最強になる必要はない。最強を創れればいいのだから。 (アステカのキャスター)
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 これは転生者が最強に至るまでの道である(cv:川澄綾子)




 俺は転生者である。

 いや言わせてくれ、ありきたりだと思うだろ?32歳まで機械系の仕事に携わって金稼いで、好きな事にお金を使って過ごしていた所謂オタクである。

 

 そして、不慮の事故によって整備中の機械が故障、熱を持った機械が発火、付近にあった油に燃え移りその火災によって焼死

 

 その後、赤ん坊に生まれ直した。

 親は前世の両親に似た良い人達だった。流石に記憶ありの中で母乳とオムツは恥ずかしくて泣きかけたけど。赤ん坊ならしょうがないと割り切った。

 

 

 ああ、そういえば言い忘れてた。

 神様に会ってないのだが、転生特典はあった。

 

 

「フッ……!」

 

 

 右手が光り出すとビー玉が生み出される。

 ガラスも元素も一切使わずに無から物質を精製している。

 

 それが、『創造』である。

 万物万象、知りえれば何でも生み出せるチート。

 

 

 

 

 

 嘘です盛った。盛りすぎたのは反省する。全然チートなんかじゃない。

 正確には『創造』の類ではあるのだが、物質を生み出した際における負担がクソである。

 

 例えるならビー玉を創ろうとする。ビー玉はガラス細工だ。創るのは余裕である。だが、生み出せる量が精々6つ程度。その後は頭が怠くなって鼻血を出し、三日間くらい寝込んだ。

 

 

 要するに無からの精製にはコストみたいなのがあり、大きいものは創れない。分かりやすくコスト30としてビー玉は5のコストを必要とする。しかも複雑なものは一度に創る事が出来ない。銃をパッと出せたらカッコ良かったのだが、そんなものは夢のまた夢だ。

 

 

 コストギリギリで生み出せた唯一の武器は刃渡りの短いサバイバルナイフである。うん、カッコいいからよしとしよう。

 

 

 

 ★★★

 

 

 六歳になり、外に出て遊ぶ事が多くなった。

 公園で親とキャッチボールとか、一人でブランコと童心にかえるような青春街道まっしぐらの俺にはある存在が見えた。小さな異形の怪物だった。近所の公園でバッタのように飛んでいたりするのが見えた。

 

 新種か?と思ってお母さんを呼んだが、見えないらしい。どうやら俺だけにしか見えないようだ。

 

 

 次の日に公園に向かった。

 怪物は少しだけ大きくなっていた。言うならばバッタからアルマジロくらいに大きくなっていた。あっ、コイツやばいと思った俺はサバイバルナイフで斬り刻んだ。目が虚と言うか、食料を見る目だったので判断は間違っていないと思いたかった。

 

 空を見上げて、変な達観をしていると背後から声をかけられた。

 

 

良い判断だ(Good decision)少年(ボーイ)!」

「!」

 

 

 パチパチと拍手の音が聞こえる。

 大型のバイクに乗っていたのか黒ヘルメットとライダースーツを着ているカッコいい女の人がそこには居た。

 

 サバイバルナイフを生み出したところを見ていたのか、警戒しながらも逃走の心構えもありながら、女の人が真っ先に聞いてきたのは……

 

 

「どんな女がタイプかな?」

「最初の質問がそれかよ」

 

 

 俺の女性のタイプだった。

 おい、ここ呪術廻戦の世界かよ。オサレじゃないのかい。

 

 

 ★★★

 

 

 特級呪術師、九十九由基。

 呪術廻戦で出てくる呪霊を無くす為の研究をしている人で、東堂の師匠のような人だ。その人から呪術師や呪霊について少し話を聞かせてもらった。あ、ジュース買ってもらった。コーラんまい。

 

 話を聞き終えると気が付いた。

 この世界が呪術廻戦の世界だとすると、俺の生得術式は構築術式という名前になる。

 

 アレだ。禪院真依と同じ術式。

 銃の弾丸を一発だけ増やせる術式。ブラフには強かったが、呪術師としては大した強さを持たない。

 

 俺の呪力保有量は九十九さんの話によると中の上らしい。まあ普通の呪術師よりは高いらしいのだが、一般の域を超えないらしい。どうやらチート無双は無理なようだ。

 

 

「だが、呪力の質は素晴らしいな」

「質?」

「そう。ガソリンで例えた方がいいか。質がいいガソリンほど、高い火力を生み出せる。構築術式は負担のデカいものだ。そのサイズのサバイバルナイフを作るのに本来なら莫大な呪力が必要になってくる。質だけなら五条悟並み」

 

 

 成る程、青子(型月)説か。

 呪力の質が他人と比べて凄いから術式の質が高いのか。だから構築術式の負担がアレだけで済んだのか。

 

 

「なあ九十九さん」

「何だい?」

「もし、俺が呪術師になるとしたら最強になれる?」

「無理」

「デスヨネー」

 

 

 ハッキリ言われただけまだマシだろう。

 質ならまだしも、量で圧倒されたら負ける。術式の相性から見て二級を祓えれば上出来だと告げられた。

 

 いや、違う。 

 最初から前提が間違っている。何故、俺が戦うと決めていたのだ?全く的外れな答えに笑ってしまった。

 

 

「九十九さん。呪術、教えてくれませんか?」

「……坊や、何故呪術を知りたい?」

「呪霊が見えるし狙われる。なら、自衛の手段としても」

「殉職率は高いけど、それでもかい?」

「そう、そこ。最初から戦う事に向いてないってのは分かってる。だから、俺は創る方を専門にする」

 

 

 脳内のエミヤが告げていた。

 お前は戦う者じゃない。創り出す者だ。常にイメージするのは最強の自分だ。ステイナイト大好きだった。

 

 まあ、それはさておき。

 呪力の質が高い俺は呪霊に狙われやすかったりする。まあ殉職率が高いし、俺の術式は戦闘には向いていない。呪術、術式を理解したその上で出す答えは既に決まっていた。

 

 

「と、言うと?」

「最強になれないなら、最強を創ればいい」

 

 

 最初に目指すは蒼崎橙子だ。

 最終目標はダヴィンチちゃん。目指せ万能の人。

 

 

 ★★★

 

 

 私、九十九由基は面白い少年に出会った。

 任務帰りに田舎にバイクを走らせていたら、呪霊の気配がした。三級、強くはないから適当に祓おうと考えていたのだが、三級の呪霊の喉元にサバイバルナイフを突き刺す少年がいた。

 

 サバイバルナイフを生み出したそれは構築術式。

 呪術師の中ではマイナーで、二人ほどしか見た事がない。使い勝手が良いとは言えない、大した事のない術式。

 

 だが、無からアレだけ大きなモノを精製した人間を見た事がない。弾丸一発で身体に大きな負担がかかるほどなのに、呪霊を殺せるほどの切れ味のいいモノは本来なら絶対に創れない。

 

 調べた結果、呪力の質が凄まじかった。

 量は中の上、だが呪力の質だけならば五条悟と同格レベルだ。だが、持っている生得術式のせいか宝の持ち腐れ。

 

 強くはなれる。

 呪力操作をマスターし、黒閃を撃てれば絶大なダメージを与えられるだろう。

 

 だが、最強にはなれない。

 現在最強の座につく五条悟には遠く及ばない。こればかりは才能の差だ。どうしようもない曲げられない事実だ。しかし、この少年はその答えを真っ向から否定する発言をした。

 

 最強になれないなら最強を創ればいいと。

 今まで価値を見出せなかった構築術式を使って才能の壁を越えられる最強を生み出す。その答えに一瞬だけ驚愕した。本当に六歳の子供か?と。

 

 

「……へえ。面白い回答だ」

 

 

 私はニヤける顔が抑えきれなかった。

 恐らく、この少年は呪術界で革命を齎す。これは勘だ。勘でしかないが、呪霊を無くす研究をする前に、呪術師が居なくなっては話にならない。殉職率が高い呪術界をこの少年の手で常識を変える力をいずれモノにする。そんな刺激的でゾクゾクするような勘とイカれ具合が極まった回答に思わずニヤけ顔が抑えきれなかった。

 

 

「いいね、そのイカれ具合。私も助手は欲しかったし、やってみるといい」

 

 

 正直な話、期待した。

 この呪霊を無くすという馬鹿みたいな自分の発想を叶えてくれる欠片になってくれると。

 

 




 どうでしょうか。 
 呪術廻戦初めてで不安が残りますが、良かったら感想、評価お願いします。呪骸(人形)や呪具(武器)については活動報告を読んでからお願いします。

 最初は蒼崎橙子を目指して書いてみます。



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 とりあえず日記形式にした。
 所詮二番煎じなのは分かっているが、それでも行こう。


 

 

 

○月○日 晴れ

 

九十九さんに出会った日として今日から日記を書いていこうと思う。九十九さんは「師匠」か「先生」と呼んでくれと言われたので九十九センセーと呼ぶ事にした。ニヤけ顔が見えている。

 

最初の目標は蒼崎橙子にしようと思う。現段階、最強を創るには圧倒的に知識が足りない。そもそも、万能の人になって最強を創る事と呪術界の殉職率を減らす事がメイン。呪霊を無くす事を実現させたい九十九センセーの目標も一応はゴールに入っている。後半難易度ルナティック超えてナイトメアだが意気込んだ以上、やってやろう。

 

こうして最弱である俺の最強への道が始まったのであった。

 

 

 

○月■日 曇り

 

学校が終わると九十九センセーに渡されていた呪術の資料を部屋で開いていた。最初の冒頭部に書かれていた言葉は「はーい。九十九センセーのパーフェクト呪術講座。はっじまーるよー!」だ。

 

………これなんてRTA?

 

書いてある事は基礎だった。

 

 

 

○月◎日 晴れ

 

呪術について理解した。初日書かれていた事は基礎知識だ。呪術廻戦を知ってるオタからしたら基礎中の基礎は知っていた。で、今日は呪術のステップ1。『術式を理解する』だ。といっても俺は既に生得術式を理解し、使う事が出来る。読み返してみたが、基礎に関しては問題なかった。

 

最初の方は生得術式を理解し、使用する事。

次のステップが呪力操作。呪力を過分なく使う為の道具を渡された。一見ただの棒に見えるのだが、呪力を流すと先端が赤く光った。説明書を読むと赤い状態は流してる呪力の量が多く、緑の状態を常に維持しろと書かれていた。

 

呪力を込める力をスッと抜いてみると緑になった。

あれ?もしかして天才か俺?この後三時間映画を見ながら維持する事が出来た。

 

一応時間があるから最終ステップだけ見た。

呪力操作の最終ステップが黒閃を一回放つ事だ。

 

 

 

……えっ?最後いきなり難易度高くなってね?

 

 

 

○月◇日 雨

 

雨で外が使えないので黒閃の練習は今日は無しにした。

なので、生得術式の反復練習を行っていたのだが、凄い事に気がついた。創れるもののコストが大分下がっている。サバイバルナイフが30コストの中で28コストはあったのに感覚的に14コストまで下がっている。

 

いっつも呪力を無駄に使っていた分、洗練されたような術式の使い方に俺は驚いた。

 

呪力操作って大事だったんだなぁ。

さすがセンセー。略してさすセン。

 

 

 

○月*日 晴れ

 

森で黒閃の練習をした。

しかし、黒い火花は起こらない。打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪みって何?打撃と同時に呪力をぶつけなければいけないのだが、呪力が拳に遅れてしまう。どうすればいいか悩みながらもやってみたが、今日は出来なかった。

 

 

 

○月¥日 晴れ

 

今日も出来なかった。

木をへし折る事が出来たがまだ遅い。手の甲から血が出た。あと若干日焼けした。

 

 

 

○月◆日 晴れ

 

今日も出来なかっーーー(疲労により寝落ちした)

 

 

 

○月★日 晴れ

 

学校が終わったので少し気分転換に今日は修行を休養にした。急がば回れと言った言葉のように焦りすぎてはいけない。精神が摩耗していれば出来るものも出来ない。と言うわけで『ボクがかんがえたさいきょーのじぶんノート』を捗らせた。因みに母親はこれを見て「右手が疼くとか学校でやっちゃダメよ?」と言ってきた。泣いた。

 

 

 

○月●日 曇り

 

コンディションが最高にいい。

ノートを捗らせる事と、サバイバルナイフに『七夜』と面白半分で名前を彫っていた昨日の事を思い出す。あの闘い方が出来たら凄いと思う。だが直死の魔眼が無い。ならば創ればいいじゃないか!!

 

……まあ、今はまだ無理だけど。

 

とりあえず何事にも形から。

サバイバルナイフを腰に装備できるようにして、戦闘に行くようなスタイルで木に向かって拳を放つ。イメージするは最強の愉悦神父!マジカル☆八極拳のイメージから生み出された黒い火花は自分の身長よりも遥かに高い木をへし折った。

 

最終ステップをクリアした後は狂喜乱舞だった。呪力をしっかり理解する事が出来た喜びと、その全能感に浸りながら、連続で黒閃を放った。良くて二回が限界だった。

 

七夜志貴の殺人術はやらないのか?

いや未完成だよあんな変態機動、呪力使ってもムズイんだよ。

 

 

 

○月♪日 晴れ

 

九十九センセーに電話する事にした。あの日、明日には任務が落ち着くから俺を研究所まで連れて行ってくれるらしい。黒閃出来たと報告したら、「はっ?もう出来たのかい?アレ二年くらい時間かかるはずなのに」とドン引かれた。解せぬ。

 

 

 

○月☆日 晴れ

 

九十九センセーは任務が終わると俺をバイクで研究所まで連れていってくれた。一言で言おう。圧巻だった。呪霊の研究、呪具の解析、呪術に対する知識がこの研究所にはあった。場所の口外や伝達の一切を禁ずる縛りをしている分徹底している。と言うわけでここに成果を記せないので日記をもう一つ買った。

 

続きは研究所に書いて置いておこう。

 

 

 

 ★★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 研究所に通い始めて約二ヶ月が経った。

 呪霊の研究の手伝いをしながら、知識を吸収し、最強を創るためにどうすればいいかを考えながら、俺は術式の研究をしていると九十九センセーが声をかけてきた。

 

 

「さて、()()。私は暫く外国に行く」

「はっ?唐突ですね」

「まあ忙しいし、外国は呪霊の数は少ない。研究も捗るだろうしな。そこでお前に課題を課す」

「課題?」

 

 

 九十九はニヤニヤとしながら課題の説明をする。あっ、これ嫌な予感しかしない。絶対にヤバいやつだと直感が理解する。

 

 

「費用は多めに渡すし、この研究所にあるものを好きに使ってくれて構わない」

「大分太っ腹じゃないですか」

「そして課題だ。私が出す課題はただ一つ。一年以内に『()()()()()()()()()()()()()()()』を創ってみろ」

 

 

 その言葉に目を見開いた。

 呪術界に大きな影響を与えるもの……だと?結構無理難題を言い渡されている。まるでエジソンに次の新しい機械を生み出せと言ってるようなものだ。エジソンならば創れるだろう。だが、一年では難しい。設計、実験、実践、改良、完成まで考えると大きな影響を与えるものを創ると言うのは無理ゲーに当たる。

 

 

「マジで……?判断基準は?センセーの独断?」

「まあ、後は夜蛾って一級呪術師と一緒に判断する。次期学長だしな」

「波紋を起こすなら、俺が特級になるとかそんな感じでもいいんすか?」

「出来るならそれでもいいぞ?無理だと思うけど」

「一年で出来なかったら?」

「破門だ」

「うへぇ………」

 

 

 正直キツ過ぎる。

 つか弟子を取って僅か二ヶ月で出す課題じゃないでしょ。と、言っていた割に自分ではさほどショックを受けているように思えなかった。

 

 

「……センセーのドS」

「そう言ってる割には随分ニヤけてるぞ?」

「……意外とそういう脅しをされると」

 

 

 だが、この研究所を自由に使えて自分が創りたいものを創る事が出来るのと、費用の通帳を見せてもらったらゼロが6個もあった。6歳の子供に渡すものじゃないだろと思いながらも、この設定なら決して不可能ではない。だが、一年と言う時間は余りにも短い。

 

 だが、それがまたいい。

 挑戦するならば高い壁を越えてこそだ。

 

 故に、過負荷をかけられた俺は……

 

 

 

「結構燃えるタイプなんだわ」

 

 

 

 

 

 一応言っておこう。決してドMではない。

 

 

 




主人公の名前 荒夜緋色(アラヤヒイロ)

髪の毛は黒で、一部赤い。親がハーフなのだと言う。九十九センセーに無理難題を押し付けられるが、結構燃えているタイプ。Fate風に呪力のランクを出すならば量C++ 質EXである。

術式 : 構築術式 
生み出せるもの : ビー玉、サバイバルナイフ、包丁(New!)

活動報告にて最強募集してます。


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沢山のリクエストありがとう!



 

○月○日 晴れ

 

九十九センセーが海外に行った。

まあ電話とか質問くらいは受け付けると言っていたがかなり無理難題を出してきた事に頭を悩ませていた。

 

創るものは自由だ。

一応呪骸は創る事は出来る。一体だけ小さなぬいぐるみを編み込んで創った。だが、それだけじゃ意味がない。呪術界に影響を与えるものとしては呪骸を何個創ろうが影響と呼べるものは出来ない。とりあえず、呪力操作の練習をしながら、どんなものを創ろうか迷っている。

 

 

 

○月■日 雨

 

一週間が経った。

まあ毎日通えるほど近くはない。まだ六歳でバイクも持っていなければ尚更だ。今のところアイディアがまとまらない。呪術界に影響があるものを創る。最強の呪骸を創ったとしても影響を与えるとは言い難い。

 

もっと汎用性があるもの、馴染みやすいものを創るにはどうしたらいいか。

 

 

 

○月◎日 晴れ

 

二週間が経った。

とりあえず呪術界の現状を纏めた。

 

・殉職率が高い。

・腐ったみかん。

・湧き出る呪霊。

・存在自体がマイノリティー。

 

何が纏まったのかよくわからないが、目を付けたのが殉職率。ただでさえマイノリティな存在なのに殉職率が高いならば、万年人手不足は当然と言えば当然だ。なので先ずは呪術師を死なせない事を前提として考えよう。

 

 

 

○月◇日 雨

 

一ヶ月が経った。

思い浮かんだのは使い捨てに出来る反転術式。例えるなら呪力を特定の物に流して、それを順転術式から反転術式へ変えるものはどうだろう。仮の話、呪力のタンクを創ろうと思ったが、危険過ぎる。呪力は負の感情がベースならば呪力が溜まれば溜まるほど呪霊は引き寄せられる。

 

その為には先ず、自分が反転術式を使える事が前提だ。

とにかく、最大四ヶ月で習得を目的としてやってみよう。

 

 

 

○月*日 

 

 

 

○月¥日 

 

 

 

○月◆日 

 

 

 

○月★日 

 

 

 

○月●日 

 

 

 

○月♪日 

 

 

 

○月☆日 晴れ

 

日記を書くのは久しぶりだ。三ヶ月が経った。

遂に反転術式を習得する事が出来た。俺の反転術式で術式反転を使ってみると、なんと触れた物が分解された。石は砂のように風化し、鉄も豆腐のように壊す事が出来た。

 

構築術式の反対は分解術式だ。

まあ触れた物が分解されるのだが、蠅頭が分解された事から呪霊に対しても有効らしい。これひょっとすると五条悟みたいにデフォで術式を出しっぱに出来るんじゃないか?

 

明日試してみよう。

 

 

 

○月〒日 

 

 

 

○月●日 晴れ

 

無理だった。

一日中、呪力を使い果たして家で日記を書けないほどだった。

これに関してはミスった。単純な話、反転術式は順転術式の倍の呪力を必要とする。順転術式がマイナスだとするなら反転術式はマイナス×マイナス=プラスの力だ。

 

五条悟の順転術式は馬鹿多い呪力の自己補完の範疇で回している。反転術式に関しては脳が焼き切れる前に反転術式を回し続けていつでも新鮮な脳をお届けなのだ。

 

だが、俺に関しては順転をオートで使うにしても物質具現は単純に呪力を食うし、それが倍になって生み出された分解など更に呪力を食う。そもそも反転術式を纏う行為自体、分解が無くても弱い呪霊ならば弱点なのだ。五条悟の力を真似できても精々六分が限界だった。

 

……どうやら最強までの道のりはまだ遠い。

 

 

 

○月◆日 晴れ

 

今日、とんでもない事に気がついた。 

虚式「茈」と言う技について思い出した。無限の収束である術式順転と無限の発散である術式反転を重ねる事で仮想の質量を押し出す技。見ることも触れることも出来ない重さと言う概念が飛んでくる奥義。無限の収束と発散によって捻じ曲げられた空間はただ重さだけを世界から抉り取る。

 

なら、俺の場合はどうなる?物質の構築及び分解が重なった場合、どうなるか試してみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

……しかし、なにもおこらなかった。

 

 

 

○月★日 雨

 

結論を言おう。

何も起こらなかったわけじゃない。ただ、変化がよくわからないのだ。虚式「茈」の場合は無限から生まれた仮想の質量。これに関しては分かりやすい。ただ、分解と構築の場合だと押し出す事も出来ないし、良くわからない。混ざり合ったら強くなる。ケーキとラーメンを合わせてラーメンケーキになっても美味しくないのと同じ。

 

……要するに酷い勘違いだったのかもしれない。

 

……(´・ω・`)

 

 

 

○月◇日 晴れ

 

俺の生得術式について考えてみた。

物質を構築する術式だ。これは言わずもがな。

 

では物質を生み出す時、何を想像している?

特に決まってない。鉄なら鉄を生み出すし、ガラスならガラスを望めばそれに応じたコストで生み出される。それは大きさとイメージ、呪力操作に比例してコストと質が決まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……待てよ、今とんでもない事考えついた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

この考えが正しければ……

 

 

 

 

明日、もしかしたら世界が変わるかもしれない。

 

 

 

 

 

 ★★★★★★★★★

 

 

 

「イメージ。イメージしろ……右手に」

 

 

 ボッ!と音を立てて出現した。

 

 俺が生み出したのは()だった。

 維持するにはコストを絶えず支払わなければならないが、物質の具現より燃費は遥かにいい。

 

 

「で、出来た………」

 

 

 やっぱりだ。

 俺の構築術式は何も物質に限った事ではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()。なんなら気体はこの世界にありふれたものである以上、永劫消えない物質に比べると燃費の良さが段違いだった。

 

 

「液体はどうだ?」

 

 

 右手に浮かぶ炎を消し、今度は単純な水を構築する。水を構築と言っても分からないだろうから、原子を組み合わせるイメージで構築を開始する。水素2と酸素1で水が生み出せる。

 

 

「……出来た」

 

 

 右手から水が零れ落ちる。

 気体よりはコストを食うが、形を絞らない為、物質を生み出すよりは燃費がいい。術式を止め、椅子に座るとこれでもかとため息をついた。

 

 

「盲点だったな……完全に頭固くなってた」

 

 

 構築術式は現象も構築可能。

 炎や冷気、なんなら水すら原子から構築する事が出来る。恐らく酸性のものも出す事が出来るだろう。

 

 ただ、風を生み出す事は出来ない。

 指向性が全く無いし、風の現象を再現する為には恐らく力そのものを生み出さなくてはならない。

 

 言ってしまえば筋力0の腕のようなものだ。

 力が無いから動かせない。腕と言う物質はあるが、動かすエネルギーとなる力そのものの構築は原子と全く関係がない。同じ科学分野でも化学と違い、ベクトル、角度、向きは数字の世界だ。

 

 数字から全く別の概念の構築は出来なくはないかもしれないが、一般人が一方通行(アクセラレータ)を目指すようなものだ。一定の指向性を創れはするかもしれないが、それに関しては後だ。

 

 

「待てよ……分解と構築……」

 

 

 何かを思いついたように椅子に座りながら鉄パイプを机の上に置き、左右に術式を生み出す。構築する力場と分解する力場。それらを掛け合わせようとする。

 

 

「術式順転『構築』……術式反転『分解』」

 

 

 お互いに比率は同じ、前回やった時と同じように。

 前回と違うのは順転と反転を掛け合わせた力場の真ん中に鉄パイプを置いた事だ。俺の想像が正しければ……

 

 

「………っ!!」

 

 

 鉄パイプが分解される。

 ここまでは予想通り、分解された鉄パイプは消えた訳ではない。力場の中に砂が舞うように存在している。物質そのものが消えた訳ではない。そこに存在している。

 

 それを()()()()()

 刀をイメージし、鉄パイプの配合を構築、及び想像する事を含めながら純粋な鉄と言う部分だけ無からの精製で補う。いつもの呪力消費に比べればまだ負担が低いが、早く終わらせなければ力場を固定する集中力が途切れる。

 

 焦らず、急げ。

 鉄と言う部分が存在するならば、分解して再構築する事で純粋な鉄を圧縮したそれが姿を現す。

 

 

「で、出来た」

 

 

 それは一振りの刀だった。

 原子体を極限まで圧縮するように構築し、鞘こそ無いが鉄パイプから出来たものとは思えないほどの真っ直ぐで綺麗な直刃だった。

 

 イメージし、想像した。

 縁を切り、定めを切り、業を切る刀。

 修剱も研鑽も無い。本家に比べたら烏滸がましいかもしれない。

 

 しかし、偽物であるはずなのにその存在感に目を見開いた。

 

 

「……材料からしたら力不足かもしれないけど」

 

 

 生み出したもの。

 それは最強の一振り、『都牟刈村正』だった。

 

 いやいやちょっと待て。

 それは宿業を断つには力も材料も役者も不足だが、そんな贋作にも等しいものであっても確かに形となって存在している。

 

 鉄パイプで試しに創ってみたとは言え、それは未完でありながら落ちた地面に半分ほど刀身が突き刺さる。それに思わず仰天し、目を見開いた。

 

 

「うっそ…だろ?落としただけで刀身半分突き刺さった!?」

 

 

 研究所(ここ)のタイルは二級の呪霊にも壊されないくらいに硬いはずだ。何なら黒閃でも一撃では壊せないように設計されているはずなのに。そして触れたら分かった。

 

 この刀、()()()()()()()()

 恐らくは準一級に通用するくらいの呪具と化している。分解し、再構築を呪力によって生み出された。ならばコレは恐らく呪力を浴びた事によって生み出された呪具。

 

 分解と再構築。

 力場に入れた物質を分解し、再構築することで呪具を生み出す事が出来る。無からの精製ではない為、必要なのは力場を維持する呪力と構築を操作する為に必要な呪力と想像力。

 

 

 

「………これは…ヤベぇな」

 

 

 構築術式がハズレ術式?

 とんでもない。この術式なら最強を生み出す事も不可能じゃない。それを改めて再認識出来た瞬間だった。

 

 ……忘れてると思うが、転生したとはいえこの時まだ六歳である。

 

 




術式順転 : 構築術式  
生み出せるもの : ビー玉、サバイバルナイフ、包丁、炎(New!)

原子に関わる物ならば大抵は出来る。コストの燃費で言えば、ビー玉を生み出すのにコストが3ならば、炎は大きさにもよるが0.5程度だ。ただし、指向性はない為、投げたり放つ事は出来ない。水といった液体は1.5といった所。


術式反転 : 分解術式
分解出来るもの : 鉄、石、四級レベルの呪霊(更に上は試した事がない)

触れたものを原子クラスでバラバラに分解する。
ただし、分解出来る大きさや質量は呪力の操作と量、発動範囲によって決まる。恐らく二級までは頑張れば分解出来る。


??? 

まだ名前は無いが、分解と構築を合わせた空間力場。
分解し、再構築する時に呪力を介している故に、そこで精製したものは呪具になる。ランクはイメージと材質と呪力の質によって決まる。材質は構築術式である程度賄える為、実質材質が低くても、ランクが高いものを精製できる。



★★★★★
活動報告に武器や最強を募集してます。
良かったら感想、評価お願いします。


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 リクエストの最強の要望がヤヴァイものがあった。
 とりあえず、次くらいかな?何か取り入れてみたいと思います。それではどうぞ!!


 

 

 

○月○日 晴れ

 

呪具を創り出す事は出来た。

都牟刈村正というには材料が鉄パイプなのがダメ。しかも俺はそれを振るう担い手でも無い為、都牟刈村正という贋作に今は名を付けない。まあそれなりの業物ではあるが。

 

とりあえず整理しよう。

俺が発生させた力場、まあ単純に錬金空間としておこう。いずれ名はつける。言ってしまえば、物体、物質を分解したものには原子だったり、エネルギーが存在する訳だ。無からの構築は自身の呪力という果てしないエネルギーをコストに使っている。

 

だが、この錬金空間ではコストを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。簡単に言うならば、今までは呪力全体で100として、構築する為の呪力の最小単位を10とすると、無から物質の構築に40〜80くらい取られる。

 

それが今回はどうだ。

分解20、構築10だけあれば後は構築は物質さえあればコストは賄える。つまりは、無からサバイバルナイフを創るより燃費が遥かにいいのだ。

 

 

この一ヶ月はこの錬金空間で生み出せる物を調べるとしよう。

 

 

 

 

○月☆日

 

 

 

 

○月◆日 曇り

 

肋骨が二本イッた。

丸一日気を失っていて日記が書けなかった。俺は考えていた。分解に生じた原子は単純な話、エネルギーな訳だ。そのエネルギーの密度を高めて物質ではなくエネルギーそのものに構築のアプローチをかけたらどうなるか。

 

 

結果。研究所の壁と共に俺は吹き飛んだ。

 

 

全身と男のシンボルが叩きつけられ、全身血だらけになって死ぬかと思ったが、反転術式で回復。マジで死の淵を彷徨いかけた。

 

エネルギーそのものを圧縮すると下手な爆弾より厄介だ。俺は0.001ミリ単位で途中で危険だと思って解除したらコレである。

 

指向性が全く無く、目の前で爆弾を創ったようなものだ。ベクトルとか言った力場の構築をしなくてはいけない。

 

ひとまずエネルギーは置いておこう。

呪術界に影響のある物を創るほうが先である。ベクトルや必殺技の作成はその後でもいい。

 

 

 

 

 

……とりあえず今日は早く寝よう。一瞬とは言え使い物にならなくなった恐怖心で今日は気分が乗らなくなった。

 

 

 

○月◇日 晴れ

 

……復活!いい感じでストレスが消えていた。

 

と言う事で今日は普通に錬金空間で呪具の構築をしてみた。今回は材質がいい奴と材質の悪い奴で比較してみた。

 

うん。まあそこそこ。

一級から三級までの範囲でいい感じに出来た。

 

構築出来た呪具に関しては、呪力が回っているだけである。要するに、特級呪具のような術式が付与されている訳では無い。『游雲』とかは純粋な力の塊として存在するが、それだけだ。

 

要するに、炎を出す刀とか属性だったり特殊効果が付与された呪具を構築出来ていない。切れ味はいい。呪具の質は悪くない。けど、そう言った特殊な効果は付与されてない。

 

……ん?待てよ?じゃあ効果のある特級呪具ってどうやって創られたんだ?『天逆鉾』だったり伏黒パパが使ってた自在に長さが変わる鎖『万里ノ鎖』とかどうやって……

 

 

……あっ。待ってまたヤバい事に気が付いた。

 

明日、世界が滅亡するかもしれない。

 

 

 

○月★日 曇り

 

結論から言おう。失敗だった。

俺が考えたのは構築術式で()()()()()()()()()()()()

 

いい案だとは思ったのだが、これは圧倒的な知識不足だった。仮の話、御三家の相伝術式を構築しようとしてもどうやって構築したら同じ術式を生み出せるのか分からない。

 

いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

確信はあれど今の自分には不可能だと言う事も理解できる。簡単に言えば生得術式というのは固有魔術に近いだろう。

 

呪術師は誰でも生まれつき魔法陣(術式)を持っている。呪術を使う時、その魔法陣に呪力を通す事で生得術式を使う事が出来る。

 

だが、その魔法陣を俺はハッキリと理解出来ていない。

他人との違い、生得術式に共通する基盤、生得術式が成立する法則性。知らなければ術式の構築自体が不可能だろう。

 

とりあえず、漠然とした事に頭を悩ませながら今日は寝た。

 

 

 

○月◎日 雨

 

呪骸はどうなっている?と疑問が浮かんだ。

呪骸で組み込める術式は決まっている。命令や動きのコマンド。後は機械的な呪骸としてはメカ丸みたいに火炎放射器は組み込めるだろう。

 

だが、求めてるのはそうじゃない。

 

突然変異呪骸であるパンダのあれは生得術式ではなく、呪力操作から生み出された技術だ。生得術式ではない。なので、全く新しい生得術式を生み出す事は不可能だろう。

 

暫くは研究メインになりそうだ。

 

 

○月●日 晴れ

 

 

生得術式を調べていた。

例えるなら相伝の術式。これは血筋によって変わったりするが、血があるから相伝を誰しもが持てるわけじゃない。伏黒恵は相伝の術式を持っているが、あの姉妹は持っていなかった。

 

なら、生得術式とは何だ?

DNAの遺伝子だけじゃ足りない。魂と言ったものに左右されるのか。とりあえず血筋の方から調べていきたいと思った。

 

つっても限度がある。

俺の血から調べてみても分かるわけがない。俺のだけ見ても比較出来る人間が居ない為、意味がない。

 

行き詰まった。頭を悩ませた。

気分を変えて、とりあえず九十九センセーに連絡を入れてみた。

 

 

 

 

……マジ?高専に行けるの?

 

 

 

○月●日 晴れ

 

丁度四連休に入った。

開校記念日と祝日が重なって行くならば丁度よかった。

 

両親にちょっと友達ん家に泊まってくると嘘を言って、駅まで向かった。ここ一応言うが愛知県だ。東京にある高専までは遠すぎる為、九十九センセーが手を回してくれた。

 

特級術師の紹介で迎えに来てくれた人がまさかの夜蛾先生だった。流石に次期学長が車で長野まで来てくれるとは思わなかった。この当時まだ学長ではないが、スタイルは完全にビンタする人そっくりである。威圧感ぱねぇ。

 

高専まで車を走らせている中、夜蛾先生が「君は高専に何をしに行く?」と質問された。面接みたいに聞かれた為、「最強を創る事。呪術界を変える程の何かを作る事。呪霊を無くす事をしに行く」と言ったら笑われた。何故。

 

丁度渋滞にハマったので夜蛾先生に運転を任せて寝てしまった。

 

 

 

次回、生さしす組。デュエルスタンバイ!

 

 

 

 ★★★★★★★★

 

 

 夜蛾正道は頭を悩ませた。

 九十九由基の紹介である少年を高専に連れて行ってほしいと頼まれた。正直な話、乗り気ではなかった。特級呪術師の名指しとは言え一級としての任務や次期学長に推薦される準備期間があるため、言ってしまえば面倒な話だった。

 

 ただ、「弟子をよろしく」と爆弾発言に思わず呆気に取られた。そして愛知まで迎えに行って更に呆気に取られたのは、その弟子がまだ子供だと言う事だ。何歳だと言われたら六歳と言われた時、思わず九十九に連絡を入れようとしたのだが……

 

 

「貴方が九十九センセーが言っていた迎えの人ですよね。わざわざありがとうございます。これ愛知の名物です」

「あ、ああ……わざわざありがとう」

 

 

 大人のような対応に動揺し、キャリーバッグを車に積むと礼儀正しく「お願いします」と言われた。心遣いもよし。一年が生意気だったせいか、この少年の背中に純白の翼が生えているように見えた。

 

 助手席に乗せ、高専まで車を走らせる。

 少年は暇だったのか本を読んでいる。何かの漫画かと思ったが随分分厚い。何を読んでいるのかと信号待ちの時に覗くと、ギョッとした。

 

 

 ……それは数学の専門的な教科書だった。

 大学生で専門分野を勉強するような分厚い参考書。まだ六歳の子供が読むものではない。

 

 

「……読めるのか?」

「はい」

「数学専門って、君何年生だ?」

「小学一年生です」

 

 

 嘘だろと言いたかった。

 小学一年生が、こんな分厚い数学の参考書を読んでたまるかと言いたかった。どうやらベクトルの計算などを調べている。複雑な計算式は俺が学生の頃、かなり苦労した。

 

 そんな子供と思えない彼を見て、俺は質問をした。

 

 

「君は高専に何をしに行く?」

「最強を創る事、呪術界を変える程の何かを作る事、呪霊を無くす事をしたいです」

「何故、それをしたい?九十九に言われたからか?」

「いいえ。最強を創りたいと言う目標は俺の願いみたいなものです」

 

 

 目指すは万能の人だと少年は告げた。 

 呪術師のイカれ具合は確かに認める。だが、この少年はまだ子供だ。子供に頼らなければいけないほど呪術師としても人間としても腐っていない。だが、少年は答えた。

 

 

「九十九センセーの願いと俺の願いは一緒みたいなものです。最強を創り出せるなら被害は減る。別のアプローチで呪霊を無くす。ただでさえマイノリティで殉職率高いんですよ。おまけに例年、人間が増えるごとに呪霊も増してる」

「確かにな……だが、それを守るのが呪術師だ」

「その通りです。でも、それだけじゃいずれ破綻する」

 

 

 その言葉に目を見開いた。

 資料の隅っこにシャーペンで棒グラフを書く。今の呪術界の在り方と付け加えるように俺に見せてきた。

 

 呪霊のグラフが上がるのに対して、呪術師に関しては若干下がり気味だ。今の呪術界の在り方にしては、かなり正確に記載されている。

 

 

「このままじゃいずれ特級なんかじゃ推し量れない時代が来る。夜蛾さん……貴方も感じているんじゃないですか?」

「それは……」

「それに呪術師が死ねば、呪霊を対処する事が出来なくなる。そうなったら、日本だろうが外国だろうが呪いの時代になってゲームオーバー」

 

 

 そうなったら世界の危機だ。逃げ場などあるはずがない。確かにその通りかもしれない。呪術師は少数派だ。当然、殉職者の増加を繰り返せば対処できない時代が来ることもあり得てしまう。

 

 

「そうならないために俺は、この呪術界を変える。その為に高専で調べる事、やるべき事を探しに来たんです」

 

 

 少年の答えはどこまでもイカれていた。

 まるで世界を見てきたかのようなそのイカれた考えを本気で実現させようと思っているこの少年に俺は笑った。九十九が弟子にした理由が分かった気がする。

 

 この少年は歪だ。

 だが、それ以上に実現させてしまうのではないかと思わせるくらいの気概がある。そんな少年は呑気に欠伸をしながら参考書をバックにしまう。

 

 

「……すみません。寝てもいいですか?」

「構わないさ。渋滞だから、ここからは長くなる」

「ありがとう、ございます」

 

 

 とりあえず、この少年を信じてみよう。

 この少年が変える呪術界を見てみたくなってしまった。

 

 なんたって特級呪術師の九十九由基の弟子であり、俺が認めた呪術師なのだから。

 

 

 

 




【試している事】
・力場から力の指向性を生み出す事。
・生得術式の基盤を見つける事。
・エネルギーから生み出す必殺技の作成。

★★★★★★★

活動報告にて最強募集してます。
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 リクエストに世界を滅ぼしかねないものがあったんですが!?
 まさかの日間一位……だと?ありがとうございます!と言う事で今日は高一さしす組との邂逅です。長かった。字が7000超えると思わなかった。



 

 

 

 

○月○日 晴れ

 

ヒャッハー!!やってきたぜ高専!

とまあ正直な話来る必要はなかった。何故ならサンプルの呪術師の血を手に入れられたら、後は研究に没頭出来るから。

 

とは言え、原作開始前の生さしす組に会えると言うのはオタクとしてはかなりのイベントである。

 

あと、夜蛾先生に呪骸について教えてもらえる。

ここもかなりのクエストになりそうだ。

 

 

そういえばまだ、さしす組一年なんだよな。

夜蛾先生の案内のもと、教室に入ると、そこには三人が座っていた。

 

サングラスで足をかけた銀髪不良。

前髪が変だけれども礼儀正しそうな問題児。

若干タバコの匂いが残っている美人なお姉さん。

 

 

いや眼福ですわ。写真撮りたい。

夜蛾先生が「明日からお前ら三連休だ。任務ないし休みだろ。この子に色々と教えてやれ」と言ってくれた。五条悟は舌打ちし、夏油傑はわかりましたと答え、家入硝子は面倒そうな顔をしていた。

 

その反応、我々の業界ではご褒美です(涙)

 

明日からさしす組と呪術の特訓をしよう。最近ストレス溜まっていたからご褒美イベントですはい。

 

 

 

○月◎日 晴れ

 

お前、何が出来んの?と言われたら構築術式ですと答えたら「ザッコw」と言われた。ムカついたから椅子を分解した。反転術式と術式反転で分解も出来ますって言ったら「はぁ!?」と目を見開いて叫んだ。あ、そっかまだこの当時、伏黒パパと殺し合ってないから使えないんだったね。

 

わざとらしく口元を隠して小さな声で「ザッコw」と先程の真似をして笑った瞬間ゴングがなった。「表に出ろ」とガン飛ばした五条さんに「寂しがりか?一人で行ったら?」と言ったら夏油さんと家入さんの腹筋が死んだ。頭を鷲掴みにされて校庭へGOである。

 

と言う訳で模擬戦である。

呪力操作はアリ。気を失った方が負けと明言し、戦うことになった。大人気なくね?まだ身体はピッチピチの六歳の子供よ?

 

だが、最強を知るには丁度いい。

俺の持てる全てをもって全力で挑んでやろう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……なんて意気込んだけど、負けました。

 

いやさ。頑張ったよ?

なんなら一瞬でも無限の壁を超えられたし。

 

けど、無限という空間の分解が思った以上に呪力を取られる。分解で術式自体を小規模とは言え穴を開けられたのだが、空間全部を分解出来なきゃ無限の壁は超えられない。

 

敗因は手は無限を破れても全身は無限に阻まれた事。

 

無限級数、術式の一部に穴を開けた。

しかし、穴が狭すぎる。無限を張っている五条さんに腕が短くて素で届かない。

 

全身が通れるサイズまで無限を分解をしようと思ったのだが、呪力が切れてゲームセット。スマブラの声が聞こえた気がした。

 

 

ここでやはり呪力量の差が出てくる上に、無限と言う空間の分解の燃費の悪さから俺では最強を超えるのは無理らしい。領域展開に関しては破門にならなかったら次の年にセンセーが簡易領域から教えてくれるらしいからまだ出来ない。

 

まあ五条さんが一瞬でも驚愕した顔を見れたから今日は良しとしよう。呪力消費で身体がキツいから日記はここで終わる。

 

 

 

○月●日 晴れ

 

お前、他に何が出来るの?と言われた。

五条さんが少しだけ興味を持ってくれたようだ。と言う訳で術式を見せてみた。五条さんは「……はっ?」と目を見開いた。

 

何かおかしいのか聞いてみるが、「続けてみろ」と言われ、持ってきた都牟刈村正(偽)を更に再構築し直す。前回、呪力を纏っていた。二回目になると前の呪力と捩じ込んだ呪力で、更に呪力を帯びて洗練された都牟刈村正(偽:改)が出来上がる。

 

五条さんが「虚式……?いや原理は同じでも別の術式だとこうなんのか……」とぶつぶつ呟いている。見せろと言われて村正(偽:改)を渡す。

 

五条さんがほんの軽い気持ちで村正(偽:改)を振るった。

 

校庭が()()()

振るった方向に数メートル、何かに切り裂かれたような跡が残っている。三人とも目を見開いて此方をガン見してくる。

 

えっ、二回目とは言え最初に使った材料鉄パイプだよ?流石に材料が鉄パイプな事は告げなかったが、恐らくは特級呪具だと五条さんは語る。それマジ?

 

 

この後、四人とも夜蛾先生に正座させられた。

止めなかった罰と軽い気持ちで振った罰、後は許可なく特級呪具を持ち出した事。いや持ち出してねえ創ったと五条さんが告げると俺をガン見してきた。とりあえず、この場所で生み出した呪具の使用は禁止させられました。

 

 

………(´・_・`)

 

 

その後、渋い顔をされながらも、呪骸を創った。

パンダに会った後、夜蛾先生にぱーふぇくと呪骸講座を教わった。ここでもRTAって何?流行ってんの?次期学長だから浮かれてんのか?

 

 

 

○月×日 晴れ

 

夏油さんの術式から呪霊を使役してるのは知っている。あんまり乗り気ではないのだが、呪霊という存在が錬金空間で再構築されるとどうなるか知りたかったのもあり、三人+夜蛾先生の同伴の下、二級の呪霊を錬金空間に入れる実験をした。

 

とは言え正直な話、必要な行為とはいえ乗り気ではない。呪霊にも魂があるから間接的に人間を分解し再構築している気分になるからだ。

 

だが、知る必要はあった。

夜蛾先生の同伴の下、万全の状態で実験が行われた。

 

結果。膨大な呪力が生み出された。

 

このまま拡散したら天元の結界が張られているその内側から呪霊が湧く可能性がある為、いつもの燃費の悪い構築術式で消費する。純度100%の鉄がレンガブロック二つ分くらい出来た。

 

えっ、やばくね?

純度100%の鉄を前に生み出そうとしたが、呪力消費が半端なくてサイコロくらいの大きさしか出来なかったのにレンガくらいの大きさで二つてやばくね?

 

呪霊で生み出されたのは純粋な負の力。

それが力場から漏れ出るように溢れていた。すかさずその呪力を使って力場を大きくしてもレンガ二つ分の純粋な鉄が出来上がるほどの圧倒的な量の呪力が生まれたのだ。

 

 

いったい何故?と思ったのだが、それに関しては答えが出ている。

 

 

原因となるのは魂の有無だろう。

恐らく人も同じだが、魂を俺が分解すると魂の無い物質(無機物)より高度なエネルギーとなる。人間は約八十歳まで生きられる。その一生分をエネルギーに換えると莫大なエネルギーになるだろう。

 

呪霊ならば、放置されていれば何年でも生きられる。あの二級呪霊は産まれてから恐らく数年。だが、それでアレ程の呪力が生み出されるならば……

 

 

……少しゾッとする。両面宿儺とか特級だった場合、どうなってしまうのだろうか想像するだけで悲惨である。

 

夜蛾先生も俺が呪術師で良かったと心底思っているようだ。うん、正直俺もそう思うわ。呪詛師だったら世界が滅んでた。比喩抜きで。

 

とりあえず、俺は教えられる範囲の考察を告げる。

具体的に言うと「ジュレイ、ブンカイスルト、ヤバイ」である。ちょっと放心状態だった。

 

 

この後、気分転換にスイパラ行って、夜にめちゃくちゃUNOした。

 

 

 

 

○月■日

 

今日の昼頃に新幹線で帰るのだが、他の呪術師の採血をしたいと言ったら夜蛾先生と家入さんと夏油さんが採血に協力してくれた。五条さんに関しては家の事があるから大丈夫だと言ったのだが、仲間外れが嫌だったのか採血に協力してくれた。

 

と言うかここに来てまともな質問が飛んできた。何処から来たとか何が目標だとか。えっ、今更?今日帰るんだけど?

 

夜蛾先生が駅まで送ってくれる。

三人が見送りに来てくれた最後の最後で夏油さんが高い高いして「四日間ありがとう」と言ってくれたのと家入さんが抱きしめて「頑張れ」と応援を頂き、五条さんが不器用な笑みで頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。

 

 

………感無量です。今なら死んでもいい(一回焼死してます)

 

夜蛾先生も新幹線に乗る前に「君には期待している。だから精一杯やってみなさい」と頭を優しく撫でられた。

 

何というか、幸せが溢れてる。

くそぅ、俺をホワホワさせるんじゃねえ!!(フニャリ顔)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     

 

 

帰った後、親に嘘がバレてめちゃくちゃ怒られた。ぴえん。

 

 

 

 

 ★★★★★★

 

 

 五条悟はため息をついた。

 夜蛾が夕方頃に集まっておけと言っていたので、俺、傑、硝子の三人は教室に残っていた。なんでも、特級呪術師の弟子らしくまだ若いから教育係として紹介する為らしい。

 

 ハッキリ言って面倒だと思った。

 傑も硝子もそれは同じようで、暇だったので賭けUNOをしていた。そんな中、夜蛾が入ってくる。

 

 

「全員居るな」

「まー、任務早めに終わったし暇だったから」

「早く寮戻りたいんでソーキューに」

「分かった分かった。入ってくれ」

 

 

 夜蛾が扉を開くと、まだ小さな少年が入ってくる。

 つーか、ちっさくね?まだ小一くらいだろ。呪力量も中の上程度、なんなら歌姫と同じくらいだろう。

 

 

「この子が特級術師の九十九由基の弟子。荒夜緋色だ。明日からお前ら三連休だ。任務ないし休みだろ。この子に色々と教えてやれ」

「はっ?」

「ええっ……」

「……分かりました」

 

 

 俺たちは驚愕三割、面倒七割で声を出していた。

 しばらく任務休みでスイパラとか行こうか考えていたのに夜蛾に子守を押し付けられ、休みを返上させられる事に舌打ちをした。

 

 

 ★★★

 

 

「で、お前何が出来んの?」 

 

 

 朝食で菓子パンを頬張るガキは、俺の言葉にキョトンとした顔をしていた。右手を出し、生み出したのは大した事のないビー玉。六眼が構築術式と暴いた。ただ、呪力量から生み出されたコストが割にあっていない。ビー玉一つで一割半の呪力は持っていかれただろう。

 

 

「ザッコw」

「悟」

「いや事実だろ。本当にこのガキ特級の弟子か?」

 

 

 その言葉にカチンと来たのかガキは俺の座っている椅子に触れると、椅子の脚が崩れたかのように消え、座っていた俺は教室の床に叩きつけられた。六眼でその現象を見た。術式は構築術式から分解術式に変わっていた。

 

 

「いっつ!?」

「これが術式反転。分解の術式ですよ」

「はぁ!?」

 

 

 術式反転。

 それは生得術式に正の呪力を流す事で生み出される術式の逆転。未だ俺が習得していない反転術式を現在使えるのは硝子だけだと思っていた。

 

 

「あっ……そっか貴方には出来ないんでしたね。すみません。ザッコw

 

 

 カチンと来た俺はガキを睨みつける。

 口元を隠し、先程の真似をされた事に俺の中でゴングが鳴っていた。このガキに出来て俺に出来ないプライドから腹を立てていた。

 

 

「表に出ろ」

「寂しがりか?一人で行ったら?」

「ぶっふぉw」

「ぐふっw」

 

 

 頭を鷲掴みにして校庭まで出て行く。

 あーれー、と呑気にぶら下がりながら抵抗はしていなかったのを見て余裕そうだから泣かす事にした。

 

 つか傑と硝子はいつまでも笑ってんじゃねぇ!!

 

 

 ★★★

 

 

「……嘘、だろ」

 

 

 勝った。勝負なんて最初から決まっていた。

 ガキと青年の体格差で負けるなんてあり得ねえ。勝つのは当然だった。だが、このガキは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 俺の無限級数。

 アキレスと亀の原理でどんな攻撃も俺には届かなくなる。だが、そんな中で無限と言う空間を引き寄せた俺に届かなくとも無限を分解しやがった。だが、総呪力の差で腕までは分解出来ても身体は届かない。

 

 全身が届くように分解を働かせようとして、このガキは気を失っていた。単なる呪力不足に陥ったと硝子は語る。

 

 

 ……久しぶりだった。ガキ相手とはいえ出会った中で冷や汗をかかされたのは傑以来だった。

 

 

 ★★★

 

 

「お前、他に何が出来んの?」

 

 

 分解と構築の二つを持つ以上、ネタは尽きたかなと思いつつも興味本位で聞いてみた。校庭まで行った後に俺らにちょっと待ってと言った後、ガキは布で巻いていたものを取り出した。

 

 

「刀?」

「おいおい。一級くらいあるんじゃねえの?」

「マジで?」

 

 

 スラリと鞘から抜けた刀身を見て、俺はそう評価した。込められた呪力の質も高い上に鍔の無い真っ直ぐな直刃に刀に詳しくなくとも切れ味は察せた。

 

 

「術式順転『構築』…術式反転『分解』」

「……はっ?」

「何かおかしいですか?」

「いや……続けてみろ」

 

 

 右手に浮かび上がった力場。

 それらは俺に見せた構築と分解そのものの力だ。両手で器用に逆同士の術式を生み出している。精密な呪力操作に舌を巻くほどだ。

 

 

「力場…融合」

「!」

 

 

 ここで俺は目を見開いた。

 五条家に伝わる秘伝の術式が存在する。術式のメリットは情報が漏れやすい事。だが、それを知る人間はごく僅かだが奥義が存在する。

 

 虚式「茈」

 原理としては順転と反転をぶつける事で仮想の質量を押し出す術式。その原理と同じ事を目の前のガキはやってやがる。

 

 先程の一級呪具を力場に入れると、分解し、さらに洗練された刀へと変えていく。呪力の質からしたら相当なものだったのに、組み合わさった配列から生み出された新しい刀が姿を表した。

 

 それを興味本位で見せてもらった。

 先程よりも呪力の質が上がってやがる。軽い気持ちで俺はその刀を振ってみた。

 

 

「うおっ!?」

 

 

 大地が割れやがった。

 咄嗟に「蒼」を発動させて斬撃を空中に引き寄せなければもう数メートルは割れていただろう。

 

 

「うっそぉ……」

「……マジで?」

 

 

 思わずそれを創ったガキをガン見する。 

 この呪力の質から斬れ味の良さが変わってくる。もしかしてこのガキの呪力の質によって左右されてんのか?

 

 とりあえず弁明を聞いた。

 

 

「いや切れ味凄いのは知ってたんですけど」

「………お前、なんつーもん創ってんだ」

 

 

 てか先に言えよ。これ絶対特級呪具だろ。

 

 その後、夜蛾に四人揃ってめちゃくちゃ正座させられた。

 

 

 ★★★

 

 

 次の日、どうしようか迷った。

 そろそろ出来る事が無くなっただろうと思ったが、まだあったようだ。

 

 

「呪霊の分解?」

「はい、やった事なくて」

「傑」

「二級でいいかい?」

「ありがとうございます」

 

 

 話がトントンと進む。

 一応念のため帳を下ろし、夜蛾も付き添いで昨日と同じ力場を生み出している。傑の飼っている呪霊の二級を分解する。

 

 

 

 

 チリッ、と眼が熱くなった。

 

 軋む。空気が重くなる。

 感じ取れたのは、溢れんばかりの膨大な呪力だった。

 

 帳が呪力でぶっ壊れるんじゃないかと言うくらいの軋みをあげ、生成された呪力の奔流の中にガキはまだいた。

 

 

 

 

「……やばっ!止めろガキ!!」

「いや下手に止めたら呪霊が内部に現れる!!呪力を消費させます!」

 

 

 そう言ってガキは呪力を消費させる為に純度100の鉄を生み出し、大気まで溢れていた呪力は消え去っていた。その莫大な呪力が何故発生したのか、心当たりがあるようでぶつぶつと何か呟いていやがった。

 

 

「ガキ、説明しろ」

「ジュレイ、ブンカイシタラ、ヤバイ」

 

 

 いや見たらわかるわ。

 何であんな現象が起きたのか聞いているが少し放心状態だったのでこの後、スイパラで気分転換しに行った。頬張る姿がリスみたいだったと硝子が告げる。

 

 

 

 ★★★

 

 

 夜にUNOをしながら原因を語った。

 ガキが言うにはどうやら、魂が原因らしい。無機物からのエネルギーと違い生き物からのエネルギーは分解すると爆発的な力を解放するようだ。

 

 あっ、負けた。

 

 分解から生じるエネルギーは、呪力と何が違うのかと聞いてみた。

 

 呪力は藍色の水だと例えた。

 対して分解されたエネルギーは無色の水のようなものだと告げた。

 

 

 あっ、また負けた。

 

 

 呪力として使うなら、無色を()()()()()()()()()()()()()()()()()。だが、生み出したエネルギー(無色水)に対して呪力(藍色の水)を入れたら薄まってしまう。薄まった藍色では呪力として使用する事が出来ないらしい。

 

 色チューブそのまま入れられないのか?と聞いたら、それだと呪力が生成出来ないと告げられた。確かに。言ってみたが俺も方法が分からない。

 

 

 あっ、また負けた。

 

 ……いや、ガキお前UNO強すぎだろ。連敗が納得いかなくてもう一回やっても負けた。かなり夜更かしした。

 

 

 ★★★

 

 

 今日でガキが帰る日だ。

 最後に採血をお願いしたいと、傑と硝子に言ってきた。俺は?と聞いたら貴方の場合家とか何がありそうだから遠慮しときますと何故か仲間外れにされたのが癪だったので、家で何かあったら黙らせる事を約束し、血を渡した。ガキもガキで受け取った血は研究の為に使い、決して悪用しない事を縛った。

 

 新幹線で帰んの?あのガキ一応六歳だろ。

 だがガキは「ヘーキヘーキ。無限を破るより簡単」と告げてきやがった。まあ本人がいいなら口出すのはいいか。

 

 駅まで夜蛾が車で送っていくらしい。

 俺たち三人は午後から任務だ。駅まで見送りは出来ないので車に乗る前に別れのサプライズを入れた。

 

 傑は高い高いしながら頑張れとエールを送り、硝子は抱き締めて四日間ありがとうと告げて俺に回ってきた。

 

 ただ、気の利いた言葉が出てこない。

 適当にわしゃわしゃと乱雑に頭を撫でるとガキはどこか嬉しそうに笑っていた。

 

 

「それじゃあ、四日間ありがとうございました」

「……気を付けて帰れよ。()()

「……!」

 

 

 そう呟くと「はい」と元気いっぱいに笑った。

 まあ四日間色々あった。最初は面倒だと思っていたのだが、中身がまるで大人だったようで学友の気分になってしまった。

 

 アイツが呪術界を変えると夜蛾から聞いた時はどんな身の程知らずの馬鹿かと思ったが、案外期待している自分がいる事に気がついてしまった。

 

 





【記録】呪霊を分解して分かった事
・呪霊を分解したら膨大な呪力が溢れ出す。
・恐らく人間もそうだが、生物の分解の場合はエネルギーではなく呪力に変わる。
・呪力と分解したエネルギーは近いものがあるが、本質は全く違う。
・エネルギーは呪力として使えない。呪力を混ぜて攻撃に使う事は恐らく可能。
・呪力と言うのはエネルギーの亜種に近い。

 これらを考察した結果、恐らく分解して生み出せるエネルギーと呪力の違いは『()()()()』にある。

★★★★★★
活動報告で最強募集してます。
良かったら感想評価お願いします。
すみません。明日投稿できないかもしれません。


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 今回は短いです。
 時間空いてるなら書いたので許してください。因みに私はハガレン半分くらいしか知りません。勉強してきます。
 総合評価10000超え!?見てくださってありがとうございます。それでは、どうぞ。


 

 

 

 

○月○日 曇り

 

血のサンプルが手に入った。

呪術師としての生得術式の情報の一部、おそらくこれが解明できれば魂の知覚も、どんな術式も創る事が不可能では無くなるだろう。

 

五条悟の無下限術式。夏油傑の呪霊操術。

家入硝子の呪付術式。夜蛾正道の傀儡術式。

そして俺の構築術式。これらを全て調べてみよう。

 

先ず、共通する事。

全員呪術師である事。

全員が人間である事。

 

いや当たり前じゃね?と思うが結構大事だ。なんなら呪霊で術式も領域展開する奴居るし。血が違う、在り方も性別も性格も血液の型も魂も違う中で、呪術師に共通する部分を探し出し、呪術師の生得術式が生み出される基盤を探っていこうかと思う。

 

 

 

 

……因みにあと、五ヶ月しかない。

正直少し焦っている。夏休みの宿題は早めに終わらせるタイプなんだけどなぁ。

 

 

 

○月☆日 

 

 

 

○月◆日 雨

 

台風だったので昨日はここまで来れなかった。

とりあえず、何が違うのか反応を見る為に飼っている蠅頭を分解し呪力に変える。蠅頭程度でも生き物である為、一匹で俺の呪力の三分の一はある。

 

血に同じ蠅頭で分解した純粋な呪力を流して、血の反応を見てみる。顕微鏡で詳しく調べてみる。何も起こらない。反応は同じだ。

 

とりあえず思いついた10通りぐらいは試してみよう。

 

 

 

 

○月♪日

 

 

 

○月■日

 

 

 

○月◎日

 

 

 

○月▽日

 

 

 

○月×日 雨

 

全 滅 で あ る

いや浮かび上がった全部の方法で何が分かったのかと言われたら何の成果も得られませんでしたぁ!!(泣)

 

一ヶ月無駄にしてしまった。

普通に呪術師のみが持つ特異性があると思って探しても全滅。しょぼんである。

 

その特異性こそ呪術師の基盤となると思っていたのだが、見つからなかった。どうしたら基盤が分かる?呪力の質、量は分かっても術式自体が理解出来てない。

 

うーん。あと四ヶ月だが間に合うか?

 

 

○月*日 雨

 

ここ最近、雨が続いてるな。

さて、術式の話なのだがとりあえず五条さんに電話してみた。六眼でどうやって術式が見えているのか聞いてみた所、呪力の質、肉体の情報から六眼は勝手に判断し、解るのだと言う。

 

 

 

 

 

………待てよ。魂に関しては?

聞いてみたが、五条さんでも魂の知覚は不可能らしい。真人は言っていた。魂は肉体の先にある故に魂の形に引っ張られて肉体が付随する。

 

この理論を明確にするなら、神様が魂を生み出してあとは勝手に肉体がその魂に合った形に生み出される。これが俗にいう生命の誕生である。なら、術式とは肉体の情報よりも魂に引っ張られていくのか?

 

でも逆も然り。

あのメロンパンに対して夏油さんの肉体は魂とは別に反応した。つまり、生命の誕生のみ肉体が付随し、そして肉体は魂と共にある。肉体が生きているなら魂の一部は僅かながら生かされていると仮定出来る。あの時のメロンパンの反応も頷ける。

 

 

 

 

 

……ちょっと危険だが明日調べてみるか。

 

 

 

 ★★★★★★

 

 

「……怖っ」

 

 

 俺が手を当てているのは自身の身体。

 麻酔を腹に打ち、痛みによるショック死がないようにする。今からやろうとしているのは、自分自身の分解と再構築である。

 

 物質には魂は宿らない。

 人間には魂は宿る。呪霊にも魂は宿る。呪霊の分解をした時、俺は構築の感覚が変わっていた事を思い出す。

 

 魂とは何か。

 術式を理解するには、魂を知覚するという事から始めなければならない。故に、俺は一番理解しているものを分解し再構築する。

 

 つまり、俺だ。

 魂の概念にホイホイ触れている真人とは訳が違う。未知数故に何が起きるか分からない。しかも回復手段が再構築。反転術式とは全く別である。

 

 

「………行くぞ」

 

 

 俺は俺の身体に術式を発動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザザザーー

 

「えっ……?」

 

 

 ノイズが走る。

 カチャリと何か鍵穴に鍵が入る音がした。開けてはいけないようなものを開けてしまったようなその感覚に思わず中止しようとした次の瞬間。

 

 

 腹に大穴が空いた。

 鮮血がその場に溢れるようにこぼれ落ちた。  

 

 

 痛みが走った。

 麻酔を打った筈の身体がバラバラにされるような痛み、脳がリアルに自分の状況を理解し、視界が真っ赤に染まる。

 

 自分が自分じゃなくなる感覚。

 根幹が砕かれていくような痛みが……

 

 

「何……で」

 

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 

 

 零れ落ちる血。バラされるような四肢の痛み。

 壊される精神。現実を理解させる心の叫びが痛みを加速させていく。死ぬ。死んでいく。自分の身体はバラバラになって死んでいく。

 

 再構築出来る余裕なんてない。

 痛くて、もういっそ死んで楽になりたい。もう死にたいと思うのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、ははははははハハハハハハハハハハハハハハっ!!!」

 

 

 歓喜している自分がいる。

 

 自分の中でそれが視えた。最も近いのに手が届かない物に手を伸ばしたような感覚。自分が今まで感じる事の出来なかった新鮮なインスピレーション。身体が、脳が、魂がそれを知った時、歓喜した。

 

 恐怖が、喪失感が、生命の危機が自分を再構築していく。

 まるで殻を破るかのように、生まれ変わろうとしていく途中で視えた世界の全てが小さい。公園が大人になると小さく視えてしまうようなそんな感覚。

 

 自分が更なる自分に昇華されていく感覚。

 新たな生命の誕生を実感していくようだ。

 全てに対して全てを解き明かせてしまうような万能感が自分を刺激していく。

 

 

「ああ……っ!これが……!」

 

 

 ––––これが死であり、魂の終着点か。

 今なら何でも出来るような全能感と、それを知った多幸感を知った自分の意識は糸が切れたようにプツリと途絶えていた。

 

 

 




『告。呪力の本質を取得しました』
『告。魂の情報を一部取得しました』
『告。死の概念の情報を一部取得しました』
『告。領域展開■■■■■の情報を一部取得しました』

  
 ★★★★★
活動報告で最強募集してます。
そろそろ万能に近づいていきたいと思います。
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 ……リクエストに世界を滅ぼす兵器があったんですけど。確かに最強だけれども。
 と言う訳で七話まで突入しました。最強準備回です。いよいよリクエストの実現が近づいて参りました。それでは、どうぞ!!


 

 

 

 

 

○月○日 雨

 

………死にたい(※一度死んでます)

やばい思い出すだけで死にたくなる(※一度死んでます)

 

自身の肉体を分解中、腹に大穴が空いたと思ったら狂気の笑みを浮かべて笑っていた自分が観察用のビデオに撮影されている。黒歴史です♡キャピ☆

 

 

 

 

……もおおおやだああああああ!!

俺、そんな性格じゃなかったのに!ちょっとクールで抱擁力のあるお兄さん系目指していたのに、ビデオに映る自分のせいで台無しである。

 

えっ?エミヤとか七夜とか目指してんじゃないのかって?お前女の子に後ろから刺されたい?

 

 

……とまあさておき。

一応、命に別状はない。零れ落ちた血の分、反転術式と構築術式で上手くやりくりしたおかげで貧血はない。臓器も異常無しである。研究所にレントゲンがあって良かった。ただし、服は絶望的に真っ赤である。殺人鬼の返り血パーカーにスタイリッシュとか笑えねえわ。

 

今日は寝る。

とにかく黒歴史だけ消せるようにネンネする。

 

一応言っておこう。

マッドサイエンティスト目指してる訳でも、自分が分解されて喜ぶようなドMでもない。ただちょっとはっちゃけ過ぎて黒歴史を生み出してしまっただけだ。

 

もう一度言おう。

ドMではn–––––––––

 

 

 

○月◎日 晴れ

 

魂の概念がある程度は理解出来た。

あの時の狂喜乱舞は仕方ない。うん、忘れよう。

 

さて、魂とは人間を構成する為に一番必要な物だ。

これは誰しもが知っているだろう。肉体と魂の優先度を考えるならば、魂の方が上になる。

 

故に真人に攻撃が効かないのも理解出来る。

何故なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

肉体が死ねば魂も死ぬ。()()()()()()()

人間は魂から死ぬ事が出来ない。魂が死ぬには必ず肉体が死ななければならない。これが()()()()()()()()()と言えるだろう。

 

だが真人の場合は()()()()()と言ってもいい。

魂から死ぬ事は出来ない。この法則通り、真人は魂そのものであるからこそ、魂から生み出された肉体には法則に従って届かない。魂の形を見て、魂から砕くように知覚しなければ不可能なのだ。

 

えっ、アイツチートじゃね?

