頭文字D_AfterStage (不知火新夜)
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○物語中の背景

劇中の年代は原作(池田竜次の愛車である日産・フェアレディZ(Z33)の発売開始年数から、2002年から開始のストーリーと仮定)より10年後の2013年。

その間にプロジェクトDの2大エースである藤原拓海と高橋涼介が揃って国内外のGTレースで目覚ましい成績を残した事で峠道でのバトルの人気が一層高まる一方、過熱するバトルによって事故や違反が多発した事から、政府によって『峠道のサーキット化』が進められた。

この『峠道のサーキット化』政策は、

・対象の峠道の近辺に代替道路を敷設

・対象の峠道の両端に料金所(最速60kmで通過できる、専用のETCゲートのみ)と大型駐車場、及び自動車メーカーや車両整備工場等の関連施設に優先的に売却する空地を併設

・対象の峠道の幅を拡大し、上り線と下り線に分割(元の車線からの変更を最小限にした)

この3つの方針の下で進められている。

 

○主人公と、その周辺人物

星宮(ほしみや)條治(じょうじ)

年齢:18歳

職業:走り屋(フリーター)

身長:172cm

体重:55kg

所在:群馬県渋川市

搭乗車種:ロータス・エリーゼR(ABA-1117)(右ハンドル仕様)

カラー:スターライトブラック

ナンバー:群馬394 か 72-101

主な外装パーツ:純正ハードトップ、オリジナルマフラー、オリジナルホイール

主な内装パーツ:三連メーター

主人公。かつて峠のダウンヒルで最強と呼ばれ、現在はプロGTレーサーとして国内外で活躍している拓海に憧れて走り屋となった。

高校時代にに両親を失って天涯孤独の身、更に卒業してからは定職に就いていないが「色々な都合で貯蓄は物凄い」らしく、それを元手に新車のエリーゼを購入した(選んだ理由は「僕の理想をまさに体現していたから」)。

公道に限らず運転やバトルが大好きで、「車って本当に楽しいよね!」が口癖。

公道デビュー以前からカートレース等でドライビングテクニックを積んでおり、その経験を活かした左足ブレーキによる鋭い突っ込みと、正確無比なコーナリングを両立させたドライビングを得意とし、拓海が走り屋時代に駆使したテクニック「溝落とし」「溝またぎ」「ブラインドアタック」も積極的に用いる。

愛車であるエリーゼRは各種吸排気系パーツやコンピュータ、ブレーキ等が一葉のオリジナルパーツに交換(また、條治のドライビングに合わせて、スタビライザーがわざと外されている)され、そのどれも性能が高く、中回転域までのトルクカーブを維持しながらも、NAでありながら250PSもの馬力が出る(レブリミットは9000回転)。

 

逢坂(おうさか)一葉(ひとは)

年齢:18歳

職業:専門学校生(自動車整備関係)

身長:166cm

体重:50kg

3サイズ:B90(F)W56H84

所在:群馬県渋川市

搭乗車種:トヨタ・セリカSS-Ⅱ(ZZT231)

カラー:ブラック

ナンバー:群馬312 た 31-562

條治の幼馴染で、自称「條治専属のメカニック」。

條治の応援の為にメカニックになる事を決意、市内の工業高校(機械整備科)から自動車整備関係の専門学校に進学、その通学の為に條治の家に転がり込み、下宿代の名目で條治のメカニックを買って出ている。

愛車のセリカは條治から借金して(條治は「メカニック代の先払い」としている)購入した中古車(セリカにした理由は「ハッチバックで、條治のエリーゼと同じエンジンが乗っていたから」)。

未成年ながらその腕は相当な物で、條治曰く「一葉のセッティングに間違いは無い」。

ドライビングテクニックも高く、ダウンヒル限定だが條治とのバトルでも善戦する程(逆にヒルクライムは圧倒される)。

 

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WARNING

この小説はフィクションであり、劇中で行われている峠道でのバトル(競争行為)は、実際の公道を基にしたサーキット風道路で行われている、という設定です。

実際の車の運転では、劇中の様な競争行為や過激な運転は絶対に行わず、安全運転を心がけましょう。



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プロローグ

プロジェクトDの関東制圧、及びエースだった藤原(ふじわら)拓海(たくみ)高橋(たかはし)啓介(けいすけ)の、その後のGTレースでの活躍によって、脚光を浴びる公道バトル。

一方で過熱する走り屋達のバトルは公道というステージの関係も相まって、数々の事故や違反等の迷惑行為という問題に発展し、その被害は一般ドライバーにまで波及していた。

その状況を危惧した日本政府は驚きの政策を打ち出す。

 

