ゴミでカスなクズトレーナーは今日も今日とてウマ娘を虐待する。 (カチュー)
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#1 虐待こそ至高。異論は認めない。

キタサン完凸記念に投稿。ウマ娘楽しすぎんよぉ……!


 爽やかさもクソもない生暖かくなった初夏の風が吹き抜ける夕暮れ時。

 

 そんな中、オレは何度も急傾斜な坂道を往復ダッシュしているウマ娘を眺めている。

 

 そう、オレは有望なウマ娘を輩出する超名門であるトレセン学園の一トレーナーである。オレがトレーナーを志したきっかけはただひとつ。

 

……かわいい女の子の苦痛や苦悶で歪む表情を間近で見るのがたまらなく大好きだからだよお! そこに耳や尻尾がついていたら尚のこと最高! フゥハアアアハハッハッハ!

 

 そんなゴミでクズな俺の願望を合法的に満たせる職業がウマ娘のトレーナーになることだった。だって、『調教』っていうマジックワードで何でもさせられちゃうんだぜ。

 おいおい、ちょろすぎんだろ。神はこんなゴミカスにも平等に生きる喜びを与えてくれるってんだからなあ!

 

「あ、あの……お兄さま」

 

「ん、ああ。ライスか」

 

 人には決して見せられない歪んだ表情を出さないように口を真一文字に結んでいると、オドオドとオレに片目を髪で隠したウマ娘が遠慮がちに話しかけてきた。

 コイツが今回オレが選んだ初めての専任ウマ娘のライスシャワーだ。ケッ、いつ見ても陰気で内気そうな面だ。だからこそ、従順で扱いやすそうと思って熱烈にスカウトしたわけなんだがなあッ!

 

「え、えっと、坂道往路10セット終わったよ……次はなにすればいい?」

 

「次は外周3周だ」

 

「……うん、わかった! ライス、がんばるから……見ててね? お兄さま」

 

「ああ」

 

 ククク、しっかりと見ていたぞ! 幼気で小柄な少女が肩で息をするほど疲れきっている姿をな!

 

 さらに! オレだったら即逃げ出すほどの苛酷な追加トレーニングの報告に目を見開きながらも、逆らえない自分に絶望している瞬間を! 反抗の意思を隠すために顔を一瞬俯かせたのを! 

 

 フゥハハアアアアアアアハハハ!!! ああ、これだ。これなのだ! たまらんッ! 濡れるッ! 何が濡れるかわからんが濡れるッ!

 

 まさに人生の有頂天ッ! 虐待こそ至高である! ガハハハハハッ! 

 

 いや、ほんとウマ娘のトレーナーって最高だぜッ!

 

 

 

※ ※ ※

 

「……あ、あの! シャワー浴びてきたよ……」

 

「よし。なら、いつもの“アレ”やるぞ」

 

「あ、うんっ。お兄さま、今日もおねがいします……!」

 

 このオレに捕まったウマ娘に練習後とて安息の時間はない。憐れにもトレーナー室にやってきたシャンプーとリンスの香り漂う体操服姿のライスシャワーを……さらに苛め抜いてやるぜえ!

 

「さあ、ライス。こっちに来な」

 

「うん、お兄さま……あっ」

 

 ライスシャワーを軽く抱き寄せ、準備しておいたマットにゆったりと寝そべらせ……陰湿かつ苛烈な虐待のはじまりだ。

 

「……あっ、ああっ。お、お兄さま……!」

 

「ふんッ! ふんッ」

 

「……あっ、あんっ……ふうっ……ああっ! ……ふ、深いとこにっ、来てるよぉ……」

 

「ふんッ! そらッ!」

 

「あっ、やめ、あっ……激しいよぉ……。お、おねがいっ……も、もうちょっとやさしく……!」

 

「うぇーい! わっしょいッ!」

 

「……ふあっ……あんっ! も、もう許してぇ……!」

 

 

 これだ、これなのだ! 余りの辛さから許しを請う無様な姿、たまらんッ! 

 

 何を隠そう、地獄のスペシャルマッサージタイムをライスシャワーにプレゼントしている真っ最中である! 

 

 しかも! ただのマッサージではない。全身をこれでもかと苛め抜き、蹂躙する悪魔のマッサージである! 

 

 学園指定の体操姿となっているライスシャワーの白い柔肌、鍛えられた足や腿に直接触れ、刺激を与えていく。

 

 いいねえ、風呂上りなのに脂汗が滲んだその顔! 体がめちゃくちゃに固いコイツにとってはトレーニング以上に苦しい時間だろう。辛いよね、苦しいよねえ、今すぐやめて欲しいよねえ! くははははっ! 

 

 まあまあ、ゴミカストレーナーなオレでも引き際は弁えている。負荷を掛けすぎることで、非常に大事な玩具を壊すわけにもいかない。明日以降もコイツにはオレの欲望を満たしてもらわなければならないからな。

 

 そろそろ今日はこの辺で勘弁してお……。

 

「……ふう、あんっ……あ、あれ?」

 

「どうした?」

 

「……えと、もう終わり、なの? も、もうちょっと、おねがいしたい、んだけど……ご、ごめんなさい! ワガママ、いっちゃって……」

 

「……え、あ、ああ。うん、いいぞ」

 

 コ、コイツッ!? 露骨に煽ってきやがった……!? 早くもこのヘルズタイムに適応し始めてきたというのか!? うっそだろ!? オレがこの技術を文字通り体得するまで何度も悲鳴と怒号を上げた苦痛しか生まないキング・オブ・ペインマッサージのはずだぞッ!

 

「あ、ありがとう、お兄さま! あ、あの、そのっ! もうちょっと太ももの上の方にもふ、ふれて、ほしゅッ! あぅう……噛んじゃった」

 

 く、ククク! さすが、このオレが選んだウマ娘だぜ。オドオドした態度の奥底に隠された根性は正に一級品だぜ。恐怖から言葉を嚙みつつも、あえて触れずにいておいてやったデリケートで敏感な部位を自分から弄ばれに来るとはな!

 

「わかった。やるからには徹底的にやってやるから、覚悟しておけ」

 

「えへへ……うんっ」

 

「……おらっ! 」

 

「……あああっ♡ あんっ♡ ふあっ……♡」

 

――痛さを堪え、気持ちよさそうな声を出す反骨ウマ娘にオレは負けじと鞭を入れ続けるのであった。

 

 




ライスシャワーを虐めたくなっちゃうのは自分だけではないはずッ……!

次回はライス視点です。


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#1裏 ライスの『お兄さま』

 

 どうしてライスがお兄さま――トレーナーさんに選ばれたのか、今でも不思議になることがあるの。

 

 選抜レースにすら怖くなって出られなくて、他の人を不幸にして泣くことしかできないだめだめなライスにお兄さまは……。

 

『ライスシャワー、君をスカウトさせてくれ! 頼む! 何でもするから!』

 

『……え、ほんとうにライスなんかでいいの? 選抜レースにすら出られないだめだめなウマ娘、なのに?』

 

『何を言っているんだ! 君みたいなウマ娘だからスカウトしたいんだ! まさに君は理想のウマ娘じゃないか!』

 

……ライスはすごいウマ娘じゃないのに、あの会長のような超一流のウマ娘に向けられるような期待と執念ともいえるほどの熱意でスカウトしてくれたんだ。

 

『うれしい、よ。でも、わかんないの……。どうして、ライスなの?』

 

『えー、あ……そうだなあ』

 

 言葉を詰まらせた後、ぽりぽりと頬をかき、照れくさそうにしたお兄さまはというと。

 

『辛そうな顔をしつつも、他のウマ娘より数倍以上のトレーニングを積んでいる努力家で自分を変えようと懸命な君を見てきたから。そんな君をオレは支えたいと思った。いや、支えさせてほしいんだ』

 

 

 今まで何も期待なんてされてこなかったライスにとって、お兄さまの言葉は自然と涙が出るほどとってもうれしかったんだ。

 

 でも、それ以上にライスに期待してくれている大事な人を裏切ることがとってもこわかった。

 

 だって、ライスは『しあわせの青いバラ』のようにせっかく選んでくれた人、その周りの人たちを幸せにできないってわかっていたから。ううん、そう思い込んでいたから。

 

 そうやって、デビュー戦すら怖がってボイコットしかけたライスに手を差し伸べてくれたのは――男子禁制のウマ娘寮舎に乗り込んできたお兄さまだった。

 

『君が変わろうとすることを諦めない限り、オレも絶対に君のことを諦めない』

 

『で、でもぉ……!』

 

『でも、じゃねえ! ライスシャワー、君はこのオレが今回のトレセン学園で選んだ初めてのウマ娘なんだぞ! もっと自信を持て! 大丈夫、必ず君は咲ける! 人々を、オレを幸せにできるから!』

 

 お兄さまのおかげでライスは恐怖を飲み込みレースに出走し、ギリギリで勝つことができた。

 そこではじめてレース場の人たちに歓喜と祝福を与え、ライスはそれをレース場の人から授かることができた。全部、お兄さまのおかげだ。

 

 

 この時、嬉しさと高揚感に身を包まれながら、ライスは決めたんだ。

 

 

 

――お兄さまがライスのことを望む限り、ずっとついていくんだって。

 

 

 

※ ※ ※

 

 お兄さまの指導はとっても厳しい。それにトレーニング中はいつも難しそうな顔をしていて、少しでもお兄さまの指導通りの動きができていなかったら、すぐに檄を飛ばすお兄さま。

 

 あまりお兄さまを知らない他の子にはきつめの指導内容も重なって怖がられているみたい。

 

 でも、ライスは知ってるよ。

 

『……まだまだ足りねえ。全然こんなもんじゃねえはずだ。もっと、もっと引き出せるはずだ。しっかりとメニューを練らねえと……』

 

 練習中に怖い顔で近寄りがたい雰囲気を出しているのは、ライス……ううん、担当ウマ娘のことを常に一番に気にかけてくれているからだよね。

 

『はあ、はあ……おわ、った!』

 

『……クク。よしよし! 今日もよくやり切ったな! いや、ほんとお前は偉いぞ、ライス!』

 

『お、お兄さま、くすぐったいよお……えへへ』

 

 練習後は穏やかに微笑みかけてくれて、よしよしと頭を撫でてくれるやさしいお兄さまが好き。

 

『……もっと、お兄さまに教わったように態勢を低くッ……あっ、っとと、あぶなかったあ……』

 

『……ライスッ!? 大丈夫か!? 足を見せろ! どこか捻った場所は!? 違和感はあるか!?』

 

『あ、あの、ライス、だいじょうぶだから、ふえっ!?』

 

『……ふくらはぎ、腿、アキレス腱、異常なし。なら、走れ! 今すぐ! 少しでも違和感があったらすぐに報告すること! わかったな!』

 

『は、はいぃ……!』

 

 練習中にほんの少し躓いただけでも作っている無表情を崩して、飛んできて触診をする心配性なお兄さまが好き。異常がないと分かった瞬間、すぐに檄を飛ばす熱血なところも好き。

 

 

 でね、最近のライスの楽しみのひとつは練習後にあるんだ。それはね、トレーナー室という二人きりの世界でのお兄さまの秘密の時間……。

 

「……あっ、ああっ。お、お兄さま……!」

 

「ふんッ! ふんッ」

 

「……あっ、あんっ……ふうっ……ああっ! ……ふ、深いとこにっ、来てるよぉ……」

 

「ふんッ! そらッ!」

 

「あっ、やめ、あっ……激しいよぉ……。お、おねがいっ……も、もうちょっとやさしく……!」

 

「うぇーい! わっしょいッ!」

 

「……ふあっ……あんっ! も、もう許してぇ……!」

 

 お兄さま自らが行うアフターケアをかねたマッサージの時間だった。最初はとっても痛くてつらかったけど、なんかそれがクセになってきちゃって……ライス、変な子になってきちゃったかな?

 

 ライスが痛そうな声を出すたびにちょっと嬉しそうにするお兄さまはほんのちょっぴりイジワルだ。

 

 だけど、そんなお兄さまの一面を知っているのがライスだけだと思うと、なんだか心の奥底から歓喜の感情がふつふつと湧き上がってくるの。

 

 それとライスの腰や腿にお兄さまの手が直接触れられるたびに、なんか体がぽかぽかってなってきちゃう。も、もうちょっと、足や腰だけじゃなくてもっと深いところにも触れて欲しいって思っちゃうライス、とってもわるい子だ……。

 

 お、お兄さまにそんな気はないのはも、もちろん、わ、わかってるよっ! お、おこがましいというか、その、ごめんなさい!

 

 ライス、ちんちくりんだし……最近、坂道往路トレーニングで一緒になるブルボンさんみたいに大きくないし……。

 

……はぁ。もうちょっと、牛乳飲むべきなのかなあ。

 



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#2 朝虐待は日課である

ようやくチーム戦で活躍できるライスシャワーを育成できたので、投稿します。


 

 トレーナーの朝は早い。朝っぱらからスケジュール管理やトレーニングメニューの考案、ライバルウマ娘のチェックに彼らは余念がないのだ。かくいうオレも朝4時には起床する。

 

 

 だがな! オレは貴様らのような凡百の輩とはレェベルが違うんだよ、このヤロー! 無駄で無意味で無価値な行動を取りやがってよお! クハハハ

 なら、朝起きて何をするのが一番いいかって? 決まってんだろォ! 虐待の準備だァ!

 

 ライスシャワーの起床時間は朝5時。着替えを済ませ、5時20分にはグラウンドにやってくるだろう。

 

 その前にィ! ライスシャワーの朝練に付き合う前に練習後の残虐な仕込みを全て終わらせるのさ! 

 

 クークックク! 今日もかわいい担当ウマ娘の絶望顔を拝めると思うだけで気分がウッキウキだぜえ! フワアッハハハハア!!

 

 

※ ※ ※

 

「お、おはよう! お兄さまっ!」

 

「おはよう、ライス。今日も元気そうでなによりだ」

 

「お、お兄さまのおかげだよっ! 今日もどんなトレーニングだってがんばるからねっ!」

 

 クク、今日も従順なふりをしているねえ……かわいい我が担当ウマ娘のライスシャワーよ。今日もお前の肉体にも精神にもしっかりと刻みつけてやるよ……虐待の怖さってやつをなあ! 

 

「準備運動を終えたら、芝2000を軽く2周走ってきてくれ。もちろん、タイムは測るからそのつもりで」

 

「はい!」

 

「で、その後は……坂路全力駆け下り2セットをやろうか」

 

「……は、はい。がんばれー、ライス。がんばるぞー、おー……」

 

 両手をグーの形にして、気合を入れているようだが……声に元気がなくなったのをオレが見逃すとでも思ったのか? 

 

 クク! この急傾斜から全速力で駆け下りるこの鬼畜トレーニングはいわば度胸試しのようなもの。ましてやウマ娘の走力+怖がりなライスシャワーにとって、肉体的にも精神的にも非常に負荷がかかる鬼も裸足で逃げ出す非情なるトレーニングだ。

 

 ククク、このトレーニング名は“決意の直滑降”とでも名付けようか。

 

「う、ううっ……」

 

 クク、怖がってる怖がってるぅ! うぇーい! 実にいい気持ちだあ! オレがやれと言われたら、間違いなく体が拒否反応を示し、ちびりそうになる害悪な指導内容だもんなあ!

 

 

 でもまあ、もちろん大事な玩具が壊れないようにケガ対策は万全だ。

 

 日々の虐待から緻密な計算を重ねて、坂の頂点からではなく今のライスシャワーがギリギリ全速力で駆け下りれる地点からのスタートでリスクを分散。

 

 加えて、オレが懇意にしている狂気のマッドウマ娘、“アグネスタキオン”特製万能サポーターを高額ではあったが自腹で仕入れた。一回限りではあるが、摩訶不思議のテクノロジーパワーで万が一転んだ場合でも大怪我を負わないチートアイテムで安全を確保。

 

 所有物の管理不足による途中棄権(リタイア)なんて、許されねえからなあ!

 しかぁし! 安全であると分かっているのはオレだけ。ライスシャワーには取れたて一番の濃厚な恐怖を味わってもらおう。

 

 まあまあ、寝ぼけた頭をすっきりさせるにはちょうどいいだろう? もっとも! 全身から冷や汗が吹き出る副作用つきだろうがなあ! 

 

 あー、毎日が楽しすぎるぅ! ウマ娘のトレーナーって最高だぜッ!

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 練習後も虐待は終わらない。普通のウマ娘は朝練後に学園内に食堂でそれはそれは満たされたおいしい朝食を味わうのだろうが……そうはさせねえ!

 

 オレの担当ウマ娘にはオレ自らが用意した見るだけでテンションがガタ落ちすること間違いなしのゴミクズ朝食を毎日食べさせてやらないといけねえからな!

 

 

 学園のすぐ傍にあるオレが住み込んでいるアパートにライスシャワーを招き入れたオレは完全密室での虐待を開始する。フワアッハハハハ!! 仕込みは完璧ッ! 見たまえ、この血も涙もない外道メニューを!

 

 まず主食は……人間が食べられると思えない茶色でぼそぼそとした食感の悪い米ェ!

 

 3日前から定期的に水を入れ替え、寝かせておいた新鮮度が圧倒的に下がっているクゾマズイ茶色の米を圧力鍋でふっくらと炊き上げ、すぐに飲み込ませないように熱々に仕立てた極悪の主食だあ! 

 

 もちろん、どんぶりに山盛り盛り付けてある。完食するまではお残しは決して許さねえ。我ながらなんて酷すぎる仕打ちなんだ……自分で自分が怖くなってきたぜ。

 

 続きましてえ! ジュワジュワと脂が飛び出しているクッソ生臭い鯖を大量投下ァ! これは辛い! 文句なし! 

 

 さらにクセや雑味が半端ねえかつお節でダシを取ったお吸い物! 質素極まりねえ三つ葉をちょこりと載せておくのがワンポイントだ!

 

 トドメに余った最悪のダシを利用しただし巻き卵! 

 

 ダメ押しに飲み物はこれまた湯気が立ったとんでもなく苦い緑色の液体を常備! これで水で流し込む作戦も通用しねえ!

 

 これぞ朝虐待のフルコースってわけよ! クワアアアアアアアッハッハ!!

 

 人間の三大欲求の内の一角である食欲をこんな形で台無しにされてしまったライスシャワーは涙目になりながら、ゆっくりと食べている。

 ククク! これで今日こそは……今日こそはッ……!

 

「……おいしい。いつもおいしすぎるよ、お兄さまぁ……!」

 

 なん…だと……!? あ、ありえん! こ、この計算され尽くした拷問を耐え切るというのか!? な、何故だ? 何がいけない? 何故、オレは昔から飯づくりだけはまるっきりの逆効果になっちまうんだッ!

 

「お、お兄さま!」

 

「な、なんだ?」

 

「そ、その! お、おかわりって、ある?」

 

「……はぁ?」

 

「ご、ごめんなさい! こんなにおいしいご飯を食べさせてもらっているのに……ほんと、ごめんなさい! で、でもおいしくて!」

 

「お、おう。大丈夫だ。おかわりもたっぷりとあるから遠慮するな」

 

「あ、ありがとう! ライス、お兄さまと出会えて毎日が幸せだよ……」

 

 き、貴様ァ! 毎日が、幸せだとォ!? コイツ、日に日に皮肉が上手くなってきてやがる……! オレはお前に恨まれることはあれど、幸せを与えた覚えは毛頭ねえよ!

 

……クク、ククク! まあいい。そうじゃなきゃ、面白くねえ。簡単に物事をクリアできねえから人生は楽しいんだよ! ライスシャワーに苦戦しているようじゃ、あの“ドMサイボーグウマ娘”のようなヤツ相手にぜってえ虐待しきれねえからなあ!

 

 まだまだオレは成長できる。限界はねえ。もっと、もっと虐待の高みへと上っていけるに違いねえ。

 

 次の虐待にもいつまでその余裕が保てるか、ライスシャワー! クハハハ!

 




次回はクズトレーナーVSドM(だと勝手に思い込んでいる)サイボーグウマ娘VSダークライです。


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#3 虐待不可能!? 恐怖のサイボーグドMウマ娘!

テイオーの怪文書に感化されたので投稿します。


 この学園には“サイボーグ”と呼ばれるウマ娘がいる。

 

 そのウマ娘の短距離からマイルまでの走破タイムは歴代の有名古バとも比較しても遜色ない。

 

 そして、恵まれた体格と体のバネから発せられるターフを抉るほどの脚力により、スピードとパワーは彼女と同年代のウマ娘の中では間違いなくトップ。今からでもクラシック戦線に乗り込んでいけるような将来有望なウマ娘だ。

 

 そして、彼女の”サイボーグ”たる所以は並みのウマ娘なら一日と持たないハードトレーニングを無表情で淡々とこなしている点。

 

 あとは口調までもが機械的。故に人間ではなく、サイボーグなのではないかとまことしやかに囁かれることとなった。

 

 そんな規格外のウマ娘相手にライスシャワーは勝たなければならない。アイツにとって、非常に高い壁だ。

 

 

――そして、このオレにとっても必ず乗り越えなければならない超難敵なんだよなあ!

 

 

 素晴らしき虐待をライスシャワーに与えた日の夜――仕事帰りのオレがグラウンドを覗いてみると、やはりといって良いのかグラウンドにヤツはいた。

 

「……目標タイムより大幅な遅れを確認。測定結果、スピード及びスタミナ不足と判断」

 

 サイボーグウマ娘――ミホノブルボンは夜になると超高確率で自主トレーニングに励んでいる――ように見せかけている。

 

 おおう、やっぱコイツかわいいなあ。

 

 グラウンドの照明と薄い月の光に照らされたミホノブルボンは神秘的な美しさを誇っていた。機械のように均整の取れた肉体と愛嬌のカケラもない無表情にも関わらず、トップ女優顔負けの抜群のルックス。

 

 しかしながら、容姿端麗なかわいいウマ娘が大好物のオレだが――コイツにだけは苦手意識を持っている。

 

 だがよ、逃げるのは恥だ。臆病者だ。そんなのは虐待を愛する男のすべき行動じゃねえ。だからこそ、立ち止まり息を整えているミホノブルボンにオレは平等に虐待をすべく近くに寄り、話しかけた。

 

「こんな遅くまで今日も精がでるな」

 

「こんばんは、ライスシャワーのトレーナー。貴方の考案したフローチャートはまさに完璧。効率的な中・長距離用のトレーニングメニューにより目標“三冠ウマ娘”へと確実に近づいております。改めて、感謝を」

 

「いやいや、感謝なんていらないよ」

 

 ケッ、感謝だあ!? 軽々しく使われてイライラさせるワードを簡単に口にしてんじゃねえよ!

 

 欲しいのは、かわいいウマ娘が苦しむ姿なんだからよお!

