東方旅人形 (犬上高一)
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第1話 上海と人魚

家を抜け出した人形は湖へとたどり着きました。


まだ日が昇らないあたりが暗闇で覆われた森の中にある一軒の家。中には大量の人形と一人の少女がいた。少女は寝間着を着てベットで寝ている。

 

部屋の棚には人形がたくさんあった。その中の一体――上海――と呼ばれる人形があった。金髪に可愛らしいリボンと服を着た人形だ。その上海人形はコクコクとまるで人間が転寝をする直前の様な状態になっている。そして一度頭がカクンとなるとそのまま床へと落ちてしまった。

 

――――ドカッ

 

結構痛そうな音がすると同時に上海の目が開いた。上海はぶつけたおでこを痛そうにさすってからあたりを見回した。周りには人形とこの家の家主の少女だけ。上海は一度ベットの上で気持ちよさそうにしている少女を見たが視線を外すとそのまま窓から出て行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

上海は森の中をふよふよと飛んでいた。ふらぁ~ふらぁ~と飛んでいるとそのまま森を出てしまった。

そのまま上海はふよふよ飛び続けていると今度は湖に来てしまった。水平線の向こうからは太陽が顔を覗かせていた。上海はふよふよとその場に漂いながら日の出を眺めていた。

 

 

 

日の出からしばらくして上海はまた移動を始めた。湖を岸に沿って移動し始めた。

しばらく移動していると何か歌が聞こえてきた。見ると湖の中にぽつんと浮かぶ岩の上に一人の少女が乗っていた。青い髪にすらりとした手を岩に置いて歌う少女の下半身は魚で耳には何やら魚のヒレのような物が付いていた。

 

「~~~♪~~~♪」

 

綺麗な声で歌う少女は上海に気付くと一度歌うのを止める。

 

「こんな所に人形?」

 

そう言って傍に近寄ってきた上海を抱いてみる。少女は物珍しそうに見ていたがやがて上海の頭を撫で始めた。上海もそれが気持ち良かったのか目を閉じ嬉しそうに撫でられている。

 

「この娘飛べるっていう事はそれなりに力を持った人形なのかしら?」

 

少女は人形を持ち上げ話しかけてみるが返事は帰ってこなかった。

 

「まぁいいわ。別に気にしないし。」

 

そう言うと少女は上海を自分の横に奥とそのまま月を見上げる。少しばかり月を見ていたが少女はまた歌いだした。先程の歌とは違い今度は何やら軽い感じの歌だった。だがそれでも少女の声が綺麗なのに代わりは無く、軽く跳ねる様なリズム感のいい歌を少女は体を揺らしながら歌っていた。

上海はそんな楽しそうに歌う少女を見ながら自分も体を揺らしていた。

 

――ポチャリ、パチャリと少女は無意識に自分のヒレ水から出したり入れたりしている。

 

その音が少女の歌と混ざり歌に一味加える。

それを上海は体を揺らしながら聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女が歌い終わる。こんなに気持ち良く歌えたのはこの満月の所為かはたまた・・・・・。

そう思って自分の隣に居る人形を見るがそこに人形の姿は無かった。

 

「あ、あれ?」

 

慌てて辺りを見回すが人形の姿は見えない。

 

「(あれは・・・夢だったのかしら?)」

 

そんな事を思い若干寂しさを覚える。

例え人形であっても自分の歌を聞いてくれていた者が突然居なくなった事に対する喪失感。それを感じながら先程までの高揚していた気分は一気に沈んで行った。顔が俯いて前髪が目に掛かる。

 

そこに頭の上から何かが乗っかった感覚がした。

 

「ふえ?」

 

何かを手に取り見てみるとそれは湖の畔によく咲いている花で作られた花冠だった。

見上げると先ほどの人形が少女の目の前をふわふわと飛びながら見つめていた。まるで自分の上げたプレゼントの感想を求める様に・・・。

 

「これは貴女が?」

 

――――コクッ

 

上海は首を縦に振って答える。

 

「私に?」

 

―――コクッ

 

それを見ると少女は若干口元を綻ばせながら「ありがとう」と言って頭の上に花冠を乗せた。そしてもう一度歌い始める。先程と同じ軽く跳ねる様なリズム感のいい歌を体を横に揺らしながら歌っていた。

 

上海はそんな少女の肩に乗りながら少女と同じように体を揺らして楽しそうな笑顔で聞いていた。

 

やがて少女が歌い終わると、上海はふわふわと飛び上がる。

 

「あれ?もう行っちゃうの?」

 

その問いに上海は頷く。

 

「そう・・・。花冠ありがとう。」

 

そう言って微笑む少女に上海は微笑みを返して飛び立って行った。

残ったのは湖の岩の上にポツリ、花冠を乗せた少女がいた。

少女は月の光に照らされながら歌を歌っていた。

 

あの軽く跳ねる様なリズム感のいい歌を楽しそうに歌っていた。

 



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第2話 人形と妖精

上海はふよふよと飛び続けていた。行く当ても無く目的も無く唯ふよふよと飛んでいた。そうしている内にふと茂みの中で何やらゴソゴソとやっている3人組を見つけた。

 

「博麗神社よりくすねて来たお酒・・・。」

「すごく苦労したね・・・。見つかったらボコボコだもん・・・。」

「ねぇ早くも飲もうよ。」

 

3人の内二人は金髪で一人は黒髪の幼女だった。幼女達は自ら盗品である事を明かしたその酒を飲もうとしている。金髪でドリル髪の幼女と黒髪の幼女は何所から取り出したのか御猪口を手に持ちもう一人の金髪で八重歯の幼女がその御猪口に酒を注いでいく。

そして上海はその様子をふよふよ漂いながら見ていた。

八重歯の幼女が平らな石の上に置いてある自分の御猪口に酒を注ぐと三人は御猪口を持って一斉に

 

「「「乾杯!!」」」

 

をした。そして一気に酒を飲み干すとプハァ―と息を吐く。

 

「やっぱりお酒は最高ね!!」

「サニー。お代わりちょうだい。」

「あ、私にも。」

「はいはい今注ぐから。」

 

そう言ってまた八重歯の幼女が御猪口に酒を注ぎそれを飲む。そんな幼女の酒盛りを眺めていた上海はふらぁ~っと飛んでいくとちょうど酒を飲んでいたドリル髪の幼女の目の前に現れた。突然現れた上海に驚いてドリル髪の幼女は

 

「ブフッ!?」

「「汚ッ!!」」

 

口に含んでいた酒を噴き出した。ちなみに上海はちゃっかり躱してそのままドリル髪の幼女の頭の上に乗る。

ドリル髪の幼女は頭に乗っかった上海を引っぺがすとそのまま顔の前に持って来た。

 

「人形?」

「みたいだね・・・。」

「どうしてこんな所に?」

 

そう口々に言いながら上海をじっと見つめる。

対して上海は綺麗な目で自分の襟を持っているドリル髪の幼女を見つめていた。

 

「「・・・・・・。」」

 

二人の間に微妙な沈黙が流れる。

残った二人は幼女と上海の顔を行ったり来たりして眺めていた。と、上海が手足をじたばたと動かしてドリル髪の幼女の手から離れる。

そして酒が置いてある岩の上にちょこんと座った。

 

「・・・・・・飲みたいの?」

 

ドリル髪の幼女の質問に上海は頷いた。

 

「ちょっとそれ私達のお酒よ!!」

 

慌てて割り込んできた八重歯の幼女が叫ぶ。

 

「まぁ、いいじゃないのよ。人形が飲む程度だからそんなに量要らないでしょう?」

「(コクコク)」

「ほらこの娘もこう言ってるじゃない。」

「いや頷いてるだけだからね?」

 

黒髪幼女のツッコミをスルーしてドリル髪の少女は自分の御猪口に酒を注いで上海の前に置く。上海は御猪口を持つと一気に飲み干した。

 

「「「おぉ~・・・。」」」

 

その飲みっぷりはかなりのもの。2杯目もそのまま一気に飲み干す。

 

が、

 

「ちょ?大丈夫?」

 

やはりというか何というか、顔を真っ赤にした上海はそのまま仰向けに倒れてしまった。

 

「あちゃー。」

「やっぱ一気飲みはダメか・・・。」

 

そう言って倒れた上海をそっとなでると。

 

「じゃ残りは私達が飲んじゃおうか!!」

「何を飲むのかしら?」

「そりゃ博麗の所から取ってきたお酒に決まって・・・るじゃ・・・・。」

 

上海を放置して酒を飲もうとした3人の後ろに突如現れた人物。脇を異常に見せた巫女服を着た少女――以下紅白少女はお祓い棒を持ちながら笑顔で

 

「そう。あんた達が持って行ったのね?その酒を。」

 

ガタガタと震えだす3人を紅白少女はにっこりと笑いながら

 

「夢想転生!!!!!」

「「「ぎゃぁーー!!!!!」」」

 

容赦なく3人を吹き飛ばした。岩の影に寝ていた上海は辛うじて助かったがあたりの木々はなぎ倒されまるで隕石が落ちたようなクレーターが出来ている。紅白少女は満足したような表情で帰って行く。