俺と虎杖居なかったら絶対殺せないじゃん。

 

 

 

 

○月◆日 曇り♡

 

呪力が何なのかも理解出来た。

呪力とは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

魂のエネルギーとは何か。

簡単に言うなら負でも正でもない呪力。前に色で話した通りに考えるなら、負が藍色、正が紅色、魂のエネルギーは透明な水だとしよう。

 

まあなので透明呪力とでも呼んでおこう。

呪術師は魂から透明呪力が生成できる。それを負の感情と混ぜ合わせて呪力が生み出される。

 

呪術師から呪霊が生まれないのもこれで納得が出来るのだ。呪術師は透明呪力によって負の感情を消費(呪術として使用)して、または制御している。負の感情が制御される為、呪霊は呪術師から生まれない。

 

 

逆に、非術師の場合は魂のエネルギーが()()()()

溜まった負の感情はストレス、憎悪、恐怖心からどんどん外に流れていき、呪霊となって現れる。

 

九十九センセーの言った通りに呪霊が生まれない世界を作るなら、魂のエネルギーを人類が生成し、制御できるようにしなければならない。

 

 

 

 

えっ?無理ゲーじゃね?

魂のエネルギーを生成できても制御出来るとは思えない。

 

そもそも呪力を操る事に重要なのは脳。

魂のエネルギーを誰もが使えるようにしなければ制御など出来ない。仮に虎杖が宿儺の指を食って宿儺の呪力を得たような形にしても制御出来なきゃ意味がない。

 

虎杖悠仁は器だったから使えるが、他の人間はその制御が出来る筈がない。魂のエネルギーを操るには脳が呪術師特有の構造でなければならない。簡単に言うなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そして九十九センセーのプラン。

呪力からの脱却は確かに呪霊を産み出す事はない。

しかし、それは呪霊が完全にゼロになった僅かな時間で行わなければならない。呪力を無くしてしまえば呪霊に対抗出来る術がないからだ。

 

これも相当なクソゲーである。

それに日本、外国、または呪術界が安易に力を手放す筈がない。九割は絶対反対される。なら俺の目指すべきはただ一つ。

 

 

 

 

「新世界の神になる」

 

………デスノートは持ってないがな!

 

 

 

 

○月■日 晴れッ!!(ジョジョ風)

 

まあ具体的なプランは呪霊の出現率の制御。

まあ抑止力を敷くという事だ。新世界の神とまあ同じ発想だな。

 

負の感情はどうしようもない。人間を一から改造なんてそれこそ人道的じゃない。呪霊が生み出されているのは負の感情。正の感情からは生まれない。だから負のエネルギーを吸収し、反転術式で正のエネルギーを生み出す空気清浄機みたいなものを創ればいい。

 

人間をどうこうする事は出来なくても負のエネルギーさえどうにかしてしまえば、呪霊が生まれても力を削ぎ落とされた状態と、数そのものの減少に役立つだろう。ただし、これが実現されれば呪術師は反転術式による攻撃のみしか使えなくなる。負の感情から生み出された呪力に多分拮抗する。

 

それが出来るのは今のところ俺と五条さんくらいしか知らない。なので、とりあえず今後の課題は反転術式を組み込める呪具を創る事だ。

 

 

……あと三ヶ月ちょい。やったるでー!

 

 

 

○月♪日

 

 

 

○月■日

 

 

 

○月◎日

 

 

 

○月▽日

 

 

 

○月*日 曇り

 

生得術式の鍵はこの魂のエネルギーにある。

 

なので俺は()()()()にアプローチをかけ、分解と再構築を開始する。ただ、それには緻密な呪力操作が必要だ。時間をかけて、練習を繰り返し、泣き言を言いたくなるくらいに失敗した。

 

そして、遂に掴んだ呪力の核心。

俺は呪力に対して分解を行った。

 

すると、あの時と同じように頭にノイズが走る。

視えた。あの時と同じ、俺の根幹である魂の情報。生得術式の基盤とも呼べる術式の形が視えたのだ。

 

その基盤は複雑な形をしていた。

ある種の印の形に近い。だが、それを見た瞬間に自分の印だと分かる不思議な感覚があるのだ。呪力そのものを分解する事で術式の基盤を理解出来る。

 

視えた基盤を試しに紙に書いてみる。

複雑だが覚えている。自分という存在理由(アイデンティティ)は既に把握できた。

 

紙に書いた基盤に対して、呪力を通してみる。

パァン!!と紙が四散する。どうやら紙では耐えられなかったようだ。

 

今日はここまでにしておこう。明日は鉄に彫ってみよう。

 

 

 

 ★★★★★★★

 

 

「うし、出来た」

 

 

 俺は俺が生み出した呪力が付与された鉄のプレートに自分の術式の基盤を緻密に描いた。それはもう針金で何度も何度も頑張った。そして出来たのは俺自身の俺だけの術式の基盤である。

 

 そこで、蠅頭を分解した呪力を通してみる。

 プレートから浮かび上がったのは青い光。青い光に触れながら、創る物を想像する。使ったのは呪力のみ、生得術式は一切使っていない。

 

 そして………

 

 

「ビー玉……」

 

 

 出来たのだ。

 自分の生得術式を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまりは、自分の術式を誰もが使えるようにしたのだ。

 

 呪力を流すと、その印に合わせて生得術式が反映される。どんな呪力を持っていても魂の系譜のようなものを組み込んだ呪印に左右され、どんな呪力も俺と同じ呪力の質になる。

 

 

「やっ…た……?」

 

 この鉄のプレートに刻んだ生得術式の基盤により、術式は俺の生得術式のまま、呪力を流せば誰でも使えるようにしたのだ。

 

 生得術式の付与が出来た。

 この事実に手が震え、今までの苦労がフラッシュバックし、現実に戻り同じ事を試してみたが、失敗は無かった。

 

 成功したのだ……長かった苦労が実った。

 

 

「やったああああああっ!!遂に、遂に会得出来たぞおおおお!!!」

 

 

 その事実に俺は近所迷惑になるほどに叫んだ。

 遂に始まるのだ!俺が最強と思えるものを創れる時代が!!きゃっほうううううう!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 課題期間 残り二週間

 夏休みの宿題は早めに終わらせましょうね。キラッ☆

 




荒夜「………………マ?」

という事で最強の準備が整いました。
この辺りややこしいので説明していきましょう。


分解について。

物質・非生物→エネルギー

例えば鉄を分解した際に生じたエネルギーは構築、もしくは放つ事ができる。しかし、まだ指向性はない為、その場で自爆覚悟の特攻。お兄様のように使えるのはまだ遠い。そして構築の時に自分の呪力を加える事で構築したものに呪力付与が出来る。より呪力の質を加えられるかでランクは変わる。

・呪霊→呪力+負の感情

呪霊は負の感情そのものなので、分解すると呪力が生み出される。呪霊には魂がある為、肉体や魂まで分解した時、魂のエネルギーと負の感情を混ぜる事によって生み出される呪力の量は膨大である。

魂 
→魂のエネルギー(生得術式の根幹+エネルギー)

魂を分解すると生得術式の根幹と呼べるもの(透明呪力)とエネルギーに分解される。荒夜が分解した時には生得術式の根幹が脳内にぶち込まれる。魂の一部に触れているから。

呪力 
→魂のエネルギー(生得術式の根幹+エネルギー)+負の感情

呪力は魂のエネルギーを負の感情と混ぜる事によって呪力が生み出される。この確信に至るまでの研究に結構匙を投げたかったらしい。魂の分解の時に至れなかった魂から発せられるエネルギーによって術式は生み出されていると言う予想を立て、呪力を分解したら予想通り生得術式の基盤、根幹にたどり着いた。


因みに研究に必要な要素に血は関係なかった。
肉体関係で関連があるのは脳と腹。腹から負の感情を生成し、脳の第六感によって呪力を操っていたからこそ、血に隠された秘密があるんじゃないかと錯覚していた荒夜は無駄な時間に費やしていた。

一応DNAは関係はある。
魂が肉体に引き摺られるなら逆もまた然り。魂の形と親の遺伝子から術式を遺伝する。これが相伝術式である。しかし、血は魂ではなく根幹の要素は肉体から派生した要素である為、魂に基づく研究をしていた荒夜からすれば、調べる要素が違っていた。

だからこそ、荒夜は腹にある負の感情まで分解してしまったから超死にかけた。分解したエネルギーで上手くやりくりしたからいいが、あの瞬間、力場が崩れていたら即死である。

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間に合った!!短いけどギリ間に合った!!
いつも見てくれている人達よ!ありがとう!!


 

 

 

 

○月○日 晴れ

 

に、二週間しかないだと!?

よくよく考えればセンセーが帰るとか最近連絡があったような無かったような……

 

マズイ。このままでは領域展開や結界術を教えてもらえない。領域展開は自分の中で呪力の核心は掴んでいるから独学でも問題ないかもしれないと思うが、簡易領域や帳の結界術は習得はしておいた方がこの先便利だろう。

 

恐らく二週間で反転術式の付与は出来ない。

今漸く付与し、呪力を流す事で起動させる事が出来た生得術式。恐らくこの術式に正の呪力を流せば分解も出来るだろうが、反転術式が出来ない為の装置を作るのはまだ無理だと確信できる。

 

何がいいんだ?

何を創れば呪術界に影響を与えられる?

 

 

……そうだ。鎧を創ろう。

 

 

 

○月◆日 雨

 

うーむ。出来ん!!

生得術式の目処は立っているが、今のところ知っている術式は自分の生得術式のみだ。呪力を分解しないと生得術式の基盤が分からないので出来ない。呪力に意識を向けて分解しなきゃ、基盤を暴けないからさしす組の術式は使えない。

 

改めて呪力を分解しに高専に会いに行く時間はない。学校だってあるし、まだ六歳で日帰りは無理。親が許可しない。血を分解しても魂のエネルギーは検出されなかった。血=呪力と言う訳じゃないからね。

 

あと考えられるとするなら……結界術くらいか?

 

教えてもらってない………

 

 

センセー早くカムバック!!

もうこれ時間的に組み込める術式、俺の生得術式くらいしかないよ!!

 

 

 

 

 

………センセーに連絡したら帰ってくるのは課題終了の五日前らしい。嘘やん。

 

 

 

○月■日 晴れ

 

とりあえず夜蛾先生に連絡した。

するとリモートで帳の張り方を教えてくれた。

夜蛾先生が言うには『結界術は自分の中で術式を0から構築し、言霊を乗せて呪力を流して発動する術式』らしい。

 

つまりは生得術式と関係がない。

けれど、術式を自分で構築すれば誰でも出来るのが結界術らしい。

 

因みに帳は一回で張れた。

呪力操作の練習の末に俺は術式の扱いがかなり上手くなったと自負しているからな。夜蛾先生にこれって呪霊や呪力を閉じ込める事って出来るか聞いたが、そこまで強固に作るなら条件起動などが必要らしい。

 

例えるなら帳を張った際に術師が外に居たりとか。ああ、あのあべこべマリオが守ってた画鋲みたいなやつか。

 

 

……あっ、めっちゃいい事思いついた。

 

 

 

 

 

○月*日 晴れ 

 

今日で七歳になった。

両親がケーキを買ってきてくれた。両親は呪霊が見えないけれど、俺が今何をしているのか勘づいている。けれど何も聞かずに「無理はするなよ」とだけ伝えられた。

 

転生した後、いい親に恵まれたよ。

今日だけは、呪術に関わらずに目一杯楽しんだ。

 

 

 

 

 

○月☆日 晴れ

 

帳に関しての様々な条件起動を試していた。

外部からの侵入の禁止、または大きさの制限、呪力や呪霊の云々を色々調べてみた。

 

調べた結果、結界術は糸で創られた檻に近い。破られる前提のものなら付き添いの人とかが使える程度のものだが、侵入禁止まで行くと糸を複雑に編み込むように専門的な技術が必要になってくる。言霊や意味合い、結界にまつわる歴史などイメージに関しては割と自由度が高い。

 

 

あと少しで、理解出来そうだ。

もしかしたら、既に近いものが出されているかもしれないが、しばらく頑張ろう。

 

 

 

○月◎日

 

 

 

 

○月▽日

 

 

 

 

○月★日 晴れ

 

流石に三徹は死ぬかと思った。

日記を書くことができないくらいに疲弊してぶっ倒れかけた。子供の身体だった事を忘れていた。

 

まあ一日中眠ったおかげで完全復活!

 

……本題に入ろう。

 

 

術式をゼロから構築する。

これに関してめちゃくちゃ調べた結果。見るべきは魂のエネルギーではなく、編み込んだ呪力を通されて生み出された呪力にある。

 

以前、俺は生得術式の基盤を生み出した時に、生み出せた理由は印にあると書いた事がある。生得術式には一人一人に生得術式の印のようなものが存在すると。言ってしまえばそれは本人の魂の情報の具現みたいなもので、それに呪力を流すとその情報を基に生得術式を起動出来る。

 

言ってしまえば、これと同じ。

構築した結界術の基盤、まあ印と呼ぶべきか。それが呪力を通して起動されている。魂のエネルギーと負の感情は構築したその基盤に左右され、結界を生み出せる。

 

言わばこんな感じかな?

 

呪力→魂に付随した基盤→生得術式

呪力→構築した術式基盤→結界術(領域展開、簡易領域も含む)

 

 

まあこんなルールがある。

生得術式と結界術は同時に使用出来ない。

そして、使用出来るとするなら領域展延、簡易領域、領域展開しかない。

 

しかも領域に関わるものに必中の効果も付与される。領域展開は絶対、簡易領域や領域展延は薄まっているが必中に近い。だが、領域展開の場合は使用した場合は反動として生得術式の基盤が一時的に焼き切れる。簡易領域の場合は弱者の領域だから同時発動とはまた違う。

 

 

……頑張った!よくぞここまで辿り着きました!

これほど情報が分かれば問題無し!やってやんよ!!

 

 

 

○月¥日 晴れ

 

遂に完成した。

呪術師なら誰でも使える最強の呪具が完成した。

 

今日帰ってきた九十九センセーに見せた。

目を見開きながら返ってきた感想は……

 

 

 

 

 

「お前、頭おかしいんじゃねーの?」

 

おいコラ、なんて事言いやがるクソバ──(文字はここで途切れている)

 

 

 ★★★★★★★

 

 

 研究所に戻った九十九は目を見開いた。

 隠れて日記にクソババアと書きかけた弟子に愛の鞭を入れてやった後に改めて完成した呪具を眺めている。

 

 

「(いやまさか、本当に完成させるとは思わなかった。若干期待は薄かったが、とんでもないものが出てきたな)」

 

 

 弟子が作った呪具を見る。鉄のプレートに描かれた術式と、それを囲む五芒星。一見、少し重めな御守りみたいに見えるのだが、効果がえげつない。正直な話、これを創った人間が行った事は変態の所業だ。

 

 

「(帳を利用し、外部からの侵入を遮る代わりに内部からの攻撃を素通りさせる。しかも大きさも絞った分かなりの強度の結界が、多くない呪力で使える。なんつーもん創ってんだコイツは)」

 

 

 弟子が創ったのは帳の亜種だ。

 身体に纏う事によって大部分は防げ、内側から攻撃が素通りする分一方的に攻撃が出来る。しかもそれが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()

 

 

「弟子を甘く見過ぎたな……」

 

 

 弟子が作ったのは呪術界に大きな革命を齎してしまうものだ。そしてこう言った革命者の末路が飼い殺しだったり、始末だったりとあるからこそ、九十九は弟子の所業について頭を悩ませていた。

 

 

 




九十九「お前、頭おかしいんじゃねーの」

一応、褒め言葉である。だが出てきた呪具に流石に革命が起きる事間違いなしだから咄嗟に出てしまったらしい。反省してはいるが、後悔はしていない。

呪具 纏帳(マトイトバリ)

帳の詠唱をする事、呪力を流す事だけ出来れば自分に対する攻撃を帳が防ぎ、内側から一方的に攻撃を放てる。言わば鎧に近い発想だが、問題はその汎用性だ。呪術師なら誰でも使える。これを創れるのは荒夜のみだからこそ、九十九は頭を悩ませ中。


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 リクエストいつもありがとうございます。とりあえず、この話が終わったらリクエストに答えてどんどん創っていきます(ニッコリ)


 

 

 

 

○月○日 曇天

 

九十九センセーに『纏帳(まといとばり)』の説明をした。

纏帳(まといとばり)』はぶっちゃければ着ぐるみに近い。メリットは二つ。自分に対して呪力のあるものを遮れる事。着ぐるみの中から攻撃が出来る事だ。

 

帳の高度な使い方はメロンパンが既に提示している。電波を遮ったり、他人を逃さない代わりに侵入が可能だったり、高度な結界術ならばそんな事も出来る。外部と内部どちらも侵入不可にした場合、帳の脆さは変わってくる。

 

この呪具には『外側から呪力がある存在を遮る代わりに呪力のない存在の出入り自由』と言う制約を課した。そして結界の広さを狭める縛りで代わりに強度を補強する。ただし、使い手が起動させる時は帳を発動させたのは内部の人間である為、当然ながら限度はある。

 

強度は多分準二級までなら平気だろう。

『呪力がある存在を遮る』という解釈が広すぎる為、強度の補強は大きさを縮めた事による縛りのみ。あくまで緩和に近い。だが、使い手の防御力は確実に上がるだろう。

 

ただし、純粋な物理攻撃には効かない。

呪力がない存在、呪力を用いらない攻撃には効果がない。例えば呪力攻撃による二次災害や伏黒パパはこの呪具の天敵だ。

 

これはあくまで対呪霊用の呪具。

これがあれば殉職率は今までより減らせるだろう。使い捨てでもいいから反転術式を組み込める方を創りたかったが、まだ反転術式は感覚や感性でしか表現が出来ない為、死なせないという事を前提に考えたのがこれだった。

 

 

九十九センセーはこれを見て、課題を二つ渡してきた。えっ、今課題終わったばかりなんですが?

 

・『纏帳』を術者のみしか使えないようにする事。

・上層部の牽制として抑止力を創る事。

 

まあ前半は分かるのだが後半が分からん。抑止力って何?と聞いたが、どうやらこれを知った上層部は全力で俺を取り込もうとする。それだけならまだいい。問題はこれが出回ったとしたら呪詛師、もしくは上層部の腐ったミカンが家族を人質にする可能性も出てくる訳だ。

 

要するに、死なせたら世界を滅ぼしかねない厄介なやつを創れと。

 

ふっ、元よりそのつもり。いや滅ぼさないけど最強は創るつもりだったからこの課題はロマンが広がる。

 

 

つまり、最強ですね。分かりますとも(陳宮風)

その決意をした瞬間、森が騒めき、雷が落ちた気がした。

 

 

 

○月★日 晴れ

 

ぶっちゃけ前半に関しては心当たりがあった。

九十九センセーの呪力を分解する許可を貰い、魂のエネルギーもとい生得術式の基盤に触れる。魂の共通点と相違点を見つける。

 

魂の全てが同じな訳がない。

けど、法則性があるのなら魂にも似通った部分があるのかもしれない。まあ、自分と九十九センセーだけでは足りないので呪術師の呪力を片っ端から分解していかなきゃ話にならないが。

 

いや法則性あるかな……人間は十人十色って言うし。

 

あと、帰ってきた事と創った呪具の祝いで回らない寿司に行った。ただ、子供の身体で目が欲しがっても身体がついていかず、大トロ二貫ぐらい食べると脂に胸焼けを起こした。

 

……もっと食べたかったなぁ。

 

 

 

 

○月☆日 晴れ

 

九十九センセーが言ってきた。

近いうちに「禪院に行くぞ」と言ってきた。「どうぞいってらっしゃい」と返したらお前も連れてくと言われた。why?

 

それにも理由がある。

後ろ盾として申し分ないし、呪具の取引にも丁度いいらしい。後ろ盾の代わりに呪具を格安で提供する条件を持ち掛ければ、奴等は乗ってくるはずだと。「だったら五条家の方がいいのでは?」と告げるが、現在の当主である五条悟は一応上層部の命令から少し逸脱した行為が目立つ上に、現在の頂点は五条家だ。更に力を加えたとなれば上層部が黙っていない。

 

呪術界を支配する力があるだけで腐ったミカンは戦力を削ぎ落とす為に、変なちょっかいを出してくるだろう。流石に今の俺では返り討ちにする程の力はない。

 

 

つっても……逆効果じゃね?

禪院も『禪院家に非ずんば呪術師に非ず 呪術師に非ずんば人に非ず』とかそんな感じのクソならむしろ駄目な気がするんだが。

 

九十九センセーが言うには高校生になったら俺はもうスタートで階級が特級らしい。おい待て、聞いてねえよ。

 

まあ続けると特級となったら縁談がバンバン来る。なんなら年上から年下とよりどりみどりらしい。何?俺を性犯罪者にしたいの?ロリコンとかオバコンとかにしたいの?死ぬの?

 

だからこそ、禪院家だ。

御三家ならば上への圧力にも強い。まあ内輪揉めは多々あるけど、それよりはマシだと思う……って、おい。内輪揉めあんのかい。

 

因みに断り続けるのは無理らしい。

五条家の五条悟は特級で当主だからこそ、のらりくらりと縁談を躱しているが、俺の場合はそんな力はない。上からの圧力で家族を巻き込む可能性が大。

 

要するに、ある程度の距離を保ちながら御三家の庇護に入っていると世間に思わせればいい。禪院家で縁談があるかもしれないけど、家族を護るならそれが一番無難だと。

 

因みに内輪揉めとかの具体的な内容を聞いてみると、「同い年の子を縁談に出したりする事くらいだな」とアッサリした様子で言ってきた。はっ?俺の性癖センセー知ってんだろ?その上であの二人のどちらかと縁談しろと?そもそも恋愛もクソもない。

 

 

思った事はただ一言。

 

 

……呪術界の恋愛ゲーは壊れてバグが詰まったクソゲーである。マジふぁ○く。

 

 

ごめん。二言だったわ。

 

 

 

 

○月♪日 晴れ

 

九十九センセーが俺の家にやってきた。

両親に話があるようで、俺が身を置いている場所について話してくれた。呪霊の事も、創った呪具も、今の状況の全部を包み隠さずに話した。わざわざ蠅頭を持って呪霊が見える眼鏡で説明し、信用を得た。

 

両親は俺に質問してきた。

 

「お前自身が何をしたいか」

 

俺の目的は変わらなかった。最強を創る。その結果で誰かを助ける事が出来る。俺にはその才能があるからこの道を進みたいと、嘘偽りなく答えた。

 

両親は笑った。

なら、応援すると俺の選択を許してくれた。

ただ、両親は俺に一つだけ条件をつけた。

 

死ぬ理由が必ず、老衰である事。

自由に生きるのはいい。だけど、死ぬ時に自分の大切なモノを誰かに託せるまで、絶対に死ぬなと両親は俺に言った。

 

涙が流れて、俺は二人を抱きしめる。センセーも若干貰い泣きしているし。何はともあれだ……

 

 

……俺、転生して生まれてきた家族がここでよかった。

 

 

 

 

 

○月¥日 晴れ

 

禪院家の屋敷の前に九十九センセーと一緒に居た。いや、デカイな。ちょーっと予想の二倍くらい大きいし、入り口の門を見てみると地味に首が痛い。

 

門を開けると綺麗な着物を着飾ってお辞儀をする女の子が居た。どっちだこの子、真希か真依かどっちか分からない!双子ってやっぱすげえな。因みに真依の方だった。

 

見分けが付かないのは仕方ないよね。うん。

 

その後、現当主である禪院直毘人と出会った。九十九センセーは暫く話し合いしてるから遊んでこいと言って放り出された。いや、連れてきたのアンタじゃん。放り出すなよ。

 

……この後、俺は真希に出会ってめちゃくちゃ話した。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 おーれはー、ほうりだされちゃったーよー。

 と言う訳で庭なう。テクテクと歩いているのだが、広すぎる。なんなら庭に桜の木が生えてるし、池には鯉が泳いでいる。

 

 そして、桜の木の上で座っている真依に似た女の子。

 

 

「だれだおまえ」

「ん?……ああ、さっきの真依って子じゃないな?」

 

 

 着物を着て、上から見下ろすその女の子は自分の名前を言った。それに対して御三家に失礼のないように敬語で話す。

 

 

「わたしは真希。アンタは?」

「お初にお目にかかります。私は荒夜緋色と申します」

「キモっ」

 

 

 なんて事言いやがるこのクソガキ。

 敬語を外して普段の口調に戻し、質問する。

 

 

「お前アレか。俺が縁談で紹介された人間と勘違いしてんだろ」

「……ちがうのか?」

「違ぇよ。どっかの七三が言ってたけど、呪術界はクソだからな。関わると変な気遣わなきゃいけないから来たってのに」

 

 

 呪術師はクソ。労働はクソ。呪術界もクソである。だから庇護下に入って、呪具を出した後の心配をカバーするように頼んでいると思うのだが……大丈夫なのだろうか。九十九センセー、たまにうっかりだし。

 

 

「なにしに来たんだよ」

「まあ御三家の庇護下に入る程度?俺が呪術師になると上が酷くなりそうだからな。ああ縁談とかはないぞ?俺は裸エプロンが似合う女がタイプだし」

「聞いてねえよ。キモっ」

「うっせクソガキ」

 

 

 どうやら相当口が悪いようだ。

 アッチが中指を立てているのに対して、俺は親指を下に向ける。良い子は真似しちゃいけません。

 

 

「呪力が薄っすら。微弱に発してはいるけど祓うのには使えねえな」

「………んなこと、わたしが一番わかってる」

「天与呪縛か。初めて見た」

 

 

 呪力が殆どない代わりに身体能力が高いフィジカルギフテッド。確か九十九センセーが目をつけてはいたな。一番は伏黒パパに目をつけていたらしいけど。

 

 

「……なあ、アンタしょうらい呪術師になるのか?」

「まあなるよ。ただ創る方をメインだがな」

「つくる?」

「呪霊をこの世から無くす研究をしてるセンセーがいてな。俺はその人の馬鹿みたいな夢を叶えたいと思った」

「呪霊をなくす……」

 

 

 どうやら想像がつかないらしい。

 そもそも、特殊な眼鏡が無ければ見えないのだ。呪霊がどんなモノかはこの当時まだ分かっていないかもしれない。

 

 

「お前は?」

「……見かえしたい。この家のやつらを。だからわたしがこの家で一番になる」

「……へぇ」

 

 

 もうこの頃からそれを考えているとは思わなかった。コイツは強い人間だ。そういう奴等は嫌いじゃない。つか、この歳でここまで思わせるあたり呪術界の闇が見えるのだが。

 

 

「おいガキ」

「ガキじゃ……っぶね!なんだいきなり」

「やるよそれ」

 

 

 俺は特級呪具。村正(偽:改)を真希に放り投げた。

 九十九センセーにバレたら怒られるが、期待させられたお礼みたいなものだ。俺が使うより、コイツが使った方が使いこなせる気がするし。

 

 

「やってみろよ。その願いが叶うまで」

「おい、コレ呪具ってやつじゃ」

「内緒にしとけ。それ売ったら億はくだらねえぞ」

「おくっ……!?」

 

 

 真希が手を離しかけた。

 その呪具は偽物。まだ、本物の領域に至っていない未熟な自分が生み出した刀。まだ、未熟な子供には丁度いいだろう。

 

 

「そいつでとにかくやってみな。偽物とは言え業物。甘っちょろい戯言を実現してみろ」

 

 

 真希の言ってる事は戯言だ。

 力なき理想は戯言にしかならない。だが、そんな戯言は嫌いじゃない。俺は最強を創る。真希は当主になる。届かないかもしれないその願いを叶えようとする者同士だ。

 

 だから、コイツに俺は期待する。

 

 

「……それが折れて、まだその甘っちょろい戯言(ねがい)を諦めてなかったら、もう一度──」

 

 

 今度こそ真打、村正を渡してやる。

 そう告げて、真希に背を向けて荒夜は歩き出した。手をひらひらと振り、俺はその場から去って行く。

 

 

 

 

 

 

 

「おいそっち入り口じゃねーよ」

 

 

 おい、空気読めよ。

 

 




このネタ、るろ剣です。
ただカッコつけたかった荒夜くんでした。
因みに性癖は『』つけ君参照。

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 九の真希の台詞書き直しました。まだ小一の年齢にしてはちょっと子供っぽさが無さすぎたので。あと、長文感想ありがとう!感想に裸エプロン先輩がいるとは思わなかったぜ!今回ちょっと短いですが、どうぞ!!


 

 

 

 

 

○月○日 晴れ

 

センセーが話をつけてくれた結果、俺は呪具の値段を半額にする代わりに禪院の庇護下に入る事が決定した。下手な上からの圧力はどうにかしてくれるし、ある程度の要求は融通してくれるらしい。

 

意外と太っ腹……と言いたい所だが、俺が生み出した『纏帳(まといとばり)』はそれだけの価値がある上に今後にも期待していると直毘人さんのお褒めの言葉を頂きました。

 

あと、直毘人さんの呪力と真依の呪力の分解の許可を貰った。真希に関しては呪力が殆どないため、分解するだけの呪力がなかった。まあ、村正(偽 : 改)を渡したし、俺にメリットは無くとも呪術界で影響があるならいいでしょ。

 

 

○月☆日 晴れ

 

次はまさかの高専なう。

さっさと術師のみにしか使えないようにしたいらしい。まあ早く出せれば殉職率の低下が出来るし。

 

泊まりになるなら親に連絡……と言ったのだが九十九センセーが既に手を回してくれたらしい。

 

卒業間際の呪術師やさしす組、夜蛾先生などが協力してくれた。因みに何を創ったと五条さんが聞いてきたので試作段階の『纏帳(まといとばり)』を見せたら顔が引き攣っていた。

 

 

 

○月♪日 曇り

 

 

……漸く理解した。魂の共通点と相違点。

 

魂には核があり、核以外の形は全く違う。

核を除いて、性別、性格、生得術式はその魂の形によって決まってくる。肉体もその魂の形を経て変わってくる。

 

なので俺は、起動させる術式にもう一つの術式を組み込んだ。性別、性格の在り方を示した印の形のみを描き、生得術式の情報は一切描かない状態のものをプレートに写した。

 

つまりこんな感じで描き込んだ。

『性別』+『性格』+『   』

 

そして呪力を流すと魂のエネルギーにある生得術式の基盤がパズルのピースみたいに当てはまり、本人の呪力でなければ使えないようにする事が出来たのだ。試しに俺が『纏帳(まといとばり)』を使って、九十九センセーが使えるかどうか試してみた。

 

結果、成功だった。

九十九センセーの奢りで今日は高い焼肉を食べに行った。

 

 

 

○月♪日 雨

 

もう、遠慮はいらない。

今日から最強を創るとしよう。

 

実を言うと、もう既に蒼崎橙子が使っていた幻灯の魔物は創っているのだ。正確にはまだ創りかけだが、多分創れる確信がある。幻灯機の設計図を見て、パーツ自体を呪力が付与された状態にして、希少なパーツは俺自身が生み出したりして創っている。

 

前世のチートがここで使えるとは思わなかった。

機械弄りは得意だ。もう持ち込んだ知識がチートみたいなものだと思う?細けえ事は気にするな。

 

それとは別に抑止力である。

禪院の力があるとは言え、上層部の嫌がらせが消える訳じゃない。俺が死んだらマズいと思えるものを創らなくてはいけない。

 

 

……一個だけ、物凄いものを思いついた。

 

俺と相性がいいが、創っていいのかと俺が躊躇し、そう思えてしまうものだ。なんなら世界滅びない?

 

 

 

○月★日 晴れ

 

とりあえず素材待ちだ。

その間、纏帳の生産に勤しんだ。と言いたいのだが一度創れてしまえば、その術式が刻まれた形で生み出せる。いちいち鉄を彫るのが面倒だったし。とりあえず呪力を分解した人間分は創った。

 

それを見た九十九センセーが頭を押さえていた。

あー、胃が痛いと呟いてるが歳か?と小さな声で呟いたらゲンコツが飛んできた。地獄耳過ぎるよこの人。

 

 

 

○月♡日 晴れ

 

今日、簡易領域について教えてくれた。

シン・陰流の簡易領域は自身の生得領域を生み出さずに、対象がその領域に入ってきた時に限りなく近い必中効果を生み出す事だ。

 

意外と簡単に出来た。

呪力操作だけならトップクラスだし。その時に生み出した術式は生得術式と全く別の構築方法だが、案外難しい話じゃない。なんなら特殊な帳の張り方の方が難しかった。

 

そして、もう一つが領域展開。

実は、呪力の核心から既に近い所まで会得している気はする。だが、使った事はない。

 

なので、全力でそれをやってみろと九十九センセーの言った通りにやってみた。

 

 

 

 

……呪力切れで気を失った。

 

因みに展開時間は50秒が限界らしい。

 

 

 

○月¥日 曇り

 

素材が届くまで幻灯機を創っていたが、創り終える前に素材が届いた。

 

人間を構成するもの。

ハガレン曰く、人間の体は水35L、炭素20㎏、アンモニア4L、石灰1.5㎏、リン800g、塩分250g、硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素、及びその個人の遺伝子の情報らしい。

 

……いやとてつもなくやばいだろ。 

いやさ、肉体を創ろうにも、分解したエネルギーはあくまで分解した元素のみだ。鉄から肉体を創れないのと同じ、それに見合った元素を用意しなくてはいけなかったのだが、これ真理の扉の前にいかない?腕が機械になったり、身体が鎧になったりしない?

 

融合した力場にその素材を全部入れる。

 

果たして人間が出来るのか………

 

 

 

 

 

 

結果だけを言おう。失敗だった。

肉体とか関係なく、普通に無理だった。まあ失敗しただけでよかったけど。あー、怖かった。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 

「成る程な。人間の肉体を持った呪骸か、言ってしまえば改造人間に近いのか。まあ呪骸の構造は人間寄りが多いからな」

「その人間の肉体構成が上手くいかないんですよ」

「うん。まあ人間の身体を完璧に理解出来たならノミネートもんだからな?元素があるから出来ます。なら、母胎は要らないよ」

 

 

 うん。まあ確かにその通りなんだけど。

 失敗の原因は完全な人間の構造をイメージ出来なかったのがある。臓器も心臓も脳も全て理解してるわけじゃない。それなのに創ろうとした事が間違っていた。ハガレンの読み過ぎだなうん。

 

 何か引っかかるんだよなぁ。出来るはずなのに出来ないようなその違和感。漫画では構築術式は燃費の悪い術式としか……

 

 

「……ん?」

 

 

 あれ?何だ?何かが引っかかる。

 真依が構築術式で生み出した銃弾。銃弾には通常、鉄だけではなく火薬なども当然ある。生み出すには複雑だし、難しい。

 

 

 ……待てよ?俺は何かとんでもない思い違いをしていた?

 

 

「………」

 

 

 試しに銃弾を創ってみる。

 いつものように燃費がクソの分解を用いない構築術式。なんなら俺では弾丸三発分しか生成出来ない。負担もクソデカいし。

 

 右手に収まったのは銃弾だ。

 研究所に置いてある銃でそれを撃ってみる。

 

 普通に撃てた。これが()()()()()()

 

 

「どうした?」

「いや、おかしくないですか?構築術式は知っているものなら創れると思ったんですけど」

「創ったじゃないか。今銃弾を」

()()()()()()()()()()?」

 

 

 九十九センセーはその言葉に目を見開く。

 銃弾は単純なものじゃない。鉄の形状から薬莢、火薬などは当然存在する。俺だって詳しい構造は理解してないのに?

 

 自分の術式を改めて再定義する。

 構築術式は知っているものを構築する。だが、仮に設計を知らないにも関わらず、銃弾を問題無く生み出せた。

 

 

 

 

「構築術式って、一から知ってるものを構築するんじゃなくて、()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 だから銃弾は構造を知らないのに問題無く創れたのだ。

 アレ?……まさか、呪力さえあれば自分が構造全てを知らずとも構築出来る?

 

 

「……まさか」

 

 いやちょっと待って。

 構築の燃費が悪い理由って、そういう事なの?自分が望んだものを手にする能力?原作の真依は銃弾の複雑な構造くらいは知っていたかもしれないが、でも構造の知らない俺が創れるはずがない。

 

 つまり構築術式は……

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 次回の議題。

 荒夜、聖杯と同じ力を持ってる可能性について。デュエルスタンバイ!

 

 




荒夜「……つまり俺はイリヤだったのか?」
イリヤ「違うよ!?」

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十一

 急展開です。原作改変のタグを入れました。
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○月○日 曇天

 

………思った以上に深刻だった。

頭を抱えている俺に九十九センセーもそれを聞いて俯いている。マズイな。ある種の願望機と同じ力を持つ人間。俺は燃費が悪いから反転の分解術式を使えなきゃクソ弱い術式とばかり思っていた。

 

そもそも気付ける要素はあった。

村正(偽:改)は鉄パイプで出来たとはいえ、結構頑丈で切れ味のいいものになる筈がない。刀は厳密に言えば、玉鋼で出来るものだ。鉄パイプ程度では強度などたかが知れてる。

 

俺はその事すら忘れて刀を創った。

足りないものと思ったものを構築術式で埋めた時、俺の想像した刀の性質を勝手に構築術式は生み出したのだ。

 

ナイフだって持ち手は革に近いものだ。

七夜のナイフみたいに創りたいと望んだ故に生み出された。元素から構築するならそんなものまで意識するはずがないのに。

 

思えば、なぜ魂があるものが呪力になるのか考えた事がなかった。魂が分解された時に生じるのがエネルギーだけじゃない理由、この世界でいう呪力は俺からしたら()()()()()()()()()()()()に等しいのだ。故に魂は呪力となり、分解した呪力を自由に扱えるのだ。あの時の純度100%の鉄を生み出したように。

 

 

………これ、思った以上に深刻じゃない?

二回目だよこの台詞。だがそう言わざる得ない。ヤバいよ。この実態がバレたら上の連中どころか呪術師、呪詛師が血眼で俺を利用しに来る。

 

仮の話だ。

全人類全てを犠牲に呪霊の無い世界を生み出せるか。

 

………答えは多分、Y()E()S()()

望んだものは呪力によって決定される。魂を持つ人間全てが犠牲になるなら莫大な呪力を生み出せるし、その呪力で新しい世界を生み出すと言うなら多分不可能ではない。

 

 

これ、思った以(ry────

 

 

 

○月☆日 

 

 

 

○月♪日 曇り

 

昨日台風で来れなかった。

とりあえずこの情報は九十九センセーと信用出来る人間の間で秘密にする事にした。一応、暗い気持ちの中だが幻灯の魔物は完成した。呪力を溜め込み、核となる部品を取り付け、幻灯機に構築術式と夜蛾先生の傀儡術式を組み込む。俺にしか使えないように応用を利かせて、投写した。

 

 

映ったのは赤い猫。

傀儡術式によってある種のコマンドを入力した。構築術式によって実体を得る。猫は幻灯機が壊れるか、溜めた充電(呪力)が無くなるか、命令するかでしか消えない。

 

しかも、利点が二つ。この幻灯機は機械と呪術を組み合わせたものだ。コイツは物体の分解で生み出せるエネルギーで動力を賄える事。そして、実体はあっても本体がそこにあるわけじゃない。あやふやな構築で存在するからこそ、エネルギーの消費は少ない。

 

またとんでもないもの創ったなお前と呟くセンセー。こればかりは俺も思う。コイツもそこそこヤバい代物だ。

 

ああ、これが蒼崎橙子と同じものか。

赤い猫を撫でると、本物の猫のように喉を鳴らし、気持ちよさそうに反応する。ヤバい、癒される。

 

九十九センセーがそれを見て撫でようとしたら赤い猫が噛み付いた。それに吹き出した。まあ、その猫本来なら人間の胴体すら容易く食い破る奴だから、嫌いではないのだろう。

 

まあ戯れにしては結構強く噛んだと思うが……歯形が意外と深い。涙目のセンセーに反転術式をかけてあげた。

 

 

 

 

○月◎日 晴れ

 

自分の願いに応じるなら身体を生み出す事が出来るはずなのだが、圧倒的に呪力不足。流石に呪術師登録をしてない俺が任務に行けるはずが……えっ?行けるの?しかも一級?

 

九十九センセーに鍛えられ、体術もそこらの奴には負けないだろうが、実戦経験ゼロの俺がいきなり一級?「危険じゃね?」と聞いたら「お前、頭大丈夫か?」と言ってきた。

 

失敬な、俺はマトモだ。螺子が大分ぶっ飛んでいるだけだ。あれ?矛盾してない?

 

九十九センセーが骨みたいな呪霊を使って呪力の砲弾を撃ってきた。俺は咄嗟に分解する。そこで、九十九センセーが構築と分解を融合させた力場を体表に張れと言われた。あれ自分の身体に張るとなると結構、呪力食うんだが、とりあえず張った。その状態で再び撃たれた。3カウント待った無しで。

 

分解された呪力は霧散しなかった。力場を張った中で保有されている。……あれ?もしかして、俺攻撃された術式も分解して自分の呪力に変換できる?

 

ちょっと?これ相当の呪霊キラーじゃない?

なんなら呪霊が攻撃している間のみ張ってしまえば呪力回復も余裕だし。攻撃と防御で分解し呪力回し続ければ長期戦ならクソ強いぞこれ?

 

……これ、もしかして最強になれない前提少しだけ崩れてないか?最強に近づいてきた?五条さんのように自己補完の範疇でずっとは無理だが、戦う時のみなら需要と供給さえ考えて使えば……

 

おい、今気づいたのかとか言う顔やめて。ボクかなり傷ついちゃう。

 

 

 

 

○月◆日 晴れ

 

九十九センセーが禪院から呪力を保管する呪具を持ってきた。それをトランクケースに入れて俺に渡してきた。とりあえず、呪霊を利用してしまう事は割り切ろう。命あるもの全てを気にしていたら保たないと言われたし、そこは仕方ないと割り切った。

 

九十九センセーは死にそうだったら助けてやると丸投げしてきたが、ありがたい。正直自分がどこまでやれるのか知りたかった。

 

出会った一級は触手の化け物だった。

毒を分泌する触手で俺に襲いかかるが、その前に触手ごと分解する。長引くと呪力が融合した力場にもってかれてしまうので、一気に倒す為に手を合わせた。

 

それは神様に祈るように……俺は領域を展開した。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

『お前の領域展開は不完全だから強いな』

『はい?』

 

 

 不完全だから強いってどういう意味?

 確かにまだ不完全だ。使い始めて、漸く必中効果が得られたが閉じ込める感覚はいまだに難しい。

 

 結界で閉じ込めながら生得術式を同時に解放することが難しいのだ。なんなら分解しか出来ず構築をする余裕がない。

 

 

『お前の本質は構築と分解。だが、それを突き詰めれば創造と破壊に行き着くと思わないかい?』

『……まあ、間違ってはいないと思いますけど』

『正確にいうなら、領域展開と呼べる代物じゃない。不完全で不細工、創造と破壊なんて大層な在り方には行き着いていないが、本質の工程は間違っていない』

『??』

 

 

 言っている意味がわからない。

 俺の領域展開は確かにまだ不完全だと思う。対象を閉じ込めるだけの完璧な術式ではない。本質を捉えていないという事か?工程は正しいけど、使い方が違う?

 

 分解しか出来ない中、領域は間違いなく不完全。構築は精々分解したエネルギーに指向性を持たせる程度にしか生み出せない。物質や物体は創れない。

 

 

『お前は呪術を分解し、生得術式の基盤を知れる上に呪力まで手に入れる事が出来る』

『はい、間違ってないですね』

『お前の本質の究極は恐らく『なんでも生み出せるしなんでも壊せる力』が具現化したものだ。だが、領域展開でやっている事は分解したエネルギーに指向性を生み出したりする事だろ?』

『まあ、そうですね』

『そこがミソだ』

『はい?』

 

 

 分解したエネルギーに指向性を持たせる。

 領域を使わなければ真っ直ぐにしか飛ばないし、結構周囲に影響する。パチンコ玉一つでも結構な破壊力を生み出すのだ。

 

 だが、それとこれはどう関係が……?

 

 

『言ってしまえばお前は領域で何かを生み出そうとはせずに、分解のみを使ってそのエネルギーだけで圧倒出来る。これでは領域展開の本質からはズレている。お前は創り出す者で破壊する者ではないからな』

 

『でも、現在の既存の兵器とか呪具を生み出すより手っ取り早いし』

 

『だから強いと言ってんだよ。分解のみに特化し、分解したものだけで圧倒出来る。なんでも分解してしまうんだ。人も呪術も物質もな。不完全だからこそ、その領域は呪力を持つ全てに特攻を持つ』

 

 

 あっ、言われてみればそうだ。

 この不完全な領域は領域同士の押し合いになれば相手の領域を分解し、自分の呪力に変換してしまう。

 

 なんなら、領域同士で僅かでも自分の領域が保てていれば、長期戦で有利になるのは俺の方だ。

 

 

 

『分解する事のみに特化した不完全な領域展開。それが逆に強いのさ』

 

 

 九十九センセーが言ったのはその使い方。

 不完全ゆえに強いその領域。分解を極めたソレは何よりも()()()()()()()()()()()

 

 

 

 ★★★★

 

 

「やあああああめええええろおおおお!!!」

 

 

 一級呪霊は呪力が上がった荒夜に猛攻を仕掛けた。

 荒夜の呪力量は中の上だが、呪力の質と操作力は他の呪術師と格が違う。領域の展開と術式の発動のみに絞り、完成される不完全な領域。

 

 荒夜の本質に聖杯のように全ての可能性を叶える力があるならば、まだそこまで至る事は出来ない。

 

 無からの創造ではなく有からの再編。

 いずれ全へと到達を目指す荒夜の最奥の手前。

 

 

 

「領域展開」

 

 

 

 世界が紅く染まっていく。

 空は夕焼けより紅く、地面は影よりも黒く塗り潰される。行き着く先は全の構築、ソレに届かない不完全だとしても、それが不完全とは思えないその世界に一級の触手呪霊は愕然とし、恐怖した。

 

 それは分解のみに力を置いた不完全な領域展開。故に荒夜はこう名付けた。

 

 

 

 

 

──創始再編式

 

 

 全ての始まりを再編する。

 創られたもの、生み出されたもの全てを自分の形に再編する。荒夜が現在使える最大の領域。

 

 

「いいいやああああああだああああああ!!!!」

 

 

 恐怖で体が震える間もない。

 ただ、危険と判断し逃げようと思う事は間違っていない。呪霊も負の感情から生まれたものだ。感情だって当然ある。

 

 だが、逃げようと思っただけで荒夜の領域から逃げられる程、彼は甘くない。

 

 ただ、バラバラにされていく。

 塵のように身体が分解されていく。何者であろうと領域の中にいる彼を止められない。

 

 呪霊は声を上げる間もなく領域で消え去っていた。

 

 

 

「こんなもんか一級呪霊。よっと」

 

 

 トランクケースを開け、呪具に手に入れた呪力を注ぎ込む。今ので自分の呪力の30倍は手に入った。魂の分解をした呪力量は半端じゃない。二級と比べてもやはり一級は格が違うと思ったが、これなら肉体を生み出す時の呪力も賄える筈だ。

 

 

「終わったか。やっぱ凄いなお前は」

「いや、あれ不完全ですよ?」

「それでもだ」

 

 

 ポンと頭に手を置かれて撫でられる。

 その顔は少しだけ、悲しそうだった。どうして、そんな顔をするのかわからない。

 

 

「お前は凄いよ。自慢の弟子だ」

「九十九センセー?」

「ああ、本気でお前が私の願いを叶えてくれるんじゃないかって、そう思えるよ。同時に悔しいって思ってしまうくらいにな」

 

 

 九十九センセーに呪霊に対して何かがあったのか。俺にはこの人の過去がわからない。けど、もしかしたらこの人は呪霊に大切な人を奪われたのかもしれない。それとも、才能か。俺の術式を見てそう思ったのか。

 

 

「なあ荒夜」

「はい」

「お前はさ、私より先に死ぬなよ」

 

 

 いやこの人何言ってんの?

 そうなると少なからず、俺が死ぬなら渋谷事変の後じゃん。そもそも、俺は老衰でしか死なないって呪いを両親にかけられてるし。

 

 それとも俺が早死しそうだからか?

 

 

「大丈夫ですよ。老衰で死ねって家族に言われてますから」

「……そっか。うし!じゃあ飯行こうか。何が食べたい?」

「えっ、じゃあハンバーガーとか?」

「寿司行くぞ寿司!」

「聞いた意味!!」

 

 

 この後、めちゃくちゃ高い寿司食べに行った。

 

 

 

 ★★★★

   

 

 

 

 早朝に目が覚めた。

 今日、呪骸創りに取り掛かるからだ。人間の身体を再現した後に、俺が強いと思える術式を組み込む。

 

 思い浮かぶ最強は創っていいか迷うものだが、抑止力としては充分だろう。研究所まで呪力操作で強化した身体で走っていく。

 

 

「おっはよー!センセー!」

 

 

 いつも変にベッドで寝汚く眠るセンセーを起こすのは俺がよくやっている事だ。ドアをノックしてわざとらしい叫ぶ。あの人寝る時、全裸だから一度入った時、マジで気を失うかと思ったもん。

 

 

「……あれ?」

 

 

 ノックしても反応がない。

 仕方なく意を決して開ける。ベッドにはセンセーが姿がなかった。あの人、早起きしたのか?

 

 布団はいつも通りぐちゃぐちゃになっているけど、センセーがいつも持っていく荷物が全く無い。

 

 

「朝飯でも食べに行ったのか?」

 

 

 ガラケーでセンセーに電話を入れる。

 時間が経つと、繋がった。どこに行ったのか聞こうとしたのだが、ガラケーから聞こえた声はセンセーの声ではない。別の人間の声だった。

 

 

『もしもし』

「………?アンタ、誰?」

『私は夜蛾正道……君は荒夜君か』

「夜蛾先生?この携帯、九十九センセーにかけたんだけど」

『落ち着いて聞いてほしい』

 

 

 何だ。何かがおかしい。

 夜蛾先生の口調、九十九センセーの失踪。 

 嫌な予感がした。優秀な頭は嫌というほど最悪な現実を叩きつけようと、受け入れられなくて心が警鐘を鳴らす。

 

 

「何か、あったん…ですか?」

 

 

 震える手で携帯を握りしめる。

 一体何があったのか、夜蛾先生は告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「九十九由基が……死んだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はっ?」

 

 それは唐突に告げられた。

 眩しいくらいに朝日が昇る冬の終わりの事だった。

 

 



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十二

 
 まずは一言、申し訳ありませんでした。批判が多かったのもあり、この作品は大幅改変のリメイクになります。消した事は決していい事とはいえないでしょう。本当にすみません。一応、リクエストを貰いながら続けていた作品なので、読者の期待に添えなかった事に謝罪します。

 賛否両論で否が多かったのもあり、この小説は一時停止にしようか迷いました。しかし、励ましてくれた方々の期待を裏切るのは申し訳ないという一心もあり、この話をちゃんとしたものにしたい。やり直しで言うのはどうかと思っている人も多いかもしれません。

 原作キャラが死んだ後のご都合主義は不満があった方も多いかもしれません。一度見てくださった方は混乱するかもしれません。それでも、頑張れるだけ頑張っていきたいと思います。暖かい目で見てくれるとありがたいです。

 あと、ウルト兎さんから最強を頂きました!ありがとうございます!!!見て惚れたぜ!!

【挿絵表示】




 

 夜蛾先生が研究所まで迎えに来てくれた。

 特級呪術師、九十九由基が死んだと言う事実を、荒夜はまだ受け止めきれないでいた。動揺し、目を見開いて、放心している。

 

 

「大丈夫……ではないな」

「……だって、センセーは…昨日まで」

 

 

 昨日高い寿司を食べに行って、その後バイクの後ろに乗って送ってもらった。未だに覚えている。それが翌日になって、突然死亡したなんて信じられない。

 

 

「……センセーの、死因は?」

「……それは」

「答えて……お願い」

 

 

 両親には連絡し、夜蛾先生と一緒に高専に向かう。

 身体が震えながら、今にも泣きそうな荒夜はハッキリ知りたかった。何が原因で誰に殺され、どうやって死んだのか。

 

 

「……詳しい判断は出来ないが、恐らく刺殺。五条の六眼でさえ、残穢は見つからなかった」

「……そう、ですか」

「それと、呪詛師御用達の裏サイトに九十九の懸賞金がかけられていた。三億のな」

「!………それ、受け取った人間は?」

「不明だ」

 

 

 分かるわけがないと思っていた。

 呪詛師の裏サイトは複数存在し、見つかったら消えてはまた再び別のサイトで存在したりする。

 

 でも、おかしい。原作では九十九センセーは間違いなく渋谷事変まで生きて………

 

 

「俺の……せい…か?」

 

 

 俺は最強を生み出す過程で殉職率を下げる『纏帳(まといとばり)』を創った。それは禪院によって俺の名前は隠してもらっていた。だが、九十九センセーは話が別だ。

 

 九十九センセーと禪院が関わった時点で周囲は九十九センセーがそれを生み出したものだと錯覚した。特級呪術師で研究面に秀でているセンセーだ。呪詛師からしたらそんなものが拡散されたら戦力強化にも繋がり、自分達の居場所が狭くなる。

 

 だから、裏サイトで九十九センセーに多額の懸賞金をかけて殺した。

 

 

「君のせいではない」

「……そんな訳」

「悪いのは九十九を殺した奴と懸賞金をかけた奴だ」

 

 

 確かにそうだ。けど、悪いのは自分だ。

 俺がセンセーに『纏帳(まといとばり)』を渡していなかったら……俺が一人で呪術界の圧力を上手く躱すことが出来たならセンセーは死ななかった筈だ。

 

 俺が……俺が居るから未来が変わってしまった。

 

 

「とにかく高専まで暫くかかる。少し休みなさい」

「……そう、させてもらいます」

 

 

 ただ、今は何も考えたくなかった。 

 考えれば考えるほどに、原因は自分だと自分を責めて自分を嫌いになる。俺はただ目を瞑って考えることをやめた。

 

 

 

 ★★★

 

 

 高専の解剖室にて、さしす組の三人が居た。

 六眼で傷跡を見ていたようだが、呪力のカケラすら感じ取れないらしい。解剖室の扉が開く。

 

 そこには血だらけながら、安らかに寝ているセンセーの姿があった。詳しくはわからない、見た感じは心臓部と脳幹を二撃で殺されている事だけしかわからない。

 

 昨日まで、二人で一緒に寿司を食いに行って呪霊の無い世界について語り合った筈なのに。

 

 

「………」

 

 

 チリッ、と呪力が爆ぜるようにこの場所に撒き散らされた。感情を制御出来ず、噛み締めた唇、握りしめた手に爪が食い込み血を流す。怒りが、後悔が、絶望が呪いとなって部屋を埋め尽くす程に負の感情が溢れ出す。

 

 

「っっ!!」

「おいガキ!?」

 

 

 夜蛾先生と五条はそれに反応する。

 この少年が暴走してしまうんじゃないかと思うくらいに取り乱している。その声に荒夜は呪力を制御し、落ち着かせる。

 

 

「……しばらく、一人にしてください」

「……ああ、分かった」

 

 

 夜蛾はその言葉に三人を連れて解剖室を出た。

 ふらふらと力の入らない脚でセンセーの所まで歩いていく。残穢を調べる為に五条がズラしていた布を取る。

 

 震えた手で頰に触れる。

 軽くつねる。そうすれば、いつも変に寝汚くて朝が弱いこの人の目が覚めると思っていた。

 

 

「……はは……変な顔…」

 

 

 身体はもう冷たくて、温かさを感じられない。

 冷たくなった身体は硬く、つねった頰の形が変わらない。

 

 

「……なんで………」

 

 

 幾ら揺すっても、幾ら呼びかけても、目の前にいるセンセーは目を覚まさない。力の全てが抜けたように膝は地面に落ちる。覗き込むように近づいたセンセーを見て分かった。分かってしまった。

 

 この人はもう魂が無い。

 六眼がなくとも、魔眼がなくとも分かってしまう。だって、ずっとこの人を見てきたのだから。

 

 この死体は本物だ。

 俺のセンセーは、九十九由基は死んだのだ。

 

 

「う……ああ……」

 

 

 一体どこで間違えた?

 荒夜緋色はどこで間違えた?

 

 ここは呪術廻戦の世界じゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()。慢心して、原作通りだからこの人は死なないと現実を楽観視していた。

 

 この世界は人が死ぬんだ。

 死んで、死んで、後悔のない死に方がないくらいに悲惨で残酷な世界だって、俺の頭なら気付けていた筈なのに……

 

 

「う、ひっぐ……なんで……!」

 

 

 あの人が笑ってるのが好きだった。

 一緒に頭を悩ませて、時には困らせては怒られて、褒めてくれた時に頭を撫でられて、祝いは盛大に高いものを食べて、笑っていたあの人の手の暖かさを今もまだ覚えている。

 

 

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ……!!」

 

 

 もう、その暖かさも感じられない。

 子供のように泣き叫び、冷たくなった手を握り、ただ自分の愚かさを呪った。

 

 

 ★★★★★★

 

 

 死体は、高専に置いて丁重に処理されるらしい。

 あの人は曲がりなりにも特級だ。下手に死んだ情報が流出されたら、呪詛師が少なからず活発になってしまう。

 

 泣いて、涙が枯れるまで泣き叫んで、その後の事はよく覚えていない。

 

 

「………」

 

 

 そのあと、帰って眠っていた。

 重い足取りがまだ続いている。まだ、心が折れてしまっている。それでも研究所に足を運んだ。

 

 どうにかしなければ、どうにもならないと思ったから。

 

 研究所の灯りを点ける。

 九十九センセーが死んだ事を受け止め切れない。

 

 

「……俺が、聖杯と同じなら生き返らせれる……」

 

 

 そんな事を呟いてみたが、答えは出ていた。

 その答えはNOだ。恐らく、俺の力では死者蘇生など大それたものは出来ない。

 

 魂とは、母体から自然に生まれたものだ。

 故に、それは真似事で模しても決して同じではない。

 

 例えるなら、100%の果汁ジュースと人工的に生み出した果汁ジュース。味は同じでも成分が全く違うのと同じ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だが、九十九センセーそのものの魂の核は既に破壊されている。

 

 オガミ婆のように憑依は?

 いや、それも恐らく完璧にはいかないだろう。魂の情報、肉体の情報を憑依させる事は出来ても核が変質するわけじゃない。あれは推測でしかないが、魂の核のみを残して、その他の情報を書き換える術式だ。

 

 書き換えた後にその人の術式を使えるのだろうが、呪力がなくなれば本人に戻る。伏黒甚爾のような呪力がない天与呪縛は稀。九十九センセーを一時的に生き返らせる事は出来ても、呪力の消費による限界がある。今の俺でさえ、魂の核となる部分はどうしようと構築出来ない。

 

 構築術式は万能と呼べるものだろう。

 

 だが、()()()()()()。物理法則を捻じ曲げる物を創る事は出来るだろう。呪術がある世界だ。不可能を否定する事はできなくはない世界だ。

 

 それでも、失ったものは戻らない。

 命に関しては、死ねば終わりだ。例外を除いて、死んでから完璧に蘇るなんてあり得ない。

 

 

「東堂とか……夏油さんとか……アンタが死んだらどうすんだよ……」

 

 

 東堂が見つけられたのは小三。

 俺の年齢と擦り合わせて推測するなら最近だろう。小三で高校生ボコっているアイツに声をかけていたはずだ。今の俺は小学二年生になり、さしす組も二年生に上がっている。

 

 次の春、星漿体が狙われる。

 夏油傑が悪堕ちしたのもこの事件があったからだ。あの後、九十九センセーは、夏油傑に会っている。

 

 

「どうすればいいんだよ……センセー……!」

 

 

 俺にアンタの代わりをやれと?

 東堂を導いて、夏油傑を救って、呪霊の無い世界を創れと?

 

 俺にそんな事が出来るのか?

 俺は九十九センセーの代わりになれるのか?

 

 

「俺は……どうしたらいいんだよ」

 

 

 苦しい。

 貴女が居ない世界を生きるのが苦しい。

 

 貴女に見せたかった世界を創る意味が分からなくなってしまった。いっそ、全て諦めたいと思ってしまうほどに辛かった。

 

 

 ★★★

 

 

 数週間が経った。

 暫くして、九十九センセーの私物が研究所に届いた。

 そう言えば、あの人外国でも研究をしていたのを思い出していた。私物にしてはかなり多い。気怠げに届けられた私物を漁る。

 

 あちらで研究していた呪術師の資料や、研究成果をまとめ上げたレポートだったり、呪具だったり、服だったり、色々なものが入っていた。

 

 それを眺めている。

 ただボーっと眺めている。研究は好きだったのに頭に入らない。

 

 だけど、そんな中である研究資料が目に入った。

 

 

「……呪霊の発生原因調査資料?」

 

 

 九十九センセーがまとめたレポートの中でも、この理論のみは分からなかった。気になって、それを読み始めた。

 

 

『人間の負の感情から形成され、生み出されるであろう呪霊。それが何故外国より日本の方が多いのか。日本の総人口は外国に比べて遥かに少ない。その理由を調査した結果である。呪術師が生まれるのが何故日本に集約しているのか、何故極端に外国人の呪術師が少ないのか』

 

 

 俺はそのレポートを読み続ける。

 

 

『一つ。土地の広さ。人間の感情や負の念は場所が広ければ形成されにくいと私は考えた。呪霊が生まれるには余程の負の感情が集まらなければ成立しない。場所にもよるが、その広さこそ呪霊の多さを日本と外国で分けるものなのではないかと推測した』

 

 

 これに関しては俺も同じ考えだ。

 土地の広さによって負の感情の形成が上手くいかず、呪霊が生まれにくい。その考えは正しい。

 

 

『そして、二つ目が()()だ。これは本当に確証の無い話になるだろうが、呪霊の多さは日本の百鬼夜行など、日本の神話や伝説から生まれたという理由が含まれるかもしれない。外国にも、伝説や神話は多々ある。それに影響されないのかまでは分からない。だが、呪霊は平安時代から既に存在していた事は確認されている。何故、それが生まれたのか。これは本当に仮説でしかない。恐怖、絶望、負の感情から生み出された呪霊は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 俺はここで読む声が止まった。

 呪霊が、格の低い存在?信仰によって強くなる事は分かる。しかし、最後のこの言葉の意味が分からなかった。

 

 

『外国の神話では悪意や負の感情は悪魔だったりする。諸説存在するが、悪魔と呪霊では格が違いすぎる。現世に現界するには、存在の枷が大きかったりする。呪霊は言ってしまえば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のようなものなのかもしれない』

 

 

 理には適っているが大分ぶっ飛んだ話だった。

 確かに日本で言うところの妖怪や化け物と言ったものは怨念だったり憎悪から生まれたとかいうのは多い。

 

 

 

 

『そして、もう一つ。神様や信仰の仮説を位置付けるものとして一つだけ例がある。それは───天与呪縛だ』

 

「……天与呪縛?」

 

 

 ここで何故その言葉が出るのか理解できなかった。神様の信仰とどんな関係があるのか意味がわからなかった。

 

『他者との縛りは簡単な話じゃない。自身に課す縛りによって能力の引き上げが可能になる事は珍しい話じゃない。だが、生まれたばかりの人間に与えられた呪縛は一体何なのだろう。自分に課す事でもなく、生まれた時に勝手に呪縛されている。これがもし、生まれる前に課された呪縛なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

 

 そこで俺の手は止まった。

 そうだ。天与呪縛の法則や理論は全くと言っていいほどに分かっていない。俺も分かってはいないし。

 

 だが、神様が存在するのなら、天与呪縛は神様と縛ったとでもいいたいのか?他者との縛りでは強化が出来るものじゃないとは思っていた。でも、天与呪縛の根本を調べたら、何か分かるのかもしれない。

 

 なんならあの人は既に調べ───

 

 

「…………あっ」

 

 

 そこで、俺は思い出した。

 そう言えば、原作でも九十九センセーは言っていた言葉がある。

 

 

 

 

『彼を研究したかったが、フラれてしまってね。惜しい人を亡くしたよ』

 

 

 それはつまり、九十九センセーは一度でも会っていたと言う事になる。あの人が持っていた『纏帳(まといとばり)』は壊されてはいなかった。

 

 呪力のある物質には有効だが、完全な呪力を通さない物理攻撃は通ってしまうあの術式の弱点だ。呪術によってやられたなら余程でなければ『纏帳(まといとばり)』が壊されるし、残穢が残るはずだ。なのにそれが無かった。

 

 呪力の無い存在には無効。

 そして残穢は見つからなかった。そして、それが答えだった。

 

 

「随分と……都合の良い世界だな……」

 

 

 分かってしまった。

 一体誰が九十九センセーを殺したのか。 

 

 

「もう一度、会う機会があるなんてな……」

 

 

 だったら、懸賞金をかけたのは誰だ?そこまでは分からない。纏帳の情報が流出してしまった以上、心当たりが多過ぎる。

 

 完全に推測だが確かめなければならない。

 次の星漿体の事件で必ず現れる奴がいる。殺意だけで勝てるほど弱くない存在だ。

 

 濁った眼で俺は研究室に向かう。

 

 

「……創るか」

 

 

 このままじゃ前に進めない。

 殺意を胸に、俺は本来なら創ってはいけないものに手をかけようとしていた。星漿体の事件まであと一年と一ヶ月。

 

 それまでに俺は呪霊を殺すものではなく、初めて()()()()()()を創ろうとしていた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 暗い暗い夜の中、白髪のおかっぱの男か女か分からない人間のような姿をした存在が、薄暗い神社に座り、隣にいる男に話しかける。

 

 

「良かったのか?資金をあれだけ使って」

 

 

 隣にいる男は多額の懸賞金を払い、依頼した。

 現在の裏の活動費の半分を使ってまで、九十九を殺す依頼をした。呪術師に益を齎す人間だとしたら早い段階で殺しておいた方がいいはずだから。

 

 だが、アテが外れた。

 九十九由基ではなかった。『纏帳(まといとばり)』を創ったのは九十九ではなかった。

 

 

「『纏帳』……だったかな?これがあるだけで呪霊と人間の均衡が大きく揺らいだのは確かだ」

「あの人間の弟子でまだ幼い。早々に殺した方が」

「いや、今はまだいい」

 

 

 それは何故?と白髪のおかっぱは聞く。

 

 

「呪術師が強くなればなるほど、呪霊はそれに比例して強さを増す。手早く仕留めた方がいいと思ったが、創った人間は別だったし。私らが直々に動くにはまだ時期尚早だ。精々、出来るだけ強くしておこう。その方が強い呪霊もまた生まれる」

 

 

 五条悟が生まれた時、呪霊はその強さを増した。

 呪霊数の増加も同じ理由だ。世界には均衡のようなものがあり、呪術師が強くなればなる程、呪霊もそれに比例して強くなっていく。

 

 

「それに、私の手の届かない場所で彼を死なすにはまだ惜しいしね」  

「呪力も特級と比べたら殆ど無い人間を?」

「ああ、何故なら」

 

 

 その男は嗤いながら告げた。

 

 

「彼は私の理想に最も近い存在だからだよ」

 

 

 額に縫い目のようなものがある男は嗤いながらそう告げた。

 

 

 




 

 一度見てしまった方々は混乱すると思いますが、大幅に改変致しました。すみません。今後も続けていいのかどうかは迷ってしまいますが、出来る範囲で頑張っていきたいと思います。批判が多過ぎると心が折れてしまうので、出来る限り控えてもらえるとありがたいです。

★★★★★
活動報告にて最強募集してます。最強じゃなくても実用的だと思ったものでも構いません。
良かったら感想評価お願い致します。

すみません。明日の投稿はお休みします。


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十三

 応援くださった皆様、ありがとうございます。
 あっ、最終回みたいな雰囲気出してるかもしれませんが違います。

 励ましの言葉で続けられる勇気をもらいました。
 身体に無理しない程度に続けていきますので、これからも温かい目で見てくださるとありがたいです。それでは、どうぞ。



 

 

 

 薨星宮、本殿。  

 天元が眠っている場所であり、星漿体が運ばれる場所でもある。星漿体、天内理子の近くには、呪霊のような赤い化け猫が、毛を立たせて目の前の男を威嚇している。

 

 その後方に、黒袖のパーカー姿の少年が悠然と歩いている。赤い靴と二つある赤いトランクケースの一つを放り投げ、一つを左手に持っている。夏油は驚いていた。この場所は天元が眠っている場所で、目の前の少年が居るはずはないからだ。

 

 

「君が、何故ここに……」

「ただの復讐さ。()は案外、身内がやられた事をずっと許せなくてね」

 

 

 目の前の小さな少年は嗤う。

 似合わない口調で話す少年は目の前で銃を構えている男に軽く笑みを浮かべながら、その憎悪で濁った瞳を向けて軽い挨拶をする。

 

 

「初めまして、伏黒甚爾」

 

 

 少年はあの日から変わった。

 あの日から一年、この男を殺すためだけに最強を創り出してきた。少年の師匠を殺した人間が皮肉にも、弟子に殺される。そんな夢物語を描いてきた。

 

 最強になれない少年は殺されたセンセーと同じになろうとする歪な在り方で質問した。

 

 

「どんな女がタイプかな?」

 

 

 最大の殺意をもって、この男を殺す。

 そう、全てはあの日からずっとこの事を考えて生きてきたから。

 

 

 ★★★★

 

 

 時は一年と一ヶ月前に遡る。

 俺は再び日記を書き始めた。日記はセンセーが居た時から書いていたものだから、少しでもセンセーが居た証明になれたらいいなと思い、再び書き続けている。

 

 

 

○月○日 晴れ

 

 

議題【伏黒パパを殺すにはどうしたらいいか】

 

最初からクライマックスな結論に至ったが、恐らく九十九センセーを殺したのは伏黒パパだ。残穢なし、特級を圧倒出来る外部の人間、なら伏黒パパくらいしか思い浮かばない。

 

正直な話、原作キャラだから嫌いじゃないし、原作の流れに沿って都合良く改変しようかなと思ったが止めた。既にセンセーが殺されている時点で乖離ものである。俺はこの世界を生きているのだ。中途半端に考えて救おうとするのはクソのやる事だ。

 

 

まあそれはさておき。

 

 

とりあえず、体術の腕は上げるつもりだし、呪力操作も今まで以上に特訓するが、まだ七歳。身体の成長からしても今の俺の呪力を用いての戦いは中の下である。子供の力で黒閃を撃っても強くないし、何より上の上であるパッパには通用しない。

 

領域展開は分からないが、分解の術式を張り巡らせた所で、『天逆鉾』で貫かれて終わりである。

 

 

現在俺が創った物は二つ。

纏帳(まといとばり)』と『幻灯の魔物』である。

 

言わずもがな、『纏帳(まといとばり)』はパッパが天敵である為、役に立たない。『幻灯の魔物』は役に立つだろうが、パッパを仕留めるには足りないだろう。なんなら魔物より速いし。

 

 

とりあえず、明日から頑張ってみよう。

人を殺す為に頑張るってクソイカれてると思うけど。

 

 

 

 

○月◎日 晴れ

 

最強とは何か。

それは絶対的な差がある存在の事である。五条さんはまあ今の所、絶対的な最強には至っていない。原作突入して、五条さん覚醒とかありそうだが、原作が既にズレていて反転術式が使えないとか怖いので出来る限りのアフターケアをこっちでやるつもりだ。

 

さて、パッパの方の情報である。

呪力がない代わりに天与呪縛によるフィジカルギフテッドで、術式強制解除の『天逆鉾(あまのさかほこ)』を持ち、呪具を保管できる呪霊を飼っている。その超人的な身体能力は、特級呪霊さえ祓えてしまうくらいに強い。五感の強化によって反応速度や臭いにも敏感である。

 

 

改めて俺の仇クソ強いな(白目)

ジョーカー持ちの存在は特に身体能力が強くなければ成立しない法則とかあったが、これは一種の最強の完成形だろう。

 

とにかく、センセーを殺した奴だ。俺はやると決めたらやるつもりだ。とりあえず、何を創ろうか迷っていた。

 

 

 

 

○月¥日 晴れ

 

お兄様の練習をした。

おい、お前頭大丈夫かと思うだろ?残念!正常にイカれてました!

