マブラヴ大好き青年が行くIS世界 (王選騎士団)
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原作開始前
1話


初めての投稿になります。拙い文章でしょうが、是非読んでいってください


「ふんふんふ〜ん。家帰ったらシュヴァルツェスマーケンやろ〜っと」

 

仕事帰りの青年と言っていい年齢の青年は帰路についていた。今日は金曜日なので明日は休み。徹夜でシュヴァルツェスマーケンをやろうとしているのだ。

 

「はぁ〜、家まで遠いなぁ……もうちょっと駅から近い所にしとけばよかったかぁ」

 

交差点で青年は1人呟く。すると目の前に少女がおり、暴走したトラックに轢かれそうになっていた。

 

「危ない!」

 

青年は全力で走り、ドンッと少女を押した。

 

「マジかよ…」

 

そう言い残し青年の視界は暗転する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<起きてくださ〜い、起きて〜>

 

………誰だ?ここは何処だ?

 

起き上がると目の前には眼鏡をかけた気の弱そうな女性が立っていた。青年は周りを見わたす。真っ白の空間が無限に広がっており、青年は混乱する。

 

<すいませ〜ん、聞こえてますか?>

 

ああ、すいません。聞こえていますが、ここは一体どこですか?

 

<ここは死後の世界です>

 

へぇ〜死後の世界かぁ・・・

 

<随分と落ち着いていらっしゃるんですね>

 

まぁトラックにあのスピードでぶつかられたら普通死ぬでしょ

 

<そうですね。あの世界であなたは死にました。ですが最後に他人の命を救ったのは素晴らしいことです。と言うわけであなたには他の世界に転生する権利を得ました。もちろん特典もありますよ!>

 

転生か。ちなみにどこの世界か教えてもらっても?

 

<インフィニット・ストラトスの世界です>

 

あぁ〜詳しく読んだことはないけどあれか、女尊男卑がうんたらとかパワードスーツとか天災兎が出てくるやつか。昔友達に借りて読んだなぁ。・・・なるほど。ちなみに転生特典はいくつまでとか、こちらの世界の物は作れないとかあります?

 

<特に制限はないですが著しく世界に合わないものは不可能です。因みにあなたが転生する世界はあなたがあまり知らない原作によく似た別の世界ですので何をしても大丈夫ですし、あなたの記憶も保持されます。>

 

分かりました。じゃあ

  ・マブラヴの00ユニットのあらゆるデータベースにバレずに干渉できる能力

  ・あちらの世界で必要なISの知識

  ・健康な肉体

が欲しいです。

 

<了解です。それではあちらの世界に送りますね〜。ちなみに転生後にどこに出るかは運次第です。>

 

は!?どういうことだそれ!?

 

<大丈夫です、早速死ぬなんてことはありませんから。>

 

オィぃぃぃぃぃぃぃ!!!まじかよおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!

 

 

 

<それでは2度目の人生、楽しんでくださいね〜>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ〜ん・・・。ここはどこだ?」

 

青年は目を覚ます。そして彼はまず服装を確認した。黒のシャツに青色のパーカー、灰色(黒寄り)のデニムと、ラフな格好だった。次に周りを見渡す。噴水や庭園があり、ヨーロッパの公園や貴族の豪邸のようである。既に陽は沈みかかっていた。

 

(ここは日本じゃないのか?とすると・・・・何処だ?)

 

「あのぉ・・・」

 

「ん?」

 

振り返るとそこにはとても優しい雰囲気のお爺さんとお婆さんが立っていた。

 

「大丈夫ですか?こんな時間にこんな所にいて。迷ってしまったのですか?」

お婆さんは問いかける。

 

「いえ、そうではないんですが・・・。実は、何故自分がここにいるか分からないんです。ここにどうやって来たのか、自分の名前は何て言うのかも。」

 

青年は今の自分の状況を確認し、そう答えた。前世うんぬんの記憶を除き、この世界では自分は何も知らないのだ。下手に喋ってしまうと良くないことが起こってしまう。彼はそう思ったのだ。

 

「記憶喪失かい?」

お爺さんの問いかけには頷いて肯定した。するとお爺さんは

「ならうちに来なさい。なぁに、1人増えたって変わらんさ。」

と言った。

 

「本当ですか!?ありがとうございます!」

 

(助かった。このまま外にいたら何が起こるか分からないからな)

 

青年とお爺さん、お婆さんがそこから5分ほど歩くと、豪邸と言っていいほどの大きさの家が現れた。

 

「はぁ〜こんな大きい家に住んでるなんて凄いですね」

 

青年がつぶやくとお爺さんは笑顔になり、

 

「ははは、まぁ、かなりの歴史がある家だからな」

 

話しているうちに玄関にたどり着いた。

 

「そういえばまだ名前をいって無かったね。私の名前はパウル・ラダビノッド。こっちはソフィア。改めて我が家へようこそ、歓迎しよう」

 

パウルと名のったお爺さんは気品を感じさせる立ち振る舞いで青年を迎え入れる。青年は少し気圧されながらも礼を失することのないように相手の目を見据えて答える。

 

「未だ自分の名前もわからないですが、これからよろしくお願い申し上げます」

 

「うむ、まずは家を案内しようか。ついてきたまえ」

 

そうして案内された家はやはり豪邸と言っていいものだった。60畳ほどのリビングにはじまり、来賓が泊まるための部屋に運動部屋や多目的ホールなどがあった。青年は2階の来賓用の部屋をあてがわれた。

 

「今日からここが君の部屋だ。何か欲しい物があったら言ってくれ。ある程度なら用意できるだろう」

 

部屋からリビングに戻る途中、パウルの言葉に部屋の内装を思い出す。ベッド、ソファー、テーブル、など必要なものは揃っていた。青年は考える。

 

(家具は十分にある。なら服とパソコンが欲しいな。今が原作のどのあたりか調べたいし、普通に生活に必要だ)

 

そう考えた青年は階段を下る途中に返答する

 

「なら、服とパソコンが欲しいんですが、大丈夫ですか?」

 

「うむ、わかった。では明日買いにいこう。パソコンはノートタイプでいいかね?」

 

パウルは即答した。さらに気をまわして青年に問いかけた。

 

「はい、それでお願いします」

 

すると、青年が答えると、グゥゥゥゥゥゥゥという音がした。

 

(・・・やっちまった。今のところ何から何までやってもらってるのにまさかここでこんな事になるとは・・・)

 

「はっはっは!そういえばもういい時間だな。よし、夕食にしよう。ソフィア、頼めるかい?」

 

「ふふふ、分かりました。ではあなたは座っていてね」

 

 

 

夕食後、リビングのでっかいソファでくつろいでいたところ、パウルが資料を持ってやってきた。パウルは少し難しい顔をしていたが、意を決したのか青年の正面に座って資料を差し出した。青年は資料を見る前にパウルに聞いた。

 

「?これは、何ですか?」

 

「先程届いたものでね。知り合いの伝手を借りて君のことを調べてもらっていたんだ。一応監視カメラがあったから、そこの写真を提供した」

 

何やら知らぬ間に事が進んでいたようだが、監視カメラがあるなんて聞いてない。しかし今はそれよりも優先する事がある。

 

「俺のこと、ですか」

 

「あぁ。先に見させてもらったが、君も見ておいた方がいい。あ、あとこれが今の君の写真だ」

 

「分かりました」

 

そう言って青年は机においてある資料と渡された写真を手に取った。

そこに写っていたのは正しく斑鳩崇継本人だった。

 

(ゑ?これ、俺?斑鳩閣下じゃないか。そんなことある!?で、こっちの個人情報はと)

 

資料の方には、これまでの青年と思しき人物、斑鳩崇継の生い立ちについては『日本で生まれ、生まれて直ぐにイギリスに引越し。あまり友達はおらず、両親も既に他界。15歳の時に行方不明になる。』と書かれていた。

 

「……これ、多分俺ですね」

 

「そうか。何も、思い出せないか?」

 

「ええ。でも、大丈夫ですよ。俺は俺ですから」

 

(そもそも俺この世界に生まれた?のは数時間前ってぐらいだからな。それに、恐らくだけど神様ってやつの仕業だろうな)

 

「分かった。これで君の名前が分かったわけだが、どう呼べば良いかな」

 

「それでしたら、まぁ崇継でもなんでも、好きにしていただいて構いませんよ」

 

「ははっ、そうか。では好きに呼ばせてもらうとしよう。これからよろしくの」

 

「よろしくお願いします、パウルさん」

 

2人ともニカッと笑い、今夜は床につくことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。パウル・ラダビノッドはマブラヴから、妻のソフィアさんは自分で考えました。ラダビノッド司令って既婚者だったか分からないです(笑)主人公を斑鳩公にしたのはIS原作開始時点でデイアフターの時の年齢にしたかったからと主人公をイケメンにしたかったからです。
また、原作スタートまではもう少しかかると思います。
次回は出来れば1周間以内に出そうと思っていますのでお待ちください。

追記 主人公の名前のシーン追加しました。書いたつもりで消えていました。指摘してくださった方々、本当にありがとうございます


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2話

思ったより早く書けました。


〜〜翌日〜〜

 

崇継とパウル、ソフィアはショッピングモールに来ていた。衣服や歯ブラシなどの生活用品、ノートパソコンを買い揃えるためである。また、買い物のついでに街や、パウルが勧めてくれた大学などを見て周った。パウル達が住んでいるのは都会に近いらしく、あまり遠い距離を歩くことは無かった。家に帰ると、パウルが取り寄せた資料や過去問を見てみると意外といけそうだったのでそれをパウルに伝え、勉強していく事になった。また、パソコンでISについて調べようとパソコンに触れたところ、軽く目眩がしたがパソコンに

 

ーー00Unit. starting upーー

 

と書いてあったのでこれも転生特典だと理解した。しかし、安易にこの力を使うわけにはいかないのでパソコンを使用するときはちゃんとキーボードを使うことにする。

ISについて調べようおすると、運良くYahoo!ニュースに白騎士事件の特集記事が載っていたので閲覧する。

 

(白騎士事件はもう起きているのか。そうなると今は原作開始の10年前になる。あと4年で第1回モンド・グロッソが開催される筈だ。その時には国家代表のIS整備チームのメンバーには入っていたい。とすると大学で呑気に勉強する時間はないわけだ。・・・まあいけるだろ。しかし、今の俺が18歳だから原作開始時には27、8歳になるのかぁ。いい大人が高校生とはきついものがあるな。まぁ俺はエンジョイするけどね)

 

そう考えているとパウルが寄ってきて、

 

「タカツグ、武術を嗜んでみないか?」

 

と言ってきた。崇継は問い返す。

 

「武術、ですか?」

 

「あぁ。まぁ武術と言っても私がやっているのはクラヴ・マガという近接格闘術でね。CIAやFBIも導入しているものだが、そうだな、とりあえず1回やってみた方が分かりやすいかな」

 

「じゃあとりあえずやってみます。下手くそでも怒らないでくださいね?」

 

崇継はそう言ったものの、内心喜んでいた。クラヴ・マガはあまり良く知らないが体づくりや護身術を学びたいと思っていたので、この申し入れは願ってもない事だったからだ。

崇継は先に運動場に行き、運動着に着替えて待っていた。すると、いきなりパウルが竹刀を持って襲ってきた。

 

(は!?つぅかまずい!)

 

咄嗟の判断で竹刀をしゃがんで避けたはいいものの、次の瞬間には蹴り飛ばされていた。

 

「痛たた・・・なるほど、何となくわかったぞ。これは確かにCIAやFBIも採用するわけだ」

 

崇継は少し考えて納得した。その様子を見てパウルは問いかける。

 

「どうだ、何を感じた?どう思った?」

 

崇継は正直に答える。

 

「まず武器を使うことに驚きました。まぁちょっとズルいとは思いました。しかし、よく考えれば当たり前のことです。格闘術とは相手に近づいて攻撃するための物ですが相手が武器を持っていないとは限りませんし、何なら持っていないことの方が珍しいはずです。このことから、恐らくクラヴ・マガはかなり実戦的な格闘術だと思います」

 

崇継の答えにパウルは驚いた。先程の一瞬の攻撃からクラヴ・マガの特徴、そして本質を見抜いたのだ。彼が驚くのも無理はないだろう。しかも、普通の人ならここで文句の1つでも言ってくるのだが崇継()は文句を言ってくるどころか目をキラキラさせているのである。

 

(これは・・・将来大物に成るかもしれんな)

 

「その通りだ。クラヴ・マガではスポーツと違い、実生活で起こりうる状況で効率的に動ける事に重点を置いている。そのため、学習者、今の場合はお前に不利な状況を想定してトレーニングを行なっている」

 

この説明を聞いて崇継はさらに満足する。

 

(良い、良いぞ!体づくりしながら運動できる上に護身術まで学ぶことができるとは!ありがとう神様、パウルさん!)

 

こうして崇継はクラブ・マガを習う事にした。

 

この日から、受験勉強しながらも護身術のレッスンを受けるという生活を送った。イギリスの大学は日本の大学と違い、高校を卒業後、直接大学に入ることはできないがそこもパウルが何とかしてくれる事のなった。

 

 

 

 

〜3ヶ月後〜

崇継は玄関でパウルとソフィアに向き合っていた。

 

「では、行ってきます」

 

「うむ。君なら受かる。胸を張って行きなさい」

 

「ふふ、リラックスして受ければ大丈夫よ。頑張ってね」

 

パウルとソフィアからの激励を貰い、緊張もほぐれた崇継は力を出し切り、結果的に合格することが出来た。

 

 

崇継は工業に適正がかなりあり、また、本人もISのために勉強に余念が無かったため、3年で学習する所を半分の1年半で終わらせてしまった。また、それを見た教授に誘われて教授のラボに参加した。

それから3ヶ月ほど経ったそんなある日、崇継は教授にある話を持ちかけられていた。

 

「俺が、ですか?」

 

「あぁ。君は優秀だ。それに情熱もある。私としてはぜひ君を推薦したいんだが」

 

そう。今崇継は軍のISの開発チームへの参加を打診されているのだ。崇継としては願ってもないことだったが、この3ヶ月彼は開発より整備の方にのめり込んでいたのだ。整備ならともかく開発の役に立てる気がしなかった。なので教授には出来れば整備チームに籍を置きながら整備員の目線から開発に参加したいと話した。すると教授は

 

「分かった。軍からは君が参加さえしてくれればある程度の融通を聞かせると言っていたからね。ではそのように伝えておこう」

 

崇継は混乱した。

 

(なぜ軍が俺の事を知っていて、さらにはこんな高待遇で迎えてくれるんだ?)

 

答えは分からずじまいだったが、それを見透かしたかのように

 

「なぜ自分がスカウトされたか気になるかい?」

 

と聞いてきたので頷くと、

 

「なるほどね。君はこの3ヶ月自分が何をやったか自覚がないようだね」

 

崇継はこの3ヶ月のことを思い出す。ラボの仲間の相談に乗ってアドバイスしたり仲間が作った物を分解整備して問題点をあげたりしたぐらいである。それがなぜ軍に目をつけられているのか、崇継には全く分からない。そう答えると教授はため息をつき、

 

「それがすごいんじゃないか。いいかい?君がそうやって関わった人は皆素晴らしい成果をあげている。そこから君が全てに関わっているとわかり、軍は君を欲しがっているという訳さ」

 

いまいち自分の偉業をうまく認識できない崇継であったが、好都合なのでそのまま話に乗ることにした。

 

「じゃあ明後日にノースウッド司令部に行ってくれ。君の名前を告げて、ジョセフ・ホプキンス少将に繋いでくれといえば大丈夫なはずだ」

 

わかりました、と返して崇継は帰宅する。

 

「ただいま帰りました」

 

「おかえりなさい」

 

崇継が玄関に入るとソフィアが出迎えてくれた。リビングに向かうとパウルがソファーに座っていた。手を組んで目を閉じている姿を見て崇継はただならぬものを感じ、パウルの正面に座った。

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

5分程の沈黙を破ったのはパウルだった。

 

「軍に勤める事になったようだな」

 

「はい。技術者として誘われましたが、整備員として勤めることになりました」

 

「・・・そうか」

 

再び沈黙が訪れる。その沈黙を破ったのはまたもやパウルだった

 

「おまえが望んだ事なら文句はない。だが・・・何事にも全力を尽くせ」

 

崇継ははっきりと目を見て答える。

 

「もちろんです。技術者の端くれとして全力を尽くします」

 

夕食を食べ、片付けをして少し勉強してから崇継は眠りについた。崇継が眠りについた後リビングでソフィアとパウルが話していた。

 

「あの子もついに独り立ちですか。子が離れていく親の気持ちがようやく分かりましたよ」

 

「あぁ。だが良い目をしていた。彼なら大丈夫だ」

 

「ふふ、そうですね。では私達も寝ましょうか」

 

そうしてラダビノッド邸の電気は全て消えた。




次話からようやくISが登場する予定です


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3話

作者ページのプロフィールみたいなのってどう書くんですかね?誰かわかるよ、という方いらっしゃいましたらコメントで教えてください


2日後、崇継はノースウッド司令部に向かっていた。かなり有名な施設なので迷う事は無かった。衛兵が立っているゲートの所に行き、

 

「IS整備員として来ました、斑鳩崇継です。ジョンズ・ホプキンス少将に会いたいのですが」

 

と衛兵に伝えると、詰所に戻り資料のような物を確認した後戻ってきて、

 

「確認しました。ジョンズ・ホプキンス少将からの資料とも合致しています。部屋へお連れしますのでついてきてください」

 

と言ったので衛兵について行く。5分程歩き、着いたのは『ジョンズ・ホプキンス』と書かれた扉の前だった。衛兵がコンコンとノックし、

 

「失礼します。斑鳩崇継様をお連れしました」

 

と言うと

 

「入りたまえ」

 

と重みのある言葉で入室を促されたので衛兵が扉を開け、部屋に入ると、そこには2人の壮年の男性と美しい女性がいた。

 

「初めまして。IS整備員として参りました、斑鳩崇継です。よろしくお願いします」

 

挨拶と礼をして崇継は3人を見据える。

 

(今度はヴィルフリート・アイヒベルガー少佐とジークリンデ・ファーレンホルスト中尉か・・・全く、神様もやってくれるな。という事はもう1人の知らない人がジョンズ・ホプキンス少将か)

 

「うむ。私がホプキンスだ。こちらはヴィルフリート・アイヒベルガー少佐とジークリンデ・ファーレンホルスト中尉だ」

 

「よろしく頼む」

 

「よろしくお願いします」

 

少佐と中尉はそれぞれ崇継に挨拶する。少将からは

 

「早速で悪いがこれが君のこの基地での身分や注意事項等の資料だ。後で目を通して置いてくれ。また、君にはこれからこの基地で過ごしてもらう事になる」

 

今日から過ごすために必要なものを渡してもらった。サッと目を通すとツェルベルス大隊付整備員兼技術顧問<技術大尉相当官>とかいうとんでもない肩書きがついていた。

 

「また、これから君の服の採寸とIDの写真撮影を行う。すまないが私はこれから会議があるのでこの後のことはアイヒベルガー少佐とファーレンホルスト中尉に任せる。困った事があったら彼らに聞いてくれ」

 

そう言ってホプキンス少将は退室していった。アイヒベルガー少佐とファーレンホルスト中尉、崇継は採寸へ向かう。廊下を歩いている途中、中尉から話しかけてもらい、お互いのことを少し知ることができた。会話としては、

 

「斑鳩さん・・・そういえばあなたの階級ってどうなっているんですか?」

 

「階級ですか・・・ちょっとよくわからないんですけどこんな感じです」

 

そう言って資料を見せるとファーレンホルスト中尉は言葉を失った。それを不審に思ったアイヒベルガー少佐も中尉が持っている資料を見ると、信じられないものを見たというような目で崇継を見る。

 

「これは・・・なるほど、君は本当に期待されているんだな」

 

「そうなんですか?」

 

崇継がよく分からないよ、という表情で返すと復活したファーレンホルスト中尉が

 

「いきなり整備員と技術顧問を務めてさらに技術大尉相当官なんて凄い事なんですよ」

 

「あぁ。君は自分を誇っていい」

 

なんて言われたり、

 

「へぇ〜少佐と中尉は幼馴染なんですね」

 

「そうなんですよ。今でこそこんななりですけど昔は「中尉、頼むからやめてくれ」分かりました。ごめんなさいね」

 

なんて感じで過去をバラされかけたりした。

その後、採寸と顔写真の撮影を終え2人と共に自室へ向かう。崇継は1人部屋を与えられている。ちなみに彼には複数の身分があるので分かりにくいが、一応整備員がメインになっている。

 

「それではこれから斑鳩曹長と呼ばせてもらうが。斑鳩曹長、明日は0700、午前7時に起床の後我々の整備室に向かう。が、まだ曹長は基地に慣れていないと思うので中尉を案内に向かわせるからそれまで待っていてくれ」

 

「分かりました。それでは少佐、中尉、明日もよろしくお願いします」

 

「あぁ。では失礼する」

 

「また明日、斑鳩曹長」

 

そう言って少佐と中尉は歩いて行った。後ろ姿を見送った後、崇継は自室に入り今日を振り返る。

 

(まさか自分の配属先にあの2人がいてしかも名前もツェルべルス大隊ってそんなことある?階級もなんかえげつない事になってたなぁ・・・技術顧問ってどこのイケメン残念ヘタレ童貞だよ。俺の友人に乙女座金髪はいないから。それに明日から正式に所属することになるだろうが恐らく他のツェルべルスメンバーもいるんだろうなあ〜。まぁ楽しそうだし良いか。だがここまで来ることができた。原作スタートまでにできることはやって起きたい。・・・よし!明日も頑張ろう!)

 

そうして彼は布団に横になりそのまま眠りについた。

 

 

〜翌日〜

 

崇継は6時には既に起きていた。特にすることも無かったので受験生時代からやっていたクラヴ・マガのイメージトレーニングと筋トレをして、丁度終わった頃にアイヒベルガー少佐とファーレンホルスト中尉が部屋へやってきた。

 

「おはよう、斑鳩曹長。よく眠れたか?」

 

「はい、ぐっすり眠れました」

 

「それはよかったです。ところで先程曹長の軍装が届きましたのでこれに着替えてください」

 

「分かりました。少し外で待っていてください」

 

そう言うと2人は出て行ったので着替え始める。ちなみに軍装はもちろんツェルべルスのあの軍装で、これも同じかよ・・と思ったのは秘密だ。部屋の外に出ると

 

「似合っていますよ、斑鳩曹長。それでは食堂に向かいましょう」

 

と言われて2人について行き食堂に向かい、そのまま2人と一緒に朝食を取った。途中アイヒベルガー少佐が食堂の人にジャガイモを盛りだくさんにしてもらっているのを目撃し、

 

(スゲェぇぇ!少佐って本当にジャガイモ好きなんだ!)

 

と興奮したりもした。食べ終わった後、遂にこれからの仕事現場に向かう。大きなホールに繋がっているであろう廊下の扉の前で少佐と中尉が立ち止って振り返る。2人の瞳は真剣な眼差しで崇継を見据えていたので崇継は何かがあるのだろうと理解したが自然体で待つ事にした。すると、アイヒベルガー少佐が問いかける。

 

「現在、我々第44戦術機甲大隊(ツェルべルス)はIS研究の為の実験部隊となっている。あと3年後くらいにはケント州にドーバー基地が建設され、ドーバー基地がどんな基地になるかは我々に掛かっている。それまでにISとは何であるかを見極めなければならない。そのためには曹長の力が必要だ。ここまで来てもらっていて失礼かもしれない。だが君にその覚悟は、想いはあるか?」

 

崇継はこれまでのことを思い出す。

 

(そうだ。俺は今まで転生して浮かれていた。未来を知っているだけの神様気分だったのかもしれない。だが未来は変わる、それこそ俺というイレギュラーによって)

 

客観的に捉え、事実を確認した。これまでのことは変えられない。なら一体これから何をする?

 

(なら後悔をしない生き方をしよう。俺が今したい事は何だ?俺は今ISを知りたい。未来の為とかそんな理由じゃなくて純粋に1人の技術者として。ISはただの破壊兵器なのか、それとも人類の版図を拡げる翼足りうるかどうかを)

 

答えは決まった。己が答えを示すために崇継は口を開く。

 

「・・・覚悟があるかどうかは分かりません。でも俺は信念を持ってここに来ました。1人の技術者としての信念をその信念でもってISを見定めたいと思います」

 

崇継の信念(答え)を聞いた少佐はフッと微笑み、

 

「良い目をしている。君なら出来る、大丈夫だ」

 

と崇継を認めてくれた。

 

「では中へ入ろう、斑鳩曹長」

 

扉を開き、彼は先に中へ入っていき、崇継もそれについていく。そして崇継はーーーー

 

「ウルセェぞ!」

 

「何よ、あんただって!」

 

ーーーーとても軍とは思えない、低レベルな喧嘩にでむかえられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




マブラヴの憧憬はまだ買えてなくて出来てませんので、ウルセェぞ!さんのあんただって!さんに対する呼び方等はうち独自(?)のものにしたいと思います。一応公式ページのキャラクター紹介から想像しうる人物にはなっていると信じたいです


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4話

今の時系列は第1回モンド・グロッソ開催1年前です


Side 崇継

 

・・・・・・・????彼らは何をしているんだろうか? うるせぇぞ!(地声) 何よ!あんたこそ!(裏声)なんて言ってたな。喧嘩か?それにしてはレベルが低い。低すぎる。そこいらの中学生ですらもっとマシな事言えるぞ。それにしても中学かぁ、前世では受験したけど今となってはいい思い出だなぁなんて呑気な事を考えていたら

 

ゴゴゴゴゴ・・・・!!

 

隣りに阿修羅が降臨してたYO!ヤベェな、この人。笑顔なのは変わらないのにオーラが違う。俺この人だけは怒らせないようにしよ。

 

「ふふふ。ヴォルフガング・ブラウアー少尉、イルフリーデ・フォイルナー少尉?」

 

「「ひっ!?」」
  

 

!?ゾクってしたぞゾクって!全身の毛が逆立っているッッッッッッッ。名前を呼んだだけなのにッッッッッッ!

 

「今日も仲が良くて結構。で・す・が、今日は外部から招聘されてくる方がいらっしゃると、言いましたよね(怒)?」

 

「「は、はいっ!」」

           

あ〜あ。中尉は目が笑ってないし少尉2人は中尉の圧で縮こまってるし散々だな。流石に可哀想だし助けてあげるかぁ。

 

「まぁまぁ中尉。落ち着いてください。元気があっていいと思いますよ」

 

「・・・あなたがそうおっしゃるならそういうことにしておきましょう。両少尉とも今後失礼の無い様に。良いですね?」

             

「「はい!」」
             

 

このやりとりを見ていた大隊のメンバーがざわめき出しそうになる。その雰囲気を感じとったのか、うるさくなる前に少佐が1歩前に出て隊員に号令をかける。

 

「総員、傾注!こちらが本日から我々の大隊が招聘、派遣されて来た新しい隊員だ。これから自己紹介してもらう。それでは、頼む」

 

俺は1歩前に出る。

 

「では、改めまして皆さん初めまして。本日より本大隊に招聘されました、斑鳩崇継です。知らない事の方が多いと思いますので色々教えて貰えれば、と思っています。これからよろしくお願いします。何か質問あればどうぞ」

 

そういうと先程喧嘩していた片割れ、イルフリーデ・フォイルナー少尉が一目散に手を挙げる。元気だなあの人。

 

「ではそこの方、どうぞ。名前もお願いします」

 

「イルフリーデ・フォイルナー少尉よ!貴方の階級はなに!!?」

 

大隊の殆どが気になっているであろう事をフォイルナー少尉が質問してくる。他のメンバーもこちらに興味の視線を向けてくるが・・・まったく。少尉はさっき何を学んだんだろうか?まぁいい、現実を見なさい。

 

「はは、今回も先程のように大目に見ますが、初対面の人に対する言葉遣いは気をつけましょう。そうしないと、ほら」

 

そう言って少尉の後ろの方を指さす。もちろんそこにはA☆SYU⭐︎RAが鎮座している。フォイルナー少尉はガクガク震えているが、俺はそんな事は気にしない。それより

 

「あれ?そう言えば自分はどちらの階級として自己紹介すべきで?」

 

と少佐に質問する。そうすると両方言え、と言われた。少尉に中尉から制裁が下る前に言ってしまおう。

 

「それでは、先程の質問ですが。自分は今、2つの階級の人物としてここにいます。まず1つ目は曹長。俺はここに来る前は工科大学に籍を置いていましたので、機械にはそこそこ強いつもりです。なので整備員をメインとしていくつもりです。次に・・・」

 

俺が続きを話そうとすると

 

「じゃあアタシの方が階級高いわね!新入りだからって容赦しないわよ〜?そしてアタシを敬いなさい!」

 

なんて言いやがる。俺は別にそれでも良いんだが、中尉が許さないだろう。だってまたA⭐︎SYU⭐︎RAになってるんだもん。

 

「少尉?斑鳩曹長は階級が2つあるとおっしゃっていましたよね?人の話は最後まで聞きましょうね?」

 

少尉はガクガク震えて縮こまっているが今度はフォイルナー少尉以外の大隊の隊員が訝しむような視線を向けてくる。

 

「それではもう1つ。俺はこの大隊の技術顧問、つまり技術方面のトップとしての階級も持っています」

 

そう言うと俺に訝しむような視線を向けていた隊員達が唖然としている。そりゃそうだ。片方の階級がこの中で1番下だと思ったらもう片方の階級は技術方面のトップ、つまり上司として赴任してきたんだから。なんて考えていると眼帯が特徴的な人が手を挙げる。どうぞ、と発言を許可すると

 

「ブリギッテ・ヴェスターナッハ中尉です。先程そうちょ、その、あなたが仰った技術顧問というのは一体?」

 

「一応今は曹長としてここに立っているので曹長で構いません。技術顧問というのは・・そうですね・・・」

 

 

 

 

 

 

Side ヴィルフリート・アイヒベルガー

 

曹長が回答に困っているな。そもそも軍歴が全く無い中ここにいるのが異例なのにいきなり技術顧問というのは異例を通り越して彼が最初で最後の唯一になるのだろう。ここは私から話すべきだな。

 

「斑鳩曹長、そこは私が話そう」

 

「分かりました。ではお願いします」

 

そう言って曹長は1歩下がった。

 

「現在、我々ツェルべルスは先月からIS研究開発及び運用任務に就いているが、本大隊には技術方面の隊員が少ない。そのため外部から技術者を招聘する必要があった。そこで招聘されたのが彼だ。彼の優秀さは階級とその事実が証明しているし、軍本部のお墨付きもある。だがこの大隊に所属するにあたり、他人の評価は気にするな。己の目で見た彼を評価しろ。斑鳩技術顧問も、それを理解した上でその能力を遺憾なく発揮してほしい。いいな!」

 

             「「「「はい!!」」」」

曹長と大隊メンバーが返事と共に敬礼したので敬礼で返す。

 

「よし。他に斑鳩曹長に質問はあるか?・・・無いようだな。それでは開発チームと運用チームに分かれて本日の仕事を始めろ!」

 

 

 

 

 

 

Side 崇継

こうして俺のIS整備員兼開発者としての日々が始まった。最初は開発チームのメンバーと自己紹介をしたが、ここで本日1番の驚きがあった。何があったかっていうと、ツェルべルスメンバーのうちIS操縦者(候補)は4人しかいないらしい。他の隊員はほとんど開発やその他の雑務を片付けているらしい。

一通り自己紹介が終わると会議室みたいに所へ連れて行かれISについての座学が行われた。なんかブラウアー少尉も罰ゲーム的な感じで一緒に受けるらしい。

 

「それではこれから曹長とそこの馬鹿者の為にISについての座学を始める。先程も自己紹介させていただいたが改めて。ゲルハルト・ララーシュタイン大尉だ。よろしく頼む」

 

「よろしくお願いします、大尉」

 

「うむ。それでは早速始めよう。ISとはインフィニットストラトスの略で、宇宙環境下でも活動可能なパワードスーツだ。これは曹長も知っているかね?」

 

もちろん知ってる。流石に前世の記憶のおかげで、とは言えないが。

 

「はい。白騎士事件なんてのもありましたから、この業界にいて知らない方が珍しいと思います。軍もあれを見たからISの研究を始めて俺を呼んだんでしょう?」

 

「フハハ。確かに、その通りだ斑鳩曹長。だが今現在のところISについて、恐らく我々が知っている事の方が少ないだろう」

 

ここで初めてブラウアー少尉が発言した。

「でもよー、なぁんで(俺たち)はそんな訳の分からないものを研究しようとしてるんだ?」

 

は?

 

「は?・・・やべっ言っちまった」

 

「少尉ィ・・貴様、これまでの座学で何を聞いていたァ!」

 

他の隊員も絶句している。こいつ本当に軍人か?大尉もこりゃガチでキレそうだな。

 

「少尉。貴様には後でファーレンホルスト中尉にから直々に説教してもらう」

 

「ヒィッ!?そ、そんな・・・」

 

「それでは続けよう。ISにはPIC、絶対防御などの機能や先程話した宇宙空間でも活動できる汎用性がある。だが最も重要なのは、ISが『現行の兵器にあらゆる点で優っている』かもしれない、そして『女性にしか起動できない』という事だ。それはすなわち世界が変わるかも知れないということ。我々は世界の変革についていかなければならない。その為に私達はここにいる。心してくれ」

 

スゴイな、この人。この世界の未来を完全に当てている。

この後の座学は知っていることばかりだったので省略させてもらう。

 

 

ただ1つ、思った、いや理解した。ISは彼女(篠ノ之 束)の夢なのだと。宇宙(そら)に行きたいという願いそのものだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ツェルべルスメンバーは戦術機甲大隊の衛士(パイロット)36人となっています。


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5話

今回から特に何も書いてなければ崇継視点とします


午後は運用チームの人達と合流した。既に第1回モンド・グロッソの開催が決まっているらしいので、最近は訓練と運用兵器の研究開発を並行して行なっていると教えてもらった。隊員に囲まれながら話しているとララーシュタイン大尉が人混みをかき分けてやってきた。

 

「斑鳩曹長、ISを着用しての訓練は後でやるのでこれから生身での訓練になるがどうするかな?」

 

生身での訓練。武術の心得(クラヴ・マガ)ならあるけどなぁなんて思っていたら後ろから殺気のようなものが飛んでくるのを感じた。

 

「斑鳩曹長!」

 

誰かが俺の名前を呼んで危険だと伝えようとしているんだろうが別に何てことはない。右に首を傾け、飛んできた手を掴んで引っ張りつつ自分の体も相手に向けて勢いをつけてお腹に蹴りを入れた。ちょうど相手は腰のところで折り畳まれそのまま地面に倒れた。そうすると隊員達がざわめいた。

なんか騒がしくなったな。あれ?そういえば俺ツェルべルスの隊員に囲まれてるのに何で攻撃されてんだ?そう思って下に目を向けると金髪の女性?少女?が倒れていた。・・・俺、もしかしてやらかした?

 

「あ、あの〜大尉?」

 

恐る恐る大尉の方を見ると、大尉はため息をつきながら目元を押さえていた。他の隊員たちは驚き半分、呆れ半分といった感じだ。ただブラウアー少尉だけは100%驚きの感情だった。

 

「・・・いや、斑鳩曹長、君に非はない。我々が止めるべきだった。流石に初めて会う人に攻撃するとは思わなかった」

 

他の隊員達も大尉に同意する。

 

「その口ぶりから察するに大尉や皆さんはもしかして・・・?」

 

「「「「「ハァ〜〜〜〜〜」」」」

 

「あっ・・・(察し)」

 

みんな過去を思い出したのかやつれてしまった。なんか申し訳ねぇ。

 

「ゴホン。ま、まぁともかくまずは少尉を医療室へ連れて行ってくれ」

 

隊員達は数人がかりで少尉をゆっくり持ち上げて部屋を出ていき、残ったのは俺とララーシュタイン大尉、ブラウアー少尉、あとは数名の隊員だけとなった。

 

「どうしましょうか・・・」

 

「うむ・・・」

 

2人で悩んでいるとアイヒベルガー少佐とファーレンホルスト中尉、そしてあともう2人が入ってきた。

 

「あっ少佐!お疲れ様です!」

 

俺の言葉に全員が振り返って敬礼すると、入ってきた4人も敬礼で返してくれた。ふと、少佐が何かに気づいたのか当たりを見回す。

 

「・・・他の者達はどうした?」

 

少佐の質問に冷や汗を流す俺。だって勤務初日にいきなり人を蹴って気絶させましたとか言えるわけなくね!?言えるやつがいたらそいつはかなりやばいと思う。

 

「曹長?どうしたんですか?」

 

「は、はひっ」

 

中尉が急に俺のことを呼んだので焦るあまり噛んでしまった。それはそれとしてこれは終わったな。中尉、なんか確信を持って俺を見てるもん。だがここで天は俺を見放さなかった。大尉が代わりに説明してくれたのである。めちゃくちゃ苦虫を噛み潰したような顔をしてだが。

 

「中尉。ここは私から。・・・と言っても、いつものことですが。ただし今回は曹長の方が上手だったらしく、一撃でやられていました」

 

大尉の発言に先程の4人も驚いてるよ。そんなにすごいのか、イルフリーデ・フォイルナー少尉(あの馬鹿)

 

「なるほど、事情は分かった。先程に加え、隊員が失礼を働いてしまった。申し訳ない曹長」

 

「大丈夫です少佐。・・・ところで少佐は何故こちらに?」

 

「あぁ、曹長には説明していなかったか。ISを実際に起動、運用する場合は必ず責任者、今は少佐だが、がいなければならない。なので少佐には毎日この時間にここに来ていただいている」

 

「そういう事だ。だが曹長がある程度ここでの業務に慣れたと判断したら、曹長には技術顧問として私の代わりに責任者として参加してもらう。いいな?」

 

「了解です!」

 

俺やっぱ責任重いな。だがやってやる。

 

「では曹長、彼女たちを紹介させていただきます。ヘルガローゼ・ファルケンマイヤー少尉とルナテレジア・ヴィッツレーベン少尉です」

 

少佐と中尉以外の2人に目を向ける。

 

「初めまして。これからよろしくお願いします」

 

「「よろしくお願いします!」」

 

うん、2人ともいい返事だ。彼女たちはイルフリーデ・フォイルナー少尉(俺が気絶させた馬鹿)の同期だったはず。そう思っているとファルケンマイヤー少尉が恐る恐るといった感じで

 

「あの、曹長。質問よろしいでしょうか?」

 

「俺が答えられる範囲内で良いなら」

 

「では、どうやってイルフィ、いえフォイルナー少尉を?」

 

倒したのですか?と聞きたいのだろう。別に減るもんでもないし答えるけどね。

「あぁ、俺と話す時は公の場でない限りは砕けた話し方で構わない。それで、フォイルナー少尉を倒した・・・気絶させたの方が正しいか?だが、別に大したことはしていない。飛んできたパンチを避けて掴んで引き寄せて蹴りを入れただけだ。・・・でもなぁ、ちょっとやり過ぎちゃったかな〜。ねぇ、どう思う?」

 

「そうですね・・・まぁフォイルナー少尉(あの馬鹿)も1回は敗北を経験した方が良いと思うのでよろしいのではないかと」

 

「そうか〜ありがとなぁ」

 

素直に感謝の気持ちを伝えた。

 

「曹長。そろそろ今日の訓練を始めないと時間がなくなってしまうのでここら辺で。では2人とも、行きましょう」

 

そう言って中尉と少尉2人は着替える為に部屋を出ていった。俺たちは先にピットに向かう。

 

「曹長」

 

ピットで準備していると少佐と大尉に呼ばれた。なんだろ?

