白陽の下に水面を駆ける (はいぱーとりかぶとさん)
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彼無き日常





 

 

 

 ここは笹芽鎮守府。

 一週間前に建設された新築の鎮守府であり、所属人数は両手で数えられる程度の小規模な鎮守府だ。

 建築工事が終わり、鎮守府として使えるようになった四日後に新人提督が着任たことで機能し始めた。

 

 現在、所属している艦娘は、憲兵達の指導の下で道場にて訓練を行っている。

 

「遅いッ! もっと早く刀を振れ!!」

 

「はいッ!」

 

 指導を行っている彼の名はコクウ。

 この鎮守府に所属している特務憲兵で、本名は黒羽伊織(クロバネイオリ)。今は一時的に提督代行をしている。

 影を操る程度の能力を持つ元竜の青年だ。

 一方、現在コクウの訓練を受けている艦娘はこの鎮守府の初期艦である白露型の五月雨。

 知り合いからはサミちゃんと呼ばれることが多い。

 

コクウ「もっと早く! 鋭くッ! 正確に振れ!! この程度じゃまた誰かに襲われた時に抵抗できねぇぞ!!」

 

五月雨「分かってます!!」

 

「······なあ、あれどういう打ち合いしてるか見えるか?」

 

「ぜーんぜん見えないよ。······あれって遅いのかな? ボクには刀の動きすら全く見えないけどさ」

 

 質問をしたのは天龍。この鎮守府の二人目の艦娘で現在唯一の軽巡である。

 また天龍の質問に答えたのは皐月。鎮守府の三人目の艦娘であり、まだ実戦には出たことがない新人だ。

 二人もコクウの訓練を受けていて、今は休憩中なのだ。

 

天龍「オレも風切り音と弾かれたときの金属音くらいしか聞こえねぇ」

 

皐月「ボクもだよ。······そういえばさ、コクウは素手だよね? なのにサミさんの攻撃が弾かれて金属音が鳴るっておかしくない?」

 

天龍「ん······ああ、素手ならおかしい。

 だが、コクウは徒手空拳なだけで腕に竜鱗出してるからそこまでおかしくもねぇぞ?」

 

皐月「竜鱗? ······あの時に航空攻撃から守ってくれたときのやつ?」

 

天龍「多分な。あのときのやつを部分的に出してるんだと思う」

 

 そんな話をしていると道場内の一角にあるスピーカーから「お昼ごはんできましたよ〜」と声が響き、コクウが構えを解いた。

 

コクウ「よし。一旦訓練は終わりにして昼飯食いに行くぞ! 天龍達は先に行っててくれ。俺と五月雨は掃除と片付けしてから行く」

 

 「ありがとうございました」と互いに礼を交わして訓練を終わらせ、皐月達の方に歩きながらコクウは指示を出した。

 二人はコクウの指示に従って食堂へと向かうが、その途中「シャワー浴びてくる」とだけ言って天龍は皐月から離れていった。

 皐月は少し心細く感じながらもそのまま一人で真っ直ぐに食堂へ向かい、食堂の扉を開く。

 

「皐月ちゃんが一番乗りですね♪」

 

 厨房から皐月に声をかけたのはシエル。

 彼女は厨房担当の妖精さんではあるが人間の姿も持っていて基本的にそちらの姿で生活している。

 

皐月「そうなの!? 先に愛羅が来てると思ってたんだけど······珍しいね。あの人がご飯のときに一番じゃないって」

 

シエル「そうですねぇ〜。昨日調べてみたら大体の人が暴食のイメージを持っている赤城の適正持ってましたし······」

 

 そんな会話をしていると、後ろから「二番目かぁ〜」と残念そうな声と共にホクホクで食堂に入ってきたのが愛羅である。『噂をすればなんとやら』だ。

 本名は黒羽愛羅(クロバネ アイラ)。彼女もまた憲兵としてこの鎮守府に滞在している。苗字で察するとは思うが、コクウの妻で彼女もまた元竜である。

 光に溶け込む程度の能力を持っている基本ノーメイクの少女だ。

 

シエル「お疲れ様です愛羅さん。哨戒の結果はどうでした?」

 

愛羅「あー、またいたんだ〜。あの時と同じタイプのヌ級がさ」

 

皐月「あの時と同じタイプ?」

 

愛羅「そうそう。あの時のヌ級と同じ黒腕の個体」

 

シエル「ホクホクなのはヌ級と戦闘した際の汗を流しに?」

 

愛羅「それもあるけど、少しダメージ食らっちゃってさ〜血がベタつくから着替えるついでにこっち側のお風呂に入ってきたんだ〜。

 そしたら不思議な事に傷も治ったしね。······そういえば他三人は?」

 

皐月「コクウとサミさんは片付け。天龍はシャワー浴びに行ったよ。どっちのお風呂かによるけど、たぶん愛羅と入れ違いだと思う」

 

 皐月が答えると同時に、再び扉が開き三本の腕が付いた黒い球体が入ってきた。

 球体はペタペタと二本の腕で這う様に移動し、折り畳まれた紙を愛羅に手渡してペタペタとどこかへ去っていった。

 

皐月「······なに!?今の気持ち悪いの」

 

 球体がペタペタと食堂に入ってからフリーズしていた皐月が、パニック気味になりながら聞いた。

 

愛羅「あれはね、仔月光。とある世界の無人兵器技術をユウが模倣し(コピっ)て量産した物だよ〜。

 ······でもボクが持ってきた分は全部コクウに斬られた気がするんだけどな〜」

 

シエル「それは一旦置いておいて手紙の中身を見ましょうよ〜」

 

愛羅「······そうだね。まずは見てみようか」

 

 愛羅はゆっくりと破れないように紙を開いて中を見る。が中身を確認すると、一瞬で元の状態まで折り畳んで「ふーん。やっと来るんだー」とだけ呟いてポケットに仕舞った。

 

シエル「それで、なんて書いてあったんです?」

 

愛羅「······うん。すごく大事なことだからみんな集まってから話すよ。だからそれまでおあずけ!」

 

 愛羅の「おあずけ」に対し、二人は「ぶーぶー」と抗議の意を示すが、愛羅はプイッとそっぽを向いてから「後でね」と二人を嗜める。

 同時に皐月のお腹が「きゅ〜」と鳴り三人は「お腹空いたなぁ〜」と声を合わせて言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 愛羅が仔月光から紙を渡されてからどれくらいの時間が経ったのだろうか。

 私的には三十分ほどだと思うが、正確には分からない。

 

 三人は空腹を紛らわせるためにそれぞれ何かをしていた。最も、先程までぐーぐーと空腹を主張していた三人のお腹はもう空腹を訴えることを諦めたかのように静かにしているので、現在は残り三人を待つための暇つぶしになっているわけなのだが······

 具体的に何してるかというと、シエルは人間体のまま『妖精さんぱわー』を使う練習として氷のナイフを創っては分解を繰り返しており、愛羅は一段上の座敷で瞑想。皐月は最初は愛羅を真似て瞑想していたが五分ほどで飽きたようで、それからは座敷でゴロゴロしたり再び食堂に来た仔月光を指でつついたり弾いたりして暇を潰していた。

 何度目かの仔月光弾きの時、いいところに当たったようで、仔月光が座敷から落ち、それに合わせて皐月が起き上がり口を開いた。

 

皐月「お昼ごはんそろそろ食べちゃ駄目かなぁ? お腹空いたな」

 

愛羅「ボク的にもそろそろ食べたいな〜この三人が集まってからもう三十五分も経ってるし······」

 

 ポツリとこぼれたその一言に薄っすらと目を開いて愛羅も同調する。

 

シエル「そうですよね。三十分もあれば皐月ちゃんもお風呂入れたくらいですし······もう食べちゃいましょうか!」

 

「「賛成〜」」

 

 といった感じで来ない人は放っといて食べ始めようと各々が席につく。

 

シエル「では、手を合わせて······

 

「「「いただきまー

 「ちょっと待てェい!!」

遅れるのが悪い(よ/です)!!」」」

 

 扉を開けて入ってきたのは片付けすると言って結局遅刻しているコクウである。

 三人は号令を邪魔されて······表情は三者三様だが······ちょっと怒っているようだ。

 

愛羅「遅刻理由! 短く!!」

 

コクウ「片付けしてたら謎に隔離されて遅れた!!」

 

シエル「隔離? どんな感じでですか?」

 