 

 

 

 

 

その後目が覚めた上海があたりの光景を目の当たりにして驚いたのは言うまでもない。

 



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第3話 上海と紅い館(前)

今回はリクエストによる紅魔館メンツです。




紅魔館――――目が可笑しくなりそうなまで真っ赤なその館の門にチャイナドレスを着た女性が立っていた。女性の仕事はその館の門番であり仁王立ちでその門を守る姿は門番の鏡と言えるだろう。

 

ただし、居眠りをしていなければの話だが。

 

その居眠りをしている門番の横を上海は飛んで通り過ぎていく。あっさりと屋敷の中に侵入することが出来た。

 

空いていた窓の隙間から入り込むんだ上海はそのまま館内をうろつき始めた。

 

 

 

 

毒々しいまでの真っ赤な廊下を一人の妖精メイドが歩いていた。そのトコトコと歩く妖精の頭の上に可愛らしい人形が乗って・・・あ、上海でした。

 

「ちょっとあなた。」

 

その頭に上海を乗せた妖精メイドの後ろから声を掛ける人が。

 

「あ、メイド長。」

「アナタその頭に乗っけているものは何?」

「あ、これはさっき廊下に落ちていたんですよ。」

 

そう言って頭の上海を抱く。

 

「とっても可愛いんですよ~。」

「はぁ・・・とりあえず、その人形は没収します。」

「えッ!?」

「持ち主の所へ返してくるわ。それと貴女、皿洗いはどうしたの?」

 

そう言って右手に一本のナイフを取り出すと妖精メイドは顔を真っ青にして「ごめんなさーい!!」と言いながら自身の仕事をしに戻って行った。

ちなみに上海は妖精メイドが落っことして行った。メイド長と呼ばれた女性は上海を持ち上げると何やら思案顔で見つめた。上海も見つめ返すが女性はふと視線を上海から外すと次の瞬間にはその場から忽然と消えていた。

 

そしてその赤い廊下には誰も居なくなった。

 

 

 

 

 

 

所変わって赤い館のある一室。そこに上海は居た。

部屋には先ほどメイド長と呼ばれた女性も一緒に居る。上海がキョロキョロと物珍しそうに部屋の中を見ていると、メイド長が一着の服を持って来た。

 

キョトンとしている上海に対しメイド長は

 

「とりあえず、脱ぎましょうか。」

 

と言った次の瞬間に上海の服が無くなった。

 

「!?」

 

その事に上海が驚いた瞬間、今度は服を着せられていた。

ただし、先程まで来ていた服とは違い、メイド服だが。

 

「!!?」

 

状況が分からずあたふたする上海に対し、メイド長は

 

「この館の中を歩く時はこれを着なさい。それと・・・。」

 

そう言ってポケットから取り出したのは小さなペンダントだった。

調度上海の首のサイズ位しかない。

 

「上げるわ。私にはつけられないものだし。」

 

そう言って女性は上海の首に小さなペンダントを付ける。上海はしばらくペンダントを見つめていたが、気に行ったのか笑顔で手を振ってくれた。

 

―――ありがとう―――

 

メイド長には上海がそう言っているような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

で、メイド長にメイド服とペンダントを貰った上海がふよふよ飛んでいると何時の間にか広い空間に出た。広いと言ってもそこには大きな本棚が並んでいる。びっしりと埋まった本棚は天井に届きそうと言う位の高さを誇り、正直倒れてこないか心配である。

 

そんな部屋の中をふよふよと飛ぶ上海の目にある人影が飛び込んで来た。

紫の服を纏った少女は薄暗い空間の中で一人読書に熱中していた。熱中しすぎて近づいて来た上海には気付かない。

 

上海が少女の目の前に座り本を覗き込む。それでも彼女は上海に気付かない。が

 

「・・・この本じゃない。」

 

そう言って本を閉じるとようやく上海の存在に気付いた。

見た途端は驚いたがよくよく見てみると咲夜とお揃いのメイド服を着ている人形は何所かで見覚えがあるもの―――人形遣いの人形だった。

 

―――どうしてこんな所に?という疑問が浮かぶがそれよりも今は必要な本を探さなくてはならない。そう思い椅子から立ち上がって本を取りに行く。生憎とこの図書館の司書は今は居ないのだ。

 

「この本かしら?」

 

そう言って本棚から本を抜き出す。パラパラとめくって行くがこれには書いていない。

少女が溜め息を吐きながらその本を棚に戻していると、突然肩に何かがぶつかった。振り向くとそこには上海が一冊の本を持っていた。その本を見た少女は目を見開いて

 

「そうよ!この本よ!!」

 

そう言って上海から本を引っ手繰る。が、その事に気付いた少女は慌てて

 

「あ、ごめんなさい!それと・・・ありが

 

そこまで言いかけた瞬間、突如とてつもなく巨大なレーザーが少女を焼いた。幸いにも少女は防御魔法か何かを使ったらしく無事だったが肝心の本は黒こげになってしまった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

絶句している少女。その上、レーザーによって天井に開いた大穴から二人の人影が見えた。片方は箒に乗った白黒の少女で、もう片方は背中に羽を生やした少女だった。白黒の少女は大きなレーザーを、羽を生やした少女は竜巻を相手に向けて放っていた。

完璧な巻き添えである。

 

しかもあろう事かその二人はレーザーで空いた大穴から中へと入ってきてそこでまたレーザーや竜巻を放つ。

本棚などがめちゃくちゃになる中で紫の少女は一人、俯いてぶつぶつと呟いていると突如自身の周りに火球を創り出しそれを二人に放ち始めた。

 

「人の図書館で何してるのよおおおおおおおおおおお!!!!」

 

少女の叫びは火球と共に二人に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・何とか助かりましたね・・・。」

 

図書館で泣き喚きながら火球を放つ少女の登場に驚いて慌てて逃げ出す。逃げ込んだ部屋で呼吸を整えるのは背中から黒い羽を生やした少女だ。

服の所々が焦げているのは少女の放った火球の所為。

 

「あやややや・・・、弾幕ごっこに夢中になっていたとはいえ容赦無さすぎますねぇ~。」

 

取材口調になって言って見ても焦げた服は戻らない。気に入っていたのにな・・・。

まぁ人の家で弾幕ごっこなんかやる方が悪いのだが

 

ふと、自分の胸元がもぞもぞと動き出したかと思うと服の中から一体の人形――上海が出てきた。

 

「ふえ?」

 

そう言って上海をつまみ上げる。実は上海は3人が弾幕ごっこをおっぱじめた際に巻き添えを食って羽が生えた少女の胸の中に入ってしまいそのままだったのだ。動きが止まったことによりようやく胸の谷間から出てこれたのだ。

 

「なんで?」

 

そんな事情はなど知らない少女は突然自身の胸から出てきた上海に驚くばかりだ。だが上海はそんな事お構いなしにふよふよと飛び立つと少女の頭の上に乗る。

上にちっちゃな帽子が乗っていたがその帽子にしがみつくように乗っかっている。

 

「・・・・・・・・・まぁ、困るもんでもないし・・・。」

 

若干戸惑いながらも上海の頭を撫でる少女。嬉しそうな顔をする上海。

焦げた服を着直しながら少女は部屋を出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、取材と行きましょうかね。」

 

そう言ってカメラを取りだし部屋を片っ端から開けては中を取り、開けては中を取りを繰り返す少女。の頭の上には上海だ。ちゃっかりカメラを取る真似をしている。

 

そして少女はある一つの部屋に入り込んだ。

 

固く閉ざされたその部屋には・・・

 

「貴女はだぁれ?」

 

小さな金髪の女の子が居た。

 




登場キャラのリクエストは常時受け付けております。
*リクエストする際は活動報告か、メッセージにてお伝えください。

それと上海そこ変われ






って蓬莱が言ってた。


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第4話 上海と紅い館(後)

今回のこの話結構大事です。


廊下と同じく真っ赤な部屋で金色の髪をした女の子が居た。

それだけなら普通の人間に見えただろう。だが背中から生えている羽―――骨に綺麗な宝石がぶら下がっているような物―――が彼女が人外であるという事を教えていた。

 

「貴女達はだぁれ?」

 

女の子はもう一度聞く。

 

「あ、えっとですね。私はその~、決して怪しいものでは無くてですね。」

 

もう、そのセリフを使う時点で怪しい奴確定だが。

ともあれ羽の生えた少女は何とか侵入者という事を誤魔化したようだ。

 

「ふぅ~ん、じゃああなたは?」

 

そう言って女の子が指差す先には少女の頭の上に居る上海。

上海は首を傾げるが、少女の頭から降りると女の子の前に来た。

 

「そう、アナタ上海って言うの。」

「!?」

 

女の子の言葉に少女は驚く。それもそのはず、少女には上海の名前も知らないし上海が喋る声は聞こえていない。それなのに女の子は上海の名前を言った。まるで上海自身がしゃべって教えたように。

 

「貴女この娘の声が聞こえるの!?」

 

慌てて少女は尋ねるが、女の子は首を振る。

 

