過給機付き大正義の世界で踏んでるNA(わたし)はどうすりゃいいですか? (tmsoy)
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1話

第一話 人のセンスに口を出しても無駄だよね

 

今日も私は暇さえあればUSSのオークションを覗く、業者向けのオークションだが中古車サイトを見るよりこっちの方が手っ取り早い。

東京の文系大学に進学した現役女子大生のやる事か?と聞かれたら違うと即答できる。

みんなが、カフェやら飲食店でバイトしてても、私は深夜のビル清掃を選んだ、14時から授業開始が多い生活サイクルにちょうど良く時給も良い、それだけだ。

出会いが欲しいって友達は言う。

それは私も同じだった。彼氏が欲しく無いなんていったら嘘になる、けど、もっと欲しいものがあったらそれは疎かになるものなんだ

E46 M3

直列6気筒3.2リッターのドイツ車

その言葉の響きと、スタイルどちらも100点満点を送りたい。

 

「週末に、羽生にある公園でバーベキューするんだけど唯もどう?」

そう言われて私は妄想の世界から離れた

こんな私を誘って来るのはあの子しかいない、西原悠美。中学高校大学と一緒の親友だ

「今週末?ちょっと確認するね……うん、土日のどっちでやるの?」

「日曜日に行こっかなって唯平気そう?」

「うん日曜なら大丈夫!行ける!メンバーは?」

「私と唯と、サークルの人達…かな?」

サークルの人達…か……悠美は変人一歩手前の私とも仲良くなれるタイプの人間なので、交友関係が広くて当然なのだが、私は狭く深く生きてきた。

「やっぱり、初対面の人達いるの嫌?」

そう、悠美は言ってきた。

やめてくれ君と一緒に居るのは楽しいのは本当だ、だけど私は初対面アレルギーなんだ、

そんな葛藤の末に私はこう言った

「行けたら行く」 ハイ、0点

めんどくさくなった中学男子の返事じゃないか、しかも絶対に来ないヤツ

そんな事を言っても彼女は

「うん!返事待ってるね!」

ごめん悠美、君眩しいわ…

日曜日、来たこの日が前日に彼女には行くと伝えたが、無理だ、布団から出たく無い。

なんだサークルの人達って、知らない人にはついていかないって教育を受けた私にはとても恐怖を感じる言葉だ、それでも悠美に、「ごめんね1人来れなくなっちゃった」なんて言わせたく無い…そう思って私は支度を済ませて待ち合わせ場所に向かった。

「唯ありがとね♪来てくれて」

そう悠美は笑顔で言う、あゝ来て正解だったそう思えた。

「あなたが唯さんですね、郡山康介です、これからよろしく」

そう言ってきたのが今日行く5人のメンバーの"サークルの人達"の1人だ

「初めまして、今日はよろしくお願いします」

よかった…間隔を開けて接してくるタイプの人だ…本当に助かる……

初対面アレルギーよりも強烈なウェイウェイアナフィラキシーを持つ私にとってそれは、生命の安全を意味する。

残りの2人も私に死を意味するようなタイプではなく、今日はいい滑り出しを見せたと安堵した。

「じゃあ、揃いましたし行きますか、俺の車そこのコンビニにあるので」

あぁ、そうか今日は康介君の車で行くのか、悠美がそんな事を言ってたな、俺の車って言ってる訳だしレンタカーじゃ無いのだろう、そう思ってコンビニの駐車場を見渡した、目の錯覚だろうか、彼が指差していた先には"世紀末でも渋るようなものがあった"

「これ…GRBだよね…」

「えっ、唯さん詳しいんですね!」

笑顔になるな、GRBをここまで酷くできるの珍しいぞ

やたらと貼られたsti、ニュルのステッカー、純正の方がカッコいいクソホイールに赤いリムテープ、挙げ句の果てにはGTウィングまでついていやがる。

なんだ?ポケモンパンについてたシール貼りまくったトミカの方がマシだぞ。

「唯はね…車の事結構好きなんだよ」

悠美なんで今それ言った?あれか?行けたら行くって言ったの恨んでいるのか?

それともこの壊滅的センスに気がついていないのか?

「そうなんですね!女性なのに車好きって珍しいですね!」

驚くな、そしてこの車の事をカッコいいと思っている想定で話さないでくれ…神話レベルのカーチューンだぞ

「ハハそうですね、たしかにあんまりいないですね、とりあえず道混むかもしれないので早く行きましょう」

こんな車見ていると体調が悪くなるのでそそくさと私は乗り込む事を提案した、なんとかして奇妙なGRBを視界からは消したかったのだ。

「東北道は週末よく事故が起きますからね、行きますか」

よかった車のセンスはダメだが、私の早く出発したい信号は読み取る力はあるようだ。

そして、動く恥晒しに乗り込んだ、車内は普通だったのが幸いだった。

 

 



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2話

第二話 出会いって縁じゃなくてその人の努力の結果だと思うんですよ

 

見た目は酷いものでも、中身は別なんだな…と行きの高速で私は思わざるを得なかった。

5人乗り+荷物 一人当たり70キロほどと換算しても350キロに20キロの荷物それだけ積載していてもGRBはスイスイ進む、見た目酷すぎるけど。そして何よりも以外と脚が固かった、なんだかんだで少し車高も低く前後のキャンバーも2°程付いていたことを見ると、少し"走り"を感じさせる、見た目の情報量多すぎだけど。

