憑依円堂列伝〜TS娘と時々未来人〜 (花蕾)
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サッカー部ができた日
小さな絶対守護神
この前行われた、日本全国小学生サッカー大会決勝、稲妻KFC対リトルエンペラーズの試合の結果は我々に衝撃を齎した。長年、頂点の座に君臨していたリトルエンペラーズを3対0で打ち破り、万年2位であった稲妻KFCが見事優勝を掴みとった。この試合のMVPを上げるならあのオレンジのバンダナがよく似合う少年しかいないだろう。稲妻KFC1番・円堂守くんである。今大会初出場ながら、ゴッドハンドや熱血パンチ、爆裂パンチといった多種多様な必殺技を駆使し、全試合無失点という快挙を達成した。彼は閉会式の後のインタビューで「練習の成果がでてよかったです」と語った。
彼は現在小学6年生、あともう少しすれば中学生である。彼の存在が中学生サッカー界にどのような風を吹かせるのか、目が離せない。
(○×新聞より一部抜粋)
「まあ、俺がいく雷門中、サッカー部ないんだけどね」
俺は苦笑いするようにその記事を読む。
「しっかし、苦節数年、ようやくここまできた」
俺はいわゆる転生者と言われるやつである。それも憑依系というやつだ。
そう、俺は、イナズマイレブンの主人公、円堂守に憑依転生してしまったのだ。
イナズマイレブンとは、「これが超次元サッカーだ」というキャッチコピーと共に世に出されたゲームだ。超次元サッカーの名に相応しく必殺技と呼ばれるものがあり、炎を纏ったシュートや地面から壁を出してブロックするなど日常茶飯事といったトンデモサッカーゲームである。
さて、そんな超次元サッカー世界の主人公に憑依転生してからは行動はすばやかった。母さんに頭を下げ三日三晩かけて説得し地元のクラブチームに参加した。家庭の事情で説得は困難を極めたが、学校のテストの点数と交換条件で許しを得ることができた。小学生のテストなら簡単だし落とすことはない。実質無条件だ。
クラブチームに入ったおかげで必殺技を早期獲得できたのである。
「おーい、円堂!」
「その声は風丸か!」
振り返ると水色の髪を束ね、リボンが特徴的な制服に身を包んだ
(TSじゃん)
「ん、どうしたんだ?顔に何かついてるか?」
「あ〜、いやいや、制服きてる風丸が新鮮で」
「ふふ、そうか。円堂も新鮮だよ」
風丸は俺の言葉にはにかんだ笑顔を浮かべた。何この可愛い生き物。
「円堂は中学でもサッカーをやるのか」
「まあな」
「でも、雷門中にサッカー部はないぞ」
「知ってるさ。ないなら作ればいい。俺はやるぞ!」
「円堂らしいな」
「そういう風丸は陸上部か?」
「その予定」
「ならお互い頑張ろうな。うし、放課後は秋と部員集めだ!」
「秋ちゃん?」
何が引っかかったのだろうか。風丸は足を止めた。
「円堂と秋ちゃんが二人きり……?だ、だめだ!俺もサッカー部入る!」
「はあ!?風丸は陸上部に入るんだろ!」
「いーや、サッカー部に入るね。円堂も部員が一人増えるんだから文句はないだろ」
「いや、それはそうだけど……」
「なら、決まりだ!」
ズンズンと風丸が進んでいく。部員、一人獲得したけど、風丸は一体何を怒ってるのだろうか。
「ふん」
「お、おい、待てよ!」
結局、風丸の機嫌は放課後になるまで直らなかった。
◇◇◇
始業式後、冬海先生から前サッカー部の部室の鍵をもらい、風丸とマネージャーの秋と共に部室の前に来ていた。
「ここが部室か」
「歴史を感じるね」
「よし!まずは部室掃除から始めるぞ!」
俺と秋、風丸は小さく拳を上げる。
扉を開けると、物がごった煮し埃が大量に舞った。ざっと見た感じ、サッカーボールやホワイトボード、三角コーンなどきちんとあり、部室を綺麗にすれば部活動に支障はきたないだろう。
とりあえず、全部、外に物を出す。量も多いし、三人という人手の少なさのせいで疲れる。タイヤトレーニングで鍛えたはずだが、まだまだだということだな。
「おい、円堂これ!」
「どうした、風丸……あっこれは」
「どうしたの、一ちゃん……これって」
「「「サッカー部の看板!」」」
少々掠れてはいるが、雷門中サッカー部、と読むことはできる。風丸から受け取り、片付けより先に看板を綺麗にする。
「よーし!雷門中サッカー部の始動だ!!」
綺麗になった看板を部室の表に掛けた。ないとあるのとでは偉い違いだ。
「俺、サッカー部が出来たらさ、いっぱい試合してフットボールフロンティアっていうでっけぇ大会に──」
気分が高揚してもはや何度目かという話をしてしまう。円堂守だから、それは関係ない。俺がサッカーが好きだからサッカーをする。それを再確認できたような気がする。
「無駄です、雷門中にサッカー部は出来ません」
「「「!?」」」
いきなり、水色の髪で赤紫の瞳の少女が……え?ベータ?アルファじゃなくて
「すぐに嫌いになっちゃいますから」
『ムーブモード』
ベータはサッカーボール型のデバイスを起動する。機械音がなりドーム型のエネルギーを幕を作り出し、その中にいた俺たちを強制的にワープさせた。
それを見ていたあるものは
「しまった、連れ去られた!」
「僕たちも行こう!」
追いかけ
また別のあるものは、
「キラード博士!」
『わからない。だが、今は動けない。堪えてくれ』
断腸の思いで踏み出していた足を止めた。
今、複雑な思いが絡み合った壮絶な戦いの幕開けとなる試合が始まろうとしていた。
最初はTS円堂でやってたのに逆になってた。なんで?
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未来からの侵略者
フットボールフロンティアスタジアム
その名の通り、『フットボールフロンティア』を行うために作られたスタジアムだ。
そこに俺たちはいた。そんなことはどうでもよくて
「お前らは……?」
目の前の少女の方が気になる。本来の世界線では、彼女の前任者であるアルファがここにくるはずだった。え、何?もしかして、アルファもう倒されたの、早すぎじゃね
「ここであなたたちには試合をしてもらいます」
「あ、いや、それは構わないが……」
考えが纏まらない。足りない頭ではどうやら把握しきれないらしい。
「円堂さん!そいつらはサッカーを消そうとしてるんです!」
スタジアムの端から小綺麗な制服を着たクルクル頭の少年とSFみたいな服を着た少年とぬいぐるみの熊が現れた。うわ、ワンダバって動くのリアルで見るとすごい不自然だな。
「円堂、知り合いか?」
「いや」
「……あ、俺は松風天馬といいます。えっと……説明が難しいんですけど……」
要約するとこうだ。
①あいつら未来人
②理由は不明だが、サッカーを消そうとしてる
③それを止めるために別の未来人、フェイと動いている
「なるほどな……よし、信じるよ」
「本当ですか、円堂さん!!」
「ああ。お前のサッカーが好きって気持ち、ビシビシと感じたぜ。人間は好きなものに嘘はつけないからな!」
天馬は輝かせた笑顔を見せた。
後ろでは、風丸と秋が、円堂だしな、と話してた。ちょっと待て、俺どう思われてんだ
「あ〜あ、来ちゃったんですか。まあ、同時に奪っちゃえるから手間が省けちゃいました」
ベータはそう言う。表情と声は可愛らしいが、目は笑っていない。目の底からどう痛ぶろうかどう調理しようか、という肉食獣かのような思考が読み取れる。
「試合しようぜ。やってお前らにサッカーの楽しさ、教えてやるよ!」
「その意気がどこまで続きますかね?」
ベータは面白そうにいいながら、ボールを操作し、一人の男を呼び出した。
「おーっと!?店の厨房かと思ったらいきなりどこかのサッカー場だ!」
矢嶋陽介
イナズマイレブンgoにおける実況者枠だ。普段は沖縄で海の家をしている。たしか、サッカーには実況がつきものだ、という理由で連れ去られている。試合が終わったら海の家に帰されるのだが、きちんと試合分の時間は経っている。そのサッカーボールでどうにかできなかったんですかねぇ。
「でも、どうするんだ、人数が足りないぞ」
風丸が言う通り、人数は足りない。サッカーは11人で行うスポーツだ。俺、風丸、天馬、フェイと4人しかいない。
「大丈夫、いるよ!」
フェイの方を向けば、残りの7人がいた。マントちゃん、カワイイヤッター……じゃなかった、あれはたしか、デュプリ。化身のエネルギーを人型にする技術だ。俺もできるようになりたい。デュプリに授業とか宿題させてサッカーだけして生きていきたい。
「なんか変なこと考えてない?」
「どうせ、宿題代わりにしてもらえないかなぁ〜、とかでしょ」
「な、なんのことだ?ほ、ほら、ポジションにつくぞ!」
「おい、円堂!」
「ちょっと、円堂くん!」
誤魔化すな、と風丸と秋がジト目をしてくるが、逃げたもん勝ちだ。
風丸は呆れたのか、はあ、と溜息を吐く。そのままピッチに移動する。あれ、風丸さん、そこMFですよ、DFじゃない……ま、いっか、世界編ではMFめっちゃやってたし、ゲームでもMF起用してたし。
フェイと天馬がFW、風丸がMF、俺がGK、残りはデュプリが埋めた。
「さあ、プロコトコル・オメガ2.0VSテンマーズの試合開始だ──っ!」
ピーッ、と笛が鳴り、試合の開始を告げた。
「フン!」
それと同時に相手のグラサンのMF、ドリムがデュプリのキモロからラリアットをかましながらボールを奪った。その後も乱暴なタックルで上がっていく。
「狙いはデュプリか!」
デュプリは化身エネルギーからできたものである。つまり、デュプリは本人に繋がっているということだ。デュプリを通してフェイを潰せばいい。幸いにもデュプリという的は大量にある、ということだろう。
「待てよ……そりゃ、違ぇだろ。それはサッカーじゃねぇだろ……!」
「そうだ、サッカーが泣いてるよ!」
俺は悲痛の言葉を、天馬は怒りの声を漏らす。
「そんなこと、すぐに言えなくなっちゃいますよ。『
ドリムからパスを受けたベータは俺たちを嘲笑うかのように必殺シュートを放った。
ゴッドハンドで、いや、ゴッドハンドじゃ
「はぁぁ、『マジン・ザ・ハンド』ォ!!」
ボールが手に収まった。え、マジでできたの?心臓に拳持っていってないんだけど
「オレのシュートを止めただと!!」
「良いシュートだったぜ!次も止めてやる!」
天馬めがけてゴールキックをする。放物線上を描き鮮やかに天馬の元にボールは向かっていくが、直前でカットされる。
「これ以上、好きにさせるか!」
止めに入ったのは風丸だった。この中では唯一の初心者である。小さい頃に公園でミニサッカーをした記憶はあるが……
「『スピニングフェンス』!」
嘘だろ、お前!?風丸が必殺技を使いボールを奪いとった。
「『疾風ダッシュ』!天馬!」
さらに風丸は疾風ダッシュを使用し、相手選手を抜きさり、天馬へとパスを回す。
「はい!みんな!反撃開始だ!」
テンマーズの反撃が始まった。
試合描写むずすぎワロタ。
もしかしたら、後からフォーメーション説明いれるかも。
必殺技みたいなフォントいれようとしましたが、シンプルにスマホだと厳しすぎる。PC手に入れたら付け加えます
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化身アームド
天馬が敵陣へと切り込んでいく。プロトコル・オメガ側も止めようと動くが、天馬の方が上手だった。
「『アグレッシブビート』!フェイ!」
必殺技で抜き去り、フェイにパスを回す。DFが止めにかかるが、遅い。ボールを受け取ったフェイは既に必殺技のモーションに入っていた。
「『バウンサーラビット』!!」
兎のように軽やかに跳ね必殺シュートを打つ。緑色のエネルギーを纏ったシュートはみるみるゴールへと進む。
「『キーパーコマン──」
「ちげぇ!よく見ろ!」
ベータが叫ぶ。その視線の先にはボール目掛けて加速している天馬の姿があった。
「『真マッハウィンド』!!」
チェインで速度を増したシュートはキーパーの反応を超えゴールネットに突き刺さった。
「ゴォォォォル!!決まったぁ!テンマーズ一点先取だ──ーっ!!」
「やったぁ!」
「よくやった、フェイ、天馬!」
試合において先制点は大きな意味を為す。
先制点を取ったチームは勝ちやすい、という論文すらあるほどだ。
「風丸もすごかったな!だけど、いつ必殺技を習得したんだ?」
「わからない。だけど、自然と力が湧いて……円堂だってすごかったじゃないか」
「共鳴現象による力だろうね」
フェイがそう言う。
詳しく聞くと、興奮しピンク色へとなったワンダパが説明してくれた。
異なった並行世界で生まれた俺が互いに干渉しあってパワーアップする現象のことらしい。そのおかげで俺はマジン・ザ・ハンドを、風丸は二つの必殺技を使うことができた。
イナズマイレブンGO2の初期でちょろっとでたぐらいだから完璧に記憶から消してたわ、共鳴現象。
プロトコル・オメガ2.0ボールから試合再開。長い髪のFW、レイザがボールを受け取り進んでいく。
「行かせない!『ワンダートラップ』!」
天馬がそれをカット。すかさず、前線のフェイへとパスするが、
「もーらい」
ベータがカットする。デュプリたちが止めに入る。
「オラ!どけぇ!オレが通るんだよ!!」
力強いドリブルで強引に進んでいく。3人のデュプリが必殺技で止めようとするが、ドリブル技すら使わず突破した。
「跡形もなく叩き潰してやる!こい!『虚空の女神アテナ』!!」
これが……化身!初めて見るが、迫力がすごい。
「アームド!」
化身を鎧のように纏った。
化身使いの最終段階である化身アームドだ。
「『シュートコマンド07』!!」
ベータは先程同じ技を放つ。だが、威力は段違いだ。あまりの威力に思わず足がが下がってしまいそうになる。だけど、不思議と力が湧いてくる。共鳴現象か、それもあるだろう。しかし、共鳴現象よりも強いヤツと戦えているという事実が俺を奮い立たせる。
「ハアアアアア!『魔神グレイト』!!」
それは無意識だった。
「アームド!」
「何!?」
ベータが、いや、それだけじゃない、天馬もフェイも驚きの声を上げていた。
「円堂さんが化身使いに……!」
「さらにアームドまで!?」
「絶対に止めてみせる!『ゴッドハンド』!」
黄金の手がシュートを受け止めようとする。最初は拮抗していたが、徐々に押されていく。それは偏に俺とベータのサッカープレイヤーとしての経験の差だった。技のキレ、化身の熟練度、全てにおいてベータが上だ。
「ぐっ……」
ゴッドハンドにヒビが入ってゆく。
「片手でダメなら両手ならどうだ!『ゴッドハンド」
左手を掲げ
「──W』!!!」
二つとなったゴッドハンドは押し返していき、ついにボールは俺の手の中に収まった。
「また止められた、だと……おもしれぇ」
「ベータ……笑ってる」
「え」
オルカの言葉でベータは自分の顔に笑みが浮かんでることに気づいた。まるで、自分がサッカーを、円堂守との戦いを心から楽しんでいるようではないか。
「ハハッ、どうだ、サッカーは楽しいだろう!」
そんな感情は認められない。ベータは未来意思決定議会『エルドラド』の管理者であり、チームプロトコル・オメガ2.0のリーダーだ。一度の失敗すら許されない立場だ。事実、前任者のアルファはただ一回の敗北でムゲン牢獄へと送られている。それなのに、エルドラドが消すと決めたサッカーで心が踊っている。
笑みをなくそうとするが、表情筋が言うことを聞かない。
「困っちゃいましたねぇ……」
ここにいるのが、他の管理者であれば影響は受けなかっただろう。機械的なアルファ、傲慢なガンマ、アンドロイドのレイ・ルクではなく、任務の中で嗜虐心を満たすベータだからこそ諸に影響を受けてしまった。
(これはどう転んでもムゲン牢獄行きですかね……)
自身の異変を既にエルドラドはキャッチしてるだろう。管理者として相応しくないとして再教育されるのは目に見えている。
はあ、とため息を漏らす。
とはいえ、やることは変わらない。自身の未来がどうなろうが、任務は遂行しなければならない。その後に弁明はしよう。運が良ければ気の迷いとして見逃されるかもしれない。ベータはそう考えを纏めた。
「おーい、この試合、俺も入れてくれないかな?」
新しい不確定要素にベータの顔は歪んだ。
私のプロトコル・オメガ内の推しはレイザです。
次話でプロトコル・オメガ編完結です。オリジナル話が二つくらいあって無印編に進む予定です
頑張って土曜0時に毎週更新できるよう頑張ります
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未来からの助っ人
「おーい、この試合、俺も入れてくれないかな?」
突如、スタジアムに声が響き渡る。周りを見渡すと、誰もいなかったはずの観客席に人影を見つけた。その人物は観客席から飛び降りフィールドに飛び降りた。
「剣城、来てくれたんだな!……ん?」
その見覚えのある姿を見て天馬は駆け寄るが、思っていた人物ではないことに疑問符を浮かべる。
「俺は君の知っている京介では無い。京介の兄、剣城優一だ」
彼の名は剣城優一。天馬の本来のチームメイトである剣城京介の兄である。
「もう歩けるんですか?」
天馬の記憶では、優一は手術のリハビリ中で完治には程遠かったはずだ。しかし、観客席から飛び降りたところを見るとそのような面影はない。
「話は後だ、今はあいつらと戦おう」
「は、はい!」
飲み込めない部分はあるが、味方ということは確かなはずだ。どういう形であれ優一とプレイできることを天馬は喜んだ。
「円堂さんに風丸さんとサッカーできるとは光栄です」
「ん?俺たちのことを知っているのか?」
「ええ、まあ、はい」
「その話は試合の後で。今は試合に集中しよう」
優一がどういう存在か、ある程度予想立てたフェイは話を切り上げる。事実、優一の事情を話してる暇はない。
FWだったデュプリのキモロが消え、空いたFW枠に優一が入った。
プロトコル・オメガ2.0のスローインから試合が再開する。優一が瞬時奪いとる。そのままドリブルで上がっていく。
「そう簡単に行かせるか!!」
プロトコル・オメガ2.0のDF陣が止めようと動く。が、優一は鮮やかなプレイでDFの三人をごぼう抜きにした。
「すげぇな……」
思わず声が漏れる。それほどまでにプレイが綺麗だった。
「『魔戦士ペンドラゴン』!!」
後はゴールキーパーのみとなったところで優一は化身を発動させた。
「アームド!」
化身を纏った。その姿にはベータと同じくらいの圧力を感じる。
「天馬もできるはずだよ!やってみるんだ!」
「よし、やってみるよ」
フェイに言われ天馬も化身を呼び出す。
「『魔神ペガサスアーク』!」
……ん?なんか、ペガサスアークさん髪黒いんですけど、身体赤いんですけど。
もしかしてですけど、通常版じゃなくて映画限定の『魔神ペガサスアークR』さん……?
「アームド!」
天馬も同じようにアームドする。
「で、できた……!」
できないと思っていたため、天馬は驚きの声を上げる。
「いくよ、天馬くん」
「はい、優一さん!」
天馬からは光のオーラが、優一からは闇のオーラがボールに注入される。オーラが入るにつれボールは浮かび上がっていく。それを飛び上がった優一と天馬が同時にキックする。
「「『グレートブラスター』!!!」」
幻とすら言われた必殺技が放たれる。まあ、幻と言われた原因は、予告編に登場したのにも関わらず映画本編では登場しなかったからという悲しい理由なんだけど。
「『
プロトコル・オメガのゴールキーパー、ザノウは今度は必殺技を使えたが、化身アームドした二人による必殺シュートには叶わずあっさりと破られてしまう。
「させるかよ!!」
回り込んでいたベータはアームドしシュートを弾き返そうとする。
しかし、シュートの威力は凄まじく、ザノウの必殺技で弱まっているにもかかわらずベータを吹き飛ばしゴールネットに突き刺さった。
これで2対0。
『── 』
「……イエス、マスター」
ベータはエルドラドから撤退の命令を受け取る。
「なんだ、あれ!?」
上空にUFOのようなものが現れ、ベータたちを回収し姿を消した。
「天馬、守ったんだ……円堂守がサッカー部を作る流れを僕たちは守ったんだよ!」
「てことは俺たちの勝ちだ!やったー!」
プロトコル・オメガ2.0の試合放棄による勝利。まあ、スコアでも2対0で勝ってるし、きちんとした勝利と言えよう。
勝利の余韻に浸かりながら天馬とフェイ、優一の事情を聞く。
天馬とフェイはプロトコル・オメガによる過去改変で消されたサッカーを取り戻すため時間旅行をしていることを話す。
一方、優一は本来なら足の怪我でサッカーできなくなるはずだが改変の影響で怪我がなくなった。それだけで終わりなら幸せだが、そうはいかない。そのせいで弟である京介からサッカーを奪うことになってしまった。弟にサッカーを返すために動いてるとのことだ。
「事情はわかった!みんなサッカーを守るために戦ってるんだろ」
「そうです!」
「頑張れよ!本当なら俺もいきたいけど、俺にはやることがたくさんあるから行けねぇ」
時空を超えて色んなやつと戦う。俺もしたいが、今現在問題が山積みである以上いけない。
「でも、どうしても俺たちの力が必要になったらまた来いよ!ぜってぇ、力になるからよ!」
「はい!」
こうして、天馬たちは未来へと帰っていった。
「いやー、しっかしすごかったな!」
「まだ、夢を見てるみたい」
「ところで……」
「ん?どうした?」
風丸が何か言いたげそうにしている。なんだ?
「どうやって帰るんだ?」
「へ?」
…………
「ヤッベェぞ!風丸!秋!こんな時間までに外にいたら怒られちまう!」
周りを見渡せばすっかりと暗い。俺はちょくちょく鉄塔広場で特訓して遅くに帰ることはあるが、ここまではない。
結局、なけなしのお小遣いで電車に乗って帰ることになった。
トホホホ、今月のタイヤ買えなくなった……
【エルドラド】
「プロトコル・オメガ2.0すら破られるとは嘆かわしい限りだ」
「……申し訳ありません、マスター」
試合時間はまだあったが、負けは負けだ。
「我々は君たちの敗因を分析し決定を下した。ザノウ、ネイラ、ガウラ、ドリムを解任し『ムゲン牢獄』送りとする」
「マスター!」
抵抗虚しく四人はムゲン牢獄へと送られていく。
「そしてベータも解任し、
「別任務……?」
思っていなかった展開だ。ベータは驚きの声を上げる。
「我々の把握していないタイムジャンプの反応が検知された。君にはその究明に向かってもらう」
「イエス、マスター」
確かにそれは大問題だ。とはいえ、今はそんな問題に戦力を割けるほどエルドラドに余裕がない。だから、お役御免となったベータにそのお株が回ってきたのだろう。
「それで、マスター、時代は?」
「時代は先程と同じ。円堂守の時代だ」
◇◇◇
次の日、円堂守のクラスには水色の髪をした可憐な少女が増えていた。
プロトコル・オメガ編完!
書いてみて思ったんですけど、意外とプロトコル・オメガ編難しい。エルドラドについてやら優一の説明なんかどこまですればいいのかわからない、他の人とほぼ同じ内容になるという……してない人が多いのはこれが原因かな……いつかプロトコル・オメガ側のストーリーもしたいですね。
次はオリジナル話です!よろしくお願いします
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事故
「円堂くん、走って!試合始まっちゃうよ!」
「おわぁぁ、急げ!急げ!」
今日はフットボールフロンティア決勝戦。
中学サッカー界一を決める試合である。
そして、その熱い試合の日に、俺は遅れた。
フットボールフロンティアスタジアムまであと一つの信号。赤から青に変わり、俺たちと同じように多くの人たちがフットボールフロンティアスタジアムへと足を進める。
そんなときだった、車用信号が赤なのにトラックが突っ込んできたのは。
「まずい!秋!」
「円堂くん!?」
そのトラックの軌道上に一人の少女がいる。周りは突っ込んでくるトラックによる驚きか恐怖で動けない。
秋に鞄を渡し、俺は近くの電柱を足場にして自身を押し出す。
「『かっとびディフェンス』!!」
本来この技は二人技だ。足の裏を合わせ押し出すことで弾丸のようなスピードでブロックする技だ。
しかし、今回踏み台にしたのは電柱。思ったよりスピードはでない。
「掴まれ!」
「う、うん!」
トラックが衝突するギリギリで到達する。
少女を抱き抱える。そして、次の瞬間俺の身体は強い衝撃を受けてアスファルトに投げ出された。
意識が遠のいていく。最後に見たのは痛みで泣き出した少女の顔と駆け寄ってくる秋の姿だった。
【稲妻総合病院】
「試合に間に合わないっ!?……へ?」
無機質なベッドの上で目を覚ました。周りを見れば秋と風丸が俺の手を握りながら寝ていた。
部屋の時計を見れば既に針は12時を回っていた。
そこで自分がトラックに轢かれたことを思い出した。
(やっちまった……)
俺は知っていた、この事故が起こることを。
この事故は帝国学園の総帥、影山零治が仕掛けたものだ。
俺が助けた少女、豪炎寺夕香をトラックで轢き、彼女の兄である木戸川清修中のエースストライカー、豪炎寺修也を欠場させ帝国学園の優勝を確実にする。それが影山の狙いだ。
まあ、この事故で豪炎寺が転校することで雷門中サッカー部のストーリーが始まり影山の策略がことごとく潰されることになるのだが。
それを防ぐことを目的に動いていたが、自分が轢かれるつもりはなかった。助けにいって自分が怪我をするなんて本末転倒だ。
まあ、治療のあとを見る限り、そこまで長引きそうなものがないのは幸いだ。
「全治二ヶ月です」
意外と重症じゃねぇか。
医師の説明を聞く。手術をする必要はないらしい。
「二ヶ月もサッカーできないのかぁ」
雷門中サッカー部も人数が増えていきミニゲームができるぐらいにはなった。最近だと、マネージャー兼監督?の紅菊さんも加入したことで練習も効率化した。上達していく手応えを感じはじめたところだったので残念だ。
サッカーができないことを嘆いていると、俺の病室の扉がノックされる。
「どうぞ?」
「失礼する」
開かれた扉の先にいたのは、炎のストライカー、豪炎寺だった。
「久しぶりだな」
「ん、ああ」
この言葉から分かる通り、俺と豪炎寺は知り合いだ。小学生大会で幾度か顔を合わせている。
「妹を助けてくれてありがとう」
「はは、気にすることはないさ」
「いや、そうもいかない。円堂に怪我をさせてしまった」
「だから、気にすんなって。それでお前の妹さんの方は」
気にしないように再度伝えたあと、夕香ちゃんの状況を聞く。俺が意識を失う前に見た感じはそこまでの大怪我にはなっていなかったはずだ。
「円堂が庇ってくれたおかげで命に関わりはないようだ」
「ならよかった」
ふぅ、ひとまず目的達成。豪炎寺が雷門に来ないかもしれないがなんとかなるだろう。体験版だと染岡もファイアトルネード打てたし
その後、豪炎寺に連れられ夕香ちゃんにも会った。意識ははっきりしており元気だったのでよかった。
◇◇◇◇
次の日
「木戸川清修から転校してきました、豪炎寺修也です。よろしくお願いします」
なんで????
「円堂、入部届けだ」
「お、おう、っていや、どうして雷門に?」
「夕香のためだ」
ん?どういうことだ?夕香ちゃんはそこまでの怪我じゃないはずだけど
「大事を取って夕香は病院にしばらくの間、入院することになった。父が病院にいると言っても忙しいし、フクさんに毎日来てもらうわけにはいかないしな。だから、俺が側にいれるように雷門中に転校してきたんだ」
たしかに稲妻総合病院と雷門中は目と鼻の先だ。なにかあったときを考えれば妥当だろう。
「なるほどな。ところで木戸川清修の人たちには言ったのか?」
「…………」
「おい」
そっぽを向いた感じ、話していないだろう。
「じゃあ、後で電話とかで」
「あいつらの電話番号は知らない」
「なんでだよっ!?」
詳しく話を聞くと仲が悪かったわけではないようだ。
豪炎寺は名門木戸川清修中のスタメンだ。必然的に周りは歳上ばかりとなる。一応、一軍に数人同級生がいたらしいが……どこの三兄弟だろう。
そのせいか、電話番号交換するほどではなかったということだ。
「まあ、どっかで会ったら伝えるんだぞ」
「ああ、そのつもりだ」
サッカー部部室に連れていったあと、染岡とストライカーの座をかけて対決することになるのだが、それは別の話。
ちなみに俺の怪我が治る頃には、二人とも仲良くなってたし、染岡はファイアトルネードを覚えていた。
マジか
正直難産だった。豪炎寺の苦悩は原作に比べると大分和らいでます。夕香ちゃん、笑顔で過ごしてるし。
染岡さんがファイアトルネードを覚えたのは本編で言った通り体験版ネタです。製品版と結構違いがあって面白いです
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鉄塔での出会い
「練習時間が足りない!!」
怪我で出来なかった分サッカーをしなくては、そう考えていた。しかし、そこで俺に一つの壁が立ちはだかった。
そう、最終下校時間である。その時刻が過ぎれば部活動をやめ帰らなくてはならない。俺としてはまだまだやり足りない感じだが、他の部員たちは親御さんのこともあるのでそうもいかない。というか、深夜に帰ってもサッカーの練習というだけで許されるうちがおかしいだけのような気もする。
というわけできたのが鉄塔広場。あまり人が来ず、それなりのスペースがあるので練習には最適だ。
「うし、やるか」
木に吊るしたタイヤを殴りつけた。
「円堂守くん、だね」
声をかけられた方を見る。暗くて顔が見えないが、かろうじて金髪だということと体型から女性だということがわかる。
「うがっ!?」
そして、重力に従い戻ってきたタイヤに俺は吹き飛ばされた。
「だ、大丈夫かい!?」
「も、もちろん……」
震えながら立ち上がる。少し頭が痛いが、すぐに痛みは引いていくだろう。
「それで、俺を知ってんのか?」
「まあね、君は有名人だから」
有名人、そう言われたら首を捻るが……福岡からファンレターきたことあるからヨシ!
「僕の名前はアフロディ」
ん?
「よろしく」
「お、おう」
アフロディから差し出された手を戸惑いながら握った。え、女の子?マジで?
……よくよく考えたら風丸もTSしてたし、アフロディもTSしててもおかしくないのでは??
うん、おかしくないな、きっとそうだ。
「で、なんのようだ?」
「そうだね、僕と勝負してほしい」
「いいぜ、やろう」
「……言った僕が言うのなんだけどいいのかい?」
即答したことに驚いたのかアフロディは再度聞いてくる。
「その手に持ったボールでわかるさ。好きなんだろ、サッカー」
アフロディが持ってるボールには相当な練習の後が見える。サッカー好きに悪いやつはきっといないはずだ。うん、そうだよね、まだ神のアクア飲んでないよね??
