混色の水 (とて )
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1話

久しぶりに書きました。
バスケットボールは経験がないので、技術的な名前などは知らないので、そこらへんは御容赦を。


キセキの世代、無冠の五将、そして幻の6人目。輝かしく目立つ同世代の影に隠れた天才3人がいた。

 

 

 

「あーあ、今日で中学バスケ終わりかー。」

 

「いやでも、全国来れたんだから凄くね?」

 

「うるさい、遅刻してるんだから急ぐよ。」

 

上から沼咲、川崎、海野。彼らは全国中学バスケットボール大会の会場にいた。チームと歩いているわけではなく、3人で歩いていた。会場ではもうアップが始まっている。それは準々決勝、帝光中VS青葉中。海野の言葉に2人が反応する。

 

「「おめぇのせいだよ!!??」」

 

そう海野のシューズが壊れ、それを買いに行っていたのだ。それに付き合った2人も巻き添えをくらっていた。コートに着くと、アップも終盤であった。青葉中の監督が3人に気づく。

 

「遅いぞお前ら!靴は買えたのか?」

 

「はい、同じ型買えました。走りながら来たのですぐアップは平気です。」

 

海野は平然と嘘をつく。川崎と沼咲はその嘘に少し引きながらも頷いた。アップの時間が終わり、両校の選手が並ぶ。帝光中は赤司{4番}、緑間{7番}、黄瀬{8番}、青峰{6番}、紫原{5番}。青葉中は海野{4番}、田中(中2){9番}、佐藤(中2){12番}、沼咲{5番}、川崎{6番}。海野、沼咲、川崎はそれぞれの相手に話しかける。

 

「よろしく、赤司くん。」

 

「よろしく、海野くんだったかな?」

 

「よろ〜、青峰くん。」

 

「あぁ…(お前らも同じだろ。)」

 

「よろしく、紫原くん。デカいねぇ。」

 

「そっちが小さいんじゃない?」

 

青葉中の残りの2人はキセキの世代を相手に圧倒されていた。

 

──────ピーッ

 

ジャンプボールから試合が始まった。紫原と川崎の到達点の高さは競っていたが、紫原がとり、赤司にパスが回る。沼咲が川崎を煽る。

 

「負けてんじゃん、老化現象ですかぁ?」

 

「アップしてないんだから無理、高すぎるもん紫原くん。」

 

その会話にキセキの世代は少し違和感を感じていた。赤司の前に海野が立ち、口を開く。

 

「来い、キセキの世代の司令塔!」

 

赤司は無視して緑間にパスを回し、緑間があっさりとスリーを決める。田中は反応は出来たが、高さが足りなかった。緑間が声をかける。

 

「反応は良い、それだけだ。」

 

「くっ…。」

 

沼咲が田中に声をかけに行く。

 

「弱ぇー、言われてんじゃんwww」

 

「無理ですよ、俺にキセキの世代止めるのは!」

 

「…で、どうだった?」

 

「高さはあります。モーションも無駄がないです。ただスピードはそんなにないです。」

 

「了解。」

 

第1Q、帝光中有利で進み、32対6で終わった。青葉中はベンチで情報を交換していた。審判の呼び戻しがかかったところで、海野がまとめる。

 

「じゃあ、次は川崎を中心に攻めよう。田中と佐藤はなるべく頑張ってもらって、沼咲は2人のカバーしてやって。」

 

「俺の相手青峰よ?」

 

「へーき、あいつはやる気ないから必要以上に攻めてこない。今までの試合も20点とったらそれよりはあんま攻めてこない。」

 

「ほう、OK。」

 

青葉中のボールから始まる。海野がドリブルをついている前には赤司がいた。赤司が口を開く。

 

「何を考えている、君たちの力はそんなものではないだろう。」

 

「よくわかったね。」

 

そう言いながら、川崎にパスを繋ぐ。川崎はスリーポイントラインでパスを貰っていた。紫原が口を開く。

 

「何考えてんの?あんま動きたくないんだけど。」

 

「そうだねっ!」

 

クイックリリースでシュートを放つ。その速さに紫原は反応しきれなかった。綺麗な弧を描いて、スリーが決まる。

 

「紫原くん、弱いね?」

 

「あ?!」

 

紫原はキレかけていた。

 

「赤ちーん、ボール頂戴。」

 

「珍しいな、わかった。」

 

その言葉通り、紫原にボールが渡る。紫原はパワーでゴール下に移動していく。川崎はそのパワーに押されていた。

 

「重戦車かい。」

 

紫原は川崎を吹き飛ばしながらダンクを決めた。

 

「そんなもん?才能ないならやめたら?」

 

紫原の言葉にベンチの黒子が少し反応する。だが、川崎は何も表情を変えずに返す。

 

「相撲の才能はあるねぇ、バスケの才能はまだ全然分からない。」

 

「あぁ!!?」

 

「紫原!」

 

赤司に連れられて自陣コートに戻っていく。沼咲が海野にパスをして川崎に近づく。

 

「重戦車ぐらいならどうにかなるでしょ?」

 

「いや、超重戦車だから問題なのよ。でも、どうにかなるよ。」

 

海野から川崎にパスが渡る。今度もスリーポイントラインであった。紫原は距離を詰めた。

 

「2度も易々と打たせるわけないでしょ。」

 

「そっか…。」

 

川崎は左右にフェイントを入れ、紫原をドライブで抜いた。アンクルブレイクが決まり、紫原が転ける。黄瀬が急いでカバーに入る。

 

「何やってんすか、紫原っち。」

 

「チャラ男?っていうんだっけ。」

 

黄瀬はあっさりとターンで躱される。

 

「あー!!」

 

川崎はあっさりとダンクを決め、自陣に戻って行った。赤司が紫原と黄瀬に近づく。黄瀬はそれにビビりながらも口を開く。

 

「違うんすよ、あれはたまたまっていうか。」

 

「あんなん次は止められるしー。」

 

赤司は2人の様子を見て口を開く。

 

「いや、今のはしょうがない。確実に相手が1枚上手だ。タイムアウトを取ろう。」

 

その言葉通り、海野が赤司のボールを取ろうとし、ボールが外に出て、タイムにとった。

 

「んー、すぐやり返させてよ。」

 

「そうっすよ、やられたままは嫌っす!」

 

紫原と黄瀬は文句を言っていた。赤司が制しながら、口を開く。

 

「今回の相手はどうやら、この大会で初めて同格以上の相手だ。」

 

桃井がその言葉に驚く。自分の調べた限りではそれはなかったからだ。

 

「今までの試合は上手く隠していたらしい、少なくともPGの海野、PFの沼咲、Cの川崎は俺たちと同格だろう。このQは敦を中心に当てる。負けは許されないぞ。」

 

「負けないしー。」

 

「えぇ!俺は!?」

 

黄瀬がブーブーうるさい。赤司は無視して進める。

 

「大輝、今回は手を抜くな。負けるぞ。」

 

「負けねーよ…。」

 

青峰は自分の相手が強いことに気づいていた。だが、何も動いてこないことにイラつきを感じていた。

 

『タイムアウト終了です。』

 

10人がコートに戻ってくる。帝光中のボールから始まり、赤司の前に海野が立ち塞がる。

 

「ここからは全力で守ることを勧めよう。点は取れないと思え。」

 

「そうっすか。」

 

赤司がパスモーションに入った瞬間にボールが消え、赤司の後ろにドリブル体勢に入る海野がいた。

 

「全力で守らせてもらうよっ!」

 

帝光中の選手は急いで自陣へ戻る。赤司が直ぐに海野の前に立ち塞がる。

 

「行かせるか!」

 

「必死だね。」

 

赤司のやる気を無視して、川崎にボールが渡る。紫原がマークに着く。先程より距離を取り、シュートを打たれてもすぐに反応できる間隔を開けていた。川崎は左右にフェイントをかけ、紫原を抜きにかかる。

 

「それさっき見たし!」

 

川崎の目の前に立ち塞がり、ボールを取りに行く。しかし、ターンで紫原を躱していく。黄瀬がまたカバーに入る。

 

「勝負っす!」

 

「なんないよ。」

 

あっさりとアンクルブレイクを決め、黄瀬を抜き去りダンクの体勢に入る。

 

「強ぇじゃねぇか、お前ら!」

 

青峰がブロックして、ボールが外に出る。

 

「やる気出すの速かったな、どうしようもならん。」

 

海野がすぐボールを戻し、沼咲にボールが渡る。青峰が立ち塞がる。その目は試合が始まった頃より、生き生きとしていた。しかし、ボールをつかずにパスのモーションに入る。青峰はそれに反応し、手を出そうとするが、すぐに抜きにかかってくることに気づき、抜こうとした沼咲の目の前に青峰が立ち塞がる。

 

「ハッ、面白ぇじゃねぇか…な!?」

 

沼咲の手元にボールはなかった。黄瀬が川崎に寄っていたところを見逃さず、佐藤にボールが渡っていた。緑間が急いでカバーに入ろうとした瞬間に、田中にパスがつながり、田中がスリーを決めた。ガッツポーズをしながら田中が戻っていく。沼咲が近寄る。

 

「やった!」

 

「ナイス田中!流石はシューターだ。佐藤もナイスパス!よく相手が離れてるの見てたな!いぇーい。」

 

2人とハイタッチする、その様子を海野と川崎は笑いながら見ていた。対照的に帝光中側は心中穏やかではなかった。青峰が振られ、川崎に集中しかけていた黄瀬の隙をつかれたという事実に。緑間が赤司に駆け寄る。

 

「すまん、シューターをフリーにしてしまった。」

 

「いや、今のは涼太のせいだ。」

 

「すんませーん、でも、易々とパス通させた青峰っちも悪いと思います!」

 

「あ?易々とじゃねぇよ!どっちにしろてめぇがフリーにさせたのが原因だろ!」

 

「俺もそう思うー。」

 

紫原もだるそうに頷いていた。

 

「紫原っちすぐ抜かれるじゃないすか!?」

 

「はぁ?抜かさせねーし。」

 

「どちらにせよ、涼太には6番を止めるのは無理だ。前半は一先ず、それぞれのマークに集中しろ。涼太の代わりに黒子を入れる。流れを変えるぞ!」

 

「「「「おう!」」」」

 

キセキの世代は中2から負けていない。そして、自分たちの代になってからは追い詰められることがなかった。その反動からか、心無しか全員が楽しそうだった。

 

 

 

黒子{15番}がコートに入る。最近の試合ではなかった『6人目』としての使われ方であった。赤司が声をかける。

 

「ここからはテツヤを軸に青峰、紫原を使う。緑間はいつでも打てるようにしろ。」

 

「はい!」

 

帝光中ベンチにいる大体のメンバーは不思議に思っていた。代が変わってから一軍に昇格したメンバーが大半なので、キセキの世代が楽しそうに試合を進めるのを見るのは初めてであった。桃井は懐かしそうに楽しそうに見ていた。戻ってきた黄瀬が話しかける。

 

「桃っち楽しそうっすね。」

 

「きーくんもじゃん!」

 

キセキの世代の変化をキセキの世代各々も感じていた。一方で青葉中の5人は黒子の存在に危機を感じていた。沼咲が口を開く。

 

「なんだあいつ、影うっす。」

 

「もしかして、幻の6人目じゃないか?」

 

川崎は前に聞いた噂を口にした。海野が2人の背中を叩きながら口を開く。

 

「15番自体は脅威じゃないはずだ。周りを活かすタイプだろ。佐藤、1回しっかり観察してくれ。そこから考える。」

 

前半残り5分、帝光中の反撃が始まろうとしていた。




更新は毎週日曜日18時、4週投稿したら4週制作期間とする予定です。


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2話

こんにちは!
仕事の方も始まり、また途中でダウンするかもしれないですが、今のところ5話までは出来ているので、暖かい目でお読みください。


黒子がコートに入り、青葉中ボールで始まった。海野は出方を伺いながらボールをついていた。赤司が話しかける。

 

「テツヤのことは気にしなくていい、いや正確には…気にしても意味がない。」

 

「海野!」

 

沼咲が声を荒らげる。海野は反射的にボールを左右に振る。今までついていた手の下に別の腕が見えた。海野はそれをロールで躱して、赤司とともに抜きにかかる。赤司の手がそれを阻み、ボールは外に飛んで行った。キセキの世代は驚いていた。沼咲が黒子の存在に気づいたこと、そして海野が反射だけで黒子、更には赤司までもを抜こうとしたことに。

 

「いや、サンキュ沼咲。」

 

「なんかお前ら気づいてねーなーって思ってて。」

 

「お前の視野と一緒にするな。」

 

海野が再びボールをつき始める。今度はすぐに川崎にパスをする。ゴールの最深部まで一直線のパスであった。押し合いながら紫原が口を開く。

 

「あんたの力じゃ無理だよ。」

 

「確かに…なっ!」

 

ゴールに背を向けていた状態からターンしながら膝を抜いて、後ろに飛びながらシュートの体勢に入る。

 

「くっ…!?」

 

紫原は必死に手を伸ばすが間に合わない。川崎の手からボールが離れた瞬間、後ろから伸びた腕によって叩き落とされる。それは緑間であった。

 

「みどちん、ナイス〜!」

 

「あちゃぁ、2人かよ。」

 

「悪いが、これ以上やらせん。」

 

ルーズボールを黒子がとり、青葉中側コートにぶん投げる。直線的な軌道で、その先には青峰が走っていた。

 

「ナイス、テツ!」

 

青峰がそのボールを受け取り、ゴールに向かうが、その前に沼咲が立ち塞がった。

 

「速ぇな、お前。」

 

青峰は変則的なドリブルを見せ、沼咲を躱そうとする。だが、沼咲は一切釣られずに、青峰の動きについて行った。青峰はそのままコートの端までドリブルしていった。しかし、ゴールからは離れている。

 

「そんなもん?」

 

沼咲が挑発をすると、青峰はコート外に倒れながら横飛びをした。そして、ボールをゴールの裏から、ゴールに投げる。沼咲は反応しきれず見送る形になった。

 

「マジかい…。」

 

不安定な軌道ながらもゴールに吸い込まれていく。青峰は楽しそうに立ち上がりながら口を開く。

 

「最高だぜ…、お前名前は?」

 

「沼咲 茂樹、よろしく〜。」

 

「茂樹か、俺は」

 

「大輝だろ?流石にあんたらの名前は一方的に知ってるよ。」

 

青峰と沼咲が話し込みそうな流れになったのを審判が阻止、赤司と海野が謝りながらも試合が再開する。第2Qの残りは帝光の猛追が始まり、49対27で帝光中有利で終わった。帝光中と青葉中のプレーに会場が湧いていた。

 

「青葉中強すぎだろ!!?」

 

「嫌でもやっぱキセキの世代には勝てないだろ!」

 

「いやでも、もしかしたら…???」

 

観客は青葉中が勝つかどうかで盛り上がっていた。帝光中のベンチもどうやって勝つかで話し合っていた。一方で青葉中は、今日の夕飯の話をしていた。

 

 

 

審判の合図とともに両校の選手がコートに戻る。帝光中はスタメンのキセキの世代5人。青葉中は田中と佐藤が抜け、猪木(中2){14番}と月川(中2){8番}が入った。海野、沼咲、川崎はまだ夕飯の話をしていた。沼咲が偉そうに言う。

 

「絶対焼肉だろ!最後だぜ?」

 

「いや、最後は唐揚げ!」

 

川崎が強く言い返す。海野が矛先を猪木に向ける。

 

「猪木、何が良い?お前のにする。」

 

「えっと…生姜焼き?」

 

「「「採用!」」」

 

「えぇー。」

 

こんな感じに決めて良いのか首を傾げる猪木と、先輩たちの真面目に雑な感じに少し引いていた月川であった。ジャンプボールの位置に着く。紫原が川崎に声をかける。

 

「余裕そうだね?」

 

「いや、全然。ところで紫原くんは何の食べ物好き?」

 

「俺はお菓子ー。」

 

「あー、そりゃ大きくなるわなー。」

 

──────ピーッ

 

紫原と川崎が一緒のタイミングで飛ぶ。手のひら1枚分の差で川崎がとり、海野にボールが渡る。

 

「チッ…」

 

「今度は勝てた。」

 

海野がドリブルで進んでいく。その前に赤司が立ち塞がる。赤司は天帝の目を使い、強者がわかる領域を作り出していた。海野はそれを察知してすぐに沼咲に回す。沼先には青峰がついている。

 

「よっしゃこい!」

 

「おー、んで?」

 

一瞬で青峰を抜き去った。紫原が急いでカバーに入る。紫原が沼咲に足を向けた瞬間に沼咲がゴールにボールを放った。

 

「なっ…!?」

 

その先には川崎の手があり、空中でボールをキャッチし、そのままダンクを決めた。

 

「大輝、もう少し本気で来いよ。」

 

自陣のコートに戻りながら青峰を挑発する。川崎も戻りながら、沼咲に近寄る。

 

「やっばいよ、疲れたよ俺。」

 

「わかるー、とりあえずあとは(力を)抜こう。海野、それでいいよな。」

 

「あぁ、このQは猪木と月川を中心にやる。俺もあれ(赤司)の相手はこのQはやらん、最後まで持たなくなる。」

 

「「「「了解!」」」」

 

第3Qは青葉中は猪木、月川を中心に攻め、帝光中はそこのミスマッチを利用して攻めるという試合運びであった。第3Qが終わり、89対38で帝光中有利で次のラストQに進む。

 

 

 

第4Q、帝光中ボールで始まった。青葉中は猪木、月川の代わりに田中(中2){9番}、牧野(中2){13番}が入った。赤司がボールを運ぶ。その目の前には沼咲がいた。

 

「君は、青峰のマークじゃなかったのか?」

 

赤司はそう言いながら周りを見渡す。すると、緑間には田中、黒子には海野、青峰に川崎、紫原には牧野がついていた。

 

「何を狙っているかはわからないが、どちらにせよ、僕を止めるのは不可能だ。」

 

赤司はアンクルブレイクを決めに行こうとする…が、沼咲は一切釣られずに抜かれもしなかった。

 

「それで?それだけか?」

 

「くっ…。」

 

赤司は黒子にパスをしようとしたが、沼咲がそれをカットした。

 

「なにっ…!?」

 

沼咲がドリブルで上がっていく。瞬時に反応した青峰が立ち塞がる。

 

「大輝の相手は俺じゃないよ。」

 

前方にパスを出す、受け取ったのは川崎であった。

 

「おらっ!」

 

ダンクを決めた。赤司が抜かれ、青峰が囮に引っかかった。が、直ぐに切りかえて、赤司が運んでいく。今回はハーフライン超える前に緑間に渡す。ハーフラインからスリーの姿勢に入るが、田中は真っ先に距離を詰めていた。

 

「スリーだけだと思うなよ!」

 

田中がブロックに飛ぶ直前に、ワンドリブルを入れて躱して再びシュート体勢に入った。

 

「俺のシュートは…」

 

高弾道のシュートが綺麗な回転をしてゴールに入る。

 

「落ちん!」

 

緑間はシュートが入ったかどうかを確認せずに戻って行った。沼咲が田中に駆け寄る。

 

「ドンマイ、お前とは1年違うんだ、今はなるべく食い下がれ!」

 

「はい!」

 

沼咲→田中→海野のパスが繋がる。海野の前に黄瀬が立ち塞がる。

 

「行かせないっすよー!」

 

「君には無理だよ。」

 

ノーフェイクで黄瀬を抜く。

 

「あーー!!!」

 

紫原がすかさずフォローに入る。海野は無視してダンクの姿勢に入った。

 

「チョーシのんじゃないよ!」

 

紫原は圧倒的な高さで止めに入る。海野は空中で一旦あげたボールを下げて、下からゴールに放った。青峰と川崎、牧野はリバウンドの準備に入るが、ボールはゴールに吸い込まれていった。

 

「なっ…。」

 

「紫原くん、高いだけ?」

 

海野の挑発に紫原がキレる。赤司が制する。

 

「今はまだ勝てない。だがそれは個人の話だ。チームで負けるわけがないだろ。」

 

帝光中VS青葉中。結果、101対82。青葉中が脅威の粘りを見せた。キセキの世代は疲れたような表情をし、青葉中の3人はやりきったような表情をしていた。黄瀬が3人に声をかける。

 

「3人とも名前なんて言うんすか?」

 

「海野。」

 

「川崎。」

 

「沼咲。」

 

「なんで苗字だけなんすか!?」

 

「いや」

 

「モデルには」

 

「悪いやつしかいない。」

 

「どっかから文句来るっすよ!?てか、そんなキャラじゃないすよね3人とも!!?」

 

黄瀬と3人が騒いでいるところに他の5人も寄ってくる。青峰が沼咲に声かける。

 

「お前ら、高校入っても続けるよな?」

 

「たぶん続けるよ。大輝たちと試合できたからどっかから声かかると思うし。」

 

「高校に入ったら1VS1で勝負しろよな?」

 

「あ、ずるいっす!俺も沼咲っちとやりたいっす!」

 

「あぁ、覚えてたらね。」

 

紫原は川崎に声をかける。

 

「次も負けないかんね。」

 

「次があったらな。」

 

他のメンバーは海野と話していた。しばらくして、会場の様子を見て解散した。3人は他のメンバーと別れ、会場の廊下のベンチで座っていた。沼咲が口を開く。

 

「終わったなぁ。」

 

「流石にキセキの世代は強いな。」

 

「高校どうする?」

 

沼咲が海野に問う、川崎も同じことを聞きたかったらしく黙って頷く。海野は少し考えて口を開く。

 

「中学も自由にやらせてもらったけど、高校もそれが良い。同学年同じチームにもうちょい欲しいし。」

 

「確かにねぇ。」

 

「わかる。」

 

3人が座っているところに沼咲の姉 沼咲 美和が来た。その目は少し涙ぐんでいた。

 

「おつかれ、3人とも。」

 

「あー、すまんな。」

 

沼咲が申し訳なさそうに、少し笑って謝った。川崎がニヤつきながら。

 

「泣かせたー!」

 

「最低だと思うぞ。」

 

海野もニヤつきながら弄る。

 

「お前らも負けてんだからな!?」

 

沼咲が笑いながら返す。その様子に美和も笑う。4人とも笑っていた。そこに1人の女性が来る。

 

「君たちは先程試合をしていた青葉中の海野、沼咲、川崎だな。君は…。」

 

美和の顔を見ながら首を傾げる。美和が意図に気づき頭を下げる。

 

「すみません、私は沼咲の姉です。すぐ行きます。」

 

「あぁ、いいよ。そのままで。」

 

「なんすか?」

 

沼咲が口を開いた。

 

「私は桑田 咲。昔は全日本でも戦ってたんだが…。」

 

美和がその名前に反応する。

 

「えっ!?全日本って、元全日本代表SFの桑田 咲選手ですよね??私、ファンでした!!」

 

「よく知っているな、後で書いてあげるよ。」

 

海野が口を開く。

 

「んで?その元代表がなんの用ですか?」

 

「あぁ、悪い。今は教員をやっているんだが、来年から神奈川の私立青葉青果高校で働くんだ。そこでバスケ部の顧問をやる、そこに君たち3人をスカウトしたい。」

 

「私立青葉青果?」

 

4人とも聞いたことがない高校だった。桑田が高校のパンフレットを4人に渡す。そこには新設と書いてあった。

 

「来年から新設される高校だ。要するに君たち3人中心にチームが作れる。そしてそこでともに全国制覇を狙う。」

 

桑田の目は真面目で、一切のふざけた様子はなかった。沼咲が口を開く。

 

「人数揃うんすか?」

 

「あぁ。そこに関して君たちにも頑張ってもらいたい。スポーツにも頭にも力を入れる予定は今のところないらしいから、そこそこぐらいの人間が集まる高校になる。そこで運動神経の良さそうなやつをそれぞれ1人ずつ誘って欲しい。練習にさえ来させれば後は私がどうにかして入れる。」

 

その顔はにやけているようで3人とも引いていた。美和が口を開く。

 

「私も!…私も入っていいですか?」

 

「お姉さんだったか?悪いが2年生以上の募集は、」

 

「私も同じ学年です。青葉中女子バスケ部主将PGです、拙い経験値ではありますがマネージャーは出来ると思います!」

 

「青葉中女子バスケ部…県内でも有数の学校だが、誘いが来ているんじゃないか?」

 

「断ります!私は3人と一緒の高校行くんで!」

 

美和の様子に3人が笑う。沼咲が口を開く。

 

「俺たちは美和が来るんだったらそこ行ってもいいっすよ。なぁ?」

 

「海野が決めてくれればそこに行く。」

 

川崎は判断を海野に促した。海野が口を開く。

 

「はい、その条件さえ通れば行きます。全日本にいた人の指導を受けられる機会なんて無いでしょうし。」

 

桑田の表情が緩む。とても楽しみそうに。

 

「わかった、というか受験さえ突破してくれれば受け入れる。スポーツ推薦はないから普通の推薦、もしくは一般受験してくれ。私立だから多少は優遇できる。」

 

そこで4人の意思が固まった。高校の舞台はどうなるのか…。




どうでしたでしょうか?
次回は日常回となりますので、少しばかり文量少なくなります。
次回の更新も来週、4/18(日)18:00となります。


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3話

こんにちは!
今回は少し短めです。
今年度は色々と真面目に生きるのが目標なのでできる限り続けていきます。


夏休み後半、沼咲は姉の美和とともに買い物をしていた。美和の買い物に付き合っているという感じだが。美和が沼咲に話しかける。

 

「次、カフェ行こう!新しいカフェが出来たらしいの!」

 

「いいけど、俺甘いもん苦手よ?」

 

「コーヒーとかもあるからっ!」

 

楽しそうに歩く。途中でストバスのコートがあった。沼咲はそこにいる1人に目がいった。美和が口を開く。

 

「どうしたの?」

 

「あいつって帝光の…。」

 

「えっ、あ!え??あんな子いたっけ?」

 

「いたよ、めちゃくちゃなパスしてくるスタイルの。話しかけてみる。」

 

沼咲はコートに入り、呼びかけながら近づく。

 

「おーい、黒子くん?だよね。」

 

「君は…沼咲くん!?」

 

「どうしたんですかこんなところで。」

 

「買い物に付き合ってたら通り道にコートがあってお前がいた。なにやってんの?」

 

「いえ…沼咲くんたちはバスケ続けるんですか?」

沼咲はその真意がわからなかったが、思ったままに答えた。

 

「3人とも続けるよ、お前らにリベンジしたいしね。黒子くんは?」

 

「僕は…。」

 

答えづらそうに口を紡ぐ。美和がコートの外から呼びかける。

 

「ねぇ!早く行こ!姉の言うことが聞けないの!!?」

 

「もうちょい待って。てか、実の姉ではないだろ!」

 

黒子はその言葉に少し違和感を感じた。

 

「決勝見たよ、あれ狙ってたんだろ?すげぇじゃんお前の仲間。あれで辞めた奴もいるだろうけど、あいつらのおかげで続ける奴もいる。そんなんそいつ次第だ。伝統校が嫌なら新設校にでも行ってみたら?」

 

「え…!?」

 

黒子は虚をつかれたような表情になった。沼咲は黒子の持っていたボールをとり、ドリブルを始める。

 

「ちょっとだけ1VS1やろうぜ。」

 

「え…ちょっと…!?」

 

沼咲のドリブルは全国で見た時よりも速くなっていた。黒子を置き去りにして、ダンクを決める。

 

「こんなもんか?幻の6人目さんよ。」

 

「このっ!」

 

黒子は笑いながらその挑発に乗る。しばらく2人でバスケをしていると、黒子が疲れたような表情で舌を向き始める。沼咲が口を開ける。

 

「お前、ほんと弱いな‪wそれでいてあのパスなんだからほんとすげぇスペシャリストだな。」

 

そう言いながらジャンプシュートを決めようとすると、突然見覚えのある腕が伸びてきてブロックされる。

 

「早くしてよ!全く。こんなにいじめちゃって…。」

 

「違う、遊び!」

 

「ごめんね黒子くん。」

 

黒子は顔を上げてその人物を見る。それは沼咲美和であった。沼咲の姉?である。

 

「いえ、おかげでなんだがスッキリしました。沼咲くんありがとう。」

 

「そりゃ良かった。美和、行くぞ。」

 

「行きましょうお姉様でしょ!!」

 

「だーから、ほんとの姉じゃねーだろ。」

 

ワイワイしながら2人はコートを後にした。

 

 

 

 




どうでしたでしょうか?
少しどころじゃない!と思った方はすみません。
発想力が乏しいので、思いつかなかったのが本音です。今後は日常回も通常回と同じ文量で投稿したいです。
次回の更新は4/25(日)18:00です。
※4週週1投稿、4週制作期間とさせていただくと1話後書きで書きましたが、思ったよりストックが溜まっているので、一先ずは5月いっぱいまでは週1で投稿していきます。よろしくお願い致します。


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4話

こんにちは!
今回から高校編に入っていきます。
高校時代、部活にろくに行ってなく、遊び三昧でした。部活を真面目にやる青春も良かったなぁと思う今日この頃です。


青葉青果高校、今年からの新設の高校である。沼咲は入学式後のHRで運動神経の良さそうな人を探していた。HRが終わり、クラス内は遊びに行こうとか、どこの中学出身かで盛り上がっていた。後ろの席で寝ていた生徒に話しかける。

 

「舟木くんだっけ?HR終わったよ?」

 

「ん…まじか。ありがと。」

 

ぐーっと伸びをする。長い髪に隠れて見ずらいが、どこかのモデルに負けず劣らずの美形であった。その腕は身長に似合わないぐらい長かった。沼咲はそこに目をつけた。

 

「もしかして、なにか運動やってた?」

 

「ん、俺?バレーボールやってたよ。」

 

「高校もバレー部?」

 

「いやぁ、もう飽きたから悩んでるー。」

 

「じゃあバスケ部どう?」

 

「バスケ?体育でしかやった事ないけど。」

 

「へーきへーき、優秀な監督とコーチいるから。今日このあと空いてる?」

 

「あー、うん。でも同じ中学の友達に会ってからでへーき?ちょっと話すだけだから一緒に行こうよ。」

 

「おっけー。」

 

2人は仲良さそうに廊下に出ていく。廊下に出て、隣のクラスを覗くと、舟木の視線の先には海野と海野より少し背の低い生徒が話していた。そのもう1人が舟木に気づく。

 

「おっ、舟木ー!このあとバスケ部行かね?」

 

「俺も誘われたとこなんだけど。」

 

「マジかー!」

 

テンションが高く、高校生男子にしては声が高かった。沼咲が海野に近寄り、話す。

 

「もしかして、お前も捕まえたの?」

 

「あぁ。彼は水木 蒼。バレー部だったらしい。」

 

「あれ?舟木もバレー部だったんじゃね?」

 

丁度そのタイミングで廊下から周りの生徒より明らかにデカい2人が入ってきた。1人は川崎。もう1人は川崎よりも大きかった。川崎が口を開く。

 

「あれ?人数揃ってるな。俺も捕まえてきたよー、聞いて驚け!2m越え!」

 

「凪佐 優馬です。よろしく。」

 

水木が凪佐に近づく。

 

「凪佐ー、お前もかー!」

 

6人は揃って、体育館へと向かう。舟木、水木、凪佐は同じ中学、同じ部活出身であった。

 

 

 

体育館に着くと、桑田と美和、もう1人、背が小さめの女子がいた。桑田が口を開く。

 

「おっ、お前らも誘ってきたか!マネージャーも1人増えたぞ、川田 紀子ちゃんだ!全員運動着とシューズはあるな?4人は今日は体育館履でいい。荷物置いて更衣室で着替えてこい。」

 

その言葉通り、8人が着替えて桑田の元に集まった。

 

「今日はバスケに少し慣れてもらうだけでいいよ。一応、自己紹介しようか。私は桑田 咲、担当科目は情報。担任はもってない!これでも一応元全日本選手だ!」

 

桑田の勢いに圧倒される8人。桑田は美和に目をやりながら

 

「じゃあ、まずはうちのマネージャー陣からか。美和!」

 

「はい。1年4組 沼咲 美和、青葉中出身、女バスにいたのでその経験からみんなにアドバイスぐらいは出来ると思います。このチームでは一応マネージャー兼コーチです。」

 

「この娘は全中経験者だからわからないことあったら積極的に聞いてくれ。次は紀子!」

 

「はい!!川田 紀子です。えっと、美和ちゃんと同じ1年4組です。鎌先中学出身で、中学時代は写真部でした。運動自体初心者ですがよろしくお願いします!」

 

川田は急に振られて驚きながらもハキハキと答える。桑田は次に海野を見ながら

 

「じゃあ、次は武則!」

 

「はい。1年3組 海野 武則。青葉中出身。ポジションはPGでしたが、高校ではSFをやります。一応、この部の主将です。」

 

「うん次、茂樹!」

 

「1年2組 沼咲 茂樹。青葉中出身、ポジションはPFだったけど、PGやります。」

 

「態度がウザイ!」

 

桑田はどこから取り出したかわからない竹刀で沼咲を殴る。

 

「よしっ、次。傑!」

 

「はい、1年1組 川崎 傑。青葉中出身、ポジションはCでしたが、PFやります。」

 

「この3人は全中でベスト8まで行ってる。経験値だけは豊富だからこいつらに任しときゃ最悪はどうにかなるから。じゃあ、次は…君!」

 

名前がわからず、竹刀で凪佐を指す。

 

「はい!!1年1組 凪佐 優馬です。福川中学出身です。中学時代はバレー部でした。」

 

「優馬か、よろしく!次は君!」

 

水木を竹刀で指す。

 

「はい!1年3組 水木 蒼です!凪佐や隣にいる舟木と一緒で福川中学出身で、同じバレー部でした!」

 

「元気がよろしい!ラスト!」

 

「1年2組 舟木 奏。以下同文。」

 

舟木のみあっさりと自己紹介を終わらせた。それに桑田が突っ込む。

 

「短いっ!というか…福川中学のバレー部って、全国レベルじゃなかったか?前に雑誌で見た気がするんだけど。」

 

その言葉に3人以外のメンバーも驚く。水木が口を開く。

 

「いやぁ、一応そうですけど。全中初戦負けしたんで、あんまり言いたくないです。」

 

2人は黙って頷く。沼咲がそこで単純な質問を投げる。

 

「なんでバレーボール続けないんだ?補欠だったん?」

 

「俺は2人の判断に任しただけ。」

 

舟木が2人に答えを委ねた。凪佐が答える。

 

「いや、一応3人ともレギュラーとして出してもらってましたけど。俺たちは全員中学からバレーボール始めて…、1つのスポーツを極めるつもりはなかったんです。だから元々、中学でバレーボールをやめるつもりでやってました。」

 

凪佐の答えに全員が驚く。水木が続ける。

 

「3人で一緒になんかやりたいって気持ちは共通であったんで、新設校なら面白いこと待ってるかな?って思って入学したって感じです。」

 

桑田が口を開く。

 

「その選択が間違いじゃないって証明させてあげるよ、夏に。」

 

桑田の言葉に全員が驚く。桑田の言おうとしていることは望んでも難しいことだと、海野、沼咲、川崎でも分かっているからだ。

 

「それにはまずはバスケを知ってもらうのが1番だから、今日は基礎練メインでやろう。元々全員運動部だから…紀子は違うのか、でも平気!」

 

突然の名指しに川田が驚く。

 

「私はマネージャーでは…!?」

 

「マネージャーもプレイ出来た方が楽しいだろ?平気、無理はさせないから。」

 

「は…はい!」

 

「よし。体力面は明日から始めるから怪我しないためにも明日までにシューズとか買い揃えて貰えると嬉しい。ってことで、始めるよ!主将、号令!」

 

「はい。始めるぞ!!」

 

「「「おう!!!」」」

 

海野の言葉に全員が返事をし、桑田の指導の元、練習が始まる。ドリブルの仕方、パスの仕方をマンツーマンで教えていく。マネージャーも含めて。

 

 

 

練習が終わり、川田が座り込む。

 

「疲れましたー。運動部ってこんなに激しいんですね。」

 

美和が駆け寄る。

 

「紀子ちゃん、お疲れー!普通に動けてたよ、すごい!」

 

「美和ちゃんはまだまだ元気そうだね、私も頑張らなくちゃ。」

 

男子6人はある程度余裕そうであったが、慣れない動きをした水木、舟木、凪佐は座り込んでいた。桑田が見渡して声をかける。

 

「練習は終わりだが、経験者4人はもう少し動いてもらうよ。私も含めて3対2をやろう!」

 

海野が口を開く。

 

「3対2ってどういう分け方ですか?」

 

「武則と茂樹が2、他が3。私と美和は体格的に劣るからな、傑はこっちで動いてもらう。負けた方はこのあとダッシュ10本!」

 

未経験者組は恐ろしいというよな顔をしているが、経験者組は笑っていた。沼咲が口を開く。

 

「もちろん、咲さんもっすよね。」

 

「もちろんだ!流してたらこの竹刀で片っ端から叩いていい、連帯責任だからな。」

 

美和が口を挟む。

 

「私も叩かれるんですか!?」

 

「そりゃ、贔屓するつもりないし。」

 

「えぇー。」

 

川崎が口を開く。

 

「負けなきゃいいんですよね?悪いけど、武則と茂樹には走ってもらうよ。」

 

「「言ってろ!」」

 

5人がコートの中央に集まる。凪佐が審判をやり、他は得点板のところに集まっていた。凪佐が驚く。

 

「フルコートですか!?」

 

「もちろん!その方が疲れるだろ。」

 

「鬼ですか?」

 

「何か言った??」

 

桑田が凪佐を睨む。凪佐はすぐに引っ込む。

 

「じゃあ、20点先取、インターバルなし、リミットなし!ボールは武則と茂樹から。やるよ!!」

 

