ヤンウマ娘と共にURA優勝を目指すお話 (ネマ)
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ダイワスカーレットと共にURA優勝を目指すお話

副題:少女狂踪~Lunatic scarlet~


 

 

 

「初めまして!あなたが私のトレーナーさん?」

 

美しい。

俺が始めてのパートナーとして選ばれたウマ娘は"ダイワスカーレット"と言うウマ娘だった。

 

その名前に有るスカーレットに恥じぬぐらいの、光と力。そして知性を兼ね揃えたその深紅の眼差しに俺は始めての恋をお前にしてしまったのだ。

 

「……私は一位を取る。その為に協力しなさい!トレーナー!」

 

日々時間が進むにつれて、俺はダイワスカーレットの気質を大体悟る事が出来始めた。

 

こいつは多少人に対しての当たりが強いが、根は優しくそして何処までも勝利に貪欲だった。

 

外の上面も中々厚く、基本その本性を知る昔馴染みらしい"ウオッカ"。そして勘が妙に良い先輩だけが彼女の上面に気がついていないのだから驚きだ。

 

誰か先輩トレーナーが言っていた気がする。

こいつは取っつきにくいと。

 

違う。だだその言動で勘違いされただけで……こいつは本当に勝利に貪欲なだけなんだと、俺は思うしかなかった。

 

「……ちゃんと見ていた!?私の走り!!」

 

俺たちは最初の登竜門。

"ジュニア級メイクデビュー"に向けての調整を向けていた。

 

ダイワスカーレット。もといスカーレットは"逃げ"だとか"先行"と言うように、主に速度に注意して強化していったら良い子だと聞いていた。

 

その為には、スピードを上げる訓練をして時には休んでと過ごしていたら、もうスカーレットのデビュー数時間前になった。

 

コースは京都 芝 中距離2,000m/右・内。

スカーレットが得意な中距離に芝に。

コンディションさえ整えば確実に一位を取れる所である。

 

「……緊張してるか…?」

 

「はぁ!?……私が緊張なんてそんな事……」

 

語尾になるにつれて、声の大きさが下がっていくのを見るとどうやら大分緊張しているらしい。

 

「…………まあ自分らしく勝利を掴め。」

 

「トレーナー……応援としては下の下よ。それ」

 

スカーレットは羽織っていた上着を丁寧にたたんでこちらに投げてこう瞳を輝かせて言ってきた。

 

「でも感謝するわ。そこで見てなさい!私の走りを!」

 

そう誇り高く胸を張ってスカーレットはレース場に入っていった。

 

>晴天に恵まれた京都馬場<

 

>勿論一番人気は8番ダイワスカーレット<

 

少しだけ緊張が残っているのか動きが固いようだ。

 

>全員ゲートイン完了出走の準備が整いました。<

 

もうここから、俺の出来ることは無い。見守る。それだけだから。

 

>さぁ!一斉に走り出しました!<

 

ゲートが開く。

全員が遅れなく、走り出し芝を踏みしめて動く。

 

ウチのスカーレットは今回は"逃げ"を作戦の軸に今まで特訓してきたからその速度は他のウマ娘よりも明らかだ。

 

段々と速度を上げて、後続を二馬身、三馬身と離していく。

 

終わりは自分が思うより速く。

最終のコーナーをターンするともうゴールはすぐそこだった。

 

>ダイワスカーレット!一着!<

 

>他のウマ娘と大きな差を付けて優勝しました!!<

 

電光掲示板を見ると二着とおよそ四馬身差を付けて勝ったことが分かる。

 

それでも栄光は長くは続かなかった。

 

>ダイワスカーレット、チューリップ賞二着<

 

>ダイワスカーレット、桜花賞四着<

 

嫌。分かっていた。

俺に格別な勝利を導けるほどの指導力が有るとは思わなかったし自分でもそうだろうとは思わなかった。

それでも俺が惚れたその瞳の為に……!

 

 ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄

 

命令書

 

ダイワスカーレットのトレーナー"■■■■"は■月■日を持って、その役を終える事。

 

尚、ダイワスカーレットにおいてはフリーとし、

 

 ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄

 

グシャッ

 

手のひらでぐちゃぐちゃにするしか無かった。

分かっていた。

最初に劇的に勝利したあの時から、これからも"そう"で有ることを期待して居たということぐらい。

 

分かっていた。

 

分かっていた。

自分には教えられるほどの力が無いことぐらい。

 

「………過去に戻れたら。」

 

何と馬鹿げた事だが、人間誰しも想像した事が有るだろう。

"もし時の針を過去に戻せたのなら"

 

それが今だった。

過去に戻って今一度スカーレットのトレーナーで今度こそ優勝を!!

 

「………これは……?」

 

そんな事を思っていたら右ズボンのポケットに異物感を感じ、それを取り出してみた。

 

………黄金の懐中時計だった。

それは見事な純金製で、そんな物の価値を素人目でしか分からない俺でもこれは高価な物だろうと分かる。

 

何故か、俺はこれの使い方を知っている気がした。

これは"過去を刻める"のだろう。

何で自分の手に有るのか分からない。

そもそも本当に過去に行けるのかですら確かでも無い。

 

……最後の博打だった。

おれは迷い無く引き金を引いたのだった。

 

 ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄ ̄_ ̄_ ̄_

 

[4月・オープン前]

 

「………戻った……か。」

 

どうやら俺は賭けに勝ったらしい。

桜が舞い散るそこには俺が憧れたルビーを思い返させるかのようなダイワスカーレットが居た。

 

「………君がダイワスカーレットだな」

 

「ええ。そうよ。宜しくね。私のトレーナー」

 

でも結末は変わることはなかった。

 

>ダイワスカーレット、チューリップ賞二着<

 

>ダイワスカーレット、桜花賞三着<

 

結局。未来が変わる事は無かった。

いや。一つだけ順位が上がっただけで結局変わる事すらなかった。

 

 ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄

 

命令書

 

ダイワスカーレットのトレーナー"■■■■"は■月■日を持って、その役を終える事。

 

尚、ダイワスカーレットにおいてはフリーとし、

 

 ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄

 

「………認めない。こんな未来なんて……!!」

 

前回とまったく同じ結末。

同じ未来。

こんなことにしないために、俺は戻った筈なのに……!!

 

それでも憎しげに時計はキラリと光輝いていた。

 

「……………………」

 

俺はまるで光に導かれる蝿の如くその時計の針を戻した。

 

_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄___ ̄

 

>ダイワスカーレット、チューリップ賞一着<

 

>ダイワスカーレット、桜花賞一着<

 

>ダイワスカーレット、オークス六着<

 

「………繰り返す。」

 

 ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄ ̄ ̄ ̄

 

>ダイワスカーレット、チューリップ賞一着<

 

>ダイワスカーレット、桜花賞一着<

 

>ダイワスカーレット、日本ダービー七着<

 

「……何度でもっ!!」

 

 ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

>ダイワスカーレット、チューリップ賞一着<

 

>ダイワスカーレット、桜花賞一着<

 

>ダイワスカーレット、オークス三着<

 

>ダイワスカーレット、秋華賞五着<

 

「………今度こそ!!」

 

 ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄______

 

>ダイワスカーレット、チューリップ賞一着<

 

>ダイワスカーレット、桜花賞一着<

 

>ダイワスカーレット、オークス一着<

 

>ダイワスカーレット、秋華賞三着<

 

>ダイワスカーレット、エリザベス女王杯六着<

 

「……次こそ!!」

 

 ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

>ダイワスカーレット、チューリップ賞一着<

 

>ダイワスカーレット、桜花賞一着<

 

>ダイワスカーレット、オークス十着<

 

「……こうじゃない」

 

 ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄________

 

>ダイワスカーレット、チューリップ賞一着<

 

>ダイワスカーレット、桜花賞一着<

 

>ダイワスカーレット、オークス一着<

 

>ダイワスカーレット、秋華賞二着<

 

>ダイワスカーレット、エリザベス女王杯三着<

 

>ダイワスカーレット、大阪杯六着<

 

「………もっと……!!」

 

 ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

>ダイワスカーレット、チューリップ賞一着<

 

>ダイワスカーレット、桜花賞一着<

 

>ダイワスカーレット、オークス一着<

 

>ダイワスカーレット、秋華賞三着<

 

>ダイワスカーレット、エリザベス女王杯二着<

 

>ダイワスカーレット、大阪杯一着<

 

>ダイワスカーレット、天皇賞(秋)五着<

 

「………やっと進んだ。」

 

 ̄_ ̄_ ̄_ ̄__________

 

>ダイワスカーレット、チューリップ賞一着<

 

>ダイワスカーレット、桜花賞一着<

 

>ダイワスカーレット、オークス一着<

 

>ダイワスカーレット、秋華賞三着<

 

>ダイワスカーレット、エリザベス女王杯二着<

 

>ダイワスカーレット、大阪杯一着<

 

>ダイワスカーレット、天皇賞(秋)一着<

 

>ダイワスカーレット、有馬記念十二着<

 

「…………………………………」

 

 ̄________________

 

>ダイワスカーレット、チューリップ賞一着<

 

>ダイワスカーレット、桜花賞一着<

 

>ダイワスカーレット、オークス一着<

 

>ダイワスカーレット、秋華賞三着<

 

>ダイワスカーレット、エリザベス女王杯二着<

 

>ダイワスカーレット、大阪杯一着<

 

>ダイワスカーレット、天皇賞(秋)一着<

 

>ダイワスカーレット、有馬記念三着<

 

「…………」

 

もう。何回繰り返したかすら。

覚えていない。

一つの馬場を攻略するのに何回も繰り返した。

 

見捨てた時間軸も多く有る。

そもそもスカーレットを見ない時間軸をも繰り返した。

 

何度も、何千回も繰り返す内にスカーレットが優勝するまでの道筋。ゴールラインが大まかに見えてきた。

まず初期は三着まで、そして最後の方は一着にならなくてはならない。

 

そう考えるとこの時間軸も失敗だ。

巻き戻そう。

 

カチッ

 

そうやって後ろに延びていく様な時間の流れに身を任せていると何時から自分は巻き戻せば良いだろうと考え始めたのかと思ったがどうせまたすぐに戻すだろうと考えるのを止めた。

 

「………まるで薬やっている様だな。」

 

何処かの時間軸の自分が俺を嘲笑った気がした。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

「初めまして!あなたが私のトレーナーさん?」

 

「………ああ。君がダイワスカーレットだね?……宜しく。」

 

そうやってまた時間を繰り返した。

 

今度こそ勝たせてあげると言う意思を持ちながら……そしてどうせここも駄目だろうなと思いながら。

 

 ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄

 

またこの感覚だ。

世界が白黒になって、粉々に砕けて行く感じ。

 

そのあとすぐに、背中が引っ張られ気がついたら春の学園に居た。

 

今まで鍛え上げてきた肉体は入学した直後の体に変わっていて、また巻き戻ったんだなと自覚する。

 

「初めまして!あなたが私のトレーナーさん?」

 

「………ああ。君がダイワスカーレットだね?……宜しく。」

 

ここ数百回ぐらいは運が良い。

同じトレーナーの元で出来ている。

たまにこの人は浮気性なのかウオッカのトレーナーになっていたりタキオン先輩のトレーナーだったり、はたまた名前も知らない無名のウマ娘のトレーナーになっていたりしていた。

 

……まったくそんな風に、嫉妬を煽っているのもかわいい所だが、やっぱり自分だけをみていてほしい。

 

一目惚れだった。

彼にとって何回目の私かは知るよしもないが、私にとってそれは運命の人と言っても過言じゃ無かった。

 

私が一番やりやすい様に、もっとも効果が有るように鍛え上げてくれるのには少しだけ違和感を感じたのだ。

私がどれだけ悪態を付いても彼は絶対に私を見捨てる事もなかった。

 

………私が時間を巻き戻っていても狂わない理由はそこなのだ。

いや。本当は狂っていて、ただそれに気がついていないだけなのかも知れない。

 

