双子(疑惑)ですが、なにか? (LW)
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日本前日譚編
01 ラノベ展開の読み過ぎだと思うけど


アニメ版のソフィアが良かったので?
衝動的に描き連ねました。色々と後悔中☆
折角なので投稿する事に↓


聞き慣れた教室の扉が開く音がして、

私を含めた登校済のクラスメイト達が、反射的に教室の入口を向く。

だけど誰が登校して来たのか悟って、

ホームルーム前の騒めきは静まる。此処最近の日常だった。

 

やって来たのは担任教師では無く、

所謂不良生徒の類でも無い。だけど問題児では有ると思う。

多分今日もいつも通りだから?

視線を意図的に逸らして顔を合わせる。

人と話す時、相手の顔に向くのは当然の事。私は何も悪く無い!筈。

 

「おはよう、根岸」

 

「おはよう。

 今日は朝から機嫌が良いのね?」

 

コイツはクラスで隣りの席の男子。

特に親しい訳でも無いけど、

そもそもクラスで孤立して喋る相手すら居ない私が、

唯一喋る機会の有る相手、となる。

 

前述の通り、特に親しい相手では無い。

単にクラスで隣りの席になって、喋る機会が有るだけだ。

普段は朝の挨拶を交わす事も無い。機嫌の良さが窺える反応だった。

 

「今日は生け捕りに成功した。

 差し入れのバッタだ」

 

「其処で、私に見せる必要無いから」

 

コイツが今日手にしていたのは、一匹のバッタだった。

視線を意図的に逸らしていたのに、バッタが視界に入る。

虫嫌いらしい一部のクラスメイトから、非難の視線が私にまで刺さる。

 

でも今日はバッタか、と。

蠅や蛾を手掴みして来た時に比べれば、

まだマシだと思う私は、かなり毒されていると思う。

 

「白織は、今日も健気だな☆」

 

「コイツ、平然と蜘蛛に名前まで付けてる!?」

 

一言私と挨拶を交わすと、平常運転に戻る。

最近のコイツの興味は?

教室に巣を作った、一匹の蜘蛛に注がれていた。

 

一時期は、誰が生物係をするかで揉めたあの蜘蛛だ。

係の件は有耶無耶になったけど?

こうして今は、コイツが自主的に世話をしている。

蠅や蛾の死骸を拾って来ては、餌として与えていた。

 

蜘蛛の巣にバッタが投げ込まれて、

今まで微動だにしなかった蜘蛛が動き出して、獲物を仕留める。

その光景をコイツは?

フリスビー辺りを見事にキャッチした、利口な飼い犬を見る目で見ていた。

 

「物好きね?」

 

世の中昆虫をペットにする人は、勿論居るだろう。

カブトムシやクワガタ、セミ辺りが一般的!

蜘蛛を飼う人も居はするだろう。タランチュラとかが有名だ。

 

だけどそれは!画面の向こうの話だ。

身近な処で、同じ教室の中で蜘蛛を飼うのは遠慮して欲しい。

 

「白織は全身真っ白な、きっとアルビノ種だ。

 レアキャラだと思わないか?」

 

そう!コイツはレアキャラ好きだった。

私は蜘蛛の生態何て知らない。

人間ならアルビノが珍しいのは知っているけど、

白い蜘蛛が珍しいかどうか何て知らない。

だけどコイツに取って、白い蜘蛛はレアキャラらしい。

 

「白織のレアさが解らないとか!

 甘いな、根岸」

 

「解らなくて良いわ、別に」

 

もう解っていた事だけど?コイツは変人だった。

変人だけど、貴重な隣人でも有る。

 

クラスで、

私とまともに言葉を交わそうと言うヤツが、コイツ位しか居ない。

教室に居ると、自分が喋れるのを忘れそうになる。

私は根岸彰子。

クラスではリアルホラー子。リホ子などと呼ばれているボッチ系女子だ。

 

 

私は自分が嫌いだ。自分の容姿が嫌いだ。

小学校の頃からホラー顔。ゾンビ顔と気味悪がられて、

中学の頃には、吸血鬼と呼ばれるようになる。

 

最近の吸血鬼は?

