが、ずっと腕に抱きつかれていたからいいか…と思った。

 

「まったく…奈央はお母さんじゃないのよ…」

 

「夢の中でも、お母さんと一緒にいるのね~。10年間も離れていたから、それもあるのかしら~」

 

「そう……なのかな…」

 

「そんなものじゃな~い?……たぶ~ん…」

 

「私達親がいないものね…」

 

「ね~…」

 

 お互いに視線を合わせる。しばらく視線を合わせた後に、自然と笑顔になる。もう考えても仕方ないか…と思う。確かに、親はもういないが、親と同じ以上に愛情を注がれた。ならば、その人達に、受けた愛情を返そうと美代は思った。

 

(さてと、向こうに着くまでにあと8時間か…まだまだ時間はかかるわね…着くまで寝てるか…)

 

 到着まで、もう少し寝てようかと思った美代。隣を見るとどうやら奈央も同じことを思っていたようで、少し眠そうにしながらうたたねをしていた。美代もそれを見ながら、再び眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー柱島鎮守府 午後3時

 

(……よお、柱島鎮守府所属の摩耶様だぜ…唐突で申し訳ないんだけどよ…今すげえことが起きてんの…あたしでさえ驚愕するほどのな…具体的に何が起こってるのかというと…白露と、白露の母さんがキャッチボールをしているんだけどよ…それがすげえのよ…だって…)

 

 摩耶は、前方を見ながら身動きすら取れなかった。なぜなら、白露と星羅の投げている球が轟音を立てながら横切るのだから。キャッチする際も轟音を響かせている。まるで、大砲の球を受け止めているのではないかと思うほどだった。周囲には、五十鈴や長良など待機組が見学しているが、全員が目を丸くしているほどだった。白露と星羅は涼しい顔をしてキャッチボールをしており、強い衝撃などお構いなしの様子だった。

 

「いいわね焔!大分力をコントロールできるようになってきてるじゃないの!」

 

「にしても、よく考えたな!キャッチボールをするときに、受けた力をそのまま体にとどめるようにするなんてさ!」

 

「極めればわずかな衝撃でも、体にとどめることが可能よ!これは、その段階よ!」

 

(…なにこれ?本当にキャッチボールなのか?衝撃波が目の前にあるんだけど…何なら、ボールが音速を超えて目の前を通っているんだけど…え…なんなんだこれ(;゚Д゚)ていうか、よくよく見ると、球が見えねえ(;'∀')何?これ、消える魔球…ヒ〇ウマなのこれ?)

 

 口を開けながら、その場に座る摩耶。白露は訓練生のころから知ってるし、その時からやばいやつだとわかっていた。しかし、改めてこういう訓練を見ていると、化け物だとわかる。母親の星羅もそうだ。白露と同じくらい、下手したらそれ以上の力を持っている。球を投げるときの速さが白露以上だからだ。素人目からもわかる。弾速が尋常じゃない。それを受け止める白露もやはり大概ではないが。そうこう考えていると、キャッチボールを終えたようで、星羅がボールをキャッチした後に空中にいったん放った後、指先で回し始める。

 

「よし、ここまでにしましょう。体に衝撃を吸収するのが上達してるわね!衝撃を放出するのも、前より上達してるわ!寝てよし!」

 

「う…うん。少し、休むわ…」

 

 そういって、白露は地面に倒れこむ。はたから見ていたらそうでもないように見えるが、二人にとって体にかかる負担は多いのだろう。現に、白露は倒れこんでいるし、星羅も少し肩で息をしているようだった。

 

「す…すげえなおい…あたしもあの二人の領域に行けるかな…?」

 

「さ…さすがにそこまでは厳しいんじゃないの…」

 

「長良達じゃ、数年は確実にかかるね…」

 

 摩耶は、盛大にため息を吐く。そして、空を仰いだ。空を仰ぐと同時に、現在の時刻を確認する。今時間だと、時雨達はおそらくイタリアについているはずだからだ。

 

「お~い白露。そろそろ時雨達がイタリアについているはずだよな!」

 

「…ん?あぁ、そういえばそうだな。母さん、時雨……あぁいや、雫から連絡来てるか?」

 

「既読すらついていないわ。いつも通り、寝てるんじゃない?」

 

『いつも通りで済ますの(◎_◎;)』

 

 全員の返事を聞き、空を改めてみる白露。イタリアとの時差は約8時間。そろそろ向こうについていてもおかしくはないからだ。

 

「そろそろついているころか…時雨大丈夫かな…?」

 

 その心配が、後々とんでもないことになることを、この時の白露達は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーイタリア 首都ローマ

 

「…うん」

 

 ふと、目が覚める八重。眠り目をこすりながら窓のほうを見ると、ところどころ建物が見えたような気がした。何なら空港のようなものが見える。横を見ると、他のみんなも寝ているようだ。あくびをしながら背伸びをしていると、放送が入った。どうやら、もうすぐ空港に着くためシートベルトをしてほしいというアナウンスだった。そのアナウンスで隣にいた紗枝と静香、そして美代が起きたようだった。

 

「寝ていたら時間はあっという間だったわね…でも、少し疲れたわ…」

 

「そうだね…さすがに疲れたよ…」

 

「そうね…でも、この後宿泊先までいかないと行かないし、少し大変ね。その前に、まだ寝ている3人を起こしましょうか。静香、朝香を起こしてちょうだい。美代、雫と奈央を起こして」

 

 そして、静香は朝香を。美代は雫と奈央を起こす。朝香と奈央はすんなり起きたが、雫はそうもいかず、美代と奈央に何度も肩をたたかれ、ゆすられた。何度もそうしていると雫も目を覚ました。かなり眠そうだったが。

 

「さてと、全員目を覚ましたし、着くまでゆっくりしますか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空港に着き、荷物を搭乗口から受け取った後、入口のほうまで足を進める一同。目の前の景色に驚愕した。日本とは比べ物にならないほどの景色、建物。すごすぎて言葉が出なかった。

 

(す…すご!景色から日本とは違うわね(;゚Д゚)これがイタリア!)

 

「どうしたの八重?鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔をして?」

 

「眠り目をこすりながら言っているあなたに言われたくないわ雫。目の前の景色に感動しているだけよ」

 

「えぇ、八重の言うとおりね!空港の入り口からこんな景色を見れるなんて、とてもすばらしいわ!」

 

 目の前の景色に感動しながら、歩こうとする八重。しかし、そんな八重の手を奈央はつかんだ。何やら考えがあるのか、表情は笑みを浮かべている。

 

「どうかしたの奈央?早く宿泊先のホテルに向かいましょう」

 

「待って待って~!ここに来たらどうしてもやりたかったことがあるの~。みんな手をつないで~。ちなみに横一列ね~!」

 

 そう指示され、みんなで横一列に手をつなぐ。周りにも人がいるため、人通りが少ない場所で行う。奈央は、全員がしっかり横に並んでいるのを確認した。

 

「じゃあ、奈央が”一歩”って言ったタイミングで全員少し前に飛んでね~!は~じめ~の一歩!」

 

 そして、全員が少しだけ前に飛ぶ。奈央はそれに満足したのか、荷物を持って早歩きで入口に向かう。笑顔で向き直ると、両手を広げながら叫んだ。

 

「き~たわ~!イタリア~!!」

 

 まったく…と思いながら八重は歩き出す。いつもマイペースで呑気な様子が多い奈央だが、今回の旅行をとても楽しみにしていたのだろう。こんなウキウキしている姿は見たことがなかった。横を見ると、朝香も静香も奈央の元まで走っていた。八重も荷物を持ち、深呼吸をしながら歩き出す。さすがにここまできたら不幸なことなんて起こらないだろう。雫もいることだしきっと大丈夫だ。

 

 そして、空港を出てホテルまで歩き出す一行。八重は念のため周囲を警戒しており、妙に殺気立っている。その様子に気圧されているのか、周囲の人々は八重達から遠ざかっている。確かに常日頃から不幸な目にあっているため警戒するのもわかるが、こういう時はリラックスしてほしいものだと全員が思った。

 

「や…八重…こういう時くらいリラックスしても…」

 

「そうよ!こういう時くらいリラックスしないと、後々疲れちゃうじゃない!」

 

「姉さま、朝香…そうは言っても警戒しちゃって…日本の空港でも危ういことがあったから…」

 

「もう大丈夫だって!飛行機に乗ってても衝突しなかったんだから大丈夫だよ!」

 

「いやいや衝突云々の話じゃないからね静香…」

 

 そのまま歩いていく一同。歩いていると、上から何やら叫び声が聞こえた。上のほうを見ると、鉢植えが八重に向かって落ちてきているのが見えた。一瞬唖然とした一同だったが、雫が即座に反応し、八重の肩に手を置き逆立ちをすると、足に鉢植えをうまく乗せ上に蹴り上げた。鉢植えを落としてしまった部屋の住人の元に無事に鉢植えが届いた。そこの住人から「Grazie」という言葉があったから大丈夫そうだ。

 

「お…おう(;゚Д゚)」

 

「ごめんね八重!肩のほう大丈夫⁉咄嗟だったから考えなしにやっちゃって」

 

「…………雫…ありがとう°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°」

 

「え⁉う…うん…」

 

 雫の行動に、今度はルンルン気分で歩き出す八重。その様子に困惑してしまう雫だったが、全員が同じ気持ちだったのか気にしないように促し八重についていく。しかし、八重は急に立ち止まる。立ち止まった瞬間、目の前に脚立が倒れてきた。どうやら店の看板の塗装をしていたらしい男性がバランスを崩したのだろう。幸い怪我はなかったようだが、終始こちらに謝っていた。さらに、少し歩いた後に今度は、果物が入った籠が山城達に飛んでくる。幸い、雫と美代が対応して事なきを得た。中身はいくつか飛び散ってしまったが、店員がこちらに頭を下げて謝っていた。その少し後も、角材が直撃しそうになったり、ブレーキが効かない自転車が危うく八重にぶつかりそうになり、それを八重と紗枝が止めたりでいろいろと起こった。紆余屈曲何とかホテルまでついた一同だったが、着いた頃には全員が息を切らしていた。特に、雫は一番息を切らしている。

 

「ぜぇ…はぁ…す~…はぁ~…」

 

「し…雫、大丈夫?」

 

「だ…大丈夫だよ紗枝……ちょっとびっくりしてるだけ…」

 

息を整えて、少し背伸びをする雫。落ち着いたようで、表情も少し良くなっている。八重はもちろん、朝香や奈央はかなり疲れているようだった。紗枝と静香、美代は疲れているものの少しだけ余裕そうだ。

 

「まったくもう!本当にどうしてこうなるのよ!歩いて数分後には、ことあるごとに何かがぶつかりそうになるじゃない!」

 

「ギクッ…」

 

「そのたびにみんなで止めようとしたりするから、疲労感がすごいわね~…」

 

「グサ(;゚Д゚)」

 

「これ、下手したら何かが八重に直撃して怪我して終わりとか無いわよね」

 

「そうならないでも、ろくに観光できないで終わりそうだよ…」

 

「グサグサΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

「や…八重!大丈夫だから!不幸なことが起きるのは今だけで、そのあとはきっと大丈夫だから(;'∀')」

 

 精神的に来ている八重を紗枝が何とか慰める。紗枝の言葉に少しだけ元気が出たようで、立ち上がり深呼吸をしてからホテルに入る。中はかなり広く、上のほうにはシャンデリアもついている。中の作りに感動しながら受付へと向かう。スタッフに話しかけると、日本語で対応してくれた。流暢な日本語に驚きながら部屋に向かう。エレベーターを昇り部屋に着くと、広い部屋に7つのベッドがあり、横を見ると広い部屋があった。おまけにテーブルにテレビといろいろとすごい。荷物を適当な場所に置き椅子に座りこんだ八重は深く深呼吸をしながら率直に感想を言う。

 

「すごすぎない!何なのこの広い部屋‼贅沢すぎるわ‼うちの鎮守府の部屋が霞んで見えてしまうわよ‼‼‼」

 

「本当にすごいね!見てよ皆、外の景色もすごいよ!」

 

 静香の声掛けで、外の景色を見る一同。10階の部屋ということもあるのか、外の景色を見ることができた。空港から見た景色もすごかったが、上のほうから見る景色も格別だった。そして、朝香の提案でこの景色をバックに写真を撮ることにした。このために準備をしたのか、自撮り棒を持ってきている。

 

「はい、撮るわよー!美代、もう少し右寄って!八重ももう少し左!」

 

「こ…こう?」

 

「これ以上はきついわ…」

 

「おっけーおっけー!いくよー!はい、チーズ!」

 

 各々がポーズをとる。そして、撮った写真はすぐにラ〇ンに送った。少し休憩をした後に、最低限の荷物を持って部屋を後にする。ホテルから出た後に、どこを観光するかを確認する。教会に凱旋門に大聖堂、それにコロッセオと行くべきところが満載だ。

 

「さてと、まずはどこから行こうかしら?」

 

「う~ん、やっぱり最初は美術館にでも行かない?どんなものがあるのか気になるし!」

 

「なるほどね。駅も近いし、タクシーも使えば時間はかからなさそうね…じゃあそうしましょうか」

 

『了解』

 

 7時にローマについて、現在は9時を過ぎたところだ。時間はまだあるし、交通機関を使えば行きたいところも回れるだろう。一行はまず駅に向かい美術館のほうへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は、特に何事もなく、八重に不幸なことも起こることなく観光を楽しめた。美術館の展示品を全員でゆっくり眺めることもできたし、そのあとは凱旋門に行ったり、コロッセオに行ったりと満喫した。満喫していると、ちょうど昼を過ぎていたため、ファミレスに行って昼食をとることにした。昼食に選んだのはやはりパスタだ。本場の料理がどういうものなのかすごい気になっていた。案の定、パスタを食べると全員がとてもご満悦の様子だった。

 

「あぁ…幸せ°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°最初はいろいろ起こったけど、こうしておいしい食事ができるなんてなんて幸せなのかしら!」

 

「えぇ、本当においしいわ!さすが、本場の料理だけあって最高よ!」

 

 八重と紗枝は顔の周りをきらきらさせながら食事をしている。それを見ている静香達は糸目で見ているが、周囲の客達はあまりの幸せそうな顔に少しだけ引き気味だ。まぁ、そういうことはお構いなしに食事を食べ進めた。

 

『ごちそうさまでした!』

 

「ふぅ~…さてと、ご飯も食べたことだし、次はどこに行こうか。コロッセオまで行ったし……美代、確か大聖堂に行きたいって言ってたわね」

 

「えぇ!中がどういう作りをしているのか見てみたいわ!」

 

「よし、じゃあ、次は大聖堂ね!そのあとは、教会にでも行って……」

 

 その時、全員が一瞬だが視線を感じたような気がした。周囲に悟られないように警戒を強めるが、視線がどこから来ているのかわからなかった。全員が顔を見合わせると、小声で八重が話し出す。

 

「…皆、感じた?」

 

「…うん。一瞬視線を感じた。僕達を監視しているのかな?」

 

「そんな~…奈央達、何かした~?」

 

「…て…テロリストとかじゃないわよね?朝香達を隙あらば襲うとか…」

 

「それはないわ朝香。私達を襲うのであれば、一般市民もろとも襲ってるはず。それにイタリア海軍もいるのよ。そう簡単に手は出せないはず。ここの艦娘は、世界でも屈指の実力者が多いし」

 

 八重の言う通り、イタリアにも艦娘はいる。それに、異能を持っているものも多いと聞いている。テロリストが襲いに来たとしても、返り討ちにされるのが見えている。テロリストでないのであれば、他の組織でもかかわっているのかさっぱりだ。幸いにも視線を感じたのは一瞬だけ。警戒を怠らずにいればおそらく大丈夫。もし何かあってもすぐに対処できれば問題ないはず。

 

「皆いい。警戒を怠らないように。私は、周囲の人を巻き込みかねないから異能は使えない。万が一何かあったら、すぐに対処できるようにして」

 

 全員、八重の話に頷く。そして、荷物を持ち早急にファミレスを後にする。そんな、八重達の様子を遠くの席から見ている女性がいた。癖のある茶髪のパッツンボブカットでストラップのついた眼鏡をかけている。その女性は、コーヒーを飲みながら八重達を見送っていた。

 

「ふ~ん。なかなか勘がいいわね。一瞬だけとはいえ、軽く殺気を放っただけで、監視されていることに気付くなんて」

 

 八重達の様子に満足しているのか、その女性の顔は少し笑っているどうだった。コーヒーを飲み終えると、用意していたメモ帳に何やら書いていく。書き終えた後に、それを後ろの席にいた者に渡した。特徴はピンク色の髪にショートカット、左耳にピアスをつけている女性だ。メモを受け取り内容を確認する。

 

「しっかりと監視しておきなさい。気づかれるんじゃないわよ」

 

「監視するだけでいいのか?あの八重って言われてるやつ、ジャパンのS級6位だよな?アタシはあいつと戦ってみてえよ…」

 

「やめておきなさい。彼女の異能は、周囲を巻き込んでしまう。やるなら、人気のいない、彼女が最小限の異能で戦える場所でやりなさい」

 

「…へいへい」

 

「とりあえず、明日の夜には、人気のいない道を7人で歩いてるはずよ。その時にでも戦いなさい。何なら、他の子も連れてっていいわよ」

 

「アンタの考えていることは大体当たるからな。わかった、明日はこのメモに従って動くさ…」

 

 そういって、メモをもてあそびながら店を出ていく。メモを渡した女性もすぐに店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、何事もなく大聖堂や教会で観光をすることができた八重達。教会では真実の口に恐る恐る手を入れようとしてビビりまくっていた静香の反応を楽しんだり、大聖堂では美代が中の内装にとても感動していた。そして、楽しい時間もつかの間、時間は夕方になっていた。夕食はホテルで出る予定のため、夕食までには戻らなければならなかったのだ。すぐにホテルに戻り、夕食を堪能する。夕食はバイキング形式になっていたため各々がそれぞれ好きな食べ物を取り食べた。その後は、部屋にあるでかいバスタブに二人、三人ペアで入り、その後は部屋でトランプをしながらくつろいでいた。

 

「それにしても、昼間の一件は何だったのかしら?」

 

 昼間のことを疑問に思い、美代は口を開く。あの一件以降、視線を感じることもなかったし、観光も無事に楽しめた。本当に疑問だった。

 

「確かに、何だったのかしらね…あれ以降、視線は感じなかったし、不幸なことも起きなかったし」

 

「あの感じだったら、私達に危害を加えるとか、そんなことは無さそうね…」

 

「だと…いいんですがね…」

 

「…?何か心配事でもあるの?」

 

「…えぇ姉さま。イタリアの艦娘に血気盛んな戦闘狂がいるって噂があって。確か”雷獣”の異名があったわね。赤い雷を操る能力だって…」

 

 その話に、朝香は「ひえっ(;'∀')」と驚いた様子だった。日本にも戦闘狂がいるが、やはり世界各国に一人はいるのだろうか…と思った。

 

「まぁ、きっと大丈夫でしょう。何事もなく旅行は終わるはず……ふぁ~…」

 

「何よ八重、眠いの?……ふぁ~…」

 

「美代も眠そうじゃない…」

 

「っ⁉違う!これは八重のあくびが移っただけで!」

 

「ふぁ~~~~…」

 

 そして、一際大きなあくびをする雫。全員が雫のあくびに注目していると、全員の視線に気づいた雫が赤面しながら顔を隠した。その様子がおかしかったのか、全員が笑いをこらえられなかった。

 

「あはははは!雫が眠いんじゃ、そろそろお開きかな!明日に備えて寝ようよ!僕も少し眠い」

 

「そうね~…明日に備えて寝ましょうか~」

 

 静香と奈央がそう切り出し、各々が布団に入り寝る準備をした。全員が布団に入ったのを確認した八重は、電気を消した。

 

「じゃあ皆、お休みなさい」

 

『お休み~』

 

 そして、旅の疲れがあったのもありすぐに寝息を立てて眠りについた。たった一人を除いて…。30分、1時間ほどたっても眠れなかったのが雫だ。寝返りを打っても何をしても眠れなかった。環境が変わると眠れないようだ。

 

(どうしよう…眠れない)

 

 そうして、右に寝返りを打つ雫。どうやったら眠れるのか考え、ふと目の前を見ると、朝香が両手を広げながら寝ているようだった。雫は、朝香を起こさないように布団に潜り込むと朝香の左腕を少しだけ動かし抱き着く。抱き着くと落ち着いたのか、少し眠くなってきた。

 

(…焔と母さんに腕も落ち着くけど…朝香の腕も落ち着くな…すごく眠い…)

 

 そして、規則正しい寝息を立てて、眠りについた雫だった。

 

 

 

 

 

 



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69話 西村艦隊のイタリア旅行③

お久しぶりです!
ちょっといろいろ大変で時間がかかってしまいました…(;'∀')
最新話になります!どうぞ!


ーーーイタリア旅行2日目

 

 現在の時刻は朝7時。カーテンの隙間から指す日差しで、朝香は目が覚めた。枕元にある携帯で時間を確認し、体を伸ばそうとするが左腕を伸ばすことができなかった。何やら左腕に引っ付いているような気がする。何事かと思い左腕を確認すると、雫が抱き着いているようだった。朝香は目を丸くし、夢なのかと思い、自分の頬をつねる。しかし、痛みがあったためどうやら現実のようだった。今度は天井を見て深呼吸をする。数回、深呼吸をした後に思い切りガッツポーズをした。

 

(よし!それにしても、白露とお母さんはこんないい思いをしていたの⁉抱き着いて寝るって可愛いすぎない!)

 

 改めて雫のほうを見るが、かなり爆睡しているようだ。まだ起きそうにない。どうしようか悩んでいたが、ちょうど全員の携帯のアラームが鳴り響いた。7時には起きて、朝食を食べて、また観光することになっている。今日はベネチアのほうに行く予定だ。昔だったら、電車で3時間以上かかっていたそうだが、技術が発展してきたのもあるのか、1時間半くらいでつけるようなのだ。それはさておいて、各々が起床する。すぐに起きたのは美代だ。一気に体を起こすと、すぐに背伸びをする。ゆっくりと起きたのは、八重と紗枝、静香、奈央達だ。朝香もみんなに合わせて体を起こす。アラームが鳴り響いているのに関わらず、雫は爆睡中だ。

 

「雫、起きて!起きないと、雫のお父さんが言っていた、痛みのツボを押すわよ!」

 

 朝香は、雫の体をゆすり起こす。雫は、痛みのツボという言葉を聞いたからか、一気に目を見開き体を起こす。よほど痛かった記憶があるのだろうか。額には汗が滲んでいる。

 

「い、痛いのは勘弁して!起きるから!」

 

「うんうん。やっぱり自分で起きるのが一番ね!こっちも朝からいい思いしたし!」

 

「……(・・?)……あ!ごめん朝香!一人だと眠れなくて…」

 

「いいのいいの!これで、美代と奈央に、朝香は雫に抱き着かれたわけだし、次は誰の隣で寝るつもり?」

 

 その質問に対し、雫は少し困った顔になる。順当にいけば、静香と紗枝、八重の3人の誰かになる。雫は3人を見るが、静香が目をキラキラさせながら両手を広げてもうアピールしている。今日は自分が一緒に寝てあげようともろに顔に書いている。

 

「じゃ…じゃあ今日は静香の隣で寝るかな…」

 

「やった~°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°」

 

「……どうしてこうなったのやら…」

 

 八重は頭を抱えながら洗面台のほうに向かう。顔を洗って、歯を磨くつもりらしい。八重は全員に「早く準備しましょ~」と促す。それを聞いて、全員が洗面台に行き、それぞれで準備をした。それぞれ準備をし終えると服に着替える。前日のことがあるため、全員が動きやすい恰好をしている。

 

 ちなみに服装は、八重が茶色のオーバーオールに白いTシャツ。紗枝が、黒色のテーパードパンツ、白色のYシャツ。静香が”最上”と書かれたTシャツにジーンズ。美代は七分丈のジーンズにオレンジ色のTシャツ。朝香と奈央はおそろいで、白色のタンクトップにデニムジャケット、黒色のジーンズ。雫は、青色のオーバーオールに黒色のTシャツ、黒色のキャップをかぶっている。

 

「よし!準備できたわね!朝食をとって、そのあとは電車に乗ってベネチアに向かうわよ!」

 

『了解!』

 

 そして、八重を中心になぜか、全員が腕を組んでドアの前に立つ。しばらく無言が続いた後に、糸目になりながら雫がつぶやいた。

 

「…このポーズ、何か意味あるかい?」

 

「…………なんとなく……」

 

 その返答に、全員が少しずっこけそうになってしまった。それはともかく、荷物を持ち朝食をとった後に、ホテルを出る。そして、駅のほうへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーベネチア行きの電車の中

 

 特に何事もなく電車の中にいる一同。席はじゃんけんで決め、八重、美代、雫、静香の4人と紗枝、朝香、奈央の3人に分かれている。乗ってから30分以上、外の景色に感動しながら話していた。水の都と言われている都市を観光するのがとても楽しみだったからだ。おまけに大聖堂や宮殿など見てみたいものもたくさんある。特に一番そわそわしているのは八重だ。水の都に行きたいと一番に行っていたのだから。そんな様子の八重を、静香はいたずら交じりの顔でからかう。

 

「八重、緊張してる?」

 

「し、してないわよ!不幸なことが起こらないかどうか、心配しているだけ…」

 

「ふ・う~・ん」

 

「…変なとこに点をつけながら”ふ~ん”って言ってるんじゃないわよ…しばくわよ( 一一)」

 

「まぁまぁ…せっかく行くんだから楽しもうよ。不幸なこともきっと起こらないから(;'∀')」

 

 そういって、雫は八重を落ち着かせる。まぁ、きっと大丈夫か…と八重は思い、再び外を眺める。本当にきれいなところだ。外の景色に見惚れていると、突然爆発音とともに電車が揺れる。驚いた八重が椅子から転げ落ちてしまい、他の6人は椅子にしがみついたことで事なきを得た。揺れが収まり、落ち着いたところで紗枝が爆発音のしたほうに視線を向ける。向き的におそらく前方車両のほうだ。

 

「…何かしら?…事故?…あら、八重。どうしたのうずくまって」

 

「さ…さっきの爆発で転げ落ちた時に、舌を思い切り噛んでしまいまして…」

 

 その返答に、困った顔になる一同。いつものことだから少し慣れているが、やはり不幸体質というべきか、とことん八重はついていないらしい。すると、突然放送が入った。イタリア語であるため何と言っているかわからなかったが、乗客がどよめき、中にはパニックになる者もいた。ただ事ではないことは確からしい。気になったため、美代が翻訳アプリを利用し、後ろの乗客に何が起きているのかを聞く。翻訳アプリで帰ってきた答えはテロリストにより電車が占拠されたとのことだった。

 

「は…はぁ⁉テロリスト!」

 

「またトラブルじゃないか(# ゚Д゚)八重の馬鹿‼‼」

 

「悪かったわね(# ゚Д゚)大体、ことあるごとに衝突しそうになっているあなたに言われたくないわよ!」

 

「僕はまだ衝突()()()になっているだけで実際に衝突してないからね!こう見えて危機察知能力は高いんだから!」

 

「何を~!」

 

「二人とも。こんな時に喧嘩なんてしてないで、いったん落ち着きましょう」

 

 紗枝の言葉に、八重と静香は渋々納得する。そして、椅子に座りなおすと同時に、連結扉の方から武装した男が二人入ってきた。銃口をこちらに向け何か話している。おそらく金品を出せと言っているのだろう。バックなどを取っているから間違いなさそうだ。その様子を呆れながら八重は見ていた。

 

「本当に、どこの国もテロ、テロ、テロ…深海棲艦が攻めていて大変だって時に、どうしてこうなるのかしら…」

 

「今に始まったことじゃないんだし…仕方ないんじゃない?」

 

「そんなものかしら…」

 

 そんな話をしていると、テロリスト二人が八重達の前に来た。二人が緊張感なしで話をしていたことが気に食わなかったのか、怒声を浴びせているようだった。

 

「”おい!そこの不幸顔とヘンテコ漢字Tシャツ!”」

 

『かち~ん(# ゚Д゚)』

 

 イタリア語で話しかけられているからなんて言っているかはわからない。しかし、直感的に分かった。今こいつは自分達の悪口を言ったのだと。眉間に皺を寄せ男の方を見る。二人の様子を気にも留めない様子で、さらに男は話しかけた。

 

「”さっさと金目の物寄越しやがれ!痛い目見たいのかこら!”」

 

「ねえ、言っていることがわからなっかたけど、さっきなんて言ったかもう一回言ってもらえるかしら?」

 

「奇遇だね八重。僕も同じこと考えてたよ」

 

「”あん、言っていることがわからねえよ!いいからさっさと金目の物出せって言っているんだ!この不幸顔とヘンテコ漢字Tシャツが!”」

 

 その言葉に、二人の中で糸が切れたような音が聞こえた。音が聞こえたと同時に二人は、考えるよりも先に口と体が動いた。

 

『誰が不幸顔(ヘンテコ漢字Tシャツだ)だこのボケああああああああああ‼‼‼‼‼(# ゚Д゚)』

 

 二人して男を殴る。男は殴られた拍子に天井に体をぶつけ、床に倒れた。相当な威力だったためか泡を吹いている。もう一人は、その様子に呆気に取られていたが、理解が追いつくと八重に銃口を向ける。鬱陶しそうに殴りかかろうとした八重だったが、横から雫が猛スピードで男に近づき顔面に回し蹴りをした。相手が完全に意識をなくしていることを確認すると、少し呆れた様子だった。

 

「…二人とも、後先考えずに行動したら危ないよ…」

 

『うぅ…』

 

「本当、バッカじゃないの…テロリストがこの二人だけとも限らないじゃない…」

 

『た…確かに…』

 

「んで、なんで二人を馬鹿にしているってわかったわけ?」

 

『勘!』

 

「……まぁ、いいわ。それに、始まったものはもう仕方ないし、手分けして各車両回って、テロリストがいたら殲滅しましょう」

 

「それもそうね…じゃあ、私と静香で前方車両のほうへ行くわよ。雫と美代は後方車両に行って。姉様達は、ここで待機。……さてと、ここまで邪魔してくれるテロリスト共には制裁を加えてやらないとね!」

 

 「ふふふふふ」…と不敵な笑い方をして、前方車両に向かう八重。静香は苦笑いしながらついていき、雫と美代は後方車両に向かっていく。幸い、後方車両にはテロリストはおらず、前方車両、運転席にテロリストが二人いたらしいが八重が瞬殺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー柱島鎮守府 午後5時過ぎ

 

「っ(;゚Д゚)」

 

「あら、焔どうかした?」

 

「い…いや…なんか、すごい寒気が…」

 

「え、大丈夫?熱でもあるの?」

 

 現在、食堂でくつろいでいる白露と星羅。急に寒気を覚えた白露の額に手を当てる。熱はないようだが、腕を見ると鳥肌がすごかった。

 

「どこか体調でも悪いの?部屋で少し休んだら?」

 

「い…いや、多分体調が悪いとかじゃなくて…これ…多分…時雨関連だ…」

 

 以前、時雨が危険な目にあっているときに同じようなことが起きたことがある。確か、時雨が出かけていた時に不良に絡まれた時だった。まぁ、時雨も強いため特に何事もなかったが…。変なことに巻き込まれているのだろうか。そう思いながら、時雨にメールを送る。しばらくすると、時雨から返信がありその内容に、白露は額に青筋を浮かべる。内容が、電車でテロリストの襲撃があり、それを撃退したから大丈夫というものだったから。白露は、握りこぶしを握りながら携帯を見ていた。

 

(山城の野郎…帰ってきたときにぶん殴ってやろうかな(#^ω^))

 

「こらこら焔。青筋浮かべて怒らないの。あの子も強いんだし、大丈夫よ」

 

「いや…わかってるんだけどさ……旅行に行ってる時くらい、何事もなく楽しんでもらいたかったよ…」

 

 ため息を吐きながらお茶を飲む白露。その様子を見て星羅は「なんだかんだ心配しているのよね~(*´ω`)」と心の中で思った。そして、白露の頭をなでる。一瞬体を震わせたが、腕を組み右下を向いていた。こういう仕草をするときは少し照れているときだ。ここにきて一か月と少し経つし、白露の癖も少しわかってきた。

 

(雫みたいに、もっと甘えてきてもいいのに。周りの目を気にしているのかわからないけど…)

 

「ゆっくりしているところすみませんお二人とも!!」

 

「うわ(;゚Д゚)びっくりさせないでくれよ鹿島さん!」

 

 急に後ろから声をかけられて驚く白露。星羅は、後ろにいたことがわかっていたのか余裕の表情でお茶を飲んでいる。いつから気づいていたんだろう…と白露は疑問に思ったが、とりあえず鹿島の方を向く。手にはタブレットを持っており、一瞬だがデータの数値のようなものが見えた。今日は五月雨達の訓練の日だったため、おそらくその結果だろう。全員少しずつ実力をつけているが、特にこの短期間で急激に力をつけてきているのは山風だ。白露との演習以降、砲雷撃の精度が上がってきている。

 