 そう聞いたところで「遅くなりました〜」と五月雨が食堂に入ってくる。

 

五月雨「あの〜······これはどういう状況ですか?」

 

コクウ「さっきあった事の説明を始めるとこだ」

 

五月雨「······はい。理解しました」

 

愛羅「で? どうして遅刻したの?」

 

 そう聞きながら愛羅は立ち上がり、コクウの前に仁王立ちした。

 コクウは座敷で正座させられており、それを見て皐月はいつかの説教の時のように「ヘビに睨まれたカエルかな?」と思った。

 

コクウ「信じられないと思うが、事実を話す。

 皐月達が道場を出てからすぐに掃除と片付けは終わったんだ。片付けが終わって倉庫から出ようとしたら扉が開かなくなってた」

 

愛羅「それで?」

 

コクウ「能力使ったり扉を壊そうとしたりといろいろな方法で脱出を試みたが全て失敗。倉庫の空間ごと隔離されてたと考えてる。

 で、その直後に入り口の扉に張り紙が出現し、それに書かれた指示に従ったらあっさりと出られた」

 

愛羅「······で? その張り紙に書かれてた内容は?」

 

コクウ「『〇〇〇〇しないと出られない部屋』とかいう系統のやつだ」

 

 それを聞いて愛羅の表情が無理矢理微笑む修羅のようなものに変化し、背中からはただならぬ殺気が発生していた。

 

愛羅「ふーん。そっかー。出られたなら良かったね」

 

 愛羅が瞳のハイライトを消し、明らかなほどに不機嫌になっているのを見てかコクウは補足を付け加える。

 

コクウ「······『〇〇〇〇』の所を変な方向に勘違いしてそうだから言っておくが、『〇〇〇〇』に当てはまるのは『おひるね』だった。

 ついでに言っとくと字形は幼稚園〜小学1、2年生くらいの子供が書くような字だったから多分イタズラ好きな妖精さんの仕業だと考えてる」

 

 その説明を聞いたことで愛羅から発生していた殺気は消え、表情もいつも通りのものに戻った。

 

愛羅「······そっか。良かった〜ボク捨てられちゃうのかと思ったよぉ〜もう!」

 

コクウ「何言ってんだお前は? 俺がお前を捨てるのは俺がまともじゃなくなった時だけだ!」

 

 瞳を潤ませてコクウをポカポカ叩いている愛羅とそんな愛羅を撫でながら当たり前のように断言するコクウ。

 それを外というか横で見てる皐月達は「あれ? なんの話してるんだっけ?」と首を傾げていた。

 

シエル「えー、話戻しますけどOK?」

 

 二人にそう問いかけるが、周囲にぽわぽわと花が漂うほどにイチャついていて聞こえないようだ。

 シエルは額にシワを寄せ「話。戻しますね?」と、氷のナイフを二人の首元に出現させた。瞬間、二人は飛びのきぽわぽわオーラも収まった。

 

コクウ「ッ! すまん。······確か遅れた理由だったか」

 

シエル「そうですね。でも理由はお二人から聞きましたからそれは大丈夫です」

 

愛羅「そっか。コクウとサミちゃんの言い分の差異を調べるんだっけ」

 

 そう言って二人は厨房側に行って情報交換を始めた。ちなみに五月雨はコクウが正座で話し始めたあたりから食堂の外に連行され、事情聴取を受けていた。

 

 ······五分程経って二人が厨房から出て来ると、シエルは少し怒っているようで頬を膨らませていた。

 

シエル「私達二人で話し合った結果を発表します」

 

コクウ「結果によっては何か変わるのか?」

 

愛羅「本当にそうだったか言い訳だったかによっては怒るよ〜。主にシエルが」

 

シエル「······まぁお二人の言い分はほぼ相違なかったのでコクウさんにはお咎めなしです。お二人で事前打ち合わせとかをしていない前定ですけど」

 

 コクウが許された? ことにより空気が少し緩み、思い出したかのように食堂に「きゅる〜」と可愛らしい音が響き、全員がその方向に顔を向けた。

 そこには先程と違い恥ずかしそうに顔を赤くしている皐月がいた。

 

皐月「······お腹が空いてるんだからしょうがないじゃないかぁ〜」

 

 何故か瞳が潤んでいる皐月を見て、全員からぽわぽわオーラが出るほどに和んでいた。みんなかわいいものは好きなので致し方なし。

 数秒ほどその空気のままだったが、シエルが咳払いをして口を開いた。

 

シエル「コホン! まぁそうですね。なんだかんだ皐月ちゃんが来てから四五分くらい経ってますしみんな集まってるので私の能力が切れる前に食べましょう!」

 

 その一言で全員が改めて席に着き、掌を合わせる。

 

シエル「それでは、いただきます!!」

 

「「「「いただきます!!」」」」

 

 号令を皮切りに、全員が食事にがっつき、あっという間に完食してしまった。

 

コクウ「ふぅ。今日も今日とで美味かった。······それにしてもさっきからなんか大事なことを忘れてる気がしてるんだよなぁ」

 

愛羅「大事なことなら早々忘れるなんてこと······あ、そうだ! これがあるの忘れてた!!」

 

 愛羅はポケットから先程仔月光に渡された手紙を取り出した。

 

コクウ「ん? なんだそれ」

 

愛羅「大本営のおじいちゃんからの手紙というか業務連絡というか······とりあえず判子は押されてるから正式なやつを仔月光が持ってきてくれたよ」

 

コクウ「仔月光? あの時斬ったやつ以外にも連れてきてたのか?」

 

愛羅「あの時の子たちで全部だよ? コクウが上手く一機だけ残してた訳じゃないの?」

 

コクウ「あの時は敵だと思ってたから全部真っ二つのはずだ」

 

愛羅「じゃあ大本営から手紙を届けに来た子だね。この仔月光」

 

コクウ「そうなるな。それで? 手紙の内容は?」

 

愛羅「あー、それに関しては『新しい提督決まったから準備しておけ』みたいな感じのことだったよ」

 

コクウ「やっとか! ······で? 日時とかそのへんは書いてあったか?」

 

愛羅「······三時」

 

コクウ「······は? 何日後だ?」

 

愛羅「うん。本日の十五時頃に来るみたいだよ」

 

コクウ「···········はぁ!? あのジジイもっと事前に連絡寄越せよ······まぁ、決まったことならしょうがないと割り切るか。

 あと二時間後だし各自準備しとけよ」

 

 コクウはそれだけ言って準備のためか食堂を出て行った。

 他の面々も各自の準備をしに動いて行った。

 

 

 

 そして二時間後、「提督が鎮守府に着任します」と鎮守府内に放送が流れ、全員がエントランスに集合、整列した。

 この時、艦娘達は『どんな人が来るのか』と胸を弾ませていた。

 

皐月「そういえば、二人はどんな人が来るか知ってるの?」

 

コクウ「ああ、知ってるぞ。軽く腐れ縁と言える程には。

 ······到着したみたいだな。姿勢は正しておけ」

 

 コクウの言葉で緊張が走り、全員が足を揃え、背筋を伸ばす。

 「気を張りすぎるなよ」と自然体のままのコクウは言うが、艦娘達は変わらず緊張している。

 

 コンコン

 

 扉がノックされた後ゆっくりと開き、提督と思われる人物が入ってくる。

 

 その直後「ギャァァァ」と悲鳴が響きエントランスに鮮血が飛び散った。

 

 

 

 

 

 




 ここまでが本編1話となります。
 着任前まで書こうと思ったら内容はスカスカなのに文字数が結構増えてしまいました。ひとまず次はこの先を書こうと考えています。
 それと、できれば色々とコメント欄でダメ出しなどして頂けると助かります。

 ついでに所々の補足を少々。
 1つ目。最初の訓練で五月雨が使っていたのはコクウの刀『龍刀黒鉄(クロガネ)』です。
 2つ目。コクウと五月雨は倉庫にあったマット(体育とかで使うやつ)で一緒にお昼寝してました。その光景を見ていた主犯妖精さんは「兄妹のようだった」と後に供述していたそうです。
 3つ目。シャワー浴びに行ってた天龍は、結局お風呂にも入りのぼせていたところを、偶然食後に汗を流しに来た皐月により救助されました。
 4つ目。コクウ達を倉庫に閉じ込めた妖精さんですが、食事後にシエルが長々と説教しました。2つ目の供述もこの時主犯が言ってたことです。
 以上4つが補足となります。
 他に不明な点は考えてある所なら質問して頂ければ答えます。
 では。また次回


