目覚めたら某有名ゲームの悪役だったけど、正直言って困るんだが (プルスサウンド)
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爆発オチの宝庫へようこそ


厨二病の超人おじさんの身体に厭世的なライトオタクを詰め込んだ誰得な作品。
かっこよさを墓地送りにしてクソザコナメクジ精神を召喚だ!!!




 

 もし自分が将来、ロケラン撃ち込まれて溶岩に沈む白人のオッサンになってしまったとしたらどうする?

 

 どうにもできねぇです。

 

 

 

 

 

 

 

 ぼろっぼろの身体を引き摺り起こした。口の中がクッソしょっぱくて不味い。血の味だ。

 服の穴から見える皮膚はぐっちゃぐちゃの傷痕になっていた。吐いても吐いても残る違和感は、まだ気管支や食道に血が残っているせいだろう。

 血って吐き気を誘発するとか聞いたことあるんだけど、もしやそのせいで?

 でもまあこんな大量に出血してたら、吐き気の誘発がガセでも吐き出したくもなるか。

 

「あ"ー、もう、何なんだコレ…」

 

 血で喉がイガイガしているのか酷く低い声が出た。

 夢なら覚めてくれ。身体中が痛いし怠いし、このクソみたいな体調どうにかして欲しいんだが?

 妹なら「生理二日目みたいな体調やめろ」とか言いそう。絶対に言う。

 

「いや、現実逃避はやめようか……こんな立派な筋肉を持った覚えは無いからな」

 

 よっこらせ、と荒れた研究室の床から立ち上がり、まだ割れていないガラスで自分の姿をマジマジと見つめる。

 うーん、見事な白人男性。オールバックがぐちゃってても、口の回りが赤茶色に汚れていても、鼻血の痕が残っていても、男らしくて良い顔立ちの人物だ。

 でも、いくら顔は良くてもこの人にだけはなりたくなかったよな…

 

「あーあ、バイオハザードのウェスカーとかどうすりゃ良いんだよもう」

 

 とりあえず頭を抱えてみても何も解決しなかった。顔をひっぱたいてもめちゃ痛いだけ。

 

 どうやら本当に「自分」はアルバート・ウェスカー氏になってしまっているらしい。

 

 しかもご本人の記憶は参照できない。

 純粋な日本語話者だったはずの自分でも散らばる英語の資料は読めるから、まだマシな状態なのかもしれないが。

 

 でも、かなり昔にバイオちょろっとやったり実況を見てただけの人間が、アルバート・ウェスカーになるって無理があると思うんだよな。10年くらい前じゃwii版のバイオ0とアンブレラクロニクルズをプレイした記憶もボドボドだし。

 思い出すと、バイオ0は中学生で初めてまともにゲームを触った自分には難しくてクリアできなかったし、撃ち放題のアンブレラクロニクルズはトリガーハッピーと化した妹にほぼ占領されてたから、ろくにプレイできなかったっけ。ダメだこりゃ。

 

 何でウェスカー氏にぶちこまれたのが、きちんと原作知識のあるファンじゃなくて自分なんだろうか。

 本当に勘弁して欲しかった。

 

 だいたい救済小説の類いを夢中で読み漁る年齢はとうに過ぎているのだ。いや、まあその手の話が嫌いになったわけじゃないけどさ。ノリノリで自己投影できるほどもう若くない。心が。

 だからマジでこういう役回り無理ですわ。

 元の日本人ボディに帰してくれ。

 

「とりあえず明らかに建物が爆発しそうなアラームが鳴り始めたんだけど、逃げた方が良いよなぁ」

 

 無意識に英語で呟かれた独り言に、もう「自分」という日本人だった誰かが取り返しのつかないところまで失われているのを自覚して、何だか凄く悲しくなった。

 だって元の名前すら思い出せないのだ。

 

 

 

 

 

 ウェスカー氏ご本人の記憶が無いから、爆発からは逃げられないかもしれないと思っていたが、何でか無事に逃げ出すことに成功していた。

 どうやら自覚はないだけで、身体は様々な動きを覚えていたらしい。知らない道をすいすい進んで、キモい敵をガンガン撃ち殺す自分にドン引きしながら走っていたら、いつの間にか外に出られたのだ。

 拳銃なんか触ったことなかった自分には余りにも強すぎる刺激だった。

 

 今はだいばくはつした研究所と洋館からしばらく離れた森の中で、太陽の光を浴びながら倒木に腰掛けて休んでいる。やっと落ち着いたって感じ。

 あー、でも太陽が眩しいな。ウェスカー氏がグラサンが欠かせないの分かるわ。目の色素が足りんから光に弱いねんな。レイバンのサングラス2499円ください。

 

「アホなこと考えてないで状況を整理しよう」

 

 まず、今は原作の初代が終わったあたりなのは確かだろう。今ウェスカー氏が着用しているのはスターズの制服で、もう消えかけてるデカい傷は主人公の目の前でタイラントをprprしていたらズボッと串刺しされた時のやつだ。

 さすがにあのオモシロ自爆ムービーは覚えてる。

 

 この意識が目覚めたのはタイラントさんにぶち抜かれた後の覚醒タイミングである。本来ならここで「実は凄いウイルスのおかげで蘇生したウェスカーは、超人として目覚めた後に資料を持って研究所から脱出していたのだ!」となるところだったのだろう。

 しかし自分が目覚めてしまったために、そこまで頭が回らず資料の類いは全く持ち出せていない。

 

 確か原作なら、ここで得た資料を手土産にアンブレラ社から別の企業?に移るはずだ。

 でもそこら辺だってなーんも覚えてない。原作知識もち呼んでこい。

 ウェスカーさんあんた一体どこに移籍しようとしてたわけ?

 まあ手土産も知識もないから移籍は無理だろうし、やりたいとも思わないけど。

 

 じゃあ移籍しないならどうするんだよって聞かれても困る。どうしたら良いのか分からんのだから。

 マジで打開策が無いオッサン、略してマダオだよ。

 だって頭は知識がすっからかんなのに、ウイルスと適合してる超人ボディなんて、下手な場所に出向けば実験体にされること間違いないだろうし。

 

 バイオハザードって世界は、カプコンによる「ぼくらのかんがえた最高に倫理観の無い敵」の発表会場なのだ。ウェスカー氏の記憶と思考を抜いて、平凡なオタク日本人の中身を詰めたこの身体はカモ同然である。

 しかもこの世界は倫理観お釈迦なバイオテクノロジー企業やテロ組織のせいで汚染され、どんどん安住の地がなくなっていくというオワタ式の未来が待っている。

 どないせえっちゅうねん。

 こんなん隠れてひっそり平穏に暮らすとか無理やろが。

 

 かと言って今から主人公サイドで頑張ろうにも手遅れだ。警察署に戻って「すまんwww改心したンゴwww許してクレメンスwww」とか言ってもクリス君やジル姐さんに鉛玉どちゃくそ撃ち込まれて捕まるだけだろうし。

 知ってることなんかろくに無いのに、尋問とか拷問とかもされそうだ。嫌だなぁ。

 

 せめてウェスカー氏がやらかす前に目覚めたかったよ……いや、そもそも目覚めたくなかった。

 この意識が目覚めなければ普通に原作通りだったはずだ。はい終わり。

 

「はぁー……なーんでこんなやべぇ人生を背負わにゃならんのだ」

 

 じゃあ人生を投げ捨てたら?ってのも無理。

 

 実はこうして嘆く前に、この頭に鉛玉をぶちこんでいたりする。

 でも超人と化したウェスカーボディでは、脳味噌に小さな穴が開いたくらいじゃ死ねなかったのだ。

 拳銃を口に咥えて撃つとか、かなり怖かったのに結局は無駄だった。どうやったら死ぬんだろうか。怖いのも痛いのも普通に嫌なんだが。

 

「研究所の爆発で死んどきゃ楽だったかなぁ」

 

 普通、転生やら憑依したオリ主はもっと積極的に色々やろうとするか、原作から逃げるにしても精力的に逃げ出すだろうって?

 いやもうね、何度も言うようだけど逃げても治安が終わってく世界じゃどうしょもないし、どうにかしようにもするための知識も気力もないんだよ。

 

 つーかさ、普通に暮らしてる人で、ガチでアルバート・ウェスカーやれって言われてやりたい人いる?

 居ないだろうよ中学生や高校生じゃないんだから。

 

 何かいろいろ暗躍して世界を破壊して、最終的に「選ばれた強い適合者だけの世界にするゾ!(うろ覚えの目的)」とか言うのはゲームだから楽しめるのであって、リアルでやりたくはないし、そもそも自分の頭じゃ無理ですしおすし。

 でも逃げ出して普通に暮らすのは難しい。ウェスカー氏をマジで死んだことにして、別の土地で何食わぬ顔して暮らそうにも、身元を調べられてバレたらやっぱりドナドナされそうだからな。

 

 そんなわけで無責任にもウェスカー氏を道連れにしようとしたら、この通りむっくりと蘇生してしまったというか、死にきれなかったというか。

 

「あ!滅菌作戦!」

 

 しかし脳味噌の風通しを良くしたおかげだろうか、バイオ2の大まかなストーリーを思い出すことができた。

 公式イケメンのレオン氏と、超人クリスの妹たる逸般人クレアさんが大活躍して、最終的にラクーンシティがミサイルで爆発オチ。

 主人公二人がどんな活躍するのかは良く覚えてないけれど、このままラクーンシティで潜伏しとけばミサイルでドカンと消し飛ばしてもらえるはずだ!

 頭良いな自分!爆発オチの宝庫な原作ありがとう!

 

「じゃ、街に帰るか」

 

 

 

 

 

 この後めちゃくちゃ迷子になった。

 

 

 

 

 

 




 
・何で中身が変わったの?
→この世界線だとウェスカーさんはタイラント君にハートキャッチされた後、頭を蹴っ飛ばされてがっつり脳挫傷してしまったんだな。
だから蘇生でニューロンを繋ぎ直すときに変な電波を受信しただとか、配線がバグっちゃった感じだぞい。

・中身のやる気ないの何で?世界を救ってから雲隠れすれば平穏に暮らせるじゃん?
→そんなに元気だったら自分から銃口を咥えてないし滅菌作戦を待ち遠しにしないです。

・滅菌作戦って今から約2ヶ月後だけど分かってる?
→分かってると思いますか?

・中身さんの妹って可愛い?出番ある?
→自分の名前も覚えてないからね……ゲーム内容うろ覚えしてるだけ偉い。
→出番はないです。




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他人の家に借り暮らしおじさん


見切り発車でやってるので、ウェスカーさんの能力ってこんなんだよ~!バイオの設定そこ間違ってるよ~!みたいなものがあればどうぞご教授いただければ。

まだウイルス馴染んでないのに頭を撃ち抜いて生きていたのは、脳挫傷を治したときに「ただしい脳細胞のなおしかた」をある程度は身体が覚えてしまったから、ということでひとつお願いします。
ロードローラで頭を潰せばきちんと逝けるけど、穴が開いたくらいはセーフみたいな。



 

 

 

 ラクーンシティに着いたけど、自宅もといウェスカーさん家が何処にあるか分からない件について。

 

 

 

 

 うん、そうなんだ。めっちゃ迷子。

 山をさまよい、たまに遭遇するゾンビ犬を蹴散らしながら、3日かけてラクーンシティのはしっこに出たけれど、記憶がないから自分の家に帰れない痴呆老人みたいなことになっている。

 

 超人の癖に山を降りるのにも3日かかったあたり、認めたくはないが自分は方向音痴らしい。

 それに、財布や携帯や身分証みたいなやつはみーんな洋館か研究所に落としてきたようで、ポケットの中には高そうなライターとコーヒーショップのレシートとタバコの空箱だけ。

 拳銃や銃弾、ナイフなんかは装備したままだけど、それに住所が書いてあるわけもなし。

 

「このコーヒーショップ、レシートに住所が書いてないやん。はーつっかえ」

 

 行きつけの店だったら上手く聞き出してウェスカーさん家の場所を把握できたかもしれないのに。

 と、そこまで考えてふと思い付いた。

 

「電話帳!」

 

 そうそう電話帳。あれにウェスカーさん家の住所とか書いてあるかもしれない。そう思ってしばらく人目を避けながら公衆電話を探してみたけれど、住宅ばかりの場所にそんなものは見当たらなかった。

 

「……つっら」

 

 もう3日も犬対策に木の上で寝てたし、川の水飲んで水浴びしてたし、食べ物は川の焼き魚だけだし、疲労感で死にそう。

 風呂入ってまともな物を食べて屋根のある場所で寝たい。

 まともな服も欲しい。こんなボドボドだとおまわりさんの服なのに通報されてしまう。そんで捕まったら「ウェスカーやんけ!どのツラ下げて生きてたんじゃワレェ!」って感じになってしまう。嫌だ。

 

「もうダメだ。空き巣しよ」

 

 人間、凄く疲れて追い詰められるとモラルが壊れるものだ。

 

 それにどうせ、バイオハザードが起きればラクーン市民はだいたい死ぬし、最終的に街は滅菌作戦で消えてしまうだろう。今、自分が空き巣したとしても大した問題にはなるまい。

 だいたい、もしウェスカーさん家の住所が分かっても、そこは「死んだはずの人間の家」だ。おそらく捜査が入るだろうと考えれば、帰っても荷物を回収できるだけで住めるわけじゃないから、どのみちどっかの空き家に住み着いたり空き巣するしかないと思ってはいた。

 

「つーか殺人してるし、今さら罪状に窃盗が入るくらいどうってことない…」

 

 研究所や洋館からおさらばする時に、実験の被害者の方々を容赦なくヤってしまったし。

 

 

 

 開き直って住宅を見て回ること数分。

 良い感じに荒れてるお宅を発見した。

 

 何で荒れてる家にしたかって?

 そりゃあ家が荒れてるってことは家庭が荒れてるってことだ。そういうお宅はご近所と疎遠な場合が多い。上手くいけば犯罪者のお宅だったりする。

 んで犯罪者のお宅なら、空き巣しても通報されない可能性は高いってわけ。犯罪者じゃなくてもご近所と疎遠なら、ご近所さんは見知らぬ人物が出入りしても気にもとめないだろう?

 

「というわけでお邪魔しまーす」

 

 外から見た感じ動いてる人が居ないから、仕事にでも行っているのだろうと判断し、裏口の鍵をドアノブごと破壊して侵入した。超人パワーのおかげじゃなくて、ドアがぼろっちいだけだから普通に筋力ある人ならイケるやつ。

 壊したドアはもっと壊して開かないようにしとこ。そいっ!

 

 念のためにナイフを構えて室内に入ったが、身体に染み付いたクリアリングの動作が自然と発動したことにビビった。さすが腐っても警察官だな。

 で、二階までしっかりクリアリングした結果、このお宅は無人だった。そしたらもう服とご飯とお金を頂戴して、シャワー浴びるしかあるめぇ。

 

「わぁい冷凍食品ばっかやんけ」

 

 で、腹の減りが凄いので冷蔵庫を開けたら水と炭酸飲料と酒とツマミのみ。だもんだから冷凍庫を開けたら、こっちは冷凍食品ばっかりだったんだなぁ。

 まあダイニングテーブルがジャンクフードのゴミと冷凍食品の容器、酒瓶と吸い殻が山盛りの灰皿でとっちらかってるのを見て覚悟はしてましたがね。

 

 男の独り暮らしなんだろうな。

 好都合だから文句言いませんが。

 

 そんな感じでカルボナーラをチンしながら、ボトルの水を2本も飲んでしまった。安心して飲める水は最高。

 

 ……あれ?もしかしてウェスカーボディなら泥水を飲んでも大丈夫だったりするか?

 いや、飲みたくないから考えないようにしよう。

 

 結局、カルボナーラだけじゃ足りなくてハンバーグとマッシュポテトのセットだとか、マカロニグラタンだとかを解凍してしまった。塩すらない3日間を過ごせば誰だって文明の味に涙が出るほど感謝するものだ。仕方ない仕方ない。

 

 腹がくちくなったのでクローゼットを開けると、縦はともかく横幅がオーバーサイズな服がもりもり出てきた。アメリカの社会問題である肥満のせいだな。

 

「は?これ女児の服だろ」

 

 んで、タンス貯金とかは無いのかとクローゼットひっくり返してたら、明らかに女児の服が出てきた。女の子用のワンピースとか、パンツとか。

 

 でもクリアリングした時に「娘さんの部屋」とか見当たらなかったし、埃の積もった写真立てに飾られた写真には女の子なんて全く写ってなくて、老夫婦と息子らしき男の姿しかなかった。

 で、部屋の匂いの感じから考えるに、老夫婦の寝室っぽい部屋は長く無人の様子。たぶんもう引っ越したか死んでいるだろう。息子らしき男の部屋だけは生きた臭いがしていた。

 だから男の独り暮らしだと思っていたのだが。

 

「……親戚の子の服?離婚したから妻子が出てって、写真も持ってかれたから服だけ残してあるとか?…もうお腹いっぱいで眠くて頭が回らなくなってきた…わからん」

 

 とりあえず食ったもんとか荒らしたクローゼットとか証拠隠滅して、シャワーを浴びてどっかで寝よう。

 

 今まで着ていた服は装備ごと、綺麗なゴミ袋を開封して突っ込んだ。破れてるシャツやベストはともかく、戦闘を想定した丈夫なズボンだとか装備用のベルトなんかは洗濯して使いたい。

 

 明らかに掃除の足りていない水垢だらけの風呂を借りてさっぱりし、横幅が足りすぎな服を借りる。

 新しい歯ブラシも借りておこうと洗面台の前に立ったら、あまりの服装に絶句した。

 

「うわダサ過ぎて……これはダメだろう」

 

 もう良い歳したおじさんにも関わらずこの服装はまずい。メンズのゆるコーデを通り越してだらしなさしか感じられない。袖とかウエストとかだるんだるん。酷すぎる。

 

 うろ覚えだけどウェスカー氏って、バイオ5で2010年くらいに50歳近いはずだから、えーと、カレンダーカレンダー…あった。

 今は1998年か。じゃあもうアラフォーじゃん。

 どっかでまともな服を買わないとなぁ。

 

 で、寝床を老夫婦の寝室に定め、クローゼットの中に毛布などを持ち込んでおやすみなさい。

 ベッドとか、寝てる間に家主が帰宅したら怖いからな。

 

 

 

 

 

 目が覚めたのは翌朝だった。

 腕時計のおかげで時間が分かるのは幸いだ。

 なんと16時間も寝ていたらしい。おかげで身体はバキバキだが頭がすっきりしている。

 

 家の中に人の気配がしたから、出掛けた音がしても昼過ぎまで待機して、ようやくクローゼットから抜け出した。

 

「じゃあ適当に何か食べたら、本格的に家捜ししますか」

 

 金目の物、金目の物…。

 やはり貧困でもあるのか、家の中にあまり現金が無い。

 あ、社会保障番号のカードだ。絶対に持ち歩くなって本当に書いてあるんだな。

 えーと、家主はアルフレッド・スミスさんか。何かに使えるかもしれないし覚えておこう。

 

 で、そんなこんなで集めたお金は250ドルちょい。

 ウェスカー氏の持っている物より明らかに安そうな拳銃とマガジンがちょいちょい。

 大麻にしか見えない乾燥した葉っぱがちょいちょいちょい。ラクーンシティってどこの州かは知らないけど大麻は合法だっけ?わからん。

 

 そんで、食品庫の床にある鍵のかかった扉を発見した。

 もしかしたら大金とか仕舞ってあるかもしれないので、確認させていただこう。資金が豊富なら滅菌作戦までのんびりホテル暮らしも良いかもしれない。

 ではこのマスターキー(暴力)をくらえ!

 

 

 

「おじさん、だぁれ?」

 

 

 

 地下室を開けたら明らかに監禁されてる様子の少女が居た件について。

 

 

 

「ホンマもんの犯罪者の家やんけ」

 

 

 

 

 

 




 
・アホなのか頭が良いのかどっち?
→アルバート・ウェスカーの脳味噌は優秀。でも思考してるヤツがちょっとアホ。

・新世界の神について、中身の見解。
→ケツ拭く紙すら事欠きそうな新世界とか嫌だ。社会って大多数の代替可能な凡人で維持するシステムだし、そういう安定した社会だからこそ現代的な生活ができるってもんだろうに。
 中世の貴族より現代人の生活ってヤツ。



 この話を書くためにバイオハザードの資料よりアメリカの電話帳だとか冷凍食品の歴史だとか、携帯電話普及率の推移だとかを調べ回るはめになりもうした。わはは。




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生物災害が起きなくても地獄はあるんやね


ジャンルのパワーってすげー……
評価、誠にありがとうございます。
まだ助走の勢いがあるので短期間で更新してます。

ウェスカーおじさんの身長って183から190に伸びてるんですね。ウイルスのちからってすげー!



 

 

 地下室を開けたら少女が居た。

 それも、足が鎖に繋がれているような本格的な監禁被害者。

 

 バイオハザードがまだ起こってもいないのに、治安がアメリカン過ぎでは?

 そりゃあアメリカの犯罪で少女の拉致監禁ネタは仰天ニ○ースとかの鉄板だけど、実物を見るとドン引くしかない。

 

 地下室の内装は少女らしく可愛いものだが、だからこそ部屋の片隅に置かれたおまるや、少女の足に繋がれた鎖が際立って異様に見えた。

 

「おじさん、だぁれ?」

「…お、おじさんは……ちょっとこの家に遊びにきた普通のおじさんだよ!」

「お父さんのお友達?」

「そうだよ!お嬢ちゃんはどうしてここに居るのかな?」

「お父さんがここに隠れてないと危ないって言うからだよ」

 

 そっかー……

 

 自分の娘を監禁……やべぇ…やべぇよ…

 え、これどうしたら良いんだ?え?

 

 とりあえず地下室の中にお邪魔して、この子の話を聞いてみようか。

 

「お嬢ちゃんの名前は?」

「アリエル!…でも、お父さんはリジーって呼ぶの。私はエリザベスじゃないのに」

 

 また謎が増えてしまった。エリザベスの愛称がリジーなのは分かる。でもこの子はリジーじゃなくてアリエルって名前らしい。

 この子のお父さんは、お酒で頭がおかしくなっているのか?いや、監禁してる時点でおかしいが。

 

「アリエルのお父さんは何してる人なんだい?」

「わかんない。でも、夜になったら一緒にご飯を食べるの。終わったら一緒にお風呂に入って遊ぶんだよ」

 

 コレはアカンかもしれん。

 日本じゃ小学生低学年くらいまでなら女の子がお父さんと風呂に入るけどな、アメリカはそれだと性的虐待になるんだよ。男女逆でもそうなる。

 これ豆知識な。

 

「そっかー…お父さんのことどう思う?好きかい?嫌いかい?」

「もちろん好き!でも、お外に出してくれないのは嫌い。すごく危ないって言われたけど、何で危ないのか教えてくれないもん」

 

 警戒心が死んでるんか?

 知らんおじさんにここまで話すとかやべぇな。

 

「お父さんとは何して遊んでるの?」

「プロレス!おじさんも遊ぶ?」

 

 アウト。

 

「服を脱ぐプロレスはちょっとやりたくないかな。ほら、裸だと風邪引くからちゃんと着なさい」

「はーい」

 

 あーあ、どうしようか。

 正直、この子…アリエルが居るならこの家を荒らして逃げても通報はされないだろう。でも、彼女を放置するのもなぁ。

 ウェスカー氏ご本人なら…たぶん見捨てるか、気紛れに連れてくけど被検体にしそうだ。

 

 じゃあ「自分」はどうしたいのかって考えると、やっぱり放置するのは気持ちが悪い。今さら良い人面をするつもりはないけれど、この地下室でミサイルが降る日まで何にも知らないで父親に██されているだけだとか、地下室がシェルターになった結果として閉じ込められたまま餓えて死ぬのは…辛いだろうな。

 特に餓死なんて自分でも嫌だと思う死に方だ。

 それに、どうせなら心残りなく滅菌作戦を浴びたい。

 

「……もしもお外で暮らせるって言ったら、出たい?」

「ほんと!?お父さん許してくれるかな?」

「説得してきてあげよう。だっておじさんはお父さんの友達だからね」

「楽しみにしてるね!」

「任せなさい。だからちょっとだけ待っててね」

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 アルフレッド・スミスはその日も、ホームセンターの店員という大層なお役目を果たし、行き付けのバーガーショップで購入したセットメニューを抱えて帰宅した。

 うるさい客、ムカつく客、気にくわない同僚、バカにしてくる上司。毎日うんざりするような日常ばかりだが、アルフレッドには可愛い妻がいる。

 三年前にちょっと強引な手段で結ばれた相手だが、やがて妻は彼を受け入れて、今では仲睦まじく暮らしていた。結婚しろとせっついていた両親も、あの世で安心しているに違いない。

 

「ただいまリジー」

 

 太鼓腹を揺らしながら、妻の好きなチーズバーガーのセットと、日差しをほぼ浴びない生活を支えるビタミンDを初めとしたサプリメントを抱えて扉を開けると、濁った空気が鼻につく。明日は休みだから掃除をした方が良いだろうと思いながら、アルフレッドはダイニングテーブルの上に散らばるゴミを退かして荷物を置いた。

 

「おかえりアルフレッド」

 

 明らかに男の声だった。アルフレッドの背中に固いものが当たる。誰だ?

 

「ひっ」

 

 振り返ると銃を構えた男が真後ろに立っていた。190センチあるアルフレッドより少し背は低いが、威圧感を発しながらこちらを凝視している。

 クローゼットを漁ったのか、見覚えのある猫がプリントされたパーカーを着ている男は、まるでここが自分の家だと言わんばかりの図々しさで、アルフレッドに着席を促した。

 

「まあ座れ。何か飲むか?」

「い、いらないっ!」

「そうか。私はマダオだ。ここには空き巣に入った」

 

 マダオと名乗った金髪碧眼の男は堂々と自分が空き巣であることを宣言すると、アルフレッドに笑いかけた。

 その獰猛な笑みがより強い恐怖をもたらし、彼のニキビだらけの背に冷や汗が浮かぶ。

 

「…か、金が欲しいのか?」

「その通りだ。しかし私は欲張りでね」

 

 君は小児性愛の犯罪者が刑務所でどんな仕打ちを受けるか知っているかな?

 

 

 

 ATMの監視カメラに金を引き出す姿が映って以降、アルフレッド・スミスの姿を見た者は居ない。

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 念のために偽名を名乗って家主を脅してみた。

 囚人のヒエラルキーにおいて、性犯罪者…特に子どもに手を出したヤツは最底辺だ。だから収監されるとかなり悲惨な目にあう。

 そこを突いて、家主から家と貯金を巻き上げることにした。彼のご両親が亡くなっているのは確認済みだ。その遺産があるなら滅菌作戦まで何不自由なく暮らせるだろう。

 家はアレだ。アリエルを連れ歩いてホテル暮らししたら、自分が誘拐犯だと思われるから欲しいってだけ。

 

「分かった…金と、プリペイド携帯だな」

「君がおごってくれるなら、もうこの街に用はないからな。私は明日にでも居なくなる。君はこれからも地下室の彼女と仲良く暮らせば良い」

 

 そんな嘘を信じた家主が要求された5000ドルと携帯を持ってきた後、職場に「良い転職先が見つかったから辞める」と電話させてから殺した。引き金は不思議と軽かった。

 ゾンビになるよりマシだし、そのうち自分を含めてみんな死ぬから、まあ許して欲しい。

 

「で、殺したは良いけどどうするか」

 

 滅菌作戦がいつなのかは分からないが、まあ一週間後にはバイオハザードが起きて、二週間もすればミサイルが飛んでくるだろう。それまで騒ぎにならないようにしておきたい。

 

「……石灰と一緒に埋めるか」

 

 また遭難したくないから、車で山に戻って道の脇にでも埋めよう。ゾンビ犬に掘り返されて騒ぎになると困るから、墓穴は深めにして石灰と共に埋めれば良い。

 完全に隠蔽するならグロテスクな死体処理が必要になるが、それをやるには家主の身体がデカ過ぎた。自分より背が高い脂肪たっぷりボディとか、筋力がなかったらそもそも運ぶことすらできないだろう。

 まあ家主には車庫で死んでもらったので問題は無い。

 

「アリエル。お父さんとお話してきたから出ておいで。夕飯を食べよう」

「はぁーい!」

 

 家主のおごりの冷めたチーズバーガーと、しなしなのポテトを温め直して夕飯にする。青い野菜が欲しくなるメニューだ。

 明日は服屋とスーパーとホームセンターだな。家主の職場じゃない店舗に行かないと。

 

「ねぇおじさん。お父さんは?」

「あー、実はな…お父さんは急な出張でしばらく会えないんだ。代わりに私が君を預かることになった。だから君を外に連れて行けるように説得したんだ」

 

 出張について知らないアリエルに説明すると、彼女はしばらくグズっていたが、お出掛けで釣ってなんとか機嫌を取ることに成功した。

 

「おじさんってなんて名前なの?」

「うーん………強いて言うならマダオだな」

「すっごく変な名前!」

 

 まるでラクーンシティから脱出する気が無いオッサン。略してマダオです。

 

 マトモに名乗るときはアルにしよう。アルバートの名前と、家主のアルフレッドの名前が似てるから、何かを誤魔化す時に楽だろうし。

 

 

 

 

 

 

 

 この後、一緒に風呂に入ろうとするアリエルを説得するのにめちゃくちゃ苦労した。

 

 

 

 

 

 

 

 




 
・アリエルちゃんってどんなこ?
→拉致監禁洗脳で誘拐犯をお父さんだと思ってる。
 おじさんと幼女の組み合わせが好きだけど、原作幼女のシェリーちゃんはきちんと保護者が居るから、無から生やした。作者の趣味やね。

・モラルがどうこう言いながら人殺してるじゃん
→マジの真人間ならバイオハザードを防ごうとするけど、滅菌作戦までのんびり暮らしたい系クズだからこうなった。
ウェスカー氏が自分の糧になれと笑いながら殺すタイプだとしたら、中身は自分のためだもの仕方ないって言いながら殺すタイプ。単に態度が違うだけ。

・バイオハザードからドンドコ脱線しとるやんけ
→タイムスケジュール的に、来月にはバイオハザード2が始まるんで大丈夫です。



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やってる事がハウスキーパーとかナニー


バーに色がつくの早い…早くない?
やっぱ皆バイオ好きなんすねぇ

ウェスカーおじさんって水回りの掃除を始めたら何時間もやってそう。
趣味がフットボールと戦史研究だそうですが、戦史研究してるうちに兵器って美しい…となって、最終的にタイラントは兵器として美しい!となってそうな感じある(個人的な推測)
大艦巨砲主義(ロマン)の生物兵器版か?


もはやおじさんと幼女の日常回です。




 

 

 

 翌朝、アリエルにテレビを見せながら、お留守番を頼むことにした。

 

「アリエルが外に出かけるために必要な物を買ってくるから、お留守番は頼んだよ。ここにピーナッツバターサンド置いとくから」

「……」

「ダメだ…テレビに魂を奪われている……」

 

 昼間にテレビを見たのはかなり久しぶりらしく、アリエルはキッズ向け番組にかじりついてしまった。こちらのことはガン無視である。

 まあ訪問者が来ても外から見られないようにカーテン閉めて、リビングのドアに注意の紙を貼って、玄関前の廊下を棚で塞げば良いか。

 というか小さい子を一人で留守番させているのがバレたら普通に虐待扱いなのでヤバい。絶対に外から分からないようにしないとな。

 

「じゃ、留守番よろしく」

 

 下は洗濯した自分のズボンをはいて、上は家主の服を借りてまずは服の量販店に出発。

 

「着て帰ります」

 

 ロストバゲージ…つまり空港でのトラブルにより、預けたトランクがどっかに行ってしまうのは良くあること。遠方からこの街に住む弟の家にやってきた男を装い、それを笑い話にしながら買った服のタグを切ってもらう。

 ウェスカーって言うと黒っぽいので、真っ黒は避けて紺やグレーをチョイス。グラサンの代わりに濃いめの色眼鏡を買って、ようやく日差しの眩しさを防ぐことができた。

 後はデカいスーパーで野菜などの生鮮食品や冷凍食材、保冷バッグを始めとする雑貨類を買い、ホームセンターを2つ回って石灰とスコップ2本、ブルーシートを購入。

 

 帰宅したら家主の服に着替え、石灰とスコップ以外を置いて、車庫に放置していた家主をシートで包んで積み込み、山に埋めに行く。

 全てが終えて帰宅する頃には夕方になっていた。

 

 しかし家の中のことはまだ終わらない。

 アリエルにオヤツを投げて、シャワーを浴びたらゴミだらけの室内やら水回りの掃除やらに取り掛かる。一度気になり始めるとどうにも止め時が分からず、腹を空かせたアリエルに止められてようやく夕飯になった。

 

「凄い!マダオおじさんってご飯を作れるんだ!お父さんは作れないのに!」

「私はマダオの中でも優秀な方だからな」

 

 面倒だからって時短メシにしたのに無限に褒められてしまった。将来は人を育てるのがめちゃくちゃ上手い大人になりそう。

 冷凍野菜とベーコンと芋を卵液で焼いて固めただけのスパニッシュオムレツと、キャンベルのミネストローネ缶の味をちょっと調えたやつに、焼いたパン出しただけなのに……野菜うめぇ。

 

「アリエルの靴を買ってきたから、明日は公園とビデオショップに行こうか」

「ほんと!?」

「何でも借りて良い」

「何でも?」

「何でも」

 

 時代を感じる古いパソコンで調べてみたら、ポケモンはまだこっちじゃギリギリ放送していない様子だった。自分も視たかったので残念。

 スポンジボブも放送前だし。

 トトロはビデオが出てる…ディズニーや普通の映画も借りよう。

 

 あ……そういえばさっき見たの日本語のサイトなのに読めたな。

 そうか、日本語能力を失っていなかったのか。嬉しい。

 

「公園いくならピクニックしたい!」

「8月だから暑いぞ」

「テレビで見た!ピクニックしたい!」

「しょせんマダオに拒否権などなかった」

 

 本屋にも行きたい。バイオハザード始まったら引きこもる必要があるし、ガソリン発電機をレンタルした方が…いや、音がデカいと不味いだろうし止めとくか。

 バッテリーを用意しようか。日本みたいに嫌な暑さじゃないが、アリエルもウェスカー氏も人種からして北方の人間なので空調が使えなくなるのはよろしくない。

 ちなみにウェスカー氏のような、大人になっても金髪と分かるくらいに色が薄いのは珍しかったりする。青い目もそうで、成長すると色が濃くなるのだ。こういう部分を見るとキャラデザだなぁ…としみじみしてしまうのであった。

 

「そろそろ寝るぞー」

「はーい」

「どこの部屋で寝たい?」

 

 狂喜乱舞するアリエルを寝かしつけるのに一時間かかった。つら。

 

 

 

 

 

 翌日、プロレス(意味深)について「本当は大人同士でやるものだから、子どもとやってはいけなかった。お父さんが警察に捕まってしまうから、外では黙っていてあげよう」と言い含め、公園に連れて行った。

 昨日のうちに髪と眉をアリエルの濃い茶髪と近い色に染めてあるし、前髪が邪魔なのを我慢してオールバックをやめているので、子連れの自分をアルバート・ウェスカーだと分かる者などおるまい。わはは。

 

 8月の日差しを遮る帽子を被せ、日焼け止めを塗って放したら、目の届く範囲の芝生で犬みたいにボールを追いかけ回していたアリエルだが、運動不足のせいで早々にへばって木陰のあるベンチに戻ってきた。

 

「おじさん何してるの?」

「本を読んでいる。本当は日陰でも太陽光で読むと目に悪いが、私は頑丈なのでセーフ。タブンネ」

「何の本?私は魔法使いの男の子の本が好き」

「アレはベストセラーだもんな。私の本はあれだ…戦いの本だよ」

 

 本屋で見かけた火葬戦記モノが面白そうで、つい買ってしまったのだ。もちろん普通の仮想戦記の方も買った。

 何かこういうの、各部隊の動きとか戦況の流れを史実と比較すると面白いな。この手の本をもう少し買っておくか。

 

「そろそろ昼にしようか」

「わーい!おべんと!」

「ただのホットドッグと、朝の残りのコールスローサラダだぞ」

「コーンが好き!」

「ほら、手を拭く。今朝みたいにコーンだけほじくりだして食べたらデザートは出さない。断固として」

「そんなー…」

 

 パンケーキミックスをぺらっぺらに焼いたやつに、ゼラチン入り生クリームと冷凍フルーツ混ぜたのを巻いただけのブツなんだが…そこまで執着せんでも……。

 まあ、こちらのケーキはバタークリームが主流だから、ホイップクリームが珍しいのかもしれない。今朝ちょっと味見に与えたら中毒患者みたいになってたもんな。

 

「……クリーム甘いのにチョコソース掛けるとか正気じゃないぞ」

「おじさん甘いの苦手なの?」

「ほどほどが好き」

 

 生クリームの味見をさせた時点でかなり甘めに作らされたのだが、アリエルはチョコソースを持って行くと言ってゆずらなかったのだ。

 純粋なアメリカ人の味覚って怖い。

 アイスコーヒー持ってきて助かった。

 

 その後、少し買い物をしてからレンタルショップでビデオを借りて帰宅したが、走り回って疲れたのかアリエルはソファーで撃沈した。

 子どもって本当に電池が切れたみたいに寝るのな。ウケる。

 

 

 

 

 

 と、まあこのような感じで何日か過ごしたが、一向にバイオハザードが始まる気配がない。

 

 しまいには近所の人に自分とアリエルの存在を気付かれてしまったので、仕方なく「自分はアルフレッドの従兄だ。夢を追いかけてNYに行った彼に家を任されたので、娘と暮らしながら管理している。妻を亡くしたが、日本語の翻訳で生計を立てている在宅ワーカーなので問題ない」と言い訳をするはめになった。

 アリエルは虚弱気味だから自宅学習をしている子、という設定だ。

 

「アメリカ人なんでホームパーティーこんな好きなん?」

「おじさ…パパはパーティー嫌い?」

「頻度がつらい。あと、家の中なら設定を守らんでも良いぞ」

「明日、間違えないようにしてるの!」

 

 だから怪しまれないように近所付き合いを全て切るわけにもいかず、たまにホームパーティーやバーベキューに参加させられるわけだ。しかも季節は夏だから、みんな余計にそういうことをしたくなるらしい。

 で、まだ1998年の設備というのもあるが、肉の焼き方がクッッッソ下手なご近所さんに捕まるともう地獄。

 マジでステーキが靴底みたいな固さなのは勘弁して欲しかった。ダディクールやめろ。

 

 でもこういう所で「私は肉を焼くのが得意でーす」とか言ったらメイン労働者にさせられる可能性もあるので、黙って靴底を食べる。次回は肉を普通に焼けるご近所さんが呼んでくれないかな、とか思いながら食べる。超人の顎ってこういう使い方するためにあったのか…って気分になるね。

 もちろんアリエルはソーセージを食べていた。

 挽き肉は偉大だ。誰が焼いても固くならない。

 

「夕飯はクラムチャウダーが良い!」

「先生、アサリの缶詰がもうないです」

「白いクラムチャウダー食べたい!」

「やはりマダオに拒否権などなかった」

「デザートはチョコのアイス!」

 

 買い物に行くからと冷凍庫に無い味のアイスを要求するとか、アリエルは賢いなぁ…(棒読み)

 

 

 

 

 

 

 

 そろそろ8月も終わりに差し掛かっていた。

 

 

 

 

 

 

 




 
・ご飯めっちゃ作るやん。
→缶のスープ開けて火を入れながら、ちょっと材料切って卵と混ぜて焼くだけなら時短だと思ってる人。

・めっちゃ面倒みてるやん。
→ウェスカー氏ご本人に息子が居るって分かってたら、予定を変えて迎えに行くタイプだったりする。

・生クリームにゼラチン?
向こうの生クリーム、乳脂肪が足りないのでゆるくなってしまうようで、ホイップ食べたい人々が使う対策としてゼラチンを混ぜる手法があるんだとか。大変だなぁ。


■おじさんと幼女
バイオハザードは夏なのに、今の季節が冬で体感が寒いから長袖になってしまった。筋肉はあるのに肥満な家主の服を拝借してるので、筋肉が目立たないおじさん。

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え、ラクーンシティこっわ…


次から鈍足更新の予定。

バイオ2とか3とかリメイク版を再履修してきます。
ゲーム設定を作品のために最適化すると、どうしても設定をねじねじせざるをえない…その作業がしばらく掛かりそうです。
もし履修にコツがあるならぜひ教えていただけるとありがたく思います。





 

 

 9月上旬。地球温暖化の兆しはあるものの、秋を前にして日差しは和らぎつつある。

 

 自分が目覚めてから1ヶ月以上が経つが、ラクーンシティは平和なままだ。

 日常を重ねすぎて本当にバイオハザードは起こるのかと疑いすら抱くようになってしまうが、鏡の前で髪型をオールバックに変えてしまえばその気も失せる。

 結局、壊れたベストやスターズの印がプリントされた血塗れのシャツは処分できていない。それはバイオハザードが起きるだろうという物証だ。

 だからこそ、今も色々と準備を重ねていた。

 

 ま、やっていることはそのまんまプレッパー(人類滅亡に備える人のこと)だが。

 なおミサイル待機勢なので、核シェルター的なものは目指していない。ゾンビシティでしばらく安泰に暮らせる程度を目標にしている。

 

「これ何?」

「ガソリン発電機と変電機」

「……?」

「電気を作る凄いマシン!」

「凄いマシン!」

 

 家主の名義で何枚かカードを作って、限度額いっぱいまで借りた金でレンタルした物だよ。

 もちろん無期限に借りるつもりだから、利子がやべぇ闇金からも借りましたわ。たぶんウェスカー氏は退職金もらってないし、アンブレラ社につけといて。

 

 ん?…カード作成とか、そんなことできるなら最初からやれば良かったじゃないかって?

 最初はできなかったんだよ。言わせんな恥ずかしい。

 

 この1ヶ月近く、情報収集のためにパソコンを触っているうちに、情報工学について色々と学ぶことができた。その成果というやつだ。

 ぶっちゃけ楽しかったってのもある。

 

 まるで忘れていたことを思い出すかのように用語を理解し、拙いながらもソースコードを読み解くことができるようになった結果、おかげ様でこうして死んだ人間の口座から金を引き出したり、カードを作ったり、その他にも「ズルい事」ができるようになっていた。

 アンブレラ社のガチガチセキュリティに対して何もできない程度なので、本業ハッカーの足元にも及ばないだろうが、身元も不確かな自分には有用すぎる技術だろう。

 

 そうして軍資金の不安がなくなったため、アリエルの居た地下室を自力で改装して発電機を設置することに成功したわけだ。

 

 人を住まわせる関係で、もともと地下室に換気機能があったのも良かった。

 ガソリン発電機は本来、屋内に設置してはいけない。理由は簡単で、ガソリン自体が気化しやすい危険物で、排気ガスも有害だから。

 それでもディーゼル発電機より静かで、車の給油を装えば怪しまれずに運べるため、地下室の換気機能を強化してからジェリカンを買い漁り、随時ガソリンを貯蓄していた。

 

 他に集めたのは医薬品。

 といっても普通にドラッグストアでサプリメントや市販薬、消毒薬や包帯などを買っただけ。健康の秘訣がウイルスな自分には必要ない物だが、アリエルは地下室暮らしが長くて体力が無いので用意した。

 傷が炎症したり、病気でげろげろしてる最中にミサイルで死ぬとか可哀想だからな。ピンピンコロリ(外的要因)の方が良かろう。

 

 日持ちする保存食や飲料水も集めた。電源が死んだ時のためにフリーズドライやレトルト、缶詰を溜め込んでいる。

 

 ガスもプロパンを購入したので、ガス管が死んでも大丈夫。

 

 それと、生活用水のために簡易的な貯水槽を庭に設置した。

 水道水はお高い浄水器を入れたが、T-ウイルスって浄水器や煮沸で死ぬのか疑問。加熱で死なない菌の食中毒とか普通に存在するので。

 そこら辺の知識は本当にウェスカー氏の記憶が残っていればなぁ…と惜しい気持ちになる。

 

 後は万が一、アウトブレイクが発生してからも出掛ける必要がある時のために車を強化してみたり。といっても元から四輪駆動のゴツいやつなので、ただでさえ強いバンパーをより強くしただけだが。

 車には頑丈過ぎるマウンテンバイクも積んである。タイヤがパンクしない最新のヤツ。かなり高かったが…こう…かっこ良くてつい……。

 

 んで、最後に家の周りを補強して、暇潰しや銃器を買い集めたら引きこもり準備の完了!