「白露さん!見てくださいよ!皆さん、とても頑張っていますよ!でも、今日の山風さんはすごいです!砲雷撃6割8分の確率で命中しているんです!あの一件以降、めきめきと力をつけているんです!すごくないですか‼‼」

 

「わかったわかったからさ!いったん落ち着こうって…大体、こういう結果になることは予想できたよ。山風の根本的な問題は自信と過去のトラウマだ。ここにいる全員が、山風のことを否定する奴はいないし、全員が味方になってくれるってことを山風が理解してくれたから、結果につながってるんだ。たぶん、まだまだ強くなるよ」

 

 ある程度予想していたようで、白露は特に驚いた様子を見せなかった。山風だけではなく、他の4人も徐々に実力を上げてきている。このまま順調にいけば、世界会議までには本格的に出撃できそうだと思った。あとは、座学も習得していけば大丈夫だろう。座学に関しては心配なものがいるが…。

 

(まぁ、こういう話は置いといて…時雨大丈夫かな?鳥肌が止まらねえ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……イライライライラ(#^ω^)」

 

「八重~…そろそろ機嫌をなおさないかい?周りにいる人達もすごくビビッてるんだけど…」

 

 イライラしている様子の八重を静香はなだめる。それもそのはず、まさかテロリストが電車を占拠するとは思っていなかったからだ。無事に事件を解決した後は、テロリスト達を警察に引き渡し、今ヴェネツィアの町中を歩いている。向かう先は寺院だ。八重を先頭に隣には紗枝、後ろに静香達がいる。八重の様子に、周囲にいる人達も気圧され近づこうとしない。紗枝も落ち着くように声をかける。

 

「八重。起きたことはもう仕方ないわ。もう切り替えましょう」

 

「ですが姉さま。さすがにここまでくると、もう嫌になってきました。本当に、私は某ラ〇ベに出てくる主人公気質でもあるのかしら…?」

 

「もう確実にあるんじゃな~い?旅行先もどういう訳かイタリアだし~」

 

「本当にどういう体質していたらこんな風になるわけ…日本に戻ったら、お祓いにでも行く?」

 

「えぇぜひそうさせてもらうわよ!お祓いしてもどうせ効果ないんでしょうけどね(# ゚Д゚)大体、なんでいつもいつもこうなるわけ!おかしいじゃない!私が一体何をしたっていうのよ!誰が欠陥戦艦だこらぁ!」

 

「そこまで言ってないし!大体、私に八つ当たりしないでよ!」

 

「ほらほら八重。朝香に当たらないの。お互いに嫌な気持ちになってしまうわ」

 

「うぅ…」

 

 紗枝になだめられ、いったん落ち着く八重。朝香に謝ると、深呼吸をしてから歩き出す。

 

「はぁ。とにかく、何も起こらないことを祈るばかりで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すううううううううううううううううΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

 下の方から急に何かの破裂音がしたかと思うと、なぜか八重と紗枝の二人が空に飛ばされていく。もう一度いう。空に飛ばされていく。唖然としていた一同。下を見ると、水があふれており、水道管が破裂したのと同時に、勢いよく地面がえぐられ、水の強さで二人が吹き飛んだのだろう。服も濡れてしまっているし、相当な水の強さだったと思う。はっと我に返った一同は、全速力で二人が飛ばされた方向に走っていく。

 

『うわあああああああああ(;゚Д゚)八重、紗枝えええええええええええええええええええΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)』

 

「なんのさこれ!僕がいても全然ダメじゃん!もうこれ、旅行どころじゃないよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

パリッ

 

「……あ」

 

「……あら、焔。手に力が入りすぎて食器にひびが入っちゃってるけど?あと、怒りのオーラを全開にしない。他の子達が怖がっちゃうわ」

 

ぜ…善処する(#^ω^)

 

「…だめだこりゃ(T_T)」

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー数時間後

 

「ち~ん(*_*)」

 

「……はぁ、空はあんなに青いのに……」

 

「…疲れた…瑞雲の模型を眺めたい」

 

「……皆にお土産買えるかな…」

 

 夕食の時間になり、現在レストランに来ている。ただ、八重と紗枝、静香、雫は疲労感がマックスのようで机に突っ伏している。美代と朝香、奈央はそれを眺めながら水を飲んでいるところだ。あの後も大変だった。八重と紗枝も幸い怪我がなく、落ちたところがちょうど観光しようと思っていたところだったからだ。ちなみに、濡れた服は適当に外を出歩いていたら乾いたらしい。それで、いろいろと観光したわけだが、鞄は取られそうになるし、事故に巻き込まれそうになるし、本当にいろいろと起こった。ようやくレストランにつき、少し落ち着くことができている。それでも、この後何か起きないか心配ではあるが。

 

「ばっかじゃないの…」

 

「まぁまぁ。今はご飯でも食べて~、ゆっくりしましょ~。ちょうどご飯も来たことだし~!」

 

 頼んだのはステーキやパン、あとはスープだ。とりあえず、腹が減っては何とやらだ。この後、何が起きてもいいようにしておかないといけない。凹んでいた4人は体を起こし、料理を食べていく。そして、料理の味に満足したのか顔の周りがとてもキラキラしているように見えた。3重キラ付けでもしたのかというほどに。その様子をみて、美代達も食事を始める。美代達も味に満足しているのか、表情はかなりいい。ただし、八重はことあるごとに周りに殺気を飛ばしている。もう物が飛んできたり、人がぶつかったりするのは勘弁願いたいからだ。そんなこんなで、何事もなく食事を終えた一同は、会計を済まし店を出る。さすがにもう疲れたため、電車に乗ってホテルまで帰ろうということになった。人通りも少ない道を歩いているし変なことに巻き込まれる心配も無いだろう。

 

「はぁ~…どっと疲れが…」

 

「本当ね…ホテルに戻って、シャワーを浴びて横になりたいわ…さすがに、帰りの電車までテロリストが来たりとか(;^ω^)」

 

「そ…それは無いから大丈夫だと思いますよ姉さま!……たぶん」

 

「たぶん⁉今たぶんって言った(;゚Д゚)ままままさか、帰りの電車が正面衝突したり⁉」

 

「なんでそうなるの…」

 

 呆れながら、八重はそのまま歩く。確かに、帰りの電車は少し心配ではあるが、さすがにもうテロリストが出ることは無いだろう。朝散々痛めつけたわけだし。また電車を占拠されたとしても、対処すればそれでいい。

 

「…………」

 

 そんな八重達の様子を、建物の屋根から見下ろしている女性がいた。ピンク色の短髪に左耳にピアスをつけているのが特徴的な女性だ。八重達を一人一人観察していく。そして、ため息を吐きながら立ち上がった。

 

「まったく、どいつもこいつも、平和ボケでもしてんのか?緩すぎだろまったく」

 

 殺気を八重達に向ける。その殺気に気付いたのか、八重達はすぐに屋根の上を見上げる。見上げたと同時に、赤い光とともに目の前に女性が現れた。その時に雷音のようなものも聞こえた。八重は、目の前にいる女性をみて驚愕の表情を浮かべる。

 

「よりによって、あなたと出くわすことになるなんてね」

 

「八重、あの人は?」

 

「昨日話した奴よ。ここイタリアの艦娘で、霊力7万越えの度を越える戦闘狂。”雷獣”、ジョゼッペ・ガリバルディ」

 

 八重の話を聞き、雫はすぐに臨戦態勢に入る。その様子をみて、ガリバルディと呼ばれた女性は再びため息を吐いた。

 

「たく、こんな時に旅行かよ。日本の艦娘共はずいぶん呑気なんだな」

 

「休暇で来てるのよ休暇でね。別にいいでしょ、こっちの都合なんだから。それに、私以外にも、優秀な人達はいるしね」

 

「…ふん、まぁいいさ。お前、S級の6位だよな。私と戦え」

 

 やっぱりきた。と、八重は思った。ガリバルディと会ったら、こうなるんじゃないかと予想はあった。だが、戦ったら戦ったで、周りにも危害が及んでしまう。それだけは避けなくてはならない。

 

「断る。私達は戦いに来てるんじゃないの。戦いたいんだったら、日本に演習でも来れば?それじゃあ…」

 

 そう言って、ガリバルディの横を通り過ぎようとする。しかし、ガリバルディは八重の前に立ちはだかり耳元でささやく。

 

「逃げるのか?それとも怖いのか?まぁ、そうだよな。お前の艦時代悲惨だもんな。ろくに出撃できねえで、ドックばっかこもってて、そんでレイテの時に、全滅前提で出撃して、そこにいる時雨ってやつ以外何もできないで沈んだ無能な艦隊旗艦さんよ!」

 

「っ⁉」

 

 八重は、頭に青筋を浮かべながら、ガリバルディに殴りかかる。雷を体にまとい、猛スピードで距離を取る。八重は相当頭にきているようで追おうとするが、すぐに紗枝が止める。

 

「八重、落ち着いて」

 

「しかし姉さま!あいつ、今私達のことを!」

 

「私達は旅行で来ているのよ。争いをするために、ここに来たのではないわ」

 

 紗枝の言葉に、八重は落ち着きを取り戻す。深呼吸を数回した後、ガリバルディに向き直る。そして、財布からコインを取り出した。

 

「わかった、とりあえず戦ってあげる」

 

「ちょ、ちょっと八重!」

 

「大丈夫です姉さま。皆も聞いて、考えがあるわ」

 

 小声で、全員に話しかける。小声で話しかけている八重に対して、ガリバルディはイライラした様子で話しかける。早く戦いたいのだろう。しびれを切らして八重達に近づいていく。

 

「おいこら!いつまで小声で話しかけてんだよ!」

 

「わかったわかった…いい、このコインを今から空中に飛ばすわ。このコインが、地面に落ちたら戦いの合図よ。決して、コインから目を離すんじゃないわよ。行くわよ!」

 

 八重は、コインを親指ではじく。そのコインはガリバルディの後ろの方に飛んでいく。ガリバルディは、八重に言われた通りそれを目で追っていく。コインが地面に落ちたのと同時に前に向き直る。しかし、どういうわけか八重達は目の前にいなかった。何が起こったのかわからず、あたりを見渡す。だが、どこにもいなかった。そして、もう一度屋根の上に上り、あたりを見回した。すると、少し離れたところに八重達が走っているのが見えた。その様子に、ガリバルディは青筋を浮かべる。

 

「戦ってあげるって言ってたろうが…こらぁ!」

 

 体に雷を纏い、叫びながら八重達に近づいていく。かなり早く、すぐに八重達の数メートル付近まで近づいてきた。後ろを見ながら、雫は焦った。こんなにすぐに追いつかれるとは思わなかったからだ。

 

「八重!もう追いつかれる!」

 

「あいつの狙いは私よ!雫と静香と姉さま。朝香と奈央と美代の二手に分かれて逃げて頂戴!私はこのままあいつを迎え撃つ!ちゃんと手加減しながら戦うわ!」

 

「八重、気を付けて!」

 

 八重はそのまま、突撃してきたガリバルディを迎え撃つ。かなりの威力だったのか、八重は後方に勢いよく吹き飛ばされてしまう。数回、地面に足をつき、後方に飛びながら着地する。その時に靴がすれてしまったようで、八重は少し不機嫌そうだ。

 

「ちょっと…この靴お気に入りだったのに…」

 

「お前よ。さっき戦うって言ってたじゃねえか。何逃げてるんだよ!」

 

「あのね。私の異能知ってるんならわかるでしょう?私の能力は、皆に危害を与えちゃうし、それに下手したらここら一体の建物とか壊しちゃうもの。だから、皆と離れる必要があったし。あのままあそこにいたら、あなたあたり構わず戦いそうだったもの…」

 

「…否定はしないな…まぁ、いいさ。別れてくれた方がこっちも都合がよかったし」

 

「…?」

 

 ガリバルディの言葉に、八重は首を傾げる。そして、すぐに言った意味が分かった。おそらく、ガリバルディ一人だけではない。他にも艦娘がいるのかもしれない。だが、特に心配はしていない。紗枝以外、全員が対人格闘が可能だ。相手が異能艦でもない限り、きっと大丈夫だろう。

 

(まったく、なんでこうもいろいろ起こるのよ…別れた皆も、何事もなく逃げれればいいんだけど…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ、何なのよもう!」

 

「なんかこの二日間、ろくなことしかないわね!」

 

「もうこういう状況も、楽しむしかないんじゃな~い?」

 

 美代、朝香、奈央は道端で膝をつき休んでいる。ガリバルディは八重と対峙しているため、幸いこっちには追ってはいなさそうだ。三人は、一息ついた後に八重から指定された合流場所まで行くことにする。合流場所といっても駅の手前のところだ。しかし、向かう途中に電柱近くに誰かが寝ているのを見つけた。灰色の髪に片手にはどういう訳かワインボトルを持っている。酔っぱらっているのか寝ているようだ。

 

「…えっと、なんでここに人が寝てるわけ?」

 

「無視しよ、無視!絶対ろくなことにならないんだから!」

 

 そういって、前を通り過ぎようとしたが、その女性が急に3人のほうに近づいた。女性は3人を物色するとワインを飲み干した。

 

「Grazeですね~…ん~、あれ~、人が6人いる~…んへへ~!」

 

『え⁉ちょ⁉』

 

 急に、足を蹴られ、地面に体がついた瞬間に女性が倒れこんでくる。腹部にかなりの衝撃があったが、3人は何とかその女性を蹴り上げる。その女性は、何回転かした後に地面に着地し、どこから取り出したのか、再びワインを取り出し飲んでいる。

 

「うあ~…さすがに艦娘だけあってそこそこ強いですね~…あぁ、そうだ~!自己紹介まだでした~。私ポーラです~、よろしく~」

 

「うわ~…酒癖悪い人はこっちにもいるけど、あのポーラって人も相当ね…ねぇ二人とも。……あれ、二人とも?」

 

 美代は、二人に同意を求めるが一向に返事がない。横を見て確認してみると、朝香は目を回して倒れており、奈央は朝香を見て体を震わせている。美代は、その様子を見て「あの人終わったわね(T_T)」と思った。奈央は、基本的にのんびり屋で笑顔でいることが多い。朝香とは昔から仲がいいし、鎮守府でも常日頃一緒にいる。そして、美代は知っている。奈央は、朝香に何かがあるとキレる。ものすごくキレる。美代は、朝香を抱えて、安全な場所まで運ぶ。

 

「奈央、一瞬抜けるけど、やりすぎちゃだめよ…」

 

「わかってるわ~!骨の一本・二本で済むように戦ってあげる~!」

 

(さりげなく怖いこと言ってるし…声色はいつもと同じだけど、目の光がない…( 一一)相手を睨んでるし…あのポーラって人し~らない)

 

 美代はそう思いながら離れていく。もしも何かあったら加勢してあげよう。そう思った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここまで走ってきたら、さすがに大丈夫かな⁉」

 

「そうだね。相手は八重のところに行ったみたいだし、僕達は支持どおりに駅のところまで行こう!人もいるだろうし、向こうも手が出せないはずだし!」

 

 雫、紗枝、静香の三人は駅のほうまで走る。さすがに何も起こらないだろうが念には念をだ。急いで駅のほうまで向かっていく。しかし、走っていると目の前に突然、ウェーブのかかったプラチナブロンドの髪が特徴的な少女が現れた。静香は慌てて急停止し、衝突を免れる。あまりにも突然だったため、雫と紗枝も少し驚いてしまった。

 

「うわ(;゚Д゚)衝突禁止‼‼君、大丈夫⁉怪我無い⁉あぁ、そうか日本語通じない!えっと翻訳アプリ翻訳アプリ」

 

 静香が慌てて、携帯を取り出し翻訳アプリを探す。少女はというと、三人を物色した跡に、少し笑う。そして、スカートの裾を少し持ち上げたかと思うと、そこから何かが落ちてくる。三人は何をしているのかと思ったが、落ちたものを凝視すると手榴弾の形をしていた。少女は、どこからかサングラスを取り出している。

 

「ちょ⁉もしかして閃光手榴弾!」

 

「まずい!二人とも目を閉じて!」

 

 雫は、被っていた帽子を目隠し代わりにするが、静香と紗枝は間に合わずにもろに食らってしまう。その隙に、少女は紗枝の鞄を取り逃げて行ってしまう。

 

「へっへ~ん!引っかかった引っかかった~!や~い、悔しかったら捕まえてみろ~」

 

「ちょっと待ってよ!紗枝の鞄返してよ!」

 

 雫はそのまま少女を追っていく。今日一日災難なことばかりだが、まさかイタリアの艦娘と出くわすわ、今この瞬間、閃光手榴弾を食らわせられるわ、鞄を取られるわで散々だ。雫は、さすがに我慢の限界なのか思い切り叫ぶ。

 

「もう本当の本当に何なのさ!不幸以外の何物でもないよおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……(;゚Д゚)」

 

 体を震わせながら、体を起こす白露。時計を確認すると、夜中の三時。自分の腕を確認するが、鳥肌がひどいし、少し震えている感じがする。体調は万全のはずなのに。

 

「……し…時雨関連だよなこれ絶対…大丈夫かな…電話してみよう…」

 

 携帯を取り、時雨に連絡する白露。しかし、このあと案の定白露をイライラさせることを聞かされることになるのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 



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70話 西村艦隊のイタリア旅行④

どうもお久しぶりです。
イタリア旅行の続きです。
今後もマイペースですが、ゆっくり執筆活動をしていきます!(いつ完結するのやら…(;'∀'))
それでは、どうぞ!


「待ってよ!待ってってば!」

 

「待ってって言われて待つ人はいないよ〜だ!」

 

 現在、雫は少女を追っかけている。だが、中々追いつくことができない。狭い道に入られたり、段差を利用されて建物の屋根の上に登られたりするからだ。この街の地形がわからないから、雫にとってはとても厄介だ。焦りながら走っていると、ポケットの携帯から着信音が鳴る。走りながら画面を見ると、名前は焔(白露)と表示されていた。日本時間では夜中の3時とかなのだが。今はそれどころではなかったが、心配させたくないため電話に出る。

 

「もしもし!ごめん今電話どころじゃなくて!」

 

『は…はぁ⁉一体何事だよ⁉』

 

「今度はイタリアの艦娘に絡まれたんだ!八重達とは別行動をしてて、僕も今紗枝の鞄を盗られたから追っかけているところ!」

 

『……は?』

 

(あ…これ完全にキレてる)

 

 電話越しだが、怒りのオーラが伝わっているのがわかる。これは今度八重がとんでもないことになりそうだと思った。そうこうしているうちに少女に追いついてきた。

 

「ごめん切るね!落ち着いたらまた連絡する!」

 

『あ⁉ちょっ』

 

 電話を切って、一気に少女に近づく。少女は雫の速さについていけず呆気なく鞄を盗り返される。だが、少女は手から警棒を取り出しそれを振りかざす。それをバク転しながらよけ、足で蹴り上げる。警棒を取って反撃に出ようとした雫だったが、突然警棒が消えた。そして、少女の方を見ると今度は身の丈ほどの棍を持っていた。それも軽くかわしながら、回転蹴りで吹き飛ばす。さらに、吹き飛ばした後に棍は消え、変わりに手には手榴弾のようなものを持っていた。雫は、ピンを抜かれる前にすぐさま近づき両手を抑える。少女は勘弁したのか、大声をあげながら降参する。

 

「あ~もうわかった!降参するからさ!鞄取ったのは許してよ!ちょっとからかっただけだよ~…」

 

「まったくもう…こんなことをしてきたってことは、君もこの国の艦娘?(日本語通じるんだ…)」

 

「うんそう!私はグレカーレ!マエストラーレ級の2番艦だよ!」

 

 ”エッヘン”と妙に誇らしげに、腰に手を当てて胸を張っている。こっちは少し迷惑したんだけどなぁ…と内心思ったが、まぁ謝ってくれているし良しとするかと思った。

 

「そういえば、さっき武器が消えたりしたけど、あれは異能?」

 

「そうそう!私の異能は”創造”。武器だけに限られるんだけど、頭で考えたものを一瞬で取り出すことができるの!便利でしょ!ねえ便利でしょ‼‼」

 

 目をきらきらさせながら訴えるグレカーレ。その圧に雫は困り気味に頷くしかなかった。とりあえず、鞄を返してもらう目的は果たしたし、静香と紗枝と合流しようと思った。グレカーレもさっきのお詫びもかねてついてくるようだ。

 

「ねえねえ、私が言うのもなんだけどさ……ガリバルディさんは言わずもがな、もう一人ポーラって人が来てるの…酒癖が悪くて…多分あなたの連れ、大変なことになってるんじゃないかな…」

 

「大丈夫大丈夫、皆強いから!」

 

 雫は、問題なさそうに答える。実際、相手のポーラのほうが大変なことになっているのだが、グレカーレはそんなことを思っていなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 美代は、朝香を少し離れた建物に横にさせた後、近くに座り奈央とポーラと名乗った女性の戦闘を見ていた。酔拳をベースにしているのだろうか?ポーラの動きは予測不能だった。奈央も訓練生時代に海軍内で護身術を習っているためそれほど苦戦はしてはいないが。確か、雫のおじいさんの流派だったはずだ。それは強いはずだ。美代も朝香も習ってはいるが、実力としては中堅くらいだ。

 

「奈央~、加勢いる~?」

 

「いらないから大丈夫よ~!言ったでしょ~、この人の骨の一本・二本へし折るくらいしないと気が済まないの~!」

 

(にこにこしながらいう言葉じゃないわよそれ…)

 

 ため息を吐きながら、様子を見守る。見守っていると、ポーラが奈央の顔面に拳を入れ、さらに右肘であご下あたりに打撃を加えた。当たった場所がよかったのか、奈央はすぐに体制を立て直した。あごにもろにあたっていたら、軽く脳震盪を起こしてしまうところだ。奈央はすぐさまポーラの右腕をつかみ、力を利用し投げ飛ばす。ポーラはそのまま地面に倒れこむが、数回回転したのちに、肘をつき横になりながら再びワインを飲んでいる。表情には出ていないが、奈央の額に怒りマークがついているような感じがしていた。自分達を馬鹿にしているのだろうか?おそらくそう思っているのだろう。朝香も目を回して気絶させられたし。頭の打ちどころが悪かったらどうなっていたことか。

 

「あなたね~、自分のやってることわかってる~?」

 

「んあ~…何ってそれは決まってますよ~!戦いで~す!んへへ~!へぶっ!」

 

 ポーラがそういった瞬間、奈央は一気に距離を詰めポーラの顔面を思い切り蹴る。その拍子に、ポーラは数メートルほど吹き飛ぶ。何とか受け身を取り、前を見たが奈央が再び距離を詰めてきており、顔面に拳をくらわす。何発も何発も。最後に、アッパーをくらわし、空中に上げた後に腹部を思い切り蹴る。さすがに効いたのか、ポーラはうめき声をあげながらその場に倒れる。奈央は腹の虫が収まっていないのか拳を鳴らしながらポーラに近づく。ポーラの近くまで来ると遠くの方から何やら声がしていた。何事かと思って声のする方を見ると、金髪のロングウェーブが特徴の女性が走ってきていた。かなり慌てているのか、表情は青ざめている。猛スピードでこちらまでくると、奈央の方に頭を下げている。ちなみに日本語だ。

 

「すみませんすみませんすみません!うちの妹がとんでもない失礼を!お怪我はないです……か…」

 

 奈央、朝香、美代を順にみる女性。三人をじっくり見ると、服は若干汚れているし、腕には擦り傷のようなものがあるし、奈央の顔には打撲痕のようなものがある。それを見ると、女性はさらに顔を青ざめ、ムンクの叫びのような表情になり叫びだす。

 

「うわああああああああΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)本当にごめんなさいごめんなさい!なんとお詫びすればいいか服のクリーニングも傷の手当てもこちらでさせていただきます本当にこれは姉である私の責任です本当にごめんなさいこれはもう私の腹を切ってお詫びするしか(:_;)」

 

「い、いえそこまでしなくていいのよ~。でも最後に一発だけその人殴っていいかしら~(#^ω^)」

 

「は…はいぃ(;'∀')どうぞご自由に…気が済むまでどうぞ…」

 

 それを聞いて、美代は目を丸くしながらずっこけてしまう。殴らせていいんだ。だが、今あの人は妹と言っていた。それに、さっきのガリバルディが艦娘だったから、おそらくこの二人も艦娘だろう。日本にも酒癖の悪い艦娘はいるが、まさかここにも酒癖が悪い人がいるとは。

 

「そういえば、八重の方は大丈夫かしら?」

 

「あぁ、ガリと戦っている人ですか?向こうは大丈夫だと思います。向こうにも止めに入ってくれてる人がいるので!」

 

「そう、ならいいけど」

 

「あ、お詫びとして、うちの艦娘寮にご案内しますね!軽食などもご用意しますので!

 

「え?そ、そこまでしなくても大丈夫よ」

 

「お願いします!じゃないと私の気が済まないんです!上の方達には許可も取ってますし、別れた連れの方達も来ていただくように手配していますから‼‼」

 

 そこまでいうなら…ということで、全員その女性についていくことにする。朝香はなかなか目を覚まさなかったため、美代がおんぶしていくことに。ちなみにポーラは奈央に散々殴られた後に、姉に担がれていった。ちなみに、姉の名前はザラという名前らしい。ポーラにはほどほど困っているようで、たびたびこういう問題を起こしては、胃が痛くなってしまうらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おらおらどうした!そんなもんか!」

 

「うるさいわね(# ゚Д゚)海の上だったらあなたなんて瞬殺してやるわよ!こちとらどれだけ神経をすり減らしながらやっていると思っているのよ!」

 

 ガリバルディは雷撃を利用し、八重を追い詰めようとするが、八重はどうにかそれを避けつつ、地面をけり軽く周囲を揺らしたり、周りの建物が壊れないように竜巻を起こしたりなどしてどうにか応戦している。八重の能力は天災を引き起こす能力だ。本気でやったら、この国がとんでもないことになってしまうのは確実だ。そんな状況を向こうは知ってか知らずかわからないが、もろこっちを殺す勢いでやっているのではないかと思ってしまう。

 

「ああもう(# ゚Д゚)ストレスたまるわね!大体本当に何なのよ今日は!朝からテロリストに出くわすし、水道管が破裂して空中に投げ出されるわ、鞄取られそうになるわ轢かれそうになるわ!そんで最後にあなたに喧嘩売られるわもうあったまにきたわ!さっさとあなた倒して、皆と合流してホテルに帰らせてもらうわ!」

 

「やれるものなら、やってみろよ!この欠陥戦艦!」

 

「誰が欠陥戦艦で不幸が付きまとっているくそ戦艦だこらぁ(# ゚Д゚)」

 

「いやそこまで言ってねえよ!」

 

 ガリバルディに近づき、右手を地面に叩きつける。それと同時に地面が砕け、ガリバルディに石が飛ぶ。それを高速でよけ、八重の背後を取るが、予想していたのか八重は逆立ちの要領で、思い切り相手を蹴り上げる。そして、えぐれた地面から石をつかみ投げつける。

 

「そんな攻撃意味ねえんだよ!ふざけてるのか!」

 

「さっきも言ったように、こちとら全力で戦えないのよ(# ゚Д゚)話聞いてるの!」

 

「てめえの事情なんざ知るか!」

 

 二人の戦いで、周囲の建物や地面が壊れていく。ガリバルディは頭に血が上っているのか周囲を気にすることなく戦っている。正直、山城はこの状況にひやひやしながら戦っていた。修理代だけで一体どれほどのお金がかかってしまうのだろうかと思うと、もう気が気がじゃなかった。戦闘を長引かせないためにも、どうにかして無力化しなければならない。だが、動きが速すぎて捕まえられない。いろいろと工夫して戦ってみるがどれもうまくいかなかった。

 

(ああもう!もどかしいわね本当に(# ゚Д゚))

 

 異能を使い、周囲の建物から建物まで高速で移動する相手と戦うのは厄介すぎる。ガリバルディは、八重の背後を取り、思い切り蹴り飛ばす。八重は、その衝撃で建物に衝突してしまう。威力が高すぎて、一瞬呼吸が止まってしまった。向こうは、追撃するためにこっちに向かっている。すぐに体制を立て直さなければまた攻撃される。

 

「やめなさいよおおおおおおおおおおお‼‼」

 

「ぐえ⁉」

 

 しかし、攻撃される直前に、目の前に厚い鉄板のようなものを持った女性が立っていた。服装はガリバルディと同じで、ピンク色のロングヘア、右耳にピアスをつけている。相当急いできたのか肩で息をして汗だくだ。数回深呼吸をした後、ガリバルディの前に立つ。

 

「ここら近辺で赤い雷が鳴るし、建物が壊れていくって通報があったから来てみれば、ガリィ!これはどういうことよ!」

 

「あ、姉貴!こ…これはほら、あれだよ。こいつらと戦って、どれほどの実力か見ようと…」

 

「実力を見るなら、今度の世界会議でも十分見れるじゃない!ジャパンの艦娘がどれほどのものか!」

 

「だってこいつが来るかなんてわからないじゃんか!」

 

「ああいえばこういう!私はあなたをそんな風に育てた覚えはありません!それに、ここら一体の修理代、その他もろもろあなたの給料から引かせてもらうからね!」

 

「え”(;゚Д゚)」

 

「えじゃないわよ!決定事項よ、提督命令だからね!」

 

「あ…あのぉ…」

 

 ガリバルディの姉は、一瞬ビクッとした後に、八重の方に振り向き、すぐに頭を下げる。謝りながら何度も何度も。

 

「ご…ごめんなさい。妹がご迷惑をおかけしました。私は、ルイージ・ディ・サヴォイア・ドゥーカ・デッリ・アブルッツィ。名前が長いので、アブルッツィで大丈夫です」

 

「ご…ご丁寧にどうも。私は黒沢八重。艦娘としての名は山城よ。こっちは急に襲われたからびっくりしたわよ…」

 

「本当にごめんなさい。この子には、私の方からきつく言っておきます。姉として、本当に申し訳ないです…。ガリィ!あなたも謝りなさい!」

 

「うっ…ご…ごめんなさい…」

 

「まぁ、謝ってくれたならいいわ。ていうか、あなた達、本当の姉妹なの?」

 

「えぇ、この子は正真正銘、血の分けた姉妹です。昔から喧嘩っ早くて…」

 

 そう言って、肩をすくめるアブルッツィ。相当苦労してきたのだろうか。表情はかなり疲れ果てている。八重は(うわ~(-_-;))という表情で見ている。日本では、あまりそういう姉妹の話を聞いたことがなかったからだ。ただし、白露の昔の話は、かなりやばかったが…。そういう話をしていると、遠くの道からクラクションが聞こえてくる。音の方を見ると、中型のバスがこちらに向かってきていた。八重達の前に止まると、窓から金髪の女性が顔をのぞかせる。後ろの方には、雫達が乗っていた。どうやら全員乗っているようだ。

 

「あらザラ!お客様も全員エスコートしているの?」

 

「えぇ、まぁ…ただ、怪我人が3人いるわ…。寮に行ったら、早急に手当てをするわ…」

 

「あらそう!…………怪我人Σ(゚Д゚;≡;゚д゚)大丈夫なの⁉」

 

「一人は頭を打って、ついさっきやっと目が覚めました…一人は顔にあざ…擦り傷その他もろもろ……もう一人も擦り傷に打撲痕…服も汚れました…」

 

「……ちなみにそれをやった張本人は?」

 

「ポーラです…」

 

「……はぁ」

 

 頭を抱えるアブルッツィ。まさか怪我人が出ているとは思わなかったからだ。とにかく、寮に行ったら丁重におもてなししよう。そう思った。そして、八重とガリバルディをバスに乗せ、寮の方に向かった。その際にポーラにも説教をしたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーイタリア艦娘寮

 

「はえ~…」

 

「こ、これはまたすごい作りね(;・∀・)」

 

「ようこそ、ゆっくりしていってね!」

 

 艦娘寮まで来た八重達一行。中の作りは日本とは全然違う。天井にはシャンデリア、他にもきれいな装飾品や豪華そうな絵画や壺など色々あった。中を一通り案内されたあと、広いテーブル席に案内される。

 

「では、ここで少し待っていてください。他の人達がすぐ来ると思うので!ということで、ガリィ、ポーラ、こっちへ来なさい(#^ω^)」

 

「ちょ、ちょっと待て姉貴!グレカーレは!」

 

「あの子に遊べるからついて来いって言ったそうね?」

 

「ま…まぁそうだけど…」

 

「純粋な子を戦いに巻き込んでどうするの!相手が優しかったから怪我はしなくてよかったけど!」

 

「むっ…」

 

「あの子は厳重注意のみ!幸い鞄を取って追いかけっこをしただけみたいだし、相手にも素直に謝ってくれたからね。でも、あなた達はみっちりと説教せさていただくからね(#^ω^)」

 

 そう言って、奥の部屋へ連れて行かれるガリバルディとポーラ。部屋に連れて行かれたあと、悲鳴のようなものが聞こえてきたがもう気にしないことにした。あとは、美代達の手当をしてもらう必要がある。すると、階段の方から足音が聞こえてきた。音からして、複数のようだった。

 

「CiaoCiao〜!お姉ちゃん達が迷惑しちゃってごめんね〜!今怪我した人の手当をするね〜!あ、私リベッチオ!リベでいいよ!」

 

「私はマエストラーレ!マエストラーレ級の長女よ!それで、隣にいる眠そうにしている子が……って寝てる(;゚Д゚)起きて挨拶しなよ!」

 

「…ん?あぁ…あたし、シロッコ…よろしく…(-_-)zzz」

 

「あぁ!また寝た(;゚Д゚)シロッコ!起きろ!ご飯だよ!軽いものだけどご飯が出るから!パスタが出るから怪我人の手当てを協力して!」

 

「やる!」

 

 妙にやる気になったシロッコという少女を筆頭に、美代達の治療をする三人。念のため、擦り傷部分に消毒をして、そのあとに絆創膏や包帯などを巻いてあげる。美代達は、治療してくれたことにお礼を言うと、三人は向かい側の席に座った。特に、シロッコは目を輝かし、よだれをたらしながら今か今かとご飯が来るのを待っている。すると、おそらく厨房の方だろう。そっちの方から、料理の匂いが近づいてきた。晩御飯を済ませてはいたが、八重達はその匂いに食欲をそそられた。

 

「お待たせ~。うちの子達が迷惑をかけたみたいでごめんなさい。私はイタリア。ヴィットリオ・ヴェネト級の2番艦。一応、ここイタリアではリーダーみたいな扱いになっているわ。よろしくね。で、隣にいるのがアクィラとカブール、それとさっき追いかけっこをしていたグレカーレ。もう一人潜水艦でルイージって子がいるんだけど、今は寝ているわ」

 

「さっきは迷惑をかけてごめんなさい。今料理を持っていくからね!」

 

「よしよし!料理の出来もいいし、皆で楽しく食べれそうね!(じゅるり)」

 

「こらアクィラ!料理を運びながらよだれをたらすなみっともない!」

 

「だっておいしそうなんだもん。それに、私より小さいあなたに言われてもね…」

 

「う、うるさい!儂はこれでも戦艦だ!火力だけだったら、このイタリア海軍でも随一だぞ!」

 

((え(;゚Д゚)戦艦なのあの人!))