でも正気に戻ったら、絶対に二度ともう彼と同じ時間には居られないだろう。

その予感は強くある。

ウマ娘としての勘だけでなく気取った言い方するならば女の勘とやらだ。

 

…………まぁでも。

トレーナーさんは勘違いしている。

 

「………こんばんわ。」

 

何千回と繰り返す中で、寮のバレない脱走の仕方なんて幾度と無く覚えた。

 

勿論向かう先なんて一つだ。

愛しい"トレーナー"の元へ。

その人は質素な部屋で魘されながら眠りに付いている。

 

「…………馬鹿な人」

 

本当に馬鹿な人だ。

ただ"私に勝って欲しい"それだけの思いでこの人は幾度と無く時間を巻き戻したのだろう。

 

……その勝利の果てに貴方が掴めるのは名声だけだと言うのに。

嫌。わかっている筈だ。

少なくとも一回。GⅠの優勝を自分が指導しているウマ娘が居たならばもうそれは引く手あまただろう

に。

 

貴方は少なくとも私を絶対にURAを優勝させたいらしい。

でも………

 

私が優勝したら貴方は離れていく。

そんな事は絶対に許さない。

 

_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_

 

「ねぇ……トレーナー?もしこの決勝。私が優勝したらどうする?」

 

「………ん?。特には考えてないが……少しだけゆっくりとしたいなぁ……一人で。」

 

「………そう。じゃあそこに。私は居ない訳ね?」

 

「………居ない訳と言っても、お前はこれから引く手あまただろうに。」

 

「………………………そう。」

 

_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_

 

なら。

私から離れていくと言うならば

それが私が勝ち続けるのが原因だと言うのならば。

 

"私は勝たない"

 

何度も負けてあげよう。

でもあまりにもやり過ぎた敗北は彼の心を殺す。

 

じゃあ勝って…良いところで負けて……次の時間に移ろう。

大丈夫。時間は大量に有る。

 

今までおよそ6兆5千回近くしか繰り返してない。

でももうちょっと繰り返せばもっと幸せな未来……具体的に言うと"私と貴方が幸せな家庭を作ってる"世界線だとかね?

大丈夫。

あらゆる障害は全部壊してあげるから。

 

だからまた戻しなさいよ。

トレーナー?

 

 





解説をしますと、ダイワスカーレットのトレーナーは元々そんなにウマ娘を教えるのに向いていなかった。
だが愚かしくもその勝利までに渇望するダイワスカーレットの姿を見て、ダイワスカーレットがURA優勝…そんな姿に憧れてずっと時間を巻き戻してる。

だがダイワスカーレットもそれに気が付いて、少しずつ自分だけを見て欲しい…(たまに浮気して違う子のトレーナーしたから)…と思い始めて、もしここで優勝しちゃうと私から離れていくのではないかと思うと抑えきれなくなり、ならわざと負けて何度も繰り返させてこのぬるま湯みたいな時間をずっと……(ヤンデレ)


みたいな感じです。

感想をバンバン宜しく!!
好評で有ればまた違うウマ娘のヤンデレも書こうかなって思ってます!!

では。




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ライスシャワーと共にURA優勝を目指すお話 前編

はい。続きました。
今回はお兄様製造機ごとライスシャワー。
書きたいことが多過ぎて前編と後編に分けました

ライスシャワーの口調が最初の方がおかしかったりしているかもしれませんがそれは想像力で補っていただければ幸いです。


それではどうぞ。



「………初めまして。ライスシャワー。君のトレーナーだ。宜しくね?」

 

「……はっはい!ライスシャワーです!お願いします!!」

 

始めての印象は気弱そうだが何処か強そうな芯を持つウマ娘の様だった。

 

その時、トレーナーとしてある程度の訓練が付いていた時の自分だったがこれが運命の出会いだったのだろう。

今になって思うがこのときの選択を未来永功素晴らしいと大手を振って言えるだろう。

 

「どっ……どうでしたか?ライスの走り……?」

 

「……あっ…ああ。素晴らしいと思うよ。」

 

言葉にすらならなかった。

 

ライスシャワーの走る前の弱々しく、おどおどとした雰囲気はまるでに無く、ゲートに入った時点でその場を大きく誰よりも支配していた。

 

ゲートが開くと、誰よりも速く走るその姿にはまるで鬼が宿るかの様な空気を一瞬だして霧散した。

……きっとあのときが彼女の全霊だったのだろう。

 

それでも美しいまでのその光輝く紫の瞳に宿る光は後ろに線を引き見ているこっちまでその熱意に引き込まれそうになった。

 

古来より、人は宝石に価値を見いだし、太陽に神を当て嵌める。そんな感覚が今にでも思い出せる。

 

「………これから宜しく頼む。ライスシャワー。」

 

「……はい!宜しくお願いします!」

 

………この時から俺達の二人三脚の生活が始まった。

目指すはURA優勝。

そうやって波乱万丈の三年間が始まった。

 

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そもそもライスシャワーはダートより芝生の方がより速くなる。

と言うかダートだと合っていないのか悲惨な話になる。なった。

 

そして距離適正は中距離から長距離と言うこともあり、尚且つ得意な気質は"先行"がずば抜けてその後に"逃げ"と"差し"が来て、全く形にすらならなかったのが"追い込み"だ。

 

だからライスの育成はスピードとスタミナを重点的に鍛え上げた。

 

ライスはトレーナーである私の指令についてもよく聞いてくれるし普通に居て楽しい。

どうやらライスは聞き上手の様だった。

たまにライス主体で話してくれることも少なくもないがやはり聞いていて心地よい声で語ってくれるから聞いていてもしゃべっていても楽しいのは一緒に居ても楽しいと言うことだった。

 

そして数ヶ月が経った。

 

 

 ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄

 

今日はライスシャワーのデビュー戦の日だった。

天候は上場。従ってレース場も良場である。

 

新潟で芝そして中距離2,000m/左・内。

これが今回のレース場だ。

ライスシャワーのコンディション次第で確実な勝利を掴める圏内である。

 

「……まあこれがお前の始めてのレースだ。気張れよ。」

 

「はい!…見ていて……ね。ライスの走りを!」

 

表面上では何時ものような空気でいるがそれでも少し緊張しているのかウマ娘の特徴的な耳が少し後ろにしなっていた。

 

頭を軽くクシャリと撫でてやると少し驚いたのか体がビクッと跳ねたがすぐに落ち着いたかのように目が細まって、体にすり寄ってきた。

 

この後、頭から手を離そうとしたらいつも以上の握力で撫でるように強要したりと可愛いところがまた見つけられたなどと言った蛇足もあった。

 

>晴天に恵まれた新潟馬場<

 

開始を告げるアナウンスが始まった。

ライスの最後のコンディション整えの控え室の整理をして、ライスの最も輝くであろう第4コーナー近くの椅子に陣取って応援の為に座った。

 

>勿論一番人気は4番ライスシャワー<

 

>コンディションは最高ですね。強者の貫禄すら出ています。<

 

そんなことを解説に言われて少し嬉しく少々顔が歪んでしまった。

 

前にある電光掲示板を見ると大体がゲートに入り終わったみたいだ。

ライスはそれでも少々緊張しているのか片目にかかるぐらいの茶黒の髪が左目の半分ぐらいまで掛かっていた。

 

>全員ゲートイン完了出走の準備が整いました。<

 

もうここから、俺の出来ることは無い。見守る。それだけだから。

 

>さぁ!一斉に走り出しました!<

 

ゲートが開く。

全員が遅れなく、走り出し芝を踏みしめて動く。

 

ウチのライスシャワーは今回は"先行"を作戦の軸に今まで特訓してきたからその持久力と抜けるためのパワーそして抜けたあとのスピードは他のウマ娘よりも明らかだ。

 

最初は真ん中より少し前側に、一番人気でもそこまでマークしてくるウマ娘も少なく、比較的簡単にライスにとって得意な位置に着けた様に見えた。

 

終わりは自分が思うより速く。

最終のコーナーをターンするともうゴールはすぐそこだった。

 

すると、あの時始めた会ったときの鬼が宿るかの様な雰囲気と共に一気にごぼう抜きを達成しそのままの速度で見事一位を獲得した。

 

二位との差はおよそ6馬身。

ほとんど敵無しのような状態で俺達は劇的なデビュー戦を飾った。

 

 ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄

 

 

俺達はスプリングsそして、日本ダービー二つとも好成績で勝ち進んだ先に居たのは菊花賞で待つミホノブルボンだった。

 

彼女はこの菊花賞で3冠を達成する事が出来ると言うところまで王手が掛かっており、言っては何だが世論も今回の菊花賞はミホノブルボンに敵うウマ娘は居ないだろうと。確実に3冠を達成出来るだろうと沸き立っていた。

 

……だが。

ウチのライスシャワーは、ミホノブルボンに対抗出来るだろうと踏んでいる。

 

先行でできる限りのマーク。そして自分にとって最も速度を振り絞れるタイミング。

やはり何気に一番関係してくるモチベーション。

 

上二つは今までの積み重ねでクリアできるだろうがやはり問題はモチベーションのところだった。

 

 

今日は菊花賞当日。

生憎の大雨だったがもう選手のウマ娘は控え室で最後の調整や勝負服の着付けを行っているところだ。

 

コンコン

 

「はーい!お兄さま?!」

 

ライスシャワーの部屋に行くともうライスは勝負服に着替え終えている様だった。

黒いドレスの様な服に、腰の短剣。そして頭の青い薔薇。

 

正直言うととてもドンピシャの好みだった。

普通に可愛く、ライスの良さを全力で全面にだしてきた勝負服は人目を引くかわいさだった。

 

「……凄い似合ってるな。ライス。」

 

「えへへ…そう?お兄さまが喜んでくれてライス嬉しい…!」

 

始めてのレースの時の様に俺の膝の上で頭を撫でて欲しいとすり寄って来るのは何時もの通過儀式で時間ギリギリまでライスの髪を撫で続ける。

 

気持ち良さそうに目を細めて、耳を横に向けているのを見て完全にリラックスした状態に入っているのかウマ娘の中でもかなり小柄であんなに食べているのに体に全く宿っていない位軽い庇護欲を最大限誘うような少女が男のトレーナーの膝に座ってリラックスしている………

単純に事案である。

 

「……お兄さま。……今日のレース。ライス勝てると思う?」

 

リラックスをしていても恐怖と言うのは今まで以上に感じているらしく、目も不安に揺れていた。

 

トレーナーから負けるなや勝てと言うのは簡単だが、そうも言えないだろう。

 

正直言うと、この試合は勝つことができるだろう。

何の証拠もないが強いて言うならば勘だ。

 

ライスシャワーはミホノブルボンを蹴散らすだろう。

 

「……俺は正直お前は勝つだろうと睨んでいる。」

 

「…………ぇ?」

 

「今日は不良の土壌。ミホノブルボンがどれだけこう言うフィールドで訓練したかにもよるが……確実にお前に運気は向いている。」

 

そう。ライスシャワーはあり得ない位に"不幸"なのだ。

 

たまに居るのだ。

もう神に嫌われている位に普段の運が無い奴が。

ただそう言った奴に限って、ここぞと言う所では豪運を越えたそれこそ"奇跡"と称されるレベルの幸福を起こす。

ある意味幸と不幸が釣り合っては居るが日常生活では不便だろう。

 

「……それに。お前は不幸にも"8番人気"下から数えた方が楽な部類と言うことだ。……これは逆に言うと"マーク"されにくいと言うことだ。」

 

何度も念押ししているがライスは"先行"。

囲まれマークされても抜け出せる様には教えているがやはりマークされていない方がライス的にも楽だろうし速度を上げやすい。

 

「とまあご高説に語ったが……お前は負けんよ。ライスシャワー。その名前の通りに幸福を運んでくると信じてるからな。」

 

最後に、ポンと手をライスの頭にのせてワシャワシャして出ていった。

 