「ううん。上海の目を見ているとね、自然と頭に浮かんでくるの。」

 

そう言って女の子は上海の体を掴むとそっと抱き寄せる。

 

「あ、この娘温かい。」

「え?」

 

―――人形であるはずの上海が温かい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

―――喋っていないのに声が聞こえる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

幻想郷に置いて“常識”とはほぼ無いようなものだがさすがにこればかりは“幻想郷の常識”からも外れたものだった。

 

――これではまるで人形に生命が宿っているようじゃないか――

 

そしてその人形に対して少女が取った行動とは―――

 

「しゅ・・・取材させてください!!」

 

そう言うと突然女の子から人形をひったくりあれやこれやと質問をする少女。

少女のマシンガンのような質問攻めに文字通り目がぐるぐる回転している上海。

そして突然人形を奪い取られ涙目になって唸っている女の子。

 

そして女の子が取った行動は

 

「ふ・・・フランの人形返してぇぇぇええええええええええ!!!!!」

 

叫びながら女の子が手に持つのは燃え盛る剣「レーヴァテイン」。それを少女めがけ振り下ろす。

 

「!?」

 

とっさに反応した少女は体を捻ってレーヴァテインを躱す。その際若干服が焦げた。

 

「あぁーーー!!私の一張羅がぁぁぁあああああああああ!!!」

 

叫んでも焦げた服は元に戻らない。焦げて穴だらけになった服からはいろいろと見えている。

癇癪を起した子供のように女の子はブンブンレーヴァテインを振り回す。その炎は部屋の装飾品を燃やし上海のメイド服のスカート、さらには部屋そのものにまで燃え移り始めた。

 

「やばっ!」

 

そう言って部屋の中から逃げ出す少女。その後を追いかける女の子。上海は少女の頭の上に乗りながら自身のスカートについた火を消していた。

 

「人形返してぇえええええ!!!」

「燃やさないでぇええええ!!!」

 

叫ぶ二人が走った後は燃え盛る炎で埋め尽くされておりのちに紅魔館火災異変とかなずけられるのだが今はそんな事はどうでもよい。

 

大体館の約3分の1ぐらいが燃えた辺りだろうか?妖精メイドたちがバケツを持ってアタフタしたりしている中を二人は駆け抜けていく。偶に巻き込まれて一回休みになる妖精メイドも居るが・・・。

 

その二人の目の前に一本の槍が突き立てられた。

 

「お、お姉様・・・。」

「フラン・・・。彼方は何をやって居るのかしら?」

 

槍を突き刺したのは背中に蝙蝠の羽を生やした女の子―――吸血鬼の女の子だった。頭に上海を乗っけた少女は二人が何やら只ならぬ空気を出して止まっているのをいいことにこの場から逃げようとしたが

 

「どこへ行くのかしら?」

「あ、あやややや・・・・。」

 

突如首筋に現れた銀色のナイフによって阻まれた。

 

「ちょっと度が過ぎた様ね。」

「いや、これは不幸な事故でしてね?」

「妹様の大切な人形を取り上げて置いて何を言っているのかしら?」

「いや、この娘はあの娘の人形じゃな

「言い訳無用よ。」

 

そう言って銀色のナイフの持ち主はひょいと上海をつまみ上げる。

 

「あぁ~・・・私のネタ。」

 

羽の生えた少女は上海を惜しむように手を伸ばす。無論半分演技である。

 

「とりあえずフラン。貴女、館内を出歩くのは勝手だけど燃やすのは感心できないわね。」

「・・・・・・・・ご、ごめんなさい・・・。」

「とりあえず、罰として今日から一週間。おやつのプリンはおあじゅけよ。」

 

その瞬間空気が凍りついた。

ある者は自身が言葉の途中で噛んだことを恥ずかしがり

またある者は呆れて

またある者はカメラを構えようとしたが自身の足元に突如突き刺さったナイフによって阻まれた。

 

「・・・兎に角!!フランは1週間おやつ抜き!!いいわね!!////」

 

顔を真っ赤にして去って行く吸血鬼の女の子。

 

「それでは妹様。こちらはお返ししますので。」

 

そう言ってメイド長は女の子に上海を渡す。渡した瞬間メイド長はふっとその場から消え去ってしまった。一緒に羽の生えた少女も消えていた。どこかへ飛び去ってしまったのかそれとも・・・・・・・・・。

 

この場に居るのは女の子と上海のみ。

 

「・・・お部屋に戻ろっか。」

 

上海を抱きかかえながら女の子は部屋へと戻って行く。

 

―――そして廊下には誰もいなくなった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のだが、その廊下を歩くものが居た。先程の女の子だった。無論上海も一緒である。

戻って来た理由は部屋が燃えて使い物にならなかった為である。

 

後に紅魔館炎上異変などと何処かの新聞に書かれるのだがそれはまた別のお話。

 



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第5話 上海と化け猫

遅くなりました。東方旅人形最新話です。

今回は東方に住む東方厨さんからのリクエストです。


ふよりふよりと上海は飛んでいく。そうしてついた先は小さな集落だった。

古ぼけた家々からは人の気配は無く、代わりに一匹の化け猫がいた。化け猫と言っても頭に耳と2本の尻尾を生やした猫又の少女である。

 

「にゃぁ~ん」

 

それは家の縁側で気持ち良さそうに日向ぼっこをしている化け猫だった。お持ち帰りしたいくらいの可愛い娘である。

 

その化け猫の上を上海は飛んでいく。ちょうど化け猫の真上に差し掛かった時、カッっと化け猫が目を見開いて腕を振り上げてきた。上海はそれをすんでの所で避ける。

 

「にゃん!」

 

化け猫の届かないちょっと高い所まで飛ぶと、化け猫はにゃんにゃんと言いながら手を伸ばしてくる。

上海はちょっと降りて化け猫の手の届きそうで届かない所に行く。そして伸びて来た手を避ける。

 

傍から見ると猫じゃらしでじゃれる猫の図である。

 

「にゃっつ!にゃっつ!!」

 

大きくジャンプして上海を捕まえようとする化け猫。爪が上海の服をかすめた。

これはたまらんと上海はその化け猫から逃げ出すが、化け猫も簡単には逃がしてくれない。上海の事をもはや遊び道具にしか思っていないようで夢中で追いかけてくる。

こうして上海と化け猫の追いかけっこは始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃあああああああああああ!」

 

突如放たれた爪が、上海が隠れていた箱を切り裂く。

そこから飛び出して上海は、逃げ出した。化け猫は野生に戻ったか四つん這いで上海を追いかける。

それに対して上海は必死に飛んで逃げる。だが、化け猫は床を蹴って飛翔すると突如弾幕を放ち始めた。弾幕を放てない上海は弾幕を躱して逃げるしかない。放たれた鮮やかな弾幕の隙間に滑り込んで弾幕を躱す。元々体が小さい為、弾幕の隙間を縫うのは困難な事ではない。

だが上海は弾幕を躱すのに必死で、飛びかかって来た化け猫に気付くのが遅れた。そして気づいた時にはすでに化け猫の口に咥えられてしまった。

食べられると思い思わず目を閉じた時、急に体に掛かっていた圧力が無くなり地面に落ちる。

 

「ふにゃぁ~・・・・」

 

見ると化け猫はゴロンゴロンと寝返りをうちながら上海に頬ずりしてきた。まるで猫好きの人間が猫を抱きながら布団の上をごろごろするように。

 

くんくんと匂いを嗅ぐ度に化け猫は「にゃ~ん」と鳴く。次第に上海はこの猫に対して先程まで感じていた恐怖という物を感じなくなっていた。

 

 

 

で、どうしてこうなったかというとそれは上海がこの屋敷に入る少し前に遡る。

 

上海がふよふよと飛んでいると、地面に何か落ちているのを見つけたのだ。それはこの幻想郷には無い、外の世界の物だった。

ビニールに包まれたそれを上海が開けてみる。だが、中々開けられないので力を込めると袋がビリッと勢いよく破け、中に入っていた粉末が飛び出した。それを上海はもろに浴びてしまったのである。

その粉末はの中身は、唯のまたたびである。

 

 

 

要するに化け猫は上海に付いていたまたたびに反応したのだった。

 

「にゃぁあああぁあ~ん」

 

笑顔で上海に抱き付いてまたたびを嗅いでは鳴き、またたびを嗅いでは鳴くの繰り返しである。しばらく上海は化け猫に抱き付かれたままであった。

 

 

 

 

 

 

 

「ちぇ~ん~♪ただいま~♪」

 

日も暮れて来た頃、導士服の様な服を着て狐の尻尾を9本も生やした女性が家の中に入ってきた。

 

「あれ?橙?」

 

言いながら女性は、家の奥へと入って行く。すると、縁側に上海と抱き付いたまま笑顔で寝ている化け猫の姿を見つけた。

 

「・・・・・・可愛い寝顔だわぁ~///」

 

そう言うと女性は、傍に座って化け猫が起きるのを待つことにした。でれでれとした顔の女性に見守られながら、上海と化け猫は気持ち良さそうに眠っていた。

 



