クソゲーハンター、京の都から神ゲーに挑まんとす (ずーZ)
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クソゲーハンター、京の都から神ゲーに挑まんとす
「ふぅ。これでLV12。あ、
さっきようやくヴォーパルチョッパーは2本揃ったが、今から使うよりボスとかにとっといて、まずはコレとゴブリンの手斧から使い潰すか。
ボスか。さーて? お、ここからならセカンディルのが近そうだしこのままいくか。
「んん? なんだ通知音みたいな、ってああこれリアル側からのメール通知か。
シャンフロはそういうの見れる仕様だったか、と?」
差出人:京極
宛先:楽郎
題名:まさかね。まさか、ね
内容:僕との約束事すっっっっかり忘れたって言うならそのうちラーメン奢ってね? まあ? そんなことある訳ないだろうけど?
ハ、ハハハ! あんなにラーメンのこと小馬鹿にしておいてすっかりと堕ちよってからに。こやつめ!
しっかしここからファステイアに戻るのか。うーん。
いっそのこと、──ダメだダメだ。
「このままだと京ティメットのやつが機嫌損ねて、國綱さんがそれとなく察して……」
京極が幕末始めたての頃、
学校帰りに何時も通り道場に寄ったら、國綱さんがなぜだか神妙な面持ちで待っていて。
『マイシス……んんっ。
……京極がいつにも増してやけに冷たいんだ。いや? 君に非があるんじゃと言う訳じゃないんだがね? 全然ない。勿論だ。何せ何も聞かされていないからねぇっ!
ふぅ、ふぅ……いいね? よし。
さ、──
何がいいのかさっぱり分からなかったが、その日の稽古が普段の比じゃなく容赦なかったのは身体で覚えている……。VRの感覚をリアルで再現できねえかな。それでも勝てるとは思えないけどな!
まあ。
キャラメイクでもそうだが、彷徨う者にしたことで森からスタートしちまったからって、狩に夢中になって、時間も約束もすっかり忘れてた。
俺が全面的に悪いな。
シャンフロ内でフレンドになるだけだし、とっとと済ましときゃ良かった。
「……ファステイア、急ぐか」
今から行く、って返信だけしとこ。
…………
お、読める。この門に書いてあるのは、
【始まりの街 ファステイア】か。文体これどうなってんだ?
「……さーて」
うっわー。街の外も大概だったけど街中はもっと人混みやべぇ。休日のテーマパークかよ。
う゛っ、頭がっ……ジェットコースターはちゃんと身長制限を守る事で命を守るので、間違ってもシークレットブーツなんて履いて誤魔化すなんざ以ての外だからまだまだ俺には早いゃ゛だっ……
しっかし。
さすが夏休み、の頭。こりゃあと1週間もしたら街からもっと溢れるんじゃないか?
そしてまあまあ、チラチラチラチラ……視線が鬱陶しい。たまに「変態」とか「珍獣」だのボソボソ言ってんじゃねえ聞こえてんだよ刺さってんだよ。あと一部の「同士か」って目はバッカやめろ一緒にすんなそれはそれとしてそっちの馬頭店で売ってるかな。
まず──半裸やめよ。
「ありがとうございましたー」
「木こり1式か……見えなくも無いが」
店売りの一番安い防具、防具? その辺を歩いてる男NPCの色違いを着てるような、同じ服のような。まあ初期装備よりかは防御高いし、なんでもいいや。
視線は、……まあそこそこ減ったか。
「なんで鳥頭なんだアイツ」だと?
やかましい。ネタじゃねえぞ。視界に補正効くのが中々便利で、ただの作業帽と比べると手放せなかったんだよっ。
なんだ1式ボーナスで「木を切る時の斧操作に補正ボーナス」って何得なんだっての。意味わからんわ。
「えーと確か待ち合わせ場所は」
メールメール……あった。
なになに? ファステイアのリスポーン地点の、街の中央広場の、広場から見て右手に進んだ、先を、左に曲がった所にある広場、って。
解りづらっっ! 文面よっ。アイツたまにポンコツになるのなんなんだもっと目印らしいもんを教えてくれよっ!
というか、何だこの街広場いくつもあんのかよ。そういう特徴か?
迷うと思わないが、道の先なんて微塵も見えねえような、この人混みじゃ少し不安だな。
ピコンッ
「メール、ってまたアイツからか」
なんだ催促メールか?
差出人:京極
宛先:楽郎
題名:着いた頃かな
内容:待ち合わせ場所、ファステイアは広場が多いし夏休みシーズンで人も多くて迷うかもだけど、今から間違いなく街で一番騒がしくなるから、きっと分かりやすいよ
どう伝えればいいか文面に困るけど。ともかく、間違っても巻き込まれないでね?
「は?」
一番騒がしく“なる”? 巻き込まれるな?
「どういう意味だ」
「こっちの広場でルティアたんが出たぞーっっ!! しかもサバさんとやり始めるぞっ、見逃すなーっっ!!」
どこかで、プレイヤーが意味不明な事を大声で叫び始める。
それに俺と同じくポカンとする大多数の初期装備陣とは別に、その興奮した叫びに呼応するような雄叫びと一部黄色い歓声を上げたプレイヤー達が一斉に動き出して、
って跳んだ?! 屋根走り出してるっ!?
「なんだなんだ」
なんでこいつらやたらと“動ける”んだ? なんだあの、“始まりの街”にそぐわない機動力は。レベルがあからさまに、それこそ桁外れに開いてるとしか思えねえぞ。
「なるほど?」
詳細はまるで分からないが。
なんにせよ、京ティメットの言う通り、確かに一番騒々しくなったかもな。
待ち合わせ場所はあの連中の向かった、あっちってことか。
◇
歓声が高まり、熱気が篭もっていくファステイアのとある広場。
観衆に、2人の人影が囲まれ、その高速の攻防で砂煙を上げていた。
1人は両の手に持つトンファーエッジ以外、顔から足先までマントとローブ、マフラーで覆う賞金狩人というゲーム内NPC、ルティア。
対峙するは顔に傷ペイントをつけた、長躯の偉丈夫の如き屈強な女アバターを操る男プレイヤー、サバイバアル。防具の一切を付けておらず、武具なのだろう鋼の篭手を身に付けるばかりではあった。
……この戦いの勝敗は決まりきっている。ゲーム内NPCルティアは、明らかにプレイヤーに勝てる調整をされていないのだ。さながらサバイバアルの記憶にいる、ユニークモンスター墓守の某に近しい理不尽な存在がルティアを始めとした賞金狩人達だ。
もっとも、そもそも
だがだからといって、サバイバアルにとってそれはそれ。
勝てない? だからなんだ。
すぐさま両手を投げ出すような萎えた根性なぞ、サバイバアルには微塵もなかった。
繰り出される黒い“点”による突き1つ。
振り回される黒い“線”の薙ぎ払い1つ。
変則二刀持ちとも言える、トンファーエッジを槍や剣のように振るう。合間合間に、顕になる美脚から放たれるは駒の如き蹴りの数々。
そのどれもが、鋭く、早く、重い。
ステータスを一極的に、それこそ
マトモに食らえば、だ。
本命はこれらを起点にして、後に繰り出さんとする連撃であろう。
篭手で受ける度、衝撃越しに伝わる言うなれば“熱”の、その冷め具合でハッキリと分かった。
「ここぉおっ!」
ならば反撃の択も当然取る。そもそも凌ぐばかりでいるのは、些か癪ではあるのだ。
ほぼ同時のような2連突きを避け、次いで振るい始めの上下のトンファーエッジを、背中と肩であえて受けるように踏み込むっ。
大剣スキルの中にある繋ぎの技、タックル攻撃のスキルにより受けた2撃の威力を極限まで抑えつつも、勢いをつけてぶつかるっ!
ルティアを確かにそれは捉え、宙へと押し上げるように僅かに浮かせた。
そこへ、タックルのために踏み込んだ脚を軸に、放ち慣れた回し蹴り!
最上位職業【戦王】を取るまでに至ったサバイバアルの回し蹴り。
咄嗟に両の手に持つトンファーエッジの柄で蹴りそのものが防がれて。
サバイバアルが瞠目する。
どのようなスキルか、それとも単なる技術か。ルティアは蹴りの衝撃を殺し切り、優しく放られるように上へと跳んだ。
足を伸ばしきった体勢のまま、頭上を取られたサバイバアル。
その頭を叩き落とすべく、中空でトンファーエッジを構えていくルティア。
そこへ!
「おぉっ!」
無理矢理な姿勢で、サバイバアルが自ら跳び込んだ。
そこはトンファーエッジの最大威力を殺せる至近距離。振るったところで痛打に至らぬと、ならばとルティアは得物を留めて、その巧みな蹴りで迎え撃とうと動くっ。
それよりも!
サバイバアルの身に深く沁みたその得意技が放たれる方が、僅かに早かったっ。
滅茶苦茶な体勢から、されど、ルティアの
──彼は壮絶な痛みを伴うとある
寸での差で迫る蹴撃。それも人体の急所狙い!
堪らずルティアは、しかしそれすらも防御する。
だが今度こそ、その衝撃をマトモに受けてその体が傍目は撓むようにしなり、弾けるように飛ばされた。
「わたった」
「ちょぅお」
吹き飛んでくるルティアから、人混みが波打つように逃げる。生まれたその荒波の間を、二転三転と転がって。
勢いを抑えきり、軽やかにルティアは降り立った。
ダメージはさほども無い。
開いた距離を詰めるべくルティアが駆け出す。
腰を落とし、不敵な笑みを浮かべたサバイバアルが迎え撃つように手を広げる。
「さすがだサバさんあのルティアたんにカマすなんて!」
「なんてことをっっ!! ルティアたーん!! 無事か──!」
「コイツ! ってかどう見てもあれ無事だろ」
「サバさんを責めようってか? ん? 暗いとこ行く?」
「あ゛あ゛? ルティアたんを心配して何が悪い??」
「過激派と過激派だ逃げろっ」
防戦一方だったサバイバアルの明確な反撃に周囲が湧いた。もっとも、集中する2人にそれは聞こえないまま、さしたる間もなく再び接敵する。
大きく吹き飛ばされたルティアは、しかし変わらず淡々とした在り様だった。
殺意は感じるが、やはり“熱”はなく。
ならばと、サバイバアルが仕掛けた。
「使っていくぜ」
戦闘開始の焼き直しにはしないとばかりに、スキルを切る。
攻撃力だけではなく、機動力、耐久力、技量。
前線を貼るに相応しいスキルを次々と起動していく。
戦意を漲らせるサバイバアルに対して、ルティアはさしたる警戒の色も見せずに攻め入った。
トンファーエッジも蹴り技も、全てに虚実を織り交ぜた連撃。攻撃後のサバイバアルの立ち位置までも計算しつくされたそれは、確かに早い。
やはり鋭い。
そして重い、
「はっはーっ!」
「……っ」
だが!