凪佐が海野にボールを渡し、試合が始まる。海野が前方へ放物線軌道のボールを放った。意図に気づき、沼咲は一瞬でゴール下に走り込み、飛び上がる。桑田が怒号を飛ばす。

 

「傑、反応が遅いぞ!!図体だけじゃこの先戦えないぞ!」

 

川崎は反応が少し遅れたものの、急いでブロックのために飛び上がった。沼咲が空中でボールを掴み、そのままゴールへ叩き込もうとした。

 

「させるか!」

 

川崎の腕が伸びてくる。沼咲はボールを下げ、川崎を通り過ぎ、ゴールに対して背を向けた状態で、後方へボールを放った。そのボールの先には海野の手があり、そのままゴールへ叩き込まれる。海野と沼咲はハイタッチをしながら戻っていく。沼咲が桑田を指さす。

 

「咲さんこそ、遅いんじゃね?」

 

「このやろう。」

 

美和が川崎に駆け寄る。

 

「ごめん、気づいてたけど反応できなかった!」

 

「いや、俺も釣られたごめん。」

 

桑田は川崎にボールを投げつける。川崎は咄嗟にキャッチして桑田を見る。

 

「こっちも点取ればチャラだろ、過ぎたことをとやかく言うな!」

 

「「はい!」」

 

桑田がドリブルをして進んでいく。海野と沼咲はゾーンディフェンスで、前 海野、後 沼咲で待ち構える。桑田がスリーポイントより手前でシュートを打つ。海野は予想外過ぎて反応できなかった。ボールはゴールに吸い込まれる。

 

「私はスリー打てるぞ?」

 

「くそっ…、そういや元全日本だこの人。」

 

海野が悔しがる。しかし、直ぐに切りかえて、今度は沼咲がボールを運ぶ。桑田とその後ろに美和がその道を塞ぐ。

 

「流石に女子2人に止められる訳には…行かないのよ!」

 

沼咲が左右に振って2人を惑わす。桑田はその動きに驚く。変則的で、リズムのないドリブル、2人にアンクルブレイクを決めながら抜いていく。ゴール手前で川崎が立ち塞がる。川崎は隣にいた海野に目をやる…が海野はスリーポイントラインまで下がっていた。沼咲は海野にパスを送る。

 

「お返しです!」

 

海野の放ったボールは綺麗な弧を描き、ゴールへと吸い込まれた。桑田が起き上がりながら沼咲に目をやる。

 

「今のは帝光中の…」

 

「そう、大輝…エースの青峰の技ですよ。」

 

すぐさま桑田がドリブルで進める。海野は今度は距離を詰めた。

 

「シュートだけでは全日本になってないぞ。」

 

桑田がドリブルで海野を抜きにかかる、突然急ブレーキをかけ、また加速する。だが、海野は全てについてきた。桑田はバックハンドパスで美和に回す。美和がシュートの姿勢に入る。沼咲が急いで止めに入る。

 

「やらせるかよっ…てめぇ!!」

 

沼咲が飛んだ瞬間に美和がドリブルで抜く。すぐさま海野が立ち塞がる。

 

「早いわねっ。」

 

前に立った海野の股を通してパスを送る。その先には川崎がいた。川崎はそのまま飛び上がる。フリーで決まったと思った瞬間に沼咲が川崎の目の前を飛んでいた。だが、川崎はそのままダンクをする。

 

「パワーでは負けない!」

 

川崎は沼咲をぶっ飛ばしながらダンクを決めた。沼咲がコートに転がる。

 

「やるじゃねぇかよ。」

 

「伊達にCやってない。」

 

「いいじゃん!」

 

その後両チームが10点に達するまでは互角の勝負をくりひろげた。だが、超えたあたりから人数の少ない中、動きでカバーしていた海野と沼咲の体力が尽き始め、最終スコア20:13で3人チームが勝った。

 

「よし、じゃあ2人はダッシュ10本!早く立て、やるぞ!」

 

「「はい!」」

 

2人がコートを桑田の合図で走り始めた。見ていた4人は驚きの表情を隠せなかった。川崎と美和が4人のところに寄っていく。水木が2人に話しかける。

 

「バスケ部ってすごいね!俺らもあんなプレイ出来るようになるの?」

 

美和が答える。

 

「私と茂樹以外の2人も中学から始めただけだからね、このチームの監督は咲さんだし、早く上手くなれると思うよ。」

 

川崎が続ける。

 

「上手くなってもらわなきゃ困るし、そのために俺達も全力で教える。」

 

「マジかー、楽しみ!」

 

他の3人も頷いていた。この日から青葉青果高校男子バスケットボール部の練習が始まった。




どうでしたでしょうか?
次回からプレイを書くことが多くなります。
お楽しみに。
思ったよりストックが溜まってるので、GW過ぎるまでは週3投稿にします。曜日は日曜、水曜、金曜で、時間は18:00です。
次回の投稿は4/28(水)18:00の予定です。よろしくお願いします。


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5話

こんばんは!
GW中、仕事は休みですが、やりたいことが多いため、投稿頻度は変わらずです。
では、どうぞ。


4月 GW前、8人が練習している体育館に桑田が入ってきた。海野が全員に声をかけ、桑田のもとに集合する。桑田が嬉しそうに口を開く。

 

「GW、練習試合3つ決まったよ!」

 

沼咲が口を開く。

 

「3つもですか!?」

 

「まず初日に県内の公立緑高校、真ん中らへんに秋田の陽泉高校、最終日に東京の桐皇高校。」

 

海野が高校名に驚く。

 

「緑高校と桐皇高校はわからないですけど、陽泉高校は秋田の王者ですよね?」

 

「そう、陽泉高校は全国でも上位レベル。緑高校は県予選で2、3回戦レベルだけど、桐皇高校は最近レベルを上げてきた高校よ。」

 

水木が質問をぶつける。

 

「どういう人脈ですか?」

 

「陽泉高校と桐皇高校の監督とは昔からの知り合いでね、連絡して無理やりとりつけた。その2校は今年、キセキの世代を獲得した学校よ。4人は知ってると思うけど、陽泉高校にはCの紫原、桐皇高校にはエースの青峰、まぁ出してくれるかはあちらさん次第だけど。」

 

初心者3人組がビビる。凪佐が口を開く。

 

「俺らがいて戦えるんですか?武則たちが強いのは知ってますけど。」

 

美和が自信満々に口を開く。

 

「平気!その武則たちに教えて貰ってんのよ?負けたらそいつらのせいよ!」

 

沼咲が口を開く。

 

「そうそう。まぁ、負けさせねーよ。」

 

3人は自信からか笑っていた。桑田が声をかける。

 

「じゃ、練習再開して!少なくとも緑高校には絶対勝って!陽泉高校と桐皇高校と戦えるように鍛えていくわよ!」

 

「「「おう!」」」

 

 

 

GW初日、青葉青果高校体育館にて、対緑高校の練習試合が行われた。結果は103対43、圧勝であった。その試合を見ていた少女が1人。

 

「強い…青葉中の3人は知ってたけど、あとの3人は??あの監督もどこかで見覚えがある気がするけど。帰って急いで調べなきゃ!」

 

足速に体育館を出ていく。そこで後ろから声をかけられる。かけたのは沼咲であった。

 

「君は元帝光中のマネージャーさんだよね?お久しぶり。」

 

「えっと…、桃井 さつきです。沼咲 茂樹くんだよね?」

 

「桃井さんって言うのか、もしかして陽泉か桐皇のマネージャー?」

 

桃井は核心をつかれそうで驚く。

 

「…はい、桐皇高校バスケ部マネージャーです。」

 

「ごめんごめん、警戒しないで。情報のない高校とやるんだもん、偵察するのはわかるよ。で、どうだった?うちの高校は。」

 

怒られると思ったのにむしろ歓迎気味だったので桃井は驚いていた。

 

「えっと…強いと思います。全国レベルと遜色がなく…。」

 

「ありがと、そりゃよかった。次は明後日に陽泉高校とやるけど、それは秋田に行くから。良かったら撮った映像渡すよ。あ、連絡先交換しよ?」

 

桃井はさらに驚く。むしろ対策しまくってくれというような言い方であったからである。桃井は言われた通り、連絡先を交換した。

 

「大輝に言っといて、舐めてるようなら潰すよって。」

 

そう言い残し、沼咲は体育館の中に去っていった。桃井はしばらく立ち尽くし、ハッとしてすぐに自分の高校へと戻って行った。

 

 

 

秋田県 陽泉高校体育館。その入口に青葉青果高校の9人がいた。海野が先陣をきる。

 

「青葉青果高校男子バスケットボール部です、今日はよろしくお願いします!」

 

「「「お願いします!」」」

 

陽泉の監督 荒木と主将 岡村が迎える。荒木が口を開く。

 

「よろしく、咲の教え子と試合ができるのは嬉しいよ。岡村、更衣室に案内してあげて。」

 

「はい。主将の岡村です、よろしく。」

 

「主将の海野です、全員1年生ですので、お手柔らかにお願いします。」

 

「ゴリラさんじゃん!お久しぶりでーす。」

 

沼咲が叫び気味に声を出した。岡村はその口調と見た目に見覚えがあり、驚く。

 

「茂樹か!?久しぶりじゃな、元気だったか?」

 

「元気元気ー!ゴリラさんもお元気そうで、相変わらずのゴリラっすね‪w」

 

「ゴリラじゃないっ!」

 

岡村が沼咲の頭にゲンコツを入れる。それでも笑いながら話していた。荒木が口を挟む。

 

「懐かしむのは良いが、早く案内してやれ。他のやつが困ってるだろう。」

 

「そうじゃった、後で話そう。更衣室案内する、女子には隣の更衣室用意してるから。」

 

岡村と沼咲が楽しそうに会話するのを先頭に更衣室へと歩いていった。荒木が口を開く。

 

「久しぶりだな、咲。」

 

「お久しぶりです雅子さん。この度は練習試合を引き受けて下さりありがとうございます。」

 

「あんだけ言われたらね。1年生だけとは聞いていたが、本当にあの3人をとったんだな。」

 

「ほか3人含めて、面白いチームになってますのでそちらの一軍さんの練習相手としては充分だと思います。」

 

「言ってくれるじゃないか。」

 

 

 

全員の着替えが終わり、アップ中、川崎が紫原を見つけ、近づく。

 

「紫原、久しぶりだな。」

 

「んー?川崎だっけ、今日も絶対勝つかんね!」

 

「直接やることあったらまた叩きのめすよ。」

 

短い会話をし、それぞれの方へ戻っていく。それを見ていた岡村が紫原に声をかける。

 

「なんじゃ、青葉青果のやつと知り合いか?」

 

「中学ん時に試合しただけだしー、てか、あいつ以外にも2人、海野と沼咲ってやつもー。てか、顔がうるさいゴリラ!」

 

「ほんとうるさいアル、アゴ!」

 

劉も便乗して岡村をいじる。

 

「ひどいよ、お前ら!?」

 

「まぁまぁ、アゴリラだから仕方ねぇ。」

 

福井も宥めながら便乗する。

 

「主将なんだと思ってんの!?」

 

「てか、珍しいな。紫原が過去の試合相手覚えてるとか。」

 

「そー?」

 

陽泉のレギュラーメンバーは楽しげに会話している。アップが終わり、それぞれのベンチの監督のもとに集合する。青葉青果は陽泉のメンバーを見て驚いていた。水木が口を開く。

 

「すっげぇ!優馬より大きいやつもいんじゃん、特にあの紫ロング!」

 

「あいつがキセキの世代、C紫原敦。マッチアップはポジション的に優馬にはなるが、彼はあの体格だが、スピードもある。傑、余裕があったらカバーしてやれ。」

 

「了解です。」

 

桑田が説明をしつつ、川崎に指示を出した。桑田が続ける。

 

「陽泉高校は例年、中に大きい選手を集めてる。さっき雅子さん…陽泉の監督に聞いたが、Cの紫原は208cm、主将でPFの岡村は200cm、SFの劉は203cmらしい。去年までは岡村と劉のツインタワーが有名だったが、今年は2人を超える紫原が加わり、中から点を取るのは普通のチームならまず不可能になってる。」

 

沼咲が口を挟む。

 

「いやでも、優馬は202cmだし、傑も193cm。相手のSGとPGは大して背ないしどうにかなるんじゃないすか?」

 

「普通のチームならと言っただろう。うちはバレー部出身が3人もいるし、空中戦では引けを取らない。」

 

「なーるー(なるほど)。」

 

「スタメンは前回と同じ、PG茂樹、SG蒼、SF武則、PF傑、C優馬でいく。今回は出し惜しみなしで行く、奏はいつでも行けるようにアップしとけ。」

 

「「「はい!」」」

 

「よし行ってこい!」

 

スタメンの5人がコートの中央へと行く。マネージャーの川田はカメラを設置して置いてある、ギャラリーへと行こうとした。そこに沼咲が声をかける。

 

「紀子ちゃん、今日撮ったデータ後で頂戴?帰ってから見直しとかしたいからさ。」

 

「明日学校でみんなで見る予定だと思うけど?」

 

「こう見えて復習大事にする主義なんだよ、よろしくね!」

 

そう言い残し、コートへ駆けて行く。

 

 

 

両校のスタメンがコートの中央に並ぶ。陽泉高校PG福井 SG鈴木 SF劉 PF岡村 C紫原。青葉青果高校PG沼咲、SG水木、SF海野、PF川崎、C凪佐。岡村が海野と握手をする。

 

「1年生のみと聞いていたんじゃが、全員身体は出来ているようじゃな。手加減はせんぞ?」

 

「期待に添えるように頑張ります。」

 

センターサークルに紫原と凪佐が対峙する。紫原が口を開く。

 

「川崎が相手じゃないの?あんたじゃ勝負にならないと思うよー? 」

 

「お手柔らかにお願いします。」

 

──────ピーッ

 

審判の笛とともにボールが宙を舞う。2人の腕がボールに向かって伸びる。紫原は川崎じゃないと知って軽く飛んでいた。だが、圧倒的に凪佐が高く飛んでいた。

 

「えっ…!?」

 

凪佐の手がボールを叩く。そのボールは沼咲の手元に納まった。福井がマークに着く。

 

「てめぇ、紫原!軽く飛びやがったな!」

 

「ごめーん。」

 

「余裕そうっすね。」

 

紫原に喝を入れる福井に声をかける。福井はその瞬間、普通の選手とは違うと気づく。

 

「いや、全力でやらせてもらうよ…!?」

 

福井が少し目を離した瞬間に沼咲の手からボールが消えていた。

 

「はぁ!?どこ…。」

 

「ゴリラ!マーク外すな!」

 

珍しく紫原の怒号が飛ぶ。岡村はその声で川崎がゴールへ走っていることに気づく。川崎はそのままゴール下で飛び上がる。飛んだ手の先にボールが来ていた。

 

「お先に失礼します!」

 

川崎が両手ダンクを決める。岡村はその後に追いつき、言葉を漏らす。

 

「速いのー!?」

 

「遅いですよ…えっとゴリラさん?」

「お前今日初対面じゃろうが!?」

 

怒る岡村を背に自陣に戻っていく。陽泉はすぐにリスタートし、福井がボールを運んでいく。

 

「さっきのは驚いたが、もうやらせねーよ。中はうちの専売特許だ!」

 

福井がゴール下にいる劉にボールを回す。海野がマークにつきながら口を開く。

 

「大きいですね、何食べたらそんなに大きくなるんですか?」

 

「知らないアルよ!」

 

劉はゴールに背を向けながら、パワードリブルで、ポジションを取っていく。そして、そのままダンクのために飛び上がる。

 

「結局は高さアル!」

 

「それは同感ですね。」

 

海野がそう言った瞬間に劉の目の前に凪佐が飛び上がる。その体勢はバレーのブロックのように両腕をあげていた。劉より高い位置から両手を劉のもつボールにのせた。

 

「ふんっ!」

 

「くっ…!?」

 

凪佐のブロックが決まり、零れたボールを海野が拾い、前を走る沼咲へと繋ぐ。福井が前に立ち塞がる。

 

「今度はやらせねーよ!(ネタは分かんねーが、さっきよりは余裕もある。)」

 

「1人見逃してないですか?」

 

沼咲はボールを隣に上げる。沼咲の陰から水木がそのボールに飛びつく。スリーポイントラインより手前であった。鈴木は水木のスピードに置いてかれていた。

 

「うりゃっ!」

 

水木はバレーボールのオーバーハンドパスの形でそのままボールをゴールへと送った。自陣ゴールで守っていた紫原も反応が遅れ、間に合わない。

 

「よしっ、戻ろ!」

 

沼咲と水木はボールの行方を見ずに戻っていく。ボールは綺麗にゴールに吸い込まれた。

 

「マジかよ、冗談だろこいつら。」

 

福井がつい言葉を漏らす。紫原が4人に文句を言う。

 

「ねー、俺なんもやってないんだけどー!」

 

「お前…!」

 

キレそうになる福井を岡村が制す。

 

「紫原、もう少し前で陣取っといてくれんか?お前に攻めに回れとは言わんが、相手が強すぎるしのー。」

 

「わかったー。」

 

紫原はぶっきらぼうに返事をする。だが紫原は違和感を持っていた。岡村も内心焦っていた。攻撃からゴールまでの時間が短すぎて紫原がいても間に合わないかもしれないということに。福井が岡村に声をかける。

 

「考えてもしょうがねぇ、第1Qはなんとかするぞ!」

 

「そうじゃな。」

 

試合は始まってまだ1分も経っていなかった。




如何だったでしょうか?
ルール上間違っていることなどがありましたら、コメントでご指摘ください。
その他、感想、ご意見、ダメ出し、お待ちしております。(あまり強いダメ出しだと落ち込むので、優しくお願いします。)
次回の投稿は4月30日(金)18:00の予定です。お楽しみに。


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6話

こんにちは…こんばんわ?
ストックがある程度溜まっているのでしばらくはこの調子で週1投稿していきます。
ではどうぞ!


青葉青果高校VS陽泉高校の練習試合、第1Qの序盤、青葉青果が先制点から5点得点し、陽泉側は少し焦っていた。岡村が福井に言う。

 

「福井、ワシに回せ、点入れる。」

 

「おう、任した!」

 

福井はドリブルで敵コートに攻めていく。沼咲が立ち塞がるが、福井はすぐに鈴木→岡村に回した。川崎が岡村につく。

 

「デカいのう、名前は?」

 

「川崎 傑です。」

 

「ワシは岡村 健一じゃ、よろしゅう!!」

 

岡村はパワードリブルでポジションを取ろうとするが、川崎は動かなかった。

 

「ゴリラさんは元Cですか?」

 

「そうじゃが…お前さんもじゃろ?」

 

一瞬止まったが、岡村は身体を徐々に入れていきポジションを取る。

 

「ワシは今でもCをやっとるんじゃい!」

 

そのまま飛び上がり、ダンクを決める。川崎はポジションを取られ、吹き飛ばされる。

 

「C少しかじってる程度じゃ通用せんぞ。」

 

そう言い残し自陣に戻っていく。凪佐が川崎に駆け寄る。

 

「傑、大丈夫か?」

 

「平気、ちょっと油断してたけど。流石は全国レベルの主将だ。」

 

川崎は少し笑っていた。沼咲が口を開く。

 

「傑、行くぞ!」

 

「!?…わかった!」

 

沼咲がボールを運んでいく。福井が立ち塞がる。

 

「今度こそやらせねーよ(俺にこいつを止めるのは無理だ、だが試合は別だ!)。」

 

水木には鈴木、川崎には岡村がガッチリマークについていた。沼咲は尚笑っていた。

 

「うちの選択肢って幅広いんだよねっ!」

 

福井の頭の上をボールが通る。丁度、フリースローライン上に、そこに凪佐が飛び上がっていた。その飛び方はバレーボールのスパイクの姿勢であった。紫原が止めに入る。

 

「そんなに何本もやらせるわけない…え!?」

 

紫原のブロックの手より上の位置にボールが来ていた。

 

「うるぁっ!!」

 

凪佐がボールを思いっきり叩く、そのボールはとんでもないスピードでバックボードに叩きつけられ、ゴールへと吸い込まれた。

 

「くっ…。」

 

紫原が悔しがる。凪佐は着地したあとに口を開く。

 

「意外と低いんだね、キセキの世代のCって。」

 

「あ!?」

 

一言残し、自陣コートへ戻っていく。岡村が紫原に寄る。

 

「今のはしょうがない。暴れたいのもわかるんじゃが、取り敢えずは我慢してくれ。第1Qは様子見じゃ。」

 

「わかってるしー。」

 

紫原は軽く返す。その様子に陽泉の面々はホッとしていた。その後、第1Qは水木、凪佐が暴れ回り、21対12、青葉青果のリードで終わった。両校のメンバーがそれぞれのベンチに集まる。陽泉のメンバーは少し焦っていたものの落ち着きを払っていた。荒木が口を開く。

 

「予定外ではあるが、大きく離されてはいない。第1Qは7番、8番を中心に攻めてきたが、相手の主力はあくまでも4番、5番、6番だ。福井、5番を相手にしてみてどうだ?」

 

福井が少し悔しそうに口を開く。

 

「あんま言いたくないっすけど、俺に5番を防ぐのは無理っす。正直、紫原と同じようなバケモノに見えます。ハンドリングはもちろんなんすけど、まだ何か隠してる感じがします。」

 

陽泉の面々は驚く。福井は特別な能力はないものの、PGとしての完成度は全国でも有数。その福井が完全に負けを認めていた。紫原が口を開く。

 

「あいつは中学の時、青ちん相手に遊んでたからねー。」

 

その言葉にさらに驚く。紫原が覚えていたことにももちろんだが、青ちん=キセキの世代のエース青峰相手に遊んでいたと表現したことに。荒木は岡村に目を向ける。

 

「6番は?」

 

「あいつは元Cだけあって、ゴール下の身体の使い方は上手いです。あと、スピードもある。じゃが、今のところ抑えられないほどではないです。」

 

紫原がその言葉に違和感を感じる。少なくとも中学時代は紫原相手に対等以上に戦っていた選手であった。その彼が高校の全国区の選手相手とは言え、何故大人しいのか。しかし、めんどくさいので言うのはやめた。

 

「なるほど。劉、4番は?」

 

「今のところ何も動きがないアル。ゴール下の動きは慣れていない感じがするアル。」

 

「わかった。6番は引き続き岡村が抑えてくれ。4番、5番は第2Q以降で動いてくる可能性が高い、気をつけろ。とりあえずは中を中心に点を取り、鈴木、スリーの準備もしておけ。」

 

「「「はい!」」」

 

「俺攻めていーのー?」

 

紫原が力の抜けた言葉を発した。荒木は首を振る。

 

「少なくとも前半は体力も考えて攻めないでいてくれ、後半、遅くとも第4Qからは攻めてもらう。」

 

「わかったー。」

 

「わかりましただろっ!」

 

一方で青葉青果側は余裕そうな表情であった。桑田が口を開く。

 

「思ったより点数開かなかったな、流石は全国区の守備型チームだ。次のQは傑に代わり、奏を入れる。武則をPGに、茂樹をPFに変えてくれ。バレーボールをふんだんに使ってくれ。」

 

「「「はい!」」」

 

沼咲と水木がギャラリーのカメラの位置の近くに寄っていく。カメラを操作している川田が2人にアングルを寄せる。2人は突然組体操を始めた。陽泉高校の二軍以下のメンバーはそれに驚く。だが、青葉青果のメンバーは無視して水分補給をしていた。

 

 

 

しばらくして、審判の笛がなる。両校のメンバーはコートへと戻って行った。陽泉のメンバーは変わったメンバーに驚く。岡村のマークに沼咲、福井のマークに海野、劉のマークに舟木がつく。岡村が沼咲に話しかける。

 

「ポジションチェンジか?」

 

「うん、このQはもっと楽しくなるっすよ!」

 

「それは楽しみじゃ。」

 

福井に海野が話しかける。

 

「よろしくお願いします。」

 

「お前、PGも出来るのか?」

 

「中学のときはこっちが本職だったので。でも、茂樹ほど面白味はないと思うので安心してください。」

 

「おっ、おう。」

 

劉は舟木の存在に違和感を感じていた。今まで出ていた青葉青果のメンバーは何かしらありそうな感じは元々していた。しかし、舟木からは何かどころかやる気もあまり感じなかった。

 

陽泉ボールから始まる。福井がボールを運ぶ、その前に海野が立ち塞がる。福井は劉にパスを送る。劉のマークには舟木がついている。

 

「何のつもりかは知らないアルが、その高さで抑えるのは無理アル!」

 

劉がドリブルでゴール下へと移動していき、そのままジャンプシュートを決める。あまりにもあっさりと決められた。その様子に福井も違和感を持つ。

 

(どういうことだ?客観的に見て、4番の方がまだ劉の相手になる。何を考えてる。)

 

海野がボールを運んでいく。劉は舟木を意識してマークしていた。しかし、突然消える。

 

「えっ…!?」

 

海野が誰もいないはずのところにパスをする。福井は驚いたが、そこには舟木がいた。舟木がそのボールをトスの容量でゴールの横へと送った。その先には凪佐が飛んでいる。スパイクのフォームで。

 

「うらぁ!!」

 

紫原は反応が遅れ、凪佐の打ったボールはリングに跳ねつつもゴールへと吸い込まれて行った。陽泉のメンバーは面食らっていた、突然ボールが最深部まで行った。その中でも紫原は特に驚いていた。

 

(今の…黒ちんのパス!??)

 

福井がまたボールを運ぶ。海野がつく。

 

「なんだ今のは?見た事ねーぞあんなプレイ。」

 

「はい、だと思います。」

 

「でも、弱点は変わらねーだろっ。」

 

福井は劉にパスを送る。劉は高い位置で受け取ろうとするが、その手前でボールが突然曲がった。曲がった先にいる沼咲にボールが渡る。

 

「よっしゃ!ナイス奏!」

 

沼咲は突然加速していき、岡村を振り切り、陽泉コートへ攻めていく。陽泉のコートには紫原が門番のように立っていた。

 

「やらせないよ!」

 

「それが意味ないんだなー。」

 

スリーポイントより内側に入った瞬間に逆サイドにボールを投げる。その先には水木がいた。

 

「ほいっ!」

 

スリーポイントラインより手前からオーバーハンドパスでゴールへボールを放る。

 

「くっ…!?」

 

紫原は沼咲の方に足が向いていたので間に合わない。そのボールはゴールへ吸い込まれた。

 

「ナイス、蒼!」

 

「いぇーい!」

 

2人は駆け寄り両手でハイタッチをした。そこで紫原は違和感の正体に気づく。

 

「黒ちんが何人もいるみたい…!?」

 

水木、凪佐、舟木は初心者である。だからこそ、桑田は時間の無い中、守備とハンドリングを中心に教えた。3人ともバレーボールで全国レベルの強豪にいたので、ボールを一瞬で操る能力としてはバスケ部のそれ以上である。ボールにさえ慣れてしまえばバレーボールの様に正確に扱える能力を3人は持っていた。

 

福井は舟木の存在に恐怖を感じていた。どこから出てくるかわからないが、少なくとも劉のマークに着いている。とりあえず鈴木に回す。水木が立ち塞がる。

 

「来いっ!」

 

「俺も一応陽泉レギュラーなのでね!」

 

鈴木はクイックリリースでシュートを放とうとする、水木はすぐに反応して飛んでブロックをしようとする。だが、鈴木は飛んでいなく、ドリブルで横移動し、水木とズレた位置でシュートを放つ。そのシュートは綺麗にゴールネットを揺らした。

 

「くっそー!」

 

(反応早いな、油断出来ない。)

 

海野がボールを運んでいく。そしてまた誰もいないはずのところにボールを送り、舟木がそれをトスして水木に回す。

 

「ほいっ!」

 

水木のオーバーハンドによるスリーが決まる。2人とも極端にボールに触る時間が短いので、傍から見るとボールが勝手に曲がり、ゴールへ吸い込まれたように見えた。

 

「なんなんじゃこりゃ!?」

 

岡村がつい言葉を漏らす。岡村がそう言うのは当然であった。バスケットボールの試合でバレーボールをしている。しかも、触る時間が短すぎて1回反応が遅れると、ブロックに飛ぶことすら容易でないからである。しかも、ジャンプからのオーバーハンドでスリーが届いてしまう。長くバスケをしている人間程、意味がわからなかった。福井が喝を飛ばす。

 

「おちつけ!点は取れてる、このまま行くぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

第2Q、第1Qより速くボールが回り、陽泉はそれに翻弄されながらも、点をとっていた。結果は63対46で青葉青果リード。先程より差が開く形で前半が終わった。




如何だったでしょうか?
ただいま新キャラ出そうか、どういう流れにしようかなど、色々考えているところです。
次の投稿も来週、5月2日(日)18:00です。
どうぞお楽しみに。


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7話

こんにちは!
今年のGWもコロナの影響で家で過ごす日々になりそうですね。私の住んでいる地域では違うところの車ナンバーが増えているような気がしてます。
では、どうぞ!


青葉青果高校VS陽泉高校、前半は63対46で青葉青果リードで折り返した。ハーフタイム10分で、陽泉高校は荒木が考えている対策とスタメンが考えた対策の擦り合わせを行っていた。荒木が口を開く。

 

「すまんっ!第2Qは4,5,6番が中心で来ると思ってた。」

 

その言葉を聞いて福井が口を開く。

 

「しょうがないっすよ、あんな伏兵が居たって思わなかったっすから。自分から前半のイメージ言わせてもらうと、5番は異常なくらいのバケモノって考えた方が良いっす。4番のPGとしての能力は高いけど、5番に比べたら標準型のPGって感じです。ただ5番に比べたらって話なんで俺がギリギリ抑えられるか抑えられないぐらいの実力です。」

 

「ふむ、それは私も見ていて感じた。岡村、5番のPFとしての能力は?」

 

岡村が口を開く。

 

「正直、わからんって言う感じですわ。スピードとかパスの能力は第1Qで見た感じと同じで、第2Qは自分から決めに行かなかったので、わからんです。ただ、中の動きとしては力の使い方とかボールの運び方とかを含めて6番以上です。」

 

「そうか…まだ隠してるわけか。鈴木、7番は?」

 

鈴木が口を開く。

 

「正直、目離してるつもりはないんですけど、いつの間にか消えて点取られるって感じです。ドリブルの能力はまだ分からないですけど、守備力は全国レベルではないです。あと、尋常じゃないくらい身軽です。」

 

福井が口を開く。

 

「確かに。俺もいつの間にかパスコースにいるって言う感じだったわ。」

 

「多少のカラクリはわかったが、確定ではないから終わりに話す。劉、4番と9番は?」

 

劉が口を開く。

 

「4番の中はそれほど能力高くないって感じアル。9番は7番と同様、いつの間にか消える感じで、いつの間にかパスの中継やってたりパスカットされたりって感じアル。正直、訳分からなかったアル。」

 

「うむ…。紫原、8番は?」

 

紫原が口を開く。

 

「んー?到達点は俺より高いんじゃない?あとあの体格で身軽だねー、うちのアゴと違って。」

 

「なんじゃと!?」

 

岡村が立ち上がるが荒木が制す。

 

「紫原、お前が中学の時に戦ったのはどいつだ?」

 

「4,5,6番。中学ん時は4番がPG、5番がPF、6番がCだったはずー。」

 

福井が口を挟む。

 

「試合前から思ってたけど、お前が覚えてるの珍しいよな?点数とか覚えてんのか?」

 

「101対82。」

 

紫原が真面目な顔で言った。その点数に驚く。帝光中と戦ったところは片っ端からダブルスコアを食らっていたからである。紫原が続ける。

 

「青ちんとか黄瀬ちんは覚えてないだろうけど、他の人は覚えてるんじゃない?みんな細かくじゃなくても、大体の点差は覚えてるんじゃない?中3になってからあんなに苦戦したのは初めてだったから。」

 

「マジかよ…。」

 

福井が思わず声を漏らす。荒木が岡村に目を向ける。

 

「岡村、5番と知り合いだったよな?いつの知り合いだ?」

 

「ミニバスの時ですね、あいつは小学生の時は秋田にいたんで。その時はPGやってて、2学年上、ワシたちの学年に混じってレギュラーでしたわ。その時も自由なプレイスタイルじゃったなー。」

 

岡村が懐かしそうに言った。荒木が口を開く。

 

「そうか。後半は間違いなく4,5,6番が動いてくる。紫原オフェンス参加していいぞ。」

 

「ん、絶対ひねり潰す。」

 

「さて、対策を考えて行こう。」

 

 

 

青葉青果の面々は余裕そうな表情で話していた。桑田が口を開く。

 

「予定通り、後半は武則、茂樹、傑。自由にやっていいぞ。第3QはPG武則、SG奏、SF蒼、PF茂樹、C傑で行く。美和、気づいたことあるか?」

 

「はい。たぶんですけど、9番(紫原)が攻撃に参加してきます。基本は傑が相手するだろうけど、目測で中学のときより身長高くなって、体格も少し良くなっているので、気をつけるように。陽泉は中が強いイメージではありますが、6番(鈴木)は見た感じではクイックシューター気味のスラッシャーだと思います。奏や蒼では抑えきれないこともあるとは思いますが、外の成功率は良いとは言いきれないので、中に入れないように意識して。」

 

美和が口を閉じる。それを確認して桑田は川田を見る。

 

「紀子上から見てて何か気づいたか?」

 

「いえ…特には…。」

 

「なんでも良いぞ。」

 

川田が少しオドオドしながら口を開く。

 

「えっと…上手く言えないんですけど、陽泉の選手は全員、中に固まってるなーって。」

 

沼咲が感心しながら口を開く。

 

「俺も思った。紀子の言う通り、中に寄ってる。だから補欠を含めて、外の成功率が高い選手がいないんだと思う。スリーポイントラインより外はドライブ警戒しちゃっていいと思う。」

 

桑田が口を開く。

 

「そうか、わかった。基本は3人に任せる。奏と蒼もすぐシュート打てるように準備しておけ。優馬も状況次第では直ぐに出す、いつでも出れるよう体を冷やさないように。」

 

「「「はい!!」」」

 

「では、インターバル終わるまでは水分補給するなり自由にしてろ。体を冷やすなよ!」

 

桑田がそう言うと青葉青果のメンバーはそれぞれ自由にし始めた。沼咲と水木は突然逆立ちをし始める。

 

「あはあはは!!!」

 

「あひゃひゃひゃ!!!」

 

2人とも笑いながら、逆立ちの状態から飛んだり、走ったりし始める。逆立ちだけでも異様な光景だが、そこから激しく動き始めるのはもはや大道芸の様だった。

 

 

 

審判の笛がなり、両校の選手がコートに戻る。川崎と紫原がセンターサークルで対面する。紫原が口を開く。

 

「またポジションチェンジ?コロコロ変わるねぇ。」

 

「まだ出来たてのチームだからね。さっ、中学のリベンジさせてもらうよ。」

 

「はぁ!?」

 

川崎は本音から言っていた。1VS1の勝負では紫原が負けていた、その事実を覚えている紫原としては挑発のように受け取った。

 

──────ピーッ

 

笛の音とともにボールが宙を舞う。川崎と紫原の腕がボールに向かって伸びていく。手1枚分の差で川崎が取る。すぐさまに海野にボールが回る。海野がボールを運び始めるとすぐに福井が前に立つ。

 

「来いっ!(どっち(舟木と水木)が出てくる。)」

 

鈴木と劉はそれぞれのマークを離さないように気をつけていた。海野が笑う。

 

「じゃあ、遠慮なく。」

 

そう言い残し、一瞬で福井を抜く。

 

「なっ…!?」

 

劉がすぐにカバーに回る。

 

「行かせないアル!」

 

「いや、通る!」

 

スピードを緩めずにターンして劉を躱す。劉は反応ができずあっさりと抜かれた。海野がそのままゴールに向かって飛ぶ。

 

「やらせないよ!」

 

紫原がジャンプして腕を伸ばす。

 

「速いね…流石だよ。」

 

ボールを持ち替えて、紫原の横からボールを放る。そのボールはバックボードに当たり、ゴールに入った。

 

「くそがっ…!」

 

陽泉のメンバーは急に動きが変わった海野に驚く。前半大人しくしていたのは分かっていたが、上限を見誤っていた。海野は戻りながら沼咲とハイタッチする。

 

「流石武則!」

 

「お前には勝てないよ。」

 

陽泉は一瞬の動揺のあと、すぐ切り替えた。福井がボールを運ぶ。紫原も上がってくる。紫原はパワーでポジションを取ろうとする。しかし、動かなかった。川崎が完全に押さえていた。川崎が口を開く。

 

「俺も相撲上手くなったよ、紫原。」

 

「それだけ?」

 

紫原は力を抜きながらターンをして川崎を躱す。川崎が離れた一瞬をついて福井が紫原にパスをする。沼咲がカバーに入る。

 

「速くなったな、紫原。」

 

「上から目線ウザイんだけど!」

 

紫原は沼咲に背中を当てながらゴール下へとドリブルしていく。

 

「マジで相変わらずの重戦車だな。」

 

ゴールの手前で紫原がターンをしながら飛び上がる。沼咲は押されながらだったので少ししか飛べなかった。川崎が追いついて手を伸ばす。

 

「ふんっ!」

 

紫原の『破壊の鉄槌』が決まる。沼咲と川崎は回転の勢いが上乗せされたパワーに吹き飛ばされる。紫原が着地して、座り込んでいる2人を見下ろしながら口を開く。

 

「そんなもん?つまんなーい。」

 

「このやろっ…。」

 

青葉青果はすぐにリスタートし、海野が再び運び始める。ハーフラインを超えたあたりで福井が立ち塞がる。

 

「速いのはわかったが、2度はやらせねぇ。」

 

「無理じゃないですか?」

 

福井はまたも一瞬で抜かれる。また劉がカバーに入る。海野は急に立ち止まる。そして誰もいないはずのところにパスを出す。

 

「流石に連続同じパターンは芸がないので。」

 

「あっ…!?」

 

水木がボールをトスしてゴールへと送る。その軌道は直線的であった。そのボールは飛び上がっていた川崎の手に収まる。

 

「捻り潰すよ!」

 

ダンクしようとした川崎の持っているボールに紫原が手を当てる。

 

「ふぬっ!」

 

「ぐっ…!??」

 

紫原は押し返されて川崎のダンクが決まる。

 

「紫原がパワー負けした?!」

 

(いや、元から前に飛んでいたからそのパワーが上乗せしたんだ…だが、それだけで紫原が負けただと…!?)

