巫女ってガラじゃない!! (山乃庵)
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アーシア島編
いつだってポケットにいた君達


 ずっとずっと、違和感があった。

 家族に、生活に、風習に、隣人に。

 

 自然豊かな島で生まれ、年の離れた姉に優しく面倒を見られつつ、島の伝統を守る両親や祖父母に暖かく見守られ、島民の皆からも世話を焼かれながらすくすくと育った。

 とてもとても、良い島だと思う。

 島の皆のことは好きだし、勿論家族も大好きだ。

 

 でも、でも。

 

 

 どうしてか、馴染めない存在が、あった。

 

 

 ポケットモンスター、縮めてポケモン。

 私達人間にとって隣人で、家族で、相棒で、時に脅威をもたらす身近な生きもの。

 

 

 ()の私にとってそれは、画面(ゲーム)向こう(なか)の存在だったから。

 

 

 それが分かってしまったから、つい、こうして逃げてしまった。

 

 

 「困ったなぁ」

 「いやそれ私のセリフだからな」

 

 

 ぽやんとした表情にピンク色の、王冠を被った彼がのほほんと返してくる。 

 

 

 「ねぇ、どうしたらいいかな」

 「さてなぁ」

 「もう少し真剣に聞いてくれてもいいと思うんだけどな」

 「それはそれだなぁ」

 「ちくしょうこの浜ちゃんボイスめ…」

 「はっはっはっ」

 

 

 1年に一度行われる祭り。

 その巫女として選ばれたのが、つい一時間前くらい。

 

 それと同時に、思い出したのだ。

 私は、この世界を知っている(で遊んでいた)。 

 

 

 ゲームはもちろん、アニメも見ていた。

 年齢を重ねる毎にゲームは楽しむだけでなく、やり込む要素が増えてのめり込んだ。

 アニメは時間帯と生活習慣が合わなくなって、見る機会が減ったけど…それでも時折見てたし、映画はちびっこに混ざってゲーム機片手に見に行っていた。

 

 ただ、この世界に生まれただけならこんなに考えなかったと思う。

 

 けど、楽観的に受け入れるには、私の立場は微妙すぎた。

 

 

 ここは、島だ。

 カントー地方に属する、オレンジ諸島のその果ての島。

 アーシア島。

 

 1年に一度行われる、伝統の祭事。

 祭りの内容は3つの島…火の島、雷の島、氷の島に置かれている玉を集め、本島に持っていき奉納し、海神に笛の音を捧げること。

 

 

 はい、どう考えても爆誕です、ありがとうございません。

 

 

 しかし悲しきかな、私はまだ7歳。

 あの映画でサトシと同い年だったとしても、最短3年は先の出来事である。

 というかあの積極的な無茶振り巫女が自分とか、無理です。

 

 なによりも、だ。

 

 

 「お姉ちゃん、いっぱい練習してたのに…」

 

 

 海の笛で奏でる、楽譜のない音。

 でもそれは、何度も、聞いていた。

 ハッキリとした音で聞いたことがあった。

 思い出す前だったのに、覚えていたのかもしれない。

 

 私は笛を渡されて、音階を確かめた後、吹いてしまった。

 

 吹けて、しまった。

 

 

 「…どうしよっか」

 

 

 皆が皆、驚いて。

 

 今年、巫女になるハズだったお姉ちゃんを差し置いて、あれよこれよと私が巫女だと決まってしまった。

 

 

 皆のことは、嫌いじゃない。

 

 違和感はあったけれど、それでも、ポケモン達も、嫌いじゃない。

 

 家族だって、嫌いじゃない。

 

 

 大好きだ。

 皆のことは、好きなのに。

 

 

 「…お姉ちゃん、泣いてた」

 

 

 もしかしたら、嫌われたかもしれない。

 

 だって、だって…

 

 

 「お姉ちゃん、巫女として笛を吹くんだって、はりきってたのに…」

 

 

 それを知っていたから、逃げてしまったのだ。

 

 映画の事件は、まだ時間がある。

 でも、巫女に関しては、もう、どうしようもない。

 

 そもそも、この巫女の役目は毎年変わる訳ではなく、先代が引退することによる代替え式だ。

 それ故に、お姉ちゃんに巫女の役目が回ることは、もう、ないのだ。

 

 

 「ねぇヤドキング、どうしたらいいのかなぁ」

 

 

 今まで違和感しか抱かなかった存在に、同じことを聞く。

 

 

 「さてなぁ」

 

 

 のんびりとした、気の抜ける返事だ。

 それでも、突き放す言葉を吐かれないから、少しだけ息がしやすい。

 

 

 遠くから、声が聞こえる。

 私の名前だ。

 

 

 「…帰りたくないなぁ」

 「それは、困ったなぁ」

 「ここで寝ちゃ、だめ?」

 「それも、困ったなぁ」

 「じゃぁ見つかるまでここに居させてね」

 「仕方ないなぁ」

 

 

 オレンジ色の夕焼けが眩しい。

 

 帰るのは、憂鬱。

 

 だけど、でも。

 

 

 

 今まで違和感を抱いていた存在は、優しくて、身近な存在なんだと、背中の温もりが教えてくれた。

 

 

 

 



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準備未完了

 あの日、家に帰ってから、勝手に気まずい空気を感じて過ごしていたら、まぁ気付いたら祭りの日になっていた。

 はっきり言って色々考えすぎてて気持ち悪いくらいである。

 なお、今の気分としては一周回って、もうどうにでもなーれ★、だ。

 だから、こんな無理矢理上げたテンションでなんとかやりすごし、このまま終わってくれないかなーと思ってた。

 

 まぁそういう時に限って問題は起こるのだが。

 うん、知ってた。

 

 

 さて、祭りは巫女の他に操り人という役がいる。

 その役を選ぶのは巫女の仕事だ。

 なので祭りの日までに滞在する観光客を含めたトレーナーを歓迎、もとい観察し、候補は絞った。

 まぁ私の中ではほぼ決定なのだが、まだ長老達が審議中なので発表してない。

 

 ちなみにだが、操り人に選ばれることはステータスになる、とは言わないが操り人として三つの島を踏破したトレーナーは大成する、というジンクスみたいな逸話が昔からある。

 だから観光客に混ざってあわよくば選ばれないかなーという、ちょっとした下心あるトレーナーもまぁ例年通りいるので意外と候補は多かったりする。

 けど、まぁ。

 観光であれなんであれ、クソなヤツは何処にでもいるらしい。

 

 

 巫女に選ばれたとはいえ、人手が足りなくなるのは毎年のことなので手伝いとして貯蔵庫から果物や飲み物を運んでいたときだ。

 

 突然腕を掴まれ、連れ出された。

 結構な力で握られたので少し痛いし、歩幅の差異で躓きまくるので足先も痛い。

 

 

 開けた場所に出て立ち止まったのを機に、手を振り払い距離を取る。

 

 そうして対面した顔にあったのは気持ちの悪い笑みで、あろうことかソイツは自分を操り人に選べと言ってきたのだ。

 

 

 ポケモンを、従えて。

 

 

 それは紛う事なく脅迫だった。

 

 ニヤニヤと笑うトレーナー、こちらを見定めながらトレーナーの指示を今か今かと待つポケモン。

 断られることなど微塵も思ってない、この場での強者は自分だと言わんばかりのその態度に、イラっとしたが、安直に抵抗しようものならどうなるか、分からない訳ではない。

 

 どうしようかな、と少し考えるものの、恐怖は感じなかった。

 だって、巫女たる私が消えたことに気付かないほど島の皆は鈍くない。

 というか巫女を脅して操り人になったとして、祭りの最中に私がバラさない訳がないだろうに短絡的すぎる。

 というか、だ。

 

 

 「もう候補は決まってるし、あとは長老様達に任せてるから意味ないよ」

 「っはぁ?!ふざけんなよ!?」

 「ふざけてないよ。そもそも候補すら決まってなかったらお手伝いしてるわけないでしょ」

 「んの嘘つくんじゃねぇ!!」

 

 

 何を思ったか私の言葉を否定した短気なトレーナーは、ポケモンに命令し、私に攻撃をしかけてきた。

 

 ガッ、と響いた鈍い音。

 どさっ、と何かが倒れる音。

 

 

 けど、私は無傷だった。

 

 

 気付いたらお姉ちゃんが目の前にいて、ポケモンの技を私の代わりに受け、吹き飛んだのをみた。

 

 当然、ポケモンの技を受けて無傷という訳がなく。

 石で切ったのか、額からポタリと流れた赤いそれを見て、一瞬、息が止まった。

 

 

 ーーーブチン

 

 

 なにかきれるようなおとがきこえたきがした。

 

 思考はとてもクリアで、色々考えてたことが追いやられ、目の前の事象を処理することにのみ意識が回る。

 胸が締め付けられるように痛い。

 無駄に速く記憶やら諸々を引き出して簡素に纏めた結論は、行動に移るまでのラグがある。

 思うように体が動くまでが遅くて苦しい。

 

 思考と感情が別々の生き物みたいに、ぐるぐると、頭と身体を巡ってるのがわかる。

 

 やっと行動に移すことができるころ、私の口が開いた。

 

 

 「サイコキネシス」

 

 

 瞬間、高出力の念力が目の前のポケモンを捉え、ぶっ飛んだ。

 ポカンと口を開き、目を点にしたトレーナーは、数拍の余韻を得て正気を取り戻したらしく、新たなポケモンを出そうとボールに手を伸ばした。

 

 でも、遅い。

 その行動すべてがスローモーションのように写ってみえた。

 

 

 ポケモンとトレーナーには、相性がある。

 島の主ポケモンたるヤドキングから教えて貰った、この世界の摂理。

 

 トレーナーにはそれぞれ相性の素質があり、タイプや種族によって従えられるポケモンが違うこと。

 ポケモンはその素養のあるトレーナーに惹かれやすいこと。

 トレーナーがポケモンを育てるとき、信頼関係を築くとき、その相性や素質が少しでも噛み合わないと上手くいかないこと。

 

 そう、例えば、このトレーナーなら、かくとうタイプ。

 

 お姉ちゃんを吹き飛ばしたポケモンは、かくとう単一タイプのオコリザル。

 人に技を出したのに、動揺してなかったから似たようなことを何度もしているかもしれない。

 

 

 「ねんりき」

 

 

 私の意図を正確に汲み取ったその技は、トレーナーから全てのモンスターボールを奪い、空に浮かせた。

 

 

 私は怖くなかった。

 守ってくれる存在がいると、知っていたから。

 私は抵抗しなかった。

 守ってくれる存在がいると、慢心していたから。

 

 巫女という役を背負うことが、どういうことか理解してるつもりだった。

 守られる存在であることを、正しく認識できていなかった。

 

 だから、だから。

 

 これは八つ当たりだ。

 

 

 「かなしばり」

 

 

 ボールを取ろうと空へ腕を伸ばしたその状態で、ガチリと動けなくなったトレーナー。

 

 あぁ、ほんと、相性って大事なんだな、なんて思考を逸らして。

 

 ズキズキと痛むのは、頭なのか胸なのか。

 いっそ気の所為なら楽なのになんて、息を吐き出して、思考を切り替える。

 

 何が起こったの、と不思議そうに目を瞬かせるお姉ちゃんに駆け寄って、傷口をハンカチで押さえる。

 流れた血で焦ったが、思ったより深くはないみたいだ。

 

 

 「お姉ちゃん、大丈夫?痛い?」

 「あ、うん。大丈夫よ。フルーラは?何かされてない?」

 「ん、何もされてないよ」

 「そう…」

 

 

 よかった、と強張っていた体から力が抜けるのを見て、罪悪感が湧く。

 

 心配かけたのだと、わかるから。

 

 

 「ありがとう、ヤドキング」

 「ほんまになぁ…」

 

 

 壁のような、崖の上。

 そこに佇む見慣れた存在。

 私が巫女として初めて迎える祭りだから、とわざわざこの島まで来てくれていた、水・エスパー複合タイプのポケモン。

 

 かくとうタイプは、エスパータイプに弱い。

 ゲームで言うならダメージ2倍、効果抜群というやつだ。

 サイコキネシス一発で瀕死となったオコリザルを見るに、レベル差があったか、もしくは急所に入ったのかもしれない。

 

 まぁ、そんなこと、どうでもいいんだけど。

 

 

 「な、なんで…いまのヤドキングの速さじゃないだろ!?」

 「相性の問題だよ」

 「は?」

 

 

 ポケモンとトレーナーには、相性がある。

 それは、エスパータイプだと特に分かりやすい。

 だって、そうでしょ?

 

 

 「ヤドキングはね、私の思考を読んで、動いてくれたんだよ」

 

 

 だから、技の指示と技の発動にタイムラグがない。

 思考、思念、感情、そういったモノを読み取ることに長けたエスパータイプは、だからこそ、相性が良いトレーナーが少ない。

 それらを読み取られるトレーナー側が、もたないから。

 

 だけど私は、エスパータイプと、とても相性が良いらしい。

 思考を読み取られる負担はほぼ無いに等しいし、逆に何を考えて感じているのかも、なんとなく分かるくらいだ。

 これはとても珍しく、ものすごく相性が良いことなのだと教えて貰った。

 

 

 そして、ヤドキングは言っていた。

 

 

 「どんなポケモンでも、トレーナーと相性が噛み合えば声に出さなくたって指示できるんだって」

 「、はぁ?んなわけ」

 「おい」

 

 

 トレーナーの後ろに立った、ガタイの良いおっちゃん。

 お姉ちゃんの手当てに駆け寄ってくれるおばちゃん達。

 他にも私達を囲む形で、島のトレーナー達がいる。

 

 

 「な、なんで…」

 

 

 震える声。

 多くの島民に、観光に来ていたトレーナー達にも囲まれ、それでもなお動けない姿は情けないが、慈悲をかける理由がないのでかなしばりは継続。

 だってこの島にはジュンサーさんが居ないから、おっちゃん達に縄で拘束されるまではそのままなのだざまぁみろ。

 

 

 「何でこんなに人が集まってるのか知りたい?簡単なことだよ。あなたに手を掴まれた時に、ヤドキングにヘルプコールしたの」

 

 

 当然、声は出してない。

 でも今日はヤドキング自身が私を守ると言ってくれたから、すぐ近くにいることを知っていた。

 治安が悪い訳でもないのに、多少の未来予知も出来るヤドキングが、わざわざ私の為にここに居る。

 つまりそれは何かが起きるということだ。

 

 歴代最年少の、7歳の巫女。

 自分のポケモンを持ってない、子供。

 

 狙われるなら私だと、予想はついた。

 起こるだろうこと考えて、対策を考えて、考えて考えて。

 そうして起こった事に対応するのは当然のこと。

 

 

 連れ出されることも、ポケモンで脅されることも、攻撃される可能性も、全部全部、想定の範囲内だったのに。

 なんならもっと悪質で下劣な出来事も予想していたのに。

 

 こんなヤツの所為で、お姉ちゃんが、傷付いた。

 

 ゆるさない、ゆるさない。

 

 自分以外に被害がいく可能性を、考えてなかった訳じゃないのに。

 

 ゆるせない、ゆるせない。

 

 

 喚き散らしながら連れてかれるトレーナー。

 私なんかを脅す為にポケモンまで使ったから、前科持ちになることは確定だ。

 証人も多くいるから、きっとオレンジ諸島のジュンサーさん預かりになるだろう。

 

 治療の為と島唯一の診療所に行くお姉ちゃん。

 私なんかを庇ったから、怪我をさせてしまった。

 きっと今から始まる祭りには、間に合わない。 

 

 

 「わたしのせいだ…」

 

 

 お姉ちゃんは今年から巫女として役目をつとめるハズだったのに、私が奪ってしまったから。

 お姉ちゃんが巫女としていたら、こんなこと起きなかっただろうに。

 

 でも、それでも、時間は戻らないし、起こったことは覆らない。

 

 

 あぁ、もう、祭りが始まる。

 

 

 

 

 



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いつもいつまでも

 

 

 さて、私が操り人の候補に上げた人は2人いた。

 一人はコミュ力高の見るからに元気ハツラツな正義感溢れる好青年。

 そして残ったもう一人は観光で親戚と共に他地方から来ていたイケオジだ。

 

 しかし青年は候補になっていたと知ってたら残っていたかもしれないが、例のクズ野郎が暴れた場合の戦力として自ら立候補して届けに行ってしまった。

 行動が速くてすでに漁師のおっちゃんを伴って出港してたので後の祭りだ。

 …祭りだけにって?

 

 なお、長老達が審議した理由は青年が連れていたポケモンのクセが強かったから。

 イケオジは年齢的に操り人にしていいものか、という感じ。

 

 まぁ結局候補が一人になってしまったので、イケオジにお願いすることになったんだけど。

 

 会話すると少し気が強いというか荒れてるようではあったけど、他トレーナーが起こした事件について知ってたようで、私が祭りを早く終わらせたいという気持ちをそれとなく伝えたら了承してくれた。

 まぁ直感でもあったけど根は善良なのだと分かったし、島にいたトレーナーの中では多分一番強いと感じたし、何より上着を着ていても分かる鍛えられた肉体を信用した。

 

 だって筋肉はすごく重要なんだよ?

 冷静に考えてみ?島を回るんだよ?

 三つの島の自然山道を登るんだよ?

 体力必須なこの祭り舐めてんの??

 

 という理由が比重をしめてるが、これがこの祭りの真理なので。

 優れた操り人は、ポケモンと共にいる為に鍛えているものだ。

 まぁ大半のトレーナーは旅することで自然と体力や筋力があるのだが。

 

 

 そんな訳で今年の操り人のおじさまは頑張って下さい。

 

 

 そうして怒涛の勢いで玉を集めて奉納してくれたおじさまは、素直にすごいと尊敬した。

 だって今までの操り人の中でも一日で全て集めたのって少ないから、本当に。

 どうして燻っているのか分からない。

 とりあえず全力で感謝を伝えて、祭壇に向かった。

 

 三つの島、広大な海。

 見下ろしながら、笛を吹く。

 

 今の時は既に夜だ。

 暗いけど、月明かりが海に反射して、見渡せる。

 とても綺麗な景色を眺めながら、海の神に捧げる曲を紡ぐ。

 

 自分で吹いておきながら、やっぱりとてもキレイな曲だと思う。

 

 そうして吹き終わった、その瞬間。

 

 

 海が、割れた。

 

 

 姿を現したのは白銀の巨大。

 滑らかなフォルムに、目元を彩る鮮やかな青。

 両腕の翼を広げ、ぶわりと強い風が吹く。

 

 

 ルギア。

 

 

 突然のことにびっくりして、混乱して、固まる。

 

 見られてる。

 観察されてる訳じゃ、ない。

 その目は、優しい。

 どうしてかは分からない。

 けど、それは慈愛の眼差しだと分かった。

 好かれてる。

 なんでかは分からないけど。

 

 それに安心して、とても嬉しくて、思わず笑ってしまった。

 

 

 ーーーギャァアアァァス!

 

 

 音に記すなら、そんな鳴き声。

 一声響かせ、再び海へ飛び込んで行った。

 

 挨拶された気が、した。

 また会おうと、そういう声だった気がした。

 大丈夫だ、とそんな声な気もした。

 夢見心地。

 ふわふわとした感情のまま、家に帰った。

 そうしていいと、言われた気がしたから。

 

 

 道すがら長老達が気絶してたり泡吹いてたりしてた気がしなくもないけど、まぁ海の神が姿現したから仕方ないよね、とスルーしておく。

 演奏は間違えてないし、まぁサプライズあったけど滞りなく終わったのだと自己完結。

 

 

 そうして家に帰ったらお姉ちゃんがたくさん褒めてくれた。

 

 伝統衣装と化粧とでいつもよりとてもかわいいと、頭を撫でてくれた。

 綺麗な音色で聞き惚れたと、格好良かったわと、いっぱいいっぱい、褒めてくれた。

 

 怪我で痛いハズなのに、笑顔でいっぱい撫でてくれた。

 

 

 優しくて、面倒見の良い、自慢のお姉ちゃん。

 

 あの日、自分が巫女になれなかったのは悔しかったけど、でも、それ以上に私の演奏に感動し、涙が出てきてしまったことを、教えてくれた。

 

 心配するようなことも、不安になることもないのだと心の底から理解して、ホッとして。

 涙が出た。

 

 嫌われたと思った。

 でもそれは思い違いで、私はとても愛されていると分かって、嬉しくて。

 

 

 ルギアから、安心しろと言われたような気がしたから。

 本当に、その通りだったのが、嬉しくて。

 

 

 私はこの世界が、やっぱり、大好きだ。

 

 

 

 

 



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自慢技は「ぜったいれいど」

 祭りが終わり、早一月と少し経とうとしている。

 ゾロゾロと、ザワザワと、人に溢れている島の様子に、ゲンナリと気分は下がりに下がって鬱である。

 

 オレンジ諸島の最果ての島で奉っている海神が姿を現した。

 海神は7歳の巫女の前に現れ、巫女以外を気絶させたらしい。

 

 そんな(事実)が爆速で広まったのだ。

 

 おかげで祭りが終わったというのに未だに観光客がゾロゾロ来る。

 定期便は毎回満員で、その癖帰りの船はスカスカ。

 なんて目的の分かりやすい()()()だろうか、吐き気がするね。

 中には優しい人もいるにはいるけど、まぁ少ない。

 

 というかそろそろ観光客をもてなす備蓄も底をつくんじゃないだろうか。

 私達の生活を脅かす存在になっているというのに、まだ長老達は対策を施行してくれない。

 おこるぞ。

 

 私と年の近い子達に声をかけて巫女の居場所を聞く輩も居る所為で、一時(いっとき)未成年組は学校(といっても大きな家みたいな建物)に避難していた。

 どうしても出歩く必要のある時は大人と一緒、あるいはポケモンを同伴しなくては安心が確保されない。

 

 

 はっきり言って、ストレスがマッハ。

 

 

 敷地内であるハズの広場で遊んでいるときでさえ、集まる視線がキツくて全力で遊ぶ気になれない。

 大人しく室内で本読んだりやれる遊びを模索してみたって、流石に一月たつともう限界がある。

 イライラは伝染してちょっとしたことでも喧嘩してしまうし、いくら年が近いといっても年齢的に体格差はあるから怪我をするのはもっぱら私みたいな年下組なワケで。

 

 本当に、ほんっとーーに!

 イライラが爆発しそうな日々を過ごしてた。

 

 

 けど、それも目の前にいる人物によって、吹き飛んだ。

 

 

 「そんな緊張しないでくれないか、巫女殿」

 「ひぇっ…えっというかなんでワタルさん?ワタルさんなんで?チャンピオン仕事して…」

 

 

 オールバックの赤い髪、鋭い目つきの男前顔。

 黒を基調とした上下と合わせたマントに、鍛えられた体躯。

 そしてこの声は千葉○歩!!

 

 そう!ワタルさん!!

 みんな大好きなワタルさんだよ!

 カイリュー!はかいこうせん!(※人に向かって)のワタルさんだよ!!

 

 

 「ふふっ俺は仕事で来てるから、ちゃんと仕事してるぞ?」

 「ア°ッ」

 「なんて??」

 

 

 失礼。

 微笑ましいなと言わんばかりのお兄ちゃんみ顔に抑えきれなかったナニカが漏れた。

 そしてそんな心配そうな顔やめて下さい、またナニカが漏れ出しそうです。

 

 …ふー、落ち着け、落ち着け私。

 これ以上醜態を晒すな。

 なんてったってここにはワタルさんの他にも長老達と私の両親もいる。

 …なんなら、ジュンサーさんも、いる。

 

 フレンドリーな雰囲気のワタルさんの後ろに控えるジュンサーさん達をチラ見して、深呼吸。

 …うん、大丈夫、落ち着いた。

 

 多分。

 

 

 「えっと、それで、私がポケモンを持つ…でしたっけ」

 「そう。それが一番の解決策だと思ってる。未来を見据えてみても、ね」

 「……」

 「悩んでるみたいだね」

 

 

 …悩んでる、のだろうか。

 いや、悩んでいるで合ってるのか。

 

 私は、ポケモンが好きだ、大好きだ。

 ()よりもずっと、好きになってる。

 思い出す前から、自分のポケモンは欲しいと思ってたし、今だって正直に言えば欲しい。

 でも、けど。

 

 

 「…ワタルさん、さっき、未来を見据えてもって、言ったよね」

 「あぁ。言ったよ」

 「それって、もし、私が旅に出たいと言ったとしても、ってこと?」

 「フルーラ!」

 「長老様、少し待って下さい」

 

 

 あぁ、やっぱり、怒ってる。

 ワタルさんに止められたけれど、長老のその目はいつもと違って険しい。

 両親も、何も言わなかったけど、同じ目をしてる。

 

 それは私の願いの否定であると分ってしまって、見たくなくて、でも仕方ないことだからと、怒る気にもなれない。

 ぎゅっと手を握り締めて、それから力を抜く。

 大丈夫、分かってたことを今更嘆いたって何にもならないんだから。

 

 年の近い子達は、もう、皆自分のポケモンを持ってる。

 一人で出歩けなくなったから、自衛の為に親から貰ったと言っていた。

 

 正直言って、羨ましい。

 自分のポケモンという、いつか見た夢が目の前にあるのに。

 

 いつか自分もって、思ってた。

 今でも、思ってる。

 でも、だけど、それは、叶わない。

 

 

 「あのね、ワタルさん」

 「なんだい」

 「巫女はね、ポケモンを持っちゃダメなんだって」

 

 

 操り人を選ぶ巫女の、決まり。

 そんな(ルール)があると聞かされたのは、巫女と決まったあの日の夜。

 私が島の主ポケモンたるヤドキングと仲が良いことから、手持ちにしてしまうのではと心配しているのだと言われ、初めて知った。

 

 そういえばと、映画の中でフルーラも、その先代巫女の姉も自分のポケモンを持っているような描写はなかった気がする。

 それに、確かに私の前の巫女だったお姉さんも、手持ちポケモンを所持してなかった。

 

 伝統を重んじるこの島の決まりであるなら、それは守らないといけない。

 私が我儘を言ったって、変わるワケがないんだから。

 

 だから、今、私はポケモンを所持できない。

 

 

 そう、思ってたのに。

 

 

 「問題ないよ」

 「え」

 

 

 そんなことか、と言わんばかりにニッコリ笑顔を浮かべるワタルさんに、思わず恨みがましい視線を送ってしまう。

 けど、涼しい顔が崩れることはなくて、余裕綽々といった雰囲気だ。

 むしろ楽しそう。

 なんだ、何がしたいんだこの人。

 

 訝しんで警戒するも、次の言葉で固まってしまう。 

 

 

 「巫女殿。君はこの一ヶ月、何回誘拐されかけた?」

 

 

 え。

 

 

 「俺が報告を受けたのは14回。1日に2回なんていう日もあったそうじゃないか」

 「なっフルーラ、それは本当なの?!」

 「…うん」

 

 

 なんで。

 どうして、知ってるの。

 

 寝耳に水な知らせを受けて声をあげた母には悪いが、そんなことよりワタルさんの真意が気になる。

 どうして、そのことを、ここで言うの。

 

 

 「一ヶ月前、オレンジリーグの責任者から最年少の巫女の元に海神が現れた、という報告があったんだ。伝説のポケモンの出現となれば、天災か人災か…まぁ当事者はどうであれ、なにかしら事件は起きる可能性があるからね。ここオレンジ諸島はセキエイリーグの管理下にあるから、調査の為に人員を派遣していたんだ」

 

 

 だから島の現状は把握しているよ、と笑みを深めるワタルさんから圧が、かかる。

 けど、その矛先は私じゃない。

 

 

 「ちなみにだけど、祭り当日にオレンジリーグのスタッフから巫女へポケモンでの脅迫したトレーナーを現行犯逮捕して連行した話も聞いてるよ」

 

 

 え。

 

 え、まって。

 現行犯逮捕?連行した?

 もしかしなくてもあの青年は、リーグスタッフだった??

 

 

 「巫女殿が華麗に犯人を捕らえてたって聞いたものだから、既に手持ちのポケモンがいるのだと思ってたんだ。だから派遣したスタッフから誘拐未遂の報告を受けて驚いたし、()()()()()()()()聞いて更に驚いた」

 

 

 言葉を区切って、口元に貼り付けた笑みはそのままに、うっすらと開いた目が、怖い。

 でも、私じゃない。

 

 鋭い目で見られてるのは、威圧を向けられているのは、長老達だ。

 

 

 話の内容はちゃんと入って来てるのに、追加で出される情報に着いていけなくてちょっと頭が回らない。

 ピリピリと肌に刺さるような感覚が焦燥感を掻き立てて、集中したいのにできないから。

 

 逸れる思考がもどかしい。

 考えるペースを乱されてる。

 結論が、論点が、意味が、接点が、あって、だからどういうこと…?

 

 あぁ、いや、これは現実逃避か。

 

 

 「なぜ子供達に被害が出ていることを知っているにも関わらず、観光客を…加害者になりうる可能性のあるトレーナーを呼び込んでいるんですか?」

 

 

 教えていただけますか、長老様方。

 

 

 その声は、とてもとても、冷たかった。

 

 

 

 

 

 

 



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ありゃざっくりばっさり

 「全て、お話しいたします」

 

 

 重く長い溜息を一つついた長老は、そう言って、ワタルさんからの圧など感じてないかのように口を開いた。

 

 

 語られたのは、今から60年は昔の話。

 

 長老達が現役のトレーナーだった時代の、そんな懐かしき過去の話だった。

 

 

 一人の少女がいた。

 当時の島民の中で一等ポケモンに好かれ、また好いていた少女がいた。

 野生のポケモンとも仲良くなれ、また育てるのが上手く、更にバトルをすれば負けた事がない少女だった。

 

 ポケモンのタイプ相性を理解し、相手のトレーナーが指示する技に対応し、無類の強さをみせた神童。

 

 他の地方から島に流れ着いたトレーナー相手でもその強さを発揮した時には驚きを越して恐ろしくもあった。

 なぜなら初めてみたポケモンですら彼女は理解してみせたのだから、その規格外の才能が分かるだろう。

 

 彼女はポケモンに好かれ、愛されていたのだ。

 

 彼女は巫女に選ばれた。

 笛を奏でるのも上手く、誰も反対する者はいなかった。

 

 彼女から操り人に指名された者は浮かれ、喜んだ。

 巫女に認められたことが誇らしかったのだ。

 ポケモンに愛されている巫女から選ばれたと、心から歓喜した。

 

 操り人に選ばれたトレーナーは玉を集めた。

 一日一つ、あの時代にその早さで集めることが出来たのは確かに優れたトレーナーの証だった。

 

 そうして巫女たる彼女が笛を吹き、その音が海に響き渡ったその時。

 

 

 空が一瞬で、荒れ狂った。

 

 

 喉を焼くほどの熱風が、低く鳴り響く雷轟が、絶えず降り注ぐ霰が、そこにあった。

 

 火の鳥、雷の鳥、氷の鳥。

 あの島で祀られている三鳥が、巫女の前に現れたのだ。

 

 

 あの光景を、忘れることなど出来ない。

 出来るハズがない。

 

 押し潰すような、あの天の災を。

 息が止まるような、あの存在感を。

 まるで絵画のような、あの神々しさを。

 

 ただ、見ていることしか許されなかった。

 

 威圧感も恐怖も、何も感じていないのは、巫女ただ一人だった。

 

 会話でもしているかのように顔を合わせた巫女は、まるで幼い子供のような無邪気な表情をしていた。

 母子のように見えたのだ。

 愛おしい我が子を見るような、それを当然と甘受する幼子に。

 

 

 三鳥の咆哮が響き、空へと消えた。

 

 

 祝福を受けたのだ。

 島の誰もが、そう思った。

 

 

 その後、巫女は導かれるように旅に出た。

 

 翌年、その翌年と、巫女として祭りの為に戻ってきた。

 

 巫女の強さは誰もが知っていたからこそ、旅に出ることに心配などしていなかった。

 大きな鳥ポケモンに乗って戻ってくるその姿を、楽しみにすらしていた。

 

 けれど、けれど。

 巫女が旅に出て幾年か過ぎたある年のこと。

 待てども待てども、空に影はなく。

 

 

 巫女は、帰ってこなかった。

 

 

 新しく候補としていた巫女は居たが、まだまだ幼く。

 急遽、その年の巫女は彼女の妹君がやることとなった。

 

 玉を奉納し、笛を奏でた時。

 

 

 空はあの日の再来の如く、荒れ狂った。

 

 

 三鳥は姿を現すことはなかったが、その荒れ模様は巫女との邂逅時とは比べるまでもなく甚大だった。

 一日過ぎても止む気配はなく、被害はこの島だけでなくオレンジ諸島を巻き込み、遂に本島にまで及んだ。

 

 止まない落雷によって木々は焼け焦げ。

 荒々しい熱風が吹きつけ草花は枯れ。

 視界を埋める吹雪に地表は凍りついた。

 高波で避難することも出来ない。

 

 島には未だにその爪痕が残っており、その凄まじさを物語っている。

 

 いったい何が怒りに触れたのか。

 三鳥が寵愛した巫女でない者を代理として立てたことがいけなかったのか。

 

 戦々恐々と、天災に慄く日々が続いた。

 しかしてそれは、十日間で終わった。

 

 ピタリと唐突に、朝日と共に空は晴れ渡ったのだ。

 

 

 復興に手を尽くしながらも平穏な日々が戻り、季節が巡り。

 かの巫女の妹君はあの天災に心を折られ島から出ていってしまった故に、新たに選ばれた巫女は幼いながらも懸命に務めた。

 

 そうして一年が経ち、また一年と過ぎるも、やはり巫女が帰ってくることは、なかった。

 

 

 他の地へ行く手段はほぼポケモン頼りの時代。

 

 未開の地が多く、野生ポケモンとの事故や、トレーナーがポケモンを使っての犯罪も多かった。

 リーグは設立されたばかりの頃で、森や山の深部に実力あるトレーナーが巡回するなどといったこともまだ実施されていなかった。

 

 島から旅立った何人もが、巫女を探していた。

 けれど、やはり。

 巫女の消息は掴めず、何人もが帰ってきた。

 

 いざ旅に出て、旅の過酷さを体験した者達は挫折していた。

 

 旅は危険と隣合わせだと教わったが、これほどとは思ってなかったと。

 毎年同じ時期に帰ってきていた巫女が、どれほど優れていたのか理解せざるを得なかった。

 

 だけれども、巫女ならば大丈夫だと思っていた結果が、これだ。

 

 大人達は、同年代の者達は後悔した。

 巫女を旅に出さなければ、と。

 

 

 そうして幾年と経った、ある日。

 遠く、遠く離れた地方より来た旅人から、巫女の訃報を届けられた。

 伝え聞いた巫女の亡くなった日は、祭りと同じ日で。

 

 あの天災は、三鳥の慟哭であったのだと知ってしまった。

 そう、だからこそ。

 あの災厄が再び起こることがないように、と。

 

 そうして、当時の長老達が、新たに(きまり)を作ったのだ。

 

 

 巫女に選ばれた者は、巫女である期間においてポケモンを所持してはならない、と。

 

 

 「巫女に選ばれるのは10歳前後の娘です。ちょうど旅に出る年頃の、子供です」

 

 

 どの子供も旅に出るならば、その旅路の危うさに差異はないと分っている。

 けれども個人という、才能の差異というものが、どうしても違うということが、身に沁みている。

 

 もしまた巫女が亡くなった時、それがこの地でない時、どうなるのか。

 なにより此度の巫女は、フルーラは、三鳥からでなく、信仰している海神からの祝福を受けた。

 

 それが、どれほど恐ろしいことか。

 

 

 ポケモンを持たない限り、一人で旅に出ることはない。

 

 けれど今は、ポケモンを持たないだけで旅に出れない時代では無くなった。

 

 

 フルーラはポケモンに好かれ、好いている。

 まるであの巫女のようだと、ポケモンと戯れるその姿に何度思ったことか。

 

 あの天災の恐怖が、何度も何度も思い出されるほどに、似ているから。

 

 だから、どうしても。

 フルーラに島外に出て欲しくなかった。

 

 例えそれで島民に被害が出ようと。

 あの天災に比べればそんなものと捨て置いて。

 

 

 噂が広まったのは、長老達があの日居た観光客達に口止めをしなかったから。

 来訪する観光客を止めないのは、ポケモンを持たない巫女が返り討ちにしている事実を更に広めるため。

 

 予想以上に誘拐されかけていると知って驚いたけれど、それでも無事であることに、やはりこの子は特別なのだと沈黙を貫いて。

 もし怪我をしたのならば、それを理由にこの島から出ないようにと言い聞かせることが出来るから、と。

 

 

 「それが()()()()()という対応だった、という訳ですか」

 「…その通りです」

 

 

 申し訳ないとは思っているのか、いつもより小さく見える長老達。

 はっきり言ってしまえば、腹が立った。

 

 何も言われずに、知らされずにいたことに。

 

 長老達は軽く見ているようだけれど、何度も誘拐されかけて、何度も軽症は負っている。

 もっと大きな怪我をする危険性はあったし、回避出来たのは助けがあったから、来てくれる人がいたからだ。

 

 そして私は、気付いた。

 思い当たったことが、ある。

 

 

 「お言葉ですが、巫女殿は派遣したリーグスタッフが居なければ実際に誘拐されていたでしょう」

 「っ!」

 「えっ」

 

 

 驚いた様子の長老達と両親に、何とも言えない気持ちになった。

 

 

 「伝説と言われるポケモンを狙う組織が、複数動いてます。ただの噂程度であったならここまで事態が動くことはなかったでしょうが、この島の…いえ、かの巫女の話は一部で有名ですから」

 

 

 それもあって狙われているようですが、知っていましたか?

 そう言って疑問を投げかけるも、答えは分かりきってる。

 

 知ってるわけないのだ。

 だって、知る気がない。

 知ろうとしてない。

 

 

 長老達は、私が怪我を負ってないから大丈夫だと思っていた。

 誘拐されかけただけで、無事でいるから問題ないと思っていた。

 

 …それって、その、例の巫女様の時と、何が違うのだろうか。

 

 対応していないとはつまり、現状で問題ないと言っているのだから。

 

 

 「このまま巫女殿がこの島に居るとして、守りきれますか」

 

 

 それは無理だろう。

 だって、私は何度も誘拐されかけてる。

 守ってくれていたのは、ポケモン達と、派遣されて来てくれていたリーグスタッフ。

 

 はっきり言ってしまうと、この島で私以上にポケモンを扱える人は、いない。

 

 

 「巫女殿をこちらで保護することもできます。もちろん年に一度、祭りの時期にこちらへ届けましょう。ですが、そうしたくないのであれば」

 

 

 巫女殿がポケモンを持つということが、一番の解決方法です。

 

 

 提案、ではない。

 

 リーグスタッフをいつまでもこの島に派遣してくれるほど、人員に余裕があるとはいえない。

 リーグの人員不足はこの島にも伝わるくらいには有名な話だし、何より実力あるトレーナーをこの島にいつまでも居させる訳にはいかない。

 

 けど、私がポケモンを持てば、解決する。

 長老達が巫女を島外に出したくないのならば、それしか方法はないぞ、と。

 そうワタルさんは言っている。

 

 脅してはない。

 事実だからこそ、とても利く。

 

 

 「巫女殿はトレーナーとしての才能がある。それこそ自分のポケモンを持って育てたのなら、さぞかし戦い甲斐のあるバトルが出来るだろうと、楽しみだと思えるくらいに」

 

 

 ワタルさんが、チャンピオンが言うのだ。

 その言葉は、事実として長老達に染み渡る。

 

 

 「改めて言います。巫女殿にポケモンを持たせること、それが一番の解決方法です」

 

 

 そうして、しばらくの沈黙があって。

 

 

 「フルーラに、ポケモンを持つことを、許可します」

 

 

 消え入りそうな声で、長老が答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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君の声帯がファンタジー

 ポケモンの所持を許可された。

 

 苦虫を噛み潰したような、という表情はああいう顔なのだろうなと思いながら、その言葉を聞いた。

 例え渋々と言った声であっても、それでも、その言葉は嬉しかった。

 

 長老からの言葉を受け、ニッコリと笑ったワタルさんより手渡された赤と白のボール。

 夢にみた本物のモンスターボールを受け取って、聞かれた。

 

 自分で捕まえられるかい?と。

 思わず頷き返したら、とても()()笑顔を向けられてナニカが漏れそうになった。

 そして、じゃあ捕まえておいで、と送り出されて、はたと気付いた。

 

 

 所持ポケモンゼロでポケモンを捕まえることになったぞ、と。

 

 

 つまりバトルは出来ない。

 所謂友情ゲット、というモノをしなければならない。

 

 期待されているのか、はたまた面白がられているのか。

 どうであれ、出来ると示してしまったからにはやるしかないのだけど。

 

 なお、ワタルさんは長老達とこれからについての話し合いがあるからまだ帰らない、とのこと。

 しかも巫女殿のポケモンと会うのを楽しみにしているよ、と言われたので早急に戻る必要がある。

 

 バトルせずにポケモンを捕まえ、しかも長老達との話し合いが終わる頃には戻ってこい、と。

 冷静に考えると難易度高いな。

 なんというか…ワタルさん、なかなか人が悪いな?

 気付くのが遅い私も私だけどさ。

 

 一応念の為、護衛としてリーグスタッフが一緒についてくれてる。

 誘拐されかけた時に何度か助けてくれた人だったので、感謝を伝えつつ、私は守られてたんだなぁと改めて思った。

 

 

 そうこうして訪れたのは、島の主ポケモンのヤドキングの住処の洞窟。

 リーグスタッフさんは入口で待ってもらってる。

 

 で、目の前にはヤドキング。

 のほほんとしたその顔に、怒涛の展開で荒んでいた心が落ち着いてきた。

 ついでに相談。

 

 

 「そんな訳で自衛の為にって許可されたんだけどさ、コレってそれなりに強いポケモンを捕まえて来いよって試されてるよね」

 「まぁそうだろうなぁ…」 

 「だよね。どうしようか…」

 「んーー…困ったなぁ」

 「ほんとにねー」

 

 

 なんとなく似たようなやり取りをした気がするけど、まぁいつもこんな感じの会話しかしてないので意味はそんなにない。

 

 だってこの口癖を聞くのが、ちょっと楽しみだったりするわけで。

 けどまぁ理想を言うならもう少し返事にレパートリーが欲しい。

 というかその声でツッコミとかして欲しい。

 

 と、思考を脱線させるのはやめよう。

 

 

 「いつか旅に出てもいいよって子いない?」

 「うーん。せやなぁ…うぅん困ったなぁ…」

 

 

 ダメ元で聞いたけれど、この反応はどうしようかと悩んでいるっぽい。

 島の主であるヤドキングなら周辺に住んでいるポケモン達に顔がきくからと訪ねたのだが、これはアタリだろうか。

 

 

 うーん、うぅーーん、とのほほん顔で悩む姿に、ほっこり癒やされる。

 

 だってヤドキングが好きなので。

 このフォルムが、たまらなく好きなので。

 触れるようになって、そのモチプニ感に心奪われるくらいには好きなので。

 

 とっても簡単な案を言うなら、このヤドキングが手持ちとなればとても心強い。

 でも、残念ながら流石にそれは出来ない。

 

 このヤドキングは、島の主ポケモンだから。

 島の周辺に生息しているポケモン達の頂点に立ち、それぞれの縄張りが荒れないように棲み分けを徹底させている、実はとても偉い存在なのだ。

 正直に言ってしまうとこの島のトレーナー達が野生のポケモン達と争いなく共生出来ているのは、ほぼこのヤドキングのおかげである。

 

 エスパータイプ所以の賢さだけでなく、喋れるという特異性で人とポケモンの渡し船が出来る、とても貴重な存在。

 このヤドキングを手持ちとして連れて行こうものなら島周辺の生態系が崩れることは明らかなので、捕まえるなんて絶対に出来ないし、しない。

 とっても残念だけど。

 

 

 「んー…ま、ええか。フルーラ、ちょっと着いて来ぃ」

 「え?うん、わかった」

 

 

 結論が出たようで、のそのそと歩き出したヤドキングと手を繋ぎ、進む。

 洞窟の奥に案内されるのは実は初めてなのでドキドキしてる。

 

 だってこの先は、ヤドキングの縄張りだから。

 

 明かりはなく、手を引いてもらわなければ歩けない道をゆっくりと進むと、少しの光がみえた。

 涼しい風が流れてくるから、おそらくこの先は外と繋がっており、光は太陽のものだろう。

 

 そうして出た先はなかなかに拓けた場所。

 丸く空いた穴から光が降り注ぐ水場で、ヤドンとヤドランの楽園だった。

 

 モチプニしかいない…

 のほほん顔の癒やし空間…

 これなんて天国…?

 

 そして今、私の目の前にいるのは一匹のヤドン。

 ヤドキングから紹介されたこのヤドン、普通のヤドンではない。

 

 

 「いやマジか」

 「ホンマやでぇ」

 「君もその喋り方なのね」

 「そうなんやでぇ」

 「てかヤドンから松ちゃんボイスが聞こえるとか嘘すぎない?」

 「松ちゃんちゃうで、わしヤドンや」

 「うんそだね、知ってる。でもそうじゃない」

 

 

 こんな偶然(奇跡)あっていいの?

 

 浜ちゃんと松ちゃんの声がここにあるとか…え、まじすげぇな?なんというか贅沢ですね??

 漫才始まったりしません???しませんか…そうですか、残念すぎる。

 

 と、まぁ衝撃的現実は置いておいて、だ。

 どうもヤドキングに弟子入り(?)してたらしく、喋ることは勿論、現時点でそこそこ強いし、将来的にこの島に戻って来るのであれば旅に着いてくのも吝かではない、とのこと。

 ただし、条件付き。

 

 

 「ヤドキングに進化するにはおうじゃのしるしが必要なんだけど…」

 「ここにあるで」

 「あるんかい!」

 「せやけど、進化するにはトレーナーが必要やねん」

 「あー…通信進化。え…どうしようか」

 「なんや友達おらへんのか」

 「いますけど!?」

 

 

 こいつ失礼すぎないか?

 

 けど、まぁ、うん。

 

 

 「今は無理だけど、その条件のむよ」

 「ほなこれからよろしゅうな」

 「うん、よろしく松ちゃん!」

 「まって。わしの名前、松ちゃん決定なん?」

 「私の為にお願いします」

 「…変わった子やなぁ」

 

 

 強引な名付けでごめんなさいね!

 いやだってこれは仕方ないと思うの…

 

 

 

 

 



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例え火の中、海の中

 伝説のポケモンを狙う組織が動いている。

 

 それを聞いて真っ先に思い浮かんだのがロケット団なのは、あまり情報の入ってこない離島暮らしだからという訳でなく、前の影響を多大に受けているからだと自覚がある。

 

 だって、だって。

 

 

 ロケット団は去年、とある少年によって解体された。

 

 

 そう聞いて頭が一瞬で真っ白になるくらいには、私は衝撃を受けたから。

 

 それは私にとって色々と予想外のことで。

 今起こっている現状を頭から吹っ飛ばすくらいには、驚いた。

 

 アニメだったら、サトシ(主人公)をずっとずっと追いかけている組織。

 ロケット団が解体されるのは、ゲームの中のストーリー。

 

 でも、私はフルーラで、()()に登場した人物のハズで。

 

 ゲームだと、フルーラ()は登場人物じゃないから、だから()()はアニメ軸の世界なのだと、思ってて。

 ヤドキングも、ワタルさんも、私の知ってる声だったから、そうなのだと思ってて。

 

 だから()()がゲーム軸の世界だと突きつけられて、恐怖した。

 

 

 サトシ君が居ないポケモン世界って、ヤバイな?

 

 

 と。

 

 考えてみて欲しい。

 

 映画の舞台である場所があって、登場人物である私がいて、でも、主人公(サトシ君)がいない。

 初っ端から物語が破綻してる。

 でも、だからと言って爆誕が起きないという未来は確定されてない。

 

 誰があのオーバーテクノロジー空挺持ちコレクターからルギアを守るんですか??

 

 え?

 他力本願だなって?

 いや冷静に考えてくれない??

 

 そして他の映画の内容を思い返してくれ。

 

 もし、もしも、だ。

 

 

 願い星とか、3VSとか、創世神のやつとか起きたとして。

 主人公(サトシ君)が居ないということの恐ろしさを、考えてほしい。

 

 私は、この世界の終わりを想像した。

 

 

 「どうしようか…」

 

 

 思わず呟いた言葉に返ってきた声に、ふと意識が現実に戻る。

 

 

 「なんだ、やっと自分の状況が分かったのか巫女さんよ」

 「ハハッ!まぁどうしようもねーだろ?」

 「だな。しばらく嬢ちゃんは大人しくしてくれや、痛い思いはしたくねーだろ?」

 

 

 ギャハハハと、下卑た笑い声を撒き散らす揃いの服を着た、そんな下っ端臭漂う三人組が去るのを金属柵越しに見る。

 ガチャン、と重たい扉が閉まる音を聞いて、溜息を一つ。

 

 冷たい床に座って思考に耽っていたけど、それは一旦止めて現状把握しようか。

 

 縄で体と腕を一纏めにされ、足に枷はないけど檻の中。

 ぱっと見て監視カメラとかは無し、と。

 

 

 まぁ端的に、拐われた。

 

 

 ちなみに、多分だけど潜水艦のなか。

 

 海が突然盛り上がって、盛大な水飛沫と共にポケモンを繰り出され、リーグスタッフさんが対応しようとするも煙幕を撒かれて視界不良、流れるように拘束されて、担がれて運ばれて、気付いたら檻の中。

 一方的に喋ってきた内容を流し聞いていたら、予想外の衝撃を受けたところ。

 

 

 なんというか、まぁ、手慣れてる。

 

 でも一言コメントするなら、ご愁傷様、だ。

 

 

 きっと綿密な計画を立てたのだろう。

 そして満を持して実行したのだろう。

 

 でも、だけど。

 

 あんまりにもタイミングが、場所が、悪すぎる。

 

 知らなかったのだろうか。

 知ろうとしなかっただけか。

 

 カチリ、とボタンを押す。

 手の平の中で大きくなったソレを、転がす。

 パァンと、軽快な音を立てて赤色の閃光が形を作る。

 

 

 「なんやえらいことになったなぁ」

 「ほんとにねー」

 

 

 相も変わらず、こんなことになっているのに恐怖はない。

 むしろさっき考えたことの方が怖いくらいだ。

 

 肝が座っているとか、そういう問題ではなく、信用と信頼の問題だ。

 あと、自惚れというか、なんというか、なんとなく。

 

 さて。

 

 

 「松ちゃん、コレ切れる?」

 「まかせときぃ」

 

 

 ブチリ、と。

 いとも容易く縄が噛み千切られたのを見て、やっぱポケモンが居るだけですごい楽だなと関心。

 一応試しに力んでみたりしたけれど、所詮7歳女児の腕力なんて高が知れてるのでね。

 むしろ擦れてちょっと自滅した感ある。

 

 それにしても、だ。

 

 

 「ロケット団が無くなった事でこれ幸いにと勢力拡大を狙っての犯行らしいけど…それで私の誘拐って頭悪いと思わない?」

 「せやなぁ」

 「目的がズレてる…と言うより、あの人達は知らされていない、が正解かな」

 「せやなぁ」

 「…海神の領域で潜水艦使うって勇気あるよね」

 「せやなぁ」

 「さては松ちゃんの口癖それだな」

 「せやな」

 「をい」

 

 

 真剣に考えようとしてるってのに、お前ェ…

 すっとぼける様に態とらしく顔を背けるんじゃないよ、かわいいな!

 

 まぁ、それはともかく。

 

 

 「この檻、壊せそう?」

 「んー。壊すより開ける方がええんちゃうか?」

 「…アレ?」

 「アレやな」

 「アレかぁ…」

 

 

 ドーンと、これ見よがしに置かれた存在感ある機械。

 ここがポケモンの世界だとしても、こんな分かり易くそういう機械を置くのかと疑問に思う。

 

 …いや、確かにゲームでもアニメでもそんな感じだけどさ。

 実際に目の前にあると、罠じゃないかって疑うのが普通じゃない?

 

 けどまぁ、とりあえず。

 

 松ちゃんをボールに戻し、もう一度出す。

 檻の外に放たれた光線は再び松ちゃんとなった。

 

 

 「松ちゃん任せた!」

 「まぁ、そうなるわなぁ」

 

 

 だってその機械、檻の外にあるんだもん!

 松ちゃん頑張って!

 

 てちてちと機械に近づき、掴み立ちしながら機械を操作する松ちゃんを見守る。

 あー二足立ちかわいい眼福ありがとうございます。

 ポチッと何かしらのスイッチを押した音を聞くと、ギギギッと柵が上がったので脱出。

 

 

 「なんか…意外とお金かかってそうなギミックだね」

 「せやなぁ」

 

 

 ふと、ラブリーでチャーミーなあの二人と一匹が色々と手作りしていたことを思い出す。

 落とし穴に関しては最早プロと言っても差し支えはないし、自分達でロボットやらなんやら作っては毎度破壊されて星になるあの一連のお約束が、楽しかったのを覚えてる。

 

 …何が言いたいかっていうと、まぁ、うん。

 コイキング型の人力潜水艦、地味に好きだったんだよね。

 

 今いる潜水艦は比べるまでもないほど大きいし、当然人力な訳がないのだけど。

 

 

 「部屋の外、誰かいそう?」

 「んー。いやおらんと思うで」

 「おっけ」

 

 

 思ったより重い扉を開いて、いざ出陣。

 

 通路は大人三人が横歩き出来そうな幅はあるし、部屋数もある。

 照明もキッチリ点いて明るいので、不意に襲われるようなことは多分無い。

 駆動音はないけど、動いてるような感覚はある。

 

 目的地はボス、あるいはリーダーの部屋。

 見つからないように出来るだけ素早く移動したいけど、安全の為に松ちゃんは出したままで行く。

 

 足音は立てないように、入りはしないけど他の部屋の様子を見つつ、進む。

 

 

 重要な場所だったり、偉い人の部屋というモノは大抵奥まった所にあると予想して。

 当たった。

 

 

 松ちゃんに準備はいいか、とアイコンタクト。

 

 大丈夫。

 問題ない。

 もうすぐだ。

 

 ゆっくりと、扉を開ける。

 

 

 「これはこれは巫女殿、よくこの部屋まで来ましたね」

 「いや道中誰とも会わなかったし真っ直ぐ進んだだけなんだけど」

 「…そうですか」

 

 

 待ち受けるように鎮座していた男の人は、一瞬だけ眉を寄せたものの、余裕綽々といった表情をしていた。

 けど、それはきっと長く続かない。

 

 

 「貴方の目的はなに?」

 「ふふ、気になりますか」

 「だって下っ端さんが言ってた勢力拡大ってのは嘘でしょ?」

 「おや…何故そう思ったのでしょうか?」

 

 

 何故って、そんなの、

 

 

 「私を誘拐したって海神を捕まえたり操れる訳じゃないもの。それにもし私が死んだりしたら、天災に見舞われるみたいだし…」

 「んふふ、ふふふ」

 「、は」

 「分ってるじゃないですか!」

 

 

 猟奇的な、狂気的な、満面の笑み。

 ニンマリと上がった口角に、逃さないとばかりに目を向けられて、頬が引きつる。

 

 うわきもちわるっ!

 あっいやそうじゃない。

 え、なに。

 つまり、こいつの目的は…

 

 

 「海神ポケモンルギアは、羽ばたくだけで嵐が起こるのだとか…えぇ、えぇ!ではそのルギアが荒れ狂ったのなら、一体どれほどの被害が出るのでしょう!荒れ地に更地と、自然環境は大きく変わるという前例があります」

 

 

 天地変動。

 でも、目的がそれだというなら、なぜ私を捕らえるだけだったのか。

 

 

 「あぁ、別にこの星が滅べばいいなどと言う野蛮な思想ではありませんのでご安心を。ですが、ほら、治安維持の為にポケモンリーグは奔走するでしょう。警察機関も、医療機関も!襲いくる災害に疲弊し、手が回らなくなるでしょう!その時こそ!私達が世界を支配する!!」

 

 

 …いや想像力豊かやな。

 

 アクア団、マグマ団のが、まだマシな思想…いやどっちもどっちか。

 最終目的は世界征服…ってそれにしては戦力が明らかに足りてないだろうに。

 

 …あ。

 だから災害起こして戦力を削ごうとしてるのね。

 いやでもさ、その作戦ってさ…

 

 

 「天災の被害に合わない場所、確保してるんですか?」

 「えぇ、当然です」

 「そう…でも、無駄になっちゃったね」

 「おや、抵抗なさるんですか」

 「当然」

 

 

 あまりにも甘い考えに、呆れを通り越して哀れだと思う。

 

 天災の被害に合わない場所。

 そんな所、存在しないのに。

 

 あるとするなら、宇宙か、別次元の世界か。

 

 巡り巡っているこの世界で、天災を引き起こそうだなんて、なんて馬鹿な人なんだろう。

 

 そもそもこの私の前で、よくそんな事を言えたと思う。

 巫女を前にして、海神を、荒神にさせる発言なんて。

 そんなこと、させる訳ないだろ。

 

 

 優しい存在だ。

 私を好いてくれて、とても慈愛に満ちた、強い存在。

 見守ってくれてる。

 

 この安心感は、信用できる。

 大好きな存在だから、信頼してる。

 

 それを、そんな下らないことに、利用されてたまるか。

 

 

 「松ちゃん」

 

 

 相対し、構える。

 

 勝負は一瞬だ。

 タイミングを間違えたら終わり。

 ヤドンは素早さが低いから、慎重に。

 

 おやおや物騒ですね、なんて言いながら出されたポケモンは、エレブー。

 電気タイプの、ヤドンと比べると素早さが高く、相性は宜しくないポケモン。

 

 きっとこの人は、私がポケモンを捕まえたことを、知っていた。

 だって松ちゃんがいることに少しも驚いてなかったし、ピンポイントで弱点タイプのポケモンを出してきた。

 

 でも、問題はない。

 はじめから、出す指示は決まってるから。

 意識を研ぎ澄ませ、集中する。

 見るのでなく、全身で感じとるように。

 

 パチパチと、エレブーから闘志からか漏れる電気が耳に響くのが、邪魔だ。

 

 圧迫感、存在感、威圧感。

 高まるソレを、()()()()()を、知覚した。

 

 

 今だ!