こうやって、受け止めてしまえる程度には、本命でもないこれら起点の攻撃は“弱い”っ!
両の手共に叩きつけんと振るったトンファーエッジをサバイバアルは渾身で掴まえた。
反射的に引き抜かんとするルティア、刹那、その力を利用して沈み込むようにサバイバアルが懐へ潜る。
サバイバアルが腹部に頭突きのようなタックルを入れる、寸前、ルティアの膝が懐に迫る不埒者の顎をかち割らんと跳ね上がる。
──
サバイバアルの口角が上がる。驚異的な反射で反撃が来るだろう、とアタリをつけていた通りだった。
その脚をこそ狙われていたと気付いた時には、ルティアの視界が回っていた。
跳ね上がってきたルティアの膝を、その足を、しかと両の手に捉えて抱えるようにし、サバイバアルが軽く跳んで身を捻ったのだ。
空中でルティアの脚を抱えたまま、地面にこのまま倒れようものなら完全にその脚をキメる腹積もりのサバイバアル。
何をされたのか分かったがどんな技なのか分からないルティアはしかし、このままでは脚を持っていかれる危険性を察した。
トンファーエッジが2つ共閃き、石床を粉砕して地面へと突き立った。
そしてすかさず回転するっ。
「ぬ、ぉあっ!?」
サバイバアルを脚に引っ付けたまま、トンファーエッジを起点にして逆立ちのような体勢でルティアが風を巻いていく。
瞬く間に、魔法のような旋風を巻いた。
石片が多数飛び散る。周囲の観客から悲鳴が上がる。
回り出した瞬間に脚を捻り壊そうとしたが、あまりの勢いに力を入れるどころではないサバイバアルは、次いで直感に従い、もはやしがみついていた脚を離した。
慣性に従い吹き飛ぶように落ちるも、吹き荒ぶ石片から顔を守りつつ中空で体勢を整え着地する、直後。
遠心力を多大に載せ振り下ろされたルティアの脚が轟音を起こし、土煙を立ち昇らせた。
あと半秒離れるのが遅れたらどうなっていたのやら、と、サバイバアルは考えて笑った。
「こっわ……──む」
淡い粉塵が立ち込める最中、サバイバアルは確かにその眼差しを感じ取った。
肌を焼くようなそれ。お前を殺すと宣告するかの如きそれは、──求めていた“熱”だ。
フードとマフラーの隙間から微かに、サファイアに似た双眸が滾るように輝いているっ。
何かしらのスキルエフェクト……!
そう理解すると共に警戒レベルを最大値まで引き上げ、防御系スキルを幾多と発動する。
──備えやよしっ。未だ何をしてんのか知らねえが。来てみなルティアたん、今日こそあっ……!
次の瞬間には、サバイバアルの身体は両断されていた。
…………
「……まさに追加戦士っ! くくく、我が事ながら恐ろしい、いや本当に恐ろしいのは着こなすルティアたんこそ、か」
着せ替え隊が御用達にしている、ファステイアにある【蛇の林檎】店内にて、サバイバアルは恍惚としていた。
次々と届けられる同士達からのルティアの
どこかの特撮物に出てきそうな魔法少女、あるいは美少女戦士的な衣装に身を包んでいるルティアを、しばらくの間、様々な角度から撮られた画像群を一頻り眺めて。
「うーむ。やっぱ視界補正系とる、とすっとレベルダウンしねえとー、や、でもそこまですんのもなんかなあ……」
PvPを手段とするクラン【ティーアスたんを着せ替え隊】において、時間切れ、と認識されているルティアの何かしらのスキル。いかに戦闘を続けようとも、彼女のあの目が輝いた直後には須らく真っ二つにされてしまう。
サバイバアルは、いったい何されてんだあの時、とぼんやりグラスを傾けていた。
なお、キルされたばかりで所持金はもはやない。飲んでるそれは、リアル志向の徹底的なシャングリラ・フロンティアならではの、顔馴染み故のツケであった。
「いたいた。やっぱりここでくだ巻いてる」
「んあー? なんでえ、まだいたのかよ京極。待ち人、待たなくていいのか?」
馴染みのある声に振り向く。
和装に太刀を佩いた女侍といった様相のプレイヤー、京極、その『極』の読みは『アルティメット』という中々奇抜なプレイヤーネームの女性がそこにいた。かつてサバイバアルが所属していたPK専門のクラン【阿修羅会】の同輩である。
待ち人とやらと遊ぶためにカルマ値を精算してまで今日に備えていた、と。待ちぼうけてる京極を見付けてそんな話を聞いたのだが。
「ああ、それなら」
「悪いな京ティメット、1つ聞きたかっただけなんだ」
その問に対する返答はなかった。京極を京ティメットと親しげに略し、その後ろからぬっと二人の間にクチバシから割り込んできた見慣れぬ輩にサバイバアルは眉をしかめ、そのプレイヤーネームを見て──目を見開いていった。
指は自然と、顔につけた傷ペイントに触れていた。
そこに秘めた、冷めぬ“熱”を思い出した。
今でこそアトバードとの再会があって、サバイバアルの中では1つ落ち着いた所はあった。だが……不意に、有りもしない傷を夢にまで見て臍を噛むのだ。VRゴーグルを睨めつけて、次いで
ただただずっと、日がな一日。
全てが閉じられた孤島に立つこともしばしばある。
もう会うことはないと思っていた。
会おうとして会えるものではないと。
会ったところでどうすると己を自嘲したこともある。
「はじめましてサバイバアル。ナイスファイトだった。
で、だ。一個だけ聞かせて欲しい事があるんだ。それが聞けたら俺はとっととここを出るからさ」
だが、確かに今、
その眼差しに、その中に籠もったあの“熱”を感じる!
コイツだ……! コイツだっ!!
「俺は「μ鯖」のサンラクだ。
お前は「φ鯖」のバイバアルか?」
「──ッマッジかよ、おい……っ!」
それから数秘後、蛇の林檎を震わせるくらいの哄笑が響いた。
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京のクソゲーマー2 距離感
跳梁跋扈の森を京ティメットとのんびり歩く。
さすがにヴォーパルバニーが出たら多少集中するが、それ以外はもはや雑魚。京ティメットにいたってはレベルカンストしてるからコイツもコイツで暇を持て余す。
雑談しながらの気楽な道中だ。
「サックサクだね。ま、サンラクにとってはここじゃこんなもんだろうけど。……ねえ、結局あのサバイバアルと仲良い理由って別ゲーで繋がりがあったからってこと?」
「まあそんな感じ。というかなんだその、あのサバイバアルって言い方は。アイツなに、シャンフロでもなんかやってるのか?」
「謂れは知らないけどタイマン無敵って呼ばれてたりするよ」
「ぶっほっ。っふ、ふふーん? そのへんもっと早く知ってたら本人に直接聞くとこだったな、くく。
……タイマン無敵ねえ。なるほどなあ」
分からないでもない。ステータス差を埋めたところで、よーいどん、でやり合ったならそうそう勝てない予感はある。
そもあの鯖癌で正面からアイツと渡り合えるやつは、さて何人いた事やら。俺が完全に不意を打っても3度に1度は
それこそ、今は亡き富嶽のじいさまとも案外いいとこまでやり合えそうなんじゃ、と考えてしまうくらいに。口にしようものなら京極がまるで限界オタクと化して面倒だから間違っても言わないが。
「ねえ。ところでいま、シャンフロ“でも”って言ってたけど、それについて話す気はないの?」
「あ、この道中もそうだが最初に言っとくけどボス戦でも絶対手え出すなよ。
元々そんな気はなかったが尚更だ。なにせアイツラがいるとわかった以上、1度でも介護されようものならこの先シャンフロやってる間、ずっと何言われるかわかったもんじゃねえからな」
「どーせ必要ないでしょっ。……なんだい、はぐらかしてさ。ふんっ」
拗ねたか。まあこればかりは、鯖癌についてはおいそれと話せない。
内容がちょっと、いくらか刺激が強いからなあ。
仕方ねえ。
「今度の道場が休みの日、あけとくよ。何にも予定入れないで。何がしたいか決まったら連絡くれ」
「……ふーん? ま、考えておくよ」
「おう。よろしく」
素っ気ねえ返事だけど、口元がニヤついてるあたりわかりやすいなお前ほんと。
よしよし──ぃよっっっっしっ!!
拗ねた京極は修羅と化した國綱さんを喚び、泣いた京極は羅刹へ変じた國綱さんを喚ぶ。道場の皆はこれを修羅綱、羅刹綱と呼んでいてなお極稀にその上が──
「──ボスか」
「ねえ。煽られるのは癪としてもバッサリやって次に行っちゃわない? 僕ヒマなんだけど」
「ヒマにするのは悪いとは思う。けどその時その時の俺が仕留めないと面白くないんだよ。
だけど安心しろ、退屈はさせねえさ。見逃すなよ京ティメット?」
「へえ。じゃ、期待してるよサンラク」
おうさ。
正面へと、その前へと進み出れば、プレイヤー1人容易く丸呑みにできそうな大口を開けて威嚇される。
が、だからどうした。
さあ貪食の大蛇さんよ。あそこに控えた俺の相棒が暇しないよう、なるたけ派手に踊ってもらおうか!
…………
くぁああああ──っ!!
「っ……た、確かに、退屈しなかっ、っぷくく……!」
「ええいなんだ糞攻撃って! 毒糞って!」
「ぷふふっ。く、クソゲーハンターらしくって、いいんじゃない?」
「そこを掛けるなっ」
クソゲーのクソはあくまで比喩だっ。
うええ気持ち悪っ。ってしまった俺回復アイテム、
「あ、はい。これ解毒薬とあと回復POT。どうせ用意してないでしょ。このくらいの手助けは構わないよね?」
ぐ。
いや。
でも。
………………たしかに?
しかし…………。
「…………、………………っ…………たすかる」
「葛藤しすぎでしょ。あ、待った近づかないで。ここ置いとくから」
「ゲームだぞ」
「身綺麗ならともかく、そんな有り様の君にはあんまり近付かれたくないよ。いくらゲーム内でもね」
へいへい。
「ちゃんと洗ってからならい……つだって」
「あん?」
なんだ口籠って。んー解毒薬のミント感よ。そういやライオットブラッド・アンデッドも確かこんな味だったか。今家にあったかな……。
「──とっととシャワーくらい浴びてくれないと汚くって仕方ないなって話だよっ」
「わかったわかった。ふーん、シャンフロってシャワーあんのか」
「ぇ……、──っ」
回復POTをパキンッと。おお一気に体力全快。これ、絶対後半の街で買う類のだ。贅沢なことしてんな俺。今後はちゃんと薬草とかも準備しねえと。
って、おお、よく見りゃレベル2つ上がってるな。ボスソロ討伐はやはり経験値がうまかった。ステータスポイント、……今は止めとくか。
まず京ティメットの言う通り宿屋にいって、セーブがてらゲーム内のシャワーでも浴びて落ち着いてからに──
「……ん?」
シャワー? とするとインナー着けたままになる訳だよな、倫理的に。
ただそれ、このリアリティで? 存在してる方がより現実的だが、プレイヤーが使えるとしたら逆にそういう制限のせいで違和感に繋がるような要素だな。
はて。
「なあ京ティメッ、てあれ? おおーいっ!」
京ティメットのやつ、いつの間にか随分と離れて森をほぼ抜けて吊橋手前にいやがる。
なんなんだ急にどうした?