 

福井は冷静に考えようとするが、紫原が負けたことに冷静になりきれなかった。そして、2度もフェイクなしのドリブルに抜かれたことが彼の心を折りかけていた。

 

「福井、俺に回せ。」

 

鈴木が福井に声をかける。リスタートし、ハーフラインまで運んだところで福井はすぐにスリーポイントラインの外にいる鈴木に回す。舟木が立ち塞がる。

 

「てめぇらに負けるような俺たちじゃねぇ!!」

 

鈴木はフェイクを入れ、舟木を抜きにかかる。抜いたと思った瞬間に、鈴木の手からボールが抜ける。

 

「な…嘘だろ!?」

 

舟木は下半身は半身、上半身は後ろにいる鈴木に向けた状態で、鈴木のドリブルしていたボールを突いたのであった。それを沼咲が拾う。そしてそのままドリブルで駆け上がっていく。

 

「ナイス奏ぇ!」

 

全員が虚をつかれ動けない中、紫原だけが沼咲に追いつき、前に立ち塞がる。

 

「本当に速くなったねぇ、紫原。」

 

沼咲は不規則なリズムのドリブルをし、紫原相手にアンクルブレイクを決め、悠々とダンクをした。

 

「くっ…!!」

 

陽泉のメンバー、ベンチを含め全員が驚いていた。紫原が珍しく悔しがる様子、それよりも、紫原が圧倒されていること、しかも3人に。岡村が紫原に手を貸す。紫原はそれを叩いて立ち上がる。

 

「まだ負けてねーし!」

 

「…!?…そうじゃな!」

 

陽泉のメンバーは紫原が折れていないことに安心した。しかし、止める手立てがないのも事実であった。第3Q、青葉青果の勢いは止まらず、海野,沼咲,川崎3人の圧倒的な個人技、舟木,水木のどこから現れるかわからないパスの中継、シュート。5人全員に翻弄された。結果は101対64、陽泉は近年見たことの無いレベルで圧倒されていた。最終Qに突入する…。




いかかでしょうか?
試合を書くとなると少し長めになりやすいんですが、語彙力が乏しいので、文量のわりに薄い内容になってしまうのはご容赦ください。
次回の投稿は5月5日(水)18:00です。GW最後の投稿になります。
お楽しみに。


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8話

こんにちは!
みなさんはGWどうお過ごしでしたか?
私は仕事関係で少しバタバタしておりました。新しい上司と上手くやっていけるか不安です。。。
コロナはいつまで続くんでしょうね?
私の予想は最低でも1年、最大は予想つかないです。
では、どうぞ!


第3Qが終わり、101対64で青葉青果がリードしていた。2分のインターバル中、青葉青果は変わらずに余裕の表情でいた。しかし、全員に疲れが見え始めていた。その中で、沼咲のみ、余裕綽々としていた。桑田が口を開く。

 

「良くやった。蒼を下げて優馬を入れる。ポジションは第1Qと同じ、蒼がいたSGに奏が入れ。」

 

「「「はい…。」」」

 

全員返事はするものの、疲れからか、声はあまり出ていなかった。沼咲が口を開く。

 

「俺、本気でやっていいすか?」

 

その言葉に全員が驚く。しかし、海野と川崎は笑っていた。桑田が問う。

 

「本気?」

 

「いやまぁ、体力のためにも抑えてたんすけど、最後の10分ぐらいなら持つかな?って。その間にみんな回復しといてよ、最後の1,2分は皆でやろう。あっ、でも優馬は20分休んでるからそこそこ動けるだろうけど、休んでていいよ。バレーのときは半ローテで奏と代わってたんだし、体力的にまだキツいでしょ。」

 

「…!?助かる…?」

 

沼咲の虚勢を張っているわけでも、嘘をついているわけでもなさそうな表情に驚く。

 

「わかった、頼む。」

 

「お願いね。」

 

海野と川崎はそう言い休憩し始めた。桑田が何かを決めたように口を開く。

 

「任していいんだな?」

 

「うん、身体は充分温まってるし、キセキの世代全員が相手じゃなきゃ10分ぐらいはどうにかなるよ。基本的に俺以外は上がらなくて良いよ。ゆっくり動いてなるべく体力回復して。全部俺がやる。」

 

短い話し合いが終わり、残りのインターバルの時間を休憩に使った。美和が沼咲に寄る。

 

「茂樹、無茶はしないでね。」

 

「わかってるよ。」

 

「久しぶりの本気、期待してる。」

 

「おう!」

 

 

 

陽泉ベンチでは最後の対策を練ろうとしていた。しかし、紫原がベンチに座るとともに周りを驚嘆させた。

 

「もーやーめた!誰か代わってよ、どうせ練習試合じゃん。」

 

「おい、竹刀とれ。」

 

荒木がキレそうになるのを岡村が制して、紫原の目の前に立つ。紫原が岡村をチラ見する。紫原が口を開く。

 

「なに?」

 

──────バシンっ!

 

岡村が紫原の頬を平手打ちした。元々背が高く体格の良い岡村の平手打ちには紫原もよろける。しかし、すぐに睨み返す。

 

「痛いんだけど、何なの?」

 

「練習試合であろうと負けは許されんじゃろが。そして、例え負けたとしても全力で試合をしてくれた相手に失礼じゃ!」

 

「なにその武士道精神?みたいなやつ。そもそも負ける試合に全力でやるのが意味わかんない。」

 

「お前が唯一対抗できるんじゃ!悔しいがワシたちでは抑えることすら難しいんじゃ!紫原、お前はワシたちの高校、陽泉高校を勝たせるために入部したんじゃろ!?頼む、力を貸してくれ!!」

 

岡村が涙を流しながら土下座をする。その姿に青葉青果も含め、体育館にいる全ての人が衝撃を受けた。陽泉高校は秋田県王者、IH,WC両方とも全国優勝の経験を持つ、日本の高校の中でも超強豪校。その主将が4月に入ったばかりの2つ年下の新入部員に頭を下げている。福井は周りの目に気が付き、岡村を立たせる。岡村の目にはまだ涙が溢れていた。

 

「…ワカッタヨ。分かったやるよ!」

 

「紫原ぁぁぁぁ!!」

 

岡村が感動で抱きつこうとする。紫原はそれを防ぐ。

 

「暑苦しいなぁもう…やられたまま負けるのもやだし、そもそも負けるのもつまんないし、出るよ。」

 

荒木は岡村の覚悟と、紫原の心の入れ替わりに驚いていた。紫原が荒木の方を向く。

 

「雅子ちん」

 

「監督と呼べ!」

 

「ヘアゴム貸して。」

 

荒木は自分の予備のヘアゴムを紫原に渡す。紫原は長い髪を後ろにまとめた。全員が荒木の元に集まる。荒木が口を開く。

 

「第4Q、紫原中心で行く。紫原はなるべくオフェンスに専念してくれて構わない。見た感じ、向こうのメンバーは限界が近い。全員1年生、そして選手は6人。どう頑張ってもあと1,2分程度で全員動けなくなるだろう。そしたら、後は高さで攻めろ。鈴木は隙があったら3Pを打ちまくれ。リバウンドは3人が必ず取れる。」

 

荒木がそこまで言ったところで審判が笛を鳴らす。

 

「勝つぞ!!!」

 

「「「おう!!!!!」」」

 

陽泉の5人は気合いの入った表情でコートへと戻っていく。それとは逆に、青葉青果の沼咲以外の4人はやる気のない表情でコートへと戻って行った。沼咲は1人、楽しそうにしていた。沼咲が紫原に話しかける。

 

「あれ?投げ出したのかと思ったけど?」

 

「うん、そうしようと思ったけどやめた。面倒くさくなりそうだけど、負けるのはもっと嫌なの。」

 

「やる気満々だね(やべぇな、やる気無くしといてくれよ‪w)。」

 

陽泉からのボールで始まる。福井がボールをスリーポイントライン手前まで運んだ瞬間に海野が福井のボールを奪い取る。

 

「なっ…まじかよ。(体力限界じゃねーのかよ。)」

 

「体力はもう限界ですよ?だからこれだけです。」

 

すぐに沼咲にパスを送る。陽泉のメンバー急いで自陣に戻る。そこで見たことない光景を見る。岡村が思わず口を漏らす。

 

「茂樹以外、自陣から動かないじゃと…!?」

 

沼咲がゆっくり陽泉コートにボールを運ぶ。当然、福井と鈴木が沼咲1人の前に立ふさがる。福井が口を開く。

 

「舐めてんのかてめぇ…!」

 

「うん。」

 

沼咲はニコニコしながら返す。福井と鈴木は沼咲の放つオーラに恐怖を感じた。

 

(やべぇなこの雰囲気…まさかこいつ…本気で俺ら5人から1人で点を取るつもりか…!?)

 

沼咲が突然高速のドリブルを始め、福井と鈴木は釣られて前後左右に振られ始めた。

 

「うん、この感じ。」

 

急に静止し、福井と鈴木が止まりきれずに脚を崩す。一瞬の静止の直後、急加速で福井と鈴木を置き去りにした。3Pラインの内側には2m×3人が待ち構えている。

 

「ほらほらぁ!!!」

 

劉を躱し、両手でボールを持って、シュートの体勢に入る。岡村と紫原が飛んでブロックしようとする。

 

「えー…と、こうだっけ?」

 

「なんじゃそりゃ!?」

 

「これは…!?」

 

沼咲は飛び上がる瞬間にコートを斜めに蹴り、横っ飛びをした。飛びながらシュートを打つ。そのボールはリングで跳ねながらもゴールに入った。

 

「あぶねぇー、外したと思った‪w」

 

「沼咲…(今のは青ちんのシュート…と言うかドリブルも青ちんのやつ。でも青ちんよりも突発的でリズムがまるで無さすぎる。)」

 

「やるのぉ、茂樹。」

 

「ゴリラと重戦車程度には負けないよっ!」

 

そう言い残し自陣に戻っていく。紫原と岡村2人揃って怒りを我慢した表情になっていた。紫原が口を開く。

 

「アゴと一緒にすんなし。」

 

「アゴ!?ゴリラどこ行った!?てかゴリラもおかしいじゃろがい!」

 

「うるさいアゴリラ。」

 

福井が岡村の頭を叩く。陽泉はすぐにリスタートする。青葉青果のメンバーは中に固まっており、福井がボールを3Pライン手前で、海野が福井の前に出る。福井は周りを見渡す。

 

「(中は密集しすぎてパスカットよくて外に出される。なら…)鈴木!」

 

福井はサイドの3Pラインでフリーになっていた鈴木にパスを回す。

 

「おうっ!舐めんなよっ…!?」

 

パスを貰い、クイックリリースで3Pを狙う。が、ボールを放った瞬間に突然腕が伸びてきてそれを防がれた。その腕を伸ばしたのは沼咲だった。沼咲はそのままボールを拾い、攻め上がっていく。福井は自分の行動を悔いる。

 

「(くそっ…、あいつあんなに速かったか?中に人数集中させて、外は沼咲の超スピードで追いつくってことかよ!)待ちやがれ!」

 

1番近い福井が直ぐに追いかける。しかし、沼咲はスピードを突然0にして、止まる。

 

「なっ…ぐっ!」

 

福井は全速力からギリギリ止まった。しかし、沼咲は再び加速して福井を置き去りにした。

 

「なん…だと!?」

 

福井はそのスピードに足下が崩れ、コートに転がる。その横をとんでもないスピードで走り去る影がもう1つ。紫原であった。沼咲もそれに気づく。紫原は3Pライン手前で沼咲に追いつき、沼咲の動きを止めた。

 

「ははっ、流石だねっ。」

 

沼咲は止まった瞬間に、ドリブルの流れからそのまま下投げでボールをゴールに放った。

 

「くそっ!?」

 

そのボールは綺麗なスピンをしてゴールへと吸い込まれた。紫原が沼咲に声をかける。

 

「やっぱり、青ちんのシュートだよね?もしかして、お前は黄瀬ちんと同じ、いや、それ以上の…。」

 

「いや、違うよ。俺と大輝のスタイルが似てるだけ。ただ違うのは、俺は型にハマった動きの練習を習ったこともしたこともないだけ。」

 

「なっ…!?」

 

「もちろん、型にハマったのもできるけど、ちゃんと習ったことはないから全部モノマネよ。第3Qまではそれをやってただけ。」

 

そう言い残し、自陣のコートへ戻っていく。紫原は驚くとともに、嬉しそうな表情をしていた。キセキの世代の5人は全員が個々のスタイルを持っている、そして全員が自分の才能を主軸にして成長していた。それでも、帝光中では基礎練は一軍でも必ず行っていた。その要因もあって3連覇という記録を樹立させた。自分より才能がある、本気の力でバスケが出来るかもしれない、そのことが紫原を喜ばせた。

 

福井が再びボールを運ぶ。紫原はゴールより少し離れた場所でパスを要求していた。福井は紫原の何かが吹っ切れた様子に気づき、パスを送る。沼咲が紫原とゴールの間に立ふさがる。沼咲は紫原の雰囲気が変わったことに気づく。

 

(この感じ…?)

 

紫原は今までとはレベルの違うドリブルを見せ、ゴール下へと入った。沼咲が叫ぶ。

 

「全員どけ!」

 

沼咲は振り切られないようについて行く。しかし、紫原を止めることは出来なかった。紫原がゴール手前で飛び上がる。それに合わせて沼咲も飛ぶ。

 

「うらぁ!」

 

紫原は片手ダンクを決め、沼咲を吹き飛ばす。沼咲はコート外に転がった。そして紫原を見上げる。

 

「(やっぱり…ゾーン!!!)…いいじゃん紫原!」

 

「絶対負けない!」

 

他のメンバーも紫原の変わりように気づく。そして全員が確信する、ゾーンに入った、と。凪佐が沼咲に駆け寄る。

 

「茂樹、俺はほぼ回復してるから手伝おうか?」

 

そう声をかけた直後に沼咲の様子が変わったことに気づく。沼咲がニヤケながら口を開く。

 

「いらないよ、残り2分まで休んでて。やっと80%が出せるかもしれないやつが現れた…流石キセキの世代だ。」

 

ベンチの美和はコート外から真っ先に沼咲の様子に気づいていた。

 

「咲さん、絶対タイムアウト取らないでください。」

 

「元々そのつもりだが、どうしてだ?」

 

「茂樹が…本気になります。」

 

「!?」




いかかだったでしょうか。
次回で陽泉編は終わりです。
GW終わるので投稿頻度は元に戻して毎週日曜18:00からです。
次回の投稿は5月9日(日)18:00です、
お楽しみに


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9話

おはようございます、こんにちは、こんばんは?
GWが終わり、仕事が少し億劫に感じております。
GW終わったので、今日から毎週日曜18:00投稿です。
どうぞ!


第4Q、陽泉は劣勢ではあったが、紫原の覚醒により士気が上がっていた。沼咲がボールを運んでいく。福井と鈴木が立ち塞がる。2人はドライブを警戒して少し下がっていた。それを見て沼咲はシュートの体勢に入った。福井と鈴木は一瞬遅れたが、紫原がすぐ反応し、シュートコースを塞いだ。沼咲は空中でボールを下げて、下から放った。

 

「防ぐなよー、これじゃ形違うやん。」

 

そのボールは高く上がり、上空で止まり、ゴールに真っ直ぐに入った。紫原はその軌道に見覚えがあった。

 

「みどちん…!?」

 

沼咲はボールが宙に待っている間に自陣に戻っていた。福井がボールを運ぼうとすると、紫原がすぐに要求した。まだ自陣コートから出ていなかった。しかし、紫原の威圧に押されて大人しく渡す。すると紫原がドリブルで駆け上がって行った。沼咲が立ち塞がる。

 

「良い感じじゃん、紫原。」

 

「絶対負けない!」

 

紫原は普段見ないようなドリブルをし、沼咲を振りにかかる。青葉青果のメンバーはもちろん、陽泉のメンバーも紫原の相手を揺さぶるようなドリブルは見たことがなかった。沼咲が少しバランスを崩したところで紫原が抜きにかかる。そのスピードとキレは全国でも稀に見るようなレベルであった。

 

「ほいっ。」

 

しかし、沼咲は後ろからボールを突いて弾いた。そのボールを川崎がキャッチし、前に走り始めた沼咲にパスする。

 

「くそっ!?」

 

陽泉のメンバーも驚く。福井が口を開く。

 

「あれでも抜けねーのかよ、バケモンかあいつは!?」

 

紫原のドリブルは確かにレベルは高いが、沼咲は全国でも止められる人がほぼ存在しないような青峰のドリブルすらも止められる。普段ドリブルをしない紫原ではゾーンに入っても抜けるはずがなかった。

 

「止めるぞ!」

 

福井が声をかける。岡村、劉、鈴木はそれぞれ構える。福井と鈴木が沼咲の前につく。3Pを打たれないように鈴木が少し前に出る。

 

「ははっ、止めれるなら止めてみてよ!」

 

沼咲は笑いながら変則的なドリブルをし、2人を躱す。岡村と劉がゴール前に立ち塞がる。沼咲はそれを無視するように飛び上がった。

 

「やらせん!」

 

「やらせないアル!」

 

「高いねー…。」

 

沼咲は空中でターンをし、2人を躱し、ターン中にボールを放った。

 

「無理だったね。」

 

沼咲が着地すると同時にゴールへと吸い込まれた。両ベンチのメンバーも驚く、沼咲の圧倒的な能力、それはまるでコート上を舞い踊っているかのような姿であった。沼咲は立ち尽くす陽泉メンバーを背に楽しそうな表情で

 

「もっと遊ばせてよ?」

 

と言い、自陣コートに戻って行った。沼咲の圧倒的なスキルに呆然としかけた陽泉メンバーは紫原の気迫に起こされた。

 

「俺がやる!」

 

福井が口を開く。

 

「わかった、だが、中でパスを受けろ!お前の本領は中のプレイだ、それで負けるはずがない!」

 

福井がボールを運んでいく。沼咲につかれる前に紫原に回す。沼咲は中に戻り、紫原につく。紫原は少し力で押し、沼咲を躱し、ターンをしながら両手ダンクを決めに入る。

 

「よっ!」

 

沼咲がすぐさま前に入り直し、飛び上がり、紫原の持つボールに片手を置く。

 

「んらぁぁぁ!」

 

紫原は自身のフルパワーで決めにかかる。しかし、沼咲は一瞬力を弱め、手首を折り、下からボールをゴール側に弾いた。紫原は予想外の力の加わり方にボールをこぼした。

 

「力だけじゃ、俺に勝てないよ。」

 

そのボールはバックボードに跳ね、凪佐がそのボールを取る。沼咲はすぐ前に走り、ボールを要求し、凪佐がパスをした。

 

「2度もやらせるか…!?」

 

沼咲は戻りきれていない4人を躱し、中に侵入して行った。

 

「くそっ!!」

 

「バケモンアルか!?」

 

「速すぎじゃ!?」

 

しかし、紫原が追いつき、ゴール前に立ち塞がる。

 

「沼咲ぃぃぃ!!」

 

「ほらよっ!」

 

沼咲はスピードを殺さずにドリブルの流れで下からボールを放った。紫原は虚をつかれ反応ができなかった。そのボールはバックボードに当たり、跳ねる。沼咲はそのまま飛び上がり、そのボールをキャッチした。

 

「やらせないよ!」

 

紫原が飛び上がり、ボールに手を被せる。

 

「流石だ…でも…。」

 

沼咲は悲しそうな目をして、ボールを下げ、反対の手で紫原の横からダンクを決めた。紫原はその勢いに押され、倒れ込む。沼咲はそれを見下ろしながら口を開く。

 

「もう終わりだね。楽しかったよ。」

 

そう言い残し、自陣へ戻って行った。紫原は立ち上がろうとしたが、足が言うことを聞かず膝をついた。その様子に岡村たちが駆け寄る。

 

「大丈夫か、紫原!?」

 

「平気だし、まだ…」

 

紫原がそう言いかけたところで審判が笛を鳴らす。交代の合図だった。荒木が口を開く。

 

「紫原、交代だ。戻れ!」

 

「まだ出来る!」

 

「うるさい!戻れ!!」

 

紫原はその圧に押され、黙った。岡村が紫原に肩を貸し、ベンチに連れていく。紫原の頭に手をやる。紫原の目からは涙が零れていた。

 

「これは練習試合じゃ…、本番じゃない。今お前に怪我されるのも困る、またリベンジしろ。」

 

「…。」

 

紫原は大人しくベンチに座り、試合が再開した。荒木が紫原の頭にタオルをかけ、口を開く。

 

「お前は体が大きい分、人より体力が必要になる。これからつけていこう。」

 

「…もう辞めるし…。」

 

「そうか、私にはそう見えないがな。」

 

荒木は優しい目で紫原を見る。紫原は下を向きながら悔し泣きをしていた。

 

 

 

試合は岡村たちが頑張ったものの、沼咲、そして残り2分で体力が回復し動き出した4人を止められず、無情に点差が開いて行った。

 

結果は149対76。青葉青果の圧勝であった。片付けが終わり、青葉青果のメンバーが帰り始める。岡村が沼咲に声をかける。

 

「次は負けんぞ?必ずIHでリベンジじゃ!」

 

「はい、ゴリラさんも頑張ってね。」

 

「お前!結局全部ゴリラ呼びじゃないか!?」

 

沼咲は逃げるように体育館から出ていった。岡村はその様子を見て微笑んでいた。帰りの新幹線、沼咲は川田の隣に座っていた。2人ともパソコンを開いている。川田が口を開く。

 

「茂樹くん、いつもパソコン持ち歩いてるの?」

 

「うん、試合のデータとか練習の記録とかメモとって集計してるからね。例えばこれとか。」

 

沼咲が開いたデータには青葉青果のメンバーの強み、弱点などがこと細かく入力されていた。

 

「チーム全体のことまで!?ごめんね、そういうの本当は私の仕事なのに…。」

 

「いや、俺のは趣味に近いものだし、紀子も徐々に覚えけば良いよ。せっかく上から見てるんだから、そこで気づいたところとかメモとってデータにしとけば、帰ってからの反省で使えるし。」

 

「…うん!ありがとう!」

 

他のメンバーは試合に疲れて寝ていた。桑田と美和は試合のことについて話していた。沼咲と川田はその後、練習試合の動画の共有をし、楽しく話しながら時間を潰していた。

 

 

 

桐皇学園、屋上。青峰は授業をサボって寝ていた。放課後になり、桃井が屋上に駆け込んで来る。

 

「青峰くん!また授業サボったの!?もう練習の時間だよ!?」

 

「あー?行かねーよ。そーゆー条件じゃねーか?」

 

桃井はその言葉を聞き、少し悲しそうな目をするが、すぐに口を開く。

 

「今度練習試合する青葉青果高校が強いの!」

 

「青葉…?高校か…知らねーよ。どうせ勝てるよ。」

 

青峰はそう言って桃井に背を向けながら転がった。桃井は続ける。

 

「元青葉中の沼咲くんがいるの!他にも海野くんと川崎くんもいて、他3人もとっても強いの!」

 

「沼咲…茂樹か!あいつ全中以降名前聞かなかったけど、青葉青果?ってとこ入ったのか!なら話は別だ!」

 

青峰は素早く起き上がり、屋上から出ていく。桃井は急いでついていく。

 

「昨日、むっくんのいる陽泉高校とやったらしくて、沼咲くんからその動画送られてきたんだけど。先に監督に見せるけど、練習後に皆で見ることになると思う。」

 

「紫原と?結果は。」

 

「149対76…むっくんは第4Qで交代してその後、一方的に差が開いてって感じで。」

 

「紫原が手抜いてたのか?」

 

「むしろ本気に見えた。私の目と、沼咲くんの解説が正しければむっくんはゾーンに入ってたって。」

 

「…!?」

 

ゾーン…一流の選手がどんな練習しても実際の試合では80%が上限だと言われている。では100%を出すにはどうすれば良いのか。いくら本気でやってもほとんどの人間は80%までしか出せない。しかし、ごく稀に、その100%を出せる選手がいるという。それはごく一部の人間が、ゾーンに入った時のみ。青峰も自力でゾーンに入れるが、紫原が入れるとは思っていなかった。もちろん、キセキの世代はバスケ界でも稀に見ないレベルの天才であり、能力的には全員が入れる。しかし、能力以外にも決定的な条件があった。それは、バスケが好きなこと。以前の紫原にはそれが欠けていた。しかし、それに入ったとなると…そういうことである。そして、それに勝った青葉青果。青峰は思わずニヤける。

 

「やってくれんじゃねぇか…解説?」

 

「そう、送られてきた動画に沼咲くんの実況と解説が音声で追加されてたの。主に陽泉のメンバーについてだけど。」

 

「おもしれぇじゃん、あいつ!」

 

桃井は青峰の楽しそうな表情に嬉しそうにしていた。桃井も思わず楽しそうにスキップしていた。

 

 

 

練習終わり、青峰たち桐皇レギュラーと監督 原澤克徳、マネージャー 桃井さつきは沼咲の送った動画を見ていた。全員、沼咲のオーバーな実況、正確な解説に少し引きながら見ていた。唯一、青峰だけは爆笑していた。動画が終わり、原澤が口を開く。

 

「さて、結果は見ての通り、全国常連の陽泉高校…青峰くんと同じキセキの世代 紫原くんがいるところに圧勝です。今吉くんはどう見ます?」

 

「強いですねぇ、正直なとこ、勝てるかわからんですわ。元青葉中の3人は流石としか言いようがないですし、残り3人も沼咲くんの言う、バレーボールの動きを活かしていますわ。うちと同じかそれ以上の攻撃力、そして陽泉と同じかそれ以上の守備力、悪夢みたいやん。」

 

「そうですねぇ、正直勝てるかに関してはわからないとしか言いようがないです。でも、うちには青峰くんがいますし、桃井さんもいます。青峰くん、中学のときに戦った印象はどうでしたか?」

 

青峰はぶっきらぼうに答える。

 

「茂樹に関しては中学のときは勝てなかった、ほか2人も俺らキセキの世代と同格と言っていい。」

 

青峰の言葉に全員が驚く。しかし、紫原を圧倒していた沼咲なら当然であった。しかし、ほか2人も紫原を相手に同等以上に戦っていた。それ相手に勝てるのか、それ以前に勝負になるかがわからなかった。

 

「そうですか…では対策を考えていきましょう。桃井さん、お願いします。」

 

桃井が立ち上がり、口を開く。

 

「はい──────。」

 

桐皇は練習試合に対して、公式戦に向けるような対策をしていった。




いかがだったでしょうか?
明日からも頑張っていきましょう!
次回の投稿は5月16日(日)18:00です。
お楽しみに!


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10話

こんばんは!
最近仕事の方が少し忙しくなってきておりまして、話作る時間があまりとれてないのに危機感を持ち始めました。
とはいえ、ストックはまだあるので、
どうぞ!


GW最終日、桐皇学園高校校門。そこで、バスケ部主将 今吉とマネージャー 桃井が待っていた。そこに桐皇以外のジャージ、青緑ベースに白の線が入り、胸元に『青葉青果』、背中に『AOBA SEIKA』の文字が入っていた。その集団がついた。今吉が口を開く。

 

「青葉青果のみなさん、こんちは。本日はよろしゅうお願いします。桐皇学園高校男子バスケ部主将の今吉です。」

 

「マネージャーの桃井です。」

 

「青葉青果 監督の桑田だ、よろしく。」

 

「主将の海野です。」

 

軽く挨拶を交わし、今吉の案内で体育館に向かう。沼咲は桃井に話しかけていた。

 

「この前送ったやつちゃんと共有してくれた?」

 

「言われた通りそのままみんなに見せたけど…。」

 

今吉がそれに気づく。

 

「お前が沼咲か、あの動画助かったよ。沼咲の実況のおかげで楽しんでもうたしのぉ。でも、ホンマに良かったんか?」

 

青葉青果のメンバーは動画がなんのことかわからなかった。川田がハッとした。

 

「もしかして、あの動画送ったの!?」

 

「うん。」

 

桑田が聞く。

 

「あの動画?」

 

「あの…私が陽泉高校で上から撮ってた動画です。」

 

桑田は突然竹刀を取り出して沼咲を叩く。

 

「いたーい!」

 

「お前、なんで敵に情報送ってんだ!?」

 

「その方が面白いじゃん。」

 

「ばかやろー!」

 

桑田は再び叩く。桃井は申し訳なさそうに口を開く。

 

「あの、監督さんの許可のもとだと思って、うちの監督含め、メンバー全員見ました。すみません。」

 

「いや…いい、すまない、取り乱した。うちのバカが勝手にやったことだ。」

 

「そうそう、送っちゃったもんは仕方ないしー。」

 

沼咲があっけらかんとした表情で言う。

 

「お前が言うな!」

 

桑田がまた沼咲を叩く。

 

「痛いって!バカになったらどーすんの!?」

 

「これ以上なることはない!」

 

今吉と桃井は苦笑いしながら見ていた。青葉青果のメンバーは見慣れた様子で放っといていた。

 

 

 

体育館につくとザワついていた。その様子に今吉が口を開く。

 

「どうしたんや?青葉青果さん着いとるぞ。」

 

若松が口を開く。

 

「青峰の野郎っすよ。また寝坊っすかね。」

 

「またかー。」

 

「すいません、すいません。」

 

桜井は何故か謝っていた。桃井が急いで体育館の外へ向かい始める。

 

「探してきます。」

 

「おう、頼むわ〜。」

 

「いいっすよ、あんな奴いなくても。」

 

「ビデオ見たやろ?正直今回はアイツがいないと相手にならんやろ。あ、青葉青果さんはあちらのコートとベンチ使ってください。」

 

 

 

アップが終わり、両校の監督が握手をしていた。原澤が口を開く。

 

「よろしくお願いします、原澤さん。」

 

「よろしく、桑田さん。荒木さんは元気でしたか?」

 

「まぁ、いつも通りって感じで。今日は覚悟しておいて下さい。」

 

「はい、青峰くんが来れば期待に沿うことはできるのですが…。」

 

突然、体育館の扉が開く。そこには息を切らした青峰と桃井がいた。桃井が口を開く。

 

「青峰くん連れてきました。」

 

「いや、マジであっぶね。」

 

若松が青峰につっかかる。

 

「青峰、てめぇ遅れてんじゃねぇよ!」

 

「来てくれてほんま助かったわ、アップは?」

 

今吉が穏やかに聞く。

 

「さっきまでやってた…今日は俺がいなきゃきついだろ。」

 

息を若干切らしている青峰に沼咲が駆け寄る。

 

「お久〜!」

 

「茂樹!今日は負けねーぞ!?」

 

「いや、負けたの俺らなんだけど。」

 

「うっせ、あれは勝ちに含まれねーよ。」

 

両校の選手はユニフォームに着替え、コートの中央に並ぶ。青葉青果;PG 沼咲{5}, SG 水木{7}, SF 海野{4}, PF 川崎{6}, C 凪佐{8}。桐皇;PG 今吉{4}, SG 桜井{9}, SF 諏佐{7}, PF 青峰{5}, C 若松{6}。それぞれがそれぞれのポジションごとに握手をしていた。

 

「よろしゅう、沼咲くん。」

 

「よろしくです、今吉さん。」

 

何故か仲良さげな今吉と沼咲。

 

「よろしくお願いします。」

 

「よろー!」

 

緊張気味の桜井とふにゃふにゃしてる水木。

 

「よろしく、海野くん。」

 

「よろしくお願いします、諏佐さん。」

 

互いにキッチリしてる諏佐と海野。

 

「茂樹が相手じゃねーのか…ま、お前でも充分楽しめるか。」

 

「自信ないなぁ。」

 

楽しそうな青峰と苦笑いの川崎。

 

「でけぇなお前!」

 

「よろしくお願いします。」

 

大きさに驚く若松と丁寧な凪佐。

 

それぞれの位置につき、若松と凪佐がセンターサークル内で向かい合う。

 

──────ピィー!

 

笛とともにボールが宙に舞う。2人の腕が一直線に伸びていく。凪佐が圧倒的な高さでボールを叩く。

 

「くそっ!」

 

水木がボールに飛びつき、トスを上げる。凪佐が着地した瞬間に若松の後ろに周り、再び飛び上がる。若松はあまりのスピードに反応しきれずにいた。

 

「うらぁ!!」

 

凪佐が空中でボールを叩く。そのボールは一直線にゴールへ飛んでいく。今吉もいきなりやってくると思わなく、驚く。

 

「マジかい…!?」

 

そのボールはバックボードとリングで少し跳ね、ゴールに吸い込まれて行った。今吉が沼咲を見ながら口を開く。

 

「いきなしやってくるとか、性格悪いんとちゃう?」

 

「そりゃ、先制は貰いたいですし。」

 

今吉は冷静にボールを運ぶ。

 

「じゃあワシらも特攻隊長に任せようかなっ!」

 

沼咲がマークに着いた瞬間に横にパスを回す。その先には桜井がいた。水木が追いつく、が、桜井はクイックリリースでシュートを放つ。

 

「すいませんっ!」

 

「はやっ!?(…てか、なんで謝ってんの?)」

 

そのシュートは綺麗な弧を描いてゴールに入る。青葉青果はすぐにリスタートし、沼咲がボールを運ぶ。今吉がマークに着いた所で、沼咲が今吉に話しかける。

 

「性格悪いのはそっちもじゃないすか?」

 

「いやいや、あんさんらには負けるよ。良いとも言ってへんけどな。」

 

「じゃ、とりあえずっ!」

 

沼咲はサイドの高めにパスを送る。その先には水木が飛んでいた。しかし桜井も一緒に飛び、防ごうとしていた。だが、後に飛んだ桜井が先に落ちる。

 

「えっ…!?」

 

「ほいっ!」

 

水木は空中でそのままボールをトスして、そのボールは綺麗な弧を描いてゴールに入った。

 

ベンチでは原澤が頬杖をつきながら悩んでいた。

 

「分かっていても止められませんか…しかも到達点も充分高い。」

 

「そうですね、対抗策が何も無いわけではありませんが…通用するかどうかが。」

 

桃井も自分のノートを見ながら悩んでいた。

 

今吉が桜井にパスを送る。そしてクイックリリースでシュートを放つ…が、それは水木のブロックに防がれた。

 

「うそっ…!?」

 

「速いけど、見慣れた。」

 

ルーズボールを沼咲がとる。今吉がすぐに目の前に立ち塞がる。

 

「やらせへん…な!?」

 

沼咲は突然の静止、からの不規則なドリブルをし、今吉を揺さぶった。今吉は体が追いつかず、転ぶ。その横を沼咲がドリブルで駆け上がって行った。エリア内に入ったところで青峰が追いつく。

 

「やっとだ…来い!」

 

「いやぁ、忘れてるでしょ…。」

 

沼咲が止まらずにボールを前に投げた。その先には川崎がいて、そのボールをリングの近くでとった。

 

「大輝のマークは傑だよ?」

 

「ちっ…!?」

 

川崎はそのままダンクを決めた。川崎が着地しながら青峰に向き直る。

 

「茂樹とやりたいのはわかるけど、放っといたら、俺点決めるよ?」

 

「言うじゃねぇか…!」

 

今吉がボールを運ぶ。青峰が明らかにボールを要求していた。

 

「珍しいの。」

 

今吉が青峰に渡す。青峰の前には川崎が立ち塞がる。青峰の雰囲気に川崎が少し下がる。

 

「(この感じ…、野生か。)面白いな。」

 

青峰が変則ドリブルを見せる。川崎はそれに驚きつつも、ギリギリでついていく。

 

(中学の時より鋭くなってる…)

 

ついて来れなくなり始めた時に青峰が川崎を抜く。青峰はそのままダンクの体勢に入る。

 

「やらせるかぁ!」

 

川崎はバランスを崩しつつもブロックに飛ぶ。

 

「なっ…(まじか…やられたな。)」

 

青峰はボールを下げ、川崎は止まりきれずに青峰にぶつかる。青峰はボールを後ろにまわし、そのままゴールへ放った。そのボールはリングの上で回りながらゴールへ吸い込まれた。

 

「川崎、それで俺の相手になるか?」

 

「…。」

 

青峰は少し笑っており、川崎は表情を崩していなかった。すぐリスタートし、沼咲がボールを運ぶ。

 

「傑!」

 

「おう!」

 

沼咲から川崎にパスが渡る。青峰が立ち塞がる。青峰が口を開く。

 

「お前、元Cだよな?ドリブルできるのか?」

 

「うん、人並みには。」

 

川崎が仕掛ける。青峰はしっかりついて行く。しかし、ターンとパワーで青峰をふりきった。

 

「くっ…。」

 

川崎はそのまま飛び上がる。

 

「やらせるかよっ!」

 

青峰も飛んでブロックに入る。そして、川崎のもつボールに手を置く。しかし、一瞬で押されることを感じた。

 

「マジか…!」

 

「ふんっ!」

 

青峰を吹き飛ばしながらダンクを決めた。着地した川崎が転がる青峰を見下ろす。

 

「相手になると思うけど。」

 

「このやろっ…!」




いかがだったでしょうか
今までは仕事の合間に考えていたのですが、仕事終わりに考えることが多くなってきました。
誤字報告ありがとうございます!
随時修正していきます。
これからも誤字報告是非お願いします。
あ、感想や御指摘もお待ちしておりますのでぜひぜひ。

次回の更新は5月23日(日)18:00です。
お楽しみに!