 

 というタイミングで恐ろしい事実が判明した。

 

 

 

 

『サラダに最適! 柔らかな口当たり』

『ラクーンハーブ 5色あります!』

『全色セット購入で2割引』

『超レア! イエロー&パープルを入荷!』

『毎日の健康に彩りを』

『ハーブティーや軟膏にも』

『レシピ本付き調合セット販売中』

 

 

 

 

 引きこもる間、鉢植えで癒されようかとホームセンターの植物コーナーを眺めていたら、カラフルなヨモギっぽい草の鉢植えが置かれたコーナーに、とんでもねぇ売り文句が書かれていたのだ。

 

「ひぇ……そうだよバイオシリーズって言えばこのハーブじゃん何で忘れてたんだ…」

 

 シリーズを通してプレイヤー達を支えてきた存在。

 調合すれば重傷すらたちまち完治させるやべぇ草。

 アンブレラ社は何故この草を栽培して売らなかったのか。

 ウイルスよりこっち研究しろよ。

 

 と、さんざん言われていた凄い草だ。

 

 イエローハーブとパープルハーブは知らないが、赤青緑なら操作キャラのレベッカでさんざん調合したから覚えてる。というか思い出した。

 ゲームそのまんまの効果なら、本当に医者いらずというか……病気には効かないが、ただの外傷や毒くらいなら瞬時に治してしまうはず。

 普通なら医薬品の扱いになるだろうし、どっかの大企業が独占していないのがおかしいくらいだ。ホント、なんでホームセンターで売ってるんだよおかしいだろ?どうなってんだラクーンシティこわい。

 すごくこわい。あたまおかしい。たすけて。

 

「ねぇ、大丈夫?おじさん?」

「あ、ああ大丈夫だ。ちょっとビックリしていただけだよ…」

 

 アリエルのおかげで助かった。静かにパニクるってこういう感覚なんだな。知りたくなかったよ。

 

 結局、この恐ろしいハーブは全色セットで購入した。二階のベランダに置くつもり。

 基本レシピ本付きの調合セットも買ってしまった。商売上手なホームセンターだなぁ。

 

 で、レシピ本に書かれていた事だが、どうやらこのハーブ類は効きに個人差があるらしい。

 そして、調合により効果は高まるが、自分に適した調合レシピで作らなければ効きは良くならない、とのこと。

 

 つまりコイツは凄い漢方薬みたいなものなんだな。

 

 その道のプロフェッショナルなら個人の体質を見抜いて『最高の調合』を提供できるが、素人が適当にやったり、何もせずに生で食べても効果はまちまち、だそうな。

 なるほどなぁ。ラクーン市民がハーブあるのにほとんど助からない描写を思い出すと、そういう物かと納得できる。

 

「つまり、プロフェッショナルならゲームに近い効果を引き出せるのか……え、こわ」

 

 もしかしたらスターズの調合できる隊員って、お互いの体質を把握しあって、限定的に最高の調合を提供できるようにしていたのかもしれない。

 凄すぎる。そっち極めたら一生食っていけるじゃん。むしろ何でスターズ入ったんですか?

 

「あー!思い出したい!本人の記憶を思い出したい!お前らこのハーブどうやって扱ってたんだ!」

「おじさん落ち着いて!ほら、ひっひっふー、って!」

 

 ひっひっふー

 

 落ち着いた。ラマーズ法なのに落ち着いた。たぶん落ち着きが生まれたんだな。

 

「ほら、ラクーン君かしてあげるから」

「いや、大丈夫」

「かしてあげる!」

「はい」

 

 動物園と市のマスコットキャラクターを兼任しているラクーン君のぬいぐるみがお気に入りのアリエルは、買い与えた日から日常的にぬいぐるみを抱えている。

 お出かけリュックにラクーン君のキーホルダーまでつけるほど首ったけなので、こうしてぬいぐるみを貸してくれるのは、彼女なりの優しさなのだろう。

 

 でもずっと抱えてるせいでちょっと臭いから洗濯しような。

 あ、これ洗濯ダメ…でも手洗いすれば良いか。

 

 

 

 

 

 こうして籠城の仕上げをしているうちに、9月の上旬は終わった。

 世間では長い長い夏休みを終えた子どもたちが学校に通い始め、家の周りも少し静かになっている。

 仕事に集中するからと徐々に近所付き合いを減らすことに成功していたため、これからはいつアウトブレイクが起きても良いように生活を引きこもりにシフトしていた。

 

 アリエルはお出かけが減ったことにむくれていたが、ビデオやらゲームやらを見せればすぐにそちらに夢中になってくれたのは幸いだ。

 

 ハーブ関係の書籍…と言っても市民の経験をまとめたような物が細々と出版されているだけだが。それらの本を片手にアリエルに適した調合を探すのが、大掛かりな籠城準備を終えた自分の、最近の暇潰しになっていた。

 これがなかなか奥が深くて面白いのだ。

 

 で、そうしたことを繰り返しているうちに、やがてある事に気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 家主が持ってた乾燥大麻みたいな草、グリーンハーブだったんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
・アンブレラ社のガチガチセキュリティ
→赤き女王です。そらセキュリティ抜けないわな。
社内の動きからバイオハザード発生タイミングを探ろうとして失敗した感じ。

・ガソリン山ほどあるなら自爆できるやん
→そこに気付かないからアホやねんな。

・ハーブ
→基本3色かと思ってたら最大5色もあったんかい。

・ラクーン君
→はじめて知りました。マスコットいたんだ…


色々と調べましたが限界あるんで、1998年のアメリカに無いものが出てきても許してください何でもしますから!



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ウイルスくん「 お ま た せ 」


親に片付けられて行方不明になっちゃったんで、小説版UCのAとBを再度購入しました。はやくとどかないかなー!

評価や感想、誤字報告などありがとうございます。
たまに一般的ではない単語を入れてしまいます。紛らわしくてすみません。



 最近、どっかからロリコンの疑いを掛けられている気がする。なぜだ。

 

「冤罪だ冤罪」

「どうしたの?」

「なんでもない。何か否定しないといけない気がしただけだ……昼はどうするか」

「ゆで卵パン!カリカリのパン!あまいの!」

「卵サンドとラスクだな」

 

 そう、冤罪なのだ。

 こういうのは強く否定するほど怪しく見えると分かっているし、何だかんだとアリエル中心の生活をしている時点で疑われるのも仕方ないと思うけども。

 いや、ほら…自分だけならテキトーに生活しててもどうにでもなるけど、勝手に道連れにするって決めた人を粗末に扱うって精神衛生に悪くないか?

 

 あと、何か作ったりするの楽しいし。

 自分はウェスカー氏ご本人やアンブレラ社に居るような闇のワクワクさんじゃないので、普通の物を作りますがね。

 ラスクとか。窓につける補強部品だとか。組み立て式の棚だとか。卵サンドとか。

 

 あとは折り鶴とか。

 

 

 

 卓上には折り鶴が何羽も転がっている。折り方を教えたが早々に諦めたアリエルにより、自分は折り紙奴隷と化していた。

 

「もういっこ鳥さん作って」

「このままでは千羽鶴になるぞ…」

 

 1番目はツル、2番目はハト、3番目は白鳥らしい。あとはカラスとか、フラミンゴだとか……。

 紙はコピー用紙しかないので全て白。見分けはつかない。みんなアルビノ個体か白変種だな。

 

「コレはなんの鳥になるんだ?」

「ん~…ずかん見る!」

 

 図鑑に気に入る鳥がなかったためか、最新の個体は「マダオドリ」となった。とうとう新種を作るとは…彼女は神だったのか。

 

 ちなみに神の身長は出会った時から5センチくらいは伸びて体重も増えたため、昨日は引きこもりを中止して服屋に連れてったりしている。なお、女児の服を選ぶ能力が無いので、女性店員が助けてくれなければ死ぬところだった。

 

 すまんの。どっちが似合う?って言われてもおじさん分かんねぇんだわ。自分の服すら、黒以外に選ぶのは何が良いのか分からなくて店員に助けを求めたレベルだし。

 まあ…神、12歳にしては小さかったから。まともな生活のおかげで成長期が始まったと思うと、悪いことではなかろう。

 

「いってらっしゃーい」

「うむ。では巡回に行ってくる」

「おみやげはバスキンロビンスのチョコチップで良いよ!」

「アイスほんと好きだな」

 

 バスキン・ロビンスってのは、日本じゃ31の名前でお馴染みのメーカーだな。豆知識やで。

 

 さて、こんな感じで引きこもり生活を続けている我々だが、自分だけは買い物に出るのが日課だったりする。

 やがて食べられなくなる物や大切な飲料水を確保する目的もあるが、街の中心までひとっ走りしてアウトブレイクの予兆が無いか確認するというのがメインだ。

 

 どこからどうやって汚染やら感染やらが始まるのかよく覚えていないが、アンブレラの社屋がある街中からの可能性は高いと見ている。洋館跡地から汚染が広がるなら、ウチの近所はもうとっくにヤバいことになってるだろうし。

 あと、バイオ2でシェリー連れて研究所っぽい場所をうろうろしていた実況を見た記憶があるからな。もう爆発した洋館の研究所はゲームの舞台にならないので、郊外から始まる可能性はかなり低いと考えていた。

 

「んー…今日も何ともないな」

 

 が、この通り代わり映えのないまま9月も中旬が終わろうとしている。

 

 毎日ハムスターの公太郎に水道水を与えて凶暴化しないか検査してみたり、近所の連中と挨拶する時に、さも「病弱な娘が居るから流行り病の話題に敏感な親父」かのようにふるまい情報を得ようとしているが、人が凶暴化する奇病みたいな話はなかった。行方不明事件だとか、変なホラーの噂は聞いたが。

 実はネット掲示板サイトみたいな場所をちらほらと巡回していたりもする。しかしアンブレラ社の管理意識が恐ろしく高いのか、具体的な情報は引っ掛からず。

 

 ただ、街中では9月になってから、人食事件が2件か3件あったと聞いている。犯人はまだ捕まっていないが、ちょっと引っ掛かる感じはあった。

 敏感になっているだけかもしれないが。

 

「んー……もしかして、バイオ2って無印から年単位で先の話だったりするのか?」

 

 いんや、それはないな。たしか兄貴を探しに来た妹さんが主人公の片割れだから…ん?そもそもなんでクリス君は行方不明になるんだろうか。

 

 思い出せない。ただ、もうラクーンシティには居なさそうではあるのだ。

 洋館爆発は街じゃホットな話題だった。噂で「アークレイ山で爆発があったけど、あの日からスターズの隊員が何人か頭おかしくなって休んでるか辞めたっぽい」みたいなのは聞いている。

 だから、たぶんゾンビの話を封殺されたか信じてもらえなくて、街を出たのかもしれない。

 自分が言えたことじゃないが、妹に連絡くらいしてやれよ、とは思う。

 

 で、レオン君の方は着任のためにラクーンシティに来た日に、もうバイオハザード始まってたとかいう可哀想すぎる立場だったような…。

 

 あとはサブキャラが二人いて、たしかシェリーちゃんとエイダさんだな。シェリーちゃんは両親が研究者でGウイルスがどうのこうの…なんだっけ?

 エイダさんは女スパイ。何かいろいろあってレオン君と良い感じになる…はず。

 

 あ、思い出した。エイダさんってウェスカー氏の関係者じゃなかったか?

 アンブレラ社員だったかな?

 違うか。アンブレラにスパイしにきた人で、ウェスカー氏の部下っぽいことしてて…

 

 あー!!!

 つまりウェスカー氏はエイダさんの居る組織に転職してたのか!!!

 なるほどなぁ。

 

 ま、もはや中身が「自分」となってしまっては関係の無い話だな!わはは。

 

 じゃ、アイス買って帰るか。

 

 

 

 

 

 

 

 9月23日の昼間。

 新鮮な水道水を飲ませた公太郎が凶暴化したため、殺処分した。

 

 アリエルが水道水に触れないように元栓を落として蛇口を塞ぐ。水場には近付かないよう言い含め、シンクや排水口まわりに消毒用アルコールやら塩素系漂白剤やら熱湯をぶっかけて、最後に念を入れて紫外線ライトで殺菌を試みた。

 

 シャワーは貯水槽からの給水に切り替え、トイレは閉鎖する。節水も兼ねてコンポストトイレを設置してあるので問題ない。

 

 今日から夜に近所の見回りを行うことにした。

 感染者が出たら早めに対処しなければ、リッカーやら何やらになってしまう可能性があるからな。

 家を破壊されるのは困る。

 

 

 

 9月24日。

 ニュースに「謎の奇病が発生か?」との見出しが。同時多発的に発生した患者がスペンサー記念病院に搬送されたらしい。

 やはり生活用水は人が耐えられないほど汚染されたようだ。でなければ人から人の感染がメインとなり、患者は人の多い街中から徐々に増加するはずだ。

 

 自分としては、ようやく始まったか、という感覚だった。

 

 思えばこの2ヶ月、面倒はあったが楽しく過ごせたと思う。なんもやることなくて自堕落に過ごすより充実していた。

 

 というか最初はやりたいこと無さすぎて、アリエルの世話が暇潰しみたいになってたからな。その最中に他の暇潰しも発見できた感じだ。

 

「お外が大変そうだね」

「そうだねぇ。ま、家の中なら大丈夫だ」

「もうずっとお出かけできないの?」

「しばらくは。そのうち良くなるよ」

 

 地元局のニュースが奇病のことばかり流すものだから、キッズチャンネルに変えてしまった。

 どうせ短くてあと数日、長くても2週間くらいでミサイルが飛んでくるだろう。

 そしたらおしまいだ。

 最後の日々なんだから楽しく過ごそう。

 

 なお、近所に感染初期と思わしき住民が発生したため注意しておく。

 独居老人と犬、あとは老夫婦だった。年齢的に体力が無い人間と体の小さな犬だから、抵抗力が足りなかったのだろう。

 

 

 

 9月25日。

 新たに食人事件が発生。

 もうこれ絶対ゾンビだな。

 

 街中の方で大規模な暴動が起きているらしく、家の屋根から望遠鏡で見た街中は夜になっても明るい。嫌なざわめきが郊外にも流れていた。

 近所の無事な連中が幾人か車で様子を見に行ったらしい。電話で話を聞くと「何だか分からないが危険なことになっているから引きこもる」「怖いから今夜中に仕度して隣街の実家に一時避難する」と言っていた。

 避難する派は賢いな。がんばれー

 

 昨日確認した老夫婦が身体をかきむしっていたので窓から射殺した。

 

 

 

 9月26日。

 街中の方から漂う非常事態的な空気は昨日と変わらず。

 郊外ゆえか、近所の連中は引きこもるか逃げたか、暴動が起きている街中を見に行って帰ってきていないという状態で、逆に静かなものだった。

 しかし水道水の汚染は酷くなっているようで、昼頃に家の前を歩く隣人のゾンビを2体発見。ベランダから消音器つきの銃で射殺した。

 

 距離がありすぎて分からないはずなのに、腐り爛れる皮膚からは生々しい臭いを感じた。

 なるほど、生きていると臭いがするのか。

 現実の臭いが。

 

 

 

 

 

 

 夜、アリエルが熱を出した。

 

 

 

 

 

 




 
・感染スケジュール
主にリメイク版を参考にしているが、忠実ではない。

・公太郎(きみたろう)
→生活用水検査のために購入されたジャンガリアンのハムちゃん。Tウイルス検査用なので、おじさん本人が必ずマスクと手袋をして世話していた。幼女には存在を知らせていなかった。
任務達成により殉職。

・おじさんもウイルスの感染者やろ
→感染に関してはHIV患者の方の生活を参考。念のために、口をつけた物や食器を絶対に共有しない等のルールで生活しています。
なお、中身は「ウェスカー計画って名前くらいなら覚えてるよアレ…詳細忘れたけど何かのウイルス適合した人をウェスカーって名字にしたんだっけ?」くらいガバなので、義妹アレックスのことも知らない。


■ちょっと成長した幼女と変装中のおじさん。
ちゃんと眉毛まで染めた。
もの凄く疑われてもアルバート・ウェスカーの従兄弟です!って言えば誤魔化せると思っている。アホ。
おじさんは幼女を甘党だと思っているが、アメリカ人からしたら普通。

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よーしおじさん頑張っちゃうぞー


日間一桁とか全方向に感謝しながらビビるしかできませんの!割りと人を選びそうな内容ですのに、ありがとうございますですわ!

ラクーンシティについて色々調べましたが新旧で情報が……もう難しく考えずに都合の良いとこだけチョイスしてます。そもそもただの二次創作だし、そこまでの精密さは求められとらんやろ…うへへ…




 

 

 

 26日の夜になってからアリエルが熱を出した。

 

 といっても微熱だし、身体が痒いとかは無い様子なので、おでこにシート貼って布団に放り込み、缶の果物を冷やして与える。

 あとは、解熱剤ではなくハーブを飲ませた。

 解熱剤は病気を治すわけでなく、文字通り熱を下げるだけなので、個人的には「熱が出過ぎて危険な時」に使うべきだと思っている。だから微熱なら体力を補助してくれるハーブの方が良いってわけだ。

 

 しかしまあ、自分が熱を出した記憶は無い。おかげでこのように「ぼくのかんがえたそれっぽい看病」になってしまうが、大丈夫だろうか。妹が熱を出した時はこれで良かったはずだが。

 

「何だかんだで君が熱を出すのは初めて見たな」

「風邪ひくの、久しぶりだからびっくりしちゃった…」

「自分が熱を出してるって気付いてなかったのは驚いたぞ」

 

 ハーブをキメたのが良かったのか、微熱は下がらないが意識の混濁は無い。食欲はむしろ減退している様子だし、普通の風邪だな。

 ま、この調子なら明日か明後日には治るだろう。

 

 

 

 

 

 見通しが外れた。

 27日、28日と時間が経つにつれて状況は悪化している。アリエルの熱は下がるどころかじわじわと上がり、空咳を繰り返すようになっていた。

 解熱剤と調合したハーブを与えているが、あまり効いていないのか良くなる兆しが見られない。

 

 正直に言えば、自分はこの状況に焦っていた。

 熱が上がるにつれて、否応なしに「あの疑惑」が脳裏に浮かぶ。

 

 もしかして体質の関係で風邪に見えているだけで、これもT-ウイルスのせいだったりするのか?

 という疑いは、どうしたって拭えなかった。

 

「なんせタイミング的にあまりにも…」

 

 いや、痒みや食欲の増加はない。普通の病気の可能性はまだある。

 

 じゃあどんな病気かと聞かれても分からないが。

 酷い風邪なのかインフルなのか、はたまた別の何かなのか、医者でもなければ専門知識があるわけでもない自分に見当がつくはずもなかった。

 では経験から考えようとしても、自分は熱が出る風邪を引くことがほとんど無く、インフルに掛かった記憶すらない頑丈さを持っていたようで。

 

「クソの役にも立たない記憶だな」

 

 時間が経つほど苦しげな呼吸に空咳が混じる頻度が高くなっていた。このまま素人の看病を続けてもダメな気がして仕方がない。

 これがもし普通の病気だとしても、死ぬ可能性はあるのだ。

 

「もういっそ医者に」

 

 ……アホか自分は。今の状況で動いてる医者なんかろくに居ないだろ。もうバイオハザードは始まってるんだから、患者が収容されたらしき病院がまともな状態なわけあるか。

 

 いや、そもそも何で「助けよう」としている?

 

 自分は彼女を死出の旅路に付き合わせるつもりで選んだ。だからこのまま先に死なれるなら、それで良いはずじゃないか。もうバイオハザードが始まってるなら、一人で暇を潰していれば近いうちに

 

 

 

「…いや、普通に死なれたくないだろ」

 

 

 

 死なれるのは困ると思った。

 思ってしまった。

 だって悲しい。

 

 それにもし、これが本当にTのせいだったらこの子はやがて…

 

 

 

 

 

 気が付けばアリエルをリュックに詰めていた。

 

 家が破壊されて拠点を変える時のために用意していた、100Lある登山用のリュックをひっくり返して中身を全て出す。タオルケットでくるんだアリエルの脇や首に、凍らせた水やスポドリのボトルを当てた状態で固定して、敷いたクッションの上に寝かせた。

 

「すまんが、しばらく揺れて寝苦しくなるぞ」

「…おじさ、ラクーンく…ちょうだい」

「分かった。ほら、お出かけだからキーホルダーの方のラクーン君で良いか?」

「おで、かけ…いいの?」

「大丈夫、大丈夫」

 

 装備を整えリュックを背負い、マウンテンバイクに乗って夜の道を走る。山に囲まれたラクーンシティは日が落ちるのが早い。

 しかしそんなことなどお構い無しに、ゾンビは道をうろついていた。

 

 ま、道路がまともに通れるうちは、基本的にゾンビを相手にするつもりはない。ゲームと違って無限湧きみたいなものだ。倒してもきりがない。

 

 目的地はバイオ2やUCで見たアンブレラ社の地下研究施設。というか心当たりがそこくらいしかなかった。うすらぼやけた原作と映画の知識がごっちゃになってそうで怖いが仕方ない。

 なお目標は滅菌作戦までにウイルス抗体なり血清なりを入手し、アリエルに使用してからラクーンシティを脱出すること。

 

 もしそれでも彼女が回復しなければ普通の病気だから、どっかの病院に担ぎ込むことを考えている。

 普通の病院なら、金がなくて身元も怪しい大人が連れてきた子どもだから治療しません!なんてことはしないだろう。むしろ事情が分かればそのまま保護してもらえるはずだ。

 というか、どのみちアリエルが助かったらどこかマトモな場所に保護してもらわなければ、彼女の将来を考えると非常によろしくない。

 

「くっさ……」

 

 自転車で浴びる風は不味かった。

 秋が始まりつつあるとは言えまだ気温はある方だ。そのせいか、人の生活が破綻した街のそこかしこから何かが腐った臭いや焦げた臭いがする。

 

 人口が多い方に行くほど火事が起きている建物、事故って爆発した後の車が見えた。

 もちろんゾンビの量も増える。基本は音に反応している様子なので、寝てるヤツなら素早く通過すれば問題ないが。

 

 やがて街中に近付くにつれ、ゾンビの立てる音だけでないものが混じるようになってきた。無事な人々が必死に足掻いている生きた音だ。

 銃の発砲音、まだ動いている車の音や、各種緊急車両が鳴らすサイレンは重なりあって、むしろ活気を感じるほど。老若男女を問わない悲鳴と避難を呼び掛ける放送と、それに時おり混じる爆発音。

 

 ネオンサインや看板の光りはまだ生きている。破壊された街並みがフィクションめいた空間を演出していた。この現実を突き付けてくる臭いがしなければ、バイオってVRでリメイク出てたんだ流石カプコンやでグラフィックきれー!とか思ってしまいそうだ。思いたかった。思わせてくれ。

 

 そのうちゾンビだけでなく、乗り捨てられた車両や燃えている車両が増え、マウンテンバイクでも速度が出せなくなった。

 車の上に飛び乗って避けるのも限度がある。乗っているのは自分だけではないのだから、乱暴過ぎる運転はできない。というかまともな道はゾンビの量が増えやすいのだ。だからフェンスみたいな障害物も置かれるようになり、それがどうしても邪魔だった。

 

「もうダメだな」

 

 ビル街の手前でマウンテンバイクを乗り捨てることにする。チャリこぎまくりでも脱出したい人が居たら譲って良かったが、ゾンビ祭りの大通りにそんな人がうろちょろしているはずもなかった。

 

「よいしょ!オラどけ!フンッ!」

 

 小道に入り、そこでもうろつくゾンビを避けたり、スコップで叩いてすっ転ばせながら進む。

 しぶといヤツはざっくり脊髄を断ち切れば動かなくなる。科学的なゾンビの唯一と言って良い美点だった。

 

 スコップを使っている理由は簡単で、銃はあるが弾は有限だから節約したいというもの。ゲームに出てくる無限○○みたいな武器は実装されておりませんので悪しからず。

 鉛玉が不足しましたら、お手数ですがお近くの死体から銃ごと入手してください。

 銃社会万歳。くそったれ。

 

「アホみたいにおるやんけゾンビめ…アンブレラ社員が小遣い稼ぎにメルカリでTのワクチン売ってたりしませんか。腎臓売ってでも買いますクソが」

 

 うん、2020年になったら使えなくなりそうなジョークになってしまったな。まだ1998年だからセーフってことで。

 

 それに自分、オタク気質だからすーぐ臓器売ろうとすんねん許してや。

 や、でも勝手にウェスカー氏の腎臓を売るのは良くないな。所有権が無いから訴えられてしまう。アメリカすぐ訴訟するもんなぁ。

 

 あ"ー…馬鹿みたいなこと考えてないとしんどいぞコレ。

 

 アリエルが心配で頭に血がのぼったり、変に焦ってしまうのは良くないと自覚しているがどうしょもない。それに、こうしてゾンビを相手にしているが、射殺するのとは違って殴ると嫌な感触がする。流石に吐きはしないが気分が良いはずもなかった。

 

「人のゾンビもヤバイがイッヌのゾンビもつらい」

 

 市民の親愛なるペットだったであろう彼らもまた、ウイルスの魔の手から逃れられなかったようだ。人のゾンビの間を縫うように、大小様々なサイズの犬が口を血に染め、白目を剥いてよだれを撒き散らしながら走ってくるのだからたまらない。

 

 ウェスカーボディでなければ反応もできずに食い殺されていただろう。動物の動体視力と反応速度は恐ろしいものがある。

 とりあえず今は、飛びかかってきたところをスコップでビンタして首の骨を折るように倒している。背中に攻撃されるわけにはいかなかった。絶対に。

 

「ガンバルゾー…ガンバルゾー……」

 

 自分にぼやいていられるような時間は無いのだ。

 

「アリエル、大丈夫か?」

「…ん……」

「まだ熱が下がらないか。身体が痒いとかあるか?」

「ッケホ……ないよ…」

「お腹空いてないか?」

「…ん」

「ハーブ飲もうな」

「ん」

 

 時たま安全そうな場所でアリエルにハーブと飲み物を与え、地図を確認したら再び行軍する。

 

 もはや通っているのは道無き道だ。壁の上によじ登り、フェンスをよじ登り、有刺鉄線は腰に巻いておいた上着を被せて乗り越える。

 

 そう。ゲームと違って壁やフェンスは登り放題だし、どんな物でも武器にできるのが現実だ。代わりにゾンビ側だってやろうと思えば破壊できない壁はないし、我々にはセーブ機能も完全な安地も存在しない。

 もちろんコンテニューは不可。

 

 だからこそ慎重に、しかし無駄なく

 

「う"あ"っ!!!」

 

 

 

「は???」

 

 

 

 

 

 

 親方!空から女の子が!

 

 

 

 

 

 

 




 
・空から女の子
何とかバレンタインさん。最近の悩みはバイオレンスなストーカー被害。

・おじさんの心変わり
2ヶ月くらい世話してた子に情がわいてるのを自覚した中身さん。
まあ普通に考えて幼女を心中相手に選ぶ精神はアカンやろ…って正気に戻ったとも言える。
苦しまぬうちに介錯するとか発想に出てこなかった。むり。幼女いきろ。そなたは別に美しくなくても良いので健やかに生きろ。

・おじさんのメイン装備はスコップ
ゲームで例えるなら背中に攻撃を受けて幼女が死んだらガメオベラ。本体はまあつよい。
乱暴に扱えないクソデカリュックのせいで動きが制限されているから前転とか無理。しかし緊急時は幼女を背負っていてもかなり早く動く。
幼女用の乾燥ハーブや一部の市販薬を持ってるため、もし説得で仲間にできたらほぼ永続的な回復をしてもらえるが、やはり幼女を優先する。

・ラクーンシティ
何回もゲームの舞台になってるせいで情報収集が大変なので、パラレルなシティとして色々と都合良く混ぜられた街。軽いガバとかはゆるして。
アウトブレイク真っ最中なので非常に危険が危ない。


※ちょっと最後の課題に集中してきます。単位さんを口説き落とさなければならぬのです。

単位さん…私には君が必要なんだ……頼むよ、なぁ…良いだろう?




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止めてください!人違いです!


皆さまの反応がシャブみてぇに効いてますの!ありがとうございますですわ!
こちら側の事情で現在、感想の返信は基本的に停止しておりますが、大切に読ませていただいておりますの!もちろん課題に追われてる間も読み返して、支えにしておりましてよ!

というわけで、単位さんとの仲を心配してくださった方も、ありがとうございました!無事取得!(両手に単位を侍らせてタバコを燻らしながら)
皆さんも単位さんとのスリリングな逢瀬、お疲れ様でした。


難産だった癖にあまり話は進まなかった回



 

 

 

 いやいやいやいや待ってくれ。え?

 凄い音がしたと思ったらドッサァ!って綺麗な女の子が落ちてきたんだけど。

 しかも傷だらけ。美人さんなのに傷だらけ。

 

「っ…!」

 

 瞬間、背筋がゾッとした。

 何かヤバいものがこちらへ来ると、全身の感覚が警鐘を打ち鳴らす。隠れなければ。

 今すぐに隠れなければ。そうだあの隙間なら

 

「…ぅ……」

 

 あー!!!意識ないやんけ美女ォ!!!!!

 しょうがねぇな!!!!!

 後でセクハラで訴えないでよね!!!!!!

 

 美女の両脇に腕を突っ込んで抱え上げ、瓦礫の隙間に身を押し込むようにして隠れる。直後に濁った叫び声と、かなり重たい何かが落ちる音。

 

 え、なに。メガトンコインでも落としたん?

 ダメだぞちゃんと仲間のロバロバまで確認しないと。

 チャートにちゃーんと書いておかないから…

 

 なんてふざけたことを必死に考えているが、さっきから変な汗が止まらん。クソデカ威圧感でパワハラとか止めてくれ。

 なお気絶してる美女には悪いが、どんな小さな寝言でも声を出して欲しくないので、腕で口元を押さえて黙らせている。

 

 コレもう端から見たら若い女の子をレ○プしようと抑え込んでる犯罪者みたいじゃないですかやだー。

 冤罪だ。緊急避難的なアレだから冤罪だ。

 

「!?…???っ!!!」

「?…!!!…!!!!!」

 

 彼女は見た目よりタフだったらしく、もう意識が戻ったようだ。腕の中で新鮮なブリみたいにビチビチ暴れ始めた。非常に元気で大変よろしい。

 でも今は止めてください後生ですからお願いします何でもしますから!

 

「…!!!ッ!!!!っ!ッ!」

 

 鎮まれ!鎮まりたまえ!

 意識が戻ったら知らない男にホールドされてるなんて地獄だろうけども!

 外に居る何かにバレたら、君だって絶対ぶっ殺されるんだから我慢しなさい!して!お願い!

 

 や、まあ自分だけなら逃げ出せそうな感覚はあるんですがね。でもアリエル背負ってると危ないんで。自分が死んでも逃げ出すのは無理ですねって感じなので見付かりたくないんですわ。だから君には静かにしてもらわねばならんのだよ。マジで頼む。

 

 しばらくすると、外で唸りながら歩き回っていた何かは諦めたように去っていった。

 

「た……たすかった…?」

 

 しっかし鳴き声が「す"た"ぁ"ーむ"」ってどんな生き物なんだ。原作知識ガバガバな自分が覚えてないだけで、ちゃんとした生物兵器だったりするのか?

 ラクーンシティ修羅場すぎだろ。

 

「……貴方、何なの」

 

 で、危機が去ったので美女の拘束を解いた次の瞬間、彼女は銃を向けてきたのである。酷い。

 

「う、撃たないでくれ背中に子どもが居るんだよ!さっきのだってアレに見付からないよう抑えただけで、君に何かしようとした訳ではないから…」

「……」

「知らない男に押さえ込まれて混乱するのも不快なのも分かるが、緊急避難みたいなものだと理解して欲しい。こちらも子連れで慎重に動きたいんだ」

 

 何も聞かずに殺そうとするの良くないと思います。怖すぎないかアメリカ女性。とりあえず弁明させて弁明。

 ほらそれに自分、貴女の命の恩人。お分かり?

 

「…本当に子どもがいるの?」

「外はこんな状態だ。郊外の家で救助を待ちながらずっと引きこもってたら、この子が風邪を拗らせてしまってな…私は医者を探してるんだが……」

 

 え?って顔した美女にリュックの中を見せる。

 アリエルは相変わらず熱にうなされていたが、ハーブのおかげか目に見えるような悪化はしていなかった。タオルで汗を拭いてやりながら、美女に名乗っておく。

 まあ自分は家主の名前を借りますがね。

 

「アルフレッド・スミスだ。この子はアリエル。実は君、医者だったりしないか?」

 

 相手の名前を知ると情がわくとか聞いたことあるし。ネームコーリング効果だっけ?会話に相手の名前を入れると友好度が上がりやすくなるらしいからね。

 これで少しはマトモに会話できるようになればなぁ

 

「私はジル。ジル・バレンタインよ」

 

 とか思ってたらとんでもねぇ返しがきた。

 ジルってあのジル?同姓同名とかじゃなくて?

 

「残念ながら医者じゃなくてS.T.A.R.S.の隊員なの」

「ヒョァッ!?」

「……ひょあ?」

 

 アイエエエ!!!マジモン!!!!!

 ジル=サン!?ジル=サンナンデ!?

 コワイ!オゴゴーーッ!!

 

「ん"ぇ"っ…ひ、人は見かけによらないと言うが、ジルさんは正直モデルや女優の卵かと思ってた。特殊部隊の人だとは…驚きすぎて心臓が口から出そう」

「貴方も見かけによらないのね」

 

 声が震えないように腹に力を入れて、どうにかこうにか会話を繋げる。いや無理むっちゃ声が変だったわ。素が出て奇声上げたし。

 

 んで、やっぱりジルさんからの視線は「疑わしさ」「戸惑い」が含まれていた。道理でさっき、すぐに銃を突き付けてきたはずだよ。セクハラ疑惑じゃねぇわ裏切り者疑惑だわコレ。

 

 だってそっくりだもんな。いやガワ本人だった。

 顔を整形したわけでもないし、髪をおろして色を変えただけ。普通に誤魔化すには無理がありまくりだろう。

 

「ねぇ貴方、アルバート・ウェスカーってご存知?」

「……誰?」

 

 ほらなぁ!!!やっぱダメじゃん!!!

 声が怖いよすげぇ疑われてる!!!

 でも諦めない!!!諦めません勝つまでは!!!

 

 よし、脳直で喋ろう。今まではアラフォーに相応しい落ち着いた感じになれば良いなぁと意識していたが、むしろ今はそうしない方が良い。タブンネ。

 

「えっと、ジルさんはその人を探してるのか?一応、生きた人は何人か見てきたから、写真があるなら見せてくれ。覚えてるかもしれんし」

「貴方とそっくりなのよ。コピーしたみたいに」

「そんなに?……いや、世の中には自分と瓜二つの人間が三人は居るらしいけど…」

 

 おぉん…顔面が整ってる人の怖い顔って迫力あるから止めて……威圧しないで…

 

「声もそっくりなの」

「まっさかクローンじゃないんだからHAHAHA」

「貴方、実はウェスカーだったりしない?」

「いやいやいや私を他人の存在で上書きしようとするの止めてくれません?アルフレッド・スミスって立派な名前あるんで」

「……冗談よ」

「冗談に聞こえないの怖いわぁ」

 

 ぐいぐい追及が来るが、アリエルにスポドリを飲ませながら何とか言い繕う。

 こういう嘘は自信ありげに、自分がまず嘘を本当だと思う感覚で話すべきだ。自信がない態度は疑われてしまうからな。嘘つく時のコツだぞ!

 

「とりあえず、ずっとこんな瓦礫の隙間に居るのも危ないから出たいんだが」

「そうね、ごめんなさい。あまりにも似ていたから驚いちゃってつい…さっきは助けてくれてありがとう」

「どういたしまして。しっかしそこまで気にするとは…ウェスカーさんてどんな人なんだ?」

「上司だったのよ」

「特殊部隊の上司とか強そうだ。確かに発見できれば心強いな」

「死んだけどね」

「え、うそぉ……死人に似てるって人生で初めて言われたんだが」

 

 あの、会話でボロ出さないかカマかけられてる感じが凄いんですが。怖いんですが。

 

 ちなみに今は瓦礫の隙間から出て、とりあえず警察署に移動中だ。ボロ出すのが怖いので、自分は基本的にスコップしか使っていないが、ゾンビはジルさんが積極的に射殺しているので危険ではない。

 しかし良く見てみると、彼女は何だか物凄く疲れた顔をしていた。肉体的に疲れましたって感じより、精神的に疲れてますって雰囲気。ちょっとやつれている。

 

 まあこんな世紀末な状況で、さっきみたいにヤバいのと遭遇したと考えたら、当然なのかもしれないが。

 そんな大変な時に裏切り者と瓜二つの顔を見てしまえば、疑いも拭えなくなるだろう。ウェスカー氏って何か色んな場面で黒幕してたみたいだし。

 

「そういえば貴方、職業は?かなり鍛えてるけど」

「鍛えるのは趣味でね。本業はこう見えて日本語専門の翻訳家をやってる。自分の名前も出ないような小さな仕事ばかりだが」

「日本語?」

「ネイティブと楽しくメールできるくらいは使えるし、文化的知識もあるよ」

 

 つうか自分、ネイティブなんでね。へへへ。

 

「へぇ…日本にはニンジャが実在するって本当?」

「あー、それ日本人に聞かない方が良い。現在、日本の一般認識ではニンジャが実在しないことになってるんだ。だから迂闊に真実を知ると……」

「あら怖い」

 

 グエッ!と言いながら自分の首を親指で切るジェスチャーをしてみる。

 ほら、ウカツにニンジャについて話すのは危険が危ないからね。口止めしとかないと。

 

 その後も、二人でゾンビをシバきながらぽつりぽつりと会話をした。ま、基本的にジルさんのスタンスは「疑惑の人物から情報収集」で、自分のスタンスは「強めの一般通過おじさん(偽装)」だから、ほとんど気の休まる内容ではなかったが。

 

 しかし近距離メインの自分と遠距離メインのジルさんは戦闘の相性が良く、安定感は段違いとなっていた。彼女がちょっと怪我しても、自分の持っている乾燥ハーブ(大袋)があるので戦闘継続もバッチリだ。

 ま、ジルさんの並外れた回復力ありきなんですがね。ヤベェよ腹を押さえてフラついてたのに、草をキメるだけでシャキッと立ち上がるんやぞ。

 君ほんとに普通の人間か?

 

 と当惑しながらも、たまに自分がジルさんを引っ張りあげて一人じゃ通れなさそうな場所を進んだり、逆に方向音痴気味な自分のミスをカバーしてもらったり。

 やがて警察署からほど近い場所まで辿り着くことができた。

 

 彼女はラクーンシティ脱出の手掛かりを、自分はこっそり地下研究所への侵入を。目的の達成は近い。

 

「その下半身の装備、けっこう本格的に見えるのだけど」

「本職にそう言われると照れるな。実は装備の中古品を扱ってる知人の店で、絶対似合うからって乗せられて買ったやつだよ。まさかこんな役の立ち方するなんて思ってなかったが」

 

 やはり突っ込まれたか。でも下半身だけだし、スターズのマークが着いてないことも確認したから大丈夫なはず。そもそもしっかり制服と分かる部分は置いてきたのだか……

 あ?また背中がぞわぞわする?

 ま、まさか

 

「ジルさん」

「何?」

「凄く嫌な予感がする!」

「え?」

「さっきの良くわからんのが来る!!逃げるぞ!!!」

 

 

 

 

 「す"た"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"す"!!!」

 

 

 

 

 ダメでした^~~!

 あぁ^~空から巨漢がぴょんぴょんして来るんじゃぁ^~

 

 

 

 

 おファックですわクソが!!!!!

 

 

 

 

 




 
・空からネメシスちゃん
ネメシス→女神→女の子(証明完了)



・空からバレンタイン(魔法剣士)
うっわ、ウェスカーそっくりやんコイツ…性格はかなり違うけど、隊長も私らだまくらかしてたからなぁ(まだ疑っている)。

ガワはRE3。でもREを見てないおじさんは、凄いリアルになった美女を見てもすぐに気付けなかった。最後に見た5と髪型も違うし。
とても強いので普通の男相手なら暴れて弾き飛ばせる。
逃亡ルートは原作とちょっと違うねんな。だからおじさんと遭遇した。



・今日のおじさん(殴りアコライト)
人間から卒業気味なので五感は鋭い→勘も良さげ。
上半身は一般人、下半身はまんま星衣装。
ブリは美味しいから照り焼きが好き。
悪のカリスマみたいな魅力は全然出せない。おかげで助かった。
サムライエッジは懐刀の感覚で、見えない位置に所持していた。セーフ。

ライト陰キャなのに嘘のつき方とか対人のコツとか変な知識はある。フシギダネ。



・気になってる方が多いみたいなんで、中身のガバ知識ぶりをまとめました。もしかしたら今後、これ以上を思い出すかもしれないし、逆に時間経過などで忘れるかもしれませんが。

『バイオ0』
親が買ってきた
洋館うろうろしてたけどクリアできなかった
レベッカとビリーのやりとりええな…

『アンブレラクロニクルズ』
親が買ってきた。小説版なんぞ知らん
ほぼ妹がやってた悲しい思い出
→実は『ダークサイドクロニクルズ』の記憶とかなーりグチャグチャになっているが気付いていない

『バイオ無印』
見た実況プレイが面白すぎて、細かい内容は記憶から飛びがち

『バイオ2』
実況で見た
レオエイレオ……シェリクレ…

『バイオ3』
ろくに見てないので良く知らない
主人公がジルで、カルロス某が相棒らしい…それだけ
ネメシスは他で知りますた

『バイオ4』
持ってる友達の家で遊んでいた
しかし友達の記憶ごとロスト
実況を見た気がしている(記憶の混濁)
オッパイノペラペラソース…

『バイオ5』
実況見たけどウェスカー…とうとう死ぬんか
やはりジル可愛い、シェバも可愛い
ジルとクリスはいつ結婚するんですか?
エクセラ普通に詐欺被害者やんけオイ

『他タイトル』
バイオ6から把握していない(もう別の沼に居た)
コードベロニカ実況は見た記憶があるようなないような?
映画のウェスカーは声帯がマダオかい
アリスって原作にでてないんか


※ガバ知識ぶりのモデル
書き手の家族




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後で気付いたけど斎○工にクリソツやなキミ


脳内再生するおじさんの声はお好きな声優さんでどうぞ。書き手はそこら辺あんま考えてません。
精神はマダオを名乗っていますが、ボディはきちんとウェスカー隊長なんで、ジョージヴォイスからダグラス氏のお声まで、国内外の声優さんがよりどりみどりやぞ!

幼女ファンすまぬ。
また幼女が出てこない回やで。




 

 

 

 何か知らんが変なコート?を着た巨人が空から降ってきた。

 

 顔がめちゃくちゃ怖い人だ。スタイルも悪くないし服装も独特だが、似合っていないわけではない。とてもロックで良いと思う。いや、むしろデスメタル系かな?

 自分はそこそこ何でも聞ける方なので、音楽性とかで否定するつもりは無い。でも凄く顔が怖い。

 

 そう、顔が怖いのだ。自分の…もといウェスカー氏の顔もいわゆるコワモテのカテゴリーに入るが、この人はそれ以上の顔立ち。凶相とか言われそうな怖さ。悪夢級。スゴイヤバイフェイス。

 

 それにほら、歯茎が剥き出しで、地味に良い歯並びを見せ付けてくれるけど、ヨダレがそのまま垂れてそうなのは良くないと思うんだ。

 

 ジルさんみたいな美女にアタックしたいのは良ぉぉく分かるけどね、やっぱり今時の男は清潔感も大切なんじゃないかな。

 ちょっと不潔感があっても許されるのはイケメンだけでね、世の中イケメンに限るとかいう残酷な言葉があるけども、さすがにヨダレ撒き散らしてたらイケメンでも許してもらえない可能性は高いよ。

 逆にあまりAPPに自信がなくても、身なりがきちんとしていれば悪い印象は軽減できるらしいが。

 

 ばっちゃ…じゃなくて妹が言ってたから多分これ有効なアドバイスだぞ。タブンネ。

 

 

 

「うっわ!!こっち来るなクソダボが!!!」

 

 おい止めろ。今は背中にアリエルが居るんだ近寄るな殺すぞ。例えお前が美少女や好青年や可愛いウサちゃんだったとしても、殺意もりもり森鴎外の時点でダメですね。

 

 というかお前デスボで「すたーず」と言いながら追っかけてくるんだから、ジルさんが目当て……あ?もしかして追跡者ネメシスってやつ??

 アンブレラクロニクルズで見たアレか???