 

「曹長、君は過去に武術を習ったことがあるか?」

 

「正式な道場に行ったことがあるか、という意味でしたらありませんが今の自分を保護してくれている人からは習っていました。それが何か?」

 

今度は大尉が話す。

 

「そうか・・・。曹長、君は知らないだろうがフォイルナー少尉はこと格闘において我々の中で1、2を争う実力者なのだ。それを曹長はいとも簡単に倒してしまった。そこで、その実力を見込んで彼女たちを鍛えてはくれないだろうか。頼む」

 

「大尉の言う通りだ。私からも頼む」

 

そう言って2人とも頭を下げてきた。え?フォイルナー少尉(アイツ)ってそんな強かったの!?まぁどうでもいいや。でもな〜

 

「それは別に良いんですが・・・俺がやってたのって所詮は制圧術なので使えるか分かりませんけど、それでも良いんですか?」

 

「構わない。彼女たちには格上と闘う経験が必要だ」

 

きっぱりと即答された。

 

「分かりました。人に教えるのは初めてなのであまり期待しないでくださいよ」

 

そうやって話している間に着替えに行っていた3人が戻ってきたので早速訓練を始める。最初は武器の出し入れの練習をしていた。手元にあるパソコンに逐一データが送られてくるが、凄いな。0.7秒だって。確か原作で0.5秒で出来れば上出来って言っていたからかなりいい方なんだろう。

次は飛行訓練。こちらも飛行時に姿勢がブレていない、綺麗だ。良いなぁ。俺も空を飛んでみてぇ。

最後に模擬戦。1対1の試合を3回、モンド・グロッソと同じルールで行った。現在の強さは強い順にファーレンホルスト中尉>ファルケンマイヤー少尉=フォイルナー少尉>ヴィッツレーベン少尉って感じらしい。

 

 

 

 

「ふう、これで今日の業務は終わりですか?大尉」

 

「あぁ、疲れただろう。私もようやく慣れてきた位だ」

 

なぜ俺と大尉が疲れているのか?そう、訓練が終わった後、俺を仕事の山が待っていたからだ!

使用したISの整備に始まりアリーナの整備、武装等の使用状況の報告書なども書かなければならなかった。これがもう大変で3時間ぐらいかかった。ISの整備は大学で機械をいじりまくっていたおかげで比較的容易に感じた。

 

「それでは大尉、失礼します」

 

「ゆっくり休んで明日に備えてくれ」

 

 

こうして俺の濃密な軍での生活が始まる

 

 

 

 

 

 

 




マブラヴバースようやく開始しますね!プラモデルも再販するんで買おうと思います


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6話

今日は都合の良いところで終わるので短いです。


Side 3人称

翌日も崇継は6時に起き、日課の筋トレとイメトレをしてから食堂へ向かった。昨日で一通り基地の施設や配置は覚えたので1人である。朝食を食べ終えたのち、昨日と同じ場所へ向かう。

 

「おはようございます」

 

そう言って崇継が入るとララーシュタイン大尉、ブラウアー少尉、IS操縦者候補の2人、そして面倒臭い奴(フォイルナー少尉)がいた。

 

「おはよう」

 

「うい〜っす」

 

「「おはようございます」」

 

「・・・・」

 

誰が返事をしなかったかはお分かりだろう。そんな彼女に大尉は呆れ、

 

「少尉。昨日の件は君が全面的に悪いだろう。もう少し上官に対する態度というものが・・」

 

なんて注意するが、今度はほおをプクーっと膨らませて不貞腐れている。まぁ崇継はそんな事は気にしないので

 

「大尉。少尉も大人ですし、きっとどこかで落とし所を見つけるでしょうから大丈夫ですよ。それより今日の予定はどうなってるんです?」

 

「ハァ~。まぁいい。今日も昨日と同じだ。いかに技術者や開発部隊とは言え毎日1個新兵器を作るわけでもないしな」

 

「そうですか。では早速始めましょう」

 

 

 

 

 

そして午後

 

昼食は大尉や他の隊員と一緒に取り、ISの稼働訓練に向かう。こちらも特に何事も無く終了したが、問題はその後の生身での訓練であった。

 

 

 

Side 崇継

さて、今俺は何故か柔道場にいる。この基地、こんな設備まであるんですって。まぁそれは置いといて、今回俺が教える事になっているのは中尉と少尉3人となっている。とりあえず4人の適正を聞いてみると、中尉はオールラウンダーで、ファルケンマイヤー少尉は剣を使用した接近戦、ヴィッツレーベン少尉は銃を使用した中遠距離からの攻撃が主体となっていて、最後にフォイルナー少尉だが。彼女、銃を使った()()()を主体としているらしい。ここまではよかったんだが、弾が尽きてくるとIS本体でぶん殴るんだって。自分の長所を理解しているのはいい事だが、馬鹿なのかな?ISは翼であって兵器でなければ君のグローブでもないんだよ?

 

「それでは、早速皆さんの今のレベルが見たいので、1人ずつかかってきてください」

 

 

 

 

 

1人ずつだったので楽勝だった。大尉の言う通り、フォイルナー少尉が武器無しの近接では頭1個か2個抜きん出ているが、この後いろいろな方法で4人の強さを確認したが、大した収穫は得られなかった。

これからの方針としてはひたすら俺と1対1で戦ってもらって、自力で改善点を見つけてもらう事にしよう。という訳で今日の訓練はひたすらタイマンだオラァ!

 

 

〜2時間後〜

「「「「ハァ、ハァ、ハァ」」」」

 

皆バテちまったYO!ま、今日の訓練はこれで終わりだし大丈夫でしょ。因みに途中から少佐も見てたが目を閉じたままでした。他の隊員は4人の心配をしているので見えない。

 

「こんな所ですかね。ちゃんと柔軟してから部屋に戻ってください」

 

「「「「ありがとう、ございッ、ました」」」」

 

・・・・ちょっとやりすぎたかも。

 

 

 

 

 

そんなこんなで崇継の軍での生活は整備員、技術顧問、そして武道(?)の先生として3足のわらじを履いて過ごす事になる。

 

そして、1年が経ち。ついにその日となった。第1回モンド・グロッソが開催される、その日に。

 

 




もう本当に雑な文章ですいません。読んでくださっている皆様には感謝しかありません。次回は第1回モンド・グロッソです。戦闘描写が稚拙、もしくは書かないかもしれませんが何卒よろしくお願いします


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7話

ようやく第1回モンド・グロッソまでたどりつきました。


「揃ったな。それでは全員乗車しろ!」

 

少佐の号令がかかり、隊員達がバスに乗車していく・・・といっても今がどんな状況かわからない方も居ると思うので説明しよう!

現在ツェルべルスは日本にいる。理由はもちろんモンド・グロッソに出場する為。ツェルべルスがイギリスで最初にISの研究を開始し、最も知識と経験値があると判断されたので代表メンバーはツェルべルス全員となっている。モンド・グロッソには様々な部門があるが、俺たち(イギリス)は今回それぞれ部門ごとに別の操縦者を出す事にしている。総合部門にファーレンホルスト中尉、格闘部門にフォイルナー少尉、射撃部門にヴィッツレーベン少尉、近接部門にファルケンマイヤー少尉という感じだ。この1年彼女たちを鍛えてはきたが恐らく織斑千冬には勝てないだろう。稼働時間や経験値が違いすぎる。だがそれを踏まえてどこまで行けるかも大事だ。出来れば決勝まで行って欲しいがどうなるだろうな。というわけで冒頭のシーンに戻る。

 

全員が乗り終わった後、すぐにバスは動き始めた。俺は窓側の席で、隣にはララーシュタイン大尉が座っている。皆緊張しているのか少し会話がぎこちなかったりソワソワしたりしている中、俺は結果を知っているためかそんなに緊張していない。現在10時。隊の備品のタブレット端末でニュースを見るが、ほとんどの記事は大会についての記事だった。一応読んでみたがやはり優勝候補筆頭は織斑千冬、次点でヨーロッパ諸国が並んでいるといった内容だった。そうしているうちに会場に着いた。日本によくこんな施設作れたなってぐらい大きな施設だ。感心しながら見ていると運営の人がやってきて、部屋へ案内された。大会期間中はこの部屋で整備や作戦会議を行うように、だそうだ。

 

「全員荷物を置いて整列。直ぐに開会式だ」

 

少佐の指示に従って荷物を置いて、全員が並ぶ。国ごとに並んで出て行くらしい。まるで甲子園の開会式みたいだ。主催者と日本の現総理大臣の挨拶、開会の宣言がなされて大会の幕が開けた。

初日は午後から試合となっていて、いきなり格闘部門が行われる。今大会の参加国はアラスカ条約に加盟している18ヶ国だけなので各部門2日ずつに分けて行う事になっているそうだ。昼食は各自で取った。

 

そして、午後。試合開始直前まで俺はISの動作確認、点検を行っていた。いかにISに搭乗者の保護機能があってもISそのものに異常があったら意味がないから。格闘部門に出場するイルフィは既にISスーツに着替えて、隣で最後の調整を行なっている。

 

「・・・ふぅ。私ができるのはここまでだな」

 

「何言ってんの、十分でしょ。・・・やっぱりアンタ、私って言う方が似合うわね。少佐に感謝しなくちゃ」

 

イルフィ(こう呼ぶように本人に言われた)は試合と関係ない事を言っているが、こういう時は本人が緊張しているのでいちいち注意はしない。そうしているうちに他のメンバーも入ってきて、イルフィに一声かけて行く。

 

「少尉、大丈夫。この1年間の訓練を思い出して。あれに比べれば何てことは無いわ」

 

「頑張れ」

 

「頑張って」

 

「頑張ってくれ」

 

中尉、少尉2人、大尉も声をかけて出て行く。残っているのは整備班のメンバーだけ。

 

「イルフィ、頑張れよ」

 

「モチロン。すぐに戻ってくるわ、勝ってね」

 

そして彼女の試合は始まった。が、これといって苦戦することもなく勝利した。

 

 

 

1日目、最終試合。優勝候補筆頭(織斑千冬)の試合には多くの観客と各国の軍関係者が詰めかけていた。俺もツェルべルスもその内の1つだが。

予想というか原作知識通りブレードオンリー。適度な緊張を保ちつつリラックスしているという試合に臨む時の最善の状況だ。対する選手も武器を構えてはいるが会場の雰囲気に呑まれている。そもそも勝ち筋が無いようなものだがこれで決定的だな。試合開始のカウントが始まる。その時、隣に座っている少佐が口を開いた。

 

 

Side 3人称

 

「曹長。今回の試合、そして大会。誰が勝つ」    

 

「「「「「「5!」」」」」」

 

「そうですね。私見で良ければ」

 

「「「「「「4!」」」」」」

 

「その私見が聞きたい」

 

「「「「「「3!」」」」」」

 

「彼女、織斑千冬が優勝するかと」

 

「「「「「「2、」」」」」」

 

「やはり曹長もそう思うか・・・出来れば、我々(イギリス)が優勝したいところだが」

 

「「「「「「1!」」」」」」

 

「やはり、こればかりはどうしようも無い、覆しようのない事実でしょう。そして・・・・」

 

「「「「試合ッ開始ィ〜ッ!」」」」

 

試合開始の合図と共にブザーが鳴り響く。その瞬間、優勝候補筆頭(織斑千冬)は未来において瞬時加速(イグニッション・ブースト)と呼ばれる技術を使い、相手に斬りかかって行く。それを見た崇継は満足して立ち上がる。

 

見るべきもの(見たかったもの)はもう見れました。では、先に外で待ってます。混雑に巻き込まれたくないので」

 

少佐やそれを聞いていた隊員達が崇継の発言を疑問に思い口に出そうとするが、崇継がそう言い終わると同時に試合終了のブザーが鳴った。先程出て行ったたった1人(崇継)を除いて会場の人々は全員驚きを隠せず、結果を理解できずにいたが、織斑千冬が刀を鞘に仕舞い終わるのが合図になり会場は歓声に包まれた。ツェルべルスの隊員達は動揺しつつも既に出て行った崇継を追いかけて会場を後にする。

 

 

崇継は会場の外への通路を歩いていた。

 

(うん、現在の時点で織斑千冬に勝てる人はいない。一応ここまでは原作通りだ。にしたって機体の性能も違いすぎる)

 

「ちょ・・、ねぇ」

 

(流石・・・と言いたいところだが技術者としてはあれ以上のモノを作りたい。単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)の研究もしなきゃだな)

 

「ちょっと!」

 

「うん?」

 

崇継はようやく自らに声をかける存在に気がついた。下を見ながら考え事をしていたため、少し目線を上げるだけで相手を確認することができた。が、その相手が相手であった。

 

(ベ、ベルナデット・ル・ティグレ・ド・ラ・リヴィエール大尉・・・いや少尉?そんな事今はどうでもいい!ツェルべルスの人が居たからもしかしてと思ったが本当にいるとは・・・ありがとう神様!)

 

何を隠そうこの転生者、マブラヴシリーズの1番の推しがベルナデットなのである。だが、推しに会えた喜びにより逆に1周したのか冷静でいられた。

 

「申し訳ありません、考え事をしていて気がつきませんでした。私に何か御用ですか?」

 

「えぇ。あなた、イギリスのメンバーよね?」

 

「はい、そうですが」

 

「あなたの事が気になってね。あなた、さっき試合結果が出る前に出て行ったわね。あれはなんでかしら?」

 

もちろん原作知識によって結果を知っていたからなのだが、そんなことは言えない。足りない頭をフル回転させていい感じの理由を探す。

 

「・・・あの加速技術が見れたから、ですかね」

 

「そう。でも、もしかしたらあの後に別の何かがあったかも知れないわ。そのことは考えた?」

 

「・・・一応は考えました。ですが、その別の何かを使う状況は主に2つ。それを使わざるをえないほど切羽詰まっている時か、それを見せつけたい時です。しかし、織斑千冬にはあの加速技術がある。まず間違いなく前者のような状況にはならないでしょう。そして後者ですが、彼女は力を見せつけるような人間ではないと思いました」

 

「ふ〜ん。・・・合格ね。アンタ、面白いわ」

 

「お眼鏡にかなったようで光栄です。ところで、今更ながら名前を教えていただけますか?私は斑鳩崇継です」

 

一応知ってはいるが本人から聞きたいので聞いてみた。すると、彼女は躊躇なく教えてくれた。

 

「ベルナデット・ル・ティグレ・ド・ラ・リヴィエールよ」

 

「よろしくお願いします、リヴィエールさん」

 

「えぇ、よろしく。でも、勝ちは譲らないわ。勝つのは私たち(フランス)よ」

 

「はは。うち(イギリス)のやつらも負けませんよ」

 

「楽しくなってきたわ。それじゃ、今度は敵として会いましょ」

 

「えぇ。楽しみにしてます。それでは」

 

そう言って2人は別れた。崇継は自分を追いかけてきた隊員達と合流して、宿舎へ戻った。ちなみに彼は帰りのバスの車内で微笑をたたえている姿が目撃されているが、この時彼は

 

(推しにライバル認定されちゃった〜嬉し〜な〜)

 

なんて考えていたそうな。

 

 

 

 

 

 




今回も読んでくださりありがとうございました。下に(あれば)アンケートも是非お願いします


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8話

この世界のマブラヴのキャラクターは名前と顔が同じなだけの別人と思ってもらった方がいいかもしれません。2話ぐらいで似せたと書いた気がしますが、許してください何でもしますから(するとは言ってない)


モンド・グロッソ2日目

 

今日も今日とて大会である。午前に準決勝、午後から決勝という風になっている。先に織斑千冬が決勝進出を確定させ、俺たちの試合。昨日会ったリヴィエール対イルフィとなっている。格闘部門という名前だが実際の所銃器さえ使わなければいいだけの総合部門だ。

昨日あちらの武装を調べたところ、戦術機(ラファール)の武装であったフォルケイトソードを主に使っていた。恐らくだがリーチと一撃の破壊力を重視していると思われる。

 

「という訳でイルフィ。彼女の攻略法は彼女に有利な間合いに入らない事だ・・・と言い切ることが出来れば良かったんだが」

 

「何よ?それでいいじゃない。何か問題でもあった?」

 

「いや、何か嫌な予感がするのでね。それに、どんな時でも警戒しておいて損はないと思う。切り札とは、ギリギリで状況をひっくり返すからこそ切り札たり得るからね」

 

「わかった。でも勝てばいいのよ。そうでしょ?」

 

「あぁ、そうだな。・・・油断するなよ」

 

「えぇ。勝ってくるわ」

 

さぁ、どうなるこの試合。

 

 

Side イルフリーデ

 

私がスタジアムの観客の前に姿を見せた所からカウントが始まった。大丈夫、私なら勝てる。落ち着いて、焦らず、確実に。

 

 

 

Side 三人称

 

「試合開始!」

 

合図が出るのと同時に彼女は相手に向かって飛んでいく。両手にフリューゲルベルテを持つと相手も拡張領域から武器を取り出して振り下ろしてくる。両手をクロスして防御すると凄まじい重さが襲いかかってきたようで、彼女の口からぐっ、という声が聞こえる。跳ね返せないと悟った彼女はその重さに敢えて逆らわずに体を前屈みにしてフリューゲルベルテを前方にスライドさせながら加速してそのまま相手を切りつけ、そのまま相手から距離を取るが、すぐに距離を詰めて、斬り合う。

それが何回も続き、両者のシールドエネルギーが減って行き、遂にあと一撃と言う所まで来た。どちらが先に一撃を入れるか。2人は打ち合わせもなしに距離を取り、己の武器を構え、お互いをジッと見つめ合って牽制している。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「「「「「「・・・・・・・」」」」」」

 

何秒、何分経ったかその場にいた全員の時間感覚を麻痺させるほどの静寂が訪れる。

 

「・・・・ゴクッ」

 

誰かが唾を飲み込んだ音によってその静寂は崩れ去った。

 

「「ハァァァァァァッッッッ!!!」」

 

お互い一直線に相手に向かって行く。リヴィエールは自らの得物を振りかぶり、横薙ぎする。イルフィはその攻撃に対して左手のフリューゲルベルテを()()()()()。すると、フリューゲルベルテの方が耐久値の限界が来てしまい、刃部が粉々に砕け散る。リヴィエールは勝利を確信するが、彼女は知らなかった。イルフィは、ISでISに殴り合いをするような奴だという事を。知っていたら何か出来ていたかもしれない。イルフリーデは先程フリューゲルベルテを叩きつけた事によって軌道が変わったフォルケイトソードを()()()()()のだ。それによってフォルケイトソードは地面に刺さった。

 

(マズイ!)

 

リヴィエールは地面に刺さった得物から手を離し距離を取ろうとするが、間に合わない。イルフリーデは己が武器を振り下ろした。

 

「「「ワァァァァァッッッッッッッ!!!!」」」

 

 

 

Side 崇継

「ウォォォォッッ!スゲエエッ!」

 

「っしゃァッ!」

 

ツェルべルスの控室は現在お祭り騒ぎです。俺もめちゃくちゃはしゃいで皆んな抱き合ったりしている。が、

 

「静粛に!」

 

というか少佐の鶴の一声で鎮まった。イルフィも戻ってきてみんなに囲まれているが、俺は少佐と中尉と共に離れている。

 

「曹長、君のおかげでここまで来れた。感謝する」

 

「はは、何言ってるんです少佐。私は何もしてませんよ。アイツが努力したからです。それにまだ総合部門や射撃、飛行部門もあります」

 

「それでもだ。・・・正念場はまだまだか」

 

「曹長、どうしても優勝は・・・」

 

「えぇ。あのワンパンお化け(織斑千冬)がいる限り、それかあちら(日本)側が整備不良でも起こしてくれない限りは不可能かと」

 

「そう・・・」

 

「ですから、午後の試合にしろ中尉の試合にしろ何分、もしくは何回攻撃に耐えられるかが大事になってきます」

 

「わかった。少尉のISの整備を頼む。昼食はそれが終わってから取ってくれ」

 

「了解です。お〜いお前ら!勝ったのは良いけど午後には決勝もあるからな!さっさと整備おわらせるぞ!」

 

「「「ウィッス!!」」」

 

 

 

そして整備が終わり、スタジアムに隣接している試合関係者用の食堂に向かった。今日の昼食はカツカレーだ。勝てないと分かっていてもやはりゲン担ぎはしたくなる。食券と交換して空いている場所に座って食べていると

 

「ねぇ、隣いいかしら」

 

と声をかけられたので振り返ってみるとリヴィエールさんがいた。別段拒む理由も無いのでいいですよ、と言うと彼女は座った。彼女は何かを言おうとしているが、自分から催促するような事でもないだろうと思ったのでそのまま食べ続ける。

 

「・・・正直、ここまで強いとは思ってなかったわ。勝てる自信もあった。でもギリギリ、あと少し届かなかった。でも、私は今凄く満足してる。楽しかった。例を言うわ」

 

「俺は礼を言われるような事はしてませんよ」

 

「貴方はそう思っていても、私はそうしたかったのよ。私の家の家訓は『ただ1振りの剣たれ』って言ってね。私は試合中、ただ1振りの剣だったから」

 

「そうですか。・・・・家訓、カッコいいですね」

 

「私の家の家訓を知ってるのはごく僅かだから。それより、午後の決勝戦頑張りなさいよ」

 

「それは私ではなくイルフィに言って欲しいのですが、素直に受け取っておきます」

 

「それより貴方、何で1人称変わってるのよ」

 

「矯正されました。プライベートでは俺って言ってますよ」

 

「そう。じゃあね」

 

そう言って彼女は出て行った。俺は残りのカツカレーを平らげ、控え室へ向かった。既に俺以外は集合していたので焦ったが

 

「ちゃんと間に合っている。全員緊張していてもたってもいられなかっただけだ」

 

と少佐に教えてもらい安心した。でもみんな緊張するんだね〜なんて呟いたらめっちゃみんな俺をガン見してきたんだけど!?

 

「そ・う・ちょ・う?貴方はもう少し自分の立場をですね?」

 

やっべ中尉もお怒りですね!どうしようかな!

 

「中尉の言う通りだ。曹長は我々の頭脳だ。あまり能天気では居てほしくない」

 

「分かりました」

 

「よし。それでは試合前の確認を行う。曹長以外の整備班はISの最終点検を始めろ!」

 

「ゑ?何で俺だけ?」

 

「曹長の意見がとてもとても参考になるからだよ」

 

大尉が髭を弄りながら教えてくれた。そして俺にホッチキスでとめられた資料を差し出してきた。

 

「それでは曹長、説明頼んだよ。あれだけ詳しいのだから大丈夫だろう?」

 

「ハァ。分かりました。では早速」

 

そう言って脳のスイッチを入れる(真面目にやるだけ)。雰囲気が変わったのを感じたのかみんな真面目にこちらを向いている。

 

「織斑千冬の専用機、暮桜。この機体は武装がブレードだけの欠陥機と言っても差し支えない機体ですが織斑千冬の技量及び後述する単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)により現状世界最強のISだと思われます。そして単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)は零落白夜。簡単に言うと当たれば終わりの文字通り必殺技です。・・・まぁ端的に言って難易度ルナティックです」

 

「はい!」

 

「どうぞ、イルフィ」

 

「どうしたら勝てる?」

 

「・・・零落白夜に1回も当たらずに攻撃出来れば勝てるだろうが、正直に言おう。この試合、いやこの大会に出場している選手で彼女に勝てる人は存在しない。もちろん、イルフィや中尉も含めてだ」

 

「「「!?」」」

 

「ふふ、そう。・・・俄然やる気が出てきたわ!崇継!私はこの試合に勝ってアンタを驚かせてやるわ!」

 

「(やれやれ。流石だな)そうか・・頑張れよ。それと、良いおまじないをかけてやる」

 

「?」

 

「俺の本気を思い出せ。俺との特訓を思い出せ。彼女との試合はあれに比べれば何てことは無い」

 

「えぇ・・・そうね、そうよ!」

 

「あぁ。勝ってこい。死ぬ気でな」

 

「行ってくるわ!」

 

・・・はは。やれやれ、絶対に勝てないとわかっている試合に希望を持たせるような事をするとはな。自分に嫌気がさすな。だが、対織斑千冬の訓練をしたのは事実だ。その上でどこまで行けるか、と言ったところか。

 

「曹長、どうした」

 

おっと、顔に出ていたのか。

 

「正直勝ち目の無い試合に、勝てるかもしれないという希望を持たせて送り出してる自分に嫌気がさしただけですよ」

 

「・・・」

 

「試合、始まりますよ」

 

「あぁ」

 

そう言って俺は備え付けのモニターに目を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

結果から言おう。イルフィは負けた。・・・織斑千冬(化け物)の攻撃を1()()()()()上で。正直最初の一撃で負けなければ儲けものとすら思っていた俺からすれば素晴らしいとしか言いようの無い結果だった。隊の皆もハラハラしながら見守っていたし、彼女が戻ってきた時も笑顔で褒めていた。

 

「すごかったぞ!」

 

「頑張ってたわ!」

 

俺も声をかけておくか。

 

「イルフィ」

 

「崇つg・・曹長」

 

「いつもの呼び方で良い・・・良くやった、イルフィ」

 

「・・・・ありがと」

 

「ハハ、いじける元気があるなら大丈夫だな。強かっただろ?彼女は。だが、彼女こそ私達が乗り越えなければならない壁だ」

 

「えぇ。でも、今度は勝つわ。そうでしょ?」

 

イルフィも元気になったみたいだな。

 

「もちろんだ」

 

こうして最初の部門は俺たち(イギリス)の準優勝で終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大会結果報告

 

 

格闘部門:イルフリーデ・フォイルナー少尉 準優勝

近接部門:ヘルガローゼ・ファルケンマイヤー少尉 準優勝

射撃部門:ルナテレジア・ヴィッツレーベン少尉 優勝

総合部門:ジークリンデ・ファーレンホルスト中尉 準優勝

 

今大会の総括

出場した全ての部門において優勝または準優勝という輝かしい成績を叩き出した。射撃部門以外の部門においては全て織斑千冬に決勝戦で敗れたが、今回特筆すべき事項として、当該試合の試合時間が挙げられる。今大会において織斑千冬と当たった選手たちは例外なく一撃で敗北に追い込まれており、持って10秒だったが我が国の選手は全員が少なくとも1分は試合らしい試合を行えていた。

 

今後の展望

各員の技量の更なる向上も行う。またそもそもの機体性能が違うレベルにある事、今後のIS開発で遅れを取らないようにする為の新機体及び新技術の開発が急務であると思われる。それに付随し、最近勢力を拡大しつつある女性権利団体による不当行為の監視も視野に入れて置いていただきたい。

 

作成者 斑鳩崇継技術顧問

責任者 ヴィルフリート・アイヒベルガー少佐

 

 

 

 

 

 

辞令

発令者 ジョセフ・エドワーズ大将

該当者 ジョンズ・ホプキンス少将及び第44戦術機甲大隊総員

 

上記の者は、本日付けで1階級昇進したことを通達する

 

 

 

 

 




次回は小話を書こうかと思ってます。
あと一夏についてのアンケートは明日(5月11日)に締め切ります。


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小話

今回はすごい短いです


・1人称を変えさせられた話

イルフィ「早速だけど崇継!今日から自分の事私って言いなさい!」

 

崇継「えぇ…(困惑)。どうした急に」

 

イルフィ「目上の人に俺って言うのは良くないってのが建前で、なんか面白そうだからよ!」

 

崇継「ハァ、なんでさ」

 

アイヒベルガー「別に減るものがある訳でもなかろう?」

 

崇継「少佐もですか・・・」

 

ファーレンホルスト「一回やってみたらどうです?」

 

崇継「分かりましたよ。・・・・私に何か御用ですか?(微笑)」

 

全員「・・・・」

 

崇継「せめて何か言ってくれませんか!?」

 

アイヒベルガー「まぁ、その、なんだ。良かったと思うが、わざわざ微笑む必要は無いぞ」

 

崇継「はぁ、だからやりたくなかったんですよ・・・」スタスタ

 

 

 

アイヒベルガー「・・・行ったな」

 

ファーレンホルスト「破壊力抜群でしたね。まだ顔が赤い人もいますし」

 

 

 

 

 

 

・IS整備中のお話

崇継「うし、今日もよろしく」

 

ISコア「・・・」

 

崇継「まあ反応してくれる訳もないな。・・・俺は今日も兵器開発しているのか。これでISが翼だと言っても滑稽以外の何者でも無いな」

 

ISコア「・・・ピカッ」

 

崇継「コアが光った?まさかな」

 

 

 

 

 

・かなり重要なお話

崇継 コンコン「失礼します。斑鳩崇継技術顧問、出頭命令に応じ参上しました」

 

ホプキンス「久しぶりだ、斑鳩君。こちらはエドワーズ陸軍大将だ」

 

崇継 「はじめまして、第44戦術機甲大隊付き整備員兼技術顧問の斑鳩崇継です」

 

エドワーズ 「はじめまして。君の噂は上層部にも届いているよ。モンド・グロッソにおいて凄まじい成果を叩き出した男だとね」

 

崇継 「ハハ、なんだか照れますね。ですが、勝ったのは選手たちです。私は試合には出ていません」

 

エドワーズ 「それでもだ。・・・それで、今日君に出頭してもらってのは君に協力してほしいからだ」

 

崇継 「私にできる事なら」

 

エドワーズ 「では単刀直入に言わせてもらおう。君が開発した技術、兵器を他国に譲渡してもらいたい」

 

崇継 「・・・・何故、と聞いても?」

 

エドワーズ 「君の開発したものはどれも素晴らしいものだ。だが、我々イギリスと日本でモンド・グロッソのほぼ全ての部門のトップ2を独占している上に、まだたくさんの新技術や兵器がある。切り札が多くて大変良い事だ。だが、それではパワーバランスが維持出来ない。過ぎたる力は持つべきでは無いのだ」

 

崇継 「まだ了承した訳では無いですが、どの国に譲渡するつもりですか」

 

ホプキンス 「今のところドイツと中国の予定だ」

 

崇継 「・・・分かりました。技術譲渡に同意しましょう。その代わり、条件があります」

 

エドワーズ 「聞こう」

 

崇継 「後日申請する特許の申請の許可と、拒否権が欲しい」

 

エドワーズ 「最初の方はおそらく大丈夫だが・・・拒否権?何のだ?」

 

崇継 「そろそろ始まるんでしょう?・・・次期主力機の選考が」

 

エドワーズ&ホプキンス 「「!」」

 

崇継 「だから、それへの参加を拒否できる何かが欲しい」

 

ホプキンス 「・・・」

 

エドワーズ 「・・・一応、理由を聞かせてもらいたい」

 

崇継 「私が参加したら、贔屓目が入ってしまいますから」

 

エドワーズ 「・・・分かった。その条件を受け入れよう」

 

崇継 「ありがとうございます。譲渡する技術は後日アイヒベルガー中佐に持っていかせますので。それでは、失礼します」

 

 

ホプキンス 「一体、何がしたいんでしょうか、彼は」

 

エドワーズ 「さぁな。だが、彼が私程度では御しきれないと分かった。それに、彼は優秀だ。何か目的があるのだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




1個目のお話は第1回モンド・グロッソより前、2個目のお話は第1回モンド・グロッソから1年ぐらい経った時、最後のお話は2個目のお話からさらに1年経ったぐらいの時のお話です。
次回は第2回モンド・グロッソになります


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9話

今回で原作開始前最後です


やあこれを読んでいる諸君、斑鳩崇継だ。今日は第2回モンド・グロッソの為にドイツに来ているよ。今回の大会で重要な事は織斑千冬が決勝を辞退する事、またそれによる結果的なアリーシャ・ジョセスターフの亡国機業(ファントム・タスク)への加入のはず。今更ながらアリーシャとか言う奴はただの馬鹿なのかな?自分が織斑千冬と戦えなくなった原因を作ったとこに入るとか笑うんだけど。まぁ良いや。今大会も最終日に総合部門となっている為、織斑一夏が攫われるのはその日の筈。それまでは大会に集中できるな。後は、ウチ(イギリス)の奴らがどこまで行けるかだな。事実上の世界ナンバー1と2相手だからな。

織斑一夏誘拐の件については諜報の人達からドイツで怪しい動きがあると情報があったため、そいつらの拠点になるかも知れないからという名目で使われそうな場所をリストアップしてもらっている。

そしてみんなには言っていなかったが。こんな事を考えている間にもう大会最終日になってしまった。あぁ、結果は後で結果報告書に書くよ。決勝戦の組み合わせは原作と変わらないがね。

 

 

あと30分で試合が始まる。観客はこの時間でも既にほぼ9割来ている。彼らは今日の試合を心底楽しみにしていたのだろうが、今日は試合なんて行われない。そろそろ俺が色々したせいで原作から乖離し始めていると思うが、今のところは影響がない。さて、中佐達に連絡とってからトイレに行くとしよう。

 

 

 

Side 一夏

俺は千冬姉の試合を見に来ただけなのに、なんだこいつら!俺を誘拐しようとしてるのか!?

 

「離せ!はなせよ!」

 

「フン、誰がお前の言う事に耳を貸すかよ」

 

「さっさと諦めな!」

 

クソッ!誰か、何か無いのか!?そう思っていると

 

「・・・ハァ、やれやれ。誘拐現場に出くわしてしまうとは。今日はついてないな」

 

缶コーヒーを持った美青年という言葉が似合いそうなイケメンが角を曲がってきた。でも、あの人も巻き込まれちまう!

 

「何だ、てめえ?おまえは誘拐する価値もねぇ、殺してもいいんだぜ?」

 

俺を抑えてない方の黒服の男が胸から拳銃を取り出した。

 

「アンタ、早く逃げろ!」

 

「おぉ、怖い怖い。でも大丈夫だよ。心配どうも」

 

そう言って青年は手に持っていた缶コーヒーから手を離し、それを蹴り上げた。拳銃を持っていた男の手に当たり、男は呻き声と共に拳銃から手を離した。

 

「拳銃を持ってる奴は拳銃でしか攻撃しようとしないから対処は簡単さ」

 

青年は落ちた拳銃を拾い上げながら言った。スゲエ。

 

「さて、どうする?」

 

「・・・それに答えるのはテメェだ、モヤシ」

 

IS!?こんな所で!?

 

「おっとぉ・・・流石に生身では勝てないな。降参だ」

 

青年は両手を上げて答えた。

 

「ハハッ安心しろよ。殺しやしねぇからよ」

 

 

 

Side 崇継

そして俺と一夏君は黒服の男達に囲まれ、敢えて監視カメラがある道を通って行く。すると、一夏君が話しかけてきた。

 

「俺、織斑一夏って言います。あの。すいません、巻き込んでしまって」

 

「なに、大丈夫さ。じき君のお姉さんも助けに来てくれるだろうし、首を突っ込んだのは私の方だからね」

 

彼も申し訳なさそうにしている。この事はこの後も悩むことになるのかな。俺が誘拐されていなければ、という風に。一応後で謝っておこう。でもそれを乗り越えるのは彼だ。俺にはどうすることもできない。

 

「この中だ。入れ!」

 

しばらく歩いて廃屋に入り、椅子に座らされ、さらに鎖で縛られる。やり方が古典的というか何というか・・・

 

「フン、これで逃げられねぇな。まぁ、今回の目的はおまえの姉貴だ。殺しやしねぇ」

 

ISに乗っている女が得意げに喋っている。あいつがオータムだっけ?細かい所は記憶に無いんだよなぁ。

 

「やっぱり千冬姉が目的か!クソッ!」

 

ハァ〜。一夏は一夏でめんどくさいな。だけど、こちらも準備は出来た。

 

「落ち着いて、それとそんなことは気にするなよ一夏君。君のお姉さんは優勝なんかより君の命をとるだろうから、彼らの目的は達成されたようなものだからね。それに・・・」

 

俺はISに乗ってる馬鹿を煽るために笑みを浮かべる。

 

「この程度のことしか出来ない能無しどもなんとたかが知れてるし」

 

「・・・・あ?」

 

スゲェ!コイツから今本当にブチって音がした!本当に鳴るんだな、あの音。

 

「な、何言ってるんですか!?」

 

「ハハ、何言ってるか分からないかい?一夏君」

 

「分からないですよ!」

 

「何言ってやがるんだテメエはァァ!」

 

ISが突っ込んで来るが気にせず、俺はあえてフッと笑い

 

「なぁに。罠にかかったのは何も私達だけではないという事さ」

 

俺の言葉を合図にツェルべルスの隊員が姿を現し、黒服達を制圧し始める。オータムとおぼしきISはイルフィが抑えているが、おそらくあれは逃げられるな。

 

「チッ!まぁいい、今回の目的は達成したからな!残念だったな!だがそこのモヤシ、テメェだけは許さねェ。このオータム様を嵌めやがった事、必ず後悔させてやる!」

 

「ハハ、自分の罠に上手くかかったと思っている君達は見ていて滑稽で面白かったよ。次も楽しませてくれ」

 

いや〜煽るっていうのは楽しいな〜。結局オータムはまたブチって音を立てて撤退して行った。制圧担当じゃない隊員には情報収集、撮影などの後方支援を担当してもらっているので街中でのISの使用責任は問われないだろう。

 

「全く、面倒ごとが起きるかもとは思っていたが。気をつけてくれ曹長。君はツェルべルスの頭脳、なくてはならない存在だからな」

 

「肝に銘じておきます、中佐。・・・来ましたね。一応隠れておいてください。何が起こるか分からないので」

 

俺は人の気配を感じ、振り返った。そこには息を切らした織斑千冬が立っていていて、瞳には安堵と警戒、そして殺意が写っていた。俺は一夏に向けて微笑みをたたえ

 

「良かったね、一夏君。お迎えだ。気をつけて帰りな「貴様!」・・ん?」

 

「貴様が一夏を誘拐したのか!」

 

オイオイまさかコイツ、俺が一夏を誘拐したと思ってるのか!?