 

とりあえず、エネルギーに指向性を持たせれるように頑張っている。領域展開では、分解したエネルギーは操れるし、なんならマテリアれるけれど、それが領域展開出来なくても出来ればいいと思うんだよ。

 

だって、めっちゃ、強いし(小並感)

 

とりあえず、帳を張って森で練習していた。

流石に森林破壊はどうかと思うので威力は最小限に。なんなら花御ちゃんが来てしまうし。

 

呪力操作の力は更に増した。

そのおかげと言うべきか、片手で力場を構築出来るようになった。とりあえず力場とかに名前をつけるのは必殺技を習得してからにしよう。

 

エネルギーのアプローチは難しい。

なんならパチンコ玉一つで核兵器クラスの攻撃が出来る。なので用意したのは砂鉄。砂鉄を一粒、力場に入れて分解し、生み出されたエネルギーを放つ練習をした。

 

 

 

何回も失敗したせいか『纏帳(まといとばり)』が壊れて、あはーんな服装になった。泣いた。

 

 

 

 

○月☆日 曇り

 

エネルギーの操作が上手くいった。

とは言っても真っ直ぐに飛ばすだけならだ。

 

ビームってロマンがあるよね(ニッコリ)

何処ぞの第四位のように真っ直ぐに飛ばしたエネルギーは森を抉るように突き進むようにはなった。あとは威力調整の為に暫く最適な威力を測定する事にした。だって地面を分解したエネルギーが過剰過ぎて日本が吹っ飛ぶとか洒落にならんし。

 

いずれエネルギーを使って体術を加速させられたら面白いかもしれないが、とりあえずそれは身体が成長してからの話だ。

 

 

……とりあえず、今日は寝よう。

 

 

 

 

○月★日 雨

 

少し閃いた。

研究室で、黒閃を狙って出すことで弾丸を加速させる事の出来る銃を創っていた。銃に呪核を仕込み、呪力を一定まで溜められるようにして、引き金を引いたと同時に放つ。と言うのが完成図。

 

呪核というのは単純に呪力を溜められるものだ。

大体の呪骸にはそう言うものが仕込まれている。因みに俺も構築術式で生み出せるのさイエーイ。万全の状態じゃないと気を失うけど。

 

これ結構アリじゃね?流石に銃弾のスピードは約800km。それの2.5乗のスピードだったらパッパの反応速度を上回れるし、下手したら空気抵抗で弾丸が焼け墜ちるくらい速くなるかもしれない。

 

呪力を循環させ、発射と同時に火薬がぶつかる部分に流れるように傀儡操術の術式を刻み、コマンドを入力する。

 

 

試しに一発だけ撃ってみた結果。

 

 

銃身が爆発した。

 

 

万が一の為に九十九センセーのバイクのヘルメットを被っていたから怪我は少なかった。手はズタズタになりました。指吹っ飛ばなかっただけ良かったと思いたい。

 

……あれ、最近なんか感性バグってない?

 

 

 

○月★日 晴れ

 

黒い火花に銃身が耐えきれなかった。

内部から空間が歪んだ結果、こうなってしまったのだろう。もっと頑丈に創る為、鋼から組み直した。

 

黒閃はあくまで現象だ。

狙って出来ないのなら狙って出来るようにする。俺の最初の目標に似てるし、やれる気がする。

 

 

……たまに思うんだが、なんでこの研究所に拳銃なんてあるんだ?あの人、狩人でもやっていたのか?

 

 

因みに黒閃を狙って撃てる銃の調整と呪力を流すコマンドにある程度の時間はかかったが完成した。

 

しかし、反動がデカすぎる為、子供の身体である俺では一発撃っただけで腕にヒビが入った。呪力強化した肉体でも両手で撃たなければいけない。因みに狙うだけなら八割は当たる。

 

 

ふっ、昔はエアガンでエミオルの真似を………黒歴史に胸を痛めたので今日は終わる。

 

 

 

○月♪日 雨

 

もう一つ。最強のジョーカーを創る。

あちらは呪術関連には詳しいだろう。元御三家だ、最弱ながら最強を目指していたのだろうし。

 

トランクケースに細工を仕掛ける。

使えるのは良くて終盤。それ以降に殺されたら使えない。

 

今の所、蒼崎橙子のように死んだら次の人形とまではいかない。死んだ事を起点に起動するようにしても、魂の核を死んだ瞬間に移す事が出来れば可能なのだが……現時点では不可能だ。人形を創れたとしてもだ。

 

最強のジョーカーと、回復を促してくれる呪骸が欲しい。

うーん。反転術式が使える呪骸って中々ハードル高いんだよな。俺も反転術式に関しては基盤が出来たわけじゃない。

 

反転術式から生まれた正のエネルギーはどちらかと言うと呪力の混ぜ方や比率。要するに本人の感覚でしか表せない。いずれそれを解明するとしても、修行までやっている中でそこまでの時間は取れない。

 

 

………呪骸は何を創ろう。

呪力は前の一級呪霊を分解したものがあるし、ある程度のものならば創れる筈だ。俺が創ろうとしているヤバい奴はこの闘いじゃ、正直強くはないと思うし。

 

 

 

……よし、決めた。

呪力操作のみに特化した呪骸を創ろう。

 

 

 

 ★★★★★★★★

 

 

 

「っっ、エネルギーの指向性がやっぱむずいな」

 

 

 砂鉄を分解したエネルギーに指向性を生み出すのに苦労していた。『纏帳(まといとばり)』が無ければ、何度も死にかけているだろう。

 

 指向性を生み出すにはどうしたらいいか頭を悩ませていた。

 

 

「どう思う、センセ……」

 

 

 振り返っても、誰もいない。

 口に出した言葉は森の中に消えていく。そこにいると錯覚して思わず誰も居ないのに声をかけてしまった。

 

 日記を書く時も、センセーが生きていた時と同じように書き殴った。そうでもしなきゃ、自分が保たない。あの時を忘れたくないと無理に振る舞っている。

 

 そんな事をしても無駄だと。

 センセーは、もういないって、知っている筈なのに……

 

 

「……何、やってんだ俺は」

 

 

 その事を認識し直して自虐しながらも呟いた。

 一年後には必ず殺す相手が現れる。その焦りに追われているようにブツブツと呟き始める。

 

 

「俺は……()は……九十九センセーを超えるんだろ……」

 

 

 似合わない。

 自分に『私』なんて言葉は似合わない。けど、それでも九十九センセーの口調を真似るだけで、少しだけ近づけた気がするのだ。

 

 滑稽だ。愚かな行為だろう。

 死んだ人間を思って、縋ってしまう今の自分は前に進めない道化モノだろう。

 

 

「センセー……」

 

 

 それでも、呟いてしまう。

 あの人が居た場所を今も思い出しては、足を止めてしまう。過去に縋って進めている実感が湧かない自分に自虐するようにただ嗤った。

 

 

 ★★★★★★★★

 

 

 前に分解した一級呪霊の呪力を使い、構築する力場を人間大まで広げる。分解を通して溜め込んだ呪力を構築力場に入れて、後は俺の想像力次第である。

 

 そして、結果は……

 

 

「やっぱり、出来るのかよ……」

 

 

 見た感じ、完璧に肉体構築が成功している。

 一から構築する分解と再構築の力場を用いずに使用した場合、構築術式は望んだものを呪力によって創れる法則は間違っていなかった。ただし、創れはしたが魂がない肉体と言った感じだろう。

 

 機能の全てが停止している状態。

 これでは死体と遜色ないので暖房をガンガンにして死後硬直と同じ現象を防ぐ。しかし、長くは保たないので早急に完成させる。

 

 

「魂の代わりを呪核で補い、生み出した肉体の情報は既にあるから、呪核を魂の核と模して、魂の性格、性別を基盤に……一般常識や知識をコマンドに組み込む」

 

 

 呪骸の胸に手を当て、身体の一部分を分解し、呪核となる部分を組み込んで再構築する。それに合わせるように魂の情報を描き込んでいく。性格の基盤、性別の基盤は魂の核に付随しているもので、既に基盤となるものは出来ている。基盤なので初期の設定を組み込んだようなものだ。性別はともかく、性格についてはこれから時間が経ってから決まっていく。

 

 

「これで……後は呪力を呪核に一定量保有させ、心肺停止した人間に必要な処置を行い……核が動いて身体から呪力の生成が上手くいく筈……」

 

 

 理論的に組み込むべきものは組み込んで創った。

 電気ショックで心肺停止した人間の蘇生を促し、脳そのものに刺激を与え、同時に核となる部分に呪力を保有させる。

 

 万全な状態で行った。

 持ち得る全ての知識からどうすればいいかを考え、最善の行動と構築を施した。だが、上手くいく確証はない。

 

 数分間、同じ行動を繰り返す。

 

 そして……

 

 

「……かはっ……!」

「!!」

 

 

 息を吹き返したように咳き込む呪骸。

 水を持ってきて、渡すとゆっくりと飲み始める。心臓となる部分に呪核を組み込んで、人間と同じ身体機能を持った呪骸を創り上げた。

 

 くぴくぴと水を飲み終えた後に毛布を被せて、話し始める。

 

 

「……おはよう、って言うべきか」

「……あな…たは?」

「俺は……いや」

 

 

 あの人も、こんな気持ちだったのか。

 未だ、何も知らない目の前の呪骸に今度は俺が教えるのだ。あの人のように出来るか不安だが、それでも分不相応でもあの人と同じでいよう。

 

 あの人みたいに、誰かを導けるように。

 

 

()の名前は荒夜緋色」

 

 

 似合わない口調、慣れない気遣い。

 前を向くまであの人に縋っている自分を愚かと思いながらも、創った呪骸に名を告げ、名前を教えた。

 

 

「君の親というべきかな?──紬屋雨(つむぎやうるる)ちゃん」

  

 

 今はまだ、前に進めなくてもいい。

 今はまだ、あの人に縋ったままでもいい。

 

 それでも、殺したい相手を殺すまで前を向けない自分を呪うように、あの人に縋ってあの人になろうとしてる自分の愚かさに自嘲しながらも、俺は少しだけ前を向けるように、自分が生み出した呪骸に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

「うさんくさいですよ……そのしゃべりかた」

「ひでぇ」

 

 

 創った呪骸は結構ストレートだった。

 

 




【創った呪具】
・纏帳
・幻灯の魔物
・黒閃銃 New!
・???

【創った呪骸】
・ぺけ(最初に創った人形の呪骸)
紬屋雨(つむぎやうるる)(出典、BLEACH)New!

性能紹介は次回にします。

★★★★★
活動報告にて最強募集してます。最強じゃなくても実用的だと思ったものでも構いません。
良かったら感想評価お願い致します。



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十四

ウルト兎さんから再び頂きました。
めっちゃカッコいい。ちゃんと意味のある創りをしているのがまたいい。本当にありがとうございます!

【挿絵表示】


遂にパッパとの邂逅です。それではどうぞ。



 

 

 

 

○月☆日 晴れ

 

紬屋雨(つむぎやうるる)

 

BLEACHで出てくる浦原商店で働いている女の子。と言いたい所なのだが、これはよくわかっていないが、崩玉によって生み出された特殊な存在……なのかもしれない。

 

そこんとこはよくわかってないが、彼女の強さはその戦闘技術だ。対死神戦の出来る、バズーカをぶっ放す最強ロリ。主人公の修行回でガチで殴られたら死ぬとまで言われた強力な力を持つキャラなのだ。

 

俺は敢えて彼女に生得術式の基盤を入力しなかった。

それは呪力操作によるオーソドックスな強さを求めていたのがあり、逆に言えば呪力操作に特化し、その技量を戦闘技術に活かす存在として創り上げたのだ。

 

シンプルに強いし、呪力操作能力の桁が違う。

狙って放てない黒閃を狙って出せる上に、反転術式による回復も出来る最強のロリである。

 

パッパと戦う時は、裏方に徹してもらうつもりだ。殺されかける五条さんと黒井さんの回復。パッパを殺すのは俺がやらなければいけない事だし、創ってからすぐに殺されるのを見たくない。

 

スペック的にはまだ下だ。なんなら同じ戦闘スタイルで下位互換と言われても否定できない。この世界は霊圧などないし、瞬歩があればまだ分からなかっただろう。

 

あと、生得術式の基盤から自分に刻む事で禪院の当主の『投射呪法』を使えはするが、生得術式を自分でやろうとすると劣化版しか生まれない。呪力の消費量も普通に使うより多いし、速さとかは練度によって決まる。

 

要するに、パッパを力で上回れても速さで上回れない。だから、前線には出せない。

 

 

……ははっ、馬鹿げてる。

子供を戦場に送らなくちゃいけない世界に。

 

 

……あっ、俺も一応子供か。

 

 

 

 

○月○日 晴れ

 

(うるる)を創ってから三ヶ月が経った。

 

……成長が早ぇよ(唖然)。呪力のコントロールだけならもう既に俺を超えているのである。ここまで至るのに一年かかったのに!一年もかかったのに!!

 

しかも、反転術式まで使える。

呪力を核に込める際に擬似的とはいえパスのようなものが繋がっているから、自分の感覚で反転術式のやり方を体験してもらえるのでは?と考えて反転術式の感覚を共有したらすんなり出来ちゃった。やだこの子天才過ぎない?しかも他人にも使えるし。

 

現在の俺の黒閃最高記録は原作を超える脅威の八回にも及ぶのだが、(うるる)は狙っていつでも黒閃放ってきやがる。

 

体術の練習で軽くでいいからと相手をしたら、黒閃のかかと落としで地面が砕けた。表情筋が死んでスンとなった。一応は勝ったけど、将来的には勝てなくなるだろう。

 

因みに研究所に一人で住まわせるわけにもいかないから両親に頼んで俺の家に住まわせてもらうようにした。多少説明は省いたが呪術関連と言ったらいいよと軽く言ってくれた。

 

ただ言われたことは「襲うなよ?」である。おい、俺をなんだと思ってんだコラ。

 

 

 

○月♪日 曇り

 

残り三ヶ月。

とりあえず俺はエネルギーの調整をどうにかする事にした。パチンコ玉一つで核兵器レベルはやばいし。なんなら世界を壊す力を持っているのは俺だ。

 

分解したエネルギーが100%なのがダメなのだ。

物質の全てを分解するのではなく、ある種の存在している力を少しだけ拝借するように、簡単に言えば100%から60%くらいに出来るようにする。完全な分解ではなく、雑さがありながらも乱れないそんな加減を覚える事に集中する。

 

つかなんで俺はヒロアカ主人公みたく100%からしか使えないんだ。極端過ぎる。普通洗練されていって次第に100%じゃないの?

 

とりあえず、試してみた結果、少し威力は減った。

 

とは言え、砂鉄一粒で3メートルは抉れた。前は10メートルは抉れたが、加減は出来た。お兄様アンタ本当にやべえよ。

 

 

 

○月$日 晴れ

 

エネルギーをコストに炎とか生み出せば良くね?と安直な事を思いついた。と言うか薄々思っていたのだが、エネルギーそのものを使うのは危な過ぎる。最悪日本が世界地図から消えるなんて事が起きかねない。

 

取り出せるエネルギーが100%ならそのエネルギーから別の攻撃手段を生み出したりした方がまだいいんじゃないかと思った。力場から生まれた以上は少なからず呪力を宿しているわけだし。

 

とは言え、炎は炎で危な過ぎる。

森林破壊になりかねないし、上手く使わないと熱量で俺が死ぬ。熱量も分解出来るとは思うが、流石に呪霊を祓うごとに炎で建物を燃やすのは正直言って被害から守った意味がなくなる。

 

となると、氷結とか?

うーん、炎ならまだしも氷結は出来るかと言われたら微妙である。炎と言う現象は酸素とかわかりやすいのだが、氷結の現象を引き起こせるのか?

 

いや、考え方を変えよう。

反転術式と同じ、炎の反対が氷という反対にする事が出来ればいいわけだ。一から構築する事を考えるんじゃなく、エネルギーを変換する事だけをイメージし、指向性を構築し、放つ。

 

結果、パチンコ玉一つのエネルギーで十メートルの森が凍った。

 

 

 

 

○月★日

 

 

 

 

○月♡日 雨

 

風邪引いた。

真冬の外で氷結の練習なんてするもんじゃなかった。体感でマイナス30度くらいだと思う。冷気を放った空間は寒かった。エネルギーの変換構築は中々にいい感じではある。100%のエネルギーを炎や冷気に変換すると、エネルギーはかなり消費される。それでもあれほどの出力になるのだ。

 

仮の話、地面とかを分解して生み出されたエネルギーで出力を最大にして放つと、どうなんだろう。まあ、エネルギーそのものをぶつけるよりマシではあるかもしれないが。

 

(うるる)がお粥持ってきてくれた。

食べる俺を見つめて、少し心配しているようだ。「だいじょうぶですか…ヒイロさん」の言葉に親指を立てて萌え死んだ。

 

 

可愛いは正義。わかりますね?(謎の圧)

あっ、お粥はちゃんと美味しくいただきました。

 

 

○月*日 

 

対伏黒甚爾戦のイメトレをしていた。

場所、状況、能力、武器、性格を全て読み切る。

 

伏黒甚爾の地雷と、戦闘パターン。

天内理子を狙いに来るのは間違いないなら、初撃さえ防げばこちらは夏油さんが護ってくれるはず。なんなら、呪霊のみを操って物量で押してくれるなら、俺がやるべき事は一つ。

 

伏黒甚爾を領域展開に閉じ込め、必中の分解でカタをつける。それまではエネルギーを変換した冷気や炎で応戦……

 

あっ……ちょっと待って。重要な事に気がついた。

 

俺が戦う場所天元が眠る場所じゃん。

大規模な攻撃は絶対にヤバいやつやん。

 

 

 

俺の十ヶ月の意味、無くなったやん……。

 

 

 

 

 

………ヤヴァいやつやん。

 

 

 

○月×日 晴れ

 

あと二ヶ月だ。

ここからは集中したいから日記を閉じる。恐らく日記を書く余裕はないだろう。完全に自業自得なのだが。

 

 

だから、最後に少しだけ本音を出す。

やっぱり、寂しい。時間が経って、呪骸を創って暫くが経った。憎しみも感情だ。だからいずれは殺意が薄れていくんじゃないかって、思っていた。

 

陽気に振る舞ってるけど、ただ演じてるような感じだ。ただ、心配させたくない思いと、自分が九十九センセーの代わりをやらなくちゃいけないって言うそんな思いで少しだけ、重圧を感じている。

 

あの人が居なくなってしまった。

その事をずっと受け止めきれないで、忘れられずに殺意が膨れ上がる。過去に縋れば前を向けないのは知っているのに。

 

けど、どうしても許せないんだ。

九十九センセーを殺した人間を殺したいって心から思ってしまっている。歪んで、もう取り返しがつかないくらいに手遅れだ。

 

そうやって日記にも陽気に書いて、あの頃を思い出している。ずっと今の俺はここに止まったままだ。

 

あと二ヶ月。

死ぬ可能性だってある。死にたいと思った事は何度もある。過去に依存して、あの人が居るかのように演じ続けている自分が気持ち悪いし、大嫌いだ。

 

ただ現実を楽観視して死なせた自分が大嫌いだ。

清算なんて出来ない。死んだ人間は甦らない。ずっと九十九センセーをどうにかすれば生き返らせる事が出来るんじゃないかって酷い妄想に耽っている。

 

長くなったので、あと少しで終わる。

 

次に書く時は前に進む時だって思いたい。

 

この日記を遺書にするわけではないけど、俺が目的を果たしたら今度は自分から日記を書きたくなれるように、九十九センセーに囚われ過ぎないようになっている事を祈る。

 

俺は、九十九センセーの弟子だから。

絶対に生きて帰って、前を向いている事をこの日記に誓う。

 

          

               荒夜緋色。

 

 ★★★★★★★★

 

 

 遂にこの日が来た。

 五条さん達が沖縄から帰ってくる日が来た。

 

 (うるる)に裏方で回復役を任せて、念のため家入さんに連絡を入れておく。万が一の為にだ。(うるる)には助けるにしても絶対に戦うな。もし出会ってしまった場合は逃げろと命令はしている。

 

 夜蛾先生には言っていない。

 バレたら絶対に怒られるが、そんなもの終わった後、幾らでも叱られればいい。因みに、場所だけならば、家入さんに聞いていた。忍び込んで(うるる)が持っていたトランクを置いて、既に本殿の外に隠れている。

 

 数時間が経ち、高い所から見下ろしていると二人の姿が視界に映る。原作通りなら、必ず奴は現れる。

 

 

「行け」

 

 

 ただ一言、隣にいる赤い猫に命令を下した。

 天内理子と夏油さんが手を差し出している中で、拳銃を天内に向ける伏黒甚爾に幻灯の魔物が襲いかかる。

 

 銃を向けていた甚爾は魔物に気付いてそれを躱すが、そのおかげで夏油さんは目を見開いて天内を抱き寄せて呪霊を呼び出し、天内を護っている。

 

 甚爾は魔物を纏わりつく呪霊から吐き出された刀で斬り裂くが、幻灯の魔物には実体がない。遠くに置いた幻灯機さえ壊されなければ、消滅はしない。

 

 斬り裂かれた赤い猫は天内の近くに戻り、毛を逆立てて威嚇をしている。

 

 

「誰だテメェ?」

 

 

 目の前の男が、恐らく私の仇だろう。

 二つ持っている赤いトランクケースの一つを放り投げ、一つを左手に持ちながら、その男を見つめる。

 

 夏油さんは困惑しながら、私に質問する。

 

 

「君が、何故ここに……」

「ただの復讐さ。私は案外、身内がやられた事をずっと許せなくてね」

 

 

 どうしても、消えなかった復讐心。

 ようやく出会えた喜びと、今すぐに殺意が入り混じり、私は嗤う。

 

 出来る限りの事はしてきた。

 出来得る作戦は知恵熱が出るくらいに考え尽くした。

 

 

「初めまして、伏黒甚爾」

 

 

 あの人を殺した男なら、勘違いでなければ必ず分かるはずだ。特級であり、それを殺せた人間なら、あの人の出会い頭の言葉を頭の片隅に残っているはずだ。

 

 だから敢えて、その言葉を口にした。

 

 

「どんな女がタイプかな?」

 

 

 その言葉に伏黒甚爾は不敵な笑みを浮かべた。

 その反応からしたら当たりだ。もう確信に至ってしまっている。

 

 

「へえ、オマエが九十九の弟子か?」

「まあね。九十九センセーを殺したのはアンタだな?」

「証拠は?」

「あの人に渡した『纏帳(まといとばり)』はちゃんと起動していた。それは六眼持ちが調べたから間違いなかった」

 

 

 五条さんは『纏帳(まといとばり)』の残穢が残っている事を確認し、その結果を聞いていた。護符に近い鉄のプレートには、九十九センセーの残穢が残っていた。

 

 

「でもおかしいんだよ。呪具に宿る呪力に『纏帳(まといとばり)』は反応する筈なのに、『纏帳(まといとばり)』は壊されてはいなかった」

 

 

 呪具ならば、呪力があるものとして引っかかる。対呪霊に特化したもので、呪力のあるものを弾くという設定にしていた。そして、『纏帳(まといとばり)』は壊されていなかった。壊れたら護符が砕けるのは創った後に調べたからだ。

 

 

「なら、答えは簡単だ。()()()宿()()()()()()()()()()()()()。呪力がない人間に九十九センセーが破れる訳がない。あの人は特級だ。なら、もう答えは一つしかないんだよ」

 

 

 禪院に向かった時、九十九センセーが俺を追い出して交渉をしていた時、あの人は禪院の生まれであったこの男の詳細を調べていた。電話で当主と確認を取った以上、間違いなかった。

 

 

「アンタしかいないんだよ。伏黒甚爾……元禪院家に生まれ、天与呪縛によって驚異の身体能力を得た術師殺し。違う?」

「いんや。正解だ」

 

 

 アッサリと自白した。

 間違いではなかった。あの人を殺せた人間は限られる。だからこの人しかいないと思ったが、やはり間違いなかったようだ。

 

 

「待て、何故お前がいる。悟は……!」

「ああ、言い忘れてたな。五条悟は俺が殺した」

「なっ、馬鹿な…悟が…!?」

「死んではいないよ」

 

 

 その言葉に僅かながら眉が動く。

 殺した相手が死んでない事実に軽い動揺が走る。私の勝利条件の中にもう一つだけある必勝法。それは覚醒した五条悟がこの場に現れる事だが、(うるる)が治している以上、大した期待はしていない。

 

 そもそも、最悪の場合のみだ。

 この男を殺したいのは私自身の願望だ。

 

 

「とびきり優秀な私の相棒が、治してくれてる筈だ。恐らく死にかけの黒井さんもね」

「!そ、それは本当か!?」

「ああ、とは言えだ。天内理子、君は夏油さんの後ろにいろ。奴が君を狙っている事は変わっていない」

 

 

 天内はその言葉に、夏油さんの後ろに下がる。

 そう、状況は何一つ変わっていない。あくまで原作で既に殺されている天内を助ける事ができた事はいい。だが、まだ終わっていないのだ。

 

 

「夏油さん。援護だけお願いします」

「君が戦う気か!?無茶だ!悟を倒した相手なんだぞ!?」

「それでもですよ」

 

 

 最強を下した人間に敵うわけがない。

 そうかもしれない。それでも、それを理由にこの場所から逃げるなんて私が……()()()()()()()()

 

 

「私はこの男を殺さないと、前に進めない」

「……!…だとしても!」

「それに、この男の狙いは天内理子だ」

 

 

 どの道、天内を殺す為に邪魔な俺達を殺しに来るだろう。そうなれば結局、護っていた意味を失うだけだ。何もしないのは天内理子が死ぬ事に変わりないのだ。

 

 

「私は天内理子を護り奴を殺す。奴は天内理子を殺す。それがお互いに譲れないなら───」

 

 

 左手に持っていたトランクを放り投げる。

 中からは、赤い猫と同じ幻灯の魔物で、大鷲に近い怪鳥が投影される。下す命令はただ一つ。

 

 

「呪い合うしか、ないんだよ」

 

 

 伏黒甚爾を殺せ。

 その命令に二体の魔物は動き出し、伏黒甚爾も刀を取り出し応戦し始める。お互いに呪い合う事で、この後の全ての物語が砕けてしまっても構わない。

 

 ただ、俺はそれでもあの人を殺した目の前の男が許せない。だから、もう呪うしかないのだ。互いの命を呪い合う、血で血を洗う戦いが始まった。

 

 

 




紬屋雨(つむぎやうるる)のステータス】

・呪力量  ★★★
・呪力質  ★★★★
・呪力操作 ★★★★★
・体術   ★★
・術式   ーー

 ※五段階評価。術式に関してはレアリティ。

 荒夜が呪力操作能力に特化した呪骸として創った女の子。出典はBLEACHである。呪力操作に特化している為、生得術式を刻んでいない。その代わり、操作能力は荒夜を超え、黒閃を狙って撃てたり反転術式も他人にまで使える。この世界で見てもかなりの強キャラ。

 まだ子供な為、超人的な身体能力を持っている訳じゃないが、将来的に成長すれば素の状態で真希とタメ張れる。現在の体術レベルは創られたばかりでまだ低い。

★★★★★
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すみません明日忙しいのでお休みします。


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十五

 戦闘回になります。
 難しい。戦闘描写って難しい!!全部書くと長いので前編と後編に分けました。すみません。明日頑張るから許して!!

 今回は日記式ではなく、呪い合いです。軽いギャグ要素はありません。それでもよければどうぞ!!




 

 

 ぐるぐると周囲を線に繋がっているように走る赤い猫と、空を切るように狙いを定め、飛び回る蒼い大鷲。

 

 速度は普通の人間が手に負える相手ではない。恐ろしい速度で地と天を駆け、肉を抉り喰らう二体の魔物は奴に狙いを定めて襲いかかる。

 

 

「ハッ、くだらねえ」

 

 

 それを刀で的確に斬り裂く。

 反射神経、動体視力、五感の全てが優れているのは知っているからこそ、これは予想通りだ。幻灯の魔物が二体いても、的確に処理されるだろう。幻灯機が壊れない限り死なないけど。

 

 俺の攻撃の中でエネルギー砲と、火炎放射は使えない。どちらも威力を御し切れないのと、ここは天元が居る場所だ。

 

 天元の結界は隠す事に特化している為、遮る力はそこまで強くない。その言葉を鵜呑みにするなら、エネルギー砲も火炎放射も結界を破るだけの力は存在すると言う事にもなる。

 

 もし、この場所で使ってしまって燃え移る事があったらと考えると方向を絞っても使うのが怖すぎる為、使えない。そもそも御神体の樹木が攻撃された場合、何が起きるかわからない。

 

 逆に、凍結は使えるがこれも問題がある。

 俺が指向性を持たせ、かつギリギリまで攻撃を広げられる範囲は目の前の視界から大体三十度の角度だ。樹木に当てないように範囲と射程距離を絞って、ギリギリ抑えながら使える感じだ。そして範囲と射程距離を気にしながらでは、速すぎて狙いが定まらない。

 

 先程も言ったが、樹木に攻撃が当たった場合、何が起こるか分からないので、氷結を放つのは最小限の力でなくてはいけない。捉えられないし、外した危険性を考えなければいけないので、満足に撃てない。対して奴は縦横無尽に脅威の身体能力で飛び回る。

 

 

「呪法『氷天』」

 

 

 樹木を背に向けれる位置に奴が避ける。

 その瞬間を狙って、エネルギーを変換した凍結砲を放つ。

 

 

「おっせ」

 

 

 当然のように躱される。

 まあ、これも予想していた。攻撃速度は奴の反射神経で躱せるとは思っていた。エネルギーを変換し、攻撃する呪術を俺は『呪法』と呼んでいる。簡単な話、エネルギーを属性変化させたものだ。

 

 俺は三属性までを使える。それらを『氷天』『炎天』『雷天』とわかりやすく呼んでるのだが、スピードは普通の銃の半分くらい、時速四百キロと言ったところか。

 

 そして一番速いのが『雷天』なのだが、雷の場合は指向性とではなく、電磁誘導をしなければならない。放った後の誘導が出来ないため、未完成。なんなら自分が感電したし。

 

 夏油さんの呪霊操術。俺の幻灯の魔物。

 どちらも決め手にならない上に、的確に対処される。

 

 

「烏合だな」

 

 

 そう呟きながら奴は俺に襲いかかってくる。

 俺の後ろから、夏油さんの呪霊操術で飼っている最硬の虹龍が奴に襲いかかるが、刀の呪具でそれを斬り裂いていく。

 

 やはり、身体能力は半端じゃない。

 動きを封殺しない限り殺すどころか攻撃すら当てられない。

 

 

「ねぇ?」

 

 

 声が聞こえた。

 女の声にしては不快さがある声が耳に入ってくる。その瞬間、空間は一瞬にして暗くなった。

 

 

「……!」

「荒夜君、君も攻撃をするな。奴が答えるまでな」

 

 

 それは夏油が持つ仮想怨霊の一つ。

 質問に答えるまでお互いに不可侵を強制する簡易領域。そして、質問の返答がない時の攻撃は不可能。第三者の介入も不可侵の強制を破れば、縛りと同じように(ペナルティ)が下る。その不快な声で、奴に質問している。

 

 

「わた、わタ、わたし、きれい?」

「あー、そうだな。ここはあえて」

 

 

 不敵に笑いながら怨霊に告げる。

 

 

「趣味じゃねぇ」

 

 

 その言葉に怨霊は血のついた糸切鋏を握りしめる。答えた事により不可視は終わり、怨霊の簡易領域は牙を剥く。伏黒甚爾の耳から血が流れ出す。糸切り鋏に斬られている。ギリギリと握りしめられた糸切り鋏に連動して周囲から見えない糸切り鋏に切り裂かれる。

 

 

「そういう感じね」

 

 

 だが、それも通じない。

 簡易領域内では見えない。見えるはずがないにも関わらず、巨大な糸切り鋏が四方から切り裂こうとしているのを、超人的な五感で感知し、『天逆鉾』で斬り落とす。

 

 これが効かないのも予想範囲内、それでも一瞬だけ足を止める。ここで夏油さんが奴の背後で手を伸ばす。その様子に奴はため息をつく。

 

 

「終わりだな」

「オマエがな」

 

 

 呪霊操術。

 降伏した呪霊を自在に取り込める術式であり、二級以上の差があればほぼ無条件で取り込める。奴の武器庫とも呼べる纏わりついた呪霊は三級以下、それを取り込める。

 

 だが、武器庫を押さえるよりも速く動ける甚爾の方が上だ。身体能力的に考えれば、夏油さんが負ける。武器庫を押さえてゴリ押しは悪くないが、相手が悪い。

 

 だが、ここには俺がいる。

 その瞬間を狙って、俺は太腿につけたホルスターから銃を取り出した。

 

 

「死ね」

 

 

 奴が動き出すよりも早く、俺は発砲する。

 この銃は弾丸の速さが黒閃によって更に加速する銃だ。時速八百キロの二.五乗。それが放たれた銃弾はどうなるか。発射された銃弾は空気抵抗の摩擦熱によって熱を帯び、赤く染まる。

 

 

「っっ!?」

 

 

 奴が反応が出来なかった。

 反応出来ずに僅かに見えた弾丸が通った熱の線。気が付けば纏わりつく呪霊ごと肩を撃ち抜かれていた。弾丸は貫通し燃え尽きている。

 

 いくら身体能力が高くても、この銃から放たれる弾丸は向けられただけで致命的なのだ。弾丸は三十メートルくらいで燃え尽きるが、その威力は絶大。

 

 しかし………

 

 

「(()()()……!身体の中心を狙ったのに!)」

 

 

 反動がデカすぎる。

 両手で使って呪力による身体強化をしても、その反動で腕にヒビが入るくらいの暴れん坊。本来なら中心を狙った筈なのに、位置がズレて肩を撃ち抜いている。至近距離でなければ当てるのに苦労する銃だ。

 

 

「いや、充分だ」

「っっ…!チッ!?」

 

 

 その一瞬の混乱による停滞が、武器庫の呪霊を押さえるだけの隙を作った。本来なら弾かれる筈なのだが、呪霊も撃ち抜かれたせいか行動が遅れていたようだ。

 

 

「武器庫は奪った。後はゴリ押す!」

「っっ!待って!!」

 

 

 その言葉を聞く前に夏油さんが大量の呪霊を呼び出す。確かに武器庫は押さえたが『天逆鉾』はまだ持っている。警戒しなければいけない中で、数による圧倒は一つの手だろう。

 

 

「チッ!」

 

 

 幻灯の魔物に天内を護るように指示を出す。

 武器庫が消えた今、此方が有利だと思うのは俺も理解している。だが、逆に言えば武器庫が消えた今、()()()()()()()()()()()()。『天逆鉾』に宿っている呪力など追える筈がなく、見失ってしまえば不利になるのは此方の方だ。

 

 落ち着け。伏黒甚爾ならどうする?

 呪霊で姿が見えなくなった瞬間、超スピードで翻弄し姿を消すなら、狙いは天内かもしくは手数の多い夏油さんか俺を狙う。

 

 天内に幻灯の魔物二体と呪霊達が守っている。

 呪霊に重なって見えなくなる。呪力が感知出来ない上に、見失うほどのスピードで動ける奴はどう動くか、脳内で弾き出す。

 

 

「天内!!」

「えっ……?」

 

 

 奴が狙うなら天内だ。

 天内さえ攫って逃げた後に殺せば奴の目的は完遂する。

 

 背後にいる天内に視線が行く。

 そこには奴の姿があった。呪霊があっという間に祓われ、幻灯の魔物も一瞬にして切り裂かれた。『天逆鉾』は術式の強制解除、幻灯の魔物の本体である幻灯機が壊されていなくとも、解除されたせいで一時的に使用不能になる。

 

 

「まずっ……!」

 

 

 奴が持つ『天逆鉾』が天内に向いた。

 手慣れたような速さで突き刺そうとする。銃は間に合わないし、天内に当たりかねない。幻灯の魔物も一時的に使用不能。呪法も間に合わないし、巻き込んでしまう。

 

 残された手は一つしかなかった。

 

 

 

 

 

 

「──領域展開!」

 

 

 天内の下へ走りながら手を合わせ、瞬時に『創始再編式』を発動する。0.2秒で組み上げる領域展開。生得術式の具現化と術式の発動。本来二段階の工程を一つにまとめあげ、領域に閉じ込め、奴だけの肉体を分解する。

 

 しかし……

 

 

「なんじゃこれは……!?」

「クソッ……!」

 

 

 領域で囲う前に全力で跳躍し、逃げられる。

 0.2秒だぞ?一体どんな反射神経すれば、領域を閉じる前に逃げる事が出来る?それに、領域展開を使ってしまった。最悪、天内を見捨ててでもチャンスを待つべきだったのに……

 

 冷酷になりきれない自分に嫌気がさす。

 動揺している天内に構っている暇はない。俺からすれば奴さえ殺せれば天内を見殺しにしても良かった筈なのに、見捨てる事なんて出来はしなかった。

 

 どこまでも、甘い。

 甘いから殺せるタイミングを失った。

 

 だからといって、その中でも最大の力を発揮したにも関わらず通用しなかった事実に舌打ちする。

 

 

「化け物かよ……!」

 

 

 単純にその一言に尽きる。

 五条悟とは全く別種の最強に思わず舌を巻く。

 しかも、夏油さんと一時的に領域で分離してしまった。天内を救う為とは言え、冷静な判断が出来ていなかった。

 

 

「ど、どうなって……」

「天内理子。もし、俺……私が死にかけて護る人間が居なくなったら助けてと叫べ。この子が暫くは護ってくれる」

「えっ……?」

「分かったなら返事!」

「え、あ…はい!」

 

 

 幻灯の魔物を再起動させ、領域を解除して奴を探す。   

 夏油さんが居た場所に視線を向けると、素手で一方的に殴り続けている奴の姿があった。展開していた僅か七秒で夏油さんを一方的に殴っているなんて……

 

 

「夏油さん!!」

「逃げ──」

 

 

 逃げろと言う言葉が届く前に奴の回し蹴りが夏油さんの顔面にモロに入る。殺すつもりはなかったようだが、夏油さんは完全に気を失っていた。気を失った夏油さんの次とばかりに狙いを定め、奴は俺に向かってきた。

 

 

「っっ…クソッ!!」

 

 

 咄嗟に銃を構える。

 領域展開後、肉体に刻まれた術式は焼き切れ一時的に使用困難になる。分解と構築の力場を張れないし、張ったところで『天逆鉾』で強制解除される。

 

 体術は大人と子供の差だ。

 接近戦は絶対に負ける、黒閃銃のタイミングを合わせて奴に当たると思ったその瞬間に発砲する。

 

 

「惜しかったな」

 

 

 奴は更に体勢を低くして、それを躱す。

 銃口から放たれる場所がバレて躱されてしまう。その直後、術式が使えるような感覚が戻ったがもう遅かった。

 

 黒閃銃を撃った反動で致命的な隙を作ってしまった。体勢を立て直せず、伏黒甚爾の持つ『天逆鉾』は俺の心臓に突き刺さった。

 

 

 




(うるる)「………ヒイロ、さん?」

★★★★★
活動報告にて最強募集してます。最強じゃなくても実用的だと思ったものでも構いません。
良かったら感想評価お願い致します。



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十六

 
 次回、星漿体編エピローグ。
 その後、日記に戻っていきます。戦闘描写が気に入らない方にはすみません。ちょっと俺ツエーみたいに見えて不快に思う人は読むのをやめてください。感想に批判は心が硝子なのでお願いします。

 それではどうぞ。


 

 

 

 心臓を貫かれた。

 呼吸が出来なくなるような感覚と、真っ赤になっていく自分の視界。意識を失う前にと罅が入り、傷んだ片腕で再び黒閃銃を構えるが、奴は左腕で銃を払った。

 

 

「がっ……!?」

 

 

 思いっきり蹴り飛ばされた。

 まるでサッカーボールのように、小さな自分の身体は鮮血を撒き散らしながら地面に弾んでいく。

 

 

「が……ごふっ……ぁ……」

 

 

 意識が保てない。

 身体が重い。血が溢れるように流れていく。反転術式を咄嗟に発動する。心臓から先に治さなければいけない。だが、それでは遅い。心臓部を治す前に小さい身体から流れる血の量は尋常じゃない。心臓を治しても、このままでは失血死になりかねない。

 

 反転術式で流れる血を最小限にしながら、心臓に反転術式を血を失った鈍い思考で行っている。

 

 怠い。大量に消費した呪力。

 流れる血から重くなっていく身体。

 

 死が近づいていく。意識が遠のき、世界が廻る。痛くて死んでしまいそうだ。もう楽になってセンセーに会えるならそれでもいいって思えてきた。

 

 そう、思った筈なのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

『それでいいのか?』

 

 

 懐かしい声が、聞こえた気がした。

 

 

 

 ★★★★

 

 

 

「チッ、鬼ごっこってか?」

 

 

 幻灯の魔物が天内を咥えて本殿を縦横無尽に駆け回り、逃げている。既に蒼い大鷲は『天逆鉾』によって姿を消している。後は赤い化け猫さえ殺せば、天内は楽に殺せる。

 

 赤い化け猫の速さは甚爾より遅い。

 とは言え、人間とは全く別の動き方に少しばかり翻弄される。襲いかかる時は単調だが、逃げる事を優先している分だけ時間を稼ぐには充分だった。しかし、幻灯機がここにある時点で逃げ切る事など出来ない。

 

 

「ん?」

 

 

 幻灯の魔物がある場所で止まった。

 そこには先程、心臓に『天逆鉾』を突き刺した筈の少年が立っていた。赤い猫は天内を後方に吐き出す。

 

 

「きゃあっ!?」

 

 

 吐き出された天内が叫ぶ中、赤い猫の頭を撫でる。鋭い目つきで俯きながらそこに立つ荒夜緋色の姿があった。

 

 

「……マジかよ」

「マジだよ。俺も、心臓ぶち抜かれた時はマジ死ぬかと思った」

 

 

 呆然と呟く甚爾と目を見開いて睨みつける荒夜がそこに立っていた。パーカーは一部破け、血が滲んでいるにも関わらず不敵に笑う。

 

 

「反転術式……!」

「正解!俺の術式は構築術式、呪力消費と負担が激しいゴミみたいな術式だ。だが、術式反転の分解が使える人間からすれば、話は変わってくんのさ!だからソイツは既に極めてんだよ!!」

 

 

 テンションがハイになっている荒夜はケラケラと笑いながら自分の術式を開示する。

 

 あの時、脳内で自問自答の言葉が聞こえた。

 センセーの声だった。幻聴か、死ぬかもしれなかったと思った時の走馬灯か、妄想か存在しない記憶が溢れたのか、ただの勘違いなのかわからない。

 

 

 けど、おかげで()()()

 九十九由基の願いを叶えるという想いが再び、生きる理由を生み出し、諦めようとした気持ちが失せた。

 

 身体を分解した時と同じだ。あの時の全能感が、今の荒夜にはあった。

 

 

「分解はあらゆるものを分解する。分解したものはエネルギーだったり、元素だったりするんだけど呪力を分解すると、魂の情報を手に入れられる。そこから、生得術式の基盤を手に入れる事も出来る」

 

 

 あらゆる生得術式の基盤を取得出来る。

 それはその気になれば、どんな術師からも呪術を模倣し、進化していくと言う事だ。未完成の化け物。荒夜を言い表すならそれが正しい。

 

 甚爾は襲いかかるにも、変に距離を詰めてしまったら領域展開が来る可能性を考え、いつでも逃げられるように膝を曲げる。

 

 

「ただ、問題が一つ。魂の形は人それぞれだ。他者のソレを自分に刻んでもどんなに呪力操作が強くても劣化になっちまう。けど、劣化とはいえあらゆる術式をコピー出来るんだよ」

 

 

 人間は原則として術式を一つしか持てない。

 使役する式神によって持っている術式が変わってくる禪院の相伝術式や、変幻自在に変える事によって無条件で術式をコピーする折本里香などは例外。荒夜はどこまでも劣化しか使えない。

 

 

「でもさ、あらゆる術式のコピーが出来るならさ、劣化とは言えこんな事も出来ると思わないか?」

 

 

 左腕を前に出し、右の拳を握り、左腕の上に添えるように構える。甚爾は禪院生まれなら、あらゆる術式には詳しい筈だ。相伝には先代が築き上げた術式の取り説がある。

 

 なら、落ちこぼれとして生まれたとしても、知っている筈だ。今から行おうとしている術式を、荒夜が今何をしようとしているのか。

 

 

 

 

「──布瑠部(ふるべ)

 

 

 その一言を聞いた瞬間、超スピードで荒夜に迫る甚爾。あらゆる術式のコピーが本当なら、劣化とは言え呼び出してはいけないものを呼び出すつもりだ。

 

 すかさず、幻灯の魔物がそれを遮るが、一瞬で殺され甚爾は荒夜に迫りくるがもう遅い。

 

 

由良(ゆら)

 

 

 間に合わないと思った甚爾は『天逆鉾』を()()()。それが突き刺されば、荒夜の術式は発動しない。とんでもない状況判断力と反射神経。言霊を紡ぐ前に荒夜に『天逆鉾』が牙を剥く。

 

 しかし、それを遮るように上から一つの影が荒夜の前に立っていた。

 

 

「……っ……!!」

 

 

 (うるる)だった。

 (うるる)は投げられた『天逆鉾』を持っていた保険の幻灯の魔物が入ったトランクケースで受け止めた。

 

 命令をした筈なのに無視してきたのだ。

 一瞬の動揺はしたが、紡いでいた言霊を完成させる。

 

 

由良(ゆら)!!」

 

 

 その言葉に地面に放り投げ出された未開封のトランクケースが開いた。

 

 

 ★★★★

 

 

『領域展開の内包……ですか?』

『ああ、領域展開をした後には必ず術式が使えなくなる。これ結構大問題だからね』

 

 

 思い出したのはエミヤ・オルタ。

 銃弾に固有結界を内包する事で、体内を撃ち抜いた瞬間に内部から固有結界を暴発させる事で内部から破壊するエゲツない宝具があるのだが、あれが参考例だ。

 

 

『領域展開ってのは、自身の生得術式に結界術を組み込んだ超高等な奥義だ。その対価が数秒の間生得術式の発動が不可能になってしまう。致命的だ』

『だから、領域展開を出来るものを創ると?』

『まあ、そういう事』

 

 

 そうして出来たのが、トランクケースに呪核を組み込んで領域展開に必要な術式の構造を組み込むやり方。原理上は呪力を溜める事によって、入力したコマンド、言わば合言葉さえ聞けば発動するようになる筈だ。

 

 だが、問題は領域展開になる前に、その場所の情報が必要な事。どこでも使えるわけじゃないし、領域展開する場所を知らなければ開いても使えない。水の中だったり、動く場所では使えない設置型の呪具であり、一回限りの使い切り型の呪具だ。

 

 

『何分、必要なんですか?』

『三分。トランクケースが動いてしまったらリセット』

 

 

 条件は厳しいが、呪力を感知出来ない伏黒甚爾には有効。そして、伏黒甚爾を騙せる合言葉でそれが開くように設定した。

 

 十種影法術(とくさのかげぼうじゅつ)

 

 伏黒甚爾が元禪院の人間なら知らないはずがない。取説くらいは読んでいる筈だ。その中で調伏が誰一人として出来ていない式神。他人を巻き込んで行う調伏の儀。

 

 八握剣(やつかのつるぎ) 異戒神将(いかいしんしょう) 魔虚羅(まこら)

 

 幾ら伏黒甚爾が強くても、歴代の六眼を持つ無下限呪術持ちでさえ相討ちに終わったのだ。ハッタリさえバレなければ、至近距離で領域展開が発動出来る。

 

 

 

 ★★★★

 

 

 

「そういう事か!!」

 

  

 条件起動型の領域展開。

 トランクケースに内包した生得領域が広がり、閉じようとする。しかし、閉じ切る前に甚爾はトランクケースを一瞬で蹴り壊す。その瞬間、領域は閉じる前に壊れていく。

 

 全く笑ってしまう。

 それにどんな手間をかけたのか。そこまで考えた作戦を全部台無しにしてしまうその超人的な反応速度。

 

 けど……()()()()()()()()()()

 

 

「領域展開」

 

 

 トランクケースに仕込まれた領域展開は自分が行ったものじゃない。だから、荒夜はもう一度ソレが使える。

 

 荒夜の呪力は残り二割弱。

 そんな呪力で領域展開が出来たとして維持できる時間は三秒以下。領域展開で閉じ込められる範囲は約二十メートル。離れたトランクケースを蹴り飛ばした甚爾からすればこの距離なら閉じる前に脱出できてしまう。

 

 だから、もっと()()

 解釈を更に広げる。領域展開で閉じ込めるのではなく、領域を閉じずに逃げられるリスクを与えてでも更に広く展開する。

 

 呪力の核心の理解が更に広がった荒夜なら、出来ると感じたその神業を実現する。

 

 閉じ込めた中に領域を創るのではなく、領域を引っ張り出し、現実を侵食するようにそれを創り出した。

 

 

 

──創始再編式!

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 本来なら出来る筈のない。だが、荒夜はそれが出来るように()()()()()()()()()()()()()()()

 

 相手を閉じ込めず、あえてそうして『相手に逃げ道を与える』という縛りを自身に課すことで領域の性能を底上げし、術式が必中になる領域の範囲を最大百二十メートルまで引き上げる。両面宿儺がやっていたように、キャンパスを用いずに空に絵を描くような神業をやってのけた。

 

 

「チッ……」

 

 たった三秒の領域展開。

 だが、必中範囲が広まり、逃げ切れない甚爾の四肢が分解された。血溜まりを作り、達磨のように動けなくなった甚爾は地面に倒れた。

 

 

 

 

 

 

「か……はぁ、ああっ……!!」

「ヒイロさん!?」

 

 

 頭を押さえながら血を吐き出す。

 頭が割れるような痛みが襲いかかり、鼻血が止まらない。二割しかない呪力で無理して使った領域展開、しかも結界で区切らずに行うという規格外の呪力操作。

 

 

「ヒイロさん……しっかり!」

「か、は、はっ……ぐっ、ああ……!」

 

 

 核心に近づいたからといって、無理をし過ぎた。一歩間違えば廃人になりかねない呪力操作に頭が焼き切れたと思えてしまうほどの激痛が荒夜を襲った。

 

 

「……っ、無理な、領域展開は、命を削る…な」

 

 

 すかさず(うるる)が反転術式を施してくれた。頭痛が少しは和らいだ。もう呪力が空のようだ。反転術式を回す余裕がなかった以上、(うるる)が居なかったら死んでいたかもしれないと荒夜は痛む頭を押さえながらゆっくり立ち上がった。

 

 

「あり、がとう……もう私はいい…あとは夏油さんと天内を頼む」

「でも……」

「最後は、私が…やらなくちゃいけないんだ」

「………分かりました」

 

 

 (うるる)は夏油さんを治しに小走りで向かっていく。荒夜はその間に、黒閃の銃を拾い、四肢の無くなった伏黒甚爾の前まで歩き出す。

 

 四肢がない状態ではもう逃げられない。

 伏黒甚爾はどうやら上を見上げたまま、諦めたような表情をしながら呆然としていた。荒夜は黒閃銃の呪力の調整をズラし、伏黒甚爾に向ける。もう黒閃を使わなくても逃げられないなら当てられる。

 

 

 

「何か、言い残す事はある?」

「……ねぇよ」

 

 もう何も出来ない甚爾は諦めていた。

 最後にチラついたのは寂しそうに自分を待つ自分の子供の姿だった。

 

 

「……二、三年したらオマエと同じくらいの俺の子供(ガキ)が禪院家に売られる。好きにしろ」

 

 

 そう言った後、伏黒甚爾は目を閉じて終わりを悟った。

 

 

「じゃあ、私からも一つ」

 

 

 九十九を殺したその怒りはなかった。

 それでも、殺さなきゃいけないのだ。結局自分もクソみたいな人間だと自覚しながら、呪いとも呼べる皮肉を口に、引き鉄に手をかけた。

 

 

「センセーによろしくな」

 

 

 パァン、と本殿に一発の銃声が鳴り響いた。

 

 

 

 




天内「ちょっ、妾の扱い雑過ぎない?」
作者「すまん。許して」

★★★★★★★★★
活動報告にて最強募集してます。
最強じゃなくても実用的だと思ったものでも構いません。
明日の更新は忙しいのでお休みします。すみません


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十七

 

「………ここ、は?」

 

 

 目が覚めると、知らない天井……ではなく一度見た事のある天井だった。一回呪力不足でぶっ倒れた時に眠っていた保健室だ。消毒液や薬品の匂いが確信させる。疲労でぶっ倒れたか。

 

 起き上がると鈍痛が走る。

 腕には包帯が巻かれていた。

 ヒビが入っていたが、呪力の節約の為に反転術式を腕には使わなかったから、まだヒビが残っているようだ。

 

 呪力は四割ほど回復したので反転術式を使い、腕のヒビを治す。その直後、保健室のドアが開いた。

 

 

「目が覚めたか」

「……夜蛾先生……天内と夏油さんは?」

「二人とも無事だ。黒井さんも悟も、そこで眠っている子供に救われたようだ。悟に関しては何故か狂気の笑みを浮かべてたが」

「ああ……そう」

 

 

 (うるる)が俺の寝ているベッドに椅子に座りながら眠っている。あの時、『天逆鉾』を投げられた時にこの子が居なかったら俺は死んでいただろう。

 

 と言うか狂気の笑みってまさか覚醒イベでも来たのか?そんな事を考えている中で、夜蛾先生の表情は険しかった。

 

 

「……怒ってますか」

「ああ、怒っている。何故大人を頼らなかった」

「……アレは俺…私が清算しなければいけなかったから。九十九センセーを殺した犯人だよ、あの人は」

「!」

 

 

 だから頼らなかったし、頼りたくなかった。

 無闇に助けを求めても死体が増える事を予想して、助けを求めてなかった。

 

 

「元禪院の人間であり、天与呪縛のフィジカルギフテッド。五条さんですらやられたんだ。普通にやって勝ち目なんてなかった」

「そういう事ではない」

 

 

 そんな言い訳に近い言葉を夜蛾先生は強く否定する。怒っているのはそこじゃなかった。

 

 

「……人を殺した事実に、怒っているんですか?」

「そうだ。呪術師はそうならないように護る奴等の事だ。だからこそ、君は頼るべきだった。子供にそんな重荷を押しつける事など俺も、アイツらも望んでない」

「………そうですね」

 

 

 確かにそうかもしれない。

 自分がやった事は私欲に塗れた悍ましい行為だ。復讐心で人を殺すとはそう言う事なのだ。

 

 道を踏み外さないように呪術師がいる。夜蛾先生もあの三人も味方だ。頼らなければ戻れない道だってある事に夜蛾先生はため息をつきながら、心配してくれていたのだ。

 

 

「すみませんでした。……迷惑と心配をかけて」

「……全く、入る前から問題児とはな」

「ホントすみません」

 

 

 そればっかりは頭が上がらない。

 ホント、この人いい先生だ。心配かけた事も、黙って来た事も、ちゃんと叱ってくれる善人だ。

 

 

「けれど、救われた命もある。君のおかげで天内理子は救われた」

「……いいや、私はクズさ。あの子をダシに奴が来る事を察して助けようとはしなかった。助けたなんて事実は偶然の結果論さ」

「それでもだ」

 

 

 それは違うと夜蛾先生は言うが、それでも結果論だ。天内を見捨てようとしたのは本当だ。見捨てられなかったけど、冷酷に成りきろうとして、成りきれない事実に天内は救われただけだ。

 

 本当に結果論。

 天内理子を救おうとしなかった。だから偶然救われたに過ぎない。

 

 

「天内理子……あの子は星漿体としてどうなる?」

「代わりは存在しているらしい」

「……やっぱ上層部の嫌がらせか。気に食わね」

「それに関しては同意だ。だが、結果的に良かったとは思うさ」

「……それも結果論だけどね」

 

 

 天内が人間として生きたいと願ったならその想いを尊重する。まあ上層部がスペアを用意していた辺り、天内の方がスペアなのかもしれない。単純に嫌がらせとしか思えない。

 

 この一件、かなりふざけた話だ。

 天元を支えようとする盤星教のクソ共が天内を穢れと呼び、星の命運すら関わってくる星漿体の融合を止める為に伏黒甚爾を使った。

 

 教典の教えだか何だか知らないが、絶対的一神教である盤星教が同化を見逃せば会が立ち行かなくなると言うクソみたいな理由で天内の覚悟を踏み躙った。

 

 胸糞悪い話ではあるが、結果的には良かったかもしれない。天内理子が人間として生きる事が出来たのだから。

 

 

「ところで、その子は?」

「私の創った呪骸」

「……………はっ?」

「簡単に言うと、私がママです」

「……………………はっ?」

 

 

 この後、二時間くらい説明すると、夜蛾先生は胃を押さえて保健室から出ていった。どうやら便秘のようだ(推測)。

 

 

 ★★★★★

 

 

 暫く疲労で眠っていた身体を起こし、(うるる)の頭を優しく撫でていると再び保健室のドアが開いた。

 

 血が滲んで中々ファンシーな姿になった五条悟が入ってきた。着替えてから来たらよかったのに。

 

 

「よお、久しぶり」

「久しぶりですね五条さん。その様子だと、反転術式を使えるようになったのかな?」

「まあな。おかげで気分は最高なのに、今は最悪の気分だ」

 

 

 乱雑に近くにあった椅子に座ると不機嫌そうな顔で今回の一件について説明した。見た感じ、いつもの五条さんの雰囲気ではない。かなり、呪力の核心に近づいたようだ。

 

 

「……上層部はこの一件、天内の星漿体としての役割を放棄する事をすんなり受け入れてる。俺らに対する嫌がらせだろうな」

「でしょうね。彼女の今後は?」

「暫くは五条家(ウチ)の庇護に入る。名だけ貸すとしても、天内を狙う事は九割以上はなくなんだろ」

「まっ、それが妥当でしょうね」

 

 

 上層部からしたら彼女は用無しだ。

 まだ星漿体として狙われている事もあって暫くは五条家に居た方が安全だろう。時間が経てば狙われる事も無くなるだろうし。

 

 

「あと、傑が今上層部でオマエの処分について代理で聞いて来てる」

「処分?……ああ、無断であの場所立ち入った事?」

「お前は将来は特級スタートだろうが、まだ呪術師登録はしてねぇからな。一応あの野郎は呪詛師としての対処の規定に沿ってはいるが、お前が呪術師でないからその処分を検討してんだとさ」

「うげっ」

 

 

 そこまで考えてなかった。

 どうすっかな。呪詛師認定されて秘匿死刑になったら、逃げて世界を旅しようかな。『纏帳(まといとばり)』のおかげでお金は一人で使いきれないほどあるし。

 

 

「つか本当にお前がアイツを倒したって信じられないんだけど」

「……次やったら貴方が勝つでしょ」

「とーぜん。あと、お前にもう一つ。お礼を言いたい奴が居るから入れていいか?」

「……どうぞ」

 

 

 再び保健室のドアが開くと、そこには成人のメイドさんとセーラー服を着ている女の子、天内と黒井の二人の姿があった。

 

 見た感じ外傷は無く、満足に動けてる。

 黒井さんが動けてる時点で、(うるる)は完璧に反転術式を施したらしい。

 

 

「……星漿体だった子か」

「お主の方が子供じゃろ。なんじゃ、妾を子って」

「天元の融合がなくなったんだから、喋り方変えたらどうだい?」

「うっ……まだ癖で残ってるだけ」

 

 

 バツが悪そうに天内は難しい顔をしていた。

 学校では普通に喋っているのに、未だ抜けない癖にため息をついていた。

 

 

「その様子だと、もう大丈夫のようだね」

「ああ、おかげ様で。私を護ってくれて、本当にありがとう」

「別に構わないよ。護れたのも結果論だし、そのお礼は、夏油さんに言うといい」

「……お主、その喋り方胡散臭いぞ」

「ひっで」

 

 

 まさか同じ言葉を2度聞くとは思わなかった。

 子供が九十九センセーと同じ喋り方をしたらそりゃ胡散臭いかもしれないが、結構気に入ってるんだけどな。この喋り方。

 

 

「お前の師匠の喋り方なんだろ?似合わねえぞ」

「いいんだよ。いずれ似合う男にはなるから」

「その時には化粧品送ってやる」

「女みたいになってるって言いたいのかな?喧嘩なら言い値で買うよ?」

 

 

 まあ、そう言っても自分でも下手したらそうなってる可能性を否めない。九十九センセーほどじゃないが、髪も少し長くしようと思ってるし、自分の顔は意外と美形な方だ。下手したら将来女と間違われる事があるかもしれないが。

 

 

「あの、私からもお礼を言わせてください。お嬢様と私を助けていただき、本当にありがとうございます」

「……まあ、素直に受け取っておきます。でもまあ、御礼は(うるる)にいってあげてください」

 

 

 眠っている(うるる)の頭を撫でながらそう告げる。正直、反転術式で二人を救い、ブラフを張っていた自分を守ってくれたこの子が今回のMVPである。あとで好きな物買ってあげよう。

 

 

「つーか、コイツ誰?お前の妹かガルフレ?」

「私が創った呪骸だよ」

「………はっ?」

「えっ?」

「はいっ?」

「簡単に言えば、私がママです」

「………お前、頭おかしいんじゃねーの?」

「ぶっ飛ばす」

 

 

 呪力で強化した拳は無限に阻まれた。

 この後、一時間くらいで説明したら五条さんが百面相をして、天内と黒井は地味に引いていた。

 

「お前、人間を創り出せる意味わかってる?」と聞かれたら、創った責任はちゃんと取るし、使い捨てとかそんな非人道的な事をするつもりはないし、命を弄ぶような事はしないと言ったら「違う、そうじゃない」と言われた。

 

 どうやら、完璧な人型呪骸はかなり問題があるようだ。この時の私はその意味がよく分からなかったけど。

 

 

 ★★★★

 

 

 夏油さんが上層部の話し合いの結果を持ち帰ってきた。この後、私がママです宣言したら五条さんと同じく百面相をしていた。似てんなこの2人。その十分後に結果を話してくれた。呪術総監部の下した処分はただ一つだった。

 

 

「荒夜緋色を特級呪術師として呪術界に所属させる……?なんだそんな事か」

「いや結構嫌な処分だからね?」

「と言うか、なんでその結果に至ったんですか?」

 

 

 要するに、この歳で呪術師として働けと言う事なのだろうが、何故その結論に至ったのか分からない。早いか遅いかだけの話だと思うのだが、どこに罰な要素があったのか分からない。

 

 

「かなり特例だけど、理由は二つ、伏黒甚爾は名の知れた術師殺しで、九十九由基を殺し、悟すら殺しかけた人間だ。それに君は勝った。幾らまだ小学生でも領域展開まで使える人間を遊ばせておくのが勿体無いらしい」

 

「……まあ、それは分からなくはない」

 

「二つ目は禪院の推薦。特級呪術師として推薦出来るだけの肩書きを君は持っている。その二つの功績があるから、下手に罰する事が出来ない。呪術総監部はその功績を逆に利用した」

 

「あー、納得」

 

 

 要するに上層部は手元に置いておきたいようだ。

 呪術界に身を置かせる事で、嫌がらせも出来る上に人手不足の解消にも繋がる。禪院のような御三家に下手に権力の圧力をかけられない分だけ、合法的に殺せる位置に立たせた訳だ。

 

 

「センセーの弟子で呪術界を変えるくらいの特級呪具の作成、そして領域展開まで使える人間。……まあ、理由としては妥当だけど、あのクソジジイ……」

 

 

 禪院の庇護に入っているような立場だが、禪院から特級が出れば禪院家にメリットが高いと思ったようだ。現状トップは五条家だが、特級に立たせる事で鼻を明かせると言う事なのだろう。

 

 うわ、これ今以上に内輪揉めが加速しない?何ならエセ関西弁のDV男が闇討ちに来そうなんだが……

 

 

「つっても私、小学生だが?」

「『窓』の人間が交代制で君の助けをしてくれるらしい」

「VIP対応か」

「まあ君まだ子供だからね」

 

 

 学校終わった後に車で呪霊が居る場所まで送ってくれるって事か。まあ、呪術界所属と両立だとそれくらいないと難しいのも事実だ。子供だから遠い所に行く時は保護者が必要だし。

 

 とは言え、この状況も良くない。

 上層部は脅威と思ったらいつでも処分出来る位置に置いたのだ。幾ら強くなっても慢心できないし、何なら裏で呪詛師に依頼とかされて日常を脅かされたらたまったもんじゃない。

 

 

「……うーん。やっぱアレを創るか」

 

 

 絶対に創ってはいけない最強を創るしかない。正直、自分が殺されたら世界が滅ぶくらいの爆弾を私は考えていた。夏油さんからドン引きされながら、やり過ぎるなよと言われたが保証しかねるなぁ(ゲス顔)

 

 

 ★★★★

 

 

 

 

 

 ★★★★

 

 

 高専から家に戻る前に、依頼が来た時に専属になる『窓』の人に行きたかった場所に送ってもらった。京都の呪術高等学校から離れた場所にある墓地へと()は来ていた。

 

 

「九十九、九十九……っとあったあった」

 

 

 それは九十九センセーの墓だった。

 特級の死体は高専側で秘密裏に処理されるらしい。なので、葬式は開かれなかった。花束と、お酒を持って九十九センセーの墓の前で膝をつく。本当は、墓が出来上がったら直ぐに来たかった。

 

 でも、あの時はまだ顔向け出来なかった。

 ここに初めてきた。そこに居なくともあの人に伝えられる。

 

 

「センセー。俺、頑張ったよ」

 

 

 膝をついて、本当の口調で話しかける。

 そこにセンセーの魂が無いのは分かっている。呪術師だ。魂の仕組みも理解している俺からしたら、こんな事は無意味だって理解している。

 

 

「形は違えど最強を倒した。天与呪縛についても理解が出来たし、凄く強い呪骸も創れたんだ」

 

 

 結果を報告するように、自分の所業を話す。

 あの人はもう帰ってこない。もう、それは痛いほど理解している。

 

 

「……ありがとう。センセー」

 

 

 だから、前を向いて歩くよ。

 貴女が見たかった世界を俺が目指してみる。

 

 

「貴女と出会えて笑顔をくれたり、喧嘩したり、楽しんだり、色んなことがあった。だから、ありがとねセンセー」

 

 

 だから、ここでお別れだ。

 喋り方は、変わらない。あの時のように九十九センセーに成りきろうとはしない。どんなに頑張っても俺は貴女にはなれない。けど、貴女みたいなカッコいい人間になれるように少しだけ背伸びして、頑張ってみるよ。

 

 

「俺を呪術師にしてくれて、本当にありがとう」

 

 

 ただ、天国にいるあの人に届くように。

 花束とお酒を置き、手を合わせてそう伝えた。

 

 風が吹いた。

 頬を撫でるような優しい風が吹いた気がした。

 

 




★★★★★
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十八

 
 アンケートの結果、普段は私、感情を揺さぶられたら俺の一人称になります。日記の一人称は俺にしますが、普段の口調は私にしていきたいと思います。回答くれた方々、ありがとうございます。

 久しぶりの日記と東堂編です。どうぞ。


○月○日 晴れ

 

久しぶりに日記を書く。

日記ではちゃんと心から思った事を書きたいから一人称は俺にする。九十九センセーの真似で喋り方が少し変なのは分かってる。まだ子供だし、この喋り方なんか胡散臭いらしい。

 

まあ、九十九センセーに成り代わるんじゃなく、九十九センセーみたいにカッコいい大人になりたいから願掛けみたいなものだ。少しは前を向けるように、なったかな。

 

さて、日記を再開した訳だ。

先ずは現状の確認だ。俺は三年生になった。今は春、あと四ヶ月くらい経つと九十九センセーの邂逅から夏油さん闇堕ちルートになったりする時期があったり、上への牽制に最強を創らなきゃいけなかったりと忙しい。俺もこの歳で呪術師になって任務が週に二回ほどあったりする。因みに特級スタートだ。

 

 

上層部マジふ○っくである。八歳の子供を特級スタートにすんじゃねえと叫んだ。……しかしなにもおこらなかった。

 

 

 

俺がやる事は四つほどある。

一つは九十九センセーが居なくなって原作東堂との邂逅が先延ばしになっていた為、窓の人に調べてもらっている。東堂は恐らく四年生、原作で邂逅するはずだった三年生の時期から離れてしまったが、とりあえずそこをなんとかしよう。

 

伏黒恵についてだが、俺は距離が空いているとはいえ禪院の庇護にある。俺が見つけたら禪院は伏黒恵を取り込もうとするだろう。そちらは五条さんの方にお願いしている。

 

 

二つ、牽制の為の最強を創る事である。

実はもう、何を創るかは決めてるのだが、劣化とはいえヤバいものだ。任務で呪霊を分解し、呪力を大量に用意しなければ創れないのもあるから暫くは無理だ。

 

 

三つ、夏油さん闇堕ちルートを回避する。

天内理子を護れた時点で、闇堕ちする可能性は半分ほど失われている。このまま後輩の灰原さんとかミミナナとか救えれば確率は殆ど無くなる。後は九十九センセーの邂逅の時のように呪霊の居ない世界についてあまり語らない事かな。夏に高専に行くつもりだし。

 

 

四つ、強くなる事。

俺自身が最強になる事は出来ない。俺は準最強が精一杯だ。だとしても、素の身体能力を上げる事は必須だ。術式の理解と解釈を広める事も欠かせない。

 

現段階の俺は呪力の核心への理解が更に深くなった事により、呪力操作精度が(うるる)を超えた。黒閃と体術と合わせた呪力操作精度が高い呪術師にしか使えないスタイルを身に付ける。

 

 

 

 

 

……書いててなんだが忙しくね?