 

 

 「ずつき!」

 

 

 

 ーーードンッ!

 

 

 

 大きな衝撃が、立てないほどの振動が、襲う。

 鈍く、けれど大きな音が、響いて。

 

 

 『ボス!水が!穴が!!機関室が破壊されました!!何かいます!何か、いや、コイツはーーザザッ』

 

 

 無線か通話機か、叫ぶような音声が途切れるのと同じタイミングでまた床が大きく揺れた。

 

 これは、結構ヤバい?

 いや、問題ないか。

 

 松ちゃんの側に寄り、男の奥へ吹っ飛んだエレブーを一瞥する。

 揺れた床に動揺し、その浮いた体めがけての渾身のずつき。

 運良く一発で倒れてくれたようで、一安心。

 

 さぁ、覚悟しろ。

 

 

 「ここは海神の住処だって、分ってるよね?」

 

 

 ニッコリと、笑い返す。

 大丈夫、怖いことはない。

 

 だって、ここは海の中だから。

 

 

 

 

 



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海に手を伸ばして

 ドンという音と共にぐらりと横に傾き、バンと聞こえたらぐわんと波打つように撓み、ダンと響いたらずしんと縦に揺れる。

 足に力を込めて耐えて、足を進めて踏ん張って。

 気を緩めるなんて出来ないし、そんな暇も隙もなくて、息が上がる。

 

 移動しながらの攻防は、たとえ一本道であったとしても、とても神経を使うのだと体感してる。

 

 進んできた通路を戻りながら、しかも応戦するには相性が少し…いや、だいぶ悪い。

 切り札ではないっぽいけど、さっきのエレブーより育てられているのが分かるし、迫力が段違いだ。

 

 

 対峙しているのは全身赤い甲殻で包まれた、むし・はがね複合タイプのポケモン、ハッサム。

 

 進化前のストライクに比べれば素早さは下がるものの、はがねタイプが加わったことで物理攻撃力が高くなっており、その両手の大きなハサミは岩を砕ける硬さがある。

 つまり、当たったら終わり。

 

 ブブブブと耳に障る羽音が反響して煩くて、その体格は通路をほぼ埋めるほどで威圧感が半端ない。

 ブォンと振り落とされる攻撃を避けるのに精一杯で、松ちゃんに反撃してもらっても効きはイマイチで倒せそうにない。

 翅で飛んでいる所為で、揺れでバランスを崩すことがないから尚更やりにくい。

 

 当たったら、終わり。

 それは、ヤドンが、ではない。

 

 ()()()()()()()、終わりなのだ。

 

 

 目的は、災害を起こすこと。

 未曾有の天災を調べ、原因を突き止めた。

 切欠は、巫女が亡くなったこと。

 遠く離れた地であっても、それを察知した。

 ならば、もし目の前で殺されたら。

 己が領域で、寵愛した者が無惨に死したら。

 

 それは、どれほどの絶望だろう。

 どれだけの衝撃だろう。

 嘆き悲しみ、きっと怒るだろう。

 その被害は甚大だろう。

 

 

 ーーー私達の目的は、()()でしかなし得ない。

 

 

 心底愉快だと言わんばかりに、淀みなく宣ったその返答を聞いた。

 

 海神の領域だからこそ、あえて海の中にいることを。

 私がここに居さえすれば、誘き寄せれるだろうと。

 

 正解だ。

 だからこそ、とても腹立たしい。

 

 自分の身を守る。

 ただそれだけのことが、こんなに重要な意味になっていることが。

 

 死んでやるつもりはない。

 殺されてやるつもりもない。

 生きて帰るのは、決定事項だ。

 

 誰がお前なんかの思い通りになってやるもんか。

 

 怖くはない。

 命を狙われることを恐ろしいと感じない。

 でも、ふつふつと湧く怒りだけは止まらない。

 

 すぐそばにいる、だから大丈夫。

 私を傷付けることはない、だから大丈夫。

 でも、それだけじゃ足りない。

 生き残ることだけ考える。

 怪我することだって避ける。

 

 怒っているのは、私だけじゃない。

 

 全身でもって集中して、潜水艦の爆発での揺れと、そうでない揺れの判別はもう出来てる。

 振り下ろされる赤い大きなハサミも、速さに慣れれば避けるのに少し余裕が出来る。

 

 

 近い。

 多分、ここで大丈夫。

 

 

 「おや、逃げるのは終わりですか?」

 「そうだね。んでもって、ハッサムはここで沈んでもらう」

 「ほう。ヤドンで倒せるとでも?それは楽しみですね」

 

 

 タイプ相性が良いからって舐めすぎだし、こっちが逃げるだけだったからって侮りすぎ。

 でも、生憎と私はバトルしてる訳じゃないので。

 そもそも、トレーナーを狙うルール違反をしたのはそっちが先なので。

 

 ちらりと松ちゃんを見ると、ぺしりと一回、尻尾で床を叩いて反応してくれた。

 声に出さなくても伝わってる感覚。

 それを信じて、指示を出す。

 

 

 「ハッサム、仕留めなさい!」

 「松ちゃん、全力でみずでっぽう!」

 

 

 一瞬で間合いを詰められるのを避けてからの、()()()()()()最大出力のみずでっぽう。

 弾かれて、豪雨さながらに塗布された水飛沫が降り注ぐ。

 壁に弾かれてまた跳ねて、飛沫する大小様々な水滴が、空気中に漂って、湿らせる。

 

 翅をもつ虫は、それが濡れると飛ぶことが出来なくなる。

 大きな体をもつポケモンなら、それは如実に現れる。

 

 ぐらりと体が傾いたハッサムは、水の滴る床に足を着けた。

 でもその瞬間、つるりと足が滑った。

 

 運が味方をしてくれた。

 大きな隙、そのチャンスを、逃すものか。

 

 

 「ずつき!」

 

 

 ドンッ、と。

 最高のタイミングでぶつかりに行ってくれた松ちゃんはマジ格好いい。

 

 更に大きく滑って、ベシャリと叩きつけられたハッサム。

 ダメージはそんなにない。

 けど、これで完全に翅は濡れた。

 もう飛べない。

 

 機動力が落ちて、こっちに有利なフィールドにして、これでおそらく五分で戦えるかもくらいの現状で。

 でも、私はわざわざバトルする為にこんなことしてる訳じゃない。

 

 

 「んじゃ、バイバイ!」

 「はぃっ?」

 

 

 清々しい笑顔を浮かべて、ガチャリと扉を開ける。

 

 ここは、初めにいた部屋。

 戻ってきたのは、この部屋が内鍵だと知っていたから。

 

 もしかしたら他の部屋もそうなのかもしれないけど、確実性を優先して、ね。

 

 ぽかんと間抜けな表情を晒していたが、ハッとして慌てて追い掛けようとしたものの、倒れたハッサムが通路を塞いて立ち往生しているのを尻目に扉を閉める。

 計画通り…なんてね。

 

 ガチャッと鍵をかけ、ついでに檻の操作機を倒して扉を塞ぐ。

 マスターキーを持ってたとしても、これで少しは時間稼ぎ出来ると思う。

 

 という訳で。

 

 

 「松ちゃん、どう?」

 「ん、問題ないで。ちょいと下がっときや」

 「おっけ」

 

 

 扉と反対側の、おそらく海側の壁。

 

 気配がある。

 力強い存在を、感じる。

 

 息を吸う。

 衝撃に耐えれるように、松ちゃんに抱きつく。

 

 くる。

 

 

 

 ーーーズドンッ!

 

 

 

 壁が吹き飛んで、勢いよく流れ混んできた海水に体を任せる。

 ざぶりと冷たい海水に包まれて、そのまま外に放り出された。

 

 一瞬の浮遊感と、開放感。

 上へと、海上へ出ようと、目を開いた。

 

 

 あぁ、綺麗だな。

 

 

 逃走に割いていた思考も、湧いてやまなかった感情も、全部すっぽりと追いやられて。

 ただただ、綺麗だと、そう思った。

 

 

 きっと、いま目の前に広がるこの光景を、忘れることはないだろう。

 

 深い深い、青。

 濃くて厚みのある、でも、鮮やかな、蒼。

 煌めく光。

 太陽光が透過して、降り注ぐ優しい、灯。

 

 それから。

 

 メノクラゲが、シェルダーが、ギャラドスが、ドククラゲが、トサキントが、ヒトデマンが、チョンチーが、タッツーが、ニョロモが、ジュゴンが、他にも、いっぱいのポケモン。

 

 海の中、潜水艦を囲むように、まるで一つの群となったように、みんながいた。

 

 その中心に、群を率いる長のように、圧倒的な存在感を放つ、白銀の巨体。

 私達が信仰する、海の神。

 

 ルギア。

 

 見るのは二回目。

 でも、海の中にいるその姿はとてもとても美しくて、ずっと見ていたいと思うほどに麗しくて。

 

 

 全てを忘れて、見惚れた。

 

 

 

 

 

 



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反省会はじめっ!

 ふっと目を覚ましたら、木目調の天井が目に入った。

 多分だけど、ここは島唯一の診療所。

 

 最後の記憶は、宗教画よりも神秘的な海神の姿。

 

 海上に浮き上がった記憶も、島に辿り着きた記憶もない。

 だからきっと、私はあの後気絶したんだと思う。

 

 なんだっけ。

 ブラックアウト…だっけ?

 原因は…酸欠、じゃないな。

 急激な水圧変化…?急浮上…?が原因?の…なんやかんや、かな??

 うーん、うろ覚え。

 けどまぁ、そんな感じだろう。

 

 軽くだけどズキズキと痛む頭で、そんなことを考える。

 

 周りに人の気配はなく、けど、居るのは分かったから、口を開く。

 

 

 「松ちゃん」

 「なんや」

 「私どれくらい寝てた?」

 「二時間くらいやな」

 「そっか…」

 

 

 気絶してから起きるまでの時間として短いのか長いのかは分からないけど、ちょっと頭痛とだるさがあるくらいで、まぁ動けなくはない。

 だから遠くで…というか、外でバタバタと動いてるのを見に行こうかな、と。

 

 そう思ったら、松ちゃんがのしかかってきた。

 

 え、なに、どした?重いんだけど??

 あと毛布ごと押さえられると起き上がれないんだけど???

 

 

 「医者さん来るまで安静にしときぃ」

 「えぇー…大丈夫だよ?」

 「嘘やん。頭痛いんやろ」

 「あう…」

 

 

 バレテーラ。

 

 感覚が伝わり易い(エスパータイプと相性が良い)、というのはこういうとき嘘とかつけないのだな、と学習。

 致し方ないので、力を抜いて布団に埋まる。

 

 どことなく満足そうな松ちゃんに、手を伸ばして頭を撫でる。

 

 ヒンヤリとした温度は気持ち良くて。

 ぷにぷにもちもちの感触も気持ち良くて。

 ぐい、と、掌に返ってくる感覚は、心地良くて。

 

 

 「…私、大丈夫だよ」

 

 

 大きな怪我とかしてないし。

 松ちゃんも一緒にいるし。

 こうやって戻って来れたし。

 ちゃんと、生きてるし。

 

 それに、

 

 

 「いま、捕まえてるんでしょ?」

 「せやなぁ」

 「なら、大丈夫でしょ」

 「ぅんー…いや、あかん」

 「えー…」

 

 

 私がここにいるってことは保護されたわけで。

 少なくとも身の安全は確保されているわけで。

 でも、体調とかそういうの関係なしに、外に出て欲しくないようで。

 

 ふむ、もしかして。

 

 

 「あいつ、逃げた?」

 「…せやで」

 「そっか…」

 

 

 なるほどね…

 

 どうやって逃げたのか、については別にどうでもいい。

 だって逃げる算段は元々あったみたいだし…

 

 まぁ…いいか。

 

 ところで、ちょっと気になってたことがあるんだよね。

 

 

 「ねぇ松ちゃん」

 「なんや」

 「松ちゃんのさ、ずつきの威力、えげつないの、気の所為?」

 「ナ、ナンノコトヤー?」

 「いや誤魔化すの下手くそか」

 

 

 ふにふに触ってる手から、ビクリと跳ねたのが伝わってきたのに、誤魔化せるとでも思ってんのかい??

 ついでに冷や汗までかいて、わざとらしく目を逸らして…何を隠してるのかな?

 

 

 「……あんな」

 「うん」

 「長にな、これ、持たされてん」

 

 

 そう言って渡されたのは、赤紫色の玉。

 

 ポケモンに持たせる道具で、玉。

 そして、さっきの問いの答えで渡されたことを考えて…

 

 もしかして︰いのちのたま

 

 いのちのたま、とは。

 技の威力が1.3倍になる変わりに攻撃する度にHPの1/10が減る、というちょっとピーキーなアイテムだ。

 

 …いや怖っ!

 持ってるの知らなかったんだけど!?

 回避ばっかさせてて良かった!!

 これ下手に反撃してたら自滅してたやつ!!

 はー?!怖っ!!

 

 って、あれ?

 いのちのたまって第何世代のアイテムだっけ??

 ってそうじゃなくって。

 

 

 「これをヤドキングから持たされたの?いつ?」

 「入り江から出てすぐやな」

 「私がスタッフさんと話してる時ってこと?」

 「せやなぁ」

 

 

 私が無事にゲットしたことを報告していた、あの僅かな時間で、ヤドキングから渡された、と。

 

 …ふむ。

 未来予知で見えた、ってとこかな。

 だからあの時、皆が来てくれたのかな。

 

 

 「松ちゃん」

 「なんや」

 「だれか呼んできてよ。頭痛も治まってきたし、起き上がるくらいならいいでしょ?」

 「…ん、わかったわ」

 

 

 ちゃんと大人しくしとるんやで、と言いながら出て行った松ちゃんを見送ってから、身体を起こす。

 

 まだちょっとだるいけど、まぁ、問題ない。

 

 服は着替えさせてくれたみたいだけど、髪はパサパサだから水浴びしたいな、とか。

 あいつは逃げたらしいけど、多分まだ諦めてないんだろうな、とか。

 自衛の為に捕まえに行ったハズなのに、脱出したとはいえ拐えられちゃったな、とか。

 

 思ったり、考えたり。

 それで考えて、考えて。

 

 予想で推測で、証拠はないけど、なんとなくの確証はある。

 

 うん。

 

 

 「巫女殿。目が覚めたと聞いたが、大丈夫かい?」

 「あ…はい、大丈夫ですよ、ワタルさん」

 

 

 ぞろぞろと、松ちゃんが連れて来てくれたのは、島唯一のお医者さんと、ワタルさん、それからジュンサーさん二人だった。

 他の人は居ない。

 

 四人増えただけでも、大分圧迫感ある。

 いや、部屋が狭いから仕方ないんだけど。

 

 

 簡単な問診を受けて、目とか喉とか検査されて。

 問題なし、と言われてホッとした。

 

 これで問題ありだったら数日は大人しくしないといけないだろうから、ね。

 

 

 にまり、と。

 口角が上がった。

 

 考えていた結論をワタルさんに言う為に、お医者さんには退室してもらう。

 

 どうかしたのかい、とワタルさんは聞いてくれるから、まぁきっと、いまから言う事は驚くかもしれない。

 

 

 「ワタルさん、お願いがあるんですけど」

 「なんだい?」

 「私と一緒に行ったリーグスタッフさん、捕まえて下さい」

 「は?」

 

 

 きょとん、と。

 ジュンサーさん達も目を見開き固まるのが、ちょっと面白い。

 

 だって、そうでしょ。

 

 

 「あの人から私のこと、あの誘拐犯達に伝わってたんだと思います」

 

 

 そうじゃないなら、なんだって言うんだ。

 

 

 

 

 

 

 



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まだまだ沢山

 問題発言、あるいは爆弾発言。

 治安維持の為に来たスタッフが犯罪組織と繋がっている、ととれる言葉使いをしてしまったことはちょっと反省。

 

 でも、聞いて欲しい。

 私だってあのスタッフさんが犯罪組織のスパイだとか裏切者だとか、そう言いたい訳ではないし、そうじゃないとは思うので。

 まぁなんというか違和感があるから断言は出来ないんだけど。

 

 けど、今日のことに関しては、ほぼ間違いなくあの人から漏れていたのだと思う。

 一応の確認として、確かめたいことはちゃんと聞いてみる。

 

 

 スタッフさんは通信機みたいなのを2つ持っていたこと。

 小さい方は10分おきに触っていて、あれは定時報告専用のもので通話機能はなく、また一定時間経っても反応がないと異常事態発生としてアラートが鳴るものであること。

 それから大きな方は通話機能専用で、報告連絡等の他に緊急時用の連絡手段であること。

 

 これは予想通りのことで、まぁそうだろうなという内容だ。

 

 だから私が確認したいことは、そこではなくて。

 

 

 「あれって発信した場所、分かるんですか?」

 「専用の受信機を使えばわかる仕様になってる。でもここにはないよ」

 「そうですか…」

 

 

 発信した場所を特定する機材はここにない。

 でも存在はしている、と。

 

 

 「ちなみにですけど、ワタルさんは私が捕まえたポケモンがヤドンだって知ってましたか?」

 「いや。ポケモンを無事に捕まえたという報告は聞いたが…それがどうかしたのかい?」

 

 

 やっぱり、そうだよね。

 

 

 「スタッフさんの口から私がポケモンを捕まえたっていう事はあの時の一回だけしかなくて、それから帰り道でもヤドンのことは話題にしてなかったハズなんです」

 「うん?」

 「でも誘拐の主犯…リーダーっぽい人は、多分ですけど私がヤドンを捕まえていたことを知ってました」

 「!」

 

 

 ()()()()を捕まえた報告はしていた。

 でも、()()()を捕まえた報告はしてない。

 

 私はそのやり取りを聞いていたから、間違いはない。

 

 無事にポケモンを捕まえたことの報告、それから今から戻ることの連絡、その2つしかない簡素なやり取りだったことをちゃんと覚えてる。

 そして、スタッフさんの口からヤドンという単語が出たのはたった一度だけだということも。

 

 

 洞窟から出てすぐ、松ちゃんを紹介した時。

 松ちゃんが普通によろしくなぁ、と喋ったのを聞いて、ヤドンが喋った?!と言って固まってしまったのだ。

 その後すぐにポケモンが喋るという特異さに驚いてつい大声になってしまったことを謝られたり、それから怪我もなく捕まえれた事におめでとうと言われたり。

 そんな取り留めのないやりとりをした。

 

 きっとこの時に、ヤドキングからいのちのたまを渡されてたんだと思う。

 

 

 結論を言うなら、盗聴されていた。

 でも、それは通信機器から傍受していた訳ではなく、おそらくスタッフさんにつけられたモノから。

 

 

 ()()()()()()があれば場所が分かる。

 ()()()の存在を知っていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()がある。

 

 それから、そう。

 各機関が疲弊した、その()()()()()を見計らえるような発言もあった。

 

 

 そんなことが出来る場所、どーこだ?

 

 

 「本部に…いや、内通者か」

 「それは分からないです…今私が言ったことは全て想像しただけのモノですから」

 「…そうか」

 

 

 盗聴の機材は、潜水艦内でも事足りたと思う。

 でも専用の受信機はリーグの持ち物で、それはココにはない。

 

 なら、ポケモンリーグの内部に主犯の人が紛れてる可能性があるのでは?

 それに、災害時に各機関と連携をとり、指示を出すのはポケモンリーグ本部だ。

 リーグ本部はバトルフィールドもあるので当然、建物の耐久性や堅牢性は非常に高い。

 常時多くのスタッフがいるから備蓄食料等も充実しているだろうし。

 

 言うなれば、ポケモンリーグ本部がある場所は、色々と都合が良い場所なのだ。

 

 

 「俺は一度リーグに戻る。巫女殿には信用出来る人員をつけるから、しばらく一人で行動するのは控えて貰ってもいいだろうか?」

 「それは別にいいんですけど…大丈夫ですか?」

 「問題ない。そうだな…10日…いや、一週間だ」

 

 

 一週間で全て片付ける。

 ニッコリと、凄味のある笑みでの宣言。

 一瞬背後にげきりん中のカイリューを幻視した。

 

 こわっ。

 鳥肌たった。

 背筋ゾクってした。

 こわっ。

 

 

 

 そうしてワタルさんは島に来ていたリーグスタッフさん達を引き連れて帰って行った。

 

 なお、ジュンサーさん達は在住し、島を巡回することで治安維持に繋がるからと頻度良く見かける。

 おかげで()()()()()()()()()はめっきり減った。

 

 制服効果ってやつかな、すげぇ。

 

 

 たかが一週間、されど一週間。

 

 信用出来る人員として残ってくれたスタッフさんは年重のおじさんスタッフで、まぁ、なんというかバトル強かった。

 自衛の為に捕まえたのだから、とひたすら松ちゃんとバトルして貰っていたのだが、まぁ、ほんと、強い。

 

 ほのおとじめんタイプの使い手らしく、称号でいうなら多分怪獣マニア?とかそこらへん。

 重量級のポケモンの扱いがべらぼうに上手い。

 相棒らしいゴローニャなんて、勝てる気配が微塵もなくて泣きそうなくらいだった。

 

 でもまぁ、そのおかげで対人バトル、という楽しさを知って、その…あの…はい。

 

 バトルって、楽しいね。

 私、ジャンキーじゃない。

 バトルジャンキーじゃ、ない。

 と、おもう。

 思いたい…

 

 

 ついつい、未だに若干いる観光客相手にバトル仕掛けちゃったりしたのは、その、悪いことしたかもってレベルでボコボコにしてしまったけど…

 おじさんスタッフさん、めっちゃ笑顔だったし…

 

 

 いや…だから…ですね…

 

 

 「あの…流石にワタルさんとバトルって、荷が重いと思うのですが…」

 「ははは。大丈夫だよ、この一週間でどれだけ強くなったか聞いていたからね」

 「いやどこも大丈夫じゃない…」

 

 

 どうして私、ワタルさんとバトルすることになったの??

 

 

 

 

 

 



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願ったり叶ったり

 はい、負けました。

 

 もうね、手も足も出なくはなかったけども!

 ふっつーーに!負けました!!

 …いや泣いていい?

 ハクリューさん強すぎん??

 流石にカイリューは出さないよって言ってたけどハクリューでも強いってば。

 タイプ相性的に若干の有利とれるのプテラとリザードンしかいないんだけどなぁー!

 

 まぁ素早さ的に負ける気しかしないけどっ!!

 てか!レベル的に!無理っ!!

 

 

 ボコボコにされて意気消沈、とはならなかったのはバトルが始まる前から負け確と察していたからな訳で。

 でも悔しくないのかって言われればそんな訳ねーだろって感じで。

 

 げんきのかたまりを頂いたので遠慮なく松ちゃんに使わせて貰った。

 回復して元気な姿になったのは良かったけども、まぁ気分は上がらない。

 

 松ちゃんも負けたことにちょっと不貞腐れてる気がするし…

 うーん。

 やっぱ素早さの対策しないといけないよなぁ…

 いやでも初手りゅうのまいはズルいってか酷いと思うの。

 

 

 はぁあぁああぁぁと大きく息を吐いて、松ちゃんをぎゅううぅうっと抱き締める。

 

 

 うん。

 よし、切り替えよう。

 時間は有限。

 ワタルさんは当然として、私だって暇じゃないし。

 

 

 そんなこんなで帰宅してみたらなんとびっくり、例のリーグスタッフさんが客間にいた。

 しかも結構くつろいでらっしゃる。

 

 

 「こんにちはフルーラちゃん、お邪魔してるよ」

 「フルーラ、おかえりなさい。ワタルさんもどうぞお掛け下さい。お茶をお持ちしますね」

 「ありがとう」

 

 

 え、いや、どゆこと?

 なんでお姉ちゃん歓迎ムードなの??

 てかなんで黒スーツ???

 

 困惑極まる私のことはスルーされて、流れるままに説明諸々を聞かされる。

 

 

 宣言通り、一週間で諸々を片付けたらしい、その内容を。

 

 手始めに戻って早々にリーグ本部内の内通者と思わしき人物達を割り出したそうな。

 幾数名をお縄にかけ、幾数名を引き抜き、そこから後ろにある組織の特定やその解体に向けての計画やら突き止めていたら、他の地方にもその組織が根付いてると発覚。

 

 思った以上に厄介な事態になっていると分かったので、ワタルさんはリーグの権限だけでなくポケモンGメンとしての伝手をフル活用。

 しかし全てを解決しようにも、内通者だった者がそれなりの地位に居たりした為に、人員配置やらに手間がかかる事態になったのだとか。

 

 そこで、内通者と思わしき、引き抜いた人員を使うことにした。

 

 彼らは犯罪組織からのスパイではなかったものの、リーグの情報を漏らしていた人物。

 その内の一人が、今目の前にいるこの人。

 

 そしてその正体は、なんと。

 

 

 「国際警察からポケモンリーグ本部の監査に来てました、コードネームは8230。仲間からはハニーとかニーサンとか呼ばれてるよ」

 「そんな訳で例の組織の解体に国際警察の手を借りれることになってね、諸外地方は任せることになったから思ったよりスムーズに終わりそうなんだ」

 「あはは…そういう訳です」

 

 

 いや、どういう訳だよ。

 って言うかなんでそんな話を私にしてるの?

 物凄く嫌ーな予感がするんだけど。

 逃げれる気もない…ていうか罠に引っ掛かってもう逃げれないような。

 そんな感じ。

 

 え、なんだ。

 巻き込まれる感じ??

 なにに??

 

 

 「巫女殿はリーグ本部、ポケモンGメン、国際警察のどれに保護されたいかな?」

 「おぅん??」

 

 

 いやどゆこと???

 

 

 詳しく説明を聞くと、どうも犯罪組織からその他の犯罪組織へと私の情報諸々が行き渡っているのだとか。

 

 海神に親しい存在として、名前や容姿といったモノが既に知れ渡っているのだと。

 だから要人警護という名目で人員を着けることが望ましく、その為の人員をどこが受け持つのか、という話。

 

 本当はできたら保護という形でリーグ本部で身柄を預かるのが望ましいのだが、それは保護者ないし長老達一派が許可しないので難しい。

 唯一の有り難い事と言えばこの島にいる限り、周囲のポケモン達がフルーラを守ることに協力的であることか。

 

 なによりこの一週間でフルーラ自身がポケモントレーナーとしてバトルの才能があることを知れたことが大きいのだと。

 ワタル自身、バトルしてみて最低限身を守る強さはあると判断したらしい。

 

 

 この一週間、ひたすらバトル漬けだった理由を知ってちょっとしょっぱい気持ちになった。

 

 

 「…私が決めていいんですか?」

 「そうだね。まぁ実際はリーグもGメンも国際警察も人員を派遣すると思うから、あまり深く考えなくていいよ」

 「いやそれ聞いた意味…」

 「責任の代表を決める必要がある、ってだけだからね」

 

 

 いやそれを言うか…

 

 にしても、うん。

 この際お兄さんが国際警察だとかそういうことは置いておいて、だ。

 護衛としてリーグ、Gメン、国際警察のどれかを選べと言われても正直困る。

 

 今まで通りじゃダメなのか、と聞いても多分ダメだから言ってるんだろうし…

 

 ふむ。

 

 

 「ちなみにですけど、いつまで、ですか?」

 

 

 この人員がつく期間は、終わりがくるのか、否か。

 もし終わりが来るというのなら、それはいつなのか。

 

 

 それを聞いてからでも、いいだろう。

 

 

 「そうだね…」

 

 

 面白い、と言わんばかりのその表情をみて、あっなんか間違えたかな?と思った。

 

 罠にハマった予感は、その実、自ら嵌りにいったようなモノだったみたいで。

 

 逃げられないっていうよりも、逃げれる気がしないっていうよりも、これは…

 

 

 「君が旅に出るまで、かな」

 

 

 特大の餌を出されて、否定なんて出来る訳がなく。

 

 

 一週間前から、きっと手の平の上だったのだ。

 

 

 

 

 

 



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一緒なら大丈夫…多分

 旅に出れる未来を唆されて、思惑通りに飛び付いた戯け者とは私のことですうぇーい。

 

 まぁ後悔はしていないけど、やっちまった感がすごい。

 自業自得って?さもありなん。

 

 言い訳をするのならこの一週間、(自分のポケモンを持つことが叶わないと思ってたから)夢見心地の気分だったので…

 判断能力が鈍ったというか、甘い蜜で感覚が麻痺していたというか。

 バトル漬けだったから対話するのに頭を回せ無かった訳では…

 

 え…まさかここまでが仕込みとかじゃないよね?ね??

 

 

 冷や汗が背中を伝う。

 

 追求したいような、しない方がいいような…

 好奇心がうずくけど、でもなんとなく避けた方がいいような…

 

 …よし、気にしないでおこう!

 いのちだいじに!で行こうか!!

 

 

 そんなこんなでお茶を飲みつつ今後について色々とお話しする。

 

 

 まず、私の警護を(表向き)担当するのはリーグ本部のスタッフになった。

 これは国際警察の人がしたミスによって今回の事件が起きたようなモノなので除外して、ポケモンGメンは潜んでこその本領発揮なので堂々と護衛するのは向いてないこと、だから責任を取るという形でリーグ本部が人員派遣するというのが一番波風立たないかたちだからだ。

 

 まぁこれが妥当だよね。

 ちなみにおじさんスタッフが継続することになった。

 

 

 次に、これからの生活について。

 顔と居場所が知れ渡ってしまった身なので、他地方の犯罪組織が捕まるまで出来るだけ存在感を消して欲しいという要望を出されて頬が引き攣った。

 

 いや存在感て。

 てか場所割れてるのにどうしろと。

 

 そんな(出してないけど)声に応えてくれたのは例のスタッフさん改め国際警察のお兄さん。

 頑張って覚えてね、の言葉にどんな技術を学ばされるのかを察してしまった。

 

 いや、これ大丈夫なのか…?

 違う問題発生しない…??

 

 と内心不安に思うもののここでの最高責任者(ワタルさん)がニッコリ笑ってるので大人しく沈黙しとく。

 

 

 そして最後に、私が()()を迎えた後の話。

 この世界において成人とは10歳の旅に出ても良いとされる年齢と、お酒や賭博が許される20歳(地方によっては18歳)の成人がある。

 今回の成人は後者で、簡単に言うと就職の話。

 

 エスパータイプと相性が良いトレーナーは希少、そして有益。

 

 過去視未来視のできるエスパータイプはポケモン犯罪の捜査においてとても役に立つ。

 更に感情の送受信が出来る個体であるなら被害ポケモンとのコミュニケーションが円滑に出来る。

 その不可視の能力を扱える人材が欲しいのだ。

 

 特に、万年人手不足のポケモンリーグは。

 

 まず優秀なエスパータイプ使いがいるだけで、今回のような事件は起こらなかった可能性が高いこと。

 だが現状、リーグ本部の実力者は四天王を含めてエスパータイプに特化した者は不在。

 カントーにおいては最高峰のエスパー使いがいるもののジムリーダー業務でほぼ手一杯、偶に依頼することはあるが、これ以上の激務は課せられない。

 

 そこに降って湧いた存在が、今回の被害者(フルーラ)

 

 調べたら島の主ポケモン(ヤドキング)と相性が良いと分かったので、よし、保護ついでに青田買いして来いよ!

 というのがリーグ上層部の意向、そしてワタルさん自身も結構乗り気で、それもあって直接来た、と。

 

 …ぶっちゃけるなヲイ。

 いやでもそうか、エスパータイプの実力者が不在ってことは、まだイツキさんが四天王になってないのか。

 なるほど?あのマスク野郎はまだ世界中を旅してるのね??

 

 ここで来年には良い人材が四天王になりますよとか言ったらそれこそ面倒な事になるのでお口チャック。

 まぁ万年人材不足が故に人材確保に必死なんだろうなぁと生暖かく見守ろう。

 

 閑話休題(それはさておき)

 将来の就職先を決めてくれるなら、充分な支援をするよ、って話な訳で。

 

 

 いやほんと、大人って、ずるいね。

 

 

 就職先が決まった事に安心すればいいのか、実質選択肢無いことに絶望すればいいのか、微妙なとこ。

 リーグ勤めと言っても四天王とかの立場じゃなければ多少の融通(自由度)はあるらしいから、まぁ、うん。

 いっか。

 

 

 諦めも大事って、誰かが言ってたもんね。

 

 

 そんな訳で、将来リーグに勤めることが決まりました7歳です。

 これで良かったかなんて分からないけど、未来のことは大人の自分がなんとかするよ、うん。

 

 

 

 という訳で、そんなこんなな長話も終わったので一息つく。

 

 冷えちゃったけど、お茶美味しい。

 

 

 はてさて。

 どうしようか。

 

 実はワタルさんにお願いが2つほどありまして。

 それをどう許可を貰おうかと思っておりまして。

 

 そんな訳でちょっと手を貸して欲しいなぁ、と思いながら改めてヤドンの紹介をする。

 喋れるという特異性はもとより、この一週間でわかった()()()

 

 それは、松ちゃんがおそらく、夢特性だということ。

 

 通常ヤドンのもつ特性は、どんかん、又はマイペースの2つ。

 だけど松ちゃんはちょうはつを受けて攻撃技しか出せなくなったし、にも関わらずこんらん状態にもなった。

 これにはバトルしていたおじさんも驚いていた。

 私だって一瞬スペキャ顔を晒してしまったんだから、その衝撃はお察しである。

 まぁつまり、消去法で夢特性だと判断したのだ。

 

 そしてヤドンの夢特性は、さいせいりょく。

 バトル中に交代すると最大HPの1/3分回復するというもの。

 瀕死にならなきゃ道具を使わなくても戦線復帰できる耐久型の特性だ。

 

 ()の時はボール擬態キノコポケモンがこの特性を持ってたから、相手にキノコのほうしを当てたら効果抜群持ちと交代って感じで使っていた。

 一撃で死んだらアウトだけど、PPの限りは何度も使える地味に良い手法だよ!

 

 さて。

 この特性、一つ難点がある。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()という、ね。

 

 まぁだから、もう一体捕まえないと意味がない。

 あと普通に弱点フォロー用の手持ちが欲しい。

 そしてその許可を長老達からもぎ取って欲しい。

 

 苦笑しながら了承してくれたので一先ず安堵。

 これはそこまで難しい問題じゃないと分かってたので。

 ただ私がお願いしに行くと絶対許可されないのが分かってただけで。

 

 

 そして、そう、問題はこっち。

 

 

 「ふむ。ヤドキングに進化させたい、と」

 「はい。進化に必要なおうじゃのしるしはあります。でも、ヤドキングに進化させるには、その…」

 「なるほど、通信機材か…」

 「そうなんです。この島、ポケモン回復機も通信交換機もないので…」

 

 

 そう、そうなのだ。

 この島にそんな文明の利器はないのである。

 少なくとも今普及しているのはラジオ、どでかいテレビ、固定電話くらいなので。

 ポケモンセンターはないので。

 

 だからきのみとかげんきのかけらが必須なのだけど。

 

 

 「わしヤドキングなれへんの?」

 「…少なくともこの島では無理だね」

 「ナ、ナンヤッテー」

 「……なんというか、気が抜けるね」

 

 

 ほんそれな。

 

 

 

 

 

 

 

 



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夢の蕾が膨らむ

 照りつける日差し、吹き付ける暴風、飛び散る水飛沫、揺れる大地、荒々しく響く衝撃音。

 

 ビリビリと肌を伝う緊張感と、高揚感。

 

 レベルの高いポケモン同士のバトルは周囲に、自然に影響を与えるほどの威力で。

 ここだけが季節を無視した無法地帯になっている。

 

 距離を開け対峙する二人の年は親子以上に離れていて、そして素の造形や雰囲気は全く重ならないのに、この一時だけは、とても似通って見えた。

 それはきっと、肉食動物の狩りの最中。

 獰猛な、逃がすものかと獲物を定めたその瞳が、爛々と煌いていた。

 

 

 激しいバトルだ。

 すれ違う一瞬で交わされた攻撃の余波は甚大で、私は耐えるのに精一杯なのに。

 気にならないとばかりに、そんなもの感じ無いとばかりに目まぐるしく出される技の指示に淀みはない。

 何を狙っての攻撃技で、合間に挟まれる補助技の効果を最大限に利用して、どう回避させると次に繋がるのかと、頭が焼き切れそうなくらいにくるくる変わる戦況を追う。

 

 その攻防に付いて行くのが今の私の限界で、その先を読みとる事が出来なくて、悔しい。

 でも、それでも。

 

 いつかこんなバトルがしてみたいと思った。

 こんなすごいバトルをやりたいと魅入った。

 

 

 ドォンと、空気が揺れを伝える。

 ドシンと、倒れる音が聞こえた。

 

 土煙が晴れて、傷付きながらもそこに堂々と立っていたのは、ワォオオォオォンと、勝利の咆哮を上げた。

 

 ウインディ。

 

 ほのおタイプで、分類はでんせつポケモン。

 でも、そうでなくとも()()ウインディは特別だ。

 

 だって、そう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の、ポケモンだから。

 

 

 それは、(よわい)10歳にしてセキエイリーグの四天王に勝利した存在。

 王座に居たのは一瞬だけ、打ち負かされた相手は同日に旅立った幼馴染(ライバル)

 それでも著名人たる祖父の威光を掻き消すように、自らの実力をカントー地方に轟かせた。

 

 その少年は、グリーンという。

 

 

 そして聞いてくれ。

 とても重要なことだから。

 なぜグリーンさんがここにいるのか、なんてことじゃない。

 

 なんと、このグリーンさん、

 

 

 「うんうんなるほど。やっぱりバトル()強いねぇ。でも()()()()()()()()()()()それだけじゃダメだねぇ」

 「だぁからこの俺がわざわざこんな島まで来たんだろ」

 「こら、こんな島なんて言うんじゃないよ。とってもいい所だろう?ね、フルーラちゃん」

 「いや私的には不便極まりない島だと思います」

 「ほら、島民が言ってんぞ」

 「おやおや」

 

 

 こ え が 小 林 ○ 子 !!

 

 いやなんでぇ!?

 その声はシゲルじゃん?!

 絶対これサートシくぅんの声じゃん!??

 江○拓也さんとか福○潤さんとか逢坂○太さんとかじゃないのなんで!!?

 イケボ期待してたのになぁっ!!!!

 

 いやまぁ確かにね?ワタルさんが千○進歩さんだったしね?アニメボイスだなって思ったけどね??

 シゲルとグリーンは別物じゃん???

 

 と、まぁ、ね。

 心の中で叫んだから、多少は落ち着いたと思いたい。

 いやでも、やっぱちょっと…うん。

 

 …声変わりに期待しよう。

 

 

 そして、はい。

 さっきスルーした本題ね。

 どうしてグリーンさんがこのアーシア島にいるのか。

 

 簡単に言うと、研修。

 来期からジムリーダーを担う為に勉強にきているのだ。

 

 その教鞭を振るうのは、リーグより派遣された護衛任務を請け負っているおじさんスタッフ。

 なんとびっくりなことに、実はこのおじさんスタッフさんは、()()()()()()()()()()()()()だったのだ。

 

 つまりサカキ氏の前任。

 

 

 トキワのジムリーダーが捕まり、そして不在のまま早一年。

 隣のニビや比較的近場のタマムシのジムリーダーが手を貸してくれていたものの、流石にこれ以上不在だとトキワの森等の周辺の治安維持などに問題が出る。

 新規ジムリーダーを募ろうにも、トキワのジムリーダー業務には()()()()()()()()という普通の治安維持とは一線を画す危険度の高いモノがある。

 そうでなくともトキワジムはチャンピオンロード、もといセキエイ高原のお膝元で、カントー地方最後のジムとして相応のレベルが求められる。

 

 そこで白羽の矢が立ったのがチャンピオンを辞退した少年達。

 

 実力は当然のことながら、ポケモンの知識も豊富で申し分ない。

 そうしてリーグ直々に交渉(ワタルさんと話し合い)した結果、ジムリーダーを引き受けたのが彼、グリーンである。

 

 そうこうして就任しようにも、ジムリーダー業務を引き継ぐ相手が、前任が居ない。

 ので。

 前任の前任であるおじさんスタッフの元に訪れた、という訳である。

 

 多分チャンピオン連続辞退の件とか、トキワジムリーダー逮捕に至った経緯とか、その他諸々の事情を含んだお話しをしたんだろうな、と。 

 色々とぼかされて聞いた話を勝手に自己補完するとこんな感じ。

 

 

 グリーンさんは普通の、勝つためのバトルは文句なしに強い。

 けれどジム戦を模したバトルをするには()()()()()()()

 という訳で。

 手加減の仕方をバトルしながら学びましょう、と言うのがさっきのバトル。

 

 いやぶっちゃけ#手加減、とは。なバトルでしたけどね?

 相手に合わせてポケモンの強さを調整するなんてこの島じゃ無理ですけども。

 それでも迫力満点な見てて楽しいバトルでしたけど。

 

 

 そんなゆるーい指導を真剣に受けるグリーンさんを改めて観察。

 しながら手元をもふもふ。

 

 

 「ぶい?」

 「んー。君のご主人はストイックだなぁって」

 「ぇぶい!」

 「よしよし。君はかぁいいねぇ」

 

 

 嬉しそうにふわりと揺れた尻尾に、頬が緩む。

 

 大きな長い耳、茶色の体躯にボリュームある胸元の白い毛。

 しんかポケモン、イーブイ。

 

 かわいい見た目で愛玩のペットポケモンとしても人気の高い、ポケモンだ。

 

 でもこのイーブイは、かわいいだけではない。

 丁寧にケアされていると分かるとてもふわっふわの毛並みはクセになるくらいに気持ち良い。

 けれど、撫でる手から伝わる確かな筋肉がこの子の強さを教えてくれる。

 

 雰囲気というか、リラックスしているようで周囲へ警戒を怠らない用心深さとか、ね。

 

 

 「んー…君、あのウインディといい勝負しそう…いや寧ろ若干、君のが強い…?」

 「お、よく分かったな。個体レベルだとこのイーブイのが高いんだぜ」

 「ヒァ°ッ」

 「あ?なんつった??」

 

 

 び、びっくりした。

 イーブイもふりに癒やされてたら突然のグリーンさんで変な悲鳴でた。

 うわメッチャ恥ずかしい…

 

 あー…ご主人に擦り寄るイーブイかぁいいんじゃあ…

 

 

 「ま、コイツの強さがちゃんと分かるってことは噂通り巫女の目は確かな訳か」

 「え」

 「やっぱりワタル君から何か言われたのかい?」

 「まぁ…ジムリーダー業務を学ぶついでに巫女殿と交流して来るといい、って」

 「それはまた面白いことを…」

 

 

 いや、え、なに。

 なんて?

 グリーンさんがこの島に来たのってワタルさんの差し金だったの??

 って待っておじさん!何さ面白いことって!!

 遺憾の意!

 

 

 「お前の相棒ってあそこで日向ぼっこしてるヤドンだろ?」

 「え、はい、そうです」

 「ふーん…どう育てるか、もう決めてんのか?」

 「一応…」

 「言ってみ」

 「え」

 「言え」

 「はいっ」

 

 

 いや何唐突に。

 なんか怖いし…

 けど、まぁ、うん、ヤドンの育成でしょ?

 

 

 「ヤドンがヤドキングに成りたいって言ってたのと、特性のこともあるので、物防を上げて…だから一撃は絶対耐えれる要塞型…素早さは低いから、トリックルーム覚えさせて、で、先制逆転させて、特攻でドカンと決めるか、デバフかけて交代させる感じ…です」

 「…へぇ」

 「ぅわぁぉ」

 

 

 にんまり。

 そんな笑顔を向けられて、思わず後退る。

 一歩、踏み出されて距離は無くなってしまった。

 

 いや足のコンパスー!

 カントー人の癖に足長いなこの人!!

 

 なんて思った、ら。

 

 

 「いるか?トリックルームのわざマシン」

 「へ」

 「だから、わざマシン。ちょうど持ってるんだよ。いるか?」

 「ほ、欲しいです!!」

 

 

 うっそマジで?!

 …あ!そっか!そうじゃん!

 HGSSでジム戦後にくれるやつ!!

 トリックルームじゃんね?!

 

 やっほい!!!

 

 

 「コイツ、今いくつだっけ」

 「もうすぐ8歳になるって聞いたよ」

 「へぇ…この年でこんだけ育成論立てれんなら、いいな」

 「ふふふ…ワタル君と似たような事言ってるよ」

 「げっ…まじかよ…」

 

 

 そんな会話してたなんて知らない。

 知らないったら知らない。

 

 兎にも角にも!

 これでヤドンの戦い方に進歩が!!

 

 よっし頑張るぞー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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上手くいく保証はない

 本日は晴天なり。とてもとても良い日和なり。

 そわそわと浮足立ってるのを隠してるつもりなお姉ちゃんを尻目に、私はテンション低めの草臥れモード。

 

 そして今日は私の誕生日。

 一応めでたく8歳になります。

 

 いやね?別にね?

 誕生日祝ってくれるのは正直言って嬉しいよ??

 普段食べれないケーキとか、わざわざ他の島から買って来てくれたの知ってるし。

 でもね?でも、だよ?

 

 去年までは普通だったのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というのを聞いた瞬間、私の表情はストンと抜け落ちた。

 

 おい、こちとら情報規制中の身だぞ。

 分かってんのか?おぉん??

 

 事態を知ったおじさんスタッフさんは慌ててどっかに連絡とってたし、一緒に過ごしてる内に諸々察してしまったグリーンさんは頬が引き攣ってたし、仲良くなった観光客(変装中の例のお兄さん)も何か慌ただしく帰ってったりと、てんやわんやしてた。

 

 だってそんな祭事(大事故)が行われるだなんて私は知らなかったもんね。

 

 

 突発的な犯行…?

 いいえ、これは計画的犯行。

 

 なんとなく、なんか様子がおかしい気がする…

 と、自分の勘を信じて()()()()()()()()とコンタクトをとって大正解。

 彼らから教えて貰ったおかげで無事、普通の、例年通りの、平凡な誕生日を迎えることが出来そうなので。

 

 自己防衛本能とでも言うのか、なんとなくする予感の的中率が上がってきてるのは気の所為だと思いたい今日この頃。

 危険予知…あるいは虫の知らせ的な…?

 …私がポケモンならむしのさざめきぶっぱしてるけどね。

 ほんと、マジでおこ。

 

 

 なおMVPは間違いなく松ちゃん。

 間に入って通訳してくれたので、過不足ない意思疎通が出来たことは本気で感謝。

 

 ご褒美に好物の渋味きのみを…ウイの実とか捧げた。

 普段はカゴの実なんだけど、ご褒美だもの、硬さ的に食べやすいのを、ね。

 いつもは砕いたり蒸したりしてるので…

 ちなみにだけど砕くのはめちゃくちゃ重労働だからオススメしない。

 

 

 そんなことがあって、だからまぁ、うん。

 疲れた。

 誕生日当日だけど、もう気力ないんだよ。

 

 グリーンさんなんて昨日の別れ際に肩ポンしてきたんだよ?

 あんなにお疲れさんって言外に伝わることある…?

 

 忙しなくアッチコッチ動いてたおじさんスタッフに代わって護衛もどきをしてくれたのは優しさか哀れみか…

 

 

 んで、なんで長老達がそんなトチ狂った(頭おかしい)こと計画したか。

 はい、理由はこちら。

 

 例の巫女が存命の時やってたから。

 ただし巫女は(旅に出てるので)不在。

 

 いやだから本当に待ってくれ?

 昔やってたからって何で今やろうと思った??

 リーグ本部から直々に釘刺されたの知ってんだかんな???

 

 これ以上掘り下げると胃痛がお友達になるから強制終了。

 精神汚染は(考え)ないことが一番の対処法ってね。

 

 

 そんなこんなでめでたく自宅で過ごしてる訳だけど、例年とは違うメンツがいるのはご愛嬌。

 お世話になってるので招待したので、これは正規なお客様。

 いっぱい食べて英気を養って下さい。

 

 

 「これ誕生日会ってか慰労会じゃね?」

 「思っても言わない配慮しないとダメだよグリーンくん」

 「おじさんとグリーンさんは料理もケーキも要らないんですね分かりました」

 「まぁアレだ!誕生日おめでとう!」

 「めでたく今日を迎えれて良かったねフルーラちゃん」

 「まぁお疲れ様でしたとは思ってるので間違ってないんですけどね」

 「おいコラ」

 「おやおや」

 

 

 テンポの良い気軽なやり取りに口が緩むのをジュースを飲むことで誤魔化す。

 

 思ったよりもグリーンさんの滞在は延びていて、それに伴って、まぁそれなりに仲良くなれたのが嬉しくて。

 あとおじさんスタッフさんのノリが良いから楽しい。

 

 いつまでこの島にいるのかは分からないけど、面倒見が良いのか気分転換という名目でバトルしてくれるし、島じゃ詳しく教わらないポケモンの知識とか説明してくれるし。

 正直、有り難すぎてもう少し居て欲しい。

 

 

 「ふふっ楽しそうねフルーラ。でも今日はあのお兄さん居ないのね」

 「あー…うん、先約があるんだって」

 「そうなの?残念ね」

 「そだね」

 

 

 お姉ちゃんの言う通り、例のお兄さんは不在。

 だけど一応島にはいるので、とりあえずお仕事頑張ってくださいとだけ言っとく。

 

 テーブルに並ぶちょっと豪華な料理と、いつもよりちょっと大きめのケーキと、ジュースにきのみや果物などなど。

 

 …うん、あとで差し入れでも持ってこう。

 

 

 そして両親とお姉ちゃん、おじさんとグリーンさんを交えての食事風景は見慣れないけども、存外会話が詰まるようなことはなくて一安心。

 まぁおじさんはリーグスタッフだからと両親と顔合わせ時より結構仲良くやってたし、グリーンさんは…

 …外面が良いんだよね。

 

 あと顔面偏差値高めだからお母さんのテンションが…うん。

 お父さんが微妙な表情してるのはスルーで。

 

 

 そんなこんなで慰労会改め誕生日会は終了。

 

 グリーンさん達を見送って、片付けの手伝いをえっさほいさと終わらせる。

 残り物だけど差し入れはお任せしました。

 

 

 お腹いっぱいだし、ケーキも食べれてとても満足。

 甘味が食べれる幸せよ…!

 果物も美味しいけど物寂しくなるんだよね…

 

 そして松ちゃんはまだヨロギのみを抱えて食べてるけど、それ松ちゃん用だからね?落ち着いて食え?

 加工してないきのみは松ちゃん用だから…特に渋味のやつ。

 

 そんなもぐもぐ咀嚼している松ちゃんの隣には、楕円のタマゴが2つある。

 

 1つはだいたい半年前にワタルさんから()()()()()()()()として貰ったタマゴ。

 そろそろ孵ると思うのだけど、こんだけ時間掛かるってまさかこの子…と戦々恐々してる。

 

 そしてもう1つはさっきグリーンさんから自信満々()()()()()()()()()()()()、と貰ったタマゴ。

 何が生まれるか楽しみにしとけよ、と言って帰って行ったのだけど…なんとなく予想ついてるんだよね。

 

 

 だってこのタマゴ、ゲームでよく見る柄じゃなくて、青と赤の三角模様なんだもん!

 

 

 「どう見てもアニメトゲピーのタマゴやん…?」

 

 

 ちょっとまぁリアルで見るとこんな感じか、と思うものの、この柄は間違いなく、そうだとしか言えない。

 

 そして、そう。

 あの言葉。

 

 

 「私にピッタリってことで、多分素早さ低めの子を選んでくれたんだろうけどさぁ…」

 

 

 そう、確かに、トリックルームを主軸にしたバトルをするのに、手持ちメンバーは素早さ低めを欲していたから、とても嬉しい。

 

 でも、だけど。

 進化しても素早さは低い、このポケモン…

 トリックルームを使って活躍すること間違いないポケモンだけど…

 

 でもさ、トゲピーが進化したトゲチック、その最終進化のトゲキッス。

 

 

 私的にはとても馴染み深く有名な、二つ名がある。

 

 

 「やるでしょ、まひるみトゲキッス」

 

 

 そう、その名も、白い悪魔!

 

 

 グリーンさん、私、貴方の期待に応えれるよう、全力で育てますね…!

 

 

 

 

 

 



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鍛えた技で勝ちたいな!

 はい、そんなこんなで2度目ましての祭り当日ですよっ!

 ちなみに観光客は去年より多いよ!分かってたけどクソざますね!!

 そして今年の操り人は問答無用でグリーンさん!君に決めた!!

 

 いやだって、島にいるんなら、そりゃ選ぶよね?

 どう見比べたって今この島にいるトレーナーの中で一番優れてるトレーナーだもの。

 

 それもこれも未だに気を抜くと全力バトルしてしまうグリーンさんの所為ということで。

 

 もしくはおじさんの煽りスキルの高さが原因か?

 おじさんスタッフは今日もニッコリ笑って不合格突きつけていたので…

 でも事務系の引き継ぎは終わっていて、それは合格してるらしい。

 

 このままだとジムリーダー改め事務リーダーだよって笑ってたのを聞いてしまった私の心境よ…

 

 その後行われた両者ブリザード吹き荒れるクソ激しい熱いバトルは通りかかった(事態を察知した)お兄さんが止めようとして勢い余って三つ巴の怪獣大戦争になった。

 地獄絵図にも程がある。

 

 なお、この無意味な(仁義なき)戦いは島の主たるヤドキングによって強制終了した。

 流れるようなあまごい→なみのりコンボだったけど余りにも威力がバグってて思わずドン引いたつい先日。

 ゴローニャ(おじさん)サイドン(グリーンさん)ニドキング(お兄さん)、皆仲良く流されてったよ…揃ってじめんタイプなんだもの効果抜群だよね、南無三。

 

 

 そしてその余波なのかなんなのか、抱えてたタマゴがピシピシ割れて、同時にお生まれになったポケモン達。

 予想通りでもあり、想定外でもあるベビーちゃん達は好奇心旺盛で、保護者枠松ちゃんが始終お疲れモードになってる。

 

 そのΝewフェイスはこちら。

 

 ワタルさんから戴いたタマゴから生まれたミニリュウちゃん(♀)。

 どうも自力でバトルして回ってるみたいで一週間経った頃にはりゅうのいかりを覚えていた。

 おま…最低でもレベル15超えてんな??

 バトルする時ちゃんと言うこと聞いてくれるけど、このバトル意欲はなんなのか…

 

 ちなみに激辛フリーク。

 将来は物理で殴る系な姐さんになりそうです…はい。

 

 そしてグリーンさんから貰ったタマゴから生まれた、()()()()()()()ちゃん(♂)。

 気の所為かなって思ってたら色違いだったよ!

 いや確率ーっ!?

 そしてこれじゃ白い悪魔じゃなくて肌色の悪魔だね?ゴロ悪いね??

 この子もバトル好きっぽいのと、ゆびをふるで繰り出される技がどういう訳か効果抜群ばっかなので強運がすぎて怖い…

 

 確認したところ特性はてんのめぐみだったので、まひるみ運用で確定。

 つまり技の運はガチの強運…怖っ。

 

 好物は松ちゃんと同じく渋味系統なので思わずコロンビア。

 ひかえめだったら尚良だったけど、見る限りはおそらく多分おっとりかな。

 特攻特防おばけの物攻物防は紙耐久になりそうでちと怖いけどそこはまぁ追々ね。

 

 …今更だけど努力値の振分けって同じなのかな?

 

 ま、それはそうとして。

 子守歌代わりに毎日聞いていたバトルの指示やら破壊音の所為なのか、あるいは親からの遺伝なのか…ベビーのくせにとても好戦的なのがほんと…うん。

 将来有望ということにしておこう。

 

 

 それはそうとして。

 

 どうしよっか…

 

 最初に言った通り、今日は祭り当日。

 

 操り人に選んだグリーンさんはピジョットに乗って、颯爽と三つの島から玉を集め、奉納した。

 

 ピジョットは、マッハ2の速度で空を飛ぶと言われているとりポケモンだ。

 ちなみにマッハ1が音速と同じ速さで、それが2ってことは音速の2倍…だったハズ。

 グリーンさんが乗っているから、だいぶ加減された速さだったとは思うものの、例えるならドビュンって感じだった。

 

 つまり、めちゃくちゃ早く帰ってきた。

 

 慌てて笛を吹きに行って、祭りは終了。

 今年は海神も現れなかったし、無事に終わったけど、そうじゃない。

 

 演奏含めて僅か2時間半で終わった祭りに観光客も島の人達も呆然気味。

 

 間違いなく歴代最速ですよ。

 なぜ本気出した。

 早すぎるんですけど。

 

 この空気どうしたらいいの。

 

 

 「あっはっはっ!もーこれだからグリーン君は」

 「あ"ぁん"?」

 「もう少し時間かけて回らなくちゃ」

 「はぁ?早く終わらせた方がいいんだろ?」

 「いやいや。年に1回のお祭りをこんなに早く終わらせちゃダメでしょうよ。ね、フルーラちゃん」

 「いや私に振らないでください…」

 

 

 いやほんと、どうしたらいいのこれ…

 怪獣大戦争V2とか嫌だよ…?

 

 観光客の方々も島の皆も遠巻きに見てるし…

 あっお兄さん発見!

 見てないで助けてよ…!

 …え?

 巻き込まれてこの前の二の舞いになりたくない?

 いや分かるけど、この人達と()り合えるのお兄さんだけなんだけど??

 

 …へ?

 あ…うん?

 

 …いや、え…いける、か?