「そうか、うん、そうだね」
アフロディは少し迷ったのちに肯定した。
「で、勝負の形式は?」
「PK戦さ。僕が3回シュートを打つ」
「それを俺が止めればいいんだな」
「ああ、物分かりがいいね」
毎度、思うが俺はなんでバカにされやすいんだ?一応、雷門中の特待生だぞ。いや、まあ雷門中そこまで頭いい学校ではないけど。校訓が『努力と根性』の脳筋学校ではあるけれど……あれ、言われてもしょうがないのでは
「じゃあ、始めようか」
「ああ」
それぞれの位置につく。
第一球目。アフロディがボールを勢いよく蹴った。
「なっ!?」
次の瞬間、突風が吹いた。突風から少し遅れて音がした。振り向けば、そこにはボールが転がっていた。
「そんなものかい、君の力は」
速い。豪炎寺と同じくらい……いや、それ以上だ。
「いや、こんなもんじゃないさ。さあ、こい!」
気を取り直して二球目。
「じゃあ、いくよ」
アフロディを風が包み込む。その風の壁がなくなったとき、彼女の背中に羽が生えていた。そして、空中にあるボールめがけて飛びオーバーヘッドキックした。
「『天空の刃』!」
「次は止めてみせる。『ゴッドハンド改』!」
今度は俺の手にボールが収まった。これで1対1。イーブンな状況に戻った。
「それが君の代名詞、ゴッドハンド……面白い」
「さあ、次で最後だ!」
「なら、僕も本気でいこう」
そういうとアフロディの背中には天使のような白い翼が現れた。羽が大きく広がると同時に浮かんだボールは雷を纏う。そのボールをアフロディは力強く蹴った。
「『ゴッドノウズ』!」
「それがお前の本気か!なら、俺も俺の出せる最高の技で止めてやる!」
身体を捻り右手を心臓に上に置く。そうすることで気が一点に集中する。そして、右手を上へ突き出し溜めた力を解放した。
「『マジン・ザ・ハンド』!」
いくばくかの拮抗の末、ボールは俺の手の上にあった。
「神をも超える魔神、か」
2対1。俺の勝ちだ。
アフロディは自身の敗北を噛み締めるかのように天を見たあと、俺に問いかけた。
「円堂くん、君はそれだけの力を持っていてなぜまだ努力するんだい?」
「うーん、言葉にするのが難しいけど、やっぱり、満足しきれてないからかなぁ」
「満足しきれていない?」
「だって、そうだろ、まだまだ俺が出会ったことないすげぇやつはいっぱいいる。お前だってそうだし、世界を見ればイタリアのヒデナカタ、ロシアの一星兄弟に稲森明日人、数えきれないほどいるんだ。ワクワクが止まんないだろ!」
「……ふふふ、そうかい。満足か、そうか、僕は自惚れてたんだね」
「どうかしたか?」
「いや、自分の未熟さを嘆いていただけさ。円堂くん、また今度勝負しよう」
「ああ」
「次のフットボールフロンティアに僕のチームは参加する。そこで、最高のステージで君に勝つ」
「面白い、受けて立つ!」
「君ならそう言ってくれると思った」
アフロディは笑みを浮かべた。
それから時が経ち、
「練習試合を組みました。相手は帝国学園です」
「仮にもこの学校の名前を背負って試合をするのだから、情けない負け方をしないように努力することね」
物語は動き出す。
TSアフロディ登場回。一応、プロジェクトZ自体は始まってます。神のアクアは出来上がってません。
ちなみにこの段階で無印のラスボス時の神のアクア服用アフロディと同じくらいには強いです。
今作で明日人くんはロシアにいます。稲森家が全員海外移住した世界線です。登場は未定です
次回からようやく原作入りします、お楽しみに
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帝国学園襲来
あと1時間くらいの小時間ですが、日刊に乗れました!嬉しい
「練習試合を組みました。相手は帝国学園です」
それはある日のことだった。
俺はサッカー部の部員である半田から呼び出しを聞き校長室に来ていた。
告げられたのは、フットボールフロンティア40年連覇中の絶対王者である帝国学園との練習試合。
「わかりました」
「あら、本当に分かっているのかしら?」
咎めるような視線と言葉を送ってきたのは、雷門中生徒会長であり理事長の娘である雷門夏未だった。
「と言うと?」
「負けたら廃部ということです。あんな掘立て小屋の弱小クラブに回す予算はありませんから」
「なら、関係ないな」
「はあ?あなた、何を言って」
「俺たちが勝つ。それだけだ」
俺のはっきりした声に夏未は面を喰らう。
「あなた、何を言ってるのかしら。相手はあの帝国学園。万が一でもあなたたちが勝てるはずが」
「最初から負けるなんて考えて勝負に挑む馬鹿はいないさ」
「……いいでしょう。そこまで啖呵をきるのなら、もし勝てたらあなたたちのフットボールフロンティアへの出場を認めましょう」
夏未から言質をもらい、校長室からでていく。その足で部室へと向かった。
俺が校長室に行ってる間に半田に招集をかけてもらい、
「あの帝国学園と練習試合ですか!?」
「帝国って、あの帝国でやんすか!?」
「マジかよ……」
先程のことを伝えると部員たちからは驚きの声が上がる。まあ、当然の反応だ。今年で部員が11人を超えようやく試合ができるようになったばかりだ。そんなところに中学王者が練習試合にくるなど想像できるはずがない。あの豪炎寺ですら目を見開いている。
「それで、ちゃんとそう言ったのですか?」
「ああ、帝国に勝てばフットボールフロンティアに出場していいってさ」
紅菊はそれを聞き、なるほど、と呟き
「これは好都合です」
事もなさげにそう言った。
「はあ、何言ってんだよ!?」
「そうっス、相手はあの帝国っスよ!?」
「落ちついてください、みなさん」
紅菊は声を荒げる半田、壁山を落ち着かせる。そして、好都合の理由を述べた。
「いくら人数が揃ったとして、すぐに大会に出られるほど甘くありません。本来ならいくつかの中学と練習試合をしてその結果を加味して出場を吟味されます」
その通りだ。特に体育系の部活動に力を入れている雷門中にはその傾向が強い。紅菊もそれを把握しており、練習試合相手、例を挙げるなら傘美野中などの近所の中学校をピックアップしていた。
「しかし、それでは地区予選に間に合いません」
学校を納得させるには1試合だけでは足りない。少なくとも三試合は必要だ。しかし、そうなると時間がない。地区予選は早い時期から行われるため、練習試合を組めて2試合だった。
「だからこそ、これはチャンスなのです」
そこで舞い込んできたのがこの試合だ。この1試合さえ勝てば出場ができるのだ。好都合と言う他あるまい。
「それは勝てたらの話だろ」
「あら、怖いんですか、染岡さん。そんな怖い顔して中身はかわいいかわいい小心者なんですね」
「なっ……やってやろうじゃねぇか!帝国だかなんだか知らねぇが、俺が点を決めてやる!」
紅菊の言葉にあっさりと乗せられメラメラと闘志をたぎらせる染岡。チョロいものである。
「いいぞ、染岡その意気だ!それにみんなも何弱気になってんだよ。一生懸命練習してきたじゃないか!」
「確かに俺たちも1年間練習してきたしな」
「まあ、退屈しそうにはないよね」
「ついにこの僕の力をみなさんにお見せすることができるのですね!」
染岡の強気な発言のおかげで、他の部員も徐々に乗り気になっていった。
「よーし、じゃあ、練習するぞ!絶対、帝国に勝つぞぉ──!」
オーッ!とメンバーが気合いを入れ叫んだ。
そして、練習に打ち込む日々が数日続き、ついに練習試合の日がやってきた。
王者帝国を見れるとあって多くの生徒がグラウンドの周りへと集まっている。
しばらく待っていると地響きとともに大きな装甲車が現れた。校門前に止まり、レッドカーペットが敷かれる。さらにレッドカーペットの脇で帝国学園の生徒が並び敬礼のポーズをとる。白い煙と共に扉が開かれ帝国イレブンの姿が露わになった。
「雷門中サッカー部キャプテンの円堂守です。練習試合の申し込みありがとうございます」
「初めてのグラウンドなんでね、ウォーミングアップをしてもいいか?」
「構いませんよ」
帝国イレブンはウォーミングアップを始める。選手の中には小学生のときに戦ったことがあるやつらもいるが、やはりパワーアップしている。
そこで帝国が動いた。キャプテンである鬼道が指を鳴らすと同時に、9番の寺門がボールを上げ6番の辺見がオーバーヘッドキックで繋げ最後は鬼道がジャンピングシュートを放った。
放たれたボールはこちらに向かって飛んでいき
「うおっ、危ねぇ!?」
それを俺はなんなく受け止めた。
「ほう、腕は落ちてないようだな、円堂」
「まあな」
鬼道とは因縁という程ではないが、関わりがある。豪炎寺と同様、小学生サッカーなのだが、鬼道はリトルエンペラーズに所属していた。そう、俺がGKをしていた稲妻KFCが小学生大会で3-0でボコったところだ。ちなみにリトルエンペラーズは鬼道の他に佐久間もいた。
「みんな、練習の成果、こいつらに見せてやろうぜ!」
雷門中対帝国学園の練習試合が始まった。
ようやく新作の情報きましたね。ファイアトルネードのモーション戻ってたのにびっくりしました。というか2023年発売かぁ、先は長い。
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初試合
両チームが一列に並ぶ。俺たちが校舎側、帝国イレブンが校門側だ。
「両キャプテン、コイントスを」
審判にどちらがキックオフをするか、を決めるコイントスを促される。しかし、鬼道はそれを無視。自身のポジションへと向かう。
「必要ない。好きに始めろ」
鬼道のコイントス拒否により雷門ボールでスタートすることが決まった。
「これは挑戦です!我が雷門に対する挑戦です!」
声が響く。その方向を見れば、角刈りでメガネをかけた少年がいた。
「な、なんですか、あなた?」
「はい!私、将棋部の角馬圭太!角馬、角馬と覚えて下さい!今日はこの角馬が実況・解説をさせていただきます!」
実況なのに将棋部なのが不思議である。せめて放送部であればよかったものを。
雷門中のフォーメーションは2-5-3。風丸がMFであるため、3バックとなり防御力が増している。
対する帝国はF-デスゾーンという3-5-2のフォーメーションをしている。鬼道という司令塔がいる帝国にはピッタリなフォーメーションだろう。
豪炎寺がボールを染岡に渡し、プレーが開始される。染岡目掛けて佐久間と寺門がスライディングをするが、それをジャンプで躱す。そして、そのままパスを繋ぎつつ、フィールドを上がる。
「決めろ!染岡!」
「おう!」
染岡がシュートのポーズに入ると同時に後ろに青い龍が現れる。
「『ドラゴンクラッシュ』!!」
足を振り抜くと同時にボールが龍と共に突き進む。対する帝国GK源田は慌てず片手に力を溜め飛び上がる。
「『パワーシールドV2』!」
地面に拳を叩きつけ衝撃波を展開。染岡のシュートを防いだ。
パワーシールドに弾かれたボールはそのまま帝国DFの五条へ。そして、鬼道の元までボールを繋ぐ。
「行かせない!」
ボールを奪おうと半田が前へと出るが、鬼道は鮮やかなドリブルで避ける。さらに、半田の後ろからきた少林に対しては
「『イリュージョンボール改』!」
必殺技で対処する。ボールを佐久間にパス。受け取った佐久間は流れるように最前線の寺門へと繋ぐ。
「『百烈ショットV2』!」
そのまま寺門はボールを浮かし、目にも止まらぬスピードでキックを叩き込む。数えきれないほどの蹴りの力が内包されたシュートが放たれた。
「『真熱血パンチ』!」
俺はそれを焦らず弾き飛ばす。そのボールを栗松が拾う。ボールを奪おうと、帝国MFの咲山が迫りくる。
「よーし、俺もやってやるでヤンス!『ダッシュアクセル』!」
「なっ」
栗松は一直線に加速し咲山を抜き去る。しかし、
「『キラースライド改』!」
ボールは成神が連続キックのスライディングで奪い取る。栗松はキラースライドの影響で身体を空中へと投げ出された。
「栗松、大丈夫か!」
「だ、大丈夫でヤンス……」
地面に叩きつけられたが、足のふらつきがなくすぐ起き上がれたところを見る限り大丈夫だろう。
ボールを奪い取った成神はそのまま上がっていく。
「行かせない」
「ッ!鬼道さん!」
いきなり前に飛び出てきた影野に足が止まるが、すぐさま立て直し鬼道へとパス。
「よし、行くぞ。デスゾーン、開始」
手薄になったゴールを見て、鬼道は合図を飛ばし、ボールを蹴り上げる。合図を受けた佐久間、寺門、洞面が順に飛び上がる。佐久間たちは両手を広げ回転しながらボールを中心に三角形を形成し、ボールへ闇色のエネルギーを注入する。
「「「『デスゾーン』!!」」」
エネルギーが充填されたと同時に三人がボールへ寄り踏みつけるようにシュートした。
「『ゴッドハンド改』!」
俺が生み出した黄金の手がシュートを阻んだ。
自分たちの最強とも言える必殺技であるデスゾーンが破られたことに帝国イレブンは動揺する。ただ、一人の男を除いては。
「反撃、来るぞ!」
帝国学園キャプテンの鬼道だ。彼はデスゾーンが止められるかもしれない可能性を考えていた。そのおかげで止められたことに対する驚きは少ない。
鬼道が叫ぶと同時に俺はボールを投げていた。
ボールを受け取ったのは半田だった。
「『キラース──」
「『ジグザグスパーク』!」
動揺のせいか、辺見はワンテンポ遅れてしまう。
その隙を半田は見逃さなかった。ジグザグに動き青い電流を発生させ、辺見に喰らわせ突破する。
「マックス!」
マックスは持ち前の器用さで帝国イレブンを躱しながら上がっていく。
「行かせるか!」
「『イリュージョンボール』!」
マックスは足でボールを挟み、縦に回転。ボールが地面にぶつかると同時にボールが増える。
「イリュージョンボール、だと!?」
驚くのも無理がない。先程鬼道が使ったことから分かるように、イリュージョンボールは帝国の必殺技だ。帝国学園と関わりがないマックスが覚えているのは予想がつくはずがない。
「よし」
マックスからボールを受け取った豪炎寺はヒールリフトでボールを浮かす。そして、炎を纏い回転しながら跳躍。
「『ファイアトルネード改』!」
左足でボールを打ち抜いた。
源田は止めようと飛び込むが、間に合わない。
「ゴォール!雷門イレブン、帝国学園から一点をもぎ取りましたぁ!」
幾ばくかの静寂の後、爆発的な歓声が上がった。
イナイレ二次、帝国戦で雷門先制しがち
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神の手を食い破るペンギン
「よっしゃあああ!先制点だぁぁ!」
「やったな、豪炎寺!」
「ああ!」
「この調子でいけば、もしかすると……」
「勝てちゃうかもしれないでヤンス!!」
王者帝国相手に先制点、その事実に雷門中サッカー部は喜びの声をあげる。
「クソ!」
その一方で帝国学園側は荒れていた。それもそのはず、舐めていた無名校に翻弄され挙句の果てに先制点を取られる始末、荒れないはずがなかった。
「落ち着け。お前たちも理解したようだが、雷門中は強い。円堂や豪炎寺だけではなく、チーム一人一人が全国レベルだ。だが、それがどうした!」
鬼道の力強い言葉に帝国学園の面々は冷静さを取り戻していく。
「俺たちは王者帝国だ。このレベルの相手とも何度も戦い捻り潰してきた。さあ、雷門にも見せてやろうじゃないか、帝国のサッカーを」
鬼道の話を聞き終わった帝国イレブンの目に油断はなかった。
「大丈夫そうだな。源田、次は止めれるな」
「ああ!もちろんだ、この身に変えても必ず止めてみせる!」
源田の力強い返事を聞く。それに満足した鬼道は次にFW陣に声をかける。
「佐久間、寺門、
「っ!ここでか!?」
鬼道の提案に佐久間は驚きの声をあげる。
「ああ、デスゾーンを止められた今、円堂からゴールを奪うにはあれしかない」
「……わかった」
「さあ、帝国ボールで試合再開だぁ!」
再開のホイッスルが鳴ると同時に、佐久間は鬼道へとバックパス。
「いくぞ!」
そのまま、鬼道、佐久間、寺門は三角形のようなフォーメーションでパスを回しつつ必殺技を織り交ぜながら突き進んでいく。
「行かせるものか!」
「そんなに欲しいならくれてやるよ」
「へ?」
寺門はあろうことか宍戸にパスをした。宍戸は戸惑いつつ反射的に胸でトラップ。そして、ボールめがけて寺門が勢いよくキックした。
「『ジャッジスルー改』!」
技を受けた宍戸は後方へと吹っ飛ばされた。寺門はその横を通り前へと進んでいく。
洞面が上がってきていないところを見るとデスゾーンではない。となると可能性があるのは、寺門の百烈ショットか鬼道のダークトルネード。百烈ショットなら熱血パンチで止めれるが、ダークトルネードならばゴッドハンドかマジン・ザ・ハンドでしか止めれないだろう。
「鬼道さん!」
「いくぞ!」
ボールを持ったのは鬼道。
口笛を吹き、五匹のペンギンを地中から呼び出す。
へ?
「これがゴッドハンドを破るために編み出した必殺技!『皇帝ペンギン──」
ボールが打ち出されると同時にペンギンたちも射出。寺門と佐久間が両サイドから走り込み、同時にボールにキックした。
「「──二号』!」」
ちょっと待てやぁ!
二人の力が加わったボールは勢いを増しゴールへとペンギンと共に進んでいく。
「っ!!『ゴッドハンド改』!」
黄金の手がボールを受け止めようとすると同時にペンギンが嘴で削っていく。徐々にヒビが入り広がっていき、ゴッドハンドが砕けた。
ボールは勢いを落とさず、俺ごとゴールネットに押し込んだ。
「ゴォォォルッ!帝国の新必殺技、皇帝ペンギン二号がゴッドハンドを破ったぁぁぁぁ!!」
「大丈夫か、円堂」
「ああ」
風丸の手を借り立ち上がる。
しかし、皇帝ペンギン二号が既に開発されているとは思わなかった。だけど、これは予測出来たはずのことだ。小学生大会でも使っていたゴッドハンド、あの鬼道が対策してこないはずがない。
雷門ボールで試合が再開。
「『スピニングカット』!」
鬼道が足を払うと同時に青い衝撃波の壁を作り出すが、
「『ヒートタックル』!」
豪炎寺は炎を身に纏い衝撃波の壁を押し通る。
「染岡!」
「おうよ」
染岡とのワンツーで辺見を交わしていく。
「そう簡単に何度も抜かせるかよ!『サイクロン』!」
万丈が足を振り抜くと同時にサイクロンが発生し豪炎寺を吹き飛ばす。そして、ボールは万丈から大野、成神を経由して佐久間の元へ。
佐久間はボールを持つと同時に口笛を吹く。先程のペンギンとは違い、それぞれ色が違う七羽のペンギンが現れる。
「『皇帝ペンギン7』!」
ロングシュートが放たれる。しかし、その先には壁山がいた。
「止めるっス!『ザ・ウォール』!」
七色のシュートは壁山の作り出した壁に阻まれた。そこからは一進一退の攻防であった。
「『ジャッジスルー改』!」
「『スピニングフェンス』!」
「『キラースライド改』!」
「『コイルターン』!」
ボールを持っては奪われるの繰り返しだ。なんとかシュートにこぎつけるが、
「『クロスドライブ』!」
「『パワーシールドV2』!」
「『ローリングキック』!」
「『ファイアトルネード改』!」
「『フルパワーシールド』!!」
「『百烈ショットV3』!」
「『爆裂パンチ改』!」
「『真ダークトルネード』!」
「『ゴッドハンド改』!」
どちらのチームのシュートも中々入らない。
しかし、このような展開のまま進んでいくと不利になるのは雷門だ。帝国に比べ雷門イレブンはサッカー選手としての技術は低いため、突破やブロックのためには必殺技に頼らざるを得ない。そのため、スタミナの消費が激しいのだ。現に体力が多い風丸ですら息が上がっている状況だ。
帝国側もデスゾーンに皇帝ペンギン二号と強力な連携シュートを使用しているため、それなりに消耗しているはずだが微塵もそのような気を感じさせない。
「しまったでヤンス」
栗松が疲労のせいかボールを取り損ねる。そこを見逃す鬼道ではなかった。
ボールを素早く拾う。それに合わせて佐久間、寺門が動き出す。
壁山や影野が阻止しようとするが、咲山などのマークと疲れで動くことができない。
「『皇帝ペンギン──」
「「──二号』!」」
身体を捻り心臓に手を置き、身体に残っているエネルギーを絞り出す。
「『マジン・ザ──」
既に息は上がっている。腕は度重なるシュートによりシビレている。この状態で止めれるかはわからない。
「──ハンド』!!」
俺の背に現れたマジンは色褪せておりいつもより気迫がない。
だけど、それがどうした。どんな状況だろうと諦めない。それが、俺だ、円堂守だ!
「ウオオオオオオ!」
「なんだと……」
完璧に止めることは出来なかったもののシュートコースをずらせた。ボールはゴールバーにぶつかりそのままラインの外へ跳ね返っていった。
「これも止めるか、円堂。ますます面白くなってきたな。ん?」
鬼道の元に帝国学園の生徒が駆け寄ってくる。
「何!?総帥の指令なんだな、わかった。審判!」
鬼道は審判を呼び何かを話す。
「帝国学園の試合放棄によりこの試合雷門中の勝利!!」
審判から告げられたのは雷門の勝利。
「なんとここで帝国学園が試合放棄!試合のスコアは同点ですが、実質雷門の勝利です!!」
いまいちその言葉を把握しきれない雷門イレブン。数秒固まった後、徐々に理解していく。
「俺たち、勝ったのか……」
「あの帝国学園に勝ったでヤンス!」
理解していくと試合の疲れは忘れたのかのように喜びの声を上げる。
「この続きは地区予選だ、円堂、いや、雷門イレブン」
鬼道はそれを横目に帝国のバスへと戻っていく。
こうして、雷門中サッカー部のはじまりの試合が幕を閉じた。
帝国戦、終了。次回から尾刈斗中戦。
イナズマイレブンが思ったより色んな作品とコラボしていた件について
ダンボール戦機とコナンは把握してたんですけど、デュエマとにゃんこ大戦争とコラボしてたとは……さらにコラボ技で「超天フィーバー」と「必殺にゃんこ砲」でてたし。グローリーロードにもでてほしい
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呪い?
帝国学園の試合から一日が経った今日。部室に集まり昨日の試合についての見直しをしていた。
「問題点も何も、基本的なところが足りなさすぎ。昨日の試合だって、必殺技連発しすぎてみんなバテてたじゃん」
マックスの言う通りである。言い返せる余地がないのか、みんな俯いてる。
「まあ、確かにそこは課題点だな。基礎は大事だししっかり練習しよう」
そこからは特訓メニューを決めていく。
とは言ってもやることはわかっているのでポンポンと決まっていく。特訓メニューが大方定まったところで部室の扉が開く。
「円堂くん、お客さんが来てるわよ」
「お客さん?」
俺が不思議がっていると秋が客を連れてくる。現れたのは雷門夏未。
「臭いわ」
開口一番、これである。これでもだいぶ綺麗にしたはずなんだが。普通の運動部の部室よりはマシである自信はある。
「帝国との一戦で廃部は免れたようね」
「おう、これでフットボールフロンティアに出られるぜ!」
そう言うと、夏未は何がおかしいのかクスクスと笑う。
「そんな貴方たちのために次の対戦校を決めてあげたわ」
尾刈斗中、そこが次の俺たちの相手だ。ここら辺だと強い部類に入る。確か、去年も地区予選の準決勝ぐらいには行ってたはずだ。
「因みに負けたらこのサッカー部は廃部よ」
そう言って出て行った。
負けたら廃部。帝国のときと同じ条件だ。サッカー部に何の恨みがあるのだろうか
「よし、尾刈斗中との試合に向けて特訓だ!」
今日も学校のグラウンドは使えないため河川敷で練習となる。少し遠いが行きのランニングでスタミナがつくし悪いことはない。
「今日も使わせてくれてありがとうございます、会田監督」
「構わないよ。あともうきみの監督ではないよ、円堂くん」
「はは、そうでした……つい癖が抜けなくて……」
彼の名前は会田力。俺が昔お世話になっていた稲妻KFCで指導者をしていて、昔はイナズマイレブンとして日本一になったすごい人だ。
グラウンドを使えないので、会田さんに頼み込んで本来稲妻KFCの練習場である河川敷を使わせてもらっている。染岡のドラゴンクラッシュ習得にも手伝ってもらっていて頭が本当に上がらない。
「それと、今日も彼らの相手をしてもらってもいいかな」
「もちろんです。俺たちは使わせてもらっている立場ですし俺たちの刺激にもなります」
河川敷を使わせてもらう代わりに、稲妻KFCの練習相手をしているのだ。
稲妻KFCは小学サッカー界では強豪と言われるところだ。下手をしなくてもそんじょそこらの中学よりかは強い。
KFC側は体格が違う相手との練習になる、俺たちは練習場が手に入る、まさにwinwinな関係だ。
少し遅れてやってきたKFCの面々と練習をする。会田さんのアドバイスもありとても質が高い練習になった。
次の日、秋に紹介したい子がいると言われ部室でその子に会っていた。
「新聞部の音無春奈です!帝国学園との試合ですっかり皆さんのファンになっちゃったんですよっ!だから、私をサッカー部のマネージャーにしてください。対戦チームの情報収集から部室の掃除とかまでお役に立ってみせます!」
「というわけ」
「新入部員ならいつでも歓迎するぜ!よろしくな、音無!」
「はい、キャプテン!」
断る理由もないため、すぐに了承する。
「音無……?」
「やかましの間違いじゃないの……?」
音無の元気の良さに半田とマックスが苦笑いを浮かべる。
「次、尾刈斗中と対戦するんだけど……」
「はい、そう言うと思って調べてまとめておきました!」
音無さん、有能すぎない?昨日だよ、試合決まったの
「どうやら、噂通り足が突然動かなくなったり不可解なことが起こっているようです」
試合動画を見せてもらうと噂通り尾刈斗中の相手チームは一歩も動けていない。試合の始めは動けていたが、尾刈斗中側が何らかのポーズを取った途端、急に動きが止まった。
「音無、音量上げてもう一回再生してくれるか?」
「?わかりました」
俺の言葉に疑問符を浮かべながら音無は動画を再生する。
「マーレマーレマレトマレマーレマーレマレトマレ」
「……やっぱり」
「どうかしましたか?」
「小さな声で何か言ってるのが聞こえないか?」
音無たちは耳をすませてもう一回動画を再生する。
「マーレマーレマレトマレマーレマーレマレトマレ」
「本当です!小さな声で止まれ止まれ、って言ってます!」
「ど、どういうことッスか!?まさか、幽霊の声!?」
「違いますよ、これは尾刈斗の監督の声ですよ」
「なるほど、催眠術か」
そういうことだ。豪炎寺が言う通り、尾刈斗中は催眠術を使っている。
選手の動きで相手の思考を停止させ、その隙に監督の言葉で止まれという暗示をかける。これが尾刈斗中の呪い、ゴーストロックの正体だ。
正体がわかったということで、ビビっていた宍戸たちは落ち着きを取り戻した。
これでビビって実力が出せないなんてことにはならない。ぶっちゃけ、それだけが一番怖かったからな。
それから数日後、尾刈斗中との練習試合がついに始まった。
尾刈斗中、始まる前に切り札の必殺タクティクスが破られる模様。
地区予選が終わったら、雷門中メンバーの選手情報とかまとめたやつアップします
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打ち砕かれた呪い
「尾刈斗中学サッカー部監督の地木流です。今日はお招きいただき光栄です」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします」
地木流と紅菊は監督として言葉を交わす。よく考えたらうちの監督女子中学生ってヤベェな。まあ、他に当てがないんだけど。冬海先生?そんな人はいなかった、いいね
「円堂さん、なんなんですかね、あの人」
「ん、どうした?」
紅菊はベンチにくるなりそう言い放つ。
「明らかに表情が胡散臭さすぎます。猫被ってるのが丸わかりで気持ち悪い」
同族嫌悪かな
「あ、今何考えました?」
「いや、なんでもないです……」
紅菊の静かな怒りを察知した俺はすぐさま謝る。なんでわかるんだよ……
「さて、今日の試合は昨日伝えたフォーメーションでいきます」
今回は帝国戦とは少し違うフォーメーションになっている。まず、FWが豪炎寺、染岡、メガネの3トップ。次にMFが半田、マックス、宍戸の三人。最後はDFは影野、栗松、壁山、風丸の4バックとなっており、これはF-スリートップと呼ばれるフォーメーションだ。サイドからの切り崩しがしやすい形だ。
尾刈斗側のキックオフで試合開始。
MFの武羅渡からパスを受けたキャプテンでありFWの幽谷が上がっていく。
「『のろい』!」
止めに入ったマックスを抜く。そのまま、ゴール前まで駆けていく。
「くらえっ!『ファントムシュート』!」
幽谷が軽く蹴り上げたボールは無数に分裂してゴールへと向かう。
「『ゴッドハンド改』!」
それをゴッドハンドで受け止める。そして、ボールを栗松へ。
「行かせない」
月村がそれを止めに入るが、風丸とのワンツーで抜く。
「半田さん!」
栗松は半田にパスした。受け取った半田はドリブルで前線に切り込んでいく。
「こっちです!」
「おう」
メガネへとボールをつなぐ。尾刈斗のDF陣がスライディングで止めに入るがそれを焦らずジャンプで交わす。
「いきます!『パーフェクトコース』!」
メガネは両手で四角を作り分析。弾き出されたコースへとボールをキックした。
「へっ、何がパーフェクトコースだ。ゴールから大分逸れてんじゃねぇか」
言う通りボールはゴールから離れていく。しかし、それがメガネの狙いだった。
そもそもメガネは一人でゴールを狙えると思えるほど自分の実力を過信していない。
努力して手にした技もただのキャッチで止められる代物。体格が恵まれているかと言われたらそうでもない。
だからこそだ。
「ナイスだ、メガネ!」
「やっちゃってください、染岡くん!」
メガネにはメガネなりの戦い方がある。
ボールは完全な軌道で染岡の元へ。
「おう、いくぜ、『ドラゴンクラッシュ改』!」
「やらせるかよ。『キラーブレード』!」
尾刈斗中のGK、鉈は右手に青いエネルギーの刃を形成。それでボールを切り裂こうとするが、龍を切断するにしてはあまりにも心許ない。
「な、に」
ゴールに龍が突き刺さった。
1-0。雷門の先制だ。
「監督、あれを使います!」
「いいでしょう」
キックオフと同時に幽谷はベンチに向かって切り札を使うことを伝える。それを聞いた地木流は承認する。
幽谷たちは細かく位置を変えながら五人で纏って攻め上がっていく。
「あ、あれ?」
「なんで、ここにマックスが!?」
マークしようと半田たちが動くが、いつのまにか味方の前にいたりと訳がわからないことになっている。
「『ゴーストロック』!!」
奇妙なポーズと共にゴーストロックを発動させる。それと同時に豪炎寺が叫ぶ。
「今だ!みんな、目を瞑れ!」
よし、身体が動かないなんてことはない。しかし、ゴーストロック自体は効かないが、そのカラクリの一つである複雑な動きは厄介だ。雷門で一番視野が広いマックスですら引っかかるほどだ。
「なっ、ゴーストロックが効かない!?」
「ネタさえわかればどうということはない!」
「くそ!だが、ゴールさえ決めれば!『ファントムシュート改』!」
「やらせるか!『真熱血パンチ』!」
ボールは弾かれ風丸の足元へ。
「『おんりょう』」
「遅い!『疾風ダッシュ』!」
尾刈斗のMF、八墓は無数の怨霊を発生させ風丸の足を狙う。それを風丸は疾風ダッシュでそれを交わす。
そして、パスを繋いでいき再び染岡へ。
「もう一点だ!『ドラゴンクラッシュ改』!」
「『ゆがむ空間』」
追加点を決めようと技を放つが、今回は易々と両手を回し吸い込むように鉈が止めた。そのことに染岡は衝撃が隠せない。
「なんだと!?」
「さっきは不意を突かれたが、ゆがむ空間にはどんなシュートも無力」
そこからはどちらもなかなかシュートまで漕ぎつけることができない状態だった。
雷門は果敢に攻めるが、決め手である豪炎寺と染岡に複数のマークがついていることで思うような展開にならない。
反対に尾刈斗はボールを持てば複雑な動きで雷門を翻弄しつつ攻め入るが、豪炎寺たちのマークに人員が割かれたことで隙ができそこを突かれる。
試合は動かない、そう思われた前半終了が差し掛かった手前、
「『クイックドロウ』!」
マックスが幽谷からボールを奪い取った。それと同時に染岡が強引にマークを引き剥がし飛び出した。
「マックス、こっちだ!」
「待て、染岡!今は動きを見るんだ!」
豪炎寺が声をかけるが、ボールを受け取った染岡は聞こえていないのかそのままシュートする。
「もう一回だ!『ドラゴンクラッシュ改』!」
「無駄だ、『ゆがむ空間』」
先程同様、ボールは鉈の手の中に収まっていた。
ここでホイッスルが鳴り前半終了。
「染岡、シュートしたとき何かおかしなことはなかったか?」
ハーフタイム中、豪炎寺は染岡に問いかけていた。
「あん、おかしなこと?」
「ああ、そうだ、どんな些細なことでもいい」
染岡は少し考えた後、心当たりを話し始めた。
それを聞き終えた豪炎寺は、ゆがむ空間の正体を理解した。
後半が始まった。
こちらはスタミナが切れかけていたメガネを交代し、フォーメーションをスリートップからライモンへ変更する。尾刈斗中は変更なしだ。
雷門ボールからのスタート。
染岡と豪炎寺が上がっていく。
「『おんりょう』!」
「邪魔だ、『ヒートタックル改』!」
怨霊を焼き払い進んでいく。そして、ボールを染岡へ渡す。
「いけ!」
「何度打っても結果は同じだ!『ゆがむ空間』!」
「染岡、やつの手を見るな!あれの正体は催眠術!俺たちの平衡感覚を奪いシュートを弱くしているんだ!」
「そうか、だからシュートを打つとき足がぐらついたのか!」
鉈の手の動き、ゴーストロックの正体、染岡の足のぐらつき。全てが繋がり、ゆがむ空間の正体は看破された。
「いくぞ、豪炎寺!『ドラゴンクラッシュ改』!」
「ふん、ミスキックか」
龍はゴールではなく天高く登っていく。的外れだ、と鉈は笑う。
「違う!これはパスだ!」
「『ファイアトルネード改』!!」
炎を纏い、龍は身体の色を青からオレンジへと変える。
豪炎寺によって軌道を修正されたシュートは催眠術の影響を受けずゴールへ入った。
そこからは雷門中が勢いに乗りさらに追加点を決め4-0というスコアで試合が終わった。
なんで『のろい』や『おんねん』はちゃんとあるのに『ゴーストロック』と『ゆがむ空間』は催眠術なのか。その真相を探るべく我々はジャングルの奥地へと向かった……
結論:分からん
サブタイを呪術◯戦にするか迷ったけど、ゴーストロックのタネは割れてるので没に。
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より高く
「よーし、みんな、ついにフットボールフロンティアが始まるぞぉー!!」
「「「「おぉー!」」」」
ようやく、と言ったところか。ここまでかかることは知識として理解していたが、実際にしてみると違う。
「で、相手は?」
「ああ、さっき決まったぞ。野生中だ」
「野生中……確か、去年の地区大会の決勝で帝国と戦ってます」
俺が対戦校の名前を、音無がそれに情報を付け足す。
「その通りです」
相槌を打ちながら突然冬海先生が部室に入ってくる。この人が部室にくるのマジでいつぶりだ……?
「初戦大差で敗退、なんて事は勘弁して欲しいですね。ああ、それから」
「チーッス!俺、土門 飛鳥、一応DF希望ね」
ヒョロ長いが体つきはしっかりしている色黒の男が冬海先生の後ろから入ってくる。
「君も物好きですね、こんな弱小クラブに態々入部したいなんて」
そりゃ、自分の意思じゃないからな。
彼、土門飛鳥は
そのまま冬海先生は部室をでていく。土門は嫌味だけ言ってでていく冬海先生に目を白黒させる。わかるよ、その気持ち。
「土門くん!」
「あれ、秋じゃないか?雷門に来てたのか」
「うん。円堂くん、彼が昔話した私のアメリカに住んでたときの友達なの」
「そうなのか。よろしくな、土門」
「ああ、よろしくな」
土門と握手する。スパイではあるが、根はいいやつだ。すぐにサッカー部にも馴染むだろう。
「相手、野生中だろ。大丈夫かな?」
「なんだよ、新入りが偉そうに」
「前の中学で戦った事あるからね。瞬発力、機動力共に大会屈指、特に高さ勝負には滅法強いのが特徴だ」
そう言う土門に高さならファイアトルネードにドラゴントルネードもある、と染岡は反論する。
「アイツらのジャンプ力、とんでもないよ?ドラゴントルネードだって上から抑え込まれちゃうかも」
「んな訳」
「土門の言う通りだ、野生中となら俺も戦った事がある。空中戦だけなら帝国をも凌ぐ、あのジャンプ力で上を取られたら……」
豪炎寺にもそう言われてしまっては染岡も口を閉ざすしかない。
まあ、実際そうなのだ。昨年の地区予選決勝を見に行ったが、帝国は完璧に空中戦は負けておりデスゾーンを打てなかったほどだ。
そうとなれば、新必殺技だ。ファイアトルネードもドラゴントルネードも押さえ込まれてしまうとなると得点源となるシュートがなくなってしまう。染岡のドラゴンクラッシュが残っているが、マークをつけられた終わりだ。
習得する必殺技案としては、原作通りの『イナズマ落とし』とパラレルワールド作品であるアレスの天秤で登場した『メテオドロップ』である。
高さという基準においてはメテオドロップが有利だが、習得難易度的に考えるとイナズマ落としと言わざるを得ない。
メテオドロップはまず人間二人を空中で打ち出せるほどのキック力がある人物が必要だ。豪炎寺ならいけると思うが、そうなると打ち出す側がいなくなる。
そういうわけでイナズマ落としを習得することになった。
「よし、不安定な足場からシュートができるのは豪炎寺だな、頼むぞ」
「ああ」
既にイナズマ落としの秘伝書は回収済みだ。一年前に雷門理事長に頼み込んでもらっておいた。それを俺が噛み砕きみんなに概要を伝えている。
「で、豪炎寺の足場になれるやつは……壁山、お前だ!」
「えぇぇぇ!お、俺っすか!?」
「ああ、そうだ。これはお前にしかできないことなんだ」
実際そうだ。雷門中で足場になれるほど大型なのは壁山しかいない。
「わかったっス。俺やってみるっス!」
なんとか壁山からも了承が取れた。
場所を河川敷に移し特訓だ。
豪炎寺と壁山を中心に俺と音無がサポートに入りイナズマ落としの練習。他のメンツには前回同様基礎訓練、それをこなしたら各々の必殺技の強化を頼んである。雷門サッカー部の面々はクイックドロウやローリングキックといった燃費のいい技を取得している。熟練度が上がればさらに有用になることは間違いなしだろう。
「いくぞ、壁山!」
「ひいいいい!怖いっす!!」
秘伝書の通りやってみるが、壁山は怖さで豪炎寺を避けてしまう。これで試行回数は十回を超える。
「豪炎寺が怖いか……」
「うーん、確かに前から人が走ってくると怖いですからね」
音無と共にどう対応するか、を考える。
壁山が豪炎寺を受け止めることさえできればほぼ完成だ。豪炎寺のフォームも完璧だし、見せてもらった壁山のジャンプも申し分ない。
日が暮れるまで練習したが、終始壁山が豪炎寺を受け止めることはなかった。
(どうしようか……)
授業中だが、ずっと頭で悩んでいる。前世の記憶はあるものの、そこまで詳しくは覚えていない。
「どうしたの、円堂くん」
「ん、つくしじゃないか。あれ、授業は?」
「とっくに終わったよ。今はもう休み時間」
クラスメイトである大谷つくしの視線につられ時計をみると確かに授業時間外だ。やべぇ、授業なにも聞いてなかった。それに科目は古典だ。数学ならどれほどよかったことか
「それでなんかあったの、悩み事?」
「いや、ちょっとサッカー部でな……」
昨日のことを話す。つくしはそれを聞きふむふむと言ったあと、
「壁山くんがそうなってるなんて意外」
「ん、そうなのか?」
「だって、この間の帝国戦のときだってがっしりブロックしてたじゃない。怖いもんなしかな、って思っちゃった」
そういえばそうだな。帝国の激しいタックルにも逃げ出さず対抗してたし、シュートブロックまでしてたな。あ、そうか。
「サンキューな、つくし!糸口が見つかった!」
「う、うん、なんかよくわかんないけど」
放課後、
「壁山、やるぞ!」
「キャ、キャプテン!無理っスよ。昨日でわかったでしょ、他の人に頼んでもらった方が……」
「いいや、お前にしか頼めないんだ。頼む、壁山、この通りだ」
「キャプテン……わかったっス、もう少しだけやってみるっス」
弱気になっていた壁山をなんとか乗せ、特訓を再開する。
「やっぱり無理っスぅぅぅぅ!」
「逃げるな、壁山!豪炎寺から目を逸らすから怖いんだ!」
つくしとの会話で壁山に度胸があることは既にわかっている。ならなぜこんなに怖がっているのか、それは豪炎寺を見ていないからだ。今思い返せば、昨日壁山はずっと下を向いていた。おそらく、受け止めるということを自分に意識させようとしていたのだろう。それがかえって逆効果になってしまっていた。
「豪炎寺を信じろ!それに壁山、お前はあの帝国のシュートすら受け止めたんだぞ、ぜったいにできる!」
「キャプテン……豪炎寺さん、もう一回お願いします!」
「ふっ、いい顔になったな、壁山。よし、いくぞ」
それから数十秒後、河川敷に稲妻が落ちた。
つくしちゃんは可愛い。え、驚異の侵略者編?ディフェンダー?ナニイッテルカワカラナイ
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野生の力に打ち勝て!
試合当日。予選は対戦校のどちらかのグラウンドで行うことになっているため、野生中に来ている。
野生中は豊かな自然というかジャングルに囲まれていた。ほんとここ日本か……?アマゾンの奥地と言われた方がまだ信じられる。
夏未の声と誰かはわからないが騒いでる声が聞こえてきた。釣られてそちらを向けば、夏未が乗ってきたリムジンに野生中メンバーが群がっていた。
車を初めて見た、ということで興奮している。
「まったくこれだから田舎ものは……」
夏未はそれで済ましていいのか。結構野生中メンバー好き勝手やっているぞ。
木でできた大きな橋を渡り、ついにグラウンドへやってきた。わかっていたことだが、周りは野生中の生徒ばかりである。
「野生中は森で練習するうちに野生のケモノ以上の力を手に入れたらしいですよ」
サッカー強くなるために野生に帰ったのか?だから、サッカー部連中だけアニマル感満載なのか。
「さあ、雷門中と野生中によるFF地区予選1回戦!実況は私、角馬桂太でお送りします」
皆それぞれのポジションにつく。今回は帝国戦と同じく2-5-3。違う点を言えば、イナズマ落としのために壁山をMFに上げているところだ。
メガネと先日入った土門はベンチスタートだ。
ホイッスルが鳴り、雷門ボールで試合開始。
いつも通りパスを繋ぎながら上がろうとするが
「速い!」
野生中FWチーターが素早く動きパスをカットした。そのまま切り込んでくる。
ゴール前に来たところでセンタリング。上を向けば、野生中MFのワシがいた。
「『コンドルダイブ』!」
上空から急降下し空中のボールをヘディングでシュートする。
「こい!」
俺がボールに合わせて位置を変えると同時に側面にいたFWのゴリラも動く。
「『ターザンキック』!」
謎の蔦にぶら下がり勢いをつけボールにシュートする。側面から力を加えられたことで軌道が変わる。
「やらせるか!『真熱血パンチ』!」
「円堂、ナイスセーブだ!野生中の連携シュートを見事クリア!」
発動のためのプロセスが少ない熱血パンチはこういうときに便利だ。ギリギリで間に合いボールが弾かれる。
弾かれた先にいたのは風丸。疾風ダッシュで野生中メンバーを躱し、そのまま上がっていく。
「野生中の実力、見せてもらおうじゃねぇか!」
染岡は風丸から受け取ったボールを高く蹴り上げる。それに合わせ豪炎寺が飛び上がる。
「高さなら負けないコケッ!」
野生中キャプテンのニワトリがさらに高く飛び上がりボールを奪い取る。ニワトリからボールを再度チーターの元へ。先程同様、俊敏さを活かして上がろうとする。
「ここは通さないっス!『ザ・ウォール』!」
中盤の壁山がボールを奪い取る。半田、マックスとボールが回る。そのまま豪炎寺へとしたいところだが、囲まれている。
「どうしたら……」
「こっちだ!」
フリーであった染岡へパス。そのままシュートの姿勢に入る。
「空中がダメなら地上からはどうだ!『ドラゴンクラ──」
「『スーパーアルマジロ』!」
相手DFのライオンが転がりながらタックルし染岡を吹き飛ばしシュートを阻止する。
「染岡!」
足首を押さえながら蹲る染岡。どうやらさっきのタックルで捻ったようだ。染岡は口では大丈夫だと言うが、表情は優れない。この状態でプレイをさせるわけにはいかない。残念ながらここで交代だ。
染岡の代わりに土門が入る。それと同時に壁山をFWに移動させる。
野生中のスローインで試合再開。ボールを受け取ったサルが上がっていく。
「『モンキーターン』」
ボールを両足で挟み込み飛び、半田をターンしながら飛び越え抜く。
「土門、頼んだぞ!」
「オーケイ!」
しかし、抜いた先には既に土門が詰めていた。サルは躱そうとするが、土門が一枚上手だった。
「『キラースライド改』!」
必殺技を使いボールを奪取。ドリブルで上がっていく。そして、ボールを高く蹴り上げた。
「壁山、いくぞ!」
「はいっス!」
豪炎寺、壁山、ニワトリの三名が同時にジャンプ。やはりニワトリの跳躍力は頭ひとつ抜けている。しかし、これは
壁山が空中で姿勢を変え仰向けの状態となる。豪炎寺が壁山の腹を足場にして再度飛び上がった。
「コケッ!?」
「「『イナズマ落とし』ィィィ!!」」
ニワトリさえ置き去りにした豪炎寺ははるか高くからオーバーヘッドキックする。ボールは青いイナズマとなりてゴールへ突き進んでいく。
「『ワイルドクロー』ッ!」
野生中GKイノシシはオレンジのエネルギーで手の形をつくりはたくようにボールを掴もうとするが、青いイナズマはそれを許さない。イノシシを弾き飛ばし勢いを緩めないままゴールへと突き刺さった。
「ゴォォォォォル!! 豪炎寺と壁山による新たな連携シュート、イナズマ落としにより雷門一点獲得!」
その後、ボールを持つたびに攻め上がったが、豪炎寺、壁山がマークされ追加得点を決めることはできなかったが、一点のリードを守り切り1対0で野生中に勝利、初戦を突破した。
リムジンにめちゃくちゃされてても困惑するだけで終わるあたり、夏未さん優しいし雷門家めちゃくちゃ金持ちなんやろうな、と思う。
最近、イナイレの時系列のこと一回まとめたらなかなかおかしな状況だった。
4月〜フットボールフロンティア
7月〜驚異の侵略者編
8月〜世界大会
ほぼ半年で全部やるんすよね、これ。まじでおかしい
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偵察
「これで二回戦に進出した学校は全部決まったか」
俺は今、音無と他校の試合を観戦している。もう少し部員がいれば他に頼んでいたが、いないものに頼ってもしょうがない。
「帝国、緑ヶ丘、尾刈斗、秋葉名戸、王帝月ノ宮、美濃道三、御影専農、そして我が雷門中合わせて8校が二回戦の面子です」
「そして、俺たちの二回戦の相手が」
「はい、今勝った御影専農中です」
俺と音無はつい先程試合が終わったグラウンドに目を向ける。そこには1-0と結果を伝えるスコアボードと機械のように無表情な御影専農メンバーがいた。
それから一日が経ち、情報を共有し御影専農戦に向け河川敷で練習していた。
野生中戦で怪我をした染岡も今ではすっかり元気になり練習に勤しんでいる。
「しかし、多いな」
河川敷には普段からは考えられないほどね数の人がいた。栗松たちはファンができた、と喜んでいる。
「円堂、わかっているだろうが」
「ああ、他校からの偵察だろ」
練習試合にて強豪の帝国と尾刈斗に勝利、先日の地区予選一回戦では野生中に勝利。注目されるに頷ける戦績だ。
「おーい、みんな、今日から基礎練を中心にやっていくぞ!」
「え、キャプテン、必殺技の練習は……」
「なしだ」
ええー、という声がメンバーから上がる。どうして、という声が強まるなか、グラウンドに一台の車が突っ込んできた。
「必殺技の練習について言いに来たけれど必要なかったようね」
「まあな」
車から出てきたのは夏未だった。野生中戦後、マネージャーとして入部した彼女は河川敷の状況をどこかから知り飛んできたようだ。
「なんで必殺技の練習をしないでヤンスか!?」
「そうだぜ!せっかくこんなにギャラリーもいるってのに」
「じゃあ、貴方達あれが何か分かるかしら」
夏未は観客を指差し問う。
「俺たちのファンっスよね」
「全然違うわ。あれは他校からの偵察隊よ」
部員たちからは驚愕の悲鳴が上がる。
ファンではないことにガッカリしているのを見ると夢を壊した感じがして少し心が苦しい。
「だから、キャプテンは必殺技の練習を禁じたんですね」
「でも、次の試合は必殺技の練習なしでどう勝つんですか!?」
尾刈斗戦ではドラゴントルネード、野生中戦ではイナズマ落としと、試合のたびに新必殺技でピンチを脱している。そういうことから心配になる気持ちは分かる。
「必殺技の練習はできなくてもやれることはたくさんある」
「ああ、パス回しにトラップ、スタミナ付けなどな」
豪炎寺の言う通りである。というわけで今日から必殺技以外の練習をすることになった。
「ありがとな、夏未」
「何よ、突然」
「心配してくれたんだろ。じゃなきゃ、グラウンドに突っ込むなんて無茶はしないさ」
「当然の事をしたまでよ。この私がマネージャーになったからには敗北なんてものは許さないから」
素直じゃない。そう思うが、口には出さないようにしておく。
夏未は理事長代理としての仕事が残っているらしく雷門中に戻っていった。
「俺も練習に戻るか」
数日が経つが、偵察の数は減らない。むしろ増えている。今日に至ってはレーダー付きのトラックまで来ている。
それを無視して練習をしていたが、堪忍袋の尾が切れたのだろう。トラックから二人の男がでてくる。御影専農のGKの杉森にFWの下鶴だ。
「なぜ、必殺技を隠す?」
「はい?」
「隠しても無駄だ。我々は既に解析を終えている」
じゃあ、必殺技見る意味ないだろ。マジでなんできたの?