絶対小三の子供がやる事ではない気がするんだが。

 

 

 

○月☆日 晴れ

 

(うるる)と組み手をした。

地面を蹴る瞬間に黒閃で踏み切って加速する瞬歩モドキの練習をしていた。黒閃と体術を組み合わせる。拳ならまだしも踏み出す時の黒閃はかなり難しい。やはり集中力にブレがあると黒閃自体が使えない。つか無理、出来ない事が多い。いちいち意識してしまうのがいけないのだ。なんなら(うるる)の方が身体の使い方が上手い。

 

俺の呪力操作は五条さんの次に上手い。

現在での黒閃最高記録保持者であるナナミンを超えている。そこはTUEEEEEーーー!!と誇っておこう。

 

現在最高連続で黒閃を放てた回数は5回。

(うるる)は4回と、連続で放てる事に関しては勝っているが、要所要所の使い方で負けている。つか呪力出力でジェット機のように加速した方がまだいい。瞬歩は無理!

 

暫くは組み手メインの練習をしよう。

 

 

 

 

○月◎日 曇り

 

『窓』の人が挨拶しに来た。

名前はツボミさんと、コノハさん。交代制で呪霊の居る場所まで車を走らせてくれたりする人達である。因みにツボミさんは女の人でコノハさんは男である。

 

明日から呪霊の任務を引き受けるらしく、俺は二級以上の呪霊を祓う事になっている。因みに(うるる)に関しては五条さんが上手く隠してくれているらしい。なんでも反転術式を他人に施せる人間は珍しいとの事。(うるる)は強くてもまだ精神的には子供だ。

 

流石に連れていくとバレるからお留守番を任せるつもりだ。その代わり土産は買ってくるから。

 

 

 

 

だからそんな目しないで……心が硝子になっちゃう。

 

 

 

○月♪日

 

呪霊を瞬殺して、呪力を貯めれる呪具に貯めて帰ってきた。

 

場所が壊れてもいい廃墟だったので領域展開で瞬殺である。書き忘れていたが、閉じない領域展開は会得出来た。感覚さえ掴めば誰でも出来そうなのだが、絵の具を空に描く感覚を言い表せないので教える事は難しい。

 

俺の必中は最大で約140メートル。

呪力量にもよるが、最大で広げた場合で呪霊を分解して得た呪力を使わずに自分が展開出来る時間は約30秒と言ったところだ。領域を引っ張り出す事自体が閉じるより呪力を使う。

 

五条さんと違うのは領域に引き込めた後に分解する対象を選べる事。ただし、目視をしていなければ選べない。見えない敵の場合は全体攻撃に切り替えるしかないが。

 

少なからず、今日の呪霊のおかげで目標の呪力の三分の一は手に入れられた。お土産はリンゴジャムである。

 

 

 

○月☆日 晴れ

 

(うるる)がなんと学校に編入した。

同い年の三年生スタートである。まあ基礎教育は俺がやってたから問題ないだろう。赤いランドセルが似合うとだけ言っておこう。

 

ランドセル代と学費を後で払おうかなと思ったのだが、両親は子供がそんな事考えなくていいと言ってくれた。本当に敵わないなと思いながら、お礼のサプライズだけ考えていた。

 

(うるる)と一緒にケーキを作った。

少しスポンジがパサついたが、両親も美味しいと言ってくれた。

 

 

 

○月$日 晴れ

 

遂に東堂が見つかった。

アイツ岐阜生まれかよ。コノハさんに(うるる)と一緒に連れて行ってもらった。岐阜県の学校に居る東堂に会いに行った。

 

岐阜の学校まで走っている途中の河川敷で、喧嘩している人がいるなと思いながら車の窓から覗くと、高校生複数人と喧嘩している東堂が見つかった。嘘やん。お前何してんの。

 

遠目で観戦しているが、強い。

何なら高校生相手に飛び膝蹴りをかましたり、素の力がかなり強い。アイツ四年生だよな?高校生ボコれるくらいのポテンシャルは知っていたが目の前で見ると信じられないくらいに強い。

 

これは磨けば強くなりそうだ。

車から降りて、東堂に加勢して高校生をぶん殴り五分後に全員鎮圧した。

 

九十九センセーのように「どんな女がタイプだい?」と聞いたらその前に「お前何歳だ?」と聞いて素直に答えたら敬語を使えと殴りかかってきた。ごもっともであるが、お前に常識を説かれると思わなかった。その後、(うるる)が普通にぶん殴って気絶させた。

 

 

反転術式をかけ、目を覚ました後に話をした。退屈なら、それを裏返すくらいの世界を見せてやると言ったら敬語を使えと殴りかかってきた。(うるる)が連続普通のパンチを放った。東堂が再び気を失った。何これデジャヴ?

 

 

三回目に起き上がると喧嘩するならちゃんとやろうと俺が提案し、呪力操作で肉体を固めて普通に勝った。まだまだ子供に負けるほど甘くはない。呪力を込めたデコピン一発に再び東堂は気を失って俺は反転術式をかけた。

 

 

四回目にして東堂に触れ、呪力操作で東堂に手を叩かせると(うるる)と位置が入れ替わっていたのに目を見開いていた。自分の才能に驚き、手を離した後に再び手を叩くと俺との位置が入れ替わっていた。こればかりは俺も驚いた。

 

 

東堂はいずれお前に勝つ。それまでは師匠として認めると負けず嫌いな様子で弟子になった。

 

 

 ★★★★★

 

 

 俺は退屈が嫌いな人間だった。

 小三の頃、高校生をボコった。舐められると思った瞬間にゴングはなっている。それの報復なのか、数ヶ月後に今度は人数が増えた。それもボコした。それが何回も続く内に人数がまた増えた。今回は八人ほどお仲間を連れてやってきた。ニヤニヤと舐めている表情から俺のゴングは既になっていた。

 

 三人ほど気を失わせた後に、誰かが俺の喧嘩に加勢した。言うまでもなく強かった。一撃で意識を刈り取っていやがる。見たらわかった、相当な手練れだ。

 

 

「……ふう」

「……お前は?」

「私の名前は荒夜緋色」

 

 

 そして、戦ってみたくなった。

 多分、俺より強いと明確に分かる相手となら退屈凌ぎにはもってこいだ。目の前にいる奴は俺に問うように聞いてきた。

 

 

「どんな女がタイプかな?」

 

 

 ……中々いい質問をする。

 俺はつまらない奴は嫌いだが、初対面でその質問をする辺り、嫌いじゃない。むしろ面白いと思った。

 

 

「……ケツと(タッパ)がデカイ女」

「即答か、いいね」

「お前何歳だ?変な喋り方してるが」

「八歳さ」

「歳上には敬語を使え」

 

 

 俺の拳が届く前に、一瞬で目の前に現れた女に強烈な一撃を食らった。視界が暗転し、暫く意識を失う。今、殆ど何が起きたか分からなかった。

 

 しかし、数分したら身体の痛みが消えていた事に驚く。何をしたのか聞いてみた。

 

 

「今のが呪術。君は出会った事がないかい?異形の怪物みたいなものを」

「……見た事ない」

「私はそう言うのを祓ったりするのさ。君にも術式は存在している。君の術式はシンプルだが面白い」

「……で、お前は何しにきた?」

「勧誘しに来たのさ。君をね。私の弟子にならないかい?そうしたら君の退屈を裏返すくらいの世界を見せてあげよう」

「敬語を使──」

 

 

 再び殴りかかろうとするが、再び女に殴られ意識を失った。そして数分後、再び痛みはなく立ち上がる。さっきと同じデジャヴを感じながらも立ち上がって目の前のコイツを見下ろす。

 

 

「……納得がいってないようだね。なら、ちゃんと喧嘩をしてみよう。君が私に勝ったら何も言わずに帰るよ」

「言ったな?」

「言ったよ、先手を譲ってあげるよ」

「舐め、んな!!」

 

 

 飛び膝蹴りを俺は奴の顔面に叩き込んだ。

 しかし、全くダメージがなかった。何なら叩き込んだ膝の方が痛い。どんだけ殴っていても、拳が痛くなるし、脚も重くなっていく。どうなっているのか分からないまま全力の拳を叩き込む。

 

 指一本でそれを止められた。

 気が付けば奴から青いオーラのようなものが見えた。

 

 

「これが呪力。君も持っている力だよ」

 

 

 デコピン一発に俺の身体は吹き飛び、宙を舞う。

 再び意識を失った俺だが、暫くすると痛みがなくなって起き上がる。これが呪術なのか?俺の知らない世界がある事に俺は興味を持ち始めた。

 

 俺はどんな術式を持っているのか聞いてみた。入門編としてのお試しで奴は軽く俺の額に触れる。その後、身体の中で何かが駆け巡るような感覚を覚えた。

 

 

「いいかい?君の術式はシンプル。私が制御するから手を叩いてみて」

 

 

 俺の額に触れながら言われた通りに手を叩くと、俺の位置とあの女の位置が入れ替わっていた。今、何か自分の中で駆け巡った何かを知った。今なら出来ると思い、再び手を叩くと奴との位置が入れ替わった。

 

 その様子に一瞬目を見開いて、奴は笑った。

 

 

「いいね。君、やっぱ才能があるよ。どうする?さっきの話」

「……いいだろう。弟子にはなる。ただし!それは俺が勝つまでの期間だ。それまではオマエを師匠として認めてやる」

「充分さ。歓迎するよ───東堂葵」

 

 

 手を差し出し、意趣返しとして強く握るが顔色一つ変えない。まだ勝てない。まだ勝てはしないし、全力すら出していないだろう。だが、今はその敗北感がいっそ清々しかった。

 

 

 何故ならこの男からは、退屈が裏返る予感がした。

 

 

 




荒夜「つかアイツのタイプ九十九センセーからじゃなくて最初からだったのか。九十九センセーよく育てたな」

★★★★★
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すみません明日忙しいのでお休みします。


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十九

 すみません。バイトが忙し過ぎて更新二日遅れた。
 正直、かなり辛くて腱鞘炎になってしまったぜ。と言う訳で遂に牽制用の最強を創りたいと思います。どうぞ。


 

 

 

 

 

○月○日 晴れ

 

東堂が弟子になった。

週に二回、東堂が電車で研究所まで来る。いや大変だろと思ったが、退屈を潰す事こそ東堂の在り方。普通に研究所まで来ていた。とは言え電車賃がバカにならないと思ったので長距離の移動手段を考えていた。今後の俺にも役に立ちそうだし。

 

幻灯の魔物の口に入って送ってもらうか?

いや多分、エネルギーが保たないと思うし……

 

そうだ、バッテリーを創ろう。

貯め込める呪具に入った呪力を使って貯め込める呪具を量産する。うん、貯め込める呪具に刻まれた術式は知っていたから普通に創れた。だが、赤い猫が地面を走ってくるには流石に目撃者がありそうだし……

 

 

……あ、今、良い方法を閃いた。

 

 

 

○月¥日 晴れ

 

試作品の幻灯機を創っていた。

こればかりは一から組み立てないと出来ない。パッと構築術式でやると偶に内部に不具合があったりするのだ。一部に呪力が宿っていなかったりとか。

 

普通の物質の構築なら問題ないが、幻灯機の全てのパーツに呪力を込めなければ創れない。機械弄りが得意でも時間が大分かかる。創るまでに頑張っても三週間くらいかな。

 

とりあえず、移動手段の確立はしておきたかったし、頑張ってみる。

 

暫く創った後に(うるる)と瞬歩モドキの練習をした。成功率は六割くらい、一度でも黒閃を放てた後のゾーンに入れたら結構使えるが、これも弱点がある。

 

この瞬歩モドキは真っ直ぐにしか行けない。

 

イメージ的には超速い走り幅跳びをしてる気分だ。着地がスマートにいかない上に止まる時に地面が抉れるくらいに勢いが余る。これスパイクみたいなものがないと止まれない。勢い余って木に激突した。

 

 

どうしたもんかね。

瞬歩で木の上に移動して止まる。そんなアニメのような動きが難しい。着地にも黒閃を使うとなれば、逆に自分のスピードについていける動体視力が必要だ。俺はギリギリ着地の瞬間が分かるが、完全に認識出来なければ黒閃で着地は無理。動体視力を上げる課題も増えた。

 

 

やる事が増えてきた。

どうしよう。自分で自分の首を絞めてる気がする。

 

 

 

 

○月€日 曇り

 

東堂が研究所にやってきた。

先ずは呪力を安定させる為に、夜蛾先生を参考に創った呪骸一号『ぺけ』を持たせて映画鑑賞させた。見せた映画はターミネーターである。

 

最後の別れのシーンに東堂は泣いて、(うるる)もそれに貰い泣きしていた。わかるわ。俺も最初見た時は泣いたし。

 

 

そして映画が終わる。『ぺけ』が一回も攻撃しなかった。コイツは本当にセンスがある。次の段階に入った方がいいかな。呪力による強化は呪力量もそうだが、制御力によって決まると言っていい。

 

東堂の場合は素の力も高くなってくるなら、相性がいいだろう。先ずは呪力の制御を上げる練習として竹を用意した。呪力を完璧に制御すると、呪力を刃のようにすることが可能だ。

 

その部分はまるで刀で斬ったかのような綺麗な断面になる。御三家の秘伝である『落花の情』から学んだのだが、呪力そのものを棘のように使い、カウンターも出来る事から、呪力の制御力が上がれば、呪力で刃みたいなものを作る事が出来た。

 

 

流石に直ぐには出来なかったようだが、自分の中で答えを見出し、実践してはトライ&エラーを繰り返す東堂を見ていて、俺が弟子だった時、センセーもこんな気持ちだったのかなと年寄りみたいな考えをしていた。

 

 

……老けてないよね?俺?

 

 

 

○月%日 曇り

 

今日は普通に任務があった。

一級の呪霊を分解で殺し、呪力を貯める呪具に移す。目標値の三分の二は達成した。今回は(うるる)も付いてきた。お留守番任せたが、頬を膨らませて頑なに手を離さない。大してやる事ないぞと言っても手を離さなかったので、仕方なく連れて行った。

 

寂しがり屋だったか?

別に死ぬわけじゃないんだし、余裕ではあった上に時間がかなり余ったのでお土産選びに連れて行った。

 

(うるる)が青いシュシュを見つめていたので買ってあげたら、無表情なのに幸せなのが分かるくらい周りに花がホワホワ浮いてるような幻覚を見た。女の子ってお洒落好きだからか?

 

 

因みにお土産は餡ころ餅。東堂の分も買っといた。

 

 

 

 

○月♪日 晴れ

 

やせいのとうどうがあらわれた!

あらやはウルルをよびだした!

 

と言う事で実戦である。

ポケ○ンのBGMは気にしないでくれ。東堂が竹を呪力を纏った手刀で見事に斬り割いたのを見て驚いた。成長曲線がバグってない?ここまで来るのに早すぎる気がする。

 

まあ次のステップに入った。

術式を理解しての初実戦なのだが、呪力の殴り合いだと100%(うるる)が勝つので、お互いの背中に紙を貼り、相手の紙を剥がした方が勝利のゲームをする。

 

これ結構東堂に有利なので、丁度いいハンデとも呼べる。因みに投げや崩しはアリでも、直接攻撃はナシにした。呪力操作に特化した(うるる)がガチでやったら危ないし。

 

このゲームは背中を向けたら取られてしまう。向き合って隙をつかなければいけない中で、東堂の術式はかなり強いだろう。笛を鳴らし、勝負を開始する。

 

結果、東堂は10戦中1勝9敗である。

 

正直(うるる)が全勝すると思っていた。東堂は、戦えば戦うほど強くなるし、その経験から学習していく。自称とは言えIQ53万だけはある。

 

ただ、九回目に東堂が勝って、無表情ながら対抗心を燃やした(うるる)とあがってきた東堂。両者共に全力で背中の紙を取りに行った時、東堂の手が(うるる)の胸に触れてしまった。

 

(うるる)はその0.1秒で東堂の息子に呪力によって強化された脚で重い蹴りをぶち込んだ。それを見た俺は笑みを凍らせて早急に東堂の元へ走った。泡吹いて気絶していた。

 

 

反転術式を施した後、東堂は即行で土下座した。

暫くしても怒っていた(うるる)を俺が宥める。一時間後に漸く許してくれたようだ。

 

その後、東堂は(うるる)の事をさん付けで呼ぶようになった。

 

 

 

○月×日 

 

 

 

○月※日

 

 

 

○月◎日 晴れ

 

台風により学校が二日ほど休みだった。

なので家で試作の幻灯の魔物を創る事に集中出来た。そして完成し、写し出されたのはペリカンである。

 

そして、この幻灯の魔物は大気中の色に紛れる事が出来る。つまり、空を飛んでる間はペリカンは空色に変わり、擬態が出来るようにした。

 

これなら飛んで時間があまりかからない。しかも時速600キロだし、岐阜まで数十分で着く。まあその分エネルギーが必要なので途中で降りてバッテリーを代えるようにしないと空から落ちる可能性があるが。

 

でも、口の中で数十分すれば着くって結構……アレ?これももしかしてこれも呪術界にかなり影響を与えるものじゃね?

 

 

 

 

○月◆日 晴れ

 

正直な話、ムカついている。

今日、任務があった。二級の呪霊の討伐。なのに出てきた呪霊が特級クラスだったのだ。余裕だと慢心していたせいで付いてきた(うるる)の額から血を流させる事態になった。

 

領域展開で瞬殺した。倒せたはいいが、恐らく上層部が絡んでいるのだろう。かなりムカついたから、予定を早めて最強を創る事にした。

 

俺が考えていたのは二つ。

一つ目はまだ、術式と材料が足りないので後回し。二つ目は今回の特級クラスの呪力のおかげで条件が整った。

 

上層部の牽制としての一体目を見せてやる。

流石にちょっとこの怒りは収まる気がしないな。とびきり可愛く、とびきり凶悪なものを創ってやる。

 

 

……夜蛾先生ごめん!胃痛が増えるかも!!

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 

 今回、創る最強は私の『氷天』に重きに置いた呪骸である。今回は用意する呪核を二つにする。どちらも小さいのだが、呪核に込められる呪力量だけなら合わせて五条さんの8倍はある。

 

 そしてもう一つ。二つの呪核とは別に情報の基盤用の核を創った。情報を的確に処理できる核を。言わばコマンドをある程度組み込まれた学習装置に近い。喋れなかったら困るし。

 

 よくよく考えたら初めて呪骸に生得術式を刻むかもしれない。呪核に精密に自分の生得術式の基盤を組み込む。針で完璧にズレもなく集中して刻み、呪力を呪核に溜め込む。しかし、自分の呪力の半分を加えても呪核の限界が全く見えない。

 

 

「うっっわ、これガチでやばいんじゃないか?」

「呪力の量が…やばいです」

「ああ……潜在的に組み込む呪力だけならトップクラスにヤバいな。(うるる)、とりあえずサポート頼む」

「……はい」

 

 

 生み出された呪骸に核を埋め込む。

 今回は二つ。一つがニュートラルな状態用。二つ目が私が死んだ時にトリガーとなって発動する用に二つ組み込んだ。

 

 とは言え、片方の呪核だけでも五条さんの4倍はあるのだ。明らかに特級クラスの呪骸だろう。そして、溜め込んだ大量の呪力を呪核に貯め、満タンになった所で呪骸を創る。

 

 生み出された呪骸に分解と再構築で魂の代わりとなる呪核を組み込み、軽い電気ショックを呪骸に送り込む。

 

 

「……うにゃぁ!?」

「おっ、起きた」

「成功……ですか?」

 

 

 電気ショックによって起き上がった。

 今回創ったのは人間ではない。今回創ったのは()()()()である。ただし、猫は猫でも侮ってはいけない。

 

 それは、契約したものに最大の力を。

 そして契約したものが滅ぼされた場合、世界を凍土に導く終焉の獣。その力は三大魔獣に匹敵し、倒せる人間は剣聖を置いて他に存在するかは分からないほど、見た目とは裏腹に強力で凶悪な精霊。

 

 

「おはよう、()()()。不調はあるかい?」

「……君は」

「私の名前は荒夜緋色。君を創った親だよ」

 

 

 大精霊パック。又の名を終焉の獣。

 上層部の牽制の為に創り出した最強であり、最恐の人工精霊呪骸である。

 

 

 

 

 

「……一応聞こう。どんな女がタイプだい?」

「銀髪のハーフエルフ!」

「正直でよろしい」

 

 

 いや保護者さん、即答かい。

 その情報インプットしてなかった気がするんだけど。

 

 

 




【創った呪具】
・纏帳
・幻灯の魔物
・黒閃銃 
・内包領域展開型のトランクケース
・呪力を貯める呪具の複製
・幻灯の魔物(移動用であり擬態可能)New!

【創った呪骸】
・ぺけ(最初に創った人形の呪骸)
紬屋雨(つむぎやうるる)(出典、BLEACH)
・パック(出典、Re:ゼロから始める異世界生活)New!

 
【弟子】
紬屋雨(つむぎやうるる)
・東堂葵 New!



 パックを知らない方の為に簡単な説明。

 リゼロより主人公のヒロインである銀髪のハーフエルフのエミリアと契約した大精霊。灰色の猫の姿で氷の魔法を使い、契約した人間には優しく、子供のように世間を知らないエミリアに保護者のように様々な事を教えていたり、優しい精霊ではあるのだが、戦う時は契約者の害を成す人間に容赦はしない。

 そして、契約した人間が死ぬと溜め込んだ膨大な魔力から世界を凍土に変えて滅ぼす。契約した人間を愛している故に、その存在が消えた時に世界を生きる意味がなくなり、世界を滅ぼす終焉の獣へと変わる。その力は公式チート以外に倒せる人間はほんの僅かしか居ない。

 性能については次回紹介します。

★★★★★
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二十

すみません。
指摘があり、前書き消しました。励ましてくれる読者の皆さんに本当に感謝しています。


 

 

 

○月☆日 晴れ

 

はい!新しく仲間に入ったパック君です!みんな拍手!

とまあ、恐らく特級呪骸。終焉の獣パックを創った。そう、逆に考えるんだ。俺が危険だから殺しに来る?ならば俺を殺したら脅威になるものを創ればいいのではないか……と。

 

夜蛾先生ごめんなさい。

胃痛の原因を増やしちゃったZE☆

 

と言う訳で一体目の抑止力として創ったパックなのだが、パックの呪力は五条さんの四倍ある。そして、俺と同じ構築術式を使える。反転術式は使えるかもしれないが今はまだ使えない。創られたばっかだし。

 

パックの強みは熱を奪うことで氷を生み出し、物量で押し切れる超攻撃型呪骸であること。内包している呪力量から構築術式のままでも氷を出す事が出来る。そして、指向性の調整も完璧。そういうコマンドをしっかり入力していたから後は学習していけば更に強くなるだろう。

 

パックも強いのだが、問題が一つあるらしい。

 

活動している時に常に呪力を消費している。活動時間の呪力消費に呪力の回復が追いついていないのだ。

 

活動時間は約8時間、それ以上はもう一つの核から呪力を補わなければならないので、それ以降はスリープモードに入るらしい。眠っていると呪力の回復速度が上がるらしい。

 

あとは、空を飛べずに浮けないくらいか。

その機能は幻灯の魔物のようなタイプじゃないから難しい。後々術式が手に入ったら空を飛べるようするのが今後の課題か。

 

 

あと、終焉の獣の条件は『上の情報の違いによって呪霊に殺された場合』と『呪詛師に闇討ちされて殺された時』のみにしてる。流石に創ってなんだが、世界を滅ぼせる怪物を創って単純に死んだから世界を滅ぼすとか危ないし。なのでこの情報を流せばほぼ問題ないだろう。

 

 

要するに、テメーらのせいで死んだんだから責任はテメーらで取れ、だ。

 

 

……さあ五条さんに連絡しよう。

とりあえずパックの脅威を示す事から始めよう。

 

 

 

○月♪日 晴れ

 

五条さんに「……オマエ正気か?」とマジトーンで言われた。地味に心が痛かった。とはいえ、上層部にその事実を叩きつければ確かに抑止力になるとの事で特級任務で合流した。

 

一級が二体居るとの事でパーカーのフードで眠っていたパックを起こして、倒せるか聞いた。返ってきた言葉は「廃墟ごとやっていい?」だった(恐怖)一応五条さんにも聞いてみたらいいらしいのでやってもらった。

 

そろそろ暑くなってくる時期だ。

それなのに寒いと感じるほどに空間は冷え込む。それは一瞬だった。一瞬で廃墟全てが凍っていた。

 

これには五条さんも表情を引き攣らせ、俺も目を見開いた。

因みにこの技と出力はあとどれくらい上げられて何回できるか聞いてみた所、出力はあと三倍くらい上げられて、今の出力なら十回くらいは余裕らしい。

 

 

まあ構築術式の炎とか冷却は通常より燃費がいいのは知っていたが、マジかよ。これで呪骸なのだ。俺も驚いた。

 

 

確認しに身体を摩り震えながら廃墟に入ると一級呪霊は全て凍っていた。「えいっ☆」とパックの可愛らしい声と共に崩れ去った。

 

 

一級呪霊が瞬殺はやべえ(白目)

 

とりあえず報告を五条さんに任せて、パックの暴走の条件を上層部に持っていってもらった。ある種の抑止力は中々いいかもしれない。呪いの時代を望んでる奴らのメリットを増やす事になるが、大抵の事ではやられないだろうし、まあ上層部も下手に突っかかる事は出来ないだろう。

 

俺と五条さんは寒さでクシャミをしていた。

帰りにコノハさんが暖かい飲み物を買ってくれた。

 

 

 

○月◆日 晴れ

 

抑止力案件はなんとかなった。

禪院に卸す呪具も完成したし、どうすっかなー。黒閃での瞬歩モドキは未だ不完全だし。黒閃で着地するのは動体視力上げても難しいから、どうあがいても限度がある。

 

 

そもそも、狙って放てるものじゃないのを狙って放てるくらいに意識を張り巡らせる事は出来てもそれ以上は流石にキツい。直進にしか進めないし、アイデアは良かった筈だ。

 

 

一瞬の速度だけなら投射呪法より上だ。

しかし、直進しか出来ずに小回りが出来なきゃキツい。

 

 

俺の呪力の制御力からしたら、呪力の身体強化なら将来的には五条さんと同じくらいにはなるだろう。出来ない事は創ったもので補えばいい。ただ体術面は上げておきたいんだよなぁ。

 

 

黒閃が一回出さえすれば後は狙って出せるくらいのレベルまで出来るようになったら、そのスタイルを貫くべきなのか。新しいスタイルを模索するべきなのか。

 

 

呪霊に逃げられたら追いつけないと困るんだよな。大抵は追いつけても、逃げられると面倒だし。  

 

 

うーん。暫くスタイルを探す事にするか。

 

 

 

○月%日 晴れ

 

東堂が俺に一対一を希望した。

ご希望通りに戦った。センスは光っている。俺の攻撃の瞬間に入れ替えて蹴り返そうとするが、秘伝『落花の情』で纏った呪力でカウンターをお見舞いする。

 

これ結構便利だ。日常でも1ミリ単位で呪力の膜を張り身体を循環し続ける。これなら不意打ちされても呪力が反応し、致命傷は避けられる。呪力を回し続けて、頭が焼き切れる事があっても自己補完の範疇で反転術式も使えるし。

 

俺は正のエネルギーである分解を使うとガス欠になる。アレは単純に呪力が負のエネルギーの二倍だし。

 

まだまだ勝ちは譲らない。

まあ、こればかりは経験の差だ。負けたらセンセーが化けて出てきそうだし。いや、そんな事があるなら見てみたいけど。

 

 

十回やって今は十回勝ってる。

因みに俺の呼び方は何故かマスターらしい。マスターって、師匠の意味合いあったっけ?

 

 

 

○月☆日 曇り

 

五月の後半、戦闘スタイルに悩んでいた。

 

呪霊の攻撃が来た瞬間に分解と構築の力場を展開し、呪法シリーズでトドメを刺す。それだと体術面が疎かになる。触れれば勝ちなのに、動かないのもどうかと思うんだよなぁ。

 

東堂の術式を使えても、なんか嫌だ。

変に上澄みだけを掬い取って自分が使うのはなんか違う。自分だけのスタイルを確立したい。

 

分解したエネルギーを使って加速。

それが使えればいいのだが、仮に光の速度で移動したら肉体が耐え切れない。エネルギーそのものは危険過ぎる。

 

 

 

……エネルギーに指向性を持たせるんじゃなくて、エネルギーを指向性に変えられるか?エネルギーをベクトルに変えてクソ重い拳をお見舞い出来るか?

 

いや、反作用がキツイな。

拳にかかる負荷を分解とか、今の俺には難しい。

 

 

いや、でも指向性を理解出来ればベクトル操作みたいに出来るか?ちょっと、暫くはその方向でやってみるか。

 

 

 

 

○月■日 雨

 

エネルギーを全て指向性に変える。

過去一で難しいかもしれない。俺はエネルギーをエネルギーに関連するものに変換することだけなら難しくはなかった。

 

しかし、『力』そのものはエネルギーとは少し離れている。構築術式で指向性は生み出せる。しかしそれだと燃費が悪い。部分的な方法ではいいかもしれないが。

 

そういえば俺はどんな攻撃の力も分解し分散しているのに、重力と言ったものを分解した事がないな。

 

ちょっと、解釈を変えてみるか?

分解で全てをエネルギーを変換するんじゃなくて、力のみを分解し続ける。

 

……明日試してみよう。

 

 

○月★日 晴れ

 

(うるる)に頼んで野球ボールを投げてもらい、その力のみを分解出来るか試してみた。

 

結果は成功だった。

ボールが俺の前で止まり、地面に落ちていく。ただ、向けられた力はエネルギーに変換出来ない。分解した力そのものは分散してしまうらしい。

 

今までオール分解だったのをやめて選択肢に『力』のスイッチを増やすことが出来た。そして分解の感覚は掴めたので自分にかかっている重力を分解出来るか試してみた。

 

 

無重力になり、ふわふわと浮いた。

成功した。エネルギーを誘導する時と同じように構築術式で指向性を生み出し、暫く鳥の気分を味わった。ただし、指向性は複雑なものは出来ない。上下前後左右で一方向に真っ直ぐしかいけない。

 

でもこれなら高速移動の課題はクリアしたんじゃないか?後はこの状態に慣れて、使い分けさえすれば。

 

あと呪力消費がキツい。

絶えず分解を続けているのだ。恐らくこれも呪力を得なければ六分が限界だろう。まあ要所要所使っていけばいいし、スタイルの確立までまだ時間がある。

 

 

でも、中々速い移動は出来るようになった。

いいじゃん構築術式。誰だよクソ弱いとか言った奴。

 

 

○月※日 晴れ

 

ツボミさんがぐったりしている。

あっ、これなんか疲れてる奴だな。上層部の案件で。

 

この人にも大分迷惑かけてるな。本当にすみません。

 

今日の任務はただ一つ。

ある村の二級呪霊の討伐である。神隠しが起き始めた事により、任務として上がった。土地神とかあるのかなとか思いつつ、その村に向かった。

 

到着し、ツボミさんが説得する。

その村では「子供が調査するの?」みたいな顔されたが、気にせずに呪霊を討伐した。とりあえず、これなら問題ないはずだ。

 

ただ、変に神社が古いせいか信仰により呪霊が早く生まれそうな村だなと思いながら、終わった事を報告し帰ろうとした時に、俺より少し小さい男子達が何かを囲って蹴ったり石を投げたりしているのを見掛けた。

 

その様子を見ていると、僅かに呪力の気配がした。

男子の首が縄で縛られている。それを見た俺は縄を分解し、男子達を押し退けて囲っていたものを見た。

 

二人の女の子がいた。

顔が腫れているし、血やあざが酷いし、震えながら俺を見る二人の女の子がいた。

 

 

 

 

 

 

 

……アレ?これ、もしかしてミミナナじゃね?

 

 

原作だと牢屋に閉じ込められてなかったか?

しかもまだ五月だ。えっ、どうなっているんだ?原作での夏油さんエンカウントまで三ヶ月以上あるぞ?

 

……何かが、ズレ始めてる?それとも原作通り?

 

どうなっているのか分からずに俺は混乱していた。

 

 

 

 

 

 




【パックのステータス】

・呪力量  規格外
・呪力質  ★★★★
・呪力操作 ★★★★
・体術   猫パンチでどうしろと?
・術式   ★★★

 ※五段階評価。術式に関してはレアリティ。


★★★★★
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良かったら感想評価お願い致します。
明日はお休みします


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二十一


 今回日記形式じゃないです。
 ミミナナ編です。前編、後編に分けます。すみませんが明日はバイトがあるのでお休みします。

 それではどうぞ。


 

 

 

 原作の美々子と菜々子は九月頃、牢屋に閉じ込められていた。それを機に夏油さんは呪詛師としての人生を歩き始めた。

 

 今は五月の後半、そろそろ六月だ。 

 原作通りなら後三ヶ月はある。この二人は虐められてはいるが、牢屋に閉じ込められていない。いや、閉じ込められている事前提で話してもアレなんだが……

 

 

「なんだよテメー!そのヨーカイのみかたかよ!!」

「あ"っ?」

 

 

 ああ、そう言えば村での環境は最悪だったか。

 確かにこれはウザイな。自分が虐められる立場なら加害者の鼻の穴に指突っ込んで背負い投げしている。もしくは蹴り潰す。その経験者が畏怖を抱くからだ。

 

 実際やった事はない。

 この世界ではやれる自信があるけど。

 

 

「おいガキども。さっさと帰れ」

「うるせっ!!ヨーカイのなかま!!」

「やっちゃえ!!」

 

 

 投げられた石の全ての力のみを分解する。

 壁に遮られたかのように石は止まる。石を二つ拾い、呪力で強化した肉体で思いっきりガキどもの足下に投げる。石は地面にめり込んでいた。

 

 

「こうなりたくなかったら失せろ。それか死ね」

 

 

 バキッ!!と握りしめた石が砕けて手の平から落ちるのを見て、ガキどもは恐怖で叫びながら逃げ帰った。なんか不快なものを見た。この世界、呪術師の扱いが酷くない?呪霊と戦っていつか死ぬか不当な扱いをされるかの二択じゃん。

 

 

「……大丈夫か?」

「………」

「……わたしたちを、ころすの?」

「なんでさ」

 

 

 二人の頰に触れ、反転術式を施す。

 女の子が殴られたりするクソみたいな村はここだったのか。そりゃあ夏油さん闇堕ちするわ。

 

 

「痛くないかい?」

「あっ、えっ?いたくない!」

「もしかして、わたしたちとおなじ?」

 

 

 そんな事を考えてるとツボミさんが騒ぎを聞きつけてやってきた。まあ、非術師に対しての威嚇のような事をしたのだ。焦ったような様子で此方に走る。

 

 

「ちょっ!?荒夜くん、何してるの!?」

「ツボミさん。今日の任務ってここだけだったかい?」

「えっ?う、うん。任務はもう無いし後は君を送ったら終わりかな?」

「ちょっと緊急事態だ。この二人、呪術師の才能がある」

「!」

 

 

 ツボミさんが目を見開く。

 この二人からは呪力を感じる。恐らく、原作で夏油さんに救われる筈だった二人だろう。

 

 

「君たちの両親はいる?」

「いない……でもばあばがいる」

「すまないが、案内してもらってもいいかい?」

 

 

 ばあば。この言葉は知らない。

 両親は居ないのは知っている。二人を身篭っていた頃から、両親は呪霊が見えていたようだ。

 

 ……誰か、この子達の味方がいたのか?

 

 でも、それなら納得出来る部分がある。

 牢屋に入れられず、親が居ないのに生きている理由が誰かに育てられたのなら、説明がつく。

 

 

「なんで……?」

「君たちの力について、心当たりがある」

「!」

「……!ほ、ほんと!?……あっ、これ言っちゃダメってばあばが」

「大丈夫。少しだけお話ししに行くだけさ」

 

 

 二人はお世話になっている人の所へ案内してくれた。道中にツボミさんが私に質問する。

 

 

「どうするの荒夜くん?」

「ツボミさんは案内してもらった後に一度車に戻って外で待機。車のトランクからアレ持ってきてもらってもいい?」

「ああ、新しい呪具だよね?いいけど、説得私がした方がいいんじゃない?」

「一応外にいてください。ばあばって事は御高齢の可能性がある。余り多くの人が押し入っても困るだろうしね」

 

 

 大抵の予想は出来る。

 もし、この予想が正しいなら、牢屋に入れられた時には育てていた人が既に亡くなっていた可能性が高い。あの神社も信仰から来る負の感情と、この村の認識から撒き散らされる嫌悪感。呪霊が再度現れる可能性だって当然ある。

 

 

「ここ……」

「おせわになってるばあばの家」

「入っていいかい?」

「いいけど、さわがないで」

「大丈夫。そんな事はしないさ」

 

 

 家は大き過ぎず小さ過ぎない少し昔を思い出すような造りで、玄関を通ると独特の木の匂いがして、何処か懐かしさを感じる。転生する前の自分を思い出させてくれるような、そんな場所だった。

 

 そこに、育ての親代わりになってくれている人が布団の中で眠っていた。歳は恐らく80代後半くらい。かなり御高齢の方だ。

 

 

「ばあば、お客さん」

 

 

 美々子が軽く揺するとお婆さんは軽く目を開ける。その様子だと殆ど目も見えてないだろう。輪郭が僅かに見える程度かもしれない。魂に一度だけ干渉したことがあるからボンヤリと分かるのだが、この人はもう長くない。魂の核が小さいように感じるのだ。

 

 

「……ん……おや、これまた可愛らしい…お客さんだね……」

「ああ、そのままで結構です」

 

 

 身体を起こそうとするのを止め、その状態のまま話を聞いた。

 

 

「貴方は……見えていますか?」

「呪霊…と呼べるものは見えない。けど、見た事はある…」

 

 

 その意味を上手く理解できなかった。

 呪霊を知ってはいるが、見えないのに見た事がある?

 

 

「昔、アタシも…呪霊というのに襲われた事があってねぇ……呪術師に助けてもらった時に…色々と知ったよ」

「……ああ、成る程」

 

 

 襲われる時、見える事がある。

 呪術師が助けてくれた時に、呪霊や呪術師の事を知ったのか。力を言いふらさない事を二人に忠告したのもこのお婆さんだろう。異端は毛嫌いされる事がある。他人との違いを理解出来ない。

 

 

「……だから、この子達を?」

「……この村では、酷い扱いを受けてしまってるこの子たちを放っておけなくてねぇ……親が死んでしまった後、アタシが引き取ったが…今じゃこのザマさ……」

 

 

 恐らくその当時でも八十歳くらい。

 美々子と菜々子が何歳か聞いてみると七歳らしい。つまり一個下か。七年もこの二人を老い先短い人生の中で育てていた。

 

 大体わかってきた。

 美々子と菜々子の両親は恐らく早いうちに村の奴らに殺されたのだろう。そして、二人ぼっちになった時にお婆さんが引き取って一緒に暮らしていた。

 

 原作が開始する前、正確にはこの後の三ヶ月以内にお婆さんが亡くなって同時に美々子と菜々子の味方が居なくなり牢屋に閉じこめられた。呪霊の起こした怪奇現象が二人の仕業だと思い込んで。そして九月、

 

 

「……そうでしたか。今まで本当に頑張りましたね」

 

 

 この二人が殺されていなかったのも、このお婆さんのおかげなのだろう。もう歳だ、長くはない。下手したら数週間で息を引き取る可能性が高い。

 

 

「……坊や、頼みがある」

「私に出来る事なら……」

「坊やは…この子達の味方をしてやってくれ……」

 

 

 この人は善人だ。

 恐らく、自分の死期を悟っているのだろう。最後まで、この二人の事を思っている。思っていて、居なくなってしまった時の事を考えているのだろう。

 

 ここは地獄だろう。

 だからここに居れば二人がどうなるかわからない。お婆さんはその事を知っていても動けない。

 

 

「はい。必ず」

 

 

 お婆さんとの会話はここで終わった。

 無理に押しかけた謝罪を述べた後に外に待っているツボミさんからトランクケースを受け取り、二人に渡す。

 

 

「これ、何?」

「これを君たちに渡しておく。あと、これ私の電話番号。もし、お婆さんが起きなくなったら私に電話してくれればいつでも駆けつける。もし、君たちが怖い目に遭った時は、このトランクケースを開きなさい」

「荒夜くん!?」

「いい。少なからず、今は無理」

 

 

 二人はお婆さんから離れたくないだろう。

 私も無理に二人をお婆さんから引き離すのは余りお勧めはしない。三人を移動させる方がいいかもしれないが、お婆さんは御高齢の方だ。長距離の移動も体力を考えて厳しいだろう。

 

 トランクケースには幻灯の魔物の移動用擬態が入っている。何があれば、村から出れるようにコマンドを打ち込んだ。

 

 

「これだけは覚えておいてくれ。私は君たちの味方だよ」

 

 

 夏油さんに救われる筈だった子供に手を差し伸べるのに罪悪感がある。本来なら、闇堕ちしていた夏油さんの所で二人が幸せだったのに、それを奪っていいのか。

 

 夏油さんの闇堕ちを回避するためと打算的な感情で優しい言葉を吐く自分が、気持ち悪い。

 

 けど、救われてもいい筈だ。

 救ってもいい筈だ。死ぬよりマシなら、手を伸ばした方がマシなのかもしれない。

 

 

「……あの」

「ん?」

「えっと、ありがとう」

「あの時、助けてくれて」

「どういたしまして」

 

 

 二人の頭を軽く撫でて、車に向かう。

 二人とも、無理矢理連れ出してもいい。それなら夏油さんの闇堕ちする事も無くなるだろうし、連れ出される事自体は悪くないと二人は思うだろう。ただ、ここで連れ出してしまえばお婆さんはひっそりと死んでいくだろう。

 

 それでも、今は連れて行けない。

 此処は漫画の世界でも、現実なのだ。目の前にいる人達は生きているのだ。原作だからといって簡単に連れて行けない。それに、此処にはお婆さんがいる。

 

 心に傷を残す事は悪い事かもしれない。だけど、いつか来る別れは心に刻みつけなきゃいけない時だってある。

 

 そうしなきゃずっと後悔するからだ。

 あの時、自分が居たらと思って後悔する事は私もあったから。

 

 

「……うーん。ままならないなぁ」

「何が?」

「なんでも……」

 

 

 死期が分かるからと言って死ぬまで放っておく自分はクズだ。だが老衰に対しては、どうあがいても自分に出来る事はない。死なせないという選択肢はないのだ。

 

 だからこそ、あの擬態型の幻灯の魔物を渡した。それでどうこうなる問題かどうかはまだ分からない。 

 

 少なからず、差し伸べられる手を今はまだ出さない。ただ、打算的な考えで二人を救おうと考えてる自分に嫌気が差した。

 

 

 

 ★★★★★★

 

 

 一週間が経った。

 東堂と(うるる)が戦っているのを眺めながら戦い方を指摘をしたり、自分も闘ったりしている中で、携帯から着信音が流れた。

 

 番号は不明。

 もしかしたらと思い電話に出ると、泣きながら助けてと言ってきた美々子の声が聞こえた。

 

 

「何があった?」

「ばあばが、目を開けてくれないの!!」

「わかった。直ぐに行く。家から絶対に出ないで!」

 

 

 電話を一度切り、地図を広げる。

 距離的には遠過ぎないわけじゃない。研究所に置いてある『幻灯の魔物《蒼鷹》』を開いて上に乗る。擬態用ではないから一般人に見つけられる可能性はあるが、この際仕方ない。

 

 

「東堂、悪いが今回の修行は中止だ。私は行かなくちゃいけない」

「マスター、何かあるんだな?」

「ああ、(うるる)は先に帰ってくれ。パック、フードの中に入ってろ」

「気をつけて、くださいね?」

「りょーかーい」

 

 

 センセーが使っていたバイク用のゴーグルを付け『幻灯の魔物《蒼鷹》』に乗って、美々子達が居る村まで向かった。

 

 この後、どうなるかなんて関係ない。

 救えるなら救いたいし、出来る事は全部やっておきたい。助けた後に二人とどう接していけばいいかもわからない。

 

 転生者でもこの世界を生きているのだ。

 本当に未来が変わったとしても、助けたいと思うのが悪い事なのか。

 

 

「……とにかく、無事でいてくれよ」

 

 

 呟いた言葉は本音だったのか。

 今は、それすら少しだけ曖昧だった。

 

 

 





【作者の気持ち】
原作を台無しにしないように、救えるだけ救いたいと思う事に葛藤している荒夜くん。普通にどうしたらいいと思う?闇堕ちしても幸せだったら、見逃した方がいいのか。でも、救えさえすれば別の人が救われる。救ったからと言って幸せになるとは限らない。

この変な葛藤……分かる?

★★★★★
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二十二


 二連勤が四連勤になった事実に泣いた。
 腱鞘炎もあっておかげでだいぶ遅れてしまいました。すみませんでした。

 ミミナナ編は完結です。次から日記に入ります。
 今回少しシリアスかな?ではどうぞ。



 

 

 ばあばが、目をあけなかった。

 そのとき、わたしたちはこわくなった。ないて、たすけてとさけんだ。

 

 ばあばはやさしかった。

 パパとママがいなくなって、美々子と二人ぼっちだったわたしたちを育ててくれたのは、ばあばだった。

 

 ばあばがいなかったら、わたしたちは生きていないかもしれない。

 

 わたしたちはいつもいじめられていた。

 わたしたちにはほかの人とちがうとくべつな力があった。ばあばは、それをだれかに言ってはダメだとわたしたちに言った。

 

 そうしなければ、いじめられることよりひどいことになるかもしれないからと。

 

 ばあばが、目をあけてくれない。

 ゆすっても、ばあばはおきない。からだがつめたい、ふとんのなかにいるのに……

 

 こわくなった。

 こわくてだれかにたすけてほしかった。

 

 どうすればいいか、なやんだときにおもいだした。

 

 あの、ふしぎなおとこのこを。

 あのおとこのこならばあばをたすけてくれる。そうおもって黒でんわをかけた。

 

 すぐにいくときいたとき、ホッとした。

 あのおとこのこがきてくれる。ないてるミミコをだきしめてわたしもふるえていた。

 

 ドアをたたくおとがした。

 おとこのこがきてくれた。そうおもってとびらをあけるとたくさんの大人たちだった。

 

 手にくわやおのをもっている。

 こわくてドアをしめてかぎをかけた。ぜったいにでるな。そういっていたおとこのこのことばのいみがわかった。

 

 大人たちも、てきなのだ。

 わたしたちがなきさけんでいるこえで、ばあばになにかあったことがわかって、みんながわたしたちをつめたい目でみていた。

 

 バンバンとつよくたたかれるおとがした。

 こわくて、おとこのこからもらったトランクケースをもっておしいれにかくれた。

 

 

「ナナコ……!こわい……!!」

「だいじょうぶ!あの人がきてくれるから!!」

 

 

 ドアからものすごいおとがした。

 ドアをこわそうとしている。美々子をだきしめながらかくれている。みつかったらどうなるかわからない。

 

 がしゃんとおとがした。

 ドアがこわれるおとがした。ろうかでギシギシとおとがきこえる。もう、ダメだとおもった。

 

 だけど……

 

 

『もし、君たちが怖い目に遭った時は、このトランクケースを開きなさい』

 

 

 そのことばをおもいだした。

 おしいれのなかはくらくてみえないけど、さわってどこをはずせばいいのかをさがす。ガチャガチャとあせってあけるのにじかんがかかる。

 

 おしいれのちかくでおとがきこえた。

 手をかけられた。おしいれがひらく。それとどうじにトランクケースはひらいた。

 

 わたしたちのめのまえがまっくらになった。

 

 

 ★★★★★★

 

 

 私こと荒夜緋色は『幻灯の魔物《蒼鷹》』に乗って時速600キロで空の旅をしていた。正直な話、めちゃくちゃキツかったので口の中に入った。狭いけれど。空気抵抗とか尋常じゃない。なんならゴーグルが食い込むし、風が痛いと感じるレベルだった。

 

 カッコつけて乗って進んでみたが、無理だ。

 空気抵抗や風圧の力の分解も六分くらいしか使えないので口の中に入って進んでいる。エネルギー分の物資は持ってきたのでエネルギーが切れる事はないだろう。

 

 

「!……この反応」

 

 

 二人が『幻灯の魔物《伽藍鳥》』を使ったのか。

 村まであと数十キロの時に私が込めた呪力を感じた。幻灯の魔物は俺が込めた呪力によって発動したタイミングや位置が分かるようにマーキングしてある。

 

 となると、何かあったな。

 トランクケースを開かなければいけない状態になるほどの事があった。とは言え、室内で使ったっぽいな。その場から移動してないので、二人を咥えて守りに徹している。

 

 

「とにかく急がないとな」

 

 

 スピードを限界まで上げて、空を駆け巡る。

 これは戦闘用だから運ぶものではない。多少の風圧は分解を使いながら進んでいく。もうすぐ着くし出し惜しみは無しだ。

 

 あとどうでもいい話なんだが、ペリカンの別名って伽藍鳥って言うんだぜ?

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 

「ハァ……ハァ……着いた」

 

 

 分解を四分以上続けていたせいか、呪力がかなり消費された。なんか思ってた以上に時間がかかった。最速で若干の風の被害を分解したまではいいが、それでも普通に時間がかかった。村まで辿り着けはしたが、かなり満身創痍な気がする。かなり疲れた。

 

 

「パック、念のため起きなさい」

「ふぁ〜い」

 

 

 目に見える脅威としてはパックの力が最適解だろう。威嚇程度に攻撃を放つ事も念頭に入れ、あのお婆さんの家に向かうと、そこには多くの村の住民が家を取り囲んで武器を持っていた。

 

 

「……やっぱクソだな」

「ヒロ、顔」

「分かってる。けど、やっぱりいい気はしない」

「それには同感かな」

 

 

 私が呪詛師なら皆殺しにしている。

 とりあえず、二人が無事か調べる必要がある。トランクケースを閉じ、蒼鷹を引っ込める。

 

 

「あっ、おい……!近寄るな!何が起きるか」

「私の顔、もう忘れたのか?」

「あっ、貴方はこの前の……!」

 

 

 村長っぽい人の声が上がる。

 前回、異変が何処であったのかを教えてくれた人だ。この村の呪霊を祓ったのが一週間前だ。覚えているのは当然か。

 

 

「この事態は私が預かる。異論は?」

「こんな子供に……?」

 

 

 指を鳴らすと、氷柱が地面に突き刺さる。

 正直な話、思った以上にイラついているのだろう。パックもそれを察して氷柱を住人の前に落としている。

 

 威嚇程度とはいえ、そんな現象が起きる異常を排除しようとする奴等には通用する。

 

 ハッキリと分かるように告げた。

 

 舐めるな、と。

 

 

「子供だからって甘く見ない方がいいよ。私、その気になれば世界を壊せるんだぜ?比喩抜きで」

「ひっ……!」

「怪奇には怪奇。呪いには呪い。それが理解できないと言うなら無知を恥じるんだね」

 

 

 騒つく住民を退かせ、お婆さんの家に入る。

 押し入れが大破している。『幻灯の魔物《伽藍鳥》』は翼で身を丸めて、二人を咥えて部屋に閉じこもっている。

 

 二人を守る事と最悪の場合は連れ出して逃げるコマンドを打ち込んでいたおかげだろう。

 

 

「ありがとう。二人を守ってくれて」

 

 

 身を丸めている伽藍鳥を撫でた。

 伽藍鳥は口を開けて、気を失っている二人を吐き出し、トランクケースに戻っていく。

 

 

「二人は……大丈夫かな。怪我も無し。緊張と恐怖で意識を失ってるだけか。パック、二人を少し見ていてあげて」

「はーい」

 

 

 もう一つの部屋の障子を開ける。

 お婆さんは布団の中で安らかに眠っていた。脈は既にない。残念ながら亡くなっている。

 

 

「……」

 

 

 無言で手を合わせ、目を瞑る。

 死因は多分老衰だろう。この人はかなりの御高齢だったから、おそらく間違いはないだろう。呪術を使用された残穢は無し。二人が原因という事はあり得ない。

 

 

「黒電話か……。あんま使った事ないんだよなぁ」

 

 

 なにせ使ったのが前世のガキの頃だ。

 操作方法がうろ覚えだが、どうにかしてツボミさんに連絡を入れる。ガラケーだと繋がんない。固定電話しか使えないのでとりあえずうろ覚えの手順で番号を入れ、電話をかける。

 

 普通にかかった。

 前世の記憶も、捨てたもんじゃない。まあ、前世の記憶のほぼ九割がこの世界に影響を与えているとも思うが。

 

 

「あっ、もしもしツボミさん?荒夜です。こんな時間帯で悪いんですけど、一週間前に来た村に迎えに来てもらってもいいですか?……まあ色々あって、あと老衰による死亡ってどう対処すればいいですか?一応呪術関連じゃないけど、育ててた子が呪術師の才能があるし……あっ、こっちの業界で引き取れるの?んじゃ、すみませんがそっちの人の手配もお願いします」

 

 

 ツボミさんに連絡し、黒電話を元に戻す。

 よくよく考えれば、呪術界も暗黙の存在に近い。呪詛師を殺してもいいし、秘匿処刑を決められる。だから死体の扱いだったり、葬儀屋だったり此方側で引き取れるとのこと。

 

 確かにこの業界、イカれているしな。

 むしろイカれなきゃやっていけないレベルのドス黒さがあるわ。

 

 

「ヒロー、二人が目を覚ましそう」

「!」

 

 

 パックの声に私は二人の所に向かう。 

 二人とも、目を覚ましそうだ。目の所が僅かながら動いている。……あっ、目を開けた。

 

 

「大丈夫かい?」

「……っ!」

 

 

 近くにあった縄が飛んできて、首に巻き付く。

 分解して防ぐが、もしかして美々子は防衛本能から無意識に呪術を制御出来てる?だとしたらかなりの逸材だ。

 

 

「待った待った私は味方だ。忘れちゃったかい?」

「あっ……その、ごめんなさい」

「……怪我はない?」

「う、うん」

「だいじょうぶ…ばあばは?」

 

 

 ハッキリ言うべきではないだろう。

 この二人はまだ子供だ。だけど、伝えなきゃ二人は納得しないだろう。

 

 

「……天国に逝った」

「「!」」

「君たちのせいじゃないよ。あの人は永くはなかった」

 

 

 仕方のない事なのだ。

 人はいずれ死ぬ。不変なんてものはありはしない。不死の力を持っていても変わらないものなどないのだ。

 

 

「……ハァ」

 

 

 二人の頭を軽く自分の胸に置かせる。

 訳が分からないようで困惑する二人の背中を摩り、声をかけた。こういうのはガラじゃない。年下の子供を慰める事なんてあまりやった事がない。

 

 けど、それでもこうした方がいいと思い、二人を優しく抱きしめる。

 

 

「お婆さんが居なくなって、辛かった中でよく頑張ったな」

「……!」

「泣いていい。そういう涙は我慢しなくていい。我慢したら多分一生後悔する」

 

 

 もし、あの時泣けなかったら。

 

 

 

 

 

 

「───()()、そうだったから」

 

 

 ずっと後悔していたと今でも思えるから。

 大切な人がいなくなった悲しみに涙を流せない。それが一番辛くて、一生傷として残るくらい悲しい事だと知っているから。

 

 二人は外に聞こえるくらいに俺の胸で泣き叫んだ。辛くて、いなくなってしまったお婆さんの事を想いながらただ泣いた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 泣き止んだ二人の前で私は聞いた。

 お婆さんが死んだ今、聞くことではないのかもしれないが、それでも今後に関わる事だ。

 

 

「こんな事を今聞くべきではないけど、君たちはどうしたい?」

「どう……したい?」

「私は君達を保護する。この村から離れさせる事はしよう」

「!」

「ただそのあとだ。君達には二つ選択肢がある」

 

 

 村から離れさせる事は出来る。

 この村は腐っている。呪霊に殺されようが知った事ではないと言いたいくらいだ。

 

 二人を助ける事は出来る。

 だが、今後は?高専で生きたとしたら呪術師の道は避けられない。もしこの二人が普通の女の子として生きていく事を望んだなら……

 

 

「一つ、呪術を学び、呪霊を祓う呪術師になるか。もう一つは最低限の力だけを覚え、普通の女の子として生きていくか」

「……じゅじゅつし?」

「呪いを以って呪いを祓う人間の事さ。君たちも不思議な力がある事を自覚しているだろう?」

「「!」」

 

 

 特に美々子の場合はそれが分かり易い。

 視認した縄状の物質を自在に操れる術式。それを感情の発露によって行っている。

 

 だけど、この二人が呪術師になってほしいと言うのは私の我儘だ。二人には素質があるからといって二人に生き方を強要するのは違う。ここは原作の世界でも、ここに生きている人たちは紛れもなく人間なのだ。

 

 

「死ぬ可能性もある。だから強制なんてしない」

「……わたしたちは、どうなるの?」

「まだ考えてない。高専に引き取られるか、私の家族に頼んで一緒に住むか検討はしてみる」

 

 

 いや、もしかしたら天内とか引き取ってもらえるか?女の子だし、妹が出来るとなれば喜んで引き取りそうだと考えていると、菜々子が小さく呟くように答えた。

 

 

「……なる」

「ん?」

「じゅじゅつしになる」

「ミミコもその、じゅじゅつしになる」

「……危険だよ?怖い事だってある」

「けど、こんなばしょよりマシ」

「うん」

 

 

 二人の目は本気だった。

 呪術師になりたいと二人の口から言われた以上、何も反対することはない。

 

 ……私に出来るだろうか。

 二人を助けた。あとは導く事だ。そんな事が自分に出来るかどうか不安だったが、パックが肉球を押し当て、「大丈夫だよ君なら」と言ってくれた。

 

 

「そっか……分かった」

 

 

 どうせ(うるる)がいるのだ。一人や二人増えた所で変わらない。お金は私が払うし、生活費を支える事になんの苦労もない。二人が虐待されていたと言ったら納得すると思うし。

 

 再び、私は黒電話を弄り始めた。

 また家族会議になりそうだ。これからの二人の未来について、電話越しで話し始めた。

 

 

 

 

 

 その後、補助監督とお婆さんの亡骸を引き取ってくれる業者の人達が迅速に対応し、二人を引き取る事も了承した。呪われているなら此方で対処いたしますと話すと喜んで了承した。

 

 呪術師の才能があるだけだ。呪霊の被害とは全く関係ないし、なんなら呪霊を祓う力を手放した村の連中を内心で嘲笑いながら、村を出ていく。

 

 

 二人を荒夜家で引き取る事にした。

 両親は事情を聞くと快く引き受けてくれた。美々子と菜々子は自分の一個下、夏油さんが救うはずだった二人の未来を奪ってしまったのかもしれない。

 

 けど、これで良かったのかもしれない。

 原作だろうと、ここで生きているのだ。未来をアテにし過ぎてしまえば、誰かが死ぬかもしれない未来が訪れる事だってある。

 

 原作とか関係ない。夏油さんが闇堕ちしないからとかそんな打算的な事は今は微塵にも思っていない。二人に生きてほしいと自分から思えているから。だから、後悔はない。

 

 

 

 

「……これで良かったかな?センセー」

 

 

 ただ、虚空にそう呟いた。

 未来なんて分からなくていい。目の前にいる人間を救える人間として、この世界を生きていければいい。

 

 これが救済なんて思ってない。

 

 目の前にいる人を救えるなら救う。

 助けたいと思った自分を偽らない。

 

 原作なんて関係なく、そう思えた事に少しだけ自分を赦せる気がした。

 

 

 






 結局は自己満足。
 救えるから救いたいと思うし、原作の流れ的に死んだ方がいいとか無視した方がいいとか、そんな甘い考えは止めた。

 未来が分かろうが、分からなかろうが、自分の精一杯をやってみるだけ。それが荒夜緋色が選択した生き方だ。

 だから、これは救済ではない。
 自分が選択した我儘と自己満足なのだ。



 まあ、なんでカッコつけているが、結果救いに変わりはないのだが……自己評価がだいぶ低い荒夜くんでした。


★★★★★
活動報告にて最強募集してます。最強じゃなくても実用的だと思ったものでも構いません。
良かったら感想評価お願い致します。

あと、エイプリルフール企画、いる?

