魔王織田信長とアインズ様の異世界転移 (アルトリア・ブラック)
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異世界へ

はい、懲りないFateとオーバーロードのクロスオーバーです。

書きたくて書きたくて仕方なかったので書きます。よくあるオリ主が至高の御方の一人という扱いです。

主人公は女です。

獅子王様の方も頑張って続きを書こうと思っています。

聖王国編まだ読めてないのでごめんなさい汗。


DMMO-RPG、ユグドラシル

 

ユグドラシルとは西暦2126年日本のメーカーが満を持して発売した、仮想世界内で現実にいるかのように遊べる体感型のゲームだ。

 

その幅広いゲームは今日で最終日を迎える。

 

「じゃあまた、睡魔がヤバイので、またユグドラシルⅡとか出たら一緒にやりましょう」

 

「…はい、ヘロヘロさん、お疲れ様でした」

 

モモンガは一人、円卓の間に残っていた。

 

「ふざけるな!」

 

ダンッ!とテーブルを叩く

 

「ここは皆で作り上げたナザリック地下大墳墓だろ!何で皆そんなに簡単に捨てることが出来るんだ!」

 

怒鳴るように言うが、それも仕方ないことだと思っていた。

 

「仕方ないか…みんなにはリアルがあるんだ…」

 

リアルとゲーム、取るとしたら後者だろう。

 

仕方ない、とモモンガは諦めようと思っていると…

 

「うぉおーー!間に合ったーー!」

 

「うぉ!?信長さん!?」

 

円卓の間に突入して来た信長に驚いて椅子から落ちそうになるモモンガ

 

身長は180cmくらいの高身長に髪は燃えるような紅に染まっている。

 

種族は怨霊という精霊系統の種族でカルマ値は意外にも中立〜悪に設定したらしい。

 

「すまんのー!メールは受け取っておったんじゃが、会社の全職員を帰すのに時間がかかって来るのが遅れた!」

 

魔王信長さんは、富裕層出身だったが、家族と絶縁状態で一人で会社を興し貧困層の従業員を雇い、有給休暇など様々な事を入れていたらしい。

 

ブラック企業が多い中、魔王信長さんの会社はホワイト企業らしくて、多くの人がそこに行きたがっていたらしかった。

 

「会社の全職員を帰すって…上から何にも言われなかったんですか?」

 

「んー、言われたとしても別にいいしー?」

 

素が出てますよ、と言うと魔王信長さんは大きく笑う

 

彼女の底なしの明るさに何度助けられて来たか、魔王信長さんは一時期はリアルでの生活がきつくてユグドラシルから離れていた時期はあったけど、こうやってまた帰ってきてくれたと思うと嬉しかった。

 

「魔王信長さん、最後ですし、一緒にどうですか?」

 

その言葉に魔王信長さんはニコニコ笑いながら『うむ!良かろう!』と言って着いて来る

 

玉座の間の近くに来ると廊下にいる戦闘メイド・プレアデスとセバス・チャンが立っていた。

 

「戦闘メイドとセバスじゃなあ〜ここまで攻めて来る奴らはおんかったがのぅ〜」

 

魔王信長さんはセバスの顔をまじまじ見て笑う

 

「最後ですし、みんなも玉座の間に連れて行って良いですか?」

 

「勿論じゃ!最後だから皆で集まろう!」

 

「えっと確か《付き従え》」

 

そう言うとセバス達はモモンガと魔王信長の後ろに続く

 

「行きましょうか」

 

「うむ」

 

二人はまっすぐ玉座の間に入り、セバスたちを待機させ、モモンガは玉座に座り魔王信長は玉座にもたれるような感じでこっちをみて来る。

 

「…えっと、このNPCはアルベドでしたよね」

 

「そうじゃな〜確か設定魔のタブラが作ったNPCじゃな」

 

「ちょっと覗いて見て良いですかね?」

 

「いいんじゃね?最後だし」

 

また素に戻っている魔王信長に思わず笑うと彼女は「?」と首を傾げる

 

「うわっ長っ!」

 

「…流石に長いのぅ」

 

最後の一文を見てモモンガは「え?」となる。

 

「『ビッチである』酷くないです?これ」

 

「なんか締めがしっかりせんのぅ」

 

「ギルド長特権使って変えちゃいましょう」

 

モモンガは「魔王織田信長を愛している」と書くと

 

「ほれ!貸せぃ!」

 

「あ!?何すんですか!」

 

キーボードに触るために魔王信長がモモンガの上にダイブする。

 

魔王信長はモモンガの指を強制的に動かし、新たな一文を加える

 

『魔王織田信長とモモンガの事を愛している』と書き、そのまま設定画面を閉じる

 

「あー!何するんですか!魔王信長さん!」

 

「最後くらい良かろう〜」

 

そう言ってモモンガから退くと時計を見て「もうそろそろじゃな」と言うとモモンガも少し寂しくなる。

 

「…はい、信長さん、最後まで残ってくれてありがとうございました」

 

「うむ!またユグドラシルⅡとかあれば共にやろうぞ!」

 

「はい」

 

0:00

 

友との最後を迎えようと強制ログアウトされると思ったのだが…

 

「ん?」「んん??」

 

二人の声がハモる

 

「…終わんなくね?なんじゃ延期になったのか?感動が空振りじゃ、どうしてくれんの?この空気」

 

なんか変なモードに入っている魔王信長をよそにモモンガはGMコールやコンソールを触ろうとしても動かない事を確認していると…

 

「モモンガ様?魔王織田信長様?どうされましたか?」

 

「え?」「ん?」

 

二人に声をかけたアルベドは自分の意思で動き、心配そうに首を傾げている。

 

ボケーと放心状態の信長とモモンガは冷静に指示を飛ばす

 

「魔王信長さん戻って来い」

 

「うぇ?」

 

アルベドの前の為、少し支配者のような振る舞いをする。

 

信長は頭を振ると「うん、戻ったぞ!」と元に戻っているのを見て思わず微笑むが…

 

『え?え?どういうこと?これ、モモンガさんがヘルプミー』と伝言でかなり混乱している様子だった。

 

『落ち着いてください、魔王信長さん、状況確認しましょう』と言うと隣で信長さんが深呼吸をしていた。

 

「とりあえずアルベドよ、ヴィクティムとガルガンチュアを除いた階層守護者たちを円形闘技場に集めよ」

 

「はい、かしこまりました。モモンガ様、魔王織田信長様」

 

「少し待てアルベド」

 

魔王信長さんが突然声をかける

 

「はい、なんでございましょう。魔王織田信長様」

 

「なんかワシだけ《魔王》って付くのはなんか嫌じゃからこれからは《織田信長》と呼んでくれんか?」

 

(え?そこ?)

 

NPCの忠誠心について何も疑っていないのか信長はピシッと言うと

 

「はい、かしこまりました。織田信長様」

 

「では行こうぞ」

 

「あ、はい」

 

すっかり本調子に戻った魔王信長さんと共に第六階層・円形闘技場に転移する。




ひとまずは終わりです。次はオリ主目線かと思います

魔王織田信長
【レベル】100
【種族】怨霊(精霊系統の種族、オリジナル設定)
【職業】物理職
【カルマ値】中立〜悪
【性別】両性(中身は女性だが、男性形態、女性形態とあるため)


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守護者とナザリックの未来

第2話です。一体いつまで連続投稿できるか、一応の目標はワーカー編です。

今回はオリ主の目線の話です。


ナザリック地下第墳墓が異世界に転移したその日、魔王信長はモモンガと共に円形闘技場までやってきて、アウラとマーレがモモンガの出した魔獣と戦っているのをよそに一人で考え事をしていた。

 

(異世界へ転移かぁ…その可能性はなきにしもあらずだし、転移したのならありがたいな…)

 

ユグドラシル最終日にログインできたのは己の会社を弟に強奪され、翌日にアーコロジーを追放される予定だったのだ。

 

だからこそ、最終日にモモンガさんに最後の別れを言いにきたのだ。

 

『また会いましょうね』なんて実際には叶わない願いだったのだ。

 

それが、このような形で阻止されるとは思わなかった

 

出来るなら夢じゃないでいて欲しかった。

 

「信長さん?どうかしました?」

 

隣にいたモモンガさんが心配して来る

 

「ん、モモンガさん、これ、夢じゃないですよね」

 

口調が変わってるのも気にならないくらい縋るような思いで聞く

 

「夢じゃないと思いますよ、感覚はありますし、ログインする前までは普通に現実にいましたし、異世界に転移した可能性が高いと思います。NPCが生きてるように動いてますし」

 

その言葉に信長は大笑いする

 

「へ?どうしたんですか?信長さん」

 

「いや、すまんのぅ、こっちの話じゃ!転移したのなら楽しまなければな!!」

 

夢であっても構わない

 

私はこの世界で生きていく、あんな世界に戻ることなんてしない。

 

「俺の方からも質問良いですか」

 

「ん?なんじゃ」

 

「……リアルに帰りたいと思ってますか?」

 

「これっぽっちも帰りたくない!」

 

「即答ですか?!」

 

「うむ!即答じゃ!そういうモモンガさんは帰りたいのかの?」

 

「…いえ、待っている家族もいませんでしたし」

 

二人で話しているとマーレとアウラの戦いが終わったのか誇らしげにこちらに走り寄って来る。

 

それに続いて《転移門》が開き、シャルティアやデミウルゴス達が入ってくる

 

(凄い悪のギルドって感じがしてすごいなぁ〜)

 

ほのぼのと見ていると、隣にいたモモンガが突然絶望のオーラを出していてビクつく

 

(確かに、こういう感覚は現実そのものだ…)

 

ゲームではこんな感覚は味わえない。

 

「各階層守護者に聞いておきたいことがある。皆にとって、私と信長さんは一体どのような人物だ?」

 

(何そのおべっかを使わなければならないような質問は?!)

 

「シャルティア」

 

「はい、モモンガ様は美の結晶。まさにこの世界で美しいお方です。魔王織田信長様は女性としても男性としても言い表せない程の美と慈愛の結晶でございます」

 

(…なんで頬を赤らめながらいうの?あ、私、今両性体だった…!)

 

「コキュートス」

 

「は、御方々ハ守護者各員ヨリモ強者デアリ、マサニナザリック地下大墳墓ノ絶対ナル支配者ニ相応シイ方々カト」

 

「アウラ」

 

「モモンガ様は慈悲深く、深い配慮に優れた素敵なお方です。信長様はお優しく太陽のような素敵なお方です!」

 

「マーレ」

 

「モモンガ様は、す、すごく優しい方だと思います。信長様はかっこよくて、素敵な方だと思います」

 

「デミウルゴス」

 

「モモンガ様は、賢明な判断力と、瞬時に実行される行動力も有された方。まさに端倪すべからざる、という言葉が相応しきお方です。織田信長様は叡智と慈愛、戦士としても我ら守護者以上のお方であるかと」

 

(…デミウルゴスの評価高すぎて吐きそう…)

 

「セバス」

 

「モモンガ様は至高の方々の総括に就任されていた方。そしてお二人は最後まで私達を見放さず残っていただけた慈悲深き方々です」

 

「最後になったが、アルベド」

 

「はい、モモンガ様は至高の方々の最高責任者であり、織田信長様は明るく太陽のように我らを導いてくれるお方です。そして、お二人は私の愛しいお方々です」

 

(なんで最後だけ惚れ惚れしたようなそんな顔でこっちを見るんだ…)

 

やはり、設定を書き換えてしまったことが原因か?と思っていると…

 

「それでは皆の者、今後もナザリックの為に忠義を尽くすのだ!」

 

「「「「は!!!」」」」

 

魔王信長とモモンガは転移して円卓の間に戻る。

 

「…何あの忠誠…マジか」

 

「なんか、マジじゃったなぁ、これから頑張るんじゃぞモモンガさん」

 

「て、なんで俺だけなんですか?信長さんの方が支配者慣れしてそうじゃないですか!」

 

「えー、ワシギルド長じゃないしー?どっちかというと魔王の方じゃし?守護者達から至高の41人のまとめ役ってイメージあったのモモンガさんじゃろ?」

 

「うぅ…分かりました。分かりましたから!なんかあったら助けてください!信長さん!」

 

「良い良い〜」

 

「…うぅ、本当に助けてくれるのかなぁ…この人…」

 

 

 

 

 

 

ー守護者達ー

 

「うぅ〜凄かったねお姉ちゃん」

 

モモンガと魔王信長が居なくなった後、守護者達で集まっていた。

 

「流石は愛しの御方々、至高の41人のお二方」

 

シャルティアの言葉にアルベドが乗っかり、いきなり正妃争奪戦に入るのを見たデミウルゴスはマーレとコキュートスを連れて離れる。

 

「喧嘩スル程ノコトナノカ?」

 

「もし、方々が他の至高の方々と同じ所に行かれるかもしれない。その時に、我々が仕えるに足りるお子を残して下されればと思ったのだよ、まぁ、彼女達がいずれモモンガ様や織田信長様の御子息を生んで貰えればこのナザリックも盤石なものとなろう」

 

コキュートスが未来の支配者のことを考え、一人妄想の世界に突入し始めていた。

 

「でも、デミウルゴスさん、信長様って確か両性体でしたよね」

 

「そうだね、織田信長様が女性として私達のいずれかか外部の者を取るか分からないが、かの方の決定が優先だろう」

 

デミウルゴスが何故か誇らしげな表情をするが、マーレは首を傾げる。

 

「さてと、二人ともいつまで言い争っているのかね?そろそろ指示をくれないか?」

 

 

 

 

 

ー信長の部屋ー

 

転移した日の翌日、信長は自室に戻り物を整理していたりすると…

 

「失礼します。織田信長様」

 

(あ、私のことか…!)

 

今だに偉人の名前で呼ばれるのが慣れず、反応が遅れてしまう。

 

「ん?どうした?」

 

「何か私どもに出来る事はありますか?」

 

レベル1のメイドが聞いて来る

 

「んー、特にないぞ?そもそも、ワシの側にいてキツくない?」

 

魔王織田信長は微弱ではあるものの、炎を少し纏っている。

 

当たればヤケドが付与されダメージを喰らい続ける。

 

「いえ、熱くなどありません。そもそも私たちの存在意義は至高の御方々に尽くす事、例え焼かれたとしてもそれは本望でございます」

 

(焼け死んだら本望もクソもなくね?)

 

んー、と考え込み、ある事が閃く

 

(あ、私、今本形態だったな!第一形態で良いだろ!)

 

魔王織田信長は怨霊という種族で形態が1の無性形態、2の男性形態、3の女性形態とあり、最大出力で戦えるのは第3形態である。

 

「これでどうじゃ?」

 

ボンッと姿が無性形態に変わる。

 

(まぁ、この姿も禍々しいオーラを残しつつ和風な感じで好きだなぁ)

 

と物思いに耽っていると…

 

「申し訳ありません!織田信長様っ…!」

 

「んん?(なんか違くね?)」

 

「至高の御方に気を使わせてしまい申し訳ございません。今すぐ自害して…「待て待て待て待て!!」」

 

大慌てで止め、この形態になった理由を嘘ついて伝える。

 

ため息をつき、モモンガ達がいるであろう部屋に向かうと…

 

「アインズ様は現在出かけておられます」

 

とセバスから言われ「え?どこに行ったの?ワシに内緒で?」と言うとセバスがいろいろ説明してくれる。

 

椅子に座り遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)でモモンガの様子を見ていた。

 

「なんか面白い事しておるのぅ〜ずるいの〜?ワシになんの相談もしないで?」

 

モモンガさんにギルド長として押し付けてしまった自分も悪いが、一言三言くらい報告欲しかった…と思っていると…

 

「織田信長様、モモンガ様をお止め出来ず申し訳ございません。自害する準備は出来ております。故にお鎮まりを…」

 

セバスが跪き、傍らに控えていたメイドは今にも失神しそうなくらい震えていた。

 

(あ、姿戻ってる)

 

それに、火の粉が周りに飛散しており、下手したら大惨事になりかねない状態だった。

 

「すまんの、セバスにシクスス、怖がらせてすまなかった、ワシは別に二人に怒ってるわけじゃなかったからな!安心せい!」

 

ニコニコ笑いながら言うと遠隔視の鏡で状況を見る

 

「ん?これ、天使じゃな、ドミなんとかだったような〜」

 

考えるより先に行動に移しているタイプの信長は幾度となくモモンガ達から注意を受けていた事を思い出す。

 

「ドミニオン・オーソリティと言います。第7位階天使召喚で召喚される天使とのことです」

 

セバスが状況を説明してくれる。

 

「ふむふむ、ユグドラシルの天使もおるのか、やっぱりこの世界にプレイヤーがおるのぅ」

 

遠隔視の鏡を見ていてモモンガが人通り終わったのを見て立ち上がる

 

「さて、終わったようじゃし、モモンガさんにいろいろ聞くがてらちょっと小突いて来るかのぅ〜」

 

そう言って歩いて行くとセバスが着いてくる

 

「シクススはもう休んで良いぞ、わしはセバスと迎えに行くからのぅ」

 

「…はい、信長様」

 

落ち込むシクススにニコリと笑い頭を撫で

 

「後で夕食をメイド達と一緒に食べたいのじゃが良いか?」

 

「!は、はい!準備をします!」

 



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旅への前段階

第3話、モモンガさんと一緒に旅をすることになったノッブがいろいろ設定付けてやりたい放題する話です。

自由奔放オリ主とそんなオリ主の破天荒さに振り回される?モモンガさんの旅

そろそろノッブのNPC出そうかなと思ってます。


ナザリックに帰還したモモンガとアルベドは目の前で最終形態姿でニコニコしながら火の粉を撒き散らしている魔王信長を見てモモンガは冷や汗をかく

 

アルベドに至っては顔面蒼白であった。

 

「モモンガさん、ワシ怒っとるんじゃが分かる?」

 

「…相談しないで勝手に出かけて申し訳ありませんでした」

 

「分かっとればよろしい、アルベドとセバスとメイド達は下がってくれんか?ワシら二人きりで話したいことあるんじゃ」

 

「…は、はい、かしこまりました」

 

そう言って退出するアルベド達を見届けるとシュンッと初期形態の無性形態になりゴロゴロ転がるように地面に倒れ

 

「ワシだって外に出たかったんじゃー!!」

 

「…子供か!」

 

「子供で良いわ!!ワシじゃって!ワシだって!今まで制約ばっかりの生活だったんだぞ!お外旅したいわー!子供心を忘れない大人とかモテるじゃろ!」

 

「子供心を忘れないというか子供返りしてますよ」

 

「うん、だって私だって旅したいもん」

 

「素が出てます。その顔と声で急に女子になるの辞めてください」

 

モモンガは友を宥め今後の方針について話し始める

 

「この世界にどうやらユグドラシルの魔法とかアイテムもあるみたいですし、調査に関しては警戒しながらして行きましょう」

 

出来るのなら、友である彼女にはあまり外出して欲しくないと思っていた。

 

彼女の種族は『怨霊』であり精霊系統の種族ではあるが、彼女の常時スキルとして炎上スキルがある

 

怨霊である彼女は『霊』であるため信仰系魔法詠唱者に祓われたら弱体化してしまう。最悪、強力な詠唱者に出会えば死ぬ可能性だってある

 

炎上スキルは第1形態である今なら多少は抑えられるが、それでも微弱に炎上スキルはある。

 

「うむ!それでは行くぞ!」

 

(…言う前に準備してるんだよなぁ…)

 

考える前に動くタイプである彼女を止められるのは、彼女のNPC達くらいだろう。

 

まぁ、力技で止めにかかっているが…

 

「ほれ!行くぞモモ…アインズ!!」

 

「信長さんはモモンガって呼んでください」

 

「モモンガ!!行くぞ!」

 

「ハイハイ、わかりましたから守護者達に二、三言いましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

それからモモンガと信長は守護者達に情報収集を自分達で行うという旨を伝えたのだが、案の定、反対やら引き止める言葉やらがいろいろ飛び出して来て、信長は内心『めんどくさ』と思っていた。

 

玉座と肘おきのところに座るとモモンガさんがスッと手を退かしてくる

 

「至高の御方々のみで外部に行かれるなど!危険でしかありません!」

 

デミウルゴス達の意見は最もだが、信長はこうも出づらくては念願だった外出も挫かれると思い、大袈裟にため息をつく

 

すると場は静まり返り、守護者達が深々と頭を下げる

 

「信用ないのぅ〜、ワシらがレベル40行くか行かないかの雑魚に負けると思うておるのか?」

 

「そのようなことは…」

 

「お前達の言いたいことは分かった。故に供を決める」

 

モモンガが話を纏めてくれる。

 

それから連れて行く伴はナーベラルと信長のNPCである沖田とメディアリリィに決まった。

 

「え?ワシだけ二人も付けるって信用なくない?」

 

そう言う信長に沖田が『信用ないんじゃなくてめんどくさいんですよあなたの相手』と返す

 

「辛辣じゃ!」

 

「ノッブノッブ〜!ノッブー!」

 

(…なんか二人距離近いし、うるさいなぁ肩の…)

 

沖田は剣士としての腕は一流で一撃必殺の技をよく使う。

 

信長がよく狩りの時に連れ回していたり、ウルベルトさんとたっちさんが大喧嘩し始めたら二人に一撃必殺の技で突っ込ませたりとかいろいろしたなぁと思っていると…

 

「アインズ様、私もよろしくお願いします」

 

そう言って頭を下げるメディアリリィ

 

献身的で純粋無垢な性格に見えるが、カルマ値は邪悪に設定されている。

 

可憐な笑みで本心を隠す最凶の策士で、天使の笑顔で悪魔の所業をほくほくと進行させる系信仰系魔法詠唱者と設定したと何故か誇らしげに豪語していたのを思い出す。

 

「あぁ、よろしく頼む」

 

「はい、アインズ様」

 

「信長さん、明日から出立だから寝坊しないようにな」

 

「寝坊せんわ!!」

 

NPC達の前でも通常運転の信長に笑うと転移して自室に戻る

 

 

 

 

 

 

 

ーメイド達と魔王信長ー

 

メイド達はドタバタと食堂内を走り回っていた。

 

中央の大きなテーブルにはいろいろな料理が並んでいた。

 

「リュミエール!魔王織田信長様が参られるわ!お二人の従者も着いて来るそうよ!」

 

「分かったわ!!」

 

そう言ってドタバタしているメイドを霊体化して見ていた信長と沖田達

 

「…なぁにアレェー?ワシ来る前っていつもああなの?」

 

「いや、あれが普通ですけど…というかあなた、至高の四十一人の一人だっていう自覚あります?」

 

「ない、断じてない!フレンドリーな感じで話して来て良いんじゃけど…」

 

「それ出来るの私くらいですよ、私だって守護者様達の前であなたにタメ口聞いたら命の危険あるくらいですし」

 

「…マジ?」

 

「マジ」

 

そうこう話していると…

 

「ノッブー!」

 

「あ」

 

「あ!」

 

ちびノブが声を上げると霊体化の魔法が解除されドアの前にドンッと出現する。

 

「!織田信長様、いらっしゃったのですか」

 

メイド長・ペストーニャ・S・ワンコが深々と頭を下げる

 

「う、うむ、今来た所じゃ」

 

「(動揺しすぎて声上ずってますよ)」

 

メッセージで言って来る沖田に内心「やかましいわ!」と思いつつペストーニャ・S・ワンコに部屋に通され、誕生日席(って友人が言っていた)に座ると両サイドにメディアリリィと沖田が座る。

 

「まず食前酒を用意致しました」

 

コース料理を説明されるが、途中から「??」になってしまう。

 

取り敢えず並べられた食事を摂りながらメイド達を見る

 

「そなたらも食べないのか?」

 

そう聞くと『私共は先に食べました。お気にされないでください」

 

(んー、それじゃあ親交を深めることは出来ないよなぁ…)

 

何を言っても彼女たちは『至高の御方と同じ目線で食事を取るなど不敬の極みでございます』と言われる。

 

(…なんかつまらんなぁ〜)

 

あの時の、リアルの時の冷え切った家族の食事を思い出す。

 

すると…

 

「信長様、ご飯粒が付いていますよ」

 

「あ、ホントじゃ」

 

「だらしないですねぇ」

 

メディアリリィと沖田が茶化すように言って来る言葉に笑う

 

やはり、自分の作った子供は可愛いなぁと思いながら食事をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーエ・ランテルへー

 

外部へ向かうことになった信長は無性形態で向かうことになった。

 

「今思ったんだが、なんでモモンg…モモンはその姿なんじゃ?魔法詠唱者じゃろ?」

 

隣を歩く漆黒の鎧を纏ったモモンガに問いかける信長

 

「…骸骨姿じゃ情報収集もないでしょう。こっちの鎧の方が親しみも持たれやすいでしょうし」

 

「そういうもんかのぅ」

 

「ところで信長さんはどうするんですか、無性形態で性別聞かれた時」

 

「女って答える。男性形態の時に着いてるアレがないからのぅ」

 

「…無性形態ってそういう意味じゃないと思うんですけど」

 

「べっつに気にせんでええじゃろ〜気楽に行こう!」

 

と気楽に行ったのだが…

 

「依頼もクッソないのぅ」

 

冒険者見習いに近い己たちが受注出来る任務はどれも軽いもので、名声を高め情報を集めるには向いていないものばかりだった。

 

「どれも簡単な仕事ばかりです」

 

この世界の字が翻訳魔法によって読めるメディアリリィが言って来る

 

モモンガさんがしびれを切らし、ナーベラルが第三位階魔法を使え、メディアは第四位階魔法を使えると受付嬢に言い、銅でも受けれる最高難易度の任務を受注しようとした時…

 

「よろしければ我々と共にやりませんか?」

 

「??」

 

話しかけて来たメンツを見る一行

 

 




沖田総司
【カルマ値】善〜中立
【創造主】魔王織田信長
【レベル】90
【種族】英霊(精霊系統の種族)
【クラス】剣士
【性別】女性

【詳細】
基本的に桜花領域にいたり第二階層に行ったりと自由気まま
肩にちびノブがおり、レベル50以上でないと見えない
創造主に対してタメ口で話しているが、さすがに守護者達の前では敬語


ちびノブ
総司の肩にいるモノ
レベルは56で魔法詠唱者の役割をしてくれる。
幻覚を見せたり邪魔をする。モモンガ『邪魔臭い』
「ノッブノッブ!ノッーブ!」と話す。言語は魔王信長にしか分からない。

メディア・リリィ
【カルマ値】邪悪
【創造主】魔王織田信長
【種族】精霊
【レベル】80
【クラス】信仰系魔法詠唱者、第九位階魔法まで使える。

【詳細】
回復系統の魔法をよく使う。
本当はカルマ値極善にしようとしたらしいが、なんか違うと思ったらしくカルマ値邪悪になった。



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エ・ランテル

今回は漆黒の剣との賢王との遭遇などあります。

ノッブがいることにより、生存者が増えるか…?と思ったらそうでもないという展開かも?


「私共と一緒にやりませんか?」

 

そう誘って来た集団ととりあえず共にやることになり、自己紹介をすることになった。

 

「チームのリーダーを務めさせてもらっています。ペテル・モークといいます」

 

「ルクルット・バルプです!!」

 

「森祭司、ダインと申します」

 

「魔法詠唱者のニニャといいます。よろしくお願いします」

 

自己紹介を始めた彼らにノッブは大声で言おうとすると…

 

「チームのリーダーのモモンだ、こっちは戦士であり私の友であるオダ・ノッブだ」

 

言おうとした矢先に紹介されてズッコケそうになる。

 

「うむ!よろしく頼むぞ!」

 

「剣士のオキタソウジです。よろしくお願いします」

 

「……ナーベです」

 

ナーベは素っ気なく返す

 

「えっと…信仰系魔法詠唱者のメディア・リリィです」

 

ある程度自己紹介を済ませると…

 

「一つ質問良いですか?!」

 

ルクルットが元気よく立ち上がる

 

「はい」

 

「ナーベちゃんとオキタちゃんはモモンさん達とどういう関係ですか?」

 

「仲間です」「子供じゃ」

 

ノッブの言葉にルクルットはくるりとノッブの方を見る

 

「お子さんを私にください!」

 

「いや断るけど」

 

「即答!!ありがとうございました!」

 

元気なルクルットに虫を見るような目を向けるナーベと『初対面の人でもイケるとかすごいですね、私は無理です』とオブラートに包んでるのか包んでないのか分からない事を言う沖田

 

「仲間が失礼しました」

 

リーダーにしばかれるルクルットを見てモモンが引きながら「あ、いえ…」と返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ンフィーレアがモモンに名指しの使命をして来たので薬草採取がてらゴブリンの討伐を行うことになった。

 

オーガ達も現れ攻撃を仕掛けて来たのでモモンは容易く二匹を横断し、ノッブも三匹を魔王剣で焼き殺す

 

「無明三段突き!!」

 

沖田の一撃必殺の技がゴブリンに決まる

 

「うわっ!」

 

勢いよく吹き飛び木に激突する。

 

「木に激突しておったけど平気か?」

 

「はーい平気でーす。ゴブリン軽すぎて力加減ミスりました〜ごめんなさい〜」

 

メディアは念のために沖田に回復魔法を掛ける。

 

「すごいですね…オーガを両断…あの群れを一瞬で終わらせるなんて…」

 

「オリハルコン…いや、アダマンタイトレベルの実力者達だ…!」

 

ノッブは内心『そんなに?』と思いつつもナーベが誇らしげにしているのを見て苦笑いする。

 

そして、森の賢王がいるらしき森にモモン達が入る

 

「それがしは森の賢王!我が森に入って来た不届き者を排除しに来たでござるよ!」

 

「…ハムスター…」とモモンが言葉を絞り出すように言い、ノッブは『ジャンガリアンハムスターじゃな』と言う。

 

「なんと!それがしの種族を知っているでござるか!生物として子孫を残さなければならない故に…」

 

「…いや無理だな…サイズ的に…」

 

「そうでござるか…」

 

ショボンとするハムスターにモモンが『すまんな』と返す

 

謎の空気が生まれる

 

「いいでござる。それがし行くでござる!」

 

気合が入ったハムスターにノッブとモモンはため息をつく

 

「やめだ…」

「やめじゃな」

 

そう言ってモモンが剣先を向け

 

「絶望のオーラ!…《レベル1》」

 

アインズの種族的特殊能力であり、相手を”恐怖”の状態異常にする。恐怖は怯えることによって、ありとあらゆる動作に対してペナルティが与えられる。

 

「ヒェェ、それがしの負けでござるぅ」

 

「簡単じゃな、皮を剥ぐか?」

 

「それなら私にお任せください!いい皮取れると思うんですよ!」

 

アウラが木の上で足をブラブラさせながら言う

 

「そんなぁ〜」

 

やる気の二人にモモンは『皮を剥ぐのより森の賢王を使役するという意味で良いから飼おう』となった。

 

そして、漆黒の剣のメンバーに森の賢王をお披露目すると意外な回答が返ってくる。

 

「なんと強い眼光!これが森の賢王!」

「モモンさん凄いですね!」

 

「「え?」」

 

ノッブとモモンの声が重なる。

 

「強く見えるのか?」とナーベに言う

 

「強さは別として力を感じられる目をしています」

 

「沖田はど、どうじゃ?」

 

「うーん、長い爪があって割と強そうですよ、魔獣の中じゃ」

 

((えぇーー?))

 

 

ー数時間後ー

 

その後、エ・ランテルに戻った一行は森の賢王改め『ハムスケ』を冒険者組合に登録するために向かう。

 

「ハムスターに乗るおっさんじゃなぁ」

 

「…うるさい…」

 

相当落ち込んでいるモモンが小さい声で『メリーゴランドに乗ってるおっさんだよ…』と呟く

 

依頼人の祖母と共にンフィーレアの屋敷に向かうことになった。

 

「ンフィーレア、モモンさん達が来たよ〜」

 

ノッブはハムスケを待機させているモモンとナーベより先に室内に入る

 

「…マズイな」

 

室内は真っ暗でとても人がいるようには思えなかった。

 

そこに入り、魔王剣を抜ける用意をする。

 

沖田も何か察知したのかノッブに続き入る

 

「この奥は?」

 

「薬草の保管庫じゃが…」

 

その言葉に従い進み、扉がズレている隙間から腐敗臭を感じ、乱暴にこじ開ける

 

「!」

 

室内には漆黒の剣のメンバーが血まみれで倒れていた。

 

「これは…!」

 

後ろから覗いていたバレアレが怯えるように言う

 

「ウッガァアァ」「ァァァァ」

 

ゾンビになった彼らは起き上がり、生者であるバレアレに襲いかかろうとする。

 

魔王剣を引き抜きペテルとルクルットの首を斬る

 

起き上がり攻撃して来たダインを両断する。

 

「ンフィーレアは!?」

 

「ここにはいない」

 

「ンフィーレア!!」

 

そう言って外に走っていくバレアレを見て沖田に指示を出す

 

「守ってやれ」

 

「了解です」

 

「メディアはモモンに伝えてくれ」

 

「はい、分かりました」

 

唯一動かなかった死体のところに近づき、顔に触れる

 

「刺突武器か…しかし」

 

ニニャだけ拷問を受けたような状態になっており、穴が空いた目から涙が溢れ、服は切り裂かれていた。

 

そこから覗く男であるのならないモノを見て「そうだったのか」と呟く

 

「…ちょっとだけ、不快だ」

 

ドスのきいた声が響く

 

異形種になったからこそ人間の生き死に嫌悪感や恐怖は感じないが、完璧に無くなったわけではない。

 

拷問のような殺し方は嫌悪感が湧く

 

その後モモンが合流して来て、エ・ランテルの墓地に向かうことになった。

 

念のために沖田とメディアはバレアレに付けていた。

 

「のう、モモン」

 

「どうした?」

 

ナーベラルがいる手前、支配者同士の口調で話している二人

 

「ワシがあのハゲの相手するからお主はナーベと一緒にあのクレヨンなんとかを倒してくれんか?」

 

クレマンティーヌと覚えようとしないノッブに苦笑いするモモン

 

「分かったが、信長さんが殺りたいと思って残そうと思ったのだが、良いのか?本当に」

 

「良いぞ、ワシがアイツを殺そうとすると多分、ここがマグマ地帯になりそうじゃしなぁ」

 

「それは困るな」

 

「じゃろ?」

 

そう言ってノッブはカジットとその手下の人間がいるのを確認する。

 

そこからクレマンティーヌが現れ、彼女はモモンが相手にすることになった。

 

「けっ、人間風情がこのワシを殺すなどとほざくか!行け!スケリトルドラゴン!」

 

魔法への絶対耐性がある骨のドラゴンを見てカジットは笑う

 

あんな子供に負けるわけない、と言ったような顔をするカジット

 

スケリトルドラゴンがこちらに向けて攻撃してくるのを軽々とかわしてドラゴンの頭部を蹴り飛ばす。

 

軽く蹴ったのでよろめいたスケリトルドラゴン

 

「は!逃げ続けるだけか!」

 

(なーんか決まらんのぅ)

 

モモンガがクレマンティーヌを追い詰める音が聞こえて来たので『戯れるのもここまでにするかの』と言ってスケリトルドラゴンのパンチをかわし、空に転移する

 

「《飛行》」

 

空で4分程浮かんでいると、やっと気付いたカジットが上空を見上げる

 

「何?何故、フライの魔法が使えるというのにスケリトルドラゴンから逃げようとしない!魔法に対する絶対耐性を前に勝算でもあるのか」

 

「勝つ方法なんていくらでもあるじゃが、まぁ、死ぬ前に良いもの見せてやろう」

 

そう言って第3形態に変身する。

 

「なに?貴様、ゴーストか!」

 

「んまぁ、ゴーストなんじゃが、下位のゴーストと同じにせんでくれるかのぅ〜」

 

信長は手を上にあげ

 

「波旬変生。一天四海に覇道を啓く」

 

ノッブは…信長の背後に出現した後光輪を背負った六本腕の骸骨が顕現する。

 

「な、なんだ…!それは」

 

「こんな墓地じゃ、丸ごと焼いてしまえば良いのだろうが、それじゃ意味ないじゃろ、故に最小出力で行くぞー破壊せよ!三千大千天魔王!」

 

後光輪の後ろから数多の砲撃が放たれ、スケリトルドラゴンを完膚なきまでに破壊する。

 

「なっ…!」

 

クレーターが出来てしまったのを信長は『手加減してクレーター出来るとか軟弱な地面じゃのう』と言い、カジットの元に降り立つ

 

先程と打って変わり恐怖に引き攣ったカジットの顔を見て信長は豪快に笑うが…

 

「もう死ね」

 

一言そう呟いた瞬間、信長の足元からとてつもない炎が発生し、カジットを燃やし尽くす

 

「流石に骨は残しとくかの」

 

マントを翻しモモンガ達がいるであろう地点に歩いて向かう、そこにはいつも通りの骸骨に戻っているモモンガがいた。

 

「なんじゃ、結局、魔法詠唱者で片付けたのか」

 

やってきた信長に気づいたとか、ナーベラルが深々と頭を下げる

 

「そういう信長さんもその形態で片付けたのか?物凄い熱風がきたが…」

 

「うん、加減したけどクレーター出来た」

 

「何やってるんですか…」

 

素の口調に戻るモモンガ

 

「殿ー…このお方誰でござるかー?ふぎゃ!」

 

ハムスケの脳天にナーベラルの拳が当たる

 

「愚か者!ナザリック地下大墳墓至高の四十一人のお一人であられる織田信長様に指をさすなど身の程をわきまえよ!」

 

しくしくと頭を抑えながら泣くハムスケにいたたまれなくなったノッブは笑いながら

 

「ほれ、ハムスケ、ワシじゃ!」

 

そう言って無性形態に戻った信長にハムスケがキラキラした眼差しで

 

「なんと!信長殿でござったか!自由自在に身体を変えられるとは凄いでござる!」

 

「そうか〜?小さいワシも大きいワシもカッコいいじゃろ」

 

「そうでござるな!」

 

わきゃわきゃしてるとモモンガさんが『ハムスケ、おだて過ぎるなよ…』と呟く声が聞こえる

 

「エランテルに帰るぞ」

 

咳払いしたモモンガはそう言ってマントを翻し、ンフィーレアを肩に担ぎ歩き出す

 



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喪失・Ⅰ

なんかいろいろ書いて皆さまの小説と違う展開にしようと思い、今回はシャルティア反乱の話に+します。

リアルのノッブの弟をぶち込もうと思ったけどなんかそれだと外れ過ぎると思ってやめます。


エ・ランテルに戻ったモモン一行は小さな宿に泊まって今後の方針を決めた。

 

「んじゃ、ワシはシャルティア達と合流するから沖田達は頼んだぞ〜モモン」

 

「あぁ、気をつけるんだぞ」

 

シャルティアチームのサポートに回る必要はないと思ったのだが、シャルティアの《血の狂乱》を危惧した信長の意見で信長自身が合流する事になった。

 

転移門を潜り、馬車の近くに転移すると…

 

「織田信長様お待ちしておりました」

 

出迎えて来たのはセバスとソリュシャン、シャルティアが出迎えてくる

 

「大きめの馬車をご用意させて頂きました」

 

(…ひぇ…)

 

大きめの玉座はまるで王様や大貴族が乗るような絢爛豪華な馬車だった。

 

「う、うむご苦労」

 

セバスが扉を開け中に入る

 

(うわぁ〜広い〜)

 

中は六人くらい乗れるような馬車でとても金ピカだった。

 

(…支出考えたくないなぁ)

 

支配者としてあってはならない思考に至るがそれをリセットし、座ると対面にシャルティアとソリュシャンが座る

 

となりにセバスが座るのかと思ったが、セバスは馬車の外から計画について説明してくる

 

「信長様にはご迷惑をおかけしますが、この馬車を襲う一行がおります。その中から武技を使う者を見つけナザリックに運搬する手筈になっております」

 

「うむ、構わんぞ」

 

「ありがとうございます」

 

セバスが外に乗り、先頭には誰かが乗った気配がする。

 

「シャルティア、あれから武技を使う者は捕まえられたかの?」

 

そう言うとシャルティアは申し訳なさそうに『武器を持つ者達は大半扱えず、至高の御方々の役に立てそうな者は見つからず申し訳ありません』と頭を下げてくる。

 

「謝らなくて良いぞ、冒険者としていろいろワシも情報収集をしておるが、武技を持つ者は希少な存在だと聞いたからのぅ、ワシらでさえ手こずっておるんじゃシャルティアのせいじゃないぞ」

 

そう微笑むとシャルティアが顔を赤らめ

 

「ありがとうございます。信長様」

 

それからソリュシャンとセバスチームの情報共有を終えた時に馬車が急停止する。

 

「おら!!出てこい!!」

 

外から男の声が聞こえてくる

 

「んー、野党じゃなぁ」

 

「信長様はここにいらっしゃってください」

 

ソリュシャンの言葉に笑って「そうじゃな」と返す

 

「妾が行くでありんす」

 

そう言ってシャルティアが馬車の扉を開けて外に出ると汚い男の声が聞こえてきて、その後に悲鳴やらなんやらが響く

 

その時間僅か数分で、静かになったと思えば…

 

「信長様、終わりました」

 

セバスが深々と頭を下げる

 

「うむ、怪我はないか?」

 

「はい、ございません」

 

まぁ、レベル100二人がいるから平気だと思っているが

 

外に出ようとするとソリュシャンが人間の死体を退かし、信長の足が付く所を掃除の魔法で一瞬で綺麗にする。

 

「今回もハズレでしたか」

 

すると、シャルティアの配下の吸血鬼がやって来て遺体を地面に置いて跪き

 

「織田信長様、シャルティア様、この者の仲間に武技を使うブレイン・アングラウスなる者がいるとのことです」

 

「その者は確か、この王国の戦士長と同格の剣士と聞きました」

 

セバスの言葉に「ふむ」と考え、シャルティアが『捕まえます』と話しになり、セバス達と別れてシャルティアと信長は洞窟に向かう事になった。

 

「シャルティア、主のことは信頼しておる。じゃからこそ《血の狂乱》はなるべく使わないようにするんじゃぞ?」

 

「はい、信長様、頑張ります」

 

そう言って洞窟の外で別れることになった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーナザリック地下大墳墓玉座の間ー

 

モモンガはアルベドからの報告に居ても立っても居られなくなり、エ・ランテルから帰還し、玉座の間で報告を聞いていた。

 

「シャルティア・ブラッドフォールンが裏切り、織田信長様が行方不明になりました」

 

その言葉はモモンガが何よりも恐れていたことだった。

 

友の作ったNPCだけでなく、友自身まで失いかけている。

 

「シャルティア・ブラッドフォールンの近くに信長様の血痕が発見され、アウラとマーレ、デミウルゴスが捜索を続けております」

 

「そうか、コキュートスには行かせるな」

 

「はい」

 

万が一、信長が暴走している場合はコキュートスでは相性が悪い

 

信長の技である《波旬変生・三千大千天魔王》は物凄い炎の魔法を扱う

 

その熱量はウルベルト・アレイン・オードルの《大災厄》に匹敵するくらいの威力を誇っている。

 

それを万が一限界で扱われれば、信長は消滅してしまう程の威力がある。

 

彼女は怨霊という種族ゆえに魔力が底をつけば消滅する運命にある。

 

(…信長さん…何処にいるんだ…早く見つけないと…)

 

画面を動かしていると…

 

『モモンガ様!アウラです!!!信長様を見つけました!』

 

悲鳴に近い声が聞こえてくる

 

「!」

 

画面に映った信長は血だらけで、気絶しているのかアウラが担ごうとしても大きすぎて持てないのか泣きながら手当していた。

 

そのすぐに後にデミウルゴスが合流し、信長を背負い転移門を潜る

 

回復魔法が使える者達を急ぎ集め、信長の部屋に転移する

 

 

 

 

 

 

 

アウラとマーレはシャルティアの反逆と同時にシャルティアと行動していた信長が行方不明になったと聞き、死に物狂いで探し回っていた。

 

シャルティア本人は鎧を着た状態で停止しており、周囲には爆発した後やクレーターができており、明らかに誰かと交戦した形跡があった。

 

そこから森に向かって血痕が続いて行っているのを確認したアウラとマーレは森の中を捜索していた。

 

(信長様を早く見つけないと…!早く!)

 

至高の方々がお隠れになる中、残ってくださったモモンガ様と信長様を失ったら自分たちに生きている意味はなくなる。

 

モモンガ様に失望され、信長様の後を追われてしまったら

 

それが何よりの恐怖で仕方なかった。

 

すると…

 

「ゼェ……ハァ…」

 

荒い呼吸が聞こえ、アウラは前を見るとそこには血だらけで体を引きずる信長がいた。

 

腹にはシャルティアの槍が突き刺さっており、そこからとめどないくらいの血が溢れていた。

 

「!信長様!!!!」

 

悲鳴が森の中を木霊し、近くにいたシャドウデーモンにデミウルゴスを呼んでくるように頼み、マーレを呼び《大治癒》をかけながらシャルティアの槍を引き抜く

 

「…アウラ」

 

信長がぐらりと傾き倒れ込んでくる

 

「信長様っ!」

 

信長の手が透けている

 

「!!!」

 

シャルティアと信長の相性は最悪でシャルティアから攻撃に逢えば至高の四十一人の一人である信長でもひとたまりもない。

 

信仰系魔法詠唱者と信長の種族である怨霊は相性最悪であり、なるべくチームにならないようにするのが良いとされている。

 

「…すま、ん…シャルティアを…止めれなかった…傾城傾国…を使われてしまっての…」

 

信長は息も絶え絶えに言い、気絶してしまう。

 

「いやぁああ!!」

 

消える、消えてしまう

 

アウラの頭はもはやパニック状態になる

 

途中で合流したデミウルゴスの処置のおかげで消えずに済んだが、それでも予断を許さない状態であった。




はい!途中で終わらせてしまい申し訳ありません。

明日は仕事なので、お休みさせて頂きます。

多分明日の夜か明後日新しいのが上がります


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ナザリック強化計画と…

シャルティア戦中の話です。あんまり今回は進んでない…

オリ主弱体化

モモンガさん友と友の残した子供を洗脳した奴、絶対殺すモード




至高の四十一人の一人【織田信長の意識不明の重体】とナザリック全てに知らされた時、皆、慌ただしく動き信長が消滅しないように《治癒》を行いながら、同じ精霊系統の種族である沖田やメディア達が魔力を渡していたりなどしていた。

 

(…信長さんのおかげでシャルティアは全開の力でこちらに挑めない…)

 

シャルティアのHPは半分まで削られている。

 

「アインズ様、戻ってくるとおっしゃってください」

 

アルベドは涙を流しながらモモンガに縋り付く

 

「アインズ様!」

 

(…必ず戻ってくるなんて言えない、でも…)

 

「ああ、戻ってくる。アルベド、シズ、ユリ。信長さんのことを頼んだぞ」

 

メディアリリィの魔法のおかげで信長の体力は元に戻りつつあるが…

 

「絶えず回復をし続けている沖田やメディアの回復も忘れないようにしてくれ」

 

信長の魔力が一定値にまで戻るまで永遠と負のスキル《夢幻の如く》が発動しており、やけど状態を自分自身に付与し続けている。

 

シャルティアと友である魔王織田信長を同時に失ったら自分はきっと放り出したくなるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

ー信長の寝室ー

 

ナザリックのシモベたちにとって至高の四十一人全員は神のごとき存在であり、敬愛する存在である。

 

このナザリック地下大墳墓にかつていた御方々はお隠れになってしまわれたけれど、それでも、このナザリックに最後まで残ってくれた神が二人もいた。

 

信長の寝室前は慌ただしくメイド達が行ったり来たりを繰り返していた。

 

「………ん」

 

信長の声が聞こえてくる

 

「!!ノッブ!」

 

沖田は信長の顔を見ると割と小さい声だったが『…頭イッタァ…』と聞こえてくる。

 

「メディアリリィ!《大治癒》をかけてください」

 

沖田の言葉にハッとなったメディアリリィが『はい!』と言って回復魔法をかける。

 

 

 

 

 

夢を見た

 

親兄弟が自分から何もかも奪う夢を

 

私が築き上げた物を横から取り上げ自分のものにした憎らしい彼ら

 

《な、姉さん…!》

 

燃やして燃やし尽くした。

 

自分は《第六天魔王織田信長》なのだ。

 

(…という夢を見た…)

 

目が醒めればそこはナザリック地下大墳墓で、自分の自室だった。

 

目の前には沖田やメイド達が慌ただしく動いており、目を開けただけで彼らはまるで叫ぶように手を上にあげ喜んでいた。

 

(…なんというかバンザイをされている気分…)

 

なんか気恥ずかしいような、なんというか…

 

もう一回寝ようかと現実逃避しようとしたら…

 

「ノッブ、冗談でも寝ようとしないでください」

 

沖田の静かな声が聞こえてくる。

 

彼女特有の茶化すような声ではない。

 

心の底から心配するような、そんな声が

 

「……起きてるぞ…」

 

そう呟くと沖田は安心したように「そりゃ良かったです。創造主()に先立たれる苦しみは味わいたくないですから」といわれ申し訳なくなる。

 

「すまんの…って!」

 

ガバッと起き上がった拍子にズキンッと腹が痛む

 

「アイテテ…」

 

「信長様!!無理をされないでください!万全の状態ではないのですから!」

 

ユリ・アルファの言葉に手足を見れば確かに魔力が少ないせいなのか初期形態である《無性形態》で止まっている。

 

「すまんの、ところでシャルティアはどうなっておるんじゃ」

 

「はい、たった今、アインズ様と交戦しております。ワールドアイテムに洗脳されているシャルティア様を解放するためには殺し、蘇生するしか方法がないとのこのです」

 

ユリの話にふむ…と考え込む

 

「そうか…シャルティアは悪くないのにのぅ…」

 

シャルティアはあの時《血の狂乱》で暴走してしまったものの、傾城傾国を持っていた敵達から反射的に信長を庇おうとして傾城傾国の洗脳にかかってしまった。

 

モモンガのようにシャルティアを一度殺して復活させようと思ったのだが、信仰系魔法詠唱者と己の種族である『怨霊』では分が悪い。

 

故にシャルティアのせいじゃないのだ。

 

二人の戦いはアインズの勝利に終わり、信長はほっとする。

 

「信長様、アインズ様がお見えになりました」

 

メイドの言葉に「うむ」と言うと入って来たのはモモンガで起き上がっている自分を見て安心したように椅子に座る

 

「なんかすまんかったの」

 

そう言うとモモンガは『全くですよ』と言う

 

「それで…ワールドアイテムのことですけど、本当に傾城傾国で間違いないんですか?」

 

「あの老婆が着ておったのは確かに傾城傾国じゃった。それは間違いない」

 

「そうですか…守護者達にナザリック強化計画のことを説明しました」

 

「それも良いの、あと一つ問題があるんじゃが良いか?」

 

「なんですか?」

 

「ワシ、最終形態になれない。弱体化しておる」

 

「…は?本当ですか?」

 

「本当じゃ」

 

モモンガは悩んでいたが頷き

 

「守護者達にそのことを報告しておきます。今後の対策について分かったらいいます。できる限りナザリックから離れないでくださいね」

 

「りょーかいじゃ!」

 

「沖田、見張っておいてくれ」

 

「はい!お任せを!」

 

「…え?ワシ信用なくない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「面をあげよ」

 

守護者達の顔が玉座の方を向く

 

「今回のシャルティアの件についてだが、つい先日、我が友・織田信長が意識を取り戻した」

 

「「「「!!!」」」」

 

守護者達が全員驚き、口々に『良かった…!』と言っていた。

 

「まず、シャルティアよ」

 

「!は、はい!」

 

シャルティアは顔面蒼白で怯えていた。

 

自分の記憶の中にはないが、至高の四十一人の一人である御方に牙を剥き、大怪我を負わせたのだ。

 

シャルティアはモモンガの言葉より先に『私は至高の御方に牙を向けてしまった大罪。私の命で償います』と言う

 

「落ち着けシャルティアよ、罰は後に決める。それよりも最優先事項がある」

 

そう言うと守護者達は緊張した面持ちになる。

 

「我が友・織田信長が弱体化しつつある。このもまでは最悪消滅してしまう可能性がある」

 

「!なんと…!」

 

デミウルゴスが悲痛な表情をする。

 

「故に今後のナザリック強化計画と並び行うことは異形種および人間種の魂を集め、信長さんの復活に備えよ」

 

「「「「は!!!」」」」




《魔王信長の形態について》
無性形態:最も魔力がない形態でありレベル60相当の威力しか出せない。他の形態と違い人間種あるいは異形種の経験値(魂)を食べなければ弱体化する。
男性形態:第二形態。80レベル相当の威力しかない。重火器等を使い攻撃する事が多い
女性形態:レベル100の戦士職としてかなり強い能力を保持している。全力最大出力で『三千大千天魔王』を使えば消滅するデメリットはあるが、本気を出さなければ無尽蔵に技が打てる。


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リザードマン戦・序章

復活までナザリックから出ないように言われたノッブが自由気ままにナザリック内で生活したり、リザードマンの集落を攻める事になり、モモンガさんと二人で計画を練る話など

アルベドの設定が『魔王織田信長とモモンガを愛している』設定になっているのでノッブにもグイグイ行きます。


最終形態に戻るまでの間はナザリック地下大墳墓で留守番をすることになったノッブは一日過ごして見て…

 

「あぁ〜ダメじゃ〜これ、ニートライフ満喫しとるー…復活した時ブタになってそうで怖いわぁ〜」

 

「至れり尽くせりですね」

 

メディアリリィの言葉に『それな!』と言う

 

このナザリックでの生活はもう、なんというか贅沢三昧な気がしてならなかった。

 

リアル以上の贅沢三昧過ぎて、もうこのままニートになっていい?とモモンガに聞くと『絶対ダメですよ』と言われたことを思い出す

 

そして、療養生活に入って思ったのは、シャルティアが甲斐甲斐しく世話をしてくれるということだった。

 

メディアリリィや沖田はモモンガさんと一緒に冒険者として仕事しないといけないことがあり、居ない間はシャルティアが朝から晩までずーと見ていてくれるので…

 

『モモンガさん、シャルティアになんか命令でもしたのか?』

 

そう聞くとあぁとメッセージ越しに頷き

 

《シャルティアの罰の一つに信長さんに誠心誠意尽くすようにって言ってあります。放っておいたら自殺しそうなくらい追い詰められてましたし…》

 

その言葉に『あぁなるほど』と感じる

 

確かにシャルティアから惚れ惚れ?するような視線は向けて来ず、物凄く心配した表情と申し訳なさから来る顔を向けて来ていた。

 

温泉に入ろうものなら衣服を脱がして綺麗に洗ってくれるし、背中をまるで子供の肌を拭くように拭くので一種の痒さがある。

 

『なんか介護されとる気分…』

 

《まぁ、実際介護されてますしね》

 

『…言うようになったのぅ……』

 

《ところで、調子の方はどうですか?》

 

『ん?まぁ、本調子に戻りつつあるの、男性形態にはもうすぐ戻れそうじゃ、やっぱりデミウルゴスが牧場から食用として献上されるだけはあるのぅ』

 

《…え?デミウルゴスの"牧場"から?》

 

モモンガは疑問なのかそう聞いて来る。

 

『??そうじゃけど、なんじゃ?』

 

《アベリオンシープって羊じゃ…》

 

『いや、人じゃけど。というかワシの最終形態まで戻る条件に()()()()()()()()()()()()()()()()の経験値が必要って言わなかったかの?まぁ、ここじゃ経験値は魂になるが…』

 

《…………》

 

『おーい、モモンガさーん?』

 

環境音は聞こえるのにモモンガの声が聞こえないのでそう問いかけると小さい声で《知らなかった……》と呟く声が聞こえる。

 

『デミウルゴスに聞いたら話したって言っておったけど?』

 

《え?あ!だから獣って聞いた時?ってなってたのか!》

 

『あ〜なんというか可愛いのぅ』

 

《うるさいですよ!無知で悪かったですね!ちゃんと療養してくださいね!》

 

そう言って伝言が切れる

 

すると…

 

「信長様、デミウルゴス様が参りました」

 

ソファーに座っていたので椅子に座り直す

 

「入れ」

 

「はい」

 

デミウルゴスが手に書類を持って入ってくる

 

「失礼致します。信長様の復活のための計画が完成したのでお話に参りました。こちらをどうぞ」

 

そう言って書類を差し出してくる。

 

デミウルゴスの手からメイドに渡り自分の手元にくる。

 

書類を見るとそこには王国を悪魔で襲う計画が乗っていた。

 

(…王都にいる市民を襲撃し、経験値にする…か)

 

確かにこの計画なら一気に最終形態に一気に戻るだろうが…

 

「どうされましたか?信長様」

 

デミウルゴスが心配そうに、何か不備でもあったのかと書類を見直そうとしたので

 

「流石はデミウルゴスじゃな、不備も何もないんじゃが…これじゃデミウルゴスに負担がかかりすぎるじゃろ?それはなんというか…うん申し訳なくてな」

 