「我々には100%勝てない」
「なんだと、テメェ……!」
「染岡、言わせておけ。試合の日になったらどうせ勝負することになる」
「勝負……?何を馬鹿な、これは害虫駆除に過ぎない。我々がデータを欲するのは、より正確に駆除を行うためであり、次なる駆除の正確性を上げるためでもある」
この発言後、一気にみんながキレた。無理もない、害虫呼ばわりされて落ち着いている方が異常だ。
しかしながら、言い争っても仕方がない。さっさと追い出したいところだが、杉森たちはこちらが必殺技を使うまではどく気がなさそうだ。しょうがないため、折衷案としてPK戦をしこちらの必殺技を少し見せることになった。
「では、始める」
開始のホイッスルがなると、下鶴はボールをあげる。そして、炎を纏いながら回転する。
「まさか、あれは!」
「『ファイアトルネード』!」
豪炎寺の十八番、ファイアトルネードだ。雷門メンバーからは驚きの声が上がる。
「『爆裂パンチ改』!」
やっぱり豪炎寺よりは軽いな。なんなく連続パンチでボールを弾いた。
「じゃあ、こちらの番だ。豪炎寺、頼んだぞ」
「ああ、任せておけ」
こちらからは豪炎寺がキッカーとなった。
染岡たちからは、本当のファイアトルネードを見せてやれ、などのヤジが飛ぶ。
「『ファイアトルネード改』!」
豪炎寺は下鶴と同じくファイアトルネードを放つ。
「『シュートポケット』!」
杉森は両腕を広げバリアを展開する。ボールが展開されたバリアに触れ威力を落とす。最後は杉森がボールを掴み取る。
「証明完了だ」
結果からすれば引き分け。しかし、頼りにしている豪炎寺のシュートがコピーされ挙句の果てに止められた。杉森たちが帰った後もその事実は雷門メンバーに重くのしかかった。
御影専農は技コピーできる辺り有能。せっかくならゴッドハンド、コピッたほうがよかったのでは、と思う自分がいる。
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イナビカリ修練場
杉森たちが帰った後、練習に身が入ることはなく早めの解散となった。そのせいか微妙な時間だ。腹は減っているが、時間的にまだ家で夕飯が作っている最中のはずだ。さすがに料理中のキッチンに入るなどはしない。
というわけで、今風丸と雷雷軒に向かっている。
「ラーメン二つ」
「あいよ」
雷雷軒は商店街の一角にラーメン屋だ。一杯700円と中学生には少々割高だが、店内のスペースは広く雷門中サッカー部全員で来ても余裕があるためよく使わせてもらっている。
「それで御影専農相手に必殺技練習なしでどうやって勝つんだ?」
どうやって、か。確かに必殺技練習は必要だ。今のままだと杉森からゴールを奪うことはできないだろう。ファイアトルネードより威力が高いシュート技となるとドラゴントルネードかイナズマ落としぐらいだ。とはいえ、こちらもデータがとられているだろう。特にドラゴントルネードは尾刈斗戦で連発している。
それに、俺が御影専農のシュートを確実に止められるかはわからない。ゴッドハンド、熱血パンチ、爆裂パンチは小学生の頃から使っているため、データは確実に取られている。隠し球のマジン・ザ・ハンドも帝国戦で一回使っている。あの御影専農がファイアトルネードのコピーだけで終わらせてるとは思えない。
「まあな。だけどやる場所がないんだよ。河川敷は偵察で一杯だし。誰にも見られない秘密基地みたいなのがあれば別だけど」
「そんな都合のいい場所あるわけないだろ」
「……イナズマイレブンの秘密の特訓場がある」
店主である響木さんがラーメンを運んできた。そんな便利な場所実はあるんだよなぁ、と思いながら麺をすする。
ん?
「ある、何が?」
「秘密の練習場が」
「そんなのあるんだ、へぇ」
そこから一瞬、空白が生まれ
「えぇぇ!?」
甲高い叫び声が上がった。
イナビカリ修練場。
響木さんから伝えられた場所の名だ。雷門中の地下にあり、さまざまな特訓機が設置されており過去の雷門イレブンも必殺技の開発や改良などをしていたそうだ。
あることは知っていたが、俺は未だに入ったことはない。何しろ、ゲーム版とアニメ版で入り口が違うのだ。ゲーム版だと入ってすぐの銅像の下、アニメ版だと開かずの間と呼ばれる雷門中七不思議の一つである。どっちなのか、判別がつかない。
まあ、わかったとしても銅像は動かせないし開かずの間の方は鍵がかかっていたから無理なのだが。
翌日、夏未にそのことを伝えるとちょうどそれについて動いていたそうだ。
放課後に夏未に連れられ、開かずの間の扉をくぐる。
「ここがそうか」
「ええ、そうよ。ここが、あの伝説のイナズマイレブンの秘密の特訓場、イナビカリ修練場よ」
階段を降りた先にあったのは、練習をするには十分な空間に多くの練習機器。さすがに40年前のものを使うわけにはいかず、夏未がリフォームまでしてくれたため、全て最新式だ。部費で賄える範囲ではなさそうだが、そこは夏未のポケットマネーで補ってくれたそうだ。頭が上がらない。
扉が閉められ、特訓開始だ。タイムロック式となっているこの扉が開くのは9999秒後である。それまで思う存分練習ができる。
よし、やるか。
「う、動けねぇ……」
扉の開く音が耳に入ると共に倒れ込む。周りを見れば俺と同じように屍のように倒れている部員たちが目に入る。
辛いとは知っていたが、予想以上に辛かった。俺は訓練器を使って連続で飛んでくるボールへの対処をトレーニングとして行っていたが、最後の方はボールに吹っ飛ばされていただけだった。
他のメンツは車に追いかけられたりレーザーが飛んできたり……あれ、俺が一番マシなのか、これ。いや、五十歩百歩だな、うん。
ボロ雑巾のようになった俺たちを見て秋と音無が慌てて外にでていった。紅菊は動けなくなった染岡の足をちょんちょんと突いている。哀れ、染岡
「みんな、元気出せ。伝説のイナズマイレブンの特訓を乗り越えたんだ」
この特訓は無駄にならない、そのことをみんな理解しているからか、死に絶え絶えながら返事がくる。
「試合まで、後一週間、毎日やるぞ……!」
そして、一週間の地獄の特訓を経て試合当日。雷門サッカー部員、誰一人として筋肉痛で動けないという事態になっていないのが奇跡のように感じる。
試合会場である御影専農中のグラウンドは四方がアンテナで囲まれている。野生中とは真反対だ。野生中が時代に反逆しすぎてるだけな気もする。
そういえば、冬海先生が試合に来ている。珍しい。いや、まあ、一応監督扱いだから本当は毎回いないといけないんだけど。新必殺技なしでどう戦うのか、と嫌味を言ってくるがスルーする。
確かに必殺技開発は出来なかったが、帝国戦以来課題であった基礎能力が大幅に上昇した。別にちゃっかりしていた必殺技開発が終わらなかったことが悲しいわけではない。
「みんな、イナビカリ修練場での練習は辛かったと思う。だけど、それはしっかりと俺たちの血となり肉となったはずだ。御影専農のやつらにサッカーはデータだけじゃないということを教えてやるぞ!」
2回戦、御影専農対雷門の試合が始まった。
地味に響さん初登場。一杯700円のラーメンを中学のすぐそばでだすという強気な戦略。
どっかでスカウトキャラも出したいなぁ……と考えています
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データサッカー
「さあ、FF地区予選2回戦、雷門中対御影専農!ホイッスルと共に試合開始です!」
ピーッという音が鳴ると共に染岡がボールを持ち攻め上がる。下鶴が染岡の前に躍り出るが、
「何ッ!?」
そこから一歩も動かない。戸惑いつつも染岡はそのまま上がり豪炎寺へとボールを回す。
「ディフェンスフォーメーションγ3」
杉森が指示を出す。すると、御影専農メンバーは素早く動き陣形をなし、ボールを持つ豪炎寺の行く手を阻む。
そのため、豪炎寺は染岡へとボールを戻す。受けとった染岡はそのままシュートの体勢へ。
「受けてみやがれ!『真ドラゴンクラッシュ』!」
改から真へと進化し威力が高まったドラゴンクラッシュ。その軌道上にいる四人の選手が順に蹴り威力を減らす。
そして、ノーマルシュートと遜色ない威力まで落ちたところで杉森がパンチングでセーブした。
「御影専農、緻密な計算による連携プレーでドラゴンクラッシュを難なくセーブ!」
「オフェンスフォーメーションβ2」
今度は一転して御影専農が攻撃的なフォーメーションとなる。
弾かれたボールをMFの山郷が拾い下鶴へと繋いだ。風丸が飛び出しスライディングで奪い返しボールをマックスへ。
しかし、そこでカットされボールは再び御影専農へ。
ここで俺は栗松と土門に下鶴のマークにつくよう指示する。それを見越してか、ボールはもう一人のFWである山岸へパスが渡る。
「『ファイアトルネード』!」
「ッ!お前もかよ!『真熱血パンチ』!」
どうやら、ファイアトルネードをコピーしていたのは下鶴だけじゃなかったらしい。
熱血パンチでなんとか防ぐ。ボールは弾かれ、壁山がそれを拾おうとするが、
「『サイコショット』!」
空中にあるボールに山岸が超能力を使ってゴール目掛けて射出する。
投げたボールをそのままカウンターに使われると思わなかった俺は反応が遅れてしまうが、ギリギリでキャッチ。サイコショットがそこまで強くない技で助かった。
ボールを渡そうと周りを見るが、近くのメンバーは皆マークがついている。
「円堂、こっちだ!」
風丸がマークを振り払い、そこに俺がパスする。
「『疾風ダッシュ改』!」
風丸が必殺技で相手を突破し、豪炎寺へとパス。
受け取った豪炎寺は即座に飛び上がりシュートを放つ。
「『ファイアトルネード改』!」
「『シュートポケット』!」
バリアを展開するが、前回のようにはいかない。完全に勢いを止めることはできず、弾く形となる。弾かれたボールの先には染岡が。
「もういっちょいくぞ!豪炎寺!」
「ああ!」
染岡が体勢を整えると同時に豪炎寺は再度炎を纏いながら飛び上がる。
「『ドラゴン──
「──トルネード』!!」
「『シュートポケット』!!」
ドラゴントルネードも先程同様空気のバリアに弾かれる。杉森は計算が合わないと混乱するが上がってきた壁山を目に入れ原因の解明を中断する。
「豪炎寺さん!」
豪炎寺の落下位置に合わせ壁山が跳躍。地面に降り立つ前に豪炎寺は壁山の腹を土台に大ジャンプ。
「『イナズマ落とし』!!」
「『ロケットこぶし』!」
杉森はエネルギー状の拳を形成しシュートに向かって放つ。少しの拮抗の後、エネルギーの拳によりボールはまた弾き返された。
(おかしい。また、計算が合わない)
杉森はシミュレーションと違う結果に狼狽える。何しろ、ファイアトルネードとドラゴントルネードはシュートポケットで、イナズマ落としはロケットこぶしで完璧に止めることができると証明されている。弾く、拮抗するという形になるはずがない。
「オフェンスフォーメーションδ5」
考えても答えがでない。偶然によるエラー、とそれを片付け杉森はフォーメーションの指示を出す。
ボールを拾ったDFの稲田は下鶴にパス。
「ディフェンス!」
上がってきた下鶴にマークにつくよう指示する。先程同様、下鶴は山岸にパス、そのまま山岸はシュートする。
俺は止めようと動く。しかし、ボールはゴール手前で曲がった。
「なっ!」
曲がったボールの先にいたのは下鶴。
「『パトリオットシュート』!」
下鶴が打ち上げたボールは空中で着火し加速。俺と真反対のゴールの隅へとボールは向かう。
「間に合えぇぇぇ!」
飛び上がりすんでのところでなんとか弾いた。だが、既に山岸が詰めていた。ボールは少し高いが、あの技には関係ない。
「『サイコショット』!」
間に合わない!俺はまだ空中だ。風丸たちもマークされていても動けない。
ボールはガラ空きのゴールへと入っていった。
「ゴール!決まってしまった!御影専農、下鶴と山岸の連携プレーで1点先取だぁ!」
くそ、まんまと乗せられてしまった。
しかし、まだ前半だ。取り返すチャンスはある。
雷門ボールから試合再開。ホイッスルが鳴ると山岸が動いた。
「『スーパースキャン』!」
最小の動きでボールを奪い取る。そして、
そして、杉森、稲田、山郷がトライアングルのフォーメーションでパスを回す。
「まずい!」
それの意味することに気づいた豪炎寺が駆け上がる。
「こいつら、このままボールをキープするつもりだ!」
「何!?」
遅れて気づいた染岡たちもボールを奪おうと上がる。
ルール違反ではないが、気分のいいものではない。ゲームでもこんなプレイしないぞ……
結局、豪炎寺たちの奮闘むなしくボールを奪うことができないまま前半は終わった。
サイコショットが便利すぎる。しかし、データとかゴリゴリの機械系なのに超能力が前提のサイコショットが基本技の御影、なんなんマジで……
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可能性
ハーフタイム、控室に集まっている雷門イレブンの雰囲気は最悪だ。理由はもちろん、御影専農のプレイだ。
「あんなふざけたプレイしやがって……」
勝つためという理屈はあるが、あれはやりすぎだ。いくらルール的に問題がないといえど、中学サッカー協会から厳重注意、最悪失格処分まであり得る。
「荒れてますね」
「じゃあ、あんなの見てなんとも思わないのかよ!」
「はあ、そうは言ってません」
声を荒げる染岡に紅菊は冷静に否定する。よくよく見れば、普段より笑顔が怖いような気がする。
「そこでみなさん、一つお話しがあるのですが」
後半が始まる。御影専農ボールから始まったのだが
「おーっと!御影専農、前半同様にボールを後ろに下げ全員ディフェンス!1点を追う雷門には厳しい展開だ!」
予想通り、攻める気がないらしい。なら
「みんな、守りは任せた!」
「ああ、いってこい」
「あいつらの鼻明かしてやれ!」
紅菊発案その一、キーパーである俺が攻める。本来ならキーパー不在という大きな不利になるが、攻める気がない御影専農相手にはそんなデメリットはなくなる。
「なっ、キーパーが攻めてくるなど……!」
俺の動きが理解できず、御影専農メンバーは足を止める。おかげで容易にボールを奪えた。さらに妨害もなくすぐにゴール前に。
「いくぞ!『グレネードショット』!」
青いエネルギーを纏ったボールを俺は身体を捻って打ち出す。
「くっ、キーパーがシュートするなど不可解だ。だが、シュートしたとき豪炎寺修也のファイアトルネードがチェインされる可能性は94.52%……!」
確かにそうだ。俺の視界にも炎を纏って飛び上がっているのが見える。ただし、
「『ファイアトルネード』!」
「何!?染岡竜吾がファイアトルネードを使うだと!そんなデータは存在しない!」
発案そのニ、染岡のファイアトルネード。
公式戦で雷門が唯一披露していないものだ。なんなら俺も忘れてた。
「『ロケットこぶし』ィィィ!」
想定外の事態により発動が遅れたせいか、杉森はロケットこぶしを発射する暇なく、そのままシュートを殴りつける。
ロケットのような推進力で腕を加速させボールを飛ばした。
「今だ、豪炎寺!」
「何をするつもりだ、円堂」
「このままシュートだ!」
「はあ!?」
「なるようになる。俺を信じろ!」
「ったく、しょうがない。よし!」
落ちてくるボールに合わせて一回転しながら場所を入れ替え、俺は左から豪炎寺は右から同時にボールにキックする。ボールは黄金色のイナズマを纏い発射された。
「この数値は我々の知るデータを遥かに上回っている!あり得ない!あり得るかぁぁぁぁぁぁ!」
杉森は必死の形相でボールを受け止めようとするが、身体ごとボールはゴールネットに刺さった。
「遂に雷門、まさかのキーパー円堂と豪炎寺の連携シュートにより御影専農に追いついたぁぁ!」
「このような展開になるなど、確率的にあり得ない!」
「あり得ないなんてことはない。いつか宇宙人が攻めてくるかもしれないし、未来からサッカーを消しにくるやつもいるかもしれない」
「そんなことはありえない」
あり得ないと思うかもしれないけど本当のことかんだよなぁ。
「そうとは言い切れないだろ。可能性が0でもやってみなきゃわからない」
御影ボールから試合再開。
「くっ、こうなったら、どんな手を使ってでも雷門を潰すんだ!」
杉森たちの頭の電極から流れてきたのはインプットされていないラフプレーの指示。当然反論するが、監督の富岡は何かに怯えているようで叫び散らしながら再度ラフプレーを命じる。
「オフェンスフォーメーション、シルバー1!」
「なっ、命令違反だぞ!」
富岡は杉森の反逆に目を剥く。
一瞬戸惑ったものの、下鶴たちは実行可能な杉森の指示を受理し上がっていく。
「『スーパースキャン』」
「それはディフェンスの技じゃなかったのかよ!」
最適な動きで相手を交わしパスを繋ぎ、一気にゴールまで。土門が止めに入るが、到達するより先にボールは空中へ。
「いくぞ、『パトリオットシュート』!」
「『真熱血パンチ』!」
ボールは弾かれ外へ。御影専農メンバーがコーナーキック。ボールを再び下鶴に。
「これ以上やらせるかよ!『キラースライド』!」
今度は土門のキラースライドが決まりボールを奪う。次は雷門がボールを繋いでゆく。
「『ヒートタックル改』!」
豪炎寺がDFをまとめて抜き染岡へとパス。
「「『ドラゴントルネード改』!」」
「『シュートポケット』!」
前半同様シュートポケットで対抗するが、今度は弾くことすらできずゴールへ。これで逆転だ。
御影専農のキックオフ。それに込められた力はあまりに弱い。ベンチの方を見てみれば監督である富岡が姿を消している。逃げたか
「『真ドラゴンクラッシュ』!」
ボールを取った染岡は呆然としている御影専農メンバーを無視して進んでいき、シュートを放つ。
「入れさせてたまるかっ!」
杉森は、危険度がレッドだと叫ぶ耳障りな電極を引きちぎる。
「『シュートポケットV2』ゥゥゥ!」
シュートポケットが進化した。空気の膜で弱まったボールを杉森ががっしりと掴んだ。
「俺はこの戦い負けたくない!みんなも同じだろう!最後まで戦うんだ!」
杉森の言葉に御影専農メンバーが反応し、頭の電極を外していく。それを見た杉森は持ったボールを豪快に投げた。
ボールを追いかける御影専農の姿は先程までのデータに従ったお手本のようなものではない。むしろ、泥臭い、という言葉が似合う。
次第に試合のボルテージは上がっていく。
「いけ、豪炎寺!」
そんな中、ボールを奪った半田が豪炎寺へとパス。そのまま豪炎寺はシュートの体勢へ。
「『ファイアトルネード』!」
「させるか!」
その瞬間、反対から下鶴と山岸が同時にファイアトルネードをボールに叩きつけた。
結果は互角。3人はそのままグラウンドに叩きつけられる。蹲るなか、上がってくる杉森を目に下鶴はなんとかパスを出す。
杉森はそのまま突き進んでいく。風丸たちがディフェンスにいこうにも御影専農メンバーがマークしている。
「いくぞ、円堂ォォォォ!」
「こい!『ゴッドハンド』!!」
放たれたシュートの威力はキーパーのそれではないほどだ。ジリジリと後ろに下がるが、なんとかゴッドハンドで受け止める。
「キーパー円堂、杉森渾身のシュートをゴッドハンドで防いだぁぁぁ!ここでホイッスル!2-1で雷門、準決勝に駒を進めた!」
なんとか勝てたな。前半、御影専農が追加点を狙ってきていたら負けたかもしれない。
「すまなかった」
杉森と下鶴が試合後、先日の発言について謝りにきた。気にしてない、と伝える。
「それと」
「ん?」
「このチームで戦える最後の試合の相手が君たちでよかった」
「……そうか。そう言ってもらえて嬉しいよ」
俺たち雷門イレブンと違い、御影専農は杉森を含め数名が三年、つまり来年はこのメンバーではないということだ。
「また、いつかサッカーをしよう」
「ああ!」
こうして、御影専農との戦いは終わった。
次の日、サッカー部部室。
そろそろ俺たちの次の対戦相手が決まる。試合が授業と被っていて観戦することができなかった。
確か、次は秋葉めい──
「尾刈斗中に決まりました!」
へ??????
【悲報】秋葉名戸、唯一の出番失われる
はい、というわけで準決は尾刈斗です。よろしくお願いします
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幽鬼
「次の相手は尾刈斗中か。前も結構な点差で勝てたし余裕だろ」
「それがね、尾刈斗中、この前の練習試合の後猛特訓して相当強くなってるらしいわ」
俺が困惑している間に話は進んでいく。
尾刈斗対秋葉名戸の試合で一体何が起こったのだろうか……え、開幕ゴーストロック?何それ怖い
音無から試合映像を見せてもらったが明らかにパフォーマンスが向上している。ゴーストロック抜きにしても強い。尾刈斗にもイナビカリ修練場的なものがあるのかもしれない。
あと、噂で聞いたのだが、負けた秋葉名戸中が試合結果を改竄しようとハッキングをしようとしたらしい。だが、急にパソコンが爆発し未遂に終わったようだ。これが尾刈斗の呪い……?ま、まあ、あくまで噂だから……
「しかし、豪炎寺が出れないか」
頭に思い浮かべるのは先程すまないと申し訳ない顔をしながら病院に向かっていった豪炎寺の姿。原因はこの前の御影専農戦の終わりの下鶴と山岸とファイアトルネードのぶつかり合いだ。入院するほどではなかったが、準決勝までに完治とはいかずドクターストップがかかってしまった。
豪炎寺の不在は痛手だ。雷門の強みの一つの強烈な連携シュート、ドラゴントルネード、イナズマ落とし、イナズマ一号の三つ、その全てに豪炎寺が関わっている。豪炎寺が欠場となると準決勝で連携シュートを使うことができない。攻撃力が一気に下がることとなる。
尾刈斗のGK鉈のゆがむ空間のことを考えるとさらに辛いところだ。
「なーに、辛気臭い顔してんだ!豪炎寺がいないなら俺が一人でドラゴントルネードを打ってやるぜ!」
そう強気で言う染岡。たしかにドラゴンクラッシュとファイアトルネードを両方習得している染岡ならいけるかもしれない。確か、似たような技があったはずだ。どこかで染岡に伝えてみるか
「そうだな!よし、みんな、練習するぞ!尾刈斗がめちゃくちゃ強くなったのなら俺たちはその上をいくまでだ!」
こうして、雷門中サッカー部はイナビカリ修練場にこもり猛練習するのであった。
【20XX年 ???】
「さて、諸君、我々はこれより歴史の分岐点に揺さぶりをかける。バウゼン、準備はできているな」
「はっ!フットボールフロンティア予選準決勝で戦う尾刈斗中。彼らの力を利用します。彼らも円堂守に運命を狂わされた者たち、利用価値はありますので」
バウゼンと呼ばれた男はニヤリと笑いながらそう言った。
彼らは20XX年の未来で世界からサッカーをなくそうとする革新派である。
そのトップの軍服に身を包んだ男、ヒビキ提督は雷雷軒の店主である響木にそっくりであった。
【尾刈斗中 サッカー部部室】
尾刈斗サッカー部メンバーは部室に集まっていた。何しろ、次の試合の相手は練習試合で辛酸を舐めさせられた雷門だ。監督である地木流にとっても選手である幽谷たちにとっても特別な意味をもつ試合と言える。
尾刈斗は対雷門用の新戦術を実践で使えるか試したものの一回戦、二回戦は基本的にゴーストロックを主体にした戦術で勝ち抜いている。つまり、雷門側にまだ手の内は全て見せていない。
これなら
「勝てる。そう思ってんじゃねないよな?」
その時、悪魔が囁いた。
「なっ!?」
幽谷の視界に映るのは、先程までの部室と違い白一面。間違いなく異常だ。それなのに、それなのに、
(なぜ、
これを普通だと、当たり前だと処理してしまう。抗おうとするが、まるで意味を成さない。
そして、白い空間に現れたのは
「俺……!?」
幽谷自身であった。
「円堂守が憎くないのか?」
「何を言って……」
「ゴーストロックは俺たちが作り上げた最強のタクティクスだった」
そうだ、ゴーストロックを最強の戦術だと、帝国にすら届くものだと思っていた。
「だが、それは円堂守に壊された」
それは雷門に戦うまでの話だ。どういうわけか試合前に既にゴーストロックは攻略されていた。
「もう一度聞く。
幽谷はその問いかけに即座に返答することができなかった。彼の中でそう考えることが少なからずあったからだ。しかし、それはしょうがないことである。幽谷はキャプテンであるものの中学一年生。まだ幼い彼にそこまでを求めるのは酷というものだ。
「そうだろう、そうだろう、憎いだろう!」
そんな幽谷の様子を見てもう一人の幽谷の声が上がっていく。
「なら、俺を受け入れろ」
そう言って近づいてくる。幽谷はどうにかして逃げ出そうとするが、金縛りにあったかのように動けない。
「やめ、やめろぉぉぉぉ!」
そして、ついに幽谷の一つ目のバンダナに伸ばされた手が当たった。
「俺はおまえだ」
もう一人の幽谷が闇のようなオーラになり一つ目のバンダナを通して幽谷に注がれていく。全てのオーラが吸い込まれると同時に白い空間が解除される。
「ふふふ、雷門を潰す……!」
正気を失った表情で雷門への敵意を剥き出しにする幽谷たち。その姿はさながら幽鬼であった。
久しぶりに現れた未来要素。薄いような気もするがよろしくお願いします
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油断
御影専農のときのように練習の間にイベントが起こることもなく試合の日となった。
準決勝は我が雷門中グランドで行われる。そういえば、このグランドでサッカーをするのは初めてだ。初期は河川敷で練習をしていたし、その後はイナビカリ修練場だったからな。もっとグラウンドを使ってどうぞ。
ホームグラウンドということもあり、1回戦の野生中戦、2回戦の御影専農戦と違ってグランドの周りには応援の雷門中生徒が多い。今までアウェーだったためか、応援がむず痒く感じてしまう。
「それにしても尾刈斗の人たち、なんか前より怖くなってないっスか!?」
壁山の言う通り、以前と比べて様子が大分違う。なんというか不気味さを増したというかなんというか。練習試合のときは口数は少なかったもののそれなりに声を出していたが、ずっと下向いてぶつぶつ言ってるし目が血走っている。マジでホラーものなんだが。
今回は豪炎寺の穴を埋める形でメガネが入っている。メガネも修練場である程度力がついたと思ったのか試合に出させてほしいと自ら志願したためだ。まあ、当の本人は尾刈斗の異様な様子にビビって震えている。反対にベンチスタートになったのは1回戦2回戦両方で活躍した土門だ。戦ったことのあるメンツのほうがやりやすいのではないか、という判断でそうなった。
「おーっと、幽谷、強烈なタックルで雷門へ攻めかかる!」
尾刈斗ボールで始まったこの試合。前回同様に複雑な動きを中心に戦術を組んでくると予想していたが、まさかの真逆のパワープレイ。その力は止めに入った染岡をタックルで押し飛ばすほどだ。あの体のどこにそんなパワーがあったのか。
「『ジャッジスルー』!」
「マックス!」
今度はマックスが飛ばされた。
というか、ジャッジスルーは帝国の必殺技のはずだ。相手にボールをトラップさせそこに目掛けてキックするシンプルな動作による技、一見習得難易度が低いように見えるが逆だ。
「行かせないよ……!『コイルターン』!」
「『マジック』!」
影野が高速で旋回しボールを奪おうとするが、幽谷はコイルターンの中で赤い布を自身に被せその身を消す。次の瞬間には影野の後ろにボールを持った幽谷はいた。
「消えろ……!『爆ファントムシュート』!」
ディフェンスを抜いた幽谷はそのままシュートを行う。
「『ゴッドハンド改』!」
ゴッドハンドでそれを受けようとするが、爆まで進化したファントムシュートの威力は絶大だ。そのままゴッドハンドを砕きゴールへと突き刺さった。
「尾刈斗先制!円堂のゴッドハンドを破り一歩リードだぁ!」
油断した。最悪だ。ゴッドハンドなら皇帝ペンギン二号以外なら止めれると高を括ってしまっていた。今だって、爆に進化したことに驚きはしたもののマジン・ザ・ハンドを使うこともできたはずだ。そうしなかったのは、要するに
「みんな、すまん!次は止めてみせる!」
「おう!」
雷門ボールから試合が再開される。染岡とメガネがワンツーで突っ込んできた幽谷を躱す。
次に月村が飛び出てくるが冷静に染岡はメガネにパス。そのまま上がっていこうとするが、そこにはMFの三人、八墓、木乃伊、霊幻が待ち構えていた。
「「「『フラクタルハウス』!!」」」
「うわぁぁぁ!」
八墓たちの後ろから黒い壁が現れ三人とメガネを三角錐状に包むこむ。壁が開くとそこには黒い城のような建造物が現れる。そして、雷が落ちると同時にメガネは城から弾き出されボールを奪われた。
「そう簡単に何度も抜かせないよ!」
八墓からボールを受け取った幽谷。先程同様苛烈なプレイで攻め入る。その進路の先に陣取ったのはマックス。
「『スピニングカット』!」
青い衝撃波で幽谷を止めた。MFの霊幻たちが詰めてくるが、それをイリュージョンボールで突破する。
そして、ボールは染岡へ。
「いくぜ!『真ドラゴンクラッシュ』!」
真へと進化したドラゴンクラッシュは鉈のゆがむ空間の影響を受けても目を見張る威力だ。
「『フランケン守タイン』!」
「何っ!?」
だが、威力を少しでも落とせば十分。DFの不乱が巨大なフランケンシュタインのオーラを呼び出しシュートを防いだ。
そこからは一気に尾刈斗の流れだ。雷門もなんとか守っているが、尾刈斗の激しいプレイによって少しずつだが傷を負っていく。
「『爆ファントムシュート』!」
「『マジン・ザ・ハンド』!」
今度はしっかりと止めた。それを確認すると同時に前半が終了。
「尾刈斗ってあんなプレイするチームだったか?」
「いや、前はそんな感じはしなかったはずだ」
控え室で秋たちに傷の手当てをしてもらいながら、前半を振り返っているが、尾刈斗の変わりようにただ首を捻るのみだ。パワープレイよりもトリッキーな動きがメインだったはず。こんな短期間で変わるものか?俺たちも修練場でパワーアップしたが、ここまでではなかった。
「メガネさん、栗松さん、選手交代です」
「了解でヤンス」
「わかりました。でも、二人も交代するなんて。うちの控えは土門くんだけですよ。あと一人はどうするんです?」
メガネの言う通りだ。豪炎寺がいない今、雷門の控えは一人のみだ。
「目の前にいるじゃないですか」
「はい?」
「私が入ります」
そう言った紅菊の顔は怪しげな笑みが浮かんでいた。
紅菊、参戦!!
・未来からの介入の影響
身体能力の向上
特定の人物に対する悪感情の増大
一部技の習得
・紅菊の正体について
円堂含め誰もわかっていません。円堂もわかってない理由は次回話します
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紅菊
「間もなく後半が開始します!雷門中、メガネと栗松を下げて土門と……な、なんと、紅菊が入っています!マネージャーじゃなかったのかぁぁ!!?」
観客を含め誰もが紅菊のフィールド入りを驚いている。かく言う俺もその一人だ。
何しろ紅菊が選手登録してることすら知らなかったし。俺、キャプテンなんだけどなぁ。
雷門キックオフで後半がスタート。ボールを受け取った紅菊、目の前の幽谷を力尽くで押し退けて敵陣に切り込んでいく。
「『フラクタルハウス』!」
「そんなちゃちなもんでオレが止まるかよ!」
紅菊がタックルで壁ごと壊してMF突破。そして、そのままゴール前へ。
「おらよっ!!」
そのままシュートを放つ。その勢いはノーマルシュートとは思えないほどだ。
「『フランケン守タイン』!!うがぁぁぁぁっ!」
不乱が先程同様シュートブロックに入るが、あまりの威力に弾き飛ばされる。
「『真キラーブレード』!!」
ゆがむ空間の影響による不安定な態勢、フランケン守タインによるシュートブロックでの威力の低下、仕上げと言わんばかりに鉈は青い刃をボールを突き立てる。並大抵のシュートは止めれるだろう。なんなら帝国の必殺技すら止めれる可能性があるほどだ。
しかし、圧倒的な暴力には無意味。ボールは勢いを緩めず回転し続け突き立てられた刃を物ともしない。刃はその形を徐々に崩していき、ついにボールは鉈の身体ごとゴールネットに押し込んだ。
「ゴォォォォルッ!!後半が始まってわずか数分!雷門紅菊が必殺技を使わずに1点をもぎ取ったぁぁぁぁ!!!」
マジか……え、マジか、紅菊ってこんなに強かったの……?とりあえず、今度から姐御って呼ぼうかな。
それにしても紅菊ってどっかで見たことある感じなんだよなぁ。ベータが戦国時代で使っていた偽名と同じだけど、
そんな変なことを考えているうちに試合再開。すぐに紅菊がボールを奪い取る。もう彼女一人でいいんじゃないかな?