ともかく急いで追い付くか、ってどうして俺が走り出したらおまえも走るんだよおいっ!
「スタミナもAGIも違いすぎてまるで追いつけんっ」
ただ俺を完全に置いてくつもりはないらしいな。チラチラと振り返っては距離を保ちつつ俺からギリギリ見える位置取り。
いやお前なにがしたい。置いてくなら置いてけ、そして止まるなら止まれ。追いかけっこなんぞ俺は望んじゃいねえぞ!
結局セカンディルの宿屋まで、付かず離れず、声が絶妙に届かない、そんな距離を維持されて。よくわからん追いかけっこをするハメになるとは……。
先に宿屋に入った京ティメットを追いかけるように俺も入り込むも、やはりというかヤツの姿はない。
ひとまず部屋を取って、セーブして、と。
……なんだったんだいったい京ティメットのやつ。
「あれ、ログアウトしてる?」
フレンドリストには暗く浮かぶ【京極】というプレイヤーネーム。
おいおい、ん? メールだ。
「急用思い出したから落ちます、ねえ。ふーん?」
……約束のこと忘れないで、ともある辺り。怒ってる訳じゃない、か?
ふーむ。まあいいか。
まだ始めたてのプレイヤーに付き合うのもそら暇にもなるだろ。気持ち早く、とっととレベル上げて進めるか。
それはそれとして自身の強化には素材も金も要る。
「採掘が素材と金策にちょうどいいんだったか」
ピッケル買って行ってみるか。
しかし……何か忘れてるような?
なんだっけ。まあ忘れてる位だし、いいか。
誕生日おめでとうございます京アルティメットさん!!
打てば響くタイプだよねえ楽しそう付き合うの。
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京のクソゲーマー3 クソゲーフレンズ
「へー。生粋のクソゲーマーが神ゲーのシャンフロを、それも同級生のあの子と、ねえ」
「なんだよ何が言いたい」
バンダナで目元は見えねえが、口元も声もニヤついてんだよモドルカッツォめ。
「1回だけここで君等の雰囲気見ただけだけど、仲いいよねほんとって。しかしそっか、そんなにハマってるとはね、あのサンラクが」
「おう。癪だけど、リュカオーンっていう最強種のモンスターに惨敗したのが割とな。少なくとも、あんのクソ強な狼を倒すまではやり続けるつもりだよ」
……誰も知らないユニーク、致命兎叙事詩に遭遇できたのはヤツのおかげでもあるがそれはそれだ。
面倒な呪いを植え付けてくれたお礼に、いつか完膚なきまでにブチのめす!
「おお、おお。燃えてるなあ。そうか、サンラクがそこまで本気でやるのか。んじゃ俺もやろうかな、シャンフロ。鉛筆にもメールしとくか」
「え、アイツやってんの?」
「らしいよ? どの程度やり込んでるかは知らないけどさ」
地雷ばら撒かれてるような不穏な気配が一気にしてくるな、鉛筆がシャンフロやってるなんて聞くと。
しかし、カッツォもシャンフロ始めるのか。まあでも、やるタイミングと時間がないってシャンフロ発売当初、そんな雑談をここ【便秘】でしたっけな。本業の合間にココにインしてる辺りコイツも大概だったが。
カッツォ、日本トップクラスのプロゲーマー魚臣慧がシャンフロにね。
──もし、もしも。
カッツォがアイツとやり合うとしたら?
まあさすがに格ゲー最強らしいカッツォ有利か、いやステータスに左右されるから分からないが。
……待て。そもそもそんな事になんでなる。
いかん。思考が龍宮院に、國綱さんに影響されてる気がする。
「なんだい黙って。あの子との約束の時間忘れてたとか?」
「90スレも迎えて減速どころか加速してるんだって?」
雰囲気が一気に沈んだな。良い様だ愚か者め。京極が話題に出ると毎度ニヤニヤニヤニヤと、いい加減そのいじりにはカウンターしてやろうと思ってたんだ。
「考え事というか、お前がシャンフロやるっていうならそのうち顔合わせすることもあるかな、ってフレがいてさ」
無言で小さく頷くだけで続きを促すのは構わねえが、とりあえずその澱んだ空気は直せよ。
「格ゲーじゃないが、対人要素もある別ゲーの縁でな。シャンフロでも、タイマン無敵、なんて呼ばれて結構有名人らしいのがなかなか笑えたけど。
そう呼ばれても
「へー……──へえ? プレイヤー人口マンモスの、あのシャンフロで。しかもサンラクにそこまで言わせる位にマジなヤツか。
いいね。増々やる気になってきた。楽しみだよソイツに会うの」
◆◆◆
「でー? どうだったの京極ちゃん。例の人とは」
洞窟が遠目に見える茂みの中にて。
ペンシルゴンがニマリと尋ねて、京極の動きが固まった。
カルマ値を精算した京極と金策でプレイヤー相手はできず、ならばとアセンションホーン狩りという極々暇を持て余す作業中。必ずこの場面が来るだろうなと身構えていたが。
京極が内心を隠さず顔に出すと、ペンシルゴンはより楽しげにニコニコとした。
「……」
「無視とは酷い。なんだよぅ、『なるべくアイテムもマーニも失わずにカルマ値精算したい。どうしてもできるだけ傍で手伝いたい、シャンフロ始めるっていう、その、そいつ僕の好きな人でその』っなーんて! あんまりにもいじらしく可愛らしく言うからせっかくひと肌ぬい」
「──だ、だれがっ! そそそんなこと言ってないよ?! 勝手な事言うとあの、ええともうたたっ斬るよっ!?」
「あっれPKK? 誰のおかげで、ローリスクで身綺麗になれたのかなあ? ううーん薄情者だなあ京極ちゃんってば」
「こうぞう、よくないっ」
「そうだね。でもだいたい似たような事は言ってたよね」
「……〜っ」
改めて。
この元同クラン【阿修羅会】のアーサー・ペンシルゴンにとんでもない借りを作ってしまったと、両手で熱くなってきた顔を覆う。
「す……す……き、とかっ、そうじゃないとかはともかくっ。まあ、うん。ファステイアで無事合流できたよ。……今日もこのあとサードレマで待ち合わせ」
「そう。ふむふむ。あれ? セカンディルは? 難所のマッドディグはいいのほっといて」
ファステイアの次はセカンディル。サードレマはその先、四駆八駆の沼荒野のボスを倒すしか行く術はなく。
ファステイアからそのまま進むには難所であろう、マッドディグことソロ殺しに挑むのは大丈夫なのか?
赤みの薄れた京極の顔に、微かな笑みが浮かんだ。
「今日は君との約束があったし、借りの精算優先かなって。
それにまあ、大丈夫じゃないかな。あいつ自身の腕もあるし、完全にソロならともかく、なんだか結構強いNPCと一緒らしいし?」
「ふーん? どうにかできそうな目処はあるんだ、なら……んん? ごめんよクランチャットだ」
どうぞと身振りで京極が促し、ペンシルゴンがウィンドウを開いた。
数分。
京極がアセンションホーンがもうそろそろ現れそうな時間が近くなってきたなとリスポーン地点の洞窟を見詰めていたら、隣のペンシルゴンが軽くため息を吐いた。
ウィンドウを閉じたペンシルゴンが視線に気付き肩をすくめる。
その辟易とした様子から察するに。
「相手はオルスロットかな。なんだって?」
「正解。サードレマに行けるか、だって。文字を打つのも煩わしいのか知らないけど、詳細は現地で聞いて欲しいとか。何人かオンしてるっぽいし、その辺の連中から聞けって事なのかもね。
やれやれアイツは。今度はどんなクダラナイ事させる気なのやら」
賞金狩人という凄腕のNPCが実装されて何人ものクランメンバーが何度となくキルされて以来、PKに科せられる重いデスペナを完全に無視できなくなった今の阿修羅会は安全を求め始めた。大々的に暴れることはめっきりなくなり、ソロやペアのような少数のパーティをコッソリつけて袋叩きにするような、小狡い事を喜々としてする始末。
それは、正面切っての対人をこそ好む京極やサバイバアルのようなPvPガチ勢から言ってしまえば、腑抜けになったと言えて。ペンシルゴンとて思うままにできない現状が窮屈で仕方ない様子だった。
いっそ僕みたいに抜けちゃえば? とは、ペンシルゴン個人があのユニークへ拘っていると何となく察してる以上、軽々しく言えず。京極としては同情的な目線を送ることしかできない。
「抜けちゃった僕としては、なんとも大変だね君も、としか言えないや。
しかしサードレマなら、そろそろもう一頭出てくる頃だし、そいつを倒したら一緒に行こうか? それとも今すぐ行くかい?」
「そうだねえ。その方がキリもいいし」
とりあえず。アセンションホーンをもう一頭倒してからサードレマまで一緒に行く運びとなった。
…………ただ
「??」
ペンシルゴンと別れたサードレマの門前に、しばらくしてから京極は戻ってきた。待ち合わせの時間になっても連絡1つないサンラクを、どうせなら門で待つかと訪れたのだ。
そして、ただ困惑した。
ペンシルゴンが【SF−zoo】のクランリーダー、
【Animalia】と戦ってるのはまだ良しとした。だが──なぜに京極の待ち人、サンラクが阿修羅会の面々に追い回されているのかは全く推し量れなかった。
何やら肩に兎を1羽貼り付けている。ヴォーパルバニーの亜種か何かか、着飾っているのが伺える。あれがもしや話に出たNPCだろうか。
詳細をボカしていたのは、京極を驚かしてからかうつもりだったに違いない、やつならそうする。同じ立場なら京極とてやった。
しかし、そんなことはもはや瑣末事、今はどうでもいい。
楽郎が遅れた理由は、実は楽しみにしていた、ささやかな2人の時間を割いた原因が、何か。
それがこうして明白であれば、京極がする事はただ1つ。
「ねえ」
声掛け1つ。
踏み込み1つ。
「は──が、腹がっ!?」
背面から一突き。鎧の隙間をスルリと通し、クリティカルヒットの一撃を見舞い即座に引き抜く。
現実なら致命傷、だがこれはゲーム。
「っ、っの、だれだこんちくし」
京極に刺されたプレイヤー【ケッチャム】が後方を、その大剣で薙ぎつつ振り返る──その首元へ。
下顎へ、一直線に。
難なく大剣を掻い潜り、躊躇なく突きを放ち、脳天を穿ち。
数秒の硬直を経て、パリン……と。まず1人、京極は切り捨てた。
「なん、──って京極じゃねえか!?」
「何すんのさいきなり現れて!」
「てっめどういうつ」
憤りに任せて踏み込んできた1人に向け、刀を振るう。
「
【ブランチ】の頭部が宙へと舞い反転していた。その表情が怒りから驚きに変じて固まり、次いで砕ける。
スキル【居合・椿】……
急所たる首に当てれば無論、容易にそこを斬り落とす。
そうして。また1人が一歩、京極の間合いに踏み込んだだけでその瞬間キルされて。
遅まきに、ようやく京極の本気を悟った残りのPK2人が身構える。