>まさかの大判狂わせが起きました!<

 

>ライスシャワー!ライスシャワーがミホノブルボンを下ろして一位です!<

 

俺の予想通りに菊花賞は終えた。

ミホノブルボンを大きく離し、ライスシャワーが見事一位を勝ち取った。

 

「……あーあ。」

 

「……なんだよ。ライスシャワーかよ。」

 

「……はぁ……お前じゃないんだよなぁ…」

 

とは言っても、ライスシャワーに対して誉める言葉の一つもない。

余程ミホノブルボンが3冠を達成するのが自らの好みだと。伝説的な物語にしようと。

そこに阻む存在が居ることを忘れた。

 

「……車を回しておくか。」

 

このままライスシャワーを放って置いたらろくな事になら無いのは目に見えている。

 

流石に勝者。優勝者……優勝ウマ娘なのだから、ウイニングライブには出なければならないがそれ以上今の状態の観客には触らせられん。

 

……過保護だと罵られても構わない。

自身が苦楽を共にしたウマ娘にライスに品のない罵詈雑言を浴びせられるのは考えただけでも腸が煮えくり返る。

 

その後。ウイニングライブは中々上手く言ったがそれでもライスに不満は残っているらしく、そのまま観衆の目に触れさせぬまま学園に帰っていった。

 

 ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄

 

「……全く同じ展開だとはな。ライス。」

 

「そうだね。お兄さま。」

 

天皇賞春。

俺達はまた同じ展開になろうとしていた。

相手は3冠を狙うメジロマックイーンが相手だった。

 

「……怖いか?」

 

「……ううん。怖くないよ。」

 

ライスにとって俺達に取って、この展開は二回目だった。

前回。ああ言って世論から離したつもりが何処からともなく情報が漏れていたらしい。

 

「………今回はどうなるか想像が付かない。」

 

メジロマックイーンは強い。

あれは運も味方にするタイプのウマ娘だ。

 

今日の馬場は良。

そして……ライスの人気は……

 

「……二番人気。期待はされてるが…厄介な話だ。」

 

無論一番人気はメジロマックイーンで変わりがなかったが、まさかの二番人気で入っている。

 

ウチのライスが注目され、期待されているのは悪くない話だがあまりいい気にはならない。

注目されると言うことは、それほど他のウマ娘からも注目される。

そうなると、先行であるライスが抜けたい時に抜けられないようにする即ち囲い……マークされる可能性も高くなる。

 

「……ライス……」

 

「なぁに?お兄さま?」

 

「………やれるか?」

 

「……………ライスはやるよ。」

 

もう。俺達の間に言葉は要らなかった。

ツーと言えばカーで通じるかの様に、俺達の会話に不必要な主語は要らない。

そうして始まった波乱の天皇賞春。

 

「………青薔薇の………追跡者……」

 

まさにその走りは鬼気を宿す物だった。

ゲートに入った時点でその鬼気はまさしく修羅。

 

そのままゲートが開いて走っていくが、最初はメジロマックイーンが優勢だったが、途中終盤でライスが今までに無いぐらいの鬼気を宿したままごぼう抜きでメジロマックイーンを落としたのだ。

 

青薔薇。ライスに付けられたその花は"不可能を可能にする"と言った意味も込められていてまさしくその通りに見事一位を取ったのだった。

 

 ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_

 

>ライスシャワーのトレーナーが暴力を振るっていた<

 

「……ライスシャワーのトレーナーさん。ちょっと良いですか?」

 

昼時。

私は少し足を伸ばして、町の蕎麦屋さんに来ていた。

 

丁度日は登りきり、直射日光は肌を痛め付ける程に強い夏の日だった。

 

「……おや。貴方はハッピーミークの。」

 

「はい。桐生院です。あの同席良いですか?」

 

「どうぞ。どうぞ。」

 

「それではお言葉に甘えて。」

 

俺は天ざるそばの大盛りを頼み、桐生院さんも天ざるそばを食べた。

 

「……それでは本題をよろしいでしょうか?」

 

「……何か有ったんですか?」

 

「……………実は……」

 

そう。

何時からか知らないが、俺がライスシャワーに暴力を振るいトレーナーとは思えない行為をしていると、ウマ娘の中で。そして最近ではトレーナーにもその話が耳に入ってきている様らしい。

 

「……俺が…ライスを?」

 

「……いえ。疑ってる訳じゃ無いんです。私とミークの仲を取りまとめてくれた貴方が、そんな事をするとは考えられませんし。」

 

「……第一。ライスシャワーが貴方の事をお兄さまと称して呼んでいたり、休日も一緒に遊びに行くところを見た子も居ます。」

 

「今は、貴方の事やライスシャワーさんと関わりがないウマ娘の方で話が回っていますが、問題は何処からその話が現れたか?なんです。」

 

「……これを信じていない人が大多数ですが……」

 

そこまで言って桐生院トレーナーは口ごもった。

言いたいことは分かる。

聞いた感じだと、俺がライスに暴力を振るっていると言うウワサが流れているらしいが、これは普段の行動が功をなしてそこまで重鎮方……具体的に理事長や皇帝さまには問題とはなされていないようだ。

 

かと言っても、問題は"誰が"このウワサを流していたかだ。

あまりにも悪質で、ライスシャワーと俺と言う品を落とすこの行為は何か目的があるのかもしれない。

 

ウワサが行き過ぎたら次はどんな法螺を吹かれるか分かったものではない。

 

「……これ以上。被害が起きないようにする……か。」

 

「はい。それしか無いようですね。」

 

対策を練っていても、次は一体何のウワサを流してくるかすら予想の立たないままそこで話は終わってしまった。

 

_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_

 

[数日後]

 

数日間。何事も無く過ぎ去っていき俺は先日桐生院トレーナーと話したウワサ話を少しずつ忘れていった。

 

>〇〇トレーナー。〇〇トレーナー。至急理事長室までお願いします。<

 

夕方。

そとを見れば鳥が寝床に戻るように羽ばたいていた。

今日の訓練は結構ハードに行った為、ライスにはちょいと早めにご飯を食べさせにいった。

 

この後、ライスのストレッチと軽くできる運動をして終わろうかと考えていた矢先に、駿川さんから俺宛に校内放送で理事長室まで来るようにと達しが有った。

 

「……失礼します。どうかしましたか?理事長。」

 

「うむ!そこに掛けたまえ!」

 

理事長室に入るといつ見ても小さい理事長……初めてみたら、何処かの妹さんか見学者だと思うだろう。

おれだって初めて見たときはそう勘違いしたのは苦い思い出だ。

 

「……それで一体何の?」

 

「はい。ここから先は私が説明しますね。」

 

座るようにと指定された椅子の斜め前に、理事長の右腕及び補佐。

"駿川たづな"だ。

 

「〇〇トレーナー。貴方は貴方自身のウワサをご存知無いでしょうか?」

 

「……ウワサですか?………ああ。あのライスに暴力を振るっていると言う……」

 

「……それだけじゃないんですよ。」

 

たづなさんが言うには、その"ライスに暴力を振るっていた"と言うにはあまりにも信憑性が少なく、時間と共に廃れていくだろうと思っていたが、無視できない程のウワサが流れているらしい。

 

「……いえ。きっと手を出していたなら合意だと思いますが……曰くトレーナーさんとライスシャワーさんが不純異性行動を起こしていると言うウワサまで流れいるんですよ。」

 

「…………は?」

 

寝耳に水だった。

俺がライスと…?そもそもそんな事をしている時間は無いし、ライスもトレーニングが終わればお腹も空くだろうから、速攻寮に送り返している。

 

「……それこそ無理な話でしょう。」

 

俺は自分の潔白を証明した。

俺がライスに結構ハードなトレーニングをさせているのも会長や桐生院トレーナーにも見られているし、すぐにも寮に送り返しているのも知っている筈だ。

それに寮は男子禁制。

 

「……いえ。私たちは疑っている訳ではなく……」

 

「結論!!私達は君の心配をしているのだ。」

 

私の必死さが大いに伝わったのか、理事長が言うには、これ以上ウワサが広まりライスにも俺自身にもメンタル的にもマイナスとなってはいけないから、遠征と称して地方の学校の方でトレーニングしたらどうかと言うのだ。

 

「やっぱり地方の学校ではここほどの施設は有りませんが、一通りトレーニング出来るようにはなっています。……それでどうでしょうか?」

 

俺は、その時は何も言えずただ一言ライスと相談しますと言って理事長室を後にした。

 

_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_

 

「結論!トレーナーはこれを受理してくれるだろうか。」

 

「……きっとするでしょう。」

 

私達は、いろんな意味で台風の目になっているライスシャワーとそのトレーナーのウワサを纏めた紙を拾い上げた。

 

「疑問!何故こんな辻褄の無い嘘を流しているのだろうか?」

 

「……それはきっと……」

 

曰く"ライスシャワーのトレーナーは昔不祥事を起こした"や"ハッピーミークのトレーナーと如何わしい事をしていた"etc…とお粗末

過ぎて見るにも絶えないぐらい位のウワサが流れていた。

 

実際にもこれぐらいのウワサなら、裏も取れているし信憑性もほぼ皆無に過ぎない。

 

過度なトレーニングはある程度の限界を見極めて行っている為、今までに怪我も負傷も無いし、きちんとした功績も上げている。

 

不純異性行動……はもしやっているならばあの様子だと純愛だろう。

実際にも物理的な力関係はウマ娘の方が上手だし、逆の場合もあるがそうだと搾り取り過ぎるから簡単にトレーナーの不調で分かる。

 

問題はウワサが流れた事による弊害だ。

幸にも不幸にも、この情報はまだブン屋には漏れていない。

即ち、学園内だけの話だ。

しかも大々的に広がっている訳でなく、特にライスシャワーとの関わりが無い下層グループで蔓延している笑い話程度だ。

 

このウワサを流した主犯を突き止めるため、大々的に告知する事もしないが、彼女に関わりの深いウマ娘や生徒会にも通達して現状の改善をライスシャワーとそのトレーナーが遠征と称した温泉旅行中に終わらせるつもりだ。

 

「……激怒!必ずこれを突き止めるぞ!」

 

「はい!理事長。必ず!」

 

とは言っても…………まさかと思います。

 

_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_

 

「……良いところだなライス。」

 

「うん!そうだねお兄様!」

 

俺達は結局あの後、理事長の言葉に従い、遠征に向かった。

実態は遠征とは程遠く、そこは結構大きな温泉街の温泉宿にて遠征と言う名の温泉旅行を取った。

 

宿がここで有るだけの話で、学園のライスシャワーとバレなければ基本何処にでも行って良いらしい様だ。

ただし国内で。

 

「……あっ…あのね?ライスね。一つ行ってみたい遊園地があるの?」

 

「……遊園地…?……ああ。大阪とか東京のか?」

 

「ううん。違ってね……あの新潟の遊園地に行ってみたいの…」

 

ライスがこうやって遊園地と言う娯楽施設に行きたいと言うのは初めての話だった。

 

だがそう無下にする事も無いし、実際にもする事もない。

それに競馬場もあった筈だから、行って損は無いだろうと言うことで俺達はベットで眠りについた。

 

 




後は後半に続きます。

不適切な場所を削除しました。この度は私の勘違いが原因です。申し訳有りませんでした。

ライスがわざわざ新潟の遊園地としていしたのは訳が有ります。
カミングアウトしますと…新潟の競馬場にはとあるものが有るんですよね。

ここからは余談と言いますか独り言ですが、実は最近。
プリコネに嵌まりつつ有ります。

大分前からいれては居ましたがログインしてガチャ回す程度が最近ではバチバチ空き時間頑張ってようやくルナの塔に参加出来るようになりました。

ある程度分かってくるとヤンデレ小説も書きたくなってきます。
……私だけでしょうね。

書いてみたいのは"仲良し部"そのあとに"サレン救護院"と構成は有りますが暫くはウマ娘かなぁとは思います。
それではまたの機会にも。



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ライスシャワーと共にURA優勝を目指すお話 後編



今回独自設定アリ。
ウマ娘が何故病むのかを独自設定で考えている所が有るので苦手な場合は目を背けてスクロールバーを下に!