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RE·start:起床

《前回のあらすじ》
 コクウの指導のもと艦娘達の訓練が行われた。
 訓練が終わりコクウ、五月雨は片付け。皐月は食堂。天龍は浴場と別れる。
 食堂にて皐月、シエル、愛羅の三人が残りの三人を待ち、その間各々の暇つぶしをしていた。
 コクウと五月雨が食堂に到着。遅刻理由を聴取し、そのまま昼食を取る。
 待ってるときに仔月光が持ってきた手紙の内容を明かし、エントランスにて新提督を迎える準備に入る。
 新提督?が到着し入館。その直後に誰かの悲鳴が響き、鮮血が飛び散った。







 

 

 

 

 

 

ーside.??ー

 

 

 

「ん〜······ん?」

 

 

 

 俺はいつの間にか落ちていた意識を引き戻し目を開く。が、周囲は真っ暗で目が潰れているのかと思えるほどに何も見えなかった。その上、起き上がろうとしても金縛りにあっているかのように体が動かない。

 

 

 

 そのため、俺は一旦基本的な事から思い出して記憶を整理しようと考え、記憶を探るために再び目を瞑った。

 

 

 

(まず一つ目に自分の事だ。

 

 名前は結城 京。年齢は22歳。5歳の頃から親の虐待を受け初め、13の時に虐待に耐えきれず自殺を図り幻想入りした。その後色々あって18の時にこちらの世界に帰ってきて白虎こと虎坂 李白元帥·······当時は大将だった気がするな······に拾われ、当時の元帥との面談を経て白虎の鎮守府に提督見習いとして着任。二年後に当時の元帥が退役。

 

 それを継いで白虎が元帥になったのをキッカケに後釜として白虎の鎮守府に着任。その一年半後に起きた侵攻により鎮守府は消滅。所属艦もほとんどが轟沈し、俺はそこから半年間は廃人していたらしい。

 

 その後は特務憲兵の仕事を貰い、何人もの提督を取り締まっていた。

 

 ······とこんなものだろう)

 

 

 

 自分のことを大雑把に思い出した俺は、再び目を開いて辺りを見ようとするが、そもそも光が無いようでどの方向も全く見えない。目は動いたが、それ以外は未だに動かない。

 

 ······時間が経ったことで金縛りが解けるか少しでも朝日が登っていると思ったのだが······

 

 そう思いながら再び記憶の整理を再開した。

 

 

 

(次は······『深海棲艦の事と彼女らが出現したことで世界がどう変わったか』でいいか。

 

 まず最初。十年前にどこかの海が少し赤くなり、それから一年後くらいに漁獲量が減少。同時に銛を弾く大きな魚······多分イ級だろう······が出現し始めた。

 

 それから一年前後で海の魚は捕れなくなり全て養殖のものとなった。川魚は被害なしだったみたいだが、お高くなっていたそうだ。

 

 それから程なく第一次侵攻があったらしい。それにより各国は制海権を失い、ほとんどの国が空路での外交のみになったらしい。

 

 そして第一次侵攻から半年経って、空も危険になったらしい。多分空母とかが出現し始めていたんだろうが、幻想郷にいたからその時のことは知らん。

 

 空路を失ってからまた半年経った頃から所々で「妖精みたいなのが見える」と精神科に行く人が増えたらしい。

 

 それと同じ頃から深海棲艦彼女らに人型の個体が増え、最初の姫級が出現し、政府に交渉······と言っても「滅ぼされたくなければ従え」的なものだったらしいが······を持ち掛けたそうだが政府は断り当時最強と言われた女性が素手でその姫と戦い、引き分けの形で倒したそうだ。······その人は英雄と今でも語り継がれている。

 

 で、その姫を討ち取ってから海に現在の艦娘となる少女たちが出現し、初代元帥となる方に従って近海は奪還した。

 

 それから少しずつ抵抗する力を得て、なんやかんやあり、俺が戻ってきてから第二次侵攻があったり、明らかに人類側こちらが悪い事のせいで日本海が北西に広がったりしたが、一部の深海棲艦とは和解できたから結果オーライだと思ってる。

 

 ······こんなものか)

 

 

 

 と、思い出せたところで何かを探す声と「カツカツ」と規則的な足音が聞こえてきた。

 

 声の主は扉の開閉音と共に少しずつこちらに近づいているようだ。

 

 

 

(この声······たぶんコクウか? だとしたら何を探してるんだ?)

 

 

 

 そんなことを考えていると俺のいる部屋の扉が開き、部屋に入って来た者をコクウだと仮定して話しかけた。

 

 

 

ユウ「何を探し回ってんだコクウ? 

 

 あと電気つけてくれない?」

 

 

 

コクウ?「ユウ······起きてたのか。

 

 ······てかMPも尽きて目も見えてないはずなのになぜ俺だと分かったんだ?」

 

 

 

 この返答的にコクウで間違いないようなので、質問に対して「耳だ」と答える

 

 

 

コクウ「そうか······そうだな。確かに耳が聞こえてれば声で分かるか。」

 

 

 

ユウ「そゆこと。つか目を治してくれ」

 

 

 

コクウ「自力で治せるだろ」

 

 

 

ユウ「MPくれよ。そうすれば自分で治せる」

 

 

 

コクウ「そうだな。今渡す」 

 

 

 

 コクウは俺の額に手を当ててMPを流し込み、体内に循環させる。

 

 最低限入った辺りで「こんなもんで大丈夫だ」と言って供給を切り、目の修復を行う。

 

 

 

コクウ「それにしても使いすぎると一時的にMPの自動回復が無くなるのは面倒だな」

 

 

 

ユウ「本当に面倒なんだよな〜。っと、治った」

 

 

 

 俺は治した目を少しずつ開けると、最初に目に入ったのは明るめな灰色の天井と目が眩むほどの光を放つ照明だった。

 

 そのため、すぐに目を細めることになった。

 

 

 

ユウ「めっちゃ眩しいんだけど」

 

 

 

コクウ「すぐ慣れるから大丈夫だろ」

 

 

 

 それから間もなく目が慣れたのでコクウを正面に捉え、再び「何を探し回ってんだ?」と質問を投げた。

 

 

 

コクウ「探しものは見つかったさ。

 

 今、お前の両隣にいる奴らだ」

 

 

 

 「両隣?」と疑問を感じながら視線を下に向ける。するとそこには二人の天使皐月と五月雨が腕にしがみついてスヤスヤと気持ち良さそうな寝息をたてて寝ていた。

 

 

 

ユウ「······エッ何この娘達起きて早々に俺を尊死させる気なの? 可愛すぎてヤバいんだけど······」

 

 

 

 語彙力が死んでしまっているが、そんな些細なことは全く気にならない程に可愛いのだからしょうがないだろう?

 

 

 

コクウ「ユウ、表情緩みきって気持ち悪いことになってんぞ」

 

 

 

ユウ「!! すまん。気づかなかった」

 

 

 

 コクウに言われ、緩みきっていた表情を引き締める。そのついでに緩んでいた五月雨側の拘束しがみつきを外し、ポンポンと頭を撫でてから皐月の方を撫で始めた。

 

 

 

ユウ「そういえば、この子達起こすのか?」

 

 

 

コクウ「んにゃ、部屋に居ないから探してたってだけだ。今はルールらしいルールも無いからまだ寝てていいぞ」

 

 

 

ユウ「俺はもう目が覚めたから起きてるが······そういえば俺はどうしてこんなことになってるんだ?」

 

 

 

コクウ「まぁ、そのへんは説明する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういう感じで着任から起床までにあったことをさっくりと説明された。

 

 大体の流れとしては、着任時に凶化状態ブレイクモードだったため天龍に斬られて前のめりに倒れ、倒れた先で目にマデュライトの破片が刺さった。それにより失明し、傷も深めだったためコクウがこの部屋に運び込み、シエルが治療してくれたそうだ。目が治ってなかったのは(シエルが)気付いてなかったからだという。

 

 俺をここに運んでからは、結構な物資が届いたことと、夜に雷雨が降ったことくらいらしい。

 

 

 

ユウ「OK、理解した。あと腹減ってきたんだが朝飯は出来てるのか?」

 

 

 