永遠の刻を生きる美女やイケメンキャラも多いけど、

私の場合は、ホラー的なバケモノと言う意味の吸血鬼だ。

当然これは悪口。いじめにも発展した。

私は嫌悪されて、排除される悪役だった。

 

「静かにしろ、低能が」

 

陰湿ないじめが続いていた中学時代。

限界間近だった最後の一年。

コイツが、【折原 鋼】(オリハラ・ハガネ)が隣りの席に居た。

 

折原は私と同じボッチだった。

いつも独り、

教室の片隅で静かにラノベを読んだり、スマホを手にしたりしている。

だけど独りで居る事を苦にした様子の無い、望んで独りで居るタイプだった。

 

私に陰湿ないじめを仕掛けるクラスの女子は、

同じくクラスで目立たない存在の、

折原の目を気にする事無く、その日も私をいじめに来る。

 

だけどその日は折原が反応した。

余程煩かったのか、読書の邪魔をされたのが気に入ら無かったのか?

クラスの女子は、折原に威嚇されて逃げて行った。

 

私も、その時の折原の目を見た。

何も無い。

無価値な路傍の石を見る目だ。

そしてその石眼は、私にも向けられている。

 

結果的に私を助けてくれた折原に、好意や同情は無かった。

だけど嫌悪や悪意も無かった。

話し掛ければ応えてくれるし、雑談にも応じてくれる。

そんな当たり前の筈の対応をしてくれるのが、折原一人だった。

 

それから折原が隣りに居る間は、クラスのいじめも止んだ。

騒ぎになると?折原が介入するからだ。

勿論男女別の授業や、トイレに行く時を狙っていじめられた事も有った。

だけどこの中学最後の一年は、比較的平穏だった。

 

そして何の因果か?

同じ高校に進学!同じクラスに納まっている。

高校になっても、

新しいクラスメイトが私を避けるのは変わら無かったけど、

折原の石眼も変わら無かった。

 

 

「白織が!!」

 

「虫籠で飼ってた訳じゃ無いし、そう言う事も有るでしょう?」

 

その日、折原が飼育していた白蜘蛛の白織が姿を消した。

鳥がやって来てパックリ食べられたのかもしれないし、

クラスメイトが悪戯半分に殺したのかもしれない。

それとも気紛れで、巣の場所を変えたのかもしれない。

何にしても、教室からあの白い蜘蛛は居なくなっていた。

 

個人的には、→2番は遠慮して欲しい。

クラスメイトの誰かが白織を殺したとなると、間違い無く暴走する。

折原の価値観は、確実に↓

レアキャラ(白織)>クラスメイトである。

 

「無粋だな、

 鳥から翼を、歌姫から歌を、メイドロボから心を奪う如き愚行!」

 

「言いたい事が解らないとは言わないけど、

 ロボットに心が有るのが大前提なの?」

 

「当然だろう!?」

 

要らないツッコミを入れてしまう。

その後長々と、ロボ系ヒロインに関して語られた。

 

白蜘蛛の白織が居なくなってから、折原は静かだった。

連日の奇行も治まり、教室は平穏になる。

だけど私は、折原が変人だと言う事を知っている。

例え白織が居なくなっても、暫くすれば新しいネタを拾って来る。

それが折原と言う変人である。

 

「若葉って、

 双子キャラだと思わないか?」

 

「ハァ!?」

 

白織出奔事件から数日、折原の奇行は再開された。

ターゲットはクラス一の美少女&撃墜王の【若葉姫色】。

撃墜王の渾名は?男子の告白を撃墜し続けている事から付いた異名だ。

 

一番最近では?