 

 

 チラリと、バチバチ火花散らす二人を見る。

 

 互いに意識が行って、周りに対しての意識は、少し散漫気味…

 …これは多分、それなりにこの島に居るからこその、緩み。

 

 出すポケモンは…なんだろう。

 

 この前の大戦争でのダメージを考えると、ゴローニャとサイドンは出さない…いや、出せない。

 お兄さんのニドキングと違って4倍ダメージでささったし、木の実で体力回復したからといって、この島は回復機材がないからそう何度も本気でバトルはしない…と、思う。

 

 だから、うーん…

 

 おじさんの手持ちはゴローニャ、ガラガラ、ブーバー、ダグトリオ、ギャロップ、バンギラス。

 グリーンさんはカメックス、ウインディ、サイドン、ピジョット、ナッシー、イーブイ。

 

 おじさんはガラガラとバンギラスの素早さが低いけど、他の子は速いから、おそらくこの2体は出さない。

 だから候補はブーバー、ダグトリオ、ギャロップ。

 ブーバーはみずタイプ対策でかみなりパンチを、ギャロップはソーラービームを覚えてるのを、グリーンさんは知ってる。

 

 グリーンさんはさっきピジョットを出してたから、多分出さない。

 それと、強さは保証されてるけれど、イーブイがバトルしているのを見たことがないから、とりあえず除外。

 候補はカメックス、ウインディ、ナッシー。

 タイプ相性とるなら、カメックスかナッシーだけど、ウインディ以外は速さが低め。

 

 

 …うーん微妙、だなぁ。

 けどまぁ、うん。

 

 勝負は一瞬。

 タイミングが重要。

 

 鮮明に思い出すのは、先日のワンシーン。

 あんなスゴ技は、出来ないけど…

 

 

 思い出して、見て、考えて、意識する。

 

 

 ボールに手をかけた。

 

 指示を出す。

 

 ボールを投げた。

 

 瞬間、ポツリと、雨が降る。

 

 目を見開く二人、赤い光が収束する。

 

 ブーバーとカメックス。

 

 ゴロゴロと轟く音、そして閃光。

 

 ドカッ、ドンッと衝撃音。

 

 

 倒れはしない。

 けれど、引き当てた。

 

 それは30%の確率と、強運がもたらした奇跡。

 ゆびをふるで繰り出されたかみなりの、まひ。

 先制しんそくからずつきの、ひるみ。

 

 運が良すぎるくらいの成功。

 あまごいは、多分、未来予知したヤドキングからの手助けだ。

 運が良すぎるかみなりが必中になったのは、とても大きい功績。

 

 

 バッと、こっちを見る、二人に、とりあえず、笑う。

 

 

 「祭りは終わったので、大人しーく、片付けしましょう!」

 

 「「はい」」

 

 

 返答が震えてた気がしたけど、気の所為気の所為。

 

 怪獣大戦争になるよりマシだよね!

 

 たぶん!!!(ヤケクソ)

 

 

 

 

 

 



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擦り傷切り傷、消えない傷

 目の前に、通信機材。

 所持者はおじさんで、ポケモンリーグの備品なのだとか。

 画面付きのそれは、繋がっている相手の御尊顔が良く分かる。

 その映っている相手は、ニッコリと笑みを浮かべている。 

 

 

 「さて、巫女殿。どういうことか説明してくれるかい?」

 「お兄さんに唆されたので私悪くないです」

 「ん?」

 「ウ°ャッごめんなさい!!」 

 

 

 秒で土下座した。

 だって怖すぎるんだもん。

 ぴえん。

 

 

 「フルーラちゃんって時々変な鳴き声だすよね」

 「おっさん、アンタ少し黙った方がいいぜ」

 

 

 おい元凶共。

 我関せずな態度とってんなよコラ。

 ワタルさんのお怒りゲージの矛先は貴方達にも向いてんだからな。

 

 案の定。

 反省の色無しな2人にワタルさんがブリザード吹き荒らしながらのお説教が始まったので、気配を消してゆっくりフェードアウト。

 

 

 うんうん、そうなんです。

 結構な頻度で大乱闘トキワのジムリブラザーズしてるんです。 

 もっと怒って下さい。

 

 ところでワタルさん、懇切丁寧な正論で殴ってますけど、やけに詳しいですね?

 あぁ、お兄さんが情報提供してたんですね。

 なるほど。

 

 …いやまって。

 だったらなんで昨日あんなこと…

 え?本当にやるとは思わなかった??

 

 は?(キレ)

 

 

 「お兄さんも怒られて来てください、今すぐに」

 「あははー。いやまぁ言ったのは悪かったかもだけどさぁ…ほら、実際あの2人に向かってくとは思わなくて、ね?」

 「ヤドキングを参考に頑張れって、言ったのお兄さんですよね」

 「まぁ…うん」

 「ちゃんとフォローするよって、お兄さん言いましたよね」

 「あー…と、うん」

 「フォローしてくれたの、ヤドキングでしたけど」

 「すごく見事な制圧だったよ!」

 「お兄さんは見てるだけでしたもんね」

 「……あは?」

 「笑ったって流されませんからね」

 

 

 誤魔化されませんからね。

 死なば諸共。

 だから一緒にお説教受けましょうね。

 1人だけ逃げるなんて、許しませんよ?

 

 

 それはそうとして。

 

 ワタルさんのお説教はヒートアップすることはなくて、ただただ反省を促すものなのが凄い。

 なんというか、慣れてますね?

 リーグ責任者ってお説教スキル必須だったりするのかな?それともワタルさんだけ??

 というかいつもはどなたをお説教していらっしゃるの??板に付いた言い回しですね???

 

 

 「…ところで、トキワのジムリーダー業務の引き継ぎは終わったのかい?」

 「「…」」

 「終わってないのかい?これだけ時間があったのに?まぁそうだね、君達の手合わせはどうも本気のバトル手前だったようだしね?」

 「おっさんが煽るのが悪い」

 「どんな相手でもジムリーダーとしてバトルするなら、冷静で居てもらわないといけないからね」

 「グリーンくん、毎回同じ事を繰り返すなんて学習能力低下したかい?切れるくらいなら受け流すことを覚えようか」

 「………はい、気を付けます」

 「よろしい。それからヨウガンは子供みたいに執拗に煽る行動は止めて、指導すること。いつまでもジムリーダー不在にしていたくないんだ、分かるだろう?」

 「理解、してます」

 「本当に?グリーンくんに言った、冷静でないといけないのは貴方の方だという自覚は?」

 「……そう、ですね」

 

 

 ニコニコと饒舌に追い詰めてくワタルさん、怖い。

 所々に棘がある言い回しになってるのも、恐い。

 

 

 けどまぁ、うん。

 確かに引き継ぎ、まだ終わってないのって、どうなのかと思う。

 別にグリーンさん、私とバトルする時はちゃんと加減してくれてるし、アドバイスとか的確だし。

 ジムバトルとは違うだろうけれど、相手に合わせることは出来なくはないと思う。

 でも。

 

 おじさん煽りに煽るから、グリーンさんプッチン切れて、いつもの全力バトルに…という流れ。

 もはやこれがお約束。

 

 一回当たりが強いのは何故かと聞いたことはあるのだけど、必要なことだから、の一言で終わらされてしまった。

 真意は定かではないけれど、嘘偽りの無い言葉だったから、おじさんのやり方なのだろうと口出し等はしないでいた。

 

 まぁ8歳児に言われたって困るだろうし。

 

 

 重々しい溜め息を一つ吐いたおじさんに、突き刺さる視線。

 

 グリーンさんも横目で凝視してる。

 

 っていうかお兄さん、いまボソッとおじさんの名前初めて知ったって言ったな。

 じめんとほのおタイプ使いのヨウガンさん、覚え易いでしょ?

 

 

 「ふぅーー…うん。すみません、ワタルくん。もう大丈夫です。後一週間下さい、それでちゃんと引き継ぎます」

 「うん。宜しく頼むよ」

 

 

 柔らかな空気を纏って、そう宣言したおじさんに、グリーンさんは目を見開く。

 

 

 通信が切られて、なんとも言えない空気の中。

 口を開いたのは、おじさんだった。

 

 

 「少しだけ、僕の話を聞いてくれるかい?」

 

 

 苦笑にも似た顔で、どこか気が抜けたような顔で。

 

 グリーンさんも、お兄さんも、とりあえず話を聞く体制をとって。

 私も、それに習って。

 

 

 そうして語られたのは、前回の引き継ぎのこと。

 その後悔、懺悔の話。

 

 ジムリーダーをしていた、過去の話。

 

 唐突に聞かされた、兄の訃報。

 当然葬儀に参列したが、問題はそこから。

 家業を引き継ぐハズだった兄が亡くなったことで、自分が後継ぎになったこと。

 父は病に臥せっており、存命の内に引き継がなくてはいけなかったこと。

 その為に、ジムリーダーを辞めることになったこと。

 

 けれどトキワのジムリーダーは、そう簡単に引き継げるもので無かったこと。

 

 だから後任の採用は、とにかくバトルの強さを重視して募集したこと。

 集まったのは一応リーグの人選でもあったから、その人の思想、性格、矜持、などは直接対話して確認した訳では無かったこと。

 そもそも、時間が無かった。

 

 バトルの強さ、そして事務系の仕事の処理能力。

 秀でていたのがサカキだった。

 

 そう、ロケット団のボス、サカキ。

 

 聞けば社長業をしているそうで、人の上に立っているならジムリーダーに向いてるだろう、と。

 そう安易に考え、後任へと決めた。

 そして要領のよいサカキに事務業やらを一通り教え、一週間で引き継ぎを終わらせた。

 終わらせて、しまった。

 

 決して疎かにした訳ではない。

 業務はちゃんと教えたと自負している。

 彼を見ていなかった訳ではない。

 

 けど、けれど。

 

 あのような者をトキワのジムリーダー後継者として任命してしまったことを、二年前のあの日、どれだけ後悔しただろう。

 

 トキワ周辺の、ポケモンの生態系が崩れていたことをしった。

 シロガネ山のポケモンが、下りて来ている影響だった。

 ジムリーダーの仕事だって、社長という立場を使いほぼ不在だったと聞いた。

 

 リーグからの要請で、その二年前から再びトレーナーとして活動するようになって知ったトキワの現状に、どれほど絶望していたことか。

 

 

 そんな自分に、また、後任への業務の引き継ぎをしてほしいと依頼があった。

 

 これはどんな悪夢かと、思った。

 

 

 次こそは、あんなことが起きないように。

 

 だから為人を、しっかりと、確かめたかった。

 

 バトルして、会話して、業務引き継ぎをしながらその意思をみて。

 まっとうな人なのだと分かっても、どうにも信用しきれなかったから、と。

 

 けれど。

 でも。

 

 こんな年になって説教されて、ようやく冷静になって。

 

 今までのやり取りを思い出して、大丈夫だと、思えたのだと。

 

 

 それを聞いて、思ったことは。

 確かめるためとはいえあの煽りは、おじさん、やべぇな。

 だった。

 

 

 だってグリーンさん、完全にとばっちりじゃん…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ポケットに入らないプレゼント

 やる事があると、時間が経つのはとても早い。

 

 去年ならひたすらバトルして過ごしたあっという間の一週間。

 それが今年は何故か、グリーンさんと一緒にジムリーダーとしてバトルするノウハウを叩き込まれた。

 

 いやなんで?

 

 1人教えるのも2人教えるのも変わらないよって笑ってたけど、私ジムリーダー目指してませんけど。

 おじさんがスパルタなのは去年から知ってることだから拒否したのに、グリーンさんに道連れにされた。

 

 だからなんで??

 

 挑戦者が規定レベルに到達して無かった場合のルールの変更可能域に合わせたバトルとか、ジムバッヂの最低認定基準をバトル中にどう見極めるのかとか。

 いつ活用するのか分からないバトルの仕方をみっちり教え込まれた。

 

 ほんとなんで???

 

 あとマイルドにはなったけど未だに煽ってるってことは最早アレは素だったってことでFA?

 もしくは煽ってないと死んじゃう病気だったりします??

 それに対してグリーンさんは受け流す…っていうか最早聞いてないという対応に切り替えてスルーしてた。

 っぉぃ。

 

 あと巻き込まれないようにしてるのか、ここ数日遠目でしか姿を見れてないお兄さんはギルティ。

 全力バトルじゃないからかヤル気半減なベビちゃん達は周辺にいる野生のポケモン達にメンチを切って回り、松ちゃんはそれを止めるのに大忙し。

 

 うちの赤ちゃん達はバーサーカー????

 なんでそんなにバトルしたいの???

 家の中だと普通なのになんで??

 松ちゃん顔色悪いよ大丈夫?

 

 とまぁ、そんな感じで一週間があっという間に過ぎた。

 まじで怒涛だった。

 

 今までおじさんがグリーンさんに教えてた事はイージーモードで、それが唐突にベリーハードモードになった感覚。

 なんだろ、基礎となるお話しを聞き流してただけの存在が応用・発展問題を解く、みたいな難易度ヘルモード。

 

 もうね、頭パンクしそう。

 知恵熱出そうだったもん。

 

 ケロっとしてるグリーンさんはちゃんと基礎が出来てるのもあるんだろうけど、そもそも地頭が違うんだろうね。

 それはそうと巻き込んだのは許さないかんな。

 

 

 そんなこんなで一週間で叩き込まれ、詰め込まれたグリーンさんは晴れて合格。

 だがしかし、ジムリーダーになるにはリーグに顔を出して免許やらなんやらの手続きがあるのだそうで。

 

 まぁ確かにそりゃそうだ。

 

 業務やらバトルやらを教わったから今日からジムリーダーです、な訳がないものね。

 そんな訳でこれからセキエイリーグに行って諸々やることがあるらしい。

 

 引き継ぎって大変だね。

 

 そしてこれからお見送りだというのに、別れ時ですら煽るの何故?

 グリーンさんもこれで最後だからと言わんばかりにキレ返すの止めない??

 お兄さんは地味に距離とろうとするな、もしバトル始まったら道連れじゃ。

 

 けどまぁ、このままだと本当に大戦争勃発しそうなので。

 

 

 「ピー助、ゆびをふr「「すみませんでした」」…わぁ息ぴったりですね」

 「フルーラちゃん、それ脅しって言うんだよ」

 「やだなぁお兄さん。何が出るか分からない技で脅しも何もないですよ」

 「………ウン、ソダネ」

 

 

 9割方効果抜群出すけど何が出るかは本当に分からないんだもん、嘘言ってないよ。

 

 あっ、ピー助はトゲチックの名前です。

 …トゲチックの、名前です。

 産まれて1ヶ月経ってないのに進化しました。

 なつき度進化って、ふっしぎー。

 

 トテトテ歩く姿からパタパタ自由に飛び回る戦闘狂になり、より広範囲のポケモン達にケンカを売りつけるようになった。

 勝率?

 …効果抜群って、凄いよね(遠い目)

 

 飛び回り防止策としてボール外に出してる時は抱きしめてるけど、その所為かいつでもゆびをふるを発動出来る(ケンカを売れる)ように待機するようになった。

 こわい。

 

 だから今は、しなくていいよ。

 グリーンさんが行ってからバトルしたげるから。

 今は、攻撃、しなくて、いいの。

 わかった?

 

 はてさて。

 

 

 「グリーンさんに餞別…というか、お世話になったお礼に、コレ…どうぞ」

 「ん?おう、サンキュ……羽根?」

 「とってもキレイでしょ?」

 「あぁ。こう…太陽に照らすと銀色に見えるし…なんのポケモンの羽根なんだ?」

 「ルギアです」

 「は?」

 「ルギアです」

 「っはぁ?!おまっなんつーもんを!つかこれどうやって、」

 「…てへ?」

 

 

 おじさんとグリーンさんが休憩してる時に海辺で遊んでたら、ひょっこり顔だしたルギアがくれたとは言えないので笑っておく。

 …そのルギアが、祭りが余りにも早く終わっちゃったから顔出せなくてちょっといじけてたっぽいことも言わないでおく。

 私は空気を読める、いい子なので。

 

 

 「グリーンさんに海神の加護がありますように…どうぞこれからも頑張って下さいね!」

 

 

 とりあえずニッコリ笑って誤魔化すにつきる。

 なんとも言えない顔をしつつも受け取ってくれたので、よしとする。

 

 おじさんからも、お兄さんからも、ちょっとしたプレゼントを受け取るグリーンさんを見つつ、飛び立つ予定のピジョットに近寄る。

 

 

 「ふふ。ねぇピジョット、お願いがあるんだけど…いいかな?」

 「ピジョォ?」

 「向こうに付いたらコレ、グリーンさんに渡してほしいの」

 「ピジョッ」

 「んふふ、いい子いい子」

 

 

 お日様の暖かさをもった翼に頬を付けて深呼吸。

 鳥吸いはやさぐれた精神に効きますので。

 

 サッと離れて、シレっとおじさん達に混じって。

 

 そうして颯爽と飛び立ったグリーンさんとピジョットを見送った。

 

 

 「ところでフルーラちゃん、ピジョットに何渡してたの?」

 「えっ知りたいです?」

 「うん、気になるからね」

 「んー…。ほら、おじさんはグリーンさんにタマゴあげてたじゃないですか」

 「あぁ、バンギラスのことかい?」

 「そです」

 「それと関係があるのかな?」

 「まぁ、はい」

 

 

 なんでこの島にあったのか、見つけた時は何度も頬を抓ったりしたけど。

 都合が良すぎるというか、なんというか、そういう気になることはすごくあったけど。

 でも、私が持っていても意味が無さそうだったから。

 だから、渡した。

 

 

 「んふふ。ピジョットのがあったら良かったんですけど、見つけたのはバンギラスのだったので」

 「??」

 「いつかとっても役に立つ、かもしれない石、ですよ!」

 「石?」

 「はい!今はただの、とってもキレイな石、ですけどね!」

 

 

 いつか進化した姿がみたいなぁ!

 

 なんて、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 



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握り拳を振り抜いて

 あるー日、家のー中、おじいーちゃんに、出会ーた。

 

 なお初対面。

 

 朝ご飯食べようとリビングに行ったら居た。

 もぐもぐと勢いよく丼でゆし豆腐食べてた。

 

 知らないお爺さんが家でご飯食べてる事案に思わずお姉ちゃんと顔を合わせ後退り、そんな私達を見たお母さんから貴方達のおじいちゃんよ、と言われたこの衝撃よ。

 

 ところでめっちゃ食べてるけど私達の分残ってる?

 あっ今追加で作ってる?

 お母さんありがとう。

 

 

 「いや話にゃ聞いておったが大きくなったなぁ…こぉんな小さかったのに…」

 「お父さんが帰って来ないからよ。そもそも写真でしか見てないでしょうに」

 「ハッハッハッ。そりゃわしが帰って来ても面倒な事にしかならんからなぁ…」

 「もうそんな事いって…大変だったのよ?」

 「いやまぁ聞いてはいるが…その、なぁ…」

 

 

 もぐもぐとお姉ちゃんと静かに食べてたらそんな会話された。

 

 察するに、お母さんのお父さんか。

 でもなんか、訳あり…?

 んー…?

 嫌な感じはしないけど、なんか、うん。

 

 嵐の予感…?

 

 あとなんか、このおじいちゃん、なんか、見覚えがある、よう…な?

 ん、んー?

 

 モヒカンなのか丁髷(ちょんまげ)なのか、側頭部は禿げてるのか剃ってるのか…

 あとその後ろ髪と同化して境目不明な髭。

 

 結構特徴的なんだよねぇ…

 あとこの声…気の所為かな、女装がアレな山田先生に似て…

 …似て、る…ね?

 え、まって?

 

 大塚○夫さん??

 父上様の大塚さま???

 

 えっ、マ?

 つまりこの人、もしかして、映画(爆誕)の長老さんでは??

 

 

 えっ?あれ??(混乱中)

 

 

 ……え???(思考停止)

 

 

 

 意識して無かったところから強烈なパンチ食らった所為か朝食食べ終わった後の記憶が若干飛んでる。

 

 気付いたらおじいちゃんに連れられ長老達と顔を合わせてた。

 目の前で繰り広げられる老人達のガンの飛ばし合いとか誰得…

 

 っていうかこれ、どゆこと?

 なにが起こってるの?

 

 シレっと壁際におじさん立ってるけど、この微妙にピリついた空気を楽しんでる気がするのは私の察知能力の不備だったり…しないか。

 ほんとおじさんってばイイ性格してるよね…

 

 腰にあるボールと足元にいる松ちゃんだけが心の拠り所だよ…

 一部心労の元でもあるけど。

 

 

 それはそうとして、さ。

 何を切っ掛けにゴングが鳴ったのか、息継ぐ間も無い口撃合戦が始まったんだけどどうしよう。

 

 取り繕いきれてない皮肉と侮蔑のマリアージュをグチグチとおじいちゃんに投げつけながら同列して例の巫女様を称賛するその語彙力すっごいね。

 それに対して巫女様を肯定しつつ長老達の不手際というか観光客のアレや誕生日のソレの事について重箱の隅をつつく感じで罵ってるのヤバいね。

 

 水と油っていうか、S極とS極もしくはN極とN極?

 近付けても互いに全力で反発し合う感じ。

 

 長老達ってばなんでおじいちゃんをそんな目の敵にしてるんだろうか。

 おじいちゃんが長老達に辛辣なのは正直いいぞもっとやれって思うけど。

 

 と右から左へ罵詈雑言を聞き流してたら更にヒートアップ。

 おじいちゃんのキレッキレの言い返し含めて内容をピックアップ。

 

 

 わぁー、例の巫女様っておじいちゃんのお姉さんなんだー。

 ふーん、例の巫女様って操り人に長老達を選ばなかったのねー。

 へぇー、例の巫女様ってケーナって言うんだー。

 ほーん、例の巫女様って教育に積極的だったのー。

 あぁー、例の巫女様って同年代から人気だったのー。

 はーん、例の巫女様って他地方でも知ってる人いるんだー。

 うわー、例の巫女様って容赦ないのねー。

 わーお、例の巫女様ってそんなに逸話があるんだー。

 

 

 諸々と、巫女様の話をただただ聞いて、適当に聞き流して、他にも感情とか思惑とか予想して、纏めて考えて。

 確信する。

 

 ほぉん、そっか、そうなのかー。

 …ねぇ、前から思ってたんだけどさ。

 

 やっぱその巫女様って、私と同じ(転生者)なのでは?

 

 もしそうなら、とっても納得なんだけど。

 

 

 野生のポケモンと仲良くなれて、育てるのが上手で、バトルをすれば負けた事がない。

 ポケモンのタイプ相性を理解してて、相手トレーナーが指示する技に対応できた。

 他の地方のトレーナーの、初めてみたポケモンを理解した。

 

 これは私が聞いていた巫女様のこと。

 

 でもさ、これさ、()()()()()()()()()んだよね。

 だってさ、私、知ってるもの。

 

 オレンジ諸島から出てないし、スクールにも通ってないけど。

 でも。

 

 タイプ相性も、何が効果抜群なのか。

 どのポケモンがどんな技を覚えるのか。

 性格からその個体の好みの味を。

 それに合わせた育成論。

 800種以上いるポケモンのタイプと特性。

 体力、物・攻防、特・攻防、素早さの、大体の種族値。

 時間帯や石や道具などの特殊進化の方法。

 更に言うなら持たせる道具の効果まで。

 

 それなりに把握してたら、例の巫女様の偉業だって、結構出来る範囲だなって。

 そう思ってしまう。

 

 

 だから、そう。

 

 そんなことが出来る人が、図鑑もなにも、インフラだって整備されてない時代にいたら、そりゃぁ伝説扱いされるわな。

 と。

 

 そして。

 

 多分だけど、その偉業がすごすぎて、崇拝の域に達してるんだろうな、と。

 

 誰がって、長老達が。

 

 おじいちゃんは対象が実姉だから、その信仰に拒否反応…というか、理解が出来ないんだと思う。

 そんでもって高度な弯曲表現多用の罵り合いから察するに、これ、関わったら面倒臭い代表の宗教問題だ。

 

 海神<巫女、な長老一派。

 海神>巫女、なおじいちゃん。

 

 実際目の前に生きて存在していたから、例の巫女様を信仰対象にした。

 厄介なのはこれ、無意識ってか自覚してねぇってこと。

 

 だから私をその巫女様と同一人物?として見てるから、観光客だって余裕で対応出来ると思ってるし、誘拐なんてされる訳ないと思ってるし、信仰の対象だから(誕生日を)祝おうとした。

 

 …っていう感じ、かな?

 多分だけど。

 

 

 海神信仰を掲げてるのに、その信仰対象を人に…っていうか8歳児にすんなよ。

 我、(一応まだギリ)幼女ぞ??

 

 いやまぁ分厚いフィルターからみたら巫女様(同世代)なんだろうけど。

 

 

 チラッと、蚊帳の外にいるおじさんを見ると、私は関係ありません、ってか関わりたくありません、という強い意志を感じた。

 …うん、知ってた。

 

 

 あー…うん。

 

 とりあえず、さぁ。

 

 

 「長老様は海神を、ルギアを信仰してらっしゃいますか?」

 「な、にを突然…そんな当たり前のことを」

 「じゃあ、私が今死んでも、問題ありませんか?」

 「、は」

 「フルーラ、何を言って…」

 

 

 いやもうさぁ…うん。

 

 めんどくさいんだよねぇ。

 

 

 「だって、海神を信仰してるなら、私が死んでも次の巫女を探せばいいだけですし」

 

 

 そもそもさぁ…

 

 

 「私、巫女になりたかった訳じゃないもん」

 

 

 なのにどうして信仰とか面倒なことにまで巻き込まれないといけないの。

 

 

 「もし長老様方が、今のまま…そうやって目を逸らしてるなら、私、我慢出来ないです」

 

 

 イライラは溜まる一方で、長老達は相変わらずだし。

 

 それに、さぁ…

 

 

 「私は例の巫女様(神様)じゃないから、長老様方の、その、感情?を昇華できませんよ」

 

 

 何かとか誰かとかの代わりで見られるのって、すっごい嫌なんだよね。

 

 

 

 

 

 

 



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きんきんキラキラ夕日は沈んだ

 実在した憧れに夢を見て、幻想を抱いて。

 かつての記憶は、その栄光は、未だ色褪せる事なく輝いているのだろう。

 

 もう、存在してない人なのに。

 

 理想を押し付けるのは間違ってるし、重ね合わせて見られるのは迷惑極まりない。

 同じ存在なんて居る訳がないのに、理解しようとしない、受入れられないのは愚かというより、哀れだと思う。

 

 過去ばかりに目を向けて現在を見れないことになってまで、その面影を追いかけて。

 そんな幻影は、もはや悪夢だろうに。

 

 

 まぁ、だからといって私が救いの手を差し出すことはないんたけど。

 というか救いの手どころか垂らした糸をバツンっと一思いに断つことしか出来ないし。

 

 偶像崇拝の神様に直接手折られるのってどう考えてもSAN値が…ねえ?

 そんなので(邪)神要素ぶっこまれたらそれこそブチギレるわ。

 

 

 私は!ただの!!幼女なので!!!

 

 前の記憶があるからといったってメンタルケアは全くの専門外だし。

 そもそも一応は被害者な私がやる事じゃない。

 

 そもそも巫女に指名される前は普通だったのに、自分達が任命したのに、ほんと…うん。

 …そんなに、似てるのかなぁ?

 

 例の巫女様と血縁関係があると知ったのはついさっき。

 元々ポケモン達に好かれるところとか似てるとは言われていたけど、もしかしたら容姿が似てるっていう意味だったのかもしれない。

 

 でもさぁ…

 …うー。

 うぅーん…

 

 

 「そんな唸ってどうしたのフルーラちゃん。お腹痛い?」

 「いや違いますけど」

 「うん、知ってるよ」

 「むぅ…」

 「ヨウガンさん、そういうとこ直した方がいいと思いますよ?」

 「ははは。まぁまぁ、今のはわざとだから、ね?」

 

 

 一瞬めっちゃイラってしたんですけど。

 煽りスキルもそうだけと、そーいうタイミングを見計らうのが上手いんだよね…

 

 お兄さん、注意してくれるのは有り難いんですけど頭ボサボサになるから雑に撫でないで。

 あとおじさんは何言ってももうダメだと思う。

 

 

 「…はぁ。もう、もう…ほんと…もーーっ!」

 「あははーフルーラちゃん駄々こねてるの可愛いねー」

 「いやー拗ねてるフルーラちゃんはなんだか新鮮だね」

 「おっちゃん達気ぃ逆立てんのうまいな…フルーラも見習いや?」

 「松ちゃん…それなんか違うぅ…」

 

 

 ぎゅーーーっと抱きついて、深呼吸。

 

 ポケ吸いはぐらついた精神の特効薬、はっきり分かんだね。

 

 すぅーーーーはぁーーーー。

 

 

 「だっておじいちゃんが連れて来たくせに、なのに追い出すのはどーかと思います!」

 「それはフルーラちゃんがキレちゃったからだねぇ」

 「えっなにそれ珍しい見たかった」

 「キレてないですぅー怒っただけですぅー!」

 「いやアレはキレとったがな」

 「松ちゃん!!」

 「ぐぇ」

 「こらこらヤドンにあたらないの」

 「ぐぬぬぅー!」

 

 

 私は!怒った!!だけです!!!

 

 キレてたらもっと言いたかったこと言ってたもん!

 ちゃんと自重してたもん!!

 一応気を使って丁寧に言ったもん!!!

 

 …言ってたよね?

 

 

 ぶっすー、とわざとらしく頬を膨らませる。

 ぷすっ、とお兄さんに潰されて空気が漏れる。

 

 膨らます、潰される、膨らます、潰される…

 …を何度か繰り返して、なんだか気が抜けてきた。

 

 いやべつにほんとに拗ねてた訳じゃなくて…

 ただ最後まで居させてくれなかったのが不満なだけで。

 

 何と言うか全力で発散出来なかったのが…なんだろ。

 むかむかする?

 喉元でつっかえてるっていうか…

 言い表せない不快感?

 

 う"ぅーーーー…

 

 

 「くっ…ふ、ふふ」

 「あははは」

 「……なんですか2人して笑って」

 

 

 クスクスと、小さく肩を揺らして笑う2人を半目で睨みつける。

 どうせ威嚇にもならないことは分かりきってるから、態度で不服を示してるだけだけど。

 効果はいまひとつなんでしょーけど。

 ふん。

 

 

 「いやね?なんかフルーラちゃんが幼く見えて、ちょっと安心してるんだよ」

 「ですよねー。フルーラちゃんってば他の子供達と比べると騒がないし…第一成人むかえたトレーナーより大人っぽいっていうか」

 「そうそう。バトルの知識ならエリートトレーナーと遜色ないしねぇ」

 「あーわかります。1人で潜水艦から脱出とか、犯行グループの推察とか…もうベテラントレーナー顔負けだよね」

 「あぁ、それで身バレしたんだってね」

 「ぐふっ…まぁそうなんですけど。そうなんですけどっ!」

 「まぁ君からしてみれば災難だったね」

 「……あははー…はぁ。まぁ、今はそれで良かったと思いますよ」

 

 

 ………?

 ……、…………。

 ………………………うん?

 

 なんだろ。

 なんだろう。

 

 なんか、引っかかった。

 

 なんとなく、なにかが、引っかかったの。

 

 

 「国際的な犯罪組織の手掛かりが掴めたのって、結果的にフルーラちゃんのおかげですし…」

 「まぁそうなんだよねぇ。犯罪組織に誘拐されて…自力で、しかもほぼ無傷で生還したんだってね。僕でも出来るかどうか」

 「そーなんですよぉ!しかも!手持ちのポケモンはヤドン一体!!つい数十分前に捕まえたポケモンで!ですよ?!」

 「海のポケモン達が加勢してくれてたって聞いたけど」

 「あれは壮観でしたね。普段深海にいるポケモンとか、縄張り争いしてるポケモン達がこぞって勢ぞろいして海面からこっち見てるんですよ。怖かった…」

 「…フルーラちゃんはヤドンに運ばれてたんだろう?」

 「護衛とばかりにギャラドスとか一目で高レベルだとわかるポケモン達を侍らせてましたよ」

 「……それは、すごいね」

 

 

 あの日の、ことだ。

 私が気絶してた時のこと。

 

 詳しく聞いたことのなかった、話。

 

 

 「あぁそれに、フルーラちゃんはポケモンの育成方針を立てるのが上手いんだよねぇ…僕がジムリーダーだったらジムトレーナーとして囲ってたよ」

 「あーーー…グリーンくん、結構あからさまに唾付けしてましたねぇ」

 「指導だけならまぁ、先輩としての対応だって終われたけど…わざマシンは…ねぇ」

 「ですねぇ」

 

 

 裏話。

 

 気にとめてなかった、善意と流したこと。

 

 本人がどう思ってたのかは他所に、周りがそう受け取ってしまう、出来事。

 

 

 …私が、私として、自由に、思ったままに、動いてたこと。

 

 

 例の巫女様に、似てるからとか、そうじゃなくて。

 

 

 私のやったことが、長老様達の思考を、加速させた…?

 例の巫女様の再来だと思われるような事を、私は既にしていた…?

 

 えっ…

 

 …え?

 

 

 私のしたことって、そんなに、おじさんも、お兄さんも、驚くようなこと、だったの?

 

 私が不貞腐れただけで、幼く見えるって…

 

 年不相応なのは、認めるけど…

 

 

 「私、そんなすごい人じゃ、ないです」

 

 

 ぽつりと溢れたのは、紛れもない本心。

 

 きょとんと瞬いた二対の瞳は、優しい眼差しで。

 

 でも、ちょっと、真剣な顔つきで。

 

 

 「自覚してなかったのは、私、ですか?」

 

 

 訊ねるように聞いたけど、これは確信だった。

 

 

 「あははー…分かっちゃった?」

 「んー…察しが良すぎるのも、隠せたらいいかなぁ」

 「…気をつけます」

 

 

 わざと。

 

 わざとだ。

 

 私が例の巫女様と混同視されてると、きっともっと前から知ってたから。

 

 だから、こんな風に、まるでおだてるみたいな会話をして。

 分かりやすく教えてくれた。

 

 でも。

 でも、さ…

 

 

 「おじさんもお兄さんも、優しくないぃいいぃー!」

 

 

 私が年不相応に、まるで大人のように対応するから、長老一派が暴走してるんだよ、と。

 例の巫女様のような偉業を既にしてるから、控えるようにって。

 

 遠回しに言わなくたっていいじゃん!

 

 

 わかったもん!

 

 もうちゃんと理解したから!!

 

 

 頑張って年相応の態度?とればいいんでしょ!!!?

 

 

 

 

 



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威張る煽てる怪しい光フラフラダンス爆裂パンチ

 「うがーーーーっ!」

 

 

 咆哮。

 というか絶叫。

 

 鬱憤を吐き出すように大声で叫ぶ。

 

 うん、少しだけスッキリした。

 少しだけねっ!

 

 

 「あははー。落ち着こうねーフルーラちゃん」

 「お兄さんさんのおにちく!おじさんもだけどやっぱ優しくない!!知ってたけど!優しくない!!」

 「おやー?そんな悪口いうのはどの口かなー?」

 「いひゃいいひゃいいひゃい!!いひゃいっへばぁ!!」

 「あははははー何言ってるか分からないなー」

 「二人共楽しそうだねぇ」

 「ひゃにょひふひゃいーー!!」

 

 

 遊ばれイジられ憤慨するけど、暖簾に腕押し、糠に釘。

 むしろ微笑ましいとばかりに掌でコロコロ転がされて加速する。

 

 ただいまお兄さんから絶賛指導され中。

 前々から、というかワタルさんから()()()()()()()()()と言われてから行われているお兄さんからの手解き。

 それは如何に()()()()()に特化した技術。

 

 人の多い都市、自然豊かな田舎、或いはビジネス街、港などの交通機関都市。

 そこに居ても()()()()()()()歩行速度の合わせ方、周囲に合わせた服の着こなし方、地方や一部の方言の話し方。

 

 または歩きながら、会話しながら、飲食しながら、バトルしながら。

 周囲の人の観察の仕方、見られているかを察知する技法、そして気配の探り方。

 

 

 習うより慣れろとばかりに、島民や観光客に紛れたお兄さんを見つけ出す日々を送っていた。

 今では一応バトル中でもお兄さんを察知できるくらいにはなった。

 

 一年の月日は偉大である。

 だがしかし、だ。

 

 そこに、今度は()()()()()()()()()()()というタスクが加わった。

 これが非常に厄介。

 

 周囲に溶け込みながら、視線や気配を察知しつつ、自分は無害な子供ですという演技(アピール)

 これにバトルしながら、となるとマルチタスクがすぎて処理能力が完全に追いつかない。

 

 もともと周囲周辺の気配やら反応やら、そういうのを察知するのは結構得意な方だと思ってる。

 伊達にエスパータイプと相性が良い訳ではないので。

 

 でもね、だけどね。

 演技とか、そんなスキルは持ち合わせてないんだよ。

 

 

 あー!あーーっ!

 もうっ!!

 同い年の子ってどういう感じなの?!

 目上の人には敬語じゃダメなの!?

 ダメだからこうなってるの知ってるけど!!

 丁寧すぎるって何?!

 口調いず何?!

 

 あとバトルの拙さってどうしたらいいの!?

 うちの子達全力バトルしか出来ないんだけど!!

 頑張って低レベル技で戦ったのにダメ出しされたのほんと解せない!!

 すなかけ→しっぽをふる→でんこうせっかの何がダメなの?!

 

 

 ぶすくれながらお兄さんから手渡されたキュートなポケモン、いつしか撫でた個体より柔い茶色の体を抱きしめる。

 

 

 「えぶぃっ…」

 「うぅ…不服そうな顔もかわいい…でもお願いちょっとまって癒して…もう無理ぃ…」

 「ぶーぃー…」

 

 

 仕方ねぇなこいつ…

 

 みたいな視線を貰いつつももふもふするのを止めない止められない…

 

 だって酷評がすぎるんだもん、少しくらい拗ねたっていいじゃん?

 拗ねるのだってきっと年相応だよ…うん。

 

 

 「んー…もうバトルの拙さについては諦めた方がいいんじゃないかな?野良バトルで有名になる前に別人になっちゃえばいいんだし…」

 「いやぁー…それがフルーラちゃんが変装出来るのってバトルが鬼強い男の子か、バトルが異様に強い女の子の二択ですし…」

 「フルーラちゃん…」

 「そんな残念な生き物を見る目しないでくださいー!」

 

 

 だってトゲチックもミニリュウも手加減ナニソレ美味しいの??って本気で技出すんだもん仕方ないじゃんか!

 技の指示は聞いてくれるけど!

 威力が!エグいの!!

 

 なお松ちゃんはトリックルーム要員なので。

 いやちゃんと手加減はしてくれるよ?

 してくれてはいるんだけど、手持ちの中で一番レベルが高いので…

 当ポケが意図せずにワンパンキルしちゃうから…

 

 あと皆急所率高いし。

 

 

 「せめてジムトレーナーくらいの強さなら…まぁ、それなりに居なくはないから…目標は、そこ、かなぁ…」

 「んー。まぁ今のだとどうフォローしても駆け出しのトレーナーとは言えないからねぇ」

 「だから何がダメなんですかぁ…」

 「「技の選び方」」

 「うわぁああぁぁん!!」

 

 

 どうダメなのか教えてよぉおぉぉ!!

 

 

 そんなこんなで。

 

 とりあえず、他に誤魔化す方法もないから、と。

 レベル低い子を手持ちに入れておこう。

 という話になって、件のイーブイくんが手持ちに加わった。

 

 親はお兄さんなので、自分の技量以上のレベルになったら言う事を聞かなくなるし…

 指示を聞かないポケモン持ってたら上手くバトル出来るハズもないし…

 

 と、いう、話、だった。

 けど、これは、予想外にもほどがある。

 

 

 貰ったイーブイが、次の日エーフィになってた。

 

 

 これにはお兄さんもびっくり。

 おじさんもびっくり。

 なんなら私もびっくりしてる。

 

 えーー…

 いや、えぇー…

 なんでぇ…?

 

 なんというか、もう、困惑するしかない。

 

 だって起きた時はイーブイだった。

 朝ご飯たべてる時もまだイーブイだった。

 ブラッシングしながらおじさんとお兄さんを待ってる時もまだちゃんとイーブイだった。

 だがしかし。

 来訪を知らせるベルが鳴り、二人を出迎えて、そう。

 

 振り返ったら、エーフィだった。

 

 いや、え?

 マ??

 進化の瞬間見れてないんだが???

 てかなつき進化だよね??

 そんなに好いてくれてたの???

 ありがとうね????

 

 ところでいつ条件満たしたの??

 昨日の今日で進化って嘘すぎない???

 

 

 全員揃ってスペースニャース顔を晒した。

 

 

 おじさんはカントーでは滅多に見られないその進化した姿に驚いて。

 お兄さんは渡した次の日に進化をしたことに驚いて。

 

 そして。

 

 このエーフィ、物凄く、バトル上手い。

 というか演技上手。

 

 全力でバトルしてるように()()()のが、うまいのだ。

 

 見掛け倒しの技…というか、視覚で見える効果より技の威力が低い…みたいな?

 あっアレだ、()え。

 え?違う??

 

 あとエスパー単一タイプだからか、意思の疎通がものすごくやりやすく滞りない。

 指示の意図を察して…読み取ってくれるし、なによりバトルジャンキーじゃない。

 素直に嬉しい。

 

 松ちゃんとジャンキー達とも仲良く過ごしてくれてるし、非の打ち所のない名役者。

 

 しかも。

 

 しかも、だ。

 

 散歩している時に連れ歩くと、不審者をいち早く察知してくれるし。

 階段や段差がある所を通るときはサッと寄って来てくれるし。

 人とすれ違う時は間に入って物理的に距離を取らせて接触しないようにしてくれる。

 

 え、スパダリすぎん…?

 

 松ちゃんと出歩く時は歩行ペースはのんびりまったり時々要介護だし…

 ピー助と出歩く時はガッチリ抱えて周囲にポケモンが居ないか気を張るし…

 ミニリュウ(椿さん)はだいたいポケモン目掛けて突進するのを追いかけてるだけだし…

 

 えっ良い子すぎません…? 

 

 サポートが余りにも過不足なくさり気なくやってくれるのでもう、もう…ダメ人間になりそう。

 いやね、おかげで子供っぽく振る舞うのに多少の余裕ができた訳だけども…

 ところでバトルの指示、いる…?

 

 あ、はい、ちゃんと指示出します。

 手を抜くのはいけませんね、はい。

 

 

 そんな新たな仲間(保護者)が手持ちに加わり数日。

 

 エーフィことシミズさんを引き連れての朝食の風景に違和感。

 というか普段より圧倒的に豪華なそれに持ちポケ一同キョトン。

 悪意に敏感な子達故に、こういうプラスの…サプライズとかに若干疎いのか知らなかったもよう。

 

 かく言う私もお姉ちゃんも心当たりなどないのでキョトン。

 

 そんな私達を見て、豪華なそれらを作り上げたお母さんから一言。

 

 

 「お父さんが長老になったのよ」

 「へっ?」

 「ファッ?!」

 

 

 え?

 いや、え?

 まって?

 いつの間にそんなことになってたの…?

 

 わけがわからないよ…

 

 

 

 

 

 






等身大ヤドンぬいぐるみ……




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溢れる思い抱える前に言葉にする

 はめられた。

 いや別に悪い意味ではないけど。

 なんなら仲間外れにされた、が正しい表現だとも思うけど。

 

 でもさ、けどさ、いやさ。

 予感っていうか予想っていうか察してはいたよ。

 

 だからってさぁー…

 

 

 「つまりおじさんもお兄さんも共犯だった訳ですね。というかお兄さんが計画しました?」

 「あははー…正解」

 「ならおじさんはこの島で根回ししてたと推測しますが実際は?」

 「うん、当たってるね」

 「ワタルさんも一枚噛んでるとみた」

 「それはほら、僕の上司だもの…一応報告しないとね?」

 「そして私がヘッタクソな演技してるのが元長老様方へのヘイト値…反感集めに役立った訳ですか」

 「あはー…よく気付いたねー」

 「なんか企ててるような感じはあったので。ただ気付いたっていうよりお兄さんならやりそうだな、みたいな推測です」

 「ぁー…これは、信頼されてる…?」

 「国際警察として自分の性格を把握されるのは不味いと思うよ?」

 「あははー……ですよね…」

 

 

 餌にされて、そして蚊帳の外にされると、なんか腹立たしいっていうかムカムカするというか…

 安心して下さい、八つ当たりはしませんので。

 怒ってるわけでもないので。

 

 ていうかさぁー…

 

 

 「祖父を見つけ出すのに約一年…同時進行で島民の方々と顔合わせて情報収集…何かしら事件が起きないよう監視して…不平不満を募らせつつ暴動が起きないよう宥めて…不穏な意思の誘導もといコントロール…そして必要な駒が揃ったから玉首の挿げ替え」

 「「……」」

 「悪の組織か何かです?」

 「それは言い過ぎじゃないかな?!」

 「え?」

 

 

 どこが??

 

 

 恐ろしいのはこれがリーグのご意向っていう。

 しかも完全なる善意というか平和秩序の為。

 

 でもやってることがとても犯罪的。

 だってこれクーデターみたいなもんじゃん…?

 暴力や武力に頼ってはないけど権力には頼ってる怒涛の政権交代…

 

 まぁ島民の方々が納得してのことだしいいか。

 行われたのは多分世間話(扇動)であって、説得(物理)じゃなかったと一応は信じてるから。

 …いや説得(バトル)ならありえるのか?

 

 ………。

 …うん、気にしないでおこう。

 

 

 「っていうかよく見つけられましたね。私なんて祖父が存命なことすら知らなかったのに…」

 「いやぁ実はそこまで見つけるのは大変じゃなかったみたいだよ?」

 「そうなんですか?」

 「蜜に引き寄せられてたとこを確保した、って言えば分かるかな」

 「あははー確かにー。強烈な甘い蜜ですもんねー」

 「…みつ」

 

 

 うん?

 もしかして…

 

 

 「巫女の噂を聞いて、駆けつけたとこを、リーグの人に捕まった?」

 「大正解ー!」

 「事情を説明したらすぐに協力してくれると言ってくれたそうだよ」

 「…そうだったんですか」

 

 

 噂を垂れ流しにした元長老達は、その所業で己の首を締めた訳か。

 

 ちゃんと口止めして秘密にしておけば、その座から引き摺り墜とされることもなかったのに。

 と。

 甘い香りじゃなくて甘い蜜って例える辺り、お兄さんもなかなか…いや、元はおじさんの例えか。

 今日もエッジがきいた皮肉ですね…

 

 

 「でも良かったねフルーラちゃん」

 「なにがですか?」

 「えっだってこれで旅に出れるでしょ?」

 「えっ?」

 「え?」

 「きみ…もしかしなくても説明してないね?」

 「あははー…いや、ヨウガンさんも同罪では…?」

 「過失のなすり付け合いしないでください」

 

 

 そんなことするより早く説明プリーズ。

 

 

 まぁ、とどのつまり。

 

 リーグは初めから長老一派を不要と見なしていたということ。

 それはリーグ責任者としてワタルさんが来訪するより前に下された決断で、だからこそ確実にトップをすげ替える為に既に計画は動いていた。

 

 だから私に、巫女に、ポケモンを持たせることも、将来的に旅に出られるという言葉も言えた。

 

 ()()()()()()()()はあったものの、()()()()()()()国際警察の協力を得ることが出来たし、新たなトップを探す手間も省けたことにより、想定より早く計画を実行するに至っただけで、もとより決まっていたこと。

 

 なのだとか。

 

 

 そもそもの大前提として。

 伝説のポケモンに目をかけられた存在に、()をつける事なんて出来る訳がない。

 

 何故なら、それこそ最大の理由になるのだから。

 

 カントー地方のオレンジ諸島が最果ての島たるアーシア島、田舎も田舎で辺鄙な秘境。

 そんな過疎も少子高齢化も進んでいる小さな島に何故こんなにも力を注ぐのか、という最大の理由。

 

 それは海神として信仰されてるルギアだけでなく、サンダー、ファイヤー、フリーザーの三鳥も伝説とされているポケモンで。

 なによりも、確認されている伝説のポケモンの内、その所在している場所が明確なのは、それだけで保護する価値が跳ね上がる。

 

 治安の維持だけでなく、()()()()として。

 

 

 つまりは、そう。

 

 

 巫女の生死はまず置いておいて、目を掛けている巫女の自由意志を阻害したら、伝説のポケモンが怒らないとでも?

 

 という声が、リーグでは早々に上がっていた訳だ。

 

 

 

 ……。

 ……うん。

 ………あのさ。

 

 

 「はじめっから掌の上だったとか、こわっ!!!」

 

 

 初対面の時なんかちょっと含みある笑顔だなぁとか思ってたけど、ワタルさん、ほんと、イイ性格してるね!?

 今まで気付いてなかったのがほんと怖いんだけど!

 

 ねぇちょっと!

 お兄さんも!おじさんも!

 なんでそんなに笑ってるのかな?!

 

 

 

 



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名前も顔も知らない誰かが

 長老が祖父に代わり、早数ヶ月。

 とても平和である。

 

 観光客は常時人数規制をかけられ、島民の親類外が長期滞在する場合は事前申請が必要になり、それに伴い観光客が宿泊する専用の施設が新たに作られた。

 また島の要所を案内する役職を作り、雷の島・火の島・氷の島へボートで巡るツアーや、玉を奉納する祭壇の見学できるツアーなども作られた。

 

 表向きは観光客(お客様)のおもてなし。

 実際は観光客(不穏分子)の監視と隔離。

 

 ()()として来ているからこそ、島の公的ツアーに参加しない()はとても目立つので、これが防犯にとても効果的だった。

 またツアーにすることで移動する道や人の波を一定に出来たのも大きな利点で、移動時間を管理し把握することで子供だけでも遊べるようになった。

 

 いや、本当にとても快適。

 

 周辺に暮らしているポケモン達も落ち着いた雰囲気になりつつある島に安心しているみたいだし。

 出合い頭バトルを仕掛けてくる観光客が多少なりとも居たことを知ってる身としてはホッと一安心。

 

 …え?ブーメラン?

 ナ、ナンノコトカナー??

 

 なお、これらの施策は祖父が長老となって早々に取り決め実行されたもの。

 まぁお察しの通り仕込み元はリーグの方々で、なんなら事務処理系やらの他にも色々叩き込んでいるという徹底ぶり。

 そのおかげで元一般民ながらも仕事等がしっかりできる長老になっている。

 

 と、それは置いておいて。

 

 

 「ねぇ松ちゃん」

 「なんや」

 「コレ…どういうこと?」

 「どうもなにもあらへんやろ」

 「いや、でもさぁ…」

 「やって見たまんまやん」

 「そうだけどぉ…」

 

 

 松ちゃんとのんびり散歩をして帰ってきたらなんか、あった。

 リビングに、ドーン、と。

 

 

 「これ、きのみブレンダーだよね?…え??我が家はコンテスト会場だった…??」

 

 

 なんでここにあるの???

 

 

 何度目を擦ってみても、個人的に懐かしく感じてしまう、青色のちょっと大きな機械が鎮座している。

 いや、どゆこと??

 

 圧倒的存在感をもつそれを視界から追い出しつつ、お姉ちゃんから手渡された紙を読む。

 うん。

 

 

 いやこれトリセツーー!

 

 

 あっ、これデボン製品なんだ。

 へぇー…っじゃないんだよ!

 いやもうハウトゥ知ってるんだわ!

 ゲーム版もアニメ版も履修済!!

 うっ懐かしのコンディション255ミロカロスたんマスター無双の記憶が…!

 なめらか計算式凡ミスして自爆した過去なんてないったらないんだからね!!

 そしてキットじゃない辺り今現在は(オメガ)(アルファ)でないとみた!

 そーいやすごいにじいろポロック量産したなー!

 

 って!!

 だから!!!

 そうじゃなくってぇ!!

 

 

 「どーしてここにあるのかなー?!」

 「しらんがな」

 

 

 ほんとにな!!

 

 

 宅配便を受け取ったお姉ちゃん曰く。

 差出人は滲んで読めず、けれど宛先名はギリ私だと分かる擦れ具合。

 付いてたメッセージカードには祝辞となぜか御礼の言葉、出来たら先にコッチを渡して欲しかった気がしなくもない。

 さらにはコレで作るといいよ、と配慮されたきのみ類は大量で、各種取り揃えてありますみたいなラインナップ。

 

 

 「んー……よし!」

 

 

 パチンッと頬を軽く叩いて切り替える。

 なした?と首を傾げる松ちゃんにとりあえずニッコリ笑顔を向ける。

 

 なにはともあれ、だ。

 

 

 「お兄さんとおじさん呼んで、レッツきのみブレンダー!」

 「なんや捻りのない掛け声やな」

 

 

 ちょっと松ちゃん、本家ポロックガチ勢じーさんに謝って??

 

 

 そんな訳で。

 

 

 ガチャンガチャンッと現役ポケモントレーナーの動体視力を駆使したクリティカル連打で出来た大量のポロックがこちら。

 とってもカラフル。

 ポケモン達はそれぞれ好きな味をもしゃもしゃしてる、かわいい。

 ピー助は楽しそうにジェ○ガしてる、かわいい。

 シミズさんはそれを見守りながらねんりきでサポートしてる、かわいい。

 みんなかわいい、とても眼福。

 

 ちなみにポロックはコンディションを整えるお菓子であって、ステータスマックスにしたらもう食べれないなんてことにはならない。

 そりゃそうだ。

 だって食べたら出るのが自然の摂理、出たなら食べれるのもまた当然の理ってね。

 元はきのみなんだから、栄養分を身体に取り込んでも蓄積され続ける訳がないってこと。

 

 ただ食べて数日の間は毛艶が良くなったり筋肉が付きやすくなったり…という効果はある。

 コンテストに出るトレーナーはポロック含めた食事管理を調整することでベストコンディションを作って大会に臨んでいるのだとか。

 

 トリセツにそんなことも書いてあった。

 

 なお人間が食べれる用のレシピも載ってたが基本的にポロックはきのみを砕いて濃縮(圧縮?)した製品だからか筋肉は正義(身体が資本)な職業の人か筋肉強火担(ボディビルダー)な人くらいしか進んで食べないお味だった。

 …興味本位で作った結果、3人それぞれ悶え苦しんだので本当に気をつけて欲しい。

 

 後日お兄さんが調べたレシピは普通におやつとして食べれたので、しばらく改造・改良・大生産して島の人達に配りまくった。

 トリセツェ…効果が高いヤツじゃなくて美味いヤツ載せておいてくれよぉ…

 

 ちなみに残り一枠の席はお兄さんのポケモンであるルカリオニキがオールクリティカルをキメてくれたので、ポロック自体の出来は素晴らしいモノだった。

 いじっぱりな性格で、力こそパワーを体現してるルカリオニキは、当ポケたっての希望で作ったオールマトマの実ポロックを至福の顔でもしゃもしゃしてる。

 ポケモンってすごい。(小並感)

 

 

 ところでさ。

 勢いに任せて大量生産しといてアレなんだけどさ。

 

 結局このきのみブレンダー、一体何処の何方がくれたんです???

 

 メッセージカードにあった祝の言葉から察するに誕生日プレゼント兼ねてるらしいけど、私の誕生日まだちょっと先なんですが?

 あとめちゃくそ丁寧にまるで例文みたいに御礼というか感謝の言葉が書いてあったけど、私なんかしました??

 全く記憶にないんですけど…

 

 

 ………ま、いっか。

 

 貰えるものは貰っておこう。

 

 松ちゃん達も嬉しそうに食べてることだしね…!

 

 

 

 

 

 



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気合いなら負けない

 はいたいでぃーさい!そんなこんなで9歳になりましたよっとね!!

 

 特に事件や面倒事は起こってないけど、例のきのみブレンダーをガチャンガチャンと余りにも延々と叩きまくった所為で騒がしい!とキレたお母さんから週に1日きのみブレンダー曜日を作られた。

 

 いやまぁその、ごめんなさい。

 負けず嫌い(ポケモントレーナー)が揃うとオールクリティカルで出来が良いから楽しくてだね…

 あとポロック食べるうちの子達がかわいいから…

 それにお姉ちゃんも一緒にやれる遊びって少ないし…

 正にやめられないとまらない、ってやつ。

 

 そしてポロックを配りすぎた所為か、なんと島の農家さんがきのみをめっちゃくれるようになった。

 きのみ貰ってはポロック作って配っては貰ってのループが出来たんだけどこれ如何に。

 

 まぁきのみは食用として重宝しているので有り難いんですよ…

 見た目ちょっとアレなやつでもポロックにしちゃえば気にならないし…

 なんならポロックにしたら多少の期間保存出来るし…

 それにポケモンが増えた分だけ食費が嵩んでたので…

 

 いやね?

 リーグから手当?保証?としていくらか補助して貰ってるみたいなんだけど、使うの怖くて殆ど手を付けてないんだとか。

 おじさんが遠慮なく使いきっちゃえばいいのに、と言ってたけど、一般民にそんな度胸ないから。

 ポケフーズなるモノは一応通販で定期購入してるし、それと回復薬類の代金はそこから出してるけど、それこそ常識の範囲内。

 あとで返済してね!とか言われるんじゃないかって戦々恐々してるお母さんの心情はお察しする所ではあるんだけど、多分おそらく、それ返済するの将来の私なので…

 あるいは将来のお給料から天引きされてるとか…かな。

 

 

 まぁそこら辺は置いといて。

 

 

 嬉しいことが一つ。

 

 なんと!

 オレンジ諸島内を自由に行き来することが出来るようになりました!

 いえーい!どんぱふー!!

 

 まぁ、おじさんかお兄さんと一緒っていう条件付きだけど。

 旅に出るまであと一年だから、多少の慣れが必要だろうという理由だけど。

 私以外の子達はだいたい親と一緒に行き来してたけど、私はダメだったので。

 だから行動範囲が広がったのはとっても嬉しい。

 

 今までは近場の小島とか、遠出の許可が出たとしても奉ってる三島くらいしか行ったことないから余計に。

 色々と致し方なかったとは言っても、正直羨ましかったんだよね。

 

 

 ちなみに嬉々として同伴するのはお兄さん。

 

 この島の人達に紛れてみよう!とか。

 全力で潜むから一時間で見つけてね!とか。

 慣れない場所でも素早く変装出来るようにしよう!とか。

 相手に合わせたバトルを実践してみよう!とか。

 

 今まで習った諸々を実際にやる日々である。

 

 楽しいっちゃ楽しいんだけどね?

 観光とか散策とか食べ歩きとか、したいじゃん??

 実施試験しながらだと楽しむの度合いが変わるじゃんね???

 

 まぁいいけど。

 

 ハッサク島に連れてって貰った時は普通に海水浴したし。

 松ちゃんと椿さんとの水遊び楽しかったし。

 ピー助とシミズさんはパラソル警備員してくれたし。

 まぁ他の海水浴客にバトルふっかけようとしなければ最高だったんだけどねっ!