 

「で、確認なんだが――無理はしてないだろうな?」

 

「問題ありません。本日の自主トレーニングは3時間35分しか実行していません」

 

「いや、だいぶやってんだろ……」

 

「3分48秒後にスタミナ回復。このまま坂路トレーニングを続行いたします」

 

「やはり全然わかってないじゃないか。坂路トレーニングはもう切り上げたほうがいい。これ以上は疲労が溜まり逆効果になるぞ。1600m一本だけで今日はやめておけ」

 

「……オーダー確認。チャートを修正」

 

 わかっただろ? コイツはサイボーグウマ娘なんかじゃあない。

 

――どんなに虐待しようにも全て悦楽に変換できる生粋のドMウマ娘だッ! 

 

 そう、ミホノブルボンは超弩級のド変態なんだよ! 

 

 だって、ドM以外ありえねえだろ!? トレーナーの指令以外で体を痛めつける大バカ野郎はよお! 

 

 更に! 適正外の距離を走ろうとする茨の道を自らに課すなんざ、頭のネジがどっか飛んでしまっているに違いねえ!

 

 しかも、ほっといたら、いつまでも自らに虐待を加えているんだぜ、コイツ! 一体、造り上げた無表情の裏でどんな快楽を得てるのか、想像もできねえよ……!

 

「3分48秒経過。トレーニング、再開いたします」

 

「タイムはオレが測るから、正確なラップタイムを刻むことを心掛けるんだ」

 

「了解。オペレーションスタート」

 

 無表情のまま、再びターフを駆け抜けるミホノブルボンの姿を見て、オレは悔しさから拳を握りしめた。

 

 ああ、つまらん! つまらん! つまらん! まったくつまらん! 被虐体質のヤツが苦しむことは逆に体を労わってやることだ。

 

 せめてもの虐待がトレーニング内容の軽減しかできねえなんてよお……! 自分が情けなくて、悔しくて仕方ねえぜ!

 

 と、どうやったらヤツに虐待できるのか対策を練っている間にすぐにミホノブルボンは1600mを風を切り、駆け抜けてきた。

 

「また早くなったな。ほら」

 

「……自己ベスト更新。目標へまた一歩前進いたしました」

 

「いい調子だな。短距離からマイルまでなら、君に勝てるウマ娘はそういないはずだ」

 

「ですが、私の目標は“三冠ウマ娘”。まだ目標達成にはステータスが足りません」

 

 そういったミホノブルボンはほんの微かに無表情を崩し、一瞬不安げに瞳を曇らせた。

 

「……やはり、あなたも無謀だと思いますか? 中・長距離に適正のない私がクラシック三冠を制覇するのは」

 

 コイツのトレーナーはヤリ手のベテラントレーナーだ。G1で勝てるような数多くのウマ娘を見てきたからこそ、“正しいだけ”の判断ができる。

 

――ミホノブルボンのことを何もわかってねえから下せる判断だ。

 

 さて、どうするか。いかにドMといえども事細かに現実を突き付けて、ぐちゃぐちゃに歪ませることもできる。

 

 所詮、コイツはライスシャワーと同年代。ドMといえどもサイボーグでもなんでもねえただのかわいいウマ娘だしな。

 

 けどよお――それじゃあ真の意味での虐待とはいえねえし、何も面白くねえよなあ!

 

「オレは君の目標を否定はしない。君が実践してきた尋常じゃない努力を否定しない。君の目標は決して夢物語じゃない」

 

「……はい」

 

「だが、君の目標が叶うことはないよ」

 

「……疑問。根拠を提示してください」

 

「言わなくてもわかるだろ? オレの担当ウマ娘のライスシャワーが必ず君の目標を阻むからだ」

 

 そう、ヤツの夢であり目標をライスシャワーに潰させる。それこそが真の虐待であるッ!

ミホノブルボンが夢を打ち砕かれた瞬間の喪失感、絶望した姿を間近で見てえ! 

 

 そのためには今以上の虐待をライスシャワーに与えていかなければならねえ!

 

 おいおい、オレって天才か? ライスシャワーもミホノブルボンにも同時に虐待できるなんて、一石二鳥すぎんだろ。

 

 おっ、明らかに無表情が崩れた。眉が数ミリ上がり、口元が引き締まったのが見えたぞ。クク、今更気づいたか! オレがお前の味方でも何でもねえ虐待を至高とするクズだってことをなあ!

 

「三冠ウマ娘になるのは、私です」

 

「いいや、ライスシャワーだ」

 

 クハハハ! 見てろ! 絶対にお前を真の意味で虐待してやるからな!

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 ライスシャワーのトレーナーに出会ったのは、私が学園外でのミッション『トレーニング備品購入』を失敗間近の時でした。私が困惑していると察した彼が素敵な笑みを携えて、目的地まで導いてくれたのが始まりでした。

 

 次に再会したのは、私が独自のフローチャートによる肉体改造を行っている最中。

 彼は即時、私の杜撰な計画の問題点を修正。その場で具体性のあるフローチャートを提案。

 

 経験を積んだ優秀な熟練トレーナーなのかと推測しましたが、彼は外見年齢通りの若い新人トレーナーだと発覚。彼に対して、マスターに伝達された情報と私自身の目標を語ったところ。

 

「君のトレーナーの言うことは正しい。だが、スタミナは努力で補える。精神は肉体を超越するとオレは思っているよ」

「……同感です」

 

 その時にかけて頂いた言葉と雰囲気が私を育ててくれた父にそっくりでした。

 

 以降、自主トレーニング時に彼と遭遇する機会増加。その度にアドバイスを頂いてきました。指導ではないものの、彼のアドバイスは明確かつ的確で私の目標実現に多大な貢献を果たしてくれました。

 

 時には差し入れで練習中にもすぐに摂取しやすいゼリーと鶏肉・ハチミツ・納豆・くさやといった栄養価の高い食料を混ぜた特製ドリンクを作成していただいた日もありました。結果、彼は調理も一流だと断言できます。

 

特に特製ドリンクは大変美味でございました。

 

 トレーナーとして優秀であり、大人の包容力と父に似た雰囲気を持つ彼に『好印象』を抱くのは必然でした。

 

――そして、ある日を境に彼が視界に入ると、自然と目で追ってしまうバッドステータス『散漫』が発生。

 

 視界の伝達情報から真剣な表情で自身の担当ウマ娘であるライスシャワーのトレーニングを見守り、時には激しい檄を飛ばす彼の姿の確認が取れました。

 

「フォームを乱すな! もっと足の回転を速めろ! 踏み込みの力も全然足りねえ! 一瞬たりとも気を抜くな!」

 

「は、はいっ!」

 

 不本意ながらトレーニングの鬼と噂されている私ですら凄烈(せいれつ)であると評価するトレーニング内容。ですが、そのトレーニングの中でもライスシャワーは指導する彼に応えるために全力を尽くしていた。

 

 彼もライスシャワーから決して目を離さず、常に改善内容を思案しているようだった。

 

 その時、私は視認してしまいました。かぶりを振って、厳格な表情に戻す前にライスシャワーの懸命な姿に満足気に微笑みを浮かべた彼の姿を。その表情パターンは私のログには存在しない心からの笑みだったと推測。

 

 担当ウマ娘であるからこそ、彼から授けられる『鞭』と『愛』。ああ、なんて――。

 

「……ッ」

 

 気づいたら、唇を痛みを感じるほど噛み締めていました。またしても、深刻なエラーが発生。判定結果……『嫉妬』?

 

「……ブルボン、どうした? 唇を切ってるぞ。少し入れ込み過ぎだ」

 

「申し訳ございません、マスター。直ちに修正を」

 

 正体不明のエラーに私はガラにもなく戸惑ってしまっていたようです。私のトレーナーであるマスターから指摘されるまで、全く気づかないとは。

 

 エラーが発生した日の夜。自主トレーニングに励んでいた彼と会った私。その時に発生したステータスは『高揚』でした。

 

 何故、彼と出会うだけでグッドコンディションになるのか解析不能。けれども、不思議と彼といるのは『心地よい』と脳内が判断。

 

 日に日に私に蓄積されたバグは溜まっていき、処理が困難になっていきました。

 

 しかし、バッドステータスを解消する方法を把握。解決手段は、彼に直接会うことでした。

 

 

● ● ● ●

 

 彼がトレーナー室から帰宅する時間が20時40分から20時58分の間。今日も私は彼が現れるまで、淡々と日々のフローをこなしていました。

 

 そして、予定通り姿を現した微かに疲労が顔に出ている彼に私は本日マスターから告げられた『現実』を吐露してしまいました。

 

「……やはり、あなたも無謀だと思いますか? 中・長距離に適正のない私がクラシック三冠を制覇するのは」

 

 サイボーグのような不要な感情を持たない機械なら、自分に絶対の自信を持つウマ娘なら決して発しない『弱気』の言葉を投げかけてしまいました。発言した後、後悔。彼に軟弱なウマ娘だと失望されてしまった可能性大。バッドステータス『不安』が発生。

 

 彼は私らしくない発言に少しだけ目を丸くした後、顎に手を当てて言葉を選んでいる様子でした。若干の間の後、彼はゆっくりと話し始めました。

 

「オレは君の目標を否定はしない。君が実践してきた尋常じゃない努力を否定しない。君の目標は決して夢物語じゃない」

 

「……はい」

 

……マスターだけではない。トレセン学園のトレーナーの方々が実現不可能と断言する私の目標を肯定してくれた歓喜から口がヘの字に傾きかけるのを意識的に抑えました。

 

 父に相対しているときとは違う安心感と幸福。いつまでもこの感情を忘却せずにログとして保管しておきたい。けれども――。

 

「だが、君の目標が叶うことはないよ」

 

「……疑問。根拠を提示してください」

 

「言わなくてもわかるだろ? オレの担当ウマ娘のライスシャワーが必ず君の目標を阻むからだ」

 

 私の目標――夢の否定と共に見せた不敵な笑み。それは自身の担当ウマ娘への一点の曇りもない『絶対』の信頼でした。彼による暖かな感情の発露により、先程まで感じていた私の体内における心地よい熱が一気に喪失していく。

 

 すぐさま、歓喜と幸福に包まれていた私の心は一気に光の差さない暗闇へと引きずり込まれていきました。

 

 理解不能の感情と体の奥底から湧き上がってくる負のエネルギーを抑制せずにはいられない。

 

――何故、選定対象が私ではないのか。何故、彼に選ばれたのがライスシャワーなのか。私ならライスシャワーよりも、更なる指導(アップデート)を施せるというのに。

 

 支離滅裂な愚問により、感情の制御不能。致命的なエラーが発生。渦巻く感情の奔流を抑制しつつも、これだけは彼の前で宣言しておく必要があります。

 

「三冠ウマ娘になるのは、私です」

 

「いいや、ライスシャワーだ」

 

 

 あなたはこの学園内でもトップクラスの優秀なトレーナーであると、私の蓄積されたデータから独自判断。ですが、優秀な貴方でも認識すら不可能でしょう。

 

 解析不能。ですが、私が父と似て非なるあなたと接触したいと思案するエラーが生じているのを。

 

 理由不明。ですが、貴方と僅かにでも接触するのを期待して日々のフローチャートを遅延させているのを。

 

 精査不可。ですが、貴方との時間をかけがえのない貴重な時間だと認識していることを。手放す度に失意の底へと急降下していくことを。

 

 

――私には既にマスターがいるのにあなたに、あなただけにいつまでも指導してもらいたいと邪な想いがバグとして存在していることを。

 

 

 新たな目標を設定。彼の『絶対』であるライスシャワーを完膚なきまでに打倒。彼の『絶対』を塗り替えてみせます。

 

 そして、私というウマ娘を……彼のログの深奥に永遠に刻み付けてみせます。

 

 




知らないところで精神的な虐待を加えているクズトレーナー。なお、ミホノブルボンの強化アップデートにより真の意味での虐待は遠のいた模様。

関係ないですが、アプリ版のテイオーのメスガキ感、ほんますこ。独占欲も高いところもすこ。
曇らせ隊が横行しているのも、マジですこ。もっと流行れ。


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#4 プライベートに浸食してくる虐待の魔の手。

読者の皆さまが虐待したせいで、日間ランキング1位を取ってしまいました。

なんて酷い読者なんだ(本当にありがとうございます!)

加えて、感想・高評価・誤字報告も非常に励みになります。モチベーションが虐待に繋がっていきます!



「よし! 今日はここまでだ! お疲れさん。がんばったなー、ライス」

 

「う、うん! がんばったよー、おー!」

 

 ククク、今日もありとあらゆる角度から虐待をしてやったぜ! いやあ、見物だったぜえ。体中から発汗させ、ひいひい言いながらオレの無理難題のトレーニングをこなしていた地獄を味わっている姿ァ! 全く、最高じゃねえの! 何度見ても飽きねえもんだ。

 神さま、こんなクズ野郎に今日も幸福と愉悦を味わわせてくれて本当にありがとうございます!

 

 ただ、何だ。そろそろ練習や食事以外の虐待にも手をつける頃だと思ってきたところだ。ワンパターン戦法だと慣れが生じ、相対的に効果が薄れてくるもんだしなあ。そこで、だ!

 

「そうだ、ライス」

 

「どうしたの、お兄さま?」

 

「今度のオフの日、予定はあるか?」

 

「えっ、そ、その……特にないよ」

 

 チラチラと視線を逸らしつつも、上目遣いでオレのことを見つめるライスシャワー。

 

 クク、そうだろうよ! お前は今『なんで、プライベートのことまで聞かれなければいけないの?』と思っているはずだ。

 

「なら、良ければオレと街にでも出かけないか?」

 

「え? お、お兄さまと!? そ、それって……でで、でででで……!?」

 

 クフフフッ! 休日もオレと一緒に過ごさなければならないストレスに言語能力が崩壊してやがるッ! ああ、エクスタシィー! 

 

 そう、今回の虐待はプライベートへの侵略だあ! 絶対安全圏だと思っていた拠点を崩壊させるまさに外道の所業!

 

 想像してみろ? 女子高生に学校の教師が「今度の休みの日、一緒に出掛けよう」ってめっちゃキモい誘いをしているようなもんだぜ? 精神的負荷はこれ以上ねえはずだ。

 

 ただまあ、今日のオレは寛大だ。慈悲として逃げ道を与えてやろう。

 

「いや、嫌ならいいんだ。悪い、せっかくの貴重なオフだもんな。忘れてく……」

 

「う、ううん! そんなことないっ! いくよ、絶対行くから!」

 

 ふんすと鼻息を荒げつつ、食い気味にオフを削る選択をライスシャワーはしてしまう。決して言葉には出さないが、オレに対しての恐怖と怒りで顔を真っ赤にさせながらだ。

 

 うんうん、嫌で嫌で仕方ないよねえ! でも、断れなかったねえ! あーあ。あえて逃げ道を用意してやったのに、自ら檻の中に飛び込んでくる滑稽なヤツ。

 

 ……ククク、ハハハッ! そうだ、そうだろうよ。お前の性格上、絶対に断れねえ! 断ったら、トレーニング時の虐待内容がどんな残虐なものになっちまうか、怖くてたまらねえもんな!

 

 選択肢があるように見えて、片側の選択しか掴み取ることができねえとは、なんて可哀そうなんだ! クハハハッ!

 

 さてェ……次のオフが今から楽しみだなあ! 

 

「よかった。じゃ、オフの日は空けておいてくれ」

 

「うん! 絶対行くからっ!」

 

「はは、わかったって」

 

 いやはや、他人事ながら空元気を保つのも大変そうだ。っとと、忘れるところだったぜ。

 

「それと、練習終わりに一杯どうだ? 特製ドリンク」

 

「やったあ! えへへ、お兄さまの特製ドリンクとってもおいしいから楽しみっ」

 

 今までは“マズイマズイウマイ”特製ドリンクだったかもしれねえが、試行錯誤を重ねて“マズイマズイマズイ”極悪無情改良版に仕立て上げておいたからよお……! 

 

 その笑顔と余裕いつまで持つかなあ? クハハハッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 ライスね、こんなに幸せでいいのかって最近思っちゃうんだ。

 

 大好きなお兄さまと過ごす日々は毎日が刺激があって、新鮮で温かくて。

 

 もちろん、お兄さまの指導が辛いときもあるけど……今はそれも期待の裏返しだとわかっているから。こんなライスに期待してくれているのが、いつも嬉しいよ。

 

 でね、お兄さまがトレーナーになってくれてから、すっごく自分でも成長できているのを感じるんだ。前まではすっごく速くて勝てないと思っていたウマ娘さんを見ても、今はライスの方が速いって思えるようになってきた。自信を持つなんて、だめだめなライスらしくないのに。

 

 でもでも、お兄さまの担当ウマ娘になったんだから……ちょっとぐらいライスが自信を持っても神さまも許してくれる、よね?

 

 それでね! 今日はとっても嬉しいことがあったんだ! お、お兄さまとで、デート……じゃなくて、一緒に休日にお出かけすることになったんだ!

 

 で、デートなんてお兄さまがぜんぜん思ってないことなんて知ってるよ。勘違いなんてしないもん! きっと練習漬けのライスを気遣って誘ってくれたんだ。

 

 ほんとうにお兄さまって、カッコよくてやさしくて素敵な人。ほんとうにお兄さまに選んでもらえて、よかった。

 

 いつもありがとう、お兄さま。お兄さまと一緒に居られるだけで毎日が幸せだよ。

いつの日か、お兄さまから貰った幸せ以上の幸せを分け与えられるウマ娘になってみせるからね。

 

――ライスの夢であると同時にトレーナーであるお兄さまにとって、そのことが一番幸せに思ってくれることだとライスは信じているから。

 

※ ※ ※ ※

 

「私のささやかな~♪ 祈り~♪ 今~♪」

 

 いつもおいしくて味にバリエーションのある特製ドリンクを飲ませてもらって、幸福の絶頂にいたライスが“しあわせ”の歌を口ずさみながら、ルンルンとシャワー室へと向かっていたところだった。

 

「……こんにちは、ライスシャワー」

 

「いつかあなたのように~♪ 誰かのことを~♪ 照らせる人に~♪ なりた……あっ! こ、こんにちは! ブルボンさん!」

 

 気が付くと、ライスの同年代でライスが密かに憧れているウマ娘のミホノブルボンさんが目の前にいたんだ。慌てて、早口であいさつを返した。

 

 ううっ、恥ずかしい。それに声をかけられなきゃ気づかないまま通り過ぎようとしていたよ。礼儀知らずにもほどがあるって……ライス、だめだめだ。

 

「ステータス『ご機嫌』のようですね。あなたの『幸福度指数』が平均時を遥かに上回っているのを確認」

 

「え、その。はい……」

 

「よろしければ、理由をご教授いただけないでしょうか」

 

「は、はい。あの、とってもいいことがあったんです!」

 

 慌てたライスを無表情で眺めつつ、ブルボンさんは淡々とライスの今の気持ちを言い当てた。そ、そんなに幸せオーラを巻き散らしてたかな? ご、ごめんなさい! 

 

 ブルボンさんと話す機会はあまりないし、ブルボンさんと話すときは他の人と話す以上にいつも緊張しちゃう。

 

 だって――ブルボンさんはライスの憧れのウマ娘のひとりだから。

 

 表情を表に出さないクールな美人さんで胸も大きくてスタイルも良いブルボンさん。ら、ライスにも少し分けてくれたらってやっぱり思っちゃうな。

 

 男の人だったら、ちんちくりんなライスじゃなくてブルボンさんのような綺麗なウマ娘の方が絶対に魅力的だもん……。

 

 容姿に関しても憧れてるけど、容姿の他にも当然あるよ。

 

 まずは他のウマ娘を寄せ付けないトップスピードと瞬発力。模擬レースでブルボンさんの走りを見た時、背筋がゾッとして、絶望したのを今でも覚えてる。本能的にこの人には勝てないと思ってしまったんだ。

 

 でもね、ブルボンさんの血反吐を吐くようなトレーニングを毎日こなしている姿を間近にして、あの人の力の源は才能だけじゃなく、努力だって思い知らされた。

 

 ライスがブルボンさんを一番尊敬しているところは――努力すれば結果を出せると体現してくれたウマ娘だからなんだ。

 

 それにしても、珍しいなあ。ブルボンさんから話題を振ってくることなんてなかったのに。

 

「良いこと、ですか」

 

「はい! お兄さま、えっとライスのトレーナーさんと今度のオフにお出かけするんです! それが今から楽しみで!」

 

「……ええ、良かったですね」

 

「はい! どこに連れて行ってくれるんだろうとか、一緒に何をしようか、今から考えるだけでワクワクしちゃうんです!」

 

「……ええ、確実に素晴らしいログを作成できることでしょう」

 

 ライスの満面な笑みに釣られたのか、ブルボンさんも口元に手を当てて微かに笑ってくれた。あ、ブルボンさんが笑った所初めて見たよ! やっぱり笑うといつもより数倍美人さんに見える。

 

 

 

――え、でも……ッ!?

 

 

「それでは、私は自主トレーニングに戻ります」

 

「は、はい。お疲れ様です……」

 

 ライスとの世間話を終えたブルボンさんの後ろ姿を見送りつつ、ライスは止まっていた息を大きく吐き出した。トレーニングで温まっていた体がすっかり冷めきってしまったような錯覚に陥った。

 

 今のブルボンさん、レース中に後ろから差してくるウマ娘のような強烈なプレッシャーを出していた、ような気がする。あんなに綺麗な笑みをしたブルボンさんが、どうして体が凍えてしまうほど怖かったんだろう……。

 

 




無意識に”先頭の景色は譲らない”ライスシャワーと半意識的に”ブルーローズチェイサー”を発動しているミホノブルボンの構図。


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#5 トレーナーの気持ちも考えろ、この変態ウマ娘!

カレンチャン、100連回しても出なかったので投稿します。

トレーナー諸君、カレンチャンの「お兄ちゃん」になるまで引く覚悟はあるか?


 吐き気を催すはずの改良版特製ドリンクを取り繕った笑みで完飲したド根性に敬意を表して、ライスシャワーへのスペシャルヘルズマッサージを今日は軽めにしてやった。

 

 もう訳が分からねえ。何故、我慢しているとはいえあの劇物を飲み干せるんだ……?

 

 そんなこんなでライスシャワーを早期解放してやったオレはオフの日に全力を出すためにトレーナー室で事務作業をまとめて終わらせていた。

 

 すると気づいたら、時間は21時30分をとうに過ぎていた。少し根を詰めすぎたか……。

 

 

 パソコンの画面から放たれるブルーライトにやられた目を擦り、凝りに凝った肩をグルグル回しつつ、帰宅する途中だった。まさかと思いグラウンドに行くと。

 

「出力限界。強制スリープモードに移行……」

 

――そこにはドMウマ娘がフラフラになって倒れかかっていた。チッ、これだから変態は!

 

 猛ダッシュでミホノブルボンの傍にいき、倒れかかっていた体を腕で抱きかかえてやる。

 

 うわ、体アッツ! どれだけの時間、コイツは自身に圧倒的負荷のかかる虐待をしてきたんだ……!?