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11話

こんにちは!
混色の水の投稿を始めてから早寝早起きを心がけていますが、早寝って難しいですね。なにかコツがあれば教えて欲しいです。
では、どうぞ!


青葉青果VS桐皇の練習試合。第1Qから激しいPF勝負となっていた。青峰が川崎を躱し、ゴールを決める。川崎はドリブルで中に入り、パワーでゴールを決める。そのやり合いであった。今吉はパスを回しながらそれに驚いていた。

 

(まさか、本当に青峰と同じ実力なんか…!?見るまでは信じられへんかったが…。ということは…海野と沼咲もっていうことかいな。陽泉さんが調子悪かったわけではなさそうやな。)

 

第1Q終盤、残り30秒切ったところで青峰が決める。すぐにリスタートし、沼咲が運ぶ。沼咲は時計を横目で確認し、水木に合図をする。水木はその意図がわかり移動し始めた。

 

「傑!」

 

川崎が外に出ながらパスを受ける。青峰はそれを追いかけようとしたが、水木のスクリーンにかかる。

 

「チッ…。」

 

川崎は受け取ったボールをそのまま綺麗なフォームで放った。若松が驚く。

 

(あいつ、3Pもあんのかよ!?)

 

ボールは綺麗な弧を描きゴールに吸い込まれた。そこで笛がなる。川崎が青峰を見て少し笑う。

 

「俺の勝ち。」

 

「うっせ、次だ次!」

 

「大輝から点入れ始めたから同じじゃね?」

 

沼咲がひょこっと2人の前に出て言う。その言葉に2人とも少し考える。青峰が笑いながら口を開く。

 

「なにが勝ちだ!‪w茂樹の言う通り、ゴール数同じじゃねーかwww!!」

 

「うっさい!最後3P決めたから点数は俺の勝ちだし!」

 

「たった1点じゃねぇか!?」

 

「1点でも勝ちは勝ちです!」

 

青峰と川崎は何故か掴み合いの喧嘩を始めそうになった。

 

「青峰くん!」

 

「傑!」

 

桃井が青峰を、海野が川崎を呼ぶ。海野が続ける。

 

「早く戻れ。茂樹も2人を刺激するな。」

 

川崎は大人しく戻って行った。そのあとを沼咲も追っていく。青峰も桃井に引っ張られて戻っていく。第1Qは26対21で、青葉青果のリードで終わった。

 

 

 

青葉青果のベンチでは、桑田のもとに全員が集まっていた。

 

「傑、良くやった。相手の出方次第だが、次は武則を中心に攻める。傑、青峰はどうだった?」

 

川崎が口を開く。

 

「正直キツいですね、流石はキセキの世代のエースという感じです。単純なスピードが速いのはもちろんなんですけど、加速減速の切り替えが上手いです。」

 

「チェンジオブペースか、それに加えてあの変則スキルとなると、3人以外が抑えるのはきついだろうな。優馬、Cの若松はどうだ?」

 

凪佐が口を開く。

 

「まぁ、上手いんですけど、この前の紫原よりは遥かにマシです。ただ…」

 

「ただ?」

 

「うるさいです。」

 

桑田はポカンとしてしまった。次の瞬間、ベンチで笑いが起こる。沼咲が口を開く。

 

「俺も見てて思ってたわそれwww…まぁ、それ以外は問題ないってことだろ?」

 

「あと、動きが読まれてる感じが少しします。」

 

「動きが読まれてるだと?!」

 

桑田がその言葉に引っかかる。水木も口を開く。

 

「あ、俺も読まれてる感じします。」

 

「お前も…ということは…。」

 

海野が口を開く。

 

「たぶん、対策練られています。それも高校バスケではありえないほどに。」

 

沼咲が続ける。

 

「たぶん、桃井さん…あのマネージャーが色々やってるんだと思いますよ。いわゆる諜報部員的な役割だと思います。」

 

桑田が納得したように口を開く。

 

「そうか、ということは3人の情報は取られていると考えた方が良いか。武則下げて、奏を入れる。武則、それでいいな?」

 

「はい。その方が見やすいです。」

 

「では、行ってこい!」

 

 

 

両校の選手がコートに戻る。桐皇ボールから始まり、今吉がボールを運んでいく。沼咲が前に立ち塞がる。今吉が口を開く。

 

「パスで回す布陣かいな、どこから来るかわからんし、嫌やなぁ。」

 

「え?そんなことないっすよ!」

 

今吉は沼咲の迫力に少し下がる。しかし、下がった瞬間に手からボールが抜けた。

 

「なっ…!?」

 

沼咲は今吉のボールを奪い、そのまま上がっていく。青峰がすぐに追いつき、ゴール前に立ち塞がる。青峰のすぐあとに川崎が走ってきていた。

 

(また川崎の野郎にパスか?)

 

「いや、面白いことやるよっ!」

 

沼咲が誰もいないところにボールを送る。

 

「あ?…なっ!?」

 

その先には舟木がいて、ボールをタップして、逆サイドへ送った。

 

「今のは…!?」

 

青峰がボールの先を見ると水木がいて、そのボールをオーバーハンドでゴールへ送った。ボールの先には沼咲がいて、ボールを受け取ってそのままダンクを決めた。青峰はパスに気を取られ、沼咲のマークを外してしまっていたため、間に合わなかった。

 

「なんつー、速さや。」

 

今吉は既に4人が攻め上がっていたことに驚く。桐皇のメンバーは青峰以外戻れていなかった。桐皇は直ぐに切りかえてボールを運ぶ。今吉は先程より、沼咲と距離をとっていた。

 

「怖いのっ!」

 

今吉は諏佐にパスを回す。諏佐の前には舟木が立ち塞がる。諏佐はフェイントを入れ、あっさりと舟木を抜いた。

 

「くそっ…。」

 

「悪いが、初心者に止められる程弱くない!」

 

ゴール前で凪佐が立ち塞がる。

 

「やらせない!」

 

諏佐は凪佐の後方にバウンドパスを送る。フリーになった若松がとって、そのままダンクを決めた。

 

「どっせーいっ!」

 

「くっ…!」

 

沼咲が2人に駆け寄る。

 

「しょうがない、相手は全国に通用する選手だ。」

 

2人は少し悔しそうにするが、すぐに気持ちを入れ替えた。沼咲がボールを運ぶ。

 

(分かってはいたけど、単純に勝負させたらあの3人に全国選手の相手はキツイよな。)

 

今吉が目の前に立ち塞がる。沼咲はすぐに誰もいないところへボールを送る。そこには舟木がいた。すぐに誰かにボールを送ろうとした…が

 

「ない!?」

 

パスコースがなく、ボールをキャッチする。それぞれにきっちりマークがついており、容易にパスを出せなかった。

 

「こっちだ!」

 

川崎が3Pラインの外に出てパスを貰う。だが、すぐに青峰が追いつく。

 

「来いよ。」

 

「遠慮なく。」

 

川崎は3Pのフォームに入るが、すぐに青峰がブロックに入る。それを見てドリブルに切りかえて、抜きにかかる。しかし、青峰はしっかり付いてきた。それをターンで抜く。

 

「!?」

 

抜きにかかった瞬間に青峰が後ろから手を入れ、ボールを弾く。そのボールを諏佐が拾い、すぐに今吉に回す。その前に沼咲が立ち塞がる。

 

「悪いけど、そちらさんの穴をつかせてもらうよ。」

 

今吉は桜井に回す。桜井はクイックリリースで打とうとするが、水木が素早く反応し、飛ぶ。しかし、桜井は一旦下げて、3Pを放った。

 

「すみませんっ!」

 

「くそったれ!」

 

綺麗な弧を描いて、ボールはゴールに吸い込まれた。

 

「…ちっ…!」

 

ベンチで桑田が舌打ちをする。美和が口を開く。

 

「分かってはいましたけど、あの3人が狙われたらどうしようもないですね。」

 

「あぁ。あの3人もだいぶ上手くなったが、全国で勝ち抜いていくなら、基礎的な能力が足りていないのは事実だ。一石二鳥で身につくわけではないが、課題だな。」

 

海野が口を開く。

 

「俺たち3人がフルで出続けるのは無理ありますしね。少なくとも、俺と傑はフルで動き続けるのは無理です。」

 

 

 

桐皇は徹底的に3人を狙って攻め、川崎が青峰と対等に渡り合うも、無情に点差が開いていった。第2Qは43対62の桐皇リードで終わった。15分のハーフタイムになった。青葉青果のベンチは珍しく沈んでいた。その中で沼咲と海野は何故か余裕そうに話している。桑田が口を開く。

 

「前半の結果は良くないが、これから先戦っていく上では必ず起こったことだ。3人はそこら辺の高校生ならば負けないと思うが、県上位、全国レベルではまだ通用しない。が、そのことを今嘆いてもしょうがない。武則、後半行けるな?」

 

「はい、もう十分です。」

 

「では後半は…傑?」

 

桑田が話を進めようとしたところで、川崎の汗の量に驚く。川崎は前半、青峰の相手をずっとしていた。川崎はキセキの世代と同等以上の実力を持っているとはいえ、青峰とスタイルが違いすぎて、普段より体力を消費していた。

 

「傑、第3Qは休め。」

 

「はい。すみません。」

 

桑田は再び考え込む。ここから逆転するならば川崎は不可欠であった。しかし、無理に出しても第4Qで潰れてしまったらどうやっても勝てない。海野が口を開く。

 

「平気です。予定外ではありましたけど、第3Qは点差を縮めるのを重視します。そのために茂樹には動いてもらう。」

 

「おー、おっけー。」

 

桑田が2人の顔を見て口を開く。

 

「わかった。第3QはPG武則、SG蒼、SF奏、PF茂樹、C優馬で行く。指示は武則が今から説明する。」

 

海野が第2Q中にとっていたメモを取り出して説明をし始めた。

 

 

 

桐皇ベンチ。若松が座りながら口を開く。

 

「前半あっしょー!!!」

 

「うるさい。」

 

今吉が若松のタオルに顔を投げつける。若松がタオルを取りながら

 

「いやでも実際、あの3人は流石っすけど、他3人は大したことないっすよ。」

 

「そうやなぁ。」

 

原澤がそれを遮り、手を鳴らしながら口を開く。

 

「はいはい、油断はいけませんよ。情報なしでやってたら陽泉さんと同じ目にあっていましたし。とはいえ、このまま終わる可能性も十分ありますしねぇ。」

 

「いや、それはねぇ。」

 

青峰が突然口を開く。

 

「あいつらはこんなもんじゃねぇ…少なくとも茂樹が大人しすぎる。」

 

今吉が思い当たる節があり口を開く。

 

「あの、陽泉戦で見せたあれか?でもあれは第4Qのみ、時間制限ありの技やろ?」

 

青峰はため息をつく。

 

「バカか。だとしたら、俺たちはあんな苦戦しなかった。」

 

「何が言いてぇんだ青峰!」

 

若松が立ち上がり、青峰に掴みかかろうとしたのを、諏佐と桜井が止める。青峰が続ける。

 

「油断すんなってことだよ。」

 

原澤は頷きながら口を開く。

 

「青峰くんの言う通り、油断は禁物ですよ。後半も集中を切らさずに行きましょう。」




いかがだったでしょうか
最近、色々と追加設定を考えています。話より若干優先してますが、まだストックはあるのでご安心ください。
次の投稿は5月30日(日)18:00です。
お楽しみに!


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12話

すみません、投稿予約するの忘れてました!
まだストックはあるのでご安心ください。
では、どうぞ。


青葉青果VS桐皇の練習試合、前半は43対62で桐皇のリードであった。笛がなり、10人がコートに入っていく。青葉青果;PG海野, SG水木, SF舟木, PF沼咲, C凪佐、桐皇;PG今吉, SG桜井, SF諏佐, PF青峰, C若松。凪佐と若松がセンターサークルで向かい合う。

 

──────ピィーッ

 

笛の音ともにボールが宙を舞う。2人はボールに向けて腕を伸ばす。圧倒的な高さで凪佐がとり、青葉青果のボールから始まった。海野がボールを運ぶ。その前に今吉が立ち塞がる。

 

「さっきみたいに来おへんのかい。」

 

「はい…今回は単純にっ!」

 

海野が一瞬で今吉を抜く。

 

「なっ!?(なんつー速さや。)」

 

諏佐が急いでカバーに入るが、ターンで躱される。

 

「くっ…(速すぎる!?)」

 

海野はそのままゴールに向かって飛び上がる。若松がそれを防ごうと飛び上がった。

 

「やらせねぇよ!ガキが!!」

 

「怖いですね。」

 

海野は空中で持ち替えて、若松の横からボールを放った。

 

「マジかよ!?」

 

そのボールはリングの上で少し回転しながらゴールに吸い込まれた。海野は着地して、すぐに自陣に戻って行った。桐皇もすぐにリスタートし、今吉がボールを運ぶ。

 

「速さはわかったけど、やることは変わらへんよっ!」

 

今吉は諏佐にボールを繋げる。諏佐の前には舟木が立ち塞がる。諏佐は舟木の位置に違和感を覚えた。しかし、前半で抜きまくっているので、同じく抜きにかかる…が、舟木はしっかり付いてくる。

 

「くっ…!?」

 

今吉は諏佐が抜けない原因に気づく。

 

「(深めに守っとんのか!?諏佐は確かに元PFでインサイド寄りのプレイヤー、3Pは滅多に打たない…)が、それでも諏佐はうちの元エースやで。」

 

諏佐はフェイクを入れ、ターンで舟木をふりきった。

 

「舐めるなっ!」

 

「…。」

 

諏佐は凪佐が若松へのパスを警戒して来ないことを確認して、そのままレイアップを決めようと飛び上がる。しかし、急に伸びてきた腕にそのボールは叩かれた。

 

「な!?」

 

その腕は沼咲であった。

 

「悪いな、そのパターンはもう通用しない。」

 

ルーズボールを舟木がとり、海野に渡す。桐皇のメンバーはすぐに自陣に戻って、青葉青果を待ち構える。海野はセンターラインを超える前に沼咲に渡す。青峰がすぐに立ち塞がる。

 

「久々だな…、来い!」

 

「(本当に野生に入ってる…)前よりは楽しめそうじゃん。」

 

沼咲は連続のレッグスルーから抜きにかかる。青峰は惑わされずにしっかりついてくる。

 

「こっちだよ。」

 

ターンで躱して抜く。青峰が後ろから手を伸ばすが、再びレッグスルー→ターンで青峰をふりきった。

 

「くそっ!」

 

すぐに今吉と桜井が沼咲の前に立ち塞がる。

 

「行かせへんで!」

 

「すみませんっ!」

 

沼咲は一瞬静止し、再び加速し2人の間から抜き去る。

 

「なんつー緩急…!?」

 

「あぁ!?すみません!」

 

ゴール前で飛び上がる。若松と諏佐がブロックのために飛び上がる。

 

「やらせるかよ!」

 

「やらせない!」

 

沼咲の持つボールに2人の手がのる。

 

「ははっ!」

 

沼咲は笑いながら2人を吹き飛ばし、ダンクを決める。

 

「くそ…(なんつーパワーだよ!?)」

 

「くっ…(2人で抑えきれないだと?!)」

 

2人がコートの外に転がる。沼咲は着地して、すぐに自陣へ戻って行った。そこで2人は気づく。青葉青果は沼咲以外自陣から出ていなかった。今吉は沼咲のプレイに驚く。

 

「(陽泉戦ではスキルが目立ってた…単純な運動能力もばけもんやん…)リスタートや、切り替え!」

 

今吉がボールを運ぶ。

 

「(じゃあこっちや)桜井!」

 

今吉から桜井にボールが渡る。桜井の前に水木が立ち塞がる。シュートを警戒して距離を詰める。桜井はフェイクをひとつ入れて、シュートを放つ。

 

「すみませんっ…あぁ!?」

 

「くそっ…(対策聞いても速すぎる!)」

 

桜井のシュートに水木がギリギリ触れる。若松と諏佐、凪佐と沼咲がリバウンドに飛ぶ。凪佐が1人、圧倒的な高さでボールに触る。

 

「ふんっ!」

 

凪佐はそれを思いっきり叩く。そのボールは桐皇コートへ一直線に飛んでいき、その先に走る海野がボールをとる。海野をマークしていた今吉だけが追いつく。

 

「何度もやらせへんぞ!」

 

「無理です。」

 

海野は今吉をあっさり抜く。

 

「待ちやがれ!」

 

青峰が超スピードで追いつき、海野の前に立ち塞がる。

 

「いい感じ…だなっ!」

 

海野は更に速く、青峰をふる。青峰は振り切らせそうになりながらもついていく。海野は突然とまり、シュートの体勢に入る。青峰はすぐに反応し、飛び上がる。

 

「やらせるかよっ!…!?」

 

「無理だね。」

 

海野は後ろに飛びながらシュートを放つ。そのボールは綺麗にゴールに吸い込まれた。

 

「やるじゃねぇか。」

 

「茂樹に比べたらまだまだだよ。」

 

海野はそう言い残し、自陣へ戻って行った。桐皇はすぐにリスタートし、今吉がボールを運ぶ。

 

「(諏佐のところも桜井のところも対応され始めとる…若松はあの高さを抑えるので精一杯…賭けやな)青峰っ!」

 

今吉から青峰に渡る。青峰の前には沼咲が立ち塞がる。

 

「さっきのお返しやらせてもらうぜ。」

 

「いいねぇ、エンジンかかってきたって感じか。」

 

青峰が前半とは段違いのスピードとドリブルを見せる。しかし、沼咲は一切振られずに青峰の先を塞ぐ。

 

「おらよっ!」

 

青峰はターン中にボールを投げる。それには敵味方全員が意表をつかれた。

 

「それじゃ足りないな。」

 

沼咲はそれをあっさりと止め、ボールを奪った。今吉はそれに驚く。

 

「(青峰はスロースターター…前半はエンジンがかかる前…間違いなく今の青峰は本気や…それを止めるやと!?)青峰より上だっちゅうのか沼咲は?!」

 

青葉青果ボールになり、桐皇メンバーは急いで自陣に戻る。桐皇は海野と沼咲の動きに警戒していた。ボールを運ぶ海野の前に今吉が立ち塞がる。

 

「うちの真骨頂はパスですよ?」

 

海野は誰もいないはずのところにボールを投げる。今吉はその意図に気づく。

 

「(忘れとった…)桜井!!」

 

その先には水木がおり、そのボールをワンタッチで沼咲に送る。沼咲の前には青峰が立ち塞がる。

 

「2度もやらせるかよ…くそっ!?」

 

沼咲はドリブルで青峰を振る。それにギリギリでついて行く青峰であったが、いつの間にか沼咲の手元からボールがなくなっていた。

 

「3点…。」

 

逆サイドに送られたボールを舟木がそのままオーバーハンドでゴールに放った。

 

「くそっ!(忘れてたぜ、こいつのパス)」

 

諏佐は隙を突かれ、反応しきれなかった。そのボールは綺麗にリングをくぐる。今吉たちが呆気にとられていると、青峰が走りながら叫ぶ。

 

「早く出せ!」

 

若松がすぐに青峰にボールを投げる。青峰にはしっかり沼咲がついていた。青峰がドリブルに入ろうとした瞬間に沼咲がそのボールを弾いた。

 

「ちっ…!?」

 

「遅いよ。」

 

沼咲がルーズボールをとる。青峰はすぐに追いつき、前に立ち塞がる。

 

「行かせるかよっ!」

 

「無理やり通らせてもらうねっ。」

 

沼咲は変則ドリブルで青峰を抜き去った。

 

「クソッタレが!」

 

沼咲はそのまま桐皇コートに攻め込んでいく。桜井がカバーに入る。

 

「君じゃ…無理だ。」

 

「あぁ!?すみませんっ!」

 

沼咲はあっさりと桜井を抜き、振り切る。ゴール前で諏佐と若松が急いで沼咲の前に立ち塞がる。しかし、沼咲は後ろにパスした。その先には海野がいた。

 

「相変わらずナイスパスだな。」

 

今吉が海野につき、ドライブを警戒して下がる。

 

「外もありますよ。」

 

海野はそのまま3Pを決めた。今吉は下がっていたため、反応ができなかった。

 

「(ここまで隠してたんか…なんつー奴らや…)やられたわ。」

 

その後、第3Qは一方的な展開となった。青峰がなんとか沼咲から点をとっていたが、沼咲と海野の圧倒的な技、他3人とのバスケとは思えない連携に大量に点をとられ、89対76で青葉青果が逆転し、第3Qは終わった。

 

青葉青果のベンチでは桑田が指示をしていた。

 

「第4Qは傑を戻す、優馬と交代でCに入れ。それ以外は変わらずだ。GW最終日、最後のゲームだ。まだ偵察もついてない、3人とも、好きにやってこい。」

 

「「「はい!」」」

 

桐皇ベンチでは原澤と桃井が第4Qの指示をしていた。笛がなり、コートに戻っていく。青峰はタオルを顔にかけ、座ったままであった。桃井がそれに気づき、声をかける。

 

「ちょっと青峰くん、聞いてた?!もう始まるよ!」

 

青峰は桃井の声で気づく。

 

「あ、悪ぃ。聞いてなかった。」

 

「ちょっと…沼咲くんたちは…!?」

 

青峰は楽しそうにコートに戻っていく。桃井はその様子に驚く。

 

(青峰くん…昔に戻ってる?!)

 

青葉青果の5人もコートへ入っていく。楽しそうな青峰に沼咲が声をかける。

 

「やっとエンジン全開?」

 

「あぁ…感謝するぜ茂樹。」




いかがだったでしょうか。
次の投稿も予約しといたので、次回は遅れません。引き続き毎週日曜18:00に投稿していきます。
次回の投稿は6月6日 日曜日 18:00です。どうぞお楽しみに


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13話

先週は遅れてしまい申し訳ございませんでした。引き続き、毎週投稿していきます。
では、どうぞ。


青葉青果VS桐皇の第4Q、89対76で青葉青果がリードしていた。桐皇ボールで始まる。今吉はすぐに青峰に渡す。青峰の前には沼咲が立つ。沼咲は青峰の変化に気づいていた。

 

「…まじか!?」

 

沼咲は青峰にあっさりと抜かれた。それには青葉青果メンバー全員が驚く。ゴールに飛ぶ青峰に合わせて川崎が飛び上がる。

 

「やらせない!」

 

青峰はボールを一旦下げ、回転し、川崎を躱してダンクを決めた。

 

「マジか…(本当に人間!?)」

 

青峰が戻っていく。その姿を見て、沼咲は確信した。

 

「(ゾーンねぇ、まさかあいつ自力で入ったのか。)厄介だねぇ。」

 

海野がボールを運ぶ。今吉が立ち塞がる。海野は急加速して、今吉を抜き去る。

 

「遅いですよ?」

 

「くっ…(ワシじゃ止められん!)」

 

諏佐がカバーに入る。しかし、それもターンで一瞬で躱す。海野はそのまま飛び上がる。すると青峰が飛び上がってきた。海野はその速さに驚く。

 

「流石だな…(これは入れ替えても止められるか…、なら)こっちだ。」

 

海野は身体の向きを横に流しながら後ろにボールを投げた。

 

「ナイス!」

 

沼咲が受け取り、2人が着地する横でダンクを決めに入る。

 

「やらせねぇよっ!」

 

若松が飛び上がって、その先を塞いだ。

 

「あぁ、そっちもか。」

 

その後ろから青峰が飛ぼうとしていた。

 

「じゃあ、これなら?」

 

沼咲はボールを後ろに回しながら逆肘で突いた。そのボールは若松と青峰、ゴールリングの上を通った。

 

「うっ…るぁ!」

 

川崎がそれを空中で取り、ダンクを決めた。若松は沼咲が何をしたのか一切わからなかった。

 

「なんだ今の!?青峰と同じ曲芸か?!」

 

今吉が口を開く。

 

「いや、今のは青峰のとはちゃう。後ろにまわしたボールを肘で前に突き上げたんや…曲芸より神業やで…ほんまバケモンやろ…。」

 

桐皇はすぐリスタートし、青峰にボールが渡る。沼咲が立ち塞がる。

 

「1人がダメなら3人でってか?その考えじゃ俺を止められねーよっ!」

 

青峰が抜きにかかる。沼咲はギリギリで追いつこうとしたが、青峰は切り返しで沼咲を振り切った。

 

「傑!」

 

「おう!」

 

シュート体勢に入る青峰を川崎がブロックに入る。青峰は急に横っ飛びをし、川崎のブロックを避ける。

 

「それは読んでた!」

 

海野がそれのブロックに飛ぶ。青峰は更に体勢を崩してボールを下からぶん投げた。

 

「ビンゴっ!」

 

沼咲がそれを横から叩く。

 

「くそっ!」

 

ルーズボールを水木がとり、海野がボールを運び始めた。今吉が海野につく。今吉は驚いていた、青峰の本気と、青葉青果の3人の恐ろしい連携に。

 

「(青峰はたぶんゾーンに入っとる…その青峰にいくら3人とは言え、止められるもんか?!)つくづく、今年の1年生は怖いのう…。」

 

「そうですかね?」

 

海野は今吉を左右に降って抜き去った。今吉はバランスを崩して転ぶ。

 

「(くそっ…ここまで差があるんか!?)カバー!」

 

桜井が急いでカバーに入る。海野は空いた水木にボールを繋げる。水木はそのボールをワンタッチでゴールへ放った。ボールは綺麗にリングをくぐった。

 

「よっし!」

 

「ナイス蒼!」

 

桐皇は冷静を装いながらリスタートをした。青峰が1人ドリブルで攻め上がる。沼咲が急いでつく。

 

「今のお前じゃ止められねーよ!」

 

「くっ…どうしようもないなこりゃ。」

 

青峰の変則ドリブルに振られ、沼咲が抜かれる。水木と舟木が立ち塞がる。

 

「お前らじゃ相手になんねーよ!」

 

「はやっ!?」

 

「…!?」

 

2人はあっさり抜かれた。ゴール前に海野と川崎が立ち塞がる。青峰が飛び上がる。2人もブロックするために飛び上がった。青峰は横に飛び、2人のブロックの横からボールを投げる。そのボールはバックボードに当たり、ゴールに吸い込まれた。青峰が戻りながら5人を見る。

 

「もっと本気で来いよお前ら。」

 

「言うねぇ…。」

 

 

 

そこからは点の取り合いになった。桐皇は青峰、青葉青果は3人を中心に全員で、どちらも守備に決め手がなく、激しい攻撃のやり合いになった。残り2分、123対116、青葉青果リードであったが、第4Qの最初より差が縮まっていた。青峰が5人を躱してダンクを決めた。青葉青果はすぐにリスタートする。海野がどこから攻めるか考えていると、沼咲の視線に気づいた。

 

「(あいつ…また無茶する気か。でも、今回に関してはそれをやらなきゃ危険すぎる。)茂樹!」

 

沼咲にボールが渡る。青峰が立ち塞がる。今吉は青葉青果メンバーの動きに気づく。

 

「(アイソレーション…?!さっきから青峰を5人で相手してる状態やのに…)そこは鬼門やと思うなぁ、賭けに出るんか?」

 

「賭け?いや、悪いですけど、もう賭けはやんないですよ…茂樹が勝ちます。」

 

「は?!」

 

沼咲の雰囲気が変わったことに青峰は気づいていた。沼咲は笑っていた、それを見て青峰が冷や汗をかく。沼咲が動く、それに合わせて青峰も動く。沼咲が体勢を低くして、抜きにかかる。青峰はそれに間に合いきれず、後ろからスティールを狙った。

 

「…あん?!」

 

沼咲の手からボールが消えていた。沼咲はそのまま青峰を振り切る。青峰と沼咲の上をボールが舞っていた。そして、上から落ちてきたボールをとって、そのままゴールへ飛んだ。若松が急いでブロックに入る。

 

「やらせねぇよ!」

 

「暑苦しいねぇ。」

 

沼咲は姿勢をコートと平行にしながら、手首を返してボールを放った。

 

「なっ…(なんつー姿勢から放ってんだよこのガキャ!?)」

 

そのボールはバックボードに当たり、放った方向とは逆に跳ねて、ゴールに真っ直ぐ落ちた。着地して、すぐ戻って行った。桐皇はすぐにリスタートし、青峰にボールを繋げる。青峰の前には沼咲。青峰は変則ドリブルから沼咲を抜きにかかる。だが、抜くと同時に沼咲の手によってボールが弾かれた。

 

「なん…だ…と?!」

 

「楽しかったよ大輝。」

 

沼咲はルーズボールをとって攻め上がっていく。桐皇のほか4人は虚をつかれ、反応出来ずに見送ってしまった。青峰はすぐに追いかけ、沼咲がセンターラインを越える所で前に立ち塞がった。

 

「行かせるかよ!」

 

「…。」

 

沼咲は青峰が前に出てきた瞬間に、ボールをゴール目掛けてぶん投げた。

 

「は…?!」

 

驚く青峰の横を沼咲が駆け抜ける。ボールはバックボードにあたり跳ね返る…はずだったが、低く、少し上に跳ねた。

 

「よっ。」

 

沼咲が飛び上がり、それをとる。そして、そのままダンクを決めた。沼咲は戻りながら青峰の横を通り、2人にしか聞こえない声で

 

「また次やろう。」

 

と言い、戻って行った。

 

青峰対沼咲、その勝負は沼咲が圧倒した。最後にはもう青峰のゾーンが切れていた。結果は151対120。青葉青果の勝利。終了の笛がなり、青峰は呆然としていた。

 

「負けた…のか、俺は。」

 

その目からは涙が流れていた。沼咲がそれ見て声をかける。

 

「なに練習試合で負けたぐらいで泣いてんだよ。また次やろうって言ったろ?1人で勝てるほど、俺らは甘くねーよ。」

 

「まぁ、ぶっちゃけ俺1人は青峰に食らいつくので精一杯だったしねぇ。」

 

川崎がタオルで汗を拭きながら口を開いた。海野も頷く。

 

「そうか…そこかよ。」

 

青峰は少し笑いながら下を向いた。肩に手を置かれて、青峰は顔を上げた。すると沼咲が満面の笑みで青峰を見ていた。

 

「まっ、どうせ俺らが勝つから辞めるのも手だと思うよんっ!」

 

「うっせ!次こそ勝ってやんよ!」

 

4人は笑っていた。笑う青峰を見て桃井は安心していた。

 

 

 

片付けが終わり、挨拶を済ませ、青葉青果のメンバーは帰り始めていた。原澤と桑田が握手しながら話していた。

 

「いや、負けましたよ。流石ですね。」

 

「私の力じゃないですよ、彼らの力です。それに…。」

 

原澤は桑田が少し暗い表情をしたことに気づく。

 

「問題は層の薄さですね。」

 

「はい。」

 

「結果から見ても私の目から見ても彼らは全国で勝てるチームです。しかし、勝ち進めるチームとは言えません。体力は一石二鳥では身につきませんからねぇ。」

 

「これが2試合目だったら負けてたと思います…が、それは現状です。IHでまたやりましょう。」

 

「はい、リベンジさせてもらいます。」

 

 

 

駅のトイレの個室、沼咲はそこで膝をついていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…。やべぇな、こりゃ。」

 

膝を抑えて座り込んで、痛みを我慢しようとしていた。その時、個室のドアがノックされる。

 

「茂樹、もう少しで電車くるぞ。」

 

水木の声であった。沼咲は急いで立ち上がり、水を流して、個室を出る。

 

「すまんすまん、うんこがなかなか出なくてさ…。」

 

「あー、俺もたまにある。時間ない時焦るよなぁー。」

 

2人は仲良さそうに電車の来ているホームに走ってきた。美和が電車の外で待っていた。

 

「遅いよ茂樹!蒼、呼んできてくれてありがとう。」

 

「はいはーい。」

 

水木は元気そうに電車に入っていく。沼咲もその後に続く。美和はその歩き方に違和感を感じた。

 

「もしかして…。」

 

「ん?」

 

沼咲が何かを言いかけた美和の方を見る。

 

「なんでもない、はやくはやく!」

 

美和は気にしないことにして、沼咲を押しながら電車に入っていった。




いかがだったでしょうか。
最近色々立て込んでおりまして、バタバタしていますが、ストックが尽きない限りはこのまま投稿していきます。
次回の投稿は6月13日 日曜日 18:00です。
どうぞ、お楽しみに。


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14話

すみません、お久しぶりです。
長く空きましたが、また読んでいただけると幸いです。


GW明け、どこの高校も普通に授業を行っていた。青葉青果も同様。1年3組の海野は真面目に授業を受けていた。チャイムがなる。休み時間になり、次の授業に向けてみんなが動き出す。海野は後ろの席で寝ている水木を叩く。

 

「起きろ。次、体育。」

 

「んにゃ…?おぉー、体育か!行こ行こ!」

 

「まずは着替えだろ。」

 

男子が教室で着替えるため、クラスの女子は出ていく。着替え終わり、海野と水木は一緒に体育館に向かいだした。水木が口を開く。

 

「今日の体育なんだっけ?」

 

「バスケだったと思うよ、4組と合同。隣で女子がバレーやるんじゃなかったけ?だから2面でひたすら試合回すんじゃない?」

 

青葉青果高校は新設でありながら体育館が広い。バスケコート、バレーコートは合わせて3面、地下のコートで1面。予定ではもう少し狭かったが、桑田が金を出したらしい。

 

クラスごとにチーム分けを行った。1クラス20人、合計で8チーム作られた。当然であるが、水木と海野は別のチーム。隣コートでやっている女子は自由らしく、半分ぐらいが男子のバスケを見に来ていた。水木のチームと4組のひとチームが最初の試合。美和と川田も見に来ていた。周りの女子はどっちが勝つかを話していた。川田が美和に話しかける。

 

「美和ちゃんはどっちだと思う?」

 

「んー、うちのクラスには悪いけど3組かな。蒼いるし。」

 

ジャンプボールを3組がとり、水木にボールが回った。

 

「行っちまえ水木!」

 

クラスメイトの1人が声をかける。水木はその言葉に笑う。

 

「じゃ、特訓の成果をっ!」

 

水木はドリブルで1人、2人と抜き、シュートの体勢に入る。1人の生徒がブロックしようとする。

 

「こっちだ!」

 

その股にボールを通し、ゴール下にいる生徒に渡す。その生徒がゴール下から確実にゴールを決めた。

 

美和と川田はその姿を見て驚く。川田は思わず笑いながら口を開く。

 

「上手くなったね、蒼くん。」

 

「まっ、私が教えてんだからね。当然よ。」

 

美和は自慢げにしていた。

 

「確かにな。」

 

「うへぇっ?!」

 

その後ろから突然声がし、美和は変な声を出してしまう。その声は海野であった。

 

「武則、脅かさないでよ。あんた試合は?」

 

「次だよ、8チームあるんだから全員が同時に試合できるわけないだろ。本当に上手くなったな蒼は。」

 

「武則くんもそう思う?」

 

川田は嬉しそうに聞く。海野は真剣な目でコートを見たまま口を開いた。

 

「まっ、勝敗は別だ。」

 

「え?」

 

 

コート上ではある生徒がボールを運んでいた。その手つきは経験者のそれであった。水木が立ち塞がる。

 

「もしかして、経験者?」

 

「そういう君は本当にバスケ部?やけに初心者臭かったけど。」

 

「高校から始めたからね。」

 

「それであれか。中々センス良いんだね。」

 

水木は3Pはないと思い、距離を開けていた。しかし、その生徒はシュートフォームに入った。水木が急いで腕を伸ばす。

 

「えっ…?!」

 

水木がブロックしたはずの手の横をボールが通り、3Pが決まる。

 

「(何今の…?!面白いなこいつ。)名前は?」

 

「朝泡駆。」

 

「水木蒼だ、よろしく!」

 

見ていた美和と川田は驚く。

 

「朝泡ってバスケうまかったの!?」

 

「というか、武則くん、知ってたような感じだよね。」

 

「俺もさっき気づいたばっかだけど、今試合に出てる朝泡 駆、昭栄中の元4番だ。」

 

美和が学校名に驚く。

 

「昭栄中!?しかも4番って、それ相当強くない?」

 

「あぁ、少なくとも蒼が止められるレベルじゃない。」

 

川田はそれを聞いて首を傾げる。

 

「なんでバスケ部入んないのかな?」

 

「それは知らん。けど、入ってくれれば…」

 

海野の言葉に美和が頷く。

 

「うん、弱点が解消できるかも。」

 

 

 

その後、水木は朝泡に翻弄されて負けた。海野はそれを見てコートに入っていく。水木は朝泡に話しかけていた。

 

「そんな上手いんだったらバスケ部入ってくれよぉ!」

 

「バスケ部?もうやりたくないよ、あいつらも凄かったし、あいつらに勝ったキセキの世代はどうやっても勝てる気しない。勝てる気しないゲームなんかやりたくないだろ?」

 

「へ?キセキの世代っていうやつならこの前勝ったよ、一人一人だけど。」

 

朝泡はその言葉に驚く。

 

「は?!お前のレベルで勝てるはずないだろ。」

 

「いや、俺らのバスケも通用はしたけど。勝った要因は…、今から試合するやつ、あれ含めた3人!」

 

水木はコートで準備をする海野を指した。それを見て朝泡はさらに驚く。

 

「あいつ…そういうことか。」

 

そこに美和と川田も来る。美和が話しかける。

 

「おつかれ、蒼。」

 

「おつかれー、女子は自由?」

 

「うん、先生いないから、バレーやりたい人はやって、他は男子見ててもいいって。だから紀子ちゃんと見に来た。」

 

「さっきの試合見てたのかー。」

 

「ボロ負けだったね。」

 

美和は朝泡の方に視線を移す。

 

「朝泡くんだよね、バスケ部興味ない?君なら即戦力って言っても言い過ぎじゃないと思うんだけど。」

 

「バスケ部か。」

 

朝泡は海野を見ながら続けた。

 

「考えとく。」

 

「うん。」

 

黙っていた川田がコートの方を見て口を開く。

 

「あの人、背高くない?」

 

3人とも川田の指す人物を見る。1人、マスクをして、背が高く目立っていた。

 

「優馬くんと同じくらいあるんじゃないかな?」

 

「あれ?あんな人いたっけ?」

 

美和と川田は同じクラスのはずだが、わからなかった。朝泡が口を開く。

 

「銀波 飛鳥、よく保健室に運ばれるやつだよ。」

 

2人はそれで思い出す。美和が口を開く。

 

「普段猫背で暗そうだからわからなかった!」

 

「あいつもバスケ経験者、元帝光中。」

 

3人はそれを聞いて驚く。水木が口を開く。

 

「ってことはあいつもキセキの世代?!」

 

美和は自分の記憶のキセキの世代と違い、驚く。

 

「私、茂樹たちが帝光中とやってた時見てたけど、あんな人試合に出てなかったよ!?」

 

朝泡が口を開く。

 

「あいつは一軍の補欠だ。公式戦は序盤しか出てないし、青葉中とやったあたりからはキセキの世代の連中以外試合出てない。俺は練習試合でやったことあるから見たことある。」

 

「強いの?!」

 

水木が目をキラキラしながら聞く。

 

「見てればわかる。」

 

 

 

試合始まる直前、海野は銀波の背の高さに驚いていた。

 

「大きいね、よろしく。」

 

「青葉中、海野…。」

 

「あれ、俺名前言ったけ?」

 

銀波は何も答えずに自分の位置に歩いていった。試合が始まり、海野はパスに徹していた。銀波も特に動きを見せなかった。試合中盤になり、互いの点が均衡していた。3組の1人が海野に駆け寄る。

 

「頼む、本気でやってくれ。」

 

「…、わかった。」

 

海野は本気ではやらず、初心者ならば止められないぐらいのドリブルで敵を躱していった。そのままフリーでレイアップしようとする。すると急に腕が伸びてきた。

 

「…!?」

 

海野は咄嗟にボールを持ち替えてそのブロックの横からボールを放った。しかし、それをも叩き落とされる。ボールはコート外に飛んでいった。海野は驚きながらブロックした人物を見る。それは銀波であった。

 

「すごいね、止められるとは思わなかった。」

 

銀波は海野を見下ろしながら口を開く。

 

「そんなもんだったけ?青葉中のPGだよね?」

 

「なんで俺のこと知ってるんだ?」

 

3組は再びボールを海野に回す。海野は先程とは段違いのドリブルで銀波を振る。そして、ダンクを決めた。体育館が沸く。

 

「すげぇ!!」

 

「流石バスケ部!」

 

4組が攻め上がる。銀波がパスを要求した。その前には海野が立ち塞がる。

 

(この身長ならインサイドプレーヤーか。傑みたいなパターンもあるが…)

 

銀波は貰ったボールをそのままシュートフォームに入った。海野は反応してブロックのため飛ぶ。しかし、銀波はそこからドリブルで中に切り込んでいった。

 

「傑パターンじゃないのか!?」

 

海野はすぐに銀波に追いつく。銀波はゴールから離れた位置でレイアップの体勢で飛んだ。

 

「ここから?!まさか!」

 

銀波の放ったボールは綺麗な弧を描いてバックボードを跳ねてゴールに入った。海野はそれに驚く。

 

「スクープショット…。」

 

着地とともに銀波のマスクが外れた。銀波はマスクを拾いながら口を開く。

 

「これで同じだ…あっ。」

 

「このやろ…!?」

 

銀波は突然倒れた。

 

「まただ!先生、銀波くん倒れましたー!」

 

「銀波ー!また貧血か、おい、誰か手伝え、保健室連れてくぞ!」

 

銀波は担架に乗せられ、保健室へ運ばれて行った。海野はそれを見て呆然としていた。

 

 

 

美和が口を開く。

 

「あ…体弱いんだったね。」

 

「あれがなきゃあいつもキセキの世代って呼ばれてたのにな。」

 

朝泡は呆れながら言った。驚きながらも美和は笑っていた。

 

「うん、理想に近い形のチームが出来るよ!」

 

 

 

その後、海野の活躍により3組が勝った。銀波は戻ってこなかった。




いかがだったでしょうか?
毎週日曜18:00に更新します。
いつ止まるかは私もわかりませんが、ストックは出来ているので、行ける所まで毎週投稿します。
次回は11月21日18:00です。


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15話

こんにちは!
コロナが収まってきて外に出る人が多くなってきましたが、みなさんはどんな感じですか?
職場の方で飲み会に誘われたのですが、私はまだコロナが怖いという理由で断ろうとしています。(本当はめんどくさいだけですが)

こんな感じで前書きでは近況を書いていこうかと思ってます。
長くなってしまい申し訳ございません、ではどうぞ!