 

「おいアンタら。今儂のこと戦艦なのって思ったか(#^ω^)」

 

 カブールの圧力に、全員首を横に振る。この人は怒らせない方がよさそうだ。そして、料理が一通り並べられていった後に、各々が席についていく。シロッコとアクィラは今すぐにでも食べたそうにしていたが、イタリアが「まだまだ(T_T)」と静止している。席が5つ空いており、おそらくそのメンバーを待っているのだろう。叱られているガリバルディとポーラ、ザラとアブルッツィ。あともう一人だ。イタリアは、ため息を吐き、水を飲みながら話し出す。

 

「まず、先に謝罪しておくわ。今回、うちの子達をあなた達に仕向けたのは、今から来る私の姉妹艦なの」

 

「仕向けた?なんでわざわざそんなことを?」

 

「来たら説明してくれるって。…って、言ってるそばから来たみたい」

 

 おそらく、玄関のほう。ドアの音が開き、足音がこちらに近づいてくるのと同時に、八重達は悪寒のようなものを感じた。それも、見覚えのある感覚。昨日感じた、本当に一瞬であったが殺気のような視線。それと同じ感覚のものを。その者は、空いた席に座ったと同時に、目の前にあるグラスにワインを注いだ。しばらくの沈黙。手に汗を握りながら、八重はゆっくりと口を開いた。

 

「……昨日感じた視線は、あなたのものだったのね。私達を監視でもしてたのかしら?」

 

「ふ~ん、やっぱり勘はいいわねあなた。それなら、今後戦いが激化していってもあなたは生き残れそうね。他の6人は、うまく立ち回ることができれば及第点といったところかしら?」

 

「な!何なのよ、いきなり出てきて偉そうに!そもそも、あなた誰よ!」

 

 その女性の言葉に、美代は怒鳴りながら席を立つ。しかし、美代に対して雫は手で静止する。雫はなぜかわからなかったが、この女性は危険だと思ったからだ。それに、気配がどことなく誰かに似ていた。雫が思う限り、この気配を持った人物は、おそらく大本営にいる明石と似たような気配だった。

 

「…………狂種、無手勝流(エゴイスト)戦艦ローマ」

 

 その名前を聞いて、美代は青ざめた様子で椅子の後ろに隠れる。雫も大本営にいた時に、磯風に聞いた異名だった。確か、狂軍師と呼ばれていたはずだ。

 

「で、その狂種様が、なぜ私達に突っかかってきたのかしら?」

 

「…まぁ、そうね。強いて言うなら、あなた達の実力を知りたかったから。特に、山城。あなたのね。ジャパンのS級ランク序列6位。天災児(クレイジーニアス)の異名を持っているあなたが、どれほど戦えるのかを見たかった。まぁ、6割の実力で戦ったガリィを、最小限の能力で抑えていたあなたには、少し感心した。……でも」

 

 そう言って、殺気のような圧を八重に向けるローマ。八重はその殺気に、後方に飛び距離を取る。動かなければ死んでいた。そう思うほどの殺気立った。その様子に、ローマはため息を吐きながらワインを一口飲む。

 

「まだ遅い。戦闘態勢に入るまで、あとコンマ数秒は早く動けるようにしておきなさい。じゃないと、今後死ぬわよ」

 

「…できることなら、そうしたいわよ。日本の10万越えの3人もかなりやばいけど、あなたも相当よ。世界に名をはせた狂種の1人であり、世界でも9人しかいない霊力10万越えの化け物」

 

「…確かに、私の霊力は10万だけど、9人の中では一番下よ。もう一人、ドイツに10万の人はいるけど…。それに、狂種は日本にいる明石以外は全員10万越え。10万に近い人も世界に何人かいるみたいだけどね。隣にいる姉さんも含めて」

 

 それを聞いて、雫達は驚いた様子だった。当のイタリアは「それほどでもないけどね~(*^^*)」と少し照れた様子だ。どうしても気になったのか、雫がイタリアに話しかけた。

 

「あ…あの、ちなみにイタリアさんは霊力はどれくらい…?」

 

「霊力は9万!ちなみに、異名は最終防壁です(*^^)v」

 

「(9万ってことは、加賀さんと同じクラス…加賀さんは氷を操る能力で、確か防御力に優れてるって聞いたけど……ん?最終防壁?)…もしかして、イタリアさんも異能持ち?」

 

「あら、よく気づいたわね。私の異能は防壁(バリア)。本気でやれば、100m以上はバリアを伸ばせるわ。さすがに、10万越えの人達の攻撃は、防げたことは無いけどね…」

 

 「いやそれでもすごい(;゚Д゚)」と周囲はかなり驚いている。補足で説明されたが、ガリバルディの攻撃も余裕で防げるし、深海棲艦の攻撃も射程内であれば余裕で防げるらしい。後ほど聞いた話だが、ガリバルディの霊力は7万9千とかなり高かった。

 

 そのあとは、雰囲気も落ち着いて他愛無い話をしたり、日本の状況、イタリアの状況の話をした。イタリアでも新種らしき深海棲艦は何度か見かけたことはあるらしいが、戦闘までにはいっていないらしい。こっちはこっちで、大本営の第3艦隊は壊滅させられるし、重傷を負った子もいる。今後、戦況は厳しくなることはある程度予想はできる。

 

「ま、向こうに動きがあるとしたら、おそらく世界会議の時かそれ以降か…。何かしらしてくるでしょうね…」

 

「ちょ…ちょっとやめてよ~!ローマさんの言ったことは大体当たっちゃうんだもん!」

 

「マエストラーレ、諦めなさい」

 

 マエストラーレの言葉にすかさずローマは返す。確かに、今後動きを見せるとしたら、8月にある世界会議であることは間違いなさそうだ。各国の艦娘や世界のトップ達が来るんだから。しばらくの沈黙の後に「あ」と思い出したようにローマがマエストラーレ達に指示をしている。それを聞くと、4人は急ぎ足でどこかへと向かっていき、しばらくすると台車に乗せた箱がいくつもあった。

 

「今回の一件で、ろくにお土産も買えてなかったでしょう。立て替えておいたから、それを送ってあげなさいな」

 

 そういわれて、中身を確認する八重達。中身を確認すると、全員が驚く。時間があったら行こうと思っていたお店の服、アクセサリー、お菓子やその他もろもろ。すべてあった。八重達が個人で買おうと思っていたものも全部だ。

 

「ちょ⁉まっ⁉え(;゚Д゚)なんでわかったのよ!私達の買おうとしていたもの!」

 

「いろいろと調べたのよ。裏情報からすべてね」

 

「こ…こわ…あなた探偵だったら相当な人になれるわね…」

 

「探偵だったら可愛い方だぜ…そいつはマジでやべえぞ…」

 

 そう言って、奥の方からガリバルディが頭を掻きながらやってきた。後ろにはポーラにザラ、アブルッツィもいる。ガリバルディとポーラは相当絞られたのか、顔がげっそりしている。「あたしらの分ある~?」と尋ねながら席に着く。そして、パスタを食べながら話し始めた。

 

「ローマは、数十手…下手したら百手先まで見据えているんじゃないかってぐらい先を見てる。おまけに、狂軍師って言われてるぐらいだから、下手したらあたしらが轟沈するんじゃないかって無茶な指示をすることがある。ま、あたしらは轟沈しないで、こうして生きているけどよ」

 

 「でも…」と口に含んだものを飲み干し、一旦間をおいてから話す。その内容は驚愕の内容だった。

 

「一番やばい話は、そいつが昔、陸軍にいたころに上官を特攻まがいの作戦で死に追いやった…ていう話だな」

 

 八重達は、その話を聞いて息をのむ。狂軍師と言われるようになった由縁にも納得がいった。今聞いたばかりだが、正直実感がわかないが、相当やばい指示が常日頃この艦隊であるのだろう。だが、全員がこうして生存していることから、艦隊全員の実力は相当なものなのだろう。

 

「…そんな話はどうでもいいわ。ま、今後死なないことを祈るのね。もしかしたら、私達が一緒の艦隊になることもあるだろうし」

 

「可能なら、あなたと一緒の艦隊にはなりたくないわね…。あなたと組むくらいなら、日本にいる宮本中佐の指揮でやった方がましよ」

 

「確かに、あの人もすごいけど、きっとあの人の頭脳でも対処できない日がやってくるわ。まぁ、そのうちわかるだろうけど」

 

 八重が首を傾げながらローマを見るが、ローマはこれ以上何も答えずワインを飲み席を立つ。部屋に戻るのか、階段を上がっていく。

 

「せいぜい死なないようにすることね。次会う時を楽しみにしているわ」

 

「…えぇ、次会えればね…」

 

そのまま階段を上がっていくローマ。それを見届け、食事を終えると八重達も席を立つ。

 

「さてと、私達も戻るわ。料理ご馳走様」

 

「待って。お詫びもかねて送るわ」

 

「え、大丈夫よ。まだ駅も出ているし」

 

「あぁ、ほら…ザラがどうしてもって…」

 

 そういって、ザラの方を見る。ザラは申し訳なさそうに何度も頭を下げて「送り迎えまできっちりとやらせていただきます!何なら、明日の護衛までやらせていただきます!」とのことだった。「別にそこまでしなくていいのに(T_T)」と思ったが、お言葉に甘えることにした。帰りもザラの運転する中型バスで戻ることに。高速を使っていくらしいので1時間以内でつきそうだ。助手席にはアブルッツィもいる。

 

「さてと、皆は明日はどこをどう観光する感じ?ザラが送り迎えとかしてくれるって!それに、うちの妹も護衛につけるから」

 

「えっと、いいのかしら?そんなに手厚くもてなしてもらって…」

 

「大丈夫!ほら、遠足は行ってから帰るまでっていうみたいだし、明日でイタリア観光最後なんだから、最後くらいちゃんとした観光をさせたいからね!という訳で、明日は8時くらいにザラとりべが迎えに行くからね!

 

 紗枝がそこまでしなくてもといったが、妹達が八重達を襲ったお詫びなどもかねてらしい。という感じで結局押し切られてしまった。「明日だけは何も起こりませんように…( ;∀;)」と八重は思った。その後はホテルに無事につき、明日に備えてゆっくりと眠ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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71話 西村艦隊のイタリア旅行⑤

「…………」

 

「Ciao~!約束通り迎えに来たよ~」

 

 現在、時刻は朝の8時過ぎ。ホテルの前にイタリア艦隊のリベッチオが元気よく挨拶をしている。オフなのか、服装は私服だ。白色のタンクトップに黒色のスカートを履いている。「本当に迎えに来た(;'∀')」と八重は少し感心気味だ。遠くの方には、ザラの運転していた中型バスまである。

 

「ほらほら!ボーっとしてないで、早く行こう!皆待ってるよ!」

 

 そう言って、八重の手を引っ張るリベッチオ。中型バスまで来ると、ザラが窓から顔をのぞかせており、助手席にはガリバルディもいる。一番後ろには、グレカーレも顔を覗かせていた。ちなみに皆私服のようで、ザラは白色のYシャツに赤いスカート、ガリバルディは白色のへそが出てるタイプのタンクトップTシャツ、黒色のジーパン。グレカーレは袖の部分が青色、胴の部分が白色のTシャツに雨模様の入っている紺色のスカートを履いている。

 

「よう。昨日はよく眠れたのか?」

 

「えぇ、まぁ昨日はいろいろあったからね…。おかげで眠れたわよ」

 

「私は、昨日頭を頭を打ったから、後頭部が痛い…」

 

「私は顎が痛いわ~…」

 

「強いて言うなら、擦り傷が気になる…」

 

 ポーラと戦った美代、朝香、奈央の三人組は愚痴をこぼす。その愚痴に、ザラは涙目になりながら「本当にごめんなさい( ;∀;)謝罪にどこにでも連れていきますから…」と言う始末。今日は、八重達が観光できる最後の日であるため、心置きなく観光してもらいたいのだろう。

 

「そうねぇ…ここら近辺は観光しているし、ベネチアにも行ったし」

 

「なら、フィレンツェにでも行く?美術館もあるし、大聖堂もあるって聞いたわ。今から、回ったら意外と時間を潰せるかも」

 

 「了解!」といい、ザラは車を走らせる。途中、スーパーにより飲み物やお菓子などを買う。高速なども利用し、安全運転で運転するザラ。かなりウキウキ気分だ。ドライブが趣味なのだろうか。

 

「ねえ、趣味ドライブか何かなの?」

 

「えぇ!ドライブに料理に、いろいろあるわ!八重だったかしら。あなたは何かあるの!」

 

「趣味…ねぇ…私はこれと言って特にないわね…。たまに出かけても、常日頃からいろいろ起こるから…」

 

「あ…あぁ(;^ω^)」

 

「本当に不幸体質なんだな…まさかとは思うけど、あたしらまで何か巻き込まれないだろうな?」

 

「それは正直わからないわよ。現に、イタリアに来てから色々起きてるし…」

 

「幸運艦って言われてた時雨…あぁ、雫がいても駄目だったから…」

 

 八重と紗枝の言ったことに、ガリバルディは「ふん」と言って窓を眺める。すると、一番後ろに座っていたグレカーレがザラに話しかける。後ろの窓を見ていたようで、後方に身を乗り出していた。

 

「ねぇザラさん。なんか後ろの車、すごい煽ってきてない?」

 

「え”、うそ⁉」

 

 そういって、ザラはバックミラーを確認する。他の皆も後方を確認する。後方の車は、かなりこちらに近づいてきていた。下手したらぶつかるのではないかと思うほどだ。運転手はかなりいかつい男性でサングラスもかけている。あれこれ考えているうちに、左側に並走してきており窓を開けて何やら怒号を発している。イタリア語で話しているためなんて言っているかはわからない。その様子に、ため息を吐きながら美代が質問した。

 

「ねぇ、なんて言ってるわけ?」

 

「…何ちんたら走ってるんだこら…だって」

 

 ため息を吐くザラ。気にしても仕方ないため、無視を決め込む。厄介ごとには巻き込まれたくない。そう思っていたのに、向こうの方から幅寄せしてきている。スピードを上げて振り切ろうとするも、向こうもスピードを上げてこちらに近づいてきた。

 

「……はぁ、しょうがないわね…ガリィ」

 

「はいよ」

 

 ガリバルディは、窓を全開にし、シートベルトを外して窓から身を乗り出す。異能を使っているためか車から落ちる心配はなさそうだ。一旦、車の上に上がると、持ち前の瞬間移動で煽ってきた車の方に行く。向こうは急に車のボンネットに女性が立っていたからか大声をあげていた。ガリバルディは、眉間に青筋を浮かべながら運転手に話しかける。

 

「おいこら、せっかくこっちが穏便に済ませようと思ったのに、自分から喧嘩吹っ掛けてくるとはな!」

 

「あわわわわ(;゚Д゚)」

 

「今ここで死にたくなかったら、さっさと失せな!」

 

 右手に、雷を纏わせながら運転手に話しかける。おそらくイタリア語で「すみませんでしたあああ!」と叫んでいたのだろう。一気に加速してこちらから離れていく。ガリバルディはすぐに車の上に瞬間移動し、助手席に戻る。顔は半分呆れているようだ。

 

「…お前、毎回こんな感じなのか?」

 

「言ったでしょ…出かけるときも、出撃するときも大体こんな感じよ…」

 

 『うわ~…』と言い、イタリア艦隊の面々は少し引き気味だ。本当に、一体どんな体質を持っていればこんな風になるのだろうと思った。これは、本当に彼女達に何も起こらないように、徹底して護衛をしなければいけないな…と全員が思った。そのあとは、特に何事もなく無事にフィレンツェの街につくことができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…何とかついた…駐車場に車も止めたし、それじゃ観光に行きましょうか!何かあったときのために、遠目から私とリベが。外はガリィとグレカーレが見張るから!」

 

「了解。じゃあ、私達は心置きなく観光させていただくわ」

 

フィレンツェにある有名な美術館に来た一行。もし何かあったときのために、遠目からザラとリベッチオが見守る形で美術館に入っていく。この期間でいろんな美術館に行ったが、ここもかなりすごいらしい。周りを見る限りかなりお客さんも多い。本当に、何も起こらないことを見守るばかりだ。

 

「はえ~!すごい!いろいろな装飾品や絵画があるのね!」

 

「見た感じ~、すごく高価なものが多いわね~!こんな小さなものでも日本円で億単位とか行くのかしら~?」

 

「多分それくらいの値は行くでしょうね…。まぁ、あんまり興味ないけど…」

 

 朝香と奈央は、美術品を見てかなりはしゃいでいる。美代は興味無さそうな発言をしているものの、作品をまじまじ見ては少しだけ笑みを浮かべているので内心楽しそうだ。その様子を見て、八重達も少し笑みを浮かべる。ただ、雫のそばから絶対に離れないようにしている。理由は簡単。不幸なことが起こらないように祈っているからだ。

 

「あ…あのさ二人とも。少し、僕から離れてもらってもいいかな?僕もいろいろとみて回りたいんだけど…。遠目からザラさん達がみてくれているし」

 

「お…お願いだからそばから離れないで!もう私はごめんよ!万が一、ここの作品を壊しでもしたらと思うと(;゚Д゚)」

 

「そ…そうね…見守ってはくれているけど、もし何かあったら嫌だから(;^ω^)」

 

 雫はかなり困った様子で歩く。まぁ、別に問題はないからいいが。静香はというと、昨日雫と一緒に寝たということもあるのか、かなりギラギラしている様子で美術品を眺めていた。そのまぶしさに、他の観光客も少し引いてしまうほど。本人はさほど気にはしていないが。雫は、後ろを歩いているであろうザラとリベッチオを確認する。二人とも、美術品を眺めたりしているが、常にこちらに視線を向けているし、周囲への警戒も怠っていない。さすが、狂種であるローマの指揮の中動いている艦娘達だからか、かなり優秀だと雫は思った。

 

 そんなこんなで、いろいろ回っていたが今のところ特に変わったことは無い。変な奴に絡まれもしないし、変にこけて作品を壊すなんてこともない。全部見て回るのに1時間以上はいたが、本当に何事もなく美術館を出ることができた。いろいろな作品を見て回ることができたからか、全員がとても満足そうな顔をしている。が、八重は内心逆に何事もなかったことに少し肩透かしを食らった。

 

(はぁ…なんか、変に疲れたわね(;'∀')気を張りすぎたかしら…)

 

「さてと、ガリィ、グレカーレ。外は特に何もなかった?」

 

「うん!特に何もなかったよ!」

 

「よし、じゃあ次は大聖堂ね!早速車に乗って……あれ、八重、紗枝、どうかしたの?」

 

 変に疲れた顔をした八重と紗枝を心配するザラ。この二日間で、いろいろありすぎたせいでこれから一体何が起こってしまうのかが本当に、本当に心配なのだ。

 

「あ…あぁいえ…お気になさらず…行きましょうか…」

 

「あ、その前に~、ここの前で写真を撮ってもいいかしら~!」

 

「あ、それもそうね。撮りますか」

 

 奈央の発言で、美術館の前に7人が集まる。ザラは八重から預かった携帯を手に、カメラを構える。

 

「はい、撮るわよ~!はい、チー…………ちょっとそこの変な格好をしている男子。邪魔邪魔」

 

 ザラの言ったことに対して、右を見る八重達一同。見ると、変な格好をしている男性がポーズをとって立っていた。ザラの言ったことに対して、男性はへらへらした様子で話している。イタリア語だから八重達にはわからないが。

 

「別にいいじゃん!こんなかわいい子達と取ることなんてあまりないんだし!しかも観光客でしょ!」

 

「観光客だからこそ、一緒に写真撮ってその人達から金巻き上げる気なんでしょう…いいからあっち行く…」

 

「ええ…いいじゃないか別にさ~…」

 

「…ねぇねぇねぇ…いい加減にしないと、ぶちのめすよ(#^ω^)」

 

 グレカーレは、異能でスタンガンを取り出すと、相手に向ける。年端もいかぬ少女が笑顔でスタンガンを向けているのがよほど怖かったのか、男性は冷や汗をかきながらその場から猛スピードで離れていった。「この子怖ぇ…」と思いながら、八重達は気を取り直して写真を撮ってもらった。その後は、近くにあったレストランで昼食をとり、車で大聖堂の方へと向かった。

 

 ザラ達がいるのもあるのか、大聖堂付近を観光しても特に大きな出来事はなかった。変な奴に絡まれそうになることはあったものの、そのたびにガリバルディとグレカーレが止めてくれていた(ある意味脅迫で…)。あとは、各自で買いたいものを買ったり、親睦を深めるためにお茶をしたり、夕食も共にした。そうこうしているうちに、あっという間に時間が過ぎたため八重達のいるホテルまで戻ることになった。

 

「はぁ…いつもよりいろいろなことがあったから疲れたな…」

 

「本当…変な人に絡まれすぎだよもう!止めたからいいけどさ…」

 

 ガリバルディとグレカーレは、特に変に絡んできた者達を追い返したりしていたためか、かなりぐったりしていた。ザラとリベッチオは、あまりそういうことがなかったためか疲労感はあまりなさそうだ。ただ、常に周囲を警戒していたこともあるのか、あくびをしたりしている。その様子に、八重は非常に申し訳なかったのか、少し涙目になりながら「ごめんなさい…巻き込んで…」と謝罪していた。そして、無事にホテルに着くと、買った荷物を持ってバスを出る。ザラ達にあらためてお礼を言うと、中に入ろうとする。

 

「あ、ちょっと待って!ローマから伝言を預かっているの!」

 

「ん?伝言?」

 

「えぇ、ジャパンの1位によろしく…ですって」

 

 ザラの言葉に、八重は一瞬緊張した面持ちになる。深呼吸をした後に、もう一度お礼を言うとザラ達を見送った。部屋に入り、荷物を適当な場所に置き椅子やベッドに座り一息つく。少し時間を置いた後に、雫が話し始めた。

 

「ねぇ八重、S級1位の人を知ってるの?さっき、伝言を聞いたとき、一瞬緊張してたようだったけど?」

 

「…えぇ、知ってる。でも、遠目からしか見たことが無いから、どういう人なのかはわからない。ただ、そうね。伸長は多分、私と同じくらいか少し大きいくらいで、長髪をボニーテールにしていたわね…」

 

「名前は?あと、霊力とかも知りたいな」

 

 S級1位の情報は、ほとんど無いためか、八重以外全員が興味津々だ。最後に出撃したのは5年前。遠目からではあったが、八重はその実力を見ている。それに、遅かれ早かれおそらく1位の情報は全鎮守府に知れ渡るはず。八重は深呼吸をした後にゆっくりと話し始めた。

 

「…大和型戦艦1番艦大和。霊力は16万。最強の艦娘であり、世界の2強よ。臨海突破(クリティカルオーバー)も習得しているから、瞬間的な最大霊力は36万になる」

 

 それを聞いて、その場にいた全員が驚愕する。だが、続く八重の言葉にさらに驚愕することになった。

 

「5年前、深海棲艦が大軍勢を率いて攻めてきたことがあった。戦艦タ級flagship級までね。その時、私も出撃していたし、大本営にいる長門、S級2位の鳳翔さんもいた。今考えてみれば、過剰戦力じゃないかって思ってしまうほどよ。そのほとんどの深海棲艦を、その人一人で8割以上殲滅したんだから。砲撃が直撃したら轟沈確定。食らわなかったとしても、余波だけで中破以上の損傷は出ていた。そのあとは、残党処理。私も異能をほとんど使わなかったわ…」

 

 当時、確認されていた深海棲艦は戦艦タ級flagship級まで。その時は、大軍勢で攻めてきたらかなり厄介ではあった。艦娘の人数は少なかったはずだし、5年前の山城の霊力は今の半分ほどだったという。その当時から、S級1位に君臨しているのだから相当な実力者なのだろう。

 

「噂にしか聞いたことが無かったけど、やっぱりそれほど強いのね…でも、情報を規制していたのは何か理由があるのかしら?」

 

「本人による希望みたいです、姉さま。どうも、本人は自分の力を嫌っている…と鳳翔さんから聞きました…」

 

「えっと…なんで鳳翔さんが?」

 

「大和は、鳳翔さんの実の娘だから。艦娘として覚醒したのは今から13年前。その時から、徐々に力が制御できなくなっていって、建物を壊したりしていたって聞いたことがあるわ」

 

 「ヒエ(;'∀')」と朝香が顔を青くする。一体何があればそんなことが起きるのか、想像できなかった。疑問に思ったのか、顎に手を当てて考え事をしていた美代が口を開く。

 

「待って、そもそもなんで大和型として力を覚醒させたの?血のつながりのあるもので艦娘として覚醒することは結構あるわ。現に、雫もそうだし、八重と紗枝だって…」

 

「それも確かにある。けど、血縁関係でも史実との強い関係性があって、別々の艦種として覚醒することがあるらしいの。現に、史実では大和が建造されているときに、その護衛として隣にいたのが、軽空母鳳翔よ。見方によっては本当、親子みたいな関係性よね」

 

「なるほどね…」

 

「もしかしたら今後、別の艦種としても強いつながりで巡り合う艦娘がいるかもしれないし、姉妹だとしても別々の艦種として覚醒するかもだし…」

 

「ややこしいわね~…」

 

「……はぁ、まぁ今はそういうことは置いといて、もう明日に備えて寝ましょう。いろいろ情報がありすぎて頭が疲れたわ…。それに、明日の午前にはイタリアを出発するし、早く寝ましょう。あ、その前に軽くシャワー浴びますか」

 

『は~い』

 

 そういって、各自早急にシャワーを浴びた後にベッドに入る。ちなみに、今日雫は紗枝と一緒に寝ている。本当に、ベッドが変わると一人では寝られないようだ。やれやれ…と思いながら、八重は眠ろうとするが、ふと携帯に目をやるとメールが来ているようだった。こっちはもう夜10時過ぎ。日本からだとしたら、朝の5時くらいのはずだ。誰だろう…と思いながら内容を見る。その内容に、八重は身震いしながら携帯を見た。

 

(帰ってきたら、覚えておけよ!)

 

 内容は、焔(白露)からだった。やばい、どうしよう(;'∀')と内心かなり焦る。ここ数日、不幸続きだったから、本当に、日本の空港に着いたらとんでもなくやばいことになる。間違いない。長年の勘がそう言ってる。明日の9時くらいに、イタリアを出発して、14時間後に向こうに着くから、イタリア時間で深夜の1時に着く。日本時間では朝の8時くらいか。

 

「……今は考えない今は考えない。明日に備えて寝よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーイタリア空港内 飛行機搭乗前

 

「お願い雫!今日は私の隣に座って‼‼」

 

「え…えっと、いいけど、どうしてそんなに必死なの(;'∀')」

 

「理由はいろいろあるけど、お願い!それに、皆の隣で寝てたりしたでしょ!あと私だけよ!」

 

(えっと、これもしかして焔関連…?)

 

 搭乗口の前でいろいろと懇願している八重。雫は焔関連だと考え、周りを見ると全員が糸目になりながら見ている。完全にあたりか…と思った。携帯を見てはかなり動揺している様子だったし間違いない。それならば…ということで、飛行機の中では八重の隣に雫が乗ることに。飛行機の中では特に何事もなく、日本に着くまで全員が寝て過ごした。なお、雫は八重の腕にしっかりと抱き着きながら眠ったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして14時間後。無事に日本に着き、日本時間朝の8時。時差ぼけの影響で、少し眠気があるが荷物を受け取った後に空港の入り口前まで行く。雫と八重達はこれでお別れだ。八重達は電車、雫は飛行機を乗り継いで帰ることになっている。

 

「さてと…それじゃ、雫私達は行くわ…」

 

「えっと、八重。何かすごく急いでない?」

 

「焔にあったら確実にやばいからよΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)多分私殺されるわ!そうなる前に、退散する!」

 

「や…八重、さすがにあの子はそこまでしないわよ(;^ω^)」

 

「それでも急ぎますよ(;゚Д゚)絶対に、ろくなことにならn」

 

「雫~!おかえりなさ~い!お土産は直接こっちに来るんですってね!皆楽しみに待ってるみたいよ~!」

 

 「ひっ(;゚Д゚)」と八重が動揺を隠せない様子で声のした方を見る。そこには、母親の星羅が手を振って迎えに来ていた。周囲を見ると、焔の姿はない。どこか違う場所にでもいるのだろうか。ほっと、胸をなでおろした八重だったが、突然肩を思い切りつかまれる。何事かと思い、つかまれた方を見ると、そこには赤いオーラを纏っていた焔が立っていた。

 

「ひ・さ・し・ぶ・り♪(#^ω^)」

 

「…………」

 

「覚悟、出来てるんだろうな(# ゚Д゚)」

 

「え…いや、あの…不可抗力っていうか…仕方なかったというか……ま、巻き込んでしまったのは謝るからΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)み…皆も何か言って!」

 

「さ…さぁて、私達は一旦お茶でもして、休憩した後に電車に乗りましょうか!」

 

『さ~んせ~い!』

 

「じゃ、じゃあ雫、星羅さん、焔、また!」

 

「そ…そんな姉さま…ちょ!待っt」

 

 瞬間、八重は一気に体を倒されると、両足を思い切りつかまれエビぞりの状態になる。かなりの角度まで曲げているため、よほど苦しいのか、八重は手を何度も床に叩いている。

 

「し…雫…助け…」

 

「ご…ごめん八重。そこまでキレてる焔は、僕でも止められない…」

 

「そんなぁ…」

 

 そのあと、数分にわたってエビぞりを食らった後に、ようやく解放された八重。そのあとは、3人と別れて、遠目から見ていた紗枝達と合流し、喫茶店の方に向かっていった。雫達は、2時間後の乗り継ぎの飛行機が待っているため、チケットを購入し搭乗口のほうまで向かうことにした。それまで、焔は八重の愚痴ばかりを言っていた。

 

「まったく、なんでこういう時まで不幸体質があるんだよあいつは…ラ〇ベに出てきている主人公かよ…」

 

「こらこら焔…あんまり人のことを悪く言わないの…好きでああなったわけじゃないんだし…案外、そういうところも含めて楽しかったんじゃない!ねぇ、雫!」

 

「…そ…そうだね…」

 

「あ…あら、結構大変そうだったような顔ね(;'∀')大丈夫?すぐに飛行機乗っても…」

 

「大丈夫!早く戻って皆に会いたいし!」

 

「よし、それなら、さっさと向こう行って時間潰して、飛行機乗って帰りましょう!遠足は家に帰るまでだしね!さ、行きましょ!」

 

『はいはい』

 

 星羅の後をついていく2人。軽食を買い、時間を潰した後に、飛行機に乗り柱島の方へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はぁ、本当に、怒涛の3泊4日だったわね…」

 

 帰りの電車に乗りながら、愚痴をこぼす八重。隣を見ると、他の皆は少しうたたねをしている。疲れがかなり溜まっていたのだろう。八重は、全員の様子を見ながら考え事をしていた。ローマに言われたこと。他の全員は、動き次第では及第点だと。

 

「個の力では、かなわない敵がいることは間違いない。あと一か月以内で、一体どれほど力をつけられるか…それにしても、あの子また強くなっていたわね…本当に、まだまだ伸びしろがあるわ…」

 

 八重は、そういいながら窓を見る。焔の力は、まだまだ強くなっていくはず。きっと、雫も。2人だけじゃない。A級の上位帯にいる者達もだ。伸び悩んでいる者達もいるが、きっと克服してくるはず。

 

「いつか、私達がランクで区別されなくなる日が来ても、おかしくないかもしれないわね…ま、わからないけど」

 

 世界会議までまだ時間はある。どこの鎮守府が護衛としてついていくかはまだ決まっていないが、近日中におそらく決まるはず。それまでに、少しでも自分を含めて力をつけていかねば。そう思った。




お久しぶりです!
後半少し急ぎ足になりました…。あんまり長く書いたら終わらなさそうだったので…。
次回は、柱島の話に戻ります。
あと、世界会議に出る鎮守府も決まるので、そことの演習話にする予定です!


