やはり五等分 (shushusf)
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始まりの四葉
今日の俺の目は、間違いなく史上最強に腐っている事だろう。最近飲めるようになった酒を昼間から煽り、側から見たらさぞ危ないやつに見えるはずだ。
高校を卒業した俺は、大学2年の9月に至る今まで無事に雪ノ下雪乃とパートナーの関係を続けることが出来ている。関係も良好だし、何の問題もないと、思っていたんだ。
雪ノ下は隣の都道府県にある某日本一の大学に進学した。最近はゼミも始まったという事で、彼女は前にも増して忙しく日々を過ごしている。そんなことを言う俺も、新宿にある某有名私立でそれなりに忙しい日々を送っていた。
だからこそ雪ノ下との時間もなかなか取れないわけで、たまにはと思い、あいつの大学に忍び込んで、あわよくば会えたらいいな〜くらいで歩いていたのだが……
雪ノ下が、知らない男と笑顔で歩いていた。
知らない男と、笑顔で話していた。
その姿を見て、つい俺は逃げてしまった。
そのままここに来て、気づいたらこんな状態だよ。
はっ……なんてザマだっつの。だっせ。
と、静かにヤケ酒にヤケ酒を重ねる俺のほかに、どうやらまたヤケ酒に溺れている人がいるらしく、さっきからその呻き声が隣のテーブルから聞こえてくる訳だが……
「うぅ〜〜どうせ私なんて……わだしなんでぇ……風太郎君はどうせあんな美人さんの方が私なんかよりもいいんだぁ……こんな運動バカより知的な黒髪ロングの美人さんの方がいいんだあぁ……東京で風太郎君は愛人作っちゃってよろしくやってたんだああああああぁぁ……」
頭に緑色のリボンをつけた胸のでかい女が、酒に飲まれてテーブルに頭を擦り付けてウダウダ真っ昼間から叫んでいた。
……ここ、サイゼだぞ?
* * *
「でぇ! 風太郎君ったら私がさぷらいずで大学に行ったら綺麗な女の人と仲良さそうにあるひてたんでしゅよっ!!! 」
「ああ……そう」
端的に言おう。さっきの呻き女を訝しげに引きながら見ていたら、見つかって絡まれて強制的に風太郎君とやらの浮気についての愚痴を聴かせられているのが今の状況だ。
その彼女、酔っていて言語能力が所々怪しくなっているこの緑リボンをした女は、名前を中野四葉というらしい。わざわざ彼氏に会いに愛知から東京までサプライズで風太郎君とやらのいる大学に来てみたら、その風太郎君とやらが超絶美人な女の人と仲睦まじく歩いていたとのことだ。実際知らねーよ。
まあ、今はあんまり人ごとには思えないわけだが
その内容を、かれこれ1時間はずっとリピートしていた。
はぁ……めんどくせぇ……
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私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の
「今日はありがとう。上杉君のお陰でやっと資料がまとまったわ」
「いや、雪ノ下さんの助言がなければここまでのものを作る事は出来なかった。こちらこそ礼を言わせてくれ」
何時間にもわたる資料作成とプレゼンが、やっと終わった。その課題とは、二人一組でそれぞれの組にテーマを言い渡され、資料を作って報告するというもの。
うちのゼミは先生はそんなに厳格な人ではないから、講義の雰囲気自体はフランクなものが漂っているのだけれど……作ってくる資料には厳しいのよね。あの先生。
はぁ……お陰でかなりの時間を費やすことになってしまって、最近は比企谷君と一緒にいれなかった……
私のいるこの大学は、学力で言えば確かに日本一で知られているのだけれど、私立の大学と比べて所謂、、えっと、、ぱ、ぱりぴ? という人種は少ないの。
対して、彼のいる大学は新宿にある私立で最上位の大学。サークルや学生の活動も日本有数に活発なところ。
……まあ、相変わらず自称ボッチで根暗な彼に限ってありえないとは思うのだけれど……あの大学で一色さんみたいな人に無理やり喰われてそのままなし崩し的に……なんて線も捨てきれないというか気が気ではないというか……
「おい。変な顔して、彼氏のことでも考えてるのか? 」
「なっ……ななななな何のことかしら私は別にそんなことかんがえてなんて……………………どぅして分かったの」
横にいた上杉君の指摘に、私はもはや隠すことすら諦める。だって彼はもう、私にパートナーがいることも知っているのだし、、変に隠して揶揄われるのも嫌だもの。
「分かりやすいな。赤くなったり青くなったり忙しい顔をしてたぞ」
「別に……そういうあなたはどうなのよ。電話でしつこく女について聞かれるのでしょう? もし彼女さんが近くに来ていてこんなシーンを見られでもしたら大問題になるくらい好かれているあなたはどうなのかしらね上杉風太郎さん? 」
「あいつは別に東京に来るとも言ってないからな……まあ、俺も早く会いたい気持ちはあるが、別にあいつをほったらかして浮気してる訳じゃないだろ。雪ノ下さんが俺と組を組んでる理由も、俺なら彼女もいるし不躾な視線を向けないからじゃなかったのか? 俺は四葉以外の女には靡かん」
そう。いくらウチの大学とはいえ、男子は男子だったみたいなの。下心を織り交ぜた不愉快な目で私に近寄ってくる輩も絶えなかった。この二人一組も、そんな輩から離れるために、唯一私に対するそういった感情を持たなかった上杉君を頼ったのよ。
「うぅ……彼氏じゃなくてパートナーよ。そこだけ訂正して頂戴」
「はいはい。彼氏彼女なんて言葉で表される関係じゃないんだったよな。パートナーパートナー」
「ちょ、ちょっと上杉君あなた東京湾に沈められたくなかったら黙りなさい!! 」
それから私たちはまだ昼を食べていなかったことを思い出し、お互いの用事を済ませたあと、せっかくだからという理由でお昼を一緒にすることになった。
そのお互いの用事も済ませて、私たちは近くにあったサイゼリヤに入る。
サイゼリヤを見てふと彼が頭を過ったのは秘密。だから上杉君そんなに嘲笑の顔を向けるのはやめなさい叩き潰すわよ。
と、いうわけなのだけれど……
「なんなんだよ……なんでこんな最悪の日に昼間っから知らない泥酔リボン女の吐瀉物の後処理なんてしなくちゃなんねーの……」
「ゔぇぇぇひぎがやざん、ごめんなざいぃうおぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「うおっふざけんな耐えろさっき店員さんに怒られたの俺なんだぞマジやめろっ」
奥の席で、
目をいつもの二倍は腐らせた私のパートナーが、可愛らしい顔をした胸の大きい女性を甲斐甲斐しく介抱していた。彼女は私の比企谷君に体を預けて私の比企谷君に私の比企谷君に私の比企谷君に私の比企谷君に私の比企谷君に私の比企谷君に私の比企谷君に私の比企谷君に私の比企谷君に私の比企谷君に私の私の私の私の私の私の私の私の私私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の
「よ……つば……」
隣から小さい声が聞こえた。上杉君のものだ。
彼は顔が真っ白になっていて、どうやら何らかのショックを受けているみたいだ。
だけど今はそんなことは関係ない。
早く、あの牛乳緑リボンを始末しなくては。
近くのテーブルにあったフォークを取る。
そして私は、薄く笑いながらそのテーブルへと歩き始めた。
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果てなさい
〈視点、中野一花〉
「デビューしてから、もう割と東京にも慣れてきたもんだなあ」
ドラマの撮影を今日は終えて、私はなんとなく街を散歩したくなった。仕事の関係で、東京へは昔より格段に来ることが多くなった今でも、なんだかまだ地理関係には疎かったりする。
だけど......風太郎君が日常をここで過ごしているのだと思うと、それだけで不思議と親近感が湧いてきたり、、、
ふふっ。
もう他の女の、しかも我が妹の男なのに、私って何でこんなに単純なんだろうね。一花お姉さんちょっとおかしいや。
そう、見知らぬ土地なのに、彼がいるかもしれないと思うだけで心が弾む。それなりに人気の女優がわざわざ社長を押し切ってまで散歩に出てきた理由が、君とバッタリ会えたら……って理由だなんて、彼女がいるのに、全く君は罪作りな男だよ。
まあ、今はサングラスにマスクとボタっとした服装の露出の少ない姿だから、どうせ風太郎君は今私に会ったとしても気付かないだろうけどね。
そんなことを思いながら私は知らない街を歩く。そして少しすると、ちょっと大きめの公園が目に入った。ベンチででも少し休もうかなと思って、その公園の中に入ると......