放課後、美和はHRが終わった直後に朝泡に話しかけていた。

 

「ねぇ、バスケ部来てよ!」

 

「元気だなぁ、少しだったら良いけど。銀波は?」

 

「あ、そうだ!銀波くん!…どこだ?」

 

川田が寄ってくる。

 

「銀波くん、HR終わるなりどっか行っちゃったよ?」

 

「紀子ちゃんなんで止めなかったの!?」

 

「ひぃ!!…ごめん。」

 

美和の迫力に川田は少し下がって申し訳なさそうにした。美和はそれに気づく。

 

「あぁ、ごめん。違う、怒ってないから。んー、銀波くんどこ行ったんだろ?朝泡くん知らない?」

 

「あいつ写真部だろ?部室行ったんじゃね?」

 

美和はそれを聞いてすぐに荷物を持ち立ち上がる。

 

「紀子ちゃん、朝泡くん、行くよ!」

 

「はい!」

 

「え、俺も?」

 

「当たり前でしょ!」

 

美和は2人を引っ張って廊下に出ていく。そこで体育館に向かおうとする沼咲と舟木に会う。舟木は半分寝ていて、沼咲におんぶされていた。

 

「どうしたんだ、美和。てか、誰…駆!」

 

「茂樹…なんでお前もいるんだ。」

 

朝泡は海野と水木以外のメンバーを知らなかったので驚いていた。美和が口を開く。

 

「茂樹、朝泡くんお願い!」

 

「お願いって…?」

 

「体育館連れてって!紀子ちゃん行くよ!」

 

「はっ、はい!」

 

美和は川田の手を引っ張りながら歩いていった。沼咲はなにがなんだがわからずに、とりあえず朝泡の腕を掴む。それに朝泡が驚く。

 

「なんで?!」

 

「いや、連れてけって言われたし。」

 

「引っ張んなくても行くから…てか背中のやつ何?」

 

朝泡は沼咲の背中で寝ている舟木を指す。

 

「あぁ、舟木 奏。同じバスケ部だよ。因みにたけ…海野と川崎もバスケ部にいるよ。」

 

「海野は体育ん時に会った。お前ら3人ともここに来たのか。」

 

「うん、楽しいぞ。」

 

「お前らがいるんじゃ楽しくなりそうだな。」

 

2人(3人)は仲良さそうに体育館に歩いていった。

 

 

 

写真部部室、その扉が突然開く。

 

「たのもぉ!」

 

「美和ちゃん、それ道場破りするときに使うやつだよ。」

 

美和と川田が入ると、そこには10人ぐらいがいた。その端っこの方で銀波はカメラを弄っていた。美和がそれを見つける。

 

「いたぁ!銀波くん!」

 

銀波は突然話しかけられ驚く。

 

「えっと…誰ですか?」

 

銀波は美和と川田を見て首を傾げる。

 

「同じクラスの沼咲 美和!この娘は川田 紀子。」

 

「よろしくお願いします。」

 

川田は深々とお辞儀をする。1人の部員が口を開く。

 

「あの…、一応写真部の部室なので、話するなら外で…。」

 

「そうですね、部室から出ましょう。」

 

銀波は立ち上がって、カメラを持ちながら2人とともに外に出た。銀波が口を開く。

 

「で、どうしたんでしょうか?」

 

銀波は2m近くあり、美和は女子にしては身長高いが、それでもだいぶ差があった。美和が口を開く。

 

「銀波くん、バスケ部興味ない?今日の体育で見たんだけど、上手いよね。中学でも相当慣らしてたと思うんだけど。」

 

銀波が両手でカメラを2人の目線あたりに持ってきて、口を開く。

 

「僕は、写真部です。」

 

「いや、知ってるけど。写真部の活動よく知らないけど、うちの学校は兼部も出来るから、考えといてくれないかな?」

 

「兼部…か。してみたいけど、僕、体力ないですよ?」

 

「平気平気、その身長だけでも十分な武器だから。それに、交代要員もいるからどうにかなるって。」

 

「そうですか…、じゃあ兼部してみます。」

 

美和はその言葉に目を輝かせる。

 

「今日写真部は活動日?」

 

「いや、基本は週に一回集まって写真見せ合うだけで、それ以外は基本溜まり場みたいにしてるだけ。」

 

「よし!行こう!」

 

美和は銀波の腕を掴んで引っ張りながら歩き始めた。

 

「えっ…どこに?」

 

「体育館に決まってんじゃん!紀子ちゃんも行こ!」

 

「はい!」

 

「シューズはある?」

 

「体育館ばきなら…。」

 

「じゃあ、それ取りに行こう!」

 

 

 

体育館に着くと、他のメンバーは全員準備を終えていた。そこには朝泡もいた。朝泡は銀波を引っ張ってきた美和を見て少し引きながら口を開いた。

 

「マジで連れてきたんか…。」

 

沼咲が口を開く。

 

「見たことある気がするけど、誰だ?」

 

「銀波 飛鳥です、よろしくお願いします。」

 

美和は自信満々に口を開く。

 

「銀波くんは元帝光中なんだよ!」

 

その言葉に全員が驚く。そして、沼咲が指を指しながら口を開く。

 

「あぁー!ベンチにいたやつだ!飛鳥っていうのか、よろしく。」

 

銀波は覚えていたことに驚く。

 

「よろしくお願いします。」

 

「よしっ、練習始めよう!駆と飛鳥は2人とも経験者だからなんとなくで合わせてくれ。」

 

海野の合図で練習が始まった。

 

 

 

練習の終盤になり、仕事を終えた桑田が体育館に入ってきた。全員がそれに気づく。

 

「「「お疲れ様です!」」」

 

「おつかれ…?」

 

桑田が横に目をやると1人の見慣れない生徒が倒れていた。

 

「ちょっ?!君大丈夫か!?」

 

その横では川田は指でつつきながら見ていた。

 

「いつも通りらしいので、平気ですよ…たぶん。」

 

「そう…なのか?」

 

桑田は練習しているメンバーを見ると見慣れないのがもう1人居た。

 

「見慣れない生徒いるな、新しい部員か?」

 

海野が口を開く。

 

「はい、2人とも経験者です。」

 

「朝泡 駆です、昭栄中出身、ポジションはPGでした。」

 

「ほう…昭栄中か。なぜここに?強豪から誘いがあったんじゃないか?」

 

「バスケは辞めるつもりでこの高校を選びました。」

 

「そういうことか。で、そこのは?」

 

倒れている銀波を指す。すると、銀波はムクリと起き上がる。

 

「銀波 飛鳥です。ポジションはSGでした。」

 

「身長的にインサイドプレーヤーじゃないのか。出身は?」

 

「帝光中です。一軍補欠でした。」

 

「帝光中…そうか…。」

 

桑田は少し見渡し口を開いた。

 

「よし、試合やるぞ。2人の実力も見たいしな。紀子、審判を頼む。」

 

「はい!」

 

「AチームはPG美和、SG飛鳥、SF奏、PF茂樹、C優馬。BチームはPG駆、SG私、SF蒼、PF武則、C傑。時間は残り時間ギリギリまで!すぐ準備して作戦考えろ!」

 

「「「はい!」」」

 

 

 

準備が終わり、チームごとに集まって話し合いが始まった。Aチームでは、茂樹を中心に話していた。美和が口を開く。

 

「飛鳥は体育で見た感じだとスラッシャー?」

 

「いや、あれは、武則くんが思ったより詰めてたから入っただけで。元々はCやってたから中の仕事もできるけど。」

 

沼咲がそれを聞いて頷く。

 

「おっけ、じゃあ終盤は中に行ってもらっていい?」

 

「はい。」

 

「あとのメンバーはいつも通り、好きにやろう。基本的に主軸は飛鳥で。」

 

「おっけー。」

 

「わかった。」

 

「うん!」

 

「え、僕中心?!?」

 

銀波は沼咲の最後の言葉に驚く。沼咲はニコニコしながら答える。

 

「うん。飛鳥と駆を見るための試合だろ?それに、飛鳥のマークは咲さんだし。」

 

「え、咲さんて…。」

 

美和が口を開く。

 

「監督のこと。説明したけど、うちは基本的に下の名前で呼び合う決まりだから。」

 

「監督もなんですか!?」

 

 

 

Bチームでは海野が中心となって話していた。桑田が口を開く。

 

「私は駆のプレイスタイルをよく知らないが、適当に合わせるから好きに使ってくれ。」

 

「元全日本代表なんだから当然。」

 

朝泡がそう言った瞬間に、その頭を桑田が竹刀で叩く。

 

「目上の人には敬語な?」

 

「はい。」

 

海野が少し笑いながら口を開く。

 

「じゃあ、ゲームメイクは任せるとして。基本的に駆を中心に攻めてくれ。駆と飛鳥を見るための試合だから。他のメンバーは最低限合わせる他は好き勝手にやって。よし、行こう!」

 

「「「おう!」」」

 

 

 

両チームがセンターラインに並ぶ。川田がボールを持ってきて口を開く。

 

「ファールはあからさまなやつ以外はほとんど取りません、負けた方は罰ゲームありです。」

 

桑田が口を開く。

 

「当然、私もやる。罰ゲーム内容は勝利チームが決めろ。」

 

「「「はい!」」」

 

それぞれのポジションに行き、凪佐と川崎がセンターサークルで向かい合う。

 

「始めますっ!」

 

川田がそう言いながら、ボールを二人の間にあげる。凪佐と川崎はほぼ同時に飛び上がり、腕を伸ばす。それを見て銀波と朝泡は驚く。

 

(たかっ?!)

 

(身長あるとはいえ、傑と…いや、傑よりも…)

 

凪佐がボールを叩く。それを沼咲がタップして、舟木に繋げる。その瞬間、沼咲と舟木は目を合わせた。

 

「(本気か、こいつ。ついに試すのか…)おっけ!」

 

舟木はそれをトスして一気にゴールへと放った。朝泡はあまりの速さに驚く。

 

「(ここから届くのか?!…)嘘だろ。」

 

その先には沼咲が走っていた。そして、ゴール前で飛び上がり、舟木からのボールをとる。そのままダンクを決めに入る。

 

「先制点貰ったァ…!?」

 

「やらせねぇよ!」

 

海野が沼咲の動きについていき、ブロックに入っていた。

 

「速いな、流石だ。」

 

そう言いながら、沼咲はダンクしようとしていた手を返して、ボールを放った。そのボールは海野のブロックの手の上を通り、ゴールに吸い込まれた。

 

「相変わらず大道芸かよお前は。」

 

「いや、お前の速さも異常だって。」

 

軽く言葉を交わして、沼咲は自陣へと戻っていった。戻ってくる沼咲に銀波が話しかける。

 

「相変わらずすごいですね。」

 

「おう!奏たちがいるからな。」

 

呆気に取られていた朝泡に桑田が声をかける。

 

「あれが今のうちのスタイルだ。お前はお前のスタイルでやれ。」

 

「はい。」

 

朝泡がボールを運んでいく。その前には美和が立ち塞がる。朝泡は美和のディフェンスに関心していた。

 

「(上手いなこいつ。元青葉中女バス…流石は県上位レベルだな。でも…)お前に俺を抑えるのは無理だ。」

 

「くっ…!?」

 

朝泡はあっさりと美和を躱して、中に切り込んでいった。舟木がカバーに入る。舟木が近づく前に、ストップ&ジャンプでシュートを放とうとした。舟木は急いでジャンプした。

 

「ふん…?!」

 

朝泡はシュートを打たずに、フリーになっていた海野にパスをする。受け取った海野はそのままシュートを打とうとしたが、沼咲が距離を詰める。朝泡が叫ぶ。

 

「外に出せ!」

 

海野はその言葉通り、後ろにボールを放る。その先には朝泡が走っていた。朝泡はクイックシュートを放つ。美和と舟木は反応しきれなかった。ボールは綺麗にリングをくぐった。

 

「よしっ!」

 

沼咲が少しにやけながら見る。

 

「上手いなぁ、あいつ。飛鳥、見せてけよ!」

 

「はい、わかってます。」

 

美和がボールを運んでいく。美和の前には朝泡がいた。美和はすぐに銀波にパスを出そうとした。それを朝泡が読み、防ごうとした…が、美和が放ったボールは強烈な逆回転をし、手を出した方向と真逆に飛んだ。

 

「はぁ?!!」

 

ボールが行く先には沼咲がいて、キャッチし、すぐに3Pを狙いに行く。

 

「やらせるかよ!」

 

海野がすぐさま距離を詰める。

 

「じゃぁ、行けっ!」

 

沼咲はシュートを左手で放とうとしたボールを右手で叩き、サイドへ回した。中で銀波がとる。その前には桑田が立ち塞がった。

 

「さぁ、見せてみろ!」

 

「じゃあ、遠慮なく。」

 

銀波はノーフェイクでシュートを打ちにいった。桑田が飛び上がる。銀波の放ったボールが桑田に弾かれる。

 

「高い…ですね。」

 

「女だからって舐めるなよ?」

 

ルーズボールを水木がとり、ドリブルで駆け上がる。舟木がついていく。しかし、急に舟木の動きが止まった。

 

「スクリーン…だっけ?」

 

「よく覚えたな。」

 

海野が舟木にスクリーンをかけ、舟木が止まる。

 

「よっしゃ!」

 

水木はボールをコートに叩きつけ、飛び上がった。落ちてくるボールに合わせて、オーバーハンドトスをした。

 

「やらせねぇ!」

 

「あっ!?」

 

水木の放ったボールを沼咲が叩き落とす。沼咲は着地してすぐにルーズボールをとる。そして、コートを見渡す。

 

「そこだぁ!」

 

戻りきれていなかった銀波にパスを出す。銀波はそれを受け取り、目の前の桑田を見る。

 

(この人は上手い…)

 

銀波はまたすぐにシュートに入る。桑田は飛び上がりボールを弾こうとした。だが、銀波が後ろに飛んでいることに気づいた。

 

「なっ…(3Pラインだぞここは?!)」

 

そのボールは綺麗な弧を描き、リングに吸い込まれた。桑田が口を開く。

 

「3Pでフェイダウェイとは…しかもとても綺麗なシュートだな。」

 

「中学の時に当たった選手がよく打ってたので、それを練習して真似しました。」

 

「今はこんな選手がいるのか。」

 

そこで体育館にチャイムが鳴り響く。桑田がそれを聞いて叫ぶ。

 

「マズイ!全員5分以内に片付けと着替えを済ませて学校から出ろ!校長に怒られる!!」

 

「…は?」

 

「どういうことでしょうか?」

 

「「「はい!」」」

 

朝泡と銀波が首を傾げたのを他所に他の全員は片付けを急いで始めた。




いかがだったでしょうか。
次の投稿は11月28日18:00です。
どうぞお楽しみに


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16話

すみません、遅れました。
ストックはまだ少しあるんですけど、完全に忘れてました。来週からはちゃんと投稿したいと思ってます。


高校バスケIH神奈川県予選前日、青葉青果高校バスケ部は体育館に集まっていた。桑田が口を開く。

 

「神奈川は東西南北4つのブロックに分かれている。我々は西部地区、王者海常は東地区だ。決勝トーナメントでそれぞれから13チーム、決勝リーグでそのベスト4の総当り、その優勝、準優勝校がIHに出れる。」

 

水木が口を開く。

 

「チーム数多いっすね。」

 

「そうだ、神奈川は全国でもバスケが盛んな地域、その分強豪も多い。一先ずは西部地区の優勝を目指す。ある程度の強豪は紀子が調べてある。頼む。」

 

川田がノートを取り出して立ち上がる。

 

「はい。先ずは西部地区昨年度王者の明和相模原高校、主将のC 野々村 樹さん、副主将のSG 笹野 裕太さんの2人を軸として、中外のバランスのとれたチームです。強みはスピード、基本パスより個人技よりのチームで、笹野さんが1番の得点源です。3Pも得意ですが、ドライブもキレがよく、笹野さんから野々村さんのところで多くの点を取っています。最高身長は野々村さんの189cmですが、スタメンの平均身長184cm、平均的に高いチームです。単純な得点力は海常よりも上ですが、守備が弱く、去年は決勝リーグでそこを突かれて負けています。」

 

沼咲が口を開く。

 

「じゃあそれを止めれば良い話ね。」

 

沼咲の言葉に銀波が驚く。

 

「攻めるのではないですか?」

 

「相手の強み潰した上で攻めるでいいでしょ。」

 

桑田が頷く。

 

「油断は良くないが、茂樹の言う通りだ。決勝リーグを除いて県予選は全て相手を受け止めた上で潰す。」

 

銀波は少し引きながら頷き、沼咲はニコニコとしながら頷いた。川田が口を開く。

 

「次に去年の決勝トーナメントベスト8、大木高校。主将のSF 加藤 蓮司さん、2年生エースのPF 飯田 勇次さんの2人を中心とし、中で攻めてくるタイプのチームです。外の上手い選手は今のところ情報がありませんが、それ以上に中が圧倒的です。去年、決勝トーナメント準々決勝で海常と当たり、78対77で負けています。地区予選より、県予選に重きを置いているようで、決勝リーグ進出条件ベスト12に入った後の試合は全て手を抜いています。」

 

海野と朝泡が組み合わせ表を見る。海野が口を開く。

 

「両校とも決勝まで当たらないな、逆山だ。」

 

「じゃ、決勝まで問題ないたァ!?」

 

桑田が朝泡の頭を竹刀で叩いた。

 

「油断はするな。だが、確認したところそれ以外は警戒する必要はない。今日は早く寝とけ、解散!」

 

 

 

 

 

神奈川県IH西部地区予選、青葉青果高校は水木、舟木、凪佐のワンタッチプレーにより、余裕の勝利を重ねていった。トーナメントは進み、決勝、青葉青果VS明和相模原の試合前。青葉青果のベンチで桑田が口を開く。

 

「相手は予想通り明和相模原、スタメンはPG 駆、SG 飛鳥、SF 武則、PF 茂樹、C 傑で行く。このメンバーがコートに揃うのは初めてだが、この前話した通り、ここからはこの5人を軸にしてうちのチームを回していく。この試合は練習だと思え。第2Qからは他のメンバーも入れていく。」

 

最後の言葉に全員が驚く。しかし、沼咲はニヤッとして口を開く。

 

「第1Qで決めに行っていいんすね?」

 

「もちろんだ。負けを意識して練習などありえん。勝つぞ!」

 

「「「はい!」」」

 

 

明和相模原のベンチ、監督の岩本が口を開く。

 

「青葉青果は1年生のみのチームだ。面白いプレーをするが、今までの試合を見る限り、基本能力はうちが上だ。油断せずに勝とう。野々村。」

 

「はい。行くぞ!」

 

「「「おう!!」」」

 

 

観客席には既に東部地区優勝した海常高校の笠松と黄瀬が来ていた。黄瀬がダルそうに口を開く。

 

「なんで西部地区の決勝見るんすか?それよりも東京の方見に行きましょうよー。」

 

「あん?!神奈川は全国屈指の実力校がウジャウジャいる、西部地区には決勝に出てる明和相模原、去年うちを苦しめた大木。少なくとも2校は障害になるえる。ただ、相手の青葉青果は聞いたことねーな。噂によると1年生のみで決勝まで上がってきたらしいが…。」

 

「1年生のみ?!凄いっすねそれ…。」

 

黄瀬が乗り出して青葉青果のメンバーを見る。すると見覚えのある4人がいた。

 

「あれって…沼咲っちに海野っち、川崎っち…銀波っちまで?!!」

 

「知り合いか?」

 

「4,5,6番は最後の全中の時に苦しめられたやつらっす!11番は帝光時代の仲間っす、体力がないから試合にはあんま出てなかったっすけど、めちゃくちゃ上手いんすよ!」

 

笠松は黄瀬の言葉に驚く。帝光中は3連覇している、特に去年の全中は帝光が圧倒的な強さで優勝している。その中で苦しめられた、という言葉は予想もしなかった言葉であった。そして、元帝光の選手、試合には出ていなかったものの、黄瀬がめちゃくちゃ上手いと言ったことに驚いた。

 

「なんでそんなやつらが無名なんだ?」

 

「いや、全中の後どこ行ったかとか一切知らなかったっす。これは楽しそうっすねー!」

 

黄瀬のキラキラした目に笠松は少し呆れていた。

 

 

 

コートに選手が集まる。青葉青果;PG 朝泡{10}, SG 銀波{11}, SF 海野{4}, PF 沼咲{5}, C 川崎{6}。明和相模原;PG 齋藤{12}, SG 笹野{5}, SF 浜崎{7}, PF 飯田{11}, C 野々村{4}。川崎と野々村がセンターサークルで向かい合う。

 

──────ピィー!

 

川崎と野々村が飛ぶ。川崎が圧倒的な高さでボールを弾く。

 

「くそっ…(身長差はしょうがないが、それでも高すぎる?!)」

 

朝泡がボールを運ぶ。齋藤が前に立ち塞がる。齋藤はパスとドライブを警戒して少し距離を空けていた。

 

「舐められたもんだなっ。」

 

「なんだと!?」

 

朝泡はクイックシュートで3Pを放った。そのボールは綺麗にリングをくぐる。呆気に取られた齋藤に野々村が喝を飛ばす。

 

「気にするな!リスタートだ!」

 

「はい!」

 

齋藤がボールを運ぶ。マークが着く前に笹野に回す。笹野の前の銀波は距離を空けていた。笹野はそれを見逃さずにシュートを放った。

 

「舐めてんのはそっちだよん!」

 

「低いですね。」

 

「なっ…?!」

 

銀波は少し飛び、そのシュートを弾いた。

 

(リーチ長っ!?)

 

ルーズボールを海野がとる。そしてそのままドリブルで攻め上がった。浜崎が追いつく。

 

「やらせるかよ1年坊主が!!」

 

「無理です。」

 

「くそっ(速すぎる!?)」

 

海野はフェイントを入れずにスピードだけで浜崎を抜き去った。そのままレイアップに入る。

 

「やらせんぞ!」

 

野々村が飛び上がる。海野は野々村の後ろを飛ぶ影に気がついた。

 

「任せた。」

 

「任された!」

 

海野は空中でボールを持ち替え、野々村の横からボールを放った。そのボールは野々村の後ろから追いつき、飛んでいた川崎がとった。野々村は後ろを見て驚く。

 

(なんだと?!)

 

「うるぁ!」

 

川崎のダンクが決まった。野々村はリスタートするためにボールを拾い、コートを見る。

 

「出してください!」

 

「…おう!」

 

齋藤がボールを運ぶ。マークが若干離れている笹野に回す。少し距離をあけたところに銀波が立っている。

 

「(普段なら3P狙うが、あのリーチじゃ打てねぇ。しかもドライブも…いや)舐めるな!」

 

笹野がシュート体勢に入る、銀波が少し飛びブロックに入った。それを確認して、銀波を抜きにかかった。しかし、銀波は抜かれずに立ち塞がった。

 

「くそっ…(リーチのせいで余計にデカく見える!?)」

 

「上手いとは思いますよ。」

 

「舐めんなって!」

 

笹野はストップ&ジャンプをしてシュートを狙った。しかし、銀波が腕を伸ばす。

 

「笹野!」

 

ゴール下で野々村が呼ぶ。笹野は銀波の上げた腕の下からパスを通して野々村に渡した。

 

「頼む!」

 

「おう!…(こいつ…身体の使い方上手いな。)」

 

野々村には川崎がついていた。野々村は身体で押し込もうとしたが川崎は動かなかった。川崎が口を開く。

 

「それだけですか?」

 

「言ってくれるなっ!」

 

野々村は一瞬川崎から身体を離し、ドリブルターンでゴールへ飛んだ。

 

「うるぁ…!?」

 

野々村がダンクしようとしたボールに川崎が手を置く。野々村はその瞬間に力の差に気づいた。川崎はそのボールを野々村ごと吹き飛ばした。ルーズボールを銀波がとり、朝泡に渡した。戻る野々村に川崎が口を開く。

 

「そんなもんですか。」

 

「…。」

 

朝泡から沼咲に渡る。沼咲の前には飯田がいた。沼咲はそれを見てため息をついた。飯田はそれに気づく。

 

「今のはなんだ?」

 

「いや…つまらないなぁ、と。」

 

「なんだ…?!」

 

沼咲はあっさりと飯田を抜き、ゴールへ飛んだ。

 

「何度もやらせるか!」

 

「調子乗んじゃねぇ!!」

 

野々村と浜崎がブロックに飛ぶ。沼咲は飛びながらコートを見渡していた。

 

「マークザルですか?」

 

沼咲は持っていたボールをサイドの外へと出した。

 

「なっ…(この狭い中であそこまで目がいくのか!?)」

 

その先には銀波がいた。

 

「ナイスパスです。」

 

笹野が急いでブロックしようとしたが、銀波は意に介さず、そのまま綺麗な3Pを決めた。高い打点のシュートに笹野は届かなかった。

 

「くそっ!(高すぎんだろ!?)」

 

齋藤がボールを運びながら見渡す。

 

「(笹野先輩も野々村先輩も完全に抑え込まれてる…なら)浜崎先輩!」

 

齋藤から浜崎にパスが渡る。浜崎の前には海野が立ち塞がる。浜崎はフェイクをひとつ入れ、急加速で海野を抜きにかかった。

 

「遅いですよ?」

 

海野は一切振られずに浜崎の目の前に立ち塞がった。浜崎は一旦下がった。

 

「上手いな…。(今ので振り切れねーのかよ。)」

 

「油断しすぎですよ。」

 

「は?!」

 

「浜崎先輩!」

 

齋藤が叫ぶ。浜崎が気づいたときには朝泡にボールを弾かれていた。ルーズボールを海野が拾う。

 

「ナイス駆。」

 

「取ろうと思ったんだけどな、流石は強豪。」

 

青葉青果が攻め上がる。明和相模原は急いで自陣に戻って行った。朝泡が沼咲にボールを繋ぐ。沼咲はあっさりと飯田を抜き、ゴールへ向かう。野々村が急いでカバーに向かった。

 

(パスか、シュート、どっちだ!?)

 

「よっ!」

 

「なん…だと?!」

 

沼咲はドリブルの勢いのまま下からゴールへボールを放った。野々村は虚をつかれ、動けなかった。

 

「ナイス、うりゃ!」

 

その先には川崎が飛んでいて、そのままダンクを決めた。

 

 

 

第1Q、青葉青果の勢いは止まらず、明和相模原に一切の得点を許さなかった。38対0、地区決勝で見たことの無い点差で第1Qが終わった。観客席の笠松と黄瀬は引いていた。笠松が口を開く。

 

「明和相模原は決して弱いチームじゃねぇ、むしろ神奈川の4強に入る神奈川1の攻撃力を誇るチームだ。それを0で抑えて、しかも40点弱の得点、こりゃヤベぇぞ。」

 

「そうッスね…、あの時はキセキの世代5人、それに黒子っちがいてなんとか勝てたっすけど。しかも今は銀波っちにあの10番がいる。正直、勝てる可能性は高くないっすね。」

 

黄瀬も改めて、3人の強さ、そして、朝泡と銀波の強さに驚いていた。

 

 

 

西部地区決勝、青葉青果VS明和相模原の試合は116対39で、青葉青果の圧勝で終わった。観客席はその強さに湧くとともに、恐怖を感じていた。




いかがだったでしょうか。
次の投稿は12月5日18:00です(今度こそは遅れないようにします)。
お楽しみに


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17話

こんばんは!
ただいまの時間は12月5日17:41。
ギリギリの時間に予約投稿していないことを思い出し、めちゃくちゃ焦りました。余裕持って行動しないといけないと、再確認しました。
こんな話は置いといて、

どうぞ!