あ。いつも通りキャラ崩壊は注意。




 

 

ごめんね……お兄様。

 

私がお兄様の事を本格的に意識し始めたのはきっと菊花賞からだった。

 

それまでは、トレーナーとウマ娘ってだけで私は彼のトレーニングをこなして、たまに休憩がてら雑談して…

そうやって過ぎ去っていく1日1日がとても楽しかった。

 

その日がやって来た。

そう。菊花賞の日が。

 

相手になるは"ミホノブルボン"さん。

"皐月賞"、そして"日本ダービー"と一位を取ってそして"菊花賞"で3冠を達成できるとそこまで王手を掛けているウマ娘だ。

 

今日は生憎の大雨。

今日からの勝負服もお兄様には晴れの時に見ていてほしかったけど…それも仕方ないか。

 

コンコン

 

「はーい!お兄さま?!」

 

勝負服の着付けも終わって、最後の調整をしている時に、控え室のドアを小さく叩く音がした。

レースまではまだまだ時間が有るし、ということはお兄様だろう。

 

そうやってドアを開けて向かいいれると、そこに立っていたのは予想通りにお兄様だった。

 

「……凄い似合ってるな。ライス。」

 

「えへへ…そう?お兄さまが喜んでくれてライス嬉しい…!」

 

目の前で一回転して服の様子を見せると放心した様にライスを見てくれた。

 

……良かった。

ダイワスカーレットさんにトレーナーさんに勝負服をよくよく見せる方法を教えてもらっていて。

 

すると、お兄様が頭に手を乗せて撫でてくれた。

今まで、親愛程度に頭を軽くポンと撫でてくれる事は有ったけど、こうやってこんなに長い時間撫でてくれる事は無かった。

 

ハフゥ………

 

私の口からリラックスしているのか少しふ抜けた声がした。

お兄様に聞かれたら少し恥ずかしいが、お兄様は気がついていない様だったから助かった。

 

………今日と言う日を迎えられたのは嬉しいが、それでもやっぱり不安が大きい。

正直に言うとミホノブルボンさん以外はあまり眼中に無い。

 

ライスに取って強敵なのはミホノブルボンさんだ。

なんと言っても、今回の試合で3冠をとれると言うことで盗み見たそのトレーニングでは鬼気迫る様だった。

 

「……お兄さま。……今日のレース。ライス勝てると思う?」

 

私は少し悩みながらもお兄様に弱音を吐いてしまった。

どうしてライスはこんなに弱いんだろう……

試合前からこんな様子じゃ怒られる……!!

 

「……俺は正直お前は勝つだろうと睨んでいる。」

 

「…………ぇ?」

 

……え?

お兄様……?

 

正直に言うと、呆れられてもおかしくは無かったと思う。

それでもお兄様は私が勝つだろうと言ってくれて本当に嬉しかった。

 

「とまあご高説に語ったが……お前は負けんよ。ライスシャワー。その名前の通りに幸福を運んでくると信じてるからな。」

 

………ライスはとても嬉しかった。

私のライスシャワーは幸福を運ぶんだと……でも。

 

私が皆不幸にしちゃうから。

私は……ほんとは必要じゃ無いんじゃないかなって…

 

でもお兄様はライスの事を居るって。信じてるって言ってくれた。

嬉しい。ライスは……ライスは……

 

"誰かに幸せを願われてるんだって"

 

この後の私は今まで以上、いや感じたことの無いような絶頂と快感が体を貫いた。

 

……後は。もうそれこそ鬼気が迫る様な走りだったみたいだ。

 

結果は一位。

ミホノブルボンさんを指し抜いて一位だった。

嬉しかった。

ただひたすらに嬉しかった。

私が、お兄様が報われた気がして。

 

[数ヶ月後]

 

「……全く同じ展開だとはな。ライス。」

 

「そうだね。お兄さま。」

 

天皇賞春。

ライスはまた同じ展開を迎えることになった。

相手は3冠を狙うメジロマックイーンさんが相手だ。

 

「……怖いか?」

 

「……ううん。怖くないよ。」

 

ライスにとって、メジロマックイーンさんは憧れだった。

美しい、毛並みとそれに追従する強さ。

 

「………今回はどうなるか想像が付かない。」

 

メジロマックイーンさんは強い。

運も味方にするタイプのウマ娘だ。

今日の馬場は良。

そして……ライスの人気は……

 

「……二番人気。期待はされてるが…厄介な話だ。」

 

ライスは"ヒール"。

悪役として願われてるらしい。

3冠を砕くウマ娘。

そんなウワサも聞いている。

 

「……ライス……」

 

「なぁに?お兄さま?」

 

「………やれるか?」

 

「……………ライスはやるよ。」

 

うん。

ライスはやる。

メジロマックイーンさんを落として、私が勝つ。

 

[……なあライス。]

 

[なぁに?お兄様。]

 

出場数分前。

トラック前で小さく祈るライスが居た。

天皇賞(春)

 

精鋭たるウマ娘達がトレーナーさんに"勝利"を届けるために、その気迫も覇気も桁違いな密度で皆の瞳に宿っていた。

 

『GⅠ天皇賞春。春のファンファーレ。』

 

『各ウマ娘これよりゲートインです。』

 

全身全霊。

もう周りの声も歓声も聞こえない。

ライスがなんだ。

"悪役か。"

 

…………あぁ。そうだ。

ライスは悪役だ。

でもそれがどうしたと。

笑ってくれる人が居る。

一緒に居てくれる人が居る。

すべてはその人のために。

 

『全ウマ娘。ゲートイン完了。』

 

前だけを見る。

ただ、願い焦がれるはゴールのみ。

 

ガチャッ!

 

さあ。

開いた。

先頭はメジロパーマさん。

その後に順序良くもつれ込んだ。

ライスが仕掛けるのは、第四コーナ辺り、それまで先頭にできる限り着けておく。

 

『さあ京都レース場。最後の直線!』

 

ここ!

 

_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄

 

「……なあライス。」

 

「なぁに?お兄様?」

 

去年の冬のある日。

トレセン学園も、寒波の波によって1日バケツに放置した水が凍った位に寒くなった明くる日の昼。

太陽が出て来て、朝よりは寒気はましになったけどそれでも少し肌寒かった。

 

ライスとお兄様は今年の全てのダービーが終わり、来年の計画を立てている所だった。

 

「……やはりぶつかることになるか。」

 

「………うん。」

 

またライスは3冠達成目前のウマ娘とぶつかり合う。

場所は天皇賞春。

相手はメジロマックイーンさんだ。

 

「……またライスをヒールにしてしまうな。」

 

「気が早いよ。お兄様。」

 

ふふふ。と小さく笑う。

流石に気が早い。

ライスを"悪役"にするって事はもう勝った気で居るから。

 

「……なあライス。」

 

「?」

 

お兄様は、マックイーンさんやその他の現時点での出場バのデータから目をライスに向けて話し出した。

 

「……誰かのヒールは誰かのヒーローだ。」

 

「お前は迷い無く言える。立派なヒーローだと。」

 

「……誇れよ。ライス。"お前はヒールじゃない。ヒーローだと。"」

 

「!」

 

どこか遠い。

そしてライスの根源の言葉。

 

 ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄

 

………そうだ。

願われたんだ。

あの時、ライスが勝ってしまったミホノブルボンさんに。

 

"貴方は私のヒーローだからです。"

 

って。

だからこんな所で折れては居られないっ……!

 

「……ライスは……」

 

「ライスは!ヒールじゃないっ!」

 

「ヒーローだっ!」

 

……一陣の風と共に、ライスはマックイーンさんの驚く顔を横目に過ぎ去った。

 

『抜けた!ライスシャワーが抜けた!!』

 

もうゴールまで5m。

自分の全てを出しきって勝った天皇賞春は、ライスの勝利で終わった。

 

[好意、愛欲]

 

数が月後。

ライス達は、その後特に苦労する所もなく後数ヶ月となったURAファイナルを待つだけとなった。

 

「お兄様~……ってあ。」

 

(お兄様ったらまた……)

 

最近もまた忙しいのか、机に資料を乱雑においたま、備え付けのソファーで仮眠をとって居るようだった。

 

……お兄様は一度寝ると、耳元で大声で喋らないと起きない位に寝起きが弱い。

 

(……べっ…別に良いよね……)

 

ススス……と

お兄様の胸に体を擦り付けるかのようにうつ伏せになって横たわる。

この時、背中を向けて横たわるとお兄様に気づかれるかも知れないから、恥ずかしいけれど匍匐前進みたいにお兄様の胸元に行く。

 

(……ん~~………)

 

マーキングするかの様に、トレーナーに体を擦り付けるその姿はまるでウマ娘と言うよりかは、犬娘と言わんばかりの様だった。

 

(お兄様……♡)

 

しかも毎日のルーティンの様に行う物であり、しかもこれをした後のトレーニングは上手く行くのが多いから、ライスシャワーも色々と理由を付けて行っている。

 

………ウマ娘は、基本的な構造は、霊長類である人間とほぼ大差は無いが、精神面では大きな差が有る。

 

人間の三欲には睡眠欲、食欲、そして性欲が有るのだが、ここにウマ娘は後2つ追加されると言う。

 

まず一つとしては"速度欲"と一般的には称されている。

速く、どのウマ娘よりも速く走る。

それがウマ娘の根源…DNAに刻まれた渇望だと言う研究データも出ている位だ。

実際には、速く走ることによって将来、番の興味を惹くために、より速くなっていく等ともしめやかにウワサされている。

 

もう一つが"独占欲"だ。

ウマ娘は嫉妬しやすい。

……そもそもとして、人と精神構造面の一番の違いは、"感情の振れ幅"が大きいのだ。

 

実際的にも、その年代の人とウマ娘の感情実験によると、ウマ娘の方が数倍から十数倍。

感情の振れ幅が大きい事がわかっている。

 

それにしたがって、ウマ娘は自分の気に入った人を絶対に離さないと言った要素がある。

はじめは大好きな玩具(トレーナー)が取られるのが嫌と言うのが、発達し恋心にまで発展すると"独占欲"は重い鎌首を持ち上げて、ウマ娘の思考を奪っていく。

 

まずそもそもとして、気に入った人とはいったい何なのか?

簡単な事だ。

 

"自身の可能性を最大限引き出せる"者や"速く走るのに絶対に必須な"者などがその対象内と言われている。

 

もうお気づきになった諸君も居るとは思うが、そう。

"トレーナー"が一番危険なのだ。

もとより、トレセン学園では基本的にはトレーナーからウマ娘へのアプローチからの勧誘が基本的な流れなのだ。

その後に、気が合うだとか目標が合う等で専属契約やその他をこなすのだが現段階では割愛。

 

上記の時点でウマ娘側は"誰よりも速く走りたい"と言う欲望が大方満たされる。

ウマ娘にとっても"トレーナーはこれ以上速く走るのに必要だ"とも知っているから、声を掛けられて認められると言うのに繋がるのだと言う。

 

そして契約も終え、ある程度ウマ娘との仲が深まった後の話だ。

ここの時点で"独占欲"が大きくなり始める。

ある程度仲が深まったと言うことはウマ娘にとってそのトレーナーは"絶対に欠けてはならない"大切な人となるのだ。

それは逆説的に"他のウマ娘"でも上手く行くと言う可能性が高いことでも有るのだ。

 

それを分かってしまったウマ娘は悲惨だろう。

例え、自分じゃ無くてもこの人は上手く行くのだろうから。

……まぁ実際にはそう言う訳にも行かないのは人間視点である私達は思うだろうが、そもそものウマ娘の"自己"に反映される……

とまあここまで長々とご清聴ありがとうとだけど流石に分かりにくいだろう…?