 

 そういえばなんか見覚えのあるなんかすっげぇハイレグ?な水着きたお姉さん居たんだよね。

 遠目でチラッと見ただけでお話しとかしてないし、きっと向こうはこっちに気づいてないと思うけど。

 あれは一体なにキド博士なんだろーねー?

 眼鏡な三つ子さん見当たらないからもしかして別人だったりします?

 

 まぁ帰って即おじさんにお兄さんの鼻の下が伸びてたことを報告したらシバかれてたのはおもし…ゆか……大変そうだったなって!

 そんな感じ。

 

 

 「それでお兄さん、今日はどこ向かってるんですか?」

 「ザボン島だよ」

 「ザボン島…もしかして、きのみ目的ですか?」

 「そう、きのみ」

 

 

 お兄さん、キメ顔で言ったって格好良くないですよ。

 というかなんでキリッてした?

 

 でも…ふむ。

 気にならないと言ったら嘘になる。

 だってザボン島の名物であるザボンの実は、ゲームにはない実だから。

 パッと見ジャガ芋?梨?みたいな色だったような覚えがあるけど…あってる??

 でも皮が名産なのは知ってる。

 だって食べたことあるし、ザボンの実の皮の砂糖漬け。

 あれほんと美味しい。

 じゅるり。

 

 

 そんなこんなでザボン島に到着。

 ちなみに第3の島ね、一番大きい島。

 ザボンの実を管理する事務所や倉庫がある島だから、まぁ当然なのだけど。

 

 で、どこから連絡をとったのか…

 あるいは知り合ったのか…

 まぁ多少気になることはあるものの、紹介されたのは農園管理者のナナさん。

 

 はい、知ってるー!カビゴン回の人ー!

 サトシ君たちを泥棒だと思って棍棒で襲った人ー!

 思ったよりお若いですね!

 

 まぁアポとってたし、例の腹ペコカビゴンは今居ないから勘違いする要素もないしで、とっても穏和にお話し出来た。

 

 で、だ。

 

 

 「新たな名産品になるような配合…ですか」

 「そうよ。ポロックはきのみを4個使ってつくるお菓子って聞いたわ。それでザボンの実を2個は使ってほしいの」

 「…なるほど?」

 

 

 お兄さん、ポロックの配合レシピ作るからという交渉でもってきのみを貰い受ける契約を持ちかけたな?

 …けどまぁ、うん。

 

 

 「とりあえず何個か試作してみてます」

 「ありがとう!楽しみにしてるわね!」

 「あっはい」

 

 

 いや勢い強っ。

 そしてお兄さんはなに笑ってるのかな??

 

 

 「実はきのみブレンダーを購入してみようって話は出たのよ、でもね、ちょっとお値段的に買えそうになくって…だからこの話は本当に渡りに船だったわ」

 「…あの、今更ながら交渉相手が私で問題ないんですか?」

 「え。だって貴女、アーシア島の長のお孫さんでしょ?」

 「あ、はい」

 「アーシア島にきのみブレンダーを持ってる人がいるって聞いた時は疑問に思ったけど、最近観光客も多くなって活気付いて来てるんでしょう?だからアーシア島も名産品を作ることになって、それで作るならオレンジ諸島の特産を使おうとしてって、聞いたんだけど…」

 「…あっ、はい、あってます。大丈夫です」

 「そう?なら、これからよろしくね!」

 「………はい」

 

 

 ねぇお兄さん、これ、どゆことかな???

 

 え?

 島でポロックが流行った所為でもある?

 観光客の方々が島の子供達が食べてるカントーでは珍しいお菓子が気になってちょっと噂になってるって??

 

 しかも島の名産が欲しくて悩んでたのも本当のことで、それなら、とお父さんが長老に提案した、と。

 

 ……ほう。

 ふーん、へぇ、そう。

 

 お母さんも、リーグからの支給金を使うよりはってことで、島で稼げるようにしたかったと…

 

 ねぇ。

 なんで私はその話聞いてないのかなー?!

 

 いやまぁね?

 リアルで配合試すの楽しいから別にそこはいいんだけどさぁ!

 遊びの延長で作ってるから試作品とか別にいいんだけどさぁ!!

 でもさぁ!

 

 …え?

 あ、はい。

 

 きのみブレンダー作動させる電気代支払ってるのお母さん達だもんね!

 そこつかれたら口閉じるしかないじゃん!

 でもさ!

 

 

 「特産品になるような味って、オールクリティカル必須じゃん???」

 

 

 ポロックのなめらか度低いとマジ食えたもんじゃねーからな??!!

 

 まずはポロック専用職人作ろうよ!!

 

 

 

 

 

 

 



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オッケー!(大丈夫とは言ってない)

 先日のポロックに合わせるきのみ選別が終わって一段落、本日は雲一つない晴天なり。

 何種類か作った試作品を同品質で作れるようにポロック職人見繕って特訓(量産)の日々もキリがついたので一安心、あー日差し眩しい…

 ちなみにきのみブレンダーはこれからも日々使用することを考えてリビングから島の集会所へ移動させた。

 

 そうして今日はタンカン島に来ている。

 

 起きて早々な私と姉は無駄に元気な祖父に連れられ、あれよこれよと船に乗せられ約4時間、慣れもあるけど無駄に整ってるキャビンのおかげで船酔いは無いものの突然の強行に怒るよりも呆れ果てていた。

 曰く、今日を逃すと次は来年まで待たねばならないらしい。

 

 せめて前日に何か言ってよと姉はぼやいた。

 私は聞こえるよう盛大に舌打ちしてやった。

 しょげたじじぃなんぞしらん。

 

 タンカン島に行くことは前々から聞いてたけど今日だとは聞いてないので致し方ない。

 しかも起きてすぐ出発とかどアホでいらっしゃる?

 ホウレンソウしっかりしてくれ?

 素でちょっと抜けてるとこあるのは察してたけど悪化するからテンパるな。

 

 そして余りに突発的なことだった為、早朝日向ぼっこしてた松ちゃんとサンパワーの補充中だったシミズさんを置いてきてしまった。

 なのでバトルジャンキー2匹が本日のメンバーです。

 

 ストッパー不在怖いよぉ…

 

 ちなみに本日のお供はおじさんです。

 上陸したものの未だにバケツとお友達になってる。

 どうりで他の島に行く時同伴しない訳だよ…

 

 ポケモンライドは酔わないけど長時間乗り物に揺られるのはダメらしい。

 一瞬どこの滅○魔○士かなと思った私は悪くないと思う。

 

 そして祖父から友人だと紹介されたポケモンウォッチャーのミドリカワさんと共に昼食をとり、お腹を満たしてちょっと歓談。

 どうやら私達が連れて来られたのはお手伝いを兼ねているらしい。

 饒舌に話すミドリカワさんと、それを興味深そうに聞いてる姉には悪いがちょっと待って欲しい。

 

 私、ちゃんと覚えてるぞ、この島のこと。

 だって、ミドリカワさんが、さっきからペラペラ喋ってること、めっちゃ聞き覚えある。

 

 ポケモンウォッチャーであるミドリカワさんが、長年観察し続けている、そのポケモン。

 

 

 コイキング。

 

 

 この島の中央にある湖で産卵し、孵り、海に行き、そして一年後に戻ってくるコイキング達。

 そのコイキング達が川を上り、滝を上り、湖に到達する日が今日なのだとか。

 

 私は察した。

 祖父が、私達に見せたいモノを。

 

 頼りのおじさんは、昼食も食べれず瀕死の状態だったので、復活したら合流ということになった。

 一応の保険としてガラガラをつけてくれたけど、今回は立地含めて相性が悪いから正直頼りにくい…

 居ないよりマシだけど。

 

 まぁそんな訳で、私達はコイキング達が何匹滝を登ったか数えるというお手伝いをすることになった。

 

 んー…これはアニメとは違う展開…

 まぁケンジくん居ないし、そうなるか…

 

 詳しく思い出そうとして、ふとよぎる、眩い閃光。

 そろそろ上がってくる頃だと、そう聞いて、背筋に悪寒が走った。

 

 いや、うん、大丈夫。

 だって、ムサコニャ居ないし…!

 

 ピー助と椿さんも居るし、とりあえず問題ない。

 と思いたい。

 

 

 ーーーーービチビチビチビチィ!

 

 

 そうこうして勢い良く飛び跳ねて来た、オレンジの体躯をもった、ポケモン。

 まごうことなく、コイキングだ。

 

 しかしながら、その数がエグい。

 川の色がもはやオレンジ一色で、しかも激しく跳ねながら登るから本来の水の色がわからないくらい。

 

 リアルで見ると、物凄い迫力。

 というか、数の暴力。

 

 この全てが滝を登ろうとしてる訳だ。

 そして滝を登りきった個体が進化する…

 多分スパトレみたいなもんかな。

 たきのぼりがあったら一発だけど、コイキングはわざマシンもひでんマシンも使えないもんね…

 

 息つく暇もなく登っては弾かれ落ちまた登るのを繰り返すその姿をひたすら観察。

 必死に食らいつくように全力で滝に向かうコイキング達に、ちょっとテンションが上がってきた。

 

 声は出さないけども思わず応援して、登りきった個体があると嬉しくもあって、感動的だった。

 

 だって、あのコイキングだよ?

 はねるしか持ち技がない、コイキングだよ?

 すごくない??

 しかもコイキングって、個体にもよるけど10㎏あるんだよ…?

 それが滝登りしてるって、すごくない?

 

 

 そんなこんなで全ての滝登りが終わる頃には既に夕暮れ時。

 あとは湖に潜ってるコイキング達が進化するだけである。

 

 そわそわと私達の反応伺ってる祖父には悪いけど、この回は見たから知ってるんだよね…

 おそらくシミズさんの進化見れなくてショック受けてた私を元気付けようと思っての今日連れて来てくれたんだろうけど、見たかったのは自分の子達の進化であって、こーいうことじゃないんだよねーー…

 

 

 そうして始まった進化の光景は、壮観だった。

 

 次々と白く眩く発光し、肥大し、そして夕闇に馴染む青色の姿になる。

 進化の光は湖に反射し輝いて、現れた青色を照らしては消えて、儚くもあって。

 

 …うん。

 キレイ。

 

 素直に見れて良かったと思えた。

 

 

 が。

 その瞬間、ゾクリ、と背筋が凍る感覚がした。

 

 

 「お、お姉ちゃん…」

 「どうしたの?」

 「…にげよう」

 「へ?」

 

 

 袖を引っ張り、意識を傾かせてくれた姉に、告げる。

 

 

 「なんか…嫌な予感がする…」

 

 

 どういうこと?と続けたらしいその声は、祖父の野太い破裂音でかき消えた。

 

 

 「ぶぇーーーくしょんっ!!」

 

 

 お ま え な に し て く れ と ん の じゃ ?!

 

 

 慌てて祖父の口を押さえるミドリカワさん。

 だがしかし、手遅れである。

 

 だって。

 

 コイキングが進化した姿、それ即ち、ギャラドス。

 

 ギャラドス∶きょうあくポケモン。

 気性が荒く、一度怒り出すと口からの破壊光線で周囲を破壊し尽くす凶暴なポケモン。

 

 進化したてで、続々と立て続けに増えていくその青の巨体が一斉にコッチを見た。

 

 つまり、後はもう、わかるな?

 

 

 「…こっち、見てるね」

 「見てるわね」

 

 

 目の前の絶望を見てくれ。

 私の予感大当たりだよ嬉しくないよ…!

 昼中感じた悪寒は、もしかしてコレだったりする…?!

 

 

 タイプ相性不利だというのに、スッと前に出て壁になってくれるガラガラは間違い無くイケメン。

 ただ…種族的に小さいから向こう丸見えなんだよね。

 

 

 「…こっち、近付いてきてるよね」

 「近付いてきてるわね」

 

 

 ぶるぶると震える私と姉は、もはや泣く寸前である。

 というかこれ、正しくヤベェというヤツでは…?

 しかもコッチに向かってくる数増えてるし…!

 

 どうする?

 今からでもピー助出してゆびをふる(ガチ強運)に任せてみるか…?

 いやでも数が多すぎて普通に無理。

 2、3匹ならどうにかなりそうだけど、軽く10を超えてる相手じゃ無謀にもほどがある。

 というか、君達を出すと悪化する未来しか見えないから却下。

 いやでも、だったら、どうすりゃいいの??

 というかおじさんいずこ???

 

 

 ーーーーグギャアァアァアアァァ!!!

 

 

 大きく開いた口、集まるエネルギーの光、その正面にいるのは、私達だ。

 

 

 「「ひぇっ」」

 

 

 ギュと抱き合って、悲鳴を飲み込む。

 

 まって、まってまって!

 なんで進化したてのギャラドスがはかいこうせん撃てるの?!

 進化したなら今レベル20でしょ!?

 はかいこうせんはレベル52で覚える技じゃないの?!

 おかしいでしょ!?

 湖の底に技マシンでもあるの!?

 それともレベル50超えのコイキングだったとでもいうの?!

 アッー!お客様!お止め下さい!!お客様!困ります!進化したてではかいこうせんはお止め下さい!!お客様!お客様ーっ!?アッーーーー!!!

 

 

 「カイリュー、はかいこうせん!」

 

 

 恐怖と混乱が一周回って思わずネタに走ったその瞬間、まばゆい閃光が視界を焼いた。

 

 

 「え?」

 「ふぁ?」

 

 

 思わずもれた惚けた声を許してほしい。

 

 

 バサリと降り立った大きな影。

 だいだい色の巨体、体躯に比べ小さめな翼、頭から生えた二本の触角。

 

 間違いなく、カイリューだ。

 

 

 「君達、大丈夫だったか?」

 「は、はい…」

 「うん…」

 

 

 カイリュー、はかいこうせん!の台詞に一瞬ワタルさんかと思ったけど明らかに別人だね??

 

 お姉ちゃんより年上っぽいけど、え、だれ。

 でもなんか既視感あるし…

 

 ほう?

 ユウジさん、とな??

 今期開催されるオレンジリーグの為に手持ちの最終調整中だった??

 

 んー…?

 黒髪オールバックに、モンボのネックレス…

 で、この声は…たぶん、遊○さん?

 …んん?

 カイリュー使いの、○佐さん…?

 

 あっ!!

 

 あぁーーっ!わかった!!思い出した!!!

 

 チートカイリュー使いじゃん!!!

 10コ技を覚えてるガチチート!!

 ノースリーブじゃないから気付かなかった!!

 

 お姉ちゃん!呑気に会話してるけどその人オレンジリーグのヘッドリーダー!!!

 この!オレンジ諸島の!!チャンピオン的存在の人だよ!!!

 

 貴方の先鋒メタモンに毒されて厳選オールメタモンパーティで殿堂入りした記憶が走馬灯のように蘇ってきて泣きそう!!!!

 でも助かったからありがとうございます!!

 この涙は黒歴史から来るものではなくて!助かって安心したからの涙なので!!

 だから!!

 

 お気になさらず!!!(ひぇっ声がいい…)

 

 

 

 

 

 

 

 



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時の流れはフシギダネ

 速報︰ユウジさんからセキエイリーグ(ワタルさん)に報告された。

 悲報︰通信機越しに二時間正座で(挑戦者来るまで)お叱りを受けた。

 

 

 泣くぞ。

 

 そもそも私悪くないもん。

 予想外な事起きたのが悪いんだもん。

 なんならお叱り受けるのおじいちゃんとおじさん達だけだと思う。

 

 …いや、二人共お兄さんに怒られてたか。

 前に似た光景を見た気がしなくもない。

 

 

 ことの次第は先日のタンカン島の出来事。

 あの後ユウジさんは怒り心頭なギャラドス達をカイリューとエレブーで鎮圧し、スタコラサッサと船まで連れて行ってくれたのだ。

 

 

 え?

 どう鎮圧したのか?

 一言でいうなら、カイリューとエレブーの10万ボルト祭り。

 

 進化したてのギャラドスに、一切の容赦なく4倍ダメージ…

 時々かみなりも打ってたので本当に慈悲はなかった。

 

 ガラガラの特性がいしあたまで良かった…

 ひらいしんだったら目も当てられなかったよ…

 

 

 そもそもの話。

 あんなにもタイミング良くユウジさんが来たのは、船酔いでダウンしてたおじさんが近場にいるリーグ関係者に救援コールを出したからであって。

 曰く、海からあまりにも大量のコイキングが島に向かって来たのを見て、ミドリカワさんの話からもしかしてを想像、そして体調が回復する気配もないから素直にコールしたとのこと。

 

 いやだったら船がダメなことを先に言ってくれ?

 知ってたら無理矢理でもお兄さん連行してたよ?

 

 と言う愚痴は帰りのグロッキー状態なおじさんにネチネチと呟かせていただきましたけどね。

 

 だと言うのにワタルさんからお叱りを受けるなんてとばっちりだと思う…

 いやね。

 時には逃げることも大切だとか、自分の勘を信じることも重要だとか、嫌な予感がしたら相談すること、などなどの小言(あるいは過保護?)と言っても過言じゃないお言葉の数々を貰った訳ですが。

 反論なんてさせてくれる訳もなく…

 

 とりあえずもし次があったら逃げることを約束させられました。

 確かに身の安全は最重要事項だもんなぁ…と理解はしてるんだけどね。

 

 でもそれはそうとして納得できるかは別。

 だってお説教嫌い。

 

 

 それにミニリュウがそろそろ進化しそうだからそっちの相談したかったのに、一切出来ずに通信が終わったし…

 何故か交流が続いてるユウジさんに聞いたよね。

 まぁ、ゲットした時既にカイリューだったそうで撃沈したけど。

 

 

 そんなこんなでしばらくアーシア島から出る時はおじさん&お兄さんの二人体制になった。

 まぁ遠出する時は実質お兄さんしかいないようなもんだけど。

 

 そういえばユウジさんに相談した時に、ボンタン島でサザンクロス(ジムリーダー)に挑戦しようとしてるトレーナー相手に3VS3でバトルしてた件に対して注意された。

 心折れたトレーナーが何名かいたらしく、このままだと4つのジムを踏破したトレーナーすらウィナーズカップに挑戦する前に餌食になるのは困る、とのこと。

 

 いや餌食て。

 そんな言い方しなくても…

 あ…そういえば挑戦者少なくなってきてるらしいね。

 でもそれって確かユウジさんが大半の挑戦者をメタモンだけで倒しちゃうからって理由だった気が…

 

 

 そうして何故かどうしてか。

 

 

 「それじゃフルーラちゃんとバトルすればいいんじゃないかな!」

 

 

 というお兄さんの発言が原因で、対戦することになった訳ですが。

 

 

 「ちなみにユウジさん、私の手持ちポケモンは4体です」

 「そうか。ならわたしも合わせるよ」

 「ちがう、そうじゃない…」

 「ん?」

 「いえ、なんでもないですぅ…」

 

 

 お兄さん、ほんと、許さないかんな…

 

 レベル差考えて、ユウジさんがアニポケ同様のチーム編成だとして、どう足掻いてもゲンガーで詰む。

 そもそもメタモン突破できるか微妙…

 作戦とも言えないけど、ハマって、アタってくれればまぁワンチャン…?

 

 

 「あの、ルールは…」

 「そうだね…君は手持ちの交代制、わたしは交代せずにそのまま対戦しよう。ウィナーズカップと同じルールだ」

 「…はい、わかりました」

 

 

 んー…よし。

 みんな、頑張ろっか。

 

 カタカタと揺れるボールに、口角が釣り上がる。

 

 だって、強い人と戦えるなんて、こんな楽しいことないもんね。

 

 距離を空けて、対峙する。

 最初のポケモンは決まってるので、ボールを構える。

 

 何度も考えた構成、何度も繰り返した、戦い方。

 付け焼き刃のバトルじゃ負けるのなんて当然なのだと既に叩き込まれてるから。

 

 だから。

 

 

 「バトル開始!」

 「行け、メタモン!」

 「松ちゃん任せた!」

 

 

 開始の合図と共に赤い閃光を放ち、飛び出すポケモン。

 ユウジさんが初手メタモンなのは問題ないし、想定通り。

 

 種族的にもレベル的にも先手は向こう。

 だけど、メタモンの技は一つだけ。

 

 

 「メタモン、変身!」

 「トリックルーム!」

 

 

 これで先制逆転。

 

 でもごめん松ちゃん、初手だけど、初手なんだけど!

 

 

 「松ちゃん交代!やっちゃえピー助!」

 「なに?!」

 「チョッケピィイィ!」

 

 

 松ちゃんを戻し、ボールを放れば元気よくやる気に…うん、ヤル気に満ちたピー助が飛び出てきた。

 あの…目、ガンギマリしてません?

 気の所為??

 

 攻撃指示ゼロでの交代にユウジさんは驚いたようだけど、まぁ、うん。

 種族値的な素早さはコッチが速い、けど。

 レベルはコッチが低いんだよなぁ?!

 

 

 「ピー助お願い!ゆびをふる!!」

 「メタモン構えろ!」

 

 

 甘いよユウジさん!

 うちのピー助の強運(ガチ運)舐めんなよ!!

 

 さぁ!本日の効果抜群はー?!

 おーっとこれは!

 あくのはどう?だー!

 

 わーい!2倍弱点!

 

 

 「もっかいゆびをふる!」

 「ピィ!ピィッ!ピイ!」

 「避けろメタモン!メタモン?!」

 

 

 あ、もしかして…ひるんでる?

 そしてピー助の…これはシャドーボール!

 バッチリ当たったね!いえぃ!

 かーらーの!!

 

 

 「ゆびをふる!」

 

 

 決まった10万ボルト!

 ふー!ピー助カッコいー!

 

 そして最後のゆびをふるは!はっぱカッター!

 いえーい!!

 

 どうも地味に特防も下がっていたようで、連続ゆびをふる(効果抜群)をくらったメタモンは、沈んだ。

 

 けど。

 トリックルームでの先制逆転ターンは生憎と終了。

 とりあえずメタモン倒せたのはピー助にマジで感謝。

 と、言うわけで!

 

 

 「次だ、行けイワーク!」

 「松ちゃんお願いしまーす!トリックルーム!」

 「っ」

 

 

 ヒクリ、と。

 ユウジさんの頬が攣ったのを、見た。

 

 

 

 





Q.
ユウジさんがメタモンで反撃しなかったのは何故?

A.
トリックルームしか見てないから。


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タイプ:ワルイヒト!

 

 思ったより、イワークは早く倒せた。

 

 トリックルームで先制マウントとった松ちゃんはつおいぞー!

 まぁ松ちゃんはみずタイプでもあるので!タイプ一致&4倍弱点で刺さるので!!

 

 でもね?でもですね??

 射的かなと思うレベルで執拗にイワークの目を狙ってたのなんで??

 イワークの声がちょっと悲壮感溢れてたのに止めない松ちゃん…なんて恐ろしい子…!

 

 そして次に出てきたのはゲンガー。

 

 わーアニポケと一緒だー!

 なんて思う暇がある訳もなく。

 

 松ちゃんと比べるまでもなく圧倒的に素早さ負けてるから、残ってたトリックルーム中に即ドわすれして特防上げたよね。

 互いにタイプ一致&2倍弱点タイプだし、ゲンガーは特攻が高いので。

 それにこちとらレベル負けしてるのが分かりきってるので。

 しかも進化前のポケモンと最終進化してるポケモンっていう差もでかい。

 

 そんで再度トリックルームにご案内して互いに多少削ったなくらいで、あくびしてから交代(回復)

 

 ルール上交代出来ないゲンガーはスヤァとお眠りになって、交代で出て貰ったのはシミズさん。

 かみつく(あくタイプ技)サイケこうせん(エスパータイプ技)で削って貰おうと思っての選出。

 

 だがしかし、そう上手くいかなかった。

 

 だってワンターンで起きるとか思わんじゃん…?

 狸寝入りかなってレベルでパチッと目覚めた瞬間の絶望よ…

 

 だってトリックルームは切れてて、種族的に素早さはタメ張れるけどレベル差あるし…努力値の割り振りもそうだけど、調整期間だって言ってたからドリンクキメてたりする可能性も…まぁ、あるかもだし?

 

 どうであれ攻撃しようとかみつくでひるみ狙って突撃しても距離を取られ、致し方なくサイケこうせん一択。

 10%に賭けて混乱状態狙ったけど、無理だった。

 粘ってくれたけど、削ってくれたけど、それ以上に威力のある技を受けて戦闘不能。

 

 

 そして再び松ちゃん登場。

 

 体力回復してるからちょっと元気。

 当然、トリックルーム。

 避けたり避けられたりしつつもサイコキネシスを当てた。

 ら、事件発生。

 松ちゃん、サイコキネシス使えなくなった。

 

 え?

 なんで??

 えっ??

 

 と困惑し、とりあえずねんりきで応戦しようと切り替える間もなく、隙だらけだった松ちゃんにシャドーボールがクリティカルヒット(急所にあたった)

 松ちゃん、戦闘不能。

 うそん。

 

 で、お次は椿さん。

 初手でんじは。

 他に覚えてるのはドラゴンタイプの技しか効果ないから、ひたすらドラゴンテールとりゅうのいかり。

 ほぼほぼ避けられたけど、まひで痺れてる時狙っての攻撃。

 そして、相打ちでの戦闘不能。

 

 

 ゲンガーだけで松ちゃん、シミズさん、椿さんを倒されて…

 残る手持ちは互いに一体。

 

 こっちのポケモンはピー助だと知られてる。

 そして、ユウジさんが最後の一体をどうするのか。

 

 ユウジさんの手持ちは把握してる。

 ハッキリ言って、どのポケモンを出されても、キツイ。

 けど、その中でも…フェアリー(ピー助)に、ドラゴン(カイリュー)は出しにくいでしょ…!

 なんて思っても、実際は逆にプレッシャーをかけられる側なのだから堪らない。

 

 

 「3体倒されたから、フィールドチェンジといきたいところだが…」

 「、?…そんな場所も、設備も、ありませんよ…!」

 「ふふふ…わかってるよ。それに、やるとしたら2体目を倒された時だった」

 「…た…しか、に?」

 

 

 ウィナーズカップは6VS6のフルバトル。

 そしてどちらかの3体目が倒されたタイミングでフィールドチェンジをするルールだ。

 けれど今回は4VS4。

 だからもしフィールドチェンジするなら2体目だったとユウジさんは言っているのだ。

 

 バトルに思考をフル回転させてたから、会話するのに、反応するのに、時間かかる…!

 というか、そんなこと考えてたの…?

 うぁーー余裕そうなの腹立つなぁ…!

 

 ジト目で睨みつけるもののどこ吹く風な様子で。

 ふと目が合って、楽しそうに口角を上げたのを見た。

 

 一拍の間。

 

 それから無言で、互いにボールを手をかけた。

 赤い閃光。

 大きなシルエットと、小さなシルエット。

 

 ピー助は、相も変わらずとてもヤル気に満ちている。

 相対するは、だいだい色の巨体を持つカイリュー。

 

 チートだとか魔改造だとか、色々言われて考察されてたのを知ってる。

 アニメで見てたし、その技だって思い出せるくらいにはインパクトあったんだ。

 

 対策は…まぁ、うん。

 特に、ない。

 

 変化技のこうそくいどうを除いて、攻撃技は9こ。

 はかいこうせん、りゅうのいかり、かみなり、10万ボルト、れいとうビーム、みずでっぽう、たたきつける、ロケットずつき、のしかかり。

 

 ピー助に全く効かないのは1つだけ。

 かみなり、10万ボルト、れいとうビームの3つは効果抜群。

 それに対してこっちの有効技と言ったら…ほぼ運頼み。

 トリックルームなしで、一体どれだけやれるのか、考えるだけで吐きそうになる…

 

 けどまぁ、バトルは待ってくれやしないので!

 

 

 「カイリュー、れいとうビーム!」

 「ピー助!躱しててんしのキッス!」

 

 

 混乱してくれ!出来たら4ターン!!

 

 軽快に飛んで、距離を近付けながら繰り出されたてんしのキッス。

 くらったカイリューは、それでも闘志を絶やすことなくピー助から目を離さない。

 

 距離を取りすぎるのも、近付きすぎるのも危険。

 けど、一つの場所に留まる方がもっと危険。

 

 

 「ゆびをふる!」

 「10万ボルト!」

 

 

 激しい閃光が、目を焼く。

 それはバチバチと鳴る電撃と、ピー助から発せられたモノ。

 

 もしかして、マジカルシャイン?

 タイプ一致フェアリー…。

 でも互いに2倍弱点。

 

 目も耳もアテにならないけど、互いに当たってたらヤバいのは当然こっち。

 だから、まだフィールドは上手く見えないけど。

 

 

 「ゆびをふる!」

 

 

 戦闘不能になってないことを祈るのみ…!

 

 

 そうして。

 

 

 やっぱり。

 

 

 わかっていたけど。

 

 

 

 「ふがいないトレーナーでごめんよぉ…!」

 

 

 ぴえぴえと、貰ったげんきのかけらで回復した皆にオボンのみを献上しながらキズ薬で処置もしていく。

 

 そんな私の後ろで、自分のポケモンを回復させたユウジさんは審判をつとめてくれたお兄さんと何やらお話し中。

 

 

 バトルの結果は、まぁ、負けましたとも。

 

 

 せめて3体目がゲンガーじゃなくてフシギバナだったら…

 いや、どちらにしろくさ・どくで松ちゃんがキツイか。

 エレブーでもでんきでささるしな…

 ピー助もどくもでんきも弱点だし…はやくエアスラッシュ覚えさせたい…

 急募:ひかりのいし(切実)。

 

 …え?カイリュー?

 10万ボルトとかみなり持ちだぞしかも椿さんの最終進化だぞ、りゅうのいかりもれいとうビームがささるんだよ。

 

 結論。

 詰んでた。

 知ってた。

 

 しかもユウジさんは初見殺し(トリックルーム)戦法が思いの外楽しかったみたい。

 だけど、相対してピー助のゆびをふるが若干トラウマ…ではないけど、苦手意識を持ってしまったみたいだ。

 

 理由?

 それはピー助が放ったゆびをふるがふぶき2連続だったからです。

 どんな確率だよやっべぇな??

 

 

 でもなんか、スミマセン…

 

 

 そういえば驚いたことに、ゲンガーさんの特性、のろわれボディだった。

 カントーだしユウジさんの登場初期だからふゆうだと思ってたのに…!

 あぁー…でも確かアニメでケンジくんがじめんが効果抜群的なこと言ってたね…

 つまりあれって、ユウジさんのゲンガーにじめんが効くという…

 つまり、特性ふゆうじゃない…

 ぐぬぬぅ…

 

 詳しく聞くと、この世界において、ゲンガーはふゆうとのろわれボディのどちらかを特性に持っているらしい。

 どうもカントーやジョウトといった所謂モデル日本圏だとふゆうが多く、のろわれボディが特性な個体は稀なのだとか。

 諸外国圏だとその逆、といった具合らしい。

 へぇーー…覚えとこ。

 

 

 ちなみにのろわれボディは相手から技を受けた時に確率30%で3ターンの間、受けた技を()()()()()状態にする効果がある。

 

 あちゃー…

 つまりシミズさんは平気だったけど、松ちゃんは引き当ててしまった訳ね…

 

 特性とかちゃんと知ってないとこういう事故が起きるんだよ…

 知識はあったのに思い込みしてると自爆するんだよ…

 ひぇん。

 

 勉強不足…

 ポケモンは奥が深い…

 

 

 「フルーラちゃん、お疲れ様」

 「うぁぅー…ほんとにつかれました…」

 「あははーそんなフルーラちゃんに朗報が一つ」

 「なんですかぁ?」

 「10歳迎えて旅に出るなら、カントー地方の本島から…オレンジ諸島は回らずにバッジ8個集めようね!」

 「はい?」

 「お、いい返事!」

 「へ?は?いやいやいや…!」

 

 

 まって。

 

 ねぇまってよ。

 

 

 お兄さん、またなんか黙ってやらかしてんな??

 

 

 

 

 

 

 



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うっかりすっかりがっくりしれっと

 定期的に起こるお兄さんギルティ事件、今回のは要約するとこんなかんじ。

 

 オレンジ諸島のヘッドリーダーのポケモンを3体倒す実力あるなら、一人で旅をしても問題ないでしょう。

 というね。

 

 それもこれもここ最近…去年辺りからは特に、ユウジさんのメタモン(一体目)すら倒せないトレーナーが増えてきてることも理由の一つ。

 

 そもそも、各地方のリーグ公式ジムは8つあるのに対して、オレンジ諸島のジムは4つだけ。

 それにも関わらず、オレンジ諸島のトレーナーは()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言われてる。

 それはオレンジ諸島のジムバッジ授与の基準が、他のポケモンリーグとは違うから。

 

 純粋なポケモンバトルよりも、様々な状況においてどれだけ、どのようにして、手持ちポケモンと協力できるか。

 ということに重点が置かれているのだ。

 

 つまり育てられたポケモンではなく、そのトレーナーの素質を見極める、あるいは伸ばす為のジム巡り。

 

 ジムの内容だってポケモンと波乗りレースしたり、ポケモンと作った氷製ソリで雪山レースしたり、はたまた同一タイプ縛りのバトルに、一体でも戦闘不能になったら即終了なタッグバトル…といった普通のジムとはあからさまに違う。

 

 まぁアーシア島の祭りだって、優れた操り人(ポケモントレーナー)を見極めるという意味では本質は似てる訳で…

 

 

 まぁつまり。

 

 オレンジ諸島のジム巡りで見極められるトレーナーの資質は充分満たしてる、と判断されたのだ。

 他ならぬ、オレンジ諸島のヘッドリーダー(ユウジさん)に。

 

 それ故に、次はポケモンのレベルを上げよう(セキエイリーグに挑戦しよう)か!

 っていうことになっているらしい。

 

 おじさんとお兄さんによってトレーナーとして育て上げられた身として喜んでいいのか、相も変わらず掌の上であった事に嘆けばいいのか…

 いやまぁ旅するなら一番最初はカントーを周りたかったから別にいいんですけどねっ!

 

 ちなみに後日、審判たるお兄さんによって録画されたバトル映像を見たワタルさんにより良かった所悪かった所等のアドバイスを頂いたが、その中でピー助のゆびをふるは本当にゆびをふるなのかと真顔で問われたのが一番印象に残ってる。

 チャンピオンですら動揺するピー助のゆびをふる…

 安心して下さい、いつか貴方も体験し(挑戦者として会いに行き)ます。

 

 

 そうしてユウジさんからも太鼓判を押されたおかげで両親共に旅に出ることに許可をくれた。

 もちろん毎年祭りに合わせて戻ってくるとこは約束しました。

 

 

 そんなこんなでお兄さん監修の元、旅に出る支度を整えながら早数週間。

 

 めでたく10歳の誕生日を迎え、今年は何故かユウジさんも一緒にケーキを食べたりした訳ですがちょっと待ってほしい。

 

 

 本日はカラッとした晴れもよう、祭りの当日として有り難い天気。

 そんな日差しの中、今年の操り人を選ぶ為に島に来た人達を遠目から観察してたのだけど…

 

 トレーナーの中に見覚えのあり過ぎる水色の髪の人を発見した。

 

 

 「ダイゴさんなんで?なんでダイゴさんいるん??チャンピオン仕事して???」

 

 

 あれ、このセリフどっかで言った気がする。

 

 変装なのか、もさい…野暮ったい…ダサい…山男スタイルとは別の、まぁそんな服装してるけど、あの無駄に整った爽やかな顔面は間違いなくダイゴさんだ。

 ツラで全て許されるコーデ…ミクリさんとかにぶっ飛ばされそうな格好だけど、大丈夫?

 っていうかほんとなんでいるの??

 

 他人の空似を期待して、ついでに他の人達の観察も兼ねて近付いてみたんだけど…

 …うん。

 

 

 声がスズケンだね?

 

 まぁじで?

 西さんでないのね??

 

 まぁ?たしかに??

 西さん一回しか登場しなかったですし?

 特別編の中の人2代目(鈴村○一さん)は大活躍でしたし??

 いやでもまって???

 この声だと言う事はもしかしてフラダリさんとプラターヌ博士は友情築いてない感じです??

 

 え?まじ??

 

 

 ひとまず退散した。

 これは戦略的撤退。

 

 いやほんと、アニポケなのか、ゲームなのか、スペなのか…あるいはアニポケ(特別編)なのか…

 

 悩ましいね??

 

 もしかして混ざってる感じ?

 狂おしいね??

 

 

 …個人的には前野○昭さん推してたけど、やっぱゲームはゲームでもスマホはお呼びでない感じ…?

 リアルで偽物なんかじゃないって言ってほしかったなぁ…

 

 それにしても鈴○健一さんボイスかぁ…

 流石に土方コノヤローとか言ってくれないよね…

 まぁ言うとしたら相手は某吟遊詩人さんだもん絵面やばいか…

 

 これから声変わりして西さんになるとかはないか…

 

 

 ……ん?

 …え、と………あれ。

 

 ダイゴさんっていま何歳??

 あの顔推定何歳???

 

 いやわっかんねぇなあの顔面(イケメン)

 無駄に整ってるから余計にわからん。

 

 でも公式で年齢分かってる数少ない人だから覚えてるぞ。

 よっ!25歳御曹司!!

 

 逆算すればハルカちゃんかユウキくんの年齢分かるハズ!

 ってね。

 

 それにしても…

 

 

 「立ち姿に隙がなかったね…」

 「せやなぁ」

 「でもあの服装はないと思う」

 「せやなぁ」

 「でも顔がよかった」

 「せやな」

 「えっと、褒めてくれてありがとう…?」

 「ほぁっ?!」

 

 

 びくりと硬直。

 いま真後ろからええ声が聞こえた嘘すぎん?

 

 ぎぎぎ、と。

 油の切れたブリキ人形の如く、松ちゃんと共に振り向くと、そこには顔面宝具がいた。

 

 

 「ええっと…さっき、僕を見てた子だよね。まさか巫女さんだったとは…」

 「あちゃー…バレとったかぁ…」

 「ォ°ん」

 「ごめんなんて??」

 「いつものことや気にせんでええで」

 

 

 いや顔が近い!!

 松ちゃんが喋ってるのに驚いてない!

 ってか巫女ってバレてる!?

 あーっ顔がいいしシミ一つねぇな?!

 というか!!

 

 

 「なんでホウエンチャンピオンが…」

 「あっ僕のこと知っててくれたんだね!なら良かった、君に頼みたいことがあって来たんだ」

 「頼みたい、こと…?」

 「うん」

 

 

 おい松ちゃん、お前何やらかしたんだって念を送って来ないでよ。

 私だって何のことか分かってないからね?

 というかめっちゃ笑顔…

 

 あと、なんていうか、この人、たぶんだけど…

 

 

 「あの…」

 「なんだい?」

 「とりあえず、祭りが終わってからでいいですか…?」

 「……祭り?」

 「はい、祭りです」

 「………いつ?」

 「今日、今からです」

 「…………いまから?」

 「はい」

 

 

 キョトン、と目を瞬かせるダイゴさん。

 

 やっぱりこの人、私が巫女だとか、松ちゃんが喋れるとか、まぁそんな情報は知ってたみたいだけど、今日が祭り当日であること、知らなかったっぽい…

 というか祭りの存在は知ってたけど日付を把握してなかった感じだな。

 

 あの…

 なんなら既に始まってるっちゃ始まってます…

 

 あと…

 

 その…

 

 スミマセン…

 

 

 「そんな訳で、操り人、お願いしますね!」

 「えっ?」

 

 

 チャンピオンいたら、そりゃ選ぶよね!

 

 ぽかん顔もイケメンはイケメンかよ、なんか腹立つわぁとか思ってないよ!!

 

 頑張ってダイゴさん!

 大丈夫!

 ダイゴさんなら問題ないよ!

 

 まぁ問題あるとすればその格好(服装)くらいかな!

 

 お兄さーん!

 ダイゴさんのコーディネートお願いしまーす!!

 

 

 

 

 



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土の中、雲の中、あの人は…

 

 怒られた。

 操り人にチャンピオン指名したのバレておじさんに怒られた。

 

 でもダイゴさんは乗り気になってくれたからゴーした。

 太陽光を反射しながら飛び立つエアームドかっこよかった…

 

 顔面蒼白なおじさん、ニッコニコなお兄さん。

 とても対極的で面白いね。

 私としてはタネボーの背比べな観光客(トレーナー)より遥か高みにいる人に操り人をやってもらえてとても満足。

 

 あとお兄さんのコーディネートでちゃんと変装出来て当人と分からないようになってたのすごくない?

 爽やかインテリ青年風ダイゴさん…

 SSRスチルかな?

 

 ダイゴさんの伊達眼鏡、無駄に似合ってて変な声出た…

 イケメンのメガネは私にきく…

 他の一部観光客のお姉様方も悶てた…仲間…

 

 ちなみにダイゴさんは今24歳らしい。

 あの顔、24歳か…そっか…

 …すっげぇな?

 服の所為でどう見ても未成年だけど。

 大学生と言われてギリ納得出来る感じだったけど。

 

 

 あと来年はジョウト回ろうそうしよう。

 どっちが主人公になるのか気になるけど出来たら対岸の火事でいたい。

 

 巻き込まれそうな予感は、無きにしも非ずなんだけど…んー?

 なんだろ身の危険というより面倒事というかなんというか…うーん?

 

 

 まぁそんなこんなで3つの島をぱぱっと回って玉を奉納してくれたダイゴさん。

 

 着替中にお兄さんとおじさんから何かしらレクチャーされたらしく、所要時間は6時間ぴったり。

 一つ回るのに2時間丁度。

 

 あの…狙ってやってるの、バレてますよ??

 それでも歴代二番目の速さなのは流石と言うべきか…

 

 

 とまぁそんな感じで夕方前に祭壇に立ってる訳ですが…

 

 えっと…

 その…

 

 空が暗くなってるんですけどぉ…!

 

 熱気で風が荒れ、ゴロゴロと低い音が鳴り響き、しかも吹雪いてきた…

 波も高く荒々しくなって…

 

 天変地異かと思うレベルの訳わからん天候。

 

 …うん。

 だれが…いや。

 なんのポケモンが来るのカナー?(棒読み)

 

 吹き終わった瞬間にあっ来るって思ったけど。

 思ったけども!

 これルギアさんだけじゃねーな?!

 わー!どんなポケモンに会えるのカナー?!!(ヤケクソ)

 

 そして厚い雲を破り空から降りてきた、大きな3匹の鳥ポケモン…

 と、シレッと一緒に現れたルギアさん。

 

 あっ荒波鎮めてくれてありがとうございます。

 ついでにこの天候もなんとかして…あ、やってくれてますね?

 3鳥のフォローを卒なくこなす海神…

 うん、保護者かな?

 

 

 若干不敬なことを思いつつ、でも怒った感じはないのでスルーしてくれたのかもしくは当ポケも思っているのか…

 

 ルギアに背を押されるようにして伝説の3鳥…

 ファイヤー、サンダー、フリーザーが、目の前に来た。

 

 

 バサリと降り立ち、それぞれから向けられる目を見て、ほっとする。

 

 好かれてる。

 なんとなく、伝わってくる。

 挨拶してくれてると、その意思が分かる。

 

 3匹共同じくらいの精度で理解できると、気付いて、もしかしてひこうタイプとも相性が良いのではと察知した。

 いやまぁエスパータイプに比べると残念な具合なんだけど。

 

 一歩二歩と近付いて、手を伸ばす。

 頭を寄せてくれたから、ぎゅっと抱きついて、感謝を伝える。

 

 ファイヤーは、熱くならないように炎を小さくしてくれた。

 サンダーは、痺れないよう電気を抑えてくれた。

 フリーザーは、冷たくならないよう冷気を調節してくれた。

 

 優しいその気遣いが、嬉しくて。

 やっぱりポケモンが大好きだと、溢れるくらいに感情が湧いてでて。

 

 

 「ちゃんと戻って来るよ」

 

 

 心配されてるのが分かったから、3匹を見ながら伝える。

 大丈夫。

 旅に出るけど、来年も、笛を吹きに戻って来るから。

 

 

 ギャァーーォオオ!!

 

 

 重なる鳴き声。

 戻ってこいよ、と言われた。

 

 それから、バサッと大きく羽ばたいて、大きな身体が浮いて。

 もう一度、3匹と目を合わせて。

 

 それぞれが、それぞれの島へ、飛んで、帰っていくのを見た。

 

 

 先程とは打って変わって、午前中よりも晴天といえるほどに穏やかな天気。

 むしろ穏やかすぎるくらいの、海。

 そこに佇む白銀の姿は、やっぱりとても美しくて。

 

 

 「ルギア」

 

 

 祭壇から降りて、一番近くに行こうと岸まで駆ける。

 

 目が合えば、その意思が、言葉が伝わってくる。

 

 

 気をつけて行って来い、と。

 戻って来るのを待っている、と。

 また会おう、と。

 

 いってきます。

 絶対戻って来ます。

 今度は私の話を聞いてほしいな。

 

 言葉を返したら、雰囲気が柔らかくなって。

 あ、笑ったな、って、思ったら。

 

 目の前に、ご尊顔。

 

 青い蒼い縁取りからの眼差しは、優しくて、やっぱり慈愛に満ちていて。

 怖いとか微塵も思わなくて。

 ただただ綺麗なそれに目を奪われて。

 

 きゅっ、と。

 あるいは、ちゅっ、と。

 

 耳元から、した音。

 ほっぺに、軽い感触。

 

 

 えっ。

 

 …えっ。

 

 えっ?

 

 

 カッチーン、と。

 思わず固まった。

 

 

 ギャアァアアァァス!!

 

 

 咆哮。

 あっと言う間に海に帰った、我が海神。

 

 まって。

 ねぇまって?

 

 いま、ねぇ、まって。

 

 

 「熱烈アプローチだったね」

 「ひょわぁあ?!」

 

 

 後ろから鈴村○一ボイスは心臓によくない!!

 ってか見てた?!

 見られてた!!?

 みんな見てた?!

 わぁあぁああぁぁあぁ!!!

 

 

 「フルーラちゃん、顔真っ赤だよ」

 「言わないでください!!」

 

 

 顔面宝具にからかわれるの辛いな?!

 というかルギアさんどこでこんなファンサ覚えたの?!

 私にささる!4倍弱点ですっ!!ヒェッ!

 

 

 赤面のまま、ドクドクと煩い心臓を押さえながら、祭りが終わったと長老に伝え、そそくさと帰宅。

 なおリビングのソファーに優雅に座るダイゴさんは暫く放置の方向で。

 

 精神安定の為に松ちゃんに抱きつき深呼吸すること約30分。

 

 その間お姉ちゃんとお母さんがダイゴさんをもてなしてたことは一応聞いてたので把握してる。

 お父さんとダイゴさんがきのみブレンダーについて商業的なお話してたことも把握してる。

 

 デボンコーポレーションの御曹司だもんね。

 一応、ポロック販売について許可とったのでね。

 その関係で電話越しでおじいちゃんと社長さんがお話してたのも知ってるもん。

 でもだからって追加できのみブレンダー買うお話をダイゴさんにするのはどうかと思う。

 

 すぅーーーー。

 はぁーーーー。

 

 よし。

 

 

 「えっと、それで、ダイゴさん」

 「あ、もう大丈夫?まだ少し顔赤いけど…」

 「大丈夫です!それで!ダイゴさん!」

 「うん」

 「頼みたいことってなんですか!?」

 

 

 勢い良く叫ぶように聞いたら松ちゃんから煩いでと尻尾ではたかれた。

 ひぃん。

 

 そんな私達を見てクスクスと笑ったイケメンは、その微笑ましいという表情から一転。

 目をキラキラと輝かせながら口を開いた。

 

 

 「あぁ、実は一緒にメガストーンを探して欲しくてね!」

 「…おっふぅ」

 

 

 まさかその為にこの最果ての島まで…

 

 ……うん。

 

 

 この人なら来るな!!

 

 

 

 

 

 



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世界中探したら見つかる

 メガシンカ、という現象がある。

 それはここカントーから遠く離れたカロス地方で確認された、特定条件下のポケモンにおこる現象。

 現在分かっていることはポケモンとトレーナー、双方が特殊な石を持ち、そして双方に信頼関係が結ばれていないと起こらない現象だということ。

 

 その現象によって姿を変えることから、進化を超えた進化と仮称され、“メガシンカ”と名付けられた。

 

 と、いわれている。

 

 でもたしか、ホウエン地方からカロス地方に伝わった特有の現象…っていう設定?だった気がするんだけどここら辺どうなってんの。

 レックウザさんが関係してたのは覚えてるんだけど。

 あれ、でもゲンシカイキ…

 

 …一旦置いておこう。

 

 で、だ。

 そのメガシンカに必要な特殊な石がある、ということが本題で、問題ね。

 トレーナーはキーストーン。

 ポケモンはメガストーン。

 なおポケモンが持つメガストーンは種族によってそれぞれ違う。

 

 ここが知っておきたい前提知識。

 一応だいたい一通り説明してくれたけどほとんど聞き流した。

 すみませんダイゴさん、解説とか聞いてると眠くなるんです…

 

 

 そして何故私にメガストーン探しを頼みに来たのか。

 

 それはグリーンさんがこのアーシア島を出てすぐのこと。

 ジムリーダーとして任命されるにあたっての書類等などの手続きをする為にセキエイリーグ本部に出向いたその日、偶然にもホウエンリーグチャンピオンであるダイゴさんがそこに居たのだ。

 セキエイリーグの責任者ワタルさんに用があり、それはメールといった通信機器でやりとりするには機密性が高く、直接対面して話し合う必要があってのこと。

 丁度その時、アーシア島から出立したグリーンさんが凸った。

 

 なおこの時、リーグスタッフはダイゴさんが秘密裏に来訪していたという事を知らず、ワタルさんの仕事部屋まで案内してしまったのでグリーンさん本人に過失はない、とのこと。

 

 そしてその仕事部屋は4つ部屋あり、重要書類の決裁や()()()をするのは奥の部屋であった為、ワタルさんは来訪してきたグリーンさんに対応する為にダイゴさんを残して部屋を移動した。

 必要書類は用意されており、書名やらの説明を聞いていたダイゴさんはカントーの新しいジムリーダーはどんな子なのかと気になり、つい覗き見したそうだ。

 曰く、チラリと一目だけ確認するつもりだった。

 

 が。

 あまりにもタイミングが良すぎた。

 いや、この場合悪かったと言うべきか。

 

 グリーンさんが書類に書名しようと、ポケットから手を出したその瞬間。

 

 ポトリ、と。

 

 小さな丸い()()が、溢れ落ちた。

 光に反射し綺麗な輝きをもつ、()()

 

 一目でそれが()だと気付いたその瞬間。

 

 

 「君!!どこでこれを見つけたんだい?!!」

 「うぉわぁああ?!!誰だアンタ急に何だ?!」

 

 

 グリーンさんの目の前に、飛び出ていた。

 らしい。

 

 突然のホウエンチャンピオン登場にさぞかし驚いたであろうグリーンさんに合掌。

 そして捲し立てるようにハイテンションの石フリーク(ヲタク)に迫られたグリーンさんは動揺を顕にしながらも対応したらしく、その結果。

 

 多分この石くれたの巫女(フルーラ)じゃね?

 と発言。

 

 その場でアーシア島に向かおうとしたダイゴさんだったが、ワタルさんが羽交締めで拘束。

 本来の所用やら諸々を片付ける為、そして冷静さを取り戻す為に、と、一回オトされたらしい。

 

 ハッと目覚めた時には既にグリーンさんはトキワに向かっており、それを追いかけようとしたら、流石にプチンとなったワタルさんよりお説教スタート。

 やるべきことをやってからならアーシア島に行くのを許可する、と言質とったダイゴさんはホウエン地方へ戻り、まるっと一仕事終え、そしてやってきた。

 

 そんな感じでイマココ、みたいな感じらしい。

 

 

 …いや、どこからツッコめばいいのこれ???

 

 とりあえずピジョットに渡した石が原因なのは察してたけど諸々のタイミングェ…

 あとワタルさんがお説教し馴れてる原因ってもしかして対ダイゴさんで鍛えられてたりする…?

 とりあえずグリーンさんにはごめんなさーいと軽く心の中で謝っておこう。

 

 それで、なのだけど…

 

 

 「アーシア島でそのメガストーンを探したい…ってことでいいですか?」

 「そう!カントーで見つかったのは初だからね!」

 「あー…あの、そのことなんですけど…」

 「なんだい?」

 

 

 興味津々…意気揚々…といった感じのダイゴさんには悪いのだが…

 

 その…

 

 

 「多分、もうないです」

 「え」

 「というか、この島にあったの、おそらく集め終わってます」

 「えっ」

 

 

 カチン、と固まってしまったダイゴさん。

 効果音つけるならガーン、だろうか。

 

 けどさ、でもさ、だってさ…

 1個みつけたら、他にもないかなって、探すじゃん…?

 だってメガストーンだよ…?

 でもキーストーンは見つかってないんだよね…

 

 

 「…みます?」

 「見せてくれるのかい?!」

 

 

 いや声でかっ!

 

 そんなこんなで部屋からもってきました小袋。

 入ってるのはメガストーン5こ。

 

 多分きっとおそらくだけど、ボーマンダ、ギャラドス、プテラ、デンリュウ、チルタリス。

 だと思うんだよね。

 

 

 キラキラ目を輝かせるダイゴさんを見つつ、一言。

 

 

 「これ、先祖の有名な巫女様がもってたポケモンと一致してるんですよね…」

 「え?」

 「この島で見つかったこの石は、例の巫女様が使っていたんだと思いますよ」

 「………そう、なんだ?」

 

 

 あ、首かしげるダイゴさん可愛いな…

 じゃなくて。

 

 けどまぁうん。

 

 だから、バンギラスのが見つかった時に、おやっ?って思った。

 当時を知る人に聞いて、例の巫女様が持っていたポケモンを知って、納得した。

 

 やっぱ、転生者なんだろうな、って。

 

 だから、キーストーンが見つからないのは、そういう訳で。

 まぁ、致し方ないこと…なんだと思う。

 

 

 「一応…島、回ってみますか?」

 「是非ともお願いするよ!」

 

 

 わーげんきー…

 

 

 

 

 

 



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カントー編
ガイドはいらない旅


 ついに来ましたカントー地方!

 いやまぁアーシア島もカントーなんだけどそうじゃなくて本島…本州、いや本陸?に着いたわけです。

 

 家族や島の皆のお見送りを受けてアーシア島からデコポン島へ、そしてそこから出ている定期船に乗り、マサラタウン近くの港へ。

 そのままオーキド博士がいらっしゃるマサラタウンに行きたかったんだけど、()()()の都合上断念。

 乗り換えの船が出港まで1時間もないっていうんだから致し方ない。

 

 そうしてやって来たのはクチバシティ。

 港町なだけあって賑やかですことー!

 ほぼ2日間船で過ごしたから陸地が懐かしく感じる。

 

 

 そしてここまで同行してきてくれたお兄さんは更に乗り継いでそのまま次のお仕事に向かうらしく、空笑いのまま別れを告げることとなった。

 なおおじさんは私達が旅立つ前日にリーグから直々に迎えが来て拐われるように消えてったので、多分もう次のお仕事に着いてると思われる。

 ブラックだわぁ…

 

 

 「ところでダイゴさんはいつホウエンに戻るんですか?」

 「もうしばらく後かな!」

 「…そうなんですか」

 

 

 ニコニコ笑顔で即答された。

 

 それでいいのかチャンピオン、仕事して…

 というか挑戦者きたらどうすんの…?

 

 

 ちなみに本日のダイゴさんの服装は野暮ったい登山服でも山男スタイルでも、ましてや公式オサレスーツでもなく、何故かあの日と同じくインテリ青年風仕様(ただし眼鏡は無くて帽子被ってる)。

 お兄さんが顔がいいチャンピオンは忍んで下さいよ!絶対面倒なことになるんですから!!と船の中で押し付けていた一式である。

 その面倒事に巻き込まれる可能性が一番高いのは一緒に行動してる私なので受け取ってくれたのは正直有り難いちゃ有り難い。

 でもこれって冷静に考えると御曹司に安物の大量生産服着せてる訳で…まぁ嫌がられる所か若干面白がってる感じなのでいっか。

 

 

 んでもまぁ暫くいるんだったら…うん。

 

 

 「ダイゴさんダイゴさん」

 「ん?なんだいフルーラちゃん」

 「お願いしたいことがあるんですけど、お時間頂いてもいいですか?」

 「いいけど…何するんだい?」

 「松ちゃんを進化させたいんです」

 「うん?」

 

 

 首を傾げるダイゴさん。

 

 イケメンのあざとい仕草はささる…

 うっ…悔しいけど眼福…

 

 とりあえずポケセンに向かいながらサラッと説明。

 出会った日から約3年、だいぶ待たせてしまったけど約束したからには果たす義務がある訳で。

 決して二足立ちしてくれた方が抱きつきやすくなるから早く進化させたいとか思ってなくはない訳で。

 

 

 「うん、そういうことならいいよ」

 

 

 二つ返事で快く引き受けてくれた。

 やったね!

 

 

 そんな訳でポケモンセンターに到着…!

 かーらーの!

 

 

 「ジョーイさん!トレーナー登録お願いします!」

 「はい、トレーナー登録ですね。ではこちらの用紙に記入をお願いします」

 

 

 手渡されたのは3枚の書類。

 一枚目は諸注意やトレーナーとしてのルール、義務がびっしり書かれたもので、トレーナーズスクールで習う一般常識。

 二枚目は見本で、どのように記入すればいいか書いてくれているのでこれを見ながらササッと空欄を埋める。

 

 出身地、生年月日、名前、性別、など。

 これはトレーナーとしての義務を全うすることの同意書でもある。

 10歳にならないと受理されない書類であり、これを以て発行されるのがトレーナー証明書で、ゲームでいうトレーナーカード。

 絶対に無くしたらいけないモノ。

 

 バトルで得た金銭が付与されたり、リーグとかで依頼された仕事のお給料など。

 あるいはトレーナー御用達のお店でお買い物したりするときの支払い。

 その全てが、このカードで出来るのである。

 

 だからこっちの世界だとトレーナーIDは絶対教えちゃいけないんだよ!

 びっくりしたよね!!