「......追い詰めたわよ......その緑リボンとともに......果てなさい、比企谷君」
「おうおうおぅ......ぎもじわるいぃぃぃ......」
「おいここで吐くな!!ま、待て落ち着いてくれ雪ノ下話せばわかるっ! っヒィィ!? 」
黒髪ロングの雪女みたいな美人が、とてつもない殺気を放ちながら2人の男女を追い詰めていて、どこからかフォークをその男女にヒュッと投げつけていた。そのフォークは男女からは少し外れて、後ろにあった木に綺麗に垂直に刺さる。
え? なにこれナニコレ。
なんかのドラマの撮影?
そして、追い詰められているその男女の、女の子の方をよく見てみたら......
「よ、四葉ぁぁぁぁぁ!?!?!?!? 」
お姉ちゃんとしての本能からなのか、なぜか泥酔状態っぽいの妹のもとへ、私は考える間もなく駆け出した。
* * *
〈視点、比企谷八幡〉
……やばい。やばいやばいやばい。
なんとかサイゼリヤからこの酔っぱらい女連れてここまで逃げてきたはいいものの……
「......追い詰めたわよ......その緑リボンとともに......果てなさい、比企谷君」
俺と酔っ払いは追い詰められ、後ろの木にもたれかかる絵面になっている。この女はもうこれ以上は走れないだろう。……まあよくこの状態で走ってこれたとも思うが……
ああ、どうやってサイゼリヤで荒ぶる雪ノ下から逃げ出せたかって? あいつの気をほんのちょっと逸らすくらいは訳ないさ。「あ! あんな所にパンさんストラップを咥えた猫がいる! 」って言ったらちゃんと隙ができたからな。雪ノ下と一緒にいた男に俺の財布を投げて、支払いも押し付けてきた。
だが、今のあいつは鬼だ。
すぐに逃げる俺たちをとんでもない殺気を纏いながら追いかけてきた。それに大学生になってからのあいつは、体力問題もだんだん克服してきた訳だから……
こうして追い詰められちまったって訳だ。
「おうおうおぅ......ぎもじわるいぃぃぃ......」
「おいここで吐くな!!ま、待て落ち着いてくれ雪ノ下話せばわかるっ! っヒィィ!? 」
再び吐き気を催す緑リボン。
俺の頰を掠めて後ろの木に突き刺さったフォーク。
ああ……終わったのか?
「よ、四葉ぁぁぁぁぁ!?!?!?!? 」
「あ、あれへぇ? いちかぁ? う、うおぅぇぉえぇぇぇぇぇぇぇぇ」
誰かが来た。この泥酔女の知り合いか?
ものすごい勢いで名前を呼びながら、俺にもたれ掛かったままの緑リボン泥酔女に駆け寄ってくる。
緑リボンはまた口からナイアガラの滝を作っていた。
「うわっ四葉ひょっとしてまた飲んだの!? 弱いんだからあれだけ気をつけてって言ったのにどうして! 」
「だってぇぇぇ風太郎くんがゔぉえぇぇ」
「あ〜!! もう風太郎君なにをした〜!? 」
「楽しそうね」
鬼が、すぐそこにまで迫ってきていた。
新たにやって来た女の肩に、鬼は後ろから手を置く。ビクゥッとしたそのマスクにサングラスの女は、一気に体を緊張に固めた。
「……えっと、もしかしたらウチの四葉が何かしちゃったかな……姉として一緒に謝るから、その手を離してくれると嬉しいんだけど……」
「私の目的はただ一つ、、緑リボンのその子への事情聴取と、横にいる男の身柄引渡しよ」
「事情聴取ねぇ、、安全が保証されないみたいだから、素直にウンとは言えそうにないよ」
「……なら、どうするの? 」
「……うふふっ……どうしよっか」
ま、待て。
なんだか分からないが、この外見不審者女とウチのパートナーが一触即発状態だ。このままでは、、俺がもうどうにもできない事態に発展しそうな予感がビシビシする。
も、もう俺には何もどうすることも出来ないのか……
「ハァハァハァっ……お前らっ……ハァ……多分、勘違いだぞ……うおぅえぇ、、走りすぎた……」
俺が諦めの境地に足を踏み入れそうになったとき、
雪ノ下と一緒にいた男が、満身創痍の状態でこちらに駆けてきた。
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お腹が空きましたぁ!
「……ねえ、五月。ここ風君の大学じゃないじゃない」
「ここ、、福沢諭吉が作った大学。全然名前も違うし、どんな間違い方したの五月」
「う、うぅ〜〜。ごめんなさい……。私が以前チェックしていた大学リストのなかから住所を間違って持ってきてしまったようです」
みなさんこんにちは。
中野五月です……。
四葉が上杉君に会いに、一花が仕事でそれぞれ東京にいる今、二乃の発案により私たちもということで東京観光に来ました。今はせっかくだからということで、私たちも秘密で上杉君のいる大学がどんな場所なのか見に来たつもりだったのですが……
「いや、そもそも今はスマホがあるんだからそれを見ていけば良かったのに……五月はなんでわざわざ住所を手帳に書いて現地で調べながら行くなんて面倒臭いやり方してるの。アナログすぎる」
「全くね。それで場所も間違えるだなんて世話ないわ」
三玖からは、結構イライラしていたのか長文が帰ってきました。三玖がこんなに話すのは珍しいです。二乃も三玖に同意見なのか、私をシラッとした目で見つめながらスマホを取り出していました。
うぅ。だって、、だってぇ。
弁解をしたいのは山々ですが、どんなことを言っても言い訳になってしまう手前、もはやグゥの音もでません…。
『グゥ』
「……五月」
「五月アンタ……流石肉まんお化けね」
嘘だったようです。お腹からグゥの音がなりました。
……だって、知らない土地で長い間歩いてたらお腹すいちゃったんです!! 仕方がないんですっ!!