そう言うとデミウルゴスが『何を仰いますか、私共にとって至高の御方々に尽くすことが至高の喜び、信長様の復活のためにならいくらでも働かせて頂きます』と平伏してくる

 

隣にいたシャルティアも何回も頷いていた。

 

(何その奴隷根性…)

 

「そ、そうか、なら任せるとしようかの…何か助けて欲しいことがあったら遠慮なく言うんじゃぞ?」

 

「ありがとうございます。信長様」

 

そう言って次の話になる

 

 

 

 

 

 

 

ー円卓の間にてー

 

モモンガは冒険者としての仕事を終えた後、ナザリックに帰還し、リザードマンの集落を見つけたのでそこを攻める事にした。

 

アルベドと共に信長のもとを訪れると沖田と信長が仲良く遊んでるのを目にしアルベドが小さい声で『…羨ましい』と呟くのが聞こえた。

 

「攻め手はコキュートスで、コキュートス自身は戦わせず、与えられた兵のみで戦うように命令しようと思っているが、信長さんはどう思う?」

 

この世界に転移してきてから友に相談する事が増えていた。

 

自分…鈴木悟は小卒であり、あまり学もない自覚がある。転移する前は普通のサラリーマンでどちらかというと下働きのようなことばかりしていたので、組織運営なんて微塵も分からないのだ。

 

その点、友・魔王織田信長は大卒までし、会社を興して貧困層のために週休二日の労働時間9時間という夢みるような会社を作ったらしい。

 

(…会社についてはあまり語らなかったけど…家族に会社の権利を奪われたって…だからリアルに戻りたいなんて言わなかったのか…)

 

家族に奪われたという話にモモンガは申し訳なくなる。

 

友のあの底なしの明るさも無理をしてやっているのではないかと、少しでも相談に乗りたかったが、あまり話してくれないので無理に話を聞くことは出来なかった。

 

「問題ないと思うぞ?コキュートス自身は戦わせずっていうのは、部下の教育としては最適じゃ、問題は兵力と向こうの情報を探れるかじゃな」

 

「そうなのだ、未だにコキュートスから話は上がって来ないしな…」

 

「んー、彼奴は命令に盲目的すぎじゃからな、与えられた兵でのみの戦闘などというのは負け戦を決定付けているようなものじゃ」

 

「そうなのですか?」

 

アルベドの言葉に『そうじゃよ』と答える

 

「まず、戦というものは大将や信頼厚い部下に敵地を視察する。相手がどのような暮らし・武器を持っておるか、思想はどういうものか、数はどれくらいなのか、交流関係はどうなのかとな」

 

「…行ってないですよね?」

 

モモンガの素の言葉に『当たり前じゃろ〜?小太郎に探らせたんじゃ』

 

「さすがは信長様っ、敵の情報を集めていらっしゃるとは…!惚れ惚れしてしまいます」

 

アルベドが『信長様、カッコいい…!』と獣のような声で言う。

 

「う、うむ、そうじゃろ?」

 

完全にドン引きしている信長と興奮しているアルベドを見て咳払いすると、アルベドがハッとなり『失礼しました』と言ってくる。

 

「交流関係が分かれば援軍要請されるか否か分かるし、思想はその者の戦い方がわかる。暮らしによっては兵力の数や能力も分かるじゃろう」

 

(…さすが、信長さんだなぁ…)

 

彼女はリアルでは歴女だと言っており、名前から分かるように偉人達の名前を付ける事が多い

 

彼女に歴史のことを尋ねたら一日中喋り続けるからなるべく聞かないとあのタブラさんも言っていたのを思い出す。

 

「というわけじゃ、ワシが調べた通り、モモンガさんがコキュートスに与えた軍勢じゃどうやっても勝てんじゃろ、スケルトン達は多少あちらに被害は出せるだろうが、ゾンビは返って足手まといじゃ」

 

「コキュートスが戦いの開幕までに増援を願い出てくるか否かで成長がわかると…」

 

「うむ。そういうことじゃ」

 

すると…

 

『アインズ様、信長様、アルベド様、コキュートス様が出陣なされましたぁ』

 

エントマからの報告に二人は「やっぱりな」と頷く

 

「んじゃ、ワシら玉座の間に行くとするかの」

 

「そうだな」

 

立ち上がった信長にシャルティアが近寄る

 

「もうワシ、普通に歩けるから大丈夫じゃぞ?」と言うとシャルティアが「では前を歩かせて頂きます」と言ってくる

 

前を歩くことで障害物などをあらかじめ確認し、コケそうならその身を犠牲にして守ろうとするシャルティアに信長は苦笑いする



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リザードマン戦・宣戦布告

リザードマン編宣戦布告

ノッブは大抵のことでは怒りませんが、裏切りとかになると少しだけイラついちゃう子です。

コキュートス目線、オリ主目線、リザードマンの目線などいろいろあります


リザードマンの戦いはリザードマンの勝ちで終わった。

 

エルダーリッチ・イクヴァを失ったこと、兵達を全滅させてしまったことなど度重なる失態により、命を持って償うのを覚悟の元立ち上がると

 

「コキュートス様、アインズ様と信長様がお呼びですぅ」

 

エントマの言葉もあり、なお一層覚悟をする。

 

ナザリック地下大墳墓『レメゲトン』前

 

コキュートスは玉座の間の前に着くと深呼吸をする。

 

(…此度ノ敗北、我ガ命程度デハ許サレルハズガナイ……、アインズ様、信長様ガ失望サレ、我ラヲ見捨テラレタラ私ハ…)

 

グッと拳を握り締め、室内に入ると…

 

「おや、来たかね」

 

守護者達が集まっており、コキュートスはその中に歩いていく

 

「遅クナッタ、外ニ出テイタデミウルゴスヨリ遅レルトハ…」

 

「それは仕方ないさ、それよりもアインズ様に付き従っているアルベドの代わりに守護者代表を務めさせてもらうよ」

 

「アァ、オ前ナラ一切問題ハナイ」

 

「それは良かったよ、今回の話についてだが、信長様の体調が戻って来られたようだから今回から御出席されるそうだよ」

 

玉座の横に新たに建てられている玉座は信長の席であり、モモンガとアルベドの意見もあり、ギルド長と同じ地位として確立された。

 

守護者一同が座っているのに、信長様だけが立っているのは申し訳ないという意見の元急遽作られた。

 

しばらく経つと…

 

「アインズ様、織田信長様、守護者代表・アルベド様がご入室されます」

 

ユリの言葉に一斉に頭を下げる守護者達

 

「顔を上げ、アインズ・ウール・ゴウン様、魔王織田信長様の御威光に晴れなさい」

 

アルベドの言葉に守護者一同顔を上げる。

 

「アインズ様、信長様、ナザリック階層守護者御方々の前に揃いました。何なりとご命令を」

 

「うむ」

 

モモンガは信長を見る

 

「シャルティアよ」

 

「は、はい!」

 

シャルティアは上にあがってくると

 

「シャルティアよ、そなたの罰はこれで終わりじゃ」

 

信長の言葉にシャルティアはバッと顔を上げる。

 

「しかし…!」

 

「無論、ワシの力が完璧に戻ってきているわけじゃない。今後もシャルティア達に迷惑をかけるじゃろう。デミウルゴスの仕事も増やしてしまうかもしれん。それについては素直に謝罪しよう」

 

ペコリと頭を下げると守護者一同『頭をお上げください!』と言う。

 

「だからこそ、これからもよろしく頼むぞ」

 

「「「はい!!」」」

 

シャルティアが下がり、モモンガがコキュートスを見る

 

「コキュートスよ」

 

「はっ」

 

「敗北で終わったな」

 

「コノ度ハ私ノ失態、誠ニ申シ訳アリマセン!コノー」

 

カンッ!とアルベドが音を立てる

 

「……コキュートス、謝罪するなら面を上げなさい」

 

冷たい視線がコキュートスに降り注ぐ

 

「失礼シマシタ!」

 

「コキュートス、敗軍の将の言を聞こう。今回の指揮官として戦ってみて何感じた?」

 

「オ預カリシタ兵ヲ活カセズ、申シワケアリマセンデシタ」

 

「違う、先に言っておこう。私達は今回の敗北を強く責める気はない。何故ならどんな者も失敗するからだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

(……圧迫面接だなぁ…)

 

ノッブは玉座からコキュートスを見ていると申し訳なくなって来る。

 

こちらとしても分かっていた情報をあえて言わずに黙って敗北を見ていたのだ。

 

「リザードマン達ヲ皆殺シニスルノハ反対デス!何卒ゴ慈悲ヲ!」

 

「コキュートス!貴方自分が何を言っているか分かっているの!?このナザリックに敗北をもたらした貴方が…」

 

「アルベド、出しゃばった真似はするな」

 

「申し訳ありません。アインズ様、信長様」

 

「のぅ、コキュートス、リザードマンを皆殺しにしたくない理由はなんじゃ?屈強な戦士が出てくる可能性の他にもいろいろあるんじゃろ?言ってみるのじゃ」

 

そう言うとコキュートスが唾を飲み込むような音が聞こえてくる。

 

デミウルゴスを見て助け舟を出すのを静止する。

 

デミウルゴスは頷く

 

「…リザードマン達ニ戦士ノ輝キヲ感ジマシタ。故ニ殺スノハ惜シイカト」

 

「ふむ、そうじゃな」

 

そう言ってメッセージでモモンガに繋げる

 

《なんですか?信長さん》

 

『今回のリザードマンの事ですけど、占領ではなく統治という方向に持って行って良いですか?』

 

《俺はいいですけど…》

 

『コキュートスはおそらくそこに話を持って行きたそうですけど、アルベドの圧と私達二人の圧に負けてそんな図々しい意見なんて言えないって雰囲気出してますし』

 

《そうなんですか…だからさっきからデミウルゴスが意見を言おうとしてたんですか…》

 

「ふむ、では、コキュートスの意見を採用して占領から統治に変えるぞ、これからナザリックは多くの国を、人間を、人種を纏めて行かなければならないからこそリザードマンの村で恐怖によらない統治を行うのじゃ」

 

「ハッ!」

 

モモンガさんが立ち上がりアルベドの方を見る

 

「アルベド、私達も出る。兵の準備を整えよ」

 

「畏まりました」

 

「各員行動を開始せよ、明日にはリザードマンにナザリック地下大墳墓の力を見せつけるのだ」

 

「「「「は!!」」」」

 

信長とモモンガは転移して円卓の間に移る

 

「あー…つっかれた」

 

「疲れたのぅ」

 

モモンガは深呼吸をして信長を見る

 

「…本当にあの形態で行くんですか?」

 

「ん?あぁ、最終形態には1時間弱だがなれるしのぅ、あの格好で行った方が魔王っぽくてカッコいいじゃろ!」

 

「…無理しないでくださいね」

 

 

 

 

 

 

 

ーリザードマン集落ー

 

クルシュと夜を過ごしたザリュースはゼンベルから表に来て欲しいと呼ばれ、走って向かうとそこには…

 

「なんだあれは…!」

 

「予測はしていたが…早すぎる!」

 

敵全体が魔法の武具で待ち構えていた。

 

冷たい風がザリュース達に襲いかかる。

 

「神話の軍隊か…」

 

「落ち着け!怯えるな戦士達よ!祖霊を失望させる行為は慎むのだ!」

 

「動き出したか…」

 

「戦闘準備とは違うようだな…」

 

スケルトン達が動き出し、そこから現れた死の支配者が現れ、沼地を一気に氷で覆い尽くしてしまう。

 

「全員退避!」

 

「あれが偉大なる御方って奴か、あんな化け物からしてみれば俺たちなんて虫けらと変わりねぇんだろうな」

 

ゼンベルからの言葉に悔しいが頷くしかなかった。

 

すると…

 

「なんだあれは…!」

 

大きな化け物が岩を投げようとする

 

「(あんなもの投げられたらひとたまりも…!)」

 

すると、大きな化け物は岩を沼地だった真ん中に置き、そこに敵の一部が集まる

 

何が始まるのか分からずリザードマン達は恐怖に怯えていた。

 

「…王の通り道か」

 

旗が掲げられ、そこを通る死の支配者、そしてその後ろにいる全身真っ赤な魔王のような女性?が続く

 

(あれは悪魔か…?)

 

その二人の背後に並ぶように歩く翼の生えた女性。アレは悪魔

 

二百年前程に世界を滅ぼしかけたという存在だろう。

 

敵は石の上に登り、出現した玉座に死の支配者と魔王が座る

 

【偉大なる御方】が二人もいるという事に絶望感が沸き起こる

 

『偉大なる御方々の言葉を伝える』

 

『偉大なる御方々は対話を望まれている。代表となる者は即座に歩み出よ』

 

『無駄な時間の経過は偉大なる御方々を不快にさせるだけと知れ』

 

モンスター達が死の支配者達の元に戻る

 

すると…

 

魔王が手を鳴らすとそのモンスターが一瞬で消える

 

「はぁ…!?」

 

あのモンスターをいとも容易く消した存在に驚きが隠せない。

 

あのモンスターでも我々は勝てないだろう。

 

そんな奴らを指一つで消滅させるなんて異常すぎる

 

桁外れの存在にすっかり後ろのリザードマン達は怯えていた。

 

「弟よ、アレが敵の親玉か?」

 

「あぁ」

 

「見たところお前が倒したエルダーリッチに似ているが、強さはその比ではないのだろう。あの傍らに座る魔王のような女もそれと匹敵するくらいの力を持っているとみよう。弟よ悪いが来てくれるか」

 

シャースーリューの言葉にザリュースは頷く

 

「リザードマン代表、シャースーリュー・シャシャだ。そしてこの者はリザードマン最強の者」

 

「ザリュース・シャシャだ!」

 

その言葉を聞いて最初に口を開いたのは…

 

「馴れ馴れしい、分をわきまえなさい。デミウルゴス」

 

悪魔の女がそう言うと隣にいた男が前に出て

 

「《平伏したまえ》」

 

その言葉に従うようにザリュース達の体が地面にめり込む

 

「《抵抗するな》」

 

「アインズ様、信長様、聞く姿勢が整ったようです」

 

「うむ、面を上げよ」

 

「《面をあげることを許可する》」

 

「話は簡単だ、私達の支配下に入れ」

 

その言葉は重くのしかかる

 

「しかし、自分たちが一度勝利を収めた者の支配下には入りたくないだろう。故に4時間後再び攻める。攻め手は私の信頼厚い部下・コキュートスただ一人、その時に勝利を収められたら私達は君達から完全に手を引くことを約束しよう」

 

「…降伏を」

 

その言葉は圧倒的な実力差を前に勝てないと感じていたから出た言葉だ

 

「戦わずに支配下に入るとはいわないでほしい」

 

「……見せしめか」

 

「話はそれだけだ、健闘を祈るよリザードマン。ゲート」

 

その中に死の支配者は入って行く

 

「期待しておるぞ、トカゲ」

 

魔王の女の冷たい言葉が続き

 

「さようならリザードマン」

「じゃあねー!」

「さらばでありんす」

「では、あの、元気でいてください!」

「ではさようなら」

 

従者達が続いて入っていき、最後に

 

「《自由にして良い》では、楽しんでくれたまえリザードマン」

 

「ちくしょうが…!」

 

 




次回はリザードマン最後らへんと悪魔騒動です。

仕事と小説のこと考え過ぎて小説が本業になりつつある…


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リザードマン編・終結

本来ならリザードマン編の前に書こうと思ったけど、いろいろあって書けなかった話です。

感想コメント来ると嬉しすぎて執筆が捗ります。ありがとうございます

法国目線の話とリザードマン戦終結です。


ー法国にてー

 

「ルビックキューですか懐かしいですね」

 

法国の神官長達への報告を終えた第一次席次は部屋の前で待機していた番外席次『絶死絶命』の女性がそこにいた。

 

「一面を揃えるのは簡単なんだけど、二面を揃えるのって結構難しいよね」

 

「そうかもしれませんね、かつて六大神が広められた玩具ですから」

 

「…それで?神官長達が集まって一体何があったの?」

 

「報告書は提出したはずですが?」

 

「読んでない」

 

キッパリという番外席次はルービックキューブを弄りながら言う。

 

相変わらず表情は動かず、興味なさげだった。

 

「それで?何があったの?」

 

「ヴァンパイヤらしき未知のアンデットとぷれいやーらしき者と遭遇。セドランとボーマルシェが死亡、そして、カイレ様も死亡されました」

 

「へぇ…」

 

珍しく興味を持った番外席次

 

「それで?そのぷれいやーは強いの?」

 

「…恐らく、遠目でしか見ていませんでしたが、レベルは甘く見積もってレベル90てところでしょう。ヴァンパイヤと相打ちになり、重傷を負っていたようですが、こちらを視認し攻撃を受けながらも攻撃して来ようと見たところ未知のアンデットとそのぷれいやーは仲間であった可能性があります」

 

番外席次はルービックキューブをやめると第一次席次を見る

 

「そのぷれいやーと早く戦ってみたいわ、どんな不細工でも人間以外だって問題ない。だって、私に勝てる存在なんですもの、そんな奴との間に生まれる子供はきっと強いに決まっているわ」

 

歪んだ思想に第一席次は何も言わずに彼女を見つめる。

 

 

 

 

 

 

ーナザリック地下大墳墓地上にてー

 

「ふぁ…ぶぇっくし!!」

 

「やかましっ…」

 

モモンガの言葉に「すまんの」と返す信長

 

「信長様、何か羽織る物をお持ち致しましょうか…?」

 

アルベドの言葉に『大丈夫じゃ、誰か噂でもしておるのかのぅ』と言う。

 

コキュートスがリザードマンの集落に行くまで後1時間…

 

アウラが作った家屋で上映会をすることになった。

 

「…申し訳ありません。アインズ様、信長様、こんなボロいところで…」

 

アウラが申し訳なさそうに謝罪する

 

「ん?こっちこそ無理を言って悪かったな、お前が作った所なのだろう。ならば、ここはナザリックにも匹敵しよう」

 

そう言ってアウラの頭を撫でる

 

「うん、ワシも良いと思うぞ、特にワシはこういう建物は大好きじゃ、木の匂いもして昔ながらの良さもあり、広すぎず有効活用できて…「信長さんストップ」あ、はい」

 

信長は歴史好きもさながら日本家屋など昔ながらな物も大好きらしく、話し始めると日が暮れると思いモモンガはストップをかける。

 

それからリザードマン側にプレイヤーがいない可能性を見て話を始める。

 

「シャルティアを洗脳した者は現在潜んでおり、こちらとしての対策は様々です。例えばどこかの国の傘下に入るなりすれば、あちらは手出しは出来ないかと」

 

デミアルゴスの言葉にアルベドが「ああ!」と納得し、信長も「ふむ、そうじゃな」と頷き、モモンガが「……あぁ!」と遅れて頷く

 

「「「??」」」

 

アウラとマーレ、シャルティアが首を傾げる。

 

「万が一、モモンガやワシがワールドアイテムで洗脳されておったという過程を作り相手を攻撃したとしても、それは国からそう命令されたと言えば責任転嫁できるじゃろう?」

 

その言葉にモモンガが『なるほど…』と感心する。

 

「では、リザードマンに十分な時間を与えただろう。想定外の動きをしていないか確認するぞ」

 

画面を見るとリザードマンの族長達が集まり作戦を練っていた。

 

「あの白いのと、魔法の武器を持っておる奴がおらんのぅ」

 

そう言うとアウラが「家の中にいるんじゃないですか?と言って来る

 

スクロールを手に取ったモモンガは家の中を覗くと…

 

「あ」

 

部屋の中で交尾する白いのと魔法武器のリザードマンがいた。

 

「仲良くやっとるのぅ」

 

モモンガは大慌てでその画面を消す

 

「ハァ…」

 

地を這うような声が思わず出る

 

「全く!恥ずかしい奴らです!これからコキュートスが攻め込むというのに!」

 

「そうですよね!」

「そうでありんす!」

「トカゲって卵なんじゃろうか?」

 

「…お前ら黙れ」

 

信長さんに至ってはなんか変な所が気になっているのか、少し知りたそうにしていた。

 

咳払いし、画面をコキュートスの方に変え

 

「さて、上映時間だ」

 

 

 

 

 

 

コキュートスとリザードマンの戦いはコキュートスの勝利で終わり、リザードマンの集落の統治はコキュートスに委ねられた。

 

「これからは恐怖による統治ではなく、ナザリックへの忠誠心を植え付けよ」

 

「ハ」

 

「故にリザードマンの中にリーダーらしき者はいるか?」

 

「ハイ、ソウ仰ッシャラレルト思イマシテ近クニ呼ンデオリマス」

 

「素晴らしい。では呼べ」

 

「ハ」

 

そう言って数分後にやって来た白いリザードマンが深々と頭を下げる

 

「よくきたな」

 

「はい、偉大にして至高なる御方々」

 

「名を聞こう」

 

「私はリザードマン代表のクルシュ・ルールーです」

 

「そうか」

 

「はい、ゴウン様、私達 リザードマンの絶対なる忠誠をどうぞお受け取りください」

 

恐怖で震えているクルシュを見てモモンガが契約を持ちかける。

 

ザリュースの復活を話しているのを信長は聞いていると…

 

(あ、寒っ!?)

 

突然、魔力が絶たれる気配がする。

 

「それでは帰るぞ…ん?どうした?信長さん」

 

立ち上がらない信長を見るモモンガ

 

すると、信長の形態が初期形態に戻る

 

「信長さん?!」

 

緊急事態だと思ったアルベドがメイド達に指示をしていた。

 

「うん、すまんの、ちょっと魔力使いすぎたからこの形態に戻っただけじゃ」

 

そう言って立ち上がり微笑む

 

「さて、帰るぞ」

 

(不便な身体になったな…早く戻らないとな)

 

デミウルゴスが走り寄ってきて

 

「急ぎ補給に入りましょう。失礼します。アインズ様、先に戻らせて頂いてもよろしいですか」

 

「あぁ、頼む」

 

「はい、シャルティア、マーレ、信長様と共に帰還してくれ」

 

「分かったでありんす」

「はい!」

 

信長は慌て出した彼らを見て苦笑いする。

 

「信長さん、本当に大丈夫なんですか?」

 

その言葉ににこやかに笑うと…

 

 

「大丈夫じゃ」

 

そう言ってゲートを潜る



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自分のやりたいように

オリ主の感情の話です。

モモンガさんはアンデットになった影響で仲間への思いがかなり歪んだ方になっていますが、ノッブは仲間への思いは対してなく、怨霊になったせいか『リアルでのこと』に怨みが残り周囲に八つ当たりしたいのに、出来ない(やりたくない)状態で『放っておいて死ぬのも良いんじゃないか』と思ってます。


オバロWikiで『異世界転移して、続く現実に嫌気がさしてログアウトしたかったんじゃないか』ととある項目で見たので閃きました。


ノッブはナザリックに帰還すると、ベットに倒れるように入る

 

シャルティアとマーレが泣きそうなくらいの表情で行ったり来たりしていた。

 

「…すまんが、一人にしてくれんかの」

 

「ですか…御身に何かあれば…」

 

「大丈夫じゃ、()()()()()になったら起きるから」

 

「…はい、何かあればお呼びください」

 

そう言って二人が退出する。

 

「あー…情けない」

 

モモンガの手前『大丈夫だ』とは言ったが、全然大丈夫ではなかったのだ。

 

デミウルゴスがいろいろ動いてくれていたり、ナザリックのメイド達が気を使ってくれていたりするものの、どうも落ち着かなかった。

 

(…このままログアウトしても良いんじゃないかなぁ)

 

この幸せなナザリックで人生を終えるのも良いんじゃないかと思いつつあった。

 

すると…

 

「おやめください!!信長様は現在休養中にございます!!」

 

外からメイドの声が聞こえてくる

 

「うるせぇ!大殿をこんな部屋に閉じ込めやがって!俺は大殿とやりあいてぇんだよ!」

 

怒号と共に部屋を乱暴にノックして入って来たのは100レベルのNPCで、ノッブ自身が作った『森長可』だ

 

「大殿!やり合おうぜ!」

 

真っ赤な髪に化け物のような牙、身長は最終形態の信長より少し小さいが、初期形態の今では群を抜いてデカイ。

 

「…なんじゃ、勝蔵か…どうしたんじゃ、ワシちょっと疲れたんじゃが」

 

「んなもん!部屋で寝たきりになってるからだろ!動いて気分転換だ!」

 

長可の後ろでヴィクティムがエノク語でなんか言っているが、様子を見るにかなり大慌てで来ているようだった。

 

第八階層守護者のヴィクティムは【第八階層のあれら】と森長可も見張っているのだ。

 

第八階層のあれらは制御すれば大人しくなるものの、長可は違い勝手に八階層から出て自由に歩き回る。

 

「俺と同じで人間や異形種を狩れねぇから鬱憤が溜まってるんだよ!」

 

長可は種族【怨霊】で信長と同じ種族だ。

 

ガハハと笑う長可にムクリと起き上がる信長

 

後ろの方ではシャルティアとマーレが彼を引っ張ろうとしているが、同じ100レベルで物理職であり、大男である長可を退けるのは簡単ではないのかひたすらに可哀想であった。

 

「やかましい」

 

そう静かに言うとシャルティアとマーレがビクつき長可から離れたところで跪く

 

長可はその声を聞いても怯える事なく笑っている。

 

「たくっ、人様が落ち込んどるというのに、お前は空気を読むということはせんのか?」

 

そう言って長可のそばに歩いていく

 

「俺をこういう風に創ったのは大殿だぜ?どこまでも戦闘狂に!敵を縦横無尽に殺し尽くす!つうか!怨霊って種族は全てを呪うもんだろうが!しおらしく我慢して何になるよ!?」

 

長可がタメ口を聞けば聞くほどシャルティア達の顔は真っ青になり、震えている。

 

メイドに至っては恐怖でペタンと地面に座り込んでいる。

 

長可が上から信長を見下ろす

 

「勝蔵、良いじゃろう。ならばワシに付き合え」

 

「おう!」

 

信長はヴィクティムを見ると

 

「第八階層に行く、このバカを黙らさせてくる」

 

ヴィクティムは「は、はい」と言って《転移門》を作る

 

「シャルティア」

 

「は、はい!」

 

すっかり真っ青なシャルティアに

 

「モモンガさんかデミウルゴスが来たら運動してくると伝えてくれぬか、食事は後に回す」

 

「は、はい…信長様」

 

【転移門】を潜り第八階層に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

ーモモンガー

 

第八階層にいる信長さんのNPCである森長可が勝手に抜け出し、信長さんの部屋を強襲をかけるような形で入り、信長と共に第八階層に向かってしまったらしい。

 

シャルティアとマーレは震えながらモモンガの元に来て報告、メイドは未だに震えながら座り込んでいた。

 

第八階層に転移してくると、そこには巨大なクレーターが複数出来ており、ヴィクティムが修理に取り掛かっていた。

 

「信長さん!」

 

モモンガは二人の気配がする方向に向かう。

 

森長可と違い、信長は弱体化している。

 

正面から戦って負ける可能性が高い。

 

向かうとそこにいたのは『降参だ!』と笑いながら信長の下敷きになる長可がいた。

 

信長は長可程ではないが少しボロボロでため息をついていた。

 

「信長さん…!大丈夫ですか?」

 

「ん?モモンガさんか、大丈夫じゃ、ちょっと犬と戯れておっただけじゃ」

 

「ひでぇ!大殿」

 

長可はひたすらに笑うが、アルベドから『至高の御方になんて口を!自分が何をしたか分かっているの!?』と怒っていたが

 

「アルベド、怒っても無駄じゃ、このバカはそれくらいで止まるような奴じゃないし、こういう性格に創ったのはワシじゃからな」

 

「しかし…!」

 

信長は立ち上がると服を叩き

 

「スッキリしたから帰るか、すまんの騒がして」

 

そう言ってモモンガを見て笑う

 

「ヴィクティムも迷惑をかけたのぅ」

 

「だ、大丈夫です!」

 

可愛らしくジタバタ手足を動かして言ってくる。

 

「そうか」

 

「信長さん、体に問題とかないですか?」

 

「ないぞ、むしろさっきよりスッキリしたわい」

 

「…それなら良いですけど」

 

そう言って、再び転移門を潜り、玉座の間に戻ると

 

「モモンガさん」

 

「はい」

 

「ワシ、もう我慢するのは辞めたから自由に動くぞ」

 

「へ?自由に動くって…」

 

「無論、断りを入れるしナザリックの不利益になりそうな事はせんから安心するんじゃ」

 

「……まぁ、我慢しすぎるのも良くないですからね」

 

「さぁて!デミウルゴスといろいろ話しに行くかのぅ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ー王国の酒場にてー

 

クライムはガガーランとイビルアイの元に来てラキュースから言われた事を伝える。

 

「そういやぁ、つい最近新しいアダマンタイトチームが出来たって話じゃねぇか」

 

ガガーランの言葉にイビルアイは「あぁ、そうだな」と言う

 

「新しいアダマンタイトチームですか?」

 

「あぁ、漆黒と呼ばれるチームとのことだ。リーダーはフルプレートのモモン、副リーダーはノッブと呼ばれる騎士。魔力系魔法詠唱者であり美姫と呼ばれるナーベ、信仰系魔法詠唱者のメディア、剣士のオキタソウジがいるとのことだ」

 

イビルアイの言葉に『なんか全体的に騎士、剣士が多いですね』とクライムが言う。

 

「ギガント・バジリスクの討伐やアンデット数千の討伐などいろいろな偉業を成し遂げたらしい」

 

「そいつぁスゲェな…」

 

並大抵の力で挑んでも勝てっこない存在を討伐した事にクライムは息を呑む

 

「んじゃ、俺たちは任務に行くからよ」

 

そう言ってガガーランとイビルアイが立ち上がったのを見てクライムが立ち上がる

 

 

 

 

 

 

 

ーナザリック地下大墳墓・第九階層のとある部屋にてー

 

アルベドは森長可の愚かな行為の後、彼は第八階層から許可なく出ないように命じ、ヴィクティムに監視を頼んだ。

 

「デミウルゴス、今回のセバスの裏切りについてだけれど、モモンガ様達は自分達で見て確かめると仰っているけれど、万が一のことを考えて信長様だけはナザリックにおられることを言うつもりだけど、問題はあるかしら?」

 

「いえ、ありません。今後の作戦のために信長様には出来る限り危険要素を無くさなければなりません」

 

「そう、それじゃあ、アインズ様と信長様にはそのように伝えておくわ」

 

「お願いします」

 

アルベドは部屋から出て廊下を歩きながら

 

(早く貴女様を復活させたいというのに…セバス、至高の御方々の邪魔をして…本当に裏切っているのならば…この手で…!)

 

 




森長可
【レベル】100
【あだ名】勝蔵
【種族】怨霊
【住居】第八階層

【詳細】
種族は怨霊であり、レベルは100
狂人的な思考をしており、戦闘したくて仕方ない



次回、やっと悪魔騒動編です。


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魔王信長復活祭!

王国悪魔騒動編です。

セバス裏切りの報を受けた信長はセバスの元に行こうとしたけど、アルベドとデミウルゴスに止められて行けず、冒険者としての仕事をすることになってるので、セバス叛逆のシーンは出てきません。ごめんなさい。




ー王国王都にてー

 

セバスの叛逆の知らせが来たのだが、デミウルゴスとアルベドに『万が一のことがあれば危険なので代わりにパンドラズアクターを送った方が良いでしょう』と進言され、他の考えも思い浮かばなかったので任せることにした。

 

「のぅ、沖田〜美味いぞこれ」

 

「…貴女、また食べてるんですか?」

 

そう言いながら王都を歩きながら食べ歩きをしていた。

 

モモンことアインズがセバスの件で動いている以上、こちらは冒険者として仕事をする必要があった。

 

現在、ナーベことナーベラルは別の仕事にあたっているためこの場にはいなかった。

 

ひたすらにモグモグ食べていると…

 

「ん?シャドウデーモンどうしたんじゃ?」

 

小声でシャドウデーモンに問いかけるとセバスの裏切り件は許されたらしく、セバスが拾ったツアレという少女はナザリックで預かることになった。

 

「なんというか、こんなところまでたっちに似てあるとはのぅ」

 

そう言うと沖田は『子は親を映す鏡とか言いますからね、セバス様は羨ましいなぁ〜私はノッブに似るのかぁ〜』とため息混じりに言われる

 

「なんじゃその親に似たくないなぁ〜みたいな答え方は」

 

「いや、だって長可だって貴女に似たわけですし、なんか怖いですね」

 

「辛辣!」

 

「それよりも、貴女、今回は主役なんでしょう?そんな食べ歩きばっかりしてていいんですか?」

 

今回の《ゲヘナ》作戦ては、デミウルゴスが本格的に『信長様復活のための作戦』を設けてくれているのだ。

 

「お腹空いて堪らないんじゃ、ここら辺の美味いから良いじゃろ」

 

と食べながら言った瞬間、お腹が鳴り店員の女性が微笑ましそうに見てくる

 

「美味いのぅ、モチモチじゃ」

 

「…はぁ、こんなのが親ですよ」

 

向かい側に座っていた冒険者の男性が『良い親じゃねぇか!』と笑っていた。

 

「えー、そうですかー?」

 

食べ終わった後、二人は店から出て歩いていた。

 

「ノッブノッブ!」

 

沖田の肩にいるちびノブが信長に話しかけてくる

 

「そうか〜もう始まるのかのぅ、じゃあ、準備に入るとしようかの」

 

合流してきたナーベとメディアに『モモンと合流じゃ』と命じ、沖田には『じゃあ、後で頼むぞ』と言って別れて拠点の地下に行くと

 

「信長様、お待ちしておりました」

 

そう言ってそこにいたのはメイド達プレアデスとシャルティアがいた。

 

「うん、ご苦労じゃな」

 

そう言って用意されている椅子に座ると

 

「信長様、意見を言ってもよろしいでしょうか?」

 

「ん?なんじゃ、シャルティア」

 

「本当に長可を出すのですか?見境なく暴れる可能性が高いのでは…?」

 

今回の作戦で森長可を出すことになり、守護者達からは『信長様の被造物といえど、あの不敬を働いた者を出しては…』と躊躇っていたのだが、デミウルゴスといろいろ調整し、大丈夫となった。

 

「それが良いのじゃが、まぁ、ワシがちゃんと手綱握るから安心してくれんかの?それに、アイツが今回抜擢なんじゃ」

 

デミウルゴスが演じるヤルダバオトと英雄モモン達が仲間である可能性を微塵も感じさせないために森長可は適任なのだ。

 

狂戦士のスキルを持っている森長可は見境なく襲う可能性だってある。命令は基本的に信長の命令しか聞かない故に制御はこちらがしなければならない。

 

「信長様がそう仰るのならば…」

 

シャルティアは深々と頭を下げる

 

 

 

 

 

 

ーイビルアイー

 

メイド服を着た蟲の化け物を追い詰めたエントマは留めを刺そうとしたのだが、目の前に突如として現れた仮面の悪魔に息を呑む

 

「それぐらいにして頂けますか」

 

静かな声で言うあの悪魔は、明らかに強者だった。

 

「おい、イビルアイの親戚か?」

 

ガガーランの言葉に『何を言っているんだ』という簡単な事すら返せず、恐怖に震えていた。

 

「大丈夫ですか?ここは私に任せて、貴女は帰って休んでいてください」

 

蟲のメイドを気遣うあの男

 

「逃げろ。アレは化け物の中の化け物だ」

 

ガガーランとティアでは圧倒的に差がある。それは自分でも同じだが、三人まとめて死ぬ事は避けなければならない。

 

「お前はどうするんだよ」

 

ガガーランの気遣うような声に『心配するな、お前達が逃げ切れるだけの時間を稼いだら即座に転移の魔法で逃げる』と言うが、本音からしてみれば逃げれる可能性なんて100%無いに近しかった。

 

「お待たせしました。早速始めましょう」

 

「早く逃げろ!!」

 

二人が走って逃げたのを見た悪魔は「出会って早々別れるのもつらいですし、転移は阻止させて頂きます。次元封鎖(ディメンジョナル・ロック)

 

転移魔法を阻害する魔法をかけられ思わず舌打ちする。

 

攻撃魔法で悪魔に攻撃を仕掛けるが、悪魔は無効化能力を発動して攻撃が届かない。

 

「ヘルファイヤーウォール」

 

悪魔の手から炎が出てイビルアイに当たらずガガーランとティアに当たり一撃で二人が即死する。

 

「この程度の魔法で死ぬとはお悔やみ申し上げます。貴女を基準に死なない程度に手加減したのですが、どうして実力差があるのにチームを組んでいるのですか?」

 

「お前がっ!!!言うなぁぁああ!!」

 

イビルアイは頭に血を登らせ攻撃を無効化されないために近接戦を挑もうと拳を構えて行くが…

 

「悪魔の諸相・豪魔の巨腕」

 

悪魔の攻撃がイビルアイに激突する

 

イビルアイは二人の死体を見て彼女達から離れるために追撃を開始しようとすると…

 

イビルアイと悪魔の間にドンッ!!と誰かが降りてくる

 

「それで?私の相手はどちらだ」

 

漆黒の鎧を着た英雄がそこに降り立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

ーモモンverー

 

信長から渡された原稿を見てモモンガは『本気でやるの?これ』と本人に確認すると『勿論じゃ!もうデミウルゴス動いてるし?』と言われ、ため息をついて黙って覚える事にした。

 

(確かに今回の作戦は信長さんの復活には最適だと思うけど…なんか、こう…演劇みたいにセリフまでご丁寧に用意するなんて…信長さんやる気凄いなぁ…)

 

今回の作戦で信長とノッブが同一人物だと疑われないようにパンドラズアクターも出張しており、ノッブとして参加している。

 

「それで?私の相手はどちらだ?」

 

デミウルゴスと青の薔薇のメンバーの一人であるイビルアイの前に降り立ち、英雄のように振る舞う

 

今回の作戦の一環として英雄モモンの凄さを知らしめるための証人としてイビルアイと行動をするようにと言われていたが…

 

(…なんかきついなぁ…)

 

助けられた所為なのかイビルアイの距離感がぐっと縮まっている気がしていた。

 

「モモン様、あのヤルダバオトの王というのは…一体…」

 

「(…そんな事言われてもなぁ…)恐らく、ヤルダバオトより強いのは確定でしょう。話を察するに力を失っているか、あるいは封印されているのどちらかでしょう」

 

「…そんな!なんとしても阻まなければ…!」

 

イビルアイの言葉にナーベが睨むような視線を向けるが、それに咳払いして注意を逸らす。

 

「しかし、不確かな状況では阻止することも出来ないでしょう。我々に出来る事はとりあえず王都に戻る事です」

 

そう言って王都の方を見るとそこには《ゲヘナ》で作られた壁が出来ており、その炎の壁に向かって無数の魂が飛んで行っていた。

 

(…始まったか…)

 

 

 

 

 

 

ー王都にてー

 

無数の魂がとある場所に向かって動いていた。

 

王都に響き渡る悲鳴

 

イビルアイは合流して来たモモンの仲間と共に広間に向かう。

 

「ア…モモン様!こっちです!」

 

「そうか」

 

モモンはオキタの言葉に頷きそちらに走って行く

 

広間に着くとそこにいたのは、ヤルダバオトとメイド達がいた。

 

その後ろには…

 

「…なんだ、その禍々しいものは…!」

 

後ろにあったのは瘴気を放つ大きな手のようなもの

 

「お待ちしておりました。モモン様」

 

ヤルダバオトは余裕そうに嬉しそうな声を出している。

 

「ここを通りたくば私を倒してから行かれてください」

 

「そうしよう」

 

メイドと戦う事になったイビルアイは戦いながらその禍々しいものを見る

 

(人間の魂を食料にしているのか!)

 

死んだ人々の魂が苦悶の声を上げながらその黒い魔の手に向かって入って行く。

 

それを止める方法は分からない

 

でも止めなければ被害者はバカにならない。

 

イビルアイが攻撃をしようとすると…

 

ドクッとそれが動き出す

 

「なっ…!」

 

周囲に邪気が放出され、木々が枯れていく

 

「っ…!(苦しい…!息がっ…詰まる)」

 

魔の手が花のように開き、そこから現れたのは…

 

「我目覚め戻れぃ!」

 

全身真っ赤に足元から炎を巻き上げるように出現した魔王の風格を持つ女の背後には後光輪を背負った六本腕の骸骨が顕現している。

 

ヤルダバオトは「おぉ…!我らが王!」と歓喜に震えるような声で跪く、それに続いてメイド達も深々と臣下の礼を取る。

 

「久しいの、ヤルダバオト」

 

「はい、御身の復活をどれほど待ち望んでいたか!」

 

「そうかそうか、可愛い奴よのぅ」

 

ヤルダバオトでさえ化け物中の化け物だというのに、その王ともなれば神にも等しい存在であろう。

 

「人間どもが有象無象におるのぅ、少し整理するかの」

 

そう言って魔王が召喚したのは赤い髪の大男で凶暴そうな男だった。

 

「勝蔵、やってこい」

 

「あいよ!!!オウサマ!!」

 

そう言って市民達を蹂躙していく

 

やめろ、と叫びたかった。しかし、その時に初めて自分の状況を理解する。

 

イビルアイは全身の力が抜け恐怖に打ち震える。もう勝てっこない、怖い、と地面に座り込みそうになると目の前にモモンが立っていた。

 

(モモン様は怖くないのか…?あの、魔王とも呼べる存在が…)

 

モモンは魔王を見ると

 

「お前がヤルダバオトの王か?」

 

「そうじゃ、というかお主生きておったんじゃなぁ」

 

「そうだな、わがかぞくの敵うたせてもらうぞ!」

 

「ふははは!!来い!モモン!!」

 

二人の間で激しい戦闘が行われる

 

モモンの大剣が振るわれ、それを避けた魔王が背後にある六腕の骸骨が炎の剣を振るう

 

凍牙の苦痛(フロスト・ペイン)改!」

 

突如として現れた氷の剣を魔王に向ける

 

氷結爆散(アイシー・バースト)!!」

 

氷の攻撃が魔王にぶつかる

 

「ふははは!!軟弱ッ!!!」

 

炎が爆発して氷が吹き飛ぶ

 

そして、離れたところで勝蔵と呼ばれた男と漆黒のチームの一人であるオキタが戦っていた。

 

「一歩音越え…二歩無間…三歩絶刀!!無明三段突き!!!」

 

「うぉ!?」

 

大男が吹き飛び魔王の斜め後ろに激突する。

 

「…何という戦いだ…」

 

魔王はモモンから離れたところに降り立つと肩をバキボキ鳴らし

 

「ふぅ、ワシも復活したばかりじゃ、準備運動もしたしのぅ」

 

「逃げrるのか?」

 

「勘違いしないでほしいが、追ってくるのならば構わんぞ?その場合は王国が火の海になると思うが、それで良いのならば来れば良い」

 

「………」

 

魔王は勝蔵と呼ばれた狂戦士を呼び寄せ、ヤルダバオト達と共にその場から転移して消える

 

「……行ったな」

 

モモンは晴れた空を見上げて言う

 

その背中は歴戦の戦士のようにカッコ良かった




後半のモモン様は少し恥ずかしくなって噛みまくってますが、イビルアイは恐怖でそこには気づいてませんでした。良かったねモモン様

戦闘シーンのイメージは戦国BASARAの劇場版、魔王信長みたいになっております。

今回は少し長めでしたが、次はお風呂回になります。


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ナザリックの日常

誤字報告ありがとうございます。

今回はナザリックの日常パートになります。メイド達が出てきたりといろいろします。


王国悪魔騒動から数週間後…

 

ナザリック地下大墳墓では再び穏やかな日々が始まっていた。

 

「あ、シクスス、リュミエール!張り切ってるね今日は!!」

 

フォアイルは張り切っている二人に笑顔で話し掛ける。

 

「今日はアインズ様当番だもの!リュミエールは信長様当番だったわよね?」

 

「えぇ!信長様の御容体が元に戻られてからの当番は久しぶりよ、また信長様のあの快活な御姿でお会い出来るのが嬉しいわ」

 

信長は太陽のように明るく、どんな者にも分け隔てなく接する御方でメイド達はとても尊敬していた。

 

それが一時期は弱体化に伴い、暗くなることがよくあった。

 

気を遣われることが多く、ベットに横になることが多かった。

 

「そういえば長可様事件の時のメイドだったインクリメントが信長様とご一緒に食事されたらしいわ」

 

「えー!それ羨ましいー!」

 

長可の圧と信長の八つ当たりにインクリメントは恐怖で震えていたのを信長は申し訳なく思ったらしく、先日、インクリメントを誘って一緒に食事をしたらしい。

 

インクリメントは『至高の御方と同じ席に座るなど不敬です』と言ったらしいが、信長は「いや、悪いことをしたからのぅ、お茶会でもして楽しみたいんじゃ」と言って一緒に食事をしたらしい。

 

ど緊張していたインクリメントだったが、信長の笑顔や慈愛の表情に癒され、とても楽しい食事会だったと言っていた。

 

「あの時のインクリメント『今死んでも後悔ない』って言ってたわね」

 

「そうっすよ〜!信長様はお優しい方っす!!」

 

「ル、ルプスレギナさん!?」

 

シクススの隣に突然現れたルプスレギナに驚くメイド達

 

メイド達にとって戦闘メイド・プレアデスは至高の御方々の為に戦えるメイド達なので、憧れ的存在だった。

 

「いきなり現れないでくださいよー!」

 

「心臓がまろび出ると思いました」

 

「良い反応すっねー!今度村でやってみるっす!」

 

「村?」

 

「人間の村で仕事してるっす!」

 

「人間の…大変なのですね」

 

メイド達は人間を下に見ているのと同時にナザリックに所属できなかった可哀想な人々というイメージがある。

 

「大変じゃないけど、なんか暇っすね」

 

ルプスレギナと話しているとシズがやって来てルプスレギナと騒がしくなり始める。

 

「あ、時間までもう少しなので失礼します」

 

シクスス達はルプスレギナ達と別れた後、当番の為に向かう

 

 

 

 

 

 

 

 

信長は朝起きて服に着替えて執務室に向かうとそこにいたのは本日の当番のメイドとエイトエッジアサシンがいた。

 

「今日も早いのぅ、休息はちゃんと取れたか?」

 

そう確認するとリュミエールは「はい!休息を取らせて頂きました」と強く頷く

 

(…なんというか、ブラック企業じゃなぁ…休めって言わないと休まないのものぅ…)

 

モモンガと二人で話し合ってメイド達に休ませる為の計画もある

 

ペラペラ紙をめくっていると…

 

「信長様、デミウルゴス様とコキュートス様が面会を求めておられます」

 

「うむ分かった」

 

デミウルゴスは悪魔騒動以降聖王国で起こす騒動のためにいろいろ連携を取っている。

 

コキュートスはリザードマンの村の統治のための相談をよく受ける

 

以前までモモンガに相談に行っていたのだが、モモンガさんが『う、うむ、統治のことは信長さんが詳しいだろう』と放り投げて以降は外部の話はこっちに来るようになった。

 

(モモンガさんは現地に飛び込みで営業するとか言ってたけど…骸骨姿じゃ驚かれるよなぁ…)

 

「失礼致します。信長様」

 

そう言って入ってきたデミウルゴスから今後の事を聞かされる。

 

以前に玉座の間で『ナザリック地下大墳墓という国を作る事が良策かと』という発言をし、モモンガはいろいろ考えていたようだが、話し合いの末にモモンガが王で信長が宰相という位置付けになった。

 

「二王体制は外部との政治のことを考えればやめた方が良い話じゃろうしな」

 

「信長様が宰相位というのに問題はありませんが、一つ問題が…」

 

「ん?あぁ、形態についてじゃろう?第一形態は冒険者としての役があるし、第二形態は第一形態に似過ぎて他の役は無理じゃろうな、最終形態は魔王としての役に使うしな」

 

「はい、ですので、宰相として帝国の者共に触れる場合はどうされるのかと…」

 

「うん、問題はいらん。ワシのスキルの一つに《第六天魔王》ってスキルがある。それを使えば…ほれこの通り!」

 

「おぉ」

 

見た目は完全に男性で黒髪に長身で衣装は、黒や紫を基調とした西洋の鎧を着ている装いになっていた。

 

声も低音になっており、魔王信長の面影が無くなっていた。

 

信長はスキルを停止して戻すと微笑む

 

「コキュートスの方はどうしたんじゃ?何か問題でもあったのか?」

 

「ハイ、リザードマンノ村デ食糧ガ不足シテイルトイウ報告ガアリ…」

 

それから二人の相談に交互に乗った後、デミウルゴスがふと口を開く

 

「信長様、アインズ様の回覧版がございます」

 

そう言ってデミウルゴスから受け取ると、そこには男性守護者達で予定の開いている日にお風呂に入らないかという話だった。

 

(…これは、私向けでない気がするが…いや、男性形態として入れば…)

 

デミウルゴスがこれを渡して来たのはおそらく信長が両性体であるが故もあるのだろうが…

 

(…なぜワクワクしているんだ、この二人は…)

 

デミウルゴスは尻尾がかなりの勢いで揺れているし、コキュートスは静かにしているが、なんか怖い

 

「そうじゃのう、モモンガさんがそこに入るんじゃ、ワシは素直に女性風呂に入るとしようかのぅ」

 

「そうでございますか」

 

残念そうに言うデミウルゴス

 

 

 

 

 

 

 

信長は女子風呂に入ったのを後悔しながら、アルベドに背中を洗われながら賢者モードに入っていた。

 

「信長様ぁ♡気持ち良いですか?」

 

アルベドは下心隠さない口調に『気持ち良いぞ』と言う。

 

「アルベドー?信長様を困らせて楽しいの?」

 

「そうでありんす!」

 

「あら?嫉妬かしら?」

 

信長は苦笑いしつつ立ち上がる

 

「シャルティア、アルベド、アウラ、温泉でも入りながら話をしようでないか」

 

「「「はい!!!」」」

 

「…(元気いっぱいじゃなぁ…)」

 

温泉に入りながらアルベドたちが好みの男性の話になる。

 

アルベド達はやっぱりモモンガの美貌の話をしつつ信長の男性形態の男らしさを褒めちぎっていた。

 

「信長様は男性守護者の中でどなたがお好きなのですか?それとモモンガ様がお好きなのですか?」

 

アルベドの言葉にキッパリ『モモンガはない。あの骨』と言うとモモンガさんが伝言で《聞こえてますけど》と言ってくる。

 

「んー、そうじゃなぁ〜皆好きじゃぞ」

 

「伴侶にするなら誰ですか?」

 

アウラのグイグイくる質問に信長は少し考える

 

「そうじゃなぁ、一番とか別に無いんじゃが、カッコよさと言ったらデミウルゴスじゃな」

 

そう言うと男性風呂の方からモモンガが大声で『デミウルゴスー!!!?』と叫ぶ

 

(…なんかドボンって音したな…)

 

「しっかし、コキュートスも武人としてカッコ良いのもあるかのぅ、あの背中は見ていて(転移前の自分だったら)惚れているな」

 

「寒っ!!」

 

モモンガが悲鳴混じりの声で叫ぶ

 

(なんか機関車みたいな音した…)

 

「マーレはどうですか?」

 

アウラの言葉に信長は『それは、ぶくぶく茶釜に殺されそうじゃ』と言う。

 

「まぁ、セバスも(キャラ的に)愛しておったが、ツアレがおるしお似合いじゃし、一番好きなのは(自分が作ったから)沖田と長可じゃな」

 

盛大な爆弾を落として信長は『さぁて上がるかのぅ』と言って上がる。

 

アルベドは『あの小娘と狂犬が最大のライバルか…!』と呟き

 

シャルティアが『セバス!至高の御方に愛されていたというのに人間を取るなんて…!』と呟く

 

アウラは『一番脈ありそうなの沖田と長可かぁ…』と少し落ち込んでいた。

 




《第六天魔王》
ノッブのスキルの一つ。変化魔法で能力はそのままで見た目のみ変化させる。
防御力は低下するが攻撃力が上昇する。
容姿が完全に男であり、イメージは戦国無双の織田信長

…なんか、ペースがだいぶ落ちて来た…


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過去のこと

なんか、私の書く話って他の方と違って内容が浅い気がする…

かといって深く書こうとすると瞑想するからなぁ…皆さまの小説読みながら『ここにも神がおる…』と常々感じております。

今回はワーカー編前、カルネ村襲撃事件あたりのノッブの話です。

対して進んでいないのと少しオリジナル展開と捏造が今後少し入るかもです。その場合、タグ編集した方が良いのだろうか…?

部屋を整理していた沖田が部屋で見つけたとあるノートで信長の雰囲気が変わり…?


ー沖田の自室にてー

 

アルベド達守護者達がノッブ(信長)と入浴しているため、自室でのんびりとくつろいでいた。

 

自室の棚にある信長からの贈り物である刀や羽織などの整理をしたりしていた。

 

「うーん、この羽織カッコいいんですけど、背中の『誠』っていうのがこの世界に似合わないんですよねぇ…」

 

まだ動けなかった時代、ノッブが部屋に篭りいろんなモノを作っては沖田の部屋に保管したり、至高の四十一人に見せびらかしたりなどいろいろした思い出が沸き起こる。

 

ノッブと特に仲良かったのはタブラ様とペロロンチーノ様であった。

 

『いやぁ〜信長さんが歴史オタクって言うからガチの偉人作るのかと思ったけど、森長可をガチで作った以外は可愛く仕上げてて驚きましたよ〜』

 

『なんちゅうか、長可だけはどう考えても可愛くは仕上がらせられんかった』

 

そう言ってノッブがペロロンチーノ様と楽しく話していて見ているこちらも楽しかった。

 

『まぁ!シャルティアの方が可愛いけどね!!』

 

声高々に言うペロロンチーノにノッブが沖田を撫でくり回しながら

 

『うんまぁ、可愛いけど、ワシの沖田は女剣士として動きづらい和服を着つつも一撃必殺で敵を葬る技術の高さは負けておらんじゃろう』

 

とドヤ顔で言う

 

『やべ、信長さんの歴史雑談始まる!!みんな逃げてぇー!』

 

『なんでじゃ!!』

 

『おや?では、クトゥルフ神話の話も聞いてくださいよ、ペロロンチーノさん』

 

横からヌッと出てくるタブラ様にペロロンチーノ様が『うわぁー!挟まれたぁー!!』と叫ぶのをシャルティア様と一緒に見つめていたのを思い出す。

 

(…あの頃はいろいろ楽しかったですねぇ)

 

沖田は衣服を片付け立ち上がると棚にぶつかり、そこから物が落ちてくる

 

「また…ノッブは何でもかんでもここに突っ込むなんて」

 

守護者達やメイド達などナザリックの至高の四十一人に生み出された存在からしてみれば、自らの創造主から貰った物は何よりの大切なものであり、それらが失われる悲しみは想像を絶する程の事だろう。

 

沖田にしてもそれは変わりないのだが、この世界に転移して来ていつも一緒にいる手前、あまり贈り物は重要視していなかった。

 

すると…

 

トントンとノックされる

 

(あ、この気配は…)

 

物理職でありなおかつ《心眼》というスキルを持っており、そのスキルは直感・第六感による危険回避、危険予知が出来るスキルだ。

 

「はい、なんでしょうか、アルベド様、シャルティア様」

 

扉を開けた先にいたのはアルベドとシャルティアがいた。

 

「ちょっーとこっちに来てくれるかしら?沖田」

 

「悪いことはしないでありんす。少々信長様の好みを聞きたくて来たでありんす」

 

そう言われて肩をガシッと掴まれる

 

「えぇ…強制じゃないですか」

 

独り言のように言うとアルベドが「信長様がお創りになられた存在だから殺したり痛めつけたりなんてしないわ」とニコニコ笑顔で言ってくる。

 

(あー…絶対、ノッブ余計なこと言ったなぁ〜)

 

ズルズル引きずられながら連れて行かれる沖田。

 

それからノッブの好きなものやら気を引くコツやらいろいろ根掘り葉掘り聞かされ、解放された時は二人の圧にヘトヘトになっていた。

 

「うぅ…あのお二人の圧はすごい…」

 

レベル100の二人とレベルが90ちょっとしかない自分では出しているオーラも全然違うのだが…

 

「ん?これって…」

 

棚の下の隙間に隠すように置いてあったノートを取り出して見る。

 

「??誰のデータでしょう?これ……あ、ノッブに報告しに行かないと」

 

そう言って立ち上がりノートを持ったまま歩いていく

 

 

 

 

 

ー信長の執務室ー

 

信長は冒険者としての仕事や魔王との仕事に明け暮れるようになってから割と激務になってきていたので、自分がしたことに後悔を感じつつあった。

 

「…いやまぁ、ワシがそういう風にしたし?ワシがやりたいこと全部、デミウルゴスがやってくれてるし?どっちかというとデミウルゴスの方が大変じゃろうけど…なんか役作り過ぎたのぅ…」

 

唯一出番がないのは男性形態のみなのだが、あの状態は無性形態に似過ぎているのであまり使えないだろう。

 

スキル《第六天魔王》を使い、別人に変装したりとかいろいろしているが、役が多過ぎてその内忘れそうな気がしてならない。

 

頬杖をついて物思いに耽っていると…

 

「信長様、沖田総司様が面会を求めておられます」

 

メイドの言葉に「ん、あぁ」と軽く頷くと何故かふてくされてるようなそんな表情の沖田が入ってくる。

 

「何?キレてる?え?ワシ何かした?」

 

そう聞くと沖田が『…アルベド様とシャルティア様に絶対余計なこと言ったでしょう…』と何故かふてくされていた。

 

「余計なこと?……あ」

 

お風呂に守護者達と入った時のことを思い出す。

 

「…ほぉらぁ…貴女、至高の四十一人の一人だって自覚ないじゃないですか」

 

その言葉に信長は『いやだって、ワシ、子供のように好きじゃって言ったんじゃが…』と言うと

 

「絶対どこか端折りましたよね?私と貴女、恋愛関係だって思われてますよ」

 

プンプンと怒る沖田に笑っていると、沖田があることを思い出したのか咳払いし

 

「冒険者の方向ですけど、あれ以降、青の薔薇の方々は特に『漆黒』について疑っていたりとかはしませんでした」

 

メイドがいる手前、敬語で話す沖田の報告を聞き終えると…

 

「そういえば、棚の下からこんなのが出てきたんですけど、知ってます?これ」

 

そう言ってノートを見せてくる

 

そのノートをメイドから受け取った信長はノートをペラペラめくり、最後のページになると手が止まる。

 

「?」

 

雰囲気がガラリと変わり、物凄いオーラが溢れる。

 

火の粉が飛散するような状態に沖田は

 

「…のぅ沖田、これ、誰かに見せたか?」

 

「いえ別に見せてません」

 

「これはのぅ、ワシの弟のデータじゃ」

 

その言葉に沖田やメイドが驚く

 

ナザリック地下大墳墓の至高の四十一人の家族関係はナザリックの面々にしてみれば最重要な問題であり、把握しておくことは大切なことだ。

 

至高の四十一人の一人『やまいこ』の妹である『あけみ』はエルフでありながら別ギルドに所属していたことからナザリックには在籍していないが、把握しておくことは"その種族は保護すべき者たち"という扱いになるのだ。

 

「弟君の?」

 

沖田は創造主の顔を見て薄々『良い関係の兄弟じゃないのかな』と感じていた。

 

「そうじゃ、人間種オンリーのギルドにおってなおかつ、ナザリックに入る前のワシを何回も殺そうとして来た弟じゃ、リアルでも憎らしい存在であるが故に徹底的に調べておっただけじゃな」

 

(アイツがこの世界にいる可能性なんて限りなく低いが、残しておくに越したことはないな…)

 

そう言ってしまおうとすると…

 

「ノッブ、これをデミウルゴス様やアルベド様に見せて良いですか?」

 

「え?二人に?」

 

「はい、この世界にいる可能性が少なくても用心するに越したことはないでしょうし」

 

沖田の言葉に『うんまぁ、アルベドに渡してくれんか?デミウルゴスはたくさん仕事を頼んでしまったからのぅ』と言うと沖田が『はい』と頷く

 

 




ノッブの弟
人間種オンリーのギルドにおり、ナザリックに入る前のノッブを何回か殺そうとしていた。
リアルでの関係もかなり悪かったがノッブの弟は姉の事はそんなに嫌いではないらしいが、その『嫌いではない』というのがノッブにとっては気持ち悪かった。ノッブの会社を奪った憎き人物。
最終日に《ユグドラシル》にログインしていた。


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ワーカー達の侵入

ワーカー編序章に入ります。

ノッブがいることによりフォーサイトやその他面々の運命は変わるか…?