神奈川県高校バスケIH決勝トーナメント、西部地区1位通過の青葉青果高校は順当に勝ち、決勝リーグ進出を決めていた。そして、東部地区1位通過の海常高校も決勝リーグを決めた。そして残る2枠を決める、明和相模原VS厚木千賀、大木VS横須賀南幸台の試合が残っていた。明和相模原VS厚木千賀、昨年度神奈川4位と3位、西部地区王者と北部地区王者の試合が行われようとしていた。青葉青果と海常は観客席で見ようとしていた。桑田を先頭に青葉青果のメンバーが歩いていると武内を先頭とする海常のメンバーと会った。桑田が口を開く。

 

「お久しぶりです、武内さん。決勝リーグ進出おめでとうございます。」

 

「久しぶりだな、桑田。おめでとうはお前の方だろ、うちはいつも通りだ。1年生のみであれは凄いな。うちも1番警戒してるよ、他の高校もな。」

 

「いえ、そんなことは。」

 

黄瀬が顔を出し、手を振る。

 

「あ、沼咲っち、海野っち、川崎っちに銀波っちお久しぶりっす!」

 

沼咲と海野、川崎の3人は無視して空いている席に座り始めた。

 

「無視っすか?!酷いっす!」

 

銀波が黄瀬に近寄る。

 

「久しぶりです、黄瀬くん。」

 

「銀波っちは話してくれるんすねー。まぁ、一緒に見ようっす!」

 

黄瀬は銀波を連れて沼咲たちの横に座った。笠松がため息をつく。武内はそれを見て口を開く。

 

「ここなら両校のレギュラーは座れるな、すまんがいいか?」

 

「はい、ぜひ。」

 

桑田はニコニコとして対応した。

 

 

 

コートでは明和相模原と厚木千賀のスタメンが並んだ。明和相模原;PG 齋藤 雅文{12番}, SG 笹野 裕太{5番}, SF浜崎 修{7番}, PF 飯田 信孝{11番}, C 野々村 樹{4 番}、厚木千賀;PG 堂野 滝昌{5番}, SG 魚崎 緋月{4番}, SF 笹塚 遊{6番}, PF 三玉 祐希{7番}, C 永友 正人{8番}。野々村と魚崎が握手をした。魚崎が口を開く。

 

「まさかここで会うとは。悪いが、お前たちのIHはここで終わりだね。」

 

「去年のようにはいかんぞ。」

 

「1年のみのチームに負けるのはないっしょ。」

 

魚崎の言葉に浜崎が口を開く。

 

「てめぇ!」

 

「浜崎、やめろ。言いたいことは試合で見せろ。」

 

「あぁ、そうするよ。」

 

魚崎は手をヒラヒラとし、自分のポジションに歩いていった。

 

 

 

観客席の黄瀬が口を開く。

 

「沼咲っちたちはどっちが勝つと思うんすか?」

 

「明和相模原は試合やったから知ってるけど、厚木千賀は知らんしなぁ。紀子。」

 

川田が急いでノートを取り出し口を開く。

 

「厚木千賀高校は北部地区王者。創部は古くて、過去にはIHベスト4までいって、10年前ぐらいからずっと決勝リーグ進出しています。いわゆる伝統校ってやつです。基本的に1年生の間は基礎トレーニングをやって、2年生になって通常の練習に合流。早くても2年の後半から試合には出るのが通常らしいです。徹底した選手管理で、昔から強みは変わってなく、走ること。異常なくらいのスピードバスケです。特に主将でSGの魚崎さんは中学までは陸上もやってて、短距離で全国4位、長距離でも全国大会に出ています。」

 

黄瀬が川田の説明に驚く。

 

「まるで桃っち…帝光時代のマネージャーみたいっすね。」

 

「で、どうよ武則?」

 

川田が話しきったのを確認し、沼咲が海野に振る。

 

「明和相模原は確かに弱くはなかった…が、強くはない。メンバーを見る感じは厚木千賀かな。だろ?駆。」

 

朝泡が口を開く。

 

「そうだな。てか、明和相模原は弱いだろ。DFが壊滅的すぎる、厚木千賀は攻守バランス取れたスピード型だろ?万が一にも勝てねぇだろ。」

 

「辛口ですね。」

 

銀波が苦笑いしながら言った。川崎が口を開く。

 

「4番の野々村さんも、思ったより弱かったしねぇ。」

 

「そうなんすか?」

 

笠松は1年生6人の会話を聞きながら恐怖を感じていた。

 

(明和相模原は十分全国レベルに達している、弱いだと?!少なくとも野々村は神奈川で5本指に入るレベルだった…ほんとやべぇな今年の1年は。)

 

「なぁなぁ、明和相模原は俺らでも抑えられたけど、厚木千賀はどうなの?」

 

後ろで座っていた水木が手を挙げながら言った。笠松が水木を見る。

 

(あいつは青葉青果の7番…。)

 

朝泡が口を開く。

 

「余裕じゃね?普段俺ら相手に練習してんだから。まぁ、見てみねーとわかんねーけど。」

 

「だが、一応去年3位だからな。4位に勝てたとはいえ、あれと同じではないだろう。警戒しておくにこしたことはない。」

 

海野の言葉に笠松は関心していた。

 

(青葉青果の中でこいつは1番考えるタイプなのか?ポジション的にはマークは黄瀬になる、厄介かもな。)

 

 

 

青葉青果と海常のメンバーが見ている中、試合は始まった。前半はまるで殴り合いのような点取り合戦であった。明和相模原は主将4番(C)野々村と5番(SG)笹野、厚木千賀は全員でRUN&GUNで点を取っていた。前半が終わり、61対58、明和相模原の若干優勢となっていた。沼咲が口を開く。

 

「決まったなこの試合。」

 

その言葉に周りが驚く。黄瀬が首を傾げる。

 

「この点差じゃまだ分からなくないっすか?」

 

「いや、沼咲の言う通りだ。この試合は厚木千賀が勝つ。」

 

笠松の言葉に周りは更に驚く。沼咲は頷いていた。

 

「明和相模原の必勝パターンは第3Qまでで点差を開かせて第4Qは追いつかせない。それには前半は最低でも10点差をつけなければ無理だ。」

 

「でも、互いに走った量は同じじゃないっすか?」

 

「汗の量見てみろ。」

 

黄瀬は言われた通り、両方のベンチを見る。明和相模原は疲れた表情を隠せていなかったが、厚木千賀は余裕があった。

 

「厚木千賀は本来、相手が疲れてきた後半に点を取るチームだ。だが、今回は最初から点を取りに行った。それでも体力は持っている。厚木千賀が第4Qに失速するとしても、それより先に明和相模原の体力が持たなくなる。」

 

「失速しないっすよ。」

 

沼咲が口を挟む。

 

「厚木千賀は全速で走ってない。本来、攻守バランスの取れたチームなのに、守備を捨てすぎてる。明和相模原に止められないことを前提に前半の守備を捨ててる。理由はわかんないっすけど、前半は相手に合わして、後半は自分たちのバスケで勝負っていう作戦だと思います。それだけ走れる自信があるんじゃねーかな。」

 

「作戦か…。」

 

海野は少し睨んだようにコートを見ていた。

 

 

 

試合が再開し、その展開は沼咲と笠松の予想通りであった。厚木千賀はRUN&GUNを止めずに点を重ね、そして、明和相模原の攻撃を止めていた。第4Qには明和相模原の動きが悪くなり、厚木千賀は変わらず走り続けていた。結果は110対79。笠松が口を開く。

 

「次は大木と横須賀南幸台か。大木は去年苦しめられたけど、横須賀南幸台は去年県の2位。面白い組み合わせだな。」

 

沼咲、海野、川崎の3人は大木側のベンチを見て驚いていた。川崎が口を開く。

 

「根潮先輩…だよね、あれ。」

 

「だなぁ…マジかよ。」

 

沼咲が苦笑いしながら答えた。

 

「戻ってきてたんだな、あの人。」

 

海野は少し嬉しそうであった。凪佐が口を開く。

 

「知り合いいたの?」

 

「うん。俺と武則にバスケを教えてくれた中学の先輩。」

 

川崎も嬉しそうであった。

 

「茂樹じゃないの?」

 

「いや、俺も教えたんだけど…。」

 

「茂樹は感覚派過ぎて教えるのに向いてなかった。」

 

「「「あー。」」」

 

海野の言葉に3人は身に覚えがあり納得した。黄瀬が首を傾げる。

 

「海野っちと川崎っちは中学から始めたんすか?」

 

「あぁ。」

 

「そうだよ。」

 

笠松は2人の返事に驚く。黄瀬は中学2年から始めたが、他のキセキの世代は中学の前からやっていた。そのキセキの世代と同格の実力を持つと言われる2人が中学から始めた、それは黄瀬同様伸び代が他の天才たちよりある可能性が高いということであった。だが、その天才を育てた根潮という名前は聞いたことがなかった。笠松が口を開く。

 

「中村、根潮って聞いたことあるか?」

 

「いや、ないです。」

 

「だよな。」

 

「だと思いますよー。」

 

沼咲が伸びをしながら言った。

 

「根潮先輩は中学時代、膝に怪我して試合ほとんど出れてないです。でも、上手いですよ。」

 

黄瀬は目を輝かせていた。

 

「沼咲っちが上手いって言うんすから、俺も楽しめるってことっすね。」

 

「楽しめる…か。」

 

大木と横須賀南幸台のスタメンが並んだ。大木;PG 新城 譲{5番}、SG 根潮 秀也{7番}、SF 加藤 勇次{4番}、PF 飯田 蓮司{8番}、C 一宮 賢人{6番}。横須賀南幸台;PG 丸坂 柊、SG 田中 景義{15番}、SF 工藤 綱吉{4番}、PF 橋本 柚希{11番}、C 新藤 剛典{10番}。面々を見て笠松が口を開く。

 

「どっちの選手も高いな。」

 

「紀子、平均身長は?」

 

沼咲が川田の方を見る。

 

「えっと、大会パンフの情報からですけど、大木高校が189.4cm、横須賀南幸台高校が186.6cm。大木高校の最高身長が3年生の6番 一宮 賢人さん、197cm。横須賀南幸台高校の最高身長が2年生の10番 新藤 剛典さん、200cmです。どちらも例年は中主体のチームで、横須賀南幸台高校は神奈川No.1の守備力って言われています。」

 

「へぇ、中主体のチームに根潮先輩か…。」

 

「どっちも高ぇな…。」

 

水木が凪佐の肩を叩く。

 

「優馬の方が高いな!」

 

「たった1cmだよ。」

 

 

 

──────ピィー!

 

試合が始まり、ボールがコート中央を舞い、両Cが飛び上がる。新藤が先に触り、横須賀南幸台ボールで始まった。丸坂がボールを運ぶ。その前に新城が立ち塞がった。新城が口を開く。

 

「今年は3年が少ないな、人数不足か?」

 

「それもありますけど、ちゃんと実力で選ばれましたよっ!」

 

丸坂が抜きにかかるが、新城はしっかりついてきた。

 

「田中っ!」

 

「はい!」

 

丸坂から田中にパスが渡る。根潮がすぐにマークに着こうとした瞬間に田中がクイックシュートを放る。

 

「クイックシューターか?…いや、リバウンド!」

 

根潮はすぐに外れることを察して、声を飛ばす。しかし、それより先に新藤、橋本、工藤はゴール下に入っており、大木のメンバーはポジションを取れずにいた。新藤が飛び上がる。そして、ボールを掴む。

 

「うるぁぁ!」

 

新藤がフリーでダンクを決める。会場が盛り上がる中、大木はすぐにリスタートした。新城がボールを運んで行く。ハーフライン辺りで丸坂がマークに着く。新城がマークを振り切った加藤にパスを回す。しかし、そのボールは田中の手によってカットされた。

 

「マジか…。」

 

新城が思わず声を漏らす中、田中がドリブルで駆け上がる。すぐに根潮が立ち塞がった。

 

「寄越せ!」

 

「工藤さん!」

 

横を走り抜ける工藤にパスが回る。加藤がすぐに追いかける。しかし、工藤はスリーポイントラインで突然止まった。そのまま、シュートを放る。

 

「嘘だろ…まだリバウンドついてないだろ?」

 

工藤のシュートは綺麗な弧を描き、ゴールに吸い込まれた。

 

 

 

その後も第1Qは横須賀南幸台のパスカットからの攻撃が連発し、21対2で終わった。黙って見ていた笠松が口を開く。

 

「横須賀南幸台はもちろん高さもあるが、神奈川No.1の守備と呼ばれるのはパスカットの成功率が異常に高いことから言われている。中の高さがあまり変わらない以上、平面勝負で横須賀南幸台を崩すのは難関だぞ。」

 

沼咲が楽しそうに口を開く。

 

「平気っすよ、根潮先輩がいるんなら大木の勝ちですよ。」

 

「そんなに強いのか?」

 

「そりゃ、黄瀬も真似するの無理でしょうしね。」

 

「俺が出来ない技っすか?!どんな技術すかそれ?」

 

海野が口を開く。

 

「技って言うよりは力だな。」

 

「力?」

 

「まぁ、見てればわかるよ。」

 

沼咲は依然として楽しそうであった。




いかがだったでしょうか。
来週はもっと余裕を持って予約投稿したいです。
次回の投稿は12月12日18:00です。
どうぞお楽しみに


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18話

お久しぶりです。連載再開します。
今日は特別ですが、これから毎週日曜18:00に投稿していきます。
短いですが、どうぞ。


横須賀南幸台高校VS大木高校の第1Qは16対2で、横須賀南幸台優勢で終わっていた。そして、第2Qが始まる。大木の主将 加藤が根潮の肩に手を置く。

 

「そろそろ行けるな、根潮。」

 

「じゃあ、中も頑張ってくださいよ?」

 

「言っとけ。」

 

両校のメンバーがコートに入った。大木のボールから始まる。新城はマークが着く前に根潮に回す。根潮はスリーポイントラインより手前かつ高い位置でボールを受け取った。田中が急いでマークにつく。

 

「ほいっ!」

 

「えっ…?!」

 

根潮は下半身を動かさず。腕の力だけでシュートを放った。ボールの位置も高いままだったので、田中は反応できなかった。ゴール下でポジションを取ろうとした新藤が驚く。

 

「全員、下がり始めた?てか、届くのかよあれで…しかも、その軌道…。」

 

新藤は長くCをやっている。ゴール下でリバウンドを取る回数も多かった。そのため、入るシュートか入らないシュートかはわかってしまう。その目でハッキリと確信した。

 

「入る…。」

 

根潮の放ったボールは綺麗にゴールリングを潜った。見ていた銀波が口を開く。

 

「ありえない…ですよ…。」

 

笠松も苦い表情になった。

 

「人間技じゃねーよありゃ…。」

 

シュートは長い距離になるほど、体全体の動きの力を上乗せして飛ばす。ゴール下等であれば腕の力だけで飛ばせるが、スリーポイントとなると、ほとんどの選手はそれ以外の力も使わなければ届きもしない。少なくとも、日本の高校生でそれをできる人間はいなかった。沼咲が笑う。

 

「やっぱやべぇなあの人。」

 

「座ってスリーポイント打ってた人だからな、あれが出来ても不思議ではない。」

 

「はぁ?!」

 

笠松が海野の言葉に驚く。横須賀南幸台のメンバーもそのシュートに呆気に取られていた。工藤が口を開く。

 

「すぐリスタートだ!」

 

「はい!」

 

新藤がボールを中に入れる。しかし、大木は全員自陣に戻っており、隙がなかった。工藤が叫ぶ。

 

「俺に回せ!」

 

「工藤さん!」

 

丸坂から工藤にボールが渡る。その目の前には加藤が立ち塞がる。

 

「ほら、来いよ。」

 

「舐めんな…よっ!」

 

工藤はシュートフェイントを入れ、加藤を抜きにかかる。しかし、加藤はしっかりついてきていた。工藤はターンをし、加藤を躱す。加藤は笑っていた。

 

「もらったー!」

 

飯田の手が工藤の持っていたボールを弾く。

 

「なっ、いつの間に…。」

 

加藤がルーズボールをすぐに取る。

 

「根潮!」

 

根潮が既に走っており、それを田中が追いかけていた。加藤から根潮にボールが渡る。根潮はハーフラインを超えたあたりでボールを受け取り、すぐにシュートを放とうとした。田中は追いついても止められないことを分かっていた。

 

「くそっ…(そっからも届くのか?!)」

 

「2度もやらせるか!」

 

橋本も追いかけており、根潮の放つボールに飛びつこうとした。

 

「よっと。」

 

根潮はターンをしながら橋本を躱し、シュートを放った。そのシュートは綺麗にリングをくぐる。田中と橋本が顔を上げると根潮は笑っていた。

 

「やっぱ試合って楽しいー…。」

 

 

 

その後の試合展開は一方的となった。根潮のスリーポイントを連発し、それを囮に他のメンバーが点を取っていった。横須賀南幸台の攻撃は止められ始め、点を取れず、点を取られることが多くなった。

 

──────ピィー!

 

試合終了の笛が鳴り響く。41対80、大木高校の勝利。根潮は1人で16本のスリーポイント、48点を決めた。笠松は結果に引いていた。1人で50点近くを決める。強豪と弱小の試合ならば十分ありえるが、強豪同士、なおかつ横須賀南幸台の守備力は県No.1。

 

「なんだあいつ、しかも体力も十分にある。黄瀬、真似できるか?」

 

「無理っす。ゴールに近ければ可能っすけど、スリーは絶対無理っす。」

 

青葉青果のメンバーが立ち上がる。沼咲はニコニコしていた。

 

「楽しみになってきた!」

 

青葉青果のメンバーが立ち上がったのを見て、桑田も立ち上がる。

 

「では、私も失礼します。決勝リーグ、王者の座を貰いに行きます。」

 

「あぁ、楽しみにしてるぞ青葉青果高校。」

 

黄瀬も立ち上がる。

 

「ぬぁぁぁ!俺も楽しみになってきたっす!沼咲っち、海野っち、川崎っち!全中のリベンジさせてもらうッスよ!」

 

帰ろうとしている3人を指さす。沼咲が笑う。

 

「こっちのセリフだよ。」

 

「あと、銀波っち〜、今度ご飯行こうっす!」

 

「ぜひ、行きましょう。」

 

しばらくして、海常のメンバーも座席を立ち始めた。黄瀬が隣で動かない笠松に首を傾げる。

 

「どうしたんすか?笠松先輩。」

 

「今年の決勝リーグ…去年以上に楽しめそうだ。」

 

笠松は笑っていた。

 

「そうッスね。」

 

 

 

観客席後方で、決勝リーグ進出を決めた厚木千賀高校のメンバーも見ていた。魚崎が笑う。

 

「強いやつがたくさんいるなぁ。これは北の王者として頑張らないとね〜。」

 

 

 

大木高校のベンチの片付けが終わっても会場出口で根潮はコートを見ていた。加藤が声をかける。

 

「根潮、帰るぞ。」

 

「…沼咲、海野、川崎。あの3人とついにやれるのか。」

 

「根潮!」

 

「あ、はい。」

 

 

 

 

 

『海常』、『青葉青果』、『厚木千賀』、『大木』、決勝リーグ進出の4校が出揃った。

 




いかがだったでしょうか。
次の話から4000字前後で1話ずつ投稿していきます。
次回の投稿は4月3日(日)18:00です。
どうぞお楽しみに。


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19話

こんにちは。
今日から毎週投稿を再開していきます。
では、どうぞ。


IH神奈川県予選。神奈川の代表枠は2つ。東西南北4つの支部予選を勝ち抜き、決勝トーナメントを勝ち抜いた4校の総当りで決まる。日程は3日、1チーム1日1試合。その初日。青葉青果VS大木、海常VS厚木千賀の順で試合が行われる。

 

 

 

試合前、青葉青果の控え室。作戦の最終確認が行われていた。桑田が口を開く。

 

「スタートはPG 武則。」

 

「はい。」

 

「SG 飛鳥。」

 

「はい。」

 

「SF 茂樹。」

 

「はーい。」

 

「PF 傑。」

 

「はーい。」

 

「C 優馬。」

 

「はい!」

 

「大木高校は本来、中主体のチームだ。それだけだったら良かったが、今の大木には武則たちの先輩である7番、根潮がいる。あいつを抑えない限り、中の強さも際立ち続ける。高さ勝負ではこのメンバーなら勝てるはずだ。そして、肝心の根潮だが…ポジション的には基本、飛鳥に着いてもらうことになる。」

 

「はい…できるだけ頑張ります。」

 

銀波の返事を聞き、沼咲が笑う。

 

「平気だろ、飛鳥は中学ん時キセキの世代のやつら相手に練習してたんだろ?」

 

「まぁ、いつもダウンしてましたけどね。」

 

「なら大丈夫だ。」

 

桑田が頷きながら口を開く。

 

「第1Qで相手の中を確実に抑える。ポジションはSFだが、相手も中が得意なプレーヤーだ。茂樹、傑、優馬、お前らが鍵となる。確実に中を抑えろ。」

 

「「「はい!」」」

 

 

 

 

 

試合開始の時間になり、両校の選手がコートに並ぶ。青葉青果;PG 海野{4番}、SG 銀波{11番}、SF 沼咲{5番}、PF 川崎{6番}、C 凪佐{8番}。大木;PG 新城{5番}、SG 根潮{7番}、SF 加藤{4番}、PF 飯田{6番}、C 一宮{6番}。両主将の海野と加藤が握手をする。加藤が口を開く。

 

「1年のみで決勝リーグまで来るとはな、驚いた。」

 

「ありがとうございます。このまま全国取らせていただきます。」

 

「神奈川を舐めるなよ?」

 

海野は笑顔でそれを聞き流した。沼咲と根潮が向かい合う。沼咲が口を開く。

 

「根潮先輩治ったんすね?」

 

「完治とはいかなかったけどな…まぁ、君ら3人の成長を見せてもらうよ。」

 

「はい。」

 

両校の選手がそれぞれの位置につく。両Cの凪佐と一宮が向かい合う。

 

──────ピィー!

 

笛の音とともにボールが2人の間の宙を舞う。同時に飛び上がった。2人の身長差は5cm、だが、それ以上の差で凪佐が先に触る。

 

「高すぎ…。」

 

凪佐の弾いたボールを沼咲が取る。

 

「先手…必勝!」

 

沼咲は取った流れでそのままドリブルに入り、ゴールへと向かった。加藤がすぐに立ち塞がる。

 

「易々と先制を取れると思うな!」

 

「いいねぇ、加藤さんっ!」

 

「くっ…?!」

 

沼咲は突然の静止、からの左右へのフェイク、ターンで加藤を躱した。そのままゴールへと向かっていき、ゴール下で飛び上がった。

 

「もらったぁ!!」

 

「やらせるかよ!!」

 

沼咲が加藤を躱す間に飯田が追いつき、沼咲がダンクしようとしたボールを弾こうとしていた。

 

「速いっすね…でも」

 

沼咲はボールを下げ、上に放った。沼咲と飯田が落ち始めた中、そのボールを走ってきていた川崎が両手で取る。

 

「うるぁぁぁ!!」

 

そのまま両手ダンクを決めた。いきなりの派手なプレーに会場が盛り上がる。

 

「すげぇぇ!?!」

 

「本当に高校生かあいつら!!?」

 

大木はすぐにボールを入れ、リスタートした。新城がボールを運ぶ。その前に海野が立ち塞がる。新城は一定の距離を空けて止まった。新城が海野を睨む。

 

(こいつ…本当に1年か?隙がないどころじゃねぇ…気を抜いたら速攻で奪われそうだ。)

 

新城は一息吐いて、コートを見渡した。

 

(他のやつもやべぇな…となると、予定通り…)

 

新城から根潮にパスが回る。根潮は高い位置でボールを受け取った。その前には銀波が立ち塞がる。スリーポイントを警戒し、距離を詰めていた。根潮が銀波を見る。

 

「(こいつは元帝光中一軍…まぁ、でもキセキの世代や沼咲たち程じゃねーってことだよな?)…ほっ!」

 

「速い!?」

 

根潮が下半身を動かさずに腕だけでボールを放った。予備動作が少なく、188cmの身長の打点が銀波の反応を遅れさせた。根潮の放ったボールは綺麗な弧を描き、リングを潜った。ベンチの桑田が舌打ちを鳴らす。

 

「くそっ、飛鳥でも抑えきれないのか。」

 

沼咲が銀波の背中を叩く。

 

「飛鳥、やられたな!」

 

「そうですね。イメージよりだいぶ速いです。流石は茂樹くんたちの先輩ですね。」

 

「だからと言って負けてられねーよな?」

 

「はい。」

 

 

 

次の試合のため、コートの横で海常のメンバーが見ていた。笠松が口を開く。

 

「やっぱり、あの7番は厄介だな。相手してる11番は元帝光とはいえ、一軍補欠。流石にキツいか?」

 

黄瀬が笑いながら口を開く。

 

「いや、あの7番は間違いなく、俺たちキセキの世代と同格って言っていいと思うっすよ。それでも、勝つのは銀波っちっす。」

 

「キセキの世代じゃねーだろ?11番は。同中だからって買いかぶりすぎじゃね?」

 

「そうすっかね…。」

 

黄瀬は楽しそうに試合を見ていた。

 

 

 

海野がボールを運ぶ。海野がパスコースを探りに入ると、すぐに銀波が目に入った。

 

「(気合十分って感じか…)飛鳥!」

 

海野から銀波にボールが渡る。銀波の前には根潮が立ち塞がる。根潮が口を開く。

 

「やり返す気か?」

 

「えぇ。」

 

銀波がノーフェイクでシュートフォームに入る。根潮はすぐにブロックに入る。しかし、銀波は気にせずにそのままボールを放った。根潮の指先にボールが触れた。見ていた笠松がため息をつく。

 

「やっぱり買いかぶりすぎだ、黄瀬。」

 

「そんなことないっすよ。」

 

根潮の指先に触れたボールは不安定な軌道を描きながら、リングに当たった。ゴール下でポジションを取れたのは一宮であった。凪佐が悔しそうな顔をしていた。

 

「リバンっ!…?!」

 

数回跳ねたボールはリングを潜った。根潮はゴールを見て驚く。

 

「ラッキーシュートか?」

 

「切り替えろ!リスタート!」

 

加藤が声を飛ばす。新城がボールを運び、ハーフラインを越えたところで、根潮に回す。根潮の前には銀波が立ち塞がった。

 

「さっきのはラッキーだったな。でも、俺はラッキーじゃないんでねっ!」

 

根潮がシュートフォームに入る。銀波は先程より早く反応した。それを見て根潮が銀波を抜きにかかる。

 

「おっと!」

 

「なっ?!」

 

フェイントに釣られたように見えた銀波は根潮の目の前にいた。根潮はそれに驚きながらもすぐにボールを上げ、放った。

 

「くっ!?」

 

銀波はすぐに手を伸ばすが、根潮の放ったボールに届かず、そのボールはリングを潜った。悔しそうにする銀波を根潮が少し首を傾げて見ていた。

 

「リスタート!」

 

沼咲の言葉に凪佐がすぐにボールを入れ、海野が受け取り、カウンターをしかける。しかし、ハーフラインを越える前に新城が立ち塞がる。

 

「あなたには無理ですよっ!」

 

海野はフェイクを入れ、新城を抜き去った。

 

「やらせねぇよ!」

 

しかし、すぐに飯田が立ち塞がる。海野の動きが止まり、その瞬間に大木のメンバーが守備についた。それを見た黄瀬が驚く。

 

「速いっすね、大木の守備。」

 

「そりゃそうだろ。神奈川No.1の守備は横須賀南幸台だ、だが、No.2を決めるとしたら間違いなくウチか大木。その守備力があったからこそ、横須賀南幸台に勝ったんだ。」

 

「へぇ。」

 

「さっきみたいなラッキーシュートはそうそう決まらねぇ。あれを崩さない限りは青葉青果は勝てねーぞ。」

 

「ラッキーじゃないっすよ?」

 

海野から銀波にボールが渡る。銀波の前には再び、根潮が立ち塞がった。根潮が口を開く。

 

「さっきみたいなラッキーを狙う気か?また止めてやるよ。」

 

「それは間違いですよ?」

 

銀波はまたノーフェイクでシュートフォームに入った。

 

「またかよっ!」

 

根潮が飛び上がり、また指先が銀波の放ったボールに触れた。根潮はそれに違和感を持った。

 

(また指先?!…まさか…)

 

ボールは不安定な軌道でリングを跳ねた。数回跳ね、ボールはリングに吸い込まれた。根潮が銀波を見る。

 

「まさかお前…狙ったのか?」

 

「えぇ、正解です。」

 

驚く笠松の横で黄瀬が口を開く。

 

「銀波っちは元々身体が弱くて体力がつきにくい体質で、昔からフルで試合に出れないんすよ。それでも帝光中に入学したころから一軍の補欠にいたっす。」

 

「中1だと?」

 

今の高1が中1の年、それは帝光中三連覇の1年目。キセキの世代の名前が全国に知れ渡った年である。黄瀬以外のキセキの世代の4人も1年生から一軍入りを果たしている。それは、銀波はキセキの世代と同格であるという証明であった。黄瀬が続ける。

 

「本来ならキセキの世代に選ばれてもおかしくなかった。銀波っちのシュートは触れても止められない。俺もキセキの世代の誰も真似出来ない、銀波っち唯一の技。」

 

観客席が盛り上がる。

 

「すげぇぇ!!」

 

「なんだあのシュート?!まぐれじゃねぇのか?!」

 

「ブロックに当ててスリーって可能なのか?!?」

 

青葉青果のベンチも盛り上がる。桑田が立ち上がりガッツポーズをした。

 

「よしっ!」

 

沼咲が銀波に駆け寄る。

 

「ナイスだ!飛鳥!」

 

根潮が戻る銀波を見る。

 

「銀波 飛鳥…か…。新城さん。」

 

突然呼ばれて新城が驚く。

 

「いきなりですけど、全部俺に回して下さい。」

 

「(こいつ…久々に相手に対して楽しそうにしてんな…)わかった、頼むぞ。」

 

「はい。」




いかがだったでしょうか。
次回の投稿は4月10日(日)18:00です。
どうぞお楽しみに。


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20話

こんばんは!
今回は少し文量多めです。
どうぞ。


IH予選神奈川県予選決勝リーグ1日目、青葉青果高校VS大木高校の第1QはSG対決となっていた。大木のPG新城{5番}からSG根潮{7番}にボールが渡る。すぐに銀波がマークにつく。根潮は一瞬ドライブの姿勢になり、銀波の重心が下がった。が、それを確認した根潮がシュートを放つ。銀波はすぐに手を伸ばしたが間に合わずに綺麗な3Pが決まった。銀波が根潮を見る。

 

「(普通のシューターなら足の反動を使い、そのタメの時間があるから身長で負けている場合は追いつかれやすい。だが、この人はそれがないからシュートを放つまでの動作が少ない…。)やっぱり強いですね。」

 

青葉青果はすぐにボールを入れ、海野が運ぶ。海野はマークが着く前に銀波にボールを繋いだ。銀波の前に根潮が立ち塞がる。根潮が口を開く。

 

「ネタはわかった…上でもうやらせねーよ。(こいつは相手にボールが触れることを前提としてる…触れなきゃ触れないで綺麗に入れる可能性がある。ってことは、シンプルに落としにかかればいい話だ。)」

 

根潮が3Pを警戒して銀波との距離を詰めようとした瞬間に銀波がバックステップからのシュートの態勢になった。

 

「なっ…?!くそっ!!」

 

根潮がすぐに飛びつく、が、不意をつかれたため、指先がボールに触れただけで、ボールはゴールに向かって飛んだ。根潮が目でボールを追う。

 

「くっ…(これじゃさっきと同じ…。)」

 

放たれたボールはリングを跳ね、潜った。すぐに大木はリスタートし、根潮にボールが回る。その前に銀波が立ち塞がる。根潮がノーフェイクでシュートフォームに入る。銀波はすぐにブロックに入った。しかし、根潮はすぐにボールを下げ、ドライブで抜きにかかった。

 

「そう来るだろうな。」

 

ブロックに飛んだはずの銀波が立ち塞がった。根潮は急に静止し、飛び上がり、シュートを放った。

 

「やらせませんよ!」

 

銀波の手がボールを弾く。

 

「くそっ!」

 

観客席で見ていた笠松が口を開く。

 

「やべぇな2人とも…。大木の7番のシュートフェイントからのドライブは全国でも止められるやつはそういねぇ…。そこからのストップ&シュートは俺も止められる自信がねぇが、それを止めるお前の元チームメイトもやべぇな。」

 

隣の黄瀬を見る。黄瀬は楽しそうな表情をしていた。

 

「銀波っちはすごいっすよ。俺が一軍に入ってから色々教えてもらったのも黒子っちと銀波っちっすもん。」

 

青葉青果がカウンターをしかける。海野がボールを運ぶ。

 

「ください!」

 

銀波が真っ先に3Pライン手前まで走っていた。海野がゴール下を見る。

 

「(優馬と傑はまだゴール下についてない…、茂樹はもうすぐ。あちらさんは4番と6番が戻れている。となると、不利だが…、あいつが外すわけねーな。)飛鳥!」

 

海野から銀波にボールが渡る。銀波は受け取ってすぐにシュートフォームに入る。

 

「やらせるかぁ!」

 

根潮が後ろから追いつき、ブロックに飛ぶ。銀波は後ろに飛んだ。

 

「は?!」

 

銀波がフェイダウェイでシュートを放った。笠松が驚く。

 

「なんだありゃ?!」

 

「相変わらず凄いっすね、銀波っち。」

 

放たれたボールはリングを跳ね、ゴールに吸い込まれた。観客が盛り上がる。

 

「おぉぉ!?すげぇ!!」

 

「フェイダウェイで3Pとか人間業じゃねぇ!」

 

根潮が銀波を見る。

 

「そんな技まで持ってんのかよ。」

 

「僕の技じゃないですよ。」

 

沼咲が駆け寄る。

 

「すげぇな、飛鳥!」

 

「ありがとうございます、茂樹くん。」

 

新城がボールを運び、新城から根潮にボールが渡る。根潮の前には銀波がついていた。根潮が左右に振ってからドライブで抜きにかかった。が、銀波は振られずに立ち塞がった。根潮はストップ&シュートを放とうとした。

 

「やらせません。」

 

銀波の腕が覆い被さる。根潮はそれを確認して、中にパスを入れた。笠松が驚く。

 

「パス?!」

 

飯田が受け取り、ジャンプシュートを放った。川崎は隙をつかれ、ブロックが遅れ、川崎の指先がボールに触れる。ボールはリングを跳ねた。一宮と凪佐がせめぎ合う。

 

「うおぉぉ!!」

 

「くっ!?」

 

一宮がポジションを取り、飛び上がった。一宮の手がボールに触れた。

 

「やらせるかよっ!」

 

突如伸びてきた手にボールが弾かれる。その手は沼咲のものであった。弾かれたボールを凪佐が高い位置で取った。

 

「優馬くん!」

 

銀波が叫ぶ。銀波は既に相手コートに走っていた。

 

「ふんっ!!」

 

そのまま腕を振り下ろし、ボールが銀波に向かって一直線に飛んだ。銀波は3Pライン手前で受け取り、すぐにシュートフォームに入った。

 

「やらせねぇよ!」

 

根潮が後ろから飛びつく。が、銀波はボールを1回ついて、後ろに下がった。

 

「なっ…嘘だろ。」

 

銀波が綺麗なフォームでボールを放つ。誰もいない大木コートのリングをボールが潜る。銀波がニコリと口を開く。

 

「僕の勝ちですね。」

 

「くっ…。」

 

銀波が自陣へと戻っていく。加藤{4番}が根潮の背中を叩く。

 

「切り替えろ、次決めるぞ!」

 

「…っ、はい!」

 

新城がボールを運ぶ。新城はマークが着く前に根潮に回した。根潮の前に銀波が立ち塞がる。根潮はドリブルで抜きに掛かろうとしたが、銀波はしっかりついてきた。根潮は急に静止し、腕だけでボールを放とうとした。

 

「やらせませんよっ!」

 

「くっ…。」

 

根潮はボールを止めて、マークが緩んでいた加藤にパスをした。加藤がボールを受け取りながら驚く。

 

「加藤!」

 

新城が叫ぶ。その声ですぐに我に返った。加藤には沼咲がついていたが、沼咲も予想外の根潮のパスに反応が遅れた。加藤がシュートフォームに入る。

 

「やべっ、やらせないよっ…あー。」

 

沼咲が飛びついた瞬間に加藤はドリブルに切り替え、沼咲を抜いてすぐにシュートを放った。

 

「よしっ!ナイスパス根潮!」

 

「…はい。」

 

加藤が根潮の肩を叩きながら自陣に戻る。根潮は悔しそうに戻って行った。その様子を見ていた笠松が口を開く。

 

「勝負ついたな…。」

 

「そうッスね。」

 

根潮のパスは判断としては決して間違ってはいない…が、先程までSG同士の3Pの撃ち合い、実質的な外のタイマン。その勝負から逃げたのは明白であった。海野が沼咲に駆け寄る。

 

「今のはしょうがない…が、思ったより早かったな。」

 

「そうだな…。」

 

沼咲は悲しそうな目をして根潮を見ていた。その後、第1Qは一方的な展開となった。凪佐、川崎、沼咲、海野はそれぞれのマークを外さず、銀波が根潮を圧倒。第1Qは19:10、青葉青果リードで終わった。

 

 

 

青葉青果ベンチでは、銀波が息を荒らげながら座り込んでいた。桑田が口を開く。

 

「よし、第1Qは上出来だ。飛鳥、よくやった。第4Qまで休んでろ。」

 

「はい…、すみません。」

 

「第2Qは7番に武則をつける。抑えられるな?」

 

「まぁ、自信はないですけど。」

 

海野が正直に答えた。沼咲が海野の背中を叩く。

 

「根潮先輩に直接成長見せられんじゃん!」

 

「PGは駆、優馬を下げて傑をC、茂樹をPF、SFに奏が入れ。」

 

「はい」

 

凪佐は悔しそうな表情を浮かべていた。凪佐は第1Q中、大木のC一宮に完璧に抑えられていた。それを見て桑田が口を開く。

 

「相手のCは3年生、単純に経験値が違う。4月から始めた優馬が敵わないのはしょうがない。傑のプレーを見て抑え方を学べ。第3Qは戻すぞ!」

 

「…はい!」

 

凪佐が返事をしたところで笛が鳴った。5人がコートへ出る。青葉青果のメンバーを見た笠松が口を開く。

 

「なんで11番を下げたんだ?」

 

「あー、銀波っちの体力の問題じゃないっすかね。体力がない上に第1Qは大木の7番を抑えた。実力差は明白っすけど、あの7番も充分強いっすからね。」

 

「そりゃ実力あってもキセキの世代に選ばれねーわけだ。代わりに4番がつくのか…。第1Qは目立った動きはしてなかったが、お前と同格なんだろ?」

 

「そうスっね。海野っちなら問題なく抑えるんじゃないすか?」

 

第2Qはゆったりとした立ち上がりとなっていた。朝泡がボールを運ぶ。その前に新城が立ち塞がる。

 

「じゃあ、そろそろ行きますかね。」

 

朝泡が誰もいないところにボールを出した。その行動に大木の全員が呆気に取られる。誰もいないはずのところに急に舟木が現れ、そのボールを曲げ、ゴールへと飛ばした。

 

「ナイス!」

 

川崎が飛び上がり、それを取る。一宮は反応が遅れ、飛べなかった。

 

「ふんっ!」

 

川崎がダンクを決める。会場が湧き上がる。

 

「おぉ!すげぇ!!」

 

「急にパスが曲がった!」

 

笠松はそのパスに見覚えがあり、驚く。隣の黄瀬も驚いていた。

 

「今のは…誠凛の…?!」

 

「黒子っちのパスっすよ…。なんすかあれ。」

 

新城がボールを運ぶ。

 

(なんだ今のは…。噂には聞いていたが、あれが青葉青果のマジックパスか…。)

 

「気散らしすぎ!」

 

朝泡が新城の持っていたボールを弾く。

 

「あっ?!」

 

朝泡がそのままボールを拾い、大木コートへと攻め上がって行った。

 

「行かせるかよっ!」

 

加藤がすぐに反応し、立ち塞がった。朝泡はスピードを緩めず、突っ込む。そして、ロールで加藤を躱した。

 

「くそっ…(こいつもやべーのかよ。)」

 

朝泡がレイアップのフォームに入る。

 

「やらせねーよ!!」

 

飯田がギリギリで追いつき、ボールを弾こうと飛びつく。しかし、朝泡は飛ぶ直前に体を回転させ、左サイドへとボールを流した。

 

「なんだと…?!」

 

そこには海野がいた。海野がボールを受け取りシュートを放つ。

 

「ナイスパス駆。」

 

海野の3Pが決まる。笠松が朝泡を見て口を開く。

 

「何もんだあの10番…。しかも4番もリバウンドがいない状況でよく3Pやったな。」

 

「10番はわかんないっすけど、海野っちは凄いっすからね。でも確かに10番も相当上手いっすね。」

 

笠松は初見のプレーで褒める黄瀬に驚いていた。新城が慎重にボールを運ぶ。朝泡はドライブを警戒しつつディフェンスをしていた。新城が1番マークの薄い加藤にボールを回す。加藤の前には舟木が立ち塞がる。加藤は左右にフェイントを入れ、抜きにかかった。舟木はフェイントに釣られながらもなんとか止めた。

 

「あめぇよ、1年!」

 

「あっ。」

 

加藤はロールを入れ、舟木を躱す。沼咲が急いでヘルプに行こうとしたが、それより前に加藤がジャンプシュートを放つ。ボールはリングをくぐった。

 

「よしっ!」

 

沼咲が舟木に駆け寄る。

 

「すまん、ヘルプ間に合わなかった。」

 

「いや、ごめん。俺にあの人抑えるの無理。」

 

舟木の正直な言葉に沼咲が笑う。

 

「ははっ、しょうがねーよ。次も頼むぞ。」

 

「わかってる。」

 

朝泡がボールを運ぶ。センターラインを越えたところで新城が立ち塞がる。新城はドライブを警戒して距離をとってマークをしていた。朝泡が笑う。

 

「舐めすぎだろっ!」

 

「くっ!?」

 

朝泡が3Pを放つ。新城は距離をとっていたため、追いつかなかった。綺麗な弧を描き、リングに入った。

 

「くそっ。(近づいたらドライブ離れたら3P、海常の笠松と同じスタイルかよ。)」

 

「チョロいっすね先輩。」

 

朝泡が見下したように新城を見る。

 

「あ?!」

 

「やめろ新城!」

 

加藤が新城の肩を掴んで止める。朝泡はヘラヘラしながら戻って行った。自陣へ戻る沼咲が朝泡の隣を通る。朝泡が口を開く。

 

「あれでいいのかよ?」

 

「あぁ、十分だ。次は新城さんが攻めてくる。」

 

「わかってる。」

 

新城がイラつきながらボールを運ぶ。朝泡が立ち塞がる。新城が大きく息を吐く。

 

「ふぅ。そんな挑発にのるはずねぇだろっ!」

 

新城が加藤にパスを出す。しかし、そのボールは沼咲の手によって弾かれた。

 

「予想通り!」

 

沼咲がボールを拾う。その瞬間、朝泡が走り出した。

 

「行け!」

 

沼咲が前を走る朝泡にボールを出す。朝泡がドリブルでゴールへ向かおうとしたところに、新城が立ち塞がる。

 

「行かせねぇよ!」

 

「よっと。」

 

「なっ?!」

 

朝泡がロールで新城を躱し、レイアップを決めた。新城が悔しそうに朝泡を見る。

 

「そんなもんっすか?先輩。」

 

「くっ…。」

 

新城がボールを運ぶ。新城がコートを見渡す。

 

(さっきのは驚いたが…、そう易々とパスカットはさせねぇよ!)