コクウ「ああ、大して人数いない事もあってそこまでの量は作られてないが、食堂にあるぞ」

 

 

 

ユウ「了解。だが、移動するには皐月を起こさにゃならんから起きるまで空腹に耐えるとするかね〜」

 

 

 

 そんな会話をしていると、皐月が目を覚ましたらしく、大きな欠伸をしてから再び腕にしがみついた。

 

 俺の腕は抱き枕じゃないんだが······別に良いけどさ。

 

 

 

コクウ「待つのならこの後やる着任挨拶とかの計画立てるぞ」

 

 

 

ユウ「了解。でも起こさないように静かに話そうな?」

 

 

 

 こうして寝ている二人を起こさないように計画を立てていたが、それは即時で終わったので皐月を撫でながら雑談をしていると、「うみゅぅ」と言う声と共にモゾモゾと動き始めた。

 

 

 

ユウ「おはよう。皐月」

 

 

 

皐月「ふぁ〜、おはよう。コクウ······って司令官!? 勝手に司令官の布団に入っちゃってごめんなさい!!」

 

 

 

ユウ「気にするな。むしろ暖かくてよく眠れたから助かったよ」

 

 

 

 そう言って頭をポンポンと撫でると、皐月はシュンとした表情になる。

 

 

 

ユウ「俺はまだ着任してないから提督じゃない。······まあ、ともかく気にすんな!!」

 

 

 

コクウ「むしろユウの場合、嫌だったら振り解くとかして逃げてるから。

 

 振り解かずに撫でてるって事は多分どっちかというと喜んでるぞ?」

 

 

 

皐月「そうなの? ってコクウ!? いつからいたの!?」

 

 

 

コクウ「お前が起きる前からだ。

 

 ······それにしても皐月撫でてるときのお前慈愛に満ちた表情してたな」

 

 

 

皐月「そうなの?」

 

 

 

ユウ「知らん。そんなことより飯が冷めるから食べに行くぞ! 五月雨も起きてるしな」

 

 

 

 五月雨の額に軽くデコピンをし、頭に手を乗せる。すると、「気付かれちゃってましたか〜」と起き上がった。

 

 

 

ユウ「雑談の少し前から起きてたんだろ? 心拍数と呼吸。あと『意識の色』で分かった」

 

 

 

五月雨「『意識の色』? なんですかそれ」

 

 

 

ユウ「簡単に言うと感情だ。安らぎだけだったのに不安と興奮が少し混ざったから分かった。

 

 ······そんなことより朝飯食べに行こうぜ? 腹減った」

 

 

 

コクウ「まあ、そうなるな。冷める前に食べた方がシエルも嬉しいだろ」

 

 

 

 そうして布団から出て着替えた後各自で食堂に向かって歩いて行った。

 

 

 

 




 2話終了です。
 この話書き始めてから終わるまで一ヶ月くらい掛かってる気がします。
 自分の技術が低すぎて恨めしくなってきますが、区切りまではやり切ろうと思っているので、読んでくれてる方はアドバイスやダメ出しして頂ければと思います。


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朝ご飯。そして戦場へ


《前回のあらすじ》

 ユウが起きると金縛り+視界真っ暗で動くのを諦めて記憶を探り、自分の今までを思い出す。

 コクウが来てからなんやかんやで目が治り、周りを見ると五月雨と皐月が両腕をロックしていた。

 コクウがユウに寝てからの大雑把な流れを説明。それを聞きながら皐月の頭を撫でてると、皐月が起きる。皐月が起きたので行動開始するためにたぬき寝入りしていた五月雨を起こして各自食堂へ。

 

 


 

 

 

ーside.ユウー

 

 

 

ユウ「おはようシエル。朝ごはんは出来てるか?」 

 

 

 

シエル「おはようございます。師匠! 朝ご飯はできてましたよ」

 

 

 

 振り向いてこちらを視認すると同時に、にぱっとした笑顔に変わるシエル。

 

 何なんだろう······なんか『この笑顔を守りたい』っていう······庇護欲? が湧いてきたみたいだ。

 

 

 

ユウ「······? 『できて“た”』ってどういうことだ?」

 

 

 

シエル「その〜······怒りません?」

 

 

 

ユウ「怒らない······とは思うが事によっては怒っちゃうかもしれないな」

 

 

 

 その言葉を聞いて、悩む表情を見せるシエル。表情が可愛いがそれは一旦置いておき、聞き出すために今食堂に来たコクウを使うとしよう。

 

 

 

ユウ「······じゃあこうしよう。俺が怒ったときはコクウに止めてもらう感じにしよう。そうすれば安心だろ?」

 

 

 

シエル「······そうですね」

 

 

 

ユウ「だが、そもそもでお前が怒られるようなことをするとは思えないんだが······まぁいいや。とにかく教えてくれ」

 

 

 

 コクウに事情を伝え隣まで連れてきたので話すように促す。

 

 

 

シエル「その······楽しようと思って昨日のうちに朝食分を作って能力で保存しておいたんです。それでさっき取り出したら空っぽになっていて······更に食材も全部無くなってたんです」

 

 

 

 しゅんとするシエルを撫でようと腕を動かすと、怒られると思ったのかシエルは目をきつく閉じるが、お構いなしに頭を撫で回す。

 

 

 

シエル「······怒らないんですか?」

 

 

 

ユウ「俺にはどこを怒る必要があるのか微塵も分からないんだが?」

 

 

 

コクウ「ああ。『ただ楽しようとして昨日のうちに朝食作って保存してたのが朝来たら完食されたうえに食材も無くなってた』ってだけだろ?」

 

 

 

ユウ「食材なら買ってくればいいさ。

 

 だが強いて怒ってるとしたらシエルが作った料理を勝手に完食した犯人に対して怒ってるくらいだしな! ······ちなみに何人分くらい?」

 

 

 

 そう聞くと、少し考えてから答えが帰ってくるが、その時のシエルの顔は少し青くなっていた

 

 

 

シエル「えっと······全員の分プラス愛羅さんの追加分として二人分なので十人前くらいで、食材も含めると合計五十人前前後ですね」

 

 

 

コクウ「だいぶ良い物もあったから金額換算で170万くらいだな」

 

 

 

ユウ「うわぁ······結構な損失だな。······それにしても朝食が無いのはマズいから朝飯は食料調達ついでに外食にしよう」

 

 

 

シエル「外食ですか。······その場合鎮守府の警備とか防犯とかは大丈夫なんですか?」

 

 

 

 こうした疑問を投げられるが、即席ではあるがきちんとプランは考えてあるので「その辺は考えてある」と一言答えて一呼吸置いてから全員に向けて説明を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「行ってきまーす!!」」」

 

 

 

ユウ「はいよ〜。行ってらっしゃい」

 

 

 

コクウ「好きなもんたくさん食って無事に帰ってこーい」

 

 

 

 なんやかんやで『俺とコクウが鎮守府周辺の警備をし、残りのメンバーは外食及び食料調達をする』といった考えた通りのプランで動いてくれる事になったため、門前でみんなを送り出し、俺たち分の予定の行動を開始する。

 

 

 

ユウ「じゃ、そういうことで鎮守府の警備は任せた!」

 

 

 

コクウ「おう! 鎮守府の方は任せとけ。お前も海側頼んだぞ」

 

 

 

ユウ「ああ。ついでにシステムを流用した試作機の試験運用もするからなんかあったら助けてくれ! そんじゃまあ、試作艤装『code.ローレライLorReLie』出るぞ!」

 

 

 

 何か言おうとしているコクウを無視して逃げるように海へと駆け出し、まだ陸に近いうちに念のため艤装の動作確認をする。

 

 

 

ユウ「機関部······問題な〜し。スクリーンバイザー及び艤装靴は······一応大丈夫かな。次、航行能力······う〜ん少しコマンドにラグがあるな······これは後々修正しよう。武装は······スフィア弾とバリア以外は大丈夫そうだな。あとウィングの位置をもう少し上……魚雷と同じくらいの位置にしようかね?」

 

 

 

 点検終わったし近海哨戒してイ級辺り捌き倒してから帰ろう。

 

 そう考えて鎮守府への帰路を辿ろうとした時、バイザーからアラートが鳴り響いた。

 

 

 

『周辺海域に反応2。敵戦艦級1、友軍艦1。敵艦はル級フラッグシップ。友軍艦は神流型二番艦『天鎖』と思われます。なお、形勢は劣勢と予想されます』

 