 

 

「……このバカが! もう少し自分の限界点ぐらい見極めて調整しろ!」

 

 ミホノブルボンが極度の被虐体質なのはもう十分すぎるほどわかっている。

 

 だが、体を再起不能にまで損傷させてしまったらよお――ミホノブルボンのトレーナーがコイツに虐待を加えることができなくなるじゃねえか! トレーナーの幸福を奪うな! もっとトレーナーの気持ちも考えろ、この変態ウマ娘!

 

「……あなた、今日は遅かったのですね。心配していたんですよ」

 

 抱きかかえられたままの姿勢で透き通るような瞳を潤ませてオレをじっと見上げている目の奥にすら熱が籠ったミホノブルボンは普段と違って、その……蠱惑的だった。こんな年端もいかねえウマ娘に心をほんの僅かにでも惑わされちまうとは! クソが、オレもまだまだだな。

 

「君に心配される覚えはない。とにかく、すぐに応急処置をするから少しでも安静に……」

 

「……いえ、後32秒はそのままで」

 

 そう短く言葉を切った意識が朦朧としている様子のミホノブルボンは――ニコリと、とても柔らかく自然に笑っていた。コイツ、笑うとこんな顔をするのか……じゃねえよ! 何、お前がオレに指図しているんだよ!

 

 当然、ヤツの言うことには従わねえ。オレの腕の中に納まっていたミホノブルボンをそっとその場に横たわらせる。そして、流れるまますぐ傍に置いてきたショルダーバッグから常備している緊急キットをオレは取り出す。ああ、クッソ腹立つわ! だが、これも偉大なる虐待の先駆者のため! 我慢我慢!

 

 おいおい、応急処置とか何やってんだよ。虐待とは正反対の行動だろと思っている浅はかな輩もいるだろう。

 

 

 だがな、ニワカは相手にならんよ! 物はやりようってヤツだッ!

 

 まずは体を動かすことができないミホノブルボンの水分補給をオレが手伝ってやる。男の硬い膝の上に頭を乗せてやり、ストックしておいた特製ドリンクをストローを咥えさせてチューチューと摂取させる。これにより、生殺与奪の権利を今はオレが握っていることを自覚させてやるのさ。

 

 クク、コイツに我が特製ドリンクの虐待効果がないことは理解しているが……こんな赤ちゃんプレイ、ある程度成熟した女の子なら屈辱以外の何者でもないだろう? ましてや、親じゃなくてどこのウマの骨かもわからねえクズ男なんだからよお!

 

 

 で、次はタオルで包んだ氷嚢で体を急激に冷やし、鈍くなった意識を無理やり覚醒させてやる。

 

 ハハハハ! キンキンに冷やしてある特注品だから、効果は絶大のはず! オレに虐待を受けているという絶望と恐怖を脳内の奥底まで刻み付けてやるよォ! 

 

 

……しかし、コイツはやはりオレの思い通りの反応はしなかった。反応は皆無。抵抗ははなからする気はないようだった。それじゃ、つまんねえじゃねえかよ!

 

 それどころか、安らかな表情でオレの膝の上から全く動こうとすらしねえ。こんなところだけポンコツサイボーグウマ娘になるんじゃねえ!

 

 

……仕方ねえ、とことん根比べと行こうじゃねえか!

 

 

 

 10分程その場で応急処置という名のカモフラージュ虐待を実行していると、ようやくミホノブルボンは静かに上半身を起こした。

 

 そうして、オレに対して放った第一声はというと。

 

「ありがとうございます。トレーニング、実行可能になりました。適切な処置に感謝を」

 

 自他共に究極的にまでコケにした内容だった。大概、オレも目の前のコイツのように感情を表に出さないことは得意な方だが……こればかりは我慢ならなかった。

 

「ああッ!? 感謝を、じゃねえよ! 何がトレーニングだ! ずっと言ってきたよな? 過剰なトレーニングは逆効果だってよ! お前、あれだけ言っても何にもわかってねえじゃねえか! こんなところで体を壊したらどうするつもりなんだ! 体調管理も碌にできない、しようともしねえお前のようなウマ娘なんて言語道断だ!」

 

「……怒って、くれるのですね」

 

 ミホノブルボンはオレの烈火すら生温い激怒に目をぱちくりとさせると、再びクスリと笑みを零した。小娘なら間違いなくトラウマものの恐怖を抱くようなキレ方をしたはずなんだが、効果がまるでないどころか嬉しそうにしている。

 

 他人の怒りすら悦びに変換できんのか、このドMは!? いや、むしろ一周回ってSなのか!? やべえ、キレすぎて混乱してきた。

 

 一旦、星空が瞬く夜空を見上げて、怒りやら呆れやらでぐちゃぐちゃになった感情を天に向かって吐き出した。よし、ある程度落ち着いた。

 

「……分かったら、これ以上のオーバーワークは二度とするな」

 

「はい。あなたの指示に従います」

 

 口調を和らげて、オレは理外の範疇にいる希代のドMウマ娘をこれ以上快楽を貪らないように説得する。もう少し反発があると思ったけど、案外あっさりだったな。それじゃ、次はと。

 

「それと、今日のことは君の専属トレーナーにも報告しておく。今後、自主トレーニングに関してもあの人の管理の元で行うように」

 

「……ッ!?」

 

 オレは立ち上がりながら、今後の展開を事前に伝えておく。はっ、とミホノブルボンが息を飲み込む音がオレと彼女しかいないグラウンドに響いた。

 

 ちなみに、今回の件は自身の担当ウマ娘を虐待しきれねえコイツのトレーナーも悪い。てか、他の担当ウマ娘にかまけて、コイツの内面を全然理解できてねえはずだ。いい機会だし、いかにミホノブルボンが常人の思考とはかけ離れた異端なのかをきちんと報告しておく必要が……って、痛ってえ!

 

 あ!? な、なんだ!? コイツ、何でいきなりオレの腕を掴んで……!?

 

「前者に関しては了解しました。しかし、マスターに報告は不要です」

 

「しかし、この件は流石に」

 

「今後、自身の体調も垣間見て、フローチャートを練り直します。同じ過ちは繰り返しません」

 

「いや、そういう訳にもいかないだろ。一度君のトレーナーときちんと話し合いをした方がいいって」

 

「不要だと、申し上げたはずです」

 

 震える声を重ねるたびにどんどんとミホノブルボンの空色の瞳が揺らいでいく。別にここまで抵抗する必要なんてねえはずなんだが。というか、コイツも専属トレーナーに見てもらった方がメリットが大きいはずなのに。

 

「くどい。なら、不要である根拠を伝えてみろ」

 

「……それ、は。マスターの手を煩わらせる必要のない案件だからです」

 

「全く理由になってない。もう、いいから」

 

「……報告、しないでください。お願いします」

 

 座ったままオレの腕をへし折るように力を加えてきたミホノブルボンはうっすらと涙を流し、これまた見たことのない必死な表情で懇願する。

 

 お、まさかコイツ……それほどまでに他人に特殊性癖を知られたくないのか? 特に自分の専属トレーナーには。

 だから、己の秘密を知られてしまったと思っているオレのことを機械のような冷静さを投げ捨ててまで引き留めているのか。いくらなんでも、ここまで来たら隠し通せねえと思うはずだしな。

 

……く、ククク! だよなあ! ドMでも羞恥心ぐらい備わっているもんなあ! やっとだ、やっとコイツに初めてまともな虐待行為を行えている気がする! って、気分は清々しいがマジで痛ってえ! リンゴを片手で握りつぶせるゴリラウマ娘相手にこれ以上は腕が持たねえ!

 

「わ、わかった! わかったから、手を放せ!」

 

「……申し訳、ございません」

 

「その代わり、自主トレは3日間は禁止だ。もちろん、オフの日もだぞ。破ったら、すぐに報告するからそのつもりで」

 

「……畏まりました」

 

 これ絶対腫れてんだろ、クソが! しかし、それなりの収穫はあったぜ。ようやくコイツのウィークポイントを探ることができたんだからな!

 

 クハハハッ! 破ったら空前絶後の変態ウマ娘ということがトレーナー、いや下手すると学園中のウマ娘にも伝わってしまう。かといって、オレの言うことを鵜吞みにするのであれば被虐の快楽を得ることはできねえ。いやあ、ジレンマですなあ! どっちを取ってもヤツにとっては地獄! クハハ!

 

――だが、ただでは転ばないオレの認めた強敵であるのがミホノブルボンだった。

 

 ヤツはすくりと立ち上がり、深呼吸ひとつ行った後に先程よりも更に温度が増した視線をこちらに向けてくる。

 

「ですが、私はトレーニング以外の時間の費やし方に関するメソッドを知りません。よろしければ、ご教授を」

 

「いくらでもあるだろ。友達でも誘って、街にでも出かけることでリフレッシュするとかさ」

 

「あなたらしい明確な提案です。しかし、私のデータベース上にカテゴリ『友達』検索結果ゼロ。代替案が必要となります」

 

「あ、ああ。なんだ……その、すまなかった」

 

 人生で一番楽しいはずの学生生活を彩るものが何もないとは……。いかにゲスでクズなオレでも憐れすぎて若干の罪悪感が湧いてしまった。すると、熱のせいでまだ顔が赤いミホノブルボンは涙を軽く拭いつつ、オレの心の隙をついてきた。

 

「質問いたします。次のあなたの休日はいつですか?」

 

「ん? 3日後だけど……」

 

 そう素直に答えてしまった直後、ミホノブルボンは再び微笑を携えた。オレの休日なんか調べて何になるんだ?

 

「スケジュール確認。その日は私もオフです」

 

「へ、へえ。そうなんだ」

 

「代替案を提出。共同ミッション『あなたと一緒にお出かけ』を遂行しては頂けないでしょうか?」

 

「いや、何故そうなる!?」

 

 心の叫びが声に出ちまったよ、おい! まずは自分の担当トレーナーを頼れよ! どうしてオレなんだよ!

 

「私のマスターはその日も別の担当ウマ娘のレースに付き添うため、不可能。また、このミッションは常に明確で正しい判断を下せるあなたの方が適任です。あなたと一緒であれば『リフレッシュ』のメソッドを確認することができると判断。無論、お礼は私の実現可能な範囲で何でも致します」

 

 年相応のかわいらしい表情を浮かべているミホノブルボンは機械のようにドモらずにスラスラと長文を並べてくる。まるで予め決めておいた台詞を言うように。

 

「お礼はいらないんだけど……悪いんだが、その日はライスシャワーと一緒に出かける約束があるんだ」

 

 その日は貴重な休日虐待のスペシャルデー。普段よりも気合を入れていかなければならない勝負の日でもあるのだ。ヤツの謎の思惑を遠回しに断ったはずなのに、更にヤツは畳みかけてきた。

 

「存じ上げております」

 

「え?」

 

「私も同行を希望いたします。あなたとライスシャワーの承認が得られるのであれば」

 

――いや、どういう流れだ、コレ? 一体、どうしてこうなったんだ?

 



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#6 狂気の虐待施設にショータイ! 前編

書きたいことが多すぎて、纏まらなかったので前編・後編に分割します。

それにしても、ウマ娘楽しすぎる。因子ガチャが永遠に終わらねえ!


 自傷行為によりオーガズムに悶えていたミホノブルボンを寮まで送ってやった翌日、不承不承ながらライスシャワーにあの変態の同行許可を求めた。

 

「……と、いう流れでミホノブルボンも今度のオフに同行したいって話になったんだが……どうする?」

 

「……うん。ライスは大丈夫だよ。あの、お兄さま」

 

 大分回答までに間があったもののライスシャワーは最終的には頷いた。だが、顔を俯かせて表情を見えなくさせたライスシャワーは通常時の鈴の鳴るようなソプラノボイスとは正反対のアルトボイスを絞り出していた。

 

 その声色はまるでオレを詰問するかのようだった。

 

「どうした?」

 

「……なんで、仕事終わりなのにブルボンさんに指導してたの?」

 

「指導じゃない、アドバイスだよ。あの子のこと、どうしても放っておけなくてな……」

 

「……そっか。そうだよね。お兄さま、とってもやさしい人だもんね」

 

 顔を上げたライスシャワーは耳を垂れさせつつ、手を震えさせて、あからさまな作り笑顔を張り付けた。

 

 きっとひ弱で心が生温いライスシャワーのことだ。ミホノブルボンを巻き込まないため、本来の希望ならば同行を断ろうとしたのだろう。

 それと新たな犠牲者を作りだしたオレに対して、はらわたが煮えくり返るほどの激情を胸に秘めて。実に健気で扱いやすいヤツだ。

 

 今回、初めて担当ウマ娘にライスシャワーを選んだのは間違いなかったとしみじみ思うぜえ。

 

 それに比べて、ミホノブルボンはマジで予測がつかねえ。

 

 トレーニングが出来ねえからってわざわざ休日を棒に振るか? しかも、1秒たりとも一緒にいたくねえはずのクソ野郎と一日一緒に過ごさなければならねえのに。

 

 自分のトレーナーでもない上、こんなグチグチと口うるさく自分の性的興奮を妨げる面倒なヤツだって認識はミホノブルボンにはねえのか? いや、あった上でトレーニングがダメなら、精神的被虐を愉しもうとクソムカツク奴筆頭のオレについていく選択を取ってきたのか? 

 

 変態の思考は本当に考えもつかねえ……

 

 まあまあ、虐待する相手が一人から二人に変わっただけ。計画に支障はねえ。クフフ! クハハハハ!

 

 

 

 そして、記念すべき休日虐待の日。オレが待ち合わせ時間の20分前に車を校門前まで走らせると、そわそわと落ち着かない様子の動きやすいラフな恰好をした私服姿のウマ娘2名を発見した。

 

 言うまでもなく、ライスシャワーとミホノブルボンだった。20分前行動を取れるとは感心感心。コイツらにはブラック企業に順応できる才能があるぜ。

 

 車の窓から顔を出したオレを発見したライスシャワーは輝くような笑みで手を振ってきた。ミホノブルボンも最近よく見せるようになった微笑をオレに向けてきた。

 

 まだ朝だからそんな薄っぺらい元気を出しているようだが……見てな、すぐに凍り付かせてやるよ。

 

 しょっぱい軽自動車に二人を詰め込んで……一日がかりの楽しい楽しい虐待のはじまりだァ!

 

「……今日は一緒に来られて、ライス嬉しいよ」

 

「ええ、私もあなた(・・・)と来られて気分が高揚しています」

 

 目的地へ向かう道中は会話もなく、しばらく無言の空間が形成されたがようやくライスシャワーがめちゃくちゃ下手な会話の切り出し方で会話を発展させようとした。が、相手もコミュ症ドMウマ娘。すぐに会話は途切れてしまう。

 

 それもそうだろう。コイツらって坂路トレーニング以外ではあまり関わり合いがなかったようだからな。で、お互いコミュ力が低めになるとこうなることは目に見えていた。

 

 後部座席に座らせた二人の会話が妙に重苦しくて、ぎこちねえ。それに冷房をかけてねえのに不思議と冷気が漂っている気が……まあ気のせいだろ。それよりも特別な虐待日を全力で愉しまねえと損だ!

 

 普通の女の子ならおしゃれなカフェを回ったり、ショッピングモールで流行の洋服やアクセサリーといったおしゃれ用品を仕入れたり、スイーツを食べ歩いたりして休日を過ごすもんだろうが……んなことさせるかよ! 

 

 オレの選択した処刑場は――ここだァ!

 

「あ、ここ……」

 

「この施設をご存知なのですか、ライスシャワー?」

 

「うん! 前から一度は行ってみたいと思ってたんだ!」

 

「ここが『リフレッシュ』する為の施設なのですね」

 

 車を飛ばすこと約30分。さあさあ、お待たせしました。テメエらには狂気の施設「スポッチュ」にご招待だ、コラァ!

 

「スポッチュ」とは日光の差さない室内で、ひたすら立てられたピンに向かって球を投げ続ける不毛すぎるスポーツ場や喉を潰させる密室、機械から放たれる豪速球を恐怖心を押し殺しつつ打ち返さなければならない特殊拷問器具まで用意されている娯楽とはかけ離れた血も涙もない施設だ。

 

 休日ですら体と精神を追い込ませる悪行を思いついてしまうとは……オレって、ほんとクズ! 自画自賛しちまうよ!

 

 さてさて、金を出そうとした二人を制止して愉しむための入園料を3人分支払ったオレは憐れな同行者2名を連れて、最初の目的地へと向かう。

 

 まずは定番中の定番、ピンを倒すだけで何も生み出さねえスポーツ「ボウリング」からスタートだ。このスポーツは無駄に普段使わねえ全身の筋肉を使うからな。球を投げているだけに見えて無駄に負荷が高い害悪競技だ。

 

「えいっ! うう……またガーターだ」

 

「三投目までは入射角に誤差あり。次こそは確実に仕留めます……またしてもエラー発生」

 

 おいおい、見ろよ! コイツらの曇った顔! ただピンを倒すだけの競技をやらされるだけではなく、それすらまともに出来てねえ! 超絶無様だなあ! 

 

 ククク! 更に煽ってやるか!

 

「……フンッ!」

 

「す、すごいよ、お兄さま! 三連続ストライク!」

 

「この競技においても優秀とは流石です、あなた」

 

 ケッ! コイツらに褒められても何も嬉しくはねえが……フィジカルで勝る自分たちに出来なくて、自分たちより劣っている野郎に出来ている事実に心の中ではめっちゃ悔しがってんだろうと思うとワクワクしてくるぜ!

 

「あ、あの……おにい」

 

「あなた、アドバイスをお願いします。どのようなプロセスを踏めば、結果を導き出せるのでしょうか」

 

「え、あ……」

 

 早速、プライドを投げ捨ててミホノブルボンが身を乗り出すようにオレの傍に寄ってきた。

 

 ライスシャワーも言いたげに手をモジモジさせていたが、さすがドM。恥や尊厳を捨てるスピードは常軌を逸している。

 

「そうだな。君の場合、ボールのリリースタイミングがズレているんだ。体の向きも右に傾いているせいでボールがヘッドピン、真ん中を捉えることができていない。そこを修正すれば、間違いなくストライクは取れる」

 

「了解。インプット完了。あなたのアドバイス、ログに永久保存」

 

 すると、次の一投でミホノブルボンは。

 

「ストライク、達成しました」

 

「ミホノブルボンは飲み込みが早いな」

 

 苦も無く修正をしてきてストライクを取ってきた。何も面白くねえが、ここからが本番よ!

 

「ナイスストライク! ウェーイ!」

 

「申し訳ございません。手を高く掲げながら『うぇい』という単語を発する意味についての検索結果なし。どのような意味を持つのでしょうか」

 

「ストライクを取ったらハイタッチがボウリングのマナーだ。喜びを分かち合うのは当たり前だろ? ウェーイに関しては……そう、これもマナーだ!」

 

 ノリをマジレスで返すな、このポンコツが! オレの方が恥ずかしくなってくんじゃねえか!

 

「かしこまりました……うぇい」

 

 どうだ!? 毎回、ストライクやスペアを取るたびに体の接触を強制される嫌悪感! マナーだから断るわけにもいかねえ! うんうん、最悪だよなあ……っておい! 無表情ながら何嬉しそうに顔を赤らめている!

 

「……ずるいよ」

 

 お前はライスシャワーをもう少し見習えや、コラ! 見ろよ、ライスシャワーもオレの気持ち悪い行動にぼやきつつ、眉を下げて引きつった顔をしているのを! これが本来の反応! お前は異常なの、異常!

 

 いや、マジでライスシャワーがいると自分が正確に虐待が出来ていることを実感できるってもんだ! 

 

 このままライスシャワーのドン引き顔を眺めるのもいいが……トレーナーたるもの差別はよろしくない。ライスシャワーにも公平に助言をしてやるか。

 

「で、ライスは投げるときにボールばかり見て、レーンやピンに注視していないな。後、オレみたいにボールを曲げようとしなくていいから、もう少し落ち着いて、真っ直ぐ投げるように心掛けてみろ」

 

「う、うん! がんばるぞー、おー!」

 

 と、いつもの掛け声で気合を入れていたものの……。

 

「ど、どうしてダメなのぉ……?」

 

 その数秒後には2連続ガーターで耳と尻尾を垂れ下げて落ち込んでいたライスシャワーの姿があった。クハハハハッ! いいぞ、お前こそウマ娘の中のウマ娘! これが王道の反応ってやつよ! すぐに順応できるヤツはそうはいねえもんな! 

 

 いや、マジでライスシャワーかわいいわ……! クックククッ!

 

 さあ、ミホノブルボンと違ってだめだめだったライスシャワーには苛酷極まりない追い打ちといこうか!

 

「ほら、ライス。ボール持って」

 

「え、あ、うん……ふえっ!?」

 

「ニュートラルポジションはここ。で、背筋を伸ばして……足の位置はこう。で、投げるときに腕を振り子のように使う」

 

「う、うん。お、お兄さま……その、あのぉ」

 

「そうそう、こんな感じだ。力ではなく、遠心力で投げるイメージを持て」

 

「ほ、他の人に見られてるよっ。は、恥ずかしい」

 

「気のせいだって。案外、人ってのは他人に興味は持たないもんだ」

 

 体を触って無理やり修正しているオレに対して小声でやめるように懇願してくるが、当然ガン無視だぁ! 公衆の面前での羞恥プレイと女の子の体にベタベタ触るといったトレーナーじゃなきゃ、法的に完全アウトな所業を思う存分愉しんでやるぜ! クハハハッ!

 

「……ストライク、達成しました。うぇい」

 

「で、だな……ん? ああ、またストライク取ったのか! ナイスストライクッ! ウェーイ!」

 

 クク、あまりにも楽しくてミホノブルボンが投げているのも忘れて、学園内では見せられねえひっどいニヤケ面でライスシャワーの虐待に没頭しちまったぜ。雑目にミホノブルボンとハイタッチをかまし、すぐにライスシャワーの虐待の続きにとりかかる。

 

 うむうむ、ミホノブルボンに狂わされた調子を着々と取り戻してきているぜ!

 

「………何故ですか、何故、何故、何故」

 

 虐待の光景を外から俯瞰的に見ることで、ようやくミホノブルボンも先程行われていた虐待の意味を理解したようで、一定のトーンでブツブツと何かしらの呪詛を吐いているようだった。

 

 よしよし、間接的にダメージを与えられているようだ。

 

 その後も3ゲームほど投げて、コイツらがいかに身体能力にかまけているだけの無能であるかを知らしめさせ、屈辱と無力感をたんまりと堪能してもらった。

 

 ククク、第一フェーズは満足いく結果だったな。この調子でどんどん虐待していくぜ!

 

 

 続いては日が差す屋外へと有無を言わさずに連れていく。そして、網目上に張り巡らされたガッド付きのラケットで黄緑色のボールを相手に叩きつけ、ノックアウトさせる超絶野蛮な競技をコイツにやらせる。

 

 そう、スポーツの皮を被った何でもありの異種格闘技である『テニス』だ!