「『おんりょうV3』!」
おんりょうだけであれば問題はなかっただろう。
「「『おんりょうV2』!」」
「『かげぬい改』!」
「ッ!小賢しい真似を……!」
幽谷に加えて月村、武羅怒によるおんりょうの重ねがけ、さらにダメ押しと言わんばかりの八墓のかげぬい。その全てが進化しており、幽谷に至ってはV3の領域にまで押し上げている。さすがの紅菊もこれには脚を止める。
「嘘だろ……!」
尾刈斗からそんな声が聞こえる。激情に飲まれた彼らから聞いた今日初の人らしい声だ。
「ただの足力だけでこれを破ろうとしてんのかっ!?」
「こんな小細工どうってことはないんだよっ!」
ミチミチと紅菊の足に纏わりつくおんりょうの手が、ぴったりと張り付いている影が音を立てて少しずつ千切れていく。
そして、ついに引きちぎった。
「染岡!」
まさかのパスに染岡は少々驚き動きを止める。てっきり紅菊がまた単独でゴールを決めるかと思っていたのだ。
「ボーっとしてんじゃねぇぞ!」
「お、おう」
紅菊の怒号により現実に引き戻された染岡はドリブルを開始する。尾刈斗DF陣が詰めてくる。一人目を躱し、二人目は半田にパスすることで避ける。さらに三人目を半田のジグザグスパークで突破。そして、ボールは染岡の元へ戻ってくる。
(俺のドラゴンクラッシュじゃゴールすることはできない。やっぱり豪炎寺とのドラゴントルネードじゃねぇと……)
染岡は思案する。何しろ、前半に止められたときと同じ状況なのだ。GKの鉈は既に腕を回しゆがむ空間を発動済み、ゴール前に不乱が立ち塞がっている。
「何ごちゃごちゃ考えてんだ!」
「っ!!」
「この間言ってただろうが!一人でドラゴントルネード撃ってみせるって!見せろ、お前一人のドラゴントルネードを!」
「勝手なこと言いやがって……!そんなに言うなら見せてやるよ!」
円堂にアドバイスされなんとか完成系の予想図はできたものの、練習中一度も成功しなかったあの技。そのため使うつもりはなかった。
だが、ここまで言われてしまっては仕方ない。やるしかない、と染岡は覚悟を決める。
宙返りをしながらボールを前方上空へと飛ばす。染岡も跳躍し空中でボールに追いつき、炎を纏いながら後ろ回し蹴り。
「これが俺の『ドラゴンキャノン』だ!!」
ドラゴントルネードよりも赤く燃え上がった龍が雄叫びを上げながら進んでいく。
「『フランケン……うわぁぁぁ!」
不乱がシュートブロックに入ろうとするが間に合わない。
「『真ゆがむ空間』!」
ゴールに入れさせまいと鉈がボールを力強く掴もうとする。そのあまりの威力、前回の試合でのドラゴントルネードと同じいやそれ以上かもしれない威力に鉈はホッケーマスクの下の顔を歪ませる。
「いっけえぇぇぇ!」
龍が咆哮を上げる。それに合わせシュートの勢いが上がっていき、鉈を吹き飛ばしゴールへと入っていった。
「雷門染岡、新必殺技ドラゴンキャノンで逆転だぁぁぁぁぁ!」
「よっしゃぁぁぁぁぁ!!」
これで逆転だ。やっぱり染岡はここという場面で決めてくる。エースストライカーは豪炎寺だが、スコアラーという点では染岡だな。
尾刈斗ボールで試合再開。
「『かみかくし』!」
幽谷がマジックの連続使用で染岡たちを抜き、かみかくしを発動。そして、
(どういうことだ……かみかくしはボールが神隠しにあったかのように消え現れた鳥居から紫のエネルギーを伴って放たれるシュート技だ。断じて、キッカーが消える技なんかじゃない)
円堂もこの技を知っている。それゆえに混乱している。
そして、ゴール前に鳥居が現れた。
その鳥居の奥で幽谷と目があった。
「『爆ファントムシュート』!!」
しまった、こいつ無理矢理シュートチェインを成立させやがった。
本来、シュートとシュートチェインを同時に一人で成立させることはできない。なぜなら、ボールにキッカーが追いつけられないからだ。
しかしならば、この方法なら別だ。かみかくしという技の性質上、鳥居からボールが出るまで若干のボールが静止する時間が生まれる。そこを使ったのだろう。
いやまあ、カラクリがわかったところで真似はしないのだが。何しろかみかくしの向こう側なんてどうなっているかどこと繋がっているかわからない完全なブラックボックス。そこにチェインのために入ろうなんて軽々しくできるわけがない。
「『マジン・ザ・ハンド』!!」
そのシュートは重い。幽谷の、いや、尾刈斗の雷門への怒り、勝利への渇望など色々なものを感じる。
「だけど負けてたまるかぁぁぁぁぁ!」
だからといってなんだ。雷門だって負けられない。ここで勝って帝国にも勝って全国にいく、そしてフットボールフロンティア優勝。そのためにも負けられない。
「ゴッドハンドだって二つ出せたんだ、マジンだっていけるはずだ!うおおおおおお!」
「ふ、防いだぁぁぁ!キーパー円堂、二体目のマジンを呼び出しゴールを守りきったぁぁぁ!」
ゴールを守ったが、それは必殺技とは言えないお粗末なもの。その証拠に俺はボールをキャッチできず弾く結果となっている。
弾かれたボールを幽谷が拾おうとするが、先に風丸がなんとか追いつく。幽谷と小競り合いの末、ボールは線の外側へ。スローインが行われるが、
「ここでホイッスル!2対1で雷門の勝利だぁ!!」
試合終了。危ない場面も多々あったが、なんとか勝ちを掴めた。
『マインドコントロールモード』
円堂たち、雷門イレブンが打ち上げにいった後、紅菊は一人尾刈斗中を訪れていた。理由は後始末。
「どこの誰だか知りませんが、本当に厄介なことしてくれちゃって」
どこからか手を加えられたとしても結果は変わらず雷門の決勝進出となった。歴史改変が起こることはなかった。だが、幽谷たちの精神は違う。弄られた彼らをこのままにしておくとどうなるかわからない。恨みのまま円堂たちにリアルファイトを仕掛けてくるならいい方だ。最悪廃人ということすらあり得る。
さすがにそれは避けなければならない。そのため、紅菊、否、
「ベータ、なんとかなりそうか」
「イエス、本来とは違う使い方なので時間はかかりそうですがなんとかなりそうです」
耳に流れてきたトウドウ議長の声にベータはそう返答する。
「ならばよし。そのまま任務を続けてくれ」
「イエス、マスター」
通信が切れると同時にベータは思考を開始する。何を考えているか、それは言うまでもなく、今日の尾刈斗戦、つまり
それに加えて、自身の本来の顔を知っている円堂と風丸のことだ。今使っているマインドコントロールモードで認識を逸らすことで彼らとの活動を共にすることができている。しかしながら、今回の試合で怪しみだしたはずだ。少なくとも、円堂はあれ?という顔をしていた。
マインドコントロールのかけ直しをしなくてはならないが化身使いには利きにくい。いくら化身そのものを今使うことができないとしても、化身の前段階とも言えるマジンを操っている時点で他より効果は低い。
困ったことになった、とベータはため息をついた。
いいところで切ろう思ってたらいつのまにかいつもの1.8倍ぐらいになっててびっくりした
・紅菊が試合に出れる条件
①別の時間軸から影響を受けている
②歴史の転換期である
③過去に大きな影響を与えない(化身を使うなど)
こんな感じです
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スパイとスパイ
「これでよし。これで私の首も繋がる……!」
雷門中サッカー部顧問である冬海卓は朝早くから車庫で作業をしていた。何故彼が作業しているのか。それは快進撃を続けているのを見て心を入れ替えて、というわけではない。
「先生!」
「ふぅ、君ですか。驚かさないでください」
聞こえてきた声の方を向けばそこにいたのは部員の土門飛鳥。冬海と同じ帝国からのスパイである。
「こんなところで何をしていたんですか?」
土門は嫌な予感がしていた。冬海の表情から見るに碌なことじゃないの確実、だが同時に帝国が鬼道たちがそんなことをするはずがないと相反した感情が渦巻いていた。
「さあ……ああ、一つだけ忠告しておきます。このバスには乗らない方がいいですよ」
土門は表情を歪ませる。
(ッ!ブレーキオイル……!)
そこまでの高等技術を使うことなくあっさりとわかった。ブレーキオイルが全て抜かれていたのだ。
「これも総帥の命令か……!俺は一体どうすれば……」
これを誰が命令したか、それはすぐに予想がつく。帝国学園の総帥、影山零治だ。
自分はどうすればいいか何をすべきか、土門には選択が迫られていた。
「円堂くん、ちょっと良いかしら」
練習に行こうと教室から出てきた俺を待ち構えていたの夏未だった。
「サッカー部に関わる大事な話があるわ。理事長室まで来てちょうだい」
「わかった。風丸、半田、さっき行っといてくれ」
夏未の後を追って理事長室までいく。着いた瞬間、差し出されたのは一枚の紙。その内容は冬海先生がバス細工を行ったということだ。
「これをどうするつもりだ?」
「もちろん確かめるつもりよ」
まあそうなるだろうな。というかそれしか道がない。これが本当だったら大事だ。確かめて大丈夫だったらそれでよし、まあ十中八九ダメだろうが。
そういうわけでやってきたのはグランド。
夏未が珍しくいた冬海に声をかけた。
「遠征のバスの状態確認をしたいので動かしていただけませんか?」
「バ、バスをですか!?」
なんとも煮え切らない様子。
それに耐えかねた夏未が一喝。冬海は身体を縮こまらせてバスの方に向かっていく。
部員たちも二人に着いていく。
「ただ発進させて止まるだけの話です。早くエンジンをかけてください」
バッテリーが上がっているなどと言って冬海はバスを動かさない。問答を繰り返すが、冬海はできないと繰り返す。
「ここに手紙があります。これから起きようとしたであろう恐ろしい犯罪を告発する内容です。冬海先生、バスを動かせないのは貴方がバスに細工したからではありませんか、この手紙にあるように」
夏未はそう言って手紙を取り出した。
「フフフ、ハハハ。そうですよ。私がブレーキオイルを抜いたんですよ」
そう言って笑いながらバスから降りてくる。追い詰められているというのにその表情は清々しい。
「あなた方をフットボールフロンティア地区予選の決勝戦に参加させない為です。そうなると困る人がいるんですよ」
「……帝国の学園長か」
豪炎寺の呟きにビクリと冬海が反応する。
「帝国の為なら人の命がどうなってもいいと思っているのか!」
「君たちは知らないんだ!あの方がどんなに恐ろしいかを」
「ああ!知りたくもない!」
豪炎寺は去年の夕香ちゃんのことを思い出したのか声を荒げる。
「貴方のような教師はこの学校から去りなさい!この言葉は理事長の言葉として思ってもらって結構です!」
「クビですか。いい加減こんな所で教師をやっているのも飽きてきた所です……しかし、雷門中に入り込んだ帝国のスパイが私だけとは思わないことですね。ねぇ、土門君」
夏未からのクビ通告に冬海は開き直ったかのようにそう言い立ち去った。とはいえ、最後の最後で爆弾落としていきやがった。
一斉に部員たちが土門に猜疑の目を向ける。
「……冬海の言う通りだよ、みんなすまねぇ」
「土門くん!」
そのまま土門は止める暇もなく走り去っていく。その後を秋が追いかけていく。それなら土門本人の方は秋に任せよう。俺がいくより昔馴染みの秋の方が説得しやすいはず。となれば、俺がしなければならないことはみんなへの説明だ。
「みんなこれを見てくれ!」
「これはさっきの手紙?」
「これがどうしたんだ?」
「見覚えがないか、この字」
俺が広げた手紙をみんなが覗きこむ。
「これは土門さんの字……?」
ようやく気づいたようだ。土門の字は他と違ってやや特徴的だ。じっと見れば誰が書いたかはわかる。
「でもどうして?」
「土門はスパイだったんだろ!」
「でも助けてくれたのは、あのバスの細工を知らせてくれたのは土門だろ」
栗松たちは言葉を詰まらせる。たしかに土門はスパイだった、それは土門自身が認めたことだ。疑いようがない真実だ。それゆえ信じられない、だが助けてくれたことを思うと揺らいでくる。
「だったら信じようぜ土門を。同じチームでサッカーをした仲じゃないか」
そう言うとちらほらとそうだなという意見が上がる。これなら大丈夫そうだな。
この後、秋に連れ戻された土門から直接な謝罪を受けこの件は丸く収まった。
よしこれで帝国学園戦に向けて練習、とはならない。
「出場校は必ず顧問及び監督、コーチが居ることが項目に記されているのですが」
「それがどうしたんだよ」
「それなら冬海先生が……あ」
それはさっき追い出したんだよなぁ。
「夏未さんは知ってたんすか……?
「も、もちろんよ!だから、貴方達は早急に新しい監督を探してきなさい!」
夏未が顔を赤くしてそう答える。他の教師に頼むという案が上がったが、冬海先生という前例がある以上同じことになりかねない。紅菊にしてもらうという意見もあったが、等の本人が選手登録しているためできない。というわけでみんなで新監督を探すことになった。
なお冬海先生は1年後とある中学で校長を務める模様
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監督
難航しそうな監督探しだったが、割とすぐに候補者が見つかった。
雷雷軒の店主、響木さんだ。イナビカリ修練場のことを知っていたことがあり雷門中サッカー部となんかしらの関わりがあるのではないか、ということからそうなった。
その考えは事実である。響木さんは40年前の雷門中サッカー部、伝説の“イナズマイレブン ”のメンバーである。
「監督になってください、お願いします!」
「……仕事の邪魔だ」
早速、雷雷軒に行き頭を下げるが返ってくるのはつれない返事のみ。
「あなたはイナビカリ修練場のことを知っていた。つまり、雷門中サッカー部OB、いや伝説のイナズマイレブンの一員じゃないんですか?」
「……イナズマイレブンは災いを齎らす。恐ろしいことになるぞ」
響木さんは淡々とそう返す。
「あのな……注文しないならとっとと出てけ!」
「だったらラーメン一つ!」
こうして、俺が雷雷軒に通いつつ響木さんの説得をする日々が始まった。
「チャーシュー麺一つと、それと監督になってください」
「……チャーシュー麺だな」
「ラーメンセットに監督お願いします」
「そんなものはメニューない」
「ラーメン一つと監督になってください、お願いします」
「それ毎日して飽きないのか。ラーメンだな、監督にはならん」
毎日通ってラーメンと監督をお願いしてるが一向に良い返事は返ってこない。ラーメンはうまかった。え、腹がでてきてる?何言ってるかわからない。
帝国戦まであと二日。今日までに良い返事を貰いたい。他に伝がないかと言われたらあるにはあるのだが、これは最終手段にしたいところ。
「円堂守だな。俺はこういうもんだ」
雷雷軒に向かおうとしたところで無精髭が特徴的なおじさんに呼び止められた。確かこの人は鬼瓦さん。取り出された警察手帳からわかるように現役の刑事だ。
話があるということで鬼瓦さんに連れられて鉄塔広場に向かう。そこで語られたのは40年前のとある事件。
“イナズマイレブンの悲劇”
40年前、無類の強さを誇りイナズマイレブンの異名を持った雷門中サッカー部はフットボールフロンティア全国大会決勝にまで勝ち上がった。しかし、イナズマイレブンが日本一の称号を得ることはできなかった。理由は決勝戦の会場に向かうべく雷門サッカー部の乗っていたバスがブレーキの故障により事故が起きたからだ。事故で怪我を負ったイナズマイレブンは這ってでも会場に行こうとしたが、試合会場に試合を棄権すると一本の電話が入った。その結果不戦勝により帝国の優勝。そこから帝国の40年間の無敗伝説が始まった。
そして、その事件を負うため当時記者だった鬼瓦さんは刑事に転職したとのことだ。
「これで以上だ。時間取らせて悪かったな」
「いえ、こちらこそ貴重な話を聞けてよかったです」
鬼瓦さんの話を聞いた後、再度雷雷軒に向かう。
「……またお前か」
「鬼瓦さんから聞きました。響木さんがキーパーだったこと、40年前に起こったイナズマイレブンの悲劇についても」
「……鬼瓦のオヤジか、あのお節介め」
「あのまま終わってもいいんですか?」
そう言うと新聞から響木さんは目を離しこちらをようやく見た。
「なんだと……」
「響木さんには稲妻町から離れることもできたはずだ。それなのにまだ雷門中がある稲妻町にいるというのはそういうことじゃないんですか!」
「減らず口を叩く」
いつもより好感触だ。これならいけるかもしれない。
「勝負をしましょう」
「勝負だと?」
「はい、響木さんが3本シュートを打って俺が3本とも止めたら、監督をしてください!」
「はあ、3本中3本だと? アホな勝負だ」
「この勝負で俺の覚悟を響木さんに見せます。だからお願いします!」
「……いいだろう、一本でも止めれなかったらこの話は終いだ」
了承してもらえたことに安堵する。あとは俺次第。
河川敷に移動しいざ勝負。
「よし、来い!」
こちらの準備を整ったのを確認して響木さんは数回リフティングした後シュートを放つ。強烈な回転と共にゴールの左下へと向かう。その勢いは衰えを感じさせない。それになんとか反応して防ぐ。
「一本目、止めたぞ!」
「やるな」
今度は軽くボールを上げてから軽く助走をつけてシュートする。ボールの正面に走り込み熱血パンチで弾く。ボールは弾かれた衝撃でそのまま響木さんの元まで返っていく。
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
「!ほぉ、熱血パンチ!」
「これで後一本!」
「調子に乗るなよ。最後の一本、止められなかったら監督の話はナシだ」
「はい!」
これで決まる。俺は頬を叩き気合を入れ直す。
「お前さんの覚悟が本物なら……見せてみろォ!」
響木さんはボールをセットし足を大きく振りかぶってシュートする。先の二本とは比べ物にならないほどの威力だ。
「『ゴッドハンド』!」
「あれは……!まさしくゴッドハンド……!!」
ゴッドハンドでボールを受け止める。
「ハッハッハッ、こいつは驚いた!大介さんがピッチに帰って来やがった!おい、お前名前はなんと言うんだ?」
「円堂守です!」
「守……良い名前だ」
こうして、響木さんは監督になることを認めてくれた。そして、ついに迎える地区予選決勝帝国戦。前回は帝国の試合放棄で名目上勝利で終わった。今回はそんな不完全なものじゃなくてちゃんとした勝利を、そして全国への切符を手に入れてみせる。
最近、多機能ファームの文章整形という便利な機能を知りました……!今までしてなかった段落字下げとかこれのおかげでパッとできたので知ったとき小躍りしそうになった。やっぱ多機能ファーム最高
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対峙
ついに訪れた地区予選決勝当日。俺たちは帝国学園に来ていた。さすがは偏差値は70を優に越し、部活動でも全国一を総なめにしている学校だ。規模が違う。まるで軍事要塞みたいだ。
「気をつけろ!バスに細工をしてきたような奴らだ!落とし穴があるかもしれない!壁が迫ってくるかもしれない!」
帝国学園は忍者屋敷か何かか?
響木監督の声に釣られて栗松たちが仕掛けを探し出す。周りの帝国生の目を見てくれ、めちゃくちゃ恥ずかしい。
「監督が生徒をからかうなんて……」
「た、多分監督なりに緊張を解そうとしてるんじゃないかしら」
まあ、十中八九そうだろう。俺と豪炎寺以外は緊張しているのが表情からすぐわかる。あのいつもは冷静沈着で並大抵のことでは表情を変えない影野ですらそんな感じだ。
響木監督の言ったようなことは当然なく何事もないままロッカールームへ。俺が扉を開けようとした瞬間、ちょうど鬼道がロッカールームから出てきた。
「無事に着いたようだな」
「何だと!?まるで事故にでもあったほうが良いような言い方じゃねぇか!まさかロッカールームに何か仕掛けたんじゃねぇだろうな!」
「安心しろ、何もない」
「待て、何やっていたのか白状しろ!」
染岡が噛み付くが鬼道はそれを気にせず去っていく。大方、何か仕掛けられてないか確認していたのだろう。
鬼道、いや、帝国イレブンにとってそのような卑劣な行為は嫌悪の対象である。その王冠が影山の工作によって塗り固められてできていたとしても、彼らは王者帝国だ。その称号に見合う研鑽と実力を確かに築いてきた。彼らにはそのプライドが存在する。
それに仕掛ける側なら今日じゃなくていい。昨日までに仕掛けておけばいいのだから。
「とりあえず入るか」
「おい、円堂!何が仕掛けられてるか分からないぞ!」
「別に何もないだろ」
俺と豪炎寺、土門は気にせずロッカールームに入りユニフォームに着替え始めるが、染岡たちはまだ疑ってるのか調べ始める。当然何もでてこなかった。
試合前にトイレを済ませた俺は、フィールドに戻る最中の廊下でとある男に遭遇した。
「君は雷門中サッカー部キャプテン、円堂守くんだね」
俺の二倍近くはあるんじゃないかという程の長身でありサングラスで目線を隠したその男は俺の方に近付いてくる。
「私は帝国学園サッカー部監督、影山零治。君に少し話があってね、鬼道のことについてだ」
その声に少しも善意はなかった。
そこから影山の口から語られたのは鬼道と音無の関係についてだ。二人が実の兄妹であること。幼い頃に事故で両親を亡くし、その後施設に預けられ鬼道が6歳、音無が5歳の頃に別々の家に引きとられたため名字が違うこと。
「鬼道は音無春奈と暮らすため養父ととある約束を交わした。それは、中学3年間フットボールフロンティアで優勝し続けるというものだ。鬼道は勝ち続けなければ妹を引き取ることが出来ないのだ。地区大会レベルで負けたとなれば、鬼道は家から追い出されるかもな」
「それで?」
「……?理解できないかね、雷門が勝てば鬼道兄妹は破滅するということだ」
「違うだろ、言いたいのは」
鬼道と音無のことを長々と話したのは俺の不調を誘うためのものだ。結局のところ言いたいのは鬼道たちのことじゃなくて、勝ったらどんな酷いことになるかわかってるよなという脅しに過ぎない。
「それに鬼道と音無を舐めすぎだ」
「何が言いたい?」
「言った通りだよ。それくらいであの二人はどうこうなるほど弱くない。本気でそう考えてるなら鬼道と音無に対するただの侮辱だぞ」
確かに今はあの二人の関係性は少し拗れているが、あれは結局コミュニケーション不足だ。
「ほう、君には鬼道たちの苦しみが理解できるとでも」
「そんなことは言ってない。俺が鬼道たちの苦しみを本当の意味で理解することはできない」
小学生の頃、鬼道たちと同じような境遇の人たちと遊んだことはあったが彼らの絶望や苦しみを終ぞ理解することはできなかった。当たり前だ、父さんがいて母さんがいる家庭の俺がそのようなことをできるはずがない。
「それでも鬼道と音無が前向いてめちゃくちゃ頑張ってきたすげぇ奴だってのは分かる」
それは並大抵なことではない。俺がその立場だったらどうなってたかわからない。
「だから、帝国学園の監督のあなただとしても鬼道たちを侮辱するのは俺が許さない」
「……ほう」
そのまま無言で睨み合う。そのような重苦しい雰囲気を壊したのは意外な声だった。
「キャプテン、ここにいたんですね!」
「音無か、どうした」
「戻ってくるのが遅いので呼びにきました。もうみんな待ちくたびれてますよ」
「わかった、すぐ行く!じゃあ、これで」
「フン、時間を取らせて悪かったな。精々頑張りたまえ」
影山と思っていたより長い時間話していたようだ。音無と共に走りながらグランドに向かう。
「……キャプテン、ありがとうございます」
「何のことだ?」
「フフッ、なんでもないですよ。さ、行きましょう!」
「あ、おい、ちょっと待て!なんで急にスピードを上げるんだよ!?」
「ほらはやくはやく!急ぎますよ!」
速度を上げ始めた音無に置いてかれないよう俺もスピードを上げる。心なしか音無の足取りがいつもより軽かったような気がした。
前書きで書いた通り、憑依円堂列伝のお気に入りが500人を突破致しました。FF編までにお気に入り500人を目標の一つとしていたので大変嬉しいです。
また、原作:イナズマイレブンで総合評価順に並べると有難いことに1ページ目に出てくるようになりました。
応援してくださっている皆さまのお陰です。本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします
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影山と鬼道の決裂
「やっと戻ってきたか」
「遅ぇぞ、円堂!」
「すまんすまん。さ、アップ始めるぞ!」
俺が戻り全員揃ったため、ウォーミングアップを開始する。
「壁山、大丈夫か?」
風丸とパス練をしていた壁山はボールを蹴ろうとして空振り尻餅をつく。
「こ、こんな立派な会場で試合すると緊張してしまったっス……」
「しっかりしろよ、壁山」
まだ緊張は完全には解れていないか。まあ、試合が始まれば、すぐに緊張ぐらい飛んでいくだろう。
「オラッ!」
「良いシュートだ、染岡!だけど、あんまり飛ばしすぎるなよ!」
しばらくすると観客席が埋まっていく。これだけ立派な試合会場となるとその分観客も多くなる。
「すごい、こんなに沢山の観客が。さらに緊張してきたっス……」
「ならリラックスさせてやるよ!」
そう言って忍び寄った宍戸は壁山をこちょぐり始める。耐えきれなかった壁山は持っていたボールを腕の中から落としてそのまま蹴り上げてしまう。そして、天高く上がったボールは重力に従って落ちていき宍戸の頭にぶつかった。その衝撃で宍戸は倒れ込む。自業自得だ。
悲劇はさらに続く。
「ひぎゃあああああ!!!」
「どうした!」
叫んだ宍戸の方に行くと何か光るものがグランドに刺さっている。それを手に取る。
「これは……ボルト?」
鉄材の固定に使われる大きめなボルトが計6本。
染岡がちゃんと帝国は点検してるのかと叫ぶ。いや、なんでお前あそこまで鬼道疑っといてこれは偶発的なものだと思うんだよ。どう考えてもこれは帝国の仕掛けだ。ボルトは響木監督に渡しておく。そうすれば、影山の不正を調べるため帝国に訪れている鬼瓦刑事たちに流れるはずだ。あとは鬼道が気付くかどうかだが、もしものために豪炎寺たちには先に言っておくか。
一列で入場した後、フィールドで整列し握手していく。そして、最後のキャプテン同士の握手の時、鬼道は俺に耳元で囁く。それにわかったと小声で答える。
両チーム、フォーメーションにつき試合開始の笛がなった。その瞬間、無数の鉄骨が雷門側のフィールド目掛けて落ちてきた。
「ああっと!?これはどういうことだ!?突然雷門中側の天井から鉄骨が降り注いできた!?」
その異様な光景に誰もが恐怖する。ベンチにいた響木は担架を用意するよう音無たちに呼びかける。
「酷い……グラウンドには鉄骨が突き刺さり、雷門中イレブンも……いや、雷門中イレブンは無事です!誰一人怪我さえしてない模様です!!これは奇跡だぁ!!」
全員の無事を確認し安堵する。ホイッスルと同時に全速力で全員後ろに下がれなんて意味不明なオーダーに皆従ってくれて本当によかった。
鬼道はこちらの無事を確認するとフィールドから出て行く。それを俺と響木監督は追いかける。たどり着いた先にいたのは、黒幕影山零治……!
「総帥、これがあなたのやり方ですか!天に唾すれば自分にかかる。あれがヒントになったのです。あなたにしては軽率でしたね」
「言ってる意味がわからないな。何か私が細工したという証拠でもあるのかね?」
「あるぜ、証拠ならここに!」
その声と同時に影山の机に袋が投げ込まれる。それに入っていたのはボルト。試合前に落ちてきたやつだ。
「そいつが証拠だ」
「鬼瓦さん!」
鬼瓦さん曰く、スタジアムの工事関係者が影山の指示でボルトを緩めていたとのこと。俺がボルトを渡してから一時間弱しか経ってないのに捜査早すぎない????
「総帥、俺はもう貴方の命令には従いません」
「俺たちも同じ意見です!」
「……ふん、勝手にするがいい。私にはもはやお前たちなど必要ない」
鬼道たちの離反宣言に影山はそう返す。まるでそれを望んでいるかのような言い分だ。実際問題、影山のその後を考えたらその通りなのだが。
「影山零治! 一緒に来てもらおうか。お前には聞きたいことが山ほどある。イナズマイレブンの悲劇からプロジェクトZ、四十年分洗いざらい吐いてもらうぞ!」
影山は抵抗することなく鬼瓦さんに連れられていく。その顔はどうとでもなると言わんばかりに余裕があるように見える。結局その表情が崩れることなく、さらには笑みすら浮かべて総帥室から出て行った。
「響木監督、円堂、本当にすみませんでした。俺たちに試合をする資格はありません」
鬼道が頭を下げそう言う。別に影山の悪事に直接関与してるわけではないため、俺はそこまで気にしていないが鬼道曰く責任があるとのこと。
「円堂、お前に任せる。提案を受け入れるのか試合をするのかお前が決めるんだ」
この提案を受け入れたら確かに鬼道たちと戦わずに全国の切符を手に入れることができる。それが雷門がフットボールフロンティア本戦に出場するための最善手だろう。
「やろうぜ、試合」
そんなこと知ったことか。ここで楽な方に逃げて何になる。帝国に勝って全国にいく、俺がここに来た理由はそれだけだ。
グラウンドの修復が終わり、雷門帝国両チームのメンバーは各々のフォーメーションにつく。帝国は逮捕された影山に代わり安西という方が監督に入った。
「さあ、正真正銘のフットボールフロンティア地区大会決勝の開始です!!」
雷門と帝国の因縁の試合が今幕を開けた。
次回からようやく試合です。
最近、イナイレ二次が増えてきて嬉しい。もっと増えてどうぞ
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王者帝国
ホイッスルが鳴り試合開始。
豪炎寺がボールを持ち駆け上がる。
「『キラースライド』!」
「染岡!」
染岡にボールをパスし、豪炎寺自身は飛び上がることで成神のキラースライドを躱す。ボールを受け取った染岡はすぐさまシュート体制に入る。
「『ドラゴン──」
「──トルネード』!!」
雷門の必殺技の中でも威力が高いドラゴントルネードだ。しかし、源田はその威力を恐れることなくずっしりと構える。
「『パワーシールド』!」
衝撃波が火龍の攻撃を防ぐ。流石は
弾かれたボールを拾ったのはシュートと同時に動いていた五条だ。素早い動きで豪炎寺たちを翻弄し鬼道へパスをつなぐ。
「行かせない!」
鬼道の前に半田が現れる。普段の鬼道ならこのまま突破するがそれを許さない存在がいる。
(雷門の9番、確か松野だったか。位置どりが上手い。コースがいくつか潰されているな)
半田の後ろにいるマックスだ。半田の右後ろにおり、そちらへのコースを遮っている。さらに言えば、マックスとの距離も絶妙だ。この距離はクイックドロウの範囲圏内。そう易々と動くことはできない。
「しかたあるまい」
鬼道自身にこの状況を一人で抜け切れる手段はない。彼の持つドリブル技はイリュージョンボールとジャッジスルーの二つ。半田を突破することはできるが、マックスの対処はできない。故に鬼道は
「やれ!」
「『サイクロン』!」
鬼道の短い司令に反応したのは寺門。
彼の勢いよく振われた足から発動したのは帝国の伝統技の一つとも言えるサイクロン。下から突き上げるように現れた突風は半田、マックスのみならず、
「んな、無茶苦茶な……」
まさかの突破法に俺は声も出ない。味方からボールを奪うなんて考えもしなかったぞ。
ボールは風によって寺門の元へ。そのままボールを再度空中に上げ、寺門と同じく上がっていた咲山も飛び上がる。
「『二百烈ショット』!」
百+百=二百
子供でも分かる計算だ。しかし、その単純な理論だからこそ恐ろしい。
「『真爆裂パンチ』!」
こちらも負けじと連続パンチで向かいうつ。なんとか弾くことに成功するが、ボールは鬼道の元へ飛んでいく。
「いくぞ、円堂!」
鬼道がボールを打ち上げ、それをジャンプしていた佐久間がヘディングで地上に戻す。落ちてきたボールを鬼道が蹴り飛ばした。
「『ツインブースト』!」
そのシンプルでコンパクトなモーションとは裏腹に威力、速度は申し分ない。正直に言えばキャッチで止めたいところだが間に合いそうにない。
「止める!『真熱血パンチ』!」
そのため、発動速度が極めて速い熱血パンチでシュートに対抗する。少しの拮抗の後、ボールは弾き返される。
今度は落下地点に自慢の足を生かして早回りしていた風丸がボールを拾う。そのまま軽やかな動きでボールを運んでいく。
「そう簡単に行かせるかよ!『アースクエイク』!」
「染岡、任せた!ぐわぁぁ!」
大野が大きくジャンプし急降下しその巨体を地面に叩きつけ小規模な地震を発生させる。風丸は揺らされながらも体制を崩す前にボールをなんとか染岡へ繋ぐ。
「おうよ!決めてやる!『ドラゴンキャノン』!」
烈火に染まった龍が帝国のゴール目掛けて襲いかかる。
「無駄だ、パワーシールドには如何なるシュートも通用しない!」
発動されたパワーシールドがまたもや龍の進撃を止める。弾かれたボールは既に詰めていた豪炎寺の方向へ。
「『ファイアトルネード改』!」
「『パワーシールドV3』!」
押し込まんと素早くシュートするが、それよりも早く衝撃波が壁となる。
「狙いが甘いな。パワーシールドは連続で出せる」
弾かれたボールは辺見の元へ。そこから鬼道へとボールが渡る。それと同時に寺門と佐久間が壁山たちのマークを振り切る。
「『皇帝ペンギン──」
「「──二号』!」」
やはりこの三人だとこの技か。あの時は逸らすことしかできなかったが万全の今なら
「止められる!ハァァッ、『マジン・ザ・ハンド』ォォ!」
マジンの手がペンギンたちを受け止める。前回とは違いボールはしっかりと俺の手に収まった。
「ふっ、そうこなくてはな」
鬼道はそう言ってニヤリと笑みを浮かべる。他の帝国イレブンを見ても、自身の最強技とも言える皇帝ペンギン二号を止められたと言うのに動揺は見えない。
それを不気味に覚えながらも俺はパントキックを行う。
「行くでヤンス!」
ボールトラップで受け止めた栗松はドリブルで上がっていくが、辺見によって止められる。
「しまったでヤンス」
「はっ、そう何度も抜かれてたまるかよ!洞面!」
辺見から洞面にボールが渡る。
ここで洞面を上げてくるということはデスゾーンか?
「『分身フェイント』!」
「ふ、増えたっス!?」
洞面は三人に分身して壁山を翻弄し突破する。そして、洞面はボールを上げる。
(あの二人が動いてない?ということは違う?)
デスゾーンは三人技だ。洞面の他に佐久間と寺門がいなければ完成しない。いや、何か思い逃しをしているような気が……待て、なんで
「ッ!まさか!」
ああ、やっぱり予想は外れていなかった。あの動きは間違いない。あれは
「『分身デスゾーン』!」
──デスゾーンだ。
「それだけじゃないぞ!『皇帝ペンギン──」
「「──二号V2』!」」
さらに皇帝ペンギン二号のチェイン。しかもここで進化しやがった。
「『マジン・ザ・ハンド』ォ!」
魔神が受け止めんと掌を突き出す。しかし、死のエネルギーを纏ったペンギンは止まらない。
「……ぐ、うわぁぁぁ!」
魔神が砕け散り、俺は身体をくの字に曲げボールと共にゴールに突き刺さった。
「ゴールゥゥゥ!帝国学園先制!デスゾーンと皇帝ペンギン二号により円堂のマジン・ザ・ハンドを破ったぁぁ!そして、ここでホイッスル!前半終了です!」
帝国が王者としての力を見せつけ前半が終了した。
デスゾーン+皇帝ペンギン二号はみんな一度は想像したと思う。
最初はデスクラッシャーゾーンの予定だったんですけど、これ調べたらオーバーライドだったんですよね……ずっと通常技だと思っていました
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終結、雷門対帝国!