それと残酷な描写が含まれますのでご注意を

ノッブの弟出して良いですか?


ーエ・ランテル宿屋にてー

 

英雄・モモンとノッブ達は宿屋に入ると受付が用意した部屋に入ることになったのだが…

 

「…なんで信長さんも一緒なんだ」

 

そう呟くように言うと目の前に座っていたノッブが(ふざけながら)真剣な眼差しをし

 

「別に嫌いって訳じゃないんじゃが、ナザリックの女性達といるとろくな間に合わんから」

 

(…一体、守護者達との風呂で何があったんだ…)

 

モモンは兜を外さず頭を抑えてため息をつく

 

信長は両性体で男性風呂、女性風呂に入れるが、元が女性だという観点から女性風呂に入るように言っていた。

 

「それに、この格好なら良くない?」

 

そう言ってスキル《第六天魔王》を使って男に変化する。

 

「それ、今後使うんですから安易にここで使用しないでくださいよ…」

 

モモンの言葉に男顔で不貞腐れるノッブにため息をつく

 

「ところで信長さん、本当に問題ないんですか?」

 

「ん?まぁ問題ないじゃろ」

 

ノッブ達は今後の計画のために話し合う。

 

話し合った後、元の姿に戻りベットでゴロゴロしながら天井を見上げると

 

《失礼致します。織田信長様、アルベドです》

 

アルベドからの伝言に起き上がるとモモンがこっちを見て来る

 

「んー、どうしたー?アルベド?」

 

《ワーカー達の情報を集め終わりました。この場でご報告致しましょうか?》

 

「ん、帰ったら教えてくれんかのぅ」

 

《はい、かしこまりました》

 

そう言って伝言が切れる。

 

「アルベドからですか?」

 

「アルベドからじゃ、計画のためにいろいろ侵入者の情報を調べるように頼んでおいたんじゃ」

 

「侵入者の情報を?何の意味があるんですか?それ」

 

モモンが不機嫌な気配を出しているのが分かった信長はベットに座りなおすと

 

「内に入れるんじゃから情報は知っておくべきじゃろう?それに、そんな不機嫌にならんでも良いじゃろ、こっちが招き入れるんだから」

 

「…それはそうですけど」

 

「よっし!!モモン!!支度するぞ!!」

 

バシバシとモモンの腕を叩く

 

「分かりましたから!そんな勢いよく叩かないでください。物理職のパンチバカにならないくらいダメージ入るんですから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ー地下大墳墓近辺にてー

 

それからノッブ達は侵入者達が集うナザリック大墳墓の近くに来ると荷物をせっせと下ろしながらワーカー達が話しているのを遠目で見ながらアルベドからの報告を頭の中で思い出す。

 

(ヘビーマッシャー?とか竜狩りとかなんとかは別に興味無かったんじゃが、フォーサイトとかは興味がそそられるのぅ)

 

信長は何よりも偉人達の家族についても調べ尽くしている。

 

今回、信長が興味を持ったのはフォーサイトを渦巻く関係図に関してだ

 

(楽しみじゃなぁ、早く見たい)

 

【怨霊】であるが故に性格が少しずつ変わりつつある信長はその変化に順応していた。

 

せっせと運んでいると沖田がやって来て『モモンさんが集合って言ってますよ』と言われてそっちに行くとワーカー達が集まっているのを見て笑みが零れそうになる。

 

 

 

 

 

 

フォーサイトの面々は野営地を守るために貴族が雇ったアダマンタイト級冒険者チーム『漆黒』の面々を見て息を呑む

 

リーダーのモモンは全身フル装備でどんな容姿なのかは分からないが、少なくともその仲間達は美男美女であった。

 

「ヘッケラン、あの人は…」

 

「あぁ、ロバーテイク、俺も同じことを考えていた。あれが…漆黒のモモン。そして、そのモモンと同郷出身の女戦士・ノッブだろう」

 

彼ら漆黒の英雄は個人個人がアダマンタイト級の実力を持っているという噂だ。

 

「交流を深める前に、君たちに聞きたいことがある」

 

大声ではない。だが、太い声はその鎧の下の雄々しさを感じさせる。

 

「何故遺跡に向かう?しがらみのない君達が引き受けたのは何のためなんだ?何が君たちを駆り立てるんだ?」

 

ワーカー達はその言葉に目を見交わす。

 

誰が言うべきか迷い悩んでいた。

 

そんな時に口を開いたのはパルパトラのチームの一人だ。

 

「そりゃ金ですよ」

 

完璧な答えであり、それ以上ないと言う理由だった。

 

(…おかしなことを聞くな、この答えが来ると分かっていたんじゃないのか?なんで聞いたんだろうか?)

 

「そうか、君たちの命に釣り合うだけの金を提示されたということか?」

 

「そうだ。納得がいくだけの金額を提示してもらっている。更には遺跡で発見された物次第で追加の報酬すらも期待できるのだ」

 

グリンガムの言葉にその仲間達も深く頷く

 

「なるほど…そうか、それが決断か、よく分かった。()()()()()()()()()()を聞いた、許してほしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

それからノッブ達はテントに戻って来るとモモンが元の姿に戻り、ナーベラル達の方を見る

 

「我々はナザリックに帰還する。何かあればパンドラズアクターを送るが、何か問題があればそちらで対処しろ」

 

ノッブが帰還しても問題ないようにパンドラズアクターのように変身が得意なNPCを送ることにした。

 

二人はナザリックに帰還すると

 

「お帰りなさいませ、アインズ様、織田信長様」

 

「ただいまアルベド」「ただいま」

 

「計画の通り、これより侵入者が来るはずだ。歓迎の準備はどうなっている?」

 

「万全でございます。お客様方が楽しんでくださるのは確実かと」

 

「そうか…アルベド、お前なりのもてなしを楽しみにしているぞ」

 

「はい、お任せくださいませ」

 

モモンガと信長は玉座に座るとアルベドがお辞儀をし

 

「信長様、今回の実験、どの者達に致しますか?」

 

「そうじゃな、数が多い方が良いじゃろ、天武は除外じゃモモンガはどうする?」

 

「俺は別にどれでも良いですよ」

 

「それじゃあ、此奴らにするかの」

 

そう言って1組のチームを指名する

 

「かしこまりました」

 

モモンガはモニターに映るワーカー達を一度確認した後

 

「侵入者は脆弱だ。完全に確かめる事は当然できないだろう。だが、それでも今回の件から得られる物があることを祈っているぞ」

 

「至高の御方々のご期待に応えることをお約束します」

 

ノッブは玉座に座り、足を組みながら彼らワーカー達の末路を見届けようとしていた。




【冒険者・ノッブについて】
リーダー・モモンと同郷出身であり、仲間の一人である・オキタソウジは自分の娘。チームおける『戦士』であり、剣士としての才能も飛び道具を扱う才能に恵まれている。個人としての力量はモモンを上回るという。
モモンとノッブは故郷を魔皇・ヤルダバオトの王に滅ぼされた悲劇の英雄。

【アダマンタイト級冒険者・漆黒について】
信仰系魔法詠唱者であるメディア・リリィ以外は同郷出身であり、モモンとノッブは友人関係。
モモンは彼ら以外のメンバーを迎えるつもりはない。



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ワーカー達の侵入・闘技場

ワーカー編に突入致しましたが、ノッブがいることにより原作と少し違う展開に入るのでお許しください。

ワーカー編は私の好きなところでフォーサイト面々に救いが全くないのが見ていてすっごい大好きです。


ーナザリック地下大墳墓玉座の間にてー

 

信長は玉座に座りモニターからワーカー達の末路を見ていろいろ考えていた。

 

一番逢いたくないのは恐怖公の拷問だ。あれが一番つらい、あの拷問をされるくらいなら自滅した方が幸せだろう。

 

頬杖をついて見ていると…

 

「ん?ハムスケの方で何かあったようじゃぞ」

 

そう言うとアルベドが画面を変えてくれる。

 

「どうやら侵入者一名を仕留めたようですが、森妖精についてどうするか意見を聞きたいようです。どうされますか?」

 

モニターに映るのは、惨殺死体になった天武リーダーと放心状態のエルフ達3人がいた。

 

「というかこの3人は奴隷じゃろ?本人の意思で入って来た訳でもないし、ナザリックの財宝を盗もうとした訳でもないし、アウラとマーレに渡せば良いじゃろ」

 

その言葉にモモンガは『一人足りとも逃すなって命令をしたのだが?』と言ってくる

 

「逃すなって言っただけで管理下に置いちゃ悪いなんて言っておらんじゃろ?」

 

「…ああ言えばこういう状態じゃないですか」

 

その言葉に信長は笑うとため息をついたモモンガはアルベドに『あのエルフたち三人はアウラとマーレに渡すように』と伝える

 

「かしこまりました。そのように伝えておきます」

 

「ん、よし、そろそろじゃな」

 

そう言って信長が《第六天魔王》のスキルを行使して男に変化する。

 

「さてと、この身体でどの程度動けるかの実験だな」

 

モモンガは男であっても振る舞いがどことなく魔王・信長そのもので少し苦笑いする

 

「なんじゃ、モモンガ、何か変か?」

 

「変じゃないが、その容姿でいつも通りの口調だと本当に高齢に見えるぞ、少し口調を変えたらどうだ?」

 

年寄りみたいというと信長も少し考えたのか、咳払いし

 

「そうか、ならそうしようとするか」

 

モモンガは信長の適応力の高さに尊敬しつつも、玉座から立ち上がり友に続く

 

「今思ったのだが、この格好だとボケれんなぁ」

 

「ボケたら寒いですよ、あと、口調を安定させてくださいね」

 

「うむ、頑張るぞ」

 

 

 

 

 

 

 

ーフォーサイトー

 

謎の地下墳墓に侵入し、他のチームと別れて数分が経った時に見知らぬところに仲間達と共に転移させられる。

 

そこからは怒涛の攻撃を受けていた。

 

「魔力は温存しろよ!」

 

「分かっています!」

 

「十分理解している」

 

敵は低位のアンデットであり、フォーサイトの面々からしてみれば恐ろしい存在ではない。

 

しかしながら波状攻撃ともいえる襲撃に休みはない。故に身体中に汗をかいてしまう

 

ヘッケランは周囲を見渡すと仲間たちがいるのを確認し、汗を拭う

 

(…これから何が待ち受けてるんだ…)

 

グール達の攻撃が止んだのを見ると、フォーサイトの面々は一箇所に集まる。

 

「大丈夫かみんな」

 

「えぇ、なんとか」

 

「大丈夫とは言い切れないわね…」

 

疲れ切っている者もいるが、息を整え前を見ると、また景色が変わっていた。

 

「ここがどこだか分からないけど、今までとは雰囲気が違うわね」

 

前には巨大な格子戸があり、格子戸の空いた隙間からは、白色の魔法的な明かりが入り込んでいた。

 

「ここは…」

 

アルシェの態度にヘッケランはアルシェに尋ねる。

 

「知っているのか?」

 

「似た場所を知っている。帝国の闘技場」

 

「あぁ、言われてみればそうですね」

 

ロバーデイクが同意の声を上げる。

 

「なら奥はアリーナですね」

 

「だろうな…ここに転移したって事は…そういう事だろうな」

 

闘技場に出ろという意味だろう。

 

そこで待つのは何かまでは想像つかないが

 

「危険!長距離転移は第五位階魔法にあるとされている。そんな魔法で罠を作る事ができるなんて、物語くらいでしか聞いたことがない。相手の誘いに乗ったらまずい、逆の方向に進むことを提案する」

 

アルシェが後ろを見るが、イミーナは前を見て

 

「でもさぁ、相手が誘っているんだからそれに従わなかったら腹立って攻撃を仕掛けて来る可能性も高いんじゃないかしら?」

 

「どっちも危険だな、ロバーデイクはどう思う?」

 

「お二人の言う事はどちらも賛成できます。しかし、高位の魔法で出来ているのならば、私は闘技場に出ることを賛成します。そもそも、罠としてここに飛ばしたのであれば、逃してはくれないでしょうしね」

 

ロバーデイクの発言にヘッケラン達は覚悟を決めたと頷き歩き出す。

 

「外?」

 

イミーナの声に反応し、空を見上げてみるとそこに浮かんでいるのは夜空だった。

 

「外に転移したってことか?」

 

「なら飛行魔法で逃げれ…「とぁ!」」

 

アルシェの言葉を遮るように、掛け声と共に貴賓席があると思われるテラスから飛躍する影一つ現れる。

 

足を軽く曲げるだけで衝撃を完全に殺したその影は、自慢げな表情を見せた。

 

そこに降り立ったのはダークエルフの少年だ。

 

「挑戦者はナザリック地下大墳墓に侵入した命知らずの愚か者達四人!そして、それに対するはナザリック地下大墳墓の主!アインズ・ウール・ゴウン様!そして!アインズ・ウール・ゴウン様の右腕にして盟友!!第六天魔王!織田信長様!!」

 

ダークエルフの声で向かいの格子戸が持ち上がる。

 

その先、薄暗い通路から闘技場へと現れた骸骨、その少し後ろにいるのは人間に見える男が現れた。

 

黒髪長身で黒や紫を基調とした西洋の鎧を着ており、腰には大きな剣が下げられていた。

 

骸骨と男、その不釣り合いさに違和感を覚えたが、そんな違和感もすぐに払拭される。

 

「おおっと!セコンドには我らが守護者統括、アルベドがいるぞぉ!!

 

その後ろから付き従うように歩く女性を見た瞬間、フォーサイトは誰もが息を飲む。

 

《漆黒》のナーベに勝るほどの絶世の美女だった。

 

しかし、その女性は額の左右からは前に突き出る角、腰からは漆黒の翼が生えている。

 

そのあまりのリアルさは作り物では決してない。

 

「申し訳ない」とアルシェが呟く

 

「私の所為でこんなことになった」

 

これから行われる戦闘はおそらく、フォーサイト始まって以来の激戦だろう。もしかしたら死者が出るかもしれないほどの

 

そして、そんな状況に追い込まれたのも自分が原因だと思い込んでいるのだろう。

 

「いやいや、この娘っ子は何を言ってるんですかいなって」

 

ヘッケランはアルシェを安心させようと声を出す。

 

「ですね、皆で決めて選んだ仕事です。あなたの所為ではないですよ」

 

「そーいうことよ、気にする必要なんてないわ」

 

フォーサイト面々は笑いかけ、アルシェの頭を撫でる。

 

「さて、まずは無理だと思うが対話してみるか」

 

先頭に立つ骸骨、恐らくは位置的に主のアインズと言われた骸骨が手を振るう

 

ゴーレム達の動きが止まり静寂が戻ったのだ。

 

ゆっくりと向かって来るアインズと信長と言われた男に向き直るとヘッケランは真摯な態度で、礼儀正しく一礼した。

 

「まずは謝罪させて頂きたい。アインズ・ウール…殿」

 

「アインズ・ウール・ゴウンだ」

 

「失礼、アインズ・ウール・ゴウン殿」

 

アインズ達は立ち止まる。

 

「この墳墓に貴方がたに無断で入り込んだ事は謝罪いたします。許して頂けるのなら、それに相応しいだけの謝罪金として金銭をお支払いしたい」

 

暫しの沈黙が流れる。それから織田信長は嘲笑うように『ふっ…』と笑い、アインズはため息をついた。

 

「お前達はあれか?家にあったものに蛆が湧いた時、殺すのではなく、優しく外に解放するようなことをするのか?」

 

「人間は蛆ではございません!」

 

「同じだよ、私達にしてみればな。蛆は産みつけた親バエが悪いといえなくもないが、お前達は違う。金銭欲というくだらない欲望を満たすためにこの墳墓を襲撃し、財を奪った」

 

「いや、実はやむ得ない理由がありまして…」

 

そう言おうとした時、織田信長という男が口を開く

 

「何を言おうと何を考えようとここにいる以上、理由など情状酌量の余地もないぞ」

 

冷徹な声にフォーサイトの面々は息を飲む

 

織田信長から発しられる強烈な殺気と人間が放つはずがない邪気のオーラが襲いかかる

 

「一先ずはワシが相手しよう、ぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーノッブー

 

(…しかし、相手が弱すぎたか、大した運動にもならないな…)

 

「《双剣斬撃》!!!」

 

先程からフォーサイトの攻撃を受け流していたり、足蹴りを交えた攻撃をしているのだがまるで向こうの反撃が弱い。

 

「《魔法の矢》!!」

 

飛んできた矢もレベルが低い故に魔法無効化が発動する。

 

ヘッケランは汗をかきながら必死で攻撃しているが、信長は肩を回す

 

「やはり、決め手に欠けるな」

 

魔王剣を抜くのも視野に入れようと思ったのだが、それをすると彼らが原型を留めない状態になってしまう。

 

「友よ、私にも譲ってくれないか」

 

と声をかけて来る

 

「良いのか、このまま燃やしてしまおうと思ったのだが」

 

そう言ってモモンガと位置を変えるとモモンガも剣の稽古をしだすが、ある程度戦って飽きたのか

 

「さて、剣での遊びはこれくらいにしよう。これからはもっと別の遊びだ」

 

剣と盾を消したモモンガは両手を広げ

 

「遊んでやる!かかって来い!人間ども!」

 

「マジックキャスター!?」

 

「違う!断言できる!少なくとも魔力系魔法詠唱者じゃない!」

 

「ん?それはどういう意味だ?」

 

「貴方からは魔法の力を感じない!」

 

アルシェの言葉に信長は『ほぅ』と呟く

 

「探知系の魔法を使っているのか」

 

いろいろ情報収集をしていて得た情報の中に、この世界特有のタレントと呼ばれる異能持ちがいるという情報を聞いた。

 

おそらく、あのアルシェという少女はそれを持っているのだろう。

 

俄然興味が湧いてきた。

 

「そうなのか、それは失礼したな」

 

モモンガが指輪を取り、信長も指輪をとる。

 

「おげぇぇええ!!」

 

嘔吐するアルシェ、酸っぱい匂いが当たりに漂う

 

「何をしたの?!」

 

イミーナがアルシェに駆け寄り、モモンガ達を見つめる

 

「人の顔を見て吐くとは失礼にもほどがあるだろうが」

 

「汚い」

 

一言そう呟くとアルベドも『本当ですね』と返して来る

 

「みんな逃げて!!そいつらは化け物!勝てるはずがない!」

 

吐いては叫ぶ、それを繰り返すアルシェに信長はアルベドに目配せする

 

アルベドはそれに気づき《伝言》を入れて来る

 

《何かございましたか?信長様》

 

『大したことじゃないんじゃが、あの娘は生かして連れて来て欲しいんじゃ』

 

《かしこまりました。アインズ様には如何様にお伝え致しますか?》

 

『んー、適当に伝えとくからよろしく頼むぞ』

 

《はい》

 

伝言を切って再び彼らに向き直る。




が、頑張った4000字…!

でもまだ書きたい!!


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ワーカー達の侵入・終わり

最初はフォーサイト目線、後半は信長目線とかいろいろあります。

次回は皇帝がナザリックに訪れる話とツアー達の目線の話とか入れたい。ノッブの弟とかその内ぶち込むかも


ーフォーサイトー

 

アルシェが嘔吐し、震えながら叫ぶ姿にイミーナはアルシェを強く抱きしめる。

 

「落ち着いて!ロバーデイク!」

 

「《獅子のごとき心》」

 

魔法により恐怖状態から回復したアルシェが生まれたばかりの子鹿のようなよたよたとした足つきで杖を構える。

 

「あの二人は…アレは、人が勝てる存在じゃない!」

 

「よく分かりますよ。指輪を外した瞬間から鳥肌が止まりません」

 

「これは間違いなく逃げられないな…」

 

「来ないのか?」

 

やる気なさそうにコリコリと頭蓋骨を長い指で掻いてるアインズの挑発にヘッケランは乗らないようにする。

 

欠伸をする後ろの信長

 

「ではこちらから行くとしよう《不死者の接触》」

 

「!何の魔法だ?!アルシェ!」

 

「知らない!聞いたことがない!」

 

アインズがゆっくり歩き出す。

 

「近寄るな!」

 

イミーナの怒鳴り声が響き、連射された矢がアインズ目掛けて飛ぶ。

 

「邪魔だな」

 

冷ややかで小さな声が聞こえる。

 

ぞわっとしたものが背筋を走った瞬間、アインズの姿が搔き消える

 

信長の方を見るが、彼の視線は動いていない

 

視線をイミーナの方に向けると確かにそこにアインズがいた。

 

「どけぇ!!!」

 

イミーナに向けて突進する。

 

「きゃっ!」

 

「ん…?」

 

アインズが女か男、どっちから攻撃するか考えている様子を見てヘッケランは睨むようにアインズの方を見て

 

「俺だよ!!馬鹿野郎!」

 

怒鳴り、武技を切り替える。

 

《双剣斬撃》などといった攻撃はあの信長には通用しなかったが、この骸骨に対しては有効かもしれないと一縷の望みをかけていた。

 

「武技!《限界突破》!《痛覚鈍化》!《肉体向上》《双剣斬撃》」

 

武技を重ね合わせ攻撃をする。

 

(殺った!)

 

無防備な頭部を切り裂いたと思った瞬間、目の前のアインズは普通に立っていた。

 

「学んでいないのかね、信長さんに通用しないものがわたしには通用すると?」

 

慌てて下がろうとするとヘッケランの額に物凄い熱量の感覚が襲う。

 

それは離れた所で見ていたはずの信長の手だった。

 

「ヘッケラン!!」

 

「友よ、危ないぞ今の転移は」

 

軽い口調に信長は同じく軽い口調で

 

「すまんな、ちと飽きたんじゃ」

 

声色が変わっている

 

見えないが、手つきが完全に女のそれだった。

 

「イミーナ!斬撃に対する完全耐性だ!」

 

激痛を堪えながらヘッケランは得た情報を後ろの仲間達に伝える。

 

「違う。刺突も斬撃も殴打も、お前達程度の弱者の攻撃では私に擦り傷ほどのダメージを与えることは出来ないのだ」

 

「何よそれ!!どんなインチキ!?」

 

「騙されない!!」

 

「《麻痺》と」

 

「ぁぁぁああ!!」

 

身体中が凍りつく、いや、これは凍りついたのではなく麻痺だ

 

女の魔法でいとも容易く身体の自由を奪われる。

 

耳だけが音を無慈悲に音を拾ってしまう。

 

「うーん、麻痺だけで力尽きてしまったぞ?やはり弱すぎじゃな」

 

そう言う女のハイヒールが見える。

 

「このバカ!!常識で考えれば私は見捨てるべきでしょうが!この大アホ!」

 

 

 

 

 

 

イミーナは闘技場に転がったヘッケランを見つめる。

 

「仲間を庇いに来た男に対してその暴言は不快だぞ」

 

アインズの言葉に怒鳴るように

 

「そんなこと私が知っているわよ!勿体ないぐらい素晴らしいリーダーだってね!」

 

深呼吸をして辺りの様子を確認する。

 

「ヘッケランを返しなさい!私たちが規定時間内に帰らなければ、この世界で最も強い人物がこの遺跡に突入することになっているわ!」

 

「また嘘かね」

 

「嘘じゃない!」

 

アルシェの言葉にイミーナは強く頷く

 

「こっちにはアダマンタイト級冒険者《漆黒》がいるのよ!」

 

「あぁ、アレか、アレは交渉材料にならん諦めろ」

 

その言葉にイミーナは「貴方より強いわ!!」と怒鳴ると男から女に変化した信長が笑う

 

「それってコレのことじゃろう?」

 

そう言って信長が《ノッブ》に変化する。

 

「な、なんで…!」

 

「おー、どうやら騙せてたようじゃぞ」

 

笑いながらアインズに笑いかける。

 

イミーナは最早、彼らが敵であるという恐怖に逃げるのを諦めかけたが、一縷の望みをかけて空を見上げ、アルシェを見る

 

「アルシェ!逃げなさい!」

 

ロバーデイクが叫び、イミーナも同意する。

 

「そんな!」

 

「上を見なさい。ここはおそらく外です。飛んで逃げれば逃げられる可能性もあります!時間を1分…いや、10秒は稼いで見せますから」

 

「行くならどうぞ仲間を見捨てて行くがいい」

 

「アルシェ行きなさい!妹さんがいるんでしょ!なら私達を見捨てて行きなさい!それがあなたのすべきことよ!」

 

「そんな!私のせいで!」

 

「大丈夫ですよ、あのアインズという化け物を倒して貴女を追いかけますよ」

 

「その時はあなたの奢りで一杯ね」

 

「さぎにいってる…」

 

「なんか御涙頂戴じゃな〜」

 

場違いな声にイミーナはきっと睨む

 

「《飛行》」

 

アルシェが飛んで居なくなったのを見てイミーナ達は武器を構える。

 

アインズか信長、どちらでも良い

 

引きつけることが出来るのならば

 

「のう、モモンガ、ワシ思ったんじゃが、此奴らはどうでも良いんじゃが、あの子供はワシが捕まえて良いか?」

 

その言葉にアインズは『なんでだ?』と言ってくる

 

「アレは実験材料に使えそうだからのぅ」

 

「信長さんがやりたいなら良いですけど、漆黒の情報を知っている以上、ナザリックの外には出さないでくださいね」

 

「りょーかいじゃ!よし、シャルティア」

 

貴賓席から飛び降りてやってくる絶世の美女、銀色の髪に可憐な歩き方

 

「あの娘を捕まえて来てくれんか?命は奪ったらダメじゃぞ?」

 

「はい、かしこまりまりんした。信長様」

 

頭を下げて背を向けて歩いて行く

 

 

 

 

 

 

ーアルシェー

 

アルシェはひたすらに逃げる。

 

《飛行》魔法が切れそうになり、慌てて地面に降りる。

 

「イミーナ…ロバーデイク、嘘つき…」

 

分かってはいた。

 

アインズ・ウール・ゴウンとその友人でもあるあの化け物達に仲間達が勝てるはずないと薄々分かっていた。

 

それでも、一縷の望みをかけてしまう己は愚かなのか

 

アルシェは目を瞑り、声を聞いてくれない神に祈りを捧げる。

 

帰るべき家には妹達がいる。

 

目を開けると…

 

「!!」

 

「鬼ごっこは終わり?」

 

真上に垂直に立っている少女がいた。

 

(…追跡者…!)

 

アルシェはひたすらに逃げ、追跡者が離れようとする。

 

そしてどれだけ飛んだか分からないくらい飛んでいると、何か壁にぶち当たる。

 

壁だ。不可視の壁がそこにあったのだ。

 

世界はまだまだ続いているのに、アルシェの身体を遮る壁があったのだ。

 

「これは…」

 

絶望に満ちた声でアルシェは呟く

 

「壁でありんすよ」

 

「!」

 

答えがなかったはずの独り言に答えが返ってくる。

 

振り返るとそこにいたのは予想通りの人物だった。

 

「何か勘違いしているみたいだけど、ここはナザリック地下大墳墓第六階層、つまるところは地下よ」

 

「…これが?」

 

アルシェは世界を見渡す

 

天には星空、風は流れ、大地には森が広がっている。

 

(…ここが地下…なの…?)

 

そんな場所が地下であるはずがないという思いと、この者達ならそれぐらい可能だろうという思いがぶつかる。

 

「至高の四十一人。かつて、この地を支配され、私達をお創りになりんした方々。その方々が創り出した私達ですら理解不能なシステムよ」

 

「…!世界を、創った…?それは神様の…」

 

「そうよ、私達にとって神様の如き存在なんでありんす。アインズ様を筆頭に、かつていらっしゃった方々は」

 

アルシェは周囲を見渡す。

 

最早彼女は諦めていた。流石にこれだけのものを見せ付けられれば受け入れるしかない。

 

最早、自分は生きて帰る事は出来ないと

 

「さて、逃げないの?」

 

「逃げられるの?」

 

「無理よ、元々逃がすつもりなんて無いでありんすから」

 

「そう…」

 

アルシェは杖を両手で握り締め、少女に飛びかかる。

 

「はいはいご苦労様」

 

決死の突撃を行うアルシェに少女はつまらなさそうな言葉を投げかける。

少女は振り回された杖を容易く手で受け止め、自らの方に引っ張る。

 

「これであなたの逃走は終わりでありんすぇ、最後に泣き崩れなかったのが残念でありすね」

 

アルシェの身体を引き寄せ離れさせないようにする。

 

「安心しなんし、あなたは信長様に必要とされてるわ、至高の御方の為に尽くすのはこれ以上ないくらい幸福でありんすよ」

 

少女は笑みを浮かべる

 

「まず、信長様の前に行く前にこのナザリックでの相応しい在り方をみっちり教えてあげるでありんすぇ、殺すなという命令を受けてるだけで傷つけるなという命令は与えられてないでありんすからじっくり教えるでありんすよ」

 

ニンマリと少女は笑い、アルシェは絶望に心を軋ませた。

 

 

 

 

 

 

 

ー玉座の間にてー

 

「見事だ。侵入者をこの程度の支出で討ち取れたのだから、今後の防衛をアルベドに任せて何も問題はないな」

 

「ありがとうございます」

 

「失礼いたします」

 

「どうした?エントマ」

 

信長の言葉に「はっ」と答えながらそのままの姿勢で返答をする。

 

「アウラ様、マーレ様が出立するお時間になりましたのでご報告にまいりました」

 

「そうか、面を上げよ」

 

「時間はあるしの、見送りに行こうとしよう」

 

「かしこまりました」

 

信長は立ち上がるとアインズも立ち上がる

 

「エントマよ、アルシェという女以外のワーカー達はどうした?ちゃんと有効活用しているか?」

 

「はい、頭の部分はシルクハットの一体が、腕の部分はデッドマン・ストラグルが分け合って、皮膚はデミウルゴス様が持ち去りました。それで残った部分はグランドの子供達の餌となりましたので全て有効活用したと判断致しました」

 

「そうか、狩り取った者の責任として無駄にすることなく有効的に使わなくてはな、それが供養というものだ」

 

 



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皇帝陛下との会談

皇帝との会談回です。ここでも原作と違う流れになると思いますので悪しからず。

ジルクニフってすっごいギルガメッシュっぽくない?




ー信長の自室ー

 

ノッブは自室にてメイド達と共に衣装やら身振りやらいろいろ考えていた。

 

「ちとそれは派手じゃな。魔王の右腕っぽく、モモンガより目立たないような衣装で良いか?明るい系統は却下じゃ」

 

「はい、ではこちらでどうでございましょう?」

 

「んー、それは紫色が強すぎるのぅ黒っぽいのないのか?」

 

「かしこまりました」

 

悩むこと数十分、衣装を決め「よし」と言うと玉座の間に向かう

 

そこにいたのは何故か落ち込むモモンガがいた。

 

「どうした、元気がないな」

 

そう言ってモモンガの隣に座るとモモンガも続けて座ってくる。

 

「知恵比べは任せたぞ友よ」

 

「頑張るが、お前も大事だぞ?モモンガよ」

 

「…うぅ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーバハルス帝国・宮殿にてー

 

「ワーカー達の話はどうなった?」

 

バハルス帝国皇帝・ジルクニフは貴族達の報告を聞きながら話し合っていた。

 

「彼らを尾行させた諜報員の一人から来た《伝言》での第一報ですが、全滅だと思われるようです」

 

ジルクニフは話ではかなり優秀なワーカーチームが複数いると聞いていた。

 

それがたった1日、もしくは半日で壊滅したなどかなり驚きの事態だろう。

 

「そうか、アインズ・ウール・ゴウンの力は分かった。ワーカーチームを容易く全滅させるだけの力を持つと、それで?馬鹿貴族一人の首で全てが片付くように綺麗にしてあるな?」

 

「もちろんでございます。この場にいる者しか知りません」

 

「ならば良し、一応念のために…なんだ!?」

 

ジルクニフの言葉を遮ったのは、地響きのような振動だ、

 

「陛下!ドラゴンです!ドラゴンが中庭に降り立っています!!」

 

みな自分の目で確認しようと窓へと駆け寄る

 

「な、なんでドラゴンがいるんだ!」

 

「評議国とのドラゴンか?!」

 

誰もが騒ぎ立て混乱していた。

 

ジルクニフですら固唾を飲んで何が起こるのかと見守っていると、ドラゴンの背中から二つの小さな影が下りたのが見えた。

 

「アレはダークエルフですな」

 

フールーダが落ち着いた口調で二人の種族を呼ぶ

 

「パラダイン様!あのドラゴンは一体何者なのですか!あの二人は一体何者で…!?」

 

「さて、私も知らないドラゴンだが…」

 

「皇帝陛下!御避難を!」

 

「逃げて何処に行く。何処が安全だと言うのだ」

 

「しかし!」

 

「えっと皆さん!聞こえますか!あたしはアインズ・ウール・ゴウン様と至高の御方に仕える、アウラ・ベラ・フィオーラです!」

 

とてつもなく大きな声が響き渡った。

 

「この国の皇帝が、至高の御方々のお住まいであるナザリック地下大墳墓に失礼な奴らを送ってきました!アインズ様は不機嫌です。ですので、謝罪に来ないのであればこの国を滅ぼします!」

 

「なっ!?」

 

ジルクニフは顔を歪める。

 

「手始めにここにいる人間は皆殺しにします!マーレ」

 

「えぃ!」

 

隣に立っていたもう一人のダークエルフが手に持っていた杖を中庭に突き立てた。

 

その瞬間、中庭のみに局地的な大地震が起こったようだった。大地は悲鳴を上げて引き裂かれ、地割れがポッカリと口を開く

 

「へ、陛下」

 

ガクガクと震える臣下が真っ白な顔色で窺うように問いかけてくる。

 

「皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロードエル=ニクスである!話がしたい!」

 

そして一歩下がり、深呼吸をする。

 

「……侮っていた。あれが部下だとしたら…私の手には負えないということか…とはいえ、ここで引くことは出来ない。交渉が望みというのであれば、アインズ・ウール・ゴウン。お前の狙いを打ち砕いて見せるぞ」

 

 

 

 

 

ーナザリック地下大墳墓ー

 

ジルクニフ達はもてなしを受けた後、ナザリックに入る

 

ジルクニフは前のみを見つめて歩き続ける。

 

(…此方の勝利は、帝国が害されず、生きて帰るところだな)

 

「この奥が玉座の間でございます。アインズ様方はそちらでお待ちです」

 

ユリが頭を下げジルクニフ達一行から離れる。

 

その言葉を待っていたかのように、重厚な扉が開いていく

 

視界に飛び込んできたのは広く、天井の高い部屋だった。壁の基調は白、そこに金を基本とした細工が施されている。

 

そして、赤い絨毯の先にいる異形の面々。

 

階段上に目を動かせば、そこには羽を生やした美女があり、その奥には…

 

骸骨の頭部を晒した化け物。そして、30〜40代程の男性が頬杖をつき足を組んで傲慢極まりない姿勢でいたが、誰もそれについての不満を露わにすることはなかった。

 

「ふう」

 

ジルクニフは薄く息を吐き出す。

 

(…あれが、アインズ・ウール・ゴウン、そして、その右腕…)

 

主君は一人ではないのか、二人が玉座に座り、左右にはあのダークエルフと様々な異形種がいる。

 

一人は骸骨。もう一人は人間なのだろうか?種族が分からない以上確定したことは言えないが、異形種ばかりがいるのだ、人間の可能性は低いだろう。

 

「アインズ様、信長様、バハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エルニクス。御目通りしたいとのことです」

 

階段上、玉座近くに侍る羽を生やした美女はその容姿に相応しい綺麗な声の持ち主だった。

 

「良くぞ来られた、バハルス帝国皇帝よ、私がナザリック地下大墳墓が主人、アインズ・ウール・ゴウンだ。隣にいるのは私の盟友であり右腕でもある織田信長だ」

 

思ったよりまともな、人間に近い声だ。

 

「歓迎を心より感謝する。アインズ・ウール・ゴウン殿」

 

「アインズ様、信長様、下等種である人ごときがアインズ様と信長様と対等に話をしようとは不敬かと思われます。『ひれ伏したまえ』」

 

ガシャンという金属音がジルクニフの背後から無数に聞こえる。確認せずとも想像はつく、臣下達が男の言葉に従ってひれ伏しているのだろう。

 

おそらくは強力な精神支配による強制効果

 

たった一人ひれ伏さないジルクニフに無数の視線が集まる。

 

「よせ、デミウルゴス」

 

「はっ!」

 

信長の言葉にデミウルゴスという名の、カエルにも似た化け物が恭しくお辞儀をする

 

「『自由にしたまえ』」

 

見えざる重圧が消失し、安堵の息が背後から聞こえてくる

 

「ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エルニクス殿、部下が大変失礼なことをした。部下を御せなかった私の不徳、許して頂けないだろうか。お望みとあらば、頭を下げることも私は辞さない」

 

居並ぶ化け物達の間にざわりと同様の動きが生じた。

 

「謝罪の必要はない。ゴウン殿、主人と意を勘違いし、部下が暴走するのはよくあること。帝国の人間も同じことをしているようなのだ」

 

抑圧から解放された近衛の一人が慌てて動き出し、持ってきた壺をジルクニフの横に置く

 

「この地に侵入者を差し向けるという勝手なことをした愚かな貴族の首だ。受け取ってほしい」

 

壺に入っているのはフェメール伯爵とその家族の首だ、この地にワーカーを送り込むようにジルクニフが間接的に誘導した貴族のものだ。

 

デミウルゴスが壺を持って階段を上がる。

 

そして、アインズと信長の前で膝をついて、壺から断首した貴族の頭を取り出した。

 

「頂こう。処分はもったいないな」

 

黒い液体が流れ落ちた後、そこに立っていたのは巨大な黒い鎧。

 

デスナイトだった。

 

「ば、かな…」

 

「行け。列に並べ」

 

地の底から響くような思い言葉と共にデスナイトが階段を降り、ジルクニフの視界の端へと消えていく。

 

視界を玉座の方に戻すと、デミウルゴスが女性の首を信長に見せていた。

 

「女の首は必要ない、ぞ」

 

そう言って信長は首を受け取った次の瞬間、邪気がその首を包み、信長の影に落ちる。

 

「ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エルニクス殿」

 

静かな声にジルクニフは我を取り戻し、爽やかな笑顔をアインズ達に向ける。

 

「あぁ、ゴウン殿、ジルクニフで結構、長い名前だからな」

 

「そうかね?それではそうさせてもらおう。ジルクニフ殿、まずは見苦しいところをお見せしたことを謝罪させてくれ、それと先ほど、私の部下が礼儀知らずな行為を貴殿に行った事を謝罪させてくれ、それらの貴族がナザリックに面倒を引き起こした件は帳消しとなった。ならばもう話は終わりだな、それでは帰ってくれて結構」

 

「…は?」

 

何を言われたか理解できなかった。

 

「す、すまない。少し聞き取れなかったようだ。もう一度聞かせてもらえるかな?」

 

「もはや謝罪の必要はない。もう帰ってくれて結構。我々もこれから少し忙しくなるのでね」

 

「すまない。忙しくなるとはどういう意味なのかな?」

 

「貴殿のおかげで、大人しく暮らしていても面倒ごとに巻き込まれると知った。ならば、地上に出て面倒ごとを叩き潰しておこうと思ってな」

 

「そ、それはどういう…」

 

「まず、我々に害をなす者達にその愚かさのつけを支払ってもらう。その後、煩わしい者達を順次に始末していく。私の愛する静寂が戻ってくるまでな」

 

狂人の戯言だった。

 

「どうだろう!同盟を組もうじゃないか!」

 

ジルクニフは咄嗟にそう叫ぶ

 

そう叫ぶとアインズは少し固まり、信長は顎に手を当て、何か考えているようなポーズになる。

 

「この地に貴殿の国を作り、王となって支配する。とても素晴らしいことだと思うし、ゴウン殿方に相応しい地位だと思うんだ。そして私たち帝国は貴殿を最大限バックアップして、建国の手伝いをしたいと思う。将来を見越してね」

 

「ふむ、それではよろしく頼む」

 

そう口にしたのは信長であっさりと承諾されたことに対してアインズも特に何も反論してこなかった。

 

(何故従属を要求しない?絶対的強者、圧倒的優位な立場にいる者が何故、それを受け入れる?)

 

「そ、そうか、それは良かった。で、では、私達に早速望むことがあれば聞かせてくれないかね?」

 

「即座に思いつかないな、貴殿との連絡を確立したい」

 

「それでは私の秘書官を置いていこう」

 

「それではワシ自らが出よう」

 

そう言って信長が嗤う。

 

(早くも一手打ってきたか!)

 

王の右腕自ら出てくるなど考えてもいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー会談後ー

 

『…信長さん。何考えてるんです?なんで自ら出たんですか?政治関係の事分かるんですか?』

 

伝言でそう伝えると信長は自身ありげに

 

《外交分からん!何かあればデミウルゴスに意見求めれば良いじゃろ、それに、こういうのは会社の運営と似ておるから問題なかろう》

 

信長の自信ありげな言葉に少し不安になり、モモンガは後でアルベドと意見を交わすようにと伝えると《りょーかいじゃ!》と軽い口調で返ってくる。

 

 




次回は冒険者回とかそういうのになると思います。明日からそんな連続投稿できないと思いますがお許しください。


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役回り


健康診断で採血シンドかった。注射好きな人おるん?血管が看護師泣かせの血管でつらい。

今回は役回りについての話です。一応下の方で説明はしております。

最後にツアーとリグリットの会話シーンがあります。ちょっとオリジナル展開が入っております。


ー冒険者・ノッブー

 

冒険者・ノッブは【アダマンタイト級冒険者】になってから、横への繋がりを強くすることにした。

 

同じアダマンタイトで王国にいる青の薔薇と挨拶がてら対話したりなどした。

 

元々フレンドリーが売りのノッブは青の薔薇のメンバーとも勢いよく打ち解けていた。

 

(ここら辺はまだ人間らしい感情が残ってて助かったな…人間は虫けら以下とは思わない種族でよかった…)

 

【怨霊】とは人間がなければ存在しない種族であり、一応は人間種の分類に入る。

 

【怨霊】は精霊系統とこの世界ではなっているようだが、ユグドラシルでは人間種扱いになっている。

 

「んー、今回も大した敵じゃなかったのぅ」

 

「大した敵だったらここはユグドラシルと大差ないことになりますよ」

 

沖田の言葉に「それもそうかのぅ」と返す。

 

冒険者組合に任務を遂行したことを告げ、沖田とノッブ、メディア・リリィはトブの森林に出かけ、モモンとナーベは『黄金の輝き亭』に宿泊していた。

 

「あ、これ貴重な薬草じゃね?」

 

ブチっと抜いてメディア・リリィに見せると『冒険者組合に提出してみましょうか』と言って袋を出してくれる。

 

「次の任務は張り合いのある。こうなんというか、デッカいモンスターと戦いたいのぅ」

 

そう言うと沖田が『そうそう巡り会えませんよ』と言ってくる

 

薬草集めを終え、森から出る

 

冒険者組合に戻り薬草を提出し、黄金の輝き亭に戻り、モモンガ達に今回あったことの報告をし就寝する。

 

(…なんか一番平和じゃなぁ…冒険者が平和なのも如何なものだけど…)

 

 

 

 

 

 

ー魔王信長(第六天魔王波旬)ー

 

ヤルダバオトの王としての役割は今のところない。

 

聖王国で本格的に動くことになっているのだが、その前段階のためにエ・ランテルから少し離れた所での狩りを行うことになった。

 

リ・ロベル領の小さな村を襲い、辺りを火の海にした。

 

「なんというか絶景じゃのぅ」

 

「誠に、下等生物達の悲鳴が音楽のようでこの風景とマッチしておりますな」

 

燃え盛る家や森林、人間の悲鳴がこだまする。

 

「うぅ、村が…!街が…!」

 

悲鳴を上げ逃げる人々。

 

炎の中から白い魂が出て来る

 

それらが後光輪を背負った六本腕の骸骨に吸い取られて行く

 

それが吸収するたびにおいしいという感覚になる。

 

舌なめずりすると怯える市民達

 

「これくらいにしておくかの」

 

魔王信長の恐ろしさを生き残った市民達が王国本土に伝えてくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー魔導王・右腕、織田信長ー

 

魔導王の右腕・信長としての仕事は割と大変だった。

 

(…男としての口調のおかしさや、無意識に出る女の仕草をなんとかしないとな…)

 

鏡の前に立ち、服をメイドに整えてもらっていた。

 

メイド達は嬉しそうに、崇拝するような眼差しでこちらを見る居心地の悪さにはもう慣れてしまっていた。

 

(…他の二役より一番考える…っ!)

 

まぁ、自分が選んでしまった以上仕方のないことだが

 

身支度を整えると…

 

「信長様、沖田様が面会を求めておられます」

 

シクススがそう言って来る

 

「入れてくれ」

 

「はい」

 

その言葉と共に沖田が入ってきて男になっている信長を見て静止する

 

「どうした?」

 

そう言うと沖田が何故か歯を食いしばっていた。

 

「なんでっ、無駄にハイスペックなんですかっ!至高の四十一人特権なんですかっ?!」

 

沖田がコントのように地面をダンダンと叩く

 

「???(…彼女は一体何を言っているんだ?)」

 

「形態が三つも選べるのに、スキルでまた紳士風に変身出来るなんて卑怯すぎますっ!私だって変身スキル欲しかったっ…!」

 

悲痛な叫びを上げる沖田に引きながら『すまん…』と言うと

 

「引きながら哀れな物を見る目をしないでくださいっ!私だってイケメン沖田総司になりたかったっ!なって貴方の後ろを歩いたらきっと面白k…同行できたのにっ!」

 

「種族・英霊は変身スキルない、ぞ」

 

「はい!分かってますけどっ!」

 

ぎゃいのぎゃいの騒ぐ沖田をどう宥めようか思っていると、アルベドが訪れる

 

「信長様、帝国の秘書官が来ました」

 

「うむ、行く」

 

そう言って退出すると、沖田が小さい声で『声もイケボだし…!』と言う

 

 

 

 

 

 

 

 

ーツアーとリグリットー

 

ツアーは浅い眠りから意識を戻す。

 

少し離れたところから気配を感じ、ゆっくりと目を見開く

 

気配の先に堂々と立っていたのは腰に立派な剣を下げた人間の老婆だ。ドラゴンの敏感な知覚に気付かれず、ここまで来たという無邪気な悪戯に成功した者特有の笑みが広がっていた。

 

「久方ぶりじゃな」

 

返事をせずにツアーは老婆を見る。

 

「なんじゃ?わしの友は挨拶すら忘れてしまったのか?」

 

「すまないね、かつての友に会えて感動に身を震わせていたんだ」

 

「友ねぇ?わしの友はあそこにいる中身が空っぽの鎧なんだがのぉ」

 

ツアーが老婆達と友に旅をしている時に遠方から鎧を操作して旅をしていた。

 

そのため、正体を仲間達に明かした際には騙されたと憤慨されたこともあった。

 

「それについては200年前から謝っているだろう?この姿じゃ君たちと旅は出来なかっただろう?」

 

「ところで、君は今冒険者をやっているんだよね?」

 

「もう引退したよ、わしの役目はインベルンの嬢ちゃんに譲ったよ」

 

「彼女をそう言えるのは君くらいだろうね」

 

「そうかい?あんたの方が言えるだろうよ、あの泣き虫、ぐちぐち言っておるからわしが勝ったら言うことを聞けと言ってな、ポコってやったわぃ!