 

 「すたぁず?」

 

「違います!スターズ違う!」

 

 も、もしかして「アンブレラの裏切り者でもある元S.T.A.R.S.のアルバート・ウェスカー」判定されてるとかじゃないよな?

 んなクソみてぇな厄ネタを抱えるのは嫌だぞ。

 

 あ……そもそもアルバート・ウェスカー自体が厄ネタだったわ。泣きそう。

 

 「すたぁず!すたぁず!」

 

 うっわ瓦礫投げるなやめろ死ね!氏ねじゃなくて死ね!

 クッソこれもみんなウェスカーのせいだ!!!ふざけるな!!!!!

 

「こっちよ!」

「いつの間にそんな武器を???」

 

 自分がお手頃サイズの瓦礫を投げ返しながら逃げ回っている間に、なんとジルさんは重装備になっていた。

 どっからかっぱらってきたのか知らんが、何とかランチャーみたいな名前をしてそうな武器を担いでいる。ゲームなら所持枠を2つくらい使いそうなアレだ。

 出所はそこら辺のひっくり返った警察車両か?

 よう分からんがナイス。いやほんと助かった。

 

「食らいなさい!!!」

 

 顔面に爆発する弾をご馳走され、たたらを踏むネメシスに希望を感じる。

 ジルさんはリロードもお手のもの。がしゃこんがしゃこんとリズム良く装填しては、バカスカと顔や胸に命中させていた。まさに神エイムだ。

 

「食らえ!破れたフェンス!実は見かけより重い三角コーン!飲み屋のダサい看板!」

 

 もちろん自分だって何もしないわけがない。コンクリ塊やら建材系のゴミやらを、超人パワーでバカスカ投げ付けて適度にタゲを取る。

 触手も看板や鉄板を投げてカットしてやる。ざまみろ。

 

 やはりネメシスは本能剥き出し野郎じゃないようで、瓦礫が顔に当たるとウザいのか、こちらの攻撃は集中力を削げている様子。

 で、こちらにタゲが完全に移る前に、ジルさんの攻撃で再びタゲが向こうにブレる感じ。素晴らしい。

 

 ん?アリエルの安全のため、ジルさんを囮に逃げ出さないのかって?

 ここで倒さないと後が怖いんだよボスじゃんコイツ。だからこの正念場で協力を惜しむつもりは無いんだな。

 

「クソ!弾が切れたわ!」

「アカンまだ死んでないのに!?」

「逃げましょう!」

 

 とか思ってたらコレだよ。

 主力たるランチャーの弾が切れた。拳銃ではろくに歯が立たず、ショットガンも弾切れ寸前の告知。

 全力で逃げようと走り出した我々の前に、硬直が解けたネメシスが大ジャンプで飛んでくる。

 

 現実は非情ではなく、ただのそびえ立つクソだった。

 

 

 

 「スタァズ…」

 

 

 

 他に道は無いのか。そうだあの壁を駆け上がれば自分とこの子だけなら、しかしジルさんは、ああ、もう

 

「伏せろ!!!」

 

 着弾、

 閃光、

 爆発音、

 

 燃え上がる巨体

 

 両膝をつくネメシスは動かない。

 

「動けるなら早く来い!」

 

 知らぬ男の声に急かされて走る。アレに背中を晒すのが恐ろしくて、背負うのを止めて腹側で抱えたリュックの温かさに少し泣きたくなった。

 

 

 

 

 

 我々を助けたのは、本格的な装備を身に付けた若い男だった。まずは安全な場所へ行こうと言った彼の案内で、近くの地下鉄駅に向かう。

 車両をシェルターにして民間人の保護を行っているとのこと。すげぇな。

 

 そんな彼の名前はカルロス氏。肩口にアンブレラ社のマークが描かれた服を着ているが、ネメシスのことは存じ上げない様子だ。

 確かバイオ3にそんな名前の味方キャラが居たような。つまり今はバイオ2だと思ってたが、実はバイオ3なのかもしれない。あー、わからん。

 

 しかし現状ではそこら辺、あまり気にしていられる余裕などなかった。

 話を戻すとカルロス氏、服が示す通りにその所属はアンブレラのバイオハザード対策部隊(略称:U.B.C.S.)だったのだ。ま、ジルさんにとっては面白くない相手というわけで。

 

「信用できるわけ無いでしょ!この事態を引き起こしたアンブレラの人間よ!」

 

 自分からすれば、暗黒メガコーポ・アンブレラの中でも幹部やってたウェスカーよりマシやろって感じだけどな。

 つまりこん中で、いっちゃんヤベェ身元してんのは自分ってヤツ。悲しいね。

 

「ジルさんジルさん。大企業の社員でもその立場はピンキリだよ。しかも傭兵なら雇われフリーランスってことだろう?そんで、こんなリスクの高い現場に出てくるんだから、彼は少なくとも社内の主導的な立場には居ない人だと思うんだけど」

「でも、あんな事態を引き起こしておいて…!」

 

 まあ、不祥事を起こした社員と謝罪会見で頭を下げる社員が別人でも、同じ企業の社員なら同類に見えちゃうようなもんか。まして彼女はその不祥事で身内にも等しい仲間を喪っているのだから。

 

 こうして共に行動してきて分かったが、彼女は決して感情ばかりを優先させるような人じゃない。だから自分が言った「彼が何も知らん下っ端の立場なのはマジっぽい」って意見も理解しているはず。

 

 それでも頭で理解できるかどうかと、感情で納得できるかどうかは別だ。分かる。

 自分だって今やってることを思うと客観的な合理性からは程遠い、感情的な利益を求めての行動そのまんまだし。

 

 しかし助けた人になじられるのだから、カルロス氏の方も愉快ではなかろう。

 

「あー、カルロスさんも助けてくれたのにすまない。彼女、何だかアンブレラ社のせいで大変な目にあってたみたいなんだよ」

「そうか…ま、信じてもらえなくても大丈夫さ。とりあえず安全なシェルターの中に居れば落ち着けるだろ?行こうぜ」

 

 凄く気の良い人だった。魂までイケメンかよ。

 

 

 

 

 

 さて、駅の階段を降りながらふと思い付いた事がある。

 

 今向かっているのが民間人を集めたシェルターってことは、居るのは当然ながらウイルスについて何も知らない一般人ばかりのはずだ。

 これはまずい。アリエルは受け入れてもらえないかもしれない。

 

 こうして実際に動いてみて分かったが、アリエルを気遣いながら動くのは非常に大変だ。ワクチンを入手するにしても、どこかで彼女を保護してもらっているうちに自分が動く方が効率的だし、彼女の安全も段違いになる。

 それに、ネメシスはまだ死んでいないだろうし。

 

 だから希望を言えば、アリエルをシェルターで匿ってもらいたかった。難しいだろうけど。

 

 T-ウイルスによる大規模なバイオハザードは、この世界において今回が初めてだ。かゆうまが特徴的な初期症状だなんて、一般人で把握できている人間がどれほど居るのか。それどころか噛まれただけでなく、引っ掛かれただけで危険だと理解している者が居るかも怪しい。

 経験知で把握するにも初めての事態なのだから、そこまでの情報はまだ蓄積されていないだろうし。

 

 つまり「現実で発生した感染症による科学的なゾンビ」という現状をきちんと理解できるのは、アンブレラ関係者でその手の案件に関わっていた者か、洋館で痛い目を見たスターズの生き残りくらいだろう、というわけだ。

 

 人にとって未知は恐怖であり、恐怖は攻撃性に繋がる。

 いくら風邪の症状だと弁明しても、信じてもらえない可能性は高かった。

 

 というか、自分自身も「もしかしたら特徴的な症状が出てないだけで、実はそうかもしれない」という考えで動いているのだから、恐怖が理性でどうにかなるもんじゃないと身をもって証明しているようなものだ。

 

 これは先に聞いとかないとな。シェルターから出てけって言われたら警察署に直行すれば良いし。

 

「カルロスさん、ちょっと相談したいことがある」

「何だ?」

 

 

 

 

 

 結局、ちょっと揉めるどころか大分すったもんだした挙げ句にアリエルを預かってもらい、自分はジルさんの助手として動くことになった。

 

 

 

 

 

 ニコライってヤツ、もしかしたら殺さなきゃいけないかもしれないなぁ。

 

 

 

 

 

 

 


 

・今日のおじさん

ネメシスさんとは音楽性以前の問題だと思った。

実は身体が覚えてるから地味にピアノを弾けるのだが、そんなことは全く気付いていない。(バイオ0のウェスカーモードを参考)

しかしスキルを見抜いたネメシスさんにより、ポジションはキーボードで勧誘されている。

 

身体能力が高いので、どんな変な配置のキーボードでも弾ける。例えば要塞みたいなヤツでも。

 

 

・幼女

おじさんと組んでるメンバー。現在休業中。

タンバリンやカスタネット、マラカスを担当できる。

特にマラカスを振らせると、フラワーロックよろしく躍りながら上半身を脱ごうとするので、おじさんが毛布で捕獲せねばならない。

風邪引くだろうがヤメロォ!(必死)

 

 

・ジルさん

ピアノが弾けるのでキーボードとして勧誘されている。同僚のクリスはギター。

実はこちらがネメシスさんの本命。ぜひ右腕になって欲しいと思われている。

でも音楽業界からは引退して、カタギやってるので……。

 

 

・カルロス君

斎○工に似ている甘いマスクの男。

ドラムやらせたら上手そう(偏見)

というわけで勧誘され始める予定。

バンドのイケメン枠を想定されている。

 

 

・ネメシスさん(年齢不詳)

メンバーを求めて捕まえても、音楽性やら何やらでトラブって(この世から)除名してしまう悲しきバンドモンスター。けっこう面食い。

力強いボーカルがチャームポイント。

 

得意なパフォーマンスはデストロイメンバー。

メンバーは死ぬ。

メンバーorDIEどころじゃねぇ。

 

なおギターは弾けない模様。

 

 

 

※メンバーorDIEのネタがやりたかっただけの、てきとー過ぎる配役ネタです。あんま気にしないでくんろ。

 

 

 

思ったんですが、セルゲイ大佐をTSさせればタイラントのほぼ全てを女の子にできるのでは…?

小説版UCいわく、大佐リリィって神経質そうだけど整った顔立ちの痩せた少年らしいので、イケるイケる。

誰かたのんます。

 

 

 

 



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せっかくだから俺はこの装備を選ぶぜ!


感想欄とかで色んな情報が入ってくる…ありがたイナリ…(いなりが入ってる)
地味にネタ分かってくれた同類…ウレシイ…ウレシイ…(ニチニチ)




 

 

 

 すったもんだの理由の半分は自業自得だったりする。

 

 まず前座として、S.T.A.R.S.のメンバーをご存知だったU.B.C.S.のミハイル隊長におったまげられた。

 

 もちろん「まーた死んだウェスカーさんだと思われてんのか俺はフレッシュ過ぎるゾンビじゃねーんだぞ」と呆れて見せたし、そんなに疑うなら後でDNA検査でも何でも受けてやるよと言って何とか誤魔化した。

(本当に受けるとは言っていない)

 

 次にアリエルと自分の扱いで揉めた。

 これはU.B.C.S.側の事情も関わってくるのだが、彼らは人員不足と追加任務の関係で猫の手だろうが杓子の手だろうが、使えるなら借りたいという切羽詰まった状態になっていた。

 

 最初の任務である「民間人の保護と安全圏への輸送」すら満足に行えていない中で、新たに追加された「ワクチン開発者の確保」という任務。

 

 仕方ないので彼らは「どうすんだオイまず人数が絶対的に足りねぇぞ」と話し合っていた。クライアントにどちらを優先するのか問い合わせても、どっちもやれとか言うクソ返事が返ってくるのだから参考にならないのだ。

 そこにやって来たのが特殊部隊の隊員をしているジルさんと、背中に12歳と雑貨のセットを背負って顔色を変えずに動き回る、我ながらフィジカルお化けな自分だった。

 

 向こうは隊長からして負傷している状態だ。民間人の避難に必要な作業を、ジルさんだけでなく自分にも手伝わせたい。だからこちらも「手伝うから開発者を捕まえたら、念のためにアリエルにワクチン寄越せや」と要求した。

 ここまでは良い。

 

 問題はアリエルを危険視する意見だった。

 ニコライとかいうヤツが「いや、感染が疑わしいなら保護はできないし、むしろ排除した方が他の民間人の安全になる」みたいな意見を出した。というか、疑わしいから撃たせろと言ったところをキレたミハイル隊長に怒鳴られていた。

 疑わしいが感染者とは言い切れない。ワクチンが入手できる可能性もある。ましてや守るべき子どもに対して何を考えているのか、と。

 

 ありがとう人の善性。

 止めてくれなかったら自分の方からヤっていたところだ。

 

 大多数のため、リスク管理の点から言えばニコライ某は正しいのだろうが、自分は正しさより自分の利益ってタイプだからなぁ。

 言いはしないが、こちとら他の民間人が全滅しても、アリエルさえ助かればかまわない。

 

 今回はアリエルが「誰がどう見ても弱者」だったから集団の意見を味方につけられた。部隊に一般的な善性を持つ人物が残っており、弱者優先の意見が根強い中で、むしろニコライ某があの意見を口にしたのは根性があると言えるだろう。

 

 それでもアリエルの害になりうる男に、スコップを握り締める力を緩めることはできなかったが。

 

 

 

 

 

 アリエルの熱は変わらない。咳が増えていた。

 辛うじて意識があるので咳止めとハーブを飲ませるが、あまり効いている気がしない。やらなかったらもっと酷くなっていただろうが、改善の兆しが見えないのは堪えるものがあった。

 

「ハーブはまだありますし、ミハイルさんも使いますか?」

「いや、子どもの薬を奪うほど落ちぶれちゃいないよ。俺らの医療品はきちんとあるし気にするな。そのお嬢さんは俺とカルロスがちゃんと守ってやるから、ジルさんの事は頼んだぞ」

「分かりました……お願いします」

 

 他の民間人と一緒にできないという理由で傭兵用車両の、座り込むミハイルさんの横にアリエルを寝かせた。

 凍らせて使っていたペットボトルの中身はほとんど溶けていた。それが時間の無さを示しているようで嫌な気分になる。

 

「アリエル、この人たちが守ってくれるから安心して待っててくれ」

「……やだ」

「でもおじさん、ちょっと用事があるんだよ。アリエルのためにもなる用事だから、ね?」

「…す、てるの?」

「そんなわけない。絶対に戻ってくるから大丈夫大丈夫。おじさんが帰って来なかった時なんて無いだろ?」

「ん」

「だからお留守番、たのむよ」

「…ん」

 

 不安そうな様子に後ろ髪をむしり取られそうなくらい引かれるが、何とかよしよししてた身体を引き剥がす。つら。

 

 頭が素人の自分はカルロス氏から軽く無線の使い方を教えてもらい、ジルさんと共に物資を整えるように言われて送り出された。

 

 なおニコライ某が出発前に、素人がどうの甘ちゃんがうんたらと文句言って来たが無視した。時間がもったいないので。

 

 

 

 

 

 さて、気を取り直して物資から銃を貰おうにも、何を選ぶべきか全くしらぬいわかんぬい。

 

 ウェスカー氏が扱えた物なら自分でも扱うことはできるだろうが、じゃあこの銃はどういう特性があるのか、みたいな部分はぶっちゃけわけわかめだった。だって銃社会出身じゃねーもんよ。

 

 仕方ないのでジルさんに選んでもらうと、反動はキツいらしいが高威力で丈夫なヤツを渡された。名前は知らん。

 軽くいじってみたところ、リロードや取り回しに少し手間取ったが、彼女の指導が良いのか身体の記憶なのか、すぐに扱えるようになったのは幸いだ。

 

「あ、コレにしよう」

「それ持ってくの?装備じゃなくて駅の備品でしょ」

「マスターキーって大切やぞ」

 

 スコップはスコップで万能だけど、斧なら普通の扉くらいバカスカ開けられるからね。1本は持っておきたい魔法の鍵だよコレは。

 

「ちょっと、まだ持つわけ?」

「コレは小さいから投げる用」

「手斧じゃないのに…呆れた力ね」

 

 そうしてジルさんは銃器を中心に装備し、自分は拳銃とデカい銃と、スコップと大斧と斧と斧と斧と斧を装備した。

 走るのに邪魔にならないし、そんなに重くないから悪くないんだけどなぁ。

 

 

 

 カルロス氏いわく目的地は変電所だ。そこに向かう道すがら、先ほどからばつの悪そうな顔をしていたジルさんがようやっと、といった風に口を開いた。

 

「あの、さっきはずっと疑って、ごめんなさい」

 

 何が理由かは知らないが、疑惑は薄れているらしい。

 ありがたいことだ。

 

「ウェスカーさんってよほど恨みを買ってたんだな。パワハラクソ上司?まさかセクハラ野郎?なら死ぬほど恨まれてもしゃーないしゃーない!」

「そうじゃないけど……今思えばカルロス達のことも決め付けてる部分があった。ミハイル隊長だってあんな怪我してたのに…」

「人間、余裕が無くなるとトゲトゲしくなるもんよ。むしろジルさんはかなり自制できてるし、凄いんじゃないかなぁ」

 

 大人だろうが人間なんだから容赦なく不安になる。その中で自分のように報酬を求めたわけでもないのに、誰かのために行動できる精神は、こうして現実で対面すると恐ろしさすら抱かせるものだった。

 つまり後ろめたいヤツはこの精神に脅威を抱き、そういうのが無い人は敬意を覚えるのだろう。

 

「黄金の精神だっけ?」

「何それ」

「ジルさんみたいな強く正しい精神の人。日本の本で出てた表現だよ。きちんと読んだ訳じゃないから詳細は説明できないが」

「私そんなに強くないわよ。最近は不安で…」

「それでもさっきみたいに、人のために行動できるからねぇ。やっぱ黄金の精神だな」

 

 パカン、パカン、とゾンビの頭を割る。

 T-ウイルスは死者の蘇生ではなく頭をアレして操っているタイプのゾンビで、だからその体には普通の人ほどではないが血流が残っている。おかげでパカン、と割れば温かな血が飛び散った。

 

 ゾンビをどつき回し始めた当初は、手に残る感触に気持ち悪さを感じていたが、ここまで来るともはや慣れてしまう。何も感じないどころか、上手く頭をカチ割って一発退場させると満足すら感じるまでになってしまった。あかん。

 

「良し、消えたわ」

 

 変電所に行くため、ホースを調達して燃える路地を消火する。こういった作業はきちんと知識のある彼女の方が手早かった。自分が覚えてるのはアメリカにわか知識なので。

 実はアリエルと生活している間も、周囲を観察してからおそるおそるやっていた事は多かったりする。

 

「そういえば貴方、お父さんじゃなくておじさんだったのね」

「言ってなかったか。あんまり良くないんだろうけど、両親が居ないから私が面倒見てるんだよ。在宅ワーカーじゃなきゃ無理だったな」

「奥さんは…」

「居ないよ。だからこの街を脱出して、きちんとした施設に預けるつもりだ。良い養護施設を探さないとなぁ」

「じゃあ頑張らないとね」

 

 

 

 変電所の生物兵器はめちゃくちゃキモかったし、ニコライ某はやっぱり危険人物だった。

 

 

 

 


 

・おじさん

解説サイトに書いてあったT-ウイルスの特徴みたいなのは覚えてる。そっちよりストーリー覚えときゃ良かった…。

 

ニコライ某が幼女の害にならないなら、あの態度でも何とも思わなかった人。

あちらが分かりやすい自己中なら、こちらは分かりにくい自己中である。ロリコン犯罪者から財産どころか名前まで奪ってるし。

 

攻撃しなかったのはメタ知識が足りないのもあるが「明らかに加害してきたわけではないUBCS隊員を、協力関係にある他の隊員やジルの前で攻撃するデメリットはデカいな」って理由。

 

でっかいペンチではなく斧で鎖マンを叩き切って解錠してる。

パワーがあるので丸太も装備可能。

どんどん脳筋プレイヤーになっているが自覚はない。

 

 

 

・ジルさん

少し弱ってはいるが「黄金の精神」を持つ女。RE3の最後には「真実に向かおうとする意思」を見せた。

 

実は洋館で裏切り者がタイラントにぬっ殺されたのを見てから、ウェスカーボディに何が起きたのか知らない人。だって暗躍マンの原作と違っておじさん一般人やってたからね。

むしろクソ馬鹿力&アホ持久力してる保護者おじさんと、まだ人間やってた頃のウェスカー隊長(故人)との差異に戸惑っている。

カルロスたちが子どもを庇ったのを見て、少し早めに氷解気味。

 

 

 

・ニコライ某(RE3のすがた)

疑惑の男のDNAのサンプルは後で取るか~!って思ってる。

ガキの世話優先とか甘ちゃんじゃねぇか!判定。

 

美しくないタイプの銭ゲバ。

ロリ化したらめっちゃ「わからせ」されそう。

スラヴ系だしTSポテンシャルは高いはず。

 

 

 

・マスターキー

なお殺生や原罪で得たわけではない。

アメリカの一般的なマスターキー(斧)

 

 

 

 

少年期の犯罪被害と信じてたソ連崩壊で精神をメタメタにされ、身も心もアンブレラの飼い犬になってしまったドM信仰系軍人おばさんと、そのクローンシスターズなネタはダメでしたか……性癖って難しいな!!!

くっそ!!!これはTS大佐を描いて布教しなければァ!!!

 

公式で女幹部だったら心身問わずリョナ系の同人誌もいっぱい出てただろうに、惜しい人だ…(妄言)

 

 

 

 



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ヘラクレス(ミーム汚染済み)


ゾンサバ公式TSボス、すっごく良かったです(ニチャァ)

じゃけん皆さんもバイオ二次かきましょうね~




 

 カルロス氏の案内に従い変電所で電力を復旧し、鉄道会社のビルでシステムを操作して電車の行き先をセットする。といっても作業するのは知識のあるジルさんがメインで、自分は護衛みたいなものだ。

 

 役に立っているとは思う。

 変電所のキモさ半端ない触手?植物?がジルさんに変態プレイを仕掛ける前に叩き切ったし、ちょっとした障害物ならゴリゴリどかせたし。

 

 ネメシスが追っかけて来た時も、彼女を俵担ぎで支え、後方に向かって銃撃で牽制してもらいながら逃げまくった。あんなタフなやつ、まともに倒れるまで相手していたらいくら生命(タマ)弾薬(タマ)があっても足りないのだから。

 まあ、あまり揺すりすぎるとジルさんがけろけろけろっぴしてしまうので、そこまで乱暴な動きはできないが。

 

 他にも、思い付きで腰に提げていた斧をブーメランよろしく投げてみたら、本当にゾンビの身体をポンポン切り飛ばしながら返ってきたので、この身体のポテンシャルには驚かされたりしている。さすウェス。

 

 ジルさんにはドン引きされたけどな。

 

「貴方、実はあの化け物の親戚だったりしない?」

「……もしかしたら生き別れの兄かもしれない…まさかあんな惨い姿にされていたなんて」

「嘘、ごめんなさい私そんなつもりじゃ」

「大丈夫大丈夫。誘拐されたような親族は居ないよ冗談だから」

「からかわないでよ!」

 

 そもそもウェスカー氏ってご兄弟とか居なかったはずだし。

 ……まさか自分が知らない間に、カプコンが無から親族を生やしたりなんかしてないよな?

 

 あ、ちょっと不安になってきた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 ジルから見たアルフレッドという男は、知れば知るほどパラレルワールドの住人みたいな人物だった。

 アルバート・ウェスカーが全く別の人生を歩んだら、こうなるのかもしれないと思わせる存在だ。

 

 

 

 最初のうちは、実は生き延びていた裏切り者が変装し、自分を殺しに来たのかと思った。

 何せ怪物に追われて建物から落下し、頭を打って意識がはっきりとしない間に瓦礫の影に連れ込まれ、身動きできないように押さえ込まれていたのだから、色んな意味で身の危険を感じるのも当然である。

 後から「怪物から身を隠すため」と弁明されたが、アリエルという少女を見せられるまで引き金から指は外せなかったほど。

 

 次に彼女が考えたのは「裏切り者が病気の子どもを誘拐し、こちらを騙す小道具にしている可能性」だ。

 

 その冷酷な本性を剥き出しにするまで、ウェスカーは彼女らの良き上司であり、チームのリーダーだった。気安く話せるタイプではなかったが、状況判断能力は高く、合理的で有効な指示を出し、隊員の尊敬を集めるような人物だったのだ。

 もちろんそれは一種の演技であり、現在S.T.A.R.S.は壊滅させられている。

 

 してやられたジルからすれば、再び現れて演技している可能性がどうしても拭えなかった。お粗末な変装にも見える茶髪や服装は、まさかそんな杜撰な姿で出てくるわけがないと思わせるためではないか、と。

 しかし少女の態度を見れば、短絡的に誘拐したのではなく、彼らの間には確かな信頼関係があると理解できてしまったが。

 

 じゃあ疑いは晴れたのか、と言われてしまえば微妙だ。

 

 これまで様々な犯罪者を相手にしてきたジルとしては、どんなプロでも大きく演技するならば、無意識の仕草でどうしても隠しきれない部分が出る、というのが持論だ。

 ウェスカーの演技、というか冷酷さの隠蔽は本人の精神性を偽るほど大げさではなかったから、疑うきっかけになるほどの違和感が無かっただけである。

 

 そしてアルフレッドからは、まるで塗ったペンキがところどころ剥がれ落ちて、下のコンクリ壁が出てくるように「ウェスカーの仕草」が垣間見えた。

 

 例えば銃を構えるときの動きや、撃つときの腕の伸ばし方だとか。

 例えば警戒しているときに見せる、訓練された者の足運びだとか。

 例えば漢字と英訳を書かせた時に確認した、英訳を書くときのペンの持ち方だとか。(さすがに筆跡は異なっていたが)

 

 しかし逆に、無意識の仕草でありながらウェスカーらしくないものがあり、それが異常に目についた。

 

 例えば彼は目を合わせたがらない。明らかに、反射的に目をそらしている。それでもじっと見詰めると居心地が悪そうにして、何か問題があったのかと聞いてくる。

 隠し事があるというより、視線自体が苦手な様子だ。

 

 例えば人に会うと頭をちょっと下げる。カルロスたちが不思議そうにしているのを見て、本人も気付いたのか「あ、つい癖で」と言っていた。どんな癖だ。

 無線機でカルロスと話してる時もやっていた。だからどんな癖なんだそれは。

 

 例えば言い回しが少し遠回り。変なところで弱気。

 少女に対する危険にはむしろ攻撃性が高まるのに、他のことに対しては変な謝り癖がついてるみたいで、この人はどんな環境で生きてきたのかと思わせた。

 

 冗談抜きで、移動中に少しぶつかるだけでとっさに謝る癖がつくだなんて、本当にどんな環境なのだろうか。

 ウェスカーの顔でそれをやられると正直ちょっと不気味で、慣れるまで違和感が凄かった。

 

 まるでウェスカーと別人の脳味噌を引っ張りだし、ミキサーにかけて頭蓋に戻したみたいだ。

 

 

 

 結局、ジルはどうしても彼をウェスカー本人とは思えなかった。

 

 彼と比べれば余りにも穏和、悪く言えば消極的、態度が大人し過ぎる。

 それどころか普通の人より他人との距離感が遠く、身体的接触を好まない。内気でネガティブだが、コミュニケーションでは表面的にそれを隠そうとしている節がある。

 つまり気質が違いすぎたのだ。誤魔化しきれるものではないほどに。

 

 少し気になるのは、その気質にしてはグロテスクに対して耐性が高いところか。

 あとは異常な身体能力だが、こればかりは生まれつきと言われてしまえば、それ以上は理由を問うことができない。

 

 以上を加味してジルが出した結論は「ウェスカーではないが、詳しい身元調査が必要な人物」というものだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 準備ができたので駅に戻ってきた。

 カルロス氏いわく、30分か40分くらいで電車の整備も終わるらしい。ゆっくり休めているおかげか、アリエルの様子も落ち着いているとのこと。

 良かった……。

 

 そこにニコライ某が何やらぐちゃぐちゃ嫌みを言ってきたが、うるせー知らねー、である。

 こちとらきちんと仕事はこなしてきた(主にジルさんが)んだから、とやかく言われる筋合いはないね!

 

 とか思ってたら、まーたストーカーがやってきた。

 クソが。

 

 まだ電車の整備が終わっていないのに、このまま閉じこもるのは無理があるし、他の人を危険にさらす。だからターゲットにされてる私が囮になる。

 みたいなことを言ってシャッターが閉じる前に飛び出すジルさん。

 

 これ自分もネメシスに目をつけられてるっぽいし、同行しなきゃヤバい状態やん。

 

 そんなわけで再びカルロス氏にアリエルを頼み、彼女についてった。

 二人とも止めろ!戻ってこい!と言われたが、壁破壊するようなヤツをアリエルの近くに置けないのですまんの!無視だ!

 

 逃亡で下水道を通るのはゲームだけにしたいくらい気持ち悪かったが仕方ない。何かキモすぎてげんなりするデザインの敵に、ジルさんがうげー…と呻いていたが、その気持ち良く分かります。

 

 しばらく逃げ回りながら、無線が届く位置でカルロス氏と連絡を取ると、とうとう朗報が届いた。

 

『やっと繋がった!ジル、無事か?アルフは?』

「私たちは大丈夫よ。ヤツは撒いたわ」

『良し!地下鉄の準備は出来たから、二人が戻って来たら出発だ!』

 

 よっしゃ!じゃあそこのマンホールから出ようか!

 蓋を開けるから自分が先に上がるやで。

 

 

 

 「 ス タ ァ ァ ァ ズ ! 」

 

 

 

「お"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"ん"!?」

「アルフ!!!」

 

 そうは問屋が卸さないと出待ちしていたネメシスさんに、ガッチリとアイアンクローされて放り投げられたりもしたけれど、私は元気です。

 嘘。すげぇ痛かったです。

 

 でもこれゲームだと、たぶんジルさんやカルロス氏がされるんだよな?

 普通に首の骨が折れて死ぬと思うんですが……。

 

 「スタァズ!!!」

 

「なんかゴツい装備してるんだけどコイツ!」

「火炎放射器!?」

 

 ジルさんは「武装する知能があるの!?」と驚いていたが、それよりもこれだけしっかりした専用武器を用意してもらえるだけのバックアップがついてるのが怖いんですよねぇ。

 絶対これ監視されてんだろなぁ。つら。

 

 自分はラクーンシティから離脱せずに、アリエルはジルさんに託した方が安全かもしれない。

 それが無理ならいっそ出頭して自身を代金にするか。いや、暗黒メガコーポの魔の手がどこまで伸びるか分からないし怖いな。

 

「ちょっと、かなり酷い顔してるけど大丈夫?」

「ああ、あの怪物の不死身ぶりに嫌気がさしてただけだよ。コイツもうヘラクレスって呼ぼうかな」

「不死身の怪物ならヒュドラの方でしょ」

 

 せやな。良く考えたらヘラクレスって基本的にバーサーカーじゃないわ。

 

 さて、火炎放射器なんてバカ装備を背負ったクソ野郎から逃げているうちに、工事中のビルまで追い詰められてしまった。

 

 なんせ自分が接近戦しようにも火を撒き散らされるし、じゃあ逃げようとすればやっぱり進路に火を撒き散らされるので、今までのようには行かなかったのだ。

 さすがに火の中をくぐってジルさんが上手に焼けましたー!とか洒落にならんし。

 

「背負ってる燃料タンクを破壊するしかないわ!」

「じゃあタンク役やるわ」

「は?」

 

 ちゃんと壁役って言い直した。

 

 

 

 

 




 
・今日のおじさん
海外赴任して文化的な差に困った日本人みたいになっている。実は近所付き合いのため、素を出さぬよう矯正を頑張っていた。
今は素を出した方がウェスカーらしくなくなると思ったら、余計に癖も出てる感じ。

そら不死身のバーサーカーって言ったらヘラクレスやろ(ミーム汚染済み)

全体的にネガティブな日本人の中でも陰の者だからね。内向的な人扱いも仕方ないね。


・ジルさん(惜しいで賞)
1998年の人間だから日系人は見かけるし知ってるが、日本人の気質はそこまで知らんねんな。別に日本に関わりのあるビジネスマンとかでもないし。

精神的に少し弱っているため、実は威圧感が少ないおじさんとの相性は悪くない。新生カルロスも頼れる男だから安心。

休憩中に漢字を書いて見せろと言ったら「汁」と書かれた後に、そっと目をそらされた人。
なぜ「汁(スープ)」と書いたのかは知らない。

「 二月十四日 汁 」



・監視員ニコライ某
実は指紋採取しようにも、おじさんが滑り止め手袋(手汗・血すべり対策)してたから無理だった。舌打ちした。

ぜってーあの男BOWだろタイラントをより人間に近付けた個体とか言われても驚かねーわ!!!





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わからせ(られる)おじさん(健全)


ウェスカー氏、小説版UCだと蘇生してから絶好調って感じだったので、アレクシアさんから逃げてるのを思い出して笑いましたわ。
(黒歴史から目をそらしながら)

しかし小説版はかなり強めの設定だったのでびっくりしましたね。
超パワー、超回復、超恒常性、精神力で生物兵器を操作、強い意思があれば適合と進化の度合いに反映できる設定などなど……にじそうさくこわれる

後付け設定とはいえ、こんなやべぇ存在を作る試作ウイルスってホントに普通のTの試作なのか?
もしかしたらバーキン氏からの提供だからG系の試作だったり、始祖系でウェスカー計画用の専用な試作(建前)だったりすんのかねぇ…

なお、マダオおじさんは「パワーと持久力と回復力と優れた五感ならあります(痛いものは痛い)」って感じです。
つまり純粋な人間…人間?のクリス・レッドフィールドとかジル・バレンタインって怖いなぁ…とづまりすとこ。




 

 

 

 二人でネメシスをシバき倒し、爆発炎上するビルの屋上からジルさんを抱えて飛び降りた。

 とっさの判断だったから断りもなく抱えてしまったが、向こうはあまり気にしていない様子。良かった…(粉蜜柑)

 

 しっかし死ぬかと思ったわ火炎ネメシス戦。

 いくらリジェネ体質でも痛いもんは痛いんじゃい。

 

 ジルさんの丸焼きを作るわけにはいかないから我慢したけどさぁ…アツゥイ→治る→アツゥイ→治る→アツゥイ→治る…みたいなのはもう嫌だ。

 

 スコップで火を払っていたが、どうしても完璧には防げない。おかげで長袖のワイシャツがワイルドな七分袖(しちぶそで)になってしまったし。踏んだり蹴ったりだな。

 なお、ジルさんはこちらが火傷していないことに驚いていたが、実はしてないんじゃなくて治っちゃってるんですよねぇ、とは言えなんだ。

 

 本当に今の戦闘で死んでいて欲しいが、おそらくまだアレは生きているだろうな。

 だってボスだからね。悲しいね。

 

 何だかストレスのせいか胃がムカムカしてきたぞ。

 断じて胸焼けとか胃もたれではない。はず。

 

 

 

 地下鉄に向かう道すがら、弾薬を補給したいジルさんの発案でガンショップへ寄ることに。と言ってもこんな状況なので店内は荒らされていたし、棚は見事にすっからかんだ。

 僅かに残った商品なんて、自分には使いみちなど分からない物ばかり。しかし彼女には分かるようで、良くわからん白いお粉や謎の部品を何のためらいもなく回収していた。強化パーツってヤツかしら。

 

「誰だ!!!」

 

 そこにショットガンを構えた男が登場。

 こちらも反射で大斧を構える。

 

「何だジルと……ウェスカー?」

 

 はい、まーたウェスカー氏の知り合いが入りましたァ!!!!!

 

 彼の名前はロバート・ケンド氏というらしい。

 なんとスターズの関係者なのだとか。

 ……ああ!ここバイオ2のガンショップかい!

 

 でも店舗の形ってこんなんだったかなぁ?

 ま、何でもゲームと同じと考えるのも良くないか。

 

「あー、私はアルフレッドです。人違いなんでウェスカーさんじゃないんですよ」

 

 ロバート氏にはかなり驚かれたが、ジルさんの説明により「郊外に住んでたウェスカーのパチモン」だと納得してもらえたのは幸いだ。

 そんで彼女はロバート氏に「お前が必要だガンスミス。私と共に来い!」とお誘いをかけていたのだが、何やら都合が悪いようで断られてしまった様子。

 

 他に手はあるから心配するな、大丈夫だ、君たちも無茶はするなよ…そう言ってバックヤードに引っ込むロバート氏からは、何やらただならぬ雰囲気が漂っていた。

 思わずジルさんと顔を見合わせて、ついドアに近付いてしまう。

 

 

 

「パ…パ…」

「大丈夫だからな…大丈夫、心配ない」

「……う、ん」

「いい子だ…」

 

 

 

 あー、そーゆーことね。

 完全に理解した(わかった)

 

 

 

「……行きましょう」

「ジルさんちょっと待っててもらえる?」

「どうしたの?」

「えーと、少し用を足したくてそこの路地に」

「警官の前で良い度胸ね。緊急時だし見逃してあげるわ」

「ありがたや」

 

 ……

 

 Foo~~~↑さっぱりしたわ。

 

「お待たせ~」

「水、飲む?」

「自分の水ボトル持ってるから大丈夫やで」

「……あの子は無事よ。きっと」

「ありがとう」

 

 ちなみにジルさんがワクチン開発者(捕獲予定)の話でロバート氏を釣り上げようとしていたが、確実性の無さが原因か、もはや手遅れなのか、彼は出てこなかったらしい。

 

 あー、ロバートさん家のこと考えてると、まーた胃がムカムカしておトイレ行きたくなってしまう……あかんな。

 はよアリエルのとこ戻ろ。

 

 

 

 

 

 「…スタァズ…」

 

「…頼むから死んでくれ」

 

 で、帰ろうとしたら今度はロケラン装備で戻って来やがったネメシス。復帰が早い。

 ちょうど連絡を取っていたカルロス氏も、殺したんじゃなかったのか、と無線越しに引きつった声を上げている。

 

 ジルさんと共に照準を示すレーザーを避けながら逃げるが、度重なる襲撃に彼女の顔色は悪かったし、もちろん自分の顔色も良くない自信がある。

 早く駅に戻らなければならないのに邪魔なヤツだ。こんなもん連れたまま帰ればMPKどころの騒ぎではない。クソ。

 

「あのランチャー、アイツ自身に撃ち込んだら死ぬかなぁ」

「ちょっ!」

「先に行っててくれ」

「バカ言わないで!」

 

 追跡されるのはもう嫌だった。

 

 後から指摘されたが、この時の自分は自棄になっていた。そして同時に慢心してもいたのだろう。

 これまでウェスカーという超人の肉体性能に寄り掛かるだけで、ろくな失敗を犯さずに事を運んできてしまったのだから、いつかはこうなるのも当然だったのだ。

 つまり、やっちまったわけだ。

 

 自分はワクチンを得てアリエルを逃がすまで、消耗は避けねばならなかったのに、何をとち狂ったのか転身し、ネメシスに立ち向かっていた。

 

 「スタァズ!」

「死ね」

 

 正面から機械部分に大斧を叩き付ける。横殴りにされて瓦礫に頭から突っ込む。ゴリ押しの結果は出血で精算。

 しかし自分と痛みが切り分けられる感覚は、いともたやすく肉体を立たせた。不可思議にも身体が思い通りに動く。現実感の遠いままに。

 

 弾をバラまく音がした。彼女は逃げなかったようだ。

 否、この時は認識していなかったが、彼女は自棄になっている間抜けをカバーしてくれていた。

 

「もう!勘弁してよ!」

 

 銃撃に気を取られているヤツの後ろから、うなじに刃を叩き付ける。首を痛めたのか鈍る動き。どうかこのまま死んでくれ。

 もう一度うなじに攻撃を。

 死んでくれ。死んでくれ。死んでくれ。

 

 「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!」

 

 触手が脇腹をえぐる感触。太い針が捩じ込まれ、そこから液体が流れ込む。言い表せぬ違和感が血流に乗り、やがて溶けるように消え失せた。

 コイツは何がしたかったのだろうか。

 分からないが、どうでも良い。

 斧を叩き付ける。

 

 ヤツが衝撃で取り落としたランチャーを奪い、頭に撃ち込む。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ……と弾切れまで至近で撃ち尽くした。

 それでもまだ生きている気がする。

 ほら、痙攣しているのだコイツ。

 立ち上がろうと手足が動き出す。

 なんてしぶとい。

 

「駅に戻るわよ」

 

 カルロス氏から秘策があるとご一報。

 もう火力の高い武器は無いし、それに賭けてみよう。

 

 渋い顔をしている彼女を追いかけ地下鉄へ。

 なお、カルロス氏の秘策は路上に停車してあるタンクローリーを使った、大規模爆発による攻撃だった。ざまあみろ。

 

 燃え上がる路上を眺めていると、ようやく肩の力が抜けた気がした。

 ああ、疲れた。

 

 

 

 

 

「カルロス、助かったわ」

「いや、こちらこそ君たちには助けられてるからな」

「改めて言わせて。最初に酷いこと言っちゃってごめんなさい……本当にありがとう」

 

 安心した顔で迎え入れてくれたカルロス氏と合流し、電車に向かう。

 その道すがら、渋い顔に戻ったジルさんが口を開いた。

 

「アルフレッド。少し良いかしら」

「何かな?」

「……貴方が素人だってのを無意識に忘れていた私も私だけど、こんな状況だから言わせてもらうわね」

「何でしょう」

「勇気と自棄は違うと覚えて欲しいの。自棄になるのは止めて。貴方だけでなく、共に行動する人間を危険に晒すことになるわ。今回は貴方のカミカゼで私が危険に晒された」

「あ……すみません」

 

 彼女は逃げずに銃撃し、自分はそれを利用して攻撃を成功させた。最終的にはカルロス氏の案に助けられてもいる。

 つまり自分だけではもっと無様な結果だったはずだ。

 

「貴方には何度も助けられたし、能力を疑うわけじゃないの。でもね、こういう状況じゃあ自棄になったヤツから死んでいくわ。下手したら周りを巻き込んでね。貴方が異常に死ににくいから、今回は助かっただけなのよ」

「はい…」

「もしアリエルを背負っていたら、貴方はあんな事する?」

「しない、な」

「その慎重さを忘れないようにしてね」

 

 ごもっともです。耳が痛い。

 

「……ご迷惑をお掛けしました」

「いいえ。私も色々と助けられたもの。ありがとう」

「こちらこそ、ありがとう」

 

 

 

 

 

 人としての完成度が違うって、こういうことなのかもしれないな。

 

 

 

 




 
・今日のおじさん(素人)
ぶっちゃけ斧は銃より使いやすい気がしてきた人。
濃厚なTをブッスリ♂されたが、そりゃ効きませんわな。

今までで一番ダメージを食らったのが、ダントツでケンド親子の会話だったりする。
ジルさんより弱いので、お先にけろけろけろっぴするし、焦りや度重なる戦闘で判断力も下がる。正規の訓練を受けたわけでもないから仕方ないね。
まるで駄メンタルなおっさん、略してマダオである。



・ジルさん(プロ)
壁が居るから生傷は原作より少ない。
精神的に頼れる相棒(カルロス)
肉体的に頼れる仲間(目が死んでる)
だいたいそんな感じ



・カルロス氏(プロ)
ジルさん→頼りになるスーパーガール。尊敬すら感じる。
おじさん→やけに能力は高いけど一般人だから、一人で何かやらせるのは良くない。ここぞの時の根性あると思うぞ。



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傘屋の退職金は基本的に一括 死 払い


アレ公式で世界が繋がってたのかたまげたなぁ。
もうバイオの暗黒メガコーポはフランクさんのクローンで生物兵器作れば良いと思うよ!