 

「待ってください、貴方は誤解してい「問答無用!」・・・チッ人の話を聞けよ!イルフィ!」

 

「えぇ!」

 

織斑千冬は俺たちを殺さんと襲いかかってきたので、イルフィに止めてもらう。第1回大会では敵わなかったが、今回はかなりいい勝負だな。その隙に俺は一夏のところへ向かう。

 

「大丈夫かい、一夏君」

 

「!あ、」

 

「斑鳩崇継だ。崇継さんと呼んでくれ。君のお迎え(お姉さん)は暴走してしまっているが、あれ、止められるかい?」

 

まぁ彼が止められなかったらIS4機で袋叩きにするだけなんだけどね。

 

「・・・やってみます」

 

「助かるよ。私だって彼女を攻撃したいわけじゃないからね」

 

そう言って彼が椅子から立ったのを見て、俺は元いた場所へ戻る。そして

 

「千冬姉!やめてくれ!その人達は俺を助けてくれたんだ!」

 

と叫んだ。織斑千冬にも聞こえたようで

 

「何?」

 

と言いつつも武器を収めてイルフィから距離をとった。

 

「一夏、本当なのか?」

 

「本当だよ千冬姉。この人達がISを追い払ったんだ」

 

ハァ。ひとまずめんどくさい状況は切り抜けられたかな。どんだけブラコンなんだよ。

 

「信じられないかもしれませんが事実です。映像記録も残ってますよ。見ますか?」

 

「いや、いい。すまない。一夏の恩人に攻撃してしまった」

 

「ホントよ!アンタね、私たちが誘拐なんてする訳ないでしょ!」

 

「お前、イルフリーデ・フォイルナーか!」

 

「戦っている相手も分からないほど焦っていたのか。まぁ良い。あなた、決勝戦飛び出して来たでしょ。早く戻った方がいいですよ」

 

「そうさせてもらう。迷惑をかけた」

 

「ありがとうございます、崇継さん」

 

「どういたしまして。気をつけてね。またこんな事が起こるかもしれないからね」

 

そして彼らは戻っていった。彼らがいなくなった頃を見計らって中佐達が出てきた。

 

「曹長」

 

「はい中佐、戻りましょう。皆にも迷惑かけましたね」

 

「構わないさ。結果的に色々情報を得ることが出来そうだから」

 

「ありがとうございます少佐」

 

こうして第2回モンド・グロッソは終わった。

 

 

 

 

 

大会結果報告

 

 

格闘部門 フォイルナー中尉 3位

近接部門 ファルケンマイヤー中尉 2位

射撃部門 ヴィッツレーベン中尉 1位

総合部門 フォイルナー中尉 3位

 

今大会の総括

今大会に於いて、我々は前回より成績が落ちている。理由としては、前回モンド・グロッソの頃より各国の技術の水準が上昇し、さまざまな特徴・能力を持ったISが作成された事に起因し、さらに、アリーシャ・ジョセスターフという織斑千冬と同レベルの規格外が存在した事にも起因していると思われる。一応、次期主力機選定が始まる欧州統合防衛計画(イグニッション・プラン)参加国では、個人に向けた専用ISを使い優勝したイタリア以外では最も優秀な成績を叩き出しているので、発言力の低下は無いものと思われる。また、イタリアの機体も特定の個人向けのチューニングを施している専用機なので、ティアーズ型の現在の選定における優位性も維持されている。

 

 

今後の展望

前回大会の時と同様に、新規技術・機体作成及び現行機の更なる性能向上が今後も必要である。また、対外事項に全力を注ぐ為に、今後も国内不穏分子の監視・摘発や正規活動に対する支援策も維持するべきである。

 

 

作成者 斑鳩崇継技術顧問

責任者 ヴィルフリート・アイヒベルガー中佐

 

 

 

 

 

 

 




次回から原作に入ります。申し訳ありませんが、主人公の専用機はF-22aラプター(戦術機)にします。投票していただいた皆様には大変申し訳ありません。


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原作開始
主人公設定


一応何かの役に立つかなと思って書きました。主人公は作者の妄想が詰まってるチートです


主人公 斑鳩崇継 (前世の名前はもう本人は覚えていない)

年齢 原作開始時27歳

身長 182cm

 

本作の主人公。姿と声はまんまデイアフターの斑鳩崇継。そこそこ温厚で、自由気ままな性格。前世で社会人だった事と社畜だった事により仕事は無茶苦茶できる。神様から貰った特典のお陰でこの世界でトップレベルの技術者になっていて(流石に篠ノ之束には勝てないが)、本作ではビットの基礎理論、AIC及び龍砲を作成している。ISの事を人類が宇宙(ソラ)へ飛ぶための翼だと思っているがそこは割り切っている。肉体の方もパウルにボコボコにされ続けた為、天災兎といい勝負できるレベルだが本人はそんなに強くないと思っている。原作開始時点での階級は技術顧問のままだが、技術大尉相当官から技術少佐相当官に昇格している。原作知識は何が起こるかとどんなキャラクターがいるかぐらいしか覚えてないし、アプリはやってなかった。でも本人は気にしておらず、なんか行ける気がする!(某ン我が魔王みたいな感じ)ってなってる。マブラヴ要素は今後使うつもり。本人に自覚は無いが、彼の指示によってえげつないレベルの監視が女性権利団体についていたり、技術漏洩の防止策が監視と本職の者でもわからないレベルで敷かれていたりする為、今作のイギリスは世界で最も男女が平等であると言われている。

 

 

専用機 ラプター

 

 

 

 


原作開始前時系列(斑鳩主観)

10年前

・白騎士事件

・主人公転生、パウルとソフィアに拾われお世話になる《/right》

 

9年前

・主人公大学へ

 

7年前

・主人公大学の課程修了、その後イギリス軍に技術者兼整備員として招聘される

 

6年前

・第1回モンド・グロッソ開催

・ここからの3年間でビット基礎理論の実証開始及びAIC・龍砲技術の作成、譲渡

 

3年前

・第2回モンド・グロッソ開催、整備副主任として代表チームに同行

・一夏誘拐事件により織斑姉弟と面識を持つ

・ブルー・ティアーズ及びサイレント・ゼフィルスの作成、試験運用開始(ただしサイレント・ゼフィルスは他部隊・企業の管轄のため関わり無し)

・サイレント・ゼフィルス強奪事件

 

2ヶ月前

・イルフィ、ファルケンマイヤー、ヴィッツレーベン及びファーレンホルスト代表引退

 

 

 


その他の説明

 

イギリス陸軍第44戦術機甲大隊(ツェルべルス)

主人公が所属している部隊で、世界でも有数の実績を誇る。軍内部の派閥には所属していないが発言力はかなりのものである。が、そうそう発言する事がない為に上からの命令を遂行すると言うちゃんと軍人らしい行いをしている。ただし、たまに発言する内容がえげつない(例として、軍内部でもどうしようか困っていた過激な女性権利団体について、決定的な証拠を提出した上で絶対に相手が逃げられないよう追い詰めて潰したことがある)。責任者兼主任はヴィルフリート・アイヒベルガー中佐、副主任はジークリンデ・ファーレンホルスト大尉(2人とも、というかツェルべルスの隊員は全員第1回モンド・グロッソの際に昇進している)。所属している隊員の半分近くが貴族などの上流階級の出身の為、個人のコネも半端じゃない。また、隊員たちも人が出来上がっていて、主人公もめっちゃ信頼されているのでそのコネを有事の際に躊躇いなく使ってくれる。

一応ちゃんと軍の1単位である為、式典への出席や軍人としての訓練も行なっている。1度だけアメリカと合同で特殊部隊の入隊試験を行い、本人達も(男性陣だけ)参加した。因みに主人公は社畜精神と鍛えた体があったためクリア出来た。

 

 

 

         




次回からちゃんと原作に入ります!ようやくです


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10話

今回から原作に突入します。主人公の設定に書いてないこともあったので後で追記します





やぁやぁ斑鳩崇継だよ。前回と同じ挨拶で申し訳ないがここで質問だ。今俺はどこに居るでしょうか?正解は・・・飛行機でした〜! え?何でって?そりゃ勿論IS学園に行くためですが何か?まぁ神様の特典でISに乗れることは分かってたんだけど、一応何があったのか教えよう。

 


 

1ヶ月前

Side 3人称

「おはよう!久しぶりね!」

 

「おはようイルフィ。久しぶり。元気そうで何よりだ」

 

崇継が朝の点検を行なっていると、イルフィが挨拶しながら入ってきたので挨拶を返した。返されたイルフィはもちろん、と答えた。イルフィは先月国家代表を引退し、ファーレンホルスト大尉と共に後進の育成に励んでいる。崇継もここの所他部隊のIS強奪事件(やらかし)やら来月からIS学園に進学する金髪貴族のISの調整やらでツェルベルスとして働いている時間の方が短かった。その為2人は久しぶりに会ったのだ。2人が各自の事をしながら時間を潰していると

 

「おはよう諸君」

 

「おはよう」

 

「おはようございます」

 

ララーシュタイン少佐、アイヒベルガー中佐、ファーレンホルスト大尉や他の隊員達も入ってきた。崇継は強奪事件の後始末の際に色々助けてもらったのでこの3人とはそれほど久しぶりでは無いし、イルフィも大尉とは一緒に育成に赴いているのでこちらも久しぶりではない。中佐は先にいた2人を見据えると

 

「2人とも元気そうで何よりだ」

 

と言った。

 

「中佐もお元気そうで何よりです。この前はお世話になりました」

 

「気にする必要はない。国防の観点から見ても必要だった事だからな」

 

「そう言ってもらえると助かります」

 

「そうか。それでは、総員傾注!今日の仕事を始める!」

 

「「「「了解!」」」」

 

そうして軍人としての業務をこなしていると、隊員の1人、というかブラウアー中尉(兄貴肌のバカ)がテレビをつけた。他の隊員たちもちょうどいいと思い、コーヒーを口に含んだ瞬間だった。

 

「そ、速報をお伝えします!先ほど日本政府から、世界で初めてのIS男性操縦者が発見されたという発表がありました!氏名は・・・」

 

「「「「ブフゥゥゥゥゥッッッッッ!!!」」」」

 

「うわ、汚ね!」

 

「・・・」

 

世界で初めての男性操縦者のニュースが流れた。テレビをつけた張本人(ブラウアー中尉)と崇継を除いた隊員達は口に含んだコーヒーを一気に噴き出した。みんな驚いてテレビを見ているが、崇継は勿論知っていたので驚きはない。

 

(ようやくか、長かったな。この世界に来て10年弱、まだ物語の開始地点とは。そんな事は置いといて、おそらく一夏に連動して俺のIS操縦者としての資格も付与されるんだろう。これまで触れても反応しなかったからな)

 

そう考えていると中佐が戻ってきた。

 

「曹長、男性IS操縦者(あれ)の裏付けが取れた。IS学園への編入も通達された。恐らくは・・・」

 

「他国からの干渉を防ぐ為、ですね。建前上は日本以外の国はIS学園(あそこ)への干渉は許されていない。それにあそこには彼のお姉さんもいます。監視するにしろ、保護するにしろうってつけでしょう」

 

「あぁ。・・・それと、我が国でも男性に対するISの適性検査を行う事になった」

 

「やれやれ。大変ですね。上の連中は?」

 

「彼のデータを手に入れたいようだが、我が国ではそこまで女性が強い訳では無いから貰えるなら貰っとくのスタンスのようだ」

 

「なるほど。では、まだ仕事が残ってますのであそこでテレビに熱中してる人たちは放置しますね」

 

「わかった。それと、午後の訓練は無くなって我々のIS適性検査を行う」

 

「それ先に言ってくださいよ!?」

 

ハハハ、と笑いながら中佐は本人の執務室に戻って行った。崇継も仕事がまだ残っている。強奪されたBT 2号機の代替機として3号機を作成しろと通達されたので、そちらの事もやらなければならない。

その後仕事を片付け、昼食を取った後アリーナの整備室へ向かう。

 

(この検査で分かるのかな?ま、いきなり解剖されるなんて事はねーだろ)

 

何て思いながら整備室へ入っていくと、ほとんどの隊員が集まっていた。誰も彼もが皆一様に緊張している。例外は指揮官の器を持つ者(アイヒベルガー中佐)と崇継本人だけである。最も、緊張している理由は適性検査だから、という理由だけでは無いようだが。

 

「それではこれよりISの適性検査を行う。立会人としてエドワーズ大将にもお越し頂いている。粗相の無いように!いいな!」

 

「「「「はい!」」」」

 

「それでは早速、各自ISに触れろ。順番はどうでもいい」

 

皆1人ずつ触れていくが何も起こらない

 

・・・・この人じゃない

 

(・・・・?何だ?今声が聞こえた気がする・・・?)

 

崇継は気の所為と思い無視した。起動出来なかった隊員達もそもそも期待していないのかそんなに残念そうではない。・・・1人を除いて。

 

「・・・あぁ、クソッ!なんで起動してくれないんだよぉぉぉぉ(涙)」

 

「はいはい中尉、後ろにまだいるのでどいてくださいね〜」

 

ブラウアー中尉が他の隊員に引きずられ退場すると最後は崇継となった。別に緊張する理由も無いので自然体でコアに手を伸ばした。すると

 

・・・・見つけた

 

ピカッと光った。

 

「うおっ眩しっ」

 

次の瞬間、崇継はISを身に纏っていた。そこからの動きは早かった。日本への通達、隊員たちへの緘口令(そも本人達が漏らすつもりが無いが)や専用機の作成が始まった。

 

 


 

という感じで俺にIS適性があると判明して1ヶ月基地に閉じ込められた。あぁ、皆には言っていなかったが第二回モンド・グロッソ前にツェルべルスの拠点は新たに建設されたドーバー基地に移っているよ。で、今は日本行きの飛行機に乗ってる。下手に護衛をつけても意味がないから普通の飛行機の席を取って座ってる。世界へは個人のプライバシーと言って情報を公開していない。というかそうするよう日本に頼んだ。と言うかそうしないと織斑千冬の件(一夏を助けたのに攻撃してきた件)を公開するぞと首相に脅して貰った。日本(あちら)側は何故イギリスが1個人を大事にするんだと思っているだろうな。だからあえて俺が国籍を日本政府の、確実に信用できる奴だけに教え、保護を名目に日本国籍にしてもらった。お、そろそろ着陸か。久しぶりだなぁ。寿司食べたい。

 

 

Side 3人称

 

崇継は日本に到着すると、朝食と称して回転寿司で食べてからIS学園に向かった。すると、校門の前に山田真耶が立っていた。話を聞いたところ今日はISの実技試験をやってから教室に向かうそうだ。

 

「はじめまして。斑鳩崇継です」

 

「山田真耶です。斑鳩さんの副担任と、今回の実技試験の担当をさせてもらいます」

 

挨拶を交わしてから2人はIS学園の敷地に入り、アリーナへ向かった。

 

「斑鳩さんは専用機を持っていらっしゃるという事なので、それを使っていただきます。着替えは・・・」

 

「あぁ、このままで大丈夫です」

 

「そうですか。では、ISを展開して、カタパルトに接続してください」

 

彼女の指示に従いISを展開し、カタパルトに接続した。

 

全身装甲(フルスキン)ですか・・・初めて見ました。・・・それでは、射出します」

 

合図とともにカタパルトが押し出され、そのまま飛んでいく。地面に降り立つと、目の前には世界最強がISを纏っていた。

 

「試験官の織斑千冬だ」

 

「よろしくお願いします」

 

彼女はさっさと戦いたいらしく、挨拶も少々おざなりになっている。両手には刀が握られている。

 

「あぁ、はじめよう。真耶」

 

『はい、それでは実技試験を開始します。・・・試合、開始!』

 

言うが早いか、世界最強は右手の刀を振り下ろしながら突っ込んでくる。正直な所崇継は、は?と思った。恐らくあちらは手加減してくれているのだろう。初心者に対しては正しい選択なのだが遅すぎる(・・・・)。崇継は両手に2丁AMWS-21を持っているので、振り下ろされた刀を避けると、左手のAMWS-21の2つ有る銃口の筒の間に挟んで上から押さえつけた。残る右手の方のAMWS-21を彼女の腹に向け、トリガーを引いた。これだけの動きを最低限の動作だけで終わらせた。彼女は驚き、銃弾をもろにくらってしまった。

自らの不利を悟った彼女は一度距離を取り、崇継を見据える。崇継はAMWS-21を彼女に向けたまま

 

(う〜ん、手加減されてるんだろうなぁ。イルフィと戦った時ほど本気っぽくないし。まぁ良いや。対ブリュンヒルデで縛りプレイするほどMじゃ無いからな)

 

なんて考えていた。今度は崇継から仕掛けた。地面を蹴って(・・・・・・)彼女に接近して、18mmチェーンガンを打ち込む。相手も予想していたようでいとも簡単に避けられた。そのままの勢いで向かってくる。そこからは剣戟の嵐。

 

「どうした?貴様の力見せてみろ!」

 

ここで、織斑千冬が試験が始まってから初めて口を開いた。バトルジャンキーな彼女であり、もっと戦いを楽しみたいのだろう。崇継はそう判断した。だが、実際のところは違った。

 

(こいつ・・・!)

 

そう、焦っていた(・・・・・)。今まで数え切れないほどの場数を踏んできた彼女だが、自分が攻めている状況で攻撃が当たらない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)というのは初めてだった。スラスターを吹かせ後ろに回り込んでも、正面から力で押しても当たらない。そうして居るうちに、ある事に彼女は気づいた。

 

(スラスターを殆ど使っていない!?)

 

そう、崇継は殆どスラスターを使っていない。パワーアシストを使って、己の力で(・・・・)ISを動かしている。その為、今の彼女と崇継の推進剤の残量には大きな隔たりがあった。

 

『・・・試験時間残り5分を切りました』

 

真耶の信じられないと言った声のアナウンスが両者の通信に響く。織斑千冬は笑った。ここまでの相手と戦うのは久方ぶりだ。戦闘狂、バトルジャンキーといっても過言ではない彼女は最後の5分を楽しもうと思った。対照的に崇継側の表情は他者からは見えないが特に何の表情も浮かべてはいなかった。強いて言うならさっさと終わってくんねぇかな〜、と思っていた。

そして、再び試合が動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 崇継

ようやく終わったぁ〜。あ、ごめんねいいとこ書かなくて。結果は俺が勝ったよ。あの後は俺が空からひたすら弾幕張って本命の滑空砲でトドメ。まぁ大した事はしてないよ。で、ISを解除して挨拶したらあの時の!って驚かれた。

 

「まぁいい。着替えてこい。あぁ、もちろん制服にな。シャワーは設置してある。すぐに分かるだろう」

 

「分かりました」

 

そう言って俺は更衣室に入り、シャワーを浴びた後制服に着替えて外に出たら織斑千冬がいたのでそのままついていった。そろそろ入学式が終わり、先生達も教室に向かわなければならないそうなので、山田先生(こう呼ぶよう言われた)は先に教室へ向かったそうだ。

 

「やれやれ。あの馬鹿者だけでも大変だと言うに、2人目とはな」

 

「感謝してますよ。受け入れてくれて」

 

「1人目は保護して2人目は保護しない、と言うのは流石にな」

 

「そうですね」

 

「ところで、お前は私より年上だそうだな」

 

「えぇ。それが何か?」

 

「お前が年上だろうとここでは一生徒として扱う。私の事も先生をつけて呼べよ?」

 

「勿論ですよ。別にそのぐらいどうって事はありません」

 

「そうか。では、ここで待っていろ。呼んだら入ってきてくれ」

 

「分かりました」

 

 

 

Side 一夏

うぅ・・・。俺以外全員女子、目線が痛い・・・。先生らしき人が入って来てからもまだ見られてるよ・・・。

 

「・・く・。一夏くん?」

 

「は、はひ!」

 

「あ、ごめんなさい!あの、自己紹介の順番だから、お願い出来るかな?」

 

「は、はい。」

 

 

Side 3人称

 

「え、えっと・・・織斑一夏です。よろしくお願いします・・・・・・・以上です!」

 

教室内の生徒は全員ずっこけたり頭を机にぶつけたりしている。その様子を廊下で見ていた崇継は

 

(流石に名前だけの自己紹介はありえないだろ・・・。そろそろ織斑先生も入るだろうから耳栓つけておこう)

 

何て考えていた。すると教室に織斑先生が入っていき、一夏の頭を出席簿で叩いた。

 

「げっ、関羽!?」

 

「誰が関羽か!」

 

無情な2撃目が振り下ろされた。

 

「クラスへの挨拶を押しつけてしまってすまないな山田君」

 

「い、いえ、副担任ですからこれぐらいの事はしないと・・・」

 

山田先生ははにかんだ。

 

「諸君、私が担任の織斑千冬だ。君達新人を1年で使い物になるように育てるのが私の仕事だ。私の言うことをよく聞き、理解しろ。出来ない事は出来るまで教える。なので私の言うことはちゃんと聞くように。返事は『はい』か『YES』だ!いいな?」

 

正直、崇継はコイツ本当に教師か?と思った。

 

「「「キャァァァァァァァ!!!」」」

 

「本物の千冬様よ!」

 

「私ファンなんです!」

 

「お姉さまに憧れて九州からきたんです!」

 

織斑先生は呆れている。

 

「ハァ〜。どうしてこうも毎年馬鹿者どもが集まるんだ?それとも私のクラスにだけ馬鹿者を集中させているのか?もはや感心させられるな」

 

「キャァぁぁっ!もっと叱ってお姉様!罵って!」

 

「でもたまには優しくして!」

 

「そしてつけ上がらないように躾けて〜!」

 

本当にそれで良いのだろうか?

 

「うるさいぞ!静かにしろ。そして、もう1人紹介する者がいる。入れ」

 

「はい」

 

崇継は教室の中に入る。

 

「初めまして。今日から皆さんと一緒にここで勉強する事になった斑鳩崇継です。年齢は27歳、身長は182cmです。好きなことは機械いじり、嫌いな事は特にありません。よろしくお願いします」

 

皆驚いて空いた口が塞がらない。2人目の男性操縦者が現れたと思ったら年上の高身長、さらにイケメンなのだ。

 

「斑鳩さんは廊下側の一番後ろの席です」

 

指示に従い崇継は自分の席に座る。

 

「で?お前は挨拶も満足に出来んのか?あれぐらいの挨拶ぐらいして見せろ」

 

「いや、千冬姉、俺は・・・・」

 

パアンッ!

 

本日3度目のお仕置き。とても痛そうである。

 

「ここでは織斑先生と呼べ」

 

「・・・・・はい、織斑先生」

 

ここで他の生徒たちが彼らの関係に気付いたらしくヒソヒソと話している。

その後、篠ノ之箒の自己紹介で一悶着あったが、

 

「さぁ、SHRは終わりだ。あまり時間が無いので諸君らにはこれから半月でISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後に実習を行うが基本動作も半月で身体に染み込ませてもらう。いいか?良いなら返事をしろ。文句があっても返事をしろ。私の言葉には絶対に返事をしろ!いいな!」

 

織斑先生の号令と共にSHRは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は金髪貴族様と戦う所までかなと思っております。
追記 チェーンガンの弾丸の直径変えました
更に追記 描写を少し変更しました


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11話

長らく間が空いてしまって申し訳ありません。また2週間ほと予定がキツキツなので空いてしまうかもしれません。気長に待って頂ければと思います


Side3人称

早速IS学園での授業が始まった。と言っても崇継にとっては前世で学習したもの、この世界で学習したものなので全てただの復習にすぎない。それ故か、授業を聞いている振りをして次起こることへの対策を考えていた。

1時間目終わりのチャイムが鳴り授業から開放されると、他のクラスから男性操縦者を見る為に沢山の生徒が廊下につめかけた。崇継は廊下側1番後ろの席なので目線も集まりやすかった。そこに、一夏がやってくる。

 

「お久しぶりです、崇継さん。元気そうで良かったです」

 

「一夏君も元気そうで何よりだよ。出来ればこんな再会は御免だったんだがね」

 

「それは、まぁ・・・」

 

「ま、いいさ。君にとっては最初で最後の高校だ。楽しむといい」

 

一夏は笑顔で、崇継は微笑をたたえて話していたため、他の人たちも声を掛けられず、何なら

 

「一×崇?崇×一?どちらも良いわね・・・ジュルッ」

 

なんて言っている者もいた。その膠着状態に終止符を打ったのはポニーテールの大和撫子(篠ノ之箒)であった。

 

「済まない、一夏を借りても良いだろうか?」

 

「一夏君が良いなら良いよ。本人の意思は大事だからね」

 

「おっ、いいぜ!」

 

そう言って一夏と大和撫子は廊下へ出ていった。そうなれば生徒の視線が崇継に向くのは火を見るより明らかだった。しかしこの斑鳩崇継、たかがその程度の事では動揺しない。敵意があるならまだしも、彼女らの視線は品定めや好奇心といったこの状況なら誰でも持つであろう物だったので、対して気にしなかった。そうして時間が過ぎてゆき、次の授業の時間になったので生徒たちも教室に戻っていった。

2時間目、最初のチャイムには一夏と大和撫子(篠ノ之箒)は間に合わず、一夏だけが出席簿をくらっていた。この授業では山田先生が教師で、崇継の、ISに携わる大人としての視点から見ても素晴らしい、分かりやすいと太鼓判を押せるものだった。

 

「――であるからして、ISの基本的な運用に関しては現時点で国家の承認が必要であり、枠内を逸脱したIS運用を行った場合は、刑法によって罰せられ――」

 

山田先生はスラスラと教科書の内容を読み進めていく。が、正直崇継は既に知っている内容であり、何なら山田先生より詳しくガチの業務内容すら話せる状況であった。なので彼は一応机に教科書を置いてはいるが、現在絶賛眠気と戦っていた。このタイミングで山田先生は男性2人に質問した。

 

「斑鳩さん。現時点でわからない事はありますか?」

 

「・・あぁ、いえ。大丈夫です。予習してきたので」

 

「そうですか。わからない事があったら何でも聞いてくださいね!私は教師ですから!」

 

そう言って山田先生は胸を張った。揺れた。崇継はガン見しそうになった。

そんな事はつゆ知らず、今度は一夏に声をかける。

 

「織斑くんは大丈夫ですか?」

 

「え!?え〜っと・・・」

 

一夏は机の教科書に目を落とし、覚悟を決めた。崇継は原作とセリフが同じか予想した。

 

「じゃあ先生!」

 

「はい、織斑くん!」

 

「(スゥ〜)・・・ほとんど全部分かりません!」

 

山田先生は涙目になった。

 

「え、えぇ〜っと・・・織斑くん以外に分からない所がある人はいますか?」

 

もちろん居るわけが無い。一夏は『マジ!?』なんて表情を浮かべるが、当たり前である。今やっている所はISに携わる者の中では常識、前提のレベルである。ここで織斑先生が口を開いた。

 

「織斑、入学前に渡した参考書は読んだか?」

 

「古い電話帳と間違えて捨てました!」

 

パァンッ!

 

「必読と書いてあっただろう馬鹿者」

 

織斑先生は呆れたが崇継は流れは変わっていないことを確認していた。そうで無ければ()()()()()()()()()()()()()意味がないと。

 

「後で再発行してやる。1週間で覚えてこい。いいな?」

 

「い、いや、あの分厚さを1週間はちょっと・・・」

 

「やれ。いいな?」

 

「・・・・・・はい」

 

織斑先生の眼力に負け、項垂れる一夏。大丈夫。少しでも織斑先生の眼力に耐えれたのはすごいぞ!

 

「いいか。ISは現行兵器全てを凌ぐ機動性、制圧、攻撃力を持っている。そういった物だから使い方を間違えれば大惨事だ。我々は『兵器』について学ばなければならないから。学習し、訓練しなければならないから、君たちはここに居る。理解出来なくても答えろ。規則を守れ。規則とはそういうものだ」

 

正論である。崇継はそう思った。だが織斑先生には別の意味で捉えられたようだ。

 

「織斑、斑鳩。貴様ら望んでここに居ないという顔をしているな?だが、望もうが望むまいが人は社会という人と人との繋がりの中で生きていく生き物だ。それが嫌ならまず人である事を辞めるんだな」

 

 

織斑先生は現実を突きつけるように厳しい口調で言った。そこでチャイムが鳴り、授業が終わった。正直、崇継はあの金髪傲岸不遜貴族(セシリア・オルコット)があの名シーンを再現(?)してくれるのかウズウズしていた。

一夏は授業が終わると同時に崇継の元へいった。

 

「動物園の見世物みたいですね、俺たち」

 

「そうだね。まぁ今まで女性しか居なかった所に急に男性が来たんだ。気になるのも無理は無いだろう」

 

そして、その時が訪れる。

 

「ちょっとよろしくて?」

 

「へ?」 

 

「ふむ」

 

気の抜けた返事をしたのが一夏で、確認したのが崇継である。

 

「聞いてますの?お返事は?」

 

「は?」

 

「ゑ?」

 

もちろん一夏は本気で、崇継はあえてこう反応している。そりゃ原作通りに持ち込みたいなら煽るしかないよね?

 

「まぁ!なんですの、その返事は!わたくしに話しかけられただけでも光栄なのですから、相応の態度という物があるのではなくて?」

 

意外と聞いててウザいな、と崇継は思った。まぁ別に正直表舞台で彼らに関わるつもりは無いので別にどうでもいい。

 

「悪いな、俺、君のこと知らないし」

 

一夏の返答がお気に召さなかったようだ。若干ヒステリックみたいになりながら言った。 

 

「わたくしを知らない?このセシリア・オルコットを?イギリス国家代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」

 

「なぁ、1つ聞いてもいいか?」

 

「疑問に答えるのも立派な貴族の努めですわ!なんですの?」

 

「代表候補生ってなんだ?」

 

教室の奴らはずっこけた。崇継は頭を抱えていた。

 

「いいかい一夏君。代表候補生とは字のごとく、代表の候補生の事さ。まぁ俗に言うエリートだよ」

 

「そう!エリートですわ!・・・本来ならわたくしと同じクラスになっただけでも光栄で奇跡的なことですのよ。

その事を理解してらっしゃる?」

 

「へぇ、そりゃラッキーだ」

 

「別に自らクラスを志望した訳じゃないからなぁ」

 

一夏はもちろんおざなりに、崇継はもっとおざなりに、それでいてかなりの正論で返した。だが皆さんご存知この金髪ロールはもちろんここで終わりません。

 

キーンコーンカーンコーン

 

終わりました。

 

「・・・・ッ!また後で来ますわ!せいぜい逃げない事ですわ!」

 

嵐が過ぎ去っていって3限。そろそろ、崇継が最も楽しみにしていたイベントの時間である。

 

「そう言えば、再来週に行われるクラス代表戦の代表を決めなければいけなかったな。自薦他薦は問わん。誰か居るか?」

 

「ハイ!織斑君を推薦します!」

 

「私も!」

 

「え!?お、俺!?」

 

一夏は驚いているが、女子からしてみれば彼ら以外に候補は存在しないだろう。

 

「因みにだが他薦された者は取り消し出来ないぞ」

 

「えぇ!そんなぁ〜・・・なら俺は」

 

ここで面倒事を回避したいというかそもそもクラス代表になるつもりが無い崇継は行動を起こした。

 

「そこで面倒事に他人を巻き込もうとしないでくれ。私はクラス代表になるつもりは無いよ」

 

だが一夏は諦めない。

 

「それでも俺は崇継さんを推薦する!」

 

「なら、これで締め切りでいいか?他の者は?」

 

織斑先生が締め切ろうとしたその時!

 

「納得いきませんわ!」

 

(キターーーーー!)

 

きました。皆さんご存知チョロインです。

 

「男がクラス代表だなんて!1年間このセシリア・オルコットにそんな屈辱を味わえと!?冗談じゃありませんわ!大体こんな極東の文化後進国、島国に居ること自体が「イギリスだって何年メシの不味い国トップだよ」・・アナタ、わたくしの祖国を馬鹿にしますの!?」

 

「先に言ってきたのはそっちだろ!・・・崇継さんも何か言ってやってくださいよ!」

 

「今度は貴方ですの?何を言ってくださるんですか?」

 

少し原作とセリフが異なっているだろうが、正直崇継はそんな細かい事まで覚えちゃいないし、今の所大まかな流れは変わっていないのでどうでも良かった。なので、ここは普通に脅すことにした。

 

「・・・・君たちは自分が背負っているものの重さを、正しく理解しているか?」

 

「?」

 

「何言ってるんですの?」

 

腕を組んで座ったまま話を続ける。

 

「セシリア・オルコット。君はイギリス国家代表候補生だ。一夏君。君は、世界で1人目の男性操縦者で日本人だ。それぞれの発言は国家の意志もしくは男性の総意として受け取られかねない。君たちの発言1つが国家間の問題になりかねないんだ。それを考えて君たちは発言したか?」

 

「「・・・」」

 

ここで崇継は胸ポケットからボイスレコーダーを取り出し、机に置いた。

 

「若気の至りと言う事もあるだろうが、気をつけなさい。私がもしこれを両国政府に提出したら、それこそ国際問題だ」

 

「「・・・」」

 

2人に反省の色が見えたので崇継はボイスレコーダーを自ら叩き割った。

 

「まぁ若いうちに出来ることはしておいた方が良いから、よく考えてからふざけなさい。人生のうち学生でいられる時間は短いからね。・・・という訳で、織斑先生」

 

「なんだ」

 

「クラス代表を決めるのはISを用いて、勝った者が決めればよいかと」

 

「なるほどな。それで良いだろう」

 

「そうですか。では、私は今ここで棄権しますので」

 

「貴様、話を聞いていなかったのか?貴様は他薦されているのだ。否が応でもでなければならんぞ」

 

呆れながら織斑先生は返答するが、もちろん言い訳は考えてある。

 

「そも、高校のクラス代表に何故私のような大人がならなければいけないのです。それに、私の実力は織斑先生も知ってらっしゃるでしょう?話になりませんよ」

 

「・・・分かった。不服だが仕方あるまい。斑鳩の棄権を認める。よって勝負するのは2人だけだ。勝負は1週間後、アリーナにて行う。今日のところはこれで解散!」

 

こうして、初日の授業は終わりを告げた

 

 

 




まだこの後部屋についてのいざこざがあるので、次回はクラス代表決定の所までですかね

追記 ハンデの所は完全に忘れてましたが話の流れ的に言えなかった事にしといてください

更に追記 
【挿絵表示】

主人公の制服書いてみました

更に更に追記
一部描写を変更しました


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12話

時間を空けてしまってすいません!この度9000UAを超えました!本当にありがとうございます
そしてまたで申し訳無いんですがまだクラス代表決定戦まで行きませんでした。すいません


Side 3人称

初日の授業が終わった崇継は何をするでも無く教室でボーッとしていた。一夏は箒にボコられている頃だろうか?乱入するのも良いがそれでは面白く無い。敢えて原作通りにさせてみよう。なんて考えていた。

今日の最後のイベントは、寮の鍵を貰う事だろうか。原作では一夏と同室なのは箒のはずだが自分という原作に存在しない者(イレギュラー)が居る。もしかしたら一夏と同室になるかも知れないし、名もなきモブと同じ部屋かもしれない。

 

1時間ほど教室で待っていると、疲れた顔をした一夏が入ってきた。

 

「ヴァァァ疲れた〜」

 

「お疲れ様。見るからにえげつない事をされたようだが大丈夫かい?」

 

声をかけると、ハッと崇継の方を見た一夏は愚痴をこぼした。

 

「聞いてくださいよぉ。箒が鍛えてくれるって言うからお願いしたんですけど、ひたすら剣道でボコボコにされるんですよ」

 

ここも原作通りに進んでいるようである。

 

「まぁ近接での心得はISに乗ってからも必要だからね。彼女にも何かしらの意図があってしているんだろう。とりあえず頑張ってみなさい」

 

「・・・はい。ところで、何で崇継さんはクラス代表にならないんですか?生身でも強いのに」

 

「さっき先生の前でも言っただろう?高校のクラス代表に27の大人が就任するのはおかしいのさ。それに、勝負にならないからね」

 

「ぶぅ〜」

 

崇継のかなりもっともな意見に、文句も言えず、かと言って何もしないんじゃ話した意味がないと、僅かばかりの反抗を示す一夏。すると、名案を思いついた!とばかりに目をキラキラ光らせ崇継を見る。

 

(今度は何を言ってくるんだ?)