 

 トレセン学園に就職する前、アマチュアのテニスの試合を生で見物する機会があったんだが、コートが爆発したり、ラケットでブラックホールを生み出したり、骸骨の幻影が相手の全身を剣で抉っていたりとこれはまあ惨い有様だった。

 

 オレもとてもスポーツとは思えない殺人技術を取り入れるべきかと一瞬検討したものの、見様見真似で模倣しようとしてすぐに断念した。アレらは威力が高すぎて虐待には使えねえ。モノは大事に扱う主義だからな。

 

 なので、今回の虐待は少しばかりハードルを下げて、ワンバウンド以内に相手コートにボールを返す超ぬるいルールで地獄の片鱗を味わってもらうことにした。このルールでもきついことには変わらねえがな。

 

 オフの日だろうがしっかりと足腰、そして腕・肩とありとあらゆる部位をとことん虐め抜いてもらうぜ! クッソ、ミホノブルボンにはただのご褒美になっちまうのが悔しいッ!

 

に、しても……。

 

「……絶対に負けませんッ! ブルボンさん!」

 

「私に譲りなさい……! ライスシャワー!」

 

 更衣室でスポーツウェアに着替えたウマ娘二人のかわいい姿を目に焼き付けたオレがあいつらの体を使って直接教えただけなんだが、今回はボウリングの時とは違ってサーブ以外二人とも覚えるのが早かった。というか……何が何でも覚えてやるといった執念が途轍もなかった。ミホノブルボンは特にだ。

 

 剥き出しの地肌に触れて虐待を楽しむはずのオレが若干たじろいてしまった。

 

「はあッ!」

 

「やあッ!」

 

 てか、めっちゃ白熱してんなー。ミホノブルボンは持ち前のパワーで無理やり突破口をこじ開けるパワーテニスで、ライスシャワーは打球は遅いが相手を上下左右に振り回すスタミナと根性を削り取る嫌らしいプレイスタイル。共通する点はトレーニングで追い詰められた並のウマ娘なんか比較にならねえほど、鬼の形相をしているところだ。うん、息切れして苦しんでいるところは実にグッドだが、なにが奴らをここまで必死にさせるんだ?

 

 

 尚、勝負の結果は決着が着く前に両者ともにぶっ倒れ、体力回復している間にコートの使用時間が過ぎてしまったため、引き分けとなった。

 

 もしかして、コイツらがここまで血相を変えていたのは”勝った方の望みを一つだけ叶えてやる”っていったからか? たまには虐待側にも反抗されるリスクがないとオレの気が緩んじまうから提案したんだが。

 

 お前ら、ご褒美という名の要求を盾に積もり積もったドッロドロの恨みをどのように晴らすつもりだったんだ……?

 

 クク、まあいい。やっていいのはやられる覚悟があるクズだけだからな!

 

 さてさて、まだまだ終わらせねえよ。時間はたんまりとあるんだ。今日は地獄の淵が見えるまでとことん追い詰めてやるから覚悟しておけよ……!

 

 




アンケート結果から重バ場お出かけから書くことにしました。

思った以上にしっとりブルボンさんにも票数が集まっていたので、こちらも終わってから執筆していきます。


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#7 狂気の虐待施設にショータイ! 後編

今回は冒頭部がクズ視点でそれ以降は変態ウマ娘視点です。


 さてさて、まだまだ終わらせねえよ。時間はたんまりとあるんだ。地獄の淵が見えるまではとことん追い詰めてやるから覚悟しておけよ……!

 

 よっしゃあ、畳みかけて行くぜえ! 

 広々とした拷問部屋を追加料金を支払うことで確保し、息も絶え絶えな脆弱なウマ娘に更に鞭を入れる!

 

 防音機能が完備された密室で行われる喉と全身を痛めつけ、羞恥心を煽る「カラオケ」のお時間がやってきましたあ! 

 

 またの名をうまぴょい!

 

 マジでウマ娘ってレースに勝った後にうまぴょいしなきゃいけねえのが、残酷だと思っている。

 

 あくまでレースに勝つことがウマ娘の目標。ウイニングライブなんていらねえだろ。

 

 なんで布面積の低い服でアイドル紛いの歌とダンスを不特定多数の輩に晒されなきゃいけねえんだか。

 

 

 まずは先程の虐待で消費した体力を少しでも回復させるべく、部屋のソファに二人とも座らせ、ドリンクや器具を整えて虐待の前準備を整える。

 

「元々のお出かけの目的はライスにウイニングライブの練習をさせるのがメインだったんだ。本来はトレーニングだけではなく、ウイニングライブの練習もしなきゃいけなかったのにな」

 

「あ、そうだったんだねっ! そろそろ勝ったときのことも考えておかなきゃいけないもんね……!」

 

「今までトレーニングのことばかり頭に回り、全然手を付けてなかった。せっかくの休日なのにレッスン目的で誘って悪かったな、ライス」

 

「ううん、全然! むしろ、ここまでライスのことを考えてくれてるなんてとっても嬉しいよ!」

 

言い回しを変えただけで結局は自分勝手に休日出勤をさせた不合理極まりないオレの言動に、ライスはミホノブルボンをほんの一瞬だけ視界に入れた後に愛らしい瞳をオレに向けて、幸せそうに微笑みかけてきた。

 

 その一方で、ミホノブルボンは何かを耐えている様に数秒の間目を閉じていた。

 

 おいおい、そんなにうまぴょいが嫌いなのかよ。ククク、好都合!

 

「ミホノブルボン」

 

「はい」

 

「……あまり楽しくなかったりするか? さっきから表情が硬いようだからさ」

 

「誤解です。私の提案が実現している現状、私は『楽しい』です」

 

 いやー、コイツの無表情もある程度パターンがあるのがわかってきた。

 

 今の表情パターンはとても楽しそうとは思っていねえ顔だ。そりゃ、オレからあれだけの虐待を受ければそうなるわな。

 

「ブルボンさん、ごめんね。もうちょっとライスがお兄さまのように楽しい話ができればよかったんだけど……」

 

「……気遣いは無用です」

 

 え? なんか一瞬、憐れなミホノブルボンを気遣ったライスシャワーが暗いオーラを纏っていたような……クク、ありえねえ妄想をオレもするもんだな。

 

 ライスシャワーは腹に一物を抱えることのできねえ純朴で純粋で無垢なウマ娘なんだからよお!

 

「そういえば、ミホノブルボンはウイニングライブの練習は進んでいるのか」

 

「私の現在の進捗はマスターからウイニングライブに関しての指導は全体練習で3回のみ。満足いくパフォーマンスを行うにはステータスが足りておりません」

 

「そうか。なら、ミホノブルボンにも徹底的にレッスンをつけようと思う。こういうダンスや歌は少人数でやった方が覚えやすいし。今日だけはオレを君のトレーナーだと思って遠慮なく何でも聞いてくれ」

 

 そう伝えると、ミホノブルボンは胸の上で両の手をぎゅっと握りしめた。

 

 突如湧いてきた、極上の獲物を決して逃さないように、だ。

 

「……今日だけはあなたが、マスター」

 

「ん? どうした?」

 

「いえ。是非、ご指導のほどよろしくお願いいたします」

 

 さあ、今日のメインディッシュを堪能していくとしますかねえ。オフの日なのに、嫌々踊らされるウマ娘の可哀そうな姿を見るのもまた一興だぜ。

 

 だが、まあ……今回はオレに関しても、ただじゃすまない自爆特攻の虐待になるかもしれねえ。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

「ミホノブルボン」

 

「はい」

 

「……あまり楽しくなかったりするか? さっきから表情が硬いようだからさ」

 

「誤解です。私の提案が実現している現状、私は『楽しい』です」

 

――申し訳ございません。あなたに、嘘をついてしまいました。

 

 今の私はエラーにより、徐々に『あなたと一緒に居て楽しい』感情よりも『あなたとライスシャワーを見ていると苦しくなる』感情が3%ほど上回っています。

 

 本日のミッション『あなたと一緒にお出かけ』は本当であれば『あなたと二人きり』で出かけたかった。

 

 理由不明。ただ、あなたと二人きりであれば『楽しくて幸せ』だったと根拠のない確信がありました。

 

 今日の私は彼、そしてライスシャワーに承諾を得られたからこそ、同行を許されている身。

 

 突如、強引に横入りした私を受け入れてくれたライスシャワーには誠心誠意感謝を伝えるべき存在です。

 

 しかし、エラー。何度シミュレーションを出しても――ライスシャワーが邪魔で目障りな存在だと結論を出してしまいます。

 

 ありえない下種な思考。ライスシャワーは何も悪くないのにこの場からいなくなってほしいと切に願ってしまう。

 

 彼を独り占めにしたい理解不能な欲望が今にも漏れ出しそうになる。

 

 そして、理路整然としていない上に倫理観に欠けた私自身に1ミリも嫌悪感を抱かない。

 

 そのような嫌悪感を抱かない私自身に嫌悪してしまう。

 

「ブルボンさん、ごめんね。もうちょっとライスがお兄さまのように楽しい話ができればよかったんだけど……」

 

「……気遣いは無用です」

 

 私は人の感情の機微に疎い自覚があります。けれども……対人能力の乏しい本能ではっきりわかります。

 

――ライスシャワー、あなたは間違いなく私と同じ感情を抱いている。

 

 きっと、あなたも理由がわからないのでしょう。

 ですが、私のことを『いらない』存在だと定義付けている。

 

 ライスシャワーは私の不俱戴天の敵であると改めて認識します。

 

 

「よし。準備出来たし、どっちから先にやるか?」

 

「あなたからお願いします」

 

「お兄さまの歌、聞きたいな」

 

「……まあ、そうか。指導する立場のヤツが見本みせない訳にもいかないよな」

 

 誰から歌うかという彼からの声掛けに私とライスシャワーは同様の提案を同時に行いました。

 

 彼はあからさまに渋った顔をしたものの、すぐに機械を操作して曲を検索し始めた。

 

 やはり、ライスシャワーとは分かり合えます。彼というかけがえのない存在が双方に介入しなければですが。

 

 彼さえ、いなければ。

 

 きっと……私たちは良き『友人』になれたのかもしれません。

 

「じゃあ、無難な曲からいってみるかな」

 

 彼が少考した後に選曲したのはウイニングライブの定番ナンバーでした。夢に向かって駆けていくウマ娘の心情を歌にしたヒットソング。

 

 女性用の曲であるのにも関わらず、原曲のキーで音程を外さずに歌う技量とマイクという補助機器なんていらないのではないかと思わせる部屋全体を響き渡らせる声量。

 

 さらに正確無比でキレのあるダンスには目を奪われました。

 

 ああ、なんて格好いいのでしょう……! 

 

 学園では決してみられないあなたの姿を消去不可のログに早急に永久保存しなければなりません。

しかし、ログに保存し、再度読み取った結果……夜に発生する『熱』と『欲求』は更に勢いを増してくるのが予測されます。

 

 粗相をしないようメンタルを更に強化し、ニシノフラワーさんに迷惑をかけないようにしなくては。

 

 彼の歌が終わった後、私は賞賛を称えるために掌に痛みを感じるほど拍手を送りました。

 これほどの出来栄えは並大抵の努力では補えません。

 そもそも歌とダンスは彼の本業ではないはずなのですが。

 

 ライスシャワーの姿も横目に入れると、彼女も頬を赤く染めて心ここにあらずといった呆けた様子でした。

 

 ですが、その数秒後には私と同様の喝采を送ると私の聞きたかった疑問を投げかけました。

 

「すごいすごい! お兄さまって、歌とダンスはどこで習ったの?」

 

「何の面白味はないと思うけど、レッスン場に通って地道に覚えたよ」

 

「そうなんだあ。どうやったら、お兄さまみたいに上手になれるかな?」

 

「一番の上達方法は他の人に直接教えることかな。他人を教えることで自分を見直す結果にもなる」

 

「ふええ……ライス、他の人に教えられるほど上手くなれるかなあ」

 

「練習を怠らなければ、誰だってなれるよ。そうそう、アイツも……」

 

 どこか懐かしむように宙を見つめた彼は途中で不自然に言葉を止めました。

 

 私もライスシャワーも首を傾げます。何か、今の箇所でおかしいことはあったのでしょうか。

 

「はい! 無駄話終わり! 見本も見せたし、これからはお前たちだけでビシバシやっていくからな!」

 

 彼はこわばった表情を隠すように厳しい表情に変えて後、指導する時のような緊張感を漂わせ始めた。

 

 ここからが、本番なのですね。アドバイスではなくあなたの指導を直接受けられる。

 

 ライスシャワーだけの特権が、私とライスシャワーの二人の特権になったことに『歓喜』いたします。

 

 その後、私もライスシャワーの二人とも浮ついた思考を想起させる暇もないほどウイニングライブの練習に励みました。

 

――手慣れた様子でどうすれば伝わるのかを的確かつ簡易的に歌やダンスの指導すらこなす彼。

 

とても素敵でいつまでも指導してほしいのですが、何か引っ掛かりを覚えます。

 

「んじゃ、ライスが歌って最後にするか。踊らなくていいから好きな曲を入れてくれ」

 

「うん! じゃあ、これにしようかなっ」

 

 指定された時間が迫ってきた中、最後にライスシャワーがクールダウンに入れた曲はバラードでした。

 

 彼女の透明な声と非常にマッチングした良い選曲だといえるでしょう。

 

 しかし、彼の姿を常に視界に入れるようにしていた私は見てしまいました。

 

 曲名がディスプレイに表示された瞬間に、彼は表情を無くしていたところを。

 

 どうしてかは、一切わかりません。元々、自分の感情すら理解できない私が彼の感情など推し測ることなんて出来ない。

 

 だけれども、その無表情は彼にとって『よくない』ものを隠すためだと彼の身体状態から判断。

 

 曲がスタートしてからは歌を一生懸命に歌っているライスシャワーに笑みを向けていたものの、唇は正常時よりも微弱に震え、瞬きの回数も平均よりも1分間に12回多くなっていました。

 

 確実に彼は『動揺』している。

 

『優しい人が笑ってた。どうして、それなのに苦しいの。無理に笑うことはないよ。心のまま、生きていいの~♪』

 

 ライスシャワーの可憐な歌声が部屋を包み込む中、彼はカタカタと震えている手を同様に震える膝の上に置いて、足を押さえつけていました。

 

『きっと未来で~♪ きっと待ってる~♪ 輝くSilent Star~♪』

 

ライスシャワーが歌い終わった直後、彼はよろけるように立ち上がり……

 

「ライス、いい歌だったぞ。悪い、ちょっと手洗いに行ってくる」

 

 ぎこちなく微笑んでからすぐに部屋の外へと出て行ってしまった。

 

「ライスシャワー、気づいていましたか?」

 

「うん……お兄さま、なんだか辛そうだった」

 

「ええ。普段のあの人では到底考えられません」

 

「……普段のあの人、かあ。ブルボンさんって、お兄さまのことを随分と知っているんだね」

 

「はい。とても頼りがいがあり魅力的な方だと、よく存じ上げております」

 

 そして、これからはあなたよりも彼のことをより詳細に理解する予定です。

 

 ライスシャワーは私の発言に髪で隠されていない片目を吊り上げた。

 臆病で温厚な彼女らしくない鬼が宿ったかのような鋭い眼に――私は表情を変えることはありませんでした。

 

 しばらく視線を交わしたまま、部屋の中に最新の歌の宣伝BGMだけが流れる。

 

 本来ならこのようなケースが『気まずい』沈黙というものなのでしょうか。

 コミュニケーション能力不足な私には微塵も感じませんでしたが。

 

 24秒ほどでようやく目を逸らしたライスシャワーは大きくため息をついて、膠着状態を解いてきました。

 

「……ごめんなさい、ブルボンさん。ライス、何かおかしいよね。ブルボンさんを睨むようなことしちゃって……」

 

「あなたが謝る必要は一切ありません。それよりも今はあなたのトレーナーのことを気に掛けることが先決です」

 

「うん、そうだよね。お兄さま、どうしちゃったんだろう……」

 

 ライスシャワーが非常に心配そうな面持ちで彼が出ていった扉の向こう側を見ていましたが、私は彼が動揺していた原因を探るための思考タスク処理をしていました。

 

 最後にライスシャワーが歌ったのは怪我で療養中のとある先輩の持ち歌でした。

 

 彼とは全くの無関係で関連性は極めて低いと分析可能――ですが、彼が『動揺』している結果に結びつきません。

 

 加えて、彼の計算され尽くした効率的な練習メニュー作成とライスシャワーに施していたウマ娘の体を熟知した直接的な指導を行える点。

 

 更にはダンスと歌までウマ娘に沿った指導をすることができる。

 

 ベテラントレーナーですら、ダンスに関しては外部からのダンス専門のトレーナーかダンスが得意なウマ娘を練習台として採用するのが基本です。

 

 今までは彼が優秀だからであると結論を出していました。

 

 しかし、優秀だけで片づけられるレベルでは無くなってきています。

 

 いかに彼がありとあらゆる分野の天才であろうとも……ウマ娘に教える指導力は別ではないのでしょうか。

 

――彼は本当にライスシャワーが初めての担当の新人トレーナーなのですか?

 

 




新たなウマ娘がゲートインしそうです。

一体、誰なんだ……!?

あ、次回からまた酷過ぎる虐待生活に戻ります。


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#8 虐待をすべく、自宅に未成年ウマ娘を連れ込むヤバいトレーナー

ウマ娘とは全く関係ないですが

今期アニメ「ひげひろ」の倫理観のアウトっぷりが半端なくて私は好きです。


 あー、バラードとかマジで気持ち悪くなるから勘弁してほしい。

 

 心が洗われる気がする? 冗談じゃねえよ。

 

 誰があんなお涙頂戴の作為が滲み出ている偽善の塊を聞かなきゃならねんだよ! 気色悪いったらありゃしねえ。

 

「お兄さま、大丈夫? 具合悪そうだけど」

 

「ステータス『不調』だと推測。私が常備している体調安定剤を摂取しますか?」 

 

 オレはトイレで胃液を吐き出した後、カラオケルームに戻った。

 

 すると、ヤツらが妙に心配そうにオレの顔色を伺ってくる。

 

……拷問である「うまぴょい」を強制されて、なお気遣える素振りを見せられるなんてな。

 

「気のせいだって。ほら、いつも通りのフツメンだろ?」

 

 いらぬ心配をかけるヤツらに両の頬に人差し指を押し付けて、ニカっと微笑みかけたらヤツらは顔を赤くして、視線を逸らした。

 

 そうだそうだ、調子に乗るんじゃねえ! 虐待者の鑑たるオレをもっと恐れやがれ!

 いっちょ前にウマ娘がトレーナーのオレのことを心配すんじゃねえよ!

 

――もっと、自分の身のことだけ気にしやがれ。

 

 

 ヤツらの認識を再度改めさせたところで、今日はこの辺で虐待は終わりにしてやろう。

 

 痛めつけすぎて、使い物にならなくなっちまったら本末転倒だ。

 

 飴と鞭は使い分けが重要だからな。

 

 

 後はボーナスタイムとして、オレには何が楽しいのか微塵も分からねえ「クレーンゲーム」をライスシャワーたちにやらせてやる。

 

 こういうのって、女の子は好きなんだろ? 知らんけど。

 

 てか、景品が欲しければ普通にネットとかで買えばよくないか? 時間も金もドブに捨てるクソゲーは見るだけでも苦痛なんだが……アイツらの頑張りに今日は我慢してやる。

 

 ライスシャワーはアームの力の弱いクレーンゲームに翻弄され、案の定オレに泣きついてきた。

 

 憐れなライスシャワーに横でアドバイスを出してやると、ようやく取れて尻尾を左右にぶんぶん振り回して大喜びしていた。

 

 一方、ミホノブルボンは機械類を触ると故障させてしまうという訳わからん言い訳でオレにクレーンゲームをやらせる暴挙に出やがった。

 

 オレを操り人形にしたミホノブルボンは試行錯誤しながら、微調整を重ねてとうとう目的のブツを入手した。

 

「あなたとの、初めての共同作業ですね」

 

 と、目尻を緩ませたコイツはやはりオレの天敵だと実感させてくるわ。

 

 

 ライスシャワーが白、ミホノブルボンが黒のクマのぬいぐるみを確保して満足そうに抱きかかえている姿を見る。

 

 うむ、一生理解は出来そうもねえがアイツらのリフレッシュになったことは間違いなさそうだ。

 

 クハハハ! 次の日からも容赦なく虐待が出来るってもんだな!

 

「今日は楽しかった! ありがとう、お兄さま!」

 

「あなたとのお出かけは大変よい刺激になりました。ありがとうございます」

 

「そりゃ、よかった」

 

 テニスまでは成功だったが、カラオケはオレのメンタルが貧弱なせいで失敗に終わってしまった。

 

 反省点をピックアップし、次は確実にプラン通りの遂行ができるようにならねえと。

 

「……ブルボンさんも今日はありがとね! ブルボンさんのおかげで、よくわかったから」

 

「それは私もです、ライスシャワー」

 

 虐待を受けたもの同士、仲良くなれたみたいだな。

 

 うんうん、良きかな良きかな。

 

 怒りを吐き出す場がねえと、軽度の虐待でも潰れかねないからなあッ!

 

 強引にミホノブルボンは付いてきたが、引っ込み思案のライスシャワーには同志となるウマ娘が必要だった。ある意味ではちょうどよかったのかもしれない。

 

 ひとりぼっちは寂しいもんな。

 

 このまま、ミホノブルボンと仲良くなってくれよライスシャワー。

 

 三冠ウマ娘というデッカイ夢を抱えているミホノブルボンに絶望を送るのがお前の役目でもあるんだからなッ!

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 一日を終えて狂気の虐待施設から脱出したオレたちは車に乗り、オレが暮らしているアパートへと向かっていた。

 

 さてさて、予定では外食をするはずだったんだが……何を血迷ったのか、アイツらはオレの手作り料理を食べたいと懇願してきた。

 

 せっかくオレがめっちゃ旨いと太鼓判を押している、スープがレンゲで掬えないほどのギットギト油マシマシ唐揚げラーメン店を紹介してやろうと思ったのに。

 

……ククク、唯一無二のオレの弱みを的確についてくるとはやるじゃねえか! 

 

 そう、料理だけはオレは何をやっても逆効果! 

 

 来る日も来る日も「うまい!」「おいしい!」とディスられ続けてきた。

 

 だがなあ……ミホノブルボンはもちろん、普段からオレの朝食を平らげているライスシャワーも知らねえ。

 

 夜のオレは文字通り、ひと味違うってことをな!

 

 ちょうど、来たる日の虐待のために取り寄せておいた食材が火を放つときが来たようだな……!

 

 

 現地に到着したオレはウマ娘二人を自室へと招き入れる。

 ライスシャワーは慣れた様子で、ミホノブルボンはゆっくりと丁寧に玄関で靴を並べた。

 

 この絵面、普通に考えたら明らかに未成年の女の子を自室に連れ込んでいるヤバイ奴なんだが、今のオレはトレセン学園のトレーナー! 何の問題もねえ。

 

 どこぞの女子高生を連れ込む危機管理のなってねえサラリーマンとは訳が違うんだよ!