 

心底楽しそうな笑い声をあげる。

 

「あの娘に勝てる人間は君ぐらいだよ」

 

「まぁ、仲間達も協力してくれたしの、それに、いくら泣き虫が強いといってもより強き者はおる。例えばお主であればあの嬢ちゃんを容易く倒せよう。己に縛りさえかけていなければお主はこの世界で最強の存在なんじゃからな」

 

「それは分からないな、また世界を汚す力が動き出したのかもしれない」

 

鎧の右肩口には、槍で貫かれたような穴が開いていた。

 

「……100年の揺り返しが来たが、今回はリーダー達のように世界に協力する者ではなかったのか」

 

「あぁ、本質は悪だろうね」

 

「そうか…」

 

ツアーはふと青空を見上げる。

 

「……"彼"はまだ眠っているのかい?」

 

友の一人を思い出し、口にする。

 

「あぁ、リーダーが死んだ後、眠りについたよ、彼奴は姉に謝りたいと言っていたからのぅ、ぷれいやーの中にいるかもしれないという可能性を考えているんだろう」

 

友の一人でありリーダーと同郷の【彼】はかなり、性格に難ありと言われるくらいで、十三英雄の中には彼のことを毛嫌いしている者だっていた。

 

かくいうツアー自身も彼の強すぎる力は八欲王のようになるのではないかという疑心と不安もあった。

 

それがリーダーの手腕によって鳴りを潜めているだけだと、常に目を光らせていた。

 

しかし、次第に彼は穏やかになり、仲間達との距離が縮まって行っていた。

 

「今回、ぷれいやーが転移してきた可能性が高いなら彼を起こして、海上都市の彼女に協力を仰げないか確認してみよう」

 

「そうじゃな、彼奴が起きてくれれば大助かりじゃな」

 

 




【冒険者ノッブ】
第一形態で無性形態でもある。一応女として知られている。
戦闘方法は火縄銃や遠距離の攻撃。ごく稀に剣でも対応する。

【魔王・第六天魔王波旬】
最終形態であり、性別は不明扱いにしている。
戦闘方法は主に炎系統の攻撃。魔王剣を使用する。
冒険者・ノッブと完全に分ける為、火縄銃は使っていない。

【ナザリック地下大墳墓魔導王右腕・織田信長】
スキル《第六天魔王》で完全な男としてなっている。
冒険者及び魔王とは一切関係ないように見た目を完全に変えている。武器は禍々しい紫色のオーラを放つ妖刀で、戦闘方法は袈裟切りなど織り交ぜつつ相手を斬り伏せていく攻撃スタイル。最初は緩慢な攻撃スピードだが、途中から猛スピードになる。


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戦争の下準備

カッツェ平野での大虐殺前の話です。

ノッブの性格が日に日にカルマ値マイナスに振り切り始めてる…まぁ、【怨霊】かつ【殺戮者・織田信長】であるのをお忘れなく。


ーリ・エスティーゼ王国・宮殿ー

 

王国にて帝国から送られてきた宣戦布告の内容を読む者の言葉を玉座に座る王・ランポッサ三世とその近くで不動の姿勢を保つガセフは黙って聞いていた。

 

そして、集まった多くの貴族の中に六大貴族の姿を見つけ、軽く目を見開く

 

(…全員が揃うとは珍しい…)

 

王に次ぐ領土を持つ六家の当主達は、軍事力、財力などの分野の中で一つぐらいは王の力を超えるだけのものを持っている。

 

そのために王の招集に対してなんのかんのと言い訳をしては欠席する者が多かった。

 

「『バハルス帝国は大魔法詠唱者アインズ・ウール・ゴウン魔導王率いるナザリックなる組織を国として認め、国家としての同盟を結んだ。故にエ・ランテル近郊はアインズ・ウール・ゴウン魔導王の占領していた土地であり、リ・エスティーゼ王国は不当に占拠している。帝国はアインズ・ウール・ゴウン魔導王に協力し、王国に侵攻を開始し、魔導王の領土を奪還する。これは正義の行いであり、不当な支配から解放するものである』」

 

読み上げられた内容はあまりにも異論で、これに従えなど狂気の沙汰としか言いようがない。

 

「言いがかりというレベルですらない狂人の戯言を吹っかけてきましたな」

 

吠えるような嘲笑うような声が響く

 

「時期はかなり後ろにずれ込んでおりますな、これは毎年の帝国の侵攻ではないのですかな?毎回、様々にこじつけた理由を持ち出してきております。今回はネタに困ってその魔法詠唱者の名前を持ち出したのでは?」

 

リットン伯爵の言葉に軽い笑い声が上がった。

 

「魔導王などと名乗る狂人の名前はどこかで聞いた覚えがありますな、違いましたかな?ストロノーフ戦士長殿」

 

「……私がエ・ランテル近郊に赴いた際に、助けてくださった魔法詠唱者殿で間違い無いでしょう」

 

くすりと嫌味な笑い方でリットン伯爵は冷たく言い放つ

 

「なるほど、自分の民と勘違いして助けてくれたわけだ」

 

含み笑いがあちらこちらの貴族達から聞こえた。

 

それをたしなめる声はない。

 

平民出身のガセフは貴族派閥の貴族達の大半から嫌われているためだ。

 

「そんな狂人のことなどはどうでもよい!我々が決めるべきは、偽帝の宣言にどう応えるかですな陛下?」

 

「ボウロロープ候の言う通りだ。我々が決断しなくてはいけないのは王国としての答えだ」

 

貴族達が口々に口を開く

 

「発言をお許しください」

 

すっと前に出たのはペスペア候だ

 

「かの皇帝の宣言を受け入れるのは困難。故に戦争しかありますまい」

 

並ぶ貴族達から熱気が上がる。

 

「おぉ!今度は奴らを撃退し、そのままの足で帝国に攻め込む番でしょう!」

 

「全くですな、いい加減、帝国の侵攻を撃退するのは飽き飽きしてきました」

 

「帝国の愚か者どもに、我らの恐ろしさを知らしめるときが来たというわけですな」

 

笑い声混じりの貴族達の声、毎度毎度、一語一句たがわぬセリフにガセフはうんざりした。

 

 

 

 

 

 

ーナザリック地下大墳墓、信長の自室ー

 

王国の宮廷会議が行われているのを信長は最終形態で足を組んで眺めていた。

 

影の悪魔達が宮殿に忍び込み、魔法で防衛されていないのを確認し、映像として映していた。

 

(…こうも阿呆なのは少し笑えるなぁ…帝国と王国にこんなに差があるなんて)

 

いやまぁ、モモンガを間近で見たガセフが危険視するのは分かるが、他の貴族達は見てはいないとしても不安に思ってもよいとは思ったのだが、彼らの様子を見ていたらおかしくて堪らなくなった。

 

そして何より王国の王はどっちつかずの対応を取っているせいで下が纏まっていない。

 

どっちにも声をかけず、中間の位置にいる。

 

(…派閥が分かれる大きな要因はこれか…)

 

彼ら王国は悪い例として参考になる。

 

モモンガと自分がこうならないためにも必要な教材になるだろう。

 

帝国は逆に良い例であり、上が下をよく監視・調整しているため派閥などない。

 

まぁ、フールーダーの裏切りは相当堪えたようだが、フールーダーの裏切りで早々瓦解しないのが凄いのだ。

 

映像が終わり、部屋が明るくなる。

 

「以上が王国の動向にございます。何か問題点等ございましたでしょうか?信長様」

 

アルベドの言葉に信長は椅子に深く腰掛けると

 

「問題点も今のところ無いのぅ、この調子だとあっさり勝てそうじゃな」

 

今回の戦争で恐らくは多くの死傷者が出るだろう。

 

「24万の大軍で来るそうじゃ、それら全てを鏖殺することはしなくとも18万くらいは殺したいのぉ」

 

それくらい殺せば王国に打撃を与えられるし、なおかつ、王国は勝手に自滅してくれるだろう。

 

「流石でありんす」

 

そう言ってくるシャルティアに微笑みかける。

 

「楽しみじゃなぁ」

 

それぐらいの大量殺戮はユグドラシルではあまりなかった。

 

そんなことをすれば運営から消される可能性が高かったからだ。

 

だが今、ここはリアルだ。自分の好きに出来る。

 

 

 

 

 

 

ーリ・エスティーゼ王国・宮殿ー

 

帝国の宣言から2ヶ月が経過し、冬が近づいてきていた。

 

今日のエ・ランテルは熱気がこもるような、そんな雰囲気がある。

 

熱気の発生源はエ・ランテルの三重の城壁のうち、最も外周部の城壁内。

 

そこには無数の人があり、ほとんどがパッとしない格好をした者達ばかりで、大半が平民なのだろう。

 

その数、おそらくは25万ほどいるのだろう。

 

これから始まることを理解している者達は死神を凝視するような眼差しで空を見つめていた。

 

食料の大規模輸送。それは、帝国との戦争の始まりが近いことを知らしめていた。

 

 

 

 

貴賓館にて、ランポッサ三世と大貴族を中心とする男達の姿があった。

 

部屋の真ん中にある大きな机を貴族達が囲み、そこに広げられた大きな地図を睨みつけていた。地図には幾つもの駒が置かれ、その周りに指揮官の名簿、偵察部隊からの報告、過去の戦闘の記録など無数の紙が散乱している。

 

「皆さまお疲れ様でした。これでとりあえずは期日までに準備は終わりました。これより帝国との戦争に向けて計画を進行させます」

 

レエブン候は全員を見渡すと、羊皮紙をその場の人間に見えるように持ち上げる。

 

「このように、数日前に帝国から合戦の場所を記載した宣言書が届きました」

 

戦場の指定というのは、戦場跡がアンデットの出没する呪われた地域になるという現象が時折見受けられることから、同種族同士で時折行われる協定だ。

 

「それで戦場は…」

 

「もったいぶるな、レエブン候。いつもの場所であろう?」

 

「そうです。ボウロロープ候がおっしゃる通り、例年の場所、呪われた霧のかかる地・カッツェ平野、その北西部すぐです」

 

「…同じ場所を指定してくるとは、帝国の侵攻も例年通りということかな?」

 

「残念ですがブルムラシュー候、そうはいかないでしょう。帝国は今回、かなりの兵力を動員してきたという報告が上がっております。私の配下の元オリハルコン級冒険者チームに調べさせましたが、兵力は不明なれど、紋章は計六軍団分あったとのこと」

 

「六つも?!」

 

ざわめきが場を支配する。

 

帝国騎士団は総数で八軍団まであるが、今までの争いにおいて参戦したのは最高で四軍団だ。

 

「本気…か?」

 

不安げな顔で貴族の一人が口にする。

 

「分かりませんが、今までのようなひと当たりという軽いものでは終わらないことも考えるべきですね」

 

レエブン候は王を見て

 

「今回、兵を増やして正解でした」

 

それが結果として戦費がかさんだのは頭が痛い問題だったが

 

「それで陛下、一つ提案があるのですがよろしいでしょうか?王子に一つお任せしたいことがあるのです」

 

この場にいる王子は一人だけであり、全員の視線がバルブロに集まった。

 

「かのアインズ・ウール・ゴウンはカルネ村なる村を救いに現れたという。何らかの戦略的意図があったのかも知れません。軍を送り、村人達から詳しい話を聞き出すべきでしょう。その指揮官を王子にお任せしたい」

 

「候!」

 

バルブロが鋭い視線でボウロロープ候を睨む。

 

「静かにせよ、それは悪くない考えだ。我が子よ、お前に命じる。カルネ村に向かい、村人達から話を聞いてまいれ」

 

「……王命であるならば従うほかありません。しかし、私としては望む仕事ではないと知っておいてほしいのです」

 

不快感を隠そうとしないながらもバルブロは頭を下げた。

 

「村に向かう王子の軍に私の精鋭兵団からある程度お貸ししよう。それと王子と共に向かう貴族を募らせて頂きたい。五千というところですな」

 

「それほどの兵が必要と思わないが、候の提案だ。その辺りは一任しよう」

 

「感謝いたします陛下。それと陛下、もう一つ質問が」

 

わざとらしく大きく深呼吸をする。

 

「誰がこの戦争の全軍指揮を?私であれば問題ありませんが?」

 

場の空気が変わる。これは不穏な発言だ

 

そこにあるのは全軍の指揮権を寄越せという目に見えない圧力をかけている。

 

「レエブン候」

 

「はっ!」

 

「候に任せる。全軍を無事、カッツェ平野まで進軍させよ」

 

「畏まりました」

 

レエブン候が王命を受けて頭を下げる

 

ボウロロープ候は欲しかった地位が横から奪われた形になるな、レエブン候では文句を言う訳にはいかない。

 

「レエブン候、私の軍も任せるぞ、何かあったら言ってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

ーカッツェ平野・帝国陣営ー

 

駐屯基地の外れ、騎士に先導されながら二台の見事な馬車が静かに進んでくる。

 

鱗の生えた馬のような魔獣が進んでくる

 

「最敬礼でお願いします」

 

その言葉と共に馬車の扉が開く

 

中から出て来たのはダークエルフの少女ともう一つの馬車から出て来たのは腰当たりから翼の生えた絶世の美女が降り立つ

 

「アインズ様、信長様、到着したみたいです」

 

「そうか、ありがとう、マーレ、アルベド」

 

「ようこそいらっしゃいました。アインズ・ウール・ゴウン魔導王閣下、織田信長宰相閣下」

 

ニンブルは頭を下げる。

 

「各員!」

 

大声でカーベインが吠えた。

 

「魔導王閣下及び宰相閣下に対し!最敬礼!!」

 

「はっ!」

 

騎士達の幾多の声が重なり、一斉に最敬礼を取る。

 

「歓迎感謝する。帝国が誇る騎士の諸君」

 

やけに普通な声なのが逆に恐ろしい。

 

宰相も眉ひとつ動かさず、前を見ていた。

 

「頭を上げてくれたまえ」

 

「ここより野営していただく場所まで、私、ニンブル・アーク・デイル・アノックがご案内させていただきます」

 

「そうか、いろいろ迷惑をかけると思うがよろしく頼む」

 

「今回の戦争で、私の魔法を開幕の一撃にするという手筈だが、この際、私の軍も一部参陣させえもらおうと思ってな、構わないかね?」

 

「それはこちらとしてと願っても無いこと…しかし、早ければ明後日には戦端が開かれますが…」

 

「問題ない。聞こえるかシャルティア、私のいる場所に《転移門》を開け、そして兵をこちらに送るのだ」

 

言葉が終わると同時にアインズと信長の背後に黒い半球のようなものが浮かび上がったのだ。

 

全てが静まり返る。

 

「これが我が軍だ」

 

絶句した騎士達にアインズは楽しげに紹介した。



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カッツェ平野の大虐殺・上

カッツェ平野での大虐殺の話です。

なんか、最近怒涛のようにノッブの話を書いておりますが、こっちが落ち着いたら獅子王の方や綺礼の方も書きますのでしばしお待ちください。

序盤はカルネ村で起こった事を眺めているノッブとアインズ様、後半は大虐殺です。


ーカッツェ平野・テント内にてー

 

バルブロ第一王子がカルネ村に軍を率いて向かったという報告がルプスレギナから上がって来たため、テント内でその様子を見ていた。

 

狭いテント故にモモンガのテントにはマーレ、信長のテントにはアルベドがいた。

 

陣地が離れている故に《伝言》で会話を行っていた。

 

「バルブロ第一王子は今回の戦争に参加せず、カルネ村に五千ほどの兵と共に向かったようです」

 

アルベドの説明に信長は『ふむ…』と考える。

 

《信長さん、これ、どういうことなんでしょうかね?カルネ村に向かうメリットがないような気がするんですけど…》

 

モモンガの言葉に信長は『いや、ワシも分からん』とか言うが深く考えて見てなんとなく理由が浮かび上がる。

 

『今回の戦争が起こる際に、王国の王が戦場に息子を立たせたくないからお使いに出したんじゃないのかのぅ?今回の戦いに参加したら最悪は死ぬかもしれんし』

 

と言うとモモンガが《そういうもんですかね》と言ってくる

 

「信長様、カルネ村での戦闘はどちらが勝つと思われますか?」

 

アルベドの質問に信長は机の上にあったチェスを見る。

 

「ルプスレギナは前に出ないように伝えてある。故にカルネ村の方も軍勢相手に戦うのはちと難しいだろう」

 

そう笑いながら言うとアルベドがうっとりしたような惚れ惚れするような表情で見つめてくる

 

スッとモニターの方を見る。

 

「数の多さ故、勝つとしたらバルブロの方だろうが…何が起こるか分からんからのぅ、ひょっとしたらカルネ村側が圧勝するかもしれん、な」

 

戦争は何が起こるかわからないからこそ軍師がいる。

 

結果が分かりきっている戦いなどつまらない。

 

『あ、そうじゃ、モモンガさん。この第一王子を生かして捕らえて良いですか?』

 

その言葉にモモンガが《メリットなんてないと思いますけど》と言われる

 

『確かにメリットはないのぅ、かといってデメリットしかないと言われれば違うしのぅ、今後のためにも彼奴は生かしてナザリックに連れ帰り、教育したいんじゃ』

 

《信長さんのことですから、何か考えがあってそう言っていると思いますけど、大丈夫ですか?デミウルゴスやアルベドと打ち合わせをした方が…》

 

モモンガの慎重さに助けられてもいるが、あまりにも慎重すぎては物事が進められない。

 

『大丈夫じゃ、何か不都合があればカルネ村近辺で行方不明になったとか理由を付ければ良いからのぅ』

 

《…まぁ、何か不都合があったらデミウルゴスに聞くようにお願いします》

 

『了解じゃ』

 

《伝言》を切り、ルプスレギナに繋げ、第一王子・バルブロについて話をする。

 

《伝言》を切るとテントの外から音が聞こえてくる

 

「宰相閣下!ご準備をお願いいたします」

 

ニンブルの声が聞こえてくる。

 

 

 

 

ー王国軍ー

 

王国軍の25万5千とい大軍は右翼七万、左翼七万、中央10万5千と兵力を分け、三つの丘を上手く利用して陣地を作っている。

 

一方、帝国軍は六万。

 

王国の軍勢に比べれば圧倒的に少ない。

 

しかし、帝国軍騎士達に敗北感など微塵もなく、ふてぶてしい面構えをしていた。彼らは自分達が負けるとは思っていない。

 

「動きませんね。これは一体、どうしたことなんでしょう?」

 

少し小高くなった丘の上に置かれた最も安全な陣地で、ガセフの横にいたレエブン候が帝国の動く気配のない騎士達を眺めながらポツリと呟く。

 

帝国が動かないのであれば、王国もまた動くことはできない。

 

「さて、こちらが動くのを待っているようにも見えるが…」

 

「既に最終勧告は終わりましたし、開戦しているのですが…」

 

ガセフとレエブン候は二人で帝国の動きを観察していた。

 

「はぁ…毎度のパターンとはいえ、この緊迫した空気がどうも苦手です。帝国が本気で突撃してくることを望んではいませんが、攻撃を仕掛けてくるつもりならとっとと始めてくれた方が、精神衛生上助かります」

 

ガセフは王国軍を漂う揺らぎを感じ、出どころを探ってから眉をひそめた。

 

ガセフは腰の剣を叩き、気合いを入れ直す。

 

「王国に伝わる四つの秘宝、その一つであるレイザーエッジですか」

 

レエブン候の視線がガセフの上から下まで動く。

 

「全てを装備した貴方こそが王国の至宝ですね、元々、王国には五つの秘宝があったとされていますが、最初っからここに全て揃っていたということですか」

 

自らが秘宝と同等という余りにも過ぎた褒め言葉をもらい、お世辞とは知りつつも顔が赤らむのをガセフとて止めることが出来ない。

 

「勘弁してくれレエブン候。私なんかより凄いのは陛下だ。平民にこれら全て貸し出すということがどのような意味を持つかを知りながらも、陛下は私に託してくれた」

 

「確かに一理ありますね、正直に言って、私は平民である貴方に貸すと宣言するなど愚かだと思いました。王派閥か、離脱者を多くするだけだと、ですがこうやって共に戦陣に並ぶと最高の一手だと思えてしまうのですから、自分勝手なものです」

 

「そのご期待には応えたいものだ」

 

ガセフは居並ぶ帝国騎士団を眺める。

 

「ところでガセフ殿、アインズ・ウール・ゴウンの右腕と呼べる男の存在はご存知ですか?」

 

レエブン候の言葉にガセフは首を振る

 

「ゴウン殿の右腕…宰相と言われる御仁とは会ったことがないのだ。カルネ村に来ていなかったようだが、カルネ村で少しゴウン殿と話した際に出て来たくらいしか知らない」

 

カルネ村で、二、三アインズ・ウール・ゴウンと会話した際にその中で出てきた【友】の名を

 

「ほぅ、どのような事を言っていました?」

 

「…ゴウン殿は"最高の友人であり、戦士としては己より遥か上を行く存在"だと」

 

今思えばこの情報はかなり貴重だった。

 

無論、王に進言してはいたが()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「戦士…アインズ・ウール・ゴウンの遥か上を行く…いやはや考えたくありませんな」

 

レエブン候がそう言って帝国軍を見ると…

 

道でも作るかのように帝国軍は二つに分かれる。

 

王国の左翼と右翼に対する備えなのか、ガセフが動きからそう判断した時、見知らぬ側が中央に掲げられた。

 

「ガセフ殿、動き出したようですな」

 

現れたのは騎兵五百ほど、対峙する両軍からすればあまりにもわずかな数だ。

 

しかし、それらは異常だった。これほどの距離がありながらも、叩きつけてくるような鬼気を放っている。

 

ガセフの脳裏にカルネ村の記憶が鮮明に蘇る。アインズが生み出したと言っていた騎士の化け物。

 

あれと同じ巨大な盾を持った棘付きの鎧戦士がおおよそ二百。

 

いずれにしても人間ではない、正真正銘の怪物どもだ

 

全身を鳥肌がぶわっと走る。

 

やばい、やばすぎると

 

「……帝国はモンスターを軍備の一つに組み込んでいるということなのですか。これは驚くべき事です。鳥肌が立ってきますね」

 

「違う。違うぞレエブン候、それは違うんだ。貴方が今感じているのは、体が無意識に鳥肌を立てているのはそういうことではない」

 

「それは?」

 

不思議そうな顔をしたレエブン候にガセフは断言する

 

「死の危険。人が持つ生存本能を刺激されているんだ」

 

驚いたレエブン候から視線を動かし、ガセフは帝国軍を見つめる。

 

モンスターの正体は知らないが、戦士としての勘によってガセフには断言できる。

 

「あれば間違いなく、アインズ・ウール・ゴウンの騎兵団!」

 

「あれが!貴方が恐れるアインズ・ウール・ゴウンの軍勢!」

 

「レエブン候!元冒険者達を至急集めてほしい!生き抜いた者達の知恵を貸してほしい!

 

「レエブン候!」

 

話を遮るように馬に乗った元オリハルコン級冒険者達が駆けてくる。

 

「見ましたか!?そして感じましたか?!」

 

その声には隠しようもない怯えの色があった。

 

「撤退だ!」

 

ガセフはそうレエブン候に言う。

 

その時、化け物達の後ろから複数の人影が現れる。




上下と分けております。

理由は書ききれないから…

皆さん2021/05/01大丈夫でしたか?雷とか雨の音エゲツないですね…


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カッツェ平野の大虐殺・下

魔導国建国あたりで止まると思いますが、それまでは頑張ります。

今回はカッツェ平野虐殺の後半戦(?)です。


ー王国軍ー

 

帝国軍に動きがあり、化け物達が道を開け、後方から現れたのは仮面を付けた魔法詠唱者とその右には黒髪に長身で衣装は、黒や紫を基調とした西洋の鎧を着ている男がいた。

 

(…あの御仁は…誰かに似ている…?誰にだ…)

 

ふと違和感を感じる、悪魔騒動の際に見た誰かに似ている気がしたが、それが分からない。

 

あの人物が恐らくは【アインズ・ウール・ゴウン】の右腕とも呼べる宰相なのだろう。左には帝国四騎士の一人がいた。

 

「ゴウン殿…」

 

これだけの距離があってもガセフは中央に立っている人物を間違えたりはしない。

 

「あれが、貴方が恐れるアインズ・ウール・ゴウンですか!我々は一体、何を相手にしているのですか!」

 

アインズが腕を一振りする。それに呼応するように突如としてアインズを中心に、10メートルにもなろうかという巨大なドーム状の魔法陣が展開された。

 

左右に並ぶ二人もその中に包まれているが、何か異常が起こっているようには見えない。

 

おそらくは仲間に害を与えるものではないのだろう。

 

右にいる男はそれが展開された際に少し周りを気にしているようなそんな感じがしたが、ガセフにはその男が気にしている何かを探ることは出来ない。

 

魔法陣は蒼白い光を放ち、半透明の文字とも記号ともいえるようなものを浮かべている。

 

それは目まぐるしく形を変え、一瞬たりとも同じ文字を浮かべていない。

 

王国から驚きの声が上がる。それは見事な見世物を見た時にあげるような、緊張感の全くないものだ。

 

だが、勘の鋭い者達が困惑したように周囲を見渡している。

 

「私は自軍に戻ります!最早、一当たりなどと考えている余裕はありません。アインズ・ウール・ゴウンの力は桁外れであり、矛を交えようとするのは問題でした!ガセフ殿は陛下の守りに!そしてすぐに撤退を!」

 

先程まで落ち着いていたレエブン候の面影はなかった。

 

「ああ!それと轡を並べての撤退ではなく」

 

「勿論です。脱兎のごとき撤退。いえ、敗走すべきです」

 

「ではレエブン候!無事を祈る!」

 

「貴方こそ、ガセフ殿!」

 

二人は慌てて動き出す。

 

 

 

 

 

 

ー帝国軍・アインズー

 

(…いないな)

 

アインズは魔法陣を展開しながらそう判断した。

 

隣にいる信長もいつでも剣を出せるよう腰の剣に手を当てていた。

 

王国軍の中にプレイヤーはいない。

 

ユグドラシルというゲームにおいて超位魔法は強大だ。

 

(超位魔法を発動しようとする者は先に潰される…それがないと言うことは王国軍にプレイヤーは存在しない…か)

 

隣の友を見ると軽く頷き返してくる。

 

「もはや、囮になる必要もなしか」

 

ユグドラシルのプレイヤーと遭遇しなかったことは喜びだ。

 

その反面、残念さもある。

 

シャルティアを洗脳し、友を傷つけたワールドアイテムを保有する存在に連なる相手を今回も発見できそうにない。

 

アインズが手を開く、そこには小さな砂時計が姿を見せた。

 

「黒き豊穣への貢!黒き豊穣への貢(イア・シュプニグラス)!」

 

超位魔法は即座に発動する。

 

黒い息吹が、先程ようやく陣形を変え終わった王国軍左翼の陣地を吹き抜けた。

 

そこにいた王国軍左翼七万。その命は即座に全て、奪われた

 

 

 

 

 

 

 

 

ー帝国軍・ニンブルー

 

一体、何が起こったのか、瞬時に理解できた者は誰一人としていなかった。

 

王国軍左翼を構成していた全ての生き物、人間のみならず馬までもが突然、糸が切れたように地面に転がったのだ。

 

それを見た瞬間、帝国騎士達の歯がぶつかり合う音が響く

 

家族が暮らす大切な我が帝国も、王国と同様に滅亡の瀬戸際にあると誰もが理解したがための恐怖。

 

アインズ・ウール・ゴウン及び彼らと敵対するということは、あの魔法が自分達に打ち出されるということを意味すると

 

ニンブルはその状況下で横を見ると…

 

顔を動かさずに隣に立つ化け物、アインズを横目でそっと窺えば、平然としていた。

 

その横にいる宰相も眉一つ動かさず事切れた遺体を見ていた。

 

(ありえない。あり得ない!こんな、何で平然としているんだ!?七万人の命を奪いながらも!?確かにここは戦場であり、人の命を奪う場所。弱き相手の命を奪うのは当然だ。それでも、あれだけの人間を殺したのであれば何かしらの思いを抱いて当然ではないのか!?)

 

ニンブルは彼らの行動、何動じないそのことに混乱していた。

 

後悔や罪悪感を抱くのが普通の感情だろう。

 

(この化け物にとっては見慣れた光景なのだ!人間のアリの群れを踏みつぶした際に起こる哀れみも、暗い喜びの感情すらもない。なんで…なんでこんな奴が人間の世界にいるんだよ…)

 

そう感じていると…

 

「我が友よ、七万人の命を奪ったが、これで戦いはどうなると思う?」

 

アインズが隣にいる宰相に問いかける。

 

そんなの、王国軍の敗北に決まっている。

 

七万人を殺した以上、王国軍は敗走しないといけない。

 

「王国軍の負けであろう、な」

 

宰相の判断は正しいが、何故、そんな退屈そうな表情を浮かべられるのか、まだ足りないとでも言うのだろうか?

 

「とは故、良い魔法、ぞ」

 

愉快そうに言う宰相の言葉に違和感を感じる。

 

【良い魔法だった】じゃない。

 

もしかして、まだ終わっていない…?

 

「どうした?ニンブル殿」

 

「ひぅ!」

 

問いかけに対し、思わず間の抜けた声を上げたニンブルは慌てて取り繕う。

 

「い、いえ、素晴らしい魔法でした。まさか七万人を一瞬で…」

 

言葉を発することが出来た己自身を褒めてやりたかった。

 

恐怖に押しつぶされそうになりながらも必死でニンブルは次の言葉を選ぼうとすると…

 

「ははは」

 

ニンブルの必死な賞賛に返って来たのはかすかな笑い声だ。

 

「な、何かご無礼を?」

 

「いやいや違う。ただ、私の魔法はまだ終わっていないぞ?これからが本番なんだ。黒き豊穣の母神への贈り物は、子羊達という返礼を持って帰る。可愛らしい子羊達を持ってな」

 

死の渦が王国の兵士たちの命を奪った後、おぞましい漆黒の球体が姿を見せた。

 

黒い球体は地面に触れると弾け、息絶えていた王国の兵士たちの姿が消えて行く

 

「絶望の、始まりだ!」

 

アインズの高らかな声と共に一本の木が生えた。

 

一本だったものはその数を増やしていく

 

『メェェェェェェェェェェェ!!!』

 

山羊の鳴き声のようなものが響き渡る。

 

それはあまりにも異質で異様すぎるものだった。

 

高さにして十メートルはあり、触手が生えていた。

 

おぞましい姿形の化け物が五体も出現する

 

そんな中、アインズは楽しげに笑う

 

「素晴らしい。すごいと思わないか?友よ、最高記録だ」

 

「五体も召喚したのはうぬが初だな」

 

「そうだろう!やはり、あれだけ死んでくれたのに感謝しなくてはならないな!」

 

まるで子供のように嬉しそうにするアインズ。

 

信長は召喚された山羊達を眺めて何か計算しているようだった。

 

「おめでとうございます!さすがはアインズ様!」

 

マーレからの賞賛を受け、アインズは仮面の下で笑顔を見せる。

 

「ありがとう。マーレ」

 

「お、おめでとうございます」

 

ニンブルは泣き笑いの顔で賞賛を口にした。

 

「ありがとう」

 

 

 

 

ー帝国軍・信長ー

 

モモンガの放った超位魔法《黒き豊穣への貢》は王国の兵士たち七万人を一瞬にして殺戮した。

 

(こうも、人間が死に絶えたことに悲しみやら憐憫を感じないのは異形になってしまったせいか…)

 

そのことについて恐怖やら悲しみは微塵も感じないが

 

横にいるモモンガはゲーム《ユグドラシル》で共に戦っていた時と同じだった。

 

興奮のあまり人間の宿す感情にまで目は向けられていない。

 

現に帝国の陣地からガチャガチャという鎧がされる音が響き始める。

 

兵士達の体が震えているのだ。

 

人間にしてみれば恐ろしすぎる召喚魔法を発動させたばかりのモモンガの、陽気な声を聞いて鳥肌が立たない者など誰一人としていない。

 

そして、彼らは思っているだろう。

 

【アインズ・ウール・ゴウンの力が自らの上に落ちてこないこと】を切に願っているのだろう。

 

(しかし、それが戦争というものだろうに、一気に殺していないだけ、年間の戦死者で数えたら七万人を軽く超えていそうだが…)

 

「あぁ、やってみようか、追撃の一手を開始せよ!可愛らしい子羊達!そうだ。三人…いや、四人程殺してはいけない相手がいる。それらは決して傷つけるな」

 

そう子羊達に命令をするモモンガ。

 

子羊達は逃げ惑う兵士たちを蹂躙していく、それと同時に聴こえてくるのは帝国軍の騎士達の噛み殺したような泣き声が聴こえてくる

 

恐怖と不安が限界突破した者達の声だ。

 

『逃げろ』とそう言う彼らの哀願の声。目の前に広がる凄惨な殺戮の光景に、王国軍のあまりほ惨劇に、敵である彼らが願っているのだ。

 

(…それも面白いがのぅ)

 

怨霊である自分には彼らの恐怖や悲しみは気持ち良い

 

「さて、そろそろかな」

 

モモンガの小さな声に全ての視線が集まった。

 

モモンガはゆっくりとその手を広げた。

 

「喝采せよ」

 

(…うん、完全に興奮しとるなぁ〜)

 

骸骨になっても分かりやすいモモンガに苦笑いが溢れそうになる。

 

「我が至高なる力に喝采せよ」

 

信長はスッと目を閉じる

 

(後で言おう、それはスベっていると…)

 

今この場で喝采を求めるのは少々、というか違う気がした。

 

最初に拍手を送ったのは少し後ろにいたマーレとアルベドであり、アルベドの拍手は少しやかましいくらいに聞こえた。

 

それらに揺れ起こったぱらぱらと始まった拍手。

 

(…引いてるよなぁ)

 

彼らは皆、本気で喝采を送っているわけではない。

 

黒い子羊の一匹がやってくるたびに彼らの喝采はやかましくなって行き、間近に迫った黒い子羊に恐怖を感じた騎士達は叫びながら逃げ出す。

 

「お前たち!!」

 

ニンブルが叫び、逃げる彼らを止めようとする。

 

モモンガはその黒い子羊に乗る

 

「友よ、私は少し用がある。帝国軍の事は任せても構わないか」

 

そう問いかけてくるモモンガに対しため息をつきたくなるが、モモンガは一度こうと言えば徹底的にやるタイプだ。

 

「良い、任せよ」

 

そう言ってどこかに向かっていくモモンガを見て盛大にため息をつく

 

(…帝国軍を任せたって言ってもなぁ…ほとんど将棋倒しで死んでるだろうしな)

 

そう言って後方を見ると騎士たちの遺体が積み重なっていた。

 

「アルベドよ」

 

「はい」

 

アルベドが頭を下げて歩いてくる

 

「彼奴ら帝国騎士たちの遺体を並べよ、蘇生魔法が働かん」

 

「かしこまりました」

 

そう言って背を向け、無数に重なる遺体の方に向かう

 

「蘇生、魔法…ですか、一度に行うと…」

 

ニンブルは疲れているのか、あるいは恐怖なのか、信長にそう問いかけてくる

 

「これくらいの数ならばなんとでも出来る、ぞ」

 

「魔法詠唱者なのですか、貴方も…」

 

もはや口調が崩れかけだが、そこは気にしないで前を見る

 

「あ、あの、信長様!並べ終わりました!」

 

マーレが笑顔で言ってくる

 

「うむ、ご苦労」

 

そう言って頭を撫でると目をキラキラさせて嬉しそうに撫でられた頭をさすっていた。

 

アルベドは…『羨ましい、信長様、私にも❤︎』と甘えた声で言ってくる

 

「うむ、愛い奴よ」

 

そう言って頭を撫で、遺体の方に進むと後ろの方でアルベドが『あぁん…』みたいな声を出してヘタリこむ

 

(…復活魔法をかけて、彼らを落ち着かせたらナザリックに帰還しよう)

 

そう考えながら蘇生魔法を使い、彼らを一気に蘇生させる

 

蘇生させた後、戦士職が無理に魔法を使った反動で妙に疲れたのでアルベドにその場を任せて、モモンガが向かった方角を眺める事にした。




次は魔導国建国かあるいは番外編みたいな感じのが入るかもしれませんので悪しからず!


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魔導国建国

魔導国建国の話です。少し違う話もあります

ノッブの弟がそろそろ出てくるかもしれないし、出ないかも

後半は青の薔薇とノッブ、そして、ラナーの会話があります。


ーエ・ランテルー

 

エ・ランテルがアインズ・ウール・ゴウンに譲渡され、魔導国の都市となった日

 

一つ目の城門が開き、歓迎するように鐘の音が鳴り響いた。

 

二つ目の城門は都市に住む者たちが多くいるエリアだ。

 

その都市には多くの住人が残っていた。

 

(王国の軍を虐殺した魔法詠唱者と人間でありながら虐殺を悦んでいた魔導国の宰相…後者はあながち間違ってもないけど、なんか悪評ばっかりじゃな)

 

信長は輿に乗り、揺れを感じながら進んでいた。

 

ある程度進んだ後、勢いよく扉が開く音が遠くから聴こえてくる

 

信長は輿の隙間から少し覗くと小さな少年が振りかぶった手から石を投げる。

 

子供が持っていた小さな石がモモンガの輿目掛けて飛ぶ。

 

後ろから追ってきた母親が今にも死にそうな顔をしていた。

 

「とうさんを返せ!とうさんを返せ!化け物っ!!」

 

母親が必死に子供を抱きしめる。

 

デスナイト達が向きを変えてそちらに行く

 

「こ、子供がしたことです!どうぞお許しください!」

 

母親の必死の嘆願にアルベドが微笑む

 

「アインズ様に対する不敬。万死に値する」

 

「お願いです。子供だけは、この子だけは…!」

 

「この世でいと尊き御方々に対して行った無礼。後悔しながら死になさい」

 

その親子とアルベドの前に大きな剣が落ちてくる。

 

「とぅ!」

 

漆黒の戦士・モモンが来る

 

(…とぅ!って…)

 

「子供が石を投げた程度で乱暴だな!嫁の貰い手がないぞ!」

 

(そんなことモモンガは言わないっっ…!)

 

笑いが込み上げて来そうになるのを必死に堪える。

 

「お前に言われても嬉しく…ゴホン!アインズ様に無礼を働いた者に子供も大人も関係ないわ、全てことごとく死になさい」

 

「それは俺が許さない!と言ったらどうする?」

 

若干テンションの高いパンドラのセリフにお腹を抑えながら必死に耐える。

 

「この地を統べる王への反逆とみなし、潰します」

 

(…も、もうお腹痛い…)

 

笑い死にすると思っていると、モモンガが輿から降りて彼らの元に飛んでいく

 

「アインズ様!」

 

アルベドが見惚れるような優しい笑みを向ける

 

「かしこまりましたアインズ様、お言葉の通り」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……信長さん、だから俺、パンドラ出すの嫌だったんですけど…」

 

玉座の間近くにて待機している際に信長は大笑いして止まなかった。

 

「輿の中で大笑いしなかったのは褒めてくれても良いじゃろうに…!死ぬっ…!すっごい演技じゃった!!後でパンドラに褒美つかわそう!」

 

「やめてくださいって!アイツマジで調子に乗りますよ!」

 

二人で新しい玉座の間に着くとメイド達が頭を下げて二人が来たことを室内の守護者達に伝える。

 

「ふぅ…あぁ、一生笑った。とはいえ、今後は結構大変になるのぅ、よろしくなモモンガ」

 

「…分かってますよ、というか政治関係に関しては本当に頑張ってくださいね信長さん」

 

「うむ、ところで一つ思ったんじゃが」

 

「なんですか?」

 

「配役作りすぎた」

 

「今更?今更それ言います?」

 

「本当に今更じゃ!で、パンドラを借りたいんじゃ!」

 

「………もう、好きにしてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー評議国ー

 

魔導国の建国は評議国のツアーの元にまで届いた。

 

「ん?」

 

「ツアーよ、連れて来たぞ」

 

リグリットの声にツアーは顔を上げ、前を見ると

 

「起こせたのかい?」

 

その言葉にリグリットは「大変だったぞ」と言ってくる

 

「それで?彼はここにいるのかい?」

 

「別室におるはずじゃ、魔導国の知っている情報を伝えたら協力すると一つ返事じゃったよ」

 

「そうか、彼の協力が得られれば少しは勝利に近づけただろう」

 

その言葉にリグリットは別室にいる友の様子を思い出し、考えるような表情を浮かべる

 

「どうしたんだい?」

 

「いや、先程彼奴に魔導国の魔導王の特徴について行ったのじゃが、それに関しては無反応だったのだが、王国で以前に大暴れしたヤルダバオトの王の方に強く反応しておったな」

 

「ヤルダバオトの王の方にかい?彼が反応するってことはそちらもぷれいやーということかな」

 

プレイヤーだと分かるのは同じプレイヤーである彼くらいであり、その他の者達にしてみれば区別はつかない。

 

「彼と今後の計画を立てよう」

 

そう言うとリグリットも頷く

 

 

 

 

 

 

 

 

ーナザリック、信長の自室ー

 

信長はこの世界に転移してきてから、メイドが毎日毎日そばに着いているのに慣れきっていた。

 

リアルにいた際にここまで完璧に付くメイドは居なかったが、メイドという存在はいたため、少なくともモモンガよりもメイド達の存在には慣れていると思っていたが…

 

(…いや、流石にここまで凄いとは思わなかったけど…)

 

信長はモモンガと違い、役を作りすぎたが故に衣装等が山のように必要になってしまった。

 

それに、信長の自室にある日本史の本やらをメイド達が毎日キレイにしてくれるので朝起きたら『あれ?この本こんなに綺麗だったっけ?』というのが何回かある。

 

そして、一番の問題は衣装部屋というのが必要になったことだ。

 

それについてはモモンガと話し合って、誰も使っていない部屋を使うことにした。

 

時計のアラームが鳴り、手を伸ばして止める

 

思わず二度寝しそうになると…

 

「信長様、朝でございます」

 

メイドの声が聞こえて寝そうになる身体に鞭打つ

 

「おはよう、リュミエール」

 

「はい!おはようございます」

 

元気な声と共にリュミエールがシクススとデクリメントを呼び身支度を整えてくれる。

 

真っ赤な髪を梳かしてる間にテキパキと次の衣装を持って来てくれたり、テーブルの上に用意してあった計画書を持って来てくれたり、コーヒーが飲みたいと言えばワゴンの上からコーヒーを持ってきてくれたりと完璧にこなしていた。

 

(…今日の仕事は宰相の仕事に冒険者としての仕事が大半か…魔王の仕事がないだけマシだけど、今後増えてったらヤバイなぁこれ…)

 

一時のノリは身を滅ぼすとは言うが、まさか、本気で滅ぼしかけるとか夢にも思わなかった。

 

信長は着替え終わるととりあえず、午前中にスキル《第六天魔王》で男になり、闘技場でモモンガと接近戦の稽古を行うことにした。

 

英雄《モモン》の姿になったモモンガと男の体を慣れさせるために運動をしていると

 

「ふん!」

 

モモンガの大剣が頭上に迫っていた。

 

慌ててかわして地面に妖刀を突き刺すと…

 

「おわっ!?」

 

「あ」

 

モモンガの足元から黒い瘴気が放たれる

 

「力加減間違えた」

 

そう言うとモモンガが『本気でやりましたよね?今』と言ってくる

 

「いやまぁ、避けられただけ良いではないか」

 

女の姿に戻り言うとモモンガが大げさにため息をつき

 

「まぁ、たっちさんの本気よりマシで良かったですけど」

 

「お?たっち並みに火力出せちゅうフリか?」

 

「フリじゃないです」

 

ある程度、稽古を終え、執務室に戻る

 

宰相としての姿になり、帝国と話し合いを終え、馬車の中で派手に手足を伸ばしていると…

 

「ノッブ、馬車の中なんですから鎧外したらどうです?」

 

沖田の言葉に信長は『いちいち脱ぎ着してたら万が一の時に困るだろう…』と言うと沖田も納得したのか『分かりましたけど』と返ってくる

 

「この後は王国に行き冒険者として仕事するぞ」

 

そう言うと沖田は『大変ですねぇ』と言う

 

姿を無性形態に戻し、沖田と共に王国の『黄金の輝き亭』に入る

 

そこにいたのはモモンの姿をしたパンドラで自分を見ると仰々しくお辞儀をしようとしたので慌てて止める

 

「言っておくが、そのナリでお辞儀とか派手なリアクションはやってはダメだぞ、お主の行動の仕様によってはモモンガが痛い目見るからのぅ」

 

「はい!かしこまりました。信長様」

 

「様付けは無しじゃぞ」

 

「…それは少々キッツイです!」

 

ハッキリ言うパンドラに豪快に笑うとナーベ達を見て

 

「よし、これからパンドラとナーベ、メディアはカッツェ平野付近に出現したアンデットの片付けの任務に行き、ワシと沖田は宮殿に行き、ラナー王女と対談するぞ」

 

「はい!かしこまりました!信長様!」

 

「かしこまりました」

 

「はい、わかりました」

 

モモンの姿で敬礼するパンドラと静かに頭を下げるナーベ達

 

パンドラ達と別れた後、宮殿付近に行き、ラナー王女に会いに来たと伝えると兵士たちは要件も聞かずに通してくれる。

 

カッツェ平野での大虐殺以降、王国の宮殿の防衛力は一気に衰えており、宮殿の警備を本来なら政治等に関与しないのをモットーにしている冒険者達に依頼するなどかなり困窮している状態だった。

 

信長と沖田は黙って宮殿の入り口で待っていると…

 

「お待たせ致しました!」

 

そう言って走ってくる派手な鎧を着ている兵士・クライムがやってくる

 

 




次回はこの続きとさせて頂きます。まだ続きます。


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今後の計画

ノッブとラナー王女が会う話です。

前半はクライム視点、ノッブ視点とあります。

ワーカー編から頑張りすぎて語彙力が低下して来てますが、それでも良い!という方のみお願いいたします。




ークライムー

 

カッツェ平野での戦争の際に王国は18万人程の犠牲者を出した。

 

ガセフ戦士長の戦死、王国が失ったものは多いが、クライムにとっての日々はあまり変わらなかった。

 

「今日の午後からアダマンタイト級冒険者【漆黒】のメンバーの方達と会うのだけど、案内を頼めるかしら、クライム」

 

「はい!ラナー様!」

 

アダマンタイト級冒険者【漆黒】はエ・ランテルをアインズ・ウール・ゴウン魔導王の圧政から守るためにモモン自らが魔導王の動向を監視することになっていた。

 

故に同じチームの彼らも同様の条件かと思ったら、モモンのみで魔導王を監視、ノッブや他のチームメンバーは王国本土に魔導国の手が伸びないように守ると言うことになったらしい。

 

クライムはアダマンタイト級冒険者【漆黒】が到着したと聞き、急いで向かうとそこにいたのは、黒髪長髪の副リーダー『ノッブ』とハイカラな和装に身を包んだ、白っぽい髪の美少女がいた。

 

ノッブの真っ赤な眼光がこちらを見るとドキリとなるが、首を振り頭を深く下げる

 

アダマンタイト級冒険者の中で彼らは最強の分類に入ると青の薔薇『ラキュース』や『ガガーラン』も言っていた。

 

「ラナー様の元まで案内させて頂きます。クライムと申します。よろしくお願いします」

 

そう言うとノッブは『うむ』と言って来る

 

ラナー王女の部屋の前にくると【漆黒】のメンバーが来たことを告げ、中に通す

 

「久しぶりじゃな、ラナー王女」

 

「あら、お久しぶりです。お元気そうで安心しました」

 

(…ラナー様は敬語でノッブ様はタメ口…?どういう関係なんだ)

 

冒険者といえど相手は王女であるのなら敬語を使うのだが、ノッブにはその様子はない。

 

ノッブは軽い口調で話し、ラナー王女は敬語を付けながらも親しげに話している。

 

お互いの近況を報告した後、ラナーはカルネ村に向かった兄が行方不明になってから、次兄・ザナックが実質王候補であることを話していた。

 

「私としては兄上が生きていらっしゃったら嬉しいのですけど、兄上の生存を確認してほしいと兄上様が言っていたんです。魔導国に足を踏み入れられて、なおかつ、魔導国からある程度放任されていらっしゃるノッブ様に頼みたいのですけど…構いませんか?」

 

「構わんぞ、ワシもちょうど暇していたしのぅ」

 

そう言ってノッブが頷く

 

「行方不明になったのはカルネ村付近じゃろ?あそこにはよく行っていて分かるが、カッツェ平野での戦争の少し前に彼ら兵士が火矢を放ってきたと聞いてゴブリン達と交戦状態になり、そこから逃げ延びたようじゃが、カルネ村近辺には亜人とかそういう種族がおるから最悪助かっていない場合もある。その時はどうする?」

 

その言葉にクライムは眉をひそめる。

 

ノッブの性格はなんとなく掴んできた。

 

(…ノッブ様はなんでもハッキリ言う方だ…)

 

クライムとしてはノッブの言いたいことはハッキリと言う性格はあまり好きではないと思っていた。

 

仮にもラナー王女の家族のことをあんな軽々しく言うのは

 

「そうですね…生存の有無が知れるだけ私は嬉しいです。兄上様は多分、死亡がハッキリしていた方がスッキリすると思いますし」

 

ザナック王子は現在、王候補の一人であり、実質次の王だ。

 

もし、バルブロ王子が生存していた場合、困るのは彼だ。

 

「よし、それじゃあ、調べるとするかの」

 

そう言って立ち上がるノッブ

 

「もう帰られるんですか?」

 

「うむ、魔導国におるモモンのことも心配じゃしな」

 

「そうですよね、長い間引き止めてしまってごめんなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーノッブー

 

デミウルゴスからの勧めでラナー王女に会いにきたのだが、彼女と相対して見てわかった【精神異業種】の意味を

 

ハッキリ言って自分より天才だ。

 

歴史上の人物と照らし合わせて見てもあのタイプはあまりいなかった。

 

(彼女が望むのはクライムとの時間。それさえ守られれば攻撃してくることはないだろうけど、あのタイプは危ない分類だ…マジで大変だ)

 

ノッブはある程度王宮から離れたところに来ると…

 

「ぁぁぁあああ、厄介じゃな!」

 

へたり込むように座ると沖田が「彼女すっごい頭脳明晰でしたね』と言ってくる

 

「うんまぁ、頭脳については問題じゃないんじゃが、なんというか性格が怖い!初めて関わりたくないと思ったわ」

 

「ほらワガママ言わないでください。デミウルゴス様が言うから信頼してたんでしょう?」

 

「いやまぁ!そうだけど!」

 

ノッブは頭を振り、立ち上がる

 

「よし!次をやるぞ!」

 

「はーい、頑張ってくださいね」

 

「ひとごとじゃなあ」

 

 

 

 

 

 

 

ー王国の宮殿・ザナックの自室ー

 

ザナックは数週間、一つの問題について悩まされていた。

 

それは魔導国に献上品を送るかどうかだ。

 

送るとしても建国記念として送るか、それとま別の理由を付けて贈るかだ

 

現状としては贈らないという選択肢が妥当だろう。領土を奪われて建国された国に対して贈り物をするなど、従属の印として受け取られても仕方ない。

 

しかしながら、魔導国との友好を深めるのは非常に重要なことだ。

 

魔導国の戦力は未だ不明ながらも、魔導王一人で十分に国をほろぼせるというのはすでに知られている。

 

それからラナーと話し、贈り物を決めた次の瞬間…

 

「王子、陛下がお呼びです」

 

兵士がザナックとラナーを見て言う

 

「何事か?」

 

「はい。魔導国から外交使節団と宰相が来るという報告が入ったそうです」

 

「わかったすぐに向かう」

 

 

魔導国の使節団は一週間かけてエ・ランテルから王都までやってくるということだった。

 

「よし、もう一度確認するぞ、国外の貴賓と同じ扱いをしろ、魔導国の使節団と宰相殿下に何かしようとする者がいたら重罪だ。即座に死刑を執行せよ」

 

「はっ!」

 

居並ぶ騎士達から威勢の良い声が返り、腰に吊るした剣を叩く音が一斉に上がった。

 

「よし!それでは礼儀を尽くし、相手の国と我が国の国威をぶつけ合う戦いを行うぞ!」

 

「はっ!」

 

一同は使節団が到着するまで不動の姿勢を崩さない。

 

やがて使節団の先触れが到着した。

 

赤い目が煌々と輝く漆黒の一角獣に跨った、黒い鎧の騎士だ。しかし、中身は人間ではないだろう。

 

放たれる濃厚な気配が陽炎のように揺らめき、命の危険を感じさせる。着用している全身鎧に至っては、生きているかのように脈打っている。

 

ザナックは自分の下で軍馬がびくりと震え上がるのを感じた。

 

「馬上より失礼!我らはアインズ・ウール・ゴウン魔導国が使節団である!」

 

聞いているだけで怖気が走り、不安に苛まれる。ザナックは恐れを振り払うように声を張り上げた。

 

「リ・エスティーゼ王国第二王子ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフである!貴殿らを王宮まで案内するように陛下より命じられている!我らの後ろに着いてきていただきたい!」

 

「確かに承った。では貴殿らの案内に従おう。我が名は、我が名を持たぬゆえに種族名で答えさせてもらおう。デス・キャバリエである!」

 

「キャバリエ殿とお呼びすればよろしいか?」

 

「そうしていただけると幸いだ」

 

「畏まった。それでは最初に、この場で使節団団長殿と挨拶をさせてもらえないだろうか?私は第二王子であり、団長殿と宰相殿下の王宮内での行動に責任を持つ身。できれば今のうちに渡したことも覚えていただきたいのだ」

 

「承った」

 

「感謝する」

 

先触れが戻っていく、既にいくつものツッコミどころがあるが、相手はあの魔導国だ。

 

アンデットを支配し、モンスターを使役する国であればもはや一般常識は役に立たないと思った方が良い。

 

使節団団長と宰相が人間に近い外見を持っていると期待するのも愚かだろう。

 

「さて、気を引き締めろ。決して失礼のないようにな」

 

「はっ!」

 

兵士たちの返事を聞き、ザナックは力を込める。

 

馬車の数は5台

 

そのどれもが馬型の禍々しいモンスターに牽引されている。

 

その中で最も豪華な装飾のされている馬車が宰相の乗る馬車だろう。

 

「お待たせした。アインズ・ウール・ゴウン魔導王の右腕であり宰相閣下・織田信長様とアルベド様がお会いしても構わないとのことです。ザナック殿、どうぞこちらに」

 

ザナックは周りの兵士たちにその場で待機というハンドシグナルを送ると、歩き出す。

 

ザナックは滲む汗を気持ち悪く思いながらも馬から降り、豪華な馬車の前に立つ。

 

「それでは、魔導国使節団団長・アルベド様と魔導国宰相閣下・信長様です」

 

どれほどおぞましい化け物が現れたとしても、表情を変えないように気合いを入れる。

 

最初に出てくるのが使節団団長・アルベドだと知らされる。

 

それは…美しかった。

 

それ以上に例える言葉をザナックは知らなかった。絶世の美女としか言えないのだ。

 

降りて来たアルベドは馬車の横に退くと深く頭を下げる。

 

次に降りて来たのは魔導王の右腕であり、唯一、この世界で魔導王を負かす事が出来る唯一の存在

 

「…!」

 

降りて来たのは化け物でもなんでもなかったが、黒や紫を基調とした西洋の服を着ている黒髪長身の男だった。

 

腰には禍々しい剣をぶら下げていた。

 

カンッという音がザナックを現実に引き戻した。

 

ザナックは即座に膝をつき、頭を下げる。

 

他国の宰相とはいえ、この国の王子たる者が膝をつくのは情けないことかもしれない。

 

しかし、その行為は王国と魔導国の力の差を考えれば正しい。

 

今王国にとって必要なのは誇りなどではない。

 

「顔を上げてくれぬか」

 

静かで低音の、かといって威圧感のある声が頭上でした。

 

「はっ」

 

頭を上げれば、宰相が静かな笑みでザナックを見下ろしており、隣にいる美女も笑みを湛えながらザナックを見下ろしていた。

 

美女はスッと前に出て宰相を守るようなそんな仕草をとる。

 

「数日間という短い間ですが、よろしくお願いします」

 

美女と宰相。どちらが強いのかと言われたら恐らくは宰相の方だろう。

 

「はい、かしこまりました。それでは宰相殿下、アルベド様。まずは王宮までご案内いたします。老齢の身であり、王城の入り口までしか父…ランポッサ三世が出迎えられない事をお許しください」

 

「構いません」

 

美女の笑顔はまるで崩れていない。

 

宰相はザナックを品定めするような、何か動物を観察するような眼光でザナックの背中にじわりと汗が滲む。

 

通常の関係であれば、王子に対して感謝の意を表すものだろう。しかし、彼らと対応は明確に、彼我の上下関係を伝えているのだ。

 

故に友好関係を結ぶのは困難だと理解したためだ。

 

「それと…本来であれば祝賀の鐘を鳴らすべき事なのでしょうが、御国との不幸な考えの相違によって生じた悲劇から鳴らす事が出来ないことをお許しください。それと、民に御身らとお越しを知らせていないのですが、それもまたお許しいただければと思います」

 

「勿論構いません」

 

 

 

 

 

 

ー信長ー

 

アルベドと共に王国に行くと行った際にモモンガが『え、アルベドだけじゃなくて信長さんも行くんてすか?!え?!早く戻ってきてくださいよ!頼みますから一人で国家運営放り出さないでくださいね!』とかもう、泣きそうになっていたのを思い出す。

 

(アルベドは王国を手中に収めるために必要な餌は撒いておいたって言ってたし、私は使える人材は今のうちに探しておこう)

 

「ようこそ参られた信長殿」

 

そう言ってランポッサ三世が席から立ち上がり、信長とアルベドを出迎える。

 

信長は手を差し出されたので握手をし、招かれた事についての礼を言う。

 

それから立食パーティーになったのだが、さきの戦争の事があってからなのか貴族たちはあまり積極的ではなかった。

 

それでも、魔導国の宰相という事と見た目は完全に人間なので貴族の婦人方がヤケに寄ってくる

 

(…うわぁ、目が痛くなるほど派手なドレス…そしてどう考えても度数の高そうなお酒…)

 

一応、ここに来る前に今の王国の状況や財政については頭に入れておいたので問題ないはずだ。

 

唯一問題があるとするならば…

 

(…あー!!口調崩れそうで怖いっ!)

 

もう既に口調が乱れていそうだが、信長の口調に『〜じゃ』とか『〜のぅ』みたいな口調はしないように基本的にしている。

 

そして、難しい言葉はあえて使わないよう、親しみがあるようなそんな話し方を意識する。

 

婦人たちとの話に飽きてくると、アルベドが男と話しているのを見て忘れかけていた『餌』の事を思い出す。

 

信長はアルベドの隣にいる男を観察する

 

(…うーん、見た感じ大胆な恐れ知らずなタイプだな、アイツ)

 

現実世界でも富裕層の子息があんな感じだったのを思い出す。

 

何もしていないのに何か変えられると思い込み、高飛車な態度をとる

 

(…アレが餌か…)

 

ワインを飲んだ瞬間、アルベドの横にいた男がありえない行動に走る

 

「?!」

 

アルベドの肩に手を乗せる。

 

乗せた瞬間アルベドの周りに不機嫌なオーラが出るが、深呼吸をしてスッと止めていた。

 

あまりにも大胆な行動に飲んでいたワインを噴き出しそうになる。

 

それを見たランポッサ三世がパーティーをお開きにすると言い、アルベドがこちらに向けてやってくる




まだ続きます。

なんか書きたいけど過激すぎたかなぁ…なんか気にしすぎてしまう。

獅子王様の方は書きやすいけどネタなくなり始めたんだよなぁ


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聖王国編
『ローブル聖王国』


聖王国編に入りますが、まだゆっくりとしか読んでいないので少し違うかもしれませんが悪しからず。

聖王国編は見てなくてリ・エスティーゼ王国vs魔導国の話は読んでてどうしようかと悩んでいます。




ーナザリック地下大墳墓ー

 

「…ふぅ、なんかヒヤヒヤしたのぅ、今回」

 

アルベドより先にナザリック地下大墳墓に戻ってきた信長は自室のベッドに座る。

 

王国の貴族の暴走にアルベドの殺意がマックスになったのを見て少し心配したが、アルベドは冷静さを取り戻して今後のために動き出すと言っていた。

 

「はー…これから魔王の仕事も増えるしのぅ」

 

信長は異世界に転移してきてからいろんな事をしたいなと感じていた。

 

(…いやまぁ、宰相の仕事や魔王の仕事すれば良いんだけど、なにぶんコレジャナイ感がする…)

 

信長は無性形態で自室内をゴロゴロしていた。

 

「…よし、やるか」

 

悩むが先に動くと思い立ち上がる

 

「信長様、どちらに行かれますか?」

 

メイドがそう聞いてくる

 

「ん、ちと濃姫達に会ってくるわ」

 

「分かりました。至急、デミウルゴス様にお繋ぎします」

 

そう言ってメイドがいなくなる。

 

濃姫達、己のNPCは第七階層にいる。

 

唯一の例外は沖田と森長可くらいだろうか

 

彼女達がやってくるまで自室でのんびりとしていると…

 

「信長様、濃姫様と茶々様が参りました」

 

「うむ!」

 

メイドに続いて入ってきたのは黒紫色の髪に髪に蝶の花飾りを付けた和風美女が入ってくる。

 

その後ろには日輪を思わせる兜とドレスを纏った童女が続いていた。

 

「信長様、お久しぶりです」

 

「伯母上ー!久しぶりー!」

 

濃姫は頭を下げ、茶々は楽しそうにする。

 

「濃姫、茶々、席に座って話すぞ」

 

そう笑顔で言うとメイド達が椅子を持ってくる

 

 

 

 

 

 

「これから旅に行く…ですか?」

 

濃姫と茶々の前に地図を広げて話す

 

「魔導国が建国されてからまだ日は浅いじゃろ?他国視察と銘打っていろいろ回ってみたいのじゃ」

 

「叔母上、絶対、旅行したいって思ってるよね?」

 

その言葉に信長が「やかましいわ」とツッコミを入れる。

 

「しかし、信長様、私や茶々だけでは御身を守れるかどうか分かりません。ここは一度守護者の方々と相談。あるいは…あの長可を連れて行くことをお勧め致します」

 

「むー、やはりそうなるかぁ〜」

 

遠出する際にモモンガと話した事は必ずレベル100のNPCを付ける事

 

シャルティアの一件がある以上、念には念を入れるようにと言われたのだ。

 

(…シャルティアは天敵じゃから連れて行くのは無理として…やっぱりアウラやマーレの方が良いのだろうが…)

 

あの二人はダークエルフであるので、逆に信長が近くにいるとアウラとマーレの方が危険になってしまうので、相性云々を考えれば、デミウルゴスやコキュートスを連れて行くのが一番なのだろう。

 

(…本当はデミウルゴスと相性良いからデミウルゴス連れて行きたかったが…彼奴は忙しすぎるし…)

 

うーんと悩んでいると…

 

「信長様、デミウルゴス様がご面会を求めております」

 

メイドの言葉を聞いた濃姫と茶々が横に退く

 

信長は執務室の椅子に座る。

 

「入れ」

 

「失礼します。信長様」

 

部屋に入って来ると、そこにいた濃姫と茶々を見るデミウルゴス

 

ぺこりと頭を下げる濃姫と遅れて頭を下げる茶々

 

「で、どうしたんじゃ?魔王の仕事か?」

 

「はい、それもありますが、アインズ様が帝国を属国にしたという話を聞いておりましたか?」

 

その言葉に「は?」となる。

 

その反応を見てデミウルゴスは深々と頭を下げ

 

「情報の伝達が遅れ、誠に申し訳ありません」

 

「い、いや、ワシも王国に行っていたからしょうがないしのう!」

 

(え?!帝国を属国?!いつのまに?)