 

……まあ簡単に言うとだ。

ウマ娘の本能で有る走って勝つと言うのには"トレーナー"と言う存在が必要不可欠。

そしてトレーナーに声を掛けてもらい少しずつ信頼関係が構築されていくと、"この人は他のウマ娘とでも上手く行くのではないか?"と言う疑問に行き着く。

……まあそうだろうねぇ…

私達、ウマ娘は所詮自分で画期的なトレーニングを行えない。

……いや。行う気が起きないかな?

まあいいさ。次の研究の話題にでもしてみよう。

 

ウマ娘とトレーナーというのはある意味"運命共同体"だ。

……ほら。君たちだってそうだろう。

誰かに認めてもらう。"自己肯定"や"自分を認めて"欲しいと言う承認要求のはいつだって付きまとう。

少なからず人間にも限らずある話さ。

それは例えウマ娘にだって変わりはしない。

 

そのウマ娘の承認要求の求め先はだいたい"トレーナー"が多い。

………まあ自分の欲を満たしてくれるからね。

言い換えれば盛大な自慰をしていると言っても過言じゃない。

………怒ったかい?

 

だから認めてくれる人を束縛する。

認めてくれないなら認めさせる。

少なからずウマ娘は人間より力関係(物理)が上だ。

………まあだからトレーナーの離職率は以外と高かったりするんだよ。うん。

 

………と。

まあ言ってみたが実際の所は殆ど論弁の様な物さ。

分かっていて欲しいのは

 

"ウマ娘にとってトレーナーと言うのは必要不可欠"

 

そして……

 

"ウマ娘はトレーナーを束縛して自分だけを見ていて欲しい"

 

と言うウマ娘が多い。

だから絶対にウマ娘に力関係で弱い事を悟られちゃ駄目なんだ。

 

………分かったかい?

 

モルモット君?

 

………うん?

 

何で体が動かない?だって?

 

クックックックッ……

 

モルモット君。

 

君はたまにとても鈍感になるな。

 

そう言うところも好みだが。

 

………まあいいさ。所詮私もウマ娘だったと言うことだ。

 

君を離したくない。

誰も君を気に入らせない。

君は私のだ。

 

………さぁ。運命共同体君。

 

私と新しい研究を始めようか。

 

………そうだな。題名はこんなので良いか。

 

"ウマ娘とトレーナー下に置ける好意の発達録"

 

………まあそこで見ている君も気をつけてくれ。

いつ君への好意を拗らせたウマ娘が君を襲うか分からないからね。

……そう言えば危ない目をしていた子も居たな。

 

…………確か"3冠達成を二度挫いた

で有名"だった筈だが。

 

 ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_

 

 

「………お兄様……!………」

 

最近。

お兄様はライスを構う時間が減ってきた気がした。

ライスが強くなって有名になってきた事もあってか、お兄様に教えて欲しいとか言うウマ娘が増えてきたのだ。

 

それでもお兄様はライスのトレーニングを優先してくれているが、それでもライスを観ていてくれる時間は減っている。

 

「………ライスはお兄様……の……なのに……!!」

 

こんなのって無いよ……

お兄様はライスだけのお兄様なのに……!!

 

「………やっちゃった……」

 

ライスは悪い子になってしまった。

ライスは……お兄様のやってもない悪い事をライスを良く思っていないウマ娘に流したのだ。

 

"お兄様はライスを殴っている"

 

って言う何でも無いウワサだけど

これでお兄様の悪評が流れてお兄様にまとわりついてくる他の雌が少なくなることが有れば良いなって思って。

 

突発的な行動だった。

でもそれは思わぬ方向で成功したのだ。

 

「……なぁ。ライス。」

 

「何?お兄様…?」

 

「………実は、最近な。」

 

どうやらお兄様はライスに暴力を振るっていると言う噂が流れているようなのだ。

 

それを聞いて少し自分がやったことがバレてるんじゃ無いかってヒヤッとしたけど疑っている様子は無かった。

 

「……なあライス。もしかしてトレーニングが苦しかったりしないか?」

 

「ううん。ライスは苦しくないよ。でもトレーニングしている時はできる限りライスを見ていて欲しいな。」

 

「……約束する。」

 

………お兄様は萎れている姿を見てライスは悦んでしまった。

"お兄様が弱くなってる姿"に

 

………きっとここが運命の分かれ道。

 

それからお兄様はライスのトレーニング中に他の雌を見るのは殆ど無くなりました。

………でも。でもでもでも!!!

 

……確かにお兄様に近付くのはほぼ居なくなったけど……

 

「……あの桐生院とか言う女っ!」

 

そう。

桐生院葵。

浅ましくもお兄様の同期を名乗ってお兄様に尻尾を振る悪い人。

 

「………お兄様……お兄様、お兄様お兄様……あはははは!!」

 

そうだよね?

お兄様とライスの幸せを邪魔する奴は全部全部全てっ!

……排除しなきゃ。

お兄様に纏わり付く塵も塵も!

 

お兄様とライスの幸せには必要じゃない。

……だから。

 

「……ライス。少し旅行しようか。」

 

「どうかしたの?お兄様?」

 

「うん。理事長にね。少しゆっくり休んできなさいって。」

 

……どうやら。

お兄様とその上は"出典不明"のウワサについて大々的に調べるために、お兄様とライスには数週間"温泉旅行"に出掛けてはどうかと言うらしい。

 

「……ライス楽しみ!!」

 

「ああ。そうだな。」

 

あ~あ。

理事長さんも最悪の一手を打つとは思わなかったのかな?

こんなの肉食獣の前に丸々太った兎ちゃんを置くような物。

 

って事は据え膳?

………食べちゃっていいって事かな、かな?

最高の旅行になると思うよ。

お兄様にとっても……ライスにとってもね?

 

1日目。

ライスの目標は今日じゃない。

明日だ。

明日、一緒に新潟の遊園地に行く。

きっと最高の一日になるよ?

近くにはセットまで置かれて。

どうせお兄様はライスに力では勝てないんだから。

 

ライスが疲れたとか言って少しクタクタの演技をするときっと優しいお兄様は近くのホテルとかに休もうとするよね。

……まあ最も一番近いのは恋人用のホテルになるようにするけど。

部屋に入っちゃえば後はもう押し倒して……ね?

 

「楽しみだよ。お・兄・様?」

 

きっと今のライスはとっても悪い顔をしてる気がした。

 

 





悪い子なライス。
特別出演枠にして次回の主人公:アグネスタキオン
次回の犠牲者にして主人公:タキオンのトレーナー
圧倒的被害者枠:ライスのトレーナー

でお送りしました。

感想をお待ちしてます。(感想乞食)
感想が多ければ次回は早くなるかなぁ…?

それでは。バイナラ。



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アグネスタキオンと共にURA優勝を目指すお話

皆々様。
修正ありがとうございます。


では。

あ。捏造世界、キャラ崩壊注意です。
タキオンの過去が大分捏造されてます。




 

「……ふむ。」

 

俺がそいつと会ったのは、とある競バ場だった。

 

「トレセン学園のトレーナーかい?」

 

そいつは一人で梅酒を呑みながらバ場を見ていた俺に何の躊躇もなく話しかけてきた。

 

「……そう言うお前は?」

 

尻尾と耳でウマ娘と言うことは分かったが、よれて少し解れた実験服を来たそいつはこの場所で誰よりも浮いていた気がした。

 

「ふむ。これはこれは……私の名前は"アグネスタキオン"。仕方の無いトレセン所属のウマ娘さ。どうぞ良しなに。」

 

芝居がかった口調と共にそいつは、気軽に言うかにように自分の名前を言った。

 

「……それで君もトレセン所属のトレーナーかい?」

 

……確かに。こいつの言っている事は間違いじゃない。

俺はトレセン所属のトレーナーだ。

"少し折り云った事情が有る"いわく付きのが全文に付くが。

 

「……ああ。今はこうやってフリーだがな。」

 

「……ふむ。なら………適応……」

 

そいつは…アグネスタキオンは俺のフリー宣言を聞いてから小さく考え始めて、何か良いことを思い付いたのかわざわざ俺の前に立ってこう宣言した。

 

「私と契約してモルモットになってくれたまえ。」

 

「……は?」

 

某白いナマモノの如く、何の一貫性も無いように俺にトレーナーにならないかと逆指定してきたもだ。

 

昔からウマ娘がトレーナーを選ぶ所謂、逆指定と言われる文化は少なからず有ったが……そのなかでもこいつは飛び抜けてヤバいやつだと確信した。

 

「……お前、モルモットと言わなかったか?」

 

「ああ。言ったさ。トレーナーくん。既に君は私の手中に有る。」

 

まるで断言するかの口調は、俺が確実にアグネスタキオンのトレーナーになるとそいつは一切の疑い無く言った。

 

「……はぁ……言うじゃねぇか。」

 

「だろう?」

 

「だが……」

 

少し残念だったな。

"天才"。

お前は絶対に他者の心を推し測れない。

……俺と同じ"ヒトデナシ"。

ああ。

その点では、同じでは有るか。

 

「NOだ。どう考えても俺に利点はない。実験用モルモットが欲しいなら上に泣き付くか、もう少し従順なラットでも用意したらどうだ?」

 

「ふふふ…流石トレーナー君。君イカれてるよ。……本当に私のトレーナーに相応しい…」

 

……そいつは……アグネスタキオン……いや。イカれマッドで良いか。

そいつはまるで酔っているかのように私の体を見渡し、値打ちを付けるかのように好奇の目を向ける。

 

「……だから!」

 

「おや。君はこれを見てもかい?」

 

ピラピラとA4サイズレベルの紙を目の前で揺らしながら、俺が見やすいように近付いた。

 

………成る程。

 

「……言いたいことは分かったかい?」

 

そいつは、まるでしてやったりと言わんばかりの黒い笑みで俺を見る。

 

「……ああ。まさか理事長権限を持ってくるとは思わなかったぜ。」

 

そう。

どうやら、こいつが俺をトレーナーと呼ぶには、そもそもとしてあの合法……違法では無いだろうが、腹黒ロ理事長が俺をアグネスタキオンのトレーナーの専属契約を結んだことを示す紙が有るのだ。

 

……勝手に契約とかどうなんだとも言いたいが、数ヶ月特に集中して誰かのトレーナーになる訳でもなく、必死にウマ娘のスカウトをしている訳でもない。

 

かつて、俺がどれだけトレーナーとして"賞"を取れるウマ娘を育成してきたとは言えども流石に理事長の堪忍袋の緒は切れてしまったらしい。残念。

 

「……いいさ。乗ってやる。アグネスタキオン。」

 

それだけならまだ口八丁手八丁でどうにかこの書類を撤回しようと思えば出来るが、俺にとって。

 

おれにとって全く持って、無視できない"忌まわしい過去"をあろうことかこのマッドが持ってきたのだ。

 

……もしこいつが人間なら、俺は持てるあらゆる手段を持ってこいつを破滅させていただろうが、生憎とウマ娘だ。

そもそもの関係上。

人間は「力」と言う側面ではウマ娘に敵う筈がない。

……ああ。それと速さもか。

 

その後。

俺はアグネスタキオンがついでとばかりに持ってきていた専属契約の紙に、名前を書いて理事長に直接渡しに行った。

 

その時、理事長は素知らぬ顔で俺達の契約を喜んだが中身が中身だけあってこの合法ロ理事長を問い詰めてやろうかと思ったが、良く良く考えれば、こんなウマ娘の名門やトレーナーの名門に横槍を入れられそうな不安定な針に、こうも座っていられる時点で、腹の中は真っ黒黒だろうし、どうせのらりくらりとはぐらかさせるだろうから一応は鉾を修めて、しばらくはまともにこいつを育成する事にしようかと思った。

 

_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_

 

「……理事長。これは……恨まれても文句言えませんよ…」

 

「わかっている。……だがあの才を放って置くのは惜しいのだ。」

 