 

「じゃあ崇継さん!俺の訓練に崇継さんも参加してください!」

 

「ゑ?」

 

普通に混乱した。なぜ?そう意思をこめて一夏を見る。

 

「だって崇継さんめっちゃ強いじゃないですか!俺も崇継さんに教えてもらえれば強くなれる気がします!」

 

周りの女子生徒達もここでBLの気配を悟ったのだろう。みな聞き耳を立てている。

 

(一夏はこんな事考えず純粋に頼ってるんだろうなぁ。ハァーけど、今は面倒くさいな)

 

「悪いけど今は遠慮しておこうかな。それに、私が行くとフェアではなくなってしまうからね」

 

「えぇ〜っ!そんなぁ・・・」

 

すると、こちらに向かってくる人が2人。

 

「あっ、こちらに居たんですね。探す手間が省けました」

 

「あ、山田先生」

 

「はい、織斑君と斑鳩さん。」

 

山田先生と織斑先生である。そして山田先生は一夏に鍵を渡した。本日ラストのイベントが近づいている。

 

「何ですか、これ」

 

「寮の鍵です。防犯上の理由からお2人には本日から学園の寮に住んでもらうことになりました。なので、それはお2人の部屋の鍵です。ただ、なにぶん急な事だったのでそれぞれ別々の部屋です」

 

(俺は一夏と違う部屋ってことか。吉と出るか凶と出るか)

 

「えぇ、俺と崇継さん違う部屋なんですか!?それ不味くないですか?」

 

「ふん、私の目が光るうちは不純異性交友なぞさせん。斑鳩、お前もだ」

 

「何故私に矛先が向くのか理解しかねますが、勿論ですよ。流石に自ら手を出したりはしません」

 

幾分織斑先生の目線が軽くなった。

 

「あぁ、斑鳩の荷物はホテルにあった全てのものを持ってきている。安心しろ」

 

誇る様に織斑先生は言った。だが、崇継からすれば甘いと言わざるをえない。

 

「安心しろ、ですか。それ、誰に運ばせたんです?」

 

「学校の職員だが?何か不満か?あぁ、見られたくないものでも入っていたか」

 

巫山戯るように織斑先生は言った。だがつきあいが長い一夏は彼の変化を敏感に感じ取っていた。

 

「えぇ、途轍もなく不満で不安ですよ。もしその職員が女権団体と通じてたらどうなってたと思います?俺の遺伝子情報とかそういった類いの情報全て筒抜けですよ。最近の遺伝子情報解析技術はすごいですからね」

 

教師2人は驚いて、崇継の顔を見る。その顔には怒りと失望が浮かんでいた。織斑先生は先程の発言の反論しようとしていたが、次の崇継の発言でかき消される。

 

「あぁ、IS学園にその手の人間は居ないなんて言い訳は通用しませんよ。そんなもの今どき簡単にパス出来ますからね。それに、ここの先生にも複数名女尊男卑の傾向がある先生も居る。そういう人と手を組むんですよ、女権団体は」

 

これには織斑先生も反論できなかった。思いあたる節があったからだ。思いあたる節があるが故に口をつぐむしかなかった。

 

「まぁでも、この程度の失態なら貴方達ほどの能力があれば取り戻せるでしょうし、これは“もしも”の話ですから。次からは気をつけてください」

 

先生達はハッとして、顔を上げた。織斑先生は自らの失態を痛感したのか沈痛な面持ちで謝罪した。

 

「・・・すまなかった。我々の配慮が足らないばかりに。このような事が無いよう、今後は気をつけよう」

 

「えぇ、そうしてください。それでは、これから寮に向かいますので。失礼します」

 

そう言って崇継は先生の横を通り抜け寮の方へ歩いていった。それを見た一夏も、そろそろ俺も向かうか、と崇継についていった。

 

 

 

 

 

 

寮の自室となる部屋の前に着いた崇継は、少しばかり緊張していた。

 

(いや〜同室の相手は誰だろ〜。ま、入ってみればわかるかな)

 

そして崇継は覚悟を決め、ドアをノックした。

 

コンコン「失礼。この部屋をあてがわれた斑鳩崇継という。誰か中にいるだろうか?」

 

そう言うと、小さい足音が部屋の中からドアに近づいてきて、おずおずといった感じでドアを開け、顔だけ出してきた。眼鏡を付け、目元には誰がどう見ても不健康と言うだろう隈がある、水色の髪の毛の女生徒。つまりは更識簪その人であった。そして、彼女は小さく、耳をすまさなければ聞こえないぐらいの声で

 

どうぞ。入ってください

 

と言って入室を促した。そのまま部屋に入り、彼女に椅子に座るよう勧められたのでそのまま座った。これから同じ部屋で生活するので自己紹介する事にした。

 

「改めて、今日からお世話になる、斑鳩崇継だ。名前ぐらいはもう知っているかな?」

 

と問うと

 

「はい。やっぱり、有名人なので」

 

と今度はちゃんと聞き取りやすいぐらいの大きさで答えてくれた。

 

「そうか、一応名前を聞いても良いかな」

 

「更識簪と言います。好きな名前で呼んでください。出来れば更識以外で」

 

「分かった。では簪と呼ばせて貰おう。私の名前も好きなふうに呼んでもらって構わない。君は・・・名字が嫌な理由があるのかい?」

 

原作を覚えていると言ってももはや9年ほど前の事である。しっかりと地雷を踏み抜いてしまった。が、そこは流石に日本代表候補生。何も知らない人に切れ散らかすほど愚かではなかった。

 

「いえ、少し色々あって」

 

先程より少し声とテンションが下がった。崇継もこれはマズいなと謝罪した。

 

「済まない。余計な詮索はすべきでは無かったね」

 

「いえ、大丈夫です」

 

ここで、崇継は先程から気になっていた事があった。

 

「突然で悪いが、簪。君最近寝てないだろ」

 

「・・・!」

 

誰がどう見ても不健康なそれは、流石に見逃せなかった。

 

「これから同室で暮らすのに、いきなり倒れましたじゃ申し訳ない。原因は・・・それかな」

 

そう言って崇継は机にあったパソコンを指差した。

 

「それが何なのか私、いやもう面倒くさいな。俺には分からない。だが君が寝る時間を削ってまでやろうとするという事は君にとってかなり重要なものなんだろう。俺に話してみてくれないか?人に話すことで楽になる事もあるからさ」

 

簪はいきなり自らの問題に先程知り合ったばかりの見ず知らずの人が何を言う、と憤慨したが彼女は追い詰められていた。だから彼に話すことを選択した。

 

「実は、私の専用機はIS学園(ここ)に来る前に完成する予定でした・・・」

 

そこからぽつぽつと様々な事を話していった。織斑一夏が見つかり彼女の専用機開発が凍結された事。姉を見返す為に自分一人でそれを完成させようとしている事。何より、自分の姉のこと。崇継はそれを真摯に聞いていた。簪に目を合わせ、頷いたりしながら。

 

「・・・なるほど。分かった。話してくれてありがとう。君も大変だっただろう」

 

「いえ、こちらも、その、少し楽になりましたから」

 

だが今の崇継にここで終わらせるという選択肢はない。一歩間違えれば今の状況を作ったのは彼だったかもしれないからだ。何より、技術者としてのプライドがここで引くことを許さなかった。倉持の技術者としてのプライドもへったくれもない行為に怒りすら覚えた。だからこそ彼は簪に協力する事にした。

 

「・・・簪。まずは謝罪を」

 

そう言って崇継はまず頭を下げた。これには当然簪も驚いて椅子から身を乗り出した。

 

「え、あ、あの」

 

「もしかしたら君をその状況に押しやったのは俺だったかもしれない。だから」

 

簪は別に崇継には特に何の感情も抱いていなかった。なので謝られるのも逆に申し訳なかった。

 

「いえ、大丈夫です」

 

「そうか。ではもう1つ。簪の専用機の事だ。もし良ければ俺も手伝おう」

 

この提案に簪は心底驚いた。つい先程まで見ず知らずの人だったのになぜここまで協力してくれるのか。優しくしてくれるのか。

 

「あぁ、一応前職はISとかの機械関連の仕事をしていたからそこは問題ないが」

 

そう言えば前職は技術職でした、って言ってないな。やっぱISは何も知らない人に触らせたくは無いだろ。ちゃんと言っておかないと。

なんて的外れな事を考えた崇継は前職について簪に話したが、それが余計に簪に疑念を抱かせた。

 

「・・・なんで、そこまで」

 

「ん?」

 

「なんで、さっき知り合ったばかりの人の為にそこまでしてくれるんですか?」

 

なにかに縋る様な目で彼女は問うた。よく見れば、膝の上に置いた手が震えていた。彼女を安心させる為にも、崇継はその目をはっきりと見据えて答えた。

 

「1つはさっきも言ったが、もしかしたら自分のせいだったかもしれないから。1つは技術者としての矜持だ。そして最後の1つは簪、君が見ていられなかったからだ。さっきの話を聞く限り君はISを1人で完成させようとしているが、はっきり言って不可能だ」

 

簪もそれはわかっていた。でも、どうしても、それを認めたくは無かった。何かに負けてしまう気がしたから。

 

「そして君には今頼れる人が殆ど居ない。そんな状況では心がすり減っていくだけだ。だからこそ俺が手伝うべきだと思った。流石に目の前に困ってる人が居て、その人を助ける力を持っているなら出来る限り助けるさ」

 

彼女はもう、限界だった。そこに、慈愛に満ち溢れたその目と、自分を助けてくれる存在が出来たことにより、彼女は目から溢れ出るものを抑えられなかった。

 

「う、うわぁぁぁぁ〜〜ん!!」

 

それを崇継は優しく抱きしめた。ゆっくりとあやすように、不安を取り除く為に。

 

「うぇっ、ひっぐ」

 

「辛かったな。頑張った。もういいんだ。俺以外にも、君には助けてくれる人が居る」

 

暫くして簪は泣き止んだ。

 

「・・・すいません」

 

「なに、大丈夫だ。ところで、申し訳ないんだが」

 

そう言って崇継はキーホルダーを見た後、紙に何かを書き始めた。また、メモ用紙を何枚かとペンを渡してきて、

 

「簪、これから生活するにあたり何か言っておきたい事とかはあるか?」

(この部屋は盗聴されてる。これからは紙に書いてくれ。誰が盗聴してるかわからないからとりあえず俺の話に不自然にならない程度に返事してくれ)

 

話しながら紙を簪にみせた。考えるふりをして紙に書く時間を稼いだ。

 

「え?え、えっと、さっきまで『私』って言ってたのに何で急に『俺』なんですか?」

(分かりました。夜ご飯は食堂で良いですか?)

 

「それは、一応そうした方が良いかなと思ったからさ。でも、意外と面倒くさいんだなこれが。ま、これが俺の素だ。我慢してくれ」

(オッケー。帰ってきたら開発の打ち合わせをしよう)

 

「うし、他に何かあるか?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

とりあえず紙で話す事もなくなったので会話を切る。

 

 

 

 

そしてその後、2人は食堂で夕食をとり、部屋に戻った。

 




次回こそは必ずクラス代表決定戦まで行きたいと思います。
簪はこれで多分惚れたと思います。ヒロインで良いですかね。
追記 描写を一部変更しました
追記の追記 更に描写を変更しました。キーホルダーはマブラヴアンリミテッドザデイアフターのウォーケン少佐が持っていた感じのやつです。革の表面にはUK−44 Tactical Armored Battalionと書いてあります

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13話

またまたおまたせしました。アンケートはここらで締め切りたいと思います。今度は亡国3人組とかのアンケートも取りたいと思います


崇継と簪が夕食を取り終え寮に戻ってくると、道に人だかりが出来ていた。恐らく一夏だろうと目星をつけ、簪に織斑先生を呼ぶように頼んでから人だかりに近づいた。生徒達は崇継を見ると直ぐに道を開けてくれたので思ったより早く真ん中に辿り着いた。そこには案の定一夏とはだけた服を着た箒が居り、部屋のドアには無数の穴が開いていた。

 

「うわぁ!箒やめろぉ!」

 

「問答無用!」

 

一夏が箒の木刀でシバかれそうになっていたので、すんでのところで箒の木刀を上から掴んで止めさせた。

 

「!」

 

「崇継さん!」

 

「やれやれ。流石にこれは見逃せないな。危ないだろう」

 

一夏は心底安心したような表情だったが箒は自分の剣を止められた怒りで不機嫌になっていた。彼女は崇継を睨んで

 

「ふん、男がこの程度で音をあげてどうする。それに一夏なら問題ない!」

 

などと無責任な事を言ったが、崇継は途中まで聞き流して一夏に話しかけた。

 

「大丈夫かい?危ないところだったね」

 

「あ・・はい。ありがとうございます」

 

「この件についての話は後で他の人に話してくれ。それより一夏君、その痣はなんだい?」

 

そう、一夏の体には無数の痣があった。教室で会った時は長袖の制服を着用していた為気づかなかった。否、気づいていない振りをした。だが流石にこれは大人として看過出来ない。

 

「こ、これは・・・その、さっき転んじゃって」

 

何と優しい事だろうか。崇継は感動した。だがその優しさは今、必要ない。

 

「ダウト。転んだ程度でそんな怪我にならないのは私がよく知っている。それは今日の特訓でできたものだね?」

 

「・・・はい」

 

これにはため息をつかざるを得ない。暴力が教育として許されたのは昔の事だ。織斑先生にも言えることだが、何か根本的に間違ってはいないだろうか?まぁ織斑先生については興奮した生徒を鎮圧するのに必要だったからかもしれないが。ともかく、ここは織斑先生に任せた方がいいだろうと考え、辺りを見回して()()()()()()()()織斑先生を発見、呼ぶことにした。もちろん、一夏とやり取りを始めたあたりから居たのには既に気づいている。

 

「織斑先生」

 

「・・・はぁ。で、これはどういうことだ?斑鳩、報告しろ」

 

あくまで彼女は今来た振りをするようだ。彼女は手を叩いて周りの生徒達を部屋に戻してから斑鳩に報告を求めた。

 

「私が来たときにはこの状況になっていましたので、詳しい事はこの2人から聞いてください」

 

「・・・・分かった。斑鳩も部屋に戻れ。明日また聞くことがあるかもしれん」

 

「分かりました。失礼します」

 

そう言ってから崇継は自室に戻った。その後は簪と今後の予定について話し合ってから眠った。

 

 

 

翌日、崇継は朝食を部屋でとった。料理は簪に満足してもらえる出来だったようだが、本人は複雑な顔をしていた。崇継は先に寮を出て教室に向かうと一夏はもう席に座っていて多数の女子に囲まれていた。崇継が教室に入れば皆彼の方を向いたが、もう慣れたのか直ぐに自分の用事に戻った。本人としてはそっちの方が楽なのでたいして気にしていない。

 

「やぁ、おはよう一夏くん」

 

「っあ、お、おはようございます」

 

やはり元気がない。他の人の前ではどうにか取り繕っているようだが、そこそこ付き合いのある崇継にはそう見える。ふと箒の方に目を向ければ彼女は親の仇を見るような目で崇継を見ていた。私と一夏の時間を邪魔するなとでも思っているのだろう。

 

(幼い。実に幼いし、くだらない。人を傷つけて得られるものなど恐怖だけだ。友情も好意もプラスになるような物は一切得られないとなぜ分からない)

 

流石に崇継も切れそうになるが、そもそもこれは本人達の問題だ。どちらかが外部に助けを求めるまで彼は介入出来ない。もちろん助けを求められればすぐさま介入するつもりだ。

だが今の時点では特になさそうなので普段通りに挨拶してから自分の席に座った。その日の授業も既に知っていることばかりでつまらないと彼は思った。

 

 

 

 

放課後、簪と寮で合流してから整備室に向かった。丁度人もいなかったので道具を取ってから打鉄弐式の作成に取り掛かる。

 

「今日の学校はどうだった?」

 

「・・・久しぶりに、普通に受けられました。内容は知ってることばかりだったけど、楽しく感じました」

 

「それは何より」

 

日常会話をこなしながら最初の点検を行い、準備が終わった。ここで崇継が簪にある提案を持ちかける。

 

「簪。今日少し調べたが、整備部というものがあるらしいな」

 

「え?あ、はい。ありますけど、どうしたんですか?」

 

「彼女達の力を借りるのはどうだろうか。確かに俺もいるにはいるが、人手があって損はしない。彼女達は経験を、それも専用機に触れるというまたとない機会に。君はそれの完成を短縮させる為の人手を手に入れられる。損はしないと思うけどね」

 

「・・・。分かりました。そうします」

 

「OK。話はこちらで」

 

「いえ。私の機体なので、私がやります」

 

「分かった」

 

 

 

 

そして翌日。朝、教室に入ると布仏という生徒に声をかけられいきなり

 

「ありがとうございます!」

 

なんて言われた事件と、整備部の人達が簪のIS作成に協力した事を除けば特に何事も無く1週間がすぎ、クラス代表決定戦の日になった。

 

 

 

その日はクラスが浮ついていた。それもその筈。世界で2人しか居ない男性操縦者と国家代表候補生などというIS学園(此処)で無ければ有り得ないであろうカードだからだ。逆に崇継は少しずつ変えているとはいえ恐らく一夏の敗北は変わらないと確信していた。原作知識では無く、IS操縦者兼技術者かつ軍人の彼からしてみればこの状況でオルコットが負けるのは一夏のISがいくら初見殺しとはいえそれこそ恥さらしと罵られても擁護出来ないと考えていた。

退屈な授業を乗り越え、放課後布仏と共に簪と合流してアリーナの席を確保すると布仏が話しかけてきた。

 

「つぐつぐはどっちが勝つと思うの〜?」

 

因みにつぐつぐは彼女がつけたあだ名である。呼び方に悪意がある訳でもないのでそのままにしている。

 

「どうだろうね。簪は?」

 

「オルコットさん。というか織斑が負けてくれれば何でもいい」

 

「はは。そんな言ってやるな。彼はそもそも知らないんだ。それに彼だって望んだ事じゃない。ま、私も一夏君が負けるとは思うけどね」

 

「え!?」

 

簪は心底驚いたようだ。対戦するのが自分の嫌いな一夏とはいえ同じ男性なら男の方を応援しないのかと思っていると、それが顔に出てしまっていたようだ。

 

「一夏君を応援しても良いんだけどね。負けるのがほぼ確定してるような人を応援するほど私も気前が良い訳ではない。まぁ応援した方が面白いというなら応援はするけどね」

 

簪と布仏はちょっとひいた。それにしても試合が始まらない。先程から時々アナウンスされてはいるようだがはっきり言って聞こえない。すると、崇継が口を開けた。

 

「・・・・意図的に聞き取れないようにしているな」

 

「え?何でそんな事を?」

 

簪は崇継が言ったことの意味が分からず聞き返した。

 

「恐らくだが時間を稼ぎたいのだろう。そしてこのタイミングで時間を稼ぎたいとなると、思い当たるのは3つ。操縦者が体調を崩したか、ISに整備不良があったか。そして」

 

崇継は言葉を切って簪の方を向いた。簪は少し考えると直ぐに思いついたのかハッとなって崇継に言った。

 

「そもそもISが無い?」

 

「ああ。そして体調不良ならそもそもこの時点で中止になる筈。整備不良はそもそも整備するほど乗っていない。ここに送られてくる段階で整備不良があったなら別だがな。この事から察するにISが届いていないのだろう。・・・チッ、専用機作成を放棄するばかりか納期すら守れないとはな。つくづく技術者としてのプライドが無いようだな、倉持は」

 

崇継はプライドもへったくれも無い倉持の行いに憤慨した。同業者として恥ずかしい。自分の手で粛清したい。少し雰囲気が変わったようで、周りの2人が心配している。すると今度は明瞭な声で放送がかかった。

 

『1年の斑鳩君。1年の斑鳩君。至急アリーナの選手控え室までお越しください。繰り返します・・・』

 

「「・・・」」

 

「はぁ。やれやれ。済まない2人共。席を外させてもらう」

 

2人に断りを入れてから崇継は控え室へ向かった。

 




次回はクラス代表決定したところで終わると思います


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14話

アンケートにご協力くださりありがとうございます!ヒロインはハーレムが圧倒的多数でしたので、ハーレムにしたいと思います。この作品未だ千冬さんと斑鳩のお互いの好感度0なんですけどどうしよう・・・


控え室にて

 

部屋は少し不穏な雰囲気だった。織斑先生、篠ノ之箒は少し不機嫌になっており、山田先生と一夏はそれを見ておろおろしていた。このままでは話が進まないので自分で進めることにした。

 

「で、何故私が呼ばれたのですか?そもそもこの試合は一夏君とオルコットの試合でしょう。私は拒否しましたよね」

 

崇継は山田先生に問うたつもりだったが、答えたのは織斑先生だった。

 

「あぁ。だがまだ織斑のISが届いていないんだ。届くまであと何分あるかも分からない。なので、お前に出てもらいたい」

 

どうやら一夏のISが届いていないようだ。

 

「チッ、あのクソ倉持が。納期すら守れんのか。たかが男性操縦者用ISごときの為に人を蹴り落とすようなやつらを、何故待たねばならんのです」

 

不快感は隠せなかった。少々言葉が強くなってしまったが後悔はしていない。周りを見渡せば、山田先生と織斑先生は驚いており、篠ノ之箒はこちらを睨んでいた。たかが15歳の睨みで萎縮するほど崇継は柔では無い。だがずっと睨まれていると不快になる。

 

「何だ、篠ノ之。言いたいことがあるならさっさと言ってくれないか」

 

「なら言わせてもらおう。たかが男性操縦者のISとはどういうことだ!一夏が乗るISだぞ!大事に決まっているだろう!」

 

他人の事を考えない自己中心的な考えだ。将来社会で生きていけないだろうが、姉が姉だからどうなるか分からないが正直篠ノ之束を恐れていては何も出来ない。

 

「そうか。それを被害者の前でも言えるのか?」

 

「?どういうことだ」

 

「この学年に、一夏君用のISを作るために、専用機を作る筈の計画が取り潰された者がいる!貴様は、それを知った上で、同じ事をいえるのか、あぁ!?」

 

いつもの崇継と違いすぎる態度にまた先生2人は驚いている。篠ノ之箒は雰囲気に気圧されて何も喋れず、無意識に一歩下がった。一夏は初めて知った事に衝撃を受けていた。

 

「で?織斑先生。俺は何をすれば良いんでしたっけ?」

 

「織斑のISが届くまでオルコットと試合をしてもらいたい。出来れば次の試合に影響がでない範疇で頼みたい」

 

はっきり言って無茶である。こちらはまだISに乗り始めて1ヶ月しかたっていない。普通なら不可能だ。だが崇継は

 

「クソつまらない試合になりますがよろしいですね?」

 

承諾した。別に相手の攻撃に当たらなければ、自分が攻撃しなければ良いのである。今の崇継には簡単な事だ。

 

「構わん。とりあえず時間を稼いでくれ」

 

「分かりました。着替えてきます」

 

そう言って崇継は控え室を出て更衣室に向かい、衛士強化装備に着替えた。着替えの時に、崇継は数日前の事を思い出していた。

 

 


 

 

崇継はその日、簪と合流せず1人で射撃訓練場にいた。武器が銃メインなのと一応軍人なので訓練しておかなければと思ったからである。ハンドガンからライフルまで一通り試してはみたが、まぁ軍のと変わらない。的当てしか出来ないぶんこちらの方が不便だが、学校にこれほどの設備があるのは此処がIS学園だからだろう。そう納得する事にした。銃を片付け戻ろうとすると、後ろから声をかけられたので振り返った。そこには片や身長が比較的女性としては高く、胸を大胆に晒した制服を身に纏った金髪の美女、片やお世辞にも高いとは言えない身長で、髪を三編みにしている少女がいた。恐らく男性操縦者に接触するよう言われたのだろうと予想して、返答する。

 

「私に何か用かな?」

 

すると金髪の方が興味深そうに

 

「へぇ~、アンタが2人目か。意外とガッチリしてるじゃねぇか」

 

と冗談めかして言うので

 

「そういうのがあまり好きではないなら、もう一人の方をおすすめするよ」

 

こちらも冗談らしく返した。

 

「こりゃ一本とられたな。アンタ、堅物そうに見えたんだがな」

 

「はは、猫をかぶっているだけさ。」

 

「それ、自分で言っちゃうんすか・・・」

 

「すまないが、名前を教えてくれないか?初対面なのでね」

 

「あぁ、アタシはダリル・ケイシー。こっちのちんちくりんはフォルテ・サファイアってんだ」

 

「ちんちくりんって何すかちんちくりんって!」

 

「そうか。私は・・・流石に知ってるかな」

 

「結構有名になったぜ、アンタ。」

 

「私が2人目だからかい?」

 

自分が有名になるならそれしかないと思った崇継だが、返ってきたのは否という返答だった。

 

「いーや。クラス代表を辞退した臆病者(チキン)ってな」

 

話が伝わるの早すぎだろ!?と思ったが、女子はそういうのが早いのが特徴だったと今更思い出す。

 

「なるほどね。別に臆病者(チキン)でもいいんだが、舐められてるのは気に入らないな」

 

「へぇ、じゃあアタシ達とやってみるかい?」

 

技術者としてはかなり魅力的な提案だが、今はまだデータを渡したくは無いので拒否する事にした。

 

「いや。申し訳無いが今はやめておこう。また今度にしてもらおうかな」

 

「えぇ〜?つまんないなぁ。そんなんだから臆病者(チキン)なんて言われちゃうんだぜぇ〜?」

 

まぁその通りだな、と苦笑する。

 

「とりあえずクラス代表決定戦までは私のISをオープンにするつもりは無いのでね。それが終わったら考えさせてもらうよ」

 

「じゃ、楽しみにしとくぜ。じゃあな!」

 

「あぁ」

 

 

 


回想終了

 

着替え終わり、控え室に戻ると織斑先生に声をかけられた。

 

「斑鳩、あと40分ほどで着くそうだ。だがその後の設定で少なくとも10分かかる。それまで保たせてくれ」

 

「分かりました」

 

そう言って今度は一夏を見やる。

 

「いいか一夏君。君のISで、夢を断たれそうになった者がいる。君が纏うISはその人の恨みも詰まっている。だからこそ君はそれを纏わなければならない。君が望んだ事では無いだろうが、ここに来てしまったからには通用しない。だがその恨みが詰まったISは必ず君の力になる。それを知った上で、ISに乗って欲しい」

 

そう言って見た一夏の目には光が灯っていた。

 

「では。『ラプター』」

 

音声で呼び出しを行う。別にそんな事をしなくても良いのだが、何があるか分からない。定期的に使っておいて損は無いだろう。

ラプターを纏い、カタパルトに接続する。

 

『斑鳩さん。オルコットさんは準備完了しました。射出準備はよろしいですか?』

 

「大丈夫です。お願いします」

 

『分かりました。それでは射出します。3、2、1、射出!』

 

山田先生の合図と同時にカタパルトが動き、ラプターを射出する。そのままの勢いで地面に降り立ち、上空のブルー・ティアーズ(セシリア・オルコット)を見上げる。すると、観客席がざわつき、アリーナに放送がかかる。

 

『織斑一夏君のISの到着が遅れているため、エキシビションマッチとして、オルコットさんと斑鳩さんの試合を行います。この試合は通常通りのルールで行いますが、制限時間を50分とします。制限時間内に相手のシールドエネルギーを0にするか、50分たった時点でのシールドエネルギーの残量によって勝敗を決めます』

 

観客席は盛り上がり、熱気の渦に包まれる。すると、今度はオルコットからコールされる。

 

『わたくしの相手は貴方ですのね。ハンデはいりますの?いくらでも差し上げますわ』

 

崇継自身も勝つつもりは無いのでどうでもいいが、ラプターの全力を出せるなら恐らくボコボコにしていただろう。

 

「いや。要らない。別に一夏君のISが届くまでの消化試合だ。そこまで本気になる理由が無い」

 

『・・・そう、ですか』

 

返ってきた声には明らかに怒りが混じっていた。

 

『その言葉、絶対に後悔させて差し上げます。50分もいりませんわ!5分で終わらせます!』

 

もちろん崇継は負けるつもりも無いので特に気にするつもりはない。余程やらかさなければ負けないので、相手を応援する事にした。

 

「そうか。楽しみにしている」

 

そして試合開始の合図が始まる。

 

『それでは、試合を始めます』

 

オルコットはレーザーライフルを構える。崇継は兵装担架に2丁AMWS−21を装備しているが、手には何も持っていない。

 

『試合、開始!』

 

始まるや否やオルコットは構えていたレーザーライフルでこちらを撃ってくる。ラプターのメインカメラから得た情報を元に常にライフルのレーザーの弾道を計算しているので当たらない。計算していなくても大体分かるが、なにせ一応ラプターは試作機扱いなのであらゆる機能の実戦におけるデータが必要なのだ。

地面を蹴り、跳び、体を捻り、“飛ぶ”以外の、生身でも出来るあらゆる動きを用いて、最低限の動きでレーザーを避け続ける。体力筋力には自信があるので心配は無い。

 

 

10分後

どちらのISにもダメージは無い。流石と言うべきか、オルコットの集中力もまだ尽きないようだ。

 

「素晴らしい射撃だ。だが既に10分たってしまったね」

 

『・・・ッ!』

 

「ま、頑張ってくれ。先生達からしてみればただの時間稼ぎだけどね」

 

 

20分後

両者ダメージ無し。崇継の機体は砂で汚れている。

 

30分後

両者ダメージ無し。ここでオルコットに疲労が見えてきた。だんだん狙いとズレてきたのが崇継にも分かった。レーザーライフルだけでは勝てないと悟ったのか、ビットも使用し始めた。

 

「なるほど、そう言えばビットも兵装の1つだったか。これを出したと言う事はある程度認められたという認識でいいのかな?」

 

『えぇ。まさかティアーズを使うことになるとは思いませんでしたわ。これを使って、勝ちます』

 

「そうか」

 

もちろん崇継はブルー・ティアーズにビットが積まれている事は知っているし、最大稼働の際の強さも理論上ではあるが知っている。だが彼女は最大稼働は出来ない。ビットか本体のどちらかが動いている間は、もう片方は動けない。それでも対ビットの練習にはなるだろうと思い、まだ避け続ける事にした。

 

40分後

両者ダメージ無し。観客席からも明確に疲労が分かるようになったらしく、観客席はザワついている。ビットとレーザーライフルによる攻撃で地面はえぐれたり穴があいたりしているが、ラプターは無傷。だが、それでもオルコットは諦めない。素晴らしい事だ。崇継はこれがイギリスからの命令でない事は知っている。だからこそ彼は本心から彼女を讃えた。

 

「・・・君は、素晴らしいな」

 

『ハァ、ハァ、それは、嫌味、ですの?』

 

「いや、紛れもない本心さ。40分間ひたすら攻撃を続ける。休み無しでだ。生半可な精神力では無いね」

 

『アナタこそ、その攻撃を、ずっと避け続けているでは、ないですか』

 

「私は大人だからね。でも君はまだ高校生だ。その年齢でその精神力は尊敬に値する」

 

『レディーの年齢を言うのは、マナー違反ですわ、よ!』

 

会話のスキをついて崇継の死角からビットで攻撃するが、容易く避けられる。

 

「それはその通りだ。申し訳無い」

 

『そう思うなら、早く負けてくれませんこと?』

 

「いや、ただでさえ君たちとの試合を拒否して臆病者(チキン)なんて言われてるんだ。これ以上舐められるのは御免だからね」

 

そう言いながらビームの嵐を掻い潜り続ける崇継だが、そろそろ試合の終了時間だ。

 

「済まないね。このまま避け続けても良かったんだが、攻撃出来ないと思われるのも癪なのでね」

 

そう言って崇継は膝部ナイフシースからCIWS−2(ナイフ)を取り出す

 

『機体本体に武装を!?』

 

オルコットは動揺するが、そこが分水嶺となってしまった。動揺した一瞬を逃さず、跳躍ユニットを噴かして、ナイフを振りかぶりながらオルコットに近づく。

 

 

ナイフが当たるその瞬間ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

ピーーーーー!

 

 

 

試合終了のブザーが鳴り響く。

 

「え・・・?」

 

オルコットは当たることを想定し、腕を構えていたが、ゆっくり目を開けると交差した腕に当たるぎりぎりのところでナイフが止まっていた。すると、目の前に居る崇継からコールされる。

 

『やれやれ。私もツイてないな。ま、素晴らしいものを見せてもらった。ありがとう』

 

そう言って手を出して来たので。オルコットも恐る恐る手を出し、握手した。

すると、緊張の糸が切れたのか、突然オルコットのISが解除されてしまう。

 

『ッ!』

 

運良く崇継がオルコットの手を握っていたので。そのまま引っ張り、右肩部装甲だけ解除し、肩で担いで地面に降りた。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「大丈夫だ。怪我はないか?」

 

「大丈夫です」

 

「そうか。君はこの後もう1試合控えているが、キツそうだったら織斑先生に言ってくれ。あの試合を見て文句は言わないだろう。じゃ」

 

そう言ってを崇継はアリーナを出ていった。

それを見送るセシリアの頬には朱がさしていた。それは担がれた恥ずかしさからか。それとも・・・




次回でクラス代表は決定します。主人公ではありませんが。セシリアは一夏のヒロインか主人公のヒロインか迷ってるので、そちらもアンケート取ろうと思います。亡国3人組は味方にします。ヒロインにもしようかな。


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15話

今回でクラス代表決定戦は終わりになります。


試合が終わり、崇継は控え室に戻った。すると、丁度一夏のISが運び込まれたらしく倉持のスタッフが部屋から出ていった。それを見送る事もなく崇継は部屋に入った。

 

「ようやく届きましたか。全く納期すら守れんゴミ共め」

 

「だが彼らがここまでしたのは分からんでもない。ただでさえ男性操縦者用の機体と言う事に加えて束が作った物だからな。解析しようとしたんだろう」

 

「・・・なるほど」

 

確かにそれは魅力的だ。もし篠ノ之束が本当に手を加えていたのであれば、まず確実にそこら辺の技術を軽々凌駕しているだろう。倉持でなくとも目が眩むのは当然だった。

 

「では、そろそろ戻って良いですか?人を待たせてるので」

 

だがその前に簪と約束していたので、さっさと戻りたい崇継は織斑先生に言外に戻らせないなんて言わねえよな?と含ませて言った。織斑先生は特に気にする様子もなく良いぞ、と言ったので一夏に頑張れよ、と言って先生に一礼してから観客席に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

Side 簪

「つぐつぐ凄かったねぇかんちゃん」

 

「うん」

 

観客席では私と本音が話していた。もちろん話題は先程の試合だ。はっきり言って崇継さんの機動制御技術は世界でも上から数えた方が早いと思う。でも、あれ程の機動制御技術を持ちながら何故クラス代表に立候補しなかったんだろう?

 

「それは私が大人だからさ」

 

ザワザワ・・・

 

崇継さんが戻ってきたらしく周りの生徒達はざわついていた。一方私は疑問が口に出てしまったのだろうか、と焦り立ったままの崇継さんを見るが、そんな私を見た崇継さんは苦笑しながら答えてくれた。

 

「今もそうだが、顔に出ていたよ。そんなに焦る必要は無いけどね。何でクラス代表にならなかったのかっていう問いの答えは私が大人だからさ。そんなにおかしいかい?」

 

気づけば周りの生徒達も聞き耳を立てている。そんな中で私は首を縦に振り、分からないので詳しく、と説明を求めた。今の説明で完璧にわかる人いる?私はわからなかった。崇継さんは頷き座りながら説明し始めた。

 

「ここは皆知っての通りIS学園。一応日本の公立高校なんだよね。で、私は特例として此処に通ってはいるが27歳のいい歳した大人なのさ。それが高校のクラス代表ってのは外聞が悪すぎる。高校生から成長の機会を、経験を奪うのかってね。だから辞退した。ま、ISのデータを一方的に取られるのは癪だったのもあるけどね」

 

なるほどと感心する一方で、ではもう片方の男性操縦者のデータは良いのか?と聞くと

 

「あぁ、そこは別にたいして気にしていなかったな。正直彼に関してはもう少し時間が経ってからの方が良いデータが取れるとは思ったけどね。流石に彼のISが軍用機レベルのスペックだとしても、織斑先生が学園内で軍用機レベルの機体の運用許可を出す訳が無い。それに彼は今初めてISに乗るんだから、なるべく分かりやすく強い敵と戦ってみてほしいのさ」

 

ふーん、崇継さんはあっちの肩を持つんだ。つまんない。

 

「はは、そこを突かれるとどうしようもないね。ま、それはそれ。君の開発も手伝うさ」

 

このタイミングで放送がかかった。

 

『長らくおまたせしました。織斑君のISの初期設定が完了したため、これより試合を始めます』

 

ようやく始まる。私のIS開発を凍結してまで作ったその力、如何ほどか。出来れば無様に負けてほしいが。

 

「・・・」

 

隣を見れば崇継さんは口に手を当て何か考え込んでいる。どうしたんですか、と聞いてみれば

 

「君も知っているだろうがISの最適化処理(フィッティング)には少なくとも15分はかかる。私は試合時間40分に加え設定の為に1()0()()稼げと言われた。そして放送では()()()()()()()()()と言った」

 

「結局、どういうこと〜?」

 

今度は本音が崇継さんに質問した。崇継さんは本音の方を見て仕方ないなと言わんばかりだったが。

 

「つまり。彼は一次移行(ファーストシフト)すらしていない状態で試合に臨もうとしている。恐らくだけどね」

 

絶句した。私の開発を凍結しておきながらこの時間に至って未だ一次移行(ファーストシフト)すらしていない?ふざけているのか。

本音は呑気にいっちーすごいね〜なんて言ってるけど、すごいとかそういうレベルじゃないから!

 

「ま、どうなるかはこれからわかる。ほら、来たよ」

 

アリーナに目を向ければ両者機体が空に留まり何か喋っている。恐らく個人間秘匿通信(プライベート・チャンネル)を使っているのだろう。と思えば今度は崇継さんはブツブツ小さな声で何か言ってる。今度はなんだろう。

 

「『ハンデはよろしいのですね?』『あぁ!崇継さんだって無しで戦ったんだろ。俺だって男だ!やってやるぜ!』ってさ。あ〜あ。自惚れないよう言っとけば良かったかな」

 

これはひどい。もう帰ろうかな。て言うか何で聞こえるの?

 

「・・・まぁボコられるのも経験だ、とは思うが。もし彼のISに特殊兵装の類のものが積んであったら何が起こるか分からない。来月らへんには専用機同士のトーナメントがあるんだろう?情報はあって損はない。一応見ていこうじゃないか。」

 

・・・・・・。

 

「・・・・・・」

 

・・・・・・。

 

「・・・・・・」

 

・・・分かりました!見ます!

 

「ありがとう」

 

結局押し切られてしまった。仕方ない。あれだけじっくり見られたら拒否出来ないと思う。・・・見るからには、ちゃんとデータを取らなければ。だから、ちゃんと試合らしい試合をしてよ。

 

『試合、開始!』

 

 

 

 

 

 

試合は一方的だった。オルコットさんがレーザーライフルやビットで織斑を撃ち、織斑はそれを避けるだけ。試合が始まる前から結果は見えていたとは言え、それでも少しがっかりした。だと言うのに、先程から崇継さんはずっと座ったまま前傾姿勢で見逃さないよう静かにしている。何か考えているのか、手を口に当てている。視線をアリーナに戻してからはぁ、とため息をつくと、崇継さんは小さな声で呟いた。

 

「・・・やっぱりか」

 

その言葉に反応したのは本音だ。

 

「どうしたの〜?」

 

「いや、何でもない。それよりしっかり見ておきな。()()()()()

 

何の事ですか?と言おうとした瞬間、アリーナがざわついた。何事かと思えば、織斑のISの形がさっきと違う。まさか!

 

「そう。私の予想はあっていたという事さ。これから本領発揮・・・と言いたいところだけど、どうなるかな」

 

まさか本当に一次移行(ファースト・シフト)すらしていない状態で専用機持ちと戦っていたのか。でも、崇継さんの言葉尻には不安があった。どうしたんですか?

 

「・・・一夏君のISの装備、恐らく手持ちのブレードだけだ」

 

え!?

 

「いくら一夏君とはいえブレード1本だけで戦うなんて無茶はしないだろう。でも、彼は今実際に無茶している。と言う事は」

 

装備があのブレード1本だけ?

 

「ああ。そして彼の身近には同じ武器構成で世界一を獲った人がいる。この事から予想できる一夏君のISの特性は・・・」

 

織斑先生と同じ、ってことですね。

崇継さんはアリーナに目を向けたままうなずいた。

 

「だがはっきり言ってあれは織斑先生だから。彼女がISの操縦者としてのレベルと能力に対する理解が尋常じゃなかったから使いこなせたんだ。今の彼には恐らく無理だ」

 

でも、今はその織斑がオルコットさんを追い込んでいる。

あ!オルコットさんがやられる!

 

「いや。この試合、一夏君の負けだ」

 

え?と思う前に、試合終了のブザーが鳴った。

??????

 

「はは、じゃあ帰り道が混む前に先に寮に戻っているよ。考え事があるなら、なるべく早めに解決しておいた方が良いからね。分からなかったら聞いてくれ」

 

それじゃ、と言って崇継さんは先に戻ってしまった。他の観客もあ然として、何が起こったのか理解出来ないでいる。例外はそもそも考えていたいないだろう本音と崇継さんだけだ。そして本音に聞いても分からないだろう。崇継さんは先に帰ってしまった。

 

・・・何が起こったの?