 

 が、その前に汗くせえヤツらにはさっさと洗浄してもらわねえとな。

 

「汗かいただろ? 風呂はもう遠隔操作で沸かしてあるから先に……っと、ミホノブルボンは着替えは持ってきているか?」

 

「はい。替えの下着は準備しております」

 

「それならいいんだけどさ……」

 

 上は事前に汗をかくからと持ってこさせたからわかるんだが、下着も一緒になんて妙に用意周到だな……

 

「しかし、疑問。何故、ライスシャワーには聞かないのですか?」

 

「ああ、それはな……」

 

「ライスは朝練終わったら、いつもお兄さまの部屋で着替えをしてから学園に行くの。ある程度の私物を置かせてもらってるんだ」

 

「……なるほど、承知いたしました。朝練後に、ですね」

 

 説明しようと思ったら、先にライスシャワーが答えた。

 

 ライスシャワーには彼女専用の収納スペースを用意してある。ヤツの私物を保管するということは、間接的に人質に取っているわけだ。

 

 私物を取り返すにはオレの家に嫌々ながら来る必要がある。どんなに辛くてもお前はオレから逃げられねえんだよ! クックックク!!

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 風呂に入った順番は先にミホノブルボンで続いてライスシャワーだった。どうやら、仲良くジャンケンをして決めたようだ。

 

 ライスシャワーもミホノブルボンも何か手伝えることはないかと聞いてきたが、やんわりと断っておいた。

 

 今は二人仲良くニュース番組を視聴中だ。

 

 

 

『速報です。サイレンススズカ選手が約1年の休養期間を経て、本日より復帰することが表明されました』

 

『これまで無敗。皐月賞、ダービーを難なく制した二冠ウマ娘がいよいよ沈黙を破り、本格参戦です。菊花賞前での怪我の発覚さえ無ければ、と悔まれたファンも多かったでしょう』

 

『異次元の逃亡者の異名を持つサイレンススズカ選手。これからの活躍に期待が高まりますね!』

 

 

 

「サイレンススズカ先輩、とうとう復帰するんだ……」

 

「正確なラップを刻むだけではなく、最終直線で差しウマのように更に加速するあの人の走りは同じ逃げウマからすると『化け物』としか思えません」

 

 

 ウマ娘は人間よりも耳がいいからテレビの音は小さくして視聴している。オレには内容は聞こえて来ねえが、アイツらが共通の話題で盛り上がっているのは確かだ。

 

 

 よしよし、このまま黙ってテレビを見てくれ。絶対にこっちに来るんじゃねえぞ。

 

 もともと、飯を作る時に他人にウロチョロされるとイライラするタイプだし……なんてったって調理過程を見せるわけには行かねえからな!

 

 何故かって? 知られちまったら逃亡される危険性が高いほどの劇物料理を今日は作るからだよ!

 

「よっし! 出来たぞ~! 待たせたな!」

 

 オラッ! これで完成だ! この飯を喰らい、死の抱擁を受けなァ!

 

 

 初陣を飾るのは「なめこと納豆とおくらの激辛にんにくネバネバパスタ」だぁ!

 

 女の子が嫌う最悪極まりない口臭の元であるにんにくを刻み、鷹の爪をふんだんに入れてパスタに絡めることで激辛ペペロンチーノ風にまずは仕立てる。

 

 で、くっせえひきわり納豆と喉に纏わりつく茹でて柔らかくなったおくらとなめこを混ぜて混ぜて混ぜまくった一品ッ!

 

 湯気と同時に立ち込める臭気とぬめぬめとした触感は吐き気を催さずにはいられねえはずだ!

 

 お次は「ブルーチーズとゴルゴンゾーラのジェノベーゼ!」

 

 まずは匂いの強烈なブルーチーズとゴルゴンゾーラを悪臭に鼻がイカレそうになりながらも刻んで、温めることでドロドロに溶かしておく。

 

 それにオレ自らが実験体となり厳選した強烈な香りを放つバジル、セロリ、パセリの3種をミキサーに投下する。

 

 そして、エイリアンの血液のような緑色となった液体と溶かしたチーズと絡めることであら不思議!

 

 作ったオレですら涙目になるほどの視界に入れた瞬間に食欲が無くなる劇物料理に大変身だ!

 

 

 で、余ったクッソ青臭いバジルソースやベーコンやチーズを使ってポテトサラダを作成ッ! 更にはにんにくとコンソメでスープでもう一品追加ァ!

 

 おまけにパセリとセロリのスムージーをドバドバっと飲み物として補完!

 

 

 クク、悪いなあ。オレは無駄使いは一切しない主義なんでな!

 

 

 ここまでの最低最悪の力作。今日こそは、今日こそはきっとッ!

 

 

「……今まで、食べてきたパスタとは何だったのでしょうか」

 

「ううっ、うう……!」

 

 暗い顔をし出したウマ娘ふたりを見て、オレはほくそ笑む。 

 

――勝った! 今日こそは、勝ったんだ!

 

 ほら、全トレーナーの諸君! ご覧あれ! 

 

 おもてなしをしてやったオレの目の前だから、飯を吐き出せずにぷるぷると痙攣し始めたウマ娘たちをよ!

 

 コイツら、余りにつらくて泣き始めたぞ! 

 

――ん? 泣き始めた? んん? んんんんん???? おかしいなあ、このパターンって……?

 

「もう、あなたの作ったパスタ以外は口に出来ません。食事で涙を流せることが捏造ではないと認識……」

 

「お兄さまの料理を食べて、おいしすぎて涙が止まらなくなるの何回目だろ……!」  

 

 嘘だろ? と思いオレもネバネバパスタから口に入れてみるが……

 

「……ウガッ!?」

 

 ――即座に顔が青ざめるほどの破壊力だった。

 

 や、やはり調理過程は間違っていないはず!

 

 アグネスタキオンにも「ああ、君の料理は最低だよ。実に、実に最低すぎるッ」とお墨付きを貰ったはずなんだが……!

 

 試食段階でも鼻をすすりながら、自らが残虐料理のモルモットになってまで協力してもらったアイツの努力を無駄にしてしまったッ……!

 

 クソがぁああああああああ!! 次は、次こそは絶対に真の意味で泣かせてやるからな!

 

 

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

「スズカ、足の調子はどうだ?」

 

「グルーヴ、併走ありがとう。今のところは大丈夫そう」

 

「そうか、それは良かった。だが、あまりハメを外し過ぎるなよ。お前はまだ大怪我から復帰したばかりなんだからな」

 

「そうね。気を付けておくわ」

 

「……スズカ。前から思っていたんだが、少し変わったな」

 

「え? そう、かしら?」

 

「以前よりも表情が明るくなったし、憑き物が取れたようにスッキリとした顔をするようになった」

 

「ふふ、グルーヴは私のことをよく見ているわね。もしかして私のこと、好きなの?」

 

「そ、そういうところもだ! 前は人をからかう性格をしていなかっただろ!」

 

「ふふ、ごめんなさい。でも、そうね。たぶん、私が変わったように見えるのは――ケガをしたことで私にとって一番大切なことを思い出せた(・・・・・・・・・・・)から」

 

「なんだ、その大切なことって」

 

「それはね……」

 

「それは?」

 

「それは……うーん、やっぱり秘密にしておくわ」

 

「おい! さんざん溜めておいてそれか!? 中途半端に止められたら気になってしまうではないか!」

 

 

 




クズの部屋に私物を持ち込むことでマーキングをするライスシャワー。

後から入ってきた新参者にしっかりとマウントを取っていく。

尚、新参者もまたライスシャワーが口を滑らしたせいで良からぬことを企んでいる様子。


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#9 ウマ娘に対する虐待の対価

今回は虐待成分少な目で申し訳ないでやんす。


 まだまだ真夏並みに暑いせいでやる気が削がれる9月下旬。

 

 昨日、短距離とマイルしか出さないと未だにほざいていた虐待精神の足りないミホノブルボンのトレーナーとバッチバチの口論をしたせいでオレの気分はガタ落ちになっていたんだが……

 

「ライスッ! また頭が上がってるぞ! 姿勢はより低くしろ! コーナーでスピードを落とさないように!」

 

「は、はいっ!」

 

「練習は本番のように! 本番は練習のように、だ! 刹那の瞬間まで感覚を研ぎ澄ませ!」

 

 そんな中、オレは汗だくになりながらライスに苛烈な虐待をすべく鞭を打っていた。

 

 ククク! これよこれ! 嫌で嫌で仕方ないのに耐えるしかない惨めで懸命な姿ァ!

 

 これぞ、オレのウマ娘にふさわしい。テンションもおかげさまで相当戻ってきた。

 

 お前が苦しむ姿を見れれば、オレが最高に興奮出来てハッピー。

 その代わり、お前は並みのウマ娘なんかと比較なんてできねえ高みへと辿り着けるんだ。

 

 と、ライスシャワーがフラフラの状態で戻ってきたな。

 

「お疲れ様、今日のメニューは終了だ。最後の方はようやくマシになってきたな」

 

「……はぁはぁ。ホ、ホントに!?」

 

「マシ、になっただけだ。あまり調子に乗るんじゃない」

 

 ライスシャワーに指導している内容は何も知らねえウマ娘なら及第点を与えるところだが、オレが虐待するウマ娘ならこんなもんじゃ全然足りねえ。

 

「あうぅ。ごめんなさい……」

 

「ハハ、なんてな。よくやってるよ、ライスは」

 

 オレの手厳しい指摘に落ち込んだ様子のライスにオレは慰めの言葉をかけてやる。

 

「でもでもっ! こんなに教えてもらってるのに、ライス全然お兄さまの教えを身に付けられないし……」

 

「……実はな。オレが教えているのは才能があるだけじゃ身に付けられない走法なんだ」

 

「え? そ、そうだったの!?」

 

「ああ。この走法はいかに才能のあるウマ娘でも2日と持たずに体を壊す」

 

 隠された衝撃の事実にライスはぎょっとした顔をする。

 ククク、おぞましいトレーニングだと今の今まで教えてなかったからな。

 

 まあ、危険といってもケガをしないように管理しているが。

 

「でも、ライスはケガをすることなく1カ月以上トレーニングを続けられている。それはな、ライスの体が現役のウマ娘と比較してもかなり丈夫になった証拠だ」

 

「けど、ライス何もやっていないのに……」

 

「やってきたよ。お前は客観的に見て、オレが出す非常に辛いトレーニングから決して逃げ出さなかった。それは十分すぎるほど、他人に誇っていい事実だ」

 

「お兄さま……」

 

 なんだか感極まっているようだが、何か感動するところはあったか?

 貶すべき点は貶す。褒めるべき点は褒める。

 

 虐待を好きだろうが、嫌いだろうが人として当然のことを言っているだけなんだが。

 

 

「さて、ライス。残り3カ月になったけど、今年の目標を伝える」

 

 段階式に虐待の強度を上げていく中で歯を食いしばり、ボロボロになりながらもきちんと付いてくる健気で可愛くて虐待しがいがあるライスシャワーにオレが考えている目標を伝える。

 

「う、うん!」

 

 ここでオレは右手の人差し指と中指を2本立てた。

 

「今年の目標は11月の京都ステークス。そして、12月のホープフルステークスで1着になること」

 

 立てた指を1本ずつ畳んでそう伝えると、垂直に耳を尖らせたライスシャワーはあわあわと手を振りだした。

 

「京都ステークスって重賞レースだよね? そ、それにホープフルステークスって!?」

 

「新バ中距離最強を決めるG1レースだな」

 

「む、無理だよ!? だ、だってライス、今だって全然ダメダメだし……」

 

「ダメじゃない。何のためにウイニングライブの練習をやったと思っているんだ? ライスも言ってただろ? そろそろ勝った時のことも考えておかないとって」

 

「ううっ……確かに言ったけどぉ」

 

「いつも言っているけど、もっと自分に自信を持て」

 

 圧倒的なまでの自己評価の低さ。

 そんなライスシャワーの貧弱な性格がオレが虐待する面で扱いやすい。

 

 が、いずれ矯正させたい部分でもある。

 スポーツだけではない。ギャンブルだってそうだ。

 

 自分を信じられねえヤツは小さな勝負には勝てても、大舞台での勝負には勝てないもんだ。

 

「でも……」

 

「オレはな、その人に到底出来ないことは絶対にさせない」

 

「……ふえっ!?」

 

 語尾を強めた上で、オレはライスに近づいて泥がついている小さい手を取った。

 

「――このままトレーニングを続けたライスなら、絶対に勝てる」

 

しばらくの間、嫌悪感から固まっていたライスシャワーだったが……ようやく弛んでいた精神が引き締まったようだった。

 

「……うん、わかった。ライスね、まだ自分のことは信じられないけど……お兄さまのことなら信じられる」

 

 決意を秘めたライスシャワーはオレの手を握りしめ、両の手で包み込んだ。

 

 嫌悪感も何もかも飲み込んでやるといった意志の強さが感じ取れる握り方だ。

 

「だから、お兄さまにはもっともっと厳しくライスを鍛えて欲しいな。ライスがライスのことを認められるように……ずっと、ずっとお兄さまに幸せを与えられるウマ娘でいられるようにがんばるから!」

 

「もちろんだ」

 

――クハハッ! 計画通り! こうも思い通りいくとはな!

 

 危険であると伝えた以上、これ以上のトレーニングは流石にウマ娘との同意が無いとさせられないしな。

 

 だが、イリーガルユースオブハンズを使いつつ、ライスシャワーにまともな思考を取り上げた上で勝利という巻き餌で自らいばらの道へと足を踏み入れさせたッ!

 

 ああ、次はどんなトレーニングでかわいい顔を歪ませてやろうか。ワクワクが止まらねえなァ!

 

 やっぱりトレーナーって最高だぜ!

 

 

 さて……絶対に勝てるとライスシャワーに宣言してしまったからには、アイツに栄光を掴ませてやらないとならない。

 いかに私利私欲でトレーナーという虐待業を満喫しているクズとはいえ、ライスシャワーが恨みがましいオレから受けている絶え間ない苦痛に見合う対価を提供する義務がオレにはあるのだから。

 

 

――ところで、アイツが学園内でオレに接触してこない様子を見るとどうやらオレのことは覚えていないようだ。

 

 まあ、当たり前っちゃ当たり前なんだが……杞憂で済んで助かったわ。

 

 

 

 




ある日のトレーナー室での一幕。

「あなたは(ド変態である)ミホノブルボンのことを何も分かっていない」
「私は彼女のトレーナーだぞ。君よりは理解しているつもりだが」
「碌に彼女のことを見ようとも(虐待)しない癖によくそんな台詞が出てきますね。あの娘がどんな想い(被虐による快楽目的)で過剰すぎる自主トレーニングを続けているとお思いですか?」

と、傍から見ると熱い説得を重ねる+(被虐による快楽を与えない虐待)トレーニングメニューを差し出したことで、ミホノブルボン陣営の方針が変わったとか何とか。

で、トレーナー室の扉の前で佇む一人のウマ娘が尚のこと想い人へ熱情を募らせたとか。


次回、魔改造ライスシャワーがクズトレーナーの代わりに同期のウマ娘に真の虐待をする話です。


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#10 京都レース場 GⅢ 京都ステークス 芝2000m/蹂躙開始

情けないクズの尻拭いをする虐待ウマ娘の鑑。


 

――京都ステークス。この年、かの重賞レースに出走したウマ娘は絶望とは何か身を以て知ることになる。

 

 絶望の体現者――ライスシャワーによって。

 

 のちに漆黒の追跡者、魔王、史上最強の悪役(ヒール)と評されるウマ娘が蹂躙劇のコンサート場として初めて選んだのが淀の地であった。

 

 

 

 

 

 

● ● ●

 

 

「まもなく始まります。新バにとって希望への架け橋となるG3レース・京都ステークス。天気は雲一つない快晴。バ場も走りやすい良バ場との報告が上がっています」

 

「さて、注目のウマ娘を紹介しましょう。一番人気は1番・セキバリュウコウ。前戦では2着と3バ身差の見事な勝利でした」

 

「直線が短いこのレース場でも彼女の末脚が爆発することを期待されていますね」

 

「2番人気はこの娘、3番・サンキューレター」

 

「前戦のトライアルでは堅実な先行策で2バ身差の勝利を収めています。ただ出走スケジュールが過密の為、1番人気を譲った形になるでしょう」

 

「そして、3番人気は4番・レリックアース」

 

「ムラッけのあるウマ娘ですね。ただ、レース展開が噛みあえば圧巻のレースを見せることもあります」

 

「本レースの人気ウマ娘の紹介でした。改めて、ここでゲストを紹介しましょう。先月、見事に天皇賞・秋を圧勝したサイレンススズカ選手です」

 

「はい、サイレンススズカです。よろしくお願いします」

 

――私・サイレンススズカは今、重賞レースのゲストとして招かれている。

 

 自分で言うのも恥ずかしいけれど、復帰戦での劇的な勝利で今の私の人気は相当高いみたいだし……その影響でゲストに抜擢されたのでしょう。

 

 元々、人と話すのは苦手だったけれど……あの人のおかげで受け答えが容易にできるようになった。

 

 そんなことすら、“あの”直前まで忘れていたなんて。

 

 もう、私で“私”を殺したくなっちゃう……ううん、殺すだけじゃ飽き足らないわ。

 

 涙と苦痛に顔を歪ませ、ありとあらゆる懺悔の言葉を聞き出してからじゃないと……って、ダメよスズカ。

 

 そんなことしたら、またあの人のことを忘れちゃうかもしれないから絶対ダメ。

 

「先日のレース、復帰したばかりとは考えさせない見事な走りでしたね!」

 

「ええ、皆さまの期待に答えられて良かったです」

 

「ここでレースの現役専門家であるサイレンススズカさんに伺ってみましょう。ズバリ、このレースでサイレンススズカさんが注目する一押しのウマ娘はどの娘でしょう?」

 

「そうですね……やはり、ライスシャワーさんでしょうか」

 

「ライスシャワー、ですか?」 

 

「はい、ライスシャワーさんです」

 

「……えー、8枠10番ライスシャワーは本レース8番人気ですね。京都競馬場で外枠は不利とされていますし、過去の模擬戦も直前で出走停止となることもあった実力未知数なウマ娘なので人気下位ではありますが……サイレンススズカさんは彼女と学園内で関わりが?」

 

「ええ、深い交流はありませんが……このレース、勝つのは彼女でしょう」

 

 だって、あの人が選んだウマ娘ですもの。この実況の人、勉強不足なのではないかしら……なんてね。

 

「理由も伺いたいところですが……いよいよファンファーレが響き渡ります! さあ、夢に一歩近づけるのはどのウマ娘なのか!」

 

――ふふ、あの人が選んだウマ娘が一体どんな走りを見せてくれるのか……楽しみ。

 

 

 

 

 

● ● ●

 

 

 

 

「さあ、スタートしました! 飛び出していったのは5番、続いて7番、その後にサンキューレター、内をついてレリックアース、6番、2番、9番、8番と続きましてその少し後方にセキバリュウコウ、最後方にライスシャワーという展開」

 

「……あら」

 

 デビュー戦や学園内での模擬戦ではあの子は先行策しか採用していなかったはずだけど……あえての後方策とは。

 

『早くも1000mを通過。タイムは59.5秒とややハイペース。先頭から最後方まで未だに13バ身以上の差があるぞ!』

 

――なるほど。ああ見えて、派手な勝ち方が好きなエンターテイナー気質のあの人らしい。

 

 ここで私にはこのレースの結末が見えた。このレースにあの子を出した目的も。

 

 あの人の考えていることがわかったことに私はあの人と未だに繋がっていることに当然のことながら喜びを感じた。

 私たちの縁は例え死んでも切り離せないものですからね。

 

「残り700mを通過。レース展開もいよいよ激しさを増してくる! お、ここで先頭がサンキューレターに変わる! 負けじとレリックアース追走! 内をついたセキバリュウコウも徐々に先頭集団目掛けていく!」

 

 先頭集団も差しウマも仕掛け始めるけれど、ここで仕掛けるようでは遅い……ううん、ちょっとだけ違うかな。

 

――ここで仕掛けなきゃいけない力量じゃ、そもそも勝負の土俵に上がれていない。

 

「あ、ここでライスシャワーが動いた! ぐるりと大外を回ったライスシャワー、ぐんぐんと加速していく! しかし、最後方の不利なこの位置から間に合うのか!?」

 

 決まった。こうなってしまうと、マークを外してしまっている彼女たちに為す術はない。

 

「残り400mを通過! 先頭はサンキューレターとレリックアースの叩き合い! セキバリュウコウも追ってくる! やはり、この3人のレースに……いや! 大外から漆黒の影が迫ってくる! 迫ってくる! なんなんだ、この速さは!?」

 

 レース全体を眺められる特等席から見ていると、ライスシャワー以外のウマ娘がスローモーションに見える。ひと際小さい体が新緑のターフを黒く、黒く染めていく。

 

「まもなく残り300mに差し掛かる! ここでライスシャワー、捉えた! 先頭集団に並び……いや、並ばない! 並ばない! 無慈悲にも彼女たちを置き去りにした! 淀の地に黒き暴風が吹き荒れる! ライスシャワー、5バ身、6バ身とリードを広げていく! な、なんという末脚だ……ライスシャワー、今1着でゴールイン!」

 

 瞬きすら許さない彼女の走りにレースの決着がついたのにも関わらず会場は静まり返った。結果は2着と9バ身差の圧勝。

 

 そして、結果が表示された後にこのレースの勝利者の顔が電光掲示板にアップで映し出された。

 

――その時の勝利の余韻に浸る訳でもなく、ただ嗤っていた。

まだまだ走り足りないと言わんばかりの表情に現実を受け入れられないウマ娘・観客ともに全身が凍り付いていた。

 

「……私もレースが終わってもなお言葉が出ません。これで勝ちウマとなったライスシャワーはホープフルステークスの出走条件を満たしました。いや、それにしてもサイレンススズカさんの見立て通りの結果になりましたね」

 

「いえ、見立て以上でした……ふふ、あの子のファンになっちゃったかも。今からライスシャワーさんの次のレースが楽しみです」

 

 唯一抜きんでていた頃のスペちゃんや遊びごころを排除した全力のゴールドシップのように後方から苛烈に追い上げてきたライスシャワー。

 

 アレは余程の強心臓の持ち主でない限り、狼狽しないウマ娘はいない。

 

 ましてや、まだまだレース経験の浅い子からすると『どんなにベストな走りをしても、必ず後ろから差される』印象を植え付けられたに違いない。

 

 それは凶悪犯に追い回されて命からがら逃げてきた被害者のように、二度と忘れられないトラウマになりかねない。

 

 ちょっとだけかわいそうで同情しちゃうかも……

 

 これからどんどん成長していくことも考えると、彼女と同じ距離を走るウマ娘にとって共通の敵以外の何物でもないでしょう。

 

――それなら、バランスを取らなきゃいけませんよね? ね、トレーナーさん。




きっと次のレースはこんな無慈悲で悲惨な事にはならないでしょう。

”希望”の名がついている未来へ羽ばたく為のレースですからね。


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#11 虐待したウマ娘の虐待に大興奮した件

「はは、ハハハハッ! クハハハハハハハッ! どうだッ!」

 

 我が虐待の化身であるライスシャワーが後方から全バをぶち抜いた光景を見て、オレは笑いを堪えることができなかった。

 

 やってくれたぜ、チクショウ!