「…………気質が似ているアグネスタキオン君ならば……」

 

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[アグネスタキオンの悪食]

 

「…いや。お前……これは無いわ。」

 

アグネスタキオンと契約して数日。

俺は早速だが、アグネスタキオンのずぼらさを目の辺りにした。

 

大体、研究者と言うものは何処かしら確実に抜けている所が有るのは有名な話で現に俺もそうだったから良く分かり、そして耳の痛い話だが、こいつは…アグネスタキオンは生活力が皆無なのだ。

 

まず。洗濯。

面倒だからと積んでいるせいか、小さな山になっている。

それでも手を加えてくれる子がいるお陰か、そこまで酷くないらしい……

おおよそ一週間に一度ほどお手伝いに来てくれるらしい。

が。よくこいつを見ていられる酔狂なお方が居るものだとも思うが……

 

ちなみに、アグネスタキオンは意外にも名家の出らしいから一応は綺麗好きらしい。

 

次に睡眠。

やはり、研究者と言うものは考え出したら止まらず深夜、下手をすれば徹夜…連夜する事も少なからず有る。

その癖、寝るときはきっぱりと速く、少し横になったと思えば直ぐに吐息が寝ているリズムになっている。

 

これでも大分抑えているらしく、実家に居た時は本当に3日研究して3日寝ると言った生活が当たり前だったらしい。

 

ウマ娘関連の研究で論文書いて授業に関してはある程度の恩赦が有る為、わざわざ早起きしなくても良い点では素晴らしいとはタキオンの談だ。

 

そして俺が何よりも絶句したのは"食事"だった。

上二つが少々ヤバかったから、食事の方も、栄養食で済ませてるレベルで済んでいるのかと思っていたら、実情は斜め下を突き進んでいた。

 

「……いや……お前、これ…食に対する冒涜だぞ…マジで。」

 

あいつはあろうことか、必要な栄養素の分をミキサーでかき混ぜて飲んでいたのだ。

その味の不味さはと言うと……

 

「これ…飲むならまだマーマイト食う方がマシだ。……何か牛乳拭いて数日炎天下の下に放置した雑巾の様な味がするぞ………」

 

良薬は口に苦しとは言うが、どう考えても吐瀉物の様な感じがして…しかもタキオンは時間短縮の為にかき混ぜも不完全で終わっているため、どうしようもない不味さのせいで、一時的にダウンした。

 

「全く酷いな!モルモット君!!」

 

タキオンは胸を張って飲み干した所を見ると、余程悪食なのか余程味音痴なのか……少なくとも名家だから後者は無いとは思いたい……

 

「こんなのどう考えても吐瀉物だろうが!!」

 

飲んだコップをまるで芸人の様に地面に叩きつけるのを見て、ああ。憐れな効率厨……と心の中で拝んでおいた。

 

「……はぁ……何か作ってやるよ。」

 

「おや?トレーナー君。何か作れるのかい?」

 

「………まあ。な。」

 

こいつの部屋の冷蔵庫に入っている食材を見て、簡単に作れそうな物を頭のなかでリストアップして、その中で最も時間が掛からずそして、味もそこそこイケる物を簡単に作った。

 

「……ん?これは?」

 

「おれが軽めに作った。要らなかったら置いとけ。」

 

「………いいや。折角だ。頂こう。」

 

小さく作ったのは、少々甘めになってしまった"砂糖入りの巻き卵"だ。

巻くのに、少々テクニックが必要だが、慣れたら綺麗に巻くことが出来る物だ。

 

「ちと。甘いな。」

 

「…うん?個人的には好みだが。」

 

小さく呟いた自嘲が混ざったその言葉は、胸に重い吐息と混ざって消えた。

 

「………お前。これからもあの悪食を続けるのか?」

 

「……ふむ。"悪食"とはと問い詰めたいが…まああれが一番手軽だ。味を外度視した上でなら。ね?」

 

………はぁ。

どうしてこう。

研究者と言うものは…

つくづく何処も。誰も。変わらんらしい。

 

……まあ良いか。

 

「……じゃあ。お前。これから俺の弁当食え。」

 

「………作ってくれるのかい?」

 

「あんな汚物作られるより滅法マシだ。」

 

そう。

あんなの"あいつ"が聞いたら絶対にこうするだろう。

 

「じゃあ。頼んで良いかい?トレーナー君。」

 

「ああ。任せろ。」

 

……未だに、納得はしていない専属契約だが、少なくともこいつとは話は通じるのだと思ったのだった。

 

[トレーナーとマンハッタンカフェとタキオン]

 

「……あの…隣良いですか?」

 

アグネスタキオンとトレーナー契約をして数ヶ月。

"速度に取り憑かれている"と言われる程、ぶっ飛んだウマ娘だが性格は貪欲で、色んな練習をするのが得意な様だ。

 

俺が過去に集めた練習方法や、学会に提出したり、そのままお蔵入りになったオリジナルのトレーニング方法も二人で会話しながら、やっていた所が現在の話だ。

 

同じ、"研究"をしていた者またはする者だから、会話に誤差は無く言いたいことは簡単に汲み取ってくれるからある意味では話しやすいウマ娘だ。

 

「ああ。良いぞ。」

 

昼休み。

ダキオンには朝持たせた弁当が有るだろうから、自分は軽めに学食を食べて続きを考えるかと、ボーッとしながら虚空を眺めていたその時だった。

 

黒い毛のウマ娘で黄色眼のウマ娘がトレーを持って、俺の席の近くまでよっていた。

 

「はい。ありがとうございます。タキオンさんのトレーナーさん」

 

………!

そいつはあまり知られていない、俺とタキオンの契約を知っているかの様にそれでも何の敵意も害意も無く俺の目の前に座って飯を食っていた。

 

「どういうつもりだ…?」

 

「どういうつもりと言われても……タキオンさんに…」

 

「おーい!トレーナー君!!」

 

少々不信感を露にして、そのウマ娘を見るが、そのウマ娘はまるで困惑した様に口を開いていたら、横から、白衣を着たタキオンが現れた。

 

「おっ!カフェじゃないか!!」

 

「……大体察した。」

 

うちの問題児…ゲフンゲフン。アグネスタキオンがそのカフェさんに親しい様に話しかけるのを見て、俺以上の犠牲者なんだろうなと察せてしまった。

……ほら今も、カフェさんに無理矢理薬品を飲ませようと……

 

「まて。タキオン。それ以上するならば倫理委員会立てるぞ。良いのか?」

 

「それはやめて欲しいねぇ。……むぅ……今回こそはと良いのができたのに……」

 

「カフェ…さん。だったか?貴方も災難だな。」

 

「あっはい。マンハッタンカフェと申します……あはは。」

 

タキオンが新たな薬の構成を頭で考え始めて、周りの情報をシャットアウトしている間に、俺は"マンハッタンカフェ"さんと会話を楽しんだ。

 

やはり、カフェさんは、よく新薬の犠牲になっており、最近はトレーナーが来てそう言う奇行も減ったらしい。

 

「そうだ!モルモット君が飲んでくれたら良いじゃないか!!」

 

「どつき回すぞ。せめてラットから実験しろ。」

 

「え。辛辣。」

 

と。

なんやかんやこいつとコント擬きの会話を続けるとカフェさんはニコニコと笑っていた。

 

「……あ。いえ。タキオンさんと上手く行ってるトレーナーさんで良かったです。………これからもタキオンさんを宜しくお願いします。」

 

「まって。カフェ。私の保護者。」

 

「お前のでは無いよな。」

 

えー。そんなこと言わずにさぁ!

駆け付け一杯だとか酔っぱらいの様に薬を進めるタキオンを見てカフェに一言呟く。

 

「……まあ。何かあったらラリアット掛ける位なら許す。」

 

「……………助言ありがとうございます。」

 

「え。まって塩対応。」

 

こうやって初会合が終わったのは良いものの、タキオンの問題行為が起きるとカフェから伝えられる様になり、何度かお茶しに行く仲になるのは蛇足だ。

 

 ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄

 

[アグネスタキオンの研究]

 

………うん?

ああ。ここからは売って変わって、アグネスタキオンの独白で進めるよ。

 

まずは私の産まれから始めようか。

そもそもウマ娘の生殖は霊長類のヒトと変わらず、有性生殖で行う。

 

私の父と母もそうだった。

父はトレーナーで母はまだ競争バとしての活躍があった頃に愛でたく結ばれたらしい。

 

私の研究者としての血は、母方からのと言うのは変わらず。

研究に興味を持った当初は母さんも手伝ってくれていたりしたが、最後に一言残して、全く触れなくなったのだ。

 

("絶対に、トレーナーとウマ娘の関係性を解いてはいけない"か。)

 

母さんが日頃から、他の"ウマ娘"の研究者に口酸っぱく言っているのを聞いていたから、母と言えばこれとしか思い付かない。

 

(…………………)

 

(……………違う。)

 

私は、越えるんだ。

"唯一無二たる理解者"

彼だけが、私を推し量った。

彼だけが唯一私に理解できるのだ。

速さの最果て。"遠き極点"。

そこにたどり着くのに絶対に必要な人。

 

ああ。どうか。

その極点に隣で居る人が彼ならば良いな。

一つ。願い星に託して。

 

その後

私は心から理解してしまった。

 

何故。母さんは止めたのか。

それは身を持って、知ってしまったのだ。

 

 

 




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セイウンスカイと…………前編

ダキオン先輩だと思った!?
残念今回はセイウンスカイの章です。
マジで今回は曇らせタグが要るかなって思った(小並感)

あ。ちなみにライスシャワー編書き直すかも知れないです。
なんと言うか…俺のライスヤンデレ像と結び付かないので。
でも今まで書いたやつは残しとくので。

それでは。

7/27。少し書き換えました。コメントの指摘が有ったように流石にとあるお方の色が強く出ていたので。



…俺は適当に生きてきて適当にここまで来た。

何をしても平均近く出来るが、その道一本と言う様な人間には敵わない。

 

よく言えば、オールラウンダー。

悪く言えば、器用貧乏。

 

でもそんな俺でも憧れたのが、ウマ娘のトレーナーと言う職業だった。

身近にトレーナーが居たからとも理由が有るし、そのトレーナーのおじさんの仕事の時の思い出を聞くのが好きだったからとも言える。

曰く、ウマ娘を導く存在…と一概に言うわけでもなく、本当に勝ち抜ける才能が有る奴はそれこそ有名なチームが真っ先にスカウトするだろうし、そう言ったチームだからこそ練習器具も優先権を持っている。

そう言ったトレーナーで有れば練習記録を付けているだろうしそれはトレーナーならば閲覧は可能だから、担当になったウマ娘にはそれに合う練習方を割り出せば良い話らしい。

 

実際にはウマ娘との仲は上手くいくように調節してさらにはメンタルケアもする、尚且つトレセン学園に毎晩毎夜24時間居る必要が有る。

そう言うこともあってか、心労は中々大きいがその分美形なウマ娘が近くにいる職場は花が有るとそのトレーナーのおじさんは言っていた。

 

……俺はこの時、キチンと調べれば良かったのだ。

 

おじさんの結婚相手の事が"ウマ娘"だと言うことを。

 

そして男トレーナーの(円満)離職率を………!!