 

 

ユウ「······了解、『天鎖』の救出に向かう。『ローレライ』メインシステムを起動し実戦モードに移行。戦闘に入る」

 

 

 

『了解、起動シークエンス開始······ID認証······マスターコードを確認。メインシステム起動します』

 

 瞬間、灰色だった機体が蒼く淡い光を纏い、重力によって垂れ下がっていたオールもふよふよと動き出した。

 

『システムの起動を完了。擬似人格形成······完了。アップデート······完了。仮人格を破棄し、再起動······完了しました。これより主人格にコントロールを移します············』

 

 (順々に進んでるし······ひとまず問題は無さそうだな······俺も自分のチェックしながらにしよう)

 

ロレ「······コントロール受け取りました。遅くなってごめんなさい」

 

ユウ「問題ない! ······では改めて『神流型番外艦。code.ローレライ』これより友軍の救援に向かう!!」

 

ロレ「了解。······できる事は少ないと思いますが、全ての武装に接続して父さまのサポートをします!」

 

 ローレライに父さまと呼ばれ擬似人格が少し予想と違う形なことに驚きながらも最高速度で天鎖の下へと駆けていく

 

(それにしても擬似人格をランダム設定するとこんな感じにもなるのか······面白い。

 ······それにしても父さま呼びは驚いたが、一度設定したらフォーマットしない限りはほぼ固定だからこれ以降どう変わっていくか。そして何が隠れているのか楽しみだ)

 

 そんなことを思いつつ海面を滑走していると、不意に飛んできた砲弾を食らってしまった。

 

ロレ「二時の方向から砲撃が着弾。バリアによりダメージ無し! 砲撃の威力からして駆逐艦です!!」

 

ユウ「救出の邪魔をされるのは困る。······先にそっちを狩るぞ!」

 

 言いながら艤装から一対のオールを外し、二刀流の構えを取る。

 そして敵駆逐艦······イ級から放たれる砲撃を弾き回避しながら距離を詰める。

 

ユウ「······獲ったッ!」

 

 両手に持つオールで一太刀ずつ入れ、イ級の先へ抜けていく。

 

ロレ「ナイスキルです父さま♪ でもどうして三枚おろしにしたのですか?」

 

ユウ「朝飯食ってないからなんとなく思い付きで斬ったらあんな事になっただけだ。······後で回収しようと思ってるが、無くなってたら諦めるつもりだ」

 

 

 

 言いながらル級の砲撃を天鎖との間に滑り込みスフィアバリアで防いだ。

 

 砲弾をバリアで受けたことで爆風が発生し吹き飛ばされそうになったが、足を水面に固定してなんとか耐えた。

 

 

 

ユウ「よう天鎖! 助太刀に来たぞ」

 

 

 

 

 

 





 ローレライの装備などはある船を基に書いてるのですが、勘のいい人とかその船が出る作品やってる人にはわかるかな〜と思ってます。キャラはなんとなくで作ってますけど······
 あとここ最近思ったんですが、変に小説っぽい文章にすると筆が進まないのでそういう方向にこだわり過ぎないほうがいいのかなと。どうせ駄文なのだからと。ですが、コツコツと書いてはいるので最新話があがってたらサラッと読んでコメント等頂ければ嬉しいです。



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回収。そして戦闘

《前回のあらすじ》
 食堂で朝ご飯のつもりが、一夜にして食料品が無くなっていた。
 それにより朝ご飯が食べられなくなったため、鎮守府のメンバーを2つに分けて行動を開始した。
 コクウは鎮守府の警備。ユウは近海警備+試作機の試験運用。その他のメンバーは食料調達と朝食(外食)に出た。
 そして、ユウは試験運用中に神流型の友軍艦。『天鎖』の反応を確認。救出に向かうのだった······




ユウ「よう天鎖! 助太刀に来たぞ」

 

天鎖「助太刀か······リロードができずに弾切れで攻めあぐねていたから助かる。······それはそうと何故ここに?」

 

ユウ「この艤装······code.ローレライの試験運用をしてたらお前がいたから助太刀に来たんだが······さっき倒したイ級からドロップが発生したみたいだから少しだけ離脱したい。回収してくる」

 

天鎖「了解した。······中破ではあるがあの程度の相手を引きつけるくらいなら造作もないさ。弾切れで反撃できなかっただけだしな!」

 

 すぐ戻る。とだけ返し、イ級の三枚卸もといドロップ反応の地点へ向かう。

 そして、ドロップ地点の光を視認すると同時にローレライに指示を出す。

 

ユウ「コクウに通信繋いでくれ······出来れば『ドロップ艦の回収頼む』って連絡入れてくれるか?」

 

ローレ「分かりました! あとドロップ艦に艤装の反応が無いので着水までに回収しないと溺れる可能性があります!!」

 

ユウ「了解した! ······でも流石に溺れるは言いすぎだろうけどね」

 

 ローレライが言った「溺れる可能性がある」というジョークに自然と笑みが漏れる。

 ドロップ地点に着く寸前、光の粒が集まっていき、ひとつの形となって産まれた。

 

「暁よ。一人前のレdゴボボボボ」

 

 そして海へと落ちて、溺れないようにもがくのを見て俺は放心していた。が、直後のローレの言葉で引き戻される。

 

ローレ「父さま早く引き揚げてください! 暁ちゃん溺れちゃいますよ!!」

 

ユウ「······あ、え? 嘘、思ってたよりすぐ落ちた······ってそっか早く引き揚げなきゃ!」

 

 慌てながらも急いで暁を引き揚げて抱える。暁は相当疲れたようでくたっとしている。

 

ユウ(······これだけ疲れている娘にアレ使うのはどうかと思うけど······うん。帰投してから謝ろう。天鎖の助太刀に暁を抱えて行っても無駄に被害を増やすことにしかならないし、コクウに連絡済みだから長い間空にいる事にはならないだろうし、回収してもらうか)

 

 暁に安全用の落下防止器具を順々に付けていき、全部つけ終わった辺りで暁がため息交じりに口を開く。

 

暁「もう······なんなのよー」

 

 正直結構気が滅入っているのが見て取れるため罪悪感が半端ない。そのため心の中で何度も謝りながらも装置を起動する。

 瞬間、暁に付けたバックパックから風船が飛び出し膨れ上がる

 

ユウ「空の旅へ······行ってらっしゃい」

 

 暁は驚いた顔をしていたが、「ぴゃぁあぁぁぁぁ」という断末魔を残して一瞬のうちに大空へと吸い込まれ······吹っ飛んでいった。

 その後、プカプカと海面を漂っていたイ級の身(三枚に卸した内の二枚)にも装置を付け、空へと飛ばした。

 そうして回収が終わったため、急いで天鎖の下へと滑走(はし)る。

 

 

 

ローレ「お待たせしました! 大丈夫ですか? 姉さま」

 

天鎖「!? ······大丈夫だ! 被弾していない!」

 

 姉さまと呼ばれて一瞬頬が緩んでいた天鎖だが、すぐに表情を引き締めてこちらに合流する。

 

天鎖「ひとまずはリロードできるまでの時間稼ぎを頼みたい。だが倒せるようならば倒してくれた方が助かる」

 

ユウ「了解! 仕留めるつもりでやってくるが、無理だった時は頼む」

 

 即座に作戦会議で方針を決めた二人は互いに頷き、行動に移る。

 天鎖は自己充電+弾薬補充の為に動きをゆっくりしたものに変え、ユウは敵との距離を縮める為に星型弾を連射し牽制しながら接近していく。

 

ユウ「なあ、ローレライ。星型弾全部弾かれてないか?」

 

ローレ「はい。見たところ全弾あの盾みたいな主砲で弾かれてますね」

 

ユウ「だよな。ま、武装の威力確認できるし良いだ······ろ!」

 

 言いながら右足で空を蹴る。

 瞬間、艤装靴に付いていたポップなウィングが外れ、何倍かに巨大化しながらル級目掛けて飛んでいく。

 だが、ル級は危険を感じたのか、警戒しながら左方向に避ける。

 すると、追尾したかのようにウィングも左に曲がってル級の左腕を切り落として靴へと戻ってきた。

 

ユウ(おっけ。ウィングブーメランは予想以上の物になったな······それにしても流石はフラッグシップ。すぐに落ち着きを取り戻して反撃入れてくるあたり戦場慣れしてる······)

 