「もう少しで蓮田なんだけど、ここらへんで休憩挟みますか?」

そう康介が宇多田ヒカルと走行音以外しない車内で言葉を発した。

誰も返事が無い…もしやと思い私はヤフオクの画面から周りに目を向けた

こいつらマジか…全員寝てやがる。

普通運転させといて寝るか?いや多分経験無いんだろうけど結構心にくるものあるぞ。

そう彼に同情したが、この状況マズい

出発前に微妙な対応をした彼に反応できる人間は私1人だ。選択肢は2つある反応を見せるか寝たフリをするかだ、なぜ寝たんだ西原悠美。この世界に私を置いていかないでくれ。

「康介君が寄りたいなら寄ればいいんじゃ無いかな?」

やってしまった、これハイかイイエか聞かれているのにどちらでも良いと答えてしまった。

「えっ…じゃあ寄ろう…かな?」

「良いですよ」

誰に許可出したんだ私は…

そんな主体性ゼロの自分に失望しながら蓮田PAで小休憩を挟んだ。

そして、

「うーん着いたーぁぁ」

そう悠美が大きな声で言った、あの後も私と康介以外寝ている地獄の時間を過ごした私はなんとも言えない気分だった

「それじゃあ始めますか!俺受付して炭と道具貰ってきますね」

「「おねがーい」」

やっと始まるのか…本当の地獄が、トングの方が私よりも音を出すことの多い時間が…

「唯ごめんね寝ちゃってた☆」

うん知っている、あと謝る相手違うと思うよ悠美…そう思いながら私は、適当に相槌を打ちバーベキューの準備を進めた。

そして始まった…私の試練が……

だが、始まってみるとそんな事気にしすぎていただけだったと実感した。

案外悠美以外と話していても楽しいのだ、これには自分の精神的成長と、周りのメンバーがとても大人な人物だった事が要因だ

「良かった唯楽しそうで♪」

「うん、ありがとね誘ってくれて」

そう本心で即答できた事に、苦手意識って案外そうでも無いのかなと考えていた。

「そういえば悠美って何のサークルなの?」

「あれ?話してないっけ?自動車部だよ」

「えっ?そうなの?意外だった」

いや待てよじゃあここにいる人達全員自動車部じゃねぇか

「唯、車好きだから話しやすいかなって思って誘ったんだ」

結果的にあたりではあったが、私の中ではあんな外見にする奴は車好きとは言いたくなかったが、今日稼がれてしまった好感度によってその意識は消え去った。

「それなら早く言ってよ!もうちょっとディープな話とかしたかったのに」

私って人前でこんなに喋れたんだ。

「そういえば唯さんって、何か乗ってたりするんですか?」

そう、彼が聞いてきた。痛いところつかれてしまった…

「いや、免許はあるんだけど…自分のは無い……」

露骨に低くなるテンションに康介は少し焦りながら切り返した

「えっと、じゃあ乗りたいのとかは?」

「e46 m3」

即答した。

「e46のm3?……」

意外なチョイスに戸惑っていた康介を見て、やっぱりマイナーなのかなと少しセンチになっていた私は、その後耳に入ってきた音を聞き間違いだと思った

「たしか、俺がお世話になっている店にあった気がします…30万ぐらいでいらないか?って言われたものですけど…」

「えっ」

「この近くなんですよお店帰り寄ってみます?」

「いいんですか?!是非お願いします!!」

今日1番興奮する私を見て悠美は微笑んでいた。子供見たいと思っていたのか、連れてきて良かったと思っているのかそんなことはどうでもいい。今、私は目の前にある出会いを掴もうとしていた。

その後バーベキューの後片付けを済まし、加須にあるその店に向かった。

その車内は行きとは違い何故か時間を早く感じた。

「着きましたよ、ちょっとお店の人呼んできますね 陣内さーん郡山ですけど、居ますかー?」

そう言われて出てきたのは作業着を着た50代前半の男性だった

「おぉ何かようか?康介君?やっとそのクソダサイ車の外見なんとかする気になったのか?」

ありがとう今日ずっと言いたい事を代弁してくれて…

「もう、冗談はよして下さいよ」

と笑いながら康介は言った。

店主はいや冗談では無いんだけどと顔に示していたが、それに気が付く気配は無い

「陣内さんまだあります?e46」

「なんだ?買う気になったのか?」

「いえ、彼女がe46m3を欲しいそうなんです」

「ヘェ〜、おねえちゃん珍しいネェちょっと待ってな今裏から出してくる」

そう言うと、店主はそそくさと事務所から鍵を持ち出し裏へ向かった

裏の駐車場から出てきたソレは私の理想であり憧れだった

唸るような排気音、特徴的なヘッドライト、何よりトランクについているMの文字

「ちょっと吹かしてみるか?」

私はその言葉に甘える事にした

運転席を眺める、年式相応に傷んだシート、意外にもパッと気になる点はそこぐらいで、20年近く時間が経っているとは思えない

走行距離は16万キロを表示していた

「SMGじゃなくてマニュアルなんですね」

「元はSMGだったんだけどユニットがイカレてね載せ換えたんだ」

目の色を変えて楽しむ私を見て店主は言った

「車検は来年の8月までだ、歴有りで30万。どうだ?」

「試走してみてもいいですか?」

「どうぞお客様」

その場にいたみんなに一言「試走に行く」と伝えた

陣内は既に助手席に乗り込んでいた

「さぁお客様楽しんで安全にどうぞ」

スロットルを踏み込む2500回転まで回転数を上げローギアをゆっくりと繋ぐ、1.5トンの車体が憧れを乗せて動き出した。




やっぱりいいですよねぇ NA高回転エンジン馬力的にはそりゃターボの方が出てますけど、パワーバンドを維持しなければ加速しない感じとか、メーカーがやたらと2→3→4をクロスミッションにしてたりするのとか最高や…


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