もうっお腹が空きましたぁ!!
「お姉さんたち可愛いね。どう、お腹空いてんなら俺たちとご飯でも行かない? 」
「うわ、三つ子ちゃんかな? 似てるね〜」
「美味しいもの食べさせてあげるよ? 」
大学の横にある道で、そんなことをニ乃と三玖と話していたら、三人の大学生のような男性に囲まれてしまいました。
三人はなんだか、、チャラいのでしょうか?
落ち着いた服装なのに、内側から危険なオーラを感じます。私と三玖はそのよく分からない不自然なオーラに怯え、何も発することができません。
「私たちそういうのは間に合ってるから大丈夫〜だからとりあえずどいてくれないかな? 」
に、二乃!!
流石です。笑顔なのにイライラしているのがすぐに分かるその態度と声。地元では二乃のコレに恐れをなしてどんな男性でもちょっと怯えます。その隙に逃げれることがほとんどなのですが、、、
「おっ……気が強い子は好きだよ」
「満足させてあげるから」
「怒ってるとこも可愛いね。あ、もちろん大人しげな君も、頭に星がある君も」
その三人は、二乃の威圧にもめげませんでした。それどころかエスカレートして、二乃も三玖も私も腕を取られてしまいます。私と三玖は恐怖で声が出せません。
「ちょっ離しなさいよ! 大学に言うわよ!? 」
「ほらそんなこと言わないでさ。別に何もしないから」
二乃の威圧にも臆さないその三人に、私はほんの少し諦め始めた時でした。
「あーあ、またやってる。だめだよ〜もう二度としないでって言ったよね? 」
「ひっ!? 」
「なっ!? 」
「まじかよ……」
声のしたほうを向いてみると、お団子頭に茶髪の女の子が、携帯を横にフリフリして男三人組に見せながらニコニコ笑ってるのが見えました。
「今ね、優美子まだ学校の中にいるんだ。これから私と待ち合わせの予定なんだよね」
お団子頭の女の子の放った言葉に、男三人は一気に顔に力を込めました。固まっています。
「それに、もし私に何かしようとしたら優美子だけじゃなくてゆきのんも飛んでくるよ? 前みたいに」
その言葉を聞いた瞬間。三人組は顔を青白くさせ、こころなしかブルブル震え出しているようにも見えます。さっきの二乃の威圧を軽く受け流していたのと同じ男三人とはとても思えません。何者なんでしょうこのお団子の女の子は。
「や、やだなぁ……あ、俺たちやることあるからもういかなきゃ、なっ!? 」
「そ、そうだな」
「あの二人とゾンビにはもう会いたくねぇよ……」
三人は、口々に何かを言って去っていきました。
しばらくして、私も怖かったですが、三玖は相当怖い思いをしたようで、その場に座り込みます。
「大丈夫? 怖かったよね」
そんな三玖に、助けてくださったお団子頭の女の子が、優しい笑顔で手を差し伸べました。
* * *
「この度は本当にありがとうございます。それにしても、ここの学生さんだったのですね……すごい」
「あ〜いや〜。みんなには天変地異の前触れとか一生分の運を使い切ったとか散々言われたくらいだから、あんまり身の丈にはあってないんだけどね……」
「……実際あーしも結衣がここに来れるとは思ってなかったよ」
あの三人が去った後、私たちを助けてくれたお団子頭の女の子、名前は由比ヶ浜結衣さんと、私たちはお話をしていました。さらに、そのご友人の三浦優美子さんとも直ぐに出会い、先程の体験をお話しました。
あの三人はどうやらナンパの常習犯らしく、以前結衣さんが狙われた時に、三浦さんと、上杉君と同じ大学に通う女性、そして新宿にある大学に通う男性の三人で袋叩きにしたとのことです。三人がすぐに逃げて行ったのは、こんな理由があったからなのですね……それにしても、三浦さん、怖いです……
「あの、本当にありがとう。助かったわ」
「私からも……ありがとう。すごく、怖かった」
二乃と三玖も、由比ヶ浜さんと三浦さんに深く頭を下げます。まさかこんな目に遭うとは思っていなかったので、安堵も大きいのです。
「ううん。私は何もしてないし……でも、二乃ちゃんも三玖ちゃんも五月ちゃんも無事で良かったよ! それにしても……ほえ〜、、五つ子ってすごいねぇ。まだ二人いるんでしょ? すっごい似てる」
「あはは……よく言われます」
由比ヶ浜さんはまるで尻尾を振る犬のように、興味津々といったような目で私たちを見ています。……ちょっと恥ずかしいです。
「ハァ。まあ、なんでもいいけど。五月たちはどうしてここに? なんか用でもあったん? 」
三浦さんが、すぐに話題を変えてくれました。この人は見かけによらず、すごく面倒見のいい人なのかもしれませんね。その三浦さんの声に、二乃が反応します。
「私たち、友達に会いに東大に行きたくて……なのにこの娘が間違えてここに来ちゃったの」
「はぁ? どうやったらアソコとここを間違えるん? 」
「全く……その通り」
うぅ。三浦さんの驚きに二乃と三玖のジト目が私を襲います。も、もうっ。我ながら結構ハードな間違い方をしたことに結構傷ついてるんですからね!! ちゃんと反省してるんですからね!?
すると、苦笑いをしていた由比ヶ浜さんが、明るい声でこんなことを提案してくださいました。
「じゃあさ、私たちも今日は授業終わったから、これから一緒に行こうよ!! ゆきのんにも紹介したいしっ」
この由比ヶ浜さんの申し出にありがたく甘えて、私たちは一緒に上杉君のいるはずの大学を目指すことになりました。
* * *
『グゥ』
「五月、、なんか食べる? あーし奢るから」
「………………肉まんを……お願いします」
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ふ、ふへふひぃふん!?