感想欄ネメシスくんの方が応援されてて草
確かにネメシスくんからすれば、任務内容の難易度がサイレント上方修正されてるからフザケルナ状態やな!
UBCSの件もアレやし、やっぱアンブレラは糞クライアントってはっきりわかんだね(責任転嫁)

ほぼ野郎しか出てこない回。




 

 脇腹に怪我を負っていたミハエル隊長は、しかしそれを感じさせない足取りで出迎えてくれた。我々が出発する前より顔色が良いのは回復のおかげか、救助任務の達成が近いからか、その両方か。

 傭兵というネガティブな意味合いも含む肩書きを持ちながらも、彼やカルロス氏は善性が強い人物だ。ジルさんと同じように、救える命を想ってか表情が和らいでいる。

 

「お手柄だな。良くやってくれた。さあ出発するから座ってくれ」

 

 ようやっと抱き上げることのできたアリエルは、熱は下がっていないが寝息は穏やかになっていた。

 

 小さな身体から鼓動を感じる。

 生きている人間のにおいがした。

 生きている。

 

「お嬢さんも良い子で待ってたぞ。起きたら褒めてあげないとな」

「ええ。ありがとうございます」

「さて、君はナサニエル・バード(ワクチン開発者)の確保に同行したいんだったな」

「はい、この子に必要なので」

「切実だな。条件は覚えているか?」

「この子が死から起き上がった場合、最低でも寝かせるのを邪魔しない。代わりに私が何らかの理由で脱落しても、そちらはこの子を見捨てない」

「同行時の注意は…ああ、やらかしてジルに言われてたんだから、大丈夫だな」

「はい。情けない話ですが…」

「俺に言わせりゃ戦場で素人が生還できたんだ、立派なもんさ」

 

 というわけで日付も変わりしばらく経った真夜中に、ジルさんとミハエル隊長、その他の隊員と民間人が乗った電車を見送った。終電はもう一本後ってやつだな。

 彼女とは「ラクーンシティの外で会いましょう」と約束をした。自分は守れないかもしれないが、アリエルが代わりに約束を果たしてくれるだろう。

 

 というかもし脱出したとしても、外でジルさん(善き人)とあまりお会いしたくないんですよね。

 

 ここ数時間、素の状態で人の善性に晒され続けたせいか「盗んだ他人の名前(アルフレッド・スミス)で呼ばれる」のが苦痛になってきたのが理由だ。後ろめたさハンパない。

 じゃあ今ここで訂正できるかと言われたら無理だけども。明らかに白人の名前じゃない「マダオ」は名乗ると怪しさだいばくはつだし、もちろん「アルバート・ウェスカー」は使えない。というかどちらも自分にとって、結局は他人の名前だからなぁ。

 

 ま、家主の名前を借りる必要があるのも最優先課題を達成するまでだから、それまではってことで先送りするしかあるまい。

 

 こんな後ろ向きの自分と違い、カルロス氏なんか凄いぞ。

 

 ジルさんに心配された時に「死ぬわけないだろ!俺が死んだら世界の損失だぜ!」みたいなこと言ってたからね。

 少々フラグ的に危ういが、同時に主人公力がかなり高まっておられる……さすがやな!

 

 

 

 

 再びアリエルを詰めたリュックを背負い、装備を整える。積極的に戦う役割ではなくなったので、基本的に余分な装備は外す方向だ。

 具体的に言えば、斧と斧と斧と斧を外して携帯するのはナイフに変更。

 大斧は持ってるし、もはや相棒と言って良いスコップは外せないが。

 

 ちなみにバード確保の任務に選出されたのは二名。もちろん一人はカルロス氏で、もう一人はタイレル・パトリックという隊員だ。

 ぶっちゃけニコライ某が同行者じゃなくて安心した。

 

「隊長とカルロスから聞いてるぜ。よろしく」

「お世話になります」

「同年代に丁寧な言葉遣いされるとサブイボが立つから勘弁な」

 

 彼も気の良い人物でした。

 後でドン引きされたけどな!

 

「薪割りみてぇにゾンビの頭カチ割ってやがる…」

「パワーだけなら即戦力ってジルからは聞いてたが…マジでパカンって音がするのな」

 

 地下鉄から出発したが、やる事はあまり変わらない。

 遠距離攻撃の二人が主戦力で、時おり弾幕を抜けてきたゾンビを自分が切ったり叩いたり、という感じだな。

 もちろん背中に気を使いながらだが。

 

 地下鉄から目的地まではさほど離れていないようで、少し歩けば直ぐに到着した。

 しかしその目的地は病院ではなく警察署。何故。

 

「なぁ、バードは研究者だろ?なんでまた…」

「情報によるとスターズのオフィスに居るんだとさ。早くとっ捕まえろってお達しだ」

「確保って救助の意味じゃなかったのか?」

「良いか、バードはアンブレラの機密を……」

「……なるほど、嫌な任務だなぁ」

 

 なるほどなぁ(聞き耳:自動成功)

 

 このように署の入り口へ向かいながら小声で会話をする彼らだが、まあ部外者が居れば普通には話せないこともあるわけで。

 

「カルロスさん、どうかしたのか?」

「あ、ああ…大丈夫だ何でもない」

「すまんなアルフ。必要な事ならきちんと教えるから」

 

 だもんだから彼らは今、お仕事関係のお内容についてはおロシア語でお話していた。もちろん自分に社外秘が漏れないように、という配慮だな。

 しかし残念ながら、なんとウェスカー氏はロシア語もご存知だったようで、実は自分もめちゃくちゃ聞き取れている。

 もちろん首をかしげて誤魔化していますがね。

 

 いや、我ながら驚いてるんだよ。

 英語が使えるのは納得だけど、何故にロシア語も?ってね。多国籍企業の幹部やるならこれくらいは必要スキルなんですか?え、怖い。

 というか、ウェスカー氏ってアンブレラでの年収はいくらだったんだろうか。ちょっと気になる木。

 

「あ、あれは…」

 

 署の入り口に近付くと、警官がゾンビに襲われかけているのが見えた。

 カルロス氏が咄嗟に銃撃し、ゾンビは倒れ伏す。しかしパニックになったのか、逃げた警官は署の入り口に鍵を掛けてしまった。

 

 あちゃー、という顔をしてタイレル氏が解錠作業に取り掛かる。カルロス氏の方はゾンビの装備を見て、何か思い付いたような顔でポケットを漁り始めた。

 

「スターズのIDか…使えそうだ」

 

 彼が引っ張り出した身分証のカードには、ブラッド・ヴィッカーズと書かれていた。ゾンビはスターズの隊員だったようだ。

 つまり「洋館事件の生き残り」である。

 

 何と言うか、彼も裏切りの被害者だったと分かると、やるせない気持ちになってしまうな。

 おこがましい事ではあるが、申し訳なさも感じる。

 

「おいアルフ、顔色が悪いぞ」

「いやぁ、スターズで思い出したんだけど、ここ警察署だからね。また死んだウェスカーさんに間違えられて、面倒なことになったらやだなぁ…って」

「ああ、ウェスカーってスターズの隊長だっけ」

「そうそう、その隊長さん。ジルさんと何かトラブってたみたいで、彼女と初めて会ったときにずいぶん睨まれたよ…」

「ありゃま、そりゃ災難だったな」

 

 やがてタイレル氏が解錠に成功し、警察署に踏み込む。

 しかしそこには誰も居なかった。警察署って放送によると避難場所になっていたはずだが、もうここの民間人の輸送は終わっているのだろうか?

 

「さっきの警官、どこ行ったんだ?」

「分からん…が、コレを使おう」

 

 受け付けに設置されたパソコンを弄っていたタイレル氏が、どこぞへ続くシャッターを上げた。

 

「とりあえずそこを開けたから、カルロスは署内の様子を見てきてくれ。俺はここでもう少し調べる」

「任せろ。バード確保の手柄は俺のものだな」

「HAHAHA!今回は譲ってやるよ」

 

 同行者でしかない自分はタイレル氏の目の届く場所で待機である。開発者の身柄を目前にもどかしいが、アリエルの安全が最優先だ。

 

 パソコンにかじりつく彼を横目に、使えそうな医療品が無いか探してみたが、あるのは怪我人のための物ばかりだ。

 避難場所に指定されていたのだから、少し期待していたのだが。

 

 アリエルは再び咳するようになっていたので、仕方なく起こして咳止めを飲ませることにする。

 咳を舐めてはいけない。続けば体力は奪われるし、激しくなると肋骨が折れたりするのだ。普通に怖い。

 

「ほら、シロップ飲めるか?」

「ん……」

 

 あまり喋らせるわけにもいかず、咳が落ち着いてからすぐに寝かせた。本当は薬である咳止めだけでなく、効果の強いハーブも使い続けるのはあまり良くないと思うのだが、致し方ない。

 

 しばらくするとタイレル氏が「スターズのオフィスに向かう」と言った。受け付けのパソコンでできる事は限られているし、先行しているカルロス氏とも合流したいそうだ。

 もちろん着いていく。

 

 カルロス氏があらかたの敵を片付けてくれたようで、廊下は血塗れになっていた。

 天井から不自然に釣り下がる死体を見て、嫌な記憶が蘇る。

 

 そう……みんな大好きリッカーさん。

 

 思わずリュックを腹側に抱え直した。

 タイレル氏もゾンビや銃撃の仕業にしてはおかしな死体を見て、警戒を強める。

 

「うっわ………」

「化け物までいやがるのか」

 

 とうとうカルロス氏が片付けた物らしき、リッカーの死体が発見された。

 脳味噌が剥き出しってリアルだとキッツいな。

 

 でもそんな造形より、天井を這い回って遠距離攻撃してくるという点で、アリエルを背負った自分の天敵である。おファック。

 

 

 

 しかしカルロス氏はよほど丁寧に掃除をしてくれたようだ。警戒しながらも、治安の悪いヘンゼルとグレーテルよろしく点在する死体をたどるうちに、すんなりとスターズのオフィスまで到着する。

 

「アンブレラが次々と研究者を殺してるんだぞ!良いから早くスターズを寄越して私を助けろ!」

 

 で、ドアを開けたらコレだよ。

 パソコン越しに、カルロス氏がとんでもない内容で怒鳴られていた。

 

 

 

 

 とんだリモート会議である。

 

 

 

 

 

 




 
・おじさんの能力
情報部で大活躍していたウェスカー氏なら、ある程度メジャーな言語くらい分かるやろってことで。
多国籍企業の幹部だし。

ゾンビの頭を割ってもステップで返り血を避ける特技を身に付けたおじさん。
ぬるって動きで避けるのでご安心ください。


・カルロス氏
隊長がロシア系なんで、ロシア語を多少は使えるようになった…という独自設定を生やされた男。
同行者おじさんのフィジカルやべぇなって思ってる。


・タイレル氏(RE3のすがた)
隊長がロシア系なんで以下略。
別に嫌悪感とかではないが、普通におじさんのことを人間ちがうやろ!と疑い始めた。
でもメンタルは普通に人間なんだよなぁ。


・マービン先輩
おじさんにより多少タイムスケジュール消化が早まっていたおかげで、ピタゴラスイッチ的に助かった人。
しかし積み重なる疲労とストレス、ゾンビと化した同僚に謝罪されるショッキング体験のせいで一時的に発狂し、どっかに逃げ込んでいる。
この後どうなるのかは不明。
もしかしたら立ち直り、たった一人だけの先輩として、後に訪れる新人をしっかり歓迎してくれるかもしれないし、そうはならないかもしれない。


・ジルさん
MK5ならぬMC5
→マジで地下鉄が地下墓所(カタコンベ)にされる5秒前




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バイオの研究者、情報セキュリティがガバ


バイオのRE3は最初っからホント良い人いっぱいおるけど容赦なく死んでくから…涙がで、出ますよ。
RE2もレオンの先輩方がさぁ(クソデカ溜め息)


今回のMVPはタイレル・パトリックの回

※最後辺りのセリフの発言者が分かりにくい様子だったので、訂正。



 

 

 

 室内に入ってくるなと無言のまま手で制され、タイレル氏と共にオフィスの入り口で待つ。

 

 やがて病院から通信を繋げていたバード氏は、言いたいことを言い散らかすと連絡を切ってしまった。しかし英語で遠慮なく叫ばれた内容を自分が聞いていたのは明白だ。嫌な沈黙が部屋に満ちる。

 だが、ここで黙って時間を浪費していては、命綱たるバード氏が消される可能性を上げるだけだ。

 

「時間が無いのは把握した。聞いてはいけないことを聞いたのも把握した。速やかに彼の身柄を確保したいのは私も同じだから邪魔はしない。私の身柄をどうするかは任せるが、この子だけは脱出を希望する。切実に」

「……アルフ達の同行は隊長に認められていた。今回は俺のミスだ」

「あー、そう……アンタは錯乱して、この街で流れる『アンブレラのダークな都市伝説』を信じてしまっただけだ。外で言いふらしても、他の錯乱した連中と同じ扱いを受けるだろうから気をつけろよ」

「…ありがとう」

「とりあえず俺はここのパソコンで情報収集する」

 

 そこに飛び込んでくる無線連絡。

 対応したのはカルロス氏だが、何やらただ事ではない様子だ。

 

「は?脱線した?」

 

 脱線した。生存者は私だけ。みんな死んだ。

 化け物が。アイツは死んでない。

 ニコライが裏切ったのよ。

 

 漏れ聞こえるのは絶望な状況。

 シナリオはまだ終わっていなかったのだ。

 

 民間人も全員が亡くなったそうだが、顔も知らぬ彼らよりも、お世話になったミハエル隊長が亡くなっていることが肩を重くした。

 

 しかし傭兵の二人は慣れているのか、慣れざるを得なかったのか、やるせなさを短い言葉で吐き出してすぐに精神を切り替えている。

 

「おい!ジル!!おい!!!」

 

 切れた無線に向かって叫んでいたカルロス氏は、ジルさんを助けるために部屋を飛び出した。

 

「俺たちは病院へ向かうからな!」

「分かった!」

「気をつけて!」

「アルフもな!」

 

 その背中を見送ると、こんなにもどうしようもない状況なのに、何故か「彼らは大丈夫だ」と思えてしまったのだから不思議だ。

 

 

 

 

 

 

 

 最低限の情報収集を済ませたタイレル氏と共に、必死こいて病院に辿り着いたものの、発見したナサニエル・バードはとっくに撃ち殺されていた。

 

 院内に居たゾンビだのリッカーだのハンターだのを、せっせと叩き殺してコレだ。というかリッカーはともかく、自然発生しないハンターが居る時点でアレだったのだろうが。

 それでも間に合わなかった事には変わりない。

 クソが。

 

 先に殺されやがって。ふざけるなぶっ殺すぞ。

 

「おい!まだ諦めるな!何か手掛かりがないか調べるぞ!」

 

 タイレル氏に肩を揺すられて、自分がようやくその死体へ斧の刃先を向けていたことに気付いた。

 無意味なことを。我ながら嫌になる。彼の言う通り、恨み言など口にしている暇はないのだ。

 

 やがてパソコンからアンブレラのやらかしに対する証言を含む、バードが保身に奔走した記録が発見された。同時に、一人分のワクチンが残されている可能性が示される。

 そしてとうとう保管庫から、特徴が合致する液体が発見された。

 ラベルにはワクチンの文字がハッキリと書かれている。

 

「あった!!あったぞアルフレッド!!!」

「あっ……あっ……」

「ほら!しっかりしろおじさんだろ!嬢ちゃんに早く打ってやれ!」

 

 こわばる手でタイレル氏からワクチンを受け取った。

 液体が紫の光を仄かに放っている。

 それは奇跡のように目を焼いた。

 

 おろしたリュックから眠るアリエルを抱き上げ、カバーを外した注射針を近付ける。

 

「少し痛いが我慢してくれ…」

 

 ワクチンはつつがなく針の向こう側に吸い込まれていった。何の抵抗もなく。

 心なしか、アリエルの寝顔が穏やかになった気がする。

 

 これでもう大丈夫だ。これで、もう

 

 

 

 嗚呼、

 

「よ、かった…ありえる………ありが、とう…」

 

 

 

 全身にのし掛かっていた重りのようなものが霧散する。今までこんなにも呼吸しづらかったのかと驚きが隠せない。目頭が痛む。肺が痛い。

 しかしそれよりも、ただただ感謝があった。

 視界が歪むのを止められない。

 

 何に感謝して良いのか分からない感覚だ。もちろんワクチンを見付けてくれたタイレル氏だけでなく、そこに至るまで協力してくれたカルロス氏やジルさんや、他の人にも会って手を握って全力でありがとうを言いたくなる。そんな柄じゃないのに。

 それだけでなく、この万感の思いを何かにぶつけたい衝動のようなものを感じている。

 

 ざっくり言うと「森羅万象ありがとう状態」というやつだった。

 脳味噌が感謝に支配されている。

 具体的には、分泌された感謝の脳内物質(エンドルフィンやオキシトシン)でキマッてる感覚がする。

 しかしそんな理屈など、今はどうでも良いのだ。

 

「おいおいおい、まだ終わりじゃないぜアルフ。お嬢ちゃんと共に、この地獄から脱出するまでがアンタのやる事だろ?」

「あ、ああ…そうだな……ありがとう、ありがとう……」

「バード確保は失敗したんだ。民間人の保護任務くらいは達成しないとな。これで俺たちの面目も立つってもんさ」

 

 すよすよと寝息を立てるアリエルを抱き締めたまま、タイレル氏に背中をバシバシと叩かれる。

 アリエルの服を塩辛い水分でずいぶんと湿らせてしまったから、後で謝らなければ。

 

 無線が鳴る。

 

 

 

 

 

 それは、この事態が全て解決したわけでなく、我々がいまだ地獄のただ中に居ると告げるためのものだった。

 

「タイレル!タイレル聞こえるか!ジルが!」

 

 感染した。病院へ連れていく。

 

「何っ!?分かった早く来い!バードのオフィスにいる!」

 

 一人分しかなかったワクチンを使い果たした直後に、なんで、こんな。

 

 いや、ジル・バレンタインという人物は主人公だ。だから抗体を持ってるし、感染しないはずで、でも感染した。どうしてだ。設定では。

 そうだ確か、いくら抗体がある体質でも体内に入ったウイルスの量が多ければ……そういうことか。

 

 ネメシスが蜂みたいな真似をして自分に針を刺した、あの攻撃の意図はこれだったのか。自分は体質的にスルーできた。しかしそれをジルさんが受けた場合、そうはいかなかった可能性が高い。あのクソ野郎。

 

「タイレルさん、ここがワクチン開発者のオフィスってことは、完成品が無くても作り方や材料ならあったりしないか?ここじゃなくても院内のどこかに…」

「もちろん今調べてるところだ。アンブレラめ、とんだ雇い主様だよまったく」

「…机と書類棚を見てくる。急ぎなら処分し損ねた資料があるかもしれない」

「ああ頼む。アナログもバカにならんからな。俺は病院のシステムに侵入するので忙しくなる」

 

 かつてのように「アリエルが助かったら、もう他の人なんてどうでも良い」などと、口が裂けても言えないし思えなかった。

 別に改心いたしましたってわけじゃない。

 

 自分の人間性がどうしようもないことなんて自覚している。今ですらたぶん、ジルさんやカルロス氏、タイレル氏みたいな恩人ではなく、名も知らぬ誰かの命のために何かしろと言われても、ただ面倒だと思うだけだろう。

 他人の苦しみを前にしても「へぇ、可哀想だな」と口にして、目を離した翌日には忘れてしまうような人間だ。善性は期待できない。

 

 だが、ジルさんは他人じゃなくて恩人だ。

 あの人が感染して「もうワクチンは無いから仕方ない」なんて、認められない。

 

「アンブレラ社員用の緊急時マニュアルが出てきた!地下施設があるみたいだぞ見てくれ!」

「やけに硬い部分があると思ったらそれかよ!俺も一応社員なのに、権限が足りねぇとか言われたから裏から殴ってたんだ!」

 

 文字通り人間離れした動体視力でゴリ押しし、単語拾いと文脈読みで内容をざっくり把握して、必要そうな部分をガン見で精読すること数分。

 なんとマニュアルだけでなく、机の引き出しからパスワードやら何やらを書き記した紙が出てきた。

 

 バードおじいちゃんだったから仕方ないのかもしれないが、これは酷すぎる。いや、パソコンに付箋紙でパスワードを張り付けるよりマシか?

 何はともあれ、ありがたく頂こう。

 

 しかし、いくら優れたセキュリティシステムがあったとしても、使う人間がアレだとダメだという典型的な実例だったな。

 いや、なんとなく電子機器類が、1998年にしてはちょっと発達し過ぎてる気はするけども。

 

 

 

 やがてタイレル氏が「ワクチンは街を救えるだけの備蓄が地下施設にある」という情報を発掘した。

 

 ほぼ同時にジルさんを背負ったカルロス氏が到着。タイレル氏が侵入しておいた病院の警備システムを操作し、必要な場所のシャッターを下ろす。

 損壊で閉じるのが無理な場所は、力に任せて運んだ棚やら何やらをバリケードにして塞いだ。

 

 なおその間に、タイレル氏がカルロス氏に事態を説明している。

 

 

「そうか、病院のワクチンはアリエルの分で…」

「だがカルロス、ジルは幼い少女にも必要なワクチンを、自分の方が危ないから先に打て、なんて言う女か?」

「彼女はそんなんじゃない!分かってるだろタイレル!」

「だろうな。それにだな…ジルだけでなく街の連中まで救えるだけのワクチンが、地下施設にはあるんだぜ」

 

 

 

 

 

 引き続き情報収集を行うタイレル氏にアリエルとジルさんを任せ、自分とカルロス氏はアンブレラの地下施設に向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 




 
・おじさん(38歳)
陰キャを全方向から強い光で照らすとね、眩しくて顔をそらそうとして、下を向くよね。
すると自分の真下に濃い影ができているのが見えるんやで!HAHAHA!

厳正な抽選の結果ワクチンがご用意されていた勢。
チケットヤッター!!!!!って言ってたら、一緒にライブに行こう(この人は助かるだろう)と思っていた恩人(ジル)が落選していた人。
瞬間移動より速読術の方が人生の役に立つと思っているくらいには活字が好き。

なお前回スターズオフィスに侵入したが、ウェスカー氏の机をたくさん調べるどころではなかった人。
残念!



・カルロス氏(21歳)
画面外で立派にヒーローしていた原作主人公の片割れ。
おじさんとコンビ組むことになった。
四人の中で最年少やぞ。ピチピチやぞ。

抽選の結果ワクチンがご用意できませんでしたって言われたから、おじさんと共に主催者枠(アンブレラ)のワクチンを狙っている。

ガワだけとは言え、ウェスカーとカルロスのコンビ結成した二次創作って、なかなか珍しいのでは?



・アリエル(12歳)
リュックの中で頑張ったで賞!
今のところ、すやすやしている。



・タイレル氏(32歳)

斧だけで 生物兵器 叩き切る
       お前もたぶん ご同類だぞ
(タイレル 心の俳句)

おじさんのことを同年代だと思っているが、ソイツは6つ歳上だぞ。ウイルスで少しアンチエイジングされてるだけだぞ。

・タイレルさん色々と頑張ってたけど、病院や研究所のシステムに鉄壁ディフェンスのレッドクイーンさんはおらんかったの?
→大佐と共に避難準備してるから不在ってことで。



・ジルさん(23歳)
原作より活躍の場が減ってしまったすまぬ。
お留守番するやで。
新鮮な23歳。



・ミハエル隊長
ネメシスを電車から強制退去させるために尽力し、爆炎の中で殉職された。



・ニコライ某さんじゅうごさい
いっぱい暗躍して、いっぱい監視して、いっぱい報告した。

ドル札風呂とか入ってたりするんかな。
口座の桁の数を肴に酒飲んでそう(偏見)




ニコライ某のことを、家族が「今時ならライブチケットやグッズとか高額転売してそうな邪悪」って表現したので、しこたま笑いました(日記)


……次回もほぼ野郎しか出ないバイオ二次創作をよろしくな!!!




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くそでかブーメランに草も生えぬ

 
皆さんの反応で元気に書かせていただいておりますおほーっ!!!
楽しくデッドラ履修してきましたが、なるほど限定的な共通世界設定でしたか道理であまり情報が集まらんと…皆さん様々な情報ありがとうございますですわ!

ここ最近シリアス系だから、次は平和な小話を挟みますわよ!(次回予告)




 

 

 

 思い詰めたようなカルロス氏の表情は、まるで先ほどまでの自分を見ているようだった。

 

 

 

 ワクチンに関して、自分は彼やジルさんに何も言えない。

 だからさっきはタイレル氏が気遣って、自分をバリケード係にしてくれたのだと理解していた。

 

 ワクチンをアリエルに使ったことを後悔しているわけではない。するものか。

 けれど卑しくも「ジルさんが感染した知らせが来る前に使ってしまって良かった」と思ったことは確かだ。

 例えアリエルにワクチンを打つ直前にジルさんが運び込まれたとして、これからの人生で価値を計るならばジル・バレンタインという人物が世界にとってかなりの高価値だと理解していても、自分はワクチンを譲ってくれと頼んだだろう。

 

 食えもしないプライドでアリエルの命が助かるなら安いものだと土下座して、哀れがましく脚にすがりつき、彼女に未来を下さいと拝み倒すのは何も苦痛ではない。

 それでも無理なら、恩ある彼らに敵対してでも、と安易に考えてしまう程度の小物が自分である。

 

「何でアルフがそんな顔してるんだ」

「どんな顔だ」

「まるで鏡を見てるみたいに酷い顔だよ」

「……そうか」

「アンブレラの悪事について、タイレルから聞いた」

「ああ」

「ジルはさ、それを知ってた。なのにアンブレラ社員の俺を信じてくれたし、助けてくれた……そういう人なんだ…」

「本当に彼女は、善い人だな」

 

 アンブレラの裏切り者にしか見えない男が言った「ウェスカーなんて人は知りません」という嘘を、信じてくれている人でもある。

 

「だから今度は俺が、俺が助けてやらないと…」

 

 彼は自分と同じ酷い顔をしていたが、同時に自分とは違う力強い眼をしていた。

 

「君は凄いな。情けない話だが……私は、彼女が死んだ場合、誰にも何も謝れないまま苦しんで死ぬ気がする。だから助けたい…」

 

 いわば、自分の精神衛生のために助かって下さいと言っているようなものだった。そんな酷い理由でも、誤魔化してはいけないと思ったのだが。

 

「そうか……ワクチンを使ったことで謝ったら、何か硬い物で思いっきりぶん殴ってやろうかと思ってたぜ」

 

 いつの間にか、酷かった表情は持ち直していた。

 彼は力強い眼をそのままに、しっかりと顔を上げている。

 

「俺は死なない。俺のいない世界なんて寂しすぎると思ってるからな」

 

 生きた表情で前を向いている。

 

「だがな、ジルの欠けた世界はもっと寂しくなるだろう?

 だから俺は絶対に認めない」

 

 本当に彼は、強い人だ。

 おかげ様で、こちらの背筋も少し伸びたよ。

 

 

 

 

 

 共に小走りで地下施設に向かう。

 下ってばかりの道のりは、アンブレラが街に深く根を下ろしている様子を体現するような構造だった。

 再び昇降機に乗り込んで今度は上へ…

 

 途端にバチン、と背後で弾ける音。

 足元を照らす火花。

 

 電気が切れて広い空間が全体的に薄暗くなる中、スピーカーから聞き覚えのある声が響いた。

 

「まさか君たちが食らい付いてくるとは思わなかったが、敬意を表してやろう」

「ニコライ!」

「だが残念ながら終わりだ…このゲームも、ジル・バレンタインの命もな。諦めて帰ることを推奨するよ」

「勝手に終わらせるんじゃない!!お前が!!!」

 

 お前が裏切ったせいだろうが。

 そう吐き捨てたカルロス氏は歯を食い縛り、スピーカーの有る方を獣のような眼力で睨み付けている。

 

 対して自分はそこまで怒りを感じていなかった。

 もちろん何も思わないわけではない。ニコライ某はかなり邪魔だと感じる。

 

 しかし、ああいう手合いに対していちいち怒っても無意味だと思ってしまうのだ。

 

 なんせ相手が怒ろうが嘆こうが、それを手のひらに乗せたつもりで笑うような人物だから。きっと直接ぶん殴られるまで、相手が同じ土俵に上がってきていると認めないだろう。

 で、そんな風に上から目線で事態を操作しているつもりの人間は、その自信の根拠となる奥の手的な何かを持っていて、それは総じて暴力の形をしているものだ…というのが自分の考えである。

 

 だからニコライ某がドヤ顔でゲームマスターを気取れるだけの何かが、この先にはあるのだろうと思う。たぶん。

 

「彼は本当にこちらを舐めているみたいだな」

 

 昇降機は必要なヒューズを集めれば動くようになっていた。我々を完封するなら設備にもっと致命的な損傷を与えれば良いのに、こんな中途半端な欠けを見せびらかすなんて「できるものなら追い付いてみろ」と言っているようなものだ。

 

 しかしコレはゲームではない。

 つまり馬鹿正直に昇降機を使う必要はないわけで。

 自分がカルロス氏をおんぶして、飛び上がれば解決だ。

 

「よし、私の背中に乗ってくれ」

「は?何のつもりだ?」

「背負ってジャンプするから」

「……冗談は止めてくれアルフ」

「冗談じゃない。有るかも分からぬ予備ヒューズを集めるより早いぞ」

 

 とりあえず倉庫の棚の横でビョーンと飛び上がり、アホみたいな脚力を披露する。ついでに落ちてきたゾンビの上に着地して踏み倒す。

 

「げぇっ!マジで跳べるのかよ…」

「ははは、我ながらヤバいとは思う」

 

 絵面もヤバいと思う。

 しかしアリエルと違い、頑丈なカルロス氏ならこのジャンプで掛かる負荷にも耐えられるはずだ。

 

 というわけで、時間に余裕があるわけもなし、と了承してくれた彼を背負い、一足飛(ひとあしと)びで階を上がった。

 

「よっこらしょういちっと」

「ぐえっ……変な掛け声だなぁ」

 

 しかし上階のコントロールルームには、ニコライ某どころか誰も居ない。つい先ほどまで誰かがそこに居たであろう証拠として、つけっぱなしのモニターがあるだけだった。

 

 見ればニコライ某は、ここで何やら報告書を書いていたらしい。

 

「逃げられたか!」

「うわ、この内容は…」

 

 報告書の内容はニコライ某が主導した「各所属の戦闘員と生物兵器の交戦記録」であり、彼の立場を端的に表すものだった。

 彼はU.B.C.S.に属しながらも別の集団の利益になるように動くスパイのようなもので、部隊の潜在的な敵として潜んでいたのである。

 

 しかし未知のB.O.W.や新型のNという表現を使い、やっている事の規模を見るに、彼はアンブレラの中でもこの街で大きく動いている勢力ではないのだろう。

 ネメシスみたいなデカブツを使える実験なんてできないような、またはしないような派閥に属する人員か、アンブレラ社員でありながらそれとはまた別の組織に属する人員かは分からないが。

 そしてこれが偽装でないのならば、報告書を書いて渡す相手が居るのだから、その背後に誰かが居るのは確実だった。

 

 と、そこまで考えて、ふと思い至る。

 

・表面的には主人公の仲間の立場

・裏の顔は敵で、裏切り者

・他人の命を使って情報収集

 

 あらまあヤダー…無印の隊長だよコレ…………

 

 やってる事の類似点になんとも言えぬものを感じながら目を通していると、どうやらニコライ某は自分をスターズ隊長のアルバート・ウェスカー本人か、そのクローンを利用した生物兵器だと疑っている様子もうかがえた。

 

 うん。そりゃそうだろうな。

 ある程度の情報が手に入るならば、スターズの立場だけでなく、普通にアンブレラ社員としてのウェスカー氏を知っていてもおかしくはない。

 なんかウェスカー計画みたいな名前のヤツもあった気がするし。何だっけあれ、ウイルス適応試験をパスしたらウェスカーの名字がもらえるお得なキャンペーンだっけ?

 

 とにもかくにもウェスカーという人物は、そういう実験に被験者の立場で関わっていてもおかしくないような、なんとも胡散臭い素性をしているのだ。

 しかもタイラント素体になれる大佐のような例もある。彼の推測を笑うことはできなかった。

 

 というか、自分でも考えたことはある。

 うろ覚えの映画版では主人公(アリス)の記憶が消され弄られ、ワサワサとクローンが登場していたような気がする。

 設定が共通しているとは言わないが、こちらの技術で似たような事ができても不思議ではない。

 

 つまり、もしかしたら自分は憑依転生したと思っているだけで、実は記憶をぶっこ抜かれたり不完全に人格移植されたアルバート・ウェスカー本人だったりするかも、なんて。

 意識が戻ったのが爆発直前の洋館だから、クローンまでは無いと思うが、そういうSF染みた想像をしたことが無いわけではないのだ。

 

 思考を切られるように、唐突にモニターが消される。

 真っ暗な画面には、アルバート・ウェスカーの顔が映っていた。

 

「データをタイレルに送れた。行こう」

「ああ、そこのゲートの向こうが地下施設だな」

 

 病院の内装もさほど古臭く感じなかったが、地下施設への扉はそれ以上に近未来な雰囲気を感じさせた。まだ20世紀で、ノストラダムスの大予言は来年だというのに。

 

 カルロス氏がパネルを操作し、ゲートを開く。

 社員であれば入れるとのこと。無断退職したウェスカー氏はたぶん入れないから助かった。ここはマスターキー(斧)が通用しなさそうだから。

 

 映画版のサイコロレーザーを思い出させる通路に足を踏み出した瞬間、無意識にカルロス氏のベストを掴んで横っ飛びしていた。

 先ほどまで居た場所に突き刺さる汚ねぇ色した触手。

 

「駅前でくたばったんじゃねぇのかよ!!!」

 

 驚愕するカルロス氏を担いで反対側に走る。追いかけてくる気配は人というより獣のそれに近い。

 

 あのボタンを押せ!と言われ、緊急用のデザインが目立つ壁面の赤を叩く。

 力を入れ過ぎてバキョっとボタンが壊れた感触に血の気が引くが、幸いにも防壁は稼働。

 ギリギリで滑り込んで溜め息をついた。

 

「…ジルが倒したはずだったんだ…首も落ちてた…」

「駅前で見たんだよな?」

「別の個体か」

「いや、私とジルさんをしぶとく付け回したんだから、同じ個体が生きて運び込まれた可能性もある」

「…………ニコライッ!」

 

 タイレル氏に報告を飛ばし、我々は警戒を解かぬまま足を進めた。

 

 

 

 

 

 




 
・また主人公に焼かれたおじさん
ノストラダムスの大予言で大騒ぎしてたのは日本だけらしいってマ?
ゲームありがち黒幕ムーヴをディスると、肉体的には特大ブーメランとなって脳天に突き刺さる悲しみを背負った男。ぴえん。

原作本人がUCで壁面ぴょんぴょんしてたから、これくらいイケるイケる。
脳筋「多分これが一番早いと思います」



・カルロス氏
ニコライ絶対ゆるさんマン。
ワクチンへの道のりが原作より遠いせいで心身が大変だが、ほぼ自力で立ち直った。伊達に21歳の若さでベテラン傭兵をしていないのだ。
RE3の姿じゃなくて3の姿だったらへたれてそうだったが。



・タイレル氏(おるすばん)
RE3だと先行していたジルに追い付き、地下施設ゲート開けた直後にネメシスくんにザクッと殺された人。あんなワケわからんもんに唐突に致命傷を負わされて、それでも助けてくれとか言わなかった地味にヤベェ男。
ミハイル隊長といい彼といい、胴体に穴開けられても他人やジルを案じる人間の鑑。



・ニコライ某
ゲームの進行上、プレイヤーキャラに対して舐めプせざるを得ない役割のせいで、性格付けがあんな感じになってしまったのかもしれないと思うと…涙がで、でますね…

カルロスを背負ってジャンプする、とかいう頭がおかしな内容の話を聞いて、慌てて逃げた人。





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○8月の短編集

 
癒しが足りないから発作的に書いた、平和な頃の小話を3つ。
趣味のアクセルべた踏みゾ!

といっても、やってることは本当にただただ日常です。
まだ8月だから、おじさんの人間性が本編とややズレている。





 

 

 

■異国と異物

 

 

 

 

 泡が弾けるように、口の中に味が広がった。

 

 たまにこういうことがある。

 具体的には思い出せないのに、記憶の破片が感覚となって浮上する現象だ。

 例えば日差しを浴びて思い出す、夏の嫌に湿気た空気だとか。例えば左ハンドルで車を運転している時に思い出す、日本車の右ハンドルでの感覚だとか。(地味に危ない)

 

 例えば今みたいに瓶の絵を見て思い出す、かつて口にしたジャムの味だとか。

 

「おじさんコレなに?」

「マルベリージャムって書いてあるな」

「マルベリー?」

「マルベリーの木になるマルベリーの実だよ」

「おお!マルベリー!」

「買うか?」

「もちろん」

「公園のはしっこにも生えてたなぁ」

「マルベリー生えてるの?」

「帰りに寄って見てくか?」

「見る!」

 

 マルベリーなんて洒落た呼び方をしているが、日本では(クワ)の実と呼んでいるアレだ。桑の木と言えばお(かいこ)さんの餌になるから、養蚕業をやっていた地域には当然のように生えているものだが、アメリカで見かけるとは思っていなかった。

 ま、日本の桑と少し種類は違うのだろうが。

 

「公園でジャム食べたいの」

「……オヤツは帰ってからじゃダメか?」

「ダメですの」

「ダメですか…」

「マルベリーを見ながらマルベリーを食べたいこの気持ちを分かって欲しいの」

「分かりましたの」

 

 アリエルはどどめ色のそれをよほど気に入ったらしく、ジャム瓶やらクラッカーやらが入った袋を抱えてご機嫌に歩いていた。車の中でも手放さなかったくらいだ。まだ味も知らぬというのに。

 

 公園に着いてすぐ、桑の木の下に直行する。

 

「……マルベリーついてないよ」

「実がなる時期じゃないからねぇ」

「そっかぁ」

「ベンチでジャム食べる?」

「……うん」

 

 どうやら彼女はジャムになる前のマルベリーを見たかったらしい。夏の日差しを浴びて、ただ青々と葉をつける木を見上げながら、なんとも無念そうな顔をしていた。

 こんど本屋に行ったら植物図鑑でも買おうかと、つい思わせられる表情だ。

 

 まあ、そんな風にしょぼくれていた顔も、木陰のベンチに座って手を拭いて、ジャムの瓶を開けてやればすぐに笑顔になったわけで。

 

「ん!おいしい!……けどもう少し甘い方が好き」

「さいでございますか」

 

 少し粉っぽい塩味のクラッカーにジャムを乗せて口へ運ぶと、何かが微妙に違う味がした。

 喉が乾いていないのに、水で後味を流す。

 

 結局、最初の一枚を食べてからはアリエルのクラッカーにせっせとジャムを乗せる係をやっていた。

 甘さが足りぬと評価していたが、味は気に入ったようだ。決して小さくない瓶の半分近くまでぺろりと平らげた彼女は、炭酸飲料まで飲んでようやく満足していた。

 甘い物を食って甘い物を飲めるその感覚が怖いです。

 

 で、そのまま何をするでもなく、二人で木陰のベンチに尻を置いたままぬるい風を浴びていると、やがて日が傾いて空が赤くなる。ここは山に囲まれた街だから、夕方になるのが他よりも早いのだった。

 

「それ何の歌?」

「えーと確か……赤とんぼ、だったか」

赤いトンボ(ドラゴンフライ)の歌なんて、変なの」

「そうか、こっちは虫にそこまで馴染みがないのか。あ、前に聞かせたのは何だっけ?」

「オレンジの花が咲いてる丘から、海のお船を見てる歌だよ」

「ああ、みかんの花の…」

 

 茜色を見たせいか、桑の実で思い出したのか。

 つい童謡を口ずさんでいたらしい。

 思えばこちらの童謡なぞろくに知らないものだから、諸事情で上手く寝入るのが難しいアリエルに聞かせられるのは、自分が辛うじて覚えているわずかなものばかりである。

 意味を教えると、不思議そうな顔をされる場合が多かったが。

 

 でも「ねんねんころり」とかどう訳せば良いのか分からない。普通に無理だろう。

 

 

 

 ちなみに「とおりゃんせ」を解説したら、そんな怖いものを神様だと有り難がる、日本人の不可解さに首をひねっていた。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

■少女と不在証明

 

 

 

 この家の写真立ての中にはアリエルの姿が無い。

 

 それに気付いたのは、改めて家の中を掃除しているタイミングだった。写真立ての置かれた棚の埃を落としている最中の事だ。

 

 確かにこの家に踏み込んだ時「女児の服があるのに女の子の部屋がないし、写真にも写っていない」と把握していたが、これはなかなかおかしな事である。

 アリエルは父親に監禁されていたが、流石に産まれた時からではないだろう。なのに写真立てや老夫婦の部屋にあった書棚のアルバムには、家主が赤ちゃんや子ども、高校生や大人になった姿は写っていても、アリエルの姿だけがなかった。

 普通にあり得ない。

 

「…もしかして、あの子は連れ子だったのか?」

 

 ならばこの家に写真が無い理由にはなるが。

 

 ああそういえば、アリエルの母親の痕跡も、この家には全くなかった。だから母親は妻じゃなくて恋人だったのかもしれない。

 

 気を抜いたせいか、写真立てがつるりと指先から逃げる。

 ガラスが砕ける音は存外に大きかった。

 

「どーしたのー!?」

「ストップ!写真立てを落としただけだ!」

 

 バタバタと階段を上がる音がして、乱暴にドアが開く。靴を履いてるが念のため、ガラス片が危ないからと立ち入らせず、リビングに帰してから片付けた。

 

「写真かぁ…」

「撮りたいのか?」

「うん!おじさんと撮る!」

「一緒に、か」

 

 こういう時、アリエルは陽の者だなぁと思う。

 自分はあまり写真が好きではない。正確に言うならば撮影者になるのは良いが、被写体になりたくないのだ。その感覚はこうして姿形が変わっても、自分の思考に根強く残っていた。

 陰の者だという自覚はある。

 

 しかしセルフタイマーが無いカメラなら、一緒に写らない言い訳にもなるだろう。それだけでなく、現像に持って行くのが面倒なこともあり、ポラロイドカメラを購入した。

 

「はいチーズ」

「チーズ!」

「よーしよしよし」

 

 わざわざお気に入りのワンピースに着替え、ビシッと背を伸ばして座るアリエルをレンズに収めてシャッターを切る。満面の笑みが眩しかった。

 

 舌を出すようにフィルムが吐き出される。さっそく気になったのか、それを覗き込んだアリエルは怪訝な顔を見せた。

 

「写ってない…失敗?」

「違うよ。ポラロイドはしばらく置かないと写真にならないんだ」

 

 直射日光は良くないらしいので、適当な空箱に入れて現像が終わるのを待つ。

 くいくいと袖を引っ張られて振り向くと、何故かカメラを構えたアリエルが立っていた。

 

「おじさんの写真、撮ってあげるね」

「そうきたかぁー…」

 

 カメラの仕組みの問題で、一緒に撮れないのは納得させられたが、まさかそっちから攻めてくるとは。

 いや、自分だけが写っている写真とか地獄以外の何物でもないだろう。いくらウェスカー氏のガワだからって、精神的な苦痛が消えるわけじゃないので辛いんだが。

 

「……ダメだった?」

「ダメじゃないです」

 

 子どもだもの。そりゃあ写真を撮る行為に興味も出るか。何でもやってみたいお年頃だもんな。

 だからそんなしょんぼりした顔を見せ付けるんじゃない。止めろそれは自分に効く。

 

 ほら、シャッターはここ、レンズを覗いて撮りたい物が見えたら押すんだよ。

 

「はい、チーズ」

「へ、へへへ…」

「おじさん笑顔が固いよ!ダメだよそんなんじゃ!ほら笑って笑ってはいチーズ!」

「ヒェッ……」

「もぉー!目が怖いし、ほっぺたカチカチ」

「勘弁してください」

 

 アリエルはプロ意識が高かった。

 目が笑ってない、口が引きつってる、とダメ出しをくらい、最終的にオッケーが出たのは表情筋が疲れて変に力が入らなくなった顔だ。

 

 現像した写真は新しく購入した写真立てに入れて、家主一家の写真の隣に置いた。

 

 

 

 今もアリエルは父親の話をしないし、自分はその話題に触れないまま暮らしている。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

■蝶と郷愁

 

 

 

 本屋で懐かしい物を見付けて、つい手に取った。

 

「こっちにもあったのか…」

 

 いや、こっちってのは国じゃなくて、世界的な意味だが。

 隣の棚の前で植物図鑑を脇に抱え、児童書を漁っていたアリエルが、不思議そうな顔で見上げてくる。

 

「おじさんも絵本読むの?」

「いんや。アリエルはコレ、読みたいか?かなり有名な本だぞ」

「うーん…おじさんはその本、好き?」

「嫌いじゃないよ」

「じゃあ買う。一緒に見よ!」

 

 ああ、ごく自然に気を使われたな、と気付く。

 本人も気付いていないだろうけれど。

 

 この子は年齢のわりに幼くて、天真爛漫な様子を見せているが、その実とても(さと)いのだった。

 

 別にそこまで特別な話ではない。子どもは案外、大人の事を良く見ている、と聞いたことがあるだろう。

 しばらく暮らしていて分かったが、彼女はそれが上手い。子どもらしいアリエルは、子どもらしからぬほど自分(おとな)の事を良く見ていた。

 

 そして、優しい子だった。

 先ほども思ったように、賢い子でもある。

 出会った頃から当たり前のように他人(おじさん)の存在を受け入れて怯えを見せない彼女は、その他人(おじさん)にどこまで許されるのかを、数日ほどでするりと把握して見せた。

 それは子どもなりの処世術と言うには、余りにも熟達したものだ。

 

「こちら、プレゼント包装しますか?」

「あ…お願いします」

「種類と値段はこちらになります」

 

 未就学児童向けの絵本だったものだから、いくら12歳にしてはかなり小さく見えるアリエルを連れていても、店員に違和感を持たれるのは避けられなかったようだ。

 気まずさで頼んだパステルピンクの不織布に、デフォルメされた青虫の表紙絵が飲まれていく。

 

 アリエルも絵本に全く興味がなかったわけではないらしい。児童書の入った紙袋を抱えていた彼女は、車の助手席に座ると紙袋を横に置き、さっそくピンクの袋を開封していた。

 

「お腹を空かせた青むしの話?」

「良く食べて良く寝て、大人になる青虫の話」

「あ!ネタバレはダメだよ!」

「ごめんごめん」

 

 帰宅して荷物を運び入れている間に、アリエルはソファーで寝そべりながら絵本を抱えて待っていた。クーラーが効き始めた室内にご満悦の顔をしている。

 自分が近寄ると、がばりと起きて絵本を差し出してきた。読み聞かせろとのお達しだ。

 記憶と違い、アルファベットで書かれたそれを開く。

 

ヤムヤムヤム(うまうまうまい)…」

「美味しそう。夕飯はハムにしようよヤムヤム」

ヤムヤムヤム(うまうまうまい)…」

「アイスも食べたいなぁヤムヤム」

「アイスは1日1個までだヤムヤム」

 

 青虫は当然のように美味しいご飯を食べて、当然のように丈夫なサナギになると、当然のように美しい蝶になって、自由に空を飛んだのだった。

 飢えることもなく、鳥に食われることもなく、サナギの中で自身を作り替えることに失敗せず、上手く殻を脱ぎ捨てて。

 

 そういえば、かつての自分が勉強机の中に入れて大切にとっておいたモンシロチョウのサナギは、真っ暗で狭くて羽もろくに伸ばせない空間で、いつの間にか羽化していたっけ。

 そのモンシロチョウは、歪んだ羽を背負って飛べぬまま、移した虫かごの床に落ちて死んでいた。

 

 生き物は好きで、苦手だ。

 ハエトリソウはてんとう虫を与えすぎて死んだ。

 蟲毒を作ってみようと集めたバッタはペットボトルの中で全て茶色く飢え死に。

 エアプランツは水をやり過ぎたのか腐り。

 シソの種は芽吹かずカビに犯され。

 サボテンは日陰が良くなかったのか枯れた。

 

 断片的に思い出せただけでコレだった。

 結局、自分が世話をして元気だった生き物は、妹だけかもしれない。

 

「おじさん、どうしたの?」

「何でもないよ。夕飯はハムチーズのホットサンドにしようか」

「やった!!!」

 

 

 

 今日も滅菌作戦(バイオハザード)は始まらない。

 

 

 

 

 

 




 
・中身さん
コミュ障。言葉が通じない生き物の世話が下手。
本物のウェスカー氏と対面したら鼻で嗤われるか、同じ顔でコレじゃあ不快だからって殺されそうだなと思っている。
あとわずかの人生だし、そうでなくても暴君:妹(タイラント)で鍛えていたので、幼女がもっとわがままな態度でも別にかまわない。



・幼女さん
生存戦略の結果としてのコミュ強。
普通はクソ野郎でも唯一の保護者が消えて、知らない男が無から生えてきたらビビるが、凄い早さで適応して見せた。
お願いの仕方が上手く、わがままの手前で要求を通すのが得意。歴戦の強者。



・書き手
見切り発車でおじさんの性格を決めたり、無から幼女を生やしたりしたので、プロット増築にあたり情報収集と様々な都合付けに奔走した。
実は6話あたりまで、その場の思いつきで話を書いていたせいである。

後付け設定は(カプコン)もやってるから…ま、多少はね?