「どういうつもりだって? 僕のセリフなんだよね、それ」
京極とて、襲われているのがどこぞの誰かなら捨て置いた。
顔見知りなら合掌くらいはした。
ただのフレンドなら声援を送るなり煽るなりした。
だが。
今日、この時、この場所で。
彼に手を出すならいかに見知った面々と言えど、その首に向けて鯉口を切るに迷いは
「ドロップ品は返すよ。その位の義理はあるから。とりあえず、今はペンシルゴンだけ残ればいいよ」
だから意義は斬って捨てる、と。
刀を鳴らして京極は一歩、また一歩。ゆらり……残る2人へと歩み寄る。
…………
「さ、サンラクサン後ろですわっ」
「ん? ああたぶん大丈夫さエムル。
ようペンシルゴン、京ティメットのやつはまずお前に用があるみたいだが、先にあっちに行かなくていいのか? んん?」
「あっはっはー。虎の威を借る狐ならぬハシビロコウかな? 手が疼いちゃうからその顔ヤメてよねっ。
……確認なんだけど。さっきサンラクくんが、約束の時間なんでな、って言ってたけど、その約束してた相手って京極ちゃんであってる?」
「おう。あー、そうだな、カッツォもシャンフロ始めるみたいだしこの際言っとくか。
京ティメットと俺はリアルで繋がりのある──まあゲーム友達みたいな関係だ。たぶんシャンフロもちょいちょい一緒にやる予定」
「へー! 私は京極ちゃんとは、元と付くけど同じクラン同士だよ。いやはや世間は狭いねえ。
ふむふむ、となるとカッツォくんも君等のことを知っていると──なるほどね。
サンラクくん、君とカッツォくん宛にこのあとメールしとくから、京極ちゃんには君から伝言よろしく」
「うん? まあいいけど、シャンフロでなんかやるってのか?」
「詳細は後でね。まあ……大きなお話になるかな」
「だろうなあ。俺とカッツォをわざわざ駆り出したいってんならそれなりと見た。なら内容次第だろうけど、可能なら提案が1つある。
サバイバアル……元同じクランだろ? アイツにも声掛けられるならかけて欲しい。アイツとは、“お互いタノシイ事には呼ぼうぜ”って話をしたばっかりでな」
「わーお、そこともかあ。なんとまあ。──考えておくよ」
まだ続く。オチが思いつくまでいついつまで続く……
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京のクソゲーマー3.5 元PKの生粋のPK
──京極がものの数分で、4人の元同クランの面々を斬り捨てて。
事情を聞こうと見渡すも、サンラクと何やらオマケが残るばかり。倒れ伏したまま何やら呻いてサンラクを引き留めようとしているAnimaliaについては、呼ばれる当人が素知らぬ顔なので京極とて気に留める事はなかった。
そう、彼女の事はどうでも良かったのだが……
「っ……やっぱり逃げたか」
この事態がなぜ起きたかよく知っているだろうペンシルゴンはおらず。京極は、苛立ちに任せて舌打った。
話を聞きたかったのもあるがそれはそれとして、連中を始末してる最中ちらりと見えた、
京極の、
待ち人の、
サンラク、
といやに、やたらに、親しげな様子だったのが頭にき……いや鼻につ……単に疑問が尽きないからそのヤケに近い距離感でいる事についてハッッキリとさせたかったのだが。
居ないなら仕方ない。が、必ず、あとですこーしばかり
「サンラクさんのお友達なんですわ!? 初めまして、あたしはエムルですわ!」
「くひゃあっっ!?」
足元からの跳ねるような声に京極は軽く跳び上がった。
……まさか“あの”ヴォーパルバニーから“言葉”で挨拶されるとは、夢にも思わない出来事であった。
京極から見て、サンラクは確かに目立つ部類のゲーマーだ。だがそれは、
『ネフィリム・ホロウ』
『辻斬・狂想曲:オンライン』
『ベルセルク・オンライン・パッション』
……といったマイナーなゲーム群においてのトッププレイヤー達、上層ティアーに食らいつける位やり込んでいたりするからであり。シャンフロにおいては始め立ての新規プレイヤーに過ぎない。だというのに阿修羅会に狙われたその理由は、つまり……
「あ、あー、うん? よろしくね? ……サンラク、昨日パーティーメンバーになったやたら強いNPCって」
「おう。このエムルさんのことですわ」
「ああ! サンラクさんまーた真似っ子ですわ!」
サンラクがケラケラと、エムルなるヴォーパルバニーがプンプンとじゃれあうその光景に。
これはシャングリラ・フロンティアが始まってここ約1年、誰も見たことがないユニークシナリオであると。だからこそ阿修羅会も、サブリーダーであるペンシルゴンまで動員して、サンラクを狙ったのかと京極は察した。
“ヴォーパルバニー”。“街”を除くほぼ全てのエリアに現れては、その兎ならではの矮躯と俊敏性を活かしてプレイヤーを翻弄しその首を狙うという、稀に現れる事からレアに区分されるエネミー。それでも、ただのモンスターであるはずなのだ。
だが、今こうして京極の目の前にいるエムルと名乗ったヴォーパルバニーはといえば。
青を基調とした魔術師のような衣服と帽子。雪のように真っ白でフサフサとした毛並みが揃う小さな両の手が袖から伸び、その兎ならではの短躯よりも一回りほど小さくしかし、分厚い本を抱えている。ピクピクと動く小鼻にちょこんと乗った丸メガネ、そこから覗くは
このエムルとは似ても似つかない……
「いつまでも門前にいるのもな。細かい自己紹介は後にしようぜ」
サンラクに言われるままサードレマの街に入ってみれば、多々様々なプレイヤーに知れ渡っている事を実感した。
視線、視線、視線……浴びる様な視線の数々は、そこかしこから向けられるプレイヤーからのもの。それらは全てサンラクと、その肩に掴まるエムルなるヴォーパルバニーに向けられているのが傍にいる京極とて分かるほどの“圧”があった。
「エネミーのヴォーパルバニーがなぜ街中に?」といった疑念や好奇、初心者の森で首を刎ねられでもしたトラウマからか引き攣るような表情も確かにあった。だが分かりやすく「いたーっ!」と声を上げる者達、探し求めていたモノを見つけた興奮の表情が大半だ。
後者の興奮したようなプレイヤーが大挙して、囲うように動き出す。軽く怯んだサンラクが振り返って申し訳無さそうに口を開こうとする直前に、そっとその肩を押し留めて京極が前に出た。
「ん? ぅげぇっ!?」
「アイツは……!!」
走り寄る勢いが大きく緩んだ。そして次第に、離れた位置で止まった者もいれば、中には諦めたように踵を返す者もいた。
『京極』だ……ざわめきが門前広場に広がっていった。
苛立ったかのような舌打ちが聞こえた。
苦々しい顔を隠さず睨んで来る者もいた。
刀を佩いた和装の女プレイヤー『京極』。シャングリラ・フロンティアを数ヶ月もプレイしていれば、その容姿と名は誰からともなく耳に入る。
あのPKクラン【阿修羅会】のキルスコアトップ3ともなれば、その悪名はシャンフロプレイヤーの大半に知れている。
PKである京極を知る者達が、不用意に近づけず、かと言って離れるのもと俊巡し、様子を窺うのか遠巻きに立ち止まっていく中で。
「あれあれ? ちょっとどしたん?」
「怯むなよ街中じゃねえか」
「そうそう。それによく見ろよ」
一方、極々少数の京極を知らない者や、京極のキャラネームがレッドネームでないこと、街中であることから強気に近づく者達もいた。
全員が足を止めることはなかった。自身の悪名に人払いを期待した京極からすれば、想定よりも乏しい様にため息が出た。
レッドネームでは最早ない。もっとも、キルされた訳ではないが。
近付いて来ようとするプレイヤー達のその装備を見るに、いずれも序盤の街サードレマにいるには違和感しかない、高レベルの物と見受けられた。
けれども、良くも悪くも対人に特化している京極からすれば、一人一人誰を見ても、斬り捨てるに数分とかかると思えなかった。かと言ってそれをしては、中々の苦労を重ねてカルマ値を清算し、身綺麗になったばかりのあの苦労が水の泡になる。
「やれやれ」
だからここは仕方ない。癪だが打つ手もなく、どこの誰ともしれない人の波に大人しく揉まれるか……
「はい、そこまで」
なんて、冗談にもならない。
幾閃、刃が奔った。
京極達へと近付く足が止められる。瞬きの間で足元に斬撃が迸り、刻まれ描かれた“線”を前にして思わず立ち止まったのだ。
驚愕が、彼らをその場に貼り付けにした。近付く間に、京極が刀に手をかけていたのは見えていたが、それが
スキル効果か、ステータス差か。いかにしても明確な実力差を感じ取るには充分だった。
だが次第に我を取り戻した1人が、いきなりの事に抗議せんとその“線”を踏み越えようとした。
その矢先、
「──弓使い“シュート”。正確には魔法弓使いか」
唐突に、京極に刀を向けられて自身の獲物と名前とをハッキリ読み上げられ、目を白黒させて固まった。
「で、……錬金術師“ミリオームゲイン”、
鞭使い“アツほか×2”、
大斧使い“富夢想屋”、
双剣使いは、“ぽりえちれん”ね」
次々と刀を向けては、向けた相手の装備と名前を読み上げていく。
「悪いけど、彼とは僕が先約なんだ。どうしても話がしたーい……なんて言われても困るんだよね。うん、とても困る」
ついと、彼らの足元に刀を向けて。ゆらゆらと、石畳に刻んだ線に沿うよう左へ右へと何度となく揺らす。
「まあどうしても? いや、どうなってもかな? うん。今後、僕や
その線を踏み越えろ。
その顔は忘れない。
いつかどこかで……
京極の言葉に言い返すような、それでもと強行するようなプレイヤーはその場にいなかった。
無言の人波を抜ければそこから先はつつがなく、サードレマの宿屋に、2人部屋に入ったのだった。
…………
※続きは気長にお待ち下さい
※本作では宿屋の一室、パーティ組んでたら同室になれるていでとりあえずいきます
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京のクソゲーマー4 メッセージ
────────
「……あーあ」
虚しさに、京極は声を漏らした。
ここは【千紫万紅の樹海窟】、サードレマからフォスフォシエへと抜けるために通るエリア。蒸し暑く、粘りつくような甘い空気のある、ファンタジックな熱帯林である。
光る苔が群生していて洞窟内なのに何時だって昼間のように明るく、何十メートルもあろう巨木や家ほど大きいキノコが群生し、色とりどりの大サイズの花々が咲き乱れ。そして、それらの陰には巨大な昆虫型エネミーが跋扈している。