クラスメイトの【大島叶多】が撃墜されていた。

だけどアレは、多分カウント対象外だと私でも解る。

 

若葉姫色に手を出すとか、

折原も普通に男子か!と思える行動だけど?

 

「双子キャラって何?」

 

「明らかに最近の若葉はおかしい。

 キャラが違う」

 

若葉姫色は私達の前の席に座っている。

日頃席に座って居れば、視界に入る相手では有る。

 

だけど自分の容姿が嫌いな私に取って、

圧倒的に美少女な若葉姫色は目に毒だった。ハッキリ言って注視していない。

【最近の若葉姫色】と言われても、データが無い。

 

「自分の意思で、独りで過ごしているのが普段の【若葉A】。

 コミュ障を拗らせて、独りで居る感じの方が【若葉B】。

 最近は?ずっとBのままのような気がする」

 

「それで双子キャラ?」

 

「五等分で良くやっていたアレだ。

 姉妹で入れ代わっている可能性が有る」

 

五等分はコミックだけど、

それはラノベ展開の読み過ぎだとしか思えない。

だけど此処で、気の所為だと判断しないのが折原だ。

意図してマイノリティな選択を好む傾向が有る。

 

「それで?

 直接確かめる心算なの?」

 

「入れ代わりは隠している訳だからな?

 確定的な証拠か、余程仲良くならない限り無理だろう」

 

 

↓蜘蛛ですが、なにか?のネタバレを含むキャラ設定です。

ネタバレを避けたい方は、スルーして下さい。

 

1/若葉姫色

黒幕系ヒロイン。邪神Dのサボリモード。

前髪が長く顔が判別し辛いモノの、確実に美人!

身の程知らずのいじめっ子を直ぐ処刑しない辺り、

割と心が広いキャラだと思われる。

 

本作では?

正体がバレ無いように、交友関係は構築して居ない。と言う設定。

 

オリクラスメイトの折原に、【若葉A】と認識される存在。

その正体は、Aでは無くDである☆

 

2/若葉姫色(白織)

原作の主人公。通称【蜘蛛子】。

原作では【白織】の名前が付くのはかなり先の事だが、

本作では日本で蜘蛛をやっていた頃から、

オリクラスメイトの折原に命名された設定となる。

 

Dが仕事で席を外している間、

若葉姫色を演じる代役!と言う設定。

蜘蛛子本人も自身を若葉姫色と認識しており、

若葉姫色を演じている事を知らない。

 

オリクラスメイトの折原に【若葉B】と認識される存在。

解り易いコミュ障。遣り込み型ゲーマー女子。

 

3/根岸彰子(ソフィア)

リアルホラー子、リホ子と言う凄まじい渾名の持ち主。

【吸血鬼】の渾名も有。

【吸血鬼】って悪口?と個人的には思っている。

普通に吸血鬼ヒロインは多いから☆

 

何気に中学時代の吸血鬼事件は起きていない。

解り易い仲の良さは無いが?

オリクラスメイトの折原とは、

普通に仲の良いクラスメイト程度の好感度は稼いでいる。

 

4/折原鋼(オリハラ・ハガネ)

オリクラスメイト。レアキャラ好き。

他人に興味が無く、日々ゲームやラノベに没頭するゲーマー。

 

他人に興味が無いので、

一般的に忌避される根岸彰子の容姿にも興味が無く、嫌悪や悪意が無い。

但し好意や同情も、欠片として存在しない。公平な無興味。

クラスメイトと挨拶や雑談を交わすのに、感情は要らないと思っている。

 

しかしレアキャラ好き。

普通にゲームのヒロインは好き。重症のゲーマー。

 

変人の折原と聞いて、えいえんの世界を思い出した人は?

割と古参ユーザーだと思う。クロス要素は特に無し。

後でネタにする心算で、この名前に決定。




ソフィア物を描く心算が?
蜘蛛子さんのネタに!これが主人公の力か!?