一応活動報告に欲しい人がどんな形で書いてほしいか乗せておきます。リクエストが多ければ書きたいと思います。


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二十三

大学始まりそうだから投稿速度が遅れてしまいます。
すまない。本当にすまない……!完結まで持っていきたい!

とりあえずあと三話くらいで0巻まで持っていこうとおもう。UA650000越えました。読んでくださる皆様本当にありがとうございます。それではどうぞ。


 

 

 

 

○月○日 晴れ

 

美々子と菜々子が家族になった。

事の顛末を聞かせると父さんは大泣きし、母は涙を浮かべながら承諾してくれた。(うるる)の事はウル姉さんで俺の事はヒロ兄さんと呼ぶ事になった。(うるる)が胸を押さえている。

 

分かるよ。尊いよな(心臓発作一歩手前)

因みにパックはパックだ。ちょっと渋い顔された。

 

まあ流石に二人を養うとするなら相当お金が必要ならしいので、そこはちゃんと責任もって負担した。とはいえ、特級で任務が少ないとはいえ持っている金額は尋常じゃない。具体的には0が八桁もあるんだが……

 

 

 

 

○月★日 曇り

 

二人の上の名前、枷場(はさば)って言うらしい。なんか普通に名前を荒夜に変えたいらしい。一応、両親に相談したが、「名前嫌いなのか?」と聞いたら、「ヒロ兄さんと同じがいい」と言われて膝から崩れ落ちた。

 

俺の妹がこんなに可愛いだと……!!

 

すまん夏油さん。

貴方の子供(意味深)の尊さを奪ったようで本当にすまない……!

 

原作だからとか未だ自分は心の何処かでそう思っているクズ野郎だが、闇堕ちする原因が消えた事は六割強良かったと思ってしまっている。だが四割は一種のNTRみたいな事をやってるみたいで、二人の尊さを奪った事の罪悪感で一杯だった。マシマシ過ぎて俺の良心が大分抉れた。

 

 

まっしろになった……。

救えたとはいえこの変な葛藤が深く胸を抉った。

 

 

 

○月☆日 晴れ

 

東堂とミミナナが出会った。

手を出すなよと言ってから自己紹介が始まった。不安しかないが、流石に常識くらいはあるだろう。

 

具体的に言うと「どんな男がタイプだ?女でもいいぞ?」だ。お前初対面でなんて事聞いてんだ(ブーメラン)と内心頭を抱えながらため息をつく。間髪入れずヒロ兄と言われた時、これが兄の気持ちか……!!と膝をついた。罪悪感が更に胸を抉った。

 

とまあ、面白くはないがつまらなくはない存在と認知されたらしい。お前の判断基準どうなってんだ。とりあえず、東堂は(うるる)と組み手。俺は美々子と菜々子の術式をちゃんと理解する。

 

菜々子の術式はカメラを用いた呪術。

名付けるなら被写凍術と言ったところか。

 

美々子の場合は縄状の物を操作する呪術。

名前にするなら縄状操術かな。

 

細かく説明すると、菜々子の術式は()()()()()()()()()()()()()()()()だ。カメラは一瞬の事実をフィルムに焼き付けるもので、そこに呪術が介入するとカメラで撮られたものは空間に焼き付けられる。

 

ただし、焼き付ける時間はそこまで長くないし、空間に焼き付ける大きさ・重さによって焼き付けられる存在や、時間によって呪力コストが変わってくる。焼き付けるという事は撮影した空間の時間を一時的に止める事ができる。それを応用すれば外部の干渉から身を守る事も出来る。呪力量にもよるが、かなり希少な術式だ。

 

そして美々子の術式。

見た感じ縄状の物を操作する力。手から離して浮かす事も可能。手に持っている縄なら呪力の消費が極端に少ない。距離や操る縄状の物の重さによって呪力消費が変わってくる。

 

どちらも結構いい術式だ。特定の物を操る術式はありふれているわけじゃないし、普通は触れなきゃ動かせなかったりするが、近くにあれば操れるタイプは珍しい。菜々子の場合は結構希少。なんなら戦い方さえ覚えれば五条さんを除く御三家に勝てるんじゃね?

 

菜々子の場合はまだ呪力の操作が難しそうなので、俺が最初にやった呪力によって光る色が変わる棒を渡して映画鑑賞。美々子も同じようにやった。菜々子は色の維持にやや難ありだが、美々子は終盤で色の維持が乱れた。

 

最初だしこんなものだろ。

東堂の場合はセンスがかなりのものだったし、比べる事ではないが、普通はこんなものだ。俺を含めて最初からイカれてる奴等に比べたらまだイカれてないし。

 

 

……俺が言うのもなんだが呪術師ってマトモな奴らがいないよね。俺も含めて。

 

 

 

○月★日 晴れ

 

そういえば大分口調に慣れてきた事に気づく。

私と言う言葉に違和感がなくなったので日記に私と書こうかな。出来る限り私を意識して使っていたが、一年と数ヶ月すれば自然とそうなっていくのは当然か。

 

美々子達も呪術の特訓は週二回にしている。

流石にまだ子供だし、体力も多くない。私、東堂や(うるる)は例外。東堂には『幻灯の魔物《伽藍鳥》』を渡しているから移動がスムーズになり、多くて週三以上来ている時もある。その時はちゃんと連絡してくる。

 

東堂については簡易領域を習得中。

(うるる)については領域展延でカウンター動作が出来るか片っ端から試している。

 

簡易領域と領域展延には違いがある。

 

簡易領域は便利なのだが、結構弱点があったりする。

メリットは必中に限りなく近づけられる事と領域展開内での必中の回避、踏み込んだ存在の感知だ。

 

シン・陰流の簡易領域は全自動動作も存在し、必中に近づく故にその分の軽い補正が入る。決まった動作やそれに近い動作に対しての軽い補正が強み。通常の約1.2倍くらいには上がる。

 

一見強いが、地面に足がついていなければ成立しない。逆にオート動作が無く、補正がない代わりに地面に触れずとも成立し、動く事が出来るのが領域展延だ。

 

本質は殆ど変わらないが、要するに『動ける領域展延』か『動かずに使う簡易領域』だ。(うるる)がやろうとしている事は『動ける簡易領域』だ。簡易領域のいい部分と領域展延のいい部分を取り入れた新しい領域術を使いたいらしい。

 

敢えて術式を刻んでいないから、更に成長出来る戦い方はそれくらいしかないかもしれない。

 

今度、徒手格闘以外にも武器を使わせてみようかな。

 

 

 

○月♪日 曇り

 

五条さんの無下限術式の劣化コピーを試してみた。

無理だった。六眼って凄いんだな。無限は至る所にあるとは言ったがそれすら感知できない。五条さんの無下限術式の本質は『捉えた空間から無限を操る』と言う事なのだろう。その無限の空間をマイナスにすれば引き寄せ、プラスにすれば弾かれる。

 

空間が無限と言うわけではなく、空間に存在するであろう無限を引っ張り出せる。存在するであろう無限を感知するのが六眼だ。

 

これは私には不向きだ。

つーか、空間と言う曖昧な定義の中から無限を見つけられる六眼が強過ぎじゃね?

 

そろそろ魔眼系の研究してみるか?

いや、今は忙しいしもう少し時間が経ってからにしよう。

 

 

 

○月※日 晴れ

 

ガチで暑い。八月後半の最高気温は36度だ。

もうしっかりした夏だ。両親が旅行するなら何処に行きたい?と聞いてきた時に咄嗟に身構えてしまった。くまの力とか使えるのかと思ってしまったじゃないか。肉球なんてないけど。

 

海に行きたいとミミナナ、温泉入りたいと私と(うるる)。おい、ジジ臭いと言うな。夏休みに入って私の任務も多くなってきて疲れが溜まってきたのだ。その事を見かねた両親が熱海に旅行を企画した。よし、任務早めに終わらせてこよう。

 

あと、上層部から連絡があった。

(うるる)の事が呪骸なのがバレた。精霊呪骸として創ったパックはともかく、完璧な人間の構築についての質疑応答らしい。

 

中指立ててふざけんなクソがと言ってやりたい。

と言う訳で明日高専に行く事になった。

 

 

 

○月$日 晴れ

 

完璧な人型呪骸についてめっちゃ聞かれた。

面倒だったので魂以外の全ては人間と全く同じと言ったら上層部の奴等は跡継ぎの為やら強い自分専用の呪骸を創れなどクソみたいな事言ってきたので、「呪骸に欲情する変態ですか?嫌ですよ」と言ってやった。後悔はない。あとで浣腸剤でも送ってやろうか。

 

これで呪詛師扱いされたら蒼崎橙子みたいに工房創って、どっかに逃げてやろう。家族全員連れて。

 

私が創ったものを汚されたり、そんな目的の為に創りたいとは思わない。創った以上は責任がある。捨てたりそんな使い方しか考えられない腐ったみかんに苛立ちながら、高専に顔出しに行ったら灰原くんと夏油さんが話していた。

 

 

アレ……?これまさかセンセーとの邂逅シーン?

マジかと思いながら二人に話しかけた。未だ原作が頭をよぎる私だが、闇堕ちルートは回避したかったのもあった。私のせいで本来あるべき未来を奪う事を自覚した上で救いたいと思っているし、

 

 

とりあえず二人のタイプを聞く事から始まったのだが……

まさか、どうすれば呪霊を根絶出来るか夏油さんから聞いてくると思わなかった。

 

 

 ★★★★★

 

 

 

「どうすれば呪霊を根絶出来るか?」

「ああ、君の師匠はそれを研究していたそうだね」

 

 

 そういえば九十九センセーには会っているのか。

 どんな人物かはある程度でしか知らなかったはずだったが、死亡した後に詳細は聞いていたのだろう。誰だよ言ったの。

 

 

 

「まあ、無くはないが現実には不可能だ」

「!どんな事をすれば根絶出来る!?」

「簡単だよ。全人類が死ねばいい」

 

 

 冷たい水を頭からかけられたかのように夏油さんの表情が凍りついた。結論は人類が死ねば呪霊は生まれない。それだけだ。

 

 呪霊の根絶は人間の根絶と同義だ。

 だから現実には不可能なのだ。呪霊が生まれないようにするには、負のエネルギーを生み出す人間の排除をするしかない。

 

 

「呪霊の源は大体が非術師から負のエネルギーが流れる事が多い。呪術師は負の感情が制御出来るからね。だが、全人類が呪力を持つ存在になる事は流石に無理」

 

 

 先ず、脳を弄る事に対する拒絶反応が出ないとも限らないし、それが出来るのは人間から生まれた呪いである真人のみだ。私の再構築でもそこまで細かく創り直すのは無理だ。

 

 

「だからと言って非術師を皆殺しにしたら呪霊が死んだ後に生まれた人間はどれだけ生きていられる?経済や世界の均衡が崩れ、エネルギーを生み出せる人間の取り合い。平和には程遠いから現実には不可能だ」

 

 

 呪術師のマイノリティを考えると、恐らく多くても日本に500人くらいだろう。その中で見えるだけの人間が大体八割くらいか。そんな数で日本の経済も回るはずがないし、他国との戦争になるだろう。それでは描いた平和とかけ離れている。

 

 

「呪力の脱却も一つの手かもしれないが、それを上層部が引き受ける訳がない。持った才能を捨てたくないクソ共だし、現実的ではない」  

 

 

 と言うより、それは私も同じだ。

 呪力からの脱却のプランは呪霊を生まないかもしれないが、どこで不都合があるか分からない。呪力を生み出さない為に呪力を棄てる行為で万が一呪霊が生まれてしまった場合、対処ができない。

 

 だから力を捨て去れない。

 脱却は自分の首を絞める可能性がある。

 

 

「間引きも脱却も不可能。私が考えてるプランの三つ目。負のエネルギーを正の感情に変えれる装置を生み出す事が目標かな。そうすれば呪霊が生まれ難くなる。生み出されたとしても弱体化は出来る。簡単に言うなら空気清浄機だね」

「……!出来るのか?」

「絶対に創るさ。センセーに誓ってね」

 

 

 あの人が願った事であり、私が望んだ事だ。

 とは言え反転術式による正のエネルギーを生み出せるようにするにはかなりの時間が必要だ。未だ使えるのは私含めて四人しかいないし。それを量産となればかなり難しい。

 

 

 

「……最近、分からなくなっているかな。上層部含めて人間の醜悪さを見て、弱者故の尊さと醜悪さに私はどうすればいいか分別出来ないんだ。術師の終わりの見えないマラソンゲームに……どうすればいいか」

 

 

 

 うーん。天内が生きているのにこれは相当病んでいるな。何処かでSAN値チェックに失敗してないか?この人の精神がガリガリ削られている気がする。チーズみたいに。

 

 

「……思ったんだけど、夏油さんマジに考え過ぎじゃない?」

「考え過ぎ?」

「力があるからって弱者を護るのは義務じゃない。力を振るうものは力を自分の為に使うのが当たり前だ。名前も知らない人間に無条件で手を差し伸べるのは聖人か聖女だ」

「だが……」

「全ては救えない」

「!」

 

 

 そう、それは真実だ。

 全て救える人間は存在しない。存在するなら呪霊どころか他国との戦争だって終わっている。

 

 呪術師に終わりはない。

 それは真実だ。呪霊のリセットは現段階で不可能だからだ。全人類の呪力の脱却も出来なければ、非術師を間引くように殺してもどの道世界の在り方が変わってしまうからだ。

 

 終わりがない。

 終わりに近づける形に近づける事しか出来ない。

 

 

「全て救うなんて傲慢さ。私達は呪術師であってもどこまで行っても人間だ。神様にはなれない。救えるのは手の届く範囲の人間だけさ」

「………」

「弱者を護る義務なんてない。力は力だ。どう振るうかは本人次第さ。顔も名前も知らない人間を護る事は驕りが過ぎるよ。せめて目の前の人間を救う為に全力を注ぐ。それが呪術師のやるべき事じゃない?」

 

 

 呪術師は目の前の人間を護れたら御の字だ。

 間に合わなかった人間がいるなら、間に合わなかった人間を増やさない為に動くのが、呪術師の在り方だと思う。

 

 私も全てを助けられる人間になろうとか崇高な考えを持ち合わせているわけではない。センセーがどうだったのか知らないが、あの人の夢をひたすら追っているだけだ。

 

 

「貴方はどうしたいか……ゆっくり考えてみるといい。貴方の原点がどこにあるか」

「……ああ、ありがとう。相談受けてくれて」

「構わないよ。貴方も来月特級だろ?その時はよろしく頼むよ」

 

 

 夏油さんは悩む事が深くなっているが多分大丈夫だろう。力を義務にしなければ、あの人が潰れる事はない。この人は責任を背負い過ぎる事で自分が潰れてしまう。

 

 非術師を皆殺しにする人間にならないように敢えて殺した時のデメリットを話した。暫く一人での任務が多かったから、差をつけられたその思いと、呪霊を祓う意義が分からなくなっている。

 

 この人の原点さえ分かれば、立ち直ってくれるだろう。この人は多分一番この世界で生きるのが辛い人間なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「因みに何故ここに?」

「それ今聞く?上層部が私の創った呪骸でエッチなことしたいって言ってきたので五条さんや硝子さんに土産話として持ってきただけです」

「」

 

 

 夏油さんは何も言わなくなった。

 この後、上層部の大体が人形に欲情するド変態という噂が高専内で流れた。

 

 

 




★★★★★
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二十四

一週間が経ってしまった。
マジで大学が始まった。つらたんです。毎日登校はしんどいって。とりあえず頑張って書いていきます。では行こう。


 

 

 

 

○月○日 晴れ

 

電話が来た。

五条さんと硝子さんに、声を震わせながら『人形に欲情する腐ったみかん(笑)』について聞かれた。その通りだと答えたら電話越しで大爆笑の声が聞こえた。腹筋が死亡したらしい。

 

完全に誤解であるがあながち間違いではない。

私が創る完璧な人間の模造呪骸は、人間と遜色ないから考えようによっては次世代で相伝を100%受け継げる呪骸も創れなくはないのだ。いや絶対に創らないけど。

 

確実とはいかないが、高確率で相伝を継げる子供が出来る呪骸は創れても腐ったみかんに渡すのはハッキリ言ってなんか嫌だ。

 

昨日から呼び出しの後の任務が多過ぎて(うるる)、美々子、菜々子に構ってあげられなかったので、今日は三人にめっちゃかまってあげた。具体的にはみんなでフルーツサンドを作って食べた。平和である。

 

 

 

○月☆日 雨

 

美々子がぬいぐるみが欲しいというので創ってあげた。綿を詰めて形にした簡単に出来るウサギのぬいぐるみを作ったら、菜々子も欲しいとのことで菜々子にはペンギンのぬいぐるみを作った。

 

人生二週目とは言え料理出来て家事も出来て裁縫も出来るって地味にすごくない?案外、私は女子力が高いのかもしれない。

 

それはさておき、二人が寝静まった中で私は明日、何を試そうか考えていた。

 

式神はどうだろう?

呪術師の中で術式無しでも使えるものが結界術と式神だ。ただ、とてもマイナーらしい。何故か。

 

弱いからだ。

式神の大体は紙を媒体に使うことが出来る。紙にどのような形で召喚したいかを描き、呪力を消費して顕現させる。これが基本である。

 

理由が二つ。

一つは紙に描く手間が多いのに式神自体が弱いからだ。式神をメインとして使えるのは禪院の相伝くらいだ。大体はサポ専である。労力に見合わない。

二つ、媒体が紙だから脆い。呪力で殴っただけでも消滅する可能性があり、媒体の紙が破ければ消え、二度と使えない。

 

改めて考えると禪院の相伝って凄いな。

影を媒体に十の種類それぞれに術式が刻まれている。帯電する翼を持つ鵺や、舌を自在に伸ばす蝦蟇、撹乱の脱兎、鋭い牙と爪を持つ玉犬、敵を喰らう大蛇、大量の水を吐き出す満象、そしてあらゆる事象の適応を有する最強の式神、魔虚羅。

 

あと3体はいるらしいが、式神をメインに戦えるのは十種影法術(とくさのかげぼうじゅつ)くらいだろう。

 

他の式神と違うのはそれぞれの式神に術式が刻まれている部分だ。死んだ式神は他の式神に引き継げるし、他の式神と組み合わせも可能。

 

現在やらなければいけない呪霊の弱体化を実現する装置の研究。その前に判断材料として術師として出来る限界を見出す事。反転術式のように負を正に変えられる存在は少ない。呪骸で唯一成功しているのは(うるる)のみ。それが式神で生み出せれるかどうか確かめる。

 

明日はそれを研究していこう。

 

 

 

○月$日 晴れ

 

式神については昔、センセーに教えてもらった。

あくまでメインとして戦う事は出来ないし、弱い代わりに生得術式を持っていない術師でも出来る。

 

あくまで、呼び出す為に必要なのは媒体と印、呪力さえあれば簡易的なものなら誰でも出来る。

 

印とそれを支える術式。

これは結界術に似ているが、想像の具象化に近い為、根本は大分違う。想像の形を術式に直すのは難しい。構築術式がある私は、その理解があるから難しいというほどではないが、人寄りにする為に細かく術式を紙に描き、式神を生み出す。

 

 

……出てきたのは幼女だった。狐耳が生えた全裸の幼女だ。

 

事案である。

正確に言うなら式神を連想しやすいのが狐だったのもあり、想像の具現として生まれたのだろう。しかも服がない全裸で召喚されていた。お巡りさん私です。慌てて式神を解除した。

 

良かった、研究所の自室でやっておいて。

イメージを具象化する。半端なイメージだと掛け合わされたみたいになると思わなかった。

 

アレが私の性癖ではないからな!断じて!!!

 

 

 

○月@日 晴れ

 

式神について考えたのだが、わざわざ具象化しなくてもいいんじゃないかと言う結論に辿りついた。

 

理由が二つ、式神はどうやっても感情を持たない。

あくまで刻まれた命令に忠実である。だから回避なども出来ない。操るとなれば生得術式が絡んでくる。それを考えると、自立して主を護る禪院の相伝の規格外さが身に染みて分かった。

 

もう一つがわざわざ具象化するよりも、媒体のままでいいから術式を発動出来た方が速い。式神の分身とかは面白いが、それ以外だとあまり使い道がない。

 

なので、ヒトガタの符を生み出して大量に操れる術式と、自分を通して遠隔で術式が使えるかを試してみよう。遠隔発動はメロンパンが使えていたから、私にも出来ない道理はない。

 

だが、操る術式となれば操術系統の基盤を調べ、式神にあったものを創らなければいけない。生得術式を一から構築した事はない。それも兼ねて、先ずは操術系統を調べ尽くす事から始めよう。

 

 

 

○月♪日 晴れ

 

調べる前に連絡があった。

灰原さんが重傷らしい。産土神信仰の土地神にやられ、引き継ぎを私に任された。直ぐに土地神を殺した後に灰原さんの所へ向かう。

 

纏帳(まといとばり)』は壊れてしまったが、それがあったおかげで死ななかった。とは言え、脳の一部は損傷、左腕は喰われたらしい。脳はどうしようもないが、左腕だけなら呪力の再構築で元に戻す事が出来た。

 

ただ、七海さんがドン引きしていた。

腕が再び生えた事に流石に現実を受け止めきれなかったようだ。

 

脳に関しては下手に手を出せないので残念ながら今は難しい。呪力操作の一部が上手くいかなくなってしまったようで、呪術師は引退だろう。それでも前向きに補助監督をやるつもりらしい。

 

どうにかして治してあげたいが、呪力で脳を用意するのと、再構築では訳が違う。生み出す方は願望に沿って生み出せても、再構築は構築しようとしたものを知らなければ欠陥が起きる可能性があるから、危険過ぎる。流石に命懸けになるなら出来ない。命を任されられない。

 

七海さんもかなり疲弊しているようだ。

呪術師の闇を垣間見たような事で、呪術師として在り続けるのが嫌になったようだ。困った事があったら相談に乗ると言ったが、一度この場所から離れるだろう。

 

SAN値直葬はキツいよな。

分かるわ、私なら発狂して泣き叫んでいるし。

 

 

 

○月☆日 晴れ

 

私の研究所にお客さんがやってきた。

なんとメカ丸である。原作前の邂逅早過ぎねぇ?と思いながら、(うるる)に美々子と菜々子を連れて別部屋まで行ってもらった後に、要件を聞いた。

 

どうやら、天与呪縛をどうにかしたいらしい。

この時のメカ丸。本名、与幸吉(むたこうきち)は私と同い年で既に呪術師の素養を受けているが、この肉体が忌々しいようだ。

 

つーか、上の情報が漏れてんじゃん。

情報漏洩訴えてやろうか。メカ丸が目をつけたのは完璧な人型呪骸。それを創れるなら、自分の肉体をどうにか出来る可能性があるのではないかと、全国にばら撒かれた傀儡を操り、この場所まで辿り着いたらしい。

 

まあそれなりに報酬がデカい。

傀儡操術の基盤と機械をメインにした呪骸を知れるし、スパイをする心配もなくなるし、結構報酬がいい。

 

と言う訳で、忙しいが依頼を受ける事にした。

 

 

 

○月€日 曇り

 

本体に会うために京都に行った。

美々子と菜々子も特別に連れていった。終わったら京都巡りをするつもりらしい。とりあえず、二人には会わせると悲鳴をあげそうなので、パックに見てもらい、私は本体と会って天与呪縛について調べた。

 

伏黒パパの天与呪縛からある程度は理解している。センセーの予想は未だに分からない。神という存在が強制的に縛りを設けているのかは分からなかったが、代償のある強化が天与呪縛だ。

 

魂を構成するのは大体4つ。

身体の情報、記憶の情報、人格の情報、そして呪力の情報だ。これが大体の構成の基本だ。その中心に核が存在する。

 

伏黒パパの場合は呪力の情報がない代わりに魂に付随する身体の情報が凄まじかった。なんなら魂の核より付随した身体の情報が大きかった。オガミ婆の失敗の理由も身体の情報が核より大きかったから、魂が肉体に負けるということになったのだ。

 

与幸吉の天与呪縛は逆。

身体の情報に欠陥がある代わりに呪力の情報が凄まじい。これを下手に治そうとすれば呪術師としてはかなり弱い。本来の呪力量は三級術師以下だ。一週間の間に、どうするべきか考えた。

 

因みに京都巡りの時に八つ橋の試食が多くてご飯食べれなくなった美々子と菜々子が母さんに怒られていた。

 

 

 

○月※日 晴れ

 

とりあえず、実験をしてもらった。

傀儡操術は(うるる)やパックを操る事が出来るのか。

 

結果は無理だった。

二人は既に呪骸としては全く別の存在。生きている人間や生物に変わりはないとの事だ。つまりだ。天与呪縛のまま完璧な人間呪骸に入れても、自分の肉体を操る事が出来ない訳だ。

 

となると……考え方を変えるべきか。

 

 

 

 

○月〒日 

 

 

 

 

○月%日 晴れ

 

思い付いた。

これなら上手くいくはずだ。だがその為に必要なモノを揃えるのに時間がかかる。かなり大掛かりなプロジェクトだ。念入りに事を調べて、実行するのに一週間以上かかる。

 

ムタ丸は一ヶ月でも構わないと言ってくれた。助かる。美々子や菜々子にかまわなきゃいけない時間があるし。

 

ムタ丸……プッww。変にツボった。

 

 

 

○月☆日 晴れ

 

任務と研究との板挟みに流石に疲労がデカい。

今日は休もう。ある程度の判断材料は揃った訳だし。つーか、夏休みの宿題の自由研究が面倒くさい。いっそ完璧な人間呪骸を記してやろうか、ノーベル超えて世界が卒倒しそうだからしないけど。

 

普通にミミナナに創った人形の事を記録しておこう。

 

 

 

○月★日 晴れ

 

出来た。これなら上手く行くはず。

流石に命懸けな部分はあるが八割は成功する。さて、ムタ丸くんの所に行き、私と助手の(うるる)と一緒にムタ丸をムタ吉に変えてやろう。

 

結果、肉体を得た事に泣き叫ばれた。

まだ所々幻痛があるようだが、天与呪縛と普通の肉体の両立に成功したのである。

 

良かったね!これでむたみわのカップリングが見れるぜ!!

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 上層部から流れた噂を耳にした。

 完璧な人型呪骸を創れる人間が存在すると。

 

 俺の肉体は天与呪縛によって脆い皮膚、膝から下の肉体と右腕が存在せず、腰から下の感覚は無い。その代わりに広大な術式範囲と実力以上の呪力出力を得る事が出来る。

 

 正直、呪術を捨てて肉体を元に戻せるならそうしたい。だから俺はその完璧な人型呪骸が創れる人間について調べた。

 

 驚く事に既に呪術師であり特級持ち。

 特級呪術師の九十九の弟子であり、呪術界に革命を齎した男としてかなり有名だった。

 

 俺はすぐにその男を探した。

 研究所に辿り着き、どうにか出来ないかを聞いてみると、時間さえ有れば出来ると、依頼を引き受けてくれた。一ヵ月でなんとかしてみせると言われ、その言葉に俺は期待していた。

 

 

 そして今日、この日俺の肉体をどうにかしてくれるらしい。

 

 

「出来たぞー」

 

 

 めっちゃ苦労したようだ。顔がやつれていた。

 俺の人型呪骸が完成した。魂から身体の情報を読み取るのはしんどいらしく、天与呪縛のせいで、ただでさえ欠落した部分が多いのに、肉体を完璧に生み出すのは難し過ぎたと愚痴っていた。

 

 

「始めるぞ。覚悟はいいか?」

「ああ……」

 

 

 天与呪縛に縛られた身体を人型呪骸に書き換えられていく。

 

 荒夜曰く、この身体を書き換える行為は()漿()()から取ったものだ。星漿体本人からその性質についての研究に協力してもらい、肉体を書き換えるという力の再現が出来ないかどうか色々試していたようだ。

 

 星漿体について調べた結果、ある程度の事が分かった。魂が拒絶反応を起こさなければ、星漿体として機能する。つまりは天元の魂に合う肉体が星漿体と言う事だ。その同化の術式は荒夜が使える再構築の術式と似ている。

 

 流石に死体や魂のない存在では不可能。死んだ時は星漿体としては機能出来ない。生み出した所で同化は不可能。

 

 なので、そこは呪核を用いた。

 荒夜が生み出した人型呪骸の(うるる)は呪核を用いて生み出された存在。魂が無い存在だが、魂に似た擬似霊魂とでも言えばいいのか。それが存在する。

 

 魂の拒絶反応が起きないように知れた魂の情報を莫大な呪力で生み出し、限りなく近い魂のコピー、擬似霊魂を生み出せたらしい。

 

 つまり、生きた呪骸に俺の魂を入れ、肉体を書き換えた後に再構築する。天元の同化の原理を利用した肉体の書き換え。莫大な呪力は俺を縛った天与呪縛の分から肩代わりし、身体が完全に書き変わった。

 

 目を開けると、全身に力が溢れている。

 本来無かった感覚が存在し、起き上がると自分の手を何度も確認する。自分の皮膚の痛みも、腰から下の感覚もちゃんと存在する。それを確認すると、荒夜は俺に問うた。

 

 

「……おはようムタ吉くん。気分はどうだい?」

「……っ!これは…本当に最高だ……!!」

「それは良かった」

 

 

 号泣した。

 今感じている幻痛も皮膚の痛みに比べればマシだ。それから色々検査したが、五感の不具合は無し、食欲、睡眠欲、性欲もちゃんとある。睡眠薬や媚薬でそれは検証した。涙目になって尊厳が傷付いた以外は問題なかった。

 

 

「しかし、天与呪縛による範囲は失われたようだな」

「ああ、それなら問題ないよ」

「はっ?」

 

 

 俺の額に触れ、呪力を流し込まれると驚愕した。右腕と腰から下の感覚が全く無い。その事実に驚愕して叫ぶ。またあの時のようになってしまったのか、その恐怖に焦りを抱いた。

 

 

「なっ……!?何をした!?」

「落ち着いて、今から説明するから」

 

 

 再び呪力操作で額に触れると感覚が戻る。

 この男の呪力操作だけなら、他の術師と格が違う。他人の身体に触れてさえすれば、他人の身体の呪力を自分の呪力のように操作出来るらしい。

 

 

「今、私は君の身体のスイッチを切り替えた」

「スイッチ?まさかこの身体、半分が機械……!」

「そんな訳あるか」

 

 

 流石にそれは無いらしい。

 本当に機械だったらそれもそれだ。感覚がちゃんとあるのに機械と言われたらそれこそ卒倒していたかもしれない。

 

 

「一部のみ私が改良しただけだ。今の状態で傀儡操術がどれくらいの範囲か調べてくれ」

 

 

 身体の一部を改造した。

 人間の機能はそのままだ。身体の一部にあるモノを埋め込んだらしい。俺は全国に存在する傀儡を操作し始める。

 

 

「……範囲は大分小さくなったが、出力はあまり変わりはない。どう言う事だ?」

「天与呪縛は傀儡操術の範囲や呪力出力の底上げだ。まあ皮膚と腕については完全に修復したから天与呪縛が少し弱くなったが、足に関しては感覚を失う事によって天与呪縛は機能出来るようにした」

「はっ?」

 

 

 言っている意味が分からなかった。

 荒夜が言うには俺の身体に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。言ってしまえば天与呪縛は魂の欠損だ。その欠損を補えるモノで魂を正常にさせる。言ってしまえば足りない部分にパズルのピースを埋めたようなモノだと。

 

 

「君の魂は本来の魂と擬似霊魂で繋いでいる。それを切り離せば天与呪縛と同じ事が可能になると言う事だ。スイッチをオンにすれば動けるが、天与呪縛無しだと呪術師としては脆弱だ。スイッチを切れば、動けなくなるが天与呪縛と同じ事が出来る訳だ」

「!!!」

 

 

 呪核による擬似霊魂を本来の魂と繋げる。

 その実現が可能なおかげで下半身や腕が動くのだが、それを切り離せば、下半身は動かない代わりに天与呪縛の時と同じ事が出来る。ただし、腕、皮膚、肉体そのものを戻した為、範囲は日本全域から大分狭くなったが。体感的に多分北海道くらいの距離になった。

 

 天与呪縛はあくまで代償があるからこそ、そして代償の多さによって強い縛りが発生する。代償が少なくなったせいで術式範囲は小さくなってしまった。肉体があっても、魂がかけた状態だからこそ呪縛が発生するなら、肉体があっても魂を切り離す事でかけた状態を再現すれば、天与呪縛は失われないと考えたらしい。

 

 縛りがないと大した呪力を持っていない。三級くらいの呪力だったので、天与呪縛がないと戦力にならないらしい。俺の呪力量は大した量ではない。だから()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()

 

 ただし、呪核に必要な呪力も自己補完の範疇だから、動いている間は殆ど呪術を使用出来ない。

 

 

「どうだい?ご要望に沿った形にしたが」

「充分過ぎる。呪術師をやめて家を出る事も覚悟していたが、これなら問題なく呪術師を続けられる」

「そりゃあ良かった」

 

 

 範囲こそ以前より狭くなり、操れる呪骸も多くはないが、全長で北海道全域くらいの範囲はある。呪力出力は若干減っているが、その程度だ。それに見合った代償は覚悟していた。

 

 けど、これは充分過ぎる。

 呪術師としても人間としても存在出来る。片方を捨てなければいけないなんて事がない。

 

 

「報酬は傀儡操術と機械型呪骸についてだが、それでいいのか?充分過ぎるモノをもらったのに」

「私にとっちゃ充分な報酬さ。まあ、あとは今後手を貸してくれたら助かるかな」

「それは約束しよう」

 

 

 普段は歩く事が出来るようになった。

 太陽の光を浴びると何とも心地いい感覚に見舞われた。太陽の光が痛くない。汗をかいても肌に染みない。

 

 涙が溢れて感動の余韻に浸っていた。

 俺は、遂にまともな肉体を手にする事が出来たのだと。

 

 

 

 

 

 

 

「そういや聞き忘れた。どんな女がタイプだい?」

「……はっ?……いや、俺は……」

「判断が遅い」

「へぶっ!?」

 

 

 何故か唐突に殴られた。

 男なら即答しやがれと無理難題を言ってきた荒夜の流石の理不尽さに、流れていた涙が引っ込んだ。

 

 

 




『与幸吉の身体』
・通常時
→呪力が自己保管の範疇で呪核に回している為、呪術の使用不可。

・天与呪縛
→身体の欠損を直してしまったので範囲は北海道より少し小さくなった。本来の天与呪縛による呪力出力二割減。術式の使用中、本人の腰から下の感覚はない為、動けない。

 肉体を書き換える星漿体から参考し、性質や共通点を調べ、生きた人型呪骸と同化する事で肉体の情報を書き換え、再構築するという方法で上手くいった。因みに死んだらスイッチが入る蒼崎橙子の人形のようにはいかない。死んだ後の魂の核をどうやって条件起動で人形に入れるようにするかを現在模索中。


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二十五

大分遅れました。すみません。
最近暑くなったり寒くなったりで体調崩しました。とりあえず、頑張っていきます。実はコンテストにファンタジーのオリジナル小説を出してみたいとか思っています。大学入ってどうなりたいかめっちゃ考え中です。では行こう。




 

 

 

 

○月○日 晴れ

 

傀儡操術をてにいれた!

現在、基盤を持っている操術系は三つ。呪霊操術、縄状操術、傀儡操術の三つである。

 

結構前に呪霊操術の基盤を刻んで呪霊を飲み込んだ事がある。三級だが、クッッッソ不味かったけど!!

 

それで分かったのは、術式で取り込んだ後に呪霊操術の基盤を外すと呪いの瘴気が内側から湧き出た。慌てて自分の体内の呪霊を分解したが、暫く寝込む羽目になった。

 

要するにだ。

劣化コピーは出来ても、それは()()()()()()()()()()()()()()。呪霊操術や十種影法術は全く使えないと思うべきだろう。基盤の維持にも呪力を消費するし、刻んだ術式を外してしまえば術式は()()()()()()

 

つまりだ。まだ持っていないが、十種影法術で調伏した式神は刻み続けなければ調伏した事実さえ初期化される。多分玉犬しか呼び出せない。魔虚羅は呼び出せると思うけど。まあ逆に考えれば、死んだ式神をもう一度顕現できると言う事だろう。

 

もう一個操術系を調べたいな。

誰か操るに特化した存在……いるな一人。

 

 

 

○月☆日 晴れ

 

ナイスバディな肉体と鴉を操る黒鳥操術を持つ女性。冥冥さんに黒鳥操術を調べさせてもらう許可を得た。あの人は金払えば仕事をしっかりこなす人だ。と言う訳で、1000万くらいと今後私が創る呪具を半額にする事で、黒鳥操術の基盤を手に入れた。

 

まあ、この人の手を借りたい時もあるかもしれないからこそ、対等な取引で成立した。今後ともご贔屓に。

 

という訳で、今私は四つほど操術系の基盤を手にしている。基盤の共通点を調べ、それに見合った術式を創る。式神の基盤は自分で創れるから分かっている。なら後はこの四つから操術の基盤のみを調べ、式神の基盤と組み合わせる。

 

 

 

名付けて、式神操術。

初めて、全く新しい術式を創り上げる事に成功した。

 

身体に基盤を一度刻み、生み出したヒトガタの符を操る。ヒトガタの符のみを自在に操れる。式神の顕現をせずに術式を遠隔起動する為だけに創ってみたが、これはロマンが広がる。

 

このヒトガタの符に自分の生得術式の基盤を書き込み、自分から離れた場所で雷天が使えるはずだ。

 

 

 

結果、符は破け散った。

やっべ、そこらの紙だと生得術式の基盤に耐え切れないの忘れてた。

 

 

 

○月♪日 曇り

 

ヒトガタの符の素材を丈夫な和紙に変更。

呪核に溜めた呪力を拝借し、構築術式で生み出し続けて82枚の符が完成した。

 

術式の遠隔起動については、呪力を纏わせたものに対して共振を起こして起動させる事で成立する。難しかったが、理解出来れば簡単だった。結界術の応用で、極めた人間なら難しくはないだろう。改めてメロンパンや天元の凄さが理解出来た。

 

先ずは実験。

遠隔で雷天の起動である。雷は指向性を持たせられなかったので今まで使えなかったが、遠隔起動が出来るようになり、式神を通じて距離を取れるので全力でやってみた。

 

結果、多分一級を殺せるくらいに強大な雷撃が起きました。ただし、符はエネルギーとなり消失している。構築と分解の力場を生み出し、一瞬で符を分解、そして制御を失った力場から電撃が溢れ出す。

 

なんか、起爆札みたいになったな。

これ、純粋なエネルギーでやったらアルジュナ・オルタの背中の爆発する惑星みたいにならない?都市吹っ飛ぶわ。

 

 

……範囲分解を出来ないだろうか。塵遁みたいに。

 

 

 

○月€日 晴れ

 

明日が旅行日である。

いやー、任務クソ大変だった。最大で一日七件もあったし。

 

式神を用いた遠隔術式。

マテリアル・バーストこと超高エネルギー砲を極ノ番に決定した。名前は後々考える。放たれた高エネルギーを遠隔で用いた式神で分解の結界を張り、結界内で暴発。塵遁みたいになった。

 

式神操術を使う時に専用の手袋を作った。

右手から流した呪力で式神を操れる。最大で56枚は同時操作可能。自分そっくりに式神を顕現させ、分身として錯乱するのも良いし、起爆札のように使うも良しだ。なんなら、結界で囲んだりした後にエネルギーで消し飛ばすのもありだ。

 

夢が広がるな。

創造の前に破壊あり、とか言ってみたくない?

 

 

 

○月$日 晴れ

 

熱海へGOである。

海に行って遊び、風呂に入って寝る。最高かよ。

 

美々子と菜々子はめちゃくちゃ楽しんでいて、(うるる)も海を見た時は目を輝かせていた。遊び疲れた後は、ゆっくり露天風呂に浸かり、夜は家族全員でジュースをかけたババ抜きやUNOで遊び倒し、眠りにつく。

 

久しぶりに休日を満喫出来た気がする。

つかよく日記持ってきたな私。とりあえず東堂とムタ丸と冥冥さんと夜蛾先生、さしす組、天内、一応禪院の奴らにもお土産買っておくか。

 

 

 

○月☆日 晴れ

 

美々子と菜々子が帰りに駄々をこねた。

もう少し居たいとの事で、二人に耳打ちで今度東京に連れて行ってあげるから帰るよと両親にバレないように伝えたら目を輝かせてぬいぐるみを抱きしめて車に乗った。

 

(うるる)も連れて行ってと無言の圧に了承した。

いや当たり前だろ。蔑ろにする訳ないじゃん。最近、かまってやれていない反動なのか、膝枕をしてあげて頭撫でたら気持ちよさそうに眠った。女タラシだねとパックに言われた。

 

ええ……これ将来本当に志貴やエミヤポジに行く気か?私、刺されるのヤダよ?

 

 

 

○月#日 

 

 

 

○月%日 晴れ

 

高専に幻灯の魔物で飛んで向かった。

美々子と菜々子、(うるる)を連れて東京の新宿まで飛んだ。浅草でも良かったが、新宿の方が見慣れていたのでここで色々見て回る。約束があったし、早い方がいいと思ったので東京観光しに行った。

 

 

そこで出会った。

夏油さんは笑いながら手を振った。久しぶりと返すと夏油さんは語り出した。

 

自分が呪詛師になった事。

そして、呪詛師になってまでやりたい目標が出来てしまったと言って呪詛師に堕ちた。

 

どこで間違えてしまったのだろう。

私はどこで間違えたのか。

 

……分からない。

 

俺は……どうすればよかったんだセンセー。

 

どうすればよかったのか、答えが欲しいよ。

 

 

 

 ★★★★

 

 

 一体どこで間違えた?

 東京観光の為に来たはずなのに、想定外の事実に混乱している。星漿体の天内は無事、灰原さんも死なず、美々子と菜々子には出会わなかった。そうなってしまう事は限りなくゼロに近いと思っていた。

 

 夏油さんが呪詛師堕ちした。

 そして、私達の目の前にいる。

 

 

「なんで……」

「呪詛師になった理由かい?それとも、何故ここにいるのかの理由かい?」

「両方だよ!!」

 

 

 後ろの美々子と菜々子は肩を震わせた。

 取り乱した私を見た事がなかったからだろう。(うるる)も警戒して二人を下がらせる。

 

 

「君の妹かな?」

「義理だけどな。話を逸らすな、何故呪詛師になった」

「そうだね。順を追って話そうか。ここに居たのは運試しかな。本当、偶然だった。君たちがここにいるとは私も思わなかったけど」

 

 

 運試し?そう言えば、何故か新宿に呪詛師になった後に出没した。どうやら、まだ迷っているのかもしれない。自分の決意が固めきれていないのか?

 

 

「五条さんや硝子さんに会ったのか」

「ああ、そして君に会えた」

 

 

 もしかしたら、ここで殺されてもいいと思っているのかもしれない。最後の良心の欠片がきっと何処かで自分を止めて欲しかったのかは分からない。けど、運試しならそうなのだろう。

 

 

「なんで呪詛師に堕ちた」

「そうだね……私にしか出来ない事を見つけたから…かな?」

「貴方にしか出来ない事?」

 

 

 軽く警戒しながらも、話を聞く。

 ここは人が多過ぎる。巻き込んで戦うかもしれない。ポケットに忍ばせた式神の苻を握り、いつでも攻撃出来る様に構える。

 

 

「いずれ君は呪霊に対する抑止力を創る」

「!」

 

 

 私は万能の呪術師だ。

 今も、そしてこれからも呪術界を変える最強を創り出す事で、呪術界を変える事が出来るだろう。

 

 

「いずれ悟は最強として呪術界を変える」

 

 

 五条悟は最強の呪術師だ。

 他の呪術師の追随を許さず、頂点に君臨し続ける。その気になれば力で呪術界を変える事も出来るだろう。

 

 

「なら私は?」

 

 

 夏油傑には?

 呪霊を操り、手数の多さで圧倒する最強の呪術師。手数の多さで彼に勝てる人間は存在しないだろう。

 

 だが、それだけだ。

 夏油傑にはそれしか出来ない。最強にも万能にもなれない。ただ強いだけでは、何かを変える事が出来ない。

 

 

「私は悟を絶対に越えられない。呪霊を祓うだけの事を延々と続けることしか出来ない。その先に一体何がある?」

「それは……」

「だから、どうすればいいか考えた」

 

 

 夏油傑の出した結論。それを聞いて絶句した。

 

 

 

 

「──非術師を間引く。それが私の結論(こたえ)だ」

 

 

 それは呪術師だけの世界を創るものと似て非になる結論(こたえ)だった。同じだけど、違うのは間引くと言う所だけだ。非術師を皆殺しにして呪術師だけの世界を創るという訳ではなく、非術師を減らすと言う結論に行き着いた。

 

 

「っ……そんなの意味が……!」

「いいや、あるさ。ある程度間引いたら世代が変わり、恐怖を促す事によって人類の進化を促す。残された術師と天元を利用し、そして私の力で世界に恐怖を促せる。言わば呪術師を産む聖地作りさ」

「!!」

 

 

 天元は日本全ての結界を底上げしている。

 言わば天元は()()()()()()()()()()()()()()()()()。確証はない。だがもし、外国と日本で呪霊が生まれる頻度が違うとしたら、天元が関わっている可能性が高い。

 

 日本と言う国に存在する呪力になる要素の質が高いなら、日本で起き得る呪霊の数も納得出来るし、術師の数も理解出来る。恐怖も負の感情だ。それを植え付け促せばどうなるか。

 

 言ってしまえば、天元は神殿のようなものだ。

 そこにいるだけで世界に影響を及ぼせる存在、一種の呪術師の祖と言っても過言ではない。

 

 天元の実態は私も詳しくは分からない。

 だが、センセーは呪力の脱却に天元の力が必要と言った。もし、天元が人類に対して存在の進化を可能に出来るなら……

 

 

 

「だがそれでも……」

 

 

 呪術師しか生まれない世界が生み出され、呪霊の根本的な排除に繋がる。しかし、それは焼け石に水だ。犠牲を出し、呪霊が生まれなくなったとしてもその世界で生きていける訳がない。

 

 呪力を生み出すのが人間なら、その悲劇は嫌と言うほどに分かりやすい。他国の戦争も当然起き得るし、人口の低下による社会の停滞。一体どれだけの苦難が待ち受けているだろうか。

 

 

「私達は生きられないかもしれない……それは私なら回避出来る。私の呪霊の力でね」

「っっ!!」

「日本と他国の戦争。それこそ、私の呪霊が居れば何も出来ない。呪術師が日本である程度揃ったなら、後は数と力で捩じ伏せる」

「…世界征服でもするつもりか」

「必要ならばね」

 

 

 その思想はすでに狂気に染まっていた。

 間引く。その先の未来には一体何人殺せば実現出来る?それが先の世界の呪術師の平和の為に、何人犠牲にすれば実現が可能なのだろう。途方もない時間と労力、成功する見込みは少ない。

 

 どこで間違えてしまったんだろう。

 荒夜緋色はまた何処で選択を誤った。  

 

 ここまで追い詰める前に気付けていたなら。

 具体的な解決方法を言わなければ……この人を止められていたかもしれないのに。

 

 

 

「私は君を買っている。君はいずれこの世界を変えるだろう」

 

 

「それはいつかじゃない。今だ。君の力と私の力を合わせれば、直ぐにでも世界を変えられる」

 

 

 

 呪霊操術と構築術式は相性がいい。

 呪霊を分解し、呪術師だけの並行世界を創る事もきっと不可能じゃない。夏油さんは私に手を差し伸べた。

 

 

 

「私と一緒に来い。荒夜緋色」

 

 

 

「この腐った世界を私と変えよう」

 

 

 

 私は………

 

 

 







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二十六

暫くモチベが下がってきてる。
と言うより、やらなきゃいけない事が増えたり、コンテストを考えてオリジナルを考えなきゃいけなかったり多忙だぜ。

更新が少し遅くなりますが、頑張っていきたいと思います。では行こう!


 

 

 

○月○日 晴れ

 

中学生になった。

夏油さんが呪詛師になってから四年が経った。中学生になって、任務も増えた。出来る事も多くなった。まだ、負を正に変える呪具は創れない。分解ならまだしも、理論がふわっふわした状態で構築の領域展開が出来ない。どうしても既存のものしか生み出せない。

 

構築術式がある種の願望機なら出来ると思ったのに、出来ないと言う事は私自身のイメージが足りていないと思ったのだが、構築の最奥に届いていないのだろう。知っているものなら理論が曖昧でも創れるが、一から全く新しいものまでは創れない。行き詰まっている。

 

構築術式の最奥。

分解を用いた領域展開はあくまで破壊の力だ。構築の副産物に過ぎないし、領域展開で構築できるものは既存のもの程度だ。

 

まだ、『何でも創れて何でも破壊する』の半分しか至れてない。領域展開が出来るし、呪力の核心は多分誰よりも迫っているのに、一体何が足りないのか理解出来ない。

 

いや、むしろ理解度が足りてないのか? 

概念や事象の把握をすれば可能なのだろうか。

 

………無理☆

幾ら構築術式でも理解が遠過ぎるもの、人間が触れられないものには限度がある。空間はどうして存在するの?と言われたら空間は空間としか言えないのと同じ。

 

概念って具体的には何?

事象とは具体的には何?

どうやったら再現出来るの?

 

ふっ……まだ遠いようだ(白目)

 

 

 

○月¥日 晴れ

 

任務だ。やべえ社畜が染み付いてやがる。

私の戦闘スタイルはもう確立しつつある。ヒトガタの苻一枚で大体の呪霊は祓える。操作可能範囲は約200メートル。現在は109枚まで同時に操作可能。

 

そして道具は全部トランクケースに入っている。

最大二つ持っていくが、基本的にヒトガタの苻。幻灯の魔物。太腿にはホルスターが付けられ、改良黒閃銃が仕舞われている。内包領域展開のトランクケースは基本的に自分で領域展開すればいいから余り持ってこない。

 

とりあえず、呪霊の呪力を呪核に貯めて帰る。

最近は依頼が多くなった。特に知り合いと知ってるキャラから。冥冥さんから改良した斧、日下部さんから刀の新調、御三家の五条家を除いた二家から退()()()()まで依頼してきやがった。

 

二つは問題ないが、問題は退魔の剣だ。現在創れたのは()()()()()だ。アレは単純な創りじゃ生み出せない。莫大な量の正の呪力を馴染ませ、半永久的に留めなきゃいけない。生半可な構築では正の呪力は逃げてしまう。創るのに三ヶ月かかる。量産は流石に無理だ。

 

 

 

○月¥日 晴れ

 

最近、妹たちが思春期に入ったようだ。

私が言う事ではないが、小五までべったりだったのに、最近は素っ気なさがあったり、もう子供じゃないもんと2人揃って言ってきた。友達も増えて、兄に対して少しだけ冷たくなるソレを見て、少しだけ大人になったと成長をしみじみと感じた。おい、ジジくさいとか言うな。

 

現在、二人も呪術を学び、二級程度なら余裕で祓えるようになっている。なんなら準一級はあるんじゃね?2人がかりで東堂に勝った事はあるし。

 

師匠の時の自分と、日常の時のスイッチを切り替えて教えているが、日常の時は少し兄離れを見せてくるから、逆に嬉しくて泣いた。

 

メカ丸は天与呪縛が弱まったとはいえ、準一級の力は健在だ。範囲こそ狭まったが、呪骸と呪力出力は変わらないし。

 

(うるる)に至っては一級くらいはありそうだ。黒閃で地面を弾く瞬歩モドキと、武芸百般をある程度使いこなせる胆力と自由さに師匠の私はもうこの子天才としか言えなかった。

 

そして東堂だが、最近初めて負けた。

油断はしていなかったのにも関わらず、領域展延で力の分解が入る前にブン殴られた。全分解にしていなかったとは言え、それでも殴られたのだ。特級クラスまで上がっていきそうな気配がする。

 

やべえ……やべえよ……東堂やメカ丸が原作より強くなってないか?

 

 

 

 

○月☆日

 

 

 

○月♪日

 

 

 

○月%日 雨

 

インフルエンザにかかった。

久しぶりに病気なんてかかったな。最初の二日は苦しかったが、薬飲んで寝たら一気に暇になった。

 

持ち歩いていた日記くらいしかやる事がないし、流石に外に出たら怒られるので今日は大人しくしてる。

 

パックの肉球が冷たくて、ヒンヤリした。

 

 

 

○月*日 晴れ

 

風邪の菌の分解。

まだ熱はあるので、身体の中にあるインフルエンザのウイルスだけを分解出来ないか試そうとしたが、やめた。

 

何となく出来ない気がした。

無から有は出来ても、有から微細とも呼べるものは不可能だ。菌を分解しようとしたら血も分解されかねないので、大人しく寝る事にした。分かりやすい毒物なら問題ないと思うんだけどね。

 

 

 

○月〒日 晴れ  

 

美々子と菜々子がお粥を作ってくれた。

普通に美味しかった。そういや婆さんがいた頃から家事やってたっけ。あと二日は家に居なきゃいけないので面倒である。

 

持ってきたポカリを飲んで、私は惰眠を謳歌した。

 

 

 

★★★★★

 

 

 夢を見た。

 夏油さんと最後に会った新宿の夢を。

 

 

「私と一緒に来い。荒夜緋色」

 

 

「この腐った世界を私と変えよう」

 

 

 手を差し伸べられた。

 ああ、ダメだ。この人はもう止まらない。きっと、優しさに押し潰されてしまったのだろう。

 

 止められなかったことは何度も考えた。

 どうにかすれば止められるって、また楽観視していた。

 

 

 けど、()()()()()()()()()

 

 

 

 

「……悪いけど、その手は取れない」

 

 

 だから、拒絶を示した。

 かつての私だったなら頷いたかもしれない。

 

 

「私は最初はただ最強になりたかった。幼稚な目的で呪術を学んで、最強を創りだそうとした」

 

 

 本当にそれだけだったから。

 この世界に転生して、自分がやりたい事のついでに呪術師になった。この世界を知っていたから、最強を超えたくて最強を創り、万能な人間になりたかった。

 

 だけど……今はそれだけじゃない。

 

 

「でも、今の私があるのは、センセーが居たからだ。あの人が居なかったら、きっと貴方の手を取っていたかもしれない」

 

 

 センセーがいなかったら、愉快犯で最強を創っていたかもしれない。夏油傑の夢の為に、人を殺す事に特化したものを生み出していたかもしれない。

 

 

「けど、もうその手は取れないよ。取るには目指した夢も護るべきものも増え過ぎた。夢が叶わなかったとしても、大切なものが溢れ落ちてしまうかもしれなくても……手は、あの時既に取ったんだ」

 

 

 あの時、あの公園で、あの人に出会った。

 手はもう取っている。死んでもなお、忘れる事はない約束(呪い)だ。忘れちゃいけない偽りの無い()いはもう結んだ。

 

 だから……

 

 

「──()()、あの人が目指した夢を信じるよ。貴方とは行けない」

 

 

 あの人が通る筈だった道を進む。

 それがもう、俺が進みたい道になったから。

 

 

「……そうか」

 

 

 夏油さんは皮肉にも悲しい顔で笑った。

 今にも泣きそうな顔で、笑いながら告げた。

 

 

「私は君が羨ましいよ」

 

 

 どうしようもない自分を呪うように嗤い、背を向けて新宿の人混みに紛れるように歩き出す。ここで逃がせば、多くの人間が死ぬ。見逃すのは甘過ぎる話だ。心を鬼にして、両手を合わせる。

 

 

「領域──」

「ヒロ兄さん……?」

「っっ……」

 

 

 だが、それも出来なかった。

 呪術は秘匿のものだ。ここまで大通りでは使えないし、領域展開をして閉じ込めても、後ろには三人がいる。(うるる)はともかく、二人の前で殺しをするべきでは……

 

 

「……クソッ」

 

 

 考えが纏まらず、引き留めようと手を伸ばそうとした時には既に夏油傑の姿は人混みに紛れて消えていた。選択肢を誤った。無理矢理でも拘束しておけばよかった。

 

 伸ばした手はダラリと下がり落ちた。

 私はまた間違えたのだ。結局、何も見れていなかった。

 

 ただ、あの時止められなかった自分を今も呪っている。きっと、笑い合えた未来があったはずなのに。

 

 

 荒夜緋色はまた、間違いを繰り返した。

 

 

 

★★★★

 

 

「………っ」

 

 

 気が付けば私はベッドの中にいた。

 背中はべっとりと汗で滲んで気持ち悪い。窓を開けると涼しい風が部屋を吹き抜ける。

 

 

「?」

 

 

 左手が上がらない。

 目を向けるとそこには私の手を掴んで眠っている美々子と菜々子の姿があった。一応、まだインフルの菌があるからあまり部屋に入らないように言っていた筈なんだけど。

 

 

「インフル移るよ……全く」

「少し魘されていたからね」

「マジ?」

「マジ」

 

 

 パックの返答に軽く驚きつつも、2人に毛布をかけて、枕を床に置いて倒れさせる。汗ばむパジャマを脱いで、別のパジャマに着替え直し、ベッドに座る。

 

 

「……この子達を救えたのに、あの人は救えなかった」

 

 

 夢の事を思い出した。

 あの時どうすればよかったのか今でも悩んでいる。その呟きにパックが答えた。

 

 

「全部は救えないよ」

「……けど、救えたかもしれなかっただろ?」

「後悔したって変わらないさ。君は人間だ。神様なんかじゃない。いくら卓越した存在でもね」

 

 

 どこまで行っても、人間が出来ることは限られている。知識があっても心までは理解できない。だから間違えた。

 

 

「……やれる事をやるしかない。パックはそれが答え?」

「やるだけ全力でやって、無理だと分かったなら後悔はしないかな?」

「……そう」

 

 

 呟いた納得は窓から吹く風の音に掻き消される。

 きっと、後悔したくないから全力で護ろうとするのだろう。自分勝手に誰かを救えたらと思っていたのだ。

 

 

「……あと、二年か」

 

 

 高校生になるのにあと二年。

 それまでに、私が出来る事をするだけやってみて、後悔しない。

 

 それが、今私がすべき事なのだろう。

 とにかく頑張ってみよう。出来る事を増やして、領域展開を完璧にして、呪霊を祓う装置を生み出す。

 

 やる事は山積みだ。

 けど、そんな忙しい日々も嫌いじゃない。

 

 

「あー、暑い」

 

 

 また夏がやってくる気配がした。

 呪霊が蛆のように湧く、予兆が聞こえた気がした。

 

 

 



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二十七

 お久しぶりです。
 最近大学の課題が多くて更新止まってましたので書いていくぜぃ。では行こう。


 

○月○日 晴れ

 

中学三年生となり、東堂は一足先に高校生となった。

最近の研究も行き詰まりを感じている。多分私の領域は事象や因果、そして『死』の概念を知らなければ完璧にはいかないのだろう。

 

全ての始発点と、全ての終着点。

言わずもがな、それがあやふやである。『死』の概念も把握していると思ったが、あの時(発狂死事件)もあくまで()()だ。本当に死んだわけじゃない。

 

始まりの『構築』と終わりの『分解』

死の概念の理解が大きい『分解』の方が強いが、()()()()()()()()()()()()。存在するものを創り換える力も強力だが、もっと調べなければ無理だ。

 

と言うか、コレが達成された時って型月風に言うなら『』だ。

 

誰か事象系の術式持ち、居ないかなぁ。

 

 

 

○月☆日 晴れ

 

そして、呪霊を無くす装置について手がかりを見つけた。というか意外にも、身近にあるものだ。

 

その手がかりになるのは『天逆鉾』だ。

 

『天逆鉾』は術式の強制解除をどうやってやっているのか?コレは推測でしかないが、『天逆鉾』は恐らく触れた術式に対して()()()()()()()()()()()()()()()

 

恐らくこの仮説が最も有力だろう。

術式は多くても順転と反転の二つしかない。けど、『天逆鉾』はもう一つの可能性を秘めている。分かりやすく『裏術式』と言おうか。刻まれた生得術式を解析し、その生得術式の『裏』を作成する。分かりやすく言うなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが強制解除に見えるのだろう。

 

最初から正の力を持っている訳じゃない。

術式に対して反転術式では相殺ができない。五条さんがいい例だ。『茈』は二つの無限の衝突によって発生するし。

 

この『裏』術式を創れたらその環境に合わせた呪力そのものを相殺する力を使えるはずだ。

 

その『天逆鉾』は?

……夏油さんが持っていきやがったよ。だからコレはただの妄想だ。検証も出来てないし。

 

 

 

○月♪日 晴れ

 

他人の術式を使って領域展開できないかやってみた。

普通に出来なかった。どうやら領域展開に必要なのは生得術式だけじゃなく、()()()()()()()()()()()()()()()

 

前にも書いたが、呪力を構成してるのは魂のエネルギーだ。生得術式は本人の魂の形を示したもの、だから他人がそれを使うというのは、()()()()()()()()()に等しいのだ。

 

うーん。最近あまり進まないな。

新しい呪具の開発ならまだしも、自分自身の術式に限界が迫っている。圧倒的に知識不足。まだまだこんなものじゃないのに。

 

 

まだだ、まだ終わらんよ……!!(言ってみたかったランキング八位)

 

 

○月♡日 晴れ

 

最近、弟子達がつおい。

全員でかかってきたら、流石に負ける。殺し合いがありなら負けないが、手加減ありの多対一なら、東堂のせいで思ったより上手く気絶させられない。一応重力無くした俺は理論上光の速度まで加速可能なんだけどなぁ。慣れや癖を見切られているな。

 

まあ東堂はもう問題なく一級以上はある。

なんなら特級呪術師としても問題ないだろう。

 

 

やっぱりこれ原作より強くなってない?

大丈夫かな、加減間違えて恵くん殺さないよね?