 

 

 

 

_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄

 

 

 

 

4月のある日。

桜は綺麗に咲き誇り、まさに別れと出会いの模様を綺麗に写し出すそんな日。

俺はここ、"トレセン学園"の片隅のベンチで、ソロ花見を実行していた。

 

「……やっぱり。桜には梅酒だなっと。」

 

新入生のお披露目会である、デビュー戦を見るわけでも無く、また未契約のウマ娘をスカウトする選抜レースを見るわけでもなく、この片隅で中堅トレーナーである俺はここに居るのだ。

 

……中堅と言うだけあって何人かのウマ娘のトレーナーとして活躍していた。

ただし、チームのトレーナーと呼ばれるエリート中のエリートの経歴には劣るほどで"重賞"に入着する程度のウマ娘を送り出した。とかその程度だ。

 

憧れは中々続かず、上手く行かず本当に夢を勝ち取れるのは本当にごく一部なのはウマ娘も人も変わらないなと思いを酒と共に飲み干す。

今からこんな調子じゃスカウトするウマ娘に失礼だ。

と思い、今一度自分に渇を入れる。

 

……さて。そろそろスカウトを熱心にするトレーナーも減ってきた頃だろうし、スカウトする予定のウマ娘を一目見に行こう。

今まで連続でウマ娘を見てきたから、何かしら理由を付けて今年度はフリーで居ることも片隅で考えながら歩いていった。

 

その時だった。

 

「あれ~?なにしてるんですか?こんな所で~」

 

後ろから突然声を掛けられた。

驚きのまま後ろを振り向くと空色の様な緑色の様な、はたまた光の写り加減で銀色に見える髪をした子が立っていた。

 

よく見てみると髪の毛の上に特徴的な耳が生えており、それが"ウマ娘"だと言うことがよく分かる。

 

「……そう言うお前は?ウマ娘だろう?レースに出なくて良いのか?」

 

「おや~?びっくり~トレーナーの方でしたか~?」

 

眠たげな眼差しから一変。

驚いたかのように耳を立て、その瞳を少し大きく開く。

その時見えたその眼は天色の様なはたまたアバタイトの様なそんな空すらも霞むかの様な美しい青い目をしていた。

 

「……………………」

 

「あれ~?違いましたか~?」

 

「……うん?ああ。そうだな。俺はトレーナーだ。間違いないさ。」

 

「なら良かった~」

 

その"青"に圧倒され気圧されていた手前、ウマ娘が黙る俺の前で手を振る。

 

「それで。何の用だ?……えーっと。」

 

「あ~……セイウンスカイって言います~簡単にセイちゃんで良いですよ~?」

 

「そうか。それじゃあセイウンスカイ。……まあ俺は今からレースを見に行こうと思ってる最中さ。」

 

「およ~?そうなんですか~……って事は今フリーって事ですかね~?」

 

「まあな。見ていたウマ娘も卒業したしで、新しいウマ娘のスカウトに向かおうとしてる。」

 

「なるほど~……ふむふむ。」

 

このウマ娘…セイウンスカイは俺の目の前から動かず、好奇の眼差しで俺を見続ける。

 

「……それでは~?セイちゃんのトレーナーって事で~。」

 

「まてどうしてそうなる。」

 

「だって私達って~…昔トレーナーとウマ娘として相棒になるって~…」

 

「誓い有っていないしそもそも俺の学生時代はボッチだ!」

 

「……自分で言ってて悲しくないです?」

 

「めっちゃ悲しい。」

 

無い筈の記憶を挟んで俺をトレーナーとして来ようとするこのセイウンスカイはとても異質に思えて、その上で食えないなともトレーナーの自分が評する。

それはまさに、理事長を彷彿とさせるような…

 

「真面目な話。俺を逆スカウトして何になる?チーム[スピカ]だったか?そっちの方に行った方が手っ取り早く強くなれると思うが。」

 

「まあ確かにそうですよね~」

 

チームに入った方が利点がやっぱり多いでしょうし。とセイウンスカイは口ごもらせる。

 

実際にもその通りだろう。

"一等星の輝きを翳らす事無かれ"

必ず、チームを立てる際にトレーナーに何事よりも深く頭に刻み込まれる一文だ。

 

中央のチームとして名前を上げるのならば必ず一等星になぞられた名前が与えられる。

勿論、チームを組むとウマ娘にもトレーナーにも特権が与えられる。

 

だが。

もし、その名前に相応しくないなら。

もし、その名前を翳らす事が起きたのならば。

 

チームとしての名前は剥奪され、チームも解散させらる。

"特権には義務を"。

それが中央トレセン学園でチームを組むと言うことだ。

 

………話を戻そう。

確かに、チームとしての義務はかなり高いがそれはトレーナーに限った話でも有る。

 

ウマ娘を育成し、二人一組で走り抜けてそして勝つ。

その為に必要なことをトレーナーを行う。

だから結論的にウマ娘に必要なのは"勝つ事"ただそれだけなのだ。

 

酷い話。

大量にウマ娘を受け入れているチームだと、何処かの賞で出場するウマ娘の殆どがそのチームと言う事も少なくは無い。

(最近は減ってきているが。)

いわばマッチポンプの様な物だ。

 

それでもウマ娘はチームを目指す。

勝つために。ただ勝つために。

 

……いい感じで締めようと思ったが今重要なのはセイウンスカイだ。

チームに入るのが多いウマ娘のなかでこうやって野良のトレーナーに声を掛けると言うことはよほど切羽がつまっているのだろうか。

 

「……まあ良いや。セイちゃんの本当の思惑正直に話しますよ~」

 

「随分と素直だな。何も言ってないのに。」

 

「う~ん?そうですね~…別にセイちゃんの思惑がバレても特には問題ないと言うか~……あ。あそこ座りません?」

 

セイウンスカイはふにゃって笑って先ほど俺が座っていたベンチを指差す。

 

…俺はこの場で切り上げてレース場に向かっても良かったのだが何故かこいつの話に乗った方が良い気がしたのだ。

きっとこの時の選択が俺の未来を決めたのだろう。

それは単なる偶然か。積み重なった必然か。

もしくは三女神の御召しか。

……それは誰も分からない。

 

「では早速~。セイちゃんはですね~。……こう見えて結構強いんですよ~?」

 

「………………??」

 

「あ。信じてない顔ですね~?こう見えて今日のデビュー戦をぶっちぎって逃げてやりましたよ。」

 

「………成る程。大逃げか。」

 

「その通り~。セイちゃんポイント1あげますよ~。」

 

それはトレーナーにスカウトして貰いにくいだろうなとぼんやりと考える。

 

……今のこのトレセン学園で脚質"逃げ"はあまり良い顔されない。

"逃げの勝ちは邪道"とまで嘲笑されるその理由は幾つか有る。

 

まずその一つに、あまりにもリスキー過ぎると言うこと。

逃げの場合は完全に逃げ切って勝つか。後ろから差される、もしくは追い込まれる等有る。

最悪の場合は体力が足りず失速し大敗を期す事。

それがもし、GⅠ等で起こってしまうとそれこそ顰蹙を買う事になってしまうし。

監督していたトレーナーの経歴にも傷が付いてしまう。

 

さらにもう1つ。

最近の大逃げウマ娘として"サイレンススズカ"と言うウマ娘が居た。

大逃げとして大成したがあの日11月1日天皇賞(秋)。サイレンススズカは骨折をした。

"異次元の逃亡者"とまで言われた彼女だったが府中の二千メートルに棲んでいた"魔物"には敵うことが無かった。

そう言った骨折の事件も有ってか大逃げと言うのはあまりにもトレーナーにも観客にも上手く受け入れて貰えないのが現状だ。

 

「……確かに逃げは現状受け入れられる走り方では無い。……それでもそれで走るのか?」

 

「はい。セイちゃんには……いえ。セイウンスカイには"逃げ"しか出来ないので。」

 

「………………」

 

難儀な話だなとも思う。

たまに居るのだ。こうやって一部の脚質だけがずば抜けていてそれ以外が平均的…下手すれば平均以下のウマ娘が。

こう言ったウマ娘は大体自分が何にずば抜けているのか察しているウマ娘が殆どだ。

 

俺では荷が重い。

何処かのトレーナー…それこそサイレンススズカを育て上げたスピカのトレーナーでも良い筈だ。

……同期とも言わずとも知り合いでも有るし、そいつに俺が繋いでも…

 

「……いえ。そう言うのは良いんですよ。」

 

「………何がだ?」

 

「……私は貴方に見て貰いたい。ただそれだけ何です。」

 

それを願う事すら私は出来ないの?と言わんばかりに瞳に涙が満ちている。

……今まで散々言われてきたのだろう。その走りが受け入れられない事も。脚質を変えろとまで言うトレーナーも居たかもしれない。

………そう言う顔には弱い事を知っているのだろうか。

 

「……俺は自慢じゃないけど。お前を上手く導ける自信が無い。」

 

「自信ならセイちゃんが付けさせます。必ず勝ち続けます。」

 

「……あの逃亡者を育て上げたスピカのトレーナーの方が良いと思う。」

 

「私は…セイちゃんは貴方が良いんです。そこに変わりは有りません。」

 

「…………………後悔しないんだな。」

 

「トレーナーさんこそ。私で良いんですか~?」

 

そこまで覚悟を決めて、俺を逆スカウトをすると言うならば俺も覚悟を決めなくてはならない。

良いだろう。俺の全てを使ってセイウンスカイを導いて見せる。

 

そう言う意思を込めて右手を差し出す。

セイウンスカイは涙に濡れた目を輝かせながら俺の右手を握る。

………ここで俺は…俺とセイウンスカイの三年が始まろうとした。

 

 

 

 

 ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄

 

 

 

[数日後]

 

俺とセイウンスカイは学園のトラックに居た。

 

「……成る程な。"芝"の中距離から長距離。そして"逃げ"一択。」

 

ある意味分かりやすいなと笑う。

まず磨く事は、速度。そしてスタミナだろうかと辺りを付ける。

その為に必要なの練習器具の予約をさっさと取る。

 

こう言うのは早い者勝ちだ。

しかも新学期始まってからまだ数日経っていない事からあまりそう言った器具の予約はあまり入っていないことは僥倖だ。

 

「あれ~随分と手際が良いですね~昔逃げウマ育てた事が有るんですか~?」

 

何周か走ってもらって今は休んでもらっているセイウンスカイから声が掛かる。

 

「いや。初めての事だ。」

 

「それにしてはですね~?随分と…」

 

「まあ過去の記録が物を言うからな。」

 

俺は悪鬼染みた顔で嗤う。

情報とはこの世で最も崇高な物だと思っている。

トレーナー契約を結んでから数日時間貰ったのは調べる為でも有る。

 

……今までで走ったすべての逃げウマ娘の記録。

このトレセン学園が出来た頃からの情報を今は全て電子で纏められているものから紙の物まで、その全てを俺の部屋に集めて、死に物狂いで情報を整理した。

 

……暇していたスピカのトレーナーをゴールドシップに頼んで呼んで貰ってまで調べ尽くした。

ちなみにスピカのトレーナーにはキレられ、後日俺の奢りで飯を食いに行く話までしている。

 

「……まあお前がどの道に行くかのもよるが暫くはスピードを上げてもらうぞ。」

 

その為の時間はまだ大量に有るのだから。と俺は嘯く。

それにセイウンスカイは少し震えて俺を見る。

 

「こんな熱血でしたっけ~?」

 

「……少なくとも逆スカウトされたんだ。その役割は全力で行うさ。」

 

とりあえずのこれからの準備を終えて顔を上げる。

呼吸を整えていたセイウンスカイも落ち着いたのか、ベンチで横にぐでぇと溶ける。

 

「………まあ時間は余ったか。今日はここまでだな。」

 

「ん~?終わりですか~?」

 

「ああ。過剰なまで走って貰ったからな。今日はここまでで良いぞ。」

 

「ふ~ん?あ。トレーナーさんは今から何するんですか~?」

 

「ああ?釣り。」

 

「………釣りですか~?」

 

「ああ。近所のじいちゃんに教えて貰ってからな。趣味の1つだ。」

 

「…………………ふ~ん?」

 

昔、近くに住んでいたおじいさんが居たんだ。

そのじいちゃんとは俺は中々仲が良く、釣りの楽しさやその他の趣味を教えて貰った。

 

そう言えば、釣りで魚が掛かるのを待っていたある時確か、じいちゃんの孫にウマ娘が居るとか何とか……年齢は聞いていないが俺より一回りから二回り下とは聞いた事あるから、大体セイウンスカイと同じ位だろうかと考える。