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第6話 上海と馬鹿

説明文じゃね?このタイトルだと


あいもかわらずふよふよと空を飛ぶ上海。今幻想郷は夏である。夏の猛暑は人間妖怪神様何でもかんでもだらけさせる。

その暑さから逃れようと、多くの者がこの湖に集まってきた。

その中で一人。湖の畔で蹲っている少女が居た。青い服を着た少女は

 

「出来た!カエルの凍り漬け!!」

 

カエルを凍らせて遊んでいた。しかもこの娘

 

「ふふん!やっぱりアタイは天才ね!次はこの湖中のカエル全部凍らせてやるんだから!」

 

バカである。

そのバカを上海は上から見ていた。

 

「ん?そこにいるのは誰?」

 

バカが上海に気づいて顔を上げる。だがちょっと遅かった。

 

既に上海は上からバカの頭目掛けてダイブした所であり、そのタイミングでバカは顔を上げたため着陸地点が丁度バカの顔面になる。さらに運が悪いのか偶々上海の手がバカの眼に入り、

 

「目がああ・・・目がアアアアアアアアアアアアアア!」

 

この様に目を押さえて転げまわっている始末である。

 

「だ、誰よ・・・私の顔にぶつかってくる奴はッ!?凍り漬けにしてやるんだから!!」

「シャンハーイ。」

「んん?」

 

と、視力が回復したチルノは目の前に上海に気が付く。

 

「なにこれ?人形?」

「シャ~ンハ~イ」

 

そう言うといつも通りにバカの頭に乗る上海。

 

「ははぁ~ん。そうか、あんた私の部下になりたいのね!」

 

誰もそんな事は言っておらん。

 

「いいわ!あんたあたいの部下にしてあげる!」

 

誰もそんな事は頼んでおらん。

 

「ふっふっふ・・・まずはこの湖のカエルすべてを凍らせるわよー!!」

 

やめろ。

 

「・・・・・・・と言ったはいいものの・・・。もうここ等辺にはカエルは居ないわね。」

「しゃんはーい・・・。」

 

当たり前だ。カエルだって冷凍されたくないからとっくの昔に逃げている。

 

「カエルが居ないんじぁしょうがないわね・・・。他にカエルの良そうなところは・・・。」

「しゃーんはい。しゃーんはい。」

「ふっふーん。そんなにあたいの技が見たいのね!いいわ。見せてあげる!!」

 

そう言うとバカは懐から一枚のカードを取り出すと

 

――凍符『パーフェクトフリーズ』

 

そう宣言した途端、バカの周りからとてつもない冷気が発せられる。

その冷気は、空気中の水分を、湖の水を凍らせる。

 

「どーよ!あたいに掛かればこんなものたやすいんだから!」

「・・・。」

「ってあれ?どうしたのよ?」

 

返事が無い事に違和感を感じて上に居た上海を見上げる。するとそこに居たのは

 

「・・・・(カキーン)」

 

何とも見事に凍り漬けになった上海の姿なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上海が凍りついてしばらく、日当たりの良い所に置いておいたら丁度いい具合に氷が解けていた。

 

「しゃ・・・しゃん・・・はい・・・。」

 

どうにかこうにか解凍されて生還した上海は、ただいまバカの頭の上で日にあたっていた。

 

「ご・・・ごめんなさい・・・。」

 

そう言って謝るバカ。きちんと頭を下げて謝るのは良い事だが、頭の上に上海が乗っている事を忘れている。

おかげさまで上海はそのまま頭から転げ落ちた。

 

「お礼にあたいのとっておきの技を見せてあげる!」

 

そんな事はつゆ知らずバカは勢いよく立ち上がる。

またもやどこからか取り出したカードを宣言する。

 

「――――――――――――――――――」

 

すると、バカの周りに大きな氷の塊が6つ出来上がった。その氷塊は空高く舞い上がりそしてパキンッという音が起ちひびが入る。

 

上海や、湖に集まっていた他の妖怪達が見上げる中。氷塊のひびはどんどん大きくなっていき、砕け散った。

 

細かく砕かれた氷は、太陽の光をキラキラと反射させながら降り注いできた。

 

湖に居た全員が見とれていた。

 

「ふっふん!どうよ!」

 

この日、夏の幻想郷の湖に雪が降った。

 



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第7話 上海と夜雀

お待たせしますた。

東方旅人形最新話です。


雲一つない晴れやかな夜空に浮かぶ満月。その満月が照らす幻想郷のさる所にて、一軒の屋台が出ていた。パチパチと鳴る炭火の上にはたれをかけたヤツメウナギのかば焼きが置いてある。漂う香ばしい香りは嗅いだだけで食欲をそそる。

だが、そんな旨そうなウナギを焼く屋台にはお客の姿は無く虚しい空席があるのみである。

 

「はぁ・・・お客さん来ないなぁ・・・・。」

 

その屋台にて溜め息を吐きながらウナギを焼く一人の少女。背中に人間にあるはずの無い羽を生やした妖怪の少女。

こんなにも美味しいウナギを売っているのに、何故客が全く来ないかと言うとその訳は

 

「・・・ちょっと人里から遠すぎたかしら?」

 

その人里から離れすぎた場所にあった。よりにもよって夜中に、妖怪がわんさか出る場所に来る好き者は居ない。

 

「はぁ・・・。」

 

そう言って溜め息を吐く少女。の頭の上には

 

「しゃんはーい。」

 

ここが私の定位置ですとも言わんばかりの表情で上海が座っていた。

 

「うひゃあああああああああああああ!!!?」

 

そりゃ、いきなり頭の上に人形が現れたら誰だって驚くわな。

 

「な、何この人形!?」

 

そう言って、少女は頭の上にいた上海を捕まえる。

 

「妖怪・・・ではなさそうね?じゃあなんでこの娘動いてるの?」

「しゃんはい!しゃんはい!」

「ん?何?どうしたの?」

 

手足をバタバタさせて必死に何かを訴えようとする上海。だが、少女は気づかない。

―――先程まで焼いていたウナギが焦げて燃え上がっている事に

 

「きゃーーーーーーーッ!!」

 

慌てて、傍に置いてあった水をぶっ掛ける少女。ジュウという音がしてそのまま火は消えた。

 

「あ、あぶなかった・・・。」

 

危うく屋台が燃えてしまう所であった。

 

「まったく・・・なんてことしてくれんのよ!」

「?」

「ってあんた何勝手に食べてるの!!」

 

さり気なく上海が食べていたのは、先程焼いていたのとは別のウナギである。律儀に皿に乗せて、爪楊枝をフォークの様に使って食べていた。

 

・・・堂々と口に青海苔を付けている。

 

「・・・はぁ・・・もういいわ。どうせお客さんなんて今日は来ないでしょうし・・・。」

 

そう言うと少女はそのまま椅子に座る。とりあえずこの売り物にならないウナギを処分して、炭を片付ける。

 

「(・・・にしても、人形もウナギを食べるのね。)」

 

そう思いながらも少女は棚から取り出した酒を飲み始める。

上海がウナギを食べ終わるのと、少女が酒を飲み終わるのはほぼ同時だった。

 

「あら?もう行っちゃうの?」

 

ウナギを食べ終わり、飛び立つ上海に声を掛ける少女。

 

「(コクリ)」

「そう。今度来るときはきちんとお客さんとして来てよね。」

「(コクリ)」

 

そう頷くと上海はまたふよふよと飛んで行った。

 

「・・・さて、片付け片付けっと。」

「あれ?今日はもう店じまい?」

 

少女が店を閉めようとした時、二人の少女がやって来た。一人は黒白、もう一人は紅白の少女である。

 

「なんだー。せっかくうまいウナギが食えると思ったのに。」

「い、いやいやいや!まだ営業してますよ!どーぞどーぞ!」

「あらそう?じゃあお言葉に甘えて。」

 

そう言う二人は、席についてウナギの注文を取る。

少女はウナギを焼きながら考えていた。もしかしたら上海は店に客を呼び込んでくれる招き猫か何かでは無いかと。

 

「お酒もう一杯!」

「はい、どうぞ。」

 

森の中の屋台からは、美味しいウナギの匂いが再び漂ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに黒白の少女は食い逃げ。紅白の少女には料金をツケにされたのはまた別の話である。

 



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第8話 上海と花畑

遅れました、どうにも最近執筆時間が取れませぬ。
東方旅人形更新です。

今回は七夜士郎さんとシルクさんのリクエストです。


向日葵が日光を浴びて輝く花畑の上を上海は飛んでいた。

 

一面向日葵だらけの中に一人の女性が居た。日傘を持った女性は一本の向日葵を見つめていた。ゆっくりと――まるで愛しい自分の娘を撫でるような感覚で花を撫でている女性は背後の気配に気づく。

 

「誰かしら?こんな所に?」

 

そう言って女性が振り向くと目の前に上海が居た。

・・・顔から約10cm位の近さで。

 

「―――ッ!?」

 

無論女性は驚いた。というか誰だって驚く。上海はそんな女性の顔を見つめながらふよふよと浮かんでいた。

驚いた女性は若干動揺していたがすぐに落ち着きを取り戻すと改めて目の前の人形を見つめた。

 