しかし京極のように、現状実装されている中での最後の街フィフティシアまで到達し、それなりにシャングリラ・フロンティアをやり込んでいるようなプレイヤーからすればここは随分と過去に通っただけの道。そこかしこにチラチラ存在するエネミーは遥か格下だ。
だっていうのに何故そんな所にいるのかは、一重に。
現在進行形で攻略中であるサンラクと一緒にいたいがために、なんてそんな本音は正直に言う訳もなく。「手伝い」と、苦しく称してついてきているからだった。……本当の本音を言えば、サンラクと2人でサードレマの街中巡りがしたかったのだが。
「……ま、
宿屋で2人(と1羽)でゲーム内掲示版を探った所、京極の想像よりも大事になっていたのだった。
サンラクが発生させた誰も知らないヴォーパルバニーのユニーククエスト。そして、2箇所に着けられた夜襲のリュカオーンの呪い。
たまたまセカンディルで無断撮影という盗撮紛いのスクリーンショットをされ、それがゲーム内掲示板という衆目の目に挙げられて。
サンラクが“泥堀り”を仕留める最中、京極がペンシルゴンとサードレマで別れる頃、それらユニークを目当てにして。
すでに、シャンフロのトップ層は動き出していた。
『阿修羅会』だけではなかったのだ。トップクラスのクランたち、中でもあの『黒狼』からも捜索隊が組まれるほど事が大きくなっていて。思わずリアルからそのトップへと、抗議メールを送りたくなる衝動に耐えたり。
「はあ」
何度目かの溜め息である。もはやどこの街中もロクに歩けそうにないと言うのは想像に易かった。
「ついつい阿修羅会の名前もボカしてだけど使っちゃたし。あーあ。
なーんか色々裏目裏目になってる気がする」
楽郎がシャンフロを始めるなら、初心者のサンラクの傍に着いて回るなら。阿修羅会の肩書きは邪魔であろうと。ちょっとした苦労を終えてあのクランを抜け、レッドネームも黒字に戻して。
さあいざ! とシャンフロの世界を楽郎と楽しむ事を心待ちにしていた、のだが、コレである。
考え始めると憂鬱だ。派手な事ばかりする当人にいっそ怒りをぶつけたい、が、決してサンラクに非が無いだけにそれも違う。
……まあ、でも。
「さあさあどうなるどうなる?! いかがですかエムルさん!!」
「えええっと?? も、もう決着がつきそうですわ!!」
「いやそうじゃなくてここは『まだ逆転の目はあるんじゃ』とか臭わすんだよ。盛り上げ所だぞ」
「……むみゅみゅーっ」
大木を1つ挟んだ茂みで、何やらエムルをからかって盛り上がるサンラク。
その楽しそうな、このゲームを楽しんでるのが伝わる姿。
「く──ま、なんでもいっか」
小さく笑いが漏れて、ついでにモヤモヤとした気も抜けていた。
阿修羅会の名をちょっと利用した事や、こんな事ならいっそクランを抜けなくて良かったんじゃとか、攻略にオススメのお店巡りを自然としてゲーム内デートしたかったとか。
もう、色々と良しとした。京極の描いていた楽郎との思い出作りは何も出来そうにない。けれど、1番見たかった姿をこうしてそばで見れた。
ならば、なんでもいいや、と。
浮かんだ微笑みはその無邪気な姿への慈しみ……と。
「ま、遅かれ早かれだったかもだし」
そもそも破天荒なプレイスタイルのサンラクだ。どういう形にせよ一般的な道中では、どうせなかっただろうと諦めにも似ていたが。
……それはそうと。
クァッドビートルをエンパイア・ビーの巣にぶつけて。現れた群れを撃滅したクアッドビートルへと、これみよがしにセリフをキメて対峙するサンラクにどことなく般若面姿の影を見つけた京極は、今度あっちで見付けたら一も二もなく”天誅"しようと心に決めた。
理由はないしそも要らない。だってそう、この心の動きはそういうものだ。なにせ天がやれと言っているから自然な事だ仕方ない仕方ない絶対やろう。
「けどあれを捉えるのはなあ。ほんとゲーム内だととんでもなくいい動きするんだから」
奇抜な動きでクァッドビートルの突進捌くサンラクを見て、1つ唸った。
手負いと言えどレアエネミーのクァッドビートル。むしろ追い詰められた事でか、その突撃の迫力は遠目にも増しているように見える。京極やサンラクのような近接物理特化キャラでは相手取るに難がある硬い外殻。プレイヤーより数倍ある体格でその硬度だ、ただ体当たりに用いるだけで破壊力があり。また、甲殻類ならではの鋭利な三本の角を高速で飛翔しながら振り回す。
近接職には如何にも取っ付きツラいモンスターなのだが、──相手が悪い。
「おつかれー。手こずるかなと思ったんだけど、まさか蜜で隙を作って的確に傷口を穿つ、なんてことサラッとするとはね……」
「あれのフレーバーテキストが如何にもって奴だったからな。それに結局あれもカブトムシみたいなもんならまあ、見ての通りの案の定さ。伊達に普段から虫関係は見慣れちゃいねえよ。
そんなことよりほら、京ティメットも見てくれよこれをよ!!」
うひょひょー! なんて奇声をあげてエンパイアビー・クインを始めとした蜂の素材や、クァッドビートルの大量の素材を目の前にして喜ぶ半裸に、京極の口元も緩む。
結局のところ。
僕がこうしてここに居られるまでの苦労も知らないでさー、という想いもあるが。無理やりでも一緒に来てよかった、という喜びの方が大きかった。
…………
巨大な木の
その名は
──
飄々とそんなセリフを吐いて1人、サンラクはエリアボス・クラウンスパイダーへと挑んでいって──蜘蛛糸を巧みに利用して追い詰めていく様に、京極は舌を巻いた。
要所要所に剣と投剣による攻撃だけでクラウンスパイダーを天井の巣から地上に追いやったばかりか、天井に吊るされたクラウンスパイダーの投擲攻撃などに用いられる岩や丸太を次々落としてダメージを与えている。
そして、天井へと復帰しようと伸ばす糸にも即座に気づいては対処し、エリアボスのクラウンスパイダーを地上に張り付けにしてはまたボスが使うはずの投擲物を落とし、ダメージを重ねていく。
もはやどっちがこのエリアの
「負けないとは思っていたけど、まさかこうも一方的になるなんてね……うん?」
メッセージの着信音に気付いて。今見るか数秒悩んで。
「そーらそらそらそらどうしたどうしたあっ!!」
「ふれーふれー! サンラクさんっ!」
全く負ける様子はないし良いか、とそちらを開いた。
件名『Re:さっきはどーもペンシルゴン♪』
本文『いyいやいやいいや!! m待ってまってちちょっと待って京極ちゃん! さすがに出会い頭はいmは困るんだよね!? dからまずは話を聞いてね!? いやきっとさ──すがにあのあとサンラくくnから既に聞いてるとは思うnだけ──』
「ふふふ」
サンラクが探索する最中、京極がアーサー・ペンシルゴンへと送った
サンラクからは、鉛筆騎士、もといペンシルゴンは『ユナイトラウンズ』通称『世紀末円卓』なるゲーム……当然のようにクソゲーとしか言えない数々の設定のゲーム……にて知り合った、あの"便秘”で顔を合わせたカッツオタタキと同じ数年来のゲーム友達であるとは宿屋で聞いていた。
ちなみに”幕末"と五十歩百歩のゲーム内容に若干心惹かれる物もあったがそれは置いておく。
京極の楽しみにしていたひと時を”やってくれた"事に色々と、幸いサンラクにただただ着いて歩くだけで時間はあったから、いっぱいいっぱいに詰めて文章を綴った。主に文句で。
”まあ、きっと時間の問題だったからそれはいいとしてさーあ? "なんて終わりに付け加えたあと、肝心な主訴を最後の
所々支離滅裂なメッセージを一通り読んで溜飲を下ろす。……それにしても気になるのはペンシルゴンからのメッセージ、その〆の一文だが──
「あれ。どうしてサンラクさん降りて来ちゃったんですわ?」
ふと上がったエムルの驚いた声に目を向ければ、天井の巣から降りて地上でクラウンスパイダーと相対するサンラクが見えた。
何でわざわざ有利を捨てたのか……一方的過ぎてつまらないとでも思ったのかな? 考える京極の目線の先で、クラウンスパイダーが蜘蛛ならではの瞬発力でサンラクへと飛びかかっていく。
サンラクよりもゆうに数倍は大きい体だと言うのに、残像を見せるほど素早い動き。正面からあれほどの迫力で襲われたのなら、不慣れな、大抵のプレイヤーなら何も出来やしないだろう。
「うん。さすが」
無論のこと、京極の
クラウンスパイダーが、交差の瞬間サンラクによって頭部をカチ割られて。それがトドメとなり無数のポリゴンへと四散していった。
「どうよエムル、京極。宣言通りの、完全勝利だぜ」
「おみごと! おみごとですわサンラクさんっ!」
「あーうん。レベルも低くて武器もそう強化もしてないのに、よくやるよ。最後にはめ技やめてまで向かい合ったのは舐めプ?」
「端的に言って決意表明的なやつで、意味なんてねえさ。しっかし物足りねーな」
蜘蛛の習性も生態もだいたい見慣れてて聞き慣れてるから、一挙一動が手に取るように分かったし……ステータス画面を見ている風のサンラクからそう愚痴のように言われても「へ、へえ」としか答えようが無かった。
陽務家の母の趣味。京極は楽郎がたまに愚痴のように零す話でしか聞いていなかったが、どうやら想像の遥か上のようで有りもしない唾を飲むように喉が動いていた。
何度となく遊びに行っている家には、どうやら知らない方が良さそうな光景があるらしい。見たいような、見たくないような……。
「……うーん」
サンラクがステータス画面を見てなにやら悩み出したので、ふと先程のメッセージを再度開く。
「……んー」
奇しくもサンラクと似たように、そのメッセージの内容には悩まざるを得なかった。
─────
「ん?」
いつの間にか開いていた窓から、その
高速便の隼の脚から紙片を外す。その、送られてきた何某からのメッセージはというと。
件名『お久しぶり(*^^*)』
本文『やあやあご無沙汰。相変わらず不毛な事やってるんだって? 着せ替え隊の事、よく噂を聞くよ。ついこの間の白熱した動画も見たけど、サバイバアル君のデタラメなとこも相変わらずだなって。
こっから本題。
そんな相も変わらずお強い君に、別ゲーで知り合った私のフレンドからオファーだよ。まあ、そもそもは私からのなんだけどね。
阿修羅会関係なしの、私の選抜パーティでウェザエモンを攻略したい。
ついては日を改めて直に、どこかの蛇の林檎で顔を合わせて話を詰めようと思います。サンラクくんと京極ちゃんと君と私、そしてあとたぶんもう1人、頼れる助っ人が揃ってからね。
面白い事には誘え、って話なんでしょ? サンラクくんに確認したって構わないから、そのつもりで準備よろしくお願いしマース☆』
…………………………………………??