 

 本来のライスシャワーの脚質や性格的にターゲットとなるウマ娘を徹底的にマークをするヒットマンスタイルが合っているんだが……このレースでライスシャワーの敵になりそうなウマ娘はいなかった。

 

 ならば、全員を標的にして虐待してしまえばいいという追込へと作戦を切り替えた。

 

 オレの虐待を耐えてきた今のライスシャワーに芝2000mは短い。

 

 故に残り700m地点で仕掛けてもスタミナ切れは起こさない。あとは練習通りに走ってくれれば、蹂躙は完了する。

 

 おいおい、見たかよ! ライスシャワーの実力を思い知ったアイツらの間抜け面を!

 

 ウッハァ! 気持ちイイねえ! 

 

 ライスシャワーを意気地なしで根性無しのクソザコウマ娘だと勘違いしていた全てのアホ共に二度と消せない敗北と屈辱の刻印を焼き付けてやったッ!

 

 クハハ! ザマァ見ろ!

 

 お! 今日の虐待劇の立役者がオレ目掛けて超特急で来たな。しょうがねえ、素直に褒めてやるか。

 

「えへへ! ライス、やったよ!」

 

「よし! 偉いぞ~、ライス~。偉いぞ~」

 

 息を乱していないライスシャワーの頭を撫でると、少しだけ汗に濡れた艶のある黒髪の手触りと共にレース後の熱気が手に伝わってきた。

 

「でも……あんまり歓声は貰えなかったな。あっ、おこがましいのはわかってるんだけど……ライスが勝っても喜んでもらえなかったのかなって」

 

 そう言い、ライスシャワーはほんの少しだけ残念そうな顔をした。

 

 あら? この程度か? もっと落ち込んでいる顔をすると思ったんだがな。

 

 確かに歓声は少なかったが、それほどライスシャワーが与えた衝撃の余韻が凄かったということだろう。

 

「安心しろ。勝ち続ければ、いずれレース場はお前を称える歓喜と祝福の声一色になるはずさ。それに」

 

「…………?」

 

「例え、誰もライスを称えなかったとしてもオレだけは全身全霊でお前を称えてやるから」

 

「……うん! ライス、お兄さまに喜んでもらえるのが一番うれしいんだ。これからもライスは勝つよ。だからね、見捨てないでずっと見ていて欲しいな」

 

「見捨てろって言われても、見捨てないよ」

 

「……も~っ! お兄さま、ちょっとカッコつけすぎだよぉ!」

 

「え? そ、そうか?」

 

「うん……あんまり他の人にはしない方がいいと思うな。でもね、やっぱりどんなお兄さまでもライスは大好き……お兄さまさえいれば、ライスはそれだけで幸せだもん」

 

 そういって、火照った体をオレに押し付けてくるライスシャワーがクッソあざとい。

 

 今日はお前が主役なんだし、スポッチュの時以上にバッチリ注目浴びてんのに気づかねえのか? 

 

 全く、お恥ずかしい奴め。

 

 しかしまあ、目的が達成できて一安心だな。

 

 レースに“絶対”はないのはオレはよく知っている。結果は最後まで見てみないとわからないものだ。

 

 このレースに出走させたのはホープフルステークスの優先出走枠を手に入れる以上にライスシャワーに自信をつけさせるためでもあった。

 

 相対的な結果は自信へと繋がり、アイツの実力はより盤石なものへと近づいていく。

 

――だが、あれだけオレが虐待を重ねても堪えるばかりでしょぼい反抗しかしてこないのは問題だ。

 

 反抗させるだけさせ、屈服させてこそ虐待を楽しめるというもの。

 

 今だって、媚びを売るように虐待者であるクズのオレを大好きだとのたまっている。

 そんなことで懐柔されるオレではねえことぐらい知っているはずなんだが……言ってみるだけタダってヤツかもしれないな。

 

 だが、このままではダメだ。もっと虐待しなければ。

 肉体面だけではなく、なかなか育たない精神面を中心にな。

 

 喜んでいるコイツは重大な思い違いをしている。

 

 前にお前は自分のことは信じられないけど、オレのことを信じるって言ったよな?

 

 けどな、最後に信じるべきはオレじゃねえ。ライスシャワー、お前自身なんだよ。

 

「じゃあ、お兄さま。ウイニングライブの準備してくるねっ」

 

「ああ、最前列で楽しみに待ってるよ」

 

「うん! がんばるぞ~、お~!」

 

 正直、言いたいことはまだまだある。このレースだって、練習の7割程度の力しか発揮できていなかったしな。

 

 でもまあ……今は締めにかつてない規模で視姦されるライスシャワーのウイニングライブをしっかりと眺めてやって、虐待の余韻を味わうとしようか。

 

 

 クックック! フワアッハハハハア!!

 




あ、そうそう。タグにダークサイレンススズカを追加しておきます。


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#12 『愛』

ダークチップヲツカイナサイ……


 京都ジュニアステークス。

 

 周りのウマ娘を歯牙にもかけずに蹂躙したあの時のライスシャワーの走りを見て、私は思考回路に大きな損傷を受けてしまいました。

 

――私は、ライスシャワーに本当に勝てるのか?

 

 このような脆弱な意思では勝負をする前から負けている。ですが、日に日に焦りと不安は募っていくばかり。

 

 このままでは、彼の『絶対』がライスシャワーで固定されてしまう。それだけは『絶対に嫌』なのです。

 

 弛んだ考えを振り払うべくマスター……いえ、彼の考案してくれたトレーニングを日々こなすも全然足りないと分かってしまう。

 

 彼のトレーニングを受けている私と彼からトレーニングを受けているライスシャワーでは努力量で補いきれない溝が生まれ始めているのですから。

 

 もちろん、努力量で補いきれないのであれば更なる努力を重ねるのが私のスタイルです。

 

 しかし、私が無理に体を酷使すればまた優しい彼を悲しませることになります。

 

……それはそれで『高揚』しますが、彼にはずっと傍で見守っていてほしい。

 

「19時30分ジャスト。デイリータスク、オールクリア。クールダウンに移行」

 

 ですので、誠に不本意ながら最近は自主練習を短めに設定してあります。

 

 しかも……今日は1週間に1度発生するチャージタイムが訪れるのですから。

 

 彼の自室にお邪魔し、一緒に食事をとり会話をする私と彼だけの大切な時間。

 

 それだけでも贅沢すぎるのですが……直接、私の肉体に彼の手が触れるマッサージの時はまさに至福。

 

 彼から与えられる心地よい痛みはようやく彼に全てを支配されているような感覚。まさに彼だけの所有物になったような気分になります。

 

 しかし、人とは強欲なものです。幸せを享受すればするほど、より多くの幸せを望んでしまう。

 

 業が深いからこそ、人は過ちを犯し続けるのかもしれません。

 

 クールダウンをし、後片付けを終えた私はトレーナー室に行く途中にある三女神の像の辺りに差し掛かったところでした。

 

「こんばんは、ミホノブルボンさん」

 

 鈴が鳴るような可憐で美しい声の持ち主に急に話しかけられた私は声の方向を確認すると、女神像の影から思わぬ人物が現れました。

 

「……サイレンススズカ先輩」

 

 比較的体格の良い私と違って、今にも簡単に折れてしまいそうなほど華奢な体とすらりとした細長い手足。

 

 走る以外の機能は全て置いてきたかのようなウマ娘の理想に近い彼女のプロポーションは星の光と女神像の噴水のきらめきに照らされて、とても美しかった。

 

「今日は肌寒いけれど、星がよく見えてとても綺麗ですね。こんな日は思わず走りたくなっちゃう」

 

「その思考に至るまでのプロセスが私には不明です」

 

 彼女のことは以前から気になっていましたが、今はそれどころではありません。

 

「では、私は未達成のミッションがあるのでこれで失礼します」

 

「……待って」

 

 真正面に立っていたサイレンススズカ先輩の横を通り過ぎようとした私は彼女に腕を掴まれました。

 

 彼女の手はまるで死人のように熱を帯びず、ひんやりとしていた。動揺した私は反射的に腕を振り払いました。

 

 反動で少しよろけた私でしたが、彼女はその場から一歩も動いていませんでした。

 

「少しだけ、私とお話をしませんか?」

 

「”少し”とは、正確な時間に換算するといかほどでしょう」

 

「そうね。3分あればいいわ」

 

「……では、3分で。私もあなたに聞きたかった要件があります」

 

「ありがとう。じゃあ、単刀直入に聞きますね」

 

 ここで数拍置いたサイレンススズカ先輩は美しい微笑を携え、私が真っ先に飛びつくであろう話題を振ってきた。

 

「――ライスシャワーさんに勝ちたくはありませんか?」

 

「……ッ!?」

 

「あなたさえ良かったら、私の経験と技術を全て教えましょう。あの子に勝つ方法も、ね」

 

「……仮にあなたの提案が本当だったとしても、あなたにとってメリットが何一つありません」

 

「うーん……同じ逃げウマであるあなたに期待しているからではダメかしら?」

 

「ダウト。あなたの発言は真意ではありません」

 

……彼と出会う前の私なら、嘘か本当か区別はつかなかったでしょう。

 

 しかし、サイレンススズカ先輩の言っていることは嘘です。彼と違って、彼女の言葉には1ミリも熱量を感じません。

 

 彼はどんな時でも一生懸命かつ真剣に、相手のことを思いやる発言と行動をする。

 

 彼の底抜けの『善意』を知ったからこそ、彼女の『悪意』を見抜くことができたのです。

 

「あら、あっさりバレちゃった……私の同志なだけあるわね」

 

 同志? 彼女は何を言っているのでしょう。

 

「じゃあ、建前じゃなくて本音をいいましょう」

 

 彼がライスシャワーを見るときとそっくりな表情をしたサイレンススズカ先輩。

 けれど、そこには彼のような優しさと暖かさは微塵もなかった。

 

 どこか浮世離れした儚げで清廉な雰囲気を持つ彼女とは真逆の――ヘドロのように粘々と絡みつく黒い言葉に私は一瞬耳を疑う。

 

「私にとって、ライスシャワーは目障りで邪魔な存在なの。だから、あなたにはライスシャワーを二度と立ち上がれないほど徹底的に潰してほしいの」

 

「え……?」

 

「聞こえなかったですか? なら、もう一度……」

 

「ライスシャワーが邪魔で、目障り、だなんて……そんなことは」

 

「何も隠す必要はありませんよ。あの人の傍にいて、恵まれているあの娘に今すぐ消えて欲しいと願うあなたの気持ちはよくわかるわ」

 

「……」

 

「私なら、あの人をもっと喜ばせられる。あの人の願いを叶えられる。あの人の為にもっと尽くしてあげられるのにって思ってしまいますよね?」

 

 ダメです。表面上は彼と似た笑みをする彼女の倫理観が破綻したクリアボイスに耳を傾けてはいけない。そう頭の片隅では判断しているものの、全身の神経は既に彼女の甘言を聞くための準備を整えていた。

 

「今の私なら、あなたのことを勝たせてあげられるわ。逆に私の力を借りずに勝つのは……ゼロとは言いませんが、非常に難しいと思いますよ? 少なくともクラシック戦では勝てないと断言しましょう」

 

 淡々と暗闇に閉ざされた未来について語るサイレンススズカ先輩に私は何も言い返せなかった。

 

……クラシック期では勝てない? それは許容できない。私の目標はクラシック三冠。そして、新たな夢は彼の『絶対』を私で塗り替えること。

 

 そうです。『今』をライスシャワーに奪われているのなら、『未来』を私は手に入れる。

 

「私はあなたの夢をサポートするわ。その見返りとして、成就したあなたの夢の”おこぼれ”を私に分けてもらえればそれで満足です」

 

 そのためには確実にクラシック期でライスシャワーを上回る必要があるのです……彼女の提案は私にとって渡りに船。

 

 

 

 

 

――けれども。

 

 

 

「……申し訳ありませんが、お断りします」

 

「あら……どうして断るの?」

 

「あなたのことが一切信用できません。加えて、私は私自身の力でライスシャワーを打倒しなければならないのです」

 

 彼女の手を取ったら二度と取り返しがつかなくなりそうな予感がした。底知れぬ恐怖と本能が私の利己心を押しとどめてくれました。

 

「……うん、わかりました。今はそれでいいでしょう。ごめんなさい、時間を取らせてしまって」

 

 望む回答が得られなかったのにも関わらず、彼がライスシャワーに向けるような微笑みを保った彼女はとても陰謀や策謀を考えない純粋無垢な少女の顔をしていました。

 

 それが、また不気味で歪です。

 クスリと笑いつつも背中を向けて、去ろうとしていたサイレンススズカ先輩でしたがもう一度こちらの方を振り返りました。

 

「あ、私に聞きたかったことって何かしら? お詫びになんでも聞いてくださいね」

 

「……では、質問いたします。あなたとライスシャワーのトレーナーとの関係は?」

 

 ずっと聞きたかった。学園でも示し合わしたように一切接触をしない何の関わり合いのないように見えるあなた達の関係を。

 

 すると、突然無表情になったサイレンススズカ先輩は質問に質問を被せてきました。

 

「”死がふたりを分かつまで”って結婚式での誓いの言葉があるのは知っていますか?」

 

「存じております」

 

「なら、ミホノブルボンさんはこの誓いを素敵だと思うかしら?」

 

「はい。愛し合う男女が永久を誓えるのですから」

 

 両親にも言われてきました。この言葉通り、永遠の愛を誓える人を見つけなさいと。

 

 私も彼と『そういう』関係になれたのであればと想像したことは幾度としてあります。

 

 その度に多幸感に身を悶えさせ、愛し合う男女の行為を行っているところまで想像し快楽で脳がショートしかけたこともありました。

 

 想いを馳せらせながら出した私の回答にサイレンススズカ先輩は無表情を崩し……

 

「……ふふ! うふふ! あははッ!」

 

 さもおかしそうに……胸に秘めた何かを吐き出すように嗤った。

 

「私もね、昔はとても素敵な言葉だと思っていたの。でも、それってどちらかが亡くなってしまったら永久の誓いとは言えないわよね?」

 

「……ッ!?」

 

 段々と人間らしい熱を帯びていくサイレンススズカ先輩に私は一歩後ずさってしまった。

 

「そんなのは、私が見たかった景色なんかじゃない。だって、おかしいもの。死んじゃったら、繋がりが無くなるなんて。想い人の永遠を手に入れられないなんて。違うわよね。本当の愛ってもっと違うものだったの……!」

 

――解析不能。何を言っているのでしょう、この人は?

 

「これが、あの人と私の関係の答えよ」

 

 今までにないほど瞳と台詞に情熱を灯しつつも回答を返さない彼女に今すぐ精神科での受診を推奨したいところです。

 

 しかし、彼女の発言は不思議と私の胸の内にすとんと収まりました。妄言であっても彼女は自分を信じているのでしょう。

 

 ですが、彼女の発言を受け入れられるかどうかは別。人間は理解できないものと相対した時に拒否反応を示すといいます。

 

 彼が介入しなければ、本来なら分かり合えるはずのライスシャワーとは全く違った嫌悪感は拭いきれませんでした。

 

 

 正直、私はサイレンススズカ先輩のことは輝かしい実績以外ほとんど知りません。けれども、彼女の人柄はどこか天然で人付き合いもあまり良くない内気な性格だったと学園内で聞いたことは何度もあります。

 

 が、目の前の彼女はとても前情報には当てはまらない人物。まるで顔と造形だけが同じな別人物のようでした。

 

 そのことが非常に気味が悪く、冷静さを失っていた私は心に秘めていた言葉が漏れてしまった。

 

「……あなたは一体、何者なのですか?」

 

「私は、サイレンススズカ。走ることが大好きだった(・・・・・・)、あの人のことをこの世の誰よりも愛しているウマ娘よ」

 

 張り付けていた笑顔の仮面を脱ぎ捨て『愛』というワードに載せた汚らしい執着と嫉妬に塗れたサイレンススズカ先輩の狂った表情は鏡で見た私の姿と重なった。

 

 確かに私とサイレンススズカ先輩は同類でした。

 

 私の積もり重なる溢れるばかりの想いは到底『恋』では収まりきらない。

 

 生まれて初めての甘くて、苦しくて、暖かくて、切ない……彼の全てが愛おしく思う想いの強さで負ける訳にはいかない。

 

「では、時間が出来たらまたお話しましょう。そうね……年明け前辺りがちょうどいいと思うわ」

 

「……何度話そうともあなたの手は借りません」

 

「ミホノブルボンさんの次のレースは朝日杯でしたよね? 応援していますね。私はあなたの味方ですから」

 

 伝えたいことを一方的に伝え、今度こそ立ち去るサイレンススズカ先輩に私はようやく一息つけました。

 

 背中に張り付く汗はトレーニングで生じたものとは異なった非常に気持ちの悪いものだった。

 

 

――今は一刻も早く、彼に会いたかった。そうすれば少しはこの寒気と嫌悪感も収まるはずだから。




ダークサイレンススズカさんが物語を暗くしてしまったので

次回は希望溢れるレースのお話になります!



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#13 中山レース場 GⅠ ホープフルステークス 芝2000m レース前・パドック場にて

注意:ライスシャワーさんは非常に緊張なされていらっしゃいます。


――ジュニア期の総決算であるG1レース ホープフルステークス。

 

 レース名の通り、前途有望なウマ娘のみが出場できるクラシック戦線を占う試金石となるレースである。

 

 勝者はただひとり。それ以外は全て敗者。

 

 勝者は自身の未来が明瞭であることを確信し、敗者もまた苦々しい敗北を糧にして夢の舞台へと駆け上がっていく。

 

 ただ、この年だけは違った。そこに夢も希望も存在しなかった。

 

 この年、ホープフルステークスに出走した夢を駆けるウマ娘たちは知ることとなる。

 

 ひと際輝いていた才能は、安物のアクセサリーのように取るに足らないものだったことを。

 

 磨き続けてきた努力の結晶は、ただの石ころでしかなかったことに。

 

 尊厳も、努力も、憧れも、諦めすらも彼女には決して追いつけない。

 

『魔王』の前に愚民は首を垂れて跪き、ただ息を吸うことしか許されなかった。

 

 彼女はまさしく全ウマ娘の”絶望”であった。

 

 

● ● ● ●

 

 パドック場。レース前に観客たちがウマ娘の状態を見極めに用意された簡易舞台である。

 

 ウマ娘は一人ひとりジャージやジャケット等で上半身を隠し、パドック場で豪快に脱ぎ捨てる。

 

 その度に巻き起こる歓声がウマ娘の力となり、ファンも更にレースにのめり込むのだ。

 

 会場のボルテージが上昇していく中、観客たちはとあるウマ娘の登場を今か今かと待ちわびていた。

 

「続きまして、8枠14番ライスシャワー!」

 

「前走の京都ステークスではなんと9バ身差の圧勝! 本レースでは圧倒的1番人気の彼女は今日も全ウマ娘を背後から蹂躙するのか!?」

 

ゆっくりと舞台に登場した彼女が指定地点で身に纏っていた漆黒の外套を高らかに脱ぎ捨てた。

 

 隠されていた衣装は外套と同じく黒を基調とした勝負服。腰には煌びやかな短剣の鞘が飾られていた。

 

 服装や仕草までも注目を一身に集めたライスシャワーに歓声はどっと湧き、それと同じくらいどよめきも起きた。

 

 それは、何故か?