 

 

 そしてこのトレーナーカードがないと、ポケモンセンターにある諸々の機材を使えないのである。

 そう、回復機材しかり、通信機器しかり…だ。

 

 ちなみにポケモンセンターで回復するのは実質無料だけど、寝泊まり、ご飯といったサービスは有料。

 アニメやゲームだとどうやって運営してるのかって思ってたけど、まぁそうだよね…と納得したものである。

 

 そんなこんなでトレーナーカード発行しましたー!

 これで私もトレーナーと名乗れる!

 バトルで勝ったらお金貰えるよ!

 御守り小判が欲しいなぁー!

 

 というのは置いといて。

 

 

 「えっと、松ちゃんははじめ何も持たせないので…」

 「うん。僕から送るときにこれを持たせればいいんだね」

 「はい、お願いします」

 

 

 通信機器…あるいは転送機、というその機械を前に簡単に確認しあう。

 クチバシティはカントーの中で比較的大きな町なので、こういう機材が複数あるのでとても有り難い…

 

 そして一回目。

 松ちゃんを送り、ダイゴさんからポケモンが送られる。

 ダイゴさんが松ちゃんにおうじゃのしるしを持たせ、ボールに戻してから機械にセット。

 私も送られたポケモンをそのままセットする。

 

 待ちに待った、二回目。

 

 さぁ!

 松ちゃんが!!

 私の目の前で!!!

 進化するっ!!!

 

 わっくわくのどっきどきである。

 

 

 ポンッと現れた赤と白のボールはそのままパーンと開いて、閃光。

 眩い赤い光でなく、白い発光は進化の証で。

 初めてまじまじと観察できる進化にテンションはハイ。

 あの進化BGMが聞こえるような、興奮。

 

 そして光が収まったそこにいたのは、縦に大きくなり頭に貝を被ったピンクのフォルム。

 

 

 「〜〜〜〜っ松ちゃぁああぁぁん!!」

 「ぐふっ」

 

 

 感極まって抱きついた。

 だって間違いなくヤドキングなんだもん。

 松ちゃんがなりたがってたヤドキングだもん。

 魅惑のもちぷになピンクボディが目の前にあるんだもん。

 

 はうわー…この感触、たまんないっ!

 ひんやりもちぷにすきぃ…癒し…

 

 

 「…なんやフルーラ小さなってない?」

 「いや松ちゃんが大きくなっただけよ?」

 

 

 ヤドキングって全長2mあるんだよ?

 アーシア島の主なヤドキングとだってこんな差だったじゃん??

 

 改めて松ちゃんの前に立って、目を合わせるとその大きさはさもありなん。

 だって目が合うのだから。

 つまり視線が同じ…いや松ちゃんのが高いんだけども。

 

 …あっ。

 二足歩行&背が高くなったっていうことは手を繋いで歩けるってことでは…?

 えっ…やだ嬉しい。

 

 

 「ふふふ。よかったね、フルーラちゃん」

 「っはい!松ちゃんが無事ヤドキングになれました!ダイゴさん、ありがとうございます!!」

 「…ん、ふふ…うん。どういたしまして」

 

 

 はて、何故一瞬きょとん顔になった…?

 私変なこと言ってない…よね?

 

 

 「どう松ちゃん、なんか違和感とかない…?二足歩行大丈夫…?」

 「問題ないでぇ」

 「ほんと?技とかいつも通りに出せそう?」

 「んー…いけるんとちゃうかな」

 「そっか、よかった」

 

 

 これでダメそうなら11番道路かディグダの穴で調整することになってたよ。

 まぁ、松ちゃんを出すことになるかは分からないけど、念の為ね。

 

 

 「…もしかして、今日早速ジムにチャレンジしようとしてる?」

 「はい!行きたい場所があるので、ジムは早めに挑戦しようと思ってます」

 「そう…」

 「でも、シミズさんと椿さんが張り切ってるので松ちゃんは多分見学になると思いますよ」

 

 

 ふんふふーん、とちょっと自信有りなのでニンマリ笑顔。

 

 えぇえぇ、早速ジムに挑戦しますとも。

 ここのジムを()()()にする為に来たんだからね。

 ちなみに次のジムはセキチクを予定してる。

 だってゲームと違って挑む順番はほぼ自由なので!!

 8番目以外は自由に挑戦して良いって知ってガッツポーズキメたよね!

 計画立てないとジムバッチ集めれる気がしないよねっ!!!

 

 だから電気と毒は最優先!

 その次エスパーな!!

 水と岩と草はなんとかなる!

 グリーンさんは手持ち揃ってから考える!

 

 複合だけど統一タイプパーティでジム制覇はキツイんだよ!

 

 これで戦うジムリーダーも四天王もすっげぇなって改めて思う。

 まぁ負ける気はないけど!

 

 

 さぁ!頼りにしてるぜ椿さん!!

 

 

 

 

 

 

 

 



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パッパラパラパーーッ!!(何がとは言わない)

 エマージェンシーエマージェンシー。

 

 ジムの前にめっちゃ既視感ある男の子がいたんですけどー!

 しかも目が合ったと思ったら松ちゃんガン見されて?睨まれたと思ったら??何故か啖呵切られて(?)宣戦布告(?)されたんですけどー!

 

 どーゆーことですかー??!

 

 しかも先にジム入ってったから挑戦出来ないっていうねー!

 

 

 「えぇっと…フルーラちゃん、今の子知り合い?」

 「いえいえそんなまさかあの人連れてたのジョウトのポケモンですし私の知り合いほぼオレンジ諸島にいますし同年代でジョウト行った子いませんしそもそもアーシア島出てまだ2日ですししかもクチバに着いて2時間足らずなので知り合ったトレーナーなんて存在しませんしおすし」

 「え?おすし??」

 「つまり初対面です」

 「ん?うん??そう、なんだね??」

 「はいそうです」

 

 

 おっと失礼荒ぶった。

 でもこれ仕方なくない??

 

 だって、バクフーンかわいかったの…!

 

 唐突なトレーナーの暴走にわたわたしてたのぐうかわ!!

 ジム入ってくトレーナー追いかけてく時もこっちチラチラ見てあわあわしてたのぎゃんかわっ!!!

 目付き鋭かったのに両手パタパタしてトレーナー止めようとしてるの見たらもはや可愛いしか感想出ない。

 

 いや、ほんとかわいかった…

 えっ…天使じゃん…

 もふりたい…でも、

 

 

 「あのバクフーン…育ち良すぎでは…?」

 「せやなぁ」

 「うん。ヤドキングと同じくらいの大きさだったから、通常個体よりだいぶ大きいね」

 

 

 そう、めっちゃデカかった。

 だから荒ぶったってのもある。

 

 たしか体長1.7mが平均のハズ。

 それが松ちゃんと同じくらい、っていうことは2mあるわけで…

 いやデカいな???

 松ちゃんだって貝があるからの2mなのにデカすぎません??

 

 離れてたから目を合わせれたけど至近距離だと絶対首痛めるやつ。

 あとその巨体に合わせてか物凄く筋肉着いてた。

 あれは絶対物理攻撃特化型…いや物理防御か?

 バクフーンは特殊攻撃のが高いハズなのに…まぁそこは当ポケと当トレーナーの好みか。

 ワンチャンいじっぱりかわんぱくな性格の可能性も…いやあれは違うか。

 

 

 まぁ、それはともかく。

 

 

 「見学に行きましょう!」

 「おや、見るのかい?」

 「はい!売られた喧嘩は穏便に焼却炉にぶち込みますけど今はとりあえず()()()()したいですね!!」

 「せやな」

 「おっと…実は怒ってるね…?」

 「まっさかー!初めてのジムなので様子見したいだけデスヨー!」

 

 

 別にあのトレーナーを敵とみなした訳じゃないですよ?

 だって私はジムに挑戦しにきただけのトレーナーですしおすし??

 

 それに私と松ちゃん見ての反応から一瞬()()かな?って思ったけどそれにしては横にいたダイゴさんスルーしてたからまぁ()()()って察したしね!

 

 というか本音はあのバクフーンが戦うとこ見てみたいだけなんですけどね!

 あとあのトレーナーの名前知りたいので!!

 

 だってあの声は野島○児さんだったもん!!

 つまりケンタくんじゃん!!!??

 

 彼がゴールドくんなのかヒビキくんなのか知らんけど!!野○健児さんは正しくケンタくんの声じゃんね???!!

 他にもアニポケ出てる声だけど!ケンタくんじゃん!!でも違うんでしょ?!わかるよ!!

 

 容姿(前髪)はヒビキくんで?声はケンタくんで??でもあの口の悪さは若干スペっぽくて??しかも見間違えじゃなかったら瞳の色は黄(金)色だったんですが???

 ゴーグルつけて無かったしキューも持って無かったけどね!!

 君は!!誰!!!?

 

 関係ないけど個人的に○Pのハヤブ○のペルが大好きですっ!!!

 

 

 と、心の中で盛大に喚き散らした訳ですが。

 

 

 「ん?んんん?」

 「おや、これはもしかして…」

 「あのトレーナー大丈夫かいな…」

 「いや、えぇー…?」

 

 

 アメリカンな立○文彦さんボイスサイコー…とか思ってたらちょっと予想外な展開で困惑なう。

 

 だってジムリーダーマチスの初手、エレキブルですよ??

 

 一瞬PWTパーティかと邪知したけど多分これアレだ。

 HGSSの強化バージョン。

 

 だからえっと…

 ライチュウのレベル60が最高レベルだったから…

 うん、レベル50は普通に超えてるハズ。

 いやこれマジのガチだね??

 なした?えっマチスさんどしたの?

 エレブーじゃないの??

 

 

 大量疑問符浮かべた私を察知したのか、ダイゴさんがしてくれた説明は以下の通り。

 

 殿堂入りトレーナーが他地方でジムバッチを集める場合に限り、ジムリーダーは本気を出してバトルして良いこと。

 もしくは、ジムバッチを16個揃えたトレーナーも同じくジムリーダーは本気を出して良いこと。

 (但し数えるバッチは2種の地方、つまり色んな地方のバッチを足しての16個ではない)

 また、この場合のジムバッチ認定基準は勝利することのみであること。

 

 つまり、正しくガチのマジで本気である。

 

 まぁ確かに二地方プレイ出来る金銀およびHGSSで、カントー地方のジムリ勢普通にレベル高かったもんね。

 理由もまぁ納得できるし問題ないか。

 

 だって殿堂入りトレーナーってことはチャンピオン倒してる訳で強さは既にお墨付き。

 既にジムバッチ集め終わってる所でもう一回見定めるのはまぁ、その地方の気候やらの差異もあるので合格基準が多少違うからであって…

 流石に2つの地方を制覇したトレーナーをもう一度見定めるなんていうのはバッチを与えた地方のジムリーダーを認めてないってことになる訳で…

 (何故2種の地方なのかと言うと、セキエイリーグがカントーとジョウトを統括してるからなのだとか)

 

 まぁ鬱憤晴らしとは言わないが、この制度はジムリーダー達の為でもあるそうで…

 曰く、他地方の強いトレーナーと本気でバトルするのたーのしー!というね。

 

 

 まぁ…うん。

 頑張ってとしか言えないわ。

 

 ワカバタウンのヒビキ君、苦虫を噛み潰したような顔してるのなーんで?とか言わないよ…

 イキイキとした笑顔の圧が凄いマチスさんの相手、がんばれー…

 

 ところで声帯に関してはグリーンさんの前例(?)があったとはいえ余計に世界線わからなくなってきたんだけどほんとどうなってんの??

 ヒビキくんだったら○瀬大介さんじゃないのなんで??やっぱスマホはお呼びでない???解せぬ。

 

 それはそうと、でんきタイプのジムにデンリュウ初手で出すって勇気あるね?

 エレキブルの特性知ってる??大丈夫???

 

 

 はてさて、ちょっと心配になりつつも両者揃ってバトル開始となったんですけど、えっ?マ??うぇっ???

 

 

 「うぐっ目がチカチカする…」

 「せやなぁ…」

 

 

 誰かグラサンプリーズ…

 

 ダイゴさん、なんで平気そうなんです…?

 え?慣れ…??

 わー…すごぉい…

 

 私なんかデンリュウにまさかのかみなりパンチ指示で思わずスペニャ顔晒したら技の電気光をモロ直視したんだが。

 松ちゃんも同じく。

 目が…目がぁ…と、気分はム○カ大佐である。

 ちなみにマチスさんは海軍所属の階級は少佐だったハズ…今関係ないね?

 

 というかうっそやろヒビキくん…エレキブルの素早さ上げてどうすんの…?

 もしかしてでんきエンジンって特性ご存知でない…??

 デンリュウの素早さそんな高くないよ大丈夫??

 

 ていうか、たしかマチスさんのエレキブルってじしん覚えてたと思うんだけ、ど…あ、

 

 

 「デンリュウ、戦闘不能!」

 

 

 思った通りの技、じしんで倒されてしまった。

 

 いやだってタイプ不一致だけど2倍ダメージ…

 そもそもれいとうパンチとかみなりパンチのクロスでダメージ食らってたのデンリュウだけだもんね…

 

 そうして新たに出されたポケモンは、ドンファンだった。

 

 

 …?

 ……え?

 ぅん…??

 ……おぅん???

 

 なんではじめっからその子出さなかったの???

 

 

 今度のスペニャ顔は3つ揃った。

 松ちゃんなんて口がパッカーンしてる。

 

 てか公式イケメンが宇宙背負っちまったぞおい。

 なんならマチスさんも若干戸惑ってるぞ。

 さらにいうなら審判だってキョドってんだが。

 

 なんだこの空気。

 

 これマジで殿堂入りしたトレーナーのバトルです??

 

 なお当事者ヒビキくんは端から見ても物凄く赤くなってるのが分かるっていうね。

 ボールに戻したデンリュウにめっちゃ謝ってたもんね…根は良い子なんだなぁ、って。

 けどまぁうん、彼に何があったのかは知らんけど、これは恥ずか死ぬ。

 

 

 そんなこんなで続行されたバトル。

 

 多分きっとおそらくだけど、緊張っていうかテンパってたというか張り切り過ぎてたというか…

 無かった事には出来ないけども、まぁ、盛大な自爆をかましたからか、とても勢いのある淀みないバトル展開となった。

 

 タイプ相性有利を活かしエレキブルを倒し、続いて繰り出されたライボルトに先制でしぜんのみぐみ…持ち物:パイルのみ=くさタイプ技を決められるも持ち堪え反撃。

 素早さで勝っているライボルトのオーバーヒートを受けつつも、じしんで倒した。

 大活躍なドンファン。

 

 しかし、3体目に出されたライチュウによって、敢え無く倒されてしまった。

 

 くさむすび。

 相手ポケモンの体重が重いほど威力上がる技。

 ライボルトによって削られた体力は、効果抜群のくさタイプ技を回避することが出来ずに戦闘不能になったのだ。

 

 これで、残りはお互いに4体。

 まだ勝敗は分からない。

 

 正直、マチスさんのポケモンはおそらく把握してはいるものの、知ってるものと違う順番で出されている為に予想がつかない。

 だから、そう。

 もしかしたら、覚えてる技だって違うかもしれない可能性があることに、そんな()()()()()()()()に改めて気付いて。

 

 そして、ヒビキくんに関しては確定してるのはバクフーンのみなので予想も何もないという現状に、けれどその目がバトルに対する意欲を物語っていて。

 彼が()()()()()()()()()()()()を知らないという現実が、とても愉快で。

 

 

 さぁ。

 どうするの、ヒビキくん。

 

 おそらくマチスさんの手持ちの中で一番レベルの高いライチュウに、一体どうでるのか…

 どんな技を覚えさせているのだろう。

 どうやって対応するのだろう。

 

 食い入るように、フィールドを見つめる。

 

 強いトレーナー同士のバトル。

 強いポケモン同士のぶつかり合い。

 

 高まる感情を抑えるなんて無粋故、全力でもって観察する。

 

 次の展開が分からない。

 最高じゃないか。

 

 あぁほんと…

 

 

 これだから、バトルは楽しいんだ…!

 

 

 

 

 

 



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お祭り騒ぎのバトル

 手持ちメンバーの調子は上々、持ち物も確認済みで準備は万端。

 ジム初挑戦のバトルというのもあるけど、さっきまで見ていたバトルの影響もあって、自分でも分かるくらい高揚してる。

 

 唯一の心残りというか難点といえば、私のでんき技対策としてグラサンが欲しいくらいか。

 

 でんきタイプのジムに挑戦するなら必須アイテムはグラサン(※人用。くろいめがねに非ず)ですって、看板に書いておいてくれればいいのにね。

 観戦席で多少離れてたのにまだ目がチカチカしてる気がして真っ直ぐ歩けないんだが。

 

 うーん。

 今日もシミズさんのエスコート完璧だわ…

 手のかかるトレーナーですまんな…

 

 尻尾と思念で誘導してくれるからとっても安全かつ無事に、壁などに当たらずバトルフィールドに到着。

 上から見る景色と実際に立ってみるのとでは感じる迫力が違うし、()()()()()()()ものを、今から自分がやるのだと思うと、それだけで口が吊り上がってしまう。

 

 あぁもう、楽しみすぎて、たまんない。

 

 カタカタと、同調するように反応してくれるバトルジャンキー達の、なんて心強いことか。

 待ち切れないのは一緒なのだと、ほんと、誰に似てしまったことやらと笑ってしまう。

 

 

 ここで、さっきまで激しいバトルが行われていた。

 ジムリーダーの本気のバトル。

 とってもとっても、楽しかった。

 ()()殿堂入りトレーナーヒビキくんも力強い戦い方をして、まぁ、愉快だった。

 

 だって、多分だけど攻撃技しか覚えさせてないんだもん。

 脳筋ゴリッゴリのゴリ押しタイプ、嫌いじゃないぜ…!

 

 

 ジムリーダーマチスの育てられたポケモン達、ライチュウ、マルマイン、パチリス、ジバコイルを。

 ウソッキー、バンギラス、バクフーンで倒しきった。

 

 ウソッキーはいわなだれでライチュウを怯ませ、がんせきふうじで素早さを落とし体力を削ったものの、くさむすびで倒され。

 次いで出したバンギラスは一度くさむすびを食らったもののじしんで反撃し倒しきり、けれどマルマインのだいばくはつで大きく削られ、パチリスのてんしのキッスで混乱状態になってからの、自滅。

 パチリスの相手に出したバクフーンはわざマシンで覚えさせただろうじしんで倒し、最後の砦となったジバコイルをじしんとかえんほうしゃで倒した。

 

 おおまかに解説するとこんな感じのバトルだった。

 

 

 バクフーンのじしんの威力ちょっとおかしくね??と思ったけどあの体躯からだされる技なら多少のバフがかかってるのも納得…というか多分いわタイプのジムで連発して練度が上がってるんじゃないかな、という予想。

 あとはまぁ、おそらくあのウソッキーはあの(ゲームストーリーの)個体なんじゃないかなと思ってたり。

 まぁそれにしては明らかにレベルが他の子達に比べて低かったのが気になるとこだけど…捕まえてそのままボックス転送されたんかな、と邪智してみたり。

 

 とまぁ、バトルを観ながら頭の片隅でそんなことを考える余裕は無かったので、当然これはバトル後に考えたこと。

 でもあながち間違ってないと思うんだよね。

 

 

 ふと、視線を感じて顔を上げる。

 

 観戦席。

 ダイゴさんの居る場所の、そのすぐ近く。

 

 パチリと目が合ったのは、さっきまでここでバトルしていたヒビキくん。

 隣には大きなバクフーンもいる。

 

 私も観戦していたので、別に見られるのは構わないのだけれど、本当に、よく分からない。

 どうしてそんなに、敵意というかなんでこうも対抗心バリバリなのか…気にならない訳ではないけども、なんとなく、もしかして、という心当たりは無きにしもあらずだったり…

 

 誰かに唆された?誰かに煽られた?

 なら、その誰かは、誰…?

 

 そう考えた時に思い浮かぶのは、赤い髪のドラゴン使い。

 

 だって、ジョウト地方出身のヒビキくんがこっちにいるってことは、ゲームでいう殿堂入りが終わった後のストーリーなわけで…

 つまり、私のことを知ってる人でヒビキくんと接点あるっていう、断トツで疑うべき人。

 

 思い返すに、ワタルさんの所まで挑戦者が来ることは大変珍しいことだと言うのに、そのタイミング…その直前までお説教を受けてた記憶があったりする訳でして。

 時期的にもまぁ、合うっちゃ合うなと思う訳でして。

 

 でも、ワタルさんがそんな事すると思えないし…

 そもそも理由ないし…

 

 うーん…ま、いっか。

 なんであれ今はジムバトルに集中!

 

 ゲームだと3番目に挑戦することになるクチバジムで、はてさてどんなポケモンがでるのかと期待。

 平均約20レベル、ビリリダマ、ピカチュウ、ライチュウの3体。

 それがゲームでのマチスさんの手持ち。

 

 アニメだと、サトシくんのピカチュウを舐めプしてライチュウだけで叩きのめした訳ですが…

 裏事情というかなんというか、ジム経営の実情を多少知ってると、あれは規定的(レベル的)に1体しか使えなかったと分かるけど、当時はマチスこの野郎ォって憤慨した記憶がある。

 けど、その後のポケセンでのやりとりが、こう…胸が熱くなるんだよ。

 進化を断固拒否するピカチュウ…まじ格好いいんだから!

 

 …あれ?ちょっとまてよ?

 そういえばあのジョーイさん、サラッとかみなりのいし渡してくれたけど、ここカントー・ジョウト圏において進化石ってだいぶ貴重なんだけど…

 ははーん、さては天使だな…?(迷推理)

 

 

 っと思考を脱線させるのはここらで終了。

 

 全然集中出来てなくて笑っちまうね!

 気付いたらもうポケモンを替えて戻ってきたマチスさんがスタンバってるじゃん!

 やだ申し訳ない!

 

 目の前に立つ屈強な体躯。

 初期ではイナズマ()()()()()と、変更されてからはライトニングタフガイと称される彼の出身は、この世界でいうイッシュ地方。

 モデルとなったのは、米国。

 

 つまり、使われてる言語は…

 

 

 「Mr.マチス! I can't wait to play Pokemon Battle(早くバトルしましょう)!」

 「! WHOOO!! OK,OK(いいねいいね)! Let's enjoy Battle(楽しもうじゃないか)!」

 

 

 よかった通じたっぽい!

 しかもめっちゃ笑顔!

 ワイルド系のニッコニコ笑顔なんかかわいい!

 

 でも!バトルは全力で行かせてもらいます!

 

 

 「ジムリーダーマチス対オレンジ諸島のフルーラ!バトル開始!!」

 「GO ライチュウ!」

 「椿さん任せた!」

 

 

 同時に出された赤い光。

 収束すればそこにいるのは本日の一番手たる椿さんこと()()()()()と、頬からバチバチと放電する好戦的なライチュウがいた。

 

 体長4mの椿さんと80cmのライチュウという体格差(ただし体重はライチュウのが倍くらい重い)だけど、それを感じさせないくらいに覇気に満ちているライチュウに、思わず目を見張る。

 

 見ただけで絶好調だと分かる毛色毛並みと、その上からでも分かる鍛えられた体。

 察するに、レベル30を軽く超えてる。

 

 

 …おっと?

 あきらかに規定レベルこえてませんこと??

 

 

 「COME ON Challenger(さぁかかってきな)!」

 

 

 ニヤッと笑って、よくある指くいジェスチャーまでされて、かかってこいやと言われたら…

 そんなの全力で行くに決まってんでしょーがっ!

 やるよ!椿さん!!

 

 

 「っOf course(もちろん)!椿さん、ドラゴンテール!」

 「ライチュウ!でんこうせっか!」

 

 

 先制は取られたけど問題なし!だってドラゴンテールは後攻技なもんでね!!

 さぁ!相手のペースを崩そうか!

 

 どんなポケモンが出てきても大丈夫!

 ゲームもアニメも関係なし!

 だって殆どのポケモンが覚える技はざっくりだけど把握してるからね!!

 

 勢い良く飛び込んでくるライチュウ。

 体重差からか、椿さんが体勢を崩すもののそのまま尻尾をぶち当てた。

 弧を描いてマチスさんの元にぶっ飛ぶけど、ボールに戻る気配は無し。

 

 

 おっと?

 つまり、他のポケモンは無い?

 

 え、ライチュウオンリーなん?

 アニポケじゃん!!?

 何、もしかしてメガトンパンチとメガトンキック覚えてたりするのかな??

 

 けどまぁそんなの問題なし!

 

 

 椿さんをチラリとみやれば、わたしがブッ倒して勝つ!とばかりの闘志が伝わってきた。

 あらやだイケメン…(※椿さんは女のコ)

 

 一瞬バチリと帯電したけど、すぐさまソレが消えるのを見てニンマリ。

 特性:だっぴ。

 異常状態になっても1/3の確率で回復するそれで、賭けになるけども特性:せいでんき相手に頑張って貰おうとお願いしていた。

 

 今日の特攻隊長の任命に物凄いヤル気を出してくれてる椿さんは、いつにも増してバトル意欲が高いのである。

 多分レベルは同じか向こうが上かな?って感じなので更に闘争心バリバリ。

 

 

 「メガトンキック!」

 「たつまき!」

 

 

 種族的に先制とられるのは致し方ないけど、当然反撃はさせてもらう。

 

 

 マチスさんもライチュウも、うちのバトルジャンキーを満足させて下さいね…!

 

 

 

 

 

 

 



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子供にもどって、やりたいこと

 うちの椿さんは最強なんだっ!

 

 なんて言えたらよかったんだけどなー!

 

 椿さんに覚えさせてる攻撃技はたつまき、ドラゴンテール、しんそく。

 変化・特殊系はでんじは、こうそくいどう。

 まだ他にも技を覚えられそうではあったけど、将来的に物理攻撃特化型にしたいのもあって保留中。

 それに島じゃわざマシンとか買えないので現状レベルアップで覚えれる技での編成となっている。

 

 けどまぁ、でんきタイプに対してでんじはは無効なので、今回使える技は実質4つ。

 技の合間を見つけてはこうそくいどうしてるけど、3回やってやっとイーブンくらい。

 後は技を当てて削るだけ、と行きたいところではあるけどまぁ難しい。

 

 あのライチュウ、接近するとメガトンキック、距離とると10万ボルトとなかなかに遠近万能型。

 しかもでんこうせっかで接近して、反撃しようとすると近距離10万ボルトっていうコンボまでしてくるから、実は結構キツイ。

 

 ぐぬぬ…

 

 でんげきはの必中も、やっぱキッツイなぁ…

 

 メガトンキック、10万ボルト、でんこうせっか、でんげきは。

 確認してる技はこの4つ。

 これで更にでんじはとかげぶんしん覚えてたらどうやって勝てと状態なんだよね。

 

 ってかバトル始まってもう30分くらい経つけどそろそろ耐えきれなさそう。

 でも特性:せいでんきに特性:だっぴでここまで粘れてるのすごない?!

 まぁだからこそ特殊攻撃技を覚えさせてる内に挑戦してる訳ですけども!!

 

 

 「椿さんたつまき!」

 「ヘイライチュウ!10万ボルト!」

 「りゅりゅー!」

 「ラーーイッチュゥウウゥゥ!!」

 

 

 はい残念!怯まないねっ!

 んでもって…

 

 

 「ハクリュー、戦闘不能!」

 

 

 ですよねー!

 目をぐるぐる回してバタンキューしてる椿さんをボールに戻し、一言ありがとうと伝えて、息を吐く。

 

 んー…でもまぁ、うん。

 半分以上は削ったかな。

 

 当初の予定では…というかマチスさんがゲームと同じ手持ちだったら椿さんだけで勝ってた自信があるんだけどなー!

 ごめんね椿さん、活躍させきれなかったや…

 

 

 「Hey Challenger!Is your ability like this(お前の力はこんなもんか)?」

 

 

 その言葉を、激励ととるか挑発ととるか…

 

 いや、ニヤッって笑ってる時点で明らかに挑発一択だろコンチクショー!!

 は・ら・た・つ・なーーーっ!!

 

 

 「This Battle is not over yet(バトルはまだ終わってないです)! Still from now on(まだこれからです)!」

 「All light(そうかい)Bring it on baby(かかってきなベイビー)!」

 

 

 だから舐めんなこんにゃろー!!!

 

 

 「シミズさん!お願いしゃーす!!」

 

 

 全力投球、はしないけど!

 二番目だけど、君で終わらせるよ!

 

 

 「すなかけ!フィールド全体によろしく!」

 「フィ!」

 「Uh-huh…ライチュウ!でんげきは!」

 「ライラーイ!!」

 

 

 ですよねー!

 見えなくなったら必中技来ると思ったよ!

 

 だからこっちも!

 

 

 「スピードスター!」

 

 

 必中技には必中技で!

 まぁ見えはしないけど、分からない訳じゃないんだよね…

 

 でも、まぁ、マチスさんが見えてないならオッケーなので。

 

 指示はしたし、問題なく伝わってる。

 声に出さないでも伝わるって、こういうこと出来るんだよね。

 

 やった事はすなかけ→みらいよち→スピードスター。

 ちなみに声を出さないで指示出すのはルール違反じゃないってことはちゃんと勉強してるのて問題なし!

 隙が無ければ作ればいいじゃない!ってね!

 

 砂埃収まらないフィールドで、でんげきはとスピードスターの応酬をすること2回。

 頃合いである。

 

 

 「ンライッ?!」

 「ライチュウ?!」

 「シミズさん!サイケこうせん!!」

 

 

 キタコレ!

 不意に食らった攻撃がヒット、さぞや驚いたであろうライチュウに追撃。

 トレーナーなしでも十分戦えるのは分かってるけど、不意打ち食らったその隙に畳み掛けますとも!

 

 いい感じに当たったと察知して、思わずガッツポーズ。

 

 んでもって…

 

 

 「フィーフィッ!」

 

 

 ご機嫌なシミズさんの声に、にんまり口角があがる。

 だって、ライチュウの鳴き声は聞こえない。

 

 それを証明するように、駆け回る事を止めたことで収まりはじめた砂埃。

 晴れたフィールドでは目を回しているライチュウと、ちょこんと御座りしてるシミズさんがいた。

 

 つまり、

 

 

 「ライチュウ、戦闘不能!勝者、チャレンジャー!」

 「シミズさんサイコー!」

 「フィフィイ!」

 

 

 飛び込んで抱き着いてくるの可愛いがすぎませんこと?!

 砂埃でくしゃみ出そうだけどそんなの関係ないね!

 私は全力でシミズさんを愛でる!!

 ぎゅー!

 

 

 「Hey girl!Come here(ちょっとこっち来な)!」

 「I see(はいっ)!」

 

 

 ニッコニコの、今度は和気藹々としたとっつきやすい笑みを浮かべたマチスさんに呼ばれたので近寄る。

 いやなんかこの笑顔かわいいですね??

 これが、ギャップ…!

 

 

 バトルフィールドの中央にて、満面の笑みなマチスさんから受け取ったのは、オレンジバッヂ。

 ジムリーダに勝利した証で、認めて貰えた証明。

 

 バッヂを手に入れることが出来た。

 小さいけど、紛れもない、本物。

 嬉しくて、嬉しくて。

 

 でんげきはのわざマシンも貰ったので、有り難く受け取る。

 

 それにしても、だ。

 

 

 「えへへ…オレンジバッヂだ…やったねシミズさん!」

 「フィ!」

 「Girl, May I ask you a question?(ちょっと聞いてもいいか)

 「へ?あっYES!」

 

 

 じーっと見られていたようで、ちょっと恥ずかしい。

 

 そうして問われた質問は、ちょっと予想外で。

 いやまぁ、聞かれると思って無かっただけなんだけど。

 答えたら盛大に笑って、これからも頑張れよ、と激励してくれた。

 

 やだ、イケメン。

 

 あとガチマッチョにバシッて叩かれるのめっちゃ痛いんだけど…

 ぴえっ。

 

 とまぁそんな訳で!

 

 

 「じゃじゃーん!松ちゃん見て見て!バッヂ初ゲットだよ!オレンジバッヂ!」

 「よかったなぁ…」

 「うん!椿さんとシミズさんが戻って来たらクリームケアとブラッシングいっぱいしなくちゃ!」

 

 

 所変わってポケモンセンター。

 

 待合スペースで松ちゃんを出して抱き着きながら報告。

 いやまぁボールの中から観戦してたことは知ってるんだけどね!

 でもそれはそれとしてこの嬉しさを共有したいじゃん?

 

 うへへ…

 

 

 「まぁオレンジ諸島出身やからいっちゃん初めにオレンジバッヂ取りたいなんて言うくらいやから、まぁ嬉しいんはわかるんやけど、そろそろ落ち着きや?」

 「そうだったのかい?」

 「おっひゃい?!」

 「おっと」

 

 

 後ろから鈴○ボイス良くない!!!

 

 って言うか聞かれてた?!

 ウッソやろ?!ひぇっ!!

 

 って言うかさ!

 

 

 「なんで松ちゃん言うの…?」

 「えぇ…ジムリーダーに聞かれたんには答えとったやんか」

 「それはそうだけど…」

 「ふふふ…フルーラちゃんは故郷の事が好きなんだね」

 「ぐっふぅ…」

 

 

 微笑ましいと言わんばかりの微笑みやめて…

 

 めっちゃ恥ずかしい…

 

 って言うか松ちゃん、ダイゴさんが聞いてるの知ってて言っただろ…?

 ポケセンって人の出入りが多いから気配察知し続けるの面倒なんだよね…

 最近シミズさんとずっと一緒だったからって気を緩めたから…

 

 …緩めたから、の、松ちゃんの忠告?

 

 

 ベシッ

 

 

 「ぃたっ!」

 「しっかりしぃやぁ」

 「…はい」

 

 

 図星だったのか、一撃食らった。

 痛い。

 

 

 「…なんで、こんなヤツが」

 

 

 おん?

 

 

 声の元を振り返る。

 

 とっても不機嫌そうな…眉間に皺を寄せ、睨み付けられてはいないものの、剣呑な眼差し。

 

 

 「なんでお前なんかがグリーンさんに認められてんだよー!!」

 

 

 ギャンッ!

 

 叫ばれて、ポケセン利用者の視線が一斉に集まって、痛い。

 

 

 って。

 

 

 グリーンさんが原因かよ?!

 

 

 

 

 

 

 



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雨に負けそうな日

 「ーーーだから、ドラゴンタイプのポケモンには同じドラゴンタイプをぶつけるのは悪い事じゃないけど、単純に効果抜群を狙って大きく削って短期決戦するならこおりかフェアリータイプで攻める方が有効的。しかもフェアリータイプのポケモンならドラゴンタイプの技が効かないから、それだけでまず有利。ここまではいい?」

 「…ぅ、……っ」

 「あれ、大丈夫じゃなさそうだね…えっ、どこから分からないの?」

 

 

 スクールで習うタイプ相性に追加で補足つけて解説すること約1時間。

 初めにノートに手書きしたタイプ相性早見表を唸りながら睨めつけるヒビキくんは、気の所為じゃなければ頭から疑問符が大量に出ているように見える。

 

 今の気分というか立場は先生。

 ただし教える相手は自分よりも一応年上で。

 けれども明らかに私より知識が無い。

 

 いやまぁ私の持ってる知識量がこの世界において異常なのは察してるけど。

 

 なんてったって図鑑や攻略サイト等から得たポケモンのタイプ及び覚える技、そして特性&夢特性、性格から好むきのみ=上がりやすい能力とか、更におよその種族値まで叩き込んだこの記憶が火を吹くぜ!

 犠牲になった期末テストの結果は散々だったけど、あつまれポケヲタの沼!チキチキ☆第✕✕回!攻略サイトの投稿を検証してみた!!ランキング5位まで完全網羅するまで眠りましぇん!!〜夏休み編〜とか仲間内で開催したりしてた。

 努力値の振り分けまで考察してくと夏休みなんて一瞬だし、エアコン効かせた室内で全力でゲームするのはマジ至福。

 偶に運ゲー信者がいてトチ狂ってる戦略でてくるから汗が滝のように目から出てきたよね。

 宿題は尊い犠牲になったのだ…

 

 

 ところでヒビキくんや、どこが分からないんだい?

 これくらい一般常識でしょ??

 

 っていうかノートに書けてるの私が話したことの半分くらいだね。

 もう限界?嘘でしょ。

 

 

 「えぇ…まだ全タイプ18種終わってないのに…?」

 「せやなぁ…」

 「私、スクールで効果抜群のタイプは教わるって聞いたんだけど…まだ複合タイプだってあるのに…」

 「せやなぁ…」

 「それに特性の解説なんて始まってすらないよ…」

 「せやなぁ…」

 

 

 松ちゃん、そんな遠くを見て黄昏れないでよ。

 私だってそんな顔したい。

 そもそもヒビキくんはスクール通ってたんだよね?

 なんでスクール行ったことのない私が教えてるの?

 

 実はスクール卒業出来てないとか言わないよね?

 流石にないよね??

 

 

 「んー…実践のが、いい?」

 「っ!!」

 「うわぁ」

 「あちゃー」

 

 

 めちゃめちゃ目ぇ輝いてるぅ…

 

 これ、アレだな。

 スクールは実技(バトル)の成績で座学(知識)をカバーして卒業したやつ…

 

 逆バージョンでテストの成績だけで卒業してく人は専門学校や大学に行って研究者になる人が多いんだって、おじさん言ってた気がする…

 ジムリーダーになるのに最低限の知識があるか確かめる認定試験があって、それが専門学校の入試程度だって、言ってたもん…

 

 

 「ふふ。大変そうだねフルーラちゃん」

 「ダイゴさん…恨みますよ」

 「んーごめんね?」

 「ぐっ顔がいい…」

 

 

 コテンと首傾げるのを不覚にも可愛いと思った私を誰かシバいてくれ…

 これだから顔のいいヤツは…!

 

 そもそも何故こんなことになっているのかというと、ダイゴさんが原因なので。

 

 何故私()()()が、グリーンさんに認められているのか。

 そう叫んだヒビキくんに、一言。

 フルーラちゃんの方がポケモンの知識があるからじゃないかな?

 と。

 

 全くもって悪意の欠片もない、1+1=2だよと言うくらいに普通に言うものだから…

 いやほんと、あの瞬間のポケセンの空気、ヤバかった…

 

 

 思わず二人を引っ掴んでさ、逃走しようとしたらさ、ラッキーがこっちおいでーって誘導してくれてさ、救護者用の部屋を一つ貸してくれたんだよね。

 瞬時に色々察してくれたジョーイさんは女神。

 

 そこで改めてヒビキくんと話し合おうと思ったんだけど、悪気なく貶されたと気付いたヒビキくんがダイゴさんに突っかかって、でもダイゴさんはどこ吹く風なもんだから…

 ダイゴさんのメンタル強すぎん?

 

 言葉が足りなかったから怒っていると判断したのか淡々とさっきのバトルの講評するダイゴさんに、今度は押され気味ヒビキくん。

 特に自身のバトルは反省する点が多いことは理解していたのか、最終的には沈黙していた。

 

 私自身、自分のバトルを講評されるのは日常だったけれど、それにしてもダイゴさんの講評は辛辣だった。

 良かった所、悪かった所と言ってくれるのは有り難いんだけど、言い方が抉ってくる感じで、こう、胸がグサグサッと刺された気分。

 

 お兄さんもおじさんも、言葉を選んでくれてたんだなぁ。

 二人の優しさが今になって染みてくる…

 

 

 そんな巻き込み事故を食らって、まぁ、反省会はしようと思ってたけど、初のジムバッヂゲットにもう少し浸らせてくれても良かったのに、しょんぼり落ち込む。

 私よりもエグいくらい講評が長いヒビキくんは、まぁ見てわかるくらいには沈んでた。

 心なしか前髪も萎んでる気がする…

 

 二人のやり取りを聞いていたけれど、ヒビキくんの戦法は基本的に効果抜群でガンガン行こうぜ!

 場を保たすには同じタイプを出して様子見するけど、よっぽどのことがない限りはタイプ相性有利のポケモンで戦うスタイル。

 

 なのだけど。

 

 

 タイプによっては複数の弱点があるし、ポケモンによっては無効になったりするって、覚えないと勝てる訳なくない…?

 

 

 例えばゲンガーの特性がふゆうだった場合とか、ね。

 私は身に沁みている。

 

 特にジムリーダー達は一日に複数回チャレンジャーとバトルする日もあるので、使うポケモンを変えたりする。

 その時、同じレベルの同種のポケモンを使ったとして、同じ技を覚えさせてるとは限らないし、個体が違うんだから特性も、得意な攻撃だって違うだろう、と。

 

 それなのにヒビキくんったら…ねぇ?

 

 確かにジョウトのバッヂを8個集め、そして殿堂入りまで果たしたらしいけれど。

 でも、だ。

 

 

 「知識ないなら、実践するの、よくないと思うの…」

 

 

 だから実践はしません。

 そもそも知識を教えるのは構わないけど、バトルするのは遠慮する。

 だってさぁ…

 

 

 「私の手持ちと、ヒビキくんの手持ちじゃ、レベルが違いすぎて無意味ですし」

 

 

 レベルでゴリ押しするのも嫌いじゃないけど。

 でも、レベルが全てだとは言わないし、それじゃ同じレベルのポケモンを持った人と戦った時に負け確で楽しくないだろう。

 

 

 「ヒビキくん、問題です」

 「…おう」

 「かくとうタイプの弱点は?」

 「ひこう」

 「ひこうだけじゃないよ?」

 「…エスパー、と、フェアリー」

 「見て答えるのやめよ…覚えてよ…」

 「…………むり」

 「無理かぁ…」

 

 

 えぇー…私が無理ぃ…

 

 カントー地方にて、殿堂入りトレーナーとしてジム巡りしてるヒビキくんはいま、大きな壁にぶつかっている。

 それはジムリーダーが本気でバトルしてくることにより、ジョウトでやれた攻撃ゴリ押しで勝つことが、難しくなっていること。

 

 そもそもジムリーダーはそのタイプのエキスパートなのだから、ジムバッチの認定試験のバトルで本気も何もないし、試験官として相手してくれてるのだから、勝てて当然とは言わないけど、レベルがあれば大抵は勝てる。

 だからこそ、勝つのに必要なのは、知識。

 それから戦術を考えること。

 

 攻撃技のみでなく、補助技を覚えたり、特性を利用して優位になるようフィールドを、天候を変えたりすること。

 自分にあう戦い方を見つけ出すこと。

 

 ヒビキくんに必要なことは、それ。

 

 だけど戦術を考える前に、自分にあう戦い方を見つけ出す前に、知識が足りてなさすぎる。

 大問題にもほどがある。

 

 

 「効果抜群、無効。これを完璧に覚えたら、次は特性。こっちは完璧に覚えなくてもいいけど、覚えておいた方がいい」

 

 

 じゃないとエレキブルの二の舞になるよ、と言えば押し黙ってしまう。

 

 

 んー…なんだろ。

 違和感、っていうかなんだろ…

 面倒臭い予感しかないんだけどさぁ…

 

 

 「何がそんなに引っかってるの?こう…なに、コンプレックス?かな?え、んー…誰に?」

 

 

 勉強会モドキが始まってから、物凄く気まずそうな…というかネガティブモード?

 あまりにもあからさまだったから聞いたらビンゴ。

 

 いや当たっても嬉しくないなぁ…

 

 

 「俺、さ」

 「はい」

 「シルバー…えっと、ライバルに、一回しか勝てたことないんだ」

 「…うん?」

 「ソイツはさ、すっげぇ強くってさ」

 「…そう」

 「ポケモンの知識もすごくってさ」

 「……うん」

 「いつも俺より、バッチ集めるの早かったし」

 「うん」

 「曲ったこと、嫌いなヤツでさ」

 「…そう」

 「進化させるのが難しいポケモンも、進化させてたし」

 「うん、それで?」

 「……俺さ」

 「はい」

 

 

 「アイツに、ちゃんと勝ちたいんだ…」

 

 

 んーーー、拗れてんなぁ…!

 

 てか、え?

 

 一回しか勝ててない、とな?

 おうん??

 

 

 

 



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おやすみぐっない!

 うわあぁああぁぁんっ!!!

 私教えるの向いてないんだーっ!!!!

 

 ちゃんと勝ちたいならタイプ相性くらい覚えろよコンチクショー!と尻たたきして、全18タイプの解説を終わらせたんだよ!

 でも確認の為にテスト作ったら100点満点中38点なんだけど!!

 しかも空欄が多い!!!

 

 懐かしきアオハル時代通っていた学校だと補習確定の点数なんだけど!

 これ如何に。

 

 

 「せめてほのお・くさ・みずタイプは全部埋めてほしかった…」

 「みず、ほのお・ひこう、くさ・でんき…えっと…まぁ、合ってるね」

 「合ってますけど足りません…せめて空欄埋めて…空欄あるんだから…それがヒントだよ…埋めてよ…」

 

 

 みずはいいとしてほのおはパートナーやん…?

 覚えておこうよぉ…!

 じめん・いわも弱点だよ!!

 まさかタケシさんのジムスルーしてきたとかないよね??

 

 くさタイプはむし・どく・こおりが抜けてるしぃ…!

 

 予想以上にひっでぇ点数にダイゴさんもビックリしてるよ!

 松ちゃんは呆れ返ってボールに戻ってしまったんだけど!!

 

 んー…どうしたもんか…

 タイプ相性全く分かってない訳じゃないんだろうけど…

 

 よくこれで殿堂入りできたな…

 

 うーん、でもなぁ…

 でも効果抜群知らない訳じゃないし…

 

 あ。

 

 もしかして、だけど。

 

 

 「ヒビキくん、問題です」

 「ぅ、ん」

 「ギャラドスの弱点は?」

 「でんきといわ」

 「…マリルは?」

 「くさ、どく、でんき」

 「……イノムーは?」

 「ほのお、はがね、みず、かくとう、くさ」

 

 

 淀みなく答えるヒビキくん。

 思わずダイゴさんと目を合わせて、納得。

 

 

 「……あー…うん」

 「なるほどね…」

 「な、なんだよ…」

 

 

 私達のジト目にたじろぐヒビキくんは自覚なし、と。

 

 えぇー…こんなことあるー…?

 

 

 「ダイゴさん、どう思いますか」

 「うぅーん。なんとも」

 「ですよねぇ…」

 

 

 タイプ相性覚えてからポケモンの弱点を把握するんじゃなくて、それぞれのポケモンの弱点を覚える方が面倒臭いと思うの私だけ…?

 

 いや、最終的には同じことなんだけど。

 

 うーん。

 

 

 「ねぇヒビキくん」

 「だからなんだよ…」

 「ワタルさんに勝つまで…っていうか四天王突破するのに何回も挑戦したの?」

 「んぐっ!……っ、…ぅ!」

 「…やっぱ、何回も挑戦したんだ」

 「〜〜〜っそうだよ!!!」

 

 

 で〜す〜よ〜ね〜!

 

 赤面してるけどもろバレ〜。

 っていうかこれで確信できた。

 

 

 「ヒビキくんはバトルしたことあるポケモンしかタイプ覚えてないんだ。っていうか知らないんだね」

 「…まぁ、そうだけど」

 「自分で戦ってみて、実際に効果抜群か確かめて、覚えると…」

 「おう」

 「………ヒビキくん」

 「なんだ」

 

 

 なんか、もう、アレだ。

 

 

 「君、ほんとバカだね?」

 

 

 コレ以上の言葉、ある?

 

 キレたのか怒ってくるけどさ、もう別にどうでもいいやって気持ちのが大きい。

 

 

 「ヒビキくんは全部のポケモンと戦って確かめないと気がすまないの?」

 「、は」

 「この世界に何匹のポケモンがいると思ってるの?」

 「へ」

 「カントーとジョウトだけで軽く200を超えるんだよ?わかる?」

 

 

 ポカン、と。

 口を空けて間抜け面を晒すヒビキくんには悪いけど、止める気ないから。

 

 

 「ホウエン、シンオウ、イッシュ、カロス…他にも色んな地方があって、オーキド博士達が公表してる図鑑において、今現在発見されてるポケモンは900種を超えてるの」

 

 

 名前覚えるのだって大変なんだよ?

 そもそも数多いんだよ、それに絶対まだまだ増えるし。

 

 

 「ヒビキくんはそのポケモン達全てと戦って、効果抜群を見て覚えるつもり?」

 

 

 無謀すぎない??

 

 っていうかさ、そもそもさ。

 

 

 「ライバルがポケモン知識すごいなら!頑張って覚える努力くらいしろよ!!ちゃんと勝ちたいなら!タイプ相性くらい暗記しろよこのおバカ!!」

 

 

 ばちん!

 

 まずは一発、頭を叩かせて貰った。

 

 これ以上頭悪くなったらどうすんだ、とか喚いてるドアホはもう知らん。

 愁傷っぽい雰囲気だったのなんて知らん。

 知らないったら知らんのだ。

 

 

 「気持ちだけ立派なヤツはごまんといるんだよ!でも勝つ為に必要なのはがむしゃらな努力じゃないの!!そんなのポケモンが疲れるだけなの!!トレーナーが覚えて済むだけのことに!!ポケモンを巻き込んでバトルすんな!!この!!!おばかっ!!!」

 

 

 バッチーン!

 

 全力スイング。

 自分の手も痛いけど、だからなに。

 

 

 「レベル上げてタコ殴りで勝つのは気持ちいいでしょーよ!!でもね!四天王の人達に!ジムリーダーの人達にも!!本気のバトルでそんなこと出来る訳ないって分かるでしょ!!私達よりずっとずっと前からポケモンと一緒に戦ってるんだよ!!ポケモン達のレベルが高いのは当然!戦略が練られてるのも当然!!」

 

 

 それを、それを、このおばかさんはー!

 

 

 「バトルしなくても分かることくらい覚えろこのダメトレーナー!!!」

 

 

 はーっすっきり!!!

 

 んでもって!

 

 

 「ダイゴさん」

 「な、なんだい?」

 「私、もう寝ます」

 「え、あ、うん、おやすみ?」

 「はい、おやすみなさい。失礼します」

 

 

 付き合ってらんない。

 

 時間も時間だし、次の町に行くのに出ていくにはちょっと遅いし、そんなことより優先すべきは晩御飯。

 シミズさんと椿さんもケアだってやりたいし。

 

 

 「明日までにソレ(タイプ相性)覚えないんだったら、ライバルに勝つなんて二度と言うな。そのライバルはお前()()()よりずっと努力してるって理解しとけ、このバカ」

 

 

 もはや暴言しか出ないけど、しーらない。

 

 借りてたミーティング部屋を出て、ジョーイさんに今日泊まる手続きと晩御飯のお会計をして、預けてたポケモンを受け取る。

 

 

 イラついてるのが分かったらしいシミズさんがポーンと出てきて足に擦り寄ってくるのくそ可愛い。

 これぞアニマルセラピー。

 

 出てきたそうだけどサイズ的に邪魔になると分かってる椿さんが我慢してるので、とりあえずあてられた部屋に引きこもる。

 

 ポンポンポーン、と。

 部屋に着いた瞬間に皆出て来てぎゅうぎゅう抱き着いてきたのだけどとても幸せ。

 

 やだ、松ちゃんから抱き着いてくれるとかレアじゃん…?

 はぁーーーすき!

 

 

 でもさ、ほんとにさ、はらたつなーー!

 

 

 「バカでもバトルは出来るけど、バカじゃ勝てないって思い知れバカやろーー!」

 「荒れとんなぁ…」

 「フィフィ…」

 「ぴー…」

 「リュ…」

 

 

 あんなおバカさんがライバルなシルバーくんが気の毒だよ!

 バトルの才能だけで自分の知識超えられたらムカつくもんな!

 シルバーくんに勝ったっていう一回もほぼ偶然だったって言ってたもんな!!

 ざまぁ!!

 

 同レベルポケモンでバトルしたら私絶対勝つ自信しかないしー!

 なんならレベル1でバクフーンにバトル挑んでやろうか??

 必要なのはかいがらのすず、特性がんじょう持ちのココドラ、そしてがむしゃらのわざマシンな!

 悪夢の虐待バトルでシバきてぇ…!

 

 

 べしっ!

 

 

 「あぃたっ!」

 「変なこと考えとんなや」 

 「いや別に変なことではないよ!」

 「ほなら頭おかしぃこと考えとんなや」

 「悪化してるね?信用ないね??」

 「間違ってへんのやろ?」

 「……ぐうの音もでない」

 

 

 でもさぁ、タイプ相性も特性も覚える気のないレベルゴリ押し人間に灸を据えるには効果的だと思うんだけどなぁ…

 リアルでやるには素早さがちょっと心許ないし、私がやるにはちょっとポケモンとの相性が微妙だからアレだけど。

 かといってコレをダイゴさんにやらせるには心が痛む。

 

 

 「明日までに覚えて無かったら、どうやって、懲らしめてやろうか…」

 「物騒やなぁ…」

 「ぴ!ちょっけぴっ!!」

 「おっピー助ヤル気満々だねぇ…」

 「ちょぴぃー!ぴ!」

 

 

 うんうん、よし。

 

 

 「ピー助のガチ運に任せて全力ゆびをふるで殴るのもアリだね!」

 

 

 効果抜群を身を以て知る、いい機会だよね。

 問題はレベル差だけど…まぁ、うん。

 

 そこはなんとか丸めこむしかないかなぁ…

 

 

 さぁ、ヒビキくん。

 あとは明日の君次第だぞ…?

 

 

 

 

 





わくちん…だるい…


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あの人が待ってるハズ

 晴れ渡る空は青く澄んでいて、ピュウと吹いた風は少し火照った身体に丁度よい涼しさで、心地よくて。

 潮の香りがする空気を大きく吸い込んで、ゆっくり吐く。

 そうすれば、眼前の光景から意識を変えれた。

 

 風が砂埃を流したことでクリアになったそれは、まぁ、当然の結果としか言いようがない。

 倒れている巨躰と、悠然と佇む巨躰。 

 

 

 「うん。勝者、フルーラちゃん」

 

 

 審判を務めたダイゴさんは、この結果に驚くこともなく淡々とジャッジを下した。

 

 仮にも殿堂入りトレーナーに昨日トレーナーになったばかりのルーキーが勝ったのだから、もう少し反応あってもいいと思う。

 うーん、やっぱ食えない人だよなぁ。

 

 何を思って今もここに居るのかは当人しか分かりようもないけれど、昨晩イライラが一周回って虚無に昇華した時にちょっと、疑問が出た。

 私とヒビキくんを引き合わせたのは偶然…かは置いておいて。

 

 多分ではあるのだけれど、確定に近い気がするのだ。

 何故、私とヒビキくんを交流させたいんだろうか、と。

 

 初対面時のアレはこっちは何も発言してないのでノーカンとして、思い返すはジム戦後のポケセンでのやり取り。

 

 いくらダイゴさんが鋼メンタルだろうと、お忍びでプライベートな時だったとしても、チャンピオンがあんな空気読まない発言するか…?と。

 だってチャンピオンとはその地方の顔であり、代表なのだ。

 そんな人が、他の地方で殿堂入りをしているだろうトレーナーに対して過激な発言をするか、否か。

 

 しないでしょ、と。

 ならあの発言には何かしらの意図がある。

 

 じゃあそれは何?と考えると、ヒビキくんへのタイプ相性講座に繋がってく。

 そもそもアレはダイゴさんの一言が原因で開かれたモノなのではじめから誘導されてたんだな、と。

 

 松ちゃんとシミズさんの意見も聞いたりして考えて出したその答えはこんな感じ。

 

 その1、私がカントーを旅をする間のお供(護衛)としてバトルの実力()あるヒビキくんを付けたいリーグの思惑。

 その2、タイプ相性曖昧な殿堂入りトレーナーをしっかり勉強させて将来を担う存在になって欲しいリーグの思惑。

 …付け足すなら、実力も知識もあるトレーナーになったヒビキくんを四天王ないしチャンピオンに据えたいワタルさんの画策。

 

 で、それに巻き込まれてるダイゴさん、みたいな。

 いつ頼まれたのかは多分アーシア島を出る前…ではなく、私が観戦席からバトルフィールドに移動していた数分の間かな。

 あながち間違ってないと思うんだよね。

 

 

 とまぁ、そんなこんなでポケモンセンターの裏にあるバトルフィールドにて、昨夜決めた制裁…とは違うけれど、勝負はついた。

 

 

 使用ポケモンは一体。

 ヒビキくんは相棒のバクフーン。

 それに私も相棒たる松ちゃんで対峙した。

 

 当初の予定ではピー助のゆびをふるでフルボッコしてやろうと思っていたけど、昨日の叱咤叱責に反省した…というより年下にボロッカスに言われて火がついたのか目の下に隈を作ってまで念仏を唱えるが如く暗唱してたので少し許した。

 あきらかに徹夜したね?

 ついでに言うならダイゴさんに何か言われたんだと思う。

 

 で。

 努力したのならその結果を見るのは当然…とばかりに追試()を受けさせて、まぁ、70点代だったので一応合格にしてあげた。

 単一タイプのみだから本当は100点満点で合格にしたいんだけど、昨日の点数が余りにも悲惨だったから…私の慈悲深い心に感謝してくれてもいいんだよ?

 

 朝食済ませ、テストをして、採点し、及第点を与え、さてどうしようかと思ったらヒビキくんがバトルしたい、と言った。

 どうも一晩中慣れない勉強に費やした結果、体がムズムズしてしまいどうにか発散したいのだとか。

 脳筋…いやバトルジャンキーかよ。

 

 致し方ないのでご褒美とは言わないけど一戦だけなら、と引き受けたのがだいたい十数分前。

 そしてその結果が、私の勝利。

 

 

 「マジかよ…」

 

 

 呆然といった表情で倒れた相棒を収めたボールを見つめるヒビキくんには悪いが、こちらはまぁ想定の範囲内なので勝利したとて嬉しさとかは特にない。

 

 私が松ちゃんで戦って、負ける訳がなかろうに。

 何年一緒にいると思ってるの?

 

 例え相手がヒビキくんが一年丸々ジム巡りで鍛えたであろうパートナーであったとしても、だ。

 こっちは三年間ずっと一緒に居て格上とばかり戦って、バトルを叩き込まれ、しかも出会ってすぐに命がけの脱出体験だってしてるんだからな。

 

 おかげ様で松ちゃんだけはレベル50余裕で超えてるんだよね!!