 

 

 

 




セシリアについては、アンケートの結果崇継のヒロインになります。これについては次回書こうと思います。


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16話

遅くなってすいませんでした!今回からちょくちょく箒アンチが入ります


Side 3人称

 

サァァァァ・・・

セシリアオルコットは一夏との試合終了後、アリーナでシャワーを浴びていた。が、彼女の体はシャワーすらぬるいと感じるほど熱くなっていた。

 

「斑鳩・・・崇継・・・」

 

声に出したのは先程対戦した相手、では無くその前に戦った、世界で2人目。自分より一回り近く年上で、自らが忌み嫌っていた筈の男性という部類に入る人。はっきり言わなくても完敗と言われるであろうあの試合で、セシリアはあの男の技量を見た。自分が使用しているIS、試作機とは言え最新鋭の第3世代機を相手に50分も耐えた。避けてただけなのだからそれくらい出来るだろうと言う者もいるだろうがそうは思えない。奥の手を使ってはいないが、レーザーライフルはもちろんのこと、ビットまで使ったのに1撃も当たらず掠りもしなかった。もし彼が最初から武器を持っていたら恐らく負けていた。彼女をしてそう思わせるほどの技量が彼にはあった。

セシリアは彼の事を思い出す度身体が熱くなっていくのを感じる。何故だろう。考える。

 

 

『君は、素晴らしいな』

 

『その年齢でその精神力。尊敬に値する』

 

『君はこの後もう1試合控えているが、キツそうだったら織斑先生に言ってくれ。あの試合を見て文句は言わないだろう』

 

 

心に浮かんでくる、彼の言葉。その全てが、

 

「・・・そう、ね。私という個人を見て、認めてくれたのですね」

 

彼女本人を見ている証拠だった。幼き日に家族を失い、その時から当主に成らざるをえなかった彼女にはいつも財産を狙う輩が付きまとっていた。そうで無くとも、セシリアという個人を見てはくれなかった。弱かった父とも、そんな下衆達とも違う彼に、自らは惚れたのだと、彼女は理解した。そうとなったら話は早い。

 

「・・・オルコット家当主としてでは無く、セシリア・オルコットとして、貴方を」

 

私の夫にします。そう決意し、彼女はシャワールームを出ていった。

 

 

 

Side 崇継

 

 

いやはや、思ってたよりいい線行けてたなぁ一夏君。まぁ装備がブレード1本というのはいただけないが、そこはおいおい織斑先生がどうにかしてくれるでしょうっと、あぁ〜やっぱこのイスが良い。あ、言い忘れてたけど俺丁度今部屋に戻ってきたんだ。

簪のISについても進めなければね。でも、恐らくクラス代表戦には間に合わない。専用機タッグマッチについてはぎりぎりって感じ。全く、専用機開発の手伝いもしないといけないし、中佐にも他の人にバレないよう逐一報告しなきゃいけない。今回のオルコットについてもレポート書かなきゃ。大変だぁ。

 

コンコン

 

どうぞー?・・・あぁ、簪。おかえり。

 

「ちょっと質問良いですか?」

 

いいよ?疑問に答えてあげるのも大人の仕事だからね。

 

「何であの時織斑が負けるってわかったんですか?」

 

あの時?・・・無意識に呟いてたのか。困っちゃうな。え〜っとね。電光掲示版にお互いのSEの残量表示されてたよね。

 

「はい」

 

織斑先生のもそうだったけど、あの能力は自分のSEを削って威力を上げる、みたいな能力なんだよね。つまり諸刃の剣ってわけ。で、あの時一夏君が能力を発動しっぱなしで近づいて行ったから急速にSEが減ってた。そのスピードを計算したら恐らく一夏君のSEが尽きる方がオルコットさんに一夏君の剣が当たるより早かった。それだけだよ。

 

「・・・そう、ですか。納得出来ないけど、納得しときます」

 

そうか。まぁ何事にも疑いを持ってかからないと頭が固くなってしまう。適度な警戒は必要さ。

夜飯どうする?

 

「食堂で。本音も誘っていいですか?」

 

いいよ。

 

 

 

 

 

 

って訳で飯食べてきました。オルコットと一夏君には会っていないが、ま大丈夫でしょ。

それじゃおやすみ

 

 

 

 

 

Side 3人称

 

翌日、教室ではやはり一夏の周りに人が集まっていた。かけられていた言葉はすごかったとか、かっこよかったとか、ありきたりな言葉で。正直半分は媚売りたいだけだろと思ってしまうのが崇継の軍人の、それもかなりの権力闘争に巻き込まれ強くならざるをえなかった者の性格でもあった。

対照的に、オルコットと崇継のところには誰も来なかった。崇継のところに誰も来なかったというのは語弊があるが、本音という顔見知り以外は来なかったという意味である。

チャイムが鳴り、いつもどおりホームルームが進んでいく。途中でオルコットから謝罪があったりしたが、場面は一夏の指導役を決めるところに移る。

 

「しかし、はっきり言って今の一夏さんは弱いです。このままでは直ぐに負けてしまうでしょうから、ワタクシが鍛えて差し上げましょう。斑鳩さんと一緒に!」

 

バン!

 

「いや!一夏の指導は私がやる!」

 

机を叩いて篠ノ之が立ち上がり自らが行うと主張するが、いきなり巻き込まれた崇継はどうしようか迷っていた。

 

「あら?適性ランクCの貴方に、指導ができるのですか?男性操縦者の、しかも専用機持ちを?」

 

「ぐっ……ランクは関係無いだろう!」

 

すると見かねたのか、遂に織斑先生が話に割って入った。

 

「はいはい。お前たち、くだらんことで喧嘩するんじゃない。お前たちのなぞ私から見ればランクなど関係なくどれもひよっこだ。両方指導に入れば良いだろう。斑鳩については本人の許可を得てから話をしろ。どうせ言ってないんだろう?」

 

「……はい」

 

「よろしい。それではこれでホームルームを終わる。授業の準備をしておけよ」

 

織斑先生と山田先生は出ていった。斑鳩はといえば、ラプターのデータに目を通したり、次の開発に回せるようなデータの取り出しを行っていた。するとそこに、オルコットが現れる。

 

「あの、斑鳩さん」

 

緊張しているのか不安なのか、少しうつむいて話しかけてきた。

 

「あぁ、オルコットか。さん付けはいらない。好きに呼んでくれていい。一夏君の指導は、………」

 

別に対してオルコットに怒りを抱いているわけもないので、むず痒いさん付けはやめるよう言ってから、崇継は本題に入った。女子の耳は鋭く、〘一夏〙と〘指導〙というワードを出した瞬間一夏、篠ノ之を含めた教室の生徒の雰囲気が変わった。

 

「さて、どうしようかな。だがそれ以前に、本人に言わず勝手に巻き込むのはいただけないね」

 

「それについては、すいませんでした。でも、貴方の操縦技術を一夏さんが身につけられれば、恐らく敵なしだと思いました」

 

「なるほどね。ま、そう思うのも当然だろう。ともかく、そうだな。一夏君の指導については暇な時があれば行かせてもらおう。一応、私も暇人ではないのでね」

 

途端に篠ノ之からは不機嫌オーラが、一夏からはよしっ!という声とともに絶好調オーラが出てきた。

すると、今が好機と見たか、機嫌が最高の一夏に女子が再び群がっていく。朝と同じくクラス代表戦の事のようだ。

 

「ありがとうございます。いつでもお待ちしておりますわ」

 

「あまり期待しないでくれ」

 

 

 


 

その日の夜、1組は会議室を貸し切ってパーティーを行っていたが、そこに崇継の姿は無かった。

 

「それじゃ、一夏君のクラス代表就任を祝って、乾杯!」

 

「「「乾杯!」」」

 

皆が持ち寄ったお菓子や飲み物でささやかながらもきらびやかなパーティーだった。その中で一夏はキョロキョロと辺りを見回してはため息をついていた。

 

「一夏。男がそのようにため息をつくな。別にあの男がいなくたって何ともないだろう」

 

「でもさぁ、箒。崇継さんは俺より絶対強いのに納得行かなくてさ。」

 

「どうせ怖気づいたんだろう。気にするな」

 

「ま、崇継さんに指導してもらえるかもしれないんだ。役得って思ったほうが良いかもな」

 

「………」

 

一夏は本心から笑顔で言ったが、篠ノ之はそれが面白くなかった。

 

「おっ、いたいた!どうも、新聞部の黛・・・」

 

 

 

一方、当の崇継は今日も簪と一緒にISの作成に励んでいた。そろそろ完成も見えてきたのと、崇継の生活指導により健康そのものである簪は安堵していたが、同時に最近どこからか視線を感じることが多くなった。

 

「あの、崇継さん」

 

「ん?どうした」

 

「相談があって、実はその、最近どこからか視線を感じることが多くなって」

 

「うんうん」

 

「多分敵意って訳ではないと思うんですけど、気になって」

 

「なるほどね」

 

崇継には思い当たる節があった。自分も最近誰かに見られているからだ。本気を出せば直ぐに特定できるが、あまり公の場で本気を出したくないので放置していた。十中八九あの生徒会長(シスコン)だろうが男性と関わりがあることを疎ましく思う輩がいるかもしれないので、断定せず、とりあえず明確な回答は控えることにした。

 

「俺は特にそういうのは無いな。敵意がないならまだ大丈夫だろう。ただ、少しでも不安になったら先生に相談しな。なにかあっては遅い」

 

「分かりました。それじゃあ、今日はこのくらいにしましょう」

 

使った道具を片付けてから2人は部屋に戻った。

だが、それを見て、歯を食いしばって悔しがる、青髪の少女がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回の予定は未定です。首を長くして待っていただければ幸いです。


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17話

今更ですが作品の矛盾等ありましたら感想でお知らせください。よろしくおねがいします


Side 3人称

一夏のクラス代表就任から数日。相変わらず一夏は箒にボコボコにされ、崇継は簪の手伝いをする日々が続いていた。崇継はこのままの平穏が長く続いて欲しいとは思うが、そうならないことを最もよく知っていた。

その日も簪と朝食を取ってから教室に行くと、クラス代表対抗戦も間近なので、相変わらず一夏に勝てると言う生徒達が群がっていた。この前も書いただろうが、崇継は胡散臭いと思っていた。だけど応援するのが悪いことではない。良く言ってしまえば人脈づくりとなるが、悪く言えば媚を売っている、と崇継は受け取ってしまう。額面通りに受け取れないのが崇継の軍人としての性だ。だが、この日は数日ぶりにクラスに火種が放り込まれる事となる。

 

「大丈夫、勝てるわ!」

 

「あ、ありがとう」

 

「そうそう、専用機持ちっていないらしいし!」

 

スパァン!

「その情報、古いよ」

 

一夏が囲まれていると、崇継の後ろの扉が開き、そこには腕を組んで仁王立ちしている背の低いツインテールの少女がいた。いかにも自身満々といった感じで一夏を見ている。

 

「なんたって、この私がクラス代表になったからね!」

 

そう、この少女、凰鈴音は先程クラスのティナ・ハミルトンに直談判してクラス代表の座を譲ってもらったのだ。そうまでしたのは一夏に恋しているがため。彼にいいとこを見せるため。彼に会いたいがため。

そんな事はつゆ知らず、いや知っていても一笑に付したであろう我らが朴念仁は相変わらず素直で、思ったことをそのまま発言をしてしまう。

 

「な、何してんだ、鈴?似合ってないぞ?そういうの」

 

「わ、悪かったわね、似合ってなくて!それよりも、クラス代表対抗戦、私が勝つから!」

 

「俺だって負けないぜ!なんたってこっちには崇継さんが付いてるからな!」

 

またまたデリカシーのない発言をする一夏。鍛えてやっているのに名前すら出てこなかった箒は不機嫌になり、人を簡単に殺せるのではないかというほどの眼力で崇継を睨んでいた。

当の崇継はまだ一度も特訓に参加していないにもかかわらず巻き込まれたことにもはや心が死んでいた。篠ノ之からは睨まれ、オルコットからはキラキラした目で見られている。鳳と一夏の会話は聞いていたが、どうしようかと悩んでいると、そこに救世主が現れた。世界最強の担任、織斑千冬である。

それに気づかない鳳は崇継を一瞥すると

 

「ふ〜ん。ま、いいわ。せいぜい頑張りなさい。千冬さんに怒られないようにね」

 

「ほう。貴様は私が今貴様に対して怒ろうとしているとは考えていないのか?」

 

「え!?ち、千冬さん!?」

 

一夏や箒からは織斑先生が見えていたので流石に不用意な発言はしなかったが、気づいていなかった鳳はペラペラ饒舌に語ってしまった。もちろん、その程度で織斑先生は怒らないが、脅しはする。鳳に教室に戻るよう言いつけると、鳳はまた来るわ!と言い残して戻っていった。

再び教室の注意は一夏に向くが、ホームルームが始まったので、先程の追求はホームルーム後となった。

 

 

「まったく……面倒なことに巻き込んでくれる」

 

 

 

 

ホームルーム後、予想通り一夏の周りにはクラスメートが群がり、先程の少女について聞いているようだ。本人は答えようとしているが周りが発言させてくれない為収拾がつかなくなっている。

崇継はそれを眺めてあくびをし、ため息をついた。これからどうするかも考えなければならない。するとオルコットが崇継に近づいて、口に手を当て上品に笑いながら崇継の隣に来た。彼女も一夏を見やると勝ち誇ったように崇継に話しかけた。

 

「結局、どうなさるんですの?一夏さんがあそこまで高らかに宣言なされたというのに、その信頼を無碍になさるわけにはいかないでしょう?」

 

彼女は問うように言ってはいるが。その実、崇継が出すであろう答えは既に彼女の中にあり、確信を持っている様子であった。どうするのかという質問では無くただの意思確認のようなものであると、彼女の目は雄弁に語っていた。

崇継はそれを理解している。教室の喧騒が止む様子は無いが、正反対に彼の思考は静かに、出すべき答えを出している、()()()()()

 

「……はぁ。全く、このままのらりくらりと回避したかったのだがね」

 

すると、崇継に関しては鋭い一夏がその発言を捉え、バッと崇継の方向を見た。他の女子も、一夏の様子が一瞬で変化したのを理解し、最近ついに言われなくても分かるようになってきた、一夏がこうなる原因と思しき人物を見やる。例外は、4()()だけ。崇継本人、彼と話しながら一夏を見ていたオルコット、正直一夏の事はそんなに気にしていない布仏。そして、不機嫌の絶頂にいる篠ノ之箒であった。

 

「……と、言いたいところだが」

 

?という記号が崇継以外の全員に浮かんだ。オルコットは望んでいた、というか想定していた答えと全く違う答えに動揺が隠せていない。

 

「正直関わるメリットが無い。それに、私は感覚派だ。誰かに教えた経験もない。ので、篠ノ之箒と、このオルコットにこのまま教えてもらってくれ」

 

一夏は膝から崩れ落ちた。他の生徒達もあ然としている。今が好機と悟ったか、篠ノ之箒は一夏にたたみかけた。

 

「だから言っただろう!今日も私が鍛えてやる!」

 

「そんなぁ〜、崇継さぁ〜ん」

 

「いい加減アイツに頼るのはやめろ!男が助けを求めるなどだらしない!」

 

「だってさ。悪いね一夏君。この前も最低限戦えていたと思うし、このまま頑張りな」

 

そんなところで先生が入ってきたので授業が始まり、この話は一旦打ち切られた。

 

 

 

昼、食堂にて崇継は昼食を取っていた。いつもは簪と一緒だが今日は珍しく一人だ。というのも、この前簪から話があった視線についてこう彼女に話したからだ。

どの生徒も一律に自由になる時間に、2人が別々のところに行く。その際に簪が視線を感じたら簪だけを観察?していることになるだろうし、もしかしたら簪に直接話しかけて来るかもしれない。逆に、崇継が目当てなのであれば、崇継の方に矛先が向くだろう。そう言ったのだ。

そういう訳で今は一人で食べている。いつも一緒にいるはずの者がいないからなのか周りの女子はヒソヒソ話し合っている。が、先日のクラス代表決定戦での出来事により、少し近寄りがたいようだ。そんな中、食堂の出入り口が騒がしくなった。理由は言わずもがな、一夏である。

 

「待ってたわよ、一夏!」

 

またもや仁王立ちして腕を組んで待っていた凰。一夏は箒と一緒に来ており、少しげんなりしていた。その為、返事も少しおざなりになってしまった。

 

「はいはい、ここじゃ邪魔になるからさっさと行こうぜ」

 

「わ、分かってるわよ!」

 

そう言って食券を買う3人を、崇継は観察していた。もちろんたいしたことが無いのはわかっていたが、学生とはいえ軍属扱いの代表候補生。どれほどの身体捌きかと観察したが、なんのことは無い。少し鍛えただけ、というのは彼女たちに失礼であろうがただの高校生だった。

すると、その視線に目ざとく気づいた一夏。崇継と目を合わせ、顔色が良くなった。それを察した一夏の幼なじみ(取り巻き)達は不機嫌に、学生達は腐の雰囲気を感じ取り色めき立った。料理を受け取った一夏は崇継の机に直行し、料理を机に於いて座った。崇継の席はたまたま空いていた4人がけの、四角形の一辺に1人の椅子がある、という席だったのだが、一夏は崇継の正面に座った。この時点で崇継は逃げられないことを悟ったが、更に右に篠ノ之、左に凰と完全に逃げられなくなった。すると、凰は崇継を見て一言。

 

「……モヤシね」

 

空気が凍った。周りの生徒達も、一夏も。篠ノ之は少し感心し、崇継は視線を凰に向けはしたが何もしなかった。

周りの空気は理解したがそんな事で彼女が止まるはずも無かった。次々と言葉を発していく。

 

「如何にも縦にしか伸びなかった、って感じ。顔はそこそこだけど冴えてる訳じゃないし、その貼り付いた笑み、なんか胡散臭いわ。それに、アンタのISって全身装甲(フルスキン)なんでしょ?やましい事でもあるわけ?」

 

一夏を含めた生徒達は、崇継を煽るような発言もそうだが、崇継が何もしない事に最も恐怖を抱いていた。これから何が起こるのかと。そもそも、何もしないのは何も出来ないほど怒っているからではないのかと、そう思っていた。例外的に、篠ノ之だけはもっと言ってやれと、お茶を飲んでいた。

 

が、当の本人はと言えば。

 

(ほぉ、出会ってこれほどの短時間と先日の情報でそこまで至るとはね。直感だろうが、侮れないな。素晴らしい。流石は代表候補生、といったところか。)

 

と素直に感心していた。己の本質を上っ面とはいえ見抜くとは。

笑みは社交で必要だが、実際は相手に動揺したことや驚いたことを見抜かれることを避けるため。また、相手のペースを崩すためのブラフ。全身装甲(フルスキン)なのも、もちろんやましい事があるから。メインは顔を見られないためだが、と頭につくが。

そんな事を考えていれば、一夏がついに動いた。

 

「お、おい鈴!流石に今のは良くないぞ。崇継さんに謝れよ」

 

「な、なんでよ。私は思ったことを言っただけよ。それに、これに反応しないって事はそれこそ本当のことなんじゃないの〜?」

 

「ッ、りn」

 

「なるほどね」

 

「「!」」

 

一夏と凰がヒートアップしたところで、ついに崇継が口を開いた。他の学生達も何を言うつもりなのかと、ビクビクしている。が、本人の口から出たのは予想だにしない事だった。

 

「確かに。全くその通りだよ、凰鈴音。君が最初だ、そこまで気づいたのは。その洞察力は尊敬に値する」

 

「そ、ありがと。で?アンタが一夏に近づいたのは、アンタもデータ取りかしら?」

 

凰は視線をキツくして崇継に質問した。その目は暗に言っていた。一夏の敵になるなら容赦しないと。崇継はあえて答えた。

 

「くれるのかい?なら喜んで貰うよ。でも、君は要らないのか?」

 

「…ッ」

 

歯を食いしばる凰を尻目に、崇継は一夏の方を向いた。これから話す内容は、今話すのが最も良いタイミングだと理解したから。

 

「一夏君。これからこの学校には君のデータを取ろうとしてくる輩が、彼女を含めて、大勢来る。これは、確実だ」

 

「え…?でも、鈴は」

 

「恐らく彼女がここに来たのは君のその、さっき言っていた言葉を借りればセカンド幼なじみ、だったかな。彼女が君の知り合いだからさ。何も知らない人同士が1から関係を築くより、ある程度の関係がある人を送り込んだ方がやりやすいということだ」

 

ここで再度崇継は凰に視線を向け、それにつられて一夏も鈴を見た。

 

「彼女がこうやって何も言葉を発しないのも、一応はそれが事実だからさ。でもね一夏くん。ここで大事なのは、それが()()であるということ」

 

「一応…?」

 

「あぁ。彼女がここに来る為の条件はさっき言った通り君のデータを取ることだったろうが、彼女は彼女の意志でここに来た。これから来るであろう者たちも、ここには大半の人が自らの意志で来たのだろう。だからこそ、その意志は尊重してやってほしい」

 

「分かりました……鈴」

 

「…なに」

 

先程の話で一夏に嫌われたと思ったのだろうか、凰は先程までの元気が嘘のように落ち込んでいた。一夏はそんなことは気にしないとばかりに笑顔で鈴に向いた。

 

「そんなに落ち込むなよ。俺はそんな事で怒ったりしねぇって。それに、鈴は俺に会いに来てくれたんだろ?嬉しいぜ」

 

「…本当?」

 

「あぁ、だから元気だせって」

 

「うん!」

 

「それじゃ、私は教室に戻るよ。ちなみに、あと5分で次の授業が始まる。急ぎなさい」

 

えぇ〜ッ!という声を背に、崇継は食堂を出ていった。

 




崇継のキャラがブレブレだぁ…。本当は余裕綽々のヨン様みたいなのにしたかったのにぃぃ!
ちなみに今の崇継は原作の大体の流れしか覚えていません。キャラは主要キャラたけ覚えています。


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18話

お待たせいたしました


一夏達との話を終え、食堂を出た崇継は誰かが自分をつけているのを感じた。誰かはわからないが、この学校でそういう技術を習得しているのはごく一部の人間だけだ。よって十中八九あの生徒会長(シスコン)だろう。おそらく妹に手を出す不埒者という認識でいるのだろうが、どうだろう。まぁ、聞いてみれば分かる事だ。歩みを止め、前を向いたまま声を発した。

 

「……誰ですか?そこにいるのは」

 

「………へぇ、気づいてたんだ。おねーさん自信無くなっちゃうなぁ〜」

 

予想通り。そこにいたのは更識楯無、生徒会長(シスコン)である。彼女はわざとらしくそう言った。相手が本当の事を言わないのであれば、こちらも本当の事を言う必要は無い。彼女は味方では無いのだから。これから起こるのは高度な心理戦。どれだけ相手から情報を得られるか、という現代においても重要視される情報戦である。

彼女はそう思っているだろうが、崇継からしてみれば情報を得られずとも、自ら開示しなければ良い。何ならここを離脱出来れば勝利だ。

 

「はは、今のは勘ですし、気にしなくていいですよ」

 

振り返ってそう言うと、一気に彼女の視線がきつくなった。いきなり表情が変わったが、それを予想していなかったので、崇継も少し動揺した。こんな事でいきなり表情を崩すとは思っていなかったのだ。

 

「嘘ね。貴方、さっきからずっと油断していなかったもの。誰か探してたんでしょ?」

 

微笑みをたたえながらそう言った彼女は手に持っていた扇子を広げた。そこには【捜索】と書かれていた。

彼女が言っていたことは半分合っている。そもそも崇継がこの学校、この土地において油断できるような場所は自らが寝泊まりしている部屋しかない。最初から油断などしていないのだ。また、常に周りの動向を逃さない状態、すなわち油断していない状態がデフォルトだった為に、先程彼女の気配を察知した時からそれを逃さないようにしていた。更識楯無はそれを油断しなくなったと認識したのだろう。

だが、先程の通り、それを馬鹿正直に言ってやる必要はない。

 

「さぁ、どうでしょう。そもそも、ここには私から見れば3通りの人間しかいない。純粋に高校生活を楽しむ為に私に近づく者や男性操縦者のデータを取るために近づく者、そして私に敵意を、男性に対して敵意を向ける者だ。そのような状況を1人で歩く中で、油断するほうがありえないと思いますが」

 

「なるほどね〜。確かにその通りだね。耳が痛い」

 

「それでは、授業も始まりますので、ここら辺で失礼しますよ」

 

そう言って崇継は話を切って教室に戻ろうとしたが、その前に彼女に呼び止められた。

 

「貴方、最近簪ちゃんと仲良いみたいじゃない?」

 

「えぇ。同室ですし、彼女の手伝いもしています。私のここでの生活が充実しているのは彼女のおかげと言っても過言では無いぐらいにはお世話になっていますよ。それが、何か?」

 

すると、きつかった視線が今度は一気に鋭くなった。並の人間ならこれだけで逃げ出すかもしれないぐらいだ。だが、嘘は言っていない。彼女のおかげで学校を楽しめているのは事実だ。

 

「あの子は私の妹なの。知ってる?」

 

「はい」

 

なんてことは無い質問だが、この2人の中ではかなり重要な事であった。やはり、ここ最近簪に視線を向けていたのはコイツだろう。

 

「……そう。なら、先に言っておくわ。簪ちゃんに何かしたら、絶対に貴方を殺すわ」

 

まさかのお前を殺す発言。彼女からしてみればかなりの本気なのだろう。が、相手が悪かった。目の前にいるのは、命のやり取りをする事もある本物の軍人。さらに言えば、彼女と同じ暗部、それも一国の情勢を傾けられるほどの情報を管理している人間だ。場数はもちろん、経験も段違いだ。よって彼女の威圧など、対して怖くもない。

だから、崇継は敢えて煽ることにした。

 

「ハハッ、彼女を泣かせたことならありますよ」

 

ブチッ

 

「……は?」

 

その煽りはクリティカルヒット。先程までのような威圧では無く、殺意が溢れ出した。

 

「相手を射殺さんとするその目、その身に纏う殺意、素晴らしい。だが」

 

一度言葉を切る。更識の目は殺意はそのままに、続きを促していた。

 

「簪が泣いた原因が自分では無いと思っているなら、その考えは改めろ」

 

口調を自分本来のものに戻して、更識がはっきり認識出来るよう低く、ゆっくりと言った。更識の殺意に満ちたその表情が、揺らいだ。

 

「……何を」

 

「さぁ?それはお前が一番良く知ってるだろ?俺はただ、簪が抱え込んでいた物を吐き出させただけだ。じゃあな」

 

先程の殺意から一転、悔恨と言わんばかりの表情を浮かべ俯いた彼女を放置して、崇拝は教室に戻っていった。

 

 

 

 

その後、午後の授業も終わり、放課後。

崇継は簪と合流し、整備室へ向かっていた。ここで崇継は簪に昼に起こった出来事について話すことにした。

 

「簪。今日の昼、君のお姉さんに会ったよ」

 

「…」

 

歩みを止め、簪は俯いた。崇継も数歩歩いた所で止まり、簪の方へ振り返る。

 

「そ、それ、で…」

 

「あぁ、なんの事はない。君に何かしたらどうなるか、と言われただけさ」

 

簪は下げていた顔をバッと崇継に向けた。その顔は信じられないといった表情だった。崇継は苦笑いしてしまった。

 

「ハハッ……気分を悪くしたなら謝ろう。だが、一応君のお姉さんは君のことを気にかけているようだ」

 

 

Side 簪

お姉ちゃんが私を?あんな事言ったのに?ありえない。私はそう思った。おそらく顔に出ていたのだろう、崇継さんは私の顔をじっくり見て、言った。

 

「人は誰しも、秘密を持っている」

 

……?

 

「それが他人に言えるようなものであろうと無かろうとね。彼女にもそれはある筈だ。君が被害者なのは私もよく知っている。だが、だからこそ、君の方から歩み寄ろうとしなければならない」

 

…なんで、ですか?私は何も、していない!

 

「全くその通りだよ簪。でもね、だからだよ。君とお姉さんの喧嘩からもう3年たった。君も、あの時分からなかったことが分かるようになった筈だ」

 

………はい。お姉ちゃんにはお姉ちゃんのやるべき事が、ありました。でも、

 

「そうだ。あちらから謝るのが筋ってものだ。だから君が歩み寄るんだよ。君が逃げるから謝れない、という言い訳を潰しにかかれ。まずは話し合いからだ。それか、君が作ったものを見せつけるのも良いかもしれないね」

 

…!

 

「君は、お姉さんに証明したかったんだろう?なら、君が作ったもので戦って、一泡吹かせてみようじゃないか」

 

……分かりました、やります。お姉ちゃんに証明して見せる。

 

「うんうん、良い目だ。覚悟が見える。それじゃ、今日も始めようか」

 

はい!

 

 

 

Side 3人称

今日も打鉄弐式の作成を整備室で行った。あと少しだが、おそらくクラス代表対抗戦には間に合わないだろうというのが2人の見解だ。

 

「それじゃ、今日はここで終わりましょう」

 

簪が終わりを崇継に伝え、工具を片付け、整備室を出た。

2人は食堂で夕飯をとった後に部屋に戻った。いや、戻ろうとしたが、トラブルに巻き込まれた。

 

「だから、部屋は交換しないと言っているだろう!」

 

「あら、大丈夫よ?私、一夏の幼なじみだから。って訳で、さっさと変わってくんないかしら?」

 

トラブル、再び。

ファースト幼なじみ(篠ノ之箒)セカンド幼なじみ(凰鈴音)が一夏の部屋の前で言い争っていた。相変わらず一夏は尻もちをついたままだし、周りの部屋の生徒達は野次馬として見学している。ここに来た当初に一度織斑先生を呼んでしまっているため呼んでもいいか迷ってしまった崇継。その一瞬が命取りだった。

 

「あ!崇継さん!」

 

一気に周りがこちらに目を向けた。篠ノ之は不機嫌に、凰鈴音はゲッとなり、一夏は救われた〜と安堵していた。

だが、現在崇継の隣には簪がいる。彼女にとって織斑一夏は好ましい存在では無い。彼女も篠ノ之と同様、一気に不機嫌になった。

そんな事はつゆ知らない一夏。あっ、その人が崇継さんと同室の人ですか?なんて呑気に言いやがる。

 

「始めまして、俺、織斑一夏。よろしくな!君の名前は?」

 

「……」

 

一夏は2人から逃げるように簪に近づき、握手しようと簪に手を伸ばした。が、簪は手を伸ばさないばかりか一夏の言葉に反応すらしない。一夏は不審に思い、隣にいる崇継を見た。その目はクラス代表決定戦において、機体の調整の時に一夏に声をかけた時の目だった。朴念仁の一夏は珍しくこの目からなんとなく理解した。この人が、崇継さんが言っていた人だ、と。

だが、それに痺れを切らしたのは一夏の幼なじみ2人(篠ノ之箒と凰鈴音)だった。彼女達からしてみれば手を合わせたほうが良いから、では無く一夏が手を合わせたいと思っているというニュアンスで出された手であり、簪は不遜にもそれを無視しているのだ。これには流石にムッと来たのか声を出そうとするが、それより早くこの場を治められる人が来た。

 

「貴様ら、何をやっている。全員部屋へ戻れ!」

 

周りの生徒達は蜘蛛の子を散らすように部屋へ戻っていった。崇継ももちろん戻ろうとし、簪もそれについていこうとしたが織斑先生に止められ、凰鈴音が声を出した。

 

「ちょっと、アンタねぇ!一夏が握手しようとしてんのに、無視は無いでしょ!巫山戯てるの!?」

 

「凰。私は貴様に喋っていいとは言っていないぞ。口を慎め」

 

織斑先生はピシャっと言い放ち、次いで崇継に目を向けた。

 

「また貴様か。つくづくトラブルメーカーだな」

 

やれやれと言った感じただが、崇継も望んでトラブルに首を突っ込んでいる訳では無い。

 

「織斑先生、確かにトラブルに巻き込まれる回数が他より多いとはいえ、私がトラブルを作っているわけではありません。そもそもなぜ私が止められたのです?これは一夏くんと彼女達の問題の筈です」

 

崇継もそう言い放った。織斑先生は苦笑してそうか、すまないと謝罪してきた。流石に崇継もこれには強く出る事が出来ず、織斑先生の素顔を多少なりとも知っている3人は信じられないようなものを見た目だった。と言うより信じられないものを見たのだ、実際に。

 

「コイツ等は少し我が強すぎる。それにまだひよっ子だ。状況の説明に主観が入ってしまう。その点、貴様は事件に巻き込まれておらず、私よりも年上、社会を知っている。第三者として、証人として、最も信頼しやすいのだよ」

 

「なるほど。それはありがたいですね。願わくば私が証人として必要とされる事が起きないのを願うばかりです」

 

織斑先生はハハッと豪快に笑ったあと、事件を起こした3人の方へ向き直り、で?何があった?説明しろと崇継に問うた。

 

「そちらの3人に向いておきながら私に聞くのは意味不明ですが……そうですね、相変わらずの痴話喧嘩です」

 

「「ちょっ!」」

 

「黙れ。人の話を黙って聞けんのか、お前たちは」 

 

一応簪にも何があったか確認した。彼女も崇継と同じことを報告した。

が、“痴話喧嘩”。その一言で織斑先生はすべてを理解した。彼女は呆れ果て、凰鈴音に部屋を変えられるのは寮長だけであるから、さっさと戻れと言い、喜んでいる篠ノ之箒にも近く部屋替えがある事を伝えた。

 

「済まなかったな更識、斑鳩。部屋に戻っていいぞ」

 

「…はい」

 

「では、失礼します」

 

そうして2人は部屋に戻った。斑鳩は自室の扉を開けながら簪に話しかけた。

 

「全く、彼の周りはいつも騒がしいね。あれぞ高校生、って感じだ」

 

崇継は笑いながらだが、簪は呆れていた。

 

「うるさすぎです。もうちょっと静かにしてくれてもいいと思う」

 

先程の事件で不満が溜まったのか、珍しく言葉の節々に棘があった。まぁそうだね、と言いながら部屋へ一歩入った。だが、何かがおかしい。原因は直ぐに見つかった。

 

窓が、空いている………?

 

   ッ!」

 

()()()()()。誰かは分からない。だが確実に、いる。誰だ。この学園のセキュリティーは世界最高峰、の筈だ。そこらへんの人がポンポン入れるようなお粗末なセキュリティーでは決してない。なのに、誰かが、侵入している。侵入されたと、気づかれないままに。

 

(誰だ?なぜIS学園(此処)の、しかも男性操縦者(おれ)が暮らしている部屋に入ってきた?)

 

動かない崇継を不審に思った簪が部屋に入ろうとするのを右手で制し、自分より後ろに行くよう言う。

 

「……崇継さん?どうしたんですか?」

 

「……誰か、いる。下がってくれ。俺の背中に隠れてくれ」

 

「え…?」

 

崇継の尋常ならざる雰囲気を感じ取った簪は、大人しく崇継に従った。ちらっと見た崇継の目は見開かれていた。

崇継は部屋の電気をつけ、一歩ずつゆっくりと進んでいく。姿勢だけ見れば悠然としているだろうが、その実いつでも行動を起こせるし、緊張による圧倒的なプレッシャーがただよっている。

そして、そこには。

 

「ん?おやおや、やぁっと帰ってきたね!」

 

  ベッドの上に、その人物はいた。

 

「君とは一度会って話して見たかったんだ!」

 

青と白のフリルがふんだんにあしらわれた服を着て、頭には特徴的なウサ耳をつけている人物。

 

 

 

    篠ノ之束その人が、そこにはいた。

 

 

 

 




今更なんですけど話の前書きに前回のあらすじ書いたほうが良いですかね?


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19話

今回はちょっと矛盾というか同じ言葉の使いまわしが多くてダルいと思います。すいませんでした。アンケートは今週末までにしたいと思います。


「ほらほら、どうしたの?座りなよ。ずっと立ってるのって辛いんでしょ?」

 

ニコニコしながら、彼女(篠ノ之束)はそう言った。今彼女は窓側、崇継のベッドに腰掛けて、足をぷらぷらさせながらこちらを向いている。

 

(何故、彼女がここにいるんだ!)

 

崇継は心の中で叫んだ。無理も無いだろう。今崇継の目の前にいるのは、正真正銘この世界のすべてを掌握している人物だ。彼女の一存でこの世界のバランスはいとも容易く塗り替えられるだろう。そして何より。彼女は、ISを()()()()()為に作った人物だ。身内以外には興味すら示さない彼女が、最も憎んでいるだろう、ISを兵器として利用している者。それが今彼女に相対している自分、斑鳩崇継だ。

 

(なのに何故、彼女はこうも完璧に敵意を見せない?)

 

なのに、彼女からは何も、いや、何もというと語弊がある。正確には、敵意や悪意に準ずる負の感情。それを、彼女からは一切感じられなかった。彼女からすれば自らの感情を外に出さないようにする事などお茶の子さいさいだろう。だが崇継とて軍人だ。僅かな反応から相手の感情を読み取る事など造作も無い、筈だ。なのに彼女からは一切敵意、負の感情というものが感じられない。

 

(  厄介だ)

 

もうこれ以上崇継にできる事はない。相手の観察をし終えたが、得られたものは何も無い。彼女の機嫌を損ねても益はない。

 

(とりあえず、座ろう)

 

「簪、君のベッドに座っていいか?」

 

出来るなら今彼女の前に座りたくは無いが、彼女は簪のベッドを指さしながら座ったら?と言った。大人しくそこに座ることにするのが無難だった。

 

「ぇ、は、はい」

 

簪もまさかこんな所に彼女がいるとは思ってもいなかっただろう。少しどもってしまった。だが、返事は貰えたので斑鳩は簪のベッドに座った。ギシィとスプリングが縮む音がする。同じように簪も崇継の隣に座った。左と後ろは壁に、正面は天災(篠ノ之束)に、右は簪に(と言っても本人にそのつもりは無いし座る順番の都合だが)塞がれた。もう逃げ道は無い。

  有ったとしても逃れられないだろうが。

 

(覚悟を、決めるか)

 

崇継は1度深呼吸した。息を大きく吸って、大きく吐いた。そして、崇継が口を開こうとした、瞬間。

 

「あ、そんなに緊張しなくていーよ?まぁ束さん有名人だから緊張しちゃうのはわかるけどさ。ほら、緊張しすぎても良くないから。あっそうだ!じゃ緊張を和らげるために……」

 

開いた口が塞がらない。めっちゃ早口でまくし立てられた。

……確かに緊張は無くなった。が、今度は緊張とは別のものが出てきた。心労だ。これから彼女と話すのだろうが、その際の心労は今の比では無いだろう。こんな爆弾を織斑先生は抱え込んできたのか、小学生時代から。一体どれほどの心労に悩まされているのか、察するにあまりある。尊敬します、織斑先生。頭痛もします。今度リラックス出来るものを沢山持っていこう。崇継はそう心に決めた。

隣をちらっと見てみれば簪がドン引きしていた。天才と馬鹿は紙一重だが、誰だって天下の篠ノ之束がこんな変人だなんて思っちゃいない。とっつきにくさは無くなっただろうが、逆に賑やかすぎて話しかけられなくなってしまった。良い意味でも悪い意味でも、イメージが崩れてしまった。

 

(今日は色々な事があったなぁ。さっさと寝たかったのに……)

 

今日1日だけでもかなり精神面で疲れたというのに、最後の最後で究極に心労を与える存在が来た。とりあえず自分の世界に入ってしまっている彼女を呼び戻そう。

 

「……篠ノ之博士」

 

「で、だからね、結局は……あ、ごめん、長かったね!」

 

「いえ、そういう事では無く。緊張はほぐれました。ありがとうございます」

 

取り敢えず緊張をほぐす話を終わらせる。出来ればこのままお帰り願いたい所だが彼女が緊張をほぐす話をしに来たのではない事ぐらい誰だってわかる。

 

「ところで、失礼ですがわざわざそこの窓を開けてまでここに来た理由を聞いても?」

 

開口一番、崇継は本題に切り込んだ。そもそもお茶を濁す必要など無いのだから当然といえば当然なのだが、こんな空気に慣れていない簪は本当にやめて、もうちょっと話をするのを待って、と切に願った。もちろんそれが通じる筈もないのは本人が一番分かっている。

 

「ん〜?それはね、聞きたい?」

 

「えぇ。(出来れば早く終わらせて寝たいんだ)」

 

篠ノ之束は身体をクネクネよじらせながらうっとりした表情でいる。早く話してくれ。もう本当に。

 

「……そう。でも、目的はさっき言ったよ?聞いてたでしょ?」

 

崇継はこれまでの彼女との会話(?)を思い出す。

 

「…………あぁ、『一度会ってみたかった』って言ってたやつですか」

 

問いかけのイントネーションでは無い。最後はイントネーションは下降するものだ。

 

「そうそう。そんな時間経ってないのにさっき言った事を忘れてるゴミも沢山いるからさ〜。君はそうじゃないとは思ってたよ。期待通りで何より!」

 

何故、こんなに気に入られている雰囲気なんだ……

もはや崇継に相手を探ろうという思惑は一切無い。なのに、相手を探ろうとしている時の倍疲れている。自分はさっきの会話で言われた事をリピートしただけなのに何故こんな上機嫌なんだ…。そう、思っている。

そして、崇継は遂に考えるのをやめた。もう、疲れているんだ、彼は。だから彼は通常の彼なら言わないであろう、何より織斑千冬ぐらいしかこの世で言う人は居ないであろう一言を、言ってしまった。

 

「そうですか、何よりです。……それではそちらの窓から帰っていただいて」

 

「「!?」」

 

崇継以外の2人は驚いた。いや、片方は驚いた程度では済まされない、もはや顔面蒼白である。

 

(ち、ちょっと、崇継さん!え、ちょ、待って!目の前にいるのは篠ノ之束!あのISを開発した人なんだよ!?知ってるよね、ねぇ!)