 

 

 

○月*日 晴れ

 

久しぶりに天内にあった。

と言うか、天内が名前を変えて補助監督やっていた。最初聞いた時、私は口をパクパクと開けていた。後一年で私の専属の補助監督は解任されるが、その一年は天内が専属になるらしい。どうやら五条さんが手を回していたようだ。絶対殴る。

 

本人に関しては、「ふっふっふ。ようやく貴様の驚く顔が見えたのじゃ!」と言って録画していやがった。おまけにさりげなく五条さんに送りやがった。とりあえず両頬を引っ張った。

 

……まあ、ツボミさんが結婚して最近妊娠の可能性があるって言ってたし、丁度いいのかもしれない。天内は結界術だけならかなりの才能を持つらしい。流石、天元の器だな。

 

 

つかお前喋り方まだ治ってなかったのか……なんか開き直ったらしい。

 

 

 

○月¥日 曇り

 

禪院家に呼び出されて屋敷に訪れた。

次期当主の話だ。私が正式に禪院家に入り、真依か真希、もしくは禪院家に息のかかった女を娶るなら、当主の座をくれてやると直毘人の爺さんが言ってきた。

 

まあそれに抗議する三人だが、とりあえず実力で黙らせた。具体的には領域展開を開幕ブッパである。当然、動きを止めただけで殺してはいない。この件は預かり、直毘人の爺さんが死んだら考える事になった。

 

真依や真希はその話し合いにすら参加できないらしく、二人はどうしたいか聞くと、当然ながら真希は当主の座を狙っているし、真依に関しては呪術師になりたくないと言っていた。

 

やはり二人はなんというか中途半端な強さなんだよな。

真依の構築術式が弱いのも、真希の天与呪縛が完全な呪力の脱却をしていないのも、双子が原因なのだろう。

 

双子が忌み子である理由に関連してるが、単純な話、魂を二つに割ったのが双子なのだろう。だから強くなれない。逆に言えばそれさえ何とかすれば強くなれるはずなのに。

 

強くなりたいかと聞いたら当然と真希は答え、私と同じになりたいかと聞いたら、頷いた。

 

とりあえず、真依と真希を弟子に取る事を伝えたらあっさり了承してくれた。強くなるなら禪院家として損はないらしい。まあ真希に関しては強くなれたら後は適当にするとは言ってたが。

 

よくよく考えたら、京都組同級生の邂逅はあと三輪ちゃんでコンプだ。

 

 

 

 

 ★★★★★★

 

 

 

「で、ぶっちゃけどうやって強くなるの?」

「真依は双子が凶兆である理由気付いてる?」

「まあね。私が居れば真希は強くなれないし、真希が居るから私も強くなれない。双子の縛りみたいなものね」

「そこだ」

 

 

 私もそこは思った。双子こそが縛り。

 呪術において一卵性双生児は兄弟姉妹ではなく同一人物とみなされる。一つの魂が半分に割れるようなものだ。真希は真依で、真依は真希。お互いに一つの完璧を半分に割った存在なのだ。

 

 

「例え話をしよう。双子がいるから強くなれない。逆に片方が死んで術式を継がせれば強くなれる。ならどうすると思う?」

 

 

 真希が真依を背に護身用の呪具を向ける。

 わあ、流石お姉ちゃん。妹を背に呪具を構えてるところとかかっこよすぎ、我々の業界では眼福です。

 

 

「……おい、お前まさか私達のどっちか殺すって訳じゃねえよな?」

「頭硬いな。誰がそんな事するかよ」

「じゃあどうやって?」

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 はっ?と二人が理解できないように口を開く。

 まあ、普通に理解出来ないのは無理もない。やろうとしている事が常識外のやり方だし。

 

 

「要するにだ。双子は魂を半分に割った存在だ。だからこそ縛りの損得はかなり大きい。だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……!?」

「……そんな事、出来るの?」

「出来る。もっと正確に言うなら補填だ。お前達は魂が半分に欠けてるようなものだ。逆に言えばそれを補うように満たす存在さえあれば、強くはなれる」

 

 

 要するに同じ双子を創り、同化する。

 足りないものを足りるように埋める。それだけなのだが、これにはデメリットが存在する。

 

 

「ただ、問題が二つ」

「何だ」

「一つ。私が創るのはあくまで()()()()()()だ。魂の核のみが存在しないお前達での補填は完璧な補填とは言わん。現状より上がっても完璧とはいかん。ついでに言うなら、行ったら最後、それ以上の強さを手に出来ない」

「いや問題ねえよ。どっちかが死ぬくらいならそれでいい」

 

 

 真希が即答する。

 恐らくだが、伏黒甚爾に最も近い存在にはなるが、完全な脱却とはいかないだろう。私が天与呪縛を書き換えた事はあるが、この場合は例外。双子の縛りをどうにかしない限り、天与呪縛を書き換える事が恐らく出来ない。縛りは損得の問題、片方だけが強くなる可能性は薄い。

 

 

「問題二つ目。あー、殴るなよ?」

「何なんだよ二つ目は」

「多分、それをその完璧な偽物を創る時に裸が見えちゃうって事かな」

「………」

「……変態」

「待て誤解だ。創る際はどうあがいても服を着せるなんて無理だ。創った後、毛布かけるけど」

 

 

 なんせ肉体を創った時は素っ裸だ。

 残念ながら服まで着せて生み出すという器用な真似は出来ない。失敗すると不純物が混ざる可能性があるし。

 

 

「チッ、つまり私達の裸見る代わりに強くすると」

「おい待て、言い方。間違ってないけど、単純に見られるって事は知っといた方がいいってだけだ」

「あっ?欲情すんのか?」

「するか馬鹿。三十年出直してきやがれ」

 

 

 あっ、殴られた痛い。

 いやまあさ、二人とも美人じゃん?その二人の裸見るとか、ファンに殺されそうなんだが。

 

 

「……その前に一つ聞かせて。真希は予想出来るけど私はどんな風に強くなるの?」

「さあ?強化の振り幅は私も分からん。まあ真依の場合は私と同じくらいにはなれるんじゃないかな」

 

 

 真依の構築術式が複雑な物や燃費がクソなのは、呪力の問題ではなく生得術式そのものにある。魂を半分に割った中で持って生まれた生得術式は、()()()()()()()()()()()()()()()()。真希が天与呪縛を持っていなかったら、恐らくは構築術式を得ていただろう。

 

 

「ただ、呪術師になりたくないならオススメはしない。私の力は特に呪術界では重宝されている。家族を守る意味で禪院家との繋がりがある。構築術式の本質に辿り着けた人間は多くの呪詛師にも狙われかねないしね」

「……本質?構築術式に?」

「私の術式は君と同じさ」

 

 

 そういや明かしてなかった。

 知ってんの夜蛾先生とさしす組くらいか。構築術式の実態を知ったあの日から情報が漏れないように声をかけていたのが幸いだ。まあ構築術式自体が弱かったのもあって、私の術式がバレる心配はなかったけど。

 

 真依は当然悩んでいる。

 そりゃそうだ。真依は呪術師になりたくない。呪術師になって狙われるのも本意ではないのだし。実家のために結果を出すという事を嫌っている。

 

 

「真依、君に素晴らしい言葉を授けよう」

「……?」

「自分がどう在りたいのか、それを決めるのはいつだって自分の選択だ」

「!」

「強く在りたいなら力を欲し、弱く在りたいなら誰かに縋る。惨めに生きる在り方も、虐げられない為の生き方も、君が決める事だ。私は強要はしない」

 

 

 当然、決めるのは自分だ。

 私はどちらでも構わないのだ。強くなりたい奴には出来る限りの手を差し伸べよう。弱いままでも、本人の選択なら仕方のない事だ。その上で言える事があるとすれば一つだけだ。

 

 

「──ただ、その在り方に後悔だけはするな」

 

 

 私は最強を創る為に、多くの過ちを犯してきた。そうして未来が変わってしまった事に後悔はある。けど、歩いてきた道のりも、そうなってしまった事実も私が受け止めなければならない事だ。

 

 私は間違った選択には後悔している。

 ただ、自分の在り方には後悔はしていない。それは、あの人が私が成し遂げられると信じてくれたから。

 

 

「君はどうする?」

「私は……」

 

 

 真依の背中を思いっきり真希が叩いた。

 そこに言葉を交わす必要はなく、ただ真っ直ぐな真希の瞳に真依はため息をつき、自分の両頬を叩いた。

 

 

「……荒夜。私も、強くなりたい」

「決まりだ。真希は?」

「決まってんだろ。強くなれんならやる」

 

 

 二人の眼には迷いが消えていた。

 それを確認すると、私は立てかけられた白衣を着て、二人を研究所の最奥まで案内し、扉を閉めた。

 

 とりあえず言わせてくれ。私はヤッてない。

 

 

 




『禪院真希のステータス』

【強化前】
・五感   ★★★★
・呪力質  ーー
・呪力操作 ーー
・体術   ★★★★★
・術式   ーー

【強化後】
・五感   評価規格外
・呪力質  ーー
・呪力操作 ーー
・体術   評価規格外
・術式   ーー

 大体、伏黒甚爾の八割の強さ。
 動体視力、五感、肉体のフィジカルは全部向上し、呪霊を五感で感じ取れるようになった。

『禪院真依』

【強化前】
・呪力量  ★★
・呪力質  ★★
・呪力操作 ★★
・体術   ★★
・術式   ★★

【強化後】
・呪力量  ★★★★
・呪力質  ★★★★
・呪力操作 ★★
・体術   ★★
・術式   ★★★★


 半分に割れていた分の強さを取り戻せた。呪力量は荒夜より少し上、体術及び呪力操作は努力しなければ伸びないが、将来荒夜を超えれる可能性がある有望株。因みに荒夜は全ステータス星四以上、呪力量がギリ四くらい。


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二十八

 我、車の免許合宿中。
 一年くらいのお待たせ、合宿終わって課題が全部終わったら暫く暇になるから、それまで少し待って。とりあえず、乙骨前の寄り道を書いていくぜ。では行こう。


 

 

○月○日 快晴である。

 

いえーい、いよいよ高一だぜ!

転生してから長かった。なんなら面倒くさかったぜ、この道のりが濃すぎてもう前が見えねえ(泣)

 

俺は京都校の方に所属する事になった。

理由は三つ。禪院家の繋がりを持っている今、私は京都に近い方がいいとの事。まあ、家から近い方がいいし、今の私なら家から京都校まで余裕だぜ。まあ流石に寮に住むけど。孫悟飯じゃあるまいし。

 

二つ目が、単純に上の命令。

特級が二人も東京に居るのはあまり頂けないらしい。五条悟が最強ならば、私の場合は万能だし。集約させると不味いと上が察したのだろう。まあ無視しても良かったが、弟子が多いのは京都校の方だし。

 

三つ目が、これはさっき書いたが、弟子と真依の為でもある。

最近、私は二人の全く同一の性能を持った存在と融合させる事で対極、陰と陽に天与呪縛を組み替えた。本来の力を取り戻したとはいかない。当然ながら完璧ではないが、伏黒パパの再来が出来上がり、真希に関してはあっちで独壇場だろう。

 

だが、真依は別だ。

特に私と同じ構築術式はそれだけの価値がある。今の使い方で腐ってしまえば、いずれ悲惨な目に遭う。価値があるならば磨かなければ自分の居場所を守る事は出来ない。だから使い方の先駆者としては私が教えた方が的確なのだ。あと、東堂が何するか分からないし。(うるる)を東京の方に送ったから問題ないだろう。そういう三点で私は京都校に所属する事になった。因みに天内もコッチ所属の補助監督となっている。五条さんが軽く気を回してくれたのだろう。

 

 

俺の制服は白である。

特級って白服なんだな。そこまで詳しくは知らなかった。って五条さん勝手に改造してやがった。デザインにちょっと凝ったらしい。何してくれたんだあの人。

 

……なかなか悪くない。デリカシーがないくせに地味にセンスがあるのが腹立つ。

 

 

 

○月☆日 晴れ

 

歌姫先生が担任である。

同級生の紹介もあったが、三輪以外は見知った顔なので面白みもない。現在二年の加茂憲紀と魔女箒の西宮桃とも合流である。

 

早速加茂さんと戦ったが、圧勝。

術式無しで戦ってコレか。あかんな。単純に弱い。解釈が狭すぎて術式自体が上手く発揮出来ていない。まず、血液パックを使えよ。常識に捉われない事こそ強みだ。どこまで解釈を広げられるかの把握が出来てないのは致命的だ。

 

東堂とお互い術式無しで戦ったが、危なかった。

三発貰った。東堂の奴、()()()()()使()()()()()()()()()。カウンターが上手い。私が敢えて隙を作っていなければ、東堂に負けていた。癖を知っていなければ負けていたのは私の方だろう。

 

この後みんなで焼肉パーティーに行った。

 

 

 

○月*日 晴れ

 

カレーうどんを溢した。白なのに。ちくせう。

 

 

 

○月♪日 雨

 

真依の反転術式が漸く形になってきた。

入学前の半年から続けて漸く掴みかけてきた。まあ七割といったところか。

 

あと、三輪は術式をもたないので戦い方に工夫させるようにした。簡易的とは言え式神の使い方を教えた。

 

 

 

 

○月$日 雨

 

任務と呪具創りで疲れた。

特に退魔の剣が漸く完成したのだ。アレめちゃくちゃ大変だ。正の呪力を止める為に負の呪力の形を色々変えなければいけない。前は三ヶ月、今回は二ヶ月半と少しずつ早くなったが、極力創りたくない。これで三振り目だ。一つは私が持ち、二つ目は禪院家、三振り目はーー〜〜〜(疲れて寝落ち、此処で日記は途切れている)

 

 

 

○月%日 雨

 

腰めっちゃ痛え。

力尽きたとはいえちゃんとベッドで寝るべきだった。

 

 

 

○月◎日 晴れ

 

授業中に五条さんから電話がかかってきた。

力を貸してほしいとの事だ。一応二つ返事で私は東京に向かった。授業を早退し、私は東京に向かった。サボりで歌姫先生がめっちゃ怒ってたけど。

 

あの人外国に行くからちょっと任せてほしい案件があるらしく、聞いてみると伏黒恵に呪術を教えてほしいらしい。

 

おい、私最近忙しいんだぞ。

普通に緊急だと思ってサボっちまったじゃないか、歌姫先生に謝れ。

 

 

 

○月♡日 晴れ

 

うん。分かってはいたんだが、センスがいい。

玉犬は元々あるから。今の手持ちとしては脱兎、蝦蟇は調伏している。戦闘ができる鵺、大蛇はまだ習得していない。呪力操作的にその二体を調伏するのは先の話になりそうた。

 

だが、まだ気性が荒いな。

こんな女っぽい奴に教えを請うのかよ、と抜かしてきたので呪力無しで思いっきり殴った。仕方ねえだろ、髪は願掛けで伸ばして、子供の頃から絶えず呪力を張り巡らせているせいか、紫外線が遮られているのかもしれない。紫外線のカットで色素が大分薄くなって、肌が他の人より少し白くて、筋肉がつきにくく、中性的な顔立ちになってしまったのだし。

 

そのせいか、偶にナンパされる。男に。

 

……髪、切ろうかな。センセー。

 

 

 

○月☆日 雨

 

家入さんに久しぶりに会った。

入学祝いという事で焼肉奢ってもらった。(うるる)までご馳走になって申し訳なかったが、美味しかった。

 

 

 

○月★日 晴れ

 

歌姫先生に近くの任務を融通してもらって埼玉付近の任務は片っ端から終わらせた後、恵から連絡があった。

 

津美紀が何処に行ったか知らないか、と。

 

まさかと思い、鯉ノ口峡谷八十八橋へ向かった。

もしかしたら、アイツがいる可能性を考え、術式で超加速して。

 

そこにいたのは奴ではなかった。

 

 

 

……原作にも載っていない、私の知らない特級呪霊だった。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 

「ギリギリセーフ、と言った方がいいのかな」

 

 

 流石に長距離の瞬間移動は負担が大きい。

 重力に空気抵抗を分解し、理論的に光の速度まで加速出来るが、まさか新潟から埼玉まで約十秒の高速移動は幾ら負荷を分解出来ても、平衡感覚が少し乱れる。移動中は空気も吸えないからそれなりに制限速度を決めていたが、それを大分超過した。頭が少し痛い。

 

 帳が張られている。

 非術師を通さないタイプで強度はそこそこだ。俺は関係なく通れるようだけど。森の中に居るのか、呪力感知で一般人を探せない。一つ膨大な呪力が一つ。それ以外は分からない。

 

 

「!」

 

 

 かなり呪いの気配が強い。

 先に祓った方がいいな。被害が増え続ける中で見つけて保護して一々助けるより、元凶を祓った方が早い。そうすれば帳も消えるはず。

 

 

「となると、あっちか」

 

 

 片手にトランクケースを開け、私は瞬間移動で呪いの元凶の場所まで飛ぶ。そこに居たのは、片方の友達を抱えて怯えている伏黒津美紀と、麒麟の頭と紫の肌をした私の見た事のない呪霊だった。

 

  

 ★★★★★

 

 

 怖い、今までそう思った事は少なからずはある。

 けど、そのどれにも比べ物にならないくらいの圧倒的な恐怖が私の足を動かしていた。私は運動部ではないのに今だけは陸上部に負けないんじゃないかってくらいに走れている。友達を抱えながら、火事場の馬鹿力を発揮しているみたいだ。

 

 

「はあ、はあ、はあ!!」

 

 

 友達の意識が戻らない。

 私の隣にいた友達が、何が起きたかも分からずに倒れた。恐怖を与えてくる存在は遊興といって私達をワザと逃していた。黒い壁に囲まれて外には出れず、ただひたすら逃げ回っている。逃げる場所など、どこにもないのに。

 

 

「ほらほら死んじまうぞォ?」

「はあ、はあっ!!きゃっ!?」

 

 

 根本に躓いて気を失っている友達と共に私は倒れた。

 

 

「っ、うっ……」

 

 

 膝を擦りむいて血が流れる。

 身体も泥に塗れて、身体中が痛い。勢いがあり過ぎて傷も深い。走り過ぎて気を失いそう。早く、逃げないと……!

 

 

「まッ、遊興にしては楽しめたか」

 

 

 再び友達を抱えて走り出す。

 痛くて動けないのを無理して走り出し、痛くてもそれ以上に怖い存在から必死に逃げ続ける。飽きられた以上、手加減などしてもくれないだろう。生かされて遊ばれていただけだ。誰か助けて、と必死に叫んでもこの黒い壁に囲まれた場所じゃ助けも呼べない。

 

 

「んじャ、もう死ね」

 

 

 右手が此方に向く。

 触れられたら死ぬ。本能がそれを悟って私は友達を強く抱きしめた。

 

 –––––瞬間。

 何かが私の横を通り過ぎた。それを躱したのか、私から離れて、横切った存在を見た後、視線を私から何かが出てきたその方向へと向ける。私もつられて、その方向に顔が向く。

 

 そこに居たのは、中性的で髪が長く、黒い厚底ブーツと黒いズボン、白服に黒い帯のようなものが巻かれて何処か昔の人の服を連想させられる人がそこに現れた。

 

 

「間に合った。ギリギリと言ったところかな」

 

 

 大丈夫かい? そう聞かれて私は身体の力が抜けた。まだ怖い、まだ怖いけれど、女の人、いや声色からしたら男の人の言葉に私は少しだけ安心した。私に手を翳すと傷が癒えていく。これって、五条さんみたいな呪術の力?

 

 

「あまり、私から離れないで」

「は、はい!」

 

 

 何処か五条さんを思い出させる。

 この人を知らないし、安全である確証もないのに、何故か私は安心出来ていた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 初めて見る呪霊だ。

 麒麟の頭に紫の肌、大きさは私より少し大きめか?漏瑚や花御、陀艮といった特級仮想呪霊とは別モノか?それとも呪物の受肉?いや、後者の線は薄いか。この周辺からそこまで呪力を感知出来ない。私はこの場所に()()()()()()()()()()()()()、やはり私が居るから本来の展開とズレているな。

 

 

「帳の侵入者は何となく知ッてたが、お前か」

「……へえ、喋れんのか」

 

 

 コイツ、特級仮想呪霊か。

 見た感じ、麒麟頭だが感知出来る呪力量はかなりの物だ。帳をコイツが下ろしている。感知されないために帳を下ろしているのか。まあ、このタイプを殺せる術師は少ないだろう。一級では手に余る。

 

 

「アレ、は、何なんですか?」

「呪霊。君は伏黒君か五条さんに聞いた事はあるんじゃないか?」

「呪霊じャねえ。俺は轟霹(ごうへき)

「呪霊のクセに知性ありとは恐れ入るな。初めて会ったタイプだ」

 

 

 その言葉にカチンと来たのか、思った以上に反論してくる。

 

 

「テメェら人間は俺らを呪霊呪霊ッて言う。俺達には名前があるんだ!呪霊呪霊ッて、クソくだらねえ!テメェらもただの畜生のくせしてよォ!!」

「畜生はテメェらだろ。っと、議論しても平行線だな」

 

 

 この議論に意味はない。

 呪霊は呪霊、人間は人間だ。それ以上、それ以下もない。互いに呪い合うしか出来ない以上、議論しても無意味だ。

 

 トランクケースが開くとバラバラと式神の符が展開され、右手には黒閃銃、もとい特級呪具『黒雷』を握る。正直、出し惜しみは無しだ。

 

 

「お前はここで祓う」

「やッてみろ。糞餓鬼がァ!!」

 

 

 轟霹(ごうへき)の右手に雷が帯電している。

 成る程、雷の恐怖は薄いと思っていたが、実在するものだ。昔はそれを天罰や、神の裁きと呼ぶ程に恐れられたものだ。飛んできた電撃を私は今まで通り分解する。

 

 しかし……

 

 

「……っ!?」

 

 

 一瞬、()()()()()()()()

 何が起きたか理解できず、符を爆散させて煙を生み出し、その場から津美紀達を抱えて遠退く。痺れ、身体に帯電する電気は分解するが、ほんの一瞬とはいえ、私に術式が当たった。火傷を反転術式で回復し、考察する。

 

 

「(……そうか、電撃の場合だと呪力膜に触れてオートで虚式膜を展開する自動発動より先に術式を食らっちまうのか)」

 

 

 稲妻は大体秒速約200km~10万kmと言われている。虚式膜を張っている間は問題ないが、私は五条さんのように無下限を出しっぱにするように虚式膜を貼り続ける事は出来ない。私は0.1ミリ単位の呪力膜を張って、危険が膜に触れた瞬間に虚式膜に切り替える事で、リソースの最小化、無下限のように術式の自動発動を可能としているが、それでは遅い。

 

 とはいえ、体内の帯電の分解こそ出来たが、人間はそこまで大きい電圧に耐えれない。下手に喰らえば神経がイカれて動かなくなる。身体の電気信号のバグ、身体の血液から帯電し、器官の損傷、特に脳をやられたら致命的だ。だから負担が大きい虚式膜を張り続けなければいけない。これで長期戦になったら負けるのは私だ。

 

 

「(しかし、雷電か。相性が悪いな。今ので幻灯の魔物もイカれた)」

 

 

 伏黒津美紀を守っていたが、幻灯の魔物は所詮機械から生み出された仮想式神。機械がぶっ壊れてしまえば、不死身の幻灯の魔物も形無しだ。

 

 今まで戦った中で、伏黒甚爾に次ぐ相性最悪の存在。

 

 これは思った以上に骨が折れそうだ。

 

 



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二十九

おかしい。寄り道って言ったのに一万字超えてる。ちょくちょく投稿をまた初めていくのでよろしくお願いします。では行こう。



 

「ぐっ……!」

 

 

 電撃が荒夜の身体に直撃する。

 電流の分解こそ出来ているが、呪力消費の激しい虚式膜を張り続けるのは難しい。津美紀達には絶えず張られている為、消費を抑える為に間に合わない呪力膜から自動発動している。致命傷は避けられるし、攻撃のおかげで呪力の還元は出来ているが、それでも苦戦を強いられている。

 

 

「チッ!」

「ははッ!!」

 

 

 特級呪具『黒雷』の引き金を引く。

 弾道を予測されているせいか、さっきから弾が一発も当たっていない。知性がある事がここまで厄介とは思わなかった。

 

 

「(使うか?領域)」

 

 

 この場には津美紀とその友達が居る。

 二人に当たらないように虚式膜を張り続けていたが、これではジリ貧でこっちが先にやられる。だが、手を合わせようとした時、警戒され、距離を取られる。

 

 

「(チッ、領域展開も閉じる前に逃げられる可能性があるな。舐めてた部分はあるけど、コイツ、()()()()()()()()())」

 

 

 何なら五条さんでさえ捕らえるのは難しいだろう。

 五条さんの場合は負けはしないが、勝てるかと言われたらまた別だ。それだけこの呪霊は速い。

 

 伝承において、雷は天罰、裁き、神の怒りとされ、音が鳴るだけでもそこに恐怖を振り撒く天災。自然への恐れ、恐怖が固まった特級仮想呪霊だが、とんでもなく強い。特に速度全振りなのが厄介過ぎて荒夜は防戦一方だ。

 

 

「だが、そうは問屋が卸さないのが私だぜ?」

 

 

 式神を用いて術式の遠隔起動。

 私の周りでコソコソしている以上、森が邪魔過ぎる。式神を利用して此処の周辺には人がいない事を知っていた。少々派手だが、仕方ない。

 

 

「極ノ番【波旬】」

 

 

 式神の一つが消えた。

 次の瞬間、荒夜と津美紀の視界は光に覆われた。純粋なエネルギーによる圧倒的な範囲破壊。やはり遠隔起動と同時にやろうとすると起動に時間がかかるな。遠隔で式神を展開させているから被害範囲は抑えているが、それでも半径五十メートルの範囲の森が一瞬で更地と化した。

 

 

「う、嘘……森が更地に」

「遮蔽物は無し。祓えた気がしないな」

 

 

 極ノ番は最も破壊力があるが、流石に本気を出して放つ事は出来ない。本気を出したら日本どころか世界が終わる。冗談抜きで。

 

 

「シン・陰流【五行界】」

 

 

 シン・陰流【五行界】

 荒夜は呪力膜では反応が遅れてしまう事を考慮し、生得術式からシン・陰流『簡易領域』の改良術式に変更。自身から1メートル、高さ2メートルの間で小規模な領域を展開する。簡易領域と違うのは五芒星を繋いだ五角形の結界でありながら、地上だけでなく空中も対応出来る万能結界であること。『簡易領域』より範囲は狭いが、津美紀と自分を囲むように展開する。

 

 呪力膜→虚式膜では呪力消費は最小限ではあるが、どうしても攻撃が通ってしまう。伏黒津美紀にも虚式膜を張り続けなければならない中、自動発動では限度を感じ、呪力膜の範囲を肌0.1ミリから手前1メートルに設定し直す。

 

 さあ、勝負だ。

 結界の切り替わりが早ければ此方に有利が傾き、遅ければ雷撃を食らう。どちらの術式が速いか。

 

 

「きゃっ!?」

 

 

 電撃が結界に触れた瞬間、虚式膜が自動的に発動。

 津美紀は驚いていたようだが、傷一つ無い。どうやら虚式膜の方が速く展開できる。

 

 

「!」

 

 

 遠距離からは無駄だと思ったのか、直接、殴りかかってきた。だが、虚式膜は術式だろうが呪力だろうが、例え人間であっても平等に分解する。音速を超えた拳は虚式膜に触れ、容易く分解される。

 

 

「チッ!うざッてェな!!」

「残念。もうその速度には慣れた。もう効かねぇよ」

 

 

 とは言ったものの、荒夜はこの状況に内心舌打ちする。

 シン・陰流【五行界】の展開中は自陣から動けない。動いてしまえば結界を張り直す必要がある。【五行界】からオート操作での切り替えが通用する事が分かったはいいが、津美紀が一緒に居る中、荒夜自身が高速移動で距離を詰めるのは危険過ぎる為、攻めるに攻められない。変に離れると虚式膜の対応が出来なくなる。

 

 持久戦になっても問題ないようになっただけで、荒夜も攻めに入れずに亀のように守るだけの状態に等しい。逃げられる可能性も充分存在する中で、この状況はよろしくない。式神を使わなければ範囲攻撃出来ない極ノ番【波旬】も連発は危険だ。

 

 

「要するにその膜さえ無ければテメェを殺せんだな?」

「無理無理。君じゃ無理だ」

「馬鹿が、それを破る方法くらい知ッてんだよッ!!」

 

 

 右手で拳を握り、左手を広げ横にして上から拳を乗せる。

 この掌印は初めて見たが、領域によって掌印はどれも違ったりする。天から地に向けて雷を放つような、そんな意味を感じられる。

 

 

「–––––領域展開」

 

 

 世界が侵食されていく。

 地面が、空が暗闇に落ちていく。稲妻の音がしながら空には光は存在せず、あるのは暗闇と、一瞬、光を放ち空を躍る雷の大流と昏き積乱雲。荒夜が術式で炎を出し、周りを確認する。全方位全てが積乱雲に包まれ、その中には雷が渦巻いている。

 

 

「【轟天鳴御雷(ごうてんなるみかずち)】」

 

 

 雷が人間に降り注ぐ確率は1%にも満たない。

 今の世界では避雷針などの安全対策があり、人に雷が落ちる事はそう多い話ではない。降り注いだ余波で気を失ったりする人間はいるが、早々起こる話ではない。

 

 だが、領域展開の必中ともなれば、恐れられた雷は確実に当たる。人間には逸らす術はあれど止める事は出来ないソレが、荒夜達に襲いかかる。

 

 

「術式の受けで何処まで持つか!!」

 

 

 人間は100ボルトの電圧で死ぬ事がある。

 人間は塩や血液、身体の中に水分をかなり蓄えている。呪力で強化した肉体ならその程度は耐えられるし、荒夜は電圧が回る前に分解を施している。だが、落雷の際の電圧は約1億ボルト。人間が耐えられるそれを遥かに超えている。

 

 

「っ………」

 

 

 津美紀が震えている。

 それは最早本能と言っていい。雷が当たらずとも、音を振り撒くだけで恐怖を撒き散らす。怖いと思うのは当然の話だ。

 

 荒夜は津美紀の頭に手を乗せ、恐怖を散らす。

 

 

「大丈夫。私から離れないで」

 

 

 一発でも喰らえば即死は免れない雷撃が、全方位から放たれる。荒夜は虚式膜を張り続ける事で失った呪力の還元、余剰の範囲で反転術式を使い、最初に食らった雷撃による火傷を治していく。

 

 

「塵芥と化せ!紛い物風情が!!」

 

  

 轟霹(ごうへき)が荒夜の術式を中和しようと必中効果を更に上げる。

 荒夜の術式は五条ほど中和に対しての耐性が出来ていない。中和効果の分解も、より強い呪力に抑えられてしまえば負けてしまう。

 

 だが、それはあくまで……

 

 

「––––領域展開」

 

 

 領域を展開しない場合の話である。

 

 

「【創始再編式】」

 

 

 荒夜の領域が曇天の世界を飲み込んでいく。

 荒夜の領域と轟霹(ごうへき)の領域での必中効果の引っ張り合いは互角でも、荒夜の領域は呪力から分解していく為、領域の呪力を分解し、飲み込んでいく。

 

 阻止するにはより多い呪力で抑え込むしかないが、根本的な解決にはなっていない。より強い領域で領域を完全に抑え込まれた場合を除き、領域を展開出来る余地を残している時点で、

 

 

「ぐッ、おおおォォォォ!!?」

 

 

 領域の侵食は止まらない。

 還元したところで即座に食い潰される呪力殺しの世界が轟霹(ごうへき)の半分を飲み込んだ。

 

 

「くそがァァァァァァ!!!」

「っ!?」

 

 

 荒夜は領域を閉じるように設定した。

 逃げる事で範囲を底上げした縛りを課した領域では祓い切れない不安もあり、荒夜は領域展開自体を轟霹が領域展開する後出しのために使用する事を考えていた。

 

 だが、領域展開同士のぶつかり合いではいずれ負ける事を悟った轟霹は領域によって底上げされたアドバンテージを利用し、領域内で外に出る為に自身の速度を最大で加速して飛び、拮抗していた()()()()()()()()し、荒夜が領域を閉じ切れていない部分から脱出を試みる。

 

 

「逃すか!!」

「おおおおォォォォ!!!」

 

 

 拮抗を止め、逃げる事を選択した轟霹だが、領域の使用後は術式が焼き切れ、一時的に使用困難になる。領域の拮抗を諦めた以上、荒夜に必中効果が戻る。領域外に出てしまえば、荒夜が解除した時に術式を使えるようになる為、此処で逃せば死ぬのは荒夜達の方だ。

 

 轟霹が領域外に出るのが先か、必中で荒夜が轟霹を分解するのが先か。

 

 

「……チッ、しくった」

 

 

 必中を取り戻した荒夜は出来る限り分解したが、祓い切れずに領域外に逃げられた。

 

 

 ★★★★★

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ヒャハハハハハッ!!賭けに勝ッたのは俺の方だなッ!!!」

 

 

 両脚を分解で喪失したが、呪力で回復出来る。

 領域展開で勝てないと悟った判断は正しく、必中効果を奪われて領域が閉じ切る前に分解される恐れがあったが、分解され切る前に外に出ることが出来た。

 

 領域展開が終われば即座に殺す。

 術式使用不可の時間は終わった。呪力の消費量から再び領域を展開する事は出来ないが、荒夜が術式を使えなくなった時を狙い、雷速で直接ぶち抜けるように構える。

 

 そして轟霹が脱出をして八秒後、領域が解除される。

 解除されると共に飛来してきたのは無数の氷の槍。領域内で発射し、ギリギリで解除する事で攻撃を可能としているのだろうが。

 

 

「遅いな!!」

「っ!」

 

 

 轟霹に当たる速度ではなく、接近しながら避けられる。

 荒夜が津美紀達を護って前に出るが、術式を使えない津美紀の前に出て護ろうとしている時点で致命的な隙を晒して、結果は目に見えている。速度は重さ、雷速に迫る速さの拳が荒夜の肉体を貫いた。

 

 

「馬鹿が、使えぬ餓鬼共を肉壁にしたらまだ可能性があッたのによォ」

 

 

 心臓を貫いた以上、即死だ。

 口と傷口から血は流れ、虚な目で死んでいる荒夜を見下し、貫通した右手を抜く。次の瞬間、轟霹は奇妙な感覚に襲われる。感触はあった、肉体を貫いた時の血も飛び散っている。

 

 なのに、拭い切れない違和感に轟霹は背後に振り向く。そこにあったのは、死体の影から片腕が突き出され銃口を此方に向けている奇妙な光景だった。

 

 

「ッッ!?」

 

 

 パァン!と銃声が鳴る。

 轟霹はギリギリ反射的に右に避けた。その状況が飲み込めず咄嗟に下がる。

 

 

「凄い反応速度だ。本当に速いな。もう息吸っていいよ」

「ぷはっ!」

「もう一人は息してるかい?」

「大丈夫そうです。まだ起きてませんけど」

 

 

 死体の影から現れたのは殺した筈の男と、呪力を持たない女達だった。あり得ない。領域展開直後は術式を使えないし、影から現れたそれは分解を使用していた術式とはかけ離れ過ぎている。何が起きているのか理解出来ず、轟霹は叫んだ。

 

 

「テメェ、何で生きている!?」

「殺したと思った?ちゃんと見てみなよ」

 

 

 死体と背後の女達がパラパラと捲れていく。

 感触も、質量も、呪力の質も本人のものだった筈だ。なのに肉体は徐々に崩れて、変わっていく。それは紙の集合体で、血まで巧妙に造られ、再現された……

 

 

「式神、だと…?」

「いやあ、苦労したんだぜ?肉体の再現とは違って自分と全く同じ存在を式神で再現するのは大変だったよ」

「術式は一人につき一つの筈だ!テメェの術式は分解じャないのか!?」

「私の構築術式は反転すれば分解出来るが、本質は構築だ。術式の基盤さえ有れば劣化再現が出来る。式神もその応用さ。それが例え、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 普通、式神術、結界術、呪力強化を除いて生得術式は一つだが、荒夜は術式の基盤を複数持っている。故にそれらを再現可能なのだ。だが、デメリットも当然ある。術式は全て劣化再現になる。東堂の術式なら範囲だったり、冥さんの術式なら烏を操れる数だったりと。

 

 他にも、複数同時併用は術式の使用が遅れたり、刻んでいる間は絶えず呪力を消費し続けなければならなかったり、勝手がいい訳ではない。

 

 そして、これは最近分かったのだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。五条悟の無下限は無限を捉える六眼がない為、使用が出来ず、加茂家の赤血操術は体外も体内も血液操作が出来ない。恐らくは呪力と同時に体質や血が関係しているのだろう。そして禪院相伝の十種影法術はそもそも式神が存在しない。影を媒体とした式神にも術式がある為、再現出来たのは影に潜り込む力のみだ。

 

 

「劣化はデメリットも多いが、それなりにメリットはあるんだよ」

 

 

 メリットは術式のおかげで手数が増える点と、領域展開時における術式の使用不可は()()()()()()()()()()()()()()()こと。生得領域の具現は術式が焼き切れて一時的に使えなくなるが、本人が持つ術式こそ焼き切れても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 結界内で身代わりの式神を用意し、劣化の【十種影法術】を刻み、影に隠れ、影が重なった瞬間に『黒雷』で打ち抜こうとしたが、間一髪躱された。

 

 だが、()()()()()()()

 

 

「君はさ。領域を展開する前に完成させる方法を知ってるかい?」

「……何?」

 

 

 領域展開は結界を閉じる事で自身の生得領域を具現化させる。呪術師であるなら、この程度の知識は誰だって知っている。例外を除けば、結界術で囲わずに具現化させる奴は存在する。両面宿儺も私もそれは出来る。頑張れば五条さんもいけると思う。

 

 

「結界術はさ。上手い奴なら、術式効果を優先させて視覚効果を後出しする事が出来る。まあ、それ以外にも方法はある。()()()()()()()()()()使()()()()

 

 

 構築術式で創られた物は消えずに残る。

 荒夜が【創始再編式】の内側で創られた式神が消えずに残ったように。荒夜は別に、式神だけを創ったとは言っていない。

 

 轟霹が振り返る。

 先程の氷の槍が突き刺さっている場所に隠れて、やや大きめの杭が埋め込まれている。氷の槍はブラフ、本命は此方にある。

 

 

「結界を先に閉じる事で発動効果を後出しする。まあそれなりに創るのに負担が掛かったし、一から創ったから君を分解して得た呪力も殆どパァだ。閉じるのがもうちょい遅れたらもう一回発動するのは無理だったけど」

「テメエェェェェェェェェェ!!?」

「これで終わりだ」

 

 

 逃げようとする轟霹だが、()()()()()()()()()()。 

 結界に阻まれて弾かれる。轟霹を阻む代わりに全ての存在が出入り自由な結界。この高度に指定された縛りは五条さんですら直ぐに壊せなかったのだ。結界は閉じられ、後は術式効果を後出しで発動するだけだ。

 

 

「––––領域展開【創始再編式】」

 

 

 緋色の世界が轟霹を飲み込み、轟霹は成す術もなく緋色の世界に消えていった。

 

 

 ★★★★★

 

 

「(正直、危なかったな。かなり力技で押した感じだ。速度対策が足りてなかったな)」

 

 

 伏黒恵と出会わなければ、【十種影法術】の効果で式神の影に隠れる事は出来なかった。基盤が無ければ最悪東堂の術式で立ち回るつもりだったが、あの呪霊は想像以上に強かった。

 

 

「っ、ごほっ、ごほっ!!」

 

 

 普通に血を吐き出した。

 正直な話、此方も辛勝と言ったところだ。ここに来るまでの高速移動、領域展開を二回発動と、式神と領域効果を先に優先させる特殊呪具、反転術式に虚式膜、呪霊から呪力を供給出来ても負担はかなり大きい。頭も痛いし、呪力は今分解した呪霊の分を供給出来たが、流石に疲れた。反転術式を回してとりあえず呪力膜の設定も今は無しだ。

 

 

「さて、帰ろうか。帳も上がったし」

「は、はい!……あっ」

「……?どうしたの?」

「腰、抜けちゃって」

 

 

 まあ、仕方ないか。

 呪霊が初めて見えてアレはかなりの恐怖を撒き散らす呪霊だったし。

 

 

「ったく、ほら乗った」

「えっ!?いや、悪いですよ!」

「取り残すのは無し。おんぶかお姫様抱っこかだけど、おんぶが嫌ならお姫様抱っこにするよ?」

「……おんぶでお願いします」

 

 

 もう一人をお姫様抱っこし、津美紀をおんぶする。

 こういう時、呪力強化は超便利だ。しかし特級仮想呪霊がこんな所に居るとは予想外だった。私はメロンパンが来ると思ってた。やはりもう原作という物語からズレ過ぎているのだろう。

 

 

「次からこういう所に来るのはやめた方がいい」

「はい……すみませんでした」

「怖かったかい?」

「凄く、怖かったです」

 

 

 本当、無事でよかった。

 あんな特級が現れたとなると、守りながらも大分無謀だったし、よく勝てたなと思う。まだまだ最強を創れないし、準最強になり切れていないな。荒夜チョー反省。

 

 

「津美紀、荒夜さん!」

「恵!」

「よくここが分かっ…ああ玉犬か」

 

 

 匂いを辿ったのか。

 片方持ちますよ、と言われたのでとりあえずお姫様抱っこしてる方の友達を渡す。この子、藤沼さんっていうのか。

 

 

「…怪我はねえのか」

「大丈夫。腰が抜けただけだから」

「馬鹿か。普通に心霊スポットに行くんじゃねえよ。五条さんも言ってたろ。そういう場所は呪いが出やすいって」

「分かってるからこそだよ。じゃなきゃ、私の友達は死んでたかもしれなかった」

「知ってるだけで対処出来る訳ねえだろ。姉貴は呪術が使えない。なんでそこまで構う必要がある」

 

 

 やけに反抗的だな。

 確かに呪術は津美紀には使えないし、呪力を持っていない。けど、それではまるで力がないなら黙って見逃していろと言っているようにも聞こえる。

 

 

「姉貴は弱い。助ける力もない。なのになんで助けようとすんだよ。助けれるとか思ってんのかよ。助けて感謝されたい優越感にでも浸りたいなら、一人で勝手にやれよ」

 

 

 その言葉には私もカチンときた。

 反論しようとした時、津美紀が後ろから強く掴む。あっ、ちょっと首絞まってる。反論はやめてほしいとの事だ。

 

 

「私が後悔したくないから」

「!」

「私は弱いよ。こうして助けてもらえなきゃ死んでたよ。けどね、私はそれを理由に誰かを見殺しにしたら、多分もう二度と笑えなくなる」

 

 

 そうか。この子、虎杖悠仁に似てるのか。

 根っからの善人だ。不平等に人を助ける、伏黒恵の行動原動力はこの子から教わったものだった。

 

 

「だから、不平等でも私が助けたいって思うの」

「死んでもかっ!お前はこの人が居なきゃ死んでたんだぞ!!」

「死なせたくないから、()()()()()()()()()()()()。私は呪えないから、それしか出来ないの」

「それが無謀だって言ってんだろ!!」

 

 

 此処から先は平行線だ。

 つか、私と気絶した人間を板挟みに口喧嘩するなよと言いたいが、ため息をついて口を出させてもらった。

 

 

「……確かに、君に呪術の才能はない」

「うっ」

「今、君が助けようとした事は君が二次災害に突っ込むような事だ。正直無謀だ」

「……ううっ」

「けど、()()()()()()()()

 

 

 間違っているけど間違っていない。

 それが答えだ。非術師が呪霊が生み出される場所に居るのは正直無謀かもしれないが、それでも助けたいと思う気持ちは間違いなんかじゃない。

 

 

「不平等に人を助ける。呪術師はそういうものなんだ。恵くん、君が呪術師になるのは五条さんの手引きのせいだし、君自身に思う所はあるだろうけどね」

 

 

 伏黒甚爾に売られてしまうのを防ぐ為に五条さんが強制的に呪術師にする担保を結んだのだ。思うところはあるし、強制的に呪術師になれと言われて苛立つ部分はあるだろうが。

 

 

「呪術師は呪われた人を一人でも救う為に動くんだ」

「それは」

「偽善者なんだよ。本気で救いたいなんて思ってる人間は多くない。善人なんて数少ない。だから偽善者でいいんだ」

 

 

 偽善者じゃなければ、この世界を生きにくい。

 そうやって善人が潰れてしまった事を私は知っているから。

 

 

「自分が何者でもいい。理由が無くても救わなきゃいけない。だから、私達は本気で助けたいと思わないなら偽善者でいい。それでも救う。それでも助ける」

 

 

 あの人がそうだったなら、どれだけ良かったか。

 善人だからこそ、虐げられた存在を憎み、悪意を見逃せずに悪意に溺れて悪意を狩っていく。

 

 

「恵、君は助ける事をどう思う?」

 

 

 私の答えはきっと偽善者。

 私が助けたいと思う事は、知識を変えたくないからと打算的な思いも少なからずあるからだ。だから救える部分は救う。助けられた筈なのに、助けられなかった。助けられると思い上がっていた。

 

 だから、助ける事は偽善者だと私は思う。

 

 

「俺は……」

「確立した答えなんてないんだ。ただ、津美紀が自分の良心を信じてるそれも、呪術師では無くても一つの答えだ」

 

 

 自分がどう生きたいか。

 自分がどうなりたいかなんて簡単には分からない。でも呪術師は救わなきゃいけない。救った数だけ自分の存在の証明になる。そうやって自分の存在証明をしていく。

 

 

「君が本当に誰も救えない人間だと思っているなら、心配はしていてもこの子を探そうと此処まで来てないよ」

「っ…」

「自分がどうしたいかくらいは、見定めておきなよ」

 

 

 もう立てるようなので、津美紀を下ろす。

 意外と発育がい……まあとりあえず呪力強化でも普通に肩が限界だった。最近、呪具製作に任務の板挟みで疲れてたし。

 

 

「荒夜ぁぁぁぁぁ!!!!」

「ん?この声、天な–––––がはっ!?」

 

 

 津美紀を下ろし、振り向いた瞬間に私の膝に脚が乗り、その前膝蹴りが飛んだ。思いっきり鼻に入り、私は後方に五メートルくらい蹴り飛ばされた。やるな、世界を狙えるぞ。サラッと呪力強化してるからめちゃくちゃ痛い。

 

 

「おおい!?何でシャイニングウィザード!?呪力集中させなきゃ私の意識堕ちてたぞ!?」

「五月蝿いのじゃ!妾がどんだけ探し回ったと思っておる!!電話しても出ないし、歌姫さんから連絡されたし、なんならもう次の日になってるし!!」

「マジ?嘘だろ、そんなに経ったのか?」

 

 

 スマホを取り出し、ホームボタンに指を置く。

 電話は伏黒恵の連絡から震えていなかったと思うのだが。カコカコと、音が鳴るだけでロック画面が現れない。そう言えば、幻灯の魔物も壊れてたし、私も直に電撃食らったしな。

 

 つまりこれは……

 

 

「……ふっ」

「壊れたのか」

「壊れたんですね」

「壊れたんですか」

 

 

 許さん轟霹。データが全部吹っ飛んだ。

 ハッキングされないように依頼の内容、連絡先が流出しないように徹底していたせいで、諸々全てが復元不可能だ。私はショックで地面に膝を突いて絶望に浸っていた。

 

 




★★★★★
活動報告にて最強募集してます。最強じゃなくても実用的だと思ったものでも構いません。
良かったら感想評価お願い致します。


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三十


お、ひ、さ、し、ぶ、り。学業忙しいナウ。
いよいよ原作0巻の始まりが見えてきた。


 

 

 

○月○日 晴れ

 

久しぶりに研究メインである。

速度最強にゴリ押しで勝てたはいいが、その程度ではまだまだ最強になれない。因みに前回壊れたスマホはメカ丸に復元を任せた。

 

最強が無ければ創ればいい。よろしいですね?

という訳で、新しい呪具を創ろうと思う。まあもう具体案は出ているけどね。

 

待たせたな野郎共。

ついに魔眼の開発である。

 

……と、言いたい所なのだが、研究所がそろそろガタが来てる。九十九センセーが持っていた所有地で、実験の失敗とかもあって、意外と年季があったからな。なんか金庫に所有権の譲渡先が私の名前あったから色々管理してたが、取り壊したくはないけど、そろそろ此処も限界だ。

 

 

とりあえず魔眼の前に、工房を創ろうか。

 

 

 

○月◎日 晴れ

 

京都に一つのアパートを建てた。

アパートと言っても部屋全部をぶち抜いて、体育館並みの広さの隠れ工房を創った。物件丸々買える金があってよかった。こんだけ使っても私の所持金の10分の1も消費してない。

 

いやー、悪くないね。隠れ家みたいで。

 

荷物を色々と整理して、とりあえず工房としては妥当な広さが出来上がった。周りは森だから万が一も問題無し。

 

さて、魔眼を開発するとしますか

 

 

 

○月★日 晴れ

 

魔眼の種類は主に二つ考えている。

 

一つは万物を即死させる直死の魔眼。

二つ目が魔眼の効果を無限に増幅させる積重魔眼。

 

実を言うとどちらも手がかりがある。

直死の魔眼については七海さんの術式、十割呪法が手がかりとなった。七海さんの術式は対象物に強制的に弱点を作り上げる能力。弱点に当たれば鉈でも大ダメージを引き起こす。

 

生物、物質に弱点を作る。

突き詰めて言うならば、弱点というあり得ない線が七海さんには見えている。七三でクリティカル。弱点の部分を切れば大ダメージ。

 

直死の魔眼に似ていると思わないか?

万物の綻びを見ると、物体や生物の弱点となる線を見る。

綻びを崩せば死を与える、線に当たれば大ダメージ。

 

七海さんの術式自体がそこまで強くないとはいえ、共通する部分はある。解釈と見えているものの問題だ。弱点を作る事は逆説を言えば綻びを可視化出来るという定義になる。

 

まあ、手がかりだけで今の私では作れないな。

万物を見通す眼。術式に加え、六眼でも無ければ恐らく不可能な話だ。元々、根源と繋がっていると言われたものだ。世界の綻びを知るなら世界を知る眼でなければ不可能という事だ。

 

死を理解し、世界の異常を感じ取る感性。

私が一番近いだろうが、近いだけでそれを可視化出来るかは別問題。仮にも『虹』の魔眼は伊達じゃない。直死の魔眼は後回しだ。

 

 

○月❄︎日 晴れ

 

ムタ丸スマホありがとう。

 

 

 

○月☆日 晴れ

 

魔眼を作る前に魔眼殺しを作ろう。

元々、呪力を抑え込む封印術式は両面宿儺の指に付与されていた。他にも懲罰部屋。札をべったり張った部屋の呪具もそれに近い。呪力を抑え込み、術式の効果を薄める効力がある。まあ、完全に封じたり、封印出来るわけないのだが。

 

という訳で術式付与した魔眼殺しを五条さんに送ってみた。メールで、もし効力があったらサングラスと布タイプで頼むと言われた。

 

払う金額が尋常じゃなくて引いた。

ゆきちいっぱい……。

 

 

○月♪日 曇り

 

連絡があって意外と悪くないとの事。

魔眼殺しはどうにかなりそうだ。よかった。

 

近いうちに海外に行くらしく、一週間もすれば帰ってくるらしい。私は海外に行くにしても、もうちょっと先の話だ。呪具の注文が多いからそれを片付けないと無理と上層部にハッキリ言った。隈が多すぎる私を見て上層部すら引いていた。

 

じゃあ、改めて作ろうか魔眼を。

魔眼の手がかりは菜々子の術式だ。まあ魔眼の術式に最も近いのは禪院家の蘭太って奴の術式だが、アレは破られたフィードバックで眼が潰れかねないので却下。

 

菜々子の術式はレンズを通して被写体を凍結させる術式。

 

菜々子の術式は魔眼の術式の構造とかなり似通っている。レンズに呪力を通し、写した視界を凍結させる。カメラは時間の一瞬を焼き付けるもの。眼の構造にはレンズがあり、視神経があり、写したものを脳で把握する。構造だけならカメラと似ている。

 

ここで私は思いついた。

魔眼を創ればわざわざ術式を刻みカメラを使わなくても、ノータイムで束縛させられるのではないかと。

 

魔眼の中に魔眼を作る。

合わせ鏡で無限反響させ効果を増幅させる。これが特に難しい。何故なら本来の眼と明らかに違いすぎるからだ。此処からは改造し、構造を把握し切らなければならない。

 

とりあえず一つ目が完成した。

虚式空間で左眼の眼球を丁寧に外して、造った魔眼と入れ替え、視神経を反転術式で繋げる。

 

 

片目は見えないままだ。

とりあえず、失敗したな。

 

 

○月¥日 雨

 

レンズのズレのせいで、視界が上手く映し出せない。

難しいな。眼球の構造を知っているからこそ、何がいけなかったのか理解できない。

 

だとしたら、付与するべき場所か?

 

意外と失敗続きは珍しいな。

 

 

○月■日 晴れ

 

原因が分からない。

魔眼の中に魔眼を作るって何ですか蒼崎先生。

 

 

○月*日 晴れ

 

任務多すぎる

 

 

○月¥日 曇り

 

明日テストだ。真依にも術式について教えないと。

 

 

○月◆日 曇り

 

つかれた。

最近、やる事多すぎて疲れている。

テストは一日で終わらせた。多分全部高得点。

 

 

○月●日 曇り

 

気晴らしに一日オフにして遊んだ。

遊び疲れたから日記は此処まで。

 

 

○月#日 晴れ

 

大体原因が分かった気がする。

レンズは繊細だ。直接術式を刻みつけると視神経と繋げても視界の確保は出来なくなってしまう。なので、レンズを二枚用意し、重ねる事によって、術式を刻んだレンズと普通のレンズに切り替える事が出来るようにする。

 

そして、完成した魔眼に呪力だけを通す。

 

結果、魔眼が破裂した。

うおっ、怖ええええ!?掃除するにもグロテスク過ぎて夜飯を抜いた。

 

 

○月■日 晴れ

 

生半可なレンズじゃ刻んだ術式に耐えられない事が分かった。超強化レンズ。これなら破裂せずに耐えられる。呪力を通しても問題無し。虚式空間でしっかりと視神経と繋ぎ合わせる。

 

結果、成功した。

光が眩しかった。見える。問題無く元の眼と遜色なく見えるようになった。蠅頭に魔眼を試してみた。

 

蠅頭の動きが止まった。

これが魔眼。蒼崎橙子の世界か。

 

つっても呪力の反響が酷く、頭痛が走る。

出力は抑えたので、頭痛の強さで大体分かる。これは意外と使い方が難しいな。視神経は脳と繋がっている訳だし、使い過ぎると危ないな。反転術式と併用しながらも消費が高いし。

 

まあ、メインで使わないからいいか。

 

 

○月☆日 晴れ

 

上層部から連絡が来た。

特級過呪怨霊。祈本里香に呪われた少年。乙骨憂太の討伐が言い渡された。

 

マジか。五条さん海外だから私が行くのか。

最近疲れているのに。呪術師はやはりクソだ。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 私は現在、宮城県に来ていた。

 

 どうやらロッカーを詰めた自責の念で引きこもっているらしく、ドアをノックすると隈が酷く生気のない顔で出迎えた乙骨憂太の姿がそこにあった。ドアを開けたら更に呪いの濃さに顔を顰める。

 

 私が今まで感じた誰よりも呪いの濃さが違う。 

 階級が低い呪術師だと呪いを感知しただけで脚が竦むだろう。

 

 

「君が、乙骨憂太であってるね?」

「は、はい」

 

 

 自信なさげの青年が応答する。

 隈が酷く、奥を見ると縄が天井に吊り下がっている。自殺しようとしたのか。

 

 

「とりあえず場所を変えようか」

 

 

 乙骨の腕を掴んで飛ぶ。

 流石に住宅街でやり合うのは帳を下ろしても混乱を招きかねない。

 

 

「へっ?う、うわあああああああっ!!?」

 

 

 乙骨の叫びと共にヌルリと出てきた巨大な腕。

 断末魔のような悲鳴に誘われたかのように乙骨の背後から虚空をこじ開けて出現する特級過呪怨霊。

 

 その呪力量は五条さんすら超える。

 圧倒的に不気味、本来不可能であるはずの死者の滞留を可能とした呪いの女王が出現する。

 

 

「ゆ う た に"ふ れ る なああああああ」

 

 

 祈本里香の手が触れる前に乙骨の手を離す。

 ここなら丁度いい。折本里香は何があっても乙骨を死なせないなら、当然のように落下していく乙骨へ手を伸ばしていく。

 

 

「えっ、うわあああああああああっ!?」

「ゆ う たああああああああ!」

 

 

 思った以上の執着。

 コレに愛されてよく平気でいられるな。里香の手に支えられ、転落死は免れたようだ。此処は乙骨が住んでいたアパートから十五キロは離れた山。遮蔽物がない場所に高速移動した。

 

 

「『闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え』」

 

 

 此処なら被害は及ばない。

 祈本里香の被害を考えても無人の場所を選び、帳を下ろした。

 

 

「やあ、改めて初めまして乙骨くん。どんな女がタイプかな?」

「えっ……いや、その」

「ああ別に答えなくてもいいよ。私なりの挨拶だし」

 

 

 ケラケラと笑うのも止め、本題に入る。

 

 

「乙骨憂太。私は君の捕縛、もしくは抹殺を命じられている」

「ぼ、僕の」

「ロッカー事件は忘れてないだろう?君を呪っている存在、祈本里香が呪術的危害を加えた。分かっているだろう?」

 

 

 乙骨憂太に危害を加えるものに対しての過剰防衛。それも呪霊となれば上が野放しにするのを納得する筈もない。まあこういうスカウトは五条さんの役割なのに。

 

 

「まあ捕縛してもどうせ秘匿処刑にするつもりだとは思うが、君の処刑はどう足掻いても祈本里香が顕現してしまう。だから、折本里香と君を殺せるであろう私が引っ張り出されたのさ」

「り、里香ちゃんも…」

「ああ。ソイツはもう怨霊の枠組みにいない。下手したら国一つ滅ぼしかねない核兵器みたいなものだ。そりゃ野放しにする訳がない。ましてや制御出来ずに暴走し、他人に危害を加えるなら当然、処理するのが基本だ」

 

 

 比べるなら核兵器の方がまだ優しい方だ。

 物理的に祓える術師は私を含めて二人しかいない。

 

 

「ぶっちゃけ祈本里香を祓えれば私は君だけなら生かしてもいいとは思ってるけど」

「待って、駄目だ!里香ちゃん!!」

 

 

 祈本里香が顕現する。

 抹殺しようとする私の排除の為に祈本里香も本気を出した。

 

 

「まあ、そう簡単にはいかないか」

「ゆうたを」

 

 

 殺意が頬を撫でる。

 愛する人を守る為に危険を排除しようとする呪いの女王が牙を剥く。

 

 

「いじめるなあ“あ"あ"!!!」

 

 

 巨大な右手が迫る。

 掴まれたら一瞬でミンチにされるな。呪力で身体強化をし、右手を避ける。思った以上に破壊力が違う。呪力の総量の桁が違う。終焉の獣であるパックぐらいはあるかもしれない。

 

 

「一、二、三、四、五、六」

 

 

 式神六枚による術式の遠隔起動。

 様子見程度と考えていたが、この肌を刺すような呪力の濃さにその考えは消え失せた。

 

 

「呪法、氷天」

 

 

 此処ら一帯が凍るほどの大寒波。

 里香が乙骨を抱えて大寒波から守っている。いや、というより大して効いていない。馬鹿みたいに垂れ流されている呪力が里香を守っている。

 

 

「(死者の滞留の縛り、それは一回調べた事があったけど出来なかった。コレはどういう理屈だ?)」

 

 

 私が知ってるのは精々、乙骨憂太が里香に呪いをかけて成立しているという事。細かいパラドックスは知らない。そもそも死者の滞留が出来ないのは縛りにも限度があるからだ。何かを得る代わりに何かを失う。縛りにおいて足し引きは絶対条件。死者の場合は全てを失っているからこそ縛りが不可能なのだ。

 

 

「(乙骨の呪術的能力の全譲渡で里香を自分へと縛り付ける縛りが成立した?他人の縛りはそれを望まなければいけないけど、里香がそれを承諾し、あんな存在が出来上がった?)」 

 

 

 彼女は乙骨憂太を愛している。

 承諾は不思議な話ではない。けど……

 

 

「(馬鹿げてる)」

 

 

 そんなの狂っている。

 死んでほしくないという想いはみんな同じ。それは同情は出来るが、コレはない。愛で縛り付けるが故に限度がない。尽きない愛、それが無尽蔵に呪力を生み出せるという特異性まで兼ね備えている。しかも乙骨は無自覚だからタチが悪い。

 

 

「(自覚なしでこうも出鱈目な存在が出来上がるとか、どんな確率だよ)」

 

 

 そんな事が出来るとするなら五条さんレベルの呪力量だけどあり得なくはないし、現に総量は五条さんを超えている。

 

 恐らく模倣術式は乙骨の術式。そして五条悟以上の呪力を持っていた。それを里香に譲渡し、自分の所有物という縛りを里香に与えた。そして里香もそれを承諾。彼女は乙骨憂太のものとされてこうなった。正確には()()()()()()()()()()()と言う無意識の縛りが成立した。

 

 呪霊が見えるのも、彼女を認識する為の縛りで最低限見える程度の呪力が無意識に里香から流れているのだろう。

 

 

「(しっかしどうするかね。里香を物理的に祓えば乙骨の術式と呪術的能力は永久に失われる。耐久戦は私の方が分が悪い)」

「あ"あ"あ''あ"あ"あ''あ"!!」

 

 

 今回は呪霊を分解が出来ない分、呪力供給が出来ない。

 このままでは一向に削られるだけだ。呪具からの供給にも限度がある。ではどうするか。

 

 

「悪いけど、暫く止まってもらう」

 

 

 魔眼起動。

 垂れ流されている呪力で効果を守っていても無限に増幅する魔眼は折本里香を完全に束縛する。垂れ流されている呪力もそうだが、内包している呪力も馬鹿げている。出力限界まで引き上げて動きを封じる。

 

 

「っ……」

 

 

 めちゃくちゃ痛い。

 頭の中から串刺しにされたような痛み、発動と同時に反転術式で治していくが、それだけの出力にしなければ止められなかった。魔眼も使い所を考えないと。

 

 

「(抑え切れないか)」

 

 

 このレベルを魔眼だけで抑え込むのは限度がある。

 式神を多重展開。祈本里香の周囲に設置する。

 

 

「封刻術式––––災禍縛鎖」

 

 

 両面宿儺の指を封じた平安の術師の封印術式。

 式神を再構築し、呪力封殺の印が刻まれた鎖が折本里香に巻き付いていく。とはいえ並の術師なら封殺出来ても彼女を束縛出来る力はない。すぐに壊される。何より呪具の供給がそろそろ限界だ。

 

 

「が……あ"あ"あ"…あ"あ"あ"!!」

「里香ちゃん!?」

「さて乙骨くん。祈本里香を止めろ。じゃないと私は彼女を殺す」

「なっ……」

「十秒やる。彼女が動き出す時間だ」

 

 

 極ノ番や領域展開なら消滅させる威力は出せる。

 とはいえ全力出力になると流石に帳で隠せないレベルになる。生かしたままという条件の耐久戦になれば流石に敗色濃厚だ。里香を死なせたくない乙骨自身に止めてもらうしかない。止められなければ原作関係なく祓うだけだ。

 

 

「制御出来ないなら殺す。君がその子を生かしたいと思うなら人を傷付ける存在のままにしている君の怠慢だ」

「っっ」

「あと五秒」

 

 

 カウントしていくと里香も凶暴性が増していく。やはり既存の呪具ではどう足掻いても封じる事が出来ない。折本里香を止められるとするならやはり乙骨しかいない。

 

 鎖が砕けた。里香が動き出す。

 それと同時に乙骨は里香の手を掴んだ。

 

 

「里香、止まって」

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」

「––––じゃないと僕は里香を嫌いになる」

「あ"っ」

 

 

 えっ、その方法?

 その一言に里香の動きはピタッと止まり、乙骨に縋り付くように抱きしめながら泣き叫び始めた。

 

 

「ごめ"ん"な"さ"い"!ごめ"ん"な"さ"い"!!ゆうたああああああああっ!!!」

「止まってくれる?」

「う"ん!!」

「ありがとう里香、大好き」

 

 

 里香の頭を撫でると、里香は虚空へと消えていく。

 あれだけ激しく撒き散らされていた呪力が凪いだように大人しくなった。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 沈黙が走る。

 というか、何と言えばいいのか迷っている。

 

 

「…………」

「………あの、これでいいですか?」

 

 

 沈黙に耐え切れず乙骨が先に切り出した。

 いや……うん。まあ私が止めろとは言ったんだけど。

 

 

「……君、女たらしだね。ちょっと引くわ」

「なんでっ!?」

 

 

 無自覚か君。

 とんでもなくえげつない方法で里香を押さえ込んだ乙骨を見て、若干里香が不憫に思った。

 

 

 




※あくまでこれは僕なりの解釈です。本当かどうかは分かりません。
 
『乙骨憂太と祈本里香との縛り』
・祈本里香を自身の一部にする事で祈本里香の魂の滞留を可能とした。
・祈本里香は乙骨に対して知覚出来る程度の呪力の供給
・代償として自らの模倣術式、自身で呪力の生成が不可。
・術式を与えられた祈本里香は術式を受け取れる身体に変貌。それの副産物として変幻自在が可能となった。



 ★★★★★★★

活動報告にて最強募集してます。
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三十一

 久しぶり。待った?


 

 

○月○日 晴れ

 

乙骨の秘匿死刑は免れ、五条さんに預けた。

京都は流石に乙骨を庇い切れないので、偶に私がそちらに行って乙骨に教える事にした。

 

それと刀についてはとりあえず了承したが、里香の呪いに耐えられる強度重視の刀となると材質の問題だろう。それに関しては少し保留にさせてもらった。

 

 

○月☆日 晴れ

 

真依も漸く反転術式を会得したのだが、どうも私と同じように構築が上手くいかない。

 

というのも私は限度こそあるが望んだものを呪力で構築する事が可能だが、真依の場合は構築するものの材質を理解していなければ使えない。それが普通だと言われた。どうも私の術式は同じ構築術式でも少し系統が違うのかもしれない。プロセスは似ているのに。そのせいか現象の構築が上手くいっていない。炎や氷は出来る様になったが、ベクトルの分解などは無理と匙を投げられた。とりあえず真依に出来る事から始めるとする。

 

 

○月♪日 曇り

 

驚愕の事実が判明した。

美々子と菜々子の二人が()()()()()()()()()

 

双子の縛りが存在する為、二人は術師としては平均程度の力しか持たなかった。というより双子は呪術師において凶兆というが正確には違う。一人が授かるべき力を二人に分けられるというのは、陰と陽の関係が存在している。

 

分かりやすく言うなら二人で完璧。

逆説的に言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。美々子が物質での束縛呪術、菜々子は空間に対する束縛呪術。これらは陰と陽で分かれている。

 

真依と真希も同じ。

生物の側面と呪術の側面が別方向で強化されている。一人で生まれた場合は五条さんすら超えるかもしれなかった。まあifなのでそんな事を考えても特に意味はない。

 

美々子と菜々子の場合は片方のみで領域展開を使えない。二人揃う事で初めて領域展開を可能とした。

 

しかしまあ、こればかりは私も予想外過ぎた。

入ってしまえば最後、私ですら負けてしまうのだから。

 

 

○月◆日 晴れ

 

恵が鵺と大蛇を調伏に成功。

津美紀ちゃんが作ったカレーが美味かった。

 

 

○月◇日 晴れ

 

眠い。メンテが終わらん。

乙骨の刀はとりあえず造れた。

 

 

○月$日 晴れ

 

ねる。

 

 

○月☆日 明日天気になーれ

 

ぶっ倒れた。日記はここまで。

 

 

○月♡日 空がいつから青いと錯覚していた?