 戦法は当然トリックルーム仕掛けの先制マウント。

 後はずつきとみずのはどう、切れそうになったらトリックルームの繰り返し。

 そんな感じでひるみとこんらん狙っての全力バトルさせないでひたすらボッコした。

 

 勝負して分かったけど、ヒビキくんのバクフーンは水技に若干耐性出来てる。

 察するに、まぁ、ライバルことシルバーくんの相棒がオーダイルなんだろうなぁ…って。

 まぁダメージ耐性出来ててもこんらんしちゃったら無意味だよね★

 

 

 「はぁーっ松ちゃんサイコー大好きー!」

 「もっと褒めてくれてもええんやで」

 「よっスナイパー松ちゃん!今日も相手の目を狙うえげつない水捌きだったね!そこに痺れる憧れるぅ!!」

 「シバくで」

 「ごめんて」

 

 

 いやでも松ちゃん水技使うとだいたい目狙うじゃん??

 バクフーンのこんらんの原因は半分くらい目に水入ったからだと思う。

 

 ぎゅーっと抱き着きながらお巫山戯するのはいつもの事なのでまぁいいとして、だ。

 微笑ましいと言わんばかりのダイゴさんの眼差しがなんか…ねぇ?

 

 

 「ヒビキくん、ぼーってしてないでバクフーン回復してあげなよ」

 「っえ、あ…おう」

 

 

 うん、意気消沈してる様子じゃないみたいだし問題なし。

 パタパタとポケセンに戻るヒビキくんを見送って、さて。

 

 

 「ダイゴさんは、いつまでここにいるんですか?」

 「…そうだね。もう、帰るよ」

 「そうですか」

 

 

 うーんポーカーフェイス。

 でも、私が何か察したことに気付いてるような雰囲気でもある。

 

 

 「一つだけ教えて欲しいんですけど」

 「なんだい?」

 「ワタルさんですか?リーグからですか?」

 

 

 ふふっと笑うその顔を、松ちゃんと一緒に要観察。

 分厚い顔の皮剥がしてぇ…とか思ってないよ!

 チャンピオンの仕事柄必然的に必要な処世術なのは分かるからね!

 けどまぁそれに苛ついたりムカついたりするのは別問題ってだけで!

 気付かなかったら気にならないけど、気付いちゃったら気になるのは仕方ないよね。

 

 

 「聞いてどうするんだい?」

 「どうもしませんよ。リーグからって言うなら私が実力示せばいいだけですし。ただ、もしワタルさんからって言うなら頑張ってフェアリー&こおり攻めで凸ってみようかなって」

 「…ほどほどにね」

 「善処します」

 

 

 うーん、反応からしてこれは両方かな?

 面倒臭いなぁもう。 

 松ちゃんも異論は無さそうだし、れいとうビー厶かふぶきの技マシンでも探そうかな。

 

 軽くさっきのバトルについて話しながらポケセンに戻って、ジョーイさんに松ちゃんを預ける。

 回復待ちしながら今度は未だぎこちないヒビキくんを交えてバトルの反省点や良かった点を聞いたりして過ごす。

 

 そうしてヒビキくんの緊張というか、私への態度が軟化したのを見計らって、聞く。

 

 グリーンさんに、何て言われたのか。

 

 曰く、

 

 

 「俺に挑みに来たら全力で戦いたい相手」

 

 

 そして、

 

 

 「カントーのチャンピオンになれる存在」

 

 

 と。

 

 トキワジムが8番目に挑戦するジムと知らずに門戸を叩いたら呆気なくあしらわれ。

 ならばと一目で強いトレーナーだと分かったグリーンさんに、ジムバトルでないバトルを挑んだものの、素気無くあしらわれ。

 

 俺と本気でバトルしてぇなら、カントーのジムリーダー全員倒してみろよ。

 と言われ、それに頷き、いつか挑んでやるつもりでいたのに。

 

 アイツのが早く来るかもな。

 

 と。

 小さく呟いたソレを聞いてしまって。

 

 チャンピオン(ワタルさん)より強いと感じたグリーンさんがそう言うトレーナーが、気になって。

 

 聞いたら、そう返ってきた。

 

 らしい。

 

 

 

 っておぃいいぃいぃいいい!!

 

 何言ってんのグリーンさぁあぁぁん?!

 

 思った以上に過大評価されてる気がするんですけどぉおぉおおぉぉ!!!

 

 

 ダイゴさんはなんで頷いてんのぉおおぉぉ!!!?

 

 

 

 

 



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握手しよう!

 ぷにぷにぷにぷに…

 

 もちもちもちもち…ふにふにふにふに…

 

 ぷにゅぷにゅぷにゅぷにゅ…

 

 もにもにもにもに…

 

 むにゅむにゅむにゅむにゅ…

 

 

 「いい加減にしぃや」

 

 

 べしっ!

 

 

 「あぃたっ!」

 

 

 無心で松ちゃんを堪能してたらチョップ食らっちゃった。

 抱き着いて全身で魅惑のもちぷにに触れるとかこれが天国…とか思ってたのに、残念。

 けどまぁ松ちゃんが止めろというなら止めますとも。

 

 さて、

 

 

 「モンスターボールも買ったし、回復薬系も補充したし、食料品も買ったでしょ…で、ヒビキくんはまだ?」

 「まだやな」

 「えぇー…もう待ちくたびれたよ…」

 

 

 次の町に行く為にそれぞれ必要なモノを買うために一旦別れ、そして待ち合わせをしているのだが…遅くない?

 あー…暇つぶしできるゲームとか欲しいなぁ…

 

 お昼すぎのこの時間、日差しがとてもキツイので早く来て欲しいのだけど…

 

 

 「松ちゃん、暑かったらボール戻っていいよ?」

 「平気やで」

 「……松ちゃん紳士ぃ…」

 「せやろ?」

 「すきぃー…」

 

 

 語彙力溶けてきた…

 でもわざわざ日陰作ってくれてるんだよ?

 こんなん惚れるしかなくない??

 

 ちなみに今の格好はキャップ帽にパーカー、ハーフパンツの少年風スタイル。

 これから歩いたりするので動き易さ重視の変装をしてる。

 

 

 予定としては次はセキチクシティに行きたいので、11番道路前に居るんだけど、まぁ通る人からの視線が…ね。

 ヤドキングってカントー地方で…っていうかそもそも通信進化だから個体数少ない珍しいポケモンってのもあって視線が集まるのよねー…

 

 でもバトル仕掛けて来ないのは松ちゃんのレベルが高いことが分かるから…かな。

 カントーのトレーナーはガチ勢が多いから…

 あとクチバシティって他地方のトレーナーもちらほらいるから目が肥えてるんだろうなぁ…と。

 

 そんなことを考えつつ、ため息を一つ。

 

 私はこれからヒビキくんと旅をする訳で、それを思うとちょっと気が重いなぁ…と思わなくない。

 

 一緒に旅をする間、私はヒビキくんにタイプ相性や特性、他にも有効的な変化技などを教えることとなっており、その変わりに野営の手伝いなどをしてもらうことになってる。

 これはヒビキくんからお願いされたので了承した。

 

 努力する気があるなら多少の手伝いくらいしてやんよ、未来のチャンピオンさん。

 でもまぁリーグの思惑に巻き込まれてることを知らないって、幸せなことだよなぁ…なんてね。

 

 裏事情としてはリーグの過保護が発動している訳だけど、そんなの関係なくヒビキくんにはみっちり教え込む予定なので安心してほしい。

 まぁ一人旅より誰か居てくれる方が楽しそうだしいいんだけど…

 

 

 「無駄に敵作ってそうなんだよなぁ…」

 「あー…せやなぁ…」

 

 

 思い込みがちょっと(?)激しく、バトルの腕っぷし()強く、なかなかに生意気というか…うん。

 これは一部の人から怒りを買う。

 

 かといって性格矯正する気はないし、あまりにも目に余るって言うならオレンジ諸島のジムチャレンジをして貰ってポケモンと一心同体…一蓮托生(?)な生活を身に叩き込むかんな。

 田舎舐めるなよ…

 ポケモンセンターのありがたみを思い知ればいいんだ…

 

 

 「ええっと…フルーラちゃん、だよね…?」

 「あっダイゴさん!遅いですよ!」

 「えっ!はっ?えっ?!」

 「ヒビキくんは何驚いてるの…」

 

 

 声をかけられ顔を上げればダイゴさんとヒビキくんがいたので文句を一言。

 なおヒビキくんは目を見開いて驚き固まってるのだけど何かあった…?

 

 

 「え…おま…おとこ…?や、でも、さっきまでスカート…えっ??」

 「ヤドキングが居たから分かったけど、フルーラちゃん大分雰囲気違うから合ってるか少し不安だったんだよ」

 「…あ、そういうことですか」

 

 

 何を混乱してるのかと思ったらそういうことね。

 

 あー…松ちゃんが頑なにボールに入ろうとしなかったのはこれを予想してたからもあるな…

 やだ…やっぱ松ちゃん紳士じゃん…すきっ!

 

 

 「ヒビキくん」

 「お、おう」

 「私は地元の諸事情で変装して身元を隠さないといけないんだ。とある人達に私の存在がバレるととても面倒なことになるし、なんなら巻き込むこともあるかもしれない」

 「…ん」

 「だからコロコロ()()()()()と思うけど気にしないでね!」

 「ん?うん??」

 「宜しくね!」

 「お、おう」

 

 

 勢いで押し切ったけどいいよね!

 どうせ巻き込んだとしても逃げたりやり返すのは慣れたもんだろうしね!

 

 ダイゴさんのちょっと大丈夫?みたいな顔なんて知らなーい!

 松ちゃんのちょっと呆れ顔は…まぁちょっと思うことはあるけど大丈夫大丈夫。

 

 

 さて。

 

 

 「次の町はセキチクシティ。ここから11番道路を通って行く予定だけど、問題ない?」

 「ん。元々その予定だし、それでいいぜ」

 「おっけ。ダイゴさんはここでお別れ…で良かったですか?」

 「うん。もう少し居てもいいんだけど、やらないといけないこともできたしね」

 「?そうなんですか。私が言うのもなんか違うという気がしますが、うーん…なんとかなると思うので、頑張って下さい」

 「ん、ふふ…うん、ありがとう」

 

 

 穏やかに笑うダイゴさん、あいも変わらずこの顔面は得だよなぁ…不快にならないんだもん。

 

 それにしても、やらないといけないこと…ね。

 おそらく来年10歳になるだろう主人公達と、天災の人災…うぅん、大変だ。

 

 

 そして簡単に別れの挨拶だけで済まそうと思ったけど、ダイゴさんから餞別にって貰った袋。

 なんか背筋がムズムズしたので目の前で確認して見たらさ、中に何個か包装されてたモノが入っててさ。

 

 そのパッケージに、ポケナビって書いてあったんだが。

 

 かねもちこわい…

 思わず問い詰めたらニッコリ笑って通信費は気にしないでいいよって言われた…こわい…

 

 というかこれカントー対応してんの…?

 あっ、ちゃんとしてるね…?

 わぁダイゴさんの連絡先しか入ってない新品のポケナビ…

 

 あまりにも恐れ多いというか常識が来いなモノだったので通信費は自分で払うことをどうにかこうにか説得した私を褒めてくれ…!

 ポケナビの通信費はトレーナーカードで落とすからぁ…!

 

 最後は泣き落としに近かったけど気にしてらんないよね!!

 

 なおヒビキくんは餞別といって最新機器である高価なポケナビをポンと渡すダイゴさんにどん引いてた。

 彼はお小遣い管理をお母上に任せてるとても庶民的な男の子なのである…

 

 

 まぁそれはそうとして携帯通信機器は有り難いんで遠慮なく使わせて貰うよ!

 ついでにヒビキくんの連絡先も登録しておく。

 

 ちなみにヒビキくんは気付いてないけど、君、リュックにさ、小さな袋括り付けられてるんだけど…

 多分それダイゴさんからの餞別っていうか…うん、私は何も見てないよ。

 

 この御曹司、実は貢ぎ癖あったりするんじゃ…

 まぁいいか。

 

 

 「それじゃ、またいつかお会いしましょう!」

 「うん、またねフルーラちゃん。ヒビキくんも」

 「あっはい!」

 「次に会うときはダイゴさんと全力でバトルできるように鍛えておきますね!」

 「ふふっ、楽しみにしてるよ」

 

 

 そんな会話して別れたけど、多分早くても2年後なので気長に待ってて欲しい。

 なんならはがねに対応できるほのお系ポケモンを捕まえるまでは凸らないけど。

 

 

 とまあ、そんな感じでクチバシティを出て、ひたすら歩いて、バトルすることなく夜を迎えた。

 

 大通りの道から少し森に寄って、野宿。

 

 テキパキとテント立てて寝床を整えるヒビキくん、伊達に一年旅してたわけじゃないのだなぁ、と少し関心。

 一緒に作った晩御飯はシチュー。

 パンは既製品のを軽く炙って、カリカリに。

 手持ちの子達にもフーズときのみを出して、一緒に食べる。

 

 存外穏やかに旅を進めれそうで、ちょっとだけ一安心。

 

 

 そんなこんなで晩御飯の片付けを終え、ミニテーブルに置かれたのは袋が2つ。

 

 テントを組み立てる時になってやっとヒビキくんはリュックに括り付けられてた小袋に気付いたらしく、中をみて大量の疑問符を飛ばしていたので、彼にはポケモンの道具の解説も必要なんだなぁ…と。

 

 やること増えてちょっと気が遠くなった。

 

 ちなみにこれは多分さらさらいわ。

 バンギラスに持たせればいいと思うよ…!

 

 効果の説明したら目を輝かせてた。

 うーん。

 先が思いやられるぜ…

 

 そういえば、と。

 ポケナビのインパクト強すぎて他のモノ見てなかったなと思って、改めてダイゴさんから貰った袋の中身を確認しているのだけども。

 

 丁寧に包装された手の平に収まるそれ。

 

 

 光り輝く、石。

 

 

 首を傾げるヒビキくんには悪いけど、ちょっとほんとマジであの人どうしたの。

 

 

 「ひ、ひかりのいし…!」

 

 

 思わず震える声に、反応したのは、そう、ウチのバーサーカー。

 

 ギランッ、と目が光って。

 そして。

 ビュンっと飛びかかってきた。

 

 

 飛びかかって、きた。

 

 

 「ちょまーーー!ピー助ステイッ!!ピー助ぇええぇえぇええぇぇ!!!!」

 「チョピィイィィイィイイィィ!!!!」

 

 

 ガツンっと。

 

 全力でタックルしてきたピー助を受け止めれる訳もなく。

 

 私の手から吹っ飛んだソレに、更に、文字通り飛び付いたピー助は。

 

 

 「ピーィ!チョッケピーィィ!!」

 「おうん…」

 

 

 それはとてもとても上機嫌な、トゲキッスになった。

 

 

 進化、嬉しいのに、素直に喜べない…

 

 一人で爆笑してるヒビキくん…許さない…

 

 トゲチックからトゲキッスになったことで、大きくなったのに…

 

 私を乗せて飛ぶこともできる大きさだって言うのに…

 

 

 いたずら小僧にしか見えないんだよなぁ…!

 

 

 

 

 

 

 



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〜幕間〜〜憂う彼の独り言〜

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ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 「…やぁ。遅くなってごめんね」

 「あぁ…うーん、そうだなぁ。対照的なバトルで見てて楽しかった、かな」

 「そうだよ。んー僕もバトルしてみたかったなぁ」

 「え?勿論フルーラちゃんとだよ」

 「うぅん…ヒビキくんはねぇ…筋は悪くないんだろうけど、ちょっと空回りしすぎててむしろ心配になったかなぁ…」

 「まぁ、将来有望ではあるんだけど…彼を君の後釜にするなら、大変だと思うよ?」

 「確かに旅に出て一年で君の所まで上り詰めただけはあるけど…うん」

 「年下の女の子から教わるなら、スクールでも真剣に学んでいれば良かったのにね」

 「…もうトレーナーズスクールのバトル評価、採点基準を見直す方がいいんじゃないかな?」

 「本当にね。うん、わかるよ…」

 「…そう。それは楽しみだ」

 「でも良かったのかい?セキエイリーグはフルーラちゃんの自由を尊重する方針なんだろう?」

 「まぁ、確かに巻き込まれやすい子だとは思うけど…ヒビキくんも大概だろう?」

 「君、フルーラちゃんに怒られるよ…?」

 「うん、気付いてたよ」

 「ヒビキくんはそれ以前の問題だと思うけど…僕のこと知らないみたいだったし」

 「え?いいじゃないか君は。だって後は待つだけだろう?」

 「君、欲張りすぎやしないかい?」

 「んー…早くホウエンにも来てくれないかな」

 「大丈夫だよ、流石にスカウトはしないってば」

 「もー…僕だって押し付けたりしないよ?それに選ぶならホウエンの子を、ね…」

 「ん?あー…それはまぁ、その…牽制されちゃったからね」

 「聞くかい?」

 「ほら、僕って顔がいいだろう?」

 「いや、自慢じゃなくて…それに君も大概だろう?もう…」

 「それでね、まぁ、見惚れてくれたんだよ」

 「だから自慢じゃ…からかってるね?怒るよ??」

 「まぁ報告は聞いたんだろう?今年は勢揃いだったこと…そう、すごいプレッシャーだったよ」

 「見定められた感じがね、ひしひしと…もちろん海の方に」

 「そしたら最後、帰る直前に…そう、それだよ!」

 「僕のこと見てフンッどうだって感じでさ…」

 「愛されてるなぁって僕としては微笑ましかったんだけど」

 「あぁ、フルーラちゃんは照れてたっていうより幸せすぎてどうしよう…っていうように見えたかな」

 「ふふ…うん、そうだね。だから愛されてるんだと思うよ」

 「かの有名な巫女様がどうだったのかは知らないけど、フルーラちゃんは顕著だよね」

 「エスパータイプ特化型のトレーナーは珍しいし、勘がいいのはバトルでも優位に立てる素地になる。それに頭の回転も早いし…でもちょっと苦労しそうだよね、主に周りや君の所為で」

 「あははっ!まぁいいんじゃないかな?怒ってはなかったし」

 「リーグの方針はともかく、君が大変なのは一応分かってるつもりだからね」

 「えぇー…それとこれは別だろう?僕は石の為なら宇宙にでも行けるよ??」

 「はいはい。そういうとこ、君も自重した方がいいと思うよ」

 「それじゃ。僕もそろそろ帰らないとカゲツ達に怒られそうだし…」

 

 「うん。またね、ワタルくん」

 

 

 思ったより長くなった通話を終え、ポケナビをしまいながらふと、あの子達に連絡先を渡したもののきっと連絡は来ないんだろうなと思ってちょっと寂しくなる。

 明るく行動的でありながら礼儀正しく思慮深い彼女のとこだから、きっと()()()は来る。

 それまでは気長に待つとしよう。

 僕のところに来てくれるみたいなのだから、その時が今からとても楽しみだ。

 

 

 「んー…それにしても…」

 

 

 思い返すは、美しき海の化身。

 

 

 あそこまで愛されて、もはや執着に近いとも見えたのに…

 

 ただただ慈しみ優しく見守るに留まっているのは、選ばれし巫女だからなのか…

 それとも伝説の、神と崇められるポケモンだからなのか…

 

 ……なら。

 もし、そうなら。

 

 

 「ホウエンにも居ないかなぁ。伝説のポケモンに慈しまれ愛される子」

 

 

 まぁ、見つからなかったから、見に来たんだけど。

 

 アテが無くなった訳じゃないし、協力してくれる存在はいるから、まだ余裕はある。

 けど、

 

 

 「あの子に頼りっぱなしなのは、いけないよね」

 

 

 思い浮かぶ黒髪の子。

 好戦的な赤い目の子。

 

 …どことなく、先程まで一緒にいた少女に似てる気がするのは気の所為か、それとも、そう思いたいだけか。

 

 まぁ、それはともかく。

 なんであれ、収穫がゼロでなかったことを喜ぼう。

 

 自分には必要ないから、使えないからと。

 そしてきっと役に立つからと、受け取った()()の石。

 

 ソレの価値が分からない訳がないのに、笑って差し出されたものだから、思わず発狂するところだったなんて知らないだろう。

 せめてものお返しにと選んだモノも、どうも琴線に触れてしまったようで物しか受け取って貰えなかったのはまだ腑に落ちない。

 まぁ、本命のモノに気付いたらトレーナーよりも小さなバトル狂が喜ぶのだろうけれど…

 

 

 …あれ。

 僕、フルーラちゃんのポケモン進化させすぎじゃ…?

 まぁいいか、うん。

 

 

 それにしても別れ際の言葉から、いったいどこまで察しているのかと末恐ろしいとも思うけど。

 あそこまでポケモンに愛され、そして愛する少女を畏れる必要なんて無いのだと、自慢の()()からもお墨付きをもらったことだし。

 

 まぁ、エスパータイプに好かれるっていうのに、ほんのちょっと嫉妬してみたり。

 なんてね。

 

 

 「じゃあ、またね。フルーラちゃん」

 

 

 だから僕は、彼女の旅が良きものであると願おう。

 

 そして同行する彼が、より良きトレーナーになることも願う。

 

 

 なぜなら多くのトレーナーをより良き方へ導くのも、僕の…チャンピオンの仕事なのだから。

 

 

 

 




餞別は実はただのお返しだった。
っていう話。

なおヒビキくんのは意図的でも言葉悪いこと言った謝罪的な意味合い。


前の話にどう入れようか考えて、結局分けたけど、ちょっと話の進み次第で消すかもしれないです…
うまくかけない…


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君なら大丈夫!(多分)

 ポケモンには種族があり、タイプがあり、特性があり、性格がある。

 思考する頭もあれば、感じ入る心だってある。

 つまり、個性がある。

 

 あるんだけど…

 

 

 「どうすんだよコレ…」

 「んー…どうしようか…」

 

 

 目の前にいる、一体のポケモン。

 大きな恰幅の良い、ポケモン。

 

 ポヨヨンとしたお腹を無防備に晒して爆睡する、ポケモン。

 

 

 「ぐごごごご…ずぴーーー…」

 「起きる気配ねぇぞ…」

 「そだねー…」

 

 

 あーそういえばここ一応11番道路だったわー…

 

 なんて思いながら、爆睡をキメているポケモンことカビゴンを見つめる。

 つまりはまぁ、うん。

 ゲームならポケギアでラジオのチャンネル合わせたらポケモンの笛が流れて解決するアレである。

 

 ただしここは電波が悪くてラジオほとんど受信しないんだけどね!!

 だって11番道路ではあるけどほぼ森ん中だもんね!!!

 ゲームだとほとんど圏外にならないけど現実だとまぁ致し方ないよねっ!!!!

 

 そして聞いて!!このカビゴン!!

 

 

 「顔、すげぇシワクチャんなったよな…」

 「たまたまなのか、ラジオの笛の音が嫌いだったのか…」

 「いや…なんつーか、たまたまじゃねーと思う」

 「だよねぇ…」

 

 

 ほんと、どうするよコレ…

 

 

 奇跡的に受信できた僅か十秒にも満たない時間、確かに流れたポケモンの笛の音。

 

 一瞬、ほんの瞬きの合間の時間、カビゴンから殺気がブワッと出て。

 次の瞬間にはラジオは途切れていたけれど。

 でも、確かにあの時、間違いなくカビゴンは怒ったのだ。

 

 多分このカビゴン、機械音嫌いなんだと思う。

 察するに嫌悪どころか憎悪のレベルだけど。

 

 いったいこのカビゴンに何があったんだ…

 

 

 「あー…くっそ、どうやって起こせばいいんだよぉ…!」

 「うーー……ん」

 

 

 多分だけど起こせなくは、ないけどさぁ…

 でもさぁ…

 

 ここまで爆睡されると、こっちまで眠くなるよね…

 

 けどまぁ、うん。

 起こさないといけないというか、連れて行かないといけないんだよねぇ…

 

 だってこのカビゴンのいる場所、私有地なので。

 ついでにいうならこのカビゴン、害獣対象になりかけてるので。

 

 ことの始まりは昼ご飯を食べ、満腹になったことで少し微睡んでいたときのこと。

 

 道なりに行けば夕方前に小さな町に着くからそこで宿泊施設を利用しようとか、そんな話をしていた時だ。

 突然私達の目の前…まぁつまり道の脇の森から、物凄い勢いで青年が飛び出てきたのだ。

 

 ズザザザザッ!みたいな感じだったので転がり出てきた、が正しいかもしれない。

 問題はその青年の後ろ。

 ブブブブブッと、少し低い羽音を響かせ青年を追いかけていた存在がいたのだ。

 

 それ即ち、スピアーの群れ。

 

 聞き間違いじゃなければヒビキくんからぴえっと鳴き声が聞こえたけどまぁ気持ちは痛いくらいわかるからスルーした。

 だって毎年スピアーの群れに襲われてお亡くなりになるトレーナー、いるし。

 スピアーの群れに(たか)られて無惨な姿になったポケモンとか、いるし。

 というか長閑な昼下りから唐突な地獄に心の準備も何もない状態でコレは酷い。

 なくぞ。

 

 興奮状態のスピアー達に敵認定され、パッと見ただけでも30を余裕で超えている群れに対して戦う羽目になったんだからもうガチで涙目。

 だって昼ご飯の為に荷物広げてたから逃げるに逃げれないんだよ…!

 眠気など吹き飛んでヒビキくんはバクフーンを、私はピー助を出してただひたすらスピアーを屠る鬼になった。

 

 奴らは野生なので普通にトレーナー(私達)を狙ってミサイルばりとか打ってくるからほんともう…阿鼻叫喚とは正しくアレのことを言うんだと思う。

 

 群れを成すポケモンを倒すに一番有効的であるのは率いるボス…司令塔を倒すことなのだけど、あまりにも数が多いし飛んでくる針を避けるのに精一杯で気付いたら殲滅してた。

 なお私の体力は赤ゲージ。

 ヒビキくんもゼェゼェ息を荒らげながらぐったりしてた。

 

 全力でハッスルできてどことなくイキイキしてるピー助はほんとオカシイ…あとエアスラッシュのひるみの確率7割超えてたよね?すごいね??

 バクフーンだって若干灰になってるのに…大丈夫?真っ白に燃え尽きてない…??

 

 荷物はちょっと荒れてるけど、まぁ、無事だから良しとする…

 する、けど、さぁ…!

 

 

 「それで、ハァッ…アンタ、ほんと、何、ゼェ…して…くれ、ハァ…ハァ…」

 「トレーナーの、ハァ…群れのトレインは…ハァ…罰せられ、ます…ハァハァ…よ」

 「ずびばじぇん"でじだぁ"!でも"お"れ"ドレ"ーナ"じゃな"い"でずぅ"!!」

 

 

 うわ鼻水飛んだ!汚っ!!

 てか顔面ナイアガラ気持ち悪っ!!!

 あと濁音すぎて聞き辛い!!

 

 

 なにはともあれ、と。

 このままここに居てスピアー達が起きてエンドレスバトルPart2なんて目も当てられないので移動する。

 荷物はパパッと集めて、ともかく移動!

 

 あぅ…シート穴空いてら…

 買ったばっかなのにぃ…

 あっ食料品無傷!良かったぁ…!

 

 

 そんな訳で涙も鼻水も唾もなんなら汗もボダボダ流すあまりにも残念な顔面にタオルを押し付け、荷物の確認しながら青年の話を聞いたところ、こんな感じだった。

 

 曰く。

 祖父母の経営する農園が荒らされてしまい収穫物がほぼ無い悲惨な状況。

 当然収益がないと生活が困難…の前に納品先が悲鳴を上げた。

 ここら辺では有名な農家さんらしく、根強い取引先はどうにかしてその犯人をつるし上げようとポケモン被害申請を役所に提出、そして役所からリーグへ依頼された。

 リーグから派遣されたトレーナーは原因がカビゴンが居着いたことであることを突き止め、そして追い払った。

 けれど。

 そのカビゴンは再び戻ってきたようで。

 

 再び育て始めた作物も、また、荒らされてしまったらしい。

 

 もう一度役所に申請しリーグに依頼してもらおうと連絡したものの、数日前から役所はてんやわんやのてんてこまい。

 どうも何かしらの事件が起きてるらしく、諸々の手続きが滞っているのだとか。

 けれど作物の被害は待ってくれる訳はなく…

 

 意気消沈している祖父母をみかねて、意を決してカビゴンに交渉しにきた。

 が。

 

 

 「カビゴンに会う前にスピアーの群れに遭遇してしまった、と」

 「はい…」

 「…いや、なんていうか」

 

 

 持ちポケいないのに森に凸るって、自殺志願者かな??

 無謀にもほどがありませんこと???

 

 

 うーん…にしても、さぁ。

 

 

 「あの…その方って本当にリーグから派遣されたトレーナー、ですか…?」

 「えっ」

 「あ?どういうこと?」

 「えぇっとですね…」

 

 

 そもそも、だ。

 

 居着いてしまった野生ポケモンが農作物に手を出した、何度も被害にあっているなら、それは味をしめた訳だ。

 ここに居れば美味しい食べ物が手に入る、と。

 で、だ。

 そんなポケモンを追い払うくらいで収まるとでも…?

 

 聞いた限りそのトレーナー、山を超えた場所まで追いやったならまだしも、私有地から追い出したくらいで済ませたらしいじゃないか。

 そんなの戻って来るに決まってるだろ、と。

 

 

 「リーグから依頼されたトレーナーなら、そこら辺の事も知ってるハズなんですよね…」

 

 

 というか、リーグから派遣されるトレーナーはそれなりの研修とか受けてるから知っていない訳がないのだ。

 そう、だから。

 

 

 「そのトレーナーは派遣された方じゃないんだと思います。で、役所が大忙しなのは多分ですけど依頼された本物のトレーナーが来たかとかで、それが発覚して…で、詐欺行為を働いたトレーナーをリーグに報告やらしてる所為なのかな…と」

 

 

 そうじゃなきゃこの現状おかしいもん…

 リーグの人ってキッチリ仕事することが生き甲斐みたいな社畜魂染み付いた人が多いって聞いてるので…

 

 

 と、まぁそんな訳で。

 

 

 「とりあえず、農園荒らしてるカビゴンに会いに行きますか」

 「えっ」

 「だって役所がまともに稼働する前になんとかしないと、被害は増えるばかりですし…」

 「まぁ…そうだけど…」

 「それに、ヒビキくん」

 「なんだよ」

 「バタフリー農園の果物、凄い美味しいって本当に有名なんだよ?食べたくない??」

 「…マジ?お前が言うくらいなの?」

 「高級料理店に卸すレベルだよ。察して」

 「お礼はいっぱいさせていただきます!お願いします!!」

 

 

 いや、あの…キラキラした目を向けてくれるのはいいんだけど、本音は別でして…

 このままだとカビゴン、害獣申請されて、その…処分、されちゃうかもしれないので…

 

 なんか、いやだなぁ…って、ね。

 

 ヒビキくんもまぁ美味しい果物に釣られたのか行く気になってくれた。

 えっいやチョロ…有り難いけど。

 

 

 と、まぁ。

 そんな感じでカビゴンを目の前にしている訳ですが…

 

 うーん。

 ポケギアで起こすのは諦めよっか…

 身の危険は避けるに限るよね…

 

 という訳で。

 

 

 「じゃーん」

 「んだそれ?」

 「オカリナっていう笛だよ」

 「…笛?」

 「そ、笛だよ。指慣らしの為に持ってるの」

 

 

 旅にでてる間の練習用の笛ですよ!

 これでも巫女の役目の為にちゃんと練習してるんだからね!!

 

 ちなみにポケモンの笛で奏でるあの曲は()の時に履修済みなので!

 

 

 「へぇ…や、でも、ポケモンの笛じゃなくても起きるのか?」

 「それはやってみないとなんとも…とりあえず吹いてみようかなぁ…と」

 

 

 機械音がダメなら生音で挑戦してみよう、的なね。

 吹くのはポケモンの笛じゃなくて、祭事に使う笛を模したオカリナだけど。

 

 そんな訳で、レッツトライ!

 

 

 ミファソー♪ラソドー♪レドソラファソー♪

 (※脳内で再生して下さい)

 

 ってね!

 どうだ、と顔を上げたらあらビックリ。

 

 

 眼前に、カビゴン。

 

 

 「ぴぇっ!」

 

 

 思わず口から笛を離して後退ろうとした。

 が。

 物凄い上機嫌なカビゴンは、とても可愛い笑顔を浮かべ、そして、私を掲げ上げた。

 

 

 「くぁwせdrftgyふじこlp」

 「おいっ!大丈夫か!!?」

 

 

 いや高い高い高い!!

 大丈夫な訳ないじゃん!!!

 でも敵意が全く無いんだよ!!!!

 

 助けて松ちゃーーーん!!!

 

 

 なんて、心の中で大絶叫をかましたけれど。

 

 

 なぜかよくわからないけれど。

 

 オカリナの音をとても気に入ったらしいこのカビゴン。

 

 

 仲間になりました。

 

 

 なんでぇ?????

 

 

 



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大人の癖に変なのー!

 ずしん…ずしん…ずしん…

 と、歩く度に心做しか揺れる足元に気を付けつつやっと到着した本日の宿泊予定の町。

 しかしながら視線が痛い。

 

 いや注目の的なのは私達の後ろを陣取ってるカビゴンなんだけど。

 

 カビゴンの平気身長は2.1m、体重は460kgのハズなんだけど、このこ目測2.5m余裕で超えてるんだけどビックサイズだよね??

 成長し過ぎでは???

 栄養のあるものいっぱい食べましたってか??

 

 高い高ーいってやられた瞬間地上3m超えたあの瞬間はマジで生きた心地しなかった。

 ほんとにこわかったんだからな。

 

 ところで私達を案内してくれている青年ことカラクサさん、カビゴンと物凄く仲良くなってるんだけど…

 トレーナーの手持ちになったからって、暴れないとは限らないんだよ?

 大丈夫?ちゃんと知ってる??

 

 

 「んでさ、何で役所じゃなくてポケセンに行くんだ?」

 

 

 そう、町民の視線を集めながら向かう先はポケセン。

 バタバタしてるであろう役所じゃないんです。

 

 いやだってさぁ…

 

 

 「ヒビキくんと違ってポケモン図鑑持ってないからね」

 「…ん?それ関係あんの??」

 

 

 え…マジで言ってる?

 いや、マジで言ってる顔だね??

 

 思わず半目になった。

 

 君ってばほんとよく旅に出れたね?

 というか図鑑持ちの弊害だったりする??

 

 

 「ポケモンが病気もってたりしないか検査する為と捕獲申請の為だよ。図鑑持ってたら検査は簡易的にやってくれるし、申請も自動的にやってくれるけど、そうじゃないと手続きが必要なの」

 「へぇー…」

 「…トレーナーズスクールで絶対に教わることだよ」

 「へ、へぇ…」

 

 

 おいコラ、目を逸らすんじゃない。

 

 そもそもトレーナーは年に一回持ちポケモン全てに種族別の予防接種受けさせる義務があるし、その費用は自己負担なんだぞ。

 ジョウトとカントーは陸続きだから免除されてるけど、海を跨いだ地方を行き来するトレーナーは検疫とかもっと面倒な手続きとかあるんだよ?

 当然自己負担で!!

 

 一応リーグから金銭的援助があるけど、強さに見合った補償なので。

 例えるならバッヂ2個所持のトレーナーなら、リーグは3匹分まで補助してくれる。

 実力に合った分だけしか出さないので、もしこのトレーナーがボックス含めて20匹とか捕獲していたら 17匹は自分で全額支払うことになる。

 

 トレーナーはお金がかかる職業でもあるんだ…

 その分トップトレーナーはとても稼げるけど…

 

 ちなみに。

 博士や研究機関から依頼されて捕獲する場合、おや登録はトレーナーだけど、所有権は博士や研究機関なので支払いは向こう持ち。

 なんなら捕まえるのにかかったボール代も負担してくれるよ!

 

 

 そういえば病原菌対策の下りで思ったんだけど、ポケルスの扱いってどうなってるんだろう…

 ゲームだと4日で死滅する基礎ポイント倍増させるお役立ち病原体だけど。

 アニポケだと確か戦闘能力が強化するウイルス扱いだったような…?

 

 色違いヘラクロスコマンド押し間違えて倒しちゃったら感染してたんだよなぁ…確率ェ…ピンクェ…

 

 とまぁそんな話はおいておいて…

 もしかしてヒビキくんがそういう手続きとか忘れそうだから図鑑を渡された…とか?

 …若干ありえそうではある。

 将来有望なトレーナーにあの手この手で恩を売りつけようとリーグの先行投資っぽいよね!

 

 まっ私には関係ないことだしいいけどね。

 別に羨ましくなんてないんだからね!!

 

 そんな訳でポケセン到着ー。

 カビゴン(権兵衛)さんボール入ってー。

 ついでに皆も回復しておいでー。

 

 あっジョーイさん、すみませんけど小部屋お借りしてもいいですかー?

 ありがとうございまーす。

 さて。

 

 

 「んじゃ、とりあえずヒビキくんは昨日の復習しててね。後でテストするから」

 「げっ」

 「カラクサさんは私とお話ししましょう!」

 「へ?あっはい!えっでも何を…」

 「後でジュンサーさんとか来ると思うのでその打ち合わせを」

 「え」

 

 

 カラクサさん居たから一応不法侵入じゃないけど、権兵衛さん捕まえた場所って私有地だったし…

 バトルしてないから土地荒らしてないけど、捕まえた権兵衛さんが諸々やらかしている訳ですし…

 もし既に害獣指定されてたら、ちょーっと面倒な事になので…

 まぁそれよりも件のトレーナーの方がよっぽど問題なんだけど…

 

 そんな訳で。

 カラクサさんと雑談交えて擦り合わせしつつ、ヒビキくんにテスト作って受けさせて、ラッキーが回復し終えたボールを持ってきてくれたのでお礼にきのみをあげて、テストの採点しつつカラクサさんに野生ポケモンの危険性を説きつつ、権兵衛さんから松ちゃん経由で事情聴取したり、ヒビキくんに追試受けさせながら次のテストを作成して…

 と。

 約2時間なかなかに忙しかった。

 

 打ち止め理由はジョーイさんがジュンサーさんと役所の方が来ていると教えてくれたから。

 はい予想通りー!

 

 さてさて。

 悪いことしてないからどんとこーい!

 

 って、思ってたんだけどなぁ…?!

 

 

 なぁぁあんでカビゴン捕まえる為に偽トレーナーに依頼しただのトンチンカンな冤罪かけられなアカンの??

 

 頭オカシイんじゃないのぉおおぉ???

 

 

 思わずニッコリ笑って(暴言)()こうとしたら松ちゃんに後ろから口を押さえつけられてモゴモゴと醜態を晒す羽目になった…

 

 落ち着けって?

 オーケーオーケー、大丈夫大丈夫!

 私、とっても冷静だもの!!

 

 ん?おやおやぁ?

 どーしてヒビキくんとカラクサさんは頬を引き攣らせてるのカナー??

 

 とりあえず松ちゃん、息苦しいへるぷ。

 ちゃんと丁寧にお話し合いするから手ぇ離してぇ…

 そんな呆れたって感情送って来ないでよぉ…

 

 はぁー…もー…そもそもの話さぁー。

 

 

 「依頼で来たってトレーナーをちゃんと確認しなかったお役所さんの仕事が杜撰なだけじゃないですかー」

 「ぅぐっ」

 「しかもそのトレーナーに同行者着けなかったのなんて完全にお役所さんの不手際じゃないですかー」

 「んぐぅっ」

 「それにそれにぃ詐欺トレーナーがしたお粗末な仕事を即日確かめなかったのだってお役所さんの怠慢じゃないですかー」

 「ぐふっ」

 「カビゴンだって起こすために吹いた笛を気に入られただけでお役所さんの言うような捕まえる意思なんてなかったですしー」

 「ゔっ」

 「町に来て早々に難癖つけられてぇ、しかもジュンサーさん引き連れてとか早々に逮捕でもしたいみたいですよねぇ。もうほんと怪しすぎてぇ何か隠したいことでもあるんですかぁ?」

 「っ…ぅ…」

 「やだぁー!何か言って下さいよぉー図星みたいじゃないですかぁ!」

 

 

 にこにこにこにこ。

 

 笑顔で丁寧にお話ししてる私、偉い。

 

 あらやだー。

 どうして皆さんの頬が引き攣ってらっしゃるんですかねぇ?

 仲のよろしいことですことー!

 

 

 「そうだ。ジュンサーさんジュンサーさん」

 「は、はいっ」

 「私がゲットしたカビゴン、もう害獣登録されてたりしますかぁ?」

 「い、いえ!まだ申請段階で止めてます!トレーナーにゲットされたポケモンと一致しているか確認した後に申請は取り下げさせていただきます!」

 「あ、ほんとです?良かったですー」

 

 

 にっこにこにこ。

 

 私も頬が引き攣りそうだけと笑顔笑顔ーってね。

 

 ジュンサーさんと役所の方からタラタラ汗が流れてるように見えるのは気の所為ということにして、どうしてヒビキくんとカラクサさんは壁際まで下がってるのかなー?

 私、怒って、ないよ!

 

 

 「あっ、そういえばお伝えしたい事があったんですよぉ!」

 「なっ、なんでしょうか!」

 「カビゴンから教えて貰ったことなんですけど、詐欺トレーナーさんは大きな音響機器持ってるみたいですよ」

 「へ、ぇ?」

 「なんでも農園のある私有地はラジオ等の電波が届かないようにしてるそうで。だからお休み中のカビゴンを起こすのにラジオのチャンネルを使うことは元々不可能だったんですよねぇ」

 「はぁ…」

 「詐欺トレーナーさん、準備良いですよねぇ。だってわざわざ音響機器を持ち込んで、カビゴンを大音量で叩き起こして、追い払ったんですもん」

 

 

 あまりにもな爆音だったらしく、機械割れした音は不愉快にも程があり、ぶちギレた権兵衛さんは暴れ回り、そして機械音が嫌いになってしまったらしい。

 うーん、これはギルティ。

 

 それがどうした?という顔をしてる役所の方、鈍感すぎるので帰ってどうぞー。

 何かを察した顔をしたジュンサーさん、一応頼りにしてますからねー。

 

 まぁ、何が言いたいかっていうと。

 

 

 「まるではじめから電波が届かないことを知ってたみたいですよねー!」

 「!!」

 

 

 一礼して慌てて出ていったジュンサーさんを見送り、クエスチョンマークを浮かべてる役所の方にはニッコリ笑って一言二言物申して問答無用でお帰りいただいて部屋はスッキリ。

 …部屋の隅っこで何故か震えてるお二人さん、どした?

 

 

 「お前、怖い…」

 「え、どこが?」

 

 

 ヒビキくんの言葉にガクガクと首を縦に振るカラクサさんの顔色が青白くってちょっと心配。

 やだなぁもう、私二人には何もしてないじゃんねー?

 

 というかさぁ、そんなこと言うけどさぁ…

 

 

 「お役所仕事…職務怠慢は許されないでしょ?だって大人なんだから、()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 私の知ってる()()はそこんとこ結構しっかりしてる人達ばっかなのでね!

 それに冤罪かけられたらちゃんと晴らしておかないとね!

 

 それからそれからぁ…

 

 

 「権兵衛さんにトラウマ植え付けたトレーナーはギルティなので!」

 

 

 にーっこり。

 

 ポケモンに悪影響及ばした犯人はちゃあんと捕まえないといけないもんね!

 お手伝いしようと思ったのにまさかこうなるなんて思わなかったけど!

 

 まぁ、それはともかく…

 

 

 「あ、ジョーイさーん!今日宿泊したいのでお願いしまーす!」

 

 

 とりあえず今日の宿確保しないとだったわ。

 

 後ろで怖っとぼやいてるの聞こえてるぞヒビキくん。

 どこが怖いんだよ、ほんと失礼だなぁ…

 

 

 さぁて、と。

 

 明日までに何も進展してなかったら、どーしてやろっかなぁー!

 

 

 

 

 



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出合いは全部覚えてる

 にこにこと嫋やかに微笑む和服姿の、大和撫子を体現したかのような、そんな見目麗しい女性。

 肩口に切り揃えられた黒髪は光の加減で深い青にも見えるものの、丁寧に手入れされた御髪は美しい天使の輪を作っている。

 彼女の名前は、エリカ。

 

 名乗られただけだけれど、紛う事なくカントーのジムリーダーである。

 

 

 日付は変わって、ついでに場所もポケセンから役所の一室に案内されたのは見計らったように朝食を食べ終えてすぐのこと。

 カラクサさんは昨日の内に帰宅しているので、ここに連れて来られたのは私とヒビキくんだけである。

 

 そして挙動不審な役所の職員さんに案内された部屋にいらっしゃったのがこのお方。

 昨日のことで何かしらの話し合いが行われると思っていたら見知らぬ女性がいた、という状況にポカンと口を開けたヒビキくんを肘でド突いて正気に戻し、失礼のないように一礼して座らせ、自己紹介を済ませたのがついさっき。

 

 エリカさんの横に控えるように立ってるジュンサーさん、徹夜したのかハッキリと隈が見える。

 一応お疲れ様ですと心の中で労るけど、職務をまっとうしただけだもんねぇー。

 

 けれどまぁ、ふぅ、と小さく息を吐く。

 慌ただしいというか落ち着きのない様子だった案内人の様子に納得したと同時に、思うこと。

 

 おい職員、説明くらいしよう?

 おこだよ??

 ホウレンソウご存知でない???

 

 キレそうだけどアタるべき相手は不在なのでここは我慢我慢…と。

 なにはどうであれ、と。

 ヒビキくんが失言しないように気を配りつつ会話を繋げる。

 

 生け花教室の講師であり、さらにタマムシ大学の講師まで勤める才女であるエリカさん。

 ちょっとまだ色々と情報が足りないので慎重にならざるをえないのでヒビキくんはどうか大人しくしていて欲しい。

 

 

 さて。

 何故タマムシシティに在住しているハズの彼女がここ、11番道路の傍にある町にいるのかというと彼女の副業が関係している。

 

 ご存知だろうか、アニメ版エリカさんのご職業を。  

 

 

 それは、香水販売店のオーナーである。

 

 

 そしてその放送回にて、香水の良さが分からず更には侮辱発言したサトシくんはエリカさんを怒らせてしまい、ジムに挑戦しようとする以前に門前払いをくらったのだ。

 そして、女装して、ジムに挑戦する、というアニポケ伝説の一幕になる。

 金髪ウィッグ…ピンクリボン…オレンジ色のワンピース…サトコちゃん…いや、ほんと公式が病気すぎるんだわ。

 

 そしてこのエリカさんなんだけど、この声、多分、氷○恭子さん…だよね??

 だからまぁ、つまり、例の如くアニメ版であってる訳で…

 

 だから頼むからヒビキくん、逆鱗に触れるなよ…?

 

 

 そんな内心を出さずに会話すること約30分。

 ジュンサーさん含めお互いに表面上は穏やかに情報交換し、事の全容が見えてきたところでやっと、やっと責任者っぽい役所の人が来た。

 

 いやおっせぇな??

 呼び出しておいて放置とか何考えてんの?

 今まで何してたん??

 

 お待たせしましたと言いながら軽く会釈するその神経すっげえな?

 

 ニッコリ笑って気にしてませんよ顔してるエリカさんが一瞬ピリついたの気付いてないんだろうなぁ…

 ヒビキくんなんてビクついたのに…

 私もにこーっと笑顔貼り付けてるけどエリカさん怖すぎて背筋ゾワッてしたもん。

 

 え?

 ジュンサーさんはまるで昨日の時みたいに頬が引き攣ってるよ??

 ふっしぎー!

 後ろに控えてるさっき案内してくれた職員さんの顔色が悪すぎて今にも倒れそうなのもウケるね!

 

 

 そんなこんなで始まった事件の報告会。

 

 私の昨日の発言によりジュンサーさん含め警察の方々が調べた結果、付近の農業関係者と大型音響機器の購入者を洗ったところ、とある果物農家がヒット。

 そしてその農家の近隣住民に情報を募ったところ、件の詐欺トレーナーと特徴が一致する人が事件前後に出入りしていた証言を入手。

 そして早朝、事件について直接農家に話を伺いに行ったところ、農家当人でなく、その娘が両親が依頼した内容諸々の証拠をジュンサーさんに叩きつけた。

 

 曰く、自分が将来継ごうと色々と勉強していたのに犯罪なんて犯したら農家存続どころじゃないじゃんバカヤロー!らしい。

 またその農家当人曰く、果物の品種改良や無農薬等と品質向上に努め、そして自信作と胸を張れるものが出来たというのに周辺の飲食店は取引の相手にもしてくれず、理由を聞いたらネームバリューが無いからと卑下にされ…

 …自分達の商品をどうにか取引して貰おうと思った結果が、バタフリー農園の商品こと果物を狩り尽くしてしまおう、となったのだとか。

 

 そしてその計画に手を貸したのが、件の詐欺トレーナー。

 

 元より農園を荒らすつもりはなく、ただ出来上がった果物が無くなるよう…カビゴンに食べ尽くして貰おう、と。

 そのカビゴンを連れてきたのはその詐欺トレーナーで、まさか農園を荒らしたりなんやりと、ここまで大きな事件になると思っていなかった…

 

 などなどの自供をしたらしい。

 

 

 そして。

 

 役所がてんやわんやとなった理由。

 本物のリーグより依頼されたトレーナーは、なんとタマムシシティのジムトレーナーだったらしく。

 

 曰く、バタフリー農園の育てている果物の花から抽出したオイルを香水にしているので、それならばと依頼を受けたのに、どうも様子がおかしいと。

 そして、ジムトレーナーよりそんな話を聞いたジムリーダーことエリカさんが急遽来訪。

 

 役所の職員は、まさかジムリーダーが来るなどと思っておらず。

 まさかの展開にどうにか事態の収拾をと焦りに焦ったいたところ。

 

 堂々と町にカビゴンを連れてきたトレーナーがいると聞いて。

 

 どうにかそのトレーナーを連れて来ようと、上から下へのパッパラパーなホウレンソウが行われた結果。

 昨日の役所の人&ジュンサーさんの来訪、となる。

 

 

 うーん。

 なんてあんまりにも残念な所業。

 

 ちなみにトレーナー(私達)を連れて来るように言ったのが鈍感力爆発してる職員さん。

 リーグに依頼したのもこの人。

 

 一応の仕事は出来るけどマニュアル通りにしか動けない人とみた!

 そして後ろに控えてる人は圧倒的に下っ端苦労人かな!

 急募:自分で考えて行動できる人間ってね!

 

 とりあえず、やっぱりとばっちりだった訳だけど誰に鬱憤晴らししてやろっかなって!

 関係ない人巻き込むのよくないよね!!

 ハーッ!ムカついちゃうね!!

 

 なんて思ったら。

 

 

 「それで、違法行為を働いたトレーナーさんは見つかったんですか?」

 

 

 鈴の転がるような声音なのに、ヒュッと息をのむ音が聞こえた。

 ジュンサーさんに職員さん、なんならヒビキくんもガチンっと固まってるし、鈍感職員さんも若干青白くなってる気がする。

 

 まぁ、うん。

 私もそれ思ってた。

 

 だって農家さんの下りは聞いたけど、結局トレーナーが見つかったとは言ってないもんね。

 

 だけどまぁ、自白した農家さんから掴んだ足取りから、数日中に見つけると言い切ったジュンサーさんを信用しますかね。

 

 犯人逮捕には至ってないものの、事件の概要は分かったのでとりあえずこれにて収束…という流れなのだけど。

 それに待ったをかけたのは、エリカさんだった。

 

 

 ニッコリと、崩れない笑顔のまま、追求するのは役所の対応。

 

 依頼を受けたトレーナー本人かの確認不足にはじまり、同行者不在、達成された依頼の確認不足、再発時の対応の遅さなどなど…

 という問題しかないこの一連。

 

 どう対策するおつもりですの?

 

 と。

 小首をかしげて問うその後ろに、おどろおどろしいナニカが、見えた気がした…

 

 

 おうっふぅ…

 顔面蒼白な役所の方々、お気をたしかに…

 

 いやまぁ自業自得だとは思うけど。

 というかほんと、どうしてこんな杜撰なことになってるのか疑問に思ったけど。

 

 けどさ…

 

 あの、すみません…

 

 

 「帰っていいですか?」

 「はっ」

 「え」

 「あら」

 

 

 いや役所の方々もジュンサーさんも、ましてはヒビキくんもぱちくりと目を瞬かせないでよ。

 だってさ、考えてみてよ。

 

 

 「詐欺トレーナーさんの身元は分かってて、後はもう捕まえるだけなんですよね」

 「あ、はっはい!」

 「私達は事件と関係のない存在である、とご理解いただいたんですよね」

 「そう、ですね…はい」

 「じゃあもう私達がここに居る意味無いですよね?」

 

 

 だって昨日の冤罪疑惑はもうかけられてないんでしょ?

 ならここに来た理由終わってるじゃん??

 

 役所の人達は謝罪してくれる気配全くないし!

 元より期待して無かったけどな!!

 

 役所の上役だろう鈍感ヤローから誠意が返ってくる訳ないもんな!!!

 冤罪はらす為とはいえ協力したったのになぁ!

 

 とりあえずここの職員はクソミソ!!!

 精神安定の為にこの場から退避したいなっ!!

 

 あと普通にエリカさん怖い!

 笑顔の迫力が恐ろしい!!

 ついでに言うなら長時間ここに居るともっと面倒な事になる気がひしひししてる!!

 

 エリカさんが悪いって訳じゃないけど…

 でもなんだろ…

 向いてるタイプ相性とかそういうの以前になんだろ、こう…そわそわするんだよね。

 対面した時からなんか落ち着かない。

 

 気が合わないことは、ないんだろうけど…

 

 んー…?

 なんかやだ。

 

 だから早くここから立ち去りたい、っていうのが本音。

 

 

 そんな訳で。

 こいつマジかよ…という顔をしたヒビキくんを連れてポケセンに蜻蛉返り。

 

 昼時に待ち合わせしていたけど、早く来ていたカラクサさんと合流し、そのままバタフリー農園にレッツゴー!

 

 

 カラクサさんの祖父母からも歓迎され、とりあえずやることといえば…

 

 

 「おーっ流石権兵衛さん!力持ちぃ!!そのまま肥料散いちゃおう!」

 「んびーー!」

 「椿さん、整地しちゃって!」

 「りゅりゅーっ!」

 「シミズさん、ピー助!種蒔き任せた!!」

 「ふぃー!」

 「ちょぴー!」

 「よし松ちゃん!いーカンジに水撒きよろしく!」

 「まかせときぃ」

 

 

 次の収穫の為に、お手伝いしてる。

 

 もちろんヒビキくんもポケモン達と一緒に齷齪(あくせく)働いてる。

 

 

 「あの、本当にありがとうございます」

 「いーえー!原因や元凶やらはまぁアレですけど、権兵衛さんが荒らしたのは事実ですし?それに農家さんが大変なのは知ってるつもりなので…」

 

 

 伊達にど田舎島暮らししてないんだわ…

 

 被害にあった農場を整え、種を芽吹かせ、苗を育て、花を咲かせて、実らせる。

 それがどれだけ時間のかかることか…

 

 役所の対応から、どうせコッチに手を回してないんだろうなと予想してたらその通りだった。

 

 だからまぁ、カラクサさん経由でお手伝いすることを伝えていたのだ。

 

 その報酬として休憩時間にいただいた干し果実とジャムを使った料理は大変美味だった。

 

 え?

 ジャム下さるんですか??

 ありがとうございますー!!

 

 はわーー!

 うん、これは顧客が暴徒化するのも分かる…

 

 一度知ったら忘れられないお味…

 

 

 そう。

 

 だから。

 

 

 まさか私達が去った後の役所にて。

 

 

 エリカさんが持ち込んでいた通信機で。

 リーグ関係者に通話していて。

 巻き込まれたトレーナーとして報告され。

 

 まさかのまさか。

 

 ワタルさんにまで話がいってるなど… 

 

 思う訳が無いでしょう。

 

 

 

 



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きゃ~!(歓声)

 その後の道中はまぁ平穏で、売られたバトルを高価買取りしたりしながらやって来ましたセキチクシティ。

 到着したのが夜だったので急いでポケセンに宿泊申請して、久しぶりのお風呂とふかふかベッドでリフレッシュ出来たし満足満足。

 

 

 そして今はお昼時をすぎた、お腹が満たされ少しばかり眠くなるようなそんな時間帯。

 ポケセンからちょっと離れた広場にて、シミズさんを侍らせて、なんならちょっと化粧もして、服もちょっーと華やかなのをチョイスして、準備万端。

 

 ざわざわと人の往来がそれなりにあるのを確認して、数度深呼吸して覚悟を決める。

 

 

 女は度胸!

 よし、やるぞ!!

 

 

 深く息を吸い込んで、細く優しく、吹き込む。

 

 

 突然響き始めた聞き慣れない音に行き交う人が一人二人と足を止め、なんならフラリと近寄って来る気配に、心の中でガッツポーズ。

 掴みは上々、後はどれだけ聞き惚れさせることが出来るかだ。

 

 奏でているのはもちろんオカリナ。

 祭事の練習用にと持ってきていた笛である。

 

 

 見慣れぬ子供が路上パフォーマンス…いやライブか?をしているのは興味惹かれる事らしく、2曲3曲と続けると疎らだった人はいつの間にか結構な人集りになっていた。

 足元で曲に合わせてぴょんぴょん跳んだり尻尾を揺らしたりと踊ってくれてるシミズさんは、きちんと集まった人達を警戒してくれているのでとても安心。

 いやほんとぐう優秀…しゅき…

 

 そして本来なら人前でこんな目立つ事をするのは自粛するべきであるのは理解している。

 理解してはいるけれど、どうしようもな…くはないけどちゃんと理由がある。

 

 実際こうなることは予想していなかった訳ではないけど、なんならセキチクシティまで保った現実を褒めて欲しいくらいだけど。

 予想外なことは既に起きてしまっていて、事態の現状を回復するにはこれが一番手っ取り早いと結論付けた。

 

 

 チャリン、と。

 ある人はヒラリと一枚大盤振る舞い。

 

 用意した箱に次々入れられるソレが、思ったより多くてとても嬉しい。

 投げ銭、ありがとうございます。

 

 ニッコリ笑顔を振り撒きながらお礼としてクルリと回ってパフォーマンス。

 わぉ流石シミズさん、タイミングバッチリ。

 

 音楽に合わせて同時に回ったパフォーマンスに、ちょっと歓声と追加の投げ銭ゲット。

 やだ皆さんやっさしー!