 

何が悲しくて自分はこんな場所に居なければならないのか。もう帰りたい。

そしてもう一方はキラキラしている。

 

(やっぱり、君は面白いねぇ〜!)

 

「いや、もうちょっとお話しよう?束さん君に聞きたい事いっぱいあるんだ!」

 

「えぇ…」

 

「ほらほら良いから。目が死んでるよ?」

 

誰のせいだよ…とは口にしなかっただけ良かったかもしれない。もうすでに手遅れだが。

 

「分かりました。じゃどうぞ……」

 

いつもの崇継からは考えられない程雑に話を急かし、篠ノ之束は喜々として答えた。

 

「君、日本人じゃないでしょ!」

 

(…!)

 

いきなり核心をついてきた。だが、そこら辺の人間ならともかく彼女にはバレるだろう事ぐらい崇継にも予想出来る。だからこそ、今崇継は嘘をつかない事にした。

 

「えぇ、そうっすよ。流石ですね。まぁ別に隠してた訳じゃないんですけどね」

 

「え…?」

 

簪は話についていけない。

 

「なんで?君の立場なら、公表しておいた方が安全だよ?」

 

「ま、それはそうなんですけどねぇ。そうしちゃうと易々とデータ取れなくなっちゃうんですよ」

 

ここで簪は話に割り込んだ。

 

「さっきから、何を言ってるんですか?崇継さんの立場がどうとか、意味わかりません!」

 

本当の、というと語弊があるが身内判定外の者に対する篠ノ之束の態度を知らない簪は、タイミング悪く丁寧語で言うのを忘れてしまった。それに焦ったのは崇継の方だ。彼は原作知識(ちょっとしたズル)によってそれを知っている。今の簪がどんな態度を取られるか分かったもんじゃない。が、崇継が危惧した事は起こらなかった。彼女はニコニコしたままで答えた。

 

「そこにいる彼は、イギリス陸軍第44戦術機甲大隊・通称ツェルベルスの技術顧問だよ。君の倍、ISについて知っているし立場もかなり良い方だよ」

 

「え!」

 

簪はバッと崇継の方を見た。崇継は少し疲れた笑みを浮かべそういう事だ、と一言呟いた。

簪はここが限界だった。脳がオーバーフローを起こし、倒れた。少し焦ったが、脈やら何やらを確認し、自分が座っているベッドに寝かせた。制服のままだが、そこは勘弁してほしい。

 

「ハァ、で、それがどうかしました?」

 

「ううん、別に、気にしてないよ!君に聞きたかった本当のことはさ、」

 

此処で一度、言葉を切った。崇継は目線で続きを促す。彼女は真面目なトーンで

 

「何でISの事を調べたの?」

 

そう、彼女は問いかけた。

 

「何故、とは?」

 

崇継は意味が分からなかった。確かにISは有名だ。知らない人はそれこそいないだろう。だからといって、調べないかと言われればそうでもないはずだ。なのに何故、斑鳩崇継(自分)が調べた事に疑問を抱いているのか。

 

「君はさ、ISの武器を作っている。武器足り得る技術を作っている。私はISを兵器として扱う人は死ねば良いと思ってる」

 

「そうですか」

 

なら何故、俺にその話をする?

 

「でも、君はさ、ISの事を調べた。ISを兵器として見てるゴミ共の言うISでは無く、私が発表したISを」

 

そう、彼女は既に知っている。彼女は調べたのだ、斑鳩崇継という人物のすべてを。所属を見て、最初は殺意が湧いた。ISを兵器として見てる奴らの中でもトップに立っている存在だったから。だが、彼は初期に1つ、彼女が気になる事をしていた。彼は軍から提供された資料ではなく、束が発表した論文を見ていたのだ。そして何より、彼は、いや彼の所属する部隊(ツェルベルス)は、ISを裏で一切使用していない。彼女は驚いた。こんな人物が居たのかと。そしてさらに、調べれば調べるほど興味が出てきた。だから一度会ってみようと決めた。そして今、こうしてここにいるのだ。

 

「えぇ。ですが、それが何か?」

 

「君なら、私の真意を理解してる。そう思ったんだ」

 

彼女の論文を見た、それだけ。そう。()()()()()()()()()()。それだけの事が、彼女にとっては光だった。ゴミ共は、論文すらちゃんと見ようとはしなかったから。

 

「さぁ、どうでしょう。少なくとも私はISを戦いに用いていますがね」

 

殺されたいわけでは無い。だが、彼女ほどISを愛しているわけでも、兵器として見ていない訳でもない。自分ではそう思っている。だが、彼女はこちらを見て笑顔で、言った。

 

「でも、君はさ、ISにしか使えないものは一切使ってないよね?」

 

図星だ。

崇継は自らのISに、IS以外には搭載出来ない兵器の類のものを一切搭載していない。これには彼の将来的な目標もあるのだが、事実だ。現存ラプターが使用している武器は使おうと思えば生身の人間でも使えるものばかりだ。

 

「……やられた。確かに、その通りだ。ラプターが使う武器は、どれも人間が使えるもんだ。そして貴方の論文を見たのも認めよう。あの時、俺は"そもそもISとは何なのか"を知る必要があった。いえ、知りたかった。そして俺は理解した」

 

崇継は此処で一度切った。目の前にいる彼女は先程の笑顔を無くし、こちらをまっすぐ見ている。

 

「これは、翼だ。人を宇宙(そら)へ導き、人類の版図を広げる可能性そのものだ」

 

篠ノ之束の目は潤んでいた。彼女の理解者とも言えるべき存在が、増えた。織斑千冬(ちーちゃん)以外にも、ISをちゃんと見てくれる人がいたのだと。そしてそれを見つけることができた。

 

「だからこそ今の立場に就くことにした。そうすれば、かなりのデータが得られる。ISに替わるものを作れれば、ISは宇宙(そら)へ行ける。ただその為にはISを兵器として扱う必要がある。それでも今のラプターにISでしか運用出来ない兵装を積んでないのは俺のプライドだ」

 

「……うん、それが聞けて束さん嬉しいよ」

 

顔を下げて、彼女は言った。

 

「ちーちゃんですら、ISをそういうものとして言ってはくれなかった」

 

「そりゃそうでしょう。貴女は世界を知らなすぎた」

 

オブラートに包むことなどしない。厳しくとも、それが事実だから。それが分かっているから、彼女は何も返さない。

 

「……そう、ね。私はさ、どこで間違えたのかなぁ…?」

 

彼女の瞳は潤んでいる。何かに縋るような目で、彼女は崇継を見つめた。写ったのは、姿勢良く真っ直ぐこちらを見ている崇継だった。そして彼は、目を閉じて答えた。

 

「何が失敗で何が成功かは、すべてが終わった後に、我々で無い誰かが判断する事だ。俺たちに出来るのは、その場で自らが最善だと思った事をするだけ。これはアンタの妹にも言えることだがな、自分ができる事全部やって届かなかったら咽び泣こうが何しようが構わない。だが自分ができる事をせずに結果だけ見るような奴に泣く資格は無ぇ。だからよ、精一杯足掻け。それとも、こう言ってやろう。Achieve your mission with all your might(生ある限り最善を尽くせ)ってな。少々意訳は入るが、頑張れや」

 

「……ありがとう」

 

彼女は最後に、微笑んだ。

 

「おう。だが悪いな。お前の妹に手加減はしない。あれは少々驕りが過ぎる」

 

最後に、崇継は彼女に問題児(篠ノ之箒)について言った。

 

「箒ちゃんも、私の被害者なんだ。だから…」

 

「被害者だから何でもして良い訳じゃない。被害者だからこそ寄り添わなければならない。コイツの姉貴のようにな。妹に厳しくするのもソイツの為だぞ」

 

「……頼んだよ」

 

「駄目だったらアンタが慰めてやってくれ」

 

皮肉を込めてそう言った。そんなものが彼女に通じるとは思わないが。少なくとも篠ノ之箒を案じているのは本気だ。だが一気にその雰囲気は消し飛び、篠ノ之束はウキウキですと言わんばかりの笑顔だ。

 

「それじゃ、また会おうね!」

 

「おう。今度は“さん”つけろよウサ耳野郎。俺は年上だぞ」

 

「ま、そこはそれ!じゃあね〜!」

 

そう言って彼女は窓から飛び降りていった。彼女の事だ、海にラボを用意するかあのニンジンロケットぐらいはある筈だ。誰にもバレずに帰ることなど造作もない。

窓を閉めて、一言。

 

   ようやく寝れる」

 

 




言葉遣いが雑だったり一人称がコロコロ変わるのは彼が疲れているからです。また、この作品の束さんは白です。


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機体説明

今更ですが主人公の機体の設定を投稿しておきます。こうした方が良いんじゃないかとかここ間違ってるとかありましたら感想で教えて下さい


◇機体名

ラプター(F‐22aラプター)

 

◇外見

先行量産型(トータルイクリプスに登場)と全く同じ

 

◇機体色

濃紺

 

◇全高 3.5m

 

◇世代区分

第2世代機

(もしくは特殊兵装の判定によって第3世代機)

 

◇操縦者

斑鳩崇継

 

◇使用コア

No.100

 

◇兵装

・手持ち AMWS−21戦闘システム2丁

・膝部ナイフシース CIWS−2A(折りたたみナイフ)2本

・背部兵装担架 AMWS−21戦術システム2丁

 

拡張領域(パススロット)

・AMWS−21戦闘システム2丁(予備)

・AMWS−21支援突撃砲用ロングバレル2本

・18mm弾弾倉12個

・60mm弾弾倉6個

・インターセプター(ブルー・ティアーズのものと同じ)2本

跳躍(ジャンプ)ユニット1セット

(近接戦闘用のナイフはラプター専用のものを新たに作るかどうか意見が分かれたのでどちらも運用して今後に活かすデータ取りをする事になった。またAMWS−21戦術システムは予備の2丁も含めた全てにあらかじめ弾薬が満タンに充填されている上で予備弾倉も搭載している。また、跳躍(ジャンプ)ユニットが入っているのは予備。ラプターは機動力のほとんどを跳躍(ジャンプ)ユニットに頼っているため、破壊された時に迅速に対応出来るようにする為)

 

◇特殊兵装

跳躍(ジャンプ)ユニット

・試作ステルスユニット(アクティブステルス)

・試作JRSS(ジャルス)(統合補給支援機構)

 

◇運用思想

自分を含めた数的優位を作り出すのを前提として、多数の味方の支援を同時に行い、何が有ろうとも生きて戻る

 

◇設計思想

まずは斑鳩崇継というイギリスにとって2重の意味(男性操縦者という意味と技術顧問としての意味)で重要な存在を守る為にワンオフチューニングを施した超高性能機体を作る事を目的とし、運用する崇継本人の意向を取り入れた。

 

◇説明

万が一シールドエネルギーが尽きても物理的に守れるよう全身装甲(フルスキン)にし、通常のスラスターでは無く跳躍(ジャンプ)ユニットという新概念のスラスターを搭載。下手に新たな技術を取り入れても扱えなければ意味が無いのでステルス以外の特殊兵装は後付けで装備することにした為、ほぼ第2世代のようなものだがステルスを搭載しているので一応区分としては2.5世代か、準第3世代機になると思われる(ISの第3世代の定義が特殊兵器の搭載を目標とした世代の為、ステルスが特殊兵器か否かによってラプターの世代区分が変わる。但しもちろん崇継の専用機かつ超高性能機体を作ろうとして作った機体の為機動力などは第3世代をも上回る。また、跳躍(ジャンプ)ユニットも別の世界で有用であると証明されているため本人は特殊兵装はステルスだけと思っているが他の人からは跳躍(ジャンプ)ユニットもJRSS(ジャルス)とともに特殊兵装のカテゴリーに入れられている)。

JRSS(ジャルス)も、元のラプターの標準装備だったもの。特殊なアタッチメントを使用せずに電源と燃料の補給が行える画期的なシステム。こちらの(ISの)世界でも、大々的にではないがシールドエネルギー等の補給時間を減らすシステムの構築を行っていたが、どれも失敗に終わっていた。このシステムもステルスと一緒で外部に情報が漏れれば世界のバランスが傾いてしまう為、ラプターの情報の中でもこれとステルスの情報は他の情報よりセキュリティーの段階が跳ね上がっている。

ステルスに関しては、パッシブステルスとアクティブステルスがあり、ステルスユニットとして積んでいる(電子戦専用機搭載レベルのもの)。が、パッシブ・アクティブステルス共にISに対してはほとんど無用となってしまっている。原因としては、ISのハイパーセンサーは操縦者本人の視覚や聴覚を強化しているにすぎないから。その代わりIS以外の通常兵器にはちゃんとステルスが機能する。アクティブステルスは搭載したはいいものの、対して機能していない。そもそもラプターのアクティブステルスは相手の機体のバックドアを使用したハッキングによるデータの書き換えなので、ハッキングがほぼ不可能なISには正直通用しないと思われる。

ステルスユニットはISコアとのマッチングが最も早く終わり、相性が良いとされているのだが・・・?

 

◇その他機体説明

背部兵装担架やナイフシースに関しては原作通り。

脚部の制振機構やスタンドオフ砲撃特性等も原作と同じようにある。というかこの作品のラプターに関しては原作のをまんまISのサイズに合わせてちっちゃくしただけだと思ってくれれば良いです。

 

◇以下小説に載せなかったラプター作成時の色々

斑鳩が専用機を作るにあたり、要求したのは3つの仕様。

・この1機で多数の味方の支援を行えること

・次世代機、次世代技術開発のテストベッドたり得ること

・本人が生き残る為の機体であること

1つ目の仕様は元のラプターの運用思想に通じるものがあった。主力として敵を殲滅するのでは無く、G弾使用後の残敵掃討(後始末)として作られた、すなわち主力(G弾)の事実上の支援機として開発されたラプターは対人類戦闘能力も持ち合わせていた。スタンドオフ砲撃特性や高度火器管制能力などは味方の支援に必要なものであるなど、これらの機構はこちらの世界でも有用だった為クリア。

2つ目に関しては、本人の身長に合わせ従来のISより少し大型化したのと、全身装甲(フルスキン)にした事によるアタッチメントの増設した事により元のラプター以上の拡張性を有している。また、崇継と第44戦術機甲大隊(ツェルベルス)の技術もあり、マブラヴ原作の肩部ミサイルポッドのような形での機能の後付け、試験装備の運用、後付武装(イコライザ)として運用が可能になった為この要求もクリア。

3つ目は、本人が長く生きて2度目の人生を謳歌する為、イギリスに取って貴重な存在を失わない為のもの。こちらはISの世界ではラプターにのみ採用されている跳躍(ジャンプ)ユニット(というか第44戦術機甲大隊(ツェルベルス)以外が作ってもたいした性能が発揮できず、なら通常のスラスターの方が良いよねってなる)、更にそれに内蔵されている最新の高出力高効率エンジンにより他のIS以上の機動力と低燃費高速性を得た。また、これを搭載した副次効果として、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)には及ばないものの超音速巡航(スーパークルーズ)が可能になった(但し通常時は使用不可。機体本体及び衛士強化装備どちらかのリミッターが解除された時に可能になる)。また機体が超音速巡航(スーパークルーズ)に耐えられるようにする為に、フレームには特殊な機構は一切導入しておらず、ひたすら強度、柔軟性、整備性を追求されている(重要視された順に強度、整備性、柔軟性。ラプターの運用思想からして敵に接近することを殆ど度外視している。大体銃を打ちっぱなしで支援する為姿勢が変わらない。近接格闘用機体のようにグリングリン動かないので柔軟性より整備性の方が優先された。但し、ある程度の柔軟性もあり、ラプター自体が高性能を追い求めた機体なので原作通り高い近接戦闘能力も備えてはいる)。

一応近接戦闘用のナイフを装備してはいるがラプターで直接1対1で戦う事は想定されていない。必ず味方がいる状況を作り出し、それを支援するというのが前提として作成、運用される想定であるからだ。

最後に崇継は知っていたが、ラプターは機体の形状に(ほんの少しレーダーに映りにくいだけという程度のものだが)極簡易的なステルスを備えていることが判明した為、急遽ステルス技術のテストベッドとなり、試作アクティブジャマーを内蔵したステルスユニットを搭載、塗料は電磁波吸収剤を含んだ物を使用する事となった(一応ステルス技術のテストベッドと銘打ってはいるがISにステルスを搭載する事が出来てしまえば世界の軍事バランスが更にISに偏ってしまうため本人達はステルス技術は開発出来ない方が良いと思っている)。これによりラプターがラプター足り得る最後のピースが揃い、真にこの世界に(サイズは違い、ISになってしまっているが)戦術機のラプターが誕生した。因みに完成したラプターを見て崇継はものすごく感動した。

またISのバトルは基本1対1の為、1対1の戦闘を考慮していないのはおかしいのでは、という意見もあったが、男性操縦者が発見された時からの各国過激女権団体の動きを見せられ、必ず何か起こる予測がなされた際に1対1で戦う方が少ないだろうと予想された為、特に言及されなくなった(1対1を想定してはいないものの、総合的に高い部類の性能として纏まっていて、かつ操縦者すなわち崇継本人の戦闘能力も高いことがこれまでの従軍歴で分かっているので大丈夫だろうと判断された)。

 

◇リミッター

ラプターには他のISと同様に軍用のISを転用する際に設けられるリミッターと、もう1つ多くリミッターを設けている。

1段階目のリミッターが通常のISと同様に競技用途から軍事用途に転用する為のリミッターで、2段階目はアイヒベルガー中佐らの要望によるもの。

ただ、崇継本人としては本気を出さない、見せない為のカモフラージュぐらいにしか捉えていない。というのも、本人は織斑千冬、イルフリーデ・フォイルナーらこの世界でも上から数えたほうが早いメンツに勝っているので、そうそう負けないと思っているし、実際にそのぐらいの力がある。その為、本人と第44戦術機甲大隊が最も恐れているのは斑鳩が自らの力を発揮出来ないようにされる事。そうする為には相手が自らの力の底を知る必要があるが、そうさせない為にリミッターを設けて本気を出せないようにしている(最も、リミッターで出力を制限してもなお充分に戦えるだけの力はある)。

リミッターは機体本体と衛士強化装備(ISスーツ)に設置されている。どちらか1個までは本人の意志で解除出来るが、もう片方はツェルベルスまたはイギリス首相からの許可または機体がもう片方のリミッターを解除しないと不味いと判断した時のみ解除出来る。どちらのリミッターを解除しても効果は変わらない。

 

▶リミッターによる制限等

・リミッター未解除時 時速720Km

・リミッター1個解除 時速900Km

どちらも特殊兵装類(跳躍(ジャンプ)ユニットを除く)の使用不可。

・リミッター全解除時 マッハ1

特殊兵装類の使用解禁

 

◇その他

崇継は今後世界情勢をひっくり返すかイギリスの覇権を絶対にする為に男性でも使えるISもどきの作成を狙っている。その為、ラプターにはISコアが存在しなくても使える試作パワーアシストを装備している。また、推進剤があれば跳躍ユニットも使用できるようにしている。ラプターが拡張領域(パススロット)外にも武装を複数装備しているのはISの機能に頼らないものを作るため。




次回更新は未定ですが今月中には1話投稿する予定です。


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20話

9月中に出すって言ったのに出せなくてすいませんでした。


篠ノ之束との出会いから数日後

崇継は本音と簪の間の位置、アリーナの観客席に座っていた。この日はクラス代表対抗戦が行われる日だ。篠ノ之束との遭遇を乗り越え、簪に説明を保留してもらい、シスコン生徒会長からの視線に耐え、一夏からの弟子入り要望を却下し続け、気づけばはや数日。ようやくゆっくり出来る……はずが無かった。

如何に崇継の原作知識が曖昧とてこのぐらいはまだ覚えている。そう、IS学園への襲撃だ。ゴーレムだったか?が3体、未登録のコアを搭載していた。……どう見積もっても主犯はあの天災()だろう。止める術は有った筈だ。もう既に彼女とは知り合いなのだから、説得する事も出来ただろう。

だが崇継はそうする事を良しとはしなかった。これは誰にとってもメリットのある話だからだ。IS学園側はそのお粗末なセキュリティーを。一夏は自らの未熟さを。篠ノ之箒は自らの無力さと認識の甘さを。凰鈴音にとっては自らが正しい判断が出来るということを、一度の機会で確認できる。そんな千載一遇のチャンスを崇継が逃すはずもなかった。これでも一応崇継は一夏を大事にしている。死なせるつもりは毛頭無い。だが、それでもこれは“織斑一夏”の物語だ。斑鳩崇継に依存してはいけない。自分を守れるだけの力は身につけて欲しいが為に、崇継はこの判断を下した。そして今回崇継は観客側だ。大勢の生徒がパニックに陥るであろう事を予想し、AMWS−21の60mmの弾は音響弾も装備してある。あとは、その時を待つだけ。

 

「つぐつぐはどっちが勝つと思う〜?」

 

ふと、隣にいた本音が質問してきた。崇継は少し思案する素振りを見せ、5秒ほどで答えた。

 

「う〜ん、少し難しいな。どちらにも勝ち筋はあると思うよ。一夏君のは当たれば絶大なダメージだからね。でも、凰鈴音のIS、甲龍の武装、龍砲も強力だ。一夏君がどこまで対応出来るか、もしくは凰鈴音がどこまで対応させないかによって決まるかな」

 

本音はへぇ〜そうなんだ~と感心したようだが、反対に簪はジト目で崇継を見ている。その視線に気づいた崇継は苦笑いを浮かべた。

 

「どうしたの〜?かんちゃん」

 

「おや、一夏君を褒めたのが気に食わなかったかな?でも嘘をつくのは良くないからね」

 

本音は純粋に簪に問い、崇継はあえて的外れな事を言うことによって話を逸らそうとした。

 

「いや、崇継さんはどっちが勝つと思う?という質問に対して答えてない。崇継さんが言ったのを簡単にすると『どっちも勝つ可能性があるよ?』って言ってるのと同じ。ちゃんと答えて」

 

「なるほどね~。確かに、つぐつぐ質問に答えてないね〜。結局どっち〜?」

 

崇継は両手を挙げ降参の意を示し、ため息をついた。すると、タイミング良く試合のアナウンスがかかった。

 

『これより、クラス代表対抗戦を開始します』

 

アリーナのカタパルトから双方発進し、空で向き合う。崇継は少し気怠げな眼差しでそれを見ていた。一方の簪は親の仇を見るかのような目である。

 

『それでは、試合開始ッ!』

 

 

 

 

 

 

試合の展開は一方的だった。武装が剣1本だけの一夏に対し、手数も経験も勝る凰に利があるのは火を見るより明らかだった。だが、一夏も負けたとは言え専用機持ちの代表候補生に対しあと少しという所まで行ったという事実がある。

実際に、一夏は砂煙を利用し不可視の弾丸を避ける事に成功している。そして、それを見た凰が動きを止め、一夏に何かを語りかけた。今度は崇継は口の動きから何を言っているか調べる事はしなかった。しても意味が無いからだ。この試合はもうすぐおじゃんになる。

2人が会話を終え、動こうとした。その瞬間だった。

 

 

ドガァァァン!!

 

 

アリーナの外壁を突き破り、それは現れた。

IS、と形容するにはいささか異形という言葉に尽きる存在。機体色は深い灰色、手が異常に長い。首らしきものは視認できず、頭と肩が一体化しているように見える。人が乗っているかは崇継以外には分からないが、人が乗っているのか全身装甲(フルスキン)となっていた。

会場内の生徒は一瞬のうちにパニックに陥り、出入り口に群がっているが開かないのかそこで渋滞している。

崇継はと言えば座ったままで前のめりになって侵入者を観察している。両隣の簪と本音も最初のうちは驚いていたようだが、一切動じない崇継を見て頭が冷えたようだ。  最も、落ち着いただけで打開策は見つかっていないが。取り敢えず喫緊の課題として、2人はここから逃げ出さなければいけないことを理解した。

 

「た、崇継さん!何してるんですか!早く離れましょう!シールドバリアがあるとは言え、アリーナの外壁を突き破る威力の武装が有るはずです。ここも安心とは言えませんよ!?」

 

「そうだよつぐつぐ!早く逃げようって!」

 

「……あぁ、そうだね。あの機体の構造面白そうでね。分解して観察出来ないかなと」

 

技術者としてここは譲れないのかは分からないし、本当に純粋に興味を惹かれているのかも分からないが、実に楽しそうな笑みを浮かべている。こんな時に何で、と簪は思ったが口には出さなかった。

ふと階段を登る途中振り返ると一夏が無謀にも直線で突っ込んでいった。思うところが無い訳では無かったが今は逃げることが最優先だ。すると、崇継のISにコールがかかった。

 

「はいはい、斑鳩です」

 

『斑鳩か!今どこにいる!?』

 

どうやら呼び出したのは織斑先生のようだ。

 

「アリーナの観客席です。今出口に向かっていますが、開いてないので出れませんね」

 

『そうか、分かった。今整備部や生徒会のメンバーを集めて外部からアクセスしているが、セキュリティの突破に時間がかかる。加えてあの愚弟だ。何分持つか分からん』

 

自分の弟なのにそんなボロカス言う?確かに弱いけど。かんちゃん、そんな事言っちゃだめだよ〜。なんて会話があったが崇継は聞かなかった事にした。

 

「で、私がすべき事は生徒の沈静化ですかね」

 

『あぁ。出来れば内側から物理的に開けられるか試して欲しい。出来るか?』

 

「織斑先生、NOと答えさせるつもりの無い質問を出すのは止めてくださいよ。一応試してみます」

 

『ありがとう』

 

そうして通話は終了した。崇継はちょうど階段を登り終わり、溢れんばかりの生徒の外縁部についた。

 

「つぐつぐ、どうするの〜?これだけ人がいると話が通じないかもしれないよ〜?」

 

そう、今にもパニックに陥っている生徒もおり、かなり騒がしくなっていた。だが、崇継は質問に答えの実演をもって返答した。

 

バン!

 

銃声が響く。生徒達はパニックが1周回ったのか、逆に落ち着いたようだ。そして、生徒達が銃声の発信源を見ると、片腕のみISを展開し、銃を天に向けている男性がいた。自らに視線が集まったコトを悟ったのか、ISを解除し腕をおろした。誰も彼もがその一連の動きから目が話せない。すると、彼は生徒に向かって話し始めた。

 

「……君たちが日頃から使っているISというものは、あの様なものから人々を守る為にある」

 

アリーナの中心に体を向け、一夏と凰と戦っているものを指差す。

 

「そして君たちはこの様な状況になってしまった際、最も冷静でいなければならない。パニックに陥るなど論外。一目散に逃げようとするなど愚の骨頂」

 

皆が真剣に聞いていた。聞かざるをえなかった。聞かないという選択肢は無かった。実際に今、自らは取るべき行動を間違えたと理解したから。冷静になってしまったから。

 

「君たちに求められているのは操縦者としての能力もそうだが、常に冷静でいられるその心だ。だが今恥じることは無い」

 

一度崇継は言葉を切り、生徒達に向き直した。

 

「君たちには時間がある。心を鍛えるチャンスはまだあるという事だ。真に恥じるべきは、今の出来事から学習しない事だ。学びは常に自らの近くに潜んでいる。これからの学園生活で何を得るかは君たち次第だ。今日この場所で起こった事、君たちの行動。脳裏に焼き付けると良い。こういう経験が君たちの糧となっていく」

 

そう言って崇継は出口に向かいながら織斑先生に回線を繋いだ。モーセの海割のように人だかりが開いていく。

 

『なんだ』

 

「取り敢えず生徒は沈静化しました。これからドアを開けられるか調べます」

 

言うが早いか崇拝はラプターを展開しドアをノックした。その音を聞いて、崇継はこう言った。

 

「これ多分いけますね。ドア破壊しても大丈夫ですか?」

 

『壊せるのか!?』

 

織斑先生は流石に壊せるとまでは思っていなかったのか心底驚いた様子だ。

 

「ええ、音紋を調べて大体の構造は把握しました。固定具を破壊した後ドアは蹴り飛ばします。危ないのでドア付近から人を退避させて下さい」

 

『分かった』

 

崇継は両手のAMWS−21の60mm弾を先程の音響弾からモジュールごと変更した。

 

『斑鳩、ドア付近の生徒の退避が完了した。やってくれ』

 

「了解」

 

先程崇継がドアに近寄った際に人はドアから離れているし、銃を構えた崇継に近づく馬鹿もいないので警告する必要は無い。

そして、崇継は銃を4度、ドアの四隅に打ち込んだ。着弾してすぐに、爆破されたのか煙と音が発せられた。崇継はAMWS−21を投げ捨てると回し蹴りの要領で足を押し出すようにする。金属がへこむ音とともに凄い速度で扉は飛んでいった。

周りの生徒達があ然としている中、崇継はISを解除し背中を向けたまま言った。

 

「冷静に、かつ迅速。何より安全を重視して出ろ」

 

そして、生徒達は言われた通りに出ていく。簪と本音を見送って、崇継はアリーナのIS用の出入り口に向かっていった。




未だにIS学園の設備の全貌と配置が分かりません。今更ながら作者はにわかです。


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21話

お待ち下さった方々、どうもありがとうございます


アリーナ中央では鈴と一夏が正体不明の機体を相手していた。試合で戦っていた2人であったが、それが乱入してきたので中断となった。織斑先生から通信が来てそれが敵だと分かってから2人はそれと戦っていたが、これといった決定打は与えられずジワジワとSEを削られていった。そもそも武装がSEを消費する一夏の白式は試合の分も合わせて既に半分を切っており、鈴の甲龍も7割を切っている。SEの残量も不安要素ではあるが、2人共ジワジワと削られ、決定打を与えられていない事が何より彼らの精神を削っていた。

今この瞬間も一夏は敵機に斬りかかり、鈴は龍砲で攻撃するが前者は当たらず、後者は当たってはいるが、そこまでダメージを受けたわけではない様だ。

 

「くそっ!当たらねえ!」

 

「一夏、落ち着きなさい!無闇に突っ込んでも意味ないわ!」

 

突撃しようとした一夏を鈴が止めたが、鈴も焦っている。

 

(コイツら、一体何なのよ!)

 

「こんな時に崇継さんが居てくれれば…」

 

一夏はこの場にいない、彼が姉以外で最も頼れる人の名前を無意識に口にするが、鈴にはそれが気に入らなかった。いや、気に入らなかったは正しくない。正しくは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から。彼女は崇継が戦っているところを見たことがない。クラス代表決定戦の映像は見たが、彼女からしてみれば避け続ける事に意味は無い。敵は撃破するべきだと思っているからだ。だから、彼女は敵を攻撃しようとしない様な彼が自らの背中を預けるに足る人物なのかわからなかった。だから、一夏に強く言ってしまう。

 

「こんな時に何言ってんのよ!ここに居ないやつの事を考えても意味無いでしょ!」

 

だがそして、その一言が彼女の命取りになる。

 

「鈴!」

 

「え?」

 

彼女の後ろに1機、それが迫っていた。それは鈴に対し、その腕を振り下ろそうとしていた。否、それは既に腕を振り下ろしていた。当然、鈴は動けない。一夏も間に合わない。彼の機体のスペックなら、本気になればギリギリ間に合う。だが彼はこの機体に乗り始めて、そもそもISに初めて触れてからそう長くない。機体のスペックを十全に引き出せないのは自明だった。彼女の目の前に迫った死が彼女を動けなくさせていた。死の間際にいる彼女が出来た事は、腕を前に出して少しでも衝撃をやわらげようとする事。そして、死の恐怖から目を瞑る事だった。

彼女に死が訪れるその瞬間、そこに割り込む影があった。

 

「そう、ここに居ない奴の事なんて考えても無駄なのさ。だからこそ、考えたその一瞬が命取りになる」

 

恐れていた衝撃が来ないこと、何よりここに居るはずの無いものの声がしたと理解した彼女が目を開けると、そこには両手で相手の腕を防ぐ黒い機体がいた。

 

「アンタ……なんで……」

 

鈴が呆然とつぶやくと、斑鳩は敵機の腕を弾き蹴りとばし答えた

 

「なんだ、助けて欲しく無かったのかい?でも流石に目の前で死にかけてる人を助けない程私は薄情じゃないんだ。自殺はよそでやってくれるかな」

 

顔は見えないが、声からすると呆れているのが分かった。

 

「崇継さん!」

 

自分を心配していた一夏も鈴が助かった事と斑鳩が駆けつけたことに安堵している。

 

「余所見するなよ一夏くん。味方が来たからといって緊張をといてはいけない。先程の彼女の様になるぞ」

 

「っうっさいわね!」

 

皮肉げにそう言う崇継とそれに噛みつく鈴。言葉遣いは乱暴だが自然と棘は感じず意外に仲の良さを感じた一夏。

 

「ハハ、そんなに元気なら大丈夫そうだ。っと!」

 

3人が仲良くしている間も敵は動いていた。そのうちの1機が腕を斑鳩に向けていたので120mm弾で腕をずらし、動かないまま避ける。

それを合図に一夏と鈴も各々の武器を持ってかかっていく。先程の反省をしたのか、2人で1機を相手にしている。幼なじみ故か、2人のコンビネーションは抜群だ。一夏は斑鳩の参戦、鈴は一夏との共闘により士気が上がり先程までとはうってかわって2人が押し始めていた。

一方の斑鳩は2人が1機を抑えている間に2機を相手にしていた。斑鳩の戦術により、2機は一夏達を相手にしたいが斑鳩の事を無視できず、かと言って2機でゴリ押ししようとしても斑鳩を仕留めきれない。しかし一夏達も相手が有人機だと思っているので最後の一撃を叩き込めない。だが、一夏達と斑鳩に押されている3機に焦りの色は見えない。すると、3人に向けて回線が開かれた。

 

『お前たち、聞こえるか!』

 

管制室にいる、織斑先生からだった。

 

『聞こえるよ千冬姉!どうしたんだ!?』

 

『その機体は無人機だ!手加減をする必要は無い!』

 

「ようやくですか、もう少し早くしてほしかったですよ」

 

斑鳩は皮肉げにそう言った。

 

『それについては済まない。現在教員達も生徒達の誘導に手一杯でそちらへは向かえない。他の専用機持ち達も間に合うかわからん。出来れば倒してくれ』

 

織斑先生は申し訳無さそうに言った。

 

「まぁ良いです、取り敢えず間に合いましたから。それじゃ一夏君、鈴音、そちらの機体は任せた」

 

『おう!』

 

『ふん、アンタこそ、やられるんじゃないわよ!』

 

通信が終わると斑鳩は会話しながらも抑えていた2機に改めて相対し深く息を吐いた。

 

「さ、始めようか。今までの余興じゃ、不完全燃焼だろう?」

 

言うが早いか両手の突撃砲を相手の頭部に向け、120mm弾を打った。相手も避けようと対応するが、次の瞬間弾が爆発した。斑鳩が打ったのは焼夷弾と呼ばれる類の弾であり、斑鳩の意思で自由に爆発させられるようにしてあった。

物理的に斑鳩の視認が不可能になった2機はセンサーで観測しようとしたが、センサーで斑鳩の機体(ラプター)のマーカーを認識した瞬間にマーカーが消えた。

 

「チェックメイトだ」

 

最後に機体が認識した音声はそれだった。

 

この時斑鳩は焼夷弾を打ち、爆破させた瞬間に爆炎で見えない事を利用して2機の間に跳躍ユニットを使い踏み込んで、両手に持っていた突撃砲の粘着榴弾*1で頭部のセンサーを破壊、SEを削りきった。

機体も搭載しているAIでできる限りの事はしようとしたようだが、この時は斑鳩が上手だった。

背中の方に目を向ければ、一夏と鈴がさっきよりも巧みな連携で無人機を相手していた。段々と削れてきたようで、どちらの表情にも翳りは無い。このまま順調に行ってほしいと切に願う斑鳩だったが、そうは問屋が卸さない。

 

 

『何をしている!2人がかりで相手するなど、それでも男か!』

 

 

「「!?」」

 

突如アリーナに放送がかかったかと思えば、有名なイベントの発生だ。かかるはずの無い放送、居ないはずの者の声に、一夏は動揺し、鈴も驚いてしまった。二人の連携から抜け出せなかった敵機もここぞとばかりに二人から距離を取り、そのまま両手を合わせ……

 

「ッ、箒ぃぃぃッ!!」

 

『!?』

 

これから何が起こるのか、考えなくても分かる死の予感が二人を襲う。

一夏は動けない。彼の機体性能を十分に引き出す事ができれば可能性はあるかも知れないが、先程と同様に彼はまだ不可解だった。

鈴は先程と違い、咄嗟に動くことが出来た。だが、()()()()()()()()()()()()が必ずしも()()()()()()()()()()()()()という事では無い。敵機が取った距離のせいで彼女の武装は全て射程が足りなかった。

一方斑鳩、

 

(ッ、あいつ、やっぱりか!だが一夏は間に合わん、鈴もだ。……やるしかないかッ!俺を守ってくれよ、F-22A(ラプター)!)