「貴女・・・どこかで見たことがある様な・・・。」

 

そう言った女性ではあるが、どこで見たのかが思い出せない。

 

そうしている内に上海はふよふよと花畑の奥へ進んで行く。

 

「あ、ちょっと待ちなさい!」

 

そう言って女性は上海を追いかける。雛畑を抜けて少しした所にある鈴蘭の花畑に上海は止まった。見れば自分の足元をじっと見つめている。

 

「どうかした・・・の?」

 

見てみるとそこには鈴蘭を握りしめ頭に赤いリボンを付けた女の子が寝ていた。

 

「しゃんはい?」

「・・・生きてるのかしら?」

 

そう言って頬を思いっきり引っ張る女性。

 

「いだだだだだだだっつ!?」

「あら生きてたの?」

 

酷い扱いである。

 

「い、いきなりなにすんのひょ!?」

「鈴蘭ねぇ~。」

「しゃんは~い。」

「聞けよお前等」

 

酷い扱いである。

 

「で、何してたのこんな所で?」

「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれました!私の名前は―――――――――」

「別にそんな事は聞いてないんだけど?」

「いひゃひゃひゃひゃいふぁい!!!」

「しゃんはいーい。」

「アンタも引っ張るなー!」

 

便乗して女性と一緒になって頬を引っ張っていた上海に向けて怒る女の子。

両側に引っ張られた女の子の頬は赤くなっている。

 

「まぁ貴女が何者だろうが名前が何であろうがどうでもいいけどね。取り合えず家に来なさいな。服が土で汚れてるわよ。」

 

酷い人なのか優しい人なのか良く分からない女性である。

女性は上海の方を向いて聞く。日傘に隠れて口元しか見えなかったが彼女は微笑んでいた。

 

「(コクッ)」

「じゃあ決定ね。ついて来なさいな。」

 

そう言って彼女は二人を自分の家へと招いていく。

向日葵畑の真ん中に建っている小さな家。女性はそこの扉を開けて手招きする。二人は一瞬お互いの顔を見合ったがすぐに家の中へ入って行った。

 

「おじゃましまーす・・・。」

 

そう言って恐る恐ると入って行く二人。中は普通の家の内装だった。しいて言えばそこかしこに花が飾ってあるくらいだろうか。

 

「どうしたの?はやくいらっしゃい。」

 

そう言って奥にある客間みたいな所へ通される。

 

「待ってなさいな。今紅茶でも入れるから。」

 

台所へと引っ込んで行った女性を見送ると女の子は上海をジッと見つめる。

 

「貴女人形よね?なら私と一緒に来ない?」

 

突然の言葉に訳が分からない上海は唯首を傾げるだけである。その様子を見て察した女の子は詳しく説明を始めた。

 

「人間達に復讐するのよ!そしてこれからは私たち人形が世界を支配するわ!!」

「それは無理ねぇ~。」

 

何時の間にやらお茶を持って戻って来ていた女性は柔らかな笑顔でそう言った。

 

「どうしてよ!?」

「ふふふ・・・貴女も時間が過ぎれば分かると思うわよ。さぁ、クッキーと紅茶をどうぞ。」

 

そう言って女性が差し出した紅茶を受け取ると女の子は頬を膨らませながらも紅茶を飲んだ。

 

「貴方は普通のコップじゃ大きいわね。これでどうかしら?」

 

そう言って女性が差し出したのは、木で出来た上海サイズのコップだった。

 

「この子が作ってくれたのよ。」

 

そう言って女性は家の壁と一体化している樹木を指差す。その木に対し上海はぺこりとお辞儀をする。

 

「あら、律儀なのね。」

「なによ、たかが木じゃない。」

 

女の子がそう言った途端女性の右手が女の子の頭を鷲掴みにする。

 

「そうよ~あれはたかが一本の木。それでもあの子は生きているのよ~?」

「いだだいだい痛い痛い痛い!!ごめんなさいごめんなさい!!」

 

あまりの痛みに女の子が涙目で謝る。すると女性はポンと手を離した。だいぶ力を込めたらしく掴まれた部分に跡が残っている。

 

「しゃんは~い?」

「うぐぐぐぐ・・・。」

 

跡の付いた所をさする上海とうめき声をあげてテーブルに顔を突っ伏す女の子。よほど痛かったのだろう。ちなみに女性は笑顔だった。

 

 

その後は3人でクッキーを食べて話をした。主に女性による植物の話であったが。

日が傾き空が茜色に染まっている。向日葵たちの花が項垂れる時間だ。

 

「あら、もうこんな時間なのね。」

 

そう言うと女性はテーブルから立ち上がって別の部屋へと入っていった。奥からはゴソゴソズルズルと何やらよく分からない音が聞こえてくる。

そして5分ぐらいすると女性が戻って来た。

 

「はいこれ。お土産。」

 

そう言って女性はある物を手渡した。それは鈴蘭のネックレスだった。

 

「貴方には鈴蘭がぴったり見たいだからね、ちょうどよかったわ。それとあなたはこっち。」

 

そう言って上海には、向日葵の種が下げられたネックレスだった。上海の体にはちょうど良いサイズである。先程女性が部屋で作っていたのはこれだった。

 

「さぁ、そろそろ自分の場所に帰りましょう?」

 

 

 

外は丁度日が落ちる時だった。

家から出てまた別の所へふよふよと飛んで行こうとした上海は、一度振り返ると女性に向けて深いお辞儀をした。それを見ていた少女も礼を言う。

 

「・・・ありがとう・・・。」

 

頭を掴まれた事を根に持っているのかプイッと女性の方を見ないでいう女の子。だが、女性は微笑みながら

 

「またいらっしゃい。」

 

その声を背に女の子は鈴蘭のネックレスを握りしめながら、夕暮れの中を歩いていく。上海も別の方向に飛んで行った。

女性は二人が見えなくなった頃、そっと家の扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談であるが上海が持っていた向日葵のネックレスはお腹を空かせて死にかけていたネズミに与えたという。

 



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第9話 上海と宝塔

遅くなりました。テストだなんだとたまったもんじゃありません。

今回は裏切りの鎮魂歌さんのリクエストです。


「ない・・・ない・・・。」

 

現在上海はとある寺の上空に来ている。何故来たのかそれは誰にも分からない。その上海の手には何故か宝塔と呼ばれるすごく大切な物を持っている。

そして、上海が見下ろすその寺にて、先程から虎柄の少女が無い無いを連呼しながらあっちをうろうろこっちをうろうろしている。

その虎柄の少女の隣には金属の棒を持ったネズミの耳を生やした少女が居た。目を閉じて両手の金属の棒から伝わる感覚を研ぎ澄ましている。要は唯のダウジングである。

 

ダウザーの少女がゆっくりと目を開ける。

 

「おかしいなぁ~・・・確かにこの辺にあるとは思うんだけど・・・。って言うかご主人もご主人だよ。昼寝している間に宝塔無くすとかどんだけ酷いんだい?」

「うぅ・・・返す言葉もございません・・・。」

 

涙目になりながら藪の中に手を突っ込んで探している虎柄少女。

 

の、頭の上に上海は降り立った、宝塔のとがった部分を下にして。無論そんな事をすればどうなるかは自明の理である。とがった部分は見事頭頂部に突き刺さった。

 

「あ゛に゛ゃあああああぁあぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああぁぁ!!!?」

 

猫科特有の叫びとでもいうのだろうか?手に書くとてつもない叫び声が上がり虎柄少女は頭頂部を押さえて転がりまわる。

 

「だ、大丈夫かい?ご主人?」

 

慌てて駆け寄るダウザー少女。

 

「うぅ・・・い、いったい何が・・・。」

そう言った虎柄少女の前に現れたのは上海。少女達は堂々と現れた上海の手に持っていた物を見て驚きの声を上げる。

 

「それ!私の宝塔!」

 

慌ててそれを上海の手より虎柄少女は、宝塔をぐるぐる見回してどこか傷が無いかなどをチェックし、ほっと息をつく。

 

「よかったぁ~万が一の事があったら私―――――。」

 

その先の事は言わないでおく。

そうして彼女はぺこぺこと頭を下げて上海にお礼を言う。ダウザーの少女は何所か不服な表情をしていたが宝塔が戻ったしまぁいいかと納得することにした。

そこでふとある事を思い出したダウザー少女はポケットからある物を取り出す。

 

「これ。」

 

そう言った彼女の手には赤い紙で包まれた飴玉があった。それを虎柄少女と遊んでいた上海に渡す。上海の口に入る位の丁度いい大きさだった。

 

「ご主人の宝塔を見つけてくれたお礼だよ。」

「しゃんはい」

 

そう言って嬉しそうに飴を頬張る上海。

 

――――の隣で両手を合わせて見つめてくる虎柄少女。

 

「・・・ないよ?」

「え?」

「ないよ。」

「なんで!?どうして!?」

「いや、偶然手に入れただけだしそれ一個しかなかったし・・・。」

「(プルプル・・・。)」

 