? ……………………………………は?
「は?」
情報で死角から殴られたサバイバアル、心底からの声だった。
【始まりの街 ファステイア】の【蛇の林檎】にて。
いつも通りダラダラと、しかし"μスカイ”とシャンフロで再会した以上、今後何かしら楽しい事になると確信もあり、普段より数段上機嫌な面持ちで過ごしていた。
それこそあの頃の話でもしながらに、戦闘多めの激しいイベントやダンジョンにそのうちサンラクを(Lv的に時期尚早、なんて考えもせず)ヤシロバード共々誘おうとスキルやステータス、装備を改めていた。その矢先に飛んできた伝書鳥の内容がこれだ。
「?? ……??」
まだアイツはあの墓守に拘ってんのか。
なんでサンラクの名前が?
あのペンシルゴンがサンラクとフレンド?
助っ人って誰だよ。つーかサンラクのやつまだLv50にゃ遠かろうよ。
俺とアイツとアイツとサンラクのヤツともう1人でって5人じゃねえか少ねえよ。そもそも阿修羅会とのこたあどうする気だ?
これホントのホントに本気というか正気か??
これはまだるっこしい手法のPKだと言われた方が、
「そらやっぱりな!!」と思えた。
だが、気にすべきはサンラクの名前が出ている点だ。
サンラクとフレンドになったのはつい先日。そしてわざわざ吹聴する話でもない。それこそよく話す間柄の着せ替え隊の誰にも話していない。
なのに、なぜペンシルゴンがサンラクを知っている?
「サンラクのやつがたまたまヤツらに襲われて……仕方なしに俺の名前を出した?」
それは──ない。
あの孤島での姿しか知らないが、あれほどにキレるヤツの事だ。誰かに縋るような考え方があるとは思えない。サバイバアルとてそうであるから。
サンラクのことだ。たとえ幾度となくリスキルされた所で、いつか牙を向いて、高笑うその喉を食い破るのは想像に易い。
いかにLv差があろうがやりようによっては一矢報いる、シャンフロシステムでなら起こり得る話だ。そうなってたらそうなってたで面白い話。
「そういやそもそもサンラクの傍には」
あの京極がいるはずだ。
阿修羅会においてのキルスコアで3位。あのメンツの中で自身に次ぐ対人の猛者、になった。妙に厄介な手癖、異様な直感を見に付け始めた刀使い。
『え? なんかやたら感覚鋭くなってないかって? ……ん、まあ別ゲーでちょっと』
なんてうそぶいてそういえばその頃からやたらと鯉口を鳴らすようになったようななんとなく孤島のあの雰囲気に近しい空気をまとってたような……
まあ、いい。
サバイバアルが抜ける間際の頃、そんな京極と3連手合わせして2度勝ち、1度は分けた。その勝ちもまた辛勝である。
あの強さ。阿修羅会の面々なら身をもって知っている訳で、そんな京極が傍にいるなら襲うとも思えず、たとえ襲っても返り討ちだろう。
というかそもそもの話。
いくら連中が
「まあわかんねえな。いっか、なんでも」
了解。とだけ返信することにした。
サンラクにもあとで確認のメッセージを飛ばす腹積もりだ。なにせ相手はあのペンシルゴン。どういう伝手で何を得てどんな構想を抱いているか、それを見通すにはよほど頭のキレる人物を巻き込むか、咄嗟の身代わりを用立てるしかないのだから。
この場で考えるだけ無駄、だが用心はしよう。
「ピェー」
たった一言どころか1単語だけ書いた手紙を、その足に括り付けた。
頬杖ついて、窓から飛び立っていく
それにしても。
「ウェザエモン、ねえ」
描きたいシーンがあるのじゃ
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幼馴染
─────
7月の下旬。時刻は午前11時を優に過ぎている。
つまり真っ昼間──この時期この時間に外なんか出歩くもんじゃねぇっっ!!
「ただい、ま゛ぁ゛あ゛ーっっ」
「お邪魔します」
あ゛ー゛あ゛っ゛っ゛ち゛い゛っ゛! ゛! ゛
京都に住んで長いけど、あいっ変わらず夏は地獄かよ?! たかだか10分かそこら出歩くだけで汗が、滝のようだよっ!
毎度の事だがこうなると道着や竹刀袋がいつに増して重たく感じる、ええぃ、こんなもんその辺に置いてでシャワーとっとと浴びてキメるもんキメないとしんじまうっ!
「昔っからなのにまったく。
楽郎、靴ぐらいちゃんと……あれ? 瑠美ちゃんと仙次さんはバイトと釣りだろうからともかく、永華さんまで居ないの?」
「え゛ぇ? うん? んー……あぁ、そういやどっかの大学にちょっと呼ばれてるーとか言ってたような……気がする」
休みだからって今朝の稽古のこと忘れて寝坊したからなあ。慌てて出掛ける俺になんか、そんなこと言ってたような、どうだったっけなあ。
「ぁ──ああっ、そう! そうなんだあ。永華さんがね、そう。ふーん? そういうタイミングあるよね、うんうん」
俺の靴もわざわざ揃えながら何キョドってんだ……? いや何でもいいとっとと行動する!
「いつまでもこんな汗だくでいたくねえ。シャワー先に済ませる、テキトーに待ってろ」
「そこは女子優先してくれないのほんと楽郎だよね」
「男女平等を尊ぶ精神がわからねえヤツはこれだから」
「平等を尊ぶならこっちが先でも良いじゃんか」
「家族不在の今俺が家主だから俺が決めまーす」
「客分の扱い雑じゃない?」
「客分って間柄でもねーだろ今更。何年の付き合いだと……そういや稽古終わり、お前がウチにこうして通うのって何年くらい続いてたっけ」
「──10年経ったかそのくらいじゃない?まあもう分かったからほらいってきなよ。汗も暑さも私だってイヤなんだから、なるべく早くよろしくね」
へいへい速攻で済ますから待ってろー。
「あ゛ぁー……っ」
シャワー!! 最高っ!! こんなお湯を浴びるだけの行為がどうしてこうも心地いいのか……あぁ発明した人間誰か知らんが感謝だよマジで。
で。
カシューンッ、グビィッッ!!
「い、いきかえる……っっ!!」
はぁあーっ! っぱよぉ、稽古の後は風呂上がりに冷えたライオットブラッド(無印)に限るなあっっ! っふぅううううっ!! ああ脈動と共に炭酸に乗ったカフェインが奔るぅう、俺の体の隅々に染み渡るぅう……。
「っ、だぁあ……はあ」
クーラーのガンッガン効いた部屋。ヒンヤリしたベッド。特にベッドはいいなあ。あぁ、やわらっけぇぇええ……。道場の固え床とはまるで比べ物にならねえよこんなん……くはあぁ、ここが天国これぞ
「ぁああ。……今日もつらかった」
國綱さん……突きは、突きは辞めろと。手加減してる、ってそりゃそうだとしても首垂とセフガあるからってそもそも怖ぇし衝撃ぐぁぁさぁぁぁもぉぉ。
胴は胴で垂と腹帯あるからそう痛みこそないが、怪我にはならんからってブァアシンッッ!! ってあの音なんなの? 防具無かったら俺の腹吹っ飛んでんじゃね?
小手の受け方は褒められるのもあるのか、最近そうそう痛くならないんだよなー。が、なーんか受ける度に歯ぎしり聞こえたのも、直後の胴がやたら勢いあったのも気の所為だよね?
──面打ちだけは別の者と練習しろ。なぜってそれはなあ、俺がお前相手に面打ちはなあ。……っははは、うむ。──本気で潰、っんん……全力で打ち込みかねんからなあ、ハハハ──……。
「剣はともかく誤魔化し方は下手くそだよなあ」
嫌われてる……訳では無いと思いたい。面打ちの手加減が下手なだけだろう、きっと。
京極の家……龍宮院家の剣道稽古は毎度毎度こっちも全力だ。初段になって2年経った。2段も狙える時期に差し掛かっている。
小学生時代からのらりくらり、何だかんだと続けては来た訳だし。それにこの先、より昇段していけば将来的に助かる事もあるかもだし、お前なら狙えるからやれ、って背中押されてるから気合い入れて稽古の時は頑張ってる訳だが。
しんどいものは、しんどいのだ。特に國綱さん相手はよくよく地獄を見る。明日絶対筋肉痛だな。
まあ実益と趣味に繋がるのは大きいから尚更、やれる所までやりきるけど。
VRゲーマーたるもの健康な身体作りには手は抜けない。クソゲーマーとて同様だ。VRゲームでのパフォーマンスに繋がるし……けどどうにも、道場に通う回数を減らすかどうかについては高校に入ってから日々考えざるを得ない。
ただなあ……。なんとなーく國綱さんのしごきが、当たりが強くなっていってる気がするんだよなぁ。特に京極が居合わせてるとより厳しくするのは何でだあの人。
「ん? メッセージ……なんだ」
通知音に携帯端末を見れば京極の名前があった。まだ風呂だろさすがに……。
『件名:無題』
『本文:持ってきたスポドリ飲み切っちゃった。なんか飲んでいい? 当然エナドリ以外でよろしく』
当然ってなんだ当然って。
『件目:Re無題』
『本文:好きに飲めよ。俺ならともかくお前が飲んだって言や誰も気にしねえから。なんなら入れとくぜ、麦茶割のライオットブラッドとライオットブラッド割の麦茶なら用意するが?』
『件目:ReRe無題』
『本文:麦茶あるなら麦茶飲むかな。用意してくれるならお昼ご飯がいいなあ』
「へいへい……──ソーメンでいいかあ」
暑いし疲れて手間かけるものはちょっとめんどくせえし……あ。そういえば、我が家の甲虫達に食わせるモノの余りがあったな。カットされてるから出す手間も要らない。
『件目:ReReRe無題』
『本文:ソーメン用意してやんよ。あと母さんが食ってもいいって言ってたスイカがあるんだが、お前も食う?』
『件目:ReReReRe無題』
『本文:ほんと! やった、食べる食べる! ありがとう!』
母さんの
「さってとー」
そうと決まれば始めるか。出来上がるかってくらいで、アイツも身支度を整える頃合いになるだろう。
階下に降りて台所へ。
「あっれここじゃなかったっけか……あったあった」
鍋に火をかけつつ乾麺を探り出した頃。ふと、換気扇の音に紛れて、脱衣所の方から微かにドライヤーの音が響いてきている事に気が付く。
思っていたより早かったようだ。
やがて沸騰したお湯に乾麺を落としきり、タイマーを設定した所で、足音が近づいてきた。
「はあー。さっぱりした。あ、麦茶ありがとう」
「おー。こっちは待ってろ、今さっき鍋に麺入れたとこだからさ」
「ふはっ。ん、わかったよ。……そうか、それじゃあちょっと失礼するよ」
「うん?」
麦茶を飲み干してお代わりを注いだコップを、ダイニングテーブルに置いて。近寄って来た京極が、何やらゴソゴソがちゃがちゃと動き回る……なにやってんだ?