 

 

 見ての通り、目的はそう、お金である。

 

 

 旅に出るにあたって相応の…というか寧ろ多めにリーグから軍資金(というか補助金)を貰っていたのだが、それもほぼ底を突きそうなので、これは致し方ない事なのだ。

 と言い訳してみたり。

 

 だって、エンゲル係数やばいんだもの。

 

 言い直すと、まぁ、うん。

 カビゴンのご飯代、やっべぇ(真顔)。

 

 

 つまりそういう事である。

 

 

 そしてギャラリーと軽く会話したりして、リクエストされた曲を吹いてみたりと続けて何曲かと吹いて、そろそろ舌が疲れてきたので、最後の曲だと宣言して、打ち止め。

 

 右手を大きく回して胸元に止め、一礼。

 

 パチパチと貰い受ける拍手に、ちょっと感動。

 

 

 「ありがとうございましたー!」

 「嬢ちゃん、次はいつやるんだい?」

 「優しい音だね!楽しかったよ!」

 「セキチクに来たばっかりだろ?泊まるとかはあるのか?」

 「またここで演奏してくれるのかい?」

 「ねーちゃん!こんどラジオのやつ吹いてよ!ポケモンマーチ!ききたい!」

 

 

 思ったよりも友好的なギャラリーに、答えれるモノには答えながら帰り支度をパパッと整える。

 ここで失敗すると、諸々の計画がパーになるので迅速に、ってね。

 

 元々機材など持ち込んでないので投げ銭箱をしまっちゃえば殆ど準備は完了である。

 ので。

 笑顔を絶やさず対応し、手を振りながら良かったらまた明日お願いしますー!と言って撤退。

 

 

 シミズさんに神経を警戒に全振りしてもらい、足早にとにかく離れて、人の気配が無いところに着いて、ホッと一息。

 

 …うん。

 

 

 「ふぇーー!シミズさんありがとーー!!」

 「フィー…」

 

 

 ぎゅーっと抱き着いて、ついでに首筋に頬擦りしてモフモフを堪能。

 あぁー…癒やされるんじゃぁー…

 

 シミズさんからコイツほんと仕方ねぇな…と溜息混じりの感情が伝わってきたけど、仕方ないじゃん。

 

 人前でというか、路上ライブなんて、ほんと心臓に悪い!

 祭の時はもっと人多かったりするけどあんな近くで吹かないもん!

 話しかけて来る人いないもん!!

 それに吹く曲決まってるしいつも一曲だけだもん!

 

 うわーん!疲れたよぉーー!!

 失敗しなくて良かったぁーー!

 

 

 内心喚き散らしていたらポンポーン!と赤い閃光が飛び出してきて、4つの影に囲まれる。

 

 そして頭にぽむ、と柔らかい感触。

 

 

 「おつかれさん」

 「ま、松ちゃぁあん…」

 

 

 ぽふぽふと優しく叩かれて、労りの言葉をかけられて、思わず涙目。

 

 

 「りゅー…?」

 「ちょぴぃ…」

 「椿さん…ピー助ぇ…」

 

 

 ひんやりとした体で腕に擦り寄り、大丈夫?と覗き込んでくるつぶらな瞳。

 包むようにふわりと背中から抱き着いて、安心してーと頭を押し付けてくる温もり。

 

 

 「か、かびぃ…」

 「権兵衛さん…」

 

 

 ごめんなさいと言わんばかりに申し訳なさそうにこちらを伺い、大きな身体を屈ませ視線を合わせようとしてくれる優しさ。

 

 

 みんなほんとまじでいいこ…すき…

 

 

 ポロッと溢れた涙に、オロオロしだす愛おしい子達に、ふへへ、と締まらない笑みを返す。

 安心しただけだから大丈夫だよー、と。

 

 ありがとうの気持ちを込めて撫でて落ち着かせていれば、自然といつも通りの調子が戻ってきた。

 ポケモンセラピーはトレーナーのリフレッシュに最適、これ常識。

 

 

 「ふぅー…とりあえず、誰も追ってきて無い、よね」

 「フィフィ!」

 「せやな」

 「ん。なら、とりあえず着替えよっかな。権兵衛さん、ちょっと壁になっててね」

 「んび!」

 「シミズさんは警戒お願いします」

 「フィ!」

 「ピー助と椿さんは、戻ってくれる?」

 「ちょぴ!」

 「りゅっ!」

 「松ちゃん、着替え手伝って」

 「しょうがないなぁ…」

 

 

 わたわたと、荷物から着替を出して化粧を落として、変装からまた違う変装へ、今度は少年スタイル。

 もはや一人仮装大賞してるみたいだわ。

 

 髪も帽子に仕舞いこんで、っと。

 

 

 「松ちゃん、どう?」

 「ん、問題ないで」

 「よし。権兵衛さん、シミズさん、ありがとうね。戻って」

 「んがび」

 「フィ」

 

 

 残った松ちゃんを引き連れて、来た道とは違う道を使ってポケセンへ戻る。

 その道すがら、先程奏でていた曲を楽しそうに口ずさむ子達がいて、ちょっとほっこり…

 やだかわいい…うれしい…

 

 といってもまぁ…

 

 

 吹いてたのはゲーポケのBGMなんだけどな!

 

 一番好評だったのはセキチクシティのBGM。

 軽快な感じでとても良いよね!

 オカリナだと雰囲気ちょっと変わっちゃたのが無念…

 

 なおポケセンのBGMの時に聞いてたポケモン達がソワソワしてたのがめっちゃ印象的でした。

 

 

 「おっ。おかえり、どうだったよ」

 「ふふん!計画通り!見よ、この成果を!」

 「おぉー…いや、すげぇな?」

 

 

 宿泊室にて出迎えてくれたヒビキくんに本日の成果こと投げ銭箱を開封。

 そしてジャラジャラとなかなかな重さになった箱に入ってるお金を計算。

 

 初日だし数千円でも集まれば良いだろうくらいに思ってたけど、集計したら余裕で万こえててビビった。

 

 いや誰だよ万札投げたの…

 これは間違えて投げた説…

 

 でも、まぁ…うん…

 

 

 「これでカビゴン用ポケフーズ買える…!」

 「よかったなぁ」

 「権兵衛さんの体型維持にプロテイン多めのやつ選ばなきゃ…あの筋肉は推せる…!」

 「押せる…?筋肉を…?」

 

 

 疑問符浮かべてるヒビキくんはスルー。

 そして消費した諸々を補充しに、今度は一緒にフレンドリーショップへ。

 

 いやぁ、ゲームと違ってフレンドリーショップに普通に行き来できるのは有り難いね!

 なんてったっていあいぎり、持ってませんので!!

 

 ちなみに私達が路上ライブしていた時、ヒビキくんはサファリゾーン…もとい、パルパークに行っていた。

 なお捕まえたポケモンはいないらしい。

 

 

 そしてフレンドリーショップの店員にカビゴン用ポケフーズを用意して貰って、当ポケに試食して貰った結果…

 

 胃の中で膨らむ!ゴンベ・カビゴン用フーズ

 〜栄養満点プロテイン・すっぱい味〜

 

 となった。

 

 そっか…権兵衛さん、すっぱいのが好きなのね…

 貴方出したやつ残さず食べるから気付くの遅くなってごめんね…

 

 あっそっかなるほど?

 だからバタフリー農園の果実、熟れてないやつ食べ尽くしたのね??

 

 でもしぶいのが苦手なのは分かってたよ…

 

 ん?

 ってことは君、わんぱく???

 

 わんぱ、く…??

 

 ……そっかぁ…!

 

 

 にっこにこ。

 これはわっくわくが止まらないね…!

 

 

 

 

 

 

 

 



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勝ち負けより大事な何か

 はいはーい!やって来ましたセキチクジム!

 透明な壁はないけど忍者屋敷だよ!

 でもジムトレーナーの顔はだいたい一緒!

 

 アニポケとゲームが混ざってらっしゃる??

 と一瞬困惑したけどまぁ普通に(仕掛け床等)通過。

 

 途中美人くノ一アヤさんに会った時はテンションあがったけど、まぁシミズさんの敵では無かった、とだけ。

 

 前ジムリーダーで現四天王のキョウさんの妹であり弟子、つまり、現ジムトレーナーアンズちゃんの叔母様で姉弟子。

 そんな関係の二人。

 

 ちなみにアニポケだとジョウト地方で再登場するよ!

 初登場時タケシくんのナンパがアレすぎて足蹴(物理)してたよね!

 

 …まぁそれは今関係ないから置いといて。

 

 厳正なるジャンケンの結果、今回は私が先にジムリーダーに挑戦するのでヒビキくんはどうぞ後ろで見ててちよーだいな。

 

 

 「1対1!使用ポケモンは2体!それでは、バトル開始!!」

 「いけアリアドス!」

 「権兵衛さん任せた!」

 

 

 審判からのルール宣言を合図に、互いにボールを投げてポケモンを出す。

 私は迷わず権兵衛さんを選出。

 

 推測通り出されたポケモンがアリアドスであることに、内心ガッツポーズ。

 

 どくタイプはエスパータイプで効果抜群とれるから、舐めてはないけど余裕はある。

 そしてむしタイプでもあるアリアドスに効果抜群を狙うなら、ひこうタイプも使えるけど、今回はあえてノーマルタイプの権兵衛さん!

 

 ちなみにどうしてアリアドスが出てくると思ったかって言うと、声が杉山○穂さんだったから!

 つまり!

 初!アプリの声!!ポケマス!!!

 バディは当然アリアドスですよねっ!!!

 

 という感じ。

 

 いやまぁアニポケ未登場だし、多分唯一声ついてるのがポケマスだっただけなんだろうけど。

 知ってる声で安心した。

 

 さて。

 こっちの無駄な思考はここらでストップ。

 流石にバトルに集中しないとね。

 

 

 権兵衛さん…カビゴンを目にしてちょっと口がキュッとなったのは見逃さない。

 おそらくだけど、攻撃手段を最低でも一つ無くしたから…かな。

 

 ポケマスはバディ技やらがあってまぁアレだけど、ゲームにおいてのアリアドスは、とある技を覚えてるのを、私はちゃんと覚えてる。

 

 ナイトヘッド。

 ゴーストタイプの技で、エスパータイプに効果抜群を与える技である。

 でも、それだけならジムリーダーたる者、動揺する訳もなく…

 

 …さて、このアリアドスは、()()()だろうか。

 

 

 「っアリアドス!どくどく!」

 「権兵衛さん!ころがる!」

 「っ!アリアドス避けて!」

 

 

 はーい!効果無しでーす!!やっちゃえ権兵衛さーん!!!!

 

 相手をもうどく状態にするどくどくに、全く怯まず突っ込んで行く巨体に、知識あるジムリーダーは逃げを選択。

 まぁ正しい判断だよね、権兵衛さん素早さ低いもん。

 

 びちゃっと当たった紫色の液体をものともせずに転がり続ける権兵衛さん。

 いいねいいね!最高だよ権兵衛さん!

 

 どくタイプのポケモンが使えば必中になるどくどく。

 もうどく状態はバトルにおいてどく状態よりキッツイデバフだけど、そんなの関係ない。

 

 だって、そう、アンズちゃんは察しただろう。

 権兵衛さんことカビゴンの特性が、めんえきであることを。

 

 そう!権兵衛さんはどく状態にならないのですよ!

 やっふーい!

 どくどく持ちだと判明したし、これで攻撃手段が二つ意味が無いことに!!

 

 …なんか、ごめんね??

 

 ぴょんぴょんと飛び跳ねていわタイプ技であり効果抜群タイプの技を避けるアリアドスに、ちょっと申し訳ない気持ちになったり、ならなかったり…

 

 そしてこのアリアドスがどくどくを使った、ということは多分だけどHGSS強化後のアリアドス…かな。

 見た感じのレベルもそんな感じだし。

 だとするなら覚えてる技はいばる・とびはねるの二つ。

 

 ゴロンゴロンとひたすら勢い良く転がり続ける権兵衛さんに、ついにぶっ飛ばされ壁に激突したアリアドス。

 ダメージはそこまで。

 でも一回当たったら次当たると威力は増えるのがころがるという技である。

 

 だから当然私の指示は、

 

 

 「権兵衛さん!ころがる!!」

 「がぁんびぃーーーっ!」

 

 

 おっと野太い声。

 やる気満々で嬉しいよ!

 

 それに対し、張り上げられたアンズちゃんの声が響く。

 

 

 「アリアドス!いばる!!」

 「リィィイイィアッ!!」

 

 

 転がる直前の権兵衛さんの前に立ち、いばるをするアリアドス。

 相手を混乱にさせる代わりに、攻撃力を上げる技。

 

 待ってました!

 と思わず、口角が上がる。

 

 

 「権兵衛さん食べちゃって!」

 「んびっ!!」

 「な?!」

 

 

 本日の持ち物、キーのみ。

 効果はバトル中食べるとこんらん状態を回復する。

 

 と、いう訳で!

 

 

 「ころがる!!」

 「がびぃいいぃいぃぃっ!!」

 「リアッ?!」

 「アリアドス!!」

 

 

 有り難いことに目の前にいたアリアドスに、効果ワンアップ&攻撃力バフ状態のころがるがクリーンヒット。

 さっきと比べると明らかに強く壁に叩きつけられたアリアドスは、そのままぐるぐると目を回して戦闘不能に。

 

 あらやだラッキー!

 

 

 「アリアドス、戦闘不能!」

 

 

 審判の声を聞いて、ふんす、と腰に手を当て胸を張る権兵衛さん。

 かわいいね?

 

 

 「ナイス権兵衛さん!流石のパワーだね!大好き!!」

 「んび!がび!!」

 「やだ笑顔くそかわいい天使じゃん」

 「…チャレンジャー?あの、ジムリーダー次のポケモン出してますよ」

 「えっごめんなさい!」

 

 

 切り替え早いねアンズちゃん!

 もうちょっと権兵衛さんのかわいさを堪能させてくれても良いのに、と思わなくはないけど本日の目的はジムバトルだったね!

 集中します!ごめんね!!

 

 

 フィールドにいるのはモルフォン。

 

 ゲームの個体と同じなら、特性はいろめがね。

 そして覚えてる技はねむりごな、かげぶんしん、むしのさざめき、サイコキネシス…

 持ち物はたしかオボンのみ。

 

 …うん、予定通り、問題なし。

 

 攻撃力は上がったままなので、そのまま戦闘続行。

 効果抜群だけどひらひら飛んでいるポケモンにころがるは当たり難いので、違う技を選択。

 

 

 「権兵衛さんのしかかり!」

 

 

 確率まひを狙ってゴー!

 

 ひらりひらりと避けるモルフォンに構わず、何度ものしかかりを指示。

 何度も繰り出すけど当たったのは2回だけ。

 避けられるのは想定内だけどなかなか回避率高くてこれは地団駄。

 

 これは避けながらかげぶんしんしてるね?

 残像が見えるもん!

 合間にむしのさざめき放ってくるけど、一応体力はまだ余裕ある、かな。

 

 何度目かののしかかりで、ちょいとバランス崩した権兵衛さんに、急接近するモルフォン。

 わざわざ回避率を上げてまで接近した狙いは、おそらく、

 

 

 「ねむりごな!!」

 「フォォオオン!!」

 「んごっふぉ!ぶぁっくしっ!!」

 「ちょっ権兵衛さぁん?!」

 

 

 勢い良く息を吸ったのか、ねむり状態になるとかの心配じゃなくって普通噎せてるよね??!

 粉か!!粉が気管支に入ったのか!?

 大丈夫か権兵衛さん!!!!?

 

 そのままごふっごほっと何度か噎せた権兵衛さんは、ふっと気絶するかのように倒れた。

 ドシン、と言う音の後、静まるフィールド。

 

 審判さんも動揺してるし、アンズちゃんも戸惑ってる。

 私だって内心慌てて…というか違う意味で心配してる。

 でも後ろでヒビキくんがサイレントマナーモードになってるのは察したので後でド突く。

 

 とりあえず分かることは、こんな感じでねむり状態になることは稀なんだなって…うん。

 

 気を取り直してバトル続行。

 

 すぅーっと大きく息を吸って、眠っていても聞こえるような、大きな声を出す。

 

 

 「権兵衛さん聞こえてるかな!?全力でいびき!!」

 「、え」

 

 

 指示しながらだけど、全力で耳は塞がせてもらう。

 だって権兵衛さんのこの技さ、

 

 

 「んごぉごごぉごぉぉおお!!!」

 

 

 どちゃくそうるさいんだよ!!!!

 

 フィールドで若干戸惑ってたモルフォンには悪いけど、私の知ってる限り、音波系の技はゲームだと回避率で避けれたけど、リアルだとほぼ必ず影響がでるってこと。

 それに丁度近付いてくれてたみたいなので大音量だったことだろう。

 

 なにより、

 

 

 「んぐぅ…室内だと反響してまじやばたにえん…」

 

 

 覚悟してたし耳も塞いでたのにこの威力…

 音波系攻撃技は、トレーナーにもダイレクトアタック…

 これ、ある意味自爆じゃん…?

 

 案の定、耳を塞げなかったアンズちゃんは膝を突いて悶えてるし、トレーナーよりフィールドに近い場所にいた審判さんなんて…気絶してるね??

 えっどうしよ…

 

 あっモルフォン倒れた…

 

 えっ…え?

 

 

 「これ…勝ったってことでいいの…?」

 

 

 唯一立っているのが私だけという、なんとも言えない空間に、爆音からの静寂の中、小さな呟きが虚しく響いた…

 

 

 そして頭を…というかこめかみ辺りを擦りながらヨロヨロと立ち上がったアンズちゃんに、手招きされ、近寄ったところ…

 

 

 「これ…ピンクバッヂ…あげる…」

 

 

 と。

 

 今にも消えそうなか細い声で言われ、ハート形のバッヂを受け取ることになった。

 

 

 自分でやっておいてほんとアレなんだけどさ。

 

 これ、いいの、かな…?

 

 

 

 

 

 

 



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ドキドキしながら待ってない

 ちょっと小休憩(耳の回復)を挟んで、今度はヒビキくんのジムバトル!

 さっきまで両耳抑えて蹲ってたヒビキくんは今は脇腹を擦りながらバトルフィールドに立っている。

 

 え、何故擦ってるのか?

 それは権兵衛さんを笑った罪の贖罪ですね!

 

 まぁ軽くチョップしただけなのでバトルに影響はないだろうけど。

 

 

 さて。

 マチスさんとのバトルではHGSS強化版パーティだったのを踏まえて、おそらくアンズちゃんも同じだと思うのできっと出してくるだろうポケモンはこう。

 

 ドクロッグ、ドラピオン、クロバット、マタドガス、アリアドス、モルフォン。

 ちなみに全員レベル60未満。

 

 問題はそのうちのアリアドスとモルフォンを私が倒してしまったので、どうくるのかな、と。

 まぁアリアドスは強化前パーティに2体いたからそっちが来るだろうとは予想してるんだけど。

 

 ヒビキくんは昨日の時点でどくタイプのジムだと知って手持ちを変えていたのでバクフーン以外は知らないのでちょっと楽しみ。

 勉強の成果が出ていることを期待してるよ!

 

 

 「それではジムリーダーアンズ対挑戦者ヒビキのバトル、開始っ!」

 

 

 そんな訳で始まったバトル。

 

 ちなみに気絶しちゃった()審判の変わりにアヤさんが審判してくれてるよ!

 わーい!目の保養ー!

 

 

 アンズちゃんが出したポケモンは、ドクロッグ。

 まぁこれは予想通り。

 

 そしてヒビキくんが出したポケモンが…

 

 

 ……あの。

 …えっと……その…

 

 真っ黒な、つぶらな瞳が、目の前にあるんですけど。

 緑の体躯とご尊顔、黄色い嘴、白い翼の、ポケモンがいるんですけど。

 

 ええっと、どうしよう…

 ヒビキくんこっちガン見してるし…

 

 っていうか、あの、君、今からバトル…

 

 

 ーーースキ。

 

 

 「ファッ?!」

 

 

 頭に直接響いた声に、思わず声が出た。

 しかも全力の好意が伝わって来た。

 エスパータイプと相性が良いと自覚しているけどこれは予想外にもほどがある。

 

 

 ーーーカッタラ、ホメテ。

 ーーースキ、ナデテ。

 ーーートテモ、スキ。

 

 

 ?!!!?!??!?

 

 

 「いい加減にしぃや」

 

 

 パァンとボールが開いて、赤い光が形を作った瞬間、松ちゃんの声がして、目の前のポケモンが、ぶっ飛んだ。

 

 

 「ま、松ちゃぁん…」

 「…まぁ仕方なしや。落ち着きぃ」

 「あぅ…まっちゃ、しゅきぃ…」

 「ん、知っとる」

 

 

 ぎゅぅううぅうぅううぅぅっ!

 

 と。

 いつものように抱き着いて落ち着こうとしてるんだけど視線が、視線がぁ…!

 

 アンズちゃんもアヤさんもヒビキくんもこっち見てるんだけどそうじゃなくってさ。

 

 

 じーーーーーーーーーーーっと。

 

 

 いつもの半目は何処行ったと言わんばかりにかっぴらいてる目が怖いんだよぉ…!

 ずっと好意しか流れてこないけど、純度100%の好意だからなんか怖いんだよぉおぉおお…!

 

 あっ今松ちゃんに敵意向けたな?!

 松ちゃんは私の最高で最優で最愛の相棒なんだかんな?!!

 おこだぞ!!?

 

 

 べしっ!

 

 

 「あいたっ」

 「…こっちは気にせんでええから、はよバトルしぃや」

 「あっはい」

 「わ、わかったわ」

 

 

 なんかもうぐっだぐだな空気にしちゃってごめんなさい…

 

 しぶしぶといった感じでドクロッグに対面してる、ヒビキくんのポケモンことネイティオ。

 

 エスパー、ひこうの複合タイプ。

 どくタイプのジムで、むしタイプのポケモンも出してくるこのジムでは正しい選出ではある。

 ドクロッグに感じてはかくとうタイプでもあるからエスパーは4倍ダメージだしね。

 

 …けど。

 

 その背中からなんか、こう、ゴゴゴゴゴッて感じのエフェクトが見えるの気の所為…?

 なんでいきなり私の所に来たの…?

 

 んー…?

 エスパー、ひこうの複合タイプ、だから、とか?

 いやでもそれだけで純度100%の好意になる…?

 そもそも野生ならまだしも、ヒビキくんが捕まえたポケモンだっていうのに…?

 え…そんなことある…??

 

 べしっ…べしっ…

 と、尻尾で床を叩きながら不機嫌を隠さない松ちゃん。

 気にせず抱き着きながら原因を考えるけど、思い当たる理由がソレ(タイプ)しかないんだけど…

 

 えぇー…マ?

 もしこれが当たってるとしたら、アルフの遺跡ら辺、近づいたらどうなるの…?

 コロモリ生息してる洞窟とか、あと、シンボラーとか…

 えっどうなの、どうなるの??

 

 

 なんてぐるぐるずっと考えてたら、めっちゃバトル進んでた。

 気付いたらバトルフィールドにネイティオとニドクインが居たからびっくり。

 

 えっアンズちゃん何体目です??

 もしかしてずっとネイティオ無双してるの??

 ひぇっなんか背中ゾワゾワするぅ…

 

 

 あー…でも、ニドクインか。

 

 と、いうことはもしかして…

 PWTのメンバーから選出かな?

 いや、色々育てているなかから選出してるんだろうけど。

 

 あれはレベル50固定だけど、あのニドクイン、みる限りエースだろうモルフォンと同じくらい育てられてるとみた。

 でも、その…

 

 どく・じめんって、エスパー・ひこうだと辛くない…?

 確か10万ボルトとれいとうビーム覚えてたと思うけど…

 

 あっれいとうビーム…

 

 ………うん。

 

 めっちゃキレイに避けるやん…?

 しかもヒビキくんの指示なかったね??

 

 

 思わず宇宙を背負った私を正気に戻したのは、べしんっと一際大きく鳴らされた、松ちゃんの尻尾の音。

 

 一定のリズムを刻む松ちゃんの尻尾。

 …松ちゃん、ずっと不機嫌ね…?

 でもごめんね、抱き着くのは止めれないです…

 

 いくら効果抜群で攻撃を与えれてもレベル的に多少梃子摺るような感じなのに、なんかのバフでもかかってるのか無双してるネイティオ…

 

 ヒビキくんの指示、一応聞いてるみたいだけど…

 

 

 あの…

 倒したからって、こっちみてドヤ顔やめて…

 あなたのアイデンティティって無表情じゃないの…?

 虚無顔どこいった…

 

 なんのアピールなの…

 

 

 

 ーーースキ。

 

 

 

 「ひぃあっ」

 

 

 ぞわってした。

 

 好意なのはわかるのに、なにこれぇ…

 なんかこう、身の危険?みたいな??の感じる。

 なんでぇ…??

 

 

 「…ほんまええ加減にせんと、潰すぞ」

 「ま、松ちゃん???」

 「フルーラは後ろおってな。そんで何があっても、喋んなや。わかったか」

 「えっ?」

 「わ・か・っ・た・か」

 「はいっ」

 

 

 ゾッとした。

 松ちゃんこれ不機嫌通り越してガチ切れじゃん。

 もう冷や汗かきすぎてガチで寒くなってきたんだけど。

 あっ寒いのはれいとうビー厶の影響??

 

 ……ソッカーー!

 

 ぷるぷる震えながら、松ちゃんに抱き着きながら、後ろに回る。

 いやもうなんていうか後ろにいろって言われたけど、松ちゃんから離れたらそれこそジ・エンドみたいな感覚するからもう無理。

 

 何が起こってるの…

 

 

 そんなこんなで物理的にバトルを見ることが出来なくなったけれども、アンズちゃんとヒビキくんの声を聞きつつ戦況を想像。

 

 …うん。

 アンズちゃん、お疲れ様でした…

 ヒビキくんも、なんか、お疲れ…

 

 

 「しょ、勝者、挑戦者ヒビキ!」

 

 

 わー…

 アヤさんの戸惑いボイスとか貴重じゃない…?

 

 なんて現実逃避した、次の瞬間。

 

 

 ーーースキ。

 

 

 「〜っ!」

 

 

 頭に響く、声。

 さっきよりも強く反響して聞こえる。

 伝わってくる好意も、なんて言うか、こう…

 

 …ドロドロしてる??

 

 向けられている感情を正確に把握しようと、意識して頭を回す。

 っていうか意識しないと、声に集中してしまう…

 

 うぅん…これ、もしかして強制されてる…?

 

 

 「えぇ加減にせぇよワレ」

 「トゥートゥー!」

 「こんドアホ。種族考ぇや!」

 「トゥ、トゥー!!」

 「おのれと一緒にすなや!!念も飛ばすな!洗脳すな!!」

 「トゥ?トゥートゥーッ!」

 「あ"?ぶっ潰すどワレ」

 「トゥー…?」

 

 

 すみません…あの…

 とても…怖いです…

 松ちゃんの声、ひっくいし…

 ネイティオもなんか、ドロドロ感情がこう、粘着性あるものになってきてるし…

 喧嘩?売った松ちゃんにやんのかゴラァって言ったの分かったし…

 

 なんなの、なんなの…

 

 

 「戻れネイティオ!!」

 「ドゥ"ードゥ"ー!!!」

 

 

 ガタガタガタガタ!!!!

 

 ひえっ。

 見たこと無いくらい揺れてる…

 っていうか、え?

 ハイパーボール…?

 あっロックかけてくれた…

 

 

 「あー…その…なんか、悪ぃ…」

 「ほんまになぁ…ソイツ、後でシメるかんな」

 「ま、松ちゃん?ねぇどしたの…?」

 「…フルーラは手持ちみんなと一緒におってや。ちゃんとハナシつけたるから、安心しぃ」

 「どこに安心すればいいのかな???」 

 

 

 そんなぐっだぐだなよく分からない空気の中、なんとかポケセンに戻り、松ちゃん希望のもと、ネイティオとタイマン…

 もとい話し合いをする為に一室を借り、その間ずっとシミズさんが松ちゃん達のいる部屋を睨みつけていたのが印象的で…

 

 時々バキッ?パキッ?みたいな音がしたり、何故か聞き取れない叫び声?怒声?が響いてきたりして…

 

 

 約1時間。

 出てきたネイティオは、どこかしょげていて。

 そのかわり松ちゃんは満足げで。

 

 シミズさん筆頭に手持ちの子達が松ちゃんを良くやった、と褒め称えていて…

 

 

 「あの…だから、なんだったの…?」

 

 

 思わずそう呟いた私に、

 

 

 「いや、お前意外と鈍感なのな?」

 

 

 と、ヒビキくんに真顔で言われたから反射でド突いた。

 

 

 

 

 







トゥートゥー…


ーーーースキ!(挨拶)


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振り向かなくてもみんな笑ってる

 人と結婚したポケモンがいた。

 ポケモンと結婚した人がいた。

 昔は人もポケモンもおなじだったから普通の事だった。

 

 

 シンオウ神話、その一節。

 

 覚えているとも。

 楽しく優しい世界に唐突に打ち込めれたダーティーな設定、時代背景。

 なんならあの頃は結婚するならイケメンなルカリオ一択!とか言ってたけど…

 

 今の自分にとってはコレ、史実なんだよね。

 つまりポケモンと結婚するの合法だった訳で…

 

 

 「つまり古代系ポケモンほど気をつけないといけない…?」

 「古代系いう前に普通に気をつけぇや」

 「確かにネイティオは古代系っていうより不思議系だし?」

 「いい加減にせぇよ」

 「ごめんなさい」

 

 

 べしんっ、と。

 床に強く叩きつけられた尻尾から察するにとても苛立ってる松ちゃんに、流石に真面目になるべきかと背を伸ばす。

 

 いやでもさ、だってさ、そんなこと言われたってさ…

 

 

 「こんな貧相な身体に発情するもなにも無いと思うんだけど…」

 「それこそ個体の趣味やろ。知らんけど」

 「まぁ趣味趣向は人それぞれだし、ポケモンにも好みはあって然りか…え、需要あるの?」

 「わしに聞くなや」

 「ちなみに松ちゃんの好みは?」

 「尻尾の肉付きのええコやな」

 「それは王道なの…?しかも当然のように同種の好み…」

 「わしは異種族に欲情せぇへんし、そもそもそーいうんは稀やしほぼおらん。おらんけど…」

 「居ない訳じゃないってことね」

 「せやで」

 

 

 うーん。

 でもやっぱそこまで気にする必要性あるのか…?

 

 そもそも気をつけろと言われても、一目惚れ()されてしまうなら最早回避不可能だと思うの…

 

 

 「…あのさ」

 「ん?なにヒビキくん」

 「なんや」

 「なんでそんなに冷静なんだ…?」

 

 

 ポケモンセンター、宿泊部屋の一室にて。

 

 日付は変わっての早朝、どこか様子のおかしいヒビキくんが松ちゃんに頼み込んで行われた二者面談V2。

 そして砕けてきぃや、と松ちゃんに背を押された若干メンタルブレイクしていたネイティオから愛の告白()を受け、やっと昨日の事態を把握した。

 

 いやまぁ普通にお断りしましたけどね?

 

 あまりにも私が普通に断ったのでヒビキくんが驚かないのかと聞いてきたので、ちょっと歴史のお勉強。

 カントーやジョウトでなく、シンオウ神話なのはまぁそういう訳で。

 

 松ちゃんからはそういう事をちゃんと知ってんならもっと警戒せんかいこんアホォ…と半目で睨まれながら伝わってくる思念の圧が強い。

 なんかごめん…

 性癖開示させちゃったのもなんかごめん…

 

 そしてなんで冷静なのかって言われても、それはまぁ…

 

 

 「じゃあヒビキくん」

 「ん?」

 「私の椿さんに『スキ!結婚して!』って言われたらどうする?」

 「いや断るけど」

 「なんで?」

 「は?」

 「なんで断るの?」

 「いや、だって、ポケモン、だし…?」

 「うんうん、そうだね」

 

 

 まぁそこはいいんだよ。

 多分普通の感性もってる人なら断るのはわかってることだから。

 けどさ、

 

 

 「さてヒビキくん」

 「おう」

 「椿さんはドラゴンタイプです」

 「ん?おう、知ってる」

 「で、ヒビキくんはドラゴンタイプに一目惚れされるし発情される存在です」

 「、」

 「どうよ?」

 

 

 サッと顔色が悪くなったヒビキくん。

 うんうん、少しは察しが良くなったみたいで嬉しいよ。

 

 

 「…おれ、しぬんじゃね…?」

 「まぁ、普通ならそうなると思うよ」

 

 

 そもそもドラゴンタイプは愛情深く、気に入った存在に対して保護欲が強い。

 種族としてバトルに強く強靭な身体を持ち、頭の良い個体も多いし、縄張り争いの苛烈さは自然災害級。

 好きになったら一途で、諦めるという言葉がないのでは、と思うくらいには、まぁ、すごいのだ。

 

 だからまぁ…

 

 

 「ドラゴンタイプに比べたら、まぁ、大丈夫かなぁ…って」

 

 

 いやポケモンに好かれるのは嬉しいことなんだけど、それでも種族ってほんと重要なんだよ…

 もしドラゴンタイプな伝説の方々から、目をかけられでもしたらさ…

 …どうなっちゃうんだろうね??

 

 それにさ、

 

 

 「まぁ私には松ちゃんもシミズさんもいるから、野生ポケモンから襲撃されてオモチカエリされることもないだろうし…」

 「…そう、だな」

 「だからまぁ、冷静ってより、信用してるだけなんだよ」

 

 

 だって松ちゃんもシミズさんも察知の良さは未来予知レベルだし。

 いつも守ってくれてるのを知ってるからこその信頼でもある。

 

 …あ、松ちゃん照れてる?

 照れてる!

 

 やだかわいい!

 私の松ちゃんがこんなにも可愛い!!

 

 

 べしっ

 

 

 「あいたっ」

 

 

 照れ隠しの尻尾アタックもドMじゃないけど愛おしいよ…!

 

 っと、そうだった。

 

 

 「ところでヒビキくん」

 「なんだ」

 「あのネイティオ、捕まえる時何かあったでしょ?」

 「なんで知ってんだ?!」

 「えっと…いや、うん」

 「なんだよその反応は!?」

 

 

 ヒビキくんって大人になっても腹芸出来ないそうだなぁ…って。

 まぁ、なんでって言われても、ボールだよって言ったらそれこそ変な顔しそうだよね。

 

 そう、ボール。

 モンスターボール。

 ポケモンを捕まえる為のボール。

 

 モンスターボールより捕まえ易いスーパーボール、スーパーボールより捕まえ易いハイパーボール。

 ランクが上がるに連れてボールの居心地も上がる、という感じ。

 

 なのだけど。

 この世界においてはもう一つ、ボールに重要な性能が付いている。

 

 レベルの高いポケモンを抑えれる強度。

 

 という機能だ。

 これはトレーナーに育てられたポケモンが、幼い頃から過ごしていたボール内でジャレていたらボールを破壊してしまった、という事故をうけての改良。

 そして副次的にとある役立つ機能にもなった。

 

 それが、

 

 

 「高レベルポケモンが暴れていた場合、その対処として一時的に捕獲することを推奨。

 その時に使われるボールはリーグにより支給されているハイパーボールであり、コレがポケモンが落ち着くまでの“檻”となる。

 で、ポケモントレーナーでこれを買うことの出来るのはバッヂを5個所持している必要があり、またそれと同等の実力を持つと認定された人のみ。

 これは安易に捕獲でき、強度を上げたことによるポケモンの乱獲を防ぐ為の措置である…だったかな」

 

 

 ここら辺の規定とか、ポケモン保護条例とか、リーグのアレソレとか、おじさんから教わったから覚えたんだよ。

 

 だからまぁつまり。

 

 

 「ネイティ、ネイティオの生息地はアルフの遺跡周辺。ヒビキくんはワカバタウン出身で、順当に行って持ってるバッヂはキキョウシティの1個。エンジュシティまで回ってから捕まえに行ったとしても4個だからハイパーボールは買えない。

 でもネイティオはハイパーボールに入ってた。ネイティからネイティオに進化したのを切欠にボールを変えたにしてはボールに傷が多すぎるし、劣化もそれなりにみれた。

 あと、ネイティオ自身があまりにもこう…自由すぎるから」

 

 

 バッヂ取得数は推測どころじゃないけど、後付けの理由としてはこんなもんかな。

 

 さて、どんな理由があるのだろう。

 とヒビキくんを見やるとあら不思議。

 

 めっちゃドン引いてる顔してる。

 

 なんでぇ??

 

 

 「…お前さ」

 「うん」

 「ボールだけでそこまで考えるとか、なんつーか、キモイ」

 「あ"?」

 

 

 喧嘩売ってる?高値で買うぞ??

 

 反射的にニコッと笑ったハズなのにガタッと椅子を鳴らしたのなーんで??

 

 

 「いやだって俺ボールに種類あることトレーナーになってから知ったし、買える制限あんのもショップ行ってから知ったし…後、その、性能?とか、初めて知った…し、や、だから…」

 「…つまりヒビキくんにはコッチ系の知識も教えないといけないってことね!安心していいよ!知識だけならいっぱい教わってるからね!!」

 「あ」

 

 

 墓穴掘ってあちゃー!みたいな顔するのやめよっか??

 そもそもトレーナーやってたら知ってるべき知識なんだからね!

 日々勉強あるのみだよヒビキくん!!

 だから頑張ってチャンピオンになってね!!(圧)

 

 とまあそんなこんなでヒビキくんから聞き出したネイティオの事情。

 

 初のジムバトルに勝利し意気揚々と次の街へ行こうとしたら、ボロボロな考古学研究者達と対面&通行規制入っていて足止めされた。

 どうもアルフの遺跡周辺を縄張りとしているネイティオ達の派閥争い…もとい、群れの(リーダー)決定戦…に、敗れたネイティオが32番道路まで出てきて暴れているらしい。

 事情を聞いたジムリーダーのハヤトと何故か一緒に向かうことになり、捕まえる事優先、ということでそこではじめて手にしたのがハイパーボール。

 敗れたとはいえ主の候補だったネイティオはとても強く、手持ち全てをボロボロにされつつもなんとかハイパーボールにて捕まえた。

 

 が。

 まぁ言うことを聞いてくれない。

 ので。

 博士の元に送って、様子見をお願いした。

 

 元々依頼されて捕獲した個体なので、当ポケの意思は関係なく危険度が下がるまで接触禁止だったのも相まって。

 

 そんなに交流できなかったんだよなぁ…

 と、自分が捕まえたからには責任もって育てたいという意思はあるらしいヒビキくん。

 博士曰く、ある日を堺に大人しくなったので、なにかしらの未来を見たのでは…とのこと。

 

 うーん。

 まさかその見た未来が私との出合いとかじゃなかろうかと思わなくもなくもないこの背筋のゾワゾワ感。

 これは深く考えない方が吉。

 

 うぅーん…

 でもまぁ、うん、なるほど??

 

 

 「見た感じレベル60ちょいでしょ?一年前で主候補だったなら40は超えてるだろうし、そりゃバッヂ1個の新米トレーナーの言うこと聞かないと思う」

 

 

 この世界においてはバッヂ何個もってたらおや違いのポケモンも言うこと聞く…なんて効果はないので。

 ただトレーナーの力量をポケモンが見抜いてくるというシビアな現実があるのみなので。

 なんなら相性の宜しくないポケモンだと産まれて間もないベビちゃんでも言うこと聞いてくれないので…

 まぁ逆に相性さえ良ければバッヂゼロでもレベル50超えてても言うこと聞いてくれたりするんだよ…

 

 ね、松ちゃん。

 

 

 「それでヒビキくんはこのネイティオをどうするの?」

 「へ」

 「私は別に手持ちとして連れてっても良いよ。」

 「えっ」

 「何かしらしようとしたら松ちゃんがシバくだろうし」

 「あー」

 「まぁヒビキくんも連帯責任でド突かれるだろうけど」

 「え"」

 「え?」

 

 

 青褪めるヒビキくんや、なに当然のことにビビってるんだい??

 

 

 「手持ちポケモンのやらかしは、トレーナーの指導力不足だもんね?」

 

 

 にっこり。

 

 経緯はわかったけど、まぁそれはそれとして言い訳は聞かないよ?

 

 

 

 

 





やくると…


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やる気がもくもく、希望がむくむく

 「ゔぅー…ん…」

 「はよ決めぇや…」

 「んー…いやぁ、あのね?決めてはいるんだけど、解せないっていうか、モヤモヤするっていうか、納得いかないっていうかもう何というか…」

 

 

 むしろコレはわざとなのではと思ってたり。   

 

 おっと、ポケセンにて腕を組んで云々唸ってるもんだからちょっと視線集まって来てるね?

 失礼。

 仕方ないから様子見に徹しててくれたヒビキくんを連れて外にでる。

 というかそのまま次の町へゴー。

 

 はてさて、そんな訳でセキチクシティでの目的は達成したので次に向かうはグレンタウン。

 で、そのまま21番水道渡ってマサラタウンに行って、ニビ、ハナダ、ヤマブキ、タマムシ…そして最後にトキワという感じ、かな。

 

 というのも私、自転車持ってないので18番道路…もとい、サイクリングロード入れないし渡れないというね。

 

 

 まぁ本心で言うならアニメのようにレンタルして、で、タマムシシティ経由してヤマブキジムに挑戦したかったんだけども…

 あと本当に当初の予定だとクチバシティからヤマブキシティ、シオンタウン経由でセキチクシティ、という理想があったんだけど…

 

 その計画はおじゃんになった。

 というのも、

 

 

 どう経由して旅の計画立ててもヤマブキジムの休日と被るから。

 

 

 え?

 どうして知ってるのかって??

 それはポケモンセンターに各ジムの公休(点検の為休みとか)が掲示板とかに張り出されてるから。

 なんならパソコン使って各ジムのイベントとかも検索出来たりする(ハナダジムの水中ショーの開催日とか)。

 

 ちなみに休暇日が決まってる理由は有給消化の為らしい。

 どうしてその日に有給を使うの…しかも長期…

 こまめに消化しようよ…

 改装やら設備点検諸々も何でその日にしたの…

 

 …いや、リーグからの仕事が過多すぎて休み取れなかった可能性もあるか。

 業者さんの都合でそうなったのかもしれないし…

 

 まぁ、ともかく。

 今出発してタマムシシティ経由のヤマブキシティだとしても、休みならジム挑戦は出来ないという。

 タマムシシティかヤマブキシティで一週間近く滞在すれば良いのだけど、長期滞在は私の都合上宜しくない。

 

 と言う訳で。

 

 

 「今から17番水道突っ切ってグレンタウンに向かいます」

 「いやまぁ、それはいいんだけどよ…お前どうすんの?」

 「え、なにが?」

 「なにがって、この先海だぜ?ヤドキングに乗せてもらうのか?それともトゲキッスで飛ぶのか?」

 「あっそういう…」

 

 

 なるほど?

 なみのり要員がちゃんといるのか心配してくれた訳ね?

 

 ちなみにアニメだとポケモンに直接ライドしてるなみのりだけど、ポケモンにより安全性に欠けるのでトレーナー間で一番オーソドックスなのはゲームでいうルビサファのアレみたいな感じ。

 つまり、ポケモンに引いてもらうのだ。

 注釈で言うならサーフボードでもないからね!

 だから当然、なみのり()を覚えてなくても問題ない。

 

 ちなみにヒビキくんが乗る発言してるのは、自身のなみのり要員がギャラドスだから。

 頭を出して泳げるので、そこに乗せてもらえば濡れる心配はないらしく、しかも意外と揺れは少ないらしい。

 

 …ちなみにこのギャラドスだけど、間違いなく()()ギャラドスである。

 だってそう…赤いのだ。

 とても、目立ちます…

 

 …まぁ、いいんだけど。

 

 で、だ。

 別に松ちゃんに頼んでもいいし、なんなら椿さんだってみずタイプじゃないけど引いてくれるだろう。

 けど、まぁ…なんだ。

 

 

 「あのねヒビキくん。海って、繋がってるんだよ」

 「は?」

 「海はね、壁とかないから…自由に行き来できるの…」

 「?う、ん??」

 「だからね、来ちゃってるんだ…」

 「なにが???」

 

 

 なにって…

 うちの海神様だよ。

 

 どうしてこうなったんだろ…(遠い目)

 

 

 そんな訳でやってきました、海岸沿いをちょっと歩いて人気の無い場所。

 岩(いわくだきで砕くやつ?)がいい感じに死角を作ってくれているけど、多分場所によっては普通に見えると思う。

 

 でも今日も美しく神々しい姿でとても心が満たされます…

 

 案の定、目をかっ開いてカチンッと固まったヒビキくん。

 を、尻目に顔を寄せての挨拶の様に流れるようにされたチークキス…

 

 はわ、はわわ…

 だからどこでこのファンサ覚えたんでしゅか…

 ひぇぇ…いっぱいちゅき…

 

 あと、チラッと視線向けてたのヒビキくんじゃなくて腰にあるボールホルスターですね…?

 つまり、見てたのはあの子…

 なんとなく来てくれた理由を察してはいたけど、あの…その子既に松ちゃんからお灸を据えられてるので…

 オーバーキルだと思います…

 

 盛大な牽制に、なんというか、うん。

 言葉もないよね…

 

 そして恐れ多いので直接乗るなんて出来ません。

 勘弁してください。

 私サトシくんみたいな精神持ってないので…

 ()の時なら喜んでただろうけども幼少期より信仰してる海神様に乗るなんてムリィ…

 

 あぁああぁ…!

 残念そうに羽(?)をたたむの申し訳なさすぎて心が痛いぃいい…!

 でもでもでも!

 ほんとに!そんな!!

 

 推しに乗るなんて無理ーーーーー!!!!

 

 だって興奮のあまり発狂して鼻血出す自信しかないもん!!

 もしくはキャパオーバーで気絶する!!!

 

 

 渋々といった感じで小船を引いてくださる海神様。

 その横にて赤いのに顔色が悪いギャラドスにライドするヒビキくん…

 ほんと、なんか、ごめんね…

 

 そして道中の会話は当然のことながら海神と、私の関係やら諸々の事情について。

 今まで詳しく話して無かったから、人気のなく、盗聴の危険性もない海上での秘密の会話である。

 

 視線もないから私にとってはストレスフリーの環境だけど、ヒビキくんにとっては緊張感ハンパないことこの上ないんだろうな、と。

 やっぱごめんね…ギャラドスもごめん…

 

 その中で私が誰から諸々の知識を教えられていたのかも伝えたし、グリーンさんとの関係も教えた。

 …冷静になってみると未来のバトルレジェンドと一緒に勉強した仲って字面がヤバいね??

 

 道中は海神の御威光様々で、野生のポケモンに襲われる事も無く、そしておそらく近寄って来ようとしたトレーナーを波で追いやったり、そのトレーナーの相棒だろうポケモンに離れてもらったりとして本当に何も起こらなかった。

 

 小船から見えるルギアの頭部。

 雰囲気からも感じ取れるのは心配されてることと愛されている確信。

 ほぼ間違いなく、純度100%の好意。

 受け取ることに全く忌諱する必要はなく、むしろ安心すら出来る感情。

 

 うーん…優越感じゃなくて、こう…

 なんだろ、満足感…?

 近くに居るってだけでホッとするんだもん…

 ありのままを受け入れてくれる…みたいな。

 

 ともかく、

 

 

 「だからとっても強いけど意味なく襲いかかって来たりしないから大丈夫だよ?」

 「あー…まぁ、お前にとっちゃそうなんだろうけどよ…」

 「…ネイティオのトレーナーだからって、それで怒ることもしないってば」

 「ほんとか…?」

 「もし怒ってたら出合い頭にエアロブラストだと思う」

 「ひぇっ」

 

 

 仰け反るヒビキくんに、ちょっと愉快だと笑ったルギア。

 

 うーん。

 こういうとこあるから恐れ多くても怖いという感情が沸かないんだろうなぁ…

 …まぁ、察しなければそうなるのも仕方ない、か。

 

 それにまぁ、なんていうか…

 

 

 「そうは言ってもヒビキくんだって大概でしょ?」

 「、へ?」

 「ルギアじゃないけど、伝説のポケモンと接触してるんじゃないの?」

 「?!?!!」

 「いや驚きすぎ…」

 

 

 体反りすぎて落ちるよ?

 ギャラドスめっちゃわたわたしてるよ??

 

 けどまぁほんと、ヒビキくんって…

 

 

 「裏表ないって言うか、嘘つけない素直なとこが気に入られてる感じかなぁ…」

 

 

 こう、見てて面白いみたいな。

 飽きないっていうか、何やらかすか楽しみ、みたいな。

 

 …え、おもちゃ??

 

 

 「あっ…否定されない…」

 「えっ何か言ったか?!なぁ?!てか何で知ってんの?!俺そんなこと何も言ってねぇよな!?なぁ?!!」

 

 

 動揺して騒音になってるヒビキくんは、ルギアからの愛玩具認定を知ったらどうなるのか…

 いや、言わないけど…

 これから認識変わるかもしれないし。

 それに他の伝説の方々の判定は違うだろうし…?

 

 けど、まぁ、なんだ。

 

 

 「頑張ってね!ヒビキくん!応援だけはしとくよ!」

 「何が?!ねぇ何応援されてんの俺?!それ大丈夫なヤツか!?なぁってば!!!」

 

 

 穏やかな海の上。

 

 故郷とは少し違うけれど涼しい潮風を感じながら。

 

 私はヒビキくんにニッコリ笑っておいた。

 

 

 だって、恐らく出会っているであろうホウオウってさ。

 

 

 心正しきトレーナーの前にしかその姿を現さないって、いうもんね。

 

 

 

 

 



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いつの間にか少しづつ

 ヒシヒシと、あるいはミシミシと。

 唐突に肌に突き刺さる緊張感。

 プレッシャー。

 

 思わず息を止めてしまいそうなくらい、重い威圧。

 

 鋭い眼差しに、その堂々たる海神の姿は神秘的でもあって、場違いながらも惚れ惚れとしてしまう。

 

 

 まぁ、向けられてるの私達じゃないんだけど。

 

 だってここは17番水道を通ってグレンタウンに向かう道中。

 ()()()通り過ぎることに相成った()()()()に向けての、威圧。

 

 つまりはまぁ、()()()()()()()に対しての盛大な牽制なのである。

 

 

 「えっ何、何なの、何なわけ」

 「ぅんー…なんていうか、巻き込んでごめんね?」

 「は?」

 

 

 こんな重苦しい空気の中、戸惑いは見せるものの萎縮することなくいつもの調子を崩さないのは流石というべきか、なんというか。

 

 ポケセンでグレンジムを検索した時、既にジムの修復は終わっていた。

 噴火の被害からまだ完全に復興はしていないものの、仮設だったふたご島からグレンタウンへと移ったことは知っていたのだ。

 

 だからそう、今、ふたご島にいるわけだ。

 

 伝説の三鳥が一柱、こおり・ひこうの複合タイプのポケモン、フリーザーが。

 

 

 けれどルギアのこの対応から分かるとおり、ここのフリーザーは故郷のアーシア島にいるフリーザーとは別個体なのである。

 

 そもそも伝説のポケモンは定義が少し曖昧なので、一個体しか居ないポケモン、というのはそれこそ創生神様やその直々の配下といった存在。

 個体数が著しく少なく、そして非常に強く、知能も高く、更に言うなら()()()()()()()存在。

 それがゲームでいう伝説のポケモンの分類。

 

 なんてったって研究しようにも個体数がアレだし、運良く出会えたとしても気を許して貰えるかは別だし、逆鱗に触れた場合の被害がやばい。

 そんな訳で伝説、と称されるポケモンは研究が進んでないのである。

 

 とまあ、それはそうとして、だ。

 何が言いたいのかっていうと、別個体がいる、という現実の話。

 

 アーシア島の三鳥は海神を含めて信仰の対象。

 けれど、ここに御座せるのは違う個体。

 

 つまり、ルギアの配下じゃない訳で。

 

 だからまぁ多分、その、アレだ。

 ウチのに手ぇ出すなよ、的なね。

 

 

 ネイティオの一件もあってちょっと過保護じゃないかと思わなくもないけど、相手が伝説という格上な存在であれば話は別。

 身を守る為なら海神の御威光に縋りますとも。

 

 そんなことをそれとなく比喩とか使ってぼかしにぼかしてヒビキくんに説明したけど、首を傾げて簡潔に頼むと言われたので仕方なく。

 

 

 「ルギアは私を守ってくれてるだけ」

 「…なるほど」

 

 

 いや、言っておいて何だけどこれで納得出来るのすごいね??

 

 

 そして威圧をかけながらも進んでいたのでグレンタウンが見えて来た。

 

 ので、そろそろ威圧を緩めたりしてくれたり…しませんか、そうですか。

 

 えっ。

 送り届けたらちょっと行ってくるって、え?

 ふたご島に行かれるんです??

 何しに…

 あっ、大丈夫です。

 心配は無用の事かと存じますが、どうかお気をつけて。

 

 

 島の端も端、人気もなければ野生のポケモンの一匹もいない場所に降り立ち、勇んでいらっしゃる海神様をお見送り。

 

 …うん。

 

 

 「噴火しないといいな」

 「は??」

 「いや、ちょっとね?」

 「いやいやいやちょっとどころの話じゃねーだろおい」

 「ヒビキくん」

 「お、おう」

 「世の中にはどうにも出来ない事は沢山あるんだよ」

 「は?」

 

 

 伝説のポケモンのバトルはね、自然災害と同じ扱いなんだよ。

 どうにか出来る事じゃないんだって。

 しかも原因()が自分だとか、そんなの口を閉じる理由にしかならない…

 

 ちょっと遠くに視線を飛ばしつつ、なるべく早くこの島から出ようと決意。

 

 そんな訳で。

 

 

 「松ちゃん、頼りにしてるからね…!」

 「まぁなんや、まかしとき…」

 

 

 どことなく疲れてる感あるけど松ちゃんで無双するのが一番確実で早いかなって。

 

 精神的負荷があったことはとても良く分かってるんだけど、ここはみずタイプ持ちの松ちゃんに頑張ってもらうジムなので…

 

 そう!

 ほのおタイプにはみず!!

 後はじめん、いわ(手持ちにいない)で殴ろうな…!

 

 

 わいわいがやがやと、賑やかな観光客達を避けながら向かう先はグレンジム。

 噴火からの復興支援を含めての観光業なのは理解しているけれど、温泉プッシュに力入れすぎでは…?と思わなくはない具合にすごい。

 

 アニメだとカツラさん、観光気分でジムに挑戦してくるトレーナーばっかだったからジム閉鎖してたし…

 まぁ本気なトレーナーの挑戦は受けてたから、良い人の分類でいいとは思うんだけど…

 

 けど、まぁ…うーん。

 罪悪感ではないけど、後ろめたい気持ち…とも違うんだけど、ちょっと、ね。

 

 

 ドーン、と。

 目の前にある大きな建物。

 

 新築らしくピッカピカなジム。

 

 

 「なんか、入り辛いね?」

 「わかる」

 「せやなぁ」

 

 

 雰囲気が違うんだよ、雰囲気が。

 まぁそれでもこの真新しいジムに入るんですけどね。

 新築特有のなんとも言えないこの臭い…落ち着かないね?

 仕方ないことだけどさ。

 

 そして今回も私が先にバトルするよ!

 勝利のグーを天井に掲げたよね!

 

 え?ジムトレーナー?

 あぁうん、クイズしたよ!

 ()()当然全問正解したよ!!

 簡単だったしね!!

 

 ヒビキくん!

 終わったら補修だかんね!!

 わざマシンの番号覚えろとは言わないけど、どんなわざがあるかは知っておこうな!!

 

 

 っと、お説教は後にして。

 

 対面するのはグラサンスキンヘッドで白ひげの男性。

 ちなみに服は白衣着用。

 

 うーん、とってもピカブイ。

 グレンタウンが温泉地だったから、髪があるorヅラ姿を見れるかとちょっと期待してたりしてなかったり…ってね。

 まぁいいけど。

 

 言葉はかわさず、一礼してフィールドに立つ。

 うん、やってやりましょう。

 

 

 「それでは、バトル開始っ!!」

 「松ちゃん任せた!」

 「いけ!サイドン!!」

 

 

 この声は!ト○ーおじいちゃん!

 おっと失礼でおじゃった。

 

 例に漏れずにアニメ声と理解したけどねぇちょっと待ってよ!

 アニメでも思ったけどここほのおジムじゃん!!

 なんでじめん・いわタイプ使うの!!!

 温泉掘る用ポケモンってネタにされてたの覚えてるよっ!!!

 

 まぁでもさ!

 

 

 「松ちゃん!みずのはどう!」

 

 

 素早さどっこいどっこいと見たのでラッキーこんらん狙いつつ効果抜群で削り倒す!!

 

 今日も完璧な目玉狙いえげつないね!

 そんなところも大好きだよ!!

 

 目を瞑ってのつのドリルなんて避けれるに決まってるでしょう。

 サイドンに手札を晒すつもりはないのでひたすらみずのはどうで、勝利。

 

 うんうん、流石松ちゃん!

 バトルで身体を動かすことが気分転換になったのか、憂鬱感も無くなって良かった!

 絶好調だね!!

 

 はてさて。

 アニメパーティなら残りはキュウコンとブーバー。

 

 ブーバーがエースであることを考えると、当然次のポケモンは…

 

 

 「ふん。なかなかやるじゃないか。じゃが次はどうかな!いけキュウコン!!」

 「きゅおおん!」

 

 

 わぁ、毛艶めっちゃいいー!

 生キュウコンテンション上がるぅ!

 でもでも、予想通りー!

 

 普通に素早さ負けてるからね!

 

 となれば、はい!

 

 

 「トリックルーム!!」

 「なぬっ?!」

 

 

 素早さどっこい勝負してたから、トリックルームは予想外だった?