 

混乱しながら話していると

 

「アインズ様が帝国の属国化に伴い、草案を信長様やアルベドに纏めてほしいというご依頼がありました」

 

「…う、うん。ワシでいいならやるぞ?アルベドも大変そうじゃし」

 

そう言ってデミウルゴスから草案の書類を貰う。

 

書類を読んだりしていると、横に退かした書類を濃姫が持ち上げて綺麗に整頓を始める。

 

「ふむ、草案についてまとめるのはこれくらいで良いじゃろ、デミウルゴス、どう思う?」

 

「失礼します」

 

濃姫から受け取った書類を読みながらデミウルゴスが『問題ないかと思います。流石は信長様』と褒めて来る。

 

国家運営については会社運営に近いと思っている信長は手際よく書類を渡す

 

「それで、聖王国に向かう件についてですが…」

 

デミウルゴスは聖王国…【ローブル聖王国】についての話を始める。

 

ローブル聖王国はリ・エスティーゼ王国の南西にある半島を領土としている国で、信仰系魔法を行使する聖王を頂点とし、神殿勢力との融和によって統治されている宗教色の濃い国だ。

 

とはいえ、スレイン法国ほどではないらしいが

 

「ふむ、海によって国土が分かれておるのか」

 

完全に国土が分かれているわけではないが、巨大な湾によって横にしたuの字型の国土となっている。

 

これのせいで北部聖王国と南部聖王国などと呼ばれることがあるらしい。

 

「半島の入り口に、北から南まで全長100キロを超える城壁が立っております。この城壁はスレイン法国との間に存在する丘稜地帯に住む多様な亜人部族の侵略を防ぐためのものだと思われます」

 

「風磨に見に行かせたところ、立派ではありましたが、なんともお粗末な城壁と報告を受けました」

 

濃姫の言葉にデミウルゴスは頷く

 

「その城壁前で舞台を作るわけじゃな」

 

「はい、魔王信長様のために愉快な舞台を作ります」

 

 

 

 

 

ー聖王国・中央拠点ー

 

聖王国、中央拠点にて、一人の男が部下たちに指示を出していた。

 

「おい、誰か、天候観測士から今晩の予報を聞いた者はいるか?」

 

オルランド・カンパーノ

強さだけで誉れ高き聖王国九色の一色を先代聖王から与えられたという実績を持つ男だ。

 

「申し訳ありません。どうやらこの場には聞いた者はいないようです。カンパーノ班長閣下」

 

オルランドは聖王国の兵士階級の中ではかなり下の方に位置する。

 

聖王国の兵士の階級は、下から訓練兵、兵士、上級兵士、班長、隊長、兵士長となる。

 

班長は決して、閣下などと呼ばれるような地位ではない。

 

「閣下、お時間を頂けるのであれば、私がすぐに聞いて参ります」

 

「うん?、いや、そいつは及ばないさ」

 

オルランドの視線が動き、こちらに近寄って来る男を認識すると、襲いかかる肉食獣ごとき笑みがゆっくりと浮かんだ。

 

「噂をすればなんとやら。ご登場ですか、夜番さん。こいつはどーも」

 

物音一つしない、そんな静かな歩き方で姿を見せた男の格好はオルランドとは大きく違っていた。

 

「……オルランド、お前の班から報告を受けていないぞ、それに上官に対してその態度はなんだ?不敬極まりない。何度注意させる気だ」

 

「こいつは失敬。兵士長殿」

 

オルランドが砕けた態度で敬礼すると、彼の班員たちも一斉に敬礼する。

 

男は「はぁ」とため息をつく。

 

男の名前は【パベル・バラハ】であり、弓の名手だった。

 

それから二人は雑談をしていると…

 

「あ、そういえば、旦那も知っているでしょう?あの大戦士、ガセフ・ストロノーフが戦死したという話を」

 

「あぁ、よく知っている。上層部はそれによって周辺国家が受ける影響について議論していたからな」

 

リ・エスティーゼ王国において最強を誇った戦士の死は、この聖王国の兵士、それも腕に覚えがある者の中でかなり大きな話題になった。

 

「詳しい話を知っていますか?」

 

「大雑把な話は聞いている。なんでも魔導王なる魔法詠唱者が一騎打ちで倒したという話だそうだ。正直言って魔法詠唱者が一騎打ちとは少し理解に苦しむ話だな。どちらかといえば、魔導王の右腕と呼ばれる宰相が殺したという方が理解できる」

 

魔導王の右腕と呼ばれる男の強さは魔導王に匹敵するほどと言われており、魔導王自身が『魔法を使わないで戦えば勝ち目がない』と言われるほどの存在であり、その戦闘能力は計り知れない。

 

「その宰相の話は聞いてますよ、確か、魔導王がバハルス帝国を属国化させて、その草案を1日でまとめて送ったとか、政治の手腕もかなりあるとか」

 

「まだあの国ついていろいろ調べなければな」

 

そこからオルランドが武者修行をやり直すという話になる。

 

「…この国内でお前が勝てない相手に挑むとか言わないだろうな?」

 

「言いませんよ」

 

「ならいいんだが…何処で武者修行をするつもりなんだ」

 

「先の話に出た魔導国に行ってみようかと思ったんですよ、かなり強いアンデットもいるそうですな」

 

「王国、聖王国を渡り歩く商人から聞いたことがあるな」

 

「聖王国のスタンスって奴は魔導国に対して黙認ってことですよね?別に聖王国の人間が行くと言っても問題のない…ですよね」

 

アンデットの兵団などというものがある魔導国は、どう取り繕ったとしても聖王国にとって敵だ。

 

「…魔道国か。上申降れば軍に所属したままでも行けるだろう。上層部は亜人の次は魔導国だと思っている。法国との共同戦線も考えているようだ」

 

「はぁ、宗教の違いによるゴタゴタがややこしそうですな」

 

そのタイミングで鐘が鳴った。

 

夜番との交代時間かと思ったオルランドの思いつきはいつまでも打ち鳴らされている鐘の音によって雲散する。

 

この鐘の音が意味するところは『亜人の影あり』だ

 

「旦那」

 

この暗い中、これだけ遠い場所にいる亜人の正体を掴むことはオルランドには不可能だ

 

「間違いない。亜人だ、スネークマンだな」

 

スネークマンは、コブラのような蛇頭と鱗の生えた人間のような身体、そして、尻尾を持つ種族であり、リザードマンの近親種族だと思われる亜人だ。

 

「それで旦那、何人くらいなんだ?」

 

いつものようなら二十人もいないだろう。

 

「……旦那?」

 

返事がないことに戸惑う。

 

パベルを見ると、普段は無表情のその顔には困惑の色がはっきりと浮かんでいた。

 

「…数が増えてきている…?不味いぞ!他種族の姿も見える!」

 

敵の大軍がゆっくりと陣形を変えて行っていた。




濃姫
【レベル】70
【クラス】物理職
【所属領域】第七階層
【種族】英霊
【カルマ値】悪

【容姿】
戦国無双の濃姫にそっくり
『5』の容姿である。

【詳細】
信長の正妻というポジションになっており、かなり設定が詰め込まれている。歴史好きノッブ故に史実+捏造が入っている。
信長は覚えていないが、信長への愛情が常軌を逸しているところが見られ、ヤンデレ思考。
信長へは忠誠心を向けているものの、他の至高の四十一人には忠誠心を向けていない。
アルベドと出会ったらヤバイ

【人物関係】

・織田信長
我が創造主にして私の愛おしい夫。
誰かの物になるくらいなら殺してしまいたいくらい愛している。

・モモンガ
ナザリック地下大墳墓のギルドマスター。
敬ってはいるが、忠誠心は向けていない。

・茶々
創造主が同じNPCであり、妹的存在。姪っ子
ワガママな茶々を面倒見るのが好き

・沖田総司
信長様から物を沢山プレゼントされていた(実際は何でもかんでも渡してただけ)のに対し物凄く嫉妬してる。
同じ創造主なので仲は悪くはないが、沖田といると小言が多くなる。

・森長可
信長が居ない場合の手綱を握る事がある。
長可が信長の部屋に殴り込みに行った時に手綱を握っていなかったのは、レベルの差で抑え込めなかった。
目を見て話せば森長可も大人しくなる。
自分より強いことを認めてはいる。


茶々
【レベル】70
【クラス】魔法詠唱者
【種族】怨霊
【カルマ値】悪

【詳細】
天真爛漫にして傍若無人、絢爛豪華を好み超浪費家という何かにつけてとにかく金と手のかかる女。
天下人さえ頭を抱えたワガママぶりだが何故か憎めない愛されお茶目系姫君。
子供のような姿ではあるものの、攻撃方法がエゲツない


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『第六天魔王』

腰やった…二週間療養してと怒り気味に言われた(なんで?)

今回は聖王国編に入ります。

ノッブの第3再臨姿がやっと出てきます


ー信長ー

 

亜人の群れと共にヤルダバオトが進軍している間、信長はヒュドラの上に設置されている玉座に座り後方にいた。

 

「…なんというか、あれだな…」

 

思わず男口調になってしまうくらい面白い光景で少し笑いがこみ上げてくる。

 

(…ヒュドラの上に玉座ってちょっとやりすぎな気が…いや、かっこいいけどさぁ!)

 

「どうされましたか?信…魔王様」

 

濃姫が心配そうに聞いてくる

 

「んー?なんでもないぞ?」

 

「お!大殿ー!ヤルダバオトが城壁に到着したみたいだぜ!」

 

長可の言葉に「おー、分かった」と言う。

 

信長は炎を出現させ、後ろに後光輪を背負った六本腕の骸骨が顕現させる。

 

「さて、楽しい劇を見せてくれるかのぅ」

 

 

 

 

 

 

 

ー聖王国、最前線ー

 

「…すごい数ですね」

 

隣で息を殺し、敵陣地を眺めている副官の独り言に我に返ったパベルは答える。

 

「あぁ、そうだ、ただ恐る必要はない。俺をサポートしてくれればいい」

 

副官だけでなく、周囲の自分の部下達が発する空気がわずかに緩む。

 

話でいると敵の陣地に動きがあった。

 

ゆっくりと一人の亜人が前に進み出てきたのだ。

 

「撃ちますか?」

 

「やめろ。しかし、射線は取れるように移動を開始しろ。そして、俺からの命令を待て」

 

部下に小さな声で命令を出すと、ざざっと影が走るように部下がが大きく散開していく。

 

その時、亜人の軍後方から物凄い熱風が立ち込めてくる。

 

(…な、なんだ!?あれば…!)

 

六本腕の巨大な骸骨が炎を巻き上げながらそこにいた。

 

その化け物の登場に部下達がざわめき出す。

 

「!そこで止まれ!!ここより先は聖王国の領土である!貴様ら亜人が来て良い場所ではない!」

 

歩いていた仮面の亜人が立ち止まる。

 

「それは当然知っております。さて、あなたはどちら様でしょうか?」

 

冷淡な声が響き渡る。

 

「私はこの城壁を守る将である!お前こそ何者だ!」

 

「なるほど、なるほど…名を聞かれたのであれば答えないのは失礼ですね、初めまして、聖王国の皆さん。私の名前はヤルダバオトと申します」

 

「まさか!」と叫んだのは将軍の近くにいた参謀だ。

 

「大悪魔ヤルダバオト!王国の王都において、悪魔達を率いて暴れたというあの悪魔か!」

 

「おお、私をご存知の方がいるとは光栄です。いかにもリ・エスティーゼ王国で拍手喝采を浴び、我らが王を復活させる事が出来て感激の極みです。それに、今宵のイベントは我らが王の劇とするために悲鳴が、絶叫が、延々と木霊するようなそんな楽しい国にしたいのです」

 

ヤルダバオトは非常に楽しげに語る。

 

パベルはここに邪悪の意味を知った。

 

聖職者たちが声高に叫ぶ『邪悪なる亜人ども』と

 

「突撃ぃ!!」

 

パベルの言葉に部下たちは一斉に後に続いて走って行く。

 

「揺かごを守る番犬ですか。嫌いではないですよ?何かを守るという事は非常に重要な事です。気に入りました」

 

ヤルダバオトは別に大きな声で話しているわけでもない。

 

そのため、パベルの位置からでは言葉が聞き取れない事だってあるはずだ。

 

「ここで捕虜にした者達は私が出来る最高の歓迎を致しましょう」

 

なぜか不思議とはっきりと届く、まるで自分たちの背後から聴こえてくるような。

 

「投降など認めません。私の、我らが王を出来る限り楽しませてください。それでは、始めましょう」

 

パベルは射殺命令を出す。

 

「ー撃てぇ!!」

 

パベルの声に合わせ、全51本の矢が飛ぶ。

 

魔法の弓から撃たれた魔法の矢だ。

 

ヤルダバオトに向かって行った矢がボロボロと地面に落ちたのだ。

 

「それではこちらも初手を打たせて頂きます。つまらないプレゼントですが、受け取ってもらえると嬉しいですね。第十位階魔法《隕石落下》」

 

パベルは頭上から不可避な速度で接近するものを感知する。

 

見上げればそこにあるのは光の塊。

 

熱せられた巨大な岩、それよりも大きな何か

 

天を切り裂き、城壁に到達した隕石が大爆発を引き起こす。

 

腹の底に轟き渡るような爆音。

 

生じた大きな爆裂はそこにいた全てをなぎ払い、そして、城壁を砕く

 

 

 

 

 

「さて、準備としてはこれぐらいでいいですね」

 

デミウルゴスは手でスーツを払う。

 

「うむ、終わったようじゃな」

 

後方からやってきた信長に膝をつく

 

カツカツと信長の足音が響き渡る。

 

傍にいる濃姫は警戒しながら崩れた城壁を見上げる。

 

「はい、楽しんでいただけましたでしょうか?」

 

「無論じゃ、劇としては最高レベルじゃ」

 

信長の満面の笑顔にデミウルゴスは感激する。

 

二人で話していると…

 

ドスンという音がして、デミウルゴス達は音の発生源を見た。

 

おそらく、城壁の上から飛び降りたのだろう。

 

ゆっくりと男が立ち上がるところだった。

 

「だ、旦那が死んじまった。俺が倒したかった男がよぉおお!!」

 

男は言いながら両手に剣を抜き放つ。

 

「うぉおおお!!!」

 

雄叫びを上げて男が走って来る

 

すると…

 

「あー、ホントウルセェなぁ!俺は暴れられなくて苛々してんだよ!!」

 

長可が男の頭をひっ掴み、剣を足で叩き折る。

 

「離せぇぇえ!!!」

 

「大殿!!コイツどうしたらいい?!俺の好きにしていいか!?」

 

長可は悪魔のような牙を向けて聞いて来る。

 

「んー、わしは別に其奴は欲しいとは思わんからな、好きにせい」

 

「おうよ!!」

 

すると、長可は男の頭を掴んだまま激しく振り回し、物凄く大きな声で

 

思いっきり地面に叩きつける

 

「がはっ!!」

 

「あら、あの男はボールとしての役目も担えそうですね」

 

濃姫が信長にひっつきながらそう呟く

 

「嗤え!!!人間無骨!!」

 

槍が男に突き刺さる。

 

槍先に展開ギミックが仕込まれており、真名解放と同時に槍が開いてチェーンソー状の刃が出現し、ちょうど十字槍の形になるようになっている。

 

返り血を浴びた長可は楽しそうに男だったものを城壁の上に向けてぶん投げる。

 

「…荒々しいですね」

 

デミウルゴスの真顔に信長は苦笑いを浮かべる。

 

「…まぁ、武人らしく作ったんじゃが、少々やり過ぎたようじゃな」

 

「大殿!!」

 

「なんじゃ、うるさい」

 

城壁の上から悲鳴が響き渡る。

 

「突っ込んでいいか!?」

 

槍を地面に突き刺し、返り血を浴びた状態で膝をつき信長を見上げて来る。

 

「デ…ヤルダバオトはどう思う?」

 

「よろしいかと、ただ、目標地点以降はやめたほうが良いかと」

 

「よし、行って良いが、ちゃんとワシの《伝言》には反応するんじゃぞ?」

 

「おうよ!!」

 

長可が立ち上がり城壁に向かって歩き始める。



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『聖王女』

結構前だったか、それくらいにノッブの弟をチラリと出した以降出していない状況を思い出しました(忘れてた)

聖王国編に突入しています。魔王信長として進軍しているノッブとデミウルゴス目線の話や、ツアー達の反応などいろいろあります。

ノッブの弟が出てくるタイミングは考えてますが、まだそこ行けない…

あと、前回いうのを忘れましたが、このシリーズはノッブが至高の四十一人の一人なので残酷な描写が含まれます。


ー聖王国・王城ー

 

亜人達の連合軍、それも大軍が多数の兵を抱えた中央拠点を打ち破り、城壁を超えたという情報はすぐに聖王国全土へと広がっていった。

 

真っ赤な髪の化け物が単騎で大暴れし、兵士たちを殺戮しているという知らせも受けた。

 

亜人連合の総大将は魔王・第六天魔王と呼ばれる者。

 

そして、副将を務めているのはヤルダバオトと呼ばれる大悪魔。

 

王国で暴れた悪魔であり、第六天魔王を復活させ、世界を破滅に導こうとしている者。

 

亜人連合は全部で18の種族から成り立っており、推測される総兵力は十二万超

 

それら亜人の軍勢は城壁の破壊、そして、砦の破壊に腐心しており、侵攻は停滞中

 

それを受けた聖王国の頂点・聖王女は国家総動員令を発令。

 

「聖王女様!!ご報告に参りました!」

 

物見の兵達から状況を緊迫させる報告が入る。

 

「亜人連合軍、総兵力、そのまま西に侵攻!!」

 

「北部城塞都市、カリンシャ到達まであと数日内と推定されます!」

 

「…そうですか、それではやはり、ここが戦場になりますね」

 

口を開いたのは聖王女、カルカ・ベサーレス。

 

女でありながら聖王女になれたのは二つの資質により、王位につくことができた。

 

一つは外見の美しさだ。ローブルの至宝と賞賛される花の顔は愛らしさと凛々しさを兼ね備え、金糸のような長い髪は艶めいて鮮やかな光沢を湛えている。

 

まるで聖女のようだと表現する者も少なくない。

 

そして、もう一つが信仰系魔法詠唱者としての高い素質だ。

 

15歳にして第四位階魔法を行使する天才ぶりを発揮し、先代聖王神殿からこ後押しを受けて王位へと上った。

 

「カルカ様の悲しみも分かります。しかし民は、覚悟を持ってカリンシャに生きております。かつても…え、なんだったかの戦いにおいて、この都市が主戦力となったこともございます。そのため、どこよりも高く、強固な壁を持つのです」

 

慰めるように声を発したのは整った顔立ちをしているものの、鋭い瞳に宿る刃ごとき輝きが、冷たい雰囲気を醸し出している。

 

そして、その身を包むのは銀色のフルプレートに白色のサーコート。

 

彼女の名前はレメディオス・カストディオ

 

カルカの親しい友人であり、歴代最強と言われる聖騎士団団長として彼女の権力の武力的背景を支えてくれている。

 

「そうです。それに非戦闘員には逃げていただきましたし、被害は出ないですよ、戦いの後問題になるのは戦費の方じゃないですか?」

 

うっふっふっといやらしい笑い方をしたのもまた女性だ。

 

その顔はレメディオスによく似ている。

 

しかし、その僅かな差異が、与える印象をガラリと変えていた。

 

彼女の場合はレメディオスと違い、何か企んでいるような、悪く言えば腹黒という雰囲気なのだ。

 

彼女はレメディオスの二つ下の妹。ケラルト・カストディオ。

 

神殿の最高司祭であり、神官団団長という地位に就く

 

この二人こそがカストディオの天才姉妹と呼ばれる者たちであり、聖王女の両翼。

 

女性であるカルカが聖王に選ばれたのは、この姉妹が裏で手を回したからではと多くの貴族が疑っているため、悪評が流される時は三人揃ってということが多い。

 

「それを言われると頭が痛いです。勝っても得るものが何もないというのは本当に厄介ですね」

 

「ですが、今回の亜人たちはいい武具をその身に纏っているという情報がありました。それを売るなり何なりすればよろしいのではないですか?」

 

「その通り…って賛成出来ませんね、姉様、武具を売るとしても何処にですか?リ・エスティーゼ王国ですか?亜人たちの武具じゃ買い叩かれて終わるのがオチですよ、それに、壊された城壁を修復し終えるまでは、他国の武装を強化するような行為は避けたいです。特に魔導国なんかには流れて欲しくないです」

 

「あら?あなたは魔導国が嫌いだったの?宮廷ではそういった話は一切聞いたことが無かったけど」

 

「好きな神官はいませんよ、カルカ様は違うのですか?」

 

カルカは考え込む

 

聖職者として、聖王としてならどう答えるか、国主としてどう答えるか

 

「…王の職務は国を、民を慈しむこと。そして平和を与えるということ、それが出来ているのであれば構わないのではないですか?」

 

カルカの前で姉妹が顔を合わせた。

 

「慈しむ?あり得ませんね!アンデットにそんな想いが」

 

「姉様に同じです。アンデットにそのような、カルカ様がお持ちのような愛などがあるとは思えません」

 

「二人とも厳しいわね、でも会っていない方の悪口を言うことはいけませんよ?それに、魔導国宰相はアンデットではないと聞きました。あの御仁が民たちを見て判断して魔導王に伝えているのではありませんか?」

 

「…なら、なんでその宰相が王にならなかったのか気になる」

 

「人間らしい王の方が民はついてくるとは思うけれど…そこら辺は分からないは他国のことですし」

 

それからカルカ達はヤルダバオト達悪魔の力について話し始める。

 

「幕僚達はどんな話をしていたのかしら?」

 

カルカの言葉にケラルトは話し始める。

 

「はい。亜人たちがこの都市を包囲した場合と、通り過ぎた場合、そして、南方へと進路を変えた場合、兵力を二分、三分し、複数の目的を同時に遂げようとした場合などに関して討論しております」

 

「…なるほど、それで、どの可能性が一番高いと目算しているのかしら?」

 

「はい、今までの亜人の侵攻を考えると都市を包囲する可能性が最も高いと出ております。しかしながら今回は二つ以上問題があります」

 

「えぇ、そうね」

 

「何がだ?」

 

レメディオスはカルカの護衛として着いていたため、会議には参加していない。

 

「…姉様、王国において暴れ回った大悪魔・ヤルダバオトです。そして、その王と呼ばれている第六天魔王。まず、ヤルダバオトがどれほどの知性を持つかわかりません。悪魔は悪知恵に長けた者が多い、もしかすると想定外の戦略を取ってくるかもしれません」

 

「なるほど…」

 

「それに、魔王の力・配下の者についてどれくらいいるか判別ついておりません。ヤルダバオトの下にメイドの悪魔。不明なのは赤い髪の化け物、魔王の傍らにいた女。あれらがどういう並び順なのか分かりません」

 

「最悪の場合、シモベを無尽蔵に増やすことが可能なのだとしたら…」

 

「「………」」

 

レメディオスの言葉に静まり返る。

 

それから幾度と議論を重ねていき、とりあえずはヤルダバオト対策の話になった。

 

「…まぁ、モンスターなどの討伐に慣れた上位冒険者には国家総動員令に従って従軍してもらっています。こちらの最大戦力をもってすれば、ヤルダバオトも決して倒せない相手ではないでしょう」

 

冒険者を兵力に含めたことに対して、冒険者組合からは強いクレームが入ったが、カルカは撤回しなかった。

 

当たり前だ、これは国家の大事であり、戦力を分散させるなど愚の骨頂。それに、聖王国において王国ほど冒険者組合の力は強くない。

 

「そうね、ただ王国におけるヤルダバオトが引き起こした事件の詳しい情報は集めておかなかったのは失敗ね」

 

「申し訳ありません」

 

深々と頭を下げるケラルト

 

「い、いえ、ケラルト。あなたが悪いんじゃないわ、他国の情報をよっと重要視しようとしてこなかった私の責任なのだから」

 

「そのようなことはありません。カルカ様は、悪いのはケラルトのやつです」

 

「姉様…」

 

「もしかして…いくつかの村から突然人がいなくなるという事件の

裏にもヤルダバオトがいたのかしら?」

 

「そうなのかもしれませんね…」

 

その時、カルカはわずかに鐘の音が聞こえたような気がした。

 

同時に廊下を走る何人かの足音が聞こえてきた。

 

「カルカ様、我々の後ろに」

 

聖剣・サファルリシアを抜き払ったレメディオスがずいっと前に出て、カルカと扉の線上に立つ。

 

扉がばんっと大きな音を立てて開いた

 

「聖王女様!!」

 

大声をあげて最初に飛び込んできた男に見覚えがあった。

 

参謀長だ

 

「どうした!騒々しい!!」

 

レメディオスの叱咤に参謀長は浅く荒い息で答える。

 

「悠長に歩いている暇などない!!聖王女様!ヤルダバオトです!ヤルダバオトが都市内に出現!赤い髪の化け物が都市内の者達を蹂躙しています!更には複数体の悪魔たちと同時に都市内で暴れまわっております!」

 

「何ですって!」

 

「亜人たちの軍勢が目撃された場所はこの都市の近郊!」

 

唐突な情報に頭が混乱したが、それは一瞬のことで、すぐに女王の表情を作ったカルカは命令を発する。

 

「想定とは大きく異なりますが、対ヤルダバオト・対第六天魔王戦をこれより始めます!我々がヤルダバオトおよび第六天魔王を抑えている間に侵攻してきた他の亜人戦の準備を整えなさい!」

 

配下の返事を聞きつつ、カルカの心に迷いが戻ってくる。

 

ヤルダバオトを、第六天魔王を甘くみてはいないだろうか、と

 

「弱き民に幸せを、誰も泣かない国をね」

 

「その通りです!カルカ様!」

 

自分の独り言に満面の笑みでレメディオスが大きく反応する。

 

手を叩き一斉に動き出す




あれ…?信長様出てこなかった…

次あたりで出ます。

カルカだけはどうしても書きたかった。今後があるから…笑


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『殺戮』

カルカサイドの話や、ノッブ目線の話などいろいろ入ってるのでごめんなさい。

今回は本当に残酷描写が盛りだくさんです。

ノッブは確かにギャグ路線に走ることもありますが、ノッブは生粋の『織田信長』なので悪しからず。

織田信長が大好きなオリ主は次第に…


ー魔王信長ー

 

デミウルゴスと共に聖王国の都市に入った信長は目の前で行われる殺戮に何も感じず見ていた。

 

(今更別に驚くべきことじゃないけど、本当に私人間じゃなくなったんだなぁ)

 

ヒュドラが鳴き声をあげながら魔王信長にすり寄ってくる

 

「よしよし」

 

「…羨ましい」

 

ジト目でヒュドラをにらむ濃姫

 

足を組み、ヒュドラに付けられた玉座に座り周りを見渡す

 

何処を見ても兵達の死体。

 

「大殿ぉお!!」

 

大きな声を上げてやってきた長可は全身真っ赤で、肌色の部分がほとんどないくらいの血の色だった。

 

「なんじゃ、どうした?勝蔵」

 

「結構やったぜ!褒めてくれ!」

 

長可の後ろにはモザイクをかけてもいいくらいの惨殺死体があった。

 

「そうかそうか、良くやったのぅ」

 

そう褒めると犬の尻尾が見えるくらい喜んでいる長可を見て苦笑いを浮かべると…

 

「お前がヤルダバオトか!!」

 

威勢の良い、力強い声が響き渡る。

 

 

 

 

ーレメディオスー

 

レメディオスはその手で握る聖剣で悪魔の一体を斬り捨てる。

 

都市内で暴れていた悪魔はどうと大地に転がり、傷口から白い湯気のようなものを立ち上らせながら消滅していった。

 

ほんの数秒後には、そこに悪魔がいた痕跡は何一つ残っていなかった。

 

しかし、そこには悪魔達の暴虐の被害者がいる。

 

「なんということを!」

 

地面に倒れ伏した、先遣隊とは別の、都市警備をしていた兵士たちを見て、レメディオスは怒鳴り声をあげる。

 

皮鎧は断ち切られ、腹部を必死に押さえている手は真っ赤に染まり、その下にピンク色の臓物がわずかに姿を見せている。

 

顔色はもはや青を通り越し、白の領域だ。

 

「治療を行え!」

 

部下に指示を出す

 

レメディオスは先頭に立って走り出す。

 

この金属鎧は見た目以上に軽く、動きやすい。

 

そのため、彼女の筋力と相まって誰よりも早く駆け付けることができるが、妹とカルカと副団長に『一人で突撃するな』という類の言葉を何度も言われているので、全力疾走は控えて足並みを揃えておく。

 

やがて目的地に到着する。

 

ごくごく当たり前の街並みが広がっているが、避難は既に済んでいるのか、人っ子一人いない。

 

「…ヤルダバオトの城壁を打ち砕く力は何度も使えるものだと思うか?イサンドロ」

 

聖騎士団副団長・イサンドロに問いかける。

 

「何度も使えるのであれば今、使ってこない理由というのが分かりません。何か条件があるのか、再び使えるようになるまでに時間がかかると考えてよろしいのではないでしょうか?」

 

「だよな。やはり分かれて移動するのは心配しすぎたな」

 

「いえいえ。そのようなことはありません。もしかすると膨大な力を使うから温存しているなどということもあります。油断は禁物です」

 

「そうか、分かった」

 

レメディオスは話を打ち切る。

 

(…やはり、頭で考えるのは苦手だ)

 

「カストディオ団長。神官団、冒険者団の旗も上がりました」

 

「カルカ様は?」

 

「未だ」

 

「そうか…そろそろ、持続時間の長い防御魔法などをかけ始めろ。カルカ様が到着次第、私達が最初にヤルダバオトと第六天魔王に接近する。奴らの目を引き、囮になるのだ」

 

部下達から一斉に雄々しい返事が上がった。

 

「広場から動いた様子はなしか」

 

先遣隊の全滅は確認されている。もし目標が動いたなら先行偵察しているはずの冒険者から連絡が来るはずだ。

 

それがないということは、ヤルダバオトは出現した場所から一切動いていないことを意味する。

 

レメディオス達は走る。

 

ふざけた悪魔の顔面に剣を突き立ててやると決意を固めて

 

すると、人の残骸が散らばり、広い範囲に渡って真紅に染まった広場の真ん中に立っている怪しげな仮面の奴と、それらの後方に五つの頭の蛇のような巨大な化け物に乗っている長い赤い髪の女がいた。

 

女の背後には巨大な炎を纏った六腕の骸骨があった。

 

仮面の男の方はその腰から尻尾が生えていた。

 

逃げ戻ってきた兵士たちが口にしたのとまるで同じ格好。

 

コウモリの翼もねじくれた角もなく、異形と言える特徴は尻尾だけだ。

 

「お前がヤルダバオトか!!!」

 

「おっと!」

 

臓物や血の匂いが混じり合った、鼻をつくような異臭が漂う広場に足を踏み入れると、踏み潰した肉片がぐちゃりと音を立てた。

 

しかし、そんなことを気にする意識はレメディオスの中にはどこにもない。

 

ただ全力で突撃し、剣を振り下ろす

 

こちらの一撃をいとも簡単に避けたヤルダバオトに不快感をさらに強めながら、切り上げる。

 

それもまた回避される。

 

レメディオスの勘が叫ぶ。

 

ヤルダバオトの回避は決して偶然ではない。

 

油断しているかのような態度はそれ相応の実力を持つ。

 

「退避!!お前達は退避しろ!この悪魔は強い!」

 

それだけ言うと、部下達と同じように自分も間合いを開ける。

 

ヤルダバオトが肩を落とした

 

「はぁ…牛のような女ですね、なんですか?赤い布でも振られましたか?」

 

大悪魔の軽口を無視するレメディオスの視界に、カルカやケラルトが率いる兵達の姿が入ってきた。

 

「二人とも!こいつは強い!兵を下げないと無駄に死ぬ!」

 

レメディオスの怒鳴り声に二人は即座に従って行動してくれる。

 

前を歩くのはカルカとケラルトだけだ。

 

レメディオスはヤルダバオトとの距離を同じだけ保ちつつ、二人の前に立つべく円の動きで移動する。

 

「レメディオス、無理をしないでください」

 

「そうですよ、姉様、全員でかかるべき相手じゃないですか」

 

背後に庇った二人の小声を聞きながらも、ヤルダバオトからは一度も視線を逸らさない。

 

「貴方がヤルダバオトですね、その後ろにいるのが第六天魔王」

 

カルカの質問に肩を竦ませたヤルダバオトは不機嫌なオーラを纏う

 

「我らが王に対して平伏もせずに顔をあげますか。『今すぐ膝をつき、頭を下げなさい』」

 

「!!」

 

その声が響き渡った瞬間、レメディオス達の体が一気にその通りに動き始める。

 

強烈な圧力がのしかかる。

 

「っ…!っ…!」

 

その拘束から抜け出そうともがくが、何も出来ないまま押さえ付けられる。

 

「ヤルダバオト、やめよ」

 

魔王の言葉にヤルダバオトは反応する

 

「!はっ!『顔を上げなさい』」

 

のしかかっていた圧力が一気に無くなる。

 

「その通りじゃ、ワシは第六天魔王。此奴はヤルダバオト、それで?そなたらはこの国の者か、見たところ上位者のように見えるが」

 

レメディオスはその言葉に不快感を抱く、この悪魔達のやることなすこと全てが腹ただしい。

 

「あなたが当代の聖王ですね」

 

ヤルダバオトが口を開く

 

「その通りです」

 

「こんな奴らに名乗る必要はありません。カルカ様」

 

レメディオスは剣の切っ先をヤルダバオトに突きつける。

 

「こいつらがヤルダバオトと第六天魔王と分かったのなら、後はぶっ殺して魔界に返すなけ。会話したら舌が汚れ…」

 

「あ、あの、レメディオス。話を聞くって…?」

 

カルカの困惑した声にレメディオスは首を傾げる。

 

後ろでケラルトが魔法を使ったようで、体の内部に熱が灯り、驚くような力がは湧き上がる。

 

話を聞くのは時間を稼ぐ為だったのか

 

「私は寛大だから少しは会話をしてやる。聞きたいことは何かあるのか!」

 

ヤルダバオトが仮面の上から目の辺りを抑えている。

 

第六天魔王は欠伸をしながら肘をつく

 

「…どうぞ、好きなだけ時間をかけてください。しかし、我らが王を退屈させない程度の時間で切り上げます」

 

「それで悪魔、ヤルダバオト。あなたに聞きたいことがあります。ここにきた目的はなんですか?この国を蹂躙したいのであれば、城壁の時に一緒にいた亜人達と共に行動しないのはなぜでしょう?もしかすると…」

 

「眠い…」

 

真剣に話を始めようとすると、第六天魔王が欠伸をしながらそう言う。

 

ヤルダバオトはくるりと第六天魔王の方を見て手を胸に当てる。

 

臣下の礼を取るヤルダバオト

 

「茶番もここまでにせんか?劇も長いと退屈するぞ?」

 

「失礼致しました。急ぎ片付けを始めます」

 

「うむ、すまんな。用意してもらったと言うのに」

 

「何を仰られますか!我らが王に仕え、喜んでもらうことこそが至高の喜び!」

 

くるりとヤルダバオトはこちらを見て用意を始めるような仕草をする。

 

「それでは始めましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…魔王らしく出来てるかな)

 

デミウルゴスは順調に進めている。

 

信長は高台に移動したヒュドラからデミウルゴスを見ていた。

 

「どうやら信仰系魔法を使ってデ…ヤルダバオトを倒そうとしているようですね」

 

濃姫の言葉に信長は頷く

 

「わぉ、すげぇことしてるぞ、ヤルダバオトの奴」

 

ヒュドラの首の一つに座り様子を見ていた長可が呟く

 

「おー、えげつない攻撃するのぅ、流石はウルベルトさんの子じゃ」

 

デミウルゴスは聖王女・カルカを掴み、刀を振るようにして攻撃していた。

 

しばらくすると…

 

「お時間がかかり申し訳ありません」

 

デミウルゴスがやってきて膝をついて言ってくる

 

「構わん構わん、ご苦労様じゃ、さて帰るか」

 

そう言ってヒュドラから飛び降りる

 

《転移門》を作り、中に入って行く

 

 

 

 

 

 

 

 

「…姉上」

 

そう呟く何者かに見られながら




文章ぽちぽち打ちながら3000文字の方が読みやすいのか2000文字の方が読みやすいのか悩んでます。

長いとアレだしなぁ…


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『王国の馬鹿貴族』

結構、残酷描写が前回あったので今回は休み回です。

今回は王国の馬鹿貴族・フィリップが出てきます。

10巻読みながら馬鹿すぎて読みながら初めて笑った


ーノッブー

 

バフンッとベットにダイブする。

 

「お疲れ様です。信長様」

 

デミウルゴスの言葉に『そなたも大変じゃっただろう』と言うとデミウルゴスは『至高の御方々の為になるのであれば苦しくはありません!』と嬉しそうに言ってくる。

 

座り直すと、デミウルゴスに椅子に座るよう指示を出す。

 

デミウルゴスは躊躇っていたものの、いつまでもオロオロしているのは失礼だと考えたのか、近くにあった椅子に座る。

 

「ちょっとそなたも休憩せい、一番の働き者が休まないでどうするんじゃ」

 

「何を仰られますか、信長様やアインズ様ほど我々は動いておりません」

 

その言葉に信長は最早笑みが溢れてくる。

 

デミウルゴスを働かせ続けるとモモンガに怒られると思った信長は休ませる為にある話を始める。

 

「昔の話じゃが、自分のNPCを作る時にウルベルトさんやタブラと一緒に図書館に行っていろいろ話したことがあってのぅ、特にウルベルトさんはデミウルゴスの造形についてかなり悩んでおったな」

 

ウルベルトやタブラ達、彼らにしてみれば至高の四十一人の話になると途端に目が輝き出す。

 

そばにいたメイドも物凄く聞きたそうにしていた。

 

「ウルベルトさんは任務やらイベントやらをほっぽり出して考えておったなぁ、特に性格面なんて月単位で考えておったからな〜」

 

「ウルベルト様が…」

 

「ナザリック一の忠誠心を持つ所とか、頭脳明晰の悪魔とか、いろいろ書いて書ききれないってなって困っておったからなぁ〜」

 

昔を思い出す。

 

『魔王ってキャラワシと被る!!』

 

『魔皇です。王様の王じゃない!被らせてやるー!』

 

『魔王っていうのはちゃんと背景がしっかりしてないと魔王とは言わないんだよ!例えば(とてつもなく長い歴史雑談)』

 

『うわ、始まった信長さんの歴史雑談。めっちゃ長いんだよな…アレ』

 

ペロロンチーノの言葉にアインズ・ウール・ゴウンの中で最年長の死獣天朱雀が口を開く

 

『信長さんの歴史に対する思い入れって最早愛に近いと思うんだよねぇ、過去を大事にする所とか、事実信長さんの作ったNPCの森長可はかなり現物に近いというか、沖田くんとかそこら辺はふざけて作っただろうけど』

 

『まぁ、そうですよね…って、ウルベルトさんもすっごい負けじと熱弁してる…信長さんの話に割り込める人、タブラさんくらいなのに』

 

『オラァ!!出来た!デミウルゴス!』

 

『悔しいくらいカッコいいじゃん!!!』

 

『…キャラ崩壊してる』

 

『別名はヤルダバオト!!』

 

ぎゃいのぎゃいの騒いでいた時を思い出して話していると…

 

「!?で、デミウルゴス?どうしたんじゃ」

 

ボロボロと泣いているデミウルゴスを見て慌てると

 

「も、申し訳ありません。信長様…ウルベルト様のお話を聞けて感極まり…私を作る際にそのような葛藤があったなど…!」

 

泣きながら言うデミウルゴスを見て苦笑いを浮かべる。

 

この異世界で過ごしてから感じたのは彼らは裏切る気配など微塵も感じなかった。

 

むしろ、ひたすらに働いてお金を稼ぎたいと言ってる部下を思い出す。

 

デミウルゴスとそれからいろいろ話していると…

 

「ん?アルベドからか」

 

そう言うとデミウルゴスが涙を拭き『いろいろありがとうございました。貴重なお話をありがとうございます』と何度もお礼を言ってくる。

 

 

アルベドからの伝言では宰相の姿で王国のパーティにいる餌についての議論をしたいと言ってきた。

 

餌としてあれば相応しいかという確認だった。

 

(よし、パンドラと交代しよう)

 

魔導王の右腕・宰相の姿に変化して《転移門》をくぐる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー王国の貴族・フィリップー

 

王家主催の立食パーティーにおいて、全ての耳目を集めているという実感は悦楽の極みだった

 

フィリップは家に向かう道すがら、馬車の中でご機嫌だった。

 

(俺は、俺は中心に立っているんだ!)

 

冷や飯食らいだった自分が、王国の貴族、王国の上に立つもの達に注目されていた。

 

そう思うと、信じられないような興奮がフィリップを支配した。

 

(そうだ!俺こそがフィリップ!見ていろ!これから王国の中心に立つ人間の姿を!)

 

フィリップは必死に頭を回転させ、一生に一度の大博打を打つ。

 

それは後日、アルベドを舞踏会に招きたいというものだった。

 

(ついでにあの宰相も招待してやろう)

 

意気揚々にフィリップは自宅に戻る。

 

帰ってすぐ罵声が響き渡る。

 

「この馬鹿者が!!」

 

その罵声は興奮していたフィリップに水をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信長が招かれた場所は無駄に広い屋敷に大して人のいない場所だった。

 

アルベドと共に入り、かつて八本指のメンバーの一人・ヒルマが物凄い勢いで土下座し、来たことに対する感謝と礼を言って来る

 

あまりにも綺麗で流れるような土下座に少し感心してしまった。

 

「今宵は来て頂き誠に感謝致します!魔導国宰相殿下!」

 

「うむ、良いぞ」

 

「ははぁ!!」

 

なんかいちいち大げさな反応をするが、本気でやっているというのが見て取れて分かる。

 

(であれが、アルベドが用意した餌か)

 

正確に言えばヒルマに『とびきりの馬鹿を用意しろ』と言ったらしく、その馬鹿に選ばれたのがあのフィリップという男らしい。

 

王国の貴族達が我先にと信長の前に挨拶に来て、それからアルベド、ヒルマと順々に挨拶していくが、その順番が気にくわないのか、かなり不機嫌な気配を出しているのがバレバレである。

 

(…主催者が普通先に挨拶に来てからあそこに座るよなぁ…自分が最初からそこに座るのが当然と言わんばかりの顔…)

 

ヒルマに言われてから初めて挨拶に来る

 

挨拶して来るが目線は完全にアルベドを見ている。

 

こんな清々しいくらいの反応はリアルで会社を運営していた始めの頃を思い出す。

 

それから貴族のパーティをしている最中もアルベドにしつこく絡む姿は節操がない。

 

アルベドが退出したのを見計らい、今度はこちらにやって来る

 

「宰相殿下、アルベド様と婚姻関係を結ぶにはどうしたらよろしいですか」

 

「????(ん??)」

 

真正面からとんでもないことを言われて思わず、持っていたワイングラスが少しヒビが入る

 

驚き過ぎて力を入れ過ぎてしまったらしい。

 

(これ…どういう反応が正解なんだ)

 

それを言った時、ヒルマの部下の顔が真っ青になって口をパクパクさせている。

 

ヒルマの数名の部下のうち一人が大慌てで何処かに行く気配を感じる。

 

「いえ、私はこれほどの貴族を集められる身です」

 

「失礼します!宰相殿下!!」

 

顔を真っ青…を通り越して真っ白くなりつつある顔色でヒルマが走り込んでくる

 

「どうした」

 

そう振り返るとヒルマがアルベドが呼んでいると言って案内して来る

 

後ろで何故か笑顔のフィリップが背中を見つめて来る

 

ヒルマの後ろを歩きながらアルベドがいる控え室に向かっている最中

 

「あそこまで馬鹿で大丈夫か」

 

「本当に、救いのない馬鹿です」

 

ヒルマは最早庇うつもりがないのかそう言って来る

 

 

 

 

 

 

 

ヒルマはフィリップからアルベドを休憩室に連れて行って欲しいと頼まれた際にフィリップは馬鹿なことを言われ呆れ返る。

 

「彼女と婚姻関係を結ぶにはどうすればいいと思う?」

 

「はぁ!?」

 

ヒルマは彼の言葉に演技を忘れてしまう。

 

「え?なんですって?」

 

「アルベド様と私が結婚する方法だ」

 

『本気か、こいつ』と叫びたくなる気持ちをヒルマは抑える。

 

ここまで底なしの馬鹿だとは思わなかった。

 

仮にもここには魔導国の宰相もいる。

 

宰相はアルベドが招待してここにいるのだ。

 

アルベドは使節団の団長であっても宰相のすぐ下の地位である。

 

そんな相手に対して隣国の下級貴族が言う言葉ではない。

 

(…まだラナー王女と結婚する方法はと聞かれた方が良かった…)

 

「いや、私もこれほどの貴族を集められる身、ただ着いてきたあの宰相よりすごいと、決して負けないと思うのだが」

 

ヒルマは我知らず、喉からぎゅっと力を入れて言葉を抑え込む

 

女から見て魅力を一切感じない男の戯言を、あのお方と宰相殿下が耳にしたらどんな感情を抱くか、それを当のフィリップに向けてくれるのであれば問題はないが、もし自分に向けられたらあの黒い地獄が待っている可能性がある。

 

「さ、さ、流石にそれは無理かと思います。あのお方は魔導国でも宰相殿下のすぐ下の地位に位置する方。いわば王国における公爵だと思ってもおかしくはありません」

 

「しかし、魔導国は一つしか都市を持っていない国ではないか」

 

「い、いえそういう話ではなくてですね」

 

魔導国を下に見た発言にヒルマは肌を栗立てる。

 

確かに領土はカッツェ平野などを含めても大きくはない。

 

しかし、武力は圧倒的ではないか

 

特に18万人規模の兵士を虐殺した魔導王の右腕が此処にいる。

 

その気になれば国家を一人で転覆させることだってできるとあのお方は言っていた。

 

それさえ理解できないこの馬鹿にはどう説明したら納得させられるのか思案する。

 

ヒルマは考えを巡らせるが、答えが出てこない。常識と馬鹿は相反する存在なのだ。

 

「無理です。彼女とフィリップ様が結婚できる可能性は皆無です」

 

「なかなかいい雰囲気だったと思うんだが」

 

何を言っているんだこの馬鹿をと思い、馬鹿を返してアルベドを迎えに行く

 

「気持ち悪い男に触れられたわ、この身に欲望を持って触れる事が許されているのは、世界でお二人だけというのに…クソが、あの知性に欠ける糞が」

 

ギリギリと歯軋りの音がする。

 

アルベドを部屋に案内して外に出ると

 

「ヒルマ、大変だ!宰相殿下にあの馬鹿がさっきの質問をした!!」

 

「なんですって?!」

 

あの馬鹿はよりにもよって宰相にそんなことを言った。

 

国家の危機に陥ったらどうするつもりなのだろうか

 

ヒルマは顔面蒼白で宰相を迎えに行き、アルベドのいる控室に向けて歩いていると

 

「あそこまで馬鹿で大丈夫か」

 

低い、恐ろしい低音の声が聞こえてくる。

 

怖くて仕方なかったが、ヒルマはここで黙っているのは得策ではないと思い

 

「はい、本当に救いのない馬鹿です」と伝えるのが精一杯だった。

 

「いや、あそこまで阿呆だと清々しい。変えなくて良いぞ」

 

「は、はい」

 

アルベドのいる控室に案内するとアルベドが気づいて惚れ惚れしたような表情を信長に向ける。

 

 



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『情報収集』

ナイアが出てきます。

そして、やっとアインズ様が出てきます。

ノッブがリアルであったことをモモンガに告白してます。


ーアインズー

 

「ふぅ…」

 

アンデットになっている以上、疲れはないが、ため息をつきたくなる。

 

(…信長さんとあんまり話せてないな…最近)

 

信長はデミウルゴス達のように多忙で、ナザリックに滞在している時間はあまりない。

 

冒険者・ノッブとしての仕事。第六天魔王として聖王国で暴れる仕事。魔導国宰相として王国や帝国に行き来する仕事

 

そう考えればかなりの仕事を抱えており、モモンガ自身と会う事はあまりない。

 

(…帝国の属国化に関する草案を纏めてくれたりして…なんかお礼したいな…)

 

モモンガは温泉に入りながらそう考えていると…

 

「あー…疲れたぁあ…」

 

「!?」

 

入って来たのは最終形態姿の信長で、前をまるで隠していなかった。

 

「の、信長さん?!ここ、男風呂ですよ!?」

 

「おー…モモンガ〜良いではないか。ぶっちゃけ男風呂に入って見たかった」

 

「いやいやいや!?女性なんだから抵抗感を持ってくださいよ!」

 

「嫌です」

 

「嫌です。じゃない!」

 

モモンガはタオルをぶん投げて隠すように言う。

 

「それじゃあ、こっちなら問題ない?」

 

そう言って宰相・信長の姿に変化する。

 

「いや、見た目が男だからいいですけど、中身完全に女じゃないですか、全然良くないですよ!?」

 

《ユグドラシル》で男風呂に間違って入った信長が運営にBANされかけたことを思い出す。

 

モモンガの隣に座って体を流し始める信長にイラつくものの、温泉に入った際に二人で青空の映像を映し出した天井を眺めながら話し始める。

 

「…この世界に転移して来てから随分経ったのぅ」

 

「……そうですね」

 

なるべく横を見ないようにしながら話していた。

 

「モモンガはリアルに帰りたいとは思っておらんし、ワシも当然思っておらんのじゃが…最近不安なことがあってのぅ」

 

「不安なこと、ですか?」

 

「…ワシの弟のことじゃ」

 

「信長さんの弟のことですか?」

 

信長が自らの弟の話をしだすことに少しだけ驚く。

 

信長にとって弟のことはあまり話題にして欲しくないらしく、ゲーム上でも弟のアバターと遭遇すると激しく戦闘をしていたのを思い出す。

 

「リアルでワシは弟に会社や名誉、家族を横取りされたんじゃ」

 

「……え?」

 

「夫は弟の所為で私の元から去り、会社も何もかも奪われたのじゃ」

 

「うわ…」

 

なかなかヘビーな内容に思わずそう言う

 

「その癖、ゲームではすり寄って来てな、本当に気持ちの悪い弟じゃった」

 

「その弟が、どうしたんですか?」

 

「…あぁ、十三英雄の話を聞いていて少し身に覚えのある奴がいたのじゃ」

 

「それが弟、ですか?」

 

「そうじゃ、アバター情報と何ら遜色はない弟の情報がな」

 

「他のプレイヤー…ですか」

 

「100年前から200年前の話だから今生きているかどうかはさっぱり分からんが、彼奴が何らかの手段で生き延びた場合は…」

 

「!」

 

「ワシが殺す」

 

殺意に満ちた信長の言葉にモモンガは少しだけ怖くなる。

 

「…まぁ、俺が言えることは…少なくとも死んで戻って来ることはしないでくださいね、プレイヤーが蘇生できるかどうか分からないんですから」

 

「うむ、善処しよう!」

 

「約束ですよ」

 

「うむ!」

 

 

 

 

 

 

 

ーネイアー

 

王国の通りを一人の少女が歩いていた。

 

取り立てて可愛らしい顔立ちではない。

 

誰もが振り返るような容貌ではないが、悪い意味で人目を引くところはあった。

 

というのも、吊り上がった切れ長の目は黒目は小さく、常に睨んでいるような目つきの悪さと、更に目の下にあるクマがどことなく裏街道の住人のような恐怖を漂わせるためだ。

 

人混みを歩くには便利だが、都市門などでは念入りに持ち物を検査しれてしまう。

 

そんな少女、ネイア・バラハは空を見上げる。

 

どんよりとした厚い雲が一面を覆っている。

 

ネイアは立派な宿屋に入ると扉をノックする。

 

「ネイア・バラハ、ただいま戻りました」

 

扉が開かれたので中に入る。

 

廊下の先に大きな部屋が見え、中には長いテーブルが中央にどんと置かれており、そこに団長の姿があった。

 

団長レメディオス・カストディオと副団長グスターボ・モンタニェスが腰をかけている。

 

そして壁沿いには使節団員17名が直立不動で並んでいた。

 

「どうだった?ネイア」

 

「申し訳ありません。先方に時間がないと断られました。最低でも二週間は欲しいとのことです」

 

「ッチ」

 

レメディオスざ舌打ちする。

 

「そうか、寒い中、ご苦労だった。それでは部屋に戻り、英気を養ってくれ」

 

「はっ!」

 

ネイアは足早にここから離れようと思うが、その前にレメディオスから呼びかけられた。

 

「ネイア・バラハ」

 

「はっ!」

 

「我々がこうしている間にも第六天魔王が率いる亜人どもの軍勢によって多くの人々が殺されているのだ。更には大都市が既に四つも陥落している。小さな都市や村々に至ってはいくつ落とされたか想像もつかない」

 

四つの都市とは大聖殿と言われる聖王国の信仰の中心に当たる神殿が存在しており、政治の中心たる首都がある。

 

「更には多くの生存者が捕らえられ、村や都市に作られた収容所に送られていった。そこで行われていることは血の凍るようなことだという」

 

「はっ!」

 

収容所は周囲を壁に囲まれており、潜入できた者が皆無なため、実際どのようなことが行われているかを目撃した者はいない。

 

ギリギリまで接近して内部の様子を伺った者の話によれば苦痛のうめき声や悲鳴が聞こえてきたという。

 

「お前はそれを知りながら、このような結果を持ち帰るとは何事だ?本当に努力しているのか?そうであれば結果を出すんじゃないのか?」

 

「はっ!申し訳ありません」

 

確かにそれはその通りなのだが

 

(…であれば、捕虜となった民を救えない聖騎士団の団長は何なの?)