ローレ「ウィングに破損無しです!」

 

ユウ「おう、じゃあ次はオールレイン行ってみようか。構え!」

 

 艤装に付いていたオールが全て外れて宙に浮き、ピタリと切っ先を正面に向けて号令を待っている。

 

ユウ「っし! 撃てェ!!」

 

 号令と共に上げていた右腕を振り下ろし、オールが一本ずつル級へと向かっていく。

 ル級はそれを(主砲)で防いで受け流す。

 だが、五本目のオールが盾に当たったとき、オールは盾を砕いてル級の胴体に突き刺さり、それに続いて六本目のオールも腹部に突き刺さった。

 

ル級「ガアァァァァ!!」

 

ユウ「これなら仕留められそうだな。······それにしても、四本も受け流されるのは予想外だったし後で全部高周波にカスタムしたほうがいいか?」

 

 改造案を考えている中、ル級の体から黒いモヤのようなものが発生し始め、それと共にル級がこの世のものとは思えない程の絶叫をあげて苦しみだした。

 

ローレ「······父さま? オールになにかしましたか?」

 

ユウ「いや、全くといっていいほど何もしていない。だがなんとなく嫌な予感がするな。天候的にも······全弾使って早く仕留めるぞ!」

 

 ル級から黒いモヤのようなものが発生しだしてから快晴だった空に雨雲が集まり、ぽつぽつと雨も降り始めていた。  それに不安を覚えたユウは全武装を使ってでも仕留めるべきだという判断に至った。

 

ローレ「了解です! オールレイン再セット。スフィア弾も通常弾、追尾弾共に展開! 撃ちます!!」

 

 ローレライが展開した弾はほとんど誤差なくル級に向かっており、二発目の展開も終わっていた。

 そして着弾する寸前、空が光りル級に雷が落ち、それにより水蒸気が発生してル級が見えなくなる。

 

ユウ「落雷だと!? ローレライ! 敵艦の反応はどうなってる!?」

 

ローレ「不明です! あとオールが落雷により一本を除き全て消滅。それにより実弾武器が無いです!!」

 

ユウ「これで倒せてなかったら天鎖のリロード終わるまでにオールで斬るか。

 ······硬いのは盾だけだろうし本体には通るだろ」

 

 戻ってきたオールを構え、水蒸気が晴れるのを待つ。

 そして水蒸気が晴れると、そこには先程までのダメージなどもとからなかったかのように五体満足の状態でル級が立っていた。

 だが、最初と違い纏うオーラは黄色のものから禍々しい程に黒いものとなり、主砲の盾も金色の結晶のようなもので覆われており、さらに海中で微かに脈動するチューブのような物が足元から伸びていた。

 

ユウ「············いやちょっと待て落雷ひとつでどうしてそんなことになった!? それになんか目に光が無いしって危ねぇ!!」

 

 ツッコミを入れている最中にも砲撃を受け咄嗟に回避したが、その砲撃も火力が数段上がっているように感じた。

 

ローレ「······父さま。どうにか勝てそうですか?」

 

ユウ「あー、なんとか行けそうだとは思うがちょっとあのチューブみたいなのが怖いかな。あれはヤバそうに見える」

 

ローレ「接近したらあれで絡め取られそうです」

 

ユウ「最悪スキマが使えれば背後に出てバックスタブ出来るんだけどな」

 

ローレ「ばっくすたぶ? はわからないですけどスキマは私のワープ機能でなんとかできませんか?」

 

ユウ「あ······そうだな。じゃあcodeの制限外してそれにするか! ってことで『グランドマスター権限の使用を申請、パスコード【CROWN】。code.ローレライに真名の使用を許可する』」

 

ローレ『パスコード承認。権限の使用により、真名【天翔ける船 ローア・レプリカ】を起動。異空間ロードのロックを解除。使用可能になりました』

 

ユウ「これでよし! 行くぞ!」

 

ローレ「アンロック直後なんですから注意してくださいね! 父さま」

 

 そうして異空間ロードを通って背後に回り、ル級の首に(オール)を突き立てる。

 だが、当たる直前にル級の首に生えてきた金の結晶に阻まれてオールがボキリと折れた。

 

ユウ「············嘘だろ!? これじゃ仕留めようが無くガフッ」

 

 斬撃に全体重を乗せるために跳んでいたせいで、振り向きざまにル級が放った蹴りの衝撃で水切り石のように海面を跳ねる。

 

ユウ「あー、クソ! こうなりゃ玉砕覚悟のスフィアタックルでぶつかってやる!」

 

 まともにダメージを与えられる装備が無くなり自暴自棄(ヤケクソ)になったユウは考えることをやめ、特攻に走った。

 だが、ル級に突撃している最中、天鎖から通信が入る。

 

天鎖『待たせたな! リロード終了だ』

 

ユウ「!! 了解。じゃあ俺が突っ込んだタイミングで撃ってくれ」

 

天鎖『巻き込んでいいんだな? 了解。死ぬなよ』

 

 通信を切り天鎖は深呼吸をして心を落ち着かせて、勢いの強くなった雨風のなか慎重に狙いを定めながらその時を待つ。

 そして、ユウとル級が衝突したと同時に引き金を引く。

 それにより砲塔が回転し数え切れない程の弾丸が放たれ、ル級は横からの弾丸の雨に呑み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 それから砲身がオーバーヒートによって停止して弾丸の雨が止むと同時に、先程までの嵐は弱まり、空には陽光が戻り海も何もなかったかのような落ち着きを取り戻していた。

 

天鎖「······さて、ル級の反応は消滅したが······ローレライの反応はないがあいつのことだ。どうせ無事だろう」

 

「謎に信用されてるんだねぇ〜。俺」

 

 声と共に背後に星型の穴が開き、そこからユウが現れた。

 

天鎖「ああ、やっぱり生きてたな。それで、反応がなかった理由は何故だ?」

 

ユウ「んー? ローレの機能のひとつで『異空間ロード』に入ってこの世界から離れていただけだ。

 そういえばひとつ気になってたんだがお前はなんでこんなとこにいるんだ?」

 

天鎖「答えとするならば······そうだな······『はぐれた娘を探しに来た』か?」

 

ユウ「······ま、おおまかには理解した。

 ······その娘さんは確実にこの辺にいるのか?」

 

天鎖「いや、あのル級のせいで反応は見失った。だが昨日からの潮の流れから考えてこのあたりに来てるのは確実なんだが······」

 

 そこまで言ったところで天鎖がふらりとよろけ、ユウがそれを支えに入る。

 

ユウ「大丈夫か? ひとまず近くに俺が提督をやって············これから着任する鎮守府があるからそこで休んでけ」

 

天鎖「済まない。この状態ではまともに動けないからな······お言葉に甘えさせてもらう」

 

ユウ「問題ない。ローレ、鎮守府に連絡して天鎖も行くことをコクウに伝えてくれ」

 

ローレ「了解です!」

 

ユウ「さ、行くぞーって寝てるし」

 

ローレ「しょうがないですよ。三日前からずっと動き回ってたみたいですから」

 

ユウ「なんでそんなこと······ログに残ってるのか。ま、三日間ぶっ通しは辛かったんだろうし、さっさと帰って色々やるか!」

 

 そうしてユウは天鎖を抱えながら帰路につき、同時に空腹を思い出した腹の虫が泣いたことで「そういえば朝飯食ってないしもうじき昼だな」とそんなことを呟いた。

 

 

 




)あとがきもどき(

 本編4話ですね。
 本来ならもう少しサクサクっと書くつもりがこうなりました。でも俺にしては早く書き終えられたので良かったです。
 コメントなどはどんどんください。それによって良い作品になっていくかもしれないですのでぜひよろしくおねがいします。





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報告会。そして事情聴取



《前回のあらすじ》
 天鎖の救出に向かったユウだったが、その前に倒していたイ級からのドロップを確認、ドロップ艦を回収してから敵艦との戦闘を開始。
 ローレライの殆どの武装を用いて撃破に取り組むが失敗しピンチに陥る。が、天鎖が戦線に復帰したことにより撃破に成功し、鎮守府への帰路についたのだった······



 

 

 

 鎮守府のある部屋でユウとコクウ、愛羅の三人がいつもより少し真剣な顔でテーブルを囲んでいた。

 

ユウ「······ということで、俺を司会として各班の報告会を始めようと思う。ではまずは······愛羅でいいか?」

 