「さて、やっと着きましたね」
三浦さんから肉まんも恵んでいただき、電車に乗る前には食べ切った私。
そんな私は、電車で目的の駅に到着すると意気揚々と降り立ちました。
この駅はどうやらその駅名のままに、すぐそこに大学があるというなんとも便利な駅です。
私はこの大学といえば、文京区の方をパッと思い浮かぶのですが、1・2年生の間は駒場の方で学ぶようです。ですがその駒場にあるこちらでさえも、なんだか敷居の高さが感じられる気がしてしまうのは、私がまだまだだからでしょうか……
なんて私が考えていると、由比ヶ浜さんがお腹を押さえて呟きます。
「う〜ん。来てみたはいいけど……なんだかお腹空いてきちゃった」
「ああ確かに。この肉まんお化け以外はまだ食べてなかったもんね〜」
「三浦さん……五月にわざわざ肉まん奢ってもらってごめん」
「いいよ全然。あーでも確かにお腹空いたかも、、結衣〜早いとこ雪乃に連絡取れないん? そしたらみんなでご飯いこーよ」
「そうですね。私もお腹が空いてきました」
それに続けて、二乃、三玖、三浦さんがそれぞれ述べていきました。最後に私も少し思ったことを呟きます。……なんとなく特に二乃と三玖は私に呆れの目を向けている気がします。三浦さんと由比ヶ浜さんは私に驚愕の目を確かに向けていました。
しばらく唖然としていた由比ヶ浜さんでしたが、頭をブンブン振ってスマホに目を落とすと、今度は少し困った顔で三浦さんを見つめます。
「んん……それがね、ゆきのんにさっきからライン飛ばしたり電話してるんだけど、反応なくて……やっぱり授業がいそがしかったりするのかも」
「ああ、まあそうかもね。じゃあまずはみんなでご飯食べに行かない? 食べ終わってからあそこに入ってみればいいし」
その三浦さんの一言により、私たちは駅から一度離れて食べ物屋さんを探して進みます。しばらく歩くと、サイゼリヤが見えてきたため、私たちは入ることにしました。
イタリアンですか……
ふふふ
どんとこいですっ
だから二乃と三玖はそんな目で私を見ないで下さいっ!
* * *
「な、なんか……あったのかな」
私たちが店に入ると、奥の方の席が封鎖されていたり、店員さんが慌ただしくしていたりで、何かがあったのがすぐに分かります。
由比ヶ浜さんが困惑気味に思わず口にしたのも分かるというもので、その封鎖されている席のテーブルには、何本ものワインボトルやビールが入っていたと思われるジョッキが置かれていて、どうしてあの席が封鎖になっているのかが大体想像できてしまいます。
ハァ……でも、なんか、、アレを見ると……
「まさか、あの子こんなところで飲んでないわよね」
「は、ははは……まさか。それに、どう見ても一人でなんとかできる量じゃない。二人分はある」
……二人とも私と同じような事を思っているのでしょう。
二乃も三玖も額に汗を浮かべながら、アルコールに猛烈な弱さを誇るウチの四女について話していました。
そうです……四葉のことです。
あの娘、、ハチャメチャにアルコールに弱い上にすぐ吐くから、姉妹の間では四葉に対してだけは絶対にアルコールは与えない事。そして四葉がいる前ではアルコール飲料は飲まないことにしたいう経緯があります。だって、四葉にアルコール飲料を与えると、、大体あの席のようになるので。
まあ、、ないですよね?
三玖の言う通り、あれどう見ても四葉一人でいける量じゃないですし。私でもちょっときつい量です。
しばらくして店員さんがいらっしゃり、私たちに店の惨状について謝罪を述べながら席に案内していただきました。
そうしてしばらくは五人で席に座り、料理を美味しくいただき、色々なお話を由比ヶ浜さんや三浦さんと交わします。二乃と三玖、由比ヶ浜さんと三浦さんはとても話が盛り上がっていて、あまり食べ物を口に運べていないほどでした。
ですが、まだ卓にあるパスタとハンバーグに集中している私は、そのお陰というべきか、とある声を耳に入れることが出来ました。
「先程は、大変申し訳ございませんでした。改めて謝罪をと思いまして……」
「自分も、彼女を止める事が出来ずに、申し訳ございません」
あれ? この片方の声……
私は不審に思い、思わず食べ物を喰らう手を止めて顔を声のする方へ向けます。
「ふ、ふへぇふひふぅん!? 」
私が顔を向けた先には、知らない男性と共に店員さんに頭を下げる、上杉君がいました。
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ドッペルゲンガー大集合
「い、五月……って、二乃、三玖まで!? お、お前らなんで……」
上杉風太郎。
さっき知り合った雪ノ下と同じ大学の同じゼミ生で、あのゲロリボンの彼氏。
そんな上杉は、怒涛の如く食い物を平らげていたあのゲロリボンと同じ顔の女を見て、さらにその横にもゲロリボンと同じ顔を2人確認すると、驚きに顔を染めていた。
ちなみに、同じ顔を今日だけで五人見るということもそうだが、何故かそこに由比ヶ浜と三浦がいることに、俺も口をあんぐりとさせた。
* * *
「なるほど……それであの子の尻拭いに二人で謝りに戻ってきた訳……身内として申し訳ないわ」
ゲロリボンと同じ顔の一人、名前は中野二乃さんは、俺と上杉に頭を下げる。それに次いで三玖さん、さっき大喰らいしていた五月さんも深く頭を下げてきた。
……サイゼに上杉と戻って来た時、妙に裏にいる店員さんたちが動揺していたと思ったらこれか。確かにこれは混乱するわ。ドッペルゲンガー大集合かよってな。
どうして彼女たちが頭を下げているかというと、さっき五つ子の大食い担当に上杉が見つかってから、俺たちは一連のことについて説明をしたからだ。
俺とリボンがそれぞれ雪ノ下と上杉に会いに行ったこと。
たまたま二人が一緒にいるところをたまたま俺たちが見て勘違いしたこと。
サイゼでヤケ酒したこと。
リボンが俺に絡んできたこと。
リボンが吐き出して俺が介抱したり怒られたりしたこと。
たまたま雪ノ下と上杉が同じサイゼに入ってきて、雪ノ下が暴走を始めたこと。
俺とリボンが殺されないために逃げたら、あの中野一花がリボンを助けに来たこと。
雪ノ下が三人纏めて葬ろうとした時に上杉が全ての謎を推理して解いてくれたこと。
改めて見るとたまたまが多すぎる。
所詮現実に起こることのほとんどはたまたまだが、ここまで悪い方に働くこともないだろう。
「ま、まあ。四葉は一花がホテルに連れて行ってくれてるなら安心だわ……。今はそれよりも、えっと、比企谷君って言ったかしら……大変な目に合わせちゃってごめんなさいね。あの子がたからなければこんな事にはならなかったんだから」
次女は気が強そうな口調や目元をしているが、しっかり俺のことを考えた言葉をかけてくれた。
俺の目にこの姉妹たちが全く怯えないのにも驚くが、リボンといい次女といい横にいる他の姉妹たちといい、なかなかにこいつらは肝が据わっているらしい。
「いや、いいんだ。わざわざ丁寧にどうも」
まあ、初めて会った女子にはこんくらいしか話せないよね。いやいいんだけどね? 俺には雪ノ下いるし。むしろ変に仲良くしちゃったらさっきみたいにフォークとか投げられちゃう。
「ねえねえヒッキー。ヒッキーももちろんそうだけど……ゆきのん。大丈夫? 」
由比ヶ浜が心配そうな目を俺に向けて来た。さすが雪ノ下の親友とだけあって、あいつの弱い点を分かっている。
「ああ……俺にもリボンにも一花さんにも死ぬほど謝ってきた。俺も問題がないわけじゃないって言ったんだが、かなり自虐したり気落ちしててな……今はリボンと一花さんと一緒のホテルで落ち込んでる」
「あはは……やっぱりそうなんだ。ゆきのんってヒッキーのことになると暴走して後で自己嫌悪するまでが最近のワンセットだから……」
「ハァ。あんたらめんどくさすぎ。高校卒業してもう2年経つってのに、なんなん? あんたらなんでどんどんポンコツになってるん? 隼人も言ってたけど」
全くその通りである。三浦さんの言う通りだ。さすがオカン。でも最後のはウザイことこの上ないのでスルー。
「あ、あのぅ……私たちも、四葉や一花の所に行きませんか? 心配ですし……」
パフェの5つ目を頬張りながら、五月さんがそう提案する。それだけではないテーブルを埋め尽くすほどの大量の食器たちは、なんだか物言わぬ迫力があった。
俺と由比ヶ浜に三浦は思わず口をアングリと開けて固まるが、他のやつらにとってはそれはいつもの通りらしくスムーズに話が進む。結局俺たちは、これから一花さんがとってくれたホテルに向かうことになった。
* * *
「あれ? ヒッキー携帯からなんかなった? 」
「ん? ラインだ…………うわぁ」
「どうした比企谷。そんなこの世の終わりみたいな顔して。また俺といた時みたいに雪ノ下さんが暴れ出したのか? 」
「……ああ、別な”雪ノ下さん”がな」
「っえぇ……ヒッキーそれってどういう……」
「……これを見てくれ」
陽乃
比企谷君。
雪乃ちゃんにさっき突撃電話したら泣いてたんだけど
なんか私が悪いのとか言ってたけどさ
すぐ切られちゃったんだよね
何があったの?