「冷蔵庫のもの使っちゃいけないのってある?」
「最近になって瑠美のお願いが叶ってな。
「……ちなみに今は何入ってんの?」
「そこから移動させる時チラッと見てたけど、お前が昔悲鳴上げた時からさらにグレードアップしてたぞ。今も昔も、おおよそ釣り好き以外には受け入れ難いあれやそれやだが、知りたいのか?」
「止めて」
そうか。特に父さんの言う、ユムシとホンコウジの違いは俺にはイマイチ分からなかったから、説明するには持ってくるしかなかった。……正直俺だって食前に見たくはない。
「──ここにアレらが帰って来ないことを願ってるよ。じゃ、ここから遠慮なく……これとこれと……よし。包丁と、ボウル借りるねー」
「なにしてんの?」
「用意してもらってばっかりだったから、ちょっと美味しい麺つゆでも用意しようかと思って」
ねー、と言いつつキッチンテーブルに淀みなく色々用意した京極が、鍋を見守る俺の隣で梅干しやら大葉やらを刻み出す。ふむ、せっかくなんか用意してくれるってんなら楽しみにしておこう。京極の作る、特に和食は美味いし。しかし麺つゆか、どうするんだろ……
ぐつぐつ……
とんとん……
「……はらへってきた」
「わたしも……あ、鳴った鳴った。後は私がやっちゃうから場所空けて」
「あいよ。任した。んじゃ俺は俺のと確かこの辺に京極の箸……あったあった。あとは……」
取り皿と、菜箸……は要らないか別に。どうせ俺達だけが食べるんだし……というか菜箸も取り皿も使うのかそもそも。はて。
「……梅干しと大葉は見てたが、ニンニクチューブと? オリーブオイルに……ん?」
細かく刻まれた梅干しと大葉、小さじにも満たないニンニクと、オリーブオイルに、あとなんか砕かれたっぽい茶色のツブツブの……なんだ?
え? 梅以外全部ボウルに入れて麺つゆ入れて麺を入れて混ぜてえ? え? あ、でも美味そうな感じの色合いに……
「おお。なんか少し不安になったけどイイなこれ。美味そう」
「実際美味しいよ。さっぱりしてて、暑い今にはピッタリさ。仕上げに梅をこう……乗っけ、て……よし、これで出来た。はいこれ楽郎の分ね」
「さんきゅ」
用意した食器類と受け取った俺の分をダイニングテーブルに運んで。わりとすぐ京極も自分の分を作り上げて席に着いた。
「いただきま──あぐふむ」
「いや落ち着いて食べなよ……」
漂う香りと空腹に負けてがっついていた。そう呆れるなって──おお……。
「うまっ」
「でしょ?」
…………
「はあー、満足した」
「スイカの片付けはやっとくよ」
ソーメンは俺が片付けたし、ここは任せよう。……さて。
「この後どうすっかなー」
「て、てっきりシャンフロやるもんだと思っていたんだけどっ。ペンシルゴンとの約束は夜だし、だいぶ時間あるから攻略進めるんじゃないの? どうせ今私はシャンフロでさしてやることないから、それに付き添うかなって……他に、したいことでも何かあるなら聞くけど?」
さすがに夕飯前には家に帰るけど……、と洗い物をしつつ京極が言う。
うーんシャンフロなあ、それもありだしそうする気だったんだよな。
今朝までは。
「ああ、時間まで……んー。そう、だな」
とにかく。
これでようやく真っ当にレベリングできるようになった。チョーカー、首輪が消えたのはちょっとばかり惜しいが、レベルが上がらない方が困る事は多い。ただでさえ忌々しい狼の呪いがあるんだ、これ以上縛りを増やしたくはない。
よって、じゃあ腰入れてレベリングするかあ、という気分だったのだ。
今朝、稽古をするまでは。
「──剣で受けた鬱憤はよ、剣で晴らすのが気持ちいいとは思わねえ?」
「……ふーん?」
途端。手を拭いた京極が据わった目付きで、そして人の悪そうな笑い方でニヤニヤと見つめてくる。
もっとも、きっと俺だって人の事を言えた顔つきではなかったろう。
道場稽古でミッチミチのギッタギタに剣でぶちのめされたのなら、同じく
この心の動きこそ天の声、即ち──天誅である。
◆◆◆
PvPの沼地、人を人とも思わないヒトでなし共の巣窟、辻斬・
が。
──あれ? なんだ?
「……誰もいない?」
どこぞの布団で目を覚ますようにログイン。直後、あるはずの感覚が来ないことに困惑する。
幕末においてログイン、あるいはリスポーンする際はゲームマップ上に何ヶ所か点在する平屋へと、プレイヤーは光を伴って現れる。その際の光は平屋から外へ届き、戸を、襖を開いて出ようとする瞬間を狙いすます『ログイン天誅』……かつて俺が考案し今では幕末に身をやつした大体の連中がやっている、それがない。
「……殺気も気配もない。なんでだ」
唯一の出入口である襖にピタリと張り付いてみるも、首筋がチリつく殺意表現もなければ、刀の届く至近距離にいるという気配察知にも引っ掛からない。この向こうに潜んでるわけでもない、つまり無人? って、えええ……。
──幕末ね。OK付き合うけど、昨日そんなに人は居なかったからあんまり期待しない方がいいよ──
「まじかあ」
夏休みだぞ? いやでもなあ、
そうかあ。過疎ってるーなんて京極が言っていたが、なんだたしかにこれは拍子抜けだな。ついにかあ……いつか来るとは思ってたけどまさかなあ。
でもさすがに、誰も居ない、なんてことはないだろう……
「いっそのことランカーがいそうなとこにいく──」
肩を落としつつ襖を開けた瞬間──首筋が引き攣るほど多くの殺気が奔って、目の前が眩しい位に白熱した。
「は゛あ゛っ!?」
全身をつんざく衝撃はどうしようも無い一瞬のこと。俺は爆発で吹き飛んで、あっという間もなく体力は全損し、すぐさま暗転。
そして目の前にはリスポーンをするか否かの文言と、幾らかのアイテムをロストした通知文が記載されたウィンドウが表示されている……。
──は?
「は?????????」
え? ん? なん、は? どういう??
バグ──を疑ったのは一瞬。一瞬後に、爆発の寸前、コンマ何秒に見えた光景を思い出す。
確かに見た。襖を開けていく俺を塀から見下ろす、その辺の茂みから見詰める連中を見た。
皆一様に何かを投げ放ったかのような体勢で……もしや?!
リスポーン待機状態のままゲーム内インフォメーションを呼び出し、……『夏のイベント開催中』の1文で悟った。
──幕末ね。OK付き合うけど、昨日そんなに人は居なかったからあんまり期待しない方がいいよ──
──マジ? ま、けど京ティメットさんがいるからいいだろ──
──あっはっは。返り討ちにしてあげるよ──
…………アイツ。
「京極……」
『そんなに人は居なかった』、ねえ?
ふふふ…………ふふふふふふふ──っはは……っ!
「ハハは、はハはははハハっッ──!!」
リスポーンを選択。跳ね起きる様に動きつつ二丁拳銃を取り出して、直後、速攻で襖をぶち開けて、半秒。慌てたように投げ放って来たが、半秒もあれば人員の配置と手元を確認するにはお釣りが来るってんだよ!
「はっはー!
投げられた多数の
何発かが数個を撃ち抜き、爆発させた所で周りの人魂にも誘爆。前方一帯を吹き飛ばして、その爆音に負けじと腹の底から叫びが溢れていた。
「──京ティメットぉぉおおおおーっっ!!」
家でマッタリとした時間を過ごした相手だったから? 満腹だったから? この頃ゲーム内ですらよくよく一緒にいて心を許してる相手だったから?
なるほど油断する材料はあったな。俺としたことが素でアイツの言う事をまるきり信じちまったらしい。
だがだとしても、まさか!!
この俺が!!
ああも簡単にログイン天誅をされるなんて!!
そも──お前に図られるなんてなぁ?!
さすがに襖を開けたら正面一杯の爆弾は初見じゃ回避できねえって、っていうのはこの際どうだっていい!
やられたっ! この屈辱……!
「くくく……必ずこの屈辱は晴らすぞぉ?」
体が震えるくらい負のエネルギーがメラメラしてるのが分かるぞぉ? シャンフロ並とは言わねえが、今のこの感覚ならよぉ。
足の先にまで、指の先にまで集中できらあ。これならやってやらあ、必ず天誅してやらあっ!
「京ティメット……いや幕末ランカー、
しかし。走りながらふとそれはそれとして感慨深い……いや京極、成長したなあ。
◆◆◆◇
「……楽郎は、やっぱり楽郎だなあ」
「────」
見慣れた部屋でいつもの通り、ゲーミングチェアを使えと譲られて。
数分後。
ログインするフリをして被っていたVRヘッドセットを外し、傍のベッドで横になっている楽郎を見て……ため息をついた。
幕末のイベントは無論の事知っていた。なんせ
『
『テキトーに射ってもそこかしこで爆裂してポイント稼げて笑いも指も止まらない』
とかなんとか。さておき。
今のトレンドは
「いつもみたいにゲームをするような、そういう気分にはなれなかったよ」
2人きりなのに。風呂上がりなのに。
部屋に来た瞬間なんてどんな顔をしていたのか分からないし、幕末の話はしたけど詳細はもう何を話していたかも朧気だ。それこそ、ゲームショップにて楽郎がワゴンを漁る中、密かに岩巻さんから勧められた事のある、
そんな事あるわけない。ゲームみたいな展開を楽郎に限ってしてくるわけない。ありえない。ああでも、いやまさか、けれどひょっとして、そんなのあるわけ、だけども万が一億が一そういう事も無きにしも非ずすわああ辞せの句が浮かんで──
だから。
楽郎には不自然にならない程度に背を向けつつ、楽郎の部屋にわざわざスペースを作って置かれている、京極専用のヘッドセットで熱くて仕方ない顔を隠すようにしていた。
その一方で。
なんて事ない態度で。いつも通りの口調で。あるがまま振舞ってゲームへとログインして行った楽郎を、今こうして見ていると、無性に込み上げてくる気持ちがある。
「人の気も知らないで自分だけいつも通りで、もう……」
悔しい……けど、少し安心しているのも事実だった。
「──っ。あーあ、
少しの安心──は、あれども、悔しいのは事実。胸中の
「よっし落ち着いた落ち着いてきた。──ふっふふふ、待っててねサンラク。君にその気は無かったとしてもこんなにも濮を……いや
とにかく、こんなにも僕を振り回してくれたんだから、これは是非ともお返しに行かなきゃね?」
意識は既に京極から
☆
幕末イベント〖綺羅星花火〗
ゲーム内は現実が日中なら逢魔時、夜間は丑三つ時固定だよ!