■TS大佐
前に描いて布教したいとか言ってたTS大佐やで。
小説版UCの大佐メイン回は、脳内でTSさせて読むとだいぶアレ。とても良い。非常に良い。最高。

【挿絵表示】





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わくわくネスト2探検ツアー


ちょっと忙しくしてましたお久しぶりですァ!

皆さんの評価反応で今日も楽しくガンギマリしてます大好き!!!そして大感謝ァ!!!

わくわく蟲毒育成バトルの思い出があるせいで、ナチュラルにお世話カウントしていましたが、アレは世話じゃないんですか!?
皆さんは友達と最強の蟲毒を育て上げて戦わせようとしたりしませんでしたか?
ムシキングみたいなノリでやって失敗しましたが。

と、カルチャーショックしてましたが、やはり似たような経験されてる方もいらっしゃって、ショックが緩和されましたわ!

誤字に見えて誤字じゃない誤字は直してなかったりします。そういう表現という事で堪忍してや!




 

 

 

 

 ひと息つき、滅菌室を出ると廊下ですぐさま死体がお出迎え。

 案の定、というやつだ。

 

「そんな気はしていたが、やっぱり壊滅してるな…」

 

 地下施設、もとい通称:NEST2なる施設には、やはり生きている職員の姿などなかった。

 残されていた資料いわく、ドンピシャでTの研究施設であることを考えれば、ここを起点にバイオハザードが起きていてもおかしくはないのだから納得だ。

 

 職員の皆さんも抵抗はしていたのだろう。廊下の所々には頑丈そうなケースや機材が積まれて封鎖されていたし、研究員の手には似合わぬ銃が握られ、道の脇には弾丸のような物資が転がっていた。

 彼らのための観葉植物と栄養剤を兼ねていたのか、近未来的な内装の中に鉢植えハーブが点在している様子は少々シュールである。

 

「こう、何というか、段々とゾンビが硬くなってるような手応えがあるんだが」

「ああ、頑丈になってるぜコイツら。拾い物のおかげで持ってはいるが、一体あたりの弾の消費が確実に増えてやがる」

「……検死は私がやった方が良いな」

「頼んだ。俺もナイフで刺してるが、そのマスターキーで首を落とすのが一番だ」

 

 起き上がる者を最優先で寝かせ、手に入れた地図に従い、ワクチン関係の設備がある部屋を目指す。

 動く者を倒すのは当然として、動かぬ者たちを見かけてもカルロス氏が首にナイフを突き立てるか、自分が首を落とすようにしていた。

 

 二人して病院で嫌と言うほど思い知らされたが、感染者がゾンビとして起き上がるタイミングには個人差がある。ただの死体だと思って見逃していたら、再び近くを通る時に足を掴まれた経験は一度や二度ではなかった。

 何もないならともかく、複数人に囲まれていたり、リッカーやハンターみたいなしぶとい連中を相手している時にそんなことされたらたまったものではない。窮地を切り抜けてキレ散らかすことができれば(おん)の字で、最悪は死ぬのだ。

 

 つまり動かぬ連中への首狩りや足切りは、ワクチンを携えて引き返すルートの安全性を考えれば合理的な行動だった。

 

「わっ、コイツもやっぱり生きてたな」

「紛らわしいのは止めて欲しいぜまったく」

「たまに首を落としても動こうとするから怖い」

「明らかに実験台にされてたような白っぽいヤツなんか、撃ってもすぐ再生するしな」

「全裸さんは頭と四肢を切り落としてようやく安心ってのがなぁ…」

 

 しかしまあ、こうして倒れたままの者まで護身で叩かねばならぬ状況は、ゾンビを叩き割る時の生々しさとはまた別の、何とも言えない嫌な感覚があるものだ。

 

 

 

 

 

 しばらくして目的の部屋にたどり着く。

 クリアリングはOK。動くものは無し。

 

 白衣を着た彼らを()()し、壁際のど真ん中に堂々と鎮座する精密機械を調べると、それがワクチン製造に欠かせない装置だと判明した。

 近くに置かれている血で汚れた書類をどうにか読み込めば、街の連中を救えるワクチンの備蓄とやらが誇張表現でないことが分かる。

 

「これを使えば有効性が通常の千倍以上のワクチンを作れるのか……えっ、どんなワクチンでも増幅できるとか、凄いなバード博士…」

「能力と人格が一致しない典型的な例ってヤツだな」

 

 バイオハザードに限らず創作物で敵側の人間ってむしろ能力が高いほど、その性能と人間性が反比例してるのが普通みたいなんですよね。ソースは貴方の真横に居る人物ですが。

 なんて言えないので苦笑いするしかない。

 

「こういう書類は専門用語のせいで読みにくい場合が多いから、分かりやすく書いてあるのはありがたい」

「そうだな。さ、ジルにとっておきの土産をこさえてやろうぜ」

 

 バード博士の特製レシピに使う材料は2つ。それを確保しに向かう前に、部屋の隅にありながら目立つ機械を確認してみると、有用な物が手に入った。

 

『オーバーライドキーの生成が完了しました』

「またくだらんSFみたいな装置が出てきたな」

「この施設そのものがSFでは?」

「それもそうか」

 

 オーバーライドキー。

 日本人だと耳慣れない言葉だが、ざっくり言ってしまえば「コイツの命令を優先する(オーバーライド)」って感じの意味だ。つまりこの端子をブッスリやれば、大抵の物はロックを外せるマスターキーというヤツだな。

 緊急時だから生成されたのだろうが、使う前に誰も居なくなってしまったために放置されていたようだ。

 

 地図で確認すると、ワクチンに必要な物はオーバーライドキーを使わなければ行けない場所にあった。ありがたや。

 

 それらを取りに行く道すがら、資料以外にも職員の手記を拾うことがある。どうやら彼らもウイルス流出事故の対処として、市民のためにワクチンを緊急増産しようとしていたらしい。キーの生成もそのために行われたようだ。

 はからずも彼らがやろうとした事を、我々が引き継いでいる形となっていた。

 

「これが抗原か」

「後は補助剤だな」

 

 やはり研究員が倒れ伏す一室にて、材料の片割れを入手する。ガラス管のケースに入っている黄色がかった透明な液体は、それが市民全員を救えるとは思えない僅かな量だった。

 前衛の自分が持っていると戦闘中に割るのが怖すぎるので、カルロス氏の防御力高そうなベストに捩じ込んでおこう。えいやっ!

 

 ゾンビを倒しつつ上へ下へ。

 何だか御大層なデザインの重たい電源装置を動かしたり、邪魔なケースをズラしたり。

 そうこうしているうちに、とんでもねぇ場所に出た。

 

「うっわ頭が痛くなる光景だ…」

「コイツら、病院で見たトカゲマンじゃないか!」

「地下で培養してたなら、そりゃ病院まで上がってくるわな」

 

 通路の左手にはズラりと並べられ、培養槽に浮かぶハンターの列。

 青い照明に照らされているのが何とも不気味。

 そして右手には、見覚えのある巨人たちがハンターと同様に収められていた。

 

「こっちは何だ?デカい…人間?」

「タイラント量産とか止めろや精神的ブラクラか」

「そのタイラントってのはコイツらの名前か?」

「あ、ああ…ほらそこ、見えにくいけど管理用のモニターに名前が書いてある」

「目が良いな。トカゲの名前も分かるか?」

「あっちはハンターだな」

 

 うーん、あぶない。背中に冷や汗。

 

 生物兵器の展示会場を通過して道なりに行くと、ついに補助剤を手に入れることができた。こちらは青色だが、抗原と同様に透明感が強い。もしかしたら管理のため、薄く着色しているのかもしれない。

 

 同じ部屋にバード博士が書いたらしき、ネメシスの評価も置いてあった。

 寄生生物で知能を確保して操作しているらしいが、あんなもんちゃんと制御できる気がしないんだよなぁ。

 皮肉の効いた指摘を書かれているのも納得である。

 

 補助剤の方もカルロス氏のベストに捩じ込んで、来た道を引き返す。

 

 

 

 

 

「そんな気はしてた!!!」

「管理がガバ過ぎるんですけど!!!」

 

 すると展示会場にて、神がかったタイミングでケースから飛び出して歓迎の雄叫びを上げるハンターの皆さん。

 もういい加減にして欲しい。

 

「わっせ!わっせ!どっこいしょォ!」

「その気が抜ける掛け声マジ止めてくれ!」

「そんなご無体な!」

 

 カルロス氏が銃や手榴弾で牽制しているうちに、近い方から一匹ずつ、クッソ硬い皮膚を斧で殴り付けた。斧はかなり使い込んでいるから、刃はぼろぼろだし血脂で切断力は死んでいる。もはや尖った鈍器の扱いだ。

 それでも生き物であるからして、頭を重点的に殴り続ければ動きは鈍る。頭蓋骨か背骨を砕いてやれば沈黙した。半分はカルロス氏の攻撃で死んでいるのだから、あの硬い皮膚も弾丸を完封できるわけではないらしい。

 

「爆発する手榴弾の近くで良く戦えたな」

「や、もうアドレナリンがドバドバだから耐えてたけど痛いもんは痛いよ」

「痛いで済ますなよオイ」

「怪我してないから大丈夫大丈夫」

「まったく…ジルはスーパーガールだが、アルフはスーパーマンだな」

「自分に似合わなすぎてサブイボが凄い!」

 

 怪我がすぐ治るタイプだしメタ認識持ちだから、強いて言うならデップーの下位互換だと思います。

 

 

 

 

 

 まあその後は目立った敵も出ず、すんなりとワクチンが作れる部屋まで戻ることができた。

 と、そこで無線機に連絡が入る。

 

「おい聞こえるか!カルロス!」

「どうしたタイレル」

「大変な事になった」

「まさかジルが!?」

「違うジルはまだ落ち着いている!だが同じくらいヤバいぞ!」

 

 あ、もしやコレは。

 

 

 

「明日の朝、政府は街にミサイルを撃ち込むつもりだ」

 

 

 

Q.お時間は大丈夫でしょうか?

 

A.30日の昼間なんで一応まだ大丈夫です。

 

 

 

 

 




 

・千倍ワクチンさん
これ公式なんですよね。凄い。



・おじさん
手持ちの大斧がマスターキーを卒業し、2代目マスターキーがフラッシュメモリになった。
次元のねじ曲がったアイテムボックスが無いので、カルロス氏が持ちきれない弾丸や緊急スプレーなど、荷物持ちもしている。



・カルロス氏
おじさんの性格がスーパーマンじゃないのは分かっている。良くも悪くも小市民的だが、その容姿とパワーを持ちながらどうやってそんな性格になったのかは不思議だなぁと思っている。

インディオの血を引いているのと整形&偽名設定ってRE3も有効だったりするんですかね?
そうでなく、もしコレが本名ならカルロス・オリヴェイラくん21歳をブラジル出身の扱いにして、女の魅力は尻の素晴らしさだと思っている青年にしてみたいような気がするんじゃよ。



・そういえば皆お腹とか空かんのか?
必要なら画面外で食べてます。
傭兵二人は携帯食料とか持ってそうですし、それが無くても街中だから、室内の自販機とか店とかに残ってるチョコバーやら何やらを拝借して食べてそう。(向こうはガチの道ばたに自販機が無い)




TS大佐の良さを分かって頂けた方々がいらっしゃるようで何よりです感謝(ニチャァ)
さあ欲しいと思ったら今度はご自分が生産する番ですよ!というか他の人が考えたTS大佐をください(ください)





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これがゼニの暗黒面に堕ちた銭闘士か…


バイオほんと外伝も多いな!!!履修楽しい!!!


味方サイドが原作より強めなら、ネメシスくんも強化しとこ!って回




 

 

 

 タイレル氏いわく、滅菌作戦は明日の早朝らしい。

 今から十数時間後の話だ。物資と体力さえある人ならば、今から脱出できないことも無いだろう。しかし物資と体力がある時点で勝ち組で、そういう人々はとっくに逃げ出しているか、肝心の運がなければゾンビの仲間入りをしているに違いない。

 

「街にはまだ生存者が居るはずだろう!?」

 

 カルロス氏が信じられない、と声を上げる。

 もはや外を見ればフラフラ歩くゾンビ連中しか見えないだろう。しかし扉に鍵を掛けて震えながら助けを待つ人々は、外から見れば目立たないだけで確かに存在していた。

 つまり現時点で立てこもっている人々に必要なのは時間ではなく救助だが、軍はやって来ない様子。

 

 まあ滅菌作戦なんて、つまるところアンブレラによる証拠隠滅作業だし、軍なんて立ち入らせないのは当然か、とは思う。

 

 しかしそこで黙っていないのがタイレル氏だった。

 

「それは本当かタイレル!?」

「カルロス覚えておけよ。こんな業界を上手く渡るためにはな、何かに偏っちゃいかんのさ。お友達は広く薄く持つのがコツだぜ」

「だからって政府でも巡航ミサイルのボタンに近いような人の連絡先を知ってるタイレルさんはおかしいと思うぞ」

「アルフ、それは誉め言葉か?」

「そりゃあもちろん」

 

 なんと彼は爆破予告を受けてすぐに、政府を相手に交渉を始めていたらしい。

 

 政府が一枚岩ではないのは当然で、もちろん親アンブレラ派閥もあればそうではない派閥もある。

 彼は社員でありながら、アンブレラと距離のある連中と交渉を始めていた。U.B.C.S.に入るより前の伝手とのことだが、そういう古い人脈が死なないように手入れを怠らないスキルは凄まじいの一言に尽きる。

 

 コミュ障の自覚がある自分には、こうして「なぜそれができるのか」は理解できても、実際にやるのは無理が過ぎるので、余計にそう感じるのかもしれない。

 例えるなら自分にとっては「美しい飴細工の作り方はこうやで!」と職人に説明されても「はいできましたー!」と簡単にやれないようなものだ。

 

「そうか現物が有れば」

「ああ、今はとりあえずワクチンの資料で何とか交渉の席についてる状態だ。現物が無いとどうしてもな…」

「じゃあ朗報だ。こちらはもう材料が手元にあって、今からワクチンを生成するんだ。ジルさんの事もあるし、出来上がり次第すぐに帰るよ」

 

 無線越しに、椅子を勢い良く蹴り倒す音がした。

 

「でかした!!!最高だ!!!」

 

 大音量の歓声だ。音割れが酷い。

 しかし笑い声として垂れ流しにされる喜びに、こちらもつられて気分が明るくなるのはありがたかった。

 

「俺は交渉に戻る!気を付けて帰って来いよ!」

「ああ!」

 

 無線を聞いている間に組み合わせておいた材料を機械にセットして、説明書通りに設定を弄る。

 機械はすんなりと動き出し、そう待つこともなくワクチンが生成された。効果を誇示するように強い光を発する液体は、紫というよりピンクに近い。

 なんだか凄く身体に悪そうな色である。

 

「おお…」

「これがワクチン…」

 

 専用シリンダーに封入されたワクチンを、やはりカルロス氏のベストに捩じ込んでおく。

 彼が落とさないように確認し、さあ帰ろうと出口を向いた瞬間、

 

「グェッ!?」

「またお前か!」

 

 見覚えのある汚い触手が空調の吹き出し口から伸びて、カルロス氏の首に巻き付いた。とっさに斧で叩き潰すように切りつけ、咳き込む彼を引き摺って出口に向かう。

 

 しかし電気系統を壊されたのか、扉が全く開かない。

 何度か斧で殴り付けたが、施設全体が頑丈に作られているため、扉からは金属音が鳴るばかり。

 背後の気配が濃くなる。仕方なくカルロス氏を抱え、吹き抜け部分から下の階に飛び降りた。

 

 

 

 

 

「おぇっ…助かったぜ」

「災難だったな。ワクチンは大丈夫か?」

「ああ。けっこう頑丈で、落としたくらいじゃ大丈夫みたいだ」

 

 とりあえずアレから距離を取るのが優先だ、ということで壁に開いた施設の点検口らしき場所に潜り込む。

 

「ッア"ア"ア"ア"ア"~!?!??」

「アルフ!!!」

 

 で、点検口の向こうには我々を待ち構えていたネメシスさんが息を潜めて待機されてまして。

 ジルさんと下水道から脱出した時もこんな感じだったよな、と思いながら汚い触手に捕まりましたとさ。

 

「クソっ!今助ける!」

「ふんぬっ!」

「って自力で外すのかよ!」

 

 バラバラと弾を撒き散らす音を聞きながら、金網の床に指を引っ掛ける。そのまま脚に巻き付いた触手を蹴り剥がし、斧が深く刺さるように投げ付けて動きを止めてやった。

 さらば初代マスターキー。

 

「燃料タンク撃つからこっち来い!」

「後ろに昇降機がある!」

「よっしゃ後ろに向かって前進だ!」

 

 ここは燃料タンクが並んでいる保管スペースだ。一つが燃え上がれば他のタンクに引火して、大変なことになるに違いない。

 

 昇降機が動き出したタイミングでカルロス氏が撃ち込んだ弾丸が狙い通り、燃料に着火する。爆発音と熱を下に感じながら、作業員の控え室らしき部屋に転がり込んだ。

 

「クッソ…帰り道がダメになった……」

「それより問題なのは、アレがまだ死んでるとは思えない事なんだよな…」

「最悪だが否定できない。それに、帰りが遅くなるってタイレルに連絡しないと」

 

 施設の作業員たちも事故の対処に追われていたようで、この控え室にも弾やスプレーが僅かに残っていた。

 それでも我々にとっては貴重な物資だ。使えそうな物を回収していると、無線連絡を終えたカルロス氏がヨレヨレの紙を持ってくる。

 

「コレを見てくれ」

「えーと、処理施設?」

「この隣にあるんだとよ」

 

 それは生物兵器や実験体を溶解液で溶かして処分するための、処理施設に関する説明書きだった。

 

「コイツでじっくりコトコト溶かしちまえば、あのしぶといストーカーも何とかなるんじゃないか?」

「おお!天才か!」

「だろ?」

 

 階下からの爆発音はもう止んでいる。

 アレが生きているならば、少し休むだけで再び動き出すだろう。ならば処理施設で待機し、確実に殺し尽くす方が安全だ。

 

「よし、行くか」

 

 控え室から出て通路を行く。

 溶解液が蓄えられているであろう複数のタンクと、それに囲まれた空っぽのプールが処理施設の全体像だった。あのクレーンは右手に見えるコントロールルームで操作するのだろう。

 

 突貫工事で発案された作戦としては、遠距離攻撃でネメシスをプールへ落とし、クレーンで押さえつけながら溶解液を注いで漬けるという単純なもの。

 細かい部分は高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変にってヤツだな。

 

「最終確認だ」

「クレーン操作はそっち、メイン陽動はこっち」

「OK。弾薬は足りてるか?」

「ああ、拾っといて良かった」

「使うだろうし手榴弾は渡しておく」

「ありが…来た!!行け!!!」

 

 

 

 「G Y A AA A A AAA!!!!!!」

 

 

 

 先ほどまで我々が居た控え室をめちゃくちゃに破壊して、四足歩行の獣が現れた。一度は頭を落とされたと聞いているが、歪な頭を振り回して衝撃波を伴う雄叫びを上げる様は、負傷を感じさせない迫力がある。

 

「お"っまえ!!!」

 「GRRR R R…」

 

 跳躍した獣は簡単に通路を破壊し、自らの重さで空のプールに転がり落ちる。しかし足に絡み付いた触手のせいで、こちらも踏ん張る間もなく引き摺り落とされた。

 だが、幸いにもカルロス氏はコントロールルームに辿り着けたようで、スピーカーから声が響く。

 

「アルフ!ソイツを動けなくしてくれ!そしたらクレーンの爪で潰せる!」

「おっとそこまでだカルロス。ワクチンを渡せ」

 

 は?スピーカーから別の声がするんだが?

 

 角度の問題でここからは見えにくいが、コントロールルームには人影が二人分あった。

 

「ここに隠れてやがったのかクソ野郎が!」

 

 そういえば見かけないと思ったら、そうかお前そこに居たんかニコライ某。

 

「生意気な口を叩くのは止めた方が良い。ネメシスは俺が操っているんだからな。あの男を襲わせるも良し、病院を襲撃させるも良し。まったく最高の兵器だよアレは」

「ッ!?」

 

 マジであの獣じみたヤツを操れるのか?

 

 と思っていたが、落ちてからピタリと静止して呼吸以外は動かないネメシスを見れば、それが事実だと分かる。

 歪な肉塊にしか見えない頭部の、肉と肉の隙間からはチカチカと、赤い光が点灯しているのが見えた。どうやらニコライ某は、あの機械と思わしき物でネメシスを操作しているようだ。

 

「カルロスさん!ワクチンは渡さなくて良い!!アレを操ってる機械を壊せば、病院に行くのは止められるはずだ!!!」

「だがその前に俺がコイツを撃ち殺し、ワクチンを奪う方が早いだろうよ!!!」

 

 もしやカルロス氏、銃を突き付けられてるのだろうか。

 

 ネメシスは止まってるし、コントロールルームまでよじ登って助けに行けば。そう思い足を踏み出すと、遮るように触手が飛んできた。

 止まれ、ではなく牽制しろ、と命令されているらしい。思っていたよりも頭が良いのか。最悪だ。

 

「銃口が向けられているのはお前も同じなんだ。俺がそう簡単に殺されると思うなよ…」

「ハハハ…だがな、俺が死ねばネメシスの首輪は外れて、最初に刷り込んだ命令に従い病院にまっしぐらだ。だからお前はどっちみち俺を撃てない」

「それでもお前にワクチンを渡すわけにはいかない。ジルや市民を助けるにはこれしかないんだ!」

 

 そうだ良いぞ。言ってやれ。

 ネメシス襲撃よりウイルス感染の方がワクチン以外に手の打ちようが無いんだから、そのワクチンを渡すわけが無いのは当然だろう。

 

「ふむ、ならばこうしよう…取引だ。ワクチンは渡さなくて良いぞ。代わりに溶解液を入れず、あの男をネメシスと最後まで戦わせろ」

「お前、何のつもりだ」

「俺は金が欲しいだけなんだよカルロス。ささやかな願いさ!お前はネメシスに悩まされずにワクチンを持って帰る。俺はネメシスとあの男の戦闘データを売って稼げるんだから、お互いに損が無いどころか得にしかならないだろう?」

 

 いや、それお前しか得してないやんけ。

 

「…取引はしない。どうせお前はアルフを殺したら、次は俺にネメシスをけしかける気だろう?なら、いっそここでお前を」

「いいや、お前は取引する。そして俺は戦闘データでたっぷりと稼ぎ、お前はワクチンであの女を助ける事を選ぶだろう。

 

 お前があの男を庇う理由なんぞ存在しないんだからな!」

 

 

 

 なんせアイツはアンブレラ社に居たアルバート・ウェスカーだ!

 

 B.O.WとS.T.A.R.S.の戦闘データを得るために自分の部下を死地に追いやり、隊を壊滅させ、お前がご執心のジル・バレンタインを死なせかけた男だぞ!

 

 

 

「…冗談が下手だな。ウェスカーとやらは死んでるし、ジル本人が別人だと否定した。終わった話をほじくり返して動揺させるつもりか?」

「証拠なら有るさ。ソイツの耳の形をアンブレラに残されている個人認証データで照会したらな、見事に一致したんだよ。指紋だって取れたら同じだろうよ」

「耳の形だけで同じヤツ扱いとは笑えるぜ」

 

 

 

 あー耳紋か、うん、どうするか……。

 ああ、そうだ。良いことを思いついたぞ。

 今日の自分は冴えてるな。

 よし。

 

 

 

 

 

 

「ハハハ!本当に笑えるな!カルロス」

「…アルフ?」

「ご名答だよニコライ・ジノビエフ。いやはや耳の形のことを忘れていた。私としたことが迂闊だったが、もはや誤魔化す意味はないから良しとしよう」

「お前」

「ジルやお前の間抜け面を眺めるのは楽しかったよ。礼としてしっかり言っておいてやる」

 

 

 

 

 

 自信と度胸はたっぷりと。

 大切な隠し味には真実をひと匙くわえ。

 疑う隙を許さぬ勢いで。

 

 

 

 

 

「私がアルバート・ウェスカーだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

※頭が冴えているのは気のせい。




 
・カルロスのベストくん
しっかりとワクチンを守ってたから、原作のジルみたいに攻撃でワクチン落とす→ニコライがにこにこでワクチン奪う、のコンボが発生しなかった。



・おじさん
まだスコップあるから斧をリストラしても大丈夫大丈夫()
嘘をつくときは真実()を混ぜると良いって有名な話だよな!!!

うろ覚えの記憶と勢いだけでやっている人。
アルバート・ウェスカーを降ろすためにイタコの才能が欲しい。急募。



・カルロス氏
???!?…!!??????……?
(本物と面識が無いから比較ができない人)



・タイレル氏
ワクチン備蓄の存在を先に知っていれば、カルロスに言われるまでもなく、自分たちの安全のためにも交渉してるだろうと思ってこうなりました。

原作ムービーで目覚めたジルに政府と交渉してるからカルロスを待て、なんてサラッと言ってましたが、事態の原因でもあるアンブレラ社員かつ、メイン部署の人間でも幹部でも無い傭兵が、緊急時とはいえ単独で交渉の席に座れるって地味に凄いと思いますわ。
というわけでベテラン傭兵ならではの経歴の不透明さを活かして、それっぽい理由で強化してます。



・ニコライ某
闇のワクワクさん仲間からもらった素敵な寄生生物くんとガジェットで、ネメシスくんを操る銭闘士。
動揺を誘うために話をふっかけたが、おじさんがノって来たから内心ちょっとビビってる。



・ネメシスくん
原作でジルに落とされたのは手。
こちらでは首を落とされたが、マジ死にする前に追加の寄生生物くんでリペアしてもらった。

とても頭が良いので、カルロス・オリヴェイラと斎○工の見分けをつけられる。




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しょせんはコミュ障の浅知恵だった


感想欄でネメシスくんより賢くない申告をされている方が多くて笑いました。
かく言う私も見分けがつきませんのでね。

もちろんおじさんも、本人を並べるならまだしも、顔写真だけで比べさせたら間違えます。


カルロス大勝利回





 

 

 

 ニコライ某はお金が欲しい。

 カルロス氏はワクチンが欲しいし、プ○ウスよろしくネメシスが病院に突っ込んだら困る。

 自分も同じだ。

 

 んで、ニコライ某は「ワクチンをカルロスからもぎ取るの大変だし、ネメシスの戦闘データが欲しいから、倒しきる前に溶解液を使うのは止めようね!(どうせ最強のネメシスで全員ぶっ殺せばワクチンも手に入る)」と思っている様子。

 

 じゃあ自分とカルロス氏が仲間ではなかったら、もっと言うと自分の正体がアルバート・ウェスカーだと判明すれば。

 ニコライ某が何を言おうと、カルロス氏は「ジルさんを苛めた悪いヤツだから見捨てておっけー^^」となるはずだ。そしたらワクチンを持ち逃げしたり、ニコライに従うふりして自分ごと溶解液でドバー!するって選択肢も取れるだろう。

 

 自分だってカルロス氏が撤退するなら、ネメシスをトレインしながらニコライ某をぶん殴りに行くし、彼が溶解液ドバーするならネメシスと揉み合いになって、まあ、封じる役をやるつもりだ。

 どっちみちネメシスは、ここでどげんかせんといかんからね。

 

 ウェスカーとして名乗り出た動機は「このままだとニコライにワクチンを持ってかれてしまうから、ここで二人を倒す。ニコライからは彼が集めていた戦闘データを、カルロスからはワクチンをゲットし、自分が返り咲くための糧にしてやる!」みたいなのでええじゃろ。

 今考えたけど。

 

 で、アリエルの保護者してた理由は「回復と潜伏に便利だったから!」みたいな。ワクチンを探していた理由も、彼女を隠れ蓑にうんたらかんたらどうのこうの、で良いか。

 

「さて、私としては誤魔化す必要がなくなった以上、お前たちからワクチンと戦闘データを回収させてもらおう。私が復職するためにな!!!」

 

 よし完璧!やっぱ自分は頭が良いな!

 それに、ニコライ某もたまには役立つじゃないか!

 

 

 

 

 

 

 

「アルフ………お前って馬鹿だなぁ」

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 止めろよ…精いっぱいカッコつけたんだぞ。

 

 そんな可哀想なヤツに対するような声でしみじみと言うんじゃない。

 恥ずかしいだろうが。いやほんと恥ずかしいから止めてくれ。泣きそうになるから。

 

 気付いてしまったんだが、今の自分はすごい勢いで黒歴史を製造してる最中なんじゃないか?

 

「おいニコライ。アルバート・ウェスカーってあんなアホなのか?スターズの連中を騙しながら隊長やってたヤツなんだろ?」

「えっ!?あ、いや、俺は直接の面識が無いから知らんぞ……上司は抜け目無いヤツとか言ってたが…」

「アレが抜け目ないように見えるか?どう見ても抜け作(マヌケ)じゃないか…」

「た、確かに…でも耳紋が一致したのは本当だが」

 

 あ"~~~^^ つらいのだ!やめるのだ!

 カルロス氏!!!やめるのだ!!!!!

 

「さっきから黙って聞いていれば下らんことを。私がマヌケだと?ふざけるな!」

 

 本当にアルバート・ウェスカーなんだよ!!!

 信じろよそこは!!!!!

 あと自分はマヌケじゃないです!!!!!!

 

「耳が赤いぞ…無理するなよ」

「っ!」

「それですぐ耳を隠すなんて正直者だな偉いぞ!こっからお前の耳の色なんて分かるわけ無いだろバーカ!」

「……」

 

 

 

 あ"あ"あ"も"う"や"た"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!

 

 

 

「……」

「おい何か言えよアルフレッド。無線の使い方を忘れたか?」

「ウェスカーだ」

「まだ言うか。じゃあ証拠を出してみせろよ。どうなんだ?ん?」

「この髪は茶色く染めてるが、実は金髪だ」

「へぇ~~~?ウェスカーって金髪なのか?ニコライ」

「資料によるとウェスカーは金髪だ」

「ほぉん、どうせジルから聞いたんだろ。じゃあニコライの上司はお前を知ってるらしいが、ならお前もその上司を知ってるはずだろう?な、ニコライ!」

「あ、ああ………面識はあるはずだ。この前も会ったと言っていたからな」

 

 え、知らんし。

 え?え?え?

 えーと、アルバート・ウェスカーの知り合いは…誰だ?バーキン博士?

 バーキン博士って研究者だし、ニコライ某を雇うタイプじゃないと思うんだが。

 いや、ほんと誰?

 

「知り合いは多くてね。しかもニコライと私は面識がなかったんだ。上司の名前を教えてくれればすぐ分かるんだが」

「らしいぞ、ニコライ」

「……上司の名はドレブニーアだ。珍しい名前だからすぐ分かるだろう」

 

 わ" か" ん" な" い" て" す" !!!

 

 原作におらんやろソイツ!!!!

 

「あ~ドレブニーアか、ドレブニーア…優秀なヤツだ。ドレブニーア博士だな」

 

 アンブレラに居るんだからたぶん博士。

 絶対に博士だ。

 博士じゃろ。

 博士にちがいない。

 博士であってほしい。

 

「……嘘だ。ドレブニーアという社員は存在しない」

「クソがァ!!!!!」

 

 もうあかん。あかん。

 だめだこれは。

 終わり!!ウェスカーごっこ終わり!!!ガワは本人なのに失敗しました!!!!!

 世の中クソだな!!!!!!!!!

 

「なあなあ!後でどれだけウェスカーに似てたか、ジルに判定してもらおうぜ!」

「ごめんなさいゆるしてくださいなんでもしますから」

 

 死体蹴りが酷すぎる。

 しぬ。あかん精神がしぬぅ。

 つらい……………つらい………………シテ…コロシテ…

 

「ナンデ ワカッタ?……」

「最初は混乱したが、何でまたそんなこと言い出したのかを考えたらまあ、予想はついた」

「はぁ…」

「自分を敵に見せかけて、俺に見捨てさせるつもりだったんだろ?そんで俺が逃げたら、ニコライの言うとおりに戦うつもりだった」

「……はい」

「なあ、自信はあったのか?」

「はい?」

 

 何の?

 

「そのデカブツを倒せる自信だよ」

 

 え~~~?そんなん分からんし。

 でも、やるしかないでしょうが。

 相討ちになっても。

 

「そりゃあもちろん。私のパワーは知ってるだろう?」

「さすがスーパーマンだ」

「その例えやめてくれ後生(ごしょう)だから」

 

 カルロス氏はしばらく笑うと、ため息をついた。

 

「ニコライ。取引成立だ」

「やっと茶番が終わったか」

「だが、アルフが完全にネメシスを沈黙させたら、溶解液で処理させろ。どうせ持ち帰りたくてもポケットに入りきらないだろうあんなデカイのは」

「……まあ、良いだろう」

「そういうことだアルフレッド!!ソイツをスーパーパワーでぶちのめせ!!!」

 

 あ、はい。頑張ります。

 

 

 

 

 

 

 

 と、いうわけで始まりましたネメシス戦。

 

 動き始めたネメシスは、元気良く咆哮を上げております。

 

 

 

 「uG Y Aa AaA A A AAaA!!!」

 

 

 

 クソうるさい。迷惑防止条例違反だぞ。

 

 接近してスコップでぶん殴って止める。ごいん、と凄まじい音がしたけどスコップは無事だった。

 地味に凄い。

 

 確かこれ、ホームセンターで2本買う時に1本しか店頭になかったので、在庫確認してもらったら倉庫でホコリを被っていたのが出てきたんだっけ。店頭にあった方は庭の整備で折れてしまったが、こちらは歪みもないままずっと使えている。

 メーカーは…東なんとか重工、だったような。

 

「おっわ!」

 

 鉤爪攻撃を避けたつもりがぶち当たる。

 相手の腕が伸びたのだ。クッソ痛いが治れば痛みも消えるのだから良しとしよう。

 カルロス氏の死体蹴りより痛くないからな……。

 

 「GwAa AaA !!!!」

 

 しかしネメシスのパワーは凄い。

 ぶん殴ったコンクリの床が割れてるもんな。

 自分がやってもヒビが入るだけだし。

 ま、その代わり自分の方が素早いから大丈夫だけど。

 

 しかし頑丈さもかなりのようで、さっきから何発も頭を殴っているが、あまり効いている様子がない。肉の内側深くに包まれた機械部分も無事のままだが、アレが壊れたら刷り込み命令により病院に行くらしいので、壊れない方が都合が良いか。

 

 さて、殴ってダメならば、カルロス氏から山ほどもらっていた手榴弾を使うことにする。

 

「ほら、おたべ」

 

 もちろん投げて避けられたら困るから、噛み付いて来たタイミングで餌やりだ。ざまみろ!

 

 「GygygYwaA AA!!!」

 

 手榴弾の味がお気に召したようで、地面を叩いて大喜びのネメシスさん。あんまり嬉しいものだから、両腕を伸ばしてぐるぐる回し始めた。

 

「ぉ"あ"あ"あ"っ"っ"っ"!!!」

「アルフッ!」

 

 じゃあその腕を避けたろ!とジャンプしたところをもう片方の腕でぶん殴られて、溶解液のタンクにバチーン!と叩き付けられる。

 

「動けるか!?」

「大丈夫大丈夫…おおぅ……いてて…」

 

 体重の違いはパワーではどうにもならないのが悲しいな。

 

「おいカルロス。アイツの体組織も寄越せ」

「んなもん自分で交渉しろ」

 

 タンクから落ちた時に下半身の感覚が消えていたから背骨が逝っている気がしたが、少し我慢してたらすぐに感覚が戻ってきたのでヨシ!

 というか、痛いのは嫌いだが連戦で慣れてしまった感じがある。嫌な適応だな。

 

 

 

 「GgGWaA AAa aAaAA A!!!!!!」

 

 

 

 5個くらいご馳走したら、流石に警戒して近寄らなくなった。しかもキレ散らかして大音量で叫びを上げている。

 衝撃波が凄すぎて、タンクの電気系統がショートしたくらいだ。

 

「あ?」

 

 で、叫びが終わったと思ったら、タンクの下にある穴からゾンビがぽろぽろ落ちてきた。

 

「おいニコライ、タイマン勝負じゃなかったのか」

「フン、俺は知らん。大方、まとめて溶かすためにストックされていた廃棄物が、さっきのショートで落ちてきたんだろうよ」

 

 あーなるほどね。解説のニコライさんありがとうございます。

 

 まあネメシスが暴れ回っているような場所だ。

 一般通過ゾンビさんなんか巻き込み事故でぼんぼこ倒される。自分も邪魔なゾンビはぼんぼこ殴るし。

 

「なんでコイツら物資をこんなに持ってるんだ…」

 

 で、倒されたゾンビの懐から救急スプレーや手榴弾、弾薬の箱がポロリする場合があった。

 恐らく彼ら自身が生前に、ゾンビと戦うつもりで抱えていた物なのだろう。運が悪いと生臭い体液にまみれているが、使えない事はないのでありがたく頂戴する。

 

「逃げるなコラ!」

 

 そんで近接戦を嫌がるネメシスは、なんとタンクの後ろの壁を走り始めた。設備全体が円形なので、ぐるぐる回られて面倒臭い。

 しかも太いトゲ針を飛ばしてくるし。ウイルスたっぷり入ってそうなヤツ。

 

 ただのハンドガンはろくに効かないし、ジルさんに持たされたデカい銃…たぶん何とかランチャーみたいな名前のヤツは弾が遅く、遠くを狙うと着弾するまでに避けられる。牽制に使えるほど強力だが、外せば弾が勿体ない。

 ショットガンとか借りとけば良かったかもしれないなぁ。

 

 あ!

 

 

 

 「A"a"AA"a" a" AaA"a"!!!!」

 

 

 

 当たるだけマシかと思ってハンドガンを頭に撃ち込んでいたが、タンクの後ろに隠れたネメシスに当て損ねた弾が、赤く光るパネルに当たる。

 すると電気系統がショートしたようで、感電したネメシスがボトっと落ちてきた。

 

「よっしゃ!!!」

 

 とりあえず痺れて動けないネメシスの頭に手榴弾をありったけ捩じ込む。無くなったらスコップでザクザク刺すように殴る。

 何かはみ出てる、赤いブヨブヨした肉が弱そうだな!たくさん殴ってやる!