 

「なんか、全然強そうに見えないんだけど……」

 

「なんだか暗いし、愛想もあまりないな……前走はGⅢだったし、相手が弱かったのかな?」

 

 今までパドックでお披露目されていたウマ娘と比べてライスシャワーが強そうなウマ娘に見えなかったのだ。

 

 彼女の体は小さく、出走する他のウマ娘と比べると体格は下の下。

 

 表情は自信に満ちているわけではなく、視線を下げたまま観客の方を見ようともしない。

 

 ウマ娘をあまり知らない人々にとって期待外れもいいところだった。

 

 昨今、ウマ娘の人気……特にトゥインクルシリーズのファンの熱狂ぶりは凄まじいものになっている。

 

 その分、昔からのレース好きではなくレースに見識のない新参のニワカ勢が大きく幅を利かせていた。

 

『中山の直線は短い』『大ケヤキを超えたら第4コーナー』など古参のファンからしたら、鼻で笑うような基礎知識をしたり顔で語る連中には未だに彼女の実力が見えていなかった。

 

 一方でウマ娘オタクといっても差し支えない、暇さえあれば全国あらゆるレース場に顔を出している2人組の男は最前列の席からライスシャワーを観察し、持っていたドリンクを落としかけたほど心底驚愕した。

 

「おいあの子、マジでジュニア期に出る子なのか? ありえないだろ……」

 

「ああ……仕上がりすぎている」

 

 小さく細身の体に目を疑うほど凝縮された筋肉。逸脱した筋肉量を活かすための体の柔軟性と大木のように揺るがない体幹。

 

 そして、一瞬だけ覗かせた観客に見せようとしなかった人を視線だけで殺しかねない眼光。

 

 ニワカに混じってどよめきの声を上げたのは一部の有識者たちであった。

 

 服の上からでも肉体を数値化できるトレーナーまでとは行かずとも、ウマ娘を血眼に観察し続けてきた彼らだからわかったのだ。

 

――ライスシャワーがこのレースに出場するのはまちがっている、と。

 

● ● ●

ホープフルステークスにてライスシャワーと同走するウマ娘はひたすら顔を俯かせ続け、威圧感を放ち続けるライスシャワーに最大では足りない極大の警戒を行っていた。

 

 緊張し切っている自身が育てたウマ娘を見守るトレーナーたちもレース前から手に汗を握っていた。

 

 彼らも悩んでいたのだ。あの怪物相手に自分の大事なウマ娘を出走させていいものかと。

 

 現に直前で出走停止、またはホープフルステークスではなく、朝日杯の方が勝てるのではないかと急遽方針転換した陣営もいたほどだ。

 

 しかし、朝日杯にはあのサイボーグウマ娘がいた。

 

 そんな意思の弱い選択ではライスシャワーが台頭する前から、ファン・専門家の両方から注目されているミホノブルボンには勝てるはずもなかった。

 

 結果は――終始先頭を走ったミホノブルボンがペースを乱すことなく、危なげないレース運びで6バ身差の勝利。

 

 戦う前から逃走した弱者は淘汰され、このレースに残ったのは勇気と希望を信じた勇者たち。

 

 同じG1レースでも実力もレースにかける意思も朝日杯よりもレベルの高い、としたのがレース評論家の総論だった。

 

 栄誉あるG1に出走する実力者たちが今まであった油断や驕りを消し去り、ただ勝利と未来を望んでいたのだから当然といえば当然である。

 

 

 本レースの肝は爆発的な末脚を持つライスシャワーを自由にせずバ群に沈ませるか。

 

 前走のレースを研究し、トレーナーたちはライスシャワーの欠点に気づいた。

 

 前走の映像を見るにライスシャワーはポジショニングセンスに欠けていた。

 

 前走の京都ステークスでは単純に誰もいない大外に構え、ロングスパートをかける。

 

 そして豪脚で直線一気にぶち抜く素人映えするド派手な戦法で勝利を収めていた。

 

 が、大外を回り込むの時の位置取りが下手で直線で抜け出すときも前にいるウマ娘を避けるために更に外に回っていた。ロスが非常に大きい走り方をしていたのだ。

 

 本レースが2000mではなく、2400m以上であれば勝ち目はまずなかった。

 

 ライスシャワーのあの小柄な体躯は明らかに長距離を主戦場にするステイヤー向きである。

 

 スピードばかりに目が行きがちだが、あのロングスパートはスタミナに自信があるからこそ出来る芸当だ。

 

 けれども、幸い距離は2000m。

 

 加速するまでの距離が足りない上に、ウマ娘全員が神経をすり減らすことにはなるが、位置取りや抜け出しが下手な彼女をブロックしながらも脚を溜めることも出来る。

 

 もし、デビュー戦のように先行策に来た場合は……全陣営談合せずとも考えは同じだった。

 

 抜けださせないようにライスシャワーの四方を取り囲むように走り、潰し切る。

 

 ライスシャワーを潰したその後の細かい展開もトレーナーたちはウマ娘を勝たせるべく考えに考え抜き、ウマ娘は寝る間も惜しんで自分たちに応えようとしてくれるトレーナーに報いるために努力を重ねた。

 

 と、ジュニア期のウマ娘相手にすることのない包囲網は完成させた状態で闘いの舞台へ挑む彼らではあったが――現実は無情だった。

 

 

――強者はなぜ強者足りうるのか。ウマ娘がどのようにして希望から絶望へと堕ちていくのか。

 

 

 この直後、レースを見る全ての者が判らされることになる。




強敵揃いのG1レースだから緊張しちゃうのは当たり前ですよね(#^.^#)


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#14 中山レース場 GⅠ ホープフルステークス 芝2000m/泡沫の夢

注意:ライスシャワーさんはとても緊張されています。


 ゲートに集結したウマ娘。まもなくジュニア期の総決算である闘いが始まる。

 

 ライスシャワーの隣のゲートに入る予定だったウマ娘は緊張をほぐす目的もあり、意を決してライスシャワーに話しかけようとした。

 

 それに、勝つためには相手を知ることも大切だから。

 

「ね、ねえ! わたしのこと、覚えてるかな? 確かにあのレースでの君は凄かったけど……今日はわた」

 

 しかし、その選択は失敗だった。

 

「……潰す、潰す、潰す、潰す、潰す」

 

「ひぃ!?」

 

……目線を芝に向けたライスシャワーは彼女を無視し、ひたすらに剣吞な言葉を呟いていた。

 

(なんなの、この子……!? 思った以上にずっとヤバめじゃん……)

 

 ライスシャワーの威圧感に飲まれ、ゲートに入ってからも囁かれた彼女は既に涙目になっていた。

 

(でも、今日はわたしが勝つもん! 人よりちょっとポジティブなのがわたしの取り柄! あの子に勝つためにわたしはここに来たんだから!)

 

 前走でライスシャワーに完全敗北した幸薄ポジティブウマ娘はパンと顔を叩いて気合を入れ直すのであった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

「全ての競バファンの皆様、お待たせしました! 本日のメインレース『ホープフルステークス』がいよいよ始まろうとしています! 天気は曇りでバ場はやや重となっております」

 

「本レースの注目は1番人気ライスシャワーでしょう。彼女を各ウマ娘がどのように対処するかにかかっていますね」

 

「前走で見せた後方一気のまくりは華々しい活躍を見せた三冠ウマ娘、ミスターシービーを思い出させますね。今日も豪脚で全てをちぎるのか! それとも、彼女の行く手を阻むウマ娘が出てくるのか!」

 

 ファンファーレが鳴り響く中、会場のボルテージは最高潮に達していた。ゲートインしたウマ娘たちもまた初めての大舞台に武者震いを起こしていた。

 

これからの希望と未来に向けた大一番がはじまるのだ。このレースにはなんとしても勝ちたかった。

 

「さあ、今年の希望と未来のチケットは誰が掴むのか! さあ、ゲートが開いた!」

 

 だがこの年のホープフルステークスは――ゲートが開いた瞬間に勝負が決まった。

 

「ホープフルステークス、とうとう始まりました! 各ウマ娘一斉に飛び出してい……ああっ!? なんとライスシャワーが猛烈な加速で開幕から一気に先頭に飛び出していった! リードを4バ身、5バ身とどんどんつけていく!」

 

「お、驚きました。この展開は予想していませんでした……!」

 

「驚愕です! 後方に待機すると思われていたライスシャワー、本レースは大逃げ! まさかの大逃げです! 観客たちのどよめき一色となりました中山レース場! これは波乱の展開だ!」

 

 漆黒の影がどんどんとターフを突き進んでいく光景に観客のみならず、全ウマ娘とウマ娘たちのトレーナーに多大なる動揺を与えたのは言うまでもない。

 

 積み上げてきた作戦が全て足元から崩れたのだ。だが……

 

「1000mを通過! タイムは……57.3!? 超ハイペースだ! 果たして最後まで持つのか!?」

 

(あの子、逃げもできるの!? で、でもこのペースならッ!)

 

 ライスシャワーの逃げはペース配分を無視した破滅的な逃げであった。だからこそ、最初は焦りに焦ったウマ娘たちも余裕が生まれた。

 

 あの後方から襲い掛かってくる異次元の末脚はもう発揮されない。

 

 ポジションを気に掛ける必要もなくなり、ウマ娘一同は相当気が楽になった。勝負をかける時はライスシャワーが垂れた瞬間だ。

 

「おっと、1200mを通過したライスシャワーが大きく減速し始めたぞ!? 20バ身ほどついていた距離が少しずつ縮まっていく!」

 

「やはり、この大舞台による緊張でかかってしまっていたのでしょうか……」

 

「これは必然のトラブルか!? 勝負はまだわからないぞ! ここからが本当の勝負! 後続ウマ娘がライスシャワーへと脚を伸ばしていく! あの遠かった漆黒の小さな背中にとうとう追いついてきた! 第4コーナーを通過し、直線に向かう! ライスシャワーと2着まで約6バ身差だ!」

 

((((いけるッ! 勝てるッ!))))

 

 後方で脚を溜めていたウマ娘たちはターゲットを射程圏内まで捉えたことで内心ほくそ笑んだ。

 

 後は直線で捲るだけ。中山の直線は短いが、脚が残っていないライスシャワーはもう取るに足らない存在――のはずだった。

 

 

――ドガンッ! 

 

「な、なんと! ここで脚を使い果たしたと思われたライスシャワーが加速する! 一気に心臓破りの坂でスパートをかけるッ! ライスシャワー、あっという間に追いつきかけた後続を突き放した! なんという速さ! あの京都ステークスの末脚は健在だッ」

  

 突如、芝を抉る足音がレースを見学していたウマ娘たちの耳まで届いた。無論、出走中のウマ娘の方が暴虐的な踏み込み音に恐怖心を煽られたのは言うまでもない。

 

 爆発音のような音と足元がぐらりと揺らいだかと錯覚させる衝撃と共にライスシャワーはゴール直前の急勾配の坂をまるで飛ぶように進んでいく。

 

(わ、わたしも行かないと……な、なんで!? 全然脚が前に行かない!?)

 

 一方、同じくラストスパートをかけようとした後方にいるウマ娘たちは坂で大幅に失速する。足が鉛のついたように重くなり、進む意思に反して肉体が前に進もうとするのを拒んでいた。

 

 彼女たちは序盤から中盤にかけてペースを抑えていたつもりでも、ライスシャワーの大逃げに惑わされたことでペース配分を狂わされ、先に自分たちが垂れていたのだった。

 

 気が楽になったことで更にペースが乱されたのも原因だった。

 

 

 

――いい夢は見れた?

 

 

 

 そんな悪魔のごとき憐れみと嘲笑が決して希望に届かないウマ娘たちに問いかけられた。

 

 顕現した希望の殺戮者は後方にいるウマ娘たちが無謀にも抱いてしまった輝かしい夢や希望を嘲笑うために速度を上げていく。

 

 

「なんというウマ娘だ、ライスシャワー! 後続は全く上がってこられない! ここまでが彼女の描いたシナリオなのか!? 束の間に見えた希望は彼女が創造した虚像にすぎなかったのかッ! 逃げて追い込むライスシャワー、抜けた抜けた抜けた抜けた抜けたッ! 強い! 強すぎる! 大楽勝だ! まさに一強ッ! ライスシャワー、他バの追随を許さない独走で今ゴールイン!」

 

 

 蜘蛛の糸を垂らし、登りかけたところを寸前で断ち切る無慈悲すぎる勝ち方。

 しかし裏を返せば、素人目にもわかる圧巻の勝利に怒号のような歓声が会場を包み込んだ。

 

「掲示板にも大差の文字! 文句なしのレコードタイムだッ! 会場にはライスシャワーを称える割れんばかりの歓声が響き渡っています! 記録にも記憶にも語り継がれる圧巻のレースでした! これからのトゥインクルシリーズを担うのは間違いなくこの娘でしょう!」

 

「ライスシャワーと同じく無敗であるミホノブルボンとの直接対決も今から楽しみではありますが……ライスシャワーの強さは正直規格外ですね」

 

「果たして稀代の怪物を討ち取れる英雄はこの世代にいるのか! それは桜が舞い散る皐月の舞台で明らかになるでしょう!」

 

 そして、ライスシャワーに敗れた殆どのウマ娘たちが失ったものは希望だけではなかった。

 

『もう二度と走りたくない』

 

 原初から備わっているウマ娘が持つ本能すら、漆黒の簒奪者により奪われてしまった。

 

 かのレースに出走した半数以上のウマ娘がしばらくの間走ることにトラウマを抱き……さらにその半分はウマ娘としての未来を捨て、トレセン学園から去っていった。

 

 かつてのシンボリルドルフが勝利と栄光の象徴である“皇帝”ならば、ライスシャワーは敗北と絶望の亡骸共の上に君臨する“魔王”であった。

 




どうやったら劇的に希望から絶望へと叩き落とせるかを熟知している虐待ウマ娘の鑑。

次回はせっかく大舞台で大勝利を収めたウマ娘に対して、クズトレーナーが無慈悲にも虐待するお話です。


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#15 公衆の面前における意図しない虐待

もはや、最近の虐待実績は担当ウマ娘のライスシャワーさんの方がはるかに上ですよね。

クズトレーナーは虐待面で超絶無能だった……? 


● ● ●

 

会場全体が耳がグワンってなるぐらいの大きな歓声が上がった瞬間にライスはようやく自分が勝ったことに気づいたんだ。

 

とても、とっても嬉しいよっ! 

 

ウマ娘にとって至高のレースのG1を勝ったことだけじゃなくて……ライスはこんなたくさんの人に喜びを分け与えてあげられたことがほんとうに嬉しくて幸せで……!

 

ライスの夢は「人にしあわせを与えられるようなウマ娘になる」こと。

 

 

こんなダメダメな……ううん、ダメダメだったライスが他の人に幸せを与えられるようになったのは全てお兄さまのおかげ。

 

それにお兄さまと一緒にいたから、やっとライスはライス自身のことを少しだけ好きになれたんだよっ。

 

早く、早くお兄さまに会いたい! 

 

いつものようにやさしく髪を撫でて欲しい。もっとライスを褒めて欲しい。そっと抱

きしめて欲しい。

 

レース後の疲れや興奮でボーッとなった頭をはっきりさせて、ライスは最前列で見守ってくれていたお兄さまの元へと走り寄っていった。

 

「お兄さま! ライス、やったよ! まるで夢みたい……G1も勝てちゃうなんて! 本当にありがとう! お兄さまに選んでもらえなければライスは今までずっとダメダメなままだったと思うの。これもぜんぶ……お兄さま?」 

 

まくし立てるように嬉しさと幸せと感謝をお兄さまにぶつけたライスは――ここでお兄さまが少しも笑っていないことに気づいちゃったの。

 

その時のお兄さまの顔は能面のようでトレーニング時よりもはるかに表情を押し殺していた。

 

ちょっとした沈黙の後、やっとお兄さまは重々しく言葉を紡いだ。

 

「……誰があのような走りをしろといった?」

 

「え……あっ、その、ごめんなさい!」

 

「謝らなくていい。オレはお前にどんな指示を出した?」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「……謝るなっていってんだろうが! どうしてあんなバカな真似を……!」

 

「ごめんなさい!」

 

ライスは、はじめてお兄さまに本気で怒られた。

 

練習中に怒られたことは数えきれないほどあるけど、ここまで感情をむき出しにして怒りを表現したお兄さまは人が変わったみたいでとても怖かった。

 

ハッと息を飲み込んだお兄さまは頭を掻きむしると、ライスと目線を合わせることなく

 

「……よかったな、ライス。夢が叶って。ウイニングライブ楽しみにしてるから」

 

 

その場を静かに立ち去っていった――まるでライスのことを見限ったかのように。

 

 

「なんなんだ、アイツ。関係者席にいたし、アイツがライスシャワーのトレーナーなのか?」

 

「せっかく担当ウマ娘がぶっちぎりで勝ったのに、怒鳴りちらすことしか出来ないなんてマジでクソ野郎だな」

 

「あの娘が可哀そうよ。あんな男がトレーナーだなんて」

 

そして、先程の会話を聞いていた近くの観客の人たちはライスのことを晴れ舞台で怒ったお兄さまにブーイングを飛ばしていた。

 

 

――なんでお兄さまのことを悪く言うの? 悪いのは言うことを聞かなかったライスなんだよ。

 

会場全体がライスのことを讃えてくれる中、ライスの暖かなしあわせはどんどんと冷めていくばかりだった。

 

ずっと抱いてきた夢が叶ったはずのに辛いな。苦しいな。悲しいな。

 

夢が叶ったんだから、もっと嬉しさがこみ上げてきてもおかしくないのに……ああ、そっか。そうだったんだ。

 

 

――他の人にしあわせを与えることがライスの夢じゃなかったんだ。

 

 

お兄さまが近くにいないだけで、先程までの喜びや嬉しさは何も感じられない。

お兄さまが笑ってくれないだけで胸が張り裂けそうになる。

 

もう、どうしようもなくライスはお兄さまがいないとダメになっちゃった。

 

お兄さまに祝福を捧げることがライスの夢であり、お兄さまの傍にいる為に課せられた使命。

 

これからはちゃんと言うことを聞くよ。もうお兄さまのことを幻滅させたりしないよ。

 

もっとお兄さまが喜ぶような勝ち方をするから。

 

だから、ずっと傍にいさせてよお……! ライスのこと、見捨てないでよお……!

 

 

 

● ● ●

 

本レースでのライスシャワーは見事な虐待をしてくれた。オレが描いた虐待絵図を凌駕する方法で、だ。

 

 

今回のレース、ライスシャワーは他陣営に確実にマークされることがわかっていた。

王道の先行策では今のライスシャワーは他バの間を抜け出すだけの技量もないのは明白。

よって普通の戦法ではかなり厳しいレース展開が予想できたオレがレース前にライスシャワーに与えた指示はこうだった。

 

競争相手の作戦を潰す。そのために開幕から逃げて囲まれる可能性を潰す。

追いつかれる可能性を潰す。そのために一定のタイムで走り抜けるようにする。

 

これが最も効率的で勝算の高い戦法だった。普通に走ってくれれば、ライスシャワーが負ける可能性は極めて低いから出した策。

 

それがあんな無茶苦茶な走りをするなんてよ……! 誰が許したと思ってんだ! クソが!

 

序盤からトップギアに速度を上げ、途中で無理やりローギアに戻して最後はいきなりスパートをかけた。

こんなギアチェンジを無視した走り方は体に尋常ではない負荷がかかっちまう。

 

恐らく緊張から慌てた結果だからだろうが……オレの大事な道具が自分勝手に壊れるのだけは絶対に許さねえ。

 

だから大人げなく公衆の面前でとんでもない危険な走りをしたライスシャワーにブチギレちまった。

 

 

ある意味で大勢の前でキレられたライスシャワーへの虐待がこなせて、今思えば結果オーライだったがな。

 

 

まだまだお前はオレを愉しませる必要があるんだよ、ライスシャワー。

これからもオレはお前を虐待し、お前は他のウマ娘を虐待するんだ。

 

もっとライスシャワーには躾が必要だってことが今日の走りでよくわかった。

 

オレとしたことがまだまだ甘かったぜ。嫌といっても絶対にやめないほど徹底的に体と思考に我が崇高なる虐待を叩き込んでやらねえとな!

 

 

――もう二度と壊れたウマ娘は見たくねえからな。

 




次は本作初のまともな登場人物であるマッドサイエンウマ娘のお話です。

もう書き貯めは出来ているので二日後に予約投稿済みです。


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#16 ビジネスパートナー

本作の正統派マッドサイエンウマ娘のお話。


「やあ、トレー……モルモットくん」

 

「おい、逆だ逆」

 

「おや、失敬。で、最近巷で噂されている天才ゴミカストレーナーくんは何の用かな? 見ての通り、私に暇な時間はないのだが」

 

オレがヤツの根城に立ち入った瞬間にアルコールや医薬品の匂いが生温い風に乗ってきて鼻がイカレそうになる。

 

部屋の主――アグネスタキオンは学園内で開設したラボ(元トレーナー室)でティーカップを片手に人間工学に基づいたワーキングチェアに深く腰掛けていた。

 

狂っていても元々は名家・アグネス家のご令嬢。随分と様になってやがる。

 

ウマ娘の例に溺れず、タキオンもとんでもない美人だがこちらを実験動物としか見ていない無機質な目とその下の隈が全てを台無しにしていた。

 

「紅茶飲んでくつろいでるクセによく言うな。要件は……」

 

「またサポーターが壊れてしまったのかい? 私は科学者であって便利屋を営んでいる訳ではないんだがね」

 

「話が早くて助かるんだが、それを言われると返す言葉もないわ……」

 

「まったくもうっ! 早く破損品を出したまえ」

 

「ありがとう。それとライスシャワーの最新データを共有したから確認してくれ」

 

「ふぅむ……なるほどねえ。まだまだ研究が足りないようだ」

 

タキオンは白衣の袖元を口元に寄せつつ破損部分を念入りに調べた後、パソコンのモニターを眺めて大きくため息をついた。

 

続けざまに彼女はデスク下の収納スペースから新品のサポーターを取り出し、デスクの上にボンと置いた。

 

「とりあえず改良品が出来るまで、コレを使いたまえ。今の彼女なら持って2週間といったところだが」

 

「ありがとう。お前には世話になりっぱなしだな」

 

 

オレの虐待を受けて、ライスシャワーが無事なのは体が丈夫になっただけじゃない。タキオンの研究成果による薬と摩訶不思議なトレーニング用具が大きく関わってきている。

 

コイツはライスシャワーの虐待を続けるのに必要不可欠な存在となっているのだ。

 

「言っているだろう? WIN-WINの関係が続く限り、礼はいらないさ。それより、今日のブツはなんだい?」

 

「相変わらず物好きなヤツだな……オレの作る料理の実験台になりたいなんて」

 

「いいじゃないか。君のいう“虐待”ができて嬉しいだろう?」

 

コイツには途中で取り繕うのもバカらしくなった為、本音で話している。

 

コイツはオレに似て無駄や非効率、不利益を嫌うのでオレに利用価値があるうちは余計なことは言わないだろう。

 

それに、ライスシャワーの虐待に加担する共犯者みたいなもんだからな。

 

「タキオンのような反応じゃ全然面白くねえんだよ」

 

「つれないねえ。で、今日の虐待料理はどのようなテイストなんだい?」

 

「……これが今日のブツだ」

 

オレが本日土産に持ってきたのは酸っぱさと糖分たっぷりの地獄のコラボレーション

 

『クリームはちみつグレープレモンケーキ・ライムを添えて』だ。

 

一応は効能を試すために毒味をしたが、突き刺さる甘さと酸味の過剰摂取に頭が甘酸殺されそうになった。

 

頭の悪い造語をつくってしまうほど、ヤバすぎる劇物をまた生み出してしまったぜ……いつも付き合ってくれているコイツには本当に悪いことをしている。

 

ある意味、タキオンには毎回虐待が出来ているはずなんだがなんか全然愉しくないんだよな。

 

ミホノブルボンに対してもそうだが、自ら火中の栗を拾うヤツ相手には欲望が満たされない質らしい。

 

 

「これはまた……今日も破壊力がありそうじゃあないか」

 

「だろ? これで今度こそアイツらを黙らせてやろうかと思っている」

 

オレはいつの間にか用意されていた食器棚から皿を取り出すと事前に切り分けたケーキをその上に乗せ、ご丁寧にフォークまでタキオンの目の前にまで持ってきてやった。

 

しかし、いつもなら目をギラギラさせて毒味をするタキオンはケーキを目の前にして、口を半開きにしたまま微動だにしなかった。

 

「ん、どうした?」

 

「あーん」

 

「……え?」

 

「……あーん!」

 

「……は?」

 

無視を決めこむのも面倒くさいので聞き返すと、ぷくりと頬を膨らませたタキオンは腕が見えないほど余っている白衣の袖をパタパタと駄々っ子のように振り回す。

 

「あーん! あーん! あーん! あーん!」

 

「うるせえ! 何がしたいんだよ!」

 

「おやおや、随分と鈍すぎるんじゃあないかい? ああ、君ほど思考回路が欠損していないとあれほど事態を悪化させないか。では、モルモット以下の下等生物にもわかるように伝えて上げよう。これも実験の一種だよ。彼女たちにはまだこのような身の毛がよだつ禁断の行為はしていないんだろう? いわゆる、レクリエーションってやつさ」

 

まるで当たってないオレへの非難と妙な理屈を長文で並びたタキオンは口を開き、オレをジトッした目で睨みつけてくる。

 

オレほど機敏なヤツは他には居ねえよ。

 

でもまあ……タキオンの深すぎる目の下の隈もあって、ガンの付け方は反社会的勢力の人間もビビッて回れ右するほどのレベルだった。

 

しかも、理知的なように見えてタキオンはかなりのワガママだ。オレがしてやるまで止まらないだろうが……

 

「いや、だからお前みたいな反応のヤツにやっても……」

 

「……うわあー、とても気持ちが悪いよおー! 好きでもない異性に食事を手伝ってもらうなんてー! 私の尊厳も意思も全て君に掌握されているなんて最悪にも程があるーぅ!」

 

「……クク、そうか! そうだよな! なら、存分に喰らえッ!」

 

「そうだ! それでこそ私のモルモットくん! あーん……」

 

「あーん」

 

若干コイツの台詞が棒読みで乗せられた気もしなくもないが、目を瞑って小さく口を開けているタキオンに一口サイズにして食べやすくしたケーキを持っていく。

 

「クフッ……」

 

モキュモキュと咀嚼したタキオンは顔全体を手で覆い、耳や尻尾までプルプルと痙攣し始めた。

 

そして、決してこちらに表情を見せることなく今回の感想を伝えてくる。

 

「クフゥ! 今日も最低だ! 最低極まりない! 甘く、そしてガツンとくる酸っぱさに脳が壊死しそうになるこの感覚! 絶対に人に食べさせるべきものではないねッ!」

 

「だよなあッ! やはりオレは間違ってないよなあ!」

 

タキオンだけはオレの残虐な虐待行為を正当に評価してくれる。

 

「しかし、いかに酷い料理でも作ってもらった食事は完食するのが人の道理というものさ。自らの舌でウマ娘を殺しかねない兵器の解析をするためにも、全部食すとしよう」

 

一人でしたり顔で頷いているタキオンは、そこからオレからフォークを奪い取り一心不乱に劇物を食べ続けた。

 

うわっ、はええ! 早すぎる! 我慢しているとはおくびにも出さない光速の食べっぷりだッ! 