プレイヤーを倒すとストレージ内のアイテムの他、『人魂』をドロップするぞ! 人魂はストレージに仕舞えないからよろしくね! イベント期間中にたくさんの人魂を集めて競走してね!
イベント中はマップの至る所に爆弾アイテムの『花火』があるよ! あと『人魂』は花火より強力な爆弾としても使えるよ! なお使ったら無くなるから注意してね!
こわ~い人魂と派手な花火! さあ夏を楽しもう!
☆
.
楽郎と京極は小学生時代からの幼馴染だよ!
夏祭りで迷子になって困ってた京極を同じく迷子になった楽郎が見つけてなんやかんや2人きりで満喫したけど最終的にはこっぴどくお互い親に叱られて近所なのも発覚してそれからその縁で道場通いから気が付いたら家同士の付き合いが始まってたよ!
ちなみにロックロールも岩巻さんも京都方面にあるよ!京極はたまに乙女ゲーを(商売トークで匠に)勧められて幾つかクリアしちゃってるよ!
っていうユニバースです、はい。たぶん。
※幕末について。
やってたのは大体、ボム兵縛りのエンジョイ大乱闘、的なイベント。
幕末書いてたらますますシャンフロで何も出来ないから、書く気になったらそのうち差し込みます。
ちなみにだいたい何やってたかといえば、傍から見たらただの痴話喧嘩みたいな。そしてリア充爆発しろ(ガチ)をキャッキャッとされかけたりされたり仕返しするようなイメージ。
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京のクソゲーマー5 ペンシルゴンは話したい
◆◆◆
「結局ペンシルゴンは何でわざわざお前もサバイバアルも呼んでるんだ?」
「さあぁねぇえ? 着けば分かるさぁぁ……っ!」
ラビッツからサードレマへとエムルを伴って移動。そこでほぼ同時刻にログインした京ティメットと合流できたのは、こうしてサードレマを歩いてみると正直助かった。
ファステイアは広場がやたら多すぎて迷ったが、サードレマは単純に広すぎてまた迷う所だった。
「うううぅっ……。諸共なんてよくも。ぼくの、ぼくの3日間をよくもこのサンラクゥ……」
なんてウジウジしてる幕末の
スムーズに和やかに、俺達は目的地、待ち合わせ場所の蛇の林檎(inサードレマ店)に到着できた。
「はいはい到着到着、と」
扉を開けば直ぐに店内ホールで、先に到着していたらしい面々が5人掛けの丸テーブルに座って待っていた。
なんでか苦い顔のペンシルゴンと、何を考えたのかやたらとあざとい女性アバターになってるカッツォ……オイカッツォって今度は追い鰹かよ。
「先に来てた──か」
その2人、と……ん?
ん?? んん??
「ようサンラク。始めたてのくせに、派手にやってるらしいじゃねえか」
手を挙げて俺を気さくに呼ぶ女性アバターからのひっくい声。傷ペイントを貼っつけた顔で男らしく笑ってるヤツの名前は──サバイバアル……だ?
ま、間違いなくサバイバアルだ。でもなんだその、着てる、服、いや装備? 装備、だろうけどなんだその、どうみても……
「なんで
「
「だろうって言われてもなあ」
いわゆるビキニアーマー姿でそんなドヤられても……。
「備えって何の備えでビキニになるんだよ」
「ほお!(半音上がった声)なんだよサンラクそんなに気になってそーんなに聞きてえんじゃ仕方ねえ、初心者のお前さんにこの俺が言葉を尽くしてこの完っっ璧な一張羅を、そうして俺のオアシスであるティーアスたんを語ってや」
「いやいい、いらんいらん」
鼻息荒くして語ろうとしてんじゃねえよ。正直あの孤島でのお前からは全く想像つかないあり様はすんげえ気になる……が、面倒くさそうな気配からは逃げるに限る。
「京……極さんはシャンフロでも名前それなんだね。それなりに久しぶり? かな」
「……あ、カッツォってやっぱりカッツォさんか」
「そ。俺は
「りょーかい。おっしゃる通り、僕はここでも京極。よろしくカッツォ……あっちもやっぱりまだやってるの?」
「なんだかんだね。過疎ってる割にオンした時には新しいコンボ開発されてたりするからさ、中々いい刺激になるんだよ。そっちはサンラクとまた来たりしないの?」
「全身の関節が回転してすっ転んだが最後延々と転がり続ける格ゲーはちょっと……」
まだ何としても語りたそうなサバイバアルを他所に、京ティメット共々席について。
京ティメットは隣のカッツォに声をかけられて便秘のモドルカッツォとようやく合致したらしい。ゲームの容姿は統一する派からしたらピンと来なかったか。俺はそもそも、
アイスクリーム(餓えたホームレスがラスボス)とか、
ガゼル(ライオン一強対抗馬ゴリラのアニマル格闘ゲー)とか、
カブトムシ(小学生から逃れる極限脱出ゲーとかいうDLC)とか、
色々なアバターを操作するから統一感とかなにそれ? って訳だが。
カッツォもカッツォであっちこっちで見た目全然違うしな。そのゲームエンジンから自分で操作するキャラの最適解でアバター作ってるっぽいし。
「や、2人とも。で、まだなんか話したそうなサバイバアルくーん? この場でこれ以上は私が話させないからネ?」
「あ、僕からも同じく。どうしても話したいなら他所でやってよね」
「かーっ。揃いも揃ってロマンが分からねえ女共だこと」
「ふん」
「おいおい……」
訳が分からないが女性陣2人からしたら地雷な話題なのか? 京ティメットからは中指立ててまで止められて不貞腐れてらサバイバアルのやつ。というか京ティメットお前それもしかしなくても俺の……間違っても龍宮院の家で、特に國綱さんとかの前でやるなよ……? ガチで。
しかしそれにしてもサバイバアルもなに? 何だ、何があったらビキニアーマーを一張羅なんて言う事になるってんだ?
あの
「いや
「おい」
「半裸に
「やめろって」
だいたい街中で水着それも露出度高いビキニ姿と、ただの半裸ならどっちかっていうと俺の方がマシだろ! 五十歩百歩? 少なくとも五十歩は俺だから百歩も逸脱してねえから。
「というかそっちだって人のこと言えた
「人の面でもないヤツから面のことを言われたくはないかなあ」
「そっちだって人のこと言えた面かよカッツォ」
「わざわざ外してまで言い直すのそれ」
そしてへい俺の首元の
「鳥面は仕方ねえから着けてんだよ……」
被り直す。
あーあ。半裸を強制されてて被り物で誤魔化すしか、ろくな格好できねえんだよなあ。まったくそれもこれも、あんのくそ犬のせいだ! シャンフロやるとなると毎回カウンターを回すようだ
俺も防具ワンセット装備してあの防具のこのスキルとあれとがさ〜、とかなんとか言ってみてえなあシャンフロで……。
「仕方なくって言いながらどうせネタに走ったんだろうに。ま、この辺で止めといてあげるか。
「ピースしろよカッツォ。『材料です』ってスクショ魔境に投げ込んでやるからよ」
「この
「はーんっ? やるってのかニュービー!」
「似たようなもんだろ1日程度で先輩面かあ?!」
「ふっ」
俺レベル30。
っ……25。
「ザッッッコ!!」
「ちぃぃぃっ!!」
「はいはいそこまでにしときなよそこのドングリ君達。ま、ゲームだから人それぞれの遊び方もあるよねって事で君らのどうでもいい話は
「王族だろうが所詮NPCでしょ? なんつって釣餌扱いできるような振り切ったヤツは、やっぱりどうして泥沼みたいに懐が深いよなあカッツォ」
「アバターが潰れる音をフルーティなんて信じ難い言葉で評して陶酔しちゃうようなヤツは、やっぱりどうしてタカが外れた感性だなって感心するよねサンラク」
「よぉーっしお姉さん猛烈に初心者狩りがしたくなっちゃったぞぅっ! さあ2人とも、私なりのゲームの楽しみ方を、レベルカンストの暴力をたっぷりとお外で教えたげよーかナ? ね?」
はっはっは。
「上等だお外に出たら円卓か幕末にでも来いよ遊んだらあ!」
「そのカテゴリのゲームで言うなら便秘でも俺は構わないよ」
「どれもクソゲーじゃんかってそうじゃなくてシャンフロの話っ。ログアウトをお外なんて言いませんー!」
「お前他所でもそんなエグいことしてたなのな、驚きはねえが。んで? シャンフロでケンカするってんなら俺も噛ませろや、なあペンシルゴンよう?」
「そういうことなら僕も僕も。ちょっと直近のペンシルゴンには色々と思うところがあってね。実は今も。果たし……メッセージでもそういうお話したばっかりだしい? ね、ペンシルゴン」
「オーケィオーケィ君達寄って集って
お前好きじゃんそういうの。
されるのはきらいですー!
「で?」
「ね」
「「俺達なんで呼ばれたの??」」
「トップクランにでも喧嘩売るのか? それとも城攻めでもすんの??」
「あ、俺はサードレマ落とすとか言うのはもうちょい待って欲しいかなあ」
「はあぁ、まったく君らはさぁ……。……ぶっちゃけると、ユニークモンスターこの5人で倒そうって話だよー」
「なるほど──え」
「は? ──ってユニークゥウ……ッ!?」
「……(3外道の絡み、主にサンラクとペンシルゴンの気安い雰囲気に思う所のある顔)」
「……(阿修羅会では見た事ない、弄られる側の珍しいペンシルゴンにニヤニヤしてる顔)」
このまま話を続けたかったけどどうにも長くなるので、えいやっとぶった切り。その辺は何かで供養として載せるか……
ユナイトラウンズをサハイバアルにわざわざ買わせるという選択肢あると思えず、円卓だと5人集まれないのでシャンフロでお話し合い。ここからの展開は原作の説明会プラスα(サバイバアルと京極の補足)って具合。
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