後半は帝国のキックオフから開始される。鬼道が豪炎寺と染岡を佐久間とのワンツーで躱す。
「『クイックドロ──あれ、ボールは!?」
「半田、上だ!」
半田がクイックドロウで奪おうとするが、既にそこにボールはない。鬼道がヒールリフトでボールを浮かせていたからだ。
「抜かせないっス!」
「ふっ、だが抜かせてもらおう!『イリュージョンボール改』」
壁山が巨体を活かして止めようとするが、鬼道のイリュージョンボールに惑わされ突破を許してしまう。
そのまま鬼道は佐久間たちが上がってくるのを待たずにシュートモーションへと入る。ボールを上げ鬼道自身も飛び上がる。そして、慣れた口笛を吹きペンギンを呼び出す。地中から現れたペンギンたちはドリルのように回転しながら空中のボールを啄む。
「『オーバーヘッドペンギン』!」
最後に鬼道が下からオーバーヘッドキックする。青紫エネルギーに包まれながらペンギンを伴ってボールはゴール目掛けて突き進んでいく。
「『スピニングフェンス』!!」
「『ザ・ウォール』!うりゃぁぁぁぁ!」
風丸と壁山がシュートブロックに入るが、ボールが止まる気配はない。二人を吹き飛ばしボールはゴールへと進んでいく。
「『マジン・ザ・ハンド』!」
ボールは俺の手のひらに収まる。思っていた以上の威力だ。二人のシュートブロックがなかったら止められなかったかもしれない。
「みんな、反撃だ!」
俺が蹴ったボールは放物線を描き、上がっていたマックスにまで届く。受け取ったマックスは辺見のスライディングをジャンプで避け少林にパス。
「『竜巻旋風』!」
少林はボールを股で挟み身体を捻り回転させながら地面に落とすことで砂埃を発生させる。それにより帝国DF陣は近づけない。
「染岡さん!」
帝国DFと距離を十分取れたことを確認すると少林は染岡にパス。少林の竜巻旋風のおかげでゴール前は開けている。
「これでどうだ!『真ドラゴンクラッシュ』!」
「どんなシュートだろうと無駄だ、パワーシールドの前には無意味!」
パワーシールドとドラゴンクラッシュがぶつかり合う。しかしながら、誰の目から見てもパワーシールドが破れそうにない。それはこのまま何もしなければの話だが。
「パワーシールドは衝撃波で出来た壁!弱点は薄さだ!遠くから飛んできたものは跳ね返せても至近距離から押し込めば!」
豪炎寺だ。パワーシールドの弱点を前半の内に理解していた彼はパワーシールドと拮抗しているボールに向かってシュートチェインを行う。
「ぶち抜ける!『ドラゴントルネード改』!!」
徐々にビビが入っていき、ついにパワーシールドが砕けた。
「ゴール!雷門、源田のパワーシールドを破りついに同点に追いついた!」
「あと、もう一点取って勝つぞ!」
帝国ボールで試合が再開。
豪炎寺たちがスライディングなどで奪いにかかるが、流石は帝国。最小限の動きで躱していく。
「いくぞ、円堂!これが俺たちの全力だ!」
「『分身デスゾーン』!」
「『オーバーヘッドペンギン』!」
「『皇帝ペンギン──
「「──二号』!」」
洞面が放ったボールを鬼道がオーバーヘッドキックで地面に落とす。そして、そこに位置していた佐久間が前へと出し寺門と咲山がさらに押し出す。
前半のデスゾーンに皇帝ペンギン二号のチェインでもやばかったのに、さらにチェインを重ねてきたか!俺はそのシュートの脅威に唾をごくりと飲み込む。
「みんな、少しでもシュートの威力を弱めるぞ!」
ここで動いたのは雷門DF陣。風丸が指示を出し各々が技を発動させる。
「『スピニングカット』!」
「『ザ・ウォール改』!」
「『スピニングフェンス』!」
しかもそれは単独ではない。
栗松の足から発せられた青い衝撃波が壁山のザ・ウォールに纏われより強固な壁となる。しかし、それすら死を纏ったペンギンは粉砕する。
次に現れたのは竜巻。しかも先程粉砕された岩の破片が竜巻中で舞っておりその凶暴性は非常に高くなっている。流石にこれには応えたのか何羽かのペンギンが地へと堕ちる。
「サンキュー、みんな!!絶対に止めてみせる!ハァァッ!」
身体中の気を両手に集め、さらにそれを増幅させる。そして、気が解放された瞬間現れたのは二体のマジン。
「『風神・雷神』!!デリャァァァァァッ!」
二体のマジンがペンギンたちを抑えんと腕を突き出す。
ペンギンが一羽、一羽とその姿を消していく。
「……ぐ、うわぁっ!」
最後の一羽がいなくなると同時に二体のマジンが崩れていく。されど、ボールは必殺技としての威力はなくなっても前への推進力は残っていた。だれもがボールがゴールネットを揺らす、そう思っていた。
「俺だって、俺だってぇぇ!ウオオオオオオ!!」
そこにいたのは土門。必死にゴールは割らせまいとボールへ足をぶつける。歯を食いしばり渾身の力を込める。その結果、その右足は振り切られた。
「なん、だと」
「ボールを繋げ!」
「『ローリングキック』!」
半田が空中に舞ったボールに必殺シュートを行うが、ゴールとの距離は遠い。ロングシュートを視野に入れられた必殺技ではないローリングキックはゴールに辿り着くまでもなく失墜していく。しかし、それでいいのだ。なぜならこれはシュートではなくパスなのだから。
「ピンポイント!」
ボールはぴったりマックスの足元へ。そのままマックスは上がっていく。帝国DF陣がボールに奪いにかかる。
「なっ」
「へへ、さっきお手本は見たからね」
驚くのも無理がない。マックスがやったのは鬼道が行ったヒールリフトを用いた突破法。並外れた器用さを持つ彼は、その技術を一度見ただけ習得したのだ。最後の仕上げと染岡にボールを渡す。
「これで逆転だ!『ドラゴン──」
「──トルネード』!」
「もう同じ手は食らわん!『フルパワーシールド』!」
染岡、豪炎寺は先程同様の手段でゴールを割ろうとするが、キーパーの王者はそれを許さない。展開された衝撃波の壁はパワーシールドより分厚くさらに広範囲となっている。流石の豪炎寺もこれを押し込むことはできない。
「くそ!」
「まだだ、まだボールは生きている!」
フルパワーシールドにシュートは弾かれてしまった。だが、ボールはまだ白線を超えていない。
豪炎寺が万丈とボールの競り合いを制したことで雷門は再びシュートチャンス。
「染岡、やるぞ!」
「おう!」
その技の着想を得たのは御影専農戦だった。試合終了のホイッスルが鳴るギリギリでファイアトルネードを打ち合う自身と御影専農のFWたち。そこに豪炎寺はファイアトルネードの新たな可能性を見た。
「「『ファイアトルネード
豪炎寺と染岡が息を合わせ同じタイミングで左右から炎を纏った足を振り抜く。
「『フルパワーシールド』!!」
その業火のシュートは障壁すら燃やし尽くす。衝撃波を軽々と破ったそのボールは源田を吹き飛ばしていく。
「負けてたまるかッ!」
前線から戻ってきていた鬼道が最後の壁として立ち塞がる。ダークトルネードを発動しシュートを止めようとするが、このシュートはそれでは止まらない。鬼道は身体ごと弾かれ、ボールはネットを揺らす。
そして、鳴らされる二つのホイッスル。一つは得点を告げるホイッスル。もう一つは──
「か、勝った……?」
──試合の終わりを告げるホイッスルだ。そして、それは雷門の勝利、俺たちが全国大会への切符を手にしたことを意味していた。
これで帝国戦はタイトル通り終わりです。
帝国のシュートチェインの補足
正確には、分身デスゾーンにオーバーヘッドペンギンとツインブーストと皇帝ペンギン二号をチェインしたもの。
オーバーヘッドペンギンで地面に落とし皇帝ペンギン二号で前へと打ち出す、という動きがツインブーストの応用となっています
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祝賀会
帝国との試合の翌日、雷門中サッカー部の面々の姿は雷雷軒にあった。地区予選優勝の祝賀会として響木監督が特別に貸し切らせてくれたのだ。
「響木監督、替え玉一つ、いや二つ!」
「こっちは餃子!」
さらに響木監督が全て奢ってくれるということで、皆思い思いのものを頼んでいく。かくいう俺も雷雷軒の全メニュー制覇を目標に注文を重ねる。
「しかし、帝国も全国大会に出るなんてな」
「あんな強い帝国とまた戦わなきゃいけないんですかぁ」
帝国学園は昨年優勝校としての出場枠があり、地区予選での結果に関わらず全国大会出場が決定しているのだ。そのため、関東地区からは二つの学校が全国大会に駒を進めることになる。去年は確か野生中が関東地区代表として、帝国が昨年優勝校枠として全国大会に出ていたはずだ。
「あらあなたたち、それは決勝まで勝ち進むという宣言で宜しいのかしら?」
「え、どういうことでヤンスか?」
「前年度優勝校と同地区の出場校、つまり帝国と俺たちはブロックが違うんだよ」
そうじゃないと、フットボールフロンティア一回戦が関東地区予選決勝の再試合になるみたいな惨状になるからな。そのため、雷門と帝国はそれぞれ別ブロックに振り分けられており決勝まで絶対に対戦しないように調整されている。
「円堂くん、よく知っていたわね」
「フットボールフロンティアは何年間も見ているしパンフレットも読み込んでるからな。そういう夏未もよく知っていたな」
「大会規約を隅から隅まで目を通したもの。ルールを知らずにあんなに慌てるのはもうこりごりだわ」
ああなるほど、と音無たちが監督探しのときの夏未の姿を思い出し苦笑いを浮かべる。あんなことになることは滅多にないとは思うが、備えあれば憂いなしだ。しておくに越したことはない。
「流石、夏未先輩頼もしいです」
「事務関係は得意分野よ。これからは音無さんが情報担当、木野さんがフィジカル面担当ということでよろしくって?」
「「は、はい……」」
それ今とそんなに変わらないような気するけどな。まあ、ちゃんと得意分野で割り振られてるから大丈夫だろう。紅菊の姉御?あの人はなんでもできるから……
「私にだってできないことはそれなりにあるんですよ」
「紅菊、頼むから心を読むのはやめてくれ」
「いや、それは円堂さんの表情がわかりやすいのが問題だと思いますよ」
え、と思い近くの風丸の方を向くと顔をそっと背けられる。続けてみんなの方を向くとうんうんと頷いている。そして、最後に豪炎寺に無言で肩を叩かれた。流石にこの人数から言われると反論しようがない。
「おっ!俺たちが新聞に載ってるぞ」
「おお本当だ、すげぇ!」
目の前の皿を空にした染岡が置いてあった新聞を広げ、俺たちの写真がデカデカと載っているのを見つける。
地区予選決勝の結果なんて本来はそこまで大々的に取り上げられるようなものではないが、40年間無敗だった帝国を倒したことが評価され面丸々使って記事が組まれているようだ。
「円堂なんか小学校の頃の話まであるじゃねぇか」
嘘だろと新聞を見ると、確かに稲妻KFC時代の俺の話も載っている。なんか鬼道との関係が小学校からのライバル云々になっておりすごいドラマチックな感じになっている。いや、間違いではないのだが、誇張されすぎているような気がする。
「あ、監督!餃子もう一皿!」
「私も追加をお願いするわ」
土門と夏未が同時に注文する。しかし、材料はもう一人前分しか残ってないとのこと。店にある食材を食い尽くすって俺たちどんだけ食ってんだ……?それに雷雷軒は明日も営業するはずだ。大丈夫なのだろうか。
「それじゃ、夏未ちゃんどーぞ」
「夏未、
夏未の眼光が鋭くなる。それに釣られ店内の温度も下がったかのような錯覚に陥る。原因となった土門は予想外の展開に弁明しようとするが、うまく考えが纏まらない。
「あっ、いやそのー、さっきのは気の迷いというかなんというか……」
「ふふっ、悪くないわね。その呼び方」
夏未が笑みを浮かべながらそう言うと張り詰めていた空気が霧散する。流石に呼び方一つで怒るわけはないとは分かっていたが、これは心臓に悪い。
「だけど、理事長代理としての私への敬意は忘れないでいただきたいわ。私の言葉は理事長の言葉よ?」
最近はサッカー部マネージャーとして関わることが多いからそこら辺は忘れがちになっていたな。理事長代理に生徒会長、サッカー部のマネージャー、そして成績はダントツでトップ。どうやったらそれらを全てやれるのだろうか。
「それじゃあ、理事長ならどんな言葉をコイツらに贈るかね?」
響木監督にそう頼まれると、夏未は表情をガラリと真剣なものに変え立ち上がる。そして、理事長としての言葉を紡ぐ。
「サッカー部は今や雷門中の名誉を背負っていると言っても過言ではないわ。必ず全国制覇を成し遂げてちょうだい!」
「よし、任せておけ!みんな、次は全国制覇だ!」
「「「おう!!」」」
こうして、俺たちは全国制覇への決意を新たにしたのだった。
どっかで憑依円堂の稲妻KFC時代を詳しく書きたいな、と思ってたりする
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蘇る伝説
日曜日、俺たちは河川敷に来ていた。目的は勿論練習だが、今回は少し違う。なんと、響木監督が伝説のイナズマイレブンに招集をかけてくれたのだ。伝説の面々との練習だ、当然大変身になる練習になると思っていた。
「おいおい」
イナズマイレブンの面々は40年間のブランクがあり、さらにサッカーに対するモチベーションもない。その状況で試合をすればどうなるかはすぐわかる。
連携のれの文字すらないグダグダなプレイ、さらには悪態を吐き捨てていく。こうなることを知っていた俺でも気分が悪い。
「なんだ、お前たち!」
さすがに見かねた響木監督が声を上げる。
「俺たちは伝説のイナズマイレブンなんだ!そしてここに!その伝説を夢に描いた子供たちがいる!」
響木監督の声にイナズマイレブンの面々は顔を上げていく。
「俺たちにはその思いを背負う責任があるんだ!その思いに応えてやろうじゃないか!本当のイナズマイレブンとして!」
「本当の、イナズマイレブン……!」
イナズマイレブンDFの浮島は昔を思い出す。馬鹿みたいに仲間たちとサッカーボールに向かって走り泣き笑い様々なことがあった日々。ああ、そうだ、俺たちはこんなもんじゃない。
「そうだ、俺達は無敵の、イナズマイレブン!」
高らかにそう叫ぶ。先程までの情けないやつらはもういない、ここにいるのは、
「証明しようぜ、伝説は真実だと!!」
──伝説そのものだ。
ボールを持ち上がっていく宍戸に対して、中間さんが圧力をかけるように動く。そこで宍戸はサイドから上がってきた少林にパスを回そうとするが、
「しまった!」
菅田さんがそこをしっかりカット。そして、そのままFWの民山さんにパス。
「『クロスドライブ』!」
「『真熱血パンチ』!」
ボールを受け取った民山さんはそのままゴールを狙う。それを俺が弾く。
「民山、いくぞ!」
「おう!」
「「『イナズマ落とし』!!」」
弾かれたボールは備流田さんの元へ。即座に民山さんと連携し上空からゴール目掛けてシュートを行う。
「っくそ!『真爆裂パンチ』!うがっ!」
貫くような稲妻に目を細めつつもなんとか止めようと動くが得点を許してしまう。
こちらのキックオフで再開。染岡が勢いよく切り込んでいきゴール前まで進んでいく。
「『ドラゴントルネード』!」
「ふっ、見せてやろう。これが元祖ゴッドハンドだ」
豪炎寺との連携シュートで同点、とはならなかった。響木監督がゴッドハンドを使い、ドラゴントルネードを止めたのだ。
「さあ、浮島、見せてやれぃ!」
響木監督がボールを大振りで投げる。その先にいたのは浮島さんと備流田さん。
「備流田ァァァァ!」
「おう!」
二人は挟むようにキックすることでボールにスピンをかけながら上げる。そして、そのボールに向かって備流田さんは上から、浮島さんは下からオーバーヘッドキックを同時に行う。
「「『炎の風見鶏』!!」」
ボールからは二対の炎の翼が現れゴールへと羽ばたいていく。俺はゴッドハンドで対抗するが、容易く破られてしまう。40年ものブランクがあり身体の衰えもあるというのに、この威力。全盛期がどれほどの威力だったか、想像するだけでも恐ろしい。
「浮島、もう一度見せてやるか!」
「おう!」
「「『炎の風見鶏』!」」
試合が再開し一進一退の攻防を繰り返していたが、ここでイナズマイレブンにシュートチャンスが訪れた。そして、先程同様に炎の風見鶏を使用し追加点を奪いにきた。
「止めてみせる!『マジン・ザ・ハンド』!」
今度は俺の手の平にボールは収まった。
「なっ、あれは円堂監督だけが使えたキーパー技……!」
「マジン・ザ・ハンド……!」
俺がマジン・ザ・ハンドを使ったことに驚くイナズマイレブンOB。それもそのはず、マジン・ザ・ハンドはイナズマイレブンの監督であった円堂大介だけが唯一使え、イナズマイレブンの正キーパーである響木監督ですらマスターできなかった技だ。円堂大介の孫だからと言ってこの技が使えるなんて想像できるはずがない。
試合が終わった。なんとかギリギリで1点を返せたものの届かず2-1で俺たちの負けとなった。
その後、OBの方々と色々な話をした後、せっかくお手本もあることだし何かイナズマイレブンの技を習得することになった。
まあ、当然イナズマイレブンの秘伝書に書かれてるのは、イナズマ落とし、イナズマ一号、炎の風見鶏だけではない。俺の知らない技がいくつもあったし、今回はそれを実際に見せてもらえた。そのため、何を教えてもらうか、ということはすごく悩んだ。
そして、話し合いの結果、技の威力が最も高かったことが決め手となり、炎の風見鶏になった。
挑戦するのは、風丸と豪炎寺。実際にプレイを見たOB達からの推薦による人選だ。
「うおっ」
「くそっ」
何度か試しにやってみるが、上手くいかない。OBのアドバイスをもらいながら調整を行なっていくが、それでも完成が見えてこない。
「じゃあ、お願いします!」
「よし、小僧どもしっかり見とけよ」
技の完成系を落ち着いて見たら何か掴めないか、そう思いもう一回お手本を見せてもらう。
「そうか!この技の鍵は二人の距離だよ!」
それを見て、気づいたのはベンチにいた影野。問題点を理解し豪炎寺と風丸に説明する。影野からの説明で得心がいき、なるほどという声を漏らす。
それを踏まえて再度挑戦する。
「『炎の風見鶏』!」
「見事……!」
そして、ついに炎の翼がゴールに突き刺さったのだった。
【?????】
「これが、これこそが神の力だ!」
そう言って放たれた赤いエネルギーを伴ったシュートは少女の腹に突き刺さる。少女は口から逆流した胃酸を吐き出すもなんとかその場で踏ん張る。威力を失ったボールは地面に落ち、コロコロと転がりながら戻っていく。
「もう分かっただろう、この圧倒的な力。そして、俺たちはそれに選ばれた。それなのに何故この力を受け入れられない?」
「君たちこそ、なぜ理解できない……?そんな紛い物の力に価値なんて……ない!」
「まだそんな世迷言を!『リフレクトバスター』!」
尚も否定する少女に向かって再度シュートを放つ。今度は耐えきれず少女の身体は吹き飛ばされ地面に叩き落とされる。それでも彼女は立ち上がる。彼女はメンバーの間違いを止めなくてはない。それがキャプテンである彼女のやらなくてはならないことなのだから。
「──もういい」
響き渡る低い声。それと同時にグラウンドにいたものたちは動きを止める。
「彼女は何をしても受け入れられないそうだ。ならば、彼女は諸君らのキャプテン、ましてやチームメイトではない。敵だ、神の力を得た諸君らの反逆者だ。そんな彼女に何をしてあげるべきか、聡い君たちなら言わずとも分かるだろう」
グラウンドにいる少年たちは即座にその言葉の意味を理解した。もはや加減はいらない。ニヤリと獰猛な笑みを浮かべ、彼らは与えられた絶大な力を外敵を叩きのめすため行使する。
(約束は守れそうにないな……すまない、円堂くん)
数々の必殺技によって引き起こされた災害と見間違う景色を視界に捉えながら、少女、アフロディの頭に最後に浮かんだのは、果たせなくなった少年との約束、それに対しての謝罪だった。
円堂大介のノートって実際どんだけの必殺技書かれてんでしょうね。あのページ数から考えると、登場してる数以上はありそうなんだよなぁ。
余談
憑依円堂くんは忘れないうちにノートに必殺技、化身についてまとめていたりします。未来ではそれが残ってたりします
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祝福と部室
「「『炎の風見鶏』!」」
「『真ドラゴンクラッシュ』!」
二つのシュートがゴールへと向かっていく。その両方が強烈な必殺技だ。全国を見てもこれを止められるキーパーは限られるだろう。
「『風神・雷神』!」
しかし、それを覆すように二体の巨人が手を突き出し両方とも止める。
今やっているのは、炎の風見鶏、ついでにドラゴンクラッシュと風神・雷神の反復練習だ。必殺技とは覚えれば終わりではない。むしろ、始まりと言っても過言はない。何度も繰り返し身体に馴染ませ進化させていかなければならない。
そういえば、風神・雷神が進化すればどうなるのだろうか。ゴッドハンドや熱血パンチのように真系進化になるか、それとも皇帝ペンギン2号などのV進化、はたまたG進化になるのか、予想がつかないな。
「よし、もう一本」
響木監督の言葉に続いて、炎の風見鶏とドラゴンクラッシュが再度放たれる。それをまた風神・雷神で受け止める。
うん、やはり炎の風見鶏は威力が上がってきている。正面から確認していた影野の目から見ても完璧だと言う。もしかすれば、フットボールフロンティア本戦が始まる前に進化するのは不可能じゃないかもしれない。
「あの車は……」
「まあ……」
みんなの目がある一点を向く。それに釣られて俺もそちらを見れば一台の高級車がそこにはあった。車の中からイナズマイレブンの一員であり雷門家の執事である場寅さんが出ていき、後部座席のドアをゆっくりと開ける。そこから現れたのは理事長だ。夏未の実父であり超多忙人。雷門中理事長だけでなく、中学サッカー協会の会長にフットボールフロンティア大会実行委員長までも勤めている。その忙しっぷりは、中学生であるはずの夏未が理事長代理として働かなくてはならないほど。
「諸君、全国大会出場おめでとう!」
理事長からの祝いの言葉に俺たちはありがとうございます、と返す。そして、次に響木さんが監督に就任したことに驚いたということが伝えられる。理事長さんは年齢的にイナズマイレブンの実際の活躍を目にしていたのだろう。その分、イナズマイレブンの一員であった響木さんの監督就任は俺たちより感慨深いはずだ。
「お父様、練習を再開したいのですけど…….……」
「いや、用事はもう一つあるんだ」
もう一つの用事とは部室のことだった。どうやら、夏未から部室が相当古いということを聞いていたそうだ。それもそのはず、この部室はイナズマイレブンが使っていたもの、つまり築40年物件だ。年季ものにも程がある。
「ほら、こんな落書きも残っている」
部室の中に入り響木監督が道具を退かし隠れていた壁に指を指す。そこには掠れてはいるが、しっかりと落書きが残っている。
俺と風丸と秋は1年の最初にこの部室を大掃除をしたこと際にこの落書きを目にしているためそこまで驚きはないが、他の皆は気づかなかったと声を漏らしている。
「ところで、これから部員が増えてくることも考えればこの部室は狭いのではないかね?」
実際その通りである。今の人数でも正直言ってギリギリだ。来年になったら部室から溢れること間違いなしだろう。何しろ、フットボールフロンティア本戦出場校であり40年間無敗だった帝国に黒星をつけた学校だ。どんな結果でも来年サッカー部目当てで雷門中に入学する生徒の数は予想もつかないほどの数になるはずだ。
「そこで新しい部室を用意したいと思っているのだがどうかね? サッカー部復活のお祝いと、全国大会出場のお祝いと思ってくれたまえ」
「……いえ、このままで結構です」
理事長の提案について少し考えた後、俺はそう伝えた。
この部室は俺たちが1年の頃からあり、練習試合すらできずやるせない気持ちを抱いていたときも予選を勝ち上がり歓声を上げていたときも常に雷門中サッカー部と共にあった。愛着が湧くのは自然なことだと思う。だから、せめてフットボールフロンティアの優勝トロフィーを飾るまではこの部室でいたい。
俺がその旨を理事長さんに伝えると、聞いていた他のメンバーも納得してくれた。夏未はまだここ使うの、という顔であったが。
「そうか、それならいいんだ。話は以上だ! 練習頑張ってくれたまえ!!」
理事長さんも良い答えを聞けたと思ったのか、俺たちが提案を拒否したのにも関わらず笑みを深くし激励の言葉をまた送ってくれた。
練習再開だ、と部室からでていく。宍戸を先頭に学年順だ。別にそう並んだわけではないが、自然とそうなった。
グランドに向かうまでの間、渡り廊下や教室からサッカー部への応援の声が浴びせられる。尾刈斗戦のときよりも声が多い。頑張った甲斐をより感じる。
「よーし、みんなフットボールフロンティアに向けてとことん練習するぞ!」
「「「「おう!!」」」
新部室を拒否した件だが、みんなには言われなかったが理由はまだある。雷門家には既にサッカー部に多額の支援をしてもらっているからである。イナビカリ修練場のリフォームのことだ。あれ、最近になって夏未に領収書見せてもらったが、心臓止まるかと思ったぞ。
雷門家、マジで廃スペックな人しかいないのほんとすごい。どうやったらこうなるのか知りたい……
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フットボールフロンティア、開幕!
いつも通り雷門サッカー部が練習している最中、夏未の携帯電話の着信音がグランドに鳴り響く。一体誰よ、と思いながら夏未は携帯電話を取り出す。電子画面に表示されていた相手はバトラー。彼から連絡など珍しい、と目を丸くしながら、通話ボタンを押す。
「えっ、お父様が……!」
携帯電話から伝えられたのは夏未にとって最悪とも言えるものだった。
覚束ない手つきで携帯の通話終了ボタンを押す。なんとか身体の震えを抑えようとするが儘ならない。
──理事長が病院に搬送された。
その報せがきたのは、理事長が俺たちを祝福してくれた日の次の日のことだった。
「バトラー、お父様は!?」
俺、夏未、秋は報せを受けてすぐに病院へと向かった。場虎さんによるとフットボールフロンティアスタジアムの下見の帰りに事故に遭い、同乗していた関係者全員が傷を負った。その中でも特に怪我が酷かったのは理事長だった。
「夏未さん……」
「……大丈夫、大丈夫よ」
大丈夫大丈夫、と繰り返し言う夏未だが、言葉とは裏腹にその姿はとても弱々しい。普段は理事長代理として堂々とし大人びた雰囲気の彼女だが、まだ中学生。そう簡単に立ち直れるものではない。
「夏未、今はお父さんについててやれよ」
「お父さんが目が覚めた時、一番最初に夏未さんの顔を見せてあげて」
俺と秋がそう言うと、小さくわかったわ、と返事がくる。
秋と場虎さんに夏未を任せて待ち合い室から出る。するとそこには見知った顔があった。
「鬼瓦さん」
「よう、坊主」
鬼瓦刑事だ。彼も理事長の事故を知り病院に訪れていたそうだ。
「お前はこの件をどう見る?」
「……明らかに出来過ぎています。大会関係者の下見の帰りの事故、全員が傷を負い、その中でも
「ああ、俺だってそう思う。だが、今のやつに手は──」
「出せない」
「そうだ。今、そう易々とやつは動くことはできない」
そういう考えか。だが、それはどうなのだろうか。長年、帝国の総帥をし中学サッカー界の頂点に立っていた影山。一度の逮捕で影山の地盤は崩れるだろうか。いや、ありえない。権力とはそう簡単なものではない。
鬼瓦さんにその考えを伝えると苦い顔をしながら考え出す。そして、何かわかったら連絡すると言って去っていく。
俺も別れの言葉を告げ雷門中に戻るべく足を動かす。話せるだけのことは話した。鬼瓦さんがなるべく早く影山の尻尾をつかむことを願うばかりだ。
「全国中学サッカーファンの皆様!遂にこの日を迎えました!今ここ、激闘の殿堂フットボールフロンティアスタジアムはかつてない激闘の予感に、早くも興奮の渦と化しています!フットボールフロンティア、今開幕!」
全国大会開会式。実況席に座るのは、普段雷門の試合を実況してくれる将棋部の角間の父親であり、知っているスポーツ実況者を聞かれたら間違いなく名前が上がるアナウンサー、角間王将。
「各地域より激戦を勝ち抜いてきた強豪チームが今日より日本一をかけてさらなる激闘に臨みます!一番強いチームはどのイレブンなのか!?今から紹介しましょう!」
そして、次々と呼ばれる各地区代表。名の知れた強豪ばかりだ。
「──続いて関東ブロック代表、雷門中学!」
「さぁお前たち、行ってこい!」
雷門中の名が呼ばれ、俺と豪炎寺を先頭に二列でスタジアムに入場する。
「雷門中学は、地区予選大会においてあの帝国学園を下した恐るべきチーム!伝説のイナズマイレブン再びと、注目が集まっています!」
一気に歓声が上がる。帝国を倒したという実績に加え、今でもそこそこ有名なイナズマイレブンの再来ともなれば納得できるが、これだけ大きな歓声となると少しこそばゆい。
「更に、昨年度優勝校の帝国学園が特別出場枠にて参戦!関東ブロックの地区予選決勝において雷門中と激闘を繰り広げながらも惜敗した超名門中学!特別枠にて王者復活を狙います!」
雷門中の次に現れたのは鬼道率いる帝国学園。威風堂々たる面付きで行進し俺たちの隣に並ぶ。
前を向きつつ鬼道と二三言、言葉を交わす。そうこうしているうちにほとんどの出場校が出揃った。
「そして残る最後の一校、推薦招待校として、世宇子中学の参戦が承認されております!」
推薦招待校という初めて聞いた枠に加えて、完璧に無名な学校の名前に誰もが困惑する。全員が世宇子中メンバーの姿を見ようとゲートへと目を向ける。しかし、そこからでてきたのは、プラカードを掲げ羞恥で顔を赤くした先導の女性職員のみ。
「えー、世宇子中学は調整中につき本日開会式には欠場とのことです」
わかっていたことだが、やはり開会式には出てこないか。ここで出てこないメリットなんてほとんどないが、同時にデメリットもない。とはいえ、一年振りにアフロディと会っておきたかったんだけどな。あの頃から彼女は変わってしまったかどうか、それを知っておきたかった。
「以上の強豪達によって、中学サッカーの日本一が決められるのです!」
あるものは優勝を、あるものは王者復活を、あるものはサッカーへの憎しみを、それぞれが千差万別の想いを胸に、全国大会の幕が上がった。
「いつでも出撃できるよう、オーガの調整をしておけ」
「ハッ!」
そして、全てを喰らい尽くす鬼もまた時空の先で静かに牙を研いでいた。
最近、オリ技使った方が試合のテンポ良くなるときもあるかも(帝国の皇帝ペンギン2号と分身デスゾーン、ツインブースト、オーバーヘッドペンギンのシュートチェインのときとか)と思ってたりする。だけど、扱い雑になりそうだからしたくないというジレンマ
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忍
トーナメント表が発表された。普通、こういうのって開会式前に発表されるもんじゃないのだろうか。
雷門中の初戦の相手は近畿代表の戦国伊賀島中だ。確か、監督が忍者の末裔で秘伝の忍術で選手を鍛えてるとかだったはずだ。なんで、忍ばず全国大会で忍術を披露してるんですかね……?
「皆、練習時間よ」
控え室に入ってきた秋が試合前のウォーミングアップの時間になったことを知らせる。もうそんな時間か。
「あれ、一体誰からかしら……?夏未さんからだわ」
さあ、出ようというタイミングで秋の携帯が鳴る。理事長の側にいるため不在の夏未からのメールのようだ。
メールの内容は、マネージャー業務をすることができなかったことへの謝罪と必ず勝て、というものだった。これには流石のみんなも苦笑い。とはいえ、夏未からの激励?もあり気合い十分だ。
「よしみんな、いくぞ!」
「「「「おう!!!」」」」
そして、ついに俺たち雷門イレブンは選手としてフットボールフロンティアスタジアムに足を踏み入れた。
さて、ウォーミングアップだ。大舞台といってもやることは変わらない。連携の確認に、実際にドリブルやシュートをしてグラウンドの質感に合わせて調整していく。
動きを見ているとみんなそこまで緊張していないのがわかる。俺と風丸は予想外の形で一度フットボールフロンティアスタジアムで試合しているためそこまで不安はなかったが、全員リラックスしてプレイできるようで何よりだ。
「豪炎寺!」
半田がボールを豪炎寺に回そうとする。しかし、上から影が現れボールを奪われる。その影は俊敏さを見せつけるかのようにフィールドを動く。満足にしたのか、影は足を止めてその姿を見せる。
「誰だ!?」
「お前たちに名乗る名はない!」
紫の忍び装束に身を包みキャプテンマークを巻いてる。彼は戦国伊賀島中のキャプテンである霧隠才次だ。雷門イレブンは俺と豪炎寺、音無、メガネぐらいしか対戦相手のこと調べないからな。みんなも知らないのも無理もない。まあ、調べても試合映像出てこなかったんですけど。
「豪炎寺修也、俺と勝負しろ!」
「何?」
「お前の噂は聞いている、天才ストライカーなんだってな。俺も足には自信がある。どっちが上か決めとこうじゃないか。ここからフィールドをドリブルして速さを競う。簡単だろう?」
なんで、ストライカーにドリブル勝負仕掛けてるんですかね?
というか、戦国伊賀島のウォーミングアップの時間は終わってるはずだから今は控え室にいないといけないはずだが。
「断る、迷惑だ」
豪炎寺は霧隠からの挑戦を断る。当たり前だ、この勝負を受ける理由がないからな。
「なっ、逃げるのか、腰抜けが」
腰抜けと煽ってくるが、豪炎寺には効かない。
用件が終わったのなら帰ってほしい。こっちのウォーミングアップの時間がどんどん削られていく。これ、審判に伝えたら時間延びないかなぁ……無理、そう。
「身勝手な行動をやめろ、霧隠」
戦国伊賀島のメンバーが霧隠を連れ戻しにきた。なんで君たちも上から来るんですかね……
「では、御免」
霧隠の無礼を謝罪するとそのまま霧隠含め戦国伊賀島の面はシュタッという音を残し目にも止まらないスピードで消えていった。
その光景にしばらくぽかーんとしていたが、気を取り直しウォーミングアップ再開だ。再び半田が豪炎寺にボールを回した。
こちらのウォーミングアップも終わり、試合開始の時刻となった。今回のフォーメーションは2-4-4のベーシック。帝国戦ではDFだった風丸をMFに戻しており、守備だけではなく攻撃にも参加してもらい炎の風見鶏でゴールを狙っていく。そして、風丸の代わりに影野がDFに入っている。
「ホイッスルが鳴り響く!試合開始です!!」
雷門のキックオフから試合が始まった。染岡がボールを持ち敵陣へと足を踏み入れるが、即座に戦国伊賀島メンバーが行く手を阻む。パスを繋いで上がろうとするが、戦国伊賀島の素早い動きによりそれは叶わない。どう攻めるかと苦難していると、霧隠がボールを奪った。
「伊賀島流忍法、『残像』!」
一気に霧隠が攻め上がっていく。それを止めようとマックスが動くが、霧隠が残像を生み出し避けた。
「いかせるか!」
「ほう、俺についてこられるやつがいるとは」
次に霧隠の前に立ち塞がったのは風丸。自慢の俊足を生かして霧隠に迫る。
「だが、まだまだだな!」
「何!?」
しかし、それを持ってしても霧隠を止めることは叶わない。そのまま、DF陣も抜き去りゴール前へ。
「伊賀島流忍法、『つちだるま』!」
霧隠がシュートを放った。ボールを土を巻き込みながら転がり一つの塊となる。印を切るように指を動かすと同時に、土塊が壊れ中から強烈なエネルギーを纏ったボールが現れた。
「『マジン・ザ・ハンド』!」
それをしっかりと受け止める。そして、ボールを繋いでいき前線の半田まで回す。ボールを受け取った半田は豪炎寺と共に上がっていく。
「伊賀島流戦術、鶴翼の陣!」
「承知!」
戦国伊賀島FWとMFが半田と豪炎寺を、鶴が翼を広げたような形の陣形でマークする。そのため、半田と豪炎寺は中央へと誘導される。その先にいたのは二人のDF。
「「伊賀島流忍法、『四股踏み』!」」
二人が技を発動させ、地面を揺らす。同時に発動された技は威力が倍増し豪炎寺たちは吹き飛ばされてしまう。
その後も戦国伊賀島の奇想天外なプレイに翻弄される。だが、雷門も負けていない。なんとかボールを奪いシュートチャンスを作る。ボールを持っているのは染岡。さらに豪炎寺もフリーだ。
「『ドラゴントルネード改』!」
「伊賀島流忍法、『つむじ』の術!」
染岡と豪炎寺が連携シュートを放つ。しかし、戦国伊賀島のキーパーが竜巻を発生させ威力を相殺させる。
ドラゴントルネードを止めるとは……戦国伊賀島のスピードも相当だ。これは一筋縄ではいかないな。俺たちは早速全国の実力を見せつけられていた。
戦国伊賀島戦を見直しつつ、シノビガミのリプレイ動画めっちゃ見てました。一週間忍関連の動画しか見てねぇ……
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疾風
「『分身シュート』!」
「ぐっ……!」
「円堂、戦国伊賀島の猛攻を凌いだぁぁ!そして、ここでホイッスル!前半終了、勝負は後半に持ち越されたぁ!」
戦国伊賀島のFW、柳生十郎が三人に分身しシュートを放つ。俺は押し込まれつつもなんとか止めることに成功する。それと同時に前半が終了した。
スコアは0-0、始まったときから変動はないままだ。そこからは互角のような印象を受けるが、試合の内容はまるで違う。戦国伊賀島は前半を通して5本シュートを放っている。それに対して雷門はドラゴントルネード以降シュートまで辿り着いていない。全く攻めることが出来ていないということではないが、戦国伊賀島の素早い動きに厄介な必殺技たちによって止められてしまう。
「やり辛いな」
「ああ、思ったようなプレイができねぇ……」
戦国伊賀島の厄介さはキーパーである俺以上にフィールドにいるみんなが感じている。
だが、戦国伊賀島には穴がある。前半に見た、四股踏みにつちだるま、分身シュート、その全てが一人技、
「さあ、いよいよ後半が始まります!どちらが先制点を手にし試合が動かすのかぁ!!」
後半が始まる。戦国伊賀島が猛攻を仕掛けてくる。
「くそ、速い!」
「遅い!」
一気にFW、MFを抜き去る。その前に立ち塞がった壁山だが、柳生が素早く動き左右から揺さぶりをかけあっさりと突破する。そして、そのままシュート、とはならなかった。
「なっ、こいつ、完全に気配が……!」
「ふふふ、通さないよ。『コイルターン改』」
壁山の巨体に隠れ気配を消していた影野が奇襲をかけボールを奪ったのだ。そして、ボールを前線に送るが、すぐに奪われてしまう。また攻めてくる。しかし、雷門も負けてはいない。
「『スピニングフェンス』!」
相手が分身フェイントで突破しようとするが、風丸が竜巻を発生させ分身諸共吹き飛ばしボールを奪い返す。そのまま前へとボールを運ぼうとするが、立ち塞がったのは霧隠。
「押し通る!」
「無駄だ、お前のスピードはもう見切った!」
風丸がどうにか抜こうと揺さぶりをかけるが、霧隠には通用しない。それに焦った風丸は強引に突破しようとするが、霧隠がその焦りをつきボールを奪る。
「伊賀島流蹴球戦術、偃月の陣!!」
ボールを奪った戦国伊賀島は新たな陣形を発動させる。
霧隠を中心に左右に展開し半月型の陣形で突進してくる。その勢いは凄まじく、巻き上げられた砂塵も相まって土色の槍のようにも見える。ボールを奪おうと宍戸たちが動くが、近づくことすら叶わない。
DFラインまでくると霧隠が飛び出してくる。
「『キラースライド改』!」
「『残像』!」
「『コイルターン改』」
「その手はもう見た!」
土門のキラースライドを残像で躱し、その先にいた影野のコイルターンも閉じ込められる前に残像を使うことで回避する。
「もらった!『つちだるまV2』!」
「させないっス!『ザ・ウォール改』!」
「ナイスだ、壁山、『真熱血パンチ』!」
必殺シュートが放たれるが、壁山のシュートブロックが入り俺のところに来る前に威力が大分下がった。なんなくそれをセーブ。
「もう一度だ、『つちだるまV2』!」
「ゴールは割らせない!『風神・雷神』!」
弾かれたボールは霧隠の足元へ。再度、シュートが放たれる。それに対抗し俺も技を発動させる。勝負を制したのは俺だった。両手でがっしりと掴んだボール、それを勢いよく投げる。
「いけ、風丸!」
「ああ!」
ボールは受け取った風丸はドリブルで駆け上がっていく。それに危機感を覚えたのか戦国伊賀島の面々が動き出す。
「伊賀島流忍法、『くもの糸』!」
「これ以上、あいつにダサい真似見せられるか!『疾風ダッシュ改』!」
糸が広がる前に風丸が疾風ダッシュで一気に突破する。勢いに乗った風丸は次々と相手選手を抜き去っていく。
「いくぞ、豪炎寺!」
「おう!」
「『炎の風見鶏』ィィィ!」
「伊賀島流忍法、『つむじ』の術!……ぬわぁぁぁッ!」
炎の鳥が舞い上がる。戦国伊賀島のキーパーはひるまずつむじを発動するが、それは炎鳥の羽ばたきを抑えることは叶わない。ボールと共にゴールへと押し込まれてしまう。
「ゴォォォォル!雷門、豪炎寺と風丸の鮮やかな連携シュートが決まり点をもぎ取ったぁ!」
1点先取。それに加えて試合残り時間はわずかだ。当然、戦国伊賀島もこの状況が意味することを理解している。キックオフと同時に霧隠が味方すらも置き去りにするスピードで駆け上がってくる。
そのスピードに追い縋るものが一人。
「行かせるか!」
風丸だ。疲労を感じだした足に発破をかけ霧隠へと迫っていく。
(くそ、どういうことだ……振りきれん……!)
さらに速度を上げる、ダメだ、これが最高だ。
左右に揺さぶりをかける、ダメだ、引っかからない。
緩急をつけて一気に、ダメだ、直ぐに調整された。
これなら、これなら……ダメだ。
「俺の方が速いはずなのに、なぜ!」
「足が速いだけじゃダメなんだよ!サッカーは!」
長い攻防の末、風丸が霧隠からボールを奪いとった。そのまま上がっていく。その姿はまさに一陣の風。
「豪炎寺!」
「『ファイアトルネード』ォォ!」
風丸のセンタリングに合わせて、豪炎寺が飛び上がり右足でボールを振り抜く。キーパーは反応できずゴールにボールが突き刺さった。
「試合終了!2-0で雷門中、一回戦突破だぁぁ!!」
「さて、と」
戦国伊賀島戦から一日が経ち、今度は観客としてフットボールフロンティアスタジアムに俺は訪れていた。
昨日の試合のときも観客席は埋まっていたが、今日はさらにボルテージが高いように感じる。それもそのはず。今日の対戦カードは
帝国-世宇子
王者の初戦である。
これにて戦国伊賀島戦終了です。
書きながら思ったんですけど、偃月の陣って攻略法あるんですかね。これ、確実にキーパー前までボール運べません?
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神対王者
試合への時刻が刻一刻と迫る。グランドには既に帝国の選手が現れ、ウォーミングアップを始めている。
「……!いつもより気合い入ってるな、佐久間」
「まあな。初戦だとしても油断はできない」
「ああ、しかし……」
源田が言い淀む。その理由は、佐久間だけでなくこのスタジアムにいる全ての人間が察していた。
なぜいないのか、それは帝国のメンバーですら分かっていない。前試合で怪我をしたというわけでもないし、当然彼が試合をサボるような人間ではない。そのような人間性であればこの帝国のキャプテンになることなどできない。それゆえに彼の不在が帝国に不吉さを感じさせていた。
「おい、でてきたぞ!」
「あいつらが……!」
ついに正体を現した世宇子イレブン。開会式、ウォーミングアップですら姿を見せず、推薦招待枠という今までにはない枠で出場するため地区大会などの試合の情報がない、全てが謎に包まれた彼らのベールがついに剥がされた。
そんな彼らの姿を見て、スタジアムで唯一俺は困惑していた。
(アフロディがいない、だと?)