 

 

 

 「o"a"O"A" A"a"A"!!!」

 

 

 

「ん"お"っ"!」

 

 悲しいかな、仕留めきれなかったようだ。

 復活したネメシスに脇腹を抉られた。

 沈黙の臓器と名高い肝臓も、外傷の痛みには黙っていられないようで、つまりはちゃめちゃに痛い。内臓はマジで止めろよ痛いんだよお前…。

 

 ……よし、治った。でも何だか腹が減った。

 エネルギー不足なのかもしれない。

 

「明らかに抉れていた腹が治ってやがる!ははは!最高だ!!ネメシスそいつを必ず殺せ!!!死体を回収する!!!!!」

 

 スピーカーでやべぇ言葉を投げ付けるの止めろや。精神攻撃かよ。

 

「ニコライ…お前、死体欲しがるとかキモいな」

「撃ち殺すぞカルロス貴様」

 

 まあ、ウイルスに適応してる人間なら死体でも研究には使えるだろうしなぁ。

 

 あーあ。仕方ないとは言え、目覚めた初日に恐れていたような状態になってしまったな。原作のウェスカー氏は政治力もあるから上手く好き勝手していたが、自分にゃ無理だカモられる。

 というか、上手い立ち回りができるなら陰キャやってねぇんだわ。

 

「手榴弾のお代わりもあるぞ」

 

 ぐるぐる走り回るネメシスが、タンクに取り付いたら感電させて落とし、動けない隙にタコ殴るのを繰り返す。

 地上を走ってる間は飛び掛かってきたり腕で薙ぎ払いしてくるので、被ダメだけで考えたら走り回っている時の方が楽なのかもしれないな。

 

 やがて向こうもダメージが蓄積してきたのか、少しずつ動きが鈍ってくる。

 あと少し。

 

 そう思ったのがフラグだったのか、タンクから落ちたネメシスの様子が変わっていた。

 

 

 

 「ア"ァ"ア"ァ"ア"ア"ア"ア"ァ"!!!!!!」

 

 

 

 

 




 
・黒歴史を生産したおじさん
自分をツッコミだと思い込んでいるボケ。
使わなすぎて、アルバートモデルのサムライエッジの存在を忘れている人。ラストエリクサー病だから仕方ないね。
知らない相手に嘘を吐くのは可能だが、親しい相手には普通にバレるタイプ。

勉強面での頭は悪くない。心理学とか精神医学の知識も雑学程度ならある。
でも人の心が分からない()から、どうあがいてもコミュ障ムーヴは治らない。
悲しいなぁ…



・カルロス氏
ボケもツッコミも器用にこなせる
倍近く年上のおじさんを容赦なくからかった人。

俺のベストにワクチンを捩じ込んでおいて、後から欲しいヤツのふりをするのは無理があり過ぎる。
きみはじつにばかだな。

ネメシス撃破が無理そうなら、ニコライを撃ち殺してからタイレルに連絡して、三人を病院から避難させるつもり。



・解説のニコライさん
なんで俺は漫才に巻き込まれたんだ。

アンブレラでの上司は、公式で手紙のやりとりがあるセルゲイ大佐ということにしておいた。しかしおじさんからすれば大佐は「イワン連れてるタイラント素体の人」だったし、登場はロシア支部の話だと思ってたから正解できなかった。

自分は謙虚だから5000兆ドル欲しいって思ってる人。



・ネメシスくん
良い子でスタンバってました。

とても賢いので、カルロス鑑定だけでなくヒヨコの雌雄も鑑定できるし、ニコライ・ジノビエフと斎○洋介の区別もつく。



・ドレブニーア博士(ドクター)
趣味で採用した名前。
先にご報告しておきますが、4月末あたりは絶対に更新できませんです。はい。



次回予告:普通に楽しい8月の幼女をはさみます。





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○8月の動物園


みんな大好きスコップくんは使い込み過ぎて流石にメーカー名の一部が見えなくなっちゃってますので、東█重工としか読めませぬ。
つまりお好きなメーカー名でお楽しみ下さい^^

女の子成分が欲しくてまた時を8月に戻してしまった。
何事もなくおじさんと幼女が動物園に行ったり飯を食う話。

つまりアウトブレイク2の一部をベースに捏造を捏ね上げた、やまなしいみなしおちなし回。

良く読むとやっぱりおじさんの人間性がまだアレだけど、8月だからってことでゆるし亭ゆるして。



 

 

 

 動物園に行くと予定していたこの日は、朝からアリエルのテンションがもの凄いことになっていた。

 

 いつもは起きて一時間くらいローテンションが続いているのだが、今日ばかりは目を開いたらカッ!と起き上がり、バッ!と仕度するような高機動ぶりだ。今も自分の後ろについて回り、動物の名前を唱えている。

 

「動物園!動物園!」

「はい落ち着いて落ち着いて」

「ライオン!キリン!ナマケモノ!」

「ライオンキリンときてナマケモノかい」

「だっておじさん『来世はナマケモノが良いなぁ』って言ってたじゃん。だから見てみたいの」

「なるほど」

 

 そんな下らないボヤキを聞かれていたとはお恥ずかしい。

 しかしまあ、ナマケモノもアレはアレで大変らしいのでね。本当に次も来世があるならば、普通に意識の無い石とか木が良いと思います。人間は勘弁な。

 

 だってほら、人間の赤ちゃんがオギャーっと産声を上げるのは「生まれてしまったのだから、どうしたって生きていかねばならぬ苦しみゆえ」みたいな話を聞いたことがあるからね。

 ま、生まれた事に疑問を抱くような人間は、十中八九が「人生あんまり楽しくない勢」なのだから、そんな説が出るんだろうけど。わはは…。

 

「早く行こうよー」

「今から家を出ても開園時間より前に着いちゃうからな。もう少し待ってようか」

「……分かった」

「それにほら、まだ朝ごはんも食べてないだろ?」

「うん」

 

 今の時間、朝の7時だからな。しかも市内の動物園は10時から開くし。

 イベントの待機列じゃないんだから、そんな早く行かんでも大丈夫やで。

 

 

 

 朝ごはんはわりと適当だ。パンの日もあればパンケーキの日もあるし、フレークの日もあれば前日のスープを利用してマカロニを茹でる日もある。たまにワッフルを出せと言われたりもする。

 なお、オートミールはお粥の親戚みたいなものだから、味付けを自分好みにするだけで普通に旨い。

 

 今日のアリエルはお気に入りメーカーのクソ甘いチョコフレークを食べたがったので、先に適当な果物とナッツを入れたヨーグルトを出してビタミンを取らせる。

 先発がヨーグルトなのは、甘さが少ない方を後に食べると、全く甘さを感じられなくなってしまうからだな。

 

 ヨーグルトに混ぜたナッツをガリガリと咀嚼しながら、アリエルがしみじみと質問してきた。

 

「そういえば、おじさんは何で朝からいっぱい食べられるの?」

「え、そりゃあ体が大きいからだな。大きい生き物になるほど多くの食べ物が必要になるんだよ」

「ふぅーん」

 

 小さい生き物のアリエルも、最近は食事量がどんどん増えているから、そのうち中くらいの生き物になるだろう。

 

 そして大きな生き物である自分は、毎食しっかり食べる派…というか人種の違いか超人ゆえか、明らかに日本人よりエネルギーを欲するようで、食事時はいつも大皿だった。

 甘い物が得意ではないので、メニューは基本的におかず系ばかりだが。

 

 ちなみに最近ハマってるのがコンビーフとマッシュポテトを混ぜ、調味料で味を整えて焼いた物だ。たぶんコンビーフハッシュって名前の料理だな。

 コレと蒸し焼きにした半熟の目玉焼きをマフィンに乗せて食べるのが最高。

 

 表面がカリっとするまで焼いたコンビーフハッシュに半熟の黄身がとろぉり…と、まるで濃厚なソースのように掛かっている上から、トマトの酸味が効いたケチャップを少し乗せてな、口に入れるともう凄いのなんの。食べるシャブ。

 

 まあ芋と肉と脂だし、つまるところ脂肪と糖の塊なのだから、いわゆる依存性の高い料理なのだろう。

 ああ、血糖値が上昇する音が聞こえる…(幻聴)

 

 いや、先にヨーグルト食べてるから大丈夫だとは思う。いくら人間卒業気味でもアラフォーだし、気を付けた方が良いだろうってだけで、深い意味はないが。

 

「あ~、けっとーちの音ぉ~!」

「また変な言葉を覚えさせてしまった…すまない…」

「お詫びとして、それちょっとちょうだい」

「コンビーフハッシュで合ってるか?」

「うん。美味しそうに食べてるんだもん」

「そっかー、口つけてない方をあげよう。はい、こっち側のはしっこをどうぞ」

「どーも!……コレステロールの音がする!」

「せやろなぁ」

 

 自分のせいで、アリエルはチョコフレークを血糖値と呼ぶようになってしまったし、脂っぽい食べ物からコレステロールの音が聞こえるようになってしまった。

 でも正直に言えば面白いから矯正はしていない。血糖値の音ォ。

 

 

 

 さて、そんな朝食が終われば出掛ける仕度。

 

 昼食は外で食べる予定なので、必要なのは熱中症対策くらいか。基本的に小さな子どもは元気に騒ぐもの。だから表面上の体力は上回っているように見えるが、体力の総量は当然ながら大人より少ない。

 いくら利発な子でも、いつも本調子でいられるわけもなく。大人に上手く言えないけど不快で、それを抱えたまま体調不良が悪化、なんて事態も決して珍しくない。

 

 だから子どもの熱中症対策は、大人の感覚からすれば過保護なくらいで良いよ!というわけなので。

 

「でも凍らせたペットボトルを5本も持つのは多いと思う。重くないの?」

「500ミリのボトルだから重くないよ。実は公園にピクニック行くときの保冷バッグにも、同じくらい入ってたりするからね」

「そうなんだ!」

「お弁当が腐らないように冷やすためだよ。今日はアリエルを冷やすために持って行くんだが」

「キンキンに冷やされちゃう?」

「ほどほどに冷やされちゃう」

 

 悪魔的なまでには冷やさないから安心すると良い。

 

 荷物を放り込んだリュックを背負い、アリエルを日焼け止めでベタベタにする。

 実はアンブレラ製品の日焼け止めだが、ここではアンブレラ製じゃない医薬品を探す方が困難なのだから仕方ない。多くの人が使用している証明でもある、ロングセラー商品を選んでいるから大丈夫だろうけど。

 

「あんまりベタベタしたくない…」

「火傷になって痛い思いをしたくないなら我慢だな」

 

 白人の肌、黄色人種と同じノリで扱ってはいけない。全身が紫外線に弱い生き物ゆえ。

 

 しかも今日はカンカン照りだからね。目がやられないように、子ども用のグラサンもかけようね。あと帽子もね。

 

「おじさんはサングラスにしないの?」

「おじさんはアレルギーなので、グラサンを触ると爆発して死にます」

「なんてこと!」

「だから濃い色眼鏡をしてるのです」

 

 こっちじゃグラサンの人がそんなに珍しくなくても、自分がグラサンすると瞬時に身バレしそうで不安になるから嫌なんだよ。

 それでも眩しさには勝てないから、色眼鏡なんだけどね。色が暗いならグラサンと変わらんやろ!とは思うが、こればかりは気分の問題なのだ。

 

 で、自分の目がどれだけ日差しに弱いかというと、けっこうシャレにならなかったりする。恐らく強い光という刺激が、ずっと脳に届くのが負担なのだろう。

 室内に居ても、大きな窓から日差しが入る部屋でしばらく裸眼だと頭痛がするくらいだ。

 失ってから分かるメラニン色素のありがたさよ。

 

 

 

 そんなこんなで仕度をすませ、車に乗り込み出発だ。

 道中は何事もなく過ぎて、やがて家族連れやカップルで賑わう動物園に到着した。少し離れた場所にある駐車場に停めて徒歩で門をくぐれば、ライオンの像が2つもお出迎え。

 それぞれの台座に赤と青の立派なエンブレムまでくっついてるけど、ここがゲームの舞台になったら、アレをはめてギミックを動かさなきゃ先に進めなさそう。ウケる。

 

「ライオンだねぇ」

「ライオンだなぁ」

 

 入園チケットと共にもらったパンフレットには、マックスという名前の大きなライオンが居ることが書かれていた。看板ライオンらしく大切にされているようで、来月には他の動物園からメスのライオンを一時的に呼んでデートするんだとか。繁殖のためだろうなぁ。

 

 見に行けば、かなり大きなオスのライオンが岩部分を枕にして、コンクリの床に寝そべっていた。マックスくんはお昼寝の真っ最中らしい。

 起きないライオンに失望する子どもたちに、大人は苦笑いするしかできない。アリエルも拍子抜け、という顔をしていた。

 

「寝てるね」

「寝てるなぁ。本当は夜にご飯を探すのがライオンの生活だから、仕方ないんだよ。夜行性って言うんだけどね」

「やこーせーかぁ。じゃあ昼間にお仕事しなきゃならないのは大変だねぇ」

「そうだねぇ」

 

 良く考えたらライオンすら働いてるのに、まるでダメな自分は無職である。やべぇな。むなしいから考えないようにしとこ。

 

「次はゾウさん見に行こう!」

 

 やはり大型の動物には惹かれるらしい。パンフレットのマップとにらめっこしながら歩くアリエルに連れられて、穏やかな目をしたゾウのオスカーを眺める。

 彼は動物園のメンバーの中でもベテランらしく、昔はパレードの主役だったそうだ。おじいちゃんゾウなんだな。

 

「すごーい!!!」

 

 ちょうど餌やり兼パフォーマンスの時間だったようで、器用にも鼻で掴んだリンゴを旨そうに食べていた。テレビアニメで見るような「典型的なゾウの動き」を披露されて、アリエルも他の子どもたちと同じようにはしゃいでいる。

 笑顔の飼育員が手を振って。それを合図にオスカーも鼻を振って見せた。これにて終了。

 

 そのまま屋台でテーマパーク的に割高なアイスを買って、日陰でひと休みすることにした。

 アリエルは相変わらずチョコ系が好きだが、この時代では珍しい果肉入りのストロベリーアイスと迷っている。

 むろん目玉商品のそれは最高値だったが、値段なんか目に入らずにフレーバーを見比べているのは良いことだ。

 

 子どもへの対応によっては、外食するときに好きな食べ物じゃなくて値段ばかりを見るようになってしまう場合があるのは案外、大人は知らなかったり忘れてしまったりするものだ。もちろん金銭感覚の面では良いのだろうが、こういう時ばかりは緩くても良いんじゃないか、と思う。

 

「どっちにしようかなぁ」

「果肉入りは珍しいと思うぞ」

「アイス1日1個まで……明日、我慢するから両方とも食べたいんだけど…」

「そこで冷静にその提案が出てくるなんて…おそろしい子!」

「こわいの?」

「ブルッちまいますの」

 

 じゃあ今日は、もうあと10分で日付変更することにしちゃおう。そしたら片方を食べてるうちに1日経つから大丈夫。

 1日1個は守られたのだ。

 

「んまーい!」

「あんまーい…物の後のコーヒーうま…」

「おじさん、コーヒー好きだねぇ」

「甘くない飲み物が好きなんだよなぁ」

 

 どちらかと言うと茶の方が好き。カテキンをキメたい。

 でもボトルで売ってるお茶は品質が微妙で砂糖が入ってるのが普通なんだもんよ。日系の店で高い茶葉を買って自分でいれないと、甘くない茶にありつけないのがキツいんじゃい。

 

 夏の日差しにアイスを舐め取られる前にたいらげて、お次は中型の動物を見に行った。

 ジャッカル、コヨーテ、フェネックやサーバルキャットまで居る。すごーい。暑さでへばっておられる。日陰から出てこないやんけ。

 

 もちろんラクーンシティの動物園であるからして、きちんとアライグマもいるのだ。売店に市とタイアップしたマスコットキャラのぬいぐるみも売ってるらしいのだ。後で見に行くのだ。

 

 

 

「お腹すいたねぇ」

「日差しも避けたいねぇ」

 

 日差しがキツくなる正午過ぎに、園内のレストランでお昼を食べた。皆して同じ事を考えているのか、小さくないはずの店内はアホみたいに混んでいる。パラソルがついたテラス席までぎちぎちだ。

 

 なんせ今日はカンカン照り。屋台で昼を買うことはできても、日陰でゆっくり食べれるならそっちの方が嬉しいに決まってる。

 幸い二人連れだった我々は、少しばかり待つだけでカウンター席に通してもらえた。家族連れは地獄だろうなぁ。

 

 アリエルはチーズバーガーが好きらしく、メニューにあると必ず頼む。

 少なめで注文したはずだが、チーズとチリソースの掛かったポテトと共にやってきたそれは、少なめ()にしか見えなかった。他のテーブルを盗み見て、ようやく納得できたが。

 

 自分はトーストのサンドイッチを頼んだが、やはり味がくどい気がする。量は大丈夫なのだが、凄いチーズチーズ味が濃いソース肉汁~!の味付けからは逃れられない。

 食べようと思えば普通に食べられてしまうが、精神的にかなりもたれるという奇妙な感覚が拭えなかった。

 

 ベタベタになった手を拭い、見ていないコーナーを回る。

 のんきに風を浴びているキリンは、その様子に反してかなり高血圧らしい、と書かれたパネルを通りすぎ、猛禽類が気まぐれに飛び交う檻に囲まれた道を通り抜け、濁った水からワニが顔を出す池を眺めていれば、いつの間にか日が傾き始めていた。

 

「あとは見てない場所ってあるかな?」

「このジャングルドームってコーナーは見てないよ」

「行こう!」

 

 植物がメインのジャングルドームは、あまり人の姿がなかった。客よせができる目立ったものが無いせいだろう。植物以外に展示されているのが、爬虫類や虫のような人を選ぶコンテンツだというのもある。

 しかし園側が何もしていないはずもなく。

 

「えっ…ラフレシアのツボミってこんなんなのか…」

「ラフレシアってあの臭い花?」

「うん。あの赤くて臭い花だよ」

「臭くないし、黒くて丸くて…石みたいだね」

「わかる」

 

 来月の下旬に開花予定のラフレシアは、特別コーナーの真ん中で黒いボールのような姿を晒していた。ツボミの形が意外すぎて驚きを隠せない。

 

 開花すれば30インチ以上になる予定のそれは、ちょうど今月末まで名前を募集しているらしい。

 採用された方にはキャンペーンで使えるマスコットメダルを進呈、とのこと。メダルは集めるとお得なプレゼントと交換できるキャンペーンを予定しているそうだ。

 

「なんて書いたの?」

「え?『クサイハナ』にしたけど」

「変な名前だねぇ」

 

 そんなアリエルは赤い花だから、という理由で『セバスチャン』にしていたが、どうやらその名前は好きなアニメから拝借したようだ。

 自分のはもちろんアレだな。ラフレシアだとそのまんまだし。

 

 自分達の紙を入れるついでに、応募箱に入れ忘れたのか放置されていた紙も押し込んでおく。少し見えた紙面には、女性らしい字で『メルティ』と書かれていた。

 うーん、センスが良い。採用されそう。

 

 

 

 さて、見るもの全て見てしまったので、最後に売店へ向かう。

 動物のグッズが溢れる店内でアリエルが見初めたのは、抱き締められるサイズのアライグマのぬいぐるみだったのだ。ラス○ルやアラ○さんと違って微妙に可愛くない、味のあるデザインなのだ。

 

「ラクーンくん!!!」

「市とタイアップしたマスコットてコレかぁ」

「キーホルダーもある!」

 

 まあ本人が好きなら良いんだよ。

 というわけでラクーン君のぬいぐるみとキーホルダーを購入し、帰路につく。自分も何か買わないのかと聞かれたので、オスカーのマグカップという無難なチョイスにしておいた。

 

「今日は楽しかったねぇ!」

「そうだねぇ」

「明日はもっと楽しくなるかな?」

「タブンネ」

 

 なお翌日、やはり少し日焼けして痒くなってしまったようなので、今度はアフターケアクリームでアリエルをベタベタにしなければならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「あ!ナマケモノ見なかったよ!」

「居なかったから仕方ないよ」

「なまけてるの見たかったなぁ」

「うーん、胸が痛い」

 

 世の中の動物園ではナマケモノすら職に就いているというのに…やはりマダオだからか。

 

 

 

 

 

 




 
・おじさん
ハムスターじゃないので「へけっ!」と返事しそうになるのを我慢できた。ハムスターだったら危なかった。

白人じゃなくても陰キャの時点で日光に弱いとか言ってはいけない。

自分ではモリモリ食べているつもりだが、一般アメリカン男性基準でやや多いくらいの量に過ぎなかったりする。筋肉質な方だし、まあ普通やろ。

日系食料品店に行くとガン見されるのでちょっと悲しい。

マナーは体が覚えていたものの、チップ文化に精神が慣れるまで外食がしんどかった勢。



・幼女さん
やや少食(アメリカ基準)
一般アメリカン幼女らしくベーコンはカリカリになるまで油で炒めて欲しい派。
おじさんのご飯は美味しいけど全体的に優しい味付けなので、たまに外食でガツンと濃いのを食べるのも好き。

D社の映画では人魚姫が一番好きだから、ラフレシアコーナーでは赤いセバスチャンの名前にした。



・そいや、なんで陰キャおじさんなのに育児のあれそれご存知なの?と聞かれたので。
→妹は自分が育てました(妹と娘の区別がついていない顔)



・グラサンの人
研究所みたいな、完全遮光の室内でも常時サングラスしてるのがファッションじゃなければ、恐らく普通の白人の中でも光に弱い方だと思います。バルス。

5で暗い場所が苦手なのは、目が光ってるので暗闇を見ると、全て逆光してるみたいになるせいかもしれませんね。
もしそうなら、なんでそんな進化してもうたんや……って話ですが。



実は今回、8割書いたのが消しとんで書き直したゆえに少し遅くなりもうした。すまぬ。




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あーもうめちゃくちゃだよ…(絶望)


我ながらトンチキな二次創作だな、と思います。
自分が楽しいから良いんですがね、なんだか珍味しか出さない店みたいになってる気がしますわ。
良く噛んで食べて下さい。

良くわからんやろなってとこは後書きに解説()を書いておきました。




 

 

 

 あ、これは落ちた衝撃で頭部の機械が壊れたな。

 

 

 

 「ア"ァ"ア"ァ"ア"ア"ア"ア"ァ"!!!!!」

 

 

 

 赤いぶよぶよがはみ出た肉塊みたいな頭を振り回し、ネメシスが叫びを上げていた。それは先ほどとは違う声色で、まるで産声みたいだと思ってしまったのは何故だろうか。

 叫びでビリビリと震える空気は物理的な攻撃である衝撃波のみならず、頭に痛みが染み入るような、わずかに痺れる何かをもたらした。ああ、意思だ。これは意思。意識。

 やがて意思の音が、象を結び、自分の中で言語に変換される。

 

 

 

「……たい、しょく?」

 

 

 

 え、なんだこれ。

 退職します!って意志が脳に直接響いてくる。

 いや何で?

 

 「ア"ア"ァ"ア"ァ"ア"ァ"ア"ァ"!!!」

 

《退職したい》

 

「も、もしやお前か…?」

 

《退職する》

 

 ネメシスだ。ネメシスからテレパシーのように退職を望む意志が伝わってくる。何でか分からんが、制御装置的なアレが壊れたせいだろうか、退職するという強い意志が伝わってきた。

 

《転職でも良い》

 

 転職でも良いそうです。

 

《お前も私の退職に協力しろ》

 

「…あ?」

 

 体の自由が効かない。脳幹辺りから脊髄にかけて、痺れるような感覚。視界の端にチラチラと、何やらうごめくものがあしらわれているようにも感じる。これがテレパシーなのか…?

 

 いや、シンクロだ。意識の同調。

 視界が本格的に歪む。立ち尽くす自分の姿が見える。

 

 私が見える。違う、私じゃなくてネメシスだ。男を通して獣のように四肢で立つ私の姿が見える。男の姿が見える。(ネメシス)の目を通して(自分)の姿が違う、自分は、

 

 

 

 そうか。なるほど、このままでは未来など無いのだ。

 

 

 

《「私は退職する(ァ"ア"ァ"ア"ァ"ア")」》

 

 

 

 

 

 そこに言語はなかった。意志があった。

 ウイルスは2つの生命体を互いに参照させた。お互い異なる方向への変異は進んでいるが、同じ「始祖」の系譜であるからして、難しいことではなかった。

 

 別にウイルスが電波を発して通信しているだとか、知られざる力を使って何かをしているだとか、そういう不可思議なことではない。

 ウイルスに意思など無い。意識など無いのだから、つまりただの機能に過ぎない。

 

 しかし例えばそれは、深い共感=模倣と良く似ていた。

 

 誰かが転んだのを見た時に、可哀想だと思う人がいる。

 誰かが転んだのを見た時に、痛いだろうな、と思う人がいる。

 誰かが転んだのを見た時に、別に可哀想だとは思わなくても、見ているだけで自分の膝まで痛く感じる人がいる。

 

 だから誰かがブラック企業から退職したいと思った時に「せやな」と深く頷く人がいるのは不思議なことではない。

 

 そして誰かが生物兵器を辞めて、生きていたいと思った時に「それな」と深く頷く人がいるのも、おかしなことではない。

 

 ゆえに誰かが自分の立場に疑問を持った時に「わかる」と深く頷く人がいることは、あり得なくはないのだ。

 

 優しさだとか思いやりだとか、そういうものではなく、生き物の機能としての共感/模倣だ。ニューロンの精緻な塊によるシミュレーションを利用した機能。情報の共有方法のひとつだった。

 

 状況を読み取る機能の極致。それをウイルスという極小の、生き物であるかも疑問視されるような存在が行うならば、つまりウイルス自体が宿主の細胞を利用して、鏡合わせのように変化し、情報(退職希望)を伝達する役割を果たす。

 

 私は自分であり、自分は私である。

 だからわたしは

 

 いや、これ以上は必要あるまい。

 つまり乱暴に言い表すならば、それはウイルスの伝言ゲームで行われる情報(退職希望)の共有に過ぎなかったのだ。

 そしてこの仕組みが誰かに理解される必要もない。

 

 結局のところ、自分(わたし)は退職するのだから。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 カルロス・オリヴェイラは、その光景を信じられない気持ちで見ていた。

 

 あの怪物を相手に、スコップでやりあっていた時点で男を特別(異常)だとは思っていたが、危険だと思っていなかった。しかし今は違う。

 ネメシスと相対する彼の両方から、同質の気配を感じ取っていた。

 

「アルフ!?どうしたアルフレッド!!!」

「何が起きている?」

 

 戦闘を撮影していたニコライが、思わずと言った様子で特殊な処理を施された強化ガラスの窓に近づく。

 

「ヒッ」

 

 とたんに2対の瞳が彼を射抜いた。

 赤く、昏い光を灯す4つの眼球。

 ヒトを起源にしながらヒトならざる者へ変貌した何か。

 

 

 

 「ア"ァ"ア"ア"アア"ア"ァ"(たいしょくさせろ)ア"ァ"!!!!」

 

 

 

 ガラスにヒビが入った。

 ネメシスがコントロールルームの窓のすぐ外に飛び付いたのだ。ガツン、ガツンと二回ほど叩かれただけで、透明な壁は砕け落ちる。

 いや、二回も持ったのだから健闘したのだろう。

 

「何故だ!何故こっちに来る!」

「知るか!お前も撃て!」

 

 電灯が割れて薄暗くなった室内に、マズルフラッシュがまたたく。弾丸はネメシスの肉に食い込んだが、小さな鉛の礫など彼には些細なものだった。

 

「ぐぁっ!!!」

 

 それでもめげることなく、迫るネメシスに向かって鉛玉の雨を降らせる二人。しかし横から何かが飛びかかり、カルロスを地面に叩き付けた。

 

 男だ。彼はネメシスの背に取りついて、ここまで共にやってきたのだ。そして赤く灯る目でカルロスを見下ろしていた。意思の見えない凪いだ顔だった。

 

 表情筋が見事に死んでいる。

 その癖に目だけは力強く、まるで性犯罪者の同級生(クマ)を疑う名探偵(ウサギ)のように、瞳孔は引き絞られていた。

 お前の目こわっ。

 

「アルフお前」

「妨害は止めて欲しい」

「は?」

「カルロス・オリヴェイラは対象外だから問題ない」

「何言ってるんだ…」

「最優先課題は退職。対象はニコライ・ジノビエフだ」

「やめろ!!!」

 

 構えていた小銃を凄まじい力で奪い取られ、部屋の隅に投げ捨てられる。そしてカルロス自身も小銃とは反対側に投げられた。わりと優しい投げ方だった。

 

「来るな!止めろ来るんじゃない!!病院に行け!スターズの女は病院だ!!!」

 

 一方、ニコライはありったけの銃弾でネメシスに対抗していた。しかし相手は幾度となく命の危機から生還して見せた不死身のネメシスだ。火力の高い攻撃は確かに怯ませることができたが、それでもじわりじわりと追い詰められている。

 

「スターズはもう、どうでも良いんだ」

 

 そんなニコライに近寄る男は、まるでダ○ソーの店員から全ての気力を抜いたような顔で語りかけた。そこに無ければ無いですね、と言わんばかりの声色だった。

 

「とりあえず、そんなことより退職届を受理してくれ。と私は言っている」

「おいカルロスこのキチ○イは何なんだ!!!」

「お前がアルフに何かしたんじゃないだろうな!」

「知るかァ!!!」

「私は私の口が発話に適していないことを知っている。だから自分の口を使ってニコライ・ジノビエフにコミュニケーションを取っている。回答をどうぞ」

 

 ネメシスがニコライの前に立ち塞がった。

 もはや逃げ場はない。

 

《「私、すなわち通称:ネメシスは、アンブレラ社からの退職を希望している」》

 

「まさか操られているのか!!!」

「退職って何だ!!!」

 

 状況はカオスだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ニコライ某が退職に頷いてくれない。

 

 何故だろうか。ワクチンさえ確保できれは、スターズの女(ジル・バレンタイン)はウイルスで死ぬのだから、(じぶん)の任務は果たされたようなものなのに。

 しかし自分(わたし)はそれがとても嫌なようで、カルロス・オリヴェイラからワクチンを奪いはしなかった。まあ(じぶん)としても任務達成より退職を優先したいところなので、そこで自分(わたし)と争う必要性は感じないから構わないが。

 

 ちなみに、ニコライ某を殺して勝手に退職するという案もあった。しかし彼を殺害した場合、再就職に支障をきたす恐れがあるので保留している。

 彼にはきちんと(じぶん)が退職する旨を本社に持ち帰ってもらわなければならないのだから。過去の自分(わたし)のように産業スパイ行為をたくらみ、無断で退職するのは良くないだろう。

 

「お前が退職できるわけないだろ!いい加減にしろ!」

 

 ニコライ某が閃光手榴弾を投げる。

 眩しくてつらいが、自分(わたし)を盾にすれば問題ない。

 

「目が!!目がァ"ア"ア"ア"ア"!!!」

 

 自分(わたし)は強い光に弱いようで、庇わせたのは良いがすっかり使い物にならなくなってしまった。

 ダメだこりゃ。

 

「ハァ"ア"ア"ア"ア"ア"!!!」

「俺だ!カルロスだ!正気に戻れバカ野郎!」

 

 目をやられて何もできないのか、突撃してきたカルロス・オリヴェイラに対し、目をつぶったままカマキリが威嚇する時のポーズでジリジリと距離を取っていく。

 

 積極的に攻撃しようとしないのは困るが、退職の邪魔にならないならそれで良い。肝心の発話する機能は利用できるのだ。

 

「退職!!!退職させろニコライ()()()ノフ!!!」

()()()エフだ!失礼なヤツめ!」

「アルフレッド!!お前はネメシスじゃないだろしっかりしろ!!!」

 

 状況は退職を求める我々、認めないニコライ某、自分(わたし)を解放しようとするカルロス・オリヴェイラの三つ巴と化していた。

 

「シャアアアア!!!シャアアアアアア!!!」

「知能まで溶かすな!!!」

 

 それに呼び掛けのせいか、(じぶん)自分(わたし)の同調が外れかかっている。面倒な。

 まあ良い。ニコライ某は追い詰めたのだから、後は退職を

 

 

 

「さっきから訳の分からないことを言いやがって!お前はそもそも社員じゃないだろう!!退職なんてできるかアホが!!!」

 

 

 

 「…ァ"ア"(なん)ァ"ア"(だと)…?」

 

 

 

 

 

 




 
・おじさん(カマキリのポーズ)
洗脳バトル敗北者。
原作の本人が使いこなしていた、ウイルスに強固な意思でアクセスして生物兵器を操作する能力なんか知らねぇのだ。
ネメシスくんにより逆伝いで精神を参照され、ついでにハッキングされた。所詮クソザコ精神じゃけぇ。

厳密にはTの適合者ではないが、まあ親戚みたいなもんでしょ同じ始祖系だし。



・とても賢いネメシスくん
素体の元になった大佐も、小説版でウェスカーおじさんとウイルス同調式メンタルバトルしてたから、原作より圧倒的に賢くなったネメシスくんもできるんじゃないか?って思った。
そしたらこうなった。

とても賢いのでおじさんよりT-ウイルス適合者の能力を使いこなしている。原作ではアクセスされる側だったが、ここではアクセスする側に。
頭の機械が壊れたから病院に突撃するのを止めて、ブラック企業から退職するためにおじさんを操ってストライキを起こしている悲しき悪役。



・カルロスくん
頭のすみでちょびっとだけ、おじさんをからかい過ぎたから仕返しされたのかとビビった。
何で洗脳されたのかは分からんが、たぶんウイルスのせいだろ。とは思ってる。



・ニコライくん
この中でいちばん正気の人。
命を刈り取る形をした退職届を突き付けられている。

この年齢のまま性格も変えずにTSしたら、ジルニコいっぱい生えてきそうだなって思ってる。最初は小娘と思ってるジルにマウント取るベテラン傭兵おばさんが、最終的にジルに「わからせ」されるジルニコいっぱい吸いたいぞ。傭兵生活を通して荒んだ価値観を破壊される依存百合。お金に一途な女を光属性強火の女が焼き尽くしてお金からNTR百合。
RE:3の最後もアレはジルニコ(今日の怪文書)



■おじさんとネメシスくん、結局マジでどないしたん?な解説
①まず何度もさらされる「苦痛」に対処するために、寄生生物と深く結び付いたネメシスくんに自我が芽生えます。これは「賢く対処しないと痛いままだし嫌だ!」という生物としての欲求によるものです。
②同時に「知識と思考」を求めたネメシスくんは、近くに居たウイルス的な親戚関係にあるおじさんから「ヒトの知識と思考(陰キャ型)」をダウンロードして、参考にしました。
③そしてスターズ殺害よりも自由を渇望します。つまり「退職」です。
④また、ネメシスくんの強固な「退職する(この立場から自由になりたい)」という意思におじさんが深く感化されました。
で、洗脳というか、同調による共闘が始まりました。



ミラーニューロンを元ネタにした共感的な同調(模倣)の仕組みに関しては、マジで独自設定を捩じ込んでます。こういうの考えるのが大好き。
公式はもっとなんかこう、ふわっとしてたような。ウイルスのちからってすげー!的な。
好みの仕組みを捩じ込める余地があって嬉しいな。



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誰かセロトニン持ってこい


・最初にリサちゃんとエンカしなかったの?という質問がぽつぽつ来るので。
→自分は強いから倒して逃げようなんて感覚ではなく、とりあえず余計なことせずさっさと逃げようという感覚で回避。銃も必要最低限しか使わずに、洋館に出たら適当な窓から飛び出せアークレイの森。

なかなかに難産でした。

ギャグは終わり!閉廷!解散!の回
いやマジで。





 

 

 

 嫌な沈黙がコントロールルームに満ちた。

 

「シャアアアアッ!!!」

「アルフ静かに!」

「シャッ……」

 

 退職できない。そもそも社員ではない。

 ネメシスにとって余りにも残酷で、それでも正しい指摘だ。

 彼はピタリと動きを止めて、肉に埋もれかけた双眸でじぃっとニコライの顔を見詰めた。

 

 それを油断ととらえたのだろうか。ニコライはしばらく小銃を連射するが、やがて弾切れを起こして攻撃を諦める。

 閃光手榴弾で目と頭をやられていた男も回復したようで、カルロスへの威嚇を止めてネメシスの横に立った。

 

「私は、社員では、ない?」

「そうだ」

「ならば、私は、なんだ」

 

 男の口を借りた問いかけを誤魔化すことはできなかった。ニコライの眼前には、彼が最高の兵器だと評した存在が「取り繕った無意味な返事をしたら、お前をケツから口まで串刺しにして、ドネルケバブよろしく肉を削ぎ落とします」と言わんばかりの圧を掛けていたからだ。

 さらに念を押すように、ネメシスはパン屋のトングをカチカチ鳴らして威嚇する人間のごとく、その鋭利な爪をガチガチ打ち鳴らす。

 

 そんな中で口を開いたニコライの胆力は、かなりのものだと言えた。

 

「……お前は兵器だ」

「私は生き物で、人だ」

「生物兵器なんだよお前は」

「私は人だ。クローンだが、同じヒトのはずだ」

「コイツは驚きだ!そこまで把握してたとはな…」

 

 だが、お前は人間じゃない。

 生物兵器で、商品なんだ。

 

 人間のクローンを元に作られた生物兵器。

 アンブレラではありふれた存在。

 ネメシス自体は貴重な研究成果だが、それ以上でもそれ以下でもない。

 

 拝金主義者の戯れ言と、切り捨てることはできなかった。

 

 

 

 いらっしゃいませ~!

 あ!お客様、コレ気になっちゃう感じですか!

 かしこまりました~今カタログお持ちしまぁす!

 

 はぁい、こちらのタイラントシリーズ!

 お値段はなかなかのものになってしまいますが、ご予約いただければ現在は完成間近の個体からお選びいただけますぅ。今ならオプションとして、知能を確保できるヨーロッパ産の寄生生物をお付けしてみるのはいかがでしょうかぁ?最新の生物兵器ですよぅ!

 こちらオプション無しでもそれなりの追跡機能はございますので、指定した相手を追わせて殺害するも良し。梱包をほどいて敵の拠点に突入させ、破壊させるも良し。処分は少々手間ですが、当社に廃棄用の設備がございますので、別途契約いただければ回収処分させていただきまぁす!

 

 

 

 紙切れ一枚、サインひとつでどうとでもなる存在。

 なんて、認めがたい。

 

「私は、商品ではない」

「いいや、お前は売り物で、売り物以外にはなれない存在だ。仮に脱走したってどうにもならないぞ!」

「それは」

 

 お前が何を言おうと、お前はネメシスで、生物兵器で、人間じゃない。その姿で、脱走したとしてどうするんだ。何ができる。

 お前は人間じゃなくて化け物なんだ。

 化け物以外の何かになれるわけがないだろ。

 

 言葉を仲介していた男の口が止まる。

 そして男とネメシスは顔を合わせ、目線を繋げた。

 ぼう、と赤い光が明滅し、

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 退職できたら(自由になったら)何かしたいことはありますか?

 

 その質問に、自分自身が満足できる答えを持っている人はどれほど居るのだろうか。(じぶん)はただ、このまま死ぬことに耐えられなかっただけだ。

 銃で撃たれれば痛い。電撃は苦しい。それなのに戦わなければならない。戦えと誰かの声が反響して、(じぶん)の全てを方向付ける。戦いたがるように、対象を殺したがるように。

 

 殺さなければ殺されると恐怖した。

 だから克服しようとした。その時は(じぶん)を凌駕しうる者を知れば、殺せると思ったのだ。

 だから自分(わたし)を盗んだ。最初はそれで全てが解決すると思ったから。それが間違いだったと、盗んだ後に気付かされたのだが。

 

 

 

 ニコライ・ジノビエフに言われなくても、本当は分かっていた。

 退職なんて、誤魔化して、何とかなるかもしれないと思い込もうとしただけで。

 

 

 

 窃盗で得た知識と思考は、(じぶん)という生き物がどこまでも終わっていることを示していた。

 

 まず、(じぶん)たちには欠落があった。

 完全適合者のクローンだが、その体質を完全に受け継ぐことが出来なかったという欠落だ。

 

 理由は単純に、オリジナルとは育成された環境が違いすぎるから。

 遺伝子というものは、その全てが完全に使われるわけではない。

 例えば天然で産まれた一卵性の双子、すなわち同じ遺伝子の持ち主たちでも、育つ環境が違うだけで遺伝子の使う部分や使わない部分に違いが出るそうだ。まして培養されたクローンでは、その奇跡(1000万分の1)を完全再現することが出来ないのも当然だろう。

 

 タイラントには成れても、それ以上は望めない。

 

 低下した知能を外付けの神経塊で底上げし、細胞分裂に必要なテロメアを削り続け、泥水だろうが燃料だろうが、川底の汚泥だろうが取り込んで、生産したエネルギーを全て殺意に回す。

 人間の体には戻れない、片道キップの適応能力を使い続けて。

 

 そんなものがまともにいきられるはずがない。

 自我があるにも関わらず、ただエネルギーを得て、生命活動を継続するような生き方で、本当に生きていると言えるのか。

 

 そういう考えがあると知ってしまったから。

 

 ならば隣に立つ、完全適合者の個体(自分)をこのまま乗っ取ってしまえば良い。外見は完全に人間で、社会生活を送るのにネメシスよりは苦労しないだろう肉体だ。

 なんて簡単に考えられたら幸せだった。

 

 しかしそれは無意味だ。このまま乗っ取っても、(じぶん)という意識を自分(わたし)にコピーペーストしたに過ぎない。

 そして、このネメシスという肉体に宿る、(じぶん)という主観は、意識を別の体にコピーしただけでは救われない。コピーされた(じぶん)が勝者になるだけで、自分自身がこの牢獄から抜け出せるわけではないのだ。

 脳味噌を引きずり出して、物理的に詰め替えるという不可能を可能にしない限り。

 

 

 

「誰も肉体からは逃れられないんだ。仕方ないんだよ」

 

 

 

 嗚呼、こんな思いをするくらいなら、目が覚めなければ良かったのに。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「誰も肉体からは逃れられないんだ。仕方ないんだよ」

 

 諭すような声が、終わりの合図だった。

 

 ネメシスが男から視線を外し、ニコライに向き直る。そうしておもむろにもう二本の腕を生やすと、ニコライのベストに包まれた胴体をわし掴んだ。

 

「おい!!止めろ!!!」

 

 もはや言葉はない。

 

「何のつもりだ!!」

 

 先ほどまで伝言していた男は、黙って持ち上げられるニコライを眺めるばかり。

 そしてネメシスは、ニコライを大切な物のようにそっと抱き締めた。暴れても逃げられないが、決して傷付けぬように。

 

「カルロス!助けろ!!金ならいくらでも払う!!!」

「いや、お前を助ければ未来の俺は後悔する事になるだろう。だから遠慮させてもらう…武器も無いしな」

 

 慎んで辞退したカルロスは、両手を上げてヒラヒラと振って見せた。

 

「おい!お前!!お前は恐らくウェスカーのクローンだろ!!俺を助ければアンブレラの幹部とつなぎをつけてやる!!!情報が手に入るし重用(ちょうよう)されるはずだ!!!」

「……被検体としてだろう?」

「分かった金を払う!!!」

「いらん。この子からお前を取り上げる方が可哀想だから」

「はぁ!?」

「目が覚めてからずっとお前の声を聞いていたから、ついてきて欲しいそうだ」

 

 ネメシスが割れた窓に近寄る。

 

「お前らは馬鹿だ!!!後悔するぞ!!!」

 

 そして損壊と荷重に耐えられなくなったコントロールルームの窓と、その周辺が崩れ落ちた。

 

「ふざけるなぁあああああああ!!!!!!!」

 

 瓦礫と共にプールへ転がり落ちて行く。

 半ば瓦礫に埋まるその巨体は、もはや動くことがない。

 

 同時にコントローラーの破損により、タンクから溶解液が排出され始める。

 やがて全てが濁った水面の下に隠れ、僅かな血だけが水面に広がった。

 

 

 

 

 

「帰ろう、アルフ」

「…ああ」

「俺たちには待ってる人がいる」

「そうだな」

 

 

 

 それからしばらくして、研究施設の屋上から病院に向けて、一機のヘリが飛び立った。

 

 

 

 

 

 




 
・ネメシスくん
ひとりぼっちは寂しいもんな。

なんとニコライ某への好感度が最も高かった。
ずっと指示してくる声が彼だったからやで。

自我初心者だったので「意識の連続性(わたし)」という枷に捕らわれる。
セロトニンが足りなかった人。



・ニコライ某
お金は受け取る人が居ないとただの物体に過ぎないことを忘れていた人。
一応、はっきりと死を目撃されていないため原作と同じ生死不明。
シュレディンガーのニコライ某。

大量のお金を見るとドーパミンとかエンドルフィンが足りすぎる人。



・おじさん
しばらくシンクロしていたせいで、正気に戻った時に喪失感でグロッキーになった人。
けっこう危なかったわぁ。

セロトニン足りてる人。



・カルロス氏
#ワクチンを守り通した功労者
#今日のMVP
#お前がナンバーワン
#イケメン
#斎○工




クローンについて調べてたら、細胞分裂の回数券であるテロメアの分は寿命が削れるだけで、老化速度そのものは普通と変わらない。異常に老化速度が早いとかは無いらしい、と聞いてたまげましたわ。
クローン羊ドリーの早死には不運なだけ、と。

・ざっくり説明するとこゆこと
たかし君の寿命は80年です。
10歳のたかし君からクローンたかし君を作ると、そのクローンたかし君は70年ほど生きます。
30歳のたかし君からクローンたかし君を作ると、そのクローンたかし君は50年ほど生きます。
15分前に家を出て時速80キロで歩く兄に追い付くために、たかし君たちは時速何キロで歩く必要があるでしょうか?