涙目になり始めた虎柄少女に慌てたダウザー少女は後日飴玉を持ってきてあげるからと約束した。その瞬間虎柄少女がぱぁっと明るい笑顔になる。

溜め息を吐く少女の傍で頬を押さえながら笑顔で飴玉を舐める上海。

 

 

 

 

 

 

 

今日も幻想郷は平和です。

 



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第10話 上海と無意識

今回はdecさんのリクエストです。


あいも変わらずにふよふよと空を飛ぶ上海。いつもと違う事と言えば、周りが空では無く茶色の土―――地底である事ぐらいであった。何で地底に居るのかと言うとそれはおいおい説明するかもしれない。

ともあれ上海は地下なのに妙に明るいご都合主義の地底を進んで行くと突如としてスカートをめくられた。

 

「!!?」

「しろだー」

 

え、まじ!?・・・じゃなくて―――

驚いた上海が振り向くとそこには『グ○コ』のポーズを取った何かワケワカランロープとそれにつながる閉じた目?を付けた少女だった。

 

「貴方お人形さん?こんな所でなにしてるのー?」

 

そう言ってずいずい近づいて来る女の子は何時の間にか上海の両腕をがっちりつかんでおり逃げられない様にしっかりホールドされていた。

 

「私今暇なんだー、一緒に遊びにいこ♪」

「!?、!?、!??」

 

そう言った少女につかまれて上海は地底の奥深くへと連行されていった。

 

 

 

 

 

 

 

その後、彼女の姿を見た者はいない――――。

                コンテニューする?

           Yes No

 

 

 

 

 

 

何てゲームみたいな選択肢は無く、彼女達はいま地底にある一軒の居酒屋にて酒を飲んでいた。この歳の少女がぐいぐい酒を飲んでいる姿は何所かしらの問題を感じるがいつぞやの妖精も一升瓶まるまる飲んでいたので問題は無い。

てっきり何処かの民家の部屋の中で昔やらせられていた着せ替え人形みたいな扱いを受けるのかと思っていた上海は何所か拍子抜けしていた。

そんな上海の元に酒屋の店主らしき赤鬼が酒と肴を持ってきた。肴として出されたのは田楽だ。焼き目の付いた豆腐にたれを垂らしたもので中々旨い。しかもご丁寧に上海が食べやすい大きさにしてくれている。

 

あの店主・・・強面の癖に中々やるではないか・・・。

 

「ここの田楽すごくおいしいんだー。」

 

そう言って一口で田楽を頬張る少女。それにならって上海も田楽を頬張る。すると口の中に柔らかな豆腐の感触が広がり、味噌の辛みが程よい刺激となって口の中を駆け巡る。

始めて“感じる”その味に、上海は感激を覚えた。

 

「気に入ったみたいだね♪たまには、普通に食べるのもいいかな?」

 

何かいま最後の方に聞き逃せない言葉があったが、田楽に感動している上海はまるっきり聞いていなかった。

もぐもぐ田楽を食べている上海の横で少女がまた注文を付けている。少しすると店主が、今度は魚の塩焼きと最初のとは別の酒を持って来た。

上海は次なる料理の味に興味津々であった。無論上海には小魚が出されている。この店主の細かい気遣いと彼の顔とのギャップが凄すぎる。

二人ともあっという間に平らげてしまうと次から次へと料理を頼んで行く。それは、二人が満足するまでしばらく続いた。

 

 

 

 

 

「今日は美味しかったね♪」

「シャンハーイ♪・・・けふっ。」

 

地底のとある一軒の居酒屋の前で、満腹になった少女が二人。少女の頭の上に乗っかっている上海は若干の食べ過ぎにより動けなくたっていた。

 

「ねぇねぇ、この先に美味しい甘味処があるんだけど。よってく?」

「シャンハイ!」

 

既に満腹であったが、甘いものとなれば話は別である。

二人の少女はその甘味処目指して鼻歌を歌いながら歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後、とある姉が届けられた請求書の束を見て頭を掻きむしりながら妹の名前を叫んだのを上海が知るよりは無かった。

 




副題は『グルメリポーターこいし』だった。


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第11話 上海と地底の館

ちょっと最近スランプ気味


上海はまだ地底にいた。と言うのも他の場所を見たいという彼女の欲求にすぎないのだが。

前回であった少女から貰ったキャンデーを舐めながらふよふよと飛んでいた上海。

 

直後急に体を引っ張られ視界が反転した。

 

体と言うより服を引っ張られた上海は、襟元を閉められ呼吸ができずにそのまま気を失ってしまった。

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

「・・・・・・。」

 

一方こちらは地獄にある大きな館の一室。そこには二人の少女がいた。

一人は赤い髪に猫の耳が生えた少女で、もう一人はピンクの髪によく分からない触手?みたいなものを付けた少女である。その触手には大きな一つ目が付いている。

少女が自身の二つの目も触手についている第3の目も大きく見開いて見ている書類は、なんて事は無い唯の領収書であった。

しかしそこに書いてある金額は一般主婦が見たら卒倒しそうな額であり、しかも使い道を見たら主婦どころか家族全員が卒倒するであろう。

 

結果ピンク少女は溜め息を吐き、領収書を片付ける。その横で猫少女は紅茶を入れていた。

 

「ありがとう。」

 

差し出された紅茶を受け取ったピンク少女はお礼を言ってから紅茶を飲む。丁度その時、部屋のドアが開け放たれた。

 

「お土産持ってきました!!」

 

そう言って入って来たのは黒い羽の生えた巨乳の少女だ。そして左手には上海が握られている。

 

「・・・・・・いや、それはまずいでしょ。」

「???」

「この娘道端を飛んでた人形捕まえてきちゃったのよ。」

「(そうなん・・・あれ?普通人形は空を飛ぶもんだっけ?)」

「そうね、普通人形は空を飛ばないわね。」

 

ピンク少女は猫少女の考えを読み先に答える。これが彼女の能力であり、彼女が地獄に居る理由だ。

丁度その時上海が目を覚ました。ってかお前気絶しててもキャンデー離さなかったのかよ。

 

「・・・・・あら?」

「どうかしたんですか?」

「うにゅ?」

 

目を覚ましていた上海を見つめるピンク少女の声を不思議に思った二人。

 

「この娘の(心の)声が読めない・・・・。」

「「え?」」

 

そう言ったピンク少女は巨乳少女から上海を受け取るとその顔をジッと見つめる。

 

「・・・・・・/////」

「・・・・・・・。」

 

ジッと見つめられて照れる上海。だがピンク少女はその上海の心が読めずに困惑している。

そうこうしている間に上海はピンク少女から抜け出した。

そして、じっと見つめていたピンク少女にキャンデーを差し出したのだ。

 

・・・・・・・たぶんキャンデーが欲しいと思われたんだろ・・・。

 

しどろもどろになっているピンク少女に猫少女が声を掛ける。

 

「受け取るべきと。」

「そ、そうね。・・・」

 

普段は冷静沈着なピンク少女の狼狽えぶりに少し戸惑いながらも一般的な答えを出す。ピンク少女は普段とは違う状況に戸惑い狼狽えながらも取り合えず上海からキャンデーを受け取った。

 

「あ、ありがとう・・・。」

「しゃーんはい。」

 

ピンク少女からのお礼に嬉しそうにする上海を見て、純粋にピンク少女は思った。

 

「(かわいい・・・この娘、家で飼えないかしら?)」

 

――――でもこれ以上うちの家計に赤文字を付ける訳にもいかないし・・・。

キャンデーをぺろぺろ舐めながら頭の中で必死に予算のやりくりをする少女。

 

の脇で上海と戯れる二人。猫少女は上海の頭を撫でたり体をまさぐったりと興味津々で、巨乳少女は上海を胸に抱きしめていた。

ちょっとそこ変われ上海。

 

「ねぇ貴女。私の家に来ない?」

 

二人にいじくられていた上海にそう話しかけるピンク少女。だが、上海は暗い表情でうつむいて首を横に振った。

 

「・・・そう・・・。」

 

酷く残念そうに落ち込むピンク少女に、猫少女が慌ててフォローを入れる。

 

「で、でも。偶に遊びに来てくれるよね!?ね?」

「しゃんはい。」

 

そう言ってピンク少女の頭をなでなでする上海。小さな手ではあるが彼女は生まれて初めて頭を撫でられたような気がして、ちょっぴり嬉しかった。

 

「ねぇねぇ、私もナデナデして~」

「私も私も。」

 

ピンク少女が撫でられて嬉しそうに微笑んでいるのを見た二人も頭を突き出す。

 

「ダメよ。私も撫でて貰うんだから。」

 

上海は1日中少女達の頭を撫で続けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁ館に送りつけた請求書の金額からすれば安いものだが。

 




・・・・・・・・・・ちょっと一息入れようかしら?