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72話 世界会議前の準備

お久しぶりです。
かなり時間が経ってしまいました…(;^ω^)
自分が心身ともに体調を崩したり、仕事を退職したりでいろいろありまして…
それでは、どうぞ!


 時雨のイタリア旅行が終わってから三日後。超特急便できたこともあるのか、向こうから送られたお土産が柱島鎮守府に来ていた。服を着たり、アクセサリーを付けている人など様々だ。特に、摩耶は服を着て鳥海の前に立っている。相当気に入ったようで、摩耶はご満悦だ。へそを出すタイプのタンクトップTシャツにジーパン、シューズを履いている。

 

「なぁ!これ似合うかな!制服と大体同じくらいの感じだし!」

 

「えぇ、とても!高雄姉さんと愛宕姉さんにも見せてあげよう!」

 

「え、いやいいよ(;゚Д゚)」

 

「そんなこと言わずに!もう撮っちゃったし、送っちゃお!」

 

「あ!…って遅かった…。そういえば、高雄姉と愛宕姉は元気にしてるのか?」

 

「なんか、最近訓練が少しずつきつくなってきてるって。それに、赤城さんがあまりふざけなくなって、自分を追い込むように訓練をしているって聞いたわ…ほら、瑞鶴さんのことがあったから…」

 

 あぁ、そうかと摩耶は納得した。世界会議まであと2週間ほどだ。各鎮守府でも、演習や訓練を厳しくしていっている。ここ柱島もそうだ。どんな状況に陥っても、すぐに対応できるようにしていかなければならない。特に姫・鬼級と遭遇したらなおさらだ。摩耶も海上での訓練、さらに星羅との組手などいろいろしている。そのせいで、体のあちこちが筋肉痛だ。時雨も帰ってきて早々に、星羅の組手や訓練をやっているが、時雨でもぶっ倒れるほどのレベルだ。白露は、少しずつ慣れてきたのか、前ほど疲労を訴えることは無くなっている。だが、様子を見る限り少しだけ疲れた様子でお茶を飲んでいる。遠目からでもわかるほどだ。

 

(本当に、あのレベルになるまであたしは何年かかるんだろうな~…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん、今日の訓練も疲れたな~…」

 

「確かに、今日も疲れた…」

 

 背伸びをしながら訓練の感想を言う時雨。その隣では、お茶を飲みくつろいでいる白露がいる。艦隊での訓練、おまけに星羅との訓練もやっている。キャッチボールに組手、その他もろもろ。自主練もしているし、体が悲鳴を上げそうになる日もある。だが、戦況が覆りそうになっているほど、状況がまずいのも確かだ。文句も言ってられない。

 

「それにしてもさ、イタリアの艦娘ってすげえのな…」

 

「うん、かなり強かった。特にローマって人…」

 

「…ふぅ~ん…」

 

 気の抜けたような返事をしながら、上を向く白露。狂種の1人でもあり、世界に9人しかいない10万越えの艦娘。おまけに、4人がその狂種だ。時雨の話を聞く限り、かなり頭のネジがぶっ飛んでいそうだ。大本営にいる明石でさえやばいのだ。それよりもやばいとなると、少し想像がつかなかった。

 

「…(世界会議に出られたら、会えるかな)…」

 

「ん?何か言った?」

 

「……何でもない。気にするな」

 

 そう言って、お茶を飲む白露。世界会議に行けるかもわからないのに、今考えても仕方ないと思った。確か、今日どこの鎮守府が行くのか連絡が来るはずと提督が言っていた。まぁ、いけなかったとしてもいずれ世界の艦娘と会う日が来るだろう。そう思っていると、昼食のパスタを持ってきた小次郎に怜王、星羅が迎えのテーブルに座る。白露と時雨の分も持ってきてくれたようだ。

 

「何々~、二人してなんの話してるの?」

 

「あぁ、いや。ただ世界会議のことが気になってただけだよ、母さん」

 

「そういえば、今日決まるって話だったわね。私もついていっちゃおうかしら!」

 

「…お前はただ面白いことが無いか気になってるだけだろ…」

 

「あ、ばれた。てへぺろ☆」

 

『いやてへぺろじゃなくて』

 

 怜王、白露、時雨の3人は呆れながら言った。本当に、星羅は隙があればすぐにどこにでも行きたがる。楽しいことがあると、本当に童心に返ったようにはしゃぎまくるのだ。もしも、世界会議に行こうものなら、絶対に連れまわされる。そして、白露と時雨に何かあれば暴れまわるだろう。絶対に。

 

 まぁ、こういう話は置いておいて。5人は一斉に手を合わせ、パスタを食べる。そして、その味に感動しながら、一気に口に入れていく。

 

「なにこれ⁉本場のパスタってこんなにうまいものなのか⁉」

 

「本場のパスタに調味料に香辛料その他諸々。それだけでここまですごい味になるなんて!」

 

「こ、この味を覚えてしまったら日本のイタリアンレストランのパスタを食べても感動できるかしら!」

 

『超美味い!!』

 

「わ…わかったから静かに食べようよ(;'∀')」

 

「…他の奴らに見られてるぞ…あと、きらきらしすぎだ…」

 

 白露、星羅、怜王の3人はパスタの味に感動し、きらきらしながら食す。しかし、あまりに大きい声だったためか周囲の人達がこっちを見ている。まぁ、おいしいのは事実のため、他の者も味に感動しているのは確かだが。

 

 そんな中、パスタを震えながら食べているものが一人。白露達の近くの席に座っていた村雨だ。顔は青ざめ、白目をむき、何やらぶつぶつ言っている。その様子を不気味に思っているのか、同じ席に座っている春雨が村雨に尋ねる。

 

「…えっと、村雨姉さん。どうかされましたか?…はい」

 

「……ん…ふ。そ…そこは、ままま……そう……と呼ばれ……人……集まる……」

 

「あ…あの…村雨姉さん?」

 

「村雨お姉ちゃんなら、さっきからこんな感じっぽい…」

 

 かなり動揺しているのか、村雨の言っていることもよく聞き取れない。一体何があればこんな状態になってしまうのか。春雨も夕立もわけのわからない表情だ。夕立が肩を揺らしても、何をしても見向きもしない。どうしたものかと思ったとき、入口から京と仁が入ってきた。手には書類のようなものがある。村雨の状態も気になるため、夕立が京に話しかけた。

 

「提督さん!村雨お姉ちゃんが何か変っぽい!どうしたの?」

 

「あぁ、これには訳がありまして…昼食を終えたら、皆さん集まってもらえますか?その時にお話しします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして昼食後。食堂に集まり話を聞くことになった。村雨はもう耳をふさいでおり「何も聞こえない何も聞きたくない((+_+))」とただひたすらに繰り返しつぶやいている。その様子に呆れながら、白露が何があったのか尋ねた。

 

「んで、提督。村雨は何があったらこうなったわけ?」

 

「実はですね。結論から言うと、世界会議への護衛として私達の鎮守府と岩川鎮守府が選ばれたんです」

 

 その言葉に、一気に食堂がざわついた。さらに、岩川鎮守府は魔窟の巣とも言われ問題児達が集まる場所としても有名だ。さらに戦う提督がいるとも。元々そこにいた長良と五十鈴が納得した様子だった。なぜ村雨がここまでの状態になったのかを。多分、青葉関連のトラウマでもよみがえったのだろう。一度咳ばらいをした後に、続けて京が話し出した。

 

「そして、世界会議を行う場所はアメリカのワシントン。行くメンバーは、私達を含めて6人。秘書艦である村雨さん、補佐の時雨さん。そして、白露さん、夕立さん。岩川鎮守府のメンバーが、提督の榊原さん。秘書艦の古鷹さんに、加古さん、衣笠さん、青葉さんの5人になります」

 

 『あ~…だからか』と納得した様子で一同は村雨を見る。”青葉”という名前を聞いた瞬間に、村雨はバグったような奇声に、さらにはムンクの叫びのような表情になってしまう。「うわ~(;^ω^)」と呆れながら白露は肩を落とす。だが、同時に疑問も生じた。

 

「提督、質問いい?秘書艦・秘書艦補佐の村雨と時雨はいいとして、なんで私と夕立なんだ。別に加賀さんでも…」

 

「それに関しては、大本営から長門さんや吹雪さん達が来るみたいなので。加賀さんは以前に、世界会議に出たことがあるのでここの護衛を行ってもらうことになります。あとはそうですね。理由としては、加賀さんを除いて、トップクラスの実力を持っているのは白露さんと夕立さんなので」

 

「へぇ…」

 

 白露は加賀の方を見る。加賀は、白露の視線に気づくと少しだけ口角を上げて頷いている。続いて、京の方を見るが同じように笑いながら頷いている。なるほど、と納得した。S級として経験を積ませたいのだろう。社会見学のようなものか。10万越えの艦娘だけではない。他の艦娘も強いものが多いはずだ。それに、夕立を連れていくのも納得できる。この鎮守府では加賀と白露を除き、夕立の霊力は2万3千でトップクラス。摩耶や五十鈴でさえ2万に届くか届かないかのレベルだ。

 

(なるほどね…世界の実力を見て来いってこと…。近日中に演習があるのなら、世界の情報もいくつか知れるかもしれない。青葉なら多分、その辺の情報は詳しいかもな)

 

「演習日は、三日後になります。向こうの鎮守府の方がこちらに来るのd」

 

「いいいいいいいいいいいいいやあああああああああああああああああああああああああああああああΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」

 

「村雨さん!一旦落ち着いてください!というか、バグりすぎて姿形が変になってますが⁉」

 

「村雨お姉ちゃん!本当に落ち着くっぽい!これじゃあ話の続きが聞けないよ!」

 

 その後、村雨を落ち着かせるために何度か声をかけたり、揺すったりしてみたものの数分間続いたため、結局白露が村雨を気絶させることで続きを聞いた。その後は自由行動になり、各々三日後に備えることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして三日後。埠頭にとうとう岩川鎮守府のメンバーがこちらに来た。出迎えたのは京と仁。元々岩川鎮守府にいた長良と五十鈴、そして白露。岩川鎮守府からは提督の榊原、古鷹、加古、青葉、衣笠が挨拶に来ている。埠頭の方では、演習に出るであろうメンバーが待機している様子だった。白露は事前に資料で確認したから顔はわかった。電子タバコを加えている深雪に綾波型の敷波、軽空母龍鳳。おどおどしているのが阿武隈で、後は同期の黒潮に海風達と同期の藤波と浜波。一人一人観察してみるが、加古、深雪、敷波は青葉を除けば相当の手練れだと感じた。古鷹も強いとは聞いているが、話を聞く限り後方支援特化だ。遠距離射撃では、きっと歯が立たない。

 

そして、秘書艦であるはずの村雨はなぜかこの場にいない。遠くの物陰からこちらを見ている。よほど青葉が怖いのだろう。青葉はその様子を見て少し凹み気味だ。

 

「さてと、んじゃ、今日はよろしくっす。鳴海提督」

 

「えぇ、よろしくお願いします榊原提督。演習は準備ができ次第でよろしいですか?」

 

「大丈夫っすよ!まぁ、こっちはもう準備万端なんで。古鷹、あとは任せるっす」

 

 「はい!」と返事をすると、古鷹は加古、衣笠、深雪、敷波、龍鳳を呼ぶ。作戦会議をするためか全員が輪になり話し合いを行う。京も村雨を呼び、演習のメンバーを集めてもらった。メンバーは、旗艦を摩耶、羽黒、五十鈴、時雨、夕立、飛鷹だ。白露は、これと言って何かをするわけでもないので見学のみ。加賀も同様だ。ちなみに青葉も出ない予定らしい。

 

 さてと、と思い白露は埠頭に座り海を眺める。あとは、適当に他のメンバーが何をしているのかも見た。遠くの方では海風と藤波達が談笑している。あとは、村雨と阿武隈が青い顔をしながら何かを話している。二人同時に首を縦に振っていることから、おそらく青葉関連のことだろう。やれやれ…と思いながら再度海の方を眺めると、不意に声を掛けられる。視線を移すと青葉だった。

 

「隣いいですか?」

 

「…あぁ、構わないよ」

 

「ではでは」

 

 そういって、青葉は白露の隣に座る。少し沈黙があったが、先に話したのは青葉だった。

 

「以前はすみません。ああでもしないと、鬼怒は止まらなかったので」

 

「別にもう気にしてないよ…自分の実力不足も痛感できたから、ちょうどよかったよ」

 

「…恐縮です。それで、どうですか、うちのメンバーは?気になる人がいるなら情報を伝えますよ!」

 

「気になる……ねぇ」

 

 白露は、岩川のメンバーを一人一人改めて観察する。個人的に気になると言ったら、やはり加古と敷波と深雪の3人だ。この3人はA級艦娘で、加古は霊力2万6千、深雪は2万5千、敷波は霊力1万9千だ。ただし、限界突破(リミットオーバー)は習得していないらしい。

 

「じゃあさ、加古と深雪と敷波ってやつのことを聞きたいんだけど」

 

「ほほう、あの3人ですか。いいですよ~!青葉がパパっと説明しましょう!」

 

 そういって、青葉はポケットから手帳を取り出す。他の艦娘だけではなく、自分達の鎮守府のメンバーも調べつくしているのだろうか。嬉々とした様子でページをめくる青葉を見て白露は少し呆れ半分だ。

 

「えっと、まずは加古からですね。加古は、近接戦闘能力だけではうちの中でトップクラス。あとは、異能は(アーマー)。加古の霊力を超える攻撃でなければ、おそらく傷はつきません。ただ、鎧と言っても弱点はあるみたいですけどね…。詳しくは言いませんが。あとは、深雪さん。彼女も近接戦闘を得意としているので、接近戦に持ち込まれたら脅威ですよ。元レディースの総長ですからね。加古とも1対1で互角だったらしいです。敷波さんは、二人のように接近戦は得意ではありませんが、機動力を活かした砲雷撃を得意としています。特型駆逐艦の中では、かなり強いですよ。ただ、最近新しく入ってきた天霧さんという方が、霊力が敷波さんより上だったみたいなので少し拗ねていますけどね」

 

「天霧…ってあぁ、前報告にあった野良艦娘…」

 

「そうなんです!おかげで、ここ数年変わらなかった特型のトップ5が変わっちゃったんですよ!」

 

 なぜそこまで知っているのか…と疑問に思ったが、あえて聞かないことにした。ちなみに、特型のトップ5は雷がトップで、次に吹雪、綾波、深雪、天霧らしい。その前まで敷波がいたようだ。他にもいろいろと聞こうかと思ったが、そろそろ演習が始まりそうなためそっちに集中することにする。

 

「…久しぶりね、青葉」

 

「おや、加賀さんじゃないですか!お隣どうぞ!」

 

 加賀も青葉の隣に座り海面の方を見る。ただ海面を見るのもどうかと思ったのか、青葉はおもむろにタブレットを取り出した。そこには、ドローンで映しているのであろう、演習を行っているメンバーが見渡せるカメラ、各々個人視点のカメラが映っていた。

 

「さてと、お二方、どっちが勝つと思います?」

 

「どっちって言われてもな…練度的にそっちが勝ちそうだけど、やってみなきゃわからないんじゃないか?」

 

「……私は岩川が勝つと思うわ」

 

「ほほう…その根拠は?」

 

「青葉、あなた自身もわかってるでしょう。そっちのメンバーにダークホースがいることを」

 

 白露はその会話に首を傾げるが、青葉はばれてるか…と思ったような少し困った表情になった。まぁ、おそらく見ればわかるか…と白露は気にしないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?青葉さんよりやばい人が岩川にいるんですか?」

 

「うん、そうだよ海ちん。藤波達が着任した後に、強制的に取材を受けたんだけど、青葉さん自身が言ってた。それに、自分はまだかわいい方で、狂種って呼ばれている人達はもっとやばいって…」

 

 提督達が待機している近くのテーブルで話しているのは海風と藤波の同期組だ。浜波も近くにいるが、江風達と戯れている。会えたことがうれしいのかいつもより早口だが、声は聞き取れるレベルだ。その様子を横目に見つつ、藤波が話したことが気になった。岩川鎮守府では一番強いのは青葉だ。S級7位。霊力7万7千で”首狩り”の異名を持つ最凶の艦娘だ。その青葉が自分よりやばいと言っているのだ。相当な実力なのだろう。

 

「でも、今来てる中でそんな人いますかね…。ぱっと見だと、深雪さんとか敷波さんとか…」

 

「あの二人はそんなに怖くないし、うちの中では中堅だよ。限界突破(リミットオーバー)も習得していないらしいし。…ただ」

 

 そう言って、藤波は少し黙る。そして、腕を組み右手の人差し指を動かしている。こうしているときは藤波がなかなか確信を持てないときにする仕草だ。

 

「…いや、ごめん。なんでもない。藤波達も演習みよ!」

 

「そ、そうですね。そうしますか」

 

 そして、談笑していた江風達を呼び、用意してあったタブレットの方を見ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい!では、演習の判定をするために、私鹿島がここで皆様の支持をしますね。演習弾・魚雷・その他近接攻撃などで、艤装が大破判定になった場合は即座にその場から移動してください。各々、準備はよろしいですか?」

 

『岩川はいつでも大丈夫です!』

 

『こっちもいつでもいいぜ!』

 

「了解しました。では、演習開始!」

 

 

 

 

 

 

「よし、んじゃ行くか!隼鷹、索敵機頼むぜ!」

 

「了解!あたしにかかれば、お茶の子さいさいよ!」

 

 そう言って、索敵機を飛ばす隼鷹。こちらもこちらで警戒は怠らない。向こうにも軽空母龍鳳がいる。こっちを探しているはずだし見つけたらすぐに撃墜しなければ。幸い対空が得意な摩耶と五十鈴がいるから大丈夫だろう。

 

「警戒は十分にしときなさいよ。向こうには古鷹もいるし、近接戦が得意な加古と深雪がいるからね。…それに…」

 

「ん?なんだよ五十鈴、その3人が強いことはあたしも知ってるって。おまけに敷波は機動力がすげえんだろ」

 

「話は最後まで聞きなさいよ…。向こうにはダークホースがね」

 

 そういった直後、後ろの方から爆音が聞こえた。一瞬何が起こったのかわからなかったが、隼鷹が大破判定になっていた。砲撃音も聞こえていない。艦戦・艦爆・艦攻によるものでもない。

 

『はい、隼鷹さんは大破になったのでこちらに来て待機してください!』

 

「おいおいまじかよ…数分で退場かよ…それじゃあ、後は頼んだぞ」

 

 そう言って、所定の場所に向かう隼鷹。全員が呆然とした様子でいたが、すぐに頭を切り替える。

 

「摩耶さん、何があったかはわかりませんが、まずは相手を見つけることから行きましょう。隼鷹さんが退場してしまいましたから、羽黒が代わりにやります」

 

「お…おう!皆警戒を緩めるなよ」

 

 警戒をしながら、一番後ろにいた夕立は周囲を見渡す。目視できる範囲にもまだ向こうの相手はいないし、電探にも感はない。ただ、自分の手のひらにあるものを見つめていた。

 

「…夕立、どうしたの?」

 

「……え?えっと…ごめんっぽい。あとで話すね時雨お姉ちゃん!」

 

「…?」

 

 今気にしても仕方ない。そう思い、時雨は目の前のことに集中することにする。電探も確認し目視も怠らない。前に駆逐水鬼に一気に近づかれ白露を一瞬で連れ去られたことがある。接近戦を得意としている相手がいるのであれば、そういう状況になってもおかしくないはず。すると、上空を確認していた五十鈴が叫んだ。

 

「上空に艦載機!来るわよ!」

 

「了解!全艦対空射撃、いっくぜー!」

 

 全員がすぐに対空射撃を行う。ほとんどは摩耶と五十鈴が撃ち落としてくれたためこちらに被害が出ることは無かった。しかし、索敵機を飛ばしていた羽黒から報告がある。かなり慌てている様子だ。

 

「摩耶さん!避けてください!古鷹さんの狙撃が来ます!」

 

 摩耶は、すぐにその場から左に避ける。すると、頬を弾がすり抜けるような感覚があった。前方を見ると、目視できる距離まで相手が近づいてきていた。だが、距離はかなり遠い。距離にしておそらく2000メートルだろうか。

 

「まったく、さすが鷹の目の異名を持ってるだけあるぜ。あのライフルも対深海棲艦用の超遠距離特化のものだったか…」

 

「波で揺られているのに頭を狙撃できるなんて、チートもいいとこよね…」

 

 摩耶と五十鈴は古鷹の狙撃能力に改めて感心する。何度か演習でやったことはあるが、最初に古鷹と当たった際に遠距離狙撃で数分で全滅させられたことがある。本当に味方でよかったと思うほどだ。もし敵にいたら厄介極まりない。

 

(にしても、まさかあたしを狙ってくるとはな…夕立か時雨をやってたら、初見殺しだったろうに…向こうは向こうで、何か考えてるのか…?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さすがに、摩耶の奴は避けるよな~。何度も古鷹の狙撃を食らってるから、警戒してたんだろうな…」

 

「仕方ないよ加古。たぶん、私の遠距離狙撃はもうできないかもね」

 

「狙撃をするなら、後方にいる駆逐艦どもを狙ってもよかったんじゃないか?」

 

「そしたら、深雪ちゃんの楽しみを奪っちゃうから。ね、深雪ちゃん」

 

 古鷹は、後方にいる深雪に話しかける。深雪は拳を鳴らしながら笑みを浮かべており、さらに首や肩を回している。いつでも準備万端というアピールなのだろう。

 

「んじゃ、奇襲も成功して向こうの数も減ってるし、突撃していいよな古鷹さん?」

 

「うん。深雪ちゃんが気になってた夕立ちゃんと戦ってきていいよ。私達も続いて、援護するから」

 

「はは!それ聞いて安心したぜ~。んじゃ、行くか!」

 

 そう言って、深雪は船速を上げ、相手に突っ込んでいく。古鷹達もそれに続き後を追う。深雪の援護をするために、古鷹は随時指示を出した。

 

「龍鳳さん、艦載機を発艦して相手を牽制してください!敷波ちゃんと加古は前に行って砲撃。衣笠は私と龍鳳さんの護衛をするよ!」

 

「了解です!龍鳳、第二次攻撃隊発艦します!」

 

「敷波~、あたしらも行くぞ!」

 

「は~い…わかったよ~…」

 

「…お前なぁ、新人に霊力抜かれてるからって、いつまでも拗ねるなって…」

 

「は~い…」

 

 龍鳳が艦載機を発艦後、加古と敷波も船速を上げていく。衣笠はその二人を手を振りながら見送り、龍鳳を護衛するため隣についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「摩耶さん!深雪って人がこっちに近づいてきてる!」

 

「おうよ!接近戦が得意だから、こっちに近づいてきてるんだろ。弾幕張って、近づかせないようにするぞ!」

 

「気のせいかな…なんか夕立の方に向かってきてない?」

 

 時雨が摩耶に問いかけるが、摩耶は目を細めており「わかりきってるから大丈夫…」という表情をしている。深雪の得意な戦闘スタイルは近接戦。夕立も加賀や白露を除くと、柱島ではトップクラス。時雨も強いが、深雪個人的には夕立と1対1で戦いたいのだろう。どうして接近戦を好んでいるものはこうもタイマンを張りたがるのか…。深海棲艦の駆逐水鬼も白露とタイマン張ってたし。深海棲艦でもタイマン張るやつ多いのかな?考えないようにしよう。そうしよう。と摩耶は心の中で思った。

 

「摩耶さん、敵機近づいてきてます!それから、敷波さんと加古さんもこっちに近づいてきています!」

 

「ちっ!深雪だけじゃなくて加古と敷波もか!とにかく、羽黒と夕立と時雨で弾幕張れ!対空はあたしと五十鈴でやる!」

 

 対空は摩耶と五十鈴のおかげで大半を撃墜することができた。しかし、深雪の方は砲雷撃を当てることができず、すぐに目の前まで近づき夕立の顔面に右拳を当てる。夕立はすぐに防御姿勢に入ったが、かなりの力だったのか数十メートル以上は吹き飛ばされていた。

 

「夕立!…っ⁉」

 

 吹き飛ばされた夕立に視線が行き、一瞬の隙を作ってしまった時雨。その一瞬が仇になったのか、敷波が時雨の後方におり砲塔を向けていた。

 

「戦闘中によそ見してていいの?ま、いいけどね」

 

 しかし、敷波が砲塔を打った瞬間に時雨はそれを避け顔面に蹴りを入れようとする。敷波は後方に下がり砲撃を行う。時雨と羽黒を徹底的に狙っており対空を行っている摩耶と五十鈴には興味はないようだ。羽黒と一緒に敷波を砲撃をするが、加古が敷波の前に立ち砲撃を食らう。だが、無傷なのか判定がついていない。

 

「あれが加古さんの異能…(アーマー)

 

「はい。たぶん私達じゃ攻撃を通せません。加古さんより霊力を上回っていない人でない限り、無理でしょう」

 

 相手の攻撃を避けつつ、砲撃を行っていく時雨。しかし、それをことごとく加古が防いでいく。しかも無傷。その状態で敷波と一緒にこっちに攻撃してくるんだからたまったものじゃない。

 

(いや、いくら鎧と言っても弱点はきっとある。加古さんは体や腕、足の部分も基本的にノーガード。でも、唯一攻撃を防いでいたところ。洋風の鎧のような感じだとしたら、弱点は)

 

 時雨は、一気に加古に近づいていく。接近戦も得意な加古に近づいていくのは正直自殺行為だが、それでもやるしかない。加古は、時雨が近づいてくるのを見ると一気に時雨に近づき左脚で蹴りをいれる。しかし、時雨はそれをかわすと膝の関節部分に砲撃を。さらに至近距離で首に砲撃を行う。直後に「いって~!」という言葉があり、加古を見ると小破判定になっていた。

 

「やっぱり、関節部分や首の部分はダメージが通るんだね!」

 

「…へぇ、結構洞察力高いな。青葉が期待しているのも納得だわ。でもな…」

 

 加古は、一歩目で時雨に近づき腹に一発入れ、さらに砲撃を行う。それの影響もあり時雨は大破判定になり、数十メートル以上吹き飛んでしまった。加古は吹き飛ぶ方角も考えていたのか、しっかりと鹿島がいるであろう方向へ拳を向けていた。

 

「あたしに勝つのはまだまだ早いな。出直してもうちょい鍛えてきな」

 

「じゃあ、こっちも終わらせようか」

 

 敷波は、羽黒に反撃を与えないほどの砲撃を行う。かろうじて羽黒も反撃するが、敷波の機動力に勝てず一方的に攻められ大破状態になってしまった。

 

「おいおい嘘だろ…あっという間にあたしらだけか…」

 

「古鷹達も近づいてきてるし…また私達の負けね…」

 

「他の鎮守府とやって、勝ったことあったっけか…」

 

「さあね…あ、囲まれた…」

 

 そうこうしているうちに、周囲には古鷹達が自分達を囲んでいた。攻撃をして、旗艦を大破にさせれば無条件で岩川の勝利だが、古鷹達はまだ勝敗を付ける気はないようだ。おそらく、深雪と夕立の決着をつけさせたいのだろう。

 

「どうする摩耶ちゃん、降参する?」

 

「いやライフル構えながらいうセリフか古鷹(;^ω^)。降参降参…どうせ夕立と深雪の決着を付けさせたいから、演習を伸ばしてるだけだろ?」

 

「…ばれた(;^ω^)」

 

『いやばればれ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお!向こうはもう決着ついたか!そろそろこっちも決着つけないとな!」

 

 腕を組み、古鷹達の様子を見ている深雪。目の前には夕立が膝をついており、判定は中破判定。深雪は、被弾をほとんどしていない。夕立を前にして、かなり余裕の表情だ。

 

「もう!接近戦は夕立も自信あるのに~!」

 

「あはは!場数が違うんだよ場数がな!この深雪様を本気にさせたいなら、一発でも入れてみるんだな!」

 

 夕立は、すぐに深雪の懐に飛び込み右拳で殴り掛かるが、深雪は左手でそれを受け止める。すかさず、左手で持っていた砲を撃つがそれも軽く躱される。深雪は、砲撃を避けると同時に夕立に回し蹴りを行う。夕立の右頬に入りその場に倒れこみ、その隙に深雪は砲撃を行う。夕立はすぐに起き上がり何とかそれを回避する。しかし、攻撃の打ちどころが悪かったのか少しふらふらだ。白露と大体組手をし返り討ちにあうことが多い。組手をするとき、白露は本気の半分も出してはいないと言っていたが、深雪の実力は多分それと同じくらいだ。拳は軽々止められる。至近距離の砲撃も躱される。1対1の状況にかなり慣れているのだろう。負けている状況なのに、夕立は笑っていた。多分無意識だろうが。深雪は首を傾げながら話しかける。

 

「おいどうした?急に笑ってよ…」

 

「えへへ、ごめんっぽい!すごく楽しくて!」

 

「……お前、戦闘狂って言われないか?」

 

「よく言われるっぽい!深雪さんとやって改めてわかったっぽい!夕立はまだ強くなれるっぽい!」

 

「…あはは!いいなお前!大本営にいる綾波が思い浮かぶわ!あいつも戦闘狂だからな!ま、お前のその意気に敬意を示して、あたしも少し本気を出す!」

 

 深雪は、右足で思い切り海面を蹴り一気に夕立の懐に近づく。夕立は、白露との組手が活きたのか動きを目で追い後方に下がろうとする。しかし、深雪は夕立を上回る速さで右拳を腹部に入れる。さらに、左手で追撃し一気にラッシュ攻撃と同時に砲撃を何発も食らわせる。そして、最後に夕立の顎に一発を入れた。もちろん夕立の判定は大破。顎にもろに当たったせいで夕立は目を回している。

 

「へへ!特型で4番目の実力を持っているこの深雪様をなめるなよ!」

 

 そして、深雪が勝ったことを確認した鹿島が演習の終了を伝える。結果は柱島の惨敗。摩耶の言う通り、演習でなかなか勝ち星がつかない。この結果に摩耶は他の者がわかるほど落ち込んでしまう。それに対して、羽黒や五十鈴が慰める状況になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~らら。うちの大敗か…」

 

「やっぱり皆強いですね!青葉安心しました!」

 

「……なぁ、ちょっと聞きたいんだけどさ」

 

 白露は、タブレットを見ながら青葉に問いかける。カメラは、ドローンで映しだされていた岩川鎮守府の方だ。時間的には、演習が開始されて数分後の映像。白露は、ある一人の人物の映像を拡大させた。

 

「…この衣笠って、本当にB()()か?」

 

 白露の一言に、青葉は真剣な表情になる。さっき加賀が言っていた岩川鎮守府にいるダークホース。それはきっと衣笠のことだ。最初の映像を見る限り、隼鷹を一撃で大破に追いやった攻撃をしたのは衣笠だ。だが、映像だけでは何をしているのかわからなかった。

 

「衣笠ってやつの資料見たけどさ、霊力は7千7百。たぶん、個人でelite級やflagship級を倒せるような奴でもない。だけどさ、この2つの撃墜量がかなり多い。他の奴の援護があって、止めを刺すような状況だったらまだわかるけど、それでも変じゃないか?」

 

 「…ふむ」と青葉は顎に手を当てて考え事をする。青葉も変に隠そうなどとは考えていない。ただ、どうやって2人に伝えようか迷ってる様子だ。少しの間があり口を開こうとしたときに、不意に後方から声をかけられる。声をかけたのは、もともと岩川に所属していた長良だった。話を聞いていたのだろう。すぐに衣笠の話題になった。

 

「青葉も言葉に詰まるのも無理ないよ。岩川に所属していた私も、よくわからなかったし」

 

「は?わからないってどういう…」

 

「長良さんが言う通り。衣笠を一言で言うなら、本当にわからないんです。出撃することを遊びに行くと表現したり、初出撃の時も恐怖感などは一切なし。鎮守府にいるときは、大体都市伝説や遊びのことを調べたりしていますよ…。あとはそうですね~…。霊力もここ数年変わりありませんが、おそらく……殺し合いになったら、()()()()()かもしれないということでしょうか」

 

「……はい?」

 

 青葉の言ったことに、信じられない様子の白露。だが、長良も加賀も動揺せずに聞いている。霊力が7千7百の衣笠が、殺し合いで青葉より勝るなんてことがあるのか。しかし、映像を見る限り、衣笠が一撃で隼鷹を大破させたのも事実。白露は、もう一度映像を確認してみる。よく見ると、衣笠が右手を銃のように構えているのが見えた。一体何をしたというのか。

 

「お、気づいたようですね。最初に隼鷹さんを大破させたのはこれです。それに、公にしてませんが衣笠も異能を持っているんです。さて白露さん、何だと思います?」

 

「いやなんでそこで質問…?」

 

 怪訝な顔をしながら青葉を見る。だが、白露にこうして質問してきたということは、会話の中に何かしらヒントがあるはず。白露は青葉との会話を思い出す。衣笠が鎮守府でしていること。都市伝説、さらには遊びのことを調べていると。なるほどね…と白露は思った。

 

「そういうことね。さてと、実際に戦った皆は気づくかな…」

 

「五十鈴さんもいるでしょうし、たぶんわかるはずです。それに、夕立さんもうすうす勘づいてると思います。隼鷹さんが大破した後に一瞬ですけど動きが止まっていましたからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「なぁ、夕立。さっきからボーっとしてどうした?」

 

 演習が終わった後、埠頭に着いた摩耶達。だが、埠頭についてから夕立がボーっとしている様子だった。深雪に負けたことがショックだったとか、そういう理由ではない。夕立らしくない行動だ。時雨はそんな夕立に話しかける。さっき隼鷹が一撃で大破した後に、一瞬だけ自分の手のひらを見つめていたからだ。

 

「夕立、もしかして隼鷹さんが一撃で大破したことに関係しているの?」

 

「…うん。隼鷹さんが一撃で大破した後に、これが上から降ってきて…」

 

 そう言って、全員に手のひらにあるものを見せる。夕立が持っていたものは輪ゴム。市販で売っているような何の変哲もない輪ゴムだった。

 

「おいおい冗談よせよ。その輪ゴムで私が大破したのか?」

 

「いや、砲撃音もなかったし、魚雷が当たった時の音も無かった。でも、誰が」

 

「…衣笠よ」

 

 時雨の疑問に五十鈴が答える。演習の最初に、五十鈴が言っていたことを思い出す一同。最初に言っていたダークホースという言葉だ。

 

「私がもともと岩川にいたことは知ってるでしょ?正直、衣笠のことはわからないことだらけでね。多分なんだけど、一度も()()()()()()()()が無い。気配だけで言えば、正直青葉のそれに近いと思う。公にしてはいないけど、異能を持っていてね。たぶんだけど、遊びを具現化する類のものだと思う」

 

「あ…遊び?」

 

「いい皆。隼鷹を大破にさせたのは、この輪ゴムを指に巻き付けて銃みたいに構えるの。昔、よくこうやって飛ばした子見かけたりしなかった?こんな感じに構えて、この輪ゴムを中口径の砲弾並みの強度にコーティングして、輪ゴムを飛ばしたの」

 

 五十鈴の言ったことに、全員が驚愕する。それで霊力はB級クラスなのだ。実力だけで言えば、A級以上あってもおかしくないはずなのに。

 

「ついでに言っておくけど、たぶんだけど…殺し合いになったら青葉より強いと思うわ。……ま、それは後で、向こうで白露達を交えて話しましょう。この後は、提督達も話し合いをするし、私達も岩川にいるみんなと交流するしね」

 

 五十鈴は、そう言って歩き出す。五十鈴の言ったことに唖然とする一同だったが、考えが追いついたのか五十鈴の後を追った。その時に、古鷹や青葉らに詳細を聞けばいいだろう。そう思った。

 

 

 

 




次回も可能な限り早く投稿できればいいなと思います!
ではでは、最近寒くなったりしてますので、皆さんも体調に気を付けてお過ごしください!