『峠道と呼ばれる公道の代替道路を早急に整備し、それが出来次第峠道を法定速度廃止、競争行為に関連する違反の廃止等の特例を適用した有料道路とする』

 

後に『峠道のサーキット化』と言われるこの、一般ドライバーと走り屋の隔離政策によって事故や違反は劇的に低減し、一方でレーシング業界が公道バトルを『才能あるレーサーの発掘の場』として注目、実際に公道出身のレーサーが少しずつながらも生まれて来ていた。

そして…

 

2013年某月某日深夜、秋名ダブルスリーライン(旧群馬県道33号線渋川松井田線)下り線…

 

「…ん?」

 

約1年前に登場したスバルのFR(フロントエンジン・リアドライブ)スポーツカー、BRZ RA(DBA-ZC6)を乗り回していた青年は、バックミラーに映ったライトの存在に気付いた。

スバル・BRZ RA(DBA-ZC6)。

トヨタと共同開発し、トヨタ側では86として販売されているこのモデル、スバルならではの水平対向4気筒にトヨタの直噴機構『D-4S』を搭載した事でリッター辺り100馬力をNA(ノーマル・アスピレーション)(自然吸気)で実現したFA20エンジンをホイールベース内側に積んだ所謂『フロントミッドシップ』レイアウト、サスペンションは、フロント側はマクファーソンストラット式、リア側はダブルウィッシュボーン式と両方共独立懸架式、ブレーキも4輪ディスクブレーキ、トランスミッションは6速MTのみと正に現代に蘇ったスポーツカーと言っても差支えないモデルとなっている。

そんなBRZを鋭く睨みつけて来るようなライト形状のその車は、ライトをチカチカとさせる様に上下させていた…パッシングである…此処の様な所謂『峠道』と呼ばれる法定速度無視の有料道路においてその意味は1つ。

 

「…煽って来る…バトルの申し込みか…車種何だ?」

 

バトルを申し込まれた青年は、それに応じる様にハザードランプを点灯(『峠道』においてバトルの申し込みを示すパッシングをされた時、申し込まれたドライバーは、ハザードランプを点灯させて受諾するか、路肩に寄せつつブレーキランプを点灯させて拒否するかのどちらかを行わなければならない、この場合はバトルを受けるという事だ)させつつ、背後に迫る相手の車の車種を推理する。

 

「吊り上がったライト…微かに聞こえて来る2ZZ-GEのエンジン音…最終型セリカのSS-Ⅱか?」

 

トヨタ・セリカSS-Ⅱ(ZZT231)。

トヨタのスペシャリティ・クーペとして長年販売され続けて来たセリカの七代目にして最終型となったモデルで、セリカとしては初めてのダブルウィッシュボーン式リアサスペンション、ヤマハ発動機と共同開発し所謂『トヨタ版VTEC』である可変バルブタイミングリフト機構VVTL-iを採用してリッター辺り100馬力超えをNAながら実現した2ZZ-GEエンジン、そしてFF(フロントエンジン・フロントドライブ)駆動専門とした事でレイアウトの自由度が増した為に現代にも通ずるスタイリッシュさを得たデザイン…正に最終型として恥じない姿と性能を得たモデルである。

だが…

 

「誰だか知らないけど…さっさと終わらせて貰うぜ?」

 

点けていたハザードランプを消灯させつつそう呟くと、先制攻撃と言わんばかりにアクセルをふかし、シフトを6速まで上げて行く。

だが先読みしていたかの様に後続車のエンジン音が同時に高く…そして近づいて来たかの様に大きくなっていた。

パワーで後れを取っているのか、或いはスリップストリーム(前の車のすぐ後ろに張りつく事で空気抵抗の影響を最小限に留め、加速力を稼ぐ戦法である)か、どちらにせよ、直線で振り切れるとは考えない方が良い、青年はそう心に決めた。

 

「なら…!」

 

直線で駄目なら、コーナーで引きはがせば良い。

そう思うと同時に青年はステアリングを逆時計回りに切ると同時にブレーキを踏み、シフトを3速まで下げて行きながら滑らせる様にコーナーを曲がって行く…所謂、ブレーキングドリフトである。

コーナーからの進入速度や脱出速度を高められるドリフト走行で突き放すと言わんばかりに青年のBRZはコーナーを高速で駆け抜けて行く…だが。

 

「っ!?…相手もドリフトで来ている!?」

 

背後から聞こえるスキール音、こちらを向きながら横に移動するライト…後続車もまたドリフト走行でコーナーを駆け抜けて来たのだ。

 

「馬鹿な…FFのセリカに出来る訳が…!」

 