 

彼はその一部始終を第三者として見ている事が出来た。だからこそ、自分が守らなければならない事は理解出来た。あのレーザーを受けて篠ノ之箒が死ぬかは分からないし、篠ノ之束がそんな事させないとは思っているがいかんせん原作知識も曖昧だ。何があるか分からない。

そしてこの状況で何よりまずいのは斑鳩が敵機の発射するレーザーを止める手段が無いという事。一夏の様にレーザーを切れる武装は持っていないし、一夏達が削ったとはいえ未だ敵機のSEもある程度残っている。120mm弾をある程度当てれば削りきれない事も無いがそんな余裕は無い。

だからこそ、斑鳩は自分を盾にする決意をした。

敵機の腕の延長線上に全力で向かい、立ちはだかった。

 

「「「!!」」」

 

そして機械はどこまでも冷徹に、その腕から光条を打ち出した。

 

斑鳩は腕を開き、体を大の字にしてなるべく後ろにレーザーを通さないようにした。だがそれはそのまま斑鳩がその分のダメージをそのまま受けるという事だ。

 

「ぐ、が、アァァァァァッッッッ!」

 

数秒は装甲が耐えてくれたが、直ぐにそれも無くなり、血液が沸騰するような熱さが斑鳩を襲う。

 

「アァァァァァッッッッッ!、      

 

そして斑鳩は意識を失い、真っ黒の中へ落ちていった

 

 

 

*1
弾着時に爆発せず、当たった標的の内部を攻撃する弾




今後も不定期になると思いますが、よろしくおねがいします


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22話

「う〜ん、何にもねぇなぁ」

 

周囲を探索してみたものの、どんよりした曇りの空と、透き通っているがゆえに曇りの空を映す海、砂浜と限りなく続く緑の草原だけだった。

 

「流石に流されたって事は無いと思うんだけどな〜」

 

   話は数分前に戻る。

 

「……?」

 

斑鳩が目を覚ますとそこには曇りの空。ここはどこだろうと周りを見る為首を回すとどうやら自分が砂浜に寝転がっているという事が分かった。ひとまずうつ伏せになってから立ち上がり、いつの間にか着ていたIS学園の制服から砂を払うと再び周りを見渡した。取り敢えず目前に脅威が無いと悟ると、今度は状況の整理をし始めた。

IS学園を襲撃した正体不明の機体。それを斑鳩は一夏と鈴と協力し撃破しようとしていた。もちろん自分が対応した機体についてはどちらも沈黙したのを確認した。だが自分が担当していない方、一夏と鈴が対応していた機体については注意していなかった。いや、そもそも一夏と鈴ならあのまま倒せていた筈だった。第三者が介入しなければ。

 

「……篠ノ之箒」

 

彼女が一夏達の戦闘に水を差す様な真似をしなければ自分も身を挺して庇う事も無かった、と少しイライラするも起こってしまった事は仕方ないと直ぐに冷静になる。それに、篠ノ之束とも彼女について話はした。おそらく彼女が次に関わるイベントは、………

 

「第四世代機の譲渡。ッは、忌々しい。未だ多くの国が制式第三世代機の確定、運用すら出来ていない。第三世代機用技術の確立もままならない国すらあると言うのにな」

 

タイムリミットはそこだ。それまでに彼女が変わろうとすれば良い。だが、もし第四世代機を手に入れて調子に乗ったならアウトだ。

 

「俺は一応大人だ。子供を正しく育て導く義務がある」

 

如何に斑鳩が暗躍を得意とし、軍人として切り捨てるものは切り捨てられる人間だろうと、彼にも人としての心はある。何より、世界の闇の部分を見てきたからこそ、それを無くす事の出来る次世代の人間の必要性を痛感していた。

ただそれでも限度はある。篠ノ之箒のように自分の都合の悪い事は認めないなどという子供じみた、いや、子供そのものの考え方をする人間ははっきり言って必要ない。

 

現状の整理を終えた所で、斑鳩は再び辺りを見渡した。依然として変化は無く(それほど急激な変化があっても困るが)、ため息をついた。その瞬間突如背後に気配が現れた為、振り返りつつ一歩下がるもそこには何も無かった。

 

「……!?何だ?」

 

「そろそろ、よろしいでしょうか」

 

「!」

 

気配が消えた事に驚いていると、再び背後に気配が現れ、今度は声をかけてきた。攻撃の意思は感じられないのでゆっくり振り返った。

 

「!     崇宰、恭子?」

 

そこに居たのはこの世界には存在しないはずの人間。マブラヴオルタネイティヴ原作には登場しない人間。五摂家が一つ、崇宰家。その当主、崇宰恭子がそこに居た。だが何故?そんな事を考える前に相手は話し始めた。

 

「崇宰恭子?……あぁ、こちらでお会いになるのは初めてでしたね、マスター。私は貴方がラプターに使用しているISコア、コアNo.100です」

 

そう名乗り、彼女は両手を前で重ねてうやうやしく一礼した。取り敢えずそれを見て混乱が一周回り冷静になった。彼女以外に情報源が無い為彼女を頼ることにした。

 

「あっ、あぁ、よろしく。……早速で悪いんだが、質問いいか?」

 

「もちろんです」

 

「ここ、どこ?」

 

斑鳩は率直に疑問をぶつける事にした。

 

「ここはマスター、貴方の心の世界です。マスターが死にかけた事で(コア)の絶対防御が発動。出力が高く、またマスターの適正ランクが高かった事もあり私と共鳴し、こちらでマスターが目を覚ます事となりました」

 

「へぇ〜。死にかけたとか割と洒落にならんこと言ってるけど、ま、大丈夫だろ」

 

「フフ、そうですねマスター。……ところで、私が貴方をここに呼んだのですけれど」

 

彼女は手を口に当てて上品に笑い、その手を降ろすと目を閉じ有無を言わせぬ迫力を纏いこう言った。

 

「マスター。私に名前をつけていただけませんか」

 

だがその口から出た言葉は予想だにしない内容だった為斑鳩はフリーズしてしまう。

その様子を見て拒絶されたと思ったのか不安な表情になった。

 

「嫌、でしたか?」

 

フリーズから回復した斑鳩はその顔を見てアワアワしながら安心させる為に答える。

 

「い、いやいや、嫌な訳じゃ無いよ。ただびっくりして」

 

すると彼女はパァッと花が咲いたような笑顔になった。斑鳩の周りにも美人はいて慣れているがそれでも見惚れてしまうような笑顔だった

 

「そうでしたか。そ、それでは早速……」

 

「うん、そうだな……」

 

(恭子とかじゃ呼びづらいからなぁ。どうしよう。1(イチ)

0(ゼロ)0(ゼロ)。ゼロは日本語で零……安直だけどレイにしよう)

 

「よし。それじゃお前の名前は今から“レイ”だ。よろしくな、レイ」

 

「はい!よろしくおねがいしますね、マスター」

 

レイの嬉しそうな笑顔に斑鳩も微笑ましく感じた直後、斑鳩は凄まじい風に見舞われる。

 

「ッ!何だ!?」

 

目を開けていられない風の中で、どこからかレイの声が聞こえる。

 

「時間のようです、マスター。そろそろお目覚めにならないと、あの子達も心配してしまいますから。……また直ぐに会えます」

 

「っ、あぁ、わかった!ありがとよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

    っは、ここは、……そうか、今度は流石に病室か」

 

斑鳩が再び目を覚ますと今度はちゃんとベッドに寝ており周りをカーテンで囲まれていた。ひとまずここがIS学園の保健室である事を備品から確かめる。腕も足も動かせない事は無いだろうが、流石に動かすと激痛が走るであろう事は火を見るより明らかなので動かさなかった。手の感覚から察するにおそらく包帯ぐるぐる巻きにされているのだろう。

先程までの事を思い出すとあれが本当だったのか怪しいところだが、それは再びラプターを纏えば分かることだ。

すると今更になって左手の方から規則的に深呼吸する音が聞こえる。誰だろう。

 

「あぁ、簪か」

 

特徴的なバイザー、眼鏡、青い髪とくれば当てはまる人間は1人しかいない。大方心配で見に来て、緊張の糸が切れたのだろう。スヤスヤととても気持ち良さそうに寝ている。起こすか迷ったが邪魔では無いので起こさないことにした。しばらくは彼女を見て癒やされようと思い、久しぶりにリラックスする時間が取れた斑鳩だが、次の瞬間視界が塞がれた。

 

「ッ!誰d」

 

「し〜っ。あまり騒がない。その子起きちゃうよ?」

 

人の気配を感じなかったところから急に視界が塞がれ焦るも、次に聞こえてきたゆったりとしつつも聞き覚えのある声で緊張が解けた。

 

「ハァ…焦らせないでくれ。今は動けないんだ。何かがあると不味いんだよ」

 

非難するように言う斑鳩だが、おそらく効果は無いだろうなと薄々感じている。

 

「大丈夫だよ。束さんがついてる。ちゃんと君の傷も治したし、君に害意を持つやつは処理するもん」

 

静かに、諭すように彼女は言った。内容はともかくとして、それは、斑鳩が知らない、慈愛に満ちている声だった。だが同時に、裏に苛烈な何かが隠されている声でもあった。それを感じとったが故に斑鳩は彼女に問うた。

 

「………何かあったのか?俺が知ってるお前は、そうだな……唯我独尊と言った感じの振る舞いをするお前だ。簪を起こさないように注意するなどといった“配慮”なんてものは微塵も見られなかったと報告書で見た。そういうところも今のお前とは似ても似つかない」

 

ゆっくりと静かに、だが確実に聞きたいことを聞き出す為の質問だった。斑鳩からは見えないが、彼女は困ったような嬉しいような複雑な表情をしていた。が、一度ゆっくりと目を閉じ、答えた。

 

「……やっぱり、君は何でも分かっちゃうんだね。束さん、こんなに自分の事見抜かれたの初めてだよ」

 

「俺は何でも分かるわけじゃない。お前の事も、悩みらしきものがあるのか無いのか怪しいぐらいまでしか分からん。この程度なら織斑先生でも出来る」

 

「……それでもちーちゃんはそこまで踏み込んで来ないよ。ちーちゃん以外の人は私の事なんて微塵も理解してないしね」

 

静かな部屋に染み渡る様に、彼らの会話はそれぞれの内側へ染み込んでいった。しばらくの間、静寂が部屋を包む。どちらも話そうとはしないが、その静寂が2人にとって心地良かった。

 

何分経ったか分からなくなってきた頃、束が口を開いた。

 

「私はさ、箒ちゃんがああするって事ぐらい、予想がついてたんだ。それも織り込んで計画を立てたつもりだった。それが、いっくんと箒ちゃんの為になると思ったから。……でも、その時になってみて、本当に怖くなった。あの時の束さんは凄く怯えて、自分がちょちょいっと操作すれば良いだけの話なのに何も出来なかった。………本当に……怖かったんだ……!」

 

泣きながら彼女はそう言った。彼女の目的は初めて知ったが、何よりも彼女にもちゃんと家族を思いやる心がある事に安堵した。如何に人をゴミの様に扱えると言っても人は人だ。まともな人間でなくなる最後のラインを、彼女はまだ越えてはいなかった。それは正しい事なのだと、斑鳩は思う。

 

「……だから、ありがとう。箒ちゃんを助けてくれて。……本当に、ありがとう……!」

 

未だ正面を向き続けている斑鳩だったが、振り返らずとも彼女が本気で、誠心誠意感謝しているのだと感じる。おそらく頭も下げているだろう。

 

「……俺が、彼女を守ったのは、あそこに居たのが篠ノ之箒だからじゃ無い。もちろん誰があそこに居ようとも俺は同じ事をしただろう。俺は大人なんだよ。次世代を守り育てる義務がある」

 

「……君らしいね。自分の事だけじゃ無く周りの事、色んな事に目を向けてる。束さん、そんな事出来ないよ」

 

彼女は呆れたように言った。

 

「でも、だから“あの子”は君の事を気に入ったのかな。今ならその気持ちも分かる」

 

「あの子?一体誰の事だ?」

 

斑鳩は率直に疑問をぶつけるも、束はフフッと笑った。

 

「全く君は自分の事は鈍感だねぇ。ま、それはそれで面白いから良いけどね。()()頑張りなよ。そこにいる彼にもう用事は無いからね。それじゃ」

 

そう言って斑鳩の横を通った束はカーテンの奥へ行った。音から察するに窓を開けたのだろう。

 

「また会おうね!ばいば〜い!」

 

そうして凪いだ嵐は去っていった。さて、次の用事は。

 

「……起きているんだろう、簪」

 

自分を涙目、ふくれっ面で見てくる彼女をどうにかしなければ。

 

 

 

 

 

 

 



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23話(閑話1)

今回は少し長いです。やっぱ心理描写って難しいですね。


Side 篠ノ之箒

私は、あの男、斑鳩崇継が気に入らない。

初めてあの男と会ったのはここ、IS学園に入学したその日だ。私は一夏と高校生活を送ることが出来ると知り、嬉しかった。数年ぶりの再会だ。どんな顔をしてくれるだろうか。どんなに逞しくなっているだろうか。そんな希望とともに、教室へ入った。

一夏は緊張していたのか自己紹介が少々雑に、というかかなり酷いものになってしまったが、変わっていない。私が最後に会ったあの時から変わってはいなかった。千冬さんに出席簿で叩かれて痛そうにしていたが、千冬さんも相変わらずだ。弟には厳しく甘いのも変わっていないのだろう。自然と笑みが溢れる。そして、その時だった。あの男と会ったのは。千冬さんに促され教室に入ってきたあの男に、教室の全員  私と一夏も含め  あ然としていた。なにせ2人目、だ。確かにそれらしきニュースはやっていたような気がするが一夏の事で頭がいっぱいだったせいで気にしていなかった。

背はかなり高く、細め。常に笑みを浮かべ得体のしれない男。それが私があの男に抱いた印象だ。

 

「初めまして。今日から皆さんと一緒にここで勉強する事になった斑鳩崇継です。年齢は27歳、身長は182cmです。好きなことは機械いじり、嫌いな事は特にありません。よろしくお願いします」

 

すらすらと自己紹介をし終えると、クラスは悲鳴(?)に満ち溢れた。私は咄嗟に耳を塞いだおかげで被害を免れたが、一夏はもろに食らったようだ。

あの男は山田先生に促され教室の後ろ、一番廊下側の席に座った。その後も色々とあったが、私が自己紹介をすると、私があの人の妹である事がバレてしまった。あの人の妹である事が羨ましいだと!?家族をバラバラにしたあの人が、私は嫌いだ!

少しイライラして声を張り上げてしまったが、その後は概ね順調に進み、HRが終わり、最初の授業が終わる。クラスの者達は一夏に話しかけたいがお互いに牽制しあっていること、緊張してしまう事により動けていない。フフン、残念だったな。私には“久しぶりに会った幼なじみ”という立場がある。そして話しかけようと席をたった瞬間に、一夏が動いた。私に気づいたのか!?そう思い歓喜に浸っていると一夏は私とは逆の方向、あの得体のしれない男のもとへ行ったのだ。何故!?何故、私では無くあの男に話しかけるのだ!……いや、落ち着け私。別にどうということは無い。一夏は優しいから同じ男のもとに行ったのだろう。それに、未だ私の有利は変わらない。周りの女子達はなんだか

 

「いいわ…腐を感じるわ…ジュル…」

 

とか何とか言っているが、問題は無い。私は努めて冷静に話かけた。

 

「済まない、一夏を借りても良いだろうか?」

 

「一夏君が良いなら良いよ。本人の意思は大事だからね」 

 

「おっ、いいぜ!」

 

一夏は変わらない笑顔で私に応えてくれた。だが教室では流石に気まずいので屋上に行くことにした。

 

「久しぶりだな箒。元気にしてたか?」

 

「あぁ。一夏こそ、元気そうで何よりだ」

 

他愛もない会話でも一夏とならとても楽しく感じる。話が盛り上がってしまって授業に遅れてしまったが私の気持ちを汲んでくれたのか千冬さんは私を叩くことはしないでくれた。

山田先生の授業はとても分かりやすかったが、一夏はそもそも参考書を捨ててしまい何も勉強していなかったらしい。流石にそれはどうかと思うが、致し方無い。言ってくれれば私が教えてやるのに…。

続く千冬さんの授業ではクラス代表を決める事になった。案の定、票は男性2人に集まった。だがどう見ても相応しいのは一夏だろう。あんな得体のしれない男に任せるなどありえん。そう思っていると、急にイギリスの国家代表候補生、セシリア・オルコットが異議を申し立て、あろうことか一夏を貶したのだ。先の休み時間も奴は一夏を馬鹿にしていたな。あの男はなんか適当にあしらっていた。流石にクラスの皆もオルコットの差別発言には凍っていた。すると一夏が言い返しはじめた。良いぞ一夏!……と思っていたら一夏はあの男を頼った。何故あの男を頼るのだ!するとあの男は腕を組んで言った。

 

「……君たちは自分が背負っているものの重さを、正しく理解しているか?」

 

「?」

 

「何言ってるんですの?」

 

一夏もオルコットも何を言ってるのか分からないと言った様子だ。あの男は腕を組んで座ったまま話を続けた。

 

「セシリア・オルコット。君はイギリス国家代表候補生だ。一夏君。君は、世界で1人目の男性操縦者で日本人だ。それぞれの発言は国家の意志もしくは男性の総意として受け取られかねない。君たちの発言1つが国家間の問題になりかねないんだ。それを考えて君たちは発言したか?」

 

あの男は2人の今回の悪い点を示した。流石にそれが理解出来ないわけではない2人は、黙るしか無かった。するとあの男は胸ポケットから細長い何かを取り出した。なんだ?あれは…ボイスレコーダー!?何故あんなものを!そう思っているとあの男はグーを作りおもむろに手を上げ一息に振り下ろした。バキッという鈍い音とともにそれは既にバラバラになっていた。おそらくあれは復元出来ないだろう。再びあの男は口を開いた。

 

「まぁ若いうちに出来ることはしておいた方が良いから、よく考えてからふざけなさい。人生のうち学生でいられる時間は短いからね。・・・という訳で、織斑先生」

 

今度は千冬さんの方を向き、 

 

「なんだ」

 

「クラス代表を決めるのはISを用いて、勝った者が決めればよいかと」

 

と提案した。千冬さんもそうしようと考えていたのか 

 

「なるほどな。それで良いだろう」

 

秒もかからずに決定となった。ここであの男は信じられない発言をした。 

 

「そうですか。では、私は今ここで棄権しますので」

 

目を閉じそう言った。流石に千冬さんも見逃す訳にはいかないのか 

 

「貴様、話を聞いていなかったのか?貴様は他薦されているのだ。否が応でも出なければならんぞ」

 

呆れながら返答したが、言い訳は既に考えてあったのだろう。冷静に返した。

 

「そもそも、高校のクラス代表に何故私のような大人がならなければいけないのです。それに、私の実力は織斑先生も知ってらっしゃるでしょう?話になりませんよ」

 

なるほど確かに。あの細い体では大した強さは発揮できないだろうし、一夏より強いはずも無いだろう。そして1人減れば更に一夏がクラス代表になり易くなる。良い事ばかりだ。千冬さんは逡巡するも、まさに道理であった為か崩せないと悟ったのだろう。 

 

「・・・分かった。不服だが仕方あるまい。斑鳩の棄権を認める。よって勝負するのは2人だけだ。勝負は1週間後、アリーナにて行う。今日のところはこれで解散!」

 

不服そうにそう言い、こうして初日の授業は終わりを告げた。私は一夏を剣道場に誘った。この数年でどれだけ成長しているか見たかったからだ。そうしてワクワクしながら臨んだ結果   

 

「どういう事だ!何故変わっていない!それどころか腕が落ちているではないか!」

 

変わっていないどころか腕が落ちているという衝撃の事実が発覚した。一夏はISの操縦を教えてくれなどと言っていたがそれどころでは無い!

 

「今日から1週間、ひたすら剣道だ!」

 

そう言って私は一夏を鍛える為に何度も何度もひたすら練習した。練習後に風呂から出た所を一夏に目撃され、焦る事もあった。ここでもまたあの男に阻まれた。あの男を見ると一夏が安心するのは何故だ!

 

 

 

そこからまた数日経ち、クラス代表決定戦の日。私と一夏はアリーナの管制室に千冬さん、山田先生と共にいた。待てど待てど一夏の機体は届かず、時間稼ぎも辛くなってきたところであと50分程度だと連絡があったらしい。だがここまで既に1時間以上待っているのに、ここからまた50分待つのは辛い。ここで何を思ったか千冬さんはあの男を呼び出すように山田先生に頼んだのだ。

 

「織斑先生?」

 

「ここで奴とオルコットをエキシビションマッチとしてぶつける。良い時間稼ぎにもなる筈だし、オルコット側もデータを採れる。win-winというやつだ」

 

アナウンスしてから直ぐに現れた。

 

「で、何故私が呼ばれたのですか?」

 

少し不機嫌そうなオーラを出して居た。部屋は少し不穏な雰囲気に包まれ千冬さんと私、あの男は少し不機嫌になっており、山田先生と一夏はそれを見ておろおろしていた。このままでは話が進まないと思ったのだろうか、あの男が話を進めた。

 

「そもそもこの試合は一夏君とオルコットの試合でしょう。私は拒否しましたよね」

 

答えたのは千冬さんだった。

 

「あぁ。だがまだ織斑のISが届いていないんだ。届くまであと何分あるかも分からない。なので、お前に出てもらいたい」

 

すると斑鳩が遂に表情を崩し 

 

「チッ、あのクソ倉持が。納期すら守れんのか。たかが男性操縦者用ISごときの為に人を蹴り落とすようなやつらを、何故待たねばならんのです」

 

と言った。……正直言って、不快だった。私は奴を睨みつけた。それに気づいたのか奴もこちらを向いた。 

 

「何だ、篠ノ之。言いたいことがあるならさっさと言ってくれないか」

 

“言いたいことがあるならさっさと言ってくれないか”だと?

 

「なら言わせてもらおう。たかが男性操縦者のISとはどういうことだ!一夏が乗るISだぞ!大事に決まっているだろう!」

 

お前のような奴ならともかく、一夏が乗る機体だ!生半可なものではいけないだろう!

だが奴は心底冷静にこう言った。

 

「そうか。それを被害者の前でも言えるのか?」 

 

「?どういうことだ」

 

コイツ、何を言っているんだ? 

 

「この学年に、一夏君用のISを作るために、専用機を作る筈の計画が取り潰された者がいる!貴様は、それを知った上で、同じ事をいえるのか、あぁ!?」

 

いつもの奴と違いすぎる態度と雰囲気に私は気圧された。何も喋ることが出来ず、無意識に一歩下がっていた。奴は私を数秒睨むと視線を千冬さんに戻し

 

「で?織斑先生。俺は何をすれば良いんでしたっけ?」

 

と聞いた。既に先程の雰囲気は消え去っていたが、私はまだ動けなかった。 

 

「織斑のISが届くまでオルコットと試合をしてもらいたい。出来れば次の試合に影響がでない範疇で頼みたい」 

 

「クソつまらない試合になりますがよろしいですね?」 

 

「構わん。とりあえず時間を稼いでくれ」

 

今度は斑鳩が条件をだし、了承を取れたことにより承諾したようだ。 

 

「分かりました。着替えてきます」

 

と言って奴は去っていった。奴の姿が完全に見えなくなってから、ようやく私は動くことが出来た。

……はっきり言おう。あの時、私は恐怖、それも“本能”と呼ばれるものを味わった。奴がISスーツだろう何かに着替えて戻ってきて千冬さんと喋っていた時も、私は怯えていたと思う。

 

「斑鳩、あと40分ほどで着くそうだ。だがその後の設定で少なくとも10分かかる。それまで保たせてくれ」

 

「分かりました。……いいか一夏君。君のISで、夢を断たれそうになった者がいる。君が纏うISはその人の恨みも詰まっている。だからこそ君はそれを纏わなければならない。君が望んだ事では無いだろうが、ここに来てしまったからには通用しない。だがその恨みが詰まったISは必ず君の力になる。それを知った上で、ISに乗って欲しい」

 

一夏に向けて言ったのだろう。私は奴を見る事は出来なかったが、言われた一夏の目には光が灯っていた。

 

「では。『ラプター』」

 

そう言うと奴は己の機体を展開、カタパルトに接続し山田先生の合図と同時に射出された。観客席のざわめきがこちらにまで伝わってくる。

 

「織斑一夏君のISの到着が遅れているため、エキシビションマッチとして、オルコットさんと斑鳩さんの試合を行います。この試合は通常通りのルールで行いますが、制限時間を50分とします。制限時間内に相手のシールドエネルギーを0にするか、50分たった時点でのシールドエネルギーの残量によって勝敗を決めます」

 

ようやく奴が居なくなった事に安堵すると、今度は奴の試合の不甲斐なさに怒りを覚えた。私はこんな、攻撃も出来ないような不甲斐ない男に、怯えていたのかと。

だが奴の試合を見ていくうちにみるみる形勢は奴に傾いていった。私にも直ぐに分かった。

結局奴は何をする事も無く一夏の専用機が届くまでの時間を稼ぐという目的を達成した。奴が戻ってくる前に倉持技研のスタッフがやって来て搬入作業を始めた。千冬さんも憤慨していたが、倉持技研の人はそんなのには対応しない、とばかりにのらりくらりと対応し、千冬さんが根負けしていた。倉持技研のスタッフ達が出ていくと同時に奴は戻ってきて、あの時の私を見つめた時の様に、静かな怒りを込めた目で一瞥し部屋に入ってきた。 

 

「ようやく届きましたか。全く納期すら守れんゴミ共め」

 

相変わらずの口だが千冬さんももう慣れたのか 

 

「だが彼らがここまでしたのは分からんでもない。ただでさえ男性操縦者用の機体と言う事に加えて束が作った物だからな。解析しようとしたんだろう」

 

と言った。あの人が一夏の機体を!?と驚いたが、すると、奴も 

 

「……なるほど」

 

と一見ただの頷きに聞こえるが、興味を隠しきれない声で返答した。確かにISにおいてあの人が手を加えた、というのはそれだけで魅力的だろう。

 

「では、そろそろ戻って良いですか?人を待たせてるので」

 

だがその場で追求する事はせず千冬さんに許可を取ってから一夏に頑張れよ、と言って千冬に一礼してから出ていった。

 

 

 

 

その後も一夏への指導の事で一悶着あったが、最も語るべきはあの時の事だろう。

一夏がセカンド幼なじみと称する中国人、凰鈴音。彼女が奴に向けて放った言葉は本当に爽快だった。

   事は食堂で起こった。私は彼女と一夏と昼食を共にすべく食堂へ入り、食事を受け取ったが座る場所が無かった。そんな時、一夏は目ざとく見つけたのだ。……ちょうど3人分の席が空いていたテーブル。奴が座っていたテーブルを。彼女が居るだけならまだしも何故奴と一緒に昼食を取らなければならないのか。だが一夏と昼食を取れないのは辛い。結局私も席に座ることにした。席順は時計回りに一夏、私、奴、凰となった。座るやいなや凰は斑鳩をじろじろと見て、次にこう言ったのだ。

 

「……モヤシね」

 

空気が凍った。周りの生従達は動きを止めた。私は少し、いやかなり感心した。彼女とは気が合うようだ。私が思っていたそのままを言ってくれた。良いぞ。もっと言ってやれ。

奴は視線を凰に向けはしたが何もしなかった。

 

彼女も周りの空気は理解したのだろうが嬉しい事に彼女は止まらなかった。次々と言葉を発していく。

 

「如何にも縦にしか伸びなかった、って感じ。顔はそこそこだけど冴えてる訳じゃないし、その貼り付いた笑み、なんか胡散臭いわ。それに、アンタのISって全身装甲(フルスキン)なんでしょ?やましい事でもあるわけ?」

 

一夏を含めた周りの者達は、奴を煽るような発言もそうだが、奴が何もしない事に最も恐怖を抱いていた。これから何が起こるのかと。そもそも、何もしないのは何も出来ないほど怒っているからではないのかと、そう思っているようだった。私だけはもっと言ってやれと、お茶を飲んだ。

そうしていると、一夏がついに動いた。

 

「お、おい鈴!流石に今のは良くないぞ。崇継さんに謝れよ」 

 

「な、なんでよ。私は思ったことを言っただけよ。それに、これに反応しないって事はそれこそ本当のことなんじゃないの〜?」

 

「ッ、りn」 

 

「なるほどね」

 

「「!」」

 

ついに奴が口を開いた。何を言い出すのかと戦々恐々だ。 

 

「確かに。全くその通りだよ、凰鈴音。君が最初だ、そこまで気づいたのは。その洞察力は尊敬に値する」

 

凰は何でも無いように礼儀としてだけ返答した。 

 

「そ、ありがと。で?アンタが一夏に近づいたのは、アンタもデータ取りかしら?」

 

凰は視線をキツくして奴に質問した。その目は暗に言っていた。一夏の敵になるなら容赦しないと。もし敵になったとしても奴程度では一夏に勝てないだろうと私は確信しているが、奴は答えた。

 

「くれるのかい?なら喜んで貰うよ。でも、君は要らないのか?」

 

「…ッ」 

 

歯を食いしばる凰を尻目に、奴は一夏の方を向いた。

 

「一夏君。これからこの学校には君のデータを取ろうとしてくる輩が、彼女を含めて、大勢来る。これは、確実だ」

 

「え…?でも、鈴は」 

 

「恐らく彼女がここに来たのは君のその、さっき言っていた言葉を借りればセカンド幼なじみ、だったかな。彼女が君の知り合いだからさ。何も知らない人同士が1から関係を築くより、ある程度の関係がある人を送り込んだ方がやりやすいということだ」

 

ここで再度奴は凰に視線を向け、それにつられて一夏も凰を見た。

 

「彼女がこうやって何も言葉を発しないのも、一応はそれが事実だからさ。でもね一夏くん。ここで大事なのは、それが一・応・であるということ」

 

「一応…?」

 

言葉の意味が分からず私も一夏も困惑する。

 

「あぁ。彼女がここに来る為の条件はさっき言った通り君のデータを取ることだったろうが、彼女は彼女の意志でここに来た。これから来るであろう者たちも、ここには大半の人が自らの意志で来たのだろう。だからこそ、その意志は尊重してやってほしい」

 

「分かりました……鈴」 

 

「…なに」 

 

先程の話で一夏に嫌われたと思ったのだろうか、凰は先程までの元気が嘘のように落ち込んでいた。一夏はそんなことは気にしないとばかりに笑顔で鈴に向いた。 

 

「そんなに落ち込むなよ。俺はそんな事で怒ったりしねぇって。それに、鈴は俺に会いに来てくれたんだろ?嬉しいぜ」

 

「…本当?」 

 

「あぁ、だから元気だせって」 

 

「うん!」

 

凰が笑顔になったのを見届けて奴は席を立った。

 

「それじゃ、私は教室に戻るよ。ちなみに、あと5分で次の授業が始まる。急ぎなさい」

 

食堂はえぇ〜ッ!という悲鳴に包まれたが、私は問題無く食べ終わった事は書いておこう。




おそらくこれが年内最後の投稿になると思います。今年から始めましたが、皆様読んでいただきありがとうございました。来年もまたよろしくおねがいします。


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24話(閑話2)

新年一発目です。今年もよろしくおねがいします。


Side 篠ノ之箒

次にあった事は、食堂での一悶着(?)があったその日。一夏と特訓をしてから部屋へ戻ると、鈴(彼女からそう呼ぶように言われた)が部屋の扉の所で仁王立ちで待っていた。何をするかと思っていると、我々を認識するやいなや開口一番。

 

「部屋、変わって?」

 

そう、言われた。彼女の言い分を聞くに、こうだ。一夏は先程食堂でも奴が言っていたように貴重な男性操縦者だ。なるべく強い者が身近にいた方が安心出来るだろうし護衛にもなる。鈴は代表候補生という十分な肩書があるし、幼なじみだから同室でも問題無い。という事だった。そんな事、認められるはずがない!私だって一夏の幼なじみだ。こんな時に一夏が言ってくれれば良いのだが、頬をポリポリとかいて微妙な笑みを浮かべている。役にはたたないだろう。

 

そして、鈴と口論になって数分後か、はたまた数十分後か。私達には分からなかったが突然一夏が声を上げた。 

 

「あ!崇継さん!」

 

奴が、そこに居た。前回も私を阻んだ奴が、またここにいる。心底つまらないという目をしていて、傍らには青い髪の毛が特徴的な少女が立っている。奴を見て私は不機嫌に、鈴はゲッとなり、一夏は救われた〜と安堵していた。

よくよく見れば奴の隣にいる少女も不機嫌そうな目をしている。私だって奴がここに居るだけで不機嫌だ!少女を観察しながらそう思っていると、一夏はあっ、その人が崇継さんと同室の人ですか?なんて言いながら近づいていった。一夏は気づいていないが、一夏が近づけば近づくほど彼女は不機嫌というか、親の仇でも見るような目になっていった。

 

「始めまして、俺、織斑一夏。よろしくな!君の名前は?」

 

「……」

 

そして一夏は彼女に手を差し出した。いつもの事だ、握手しようとしたのだろう。だが彼女は手を出さず、あまつさえ反応すらしなかった。一夏が自ら手を出してくれたのだぞ!?何を考えている!

一夏も一夏で、隣にいるあの男を見ているんじゃあない!

そう言おうとしたら、それよりも早く千冬さんがやってきて

 

「貴様ら、何をやっている。全員部屋へ戻れ!」

 

生徒達を部屋へ戻るよう言った。あの男とその隣にいた彼女も部屋に戻ろうとしたのだろうがそこに鈴が食って掛かった。 

 

「ちょっと、アンタねぇ!一夏が握手しようとしてんのに無視は無いでしょ!巫山戯てるの!?」 

 

「凰。私は貴様に喋っていいとは言っていないぞ。口を慎め」

 

千冬さんは鈴に一目向けてピシャっと言い放ち、次いで崇継に目を向けため息をついた。

 

「また貴様か。つくづくトラブルメーカーだな」

 

するとあの男は少し不機嫌そうに反論した。

 

「織斑先生、確かにトラブルに巻き込まれる回数が他より多いとはいえ、私がトラブルを作っているわけではありません。そもそもなぜ私が止められたのです?これは一夏くんと彼女達の問題の筈です」

 

千冬さんは苦笑してそうか、すまないと謝罪していた。流石に奴もこれには強く出る事が出来無かったし、我々は口をあんぐりと開けたままあ然としているしか無かった。千冬さんがああも簡単に謝るのは見た事が無かったし、自分から謝罪するなんて事があったのか、と。

そう思っている間に千冬さんは自分のペースで話す。

 

「コイツ等は少し我が強すぎる。それにまだひよっ子だ。状況の説明に主観が入ってしまう。その点、貴様は事件に巻き込まれておらず、私よりも年上、社会を知っている。第三者として、証人として、最も信頼しやすいのだよ」

 

「なるほど。それはありがたいですね。願わくば私が証人として必要とされる事が起きないのを願うばかりです」

 

千冬さんはハハッ、違いない!と豪快に笑った後、我々の方へ向き直り、で?何があった?説明しろと奴に問うた。

奴は我々をちらりと見て言った。

 

「そちらの3人に向いておきながら私に聞くのは意味不明ですが……そうですね、相変わらずの痴話喧嘩です」

 

「「「ちょっ!」」」

 

痴話喧嘩とはなんだ痴話喧嘩とは! 

 

「黙れ。人の話を黙って聞けんのか、お前たちは」 

 

一応奴の隣にいる彼女にも何があったか確認したが、彼女も奴と同じことを報告した。

千冬さんは頭を抱えて呆れ果て、鈴には部屋を変えられるのは寮長だけであるから、さっさと戻れと言い、喜んでいる私にも近く部屋替えがある事を伝えた。

奴の方へ向き直って 

 

「済まなかったな更識、斑鳩。部屋に戻っていいぞ」

 

と言って千冬さんも部屋へ戻っていった。 

 

「…はい」

 

「では、失礼します」

 

 

 

結局その後も一夏は奴に師事を仰ぎ続けた。奴は決して首を縦に振らないままクラス代表対抗戦が始まる。私は千冬さん、山田先生と共に管制室にいた。

試合は一進一退、少し鈴が押している状況だった。だが一夏には、一夏の機体には必殺の機能がある。当たれば十分に勝機はある。すると

 

ドガァァァン!!

 

 

アリーナの外壁を突き破り、()()は現れた。

ISのように見える、異形の何か。その存在によって会場内の生徒は一瞬のうちにパニックに陥った。私も少なからず動揺したが直ぐに収まった。千冬さんはあれの存在を認識して直ぐに取り敢えずの打開策を思いついたのか誰かにコールしている。

 

『はいはい、斑鳩です』

 

「斑鳩か!今どこにいる!?」

 

……コールしていたのは奴のようだ。

 

『アリーナの観客席です。今出口に向かっていますが、開いてないので出れませんね』

 

「そうか、分かった。今整備部や生徒会のメンバーを集めて外部からアクセスしているが、セキュリティの突破に時間がかかる。加えてあの愚弟だ。何分持つか分からん」

 

自分の弟なのにそんなボロカス言う?確かに弱いけど。かんちゃん、そんな事言っちゃだめだよ〜。なんて会話が後ろから聞こえた。おそらく先日あの男と一緒にいた女だろう。にしても千冬さん、愚弟を信じてあげてください。

 

『で、私がすべき事は生徒の沈静化ですかね』

 

「あぁ。出来れば内側から物理的に開けられるか試して欲しい。出来るか?」

 

『織斑先生、NOと答えさせるつもりの無い質問を出すのは止めてくださいよ。一応試してみます』

 

「ありがとう」

 

通信を終わり、千冬さんは直ぐに他の所へ通信を入れた。

 

「織斑先生、大丈夫ですか?」

 

「わからん。あの愚弟がどこまで行けるかだ。先生方にも一応待機要請はしておいた」

 

すると、再び通信が入った。

 

「なんだ」

 

『取り敢えず生徒は沈静化しました。これからドアを開けられるか調べます』

 

何かを叩く音がしたあと、直ぐに

 

『これ多分いけますね。ドア破壊しても大丈夫ですか?』

 

と言ったので、千冬さんは心底驚いたのか

 

『壊せるのか!?』

 

と動揺している。

 

『ええ、音紋を調べて大体の構造は把握しました。固定具を破壊した後ドアは蹴り飛ばします。危ないのでドア付近から人を退避させて下さい』

 

千冬さんは直ぐに生徒会に繋ぎドアから全員が離れた事を確認してからあの男にも退避が完了した事を言った。

 

『斑鳩、ドア付近の生徒の退避が完了した。やってくれ』

 

しばらくすると外部に居た先生から生徒達が退避した事を確認する通信が入った。今度は生徒会に乱入してきたあの機体について調べるように言ってから通信を切る。織斑先生は今度は落ち着いてコーヒーを淹れ始めた。

 

「織斑先生、よろしいのですか?」

 

「あぁ。あの愚弟とは言え凰もいるし、いざとなれば他学年の専用機持ちや今生徒達を誘導している先生方もいる。問題無いだろう」

 

……普通ならそうだろう。そう思うのだろう。世界最強がそう言っているのだからそうなのだろう。

窓から見下ろしてみれば一夏と鈴が戦っている。一生懸命なのだろう、いつもの優しい顔ではなく凛々しい顔だ。もちろん鈴も。だがどちらも決定打が与えられない。しばらく戦っていると鈴が敵機に不意打ちされそうになった。流石に私も目を見開いたが、そこに飛び込む影があった。……奴だ。

そして奴が来てから、2人の動きが見違えた。先程とは変わり2人でコンビを組んで敵に対抗し始めた。

だが私はイライラしていた。先程までの不甲斐ない戦いに加え、奴が来てから動きが変わったという事実。更には一夏と鈴は2人で1機と戦っているのにあの男は1人で2機抑えているこの状況。全てが情けない。

すると再び通信が入り、織斑先生が今度は頷き、3人に通信を入れた。

 

「お前たち、聞こえるか!」

 

『聞こえるよ千冬姉!どうしたんだ!?』

 

「その機体は無人機だ!手加減をする必要は無い!」

 

『ようやくですか、もう少し早くしてほしかったですよ』

 

通信に応えたのは一夏で、聞いたあの男は皮肉げにそう言った。

 

「それについては済まない。現在教員達も生徒達の誘導に手一杯でそちらへは向かえない。他の専用機持ち達も間に合うかわからん。出来れば倒してくれ」

 

千冬さんは申し訳無さそうに言った。……なぜ。

 

『まぁ良いです、取り敢えず間に合いましたから。それじゃ一夏君、鈴音、そちらの機体は任せた』

 

『おう!』

 

『ふん、アンタこそ、やられるんじゃないわよ!』

 

……何故、あの男が居るだけでこうなる?