っていうか私言ったよね。雪乃ちゃん泣かせたら許さないって。
逃げたら地獄の果てまで追うからそのつもりで
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ハルノート
「ふぅ……。ながぁ〜い仕事の打ち合わせも終わったし、久しぶりに癒しの雪乃ちゃんタイムといきますかねぇ〜。次の仕事もあるからまあ電話だけど。じゃあさっそく」
プルプルプルプル
プルプルプルプル
プルプルプルプル
ガチャ
「あっ、もしもし雪乃ちゃーん!!!!! 今日も元気に比企谷君と乳繰り合ってるか〜い!? 」
『……ねえさん、どうしよう。私……やっぱりダメダメだわ』
「え? え、ええ!? ど、どどどどどうしたの雪乃ちゃん!? 」
ゆ、雪乃ちゃんが今ので動揺しない!?
って、ててゆうか、な、泣いてる!?
何で?
雪乃ちゃんどうしたの!?
おおおおおお落ち着くのよ陽乃。あなたは頼れるお姉ちゃんあなたは頼れるお姉ちゃん。よし、落ち着いた。
でも、雪乃ちゃんがこんなになるなんて……
『ふふ……全部、私がダメなの……私がめんどくさいから……わたしって、彼を困らせてばかり、ほんとうに』
ん? 彼?
あー。そゆこと。まあ、雪乃ちゃんがこんなになるなんて比企谷君絡みしかないか。
ハァ、どれどれ。
頼れるお姉ちゃんとしては、妹と義弟の問題にも助言くらいしてあげないとね。
はー、またお姉ちゃんしてしまう。
「ねえねえ雪乃ちゃん。もしよかったら、何があったのか少しだけでも教えてくれない? ほらお姉ちゃん何か力になれるかもしれないからさ」
まあどうせ面倒くさい二人の可愛いすれ違いなんだろうけどね。全く、世話が焼けるなぁふふふ。一体どんな可愛い出来事なんだか。
『……彼のそばに、、私の知らない、可愛い、、おっぱいの大きい、、人がいて……それで……グスン……わたし』
ちょっと待て
「ちょっと待て雪乃ちゃん」
え、なにそれなにそれ。
そういう系? そういう系だったの?
『グスっ……いいえ、大丈夫よ姉さん。こっちはもう、大丈夫だから。心配しないで? 本当にもう全部大丈夫で、何の問題もないの。私は私のバカさ加減に、少し落ち込んでしまっただけ……だから、もう切るわね』
「え、いや、雪乃ちゃん!? 」
『ありがとう……姉さん。私は大丈夫』
ぷつっ……プー、プー、プー
「切れた」
切れた。確かに切れた。
キレちまった。
へぇ。あいつ、やることやってたのか。
私の妹を蔑ろにして、随分いい度胸してるじゃないの。
こんなのお母さんに報告する必要もないわ。
私の手帳、通称ハルノートに目下最大の責務を記す。
もちろん一番高い優先順位だ。この後にある女優さんとの雪ノ下建設のCMに関する打ち合わせとかもうどうでもいい。テキトーに延期メッセージを送った。
その後に奴にメールを送る。
一通を送った後、場所を伝えていなかったことを思い出し、場所だけ記したメールを再送。
さあ、準備は整った。
あの野郎。私の雪乃ちゃんを……
私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の雪乃ちゃん雪乃ちゃん雪乃ちゃん雪乃ちゃん
地獄の底まで叩き潰してやる。
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肉まんvs魔王
「……ついたな。代々木八幡」
あのあと、あの凶暴お姉ちゃんが再びメールをよこしてきた。それに記された場所がここだ。
頑張って釈明の電話やメールを飛ばしたのだが、どれにも反応が一切なく、もう指示通りに行動するしかないというのが現状。全くお騒がせな魔王である。
「……それにしても、一体どんな人なのかしら。あなたたちがそんなに怖がるなんて」
「うん。……なんか私まで怖くなってきました」
由比ヶ浜をはじめ、事情を全て知っている中野二乃さんと五月さんコンビも、暴走魔王に事情を説明するとついて来てくれた。上杉も、女子組に何かあった時のための盾として来てくれている。でもさっき買っていた肉まんは一体何の意味があるのだろううか。
正直彼女たちにも危険が及びかねない以上、あまりアレに近づけたくはないのだが、マジで俺が殺されそうなのでお言葉に甘えて着いて来てもらったわけだ。
どうも、大学に入ってから人に頼ることを覚えた八幡です。
そうそう。三玖さんと三浦は、一花さんとゲロリボンと雪ノ下のいるホテルを見に行ったらしい。
「時間だ」
指定の時間になる。夕方の都心の神社には、俺たちの他には誰もいない。風が吹き、それに揺れる葉っぱの音が何かただならぬ雰囲気を作り出していた。
きた。
確かに存在を確認した時、世界に異常な緊張感が生まれた。
空気が違う、段違いに重い。気を抜くと地面にへたり込みそうだ。
さっきまで吹いていた風がピタッと止んだ。不気味な静寂が空間を支配する。
ヒールの足音が響く。なぜこんなに不自然に響くのだろう。
一度だけカラスが鳴き、何かを察知した様に飛んでいってしまった。
「よく来たね。……あら、呼んだのはお前だけのはずなのに、こんなにたくさん。いつの間に君はこんなハーレムを作ってたのかな」
そんなに近い場所にいないはずなのに、すぐそこから声が聞こえた気がした。
「……リボンの女はどれ? 雪乃ちゃんを泣かせている間にも、よろしくやっていたのでしょう?」
やばい。マジやばい。本気でちびりそう。
「あっ……ま、まま、まままままままってくくくだしゃい……いいくはひょ、いつひぃ!」