青年の言葉は正しくは無いが、大体あっている。

セリカに限らず、一般的なFF車はドリフト走行に向いていない。

車体前方にエンジン、トランスミッション、ドライブシャフト等と、車の駆動の全てを積み込んだFF車は、前から車体を引っ張る関係で直進安定性こそ高いのだが、ドリフト走行を持続させる「横滑りしながら加速する」動作が出来ないからだ。

後輪駆動なら前輪という『障害物』がある為に、駆動輪の回転力が前に行こうとする力だけでなく横に行こうとする力をも生み出す為に、ドリフト走行が持続出来る(逆に言えばスピンしてしまう危険性も抱えている)が、前輪駆動の場合はその『障害物』が無い為、駆動輪の回転力が前に行こうとする力しか生まない為に、横滑りを維持できず体勢が戻ってしまう。

しかしドリフト走行が出来ないという青年の言葉は誤りで、FF車によるドリフト走行は通称『Fドリ』と呼ばれている…が、その方法は「車輪をロックさせたまま横滑りさせる」という物…後輪駆動とは違い横滑りによって失った駆動力を補助する手段が皆無な以上、レースにおける実用性は低いと言わざるを得ない。

故に、FF車はドリフト走行に向いていないのだ。

だが青年のBRZを追走する後続車はドリフト中もエンジン音が甲高い時があった…そう、ドリフト中もアクセルを踏んで駆動力を稼いでいたのだ。

それも1度や2度のまぐれじゃない…青年のドリフト走行に、同じくドリフト走行でしっかりと食いついていた。

 

「あの車…セリカじゃないのか…なら、何だ…?」

 

そう…後続の車は、FFであるセリカでは無かった…推理が外れた青年は戸惑いを隠しきれないが、直ぐに思いなおす。

 

「相手が誰であろうと、どんな車であろうと…この先の連続ヘアピンで決める!」

 

この先に迫る連続ヘアピンカーブ…其処は嘗て最強と呼ばれた走り屋に因んで『86ヘアピン』と呼ばれている所である。

 

「これで決める!」

 

青年が声を張り上げ、最初のヘアピンカーブに、シフトを4速にしたまま(・・・・・・・)差し掛かると同時にフロント右タイヤを…コース右端の側溝に突っ込んだ。

86ヘアピンの由縁となった走り屋が愛用していたテクニック『溝落とし』…側溝をレールの様に使う事で、通常より高い進入速度でもコーナーを抜けられるものの、突っ込む側のタイヤやホイール、果てはサスペンションにまで大きい負担を掛けるばかりで無く、制御を間違えれば失速はおろかスピンやクラッシュの危険性もあるテクニックである。

しかし青年は手馴れた様にヘアピンカーブを抜け、難なく側溝からタイヤを抜き、そして2つ目のヘアピンに差し掛かろうとした…が、

 

「な…離れない…!?」

 

可笑しい…こんな馬鹿な…青年がそんな違和感を覚える位、後続との距離は離れなかった。

それで正気を失いはせずに2つ目のヘアピンも溝落としで抜けるも、

 

「…相手も溝落としで抜けている!?」

 

後続を確認したのが青年にとって間違いだったのかも知れない、バックミラーに映ったその光景…それは後続車が青年と同様に溝落としで抜け、そして、

 

「しかも俺より速い速度で!?」

 

よりこちらに近づいてきた姿だった。

流石の青年も、焦りの様子を隠せないが、近づいてきた事で、暗闇で殆ど見えなかったその車体が見えて来た。

それは、

 

「あの車体にあのロゴ…それに2ZZ-GEエンジンの音…間違いない!ロータス・エリーゼRだ!」

 

ロータス・エリーゼR(ABA-1117)。

イギリスの自動車メーカー、ロータス・カーズの主力車種、ロータス・エリーゼの二代目モデルに、セリカにも積まれている2ZZ-GEエンジンを搭載したモデルだ。

エンジンこそセリカと一緒だが、MR(ミッドシップ・リアドライブ)駆動、900kg足らずの車両重量、前後共に採用されたダブルウィッシュボーン式サスペンションと、その走行性能は最早別次元と言って良い物になっている。

 

「まさか日本の峠道に外車を持ち込んでくるなんてな…相手に不足は無しだ!」

 

後続車の正体を知り、気を引き締めてヘアピンカーブを抜けて行く…

そして…

 

------------

 

「もう料金所か…引き分けって所かな」

 

全く引きはがされる事無く食いついていった後続のエリーゼを相手にしていたら、秋名ダブルスリーラインの料金所に辿り着いた青年のBRZ…これ以上のバトルは不可能だ。

 