 

新城が沼咲と逆サイドの加藤にパスを出した。

 

「予想通りっ!」

 

「なっ?!」

 

朝泡がそのボールを弾く。舟木がそのボールを取った瞬間に沼咲が走り出した。舟木がすぐに沼咲にパスを渡す。沼咲を飯田が追いかけていた。沼咲が3Pライン付近でボールを取ったところで飯田が前に立ち塞がる。

 

「やらせるかよっ!」

 

「やる気満々っすね。」

 

沼咲が股下から後ろにボールを出した。

 

「は?!」

 

驚く飯田を他所に沼咲がゴールに走る。沼咲の出したボールを朝泡が受け取る。その前に新城が立ち塞がろうとした瞬間、朝泡が誰もいない横にボールを出す。

 

「ナイス…っ!」

 

そこには舟木が現れ、掌底でボールをゴールに送った。不意をつかれ静止した飯田を置き去りにし、沼咲がゴール下に走り飛び上がる。

 

「よっ…しゃい!!」

 

沼咲がアリウープダンクを決めた。新城が悔しがる。

 

「くそっ!(なぜパスカットされる…いや、今のは分かりやすかったか…いやでも、他のコースは防がれる可能性が高かった…)」

 

「どんまい、新城。(にしてもなんだあのパスは…?!パスカットもどうにかしなきゃいけねぇし。)」

 

加藤が新城の肩に手を置く。新城はそれでハッとし、落ち着きを取り戻そうとした。朝泡と沼咲は笑っていた。

 

 

 

そこから新城のパスは朝泡と沼咲にカットされることが多くなり、そこからのカウンターで青葉青果はリードを広げて始めた。大木高校は堪らずにタイムアウトを取った。青葉青果のベンチは楽しそうに話しており、それとは逆に大木高校のベンチは沈み始めていた。根潮が口を開く。

 

「俺にパスください…。」

 

その言葉に驚く。根潮は第1Qで銀波に叩きのめされ、心が折れかけていた。加藤もそれを察して銀波へのパスは控えていた。新城が根潮を見る。

 

「…行けるか?」

 

「はい。俺のせいでパスの幅が狭まってるのはわかってますし、俺の実力は11番(銀波)に劣っていました。でも今のマークは4番です。あいつの本来のポジションはPGかSG。負ける訳には行きません。」

 

根潮の目は死んでいなかった。その目を見て、新城が頷く。

 

「よし。でも、お前に頼りっぱなしにはしない。加藤、分かってるよな?」

 

「あぁ。分かってる。」

 

タイムアウトが明け、10人がコートに戻る。青葉青果ボールで再開し、朝泡がボールを運ぶ。朝泡の前には新城が立ち塞がっていた。朝泡は新城を含め、大木高校の5人の顔つきが戻っていることに気づいていた。朝泡はニヤリとしながら口を開く。

 

「なんか変わったようですけど、意味ないっすよ!」

 

朝泡が左右に振って新城を抜く。

 

「くそっ…!」

 

「行かせねぇ!!」

 

朝泡が新城を抜いた瞬間に飯田が朝泡のボールを弾こうと腕を伸ばし現れた。朝泡はすぐにボールをタップし、フリーになった沼咲に渡した。

 

「くそっ!(なんつー反射神経だよこいつ。)」

 

沼咲はボールをキャッチした瞬間にすぐにジャンプシュートを放った。しかし、沼咲の視界に突然腕が伸びてくる。

 

「やらせん!」

 

加藤がブロックして、ボールを弾いた。

 

「マジかー。」

 

そのボールを一宮が拾い、すぐに前を走る新城にボールを投げる。朝泡は不意をつかれ新城に一瞬置いてかれていた。新城が受け取り、そのままハーフラインを越えた。新城がゴールへドリブルで向かおうとした瞬間に持っていたボールが弾かれた。ボールがコートの外へと出る。弾いた腕は舟木のものだった。新城が舟木を見る。

 

「くそっ(なんなんだこいつは…気配の消し方が異常すぎる。)」

 

沼咲が戻りながら舟木とハイタッチをする。

 

「サンキュー、助かったー。」

 

「いつも運んでもらってるからへーき。」

 

「そりゃそーか。」

 

加藤がボールを入れ、新城がボールを持つ。加藤と新城の予測通り、根潮のみがカットされにくいマークをされていた。海野が少し内側に入り、それを利用して朝泡が新城のパスコースを制限するようなディフェンス、その穴を沼咲がいつでも飛び出せるような形。そして、舟木の位置は目立たないようなところ。一度タイムアウトを取ったことで新城の思考はクリアになっていた。

 

「根潮!」

 

新城が根潮にパスを回す。海野がすぐに間合いを詰める。根潮が海野を見る。

 

「さっきの11番には完璧に抑えられたが…、本職じゃねぇお前に抑えられる俺じゃねーよ!」

 

根潮がバックステップから3Pを放つ。根潮と海野の身長差は4cm、それに加え根潮の人並み外れた腕の長さと脚の力を連動させないシュートフォーム。海野が急いで飛びついたが、それも虚しく、綺麗な弧を描きボールはリングを潜った。

 

「くそっ!」

 

「悪いけど、お前じゃ俺を止められねーよ。」

 

海野は悔しそうに、そして嬉しそうに根潮を見ていた。

 

(マジで復活してんじゃん…、てか、飛鳥はよくこれを完璧に止めてたな。でも、楽しくなってきた!)

 

朝泡がボールを運ぶ。朝泡が見渡すと海野の視線を感じた。

 

「(やり返す気か…まぁ、あいつなら平気だろ。)ほらよっ!」

 

朝泡から海野にボールが渡る。海野の前には根潮が立ち塞がっていた。3Pライン手前で受け取ったため、根潮は3Pも警戒していた。海野がいきなりシュートフォームに入る。根潮はすぐに反応して手を伸ばし、ブロックに入った。海野は根潮の膝が伸び始めたのを確認して、ボールを下げ、根潮の右からドライブを仕掛けた。

 

「行かせねぇよ!…?!」

 

根潮がすぐに体勢を戻し、海野の前に立ち塞がったが、ボールをすぐに後ろに戻し、左側からのドライブに切り替えた。根潮がなんとか追いつく。

 

「だから行かせねぇっ、くっ?!」

 

海野は冷静にストップをかけ、後ろに下がった。根潮の足がもつれ、転ぶ。海野はそのまま3Pを放った。綺麗な弧を描き、リングを潜る。根潮が嬉しそうに海野を見る。

 

「上手くなったな。」

 

「誰に3P教わったと思ってるんですか?」

 

「そうだったな。」

 

そこから海野と根潮の3P勝負が始まった。第2Q残り8秒。根潮が海野を躱して3Pを決めた。根潮がガッツポーズをする。沼咲が声を荒らげる。

 

「すぐに出せ!」

 

「わかってるっ!!」

 

川崎がすぐにボールを拾い、朝泡にパスした。加藤が自陣に戻り

 

「守りきるぞ!」

 

「「「おう!!」」」

 

朝泡が海野にボールを渡す。海野は1人で上がって行った。戻りきれていない大木のメンバーを抜いていく。3Pラインに近づいたところで根潮が立ち塞がる。

 

「やらせねぇ…は?!」

 

海野は横にボールを出した。そこには舟木が走ってきており、ゴール下に沼咲が走っていた。加藤が舌打ちをしながら沼咲を追った。

 

(このタイミングでアリウープ狙いかよ!?)

 

根潮の足がゴールへと向く。舟木はそれを確認して、ボールをタップし海野に戻した。海野がボールを受け取り、3Pを放った。根潮は虚をつかれ、フリーで打たしてしまった。笛がなる。海野の放ったボールは綺麗にリングを潜った。

 

「ブザービートだ!!」

 

「すげぇぇ!!?」

 

会場が盛り上がる。海野は安心したような顔をして口を開いた。

 

「これで決めた数は同じですね。」




いかがだったでしょうか。
次回の投稿は4月17日(日)18:00です。
どうぞお楽しみに


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21話

こんばんは!
どうぞ!


青葉青果VS大木の前半は47:24で終わった。10分間のハーフタイムに入り、それぞれ控え室へと戻って行った。青葉青果の控え室では選手達が楽しそうに話していた。桑田が口を開く。

 

「では、後半の話をするぞ。」

 

全員が黙って桑田の方を見る。

 

「後半、相手は4番が動いてくるはずだ。この試合では7番が目立ちがちだが、大木のエースは主将の加藤だ。今までの試合を見ても後半から動いてくる傾向にある。」

 

沼咲が口を開く。

 

「俺っすね。」

 

「あぁ。そして、武則と奏を下げて蒼と優馬を入れる。8番には傑を当て、優馬には6番をマークしてもらう。傑は8番のマークをしつつ優馬をフォローしてくれ。蒼には7番を当てるが、第3Qはあまり動いてこないだろう。いざというときは茂樹を当てるか、武則を戻す。第3Qで終わらせるぞ。」

 

「「「はい!」」」

 

 

 

時間になり、両選手がコートに戻ってきた。海野が根潮を見る。

 

「(やっぱり10分じゃ回復しないか…)大丈夫ですか、根潮先輩。」

 

「うるせっ。」

 

ジャンプボール、凪佐と一宮が向かい合っていた。一宮が口を開く。

 

「6番には完璧に抑えられたが、お前には抑えられないよ。」

 

「そうですね。でも…」

 

──────ピッ!

 

審判の笛とともにボールが宙に浮いた。凪佐と一宮が同時に飛ぶ。凪佐が圧倒的な高さでボールを弾いた。

 

「高さでは絶対負けないですよ。」

 

「くそっ…(身長だけじゃねぇ、ジャンプ力も…。)」

 

ボールが朝泡に回る。青葉青果のメンバーが沼咲を残して右サイドに寄り始めた。朝泡から沼咲にボールを繋げる。沼咲の前には加藤が立ち塞がる。

 

「(アイソレーションか…、こいつ、俺との1on1に持ち込む気か。)舐めるなよ1年。」

 

「舐めないっすよ。どちらにせよ、次来るのあんたでしょ?」

 

沼咲は笑いながらも目は真剣であった。沼咲の重心が少し右にずれた。次の瞬間、左側から加藤を抜きにかかった。加藤は一瞬つられたが、すぐに沼咲の前に立ち塞がった。

 

「よっ!」

 

沼咲はすぐにロールをいれて加藤を抜いた。が、すぐにボールを後ろに戻す。沼咲が行こうとしたところに加藤の腕が伸びてきていた。加藤がすぐに沼咲の前に立ち塞がる。沼咲は楽しそうにしていた。見ていた黄瀬が驚きながら口を開く。

 

「あの4番すごいっすねー、沼咲っちの動きについていけるのはすごいっすよ。」

 

「あたりめーだろ。加藤は去年、うちを苦しめてくれたやつだ。お前らほどの才能じゃないしろ、実力は俺らの学年じゃトップクラスだ。俺もあいつを1on1で止めるのは正直無理だ。」

 

黄瀬は悔しそうにしている笠松を少し驚きながら見ていた。

 

「まぁでも、あの4番に沼咲っちを抑えるのは無理っすよ。」

 

沼咲は楽しそうにその場で高速の変則ドリブルをし始めた。加藤の目はその動きについていけていなかった。

 

「なんだコイツ…?!」

 

突然、沼咲の手からボールが消える。加藤が気を取られた瞬間に沼咲が加藤を抜く。加藤が振り返ると、沼咲はドリブルをしていた。

 

「くそっ(どこからボール出しやがった?!)」

 

ゴール下で沼咲が飛び上がる。

 

「やらせるか!」

 

一宮がブロックに入る。沼咲はダンクの姿勢に入っていた。沼咲の持つボールに一宮の手が重なる。しかし、一宮の腕が押され始めた。

 

「くっ(なんだこのパワー…。)」

 

「うりゃっ!」

 

沼咲のダンクが決まる。一宮は衝撃で吹き飛ばされた。転がる一宮に沼咲が手を伸ばす。一宮はその手を借りて立ち上がった。

 

「すみません、こんなに軽いとは思わなかったんで。」

 

「このやろう…。」

 

新城がボールを運ぶ。大木もアイソレーションをとって、加藤にボールを回した。加藤の前には沼咲が立ち塞がる。

 

「やり返させてもらうぞ。」

 

「どうぞー。」

 

沼咲は楽しそうに構えていた。加藤がシュートフォームに入る。沼咲は急いで手を伸ばした。それを確認した加藤がボールを下げて沼咲の左側から抜きにかかる。

 

「行かせないっすよ。」

 

沼咲は振られずに立ち塞がった。

 

「こっちだよっ!」

 

加藤がボールを右手から左手にスライドさせ、沼咲の右側から抜いた。

 

「わかってますよっ!」

 

「なっ?!」

 

沼咲の手によって後ろからボールが弾かれた。ボールが転がり、それを凪佐が取る。沼咲が大木コートへ走り出した。

 

「ふんっ!」

 

凪佐から沼咲にボールが渡る。新城が声を荒らげる。

 

「カウンターだ、戻れ!」

 

沼咲はフリーのままドライブで上がって行った。

 

「行かせるか!」

 

加藤が走って追いつき、沼咲の前に立ち塞がった。沼咲は一瞬立ちどまり、その場で連続レッグスルーから前後へのフェイントをいれた。緩急によって加藤の足元が崩れる。

 

「くっ…そ…!」

 

加藤が転ぶ。その横を沼咲が抜いて行った。ゴール下で飛び上がる。

 

「よっ!」

 

空中で股下からボールを持ち替えてダンクを決めた。沼咲の魅せるプレーに会場が盛り上がる。

 

「すげぇ!なんだ今のダンク!!?」

 

「本当に1年生かあいつは?!」

 

会場の空気が青葉青果の空気になってきていた。すぐにリスタートし、新城がボールを運ぶ。新城が加藤にボールを繋げた。加藤の前には沼咲が立ち塞がる。加藤は迷っていた。

 

「(くそっ、悔しいが俺ではこいつを抜けない…だからと言って逃げるのも…パスと見せかけて抜きに行くか…。いや、こいつには通用しない…)あっ?!」

 

「気散らしすぎですよ?」

 

加藤の持つボールを沼咲が弾く。そのボールを朝泡が拾う。

 

「よしっ、速攻!」

 

朝泡がドリブルで駆け上がる。新城がすぐに反応して、立ち塞がる。

 

「行かせねぇ…は?」

 

朝泡が突然クイックシュートを放つ。綺麗な弧を描きゴールへ向かった。新城がその軌道を見て驚く。

 

「これは…(外れる?!)」

 

「ナイスっ!」

 

そのボールをリング横で沼咲が受け取りダンクを決めた。

 

「アリウープだぁ!!」

 

「青葉青果止まらねぇ!!」

 

自陣へ戻る沼咲と加藤がすれ違う。加藤が沼咲を見る。

 

「(こいつ…前半までスピード抑えてたのか?あのPGも後ろから走るヤツにアリウープ合わせるのかよ?!)…くそっ。」

 

沼咲は朝泡とハイタッチをしていた。

 

「いぇーい、ナイス駆!」

「急に合図出すなよ。てか、お前相変わらずおかしいスピードしてんな。」

 

「いやぁ、それほどでも。」

 

青葉青果のメンバーは楽しそうであった。諦めムードの漂う大木のベンチを見て加藤が声を荒らげる。

 

「まだ後半が始まったばかりだ!全員気合い入れろ!」

 

「「「はい!!」」」

 

諦めていない加藤に大木のメンバーは顔を上げた。新城がボールを運ぶ。その前に朝泡がついた。

 

「(俺にこいつは倒せない。)加藤!」

 

「おう!」

 

新城から加藤にボールが渡る。加藤は目の前の沼咲を見た。沼咲はヘラヘラしていた。

 

「やる気満々っすね、先輩。そういうの結構好きっすよ?」

 

「沼咲だったか…。俺は大木の…」

 

加藤がドライブの体勢に入る。沼咲は警戒して少し下がった。

 

「エースだ!」

 

抜きにかかる加藤に沼咲が追いつく。が、加藤は逆に振り、沼咲は加藤のフェイントにつられ、反応しきれなかった。

 

「すげぇなこの人…でも…」

 

「なっ?!」

 

抜いた瞬間に加藤の持っていたボールが弾かれる。弾いた手は水木であった。

 

「いぇい!茂樹!」

 

水木はすぐにルーズボールを拾ってぶん投げた。沼咲は水木がボールを取るのを確信していたかのように前を走っていた。加藤は突然出てきた水木に驚いていた。

 

(どこから現れやがったんだこいつ…。こいつも青葉青果のマジックパス使いなのか?)

 

大木ゴールへドリブルする沼咲に新城がなんとか追いつく。

 

「行かせるかよ!」

 

「もう進む必要ないですよっ!」

 

「は?!」

 

3Pラインより手前で沼咲は突然シュートを放った。

 

「(嘘だろ?…リバウンドもいないのに…でも)入るのか…!?」

 

沼咲の放ったボールは綺麗にリングを潜った。試合がリスタートし、新城がボールを運ぶ。

 

「(加藤のところには5番に加えてさっきの突然現れる7番…てかマジでこいつらどんなことしたらここまで消えるんだよ…。)くっ。」

 

新城の前には朝泡がいた。朝泡のディフェンスに対して新城はパス以外の選択肢を与えられていなかった。一宮がゴール下でパスを要求していた。

 

「(根潮は体力が回復しきってない上にマークは7番…飯田の相手はさっき一宮を抑えた6番…どちらにしてもそこしかないか…)頼む。」

 

新城から一宮にパスが繋がる。一宮には凪佐がついていた。身長では凪佐が上であったが、一宮の方がバスケ経験値が上であるため、凪佐は簡単にポジションを奪われていた。

 

「うるぁ!!」

 

「ぐっ?!」

 

一宮が凪佐を吹き飛ばしながら両手ダンクを決めた。一宮が転がっている凪佐に手を出し、凪佐を立たせる。

 

「悪いが、バスケ初心者に負けるような俺じゃない。」

 

「強いですね…。」

 

一宮が自陣へ戻って行った。沼咲が凪佐に駆け寄る。

 

「言われてるじゃん、優馬。まぁしょうがないよ今のは。それにもう点を取らせない。蒼、タイミング測れたよな?」

 

「おう、もうヘーキよ!」

 

「ごめん。」

 

凪佐が申し訳なさそうに頭を下げる。朝泡が口を開く。

 

「もともとお前ら3人は初心者なんだし、得意なことをやらせるのが俺たちの仕事だよ。バスケ始めて数ヶ月であの人倒しちゃったら俺たちの立場もないしな。」

 

「俺も飛鳥と武則が削ってくれなきゃあれのマークできてないしね。」

 

朝泡の言葉に水木が頷く。川崎が凪佐の肩を叩く。

 

「お前の真骨頂は圧倒的な高さにワンタッチプレーだろ?守備はこれからも教えるから。」

 

4人の言葉に凪佐が顔を上げる。

 

「うん!」

 

青葉青果のボールで試合はリスタートした。朝泡がボールを運ぶ。新城が朝泡の前に立ち塞がった。朝泡がニヤリとして口を開く。

 

「さっきのパスは見事でしたよ?先輩。」

 

「チッ、どこまでも舐めやがって…。」

 

「でも…。」

 

朝泡は誰もいないはずとところにボールを出した。新城はボールの方に意識がそれた。その瞬間、ボールが急に曲がり、朝泡に戻った。新城はなにが起きたか分からずに固まった。その瞬間に朝泡が新城を抜いた。

 

「なっ?!…(マジックパスかよ…。)」

 

加藤の足が朝泡に向いた瞬間に朝泡から沼咲にボールが渡った。沼咲がゴールの手前でジャンプシュートの体勢に入る。加藤は不意をつかれて反応できなかった。

 

「やらせるかよ!」

 

一宮が急いでブロックに入る。

 

「ほらよっと!やり返せ…」

 

一宮の腕が現れた瞬間に沼咲はボールを下げ、一宮の横から下投げでゴールへとボールを放った。ボールはリングの上に舞った。沼咲と一宮が落ち始める中、一宮の後ろから凪佐が飛び上がった。

 

「なっ…(狙いはこれか!?)」

 

「優馬!」

 

「うらぁぁぁ!!」

 

高く上がったボールを優馬がリングに叩き込んだ。沼咲と凪佐がハイタッチをする。

 

「ナイスタイミング優馬!」

 

「視線で狙いはわかったからね。」

 

一宮が沼咲を睨む。

 

「くっ…(こいつ視野も広いのか…加藤でも止められないやつを誰が止められるんだ?しかもあのPG…、加藤の意識がボールにいった瞬間を狙いやがった…。)」

 

加藤が一宮に駆け寄る。

 

「すまん、完全にやられた。」

 

「いや、今のはPGが上手かった…が、どうする?」

 

「とりあえずはお前中心の攻めにはなるとは思うが、守備はゾーンの方が良さそうだな。」

 

「だな。」

 

試合が再開し、新城がボールを運ぶ。朝泡が目の前を塞いだ。

 

(現状、一宮のところ以外は攻めても取られる可能性が高い…)

 

新城は加藤と根潮を一瞬見た。

 

(5番は加藤について、加藤は一宮から距離を離してる…、あの7番は身長はさほど高くない、だとすると)

 

新城は高めのパスを一宮に通そうとした。

 

「ほいっ!」

 

「な?!」

 

突然水木が現れ、ジャンプしてパスをカットした。

 

「出せ!」

 

朝泡が走り出す。水木は着地してすぐにボールを朝泡に投げた。新城が朝泡を追いかける。

 

「行かせるかよ!」

 

新城が朝泡の前に出る。その瞬間に、朝泡は横にボールを流した。

 

「ナイス!」

 

そこには沼咲がいてボールを受け取り、ゴールに向かってドリブルした。加藤が追いかける。

 

「くそっ…(こいつ体力バケモンかよ。)」

 

突然、沼咲がドリブルを止めた。加藤は不思議に思いながらも沼咲の前に立ち塞がった。加藤が口を開く。

 

「何を考えてるんだお前は…。」

 

「いえ…、何もっ!」

 

沼咲は下がって3Pを放った。加藤は反応出来ずにそのボールを見送るしかなかった。

 

(くそっ…こいつの3P忘れてた…。)

 

綺麗な弧を描き、ボールはリングを潜った。沼咲がニッコリと口を開く。

 

「詰みですね。」

 

 

その後、第3Q中、大木の攻撃の殆どはパスカットされた。第4Qは大木の根潮が奮闘したが、復活した銀波により抑えられ、83:41と青葉青果の圧勝で試合は終わった。




いかがだったでしょうか。
ストックが無くなり、だいぶ焦っています。
次回の投稿は4月24日(日)18:00です。
どうぞお楽しみに。















(投稿できなかったら本当にすみません。)


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22話

すみません、2時間遅れた挙句に少ないです。
では、どうぞ。


青葉青果高校と大木高校の試合が終わり、両選手がコートの中央に並んだ。審判の合図で両選手がお辞儀をした。海野と加藤が握手をし、加藤が口を開く。

 

「強かったが、油断はするなよ?」

 

「わかってますよ。IHでまたやりましょう。」

 

「皮肉かお前。」

 

「本音ですよ。」

 

海野と加藤は笑って話していた。

沼咲と川崎は根潮と話していた。沼咲が根潮の肩を叩く。

 

「根潮先輩、無理しすぎでしょ。」

 

「せっかくお前らと試合できたんだ。無理はするだろ。川崎も上手くなったな。」

 

「はい、先輩の指導のおかげです。」

 

「そっか、そりゃ教えた甲斐があったな。お前は相変わらずむかつくぐらい上手いな。」

 

根潮が少し意地悪そうに沼咲を見る。

 

「才能の違いっすかね〜。」

 

沼咲は憎まれ口で返した。根潮が笑い、それに釣られて沼咲も笑う。

 

「やっぱり相変わらずだな。俺達も頑張るが、お前たちは絶対に全国行けよ?」

 

川崎が首を傾げる。

 

「根潮先輩は行く気ないんすか?」

 

川崎の純粋な目に根潮は驚いていた。海野が川崎の後ろから現れ、川崎の肩を掴む。

 

「俺達も確定ではないだろ、まだあと2試合あんだから。そろそろ行くぞ。すみません根潮先輩失礼します。」

 

「あぁ…。」

 

海野は川崎を連れてベンチへと戻って行った。沼咲もそれについて行こうとした瞬間、根潮が声をかける。

 

「沼咲。」

 

「はい?」

 

沼咲が振り返る。根潮の視線は沼咲の左膝に向かっていた。

 

「気をつけろよ?」

 

「…うっす。」

 

沼咲は頷いて海野と川崎についていった。

 

 

 

青葉青果のメンバーは次の海常高校と厚木千賀の試合を見るために、観客席に座っていた。

左から順に、凪佐、川崎、朝泡、海野、桑田、美和、その後ろは、舟木、水木、銀波、沼咲、川田が座って見ていた。

 

試合の結果は91:56。海常高校の圧勝であった。

海野が口を開く。

 

「まぁ、予想通りか。」

 

「善戦した方だろ。やっぱり王者は強いな。」

 

沼咲は満足したような様子であった。桑田が立ち上がる。

 

「帰るぞ、明日も試合だ。」

 

「「「はい!」」」

 

ほかの全員も立ち上がり、出口の方に向かい始めた。沼咲が手を挙げる。

 

「すみません、ちょっと外していいすか?先帰ってもらっていいんで。」

 

美和が口を開く。

 

「じゃあ私も着いてくわ。どうせ帰る家は同じだし、あんた1人にしといても不安だし。」

 

「信用ないなー。」

 

少し睨む美和に沼咲は苦笑いした。桑田が口を開く。

 

「わかった。遅くならないようにな。」

 

「了解です。んじゃ!」

 

敬礼をしてから、沼咲は走り出した。

 

「待ってよ、もう…。失礼します。」

 

美和は急いでお辞儀をしてから沼咲を追いかけた。

 

 

 

沼咲は元々座っていた場所の反対側の観客席出口の前で止まった。急に止まった沼咲の背中に美和が止まりきれずにぶつかる。

 

「痛っ…、なんで急に止まるのよ。」

 

「ごめんごめん。」

 

沼咲は美和の方に一瞬視線を移して謝った。美和は沼咲の視線の先、観客席の出口通路の方を覗いた。そこには長身の緑髪のメガネをかけた男がいた。

 

「よう、緑間。久しぶり。」

 

「沼咲茂樹か。」

 

美和が驚く。

 

「緑間ってあの…?!」

 

「そうそう。去年の全中で3Pバカバカ決めてくれたやつ。で、どうだった?俺らの試合。見てたんだろ?」

 

「予想通りなのだよ。お前たちの実力を考えればこの決勝リーグ、青葉青果の脅威となるとすれば、黄瀬のいる海常のみだ。」

 

緑間はメガネを人差し指で上げながら言った。

 

「いやぁ、まだわかんないよ?」

 

沼咲はヘラヘラとしながら答えた。

 

「つくづく気に食わんやつだ…。黄瀬も脅威になる可能性があるだけなのだよ。あいつはまだ未熟だ。」

 

緑間の言葉に美和は驚き、沼咲は変わらずヘラヘラしていた。

 

「いやぁ、未熟でも相性があるでしょう。それでお前もやられたんだろ?」

 

沼咲の言葉に緑間の目が鋭くなった。

 

「見ていたのか?」

 

「いや?友達に頼んでビデオ貰って見ただけ。」

 

緑間は出口の方に体を向けた。

 

「お前もせいぜい気をつけるのだよ。」

 

「気をつける必要ないよ。黒子はすごいけど、まだあいつはお前ら程じゃない。秀徳が勝ち上がってたら気をつけたけど。」

 

美和は話の内容がわからず、邪魔しないために黙っていた。緑間が笑う。

 

「ふっ、まだか…。」

 

緑間は歩き始めた。

 

「相性という点では、黄瀬はお前の相手ではないのだよ。お前がその膝を壊さなければ…。いや、それでも他の2人がいるか。帰るのだよ。」

 

「またなー。」

 

会場を後にする緑間に沼咲は手を振った。緑間は何も言わずに歩いていった。

美和が沼咲の腕をつつく。

 

「あんた…、膝って何?」

 

「ん?なんでもないよ。さて、帰るかー。」

 

美和は表情の変わらない沼咲を見て諦めた。

2人は会場を後にした。

 

 

 

帰り道、沼咲と美和は話しながら帰っていた。

 

「ねぇ、あんた緑間くんのこといつから見えてたの?」

 

「海常と厚木千賀の試合見始めたときだよ。長身のメガネがいたから気になって。」

 

「へえ。」

 

美和は沼咲の相変わらずの視野の広さに驚いていた。

 

「にしても、秀徳負けたのね。いつ見てたの?」

 

「自分の部屋で見てた。先週、練習の後俺すぐ帰ったろ?そのときに映像貰ったんだよ。」

 

「緑間くんもキセキの世代よね?相性が良いからってそれを倒せるのってどんな人?」

 

キセキの世代は圧倒的な存在。いくら相性が良くても、キセキの世代の得意不得意は並の人間が相手では意味がないほどの力だと美和もわかっていた。

 

「名前は知らんけど、ジャンプ力すごいやつ。というか、そいつの力だけじゃ秀徳は倒せなかったよ。黒子がいたからだ。」

 

美和は「黒子」という名前に首を傾げた。緑間も知っている存在ということは先程の会話でわかるが、その名前は聞いたことなかった。

 

「黒子って誰?」

 

「キセキの世代の6人目。幻のシックスマンとか呼ばれてるやつ。というか、簡単に言うと、蒼とか奏、優馬のスタイル。パスのスペシャリスト。」

 

美和は沼咲の言葉に驚いた。水木と舟木と凪佐の3人に対してワンタッチプレイの提案をしたのは沼咲であった。中学時代、キセキの世代と試合をしたのは最後の全中の1回のみ。その1回の試合で見た選手のスタイルを沼咲は理解していたことになる。

 

「あの3人は黒子までに到達させる気はないし、そもそも黒子のようになるのは無理だけどね。」

 

「そんなにすごいの?」

 

「徹底具合がね。あそこまで感情を殺してアシストに徹底するスタイルは見たことないし、才能がなきゃ無理だ。人の動きを見て、その人の行く先にパスを届ける。単純な事だけど、1番難しい。やっぱり天才だよ、あいつも。」

 

沼咲の「あいつも」という言葉。美和にはその言葉はまるで、「自分は天才ではない」と言っているように聞こえた。美和が口を開く。

 

「あんたも十分天才よ。」

 

「天才は嫌だなぁ。」

 

沼咲は苦笑いしながらそう言った。




いかがだったでしょうか。
次回の投稿は5月1日(日)18:00です。
どうぞお楽しみに。


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23話

こんにちは。
先週はすみませんでした。
今週からちゃんと毎週投稿します!
(無理でしたすみません。後書きをお読みください。)
では、どうぞ。


IH予選神奈川県予選決勝リーグ2日目。1日目の勝者は青葉青果と海常。2日目の組み合わせは、青葉青果VS厚木千賀、海常VS大木である。第一試合の青葉青果と厚木千賀の試合に注目が集まっていた。

青葉青果のベンチでは川田のみが緊張で固まっていた。美和が川田の肩に手を置く。

 

「何緊張してんの?紀子。」

 

「え、だって美和ちゃん…お客さんの数が昨日より…。」

 

「まぁ、昨日の試合でIHの枠が絞られたからね。この後のキセキの世代の試合を抜いたとしても、うちの試合に対する興味が大きいんでしょ?」

 

神奈川県高校バスケのIHへの枠は2校。その1つはここ数年、王者海常が取り続けていた。つまりは、基本的に決勝リーグの残りの3校は残り1つの枠を争うことになる。大木高校は昨日青葉青果に負けた。今日の試合で青葉青果が勝てば、青葉青果は2勝。1年生のみでIH出場、その期待に多くの観客は集まっていた。

川田は観客席を見ながら震えていた。川田は全く緊張している様子のなさそうな美和に驚いていた。

 

「なんで、美和ちゃん緊張してないの?」

 

「私たちが緊張してもしょうがないでしょ?それに、あいつら見てみ。」

 

美和がベンチでそれぞれの準備をしているメンバーを指さす。

監督の桑田と、PGを務めることの多い海野と朝泡は、ゲームメイクの確認をしていた。

舟木は寝ており、その横で、川崎と凪佐と銀波は今日の夕飯はどこにするか話していた。

川田はいつも通り過ぎるメンバーに呆気に取られていた。

美和がベンチの後ろを指さす。川田がその方向を見ると、沼咲と水木はまた大道芸のような動きをしていた。美和が微笑みながら口を開く。

 

「うちのチームは他とは違う。1年生のみの新設校で決勝リーグまで来たら注目されるのは当然。でも、種目は違えど、みんな全国経験者。選手が緊張してないのに、私たちが緊張する理由はないでしょ?」

 

強ばっていた川田の表情が軽くなった。

 

「ありがとう、美和ちゃん。」

 

「うん。」

 

2人が話している様子を横目で見ていた桑田が、川田の緊張が解けたのを見て口を開く。

 

「よし、集合!」

 

桑田の声に反応して、メンバーが集まる。

 

「さっき控え室で話した通り、スタートは茂樹、蒼、武則、傑、優馬。今日の試合は最終確認よ!」

 

「「「はい!!!」」」

 

桑田が大きな声で「最終確認」と言った瞬間に、厚木千賀のメンバーの目が鋭くなった。

桑田は横目でそれを見てニヤける。

 

「明日に疲れは残すなよ?」

 

「「「はい!」」」

 

──────ピーッ

 

笛が鳴り、両選手がコート中央に並ぶ。

青葉青果高校{PG:沼咲茂樹(5)、SG:水木蒼(7)、SF:海野武則(4)、PF:川崎傑(6)、C:凪佐優馬(8)}

厚木千賀高校{PG:堂野滝昌(5)、SG:魚崎緋月(4)、SF:笹塚遊(6)、PF:三玉祐希(7)、C:永友正人(8)}

海野と魚崎が握手をした。魚崎が口を開く。

 

「最終確認とは舐められたものだな。」

 

「いえ、舐めてはいませんよ。よろしくお願いします。」

 

海野はお辞儀をして、自分のポジションについた。魚崎が永友の肩に手を置く。

 

「おい、相手のジャンプ力はすごいが、負けるなよ?」

 

「わかってる。」

 

センターサークルで凪佐と永友が向かい合った。永友は凪佐を睨んでいた。

 

「随分舐められたものだな、うちとの試合が最終確認とは…。」

 

「すみません…。」

 

──────ピッ

 

笛の音とともにボールが空中を舞った。凪佐と永友は同時に飛び上がり、手を伸ばす。永友の手が僅かに上にあった。

 

「よっしゃぁ!!!」

 

永友がボールを叩き、魚崎がとり、堂野にパスをした。

 

「もーらいっ!」

 

「な?!」

 

堂野がボールをキャッチしようとした瞬間に、沼咲がそのボールをカットした。堂野はすぐに追いかけようとしたが、沼咲はすぐに横にボールを放った。

 

「ほいさっ!」

 

沼咲の影から突然水木が出てきて、オーバーハンドでボールをゴールに放った。堂野はあまりの速さに呆気に取られた。魚崎が口を開く。

 

「外れるぞ!リバ…?!」

 

ゴールの近くには既に凪佐が走り込んでいた。ゴール下で凪佐が飛び上がる。

 

「ふんっ!」

 

──────ドガッ!!