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第12話 上海と嫉妬

遅くなりました。春先というのは慌ただしくてなかなか筆が進まないものです。


地獄のある所に薄暗くて気味の悪い橋がありました。その上には一人の少女がいます。

 

「つまんない・・・。」

 

そう言って川を見下ろしていた少女は橋に乗っていた石を蹴っ飛ばす。

旧地獄の端にあるこの橋に誰かが来る事など滅多にない。ましてやその橋が“いわくつき”ともなれば自然と誰も寄りつかなくなるモノです。

そしてそこにいる少女もまた同じでした。

 

 

―――――の、少女の頭上を飛んでいるのは絶賛地底観光中の上海。

何か地味にお土産下げてるし。

 

そこで、ふと下を見て先程の少女に気が付く。上海はゆっくりと少女の隣に降りて行きました。しかし少女はじっと川を見下ろすだけで上海に気付かない。ムッとした上海は少女のスカートを思いっきりめくってやりました。

 

「―――――――――――――――ッツ!!!!?//////////」

 

スパッツ・・・か・・・。

 

「い、いきなり何よ貴女!?妬ましいわにぇ!!」

「wwww」

 

先程の衝撃が大きかったのか、噛んでしまう少女。と、それを聞いて大笑いする上海。

 

「――――川に沈めるわよ――――」

「しゃんはい・・・。」

 

今のはたぶんごめんなさいって意味だと思う。

 

「まったく・・・いったい何だっていうのよ。この人形は・・・。」

 

猫を摘まみ上げる様に上海を持つ少女。ぷらーんぷらーんと振ったりしてみます。

 

「・・・ねぇ貴女。なんでこんな所に来たの?」

「しゃん?」

 

何気なく抱いた疑問を口にするも上海は首を傾げるだけだ。少女は「なんでもないわ。」と言って上海を橋の手すりに置き再び川に視線を落とします。

水と呼んでいいか分からない程の黒い川。明るく照らせばよく見えるだろうがわざわざそんな事をする気にもなれません。

 

「もう帰ろうかしら・・・。」

 

ボソッとそう言った少女。ハッとして隣を見ると涙目の上海がこっちを見ていた。

 

「あ、ちがッ・・・・!?今のは貴女が来たからじゃなくて・・・その・・・。」

 

はぁ・・・と溜め息を吐いて訳を話しはじめました。

 

「今日はここで酒を飲む約束をしてたのよ。でもあいつ、約束はきっちり守るはずなのに3時間待っても来ないし・・・。」

 

3時間も待ってたんですか。

 

「どうせ私との約束なんか忘れて一人で勝手に楽しい事してるのよ妬ましい・・・。」

 

―――妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい羨ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい。

 

黒いオーラを発しながらぶつぶつ呟く少女。まるで黒魔術で悪魔でも呼び出しそうな勢いで負のオーラを放つ少女に上海はポンと手を置きます。

 

「え・・・?」

 

上海が差し出したのは一本の酒瓶。上海はそれをお土産屋で買った(何で地獄に土産屋があるんだ?)盃を取りだし酒を注ぎ、透明な酒の入った盃を少女に差し出しました。

 

「・・・何よ・・・くれるの?」

 

コクリと頷いた上海を横目に少女は盃を受け取る。まぁタダだしくれると言うなら貰っておいて損は無いだろう。そう思い酒を一口飲んでみる。

悪くない味です。冷えた体に酒がしみこみます。

 

「(どうせあいつは来ないだろうし・・・たまには・・・。)」

 

そんな考えで少女はいつのまにか酒のお代わりを貰っていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あっという間に酒は無くなり二人は持ち合わせていたするめをしゃぶっていました。

 

「ふ~ん。それで大切なご主人様の所飛び出してきた訳。」

「しゃんは~い・・・。」

 

するめをしゃぶりながらそんな話をする二人。大体上海が来てから1時間ぐらいたった頃。橋の向こうから人影が歩いてきました。段々と近づくその姿は薄明かりに照らされて徐々に姿を現していきます。上海の何十倍もある高い背と『少女の何倍も大きい胸を持つ女性』の頭には一本の赤い角が生えています。鬼です。

 

「あ・・・。」

「おいーっす。」

 

そう言って気楽に手を振る女性に対し少女は頭から勢いよく体当たりを繰り出しました。

 

「いきなりどうしたんだ?」

 

その少女の渾身の体当たりをいとも簡単に受け止めます。女性は素で聞いて来るが少女はまるで聞いてはいなません。

 

「4時間の遅刻よ!!いったいいつまで待たせれば気が済むの!!妬ましいわね!!」

「え・・・?」

 

来るなりそう言われた女性は頭をぽりぽり掻きながら

 

 

 

 

 

 

 

「だって、約束の時間は明日だろ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

一拍おいて少女の頬がぽっと赤くなりました。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・/////」

「(耳まで真っ赤にしちゃってあーもー可愛いなぁぁぁあああああ)」

 

顔を耳まで真っ赤にしてポカポカと叩く少女に対しじゅるりと涎を垂らしてニヤニヤしている女性。と、そこで女性は橋の手すりに置いてある酒瓶と2杯の盃に気が付きました。

 

「誰か一緒に居たのか?」

「え?あぁ、さっきここに・・・あれ?」

 

少女が辺りを見回すと先程までそこにいた上海の姿はありません。

代わりに先程まで彼女がいた場所には、小さな紙袋が置かれていた。その中には土産屋で売っているお菓子が入っていた。少女が中を見ていると紙が一つ入っていました。下手な字で「よかったね」と書かれてました。

 

 

薄暗くて気味悪い橋は、明るくて少し賑やかな橋になりました。

 



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第13話 上海と春告





季節は5月、桜の花びらが散り青々とした葉を付けている頃の話です。

 

 

 

 

 

 

青い空と白い雲。

 

もはや春とは言えない空の下に一人の少女が座り込んでいました。

 

ピンク色の服を着た小さい女の子で、髪の色も相まって見る者に明るそうな印象を与えます。

 

しかし木の影に小さく蹲っている姿はその印象をぶち壊していました。

 

その少女は胸に上海を抱いていました。

 

「はぁ~・・・。」

 

少女は溜め息を吐いていました。

 

「もう春も終わりかぁ~・・・。」

 

この少女は春にしか外に出て来れません。

ゆえに春が終わると次の春が訪れるまでずっと引きこもって居なくてはなりません。

 

 

一人っきりの長く寂しい時間が続くのです。

 

 

だから今の時期の少女はうつ病の様にテンションがダダ下がりします。

 

「しゃ~んはい・・・。」

 

その少女の頬をさする上海。少女はさらに上海を強く抱きしめます。

 

「はぁ・・・。」

 

溜め息を吐く少女は目に涙を浮かべていました。理由は、友人と喧嘩をしたからだそうです。先程上海にその事を話しかけていました。

 

この時期の少女は春の終わりという事もあってとても憂鬱な気分になります。少女の友人はそんな彼女を励ましてあげようと遊びに誘いました。しかし、友人が漏らした本当に何気ない一言が少女を怒らせてしまいました。

二人はそのまま別れてしまい少女は木の影に蹲っているという訳でした。

 

「何でこういう時にかぎって喧嘩しちゃうのかな・・・。」

 

これまでも少女の友人とは何度も喧嘩をして、その度に仲直りをしています。しかし、今回はあまり時間がありません。なぜなら少女はもうすぐ消えてしまうからです。

 

このまま消えてしまえば次に会えるのは来年の春。わかだまりを残したまま消えてしまうのは少女にとってつらい事でした。

 

「でもどうしたらいいかなぁ・・・?」

 

少女は涙を流しながら言います。本当は友人と仲直りをしたいと思っています。しかし、どうやって仲直りしたらいいのかが分かりません。いつも喧嘩をしたら必ず仲直りをしたはずなのに、何故か“どうやったら仲直りできるのか”が分からなくなっていました。

 

「はぁ・・・。」

 

少女にはもう溜め息を吐くくらいしかできません。考えれば考える程憂鬱な気分になって行きます。

どんどん気分が沈み込んで行く少女に対し、必死に励ます事しか上海には出来ませんでした。

 

しかし、幾ら上海が励ましても少女の気分は高揚しません。やがて諦めたのか少女の腕から抜け出すとそのままどこかへと言ってしまいました。少女は「あ・・・」と手を伸ばしました。しかし見えない何かに阻められ伸ばしかけたその手を少女は引っ込めてしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女は一人になってしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女は体育座りをしてその場に縮こまりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女は小さく震えていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何時の間にか太陽が沈みかけていました。日が完全に沈んでしまえば少女は、長い長い『一旦休み』になってしまいます。

 

「(・・・こんな年もあるのかな・・・?)」

 

少女は立ち上がって夕日を眺めました。もうすぐ夕日が完全に沈みます。ゆっくりと少女の体が透けていきます。

 

「待って!!」

 

突如後ろから掛けられた声に振り向くと、そこには先ほど喧嘩をした友人の姿がありました。

 

「あの・・・その・・・さっきはゴメン・・・。」

 

ぽりぽりと頬を掻きながら照れくさそうにいう友人に対し少女はにっこりとほほ笑みながら言いました。

 

「私の方こそ、ごめんなさい。」

 

友人は夕日の所為か少し頬を赤く染めると、言いました。

 

「――――――――待ってるから――――――。」

「・・・・・・・・・・え?」

「来年も・・・・待ってるから・・・。」

 