 

「ふぅ。奴が来たならもう大丈夫だろう」

 

何故なんだ!

 

「っ!篠ノ之さん!?」

 

私は管制室を飛び出し、アリーナ用の放送室へ向かった。後から考えれば、管制室からでも言えたのだから別にここで行く必要は無かった。だが、私は放送室で言いたかった。少しでも、一夏の近くで言いたかった。だから、大きく息を吸い、言った。

 

『何をしている!2人がかりで相手するなど、それでも男か!』

 

 

「「!?」」

 

これで一夏ももう少しシャキッと、いつもの実力を発揮出来るだろう。一夏の実力はこの程度では決して……

 

「ッ、箒ぃぃぃッ!!」

 

「!?」

 

な、何だ!?一夏の声?何で私を呼んだのだ?

 

    光が収束する。

 

何故、彼処に光が集まっている?

 

篠ノ之箒はこれまでの行動が悪いところがあるが、決して馬鹿ではない。それは倍率がかなり高いここIS学園に入れた事からも分かる。少し暴走してしまっているだけだ。だから。だからこそこれから何が起こるのか、考えなくても分かってしまったが故に彼女は迫りくる死に怯え、その場で動けなくなってしまう。

 

「「「!!」」」

 

だがその程度では止まらない。機械はどこまでも冷徹に、その腕から光条を打ち出す。

その間に割り込む陰。再び彼は彼の友人が大切にしている人を守る為にその身を盾とした。

 

「ぐ、が、アァァァァァッッッッ!」

 

数秒は装甲が耐えてくれたのだろうが、直ぐにそれも無くなったようで、耳を裂くような悲鳴が聞こえる。

 

「アァァァァァッッッッッ!、      

 

だが遂に意識を失い、その場に倒れ伏す。ISは倒れる途中で解除されたが、周囲はおびただしい光景がひろがっている。少女は目の前の光景が受け入れられない。

 

「な……!」

 

「崇継さん!」

 

いつの間にか居た一夏は一直線に斑鳩の元へ行った。凰は先程の放送について篠ノ之箒に問いただす為に彼女に近づいた。

一夏は斑鳩を見て絶句した。幸いというべきなのか血は流れていない事から失血になるような事が無いのは分かった。取り敢えず一刻でも早く保健室に運ぶべきと思い触れようとすると背後から静止の声がかかる。

 

「あなたは…?」

 

静止の声をかけた青髪の少女は声をかけたは良いものの、一夏が振り返った際に一夏の体によって見えていなかった部分がみえてしまい、斑鳩の状態に絶句した。

何を考えているのかはわからないが自分に声をかけてから何もしない彼女に苛立ち声を荒らげた。

 

「今は崇継さんの命がかかってるかもしれないんですよ!?どいてください!…鈴!保健室の場所ってどこだ!?」

 

一夏の発言によりハッとした彼女は

 

「っ!ま、待って!保健室へは私が誘導するわ!貴方達は自室で待機していなさい!」

 

と言い反転して走り始めた。勿論一夏もそれに追走し去っていく。

 

「……行くわよ、箒。自室で待機していましょ」

 

「……」

 

何時までも下を向いたままの篠ノ之に業を煮やした鈴は彼女を無理矢理立たせ、彼女の部屋まで付き添った。

 

 

 

 

 

篠ノ之箒は彼女のベッドの上で足を抱えていた。

 

「いったい、何なんだ……。何が悪かったんだ……?悪い事を、したのか……?」

 

何時もの快活な雰囲気はそこには無く、ひたすら下を向いて自問自答を繰り返す少女がいた。十数分もそうした頃だろうか。

 

「私にも専用機があれば、あの場に居られた……あの男に一夏を取られる事も、一夏をサポートしながら直接共に戦う事も出来る……仕方ない、か」

 

彼女は結論を出したようだ。

 

『もすもすひねもす?』

 

「私です。私用の専用機を作って下さい。なるべく早く。それじゃあ」

 

そう言って相手の返答を聞くこともなく電話を切った。

 

 




ようやくマブラヴオルタネイティヴアニメの一気見が出来ました。やっぱラプターってかっこいいすわ。2期はいきなりあのシーンからなんすかね……?


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25話

Side 崇継

「まず一旦俺の話を聞いてくれ。いいか?」

 

取り敢えず俺は今の状況を確認する事から始めることにした。何時までも簪に睨まれたままというのは何だか心臓に悪い。いや、別段悪い事はしていないはずではあるのだが。

 

「ここは、学校の保健室であってる?」

 

多分間違いへ無いはずだが念の為。

 

「はい。ここはIS学園の保健室です。崇継さんが倒れてから運び込まれたんです」

 

そうかそうか。良かった、ここが知らない所だと困るからなぁ。

 

「……」

 

すると簪がこちらに恨めしい目を向けてきた。何だってんだ?

 

「崇継さん」

 

今度は真剣な目になる。こちらも真剣に聞く準備をする。

 

「……心配、しました」

 

    

 

「崇継さんがISの事を私よりも知っていて、私よりも強いと知っていても、心配しました」

 

それは……済まない。だが俺にも

 

「崇継さんにも守りたい物があったんでしょう。でも貴方を心配する人が居るって事をちゃんと理解しておいてください」

 

……あぁ、済まない。そして、ありがとう。

 

「いえ。それじゃあ私は」

 

「ちょっと待ってくれ。……君も、私を心配して来てくれたのかな?」

 

「……え?」

 

簪は誰も居ない筈なのにここに居ない誰かに話しかける崇継を不審に思うが彼がそうそう無駄な事をするとは思ってもいないので何かが起こるまで待つ事にした。

数分経った頃だろうか。扉をノックしてから失礼するわ、という声と共に影が入ってくる。簪は誰が入ってきたか見当がついたのか見舞いの荷物をさっさと纏めて出ていこうとしている。

 

「まぁ、落ち着けよ簪。あっちも一応見舞いに来てくれたんだ。嫌悪感をぶつけたまま帰るというのも礼儀に反するだろ。取り敢えず座れよ」

 

「……」

 

簪は渋々ながら彼の言葉に従い再び椅子に腰を下ろす。

 

「…良いかしら?」

 

「構わない」

 

彼がそう言うと部屋を仕切っていたカーテンを引きこちら側に入ってくる。後ろ手にカーテンを閉じこちらを見た彼女はほんの少し目を見開いたが、直ぐに元通りになった。そして簪を見たが、こちらも特に何をするでも無く再び崇継に目を向ける。

 

「悪いね、お茶の1つも出せなくて。こんな状態だから大目に見てくれ」

 

「流石に私も、怪我人にもてなせとは言わないわ」

 

 

Side 3人称

 

崇継と更識は視線を合わせる。特に接点の無い2人に話題などあるはずも無い。学校の被害とかなどは話すことが出来るが物的な被害のみで人的被害は目の前でベッドに横たわって更識を見ている彼のおかげでゼロだ。その代償として彼はここにいる訳だが。それはそれとして更識は口火を切る事にする。

 

「取り敢えず、お礼を言っておくわ」

 

「……私は礼を言われるような事はしていないのだがね」

 

彼は心当たりが無いといった風である。もしかしたら、今回の件は彼からしたら大した事では無いのかもしれない。それでも更識からしたら十分な事をしている。だから彼女は礼を言ったのだ。

 

「生徒の避難誘導への協力、という名目よ。これに関しては、実際にしたでしょう?」

 

「織斑先生に半強制的にやらされた事だから別に良いんだがね。礼を受け取らないのも良くない。素直に受け取っておこう」

 

ここで崇継は言葉を切り、静かに彼女を見据えた。

 

「……一応聞いておくが、君はどういう立場で来て、どういう立場から私に礼を言っているのかな。ほら、生徒会からの礼なら論功行賞とか無いかな、と思ってね」

 

更識は面食らった。初対面から殺気をとばした相手にお礼をしに来たのだ。緊張していた。そして真面目な雰囲気になったと思ったら聞かれたのは“どういう立場でお礼しに来たの?じゃあ何かくれんの?(意訳)”である。ある意味緊張が解れた。

 

「残念ながら生徒会としてでは無く生徒会長としてよ。貴方は先生からの指示とは言えあの場で迅速に正しい行動をした。同じ専用機持ちとして……」

 

だが彼女はここで1つ致命的なミスを犯した。いや、普通の人では大した事は無いものだったが、彼女はもう1人この場にいる人物の事を失念していた。

 

「ふざけないで!」

 

彼女、更識楯無は妹である更識簪の地雷を見事に踏み抜いた。

 

「………」

 

「か、簪ちゃん?!」

 

崇継はチラと簪を見るも直ぐに視線を外し静観のスタンスを取ることにした。一方の当事者である更識は何故簪が怒っているのか理解出来ず、なおかつ急に怒鳴ってきた事にひどく動揺している。

 

「貴方と崇継さんが同じ!?」

 

簪は立ち上がる。

 

「生徒会長なんて大層な座について、専用機も持っているのに何も出来ず全てが終わった後に来た貴方と」

 

語気は強く、有無を言わせぬ気迫を纏い

 

「あの場で死にかけてまで他人を守った崇継さんが!?」

 

一歩一歩ゆっくりと更識に近づきながら

 

「ふざけないでよ!使えない力になんの意味があるの?間に合わない専用機に存在意義なんてあるの!?」

 

問を投げかけた。

更識は今まで自分が知っていた簪とのギャップに戸惑い質問が理解出来ていないのか何も言えない。そんな様子に業を煮やし簪は最後に一発大きいのをぶつけた。

 

「ねぇ!答えてよ!」

 

流石にこれ以上病室で騒がれるのは面倒だ。崇継は静止をかける。2人とも崇継を見てから何も言わなくなった。だが簪は一度床を見てから覚悟を決めた。

 

「更識楯無生徒会長。私は貴方に勝負を申し込む」

 

「!?」

 

「生徒会長の座をかけて私と勝負して。貴方みたいな人間に、生徒会長の座は相応しく無い」

 

今度こそ更識は動揺し今まで手に持っていた扇子を落とした。簪はそれを見ることも無く纏めていた荷物を持って出ていった。崇継は相変わらず感情を感じさせない顔だ。更識は簪が出ていった瞬間に崩れ落ち床を見つめている。

 

「……なんで……」

 

「“なんで”だって?はは、面白い事を言うね」

 

更識の誰に向けたものでも無い呟きに崇継は反応した。この状況なら普通慰めの言葉をかけるべき立場なのであろうが、そんな事はしない。

   ここで1つ、崇継の話をしよう。彼は今、ある程度自分の好きなように動いているが、原作をぶち壊そうとも一夏からヒロインを奪おうなどとも考えてはいない。ただ1人の大人として、彼らが1人の人として真っ当に生きていけるようにしたいだけなのだ。その為には彼らに厳しく当たる事も必要だ。崇継はそうやってこの物語の担い手達(登場人物達)の楽観視した所を変えていきたいと思っている。それが彼の願いを叶える事にも繋がるからだ。

だが勿論、相手が崇継の意図を完璧に理解出来ない事もある。今回がその典型的な例だ。……意図を明確に伝える意志が無いとは言え、言葉が足らないと言われてしまえばそれまでなのだが。

 

「彼女をあんなふうにしたのは君だというのに」

 

「何ですって……!」

 

「自分の姉が日に日に疲れ、やつれていくのを見て心配して声をかけた彼女に対する返答は『簪。貴方は何もしなくていいの。無能なままでいなさいな』だったかな」

 

更識は床に既に崇継に向けていた視線に動揺を滲ませる。何故、という感情が隠しきれていない。

 

「言っただろう?簪を泣かせた、と。彼女から聞いたんだよ。一方の言い分だけで判断するのはどうかとも思うが……はっきり言おう。巫山戯ているのか?彼女の専用機持ちに対するコンプレックスは彼女が個人で拗らせたものだとしても、今の言葉を返されその後何も言うこともなくひたすらストーキングされる。君が好かれる要素など何処にある?まだ目を合わせて決闘の申込みをしてくれる事に感謝しても良いぐらいなんじゃないか?」

 

「それ、は……」

 

更識は何も言い返せない。

 

「まぁともかく、妹と観衆の前で醜態を晒さないようにする事だ。今日は部屋に帰れ」

 

流石に弱っているとは言えここから寮まで大した距離では無い。帰るよう促すと、弱々しい歩みで部屋を出ていった。

 

「……はぁ、ようやくゆっくり出来る」

 

そう言い彼は瞼を閉じた。

 

 

 

 

 



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26話

前回の投稿から約1ヶ月経ってしまいました。こんな感じの投稿頻度になってしまいますが今後もよろしくお願いします。


翌日の検査で特に後遺症も無い事が証明され、斑鳩は病室を後にした。その足で職員室に赴くと丁度昼休みだったので織斑先生、山田先生どちらも居た。

 

「ふむ、検査結果も良好。後遺症も無し。……わかった。午後から授業に出れるという事だな?」

 

斑鳩は頷いた。

 

「そうか。あいつ等も心配していたぞ。顔色が悪かった」

 

「そうですか。……織斑先生は心配してくれなかったんですか?」

 

と言うとジト目で返してくる。

 

「ふん、専用機では無いとは言え私に勝ったんだ。そう簡単には死なないだろう」

 

腕を組んで自慢気に言う織斑先生だったが、ここで思わぬ攻撃がヒットする。

 

「でも織斑先生、昨日は顔面蒼白で食べ物も喉を通らなかったんですよ?」

 

山田先生がニコニコしながら何でもない事の様に言うと、織斑先生は顔を赤くしながら睨んで、おもむろに机にあった紙の束を隣の机に置いた。

 

「ふむ、山田先生は私と違い元気なようだ。これもやってくれるな?」

 

「……え、えっとぉ……」

 

「や・っ・て・く・れ・る・な?」

 

「……はい」

 

織斑先生の気迫に勝てず頷いてしまった山田先生はガックシと項垂れそのまま机にへたり込んだ。

斑鳩はチラと見て織斑先生にたずねた。

 

「織斑先生、昨日襲撃してきた機体の解析等は?」

 

「もちろんしている。だが分かったのは未登録コアを使っているという事だけだ。……あぁ、お前が事件の関係者だから教えてやったが誰にも言うなよ」

 

勿論です。それでは失礼、と返し斑鳩は職員室を出た。さてどうしようかと考えながら歩いていると布仏と斑鳩は知っているが知っているはずの無い人間がいた。赤い髪と眼鏡が鋭利な印象を与える、制服から考えると3年生、斑鳩の先輩にして最上級生の生徒。だが今最も重要な事は彼女、布仏虚が()()()()()()であるという事。まず間違いなくあの件だろう。

 

「あっ、つぐつぐだ〜!」

 

さも偶然のように言っているが確実に待ち伏せしている。だが勿論彼女達が暗部の関係者とは言え学友であるし斑鳩が目指す未来を担う人材だ。害す訳には行かない。

 

「やぁ、本音。奇遇だ。どうかしたのかな?……おっと、これは失礼。はじめまして、一年の斑鳩崇継です。貴方は?」

 

さもこちらも偶然であるかのように振る舞い自然と会話を引き出す事にする。

 

「はじめまして。私は布仏虚と言います。本音の姉で、生徒会の副会長をしています」

 

当たり障りのない会話だ。

 

「つぐつぐ、時間ある〜?お姉ちゃんが聞きたい事あるんだって〜」

 

誘ってきた。聞きたい事がある、と言われて、なおかつこの状況と立場だ。普通なら確実に何かあると勘ぐってもおかしくない状況のはずなのにここまで不自然さを消してカフェに誘うかのように言える。これはある一種特技であるだろう。無論、断る必要も理由も無い。何なら丁度聞きたい事があったぐらいだ。

 

「構わない。何処で話そうか。……あぁ、食堂は勘弁して欲しい。もう昼食は摂ってしまってね」

 

「ではこちらへ」

 

そう言った彼女についていけばカウンセラールームのような部屋に着いた。彼女達が誘導したという事は恐らく防諜もしっかりしているだろう。気兼ねなく話せそうだ。

部屋の中には中ぐらいのテーブルとそれの左右にそれぞれ2つずつソファが設置してある。斑鳩は先に腰を下ろし、続いて正面側に腰を下ろした2人を見る。

 

「さて、聞きたい事とは何でしょうか。怪我の具合ならここで話す必要は無いかと思いますが?」

 

「……まずは、生徒会副会長として感謝を。あの場に貴方が居なければ、もっと被害が大きくなっていたでしょう」

 

彼女は頭を下げそう言った。

 

「頭を上げてください。別に私は大したことはしていません。生徒会長にも言いましたが、織斑先生にやれと言われた事をやっただけです。宿題をちゃんとやるだけで褒められはしないでしょう?それと同じですよ。感謝はいりません」

 

「そう、ですか。では、次に」

 

空気が変わった。彼女の目が真剣になっている。

 

「お嬢様に簪さんを差し向けたのは貴方ですか?」

 

断言する様に言ったが斑鳩としては何のことだ?である。お嬢様が更識姉である事は分かるが、彼女に簪を差し向けた記憶など無いし、何ならその言い方は簪が私の手駒みたいじゃないか。取り敢えずいろいろ言いたい事を飲み込みまず状況確認から始める。

 

「まってくれ、よく分からない。まずお嬢様って言うのは誰の事かな」

 

「更識楯無生徒会長の事です。私達布仏の家は代々更識家に仕えているのです」

 

「うん、なるほど。で、差し向けたっていうのはどういう事かな。第一その言い方だと簪が私の手駒みたいになってしまっている。彼女は私の友人だぞ。人の友人を手駒みたいに言うのは辞めてくれないかな」

 

「……申し訳ありません。……昨日、楯無お嬢様が貴方の病室から戻って来た際、お嬢様の顔色がとても悪かったのです。話を聞いたところ簪お嬢様に勝負を挑まれた、と。ですがそこに至るまでの事は話していただけませんでした。正直に申し上げますとお二人の仲は数年前よりとても良いとは言えないものでした」

 

「あぁ、簪から聞いた」

 

「しかし最近になって簪お嬢様は笑顔を見せられることが多くなりましたし本音との付き合いも戻ってきました。貴方と同部屋になってから、です。なので貴方が関係しているのではないか、と」

 

虚はそこで再び崇継の目をはっきりと見た。崇継は今回はちゃんと意思を持ってその目を見る。

 

「なるほど。……そこまで知ってるなら話が早い。簪が生徒会長の座を賭けて勝負を申し込んだのは知ってるな?」

 

いきなり語調が変わり驚きはしたものの虚は頷いた。

 

「それを話す前にだが更識……めんどくせぇな。更識姉で行こう。ともかく更識姉がストーカー行為に及んでいたのは知ってるか?」

 

「……」

 

虚は数分間考えに考えた結果、苦虫を噛み潰したような表情で首を縦に振った。

 

「ずっと誰かから見られている事に気づいて以降、少しは怯えていたよ。誰からの視線か分からないんだからな。それが喧嘩で疎遠になったとは言え実の姉だ。対話しようとしてもあちらが逃げていく。鬱陶しがるのも分かるだろ」

 

虚は苦悶の表情を浮かべ、逆に本音の顔からはどんどん笑顔が失われていっている。

 

「そして今回の襲撃だ。簪にとって、いや簪だけに限らないかも知れないが、専用機という物には名誉とそれに相応する義務があるものだ。ま、これは彼女が勝手にコンプレックス拗らせただけかも知れないがともかく。言葉にはしていなかったが、“一年の専用機持ち達が頑張り、一人は死にかけた事態なのに学園最強の専用機持ちは一体何をしていたのか”って事だ。力なき正義が無力であるのと同様に、間に合わない専用機に意味があるのかと簪は問うた。が、更識姉は答えられなかった。そこで啖呵を切って行ったって訳だ。……他に聞きたい事は?」

 

話し終えた時には本音は真顔になっていたし虚は頭を抱えていた。自分が仕える人物がストーカーして自分から地雷踏みに行ったのを見てこうならない人の方が少ない、と言うかいないだろう。

頭をおさえながら虚は話を纏める。

 

「つまり、楯無お嬢様が簪お嬢様をストーキング。楯無お嬢様はそれで簪お嬢様の顰蹙を買い、挙句地雷を踏んで勝負を挑まれ消沈している所を私が発見。私が勘違いして貴方をここに呼んだ……という事ですね?」

 

少々大げさな部分があふ気もするが大枠は間違って無いので肯定を返す。すると虚はおもむろに立ち上がり素晴らしく綺麗な姿勢で腰を曲げ頭を下げた。

 

「本当に申し訳ありませんでした。まさかこんなにもお嬢様がやらかしているとは思っておらず、弁解も出来ません」

 

「別に謝らなくていい。主を気に掛けるという、従者としては在るべき姿だ。今回は、主がどうしようもないやらかしをしただけだ。気にするな……と言いたいが」

 

一度言葉を切る。

 

「何故止めなかった?ストーカー行為をしていると知らなかったのか?」

 

「……」

 

何も答えられない。止めていなかったのは事実だったからだ。

 

「どうせあの人だから、と理由をつけて今まで放置していたんだろう?そういう事をしていると今回のような事が起きる。間違っている事をしているのなら間違っていると言うべきだ」

 

「……はい」

 

頭を下げたまま彼女は声を絞り出して答えた。

 

「なら良い。……あと5分で授業が始まる。遅れるなよ」

 

そう言って崇継は教室を後にした



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27話

Side 斑鳩

結局その後、教室ではいつもどおりの授業が行われた。一夏やセシリア達からも心配されたが大丈夫だと伝えた。皆からは感謝されたし、いつもどおりに接してくれた。唯一篠ノ之箒だけが気にかかったが、放置した。今はまだ様子見と考えている。が、恐らくどうせロクでもない事を考えているんだろうとは思った。具体的に例を出すと第4世代機の譲渡、とか。

 

   本当に、忌々しい。

 

自分には、自分がそこそこ優秀な自覚も自負もある。実際に第3世代技術を作ったのも自分だ。だがそれは、()()()()()()()なのだ。知識として存在を知り、機能を知り、作り方さえも学習し、知ることが出来た。ここまで来て作れない方がおかしい。

確かに自分の優先順位が戦術機の再現に趣味として偏っているとしても軍人として(最初は招聘された身分だったがいつの間にか正式な軍人になっていた。)働かなければ。実績を残さなければ快く送り出してくれたラダビノッド夫妻、そして信頼してくれているツェルベルスの面々に申し訳が立たない。

だからこそ自分は自分が襲われて死ぬかもしれないというリスクを飲み込んでまで此処、IS学園に来た。どうにかして他国の機体の技術を得よう、と思っていたのだ。

だからこそ、開発者の妹だからと第4世代機をねだる篠ノ之箒が許せない。メンタル面はともかくとし、更識楯無や凰鈴音、セシリア・オルコット達国家代表や候補生達  ひいてはそれに類する者たち  が必死で努力しその末にようやく与えられた専用機、それを彼女は欲しいからという理由だけで得る事が出来る。こんな巫山戯た話があってたまるか。自分でも何故まだ静観のスタンスをとっているのか分からないぐらいだ。

だが自分が大事にしている一夏にとって篠ノ之箒という存在が大きいのも事実だ。だから、感情に折り合いをつけて見守る事にした。

 

夕飯を食堂で取った後、寮に戻った。自室のドアをノックし、部屋に入る。

 

簪は、手元のタブレットで黙々と何かの作業に取り組んでいた。部屋に入った時に一瞬だけこちらに目を向けたが直ぐにタブレットに目を落とした。

彼女と会うのもあの病室での一件以来だ。気まずくなったのか、はたまた姉に勝つために努力しているのか。自分にそれを知る術は無い。ただ、恐らく後者だろうな、とは感じていた。

正直この程度の喧嘩にISを持ち込まないで欲しいと思う。レイの存在によりIS、正確にはそのコアには意思があるという説が立証された。彼女らのコアがそうかは分からないが、少なくとも自分なら姉妹の喧嘩に巻き込んで欲しくは無い。少なくとも、勝負をけしかけた自分が言えることではないが。

 

仕方無しに制服から寝間着に着替え、特にすることも無いので就寝する。久しぶりの自室に安心したのか、直ぐに深い眠りへ落ちていった。

 

 

 

Side 3人称

 

特に何事も無く1週間は経過し、アリーナ内観客席。

崇継、そして離れた所では箒を除いた一夏とその取り巻きが観客席に座っていた。辺りを見回してみれば見知った顔が2人。あちらも崇継に気づいたのか歩いてくる。

 

「よぉ、アンタも来てたのか」

 

笑顔で片手で挨拶しながらダリルとフォルテが近づいてきた。

 

「久しぶりだね。元気にしてたかな」

 

「はっ、そうそう簡単に体調崩してたら不味い立場だぜ。そう言うアンタこそ大変だったらしいじゃねぇか」

 

「あぁ。何事も無く……とは言えないがともかく大丈夫だよ。心配ありがとう」

 

「なに、少し話しただけの仲とは言え同じ学校の生徒が死ぬのは寝覚めが悪い。……っと、それはともかく。何だってアリーナ貸し切って、実質観戦不可になってるんだ?」

 

「さぁ?それは私にもわからないんだよ」

 

本当に知らないのだ。この学園の生徒会長は最強でなければならないだったかどうかは忘れたが、少なくとも更識楯無はこれまで挑戦者との試合を告知しなかった事は無いし、そもそも女性のコミュニティの力で直ぐに情報が行き渡る。

だが今回は徹底して秘匿を図ったらしい。貸し切りの情報は流れていたし、生徒会だからと誰も疑いはしていなかった。だから今回戦う2人と自分が連れてきた一夏、一夏と仲がいい鈴、その鈴と仲が良いセシリア。そして生徒会関係者でサポートに入っている布仏姉妹以外は居ない。はずだったのだがどうしてかここに2人も居ない筈の人がいる。

 

「話を変えるが、そもそも何故君達はここに居るんだ?」

 

「ん?それはな、更識のやつ、ここ1週間ずーっと思い詰めた感じでな。虚に聞いたら妹と戦うっていうから見に来たんだ」

 

(何故この2人には教えたんだ布仏姉…疲れてたのか…?)

 

別に自分に関係無いから良いが、それは不味くないか。そう思った。

すると片側から簪が出てきた。自分も製作に少しだけ関わった打鉄弐式を纏っている。自然体のようだ。戦うときのコンディションとしてはベストと言っていい。

一方の更識楯無は未だ出てこない。

 

「丁度良いや。アンタ、何でこんなことしてるのか知らないか?」

 

純粋に理由を知りたいようだった。いささか迷ったが彼女達に無駄に言いふらさないよう言い含めてから話し始めた。

 

 

 

 

 

「はぁ〜、なるほどなぁ。けど、かなり飛躍したなぁ。いきなり生徒会長の座をかけて勝負とか」

 

「まぁ、若くて良いんじゃないか。ISを使っているとはいえただの喧嘩ですむ」

 

「27歳も結構若いほうだと思うっすけどねぇ〜」

 

「ありがとう。ところで、流石にちょっと」

 

「「遅い」」

 

先程簪が出てから既に15分経っている。流石に遅すぎる。まさか、この期に及んでまだ日和っているのか?

 

「済まない、少し席を外させてもらう」

 

崇継は控室に向かった。

 

 

 

「お嬢様、すでに妹様が出てから15分経っています。いい加減覚悟を決めてください」

 

「……」

 

更識楯無は未だ覚悟が決まっていないようだった。バレないよう、と言っても既に布仏姉にはバレているだろうが、話を聞く。何を言うのか気になったからだ。だが更識の口から出た言葉は崇継の冷静さを奪うには十分なものだった。

 

「……私が、生徒会長を降りれば、簪ちゃんは満足するのかしら」

 

「……は?」

 

更識はその声に反応しても、両手で頭を抱えて座ったままだった。

 

「私は、簪ちゃんに……」

 

「おい」

 

耐えられなくなった崇継は更識に近づき胸ぐらをつかんで持ち上げた。

 

「お前がまさかそこまで腐っているとは思ってなかったよ。簪の事舐めてんのか?」

 

更識は何もしない。

 

「これは簪からお前に与えられた最後のチャンスだ。何時までも逃げてばっかのお前へのな」

 

更識はうなだれた首のまま視線だけで弱々しく崇継を見る。

 

「どう、して…」

 

「『どうして』だと?今も言ったろ。逃げてばかりのお前も、生徒会長として引きずり出せば逃げられない。そうして整えた場で勝負する。それで落とし前をつけるってことだ。だがもし、ここで逃げれば。お前は簪からは一生突き放されたままだし何よりお前は姉として大事なものを失う。……さぁ、選べ。今ここで。戦うか、否かを」

 

斑鳩は掴んでいた手を離した。更識は尻もちをついた。

すると更識は涙をこぼしながら崇継を見た。

 

「どうして!?何でなの!?私は簪ちゃんを危険な目にあわせたくなかった!あんな物を簪ちゃんには見てほしくなかった!ただ、ただそれだけなのに!」

 

「だからだ」

 

「え…?」

 

「簪はお前がそういう事をやっていると知っている。それが辛いことだということも。ただ、だからこそ自分を頼ってほしかったんだよ。苦しみを共有してほしかった。だがお前はそれを拒んだ」

 

「……」

 

「簪はそれでもお前を許そうとしているんだ。だからこそお前はここから逃げ出しちゃいけない」

 

「……分かった。私、戦うわ」

 

そう言った彼女の目には決意が灯っていた。

 

「簪、聞こえるか」

 

『っ、聞こえます』

 

気まずいのか、はたまたいると思っていなかったのか動揺していたが無視だ。

 

「待たせた。これから生徒会長が行く。存分に戦い語り合え。今の彼女なら、受け止められるだろう……多分」

 

『ちょっと!せっかく良さげだったのに!最後の多分はなんですか!』

 

「気にしないでくれ。それじゃ」

 

そう言って通信を切った。

 

「じゃあ後は任せたぞ」

 

「貴方は見て行かないのですか?」

 

「う〜ん、どうしよう。まだ迷ってる」

 

すると布仏はメガネを中指で押さえるメガネ特有の動きをして言った。

 

「実質貴方がけしかけたようなものでしょう。最後まで見届ける義務が有ると思いますが」

 

「それを言われると弱いな。ま、そう言うんだったら見ていくよ。管制よろしく」

 

 




イモータルズやったんですが結構面白いっすわ。皆さんもやってみてほしい。


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28話

管制室を出た崇継はダリル達の元では無く、一夏達の所へ歩いていった。彼らの元に着く頃には既に2人は戦いを始めていた。

一夏達は真剣にその戦いを観戦していた。

3人に声をかけ座る。

 

簪と楯無、2人の戦いは意外にも拮抗していた。

かたや国家代表候補生。

かたや現国家代表。それも人口の規模が大きく、競争が激しい国ながら、本国の人間を押し退けてみせた上での。

専用機というアドバンテージを消してみせたとは言え、国家代表とその候補生の実力には大きな隔たりがある。それだけ国家代表と言うのは力が求められる。

普通の人が見たなら、直ぐに国家代表の方が勝つと決めつけるだろう。そしてそれは正しい。

それを分かっている簪は専用機の有無という差を消して尚余りある差を埋めるべく数多くの事をしてきた。それは情報収集であり、精密な機体設定であり、整備である。

国家代表として公の場に立っている楯無はそこで手の内を晒すことを、国家代表であるが故に避けられない。簪は彼女のあらゆるデータを集めた。

 

その成果故か、試合は平行線をたどっていた。

だが簪の機体、打鉄弐式は実弾を主な装備とする機体だ。ただ闇雲に撃っていてはジリ貧になってしまう。

その対策として薙刀も装備しているようだが近接戦になったとしても、打合いには向かない。これは楯無の機体の槍、“蒼流旋”の形状が原因だ。大型かつ質量も大きい故に弐式の薙刀では振動で斬る*1前に物理的に破壊される可能性が高いからだ。

 

その為簪の勝ち筋は2つだけ。

1つは、わずかながらでも良いからシールドエネルギーに差をつけて時間切れを狙うこと。

1つは純粋に相手のシールドエネルギーを0にすること。

だが前者はほぼ不可能だ。楯無に耐久で勝てる相手はこのIS学園、ひいては世界にもそう多くはいないだろう。何より、その勝ち方では簪も楯無も満足しない。

その為実質的に後者のみが選択肢となり、2人はそれを選ぶ。

今、2人はこれまでのわだかまりを乗り越えるため、そして目の前のISのエネルギーを0にするために戦っている。簪も楯無も、自分の全てをつぎ込んでいる。

 

 

    だからこそ。

 

「………勝てない、と断じるのは無粋だろうな

 

「崇継さん?」

 

「いやなんでもない。一夏こそよく見ていろ。あれが、君が目指すべきものだ」

 

「は、はい」

 

 

 

 

 

 

結局、勝負は楯無が勝利した。

途中まではある程度拮抗していたが、それは楯無にとって未知の機体の情報を集める為の時間だったらしい。楯無は終始、ミサイルを徹底的に注意していた。ミサイルが自らに届く前にナノマシンで誘爆させたり、ミサイルを打つと自分まで巻き添えをくらう位置に近づいてランスで打ち合ったり。楯無の方が試合慣れしていて、細かな所でも最良と言える選択をしていた。

崇継は一夏達が呼び止める間もなく出ていく。

 

(取り敢えず、2人の問題はこれで解決するはず。あとは……あの2人、か)

 

そう考えながら、崇継は少し早めの夕食をとりに食堂へ歩みを進める。

 

 

 

 

 

そして夕食をとり、自分の部屋に戻って扉を開ける。

 

「あら、おかえりなさ〜い!」

 

そして、居るはずのない人が出てきて、扉を閉めた。

部屋を間違えたのかと思って扉の横を見てみれば、自分の部屋の筈の番号がしっかりと彫られている。自分が歩んでいるここも、既に何回も歩いた。他学年用の宿舎に入ってしまったという事もない、筈だ。

 

「何故……?」

 

だから、そう独り言ちてしまうのも仕方ないのだ。脳内が混乱の渦に包まれるなか、今度はあちら側から扉が開けられた。

 

「もう、せっかく出迎えてあげたのに!人を見るなり扉を閉めるなんて、失礼よ?」

 

ウインクしながらそう言ったのは、先程まで妹と戦いを繰り広げていた生徒会長、更識楯無その人であった。夕食をとったからと言っても先程からあまり時間は経っていない筈だというのに制服に身を包み、身だしなみも完璧だ。

よく見れば、後ろ、部屋の奥に簪も居る。疲れた顔をしているのは先程の戦いが原因か、それとも。

 

「いや、いやいや。失礼も何も、君がここにいる方がおかしいだろう」

 

「?仲直りしたんだから、一緒に居てもおかしくないでしょ?」

 

「いや、そういう事では無くてな」

 

全身からウキウキ?オーラが出ているのが見えるのは気のせいでは無いだろう。

 

「取り敢えず、入って入って!」

 

彼女にせっつかれるまま部屋に入り(自分の部屋のはずだが)、椅子に座らされる。

簪も自分の椅子に座っていて、楯無は2人の前に立っている。

 

「で?なんで君がここにいるんだ?いい加減答えてくれ」

 

「ん〜?さっきも言ったでしょ?簪ちゃんと一緒に居たかったからよ。まぁ、あともう1つ。貴方にお礼を言いたかったの」

 

そう言うと楯無は深々と頭を下げた。綺麗な姿勢だ。

 

「私は、貴方のお陰で大事なものを失わずに済みました。本当に、ありがとうございました」

 

「私も。崇継さんのお陰で専用機も完成したし、お姉ちゃんと仲直り出来ました。本当にありがとうございます」

 

2人揃って崇継に頭を下げる。別に感謝されるようなことをしたつもりが無いので居心地悪くなってしまう。

 

「2人共頭を上げて。私の方が居心地悪くなる」

 

2人は頭を上げる。

 

「別に大した事はしていない。大人として、君達が楽しい学校生活を送れるようにしただけだ」

 

「「でも………」」

 

「気にしなくて良い。過ぎた感謝は居心地が悪くなる」

 

「……分かりました」

 

「簪ちゃん…」

 

「良いんだよ、お姉ちゃん。これでもう、終わり。ほら、頭上げて」

 

ようやく楯無も顔を上げた。崇継はふっと笑った。

 

「というわけで、お帰り願う」

 

「ちょっと!せっかく良い雰囲気だったのに!」

 

自然と笑みが溢れる。

 

(家族とは、こうあるべきだな)

 

「まぁ、帰るのは後でも良いが、2人とも明日にでもちゃんと謝っておけよ」

 

「「?」」

 

2人共まるで分からないといった感じだ。こうやって見えない努力を重ねている上で振り回されるなんて。涙が出てくる。

 

「布仏達にだ。全く、簪はともかくとして君はかなり迷惑をかけただろう。しかも一回や二回では収まらない回数をな。そうだろう?」

 

「ギクッ」

 

「それは…そうだね…。虚さんにもちゃんと謝らなきゃ」

 

「まぁ、良い。人として、通すべき筋は通せということだ」

 

その後、楯無と呼ぶよう強要されるなどといった事もあったが、1つ言えるのは。確実に姉妹は、再びあるべき形へ戻ったということだ。

 

*1
弐式の薙刀は“対複合装甲用超振動薙刀”。刃をあわせるだけでも緩やかながらチェーンソーの様に切れる



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