「ふう…峠道でのバトルは久々だけど、あんな凄腕の走り屋がいたとは…今度池谷さんに聞いてみようかな」

 

青年はそう言いながら料金所を通過し、先程まで激闘を繰り広げた秋名ダブルスリーラインを後にした…

 

------------

 

「いやー、楽しかった!峠道のバトルは初めてだったけど、思った以上に楽しいね!」

 

一方、エリーゼ側のドライバーも料金所を通過、秋名ダブルスリーラインを後にしていた…そんな中、そんな歓喜の声を上げていた。

 

「あのBRZに乗っていた人、凄いテクニックの持ち主だったな~。ドリフトも上手いし、溝落としも完璧に決めて来た。何か、走り屋時代の拓海さんみたいだったね!僕も負けていられないな!」

 

そう振り返りながら、ドライバーは夜の公道を駆け抜けて行く…まだ見ぬライバルとの激闘を楽しみにしながら。

これが後に『秋名のブラックロータス』と呼ばれるエリーゼのドライバー、星宮(ほしみや)條治(じょうじ)の、峠道におけるバトルのデビュー戦で、その相手が…驚くべき存在だったのは、まだ誰も知らない。



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プロローグ2

同日、群馬県渋川市某所…

 

「…ふぅ。こんな感じかな」

 

比較的規模の大きめな整備工場にも引けを取らない広さのガレージの中で、1人の少女が、黒のトヨタ・セリカSS-Ⅱ(ZZT231)を相手に、スパナ片手に作業していた。

と、そこへ、

 

「…お、家主様の御帰りかな。おかえり、條治!」

「ただいま、一葉(ひとは)!」

 

少女…逢坂(おうさか)一葉(ひとは)が、外から聞こえて来たエンジン音に気付いて向かうと、そこには先程秋名にて壮絶なバトルを繰り広げた黒のロータス・エリーゼRがあり、其処から出て来たのは、黒の短髪、整ってはいるが童顔な顔立ち、青を基調とした服装に身を包んだ華奢そうな身体つき…星宮條治だった。

一葉の口振りからも分かるが、此処は條治の住居であり、先程彼女が作業していたのはその一角にあるガレージだ。

 

「随分とご機嫌だね。何か良い事あったの?」

「うん!今日初めて、公道バトルして来たんだけどさ、もう楽しくてたまらないんだ!場所は秋名ダブルスリーナインで、相手はスバルのBRZだったんだけどさ、ドライバーの人のレベルの高さが後ろから見ていて良く分かったよ!ドリフトは完璧だし、溝落としも上手い…拓海さんが乗っているんじゃないかって思った位だよ!」

 

先程のバトルの様子を、興奮さめ止まぬといった状態で話す條治と、

 

「へぇ、それは良かったね。それで勝敗は?」

「僕が後追いで仕掛けたけど、差は殆ど無いといって良い状態だったし…引き分けかな?」

「あらら、それは残念。條治の腕ならそんじょそこらの走り屋には負けないと思ったんだけど…」

「いやいや、それはサーキットでの話だよ。『公道には公道の走り方がある』…涼介さんもそう言っているじゃん。でも、初めてにしては良い線行っていたかな」

「條治がそう言うならそうだろうね。そんな條治に先行を譲らなかったなんて…凄いドライバーだね」

 

それを嬉々とした表情で聞き入り、投げ掛けた質問の答えに一喜一憂する一葉…2人とも公道の走り屋としては駆け出しながらも、相当の実力を有している事が、会話の節々から見えて来る。

 

「それで一葉、スパナ取り出してどうしたんだい?またセリカの調子が?」

「うん、そうなの…どうもエキゾーストの調子がおかしいみたいで、ブン回してからのパワーの伸びが悪いし、排気干渉したのか、変な排気音が鳴るんだよね。だからさっきまで調整していたんだよ」

 

先程整備していたセリカは、一葉の愛車の様だ。

 

「そっか。でも一葉の事だから良い感じに仕上がったんでしょ?一葉のセッティングに間違いは無いからね」

「ちょ…買い被り過ぎだよ、條治。まだ私、18の専門学校生だよ?」

「その18の専門学校生が、僕のエリーゼRを、僕の理想と言える位にまで磨き上げたんだ、誇っても良いと思うよ?NAで250PSも出るとか尋常じゃないよ、幾ら素でリッター辺り100PSを越えたトヨタ・2ZZ-GEといっても、1.8Lだよ?」

「そ、そうかな?」

 

そして條治のエリーゼRも、彼女がセッティングを手掛けている様で…一葉のメカニックとしての腕前は相当な物だと伺える。

 