 

熱があまり引かない。

真依達がお見舞いに来た。

三輪がゼリー、ムタ丸はプリン、加茂さんが水羊羹、西宮先輩はポカリと冷えピタ。真依はお粥作ってくれた。

 

あの馬鹿に関しては高田ちゃんポスターをくれた。

うん、ありがたいけどお前は論外だ。

 

 

○月★日 暑い

 

五条さんがお見舞いに来た。

暫く無理をさせてごめんねと言ってきた。乙骨についてはどうにかするから、ゆっくり身体休めなよと大人の対応をしてくれた。仕事がびっしり埋まっているせいか色々とガタ来ていたようだ。なんつー体たらくだ。センセー笑ってるぞ。

 

……いや、これ私悪くないな。

体調管理以前に呪術界が私を殺しにきてるし。

 

 

○月¥日 快晴

 

漸く体調が戻った。

暫く呪具製作は止めろと歌姫先生から言われた。暫くは休み休みで呪霊狩りに専念する事にした。

 

 

○月♡日 晴れ

 

そろそろ交流会があるの忘れてた。

私と二年生三人が参加するのに対して、あっちは乙骨と真希を含めた二年の秤金次と星綺羅羅が参加する事になった。

 

 

 ★★★★★

 

 

「い"や"ー、参っだ な"」

「うわっ、声凄」

「喋らなくていいから寝てください」

「つーかお前でも風邪は引くんだな」

「いやこれ過労ね。自己管理はしっかりしなさいよね」

 

 

 俺が見た中で一番の重症。

 反転術式を使える荒夜は風邪を引く事の方が少ない。術式の影響で構築には多大な負荷が掛かったとしても反転術式で負荷を治せるのだが、どうやら積み重なった疲労から此処までの重症となっているようだ。

 

 よくよく考えたら呪具の作成の依頼と特級の呪霊討伐案件、更には学業まで行っている荒夜が休んでいる所を見た事が無い。

 

 

「済まないな押しかけるようになってしまって」

「お見舞いに来るだけありがたいよ。それにヒイロなら大丈夫。ただ、結構反動が酷かったってだけさ」

「お粥食べれますか?真依が作ったんですけど」

 

 

 うつらうつらと、不安定な身体を起こそうとするが、腕にも力が入らずにベッドに倒れている。西宮先輩が背中を支えて上半身を起こしたが、起こすだけでも死にそうに見える。俺も小型の人形で体温を測ってみると四十度を超えていた。

 

 

「身体痛ぇ、食え"ん"」

「凄まじい反動だなおい。呪具の依頼はやはりキツいか」

「そりゃヒイロに予約するとなると一年は必要になるし」

「そんなに作ってるんですか!?」

「まあ荒夜の場合、呪力付与だけじゃない。『纏帳』もそうだが、本人に適した呪具を構築出来るからな。支援向けもそうだが、依頼が尽きない」

 

 

 パックの一言に三輪は驚愕する。

 少なからず、呪具作成の依頼は五十を超えている上に難解な特級クラスの呪具、今は失われた平安時代の呪具の再現、なんなら『退魔の剣』や『天逆鉾(あまのさかほこ)』のレプリカまで依頼されている。

 

 そう簡単に再現出来るものでは無いが、荒夜は発想の実現性に於いては稀代の天才だ。いつか作成出来ると思わせるほどだ。実際不可能とされた俺の天与呪縛も治していたし。

 

 

「ほら、口開けなさい。この私が直々に作ったんだから」

「真依、姉に"似て"きた"な"」

「冷まさないまま突っ込むわよ」

 

 

 力が入らずに雛鳥のように口を開けるとゆっくりと蓮華にのったお粥が荒夜の口に入れられる。ポヤポヤとしている荒夜はゆっくりと咀嚼する。

 

 

「……美味い」

「そっ、よかった」

 

 

 こうして見ると少し分かりやすい。

 それに気付いた三輪が俺に耳打ちしてきた。

 

 

「あの与くん、もしかして真依って」

()()()()()()()()()。けどアイツ倍率高いぞ」

「どのくらい?」

「…………」

 

 

 俺は少し考え始めた。

 血の繋がっていない妹二人。禪院家落ちこぼれと呼ばれていた二人。準一級の人造呪骸、伏黒の姉、結界術のみ最強の星漿体。

 

 強引かもしれないが、縁というのであればかなりある。本人達が明確な好意があるかは別として、真依はあるし、真希に関しても関係は悪くない。血の繋がっていない二人は家族愛だと思いたい、人造呪骸も親子との接し方だし。伏黒の姉の関係はノーコメント、俺もよく知らない。補助監督の星漿体に至っては歳離れているから逆光源氏が頭をよぎった。

 

 そしてここで特級を取り入れたい名家の縁を含めれば倍率は相当なものだ。二十倍以上はありそうだ。悩んだ挙句とりあえず答えた。

 

 

「そのうち背中を滅多刺しにされるレベル」

「!?」

 

 

 三輪はその一言に戦慄していた。

 因みに今の荒夜の女のタイプは『金髪巨乳の尻とタッパが大きい大人の女性』らしい。誰にも合っていない事に僅かに目を逸らした。

 

 

 ★★★★★

 

 

「んー、久しぶりだ。この空気も」

「いや荒夜、お前も初めてだろうが御前試合」

「誰かとガチで戦う事が少なかったからね」

 

 

 呪詛師殺しの依頼は少ない。

 荒夜に回るより五条に回る事が多いからだ。気を回してくれているのは五条自身の計らいらしいが、学生に人殺しをあまりさせたくないようにも思える。

 

 

「久しぶり乙骨くん」

「は、はい。お久しぶりです」

「祈本里香は制御出来るかい?」

「ぼ、ちぼちです」

 

 

 出来てねぇんだな、と呟く。

 祈本里香の制御、というよりは傷付けるものに対して折本が激昂するため制御という制御は乙骨には難しいのだろう。式神と違って祈本里香は意思が強すぎる。

 

 

「つーか大丈夫なのかお前。ぶっ倒れたって聞いたけど」

「呪具製作、特級の依頼、弟子の教育。過労とストレスで高熱出したけど、一週間はお休み貰ったからなぁ」

「……過労死すんなよ」

「優しいね真希は。大丈夫、ストレスは今日発散するから」

「言いやがったな。ブッ飛ばす」

 

 

 久しぶりの対人戦闘。

 燃えないはずがない。荒夜は曲がりなりにも最強に迫る為に最強を創ってる。五条の次に最強と名乗れる程度にはならないといけないが、その椅子取りゲームは半端じゃない。

 

 

「それと初めまして。秤先輩と星先輩」

「おう」

「綺羅羅でいいよ、特級の後輩くん」

「どうも」

 

 

 こちらは荒夜もよく知らないが二年の秤金次と星綺羅羅。どちらも男な筈だが、格好から色々と察した。色々と突っ込みたい事はあるが、荒夜は考える事をやめた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 歌姫の激励を五条が邪魔しながらもいつも通りに交流戦が始まった。それと同時に東堂は独走していく。待てと言われて待つタイプではないので放っておいた。

 

 残った三人、加茂と西宮と荒夜の三人は独走に対して頭を悩ませながらも呪霊討伐に走っていく。今回ばかりは乙骨を殺す事を言われていない。言われたところで荒夜は無視する所存だが、加茂に関してはそうは思っていなさそうだ。

 

 

「やっぱ東堂君は独走か」

「荒夜、君は乙骨を」

「殺す事はしない。祈本里香の縛りがある以上、乙骨は楔。楔を断ち切れば止められるものは居ない。特級呪霊という枠組みすら外れてしまいますよ」

「君なら殺せるだろ」

「尻拭いさせるつもりなら私はしないと明言しておきます。やりたくもない面倒事はごめんです」

 

 

 御三家としては乙骨をよく思っていないのは事実。だが、尻拭いをするつもりはない。祈本里香は特に特級の枠組みから外れる程に強大。五条と荒夜、二人が本気を出さなければ祓う事が出来ない圧倒的な呪力量。まあ呪力量≒実力と言われたらそれは違うのだが。

 

 そんな事を考えていると、迸っていた東堂の呪力が感じられなくなった。

 

 

「……東堂の呪力が消えた」

「何?」

「大方真希にやられ──」

 

 

 虚式膜が自動で発動し、薙刀が止まる。

 そこにいたのは不意打ちを仕掛けた真希だった。

 

 

「やあ真希、早い再会だね」

「チッ」

 

 

 二人が反応出来ず、呆然としている中攻撃を繰り返す真希に虚式膜を張り続け攻撃を防ぐ荒夜。式神の符を取り出すと真希が距離を取る。

 

 

「ウチの弟子はどうした?」

「ストレートぶち込んだ。暫くは起きねえよ」

「ほんっとーにお前、伏黒甚爾に似てきたな」

 

 

 東堂には真希と単独で戦うなと言った筈なのだが、やはり無視したようだ。結果瞬殺で終わっている。呪力の無い真希には術式の効果が及ばない。真希と相性が最悪だと言っても好奇心で手を出してしまうのが東堂の悪い癖だ。

 

 

「二人は呪霊狩りに、真希は私が」

「任せる」

「了解」

 

 

 二人が散るのを確認すると右手に分解した物質のエネルギーを利用し冷気に変換する。物質などはこの世界に腐るほどある。それをエネルギーに変換し、攻撃に転じれる為、少ない呪力で規格外の攻撃を繰り出せる。

 

 

「『氷天』」

「っ、ぶね」

 

 

 流石早い。一瞬で視界から消えて後退している。

 呪力がほぼ脱却した真希のフィジカルは伏黒甚爾には及ばないが、それでも近しいものへとなっている。呪術師の身体強化の限界を超えた速さ、肉体の強度を兼ね備えている。

 

 

「まあ殺さない戦いが苦手だが、それでも単独で私に勝てると思ってるのか?」

「思ってねえよ。最強(バカ目隠し)万能(オマエ)に勝つならそれなりの呪具がねえと対抗出来ねえし」

 

 

 交流戦で等級が高すぎる呪具の持ち込みは禁止。そのため、真希に握られているのは『村正(偽:改)』ではなく薙刀の呪具。荒夜も幻灯の魔物を持ち込む事は止められたが、それでも差は歴然。真希には虚式膜を破る術を持ち合わせていない。

 

 

「だから、悪いが二対一だ」

 

 

 背後から呪力を感じ、振り返るとそこにいたのは掌印を結ぶ秤の姿が目に映る。呪力の出力から荒夜は距離を取ろうとするが、真希が行先を阻む。

 

 

「領域展開」

「!」

 

 

 飛んで逃げるにしても一秒遅く、秤の領域へと飲み込まれた。白い空間と駅の改札、そして何処からか流れるような効果演出の曲の風景に目を見開いた。

 

 

「【坐殺博徒】」

 

 

 領域の展開と同時に必中により荒夜に術式のルール*1が開示され、僅かに動きが止まる。

 必中の押し合いが早いが、情報自体は無害であり簡易領域の発動を諦め、その情報を理解する。

 

 

「な、んだこの領域……?未成年が使っていい術じゃないんじゃないか?」

「そんな規則(きまり)守ってちゃあ、人生楽しめねぇんでな」

 

 

 坐殺博徒

 239分の1の確率で当たる賭博型の領域。『私鉄純愛列車』をモチーフとして図柄が揃えば領域展開後に大当たりの恩恵を手に出来る。期待度や疑似シークエンスなどもあり、流された情報はパチスロそのもの。必中で術式の開示もある分、縛りの効果と単純な領域展開時の能力底上げも含めて秤は一級クラス。

 

 

「(坐殺…パチンコか。大当たりは差し詰め呪力の回復と制限解除か?)」

 

 

 他人にデバフをかける領域ではない。

 大当たりは秤自身にかかると考えていい。領域内を見渡せば演出が始まっている。試しに拳を振るうが、登場人物に触れられずにすり抜ける。

 

 

「(やっぱ演出の妨害は不可、だけど必殺も必中もない。術式が領域展開に付随した珍しいタイプか)」

 

 

 止める方法は領域内で秤を倒すか、こちらも領域を展開するか。必殺も必中もあまり意味がない為、簡易領域などは無駄。掌印を結ぼうとするが、その手を止める。

 

 この領域に真希が入っていない。

 つまり、領域の外に真希はいるという事。

 

 

「(真希が入ってこないって事は、領域展開後の術式が焼き切れた時を狙ってるな?)」

 

 

 荒夜の『創始再編式』は囲む場合と引っ張り出す場合の二種類の結界型を使い分けている。領域の押し合いなら確実に勝てるが、展開中に秤の領域を押し合いが発生し、その間に範囲外に逃げられる。秤が一対一で領域を展開してるのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。秤が仮にダウンしても術式の使用不可の状態で真希と戦わなければならない。外付けした生得術式では呪力の脱却した真希に対抗出来るものが少ない事は分かっている。

 

 

「(入ってこないのなら、こっちも好都合)」

 

 

 荒夜の術式は『構築術式』

 あらゆる物質、あらゆる武具を作る反面、呪力の消費が激しく作ったものを操作は出来なかった。

 

 

「(構築したものに式神操術を刻みつける)」

 

 

 九十九由基の術式。

 術式により呪具化した式神『凰輪(ガルダ)』のように自身が構築したものに対してある程度の範囲の操作を可能とする。作った呪具に対し、式神操術の基盤を押し付ける。

 

 作り出すのは水銀。液体金属でありながら圧縮によって自在に硬さを変え、近距離遠距離を対応する。型月世界でも存在していた水銀の魔術礼装。

 

 その名を『月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)』。攻防一体の水銀の礼装である。

 

 

(Scalp)

「うおっ!?」

 

 

 型月世界とは違うのは武具に呪力を込めれば武器はそれなりに強度を増す。水銀を圧縮したとはいえ呪力で強化された水銀は鋼鉄並みの強度と鋭利さを誇る。加減無しなら人体を容易く切断出来る。

 

 

「逃さねえよ」

 

 

 追尾、銀槍が秤を追いかける。

 近距離メインの秤にとって遠距離から攻撃され続けるのは致命的だ。呪力で強化された水銀の槍はどこまでも追い続ける。

 

 

「お前の術式、構築術式じゃねえのかよ!?」

「私の術式は多様性が売りなんだわ、ほら追加」

「うおおおっ、ぶねぇ!?」

 

 

 秤は絶叫しながら避け続ける。

 水銀の量は大体一リットル。圧縮すれば槍にもなるし盾にもなる。赤血操術のような身体強化はできないが、体外での操作性能や使い所、汎用性は相伝のそれよりかなり高い。

 

 

「(とはいえ使い勝手がいい訳じゃないな。呪力消費の燃費はいいけど、この状態じゃやはり虚式膜の展開が遅れる)」

 

 

 術式にも要領がある。生得術式と領域展延が同時に使えないのと同じ、術式の同時使用は発動が少し遅れる。水銀の操作を重きに置けば自身の虚式膜の展開が遅れる。ケイネスのように形に拘るとあまり意味はない。防御重視の攻撃は秤には通用しない。

 

 

『え……これ新百合まで停まんねえの?』

 

 

 考え込んでいると演出の方で予告が迫る。眼前で銀色の電車ドアが迫る。

 

 

「リーチだ!」

「チッ」

 

 

 起死回生の演出。

 スロットの演出は66でリーチ、内容はうっかり特快便意我慢リーチ。このまま新百合ヶ丘まで着けば大当たりのリーチアクション。演出の妨害は不可、なので荒夜は秤の水銀の槍の手を止めない。

 

 

『ボタンを押せ!』

 

 

 秤の拳と同時に改札表示が壊れていく。

 登戸が壊れると、新百合ヶ丘が表示されスロットは666の大当たりに突入する。一歩早く大当たりを引いた秤から離れると同時に領域が解けていく。

 

 

「領域が……」

音楽(ミュージック)、スタートぉ!!」

「!」

 

 

 秤から流れる曲と共に呪力が湧き上がってくる。

 ブレたと思えるほどの呪力に目の前が揺れるほどの高出力の呪力。大当たりの内容は音楽が流れる4分11秒の間、無尽蔵に呪力が流れる事、そして呪力の出力制限解除。

 

 

「っ!?」

 

 

 水銀の盾が一撃で削られた。

 二級以下の術師ならまだしも、今の秤にはこの水銀呪具では容易く削られる。その上、想定よりはるかに重い。

 

 

(Scalp)

「いっ、てぇな!!」

 

 

 溢れ出る呪力が水銀の攻撃を防いでいる。

 食器ナイフでまな板を切ろうとしているような感覚、僅かに血は出たのに傷が一瞬にして治癒されていく。

 

 

「(反転術式…!?)」

 

 

 秤は反転術式は使えない。

 だが、溢れ出る呪力に身体が壊れないように肉体は無意識に反転術式を行っている。余程の事がない限り、秤は4分11秒は不死身となる。どれだけ攻撃しようが、一撃で修復不能に追い込まなければ秤を倒す事はできない。

 

 

「よそ見してんじゃねえよ」

「チィ!」

 

 

 領域の外にいた真希の薙刀が水銀に直撃する。

 全方位防御。殻に籠るように水銀の形を変形させる荒夜に対し、真希と秤は速度で潰し始めた。剥がれていく水銀の盾、攻撃に転じても伸ばした末端から折られ、躱される。液体金属の式神化はまだ操作が慣れず仕方なく水銀を解除し、虚式膜に変更する。

 

 こちらに向かう分解され、二人の拳が寸前で止まる。だが、秤の拳が止まっているはずの虚式膜の中で僅かに動いた。

 

 

「なっ……」

「オラァ!!」

 

 

 秤の拳が荒夜に突き刺さった。

 荒夜は吹き飛び、森の木々を二、三本折りながら打ちつけた。

 

 

「〜〜っ!」

 

 

 久々の痛み、殴られた頬が普通の拳より痛い。

 ヤスリがついた拳で殴られたような痕に目を見開く。呪力の質がザラつくと削られるような痛みが発生する。呪力の質が高い荒夜には真似できない呪力質。

 

 

「いってぇ……ザラついた呪力だこと…」

 

 

 反転術式で殴られた部分を癒す。

 五条悟の様にほぼ出しっぱなしに術式を展開できない荒夜は呪力膜を張ってからの虚式膜の自動展開としてるが、必中が付与されてる攻撃に対しては虚式膜が破られるのは理解していた。五条でさえそうだった。呪力から分解しても結界術を剥がすのは僅かに時間がかかるため、分解が間に合わず殴られるのは想定していたが、まさか秤が使うとは思わなかった。

 

 

「しかしまあ、領域展延が使えんのか」

「あん?展延?なんだそれ?」

「領域の必中を用いた結界術だよ。それで私を殴ったじゃん」

「あー、やり方は今思いついた。名前あんのか」

 

 

 知らないでやったのか、と呆れる。

 術式そのものが領域展開の付随してる術式は結界術が使えなければ話にならない。秤は結界術の応用で領域展延が使えるようだ。術式に中和し、必中を得る領域展延は荒夜の虚式膜を破れる。本人は即興でやったようだが。

 

 意外な天敵にフィジカルギフテッド最強の真希。二人の連携に荒夜自身も苦戦を強いられている。火力だけなら呪術師最強と自負する荒夜も殺さない戦いにおいて出来る事は半減する。

 

 

「さて……どうするかね」

 

 

 領域も術式も対策を練られた中での攻防。

 流石に二人揃うと面倒だ、と荒夜は顔を顰めていた。

 

 

 

 

*1
『登場人物』

①斎藤 雨矢:夕輝の幼馴染。地銀で絶賛横領中。

②天ノ川 小百合:夕輝の上司。昼はプロジェクトマネージャー、夜は……。

③朝霧 夢:本作のメインヒロイン。これといった特徴がない。

④加藤 空:夕輝の大学時代の同期。フリーターバンドマン。ギターとベースの見分けがつかない。

⑤清水 涼香:夕輝の会社の同期。高学歴で高慢。空の〇〇を開発中。

⑥山口 紗夜花:夕輝の妹。授業中に電子辞書と見せかけてDSをプレイしている。

⑦山口 夕輝:本作の主人公。これといった特徴がない。

 

『予告演出』

緑のシャッター<赤のシャッター<金のシャッターの3種類

・緑の保留玉<赤の保留玉<金の保留玉の3種類。

・疑似連×1<疑似連×2<疑似連×3の3パターン

不等号が大きい方向程大チャンスの確率アップ。虹色や4回目が出た場合それだけで大当たりが確定。

大当たり後の規定回数消化 70or30回転

大当たりの確率 1/239

確変突入率 約75%

『リーチアクション』

・交通系ICカードリーチ   :期待度★

・座席争奪通勤リーチ    :期待度★★

・うっかり特快便意我慢リーチ:期待度★★

・華金終電リーチ      :期待度★★★(期待度大!!)

『チャンスアップ』

・夢背景:リーチ発展時にメインヒロイン朝霧夢のスペシャルグラビア発生!??

・天ノ川カットイン:リーチ演出時に天ノ川先輩が助太刀!?

・群予告:電車以外なら大当たり確定???

 期待度が低いリーチでもチャンスアップを拾えば大当たりの可能性も…!?





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三十二

 暫く就活専念します。長くなるのでとりあえず交流戦は終わらせます。


 

 

 

 

 現状、荒夜は追い詰められている。

 単純に相性の悪さ。あくまで交流戦、殺し合いの発生は望まないこの土俵では荒夜も相性が悪い。殲滅戦、殺し合いに於いて五条悟を超える火力を引き出せるが、虚式膜を張り続けられず分解から呪力の供給が出来ない場合の消耗戦に関しては荒夜は苦手だ。

 

 秤の領域展延、呪力脱却の真希、二人の攻防に虚式膜を張り続けるしかなく、立ち回りも窮屈ではある。手数の多さ、多様性、発想実現力に関しては群を抜いている荒夜でさえ、シンプルな手合いに苦戦を強いられている。

 

 

「(あー、鈍ってるだけじゃないな。普通に呪力強化率が高い)」

 

 

 荒夜は呪力の質が高いため、呪力による身体強化は術師の中でも上位に位置する。だが、呪力の制限解除に底なしの呪力の恩恵を得ている秤と身体強化率が同等。燃費問題を量か質かで解決するなんて笑えないが、取っ組み合いはザラついた呪力のせいでこっちの方が不利だ。その上に更に真希が居る為、単純な身体強化では勝てない。

 

 

「(どうするか…領域展開もアリだが……)」

 

 

 閉じない領域ならまだしも、閉じる領域は真希には通じない。それにあらゆるものを構築し直せる領域は交流戦で使えない。単純な話、領域内での構築に更に呪力を取られる。領域内でいつも分解を重きにおいている理由は構築術式の効率の悪さに関わっている。

 

 呪霊が存在する場合ならまだしも、領域展開は多大な呪力消費が必須。術式にもよるが大抵は多くの呪力を消費する。その中で負担が大きく呪力消費が悪い構築まで使えば、呪力はあっという間に底をつく。

 

 構築したものを必中にしてもだ。

 並大抵のもので拘束など出来はしない。

 

 

「(私が外付け出来る術式は最大で二つ。だがどれも劣化、真希達を抑えられる程の術式は少ない)」

 

 

 呪詛師や呪霊から得た生得術式の基盤は数多く存在するが、真希達を倒すに至らない。攻撃に対し、消費し張り続ける虚式膜を展開し続けなければならない荒夜の方が苦戦している。最強を創ればいいという考えが大きい荒夜では最強に届かない。特殊な呪具も持ち込み禁止で、二人を対応し続けるのは難しい。

 

 

「少し、距離を取らせてもらう」

「なっ、おいおい……!?」

「チッ」 

 

 

 構築術式起動、一級呪霊『蜃』の術式の再現。

 荒夜の身体が霧に包まれていくと同時に、森の中に霧が侵食されていく。仮想一級呪霊『蜃』は日本に於いて幻の原因とされていた海の神獣。蜃気楼と言った幻を司るそれは荒夜も手を焼いた。

 

 

「呪力が辿れねえ……蜃気楼か」

 

 

 その最大の特徴が、呪力を覆い隠す霧。

 あらゆる幻を生み出し、自身は姿を隠せる。呪力感知は簡易領域ですら感知が出来ない。

 

 

「(この隙に一旦呪霊を狩って供給を)」

「させねえよ」

 

 

 咄嗟に虚式膜を張り、拳を止める。

 霧が効いていない。呪力ある人間なら撒けるが真希には通じていない。

 

 

「っ!真希、この野郎」

「そんな小細工、私に通用すると思ってんのか?」

「チッ、そういや匂いを辿れるんだったな。うっかりしてた」

 

 

 五感に優れている真希は臭跡を辿れる。だが、対策は既に考えている。荒夜は右手にガラス瓶を構築した。そんな事を関係無しに真希は拳を繰り広げるが、虚式膜に阻まれる。真希は身体能力では最強の位置にいるが、それでも伏黒甚爾には及ばない。

 

 あの男の自由さは呪力にも世界にも因果にも縛られない。『天逆鉾』があれば話は変わったかもしれないが。

 

 

「そら、プレゼントだ」

「んなもん効く──」

 

 

 ガラス瓶を地面に投げ割る。

 瞬間、とてつもない激臭が此処ら一帯に撒き散らされた。

 

 

「くっっっせぇ!?!?ゔぉえ……!?て、めぇ……!?」

「ははっ、流石に効くだろ。特にお前は」

 

 

 アンモニア。尿に含まれる成分だがこれはその凝縮版、構築術式で特別濃度が高いものを生み出し、瓶の中に閉じ込めた。割ってしまえばあら不思議、犬なら即座に逃げ出すそれは人間が嗅いでも刺激臭として鼻が曲がる。真希の場合は強化された五感に引き摺られるだろう。

 

 

「殺、す……!」

「おー、怖っ」

 

 

 流石に動けないだろう真希から離れ、霧に紛れて呪霊を狩りに離れようと距離を取るが、霧の中で呪力が増幅しているのを感じた。

 

 

「領域展開」

「(…!霧ごと囲むか…!)」

「【坐殺博徒】」

 

  

 秤の呪力が回復する為、焼き切れた術式が回復した後当たりを引き続ければ何度でも領域を展開出来る。どうやっても供給をさせたくないようだ。殺しが発生しない長期戦、それが荒夜が最も不得意とするものだ。本来ならそれを補う呪具があるのだが、それがない以上は依然劣勢。

 

 ため息を吐きながら荒夜はただ一言告げた。

 

 

「……飽きた」

 

 

 必中が無意味な領域展開は虚式膜のリソースを割かなくていい。結界術なら秤より精度と知識が遥かに上、ただ閉じた結界に触れ、領域の構成を逆算し、理解し切る。虚式膜は呪力殺し、結界も呪力で構成された術式に過ぎない。分解の速度が僅かに遅れる程度。

 

 一度見た以上、既に解析は終了している。領域がパリンッ!!とガラスが割れるように崩れていく。

 

 

「はっ?」

 

 

 そこで荒夜はあり得ないものを見た。

 分解し切る前のほんの一瞬、スロットが『1 1 1』で揃っていた。あり得ない。予告なしの時短潜伏からの突発大当たり、運が良過ぎると愚痴を垂れたくなるほどに秤が実力で運を引き寄せた。

 

 

「チッ、本当厄介な」

「いよっしゃあ!キタキタ来たー!!」

 

 

 また秤は無制限の呪力供給。

 及びフルオートの反転術式、生半可な攻撃は呪力で塞がれる。その上、真希の立ち回りで退路を塞がれている。強引に移動しても先に呪霊を祓われるだろう。

 

 

「(どうやっても私に呪力を補給させたくないようだな。五条さんの入れ知恵とはいえ、本当に厄介だ)」

「考えてる暇あんのか、天才!」

 

 

 真希の薙刀が振り下ろされる。

 ギリギリでそれを躱し、距離を取ろうと走るが即座に追いつかれる。

 

 

「逃すかっ、よっ!!」

「まだまだこっからだぜ、楽しい賭け事(ギャンブル)はよぉ!!!」

 

 

 連撃の応酬に虚式膜を張っては攻撃を逸らしているが、それも長く保たない。上手く立ち回ろうが、秤の攻撃は虚式膜をブチ破る。かと言って呪力強化のステゴロは真希に必敗だろう。分解に重きを置いた【創始再編式】は使えない。

 

 

「(仕方ない。もうちょっと後に使いたかったけど)」

 

 

 残り呪力は約六割、節約しながら使っていたが呪霊分解での供給が出来ない以上ジリ貧だ。このままでは敗色濃厚。

 

 だがそれは荒夜が切り札を持っていない場合の話である。

 

 

「少し落ち着けよお前ら」

 

 

 魔眼起動、ノーモーションからの術式起動に二人の身体が僅かに止まる。呪力制限解除し、沸き続ける呪力の秤と鋼の肉体を手にした真希には一瞬動きを止めれるだけ。だがその一瞬で充分だった。

 

 

「こ、の程度……!」

「もう遅い──()()()()

 

 

 荒夜は掌印を結んだ。

 領域展開に必要な手を合わせる掌印──()()()()()()

 

 親指を結び、胸元で手を交差し、展開されるそれは緋色の銀河とは非になる景色、赤、青、緑、緋、黄、紫、黒の星々が夜空に浮かび、白い絵の具で塗りつぶされたかのような白空の天が地上に塗り潰されるように具現化した。

 

 

 

創天恒星宮(そうてんこうせいきゅう)

 

 

 

 真希は一度だけ荒夜の領域展開を見たことがある。だが、あの時と在り方が全く違い過ぎる。緋色の銀河が荒夜の領域だった、それが全く違う光景に変貌している事に目を疑った。

 

 

「な、んだ……これ」

()()()()さ。これが私の切り札だよ」

 

 

 荒夜はそれに答えた。

 真希は拘束を解き、領域から離れようと走り出そうとしたその時だった。

 

 

「ぐっ……うううっ……!?」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 自分の身体の上にコンテナが乗ったかのような凄まじい質量に膝をついた。明らかに自分が重くなっている。脱却したこの身体でさえ、その質量に身体を動かせない。

 

 

「空性結界に外付けした術式の効果を組み込み展開する混成領域。言わば他人の領域展開の擬似的な再現を可能とした結界さ」

 

 

 荒夜は結界術を初歩しか知らない。

 正確には領域展開までの結界術やシン・陰流の簡易領域、帳などは教わっても御三家秘伝の結界構築術や極めた存在には及ばなかった。

 

 だが、伏黒甚爾を殺す為に『薨星宮(こうせいぐう)』に先回りする為に()()()()()()()()()()()()()()()()()()で『空性結界』の在り方を知った。

 

 そこから荒夜は結界術の逆算、構築の仕方、在り方全てを理解する事で結界術の知識と自分が知っていた知識の擦り合わせ、閉じない領域展開を可能とした。

 

 結界術は難しい反面、理解さえ出来れば応用がかなり出来る。『空性結界』はそれに長けた術師なら中の構造を幾らでも変えられる。そこに目をつけた荒夜は新しい可能性を見出した。

 

 それが『空性結界』そのものに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 最初は失敗していた。

 所詮コピーでは呪力の質や在り方、魂そのものが違う為外付けしたもので領域展開は不可能。なので荒夜は領域展開のステータスのバフ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、代わりに必中と術式そのものの出力を上げる事を重きに置くだけの結界構築を可能とした。

 

 そしてその効果は既に発動していた。

 

 

「が……や、べぇ…全然…動けねぇ!?」

「ぐっ……クソッ……!?」

 

 

 身体が地面に押し付けられる。

 自身の体重が重くなったのか、重力が強くなったのか、自分の身体が重過ぎて身体を起こせない。それだけではない。

 

 展開した領域を起点に森一面の木々がへし折れ、地面は陥没し、軋みを上げて揺れている。圧倒的な重さ、圧倒的な質量が閉じずに発動する領域内で押し付けられていた。

 

 

「組み合わせたのは私の師、特級術師であった九十九由基の術式」

 

 

 閉じない領域で展開したそれは無機物にも必中を与える。真希にも秤にも術式の影響を受けている。身体が重くて動かない。動かそうとすれば更に身体が重くなるように調整している。六眼に及ばずとも、その呪力操作精度は五条悟に最も近い。その精密なコントロール故に実現を可能としするた混成結界。

 

 

「『星の怒り(ボンバイエ)』。その効果は仮想の質量を付与する」

 

 

 九十九由基の術式は仮想の質量を自身や呪具化した式神にしか付与出来なかった。自身の密度は上がらず重さを感じない。他人への付与は出来ず、他人の質量を操る事は出来ない。だが改造領域により、その効果は()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「まあ、いい線は行ってた。私が過去のままだったらな」

 

 

 式神の符を二枚取り出し、二人の首に張り付ける。

 人はどれだけ頑丈であっても電気信号が存在する。いくら頑強であろうと、ここまで近ければ意識を刈り取れる。反転術式があった所で酸素がなければ死ぬし、首を絞められたら気を失うのと同じ、限度が存在する。

 

 

「私の術式は多様性が売りなんだ。まだ、負けてやれないよ」

 

 

 ただ一言、雷天と発した荒夜に二人の意識は暗転していった。

 

 

 ★★★★★

 

 

「(改造領域……まあやってみたけどやっぱり長く保たないのが欠点だな。外付けした術式が直ぐに焼き切れる)」

 

 

 その上、外付けした後のカバーが出来ず術式が焼き切れて使用不可。領域展開直後の欠点をカバー出来ていた普通の領域展開と違ってこれは外付けした術式まで使うせいでその欠点が浮き彫りに出てしまった。オマケに呪力もかなり消費する。保って十秒程度。必殺でない場合他の術式と組み合わせて使うべきではない。

 

 

「流石に疲れたな……」

 

 

 残り呪力は一割と言ったところ。

 まあ殺さずに倒せていた以上、充分過ぎる。呪霊を狩って呪力の供給さえすればそれで回復は出来る。そう思った矢先、誰かが叫ぶ声が聞こえた。

 

 

「あっ」

 

 

 押さえつけられるような呪いの気配に視線を向けた。祈本里香の顕現、ただ乙骨に傷が付けられたのかは知らないが、呪いが籠った雄叫びを上げた瞬間、此処ら一帯の呪霊が根こそぎ祓われた。

 

 

「………うそん」

 

 

 交流戦開始から三十分。

 祈本里香の暴走により指定した呪霊全てが消失。真希達の勝負に勝って試合に負けた。

 

 結果、東京校の勝利で幕を閉じた。

 荒夜は渋い顔をしてため息をついた。

 

 





・領域展開【創天恒星宮】
 荒夜が『星の怒り(ボンバイエ)』の術式を使って作った改造領域。生得術式の基盤を理解した上で結界術と組み合わせる領域展開と違い、結界の構造を好きに弄れる『空性結界』に外付けした術式を張り付ける事、そしてそれを再現できるイメージとそれに基づいた結界構造を設定する事で自身の呪力で発動を可能とした擬似的な領域展開。
 
 発動条件として領域展開の身体能力のバフは発生しない縛りであり、効果は必中と術式の効果のみの底上げ。発動時間は極端に短く、外付けした術式が耐え切れずに焼き切れる事もあるせいで展開時間は十秒以下、オマケに呪力消費が高く、要求される結界構築の呪力操作精度は最低でも閉じない領域を使えるレベルでないと成立しない。だが使い方次第では無限に組み合わせが出来るため改造領域として重宝している。 

★★★★★
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三十三

 五条と荒夜の勝負を書きたくて書いた迷話。


 

 

「うっし、やるか」

「殺す気で来なよ」

 

 

 交流会が終わり、結果は東京の勝ち。

 五条のルーティーンが嫌いという理由からくじ引きで選ばれたサッカーも負けた。誰がイナズマイレブンを再現しろと言ったのか真希の無双で幕を閉じるはずだった。

 

 

 荒夜は五条に対して直接対決を申し込んだ。

 

 

 正直な話、荒夜の研究は今はあまり進んでいない。呪霊に対する抑止力に関しては最近目処がついてきた反面、最強になるという目標が未だに達成出来ている気がしない。

 

 現在の自分と現代最強、その差はどれほどあるのか。

 それは五条自身も興味があったらしく、二つ返事で受けてくれた。とはいえ、色々と条件が付けられての戦闘。二人が全力出力で戦闘などすれば東京に壊滅被害を及ぼしかねないとの事。

 

 という訳で過去に作っていた条件付きの帳を十枚張り、五条悟と荒夜緋色が出られない代わりに全ての人間が出入り可能という縛りで森全体を覆った。

 

 勝敗は意識を失うか、お互いのどちらかが参ったというまで。

 

 

「……烏めっちゃ飛んでね?」

「冥さんが吹っ掛けたっぽいよ?御三家や有名な家の所に」

「いつか殺されますよあの人」

「冥さんそう言う所キッチリしてるし」

 

 

 禪院家から連絡があったのはそのせいかとため息を吐いた。こんな事、滅多にないからだ。御前試合は学生でしか行わない。特級同士の戦い、単独で国家転覆が可能な術師の対決は早々お目にかかれない。

 

 

「殺したらすみません」

「ははっ、言うね」

 

 

 開始は体術から始まった。

 効率のいい呪力強化による取っ組み合い、強化率はほぼ互角。呪力操作は荒夜も得意としているが六眼を持つ五条がその先を行く。だが体術だけ言えば荒夜は勝るとも劣らない。お互いに手加減無し、殺すつもりでの戦闘。

 

 五条の拳をいなし、荒夜の拳が五条の無下限に触れる。

 ビタッと止まる拳に術式反転で分解し、無下限を貫通する。

 

 

「おっ」

「チッ」

 

 

 一秒。無下限に触れてから分解出来る時間。

 以前荒夜は五条の無下限を術式反転で貫通した事がある。この時思った事があった。無下限に使う呪力の分解は無限級数の処理に何処まで止まるのか。

 

 特級呪具『天逆鉾』がいい例だ。

 アレは術式の強制解除という術式が刻まれている。術式に触れたら術式は消えるが、無下限は触れられない無限級数の概念を持ってきている。触れられないはずだが、展開している術式には触れた扱いとなっている。荒夜の虚式膜は呪力を分解するとするなら『天逆鉾』と虚式膜のどちらが先に消えるか。

 

 呪力を分解するのが先か術式を解除するのが先か。それについて考えた事がある。

 

 分解する攻撃、攻撃を止める無下限、その二つが拮抗した場合は術式を強く保とうとする方が勝つのだが荒夜の分解は呪力に作用する。拮抗した場合勝つのは荒夜だが、分解時間中、一秒もあれば五条は荒夜から離れられる。その一秒は致命的だ。

 

 

「(問題は、順転の自動防御に対してこっちは反転だ。分解して呪力を得ても割に合わないな。気をつけないとバテるのはこっちが早いな)」

「『蒼』」

「っと」

 

 

 引き寄せられた瞬間、虚式膜を張り自身の弾き飛ばされた場所への衝撃をゼロにする。虚構に向かうベクトルを分解し対応する。重力ではなく大気の収束だ。虚式膜なら対応可能。

 

 

「(無下限はやはり基点となる場所に引き寄せる力を発揮する。引き寄せは二次災害。呪力を然程得られない)」

 

 

 五条悟が最強たる所以はその効率の良さにある。

 無下限をほぼ出しっぱなしに出来るのは術式の性能の高さ、呪力の質、六眼の呪力操作が相まっている。その上『蒼』を用いた順転術式の効率の良さから最小効率で最大限の術式効果を発揮できる。

 

 無下限の強化。

 虚構を作るという事は分かりやすく言えば擬似ブラックホールを作っている。空間に負の数を作る事により引力のような虚構を作る。空いた虚構に対して物質は虚構に向かって圧縮される。それが『蒼』の正体。

 

 

「(蒼を消すにはその虚構に触れなきゃ意味がない。いちいち虚式膜で防ぐより呪力の流れを辿って躱した方がまだ効率がいいか)」

 

 

 言うは易し。簡単には不可能。

 呪力分解で攻撃してきた術式から呪力を奪っても先にバテるのは荒夜だろう。『蒼』に対抗出来るだけでは最強の戦法を崩すに至らない。呪力効率、操作力、総量は六眼など才能に依存している。

 

 独力で至れる領域に五条悟は存在しない。

 だからこそ笑う。戦闘狂という訳ではないが、この瞬間が何処か愉しいと思う自分がいる事を隠さない。

 

 

「やっぱ最強は伊達じゃないな」

「そりゃ当然さ。まだまだ僕は負ける気ないよ」

「そのニヤついた顔はとりあえず殴る」

「おー怖っ、やってみなよ」

 

 

 トランクケースから呪具を二振り。

 重さを考慮した上で今回呪具は最少だ。入れている呪具はそこまで多くないが、どれも五条悟に対応出来る呪具である事に変わりはない。どちらも長剣でそれほど特殊に見えない呪具だが、荒夜は一瞬で距離を詰めて剣を振るった。

 

 

 

「っっ!?マジっ!?」

 

 

 ギャリギャリギャリ!と無限が削られるような違和感を感じ、一瞬足が下がった。

 

 

「チッ、惜しい」

 

 

 無限を破るというよりは中和しているような感覚。

 偶に組み手をする雨の無下限破りと同じようなその違和感。六眼はそれを原因を直ぐに導き出した。

 

 

「領域展延を付与した刀か…!」

「苦労はしたけどな。この剣なら順転の防御は崩せる」

 

 

 単純な無下限なら効果はある。

 無限破りの方法は主に三つあるが、領域展延が一番効果がある。必中必殺の概念でなくても術式には容量がある。その容量をわざと開けて敵の術式に割く容量に流し込む事で術式を中和するのが領域展延。

 

 順転を崩すだけの正の呪力で殴る方法もある。拳などでアウトプットすれば出来なくはないが無下限に正の呪力が通じるか未知数である事、そして効率が最悪なので用意したのが、呪力を流すだけで領域展延を自動的に発動出来る名刀『天狼牙』。五条にも有効ではあるようだ。

 

 

「いやそれ僕に刺さったらどうすんの!?」

「死なねえだろ五条さんなら」

「うっわー嫌な信頼…っぶね?!」

 

 

 無限に触れさせずに距離の圧縮によって空に逃げる。

 術式の中和に対して流し込まれないように強く保てれば問題はないとはいえ、荒夜の手段や手数の多さが未知数。下手に術式を弱らせる意味はない。

 

「まあ、近寄らせなきゃいいだけの話なんだけどね」

「っっ!」

 

 

 順転『蒼』の並列起動。

 浮き上がった木々が槍のように飛んできた。気軽に天災を起こせるだけの術式、無下限に対して右手を突き出してそれを放った。

 

 

「極ノ番『波旬』」

 

 

 飛んできた木々を万滅の光で一掃。

 威力だけなら五条よりも高い出力を引き出せる荒夜の奥義が全てを塵に還すが、五条の前で『波旬』は動きを止めた。それを用いても無限は破れないことは計算済み。

 

 

「いいよ、テンション上がってきた。術式反転『赫』」

「っっ」

 

 

 無限の発散。

 虚式膜で力のベクトルを分解するが、虚構に触れなければ呪力を得られない。『赫』は作り出した虚構から外に押し出される。何もない場所から突如りんごが現れたらそのりんごは空間を押し除けて出現する。それを指向性を持たせて放つのが『赫』。破壊力は蒼の二倍。

 

 虚式膜がある為、効かないにしても呪力の差が浮き彫りに出てくる。

 

 

「(無下限呪術は俺と相性が悪過ぎる。使い手が別なら話は変わっていたかもしれないけど)」

 

 

 現代の最強は伊達じゃない。

 五条悟だからこそ相性が最悪。これは覆せない事実だ。最強と万能の戦いは加速していく。

 

 

 ★★★★★

 

 

 烏から映し出された映像を見ていた京都組と東京組、先生達は目を疑っていた。五条悟が最強である事は理解していたが、それに勝るとも劣らない荒夜の立ち回り、万能である事は知っていたが、此処まで強いとは歌姫でさえ思ってもいなかったようだ。

  

 だが、客観的に見てもどちらが有利不利かは明らかになっていた。

 

 

「やっぱ荒夜の方が不利そうだな」

「そりゃ相手が悟だしな」

 

 

 荒夜の虚式膜は時間制限ありに対し、五条は自己補完の範疇に収まっている。つまり戦い続ければ持久戦で荒夜が負ける。

 

 

「でも荒夜さんも無傷で互角なんじゃ」

「確かに体術や呪力の扱いなら悟に引けを取らないが、基礎性能が違い過ぎる」

「五条さんが遠距離から攻め続ければ負けるのは荒夜の方だな」

「やはりマスターが劣勢を強いられてるな」

 

 

 確かに乙骨の言う通り、二人に外傷はない。

 互角ではあるものの呪力量、術式の性能、呪力操作、六眼、あらゆる所から差が出ている。むしろ追い縋っている方が称賛される程の状態だ。呪力量は中の上程度である荒夜では基本性能で五条を越えられない

 

 

「勝てるとするならやはり領域か」

「閉じない領域、確かに見たけどあんなのあり得ねえだろ」

「そんなにか?」

 

 

 真希は呪力を用いない為、その事実に首を傾げるが日下部はあの時見たその神業を見てもあり得るはずがないと思い続けるほどに不可能という認識が強い。

 

 

「ああ、あり得ねえ。器が無ければ水は溢れるのと同じ、キャンパスが無ければ絵を描くことが出来ねえのと同じ、とにかくあり得ねえんだけどなぁ」

「金ちゃんからしても?」

「無理、結界を多少動かしたりすることは出来ても領域を結界無しで具象化は無理だ」

「現に荒夜はやってるしな。イカれてる」

 

 

 ある意味気狂いとすら言えるその神業。

 実現していた荒夜に最初見た時は観戦した全員が目を見開いた。あの五条ですらそれが出来ないと言わしめた結界の精度。勝てるとするならそこしかない。

 

 

「来るぞ」

 

 

 ★★★★★

 

 

 無限の攻略法は主に三つある。

 一つ、無限を破るだけの専用呪具を作るか。

 二つ、術式を切り、領域展延を使うか。

 三つ、これが一番単純かつ効果のある方法。

 

 下手な小競り合いに意味はない。そんな事をしても負けるのは目に見えている。二振りの呪具を腰に据えて荒夜は両手を合わせて掌印を結ぶ。それを見越した五条も地面に降りては指を組んだ。

 

 

「「領域展開」」

 

 

 【創始再編式】対【無量空処】

 緋色の銀河が無限の世界と衝突し、必中の奪い合いが始まる。

 

 一瞬でも気を抜けば必中が奪われて領域の効果が片方に襲いかかる。領域の中で戦闘を始める二人だが、荒夜が苦悶の顔を浮かべる。

 

 

「(結界の精度がクソ高い……分解じゃなければ押し切られてたな)」

 

 

 緋色の銀河が無限の世界に徐々に飲み込まれていく。領域内の戦闘でも無限は消えない。発動し切らなければ領域展延は使えない。術式反転の分解では焼け石に水。領域内では五条の方が上、次第に五条悟の領域が荒夜の領域を潰す。

 

 だが、それは結界内の話。

 荒夜の領域範囲が結界の外に到達する。

 

 

「っっ……領域が!?」

 

 

 閉じない領域、対象を逃す縛り。

 範囲が拡張された荒夜の領域は閉じた【無量空処】の外殻に作用する。領域展開の弱点、領域にわざわざ侵入する意味などない為、閉じた結界は()()()()()()()()()()

 

 荒夜の【創始再編式】の効果は二つ。

 一つは作り出した呪具の攻撃の必中化、そしてもう一つは分解を重きに置いた呪力殺し。呪力で構成された術式、呪具、そして結界は荒夜の前では等しく分解される。

 

 領域展開の衝突から36秒。

 

 五条悟の領域が──崩壊した。

 

 

「あはっ」

 

 

 領域展開後、術式は焼き切れて使用不能となる。

 五条は無下限呪術を使えない。荒夜は領域の設定を切り替えて懐から『黒雷』を握り撃ち始めた。分解に重きを置いた領域では呪力消費が激し過ぎる上、五条を殺すわけにもいかない為、自身の呪具に対しての必中に切り替え、臓器や重要部位を外しながら撃ち続ける。

 

 

「っ、ぐっ…痛っ……!!」

「さっさと降参してくれませんかねっ!」

 

 

 すぐさま五条は反転術式で回復。

 だが必中は消えたわけじゃない。分解した呪力と設定を切り替えた事によりあと三分までは展開し続けられる。仮に逃げたとしても術式込みなら荒夜の方が早い。

 

 

「シン・陰流『簡易領域』」

 

 

 必中を避ける弱者の領域。

 必中に対してすぐさま回避するように展開した簡易領域。だが、展開した簡易領域に対して荒夜は首を傾げた。

 

 

「? その程度で防げると思う?」

 

 

 圧倒的な速度ですぐさま剥がされる。

 バリバリバリッ、と簡易領域が消えては必中を取り戻す。『シン・陰流』の術はあくまで弱者が対抗する為に考案された術が多い。両面宿儺などが使える閉じない領域や圧倒的に洗練された領域には時間稼ぎにしかならない。

 

 

「魔眼起動」

「っっ!?」

 

 

 荒夜が此処で畳み掛ける。

 束縛の術式を内包し、呪具化した瞳が五条の動きを止めた。簡易領域で必中は逸らしてもこの魔眼は見たものを束縛する。簡易領域も剥がれて動けない五条に荒夜は新たな術式を刻んだ。

 

 

「術式刻印『星の怒り(ボンバイエ)』」

「っ、それヤバ──」

 

 

 仮想の質量の圧倒的な破壊力。

 体術に対してこの術式に乗せられた質量に防いだ腕が容易く折れ、五条は木々を折りながら吹き飛ばされていく。

 

 

「ごっ、がぁ……!」

「逃さねえよ」

 

 

 荒夜の蹴りが吹き飛んだ五条を領域の中心まで蹴り飛ばす。質量の破壊力に逆らえずに反転術式を使い続けてもダメージが残る。分解を使える殺し合いであったのなら、荒夜が勝っていたかもしれない。

 

 

「術式無しでもアンタは強いが、この状況なら私の方が上だ」

 

 

 弾き飛ばした場所に無数の遠隔式神。

 真希や秤と同じ。放電による気絶を狙い荒夜は術式を発動した。

 

 

「呪法『雷天』」

「っ──!!」

 

 

 轟音、目に見えるほどの雷光。

 圧倒的火力が至近距離で音よりも速く、五条悟に炸裂した。

 

 

 

「これで決まれば楽なんだけどなぁ」

 

 

 バチバチッ、と目の前で帯電する音が聞こえた。

 肉が焦げたような臭いが鼻に届いた。

 

 あれだけの放電。人が即死しかねないほどの電圧。幾ら呪力強化で肉体を底上げしても無視出来ないほどの圧倒的火力をぶち込んだというのに。

 

 勝鬨は上がらない。

 

 

「っ、はぁ……! っぶねぇ……!」

「どうなってんだよアンタは」

 

 

 五条悟を下すには足りなかった。

 あれだけの火力で何故意識を失わないのかという僅かな疑問は目の前の光景を見て直ぐに理解した。

 

 

「『落花の情』か」

「正ッ解!」

 

 

 必中で張り付く式神に対して呪力を纏い、自動でカウンターを施す御三家の秘伝。五条悟は『落花の情』と同時に脳内に反転術式を掛け続けて電圧を凌いでいる。並列で行えるだけの精密な呪力操作に舌を巻く。荒夜も出来なくはないが、並列で行う場合はどうしても発動が遅れてしまうというのにそれを戦闘中に行った。

 

 五条悟の領域崩壊からから131秒。

 

 

「あー、しんどっ」

 

 

 五条の術式が回復した。

 無限による高速移動により、領域範囲の外へ一度離れられた。

 

 

「チッ、もう回復したのか」

「……今のはマジ死ぬかと思った。まさか領域で負けるとはね」

 

 

 領域の外に出ればいずれ呪力切れを起こして術式が焼き切れた荒夜は確実に負ける。勝利は確実だ。

 

 だが、それは雑魚の思考。

 領域展開に対して敗北を認めたと同義、如何に技量が超えていようが何も出来ずに逃げる事しか出来ないと認めてしまうのは癪だった。現代の最強としての意地と自負を持って告げた。

 

 

「それ、ぶっ壊してやる」

 

 

 緋色の銀河を破壊する。

 領域に付与された術式は意味をなさない。仮に緋色の銀河を攻撃しても領域は消えない。閉じない領域を実現させた荒夜から受けた勝負から逃げずに再び掌印を結んだ。

 

 

「っっ!?」

「領域展開」

 

 

 急接近からの領域展開。

 領域が荒夜を包み込み、閉じていく。無量空処との必中の奪い合いを悟った荒夜は領域の設定を分解に変更。領域外から分解すれば先に五条悟の領域の方が崩れ去る。

 

 だが……

 

 

「仕切り直そうか」

「なるほど、分解されないように条件を変えたかっ!」

 

 

 必中が更に強くなった。

 対外の結界の条件を変更。外からの攻撃に強く中からの攻撃に弱い領域設定。結界の外殻の分解が今まで以上に遅い上に強固すぎる。

 

 

「(範囲を狭める縛り、領域内での術式の発動を不可能にした縛りで必中効果を更に引き上げたのか。確かにこれなら外殻を分解し切る前に当たる)」

 

 

 五秒もあれば外からの分解より早く【無量空処】が荒夜から必中を奪う。リスキーな賭けに出た五条の策略は最良の選択である。先に当たれば無量空処の効果で領域の維持も難しくなるだろう。

 

 だがそれは……

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 バキバキッと領域が嫌な音を立てて分解されていく。

 

 

「はっ?」

 

 

 五条は呆気に取られた声を出した。

 縛りの条件で強度を増した五条の領域が先程よりも早く再び崩壊する。

 

 

「私の分解は、分解したものから構築理論を知る」

 

 

 構築の反転は分解。

 いくら構築術式が構造を知らずともある程度の知識があれば作れる術式であろうと漠然とした物は識らなければ作れない。作る物質の一定以上のプロセスは必要だ。その逆であるならば、分解したものから構造理論を逆算し知る事が出来る。

 

 

「二度同じものが出たなら、分解時間は短縮される」

 

 

 知らないものの分解より知っているものの分解は遥かに簡単だ。

 

 

「両手両足を奪わせてもらう」

 

 

 五条悟の四肢の付け根が分解された。

 すぐさま反転術式で治すが領域にいる間は分解から逃れられない。そして分解している今なら五条悟の肉体の分解から呪力を得られる。本来なら即死も出来る以上、勝負自体は勝っている。

 

 

「っっ、『簡易領域』」

 

 

 反転術式と簡易領域の併用。

 繊細な術式を同時に行える技量には素直に称賛する。しかし……

 

 

()()()()()()()

 

 

 二秒。簡易領域が剥がれた。

 分解から呪力を得ている荒夜の領域は未だ解けない。分解は呪力に作用する為、『落花の情』の自動防御でも防げない。簡易領域が展開されても次は一秒も掛からないだろう。

 

 

「(しかもご丁寧に全体の分解から僕個人の分解に設定し直してる。此処まで細かく指定する事は僕でも無理だ。呪力の消費を抑えるためとはいえ結界術の精度が此処まで強いなんて)」

 

 

 夏油傑を乗っ取った呪霊の結界術。

 個人指定の結界効果を使う事で呪力の消費を防いでいる。五条悟の【無量空処】は引き摺り込めば確実に必中を与えてしまう。触れている人間ならまだしも、触れていない人間に必中を付与する事が出来ない。

 

 

「簡易領域」

 

 

 再び必中を回避するべく発動する。

 

 

「だからそれじゃ意味も……はっ?」

 

 

 一秒で簡易領域は剥がれ、無限が分解を一時的に阻んでいる。術式が焼き切れ、回復する時間は領域の展開時間に比例するが幾ら何でも早すぎる。

 

 

「(どうなってる…術式が戻ってやがる……!?)」

 

 

 反転術式では焼き切れた術式の回復は不可能。

 故に荒夜は新しい術式を外因的に刻む事でそれを補う事が出来ていた。冷却出来ない装置のサブとしての装置を持ってくる事で回復するまでの時間を稼ぐ事が出来る。

 

 だが、それが出来るのは荒夜のみ。

 例外を除いてそれを補う事が出来るはずがない。術式の焼き切れは簡単に言えば脳の一時的なオーバーヒート。壊れているわけではなく、正常に戻すための措置であり、怪我を治すとは訳が違う。

 

 だとするなら、なぜ術式は回復するのか。

 術式が使えない状況で行える術式の戻し方。それに気付いた荒夜は絶句する。

 

 

「脳を破壊して焼き切れた術式を!?」

 

 

 一度だけ考えた事はあったがやった事はない。

 術式が刻まれている脳を破壊して反転術式で再生。術式を使える装置を一度破壊して回復させる事で焼き切れた術式をリセットするなんて脳に多大な負荷がかかる。だがそれでも確かに理には適っているし、術式が回復出来ても不思議ではない。

 

 だが脳と術式はブラックボックス。怪我の修復とは訳が違う。

 

 

「それ、リスク高いだろ…!」

「領域展開」

 

 

 五条悟、再び領域展開を発動。

 結界は荒夜の領域を覆うほどに巨大に展開される。外殻を分解してしまうなら覆うほどの大きさにすれば外殻に分解を届かせないで済む。だがこれほどの大きさだ。領域範囲から逃れても内側から必中を奪われたら意味がない。

 

 

「これじゃ精度は下がるし、内側の必中は私の方が上だ」

「だからお前を先に倒す」

 

 

 蒼による引き寄せ。

 領域展開中の必中の押し合い、呪力消費量が膨れ上がる。だが一瞬で領域の必中を押し付けなければ領域は内部からでも分解していく。精度が下がった分、必中を完全に奪えるのは荒夜の方が早い。

 

 だが、それは荒夜が領域内の戦闘に不利に立たなければの話。呪力総量から領域内で自身の術式を用いない荒夜に対して五条悟は特攻を仕掛ける。

 

 

「10秒もあれば充分。ボコす」

「っっ!がっ……!?」

 

 

 蒼の並列起動。

 領域に呪力を割いている分、虚式膜まで使えば呪力があっという間に底をつく。領域展延での無限攻略の前にこの引き寄せが厄介過ぎる。領域展延の刀『天狼刃』で対応するが、体術が押されている。

 

 

「ごっ……!」

 

 

 殴り飛ばされたと思った瞬間、引き寄せられて拳が腹に突き刺さる。血反吐を吐いて吹き飛ぶ。『天狼刃』も引き寄せで手放してしまった。領域が維持できないレベルのダメージではないが、これ以上優勢に進まれると領域が壊れる。すぐさま体勢を立て直し、呪力を練り直す。

 

 

「っっ、シン・陰流『五行界』!」

 

 

 シン・陰流『五行界』

 簡易領域の改良結界。領域に術式付与した以上、結界術の併用は可能なのは知っている。ただし、いくら改良したと言えど展開した『五行界』では時間稼ぎにしかならない事を知っている。

 

 だが、荒夜にとって数秒も稼げれば充分だった。

 領域内で起きた異変を五条悟は感じ取る。

 

 

「(っ、なんだ!? 領域内の必中がオフになった!?)」

 

 

 縛りによる設定の変更。

 五条悟の【無量空処】内部の必中を受ける代わりに領域の範囲を更に広める。覆っていた五条の領域の外殻に触れ、再び外殻の分解が起きる。領域内で起こる必中は『五行界』で回避。

 

 分解は既に二回行われた

 外殻に触れさえすれば数秒も掛からずに【無量空処】は崩壊する。

 

 

「ははっ……!」

「っ、ああああああっ!!!」

 

 

 五条悟が【無量空処】の必中を当てるのが先か、荒夜の【創始再編式】が外殻を破壊するのが先か。領域内での戦闘が続き、近接戦闘では荒夜が押されている。

 

 三度目の領域展開。

 バキバキッと結界が割れる音が聞こえては弾けた。

 

 

「クソッ……マジかよ!?」

「これで五分、仕切り直そう」

 

 

 二人の領域が──崩壊する。

 

 

「(クソッ…!展延も無しの戦闘だと維持出来なかった!焼き切れ対策の刻印も……!)」

 

 

 お互いに術式が焼き切れて使用不能。

 シン・陰流『五行界』展開中は生得術式を使えずに、術式刻印が間に合わなかった。お互いに術式無し。荒夜は反転術式では焼き切れた術式を回復出来ない。それに分解する事で呪力を得れる荒夜の領域がない今、反転術式に使う呪力すら今は惜しい。

 

 

「ぐっ……」

 

 

 此処で呪力量の差が浮き彫りに出る。

 二人の拳が加速していく中、殴られているのは荒夜の方が多くなっていく。そして、領域の展開時間に比例して術式の回復も長くなっていく。今まで領域を拡大し続けた荒夜と領域展開をしてからすぐに崩壊させた五条では術式の回復は……

 

 

「術式反転」

 

 

 五条の方が早い。

 

 

「『赫』」

「っ、やばっ──」

 

 

 無限の発散をモロに受けて数十メートル吹き飛ぶ荒夜を五条は逃さない。荒夜の術式は未だに回復していない中、五条は更に掌印を結んだ。

 

 

「領域展開」

「っぁ……」

 

 

 四度目の領域展開。

 その回数に目を見開いて手を合わせるが、反転術式を施した時間の差で僅かに五条の方が速い。五条悟の領域が荒夜の領域展開よりも速く襲った。

 

 

「【無量空処】」

 

 

 荒夜に必中が当たる。

 無限回の強制が始まり、荒夜の動きが完全に止まる。たった一秒の領域展開、荒夜の約二年半の生きる行為の経験が脳を圧迫した。術式効果は複雑で『落花の情』では防げない。領域の掌印をしたまま荒夜はただ意識を失うことしか出来ない。

 

 

「────」

 

 

 領域展開から36秒。五条悟の領域が解かれる。

 瞳孔が開いたまま動かずにただ立ち尽くす荒夜に五条は近づいた。

 

 

「……これが殺し合いであったなら君が勝ってたよ。荒夜」

 

 

 立ったまま気絶している。

 これでは意識を失っているか分からないため、額を押して倒れさせようとしたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「残心って知ってる?」

「はっ?」

 

 

 

 

 

 黒閃。

 五条の顔に突き刺さる拳に黒い火花が微笑んだ。術式は焼き切れて使用不可の中、気を抜いた分の隙を荒夜は見逃さなかった。

 

 

「っ〜〜!!」

「ちっ、当たる瞬間に呪力全振りで対応したか」

「このルッキングガイな僕の顔を……!」

「言ったろ。そのニヤけ面は殴ると」

 

 

 荒夜は『無量空処』を間違いなく食らっていた。

 必中の感覚は間違いなくあった。なのにどうして動けているのか。意識の回復が早過ぎるというよりも、必中で当たっていたはずなのに効いていない事に目を疑った。

 

 

「……っ、間違いなく当たった筈だろ」

「ああ、必中は受けて術式効果は当たった」

 

 

 【無量空処】は無限回の生きるという行為の強制。

 知覚情報を加速させて脳に多大な情報を送り込んで圧迫させる。言ってしまえば食らって損傷を受けるのは脳。大量の情報を送り込んで処理落ちさせる術式。何度も分解している為、そこは理解出来ている。

 

 

「領域を広げてたら間に合わないから、私は全神経を使って()()()()()()()()()()()

 

 

 あの瞬間、荒夜は領域展開を肉体内で発動した。

 必中が当たれば領域の維持は絶対に不可能である為、荒夜が術式を底上げする為に用いた賭け。領域を敢えて広げずに肉体内で完結させる事で術式の底上げを可能とする縛り。

 

 

「無限回の強制の影響を受けるのは脳。だから体内で領域を展開して脳の保護と、術式の底上げで無限回の強制に用いた呪力を分解し無効化する」

「っ………!」

 

 

 必中に対して術式で守る。

 それ自体は不可能な話ではない。だが虚式膜だけでは複雑な効果を持つ【無量空処】の必中には対応し切れず、必中の強さから虚式膜を貫通する恐れがあった。領域展開に於ける術式の底上げで虚式膜の強化、必中を受けても脳に当たるまでの体内で分解し切る。

 

 領域展開を肉体内で完結させる事によって呪力放出の起こりをギリギリ欺けた。こんな前例がなかったからこそ五条悟を誤魔化せたに過ぎない即興ではあったが。

 

 

「すっげえ無茶じゃん」

「出来るか不安で賭けではあったが私は勝った」

 

 

 結界術に秀でた荒夜の経験からの咄嗟の即興。最強はその所業に笑い、認めた。

 

 荒夜緋色は天才──そして此方側に来ている事に。

 

 

「けど、術式は当たったならより強く必中を取り戻せば当たるって事だろ。次は確実に当てる」

「やってみろ最強」

 

 

 荒夜の呪力は残り三割。

 分解から得た呪力総量は心許ないが、それでもお互いに敗北を認めない頑固者。掌印を結び、再戦に走る領域勝負。

 

 

「「領域展開」」

 

 

 閉じない領域(創始再編式)を包む閉じる領域(無量空処)

 外殻に触れさせなくとも三度も分解した以上、内部から呪力を分解して領域を喰い潰せる。呪力を得れても根こそぎ持っていかれる為、虚式膜の応戦が出来ない。領域展延を発動し、五条の無限に対応するが領域内での戦闘のアドバンテージは……

 

 

「っ……!?がはっ…!!」

 

 

 五条の方が大きい。

 呪力量の差、術式の性能の差、そして生きた経験の差。領域展開中に起きる身体能力の底上げでさえ五条と荒夜では比較出来ないほどに変動している。

 

 此処が荒夜の術師としての限界。純粋な勝負で追い縋れているだけ奇跡と思わせるほどに五条悟は強すぎる。

 

 

「っ、と!」

「展延じゃキツイな……!」

 

 

 領域展延の戦闘は術式を使える五条に対して不利過ぎる。

 押されれば押されるほどに荒夜の必中が維持出来なくなる。そして五度目の領域対決。

 

 

「ぐっ……!!」 

「あははっ!やるじゃん!!」

 

 

 二人の領域が同時に崩壊する。

 呪力を拳に纏い、再び近接戦闘が始まる。傷が多く、反転術式を使わずに対抗し続ける荒夜の方がやや不利。

 

 

「(条件は五分、此処で締め落とす…!)」

 

 

 これで両者術式無しの勝負、条件は五分に戻ると思っていた五条は目を見開いた。

 

 

「はっ?」

 

 

 六眼はハッキリと捉えていた。

 荒夜から新しい術式の情報が浮かんでいた事に。

 

 

「術式が……!?」

「『星の怒り(ボンバイエ)』起動」

 

 

 領域展開後の焼き切れは()()()()()()()()()()()()()()

 

 術式は脳の前頭前野辺りに刻まれている。

 領域展開後の焼き切れは反転術式では治せず、前頭前野を呪力で破壊して治す事で五条悟は焼き切れをリセットしていた。

 

 荒夜が刻む術式刻印は生得術式が存在する右脳の前頭前野に刻まない。術式が焼き切れた場合、生得術式と同じ所に刻んだら術式が扱えない事を知った荒夜は左脳の頭頂葉に刻んでいる。

 

 当然、今まで使っていた場所とは別の箇所からの操作は簡単には慣れず相性もある為、劣化になってしまう。右利きの投手にいきなり左で投げろと言っているようなものだ。それでも焼き切れた箇所とは違う場所である以上、領域展開直後でも荒夜は術式を使える。

 

 

「がっ……!?」

「領域展開直後なら私の方が……!」

 

 

 九十九の『星の怒り(ボンバイエ)』は対人最強の質量操作。一撃で五条を吹き飛ばしては追い打ちをかけようとしたその時だった。

 

 ガクンッ、と追いかけようとした荒夜の膝が地についた。

 

 

「えっ……?」

 

 

 力が抜けたように膝をついた。

 眩暈と息切れ、多大な汗が体から溢れた。

 

 無意識だったが、領域展開を何度も使い続けて反転術式や術式刻印を併用した戦闘。呪力量の底が見え始めた。その上で負荷が尋常ではなく身体に掛かっている。

 

 

「(もう領域を展開できるだけの呪力が……)」

 

 

 呪力量の差が此処で浮き彫りに出る。

 対呪霊戦であるなら五条よりも有利かもしれないが、対人の殺す事を禁じられた戦いでは勝てない。五条の肉体や領域の分解から得ていたからこそ追い縋れたこの状況も終わりが見えた。

 

 

「っっ……クソが!」

 

 

 領域展開の予兆。

 荒夜は素早く掌印を結び、対領域の結界を構築する。

 

 

「空性結界『六道公殿』」

「【無量空処】」

 

 

 『シン・陰流』の簡易領域や五行界では必中を逸らせない事を見越した荒夜は素早く対領域の屋城型結界を展開する。一瞬早く展開出来たおかげで術式効果は逸らせたが、根本的解決にはならない。

 

 

「流石……結界術なら僕より上だね。けどそんなもので次の攻撃にどう対応する?」

 

 

 必中を中和する事を可能にしたが、複雑な結界展開中は生得術式を使えない。対して領域展開をした五条は使い放題。『赫』は既にこちらに向いていた。結界から弾かれれば【無量空処】の効果が作用する。かと言って避けた所で結界を物理的に破壊される。

 

 詰み、五条は『赫』を発動した。

 

 無限の発散は荒夜へと向かい──消滅した。

 

 

「………マジ?」

「ハァ……ハァ……!」

 

 

 術式の回復はまだ分かる。

 だが、()()()()()()()()分解で塞がれた。複雑な結界術と生得術式の同時併用は領域展開でもない限り使えない。荒夜に領域を展開出来るだけの呪力は残されていない。

 

 

「(どういう事だ……?此処まで複雑な結界術だ。生得術式を展開できるだけの容量なんてあるわけ)」

 

 

 では何故?六眼はその原因を捉えていた。

 荒夜が出していた二振りの内の一つが地面に突き刺さっている。

 

 

「成る程、()()()()()()()()()()()()()()()

「バレんの早ぇよ……!!」

 

 

 剣が刺さった所を基点に結界術の必中回避の付与。領域に術式を付与するように、必中回避を重きに置いた結界術の効果を付与。肉体ではなく剣に付与した自立型の結界を創り上げられている。

 

 一つは領域展延を底上げする『天狼刃』。二つ目は刺した場所に結界術を展開し、必中と必中回避の二つの効果を引き出す『天結刃』。結界を自立させ、生得術式を使える容量を戻した。

 

 対領域の場合は簡易領域や展延では生得術式の併用ができない。故にそれに対する弱点を潰す為に考案された対領域の切り札。元々メカ丸が使っていた簡易領域を内包する武具からそれを元に魔改造したのが『天結刃』だ。

 

 突き刺さった場所を基点に必中回避の結界を自立させ、一定領域範囲の必中を完全に中和する事を可能としている。

 

 だが……

 

 

「(もう呪力一割もねぇ…!)」

 

 

 対して五条は少なくとも三割以上。

 あれだけ領域を展開したのに何でまだ残っているのか。『六道公殿』も一分もすれば必中を奪われて無限回の強制が始まる。

 

 

「(せめて…領域は破壊してやる)」

 

 

 領域から脱出する為、荒夜は両手を重ねた。

 呪術を極める事は引き算を極める事、術式の発動に対しての時間の省略、掌印の省略をする事で呪術を戦闘に持ち込める。

 

 

「"冠位"」

 

 

 これはその一切を省略しない

 両手で維持される僅かな範囲の虚式空間に呪力が集中していく。構築術式は生産系で攻撃に向かないのが玉に瑕。呪詞などあるわけもなく、それに見合ったものは存在していなかった。

 

 

「"極光"」

 

 

 なので荒夜は呪詞を作り上げた。

 無限の可能性を持つ構築術式を理解した上でそれに見合う言霊を探し続けた。荒夜の攻撃は威力は出せても火力に物を言わせて込められた呪力は少ない。燃費最悪のこの術式に見合った戦い方ではあるが、それでは恐らく『無量空処』を破ることが出来ない。

 

 

「"開闢と終焉"」

 

 

 構築術式。

 それは可能性の開闢と同時に可能性の終焉。創造と破壊の二つを行えるこの術式は使い方によっては世界を滅ぼせる力を秘めている。例えるならそれは……

 

 

「"第六天魔王"」

 

 

 冥府すら蹂躙する魔王の名。

 出力150パーセントの厄災。呪詞は紡がれ、込められた呪いは右手の上で弾けて放たれた。

 

 

 

極ノ番『波旬』

 

 

 

 万物を滅する破壊の光が領域を満たした。

 

 

 ★★★★★

 

 

 轟音が帳から響いては映像が光に包まれて途切れた。

 外に出て帷の張られた結界を見ると、内側から罅が入っていた。

 

 

「うお、映像が!?」

「烏が巻き込まれて死んだね」

 

 

 冥が直ぐに他の烏を向かわせるが、肉眼で見てもその轟音から中の二人はどうなっているのか。考えたくもない程の被害が予測できた乙骨は顔を青くした。

 

 

「最後の帳に罅入ってんだけど……」

「一枚だけでも壊すのに苦労しなかったアレ?」

「十枚が一気に壊れたのか……末恐ろしいよ」

 

 

 加茂は一度実験の為に付き合った事があったが、一級術師レベルでさえ全力で殴ってもビクともしない結界が十枚あった筈なのにそれが一瞬にして砕けた。荒夜の極ノ番は基本的に無限火力、被害を考えなければああなるのは知っていたが、目の当たりにするとやはり異常だった。

 

 

「うっ、わっ……」

「森が更地じゃねえか」

「二人とも生きてるよね!?」

 

 

 森は跡形もなく消滅し、更地に変わっていた。

 西宮が不安になって叫ぶが、烏が映し出した映像には二人の影が映っていた。

 

 

「あっ、よかった。二人ともちゃんと居る」

「流石にこれ以上は止めるぞ」

「止められるの?あの二人を」

「「…………」」

 

 

 西宮の言葉に夜蛾も日下部も終始無言だった。

 

 

 ★★★★★

 

 

 極ノ番『波旬』

 森全体が更地になり、煙が湧き上がる中で二人は向き合って立ち続けていた。アレだけの攻撃でさえ五条は無傷。無限の防御は力任せでどうこうなる訳もなく、破壊出来たのは領域のみ。

 

 

「……驚いたよ。領域を無理矢理破壊するなんて」

「呪詞は元々禪院家から知ったんだ。まあ探すのに苦労したけどね」

「続けるかい?」

「いや」

 

 

 ため息をついて両手を上げた。

 

 

「私の負けだ」

 

 

 荒夜は敗北を認めた。

 帳が破壊された以上、これ以上の戦闘は無理な上に荒夜にはもう呪力が残っていなかった。『波旬』は無限火力ではあるが、攻撃に乗っている呪いが薄い。呪いの質を高めた呪詞で攻撃の質を高めたが、効かなかった為無駄な話ではあったが、アレが最後っ屁で呪力を切らしていた。

 

 

「呪力がもうないし、あった所で『赫』の傷が思った以上に深い。これ以上やっても目に見えてる」

 

 

 その上、直撃した『赫』の傷がまだ痛む。

 肩が弾き飛ばされると思うほどの衝撃波をマトモに受けて意識を飛ばしかけていた。反転術式を使ってもまだ痛む。これ以上の戦闘は不可能だった。

 

 

「いや、マジの殺し合いだったら荒夜が勝ってた。正直驚いたよ」

「小細工の呪具で足りない差を埋めただけなのに?」

「最強になれないなら最強を創ればいい。そう言ったのは荒夜じゃん、見事君は僕に届いた」

 

 

 疲弊から荒夜は地面へと座った。

 呪力が無くなって気を失いそうな所ではあるが、流石に矜持があるのか気を失わずにただ座ってその言葉を聞いていた。

 

 

「僕に呪術師として勝とうって挑む奴は居なかった。けど、今日ので分かった。僕の隣に立てるくらいに強くなった」

 

 

 わしゃっ、と頭を撫でられた。

 こういう人だから本気で憎めない。人間としては最低なのに強さは本物、現最強に及ばずとも殺し合いなら負けていたと本人が認めていたのだ。僅かに頰が緩んだ。

 

 

「成長したね」

「……あー、クッソ悔しい。勝つつもりだったのに」

「まだまだ最強は譲らないよ」

 

 

 そう勝ち誇っていた五条の鼻から血が垂れた。

 両手を広げては、地面に寝そべって疲れたと愚痴をこぼしていた。

 

 

「つーか、僕も結構限界……」

「やっぱり?脳破壊からの術式回復は流石に……」

「脳の修復なら日頃からやってるし、一回だけだから問題ないっしょ。僕、最強だから」

「この後硝子さんに怒られるのが目に見えてるけど」

「それな」

 

 

 あはは、と笑う二人。

 この後、被害の事で夜蛾から拳骨を受けて家入から盛大に怒られた。

 

 未だ最強にはなれない。

 呪具をもう少しだけ持ってくれば勝てていたかもしれないが、術師としての限界は理解した。此処からは這い上がっていくだけだと荒夜は決意しては笑っていた。

 

 





 ※最終回ではありません

 術師としての荒夜を書いたので。
 今後はリクエスト頂いた物を作っていくぜ。


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三十四


 ドブカス覚醒回。


 

 

○月○日 晴れ

 

負けた。五条悟には勝てなかったよ……。

とまあ、実を言えばこれは分かりきった話ではあった。殺し合いならまだしも、気絶させるまでの一対一なんて一番苦手な分野だったし。それに言ってしまえば術師としての限界。今回私が使った呪具なんて三つしかない。幻灯の魔物は今回使わなかったし。

 

そもそも課題が多すぎる。

私の創った呪具の扱いについて。パパ黒のようにあの格納出来る呪霊が居ない私は呪具の持ち運びが難しい。トランクケースに十種影法術を刻んで影の中に保管しているのだが、先ず問題が影に入れたものの重量の肩代わり。そのせいかトランクケースに重い呪具を入れてられない。

 

つまるところ、私が実戦で持っていける呪具は自ずと決まってしまう。嵩張って重くなっても邪魔になるし。

 

まあ、あとは単純に呪力量。

私の呪力量は中の上、術式刻印で新しく生得術式を刻んでも自己補完の範疇に収まっていない。先ずは呪具の扱いについてどうにかしようか。

 

 

○月☆日 晴れ

 

以前、術式を流さない生得領域の付与を陀艮がやっていた。アパートのドア開けたら海が広がっていたように、結界によってその場の空間を拡張する方法。それを実際にやってみた。トランクケースの中を結界で拡張し、その中に呪具を入れて重さを測る。

 

うん無理、何も変わらなかった。

 

 

○月♪日 曇り

 

パパ黒の持っていた呪霊はどうして重さを変えられたのか。そもそも、呪具の総量にもよるが、恐らく重さは全くないと見ていい。あのパパ黒の持っていた呪霊が小さくなっても総重量が変わらないなら胃の中を突き破りかねない。臓物がフィジカルされても流石に影響がある。面積が小さければ小さいほどに一点にかかる力は増えるわけだから、どれだけ内包していたのかは知らないけど人間を格納出来る以上、格納したものには重さがないのだろう。

 

そう言った自我を持つ式神を作ってみるか?