そう、アフロディの姿がないのだ。
影山の性格から鬼道が試合に出れないよう細工をする可能性は考えていたためそこまで驚きはなかったが、彼女の姿がないというのは予想にすらしていなかった。代わりに入ってるのは誰だ?ベンチメンバーの誰かということまではわかるが、流石に名前までは覚えていない。
世宇子イレブンの前にドリンクが運ばれてくる。
(あれが、“神のアクア”か)
神のアクア、確か元々は軍事用のものを改良したドーピング剤。それを飲むことで超人的なパワーを得ているのだ。当然デメリットもある。それは飲んでから短時間しか効果がないのだ。そのため、試合の最中に何度も飲み直さなくてはならない。それって、欠陥ひ……いや、そもそもドーピング剤に欠陥もクソもなかったわ。
試合開始。帝国ボールからスタート、寺門が切り込もうとするが、世宇子イレブンを見て戸惑い足を止める。
「おーっと、世宇子イレブン、誰も動かない!まるでゴールを打ってください、と言わんばかりだぁっ!」
「舐めやがって……!それならお望み通り打ってやる!『百烈ショットV3』!」
動かずこちらをニヤニヤと見る世宇子イレブン。それに激昂し寺門は自身の実力を示すようにシュートを放つ。V3まで進化している百烈ショット、その威力は単独で打つシュートの中ではかなり高い。
「なん、だと」
しかし、ボールがゴールを揺らすことはなかった。世宇子のキーパー、ポセイドンが必殺技すら使わずに止めたのだ。そして、ポセイドンはボールを
どういうことだ、とポセイドンの方を見るとこちらを指で挑発している。その意図を理解した帝国イレブンの動きは素早かった。
「「「『デスゾーン改』!!」」」
「『ツナミウォール』!」
寺門、佐久間、洞面が飛び上がり、帝国の代名詞とも言える技を放つ。だが、ポセイドンが地面を叩き生み出した大きな津波が壁となりボールは力を失い落ちていく。
「だったら、今度はこれだ!」
ポセイドンから再びボールを渡された佐久間たちは怯まず動く。
「『分身デスゾーン』!」
「『皇帝ペンギン──」
「「──二号』!」」
デスゾーンと皇帝ペンギン二号の組み合わせだ。紫のエネルギーを纏ったペンギンがゴールへと突き進んでいく。
「『ツナミウォール』!ぐっ」
先程同様津波の壁を呼び出すが、ペンギンは止まらない。壁を押し破り、その先には──
「『ギガントウォール』!!」
巨大化したポセイドンがそこにはいた。ボールの上から拳を叩きつけめり込ませることで完全に止めていた。
流石にそれを見た帝国イレブンは表情を驚愕で染める。
「これじゃウォーミングアップにすらならねぇな」
「デスゾーンも皇帝ペンギン二号も通用しないなんて……」
帝国のシュートに興味を無くしたのか、ポセイドンは前線へとボールを投げる。受け取ったのはFWのデメテル。
「『アースクエイク』!」
「『キラースライド』!」
ボールを奪わんと帝国DFが襲いかかる。地上からはキラースライドが、上空からはアースクエイクが放たれる。
「愚かな……『ダッシュストーム』!!」
しかし、その必殺技は届かない。デメテルが発生させた突風が盾となり帝国の必殺技を防ぎ、また矛となりDFを吹き飛ばした。
「こい!」
「これが神の力だ!『リフレクトバスター』!」
デメテルが放ったシュートは、空中に浮遊した岩にぶつかり反射しながら威力を上げていく。そして、極限までエネルギーを得たボールがゴールへと襲いかかる。
「『フルパワーシールド』!」
ペナルティエリアそのものを覆うほどの衝撃波がボールの前に壁として立ち塞がる。しかし、
「馬鹿な……」
その衝撃波は容易く破られボールはゴールネットへ深く突き刺さった。
「世宇子中先制!王者帝国からあっさりとゴールを奪ったぁぁ!」
世宇子1-0帝国
そこからはまるでリプレイを見ているようだった。帝国のキックオフから始まり、世宇子がボールを奪いゴールを決めていく。変わっていくのは帝国の面々の傷だけだった。
「な、なんということでしょう!これで世宇子中、10得点目……!あの帝国が手も足も出ない!!」
気づけば電子掲示板のスコアは10-0を記していた。
「これで終わりだ!『ディバインアロー』!」
試合再開と同時にボールを奪ったヘラは一気にゴール前まで上がる。そして、ボールを連続で蹴り、最後は後ろ回し蹴りで止めと言わんばかりにシュートを放つ。
それに対し、源田が取った構えは今までのパワーシールドとは別物だった。
「『ビーストファング』!!!」
禁断の獣が神に牙を剥いた。
最近、他作者様みたいにあとがきにその話のキャラについて、を書くべきか迷ってる
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禁断解放
「『ビーストファング』!!!」
源田は両手を上下に構え前へと突き出す。その独特な構えはまるで肉食獣の口のようなイメージを思わせる。そして、その両手を神の矢の如く放たれたボールを喰らうように挟み込む。
「うがぁぁぁぁぁぁぁっ!」
獣のように吠える。
それもそのはず、ビーストファングは帝国学園で禁断の技として封印されたもの。封印理由は、大きすぎる反動。世代最強と謳われる源田ですら万全の状態でも一試合で二度が限度だ。
さらに源田の身体は世宇子の強烈なシュートを何度も受けている。そのため、ボロボロであり万全の状態とは程遠い。
「なんとしても……止めてみせるッ!!」
しかしながら、源田にはそのようなことは関係ない。彼にあるのは、自身の身体がどうなろうとボールを止めるという意志のみ。既に腕の感覚はなく、全身には激痛が走っている。それでも、腕を解くことはしない。
長いようで一瞬の拮抗の末、ボールは源田の両手の中で動きを止めた。
「神の力が……」
その結果に世宇子メンバーが呆然とし動きを止める。そのおかげか、源田の腕から零れ落ちコロコロと転がったボールは奪われることなく五条の足元へたどり着いた。
その瞬間、五条は反射的にボールを持ち走り出した。
「ッ!止めろっ!」
遅れて世宇子メンバーがそれに気づき、五条の進路を塞ぐ。
「『裁きの鉄槌』!!」
MFのヘルメスが作り出した巨大な足が神罰かのように五条に振り下ろされようとする。しかし、その光景を見ても五条は普段の不敵な笑みを崩さなかった。
「ククク……いきますよ、洞面君」
「任せてください……!」
「「『分身フェイント』!!」」
二人が同時に分身を作り出す。計六人となった彼らは高速でパスを繋ぐ。そのため、ヘルメスの狙いが定まらない。
「ここだ!」
「……ククク、残念でした、ボールはあちらです。では皆さん、後はお任せしますよ」
苦し紛れに巨大な足を振り下ろしたヘルメスに、五条はボールを持った洞面の姿を視界に捉えながら嗤う。そして、五条は笑みを浮かべたまま踏み潰された。
「寺門先輩!」
洞面は迫り来る世宇子の面々を小柄の体型を生かして突破し、ストライカーである寺門へとボールを渾身の力を込めて蹴る。
ボールを受け取った寺門。ゴールへと身体の向きを変える。しかし、その先にいたのはDFのディオ。彼は既に技の発動準備を終えており飛び上がる。
「『メガクェイク』!」
そして、急降下し地面にその巨体を叩きつける。帝国にも似た技──アースクェイクがあるが、威力はそれを優に超える。地割れが発生し、寺門の足元の地面が隆起していく。
「このボールはなんとしても……!佐久間ァ、任せたぞ!」
「何っ!?」
空中に投げ出された寺門は、ボールがディオの足元に行く前にヘディングで佐久間の方に打ち出す。その最後の悪あがきとも見える行為は確かにボールを繋いだ。
佐久間は眼帯で隠れていない左目でゴールを鋭く睨みつける。このボール無駄にはできない、繋いでくれた五条や洞面たち、自分に託してくれた寺門、身を犠牲にしてシュートを止めた源田、仲間たちのためにも。
だから、彼は──覚悟を決めた。
ピピィィィッ
佐久間の口笛がグランド中に音を響かせる。それと同時に地中から現れたペンギンは、彼が普段操る七色の色鮮やかなそれではない。
「なんだ……それはッ!」
そのペンギンは赤かった。ただそれだけのはずなのに、本能的な恐怖だろうか、見ているものたちは背筋に冷や汗が流れ鳥肌が立つ。
地中から赤いペンギンが飛び出し、振り上げられた佐久間の右足を啄んでいく。
「『皇帝ペンギン──」
その技はビーストファング同様、強大な威力と引き換えにあまりにも大きな負担があるため封印された禁断の技。そして、ゴッドハンドすら破ったあの皇帝ペンギン二号の原型となった技。
「── 一号』ォォォォォォォォ!!うがぁぁぁぁぁぁっ!」
その名は“皇帝ペンギン一号”。まさに必殺と言っても過言ではない、ハイリスクハイリターンの上で成り立つ技である。
「『ツナミウォール』!!何ッ!!」
呼び起こした津波の壁を容易く突破される。それに戸惑いの声を激しく上げながらも、ポセイドンは止めようとボールを両手で掴む。
「何だ、この力はっ!あんなボロボロの身体のどこにこんなパワーがぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」
だが、ボールの勢いが緩むことはない。ポセイドンの身体を吹き飛ばし、ゴールネットへ突き刺さった。
「ゴ、ゴォォォォル!帝国学園、ついに1点を返したぁぁっ!」
電子掲示板の0の表記が1へと変化する。それと同時にどさりという音がしていく。
最初に源田が、次に五条が、その次に大野が、また一人また一人と帝国学園の選手たちが次々に倒れていく。そして、最後まで立っていた佐久間も姿勢を崩していく。
「みんな……!」
いつのまに来ていたのだろうか。赤いマントをした自分たちの一番頼りになる彼がそこにいる、その光景を最後の最後に佐久間は視界に写した。
「すまない、鬼道さん。あんたが来るまで、待てなかった……」
そう言い残し佐久間は今度こそ倒れた。
「佐久間ァァァァァッ!!」
鬼道の悲痛な叫び声が静かなグランドに反響する。
世宇子10-1帝国
帝国学園の試合続行不可により、世宇子中の勝利。王者が姿を消した。
憑依円堂が一回も喋らなかった……
それに憑依円堂より帝国の方が主人公してる感ある……
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弊害
「帝国が負けた……ああ、嘘じゃない……すまん、かけ直す、まだ俺も頭の整理が追いついてないんだ……ああ、またな」
電話を切りその場に座り込む。はあ、と溜息が漏れる。
嫌になってくる。分かっていたことだ、理事長の事故だってあの帝国の惨状だって。ああ、わかっているとも、ただの中学生である俺がどうこうできるものじゃない。覚悟もしていたはずだ。それでも、やはり心にくるな。
しばらく座ったままで時が経ち、ある程度心の整理が着いたところでもう一度溜息を吐き立ち上がる。
「円堂、来ていたのか……」
「鬼道……」
スタジアムから出たところで、同じタイミングで鬼道も別の出口から出てくる。鬼道の表情は暗い。そのまま、俺は鬼道と道を無言で歩く。その状況が数十分続いた後、鬼道は口を開いた。
「40年間無敗の帝国学園。俺達はその伝説を終わらせたんだ。ただ勝つことだけは考えてきた……それなのに、ボールに触れる前に試合が終わっていたんだ」
先程の試合の光景を思い出す。倒れていく佐久間たち、それをちょうど見る形でグランドに入ってきた鬼道。仲間が倒れていくところを見るしかできなかったんだ、その絶望は計り知れない。
「寝ても覚めても、ずっとサッカーのことを考えていた。だが、こんな形で終わるとはな……俺のサッカーは、終わったんだ」
「……はあ、鬼道、ちょっとこい」
そう言って鬼道を強引に引っ張り近くの公園に入る。その公園は少し大きく遊具のエリアと野球やサッカーをするエリアに分かれていた。そこで、俺は持ってきていたボールを取り出す。本当は鉄塔広場で使うつもりだったんだが、まあいい。
「よっと」
「……なんのつもりだ?憐れみか何かならいらんぞ」
「んなわけねぇだろ、こいよ」
少し迷った末、鬼道はボールを弱々しく蹴る。
「そんなもんじゃねぇ、だろ!」
俺がボールを勢いよく鬼道へ投げると、今度は蹴り返してくる。それを俺は受け止める。
「ほらな、お前のサッカー、まだ続いてるみたいだぞ」
「……そう、だな。敵わんな、お前には」
心が軽くなったのか、鬼道は少し笑みを浮かべる。
その後、鬼道から家に来ないか、と誘われ鬼道宅で話すことになった。
鬼道の家は鬼道財閥ということもあって豪邸だ。なんか、俺がいると場違い感が半端ないな。
鬼道の自室まで通され、そこで古いサッカー雑誌を見つける。どうやら、鬼道の実父、実母の遺品であるようだ。
「家族の写真一枚すら残っていなかった。この雑誌だけが残ったんだ、これだけが父さんと母さんと繋いでくれる唯一のものだった。だから、俺はサッカーを始めたんだ」
「鬼道……」
「ボールを蹴れば両親と一緒に居れるような気がしたんだ。最初は楽しかったんだ」
だが、その純真な思いは周りによっていつのまにか変わっていった。サッカーは楽しいものから勝たなくてはならないものに、影山を神様のように思うまでに変化していた。
その許せない過去に鬼道は身体を震わせ手に自然と力が入っている。
「そういえば、お前はどうなんだ、サッカーを始めた理由」
「お前と同じような理由さ。家族にサッカーをしている人物がいて、その人に影響されて始めたんだ」
間違ったことは言ってない。ただ、それが平行世界の本来の円堂守というだけであって。
「次の相手は千羽山中だ!」
次の日、2回戦の相手となる千羽山中の対策を練っていた。千羽山中は山々に囲まれ、大自然に鍛えられたチームだ。うーん、この情報だけで見ると野生中と変わらないな。
「彼らは無限の壁と呼ばれる鉄壁のディフェンスで未だ得点を許していません」
あまりの防御の高さにみんなは声を失う。全国での無失点はそれほどまでに難しい。
「シュート力が難点ですが、そのディフェンスでここまで勝ち抜いてきたみたいです」
今までの千羽山のスコアを見て分かるが、大体1点とロースコアで勝ち進んでいる。点を取られなきゃ負けない、を体現したようなチームだ。
というわけでその鉄壁のディフェンスを壊すために練習を開始した。だったんだが、ミス続きだ。パスを出しても後ろを通り過ぎ、ボールをクリアしようとするもタイミングが合わず顔面に直撃してしまう。考えられないミスの連発だ。
理由は勿論わかっている。イナビカリ修練場だ。あそこは俺たちに身体能力や技術力の大幅な強化に役立ったが、今度はそれが仇となった。短期間で急激に成長したことで、その成長具合を感覚で把握しきれていないのだ。それによりいつもと同じつもりでしていても、パスが強くなっていたり高く飛んでしまっているのだ。
そのことを響木監督も理解しておりみんなに説明しているのだが、根本的な解決はできていない。
やっぱ微調整できるやつがいないうちは厳しいな。
その後も失敗続きで雰囲気が悪くなっていき、さらには豪炎寺と音無が所用で抜けてしまったため、これ以上しても逆効果というわけで練習が早めに終わった。
しょうがないから鉄塔広場の方で練習しようか、と思ったところで鬼瓦さんに呼び出された。指定された場所は稲妻総合病院。病院で何かあったけな?
「それでなんです、態々俺を呼び出した理由って?」
「……君に会ってほしい人がいる」
「誰に会ってほしいんですか?」
「君に会ってもらいたいのは亜風炉照美。帝国を負かした世宇子の元キャプテンだ」
ずっと思ってたんですけど、なんでイナビカリの弊害ってこのタイミングなんですかね?修練場で劇的パワーアップしてるのってそれより前のはずなんだが……
私のリアルの関係で来週の投稿はできるかわかりません。なるべく投稿できるように頑張りますが、できない可能性が大きいです。本当にすいません。
活動報告で憑依円堂に使わせたい技を募集してます
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=269366&uid=224876
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雷の門戸は開かれている
「君に会ってもらいたいのは亜風炉照美。帝国を負かした世宇子の元キャプテンだ」
「っ!?」
予想だにしない提案に目を見開く。ここでアフロディの名前を聞くことになるなんて……
「その顔は彼女を知っているようだな」
「ええ、まあ。ちょっとした知り合いです」
「そうか……ついてこい」
鬼瓦さんが病院内へと足を進める。言われた通り、俺はその後ろをついていく。そして、歩くこと数分後、俺たちはとある病室の前にいた。
扉の側にいた警官が鬼瓦さんに敬礼し扉を開ける。
扉の先には、無機質な部屋にベッド、そして、そのベッドに一人の少女が扉とは反対の方向を見ながら座っていた。俺たちが足を踏み入れるとようやく気づいたのか、こちらへとゆっくりと顔を向ける。
「ああ、久しぶりだね、円堂くん」
「アフロディ……」
その顔は以前見たよりも儚げで、今にも壊れそうだった。
「一体何があったんだ……?」
恐る恐るどうしたんだ、と聞くとアフロディは少し考えた後、口を開く。続いて飛び出した言葉は病室に静かに響いた。
「世宇子中は影山零治の支配下にある」
「始まりは一年前だった」
当時の世宇子中サッカー部はできたばかり、さらに言えば部員数も試合をするために最低必要な11人もいなかった。そのため、当然のことながら部費は雀の涙ほどで活動する場所もあまりなかった。
「それでも、サッカーは楽しかった」
仲間たちとボールを追いかけ、日々上達を感じる。不満はなかった。むしろ充実していたとまで言える。
「だけど、魔の手はすぐそこまで迫っていたんだ……!」
突如、多額の寄付金が寄せられた。誰からかはわからなかったが、練習場所も道具も足らなかった世宇子中サッカー部には有難い話だった。その寄付のおかげで世宇子はサッカー用のスタジアムを建設し、さらには多くの最新鋭のトレニーングマシーンを得た。
そのおかげでどんどん強くなっていった。試合をすること出来なかったが、自分達が全国でも上位に位置するレベルまで上がっていることは理解していた。
「いつしか、楽しさよりも強さに意味を見出すようになっていた」
練習中の笑顔は消え、誰もが力を、他者をものともしない圧倒的な力を手にしようとした。アフロディが間違いに気づいたときには、世宇子中はもう後戻りできないところまで来てしまっていた。
「そして、みんなは奴の手に落ちてしまった……!」
影山零治、彼からの誘いは圧倒的な力を求める世宇子中には魅力的すぎた。断るという選択肢は存在していなかった。
「そうして“神のアクア”が与えられた」
影山から与えられた神のアクアは世宇子中イレブンが望んでいた力を齎した。他者を隔絶する神のごとき力。その絶大な力は世宇子イレブンの心を染め上げた。もはや、神のアクア無しではサッカーできないほどにまでなっていた。
「これが世宇子中の真実だ。すまないね、円堂くん、こんなものを聞かせて。でも、君には知っておいてほしかったんだ。なんでだろうね」
アフロディは本当にすまないといった表情で謝罪をする。
「……アフロディはどうしたいんだ?」
「えっ」
自然と言葉が出ていた。
「どうしたい、って、もう僕には……」
「このままでいいのか?」
「いいわけない……いいわけあるか……」
「なら、諦めんなよ!」
「じゃあ、どうしろって言うんだ!?」
「やることは一つしかないだろ!」
それはなんだ、とアフロディがこちらの目を見る。やることなんて決まりきっている。
「サッカーだよ。サッカーをするんだ。そして、世宇子の奴らに証明するんだ、神のアクアなんて必要ないって!」
河川敷、そこにはとある二人の男の姿があった。
「鬼道!!そんなに悔しいか!!」
「悔しいさ!! 世宇子中を、俺は倒したい!!」
鬼道と練習中に姿を消した豪炎寺だ。二人はボールは蹴り合い、思いの丈を叫ぶ。
「だったらやれよ!!」
「無理だッ!」
帝国学園は敗れた、それは揺るぎない事実だ。どうあっても覆すことはできない。帝国学園の鬼道がフットボールフロンティアのフィールドに立つことは不可能だ。
「自分から負けを認めるのか、鬼道!!」
鬼道の諦観に対し、豪炎寺はファイアトルネードを放つ。ボールは鬼道の真横を通り過ぎ、側面の原っぱに衝突しいくらか抉ったところで動きを止める。
「一つだけ方法がある」
そう、敗退した学校の選手がフットボールフロンティアの試合に出る方法が一つだけあるのだ。
「お前、円堂に後ろを預けてみる気はあるか?」
「何を言って……まさか」
鬼道はその言葉の意図に最初は困惑したが、すぐに気づいた。思い当たるものがある。フットボールフロンティアの大会規定のとある一項。そんなことする選手などいない、馬鹿げた規則だ、とそう思っていた。
偶然か必然か、場所も全く違うのに示し合わせたかのようにその言葉は円堂と豪炎寺の口から同時刻に紡がれた。
「アフロディ──」
「鬼道──」
「「雷門に来い」」
その提案は二人の運命を大きく変えた。
初めて週一投稿休んで、先週めちゃくちゃ不安になってました。そして、定期更新しないと気持ちが落ち着かない自分がいて驚きました。
それと技募集、送っていただきありがとうございます!まだまだ募集しているので、どしどし送ってください!
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無限の壁
フットボールフロンティア2回戦。既に対戦相手の千羽山中は準備を終え、ポジションについている。対する俺たちは未だにベンチにいる。
「監督、いい加減にしてください! 誰を待っているって言うんです!?」
「このままじゃ俺ら、棄権になっちゃうっスよ!!」
審判から後3分で試合を開始できなかったら千羽山の不戦勝になると告げられ、皆んなは次第に焦り出す。対照的に事情を知っている俺や豪炎寺は静かに待っている。まあ、同じく事情を知っている音無はあわあわしているが。
マネージャー陣も監督に何か言おうとするが、それを雷門では珍しい金の長髪の彼女が静止する。
その彼女とは、アフロディ。俺と病院で会った後、世宇子から雷門に転校したのだ。今試合では雷門全体の動きを見るためと病み上がりのため、試合に出場しないことになっている。
残り30秒となったところで、耳にカツンカツンという音が近づいてくる。そして、その音の正体がグランドに現れた。
いつもの赤とは違い青いマントをはためかせ、特徴的なゴーグルが日光に反射してきらりと光る。
「鬼道です!間違いありません!帝国学園の鬼道です!」
その姿にスタジアム中から驚愕の声が上がった。その響めきが収まったところで、今度は批判の野次が飛び始める。しかしながら、ルール違反はしていない。
第64項第2条、"試合開始前に手続きを済ませた場合、他校からの移籍を認める"
ちゃんとフットボールフロンティアの規約に書かれていることだ。このことが解説から伝えられるとその野次が次第に鳴りを鎮める。いや、民度良すぎないか?ルール違反じゃないとはいえ、大分非難されるようなことしてる気はするんだが。
鬼道も来たことだし、そろそろポジションに着かないとな。他校の、それも前優勝校からの移籍という運営が予想してなかったイレギュラーのおかげで、本来の時間を過ぎてるにもかかわらず棄権扱いにはなっていなかったが、流石にこの時間超過は不味い。
「じゃあ、鬼道任せたぞ」
「ああ、任せておけ」
鬼道と言葉を短く交わしそれぞれのポジションへ。そして、ホイッスルが鳴った。
「さあ予想外の展開もありましたが、今ホイッスルが鳴り響き2回戦、試合開始です!!」
染岡から豪炎寺に渡りそのままボールを下げる。その間に前に進んでいた染岡に戻そうとする。
「っ!?弱い!」
しかし、染岡に届く前に地面に落ちそのボールは千羽山の8番、大鯉に拾われてしまう。幸いにもゴールに辿り着かれる前に風丸が奪い返せたが、まずい状況はまだまだ続く。何しろ、先程同様パスが繋がらないのだ。
「『ラン・ボール・ラン』!」
ボールを持った千羽山のキャプテン、原野はボールに乗り足を走らせる。そのスピードは一気に速くなり砂煙を起こしながら進んでいく。土門がそれを阻止しようと動くが、一歩手前でボールから離れ躱される。そして、ボールはその勢いのままゴールへと突き進んでいく。
「『ザ・ウォール改』!」
壁山が土壁を出現させそれを弾く。栗松に拾うよう声をかけるが、ボールは想定よりも大きく飛んでいく。その先にいたのは相手のFW、田主丸。
「『シャインドライブ』!」
シャインドライブ、右足を極限まで発光させシュートを放つ技だ。発光させることにリソースを割いてる分威力自体は低いが、相手の視界を奪い一点を確実に奪うという奇を衒った必殺技だ。今までの試合、1点さえ奪い後は無限の壁でひたすら防御すれば勝ちだった千羽山にはぴったりな技だろう。だが、甘い。
「視界を奪われてもやりようはある!」
拳を地面に叩きつける。
イメージするのはまだ先の必殺技、『イジゲン・ザ・ハンド』。当然、今の状況でそれそのものを扱うことはできないが、超劣化版ぐらいならできる。
薄い膜が張られ、ボールがそれにぶつかる。
「そこ!」
これなら視界が奪われていても、膜とボールの接触音で位置がわかる。それさえ分かれば後はどうとでもなる。
「雷門、千羽山の怒涛の攻撃を見事防いだぁ!しかし、ボールはタッチラインを超え外へ。千羽山のスローインです」
一番良い結果ではないが、止めれたし連続でシュート打たれていないしよしとしよう。
スローインに合わせそれぞれの位置に着くが、栗松たちの位置が若干違う。恐らくだが、鬼道の指示だろう。
千羽山の根上がボールを投げ試合再開。また攻め込んでくるが、それは栗松が素早い動きでカットする。
「栗松、土門にパスだ!3歩先!」
栗松は戸惑いつつも、鬼道の指示通り普段より強くパスを出すとボールは吸い込まれるように土門の足元へ。その後も鬼道がアシストしどんどんボールが回り始める。
そして、ボールはマックスから染岡へ。
「ドンピシャだぜ!『真ドラゴンクラッシュ』!」
「『まきわりチョップ改』!」
千羽山のGK、綾野は飛び上がり龍を纏ったボールに手刀を叩きつけゴールを防いだ。流石に今大会無失点の壁は伊達じゃないか。
とはいえ、こちらの連携が通るようになったのは僥倖だ。
「鬼道、すげぇな」
「ふっ、このぐらい動作もない。俺はお前たちのズレを修正にしたに過ぎん」
鬼道のそれだけが俺たちには微塵も出来なかったんだが。え、紅菊もできるって?聞いてない。
雷門のスローインから再開。パスを繋いでいく。そして、風丸からマックスへとボールが渡る。
「「「かーごめかごめ……」」」
マックスを千羽山の三人が囲みながら、両手を広げゆっくりと円を描くように歩く。マックスがボールを他のメンバーを渡そうとした瞬間、三人が飛び上がり一斉にスライディングをしかけた。これを躱すことを流石のマックスもできず、ボールは奪われてしまった。だが、そこは鬼道がすぐさまカバー。スピニングカットで奪い返す。
「染岡!」
そして、染岡へとパスを出す。受け取った染岡はすぐさまボールをボールを上空へと飛ばし自身も追うように跳躍する。
「『ドラゴンキャノン』!!」
赤竜がゴールへ向かって突き進んでいく。さらにその先には飛び上がっている豪炎寺が。
「『真ファイアトルネード』!」
シュートチェインだ。赤竜は炎を纏い咆哮を挙げる。
対する綾野は仁王立ちでどっしり構え、両脇をDFの牧谷、塩谷が固める。
「「「『無限の壁改』!!!」」」
ゴール前に巨大な石壁が展開される。その壁にボールがぶつかると、張り合うことなく威力を失う。
「未だ無失点を誇る千羽山の無限の壁!雷門の連携シュートをあっさりと止めてみせたぁ!そして、ここでホイッスル、前半終了です!」
さて、あの無限の壁をどう破るか。俺も後半はイナズマ一号などを狙うためちょこちょこ上がるべきかどうか、そう考えながらベンチに向かっていった。
超劣化版イジゲン・ザ・ハンド
必殺技ではない。イジゲン・ザ・ハンドのように気のドームを生成することはできるが、それは薄くまたシュートを逸らすほど滑らかではない。今回は威力が低いシャインドライブだったためなんとかなったが、別の技だとすぐ破られてしまう。
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雷門のサッカー
ハーフタイム、試合はこちらが優勢となってはいるがメンバーの表情はやや固い。その理由はやはり千羽山の無限の壁だ。今まで無失点だったことに加え、染岡と豪炎寺の連携技すら決まらなかったことが衝撃だったのだろう。
「後半は染岡のワントップで行こうと思う」
これからどう動くか、と思っていると鬼道からそう提案が入る。どうやら、染岡を使って塩谷を引き離し無限の壁を使用不可にさせる作戦のようだ。
「待てよ!豪炎寺を下げるって本当にそれで良いのかよ!そんなの俺たちのサッカーじゃない!豪炎寺と染岡のツートップ、それが俺たちのサッカーだろ!」
半田がそう反論する。雷門は基本的に豪炎寺と染岡のツートップのフォーメーションを使っていた。メガネも入っていることがあったが、それも数回だ。その基本形を崩すとなると不安になるし、それをいきなり参戦した鬼道がするというのが快くない気持ちは分からんでもない。
「分かってないな。いいか!ここはフットボールフロンティア!全国の強豪が雌雄を決する全国大会!そのピッチにお前たちは今立っている!もうお仲間サッカーをしている場合じゃない!」
鬼道がそう言い放つ。キツイ言い方だが間違ってることは言ってない。それを分かっているからこそ、誰も反論できない。
「……任せたぞ」
「おう!」
「豪炎寺!?」
その作戦のキーである染岡、豪炎寺が了解したことで、半田も納得はしていないものの渋々反論を取り下げた。
後半開始。千羽山のキックオフからスタートしたが、早々に鬼道がボールを奪う。そして、そのままキープ、その隙に染岡が上がっていく。
「そうはいかないっぺ!」
作戦通り、塩谷が染岡の動きに誘われゴールから離れていく。これなら。
鬼道がボールを上げると同時に飛び出したのは豪炎寺と風丸。
「おーっと、炎の風見鶏だぁ!千羽山、逆を突かれた!」
「『炎の風見鶏』ィ!!」
炎翼がゴールへ向かって羽ばたく。誰もが決まった、そう思った。しかし、その結果は違った。
ボールが突如現れた壁にぶつかる。そう、
「速い!」
それだけじゃない。塩谷は自分がすぐに戻ってこれる範囲までしか動いていないのだ。塩谷自身が間に合ったことに安心してるため感覚的なものだとは思うが厄介だな。
「豪炎寺!壁山!」
「『イナズマ落とし』ィ!」
ボールをすぐさま回収。再度、連携シュートでゴールを狙う。しかし、無限の壁は固い。上空から放たれる青雷ですらヒビが入らない。
「そう何度もやらせないっぺ!」
今度は千羽山がボールを繋ぎ、カウンターを仕掛ける。
「『モグラフェイント』!」
「しまった!」
叩きつけられたボールはもぐらのように地中を進み、マックスの後方から飛び出し抜き去られてしまう。
田主丸にボールが通る。そして、前半同様あの必殺技が放たれる。
「『シャインドライブ』!」
光が視界を覆い尽くす。だが、これの対処法は既に分かってるしみんなに伝えてある。
「うう……ス、『スピニングカット』!」
栗松が目を細めながらもなんとかスピニングカットを展開する。発生した青い衝撃波がボールを受け止めた。
やはり、広範囲のブロック技だったらなんとかなるな。
試合が進み、どちらも一進一退の攻防を見せる。
「円堂!」
鬼道に呼ばれ上がっていく。キープしていた半田からボールを受け取りそのままゴール前へ。
「『イナズマ一号』!」
豪炎寺と同時にキックし、イナズマ一号が放たれる。だが、それも無限の壁を破ることはできない。ただ、想定外の威力だったためか、ボールは綾野の想定を超えラインから外に出て行く。
俺はゴールの方へ戻っていこうとする。そのとき、みんなの暗い表情が目に入った。
「みんな、なんて表情してるんだ!時間はまだ残ってるぞ!」
俺が鼓舞するようにそう言うが、表情は未だ暗い。
「でも、無限の壁を破れないんじゃ……」
「これじゃあもう……」
「諦めるな!俺たちはいつだって不利だった!尾刈斗中の時も、野生中の時も、御影専農の時も、帝国の時も、戦国伊賀島の時もだ!!一度だって、俺たちが苦戦しなかったことはなかった!それでも諦めず、前を向いて一生懸命がむしゃらにやってきたからここまで来れたんだろ!」
俺がそう言うと段々と顔を上げていく。そうだ、そうでなきゃ。
「俺たちのサッカーはどんな状況でも諦めない!なら、最後の最後までやるんだ、俺たちのサッカーを!!」
「「「「おお!!」」」」
残り時間は後10分。ここから、雷門の猛攻が始まる。
パスでボールを繋ぎ隙があれば即シュート、止められたとしてもすぐに奪い返しまた攻める。怒涛の攻撃だ。しかし、千羽山も負けじとゴールを死守する。
「くっ」
半田から鬼道にボールが渡るが、即座に囲まれる。周りを見渡すが、パスできそうな面子はいない……いや、いる。
「鬼道!!」
俺だ。ゴールからこちらへ走ってきた俺はノーマークだ。鬼道はそれを見て迷うことなくボールをあげる。
そのボールは紫のエネルギーを纏いある程度上がったところで、稲妻を纏って落下していく。
もはや言葉などいらない。それに合わせ、俺、鬼道、豪炎寺が同時にシュートする。とてつもないエネルギーを内包したそのボールはゴールへ向かって突き進んでいく。
綾野たちは焦らず、これまでどんな相手の攻撃も跳ね返してきた難攻不落の鉄壁を発生させる。
無限の壁とシュートが衝突する。シュートはその威力を証明するかのように四方に小さな稲妻をボールから発する、事実それは止まることなく進んでいく。そして、ついにそのシュートはあの無限の壁を破った。
「な、なんと……無限の壁が破られた!ついに千羽山失点!無失点記録が途絶えたぞぉ!」
ゴールへと入っていったボールを誰もが信じられないものを見るかのように見るなか、実況の王将の言葉によりようやく現実を認識しだす。
「よっしゃぁぁぁぁ!」
遅れて歓喜の声が出る。ようやく破ることができた。
だが、まだまだ時間はある。油断せずに行こう。
その後、無限の壁を破られた千羽山は動きに繊細さが欠け雷門が追加点を得て2-0で勝利し、準決勝へと駒を進めたのだった。
「やつらが本格的に動きはじめた」
「っ!?だけど、こちらの対抗するためのプランは……」
「時間軸に想定外の歪みが発生している。これでは、そこから先の時間軸から連れてくることは不可能だ」
「くそ!このままじゃ、曾祖父ちゃんたちが」
「一つだけ考えがある」
「考え?それは一体……?」
「歪みが発生しているのは縦の時間軸のみだ。ならば、
「横……まさか、
「その通り。平行世界から盤外のジョーカーを連れてくるんだ」
【重要なお知らせ】
今話の終わり方的に察した方も多いでしょうが、なんと『憑依円堂列伝〜TS娘と時々未来人〜』がコラボすることになりました!!
そして、コラボさせていただく作品群はこちら!!
Re:雷鳴は光り轟く、仲間と共に
URL:https://syosetu.org/novel/263086/
超次元な世界では勘違いも超次元なのか?
URL:https://syosetu.org/novel/260587/
かき集めた部員が超次元な奴ばかりだった件について
URL:https://syosetu.org/novel/195158/
この三作品とコラボします!!
どの作品も私が何周も読んでいたものなのでコラボできることがとても嬉しいです。
この場をお借りしてコラボを承諾してくれたあーくわん様、ウボァー様、低次元の領域様に感謝の意を表します。ありがとうございます!
また、コラボできるほどこの憑依円堂列伝が成長したのは読者の皆様のおかげです、本当にありがとうございます!
コラボ話は12月中を予定しております、お楽しみに!!!
【普通のいつもの後書き】
Q:なんで平行世界いけんの?