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余談閑話

※台本形式 ちょっとした裏話を白露達が語るだけ
正直勢いで書いてます。


白露「…はい、皆さんおはこんばんにちわ!この物語の主人公をさせていただいている白露です!人間としての名前は、佐藤焔です!」

 

時雨「白露とは双子の妹という設定になっている時雨です!真名は佐藤雫です」

 

星羅「そして、母親として登場している佐藤星羅です!よろしくお願いします!」

 

白露「せっかくの余談閑話回なので、これだけは言わせてください。ゲフンゲフン……いっちばあああああああん!!!」

 

時雨「いや急にどうしたの⁉」

 

白露「だって、本編では私、過去の影響でぐれてる設定だし!原作と違う感じになってるし!」

 

星羅「まぁまぁ。ということで、今回はこの物語の裏話や設定みたいなことを、すごく今更ながら話していこうと思います!」

 

白露「今年に入って、5話しか投稿できてなかったのはいたいなぁ…。最新話の冒頭でも話したけど、作者が体調不良になったり、多趣味って言うのもあったりで…まぁ、時間を見つけて少しずつ書いていきますので…」

 

時雨「それでは、余談閑話という雑談をしていきます。さっそくいってみましょう!」

 

 

 

 

 

そもそもこの話を書こうと思った理由

 

白露「作者がこのサイトでいろいろな艦これのお話を見ていく中で、自分も書いてみたいな…って思ったのがきっかけなんだよね」

 

時雨「それで、いざ書いたはいいけど、仲の良かった友達にだけ見せてた感じだったんだよね…最初に書き始めたのは、約6年前だし」

 

白露「思い切って投稿してみるかって、思ったのが2年前だしね…。あと、どうして異能系バトルになったのかっていうと、作者がすごくアニメ好きで異能系のやつが好きだったからなんだ」

 

星羅「だから、霊力とかランクとかがこの物語で出てきてるのね」

 

白露「そういうこと!それで、物語を書くにあたっていろいろと妄想に妄想を重ねた結果、最初に思い立ったのが一番強い人達。まぁ、S級の人達だね。この12人は意外とパット思いついたみたいなんだよね。誰がどんな異能なのかも」

 

時雨「白露はその中でも最初は最下位っていうのも決まってたらしいね」

 

白露「最初は一番弱い方で、物語が進むにつれてどんどん強くなっていくっていうコンセプトみたいだったから…」

 

時雨「なるほどね…」

 

白露「まぁ、話を書くのはいいけど、艦これってキャラがすごく多いから、誰がどの鎮守府に所属してて、どれくらい強くてって言うのもすごく時間をかけて考えてたみたい。今はまだ出てきていないキャラまでね。その設定だけで何千文字いったことか…」

 

星羅「ほえ~。そこまで考えていたのね…」

 

白露「じゃ、次に一章の裏話を話していくかな」

 

 

 

 

 

一章の内容

 

星羅「一章の内容は、正直深海棲艦との戦いがメインというより、白露とその家族が中心の話だったのよね」

 

白露「そ!あと、艦娘は基本的に同一艦は複数存在しないし、それぞれ艦娘になった人達も悲惨な過去を持っている人達も多かったりしているんだ。設定上、戦災孤児の人もいるし。あ、でもちゃんとした家庭で育ってる人もちゃんといるからね!」

 

時雨「まぁ、一章から本当にいろいろな人達がでてきたし、あとはそうだね…提督達強すぎない?」

 

白露「あぁ、本編では23話の部分だね…提督達が戦ってるところ…」

 

星羅「やっぱり、艦娘達を指揮するくらいだから、提督達も強くしちゃえって思ったらしいわね!そういう作品いくつかあるし、それの影響もあるみたい!」

 

白露「あと、他作品からのキャラもいるんだよね…」

 

時雨「柱島の鳴海提督の元キャラは刀〇乱舞のキャラをもとにしてるみたいだし、あとはボ〇ロのキャラもいるし…実を言うと、横須賀と大本営にいる赤神兄妹は〇コ〇コ動画とかで見かけるM〇Dモデルさんが元だし…」

 

白露「作者本当にこれでもか!…ってくらい好きだからね…」

 

時雨「特に、ボ〇ロはすごく好きらしい…」

 

星羅「はいはい、話を戻して。一章は、話が進むにつれて徐々に白露達の過去がわかってきて、それに向き合っていくのよね!」

 

白露「裏話なんだけど、本当は父親である小次郎が一章のラスボスで、弟の怜王が私達を逃がしたっていうのが初期設定だったみたい」

 

時雨・星羅『そうなのΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)』

 

白露「そう。でも、これじゃあなんだかな…って思った作者が、爺さんをラスボスにして、小次郎と怜王が裏で自分の家を追い詰めようとしたって設定変更したみたいだよ」

 

星羅「なるほどね~…。あとさ、一章で未回収の伏線があるわよね?」

 

白露「それなんだよね~…多分2章で回収できると思ってるんだけど、主に未回収の伏線がこれだよね…」

 

・大湊事件の時の首謀者達はどうなってる

 

・浦風と浜風の過去

 

・第7駆逐隊がなぜ出撃できないのか

 

・5年前の大型豪華客船事件の生き残りである暁

 

・そもそも博士って何者?

 

時雨「まぁ、確かに主にこれだよね…」

 

白露「2章のどこで、どうやって回収していこうかまだ悩んでいるらしいんだよね…」

 

時雨「再登場してないキャラもいるしね。あ、そのキャラからはがきが届いてるよ」

 

白露「ん?どれどれ…えっと…

 

「私の再登場いつですか?by 重雷装巡洋艦O」

 

白露「…………」

 

時雨「これはその…うん。いつどのように再登場するのかは今後期待かな!そもそも、この人過去編でしか出てきてないからね(39~44話参照)…」

 

白露「そのあとは、北上が番外編では出てきてるけど、これからどんな風に出てくるかなんだよね…」

 

星羅「その事件を引き起こした首謀者達も今後出るのかしら?」

 

白露「とんでもないときに来るらしいよ。今の設定では…」

 

星羅「そ…そう」

 

白露「次に、浦風と浜風の過去に何があったか?浜風がなんで戦えないのかとかもね(48話参照)」

 

星羅「あ、人間のこと嫌いって浦風ちゃんが言ってた回ね!」

 

時雨「この二人の過去もいつどのときに明かそうかな…」

 

白露「一章の後日譚で浦風が語ってる場面はあるけどさ…。浜風がなんで戦えないのかはまだはっきりしてないんだよね…。番外編として書くか…本編のどこかで書くか…。ま、それはおいおい考えるとします…」

 

時雨「それじゃ、次!第7駆逐隊がなぜ出撃しないか!」

 

白露「49話参照だね。5年前の出来事がきっかけで、吹雪の一存で演習のみになった。実を言うと、暁の事件がある少し前の設定らしい」

 

時雨「それから、もう一つ。ネタバレになるけど、漣は暁より年下設定です」

 

白露・星羅『え”(;゚Д゚)』

 

時雨「詳細は世界会議編で明かされるでしょう!その時をお楽しみに!第7駆逐隊も何があったのかはその時に」

 

星羅「そして、暁ちゃんの出来事と博士についてね」

 

白露「博士って人は一瞬だけしか出てないからね…それで、モルモットと呼ばれた人間兵器。その人達は、大型豪華客船で行方不明になったって一章の最後で明らかになったね。それと同時に暁がその唯一の生き残りだとわかったんだよね」

 

時雨「うわ~、本当にどうやって回収していこうか…」

 

『本当に考えて物語を書いていかないとな…by…作者』

 

白露「というのが、作者のコメントです。次に二章がどんな風物語になっていくか…なんだけど、主な構成はこれ」

 

・初めて鬼級・姫級が出てくる

 

・S級でも歯が立たないほど強い

 

時雨「今の段階での話はこんな感じ」

 

白露「実際にコメントでもあったんだけど、駆逐水鬼でも強くない?ってなってたんだよね…レ級も強すぎたし」

 

星羅「赤城さんで、レ級に勝てなかったものね…しかも、本人談ではS級3位でいいとこ勝負だって…」

 

白露「新種の最低レベルで、白露と同格くらいだったら、戦況はひっくり返らないし、だから、最低クラスで主人公の白露の霊力より2万くらい多めで強い設定にした方が、主人公を含めて周りの人達もどんどん強くしていこうって感じになったらしい」

 

時雨「てことはあれかい?僕とかも強くなっていく感じ?」

 

白露「時雨だけじゃなくて、柱島にいる人達もどんどん才能が開花していく人もいるし、A級の人達も強くなっていく予定だよ。あと、新キャラも出てくるし!」

 

星羅「実は、各鎮守府に所属している人達を見返していると、なんと所属していたと思っていた艦娘がいなかったっていう事案が発生していたみたいなの!」

 

白露「まだ、アニメの2期が放送されていた時だね。そういえば、このキャラ設定上にいたっけ?(カタカタカタ。じ~(@_@)…あれ、いねえΣ(゚Д゚;≡;゚д゚))ってなったらしい」

 

時雨「そのキャラは今後強キャラポジで出てくるらしいよ。ただ、白露より弱いみたいだけど…」

 

白露「で…話を戻して…。今現在艦娘で一番強いのは、日本の大和ともう一人。第3段階まで開放した最大霊力で36万が、現状。新種で一番強い深海棲艦もめっっっちゃ強い設定にするらしい!ま、深海棲艦の親玉が誰なのかはまだ出てこないけどね…」

 

時雨「ま、こんな感じで今後もゆっくりではありますが、小説を少しずつ書いていくので!正直、かなり長くなってしまうと思うけど…気長に、暖かい目で見守ってくださると幸いです(;'∀')」

 

星羅「今後も、本編の合間で、こんな感じで余談閑話を書いていったりするから!まぁ、話の振り返りとかをメインにしたりかな?」

 

白露「と、いうことで!今回はここまでにしますね!次回も本編でお会いしましょう!それでは、最後に!いっちばああああああああああああああああああああん!!」

 

時雨・星羅『はいはい、本編で言えないからここで言うんだね(;^ω^)ではでは、皆さん次回世界会議前の準備2にて。さようなら~!』

 

 




大井「私の出番、いつですかああああああああああああああ!?」
大鳳「私も出番多くしてほしいですううううううううううう!」
北上「あたしも過去編と番外編の最後しか出てないんだけど…」
吹雪「……まぁ、その辺は我慢してください…私も最後に出たの、二章の最初の方ですし…」


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73話 世界会議前の準備2

「は~、負けましたね~…どうも、演習を行ったら負けが続いてしまいますね…」

 

「こりゃ、編成とか見直した方がいいかな…」

 

「まぁまぁ。この敗北を今後に活かしていけば大丈夫っすよ!」

 

 演習を終えた後、話し合いを行う京達。今まで演習を行ってきたが、大体敗北。舞鶴に今回の岩川。横須賀大演習の時は横やりを入れられたためカウントしてないが、戦績が悪い。個々の能力は高いがそれを活かしきれていない。世界会議が終わった後、どのような編成にしていこうか悩みどころだ。かなり悩みどころだ。二人が頭を抱えて考えていると、榊原が話題を変えてきた。

 

「そういえば、世界会議に行く前に緊急で提督会議があるらしいっすね」

 

「えぇ。先日、そのお話がありましたね…確か内容は…」

 

「なんでも、艦娘の適性者が新たに現れたみたいで。数は8人」

 

「8人か…少ないな…」

 

「まぁ、世界各地で数人適性者が現れているみたいですから、なんとかなると思いたいっすけど…」

 

 世界会議の前に、緊急で提督会議を行うことになっている。新たな艦娘が現れたこと。あとは、何かしらの報告があるのだろう。日時は二日後と来たものだから、かなり急ピッチだ。

 

「まぁ、なんにせよ行かなければわからないことがありますからね。どんな艦種なのか、霊力がどれくらいか。それにどこに配属されるのかですね…」

 

「本当にやることが満載だぜこりゃ…」

 

「そっすね…」

 

 三人はそう言って頭を抱える。そして、遠くの席にいる白露や青葉達に目を向ける。青葉を中心に何やら話し合っている様子だった。おそらく、海外の艦娘達のことを話すつもりだろう。こちらもこちらでいろいろと情報を確認しておかなければと三人は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてさて、皆さん。特に、世界会議に行く皆様。世界各国の艦娘達の情報を言いますね。そうですね。全員上げるときりがないんで、10万越えの艦娘達だけでも紹介しますか」

 

「確かに、全員上げるときりがないわね。その人達だけでも情報共有しておきましょう」

 

 そう言って、タブレット端末の情報を各自持っている者達に転送する。今持っているのは白露、鹿島、青葉、加賀の4人だ。他の者達はその4人の端末を遠目から眺めている。そして、海外でも屈指の実力者。10万越えの艦娘達の紹介を行うことになった。どういう訳か、村雨と阿武隈は青葉から遠い白露の近くにおり、時折顔を見ては怯えている。そんな様子にかなり凹みながら青葉は話していった。

 

「えっと、まずは最低ラインの10万の艦娘達。一人目はドイツの戦艦ビスマルク。性格は規律を重んじているまじめな性格で、かなり仲間意識が高い方ですね。興味を持ったらとことん追求する人で、現に以前世界会議に山城さんが行ったときは、興味津々でしたよ。ちょっと子供っぽいところがありますが。二人目は、狂種の一角でもあるイタリア艦娘のローマ。無手勝流(エゴイスト)の異名を持つ狂軍師。勝つためなら何をしても、どんな犠牲を払っても構わないという思想を持っているちょっと頭がぶっ飛んでいる人です。3人目も狂種の一角で、霊力11万6千、ドイツ最強の艦娘。追跡者(トラッカー)グラーフツェッペリン。元傭兵で、銃を撃って深海棲艦を仕留めることに快楽を覚えている本物の狂人です。4人目、これまた狂種でロシア艦娘。破滅(パグローム)の異名を持つ霊力13万のガングート。世界会議でグラーフさんと会うたびに半殺し合いをするほどだと聞いています。彼女も相当危険です。5人目は、実質世界ではNo.3。霊力14万。イギリス海軍の戦艦ウォースパイト。この方は、英国淑女らしいとても淑やかで気品のある方ですよ。すごく優しいです!最後に、世界の二強と呼ばれ、唯一日本の1位に対抗できる艦娘。アメリカ・そして狂種としても最強の位置にいる大量虐殺(ジェノサイド)アイオワ。この人は、狂種の中ではかなりまともですよ。戦闘時以外は結構フレンドリーな方でしてね。スイッチが入ると、暴れまくりますが…」

 

その話を聞いて、加賀以外の全員が驚愕する。最低ラインで10万が二人。そして、半分が狂種。特に、グラーフとガングートが毎度半殺し合いをしているなんて。完全に頭がぶっ飛んでいる。大本営にいる明石が可愛いと思えるほどだ。

 

「えげつねえなその人達…」

 

「さ…最低ラインでも10万が二人っぽい(;'∀')」

 

 白露と夕立が反応するが、他の者達はあまりの霊力値に思考が追いついていないのか、開いた口がふさがっていない。青葉は、当然の反応か…と思い話を続けようとする。ただ、先ほども触れたように、海外艦娘の情報を上げるときりがない。だから、話題を変えようと思ったのか後ろにいる藤波と浜波に視線を向ける。二人は、青葉の意図に気付いたのか衣笠の袖を引っ張っている。

 

「衣笠さん、向こうで釣りでもしませんか!」

 

「え?でも話の途中だよ」

 

「か…海外の艦娘についてはもう聞いたし…こ…この先の話は多分退屈だろうから……つ…つまらないと思うし!」

 

「釣り道具も持ってきているので、一緒に行きましょう!」

 

「そこまで言うなら…」

 

 衣笠は二人に連れられて埠頭の方へと向かっていく。それを見届けた後に、青葉は古鷹、加古の方にも視線を移す。二人も青葉の意図が分かったのか頷いている様子だ。

 

「さて、演習に出た方はご存知かと思いますが、せっかくなので衣笠について触れておきましょう。ついでに、私の霊力の異質さについても」

 

「…やっぱり、衣笠さんは強いっぽい?輪ゴムだけで、隼鷹さんを大破に追いやってるし…」

 

「えぇ、殺し合いになったら私より強いかもしれないということは聞いていますか?」

 

「ぽ…ぽい…」

 

「…結構。一応説明しておきます。私や衣笠、そして今鎮守府で待機している鬼怒は、狂種達からみたら狂種であり狂種でない中途半端な位置にいるみたいなんです。霊力が異質なのは間違いありません。ですが、完全に狂種の域に達しているわけではない。理屈は、正直わかりませんが」

 

 以前、白露と鬼怒が喧嘩をしたときに、その場にいた村雨はよくわかる。あの時の青葉から尋常じゃないほどの恐怖心を覚えたことを。立っていられないほどの。白露もそれはわかる。膝と両手をつき顔を上げることができないほどだったから。

 

「さて、ではここにいる皆さんに問います!中には異能を持っている人もちらほらいます!艦娘だけではなく、実は一般人にも極まれですが霊力を持ち、異能を持っています!異能の発現理由は何でしょうか?」

 

「…まさかいきなりそういう問題が来るとは思わなかったわ…。でもそうね…突発的な異能の発現」

 

「加賀さん正解です!では、他には?」

 

 青葉の問いに考える一同。確かに、異能の発現理由は何なのか?その謎はよくわかっていないことが多いらしい。艦娘もそうだが、一般人にも極まれに異能を持っているものがいると聞いたことがある。ただ、艦娘ほど霊力は高くないし、異能を自覚していないものもちらほらいると聞いたことがある。他に理由があるとすれば何だろう。

 

「はい!」

 

「はい涼風さん」

 

「霊力が関係しているんだろ?だったら、昔降霊術を受けた子孫が異能に目覚めているとか!()()()()だけに!ドヤ( ・´ー・`)」

 

『……………………』

 

 涼風の問いに、その場にいた全員が固まってしまう。中には、寒気を覚えたのか身震いするものもいる。固まっていた海風と江風ははっとなり、涼風の頬をつまんだ。

 

「こんな時になんて寒いダジャレを言っているんですか涼風!」

 

「お前は、本当に学ばないな(# ゚Д゚)どれだけ、一体どれだけ周りの空気を氷河期にすれば気が済むんだえぇ!」

 

「いたたたた!氷河期は言い過ぎ!せめて…せめて氷点下って!」

 

『だから寒くなることには変わりないでしょ!』

 

 しばかれている涼風をよそに、一度咳ばらいをして周りを見る青葉。すると、山風がおどおどしながら手を挙げる。

 

「は…はい…。えっと…あの……思いの強さ…とか?」

 

「お!おお!いいとこつきますね!その通り、その人の思いの強さもあるのではないかという説もあります!では、最後は?あ、ちなみに提唱されている説は3つです!」

 

 それに、各々が考える。考えに考え、白露はふと何かを思いついたような顔をする。ただ、確信はないのか言おうか迷っている様子だった。

 

「どうしました白露さん。何か考え付いたのなら、とことん言ってみてください!さぁ!さぁ!」

 

 身を乗り出し、目をキラキラしながら白露に問いかける青葉。その姿勢に一瞬引いてしまう白露だったが、すぐに姿勢をなおし静かに口を開いた。正直、自分にも心当たりがあることだったから。

 

「……負の感情。例えば、人への憎悪とか?」

 

 ピクっと、青葉の眉が動く。これは当たりか…と白露は思った。加賀も加賀で妙に納得した顔をしているし、異能を持っている加古も腕を組みながら座っている。特に何の反応も示さないということはこの説は正しいのかもしれない。

 

「…正解です。最後の一つは負の感情。人への憎悪、恐怖心などですね」

 

「…やっぱり」

 

 白露は、昔母親の星羅と離れ離れになってから、人を恨んだことがある。その時に、力が急激に増したような感覚が起こったのだ。今思えば、その時に今持っている異能、肉体強化(フィジカルアップ)に目覚めた結果なのだろう。この話を持ち込んだということは、青葉や衣笠も何かしらの事情があるのか。白露が疑問に思っていることを察したのか、青葉は静かに語りだす。

 

「では、話を最初に戻しましょう。衣笠も異能を持っていることは間違いない。発現した理由はわかりませんが。ただ、あの子、どんな家庭環境だったと思いますか?」

 

「もしかして、虐待とか受けてたのか?」

 

「白露、もし虐待を受けていたとして、出撃できると思うかい?浜風は、昔虐待を受けていて、そのトラウマがあって訓練の時に…」

 

「あ…そうか…」

 

 大本営にいる浜風は、昔浦風と同じ施設にいたが、その虐待のせいで艦娘になった後一度も出撃ができていない。訓練時にパニック障害を起こしてしまったからだ。それ以来、任務娘として大淀の補佐をしている。浦風は全く問題なく出撃はできているものの、時々思い出してしまうことがあるらしい。

 

「では、答えを言いましょう。…………ある宗教に加入している家庭だったそうです。それも、目的のためなら暴力も厭わないような」

 

 それを聞いて、一同は驚愕する。岩川にいるメンバー、元々岩川に所属していた長良と五十鈴は事情を知っているからか特に何も反応は無い。藤波と浜波も事前に知っていたのだろう。衣笠の過去も含めて話すから、衣笠を釣りに誘ったのかもしれない。

 

「衣笠の両親は、かなりその宗教にのめりこんでいたみたいでしてね。その思想が、衣笠をあんな性格にしてしまった。他の子に何をしようが、怪我をさせようが、必要な犠牲だと両親に教えられて。概ね、そういう暴力沙汰を両親に遊びとして教えられたんでしょう。ま、今はそんな宗教団体、国によって潰されてもうないですけどね!いろいろと事件を起こしまくったから当然でしょう!…でも、まぁそんな環境で育ってきたからなのか、あの子は何が善で何が悪かなんてわからないんだと思います。環境次第で、きっと何色にも染まってしまう…」

 

「言ってしまえば、きっと幼い子供なんでしょうね…。子供って純真無垢だから…」

 

 加賀の言葉に青葉も、古鷹も納得したように頷いていた。衣笠の精神年齢は少し幼い。おそらく、世間一般で言えば小学生高学年程度だろうか。だから、何が正しくて、何が正しくないのかこれからも教えてかなければならない。

 

「衣笠のことはよくわかったよ。ただ、青葉。あんたのことも聞かせてよ。異能の発現について話したってことは、青葉も何かしらあるんだろ?」

 

「…本当に察しがいいですね白露さん…。えぇ、私の過去についても少しだけ触れますか。なんでこんな霊力が異質なのか、私の異能についてね」

 

 そういった直後、青葉は目の前から消える。さっきまで目の前にいたはずなのに。青葉の異能を初めて目の当たりにする者達は慌てた様子で回りを見る。しかし、どこにもいない。白露は冷静に周囲を見渡し、少しため息をついた。

 

「青葉、本当は椅子に座ってるんだろ?異能を解いて出て来いよ」

 

「あ、ばれました!」

 

 声がしたと同時に、目の前に急に青葉が現れた。瞬きをしたと同時に。そして、手をたたいた後に自身の境遇を話し始めた。

 

「私は、昔親に売られましてね…。10年前になりますか…。借金を抱えて、闇金にまで手を出した両親に。そのあとは、まぁそうですね。18禁の内容が含まれているので詳細は省きますが、いわゆる水商売をやらされていたんです。かなり過激な…。そんな生活をしているうちに、自分の境遇や周囲の人達を恨むようになりましてね…。さらには、()()()()()()()()…そう思うようになりました。そんなときです。異能に目覚めたのは…」

 

「消えたい…あ、それでその異能…」

 

 青葉の過去を聞いてか、さっきまで怯えていた村雨と阿武隈は、少し俯く。岩川でも青葉の過去を知っているものは少なかったのか、阿武隈のような反応を示しているものが数人いた。古鷹と加古は特に反応を示していないから多分知っているのだろう。まさか、青葉にそんな過去があったなんて思わなかった。その影響で異能に目覚めるなんて。

 

「じゃあ、鎮守府で待機している鬼怒は?」

 

「わかりません(笑)」

 

「はい⁉」

 

 白露は、青葉から即答されたことで思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。青葉のことだから鬼怒の過去も知っていそうだったのだが。

 

「本人もあまり話したがらないんです…。ただ、資料では過去にDVを受けていて、ある日両親に暴行を加えて少年院に入ったとしか…」

 

「両親に暴行…。そりゃあんな人格になるわな…うわぁ…。DV受けてたやつは、自分より弱いやつに暴行するって聞いたことあるけどマジなのか…。ん?でも両親に暴行?」

 

「そうなんです。それが謎なんです…。普通、DVを受けられている側は恐怖心で手を出せないと思うんですけど…ねぇ?」

 

「確かに、あたしらもわからねえな。本当によくわからん…。刑務所入ってた時も周りに喧嘩売りまくってたらしいし、ここ入りたての時もそうだったし。でも、艦娘になる前の環境とかよくわからねえんだよな…。なんで、狂種との狭間の立場にあるのか」

 

 加古も青葉の問いに答える。あんな暴力沙汰を起こしている鬼怒もどうして狂種の域に達しそうで達していないのか。そもそもどういう理屈でそういう状況になっているのかもよくわからない。まぁ、今は鎮守府で大人しくしているはずだし。さてさて、と声を出し手を叩きながら青葉が再度話し出した。

 

「えぇ、まず演習組に出ていた方々の悪い癖。夕立さん、接近戦に持ち込みたいことバレバレ。前線に出たいがために少しずつ陣形から外れてってますよ…」

 

「ぽい~(>_<)」

 

「隼鷹さん、索敵機を出したからって気が弛みすぎ。目視でも気配でもなんでもいいですからちゃんと周囲を警戒してください。酔ってるんですか?」

 

「ガーン(;゚Д゚)」

 

「時雨さんは加古の弱点を見抜けたのは素晴らしい。ですが、敷波さんの機動力に翻弄されすぎ。もう少しうまく立ち回れるようにしてください」

 

「…はい」

 

「他三人はもっと砲雷撃率を上げてください!以上!」

 

「ちょっとまてΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)あたしらそれだけ!」

 

「さすがにこれ以上説明するのは面倒なので…あと話過ぎてちょっと喉が…(ズズズ)」

 

「お茶飲んで見た目が三頭身くらいになってるんですけど…(;'∀')」

 

 これが本当に最凶と呼ばれているものの一人なのか?と一同は少し驚いてしまう。というかもはやお茶を飲む姿がおばあちゃんのそれなんだが。両手で持ってるし。白露も以前あった時とは打って変わった様子だからますます青葉というキャラがわからなくなった。遠目の方から見ていた阿武隈は、長良と五十鈴の近くに行き耳元でささやいた。

 

「ね…ねぇ二人とも…青葉さんってこんなキャラだっけ?」

 

「オフ状態のときは大体こんな感じだよ…ぐでぐでしてる」

 

「特に古鷹と一緒にいるときとかね…」

 

「え”そうなの⁉」

 

『いやあなたが驚いてどうするの?』

 

 阿武隈の反応に、二人は頭を抱える。鎮守府にいて関わることが多いはずなのに…。おそらく、散々怯えに怯え、それで関わる機会が少なかったのかもしれない。阿武隈はかなり臆病だし、普段から避けていても不思議ではない。やれやれまったく…と思いながら白露もその光景を見ていたが、突然電話が鳴り始めた。携帯の持ち主は黒潮だ。

 

「もしもし初雪はん。どないしたん?……ふんふん……わかった!青葉はんと司令はんに伝えておくわ」

 

 そう言って電話を切る黒潮。黒潮はにこにこしながら遠くにいる榊原にも聞こえる声で話し出した。

 

「司令はん、青葉はんも!鬼怒さんが出撃したけど暴れたりなくてもう一回出撃させろ!……とのことらしいで!」

 

『ええどうぞご勝手に(# ゚Д゚)姫級やら鬼級やらと当たりさえしなければ文句は言わん(言いません)!』

 

 二人して同時に叫ぶ。鬼怒はどうやら単独で出撃しているらしく、暴れたりないからもう一度出撃したいらしい。なんかもう、あの性格を考えたらそうだろうな…と妙に納得してしまう。前の自分も人のこと言えないか…と白露は少しため息をだした。

 

 少し間が開いた後、青葉に村雨が手を挙げて何か言いたげだ。先ほどまでの怯えは無いようで表情はよさそうだ。

 

「あの、大本営の方達の護衛で行くんですよね?大本営からは誰が来るんですか?」

 

「あ、聞いてなかったです?大本営からは元帥に、長門さん、吹雪さん、社会見学の一環で第七駆逐隊の朧さん、曙さん、漣さん、潮さんが来ますよ!」

 

「あぁ、あのうるさいメンバーね…」

 

「白露…それは失礼だよ(;^ω^)」

 

 前にあっている白露は第七駆逐隊のメンバーをそんな風に思っていたらしい。それを時雨が咎めるが、白露は気にも留めない。まぁ、夕立も騒がしいときは騒がしいし、もう気にしてもしょうがないかと思った。白露は一瞬だけ夕立に視線を向けるが、夕立は白露がこっちを見た意図が理解できていないようで頭にはてなマークがある。

 

「あ、ついでに明石さんも来ます!」

 

『それを先に言え(言ってください)(# ゚Д゚)』

 

 明石も来ることを聞いた護衛に行く組は同時に叫ぶ。あの狂人も一緒に行くことになるなんて。その人と一緒の船に何時間、下手したら数日かん一緒にいることになるなんて。空路で行くのか、それとも海路で行くのか。白露個人としては、空路でさっさと行ってさっさと帰ってきたいものだが。深海棲艦の艦載機は飛行機が飛ぶ高さまでやってこれないと聞いているし。

 

「一応空路で行くみたいだよ。ジェット機で向かうから、数時間くらいで着くんじゃないかな?」

 