「ひゃ、ひゃひゃひゃ……ににょ! おおおちちゅきましょう!」
あまりの魔王の迫力に、二乃さんと五月さんは抱き合って震えていた。魔王はその二人を見る。
「……あなたたち、誰? そこの浮気男の肩を持つわけ?」
二人を真正面から見据え、威圧を飛ばした。
飛ばされた二人はよりキツく抱き合い、ブルブル震えるしかない。
「ちょ、ちょっと待ってください陽乃さん!!」
由比ヶ浜が勇気を振り絞ったように叫んだ。しかし、勇気を振り絞るために俺の肩に強く強ーく抱きつきながら。
「……へぇ。ガハマ。お前も雪乃ちゃんに牙を剥くのか、、潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す」
より一層覇気が増してしまった。
魔王はこっちに近寄ってくる。由比ヶ浜は分かりやすくガタガタ震え出し、自ら俺から離れることができない。だからゆっくり由比ヶ浜から俺は離れ、魔王の元に歩く。
3.2.1メートル。
もうすぐそこに、脅威はいた。
ここまで来たらもう腹を括るしかない。明日の朝に病院のベットの上にいる覚悟を決めながら、俺はここ数年で一番の勇気を振り絞った、瞬間だった。
「ふ、ふやぁあああ!!」
「っ!?」
「!?!?」
突然、叫び声が聞こえてきた。
視界からの情報を分析するに、どうやら陽乃さんの背中を五月さんが思いっきり押した様だ。でもなぜ肉まんを口に咥えているのだろうか?
そういや肉まんといえば、さっき上杉が念の為とか言って買ってたやつか?
咥えているということは、上杉が五月さんの口に突っ込んだ? 肉まんは五月さんにとって動力源か何かなのだろうか。そんなどうでもいいような思考が頭を過ぎる。
突然後ろから押されたせいで俺に勢いよくぶつかる陽乃さん。俺はあまりに突然のことで、そのまま後ろにバランスを崩し倒れてしまった。
次には、胸には陽乃さんの大きいメロンを感じ、
唇には、少し湿った、暖かくて柔らかい感触が襲ってきた。
「……!?」
「っ!?」
妹に似た整った顔が、超至近距離で驚きに目を見開いていた。
* * *
「わたし……ポンコツだ……みんな何も悪くなかったのに一人で暴走して、仕事に穴開けて」
あれから時間がたち、五月さんの肉まん捨身タックルと二乃さんの懸命な説明のお陰で全ては明らかになった。
その結果が今の魔王のこの憔悴である。体育座りで地面に死んだ目をしながら座っていた。
「ゆきのちゃん……ごめんね。暴走するだけじゃなくてわたし、あなたの彼とキスしちゃった……雪乃ちゃんに嫌われちゃうよね……わたし、生きてる意味あるのかな……」
さっきからずっとこんなんである。さっきとはまた別の意味でどうしたらいいか分からない。自分の生きている意味すら問い始めた。
「あの……比企谷さん。いいですか?」
俺が魔王の扱いに困っていると、勝利の立役者である五月さんが俺に耳打ちをしてくる。さっきの肉まんはとっくに胃の中にあるみたいだ。
「あ、ああ。なんだ?」
「四葉と雪ノ下さんがとりあえずまともに歩ける様になったとのことなので、合流したいのですが……」
とりあえずこのままでは埒があかないので、しょぼくれ魔王を連れて俺たちは雪ノ下たちと合流することにした。
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戦後処理。はすはすの陰謀
「あの、、雪ノ下さん。大丈夫だよ、だってみんなちゃんと分かってくれたんでしょ?」
「ほら、雪乃。あーしに何でも言ってみるし。そんなんだと結衣もヒキオも心配するよ?」
「雪ノ下さん……そんなに落ち込まないで」
「……うん」
みんなヤッホー。
中野一花だよ。
あれから、私は近くにあったホテルに四葉と雪ノ下さんをつれて来たの。後から三玖と三浦さんが一緒に来て、オエオエうるさかった四葉を寝かしつけてくれたあと、こうして今は雪ノ下さんの対応をしている。
「私はポンコツ……大学生なのに未だに胸が膨らまない、結局は、女としての敗北者なのよ」
う、う〜ん。
それにしてもさあ、さっきの手練れの暗殺者みたいな空気からよくこんなにしおらしくなるよねぇ……
ほら、さっきなんかは凄い勢いでフォーク投げてたりしたし、私の肩に置かれた手だってすごい力が入ってたし。
実際、肩にはちょっと跡に残ってる気がするよ……痛かったなあ。
「わたし、比企谷君に迷惑かけちゃった……それどころか、一花さんにも……三玖さんに、優美子にまで……もうやだ。私はやっぱりポンコツなんだわ。結衣さんが最近よく言う通り、私は彼が絡むと本当にダメ」
「ハァ……雪乃」
「……一花、これは私には無理」
「う、うぅ〜ん……」
どうしよう。ちょっとめんどくさ……いや、だいぶ繊細な人なのかな、雪ノ下さんって。横でグッタリ寝てる四葉と比べるとよりハッキリ違いを意識してしまう。面倒臭い時の二乃を相手にする感じがいいのかなぁ? でも、それともまた違う気がするし……
「ああ……もう、私はダメなのかも。……こうなったら、比企谷君を殺して私も……」
聞こえない聞こえない。
何も聞こえないったら聞こえない。
そんなふうに現実逃避していると、ちょうどよく携帯から着信が鳴った。
あっ……仕事すっぽかしちゃった件かな……いや、それについてはさっき社長から延期になったってメールきたし違うか。いやまあ、その時電話取れなかったことについて怒られそうだけど……
まあ、今の私を助けてくれる電話には変わりはないよね! よし、応答っと!