 

「……じゃあセイちゃんも~付いていきますね~?」

 

「待て。何故そうなる。」

 

「そりゃセイちゃんも釣りするからですよ~?」

 

「そうなのか?」

 

「だから寮長から許可証貰ってきますね~?」

 

「………まあそうか。」

 

今から行くとなると、確実に寮の門限に引っかかる。

……ウマ娘と一緒になると夜釣りまでは避けた方が良いだろう。

まあセイウンスカイも釣りをするとは意外だなとは思う。

…………まあ少なくともゴルシ・スピカトレーナー・俺の時の様なあんな事は起きないだろう。

ゴルシが海に飛び込んで鮭取る熊の要領で魚を釣る(物理)を行いはしないだろう。セイウンスカイなら。……しないよな。

 

「トレーナ~!許可取れました~」

 

「おっ。じゃあ行くか。」

 

こっちも、トレーナー寮に一報入れ終わった所に、セイウンスカイがやって来た……

 

「………結構本格的だな。」

 

「んふふ~…でしょ~?」

 

「まあ俺の車で良いか?」

 

「……おや~?近場で無くて良いんですか~?」

 

「近場でも困るだろう…まあ近場の方が良いか。」

 

俺の車に乗り込み、近場でも絶好の釣り場へのナビゲーションを開始してもらう。

 

………この日のお陰で、セイウンスカイとの仲も良くなった事だろう。

 

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「……次は皐月賞か。」

 

夜遅く。

俺は、自分の部屋の電気も付けずにパソコンの画面とにらめっこしていた。

 

今までのセイウンスカイの戦績は3戦3勝。

GⅡ・GⅢでの大逃げは上手くはまりあまり考えうる最悪も避けられているし、勝てている。

 

だが今回は違う。

セイウンスカイの強い意向と共に初のGⅠである皐月賞に挑む事に決めたのだ。

ぶっちゃけ、勝てるだろうがそれでも絶対は無い。

相手の勝てる可能性を全て見直し勝てるようにする。

 

「……スペシャルウィークか」

 

スピカの新しい所属ウマ娘。

作戦が"差し"だったり"先行"だったりと代わりが大きく、両方こなせるのだろうとも思う。

それほどなら別にそこまで警戒する必要は無いが、こいつが一番警戒するのは驚異的なまでの"末脚"だ。

下手すればセイウンスカイの逃げすらも捉えられ食い殺される可能性もあり得ない話ではない。

 

もう一人。

キングヘイローだろうか。

確か、トレーナーが中々の曲者だった気がする。

脚質は"逃げ"と"先行"。

情報があまり多くないが少なくともセイウンスカイが警戒していると言うだけでも、俺が警戒しないと言う話ではない。

 

「可能性をできる限り百に。」

 

勝ち続ける可能性を紡ぐために逆算しろ。

セイウンスカイの可能性も未だに未知数だ。

2400mを理論値を越える速度で走れる日も有れば、逆に全く走れないと言う日もある。

…………日本ダービーもどうするかも考えないと。

セイウンスカイがどうでるか。

 

俺は画面から目を上げ、天井を見つめるのだった。

 

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「………ふーぅ」

 

「おや~?トレーナーさんはお疲れですか~?」

 

「まあな。」

 

セイウンスカイ皐月賞 一着

セイウンスカイ日本ダービー 四着

セイウンスカイ京都大賞典 一着

 

「………次は菊花賞にでるのか?」

 

「……わかるんですか~?」

 

「少なくとも、お前がスペシャルウィークと確執が有ることは分かる。」

 

あいつに聞けばスペシャルウィークは菊花賞にも出るらしいからな。と無言の中に込める。

 

「まあそうですね~……今度こそ逃げきってやる。」

 

セイウンスカイの覚悟を決めたのだろう底冷えする声を聞いて、俺も練習内容の調整を行う。

 

「………ならば、スピードでなく、スタミナを重点的に鍛えるか。」

 

「それは~…またどうしてですか~?」

 

「決まっている」

 

俺はきっとこの時、セイウンスカイに見せた笑顔はおおよそ人の浮かべる笑顔では無かっただろう。

 

「……スペシャルウィークにぶっちぎって逃げて勝ってやれ。あいつらの追い上げすらも逃げ切って勝ちきってやれ。」

 

「………………………えぇ。勿論その通りで。」

 

俺たちのその"悪巧み"は見事幸を成して、セイウンスカイはレコードタイムと共に勝利を手にしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄

 

[暗闇、明暗。曇り行く青空]

 

俺は誰もいない実家で久しぶりの安泰と休息に浸っていた。

泥の中で寝ている様な、そんな澱んだ空気の中で俺は一人横になって空を眺めていた。

 

肝心な空模様は、暗く灰色の雲が空を満たす。

 

セイウンスカイ有マ記念 四着

セイウンスカイ天皇賞(春) 三着

 

嫌。俺は知っていた。

あの日菊花賞で見せた大逃げは通用しないだろうと。

腐ってもチーム[スピカ]を導くトレーナーがこんな有利を見逃す筈が無いと。

 

殆どの重要な局面で"差し"を使ってきたスペシャルウィークが"先行"で徹底マークしてくる事も最悪のシナリオとして確かに存在していた。

だが、スペシャルウィークの先行はお粗末な物で、少なくとも博打に乗せるほどのチップにはなりはしないだろうと思っていた。

 

………スペシャルウィークに当たっても意味がない。

終わった事だ。

俺の敗因はあの時の時点で策なんてもう無いことを分かっておけばよかったのだ。

 

…いや。本当は分かっていた。

セイウンスカイも俺も。

策なんて無いこと事態とっくのとうに知っていた。

『もしかしたら』って言うハリボテの希望にすがって、それだけを軸に俺たちは駆け抜けた。

 

随分と、俺の顔色は酷かったらしい。

まさか理事長直々に一旦休めとまで声を掛けられるとは思いもよらなかった。

 

ピーンポーン

 

実家に帰ってきながら何かする気も起きない俺は、ただひたすらに空を眺めた。

……疲れたのだろうか。

セイウンスカイと歩んだこの時間が今までで最もトレーナーをやっていたと思わせるものだった。

 

………玄関のチャイムが鳴った。

この家の主の夫婦は、今は旅行中だと言うことはご近所ならば誰でも知っている事実のため、近所のじじばばが家に来ることはあり得ない。

 

それじゃあ何かしらの押し売りか、それに準ずる何かかと思いドアを開ける。

 

「………逃げるんですか。」

 

「………セイウン……スカイ」

 

そこに立っていたのは、俺の担当ウマ娘であるセイウンスカイだった。

何時ものように好奇の視線を寄越すことなく、俺の目の前に立っていた。

セイウンスカイの表情はどこか虚ろで、その美しい青には陰りが有った。

 

「………ずるい人。」

 

「………私を"キボウ"で釣っておいて……無いことを知っていた癖に。」

 

一歩家の敷地に入ってきて、俺を攻め立てるかのように首もとで毒を吐き続ける。

俺はそれを正当な責めだろうと無言でセイウンスカイの呪詛を受け入れた。

……きっとこうしないとセイウンスカイは壊れてしまうだろうから。

 

「……………こんな………」

 

「醜く……翔べなくなった今の私で有っても受け入れてくれるんですか?」

 

掠れた声でセイウンスカイは俺に問う。

……勿論。受け入れる。

セイウンスカイの絶望は私の絶望だから。

俺は是を意味するかのように、泣き出しそうなセイウンスカイの背中を擦る。

 

泣き出してしまったセイウンスカイとこのまま外で放置と言うのも不味いし、俺はセイウンスカイと家の扉を潜り込んだ。

 

「………見苦しい所見せちゃいました」

 

「いや。お前のそれは元を正せば俺の罪だ。」

 

だからお前は悪くないと言う意味を込めて、頭を撫でる。

そして……俺はセイウンスカイに"言ってはいけない一言"を言い放ってしまった。

 

「……だから。お前は俺を恨め。」

 

俺はこいつに最も最悪の一手を打ったのだ。

セイウンスカイのすべての罪悪からの意識を逃す一撃。

 

俺を恨んでしまえばもう何も怖がらなくて良い。だって、全てトレーナーの罪にしてしまえば少なくともセイウンスカイは救われる。

良く言えば、目逸らし。悪く言えば……思考停止。

 

「……最低な事。言ってるのに気がついていますか?」

 

「ああ。その上で言おう。"俺を恨め"。」

 

お前が今まで、希望と言うぬるま湯に浸からせて、結局理想に溺れて溺死させたのは俺だから。

なら、このまま溺れるような夢を追い続けてほしい。

俺がお前の骸を背負うから。

 

「………とっても最悪。」

 

「………………なら。もう一つ。背負ってください。」

 

「何をd!!」

 

セイウンスカイは俺をソファーに押し倒す。

ウマ娘の腕力に敵うわけが無く、簡単に押し込まれウマ乗りにされた。

 

「……私をここで汚す罪。そして……」

 

俺の上半身に、セイウンスカイの指がなぞられる。

その手つきは何処かいやらしかった。

 

「私の"ハジメテ"を奪う罪。」

 

………ここで。背負ってください。

セイウンスカイは今までに見たことない程、壊れた目で俺を見る。

するとすでにもう口が塞がれ、口の中を蹂躙される。

まるで獣のような荒々しさで口の中の空気も唾液も全て食らい付くされ、その代わりと言わんばかりに生ぬるい液体が流し込まれる。

セイウンスカイの唾液だ。

その液体は何処か甘く、何処か苦々しかった。

 

「……ディープな方しちゃいましたね……関係ないか。」

 

今からもっと凄いことしちゃうんですから。

 

セイウンスカイはすでに殆どの服を脱ぎきっているようで、しなやかな体に、白い肌を晒しながら俺の服を剥いでいく。

 

「……本で読んだだけですけど。…頑張ってご奉仕しますね。」

 

「待ってくれ…セイウンスカイッ!それは……マズイ…ッ!」

 

学園所属の、しかもまだ中等部の子供と肌を合わせたなんて不祥事も不祥事だ。

それが例え、ウマ娘側から誘われたからとしてもマズイ。

そこまでの錯乱をセイウンスカイがしてるとは思いもよらないが、今はその事ではなくセイウンスカイを止めなくては。

 

「……大丈夫ですよ。」

 

「え?」

 

「………情事が終われば逃げちゃえば良いんです。……そうすれば誰もこの愛を妨げる人は居ません。」

 

「そういうことじゃ!」

 

「…………全部を背負うんでしょう?………だからいいじゃないですか。」

 

そう言って、セイウンスカイは笑う。幸せそうに。嬉しそうに。

俺の上で腰を降って何処までも幸せそうに啼く。

 

………俺は意味のわからない涙が、頬を伝い、落ちていった。




ーーーーキャラクター紹介

[セイウンスカイのトレーナー]

至って一般的な中堅トレーナー。
情報処理だけは人一倍高く、特技は速読。
今まで数名のウマ娘を育て、目立った戦績は無いにしろケガ無く、"重賞"の入着や勝利を導いた中堅の中でもトップ近いトレーナー。

今回、セイウンスカイに逆スカウトされ、結構張り切って頑張ってたけど残念な事にこれは"ヤンデレ小説なのよね。曇らせが少々混じっているのは注意。

最後、セイウンスカイに誘惑され泥の中に二人で堕ちていった。
ある意味セイウンスカイに狂っている。
実際ここまで1人のウマ娘に尽くしているところを見たことないとは他のトレーナー談。
トレーナー側としては罪悪感マシマシだけどセイウンスカイは……?

ちなみに言っておくと、セイウンスカに実家の住所は言った覚えが有りません。


[セイウンスカイ]

ウマ娘。
最後トレーナーを誘惑して泥に堕ちていったウマ娘。
簡単に言うとうまぴょい(意味深)したけど、両者合意だからヨシ!(現場猫)
きっとこの後逃避行する。

実はトレーナーとは…………



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