A:どっかのバカが残したノートに記されていたとあるストーンを解析したから
さて千羽山戦までおわりフットボールフロンティア編も終わりに近づいてきたな、と感じますね。年内にFF編完結、来年は侵略者編って形なりそう
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駆けるペガサス
千羽山を破り準決勝に駒を進めた雷門イレブン、彼らは現在グラウンドで各々のズレを修正しつつ技能の向上を図っていた。前回の試合では鬼道のおかげでなんとかパスが通ったが、流石に今後の試合ではそうはいかないだろう。
半田からボールが染岡に渡り、ドラゴンクラッシュが放たれる。それを俺が熱血パンチで弾く。やっぱり、必殺技を使いながらの練習はやる気が湧くな。
「おーい、そのボールこっちにくれないか」
弾かれたボールの先にいたのは一人の男性。俺たちと同じくらいの年齢に見えるが、雷門の制服を着ていないとこを見ると見学者だろうか。
彼は弾かれたボールを見て、なぜかドリブルを開始する。突然の行動に戸惑っていたとはいえ、レベルで言えば全国レベルの雷門イレブンを次々に抜いていきゴール前へ。そして、彼は逆立ちし回転する。その回転は空気の渦を発生させ、その勢いのまま浮き上がったボールを蹴った。
「『真スピニングシュート』!」
打ち出されたシュートの威力は相当なもの。俺はなんとかマジン・ザ・ハンドを使い止めることに成功するが、これゴッドハンドだったら危なかったな。
「流石、アメリカ代表候補だな」
「あれ、俺のこと知ってるの?」
「当たり前だ、鬼道」
「ああ、俺も聞いたことがある。将来アメリカ代表入りが確実視されてる天才日本人プレイヤーがいるとな」
彼の名前は一之瀬一哉。最近、日本人ながらアメリカのジュニアユースチームの代表候補に選ばれたフィールドの魔術師の異名を持つ天才プレイヤーだ。
そんな彼がなぜ雷門に来ているのか、その理由は友人に会いにきたとのこと。
「ねぇ、何してるの?」
一之瀬を中心にワイワイしていると、後ろから声をかけられる。そちらを振り向けば、秋と土門がいた。二人はアメリカから友人が来るとのことで迎えのために空港に行っていたのだ。
そして、それと同時に輪の中心から飛び出し一之瀬が秋に抱きついた。おお、大胆。
「お前、何をっ!?って、あっ!?」
土門が急の事態に声を荒げるが、何かに気付き口を止める。
「久しぶり、俺だよ」
「一之瀬君……!」
「ただいま、秋」
このやりとりから分かる通り、一之瀬が待っていたのは秋と土門だ。
三人は幼馴染だ。しかしながら、秋と土門は一之瀬が亡くなっていると思っていた。それは、一之瀬自身が父親に周りに死んだと伝えるよう頼んでいたからだ。彼は事故に遭い、それが原因でサッカーをすることができないと医師に告げられた。そんな姿は皆に見せられないと考え、いなくなったと思わせていたようだ。現在では、厳しいリハビリを乗り越えサッカーに復帰したそうだ。
色々三人だけで話したいこともあるだろう、と考え俺たちは三人を残し練習を再開した。1時間経ったぐらいでそろそろ大丈夫だろうと思い、一之瀬たちを練習に誘うと快く引き受けてくれた。
一之瀬の実力は相当高く、皆が妨害に入っても全然止めることが叶わない。一之瀬のプレイについていけているのは、鬼道とアフロディぐらいだな。
「やるな」
「君こそ!」
一之瀬の左右の揺さぶりに、鬼道は惑わされず冷静にボールを追う。一之瀬がヒールリフトで浮かせた瞬間、鬼道も飛び上がる。しかし、ボールには回転がかかっており、鬼道がトラップする前に軌道を変える。すごい対決だ。
「んじゃ次は俺とやろうぜ」
その次にやったのは俺とのPK対決。最初のうちは歯が立たなかったが、回数を重ねるうちになんとか止めれるようになっていく。一之瀬もそれに合わせてギアを上げていく。その結果、1時間もPKを続け15対15となっていた。流石にこんだけやると疲れが酷いな。
「この出会いにやりたいことがあるんだ」
休憩をしている最中、一之瀬からとある提案をされる。それは、彼らの思い出の技『トライペガサス』の再現。元々は一之瀬と土門、そしてここにはいないもう一人の幼馴染で完成させた三人技。
拒む理由もないため、その提案を即座に受け入れた。
それで、早速やってみたのだが。
「ま、また失敗か……!」
百回以上の試行を重ねても成功しない。そもそも、トライペガサスはトップスピードで走る3人が1点で交差することで力を集中させることでできる技だ。元々アメリカでこの技を使っていた一之瀬と土門は完璧なのだが、俺がそれに合わせきれていない。
「もう一回やろう」
「ああ」
さらに試行を重ねていくと、150回目辺りで青いペガサスが現れる。しかし、すぐに消えてしまう。俺のズレがちょっとずつ修正されてはいるが、最後の一押しがまだできていない感じだ。日が暮れるまでやったが、結局トライペガサスが成功することはなかった。
次の日、またトライペガサスのために、俺、一之瀬、土門はグランドに立っていた。一之瀬は午後の飛行機でアメリカに帰ってしまう。それまでには完成させないとな。
「Go!」
一之瀬の合図と共に走り出す。三人が交わりペガサスが現れる。後は上空のボールを蹴るだけだが、飛び上がっている最中にペガサスはその形を崩し行き場を失ったエネルギーが俺たちを襲う。
「これでもダメか……!」
完璧なタイミングだと思ったが、認識できないほどの小さなズレがあったのだろう。
「時間はまだある。どんどん行こう!」
何回もやるが、ペガサスが形を最後まで保つことはない。タイムリミットはどんどん近づいてきてる。どうしたものか。
「ん、秋?」
「私が目印になる」
そんな失敗続きの中、秋が前に出てきてそう言った。
秋が三人が交差できるようポイントに立つ。確かに効率的なやり方だが危険だ。壁山たちが止めに入るが、秋の意志は固い。いや、どちらかと言うと俺たちの成功を信じてる、そんな気がする。
「あのときと同じだな」
一之瀬によると、過去にトライペガサスを習得した際も秋がポイントに立ったことでタイミングがばっちりになったらしい。
「チャンスはこの一度のみ……Go!」
「「おう!!」」
秋がポイントに立ったのを確認したのち、同時に走り出す。
「絶対に成功させる!」
そして秋の隣で交差、その瞬間蒼炎が現れペガサスを形作る。上空に現れたペガサスは鳴き、その姿を霧散することなく存在を示す。
「「「うおおおおっ!いっけええええええ!!!」」」
同時に俺たちがボールを蹴り込み、ペガサスは翼を羽ばたかせる。そのまま駆けていきゴールネットを揺らした。
「よっしゃ、成功だぁ!」
「やったな、円堂、土門!」
成功を喜び抱き合う俺たち。その中には栗松たちもいる。彼らは万一何かあったとき秋を守れるように動いていたのだ。
彼らだけじゃない、見守っていた鬼道たちも担架や救急箱を準備していた。
「このチームは最高だよ……!君たちに会えて本当によかった!」
「あれじゃないか」
夕日がグランドを照らす中、上空に飛行機を見つける。恐らく、あれが一之瀬が乗る飛行機だろう。
「また、一之瀬ともサッカーしてぇな」
「ああ、そうだな」
「うん、やろう!」
俺の言葉に豪炎寺が返し、続けて後ろからも返事がくる。
「ええっ!?」
振り向くとそこにはなんと一之瀬が。本来なら飛行機に乗っているはずの彼がなぜかここにいることに皆は驚きの声を上げる。
一之瀬曰く、今回のトライペガサスやPKなどを通して雷門でサッカーをしてみたいと思ったそうだ。
「なら歓迎するぜ、一之瀬!」
「ああ、よろしくな、円堂!」
新しい仲間が増えたことで皆は歓喜する。新加入した一之瀬を中心にワイワイしていると、音無が走ってやってくる。どうやら、準決勝の対戦校が決まったらしい。
「つ、次の対戦相手は木戸川清修です!」
その学校は豪炎寺の古巣であった。
「ところで、豪炎寺」
「ん?」
「木戸川の人たちに転校の理由話しとけ、って言ったはずだけどちゃんとしたか?」
「…………」
「おいこら黙るな、こっち向け」
前回の後書きでコラボのお知らせをしたと思うんですが、なんとウボァーさんがコラボの前日譚を書いてくれました!是非読みに行ってください!
URL:https://syosetu.org/novel/260587/20.html
久しぶりに杯企画をやります!
今回はイナイレ杯です。概要は私の活動報告にありますのでご覧ください!
URL:https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=271320&uid=224876
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三兄弟
一之瀬の加入から数日後、俺と豪炎寺と鬼道は雷門中付近の公園で話していた。いつもならこの時間は練習をしていたのだが、流石にここ最近練習しすぎてたようで響監督から今日は休むように、とお達しがあった。
「こちらのスタイルはカウンター主体になるだろうな」
次の対戦相手である木戸川清修は、二回戦の相手であった千羽山と真逆のオフェンス重視のチームだ。そのため、鬼道は次の試合の戦術をカウンターで考えたようだ。
「円堂は守備の徹底を、豪炎寺は攻守の切り替えに注意してくれ」
「任せておけ!」
「……ああ」
豪炎寺の返事にいつもの覇気がない。普段の練習では気にしてない様子だったが、やはり次の相手が元チームメイトというのは中々くるものがあるだろう。
なんか気分転換ができるようなものがあれば、この近くでそういうのはあまり詳しくないんだよな。何しろ小学生時代はずっと河川敷でサッカーしてたせいで、駄菓子屋にも全然行ってなかったからな。精々、雨の日にカードゲームしていたぐらいだ。
「よし、作戦会議は一旦終了。気晴らしに少し歩こうぜ!」
「なっ、おいちょっと待て……ったくしょうがない、俺たちも行くぞ」
「ふっ、ああ」
「久しぶりだな。決勝戦から逃げたツンツン君」
しばらく散歩をしていると、とある三人組に呼び止められる。
「俺たちは武方勝!」
「友!」
「努!」
「「「3人合わせて武方3兄弟!!」」」
そう名乗りをあげポーズをとる三人。彼らは木戸川清修のスリートップだ。確か、原作だと彼らは駄菓子屋に行ってるはずだが……ちゃんと行ってるわ、制服のポケットからいくつかの駄菓子がはみ出してる。
「んで、なんのようだ?」
「ま、なんつーの、準決勝の相手に軽くご挨拶、みたいな?」
まあ、要するに次の対戦相手への偵察と挑発をしにきたということだ。スタメンが大会中に練習せずに相手学校まで偵察に行くのはどうか、と思うが。
そして、彼らの要件はそれだけじゃないらしい。
「宣戦布告しにきたんですよ」
「「「俺達は豪炎寺を叩き潰すと!!」」」
武方三兄弟曰く、豪炎寺は決勝戦の重圧にビビって木戸川清修を捨てた臆病者だ、と。事情を知ってる身からだと何言ってんだこいつになるが、知らない彼らからしたら豪炎寺は逃げた裏切り者という認識になるのも無理もない。
「ま、せっかく挨拶に来たんだし、今の豪炎寺クンの力を見てみたいなぁみたいな?」
「……悪いがその気はない」
「おやぁ?また逃げるつもりですか、やっぱりお前は臆病者の卑怯者だ!!」
すらすらと罵倒の言葉を放つ三兄弟。自分に向けられているものじゃないとはいえ、嫌な気分だ。
これ以上聞いてられないので、他の道に行こうとするが、三兄弟が行く手を阻む。
「あん?」
「逃げるなんて流石臆病者の豪炎寺クンのお仲間だ。これだったら準決勝も楽勝、みたいな」
「はあ、そこまで言うんだったらお前たちの実力を見せてみろよ」
「円堂、相手をしなくても……」
「こうでもしないとこいつら一生退かないだろ。んで、やるのかやらないか、どっちだ」
「卑怯者の豪炎寺クンと違って逃げるわけがないっしょ。勿論受けて立ちますよ」
というわけで、俺たちと三兄弟は場を河川敷に移す。
勝負の形式は必殺技ありのPK戦。俺がゴールにつき、三兄弟がシュート位置に着く。
「「「それなら武方三兄弟の力……見せ付けてやりましょうかァ!!」」」
そう言って長男、勝がボールを蹴り上げ、それに合わせて努が蒼炎を纏い反時計回りに回転しながら跳ぶ。
「これが豪炎寺のファイアトルネードを超える技!『バックトルネード』!」
上空からかかとでボールをゴールに向かって蹴り落とす。
「『爆裂パンチ』!」
それに俺は連続で拳打をいれ、ある程度威力が弱まったところでアッパーをしクリアする。
「「そらそらァ──!!」」
そして、俺が止めたと同時に勝、友の両名がバックトルネードを打ち込んでくる。プライドとかないんか。
「『真熱血パンチ』!そして、もう一つは『熱血ヘッド』!」
一つは熱血パンチで、もう一つは熱血パンチと同じ要領で気を集め額で弾き返す。
豪炎寺を意識してるだけあってそれなりの威力だが、流石に進化してるファイアトルネードの方がまだ強いな。
「なっ、三つとも止めるなんて……」
信じられないような顔してるが、その顔したいのこっちだぞ。名門木戸川清修にまで行ってすることが、その狡いやり方してる方が信じられん。
というか、ギャラリー増えてるな。宍戸に一之瀬、アフロディ、他にも雷門メンバーがちょくちょくいるな。
「「「だったら、見せてやるぜ、武方三兄弟最強の必殺技を!!」」」
バックトルネードを止められたことが相当堪えたらしく、三兄弟は奥の手を出す。
勝が蹴ったボールを努が空中でさらに蹴り上げる。そして、友が勝の背を足場に大ジャンプしボレーシュートを決める。
「「「『トライアングルZ』!!」」」
そして、ポーズを決める三人。
なるほど、確かにポーズを決めるほどの威力だ。このシュートは、帝国のデスゾーンにも引けを取らない。
「『マジン・ザ・ハンド改』!」
だが、それなら止められる。マジンの右手がボールを受け止める。
「いくら加減したと言っても俺たちのトライアングルZが止められるなんて……」
「有り得ないっしょ……!」
「何やっとるんだ、お前たち!」
三兄弟が結果に呆然としてると、土手の方から聞き馴染みがない声が聞こえてくる。そちらを向けば、無精髭を生やしガタイがいい男性がいた。あれは、木戸川の監督の二階堂さんだな。たしか、元サッカー選手で今は教師やってるはずだ。
「サッカー選手ならば試合で正々堂々と戦え!!」
「「「わ、わかりました!!」」」
「お前達は先に帰ってろ!」
「「「は、はい!」」」
監督直々にそう言われ、三兄弟はボールを抱え走って帰っていく。それを見届けた後、二階堂さんは豪炎寺の方を向く。
「久しぶりだな、豪炎寺。フットボールフロンティアでの活躍は見ている。元気にサッカーを続けているようでよかった、がんばれよ!」
「二階堂監督……!ありがとうございます!」
豪炎寺は久しぶりに会った恩師と軽く会話を交わす。そうしているのを見ていると、一之瀬が何かに気づき二階堂さんと共に来ていた木戸川の生徒に向かって話しかける。
「西垣……!?西垣じゃないか!」
「……いち、のせ……い、一之瀬か!?」
彼の名前は西垣守。木戸川のDFで、一之瀬や土門の幼馴染である。
まさかの再開に盛り上がる一之瀬たち。邪魔をするのも忍びないので、そっと俺たちは場を離れた。
それから数日後。
「皆さま、フットボールフロンティアもいよいよ佳境!本日はAブロック準決勝!昨年準優勝の名門木戸川清修、対するは今大会台風の目となっている雷門中!一体どんな試合になると言うのか!」
準決勝がついに始まろうとしていた。
少し大きめな改変要素で、雷門中や木戸川清修のブロックがAブロックとなってます。
そのため、試合順が少し変わっています。本来は雷門対木戸川の前に世宇子の準決勝がありますが、私作では入れ替わってます。ご了承ください
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天馬の羽ばたき
今話から、以前から募集していたオリジナル技が登場します。
「昨年の優勝を取り逃がした雪辱を晴らすため負けられない木戸川清修、対する雷門中は40年ぶりの決勝進出がかかっている……!これは熱い勝負になること間違いなしだぁ!」
今回のフォーメーションは4-4-2のF-ベーシック。MFには今試合から参加の一之瀬、アフロディが入っている。
「さぁ、試合開始だ!」
木戸川清修のキックオフから試合が開始される。ボールを持った友が、染岡のスライディングを躱し上がっていく。
「マックス、一之瀬、中央を塞げ!」
鬼道の指示に素早く対応した二人が詰めるも、それより早く三兄弟がパスを回し突破していく。流石、息ぴったりだな。
「『バックトルネード改』!」
そして、友のセンタリングに合わせ勝が上空からゴールを狙う。青く染まったシュートは、河川敷で見たときよりも高いエネルギーを感じる。なるほど、あそこでは本気を出していなかったのだろう。だが、あそこでフルパワーじゃなかったのは彼らだけじゃない。
「『真爆裂パンチ』!」
それを俺が連続パンチで対処する。最後はアッパーで打ち上げ、落ちてきたところをキャッチする。
「いけ、みんな!」
俺がボールを前線へと投げる。大きく弧を描いて、それはマックスの元へと辿り着く。
ボールを受け取ったマックスが一気に木戸川清修のMFたちを突破していく。
「豪炎寺だ!豪炎寺をマークしろ!」
去年同じチームいたからこそ、木戸川清修は豪炎寺の脅威を正しく認識している。その指示に合わせて、DF陣が豪炎寺のマークに入る。これで雷門のゴールは遠のいた、そう思われた。
「そっちじゃないんだよね」
ここで、マックスが行ったのはバックパス。ボールを受け取ったのはいつのまにか上がっていた鬼道だった。さらにその後ろからアフロディと一之瀬が上がっていく。
「おーっと、この動きはまさか!?」
ようやく、狙いに気づいたのだろう。そう、この必殺技は
鬼道が鳴らした口笛が高らかに響く。それに続けてペンギンが地中から現れた。
「『皇帝ペンギン──」
鬼道がボールを蹴ると、同時にペンギンも地面から飛び出す。さらに、打ち出されたボールを走り込んだアフロディと一之瀬が蹴り威力にブーストがかかる。
「「──二号』!」」
予想外の必殺技に、西垣含めた木戸川DF陣は動きを止める。さらにマークのため、ゴールから少し離れている。シュートブロックに入るのは不可能だ。
「た、『タフネスブロック』!」
GKの軟山は止めようと腹に力を込める。だが、飛来していくペンギンにそれは通用しない。軟山はシュートのあまりの威力に足が地から浮き、ボールと共にゴールネットへと押し込まれた。
「ゴ、ゴォォォォル!雷門中、先制点!なんと、帝国学園の必殺技、皇帝ペンギン二号を用いてゴールを奪ったぁぁぁぁ!」
カウンターが見事に刺さり、雷門が1点をもぎ取った。
試合が再開すると同時に、三兄弟が切り込んでいく。先制点を取られたのが癪に触ったのか、他のメンバーを置いてただ三人だけで上がっていく。
「今度こそ決めてやる、みたいな?『バックトルネード改』!」
先程同様、バックトルネードが放たれる。だが、それはゴールに辿り着くより先にゴール前に現れた竜巻によって威力を失ってしまう。
「『スピニングフェンス』!」
シュートブロックに成功した風丸は上がっていく。三兄弟が再度シュートを打つためにガードに入るが、風丸のスピードに翻弄され突破されてしまう。
「今だ、円堂!」
「おう!」
鬼道の指示に合わせ、俺がゴールから飛び出す。
この作戦は先に鬼道に伝えられていたものだ。こちらがカウンターでゴールを決め、あの三兄弟が焦り出したところでさらに追加点を狙うというもの。まさか、こんなに早く焦るとは思わなかったがな。
風丸からボールを受け取り駆け上がっていく。俺の前に木戸川清修メンバーが立ち塞がる。
「もらった!」
ボールを奪わんと突っ込んでくる。だが、そのプレイは少々急ぎすぎではないか。
俺はニヤリと笑うと背中から普段とは違う色、薄緑色のマジンを呼び出す。
「『風神怒涛』!」
その名のごとく風を身に纏い一気に駆け抜けていく。俺がドリブル技を使うとは露ほども思っていなかった相手はなすすべなく吹き飛ばされていった。
ゴール前まで来ると、前回の試合であの無限の壁を破ったイナズマブレイクを警戒しているのか、豪炎寺と鬼道をマークしはじめる。それがこちらの狙いとも知らずに。
「っ!まさか!」
ただ唯一、西垣だけが俺の後ろからきた二人の存在に気づくが時既に遅し。トップスピードを維持したまま俺、一之瀬、土門は交差する。
「「「『トライペガサス』!!」」」
「タ、タフネ……うわぁぁぁっ!」
発生した蒼炎から生まれた天馬はその壮大な翼をはためかせ、ゴールへと突き進んでいく。軟山は圧倒されながらも技を発動させようとするが、間に合わずペガサスの羽ばたきによって吹き飛ばされてしまう。そして、そのままボールは進みゴールネットを揺らした。
「雷門追加点ッ!!何とキーパー円堂が加わった攻撃で点をもぎ取った!2対0、一気に木戸川清修を突き放したぁ!」
その後、試合が再開し雷門と木戸川清修はどちらも果敢に攻めるが、シュートを打つことなく前半が終了した。
2点のリードがあるものの、相手はあの強豪木戸川清修。一瞬の油断が命取りだ。後半も気を引き締めていかないとな。
オリジナル技
・風神怒涛
ドリブル技 属性 風
風神雷神の風神だけを呼び出し、その身に風をまといながら走り抜ける。相手が風に当たれば吹き飛ぶ。
紅桜風月様より案をいただきました!ありがとうございます!
まだまだオリジナル技は募集しているのでよろしくお願いします!
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不死鳥
ベンチに戻ってきた俺たちはスポーツドリンクを飲みながら、前半の振り返りと後半の作戦について話し合う。
「二点のリードは大きい。後半は奴らも焦って攻めてくるだろう、特にあの三兄弟はな」
「なるほどな」
焦りからくる三兄弟と他面子とのコンビネーションの綻びを狙うつもりか。前半でも三兄弟と他で足並みが揃ってないところはあったしな。
「それに奴らはあの必殺技を見せていない」
「トライアングルZか」
あの三兄弟による連携技、トライアングルZ。河川敷では止めれたが、あのときは本気を出していなかったはず。バックトルネード同様、技進化をしているならかなり強力だ。
それを打つために、三兄弟が多少強引な攻めをしてくる可能性は高い。
「後半は奴らの連携の隙を突き、トライペガサス、イナズマブレイクで追加点を狙っていくぞ」
「さあ、決勝に進むのは雷門か、それとも木戸川清修か!運命の後半開始です!」
こちら側からのキックオフ。豪炎寺、染岡、マックスがパスを回し三兄弟を躱す。だが、その先には木戸川のMF陣が待ち構えていた。
「「「『ハリケーンアロー』!!」」」
木戸川のMF、茂木、跳山、屋形が竜巻を作り出し、その風力で浮き上がったマックスを連続でタックルしてボールを奪いとる。
「くるぞ!」
「そろそろ見せてやろうじゃん!」
ボールを奪取した跳山はそのまま、勝へとパスを繋ぐ。受け取った勝は走り出す、その後ろには友、努の姿が。
「「「『トライアングルZ改』!!」」」
勝、友、努が連続で蹴り、最後は独特なポーズを決める。やはり、トライアングルZも進化していたか。
「『マジン・ザ・ハンド改』!」
俺の背後に現れた魔神がシュートを止めんと右手を突き出す。前回はこれで止めれたが、
「ぐっ……うわぁぁぁっ!」
今回の結果は違った。魔神が押し負け、ボールはゴールの中へと入っていた。
「ゴール!木戸川清修、武方三兄弟の連携技、トライアングルZで一点を奪い返したぁぁ!!」
くそ、止めれなかった。次は必ず止めてみせる。
試合再開。すぐに努がボールを奪い上がろうとするが、鬼道の指示で動いたマックスたちにより進路が塞がれる。しかたなく勝にパスを回すが、そこを狙って鬼道がスライディングをしかける。そのため、勝は慌ててシュートをする。
「これは正面!円堂、しっかりキャッチ!」
「よし、もう一回行くぞ」
キャッチしたボールをそのまま一之瀬へ。そのまま上がっていく。それに追随するように俺、土門もまた敵陣地へと切り込んでいく。
「俺の目の前でそう何度もやらせはしないぞ!『スピニングカットV3』!」
俺たちの前に現れたのは西垣。俺たちの進路に向けて足を振るい衝撃波の壁を生み出す。突如現れたそれに、俺たちは吹き飛ばされる。
「ペガサスの羽が折れたな」
西垣は弾かれたボールを拾い中盤へ繋ぐ。受け取った茂木はドリブルで雷門陣内まで進み、ペナルティエリア前にいる勝へとパスを出す。
「なっ!」
「なんと、FWの豪炎寺がいつのまにか守備に下がっていた!このまま木戸川陣内へ切り込む!」
「染岡!」
染岡がマークを振り切り、豪炎寺からのパスを受ける。そのまま連携シュートでゴールを狙う。
「『ドラゴン──」
「──トルネード』!!」
「『タフネスブロック』!」
しかし、それは軟山が身体を張って大きく弾く。ボールは空中へと浮き、その落下予想地点へ木戸川メンバーが動く。だが、ボールが地につくことはなかった。
「まだだよ。『天空の刃』!」
アフロディが飛び上がり、浮いたボールをゴールへ押し出す。一回シュートを止め油断していた軟山は必殺技の発動が間に合わない。なんとかボールに向かって飛び上がるが、触れることもできずゴールネットへ。
「ゴール!一度弾かれたボールにアフロディが素晴らしい反応で食らいつき追加点を上げた!三対一、雷門が再び木戸川清修を突き放したぁぁ!」
「『クロスドライブ』!」
「『タフネスブロック』!」
「『ハリケーンアロー』!!」
「『バックトルネード改』!」
両者果敢に攻防を繰り広げる。追いつきたい木戸川清修、リードがあるものの油断を切らさない雷門、どちらも一歩も引かぬ状況が続く。
「俺たちが最強だと!」
「勝って証明するんだ!」
「うおおおおおっ!!」
そんな中飛び出してきたのは、武方三兄弟。鬼道からボールを奪いとり凄まじい勢いで走り、シュートを放つ。
「「「『真トライアングルZ』!!!」」」
極限にまで高められた彼らの熱量に応えるかのように、そのシュートは進化した。
「『風神・雷神』!!」
俺はそのシュートに二体の魔神を出現させ対抗する。二点のリードはある、だがこのシュートは必ず止めなくてはならない。
「それがみんなのゴールを預かるキーパーってもんだ!」
「円堂!」
「俺達も一緒に止めるっス!」
俺が踏ん張っていると、風丸と壁山が後ろにつき両肩を支える。
「お前ら……よし、いくぞ!」
それに呼応するかのように、色褪せ始めていた二体の魔神は色を取り戻し、シュートの勢いで引っ込み始めていた腕を再度伸ばした。そして、しばらくのぶつかり合いの末、ボールは俺の両手の中に煙を上げながら収まった。
「と、止めた!木戸川清修のトライアングルZを三人がかりで防ぎました!そして、ボールは円堂から豪炎寺に渡ったぁ!今度は雷門が木戸川清修に攻めかかる!」
「やらせないっしょ!」
豪炎寺が上がるが、素早く戻っていた三兄弟が進路を塞ぐ。それを見て豪炎寺はふっ、と笑いボールを後ろに下げた。
「何っ!?」
「行け!トライペガサスだ!」
「っ!ああ!」
一之瀬も一瞬戸惑ったもののすぐさま行動に移す。上がってきた俺、土門に合わせ一之瀬も走り始める。
「トライペガサスはやらせない!『スピニングカットV3』!」
またもや、俺たちの進行方向に青い壁が現れる。だが、俺たちの足が止まることはなかった。突き抜けるように壁から飛び出し俺たちは交差する。蒼炎が噴き出し、そして、鮮やかなな橙色へ変化する。そして、橙炎は巨鳥を形成する。俺たちがボールを同時に蹴ると、巨鳥はその力に導かれるようにゴールへ進んでいく。
「冗談じゃないっしょ!」
「このままじゃ僕たちは終われない!!」
「決めさせてたまるかッ!!」
三兄弟が止めに入るが、それを物ともしない。三人を薙ぎ倒し、ゴールキーパーすらも吹き飛ばしゴールへと突き刺さった。
「ゴール!雷門、新たな必殺技でゴールをこじ開けた!!ここで試合終了!四対一、雷門中が40年ぶりに決勝進出だぁ!!」
試合終了と同時にみんなが歓声を上げる。それにより、勝ったという事実が脳内に入っていき、緊張の糸が外れその場にへたり込む。
「勝ったんだな……」
「ああ、勝ったんだよ、円堂」
一之瀬と土門と会話を交わしていると、木戸川清修の一人が声をかけてきた。西垣だ。
「やられたよ、完敗だ。最後のは素晴らしい技だった。あれはお前たちと円堂の技、ザ・フェニックスだ」
「フェニックス、不死鳥か。一之瀬にはぴったりだな」
そうして互いの健闘を讃えあった。
他の方をチラリと見れば、豪炎寺と三兄弟、二階堂さんが会話してるのが見える。恐らく去年の真実だったり色々なことを話しているのだろう。それで彼らの間にあった確執がなくなるのなら喜ばしいことだ。
こうして、木戸川清修との戦いに幕が降りた。次は決勝戦、気を抜かないようにいこう。
「オペレーションサンダーブレイク第二段階、オペレーションオーガへと移行せよ!」
鬼がその力を振るう日は近い。
次回は尾刈斗戦ぶりの未来要素。ちなみに、現状憑依円堂くんはオーガが来ることは知りません、可愛そうに
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神をも喰らう鬼
「おーっと、なんということでしょうか!我々の目の前には信じられない光景が広がっております!」
フットボールフロンティアBブロック準決勝。Aブロックを勝ち抜いた雷門に続き、どの中学が決勝に勝ち進むのか、それを見に多くの観客がスタジアムに駆けつけていた。
その試合は、悲惨の一言でしか表せなかった。グランドにあちこちは抉れ黒煙が立ち込め、バーがへし折れたゴール、倒れ伏す多くの選手、その光景に観客たちは小さな悲鳴を上げる。
「よ、45対0!あ、あの帝国を大量得点で破ったダークホース、世宇子中が手も足も出ない、まさかの準決勝敗退!!」
「世宇子中が破れただと!それにあいつらはそんな大量得点を許すようなチームじゃなかったはずだ!」
「相手は一体どこのチームだ?」
帰宅途中に飛び込んできたニュースに鬼道は声を荒げ、豪炎寺は冷静に相手を問う。
「──王牙学園だ」
「っ!?」
「王牙学園……そんな名前のチーム、開会式のときいたか?」
告げられたチーム名に俺は息を呑む。その隣では、聞き慣れないチーム名に染岡が疑問の声を上げていた。
聞いたことがないのは当たり前だ。王牙学園、いや、
「王牙学園……」
予想だにしていなかった相手に俺は途方に暮れた。頼むから未来に帰ってくれ。くるならこちらの準備が整ってからにしてくれ、頼むから。
「ついにやってまいりました、フットボールフロンティア決勝戦!ついに日本一を決める試合が始まります!どんな試合を見せてくれるのかぁ!!」
スタジアム入りした俺たちは円陣を組み志気を高める。ついにやってきた決勝当日、いや、やってきてしまったというのが正しい表現だろう。やれることはしてきたが、この実力差だ、嫌な気分にもなる。だが、そんなことでくよくよ言ってる暇はない。できる限りの最高のプレイをしよう。
そうこうしているうちに暗雲が垂れ込め陽の光が遮られる。先程までは絶好の晴天だったがいきなり変化し、その明らかな異常気象に観客は不安の声を上げる。そして、次の瞬間、雷がグランドに落ちる。
「見ろ!」
鬼道の声に従い空を見上げれば、そこには鬼の紋章があった。その紋章が妖し気に光りスタジアムを包み込む。
「これは……どうしたことでしょう。フロンティアスタジアムが一瞬にして別のスタジアムになってしまいました!!」
スタジアムには先程の紋章と似た大きな建物やマークを写したようなものが浮いており、異様な雰囲気を醸し出していた。
「おおっと、あれは!」
さらにグランドの方を向けば、九人の男たちが鋭い視線をこちらに送っていた。そう彼らがオーガだ。
センターラインに両チームが整列する。本来ならその後、両キャプテンの握手やらがあるのだが、オーガのキャプテンであるバダップ・スリードがこれを拒否。理由は、戦場で敵と馴れ合う必要がないからだそうだ。サッカーの試合で戦場と言われてもうん?と思ってしまうが、この世界に限ってはそんなに違わないような気もしなくもない。
「戦闘準備、散開せよ」
バダップに従い、他八名が姿勢を正す。そして、腕を腰の位置で曲げ一定の速度で動きそれぞれのポジションへ移動する。
こちらも戸惑いつつ、ポジションにつく。今回は木戸川清修戦と同じだ。いつも通りの豪炎寺と染岡のツートップに加え、MFは鬼道、アフロディ、一之瀬、マックスといった攻守どちらにも秀でている選手で固められている。そのため、かなり柔軟性が高い戦い方ができるだろう。
「了解、フェイズIIスタート」
バダップがそう言うと、オーガの服が軍服からユニフォームへと一瞬にして変わった。
両チームが準備できたことを確認した審判がホイッスルを鳴らし、開始を告げる。ついに雷門と未来からの侵略者との試合が始まったのだった。
「キラード博士、俺もう行きます!」
「待ってください、カノンくん」
飛び出そうとしたバンダナの少年を通信機の先にいる人物が止める。
「まだ準備が終わっていません。カノン、あなたに頼んで連れてきてもらった方々の存在証明やらにまだ時間がかかります」
「そんな!?」
少年は理由を聞き、声を上げる。しかし、しょうがないことなのだ。少年たちが声をかけた人物たちは平行世界の特異点であり、この世界線では存在していない人物たち。そのため、本来予定していた準備だけでは足らず追加の作業を行っているところなのだ。それが終わるのが早くて試合の前半終了、遅くて後半終了10分前だ。
「曾祖父ちゃん……」
少年、カノンは祈った、どうか耐えていてくれ必ず助けにいくから、と。
そして、時を同じくしてベンチの彼女もまた動き始めていた。
「彼らが……へぇ、なるほどなるほど……とりあえず、こちらを手伝ってしまいましょうか。お楽しみはその後ということで」
よ、ようやく決勝戦開始です、長かった……
次回もお楽しみに
明日からイナイレ杯スタートするのでよろしかったら是非!
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円堂カノン
豪炎寺が一切足を止めることなく、ボールを運んでいく。事実、彼の前に障害はなかった。
「なぜだ?」
「どうして動かない……」
なぜなら、目前の相手──オーガは誰一人として動いていないのだから。
「だったら、遠慮なく行かせてもらうぜ!」
「いけ、染岡!」
豪炎寺が勢いよくパスを出す。染岡がそれを受け取りシュートを撃とうとした瞬間、オーガのDF、サンダユウが強風が現れるほどのスピードでボールを奪いとった。
「何っ!?」
サンダユウがボールをFWのミストレに向けて軽く蹴る。きたボールをミストレは胸でトラップし受けとるが、そこで風丸がカット。そのまま、豪炎寺へとダイレクトでパスを出す。そして、
今回、動いたのはMFのドラッヘ。彼はマークについていたマックスを飛び越え、先程と同様に目に止まらないスピードでボールをカットしたのだ。
「っ!また!?」
ドラッヘはFWのエスカバへとパスを出す。しかし、浅い。辿り着く前に鬼道がカット。そのまま攻め上がるが、同じようにペナルティエリア前でボールを奪われてしまう。
永遠とそれが繰り返されていく。そして、変化がないまま前半が終わった。
「どうしてシュートを打たないんですか?」
「そうですよ!あんなにシュートチャンスはあったのに!」
確かにペナルティエリア前までは行けていたし、外から見たら絶好のチャンスに見えただろう。
「打たなかったんじゃない……打てなかったんだよ」
「そうは見えなかったぞ」
「染岡くんのツメが甘かったんじゃないの?」
「わからねぇ……なんかこうどうもスッキリしねぇ」
染岡は否定するが上手く説明できない。そこで豪炎寺が口を開く。
「攻め切れない、と言えば分かるか?もう一つ、深く入り込めないんだ」
恐らくだが、前半のシュートチャンスはオーガが作り出したもの。それを直前で奪うのが、彼らの作戦だったのだろう。
そんなことをして何になるのかと思うが、これは効果的だ。作り出されたとはいえシュートチャンスはシュートチャンス、当然こちらも打ちにいく。それを意図的に、さらには一番効果的なタイミングで潰す。そうすれば、オフェンス陣に多大な精神的負荷をかけることができる。
「みんな、落ち着け!前半は確かに変な感じで気持ち悪かった。だけど、相手のペースに呑まれちゃだめだ、後半は切り替えていくぞ!」
「後半戦、キックオフです!前半のような展開が続くのかぁ!」
オーガから試合が再開する。ミストレがバダップへとボールを下げドリブルを開始する。
「おーっと、今度は雷門動かない!!意趣返しのつもりかぁ!!」
対する染岡、豪炎寺はあえて動かない。二人を突破しバダップはミストレへとボールを返す。その瞬間、鬼道が動き出しスライディングでボールを奪い取る。
「一之瀬!」
「土門!円堂!」
一之瀬へとパス。それに続いて俺、土門も上がる。そして、そのまま一点で交差、木戸川清修戦で習得したあの技が放たれる。
「「「『ザ・フェニックス』!!」」」
この暗雲が立ち込めるスタジアムだと不死鳥の輝きがより一層感じられる。大翼をはためかせゴールへと突き進む。それに対し、ザゴメルは稲妻を右手に纏わせ飛び上がる。
「『真ニードルハンマー』!!」
右手をハンマーのようにボールにぶつけ、そのまま貫く。止められるとは思っていたが、真か……これはかなりやばいかもしれん。
俺がゴールへと戻っていく最中、バダップとすれ違う。
「フェイズⅢ、スタート」
聞こえた単語はその短いワードだった。
ザゴメルからボールは前線のエスカバへ。受け取ったエスカバはそのままシュート体制に入る。彼の後ろには小さな赤い砲台が8個現れた。
「『デスレインV3』!」
エスカバがボールを蹴ると同時に、砲台群からも球状のエネルギーが放たれる。シュートの威力を少しでも下げようとディフェンス陣が間に入るが、あまりの威力に吹き飛ばされてしまう。
「『風神・雷神』!」
受け止めんと二体のマジンが両手を広げる。だが、死の雨はそんな抵抗を許さない。マジンを容易く穴だらけにし俺ごとゴールネットへと叩きつけた。
「マックス、栗松大丈夫か!?」
俺はなんとか立ち上がれたが、シュートブロックしようとした二人がうずくまって立ち上がれない。近づいて声をかける。意識はあるが、これではプレー続行は不可能だ。二人をベンチに運び、交代で半田と影野が入った。
こちらのキックオフ。染岡が豪炎寺にボールを渡した。その瞬間、エスカバ、ミストレが同時にタックル。諸にそれを受けた豪炎寺は吹き飛ばされてしまう。
ボールを奪ったエスカバはバックパス、バダップへと渡る。それを見て染岡は次は自分が標的だと理解した。それでも彼は逃げなかった。
「……野郎!」
「ふっ!」
ボールを奪おうと走り出す。それに対しバダップはボールを蹴り上げる。ボールを射線上にいた染岡を吹き飛ばし上空へ。バダップもそれを追って跳躍し、ボールを足で挟みこむ。
「『デススピアーV4』!!」
強烈な力で挟まれたことにより、ボールは槍状の鋭利な凶器へと変貌しこちらへ牙を剥く。
「止めるぞ!」
鬼道たちがシュートブロックに動く。しかし、近づくことすら許されなかった。シュートの威力による風圧だけで鬼道たちを吹き飛ばしたのだ。
「今度こそ……!『風神・雷神改』!」
俺の想いに応えたのが、二体のマジンはいつもよりも大きな体躯で輝きを放っていた。しかしながら、そんなちゃちなものでは圧倒的な力というものには叶わない。
「がはっ…………!」
マジンを貫きボールは俺の身体をくの字に曲げながらネットを揺らした。
そこからは悲惨でしかなかった。まず、交代で入った半田と影野がオーガのラフプレーにより負傷した。続いて染岡と一之瀬が、その次が……どんどんみんなが傷ついていった。そして、俺も度重なるシュートによりボロボロになっていた。電光掲示板は6-0とオーガの隔絶した力を物語っていた。
「円堂守、サッカーを捨てろ。お前たちの下らないサッカーが、言葉と情熱がチームメイトを傷付けているのだ」
「何言ってやがる……!みんなを傷つけるようなプレーをしてんのはそっちだろうが」
「事実、お前たちのサッカーのせいで未来では人類は弱体化してしまった」
「んなわけねぇだろうが!」
サッカーによって弱体化する?そんなトンチキな話は存在しない。そうでなければ、遥か彼方の未来でのあの子供たちは生まれない。
「ならば、ここで消えろ!さもなくば、サッカーを捨てろ!」
そう言いバダップは止めを刺さんとシュート体制に入る。俺も受け止めようと動こうとするが、身体が悲鳴を上げる、不味い。
デススピアーが放たれ、無防備な俺の身体へと迫る。しかし、それが俺の身体を貫く前に上空から飛来した青い球体によって止められた。
「──間に合った!」
その球体から現れたのは俺と似たような風貌をし同じようにバンダナを巻いた少年。
「初めまして、曾祖父ちゃん!俺、円堂カノン、皆と一緒に戦うために未来から来たんだ!!」
「未来から来たなんて信じられるか?」
一旦タイムを貰い、ベンチで集まる。俺にしたように皆にもカノンは自己紹介するが、半信半疑の様子だ。プロトコル・オメガとの戦いを経験している風丸と秋はそこまでまだだが、やはり未来からというのは中々信じてもらえない。
「はい!」
そこでカノンがジャケットの内ポケットからノートを取り出す。いや、このノートが一体……ん?