「もしもし、一花ですか? 」
「あ、あれ? 五月ちゃん!? ああそっか、東京にいるんだもんね。もうそっちはなんとかなったの?」
「ええ、なんとかなりました。私が、もう一人異様に落ち込んだ人を作り出してしまいましたが……」
「えっ……そ、そうなんだ」
またこんな面倒な人作っちゃったかあ〜
「はい……。まあその話はまた後でにしましょう。それよりも、四葉は大丈夫ですか?」
『う、うぅ。なんか、悪い夢を見ていた気がするよぉ』
「……たった今起きたね。普通に伸びしてるし、なんか立ち上がったから平気そう。……えっと、問題はもう一人なんだけど」
「ああ。そちら、雪ノ下さんの連れと今行動をともにしているのですが、引き取りに来てくださるそうです。車で来てくださるそうなので、その旨を、えっと、雪ノ下さんに伝えておいてくださると助かります」
「あ、うん。分かったよ。ありがとね五月ちゃん」
「あと、雪ノ下さんのお姉さんが私たちの今日の宿も用意してくださるそうです。なんでも、精一杯のお詫びだとかで」
「え? い、いいの?」
「はい。私たちとしてもありがたい申し出なので、二乃と相談してお言葉に甘えることにしました」
「そ、そうなんだ。じゃあ後で私もお礼しなきゃね。五月ちゃんお疲れ様」
「いえ、では後ほど」
ふぅ。とりあえず、なんだか色々なことが片付いたみたい。
* * *
私は三浦さんと三玖に、さっきの電話の内容について説明をした。四葉は本調子とはいかないまでも、とりあえず一人で歩くことくらいはできるみたい。本当に人騒がせな妹だ。
「それにしても車……誰が……」
「ん? どうしたの三浦さん?」
「いや、今向こうにいる中で車を運転できる人はいないはずで。結衣は免許ないし、雪乃の姉さんは多分今は雪乃みたいにこんな感じで落ち込んでるから使い物にならないだろうし、ヒキオは酒飲んでるし」
「二乃も五月も、多分フータローも車の免許はまだなかったはず……」
不審げに三浦さんは言う。
三玖の言う通り、あっちには私たち側の人たちも車を動かせる人はいないはず。
三浦さん側の誰も運転できないなら、一体誰が来てくれるんだろ。
「……ま……まさか、あいつだとしたらっ……結衣のバカ! まずい! 今の雪乃の状態であのあざとい奴に貸しを作るのはまずいし!」
唐突に、三浦さんが取り乱し始めた。
* * *
「ふふふ……こんなところで恩を売ることができるなんて思ってなかったからラッキー……。雪乃先輩や結衣先輩がこれで封じれるから……さて、どんな手を使ってあんなことやこんなことさせよっかなぁ……せ〜んぱいっ♡」
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枕にトラウマ
「みなさんこんにちわ〜、あ、初めましての人もたくさんいますね、まずは全員乗っちゃってください〜」
結衣先輩からの電話の通り、同じ顔の似たような人がいます。まあ、髪型違うのでなんとなく識別できるかな? くらいの差ですかね。まあ別にどーでもいいです。
私はテキトーに大学のある四谷でそれなりに大きいレンタカーを借りて、今代々木まで来たのですが……
「あっせんぱぁ〜い。せんぱいはもちろん助手席に座ってくださいね♡」
ドライブデートまでできるなんて、
今日は本当についています!
* * *
「しかし、なんだか災難でしたねぇ。そのゲロ……リボンの女の子の酒の弱さも相当です」
「ああ。そのせいで雪ノ下に本気で殺されかけてな。久々に本気のあいつを見た気がする……3ヶ月前にお前が失神するまでやったようなやつな」
「ああ……」
あれから、全員をテキトーに車に乗せて出発しました。
せんぱいと楽しいおしゃべりをしながらのドライブデートは、やっぱり最高ですね♪
あ、失神うんたらの話はどうでもいいじゃないですか。ただ私が雪乃先輩を怒らせてしまった話ってだけで、はい。
「……いろはちゃん。私たちもいるんだけど」
「あ、ごめんなさい結衣先輩♡ せんぱいが横にいるとつい、イケナイイケナイ」
「むぅ……いいもん」
ほんと、結衣先輩はどうしてこんな敵に塩を贈るようなことをしたのか。恋愛や人間関係方面では頭のキレる人だとは思ってたけど、やっぱりこっち方面もお馬鹿さんだったのかな?
なんて、私は調子にのっていたのです。
* * *
一色いろはちゃん。
ヒッキーやゆきのんよりも、少しだけ早く私は彼女と知り合っている。
最近は、なんだかちょっと舐められ始めてる気もするけど、距離感が近くなったことによるものだって私は理解してるんだ。基本的には大好きで、大切な後輩であり、友達。それはハッキリ言える。
そして、いろはちゃんはヒッキーのことが好き。
もうそれは私もゆきのんもよく分かってる。3ヶ月前にいろはちゃんがゆきのんの手によって失神させられちゃったあの事件から、ヒッキーも多分もう勘づいてる。
いろはちゃんのことは大好きだけどさ、
でも恋のライバルとしては、譲れないよね。
ねえいろはちゃん。流石に何も考えずに敵に塩を送ることは、私だってしないよ?
さて、そろそろ作戦を開始しようか。
車の中で、逃げ場はないよ?
いろはちゃん。
* * *
結衣先輩が、車に話し声が途絶えたタイミングで突然声をあげた。
「陽乃さん。元気出してください!」
何故か意気消沈しているハルさん先輩を、不自然に結衣先輩は元気づけます。なんで?
「……ガハマちゃん。いいの。どうせ私はポンコツ。こんなんじゃ雪乃ちゃんの頼れるお姉ちゃんじゃいられないのよ……車だって都筑に言えばいいのにそれができなかったのは、間接的にお母さんにコレがバレるのが嫌だったからの延命措置だし。……私なんて……私なんて……しかも今日は肉まんに負けたようなもの……」
……えっと、肉まん?
そこら辺の経緯は知りません。いったいハルさん先輩はどんな愉快な戦いに負けたんでしょう。
「陽乃さんは本当にゆきのんのことが大事なんですね!」
「当たり前じゃない! 私の雪乃ちゃんだもんっ!」
「じゃあ、ゆきのんが悲しんだり嫌な気持ちになることされたら、怒っちゃいますよね〜」
「もちろんよ。今回は……ごめんね? みんな。それに二乃ちゃんも五月ちゃんも」
一瞬だけ目に鈍い光を灯すと、ハルさん先輩はそのあとすぐにそれを引っ込めて同じ顔二人に謝罪し始めます。その二人はなんだかハルさんにビビりまくりで、カクカクしてました。
それにしても……結衣先輩。
どうしてこんな話を?
なんだか嫌な予感が……
「あ、そうそういろはちゃん! そういえばもう枕にはトラウマなくなったかな?」
「え? あ、はあ。まあ流石にもう……はっ!?」
ま、まずい。これは激ヤバ!
横のせんぱいも勘づいたようで……あ、指で耳栓した。
逃げたなこの人!!
「枕? なんでそんなものにトラウマが?」
ハルさん先輩が疑問を口にします。
だ、ダメ。結衣先輩お願いそのシスコンにその話はやめて!!