 

凪佐はボールをリングに叩き込んだ。厚木千賀のメンバーはほぼ全員コートの中央に取り残されていた。凪佐は自陣に戻る時に、永友とすれ違った。凪佐は横目で永友を見ながら口を開いた。

 

「ジャンプボール取れて良かったですね。」

 

「なっ…てめぇ…?!」

 

魚崎が永友の肩を掴む。

 

「やめろお前。油断したのは事実だ。うちが先手を取られるのは久しぶりだが、やることは変わらない。」

 

「…わかってる。」

 

「取り返すぞ!」

 

三玉がコートにボールを入れ、堂野がボールを運び始めた。ハーフラインを越えたあたりで沼咲がその前に立ち塞がる。

 

「やる気満々っすねぇ。」

 

「舐めるなよ、1年!」

 

堂野は左にボールを振って、次の瞬間に右から沼咲を抜きにかかった。

 

「よしっ!」

 

堂野は思わず抜いたのを確信して声を漏らした。

 

「…かかった。」

 

「な?!」

 

沼咲の後ろから水木が現れ、堂野の持つボールを弾いた。

 

「イェイ!」

 

「ナイス…武則行け!」

 

零れたボールを沼咲が右手で拾い、左足を軸に回転しながらボールを前に投げた。海野は既に前に走っていた。笹塚は反応が遅れ、追いかけていた。海野は3Pラインでボールを取り、立ち止まった。その隙に笹塚が海野の前に立ち塞がる。笹塚が海野を睨む。

 

「何のつもりだ?…はぁ?!」

 

海野は突然ボールを放った。ボールは綺麗な弧を描き、リングを潜った。海野が口を開く。

 

「こういうつもりです。」

 

「くそっ。」

 

魚崎が笹塚の肩を叩く。

 

「気にするな。」

 

「あぁ、わかってるよ。だが、このままだと…。」

 

「わかってるよ。だいぶ早いが、この試合を落とす訳にはいかないしな。堂野!」

 

魚崎が堂野に声をかける。堂野は魚崎と目を合わして頷いた。笹塚がボールを入れ、堂野が運ぶ。ハーフラインを越える前に堂野が口を開く。

 

「行くぞ!」

 

「「「おう!! 」」」

 

厚木千賀の選手たちが一斉に走り出した。堂野が笹塚にボールを回す。笹塚の前に海野が着く直前に、笹塚は堂野にボールを返す。沼咲が急いで堂野に着こうとした瞬間に魚崎にボールが回された。厚木千賀の選手はハーフコート内で超速パスワークを見せた。水木と凪佐はそのスピードに困惑していた。堂野が魚崎にパスをする。水木は何とか着いていこうとしたが、その瞬間に三玉のスクリーンにかかり、魚崎は3Pライン付近でフリーでボールを受け取った。魚崎がシュートフォームに入る。

 

「やらせるか!…あ。」

 

川崎がボールを弾こうと飛びついた瞬間に、魚崎がボールを中に入れる。そのボールは三玉に渡り、三玉はジャンプシュートを決めた。

 

「よしっ!」

 

「ナイス!」

 

厚木千賀の5人は急いで自陣へ戻って行った。

沼咲がボールを運ぶ。沼咲の前に堂野が立ち塞がった。沼咲は厚木千賀のディフェンスの形に違和感を持っていた。

 

「(ゾーン?いや、若干違うような…。とりあえず…)よいっ。」

 

沼咲はボールを横に放った。誰もいなかったはずの場所に水木が現れ、川崎にボールが回る。川崎がボールをキャッチした瞬間に、魚崎と三玉が前に立ち塞がっていた。

 

「ダブルチーム?!」

 

沼咲はそれを見て、違和感の正体に気づいた。

 

「回せ!」

 

沼咲が声を荒らげる。川崎が急いでパスコースを探そうとした瞬間、川崎の持っていたボールが弾かれた。

 

「うそっ?!」

 

そのボールを弾いたの堂野であった。魚崎がそのボールを拾い、攻守が交代する。魚崎がドリブルで青葉青果のコートに侵入した。沼咲がその前に立ち塞がる。

 

「行かせないっすよ…あー、こりゃつらいな。」

 

魚崎はすぐにボールを横に流した。魚崎の影から堂野が出てきて、沼咲を抜きにかかる。沼咲は急いでそのコースを塞いだ。

 

「甘いよ、1年!」

 

堂野はすぐに魚崎に戻し、魚崎が沼咲を抜いて行った。

 

「行かせない!」

 

水木が急いで魚崎の前に行くが、魚崎はターンをして、軽く躱した。

 

「うそんっ!?」

 

「行かせるか…やばっ?!」

 

海野が追いついて魚崎の前に立ち塞がったが、魚崎はその瞬間にボールをゴールへ放った。その先には三玉が飛んでいた。

 

「うしっ!」

 

──────ガシャッ!

 

三玉のダンクが決まる。魚崎は戻りながら沼咲の横を通った。

 

「神奈川県を舐めるなよ?1年。」

 

「…。」

 

沼咲は黙ってそれを見送った。海野と川崎が沼咲に駆け寄る。海野が口を開く。

 

「知ってはいたが、やはり実物はやばいな。」

 

沼咲は少し楽しそうに口を開いた。

 

「流石は神奈川NO.1のスピード型チームだ。面白くなってきたな。」

 

「決勝リーグは面白いね。」

 

川崎も楽しそうにしていた。海野が2人の様子を見て笑う。

 

「そうだな。」

 

まだ試合は始まったばかりである。




いかがだったでしょうか。
ストックが10話分ぐらいできたら少し投稿頻度増やそうと思ってます。
次回の更新は5月15日(日曜日)18時(午後6時)です。
どうぞお楽しみに。
【追記】
すみません、無理でした。来週、5月29(日曜日)18時(午後6時)に2話投稿します。本当すみません。出来たら3話投稿します。


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24話

どうもどうも。
諸事情により、今週から毎週日曜20時投稿に変更します。
これからもよろしくお願いします


IH予選神奈川県予選決勝リーグ2日目、青葉青果と厚木千賀の第1Qは殴り合いのような点の取り合いとなっていた。

沼咲がボールを運ぶ。その前には堂野が立ち塞がっていた。

 

「どうすっかなー。」

 

「やらせねぇよ。」

 

「やり気満々っすね…。(マジどうしよう、この状態じゃ明和相模原と同じ状態だもんなー。殴り合いじゃなくて、一方的に殴りたいんだよなー。攻撃はこのままでも良いとしても、もうちょい点差つけたいよなぁ。やっぱあの手しかないかー。)」

 

一方で堂野は焦りを感じていた。

 

「(殴り合いに見えるが、差はついてる。とりあけずの突破口を見つけて対等な殴り合いに持っていかないと…)気散らしすぎだよっ…なっ?!」

 

堂野は考えごとをしている沼咲のボールを取りにかかったが、沼咲はターンをしてそれを躱した。魚崎が急いでカバーに入る。

 

「よっ!」

 

「くそっ!」

 

沼咲は魚崎が着く前にシュートを放った。沼咲の放ったボールは綺麗な弧を描き、リングを潜った。沼咲は戻りながら海野に駆け寄る。海野が口を開く。

 

「どうするか決まったか?」

 

「うん、やっぱあれでいこう。蒼!」

 

呼ばれて水木が沼咲を見る。

 

「ディフェンス頑張って。」

 

「了解ー。」

 

沼咲は川崎に視線を移した。

 

「傑!」

 

川崎が沼咲を見る。川崎は自陣のゴールを指さした。川崎が頷く。沼咲が口を開く。

 

「さて、差つけようか!」

 

堂野がボールを運ぶ。沼咲が前についた。堂野は魚崎にボールを回した。しかし、そのボールは魚崎がキャッチする直前にカットされた。

 

「は?!」

 

「もーらいっ!武則!」

 

水木はボールをタップし、海野に渡した。海野がボールを貰った瞬間にドリブルで上がって行った。笹塚がすぐに反応し、海野の前に立ち塞がる。

 

「行かせねぇよ!」

 

「…。」

海野は一瞬止まり、そこから急加速して笹塚を抜き去った。

 

「なっ?!(緩急だけで…!?)」

 

魚崎がその隙に追いつき、立ち塞がる。笹塚も急いで追い、海野は挟み撃ちとなった。海野が口を開く。

 

「あなたたちじゃ、止められないですよ?」

 

海野はボールを左右に振り2人を抜き去った。そのまま飛び上がり、ダンクを決め、海野は自陣へと戻って行った。その姿を見た魚崎が驚く。

 

「他のやつが上がってない…だと?」

 

海野以外の青葉青果メンバーは自陣で海野を迎えていた。つまり、海野が単独で点を取ることを前提として、守備の形を崩さずに次の厚木千賀の攻撃を待ち構えていた。

堂野がボールを運ぶ。沼咲が前に立ち塞がる。

 

「1人ずつ特攻するつもりか?」

 

堂野の言葉に沼咲は首を傾げた。

 

「何言ってんすか?そんな無謀なことしないでしょ普通。」

 

「何言って…?!」

 

堂野はコートを見渡して驚いた。

 

「これは…(ゾーンか。確かにこれなら誰が特攻するとしてもディフェンスからオフェンスに移行しやすい…だが)舐めるなっ!」

 

堂野はフェイントを入れ、永友に回した。沼咲が口を開く。

 

「走れ優馬!」

 

凪佐は永友に着かずに厚木千賀コートに走り始めた。永友が笑う。

 

「ついにディフェンス捨てた…な?!」

 

「よいっ!」

 

永友とボールの間に突然水木が現れ、ボールをタップした。ボールは横に走り込んでいた川崎に渡る。

 

「頼んだっ!」

 

川崎はボールをすぐに前に投げた。そのボールを沼咲がとる。

 

「よっしゃ!行くぞ優馬!」

 

既に凪佐はゴール下の近くに走り込んでいた。

 

「やらせるか…?!」

 

堂野が沼咲の前に立ち塞がったが、沼咲の手にボールは無かった。

 

「後ろだ!」

 

魚崎が叫ぶ。堂野が後ろを振り返るとともに沼咲も堂野の後ろに移動し、下投げでボールをゴールに放っていた。

 

「よっしゃ決めたれ!」

 

「うん!」

 

──────ガシャッ

 

凪佐がダンクを決めた。堂野は何が起きたかわからずに混乱していた。魚崎が駆け寄る。

 

「今のはしょうがねぇ、というか人間業じゃねぇよ今の。」

 

「何が起きたんだ?」

 

「お前があの5番の前に移動した瞬間にボールを前に流した。お前の足のリズムに合わせてバウンドさせて、回転をかけることによって浮く時間を長くする。原理はわかってもできるやつはあいつ以外いねーだろうな。」

 

堂野は理解はできたが納得できなかった。

 

「なんなんだよ、あいつら…。」

 

魚崎が堂野の背中を叩く。

 

「しっかりしろ!とりあえず離されないようにゲームを組み立て直すぞ。」

 

「あぁ。」

 

第1Q残り数分、厚木千賀の攻撃は上手く決まらないことが増え、逆に青葉青果は海野、沼咲、凪佐の3人が点を決め続けた。

 

────ピーッ

 

第1Qは21:12で青葉青果の優勢で終わった。

 

 

 

青葉青果のベンチでは桑田が第2Qについて話していた。

 

「第1Qは上々だ。第2Qは傑と蒼と優馬を下げて、駆と奏と飛鳥を入れる。武則と茂樹は連続になるが行けるな?」

 

「はい。」

 

「余裕でーす。」

 

沼咲は汗を拭いていたタオルを振って返事をした。桑田が竹刀で沼咲を叩く。

 

「痛いっ!?」

 

「気を抜くな!茂樹をPFに、PGに駆、武則をSGに、SFに奏、Cには飛鳥が入れ。」

 

桑田が銀波を見る。

 

「行けるな?」

 

「はい。」

 

「ゲームメイクは基本的に武則と駆に任せる。茂樹、何か追加事項あるか?」

 

「そうすっねー。5番(堂野)と4番(魚崎)の連携が少し厄介っすね。流石は神奈川No.1のスピード型の軸というか。」

 

沼咲の言葉に海野が笑う。

 

「それは俺たちに対する挑発か?」

 

朝泡が頷く。

 

「そうだな。スピードだったら俺たちの得意分野だろ。」

 

銀波は目を瞑り、集中力を高めていた。沼咲が銀波の肩に手を置く。

 

「相手のはパワー型じゃない、お前の得意分野だろ?」

 

「はい、そうですね。」

 

────ピーッ

 

インターバル終了の笛が鳴り、銀波が目を開けて立ち上がる。銀波は嬉しそうに口を開いた。

 

「やれるだけやってみますよ。」




次回の投稿は6月5日(日曜)20時(午後8時)です。
どうぞお楽しみに


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25話

どうも。
どうぞ。


IH予選神奈川県予選決勝リーグ2日目、青葉青果と厚木千賀の第1Qは殴り合いのような展開であったが、最終的には21:12、青葉青果の優勢で終わった。インターバルが終わり、第2Qが始まる。

 

青葉青果高校{PG:朝泡駆(10)、SG:海野武則(11)、SF:舟木奏(9)、PF:沼咲茂樹(5)、C:銀波飛鳥(8)}

厚木千賀高校{PG:堂野滝昌(5)、SG:魚崎緋月(4)、SF:笹塚遊(6)、PF:三玉祐希(7)、C:永友正人(8)}

 

選手たちがコートに戻る。魚崎はメンバーが半分以上変わっていることに驚いていた。

青葉青果ボールで試合が再開した。朝泡がボールを運ぶ。その前に堂野が立ち塞がった。堂野が口を開く。

 

「お得意のポジションシャッフルか。お前は元昭栄中の…。何故青葉青果に進んだ?あいつらに誘われたか?」

 

「俺の事知ってるんすね。高校バスケはやるつもり無かったんすけどね、あいつらとなら楽しくなりそうだったんでっ!」

 

「行かせるかよっ!」

 

朝泡は右から堂野を抜きにかかったが、堂野はすぐに反応してその前に出た。朝泡はボールをその場でドリブルし止め、逆サイドから堂野を抜いた。

 

「なっ?!(流石は昭栄中のPG…。)」

 

魚崎がカバーに入ろうと足を向けた瞬間に朝泡は魚崎の後ろにボールを投げた。

 

「くそっ!」

 

魚崎の裏から海野が出てきてそのパスを受け取る。

 

「ナイスだ。」

 

海野が中に切り込む。三玉がすぐに海野の前に立ち塞がる。

 

「これ以上やらせるか…?!」

 

海野は三玉の股の下にボールを通し、沼咲に繋いだ。

 

「うっし。」

 

沼咲はボールを受け取ってすぐにゴールへ放った。沼咲のシュートが綺麗に決まる。

戻る3人を魚崎が睨む。

 

「チッ…堂野、10番はどうだった? 」

 

「流石は元昭栄中の司令塔ってところだ。だが、手が届かないレベルではなさそうだな。」

 

「そうか…永友!」

 

「11番はまだわからねーよ。それよりもお前ら2人とも翻弄され過ぎじゃねーか?」

 

「うるせっ。やりかえすぞ!」

 

堂野がボールを運ぶ。堂野の前に朝泡が立ち塞がる。

 

「(悔しいが、こいつもキセキの世代ほどじゃねーが天才の類だ。だとしたらまずは)笹塚!」

 

堂野から笹塚にボールが渡る。笹塚の前には舟木が立ち塞がっていた。

 

「さっきの7番には驚いたが…俺を舐めるなよっ!」

 

笹塚は舟木を抜いた。

 

「あっ…。」

 

笹塚はあまりにもあっさりと抜けたので呆気に取られた。

 

(何を考えてる…さっきの7番の方がまだ…)

 

「よいしょっ。」

 

「な?!」

 

後ろから気の抜けた声が聞こえた瞬間、笹塚の持っていたボールが弾かれた。笹塚が後ろを見ると、舟木が笹塚の方に手を伸ばしていた。

 

「ナイス!」

 

沼咲がボールを拾う。一気に攻め上がろうとした瞬間にボールを引いた。

 

「おっと。」

 

「チッ…。」

 

魚崎が沼咲のボールを取ろうとしていた。魚崎が沼咲の前に立ち塞がり、その間に厚木千賀のメンバーは戻り始めた。朝泡が沼咲の後ろに走る。

 

「一旦戻せ。」

 

沼咲は朝泡の方に視線を向け、体勢を緩くした。沼咲を見て魚崎の重心が上がった。

 

「りょー…かいっ!」

 

「くっ?!」

 

沼咲は急にロールして魚崎を抜き去った。しかし、戻っていた三玉と堂野が沼咲の前に立ち塞がる。

 

「行かせるかよ!」

 

沼咲は厚木千賀のゴールを見た。その視線に2人が驚く。

 

(まさか…。)

 

(ここから届くのか?!)

 

沼咲の3Pラインより少し後ろに立っている。2人とも打たないと頭で理解していても体が先に動いていた。2人の重心が上がる。

 

「なっ!?」

 

「くっ??」

 

「いぇい!」

 

沼咲は2人の間から抜き去り、そのままドリブルしダンクを決めた。着地する沼咲を堂野と三玉が睨む。沼咲は笑顔で振り返った。

 

「そんなもんすか?先輩。」

 

「なっ、てめぇ…。」

 

「やめろ三玉。切り替えろ!」

 

永友がボールを入れ、堂野がボールを運ぶ。その前には朝泡が着いていた。堂野は突破口を探していた。

 

(あの9番(舟木)、守備特化型なのか?違うとしても…)

 

堂野は舟木の姿を見失ってることに気づいた。本来マークのはずの笹塚がフリーになっている。突然、堂野の手元からボールが消えた。

 

「なっ?!」

 

堂野がついていたボールは朝泡の方に弾かれていた。

 

「ナイス奏!」

 

「チッ…くそっ!」

 

抜こうとした朝泡のボールを堂野はなんとか弾いた。ボールがコート外に出る。

 

「あぶな…。こいつ…。」

 

堂野の後ろには舟木が立っていた。朝泡が舟木に駆け寄る。

 

「すまん、タイミングミスった。てか、お前後ろから取るならついでにスクリーンかけろよ。」

 

舟木は目を逸らした。

 

「…茂樹たちならすぐ抜く。」

 

「悪かったな!」

 

「うん、お前が悪い。」

 

突然現れた沼咲は朝泡の肩に手を置いていた。

 

「うるせっ、てめぇらと一緒にすんな!」

 

「早くリスタートしろ!」

 

海野が見かねて3人に怒鳴る。

 

「はーい。」

 

沼咲がボールを入れ、堂野が受け取る。1回ボールが出たことにより、厚木千賀の選手はしっかりの戻っていた。朝泡の前には堂野が着いている。

 

「スピードに乗ってなきゃそう簡単に抜かれねぇよ。」

 

「そりゃ良かったっすね。ほい。」

 

突然、朝泡がボールを中に投げた。堂野は驚いて後ろに目を向ける。高い位置で銀波が受け取る。永友がマークに着いていた。

 

「やっと来るか…お前はSGじゃないのか?」

 

「えぇ、最近はSGやってますよ?」

 

「はぁ?!」

 

 

 

コートの外では第2試合の海常高校と大木高校が見ていた。海常の笠松が銀波を見て驚いていた。

 

「黄瀬!お前の友達はSGじゃねーのかよ?!」

 

「いやSGのはずっすよ?あれ?でもたまに人数足りない時とかCやってたかも…?」

 

黄瀬は首を傾げた。

 

「どういうことすか?」

 

「俺が聞きてーんだよっ!」

 

笠松が黄瀬をどつく。

 

 

 

永友は体を入れさせないように守備をしていた。銀波はゴールに背を向けていた。銀波が突然力を抜き、永友の体が前に流れる。

 

「なっ!?」

 

「僕は確かに今はSGですけど…。」

 

銀波は滑らかに体を外に流し飛び上がった。永友もなんとか反応して飛び上がる。

 

「なっ…(こいつ、高いし、手長ぇ…。てかこのフォーム…。)」

 

銀波はリングより高い位置からフックシュートを放った。ボールは勢い良くボードにぶつかり、リングに吸い込まれた。

 

「フックシュート…?!」

 

銀波が永友を見る。

 

「僕が最初に習ったポジションはC、つまりもとCです。この程度ですか?現役Cさん。」




いかがだったでしょうか?

次の更新は6月12日(日曜日)20:00です。

どうぞお楽しみに


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26話

どうも。
どうぞ。
(゚∀゚)


IH予選神奈川県予選決勝リーグ2日目、第1試合の青葉青果と厚木千賀の第2Q中盤。

銀波が厚木千賀のC永友から得点を奪った。その動きはCとして充分戦えるほどであり、今までの試合でのSGとしての姿は見えなかった。

永友は銀波が高さだけでCとしてこのQに出てきたと思っていたので、目の前で綺麗なフックシュートを決められ、驚いていた。

 

「フックシュート…?!」

 

銀波が永友を見る。

 

「僕が最初に習ったポジションはC、つまり元Cです。この程度ですか?現役Cさん。」

 

銀波の淡々とした口調が余計に永友を挑発した。

 

「てめぇ…チッ。」

 

銀波はゆっくりと自陣へ走っていった。永友はすぐにボールを拾い、中に入れた。

堂野がボールを運ぶ。センターラインを越えると朝泡が道を塞いだ。堂野が朝泡を警戒しつつ、コートを見渡した。

 

「(さっきの11番には驚いたが…やっぱりな、てかこいつら…)永友!」

 

堂野が永友にパスを通す。朝泡はそれを察しながらも見送った。堂野が違和感を覚え、朝泡を睨む。

 

「何を考えてる?」

 

「いや、別に。」

 

「完全に今のは永友、うちのCにパスを出せって言っているようなディフェンスだ。」

 

「流石は北の王者のPGっすね。その永友さんて人もやり返したいでしょ?だったらいいじゃないすか。」

 

堂野は朝泡の余裕そうな笑みに不気味さを感じていた。

永友はゴール下でボールを捕り、背中に銀波を抱えていた。

 

「こいつ…(やっぱりSGだ、線も細いし力も弱い。俺も技巧派だが、こんなやつには…)おらっ!」

 

永友は押して中に無理やり入ろうとしたが、銀波は動かなかった。

 

「な…?!くそがっ!」

 

永友はすぐに身体を銀波から離し、ターンしながら後ろに飛び、フェイダウェイシュートの体勢に入った。

 

「甘いですよ!」

 

しかし永友がボールを放った瞬間に、そのボールは叩き落とされた。

 

「うそ…だろ?!」

 

弾かれたボールを海野が拾った。魚崎がすぐに海野の前に立ち塞がる。

 

「行かせるかよ!」

 

「あなたじゃ、止められない。」

 

「ぐっ!?」

 

海野は素早く前に行く素振りを見せて、すぐにボールを後ろにゆっくり引いた。突然の緩急に魚崎はバランスを崩していた。

 

「では、失礼します。」

 

「な…?!」

 

海野は急加速し、魚崎を抜き去った。

 

「待ちやがれ!」

 

後ろに構えていた堂野が海野の前に出た。

 

「嫌ですよ。」

 

「くっ…そが…!?」

 

海野は左右に振った直後にダックインで堂野の右側から抜きにかかった。堂野はなんとか反応しようとしたが、その反応よりも早く海野は急ブレーキからロールで堂野を置いてきぼりにした。

海野がドリブルでセンターラインを越えると既に厚木千賀のメンバーは誰も前にいなかった。

 

「投げて〜!」

 

何故かゴール下に沼咲が走り込んでいた。海野はそれを見て少し笑いながら、ドリブルの勢いのまま肩手でボールを投げた。沼咲がそれに合わせて飛び上がる。

 

「相変わらずのナイスパス…っしゃい!!!」

 

沼咲はそれを両手でキャッチしそのままダンクを決めた。

 

「おぉー!速過ぎだろ?!」

 

「本当に1年かあいつら!??」

 

観客が盛り上がる中、沼咲と海野は自陣へ戻って行った。沼咲が海野に駆け寄る。

 

「ナイスパス〜。」

 

「あそこに走り込んでるお前は異常だよ。」

 

「いやだってお前なら抜けるだろうし、待ってる方が暇じゃん。」

 

魚崎と堂野は海野のドリブルの速さに驚き、呆然としていた。

 

 

 

コートの外で見ていた海常高校の笠松が口を開く。

 

「やっぱりやべぇなあの2人は…、てかお前の友達の11番何もんだよ、ありゃ全国でも通用するCの動きだぞ?」

 

「いや俺も驚いたっす。」

 

笠松が黄瀬の方を見ると、黄瀬も若干の混乱を見せていた。

 

「銀波っちやっぱり凄いっすね。」

 

「守備もそうだが、何より厄介なのはあのフックだな。」

 

黄瀬が首を傾げる。

 

「ただのフックじゃないってことすか?まぁ確かに高い位置から放ってたっすけど。」

 

「それだけじゃねーよ。高い位置から下のリングに放つって止めようがねーぞ?」

 

黄瀬は笠松のその言葉で気づいた。

 

「ゴールテンディング?!」

 

「そうだ。てかお前が知らない技ってことは帝光時代にはCで試合は出てないのか?あの身長で。」

 

「いや確か1年のころは出てたっぽいっすけど、体力の関係でSGになったっていうのは聞いたっす。」

 

「ただでさえあの身長で厄介な3Pシュート持ってんのに、あのフックまであんのかよ…。」

 

「厄介っスねぇ。」

 

黄瀬はそう言いながらも楽しそうであった。笠松はその表情にイラッとして黄瀬を蹴った。

 

「何で嬉しそうなんだてめぇは!?」

 

「痛いッス!」

 

 

 

第2Qは一方的な展開となった。厚木千賀の攻撃は、神出鬼没の舟木を中心に翻弄され、その他4人の圧倒的な実力により潰され続けた。

 

──────ピーッ

 

「第2Q終了、これより10分間のハーフタイムに入ります。」

 

前半の結果は58:20。厚木千賀の勝利には絶望的な点差となった。

両校監督選手は控え室へと移動し始めた。第2試合の海常高校と大木高校はアップのためにコートに入り始めた。青葉青果と海常がすれ違う。笠松が海野を見て口を開く。

 

「調子良いみたいだな。」

 

「そうですかね。いつも通りですよ。」

 

海野は素っ気なく返した。黄瀬が口を開く。

 

「驚いたっすよ銀波っち。」

 

「?…あぁ、そういえば黄瀬くんが入部したときにはSG以外で試合出たことなかったでしたっけ。まぁでも、たまにしかやりませんよ。疲れますし。」

 

「ははっ、相変わらず体力はないんすね。あれ?沼咲っちは?」

 

黄瀬が青葉青果のメンバーを見渡す。そこに沼咲の姿はなかった。水木が口を開く。

 

「茂樹ならウンコって言いながら走って先行ったよ。」

 

「ほんと相変わらずっすね。」

 

何故か楽しそうに言う水木に黄瀬は苦笑いした。

 

 

 

厚木千賀高校の控え室。

ベンチメンバーを含め選手全員お通夜状態だった。監督の原田が口を開く。

 

「顔を上げろ、まだ試合は終わってない。」

 

三玉が口を開く。

 

「いやでも40点近く離れてますよ。正直もうキツいっす。」

 

「まだ試合は終わってないって言ったろ?それに相手の11番はおそらく、早くても第4Qまでは出てこない。」

 

魚崎が口を開く。

 

「あーそういえばそっすね。」

 

──────バチンっ

 

原田が突然魚崎の頬を叩いた。

 

「なんすか、監督。」

 

「俺たちは何だ?!北の王者、厚木千賀だぞ!?神奈川は出場校数も多い。決勝リーグはもちろん、決勝トーナメントに残る学校もほんのひと握りだ!今まで戦ってきたやつらにそんなやる気のないプレーを見せる気か!?」

 

普段ほとんど怒らない原田の怒りと悔しさの声に選手たちはハッとした。

 

「40点差?そもそも決勝トーナメント以降、いつも前半は負けてる。そこからの盛り返しで勝ってきたんだろう!?」

 

魚崎を含め、スタメンの5人が立ち上がった。魚崎が口を開く。

 

「ありがとうございます、監督。確かにこのままじゃ勝てる可能性、1%かもしれないっすけど、それを潰してました。」

 

堂野が口を開く。

 

「そうだな。そもそもあいつらの試合を初めて見た時から実力差はわかってる。だったら全力でやるのみだ!」

 

「あぁ。気合い入れ直せ!!!」

 

「「「おう!/はい!」」」

 

 

 

青葉青果高校の控え室。

選手たちは休憩しつつ、桑田の方を見ていた。

 

「前半は上々だ。第3Qは飛鳥と茂樹と奏を下げる。」

 

「ふぁ?!」

 

桑田の言葉に沼咲は思わず変な声を出した。

 

「何で俺も下がるんすか?」

 

「そもそもお前出ずっぱりだろ。少しぐらい休め。」

 

「えー。」

 

「それに、茂樹1人が抜けて負けるようならこのチームに先はない。わかったな。」

 

「りょーかいです。」

 

沼咲は桑田の目を見て諦めた。

 

「武則をSF。蒼をSG、傑をPF、優馬をCに入れる。点差は少し詰まるかもしれないが、なるべく広げたままにしろ。わかったな!?」

 

「「「はい!」」」




いかがだったでしょうか?

次の更新は6月19日(日曜日)20:00です。

どうぞお楽しみに


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27話

お久しぶりです。
どうぞ。


IH予選神奈川県予選決勝リーグ2日目、第1試合の青葉青果と厚木千賀の前半は58:20となった。10分間のハーフタイムを終え、両チームのメンバーがコートに戻った。

青葉青果高校{PG:朝泡駆(10)、SG:水木蒼(7)、SF:海野武則(4)、PF:川崎傑(6)、C:凪佐優馬(8)}

厚木千賀高校{PG:堂野滝昌(5)、SG:魚崎緋月(4)、SF:笹塚遊(6)、PF:三玉祐希(7)、C:永友正人(8)}

両Cがセンターサークルで対峙する。永友が口を開く。

 

「第1Qは驚いたが、今度は簡単にやらせねぇぞ。」

 

「今回は普通にやりますよ。」

 

──────ピッ!

 

笛が鳴ると同時にボールが宙を舞う。両Cが飛び上がる。永友は凪佐の高さに驚いた。

 

「くそっ…(マジで高いなこいつ…。)」

 

「よしっ!」

 

凪佐がボールを叩き、海野が受け取り、すぐに朝泡に回した。堂野がすぐに朝泡の前につく。

 

「流石早いですね。」

 

「ありがとよ…(どう来る?また速攻か?)」

 

「では、行きましょっ!」

 

朝泡は右から堂野を抜きにかかった。堂野はすぐにその前を塞いだ。

 

「行かせるか…な?!」

 

「残念でしたっ!」

 

朝泡はボールを下げ、横にボールを放った。朝泡の影から急に水木が現れ、ボールを叩いた。

 

「ナイス!」

 

「くそっ。」

 

水木の叩いたボールは堂野の背中を通り、朝泡に渡った。朝泡がゴールへドリブルをしていく。

 

「行かせねぇ!」

 

魚崎がすぐに前に立ち塞がった。

 

「早いですね。」

 

「もらった!」

 

堂野が朝泡の後ろからボールに手を伸ばす。

 

「忘れるの早くないですか?」

 

「は?!」

 

朝泡は緩く高いパスを後ろに放った。ボールは堂野の頭上を通った。

 

「よいしょっ!」

 

そのボールに合わせ、水木が飛んでいた。水木がオーバーハンドでボールをゴールに放つ。魚崎がそれを見て思考を巡らす。

 

「(これは…3Pじゃない、このパターンは)リバウンド!!」

 

永友と三玉が急いでゴール下のポジションを取った。三玉は川崎からあっさりとポジションを取れて驚いていた。

 

「(なんでだ?こいつは4番や5番と同格のはず、少なくとも第1Qはこんなにあっさりとポジションを取れなかった…てことは)入るのか…?!」

 

水木の放ったボールは綺麗にリングを潜った。川崎と凪佐はすぐに自陣へと戻って行った。三玉が永友に駆け寄った。

 

「おい、気づいたか?」

 

「あぁ。あいつら入るの確信してやがった。てか、ワンタップで3Pってどんな精度してるんだ?」

 

「こりゃ魚崎たちに頑張ってもらわねーと。」

 

永友がボールを入れる。堂野が受け取りボールを運びながら口を開く。

 

「攻めるぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

ハーフラインを超えたところでそれぞれがマークに着いた。堂野が見渡す。

 

「(単純な実力差で攻めるなら、魚崎か永友だな)魚崎!」

 

堂野は魚崎にパスを出したと同時に中に走った。魚崎が受け取り、堂野にボールをリターンする姿勢を取る。

 

「取った!」

 

水木がパスコースを塞ぐ。

 

「甘いなっ!」

 

「え?!」

 

魚崎はボールを下げ、ドリブルで水木を抜いた。川崎がすぐにカバーに入ろうとした。

 

「遅いっ!」

 

魚崎はすぐにシュートの体勢に入った。が、その瞬間、魚崎の持っていたボールは弾かれた。弾いた手は川崎のものだった。

 

「どっちがですか?」

 

「くっ…(こいつこんなに速かったか?!)」

 

川崎はすぐにボールを拾い、朝泡に投げた。朝泡は受け取ってすぐに相手コートを見て笑った。

 

「(ほんと、この3人はすげぇな。)行け!」

 

朝泡はすぐにボールを前に投げた。前には既に海野が走っていた。そのあとを笹塚が追う。

 

「行かせるかよっ!」

 

「根性ありますね。茂樹もいないし少しだけ上げますね。」

 

「はぁ?!」

 

海野はボールを捕ると流れでそのままドリブルに入った。笹塚はその一瞬の間に海野の前に入ろうとした。前に入ろうとする笹塚を見て海野が笑う。

 

「では、さようなら。」

 

「なっ…待て…(嘘だろ?!)」

 

海野はスピードを落とさずにドリブルに入り、そこから更に加速して、笹塚を離した。

海野は一人でペイントエリアに入り、飛び上がってダンクを決めた。

ベンチで見ていた桑田は驚いていた。その様子を見て沼咲が口を開く。

 

「今更っすけど、あの二人強いっすよ?」

 

「いや、それは知っていたが…ここまでとは。」

 

銀波が口を開く。

 

「あの二人、普段は試合の時より練習の時の方が調子良いですよね?」

 

「調子じゃないよ、あいつらは俺を目立たせるクセがついちゃってるんだよ。」

 

「クセ?ですか。」

 

「そう。俺は1年の時から試合出てましたけどあいつらは俺の代になってからなんだ。自然と俺にやらせれば勝てるっていう固定観念?的なものがついちゃってるんだよ。あの二人だって十分強いのに。」

 

桑田は納得して頷いた。

 

「茂樹を試合から外したことによってそのタガが外れた、ということか。お前を抜いて追いつかれると思ったが、これは…。」

 

「たぶんですけど、この試合はこの調子で終わりますよ?相手には悪いっすけど、そもそも俺抜きでも勝てますよ、あの二人がいれば。それに駆がゲームメイクしてますし。」

 

沼咲の言葉に銀波が頷く。

 

「そうですね。駆くんはパスセンスが目立ちがちですけど、ゲームコントロール上手いですし。」

 

「そうそう。あいつ意外と感情的にならずにゲームメイクするんだよなぁ。選手を無理に動かさないというか…。」

 

「そうですね。茂樹くんはその逆、武則くんは中間ぐらいのイメージです。」

 

「だって人動かすんだったらそいつの能力の限界引き出した方が面白いじゃん?限界は越えさせないけど。」

 

「そんなことやられたら僕倒れますよ?」

 

「そりゃそうだ。」

 

沼咲と銀波は笑って話していた。それを見て桑田が口を開く。

 

「まだ試合は終わってないぞ。最終Qは」

 

「最終Qは俺も入ります。」

 

沼咲は桑田の言葉を遮った。それは桑田の考えと同じだった。

 

「飛鳥、いけるか?」

 

「まあ残り10分なら。」

 

桑田が頷く。

 

「ならば茂樹は武則と、飛鳥は蒼と交代だ。」

 

「「はい。」」

 

第3Q残り時間、海野と川崎の猛攻により更に点差を広げ、第4Qも沼咲と銀波が入り更に勢いが増した。

最終結果113:34。決勝リーグ2日目にして、予選の、強豪と弱小校のようなトリプルスコアで終わった。

コートの外で見ていた海常高校の笠松は驚いた目で見ていた。その隣で楽しそうに見ていた黄瀬の表情は少し曇っていた。

ベンチの片付けをしている青葉青果の面々を見ながら黄瀬が口を開く。

 

「強いっすね、青葉青果…。」

 

「そうだな…。うちは厚木千賀に対してダブルスコアにギリ届かなかったが、青葉青果はトリプルスコアか…。とりあえずはこの試合だ!行くぞ!」

 

「はいっす!」

 

海常高校はベンチへと入っていった。

 

 

 

コートを後にした青葉青果のメンバーは、次の海常高校対大木高校の試合を見るために観客席に移動して座っていた。二列に別れて座っており、上の段に左から桑田,川田,美和,沼咲,銀波,川崎、下の段に同じく左から海野,朝泡,水木,舟木,凪佐の順に座っている。

水木が楽しそうに口を開く。

 

「どっちが勝つかな?!」

 

朝泡が口を開く。

 

「海常だろ。まあ、大木みたいな点差にはならねーだろうけど。」

 

「そうなの?根潮先輩だっけ?あの人のシュートって黄瀬くんじゃマネできないんでしょ?茂樹たちの話じゃ黄瀬くんモノマネ上手い以外に特徴ないって。それに4番の人も強かったし。」

 

「そうだとしても、だよ。」

 

朝泡はつまらなそうにそう言った。海野が口を開く。

 

「そうだな。根潮先輩には黄瀬がつくことは間違いない。4番の加藤さんには4番か5番がつけばそこそこは処理できる。仮にそこが負けたとしても、他3人は間違いなく海常の方が上。良い試合をするとしても、海常の勝利は間違いない。代表はうちと海常、明日はただの決勝戦になる。」

 

「へぇ。じゃあ見なくても良いんだ!」

 

「良い訳あるか!」

 

「あだっ!?」

 

桑田が水木の頭を叩いた。

 

「海常の勝ちが間違いなくとも明日は勝ちに行く試合だ。この試合はうちにとって最終確認の試合にもなる。しっかり試合を見て海常の選手こ動きを頭に叩き込んどけ。」

 

「「「はい!」」」

 

海常高校と大木高校の試合は、大木の加藤と根潮の奮闘により、黄瀬を中心に攻める海常と鬩(セメ)ぎ合っていた。第3Qが終わり、56:53、どちらが勝ってもおかしくない状況となっていた。




いかがだったでしょうか。
活動報告ではお知らせしましたが、無事11月中にあげられてよかったです。
みなさん体調はいかがでしょうか?私は最近週一で崩してるのであまり良いとは言えないです。
次の更新は早ければ来週、遅くとも再来週にはあげたいです。
では、また(o・・o)/~


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