「あっ、これ俺のノート!?」
急いで中を確認する、間違いない、完璧に俺のノートだ。それも、俺が忘れないようにと前世の記憶を書き記しといたやつ。え、これ残ってんの?明らかに残っていちゃいけないものだぞ!?
「信じてみる価値はありそうだな」
「俺も信じよう」
鬼道、豪炎寺は俺の様子から本当だと感じ結論を下す。
「残念だったね、チームオーガ!勝手に歴史を変えてサッカーを排除しようとするお前たちを、俺は許さない!」
「たった一人で何が出来る」
「一人じゃないさ!俺が遅れたのは最強の仲間を集めて来たからなんだ!」
そう言うとカノンはニヤリと笑い、視線を上げる。そして、空に向かって叫んだ。
「皆、出てきてくれ!」
空に亀裂が入る。徐々にそれは広がっていき、ついにガラス細工のように砕け隠されていた青空が姿を現す。それと同時に飛来してくるものが三つ見える。一つは稲妻のように、一つは炎の翼を雄大に羽ばたかせ、最後の一つは悪魔が如き禍々しい翼を携えて降りてくる。
……いや、どちら様???
はい、というわけでついにコラボが始まります。今話は空ぶち破ってるだけですが、次話からは自己紹介&試合が開始されます。次回もお楽しみに!
イナイレ杯、現状9作品!予想よりも多くの作品がきて幸せです!まだまだ参加お待ちしております!
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平行世界からの助っ人
まず着地したのが稲妻のように空をかけた青年。
「雷門中所属、加賀美柊弥!」
その次が炎の翼を生やしシャチのパーカーを被った男。
「帝国学園、伊冬塚亜門!」
そして、最後に知らない制服を纏った青年が悪魔の翼のようなものをはためかせながらゆったりとフィールドに降り立った。
「…………習合、織部長久」
少し口を閉ざした後、何かに気づき彼は自分の所属と名前を口に出す。
「な、なんだ!?」
突如現れた三人に俺含め全員が驚きを見せる。いや、マジで知らんのだが。
「曾祖父ちゃん、紹介するよ!彼らが俺とキラード博士が集めてきた平行世界の助っ人たちなんだ!」
「へ、平行世界!?」
「そう!「もしも」の数だけ存在するこことは違う可能性の世界、そこで彼らは曾祖父ちゃんたちのようにサッカーをしてるんだ!」
なるほどな。円堂守に憑依してるやつがいる世界だってあるんだ、俺が知らないやつがいる世界線があるのは当然のことだ。
「ほう、なら平行世界では俺たちとプレイしてたりするのか?」
「まあな」
豪炎寺が問うと加賀美がそう返す。彼によると平行世界の雷門もメンバーはそう変わらないらしい。さすがにアフロディがいたりはしないそうだが。
「ところでさ、カノン?」
「うん?どうしたの、曾祖父ちゃん」
「あの二人からこうなんか、すごいのが漏れだしてんだが」
助っ人のうちの二人、織部と亜門両者から禍々しいオーラというか殺気というかそういうので互いを牽制しているように見える。おかしいな、さっき晴天が見えるようになったはずなのにまた空が曇りそうだ。
「さあ……?二人は別々の世界線のはずなんだけど……?」
呼んだカノンにもわからないようだ。うん、なんかこれ以上こうしておくと嫌な予感がする。
「そ、そういえば、三人のポジションは?」
「俺はFWかな」
「GK以外ならどこでもいける」
「GK」
ふむ、となるとフォーメーションは豪炎寺、加賀美、カノンのスリートップになるかな。亜門にはMFに入ってもらって、と。
「じゃあ、キャプテンはDFですね」
「おいおい、いくら助っ人としてきたからと言って雷門のゴールを円堂以外に任せられるかよ」
「そうでヤンスよ、染岡さんの言う通りでヤンス!」
紅菊の意見に染岡と栗松が反論する。そう言ってもらえるのは嬉しいが……
「紅菊の言う通りだ」
「キャプテン!?」
「流石にこの腕じゃあな」
フィールドプレイヤーとしてはなんとかできるが、残念ながらキーパーとしては無理だ。
「決まりですね」
「ああ……すまない、任せる」
織部はその提案に無言で応える。言葉による返答はしないプレイで見せる、そんな矜持、強者の風格を感じた。
「よし、皆、力を合わせてオーガに勝つぞ!」
おう、と気合の篭った返事がグランドに響いた。
「後半残り15分、衝撃の試合再開です!雷門は5人のメンバーチェンジに加えてフォーメーションを変えてきた、この新体制がどう影響するのでしょうか!?」
全員がポジションにつく。先程言った通りの3トップに、MFに亜門と紅菊、DFにリベロとして俺が入った形となっている。
ホイッスルが鳴り、オーガのキックオフから再開だ。エスカバとミストレが猛スピードで切り込んでくる。
「くるぞ!」
鬼道たちがマークに動くが、オーガの速度はそれを完全に凌駕していた、ただ一人を除いては。
「何!?」
「速いが、それだけだ。もらった!」
伊冬塚亜門、元の世界では『怪物』と呼ばれた傑物。彼からしてみれば、オーガのプレイは身体能力に任せたものに過ぎない。実際、バダップたちはサッカー選手ではなく軍人であるため間違った評価ではない。
あっという間にエスカバに追いつきスライディングでボールを奪取する。そして、ドリブルとはならなかった。
「今は時間が惜しい。だから、これで!」
勢いよくその場で蹴る。ボールはシュートと遜色ないスピードで綺麗に進んでいく。
「よっと!」
その先にいたのは加賀美。その強烈な
オーガはそのプレイの速さに追いつけていない。完全にフリーの状況だ。そのままシュートモーションへと入る。
「『轟一閃』!!」
加賀美がボールに回転をかけると、雷を纏いながら浮き始める。それと同時に右足を大きく引く。ボールが自身に秘められた力を示すかのように放電し始め、それが最高潮に達した瞬間右足でボールを振り抜く。
放たれたシュートにサンダユウたちが動き始める。だが、その一直線でブレないボールに追いつかない。
「いけ、修也!」
「おう!」
さらにそのボールの先にいたのは豪炎寺。彼は炎を纏いながら飛び上がる。そして、炎を右足に一点に集中させ剣のようにする。それをそのままボールへとぶつけた。
「『マキシマムファイア』!!」
雷のような推進力に加え炎の破壊力を得たシュートは地面を抉りながらゴールへと進んでいく。
「『真ニードルハンマー』!」
ザゴメルは飛び上がり右手をボールへ突き出す。少しの間拮抗するが、徐々に押されていきついに弾かれる。
「ゴォォォォル!決まったぁ!雷門がついにオーガのゴールをこじ開けた!」
試合再開から僅か30秒、雷門が得点を取り返した。
ようやくコラボ回。早速1点が決まるという。彼らの活躍がどうなるか、次回もお楽しみに。
そういえば、youtubeで劇場版イナズマイレブン VSダンボール戦機が無料公開されましたね。当時、劇場に見に行ったはずなのに覚えてないシーンがちょこちょこ……なんか新鮮な感じで見れました
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誤算
「芸がないぞ!」
オーガが試合再開のキックオフと共に突っ込んでくるが、亜門がそれをしっかりとカット。そして、そのままドリブルで上がっていく。ある程度上がったところでディフェンスを引きつけつつパスを送る。
「カノン!」
「おお!『ゴッドキャノン』!」
受け取ったボールをそのまま蹴り出し、さらにカノン自身も走り出す。追いつくと同時に空中で回転することで勢いをつけドロップキックする。ボールはゴッドハンドのように黄金色に輝き砲弾のようにゴールへと向かった。
「豪炎寺さん、もう一回頼みます!」
「ああ!『マキシマムファイア』!」
さらに豪炎寺のシュートチェインが加わる。爆炎を纏った神の砲弾はその速度を緩めず進んでいく。
それに対しザゴメルは虚空に腕を振るう。すると青白く光るレーザーが現れる。
「『真エレキトラップ』!」
展開されたレーザートラップがボールを絡めとった。
「おーっと、オーガ学園、新たな必殺技、雷門追加点ならず!」
シュートを止めたザゴメルが前線に向けてボールを蹴る。その瞬間、彼の視界に一つの影が現れた。その影は空を駆けようとしたボールを掠めとり地面へと降り立つ。
その影とは、亜門。彼はシュートを止められたと分かったと同時に動き出していたのだ。
「遠慮なしで行かせてもらうぞ」
亜門の背中から炎の翼が現れ、その翼を使い飛び上がる。その動きにアフロディは足を止める。なぜなら、それは彼女が最も得意とする技、ゴッドノウズと酷似していたのだから。
しかしながら、工程が同じでも結果は違う。そこにあるのは、人知を超えた神の奇跡のごとき輝きではない。そこにあるのは純然たる怒り。その証拠にそのボールは、地獄の炎を纏っていた。
「──『アモンズアンガーV3』」
ボールを踵落としの要領で蹴り落とす。その炎弾はえらくゆっくりとザゴメルには感じた。そして、ザゴメルの視界を炎が埋め尽くした。
「ゴールッ!雷門追加点!怒涛の追い上げだぁ!」
これで二点。この調子で行けばなんとかなりそうだ。
「っ、不味い!」
キックオフと同時にバダップがボールを持ちカノンの前まで急速度で移動し、そのままボールをシュートと見間違える勢いで蹴った。当然、目の前にいたカノンに直撃する。ぶつかったボールをエスカバが拾い、これまたシュートの如きパスでカノンにぶつけつつバダップへと戻す。
このままだとカノンが潰れてしまう。止めようと鬼道たちが割って入ろうとするが、ボールによる風圧で弾かれてしまう。だが、そんな厳しいボールの嵐を乗り越えたものがいた。
「風丸さん!?」
「助っ人ばかりに良い格好させれないからな!」
風丸だ。彼女は俊脚を活かしてカノンのところまで到達し、ヘディングでボールを弾くことでカノンを窮地から救ったのだ。
弾いたボールはアフロディが回収し、風丸へパスする。受け取った風丸はドリブルで上がり、進行方向を防ぎにきたDFのダイッコの前をターンで急停止しつつ加賀美へとボールを繋ぐ。
「加賀美!」
「おう!」
受け取った加賀美は全身に力を込める。すると、背中から紫炎が噴出し、その炎の中で何かの目が輝く。そして、紫炎を払いのけその姿を示す。
「『紫電の将鳴神』!!」
紫を基調とした甲冑を纏い、背中には濃い紫の外套をはためかせ刀を携えている。
それは化身。人が作り出す気が極まり実形を得て現れたものである。
「『紫電一閃』!!」
紫色の雷が宙に浮くボールに注入されていき、次第に発光しだす。そして、加賀美がボールを蹴り出し、それと同時に加賀美の化身、鳴神がボールに向かって抜刀する。その軌道に沿って展開された横薙ぎの斬撃がシュートと化してゴールへと刃を向ける。
「『真エレキトラップ』!……何!?」
その強大なシュートに息を呑みつつも、素早くレーザートラップを展開し迎え撃つ。ついに電気線とボールがぶつかり、両者の輝きがフィールド全体を包み込みあまりの眩しさに俺たちは視界を塞ぐ。
しばらくして俺たちが目を開けると、そこにはゴールネットから転がり落ちるボールと身体中から煙を上げているザゴメルの姿があった。
「バダップ、なんだこの醜態は!貴様、この戦いの意味を分かっているのか!」
バダップの耳にバウゼンの言葉が時空を超えて届く。
ああ、分かっているとも。未来の世界の人類の弱体化を招いたサッカー、それを消すために訓練を重ね万全の状態で過去へとやってきたのだ。
求められるのはただの勝利ではない、相手の心を根本から折る圧倒的な蹂躙だ。しかしながら、今の結果はどうだ。未だ4点の差はあれど、カノンたちが来てからは相手のペースに呑まれている。
ふざけるな、ふざけるな、俺たちは
「負けられないのだぁぁぁぁぁぁぁ!」
試合再開の笛と同時にバダップが突っ込み、一気に豪炎寺たちを突破する。そして、ボールを蹴り上げ自身もそれを追って飛び上がる。
「『デススピアーV4』!!」
死の槍が黒雷を撒き散らしながら唸りを上げる。間違いなく、今試合の中で最高のものだ。
しかしながら、バダップたちには誤算が二つあった。
一つ目は時空の共鳴現象。
「キャプテン!」
「いくぞ、壁山!」
「「『ロックウォールダム』!!」」
オーガの直接介入により最低条件を満たしてしまったのだ。そのため、本来の歴史を凌駕する力を雷門メンバーにもたらした。
そして、二つ目はカノンが連れてきた助っ人の存在。
シュートの威力は大きく削られたが、それでも十分すぎるパワーが未だ残っている。それを確認し、ゴールの方を確認するとそこには
(何がおかしい……!)
身体を静かに震わせている織部の姿があった。表情は見えず、それが一層不気味さを感じさせる。
「『ダークネス・サクリファイス──」
織部はごく自然に、まるで児戯を相手とるように腕を動かす。しかし、第三者から見れば恐怖そのもの。なぜなら、彼の腕には
「──ハンド』」
鴉がその存在を祝福するかのように鳴き声を上げた。
憑依円堂、ようやくオーガ戦で働く。
1/2にて私が主催したイナイレ杯が終了しました。作品数11と多くの参加がありました。ここまで盛り上がったのは、作者、読者の皆様のおかげです。参加していただき本当にありがとうございました!
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未来へ繋げ
「──『ダークネス・サクリファイスハンド』」
織部が展開した黒骨の手に死槍と化したボールが牙を剥く。
まず、突き刺した先端の部分が粉々になった。次に正面から受け止めていた甲の部分が悍ましい音を立てながら削られていった。そして、最後に骨手の中から出てきた黒い手がボールを
「と、止めた……?止めたぁぁぁぁぁぁぁぁ!キーパー織部、バダップのデススピアーを見事止めました!!」
「なん、だと……!」
織部は顔を歪めたバダップを見て鼻を鳴らす。そして、ボールを織部からカノンの足元へと投げる。
「俺たちは信じてる……曾祖父ちゃんたちのサッカーを!」
「ああ、そうだ、繋ぐんだ」
「未来へ!」
「俺たちの」
「「「「「「「「「サッカーを!」」」」」」」」」
アフロディにさらにボールが回る。そして、彼女を囲うような陣形で全員でオーガ陣営へと切り込んでいく。
「このボールは渡さないよ」
止めに入ったサンダユウたち相手にアフロディは不敵な笑みを浮かべ指をパチンと鳴らす。その瞬間、
「『真ヘブンズタイム』!」
静止した世界の中、アフロディはただ一人足を動かす。そして、再度時が動き出すと同時にオーガディフェンス陣を突風が襲う。
「いけ、円堂くん、鬼道くん、豪炎寺くん!」
そして、ボールをアフロディが上げる。それと同時に俺、鬼道、豪炎寺が飛び上がる。
ボールに降りかかるは紫電。それから感じられるパワーは千羽山戦の時の比ではない。そして、それを三人で
「「「『イナズマブレイク
シュートの余波からザゴメルはすぐさま理解する、これはエレキトラップでは止められない、と。そして、判断する、あの技を使うしかない、と。
そうしてからは早い。ザゴメルの背中から何かが蠢き飛び出した。その正体は二人の小柄な選手。試合開始からずっとザゴメルのユニフォームの中に隠れていたのだ。
飛び出した二人がザゴメルの両手に乗っかる。そして、二人の頭をぶつけるように乱暴に接続し強烈な電撃を発生させる。
「『ハイボルテージ』!」
電撃の壁を持ってシュートを迎えうつ。予想よりも数段高い威力にザゴメルは顔を顰める。だが、それでもザゴメルの方がほんの少し上だった。完璧に止めることは叶わなかったが、弾くことに成功、姿勢が崩れつつもザゴメルは豪快な笑みを浮かべたまま落ちていく。
そして次の瞬間、彼の笑みは凍りついた。
「もう駄目じゃないですか、止めたら」
弾かれたボールの先にいたのは紅菊。落ちてくるボールに合わせて右足を振り抜く。減速することなく直線に最短距離を進んでいくボールに、先程の必殺技のノックバックで体制を崩した状態のザゴメルは追いつけない。ゴールネットが小さく揺れた。
「まだまだ!」
試合再開と共にボールを加賀美が奪いとる。そして、豪炎寺と鬼道と合わせて三人でトライアングルの形で上がっていく。ある程度上がったところで加賀美がボールを踏み抜き雄叫びを上げ、全身から力を注ぐ。
「『ライトニングブラスター』!!」
巨大な雷の球体となったボールを両足で撃ち出す。加賀美の渾身の力が込められたシュートは轟音を響かせながら進んでいく。
「修也!鬼道!」
「「おう!」」
二人が呼びかけに応じる。それと同時にボールざ青く輝くエネルギーを纏っていく。飛び上がり豪炎寺と鬼道が左右から同時に蹴る。
「『プライム──」
「──レジェンド』!!」
「『ハイボルテージ』!」
極上の伝説の名を冠した必殺技をザゴメルたちは雷の壁を用いて対抗する。だが、抵抗できたのほんの一瞬。壁は直ぐに壊れボールはゴールネットに突き刺さった。
「『スカーレッドブレイズ』!」
今度は亜門が炎を発生させエスカバからボールを奪いさる。そのままサイドを駆け上がる。それを止めんと正面からダイッコ、ブボーが抑えに入り、さらには後ろからはサンダユウが挟み込む。
「よっと」
まずは背後のサンダユウのスライディングを軽くジャンプで避ける。飛び上がった亜門目掛けてブボーが突撃する。それも身体を捻ることで避ける。地に足がつきそうなタイミングで、ダイッコがタックルを仕掛ける。しかしながら、それも読んでいた。タックルの直前で、先に視線で合図を送っていた鬼道にボールを逃す。そして、亜門は姿勢を崩しながらタックルを受け流し鬼道から戻ってきたボールを足に収める。
「さあ──いくぞ」
亜門が口笛を鳴らす。それに呼応するように彼の後ろから真っ赤な火柱と鮮やかな水柱が上がる。その中から現れたのは悪魔とシャチ、正確には彼の中に宿った者たちの分身。
彼らがボールを中心に三角形の力場を作り出す。激しく燃え上がる炎の豪快なエネルギー、全てを流れ落とさんとする水の神秘なる力、両パワーを亜門は回転上昇しながら混ぜ合わせる。それを上空から蹴り落とす。地面に向かっていくボールに向かって二体の分身が走り込んでいく。
「『ザ・トリニティ』!!」
「『真エレキトラップ』!」
その三位一体の必殺技を前に、ザゴメルは普段より早いタイミングでエレキトラップを発動させる。悠々とそれは突破されるが、それは承知の上。
では、なぜエレキトラップのタイミングが通常と違ったのか。
「『真ニードルハンマー』!!」
ニードルハンマーの射程を稼ぐためだ。ニードルハンマーという技の飛び上がって拳を叩きつけるという性質上、この技にはボールとの距離がある程度必要だったのだ。
それがザゴメル個人にできる精一杯だった。しかし、それでは止まらない。
「うぐっ…………ウガァァァァァァッ!!」
ザゴメルの腕は弾き返されボールは顔に直撃、そして、そのままゴールへ叩きつけられた。
6-6。オーガの首元に雷門の牙がようやくたどり着いた。
地味にヘブンズタイム初お披露目回。
リアルの都合で三月初めまで基本更新がありません、申し訳ありません
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鬼を超えろ
「円堂、守……!」
バダップはこの苦々しい状況の最たる原因に、煮えたぎる怒りと底冷えする声を漏らす。今すぐあの男を直接排除してしまいたい、そんな考えが頭に浮かぶ。しかし、だめだ。そんなことをしてしまえば、
(
どういうわけかわからないが、今回のターゲットである円堂守に対しサッカー以外の方法を用いた場合時空が不安定になり世界が滅びてしまうのだ。その現象は、ヒビキ提督含めた革新派が総出で何度も計算とシュミレーションを重ねた上で覆ることがなかった。
この世界に存在する他の特異点、松風天馬や稲森明日人にも同じ傾向が見られたが、円堂守がその中で最も酷かったのだ。流石にターゲットを排除できたとしても世界がなくなってしまっては意味がないため、バダップたちは仕方なくサッカーという手段を用いることになった。
ただ、円堂守を直接排除できる方法が存在しないわけではない。
「「「『デスブレイク』!!!」」」
──試合中における直接攻撃、いわゆる
バダップが空中に蹴り上げたボールは血のような赤黒色の棘に覆われる。そして、追うように飛んだミストレ、エスカバと共に逆三角形のフォーメーションで同時に打ち出した。モーションはイナズマブレイクと似ているが、全くの別物で真逆の立ち位置のこのシュートは禍々しいエネルギーを伴い地面を抉りながら進んでいく。
「サッカーを捨てろッ!円堂守ゥゥゥ!捨てるのだぁぁぁぁぁ!」
その言葉と同時に、シュートの威力が増大したかのように感じる。いや、事実しているのだろう。その証拠にボールから鬼のようなオーラが飛び出している。みんなが止めようと接近を試みるが、その全てが失敗に終わる。
シュートの進行先はゴールではなく、俺。今はキーパーではないため、当然手は使えない。とはいえ、手を使えたとして止めれる保証はどこにもない。
ゴクリと唾を飲み、無意識に足が下がっていく。しかし、その後退りはすぐに止まることになる。
…………テン
…………プテン
「キャプテン!!」
皆の声が聞こえる、こんな紛い物の俺を信じてくれる声が。ならば応えなくては。
「スゥーっ、よし!」
深呼吸して固まっていた身体を脱力させ筋肉をほぐす。そして、頬をバシーンと叩きマイナスなイメージを追い出す。
「さあ、こい!」
必ず止めてみせる、その意志はエネルギーとなりて俺の身体に宿る。その証拠に背中から炎が飛び出していた。
カノンはそれを見て化身であると結論づけようとした。だが、すぐさまその考え方を改めた。
(
今カノンの目に写っているのは純白の炎だった。
化身の兆候は、その強大な力を誇示するかのような荒々しい紫炎である。それに比べてどうだ。白炎は穏やかに揺れているがどこか力強さを感じさせ、その純真さは神々しい。違っているのは火を見るより明らかである。
その異質な力を円堂守自身も感じ取っていた。それは無意識であったため、力の本質を正しく理解できなかった。だが、扱い方だけは本能的に把握した。
放出した白炎を取り込み、身体の中心部、心臓に集中させる。無造作に放出されていたエネルギーは一点に集まることで活性化していく。そして、俺はそれを一気に解放させる。
心臓部から放出された白炎は、円堂守が最も作りなれた形である巨大な手へと変化していた。その白き手はシュートを掴み、白炎を中和するようにボールに注いでいく。
「サッカーを捨てろ、円堂守ゥゥゥゥゥゥ!」
「捨てて、たまるかッ!」
バダップの叫びに呼応してシュートの威力が、俺の叫びに呼応して注がれる炎の勢いが増していく。
「「「「オオオオオオオオオオオッ!!」」」」
俺、バダップ、エスカバ、ミストレの四者の雄叫びがスタジアムに響く。
「まだ、まだ……!」
単純に考えれば一対三のパワー勝負。俺が押されていくのは当然の摂理だ。
「もっとだ……、もっともっとォォォォ!」
身体の奥底からエネルギーを搾り出す。まだ空っぽじゃない。後のことなんて考えるな。ここで全て使い果たすのだ。
その搾り出された炎は膨張し、シュートを押されている白き手からすらはみだしスタジアム全体を覆い尽くす。全員がその眩さに視界を塞ぎ、次に来るである熱量に身構える。しかし、それが来ることはなかった。逆に感じたのは優しさに包まれているかのような心地よさ。それに身を任せるかのように人々は、オーガすらも身体から力が抜けていく。
そして、いつしかボールの回転音は消えていた。
ゆっくりと落ちてくるボールを胸でトラップする。足元に静かに落ちたボールの重みを感じ、無意識にゆっくりとドリブルを開始する。
「はっ、みんな、円堂に続け!」
俺のドリブルに気づいたことで炎の安らぎからいち早く脱却した鬼道が、周りへ慌てて指示を出す。それに合わせてまたオーガも我に返りディフェンスへと動く。
俺から鬼道にボールが渡る。イリュージョンボールでサンダユウを突破、そのまま風丸へパス。ダイッコが突進で奪おうとするが、疾風ダッシュで鮮やかに躱す。
「豪炎寺!」
高く上げられたボールはゲボーの小柄な身体では届かず、また彼のデーモンカットの影響範囲外だ。ファイアトルネードの要領で高く飛びそのまま地面に撃ち落とす。落下地点にいたのは加賀美。近くにいたブボーがスライディングを仕掛けるもののジャンプで避け、ボールを繋いでいく。
「「「『シグマゾーン』!」」」
ドラッヘたちが連携技で仕掛ける。三方向から襲いくるオーガメンバーに対し、亜門はただ動かず足に力を込めボールを踏みつける。
「き、貴様……!」
「力比べはこんなもんだろっ!」
その立ち振る舞いはさながら不動明王。攻撃したドラッヘたちが逆に吹き飛ばされる結果で終わる。
そうして、またボールが紡がれていく。亜門からカノンへ、カノンからアフロディへ、どんどん。
「キャプテン!」
そして、繋がったボールは紅菊から俺へと戻ってきた。
「カノン!」
「うん、行こう、曾祖父ちゃん!」
俺とカノンを中心に黄金の気の円が現れ、足にエネルギーが注入されていく。そこから感じる、みんなからの思い、サッカーへの気持ちに、カノンと顔を見合わせて笑う。
円から全てのエネルギーを力に変換し終えると同時に俺とカノンはボールを勢いよく振り抜いた。
「「『オメガ・ザ・キャノン』!!」」
光となったボールは、ニードルハンマーで対抗したザゴメルを吹き飛ばしゴールネットへ突き刺さった。
憑依円堂の白炎は裏設定(何話か前に前書きで再upしてきた、って言ったもの)に関係するものです。これについての詳細な情報は今後のストーリーで解明していく感じです。というかがっつり関わるとこがあります、大分先だけど。そこら辺も楽しみに待っていただけたら、と思います。
次回、エピローグ(予定)
オリジナル技
・オメガ・ザ・キャノン
シュート技 属性 山 二人技
憑依円堂とその子孫であるカノンの二人による連携シュート。
名前からわかる通りオメガ・ザ・ハンドをシュート技に応用したものである。元技のように莫大な気を集め、それを二人で一気に解放しゴールへ叩き込む。
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勇気
ゴールに突き刺さったボールを呆然と見る俺の耳にホイッスルの音が届く。それに合わせ視線を上げると、6-6から7-6へとちょうど表記が変わる。
「試合終了!!7対6、雷門の勝利だぁぁぁぁぁ!!」
「はは……勝った……勝ったぞー!!」
自陣コート中央で集まり、皆んなでハイタッチなどをして勝利の喜びを分かち合う。あの絶望的な状況からどうしたものか、と思ったがなんとかなってよかった。
「バダップ!」
バダップたちに声を掛ける。この試合での敗北が任務失敗を意味する彼らの表情は暗い。
「すごい試合だったな。またサッカーやろうぜ」
「その呪文を俺たちにもかけるのか!」
「呪文?そんな変なこと言ったか?」
「貴様のその呪文のせいで未来の人間を弱体化させ、戦う事を忘れさせてしまった!だから俺たちは未来を変えようとしたのだ!」
どういう理論だ、それは。
「というか、大切なのは戦うことそのものじゃないんじゃないか?」
「何を言って……!」
「俺が思うに、よりよい明日のために強大な敵と戦うための勇気、これが大事だと思うんだ。そして、一緒についてきてくれる仲間がいれば何倍も強くなれる。そういうもんじゃないかな」
その言葉を聞きバダップの脳裏に思い浮かんだのは、過酷な競争の中で富国のため切磋琢磨し合った同期達の姿だった。そこで、バダップは己の間違いをようやく理解した。
(勇気……仲間……そうか、俺たちに本当に必要だったのは……)
「円堂守、俺たちは今からでも間に合うのだろうか」
「間に合うさ。諦めずに前を進み続ければ必ず」
「そうか、きっとそうなのだろうな。感謝する、円堂守」
「おう」
俺がバダップの差し出した右手に応えようとした瞬間、上空から光の壁が現れ阻まれる。おそらくだが、オーガの上層部による強制転移のためのものだろう。
「バダップ!俺は何十年でもいつまでも待ってるから、だからまた!」
「ああ、勿論だ。またやろう」
そう言って笑みを浮かべて彼らは去っていった。八十年後の未来、俺がその時どうなってるかわからない。それでもきっと彼らとボールを追いかけている、そんな気がした。
「曾祖父ちゃん!」
「カノン!」
呼ばれカノンの方に行くと、そこにはカノンと平行世界から助けに来てくれた加賀美、亜門、織部がいた。彼らもまたここから去らなければならない時が近づいているのだろう。
「みんなもありがとな。本当に助かった!」
「ああ、次はキーパーとしてのお前と対決させてもらうぞ」
「これからも大変だろうから頑張れよ。まあ、大方分かっていると思うけど」
「今度は普通にサッカーしよう」
加賀美からは対決のお誘い、亜門からは激励、織部からはプレイの約束の言葉が返ってくる。それに対する返答は決まっている。
「ああ、またやろうぜ、サッカー!」
そして、青白い光の柱が現れその中に加賀美たちが入っていく。バダップたちとは違い異なる世界線からやってきた彼ら、再会するのは非常に困難なことだ。それでも一緒にプレイしてできた繋がり、絆がある。だから、そんな困難もへっちゃらで乗り越えられるはずだ。
「曾祖父ちゃん、俺一緒にプレイできて嬉しかったよ」
「ああ、俺もだ……ところで、曾孫が生まれてるってことは俺が結婚してるってことでその相手は……」
俺がそう聞くと、カノンは気まずそうに女性陣に視線を送りながら、あーそのー、と繰り返す。
「ま、まあ、そういうことだから頑張ってね、曾祖父ちゃん、じゃあね!」
「そういうことって、どういうことだ!?お、おい!」
一気に捲し立てこちらの静止を振り切りカノンは光柱に飛び込んでいく。まあ、答えられなかった理由は未来のことを無闇に教えてはいけないとかいう事情があるのだろう。
「ったく、じゃあな、カノン!」
「うん、曾祖父ちゃん!俺、曾祖父ちゃんと一緒にプレイできてよかった!」
そう言って手をブンブンと振るカノン。さらに、カノンほどではないが加賀美、亜門、織部もこちらに手を振っていた。それに小さな笑みを浮かべて手を振り返す。その手の振り合いはカノン達の姿がなくなるまで続いたのだった。
「いったな」
「そうだな」
カノン達が消えていった空をじっと見上げる俺の隣に豪炎寺が立つ。同じように空を見上げ、フッといつものように笑い俺の肩を叩く。
「いつまでしてんだ、いくぞ」
「ん、おう」
我に返り、いつのまにか起こっていた喝采を聞きながら慌てて豪炎寺の後を追う。その先には風丸や染岡たちが待っていた。
「おーい、はやくこいよ円堂!」
「そうですよ、写真撮影始まっちゃいますよ!」
「わかった。今すぐ行く!」
こうして、日本一を決めるフットボールフロンティアは幕を閉じた。雷門中サッカー部の新たな伝説の1ページが紡がれたのだった。
そして、これから降りかかるオーガ以上の脅威をまだその時の俺は知らなかった。
【?????】
どこかも時間軸すらわからない空間に少女と少年たちがいた。彼らの中心にある丸い物体には、先程までの試合が映し出されていた。
「恐怖は人から心の力を奪う……そんなサッカーはなくなさなくては……」
世界の片隅で花が枯れた。
というわけで、フットボールフロンティア編&オーガ編&コラボ編完結です!
今回、コラボしてくださったあーくわん様、ウボァー様、低次元の領域様、ありがとうございました。御三方とコラボすることができ本当に良かったです。
御三方の作品はどれも良いものなので読まれてない方がいましたら是非読んでみてください!
Re:雷鳴は光り轟く、仲間と共に(作:あーくわん様)
URL:https://syosetu.org/novel/263086/
超次元な世界では勘違いも超次元なのか?(作:ウボァー様)
URL:https://syosetu.org/novel/260587/
かき集めた部員が超次元な奴ばかりだった件について(作:低次元の領域様)
URL:https://syosetu.org/novel/195158/
次回からはエイリア学園編です。今話のラストの彼女たちがどう関わってくるかなども期待していただけたらな、と思います。
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エイリア襲来
「お久しぶりですね」
「……覚えていたのね」
数年ぶりの再会に言葉を交わす。しかし、その言葉のトーンはどこか低い。
「あの子たちのことを忘れていてくれたら、なんて考えたものだけれども、そう理想通りにはいかないものね」
そんな表情をする彼女を見るのは初めてだった。
◇◇◇
「やってない試合について問われるのはきつかったな……」
カノンたちが帰った後、オーガがいた形跡はすっかり消えた。俺たちがオーガとしたはずの試合の生中継映像には世宇子中のメンバーの姿へと変わっていた。
そのため、試合後のインタビューでは世宇子中についてのことを聞かれ苦労した。
「いや、おまえはがむしゃらにやってて覚えてない、でなんとかなっただろ。鬼道の方がよっぽど大変だったはずだろう」
「まあな」
言う通り、俺は極限状態で覚えていない、で逃げ切ったものの、司令塔である鬼道はそうもいかなかった。写真撮影とインタビューの間の時間に試合映像を見返し応答していた。
そして、その当人である鬼道はこの場にいない。フットボールフロンティア優勝を帝国学園の皆に報告しにいくということで、雷門中に戻っている俺たちと別行動をしている。また、豪炎寺は夕香ちゃんのところへ、一之瀬と土門、木野は西垣に報告するために木戸川清修中へと行っていて、アフロディは世宇子関連で再度鬼瓦さんについて行っている。
「もうそろそろつくわよ」
そう夏未に言われ、バスの窓から外を見ると雷門中のシンボルであるイナズママークが視認できる位置まで辿り着いていた。
優勝トロフィーではしゃいでいた者たちもその校舎の姿を確認し、その次の瞬間、雷門中校舎に何かが墜落した。
「なっ」
驚愕の声をあげる間も無く、墜落地である雷門中を中心に激しい爆発が轟音と爆風と共に起こった。
そう、きてしまったのだ、彼らが。
俺はアレスルートの世界線である可能性も捨てきれていなかったが、こうなってしまった以上確定だろう。
『エイリア学園』の襲来である。
エイリア学園──
それは、異星エイリアから現れた星の使徒。
力を示すため、全国各地にある中学校を襲い彼らが地球の秩序としたサッカーで勝負を挑んでくる。負ければ学校そのものを破壊して去っていく悪の宇宙人である。
というのが、表向きの話である。実際には彼らは宇宙人ではない。というか、地球の秩序を決めるための勝負がサッカーってなんだよ……
本当の正体はとある孤児院にいた子供たちであり、俺の古い友人たちだ。
【数年前 とある孤児院】
「おーい、ボールそっちいったぞ」
「まもれー!」
当時俺は夏休み親戚の家を訪れていた。しかし、そこには俺と同年代の小学生や趣味が合うような人もいなかったため、親戚の家を抜け出し近くにあった孤児院の子供たちと遊んでいた。そこには、サッカーをしていた子供たちが一定数おり最初はその面子と遊んでいた。初めて見る俺の姿が珍しかったのか、他の孤児院のメンバーも徐々に参加していき、その結果……
「『グレネードショット』!」
「うおっ!すごいな、もう必殺技が使えるなんて」
「でも、ゴールに入らない」
「当たり前だ。そうそう安安と入れさせないぞ」
「次こそは入れる。もう一回……!」
「何回してんだ!次は俺の番だ!」
「いや、違う、私の番だ!」
孤児院ではサッカーが一大ブームになっていた。孤児院内でやってないやつはいないというぐらいブームになっていた。
いや、正直ここまでなるとは思ってなかった。せいぜいミニゲームができる程度の人数になればいいなぁぐらいだった。それが、今や小さな大会だったら開けるくらいの人数へとなっている。サッカーが好きな人が増えるのは嬉しいが、強敵として立ちはだかる可能性が高い彼らのパワーアップになっているのも事実であり形容し難い感情に襲われる。小学生だった俺は悩んだ挙句、未来の俺がなんとかするだろうの精神で問題を先送りにしていた。
先送りにしてどうにかなる問題ではない。過去を振り返った俺は頭を抱えた。
記憶の中にあるエイリア学園との戦いで初勝利となる試合は、相手がサッカーの戦術をあまり知らないという穴をついて勝利する形だった。しかし、俺のせいでそれは実現不可能となった。控えめに言って馬鹿である。後悔先に立たずとはこういうことを言うのだろう。
「ついたぞ、円堂。考えごとしてないでいくぞ!」
「ん、おお、わ、わかった。すぐ行く!」
気づいたら雷門中についており他のメンバーは既に降りていた。俺を待ってくれた風丸に軽い感謝を伝え雷門中に走り込む。
そこで見たのは、崩れ落ちた校舎に体育館、真っ二つに折割かれたイナズママーク、そしてグランドに倒れ込んだ伝説のイナズマイレブン の面々だった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ひ、ひどい……」
俺たちに気づいた彼らは、宇宙人が攻めてきたと話す。半田や栗松は震えた声で冗談だろ、というが、校舎が崩れ去っており会田さんたちがそんな嘘をつくような人物ではないということからそれ以上の反論の言葉がでてこない。
そんな中、黒いボールが飛来してきた。それが一瞬光ると、三つの人影が現れていた。
身に纏っている服は宇宙服を思わせるデザインであり、非現実的な登場の仕方も合わせ宇宙人ということに説得力が増す。
それから先は知った流れであった。雷門中に降り立った彼らは自身の目的を話し、俺たちの部室を目の前で破壊していった。そのまま途方に暮れていると、俺と夏未の携帯から着信音が鳴る。発信元は、俺の方が秋、夏美は理事長からであった。
「木戸川清修の方もきたのか……ああ、こっちもだ」
秋からの電話で伝えられたのは雷門同様木戸川清修にもエイリア学園が攻めてきたこと。武方たちが応戦したものの敗北し校舎が破壊されてしまったそうだ。
「今は傘美野中に?でも、なんでお父様がエイリア学園がいる場所が……」
理事長から伝えられたのはエイリア学園の現在地。傘美野中は隣町の学校であり行くのはそう時間はかからない。雷門イレブンは学校を、そして部室を破壊された屈辱を晴らすため傘美野中に向かうこととなった。
俺に何かを警告するかのようにずきりと痛みを感じた。それを気のせいだと思い込みバスへと乗り込む。そのため、俺は当然のことに気づかなかった。
それは、雷門にとって、いや、俺にとっての
イナイレ新作情報でてましたね。どんな風になるか楽しみです
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