「まあそれは置いて…記念すべき初バトルの後だし、その條治の理想だという愛車の点検をしておくよ」

「サンキュー、一葉」

「良いよ良いよ、家賃とセリカの立替金代わりだし」

 

星宮條治と逢坂一葉…後に関東一円の峠道においてその名が響き渡る事を、まだ2人は知らない…

 

------------

 

翌日、群馬県渋川市某ガソリンスタンド…

 

「此処に来るのも久しぶりだな。皆いるかな?」

 

昨日、條治のエリーゼRとバトルを繰り広げたBRZのドライバーはそう呟きながら、スタンドに入って行く。

 

「いらっしゃいませ…って拓海じゃないか!元気?」

「よう、樹。今日もハイオク満タンで頼む」

「あいよ!」

「ところで池谷さんは?」

「ああ、店長?店長なら」

「呼んだか、樹?って、拓海か!よう!」

「お久しぶりです、池谷さん」

 

拓海と呼ばれたBRZのドライバーと、樹と呼ばれたガソリンスタンド店員…どうやら2人は顔見知りの様だ、会話をしていると其処に、池谷と呼ばれたガソリンスタンド店長が入る。

 

「ところで池谷さんに、ある走り屋の情報を、知っていたら教えて欲しいんですが…」

「走り屋の?ああ、いいぜ。お前が気にする様な走り屋とあらば、幾らでも提供できそうだしな」

 

挨拶もそこそこに、拓海は昨日バトルしたエリーゼRの情報を池谷から聞き出そうとする。

 

「で、どんなドライバーなんだ、拓海?車は?色は?何処のコースだった?」

「今から追って話すよ、樹…実は昨日、秋名のダウンヒルで後追いからバトルを申し込まれて、料金所まで後ろをピッタリと食いついて来たんです…つまり引き分けでした。ドリフトも完璧で、溝落としまで使ってきました…かなりのテクニックを持っていると言って良いですね」

「それ、かなりどころじゃないぜ…今の拓海と引き分けるなんて、俺が知っている中でも片手の指だけでも余るぜ…」

 

拓海が話すエリーゼRのドライバーのテクニックの度合いに、茫然とした様子の樹、余程拓海の腕を買っている様子だ…それも無理は無い。

 

「それで車種なんですが…ロータス・カーズのエリーゼで、トヨタの2ZZ-GEエンジンの音がしましたから2代目のRモデルですね。色は黒でした」

「ろ、ロータス?ロータスってイギリスのメーカーだろ?日本の峠に外車なんて似合わないだろ普通」

「いや、そうとは限らないぞ樹。外車、と一纏めに言っても色々なタイプがある。エリーゼはその中でもライトウェイトスポーツというカテゴリに入る奴で、いわば日本車におけるトレノ86やロードスター、MR-Sと同様、いや、軽さで言ったらそれらをも凌駕しているぞ」

 

樹の疑問に答える池谷、かなりの車マニアの様だ、が…

 

「だけど黒のエリーゼRか…悪いけど、そんな走り屋は聞いた事が無いな。拓海の話からして有名になってもおかしくはない筈だが…まあ、新しい情報が入ったら、伝えるよ」

「そうですか…すいません、急に無理難題押し付けて」

「いやいや、構わないさ。エリーゼRというハイスペックな車を、拓海が興味を持つほどの腕前で乗り回す走り屋…俺達じゃ敵わないかも知れないが、是非会ってみたい物だ」

「店長、何弱気な発言しているんすか。俺達だって10年も前から、拓海の背中をただ見ているだけじゃ無かったでしょ」

「樹の言う通りです、池谷さん」

 

会った事が無いばかりか、今初めて知ったという様子の池谷だが、まだ見ぬ走り屋の存在に興味を沸き立たせる。

それは樹も、情報を提供した拓海も一緒だった…が、

 

「だが、嘗ては関東一円の峠にその名を轟かせ、今やプロのGTレーサーにまでなった『秋名のハチロク』拓海と引き分けたんだぞ?俺達の腕も確かに上がったが、善戦が精一杯だろう」

 

今このスタンドで談笑している3人のうち、店長と店員という立場でガソリンスタンドに勤務している池谷と樹が、秋名ダブルスリーラインを本拠とした関東有数の走り屋チーム『秋名スピードスターズ』のダブルエースで、BRZのドライバーである拓海が…あの関東最強のダウンヒラー『秋名のハチロク』として伝説にもなっている、藤原拓海…この3人が1人の駆け出しの走り屋、條治に興味を持った事で、條治の走り屋としての運命が動き出す…!



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