 ボクからか〜。と少し嫌そうな顔をする愛羅だが、すぐに表情を元に戻して話し始めた。

 

愛羅「まず遠征結果。食材関係をざっくり一週間分くらい買ってきたよ。これは経費で落ちるんだよね?」

 

ユウ「それは経費だな。······で? むしろ朝飯は何食ってきたんだ? そっちの方が気になる」

 

愛羅「朝食はたまたま目についた料亭で食べてきたよ。

 みんな特にこれと言ったものを挙げなかったから、半ばボクが勝手に決めたんだけど結果的には喜んでくれたからよかったよ〜。

 ······朝食分て経費?」

 

ユウ「NO。経費じゃないが元々俺が出すつもりだったから後でレシート頂戴。······他にはなんかあるか?」

 

愛羅「食材のついでにみんなの分の私服と娯楽系の物を買ってきたよ。服は4着ずつくらいで、娯楽系はトランプと人生ゲームとオセロ。その他プレステとソフト何種類か買ってきた!」

 

 ニコニコと報告してくる愛羅だが、流石に買った物の量が多すぎる。娯楽が多いのはいいことだと思うのだが鎮守府に所属する人数の点を考えても娯楽はひとつ。多くても二つあれば十分であるため、少し叱る意味も含めた言葉を返す。

 

ユウ「······別に駄目とは言わないが一度に買い過ぎだ。これだけあれば娯楽に困ることはないが事前に俺達に連絡、相談してからでも良かったんじゃないか?」

 

愛羅「あ······ごめん。やっぱり買い過ぎだよね。うん、なんとか返品してくるよ!」

 

ユウ「してこなくていい。飽くまで買ってくる量が多すぎ、タイミングが早すぎると言ってるだけで後々このくらいは揃えるつもりだったしな」

 

コクウ「金に関しては三人で出せばいいか? 一応戒めの意味を込めて洋服及び娯楽代の半分を愛羅が出す形で」

 

ユウ「今回はそのくらいで良いとしよう。他に報告するようなことはあるか?」

 

愛羅「うん。皐月ちゃんが拉致されそうになったけど、五月雨ちゃんが対処したみたい。あと、犯人は逃げた後にシエルが処理したらしいからユウは動かなくて大丈夫」

 

ユウ「ふーん、処理したんだな。なら問題ないな······他は?」

 

愛羅「ボクからは以上だよ。次はどっちがやる?」

 

ユウ「じゃあ大して言うこともない俺がやるか。

 俺から報告することは、試作艤装の試運転中に戦闘して武装が壊れたから修理中ってこと、あと戦闘の時に艤装なしの暁をフルトンで回収したこと。戦闘後に天鎖を使用者含め回収し、使用者は鎮守府の一室で寝かせて艤装は調整中だ。

 以上が俺からの報告だ」

 

愛羅「ホントにすぐ終わったね······じゃあ次はコクウだよ」

 

コクウ「ああ。俺からは······暁が今朝の食材の件の犯人見つけたことと大本営から色々と情報が来たことくらいだな」

 

ユウ「犯人は見つかったのか。今どこに閉じ込めてる?」

 

コクウ「動いてなければ憲兵詰め所(俺らの部屋)。動いてても鎮守府から出るなと言ってあるから鎮守府内だろう。

 まあそっちは後回しにして大本営からの連絡等を話す。

 まずは業務連絡として、数名の艦娘をウチに着任させるらしい。あと警備の部隊も一緒に来るそうだ。ちなみに今日の15時頃に着くってよ」

 

愛羅「元帥(白虎)はホントにいつも直前で連絡するよね······文句言った?」

 

コクウ「ちゃんと言っといたから次以降は無いといいんだけどな。

 ······次に鏡夜からの連絡で『空間が不安定な場所が増えてるから少しのキッカケで異世界のモノが来るかも』ってのと、『一部地域で風邪のような症状が増えていて、その地域には赤い花が大量発生している』ってことの二点だ」

 

ユウ「赤い花······風邪のような症状······なんだろう少し覚えがあるような無いような······ま、いいや。これで報告することは全部だな。では、報告会を終了とします。お疲れさまでした」

 

 お疲れさまでした。と形式上会釈で報告会を締める。

 そして、三人は犯人と対話するために憲兵詰め所の前に来ていた。

 

ユウ「さて、犯人さんとのご対面なわけだが······コクウ、さっきの言い方的に知り合いか?」

 

コクウ「ああ、知り合いだ。······俺ら三人どころか時坂たち含めて共通の知り合いだ」

 

ユウ「あー、三人共通の知り合いって辺りで大体誰か分かったわ。とりあえず部屋入るか」

 

 ドアノブに手をかけて扉を開ける。

 だが、少し開いただけで心霊スポットに来た時のような寒気のようなものを感じたものの、気にせずに扉を開いて部屋に入る。

 犯人はソファに座ってテーブルの煎餅をぽりぽりとかじっていたが、部屋に入った俺たちに気づいて声を掛けてくる。

 

??「あら。ユウちゃんひさしぶりね〜······愛羅ちゃんも元気してたかしら?」

 

愛羅「うん! お陰様で僕はずっと元気だよ幽々子♪」

 

ユウ「俺もお陰様で未だに元気してる。だが現状それはどうでもいい。

 まずなんでアンタがこっちに居る? それに作ってあった料理だけでなく食材まで全部食ったんだ? せめて俺にひと声かけてくれれば調理できたのに······理由を教えてくれ。幽々姉」

 

 幽々姉に事情を聞いた結果、妖夢が家出してしまい、自炊してみたり食事制限したが、美味しく作れないしお腹が満たされないしで何日か生活していたらいつの間にかここに居た。ということらしい。

 

ユウ「うーん、妖夢が家出した理由······そこが謎。というかほんとに家出?」

 

幽々子「ええ、何も言ってなかったし、書き置きも無しに居なくなったの」

 

ユウ「ん······だいたい分かった。とりあえず俺らはともかく、他の奴らに一応謝って、それからは妖夢が帰ってくるまでは大本営かウチに居てもらう形でいいか?」

 

 これでいいか? とコクウたちに目配せし、二人はコクリと頷いた。

 

愛羅「それじゃあまず皆のところ行って謝ろう! そろそろお昼だし丁度いいよね!」

 

 愛羅がそう言った瞬間、狙っていたかのように『お昼の用意ができました〜』と放送が入り、幽々姉をエスコートしながら四人で食堂に向かった。

 

 このあと食堂で謝ったが、全員が「結果的に外で食べられたからいいよ」って感じの答えを返し、幽々姉は暁たちに囲まれて仲良く昼食を取っていた。

 ちなみにその光景を見て俺はかなり安心(ほっこり)していた。

 

 

 





)あとがきもどき(

 やっと五話です。
 次回は昼食後からスタート予定です。
 文章がしっくり来なかったりモチベが上がらないときが多かったのでこうなりました。
 次回はなんとか早く挙げられるといいなと思ってます。





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歓迎会。それと顔合わせ

《前回のあらすじ》
 行動の報告会を行なったユウたちは、食材消失事件の犯人に事情聴取を行ってから犯人である幽々子を連れて昼食を取りに食堂に行って、結果的に幽々子と鎮守府メンバーは和解して食卓を囲んだ。

〉報告会の内容〈
 外出班は朝食を食べに行きそれと一緒に一週間分の食材と私服や娯楽系のものを購入。うち娯楽系のみ三人の割り勘となった。
 同じく皐月が拉致されかけたが五月雨達により阻止したことで被害なし。
 ユウはローレライを修理中ということと暁と天鎖を回収したことの二点。
 コクウは業務連絡と犯人発見等の話や噂の話。 以上!