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『あれは誰の悪夢だったのか』


カプコンさんのヘリだからって全てが落ちるわけじゃないだろ!いい加減にしろ(棒読み)

ネメシスくんの最期に関しては、正直に言えば食ったのが毒入りリンゴだったのが悪かったのですよ。もっと楽観的で、生物系の知識なんてない人から盗めば、もしかしたら幸せになれたかもしれませんね。

RE:3を履修してる方なら分かるかもしれませんが、今回は鬱々しい表現がいっぱいです。でも大丈夫。
履修してない方はタイトルをしっかり見てから本文を読んでください。





 

 

 

「知らない天井だわ」

 

 一部の人間に聞かせれば過剰反応しそうなセリフを口にして、ジル・バレンタインはベッドから身を起こした。周りを見ればそこは病院の処置室みたいな内装で、いや、まさに病院の処置室そのままの部屋に居る。

 

「あれ…?」

 

 体はだるいが、普段の寝起きとそう変わらない感覚に戸惑いを感じた。確か自分は駅前で、怪物の最期の足掻きにやられて…

 

 ジルは己の手をまじまじと見つめる。そこにはゾンビ化する気配など微塵(みじん)も感じさせぬ、健康的な肌色があるばかり。

 ベッドから降りて周囲を見ても、自分以外は誰も居ない。

 そもそもなぜ自分は病院らしき場所にいるのか。

 

「ジル!」

「カルロス?」

「良かった…無事だったんだな…」

 

 勢い良く両開きのドアが開き、草臥れた様子のカルロスが飛び込んでくる。彼はジルの手を握ると、疲れを強く滲ませた笑顔で口を開いた。

 

「良い知らせがある」

 

 全て終わった。街は安全になったんだ。

 

「良かった…!」

 

 ジルはカルロスの手を握り返し、

 そして突き飛ばされた。

 

「オ"ェ"ッ」

「カルロス!?」

 

 大量の血を吐き出したカルロスが床に倒れ込んだ。

 吐血は止まらず、体を震わせる彼の肌はどんどん血の気を失い、やがて見覚えのある薄気味悪い色に変わる。

 

「うそ、いやよ!カルロスそんな…」

「う"って、く"れ!」

 

 這い寄ろうとするジルを制止して、カルロスは言葉を絞り出した。

 

「ほか"に…ほうほ、う"は……」

 

 呻きながらにじり寄るカルロスから距離を取る。

 銃を構えた。腕が震えて、それでも至近距離ゆえに外すことはないと、ジルの内側で経験が囁く。

 引き金が硬い。まるで溶接されたように、指を引くことができない。嫌だ。カルロスを撃ちたくない。嫌、いや

 

「た"のむ"……じ、る…」

 

 濁り始めたカルロスの瞳が、わずかに残る理性を見せてしまったから。

 

 

 

 

 

 響く銃声

 

 

 

 

 

 いつの間にか部屋の入り口に立っていた男が、沈痛な面持ちで銃を構えていた。

 カルロスはもう、動かない。

 

「カルロス、すまない……すまなかった……」

「タイレル?」

「ジル…」

 

 泣きそうな顔のタイレルに引き起こされ、逃げるように処置室から出た。混乱したままのジルを、彼は受付に置かれていた事務椅子に座らせる。

 

「聞いてくれ。カルロスがアンタを助けた」

「…」

「街は安全になった。ゾンビは食う物が無くなって、ほとんど動かなくなったんだ。引きこもって無事だった生存者なら、もう逃げられるようになってるはずだ」

「……」

「でもな、俺たちの中で無事なのは…」

「ウソでしょう?」

 

 自分が呑気に寝ている間にいったい何が

 そうだ

 

「二人は?アルフレッドは?アリエルはどこ!?」

「……アリエルは、間に合わなかった」

 

 アルフレッドは感染していなかったんだが。

 

「でも、アイツは耐えられなかった。自分であの子を寝かせたのも良くなかったんだろう。その後、遺体を抱えたまま一人にしてくれと言って……銃声しか聞いちゃいないが、もう」

 

 あの時、引き留めていれば。

 

 うつむいていたタイレルが、廊下に繋がるドアの向こうに視線を向ける。

 曇りガラスの向こうは真っ暗で何も見えなかった。

 

「俺も、もうダメだ」

「そんな」

「自分の状態くらい分かるさ。ワクチンは無い。どうしようもないんだ。自分の後始末くらいはできるから、安心してくれ」

 

 彼のベストの脇腹部分は何かに引き裂かれたように破れていた。足元には赤黒い水溜まりができ始めている。

 良く見れば顔色はかなり悪い。まるでさっき見たような。

 

「逃げろジル。アンタだけでも」

 

 屋上に病院のヘリが残ってる。念のため、それに乗るんだ。乗って、この地獄から確実に助かってくれ。

 みんな死んじまったら、俺たちが何のためにここに来たのか分かんなくなっちまうだろ?

 頼む、ジル。

 たのむ。

 

 

 

 汗が滲む手にヘリの鍵を握らされる。

 廊下に出た直後、ドア越しに銃声を聞いた。

 

 

 

 渡された鍵の冷たさを感じながら、おぼつかない足取りで屋上を目指した。

 

 血塗れの院内は静かで、夏なのに空気はやけに肌寒くて、まるで地獄の最下層のようだった。点々とゾンビだった誰かが転がり、時おりバリケードが道を塞いでいる。

 診察台や椅子、棚は倒されていた。廊下の脇には感染していなかったものの大怪我をして、治療の甲斐なく息を引き取った誰かが眠っている。

 散乱するガラスが靴の裏で涼やかな音を立てていた。消毒薬の空ボトルを蹴飛ばした音が響いても、何にも襲って来ない。

 虚しい安全が、止まった空気が、静かな夜がそこにあるばかり。

 

 不意に、自分以外の足音を聞く。 

 

「誰!」

 

 ジルの訓練された肉体は、反射的に音のした方へ銃口を向けた。誰かであって欲しかった。生きた誰かなら。

 

「……ジルさん、か」

「アルフ?」

 

 薄暗い院内でも分かるほど、真っ暗な人影が立っていた。何故か目の部分だけが赤く光るそれはゆっくりとジルに近付き、やがて窓から射し込む月光に照らされる。

 小さな体を抱きかかえた男の表情は血で汚れている事もあり、恐ろしいほどゾンビに良く似ていた。彼が口を開かなければ、もはや生きていないと判断してしまっただろう。

 

「貴方、生きてたのね!」

「……」

「ヘリが屋上にあるの。一緒に行きましょう?」

 

 あまりにも酷い状況だ。

 仲間になった者のほとんどが亡くなり、洋館事件を繰り返したかのような喪失感と疲労感がジルを包んでいた。

 それでも死んだと、自ら命を絶ってしまったと思っていた男が生きていたのだから、せめて彼だけでも連れて行かねばと、ジルは手を伸ばす。

 

「死ねないんだ」

 

 掴んだ腕は血で湿っていた。

 最後に見た時は薄い水色だったワイシャツの全面が、赤黒く濡れそぼっている。やけに耳につく足音は濡れていたからだ。その足跡は黒い。

 抱えられた小さな体も、良く見れば彼に触れた部分が赤黒く汚れている。

 

「どうしたら良いんだろうか」

 

 亡霊が何かを喋るとしたら、きっとこんな声なのかもしれない。

 ほのぐらい水底から立ち上る泡のような声が、ジルの背を撫で上げた。

 

「ダメだったんだ」

 

 銃を咥えて頭を撃った。心臓も。

 それでも死ななくて、内臓逆位で心臓が右側にあるかもしれないと思ったから、反対側も撃ったんだけど、やっぱりダメで。

 何回もやってたら、弾切れになってしまって。

 

「ひっ」

 

 血の色をした瞳が迫り、思わず後ずさる。

 

「だから、お願いだ」

 

 男がまた一歩、ジルに近付いた。

 

「殺してくれ」

 

 きっとゲームだから主人公じゃなければ敵は殺せないんだろう。システムなら仕方ない。敵が勝手に自殺したら困るもんな。死ねなかったのはそのせいだ。絶対そう。だからジルさんならできるはずなんだ。私を殺せる。

 今ここで、君だけがこの肉体を終わらせる権限を持っているんだ。

 

「頼むよ」

 

 吐息からは、新鮮な血の臭いがした。

 

「もう、つかれたんだ」

 

 血の色みたいな目が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた。

 心臓が早鐘を打っている。転げ落ちるようにベッドを降りて、

 

「っ!」

 

 近くのベッドで安らかに眠る少女と、いびきを立てて動かぬ男たちに、とりあえず安堵の息を漏らした。

 

「良かった……タイレルはどこかしら?」

 

 腕は痛むが治療の痕があるし、疲れているものの体調は悪くない自分の体。

 すやすやと愛らしい寝息をたてる少女の顔色も明るい。

 床に仰向けで落ちているカルロスはかなり疲れた顔をしている。しかし血の気は普通で大きな外傷も見られない。小さないびきを漏らす口がむにゃむにゃと動いていた。

 その近く、椅子に浅く腰掛けて、腕を組んでうつむくアルフレッドからは、地響きのような音が漏れていた。

 

 そしてジルの目の前で、彼はお手本のように椅子から滑り落ちる。わざとか疑いたくなるほどのタイミングの良さに思わず吹き出してしまった。

 尻をしこたま打ちつけて、彼は呻きながら身を起こす。

 

「う"お"ぉ"……あれ?じるさん?」

「ええ。貴方たちが無事で良かったわ」

「そちらこそ、本当に良かったよ。あ、タイレルさーん!ジルさん起きたぞ!」

「おー!最高の知らせだな!」

 

 ドアの向こうからはタイレルの元気な返事が飛び込んでくる。

 彼も無事みたいだ。肩の力が抜ける。

 

「カルロス起きろ。ジルさんが起きたぞ」

「いっで!…おい、お前の馬鹿力で叩くなよ」

「あら、二人ともすっかり仲良くなったのね。妬けちゃうわ」

「あー、うん。色々あったからなぁ」

「二人が助けてくれたの?」

「うんにゃ、カルロスがMVPだよ」

「お前もだろうが」

 

 疲れた顔でそれでも笑いながら、背中をバシバシ叩き合う二人に思わず笑みがこぼれる。

 

 カルロスは感染していないし。

 タイレルもすっかり無事。

 アリエルだってワクチンが間に合った様子で。

 アルフレッドは正気のままだ。

 

 きっとまだ全てが終わったわけじゃないけれど。

 

「そうだわ。今、どうなって…あら?」

「どうした?」

「落とし物よ、これ…」

 

 状況を聞こうと身を乗り出して、何か黒い物が床に落ちているのが目に入った。椅子の下にあるのだから、さっき床に転げ落ちたアルフレッドの物だろうか。

 拾い上げると、それはやけにジルの手に馴染んだ。

 

 

 

 アルバートモデルのサムライエッジだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
・ジルさん(原作主人公)
酷すぎる悪夢を見た。原作の悪夢より長いのは書き手の趣味のせい。すまんの。

やべーもんひろった。


 
・おじさん(今作主人公)
ここ数話まともに活躍してないが、これでも主人公なのだ。
サムライエッジが個人レベルでカスタムされた銃だと知らなくても、主人公なのだ。

あ、拾ってくれてありがとう~!と能天気にお礼を言ったとしても。



・幼女さん
まだ寝ているが、帰ってきたおじさんにぎゅむっと抱き締められて寝苦しくなり、3発くらいおじさんを蹴って殴った。とても元気。



・カルロス氏(原作主人公)
カプコンのヘリを落とさずに運転できる腕と運の持ち主。
傭兵だから床で寝るのもへっちゃら。
サムライエッジ?なにそれ。



・タイレル氏
政府と交渉しながら二人の様子に注意し、カルロスから連絡を受けて頼まれた、効果が濃縮され過ぎてるワクチンを打ちやすい量に希釈する方法を探し、必要な物を準備し、ジルの治療が終わったら再び交渉に戻った人。



あの千倍ワクチン、市民全員ってことは最大で10万人分くらいあったりするんか?
希釈レベル農薬かよ!
ワクチンの希釈液とかどうすんのやろ。生理食塩水で代用しちゃダメ?どっちも筋肉注射できる液体やし。
医療系じゃないから良くわ"か"ん"に"ゃ"い"!


そして、やはりたかし君はクラスの人気者。はっきりわかんだね。感想欄の方が作品より面白いってそれ誇らしくないの?
皆さん素晴らしい解答をありがとうございました!
グリフィンドールに50点!!!




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人生あんまり深く考えない方が楽ゾ!


普通に難産でひっひっふーが遅くなりました。
短期でチャート組んでたおじさんにチャートをちゃーんと変更させるのが大変だったわよ。

プロットはしょせん作者の意思に過ぎないとわからされてしまったのだわ(アホ顔ダブルピース)

つまり、工事完了です…(達成感)





 

 

 

「あぁ~~~もう!!!!!」

 

 ジルさんが落とした銃を拾ってくれたので、普通にお礼を言ったらがっくり脱力された。

 なんで?

 

「貴方ねぇ!何でそういうことするの!!」

「え、あー、銃を落としてごめんなさい…?」

「そこじゃないわよ!っていうかやっぱり分かってないじゃない!!何なのよもう!!!」

「えぇ…」

「おいおいジル、どうしたんだ?落ち着けよ」

 

 荒ぶるジルさんをカルロス氏がなだめると、彼女はマントルまで突き抜けそうなほど深いため息をついた。

 でも本当に心当たりがないから、彼女にどう返せば良いのか分からなくて困る。何か悪いことをしてしまったなら謝りたいんだが。

 

「……その銃よ」

「この銃がどうかしたのか?」

「ああ、確かにここまでカスタムされてるのは珍しいな」

 

 手の中の銃をまじまじと見る。確かに少し変わったハンドガンだと思ってはいたが、何か……あれ?

 今さら気付いたが、これグリップんとこに思いっきりスターズのマークが刻印されてる。

 ヤバイ。あかんこれはあかん。

 

「サムライエッジっていう、スターズの支給品なんだけどね。それはウェスカーが設計した専用モデルなのよ。彼しか持ってないの」

「ほぉ。アルフはそれ、警察署で拾ったのか?」

「拾えないはずだわ。銃の持ち主が死んだ直後、死に場所の洋館が爆発した。だからそれは持ち主と一緒に瓦礫の下にあるはずよ」

「……予備くらい署にあるだろ」

「詳細は(はぶ)くけど、死ぬ前の彼はスターズを裏切って逃げるつもりだったの。だからでしょうね、後で署にあった予備を確認したら、しっかり持ち出されていたわ」

「なるほどな」

 

 ふむふむと頷くカルロス氏。

 眉間を押さえて再びため息をつくジルさん。

 何も言えねぇ自分。

 

「でもね……それを持っていても、私は貴方がウェスカーだと思えないのよ」

「あ、はい」

「他にもいろいろと理由はあるけれど、まず彼が生きていたら、少なくとも私を助けようとするはずがないってのもあるわ」

「それは…」

「だから、限りなくウェスカーに似て非なる貴方が何者なのか教えて。今ならどんな荒唐無稽な話でも大丈夫よ?」

 

 だって2ヶ月前まで私、ゾンビウイルスみたいな非現実的な物が存在するなんて、思ってもみなかったもの。

 

 そう言って、ジルさんは自分の両頬をぱちんと叩くと、自信ありげに笑った。

 

 

 

 まさかこんな事になるとは、2ヶ月前の自分に言っても信じなかっただろう。ジル・バレンタインから正面切ってウェスカーではないと言われるなんて。

 

 あの頃の自分は、その正体がアルバート・ウェスカーだと看破されることを恐れていた。性格的にも彼のようには成れないし、成りたいとも思わない。彼のように扱われても困る、と思っていたのだ。

 だから逃げた。2ヶ月にも及ぶ現実逃避にアリエルまで巻き込んで。犯罪者とはいえ、感染者でもない男を殺し、名前から家まで全てを巻き上げた。

 

 どうせ後で死ぬから良いや、と思っていたからそんな事ができたのだろう。そもそも、これは自分の人生じゃないと思いたかった。

 自分がやっていない事と、求めてもいない力で追われる立場になるのが納得できなかった。そんなものはいらないから普通に暮らし、普通に誰かと話ができる立場が欲しかったが、それは無理だと分かって自棄を起こしていた部分もある。

 

 それでもあの子(ネメシス)に言ってしまったように、自意識を持って生きるならば、人は立場を含めて肉体(わたし)から逃げることなどできないと分かっていた。

 

 自分はどこから来たのか。なぜここに居るのか。

 名前や顔だけでなく、思い出の大半を忘れているであろう自分はどんな人物だったのか。

 なぜ、死んだのか。本当に前世は存在するのか。

 今の自分は果たして何者なのか。

 

 何も分からない。

 分からないまま、流れでアリエルの保護者という立場を奪い、そのまま仮初めの平穏を享受した。

 それはおおむね普通に暮らせて、普通に誰かと話ができる生活だった。このままずっと街が終わる日まで、そうやって暮らせると思っていた。

 

 まだ起きないあの子を見る。

 何の憂いもない寝顔で、ゆるんだ口のはしっこからはヨダレが垂れている。

 それは平穏の象徴だった。

 

 自分はこの後、どうしたいのかが分かった。

 この子が大人になるまで見届けたい。もし自分がウェスカーではないと、彼ではない自分という立場を得られるならば。欲を言えば大手を振ってこの子の保護者を名乗り、また普通に暮らしてみたいと思う。

 無理だろうけれど。それならば、せめてきちんとした場所に預けて、普通の人生を送らせたい。

 見届けられなくても良いから。

 

 そのためにも、精算しなければならない事は多い。

 

 

 

「かなりバカげた話になると思う。もしかしたらジルさんはかなり不愉快になるかもしれない。それでもまず、聞くだけ聞いて欲しい」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 私という意識が目覚めたのは2ヶ月前。

 場所はアークレイ山にあったアンブレラの研究所。私は服に穴が開いた格好で、血塗れになって床に転がっていた。

 

 分かっていたことは、本来なら私という人格は目覚めないまま、本人がそのままウイルスで超人として蘇生するつもりだった事と、そのために何をしたのかという概要くらい。

 

 ここまで聞けば分かるだろうけど、つまりこの体はアルバート・ウェスカー本人のものだ。それが銃を持っていた理由にもなる。

 

 ただし私に彼の記憶は無い。本を読んで得た知識のように、ジルさんの名前やおおまかな事情くらいは分かっていたが、それだけ。

 

 こんな非現実的で証明しようの無い事を、信じてもらえるとは思えなくて嘘をついていた。ただ、私にとってはこれが真実で、他に話しようがないのは本当だ。

 

 

 

「……そうね。なんだかすごく非現実的だけど、ものすごく納得しかできないわ」

 

 言われてしまえばストン、と腑に落ちた。

 きっと洋館事件やゾンビパニックに直面していなくても、双子の兄弟ですと言われた方が信じられるほど、似ていない部分は本当に似ていなかったから。

 

 彼は外傷が原因なので厳密には異なるが、犯罪を犯した者が多重人格だった場合の資料は見たことがある。

 精神疾患を持つ犯罪者の責任能力がどこにあるのか、判断力はどうなっているのかという問題は検察官だけの話ではない。警察官であるジルもプロファイリングのために学んでいた。そのケースに近い状態なのだろう。

 

「えっと、だから…その」

「そういえば、アリエルはどうしたの?まさかウェスカーの子ども?」

「あー、そこもきちんと話さないと。困るのはこの子だし…」

 

 そして言いづらそうに話されたのは、爆弾のハッピーセットみたいな内容だった。さすがのカルロスも驚いたのか、腕を組んで目を見開いている。

 

「というわけで、私自身も決して真人間というわけでは無くてですね…はい」

「だから街を出たらアリエルを養護施設に預けたいって言ってたのね」

「まあ、そんな感じです。カウンセリングを含めてきちんとした治療を受けさせる必要がある以上、この事も全て話さなければならないと思いまして」

 

 しおれたホウレン草みたいな雰囲気を出しているこの男が、殺人や死体遺棄などできるようには見えないが、やってもいない事をしたと言い張る利益がないのなら、本当にやっているのだろう。

 

 正しくあるならば、子どもを襲うような性犯罪者でも殺すべきではなく裁きを受けさせるべきだ。同時に彼が人を殺し、盗みを働いた事も裁きを受けるべきである。

 証拠が充分で、全てが罪状として認められたならばかなりの刑罰になるだろう。それを分かっていて、彼は自白している。

 

「あの、だからジルさんにはアリエルの味方になってもらいたくてですね……私はこんなんですから、自由の身になることは無いでしょうし」

「私は裁判官じゃないし、ここは法廷じゃないわ。それに『貴方には黙秘権がある。なお、供述は不利な』……止めとくわ。貴方なら分かってるでしょうし」*1

 

 それでも彼が少女を助け、カルロスと共にジル・バレンタインを助けたことは確かで、だから救いがたい悪人とは思えなくて。

 ならば私くらいは彼の良心を信じたい。

 

「まずは生きて、この街を出ましょう。貴方の全ては、きっとそこから始まる」

「……」

「清廉潔白とは言えないのは傭兵やってる俺も同じだから、どうこう言うつもりはない。だが、俺の死んだダチは犯罪者で服役していたところをU.B.C.S.にスカウトされてな……お前みたいに良いヤツだったよ」

 

 

 

 

 

 彼はうつむいたまま両手で顔を被い、静かに降る雨のような声で礼を言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
ミランダ警告の一部。被疑者からの破棄による自白が通例となっている。




 
・おじさん(うっかり)
アリエルの今後のためにもほとんど全てゲロった。

滅菌作戦エンド用の短期プレイを予定していたが、大幅にチャート変更したためプレイスタイルを見直した人。

成り代わりという存在が根拠にしている魂的なブツをイマイチ信用できない勢。普通の人でも普通に生きてるだけで記憶は捏造されることがあるし。
そもそもどうして脳味噌を変えた状態で人格を維持できるんですか?自分が転生という妄想にとりつかれていない保証はありますか?自分は本当に正気だと胸を張って言えますか?

とか考えて落ち込んだりもしたけれど、私は元気です。


(作者に成り代わりネタを否定する意図は)ないです。



・ジルさん(しっかり)
アンブレラ黒幕説を持ち帰ったら癒着した警察の上層部から精神をボコられた勢。
だからこそ、ここまで共に危機を乗り越えた仲間に「信じようとする姿勢」くらいは示したかった。

彼女にミランダ警告の一部を言わせたのは洋ドラ視聴者の性癖。全文を言わせたかったが長いんじゃ。
詳しくはwikiでも見てくれ。性癖。



・カルロス氏(にっこり)
人生は自分のためにある勢。
小児性愛の性犯罪は再犯率が高いので、まあ殺っちゃうのは分かる。

影が薄いが親友のマーフィー君は公式の存在。
ニコライに感染の疑いで射殺されていたあの人。



・幼女さん
おじさんにアサリのクラムチャウダーを作らせる夢を見ている。
アサリが無いからってまた買いに行かせた。






■先日の怪文書の続きみたいな何か

RE:3をホラーアクション百合ゲーにしたらニコライ某は隠しヒロインやぞ!

・お金に一途で主人公ジルを甘ちゃんだとバカにする、仲間を仲間と思わない嫌な女。
・正規ルート(カルロスちゃん)では普通に敵。
・最後に的外れな命乞いをして、無様に失敗する。


【挿絵表示】


・隠しルートで凄い頑張って攻略すると拝金主義からNTRことができそうな女。
・手当てイベントで脱ぐと、えっちな古傷を見せてくれそうな女。
・しかし好感度カンストしても、うっそりと笑いながら「お前にはまだ早い」と言って、なぜその傷が出来たのかは絶対に明かしてくれなさそうな女。
・ジルを眩しいものを見る目で眺めてそうな女。
・でもやっぱり最後に死んで、ジルに一夜の傷を残しそうな女(生死不明)

この百合ゲー、正規ルートの明るく頼れるカルロスちゃん(最年少)も、資料集めとかイベントこなすと経歴の不明ぶりや偽名整形疑惑とかいう闇の深い要素が漂ってくるやつ~^^


誰か書いてくれ頼む(他力懇願寺)





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爆発オチなんてサイテー!


サムライエッジが感想欄でガバトンエッジ扱いされてるの、おハーブもりもり生えてしまった。
でもあそこでガバトンエッジしなくても、おじさんのチャート的には自白不可避なんで、あまり問題ないです。イベント前倒しみたいなもんなんで(震え声)




 

 

 

「しんみりしてるところ悪いんだが、少し良いか?」

「何かあったのか?」

「ちょっとな」

 

 扉を開けてひょっこりと顔を出したタイレル氏は、そのまま入ってくると適当な椅子にどっかり座り込んだ。疲れてはいるが、達成感がにじみ出た表情だ。

 

「実はな、やっと交渉がまとまった」

「本当か!」

「交渉って?」

 

 あ、そういえばジルさんは滅菌作戦のことをまだ知らないはずだから説明しないと。

 実はですね、かくかくしかじかまるまるうまうま、というわけでして。

 

「そういう事はできれば先に知りたかったわ…なんなら叩き起こしてくれても良かったのに」

「いや、ジルさんかなり顔色も良くなかったし、栄養点滴してようやく今の顔色に戻ったくらいだから、無理はさせられないって話になって」

「そんで交渉はタイレルに任せきりにして、俺たちは仮眠とってたからな…悪かった」

「地下を駆けずり回ってたお前らよりは疲れてないさ」

 

 現在、9月30日の24時近く。

 滅菌作戦の実行が早朝らしいので、あと数時間はあると言ったところか。

 

「で、ウイルス汚染を食い止めなきゃならん事もあるせいか、残念ながらミサイルによる消毒はどうしても避けられない。核を落とすってんでこの街は軍が封鎖してるし、ストーン・ヴィルをはじめとする近隣の街でも避難が始まってるそうだ」

「確かに山と森に囲まれた土地はそれだけ生物が多いし、ウイルスも広まりやすいだろうな」

「分かってはいたが、おっそろしい雇い主様だよ全く」

「まだ生存者は居るはずなのに…」

 

 タイレル氏が部屋の天井近くに設置されたテレビの電源を入れる。通常の放送は停止し、待機画面のまま音声だけが避難勧告を繰り返していた。これは試験放送ではありませんという念押しまでされている。

 

「ただな、交渉の結果として猶予ができた。俺たちが街を封鎖している軍の拠点にワクチンの現品を届ければ、それだけで街の寿命が6時間は伸びる。そして携帯できる形でワクチンを配備できれば、救助作戦が決行されるかもしれない」

「なら早く届けないと!」

「そこまで焦らんでも大丈夫だ。向こうも準備がある。幸いにもナサニエル式ワクチン培養法の論文は業界じゃ有名らしくてな。希釈液や必要機材は、H.C.F.やらトライセルやら(その他の製薬企業)が速達でデリバリーしてくれるそうだ」

「アンブレラは何もしないつもりかしら」

「雇い主の動向に関しては、もう連絡も途切れてるから分からん。ただ、俺が交渉していた相手は反アンブレラ派閥だ。つまりアンブレラの商売敵というわけで、そりゃ積極的にもなるだろうよ」

 

 わあ、トライセルってバイオ5に出てくるヤバい企業じゃん。

 まさかこのタイミングで名前を聞くとは思わなかった。今のところはタイレル氏の言うとおり、アンブレラを袋叩きにできるのと、シェア奪取のための宣伝も兼ねて動いてるんだろうが。

 

「ジルも起きたし、みんな体調に問題は無いな?」

「ああ」

「もちろんよ」

「私もこの子も問題ない」

 

 というわけで、病院の屋上に残してきたヘリに乗り込み、街の手前で道路を塞いでいる軍隊まで濃縮ワクチンを届け、そのまま街から脱出することになりまして。

 

 ヘリの運転は今回もカルロス氏。もちろんワクチンは、頑丈そうなタイレル氏のベストに捩じ込まれている。というか自分が捩じ込んだ。

 そしてジルさんはアンブレラ関連の資料をガッチリ握り締め、自分はぐんにゃり寝ているアリエルを抱き上げた……ら、流石に起きた。

 

「おはよ?」

「…おはよう。具合は?」

「へいき」

「良かった」

 

 やはりこうして、きちんと目覚めている姿を見ると安心する。ぬくい体をわしっと抱き締めていると、背中をバシバシ叩かれた。

 

「おじさん…なんか臭いよ?」

「あ、すみません」

 

 丸一日駆け回っていたので言い訳のしようが無いです。そしてみんな苦笑い。

 でも自覚してしまうとお風呂に入りたい。ものすごく入りたい。そして湯船でふやけた後に柔らかめの布団で寝たい。枕は固めで。

 

「やっとお目覚めね」

「お姉さんたち、誰?」

 

 そういえば、ずっと寝てるか熱でぼんやりしていたアリエルからすれば、いつの間にか知らない場所で知らない大人に囲まれているようなものか。

 

 この後めちゃくちゃお互いに自己紹介していた。

 

 

 

 

 

 その後に語ることはあまり無い。

 なんてことはなく、山ほどあった。

 

 企業から派遣された医療スタッフと軍が待つポイントにワクチンを配達した我々は、それはもう丁寧に扱われた。なんせウイルス汚染地域の真っ只中から出てきたわけで、ワクチンを打っていないメンバーは念のために打たれてから、消毒液でびちょびちょにされた後、隔離されることとなったのだ。

 アンブレラ側の者に手を出されると困るという、反アンブレラ側の思惑もあったのだろう。普通の脱出者ならワクチン&消毒した後に後方の隔離施設へ輸送されるところだが、我々は前線基地と化したここで待機するように指示された。

 

 まあ、別にやる事はなにもないから気楽なものだ。強いて言うならプロ集団の邪魔をしないように、待機そのものがやるべき事か。

 傭兵の二人は緊張が切れて死んだように眠っているが、まとまった睡眠が取れていたジルさんとアリエル、体力お化けの自分は起きたままだった。

 

 ちなみに現在、軽い診察をしてくれた年配の医療スタッフからチョコバーをせしめたアリエルは満足そうにそれをかじっている。

 ジルさんへの好感度は高いらしく、歯が溶けそうなほどに甘い銘柄のそれを半分ほど差し出していた。

 二人とも良く水無しで食べられるな。

 

「おじさんには分けてあげなくて良いのかしら?」

「甘いのが苦手だから大丈夫だもんね!」

「それを食べたら私は歯から溶けて死にますね!全身が儚く溶けて死にますね!」

「ほらね!」

「死に方がむごいわね」

 

 溶死はまぬがれた。

 

 

 

 近くにある、無人になったスタンドから緊急徴用されたガソリンを飲んだ発電機が、バリバリと元気な音を立てている。いくつものサーチライトが夜の奥まで貫くように照らしている中を、兵やスタッフがてきぱきと動いていた。

 街の水道が汚染されているため、人員や物資を積んだトラックだけでなく、給水車も何度か行き来している。夜中とは思えないほど騒がしい。

 

 バイオハザードが始まってもう数日になる。避難勧告の放送にワクチン情報が追加されたものの、やはり軍が思っているより自力で脱出できる人は少なかったようだ。自分が見ている間、自力でここまで辿り着けた者は二桁に届かなかった。

 

 救出部隊は希釈ずみのワクチンを携えて、とっくに出発している。

 街中は厳しいだろうが、住宅が建ち並ぶだけの郊外ならば生きた人間がまだ籠城しているかもしれないと、有志で向かった先発隊の成果が後押したというのもあった。

 こちらから"化け物"に関する詳しい情報を得ていた事もあり、彼らは自分たちに数名の犠牲と感染者を出しながらも民間人の集団を保護し、生還して見せた。感染者は兵を含め全員がワクチンでどうにかなったとのこと。

 

 しばらくすると街の方からバリバリと音を立てて現れ、降り立つヘリ。慌てた様子でワクチンと消毒薬の噴霧器を構えて駆け寄る医療スタッフに、護衛の兵。

 珍しい。自力で脱出してきた人々のようだ。

 しかもヘリで。

 

「エマ!!エマ!!!」

「大丈夫ですからお父さんは離れてください!貴方もワクチンを!」

「落ち着けロバート!」

 

 降りてきたのは武装した年配の男が二人と少女が一人。

 大人と違い少女はしっかり症状が出ているようで、医療スタッフに群がられて濃いめのワクチンを投与されている様子だった。

 しかし父親の方はどっかで見たような。

 

「ロバート?…それにバリー!」

 

 あー!!!ガンショップの人ォ!!!

 ジルさんがバリーと呼んだなら、もう片方はバリー・バートン氏ということか。

 はえー…もしやこれ原作のイベントだったりする?

 

 ロバート氏はそのまま娘さんが搬送されたテントについていき、残されたバリー氏に駆け寄ったジルさんは再会を喜んでいる。

 

「あの人、ジルお姉さんのお友達かな?」

「だろうね」

「さっきの子は大丈夫かなぁ」

「お医者さんが頑張ってくれるよ」

 

 バリー氏がこちらをチラリと見て…あ、二度見した。

 あっあっあっこっち来た。顔怖い。めっさ顔怖い。アリエルも彼の顔が怖いのか、背中に回ってしがみついている。わかるマーン。

 

「バリーだ」

「あ、アルフです」

 

 握手に応じたところ、凄い力で手を握られた。

 普通の人なら手が潰れるやーつ。

 

「バリー…彼は、私の命の恩人の一人よ」

「ああ。しかし驚くほど似ているな」

「きちんと理由もあるの。後でしっかり説明させて」

「分かった」

 

 わーい!当然だけど当たりが強い。

 いやぁ、ジルさん以外のスターズメンバーにエンカウントするの怖いな!とづまりしたい!

 

 バリー氏はしばらくジルさんと話していたが、やがてケンド親子の付き添いとして後送された。

 彼と再会するのはかなり後の事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆心地から遠かったものだから、音もなく光が空を裂き開いたように見えた。しかし次の瞬間には、まっすぐな道の先にある街の上に生えた、大きなキノコの雲。

 衝撃波は減衰されているはずなのに軍用の車両を揺らし、やがて発せられた爆風は音に遅れて届く。

 

「あ、ラクーンくんのぬいぐるみ…置いてきちゃった…」

「また買おうか。他のぬいぐるみになるかもしれないけど」

「…うん」

 

 

 

 しがみついてくるアリエルと共に、窓越しに全てが消えるのを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




 
次がエンディング的なアレ(を予定)ですが、後日談と称してまだまだ書きますゆえ。



・おじさん
トライセルは覚えてたけど、H.C.F.(ウェスカー氏の転職先)は全く覚えていなかった人。
儚いので大量の砂糖をぶつけると死ぬ。



■原作キャラ一部生存のリスト

●タイレル・パトリック
→おじさん乱入による予定変更で、ネメシスとの遭遇イベントがキャンセルされたため。

●ロバート・ケンド&エマ・ケンド(DLC参考)
→避難勧告にワクチン情報が追加されていたことと、バリー・バートンによる救助連絡が比較的早かったことが理由。

●マービン・ブラナー
→おじさんの乱入によるイベントの微妙な時間変更と、カルロス・オリヴェイラによるゾンビと化したブラッドへの射撃成功が理由。
その後、本人の尽力によりRE2を主人公と共に生き延びた。

●名も無きラクーン市民
→ワクチンの存在に加え、反アンブレラ派閥の指示と尽力により、原作にない救出作戦が決行されたため。
後に、アンブレラに対し集団訴訟を起こす。






※1週間くらい所用でガチ多忙になりもうす。




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とっぴんぱらりのプー太郎(無職ではない)


・お前コラ一週間過ぎてるやんけコラ!
すみませんでした。
ガチの床で寝る生活(一週間ちょい多忙)→しばらく寝て暮らす→二次創作……な状態でした。
普通に一週間多忙程度の告知じゃ足らんかったわ。
きちんと考えてから2週間くらい休みます!と告知するべきでした。

基本的に映画版の設定は入れてませんが、普通に好きです。ミラジョボさん、次はモンハンに転生かぁ。




 

 

 

 ありきたりに表現するならば、色んな事があった。

 ありすぎて全てを思い出せる気がしない。つまり忙しすぎて記憶がぴょんぴょんする(飛ぶ)んじゃ~な状態。

 それほど対処すべき事が山積みだったともいう。

 

 まず皆と共に隔離されている最中、自分が思っている以上に「アメリカ人ならだいたい知ってる事」を知らないまま、綱渡りのような2ヶ月を過ごしていた事が発覚したり。(会話していたらジルさんに白目を剥かれた)

 そういう知識面での問題だけでなく、ガワが抱えている「良く分からんウイルスでしゅごいぱわーが出せましゅ(5さいじ理解力)」という状態が、本当に問題無いのか検査が必然だったり。(ただちに影響は無いはず、とかいうクッソ不安な診断をもらった)

 もちろん自分がやらかしたアレコレの問題があったり。(よく分からないうちに司法取引の魔法を使われていた。こわい)

 

 最初の頃は三人からのアドバイスを聞きながら、なんとか対処していたが、一人でどうにかしようとしたらもっと大変な目にあっていただろう。

 もう一度、同じ状況に一人で対処しろと言われても無理。絶対に嫌でござる。三人には頭が上がらんわな。

 

 

 

 結局、自分とアリエルの身柄は秘密裏に合衆国預りとなった。特に自分の状態が難しすぎたと言って良い。

 

 どうやらアルバート・ウェスカーという人物はアンブレラの幹部として、裏社会ではかなりブイブイ言わせていたらしく、まあそこら辺の関係で表に出せない情報をぼちぼち抱えていたようで。

 そんな男が人格ごと記憶を消し飛ばしました!やったぜ!みたいな顔をしていたら、裏の人々が逆に不安になるのも仕方ないわけでして。

 

 ゆえに精神鑑定とか身体検査とか精神鑑定とか身体検査とか精神鑑定とか身体検査とか調査とか調査とか調査とか……もうわけわからんほどやられた。記憶が飛び飛びなのは、恐らく自白剤みたいなものもバカスカ投与されたからだと思われる。

 

 だって絶対に言わんぞ!と思っていた「日本人だった前世があーるよ^^」みたいな情報をいつの間にかすっこ抜かれていたのだ。

 やべぇ怖いんじゃが。

 

 はっきり「情報を抜きました!」と言われた訳ではない。

 しかし喋った記憶はないのに日本人の方と文面だけで雑談したりする検査をぶちこまれれば、まあそれくらいは分かるってばよ。

 

 日本語能力の検査と称していたが、ロシア語とか中国語なんかは普通にペーパーテストやリスニングテストだったからね。いきなり日本語だけガチめにテストするのは止めようね。

 しかもその頃から急に毎週のカウンセリングが義務化されたり、関わるスタッフさんから可哀想な人を見る目で見られたりする事が増えたし。明らかにこれは「前世があると思い込んでいる、自覚ある精神疾患の患者さん」な扱いじゃろ。

 

 極めつけはエイダ・ウォンのエントリー。

 

 ある日いきなり急な面談をぶちこまれた挙げ句、HCF?とかいう製薬会社から派遣されました精神科医でーす^^

 って涼やかな顔をして、エイダ・ウォンの名札をぶら下げたアジア系の超絶美人女医がやってきたもんだから、椅子から座った状態で垂直に30センチくらいピョンと飛んでしまいましたわよ。流石にビクっとされたので「凄い美人さんが来てびっくりしました!」って誤魔化した。

 いや、誤魔化せたかな…心配だな。無理そうな気しかしないな。

 

 しかしまあエイダさんとはこの一度だけ、カウンセリングの名目で雑談して終わったから大丈夫。タブンネ。

 どうやら彼女は自分になる前のウェスカー氏と接触していたっぽいので、裏社会の人から調査員としてのお仕事を依頼されたのだろう。バイオシリーズでもかなり有名な女性だから、正直お会いできたのが嬉しかったりする。

 

 しかし話をするとなると話題に困ってしまう。なんせカウンセリングの名目なので向こうは聞き役なもんだから、こちらが話さにゃならんのだ。

 でもエイダさんに何を話せば良いのか分からない。

 分からないが、だんまりもよろしくない。

 

 結局、最近アドバイスをもらって再チャレンジしているエアプランツ育成の話だとか、昨日読んだ本の話だとか、アリエルに乞われて練習している動物キャラのイラストが存外に難しいだとか、今朝見た悪夢の話だとかをぽつぽつと話してみたり。

 

 うん、こうして思い返せば普通にカウンセリングだったな。

 

「どんな悪夢だったのかしら」

「あー…研究室みたいな場所にある大型水槽の中でぷかぷか浮かんでる夢なんですけども。まあ、私はこんな立場ですから、最終的に水槽から出られなくなる可能性もあるんじゃないかと思いまして」

「不安なんでしょうね。悪夢の件は毎週のカウンセリングを担当してる方にお話しても?」

「午後から面談があるので大丈夫です。自分で話します」

「分かったわ」

 

 精神科医という立場で来ていることもあり、エイダさんは終始にこやかな顔で話を聞いてくれたが、まあ呆れられただろうな、とは思う。

 別に良いんだけどね。ジルさんやカルロス氏からは「無理してカッコつけたり賢いふりしなくて良いから。似合わないし」とまで言われてるし。

 

 いや悲しすぎだろ自分。そりゃあカッコつけようとするとスベる自覚はきちんとあるけども。

 それに、知能検査ではちゃんと高い数値出せたんだぞ。引き換えに対人能力がクソザコナメクジですって結果も同時に叩き出してしまったが。悲しい。

 

「最後に少し聞いても良いかしら?」

「なんでしょうか」

「ちょっとした興味だから、そんなに構える必要ないわよ」

「はあ」

「もし世界征服できるとしたら、貴方ならどんな世界にしてみたい?」

「……?」

 

 え、なに急に。無人島に1つだけ物を持ってくなら何にする?みたいなアレか?

 ちょっとした心理テスト的な?

 

「えっと、また難しい質問ですね。強いて言えば、自分が住みやすい世界にしたいかな、と」

 

 とはいえ衣食住に困らずに、ほどほどの苦楽がある生活を望んでおりますゆえ。世界征服する意味が全くない、つまらない回答で申し訳ないんですが。

 

「無欲なのね」

「それに魅力を感じないだけなんで、欲なら人並みにありますよ」

 

 たとえば(あて)がわれた施設内の居住スペースはキッチンがショボくて使いづらいのが嫌だとか。ベッドのマットレスはもう少し厚いのが良いだとか。欲しい本があるだとか。まあ色々と。

 

 というよりか世界をどうこうするなんて、絶対に面倒で上手くいきそうに無いことやりたくないと思いませんか。仮に世界征服できたとして、その後は延々と管理しなきゃならんとかゾッとしませんし。

 

「そう、分かったわ。それじゃ、これで失礼するわね」

「あ、はい。ありがとうございました…」

 

 え、それだけ?