「空路で行くんなら、思う存分に寝れそうだな。あぁ、演習出たから眠い…。古鷹、後で起こして…」

 

「あ、もう加古!仕方ないな…」

 

 加古はそう言って、机に脚を上げ思い切り背もたれによしかかりすぐに寝息を立てて寝てしまった。よほど疲れていたのか、これはしばらく起きそうにない。まぁ、大体の話は終わったし、あとは交流を兼ねた座談会と言ったところだろう。提督達の話し合いが終わり次第、解散予定だ。その後は、海風達が釣りをしている藤波達のところに行ったり、夕立が深雪と組手をしたり、村雨と阿武隈がようやく青葉になれたのか、緊張しながらも話しかけたりしていた。白露と時雨も、久しぶりに黒潮にあったため少し雑談に花を咲かせていた。

 

「なぁ黒潮。最近陽炎と不知火と連絡とったりしてるの?」

 

「あ~、数日前に連絡したけど、不知火も最近やっと大人しくなってきてるらしいで!ずっと前に秋月はんにしばかれたのもあるし、瑞鶴はんのこともあったやろ。そういうのもあって、一人で突っ走ることは少なくなったらしいで。陽炎とは時々喧嘩はしてるみたいやけど」

 

「相変わらずだね二人は…。訓練生の時から、本当に変わらないね(;^ω^)」

 

「訓練生の時で思い出したけど、うちも大変やったんやで…。陽炎と不知火の喧嘩に、浦風と不知火のいざこざやらいろいろあったからね…」

 

「あぁ…。そういえば、浜風関連のことで不知火が嫌味言ってたな…」

 

 陽炎型の仲は、正直言うとあまりよくない。訓練生の頃、陽炎と不知火の喧嘩はしょっちゅうあったが、特に酷かったのが不知火と浦風だ。艤装は装備できるものの過去のトラウマのせいで出撃ができない浜風に対して、不知火がなぜ訓練生としてここにいるのかや艦娘をやめて違うことでもしたらどうだと本人の前で言ったことがある。その発言に対して、浦風が激怒し殴り合いの喧嘩に発展したのだ。陽炎や黒潮が仲裁に入ったり、そういうことを放っておけない朝潮もどうにかして止めようとしていたことがある。他にも、大本営にいる時津風と舞風は会話がほとんどないらしいし、あったとしてもそこまで長く続かないらしい。以前浜風から聞いたことがある。黒潮は基本的に誰とでも仲良くしたいらしいのだが、癖が強すぎる陽炎型と関わるのは骨が折れるそうだ。

 

「…なぁ黒潮。どうして岩川に行ったんだ?」

 

「…?なんや珍しいな。そんなこと聞くなんて」

 

「単純に気になっただけだよ。悪いか?」

 

「…いや。訓練生の頃から変わったねって思っただけや。けど、そやな~。陽炎型がいないところでやりたかったのが半分。もう半分は、魔窟の巣って言われている岩川鎮守府がどういうとこか気になった…ってとこやな。うちの鎮守府、何かとやばい噂が絶えないやろ?けど、岩川にいる奴らほとんどが壮絶な過去を送ってるやつがいたりしてな。悪い友達に騙されたり、異能を悪用させたり、あとは自業自得ってやつもおるけど(笑)気になったら、どうしても自分の目で確かめたくなってな!」

 

 黒潮らしいと言えばらしいか…と白露と時雨は思った。基本的に黒潮は笑っていることが多く、何を考えているのかわからない。多分、腹の探り合いだったらやばい分類なんじゃないかって思うことがあるし。それにしても、陽炎型がそこまで仲が悪いとは思わなかった。白露型が特殊なのかなって思うほど。吹雪型も確か仲が良かったはずだ。一番上の吹雪が面倒見がいいから、それで下の連中もついていっているのかもしれない。前、雷が専用武器を作ってもらうために吹雪にも相談したと言っていたし、着任祝いに吹雪からプレゼントをもらったとも言っていたし。

 

「なぁ時雨。仲がいいの、うちら白露型と吹雪型だけなのかな?」

 

「さ…さぁ。他のとこも仲がいいところはあるんじゃないかな?」

 

「…だといいけど…」

 

「二人はそんな心配せんでええの!二人が今から心配することは、世界会議のことやで!その時に姫級や鬼級が攻めてくる可能性だってゼロじゃないんやから!」

 

「黒潮、フラグ立てないでくれるかな⁉僕はさすがにこりごりなんだ!他の国に行って、不幸が起きるのが!」

 

「お~い時雨。どこぞの不幸戦艦の口癖が移ってるぞ…」

 

 それからしばらくして、提督達の話し合いも終わったようで、岩川鎮守府も面々は鎮守府へと帰っていった。何というか、噂とはかけ離れているくらいギャップがすごかったし、特に阿武隈。青葉やら周囲の人に対してビビりすぎではないか?と思うほどだった。世界会議の前に、どうやら緊急の提督会議があるらしいし、それに向けて各々が準備することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー横須賀鎮守府

 

「はっくしょん⁉」

 

「あらどうしたの山城?風邪?」

 

「い…いえ。誰かが噂でもしてるのかしら?」

 

 柱島で時雨と白露が山城の話をしていることを知らない山城は、出撃中も鎮守府にいても、どういう訳か頭の方に砲撃やら角材やら食器などが当たりまくってしまったらしい。いつも通りのことなので慣れてはいるが、どういう訳か今日は当たる比率が高かったらしい。




お久しぶりです!今回は青葉や衣笠の過去が少しわかりました!
次回は、久しぶりに全鎮守府の提督達が集まります!あと新艦娘達も登場します!
なるべく早く投稿できるようにしますね!
次は年明けかな(;^ω^)
皆さん、よいお年を!


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74話 世界会議前の準備3

「こうして集まるのも久しぶりですね~…」

 

「そうだね鳴海…。横須賀の大演習の前だから大体1か月半くらいかしら?」

 

 京の問いかけに、横須賀第二鎮守府提督の赤神桃が答える。現在、大本営にて各鎮守府の提督達が秘書艦を連れて集まっているところだ。理由は、世界各国で艦娘が現れたこと。あともう一つは世界会議の日程についての説明らしい。本当はオンライン通話で岩川・柱島に元帥である勘兵衛が直接説明することになっていたらしいが、急に艦娘の適性者が現れたことでここ大本営に集まってもらうことになったらしい。日本では数は8人確認されている。今は、勘兵衛・大淀がその8人を連れてくるのを待っているところだ。

 

「にしても、まさかまた艦娘が現れることになるとはな…。つい先日に訓練課程中の艦娘達を各鎮守府に配属したのに…」

 

「服部さん、愚痴っても仕方ないですよ…。でも、一から訓練をするとなると確かに大変ですね…。佐世保(うち)には、練習巡洋艦の香取がいるけど、負担が増えそうだわ…。夕雲と巻雲の座学も教えてもらっているのに…おまけに霰に高波に、早霜…」

 

「柱島も鹿島さんがいますが、五月雨さん達の訓練やらで忙しそうです…」

 

「呉は飛龍と蒼龍がやっと実践レベルになってきてるけど、あわただしいことに変わりはないです…」

 

「あ…あの、所属先とかどうするんですかね?」

 

 舞鶴提督の宮本が手を挙げて尋ねる。しかし、全員が無言になってしまう。大本営に一旦配属させることも視野に入れているらしいが、大本営も以前保護した野良艦娘の3人の育成をしているところだ。本当に、これからどうするのやら。

 

 全員が少しため息を吐いたときに、ノックとともに元帥の勘兵衛、秘書艦の大淀が入ってくる。そして、後ろには見慣れない艦娘達が一緒に入ってきた。おそらく、新たに確認された艦娘達だろう。全員が机の前に一列に並び、勘兵衛、大淀は所定の場所に座る。新しく入ってきた艦娘の一人、制服からしておそらく夕雲型だろう。古鷹を見た後に一瞬笑顔になるが、すぐにはっとなり顔を引き締めていた。全員を確認した後に勘兵衛が話し出す。

 

「まずは、岩川と柱島の演習があって早々に会議をすることになりすまない。今回の議題は、新たに艦娘が現れたことと、世界会議の日程についてじゃ。その前に、艦娘達の自己紹介をしてもらう。では、儂から見て左の者から順にしてもらうかな」

 

「は…はい⁉」

 

 そう言って、一歩前にでて敬礼をする艦娘。額につけているはちまきや服装からアイヌ民族の服装を意識しているのだろうか。ただ、下の方がとてつもなくきわどい。利根と筑摩のようなタイプのスカート?と呼べばいいのだろうか?

 

「ほ、補給艦神威と申します!戦力としてお役に立てるかどうかわかりませんが、誠心誠意頑張ります!」

 

「えっと、じゃあ次は私ですね」

 

 次に出てきたのは、白いジャージにミニスカート、ハイソックスを履いている運動部のマネージャーっぽい人だ。こういう場に慣れているのだろうか。少し余裕のある表情だ。

 

「同じく補給艦の速吸です!工廠の人が言うには、支援以外にも艦載機?…とやらを飛ばせるみたいなので少しは戦力になると思います!よろしくお願いします」

 

 次に挨拶するのは、服はいかにも巫女風で黒髪を膝下まで伸ばしているのが特徴の人だ。所作からもいいところのお嬢さんか、神社の巫女さんだったのだろうか?とても丁寧かつお淑やかな印象だ。

 

「初めまして。水上機母艦瑞穂と申します。以後よろしくお願いします」

 

「私は、潜水母艦迅鯨型の迅鯨です。よろしくお願いします」

 

「はい!同じく迅鯨型2番艦の長鯨です!姉共々よろしくお願いします!」

 

 瑞穂の次に挨拶をしたのは、潜水母艦の迅鯨と長鯨だ。迅鯨は物腰柔らかな印象で黒髪を三つ編みポニーテールにしている。妹の長鯨は赤茶色の髪に迅鯨よりも快活な印象を受ける。もしも、着任するとしたら潜水艦が多い佐伯湾あたりになりそうだ。次に挨拶をしたのは、入ってきてからずっと古鷹のことを見ている夕雲型の子だ。岩川にいる藤波と同じようなリボンをしている。

 

「夕雲型駆逐艦の早波です!よろしくお願いします!」

 

 次に、長い黒髪を先端で縛っており、赤系統色の瞳をし青いはちまきをしている少女だ。

 

「初春型4番艦、初霜と申します。よろしくお願いします」

 

 感情の起伏が無いのか、緊張していないのかわからないが、表情を変えず、淡々と挨拶をする。挨拶を終えると、手を後ろに組み黙ってしまった。その様子を見た最後の一人が一瞬ドキッとした表情で前を見てすぐに敬礼をする。制服は朝雲や山雲と同じ服装をしている。横須賀所属の満潮と霞も昔は同じ制服だったし、姉妹艦というのもあるのかその場にいる二人は顔を見合わせて頷いている様子だった。

 

「あ…えっと、あの⁉あ、朝潮型8番艦の峯雲と申します!よろしくお願いします!」

 

 峯雲の挨拶が終わった直後、一瞬だけ村雨が何かを感じ取ったような感覚がした。こういう感覚がするのは、大体姉妹艦と出くわした時か、史実での関係性が強い場合のみだ。村雨は以前、資料で自分がいつどのように轟沈したのか調べたことがあるが、確かその時一緒に轟沈したのが峯雲だったはずだ。

 

(あぁ、だからか…)

 

 全員が挨拶を終えたため、勘兵衛が8人をあらかじめ用意してあった椅子に座るように促す。ただ、早波だけが座らずにずっと古鷹の方を見てうずうずしているような様子だった。古鷹もわかっているのか、少し困った表情をしつつも手招きをしながら声をかける。

 

「…おいで」

 

「お姉ちゃん!」

 

『お姉ちゃんΣ(゚Д゚)』

 

 早波の言ったことに、全員が驚く。これを言ったら本人達に失礼だが、二人は全くといって似ていない。おまけに、歳もかなり離れているような感じがする。確か、古鷹は現在24歳のはずだ。あまりに急な展開に全員が開いた口がふさがらなかったが(なぜか初霜だけ無表情)、桃がはっとして口を開く。

 

「ふ、古鷹⁉あなた妹⁉妹がいたの(;゚Д゚)」

 

「はい。12歳離れてて、父親は違うんですけど…」

 

「さ、榊原!あなたこのことは⁉」

 

「えぇ、前々から古鷹から聞いているっす。ただ、妹が艦娘になったって聞いたのは、柱島との演習があった後なんすけどね(;^ω^)」

 

「そ…そもそも12歳差⁉」

 

「ごほん…。赤神、このことについては…。古鷹、話しても大丈夫かね?」

 

「あ、いえ。私が話します。牡丹もいいよね?」

 

「うん!あ、私人間としての名前は猪戸牡丹っていいます!」

 

「し…猪戸?あ⁉そういえば、名字が一緒じゃないΣ(゚Д゚)」

 

 桃は慌てて手元にあった資料を見る。そこには、8人の経歴や艦種など様々な情報が書かれていた。早波の情報を見ると、名前は猪戸牡丹。歳は12歳。両親は存命で、内地の方で暮らしており母親は体が弱いそうだ。母型の祖父母も一緒に暮らしているそうで、祖父と父が仕事をし、祖母が家事を主にしてくれているらしい。ちなみに、古鷹の名前は猪戸菖蒲(あやめ)だ。

 

「えっと、多分知っている方もいると思うんですけど、私母親が16歳の時に生まれてて…。どうも、母が強姦にあって、その時に妊娠してしまったみたいで。母も、祖父母もかなり悩んだらしいんですけど、もしも中絶をして二度と子供ができない体になってしまったら、それに、どういう経緯であれ子供には罪は無いからって出産することを決めたみたいなんです。今の父もこのことはしっかり理解してくれて。ただ、向こうの祖父母が大反対して縁を切ったみたいですけど。すごく仲がいいし、たまに連絡するんです!二日前も向こうから連絡が来て、その時にこの子が艦娘になったって聞いたのですごくびっくりして」

 

 早波の頭を撫でてあげながら話す古鷹。家族にそういう経緯があったことを知らなかった者達は静かに聞いていた。事情を知っているのは榊原に元帥の山本、大淀くらいだろう。古鷹は岩川に所属する前は大本営に所属していたし、大本営の古株達も事情は把握している。空気が少し暗くなってしまったためか、大淀が一旦手を叩き注目を集める。

 

「はい、暗い話はこの辺にしましょう!この後は、世界会議の日程についてと今後の所属先を決めますから!所属先については、食堂で交流をしながら決めていただければと思っていますが、この様子を見る限り一人はもう確定ですね!」

 

 そう言って、早波に視線を向ける一同。古鷹にべったりで、膝の上に座り甘えている。せっかく再会できたのに別々の鎮守府になるのは酷だ。それに、同型艦である藤波と浜波もいるしきっと仲良くしてくれるはずだ。ただ、一人戦闘狂がいるから心配ではあるが、さすがに子供に手は出さないだろう。

 

「確かに、せっかく姉妹が会えたのだから離れ離れになるのもな…。では、早波はそのまま岩川に所属ということでよいかな榊原?」

 

「えぇ、うちは全然オッケーっすよ!」

 

「うむ、では世界会議の日程について話し合おう」

 

 そして、資料を見ながら説明をする山本。日程は二泊三日で、一日目は世界の首相、海軍のトップ、艦娘など交流会を兼ねた座談会を行う。そして、二日目に本会議をする予定だ。主に世界で行う対策についてなどだ。数時間単位で会議をするから、かなり大変らしい。現に、長門はその会議に一緒に出ることになっているのだが、ただ数時間じっとしているだけ、さらに一部の国から批判を聞くこともあるから精神的にもかなり疲れるらしい。今この場には長門はいないが、食堂か他の場所で盛大にため息を吐いていることだろう。

 

「一日目は交流会ですか。首相も参加されるのですね。他の国の艦娘達とも関わるのと、色々気苦労しそうです…。10万越えの艦娘や狂種達も参加されるのでしょう…?」

 

「うわ~、狂種達と接することがあるんすか…。覚悟を持って行かないとですかね…」

 

「そのことは安心して大丈夫です。大体いつも、明石さん達狂種だけで集まって何やら話しているみたいですし。それに、うち二人は半殺し合いをするみたいですよ」

 

 いや安心していいのか?と大淀の言ったことに疑問を持つ岩川と柱島の面々。まったく内容がわかっていないのか、古鷹の膝の上にいる早波ははてなマークを浮かべ首を傾げながら古鷹を見ている。古鷹は気にしなくていいのと言い早波を撫でている。早波は撫でてくれていることに相当ご満悦のようだ。

 

「ただ、狂種以外にも対応に注意してほしい艦娘が数名いるのだ。以前、山城が休暇で遭遇したと言っていたイタリア艦娘、雷獣の異名を持つジョゼッペ・ガリバルディ。同じくイタリアで酒を飲ませてしまったら手が付けられなくなる重巡ポーラ」

 

 ポーラの名前を聞いた瞬間、満潮が寒気を覚えたのか全身に震えがくる。あの時殴られたときは痛かったし、そのあとの山雲の暴れ具合と来たら…。あぁ、もう関わりたくないと思った。

 

「そして、ここ3年以内で世界会議に行ったものはわかると思うが、悪い噂の絶えない政治家達を廃人にさせるほどに追い詰める、もとい拷問を行っていると聞く。処刑人(エクセキューショナー)。名前しかわからぬし、艦娘なのか、普通の人なのかはわからん。だが、十分に注意してほしい」

 

処刑人(エクセキューショナー)…ですか?」

 

「あぁ、これがまた不思議でね…。世界会議を行う場所は毎年変わるんだけど、この3年間行く先々でそういう話が出てくるの。どっからそういう情報が出るのかわからないけど、必ずと言っていいほど、そういう被害にあった政治家達が出ているの。傷を治療している痕跡もある。すぐに活動できるほどに体の状態は回復してる。でも、精神面でかなりのダメージを負う人が後を絶たないのよ…。まぁ、やってることがやってることだから、自業自得と言えばそうなんだけど…」

 

 京の疑問に、佐世保提督の三条が代わりに答える。三条は2年前に世界会議に行ったことがある。その時の場所は、イギリスだった。だが、会議が終わった後にニュースでこんな話題が上がったらしい。不正をしでかした政治家達が路上で倒れており廃人になっていた。また、町で威張り散らしている政治家の息子とやらが突然消え、その後別の場所で発見されたかと思えば、体中傷跡があり治療された後だったとか、そのような話が多かったという。行く先々でそんな話があるため、おそらく世界会議に出席している誰かだと思うのだが、その辺はよくわかっていないらしい。

 

 話題を変え、本会議を終えた後はそれぞれ自由行動。そして、三日目の朝に日本に帰ってくる予定でいる。帰りも空路でジェット機を使用する予定らしい。話し合いを終えると、一同は会議室を出て食堂の方に向かう。艦娘達と交流もかねて、それぞれの所属先などを決めるためだ。食事も兼ねるため、間宮の料理が好きな者達はかなり興奮している。食堂につき、席に着こうとする前に勘兵衛が思い出したかのように声を出す。

 

「そうだ、さっき言うのを忘れていたが、初霜は時雨と夕立と同じように改二の状態。さらに、霊力は3万とS級クラスじゃ」

 

『はいいいいいいいいいいいい(;゚Д゚)』

 

 思わぬ一言に全員が一斉に声を上げる。その状況に初霜はただ、首を傾げているだけだった。S級であれば、訓練を終えれば、下手したら即戦力と言っても過言ではない。戦力が充実している舞鶴や柱島、岩川はともかく、他の鎮守府の提督は初霜をガン見する。ぜひうちの鎮守府に来てくれと言わんばかりに。そんな事情を知らない初霜は、ただ首を傾げ、少し時間を空けた後に静かに話し出した。

 

「…もし行くならそこの人がいる場所がいいです…」

 

「あ、もしかして、私達ですか~!私達のところは、いつでもウェルカムだよ~!」

 

「えせ英語を言うあなたのいるところではありません。そこにいる木刀を持っている人です」

 

「え…えせ英語(*_*)」

 

 初霜の言ったことに、ショックを隠せないのか、突然体全体が白黒になり魂が抜けてしまう金剛。そのまま初霜が言う木刀を持っている人、もとい矢矧を見る。矢矧はかなり驚いた様子だった。口を開けたまま動かなかったが、状況を把握できたのかゆっくり話しだす。

 

「え…私?」

 

「何というか、初めてお会いしたはずなのに、前も会ったような感じがするので」

 

(……あ、そうか。初霜は坊ノ岬沖海戦に出撃していたからその縁で)

 

 初霜の言ったことに宮本が心の中でそう思う。史実では、初霜はあの坊ノ岬沖海戦を生き残っている。それに、その時一緒にいた艦で矢矧も含まれている。おそらくその縁を感じ取ったのかもしれない。だが、見たところ初霜もなかなかの強者に見える。矢矧の強さを肌で感じ取っているのかもしれない。正直よくわからないが。

 

「う~ん…でも、戦力的に考えたら他のところに行った方が…」

 

「あなたのいるところがいいです」

 

「ええっと」

 

「お願いします」

 

「…どうしても?」

 

「あなたのところに行けないならここで暴れます」

 

⦅さらっととんでもないことを言ったこの子Σ(゚Д゚;≡;゚д゚)⦆

 

 初霜の言ったことに対して、驚愕の表情を浮かべる一同。困り果てた宮本が元帥の山本の方を見る。ここまで言っている以上、さすがに無下にできないため仕方なくそれを了承。結果的に初霜も舞鶴に着任することは決定した。残りは6名だが、誰がどこに所属させるべきか非常に悩みどころだ。ただ、潜水母艦である迅鯨・長鯨は潜水艦の多い佐伯湾に所属させるのがベストだろう。

 

「服部、迅鯨・長鯨は潜水母艦じゃ。潜水艦の多い君の鎮守府に所属させるのが一番だと思うのだが」

 

「それについては、俺も考えていました。うちに来てくれたら、非常にありがたい」

 

「そ…そんなにありがたいことなんですか?もしかして、私必要とされてる?ふ…ふふふ。提督に必要とされているのなら、他の子がどうなろうt」

 

「言っとくがうちの者に手を挙げるようなことがあれば容赦しないからな」

 

「は、はい(;゚Д゚)」

 

 何やら不穏なことを言い始めた迅鯨に対して、服部はクナイをちらつかせ無表情で圧をかける。その圧に気圧されたのか迅鯨は青ざめた様子で姿勢を正す。その様子に長鯨はやれやれ…といった表情で見つめていた。おそらく迅鯨のこの発言などは日常茶飯事なのだろう。まぁ、鳳翔もいるしその辺はきっと大丈夫だと思うが…。

 

 さて、これで残り4名となったがかなり悩みどころだ。残っているのは瑞穂、速吸、神威、峯雲の4名。正直言って、どこの鎮守府に所属したとしても変わらないとは思う。戦力的に揃っている場所もあるからだ。ただ、心配なのはやはり呉だろう。飛龍、蒼龍が復帰したものの前線に立てるかはまだ微妙なライン。新人である鈴谷、熊野もいるし負担もありそうだ。佐世保は赤城、柱島は加賀と白露、横須賀は山城というS級がいる。もしも着任させるとしたら誰がいいのか。山本は考えるに考え、そして結論を出した。

 

「よし、では神威を佐世保に、速吸は呉に着任してもらおう。瑞穂は横須賀に、峯雲は柱島に着任で頼む」

 

「あの元帥。ちなみに、なぜうちと呉に?」

 

「佐世保は赤城がおるからな。赤城は能力の特性上、下手をしたら自分の身を滅ぼしかねん。常に水筒を持ち出撃しているのだろう?艦隊を編成するうえで、燃料や弾薬、それに食料を運べる神威は最適だろう。呉もそうじゃ。多彩な戦術で戦果をもたらしてくれるのはいいが、燃料も弾薬も消費が激しい。飛龍と蒼龍も、まだ実践では厳しそうだしな」

 

「なるほど、一理あります。でも、えっと…服装が……服装が…」

 

 三条は改めて神威の服を見る。アイヌ民族の衣装を意識しているのかわからない。ただ、下の部分が気になる。利根や筑摩と同じような感じだ。おまけに、スタイルも抜群。正直、心の中で思ったのが…。

 

(……エロいわね)

 

「あの~、工廠の人いわく、妖精さんとやらが作った制服だから意見があるならそっちに…ってことだったんですけど…」

 

「妖精?」

 

『妖精?』

 

「はい…妖精」

 

 しばらくの沈黙ののち、その場にいたほとんどの者が頭にはてなマークを浮かべ首を傾げる(呉提督の須藤、山本、大淀は除く)。初めて聞く単語であったため、ゆっくりと山本の方を向く一同。さすがに話さないとダメかと思った山本が口を開こうとしたその時、不意にテーブルの上から声が聞こえてきた。

 

「まぁ、ほとんどのやつがしらないのはとうぜんか。おれらはふだん、すがたをみせないからな」

 

『??』

 

「よっ」

 

 テーブルの上を見ると、右手を挙げて挨拶をしている、黄色いヘルメットに作業服を着た手のひらサイズの人形のようなものが立っていた。しばらく沈黙が続いた後、反応がない一同を見て妖精が再び口を開こうとしたとき、食堂に絶叫が轟く。

 

『人形が喋ったああああああああああああああああああああああああΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)!!!!』

 

「だれがにんぎょうだこら(# ゚Д゚)おれらはかんむすがうまれたとうしょから、ずっといたんだよええ!おもいもしなかったか!どうしてかんむすたちがほうをうとうとしたり、かんさいきをはっかんしたあと、だれがそうじゅうして、しかくをきょうゆうしてるとおもってる!」

 

「え…え⁉てことはあれなの?艦娘達の意思や思考をあなた達が読み取ってるってこと?」

 

「おおそうだ!ちなみに、やぶけたふくとかをなおしてるのもおれらだ!じつをいうと、ぎそうのしゅうりにもたずさわってるぞ!こうしょうにたずさわってるれんちゅうは、うえのれんちゅうのみしってる!」

 

「…ちなみに、自分も知ってます」

 

「須藤!知ってたの⁉おまけに、元帥!このことを話さなかったのはなぜですか⁉」

 

「妖精っていう生き物がいたんだったら、早急に私達にも情報共有してもよかったじゃないですか(# ゚Д゚)」

 

「待て待て待て!三条、赤神!これには深い理由が!そもそも、このことは公にするなとそこの妖精に言われていたのじゃ!」

 

「お、俺もその一人で…」

 

「…っ~!貴様あああああ(# ゚Д゚)」

 

「ちょちょちょ(;゚Д゚)司令官落ち着きなさいって!」

 

「須藤提督に当たっても仕方ないでしょ!」

 

 須藤の襟をつかみ思い切り揺さぶる桃に対して、秘書艦である満潮と霞は大慌てで止める。金剛もあわあわしながらなんとか止め、落ち着いた桃が息を切らしながら席に着く。その様子を見た後に、妖精が話し出した。なぜ今まで表に出なかったのかを。

 

「くれにはじじょうをしっているようせいどもがおおいからな。けんぺいのかわりにくれのけいごをしているのさ。くれもようせいがいることをしったのはさいきんのやつもおおいけどな。ま、それはおいといてだ。いままでおれらがおもてにでなかったのは、おまえらにんげんのみにくさをしっているからな。さいしょにこのよにたんじょうしたけいくうぼほうしょう。それとどうじにおれらもうまれた。でも、いざほうしょうがたんじょうしたあとはどうだ?きゅうせいしゅとしてまつりあげるものもいれば、ばけものだといいおそれる。あげくのはてに、けんきゅうのためじんたいじっけんさせろだ、ほんとうにどこまでいってもにんげんほとんどくさってる!さいわい、いまのかいぐんができるまえ、そこにいるげんすいと、せんだいげんすいがじょりょくしてくれたからけんきゅうざいりょうにはならなかったが。だからおれらはおもてざたにでなかったのさ!おまえらにんげんにしつぼうしてな!だが、そうもいってられねえじょうきょうになってきちまった。もうじんるいのききだからな。だから、いまぐげんかしているようせいどもそうどういんして、あたらしいそうびをつくってやる!こうしょうにいるへんたいけいじゅんとこうしょうちょうにははなしはつけてるからな!」

 

 妖精の発現に静かに耳を傾けていた一同。人間の醜さか…と京は心の中で思う。確かに、いまだに艦娘のことを快く思っていない人も多い。現に呉に所属している古株達も、過去に憲兵達の反乱にあい命を落としているものもいる。おまけに、鳳翔がこの世に最初に出現したとき、当時の状況はどうだったのだろう。邪な考えを持っている者達に、危うく研究材料にされるかもしれなかったかもしれない。徐々に艦娘も増えていったが、当時の状況を知る者達は一体どういう心境だったのか計り知れなかった。

 

「ま、そういうこった。これから、ぜんちんじゅふにすがたをあらわすようせいどもがいるとおもうが、おなじはんのうしてほかのやつらこまらせるなよ。じゃあ、おれはここでぬけるぜ」

 

 そう言って、目の前から消えていく妖精。あまりの出来事に頭が追いつかないものもいた。少し時間が経った後に、元帥が手を叩き注目を集める。一度咳ばらいをし、話し始めた。

 

「妖精のことについては黙っていて悪かった。そういう約束だったからな。どうか理解してほしい。改めてだが、もうすぐ世界会議じゃ。岩川・柱島の者達はしっかり準備するように。そして、新人の者達は、まず佐世保に神威、呉に速吸、佐伯湾に迅鯨・長鯨、横須賀に瑞穂、岩川に早波、舞鶴に初霜、柱島に峯雲を着任させる。会議は以上じゃ。あとは各々、食事をしながらでも交流を深めてくれ」

 

 そう言って、厨房の方に手を挙げる山本。待ってましたと言わんばかりに、間宮と伊良湖が食事を持ってきた。さっきまでの雰囲気が嘘のように、一気に食事をしながら、新人達はそれぞれ着任する先の提督達と関わっていた。そして、柱島に所属することになった峯雲も京と村雨の近くに座る。とても緊張しているようで挙動不審だ。

 

「あ…あの…ええと」

 

「私は村雨。柱島で秘書艦をやっているわ!よろしくね!」

 

「提督の鳴海京です。以後お見知りおきを」

 

「あ…あの!柱島鎮守府はどんなところですか?」

 

「う~ん。そうね~。結構楽しいわよ!喧嘩っ早い白露型の長女がいたり、すごくクールですごく強い空母の人がいたり、とんでもなく寒いギャグを言いまくる白露型の妹がいたり…」

 

「あぁ、でも和気藹藹としててとても楽しいですよ!ただ、訓練は厳しい方なので、そこは覚悟していてくださいね」

 

「は…はい!誠心誠意努めていきます!」

 

(よかった。これならすぐになじめそうですね。うちには鹿島さんもいますし、座学なども特に問題なさそうだ)

 

 峯雲と村雨のやり取りを見て安心する京。他の鎮守府の者達も和やかムードで雑談をしていた。まぁ、数日後には世界会議があるから、それまでにこっちもこっちで準備をしておかないといけない。まず帰ったら何をするか、それを食事をしながら考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……さてと、この子も、他の子達も前より良くなってきてるわね。特に目を引くのが摩耶ちゃんか。1か月も経っていないのに、私の技をほとんど吸収してる。まだ柔軟性は無いけど、近接戦なら多分、普通の格闘家を圧倒できる)

 

 柱島にある体育館のような場所で、白露達と組手をしていた星羅。白露は膝に手をつき大きく息を吸っており、摩耶や長良、時雨はその場でぶっ倒れていた。だが、これなら深海棲艦との近接戦で通用できるはずだと思った。霊力は上がらずとも、きっと格上相手にも通用できる。世界会議は数日後。白露と時雨に万が一何かあったとしてもきっと大丈夫だと星羅は少し安心する。目の前を見ると、白露が身体を起こし、星羅の方を向き構えていた。

 

「あら、まだやるの焔?」

 

「…もちろん!私はまだまだ強くなる!だから、もう一回!」

 

「ふふふ!いいわ焔、いくわよ!」

 

 世界会議までに、少しでも技を磨く白露。だが、上には上が、さらに上がいることを白露はこれから知ることとなる。そして、驚異的な敵が現れることも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです。
妖精さんのセリフは全部ひらがなで結構長くなってしまいました(;^ω^)
次回はいよいよ世界会議編突入です!
来月までにかければいいな…。


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75話 アメリカへ

早波「作者さん!質問です!なんで、古鷹さんと早波を姉妹設定にしたんですか?」

作者「古鷹はお姉さんみたいな雰囲気を出していたことと、早波は妹キャラ感がすごかったから、この二人を姉妹設定にしたら、なんかいいんじゃね!って感じで設定しました!」

古鷹「だいぶ前の設定では、私達は生き別れになっている設定だったみたいですが(;^ω^)。あと、父親が違うという設定は、元からありました。補足は置いといて、今回はとうとうアメリカに出発する回です!では、どうぞ!」


 数日後、とうとう世界会議の日が来た。今、大本営に行くためにヘリに乗っている白露達。外を眺めながら、手を開閉している白露。心なしか少しそわそわしているような感じがする。白露の様子が気になったようで、時雨が話しかけた。

 