 

 

 

 

その言葉に少女は笑顔で答えました。

 

そして夕日が落ちていきます。

 

消える最中少女は、友人の後ろにいた上海を見つけました。

 

上海と友人はめいっぱい手を振っていました。

 

少女もまた手を振りかえしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――そして、消えてしまいました。

 

 

 

今、一つの季節が終わり、新しい季節が訪れました。



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第14話 上海と蛍

遅くなりました。周りの環境が変わったおかげててんてこ舞いの毎日になってしまい更新がかなり遅れてしまいました。
そんなこんなで始まります。


それは蒸し暑く寝ずらい夜の事でした。空はすっかり曇っていて湿気が普段より多くとてもやって居られません。

 

 

そんな夜道を上海は汗だくになりながらもふよふよと進んでいました。

可愛らしい服は汗でぐっしょりと湿っていて気持ち悪いです。一刻も早く服を脱ぎすててシャワーを浴びたいと思う上海です。

 

 

そんな時上海は道の先に黄色く光る小さな光を見つけました。

空中に浮いているその光はその場をくるくると回っていたかと思うと脇道の方へと飛んで行ってしまいました。

 

 

何時もなら気になって真っ直ぐに光を追いかける上海ですが、暑さと湿気による不快感から一刻も早く涼しい場所へ行きたいと思い脇道へ飛んで行った光に目もくれません。

 

 

するとどうした事か先程の光が戻ってきて上海の目の前に飛び出しました。

クルクルと目の前を回って脇道の入り口で止まっていました。まるでついて来いと言わんばかりの様です。

 

 

全身からだるいおオーラを放つ上海でしたが、もしかしたら涼しい場所へと連れて行ってくれるかもしれないと淡い希望を抱いてその光へついていく事にしました。

 

 

 

 

 

脇道は細く暗く、所々木が倒れていて荒れ放題でした。空を飛ぶ上海には地面に倒れた木は関係ありません。あった事と言えば途中飛び出た枝に顔面をぶつけたくらいです。

 

 

そんなこんなで飛び続ける事約数分。人も鳥も獣も虫の声すら聞こえない細道を進んでいると不意に開けた場所に出ました。

 

 

そこは小さな池でした。と言うよりも小川が穴に溜まって出来た川の一部です。

 

 

「ようこそ。小さなお客さん。」

 

 

そう言って背後から歩み寄ってくるのは緑色の髪にマントを羽織り頭から触角を生やした少女です。上海は首を傾げました。

 

 

「これからショーを始めるんだ。この子が君に見てほしかったらしくてね。」

 

 

そう言って少女の掌に先程の光が乗っかります。よく見るとそれは一匹の蛍でした。

 

 

「ぜひとも見て言ってよ。」

 

 

そう言うと彼女は池の真ん中へと飛んでいきます。よく見ると少女は手に指揮棒を持っています。

 

 

「皆行くよ。」

 

 

彼女が池の周りを見渡します。上海もその視線を追ってみると周囲にはたくさんの虫や虫の妖怪がいました。見れば手に楽器を持っている妖怪もいます。

 

 

「さん、にー、いち!」

 

 

少女が指揮棒を振り出し妖怪達が楽器を鳴らします。その音楽に合わせて池の上では蛍たちが明かりを灯し空を舞って、動くイルミネーションを演出しています。

右へ左へ上へ下へ・・・。最初は単調な動きでしたが徐々に曲芸飛行の様に動き始めます。

さながら天女の舞とでもいうべきでしょうか。上海はそれまで感じていた暑さも汗の不快感も忘れてその光景に見入ってしまいました。

 

ショー自体は数分だったのですが、上海にとってはそれがとても長く感じられました。

 

 

 

 

 

 

 

 

ショーが終わり先程池の真ん中で指揮棒を振っていた少女が近寄ってきます。

 

「どうだった。」

 

「しゃんはい!」

 

「ありがとう。あの子達も喜んでいるよ。」

 

 

そう言って少女は池の上で飛び回る蛍達を見つめて言いました。

 

 

「あの子達はこの夏が終わると死んでしまうんだ。蛍の寿命は短くてね。」

 

 

そう言って少女は座り込みます。上海も少女の肩に座ります。

 

 

「成虫になって・・・空を飛べる様になったら、僕達の綺麗な姿を誰かに見てほしいって言われてね。それが今日のショーさ。」

 

 

少女は一瞬哀しそうな目で蛍達を見つめますがそれを笑顔へと変えると立ち上がって言いました。

 

 

「問題は死ぬことじゃない。死ぬまでに何もなせない事だ。確かに子孫を残すという役目はあるけれど、それだけじゃあ蛍というあくまで虫の一種としか見て貰えない。それよりも自分達が、蛍と言う種類としてでは無く蛍と言う一匹の虫としての生きざまを君に見てほしかったのさ。」

 

「しゃんはーい・・・。」

 

「そんなに悲しむ事じゃないよ。あの子達の一番綺麗で一番輝いた姿を見て褒めてくれたんだ。それだけで十分だよ。あの子達も喜んでるし。」

 

 

池の周辺では蛍達が淡い光を放ちながら飛び回っていました。




蛍の成虫としての寿命は1週間から2週間程度だそうです。


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第15話 おかえり

最終回です。


ある所にいつも通りふよふよと飛んでいる人形がいました。上海でした。

 

上海は暗くてじめじめしていかにも何か出そうな森の中を進んでいました。背が高く、葉がぎっしりとついた枝達の所為で森の中は真っ暗でした。

上海はどこか具合が悪いのかあっちへふらふらこっちへふらふらと飛んでいます。

 

 

しばらく進むと森の中に一軒の家がポツンと建っていました。家の前にはとても下手くそな字で『霧雨てい』と最後だけひらがなで書かれている看板が建っていました。

 

何を思ったのか上海はその家の中へと入っていきました。

 

 

 

家の中はとても汚く人が住んでいるようには思えませんでした。本が無造作に積み上げられ、部屋一面ほこりまみれ。よく見るとなんだがよく分からない物体までもが“生えて”いました。

そんな家の中をうろついていると一室だけ綺麗な部屋がありました。相変わらず大量の本が床に積んでありましたが、目を覆いたくなるような埃や未知の物体などは無くベットや机などがある飾り気のない質素な部屋でした。

どうやら家主はいないようです。

 

上海は飛び疲れたのかそのままベットに寝ころびそのまま寝てしまいました。

 

 

 

 

上海が眠ってしまった頃、部屋に白黒の服を着た少女が入ってきました。白黒の少女は持っていた箒と被っていた帽子を壁にかけ、ベットに寝ようとした時に上海に気付きました。白黒の少女は上海を持ち上げ見つめました。

 

「あいつの所の人形じゃないか・・・。」

 

そう呟くと白黒の少女は帽子をかぶり直し箒を持つと上海をポケットに突っ込み窓から飛んでいきました。

 

 

 

 

 

 

少し飛んで行くと、森の中にこれまたポツンと建っている家がありました。少女はその家の前に降りると家のドアを叩きまくりました。

 

「まったく・・・そんなに叩かなくても聞こえてるわよ!」

 

そう叫んで出てきたのは、上海が出てきた家で寝ていた少女でした。目の下に隈を作り顔も少しやつれています。

 

「お前が探していた上海だがな」

「上海!上海が見つかったの!?」

「あ、あぁ見つかったって。」

 

そういって白黒の少女はポケットから上海を取り出すと上海を手渡しました。

 

「あぁ上海!よかった・・・よかった無事で・・・。」

 

そういって少女は上海を抱きしめながら泣いています。

一通り泣き終えた少女は白黒の少女に尋ねます。

 

「いったい何所に居たの?」

「私の家のベットに居たんだ。朝にはいなかったからきっといつの間にか入り込んだんだろ。」

 

じゃあ私は行くからと言い残し白黒の少女は飛んで行ってしまいました。

 

「・・・ありがとう・・・。」

 

見えなくなった背中に言いそこなったお礼を言うと少女は上海を家の中へと運びます。

 

「まったく急に消えたからあちこち探し回って・・・心配したんだからもう。」

 

口調の割に少女の顔は微笑んでいます。そこで少女はある事に気が付きました。

 

「あ・・・魔力が切れてる。」

 

そういって少女は上海の頭に手を当て、魔力を送ります。すると先程までぐっすりと眠っていた上海が目をあけました。

 

「シャ・・・シャンハーイ。」

「おはよう上海。今まで何処に行っていたの?もしも何かあったらどうするの?」

「シャンハーイ・・・。」

 

少女はしょぼんとした上海の頭を撫でます。

 

「とにかく・・・無事に帰ってきてくれてうれしいわ。」

「シャンハーイ!!」

 

 

 

こうして上海の冒険は終わりました。このしばらく後、上海はまた冒険へ出かけるのですがそれはまた別のお話。

 




これにて東方旅人形を終わらせていただきます。

今まで呼んでくれた皆様、ありがとうございました。
もしまた機会がありましたら上海の冒険をご覧いただければうれしいです。


それでは、またいつか。


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