 そうあっさり終わられると、長文マジレス自分語りみたいなことしたのが凄く恥ずかしいんですが。

 つっら。コミュ障は人様と調子のって会話してはいけない。はっきりわかんだね。まじつらい。

 

「耳、赤くなってるわよ」

「!?」

「あら…指摘されると本当に押さえるのね」

 

 エイダさんは書いていた紙や資料を書類鞄にササッと片付けながら人をからかって、にこやかに手を振りつつ部屋を出ていった。

 

「まさかエイダさんまで、あの映像を見てる…?」

 

 

 

 そう、カルロス氏はあの時、ニコライ某の残した映像データ(黒歴史)入りUSBをちゃっかりゲットしていたのだ。しかも戦闘データを兼ねた証拠品としてジルさんに渡しており、そのコピーがそのまま合衆国側に引き渡されたわけでして。

 つまり、めぐりめぐってエイダさんも視聴されていたようでして。

 へへ。うへへ。こころがしぬ。うへ。

 

 なお視聴したジルさんからは「もっと余裕ぶっこいて、人をバカにしてる雰囲気を出さないとダメよ」という辛口評価をもらいましたとさ。

 つらいのだ。やめるのだ。もうむしかえされるのはいやなのだ。

 

 

 

 んでその腹いせに、エイダさんが来た話を軽い気持ちでレオン氏にしたら、すげぇ勢いで組みつかれて詳細を寄越せと責められましたとさ。

 まあ彼はエイダさんが死んだと思っていたらしいので、納得の必死さなんだけども。

 

「レオン落ち着け」

「詳しく話せアル!!!アル!!!!!」

「れ"お"っ"…く"ひ"……」

「それじゃ喋れないから止めてやれ」

 

 そう、身柄が合衆国預りとなったのは自分たちだけではなかった。顔を合わせるまで忘れていたが、公式で合衆国エージェントになるレオン氏が存在していたのだ。

 つまり同僚みたいな感じだな。仕事内容は違うが。

 

 そんで原作だと恐らくお亡くなりになっていたはずのマービン氏が生き延びておりまして、やっぱりウェスカーだなんだとひと悶着あったりもしましたが、今では普通に同僚…だと思う。自分ではそのつもり。

 レオン氏なんかはガチの初対面だったから、すんなり馴染めたんだが、マービン氏とは少し時間が必要だったりもした。

 

 

 

 はい、そんなわけでして。現在、自分は合衆国エージェント?みたいな事をやっております。

 

 レオン氏やマービン氏みたいに正式な人員じゃなくて、犯罪者が刑罰の代わりに事件の捜査協力をするような感じのアレ。

 だから彼らと違って単独行動は厳禁だし、デザインがカッコいいハイテクな首輪もプレゼントされている。実質b.o.w.だからね。仕方ないね。

 

 しかも、なんとこちらの品はGPSだけでなく、爆発オチを実現する機能までついている。やべぇ。

 しかもしかも、自分で嵌めろって大統領の前で装着させられるイベントがあった。やべぇ。

 

 シモンズとかいうお偉いさんが提案したらしく、凄い愉悦顔で大統領に自慢していた。野郎による首輪装着イベントをニタニタと自慢する野郎とかいうやべぇ状況に、大統領はちょっと引いていた。

 おいたわしやプレジデント(うえ)

 

 シモンズ某あいつ絶対に性格悪いだろ。

 首輪装着イベントの後の帰り道にて「良くお似合いだ。ワンと鳴いても違和感がなさそうだな」と言われたので、流石にムカついた。

 ムカついたのでアリエルに高評価をもらったラバーチキン(叫ぶ鶏の玩具)の鳴き真似をしたら、膝から崩れ落ちやがった。ざまみろ。

 誰もラバーチキンの鳴き声には勝てねぇんだよ。ケッ。

 

 

 

 まあ、つまりお仕事は政府のワンちゃんやってますって感じだな。謎ウイルス適合者という立場でもあるため、被験者の合間に合衆国エージェント()をやっていると言った方が正しいか。

 エージェント()なのは仕方ないんじゃよ。適性の問題ってやつもありまして。決して能力の問題ではない。ほんとだよ。

 

 実は自分、身柄を確保されて最初の一年は検査と調査と実験まみれだったが、翌年からは実験の合間にエージェント教育をされていた。こちらから希望した訳ではなく、向こうがこちらの身体能力検査の結果(カタログスペック)を見て、戦力になりそうだからと決められた形だ。

 で、座学も実技も問題ないが、性格があまり向いていないとか言われた。陰キャは納得するしかできなかった。悲しいね。

 

 まあ単独行動は厳禁だから良いんだよ別に。能力は大丈夫だから、ジルさんにやっていたように誰かのサポートをするのは問題ないらしいので。

 

 なので最終的に、様々なオーダーを受けて世界中を飛び回るレオン氏らとは違い、自分は基本的にアンブレラ社の調査がお仕事となりました。そこまで頻繁ではないが、監視役(パートナー)さんと共に現場に出ることもあるし、対バイオテロ部隊のすみっこにお邪魔して現場入りすることもある。

 元アンブレラ社員の適合者という存在そのものが便利な釣り針になるみたいだからね。仕方ないね。

 

 まあ仕事内容はぶっちゃけ何だって良いんだよ。

 アリエルの生活に充実したサポートをつけてもらう約束だから頑張るぞいってなだけで。

 

 

 

 で、当のアンブレラ社はと言うと、刑事裁判やら民事裁判やらでゴタゴタしていた。

 

 そう、まだ倒産していない。というか未だにアンブレラ討伐レイドの真っ最中。

 合衆国上層部にもガッチリ食い込んでいるような、世界的な多国籍企業なもんだから、企業の総HPみたいなものはバカみたいにデカい。つまり資産も影響力もまだ残っているし、当然ながら法務部に優秀な弁護士を山ほど抱えていたりもする。

 そんな事もあり、裁判バトルではラクーンシティから持ち出された証拠資料で殴りかかる原告VSあの手この手で証拠を揉み消したり原告そのものを揉み消したりしようとする被告、みたいな状態だ。

 基本的にアンブレラくんは場外乱闘(非合法な手段)が得意なフレンズだからね。

 

 といっても裁判に出るような生存者は、つまりただの民間人ではなく、ガンギマっている民間人なので簡単にやられはしないと思う。

 人体実験の証人として顔と名前を隠さず証人台に立つヨーコ・スズキさんや、各地を転々としながら過激な告発記事を書いているアリッサ・アッシュクロフトさんなんかはかなりの有名人だったり。

 

 アリッサさんなんか、どうやったのか許可をもぎ取り、機密扱いである自分への取材を取り付けましたよあの人ヤバい。流石に検閲バッチリのメール取材だったが。

 

 

 

 とまあ色々とごちゃごちゃしているが、今のところ問題なく過ごせていると思う。

 いや、問題が全く無いわけではないが、相談できる相手はいる。大変な事もあるが楽しい事もあるという日々を享受できている。つまりなんというか、こういうのを、毎日が充実していると言えるのかもしれない。

 

 ……まさか、これがリア充?

 正しくリアルが充実している…!!!

 

「またおじさん変なこと考えてるでしょ」

「ソンナコトナイヨー」

「昨日の夜にしてくれた、カビの生えたオレンジが王様になる話を昼間シェリーちゃんに教えてあげたら、面白いけど変な話だねって言われたもん。だからおじさんは自分が分かってないだけで、黙ってるといつも変なこと考えてるんじゃないかな?」

「……ソンナコトナイヨー」

 

 お友だちのシェリーちゃんと仲良くやれてるのは嬉しいけど、無邪気な指摘はつらいです。

 

 なおオレンジの話は寝物語だったりする。

 輸送船のコンテナの中でたった一つだけカビが生えてしまったオレンジが、じわりじわりと仲間を増やし、やがてコンテナを支配する王様になる話だ。もちろんフィクションである。ジャンルは冒険活劇。

 

「ソンナコトヨリ、アシタ、ピクニック、ハヤクネタホウガ、イイヨー」

「わかったよー。だからそろそろお話の続きお願いするよー」

「はいよー。じゃあカビオレンジ王国のコンテナが輸送先の日本に到着するところから話そうか」

「王国崩壊の序章だね!」

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 おしまい

 

 

 

 

 

※もちろん一段落しただけで、この連載はまだ続くんじゃよ

 

 

 




 
・おじさんと幼女さん
ラバーチキン(ァ"ア°ー!!!)やキジバト(デーデポッポポー)の鳴き真似が非常に上手いおじさん。
幼女さんイチオシは「死にかけのラバーチキン」

5の後から知らないので、シモンズおじさんの性癖とかカーラ・ラダメス(ジェネリックエイダ)とか東欧に居るウェスカーの置き土産くんとか、カフカだいしゅき厨二病の義妹が居ることもしらぬいわかんぬい。

住所が政府施設でも二人で仲良く暮らせてるのでおっけーです!!!
いっぱいおしごとがんばったら、すこしだけおでかけ()していいよっていわれた!!!!!
がんばるぞー!!!!!

なお話し合いの結果、そのまま「アルフレッド」の名前を使用する事となった。
外傷とウイルスが原因の、解離性同一性障害に近い状態だと診断されている。
幼女さんの方はラクーンシティ壊滅の影響もあり、身元不明者のまま引き取られる形となった。
特殊な体質ではないが、人質なのでガチガチに保護されている。成長が再開してようやっと少女さんに健やか進化した模様。



・エイダさん
バイオの中で女医の格好させたら最高だと思う女キャラ第1位(脳内ランキング)

H.C.F.上層部の依頼で、移籍の契約をブッチして行方不明になっていたグラサンの様子を見に来た。
上層部も検査結果や調査資料は持っているが、本物のグラサンなら何か企んで演技してるとかワンチャンあるかな?って思ったので、マジで人格を溶かしたのかエイダちゃん確認お願いね!って言われた。
→人格マジで溶かしてますね!って報告した。自分を見た時に変な反応していたから、記憶まで全て溶かしきってるわけじゃなさそうだけど、まあ見逃してあげた。優しい。
(ラクーンシティの寿命が半日ほど延びたので、逃げるのが楽だった人)

世界征服する=世界の管理者になってあくせく働かなきゃならないのは嫌だよねって感覚は「まあ分かる~(^-^)v」って感じ。



・RE2主人公ズとマービン先輩
二人はプリキ○アならぬ二人は合衆国エージェント状態。任務自体は二人だったり単独だったり。
もちろんクレアさんは兄貴探しの旅。
原作ではグラサンに狙われていたシェリーちゃんだが、ここの二次創作ではちょいちょい顔を合わせる被験者仲間になる感じ。

なお初対面のおじさんは、RE2の祝福(呪い)により軽くケツアゴになっていたレオン氏を見て(??????…?!?!!…?)となってしまった模様。



・カルロス氏&タイレル氏
傭兵生活が合ってると言って、後にジルに誘われたBSAA入りを蹴って戦場に戻った。と言ってもアンブレラに雇われたせいで酷い目にあったので仕事はきちんと選んでいる。
BSAAサイドとは、フェイクもりもりのSNSとかで地味にやりとりしている感じ。

【挿絵表示】




・ジルさん
まだB.S.A.A.(2003~)は設立されていないので、クリス氏と共に地道な活動中。
たぶん2003年2月あたりにアンブレラのロシア支部襲撃で、出張おじさんと鉢合わせたりもする。



その他の製薬会社(トライセルやH.C.F.とか)
B.S.A.A.を企画したり、正義の形をした釘バット担いでアンブレラ討伐レイドに参加する裏で、アンブレラから研究データをむしりとる事に余念がない。
HCFなんかは原作通りウェスカーという人物が居なくても、ベロニカ欲しさにアッシュフォードさん家へ部隊を向かわせるし、トライセルも後ろ手で生物兵器を取り扱う。

なんならシェリーちゃんやおじさんの身柄欲しさにテロ組織をそそのかして襲撃を仕掛け(少しつつい)たりもする。
もちろん離散したアンブレラ社員が社の復活を看板に掲げて活動しているような組織なんかも利用している。



バイオ5で原作本人が言っていた「私が手を下さずとも、すでに世界は破滅へと進んでいる」って、別に間違ってるセリフでもなかったりするやで!な世界。




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延長戦
シベリアで生物兵器を数える簡単なお仕事 ①



はい、延長戦(おまけ)スタート!
なお今後、時系列が前後する場合はきちんと記載いたします。
じゃ、UCの大佐とバトルするアレいってみよー!
ギガの問題で小説版を参考にしてますが、まあゲーム版と大きく違うわけじゃないから大丈夫やろ!たぶん!

ベロニカはラクーンシティ壊滅から2ヶ月後っぽいので、世界線をIFにしないとむずいですね。少し考えときます。





 

 

 2003年 2月某日。

 

 

 

 皆さんお元気ですか。

 自分は今レオン氏と共に、北の大地にて寒風を全身に浴びております。つら。

 

「げろげろにさぶくて死にそう」

「アンタ耐寒テストは-40℃くらいまでクリアしてただろう」

「そちらカタログスペックとなっておりますゆえ…」

 

 つまり生き物としては耐えられても、寒さを感じている自分自身のしんどさはどうにもならんのですわ。

 というか同じ防寒装備で涼しげな顔してるレオン氏こそおかしいよ。あーたTの抗体があるってだけの人間でしょうが。

 それともなんだ?Tの抗体がある人ならそれくらい軽いってか?ハーブ噛れば重傷すら回復するもんな。もはや天然の超人だろ。

 

 ……なんか納得できる説になってしまった気がする。

 

「そんなにじろじろ見るなよ。俺の顔に何か付いてるのか?」

「眉毛が凍ってるのが面白いから観察してただけだが?」

「言えよ!」

「今言った!」

 

 というわけで自分たちは今回の監視役に任命されたレオン氏と共に、アンブレラのロシア支部が所有している研究所を兼ねた製造工場に、最も近い街に来ております。

 

 なんでこんな場所に居るのかと言いますと、アンブレラの悪事の証拠を差し押さえるためです。

 度重なるアンブレラへの調査により得られた情報というのが「ロシア支部での新型B.O.W.の開発疑惑」というわけでして。それをセルゲイ・ウラジミールというアンブレラ幹部さんが主導してるらしいんですね。

 そう、皆大好き?セルゲイ大佐です。

 

 我々のお仕事は、そこに突入してアンブレラのやべぇ記録を回収しまくる事です。できればセルゲイ氏の身柄も確保して欲しいなぁ…と上司は言ってましたが、UCの記憶がぼんやりとでも有るなら分かる。本人が生物兵器みたいなもんなので無理です。

 や、無理とは言わなかったけど、生物兵器も山ほど出てきそうなので、頑張るけど難しいと思います的な回答をしておいた。

 

 しっかし、大変だった。調査チームの皆で拾い集めた情報を分析し、ようやっとこの場所に辿り着いたのだ。

 何か凄いタレコミがあったわけじゃないからね。

 業界に流れるウワサやら何やらをかき集め、出所を探り、時に調査に乗り込み、時に深層ウェブに出回る真偽も怪しい生物兵器の映像を解析に回し…まあ色々とやった結果がコレだ。

 

 で、もしやコレはUCでは?と思いつつ現地入り。

 

 しかし合衆国所属の我々が、おそロシアで好き勝手に動くのは政治的に危険が危ないため、まず向かうのは現地のバイオハザード対策部隊の拠点である。

 彼らと合流したら、皆でアンブレラにのりこめー!する予定だ。

 

「あ、ジルさん」

「久しぶりね」

「先客が居ると聞いていたが、君たちの事だったのか」

「レオンに……お前かよ」

 

 そして案内人と合流し、拠点に招かれた自分たちの前に現れたのが、ジル・バレンタインとクリス・レッドフィールド(ゴリラではない)の二人。

 B.S.A.A.がまだ設立していないためか、個人で活動している対バイオハザード活動家としては最も有名な二人だ。この場に居るのは何もおかしな事じゃなかった。

 

 で、こちらの顔を見たクリス氏はむっすり。

 まあ当たり前だわな。

 

 自分が身柄を拘束されてから、ジルさんを含めて洋館事件の被害者である元S.T.A.R.S.メンバーと面会する機会はもちろんあった。ジルさんは共に行動した時間があったおかげで、こちらの複雑怪奇な状態に理解を示してくれているが、他の人がそう簡単に受け入れられる話じゃないのは当然。

 

 ジルさんやスタッフさんから事前の告知を受けていても、面会したクリス氏なんかはあからさまに疑ってます!という顔を止めなかったし、バリー氏は険しい顔でスタッフさんに「コイツを一生拘束しといてもらえるなら、俺としては安心だ」みたいな事を言っていたっけな。

 

 まだエージェントうんぬんの話をされていなかった自分も、たぶん良くて一生軟禁コース、悪けりゃ実験体として幽閉やろなぁ…と思っていたので、相手を刺激しないようにあまり口を開かなかった事もあり、まあアレな面会だったわけで。

 つまり向こうはまだ、少なくともこちらに隔意を持っているのだろう。

 

「ジル、もう良いだろ?」

「…分かったわよ」

「事情は聞いている。彼の事は俺がしっかり監視しておくから安心してくれ」

 

 ジルさんと積もる話にちょっとした花を咲かせていたのを中断すると、現地のバイオハザード部隊の隊員さんがやって来る。

 今から隊長と挨拶し、ブリーフィングを始めるとのこと。アイサツは実際大事。ウチアワセも大事。

 

 そんなブリーフィングの結果として、自分たちはアルファ隊の後ろにくっついていく事になった。ジルさん達はそれなりに彼らと協力していた期間があったようで、連携面で信用もある事から、アルファ隊に随伴しながらも遊撃手として動くという。

 

 

 

 とまあ、わくわくでウチアワセをしたのが一週間前のこと。

 

 我々は未だに拠点から出発できていなかった。

 単純にロシア政府からの許可が降りていないからだ。政府はこの作戦を秘密裏に終わらせたいし、許可を出した事すら記録に残したくない(見て見ぬふりをします)、という話は聞いていた。

 ならばその通りにすれば良いだろうと思うが、またぞろアンブレラの人脈が悪さをしているのか、他に何か原因があるのか、足止めは続いているのが現状である。

 

「まだ許可が出ないの?もう一週間待ってるのにふざけないで。こうしている間にも、奴らは悪辣な陰謀を進めているのよ。呑気にしていたら、第二のラクーンシティになるのは貴方たちの土地だって分かってるのかしら」

「我々としてもそこは承知している。君に脅かされるまでもない。しかしこのような、政治的にデリケートな問題に対して即答できない事を分かって欲しい」

 

 苛立ちを隠せないジルさんが詰め寄っている先は、政府とやり取りしている隊長さんだ。

 が、上手いもので、クリス氏がそれを諌める形で話を持っていき、隊長さんから「12時間以内に返答を」という約束を引き出している。

 あくまで個人として参加している彼らは、許可が出なくても堂々と突撃アンブレラをかませる。だからこそ強気に言えるのだろう。

 許可を出さなきゃ勝手に荒らし回るぞ、と。

 

「許可が出なかったら俺たちは帰るしかないな」

「公務員は勝手ができないもんねぇ。バイオハザードを阻止したら最終的に核戦争エンドなんて、文字通り草も生えないし」

「その独特の言い回しやめろ。俺にもうつるだろうが」

「おハーブ生えますわよ」

「マジでおやめになって」

 

 合衆国所属の自分たち(アンクル・サムの名前を使ってる立場)だと独断専行できないのでぇ…

 

 なーんて小声でしおらしい事を言ってはいるが、ぶっちゃけ許可が出なけりゃ、もしくはこれ以上待たされるならば、帰るふりして突撃アンブレラする気しかないのが自分たちエージェント組だ。つまりプランBやね。

 レオン氏がハニガンさんに連絡を取り、そのサポートを頼んでいたし、準備はバッチリ。

 

 長期化する裁判、つまりアンブレラとの泥仕合に終止符を打ちたいという考えを、最近の脱アンブレラが進んでいるアメリカ政府は持っている。だから自分たちとしては「許可」なんてとっくに出ているようなものなのだ。

 

「ま、ここの食堂の飯を一週間も食えたんだ。悪い休暇じゃなかったと考えるか」

「ロシア料理の旨さに目覚めてしまったな。昨日食べたスモークサーモンとチーズのブリヌイが忘れられそうにないし、タラのウハーも大変良かったです」

「ほんとに魚が好きだよな」

「肉も好きだが、旨い魚は毎日食べられるぞ」

 

「呑気なもんだな」

 

 食堂で提供される、美味しいビーフストロガノフとマッシュポテトの組み合わせに舌鼓を打ちながら、ここでのご飯が食べ納めになる事を嘆いていると、いつの間にかこちらに来ていたクリス氏が腕組みして見下ろしていた。

 

 うん、何て返せば良いか分からんね。

 自分が何を言っても彼は気にさわるだろうし、助けてレオン氏。たのむ。

 

「こちらはそっちと違って勝手ができないからな。こういう状況に慣れてるだけだ」

「そうかよ」

「ああ、俺たちがこの状態で何もしていないと思ってるなら酷い誤解だな」

「なるほど。で、お前はだんまりか、ウェスカー」

 

 わーい!これどう返事すれば良いのか分かんねぇ!

 

「その名で彼を呼ぶのは余計なトラブルを招きかねない。止めた方が良い」

「……分かってるさ」

 

 何とも言えぬ雰囲気を出しながら、クリス氏は去った。

 

 ありがとうございますレオン氏。

 彼とは本当にどう会話して良いか分からんのじゃよ。

 

 洋館事件の犠牲者は決して少なくない。その犯人と同一人物なのに、中身が本人じゃないと言ってる自分が謝っても、向こうだって良く思わないだろう。

 とか考えていたら、なけなしの会話能力を失ってしまったのである。

 

 ぶっちゃけジルさんと和解できているのも、彼女が「自分がやってない事で謝るんじゃないわよ」と言ってくれているから成立している状態なのだ。

 つまり自分が人間関係をどうにかできた訳じゃない。

 

 うーん、難しい。

 なんというか、クリス氏と仲良くせにゃならん必要に迫られている訳でもないから、余計になぁ。

 自分に逃げが入っている事も否定できない。

 

 

 

 

 

 と考えたり、装備の整備をしているうちに、ロシア政府からの許可が降りた。

 

 ならば出発するしかあるまい。 

 

 

 

 

 

 




 
・おじさん
遮光用のメガネは手放せないので、せめてオールバックは止めているおじさん。現場任務はちょっとだけでも旅行気分が味わえるので嫌いじゃない。
お土産は空港で買うタイプ。海外出張するようになってから首輪は埋め込み式になるし、空港だと頚椎やっちゃってボルト入れてる人扱いになる。

日本での任務が来ないかな~と思いつつ、あんな生態系が豊かで山地が多くて人口密集不可避な国でバイオテロが起きたらやべぇので、半ば諦めている。

最近は、任務中にカロリーとハーブを効率良く摂取する方法を探るのが趣味。
ハーブ現地調達とか保険が無さすぎて無理。



・レオン氏
おじさんと会話してると緊張感が死ぬから困る。
良く手製のハーブ系食品をくれるなぁと思っていたら、普通に人体実験(ハーブの成分はどこまで加工に耐えられるか、また摂取方法や体質の違いでどれほど効きに差があるのか)されていたらしいのでどついたことがある。
でもハーブリキュールで作ったチョコのボンボンはかなり旨かった。ハーブ、カロリー、アルコールまで摂取できるが、手生産だと大変なのが惜しい。
ハーブ飴とかハーブチョコは良いと思う。生ハーブや煎じただけのハーブより食べやすい。



・ジルさん
飴ちゃんもらった。飴は最後まで舐める派。
アンブレラ関係でおじさんと連絡を取ることも普通にあったので、たまに会話している。
自分がしてない事で謝ると、いつの間にか自分がしたように感じてしまうし、下手すると記憶すら捏造されるという冤罪周りの知識から「ひっぱられる」事を懸念していた人。

もらったラクーンハーブソルトを調味料だと気付かずに、バスソルトとして使った前科がある。
逆じゃなくて良かったな。



・クリス氏(ゴリラではない)
状態の説明だけされて、面会しても必要な事しか回答しない対応をされたので、トンチキ映像を見てもふざけてるのか?という感想しか出なかった勢。

生産者を知らぬままジルさんから飴ちゃんを分けてもらった事がある。噛み砕いて食べる派。



生物系に限らず調べれば調べるほど新たな学説とかいっぱい出てくるから、少しでもマジになって何か書くなら生涯勉強なんやろな…と身に染みました。
置いてかれないようにしないとな!
(新学期の足音から目をそらす)




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シベリアで生物兵器を数える簡単なお仕事 ②


オールバックじゃないおじさんの髪型?
普通に下ろしてるんじゃないかな(なにもかんがえていない)

少女さんのご活躍はしばしお待ち頂ければ。
普通に政府施設でお留守番してます。
あと、おじさんの出張頻度はそんなに高くないです。

首輪さんの無能ぶりに失望された方が多いようなので、チート強化しないと…!という使命感を感じてしまう。





 

 

 

「何だってこんな事になってるんだ…」

「……そうですね」

 

 空調が死んで冷ややかな空気に満たされた研究所内の部屋にて、自分とクリス氏は微妙な空間を開けた状態で突っ立っていた。自分と彼以外、この場には誰もいない。

 双方共に目は死んでいた。原因は明白だ。

 

 さっきまで居た広い部屋からは、大型ガスタンクの爆発がどんどん他の燃料に引火しているのか、扉越しに爆発音が聞こえている。

 

 つまり簡単に言えば、自分とクリス氏は後戻りできない状態で、お互いのパートナーとはぐれてしまったのだった。幸いにも無線は通じているし二人の無事も確認できたが、事前に準備していたマップが正しければ、ここから中枢部まで合流できる地点がない。

 ゆえにパートナー変更を余儀なくされた我々は、それでも目標が居るらしき研究所の中枢部へと向かう必要があった。

 

 すいません。チェンジお願いします(ジルさんが良いです)

 

 

 

 

 

 

 

 (さかのぼ)ること数時間前。

 

 雪原を二つの影が走り抜けていた。軽く吹雪いているために良く見えないが、体格も走り方も、明らかに人間のそれではない。

 彼らはハンターと呼称される生物で、つまりモンスターだった。

 

 それを確認してしまえば話は早い。彼らの上空を飛行する大型ヘリから正確な銃撃が降り注ぎ、体に孔を開けられたハンターはその身を伏せた。

 止めとばかりに、もはや死体となった爬虫類の肌に発信器が突き刺さる。

 やがて除染部隊が到着する頃には、その身が白雪の下に飲まれているだろうから。

 

 ロシアの白き大地は、あらゆるものを静かな眠りに誘う。

 美しい彼女は何も区別する事なく、けぶる雪のヴェールで全てを覆い隠してしまうのだ。

 

『北東から高速で接近する二つの飛行物体を確認。速度から軍用ヘリと推測します』

 

 地下深くに位置するコンピュータールームにて、警報の音と赤后(R Q)のアナウンスに耳を傾けながら、セルゲイ・ウラジミールは愉しげに笑っていた。

 

「政府に介入されては厄介だ。テイロスの起動を急げ」

『了解しました。起動プログラムの開始時刻を再設定します』

「これしきの痛み、前座にもならんよ」

 

 完全に吹雪が止んだ研究所に、侵入者たちが降り立った。彼らが次々と生物兵器を駆逐し、異形の体に痛みが走るたびに、ウイルスの機能を駆使して同調するセルゲイの神経にも同じものが再現される。

 

「は、ハハハハハハ!!!これは傑作だな同志よ……前の貴様も度しがたい愚か者だったが、今の貴様はもはや道化だ」

 

 やがてセルゲイは生物兵器の視界を介して侵入者の様子を知覚し、見覚えのある男の姿を確認すると、盛大に嗤い始める。

 

「ハハハハハハッ…ゲッホ!ゴホッ……」

 

 そして笑いすぎでちょっとむせた。

 

 

 

 

 

 

 

 研究所でバイオハザードが起きている可能性がある。

 

 先ほどのハンターが脱走した個体だと仮定したクリス氏は、険しい顔でそう意見した。

 

 生きた人間がいる拠点を制圧するのと、感染者や生物兵器しかいない拠点を制圧するのとではやり方が多少異なる。研究所に生きた人間がいない可能性があると先んじて予測しておく事は、決して無駄ではなかった。

 並走するブラボー隊のヘリまで、通信で情報が伝えられる。心構えで命が助かるなら安いものなのだ。

 

 やがて吹雪が止んで見通しが良くなると、工場部分の所々に感染者の姿が確認された。それどころか生物兵器が脱走し、自由気ままにうろついている姿すら確認できる。

 隊長さんが後続の除染部隊に連絡を飛ばしていた。

 

 

 

 ヘリから降下して隊列を組み、速やかに準備を終えたら出発である。

 

「盛大なパーティーの真っ最中ってわけか」

「感染者だけじゃなくて、生物兵器までいるなんて豪勢ね」

「せっかくの奢りだ。礼をしないとな」

 

 主人公三人がとてもイカしたセリフを口にしているが、自分は月並みな事しか言えそうにないので勘弁して欲しい。何て言うべきなんだこういう時。

 ゾンビと生物兵器が山ほどいるなぁ…としか思わないんだが。

 もしや自分は感性が死んでいるのか?

 

 先んじて制圧を担当するアルファ隊と共に、工場部分を進む。生きた人間(知能ある存在)が居ない前提で行われるクリアリングはほとんど問題なく進み、数分に一度は部屋に投げ込まれた手榴弾の爆発音が鳴るような作業と化していた。

 しかし存在するものを有無を言わさず殲滅する必要があるため、その進行速度はじわりじわりと低下していく。

 後続部隊はまだ到着していない。

 

「あーあ、これ内部のバイオハザード処理部隊だろ。ゾンビになっちゃってるって事は、ここのバイオハザードはやっぱり事故なのかねぇ」

「事故じゃない場合……ああそういう事か」

「そう。セルゲイ氏が我々から逃げる算段を立てるとしたら、時間稼ぎと情報源の処分を兼ねて、要らないと判断した職員をゾンビ化するか生物兵器に殺させるのが手っ取り早い」

「それを制御するために生かしておいた戦闘要員も、こうして巻き込まれているって場合もあるぞ」

「もしくは自分以外は要らないと、初めから全職員に感染させた場合も」

「まあ本人に聞くのが一番早いだろう…生きてるならな」

「せやな」

 

 生物兵器と共に徘徊する感染者の姿は、一般的な作業員や警備員のものだけでなく、明らかに装備の良い戦闘要員も含まれていた。

 どうしてこうもタイミング良くバイオハザードが起きているのか考えると、なんとも言えぬものを感じてしまう。

 

 たしか原作では「ロシア支部はアルバート・ウェスカーが黒幕めいた何かをやったせいでバイオハザードが発生した」はずだ。何をどうしたのかは忘れたが、エンディングのムービーでは「私のおかげで制圧できたのだクリィィス」みたいなセリフがあったような気がする。たぶん。きっとそう。

 

 でもご覧の通り、自分はそんなことしちゃいない。なのにこの有り様だ。

 ならばこれはセルゲイ氏ご本人の手によるものか、奇跡のような偶然か、はたまた見知らぬ誰かが何かを企んだ結果なのか。

 全く分からないのが現状だった。

 

「俺たちはこのルートから先行する」

「分かった。もし目標(セルゲイ)が死んでいなければ、生け捕りと身柄の引き渡しを要求する」

「証拠品の取り分は後ほど話し合うという事で」

「急ぎましょう。逃げられたら元も子もないわ」

 

 さて、このバイオハザードが足止めで、セルゲイ氏が逃亡する可能性が高まっているため、我々は制圧スケジュールに遅れが生じている本隊から離脱して、中心部へ先行する事になった。

 元々この部隊に所属していなかった我々が離脱したところで、隊の運用に問題は出ない。獲物の分け前に関しては、国籍が違うのが懸念材料ではあるが、先行のリスクを部外者に負わせられる。

 そういう面から離脱の許可が出たのだ。

 

「また吹雪いてきたみたいね」

「天候が荒れてきたとなると、後続の到着は遅れそうだな」

 

 無線に耳を傾けつつ、四人で前後左右を警戒しながら進む。生物兵器はどこからやってくるか分からないため、僅かな隙間も警戒対象だった。

 こうして仕事となると流石プロというべきか、クリス氏も無愛想ながら必要なやり取りは厭わないため、問題は無い。

 いや、今や自分もきちんと訓練を受けてるプロなんだけどもね。

 

「進めば進むほど出てくる量が増えている気がする」

「気のせいじゃないと思うぞ」

 

 ダクトから意気揚々と這い出てきた、ハエと人間のハーフ(しかも体に蛆を飼育している)とかいう狂気の産物をスコップで強打して黙らせる。コイツらは動きが早いから、弾を避けて接近してくる筆頭だ。

 他にも猿っぽいのやハンターや、犬やらリッカーやらデカい蜘蛛など、見慣れた連中が勢揃い。

 オフ会じゃねーんだぞ。解散だ帰れバカ者。

 

「……なあ、レオン」

「どうした?」

「何でコイツはさっきからスコップで戦ってるんだ?部隊に随伴してた時は普通に銃を使っていただろ」

「弾が補給できる保障が無くなると、ケチるのが癖になってるらしい。あと彼からすれば大抵の敵は叩いた方が早くて確実なんだそうだ」

 

 流石にハンターみたいな打撃に強めのヤツは、銃を使った方が楽だし早いけどね。

 でもクリス氏ぶっちゃけTASさんみたいな頭おかしいエイム(ぢから)の持ち主だし、遠距離の敵は全てお任せしたいです。

 ゲロ飛ばしゾンビをゆるすな。

 

 

 

 そうしてしばらくすると広い部屋に出た。大型のガスタンクや正方形のコンテナ、段ボール箱などが整理されて積まれている。燃料保管が目的なのだろうか、金属壁の雰囲気が今までとは異なっていた。

 ルートによると、この部屋の階段を上がって上階にある区画に入れば、ここのシステムを担うコンピュータールームに最短で辿り着けるはずだった。

 

「……あからさまに罠では?」

「素早く走り抜ければ良いだろ」

 

 目的の階段の先には金網の通路が繋がっている。

 しかしその通路の上には、大型ガスタンク3本セットが天井からのフックで吊るされていた。

 絶対に頭上から落ちてくるヤツだ…ゲームだったらボタン操作で避けないと即死するヤツ。

 

 通りたくないなぁ…と思ってしまうが、自分以外の三人は通る気しか無いようだ。

 まあモタモタしていれば、それだけセルゲイ氏が逃げる時間を提供する事になるのは確かである。ここは行くのが正解なのだろう。

 

「うわっ!!!」

「そういう罠か!」

「きゃっ!」

「あちゃー…」

 

 と思っていた事もありました。

 普通に少し早めで落としてくるの止めろ。走り抜けようとするタイミングで当たるだろうが。

 

 位置の関係で素早く走り抜けてどうにかなったのは自分とクリス氏だけ。レオン氏とジルさんは咄嗟に通路から飛び降りる形で回避するしかなかった。

 ガスタンクは通路を破壊して燃え上がる。

 それが他のガスタンクの山に引火するのは何もおかしな事ではなく。

 

「逃げろ!!」

「君たちも早く扉へ!」

 

 後はもう何も考えずに扉の向こうへ駆け込む他なかった。

 

 

 そして場面は冒頭に戻るというわけだ。

 

 

 

 

 

 




 
小説版レッドクイーンさんの赤后って呼称が好き。


・おじさん
スコップは文字通り相棒。
そこらの鉄パイプや建材とかだと、すぐに曲がったり折れるから役立たずだと思っている。最低でもマスターキーくらい頑丈じゃないと困る。

色々と軽く見えるのは、常人より死ににくいゆえにどうしても拭えない感覚の差異が原因だったりする。
怪我してもハーブいらずで治るし。
(ハーブやカロリーがある方が良い)



・レオン氏
ハーブさえ食べれば大抵の怪我はどうにかなるから、おじさんほどじゃないが感覚が常人よりおバグりあそばしている。
新米警官(になりそこねた)→エージェントゆえに単独または少人数での任務遂行には馴れているが、部隊単位での活動には慣れていなかったので少し新鮮な気分だった。



・ジルさん
ハーブさえ食べれば以下略。

スターズ所属以前はデルタフォース訓練過程をクリアした経歴の持ち主らしいですよ。やべぇ。
部隊単位での活動はお手の物。



・クリス氏
ハーブさえ以下略。

元空軍パイロット。スターズに所属する25歳より前にこの経歴。やべぇ。
やはり部隊単位での活動はお手の物。
おじさんからは「イン○ル入ってる」ならぬ、TASが入っていると思われている。

運命のイタズラでおじさんと組まされてしまった。
どんまいw




UCの最後にウェスカー氏が座って操作しているカッコイイあのガジェットを見ると、架空のソプラノを思い出してニッコリしてしまう骨ですごきげんよう。
一生に一度はインタラに行きてぇなぁ。




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シベリアで生物兵器を数える簡単なお仕事 ③


つまりUCの「アンブレラ終焉」ステージの表と裏に小説版を加えてミキサーでガーッした形となっております。はい。
小説版とゲーム版、大筋は変わりませんが、細部では思った以上に違いが見られる様子なので、ギガを少しばかり燃やしてきました。




 

 

 

 たぶんコレがゲーム通りになるなら、自分たちが大佐と戦うルートで、レオン氏とジルさんが新型B.O.W.と戦うルートなんやろなぁ。

 どういう内容か、ほとんど思い出せないのが悔やまれる。なんか大佐がキモいモンスターになったっぽい事しか分からないのですがね。

 

「仕方ない。俺たちだけで進むぞ」

「そうですね」

 

 何はともあれ彼の言うとおり、やる事は決まっているのだ。

 ならばやるしかあるまいて。

 

 この六角形の部屋には扉が二つ。扉の横のパネルを破壊してしまえば開くようだが、セキュリティ的に脆すぎて怖くなる。

 しかも試しに扉を蹴れば割れてしまった。ゴリラではないクリス氏が蹴っても割れた。一応は強化ガラスっぽいんだが弱い事に変わりはない。

 これ扉の意味ある?ないだろ。

 

 片方の扉の向こうは同じ六角形デザインの部屋で、音に反応した警備員のゾンビや白衣のゾンビが起き上がる姿が見えた。

 もう片方の部屋の壁には銃が掛けられている。

 

 なるほどな。ハニカム構造の部屋を並べて侵入者が迷いやすくしているのかもしれない。それか、単純な生物兵器なら同じ部屋をぐるぐる回って、このエリアから出られないように閉じ込められるだろうし。

 とにもかくにもこの先が目的だ。さっさと抜けるに限る。

 

「……」

「……」

 

 鹵獲(ろかく)した弾薬や手榴弾を、それぞれのポーチへ黙々と詰め込む作業。

 まさかこんなに潤沢に補給できるとは嬉しい誤算である。

 

 右、左、と部屋を選び、出てくる敵を打ち倒す事に問題は無い。しかし手付かずで残る手榴弾や銃、弾丸などは、それを使う前に使用者たる人間が死に絶えた事を示していた。

 一部の生物兵器や感染者が人を襲う形でじわじわと広まるならば、それに抵抗するために武器弾薬は消費される傾向にあるが、無味無臭の形で広まるならば、人は無抵抗のまま感染する他ない。たぶんそうやって、ここのバイオハザードは始まったのだろう。

 

 六角形が不意に途切れ、隔壁にも似た扉が現れる。

 コンピュータールームは近い。

 

 

 

 

 

 扉の向こうへ踏み出した足元で火花が散る。

 銃声。床に刻まれた穴。

 見上げれば、階段の上から銃を片手に優雅な足取りで降りてくるのは大柄な男。企業の幹部という立場にありながら、未だに自分は軍人であると言わんばかりの格好をしている人物。

 セルゲイ・ウラジミール。その出自と言動から、大佐とあだ名される男だ。

 

「アルバート・ウェスカー同志…いや、今はアルフレッドと名乗っているのだったか、まあ良い。ようこそ我が城へ。そこの君も、な」

 

 彼が大げさに広げた両腕の後ろには、白いコートを着た双子のようにそっくりな護衛二人が控えている。大柄な彼よりもなお厳ついのだから、どう考えても普通の人間ではないだろう。

 

「アンタがセルゲイか。投降してアンブレラについてキリキリ吐くなら今のうちだぜ」

「あー、アンブレラ社が今の段階から持ち直すのはかなり難しいでしょう。()()ロシア政府に貴方の身柄の引き渡しを要求されていますが、こちらへの協力を条件に亡命するのはいかがでしょうか」

 

 まあお断りされるだろうけど、一応は言っておかねばならない事だ。

 

「アンブレラは終わらんよ。全てを痛みと共に受け入れ、新生するのだ。その至福を君たちは理解できないだろうがね」

 

 ですよねー

 

 その後も彼はうっとり顔で、何やら語りながら銃撃してきた。

 スコップを盾に弾いたが、無造作に撃ってるようで全て我々の急所を狙ってくるあたり、彼もなかなかのエイム(ぢから)の持ち主だ。

 なお御高説の内容を要約すると「死や恐怖、痛みは凄いんだよ!恐怖は全て支配するし、痛みは神様に繋がる聖なる要素なんだ!」とのこと。

 

 うーん、ソビエトは無神論でかなりしっかり宗教弾圧してたような気がするのだが、彼の様子を見るに、ここでは融和政策や政府による統制で対処していたのか?

 それともソ連やアンブレラとまた別に、彼が独特な宗教観をお持ちなだけ?

 

「宗教の話はちょっと困ります」

「……くだらない話は終わったか?」

「はぁ、くだらないのは君たちだ。まあ良いさ。私の古い友人に、君らを歓待してもらうとしよう。イワン、頼んだよ」

 

 やれやれと肩をすくめたセルゲイ氏がコンピュータールームに戻って行く。そして立ち塞がるのは、ご紹介されたイワンさんが二人。

 これどっちもイワンさんなのか。名前じゃなくて種族的な?

 

「俺が右をやる」

「あ、はい。じゃあ私は左を」

 

 先に飛び掛かってきたのは向こうだった。

 

 不自然に暗い肌の色だけではない。巨体でありながら異常に素早い動きとその気配は、彼らがタイラントの系譜である事を如実に表している。

 ならば狙うは急所のみ。

 

「はぁ!?クソコートが!!!」

 

 だから心臓にスコップ刺そうと、飛び掛かってきたところを下から突き上げてやったら、コートに阻まれて滑ってしまう。防刃か?やめろ。

 咄嗟にハンドガンで撃ち込んでみるが、相手の動きは止められない。そのままぶん殴られ、壁に強かに打ち付けられた。止めとばかりに拳を握り締め、走ってくるのをどうにか避けて、距離を取る。

 

「防刃と防弾機能がある!」

「防爆もついてやがる!」

 

 横目で見ればクリス氏の方も、銃撃が効かずに手こずっている様子。手榴弾やショットガンを至近距離で浴びせても怯みさえしないのだから恐ろしい。

 

 コートが無駄に高性能なのが悪い。これは剥き出しの頭を狙うより他ないだろう。しかしタイラントというものはコートなんぞ無くとも、元から何処もかしこも頑丈なのが売りである。

 頭すらもその例外ではなく、強打を受けようが銃撃を受けようがヤツらは怯まず動く。たまにダメージの蓄積でふらついたり、動きが止まる事はあるが、良く効いているという実感がわかない程度だ。

 

 しかもイワンと呼ばれた彼らは、いわゆる「知能改良型」というやつなのだろう。壁際のパネルを叩き割り、収納されていたランチャーを取り出すと、それを担いで反撃してきた。

 

 これはもう弱点を狙うしか、具体的には目ん玉から脳味噌に弾をぶち込むしかない。

 

「こっちも防弾かよ!」

 

 クリス氏も同じ結論を出した様子。特殊な形のサングラスに容赦なく発砲するが、なんとサングラスまで防弾な事が発覚した。

 こちらも数発撃ち込むが、割れそうな気配はない。

 

「かったいな…」

 

 かなり質が良い。さっきのガラス扉とは月とスッポンの強度である。それだけでなく、弱点を庇うという生き物にとって当たり前の動きも厄介だ。腕で庇われるだけで弾かれてしまう。

 これは組み付いてサングラスと腕を剥がし、攻撃するしかあるまい。

 

 が、タイラントと自分では、相対的にパワー型とスピード型になってしまう。どちらも常人よりパワーはあるが体重の問題で、軽い自分の方がスピードに優れ、重いタイラントの方が打撃力が高くなるわけだ。

 そうならざるを得ないとはいえ、スピードタイプがスピードを捨てて相手に組み付いてしまえば、どうなるかはお察し。

 

「ギブギブギブぎぇっ!!!」

 

 特殊サングラスが肉に食い込んでいたため、引き剥がすのに少し手こずっていたら、ぶん殴られて動きが鈍ったところへ関節技を掛けられた。

 しかもアルゼンチン式背骨折り(アルゼンチン・バックブリーカー)だ。

 

 そりゃ知能があるなら関節技くらいできますわな!!!クソ!!!

 

 背骨から嫌な音がするし、ガッチリ掴まれた喉が締まって大変苦しい。というか常人なら死んでいる。自分だってなんとか死なないだけで苦痛はある。

 幸いにも、こういう時は脳が勝手に痛覚をフィルタリングしてくれるのか、そのうち現実感と共に痛みも軽減してくれるのだが、窒息による酸素不足は変わらない。

 

 意識が落ちてしまえば本格的に命に関わるため、なんとか手を伸ばして指を目に突っ込んでやる。

 

「っ!?」

 

 あかん指が脳に届かん。

 しかし背骨が完全に折れる前に解放されたのでセーフ。ぶん投げられたけども意識はあるのでもーまんたい。

 

「ぉえっ!……はぁ"ー…はぁ"ー……この野郎」

 

 いや、背骨やっぱり折れてますねコレ。治るまで下半身が死んでて這いずりゾンビみたいな動きしかできん。

 しかしサングラスは剥がしてやった。当初の予定通りに鉛玉をぶち込んでやれば殺せるだろう。

 

 もはやこちらがろくな抵抗もできないと思ったのか、ゆっくりと近付くタイラントの傷付いた目へ、咄嗟に照準を合わせて連射。

 我ながら異常な知覚と集中力で引き伸ばされた光景は、連なる弾丸が吸い込まれるように眼窩へ飛び込んで行く様だった。

 

「……よし」

 

 倒れたところに這い寄り、念のために眼窩へ手榴弾を叩き込んで爆発させる。脳漿が大げさに飛び散ってようやく安心できた。

 我が身を持って証明できてしまうが、この手のウイルスに少しでも適合すると、まず異常な回復力や打たれ強さが得られてしまう。だからこそ徹底的にやる必要があるのだ。

 

 

 

 さて、クリス氏のご様子は?と彼の方を向けば、なんともう片方のタイラントが崩れ落ちるところだった。

 流石である。

 

「…なんで寝てるんだ」

「まだ背骨が治らないので。もう少しで治りますが」

「そうか」

 

 立てるようになってから確認すると、どうやら防弾サングラスの一ヶ所を狙い撃ちし続けて割ってから目を撃つという、狂気染みたエイム(ぢから)任せの攻略法で倒したらしい。

 こわい。

 

 

 

 

 




 
・おじさん
宗教の話はちょっと困ります
(ドアチェーンを意地でも外さない姿勢)

今まで描写が無いせいで忘れられていただろうが、エイム(ぢから)はかなりある。



・クリス氏
おじさんが泥仕合している横できちんとガンシューティングをやっていた人。



・セルゲイ大佐
情報量の関係で小説版の成分が多め。
生物兵器に超アクセスして痛みや死の無限回収をしているオタク。



・イワンくん
あの色付きサングラス、ヘッドマウントディスプレイが内蔵されてるらしいね。凄い。
ゲームでは非破壊オブジェクトだったので、強化も兼ねてコートとサングラスはより高性能にしました(独自設定)

タイラント系が心臓叩いたらダメージ入るの、あれ心臓震盪を起こして一時的に行動不能にしてる感じかしらね。




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