 

そっくりそのまま同じ言葉を返したい気持ちが湧き上がる。

 

「団長、青の薔薇様がたが参られます」

 

副団長の言葉にレメディオスはそうかと言って席に座り直す

 

しばらくすると、蒼の薔薇の一団がやって来た。

 

聖王国でも名が知れ渡っている面々の登場にネイアの心はすこしだけ興奮していた。

 

自分には到達できない高みにまで登り詰めた同性の偉人。

 

「お招き頂きありがとうございます。私たちが蒼の薔薇と申します」

 

立ち上がって出迎えたレメディオスが軽く頭を下げ、感謝の意を告げた。

 

それから早速、ヤルダバオトの話に移る

 

「そちらの国で暴れているヤルダバオトのことだが、ヤルダバオトに関する情報を全て欲しいと言われても少しばかり、雲を掴むような話だ。まずはこの国で何があったか詳しく話そう。その前にヤルダバオトという悪魔と第六天魔王と呼ばれる悪魔はこんな格好をした奴らで間違いないか?」

 

イビルアイ はテーブルの横にあつわた文机から紙とペンを取ると、サラサラと描き始める。

 

しかし、出て来た絵はどう考えても子供の書いたような絵にしか見えなかった。

 

レメディオスが「いや、ちが…」と言いかけたが、言い終わるより早く双子の片方が絵を回収して破く

 

「何をする!」

 

イビルアイは激高するが、サラサラと描いて見せた完成品を突きつけたのを見て黙る。

 

そちらの方がかなり上手かったのだろう。

 

見れば、確かに言葉では説明しにくい服装だ。

 

見たこともない異国服、奇妙な仮面

 

「仮面をした男がヤルダバオトで、この炎のような赤い髪をした女がヤルダバオトが王と仰ぐ第六天魔王だ。こいつらで間違いないか?」

 

その言葉にレメディオスが怒りの表情で『こいつらだ』と口にする。

 

「ならば、これで一つは確定だな。こいつらは同一悪魔たちだ。あんな化け物どもがポンポン入られても困るからな」

 

「…他にも黒い髪の女が魔王の横に控えておりました」

 

「それについては初耳だ…増えたと取るべきか、それと短髪赤い髪で鎧を着た長槍を持ったこの男もいたか」

 

そう言うと先ほどの双子が見せてくる

 

化け物と言われるに相応しい異形の男

 

それからイビルアイ は王都で起こったことを一通り話し始める。

 

「王都でこの魔王は復活した。ヤルダバオトの話から察するなら、この魔王は力を大部分失っており、王都の人間を沢山殺して食らっていた」

 

そして、魔王の下にヤルダバオトがおり、その下にメイドがいるという話になった。

 

ネイアはその情報に息を呑む

 

「それで、皆さまのご判断では、ヤルダバオトや第六天魔王の難度はどの程度と推測されているのですか?」

 

グスターボの質問にイビルアイは声を発する。

 

「先にこれだけは言っておく、今から言う数値はあくまでも推測に過ぎない。それ以上もそれ以下もある、あの悪魔…ヤルダバオトの難度はおそらく二百。その王と言われるあの魔王の難度はおそらく五百以上だろう」

 

「二百と…五百」

 

喘ぐような声を発したのはグスターボだ。

 

ネイアも同じような喘ぎを上げようとして、かろうじて堪える。

 

それからレメディオスは聖王国に蒼の薔薇のメンバーが来てくれないかという話になったが、イビルアイに断られ激高する

 

「…この国の貴族たちが力を貸せない理由はすこし違います。皆さんは魔導国に関してはどこまでご存知ですか?」

 

王国の都市を一つ奪い、建国した国。

 

そして、その国はアンデットと人間なのか悪魔なのかわからない宰相が支配する恐ろしい地だということが聖王国の人間の認識だ。

 

その言葉にラキュースは苦笑いを浮かべる

 

「そうですね、あらかた合ってはいますが、少しだけ間違っているところもあります。アンデットに支配されてはいますが、人間もまた安全に暮らしているそうです」

 

「魔導国という目の前の問題があるのに、そちらの国の支援は難しいということです。それに魔導国との一戦において非常に多くの死者が出ました。その影響は将来的にかなり大きな問題になるでしよう。裕福そうに見える貴族たちもそこまで余裕がないんですよ」

 

「そうだとしても!」

 

頭に血が上っているレメディオスをなだめるグスターボ

 

「なら、そのヤルダバオトに誰が勝てる?!」

 

蒼の薔薇が無理ならと言うと

 

「あのチームなら勝てる可能性があるだろう。あのヤルダバオトを撃退したモモン様達【漆黒】だ」

 

「おお!そうか!」

 

「ちょっと待ってください。カストディオ団長…その方達は…」

 

「聞いているのか。そうだ、あの魔導国にいて魔導王の配下に入ったそうだ。だから説得する相手は魔導王となるだろうな」

 

「げぇ!」

 

苦悶は声をレメディオスが上げる。

 

ネイアにもその気持ちはよく分かる。

 

アンデットに助けを求めるなど、聖王国の人間としてはかなり複雑だ。

 

従者ですらそう思うのだ

 

「それがヤルダバオトを倒すためには最良の手段だというのであればそうしよう。いや、そうする他ならない。良かったらそのモモン宛に…」

 

「モモン様宛に、ですね、団長」

 

「う、うむ!モモン様方に紹介状を書いてくれないか?」

 

 




次回は冒険者・ノッブが蒼の薔薇の面々と任務をこなす話とかになると思います。

しばらく夏休み〜なので連続投稿します

盛大に誤字ってましたので直してます。


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『魔導国での交渉』

ネイア達が魔導国に入る話です。

同時平行で書く小説を少しずつ書いてあります。基本的に獅子王様やノッブの話メインにいろいろ書いてあります。

冒険者の話も書いてましたが、先にこっちを投稿します。


ー魔導国近辺・ネイアー

 

蒼の薔薇との会合の後、ネイア達聖王国の使節団は早々に王都を出立した。

 

王国には聖王国を助けてくれるような相手は最早いないと見切りをつけたことと、ヤルダバオトの本当の姿に関する情報を集めるのは数ヶ月はかかるということ

 

ヤルダバオトに唯一勝ち得る存在である【漆黒】のチームへの足掛かりを掴んだためだ。

 

そして、何より聖王国で苦しんでいる人々のことを考えれば、何かしなくてはならないという心が焦るためだ。

 

馬を最大限休ませる程度で、時には魔法を使いながら、普通の旅人では無理な速度で、一行は街道を東に向かう。

 

王国最後の村を通り過ぎ、やがて魔導国との緩衝地帯に入る。

 

「あ、団長。石畳が見えてきました。そろそろ魔導国の領内に入るようです」

 

街道の途中から突然、石畳が始まっている様子はなんとも奇妙なものがある。

 

「そう、それならこのまま一気に魔導国に行くか?それとも野営するか?」

 

ネイアは空を見上げる。

 

「…何事も起きなければ、日が落ちるまでに辿り着くかと思います。ただし、結構な強行軍になるでしょう」

 

「少し相談してくる」

 

レメディオスが手綱を引き、馬の足を遅くし、グスターボと話し始めた。

 

しばらく走っていると、遠くに魔導国の首都、エ・ランテルのかの有名な三重城壁の最外壁が見えてきた。

 

そして、そこに構えられた立派な門

 

ただし、ネイアの目を奪ったのはそのどちらでもない。

 

手がくじ付になったのは門の左右に立つ、超巨大な像だった。

 

それは奇怪な、蛇のようなものが絡み合った杖を持つアンデットの姿だ。

 

あれこそが魔導王のアインズ・ウール・ゴウンを象ったものなのだろう。

 

「従者バラハ。そろそろ隊列を変更する。後ろに」

 

そこに後ろからグスターボが声をかけてきた。

 

「はっ!」

 

旅の間はネイアが先頭だが、町の近くに来ればネイアのいる場所は一番後方となる。

 

「カストディオ団長、先触れを走らせますか?」

 

レメディオスはそれに同意し、聖騎士の一人を走らせる

 

「団長!魔導国の門番に伝えて参りました。相手は歓迎するとのことです」

 

「そうか!わかった。それでは行くぞ!旗を掲げよ!胸を張れ!」

 

その声を皮切りに、一同はゆっくりと魔導国に向かって馬を進ませる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー魔導国・宰相ー

 

「………」

 

「………」

 

現在、魔導国の宮殿にて宰相・信長は積み重なった書類を見て呆れ果てていた。

 

「…山積みだ」

 

そう呟くと傍らに控えていたセバスが労いの言葉をかけてくれる。

 

セバス裏切りの件以降、セバスはナザリックにツアレと共に帰還したのだが、それ以降は宰相の補佐として務めることが多かった。

 

コーヒーを持って来てくれ、それを飲む信長

 

「信長様。失礼を承知で言います」

 

「ん?なんだ?」

 

「少々働きすぎなのではありませんか?冒険者としての仕事、宰相の仕事、魔王としての仕事。近年は冒険者としてのお仕事が少ないですが、宰相及び魔王の仕事が激務になっております。ここは少し…」

 

「いや、全部自分で増やした仕事だからな、少なくとも宰相としての仕事は続けたい。パンドラズアクターにも手伝ってもらっているし、弱音を吐いている場合でもないだろう」

 

そう言うとセバスは『左様ですか』と言ってくる。

 

「……それに、仕事をしていた方が忘れられる」

 

「?何をですか?」

 

その言葉に「なんでもない」と返す

 

書類の整理を始めると…

 

「信長様。ローブル聖王国の聖騎士団がやって参りました」

 

その言葉に信長は「そうか」と言って立ち上がる。

 

玉座の間の近くに行くと、モモンガが準備していた。

 

「信長さんも行って大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫だろう。魔王の方とは完全に分けているからな」

 

「…まぁ、信長さんが言うのなら信じますけど」

 

 

 

 

ーネイアー

 

玉座の間も建物から想像できたようにさほど立派なものではない。やはり、これも占領したまま手を入れずに使っているようだ。

 

しかしながら、座る玉座と周辺の階段は煌びやかだ。

 

そして、玉座の後ろにある国旗も非常に素晴らしい。何の糸で出来ているほかわからないが、単なる黒では出せない深みがある。

 

「それでは陛下が参ります」

 

メイドの一人がそう宣言する。

 

「皆、頭を下げよ」

 

レメディオスから指示が飛ぶ。

 

アンデットに聖騎士が頭を下げる、という選択肢を選んだレメディオスに対して、わずかな驚きを抱きつつ、異論などないネイアは跪いて頭を下げた。

 

ネイアは頭を下げ、目だけを動かして聖騎士たちの姿勢を必死に盗み見る。

 

(…どうやら大丈夫みたい)

 

もちろん、後ろ姿だけの判断なので、正面からだと自分だけ変という可能性もあるが

 

「アインズ・ウール・ゴウン魔導陛下及び魔導国宰相・織田信長様が入室です」

 

二つの足音が聞こえてくる

 

やがて玉座に腰掛けるような気配があった。

 

「許可が出ました。頭をあげなさい」

 

この辺りの呼吸は難しい。早すぎても遅すぎても失礼にあたる。ゆっくりと数秒数えて顔を上げる。

 

(あ、あれが魔導王…アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下…)

 

その玉座のすぐ横に立っているのは宰相の信長。

 

絶世の美女・アルベドが立っているのはその二人の下に立っていた。

 

(…怖い)

 

魔導王の姿に恐怖は感じなかったものの、となりに立っている宰相の目を見て恐怖を感じてしまう。

 

「さて、はるばる聖王国からここまでご苦労だったな、カストディオ殿。そして聖騎士団の方々よ」

 

「ありがとうございます。魔導王陛下」

 

「それでは単刀直入にだが、貴殿らに時間的余裕がないと思った。聖王国の現状を聞かせて頂きたい。嘘偽りなく、隠すことなく話してくれれば、我々魔導国としても貴国に有益な何かが提供できると思う」

 

了解したレメディオスは聖王国の現状を語る。

 

話は王国でグスターボが蒼の薔薇に話したように、結局はギリギリ持ちこたえているというところで終わった。

 

聖王国が崩壊寸前ということを他国の、それもアンデットの王には言いたくないのだらう。

 

「ローブル聖王国は現在、かなりヤルダバオト率いる軍勢に押されているようだが、崩壊は防げているのか」

 

宰相の言葉にレメディオスは固まる。

 

宰相はあらかた調べたのか、知っているように話し始める。

 

「…ご存知でしたか」

 

レメディオスの言葉に宰相は『近隣諸国の事はある程度調べている。まぁ、王国や帝国ほど知っているわけではないが』と伝えてくる、

 

「それで?南の方は無事だと聞いたが、そちらとは連絡を取っているのか?」

 

魔導王の質問にレメディオスは『取っております』と言う。

 

モモンを、モモン達チームを派遣してくれないかという話になる。

 

グスターボはヤルダバオトの危険性について話を始める。

 

「奴はかつて王国に被害をもたらした際には引き連れていなかった亜人の軍勢を手中にし、聖王国で暴れておりました。魔王の方がどれほどの力を秘めているか、あるいは、まだ完全復活していないのか不明な事は山ほどあります」

 

「つまり、お前が言いたい事は、姿を見せている今こそが奴らを殺せるチャンスだから、騒動の芽は早いうちに摘むべしという事かな?」

 

「左様でございます。さすがは陛下、そのためにも何卒、漆黒のチームの派遣をお許し頂けないでしょうか?」

 

「なるほど、納得がいく話ではある。確かにヤルダバオトは討つべきだろう」

 

「それでは」

 

「しかしながら、やはりモモンたちチームの派遣は難しい。ヤルダバオトが退治できたとしても、モモンたちチームの不在で我が国の政情が安定しなくなっても困る。それでどうだ?もう少し時間を稼いでくれれば、我が国の政情も安定しよう。その時にモモン達チームを派遣しよう。先ほどの話ではまだ戦えるという事だったよな」?」

 

「そ、それはそうですが…どれくらい後でしょうか?」

 

「ふむ…信長さん、どれくらいだ?」

 

「数年、あるいは、5年くらいあれば問題はなくなるはずだな」

 

「だそうだ。問題はないかな?」

 

五年、と口の中で転がしたグスターボが小さく首を振った。

 

「それは少し時間が…」

 

「なるほど、確かに貴国の事を考えればだな、それでは2年はどうだ?」

 

五年からだいぶ短くなっている。

 

聖王国が救われる可能性が目の前に来ている。

 

死すらも覚悟したネイアは息を吸い、声を発した

 

「大変申し訳ありません。魔導王陛下、宰相殿下」

 

「…誰だ?」

 

「私は聖王国の聖騎士団従者を務めております。ネイア・バラハと申します。無礼を承知で言わせていただければ、もっと早く、モモン殿を派遣していただけないでしょうか?」

 

魔導王が考え込む姿勢をとる。

 

「ネイア!従者ごときが魔導王陛下に嘆願な…「最後まで言わせてやれ」っ…!」

 

レメディオスの叱責を途中で止めたのは魔導王の隣にいた宰相で、先ほどの恐怖は微塵も感じなかった。

 

魔導王も宰相の言葉は止めないのか、黙ってこちらを見ていた。

 

「ネイアとか言ったな、ではどれくらいでモモンを派遣してほしい?」

 

「一日でも早くしていただければと思っております」

 

ネイアの覚悟を決めた表情に宰相は笑う

 

「良い部下を持った、な」

 

それから宰相は何度か魔導王と小耳で何か話していた。

 

モモンの派遣は少し短くなり、ネイアは頭を下げて聖騎士団と共に退出する。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー信長ー

 

「え?留守番?」

 

玉座の間から離れたところでモモンガから留守番するように言われた信長は『魔王としての仕事は…』と言うと

 

「パンドラズアクターに変わります。濃姫と森長可は下がらせてください。さすがにあの二人をパンドラが制御できるとは思えないので」

 

「…分かったけど、なんで急に変わるなんて」

 

「セバスから聞きましたよ、多忙すぎるって」

 

「!」

 

「俺の所為でもありますけど、国家の運営をアルベドや信長さんに任せきりな所もありますし…少しでも休んでほしいんですよ」

 

モモンガが小さい声で「……信長さんまで倒れて欲しくないですし』と口にする。

 

そんな様子のモモンガに信長はため息をつき「それじゃ残るかのぅ、その前にデミウルゴスとパンドラに引き継ぎするから、その後にしてくれんかの?」と言う

 

「はい、お願いします」

 

そう言って信長が姿を戻し《転移門》を作る

 

「気を使わせてすまんな」

 

笑顔で振り向き、転移門をくぐる。

 

 




ちなみに、ノッブの像は魔導国に立っていません。理由は建てると魔王信長か冒険者ノッブと似てると感づく人がいるか、あるいはノッブの弟やらそういうやつらがいる可能性があるからです。


アインズ様のお母さんってお弁当を作っている最中に倒れて死んじゃているので、信長さんの働き方を心配になったアインズ様が気を遣ってます。

モモンガさんにとって、ユグドラシルを最後まで辞めなかった信長さんのことをかなり大事に思ってます。まぁ、他の仲間たちも無論大事ですが、困った時にサポートしてくれる信長さんを最近は大事に思ってます。


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『魔導国の宰相』

ちょくちょくアインズ様目線に行ったりノッブ目線になったりします。

聖王国編やっと読み終えました。いやぁ、なかなかに面白かった。

レメディオスの性格がどんどん凄くなって行って笑った。


ーナザリック地下大墳墓・信長の自室ー

 

信長はデミウルゴスとパンドラを呼び、聖王国での任務の引き継ぎをしていた。

 

「よし、これくらいで問題ないか?何かあったら遠慮なく言ってくるんじゃぞ?パンドラにデミウルゴス」

 

「はい、かしこまりました」

 

「お任せくっださい!」

 

元気いっぱいのパンドラにじゃっかん引くデミウルゴス

 

信長はパンドラを見て立ち上がる

 

パッと立ち上がる二人

 

カツカツとヒールの音が響き渡る。

 

近くまでくるとパンドラを優に見下ろしてしまう。

 

パンドラは緊張しているのか、いつものテンションではなくドキドキしているようだった。

 

「パンドラ、デミウルゴス。主ら働き者じゃ!ここまで働かせてすまんな!聖王国での仕事が終わったら褒美を遣わそう!何がほしいか考えてくれ!一緒に風呂でも食事でも構わんからな!」

 

盛大な爆弾発言をし、デミウルゴスとパンドラの横を通り過ぎる

 

唐突な褒美と『一緒に風呂でも食事でも』という文章に二人の頭脳をもってしても処理が追いつかずフリーズしていた。

 

「!?ど、どどとうしましようーー!!?デミウルゴス様ぁぁあ!!!」

 

「落ち着きなさいー!!」

 

錯乱する二人の叫び声が木霊する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、モモンガさんに休暇をとるように言われたけど、何をするか」

 

セバスが片時も離れないようそばに控えていた。

 

「信長様。バハルス帝国から手紙が届きました」

 

「手紙?誰から?」

 

メイドが持ってきて渡してくる

 

ドカっと椅子に座り、手紙の宛名を見ると…

 

「……フールーダ・パラダイン…。面倒くさい奴から手紙来たなぁ…破いて…」

 

「一応内容を確認したほうがよろしいかと」

 

セバスの言葉に「くだらない内容だったら破り捨てる」と言って読み始める。

 

「…帝国の属国化に伴い、帝国の視察か…んー…これ、モモンガさんと共有すべき事な気がするのぅ…後回しにしても良いと思ったのだが…よし!行こう!」

 

「いつ頃出立されますか?」

 

「早くて明日か、二日後くらいにしよう。それくらいの方が良いだろうしのぅ」

 

「よし、それまでの間は国の管理を…」

 

「今日はもうお休みください。深夜までやるおつもりですか?」

 

「……寝ます」

 

セバスの圧に素直に言う

 

 

ー温泉

 

「……ふぅ」

 

信長は女性風呂に入るにあたり、アルベドやらシャルティアやら濃姫やらに入って来られるのはちょっと嫌だったので、メイド以外は立ち入り禁止にして入浴していた。

 

目の前に浮くワインとお酒を飲みながら温泉に浸かっていた。

 

(…国の運営に思いのほか手こずったなぁ…あの世界と違って亜人や異形種もいるし…一筋縄ではいかないなぁ…)

 

いろいろ試行錯誤を繰り返し、亜人と人間が共存するにはどうしたら良いか思案していた。

 

だれかに相談出来れば良いのだが、相談できるのはモモンガか沖田くらいしかいない。

 

他の仲間たちはみんな人間蔑視が強すぎて会話にすらならない。

 

(上手く行けているとは思うけど、帝国の属国化を考えれば一度、ジルクニフさんと議論したいなぁ…)

 

温泉にプカプカ浮かびながら天井を見つめると…

 

「信長様。言われていたシャンプーをお持ちしました」

 

メイドがドアの前で言ってくる。

 

「んー、ありがとう〜今行くからのぅ」

 

ザバァと風呂から上がり、シャンプーを受け取って体を洗った後外に出る。

 

さすがに全裸をメイドに見られながら着替える事は恥ずかしいのである程度着込んだら、髪の毛や洋服の直しをメイドにやってもらっていた。

 

廊下を歩いていると…

 

「あ、ノッブお風呂上がったんですね」

 

廊下の曲がり角から沖田がひょっこりと顔をのぞかせてくる。

 

二人でいろいろ話しながら歩いて、自室に戻る

 

 

 

 

 

 

 

 

ー聖王国・馬車内ー

 

「私の友人は…今、宰相をやっている彼は実に頭脳明晰で戦闘スキルも高いのだ」

 

ネイアは馬車内で楽しげに話す魔導王の言葉を黙って聞いていた。

 

ネイアの家族について魔導王は申し訳なさそうに頭を下げられたのは心臓が止まるくらい慌てたが、魔導王の話す事はとてもごく普通の人のような話にネイアも着いて行けた。

 

魔導王の友人、あの宰相の事だろう。

 

(…いろいろ知りたいけど、やぶさかだろうな…)

 

下手に踏み入って良い内容ではない気もしたのだ。

 

「戦闘スキルは宰相殿下の方が高いのですか?」

 

「魔法については私が有利だと思うのだが、剣の才能・近接戦での戦闘では私は勝てないだろう。懐に入られたら負けるな」

 

「…不躾な質問だと思いますが、ヤルダバオトとの戦いでは…」

 

「あぁ、言葉が足りなかったなすまない。私を殴り飛ばすことが出来るのは友である彼しかいない。ヤルダバオトには決して負けるつもりはない」

 

「さて、そろそろつく様だぞ?」

 

「!は、はい!」

 

 

 

 

 

 

ーエ・ランテルの王城ー

 

「…病院とか出来たら良いな、温泉とか」

 

信長は宰相の姿で町を見下ろす。

 

「病院と温泉ですか?」

 

後ろに控えていたアウラとマーレ、セバスが興味津々にしていた。

 

「病院や温泉があればある程度、人の流通はあるだろうし、観光地かすれば移住者も増えるであろう?」

 

「なるほど、人を増やすんですね!」

 

「…いやまぁ、うん、そうなんだが…」

 

バハルス帝国とリ・エスティーゼ王国のどちらかを見本にすると言ったら帝国を見本にした方が良いだろう。

 

「リ・エスティーゼ王国のように原始的にはしたくないから、な」

 

「確かに!あの国はいろいろ酷いですからね!」

 

「であろう」

 

「はい!」

 

アウラとマーレの頭を撫でていると…

 

「信長様。馬車の用意ができました」

 

「うむ、行く、ぞ」

 

「はい!」

 

「は、はい!」

 

「かしこまりました」

 

 

 

 

 

 

ーバハルス帝国ー

 

帝国が魔導国の属国になってから帝国は特に変わりなく時が流れていた。

 

「宰相殿下が視察に来るんだろう?一応念のために警備はちゃんとしておけよ」

 

「はい、心得ております」

 

「1日2日の滞在と言っていたからな、相手はレイナース頼んだぞ」

 

「はい、わかりました」

 

レイナースはそう言って部屋から退出する。

 

 

 

 

 

帝国四騎士の一人・レイナースが自分付きの従者となり、一時的に帝国内を案内する事になったらしく、頭を下げてくる。

 

(顔立ちは普通にいいけど、なんか無愛想というかなんというか…まぁ、こういうタイプがいて新鮮なところもあるけど…)

 

馬車内から帝国の様子を眺めていると…

 

「……宰相殿下、失礼ながら少しお聞きしたいことがあります」

 

「ん?なんぞ?」

 

目の前に座っていたレイナースは何か覚悟を決めたように話し始める。

 

「…宰相殿下は魔導王陛下のように魔法を使えるとお聞きしました。カッツェ平野での戦いで、将棋倒しになった帝国兵達を蘇生させたと」

 

「あぁ、そのことか」

 

この世界にとって蘇生魔法を使える者は数少ない。

 

蘇生魔法を使えるという事は魔法詠唱者としての実力もあるとみられるらしい。

 

「予はモ…アインズ程の才能はない、ぞ?」

 

モモンガほど魔法の数を覚えているわけでもない。

 

信長の覚えているのは蘇生魔法や呪い系統の魔法しか覚えていない。

 

ユグドラシル時代において信長はロールプレイをする際に『第六天魔王織田信長を演出するために呪い系統の魔法を覚えておこうかな』くらいにしか思っておらず、蘇生魔法に関してはモモンガが覚えた時に便乗した程度に過ぎない。

 

「…見苦しいものをお見せしますが、この呪いは宰相殿下にはどう映りますか?」

 

そう言ってレイナースが髪で隠れた部分を見せてくる。

 

そこは確かに酷い物であり、呪いをかけられたように見えた。

 

「ふむ、初めて見た呪いだな」

 

「…不可能ですか?」

 

「いや、簡単に解けるだろう、ぞ」

 

「!本当ですか?」

 

レイナースの纏っていた雰囲気が明るくなる。

 

(…女の人で焼け爛れたような呪いをかけられたら苦しいだろうな)

 

信長は「触るぞ」といってレイナースの髪に触れる。

 

(ここで無条件に呪いを解いて良いのかな…いや、モモンガさんだったら条件とか付けるだろうけど…呪いを解いたことに関して噂されたって別にどうでもいいし、彼女一人が裏切ろうとなんだろうとデメリットではないし…)

 

信長はそのまま魔法を解くと…

 

「解いた、ぞ」

 

「!はい!」

 

そういって窓に写った自分の顔を見て

 

「あ、あぁ…ありがとうございます…!宰相殿下…!ありがとうございますっ…!」

 

馬車内で器用に足を付き、深々と頭を下げる

 

「良かった、ぞ」

 

「は、はい、ありがとうございます。失礼ながら高額の報酬を…何か」

 

「あぁ、それに関しては何も要らん、ぞ?呪い一つ解くのにモノを報酬に貰うなど困ってはおらん。強いて言うのならば、これはあまり公にしないでほしいくらいだ、な」

 

どうしてあの人は良くて自分はダメなのかとか、そういう面倒なことになりたくないのでレイナースにそれとなく伝えると、深く頭を下げ、胸に手を当てる

 

「かしこまりました」

 

 



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『聖王国とバハルス帝国』

アインズ様目線も入ります。

基本的に駆け足っぽいと思います。ごめんなさい


ーアインズー

 

聖王国に着いてから収容所の解放や聖王国の兵の面々などといろいろ話し、なんとか一人になるとアインズはゆっくりと崩れ落ちる。

 

比喩ではない。

 

極限まで心労が溜まったアインズは、アンデットながら精神的疲労により、両膝を床に着いたのだ。

 

(…どうするんだよ、ここから先をどうすればいいんだよ…)

 

基本的にアインズの行動はデミウルゴスの書いたシナリオ通りに行動してきた。

 

ここにくる過程で信長さんにもいろいろ聞いたのだが、信長さんは魔王としての仕事しかしていないので、魔導王が来た場合のシナリオなど微塵も考えていなかったらしく《伝言》越しで「それはデミウルゴスと相談して…ごめん」と謝られてしまう。

 

ぶっちゃけた話、デミウルゴスからの作戦のマニュアルのほとんどが、流れでよろしくと書かれているような代物だったのだ。

 

デミウルゴスはおそらく『アインズ様であれば、より素晴らしい結果を出されるので、自分たちごときが行動や言動を縛るのは不味い』などという考えが透けて見えるとどうしようもなくなってしまう。

 

(…常識的に考えて、他国の王が単身でくるかよ…)

 

「…しっかりしろ、俺」

 

そう言って立ち上がる

 

(信長さんに負荷ばかりかけてるんだ。俺も少しくらい動かないと…)

 

信長は自分で仕事を増やしたとしても、それを裁くだけの才能がある。

 

リアルで社長をしていただけあって、部下のまとめ方も上手いし、国の運営にも文句なしで行なっている。

 

(…信長さんが凄い分、みんなからの羨望の眼差しが凄すぎるんだよなぁ…)

 

信長と並んだ際には、必ずデミウルゴスやアルベドが『おふたりの話し合いを邪魔してはならない』と言われる始末だ。

 

(信長さんって馬鹿っぽい演技してるだけで、実際はアルベド級だからなぁ…無理だよ)

 

戦闘に関しては超が付くほど猪突猛進なのだが、それ以外は普通にこなしている。

 

事実、宰相の仕事と魔王の仕事を両立している

 

(確か、今は帝国に行っていろいろジルクニフと話した後にエ・ランテルに行って温泉作るとか言ってたな…温泉を作るって完全に昔にあった。建築ゲームをやりたいと思ったからやってるよな…)

 

いろいろ悩みながらモモンガは呼びにきたネイアに答えて部屋から退出する。

 

 

 

ーバハルス帝国・信長ー

 

バハルス帝国は魔導国から宰相がくるという話になり、宰相が通る道は通行禁止にし、空にもかなりの警戒態勢に入っていた。

 

(苦手だわぁ、マジでフールーダは苦手すぎる)

 

信長はレイナースと交代するように乗ってきたフールーダにサブイボを立てる。

 

魔法のことになると人が変わったように乙女のような、そんな気味の悪いものに変化するのだ。

 

帝国内において彼は閑職に追いやられたらしいが、魔導国の属国になるにあたり、いつもどおりの役職に戻っていた。

 

「師から様々な物を承り、それを魔法の探求のために続けております!師に是非とも礼を…」

 

後半から同じようなことばかり言っていたので、話を聞いているフリをする。

 

「宰相殿下」

 

「なんぞ」

 

「魔導国にて娯楽施設を作りたいと言っておられましたが、何の為に作るおつもりなのですか?」

 

「あぁ、それのことか、予が娯楽施設を作りたいと思ったのは、市民が国のために働き、日の疲れを癒すことの出来る施設があることにより、日々を頑張ろうと国のために尽くそうと思ってもらうためだ」

 

「左様ですか、しかしながらアンデットによる労働力もあるのではありませんか?」

 

魔導国には確かにアンデットがおり、仕事の大半はアンデットが行うことがある。

 

「無論、アンデットによる労働力があれば当然国としての弱体化はないが、問題は働かない者達が今後増えて行った場合の可能性だ。国として機能していたとしても中身が死んでいたら、それは膿と変わらん。上ばかりか働き下は怠ける。それで成長などありえん」

 

フールーダに協力して貰いたいのは人間側の視点で魔導国に来てもらい、働く姿を人間に示して欲しいのだ。

 

「働きアリの法則というものを知っておるか」

 

「働きアリの法則ですかな、聞いたことはありませんな」

 

「アリの前に仕事が現れた時、まず最も腰の軽いアリが働き始め、次の仕事が現れた時には次に閾値の低いアリが働く、と言う形で、仕事の分担がなされている。仕事が増えたり、最初から働いていたアリが疲れて休むなどして仕事が回ってくると、それまで仕事をしていなかった腰の重いアリが代わりに働きだすという意味合いだ」

 

「なるほど」

 

深く納得しているフールーダ

 

「人間に疲労というものが存在している以上、その疲労を回復させる物は必要なのだ」

 

「それ故に帝国の者たちを連れてきたのですね」

 

「まぁ、そんなところだ」

 

魔導国内で行う方が効率は良いかもしれないが、人間蔑視が強いナザリックではとても上手く行くか分からないので、人間国家であり、それなりに有名だった四騎士のいずれかを連れてくることが出来れば万々歳なのだ。

 

「信長様。そろそろ魔導国に入ります」

 

「うむ」

 

 

 

 

 

ー聖王国・アインズー

 

「この場は魔導王に任せる!我々は戦局が切迫しているところに援軍に向かうぞ!」

 

レメディオスが命令を発し、民兵たちが戸惑いながらレメディオスに着いて行く。

 

誰も居なくなったガランとした空間を眺め、アインズはぼそりと言う。

 

「…え?あの野郎、本気で俺だけに任せやがった」

 

今しがた起こったあまりの事態に、アインズは思わず素が出てしまう。

 

(…助けに来てくれた相手に全て任せるとか、せめて数回くらい遠慮がちにこの場を任せて良いかとか尋ねるとか…それも無いなんてどういうことなんだ?)

 

イラッとしたものが湧き上がる。

 

(信長さんが言うように、アンデットだから下に見る奴がいるのか…わかってはいたけど、あんな露骨にされると嫌だな)

 

事実、聖王国の聖騎士団が魔導国に来た際に、アンデットである己に対する目線と怨霊という種族ではあるものの、人間の見た目をしている信長に向ける視線は違った。

 

「やはり、少し不快だ」

 

思わずアインズがそう呟くと、耳障りな笑い声が聞こえてくる。

 

「ヒヒヒ、置いて行かれたようだな、哀れなエルダーリッチ」

 

「黙れ」

 

猿のような亜人を簡単に魔法で打ち倒す。

 

「ああああ!!!死ねぇええ!!」

 

三つの槍がアンデットに飛び、全て搔き消える。

 

「は?」

 

目の前で起こったことが理解出来ないであろう亜人が呆然としていた。

 

「……時間を与えた結果がこれか。これが切り札のはずだな?ふむ、警戒のためにお前に一手譲る必要もなかったか。ならば時間がない、とっとと死ね《魔法最強化・現断》」

 

 

 

 

ー聖王国陣営ー

 

室内にいる者は全部で四人。

 

戦闘後、その足で来たために血に濡れた鎧に身を包む聖騎士が二人いた。

 

レメディオス・カストディオとグスターボ・モンタニェス

 

そして、生き残っていた神官長と王兄カスポンド・ベサーレスである。

 

「それでは被害状況を聞こう」

 

「はい、戦場に立った民兵約六千人のうち、約二千四百人が死傷しました」

 

「はぁ…彼に全てを、この国の全てを賭けても構わないか?それと…魔導王がヤルダバオトに負けた場合を想定しておくべきか?その場合…」

 

「であればモモンを呼んで来たらどうだ?」

 

レメディオスを除く三人が難しげに顔を見合わせた。

 

「なんだ?それ以上にいい考えがあるのか?あんなアンデットよりはまだマトモだろう。」

 

「団長。この状況下で魔導国に言ってさらなる援助を期待するのは危険かと」

 

「あの宰相に話を付けて送ってもらうのが最適だろう。それか、あの宰相に来てもらうとか」

 

「団長!それはあまりにも愚策です。魔導王陛下は宰相殿下を自国に残しておくことで周辺諸国へ牽制しています。魔導王がアンデットだからと言って今更変えるなど」

 

レメディオスの危険な考えにグスターボは思わず怒鳴る。

 

そもそも、魔導国宰相は魔導王より危険な気配を感じていた。

 

こちらにある程度合わせていろいろ対策をとってくれる魔導王と違い、あの宰相は明らかにこちらに合わせてくれる気配などない。

 

弱みを見せたら最後、取って変わられる気がするのだ。

 

「…魔導国宰相についてはまた議論しよう。ともかく、魔導王の力でこの都市の陥落は防がれた」

 

ギリっと歯ぎしりが大きく聞こえ、カスポンドは困ったようにグスターボを見た。

 

「あとで聖王国を代表し、感謝を伝えに行かなくてはならない。その際には諸君らも参加してほしい」

 

 

 

 

 

モモンガは不快なレメディオスという女のことを忘れるために一度考えをリセットし、魔導国の王が死んだ場合、彼らがどう出るかという作戦を行うことにした。

 

ヤルダバオトと戦うとして、問題は首都で暴れる魔王の方をどうするかが問題だった。

 

《ワシそっち行くぞ?こっちにアルベドとコキュートスに任せて行けば良いじゃろうし》

 

魔導国の執務室から《遠隔視の鏡》を使って会話していた信長の言葉に

 

「信長様。流石に宰相を国から呼んできて対処するのは世間的に良くないかと思われます」

 

パンドラの言葉に信長が少し考え込む

 

《うーん、あ!じゃあ、魔王の方はモモンガが魔法を使って封印したという体にするのはどうじゃ?話を聞くに、魔導王の実力はヤルダバオト以上だと認識されておるだろうし、ネイアとかいう子も主を強烈に信仰しているから、その作戦は通ると思うし》

 

「…無理やりすぎると思いますけど」

 

《タイミングじゃ、タイミング。デミウルゴスとパンドラが息を合わせれば良いと思うが》

 

「…出来るか?二人」

 

「問題ありません」

「問題ありません!アァインズ様ぁ!」

 

「ところで、そっちは大丈夫ですか?」

 

《何も問題ないぞ〜!今、フールーダと四騎士の一人のレイナースを呼んで自国内で働かせておるところじゃ!》

 

「え?帝国の人たちをですか?」

 

《うむ!いろいろ作っておるんじゃが、人間に働いてもらうには帝国の人間が必要じゃからな!》

 

「分かりました。そちらは任せますのでお願いします」

 

《了解じゃ!》

 

 

話が終わった後、モモンガは退出してネイアの元に行く




ノッブの物語は出来るなら完結したいなぁと思ってます。

獅子王様の方は完結らしい完結が…


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『終結』

仕事を始めるまで連続投稿します。

身体壊したけど、だんだん治りつつあります。

聖王国はそろそろ終わりになります。

最初だけヒルマが王国で叫んでるシーンが入ります。


ーリ・エスティーゼ王国・裏組織ー

 

「ああああああああ!!!」

 

突然部屋いっぱいに響き渡った絶叫に男は一瞬硬直する。

 

八本指という裏組織に所属し、様々な物事を見聞きしてきた。その中でもこれほどの真っ黒な感情の爆発は見たことがない。

 

まさに、真なる憎悪。混じりけのない呪詛だった。

 

これが自分の敵対者から発せられたのであれば、彼もそこまでは驚かなかっただろう。

 

その声をあげたのは彼の仲間であり、同じ苦痛を、同じ苦労を分かち合う仲間である。

 

『仲間』これほど自らに無縁な言葉はないだろうと思っていた。

 

あの地獄を体験した後から自分たちの結束は高まったと思っていた。

 

二度と連れて行かれないために協力して仕事を行なった。

 

命がけで常に行っていた。

 

「ど、どうしたんだ。ヒルマ、何かあったのか?」

 

声をあげていた女が動きを止め、下から男を見た。

 

「もう!もう代わってくれよ!胃が痛いんだよ!あの馬鹿を見守っているのが!!なんだよあれ?!馬鹿の前に知性がないよ!?アイツ!」

 

彼らの集まりで馬鹿と言われる男は一人しかいない。これまで馬鹿という言葉を多く使ってきたが、本当の馬鹿を知ってしまい、簡単に馬鹿という単語を使えなくなったほどの男だ。

 

「どうしたんだ…またあの馬鹿が何かしたのか?」

 

溜まっていた鬱憤を吐き出すようにヒルマ早口で語り始めた。

 

「あぁそうだよ!魔導王陛下が亡くなられたという話は知っているよね?!」

 

「あぁ、勿論だ」

 

「アイツそれ知ってどう言ったと思う!?」

 

相手は馬鹿だ。それを考えて考えべきだ。しかし、普通の事しか思い浮かばない。

 

「……葬儀の話をしたとか?」

 

「それだったらここまで胃はキリキリしないよ!アイツ、今アルベド様と結婚したら魔導国が手に入るんじゃないだろうか、とか言ってたんだよ!」

 

「ひぃ」

 

思わず掠れた小さな悲鳴をあげる。

 

「ねぇ!?あの馬鹿、宰相殿下がいるって分かってないのかな!?馬鹿すぎるよ!!そもそも、魔導王陛下が死んだら宰相殿下が王の座を引き継ぐ流れに普通なるはずなのになさぁ!?そもそもさ!あの時もそうだよ!?宰相殿下に面と向かってアルベド様と結婚する方法なんて聞いたり!!」

 

あの時の宰相殿下は馬鹿の言葉を聞いて真顔になったのを思い出して胃が痛くなる。

 

「宰相殿下はあの馬鹿の言葉を犬の鳴き声程度に思ってくれたから良かったけど!!アルベド様に言った時の怒り狂い方はもうトラウマだよ!!」

 

「ヒルマ。もう少し、もう少し頑張ってくれ」

 

「ああああああああああ!!!!」

 

ヒルマが暴れまわる

 

 

 

 

 

 

 

ーネイアー

 

聖王国で最も強固に作られた城塞都市。聖王家直轄領であるカリンシャの解放は驚くほど簡単だった。

 

そして、魔導王の再来で成し得たのは、ヤルダバオトの王・第六天魔王を封印することが出来た。

 

警戒が緩んでいた第六天魔王をネイアとシズが引きつけ、魔導王が封印の魔法を使って封印を行った。

 

第六天魔王の封印されたものを管理するのは魔導王自らが行うことになった。

 

その過程でレメディオスはいろいろ文句を言っていたが、聖王国が所有したところで何も出来ないので最後は黙っていたが

 

ヤルダバオトの側近の不在。都市の大きさに比べて亜人側兵力の不足などが重なった結果だ。

 

無論、戦死者は双方とも多数出ているが、これだけの大きな都市を奪還したにしては聖王国解放軍側の被害は驚くほど少なかった。

 

その要因の一つは、先導したネイアの存在だ。

 

シズが陰に回ったからというのもあるが、見事な輝ける弓を装備したネイアには民を鼓舞する威厳があった。

 

一度死に、魔導王の力によって復活させてもらってからネイアの覚悟の持ち方は変わっていた。

 

そして今、ネイアは壇上に立ち、広場にいる観衆に熱く語りかける。

 

この世に魔導王ほど素晴らしい王はいないと

 

「このように魔導王陛下は比類なき御方です!これだけ民のことを考えてくれる御方が他にあるでしょうか!確かに皆さんが仰りたいことは分かります!カルカ・ベサーレス聖王女陛下も素晴らしいお方ですが、他国の民たちを救うべくここまで行動してくださったのです!」

 

ネイアの元に始めきたのは、魔導王に助けられたものたちだった。

 

魔導王の偉大さを知るという意味では同胞と言える。

 

「一国の王が危険を顧みず、他国の平民を助ける。そんな話はないのです!魔導王陛下だけなのです!」一泊置き、繰り返す「魔導王陛下だけなのです!そんな御方こそ、まさに正義の王というべきでしょう!」

 

「信じられるか!?アンデットだろ!?」

 

観衆から投げかけられたこんな質問にも優しく笑顔を浮かべる事が今はできる。

 

「そうです!陛下はアンデットです!不安に思うのも当然です。アンデットが恐ろしい化物だというのも事実です!私とアンデットの全てが良いという気はこれっぽっちもありません。アンデットの大半が邪悪な存在で、生者を憎む存在なのは間違いないでしょう」

 

自分の話に全員が真剣に耳を傾けていることを場の雰囲気から掴みつつ、ネイアは結論を強く言う。

 

「今回、あの強固な要塞線を打ち砕き、亜人達が雪崩れ込んできました。この悲劇は今回限りなのでしょうか?もう二度とこのようなことがないと思いますか?」

 

観衆の沈黙が物語っている。

 

「皆さんの不安、私にもよく分かります。私たちや皆さんの子供ぐらいの代までは大丈夫かましれません。悲劇を目の当たりにしたのですから、警戒は決して怠らないでしょう!」

 

「だからこそ、私たちは魔導王陛下の、魔導国の庇護が必要なのです!」

 

「なんでだ!アンデットと化け物の国だというのに!」

 

男が声をあげる。

 

「アンデットだからこそ、なんです。魔導王陛下は強く、何より不死の御方!」

 

 

 

 

 

カリンシャを奪還し、カスポンド・ベサーレスの仕事は急激に増えた。

 

救出された人々を加えた細やかな組織作りに着手しなくてはならなかったためだ。

 

更に情報の量が桁違いに増えたため、確認の分配まで考えると非常に時間がかかる。

 

そんなカスポンドの身辺警護役の聖騎士が話しかけてきた。

 

「カスポンド王兄殿下、ネイア・バラハの件、あのままでよろしいのですか?」

 

その質問がどういう意味を含んでいるものかを悟ったカスポンドは、書類から目をあげずに疲れたような顔で笑った。

 

「仕方ないだろ、あのまま放置しておけ、それと殿下だけでいいぞ」

 

「ありがとうございます。しかし、仕方がないというのは一体?」

 

「私たちが彼女の行動に圧力をかけて止めた場合、どうなると思う?」

 

「どうにもならないと思います。殿下、彼女のしていることは国内に不和をもたらします」

 

「なるほど、君は彼女の話は聞いたことあるかね?その様子ではないようだが、彼女の言葉に嘘はあったかね?」

 

「…嘘はありません」

 

「そうなんだよ、嘘を言っていたらありがたかったのだが」

 

 

 

 

 

 

 

ー聖王国・アインズー

 

詳細が決した後は簡単だった。

 

もはや亜人たちに戦意はなく、残党狩りをするようなものだった。

 

(…やっと、今回終わったな…よかった)

 

聖王国において問題は山積みだろうが、そこに関しては今解決すべき問題でもないだろう。

 

モモンガは正門都市側に歩いていると、馬車が一台だけぽつんと止まっていた。

 

その馬車の前にはネイアが待っていた。

 

その馬車に手をかけると

 

「魔導王陛下はやはり今日、お戻りになるのですか?王都解放に多くの人々が喜びの声を上げています。数日内にこの王都奪還を成し遂げた最大の功労者である陛下をお招きし、多くの人々が感謝の意を表明する式典などが行われてもおかしくないとは思いますが…」

 

ネイアの名残惜しそうな表情に信長さんの言葉がよぎる。

 

『あのネイアという従者は味方にしておくことに越したことはない』と

 

「あぁ、私は今日魔導国に帰る。宰相…友にいろんなことを任せてしまっているからな、あまり長居すれば、友の方から押しかけてくる可能性だってあるしな」

 

冗談めかして言うとネイアも笑顔で「それは困りますね」と言ってくる。

 

その瞳には友を侮辱したような色はまるで見えなかった。

 

「左様ですか、この国を救ってくださった陛下を聖王国の皆で見送らないことは残念です」

 

「カスポンド殿には伝えたからな、あまり派手にやられても困る」

 

「陛下…ありがとうございます」

 

モモンガは馬車に乗り込むと後ろでシズがネイアに親暇を立てていた。

 

「それでは魔導王陛下!」

 

走り出した際にネイアの大きな声が聞こえてくる。

 

「魔導王陛下に万歳!!」

 

「「「万歳!!」」」

 

人々の声が響き渡る。

 

 

 

 

魔導王の馬車が去って行くのをカスポンド・ベサーレスは王城から見送っていた。

 

()()()()()()()

 

「アインズ様、信長様のおふたりがこの地を支配するために繁栄させ、お二人の国として献上致します」

 

 

カスポンド・ベサーレス…いや、カスポンド・ドッペルは向きを変えて市民達の方を向く

 

王城にいるため、己の言葉は誰にも聞こえないようになっていた。

 

 

 

「もう少し、幸せを噛み締めてくれ、我が国の民たちよ」

 

 

悪魔のような笑みで市民達を見下ろす



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滅国の魔女【最終章】
『破滅の始まり』


オーバーロード 14巻で言う【滅国の魔女】に入ります。

王国目線、信長目線などいろいろあります。


ー信長ー

 

この世界に転移してから、かなりの年月が経過したと思っていた。

 

(…人間としての感覚だいぶ失ったなぁ)

 

この世界の種族についていろいろ調べたが、異形種はいても『怨霊』と呼ばれる者は居なかった。

 

というか、ゴーストという種族がいないのだ

 

(そう考えるとワシの種族って希少!?)

 

思わず真顔になると、報告していた沖田が『ロクでもないこと考えたでしょう』と言ってくる

 

「あ、おったの?」

 

「え?そこからです?」

 

「嘘じゃ嘘、相変わらずノリが良いのぅ」

 

笑顔で言うとため息をつかれる。

 

「それで、話の続きですけど、ローブル聖王国の平定のためにデミウルゴス様が動いてます。後、レメディオスっていう女の戦士がアインズ様にかなり不敬な行為を働いたみたいですよ」

 

「……すっごく不敬なことしてた」

 

沖田の隣にいたシズが言う

 

「んーそういう奴もおるじゃろ、例えば何言っておったんじゃ?」

 

「……『骨野郎』って言ってました」

 

「…思っクソ悪口じゃな〜それで、デミウルゴスから使える内は残しておくようにって言われたのなら残しておくんじゃぞ?処分の際はワシに伝えてくれ」

 

「わかりました」

 

沖田達と話が終わり、部屋から退出すると…

 

「信長様、デミウルゴス様とパンドラズ・アクター様がご面会を求めております」

 

「ん、良いぞ」

 

「はい」

 

(そういえば、デミウルゴスとパンドラに褒美渡すって話してたなぁ、何にしようかなぁ〜二人がいいなら一緒に風呂でもなんでも来い!だけど)

 

種族による変化ではなく、信長は中身が女でも今の自分はアバターである自覚があるため、他のNPC達の前で裸になったりとかしても特に何も同様はしなかった。

 

流石にメイドに裸を見られながら触れるのは嫌だったので断ったこともあるが、最近はそういうのを特になんとも思っていなかった。

 

「信長様、失礼いたします」

 

「失礼します」

 

入ってきた二人に笑いかける

 

「二人とも聖王国での仕事、ご苦労様じゃな。褒美をつかわそうと思うんじゃが、何が良い?」

 

「かなり考えましたが、何も思いつきません!」

 

パンドラの言葉にデミウルゴスが『至高の御方々にお仕えすることが至高の喜びでございます』と言ってくる。

 

「んー…それじゃあ、あれだからのぅ…よし!パンドラはモモンガさんと二人で出かけたり、話が出来れば良いか?とりあえず、モモンガさん呼び出すか!」

 

「!!信長様…!」

 

パンドラが止めようとした際に…

 

「信長さん、何か用ですか?」

 

「アインズ様!」

 

部屋に《転移》してやってきたモモンガに慌てて頭を下げる。

 

「モモンガさん!パンドラにご褒美として宝物庫で親子二人きりで過ごしてもらえんかのぅ?」

 

「…別に構いませんけど、パンドラ行くぞ」

 

「は!はい!ありがとうございます!信長様ぁ!!」

 

叫びながら居なくなるパンドラ

 

デミウルゴスとふたりきりになり、信長は立ち上がる

 

「さてと、デミウルゴスに渡したいものがあるんじゃが取り敢えず、着いて来てくれるか?」

 

「はい」

 

信長の自室に着くと、信長は浮き上がって物を探し始める。

 

「…あの、信長様。一体何を探されているのですか?」

 

「お主が一番喜ぶ物だぞ〜?」

 

「私が喜ぶ物ですか…」

 

「あったあった、これじゃ」

 

黒色の杯で、持ち手の部分には赤いリボンが装飾されていた。

 

「これは…?」

 

「ウルベルトさんが作った世界級アイテムじゃ。数百年前に流行った『聖杯』をモデルに作ったものじゃ。使う用途はそなたに任せるぞ〜」

 

「!ウルベルト様が作ったワールドアイテム!信長様のお手持ちの物を貰うなど…!」

 

「んー、まだいろいろ持っておるから大丈夫だぞ?それに、ウルベルトさんだって自分の子供に使って貰った方が幸せじゃろ」

 

「!は、はい、ありがとうございます。信長様」

 

感激しているデミウルゴスは仰々しく膝をつき、受け取る。

 

「このデミウルゴス。今後も信長様、アインズ様至高の御方々のために全身全霊を持ってお仕え致します」

 

「…うむ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーリ・エスティーゼ王国ー

 

ロ・レンテ城、ヴァランシア宮殿執務室。

 

歴代の王が執務してきた部屋に本来の主人たるランポッサ三世の姿はなく、代わりに第二王子であるザナックの姿があった。

 

ザナックは上げられた書類に目を通し、暗い表情で重いため息をつく、この書類に対して明るい表情を浮かべられる者は居ないだろう。

 

カッツェ平野の戦い。それとも虐殺と呼ぶべきだろうか、あの戦いで多くの民が死亡した。

 

とはいえ、王国が致命傷を受けたという程ではない。王国の民はおおよそ九百万、戦死者はその内の18万程度。被害は2%しかし出ていないとも言える。

 

それでも、死んだのは男の4%。それも働き盛りの男たちだ、その歪みがゆっくりと表れて来ているのが書面からも伺い知れた。

 

「おい、妹。森祭司の力でも冷害は難しいぞ」

 

冷害による王国の不作。

 

それによって餓死者が出てきてもおかしくないのだ。

 

同じ部屋にいた妹がボケるように

 

「あ、そうなんですか?そうなると不味いですね、ですけど問題は食料ですよね?でしたら十分にあるから問題になりませんね、よかったですねお兄様」

 

ザナックは笑顔のラナーとは全く正反対の表情を浮かべた。

 

「お前の言ってる食糧っていうのはあれのことだろ?あれには手を出したくないぞ?たくさん食べるとアンデットになるんじゃないか?」

 

現在、王国には魔導国からの支援で食料を受け入れている。

 

「ですけど、聖王国ではあの食料を口にしているわけですし、あれ自体は無害なんでしょうね」

 

「いや、そう思わせるのが狙いで、罠が仕掛けられた食料だけが王都に残されてるかもしれないぞ?」

 

ラナーは苦笑いを浮かべる

 

「本気でそう思われているわけではないですよね」

 

「まぁな、中身はチェックさせているからな」

 

王都の倉庫を利用することについて魔導国から伝えられた一応の名目は、聖王国支援のための物資貯蔵目的ということになっている。

 

ここから聖王国まで食料を輸送するという手はずだ

 

魔導国は馬車の自衛のために、輸送に使う荷馬車は魔導国のものと一目で分かるように旗を取り付けたいと申し出てきた。

 

無用なトラブルを避けたい王国としては、通行税や魔導国のアンデットを王国内に入れないなどいくつかの条件と引き換えに、これを呑んだのだが、これが間違いだった。

 

魔導国の旗を高々と掲げた馬車が隊列を作って王都内を歩くことになったのだ。馬車隊はそのまま街道を堂々と突き進み、聖王国への航路を持つ港に至るまでそれが続く。

 

魔導国に対する立場の弱さを内外にアピールするようなものだ。しかも、魔導国は素晴らしく支援に熱心で、この輸送は頻繁に行われるよだ。

 

こうして尊厳を一つずつひきむしっていけば、やがて王国は拳を振り上げるか膝をつくかの二択を迫られる形になる。

 

タチ悪いことに表向きは人道支援なので、王国はやめろとはいえない。

 

「我々が食料を支援出来れば、魔導王が稼いでいる好感度をそっくり貰えたんだがな、だが、あの状況下では絶対に無理だ」

 

もし、あの戦いがなければ

 

「正確にいえば魔導王ではなく、宰相殿下の好感度がですけど」

 

「わかっている」

 

魔導王の右腕である宰相がこの王国を通って聖王国に支援することを持ちかけてきた。

 

堂々と国旗を掲げさせ、あえて人間の傭兵に馬車を守らせることによって人間も等しく魔導国で暮らせて行けているということを

 

 

 

 

 

 

ーフィリップー

 

なみなみと注がれたエールをグイッとあおる。

 

領地では決して飲めない。しかしながら今では飲み慣れた一級品の味が喉を流れ落ちて行く

 

ヒルマに沢山の恩をかけてしまった。故にヒルマにある程度譲歩しなくてはならず、自分の望んだ事でも許可を得たりしなくてはならないからだ。

 

もっと、権力をもっと行使してみたい

 

「なぜうまく行かん!」

 

思わず心の声が口から漏れてしまい、周囲を見渡す。

 

(死ね無能どもが!)

 

苛立ちという感情の炎を消すように、フィリップはジョッキをあおる。

 

全然上手くいかない。

 

フィリップの当初の計画は今頃、領内の生産量は何倍にも膨れ上がり、自分が新しい領主になったことを感謝する者達で溢れているはずだった。

 

さらには周辺の貴族達もその結果を賞賛し、名君として噂される予定だった。徐々に領内の食料生産量が下がっているだけでなく、村を歩けば村人達が自分を蔑んだような目で見ているような気がする。

 

(無礼者どもが!)