 

コイツ、やりおるッ! 

 

「ククッ、ごちそうさま。これで脳に刺激が行き渡り、非常に良いインスピレーションが湧いてきそうだよ」

 

「そりゃ、良かったよ……さてと、そろそろオレは仕事に戻るわ」

 

「では、さっさと行きたまえ。今の君はもう用無しだからね」

 

「はいはい……ッ!」

 

一瞬視界がぐらりと揺らぎかけ、その場に倒れそうになった。これから先の虐待の為とはいえ流石に3徹は無理をしすぎたか……?

 

「んん? どうしたんだい? 急に病弱アピールでもするつもりかい?」

 

「うっせえ……今日は仕事終わりにちょっと寄ってくわ。ちょうどお前とデータの検証もしたかったところだし」

 

「勝手に寄られても迷惑なんだが。君はこちらの都合をさりげなく無視してくるねえ。まあ、一度ミーティングを行うべきだと考えていたから利害は一致するね。寛大な心で許してあげようじゃないか……試作薬γとεも用意して待ってるよ」

 

「……ちなみに効能と副作用は?」

 

「効能は疲労改善。副作用は……飲んでからのお楽しみさ」

 

「お前の薬を飲むたびに治験のバイトがいかにヌルいかわかっちまうよ……でも、本当にお前には助けてもらってばかりですまないな」

 

「勘違いしてもらっては困るねえ。全ては研究の為だよ。モルモットがいなくなっては実験のしようがないじゃないか」

 

コイツもミホノブルボンと方向性が違ったドMだ。

被虐快楽が目的のミホノブルボンに対して、アグネスタキオンは知識欲を満たすことで快楽を得るタイプである。

 

けど、コイツが実験や検証を行う本当の目的は――ウマ娘の限界を超えた最高速の先へと自らの手で到達し、理論を証明するため。

 

そのためならどんな犠牲をも厭わない狂ったウマ娘だ。

 

コイツとは虐待無しで繋がっている信頼できるパートナーだ――今も昔も。

 

報酬には正当な対価を。ビジネスにおいてギブアンドテイクは絶対の法則だ。

 

ここまで助けてもらっている以上、オレもタキオンの野望を最大限叶える必要がある。

 

――こんなクズでどうしようもねえオレがタキオンにしてやれることなんて、限られているのだから。

 

クク、なんてな! 

 

コイツの脚部不安が無事改善されたら、オレの栄誉ある新たな虐待ウマ娘に認定してやって、思う存分使い倒してやるからな!

 

ずっとオレをモルモットにしてきたツケは必ず払ってもらうぜ! フハハハハハ!

 

 

● ● ● 

 

 

彼は新人であるのにも関わらず、出会った当初からサブトレーナーからではなく自らのウマ娘を選定する権利のあるメイントレーナーの権利を所有していた。

 

このことから日本一のウマ娘育成機関であるトレセン学園からの期待は相当のものだったのだろう。

 

事実、スポーツ医学に培った豊富な理論と机上の空論から新たな方程式を導き出す発想力には私とて目から鱗が落ちたほどだ。

 

――いや、発想なんかというレベルじゃない。まるで未来を見通す慧眼を持っているかのようだった。

 

更に悪辣な評判が広まっている私を信用し、妙に私の扱いに長けていた彼と行う常に新鮮な討論と議論および実験・研究は非常に心躍るものだった。

 

また彼は身体能力も通常の人間よりも並外れていて、ウマ娘用の実験器具を簡単に取り扱えるほど。

 

風林火山の教えを応用した雷の動きは是非とも技術に取り入れたいところだが……科学的に彼の動きを理論化することが今でも不可能なのが悔しいところだ。

 

「難儀なものだね、全く」

 

ひとつ言えることは彼は優秀であると同時に理想を追い求める完璧主義者でもあり、精神破綻者でもあった。

 

 

 

私とトレーナーくんとの付き合いは彼が今年の春に赴任してきた直後から始まった。

 

『……つまらないだろ。その程度のスピードしか出せないのは』

 

『アグネスタキオンが全力を出せるように協力する。だから、オレにも協力してほしい』

 

――初めてだった。心中を他者にも、そして自分にも決して明かして来なかった私が実験を行う根幹を指摘されたのは。

 

度重なる実験により学園にも居づらくなり、手を抜いた走りで賛美する曇り切った目で群がってくるトレーナー共にも飽き飽きしていたところだった。

 

何よりも……常に力をセーブしないと一瞬で壊れてしまう私の弱すぎる体には幾度も虫唾が走っていた。

 

もう自主退学してしまおうかと考えていた矢先にトレーナーくんと出会い、世界が変わった。

 

最初は私の専属トレーナーに成りたいがために近づいてきたのかと思ったが、彼は私を一切誘おうとする素振りは見せなかった。

 

宣言通りトレーナーくんは学園内に掛け合い、研究成果の一部を学園側に提供することを条件に私専用のラボを用意してくれた。

 

実験器具も自費で提供し、理論だけではインストールが遅い理想的な体の使い方も教わった。

 

その時に気軽に近づいてうら若き女性の体に触れるものだから、心拍数の上昇と実験続きによる自身の体臭が気になって仕方なかった。

 

私が香水の成分を分析・検証したり、非効率極まりない身嗜みに時間を費やすようになったのは思い返すとこの頃からだった。

 

彼のおかげで実験と分析および検証は大きく進歩し、私一人では半年以上はかかっていたはずの研究成果を僅か1カ月で挙げることが出来たのだった。

 

なぜ、そこまで献身的に動いてくれるんだい? と問いかけたら……

 

『全ては虐待のためだ』

 

と、答えた。

 

虐待の定義を疑うトレーナーくんの発言に最初は冗談を言っているのかと思ったら、どうやら本気のようだった。

 

『全ては研究の為』

 

奇しくも私の信条と重なるモルモットたりうる人物が通常の精神構造をしている訳がないのだ。

 

イカれた精神破綻者は同じくらい狂った異常者しか釣り合わない。

 

 

――だから、彼が選ぶ最初の被験者は私だと自負していたのに。

 

 

『オレ、ライスシャワーの専属トレーナーになったよ』

 

『……え?』

 

ライスシャワー。よりによって小柄で筋力も無ければ柔軟性のカケラもない臆病で闘争本能に欠けた普通以下のウマ娘を彼は選んだ。

 

自惚れではなく、客観的な事実として私と彼女との先天的な才能の差は天と地ほどかけ離れている。つまり、能力面での採用ではない。

 

「どうして、彼女なんだい? 他にも候補はいたじゃないか」

 

「あの子なら、オレの虐待についてこれるからだ」

 

トレーナーくんの過酷ではあるが理に適った最適なトレーニングを受けているライスシャワーを見続けたことで、徐々に私は彼の選定理由に腑が落ちていった。

 

純粋かつ素直で従順で自己判断をしない管理しやすい性格に加えて、体も丈夫で根性は一級品のウマ娘。

 

加えて弱者たる自分を認め、己を必死に変えようとする秘められた意思の強さと彼から与えられた指示を何があっても途中で投げ出さない泥臭さが彼女にはあった。

 

 

そうか。彼にとって強くても壊れやすいウマ娘は虐待のしがいがないのだ。

 

彼が私に献身的に協力していたのも、自身の選んだ理想のウマ娘を壊すことなく虐待するため。

 

ウィンウィンの関係を望んでいたはずの私の脳はこの現実を受け入れることを拒否したものの、理性の怪物たる私はすぐに平静を取り戻した。

 

それなら今まで通り、相互扶助の関係を続けよう。

 

あくまで私達は利用し、利用されるだけのビジネスパートナーであり続けようと。

 

だけれども、トレーナーくんは非常に残酷な男だった。

 

彼はお節介とばかりにライスシャワーの研究データと共に今の私が無理なくこなせる費用対効果に優れたトレーニング方法を常に送ってくる。

 

自堕落でマイペースな私の身の回りの世話を度たび行い、どんなウマ娘であろうとも堕落させるほどの破壊力がある料理を作ってもらって。

 

トドメには……

 

『オレが学園にいるうちに、必ずお前も虐待できるようにする。必ずだ』

 

実験を手伝う目的として、私の虐待にまで視野を入れている鬼畜ぶりに私は呆れ果ててしまった。

 

ズルいなあ。君はズル過ぎるよ。

 

 

――そんな風に言われたら、君を諦めきれなくなるじゃないか。

 

 

● ● ●

 

討論や研究の末、来賓用の大きなソファで眠りこけている虐待トレーナーの寝顔をじっくりと眺めると、化粧で誤魔化していた目のくまがくっきりと浮き上がって見えた。

 

「君への釈明は適当な観察結果で誤魔化すとするか……」

 

別に泊っていけといった訳ではない。

私がトレーナーくんを私のラボに泊まらせたのだ――疲労回復薬に遅効性の睡眠成分を混ぜ込んでね。

 

だって強制的に眠らせないと君は活動し続けてしまうだろう? 無理をするなと偉そうにいう割に自分はお構いなしなところにほとほと愛想が尽きるよ。

 

私たちはパートナーなのだろう? 

報酬には正当な対価を。ビジネスにおいてギブアンドテイクは絶対の法則だ。

 

今の私から君に上げられるものは研究成果とひと時の安らぎだけ。非常に歯がゆいものだよ。

 

私は室内の電気を消して彼の胸元に潜り込み、顔を押し当てながらぎゅっと抱きしめた。

 

……とても、温かい。私が非効率で不必要だと切り捨ててきた温もりとはこのようなものなのか。

 

フフ、バカらしいねえ。理屈では証明できない錯覚作用だ。けれども、全く決して悪くない気持ちだ。

 

「いつか、いつか……君の虐待を受けられるようになりたいな。私の目指す光速の先へ付いてこられるのは君だけだからね」

 

 

彼の心地よい匂いを至近距離で吸い込んだ私は一気に微睡の世界へと堕ちていった。

 

 

――なあ、トレーナーくん。君の知る“私”もこのような心の贅肉を抱えていたのかな……?




距離感や価値観を正確に把握しているが故に、友人やパートナー以上の関係には近づけないヒロインの図。

「マッドサイエンウマ娘が絶対に負けないラブコメ」

誰か書いてください。


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#17 見捨てないで

アオハル杯のライスがメンヘラちゃんになっていたので、投稿再開します。


 ホープフルステークスで1着。我が虐待ウマ娘は見事に目標を達成した。

 

 あの勝ち方はいただけなかったが……大観衆の前で痛烈で理不尽な虐待をしてやったからこれ以上オレが言うことはねえ。

 G1レースに勝つことはウマ娘にとって非常に名誉なことだ。素直にそこは認めてやろう。勝ったのは紛れもなく、アイツが苛烈なる虐待に耐えてきた証拠だ。

 

 でもまあ、なんだ。レース場でキレちまったのは、ちょっと大人げなかった気もしなくもない。

 なので、今日はライスシャワーへの褒美と詫びとして朝練は中止。午後から練習を始めることにした。

 集合場所でライスシャワーを待ち構えていると。

 

 

「お、お兄さま……」

 

 いつにも増して挙動不審になっている我が虐待ウマ娘が小柄な体を更に縮めるようにして、近寄ってきた。

 昨日の理不尽なマジギレが結構効いているみてえだな。オレと対面する緊張で、耳を真後ろに硬直させていやがる。

 

 いつもなら、怯えている可愛いライスシャワーを内心ニヤニヤして愉悦に浸っているところだが、今日は寸前のところで堪える。

 

「来たか、ライス。その、昨日は悪かったな。せっかくの大舞台で勝ったのに、水を差してしまった」

 

「え、ううん! 全然そんなことないよ! 言いつけを守らなかったライスがぜんぶ悪いのに……!」

 

 神妙な表情を作っているオレに対して、ライスシャワーは恨みつらみを押し殺して、社交辞令で返してくる。

 実に憐れだぜ。パワハラ虐待上司に文句ひとつ言えない脆弱さがよお……! クックック……おっと、いけないいけない。今日は我慢だ。

 

「いや、オレが……って、堂々巡りになっちゃうな。じゃあ、今日からまたよろしくな」

 

「うん、お兄さま!」

 

 誠に遺憾ではあるが、詫びも兼ねてしばらく虐待を控えめにしてやろう。過激な虐待ができなくて超絶つまんねえが、背に腹は代えられねえ。ライスシャワーの疲労蓄積度がピークに達しているというのが一番の理由だが。

 今までのメニューからしたら、天国ともいえるトレーニングメニューをこなしたライスシャワーにオレは静かに声をかけた。

 

 

「……よし。今日はここまでにしておこう」

 

「え、もう終わりなの……?」

 

「ああ。お前もレース明けで疲れただろう」

 

 珍しくオレが善意100%の神提案をしているのにも関わらず、ライスシャワーはなぜか目の奥にあからさまな怯えを滲ませた。

 

「そ、そんなことないよ! 全然足りないもん! まだまだライス、がんばれるからっ!」

 

「その気合は次の機会に取っておけ。しっかりと休むのもトレーニングだぞ」

 

「で、でも……」

 

 チッ! めんどくせえ! コイツまでMの気質が目覚め始めてきたのか!? 休めるときに休んでおけって言ってんだよ!

 

「……てないで」

 

「ん?」

 

「……ううん。何でもない。言いつけは守るよ」

 

 ボソッと何かぼやいた後に、ライスシャワーは儚げに笑った。

 

――その時のライスシャワーの暗く淀んだ表情に、オレは既視感を覚えてしまったのであった。

 

 

 

● ● ●

 

ライスはウマ娘の栄誉であるG1レースに勝つことができた。勝った瞬間はとっても嬉しかったんだ。人生の中でも、トップクラスにいい気分だった。

だって、観客の皆さんがあんなにもライスの走りで興奮してくれて……嬉しそうにしてくれて。

 

 やっと、こんなライスでも人々に幸せを与えられるようなウマ娘に一歩近づけて、――すごく幸せ、だった。だけど、ライスは自惚れから一瞬でも忘れてはいけないことを忘れてしまっていた。

 

 ライスにとって――絶対は、お兄さまだ。

 

 なのにライスは、お兄さまの指示に背いちゃった。お兄さまの、お兄さまの期待を裏切っちゃった。お兄さまに、失望交じりのすごく悲しそうな顔をさせちゃった。

 かつてない大観衆の前で行ったウイニングライブは、お兄さまのことで頭の中が真っ白になっちゃった。それでも、無事にやり切れたのはお兄さまが直接指導してくれた反復練習のおかげ。

 

 そうなんだ。ライスが行えるようになった全ての事に、”お兄さまのおかげ”がついてくる。

 

 そんなライスがお兄さまに見捨てられたら、どうなっちゃうんだろう、と。

 でも考えるまでもない事すぎて、ひとりで失笑しちゃった。

 

 ――全部が元通りになるだけ。ダメダメでどうしようもない、無価値なライスに戻るだけ。

 

 ただ一つ、元通りにならないことは……きっと、お兄さま無しで生き続けることが辛くて苦しくてしょうがなくなっちゃうんだろうな、ってことなんだ。

 

 ライスは失った信頼を取り戻さなきゃならないんだ。もっと、もっとがんばらないと。

 

 

 レース明けの翌日。朝練は珍しく無しで午後から練習と、お兄さまから連絡が来た。前走の時も休みだったけど、毎日お兄さまと朝練をして、お兄さまの自宅でおいしい朝ご飯を食べるのが当たり前になっていたから、どうにも居心地が悪かった。

 

 さらに最近、――ライスに内緒でブルボンさんがお兄さまの家に来ているようでとても不安な気持ちになっていたのも拍車をかけていた。

 ライス、知ってるんだ。隙あればブルボンさんがライスの目を盗んで、お兄さまに話しかけているのを。バレてないと思って、ライスが見たことの無い普通の恋する女の子のような甘えた表情でお兄さまに接しているのを。

 

 ブルボンさんのしあわせそうな顔を見ると、とてもモヤモヤした汚い感情が胸を渦巻いた。一言で例えると、不愉快だ。

 

 そんなこともあって、常にお兄さまの傍にいないとほんとうに落ち着かないよ。

 

 そうして、ようやくお兄さまに会える待ちに待った午後。集合場所のグラウンドに行くと、お兄さまは腕を組んで静かにたたずんでいた。ライスが来たことに気づくと、少しだけ気まずそうな表情で片手を上げてきた。

 

 

「よう、ライス。その、昨日は悪かったな。せっかくの大舞台で勝ったのに、水を差してしまって」

 

「え、ううん! 全然そんなことないよ! 言いつけを守らなかったライスがぜんぶ悪いのに……!」

 

 

 ――お兄さまはほんとうに、やさしい人だ。許してくれるどころか、何の落ち度もないのに、緊張しているライスに気遣って謝ってくれた。

 

 ライスがお兄さまから言われたいことを、全部察して言ってくれている。

 そして、ライスはほんとうにダメダメで汚くて嫌な子だ。お兄さまのやさしさに付け込んで、――お姫様のように扱ってくれるのを心のどこかで喜んでいるんだから。

 

 でも、お兄さまのおかげでライスのいつもの日常が始まった。お兄さまが指示を出して、ライスがそれに応える。練習は辛いけど、充実した毎日。これが、ライスの一番のしあわせな時間なんだ。

 

 ライスはお兄さまから与えられたウォームアップレベルのトレーニングの指示をこなしていると、

 

 

「……よし、今日はここまでにしておこう」

 

「え、もう終わりなの……?」

 

「ああ。お前もレース明けで疲れただろう」

 

 

 唐突にお兄さまから突然トレーニング終了を告げられた。な、なんで? ようやくこれからってところなのに……! 

 

 

「そ、そんなことないよ! 全然足りないもん! まだまだライス、がんばれるからっ!」

 

「その気合は次の機会に取っておけ。しっかりと休むのもトレーニングだぞ」

 

 そうやって淡々と口にしたお兄さまに、ライスは思わず身震いしちゃった。

 

 だって、今のお兄さまはいつものような練習時に見せる情熱がなかった。覇気がなかった。ライスの走る姿を見ても、生き生きとした表情を一度も見せてくれなかった。一度も、ライスに笑いかけてくれなかった。

 

 それって、――もうライスには期待していないってことなの? 

 

「……ないで」

 

「ん?」

 

 いや、いやだよ。見捨てないで、お兄さま。ライスは、お兄さまがいないとダメなの。お兄さまから離れたくないの。四六時中ずっとライスの傍にいて欲しいの。

 

「……ううん、何でもない。言いつけは守るよ」

 

 汚らわしい自己愛に溢れた願望を、口にできるはずもなく辛うじてたどたどしいであろう笑みをかたどった。

 

 

● ● ●

 

 まだ16時過ぎなのに、もう暗くなり始めている冬の夕暮れ時。肌をつんざく寒さは今のライスの凍り付いた心の中を表しているようだった。

 

「はぁ……はぁ……はぁ」

 

 呆然としていても、体に染みついた日課は簡単には振りほどけなかったライスはお兄さまに内緒で学園外をランニングしていた。指示以外の自主練はお兄さまに禁止されているのに、言いつけを守らないなんてまたお兄さまに失望されちゃう。

 

 けど、黙って部屋の中に閉じこもっていたら不安でぐちゃぐちゃに押しつぶされそうになっていた、と思う。

 

「……もっと、もっとがんばらないと。がんばる、がんばる、がんばる……」

 

 もう、失態はしちゃいけない。もっと、自分を追い込んで、弱い心を鋼よりも堅くして……お兄さまの指示はどんな状況でも守れるウマ娘にならないと。

 川沿いの土手で座り込み、休憩中も”がんばる”ことを自分に言い聞かせていると……

 

「あらあら。随分と悲しそうなお顔をしていますね」

 

「……」

 

「無視とは酷いですね。可愛い黒髪のウマ娘さん」

 

「……どなたですか? え……」

 

 しっかりと芯が通りつつも、美しい女性の声がライスの後ろから響く。他人に構っている余裕がなかったライスは一度目は無視して、二度目は普段なら怖くてできない粗雑な態度を取りつつ、振り向いて目を丸くした。

 

――絶世の美女ウマ娘。その言葉はライスの目の前でおしとやかに微笑みかけている、葦毛のロングヘアーを風に靡かせたウマ娘さんの為にあった。

 

 彼女はいかにもブランドものの高そうな赤いコートや洋服が汚れるのも気にせず、ライスの隣に座り込んだ。 

 

 

「黒髪のウマ娘さん。少し、私とお話をしませんか?」

 

「……い、今はそういった気分じゃ……」

 

「まあまあ、そう言わずに。あの人から教えを仰いだことがある同じウマ娘同士で、ね?」

 

 

 顔を合わせずに断ろうとするも、彼女は優雅な見た目と違って、結構押しが強かった。ちょっと、ちょっとだけ苦手なタイプかも……。

 

 ――え、あ、あれ? ちょっと待って……!?

 

「……あ、あの! あの人って、ライスのおにい……トレーナーさんのことですか?」

 

 でも、お兄さまはライスが初めての担当ウマ娘だって言ってたし……あれ、あれれ?

 

 突然降ってわいた衝撃の急展開のあまり、真正面から彼女の美しい瞳を覗き込むように凝視すると、

 

「やっと、上を向きましたね。ライスシャワーさん」

 

 不思議と似合ういたずらっ子ぽい表情でライスの頭をやさしく撫でてきた。

 

 




黙っていれば美人。某ご令嬢ウマ娘よりも上品なハジケウマ娘。

あ、この方はブラック要素皆無なのでご安心ください。


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