「白露、もしかしてそわそわしてる?」

 

「そわそわしない方がおかしいって…。久しぶりの大本営だし、世界会議だぞ?」

 

「確かに。吹雪さん達元気かな?あと浦風達も変わりなくやっているといいけど」

 

「メールしたら、全員変わりないって言ってたぞ。ただ、第3艦隊の人達はあと1か月は療養だってさ。明石が治療したから、傷はすぐに治ったらしいけど、体力とかが落ちているからしばらく訓練のみだと」

 

 出発する前に、大本営にいる浦風と連絡を取っていた白露。聞くところによると、第3艦隊のメンバーは傷は完治しているそうだが、復帰までにあと1か月はかかるそうだ。あとは、新たに加わった野良艦娘達の訓練、座学などを時間が空いているものが行っているらしく、少し忙しい日々を送っているらしい。浦風は基本していないらしいが。

 

「…い…行くのはいいけど、すごく緊張してきたわ。というか、緊張しない方がおかしいわよね…」

 

「いやあんたの場合は緊張しすぎだ」

 

 椅子に座りがたがたに震えている村雨。村雨はどうしてこういう時は緊張してがちがちになるのか…。夕立に限っては、朝早くに起きたこともあるのか隣の椅子に体を倒し寝ているところだ。まぁ、朝6時に起きて、すぐに着替えて食事をしてそのあと荷物を持ってヘリに乗ったのだから仕方ないと言えば仕方ない。それにしてもリラックスしすぎではないかと思ってしまうほどだ。

 

「はいはい、お話はその辺で。もうすぐ大本営に着きますし、向こうに着いたら、少し休んだ後に、大本営の方達と首相が待っていますから」

 

「そういえば、首相も一緒のジェット機で行くんだっけ?まさか首相と一緒のジェット機に乗る時が来るとはね…」

 

「えぇ、なんでも元帥の古い友人とか」

 

 首相のことを聞いたとたんに、村雨はさらにガタガタと震えだす。その様子を見て、時雨は困った表情でいるし、仁も腹を抱えて笑っていた。

 

「ははは!気楽にいこうぜ気楽に!意外とあってみればいい人かもしれないしな!まぁ、テレビとか見る限り、いかつい顔をしているしスキンヘッドだし背はでけえし、ぱっと見やくざかって思うけどな」

 

「ですが、かなり優秀な方のようですね。艦娘を批判している過激派、もといテロリストの鎮圧、宗教団体の追放に軍の待遇をよくしてくれてますし、それに、日本の経済も安定しています。艦娘が現れた頃も、すぐに受け入れるように支援してくださった方ですし」

 

 現在の首相の経歴をざっと見てきたが、正直実績がすごすぎてあげるときりがない。元帥の友人は一体どれほど優秀な人が多いのだか…。確か、陸軍のトップも友人で、工廠長もそうだ。本当に顔が広すぎるというかなんというか…。それを言ったら、白露の祖父である一星もそうなのだが。

 

 そんなこんなで話をしていると、あっという間に大本営に着いた。ついて早々、すぐに夕立を叩き起こし、ヘリを降りる。ヘリを降りると、大本営第1艦隊旗艦の武蔵、第2艦隊旗艦の吹雪が出迎えてくれた。横を見るとすでにもう一機ヘリが止まっており、近くには岩川鎮守府の面々が待機していた。青葉もこちらに気づき、軽く手を振っている。白露もそれに答え軽く手を振った。直後、埠頭の方でとてつもない轟音が響き渡る。埠頭を見てみると、艦種は戦艦だろうか。とても大きな艤装を背負っている女性が砲撃を行っていた。遠方にある的を正確に射抜いている。前ここに来たときはいなかったはずだ。気になったため白露は武蔵と吹雪に話しかける。

 

「…なぁ、あの人誰?」

 

「…S級1位。大和型戦艦大和。世界最強の一人」

 

 吹雪がその名前を言ったとき、白露は驚き改めて大和のいる方を見る。時雨も以前、山城にS級1位のことは聞いていたが大和を実際に見て驚きを隠せない。遠目からだからわからないが、遠い位置からでも聞こえるほどの砲撃音、着弾したときに水柱。おそらく威力はとてつもないほどだろう。だが、そんな威力をものともしないほど、体にぶれがない。さらに、大和の発するオーラのようなものがS級3位の長門の比ではない。それほど強い。直感で思った。

 

「ここに来てしばらく経つが、日本のトップ3の中では別格だ。ここの艦隊全員で挑んでも勝てる気がしない…」

 

 武蔵が頭を掻きながらそうつぶやく。おそらく全鎮守府、そのトップクラスの艦隊である大本営の旗艦がそう言っているのだ。果たして、ここにいるS級の長門、青葉、白露3人がかりでいい勝負ができるのかどうかわからない。それ以前に、青葉と白露は瞬殺されてしまうかもしれない。

 

「え…え?あの人が1位ですか?」

 

「…?そうだけどどうして?えっと…村雨ちゃん…だよね」

 

「は…はい!白露型3番艦の村雨です!えっと、もっとこう気迫があって近づくだけで立っていられないほどのオーラを纏っている人だと思ってました。サ〇ヤ人並みの」

 

「いやなんでそこでドラゴン〇ールなの(;^ω^)私の戦闘力は53万ですって絶望感を出させる気なの…?(秋雲ちゃんが好きそうなネタだな( 一一))とにかく、大和さんはそういう人じゃないから大丈夫!私も少し話したけど、すごくいい人だし、結婚して娘さんがいるって聞いたよ!」

 

 吹雪からそれを聞いて、少しほっとした様子の村雨。一体どんな人物像を想像していたんだろう…と思ってしまう。村雨は、意外とこういうところを気にしてしまう。心配性なのかわからないが。ついでに、S級2位の鳳翔の実の娘であることを伝えられると、さらに驚いていたが。

 

 すると、沖合の方では大和の訓練が終わったようで、周囲には第3艦隊のメンバーが的や道具を片付けている様子だった。どうやらリハビリがてらの海上走行らしい。白露も復帰後はすぐに体が動かなかったから、慣らすのは当然かと思った。そして、大和がこちらに気づいたようで海上からこちらに話しかけてきた。

 

「こんにちは。柱島鎮守府の皆さんですよね?奥にいるのは岩川の」

 

「えぇ。初めましてですね。私は柱島鎮守府提督の鳴海です。隣にいるのは副提督の桐生」

 

「存じてます。資料を拝見させていただきましたから。それから、そこにいるのは白露さんですよね?S級10位の」

 

「は、はい!」

 

 急に声をかけられるとは思わなかったため変な声を上げてしまう。その様子に大和は少し笑っていた。何というか、白露も少し想像とは違った様子だったから驚いた。話し方も、表情もすごく穏やかだ。内に秘めている戦闘力はとんでもないはずなのに。

 

「同じS級同士、精進していきましょう。向こうにいる青葉さんにもお伝えください。では、これで」

 

 そう言って、大和は工廠の方へと向かっていく。その後ろ姿を黙ってみていた一同。全員が心の中で思ったことは、すごく凛々しいと思ったことだ。日本のトップにいることも納得がいく。

 

「何というか、すごく凛々しい人だな…」

 

「ぽい…すごくきれいっぽい…」

 

「夕立、寝ぼけているの?これから首相とも会って、ヘリに乗ってアメリカまで行くんだからね?」

 

 村雨の言ったことに、全員が”うんうん”と首を縦に振る。ジェット機で行くから、多分数時間単位で着くとは思うが、向こうに着いたらやることは満載だ。しかも、時差があるから時差ぼけが起こるかもしれない。確か、14時間日本がアメリカより時間が進んでいるはずだ。すると、仁がはっとしたように口を開く。

 

「ん?あれ、今こっちは8時前だよな?アメリカは今何時だ?」

 

「えっと、14時間時差がありますから…向こうは、夜の6時20分ほどでしょうか?」

 

「……てことはあれか?向こうに着いたらすぐに艦娘や首相達との雑談会があるのか?」

 

「2泊3日で、初日が交流会があって、2日目に本会議で、3日目に帰ることになってますからそうなりますね」

 

『…………いやハードスケジュールすぎね(白目)』

 

 その予定を聞いて、全員が白目になってしまう。岩川の面々も遠目からでわからないが、スケジュールを聞いて困った表情でいる。特に加古は、ゆっくり寝れると思っていたからかかなり肩を落としている様子だ。まぁ、もう決まっていることだし愚痴っても仕方ないか…と思う。そう切り替えるしかない。

 

「ふむ、柱島も岩川も皆無事に着いているようじゃな。ではこちらに集まってくれ!」

 

 声のした方を見ると、元帥である山本、隣には大淀と長門、第7駆逐隊の4人。さらに、おそらく首相と思われるスキンヘッドの男性がいた。山本よりかなり背が高い。大体190センチほどだろうか?それに大柄で、スーツの上からなのでわからないが、かなり屈強な肉体をしていそうだ。柱島、岩川のメンバーは全員気を引き締めて集合する。山本は全員を確認した後に首相の紹介をした。

 

「皆、知っていると思うが首相の花田菊知与(はなだきくちよ)じゃ。儂の古い友人で、格闘技をしていたものじゃ。3日間よろしく頼む」

 

「首相の花田だ。皆の活躍は聞き及んでいる。3日間ハードなスケジュールだが、気を引き締めていってほしい。よろしくお願いする」

 

 そういって、深々とお辞儀をする。見た目に反し、かなり礼儀を弁えている人なのだろうと思った。さすが、格闘技をやっていただけにその辺はしっかりしているのだろうかと、白露は思った。そして、顔を上げた首相はすぐに笑顔になり話しかける。

 

「まぁ、ちゃんとした挨拶はここまでにしてお互いに気楽にいこうではないか!でないと肩が凝ってしまうわ…最近、執務ばっかりで体が鈍って仕方ない…」

 

「菊知与…おぬしも変わらんな…」

 

「仕方ないではないか勘兵衛。昔大会で暴れまわっていた時代が懐かしいわ…。そういえば、この中に佐藤一星の孫がいると聞いていたが?」

 

「え⁉おじいちゃんを知っているんですか!」

 

 思いがけない一言に、時雨がすぐに反応した。白露がすぐに時雨の脇をつつき、白露の意図に気付いた時雨がはっとして謝る。だが、気にしていないようで花田は腹を抱えて笑っていた。

 

「ははは!構わん構わん!でもそうか。君達2人があの一星の孫か?なかなかの実力のようだ。一星とは公式大会ではないが、一度手合わせしたことがあってな。ぎりぎりのところで儂が勝ったんじゃ!あれほど心躍った戦いは無かったわ!ここにいる勘兵衛と師匠とやりあって以来だったからの!」

 

 わははは!とさらに高笑いする花田。何というか、豪快というかなんというか、そういう言葉が似合いそうな人だ。なんか変に緊張してた自分に笑えてくる。白露は思わず笑ってしまうが周囲も特に気にしていなかった。ただ、話が脱線してしまったのもあるのか、大淀が咳ばらいをして注目を集める。そして、スケジュールについて話し始めた。

 

「皆さん。雑談はジェット機に乗った後にでもしてください。ちなみに、かなり早いジェット機で行くので1時間以内には着くはずです」

 

「早!え、大淀さんそれ早すぎません⁉どんな技術を使えば、それほどの乗り物を用意できるんですかぬくWせgrgo!」

 

「漣、あんたうるさい!ごめんなさい大淀さん、続けてください…」

 

 突然声を上げた漣を殴り、曙は大淀に続きを促した。大淀は、再度咳ばらいをするともう一度内容を説明する。

 

「えぇ、向こうに着く時間は、アメリカ時間でおそらく19:30頃でしょうか。その後は、アメリカ艦娘の方が迎えに来てくれるようなので、護衛付きの車で、交流会の会場まで行くことになっています。各々の国も、おそらく同時刻に着くと思うので少し混雑すると思いますが問題ないでしょう。交流会が終わった後は、それぞれ宿泊施設に泊まることになります。2日目に世界会議を実施して、その後は自由行動。ただ、首相と元帥は写真撮影や再度交流会もあるので気を引き締めてくださいね。そして、三日目の朝に日本に帰ってくる予定です。ただ、こっちに帰ってくる頃には夜になっていると思うので、その辺の体調管理などは気を付けてくださいね。特に、第7駆逐隊の漣さん。あなたは世間一般で言えば、まだ中学1年生くらいですから」

 

「もう、大淀さんは心配性ですな~!漣、その辺はしっかりしてるから大丈夫ですとも!」

 

「……え、ちょっと待て…お前、暁達より年下なのか!」

 

「えぇそうですよ!漣は今年13歳なのです!」

 

 その言葉に、白露はもちろん時雨と村雨は驚愕の表情になる。なお、眠気が取れていない夕立は頭にはてなマークを浮かべている。ちなみに、暁達第6駆逐隊は全員が15歳だ。まさか、漣がその4人より年下なんて思わなかった。ちなみに、朧、曙は16歳、潮は15歳らしい。だから、初めて会った時から子供っぽかったのかと白露は頭を抱える。同型艦で艦としての序列は上でも、年齢は全く別々なことが多い。現に、大本営に所属している秋雲は19歳、同型艦の時津風で18歳らしいから。

 

「今更年齢云々で驚くんじゃないわよ…。よくあることじゃない…」

 

「…明石、その遅刻癖は何とかならないのか?」

 

 説明の最後になってようやく姿を現した明石。それを武蔵が咎めるが、本人は気にも留めていない様子だった。手にはアタッシュケースを持っている。おそらく、手術道具でも入れているのだろう。本当に、この狂人の頭は解剖や手術ができれば何でもいいようだ。首相の花田はそんな明石をじっと見つめている。明石が艦娘としてここに着任したのは確か2年前だったはずだし、定期的に会っていると思うが花田も何か思うことがあるのだろうか。

 

「明石…だったな?前々から気になっていたのだが、昔どこかで会ったことがあるか?わしは外交官として世界各地に行くことが多かったのだが、昔日本以外にいたか?」

 

「それ言う必要あります?どっかで会っているとしたら、それはあなたがどっかで私に手術でもされているときだと思いますけど」

 

「いや…。それならいいんだ。すまない」

 

「はい。明石さんのことは置いといて、お話は以上ですので、皆さんすぐにジェット機に乗ってアメリカに行ってください。あと、武蔵さん。白目をむきながら額に青筋を浮かべないでください…。長門さんも右拳に力を入れながら霊力を微弱に発しないでください!あの、本当に!圧で息苦しいです!」

 

 大淀に注意を受け、武蔵も長門も仕方なく怒りを抑える。長門にとっては微弱に霊力を解放しても、大淀や第7駆逐隊のメンバーは多少堪えたようだ。

 

「と…いう訳で……アメリカまでお気をつけて、行ってらっしゃいませ!ノシ(^O^)/」

 

「いや最後適当だなおいΣ(゚Д゚)ていうか、私らいつの間にジェット機に乗ってるんだけど!場面変わるの早くないか!おいってば!」

 

 白露の突っ込みもむなしく、大淀に手を振られて見送られ、一同はアメリカまで向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、ジェット機の中で寝れると思ったのに、少し残念…」

 

「また加古はもう…そればっかりは仕方ないよ…」

 

「そうだよ!向こうに着いたら思う存分に寝れば大丈夫だよ!」

 

 古鷹と衣笠にそう言われ、仕方なく納得する加古。加古の様子を見て、少し安堵した後に古鷹の携帯が鳴る。画面を開くと、先日着任した早波からで、藤波と浜波と鎮守府の見学をしている写真が送られてきた。着任後、人懐っこい性格もありすぐに周囲と打ち解けたのと、さらに妹キャラ特有のオーラを出していたのもあるのか、面倒見のいい深雪や磯波がさっそく話しかけてくれたり、姉妹艦の藤波と浜波もすぐに仲良くしてくれたのだ。

 

「よかった。すぐ馴染めて」

 

「おお!何ですかこの笑顔が可愛い幼女は!古鷹さんと何か関係が⁉」

 

「うん。私の妹なんだ。歳は12歳離れてるけど」

 

「あ、可愛い!3人で鎮守府見学したんですね!姉艦の藤波に抱き着いちゃって、甘えん坊さんですね!」

 

 古鷹の見ていた写真に、漣と朧が感想を言う。朧の言う通り、早波は藤波の腕に抱き着いており、浜波も早波の横で少し照れくさそうに写真に納まっていた。ただ、居心地がいいのか少しだけ笑っているように見える。確かに可愛いんだよな~…と、口には出さないが隣で聞いていた加古も思った。加古は執務室のソファーでいつも通り昼寝をしていたのだが、いつの間にか隣に早波が寝ていたことがある。あとは、四六時中後ろについてきたりしたので、率直に思った感想が「この子かわええ…」だったそうだ。危うく変な性癖に目覚めそうだ、と眠り目をこすりながら古鷹に言ったことがある。それを聞いた古鷹が、絶対零度の笑みで両手にハンドガンを構えていたのはまた別の話。

 

 そして、白露と青葉はパソコンの画面を食い入るように見つめていた。先日、提督から聞いた処刑人(エクセキューショナー)について、白露がどうしても気になり青葉に調べてほしいと頼んだからだ。それから、ものの数時間で青葉はある程度候補に当てはまりそうな人物を割り出してくれたのだ。その報告も兼ねての話し合いをするところだ。

 

「さてと、白露さん。処刑人(エクセキューショナー)について知りたがっていましたね?私の方で、候補をピックアップしてきました」

 

「本当に仕事早いなあんた…。で、一体誰なんだよ?」

 

「候補は数人います。戦闘好き兼、偉い人達を毛嫌いしている艦娘を。無手勝流(エゴイスト)ローマ、雷獣ジョゼッペ・ガリバルディ。対空殺し(スカイキラー)の異名を持つアメリカ所属の防空巡洋艦アトランタ、ドイツ艦娘の追跡者(トラッカー)グラーフ・ツェッペリン。そして、最有力候補は、アメリカのレキシントン級2番艦サラトガ。この人は、ここ3年で霊力が5万以上上がってます」

 

「3年で5万。なんで?」

 

「わかりません。ただ、3年前のある日をきっかけに急激に霊力が増加してって、戦闘能力、深海棲艦の轟沈数も上がってます。ほら」

 

 そして、サラトガのデータを見る白露。霊力は9万8千で異能は無し。ただ、深海棲艦の轟沈数が一か月で1000以上。flagship級の戦艦から駆逐艦まですべて含めての数値だ。さらに、どっから仕入れてきたのか本当にわからないが、権力を好き勝手ふるっている政治家達を毛嫌いしているらしい。サラトガ以外にも上げた者達も基本的に上の偉い者達を毛嫌いしているようだが、サラトガは別格だそうだ。

 

「……なぁ青葉。前に異能が発現する条件言ってくれたよな。確認するけど、サラトガって人は異能は無いんだな?」

 

「えぇ、ありません。これは間違いないかと」

 

「じゃあさ、霊力が上がる条件はなんだ?私も、この数か月で霊力が1万以上上がったんだ。鹿島さんが言ってたけど、数か月で霊力が1万以上上がった人はあまりいないって」

 

「…それも正直よくわからないんですよね…。ただ、霊力が上がる条件も負の感情や思いの強さが関係しているのではないかと言われています。訓練を毎日ちゃんとしていた、佐世保所属の瑞鶴さんは、数年で霊力は変わりありませんでしたからね…。純粋に訓練のみでは限界があるのは確かです」

 

 ふ~んと白露は間の抜けた返事をする。でも、思いの強さという部分で少し心当たりがあった。限界突破(リミットオーバー)を習得したあの日。家族を守る。その思いが強かったこと。そのあとに、霊力が上がったこと。本当に、心当たりがある出来事が多いと思った。

 

「……あんたたちね…その話は憶測でしかないでしょ?掘り下げてもしょうがないんじゃないの…」

 

「ぎりぎりのところで来ておいて、何なんだよ一体…。別にいいだろ、憶測でも」

 

 青葉とのやり取りを聞いていた明石が、何やら釘を刺してきた。明石は、足を組みながら何やら本を読んでいる。本の表紙は、どうやら解剖本のようだった。普通ここで読むかそれ…と白露は心の中で思う。何を言っても仕方ないだろうから、声には出さないが。

 

「あまり詮索しない方がいいわよ…。あんた達が拷問されたりして」

 

「明石さん。むしろあなたがこの件一枚嚙んでると私は思うのですが?世界会議、明石さんは毎年行ってますよね?被害にあわれた方は、大体治療された跡があります」

 

「知らないわよ」

 

「じゃあ、少し質問を変えます。あなたと関係している人…技術を教えた、例えば師匠が関わっているとか?」

 

 青葉の質問に、明石の眉が一瞬動いたような気がした。だが、明石は本を読みながら沈黙しており、これ以上質問に答える気はなさそうだ。

 

(黙秘は肯定してるってとらえてよさそうか?)

 

(眉がわずかに動きました。間違いなさそうです)

 

(あんた、腹の探り合いなら金剛に引けをとらないんじゃないか?前に吹雪から聞いたことがあるけど)

 

(いえいえ!私もさすがに金剛さんにはかないませんよ…。あの人は人間の観察力もそうですが、勘というんですかね?それがずば抜けているんです…)

 

(あんたの情報網もすごいと思うけどな…)

 

 二人のひそひそ話を聞いていた明石。ため息を吐きながら、本に集中する。しかし、携帯の通知音が鳴りその内容を確認する。内容を確認しすぐにポケットにしまう。

 

(やれやれ…今年もか…。どうして、頭の悪い政治家達は学ばないかな…。世界各国でニュースになってて、噂にでもなってるでしょうに…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー???

 

 場所的におそらく地下のどこか。その空間の中に、男性2人、女性1人が椅子に縛り付けられ、全員が血まみれの状態だった。体を切られ、おそらくあちこちの骨も折れている。その3人を見下ろす女性がいた。大人しそうな顔立ちに、茶色の髪をポニーテールにまとめている。その女性は返り血を浴びており、手には拷問道具を手にしていた。もうすでに拷問を終えた後なのか、道具を乱暴に放り投げる。すると、近くのテーブルに置いていた携帯が鳴る。どうやら電話のようだ。

 

「…何?」

 

『Hi!世界会議前の交流会がもうすぐ始まるからその連絡よ~!』

 

「もうそんな時間か…。シャワーを浴びて、着替えたらすぐに行くわ」

 

『Oh…今年もなの~…。まぁいいわ。用が済んだらすぐに来てちょうだい」

 

「了解」

 

 女性は拷問部屋から出ると、廊下を進んでいく。廊下を進んでいくと、白髪に眼鏡をかけた日系の顔立ちをした中年男性が壁によりかかっていた。手には煙草を持っており、呆れながらその女性を見ていた。

 

「懲りねえなお前も。こんなことしても、どうせ同じようなことが起こるぞ。あいつらの自業自得と言えばそうだけどよ…」

 

「……金の不正利用、妻も夫の権力をいいことに周りに好き放題…。息子は複数の女性に対して性的暴行を加えたのに、金の力で事件を揉み消した。そんな奴らはああならないと反省しないわ」

 

「……はぁ…。お前の事情は知ってる。だからもう何も言わねえよ。だが、あれと同じようなことを()()()の前でやるんじゃねえぞ。あの子が悲しむ」

 

「……」

 

「あいつらの処置は任せとけ。お前はさっさとシャワーを浴びて、着替えて交流会行ってこい」

 

 女性は、黙って廊下を進んでいく。入念にシャワー浴びないとな…と思った。念のため香水もつけていこうか?たまに鼻が利く奴がいるから怪しまれる。今回はそんなことが無ければいいなと女性は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーアメリカワシントン 空港

 

「ほ…本当に1時間以内に着いた…」

 

「一体どういう技術を使ったらこんなすぐに着くんだい?」

 

「えぇっと、日村工廠長と軽巡の夕張曰く、妖精さんの謎技術+私達も頑張った!……らしいぜ…」

 

 白露と時雨の反応に、仁が答える。現在、日本時間で9時半くらい。アメリカ時間で7時20分くらいだ。毎回、こんな早い時間で世界各国を行き来しているのかと思うとかなりびっくりする。周囲を見ると、同じようなジェット機が数台止まっている。おそらく、他の国の代表達だろう。

 

「うっへ~…。他の国も同じような機体があるんすね?」

 

「他の国でも、妖精がおるからの。その影響もあって、ああいったものをすぐ作れるらしい。ただ、海外は日本に比べて数は少ないから、表向きはこちらの技術を提供したことになっておる。世間一般に妖精の技術で作ったなんて言ったら、信じてくれそうにないからの…」

 

 榊原の疑問に、山本が困ったような表情をして説明する。山本の言うように、妖精は世間一般にはあまり知られていないし、表向きそういう理由にしないと世間に混乱を招きそうだった。「毎回思うっすけど、どうしてそうなるんすか?」と榊原は困惑気味だ。同じく京と仁も同じような反応をする。自分達も提督になってまだ日は浅いが、この数か月で驚かされることが多すぎて頭がついていかない。星羅のことと言い、妖精のことといい。白露と時雨も呆れ半分に見ていたが、その横をはしゃぎながら通過するのは漣だった。ジェット機に乗ったのもそうだが、あっという間に朝から夜に変わっているのもあるのだろう。本当に年相応のはしゃぎぶりだ。

 

「おお!すごいです!あっという間に夜になってるよ!やばい、キタこれ!」

 

「漣ちゃん。あまりはしゃぎすぎると危ないよ。あぁ!あと前見て前!」

 

「ふっふ~ん、もう前と同じようなことはしないですぞ潮!漣もしっかり学んでるんです(*^^)v」

 

「はいはい。7駆の皆は、ちゃんと私に付いてきてね!離れちゃだめだよ」

 

 吹雪は、漣をなだめつつ、7駆の4人を集めていた。さすが特型長女、おまけに年齢23歳と来てるものだからさすがと言ったところだろうか。特型の仲もすごくいいらしいしそれもあるのだろう。仲の悪い陽炎型も見習ってほしいものだ…と白露は心の中で思う。気の強い陽炎と不知火がいるからな~。そんなことを思っていたら、後ろの方では長門が憂鬱そうな顔をして出てきていた。いつもの凛々しい表情は無いし、来る前の明石に対しての怒りもどこへやら。

 

「あ…あの~、長門さん?」

 

「あ…あぁ、大丈夫だ。交流会は問題ないが、明日の会議のことを思うと少しな…」

 

 それを聞いて、白露型の4人は集まる。夕立もすっかり眠気が取れているようで、かなり表情はいい。ただ、長門の言ったことに対して頭にはてなマークを浮かべているが。

 

「なぁ、世界会議ってこんなものなのか?」

 

「えっと、話を聞く限り、艦娘がいない一部の国から批判を浴びることが多いそうよ。ヘイトが集まりそうだからあえて国の名前は言わないけど…中〇語を話す国と韓〇語を話す国だったり…」

 

「村雨お姉ちゃん、それほぼ答え言ってるっぽい…」

 

「どうしてこういつもいつも日本と隣国って仲悪いかな…。しかも、他の国も白い目で見てるらしいし…(;^ω^)」

 

「日本だって、世界各地の海域に出向いてやってるだろうに…」

 

「白露姉さん、それを言ったら多分おしまいよ…」

 

 はぁ、やれやれ…と肩を落とす4人。すると、近くで「Welcome to America」と話す女性の声がした。声のした方を見ると、赤茶色のロングヘアに紺色の赤い縁取りが入っているセーラー服を着ている女性が山本と花田に挨拶している様子だった。日本語も堪能なようで、すぐに日本語で2人に話しかけていた。

 

「ネヴァダ級ネームシップ、ネヴァダよ、よろしく」

 

「首相の花田じゃ、よろしくお願いする」

 

「海軍元帥の山本じゃ。それに、護衛として来てくれている岩川鎮守府の榊原提督に、柱島の鳴海提督、桐生副提督。それから…」

 

「あぁ、本格的な自己紹介は、この後、車に乗りながらでも話しましょう。せっかくの交流会なのだから」

 

 そういって、近くに止めてあった車まで誘導するネヴァダ。その車というのが、よくテレビで見かけるようなリムジンで、何人乗れるんだってくらい車体が長い。テレビで見るような車を目にして、漣と夕立が目をキラキラさせている。曙や朧は表情には出ていないが、少しそわそわしているような様子だった。

 

『え⁉なにこれすごい!これ中どうなってるの!』

 

「漣、あんたうるさい…」

 

「夕立、あまりはしゃぎすぎちゃだめよ…」

 

「またそんなこと言って。本当は心躍ってるくせにこのツンデレぼのたん!」

 

「さ~ざ~な~み~!」

 

「あわわわ!2人とも、喧嘩はダメ(;゚Д゚)」

 

「はいはいはい、皆仲良く!車に乗って」

 

 吹雪に諭され、漣と夕立がすぐに車に乗る。それに続いて潮と朧も車に乗り込んだ。他の者も順番に車に乗り出し、全員が乗ったのを確認すると最後にネヴァダが車に乗り交流会の場所まで行った。車を走らせていると、夕立と漣が外の風景を見て騒いでおり、村雨と曙が2人を注意するも外の光景を見てかなり感動している様子だった。おまけに、車の中には飲み物もあったため、各自好きな飲み物をコップに注いでいた。さすがに、アルコール類は無かったが。そして、改めてネヴァダを含め全員が挨拶をする。漣と夕立ははしゃぎすぎているのもありかなり声が大きかったが。全員の挨拶を終えた後、山本がアメリカの様子について尋ねた。

 

「さて、ネヴァダだったな。アメリカの近況について聞いても問題ないかな?」

 

「えぇ、どうせ明日の本会議でも話すし、遅かれ早かれ全員が知ることになるから問題ないでしょう。実は2週間ほど前、北極海に出撃した際に、深海棲艦の同士討ちが確認されたわ」

 

「何⁉それは確かなのか!」

 

「報告にあった新種の情報と合致している。人型で白い肌。角のようなものを生やしているのが特徴だった。身長は子供と同じくらい。襲撃されているときに、逃げていたわ」

 

「長門。以前、お前が報告してくれたことと合致しているな」

 

 その話を聞いて、全員が驚いていた。深海棲艦の同士討ちなど、今まで報告に上がったことすらない。縄張り争いなのか、それとも別の理由なのかはわからない。ただ、以前長門が単独任務を行っていた際に、ちょうど北側と西側の海域に出向いたことがある。その時に、逃げるようなそぶりを見せていた新種がいた。長門も手に持っていたグラスを置き、静かにつぶやいた。

 

「……もしできるなら、会ってみたいものだ。その深海棲艦」

 

「そうは言ってもね、私達も接触を試みたけど、うまく逃げられるわ、艦載機の攻撃を食らうわで踏んだり蹴ったりだったわ。ただ、断言できるのは向こうに殺意は無かった。私達に損害を与えて、逃げることだけを考えているような戦闘だったわ」

 

「…なんか、話を聞く限り、対話は出来そうっすね…。難しそうっすけど」

 

「接触を試みる前に、こちらに損害が出て、航行不能にでもなったら大変ですね」

 

「おまけに、接触したい相手が鬼級、もしくは姫級の類ならなおさらな」

 

 長門の言葉に、ネヴァダや榊原、京、仁は率直な意見を言う。確かに、接触を試みても逃げられ、攻撃されるのがおちだし、殺意は無いにしても損害が出て航行不能にでもなったらたまったものじゃない。長門クラスのS級であれば、もしかしたらチャンスはあるかもしれないが、それでも危険であることは変わりない。いつ、どこで新種が出てきでもおかしくない状況だから。

 

「でも、接触して対話ができれば、何か情報は引き出せそうですね。仮に、仲間割れが起きているのだとしたら、その新種を味方につけられるかも!」

 

「こっちに敵意が無いと知ったら、向こうも話くらいは聞いてくれるんじゃないか?」

 

 青葉と白露も意見を言う。原因がなんであれ、もしも仲間割れが起きているのが事実であれば、その新種を味方につけられる可能性は十分にある。敵の敵は味方というし、長門も自分の言おうと思っていたことなのか、二人の意見に満足そうな表情を浮かべていた。

 

「あぁ、この話が事実なら、その可能性は十分にある。この先の対応は、おそらく明日の会議で話すだろうがな。それに、西側の海域で見たもう一体の深海棲艦についても気になる。(もしかしたら、深海棲艦の中でも派閥があるのか…?)」

 

「あの~、お話し中のところ申し訳ないんですけど…このでかいホテル、会場ですか?」

 

 漣が窓から見える大きな建物の方に指を向ける。窓を見ると、同じようなリムジンが何台も止まっており、スーツを着た人やおそらくSP、中には艦娘らしき人も出てくる車もある。ネヴァダもそれを確認し、手に持っていたグラスを置いた。

 

「えぇ、ここが会場よ。さて、話の続きが気になると思うけど、それは会場の中で交流を深めながら話すとしましょう。丁重におもてなしするわ」

 

 そして、順番が来た後に全員が車から出る。各々が会場に行く中、白露は少し深呼吸をした後に歩き出す。一体どんな艦娘がいるのか、強さはどれほどのものなのか、実際にあってみないとわからないものが多い。それに、処刑人(エクセキューショナー)のことについても気になる。期待半分、不安半分で会場に向かった。




交流会の会場に着くまでを書かせていただきました!