 

 

○月♪日 雨

 

今こそ、サーヴァントを作る時なのだ。

さあ、さあ、さあ!今こそ最強のサーヴァントを!!

 

……と思ったのだがどうやって作れるのか考えた。

私の構築術式(仮)はある程度の構造を知らなければ出来ない。少なからず漠然としたものは無理。私の術式は『構築術式』が最も近いだけで、過程を省略して結果に辿り着く聖杯の在り方に近い。望んだものを呪力を対価に構築する。まあ全能でもないし、それに基づくプロセスは必要だ。

 

聖杯と同じなら正しく過程を理解した上での過程の省略。世界平和を実現するならそれに基づいた過程がなければ成立しないのと同じ。分解で得られる情報から同じ過程を得ているから術式の劣化とは言え複数のストックが可能となってる。

 

六眼では『構築術式』と言われているが、ひょっとすると前世の私の魂の影響か?外から飛来した魂が『』とわずかに繋がっているのかもしれない。

 

まあそれはさておき。

サーヴァントを造る事を始めようか。

 

 

○月★日 晴れ

 

構築術式で作った物は消えない。

であるのならサーヴァントという霊体の括りでは難しい。

 

そもそもサーヴァントとは魔術師が自分の手で作った使い魔ではなく、人類史そのものからかつて記録された現象を呼び出す使い魔。

 

正式名称を『境界記録帯(ゴーストライナー)』。人理に刻まれた英雄である。

 

この理論通りであるなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()。私は既にパックと(うるる)を造れている。だがそれは一重に性格や在り方が似ている人間の魂の情報の複製を当てはめているに過ぎない。人造呪骸は近しい存在を再現できても、それ以上にはならない。

 

問題はそこ。

オガミ婆のように肉体の情報、魂の情報は分別して入れなきゃ反抗される事はあり得る。令呪もないし。そもそもここ呪術廻戦の世界だし、根源もサーヴァントもアラヤもガイアも存在するのかが不明。死者の情報を呼び寄せる降霊術があるから冥界くらいはあるとは思うけど。

 

考え方を変えるべきか?

 

 

○月*日 雨なんて滅べばいい

 

やはりゲートオブバビロンこそ至高。

サーヴァントはもう少し先になりそうだ。抑止力はないと思うが、それでも変にカウンターを食らったら怖いし、相性も存在する。宝具くらいはアリだと思うから、やはり宝物庫だろう。射出力がなくてもあの宝物庫を作りたい。いや割といけそうな気がするんだよなぁ。ただ問題が一つ。

 

一つ、単純にそれが出来たとしても術式を刻まなくてはならない事。術式刻印は最大で二つまで付与出来るが、刻んでいる間も呪力を消費する。自己保管の範疇に含められないので、自分に術式を付与するのは難しい。

 

二つ、術式情報は一度刻印を外せば()()()()()()()。前に呪霊操術を再現して、その上で術式を消したら内部から呪霊の負の呪力で死にかけた。十種影法術は道具を入れた後、術式を消したら()()()()()()()()()()()()()。あくまで私の術式は仮想再現という所だろう。

 

 

○月♡日 晴れ

 

やべーよ。

考えが纏まる前に来やがったよ畜生。

 

百鬼夜行が来てしまった。

最近色々とあり過ぎてすげー忘れてた。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 禪院直哉は鍛錬を続けていた。

 あの交流会の特級同士の対決を見て禪院家の荒夜に対する認識が変わった。最初こそ特級から推薦され、良質な呪具を作れるだけの術師、自分の才能の弱さを呪具でひた隠しにしているだけの弱者、その認識が強く自分達とは違うと格付けをしていた。

 

 雑魚の罪は本当の強さを知らない事。

 

 最強でありながら甚爾を誰も認めていなかった。

 

 恐らく、悟や荒夜を除いて。

 

 伏黒甚爾を殺した彼だからこそ、直哉は誰よりも早く荒夜を認めていた。だが、直哉でさえ荒夜はまだあちら側に立っていないと、そう思い続けていた。

 

 特級同士の対決は禪院家は鼻で笑った。分かりきっていた結果だと。五条悟という存在はそれだけ生物としての格が違う。特級という格付けはあくまで国家転覆が単独で可能である事。その条件に当てはめているだけで、同じ土俵に立てているとは思えない。視力検査と同じ、特級という枠組みに甘んじている五条悟に勝てるなんて思いもしなかった。

 

 

 その結果は映し出された映像に絶句となって目を疑った。

 

 

 使った呪具は二振りと銃一つ。()()()()()()()。術師としての実力で荒夜緋色は五条悟と遜色ない実力を発揮していた。キャンパス無しで空に描くが如く、閉じない領域展開で五条悟の領域展開を壊しては殺し合いであったのならば荒夜緋色は勝てていたかもしれない。

 

 荒夜緋色は五条悟と同じ土俵に立ち、術師としての格があちら側に到達している。更に言えば真希や真依でさえ最近頭角を現してきている。このまま乗り遅れれば一生届かなくなる。

 

 

「なあ、ちょっとええか」

 

 

 なので直接聞いた。歳下に教わるなんてプライドを捨ててでもこの状況に甘んじている事が恥になりかねない。見下していた存在にいつの間にか抜かされていたなんて扇の二の舞になりたくはなかった。

 

 

「術式の理解を深めるやと?」

「うん。投射呪法の解釈の問題かな。直哉さんは黒閃か領域展開は使った事ある?」

「黒閃は最近やったで。領域展開はまだ無理や。投射呪法の解釈を領域に持ってこれへん」

 

 

 直哉は素直に自分ができない事の現状を吐露した。

 領域展開の解釈、術式の解釈だけなら恐らく五条悟よりも上である為、癪ではあるが自分の現状を話すと軽く悩みながら、生八つ橋を食べながら縁側に座っている荒夜は尋ねてきた。

 

 

「触れた物が一秒フリーズ。触れた物の解釈は?」

「殆ど生物やろ。物質をフリーズさせても動かへんのにフリーズする意味はないわ」

「じゃあ大気中の空気や液体はどうだい?」

「!」

「固定化する事によって軽い足止めの障壁くらいにはなるかもしれないし、空気を殴れば衝撃波くらいは生まれるんじゃないか?」

 

 

 異常性に気付いたのは直哉だけなのか。

 あり得ないような出鱈目な解釈で、領域展開を可能としているのか。それが可能であると疑わないから五条悟に届いているのか。発想実現力が五条悟よりも高いから異常なのか。そのイかれた思考に思わず押し黙るほどに背筋が凍る。

 

 

「投射呪法が一秒に二十四回の動きを刻む。動きのコマを上げる事は可能?」

「それは無理や。そこは二十四回と決まっとる」

「なら投射呪法は()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「はっ?」

「投射呪法は一種の縛りの強化に近い。指定した動きに対する超強化であるなら、自身の中で呪力の流れを刻めれば、呪力消費のコストを減らせる。敢えて一点に集中する縛りを結べば貫通力も増える」

「………」

 

 

 違う。何もかもが違う。

 解釈が異次元。術師の生得術式の解釈の仕方が他人のそれと遥かに違う。いや、もっと正確に言えば視点が違い過ぎる。考え方というよりは見えている視点が()()()()()()()()()

 

 術式において可能性を広げるというのは必要だ。戦略の幅が広がる上に、使える武器が増えるからだ。だが、荒夜は何かが違う。直哉から見て荒夜は、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「じゃあ投射呪法で領域に転じた時、解釈はどうなんねん」

「触れたら一秒フリーズなら相手を永続的に止め続けるか、解釈を細かくして細胞を止める事で動く相手をバラバラにするとか、電気信号のみをフリーズさせて窒息死か、血液を止めて心臓をショック死させるとか、思い付く限りそんな所かな」

「頭ん中どうなっとんねん、キッショ」

「聞いてきたの貴方でしょ、張り倒しますよ?」

 

 

 解釈が常軌に逸している存在だからこそ不遇な術式である構築術式を使いこなせるのか、その知識や発想に対して気味の悪さを感じた。想像以上に解釈が広く参考にはなったが、迷う事なく回答を導き出した荒夜に直哉もドン引いていた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 百鬼夜行当日。

 文字通り千体の呪霊が京都へと押し寄せた。四級から一級だけではない。その中には二体、特級呪霊が存在していた。特級呪霊『蜚蠊(ごきぶり)』。黒い悪魔は忌み嫌われ、恐怖となり子を生成しては使役し操っていく。大群大進行、相対する術師を飲み込み肉を喰らっては繁殖を繰り返す。

 

 

「うわああああァァァァっ!?」

「に、逃げろ特級だ!?」

 

 

 呪力を付与された無数の蜚蠊の殺傷能力が高く、飲み込まれては体内まで貪り食われて飲み込まれていく。質より数、木端と言えど大群であるそれはまるで捕食する津波にも思える光景を前に撤退していく。

 

 そんな中、悠然と態度を変えずに特級呪霊の前に現れる二人。禪院直哉と禪院蘭太がその光景を見つめていた。

 

 

「カスがわんさか撤退しとるの見とると、アレとあんま変わらへんなぁ」

 

 

 這い寄る黒い悪魔を前に直哉は忌々しげに逃げる術師を評価した。駆けつけた蘭太が蜚蠊の動きを止めているが、その奥の蜚蠊の呪霊に対しては動きの拘束をしていない。この呪霊に対して禪院家の中で相性がいいのは扇だ。直哉の投射呪法と相性が悪過ぎる。

 

 

「うへぇ、キッショいわ。ブチ抜くために触れとうないわ」

「直哉さん!此処は扇さんに任せて」

「指図すんなやカス。あと邪魔やからさっさと退がれ」

 

 

 蘭太の声を無視して直哉は掌印を結ぶ。

 荒夜の解釈を参考に到達した呪術の極致。伎芸天印の印相に合わせて放出される呪力の起こり。禪院家当主である直毘人すら到達し得ないステージに辿り着いた禪院の次期当主。蘭太はその光景に目を疑いながらも直哉から離れていく。

 

 

「領域展開」

 

 

 巨大な眼の付いた膣・子宮・卵巣が浮かんだ黒い世界に蜚蠊(ごきぶり)が閉じ込められる。現在の禪院家の中でただ一人その次元へと辿り着いた最強を追う者が今、想像を超えた未来の自分へと開花させた。

 

 

 

「【時胞月宮殿(じほうげっきゅうでん)】」

 

 

 

 領域展開した直哉は悠然と歩き始める。

 襲いかかる蜚蠊の群れに目を細め、嘲笑うと飛んでいた蜚蠊の群れが一斉に地に落ちた。まるで切り刻まれたかのようにバラバラとなり堕ちる蜚蠊に呪霊は目を見開き、何が起きたのか理解出来ずに動きを止めた。

 

 

「俺の領域は触れた物が一秒フリーズ、その術式対象はより細かくなるんよ。細胞1つ1つに対してフリーズし、一度体を動かせば細胞1つ1つの動きがずれてバラバラ。うん、ええわ領域。解釈次第じゃ人間に即死の必殺やしな」

「ギ、ガッ……」

「じゃあ動かなければいいって考えるやろ?」

 

 

 領域は呪力消費が激しく何度も使えない。

 六眼を持つ五条悟、幼い頃から『落花の情』を常に張り続け、反転術式でオート化して呪力操作力を高めている荒夜は例外。直哉はまだ二回以上続けて領域展開をする事が出来ない。

 

 だが、直哉は至っている。

 あの交流戦から今に至るまで自分に足りないものを知っては何度も荒夜に教えを乞う。見下していた三下に抜かれかけているのが一番癪であったから、プライドよりも術師としての格を上げる為に学び続けた。

 

 あの日から今日に至るまで、荒夜の持つ技術や知識を盗み続けた。

 

 

「投射呪法の術式反転ってなんやと思う?フリーズの解除?一度起こした行動の逆再生?全然違かったわ」

 

 

 解釈の可能性を模索した。

 反転術式のやり方を学んだ。五条家が五条悟のワンマンチームに対して、禪院家は術師達の連携が多く抜きん出る存在が少ない。『柄』の筆頭である直哉も禪院の中では強くても、禪院の括りから遥かに超えた術師とは言い難い。

 

 ──だがそれも、今日までの話。

 

 

「順転は刻んだ動きを始点から終点へと行動する事での超加速。であるなら術式反転はその逆、終点の結果に合わせて()()()()()()()()()()()()()

 

 

 過程から結果ではなく、結果に対して過程が働く。

 それは即ち因果の逆転。結果に沿うように過程を刻み、直哉自身を因果に合わせて()()()()()()()()()。過度な動きは一秒フリーズとなる事は変わらず、更に速くなるわけではない。

 

 

「反転は順転の二倍、失敗しないだけやったら大した強化やないと思ったんやけど定めた終点に向かって自動的に行動される。つまりな」

 

 

 失敗の時のデメリットが無くなるが、行動に変わりはない。因果に沿って行動が引き起こされるが、無下限を超えるなど過度な結果に対しては働かず、自分が引き起こせる範囲に限定された行動しか取れない。

 

 だが、それがもしも()()()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

 

「俺は()()()()()()()()()()()。止まってるなら尚更や」

 

 

 黒い火花が蜚蠊の呪霊の躯体を消し飛ばした。

 

 全ての攻撃の威力が2.5乗。

 その上加速された拳の重さが乗せられ、その破壊力は()()()()()()()()()()。連続で放たれる拳全てに黒閃が走る。連続で八発、呪霊の躯体は完全に消滅し、這い寄る蜚蠊全ては司令塔を失い動けば領域効果に切り刻まれたように全滅していく。

 

 

 

「術式反転『時逆追髄(じぎゃくついずい)』。勉強になったやろ?ほな消えとき」

「ギッ────」

 

 

 

 ──蜚蠊の呪霊の完全消失を確認。

 ──禪院の異能、特級呪霊『蜚蠊』相対から四十五秒、数十万を超える蜚蠊の大群と共に全てを鏖殺。

 

 

「さて、荒夜は面白いモン見せてくれるゆうてたけど、何するんやろな」

 

 

 消耗した体力とは裏腹に足取りは軽く、特級達が踏み入れていた世界に一歩、足を踏み入れた実感に不敵な笑みを浮かべて京都の街を歩く。

 

 12月24日、百鬼夜行にて。

 天与の暴君に並び立てる禪院の異能が完成した。

 

 

 





 術式反転『時逆追髄(じぎゃくついずい)
 反転術式を習得し、新たに体得した能力。過程から結果に沿うように動きを作る投射呪法に対し、結果に沿うように過程の動きを強制する因果の逆転。黒閃で殴るという結果の因果を先に作り、その過程に合わせて24コマの動きを刻む事で直哉は狙って黒閃を打つことを可能としている。

 加速の速度は変わらず、自分が実現不可能な結果は失敗し、限られた範囲の因果逆転、失敗しないだけのあまり魅力のない力と錯覚していたが、狙って黒閃を撃てると解釈した荒夜の言葉に、加速に身を任せなければ出せなかった力の無さをカバー出来る為、本人はかなり気に入っている。


 ★★★★★

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三十五

 

 

「夏油さんが宣戦布告ですか」

『ああ、僕は東京。荒夜は京都でそれを食い止める。まあ問題ないでしょ君なら』

「幾ら何でも勝ち目のないプランをするような人じゃないでしょあの人」

『僕もそう思う』

 

 

 原作知識があれど、あの人が想定通りに動くかは微妙だ。歴史は変わってしまっている。百鬼夜行の後、遺体を忌々しい脳味噌呪霊に持っていかれた以上、裏で動いていると考えた方がいいだろう。

 

 

「乙骨君の護衛に人員を割いてください。呪霊操術で祈本里香取られたら面倒でしょうし」

『ああ。一年の派遣は無しにしてるし、(ウルル)も真希もいる。護衛なら問題ないかな』

「それなら大丈夫ですね」

 

 

 真希なら伏黒甚爾と同じとまではいかないが、スペックはそれに近い。領域展開の結界をすり抜けられる以上は同等と見てもいいだろう。呪霊操術を使う中で勝てる見込みが一番高いのは真希だ。

 

 

『……天内はどんな感じ?』

「東京に行きたがっています」

『だろうね。僕としては来てほしくないけど』

「その覚悟込みで向かおうとしてるんですよ」

 

 

 あの日、夏油さんがいたからこそ天内は救われた。恩人でありながら呪詛師に堕ちてしまった夏油傑の知らせを聞いて真っ先にショックを受けたのは五条先生と天内の二人だろう。非術師を間引き恐怖を植え付ける事によって生存本能から術式を覚醒させる。

 

 平安時代、呪霊が跋扈していた時代は術師の数は比較にならない程多かった。その選択はある種の正解でもあるのかもしれないが、人の選択としては論外だ。人を殺す事を厭わない夏油さんの選択は天内が一番苦しいモノかもしれない。

 

 

「京都で呪霊討伐が終わったら天内を向かわせでもいいですか?」

『……出来るならいいよ。呪霊討伐千体なんて簡単だとは思わないけど』

「楽勝です」

『ははっ、言うねぇ』

 

 

 ちゃっちゃと終わらせて最期くらい見届けますか、天内の為にも。

 

 

 ★★★★★

 

 

 

 京都のビルの屋上へと階段を歩く天内と荒夜。

 高級な紅い羽織と黒いマフラーと白い着物を身に纏い、天内は巫女の装束を着付けている。呪霊千体の被害は尋常ではない為、ある程度は此方で対処する事を術師達に先に告げている。

 

 

「なあ、なんで妾なんじゃ?結界の補佐なら妾以外でも」

「夏油さんの所に行きたいのは分かるけど、この役はお前にしか出来ない」

「いや妾は元星漿体じゃけど、呪術は一般の出と変わらないのに」

「ハァ、まだ分からないのか?」

 

 

 天元に成れる存在は肉体の相性だけじゃない。

 結界術の才能も関わってくる。結界術において天内は補助監督の中で一番上手い。星漿体である事もそうだが、それ以上の理由があるとすれば……

 

 

「お前が一番信用出来る。それだけだよ」

 

 

 単純な信頼。

 結界術は複雑で、帳以外の結界術は補助監督で出来る者は少ない。習得するメリットが少ない中でも荒夜の難しい講義や解説から逃げ出さずに勤勉に学んでいた誠実さ故の信頼。

 

 

「それじゃあ始めますか。歌姫先生、学長」

 

 

 琵琶を持ち、座る楽巌寺学長と腕に鈴を付けて巫女服のまま裸足で立つ歌姫が待ち構えていた。ビルの中心に立つ荒夜の後ろで天内は掌印を結び始めた。

 

 

「(会いたい……)」

 

 

 呪力が激流のように身体から抜けていく。

 構築する結界の複雑さから真冬だというのに汗がこぼれ落ちる。失敗は許されない。そんな緊張感の中、天内は結界を慎重に構成していく。

 

 

「(あの人にもう一度会いたい……!)」

 

 

 天内理子は荒夜の背中に両手を置いた。

 天元の器である星漿体の素養を持つ女。それ故に結界術に限って言えばその潜在能力(ポテンシャル)()()()()()()()()

 

 その上、荒夜が分解から逆算した天元の『空性結界』の知識、結界術の理論、その応用を含めて僅か三ヶ月で全て習得し切った。

 

 

 

「(だから今は……妾が荒夜を最強にする!)」

 

 

 

 天元の結界術は補助監督の『帳』など、結界術の底上げを可能としているだけではなく、呪霊の発生を抑制する『浄界』を千年という長い年月を掛けて構成している。

 

 天元を除き、現在の呪術界で結界術に最も優れている荒夜と、それに次ぐ天内でさえ『浄界』の構成は不可能であるが、構築理論さえ分かっていれば『浄界』の()()()()()()()()()()()()()。今天内が展開しているのは結界術の底上げを可能とする『空性結界』

 

 結界内の情報の伝達及び、結界術の精度を150%引き上げる。

 

 

「「 "筑紫(つくし)" "日向(ひむか)" "祓戸(はらえど)大神(おおかみ)" 」」

 

 

 歌姫の術式『単独禁(ソロソロキン)()』は術式範囲である歌姫を含む任意の術師の呪力総量、出力を一時的に増幅させる。

 

 呪術を極める事は引き算を極める事であり、本来は呪詞、掌印など、術式を構成、あるいは発動させるまでの手順をいかに省略する事ができるかで術師の腕は決まる。しかし歌姫は一切を省略せず、術式を儀式に昇華させる事で効力を更に引き上げる。

 

 

「「 "日月(ひつき)(みや)" "叢林(そうりん)(はな)” "明神(みょうじん)鳥居(とりい)" 」」

 

 

 加えて荒夜は『術式刻印』で『呪言』を刻み、()()()()()()()()()()()。狗巻家相伝の『呪言』は呪術師らしいと言えば呪術師らしいのだが、デメリットが強過ぎる危険な術式だ。術師の格によって『呪言』のデメリットを受ける危険度が変わり過ぎる。平安時代にも呪言遣いは存在していたが、危険度が比較にならないほどの平安時代で呪言遣いが生き残れるか荒夜は少しだけ疑問に思っていた。

 

 そこで一つの仮説を考え、実証した。

 元々『呪言』とは他者の術式を底上げする()()()()()()()をしているのではないかと。

 

 他者を呪う、それに最も適した在り方をしている『呪言』は互いの他者との同意を取った上で呪いを強制し、()()()()()()()()()()ために存在していた可能性を考えていた。

 

 現代では超少数派である術師は等級が低ければ連携を取る事が多いが、二級以上は単独行動が多く、呪言遣いも単独での行動が大きく負担をしいている。だが、平安時代は術師の数が多く『呪言』を使った連携は存在していた可能性が高い。荒夜はそこに目を付け、実証する為に歌姫に同意を取った上でそれを確認した。

 

 術師の潜在能力を引き上げるように『呪言』で呪詞を紡ぐ事によって他者の術式を更に底上げする。

 

 舞、楽、呪詞、掌印の省略をする事なく昇華させる事で140%にまで引き上げる。

 

 

「"朱天(しゅてん)"」

 

 

 呪言継続したまま荒夜は自身の呪詞を詠唱。

 領域展開『創始再編式』の精度を高めるべく、掌印を結びながら詠唱を続けていく。圧倒的な呪力出力を察知した呪霊の大群が一斉に荒夜の居るビルの屋上に視線を向けた。

 

 

「"生命の樹(セフィロト)" 」

 

 

 以前の交流戦の特級対決。

 五条悟は140メートルまで広げた閉じない領域に対して、領域の精度を敢えて下げる事によって閉じない領域を包むように範囲を拡張していた。

 

 

「"逢魔(おうま)(とき)"」

 

 

 それを閉じない領域で行う。

 荒夜は同じように領域の精度を敢えて下げる事によって範囲を底上げする。100%の閉じない領域を70%に下げる事によって範囲を更に拡大。結界術は複雑だ。特に閉じない領域に関しては空に絵を描き上げるような神業とされる。構成に一歩間違えば領域は不発に終わる。

 

 

「"天理(てんり)開闢(かいびゃく)"」

 

 

 だが、荒夜は失敗を恐れずに前人未到の挑戦を。

 呪言、呪詞、舞、楽、そして『浄界』の一部を引き継いだ『空性結界』の結界補助。

 

 

「"万物の根源(アカシックレコード)"」

 

 

 呪霊が襲い掛かるがもう遅い。

 呪詞の完成、全ての増幅を終え、最後の掌印を結び、両手を合わせた。

 

 

「領域展開」

 

 

 半径250メートルまで拡大した領域に出力300%の増幅──大儀式は此処に完成した。

 

 

 

創始(そうし)再編式(さいへんしき)

 

 

 

 ()()7()5()0()()()()()の超広範囲展開。

 京都で戦う術師達の戦場の空を緋色の銀河へと塗り潰した。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 京都で闘う術師も、暴れる呪霊も、夏油傑に付き従う呪詛師も全てが緋色の銀河の前に空を仰いだ。京都は呪術師の家系が多い。それ故に呪術に対する知識は東京よりも多いと言っていい。

 

 適当な担任(ごじょうさとる)が居るからというのもあるが、領域展開が呪術師の極地である事は誰もが知っている。だからこそ、閉じない領域展開を可能としている荒夜に誰もが絶句をした。

 

 ある者はそれを奇跡の体現と呼び、讃えた。

 ある者はそれを絶望の具現と呼び、心が折れた。

 

 だが、これはそれすらも凌駕する程のあり得ざる所業。

 呪霊は夏油傑が率いた呪詛師の命令を聞く為、命令が届かない場所にまで呪霊を嗾けるのは準一級から特級までと決めていた。それが裏目に出た。特級なら数秒と言えど領域展開で対抗出来たかもしれないが、領域の外側で暴れている為、回避する術はない。

 

 

「な、んだ……アレは……」

 

 

 一人の呪詛師は言葉は震わせ呟いた。

 結界を区切る外殻が存在しない為、逃げる事は可能である。だがその範囲は異次元、敢えて逃げる縛りを与えた所で意味をなさない広大さに呪詛師の戦意が折れる。

 

 

「馬鹿な……これが領域展開だというのか……?」

 

 

 特別一級呪術師である禪院扇は刀を地に落とした。

 この所業を見た人間は何を思うのだろうか。呪術師としての限界を悟り停滞してしまう者、呪術師の可能性を垣間見て新たな解釈を持って挑戦に挑む者、そして自身の努力をあっさりと越えられて絶望に浸る者。

 

 

「ねえ、これ私達居る?」

「あの、虚しくなるんでやめてもらってもいいですか!?」

「幾ら何でも……これは人が出来る所業なのか?」

 

 

 最強に並ぶ万能の神業を前に誰もが動けずにいた。

 時代が違えば、天上天下唯我独尊と豪語出来たであろう存在は未だに最強を追っている。これに勝つ五条悟はどれほどの者なのか今更ながら理解出来る。次元が違い過ぎる。特級という枠組み(スケール)が狂っているのではないかと思わされる程に。

 

 

「あの日から更に強くなってる。それだけの話だろ」

「あの人、限界地点が異次元なのよ」

「これは流石に笑ってしまうけどな」

 

 

 ドドドドドドッ、と一斉に爆ぜた。

 天内が荒夜の領域と融合させた『空性結界』により、領域内に存在する人間や呪霊の存在を識別し、()()()()()()()()()()()()()。呪術師と競り合う呪霊も、呪詛師に付き従う呪霊も領域内では例外無く祓われる。

 

 

「先は長いなぁ……ホンマ」

 

 

 ──万能の極地、領域展開から僅か九秒。

 ──四級から一級を含めた呪霊841体を鏖殺。

 

 

 ★★★★★

 

 

 領域展開後、術式は焼き切れて一時的に使用不可となる。

 領域内は荒夜の工房そのもの。未だ解除せずに分解した呪霊全ての呪力をそのまま転用する。分解した呪霊の総数から扱いきれないと思わされるほどに潤沢な呪力が存在している。

 

 

「さてと。此処まで呪力があるなら行けるか」

 

 

 荒夜は領域内で分解した呪霊の呪力を集め、構築術式を起動する。

 過程を省略し、結果に辿り着く聖杯と同じ原理が使えるのであれば正しいプロセスさえ有れば考え付いた術式さえも新たに創り出すことが出来る。以前は操術系統の呪術から『操作』の理論を割り出し、新たに『式神操術』を創り上げた。

 

 今回作成するのは『王の財宝(ゲートオブバビロン)

 

 『保管』の構築理論を用いて創り上げる新しい術式。

 

 創るまでの正しい過程は理解している。

 皮肉にも過程となるのは呪霊操術。夏油傑は呪霊の調伏の為に体内に飲み込むが、呪霊は体内からではなく夏油傑の近くから外に出ている。であるならば、呪霊操術は呪霊専用の亜空間が存在している。

 

 その理論を以て、呪具を保管する亜空間の術式を創り上げる。

 

 

「(作った術式を刻み続ける必要なんてなかったな。要は宝物庫を戦闘時に使えればいい。独立した宝物庫にいつでも接続出来る『鍵』さえあれば消失のリスクは消える訳だ)」

 

 

 宝物庫には当然、『鍵』が必要だ。

 その考えが抜けていたから迷っていた。創った術式を消さないように自身にいつでも刻める術式さえあれば可能。そして呪具に術式を刻むという御業は九十九が生きていた時期から習得している。

 

 ──構築理論を習得し、過程のプロセスを達成。

 ──『保管』の理論を持つ術式の形成に成功。

 

 荒夜の右手には黄金の鍵が握られていた。

 鍵の先端を自身の胸に当て、捻ると自身の身体に術式が刻まれた感覚が生まれる。虚空に手を突き出せば黒い波紋が浮かび、新たな空間がそこには存在していた。黄金色の波紋ではないのは呪術由来だからなのか、荒夜はそれでもただ一言呟いた。

 

 

「うん。悪くない」

 

 

 ──特級呪具『王律鍵バヴ・イル』の構築完了。

 ──新生術式『王の財宝(ゲートオブバビロン)』の構築完了。

 

 

「天内、行くよ」

「うん!待っておれ!今から新幹線で……」

「いやどんだけ時間かかると思ってんだ。こんだけ呪力があるんだから()()()

「えっ?」

 

 

 同時に構築術式で『転移』の理論の術式の構築。

 東堂葵の術式『不義遊戯(ブギウギ)』の入れ替えの転移の理論を元に特定条件下のみでの空間跳躍の術式の構成。圧倒的呪力を消費する代わりに目的座標に最も近い天元の『浄界』付近に転移。

 

 ──結果、失敗。

 

 

「いや、これじゃ無理か。転移系統の術式のサンプルが足りないから構築理論が足りない」

 

 

 条件の変更。

 天元の結界術である『浄界』から目的の『浄界』へと転送する空間跳躍の術式の構成。圧倒的呪力を消費する代わりに、特定の『浄界』に転移。結界の転送と『不義遊戯(ブギウギ)』の入れ替えの転移を元に構築。

 

 ──結果、失敗。

 

 

「これも違うか?いや、距離の問題か。いきなり距離を跳躍するんじゃなくて近場の『浄界』に転送なら……」

 

 

 更に条件の変更。

 特定ではなく、京都から東京に向けて電車の各駅停車のように『浄界』から『浄界』を繋いでの転送。

 

 ──結果、成功。

 ──新生術式『浄界転送』の構築完了。

 

 

「まあ、此処が限界か。でも充分だろ」

 

 

 呪霊を分解して生み出された膨大な呪力を、分解して補給するだけの為の呪具に変換し、宝物庫に収納していく。そして広範囲に広げた領域は此処で解除する。術式が回復するまでの暫しの休憩を挟み、息を切らした天内の手を握る。

 

 

「あ、荒夜?」

「術式が完成した。移動するよ」

「えっ?ま、マジか?」

「大マジ」

 

 

 手を握られて僅かに赤くなった天内の顔が青くなりながら引き攣っていた。

 

 

「歌姫先生、学長」

「あ、荒夜?跳ぶって何──」

「残りの呪霊は葵達に任せますので、後は頼みます」

「えっ?はっ……?はあっ!?」

 

 

 新生術式『浄界転送』を起動。

 最も近い『浄界』を元に結界の一部を掌握し、天元の結界のシステムから転送のみを引き出す転移術式を発動すると歌姫達の目の前で二人の姿が掻き消えた。

 

 

「き、消えた……マジで今術式構築してやったわねあの子」

「………」

 

 

 ビルの屋上で取り残された二人はポカンと口を開けたまま起きた現象に愕然としていた。

 

 数秒の沈黙。

 冬の風が吹き呆けていた意識を取り戻すと二人はため息を吐いた。

 

 

「…………あの若いクソガキの面影を感じるのぉ」

「……こればっかりは同意します」

 

 

 何処となく五条悟に似ている破天荒さ。

 あのクズより百倍マシ、と歌姫は口にするが、偶に漠然とした問題行動を起こしてくるのだ。大方呪霊は祓ったが、まだ呪霊が居るため此処の持ち場から離れるのは得策ではない事を知っていながら移動していたのを見て頭を抱えそうになった。

 

 ──荒夜は天才、ただし問題児。

 

 





 歌姫の呪詞はオリジナルです。

【創った呪具】
・纏帳
・幻灯の魔物
・黒雷(黒閃銃)
・ヒトガタの符(遠隔術式の式神)
・天結刃(結界自立型の刀)
・天狼刃(領域展延の刀)
・退魔の剣
・王律剣バウ・イル(保管庫用)
・呪力保管用の呪具×99

【創った呪骸】
・ぺけ(最初に創った人形の呪骸)
紬屋雨(つむぎやうるる)(出典、BLEACH)
・パック(出典、リゼロ)

【創った術式(新生術式)】
『式神操術』
 荒夜が『操作』の構築理論を習得し、創った術式。
『黒鳥操術』『呪霊操術』『縄状操術』『傀儡操術』から『操作』のプロセスを理解し、構築する事で式神を呪力で操作するだけではなく創った道具に対して操作を働かせる術式。使う頻度は一番高い。

王の財宝(ゲートオブバビロン)』(出典、Fate)
 呪具の扱いに困り『保管』の構築理論を組み合わせて作られた宝物庫。『呪霊操術』や『術式:祈本里香』『十種影法術』など仮想の空間に収納するといったプロセスから保管庫として生み出した。『王律鍵バウ・イル』で自身に術式を刻めばいつでも使える。但し射出性能はなく、刻んでいる間は呪力を消費する。創ったところで古今東西、世界の全てが保管されたそれに比べれば塵のようなものだが。

『浄界転送』
 東京まで『転送』の構築理論から考えた転移術式。
『不義遊戯』や死滅回遊編で起きた結界に入る際の転送、天元の結界による空間のシャッフルを元に創り出した術式を参考に構築した。帳の効果を底上げしている『浄界』が及ぼす範囲のみの転移を可能とするが、呪力消費量が尋常ではない為、一回使えば六割は呪力を消費する。限定した空間であれば、死滅回遊を知らない荒夜でも転送の結界は張れる事は既に実証してるらしい。


★★★★★★★

次回、東京校視点

活動報告にて最強募集してます。
最強じゃなくても実用的だと思ったものでも構いません。
良かったら感想評価お願いします。モチベが上がります。


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三十六


 これを読む前にお知らせがあります。
 この作品「最強になる必要はない。最強を創れればいいのだから」がpixivにて無断転載される事が多々報告されています。

 この作品を書き始めたのは大学生の頃でしたか、呪術廻戦と型月作品の複雑さを組み合わせたら面白いんじゃないかと思って投稿していました。当然推測設定や原作との乖離、後に出てきた設定に対応出来ない部分は多くありますがそれでも原作を読んだ上での設定で僕は書き進めてます。

 それを無断転載されると僕も書く気を無くしてしまうのでやめてほしいです。自分の事を評価してその上で使いたいと思ってくれることは光栄ですが、僕自身がやってきた独自のアイデアを盗られたみたいでモチベーションが下がってしまうのでお願い致します。

 わざわざメッセージを送って報告してくれた黒鉄直人さん、謎の好青年Rさん。ありがとうございます。それではどうぞ。




 

 

 

 荒夜さんから連れてこられてやってきた新しい学校。

 呪術を学んで里香ちゃんの呪いを解く為に僕は呪いに向き合う事を決めたんだけど……

 

 

「とりあえず憂太、君貧弱だから徹底的に扱きまーす」

「へっ?」

 

 

 割と二十回くらい後悔した。

 五条先生。荒夜さんが言うには最強の術師で適当さはあるけど面倒を見てくれてる人に呪術を教わろうとしてた。荒夜がいる京都は権力渦巻く魔境であるとかいう理由で僕が殺される可能性が高いから。

 

 

『君がその子を生かしたいと思うなら人を傷付ける存在のままにしている君の怠慢だ』

 

 

 あの日の言葉がずっと刺さる。

 今まで何やってきたんだろうって。向き合わなきゃいけない時はきっと来るとわかっていたのに。里香ちゃんの呪いを解く為に僕も出来ることを全力でやるつもりだった。

 

 

「えいっ」

「ぶへらっ!?」

 

 

 振り下ろされた蹴りに黒い火花が微笑んだ。

 地面はひび割れ、土煙が舞う。小さく柔軟な身体から放たれる蹴りの威力がおかしい。あまりの衝撃に四回転くらいしながら吹っ飛んだ。

 

 二級術師、荒夜(ウルル)

 この人が術師として呪力効率が最高でありながら肉体強化だけなら一級相当と呼ばれてる女の子らしいんだけど。木刀が玩具に見えるくらいに目の前の怪物は生物として一線を画している。絶望が一人歩きしてる光景を見た恐怖感に思わず逃げた。

 

 

「あっ、出てきた……スルーした!」

「せ、先生!?このヘッドギアどう付ければいいんですか!?」

 

 

 特級術師のあの人が作ったらしい防御術式が編み込まれたヘッドギアを拾ったが、どうやって起動すればいいのか分からずに先生に叫んだ。このままでは里香ちゃんが顕現されるし、顕現される前に当たっても挽肉になりかねない。

 

 

「それを額に当てながら『受けてみよ!正義の力!正義装甲ジャスティスハチマキ!装☆着!』って言えば出来るから!」

「いやなんで起動呪詞がそんな小っ恥ずかしい台詞なんだよ」

「しゃけ」

 

 

 命か羞恥か取るまでもないけど、これはいくらなんでも酷すぎないですか!?

  

 

「っ、あぁもう!『受けてみよ!正義の力!正義装甲ジャスティスハチマキ!装☆着!』」

「ぶっwwww」

「うわ憂太マジでやっちゃったよ」

「後で殴りますよ先生ぇ!?」

 

 

 真希さんや狗巻くんがお腹を抱えて地に臥した。

 ケラケラと笑う元凶の先生を横目にこの後、極力手加減した(ウルル)さんに里香ちゃんが出るまでボコボコにされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、戦ってみてどうだった(ウルル)

「自覚の問題、だと思う」

「というと?」

「乙骨くんが呪力を練ってなくて、供給されてるから。緋色さんは乙骨くんが持っていた呪術的能力を譲渡する事で里香を自分の一部とするって言ってた。その認識が薄いから呪力の扱いが弱い…と思う」

「それは僕も思った。解呪したいと思うほどにそこから離れていくのは仕方ないんだけどね」

 

 

 里香を縛り付けている事を悔やんでいる乙骨にとってその自覚が無ければ呪力の扱いが弱い。これでは呪力を流されて成立しているだけの術師だ。呪力の身体強化は勿論無理であり、強大な呪いに慣れすぎて呪力感知もザル。指輪から流れた呪力を物質に込める程度しか出来ない。

 

 

「憂太が呪いを掛けた……ねぇ。そんな芸当出来るような子には見えないんだけど」

「死者の滞留の縛りは人そのものを縛り付ける膨大な呪力が無いと無理って緋色さんが言ってたから、御三家よりも呪力総量が多い可能性がある」

「マジ?」

「マジ」

 

 

 確かにそれなら不可能ではない。

 だがそれは荒夜では無理、最低でも五条悟レベルの呪力総量が無ければ成立しないとの事。死者を抑留させるというのはそれだけ難しい話だ。

 

 伊地知に調べてもらうか、と五条は少し思案していると、(ウルル)は付け足すように告げた。

 

 

「でも、乙骨くんには言わない方がいい」

「えっ、なんで?」

「主従関係は成立してる。だから一方的に破棄すると縛りの罰がある可能性もある。それに祈本里香が破棄を拒むと思う」

「あぁ〜、それは否めないなぁ」

 

 

 乙骨に向けられた愛の重さ。

 それが過呪となって特級クラスとなっているのだ。一方的に破棄すると乙骨を巻き込んで心中する可能性は確かに否めない。それは乙骨が自覚し、里香と向き合う事で関係を終わらせなければならない。

 

 乙骨憂太は優し過ぎる。だからこそあんな姿になっていてもなお里香を愛している。呪力を使うという事は祈本里香を使うという事だ。それを無意識に拒んでいる。

 

 

「愛ほど歪んだ呪いはない……か」

 

 

 とても皮肉な話だ。

 大切な人の死を拒む為にこのような形でしか縛り付けられない二人の在り方に五条は少しだけ俯いていた。もしも同じ立場だったなら、きっと自分は同じ事を出来ない。

 

 歪んだとて愛。

 強者故に孤独である五条悟が知らないものであるから。

 

 

 ★★★★★

 

 

 六月頃 交流戦終了後。

 

 

 荒夜さんが作ってくれた呪具を渡された。

 高専の呪具では里香ちゃんの呪いを流すだけで耐えきれない部分が多くて、模擬戦の木刀も何本も砕け散ってるのを見て五条先生が荒夜さんに依頼してくれてたらしい。まだ呪力を込める事に慣れてないから申し訳なかったけど。

 

 

「はい乙骨君。君の特注の呪具だよ」

「あ、ありがとうございます」

「出来る限り呪いに耐えられる強度にはしたけど呪いを急激にぶち込むと自壊しかねないのを念頭に置いた上で使ってくれ。そう簡単に折れはしない造りにはしたけど」

 

 

 鞘から抜かれた刀身はとても美しい直刃で触れた瞬間込められた呪力滑らかさに思わず手を離しそうになった。荒々しさがすごい秤先輩とは対極で、これはとても澄んでいるというのか呪力の質が凄い。凄く馴染む。

 

 

「いやー、やっぱ惚れ惚れするくらいに質がいいね。けどこれ性能的には二級くらいだよね」

「等級的に考えればこれでも譲歩した方さ。いきなり特級を持たせても成長の阻害になるしね。込めた呪力を多少馴染みやすくはしたけどそれは初心者向けだ。慣れてきて物足りないと思ったら今度また依頼すればいい」

 

 

 呪具に於ける特級は単独で国家転覆が可能である特級術師を殺せるだけの性能を併せ持つか呪具に宿る術式の性能から判断される事が多いらしい。実際に高専にも荒夜さんが作った呪具はそこそこある。

 

 僕が最初に選んだ刀も荒夜さんが作ってくれてたらしいし、何かと同調しやすいというか込められた呪具の呪力が洗練されてるというか、とにかく扱い易い。

 

 

「特級になるとどのくらいかかるんですか?」

「相場にもよるが億を超える。退魔の剣は20億で売れた」

「ひえっ」

「うっわ」

 

 

 それ一生遊んで暮らせるんじゃない?

 庶民派の僕には気が遠くなるほどの金額に思わず上擦った声が出た。えっ、待ってこの刀どれくらいの値段なの……ちょっと怖いんだけど。

 

 

「まあ、私が生み出した呪具は術式が絡んでるからね。そういったものは『浴』とか特殊な技法でなければ出来ないから、実質窓口は私のみなのさ」

「下手したら僕より稼いでるでしょ。一生遊んで暮らせるくらいにはさ」

「いや流石に御三家の持つ資産には負けるさ」

 

 

 呪術界の御三家。

 名門である五条先生なら確かにそれくらいいってそうだし特級の任務は破格らしいから絶対同じくらい稼いでそう。あれだけ質のいい呪具を無数に生み出せるなら確かに持っている金額は一人で使いきれないと思う。

 

 

「まあ私の場合は研究室の維持費、平安の呪具や呪霊の研究で結構お金飛ぶんだけどね」

「ち、因みにそれってどれくらい?」

「聞きたいかい?」

「……やめときます」

 

 

 なんか怖いから聞きたくなかった。

 軽く笑って刀に手を置く。澄んだ呪力が指輪を通じて里香に語りかけているように見えた。

 

 

「ともかく、君は呪いに向き合う事から始めるように。呪具云々ではなく、祈本里香とどう向き合うかを考えなさい」

 

 

 里香とどう向き合うか。

 死んでほしくない…けど苦しんでほしくない。僕の我儘は里香に向き合わなければ出来ない事だ。この人の言う通り、僕が怖くて先延ばしにしていた向き合わなかった愛に答えなければならない。

 

 それを分かっているのか、荒夜さんは警告も忠告をこれ以上口にしなかった。僕がどうしたいかは僕自身が決めなきゃいけないから。

 

 

「導き出した答えがきっと君の力になる。励めよ」

 

 

 叩かれた肩と共に言葉が身に染みる。

 隣にいる先生との温度差を噛み締めて、何故か涙が出そうになった。

 

 

「先生より先生っぽい……」

「憂太、後でマジビンタ」

 

 

 このあと、先生との特訓で無下限使われて僕は吐いた。

 

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 12月22日 クリスマスイブ二日前。

 

 闇が蠢く気配がした。

 高専の結界が異変を感じ取るよりも早く、慣れ親しんでいた者達の直感が教室の外の異変を察知した。学生五人は空を見上げると巨大なペリカンの呪霊に乗った一人の男に視線が向いた。

 

 

「変わらないね、呪術高専(ここ)は」

 

 

 袈裟を身に纏い、僧を思わせる特徴的な前髪の男。

 ペリカンから降り立ち、辺りを見渡してそう呟いた。僅かに懐かしむように、目の前の光景を見て僅かに笑う。ペリカンが口を開くと、成人した男女が降りてきた。

 

 

「此処が傑ちゃんの母校なのねぇ」

「ラルゥ、貴女寒くないの?」

「イマサラ言ウノカ?」

 

 

 オカマ口調の上裸の男、茶髪の大人びた女性、黒肌のサングラスをした外国人。見るからに怪しい上に侵入者や呪霊を寄せつけない天元の結界が張られている高専で警鐘が鳴っているのを真希には聞こえていた。

 

 

「オマエら、何者だ。侵入者は憂太さんが許さんぞ」

「こんぶっ!」

「えっ!?」

「憂太さんに殴られる前にさっさと帰んな!!」

「えぇ!?」

 

 

 動揺している乙骨にそっと手を合わせる。

 

 

「──はじめまして乙骨くん、私は夏油傑」

「えっ、あっ、はじめまして」

 

 

 緊張感を緩ませたコントの中、気付いた頃には乙骨に自己紹介を済ませ、両手で握手を交わしている夏油の姿にパンダと狗巻は驚愕し、(ウルル)は即座に乙骨の襟も掴み、後ろに引き寄せて夏油の前に立つ。真希は殺意を感じなかった為、静観していたが(ウルル)の様子から少し警戒度を上げた。

 

 

「やめてください。夏油さん」

「おや、久しぶりじゃないか(ウルル)。荒夜は元気かい?」

「元気ですよ。彼に何かするつもりなら容赦しません」

「おや怖い」

 

 

 夏油の首を狙い澄まし呪力で強化された蹴りが放たれた。煙が立ち、ドゴッという重い音が響く。幾ら何でもやり過ぎと乙骨が心の中で思う中、煙が風に飛ぶと、その蹴りを容易く受け止めた夏油が不敵に笑っていた。

 

 

「あの頃より強くなったじゃないか」

「っ、あっ……!?」

(ウルル)さん!?」

 

 

 呪力で強化された呪霊を挟まれて威力が削がれ、(ウルル)の足を掴んで投げ飛ばしていた。体勢不十分で地面に転がりながらもすぐさま立ち上がり呪力を迸らせているが、凪いだような穏やかな笑みの裏腹に感じる余裕。組み手で一度も勝てなかった(ウルル)をこうも容易く遇らう夏油を見て僅かに恐怖が増す。

 

 

「止めろ不審者。仲間に手を出すなら容赦しねえよ」

「僕の生徒にイカれた思想を植え付けようとしないでくれる?傑」

「君も久しぶりだね悟」

 

 

 薙刀を構える真希と乙骨の前に立つ最強。

 まるで見えてなかったかのように視線を向けずに嗤う夏油に異質さを感じていた。

 

 

「今年の一年は粒ぞろいと聞いたが…なるほど悟の受け持ちか。特級被呪者に荒夜の人造術師、突然変異呪骸、呪言師の末裔。そして……禪院家の落ちこぼれ」

「殺すぞ」

 

 

 先の笑みから一転、憐れみながら路上の石を見るような目で真希を見下ろし威圧する夏油に真希は青筋を浮かべた。

 

 

「言葉に気を付けろよ。君のような猿は私の世界にはいらないんだから」

「お前こそ気を付けろよ。アイツの再来だぞ」

「あの猿に勝てなかった君が言うと説得力が違うね悟」

「勝ったの荒夜で自分の事を棚に上げてブーメラン吐いてんじゃねーよ。オッエ"ー」

 

 

 伏黒甚爾に負けた事実は未だ消えていない。

 反転術式を習得し、ハイになっていたというのに荒夜が倒してしまった為、不完全燃焼は拭い切れなかったのは否定しない。その黒星は汚点と言えば汚点である為、五条は静かに青筋を浮かべていたが、夏油も荒夜と共闘して真っ先にボコされて負けた為、若干苛立ちから睨み付けていた。

 

 

「……まあいい。本当は乙骨くんを誘いたかったけど、要らない邪魔が入ったし止めておくよ」

「じゃあ何しに来たんだよ」

「宣戦布告さ」

 

 

 悪どい顔で嗤いながら声を張り上げる。

 

 

「お集りの皆々様、耳の穴かっぽじってよーく聞いていただこう!」

 

「来る12月24日、日没と同時に我々は百鬼夜行を行う!!場所は呪いの坩堝(るつぼ)である東京、新宿!呪術の聖地、京都!!」

 

「各地に千の呪いを放つ。下す命令はもちろん"鏖殺(おうさつ)"だ。地獄絵図を描きたくなければ、死力を尽くして止めに来い」

 

 

 最悪の呪詛師が告げる最悪の宣告。

 地獄を再現する事に罪悪感すら湧かず、それが彼が目指した答え。非術師を皆殺しにして、術師だけの世界を作り上げる。

 

 馬鹿げた誇大妄想も、ここまで来れば地に足がつきかねない程に夏油傑という存在が全員に刻み付けられる。

 

 

 

「思う存分、呪い合おうじゃないか」

 

 

 

 その言葉に一同が警戒を強め、夏油傑の捕縛に入るか逃走を選ぶかどちらとも行動できるように、各々武器を取り出す。特級という存在は数で圧倒しても無意味だ。

 

 だが、此処には最強(五条悟)がいる。呪術界での負けはない。負けはなくとも巻き込まれて死ぬかは別問題ではあるが。苛立ちを含んだまま去ろうとする夏油に五条は言葉をかける。

 

 

「このまま帰すとでも?」

「──やめとけよ」

 

 

 出現する夥しい数の呪霊が既に取り囲んでいた。

 骸骨の音量、這い寄る百足の群生、ケタケタと笑う怨念の集合体が一瞬にして数の暴力を覆す。このまま戦闘を行っても周りを巻き込みかねない。五条悟にとっては特にそれが顕著に出る。領域展開で生徒達を除外して夏油傑や呪霊のみを巻き込む事は対策されているだろう。

 

 

 

「──可愛い生徒が私の間合いだよ」

 

 

 

 相変わらず小賢しくて狡賢い。

 舌打ちを溢し、さっさと行けと言わんばかりの視線を向ける五条に勝ち誇ったかのように夏油傑は笑い、ペリカンの呪霊の足に掴まると手を振って飛び立っていく。

 

 12月24日、百鬼夜行の宣戦布告。

 一同は気を引き締めて夏油傑という呪いを祓う為に対策を練り始めた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 俺達、最強だから。

 そう呟いた言葉はもう伽藍堂だった。オマエは僕と同じ所にいた筈なのに強くなってから置いてかれてるって焦ってたのも気付けなかった。時間も青春も巻き戻らない。

 

 アイツは変わった。もう最強とは言わなくなった。

 辿り着けないから僕にはなれないと言っていた。それは決別を意味する言葉だった。

 

 僕は最強だ。そこは否定しない。

 誰にも負けない強さを自負してる。誰も追い付けない場所でただ世界を謳歌している。この世界が心地良くて、その極地に辿り着けた悦びは未だ消える事はない。

 

 追い付けるはずがない中で、唯一僕に近づいたのは荒夜だった。

 

 あの時は激った。交流戦で無ければ全力でぶつかり合えた。殺し合いでなくとも、あそこまで血潮が沸騰するような高揚感と充足感はまだ見つかっていない。

 

 荒夜は更に力をつけてくる。

 

 僕を超えて最強を謳う日がきっと訪れる。

 

 

 

 

 なあ傑……

 

 

 

 俺はオマエも最強の壁として立って欲しかったよ。

 

 挑戦者(チャレンジャー)を待ち構えて、最強を謳い続けて。

 

 いつか超えられたとしてもその時に自分達が誇れるように。

 

 荒夜だけじゃない。憂太も秤も真希も僕を超えてくる強さを秘めてる。だからこそお前と一緒に術師育てて、腐ったミカンの連中が支配してる世界を変えたかった。

 

 今更こんな事言うべきじゃねえけど……

 

 俺はお前と一緒にこの世界を変えたかったよ。

 

 

 ★★★★★

 

 

 

「チッ……」

 

 

 地味に苦戦を強いられている。

 負けはしないが、この黒人が持つ黒い縄に術式を乱される。コイツに構ってる暇はないが、呪霊の数も相当だ。二級以下の雑魚が多いが、群れで襲われたら他の術師は厄介だ。

 

 早く決めておきたいが、術式そのものと肉体強化で強度が半端ない。蒼や赫は乱されて決定打にならない。出力の高い術式を乱されて二次災害を起こしても面倒だ。

 

 領域展開を使うべきか?

 けど、術式を乱すあの縄が何処まで通じるか未知数だし一定の距離を保っている。領域内で『無量空処』が効かないのは僕だけだが、その前提をあの縄が崩してくる可能性がある。恐らく特級呪具だろうからあれを削った方が確実か。

 

 

「メンドッ、術式に絡む呪具なんて『天逆鉾』以来じゃん」

 

 

 真希が居るなら問題無いと思うけど、アイツが倒せる前提で高専に向かったなら真希であっても危ない。棘やパンダでも傑と渡り合うには厳しいだろうし、かといってこの男を他の術師に預けるのはあんま得策じゃないかも。あの時、傑と一緒に現れた中では一番強いし。

 

 いっそ領域展開を速攻で行なって倒したほうが早いか。掌印を結び、目の前の男を閉じるように領域を展開しようとした次の瞬間。

 

 

「わああああああああああああああっ!?」

「口閉じないと舌噛むよ」

 

 

 悲鳴が聞こえた。しかも上から。

 天内の声が聞こえて上を向くと、手を繋いで上空から落ちてきた荒夜と天内の姿が見えた。

 

 はっ?アイツ京都に居たろ。なんで此処に居んだよ?

 天内を横抱きして、フワリと降りてくる荒夜を六眼が捉えた。新たな術式情報が()()()()()思わず二度見した。

 

 

「やっ、久しぶり五条さん」

「何でいんの?」

「京都の呪霊ほぼ祓ってきたから転移術式を創って飛んできたんだよ」

 

 

 その言葉に内心絶句した。

 そう、荒夜が持つ術式は天元様の浄界に干渉して転移するという()()()()()()()()()。生得術式は基本的に自己完結する事が多い。他人の呪力を増幅させる歌姫の術式とは全く性質が異なる。()()()()()()()()()()()()()()()()()であるという異質さ。

 

 

「術式創ったって言った?」

「ああ、言ったね」

「いや……生得術式でもないのに術式創るとか現代の呪術師涙目じゃん」

「それが出来なきゃ勝てるものも勝てないだろ?」

 

 

 それよりも生得術式と同じような術式を一から構築した?模倣や再現とは訳が違う。誰もが羨むような力を再現し、構築する。才能や血筋なんて関係がない。過程さえあれば荒夜は文字通り()()()()()()万能の呪術師じゃねえか。

 

 あの勝負から更に強くなってる。

 僕に並ぶ術師も僕に追いつこうとする術師もあまり居なかったから経験が無かったけど、追いつかれる感覚がここまでゾクゾクとするものなのか。それはきっと将来的な愉しみが増えてしまったからなのか自然とニヤけていた。

 

 

「……ぶっちぎりでイカれてんね。ホント、僕もうかうかしてらんないなぁ」

「まあそれは後で話すとして」

 

 

 荒夜は指を高専の報告へと向けた。

 

 

「──行きなよ、あの人のところへ」

 

 

 僅かに目を見開いた。

 そういえば荒夜は傑と僕の仲を知ってたな。真希がいれば問題ないと思ってたけど、傑が対策してないわけがない。念の為、棘やパンダを送ったけれどそれでも傑の相手にはならないだろう。曲がりなりにも特級、僕と同じ道を歩もうとした最強。

 

 でもそれなら何故荒夜は此処に来た?

 荒夜がいけば万事解決だというのに。ため息をついて見透かすような視線を向けられた。

 

 

「私があの人殺すくらいなら自分の手で終わらせたいんだろ?」

「っ、それは」

「天内は連れていきな。代わりに此処は私がやるから」

 

 

 僕の配慮なんて百年早いと言いたいけど、確かにそうだった。アイツの本音も、どうして道を踏み外してしまったのかも、何もかも言葉が足りない中で、別れた()たちの道。

 

 後悔してる。

 救われる覚悟があるものしか救えない。その救われるものに傑はいなかった。入れてしまえば弱いもの扱いになって、きっと対等でなくなるから。けど、アイツの助けてという無意識の呪いに気付けなかった事は今でも後悔してる。

 

 詰まった言葉に何も返せずに困った顔をした荒夜は黒人の男に視線を向けて、振り返らずに僕に告げた。

 

 

 

 

「親友なんだろ?今でもあの人は」

 

 

 

 

 ああ…そうだね。その通りだった。

 見透かされたように告げられた言葉に僅かな動揺が走ったのに認めてしまえば蟠りはストンと消えた。それは自分が一番認めていたから。たった一人の隣に立っていた親友はアイツだけだったから。

 

 傑は殺さなければならないけど、終わらせるのなら最後に僕が終わらせたいと思っている。叶わなくてもいい。傑と最期に話をしたいと思ったのも事実だから。

 

 ……ホント、そういう所は誰かの口から聞いて決めたくはなかったんだけどなぁ。

 

 

「──任せたよ、荒夜」

「言われなくても任されたよ最強」

 

 

 僕は天内を掴んで戦場から高専へと飛んだ。

 僕に背中を預けられるくらいに強くなったアイツに託して。

 

 

 ★★★★★

 

 

 

「さて……あの人なら大丈夫だろ」

「チッ、任務ハ失敗。ナラ逃ゲサセテ──」 

 

 

 ヒュッ、とミゲルの横に何かが飛来した。

 横に突き刺さっていたのは刀。低級の呪具とはいえ、地面に深々と突き刺さっている。荒夜はただそこに立っているだけで投擲している訳でもない。

 

 

「逃がさないよ。それにその呪具、割と興味があったんだ」

 

 

 荒夜の後ろから黒い波紋が浮かび上がると、無数の呪具がそこから鋒を向けて待機していた。夏油傑から聞いていたもう一人の特級は無数の呪具を創り上げ、術式の汎用性が異次元。万能と言っていい程の多才さ、そして五条悟を超える攻撃手段と破壊力を兼ね備えた人の形をした兵器のような存在と聞いていた。

 

 

「慣らし運転には丁度いい」

 

 

 色々な意味で予想外、教えられた術式の攻撃ではない。

 ただ狩人に狩られる怯えた狐になる事しか出来ない程の圧倒的な恐怖。五条悟であったならまだやれたかもしれない。圧倒的な強さであったが、術式の攻撃手段が決まっていた分、まだ時間を稼げていた。

 

 

「まあ、精々死んでくれるなよ──雑種」

 

 

 想像が出来ないから怖い。

 何でも出来るから故に選択肢を絞れない。未知数の術式さえ構築する特級呪術師を前に、ミゲルはただ涙して死に物狂いで逃げ回った。

 

 

 

 




 次回
 ミゲル 対 荒夜
 鬼人真希 対 夏油傑
 
 ちょっと細かく書くとエタりそうだったのでこのくらいで書きました。社会人になって研修の時間が長い為、ゆっくりと空いてる時間や休みの日に書き進めて行きたいと思います。

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