「それがですね? 3ヶ月前、一人暮らしのヒッキーんちにいろはちゃんが酔ったふりして無理矢理お邪魔して……あ、もちろんまだいろはちゃんは未成年だから、わざわざお酒の匂いがする香水つけて、酔ったフリしてたみたいなんですけど〜。そのまま、酔って潰れたふりして、ヒッキーが寝るために布団に入った時にいきなり起き上がってですね? ここぞとばかりに襲いかかったことがあったんですよ〜」
あ、ぁあああああああああああああああ
「……へぇ。続けて?」
ハルさん先輩の一気に低くなった声が車内に響き渡る。
運転する私の、額にとめどなく流れる冷や汗をミラー越しに見ながら、結衣先輩は微笑を浮かべ話を続行しました。
「ヒッキーも不意打ちだったから……最後まではもちろんいかせなかったみたいなんですけど、深いチューはされちゃったみたいなんですよね。……そこに、合鍵をもってたゆきのんがちょうど帰ってきて……もう、ゆきのんがとんでもない怒り方したみたいで」
「へぇ」
ハルさん先輩が魔王モードに入りました。
結衣先輩はここでもう仕込みは済んだと思ったのか、一気にあっけらかんとして
「あとは、ゆきのんが近くにあった枕を投げまくって、いろはちゃんは自分に当たった枕がゆきのんに跳ね返るほどのとんでもない威力の豪速球を間近で浴びまくって、あまりの威力と恐怖に失神しちゃたってお話です♪ それから、いろはちゃんは枕にトラウマができてたんだよね〜? でももう治ったんだ! よかったぁ!!」
その話には続きがありましてね。
翌朝。事情を知った結衣先輩がせんぱいの家にやってきたんです。
そして二人の目がない時を見計らって、目を覚ました私に、息ができるかできないかのラインギリギリで枕を私の顔に押し付けてきたんですよ。
雪乃先輩が修羅ってた時も怖かったですが……
多分、結衣先輩のあれがトラウマの真の原因です。
真顔ですよ、真顔でそれやりましたからねこの人。
「私だって、怒るんだよ?」
あの言葉は忘れることはないでしょう。
結局、結衣先輩が怖かったのはそれだけで、あとは優しいいつもの結衣先輩に戻り、雪乃先輩を宥めてくれたのですが……
あの日は、結衣先輩を絶対怒らせちゃいけないって学んだ日です。
でも、そんなことも、私はもう言えるだけの元気はありません。
「一色いろはちゃん。……あとで私が取ったホテルについたら、私と二人でお話ししよっか」
完全魔王モードになったハルさん先輩が、私をロックオンしていたのだから。
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可愛ければ貧乳でも好きになってくれますか?
一色の運転する車は、とあるホテルの近くにある駐車場にとまる。
それから一色と陽乃さんだけがその場に残り、俺と由比ヶ浜、二乃さんに五月さんと上杉がホテルの方に歩いた。
それからしばらく歩き、待っていてくれた三玖さんに連れられるように俺たちは雪ノ下たちがいるであろうホテルの部屋に向かう。
その部屋の前に着くと、三玖さんは由比ヶ浜と二乃さんと五月さんの胸部を見た後、ウンザリしたような顔をして俺たちに向けて言った。
「あの……みなさん。……ちょっとめんどくさいことになってるから、そこだけは覚悟しておいて」
「めんどくさいこと? いったい何なのよ三玖」
「どういうことなのですか? 三玖」
「……まさか、ゆきのん」
女子たちはそれぞれに反応する。
最初こそ三人とも頭にクエスチョンマークが飛んでいたが、由比ヶ浜だけは何かに気づいたかのように顔を顰める。
ついでに、今は俺も顔が渋いものになっていると思う。
なんとなく、今の雪ノ下雪乃がどんなことになっているかが想像できてしまったから。
「じゃあ、入るよ」
三玖さんが言って、扉が開いた。
* * *
「いやぁ……どうして……どうしてなのぉ……ぐすん。なんなのよ今日は、なんで私はこんな目に遭わないといけないのよ……もういやぁぁ」
「ど、どうしたのこの人……」
「な、何があったのですか一花」
入ってすぐに、ニ乃さんと五月さんは狼狽える。
というのも……中でホテルの部屋の床に崩れ落ち、泣きながら何かをブツブツ言っている俺のパートナーを見つけてしまったから。
元々中にいた一花さんと三浦は頭に手を当ててもうどうしようもないといったようで
ゲロリボンこと四葉は、そんな雪ノ下をどうしていいか分からないようでオロオロしていた。
どうでもいいけど、お前もう吐き気と酔いは何とかなったんだな。
少しして、床を涙で湿らせた雪ノ下雪乃は俺たちを見た。起き上がったその顔は赤らんでいて……
ああ、やっぱか。
酔ってるわこいつ。
「ご、ごごめんなさい比企谷さん……私が、沈んでいた雪乃さんを何とかしてあげたくて、なんとなく持ってた缶ビールあげたら……」
「……なあ、なんてことしてくれたんだよ……ゲロリボン」
「ゲロリボン!?」
頭を押さえながら言った俺の言葉に衝撃を受けた中野四葉。多分一花さんと三浦の目を話した隙にやったんだろう。二人のシラーっとした目線が四葉を襲っている。
そう。
雪ノ下雪乃は……精神が弱ってる時にアルコールが入ると、とてつもなく面倒な酔い方をするんだ。
「ゆ、ゆきのん……ほら、とりあえず、立てる?」
見かねた由比ヶ浜が野良猫に近寄るように雪ノ下に近づいた。
「むんっ!!!」
「ゆきのん!?」
稚い言葉を吐いて、雪ノ下は由比ヶ浜の手を払う。
ちなみに酔った時のこいつは何をしでかすか分からないブラックボックスだ。前に酔った時は俺の部屋の中で花火しようとしてたからなこいつ。
「……ゆいも、わたしをいじめるのね……ひっく……うしろのふたりも、わたしのこといじめてる。ここにいたよにんとおなじ」
「ゆ、ゆきのん? いじめてなんかないから!!! 」
由比ヶ浜が必死に弁明した。
半開きの目で雪ノ下は俺たち全員を睨む。
「うそよ、みんな、みんなわたしをいじめる。ゆいも、いちかも、よつばも、ゆみこもみくも、あとそこにいるふたりも、わたしのこといじめてる。でも、ひきがやくんとうえすぎくんはなかま」
……どういうことだ?
「……うっ……ひっぐ……うえ〜ん。おんなのこがみんなわたしをいじめる〜」
顔を下に向けて幼児みたいに泣き始めた。
「どうしたんだ雪ノ下……」
「比企谷でも分からないのか……」
俺と上杉もお手上げだ。
もうやだこの子。なんでポンコツになる時こんなトコトンポンコツに……
「なあ、雪ノ下。どうしていじめられたと思うんだ? 教えてくれ」
その俺の質問に再び顔を上げて、雪ノ下は泣いたまま、口を開いた。
「だってここにいるみんな、みんなみんなおっぱいがおおきいのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
一花さんや三浦、三玖さんの顔が馬鹿らしげにやつれていた理由が、分かった気がした。
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