次回は白露達が世界の艦娘達と交流する話になります!

時雨はイタリア艦娘と再会するし、新キャラもたくさん出てくる予定です!

ではでは!


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76話 交流会

 現在、白露と時雨は会場の窓際の席で一息ついていた。まずは、アメリカの大統領の挨拶から始まり、それから各々食事などをしながら交流をしているところだ。食事はビュッフェ形式で、豪勢な食事がずらりと並んでいた。首相や元帥も挨拶回りをしており、長門や提督達、秘書艦も二人についている。明石は一人でどこかに行ってしまうし、吹雪と第七駆逐隊も食事をしに行っている。夕立は物珍しさではしゃぎながらどこかに行ってしまった。岩川の面々も各々で別行動をしているようで、加古は寝たいからと言って外の方に行き、衣笠もそれについている。青葉は、周囲の写真を撮るためにあちこち回っている。そんなこんなで二人になってしまったわけだが、正直どういう風に行動していいのかわからなかった。

 

「なんか、すごいな」

 

「そ、そうだね…これからどうしようか?なんか、皆それぞれ別行動してるし…」

 

「周囲と交流しろって言われても、初めてくるわけだし知り合いもいないぞ…」

 

「もしかして、困ってる!」

 

『ん?』

 

 不意に、右後ろから声をかけられる。しかし、振り向いてもどういう訳か誰もいなかった。

 

「困ってるなら、うちのとこおいでよ!」

 

『んん?』

 

 今度は左後ろを見るが、また誰もいなかった。二人して顔を見合わせ、頭にはてなマークを浮かべる。すると、不意に後ろから二人に抱き着いてくるものがいた。

 

「久しぶりー!シグレー!」

 

「Ciao~!シグレとは久しぶりだけど、あなたとは初めて会うね!私はリベッチうわぁ!」

 

 白露と時雨は、同じタイミングで抱き着いてきた人物の脇を抱え上を見上げる。白露は初対面のため首を傾げていたが、時雨は二人を見て少し笑顔になる。抱き着いてきたのは、イタリア艦娘のグレカーレとリベッチオ。二人は時雨と再会できたことがかなりうれしいようで満面の笑顔を浮かべていた。

 

「グレカーレ、リベッチオ!久しぶりだね!」

 

「えへへ!シグレが来るってわかったときはうれしかったよ!ヤマシロ達と会えないのは、少し残念だけど」

 

「ねぇねぇ、困ってるなら私達のいるとこおいでよ!今ね、アメリカの艦娘達と交流してるんだ!ほら、行こう!」

 

 グレカーレが時雨の腕を引っ張り、それにつられてリベッチオも白露の手を引き、小走りで交流している場へと向かう。途中、人とぶつかりそうになったりしたが、何とか避けていく。途中、舌打ちのような音がしてきたが気にしないことにした。長門から聞いていたが、艦娘を快く思っていない連中も少なからずいるらしい。こっちだって必死に戦っているというのに。しばらくすると、イタリアとアメリカ艦娘が交流している場所に着いたのだが、そこに着くと二人の艦娘が酒を煽っており、さらに二人の艦娘がどうにかしてそれを止めようとしていた。

 

「Grazieですね~!やっぱりお酒はおいしい~!」

 

「Ranger~!どっちが強いか勝負よ~!!」

 

「こらポーラ!あなた、もうこんなにお酒を飲んで!」

 

「レンジャーももうやめろ!この1時間少しで何杯飲んでいるんだ!」

 

 あれ~(;^ω^)と二人を連れてきたグレカーレとリベッチオは少し混乱している様子だった。二人の様子を察するに、おそらく席を離れる前まではこんな状況ではなかったのだろう。それが、いつどうなってこうなってしまったのか。飲みあいをしている二人の前には、かなりの数のボトルが転がっていた。一本や二本どころではない。かなりの数だった。それを見て、白露と時雨は目を細めながらつぶやく。

 

『…世界にもこんな人達いるんだ…』

 

「おお!これまたすごい状況になってますね!記念に撮っておこうっと!」

 

『うわあああああああああΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)』

 

 4人は絶叫を上げる。右を見ると、いつの間にか現れた青葉が写真を撮っていた。写真を撮って回るとは言っていたが、いつからいたのか。青葉の能力を知っていても、急に現れたら心臓に悪い。現に、グレカーレとリベッチオは危うく腰を抜かしそうになっていた。

 

「青葉かよ…驚かせるな…」

 

「すみません!あ、ついでに今飲みあいをしている二人について話しましょう。左にいるのが」

 

「あ、それなら僕が。左にいるのがポーラさんとザラさん。ポーラさんは酒癖が相当悪くて、飲んだら見てのとおりああなる。前、満潮達がひどい目にあっていたからね…。それを止めているのが姉艦のザラさん」

 

「その通り!右側にいるのはレンジャーさん。彼女も見てのとおり酒を飲むとああなってしまうんですよね…。普段はとてもお淑やかな方なのに…。確かA級クラスだったはずです。で、レンジャーさんを止めているのが、重巡タスカルーサさん。同じくA級です。二人とも異能は無いようですが、実力は申し分ないですよ!」

 

 実力は申し分ないのに、酒飲むとこれなの(;^ω^)と白露と時雨は思う。ザラとタスカルーサだけでは、二人を止めるのは難しそうだし、自分達も止めに加わろうかと思った。グレカーレとリベッチオも同じことを思ったようで、二人のことを見て頷いていた。そして、止めようと前に出ようと思ったその時、こちらに近づいてくる女性が3人いるのに気付いた。青葉はその3人を見て「おやおや!」と少し驚いた表情でカメラを向けている。白露達も振り返ると、金髪セミロングに碧眼、小さい王冠を被っている女性を先頭に、後ろには赤毛の髪をボブ風に切りそろえており、出で立ちはまるで騎士のような女性と金髪碧眼で、こちらはまるで貴族のような出で立ちをしている女性がいた。

 

「あら、見ない顔ですね。初めて来る子達かしら?」

 

「は、はい!白露型駆逐艦、白露です!」

 

「白露型2番艦時雨です!」

 

「ども~、恐縮です!青葉です!お初にお目にかかります、ウォースパイトさん!」

 

青葉の言葉に、白露は開いた口が塞がらなかった。今目の前にいる艦娘が世界のトップ3に入る実力を持つウォースパイト。霊力14万の強者だ。そして、所作からもわかるがとても気品がある人だ。日本の大和もそうだが、これがトップにいるものとしての出で立ちなのだろうかと思った。ただし、半分狂種がいるのも事実だが。

 

「あら、名前を知ってくれていてうれしいわ!改めて、クイーンエリザベス級2番艦のウォースパイトよ。後ろにいる二人はアークロイヤルとネルソン」

 

「よろしく」

 

「余がネルソンだ!会えてうれしいぞジャパンの艦娘達!もし機会があれば、余が直々にn」

 

『ネネネネルソンターッチ!』

 

『ぶっふぁ(笑)!』

 

 急にグレカーレとリベッチオがそんなことをいうものだから白露と時雨は思い切り吹き出してしまった。先に言おうとしていたネルソンは思い切り固まってしまっているし、隣にいるアークロイヤルは笑いを必死にこらえようとしていたが、とうとう吹き出して笑ってしまう。ウォースパイトも口を押えて笑っていた。そして、ネルソンは照れ隠しからか顔を真っ赤にしてグレカーレとリベッチオに詰め寄る。

 

「こ、こら!余が先に言おうと思っていたのに!大体、なんだそのエコーがかかったような効果音は!」

 

「え~、だって、”原作”でもそうじゃん!艤装をこう前に突き出してさ!」

 

「そうそう!主砲・一番・二番、行くz」

 

「ええええい!もうやめろ!なんだそのメタ発言は!」

 

『ひゃあ!逃げろ逃げろ~!」

 

 待て~!と声を張り上げて二人を追いかけるネルソン。人ごみをかき分けてうまい具合に逃げていき、会場の外まで行ってしまった。ネルソンもそれを追いかけていく。一通り笑った後に、ウォースパイトが改めて、酒を飲んでいる二人に目を向ける。

 

「それにしても、交流会の場で、このような行為は許せませんね」

 

『ぐえ⁉』

 

 直後、ポーラとレンジャーに強い衝撃が加わったのか、急に床に倒れこむ。その場にいた白露と時雨は何が起こったのかわからず二人を見つめており、青葉もカメラを下に向けて固まっている。

 

「これで、しばらく静かになるでしょう。では、私はこれで。行きましょう、アーク」

 

「はい。ウォーさん」

 

 その場を後にするウォースパイトとアークロイヤル。二人を見送った後、少しずつ状況が理解できたのか改めて、倒れているポーラとレンジャーに目を向ける。一体何をしたのかわからないが、おそらく異能か何かを使ったのは間違いない。じゃないと、強い衝撃音が鳴るのはおかしいからだ。

 

「…え?…え?何が起こった?」

 

「え~と…ウォースパイトさんは異能についてはわかりませんね…本人の希望で、開示していないのかもしれません…」

 

「でも、今の衝撃音…」

 

「あぁ、ウォースパイトって人、何もしてなかったよな…」

 

「た…助かった…」

 

「う…うちのポーラがすみません」

 

 ザラとタスカルーサは、二人がようやく物理的に黙ってくれたからか、その場にへたり込んでしまう。かなり長時間格闘していたようだ。その二人を見て少し心配になってしまうが、今度は後ろの方から何やら言い合いのような声がしてきた。白露達は声のした方を見ると、銀髪ロングヘアの女性と星条旗カラーのロングヘアの女性が言い合いをしているようだった。酒癖の悪い人達の次は喧嘩をしている人達。陽炎と不知火の喧嘩を見ているようで、白露と時雨は頭を抱える。

 

「…青葉、あの二人は?」

 

「えぇ、銀髪の方がアメリカ艦娘のワシントンさん。戦艦です。もう一人はサウスダコタさん。同じく戦艦。あの~、休んでいるところ申し訳ありませんタスカルーサさん。向こうでワシントンさんとサウスダコタさんが言い合いをしているみたいですが?」

 

「…ん(・・?)…あ!?またあいつら!止めてくる!」

 

 そう言って、慌てて言い合いをしている二人の元へ行くタスカルーサ。何が原因でああなっているのかはわからないが、せめて場所を選んでほしいと思った。現に、他の国の人達が二人を見て何やらひそひそ話をしているし。

 

「おいこら二人とも!こんな時に喧嘩はやめろ!」

 

『だってこいつ(ワシントン)が!』

 

「言い訳は却下だ!頼むから、これ以上問題を起こさないでくれるか!大体、うちは開催国だぞ!他の国の人達の目もある!」

 

「あっちでレンジャーとポーラがバカ騒ぎしてたじゃない!今更どうこう言っても遅いわよ!」

 

「そうだぜ!だったら、今こいつをぶちのめしても平気だよな!」

 

「言ったわねこの馬鹿!望み通り決着をつけてやろうじゃないの!」

 

「お前らな………あ、後ろにコロラドが…」

 

「何を言ってるのよ。コロラドさんは、今ドイツ艦娘達と話しt」

 

「それならついさっき解散したわよ二人とも(#^ω^)」

 

『ひぃ(;゚Д゚)』

 

 まるで機械のように後ろを振り向く二人。後ろを見ると、金髪のショートボブが特徴で、コロラドと呼ばれた女性が立っていた。かなり怒っているのか、赤いオーラが周囲に漂っているように見える。その後ろに、グレーがかった髪の毛を青いリボンでアンダーツインテールにしている女性が呆れながら二人を見ていた。服装がコロラドと一緒のため、おそらく姉妹艦であろう。

 

「こ…これはコロラドさん!お見苦しいところをお見せして!」

 

「い…いやこれは違うんだ!その…そう!意見が食い違って、それでへぶっ⁉」

 

 コロラドは、サウスダコタにヘッドロックを食らわせ一瞬で気絶させる。それを見たワシントンの顔が青ざめ、震えながらコロラドを見る。

 

「あのね、喧嘩するのは別にいいわ。でも、そのせいで周囲に迷惑をかけるっていうのは…どうかと思わない?」

 

「は…はい!」

 

「大体、私達の身にもなりなさいよ!毎回毎回あなた達の喧嘩に巻き込まれて、こっちはもう嫌になってきてるのよ(# ゚Д゚)。何なのよ本当にくだらないことでいっつも!」

 

 そのまま、コロラドの説教が響き渡る。ワシントンはそれにただただ、すみませんと謝るばかりだった。コロラドの後ろにいた女性は、白露達がこっちを見ているのに気付いたようで何やらジェスチャーを送っていた。白露達からみて、左側をさし、ナイフとフォークを手で表現している。最後に、白露達を指し、右親指で行けと言わんばかりに指示している様子だった。

 

「どうやら、向こうに食事処があるようですね。行きましょうか」

 

「青葉、私達に向こうに行けってジェスチャーしていた人は?」

 

「あの人はメリーランドさん。見てわかると思いますが、コロラドさんの姉妹艦です。ビッグ7ですよ!」

 

「それにしても、世界にもあんな人達がいるんだね…。日本にいる陽炎と不知火を思い出すよ…」

 

「あの二人も喧嘩していることが多かったからな…。不知火と浦風も喧嘩して、それ以来口きいてないらしいし…」

 

「合う合わないはありますから、その辺は仕方ないのかもしれませんが…。おや、あそこにいるのは」

 

 青葉が視線を向けた先に、夕立が食事を頬張りながらテーブルを移動している様子だった。肉にケーキに他にもたくさん。日本では食べられないようなものばかりだから、夕立もはしゃいでいるのだろう。

 

「こっち来る前に食ってきただろうに。もう腹が減ったのか?」

 

「あ、白露お姉ちゃん!ここのご飯すごくおいしくて、ついつい食べちゃったっぽい!」

 

「なら、いいけどさ」

 

 そして、さりげなく右の方を見た白露。右の方には、おそらく食事をとりに来たであろう少女2人がいた。ただ、背格好からして白露達と同い年か少ししたくらいの子だ。一人は金髪に碧眼、一人は金髪のツーサイドアップが特徴だ。その少女は周囲を見ながら怯え、もう一人の腕にくっついている。

 

「ほらジョンストン。私がいるから大丈夫」

 

「う…うん」

 

(確かあの二人は…)

 

 白露は、青葉に聞かなくてもわかるように、ここに来るまでにタブレットを見せてもらっていた。一人はフレッチャー。もう一人はジョンストンだ。二人とも対潜に優れており装備次第では対空も可能らしい。ただ、ジョンストンの方は、フレッチャーから離れようとしない。特に、男性を見ては悲鳴を上げている。

 

(時雨、あのジョンストンってやつ)

 

(男性を見て怯えてる。前に何かされたのかな?)

 

(ありゃトラウマレベルのものだぞ…。相当嫌なことでもされない限りああならないんじゃ)

 

「何々、なんの話っぽい?」

 

「口に頬張りながら話をするな…」

 

 二人の会話が気になり、夕立が割って入るが、食事を口に頬張っているためそれを白露が咎めた。すると、近くの入り口の方から、フレッチャーとジョンストンを見て近づいてくる女性がいた。茶色の髪をポニーテールにしているのが特徴だ。ジョンストンは、その女性に気付くと小走りで近づき抱き着いた。

 

「サラ!遅すぎ!」

 

「ごめんごめん。ちゃんとそばにいるから。フレッチャー、何もなかった?」

 

「はい、今のところは」

 

 遠目で3人のやり取りを見ていた4人。サラと呼ばれた女性の異様な気配を感じ取ったのか、全員サラから目が離せず固まってしまう。白露と青葉は、腕に鳥肌が立っているほどだった。

 

(……おいおい、嘘だろ…)

 

(この人、間違いなく私と同じ⁉気配がまるで違う!)

 

 青葉は直感した。この人物は自分に近い存在だと。白露も同様、この人物がかなり危険な部類に入るものだと認識した。夕立と時雨も肌で感じているのか、無意識に半歩下がっている状態だった。そんな中、夕立が声を震わせながら話しかける。

 

「……ねえ、さっきまでどこにいたっぽい?」

 

「…?道に迷っただけだけど。早くこの2人と合流したかったんだけどね…」

 

「…なら、なんで()()()()がするの?石鹸の匂いと、香水の匂いもするけど、少しだけ血の匂いがするっぽい」

 

 その言葉に、サラは光のない目で夕立を見る。しばらくの沈黙が続いた後、ため息を吐きながらつぶやく。

 

「……へぇ……わかるんだ」

 

 白露と青葉は、瞬時に夕立の前にでる。前に出なければ何をされるかわからなかったから。時雨も、いつでも動けるように夕立の服をつかんでいる。サラはその様子を見てさらにため息を吐いた。

 

「別にどうこうしようとは思ってないわ。今夜は交流会だもの。私はただ、この子達を迎えに来ただけ。あとは適当に回るわ」

 

「…一つ聞いていいか。やっぱりあんたが処刑人(エクセキューショナー)なのか」

 

「世間じゃそう言われているみたいね。まぁ、いずれわかることだったし隠しても意味ないか。そうよ、私が処刑人(エクセキューショナー)。これで満足でしょ」

 

 そう言って、サラトガはフレッチャーとジョンストンを連れその場を去っていく。三人が見えなくなるのを確認した後、白露と青葉は一気に力を抜く。ここまで畏怖したのは初めてだ。青葉でさえ、ここまでの恐怖感を味わったことは無い。自分達の一挙手一投足ですべてが決まってしまうのではないかと思った。特に夕立は、初めて味わった恐怖だからかその場で立ち尽くし震えている。時雨も同様、サラトガ達が去っていった入口付近をじっと見つめたまま動けないでいた。

 

「とりあえず、あいつが処刑人(エクセキューショナー)だってことは間違いなさそうだ…」

 

「えぇ…。さすがに私も死ぬかと思いました…。時雨さん、夕立さん。大丈夫ですか?」

 

「あ…うん。僕は何とか。でも、夕立が」

 

 夕立の震えは止まる様子がない。歯までがちがちと震えている。これは相当やばいな…と白露は頭を抱える。ここにいても仕方ないし、どこか違う場所にでも行ったほうがよさそうだ。どこかいい場所は無いか青葉に聞くと、今別の広間でピアノの演奏をしている艦娘がいるらしいのでそこに行ってみようということになった。ちょうど、吹雪と第七駆逐隊もそこにいるらしい。ピアノ関係はあまり興味は無かったが、せっかくなので行くことにした。

 

 震えている夕立を何とか歩かせ、青葉の言っていた広場まで行く。広場に近づくにつれ、ピアノの音がどんどん大きくなってきていた。周りには、各国の代表や先ほどあったウォースパイトとアークロイヤル、吹雪達が静かに音色を聴いていた。夕立も、ピアノの音色を聴いてか震えが少しずつ収まってきていた。広間の中心には、大きなピアノが置かれており、ピアノを弾いているのは、金髪に前髪の一房を三つ編みにしており、左耳あたりに緑色のリボンを留めている。服装は、白のブラウスに紺色のネクタイ。その上に深緑色のノースリーブのジャケットを着ている。軍人というより女学生のような格好だった。

 

「はえ~。これはこれは。バッヘルベルのカノンですか」

 

「ば…バッヘルベル?」

 

「何百年も愛されている名曲です。確か、ドイツ人作曲家が書いた」

 

「ピアノを弾いているのは…えっと…」

 

「イギリス海軍所属の軽巡パースさんですね!オーストラリアで育ったらしいですが、生まれがイギリスなので、そちらの所属になっているそうです!」

 

「…えっと、オーストラリア所属じゃないの?」

 

「考えてみてくださいよ。たった一人ですよ…。あんな綺麗で美人さんが、海軍に所属してみてください…。男どもから、とんでもない魔の手が降りかかるかも!」

 

「嫌らしい手つきしながら語るな…」

 

 青葉の行動を見て、白露がすぐに突っ込みを入れる。でも、確かにたった一人の艦娘だから、何をされるかわからないのも事実だよな…と白露は思った。変に性欲が強いやつらに目をつけられればひとたまりもない。青葉が言うには、オランダやフランス、ロシア、ドイツなどは艦娘の数が圧倒的に少ない。ロシアとドイツは、最強、もとい最凶の艦娘がいるためこれと言って問題は無いらしいが、フランス、オランダはそういう訳にもいかないらしく、オランダはイギリス、フランス艦娘は隣国であるドイツに身を寄せているらしい。さらには、イタリアも含めて、ここらの国はヨーロッパ連合と呼ばれているらしい。

 

(なるほどね…そういう仕組みだったんだ…。艦娘が少ないとこは大変だな…。ん?そういえば、青葉は前に、かなり過激な水商売をやらされてたって言ってたな?18禁の内容が含まれているから言えねえって言ってたけど……。いや、考えないようにしよう…。確実に、()()()()だよな…)

 

 白露は、そう思い考えるのをやめた。今は、この音色に集中するかと思った。時雨と夕立もその音色、弾いている人物を食い入るように見つめている。しばらくすると、演奏が終わったようで、ピアノを弾いていたパースという人物が立ち上がりお辞儀をする。それと同時に、周りで聴いていた者達は一斉に拍手を送った。拍手が終わると、パースに近づく艦娘が二人いた。

 

「パース、お疲れ!」

 

「やっぱりあなたが弾く曲を聴くと落ち着くわ!後でバイオリンも弾いてくれない?」

 

「ヒューストン、ロイテル…さすがに疲れたから、また今度ね…」

 

 ヒューストンとロイテルね…と白露はタブレットで二人の情報を見る。ヒューストンはアメリカの重巡。ぱっと見戦艦ではないか?と思う風格だった。もう一人は、オランダのデ・ロイテル。この三人は、史実でABDA艦隊としてともに戦ったことがあるらしい。だからあんなに仲が良さそうなのかと思った。さらに、吹雪もパースの方に近づいていく。演奏に感動したのかわからないが、顔の周りがキラキラして見えた。

 

「あの、ピアノの演奏とても素晴らしかったです!あ、私日本所属の駆逐艦吹雪と申します!」

 

「は…はぁ、ありがとう。私はパース」

 

「デ・ロイテルよ!!オランダ出身!今はイギリス所属!よろしく!」

 

「アメリカ重巡、ヒューストンよ。よろしくね」

 

「はい!あの、パースさん。一つお願いが。もしも、日本に来る機会があったら、暁って子にピアノを教えていただけませんか?同じ特型の子なんですけど、その子もピアノがすごく上手で!」

 

「吹雪姉!それはいけませんぞ!そんなことしたら、暁がまた変にレディーを自称することにくWせfgiか!」

 

「漣、そろそろいい加減にしろ!」

 

「暁も実際にピアノが上手なんだから。それに、皆の前で演奏するのあの子も好きだし、いいじゃん」

 

 吹雪のお願いに、漣が食って掛かるが、すぐさま曙が漣の頭を叩き黙らせる。朧もフォローを入れ、暁のピアノ演奏を称賛している。その様子を見たパースが渋々承諾していた。「まぁ、機会があれば…」と少し気乗りしない様子ではあったが。

 

 ピアノの演奏も終わったみたいだし、違うところにでも行くか…と思い移動しようとするが、夕立の方を見ると、何やら窓際の席の方に目を向けていた。そこには、グレーの瞳にピンク色のツインテールが特徴の女性が、ワインを飲みながらこっちを見つめていた。気弱そうな、面倒くさそうな表情をしている。夕立は、首を傾げながらそっちに向かっていく。

 

「あ、夕立!」

 

「待った時雨。あいつ、多分悪い奴じゃねえよ。興味でもあって、こっち見てたんだろ」

 

「えぇ、おそらく大丈夫ですよ時雨さん。あの方は対空殺し(スカイキラー)の異名を持つ防空巡洋艦アトランタ。あの目は少し興味を持っているような目ですね。ただ、史実の影響で日本の艦娘達が苦手らしいですが…」

 

 「え、大丈夫なの(;゚Д゚)」と時雨は少し心配になる。だが、夕立がアトランタに近づいていっても、アトランタは逃げる気配すらしない。夕立が、アトランタのすぐ目の前まで来るが、何をするわけでもなくただ夕立をじっと見つめている。夕立もアトランタをじっと見つめる。しばらく沈黙があったが、先に口を開いたのは夕立だった。

 

「ねぇ、何してるっぽい?」

 

「みてわからない?ワイン飲んでる」

 

「他の人達と交流しないの?」

 

「そういうの面倒くさくてさ。一人でいる方が、あたしは好きなの…」

 

「…じゃあ、なんで夕立達を見てたの…?」

 

「……あの同じ制服着た茶髪のやつ、あんたの姉妹艦?強いな、あいつ」

 

「ぽい!夕立のお姉ちゃん!白露型の白露だよ!自慢のお姉ちゃんっぽい!」

 

「もう一人が時雨ってやつで、ピンク髪の奴は青葉ってやつか…。あいつらも強いけどさ…あんたもかなり強いな。あたしには霊力的にはまだ及ばないだろうけど…」

 

「霊力的?」

 

「あんたゴリゴリのインファイターだろ?一通り情報は見てる。白露型の実質ナンバー2。伸びしろもありそうだ。史実では、あたしはあんたにひどい目にあってるからな。まさに、悪夢(ナイトメア)だった」

 

「でも、今は味方っぽい!」

 

「まぁ、そうだね」

 

「…ねぇねぇ!夕立、あなたのこともっと知りたいっぽい!」

 

「人の話聞いてたか?あたしは一人でいる方が好きなんだ」

 

「そういうのいいから!名前は!異名とかあるっぽい!夕立、狂犬って言われてるっぽい!」

 

「…はぁ、やれやれ…」

 

 そして、夕立がアトランタに質問攻めをくらわすが、アトランタは鬱陶しそうにしながらもしっかりと夕立の質問に答えていた。名前や異名の由来、基本的にどのようなことをしているかなど、夕立の質問に一つ一つ答えていた。アトランタも夕立に興味を抱いているのか、夕立にいろいろと質問をしていた。そんな様子を見て、時雨はほっとした様子だった。

 

「よかった。気が合ってくれたみたい」

 

「あら珍しい。あの子が他の子とあんなに話すなんて」

 

「うわびっくりした!」

 

 後ろを見ると、アメリカ重巡のヒューストンが夕立とアトランタのやり取りを見ていた。気配もなく後ろに立っていたため白露が驚いてしまう。青葉は、ヒューストンの言ったことが気になったようでヒューストンに話しかける。

 

「そんなに人見知りが激しいんですか?」

 

「人見知りというか、性格というか…。あの子、猫みたいな性格だから他人とあまり関わろうとしないのよ。だから、あそこまで話しているのは珍しくて」

 

 なるほど~。といった具合に青葉は納得する。実際に二人を見ているとすごく楽しそうに話している。アトランタもわずかではあるが口角が少し上がっているように見えた。

 

「とりあえず、一安心だな」

 

「おや、白露さん。どちらへ?」

 

「ちょっと外の空気を吸いに。少ししたら戻ってくるよ」

 

 そういって、白露はバルコニーの方に出る。外を見ると、町の景色が見え手すりに手を置きそれを眺める。こっちの景色もなかなかいいな、と思っていると横の方に村雨がいるのに気付く。村雨もこちらに気付いたようで目が合うと笑顔で話しかけてきた。

 

「あら白露姉さん!どうしたの?」

 

「外の空気を吸いに来たんだよ。それより村雨、あんた提督達と一緒にいたはずじゃ?」

 

「あぁ、一旦分かれて、今別行動中よ!ちょっと休憩も兼ねてね!」

 

「はぁ…」

 

 そういって、改めて村雨をまじまじと見る白露。しかし、村雨を見て少しだけ違和感を感じた。いつもの村雨だったら、こういう時は秘書艦として常に提督についているはずだし、鎮守府でも書類仕事などをしっかりとこなした後に、部屋に戻ってくるほどまじめだ。そんな村目が、休憩もかねてと言ってここに来るだろうか?それも、提督達を置いて。

 

「なぁ村雨、ちょっと確認いいか?」

 

「なあに?」

 

「私が訓練生時代、夕立が突っ走ったときに何した?」

 

「…思いっきり殴ってたじゃない(;^ω^)」

 

「じゃあ鎮守府に着任するとき、あんたどんな感じだったっけ?」

 

「がちがちに震えて、緊張していたわね…」

 

 記憶もしっかりしてる。でも、やっぱり何か変だ。試しに、実力行使でかまをかけてみるかとも思ったが、今は交流会中だし事を荒だてたくない。

 

「おや、白露さん?こんなところで何を?」

 

「白露姉さん。一人でどうしたの?時雨姉さんと夕立は?」

 

「…はい?」

 

 後ろから声をかけられ、振り返るとそこには提督である京、さらに村雨がいた。二人も白露の前にもう一人村雨がいることに気付いたようで、二人して目を丸くする。白露は、交互に見比べるが背格好から何まですべて一緒だ。いろいろと困惑している白露をよそに、京の隣にいる村雨は混乱したように話し出す。

 

「あ、あなた誰⁉私がもう一人⁉⁉」

 

「あ~…え~っと…」

 

「あはは、ごめんよ!ちょっとからかってみただけなんだ…」

 

「その人はうちの仲間よ。ごめんなさいね」

 

 もう一人の村雨の後ろから二人の少女が姿を現す。二人とも同じ水平をイメージしたような服装だ。ベレー帽にはそれぞれ、Z1、Z3と表記してあった。そして、村雨だと思われた人物も「Entschuldigung…」とドイツ語らしき言葉を使っている。おそらく謝っているのだろう。そして、姿が光りだすと同時に背丈も変わり、金髪碧眼でおさげの少女が姿を現した。その姿を見た村雨が大声をあげて指をさした。

 

「あああああああああああ!あなた、さっき艦娘を保有している国の人達の中にいた⁉」

 

「あっははは…。改めて、私はプリンツオイゲン!異能は変身(メタモルフォーゼ)。相手の姿に変身することができる能力です!敵の潜入のため、よく深海棲艦の基地に行くことが多いです!」

 

「で、でもさっき村雨の記憶を!」

 

「あぁ、それ僕の異能なんだ。僕の能力は追憶(レミニセンス)。相手の記憶を読むことができる能力だよ。さっき君と握手したときがあったでしょ?その時に君の記憶を読ませてもらったんだ。あ、僕の名前はレーベリヒト・マース。よろしく」

 

「マックス・シュルツよ。よろしくね」

 

 そういって、頭を下げる三人。思わず白露達も頭を下げて自己紹介をした。すごい異能を持っている人達がいた者だと白露は改めて思う。だが、プリンツの異能はかなり危ういのではないかと思う。確かに、レーベの異能をもってすれば、敵泊地を把握することは簡単だろう。それでも、万が一ばれてしまえばかなりハイリスクだ。それを承知の上でやっているのだろうか。

 

「あ、もしかして、私のこと心配してくれてます?大丈夫です!気づかれる前に、とっとと逃げちゃうんで!」

 

「それでもかなり危険じゃないのか?」

 

「こう見えて、自衛もちゃんとできるから大丈夫です!ジャパンの格闘技は一通り習っているんですよ!」

 

 そういって、プリンツは右手をバッと前に突き出す。どうやら空手を習っているようだ。

 

「まぁ、確かに自衛もできるけど、心配しているのも事実なのよね…」

 

「ビスマルクもかなり注意するようにしているし、何かあったときのために近くの海域で待機していることもあるからね(;^ω^)」

 

「しかし、こちらとしては相手の情報を知れるのはありがたいですね。ハイリスク・ハイリターンではありますが…」

 

「そこはちゃんとアドミラールとも相談しながらやっているから大丈夫です!ビスマルク姉さまにもね!」

 

「まぁ確かに相談しながらやってはいるけど…。ん?…プリンツ、ビスマルクから呼ばれたみたい」

 

「了解!今回はからかってごめんなさい…。また明日、交流する機会があれば!」

 

 マックスの携帯から着信音がなった後、三人は中の方へと戻っていく。三人を見送った後、その場にへたり込む村雨と白露。情報量が多すぎたのといきなりのことで頭が混乱してきていた。二人を心配して、京は少し困り気味に話す。

 

「あ…あの二人とも。大丈夫ですか?」

 

「情報量が多すぎて少し疲れた…。さっさとベッドに行って休みたい…」

 

「わ…私も他の国の人達と交流したり、今見たことがすごすぎて…。白露姉さんと同じくらい、情報量の処理が追いつかなくて疲れてます…」

 

「は…はぁ…」

 

「そういえば提督…。副提督と岩川の人達は?」

 

「仁と榊原さん達ですか?三人なら、食事をしに行っていると思いますが。少し小腹が空いたと言っていたので」

 

「そ…そうか…。……う~ん。二人は少しここでゆっくりしていたら?私は中の方に戻るよ。夕立達と一緒に飯でも食うわ」

 

 そう言って、白露は中の方に戻っていく。正直、早く休みたいところではあるが、交流会の時間はまだあるので、どちみちそれが終わるまでは休めない。癖のある艦娘の人達とは関わりたくないため、中に戻った後は、夕立やアトランタらと一緒に過ごし、交流会が終わるまでは、白露にしては珍しく大人しくしていたそうだ。

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです!

白露達の目線で交流会を書きました!

次回は村雨達視点での交流会を書きたいと思います!

三月ももう終わりか…。早いですね…。


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