 

 

 

 

 

 

 

ーナザリック地下大墳墓・信長の自室ー

 

信長は自室にて馬鹿貴族・フィリップの様子を巨大なモニターで見ていた。

 

ワインを飲みながら、肘をつき見ていた。

 

ある程度飲み干してしまい、少し横に向けると隣に座っていた濃姫がワインを注いでくる。

 

少し離れたところに座っていた長可がバリバリと肉を食べながら映像を見て

 

「脳みそ入ってんのかコイツ」

 

常にバーサーカーモードである長可が珍しく冷静にコメントする。

 

「実に滑稽じゃな、ワシもこうならんように気をつけねばな」

 

笑いながら言うと濃姫が「お戯れを」と言ってくる。

 

フィリップ男爵は二人の貴族(とは言っても自分と大差ない)を呼んで場末の酒場で大貴族のような話し方をしていた。

 

ソファーに深く座ると何故か濃姫もすり寄ってくる

 

「叔母上〜茶々も入れるのじゃ!」

 

その濃姫と信長の間に無理矢理入ってくる茶々

 

ここだけ見れば家族のように見えて信長は笑う。

 

「茶々はこちらにきなさい」

 

ヒョイっと濃姫の隣にズラす

 

「ムキー!」

 

分かりやすく怒る茶々

 

「コイツって王国の下級貴族なんだろ、自分がまるで王になったみたいに話すじゃねぇか、場違いだし、浮いてるって感じねぇのか?」

 

「下級貴族の三男で、本当なら当主になれると思っておらんかったんじゃろう。突然手に入った地位や金に目が眩んで、自分は何でもできると思っておるんじゃろ。自慢の領地経営も穴だらけだし、理想を現実で出来るもんだと勘違いしとるんじゃろ」

 

権力を今まで持っていなかった者が突然、富も地位も思いのままにできる立場になった際にどれだけの変化があるか、リアルでも山のように見てきたし、歴史上の人物にもかなりいた。

 

フィリップの場合は偉人達やリアルの人間と違い、莫大な金や権力ではないが、それに近いものを与えられてああなったのだ。

 

「見ているだけ愉快な奴じゃ」

 

 




【黒き聖杯】
ウルベルトがイベントで手に入れて、少し改良した世界級アイテム。
第10位階魔法を使えるアイテム。一度発動すれば国一つを飲み込むほどの泥(触れれば即死する)を出現させる。
レベル100のプレイヤーでなおかつ、種族が人間で神聖持ちのプレイヤーにしか壊せないので転移後の世界では、破壊出来る人間はいない。


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『王国の問題』

フィリップの話やらいろいろあります。

王国編からオリジナルが入ったりノッブの弟が出て来たりします。




ーフィリップー

 

メイド達はみな、ヒルマの世話になっている。

 

給金と支払いもしなくて良い娘達だ。今では家のこと全般を完全に任せている。他にも執事や御用商人までヒルマの世話になっていた。

 

出来れば、昔から家で働いている者達を解雇し、自分の部下だけにしたいのだが、父親がうるさく、諦めている。

 

父の我儘が許せるのも、ヒルマが金を出してくれているからこそなんとかなるのであって、もしこれが自腹だったら無駄な人件費削減のために絶対に辞めさせてやることだ

 

フィリップはぼんやりとそんなことを考えていると…

 

「おや、モチャラス男爵。ご機嫌がよろしくないご様子」

 

声をかけて来た方に目をやれば、そこには二人の貴族がいた。

 

「おお!デルヴィン男爵にロキルレン男爵!」

 

二人の貴族を迎え、お酒を飲み始める。

 

二人はつい最近貴族になったばかりで、その二人の貴族のリーダーを務めることができるのがとても嬉しく、この場を仕切っているような気持ちになった。

 

それから三人で経営についての話になり、魔導国から輸送されている食料についての話になった。

 

「それがですね、信憑性の高い噂ですが、魔導国はアンデットを使って広大な農地を耕しているそうです。なので食料の生産量はかなり膨大で、小さい領土でありながも、王国全土にも匹敵するそうですよ?アンデットは疲労も何も関係ないですからね」

 

「たんだそれは?!ずるいぞ!」

 

フィリップは我慢できずに怒鳴る。

 

自分が努力して領民達にやらせようとしても無理なことを、魔導王とあの宰相が軽々とやっているのが許せない。

 

自分が苦しんでいるように、魔導王と宰相も苦しめば良いのだ

 

「実際のところ、魔導王は宰相に全て任せているそうですよ、領内の管理は一応アンデットの王であるあの魔導王が行なっているようですが」

 

その言葉を聞いてフィリップは嘲笑う。

 

「魔導国の食料を失わせるためだからと言って、さすがに戦争を仕掛けるわけにも行きませんし」

 

ふと、フィリップの脳内に閃くものがあった。

 

まず、凶作が起きても農作物が一定の金額、安い金額でしか売れないというのは魔導国産の食料があるという前提条件のためだ、ではそれが無くなればどうだろうか

 

答えは一つしかない。『農作物の価格が上がる』

 

ならば次の問題だ。どうすれば魔導国が保有する農作物がなくなるのだろうか

 

魔導国の農業生産量が低下すれば良いだけだ。しかし、それは簡単な話ではない。流石にフィリップ一人で魔導国の領土に乗り込み、畑に火を放つなど出来るはずがない。

 

ならば、その農作物を奪うことは出来ないのだろうか

 

その答えに辿り着いた瞬間、フィリップは雷に打たれたかのような衝撃に襲われた。

 

他国の物資を奪う。常識で考えれば危険極まりない行為だ。将来ならともかく、今のフィリップでは一国を相手にして勝てるはずがない。

 

しかし、王国は魔導国を敵対国家とみなしているはずだ。戦争でかなり自国民を殺されたのだ。敵とみなしていなければそちらの方が変だ。

 

ならばそんな敵対国から食料を奪うことができれば、それは素晴らしい働きなのではないだろうか。

 

そういうことであれば王国の上層部もフィリップの味方をしてくれるはずだ。もしかしたら働きに見合うだけの地位に引き上げてくれるかもしれない。

 

(悪くないぞ、これはかなり良いアイデアではないだろうか?)

 

しかも、その上で食料を奪えば、商人達もモチャラス領産の農産品をこぞって買い付けるかもしれない。

 

「二人とも、いかがでしょう。良い話があるのですが」

 

「良い話ですか?」

 

「ええ、良い話です」

 

フィリップは二人に顔を寄せ、己の良いアイデアを得意げに聞かせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーナザリック地下大墳墓・信長の自室ー

 

「ブァハハハ!!!!」

 

信長の笑い声が響き渡る。

 

「愉快すぎる!ヒッハハハ!!襲って奪って、それを売りさばく?!いやいや、普通に考えてそんなことしたら戦争になると気づくじゃろうにっ!どんだけ自分のこと上の存在だと思っておるんじゃ!」

 

大笑いする信長に茶々が真面目なトーンで『…なんで考えられないんだろう、この馬鹿』と口にする。

 

「「馬鹿過ぎる」」

 

濃姫と長可が珍しく冷静になり、二人の声がハモる

 

「信長様。この男どうしますか?不敬にも魔導国の馬車を襲い、旗を踏む予定のようですが」

 

「んー、ワシはこのままこの馬鹿の計画を遂行させた方が良いと思うぞ、その方が王国に侵攻できそうじゃしな」

 

「かしこまりました」

 

「いやしっかし、場末の酒場でタダ酒しながら話す内容でもないだろうに、内容筒抜けだし、まともな頭を持ち合わせておらんのかのぅ」

 

「普通の貴族社会を知らないので無理はないと思います。この者達は一般教養を欠いた者達。いくら下級貴族であろうとこの酒場が貴族社会の象徴でも思っているのでしょう。小さな世界で大きな目的を遂行しようとしている自分は最高の存在と、子供の世界から脱していないのだと思います」

 

濃姫のキツイ言葉に茶々も『そう思う』と共感してくる

 

「はぁ、面白かったのぅ。一応モモンガさんに報告しておくか」

 

信長は立ち上がり、長可を連れてモモンガの部屋に向かうために歩き始める。

 

 

 

 

 

 

モモンガは友との話の時間を最近は何より楽しみにしていた。

 

ナザリックにいる時、正直言って心休まる時がないのだ。

 

皆期待の目で見てきて、特にデミウルゴスなんてすごいものだった。

 

(パンドラのいる宝物庫に行くことが最近増えたけど、その度にアイツ信長さんに感謝してるんだよなぁ、そのあと、俺にベッタリだけど…)

 

信長の話はたまにアルベドやデミウルゴスのような話になるので、わからなくなることはあるのだが、友に聞けば普通に説明してくれるし、話も繋げやすい。

 

そんな中、最近になって思ってきたのは友の変化だった。

 

ここに転移してきた時はさほど猟奇的でもなかったのだが、この世界にきてしばらくして、考えがやや猟奇的になっていっているというか、聖王国で収容所の中でいろんな実験をしているのを聞いて少しだけ心配になってくる部分もあった。

 

モモンガの後ろにパンドラが立ち、信長の後ろには長可が長槍を持っている状態で立っていた。

 

「王国の貴族が魔導国の馬車を襲うのを黙って見送る、ですか…」

 

信長の口から聞いたのは、魔導国の馬車をフィリップとかいう馬鹿が襲い、そこから戦争を吹っかけるという流れだった。

 

「正直言って戦争を吹っかける内容としては薄いとは思うが、難癖なんて幾らでも付けれるし」

 

「俺は別に他の策は思いつきませんけど…」

 

魔導国の旗を馬鹿な男に踏まれたくないと思っていると信長が微笑み

 

「んまぁ、ちょっと偽物にして掲げさせれば良かろう?アルベドの作戦と平行すれば問題なく行われそうじゃ」

 

それからいろいろ話し合って決まったのはフィリップの愚行の無視。

 

そして一つ問題があった…

 

「ラナー王女とか言う頭のおかしい人の話なんですけど、信長さんはあの人についてどう思います?」

 

今回の王国の件では、彼女の存在はかなり大事になる。

 

アルベドやデミウルゴスは彼女を引き入れるのを望んでいるように見えるが、モモンガにしてみれば、彼女を操ることができない気がした。

 

「うーん、ワシもあの女についてはあんまり気が進まないんじゃ、デミウルゴスやアルベド並みの頭脳だし、ワシもあんまり懐に入れたくないって言ったらそうなんじゃが」

 

「ですよね…ラナー王女の頭脳は…置いておいて、性格はあんまり気に入らないんですよね、不気味で内に入れたくないというかなんというか…」

 

信長を見ると「…要る・要らないと言ったら要らんじゃろうけど、変に切り捨てるのも悟らせそうで怖いから、アルベドに放り投げるか」と言う。

 

「つまり、まだ保険として残しておくんですか」

 

「うん、そうした方が良い気がする。あの手のタイプはきちんと手綱握りしめておけば厄介なことはせんだろうし…多分」

 

「…自信ないんですね」

 

「あったりまえじゃ!」

 

いろいろ話していると…

 

「ん?アルベドからの伝言じゃ、ちとすまんの」

 

そう言って話し始める信長を見ていると…

 

「王国にいるアルベドから呼ばれたから行ってくるわ、ザナック王子とやらが面会したいらしくてのぅ」

 

「そうですか、頑張ってください。あと、長可も連れて行くつもりですか?」

 

「ん?あぁ、此奴は先日封印した魔王の支配から自分の配下にしたと言うつもりじゃ、ほれ、シズと同じ感じ」

 

「おうよ!!俺は大殿の部下だ!(クソでか声)」

 

耳をつんざくような大声に間近にいた信長がベシッと長可を叩く

 

「まぁ、上手く事を運ぶからモモンガはドンッ!と構えておれ」

 

「…本当に無理しないでくださいね、信長さん。プレイヤーが復活出来るかどうか分からないんですし…なおかつ、信長さんを失ったら俺どうやって国運営していけばいいんですか…」

 

「目下の問題後者じゃね?ま、頑張るからな〜」

 

そう言って手を振って退出する信長と長可

 

《伝言》で長可に『命に代えても守れ』と伝えるとやかましいぐらいの声量で返事が返ってくる。

 

 



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『劇の始まり』

お気に入り、感想コメントが来て嬉しくてたまりません。

14巻を片手間に読みながらオリジナルルートに入ってます。

フィリップの愚行だけはどうしても書いておきたかったので書いてます


ーザナック王子ー

 

魔導国がバハルス帝国を属国化させた事はかなり王国の中でも話題になった。

 

属国化の引き金を引いたのは魔導王であり、その草案を1日でまとめて帝国に突き付けたのは宰相だ。

 

そして、バハルス帝国はすんなりと魔導国の支配下に収まった。

 

王国として見れば一気に帝国と同程度の国家を築いた魔導国とは友好関係を築きたいと思っていた。

 

とはいえ、そう思っているのはザナックと一部の重臣ぐらいで、大半の貴族は未だにアンデットに対する嫌悪と、魔導王に対しての偏見から彼らに良い顔をしない。

 

「ザナック王子。陛下、魔導国宰相殿下が参られました」

 

「良い、会おう」

 

あの戦いからだいぶ老け込んだ父がそう言う

 

「あと…宰相殿下から言伝があります」

 

「言伝?」

 

ザナックの言葉に配下が「先日、第六天魔王を封印した際に、その部下である赤髪の化け物を支配下に置き、側に仕えさせているが、皆々様に害意を向ける事はしないのでご安心を、とのことです」

 

それは一体どういう事なのだろうかと思ったが、次に入ってきた宰相の後ろに控えている赤髪の化け物を見て全て理解する。

 

ヤルダバオトが王国で暴れた際、復活した魔王の傍にいた赤髪の化け物。

 

血を被ったような真っ赤な髪に、獣のような歯を見せる男がいた。

 

宰相の逆側にいたのは帝国四騎士の一人レイナース・ロックブルズだった。

 

帝国が属国化した折に、皇帝から魔導国の宰相に鞍替えしたという噂は聞いていたが本当だとは思わなかった。

 

「待機しろ」

 

宰相は赤い髪の化け物にそう言うと、ドアの少し離れたところに立ち「おうよ!」と返してくる。

 

宰相の近くにあのアルベド使節団団長が居ないのを確認する。

 

「よく来てくださった魔導国宰相殿下。お変わりなさそうで何より」

 

「あぁ、陛下もお元気そうで何より」

 

嫌味だとでも言うように笑顔を見せる宰相。

 

「ザナック王子も元気そうで何よりです」

 

その言葉に頭を下げる。

 

(苦手だ…)

 

魔導国の宰相であるこの男は、どうしても苦手な存在だった。

 

人の姿をしているというのに腹の底が見えない話し方。感情の読めなさ、宰相であるというのに王であるような威厳。

 

そして、何よりこの宰相は周囲の人間の感情を何故か把握しているように思えた。

 

宰相が椅子に座ろうとすると、レイナースが椅子を引き、まるで従者のように仕えているのを見て洗脳されているのかと思ったが、そうでもない様子だった。

 

相変わらず無表情であることに変わりはないのだが、髪で隠していたところを分かるように見せていた。

 

「今後の話についてなのだが…」

 

父の話す内容は二つの国が同盟を結ぶことだった。

 

その話の内容はどうもチグハグで属国化ではなく、同盟という話に持って行こうとしていた。

 

宰相の返事は軽く、同盟の話になっても内容自体を逸らされている気がした。

 

宰相の様子をみれば同盟するつもりなんて毛頭無いのが手に取るようにわかる。

 

「…殿下、少しよろしいですか?」

 

「ん、どうした」

 

レイナースが書類を持って来てザナックと父の前に差し出す

 

「これが王国と元バハルス帝国の国の状況です。王国は魔導国との戦いで戦死者が出て働き手がいなくなったことによる被害で、こうなったと言われれば何も言えませんが、どうも釈然としません。全て魔導国のせいにしたがっているような…すいません。言葉がキツすぎました」

 

レイナースのキツイ言葉にそばにいた貴族が苛立つのが分かる。

 

それを見てレイナースが大げさにため息をつく

 

「これが戦争前の現状です。バハルス帝国は急激に国として勢いを増して来ていますが、王国は50〜60年変わらないまま、平坦に…いえ、やや落ち込む傾向にありました。この現状を見ても魔導国のせいと言うのは些か強引かと、殿下や魔導王陛下が同盟を渋るのもメリットがてんで感じられないからです」

 

レイナースの言葉は的確な判断だった。

 

王国の現状は良くなるというのを決して感じさせないものだった。

 

「……」

 

父は何も言わず無言で事実を黙って呑み込む。

 

(このままじゃいけない)

 

ザナックは同盟という話は無理でも、戦争をさせなければいいと感じ口を開く

 

「宰相殿下。魔導国として我々と同盟するメリットが無いというのは重々承知致しました。しかしながら、我々としてみれば魔導国と敵対したくはなく、私個人の意見としては、是非とも魔導国と友好関係を築いて行きたいと思うのです」

 

(あぁ、ヤキモキする…)

 

こんな回りくどい言い方をしないといけないのは、王国貴族たちの反感を買わないようにするためだ。

 

帝国のように一万岩の態勢でないということがもどかしくて仕方ない。

 

そう言えば宰相はレイナースと耳打ちで何か話しをしていた。

 

「この話は国に持ち帰ってアインズ…魔導王と話をする。答えはおいおいお知らせしましょう」

 

断らなかったことに安心しつつ、小さくため息をつく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー!疲れた!」

 

ドンッ!とソファーに座る

 

「お疲れ様ですお兄様。どうでした?会談は」

 

妹の言葉に肩を回しながら「どうもこうもない、宰相の言葉はどうも釈然としないし、話していて気味の悪さを感じる!」

 

アンデットと人間なのか化け物なのかよく分からないあの宰相。

 

カッツェ平野で見せた魔法で魔導王に対する警戒心はあるものの、あの宰相についてどれほどの力を持っているか不明なため、こちらとしてもどう対処して良いのか分からないのだ。

 

「お前はあの宰相をどう思う?」

 

「どう、とは?」

 

妹が可愛らしく首を傾げるが、それにときめくのは後ろにいるクライムぐらいだと言いたくなる気持ちを抑える。

 

「人間だと思うか」

 

「あ、そっちですか。他国の宰相の方ですからこう失礼な事は言えませんが、私は人間ではないとは思いますよ?どの種族かは分かりませんが…ところでお兄様。宰相殿下に贈り物はしておいた方が良いと思います」

 

「魔導王と宰相にか?」

 

「はい、宰相殿下は魔導王陛下からかなり信頼されておりますし、魔導王陛下も宰相殿下の事をかなり気に入られているのか、以前噂で聞いたのは、宰相殿下の悪口を言った帝国の貴族が消されたとかそんな噂を」

 

あくまで噂程度ですけどね、と言うラナーに少しだけ考える。

 

以前、魔導王と宰相が一度王国に来た際に、魔導王は確かに宰相にくっついているような感じだった。

 

あれはくっついていると言うよりいろいろ聞いているように見えた。

 

「それについては考えておく」

 

「殿下、陛下がお呼びです」

 

重臣の言葉に返事をして重臣の前に出る。

 

廊下で歩きながら重臣が評議国から使者が来たと言うことを話す。

 

その使者によれば、王に会うのではなく、王子である己に会いたいとのことだった。

 

「内密にとのことです」

 

「分かった会おう」

 

評議国の使者は人間の姿をしていて、話によれば魔導国の対策について話したいとのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーフィリップー

 

デルヴィ男爵領の街道。昨日から兵士を連れて移動を開始したフィリップは、この領内で一晩野営した後、ようやく目的地…襲撃地点までやってきた。

 

事前情報によれば、今日の昼頃にはこの辺りを魔導国の荷馬車隊が通るという。

 

フィリップは己の前に整列した兵士たちを馬上から見下ろす。

 

自分の指揮する兵士。かき集めた村人たち

 

動員したのは全部で50人。領内の各所に労役を要求したが、あまり人は集まらなかった。

 

村々から返ってきた答えは、既に労役は終わっているというものだった。

 

(不愉快だ。本当に不愉快だ!)

 

今後の領内のために、領内全ての者達が幸せになるために、今回の計画を立てた。そして、得られる戦利品も膨大なはずであり、それを殆ど配って良いとも考えていたし、提案もした。

 

にも関わらず協力しないという。

 

何が利益になるのかも分からぬ、知恵なき者達。いや、だからこそ、知者である自分が支配し、導いて行かなくてはならない。

 

なので、ヒルマから借りている金銭で支払いすることにした。

 

そうして何とかかき集めた50人だが、働き盛りを遥か昔に過ぎた者や、明らかに貧弱な体格の者、粋がってよその村に喧嘩を吹っかける協調性の無いものなどが多いように見える。

 

そんな奴ら…兵士たちの視線を浴びていると何とも言えない高揚感に心が震える。

 

自分の、謳われるべき英雄譚が始まるような予感を覚える。

 

(いや事実、始まるのだ!)

 

この王国で誰も出来なかった最初の一撃を魔導国に与えるのだ。魔導国に対する牽制の一手を高く評価した王族は、相応の地位を与えることでフィリップに報いる。

 

もしかしたらあの美しい王女を娶るということも出来るかもしれない。

 

「よし!荷馬車が来るまで待機!きたら襲撃するんだ!」

 

返事がない。なのでフィリップはより声を張り上げる。

 

「分かったか!!」

 

「分かりました…」

 

不承不承ではあったが、幾人から声が上がった。

 




レイナース・ロックブルズ
帝国の四騎士であったが、顔の呪いを解いて貰った以降は信長に恩義を感じ、帝国から鞍替えした。
ジルクニフの配下から信長の従者になり、エ・ランテル近郊で暮らしている。
王国との交渉の際に従者として付いて行ったりしている。


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『自称英雄と本物の魔王』

題名がそろそろネタ尽きてきそうで怖い

原作フィリップのお馬鹿さ加減に、笑いがこみ上げて来ました。

フィリップに対する扱いがかなり辛辣になるので悪しからず、あの人好きな人いるのかな…?


リ・エスティーゼ王国の闇に存在する巨大組織【八本指】

 

そこには八つの部門が存在する。その一つである密輸部門に所属するクリストフェル・オルソンはれっきとした商人の顔を持ち、王都から王国西方にかけてある程度の販路と力を持つ男だ。

 

そんなクリストフェルに回って来た仕事は…

 

「魔導国の食料運搬か。安全かどうかという点に関しては謎が残るがな」

 

「うん?なんだ?何か言ったか?旦那」

 

「あぁ、気にしないでくれ、あくまで独り言だよ」

 

隣に座っていた傭兵頭に答える。

 

彼こそが7台からなる魔導国の食料を運搬すると荷馬車隊を警護するリーダーだ。

 

警備兵と総員は24名。全員が八本指の構成で密輸部門に所属する者達だ。

 

「ふぁ」

 

傭兵頭の欠伸と共に、ぶふぅと屁の音がした。生理現象なので仕方ないことだが、詫びる言葉はない。

 

(…品のない行為だ)

 

クリストフェルは眉をひそめる。

 

「余裕だな。襲われない自信はあるのか?」

 

「ん?あぁ、ひりつくような感じがないし、問題…あぁ、感覚なんかアテに出来ない、って言いたげな感じだな。その気持ちはわかるけど、あんただって商売をやっていてこれは行けると思ったことがないか?」

 

「…確かにある」

 

「ほれみろ。積み重ねた経験が直感のように働くんたわろうなー」

 

傭兵頭は見た目に似合わぬのんびりとした口調でそういった。

 

「そういうものか」

 

「そういうもん。まぁ、魔導国の旗まで掲げているんだ。この荷馬車隊を襲って来る奴はそれすら知らない無知な奴ら。所詮は農民上がりの野盗だろうさ」

 

「村人上がりじゃなかったら?」

 

「傭兵崩れの心配をしているのか?大前提にあんだけ噂になった魔導国の旗を知らないってのがあるんだぜ?」

 

男は肩を竦めた。

 

ガタガタと揺れる馬車の中、駆けて来る音がした。

 

それと同時に荷馬車がゆっくりと速度を落としていく。

 

「悪いな。ちょっと仕事みたいだ」

 

傭兵頭が部下と何か話しているようだった。

 

「すいません!ボス!こいつが村人達が道を塞いでいるのを見たそうです!」

 

傭兵頭がクリストフェルに対し、こいつと言われた男を先行させていたと説明してくれた。

 

「…野盗がいたんじゃなくて村人か?どこでそれが分かった?」

 

「へい。まず武装です。武器も持ってなければ、鎧も着ていませんでした。武器の代わりに棒を寄っている者が複数いて…棍棒じゃなくてただの棒ですよ?」

 

「石でも武器にはなるが…棒?ただの?」

 

「はい」

 

「だったら何人か送って散らかすか?警戒しすぎたかもしれんが」

 

傭兵頭がそう呟く

 

「周囲を調べます。その場合はお時間を頂きますが」

 

「念のためにそうしておこう」

 

それから数分して戻って来た傭兵は50名以外に伏せている様子はないと報告した。

 

やはり何かの農作業中なのだろうと結論付けて移動を開始したのだが、再び荷馬車が停車したのは五分もしないうちだった。

 

「…旦那。悪いな、ちょっと来てもらっていいか?村人達が道を封鎖しているんだが、どうも変な奴らなんだよ」

 

傭兵頭に呼ばれて馬車から降りて向かう

 

「そうだな…行こうか」

 

クリストフェルは傭兵頭と一緒に馬車を降り、隊列の先頭に向かう。

 

タワーシールドと言われる大きな盾を持った傭兵が一緒に着いて来て、その盾に体を半分は隠して交渉に参加してほしいということだ。

 

両脇を森に挟まれた街道の先に、話で聞いていた村人達の姿があった。

 

どう見ても野良仕事帰りの村人達だった。

 

「な?分からないだろ?もし襲うつもりだったら左右に分かれて森に伏せるなどして来るはずだ。何も堂々と街道に姿を見せる必要なんて皆無だ。そんなことするメリットが何もない」

 

「示威行為の可能性は?」

 

「示威?あの格好で?あの人数で?それは流石に俺たちを馬鹿にしているとしか思えないぞ?旦那はその程度の傭兵しか雇ったことがなかったのか?」

 

確かにその通りだ。

 

言い返せず、クリストフェルは村人達も対峙する。

 

「私は輸送の依頼を受けた、ただの商人だ。貴族への嘆願か何かで道を塞いでいるなら、我々は無関係だ。退いてほしい」

 

村人達に語りかけると森から男が姿を見せた。

 

見事な全身鎧に身を包んだ男だ。兜を外しているので誰だかハッキリと分かる。

 

「王国の将来のためにも残念だが道を通すわけにはいかない!」

 

「「「は?」」」

 

クリストフェルは思わず言葉をもらした。

 

声は彼だけでなく、両サイドにいる傭兵と、あろうことか向こうの村人達まで声を出している。

 

「なるほど、何か勘違いしているようですが、我々は聖王国に食料を支援するという魔導国の考えに従って食料を運んでいるだけです」

 

「分かっていりゅ!ん!分かっている!だからこそだ!」

 

(コイツは一体何を言ってるんだ?どういう思考回路をしているんだ?)

 

クリストフェルは心の底から困惑する。

 

「つ、つまり…この魔導国より依頼された食料がほしい、奪うということですか?」

 

「お、おい?旦那?」

 

隣の傭兵頭が困惑したように自分に問いかけて来る。

 

そう困惑するのも分かるが、クリストフェル自身もこの貴族の言っている意味が理解できずに困っているのだ。

 

「その通りだ!この食料は我々が有効活用する!」

 

自慢げにフィリップが答える。

 

(…頭悪いこと言ってるなぁ…どういう生活したらそういう考えになるんだろう)

 

「さぁ!王国のため、この国のために食料を渡すのだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーナザリック地下大墳墓、ロイヤルスイートー

 

ナザリック地下大墳墓、第九階層の映画館ルームにて、信長とアインズは馬鹿貴族・フィリップの劇を見ていた。

 

モモンガはソファーに腰掛け、信長は肘をつき、足を組んでワインを飲みながら眺めていた。

 

信長の隣には沖田がいてジュースを飲んでいた。

 

モモンガの隣にはパンドラがおり、真剣に(?)劇を見ていた。

 

フィリップは最終的に馬車を奪い、誇らしげに胸を張っていた。

 

嬉しそうに戦利品だとでも言うように、変な話し方で

 

上映会が終わると、沖田とパンドラが「「子供のお遊戯会を見てるみたいでしたね」」と感想をこぼす。

 

「…なんか、警戒心っていうのが欠落してましたね、あの人…」

 

モモンガの言葉に信長は笑いを堪えていたのか笑いながら話し始める

 

「此奴は自分を英雄かなんかと勘違いしておるようだし、見ておく分には少しお笑いを見ているようで楽しい。リアルでもこんな抱腹絶倒したことなかったしのぅ」

 

その横で沖田が『確かにこんなお馬鹿さんあんまり居ませんよね』と口にしていた。

 

「ところで信長さん本当に大丈夫ですか?ここからの作戦は」

 

「うむ、ワールドアイテム持ちやプレイヤーの存在を吟味すれば、大丈夫じゃろ、それに!ワシのスキルもそろそろ使いたいしぃー?」

 

テンションの高い信長にため息をつくモモンガ

 

「何はともあれ、信長さんは絶対に100レベルのNPCを二人くらい付けてくださいね、絶対にですよ?」

 

「分かっておるわ!信用ないのぅ〜」

 

「よく、ユグドラシルでも猪突猛進に突っ込んでレベルダウンして帰って来ることしょっちゅうあったじゃないですか」

 

モモンガにとって最も重要視しているのはギルメンの命であり、ギルメンの命を最優先に考えた後にNPCの命が大事になる。

 

そのNPCの中でも細かく助ける順位など分かれてはいるが

 

「あれー?そうじゃったっけ?」

 

そんな二人の背を見ていたパンドラと沖田が続けて歩く

 

「………」

 

「どうしました?沖田さん」

 

パンドラが無言の沖田を見て声をかける。

 

「え?あ、すいません。何か仰いました?」

 

「別に何も言ってはいませんが、暗い顔をしておられたので」

 

「あぁ、なんでもありません。ノッブの性格を考えてちょっと不安になっただけです」

 

 

 

 

 

 

 

 

ー沖田ー

 

沖田は冒険者としての仕事をしながら王国で関わっていた人々が近いうちに無慈悲に蹂躙されていくのを知り、とても暗い気持ちになっていた。

 

確かに、ナザリック地下大墳墓は大切であり、至高の四十一人の命令は絶対だ。

 

沖田は冒険者としての仕事で王国に訪れた際に、ノッブが離れた隙を狙ってとある親子に話しかける。

 

とある商家の家族であり、沖田達【漆黒】が黄金の輝き亭に世話になった際に夫婦の娘であるレイチェルと沖田は仲良くなっていた。

 

レイチェルの母・ユキエに声をかける

 

「ユキエさん。お久しぶりです」

 

「オキタさん。お久しぶりです。お元気そうでよかった」

 

安心したように胸をなで下ろす

 

「………」

 

(…私は、ナザリック地下大墳墓の、至高の四十一人の命令に背こうとしている…でも…無辜の人々が犠牲になるのは…少しでも助かる命があるなら…)

 

沖田はノッブに創られた際に『無辜の命を悪戯に奪うことを嫌う』と設定付けされたため、沖田の中では親子連れや子供を殺すことは躊躇っていた。

 

「ユキエさん。今から…早く帝国に向かってください」

 

「どうしてですか?」

 

「王国の情勢は不安定です。このことを誰にも言わず、娘さんとご両親で逃げてください。資金は出します」

 

そう言ってユキエに金銭の入った袋を渡す。

 

沖田の真剣な表情と言葉にユキエは頷き、頭を下げる。

 

 



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『宣戦布告』

ノッブの弟ぶち込んでオリジナルルートに突き進んで良いですか…?

今回はとりあえず、王国サイドの話があります。




ーリ・エスティーゼ王国王都・ヴァランシア宮殿ー

 

その一室は今、一つの集まりが生む特有の熱気に満ちていた。人数は然程多くもないが、部屋自体がそこまで広くないことと、何よりも彼らの真剣さが室内の温度を上昇させている。

 

部屋の中央には長方形のテーブルが置かれ、その最も上座となる場所に座るのがランポッサ三世、その右に座るのが第二王子であるザナックだ。

 

他に着席しているのは、王国の重臣達であり、殆どが高齢であった。

 

全員を見渡し、用意されたものが皆の手元に回ったことを確認したザナックは声を張り上げた。

 

「それでは宮廷会議を行う!今回の議題は魔導国の宣戦布告の件に関してだ!」

 

『宣戦布告』という強い言葉を使ったが、全員に緊張感を持ってこの会議に臨んでほしいと思ってのことだ。

 

ザナックは父の横顔をちらりと盗み見る。最も心配なのは父の判断だ。この件がどれだけ危険なのかを十分に理解し、最適な行動をとってくれるだろうか

 

(アイツを殺した魔導王に対して、思うところがあるだろうからな…)

 

ガセフ・ストロノーフが死んだと知った時の父の変貌ぶりは凄まじいものだった。

 

それだけのショックを受けた父に、敵対国である魔導国に対して冷静な判断ができるだろうか

 

(…その場合、俺は…)

 

不安を飲み込み、ザナックは各重臣を伺う

 

魔導国が送って来た内容は【魔導国が聖王国に対する支援の一環として行っていた食料輸送を、王国の貴族がその武力で強奪した。これは魔導国に対する敵対行為とみなし、宣戦布告も辞さない】というものだった。

 

さらに、魔導国の判断は間違っていないと賛同する国の国璽まで押されていた。

 

「評議国と法国以外は魔導国に賛同して王国非難しているというほは、事実なのだな」

 

「はい、陛下」

 

疲れたように父がため息を吐き出した。

 

「竜王国も魔導国に屈したか」

 

「とは言い切れません。陛下、竜王国で何か起きたという情報は入ってきておりませんので、おそらくは言いくるめられたか、王国に味方するより、魔導国に味方した方が今後の利益が大きいと踏んだのかもしれません」

 

「そうか…」

 

「その荷馬車の襲撃の件でございますが、実は誰が事件を起こしたかまでは分かっております」

 

重臣達が驚いたような表情を浮かべた。

 

「ただ…簡単に調べがついてしまったからこそ、これは何かの陰謀なのではという迷いが生まれました。犯人の名前はフィリップ・ディドン・リイル・モチャラス男爵なる人物と領民達が犯人のようです」

 

「その男爵を早急に召喚し、その身の安全を図ると共に何があったかを調べねばなるまい」

 

「父上、真相が解明された暁にはその男爵の首を土産に魔導国との交渉に入りますか?」

 

「何を言っている」

 

父の鋭い眼差しが自分を刺し貫く、あれだけ乾いたような老人になっても、王という重責を長く担いで来た男は違う。

 

「父上、私は魔導国と戦うべきではないと思います」

 

「そのためであれば、罪なき貴族の命を生贄にしても構わない。それが次期王としての言葉なのか息子よ」

 

何を言っても父には伝わらない。

 

良案があるのなら言って欲しいと切に願うザナックだが、良案などないのだろう。

 

それから訪れたのは、配下の者で、男爵の召喚ができ、隣室で待機しているとのことだった。

 

急ぎ呼び出し、入ってきた男爵を見てザナックは気持ち悪いものを感じる。

 

なぜそんな誇らしげなのだろうか、無駄に立派な服装で入って来る。

 

事情聴取しようとした際に…

 

ゴンゴンと扉が叩かれた。

 

ザナックは嫌な予感を覚える。

 

重要な会議の場にやって来るというのは余程な急用だろう。事実、ノックの仕方が荒い。

 

ザナックが代表して入室の許可を許すと、騎士がやはり慌てふためきながら入ってきた。

 

「魔導国より先触れが到着。魔導国宰相信長様が後二時間しない内に王都に到着されるという旨を伝えてきました!」

 

やはり予感は当たってしまった。

 

魔導国の使者はここにおらず、別の場所に泊まってもらっていた。

 

その使者は魔導国に連絡した様子も見られなかったようで、魔法的に連絡を取ったのか、あるいは使者が戻らなくても来訪する予定だったのか

 

それに、魔導国を出る際に先触れを送るのではなく、この近くに来てようやく送ってくるという異常さは何を意味しているのか

 

(とは言っても、いきなり宣戦布告はない様子だな…)

 

「会おう。すぐに玉座の間を使えるように準備するように」

 

「はっ!」

 

父の命令に従い、騎士が部屋を出た。

 

他国の重要人物だからと言って、いきなり来て当日に王と面会出来るはずがない。

 

しかしながらこの状況下で、魔導国の宰相に対して『会議は数日後』などと言えるはずもない。

 

「皆、悪いが急いで正装に着替えて集まってもらえるか?」

 

王の言葉にザナックを含めて重臣達は一度頭を下げた。

 

問題のフィリップは場違いにも正装であるため、頭を下げていない

 

(ことの原因はあの男だから、もしも魔導国が首を欲するのなら父の反対を押し切って渡すべきだ…)

 

父があの貴族を庇う要因は無実であると何故か決定しているからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

使者を歓迎するための玉座の間。

 

入室した魔導国の宰相の登場に場は静まり返る。

 

魔導国の宰相の後ろにいるのは、使節団団長のアルベドであり、その美貌に心撃ち抜かれて「ほぅ」という感嘆のため息があちらこちらから聞こえてくる。

 

その横には赤髪の化け物が長槍を持った状態で入ってきた。

 

それを見て空気はピリつく

 

あの男爵は物凄くだらしのない顔をしてアルベドを見ていた。

 

ことの原因はあの男だというのに、どうしてそんな情けない顔をできるのか意味がわからなかった。

 

「わざわざ来てもらい、すまない。信長殿」

 

ランポッサ三世の声に幾人かの貴族達が我に返ったような素振りを見せる。

 

「気にしないでくれ」

 

宰相の言葉は冷ややかなものだった。

 

笑ってはいるが、その笑顔は実に怖いものを感じた。

 

「あまり時間もないだろう。本題に入ろう、今回は何用でこちらに来られたのか?」

 

「先の件。我が国が聖王国を救うために運ばせていた食料が貴国の者が奪った件についてだ」

 

対して父は玉座から立ち上がると口を開く

 

「なるほど、その件か。まず王国の人間の行いを謝罪させてもらう」

 

その男爵は王の言葉に不満そうな顔をしていた。

 

普通ならお前が謝れと言いたくなる気持ちを抑える。

 

父が深々と頭を下げる一方、その男爵は何もしないでアルベドしか見ていなかった。

 

「そして、私の首一つで許してもらえないか」

 

ザナックの言葉に目を見開く

 

父がそれを口にした瞬間、室内の雰囲気が一瞬で凍りついた

 

事件の規模によるが、今回の件であれば謝罪の証が一国の王の首であれば、誰もが納得するほかない。

 

いや、それ以上の要求をするのであれば、相手方こそ狭量だと非難されるだろう。

 

「勿論、魔導国が失った食料は王国で補填するし、その量を倍にしても構わない。そこに私の首だ。どうだろうか信長殿」

 

「ふっ…」

 

宰相が始めて笑う。

 

その笑みはとてつもなく恐ろしく、人間ではないと改めて理解する。

 

「なるほどそう来たか…いや、流石にそれは傑作だ…ぞ、確かに王の首であれば文句は言えんなァ」

 

「どうだろうか」

 

その言葉に宰相は本当に化け物なんだなと分かるような笑みで父を見る

 

「貴国の貴族が何かするたびに王族の首を出していたら、それこそ元も子もないとは思うがな、まぁ、何はともあれ、予達の対応は変わらない」

 

信長の言葉にアルベドは左右に並ぶ重臣達を見渡し、声を張り上げた。

 

「魔導国は王国に宣戦布告します。兵を動かすのは今より丁度一月後の正午!ただし、そちらが先にエ・ランテル、魔導国領内に兵を進めて来た場合はその限りではありませんが」

 

信長が立ち上がる

 

「待たれよ!」

 

「待つ気はない。これで予のすべきことは終わった。最後に…」

 

「こうするために謀略を巡らせたのか?」

 

重臣の一人から怒りに満ちた声を聞き、アルベドが目を細めた。その瞳には明確に怒りがあった。

 

「宰相殿下のお言葉を遮るとは…人間、1ヶ月後を待たずに死にたいの?」

 

声をあげた重臣の顔がみるみるうちに青くなる。

 

「見送りは結構。大切な時間を奪う気はない」

 

宰相は言いたいことを全て言い終わったという態度で優雅に振り返ると、背中を向けて歩き出す。

 

アルベドがその背に続く

 

彼らをこのまま無事に帰すことは王国にメリットがあるのだろうか?

 

宰相という地位にいる男を殺せば、魔導国の政治が一時的に混乱し、戦争を仕掛けて来る余裕が無くなるのではないだろうか

 

しかし、アルベドと宰相に続くように長槍を持った化け物がゆっくり回りに殺気を撒き散らしながら歩く

 

宰相の姿が消えてからザナックは父に声をかけた。

 

「どうしますか?追って…」

 

「そのようなことをするな。使者を殺害するようなことがあれば完全に非は我が国にあることとなる。そうなればどの国も助けてくれなくなるだろう」

 

頭が痛いとでも言うように額に手を当てた父が、力のない声で答える。

 



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『弟』

ノッブの弟が登場します。

王国編はオリジナルルートになります


ーツアーー

 

アーグランド評議国から出て、ツアーと朱の雫『アズス』と友でありぷれいやーでもある『ノブカツ』と一緒に王国に向かう。

 

《飛行》の魔法で飛んでいる二人にツアーは声をかける。

 

「アズスは無理をしないで魔導王と一緒に行動しているであろうえぬぴーしーを頼むよ」

 

「おう、任せておけ、ツアー」

 

「ノブカツはえぬぴーしーを連れて来たのかい?」

 

「……流石に四人も連れて来ることは出来なかったけど、足止め出来るなら二人くらいで大丈夫だと思う」

 

「そうか、無理はしないでくれよ」

 

「うん、分かってる」

 

眼下で繰り広げられている無慈悲な殺戮

 

アズスはここに来る過程で冒険者一行を助けたと報告してくる。

 

「多分、攻撃したのは伝わっただろう…うん。それでどう動いてくるかは分からないけど…これだけは言える、重装備で向かってくれ」

 

「分かった。ノブカツも気をつけて」

 

「うん。ツアーも無理しないでくれ」

 

 

ノブカツはツアーとアズスを見送る

 

「……姉上、いるのですね」

 

ノブカツはナザリックの気配がする方向を見る

 

「……やっと、会えますね」

 

姉の種族は『怨霊』であり、自分の種族『精霊』と良い相性だ。

 

(…自分のプレイスタイルがここで生きるなんてなぁ…)

 

精霊という種族にした理由。それは、姉である信長をゲーム内で殺したいという願望だった。

 

リアルでは絶対に敵わないという思いがあったからこそ、そんなことをしてしまった。

 

リアルで、姉の大切なものを奪ってしまった自分に出来る事はない。

 

この異世界で多くの旅をしていてやっと気付いたリアルでの己の所業。

 

(…きっと姉上は許してくれないだろうな…)

 

姉の種族は異形種だった。なら、きっと永遠に恨んでいるだろう。

 

怨霊というのはそういうものだ。

 

「……迷っていないで行こう。会って話そう」

 

許してくれないと分かっているからこそ、逃げずに挑むしかない。

 

姉は、この世界で生きている人間を永遠に呪い続けるだろう。

 

ノブカツは隠密スキルを使い、姉の気配がする方向に向かってとりあえず飛ぶことにした。

 

 

 

 

 

ーナザリック陣営ー

 

誰かが「え?」という声を上げたような気がした。

 

都市侵略のために陣取っている場所にいたモモンガはそんな声を出す。

 

デス・ナイトにデス・ウォリアー。二体のアンデットが簡単に滅ぼされた。

 

しかも、倒した相手はユグドラシルに存在するパワードスーツを着用していたのだ。

 

モモンガから遠方へと伸びた繋がり、たくさん作り過ぎているため、ごっちゃになっているが、その中で二本程切れたような感じがした。

 

「アダマンタイト級冒険者が切ったのか?」

 

友の言葉に「多分、朱の雫だと思います」と返す。

 

悪役のラスボスのようにワインを飲みながら「ふむ」という信長。

 

「とりあえず、守護者達と話し合ってきます。信長さんは作戦のために王都近くに長可とアウラとマーレを連れて行ってください」

 

「了解じゃ」

 

そう言って三人を連れて転移門を潜る信長を見送る。

 

 

 

 

ーザナックー

 

魔導国の軍が王都に来る前。ザナックは王の執務室にいた。

 

ジリジリと侵攻している魔導国が王都に差し掛かるのはそう遠くない。

 

ザナックの執務室には多くの書類が集まっていた。同時に顔色の悪い内務官が何人もいる。

 

顔色の悪さは、仕事の量の膨大さで疲れ切っているという肉体面と

、王国がどれほど追い詰められているかを知ってしまったという精神面の両方から来ている。

 

ザナックはサインのし過ぎで痛くなってきた右手をブンブンと振る。

 

仕事が減る様子はなく、むしろ、仕事の量は増える一方である。

 

ならば、人手を増やせば良いのだが、仕事を振れる最適な人材がいないのも事実だ。

 

王族である父やラナーにも協力を仰げない理由があった。

 

書類にサインし続けていると、扉がノックされる。

 

「お忙しいところ、誠に申し訳ありません。ラナー様が殿下にお会いしたいとおいでになっておられます」

 

「忙しいから断ってくれ、話は今日の夕食に聞く」

 

「畏まりました」

 

騎士が扉を閉める。しかし、その1分後ぐらいに再びノックされる。

 

「申し訳ありません。殿下、姫君が……そのあることないこと叫ばれるのが嫌だったら話をしたいとのことです」

 

「……分かった。入室の許可を出す。ただし、ラナー以外は立ち入りを禁ずる」

 

「畏まりました」

 

渋々と受け入れるという姿勢をとる。

 

「お前たち、妹が邪魔をしにきたのでな、しょうがない。喜べ休憩時間だ。これより三時間休憩を与える。ゆっくり休んでまた戻ってこい」

 

内務官たちが少し疲れたような笑みを浮かべ、それからまるでゾンビのような重たい足取りで部屋から出て行った。

 

入れ違いにラナーが入って来る。

 

「お兄様。お父様は生きてらっしゃるんですか?」

 

ザナックは苦笑いしてしまった。

 

「おいおい…俺が殺すと思っているのか?この状況下で?父上は体調が悪くて部屋で静養してもらっている。王としての仕事を思い出してはゆっくり休めないと思ってな」

 

「お兄様。私達の間でそんな嘘は止めてください。レエブン候の兵がいないお兄様がお父様を監禁できているということは、軍務内務官がお兄様の味方についたということですよね?お父様は何をなさろうとしたんですか?」

 

「魔導王本人と交渉することで問題を解決しようとしていた」

 

それこそがザナックが王の代理として全力で業務に勤しんでいる理由だ。

 

魔導国宰相とは完全に交渉が決裂している。宰相の目的が、王国を乗っ取るつもりなのだとしたらその上にいる魔導王本人に交渉しようと父は提案したのだ。

 

「まぁ…父上の気持ちも分かるんだ。二十万の軍勢を一瞬で壊滅させられたその現場にいたのだからな」

 

その上、ガセフ・ストロノーフと自分の息子まで失ったのだから

 

「交渉で解決出来れば、被害者の数は最小限になると信じたい気持ちは理解出来なくもない。だが、もうそんなことでは解決出来ないところまで来ている」

 

魔導国宰相が戦争をする気満々なのだ。その王である魔導王もきっと変わらないだろう。

 

ザナックは一枚の大きな紙を取り出し、机の上に広げる。

 

「見ろ。王国で魔導王と宰相に落とされたと思われる都市の数々を」

 

×マークの書かれた所は沢山ある。

 

「開戦直後から魔導国は動いていないと思っていたが、実際はこのように北部目指して進行していたんだ」

 

ザナックの指の先、一つの国をラナーが指差した。

 

「評議国との国境を制圧し、援軍を送って来られないようにするためだったんでしょうね」

 

「そうだ。結果的に評議国の使者は来なくなった、危険性を鑑みたんだろう」

 

あの時に訪れた使者も、確か早い内に決断するようにと言っていた。

 

評議国としては魔導国の進行を止めたかったらしいので、あの場で即決していたら助けてくれた可能性は大いにあっただろう。

 

我ながら父の顔色を伺ってしまった己を憎む。

 

おそらく、裏切った貴族もいるのだろう。

 

「お前だったらこの状況下でどのような行動をとる?」

 

「その前にお兄様にお聞きしたいのですが、このままの調子で魔導国が動いて来る場合、次は王都近隣での決戦ですよね?この王都に兵を配置するのか打って出るのかまでは分かりませんが、兵はどのように集めるんですか?」

 

「近隣の貴族たちから色好い返事をもらっている」

 

しかしながら遠方の貴族たちからは返事がない。届いていないのではなく、状況を窺っているのだ。

 

王家が滅ぼされた後、魔導王にひれ伏すつもりなのだろう。もしくは単純に、王家に協力することで魔導国に睨まれる事は避けたいと考えているのか。

 

どちらにせよ甘すぎる。

 

自分たちは大丈夫だと考えている事自体愚かな証拠だ。

 

「勝てる、と思われますか?」

 

ザナックはラナーの言葉に苦笑いする。答えにくいことを平然と聞いてくれると

 

「勝てる、勝てないの問題じゃないんだ。魔導国は都市を焼き尽くし、そこに住む民を皆殺しにしている。生き残るために全兵力を集め、大勝負に出るしか未来はない」

 

「……お兄様。王になったのですね……」

 

「何?何の話だ?偉そうとか、そういう話か?」

 

「……えっと、その勝負で敗北すればそのまま王国は滅ぼされるのでしょう?なら王国の民達をどこかに逃がしたところで終わりですしね、ああ、レエブン候はそれもあって裏切ったのかもしれませんね」

 

「なるほど…民達の受け入れ先ということでか…」

 

「でも、魔導王や宰相がそれを許さず、逃げてきた民を殺せとレエブン候に命令を出すかもしれませんね、踏み絵の代わりに」

 

「避難か……そういえば、話は少し変わるが、父上がお前を使者として都市国家連合に送りたかったそうだぞ?父上を監禁する前の話だが、お前はどうする?行きたいのならとっとと王都を離れる必要があるぞ」

 

「私はここから逃げるつもりはありません。王女として気高く死を迎えましょう」

 

少し意外だった。

 

クライムと一緒に逃げます。とでもいうと思ったからだ。




ノブカツ
【レベル】100
【種族】精霊(人間種)
【クラス】物理職

【精霊】
人間種であり、寿命は100年あまりの精霊。
本来ならナザリックが転移して来る前に死亡するはずだったが、ツアーから『今後転移して来るぷれいやーの対策のため』と『姉に謝罪する』という目的のために、寿命を伸ばすというアイテム(ユグドラシル時代では意味のないアイテム)を使用して生きながらえていた。

【詳細】
容姿はFateの織田信勝と同じだが、戦闘方法は言峰綺礼やエミヤ(弓兵)と似たような戦い方をする。
近接戦や遠距離での戦いが得意である。

【性格】
Fateの信勝と似てはいるが、こちらの信勝はかなり性格が悪く。転移時点ではツアーや他の十三英雄からはかなり嫌われていた。そして、レベル100であることからかなり傲慢に振舞っていた。
平気で人を傷つけるようなことを言うが、本人に傷つけるようなことを言っている自覚はない。仲間である十三英雄のリーダーともう一人の仲間が亡くなる前に転移先で出会った家族との関係で性格が丸くなって行き、リアルで姉に犯したことを改めるようになった。



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『悲劇の幕開け』

青の薔薇目線、ザナック王子とアインズの会話シーンがあります。

ノッブが王都へ進軍する一行にいます。




ー青の薔薇ー

 

ついに魔導国は西侵を始め、いくつもの都市、村の一つ一つまで破壊しながら王都まで一直線に迫りつつあった。

 

ただし、進軍速度はじわりじわりとゆっくりしたもので、非常に遅い。

 

兵が多くなればなるほど進軍速度は鈍りがちだが、アンデットばかりで構成される魔導国の軍勢はそれに当てはまらない。

 

魔導国の迫り来る圧力によって、王都内に一度大きな混乱が起き、少なくない血が流れた。

 

そのあと、王都の住人は大きく分けて二通りの選択肢から道を選ぶことになった。

 

一つが王都を離れてエ・ランテルとは反対側に疎開する道だ。

 

もう一つが王都に残り、扉を固く閉じ、引きこもる道だ。

 

どちらを選択した者達が多いかと言うと圧倒的に後者だ。

 

前者は遠方に逃げても生活が成り立つそれなりの金やコネ、手に職など持つ者達に限られるからだ。

 

そのため、王都の人口の95%以上はそのまま残っている。

 

ただし、それは昨日までの話だ。王家よりお触れが出たのだ。

 

魔導国の軍勢が迫りつつあるため、この都市を守るべく、戦える者たちで出陣すると、つまり徴兵だ。

 

無論、戦いに怯え、閉じこもる者は多い、しかし、同時に戦わなくては守るべき者達まで殺されてしまうと覚悟を決める者たちはそれ以上に多かった。

 

王都内の狂乱染みた熱気が駆け巡り、それによって荒れ狂っている。

 

そんな中を『蒼の薔薇』一団は歩く

 

「ラキュース。本当に危険なら転移させるぞ」

 

イビルアイの言葉にラキュースは微笑む

 

「ありがとう。イビルアイ、でも、祖国を裏切ることなんてしたくないの」

 

「そうか…アイツが来ると分かった以上。できる限り、邪魔になるようなことはしたくないが…」

 

イビルアイのいう【アイツ】とはかつて十三英雄のメンバーとして名を馳せていた者であり、現在、こちらに向かっているとのことだった。

 

「それでよ、十三英雄のあの男と魔導国の宰相とは因縁があるんだってな?遭遇したらとんでもねぇことになるんじゃねえか?」

 

ガガーランの言葉にイビルアイは考え込むが、昔から関係があったわけじゃないので分からない。

 

「…さぁな、どれくらいの確執があるのかは分からんが、宰相の戦い方を知っているあの男に任せた方が良いだろう」

 

「そうね…」

 

 

 

 

 

 

ーザナックー

 

王都から旅人の足で三日と離れていないところに魔導国の軍勢が見えたという報告が届いた。

 

ザナックの指揮下の元、迎撃のため全軍が王都から出立する。

 

王都から半日も離れていない平野には、魔導国西侵の報を受けて簡易的なものではあるが、対魔導国軍用陣地が形成されており、そこに入って魔導国軍を待ち構える作戦だ。

 

陣地は街道を封鎖する形で作られているが、もし進路を変えられたら陣を作り直す必要がある。

 

そんな不安もあったが、物見の話では魔導国の軍勢は王都に一直線に向かって来ているとのことで、杞憂に終わりそうだ。

 

しかしながら、それを喜べる貴族はいない。

 

いくら兵を沢山集めたとしても、しょせんは人の軍。

 

化け物で構成されている魔導国軍に勝てる見込みは少ないだろう。

 

「殿下」

 

「分かっている」

 

ザナックは軍務内務官に短く答える。

 

「馬を!」

 

ザナックの命令で騎士が馬を一頭、ザナックの天幕前まで連れてきた。

 

ザナックは一人で魔導国の軍勢の前に進む。

 

供回りを連れて行ったとしても殺される可能性が高い。魔導王が殺すと決めたら意味のないものだろう。

 

ならば一人で行った方が良い。

 

対峙する両軍の真ん中まで到着したザナックは、持ってきたマジックアイテムを起動させ、その声を拡大させる。

 

「リ・エスティーゼ王国王子。ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフである!魔導王兵がと一対一で会話がしたい!」

 

舌戦などを始めるつもりはない。最早そのようなことをしても意味がない。

 

ただ、純粋にザナックは知りたかった、魔導王が何を考え、このようなことを始めたのかを

 

 

 

 

 

 

 

ーアインズー

 

モモンガは三面を覆ったタープテントの下、自軍が陣地を構築していく姿を眺めていた。

 

友ー信長ーは無事に王都近隣に着いたようで、マーレ・アウラの二人から『いつでも大丈夫です!』と伝言がきた。

 

「アインズ様。なにやら人間たちの軍から使者のような者がこちらに向かってきております。どう致しますか?」

 

アルベドは警護のコキュートスを連れて言って来る。

 

「開戦の使者ではないのか?もてなす準備…歓迎の飲み物でも用意してやれ」

 

アルベドが机や椅子などを用意していると、確かに全身鎧を着た男がこちらに向かって馬を走らせて来るのが見えた。

 

「リ・エスティーゼ王国王子ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフである!魔導王陛下と一対一で話しがしたい!」

 

ここまで声が届くのはなんらかのマジックアイテムを使用しているからだろう。

 

「度されますか?アインズ様。開戦の使者でなければ聞く価値はないでしょう。戦を始めますか?」

 

「いや、王族が一人で来たのだ。私も一人で行かねば格好がつかん」

 

「……大丈夫ですか?アインズ様」

 

「分からん。だが、洗脳された場合は沖田よ、そのワールドアイテムを使用して私を守ってくれ」

 

「かしこまりました」

 

「うむ」とモモンガは沖田に答えるとソウルイーターに乗って陣地から進みでる。

 

ちなみに馬に乗る練習は、友と共にしているが、友程綺麗に乗りこなせる自信がないので、大勢の見ている前ではソウルイーターを選んでいる。

 

「魔導王陛下。私はザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフと申します」

 

「アインズ・ウール・ゴウン魔導王だ。よろしく頼む、さて立ったまま喋るというのはあれだな…」

 

そう言って椅子を出し、ザナックをもてなす。

 

「水で構わないかね?酒はよろしくないだろう?」

 

「ありがとうございます。陛下」

 

「これで話を始める準備は整った。なにを語る?我々の侵攻が正義であることでも語ろうか?」

 

「…そのようなことを語る必要はございません。それよりも伺いたいことがあります。なぜ、これほど残酷なことをなさるのですか?なぜ、私どもの降伏を認めないのですか?」

 

当たり前の疑問だろう。

 

モモンガからすれば、理路整然とした意味があるが、彼らからすれば暴虐の嵐にしか過ぎないのだろうから

 

友から言われたことを頭の中で何往復か繰り返す

 

「メリットがないからだ。君たちは私たちの生贄となり、今後多くの者たちに魔導国と敵対する愚かさを知ってもらう。そのためにも、私たちは君たちを殲滅後、王都に乗り込み、ここにある全てを瓦礫の山に変える」

 

「…冗談のおつもりはない様子ですね」

 

「冗談のつもりはない。起こり得る事実を言っているまでだ」

 

「何故、なのでしょう」

 

「なに?」

 

意味が分からずモモンガは問い返す。

 