 

 

 時刻は午後五時半ごろ。

 ユウは執務室で、予定より二時間ほど遅れて到着した数名の艦娘の書類を確認。整理し、遅れた理由とそれによって出た被害の処理をしていた。

 

ユウ「さて、各員行動に移ってくれ。

 だが作業中でも夕飯に呼ばれたらそっち優先で動いてもらう。

 理由として、夕飯の時に顔合わせと軽い歓迎会をするから、今日だけは夕飯最優先と思っておいてくれ」

 

 了解! と元気な返事をして彼女らは退室し、各自の行動に向かった。

 そんな中、一人の艦娘が再び執務室に入って、ユウの向かいに立つ。

 

ユウ「どうした? 自由時間でいいんだぞ? ············時雨。」

 

時雨「自由時間だからこそ、提督が書類仕事してるし、手伝おうかなって。臨時秘書艦みたいな感じでさ。あと今の間は何?」

 

ユウ「コードネームの方で呼ぶべきか迷っただけだ。

 手伝いに関して、気持ちはありがたいが、流石に着任直後のやつに手伝わせるのも悪いからな······」

 

時雨「問題ないさ。僕自身、あっちの鎮守府でもよく臨時秘書艦してたしね。

 それと、コクウに聞いたけど提督だって、正式に着任してから五時間程度だよね?」

 

ユウ「提督と艦娘の差があるだろ。······でもまぁ、早く終わらせたいし手伝い頼むわ」

 

時雨「了解。じゃあ残ってる書類半分くらい貰ってくね」

 

ユウ「任せた。つっても簡単でいいぞ。どうせ白虎と美羽姉ぇくらいしか見ないだろうし、手紙くらい簡単で十分だ」

 

 それから二人で、黙々と集中して書類を処理していき、元がそんな多くないこともあり、書類は五分程で全て処理が終わった。

 時雨は終わってすぐに「お疲れ様」と言葉を残してどこかに行ってしまった。

 ユウは予想より数段早く終わってしまい、呼ばれるまでは暇であるため、何をしようかと頭を悩ませていた。

 

ユウ「さて、どうするか。やることなくなっちまった」

 

 誰もいない部屋でぼそりとつぶやく。すると、それに合わせたかのように、コンコンと扉がノックされる。

 「どうぞ入って〜」と返すと「お届けものよ〜」という声と共に扉が開かれ、紅い鞘に収まった鍔のない刀を持った幽々子が部屋に入ってきた············

 

 

 

 それから数分後、屋外運動場から金属同士が打ち合う高い音が響く。

 運動場にはユウとコクウを中心に、鎮守府のほぼ全員が集まっており、二人の試合を少し離れて見ている状態である。

 そんな一団の中で、三人の艦娘がぼそぼそと話し合っていた。

 

天龍「······なあ皐月。一応太刀筋が見えてるんだが、オレの目が速度に慣れたってことなのか?」

 

皐月「うーん、多分あの時のより遅いよ。あの時のサミさんの刀は、『早く振る』のをメインにしてたけど、今回のは提督もコクウも実戦形式って言ってたから、割と本気で斬りに行ってると思う。······だから少し遅く見えるのかな?」

 

五月雨「多分お二人とも手加減してるんですよ。私達でも見えるように······って遅く振ってるんです。本来ならあの時の私より速く、正確な太刀筋になりますから」

 

 そんな会話をする三人。その他集団も、応援したり分析していたりと楽しめているようだ。

 そんな中、二人······幽々子と愛羅だけがおかしいなと首を傾げていた。

 

愛羅「ねえ、幽々子。あの二人ちょっと調子悪いのかな? なんか普段よりすごく遅いように見えるんだけど······」

 

幽々子「やっぱりそうよね〜? ······キレもないし、遅いと思ってたのよ〜」

 

 二人は聞こえないよう、コソコソ話していたのだが、二人には聞こえていたのか、一度打ち合いが止まった。

 

ユウ「さてェ、フザケは終わりにして、そろそろ真面(ガチ)目にやろうぜ〜」

 

コクウ「だな。そろそろこっちから吹っ掛けようかと思ってた所だ。」

 

ユウ「んじゃ、行くぞ!」

 

 瞬間、ユウの刀が先程幽々子が届けていた紅鞘の刀に変わり、その間にコクウも一度刀を納め、互いに構える。

 そして一瞬、ピタリ。と時が止まったかのように静止し、再び金属音が響く。

 

愛羅「なーんだ、刀の問題だったんだね。それならここから先は楽しくなるかなっ」

 

幽々子「そうねぇ〜。でもあの二人だと衝撃波とか剣圧で周りに被害が出そうよね〜」

 

愛羅「確かに······でも、もう数分としないうちに夕飯に呼ばれそうだから大した被害は出ないと思うよ? 多分······」

 

 先程を超える絶え間ない剣戟の応酬。それはまるで、ひとつの音楽のように周辺の地域に響き渡っていた。

 それから約五分後、「ご飯ですよー」と放送が流れる頃には、衝撃波で運動場の地面が抉れ、ギャラリーも剣圧で何人かに小破前後のダメージが入っていたりと、結構なことが起こっていた。

 

((やべぇ、楽しすぎて加減忘れてた!!))

 

 当の惨事を引き起こした二人は、多少なりとも反省しているようで、コクウはトンボで砂を慣らし、ユウは小破している艦娘達を集めて、中心に円筒状の機械を設置した。

 円筒状の機械は設置されると、その上半分が開き、霧のようなものが吹きして艤装の損傷部があっという間に修復された。

 

五月雨「お兄さん! 何なんですかこの機械!?」

 

ユウ「これ? とある組織の武装を模倣したやつ。今回初使用だからちゃんと艤装が修復されていることに驚いてるよ」

 

 驚きと興味で質問する五月雨に、簡単に答えを返すユウ。他の子たちも目を輝かせており、中には艤装に装備できないかと聞くものもいた。

 

愛羅「はい、治った子はどんどん食堂行って〜! シエルちゃんは怒ると怖いよ〜!!」

 

 そうして、全員が食堂に集まったのは放送から三十分程経った頃だった。

 だが、テーブルに並べられた料理たちは、出来立てのようにホカホカと湯気を立ち上らせている。

 

シエル「さて、皆さん集まりましたし頂きましょう!」

 

 全員が席に着くとともに、シエルが号明るい笑顔で、いただきますと号令をかける。その表情を見たユウは、シエルに食堂任せて正解だな。と思ったことを呟いた。

 

幽々子「ホントに美味しい! いくらでも食べてられそうだわ〜」

 

ユウ「流石に食材にも在庫ってもんがあるから限度を持ってくれ。そうしないと主に金銭面でヤバくなる」

 

 本当に延々と食べそうな幽々子に、一応軽めに釘を刺す。

 えー。と残念そうな表情を見せる幽々子に、シエルはいつでも食べに来てくださいね。と言葉を掛けた。

 ちなみに幽々子の分は鎮守府メンバー全体の一食の材料を使っているため、今回は全体で二食分の食材が消費されているそうだ。

 

 

 それから幾らか時間が経ち、大体の皿が空きはじめた辺りで、ユウが上座に立って、話を始める。

 

ユウ「さて、そろそろ新任組の自己紹介タイムでもしよう。詳細はともかく代表一人が全員分の軽い紹介で頼む。詳細は個人同士で聞くこと」

 

時雨「全体の簡単な紹介なら僕が適任だろうし任せて。

 まず僕、琉球鎮守府から異動してきた駆逐艦の時雨。同じく第二鎮守府から夕立と不知火。正規空母の瑞鶴。

 次に大本営からは骸、海風と太刀風、あと新人の清霜。計七人と一機だよ」

 

 時雨の言葉に合わせて、名前を呼ばれた娘たちが一人ずつ、手を挙げたり立ち上がったりと反応する。

 

ユウ「······? 時雨、これで全員か? 白虎からの連絡では全八人と二十六機と聞いたが······」

 

時雨「あと一人と二十機前後はもうじき来ると思うよ。多分、途中で見かけた厄介事に付き合ってるんだろうね」

 

ユウ「厄介事?」

 

 問うとともにユウは目を細める。

 それに対し、心配する必要はないよと前置きしてから時雨は説明する。

 

時雨「来る途中で、火災を見かけたんだけど、消防も来てたから僕達は素通りして来たんだけど多分そこて救出活動してるんじゃない?」

 

ユウ「それなら仕方ないな。とりあえずそいつらの紹介ははまた後でいいか」

 

 すぐ来るだろ。と結論付けて話を締め、自分の席に戻る。

 そして、席に付くと同時に食堂内にピリリリと着信音が鳴り響いた············

 

 

 




)あとがきもどき(

 (待ってる人はほぼいないと思うけど)大変お待たせしました。
 リアルが幾らか忙しかったり、モチベが低かったりとありました。
 とりあえず、これからのストーリーは元名のように自由に。好きなように書いていこうと思っています。できるかは別ですけど。
 それと間を空けすぎたお詫びとして、オリジナルで書いていたのを一つ挙げておきます。
 では、次回をお楽しみに。





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