 一応それ狙ってサイドン戦の時使わなかったからね。

 動揺してくれるならなによりです!

 

 

 「キュウコン!ほのおのうずだ!!」

 「松ちゃんみずのはどう!」

 

 

 ほのおのうずは4〜5ターン体力を1/8削ってくる技。

 そして松ちゃんはゴーストタイプじゃないので、うずに巻かれている間ボールに戻せない。

 

 けどまぁそんなのどうって事ない!

 

 

 「松ちゃん!倒れるまでみずのはどう!」

 「させるか!キュウコン、かえんほうしゃ!」

 

 

 勢いの良い炎と水が何度か交差し、互いに体力を削るもこちらは効果いまひとつなのでモーマンタイ。

 なにより相手は効果抜群だしね!

 どうあがいても確実に向こうのが先に倒れる!

 

 

 「きゅっ、きゅおお?!」

 「キュウコン?!」

 

 

 ん?

 あっ!ラッキー!

 

 10%やけどよりも20%こんらんのが確率高いので、キュウコンはあらぬ方向に炎を吐いて、きゅうきゅう鳴いて、正気に戻ろうと奮闘する。

 

 まぁそんな隙を見逃すほど優しくはないので!

 トドメのみずのはどう、ゴー!

 

 バシャッと一撃。

 きゅー、と倒れたキュウコンをボールに戻し、カツラさんは最後のボールを強く握っていた。

 

 

 「ぐぬっ…最後だ!いけ!ブーバー!!」

 「ぶっばっば!!」

 

 

 予想通り、最後のエースはブーバー。

 記憶の中の知識から覚えてる技はほのおのパンチ、だいもんじ、かえんほうしゃ、ロケットずつきと当たりをつけて、考える。

 

 アニポケでのカツラさんの切り札で、腕から出す熱でなんかピカチュウの電撃を無効化?して、サトシくんに負けを認めさせたポケモンだ。

 うん、格好いい。

 

 憧れだとかそういう興奮は抑えて、とにかく今は確実に勝つことのみを考える。

 結論!

 

 

 「松ちゃん戻って!椿さんお願いしまーす!」

 「りゅりゅー!」

 

 

 トリックルームがきれたので、ブーバーの素早さに多少追いつける椿さん選出!

 ほのお技はいまひとつだし、やけど負ったとしても特性:だっぴでなんとかなるしね!

 そんでもって!

 

 

 「しんそく!」

 「ほのおのパンチ!」

 

 

 先制とらせて貰ったし、反撃でパンチを受けてしまったけど、大丈夫。

 この距離ならこのままもっかい先制取れる!

 

 

 「アクアテール!」

 「んりゅーーっ!」

 「ぶばっ?!」

 

 

 クリーンヒットォ!

 椿さんの長い尾が、ブオンッと水を纏ってブーバーお腹へ直撃!

 これはいいダメージを与えたかな?

 

 ドラゴンテール、アクアテール、しんそく。

 セキチクジムで覚えさせていたたつまきは、今はアクアテールに変わっている。

 尻尾でブッ飛ばす快感にハマったらしく、椿さんは上手くキマったアクアテールに満足気である。

 

 うん、本ポケが楽しそうで何よりだよ。

 でも将来的はパンチ技覚えさせるつもりなんだけど、カイリューになっても尻尾技スキーだったら相談して決めるか。

 

 軽く思考を飛ばしつつ見つめるフィールドでは、ブーバーが体制を立て直し椿さんを睨み付けいた。

 

 アクアテールに追加効果はないので純粋にダメージを与えただけのハズだが、おそらくパンチからのカウンター攻撃を受けて、こう、カチン、ときたみたいだ。

 それでもトレーナーの指示を待ち、純粋に闘志を漲らせて隙なく構えているのだから、やはりエースに相応しい精神を携えているのだろう。

 

 けど。

 

 

 「椿さん、アクアテール!」

 「だいもんじだ!」

 「怯まず突っ込んで!!」

 「ぶっばぁあぁああっ!」

 「りゅーっ!」

 

 

 熱風がこっちまできて、とても熱い。

 灼熱の炎が眩しくて思わず目を瞑りそうになるのを耐えて、大の字の炎へ飛び込む椿さんを目に焼き付ける。

 

 ポケモンバトルにおいて、バトルしているポケモンの一挙一動を見逃すのはたとえ有利な戦況であってもしてはいけない。

 視野は広く。

 そして注意深く観察し、相手トレーナーの動作も見て、全てを把握すること。

 

 そうでないと、

 

 

 「っ椿さん!!避けて!!」

 「遅い!ばくれつパンチ!!」

 「ぶっばぁぁあ!!」

 「うりゅっ?!」

 

 

 遅かった!!

 いや、近すぎたから避けれなかった。

 しかもだいもんじに突っ込んだから狙われたんだ。

 

 あーっ!くっそ!

 カウンターされたのムカついたから自分らは殴られる前に殴るってか?!

 てかタマゴ技じゃん!!

 ロケットずつきじゃなくてばくれつパンチ覚えてる感じかな?!!

 

 あーっ椿さんこんらんしてる!

 そりゃしてるよね!

 確率100%でこんらんにする技だもんね!!

 

 

 「っごめん椿さん!戻って!!」

 「りゅ?りゅう?!んりゅりゅ??」

 

 

 バトル中じゃ無かったらかわいい!!って叫んで撫で回すくらいにフラッとしてる椿さんを戻して、フィールドに呼ぶのは当然。

 

 

 「松ちゃん!トリックルーム!!」

 「せやろなぁ…!」

 

 

 ほのおのうずで削られた体力がいい感じに回復したであろう、とても頼もしい相方。

 最早職人と言えるレベルでボールから出た瞬間にはもう、トリックルームは完成していた。

 

 つまり、これで、先制はこっちのもん!

 

 

 「みずのはどう!」

 「ばくれつパンチ!」

 

 

 そう何度も食らうかっての!

 そもそも命中50のばくれつパンチが!

 スナイパー松ちゃんに目潰し()されて!

 当たる訳が無いでしょ!!!

 

 案の定、盛大にスカッた。

 その隙だらけな背中に向かって!

 

 はい!トドメのみずのはどう!!

 

 いえーーいっ!!!

 

 

 「ブーバー戦闘不能!よって勝者、オレンジ諸島のフルーラ!」

 「っしゃあ!!松ちゃんサイコー!!!」

 

 

 審判の判定を聞いてから、速攻で松ちゃんに抱き着いた。

 

 はうわ!

 ほのお技の熱気で火照った身体が涼まる…!

 ひやもちぷにマジサイコー…!

 でもいつもよりちょっと体温高いね?

 やっぱ熱かったよね??

 

 だいもんじに飛び込ませてさらにばくれつパンチをも食らわせちゃった椿さんには後でじっくりケアしないとだな…

 

 と。

 

 まぁ!そんな訳で!!

 

 

 「ほれ受け取れ。これがクリムゾンバッジだ」

 「ありがとうございます!」

 

 

 炎の形を模したした、クリムゾンバッジ。

 ちょっとチューリップみたいな形だなと前から思ってるんだけどここはお口チャック。

 

 さて、

 

 

 「ヒビキくん、頑張ってね!」

 「おう!俺もゲットしてやる!」

 

 

 選手交代、ってね。

 

 やる気満々なヒビキくんを、後ろから観戦。

 

 

 …うん。

 

 

 「ねぇ松ちゃん」

 「なんや」

 「海神様、マサラタウンまで乗せてくださるつもりなのかな…?」

 「………」

 

 

 おいこら松ちゃん。

 沈黙は肯定だぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 






投稿できて、なかったです、ね
おかしいな…


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新しい世界の扉(鍵はない)

 さぁーて気を取り直してカツラさんVSヒビキくんのバトルだよ!

 懇切丁寧にきみの相棒たるほのおタイプの弱点について解説したんだから期待してるよヒビキくん!

 ちなみにカツラさんの強化パーティにサイドンはいないから安心してね!

 

 出してくるだろうポケモンはコータス、ヘルガー、バクーダ、ギャロップ、ブーバーン。

 レベルは54〜62で特性で気を付ける必要があるのはまぁ、ほのおのからだくらいかな?

 

 そしてカツラさんはコータス、ヒビキくんはギャラドスを選出!

 まぁ妥当かな!

 

 …あれ、なんかカツラさんの様子おかしくない?

 ふるふる震えてるけどどした??

 

 

 「〜〜っなんてこった!みずタイプなのに赤いたァキまってんなァ!見た目だけならほのおタイプじゃねぇか!!」

 「、へ」

 「なんや変な人やな…」

 「松ちゃん、しっ!」

 

 

 なんか、異様にテンション高いね? 

 っていうか赤い色のみずタイプならオクタンいるじゃん??

 え?そういうことじゃない??

 

 そんなこんなでハイテンションなカツラさんと若干戸惑ってるヒビキくんのバトルスタート。 

 

 

 「コータス、あくびだ!」

 「ギャラドス!なみのり!」

 

 

 素早さの高さからギャラドスの先手。

 

 ざぶんっと波にのまれたコータスは、ぎりぎりながらもあくびを決めた。

 ギャラドスは次のターンしだいでは眠りにつくことになるけど、ヒビキくんはどうするのか。

 

 あと、私の見間違いじゃなかったらコータス水飲んだ気がするんだけど気の所為?

 波にのまれた瞬間ゴポポって空気漏れてたように見えたんだよね…

 

 あ、ゴホって水吐いた。

 やっぱ水飲んでたね?大丈夫??

 カツラさん気にして…ないね???

 どんまいコータス…もしかして慣れてる…?

 

 ヒビキくんはもう一度なみのりを指示、コータスはにほんばれをして、倒れた。

 フィールドではスヤスヤスピーとぐっすり眠りについたギャラドスを、強い陽射しが照らしている。

 

 さて、ヒビキくんはポケモンをかえる気がないみたいだし、なんならきのみとかも使う気がないみたいだ。

 うぅーん。

 私、持たせる道具とかバトル中に使える道具の解説もしてるハズなんだけど?

 もしかしてまだ覚えきてれない感じ??

 

 

 「いけマグカルゴ!ストーンエッジ!」

 「やっべ!ギャラドス起きろ!」

 

 

 はい、ギャラドスはひこうタイプもちなのでいわタイプ技は効果抜群。

 そして呼びかけたってぐっすり眠りについてるギャラドスは尖った石の礫が当たっても起きる気配なし、と。

 

 うーん、多分、起きれて次の次、かなぁ。

 落ちるな、これ。

 

 案の定、ストーンエッジを更に2回受けたギャラドスは、眠ったまま戦闘不能に。

 これで互いに一体ずつ倒したことになる。

 

 そしてヒビキくんが出したポケモンは、ニョロトノ。

 

 …ニョロトノ。

 みずタイプのポケモン。

 ほのおタイプのジムで出すには間違いではない。

 ないんだけど…

 

 …ねぇヒビキくん。

 そのニョロトノ、いつ、誰と、進化させたの…?

 おうじゃのしるし…通信進化…

 

 うっ松ちゃん、3年もかかってごめんね…

 

 

 「ニョロトノ!バブルこうせん!」

 「なんの!マグカルゴ!オーバーヒート!」

 

 

 バブルこうせんは確率10%で相手の素早さを下げるみずタイプの技。

 オーバーヒートは威力高いけどその後100%特攻が下がるほのおタイプの技。

 

 ほのおタイプ技はみずタイプに効果いまひとつだけど、まだフィールドの陽射しは強いままなので多少のバフはあって、逆にみずタイプ技のダメージは半減されてる。

 まぁ威力が軽減されただけで、マグカルゴの方がダメージはデカいんだけど。

 

 まぁ他にマグカルゴに覚えさてる技はおそらくジャイロボールとのろいなので、このまま削られて先に落ちるんだろうなぁ。

 と思ったら急所に入ってマグカルゴさん即退場。

 

 あらま。

 

 

 「ふん!次だ!!いけバクーダ!にほんばれ!!」

 

 

 ほのお・じめん複合タイプのバクーダね。

 そして流れるようににほんばれ。

 となれば、まぁ次に出す技はお察し出来る。

 

 ヒビキくんはバブルこうせん指示。

 ねぇもしかして他にみずタイプの技覚えさせてなかったりする?

 ハイドロポンプ覚えさせてないの??マ?

 

 雑把に見積もっても2、3ターンで相打ちな気がするんだよなぁ…

 だって、

 

 

 「バクーダ!ソーラービーム!!」

 「ニョロトノ!バブルこうせん!」

 

 

 にほんばれの最中は、ソーラービーム即撃てるからね。

 そしてみず技は威力半減(効果抜群)、と。

 つまり良い感じな削り合い。

 

 互いに良い場所に当たったのか2ターンで相打ち。

 

 ところでヒビキくん。

 私にほんばれの効果教えてると思うんだけど、さっき首傾げてたのはなーんで?

 まさかほのおタイプの技の威力があがる、しか覚えてないとか言わないよね??

 ソーラービームのチャージが要らなくなることも教えたよね?ね??

 

 

 「いけ、ギャロップ!」

 「出番だヌオー!!」

 

 

 ヒヒーンと凛々しい炎の鬣を揺らすギャロップ。

 のほほーんとつぶらな瞳がかぁいいヌオー。

 

 のんきな気質が多いヌオーなのだけど、ヒビキくんの出した個体は戦闘に意欲的っぽく、尻尾をバシバシ鳴らして威嚇行動までしてる。

 まぁ顔付きがのほほんとしてるからとっても可愛いんだけど。

 対してギャロップは鼻でフンスと一息、余裕の顔。

 

 うーん?

 トレーナーの様子を見てバトルの優位を察することは多々あるけど、なんかこのギャロップ、とても悠然としてて自分が勝つことに自信しかない、みたいな?

 

 ふむ。

 みず・じめん複合タイプのヌオー。

 ほのおタイプのジムで戦うなら最適なタイプだ。

 …でも、

 

 

 「ギャロップ!ソーラービーム!」

 「ヌオー避けて!マッドショットォ!!」

 

 

 …くさタイプは、4倍でささるんだよなぁ。

 んで、ギャロップは素早さ高いので…

 

 ヌオーが出した泥の弾を、優雅に華麗に避ける避ける…

 そしてソーラービーム、と。

 

 強い陽射しがおさまる頃、ヌオーはぐるぐるとお目々を回して倒れた。

 尚、ギャロップはマッドショット一回当たったものの前足だった為にその効果は…といったところ。

 

 …うん。

 

 

 「ヒビキくん、補修項目追加ね」

 「んげっ!?マジで?!」

 「当たり前でしょ、ヌオーに土下座で謝って??」

 「ハイ、スミマセンデシタ」

 「っていうかバトルに集中しろ??」

 「ハイ、モウシワケゴサイマセン」

 

 

 まぁギャロップがソーラービーム覚えてたのは驚いたけどわざマシンで覚えれるもんね。

 記憶と多少の差異があったとしてもまぁこれは誤差の範囲内。

 というか陽射しが強いフィールドなんだから少しはなんかあるかも、って考えよう??

 良いとこみせれなかったヌオーが憐れだと思うの…

 

 

 そんなこんなでバトルは続行。

 ヒビキくんが出したのはバンギラス。

 フィールドは砂が吹き荒れて視野が悪くなった。

 

 …まぁ良い選出かな、と及第点。

 だってすなあらし中はソーラービームの威力が半減するからね。

 それにさらさらいわを持たせてるのを知ってるので、8ターンはすなあらしのフィールドが続くわけだし。

 

 バンギラスのじしん。

 じしん、じしん…いやじしんばっかだな?!

 他にも覚えさせてる技あるでしょ!!?

 素早さ高いギャロップに足場不安定にさせて機動力落とす戦法かと思ったけど違うなこれ!!

 ただの副産物だわ!!

 ヒビキくん!!補修延長すっぞゴラァ?!!

 ギャロップ倒したけどコレ褒めれる点ねぇわ!!

 

 見てみろ!カツラさんめっちゃ踏ん張ってるよ!!

 私松ちゃん居なかったら転けてたよ!!おこ!

 

 

 「い、いけ!ブーバーン!けたぐり!!」

 「バンギラス!じしん!!」

 

 

 やけくそかな??!!

 

 おそらく4倍でささる効果抜群のかくとうタイプ技を持ってるからブーバーン選出。

 まぁ効果抜群のむしタイプ技のメガホーンを繰り出したけど足場悪すぎて威力半減してたギャロップさんがさっき居たんだけどね…南無。

 

 なるほど、足場崩す戦法に味をしめたな。

 だからってばかの一つ覚えでコレは無い。

 

 ブーバーンのけたぐり、一発くらわしてからの、あやしいひかり。

 わぁ、こんらんしてらぁ。

 

 フラフラっとしたバンギラスに、けたぐり。

 じしん、けたぐり、じしん、けたぐり。

 

 こんらんしつつも()()()()()()()自分を攻撃することはなく、指示から多少のタイムラグはありつつも繰り出されるじしん。

 そしてその時間差で距離を詰めて確実にけたぐりを入れるブーバーン。

 4倍弱点のハズなのに、足場が悪いからかそこまで威力が高くないように見える。

 これが余震か…なお震源地はバンギラス。

 っていうかおかしいな、バンギラスって200kgあるハズだからけたぐりの威力120…

 …考えるのやーめた。

 

 結果。

 

 バンギラスが倒れた。

 でもまぁ、ブーバーンの体力を大分削ってるし、多分もう気力で立ってるだけな気がする。

 

 そしてヒビキくんが次に出したのは、バクフーン。

 

 

 …あっ(察し)

 

 

 思わず松ちゃんに抱き着いた。

 予想通り。

 マチスさんのジムみたく、威力のおかしいじしん、炸裂。

 

 当然、倒れるブーバーン。

 でーすーよーねー(遠い目)

 

 そしてカツラさん最後のポケモンは、ヘルガー。

 ほのお・あく複合タイプで、ふいうちで先制をとったものの、じしんをくらい、あくのはどうとシャドーボールでひるみやとくぼう下げるのを狙ったっぽいけれども。

 

 

 うん。

 

 倒れたのは、ヘルガーでした。

 

 

 よっしゃあ!ってガッツポーズしてるとこ悪いけど

さ。

 

 脳筋戦法が悪いとは言わないけど。

 

 私は君に叩き込むべきは知識戦法諸々じゃなくて、考えようとする意思だと思うんだけど。

 

 

 どう???

 

 

 

 



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そりゃそうじゃ

 松ちゃんに急かされてグレンジムからスタコラサッサと退散して、ポケセンでさくっと回復させて、観光することも許されずに再びやってきました人気の無い寂れた岸。

 そして流れるように一仕事終えたと言わんばかりな清々しい雰囲気の海神様が待機していらっしゃったので小舟にライドオン。

 

 ザザンっと畝る波に揺れながら、めざせ、まっしろなまち。

 

 

 いや滞在時間。

 一日どころか半日も居なかったやん…

 温泉饅頭…温泉玉子…あったかグレンプリン(ポケモンじゃないよ!)とか気になってたのに…

 なんなら温泉に入ってすらいない…

 

 …ってか待って?

 今もう夕方なんだけど。

 流石に寒いんだけど。

 

 んーつまり、陸地着くの深夜じゃない??

 凍え死ぬのでは???

 

 え??

 (直接)ライドすればひとっ飛びで着くって?

 

 推しに引かせてる現状ですら恐れ多いのにそんなこと出来る訳ないじゃないですか(真顔)

 

 あっそんなションボリしないで下さい!

 そんな顔されたって乗れないです!!

 無理です!!

 あぁああぁぁすみませんでもほんとムリなんですってばぁあぁああぁ!!!

 

 

 「おい、落ちるぞ?つか何変な動きしてんの?」

 「ヒビキくんは私のこの感情を理解してから発言して?」

 「???」

 

 

 パンピはヲタクの心情が理解できない。

 知ってた。

 

 ところでさ、

 

 

 「ヒビキくんさ、今向かってる町どこかわかってる?」

 「うん?いや田舎町ってことくらい」

 「おい今すぐ土下座しろこのスットコドッコイ」

 「うぉわっ?!」

 

 

 おっと失礼。

 私の発言にビビリ散らかしたギャラドスが跳ねた所為で盛大にバランスを崩したもよう。

 でも流石にこれはないって。

 

 

 「タマムシ大学の名誉教授でポケモン研究の権威でいらっしゃるオーキド博士が研究所を構えてる町で!伝説のチャンピオン連続交代事変のトレーナーであるグリーンさんとレッドさんの出身地だよっ!!」

 

 

 現役時代は元四天王のキクコさんのライバルだった実力者だし!

 っていうかヒビキ君はオーキド博士に会ったことあるんじゃないの?!!

 ゲームストーリーで出てきたよね?!ね!?

 

 

 「おーきどはかせ…?…あっ!あのじぃさんか!ラジオやってる人だろ?!」

 「うそだろ…」

 

 

 今絶対私間抜け面してるわ…

 

 

 これは失礼があってはいけない、と。

 寒さなんて気力で吹き飛ばして熱の入ったオーキド博士の解説スタート。

 

 あの人アニメじゃおちゃらけキャラだけどリアルだとめちゃくちゃすごい人だかんね?

 歳を理由に現役トレーナーは引退したけど、旅で培ったフィールドワークを存分に発揮して長期の現地で観察やら研究できる研究者ってことでフットワーク軽いから色んな地方に出没するのはアレだけど!

 

 貴重なんだよ!

 バトルできる研究者!!

 

 トレーナーに理解あるからバトルや育成のアドバイスとかしてくれるし。

 なにより論文が読みやすいんだよ!

 堅苦しい文じゃないし図解もわかりやすいしグラフの数字も表記が簡潔で理解しやすいの!

 論文だからって疎遠しがちな脳筋トレーナーの為に簡略化してる本とか安く売ってるの有難いし!

 

 私が持ってるやつ貸すからちゃんと読んで!

 特にタイプ別ポケモンの特徴とか面白いから!

 みずタイプとドラゴンタイプの鱗の差異についてとかさ!

 同タイプ別特性、別タイプ同特性の検証とか!

 他にもケアの仕方とかマッサージの仕方とかまで書いてあるんだよすごくない?!

 触るのに注意が必要などくタイプについて最初に発売されたらしいんだけど、それでトレーナー事故減ったんだとか!

 

 ヒビキくんに教えてるタイプ分類とかオーキド博士が提唱したんだよ!!!

 覚えておけよなっ!!

 

 

 怒涛の勢いでオーキド博士トークした。

 なんか推しを布教するヲタクみたいになってたわ。

 

 いやでも仕方なくない?

 トレーナーなら知っておくべき人でしょ??

 ねぇ???

 

 

 ふと、ポケモンのことならまだしも研究者を覚えるキャパはないのか、お目々ぐるぐる状態なヒビキくんに気付いて口を閉じる。

 

 ありゃりゃ、パッチールみたいになってるぅ…

 なんかごめんね?

 でも覚えておいて損はないから…

 

 あとギャラドスの方が話聞いてるっぽいの気の所為?

 きみオーキド博士気になるの??

 

 

 と、まぁ、うん。

 冷静になったところで。

 

 

 「わーい、陸地見えるてるぅ…」

 

 

 深夜に入りかかった時間帯ながら、無事に到着。

 

 つまりグレンタウンからここに着くまでオーキド博士についてほぼずっと語ってた訳で。

 我ながら良くここまで喋れたな、って。

 どうりで喉乾いてる訳だな、って。

 

 …なんか、ほんと、ごめんねヒビキくん。

 でも後悔はしてないよ…

 

 愉快愉快、とわらってらっしゃる海神様。

 ごめんヒビキくん、愛玩具認定から脱することは出来なさげだわ…

 

 ほら、正気になって…

 あ、面白いからいい?

 そうですか…

 

 あっはい、楽しく旅してますよ。

 アーシア島は…ふふ、平和そうなら良かったです。

 …えっほんとですか嬉しいです!

 島に戻る時にはもっとバトル上手くなります!

 はい!頑張ります!

 ではまた!

 どうぞご自愛くださいね!

 

 

 にこにこと、満面の笑みで海に帰る海神様をお見送り。

 

 月光に照らされる白銀の姿もやっぱり神秘的で…

 真っ暗な海に深く沈んでいくのも幻想的で…

 いつも陽の下で拝見してたけど夜の姿も綺麗だった…

 

 うちの海神様がこんなにも美しい…

 きっと明日も明後日も、来年だって美しい…

 

 

 ほう、と軽く息を吐く。

 目に焼き付けた光景は心のアルバムに永久保存。

 

 さて!

 流石に今から歩いてマサラタウンに行くのは無謀なのでね!

 野営の準備しなきゃね!

 

 未だこんらん状態なヒビキくんの手を引きつつ良さげな所をシミズさんと散策。

 案外早く見つけたので、自分のテントをちゃちゃっと設営。

 晩御飯は冷えた身体を温めようとカレーを作成。

 レトルトカレーをきのみで味を整えるだけの簡単な調理。

 ちなみに私は激辛派、ヒビキくんは甘口派。

 

 なので。

 

 

 「いい加減目ぇ覚ましたら?」

 

 

 はい、あーん()

 

 

 「んぐっ?!

  〜~~っ○△✕□☆◇!!!?!!?」

 「吐いたらど突くかんな★」

 

 

 わぁ!

 真っ赤な顔が真っ青になって必死に頷きながら飲み込んでとってもおも…偉いねー!

 じゃあ正気に戻ったところでテント立てようねー!

 

 えっ?

 大丈夫大丈夫、ちゃんと甘口のカレーも用意してあるよ、モモンの実入れたやつ。

 ちなみにヒビキくんの手持ちの子達、まだ食べてないから早く出してあげて?

 私達はもう食べ終わるし先に寝るね!

 あと片付けよろしく!

 

 口を押さえ涙目で困惑してるヒビキくんを尻目にテントに入る。

 そしてカイロ代わりにシミズさんと一緒に寝袋入っておやすみ3秒でスヤァした。

 

 

 セキチクシティからグレンタウン、ジムバトルして即出立、怒涛の一日だったもんね。

 

 

 おかげで寝坊した。

 

 もうぐっすりと、寝たよね。

 ジムバトルの後は頭も身体も疲れきってるから、これは致し方ないことなのだ…ってね。

 シミズさんが野生ポケモンが襲ってこないように周辺警邏してくれてたので、ほんと、もう、頭が上がらない…

 いっぱいブラッシングさせていただきます…

 

 そしてお陽様はもうてっぺん過ぎてるけどこれは朝食。

 起きてすぐのご飯だから朝食なんだ…!

 

 ちなみにヒビキくんも爆睡かましてた。

 なんならまだ覚醒しきってないのか頭揺らしながらサンドイッチ食べてる。

 器用だね??

 

 そんなこんなでお腹を満たし、支度を整えて出発。

 

 自然豊かで長閑な道に沿ってゆっくり歩けば、夕方前にはマサラタウンに到着出来た。

 

 …ふぅ。

 

 

 「ここが、聖地マサラタウン…」

 「え?」

 「あそこがオーキド博士の研究所かな…?」

 「おう?」

 「夢にまでみた始まりの町…っ!」

 「…おーい?」

 「過疎ってるけど荒れてないし、整備されてるのは人の出入りがある証…」

 「……もしもーし??」

 「いや、でも…たしか…」

 「あ、これ聞こえてねぇやつ…」

 

 

 自然に近い環境でポケモンを保護して観察するには最適な場所…なのか…?

 

 まぁアニポケでも言われてたけど、どう見ても限界集落なんだよね…!

 畑挟んで隣の家とか絵に書いた田舎の風景じゃん…?

 

 あ、あの家サトシくんの家に似てる!

 赤い屋根に白の外壁!庭のガーデニングとか!

 

 ふくよかなおばさんに明るく挨拶したり、元気よく駆けていくドードリオを見かけたり、おじいさんが撒く餌に群がるポッポに癒やされたりしながら歩き続けてはい到着!

 風車が目立つ大きな建物だよ!

 

 そう!つまり!!

 

 

 「すみません、オーキド博士はいらっしゃいますか?」

 

 

 来ちゃいました!オーキド研究所!

 まぁアポとってないから会えるか分かんないんだけどね!

 

 でも会いたいじゃん?!

 ここまで来たら会いたいじゃん!!!

 

 

 心の向くままインターホンに呼びかけて、ガチャリと扉が開いて、姿を見せたのは、そう、

 

 

 「わしに何か用かのぉ、お嬢さん」

 

 

 石塚○昇さん…!!!

 

 ハッ!じゃなくて!

 

 

 「お初にお目にかかりますオーキド博士!急なのですがお渡ししたい物がありまして、お時間頂けないでしょうか!!」

 「うわうるさっ」

 

 

 うるせぇだまれヒビキくん。

 こっちはガチで会えたことにテンション荒ぶってんだよ!

 これでも落ち着こうと頑張ってんの!

 

 

 「ほほ!元気じゃのぉ、かまわんよ。入ってきなさい」

 「ありがとうございます!」

 「そっちの子は…たしか、ジョウトの…ヒビキくん、だったかな?久しぶりに図鑑を見せてくれんかの」

 「っす」

 

 

 あぁああぁぁ!

 ずるいヒビキくん認知されてるー!

 私は初対面だから仕方ないんだけどお嬢さん呼びなのにー!

 

 

 「ふむ…ところでお嬢さん、ケーナという人を知っておるか?」

 「ふぇっ」

 「いや、わしの尊敬するトレーナーでな?わしが現役のトレーナーとして旅をしていた時に知り合ったんじゃが、まぁとにかくバトルの強い人でのぉ」

 

 

 君に顔がそっくりなんじゃ。

 と。

 優しい顔で見られて、

 

 

 「あっあの、ケーナは、大伯母様の、名前です…」

 

 

 一気に鎮火した心の内で、一言。

 

 そう言えば同世代になるな、と。

 

 

 えっ。

 

 つまりオーキド博士はかの伝説()の巫女様を知ってる人??

 

 

 …………マ?

 

 

 

 

 




けーきわんほーる…いもたれ…
めりぃくるしぃみました…


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バトルしようぜ!(挨拶)





 私がケーナという人物について知っていることはあまり多くはなく、その殆どが祖父と元長老達の言い争いの最中で過度に称賛されていたことくらいで。

 

 聞き及んだその偉業から、きっと()()なのだろうなと思ってそこまで興味が湧くこともなく自己完結して、自ら聞き回ったり調べたりしなかった。

 

 だからどんな人物だったのか知らないし、そもそも知る必要はないと思っていた。

 だって、()()である故にその偉業とされることでなにをやったか理解できる訳で。

 

 けれど私が生きている今と、かの人が生きていた昔とでは圧倒的に文明は発展しているのだから比べることに意味はない訳で。

 だって今と昔では、()()()()()()()()()()()()()()()()()()すら小さな子供から大人まで知っている()()すら違うのだから、比べる土台が違うだろ、と。

 

 だから、物凄くバトルが強い人が先祖にいる、ということだけ知ってればいいだろうという結論。

 それに多くの人に凄い人だと認識されていたとしても、何かしらの地位や権力を持ってた訳ではないし。

 

 だって、もうお亡くなりになってるんだから。

 

 

 まぁ、あの時聞いていたとして。

 オレンジ諸島から出た事のないトレーナーと、オレンジ諸島外のトレーナーとでは、感じる印象だって違うだろうし。

 なにより、巫女というフィルターなしで、ただの(いち)トレーナーとして相対した人から聞くモノの方が()()()()()()だろうから。

 聞いても聞かなくても大差なかったと、大差無い結論を改めてだす。

 

 

 けどまぁ、なんだ。

 

 

 オーキド博士が楽しそうに語るその内容が、なんというか、その…うん。

 予想以上に、こう、上回ってて…ね?

 

 ちょっと…

 いや、かなり、引いてる…

 

 

 例えば。

 とある森の(ぬし)争いに負けて荒れていたオニスズメ・オニドリルの群れに単騎(ポケモンなし)で突っ込んで、群れの(リーダー)をビンタ一つで従えさせ、近くの村の畑の治安維持部隊(むしポケモン対策)育て上げた(調教した)とか。

 

 まぁ米農家が鴨を飼育してるようなものかなと思いつつ、説得(物理)する巫女とか字面やべぇなって…頬が引き攣り。

 

 

 例えば。

 牧場家達のどっちのポケモンが優秀かという争いの解決の為に町興しと称して障害物レースを開催させたり。

 

 今では競馬として町が栄えており年に一度の祭では大伯母様に関したレースがあるそうで、いやもう賭け事推奨する巫女って…思わず半目になり。

 

 

 例えば。

 大雨で流れてしまった橋で足止めを食らっていた一般人の為に、鳥ポケモンと協力して川に縄を掛け、草木で覆い、そこを水技で濡らし氷技で凍らせ橋を作ったり。

 

 あっもしかして某孫探偵を履修してらっしゃる?まさか作者様もこの世界で正当に活用されるとは思ってないだろうなぁ…と思わず乾いた笑い声がでたし。

 

 

 例えば。

 ペラップという鳥ポケモンと合唱し音楽隊を結成、披露された歌が今までにない心に響く新しい音楽だと話題になり公演会をして回って路銀稼いだり。

 

 試しに軽く歌っていただいたところ、某歌うアンドロイドの有名所のやつだった…あぁ、うん、目新しいだろうし刺さる曲多いよね…いやもうどんな顔すりゃいいのコレェ…

 

 

 例えば…と、そんなこんな、型破りというか破天荒ぶりを楽しそうにお話ししてくださるオーキド博士…

 すみません、もうお腹いっぱいです…

 

 いや…大伯母様、アグレッシブゥ…

 

 で済まないよコレェ!

 何してんの?!

 ねぇ何しちゃってんの!?

 

 自由奔放にもほどがありません?!

 島から出たから私は自由だーってか!?

 ブレーキ壊れてんじゃないの?!

 アクセル全開フルスロットルじゃん?!

 誰か止めようよこの暴れ馬!

 え?もう手遅れだって??

 知ってるよ!!過去のことだもんね!!!

 

 いやほんっと自由人!

 とても楽しく旅をしたって分かるよ!!

 羨ましいなヲイ!!!

 

 隣に座ってるヒビキくんも引いてるよ!

 オマエ似たようなこと(路上演奏)してたよなって視線が!痛い!!

 そんな目で見ないでよ!アレは致し方無かったことだったんだから!!あれ以来やってないじゃん!!!

 それに路銀稼ぎに賭けバトルとか私したことないよ!?

 ちゃんと常識の範囲内(公式ルール)でやりとりしてるからね!?

 昔はそこら辺ザルだったとかそんなのは聞いてないんですよ!!

 それに悪人相手だからって一撃必殺3タテして心圧し折る鬼畜の極みみたいなこともしてないってば!!

 確率トチ狂ってんじゃんこわっ!!

 ロックオンとかこころのめ使わずにソレは頭オカシイんだって!!!

 

 大伯母様ほんとなにしてんのぉおお!!?

 巫女とかどーとかの前に人としてやべぇやつだよ!

 

 私は一般人であって逸般人じゃないので!!

 同じ巫女だからって同列にされたくないぃいい!

 血縁だからって同一視されたくないぃいい!!

 私のが絶対常識人だってばぁああぁぁ!

 

 

 多分今の私は梅干し十個くらい口にぶち込まれた顔してる。

 間違いなくしわくちゃピカチュウフェイスだよ。

 

 そんな私を見て、とても楽しそうなオーキド博士。

 もうにっこにこである。

 

 う"ぁ"あ"あ"ァ"…!

 優しく暖かい眼差しで見るの止めてくだしぁ…!

 

 逸話が尽きない大伯母様について、色々とお話ししてくださっているオーキド博士が楽しそうで何よりですぅ…

 だけどさぁ、これだけ話すことがあったということはつまり…

 

 

 「結構長い間大伯母様と一緒に旅をしていらっしゃったんですか…?」

 「まぁ、そうじゃなぁ…ここカントーからジョウトだけで軽く3年ほどかの。あとは…そうじゃ、大きな祭があると聞いて他の地方に行ってみたら演者として出とった時もあったかの」

 

 

 ほんとなにしてんのかな!?

 

 いやほんと自由人だなってことしか分からなくなってきたぞぉ…

 

 にしてもやっぱ一緒に旅してたのか…

 そっか…

 

 まぁそうじゃなかったら氷橋の踏み心地とか意気揚々と話さないもんね…

 だからといってハメ技バトルを参考にしちゃだめだと思うんです博士…

 あと一芸は身を助けるって助言貰ったからって何故そこでギャグ川柳なの…

 

 

 「大変ご迷惑をおかけしたようで…」

 「はっはっはっ!なに、あれだけ楽しかったのはケーナのおかげでな。なにより強いトレーナーが一緒に居るだけで長旅の負担も心労も軽くなるし、有難いもんじゃった。良い旅をしたと、今でも心躍る思い出じゃよ」

 「そう言って下さるのが救いです…」

 

 

 いやほんとに。

 というかこれ以上話聞いたらある意味発狂しそうだからぶった切ろう、そうしよう、うん名案。

 幸い(?)にもっていうか私の当初の目的もある訳だし…

 …いやね?

 このまま話続行されたら羞恥で逃亡しちゃいそうとかそんなことはないよ??

 トキワの森まで爆走して心のまま全力で絶叫したいとか思ってないよ??

 ほんとだよ???

 

 とりあえず私のメンタル的にもう限界なので話題を変えさせてもらう。

 っていうかコレ以上は当初の用事が頭からぶっとぶ…

 

 

 「えぇっと…あの、オーキド博士。お時間頂いてるところ大変申し訳ないのですが…お渡ししたい物が、ありましてぇ…」

 「うん?あぁ、そうじゃったの」

 「これなんですけど…」

 

 

 のそのそと、取り出したのは一つの小包み。

 これは島を出るちょっと前、次の仕事へと連れられていったおじさんことヨウガンさんから預かった物だ。

 

 曰く、

 フルーラちゃんのことだからマサラタウンにも行くんでしょ?

 ()()()()()()、コレをユキ…オーキド博士に渡してくれないかな。

 大丈夫、変なモノじゃないから安心して。

 じゃあ()()()()()()()

 と。 

 

 大きさは大体私の手の平くらいで、特に重くもない感じ。

 預かり物だから当然中身は見てないし、でもオーキド博士宛っていうのが物凄く気になるのよね…

 

 だってまさか元トキワジムリーダーで、現リーグ関係者からおつかい頼まれるなんて…ねぇ?

 しかもいつマサラタウンに着くのか分からないっていうのに、丁度いいとか…ねぇ?

 そもそも何か渡すようなモノがあるだなんてどういう関係なのって…ねぇ?

 聞いたけど答えてくれなかったし…ねぇ?

 

 怪しさ満点すぎでは??

 いやほんとに。

 危険物ではないだろうことくらいしか信用がないよ?

 

 一応預かった物であること、流石に生物(なまもの)ではないだろうけど島を出てからまだそんなに経ってないこと、旅の最中トラブルはあったものの恐らく壊れてはないだろうこと…

 と話しつつ、そんなこんなで小包みを開けたオーキド博士。

 

 出てきたのは、見事な組木細工の小箱と、手紙。

 

 驚きからか一瞬見開かれたものの、懐かしそうに目を細めて微笑んで。

 中身を知ってるかのように、優しく小箱をテーブルに置いて。

 それから、ゆっくり手紙を開いて。

 時々頷きながらも読み終えて顔を上げたオーキド博士と、()()()()()

 

 

 …ん?

 なんだ、この、感じ?

 

 背筋がソワッとするような、その()()を考える前に、オーキド博士が口を開いて、一言。

 

 

 「うぅむ、3…いや、4かの」

 「はい?」

 「現役だったら6匹でと言ったんじゃが…まぁわしも歳だしのぉ、流石に4匹が限界かと思っての。まぁなんじゃ、勝ち負けは気にせんで気楽に()()()()()()()()くれればよい」

 「ほぇ?」

 

 

 え、と?

 つまり…?

 

 横からへぁん?とか聞こえたから多分察した意味は同じ。

 いやでもほらもしかしたらこうなんかの聞き間違いとか思い違いだったりしません??

 え?現実逃避も大概にしろって??

 

 

 「しかと受け取ったからのう。公式バトルだとわしじゃちと役不足かもしれんがまぁ、今回は変則的なバトルの方が良いから問題ないじゃろ」

 「……ン°ェ"???」

 

 

 やっぱそーいうこと(バトル)なのねーー!!!???

 っていうかなんかめっちゃ含みがある言い方なんですけどーー??!!

 ねー!もー!どーゆーことーー?!?!

 

 ぽけっと口を半開きのまま固まる私達の様子が面白いのかなんなのか、笑みを深めたオーキド博士は付け足すようにでは庭の方に行くかのとか続けるものだから困惑が収まらない。

 

 

 いやいやいやだからっていったいどーゆーことだってばね??

 なんでそーいうコトになっておりますん???

 

 え、なに。

 もしかして、もしかしてだけど。

 つまりあの手紙ってば果たし状だったんか???

 

 

 

 ………ゑ?

 

 

 

 

 





えー…更新停止より約2年…皆様、どうお過ごしでしょうか…
クリスマスとかそんなものはおいといて…年末です。
大掃除、お気をつけ下さい。
私はプロット小ネタ技構成などを書いてたモノが捨てられるということが…ありました…
気付いたら年は明けてました…音沙汰なく更新してすみません…


さておき。
定期不定期と訪れて下さった皆様方、コメント残して下さった方々。
大変長らくお待たせしすぎて申し訳ございませんでした。
職場の諸々含め週1更新は出来ないと思いますが、今一度筆を取らせていただきますので、よろしくお願いいたします。
プレゼントには程遠い文ですが、どうぞ続きをお読み下さい。

そして次の更新は年明けてからです。
現実がデスマーチでヘルモードなので期待せずにお待ちくださると有り難いです。

長々となりましたが皆様、良いクリスマスを。
そして良いお年をお過ごしください。





ところでウチのフルーラちゃんってこんな感じでしたっけ??


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夢中すぎて気付かない






 

 

 マサラタウンにさよならして早1日。

 そんな私達は今、どこに居るでしょーか?

 

 正解はー…

 

 

 …こっこでーす!ここ!ここ!

 

 そう!

 

 トキワジムのぉ、ジムリーダー事務室でーす!

 

 

 

 ……いや、なんでだよ?!!!

 

 ちなみにヒビキくんは別室待機。

 何故かジムトレーナーさんと仲良く私作複合タイプの相性暗記テスト中。

 ちなみに追試もちゃんとあるよ(合格点出すまで終わらないドン)

 

 

 「なんつーか話題に事欠かないよな、オマエ…」

 「え、異議ありです。半分以上は巻き込み事故で私悪くないですもん」

 「いやまぁ、確かに今回はあのクソジジイ共が共謀したことか…ハァ…」

 

 

 

 眉間に皺&溜め息&ゲンド○ポーズ、そんなトリプルコンボで苦々しいといわんばかりな顔をしてるのは当然の如くグリーンさん。

 それはそう。

 だってここグリーンさんの仕事部屋だし、なによりその心境は察するに余りある。

 

 実質私の事だけど、自分の知らない所でグリーンさんもバリバリ関係者になってるんだもんね。

 

 いやほんと、なんでこーなってんのさ…

 

 

 

 「んで、どーすんだよ」

 「どうするも何も…コレ、拒否権あると思います?」

 「……………諦めろ」

 「ほらぁ!そーいう事じゃないですかぁ!」

 

 

 ぎゃんっ!と盛大に喚くも怒られるどころか哀れみの視線がくる時点でもうどういう事になってるかお察しだよ!!

 これ!絶対前々から決まってたやつ(ワタルさんの指示)!!

 

 

 向き合って座る私達の真ん中にあるテーブル。

 そこにある、2通の手紙。

 

 なんど睥睨しても内容が変わることはない、ソレ。

 

 1通はオーキド博士に届けた物で、それは果たし状ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 なお私はそんなもん受験した記憶はない。

 …なかったの、だけど…ね? 

 グリーンさん曰く、()()()()()()()()()()()()()、と。

 そして、()()()()()()()()()、と言われて…うん。

 

 察した。

 

 グリーンさんに道連れにされた、スパルタヘルモードな一週間(あの地獄のこと)か!と。

 確かに二人して合格点取るまで何度も追試しましたね!!!

 

 

 そしてオーキド博士は()()()()()()()私がどれだけ臨機応変にバトル出来るかを確かめる為にバトルした、とのこと。

 まさか()()()()()()()という言葉が同時指示の事だとは思わないじゃん??

 テロリスト達がマナーよく一対一のバトルをする訳はなく、複数人対一なんてザラだから、という理由での試験方式らしいけど…

 

 一応受験者も複数体出して良い試験なので私は2匹でバトルした。

 

 …オーキド博士、現役退いたって嘘じゃんね?

 アレでソウなら世のトレーナー達カスじゃんね??

 ()()()だなんてもんじゃなかったんですが???

 

 ちなみに研究所にいる血気盛んなポケモン達が瀕死になる手前で交代してくるからタイムキーパーしてたヒビキくんがストップ!って叫ぶまで延々とバトルしてた。

 不足の事態は起こり得るものとして、待機してたポケモンが偶に()()()を出してくるの、ほんと性格悪い試験だと思うの。

 

 え?何分何時間バトルしたかって??

 教えられてないよ!覚えてもないよ!!

 ちなみに道具使って良いって言われたけどこんな試験受けることになるなんて知らなかったから回復道具尽きたよ!!!

 研究員さんが補填してくれたけど!!!

 そうだね!テロはいつ起こるか分からないから備えは大切だね!!!

 

 

 余談だけど、このバトルの後からヒビキくんはオーキド博士をリスペクトして勉強に力が入った。

 いつもの参考書の著者だからね…はじめからその集中力欲しかったな…ふふふ…

 

 

 そしてグリーンさんが睨めつけてるもう1通。

 それはオーキド博士より預かったグリーンさん宛のお手紙と、お察しの通り堂々と書かれた()()()()()()()()()の文字。

 

 外堀が、埋められてる。

 間違いなく、埋まってる。

 

 ちなみに、なんの認定試験を受けてることになっているのかというと…

 

 

 ジムリーダー代理。

 

 もとい。

 

 正式名称、緊急時治安維持保安責任者権限、という厳ついネーミングな()()()()である。

 

 大地震・津波・崖崩れ等と自然災害、テロリストによる人為的破壊活動、野生ポケモンの暴動、大規模事故、あるいはそれ等の複合災害時に振るうことのできる権力…いや、義務に近い。

 一般人やトレーナーに避難を呼び掛けたり誘導したり、その災害からの被害を最小に抑えるよう活動する…という名目で()()()()()()()()()()()資格だ。

 

 場合によってはその地方のリーグから褒賞金がもらえることもある。

 過去には凶悪な指名手配犯を捕まえて、総額云千万円支給されたトレーナーもいる。

 

 

   \悪の組織に凸っても怒られないよ!/

 ワッショイ\褒められるよ!/\お金もでるよ!/ワッショイ

 

 

 みたいな感じ。

 

 簡単に説明すると、

 一次試験、対野生ポケモン鎮静化・誘導・保護。

 二次試験、対テロリスト武装解除・制圧・無力化。

 三次試験、対トレーナーバッジ認定試験。

 以上の3つの試験をそれぞれ筆記と実技の両方合格して発行される資格である。

 

 

 ちなみに実力の基準として()()()()()()()()()()()()()()()というものがあり、これはここカントー地方に関しては一応相当数いる。

 他地方から修羅の国と言われる所以である。

 

 けどまぁ残念ながらその他に必要な()()()()()()()()()()を学ぶ人がほぼいないから資格を持っている人どころか受講する人すら殆どいないっていう現状。

 これだからカントーはバトルの強さを追い求める人が多い脳筋地方と…

 

 それぞれ試験があって、それぞれ合格して、それでやっと資格保持を認められる為に一次試験合格したから野生ポケモンの鎮静だけしか権限持ってないよ!なんて人もいる。

 なおカントー地方にはそんな資格所持者すら居ない。

 

 で。

 どうしてグリーンさんが頭を抱えてるのか。

 

 さっきから何度も繰り返してるけど、ジムリーダー以外でコレ持ってるトレーナーはカントーに居ないっていうのと…なにより。

 

 

 推薦責任者の欄にグリーンさんの名前が使われてるっていう…ね。

 当然グリーンさんにそんなもの書いた記憶はないけれど、曰く、確かに自分の字であるとのこと。

 

 公式文書偽装とか、リーグがしていいの…?

 ってことで二人して渋い顔してる…という訳です。

 

 なお()()()()()の欄に名前があるということは、つまり…

 もし私が資格を取得したら、もろもろの書類や連絡事項がグリーンさん経由で私に来ることが確定している訳です、はい。

 私がやらかした場合においても然りで、何かあった時に駆けつける必要があったりする訳です、はい。

 

 連帯保証人?みたいな?

 なんというか…グリーンさんも巻き込み事故食らってる感ある。

 

 

 ちなみにこの資格もってる現最年少者は、正規のジムリーダーやジムトレーナーを除くと他地方に居る17歳の青年で、去年合格したばかり。

 つまり16歳で取得したのだけど、一般トレーナーでの取得者で最年少記録!とかそんな感じで名前とか伏せられてたけど一時話題の人になったレベル。

 まぁ現状取得者の平均年齢が25歳を軽く超えてるから仕方ない。

 

 年齢層が高めなのも一応理由があって、バトルトレーナーの中でも厳選された一握りの、燻ることなく邁進している人をリーグの方々がスカウトして、本人が承諾して、勉強して貰って、試験して…という流れが多いから。

 試験で躓いて取得に何年もかかかるトレーナーは多いらしい。

 年食ってからの勉強は、大変だよね…うん。

 

 そもそもトップにいるバトルトレーナーはそういう事(事件・災害)があったらその場の責任者(ジムリーダー)とかから直接声を掛けられるから、この資格の存在を認知してても取得する必要がないっていうね。

 まぁバトルトレーナーの有名人達は基本的に善良なので事が起きれば自ら動いてくれるんだけど…問題はリーグの方々が声掛けしても実力あるトレーナーは我の強い人が多くて試験なんて受ける人が居ないっていう。

 現実って無慈悲。

 カントー地方に取得者が居ない主な理由はソレ。

 でも責任者(指示する側)になるのは誰だって嫌だよね…って気持ち。

 

 

 そんなことは置いといて(説明は終わり)

 

 話は戻って私の事。

 

 私、旅に出たばっかの10歳。

 当然、バトルトレーナーとしての名声一切なし。

 

 これで取得しちゃったら目立つこと間違いなし。

 他地方のその某青年さんの所には取材させろとマスゴミが酷かったらしく、急遽リーグが写真なしの名前なしというプロフィールとかを載せた雑誌を発行したのだとか。

 16歳でソレなら私はどうなるの?っていう。

 

 しかも既に二次・三次試験と既に合格してる現状。

 …まぁ、情報規制はワタルさんが何とかしてくれると思うから、とりあえず考えるべきは他のこと。

 

 

 どうして私に取得させたいのか、だ。

 

 

 この資格を持ってると何があるのか。

 と考えると、非常時にある程度自由に行動出来ること、かな。

 

 何かあったら私は自己判断(いのちだいじに)で逃げても問題ないよってことでしょ?

 もしくはアーシア島で何かあった時に私が指示出して例年の()()()を誘導しろってことかな。

 

 

 うん。

 そんな気がしてきた。

 

 

 一人で自己完結したところ、見計らっていたのかそんなタイミングでグリーンさんが口を開いた。

 溜め息混じりの、仕方ないなぁ、みたいな、そんな声で。

 

 

 「正直、ワタルさんがお前に資格取らせようとしてる理由はわかるんだよ。予想だが、まぁ妥当な理由」

 「…と、いうと?」

 「言っとくがお前の事だからどーせ何かあった時に逃げれる理由作りだとか、万が一海神達が暴走した時の予備策だとか思ってんだろうけどな、絶対違ぇぞ」

 「えっ違うんですか?!」

 「………そーいうとこだぞ、ほんと」

 「???」

 

 

 

 え、それ以外になんか理由があるの?

 

 きょとんと目を瞬かせる私に、呆れたような眼差しで、グリーンさんは続ける。

 

 お前がトレーナーになったから取らせようとしてるんだよ、と。

 その言葉に思考を巡らすも、やっぱり思い浮かばなくて首を傾げて答えを乞う。

 

 ハァ、とわざとらしく息を吐き、改めて口を開くグリーンさんの言葉は、理解するのにちょっと時間はかかったものの、確かに納得出来てしまうものだった。

 

 

 巫女がトレーナーになった。

 そうなると、祭りの大前提である巫女が操り人を選ぶという意味に違う意味が加わる。

 

 (いち)トレーナーが、あなたは優れたトレーナーですと選ぶ訳だ。

 

 今までポケモンを所持していない、つまり()()()()()()()()()巫女という祭事の役目を持つ者が選んでいた事が。

 トレーナーという資格を持った者が、トレーナーを選ぶというモノに変わってしまっている事実に。

 

 リーグから情報規制をかけられているので当然、大会出場はたとえ条件を満たしていてもほぼ辞退するしかない私は、知名度がない。

 とはいえ。

 トレーナーであるなら野良バトルはするし、ジムバッジを取得すれば映像はなくとも記録は残る。

 

 ポケモンセンターにあるパソコンでトレーナー一覧で名前を検索でき、所持バッジ数を確認できる機能がある故に。

 

 同名の人もいたりするから出身地は記載されているソレは、私は当然“アーシア島 フルーラ”と記載されている。

 なお顔写真は本人の希望により有ったり無かったりするので、当然の如くNODATA。

 

 ちなみにこの検索機能を使うには自分のトレーナー番号とかでログインしないと見れないし、ログインしたことはリーグに知られる。

 悪用しようものならリーグは該当者から関係者を浚って特定して罰則を与える訳だ。

 まぁ悪用された例でいうなら所持バッジ数確認して格下とバトルしまくって賞金巻き上げてたとかそういうの。

 

 本来の使用としては向上心の強いバトルトレーナーが同数か格上を確かめて、その相手にバトルして下さいと挑みに行く為のもの。

 同格の対戦相手を見つけようね、的な。

 

 んで、まぁ、つまり。

 

 検索出来るという訳は、操り人として選ばれる為に来たトレーナーが、“アーシア島”に来て、巫女=“フルーラ()”だと知る可能性があるという事で…

 

 いずれにしてもバレるのは時間の問題である、と。

 

 何度もいうけど、カントー地方においてバッジ8個相当の実力者は一定数いる。

 だから、例え私がジムを制覇したとて一定数いるレベルのトレーナーでしかない相手に、操り人として選ばれるというのは、その他トレーナーに反感を買いやすい。

 

 もし暴徒と化したトレーナーがいたとして、自意識か事故かは関係なく、島の市民に危害を加える可能性は少なからずある。

 で。

 それを押し黙らせる事の出来る()()として、この資格を取らせようとしているのではないか。

 というね。

 

 長くなったけど、まぁ、その…うん。

 ものすごく納得してしまった自分がいる。

 

 そう考えると、(大叔母様はおいといて)歴代の巫女がポケモンを持たなかったのは正解だったと思える。

 バッジ数1〜2個の実力しかない者に、あなたは優れた操り人です!よろしくね!なんて言われても、ハァ?となる感覚が、まぁ、なんとなく、わかるので。

 

 なるほど~?

 と頷きながらグリーンさんの考察がマジで当たってる気がしてきた。

 

 

 「…ほんとそーいうとこだぞ、お前」

 「はい?」

 「あー……なんだ。言おうか黙っとこうかと迷ったけど、どうせ自覚すること無さそうだから言っとくわ」

 「はぁ…なんでしょう…?」

 「お前、格下に興味無いだろ」

 

 「んぇ?」

 

 

 惚けた声が出た私に、グリーンさんは容赦なく続ける。

 

 その険を帯びた瞳に、これは今ちゃんと聞かないといけないモノだと、察した。

 

 

 「バトルが弱いっていうか、トレーナーとして半人前の奴が騒ごうが喚こう嘆こうがそれがどうした、関係ない、どうでもいい、興味無い。

  もしもお前が()()()()()()()()()()()が、お前を害そうとしても自分より格下じゃ相手にならないし、傷一つ負うことなく収束させる自信があるし、実際その実力はあるし、なんなら実績もある。

  だから()()()()()()()()()()と思い浮かばない」

 「……、…」

 「自覚してなかったろ?」

 

 

 

 言われたことを反芻して、思い返す。

 

 私はそういう思考をしていたのか、どうか。

 

 私より弱い、あるいは未熟な、そんなトレーナーをどう思ってるのか。

 

 

 言われて、気付いた。

 

 

 私は島に来た()()()()()のことを()()()と呼び、()()()に選ばなかったことを。

 

 彼らがトレーナーであると知っていても、認識をしていなかったことを。

 

 グリーンさんもダイゴさんも、優れた操り人(トレーナー)なのは当然の事実。

 私は、巫女であるならば、()()()()()()()()操り人を選ぶべきなのに。

 

 なのに、ソレをしなかった。

 

 しようと、思ってなかった。

 

 

 己の所業に血の気が引くのと同時に、何故グリーンさんはソレに気付いたのかと思う。

 だって、ヨウガンさんもお兄さんも指摘しなかったから。

 

 その疑問は、本人からすぐに聞くこととなった。

 

 

 

 「レッドが()()だからな。俺はアイツと幼馴染で、ライバルで、一番見てきたからこそ言うぜ。

  似てんだよ、お前ら。

  まぁ…お前よりよっぽど重症で、自覚してたのかは知らねぇが今じゃ強い奴以外視界にすら入ってねぇ人間不信者(バカ)に比べりゃマシだがな。

  だからアイツみたい(世捨て人)になる前に、周りの奴等をちゃんと見てやれ。お前は巫女で、やるべきことがあんだから」

 

 

 

 わかったな?

 

 そう締めくくられて、素直に頷いた。

 

 だって、あまりにもその声が、目が、表情が。

 

 

 

 寂しそうだったから。

 

 

 

 まるで迷子みたいな、おいてかれた幼い子供みたいで。

 

 

 

 泣いてるように、みえたから。

 

 

 

 

 

 









1月内になんとか更新でき一安心してます。
そして年末年始に約15連勤という記録を更新しました。
皆様、お身体ご自愛くださいね。



さてここで問題です。
一次試験の合格を()()()のは誰でしょう?

(※なお筆記はスパルタヘルモード期間に合格したものとする)



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