「魔導王陛下や宰相殿下程の強大なお力を持つ。そのようなことをしなくても、多くの者に陛下方のご威光を知らしめることは出来ましょう」

 

ザナックが唇を舌で舐めた。そして、ゴクリと唾を飲み込んでから問いかけて来る。

 

「なにを狙っているのですか?」

 

モモンガは頭の中で『何を狙っているのか』と言葉を転がした。

 

かつて、モモンガにとって、ユグドラシルというゲームの中で出会った仲間たちこそ、人生の全てだった。

 

そして、ユグドラシルの最終日まで残ってくれた信長さんこそ大切だ。

 

他の仲間たちも無論大事だ。

 

しかし、いくつかの魔法を使い、情報を集めるたびに誰もいないだろうとは薄々感じていた。

 

だからこそ、共にこの異世界に来た信長さんを失うのが何より恐ろしかった。

 

「何を狙っているか…難しいようで簡単なことだな。私が求めているものはたった一つだ。幸せだ」

 

「幸せ?」

 

ザナックが目をぱちくりさせる。

 

「人であろうとなかろうと、求めているのはやはり幸せなんじゃないかな?友の幸福こそ己の幸福とかな」

 

「そのためであれば他者の幸せを奪って良いと?」

 

非難めいた声に笑う

 

「当然じゃないか?私の大切な者達が幸せになるためなら、それ以外の者などどうなろうと構わない。君だって自国民の幸せと引き換えに他国の者達が苦しむとしたらとうする?幸せを諦めろ、と言うのか?」

 

「極論だ!」

 

ザナックはそれを言って冷静さを取り戻し、頭を下げ『失礼しました陛下』と謝罪する。

 

「いや、気にすることはない」

 

「魔導王陛下程の力と知恵を持たれる方が、それ以外の方法で幸せになる方法をお持ちではないのですか?」

 

「…そうだな。あるかもしれないが、ないかもしれない。それに友がよく口にしていた『目の前に簡単に幸せを手にする手段があるのならそれを掴み取る』と」

 

 

 

 

 

 

 

 

ー同時刻・王都ー

 

信長は宰相の姿で王都近辺に来ていた。

 

(ラナー王女のいる宮殿近くは吹き飛ばさないようにと…けど、あの王女をナザリックに招くの嫌だなぁ…)

 

モモンガの方にザナック王子がおり、そのザナック王子と話している今は襲ってはいけないだろう。

 

モモンガとザナックの会話の様子を《伝言》越しで聞いていたが、最終的にザナック王子が貴族が雇った傭兵に討ち取られて死亡したらしい。

 

モモンガは完全に興味を無くしたようでアルベド達に戦闘開始の命令を出していた。

 

「じゃあ、ワシも攻めるぞ」

 

《はい、お願いします。信長さん》

 

「うむ!」

 

伝言を切ってアウラ達を見る

 

「よし、行くぞ、皆殺しじゃ!」

 

素の口調に戻る信長に森長可が『口調戻ってるぜー!大殿〜!』と言う。

 

信長は魔王剣を出すと、最大質量の炎が出現する。

 

アウラ達だけ避け、建物を燃やし尽くす

 

スキル《魔王軍》

 

業火から出現する化け物。

 

ユグドラシル時代に織田信長のロールプレイの一環として使うために獲得したスキルだ。

 

このスキルを取るためにかなり苦労した記憶がある。何回もレベルダウンしては取ろうと躍起になった。

 

「住人全て、老若男女問わず皆殺しだ!」

 

そう叫び魔王剣を王都の方に向ける。

 

兵士達の叫び声が響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「!姉上のスキル!」

 

ノブカツはツアー達が戦闘を開始した方向とは別方向から気配を感じ、向きを変えて勢いよく飛ぶ

 

 




【魔王軍】
信長のスキル
1万体のエネミーを出現させる。
英霊兵、殺戮兵を主に出現させる。中には新撰組の羽織を着たエネミーも出現する。
レベルは80。決して強くはないが、体力がハンパなくある。



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番外編『束の間の休息』

ナザリックメイドの日常です。

最終章なので、小話入ります。

ツアレがナザリックに入って以降の話もいろいろあります

バルブロとかレメディオスのその後とかあります


ーシクススー

 

メイドの朝は早い。

 

ナザリック地下大墳墓が異世界に転移して来て一年が経過した。

 

ナザリック地下大墳墓は至高の四十一人である信長様とアインズ様お二人を頂点とした形になった。

 

至高のお二人に尽くすことを何よりの幸福だと感じているメイドたちはお二人に呼ばれる度に嬉しくてたまらなかった。

 

「んー、シクススの手の使い方は気持ち良いのぅ〜」

 

「ありがとうございます!信長様!」

 

信長様のお褒めの言葉をもらい、嬉しくなるシクスス。

 

ナザリックが国を持つことになってからメイド達の仕事はかなり増えた。

 

男性物の衣装。魔王としての衣装。冒険者としての衣装。

 

様々な衣装が必要になり、その衣装の整理や洗濯を沢山するようになったメイドは毎日誇らしくしていた。

 

「信長様!それは私達がお運びします!」

 

信長は軽々と洗濯物の入った籠を持って運んでいた。

 

「んー?これくらい大丈夫じゃ!そなたらはそこにあるの運んで貰えんか?」

 

信長様は綺麗にしたばかりの鎧を持ち上げて運ぶ。

 

「いつもすまんのぅ」

 

「至高の御方々にお仕えすることこそ、至高の喜びでございます!何なりと申し付けください!」

 

そう言うと信長様は微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

信長の朝は早い。

 

朝起きるとメイド達に声をかけられて起き、長い髪をメイド達が整えてくれる。

 

(…モモンガさんはメイド一人でいいとか言ってたなぁ…恥ずかしいんだろうな)

 

信長は鎧を運び終えると、第十階層にある『最古図書館』に行き、本を手に取っては読むことにしていた。

 

部屋で読む本は控えているメイドに持って行ってもらい、大きな脚立に座り、手に取った本を読んでいた。

 

「あ、信長さん。ここに来てたんですね」

 

下の方から声をかけられたので見ると、モモンガがの手に政治関係の本を持っていた。

 

「んー、いろいろ見ておったんじゃ、あの時、何をコピーしたか忘れたからのぅ〜」

 

脚立から飛び降りると脚立がぐらつく

 

「わざわざ脚立の上で見てたんですか、部屋で読めば良いのに」

 

脚立を魔法で倒れないようにするモモンガ

 

「なんというか、その場で中身見てたらその場で読み始めておった」

 

「あぁそうなんですね、本焼けてたら司書長に怒られてましたよ」

 

「あ、そうじゃな、ワシ火炎スキル持ってたの忘れてたわ」

 

「…忘れてたんですか」

 

「いやだって、転移してきて慣れ始めてるとはいえ、炎纏ってるのは流石に慣れない!」

 

「…そんなドヤ顔していうことですか、そういえばお前達は大丈夫なのか?」

 

メイドに問いかけるとメイドは何故かドヤ顔で『はい!大丈夫です!信長様のお側は常に暖かくて居心地が良いです!』と言ってくる。

 

「あんまり無理するなよ」

 

「はい!」

 

「あ、信長さん。以前捕まえたバルブロっていう王子とワーカーのアルシェどうするんですか?」

 

「あ」

 

「…あ、って忘れてました?」

 

「いや、アルシェは覚えておったんじゃが…バルブロは忘れておった」

 

あの時は、バルブロ王子を傀儡にして王国を乗っ取る方法も考えたのだが、流れが完全に違った方向に流れ出したため、バルブロは必要のない存在になっていた。

 

「どうします?処分します?信長さんが要らないならアンデット作成のために使いますけど」

 

「うーん、今後使うメリットも無さそうだしのぅ…うん、頼むわ」

 

「はい、で、ワーカーのアルシェはどうします?今シャルティアが教育してるって聞きましたが」

 

「アルシェは必要じゃ、タレント持ちだし、帝国の情報収集のためにまだ生かしておきたいしのぅ」

 

信長はモモンガと別れて自室に戻ると深くため息をつく

 

この世界に転移してから自分の性格の変わりように恐ろしくなることがあった。

 

アルシェを捕まえた理由は単に、彼女を呪いたかったからだ。

 

ひたすらに生者が恨めしくて仕方ない。下手したらアンデットより人間への憎悪が凄まじい。

 

アンデットは生者を憎むだけの種族だが、怨霊は生者を憎み、呪い殺さなければ気が済まない種族なのだ。

 

呪い殺さなければ弱体化してしまうというデメリットがあった。初期の頃にそのデメリットはスキルにより無くなったものの、性質としてはあるのだ。

 

だからこそ、意味もなく捕まえてしまうのだ。

 

(…まぁ、抑えられている方なのかな…森長可は酷いぐらい暴れることあるけど…あそこまで行ってないからだいぶマシな方か…)

 

執務室の椅子に深く腰掛ける。

 

(デミウルゴスの階層に行って気分転換でもしようかな)

 

そう思い立ち上がり、歩き始める。

 

 

 

 

 

 

 

ーツアレー

 

ツアレはセバスと共に第十階層で生活していた。

 

王都での一件以降。ツアレはセバスと共にならエ・ランテルにある魔導国宰相の城でなら生活して良いという事になった。

 

と言っても、その城の主人である信長がいない時は大抵ナザリックにいることが多かった。

 

魔導国建国から数ヶ月後…ツアレはセバスと共に首都に出ることになり、歩きで首都内を見回っていた。

 

一度目は冒険者として、二度目は宰相の姿で

 

セバスとツアレは魔導国の配下の者として外出した。

 

「おー!立派な温泉宿!流石じゃな〜!」

 

「おうよ!ノッブさん!俺たちにしてみれば無理なもんはないぜ!」

 

ドワーフの国から移住して来た亜人の言葉にノッブは快活に笑う。

 

冒険者としての信長は民の言葉を良く聞き、宰相としての信長はそれを参考に町の発展に勤しんでいた。

 

「信長様。コーヒーをお持ちしました」

 

ナザリックのメイドと共に奉公する日々が続いた。

 

「ツアレ。セバスはどうじゃ」

 

キリッと決める信長に隣にいた沖田が『そんなドヤ顔で…』と引いていた。

 

「セバス様…ですか?」

 

質問の意図が分からず、聞いてしまう。

 

「あぁ、セバスと良くしておるか?ナザリックでの生活は慣れ始めたか?」

 

一斉に質問し、ツアレは戸惑いながら必死で言おうとしていた。

 

「ノッブ。そんな一斉に質問したら混乱しますよ」

 

沖田の言葉に「あ、すまん」と言う信長

 

「は、はい、セバス様は優しいです…皆さん…いろいろ教えてくれて、至高の御方のために頑張ります」

 

一生懸命に言うと信長は微笑む

 

「うん、何か困ったことがあればセバスに助けを求めるんじゃぞ、それにホウレンソウは大事じゃ!それさえ分かっておれば問題なしじゃ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 

 

ーレイナースー

 

呪いを魔導国宰相に解いてもらったその日から、いや、帝国が属国になってからレイナースは魔導国宰相に呼ばれる機会が多くなった。

 

草案をまとめる際、やりとりが当然と必要であり、その中で最も最適だったのがレイナースであった。

 

誰も魔導国に行きたがらない者が多い中、レイナース自身もアンデットだらけのあの国にはもちろん行きたくなかった。

 

しかし、魔導国の上層部というよりかは魔導国宰相からは好印象で見られている気がした。

 

「帝国が速やかに属国化した際、ひょっとしたら私よりも偉い地位にいるかもしれんな」

 

皇帝・ジルクニフからの言葉に「そのようなことはないでしょう」と答える。

 

その言葉にジルクニフは笑い『魔導王はともかく宰相から最も信頼されているのはお前じゃないか、現に何回も視察の際に指名が掛かっているじゃないか』

 

その言葉を否定せずレイナースは「そうですね」と返す

 

「殿下は、この国の人々の生活に関心を持たれています。つまるところ、その国の皇帝である陛下にもその内お話があるのではありませんか?」

 

「……勘弁してくれ、ただでさえ魔導王だけで疲れるというのに」

 

「左様ですか」

 

 

 

 

 

 

ーノブカツー

 

プレイヤーとしてこの世界に転移してから、一緒に転移して来た友たちが死んでから数ヶ月が経過した。

 

「すっかりおばあちゃんだな、リグリット」

 

大陸のあるところでそう呟くと

 

「まだ老婆という程の年齢ではないんだがね」

 

リグリットの言葉に「ごめんごめん」と言う。

 

昔から自分の言うことは相手のことを不快にさせる事が多かった。

 

「それで?ツアーには後で伝えるとして、本当にここで休むのか?」

 

「うん、100年くらいは何も無いだろうから、ここにいる。何かあったらまた来てくれ」

 

ノブカツは、最後に外の景色を見る

 

《ユグドラシル》最終日が、この世界に転移してくる条件だとしたらきっと姉も来るだろう。

 

(…それまで待っていよう。眠りながらいろいろ考えよう)

 

ノブカツは洞窟の奥に進もうとした際、リグリットの方を振り向き

 

「おやすみ」

 

それだけ言って歩いていく。

 

 




ifルートの話を書いております。そちらで回収しきれなかった話等書いています。

明日から仕事です。長期休養明けだったので凄く不安です。


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『侵略と戦争』

最終回に近づいて行きます。

このシリーズの最終回のオチは考えてますが、そこまでたどり着くの結構時間かかるかも…


ーツアーー

 

魔導王とえぬぴーしーであろう者と戦闘を繰り広げたツアーは、とりあえずこの場から離れるために転移を行い、既に来ていた協力者の一人であるアズスの元に現れる。

 

「遅れて悪かったね」

 

「いや、気にしないでくれ。俺も今来たところだ」

 

見馴れたパワードスーツを着用しているため、話すときはどうしても見上げる形になる。

 

「すまない、ツアー。アイツをフリーにしてしまった。そっちに向かったようだが…魔導王を滅ぼすことは出来たか?」

 

「残念ながら無理だった。君の協力を仰いだのにも関わらず、申し訳ない」

 

「謝らないでくれ。倒しきれなかったのは、俺があの女を抑えられなかった…時間が足りなかったからだろ?」

 

ツアーはどう答えれば自らの利益になるか計算し『そんなことはない』と言う。

 

「アズス。あのえぬぴーしーは残念ながら君の手に余る相手だ。それをあれだけの時間離れた場所にくじ付けにしてくれただけで十分に君は役目を果たしたと言って良い。魔導王を滅ぼすことができなかったこは、単純に奴が私の想定を上回る強さを有していたからさ」

 

ツアーは王都の方を見る。

 

「アイツは宰相と遭遇してねぇのか?」

 

アズスはそう言って王都の方を見て呟く。

 

「私達の役目は彼の元に他のえぬぴーしーが集合しないように戦うことだ。このまま王都の近くに…」

 

最後まで言い終わる前に王都の方向からけたたましい音が響き渡る。

 

空に昇るように紅蓮の炎が立ち込める。

 

かなり離れているツアーとアズスの所にまで熱風が届く

 

「行こう」

 

「おう」

 

 

 

 

 

 

 

あちこちから爆発が響き渡る。

 

逃げ惑う人々の声や、叶う訳もないのに槍を向ける震えた兵士

 

(…コレがまさに虐殺よな)

 

アウラが少し離れたところに行き、近くにはマーレのみがいた。

 

無辜の命を刈り取るのは趣味ではない、だが、コレは戦争だ。

 

槍を向けないから助けるというのも美少女だから見逃すとか、女子供だから許すとかそう言ったものは一切ない。

 

アウラが別方向に行ったのと入れ替わるようにして森長可がやって来る。

 

屋根の上で座って眺めている信長とマーレ

 

「のぅマーレ」

 

「は、はい!」

 

背筋をしゃんと伸ばして元気な声を出すマーレ

 

「逃げ惑う女子供を手っ取り早く殺す方法ってなんじゃと思う?」

 

そう問いかけるとマーレが考え込んでいる姿を見せる

 

「えーと…大きな魔法で殺していく…ですかね?」

 

「それも正解じゃな、後、ワシの質問も悪かったな」

 

笑うとマーレが「そ、そんなことありません!」と答える。

 

「人間というのは危機に瀕した際に馬鹿にならないぐらいの力を見せる時がある。それに、死ぬ間際にこちらが予想外のこともする」

 

ユグドラシル最終日間際のリアルのことを思い出す。

 

「だからこそ、殺処分される狗のようにした方が良いのじゃ」

 

そう言って長可を見ると《伝言》で言えば良いのに馬鹿みたいな大声で「了解だぜ!!」と叫び、英霊兵達に命じて一箇所、人間が集まっている家を一気に燃やして行く

 

人々の絶叫が児玉する

 

「人間誰かと寄り添っておれば、自分は平気だと思うのが何処かにはあるからのぅ」

 

「す、凄いです!!信長様!!」

 

目をキラキラさせほめて来る。

 

純粋無垢な瞳に笑う

 

しばらく眺めていると《伝言》でデミウルゴスから報告が来る。

 

それはアインズに扮したパンドラとアルベドがユグドラシルのパワードスーツを着た男とレベル90そこらの者と相対したということだった。

 

(…という事は…)

 

これから起こりうる事に信長は殺気立ちそうになる。

 

 

 

 

 

 

ー数時間前…ー

 

王都へ攻め入る数時間前、デミウルゴスからの報告と作戦にモモンガは一抹の不安を抱えていた。

 

報告を聞いてからノッブの機嫌が最高潮に悪く、相対している守護者達全員が身震いしていた。

 

かくいうモモンガも友をむやみに外に出したくない気持ちもあったが、これほどの苛立ちを真横から感じてしまえば、仕方のない気持ちになる。

 

「恨みで目的を見誤ったら、大名とは言わないと思いますよ」

 

玉座の下、端の方にいた沖田の言葉に場が騒然となる。

 

しかし、沖田は一番ノッブの心境を理解している

 

いかに不敬と言われようと、今この場でノッブにストッパーをかけられるのはモモンガか沖田くらいしかいないだろうが、モモンガは友の怒りを理解している上、変に止められないのだ。

 

「そうじゃな、恨みで周りが見えなくなってしまっては元の子もないの」

 

いつも通りのノッブに戻りモモンガはホッとする。

 

「よし、デミウルゴスの意見を採用して王国侵攻を行うぞ、モモンガも構わんか?」

 

「問題ない」

 

そう言って会議は終了し、ノッブとモモンガは円卓の間に転移する。

 

「のぅ、モモンガ、この世界に来て魔導国が建国され、そこそこ大きな国になり、帝国も属国化したりしてたいへんじゃったのぅ」

 

「…まぁ、大変なのはデミウルゴスとアルベドと信長さんですけどね」

 

俺なんてよく分からない書類に印してたぐらいですし、というモモンガに『分かってない書類に印押しちゃ駄目じゃろ』と返す

 

「う…だって、俺元はサラリーマンですよ?そんなサラリーマンに支配者なんて務まると思います??どちらかと言うと命令される側の人間で、デミウルゴスなんて深読みして無いはずの胃が痛くなるし…」

 

「…まぁ、デミウルゴスは深読みしすぎてワシも胃が痛くなったな」

 

「信長さんはまだ話について行けてるから良いじゃないですか」

 

「国の運営って会社の運営に似ておるかと思ったけど、外交関係になったらホント無理じゃったな、お主が勝手に属国化した事の方が驚いたけど」

 

「…あれ、ホント意味が分かんなかったんですけど…ジルクニフを見に行ったらすっごい綺麗な流れで即刻属国化の草案進めて来て…分かんないから後回しにしましたけど…」

 

モモンガが無いはずの胃の部分を押さえながら言う。

 

「レイナースの話じゃ、魔導王の強さを見て、相対的に敵に回るよりかは部下になって安寧を手にした方が良いと判断したみたいじゃしな」

 

「レイナース…?」

 

誰?となるモモンガに「帝国四騎士の一人じゃ、顔に呪いを受けておって、その呪いを解いたお礼にいろいろ帝国の案内してくれてるんじゃ」と言うとモモンガがため息をつき

 

「…貴方も大概、人垂らしですよね」

 

「何でじゃ、主だってフールーダたらし込んでおるではないか」

 

「やめてくれません?あのおじいさんはたらしこんでません」

 

話が脱線していることに気づいたノッブが咳払いし

 

「…世界征服なんて良いな発言したモモンガさんの言葉を実行していまに至る訳じゃが…」

 

ノッブは腕組みし、椅子に深く腰をかける

 

「最終目的が世界征服なのは良いとして、それに至るまでの人間や異形種の扱いに関してはどうするつもりなんじゃ」

 

「え?」

 

友の質問に唖然とする。

 

「なんじゃ、ワシ一人で内政するとかめんどいし、何より主の意見も聞きたいから聞いておるんじゃ」

 

「あぁ…なるほど」

 

一瞬、嫌な予感がしたものの、その言葉にホッと胸を撫で下ろす

 

「人間はジルクニフ達帝国で良いと思ってるんです。信長さんの種族を考えれば帝国がないと駄目でしょうし…」

 

「聖王国は?」

 

「あ…忘れてました。一応聖王国も帝国以下ですが、一応人間国家にしようと思ってるんです。俺の意見はこんな感じですが…異形種の国は…うーん、ドワーフの国とかしか考えてないんですよね」

 

「そうじゃな、一番の難敵の評議国に関してはまだ未定じゃし…スレイン法国に関しては滅ぼすのが確定にしても、攻め手を間違えれば大きな痛手になるからのぅ」

 

「そうですね…とりあえず王国侵略の件ですけど…」

 

話し合いが終わり、魔王信長は一人、廊下を歩きながら考え事をしていた。

 

「………」

 

リアルの弟がいる可能性が高くなり、ノッブは自身の手で殺す事が出来るようデミウルゴス達が動いているのを知り、少しだけ複雑な気分だった。

 

 

 

地位も名誉もあの世界ではなければいけないものだった。

 

力より権力、力より出生

 

全てにおいて目に見えない形だけの物が必要だった。

 

アウラ・マーレ・森長可と共に王都中央に転移する。

 

『姉上!!これで姉上は誰よりも幸せになれますよ!!』

 

人から何もかも奪っておいて、あんなに嬉しそうにする弟が気持ち悪くて仕方なかった。

 

『ーーさん。何かあれば相談に乗りますよ』

 

リアルで会ったたっち・みーからの言葉にノッブは「平気」と返していた。

 

《信長様。沖田様が出撃されました》

 

その言葉に返事をし、燃え盛る街を見下ろす

 

 




【怨霊の寿命設定】
霊の方は基本的に特定の相手に怨みを持ち、その怨みを晴らすために災いをもたらす霊であり、種族は異形種でユグドラシルでは強い種族だが、同時にデメリットが存在し『恨みを晴らせば死ぬ』という設定があった。
年齢による死亡はないが、人間種がいなければ死ぬのが確定する。
要はノッブが満足したり、生きることを諦めれば普通に死ぬ


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間章〜ノッブとナザリックと世界〜
番外編『沖田総司の日常』


盛大に誤字ってましたので、これからも所々誤字やらなんやらあるかもしれませんが、どうぞご了承ください。

次、本編です。最終回に近づいてきております。今回はまた番外編。ノッブの話書くの大好きなんだよな〜

今回は全体的に沖田メイン、最終回に至る前のほのぼのした話などあります。


ーノッブー

 

アダマンタイト級冒険者【漆黒】はかなり有名なチームであり、真のアダマンタイト級冒険者チームと言われていた。

 

魔導国の支配下に置かれる前、アダマンタイト級冒険者【漆黒】と同じアダマンタイト級冒険者【蒼の薔薇】の面々でとある任務を共にすることになった。

 

北上してきた亜人部族を二つのチームで倒すことになった。

 

「危ないですよ!?なんで私の真横から銃ぶっ放すんですか?!」

 

【漆黒】の彼らは女四人に男一人という異色のチームで、本来なら男性がリーダーならば男性だけのチーム。女がリーダーなら女オンリーのチームとなった方がチーム内で問題は起きにくいとされているのだが…

 

「仲良し…」「良いチーム」

 

ティアとティナの言葉に頷くラキュース

 

(確か、出身が南米の方って言ってたわね…ノッブさんとモモンさんは同郷で親友って言っていたし…あれほど仲良しなのは納得いくわ)

 

それから双方のチームは宿屋に泊まっていろんな話で盛り上がった。

 

モモンとナーベは急用で席を外し、蒼の薔薇の面々とノッブ・オキタ・メディアが三人仲良く飲み食いしていた。

 

「へぇ、オキタさんとノッブさんは親子なんだ」

 

ティアの言葉にオキタが『不本意ながら』と言って来る。

 

「こんなのが親で悪かったの」

 

酒を飲みながらも全然酔わないノッブ

 

「それにしても、ノッブはお酒強ぇんだなぁ」

 

ガガーランの言葉にノッブは笑いながら

 

「ワシ全然酒飲まんから普通に酔うはずなんじゃがなぁ」

 

「へぇ、飲まねえのにそんな強いのか!」

 

「この人、人を死に至らしめるほどの酒じゃないと酔わないんですよ」

 

「…それもう毒じゃないか?」

 

イビルアイのツッコミにメディアがうんうんと頷く

 

「それより、モモン様はお酒飲むのか?」

 

その質問にノッブは飲んでいた手を止め、しばらく考え込み

 

「あー…最近は飲んでないの、昔まで飲んでたらしいが、クッソほど酒に弱いからなぁ」

 

「そ、そうなのか?」

 

イビルアイが興味津々になっていた。

 

「へぇ意外」

 

「意外だな」

 

ティアとティナの言葉に思わず頷く

 

「飲んで泥酔して3日間引きずって…「人の黒歴史暴露しないでもらえるか」」

 

ノッブの背後にいつのまにかいたモモンがノッブの頭をチャップする。

 

「だって事実じゃし〜?」

 

「……沖田。この人、本当に酔ってないのか?」

 

「はい、全然酔ってないです。素面で酔ってます」

 

「…そうか、友人がすまない」

 

そう言ってノッブの首根っこを掴む

 

「ぐぇ」

 

「明日も早いので失礼します」

 

そう言って背負って歩いて行く。

 

 

 

 

 

 

 

ー沖田inナザリックー

 

冒険者以外の仕事の時、沖田はナザリック内の自室や第九階層に入り浸る事がよくあった。

 

そして、ノッブから大量に押し付けられた(沖田の部屋に)本を片付けに図書館に行こうとしていた。

 

「……流石にこの量を一人では…」

 

部屋の本棚を見てふと愚痴を溢す

 

沖田の部屋はノッブが必要以上に歴史書をコピーしたことから、階層守護者の部屋並みに大きくなっており、その大半は本棚とガチャの景品と神器級アイテムの残骸があった。

 

さすがに神器級アイテムは独断で動かすことは出来ないので、ノッブの許可をもらうようにはしているが…

 

そうこうしていると…

 

「沖田さん。今大丈夫ですか?」

 

そう言って来たのはメディア・リリィであり、本に囲まれてごちゃごちゃになっている沖田を見て苦笑いする。

 

メディアはやって来ると本を見て『みんな信長さんがコピーしたやつですか?』と言って来る。

 

「…そうなんですよ、りある?の歴史書から"自分自身の歴史書"やら誰かの家系図やら…目がバグりそうになるぐらいあるんですよ」

 

「……確かにこれはバグりそうですね」

 

そう呟くメディア

 

「何個か図書館に置いておいても問題なさそうなやつがあるので、もし、時間があるなら…」

 

「ありますよ」

 

そう言って二人で第十階層の図書館に本を運んで、司書に許可をもらい、本棚にしまっていると…

 

ガタッ…と脚立が揺れ、ぐらつく

 

「うわっ」

 

沖田が倒れそうになると…

 

「大丈夫ですか?」

 

そう言って脚立と沖田を支えたのはセバスであり、軽々と沖田が落としそうになっていた大きめの本と沖田自身を支える。

 

「ありがとうございます」

 

そう言って、脚立から降りる

 

「随分と大荷物ですね」

 

少し離れたところで整理しているメディアを見る。

 

「はい、ノッブ…ゴホンッ、信長様が大量に私の部屋に置いて来た荷物です」

 

ノッブに様付けするのは違和感しかなく、寒気しかしないが、守護者の前で名指し&タメ口は死を意味する。

 

例え、そうであれと創られたとしても、ノッブが構わんと言おうと、危ない綱渡はしたくないのだ。

 

「そうですか、信長様は沖田様を大変信頼されていますからね」

 

セバスの言葉に「アレは…信頼というか、なんというか…」と呟く

 

ノッブは自分を作った際、かなり悩んで…それも半年以上考えていたのを思い出す。

 

「私を半年間かけて作って、あーだこーだ言ってたらたっち・みー様が来て『長すぎるわ』とかツッコミ入れてましたね」

 

「懐かしいですね」

 

セバスの創造主であるたっち・みーとノッブはりある?でも相当仲良かったらしく、ユグドラシルでふざけた事をノッブがすると、りあるでもたっち・みーがネタにするほど仲良しだった。

 

セバスが自然と手伝う流れになり、沖田が届かない位置をセバスが置いていた。

 

「この歴史書は…」

 

セバスがそう言って来る。

 

「あぁ…確か、織田信長の歴史って本ですね、りあるでこれだけのことをしたんじゃ!凄いじゃろ〜!!とか言ってましたね」

 

「拝見してもよろしいですか?」

 

「別に良いと思いますよ、埃被ってるぐらい本人も忘れてましたから」

 

セバスが数ページ読み、ふと手を止める。

 

「……不躾な事をお聞きしますが、信長様はりあるという所では、死んだ…という風に書かれていますが…」

 

「それは多分、ノッブの気持ち的にりある?って世界は嫌いだったんじゃないですか?私には、よく分からない世界ですけど」

 

「なるほど…」

 

セバスは本を閉じ、それを手に持つ

 

「少しお借りしてよろしいですか?」

 

「良いですよ」

 

そう言ってセバスが本を宙にしまう。

 

 

 

 

 

ーエ・ランテル、信長の執務室ー

 

エ・ランテルを支配下に置き、宰相としての仕事をするようになってからノッブの仕事は一気に増えた。

 

大量の仕事と役回りがある為、ナザリックからメイドの数人を連れて来れないかという話になり、来ても大丈夫なメイド達がエ・ランテルの信長の部屋を行ったり来たりしている。

 

ドタバタとメイドやエイドエッジ・アサシンが行き来しているのを見て沖田は「相変わらず大変そうだなぁ」と他人事のように思っていた。

 

「おう、沖田〜久しぶりだな!」

 

馬鹿みたいにうるさい声が響き、思わず耳を抑えたくなる。

 

「…長可。貴方…普通に出て来て良いんですか?」

 

第八階層にいるはずの森長可が普通に槍を持って宮殿の中を彷徨いていた。

 

「おうよ!魔王の部下から魔導国宰相・織田信長の配下にチェンジしたぜ!!」

 

クソデカ声に沖田が「…また怒られますよ」と呟く

 

「…まぁ、魔王のノッブも宰相のノッブも同一人物ですけどね…」

 

「俺はずっと大殿の部下だけどな!!人間共はホントに馬鹿だよな!」

 

「だから声…、ハァ」

 

話していると、メイドの一人が駆けて来る。

 

「沖田様、信長様がお呼びです」

 

ペコリと頭を下げて来る。

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

「じゃあな!!」

 

そう言って長可が転移して消えて行く

 

「……嵐が去って行った…」

 

そう安心したように呟く沖田にメイドが和かに笑う

 

メイドに案内されて執務室の近くに差し掛かると…

 

「おや、君も信長様に御用があるのかね」

 

「あ、デミウルゴス様。お久しぶりです」

 

向かいから現れたデミウルゴスに気付き、メイドが少し横にずれる。

 

反射的に横に退こうとした沖田をデミウルゴスが止める。

 

「そう畏まらないでくれたまえ、君に他人行儀にされると少しむず痒くなる」

 

「そうですか?レベル的にも才能的にも能力的にもデミウルゴス様の右に出る方いないと思いますが」

 

その言葉にデミウルゴスは笑い

 

「君は誰よりも信長様やアインズ様に信頼されているではないか、それに、創られた順番的には君が先であり、ウルベルト様やタブラ様の力もあって誕生したと言うではないか、私はその点はすごく羨ましくて仕方ないのだよ」

 

沖田の誕生した順番はデミウルゴスより早く、創造時、目の前にノッブの他にウルベルト様やタブラ様がいたのを思い出す。

 

小難しい話をしながら三人で議論していたのを思い出す。

 

「…ノッブ…ゴホン!信長様は多分デミウルゴス様を私以上に信用されていると思いますよ、冒険者の時にもデミウルゴス様の事褒めながら「ワシよりもデミウルゴスの方がかっこいい!」とか叫んでましたし」

 

「…その話、凄く気になるのだが…信長様の御用を終えてから教えてくれないか?」

 

「私で良ければ」

 

そう言ってペコリと頭を下げてデミウルゴスの横を通り過ぎる。

 

ノッブの部屋の前に行くと、メイドの一人が来たことに気付き、中にいるメイドに声をかけていた。

 

入室許可が出たのを見て入ると、室内には宰相の形態である男性形態の姿のノッブがいた。

 

「…あ、その形態なんですね」

 

そう返すと「ここにいるからにはこの格好してた方が良かろう?」と返して来る。

 

「?なんじゃ、なれんか?」

 

信長の声に「当たり前ですよ」と答える。

 

「姿も声も雰囲気もノッブと違うんです。違和感物凄いと思ってくださいよ」

 

「ハハハ、基本的には変わらんがなぁ」

 

そういう言葉にため息をつく

 

「…それで、今日の御用ってなんですか?」

 

「エ・ランテルの領内についての報告が欲しい」

 

「あぁ、その事ですか、先程デミウルゴス様がいらっしゃってましたが、報告は受けていないんですか?」

 

「魔王の仕事と…なんじゃったっけ?」

 

小首傾げる信長に「忘れて良い内容なんです?」と聞く

 

「あぁ、今後の計画のことだったぞ、思い出した思い出した」

 

「…(ちょくちょくノッブの口調に戻るの違和感がすごい…)それで、私は冒険者目線の報告と一応メディアにメモして貰った書類で説明すれば良いですか?」

 

「うむ頼む」

 

メイドが書類を渡し、沖田は説明を始める。

 

「ふむ…領地内の生産率が大きく下がっておるな」

 

「アンデットがいるんです。わざわざ人間が働かなくても問題ないようにしたってアインズ様が言ってましたよ」

 

「ふむ…それについては、改良の余地ありじゃな」

 

「何でですか?働かないのは楽じゃないですか?」

 

「……ワシ、そんな風に作ったっけ?主」

 

「働くことより剣の稽古をした方が身になると言われたの貴方じゃないですか」

 

「…そうだったな、うん」

 

何かに納得しながら信長が書類に目を通していた。

 

「うむ。すまんな、コレについての対策は今後取るから下がって良いぞ」

 

「はい、そうします。ノッブも無理しないように」

 

そう言って部屋から退出した沖田に笑う。

 





【沖田総司の設定】(書いてたらごめんなさい)
レベル95と微妙な所で止まっている理由は信長が、沖田を完璧にするのは気が引けたから
正直なところ『まだ伸び代がある』という過程こそが英雄らしいという変な趣向のせいでそうなった。

《交友関係》
原作オバロと同様、創造主同士仲良かったり悪かったりするのがNPCにも反映されるように、沖田はセバスと仲が良い。デミウルゴスともそれなりに話が合うが、セバスほど仲良くはない。また、デミウルゴスの方針・やり方に少しだけ嫌な感情がある。
趣味に関してはコキュートスと何故だか分からないが意見が合う。


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番外編『至高の四十一人捜索隊・上』

書くの忘れたというか、書きたいので短編これだけ書きます。

至高の四十一人捜索隊ってアルベドがモロに他の至高の四十一人を抹殺する気満々で作った隊だし…今後のストーリーに重要なのに書くの忘れるという致命的なミスしたのでごめんなさい。




ーナザリック玉座の間ー

 

ワーカー達の潜入にて、ナザリックのシステムや防衛面の確認をし、今後、もしも侵入者がいても問題のないように努めて行こうという話になった中…

 

「アインズ様、信長様。最重要事項として至高の四十一人捜索隊というのを作るのはどうでしょうか?」

 

「うん?捜索隊か」

 

「はい、私が選抜した人員での捜索にはなりますが…」

 

「構わないぞ、信長さんはどうだ?」

 

モモンガから振られ「ん?あ、いんじゃね?」と返す

 

「……聞いてなかっただろう」

 

モモンガの言葉に「そんなことない」と返す(実際聞いていなかった)

 

「先程の愚か者共の話は即座に偽りだと見抜ける程度のことでした。しかしながら今後、そう言った情報の真偽を問うのが難しい場合が出てくると思われます。そのため、情報の信憑性を確認し、それと同時に至高の御方々を捜索するチームを形成したいと思うのです」

 

モモンガは下顎に骨の手を当てて「そうか…」と呟く

 

「私とアインズ様に創造されたパンドラズ・アクターを筆頭に至高の御方々を捜索する部隊を作りました」

 

「別にアルベドでなくても問題ないじゃろう?」

 

「そうだな、お前はナザリックを上手く運営してほしい」

 

二人の言葉にアルベドが微笑む

 

「おっしゃる通りです。ですが、ひとつだけ不安がございます」

 

「不安?」

 

「はい。例えば、ペロロンチーノ様の情報を聞いたらシャルティアが突進すると思われます」

 

「なるほど…」

 

「………」

 

「ですので私の下にチームを編成した方が良いかと愚考しました」

 

「タブラさんの情報を得て、お前が暴走する可能性は?」

 

「ご安心を、ナザリック守護者統括という地位にある者として、そのようなことは決して致しません」

 

深々と頭を下げる

 

「なるほど…」

 

「それでは部下を選ぶとしよう。ひとまずは階層に配置している者を引き上げるのではなく、新たに生み出すとするか」

 

「ひとまずは15体程いれば…」

 

「少し多く…いや、そうだな分かった」

 

「それとお聞きしたいのですが、ルベドの指揮権を頂きたいのです」

 

「却下だ」

 

モモンガは即答する。

 

ノッブは先程から何も言わないが、ルベドに関しては安易に貸し出したくないのが本音だった。

 

ルベドはナザリック最強の個、純粋な肉弾戦においてはセバス、コキュートス達より強い。

 

「起動実験に成功した以上、当分あれを動かす気はない。それより何故、あれほどの戦闘能力を必要とする?」

 

アルベドは『最強の軍団を作りたくて…』と頬を赤らめながら言っているのにモモンガは微笑んでいるが、ノッブは怪訝な目で見ていた。

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、自室に戻り、コピペしまくった歴史書を読み耽っていた。

 

山のように積み重なる歴史本にメイドは片付けて良いのか悩んでいる様子だった。

 

しかし、ノッブが何も言わない以上、下手に片付ければ不敬に値してしまうだろうという判断の下、隣に鎮座していた。

 

「…よし」

 

本を閉じ、椅子から立ち上がる

 

「…すまんの、コレ片付けて貰って良いか?」

 

「はい!お任せください!!」

 

嬉しそうに本を片付け始めるメイドを見て、その横を通り過ぎる。

 

(……モモンガさんに相談するべきか…)

 

ノッブは一人、考え事をしていた。

 

アルベドが提案した『至高の四十一人捜索隊』についての違和感。

 

ルベドを捜索隊に入れるのはやり過ぎな気もし、あの場で即座にモモンガが許可したことに対して自分が却下すると言えば、通らなかった筈だ

 

それでも、あの場で言えなかったのは警戒してのことだった。

 

アルベドの設定を書き換えたことにより起こった反逆行為なら、自分やモモンガに非があるだろう。

 

(…それとは関係なく、アルベドの意志でなら…)

 

ノッブは裏切り行為が最も許せない行為だった。

 

リアルでのこともあり、裏切る行為をする人間はあまり信用したくなかった。

 

(…本物の織田信長は一度の裏切り行為なら許しているけど…)

 

執務室に行き、いつも通り座り、耳に手を当てる

 

《伝言》先はモモンガではなく森長可と沖田、メディアだった…

 

呼ばれた事に長可は驚いていたものの、すぐに転移してくるとのことだった

 

執務室に入って待っていると、ドアの前に転移するのではなく、執務室内のノッブの前に転移してくる

 

「|?」

 

メイドはいきなり現れたことと、いかに用事があれど至高の御方に会うためには手順がいる

 

至高の御方自身が了承しても、ナザリック内では暗黙のルールになっている以上

 

「大殿‼︎呼ばれてきたぜ|」

 

その声に、外にいたメイドも驚く気配を感じる

 

「長可‼︎ルール違反です‼︎」

 

ドアを開けて言ってきた沖田

 

彼女を手招きし、入室を許可する

 

「………」

 

これから話すことはあまり外部…この場合は内部なのだが、ナザリックのNPCたちに公言したくない

 

「すまんがシクスス、20分程度で良いのだが、出て行ってくれぬか?」

 

笑顔で言うノッブにシクススはどうしていいのか分からなそうにしていたが、ニコニコ笑って無言の圧を出しているノッブに気圧され、頭を下げて部屋から退出する。

 

盗聴しないように監視魔法をかけると

 

「ヨシ、ソファーに座って話すぞ」

 

真剣なノッブに沖田は少し躊躇っていた、長可も珍しく静かだった

 

ソファーに座る

 

「…盗聴阻害魔法なんてかけて…何かあるんですか?」

 

沖田の言葉にメディアも「只事じゃありませんよね」と言う

 

この三人を呼んだのは高ランクというのもあるが、何よりも信用できるから呼んでいる

 

「少し不安要素があっての、内部から監視されたら嫌じゃからな」

 

そう言ってクッションに頬杖をつく

 

「だから、メイドも出したんですね」

 

メディアからの言葉に頷く

 

「ワシの考えすぎなら良いのだが…アルベドが提案した至高の四十一人捜索隊についての話が上がっておろう?」

 

「確か、アインズ様が許可して作り始めた組織でしたよね?でも、ノッブがルベドを入れるのを渋っていたから、今悩んでましたね」

 

「その捜索隊、どう考えてもおかしいんじゃ…」

 

「おかしい??」

 

ノッブは長可を見ると

 

「アルベドに叛逆の予兆があるように見える…」

 

そう呟くと沖田が『あんなに忠誠心を捧げているのに、疑っているんですか?』と聞いてくる

 

しかし、メディアと長可が不安そうにしているノッブを見て

 

「では、我々の方で捜査するという方針で持っていって良いですか?」

 

「うむ…できれば長可、そなたは捜索隊に入り、内部から探ってほしい」

 

「おう、分かったぜ」

 

「メディアは副官に命じられたパンドラズアクターの補佐として潜入してくれるか?」

 

「はい、分かりました」

 

話がポンポン進んでいくことに沖田は終始悩ましい顔をしていたが、只事じゃないことには気づいたのだろう『私は何したらいいですか?』とノッブに聞く

 

「……すまんが、そばにおってくれぬか?」

 

不安げに言うノッブに苦笑いし「守りますよ」と言う

 

盗聴阻害魔法が解け、立ち上がる

 

メディアと長可が出て行ったのを見送り、残った沖田にメイドがどうしていいか分からなさそうだった

 

「すみません。仕事を増やすかも知れないんですけど、これから私もノッブ付きになりました。メイドの仕事も少しお手伝いするかも知れませんが…いろいろ教えてください」

 

「は、はい」

 

 

 

 

 

ーメディアー

 

「てことで大殿の指示で入ることになったぜ|」

 

いつも通りのテンションで言う長可と『よろしくお願いしますね。パンドラズアクター様』と挨拶していた

 

「…森長可のことはよいのだけれど、あなたは大丈夫なの?信長様から冒険者としての仕事を任されているんじゃなかったのかしら?」

 

アルベドの言葉にメディアは大丈夫ですよと笑う

 

「捜索隊のことなのだけれど、これからうごぎ始めるわ、ルベドに関しては…」

 

「勝手に連れ出すのか?」

 

牙を見せながら言う長可に止まる

 

「大殿はルベドを出したくねぇって言ってたぜ?それを無視して出すってか?」

 

威嚇している長可にアルベドは何か違和感を感じたのか、いつも通りの微笑みを浮かべ

 

「…いつにも増しておしゃべりね」

 

「大殿からの大仕事だからな!!」

 

そう言って長槍を持ち直して

 

「ルベドなんて出して至高の御方を殺したいんじゃねぇの?」

 

挑発して言う長可

 

「長可さん、少しいいですか?」

 

メディアが声をかけてくる

 

「おう」

 

去って行く長可を見てアルベドは少し何かを考え込む



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番外編・『至高の四十一人捜索隊・下』

歴史物書きたいけど、限りなくIFの話になるんよなぁ…

あと、書くもの変えてからトラッキングがどうのこうの警告文がよく出る…


ーノッブー

 

アルベドから至高の四十一人捜索隊の話をされてから、このナザリックのNPCが少し不審に思い始めてしまった。

 

「ノッブ、こちらの書類、ここのテーブルに置いておきますね」

 

沖田の言葉に『すまんの』と返す

 

(……転移してきてからだいぶ経つけど、モモンガは無性にこの世界のNPCを好いている…確かに転移してきてからの現状を探るにはああいう姿勢が正しいのは明白だけど…)

 

ワーカー達の事件の後、ノッブはモモンガを見て少し『NPC、もといアルベドやデミウルゴスを信用しすぎているのでは?』と思っていた。

 

(まぁ、全員が敵に回る展開は一番避けないといけないことなのは分かるけど…)

 

『最強の部隊を作りたいと思っていまして…』と照れくさそうにしているアルベドを思い出す

 

(少なくとも、モモンガや私に敵意を向けているようには見えなかったんだよなぁ…だとしても、捜索隊にルベドを入れるのはやりすぎな気もするし…たっち・みーで勝てない存在を入れてやることなんぞ…)

 

至高の四十一人を抹殺することを考えているように思えた

 

悶々と考え込んでいると…

 

「ノッブ、デミウルゴス様が来てます。面会したいみたいですよ」

 

沖田から言われ我に帰る

 

「ん、わかった。」

 

そう言うとドアのほうに向かう沖田

 

「…!失礼致します。信長様、今後の計画についてお話ししたくお伺いしました」

 

ヤケに肩に力が入った状態でやってくるデミウルゴス

 

緊張しているのか冷や汗をかいているようにみえた

 

「?」

 

デミウルゴスを見た後、視界の端にいた沖田がゲスチャーで肩を上げ下げしていた。

 

(もしかして、威圧感出しとる?)

 

深呼吸をするが、デミウルゴスの冷や汗は流れっぱなしだった

 

(やってしまったかな?まぁ…しょうがないか)

 

話を聞いていると、今後の帝国との同盟の話になる

 

「うむ、これで問題ないな、詳細は今後も頼むぞ」

 

「ハッ!かしこまりました」

 

 

 

 

 

ーセバスと沖田ー

 

信長様がメイドをそばに置かなくなったと言うのは、メイド間でも話題に上がっていた

 

何かやらかしてしまったか、不快感にさせてしまったのではないかとメイドたちは泣きそうになっていた。

 

「すみませーん。軽食ってあります?いつものチョコレートセット…え?」

 

沖田がひょっこりと覗いてくる

 

メイドたちの空気感が死んでいるのに気づいて首を傾げる

 

「いつものですね、今すぐ用意しますワン」

 

そう言って奥に引っ込むペストーニャ・S・ワンコ

 

「…何かあったんですか?この空気…」

 

沖田がセバスに質問する

 

「沖田様、信長様がメイドを入れない理由をご存知ありますか?」

 

メイドの仕事を代わりにしている沖田にはその理由が分かるだろうとセバスが聞く

 

「あぁ、そのことですか?私もノッブ…信長様の本心は分かりませんけど…」

 

ふと、捜索隊の件を思い出すが、これはノッブも言っていないし、沖田から言うことはないだろう

 

「信長様、最近機嫌悪いんですよ、理由を聞いても特に何も言わないんでメイドをそばに置かない理由もそれとなく聞いてみましたよ」

 

「そうなんですか、信長様はなんと…?」

 

恐る恐るセバスが聞いてくる

 

「うーん、私にはなんとも…まぁ、機嫌良くなったらそのうちメイドもつけると思うので大丈夫だと思いますよ、キレて八つ当たり食らっても私は大丈夫ですし」

 

ペストーニャが軽食セットを持ってくる

 

「ありがとうございます」

 

そう言ってその場から去る沖田

 

部屋に戻ると、軽食をノッブに差し出す

 

「メイドたちが不安がってましたよ?何か私達がやってしまったんじゃないかって」

 

沖田の言葉に『そこまで広がっておるのか…?早いのう噂は』と言われる

 

「はぐらかすのは難しくなってきましたよ?せめてデミウルゴス様やセバス様には伝えた方がいいんじゃないですか?余計に変な噂を立てられますよ」

 

「………そうじゃな、少し考えておく」

 

 

 

 

ー執務室ー

 

それから数日後…

 

玉座の間にて今後の打ち合わせの報告を聞きつつ、アルベドの方を見たり他のNPCを見たりしていた

 

頬杖をついて見ていた

 

<信長さん?どうしました?さっきから無言ですけど…何か問題点ありました?>

 

伝言越しで聞いてくる

 

<ん〜特に何もないが>

 

そう言って話し合いが終わった後、それぞれ転移して部屋に戻る

 

執務室に転移すると、長可がソファーに座って肉をガリガリボリボリ食べていた

 

「なんじゃ…いつの間に部屋におって」

 

そう言うと気づいていたはずだが、声に反応し『大殿!捜索隊にしばらくいてある程度様子見てきたぜ!メディアの奴はもう少し、調べてから来るって言ってたぜ』

 

ニコーと笑いながら座っていた。

 

「んで、主の話から先に聞くが、何かあったのか?」

 

向かいのソファーに座り話を聞く体勢に入る

 

「ありゃあ間違いなくクロだぜ!」

 

「…それは叛逆を企てておると言うことか?」

 

殺気が思わず出てしまう

 

その殺気になぜか笑う長可

 

「大殿に反旗を翻そうとは思ってねぇみたいだぜ!アインズ様にもな!クロつうのはこの場にいない至高の四十一人を抹殺したそうな目ぇしてたぐらいだぜ」

 

NPCの設定を変更したことを思い出す

 

【モモンガと織田信長を愛している】

 

そう書き換えた

 

つまるところ、ノッブとモモンガに対しては忠誠を誓っているのだろうか

 

そう悶々と悩んでいると…

 

「失礼します」

 

そう言って入ってきたメディア

 

盗聴妨害魔法をかけている上で、入ってきた人間が本人か本人じゃないか分かる魔法をかけていた

 

「パンドラズアクター様と話をしていて遅くなりました」

 

「どうだった?」

 

「失礼ながら信長さまの名を出して、捜索隊の1人として誘われた理由を教えてほしいと言いました。アルベド様からは『このナザリックをアインズ様と信長様の物にする』と言われたそうです。パンドラズアクター様は深く聞かずお二人の物になるならばと了承したとのことです。…信長様?」

 

その内容を言われ、少し考えこむ

 

「のう長可、メディア。このナザリックにおいてギルメンはどう思う?」

 

「俺は大殿がいれば他はいらねぇぜ」

 

ハッキリと言う長可に咳払いする

 

「このナザリック全体からしてみればギルドメンバー…私達にしてみれば神の如き存在です。特に自分を作った方はアインズ様には失礼だと思いますが、他のギルメンの命令も優先されますね」

 

「例えばモモンガからの命令とワシからの命令があったとしたら、どっちを取るんだ?」

 

「「もちろん信長様です\大殿だぜ!」」

 

ハッキリと言う2人にハァとため息をつく

 

(つまるところ、アルベドが急に捜索隊を結成したのはそう言うことか…だが…)

 

まだ不安要素は山のようにある。

 

「よし、やりたくはないが、やるか」

 

「何をですか?」

 

メディアが首を傾げる

 

「絶対に嫌われる上司の圧迫面接じゃ、そうなれば、メディア、アルベドを呼んできてくれぬか?長可はそばにおれ」

 

「おう!!」

 

「沖田はどうされますか?」

 

アインズと冒険者としての仕事をしているのを思い出す

 

「沖田は仕事中だからな、アインズに気づかれんようにするには呼び出さん方がいいだろうし」

 

そう言って玉座の間に転移する

 

「長可はそこにおれ」

 

いつもアルベドが立っている場所を指差すと『おう』と言ってそこに長槍を刺して待っていた

 

メディアが連れてくるアルベドを見て威圧感を出す

 

<恐怖>を周囲に放出する

 

少し火の粉が舞ってしまうが、その威圧感に長可がワクワクしたような場違いな顔をしていたので<伝言>で少しでも演技をしろと言うと、表情を引き締めるのがわかる

 

「のぅ、アルベド、ワシが怒っておる理由がわかるかのう?」

 

嫌われる上司その1、威圧感と圧迫感が凄い

 

やりたくはなかったが、転移する前に思い出した部下への圧力の掛け方

 

貧困層を同じ屋根の下で働くことはあまりなかったが、時折来る失敗し続けている部下に怒るときに人としてどうかと思うが圧をかけて説教すると、二度とこういう失敗はしたくないと思うのだ。

 

まぁ人間だった頃で十分威圧感を出せていたのだが、転移して怨霊になってから余計に威圧感を出せるようになっていた

 

漏れ出る殺気にアルベドが恐怖のあまり震え始める

 

「も、申し訳ありません信長様…」

 

震えながら言うアルベドに玉座の後ろに回り込んでいたメディアが<伝言>で『まだまだ威圧感足りません』とか言ってくる

 

(…メディア、サイコすぎる…これ以上殺気出すのは…)

 

「お主はワシらに…ナザリックに反旗を翻すつもりなんじゃろう?その準備のために捜索隊を結成して」

 

嫌われる上司その2、決めつける

 

「そ、そのようなことは断じてありません!私は信長様とアインズ様の為ならば命を賭けても惜しくはありません!!ここで自害を命じてくださるのならば…!」

 

泣きながら忠誠を誓っていると言うことを話すアルベド

 

「そうか?ならば何故、捜索隊を結成した?ワシが今1番に信用できておらんのは、アルベドそなたじゃ」

 

「ッ!!」

 

「捜索隊の結成の話は問題ない。この世界に他のメンバーが転移してきているならば助けることは望ましいじゃろう。だが…」

 

あえて炎を周辺に出す

 

メディアが魔法で燃えるカーペットを演出する

 

「ルベドを入れたのはこの世界を彷徨っておるかもしれないメンバーを探り秘密裏に殺すこと、違うか?」

 

アルベドは震えながらも真意を話すべきか悩んでいた

 

「アルベド?」

 

首をかしげて問いかける

 

しばらくすると、アルベドがポツリポツリと話し始める

 

 

 

ーアインズー

 

信長さんが激怒しているという報告が入ったのは数分前だった。

 

報告を受けて急いで帰ろうとすると、沖田は何かを思い出したのか、転移魔法を阻害する魔法道具を出してかけてくる

 

「沖田様|?」

 

ナーベラルが驚きつつも攻撃態勢に入るが、沖田とナーベラルの戦闘力は大きく差がある

 

「す、すみません!ノッブから絶対にアインズ様をこの時間にナザリックに入れないようにと頼まれたんです!後で煮るなり焼くなり好きにして良いので!お願いですから怒らないでください!」

 

沖田の半泣き必死の願いに何か作戦か?と思いつつ、沖田をなんとか落ち着かせて聞く

 

しかし、沖田にはあまり聞かされていないのか分からないようで、しきりにノッブの方から説明あると思います。と話していた

 

ヤキモキしつつも、沖田に<伝言>が行ったのか「もう帰ってきて大丈夫見たいです」と話す

 

急いで転移して戻ると、アルベドが平伏し、ノッブは怒っていたのが嘘かのようにいつも通りで立っていた

 

「信長さん!一体どういうことですか!!」

 

そう怒鳴るように言ってしまうとアルベドがびくつく

 

「モモンガ、説明するから円卓の間に集合じゃ」

 

端的に言えば、アルベドが叛逆をする可能性が高かったのは結局、自分たちが彼女の設定『在り方』を歪めたからだ。

 

「…つまるところ、ルベドを入れようとしたのは、今更帰ってきて支配者のような顔をして欲しくなかったから…ですか」

 

円卓の間で言われたことにモモンガはため息をつく

 

モモンガにとってみても、これはモモンガとノッブの責任である

 

「捜索隊についてはワシとパンドラが継続して捜索隊に入ることになった。アルベドは外しての」

 

「わかりました。また何かあれば言ってください。アルベドに関しては今後も話していきましょうか…」




今ジョージオーウェルの『1984年』読んでるんですけど、描写の所々が鈴木悟がいた現実世界のような感じで創作意欲が掻き立てられています

この話に出てくるノッブは【富裕層で支配者層】、鈴木悟は【貧困層で奴隷層】みたいな感じかなと思ってます…鈴木悟の方に関しては語弊があるかもしれませんが…

だからこそ作中でノッブの発言に感情移入ができないのは…(当時はそこまで考えてなかった)


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