次回は日本で学生をやっている蜘蛛子さんを口説く話です☆


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02 リアルネームは使わないのが常識だ

クロスオーバータグ追加!
意見が分かれそうな展開である☆


「初手からチェックメイト。

 リアルにキャスリングは無いか」

 

若葉姫色。

ヤツは双子だ。そして姉妹でシャッフルを実行している。

それ程までに、今の若葉は今までの若葉とは異なっていた。

 

アレは、今の若葉はただのコミュ障!

レアリティを下げてどうする!?と言いたい処だが、

シャッフルをリアルで実行するチャレンジャーだ。

それ処か、これはそれに収まらない展開も有り得る。レアリティは↑

 

自分で言うのもアレだが?

他人に興味を持つのは、実に珍しい。

人間に、と言い換えても良い。

 

自分はゲーマーだった。

恐らく一般人がクラスメイトと遊んだり、

初めて誰かを好きになる頃、ひたすらゲームをプレイしていた。

画面の向こうで特に意味も無く世界を救い、

登場するヒロインに心を奪われ続けた。

CGをコンプリートする事に情熱を燃やし、リアルは塵芥になる。

ゲームのレアリティが、リアルを容易く上回っていた。

 

だが今回のような事も有るらしい。

自分もまだ、人間だった。と言う事だろうか?

若葉姫色。

彼女のトゥルーEDを、シナリオを知りたいと思う。

 

しかし手立てが無い。

探偵キャラでは無いから、

双子である確定的証拠を掴むスキルが無い。

更に交友関係も死んでいる。

特に接点の無いクラスメイトの女子に近づくフラグが無い。

 

こんな時に恋愛ゲーでは?

ヒロインと同じ部活などに入って、フラグを建てるパターンも有る。

この行動力は評価出来た。動くべきか?

 

だが若葉姫色の所属する部活など把握していないし、

そもそも部活動に参加しているかどうかも怪しい。情報不足だった。

 

隣りの席の根岸は使えない。

ヤツも交友関係が壊滅状態の筈だからだ。

 

「出番だ!フェンブレンⅡ」

 

頭が疲れて来たので、ゲームのプレイに戻る。

最近プレイしている【ダイ大オンライン】だ。

 

このダイ大オンラインは?

原作の再アニメ化に伴い始ったオンラインゲームだ。

PCは勇者連合か、魔王軍の団員となって戦いに参加する。

 

そんなダイ大オンラインの特異点は?

一切原作キャラを操作出来ない点に有る。

 

原作キャラは、ダイ大の世界各地で戦いを繰り広げている。

PCはモブ団員となって、原作キャラに協力する事になる。

詰り原作キャラは、全員NPC扱い!

 

大胆な扱いだと思う。

原作キャラをガチャで引かせれば、課金源になるだろうに。

 

因みに参加しているのは魔王軍サイド!

使用キャラは、ピショップのオリハルコン禁呪生命体だ。

 

ハドラー親衛騎団のフェンブレンでは無い。アレは原作キャラ。

マキシマム配下の、モブピショップの方だ。

アレはモブキャラと言う事で、PCが使用出来る。

PNは【フェンブレンⅡ】。考え無しの安直ネームである。

 

 

「ヒュンケル様、此処はお任せを」

 

「ふん、やって見せろ」

 

今日は不死騎団の【パプニカ攻略戦】に参加する。

不死騎団のアンデットの群の中で、

オリハルコンのピショップは浮いた存在だが、

これはゲームなのでツッコミ不要である。

他のアンデット以外のモンスター達も、全員クエスト参加のPC達だ。

 

だがアンデットで参加しているPCも、勿論存在する。

ヒュンケルの隣りでポーズを決めている地獄の騎士!

コイツは原作キャラのバルトスでは無い。PCだ!PNは【ぱるとす】。

残念ながら、ダイ大オンラインに【エクスカリパー】は存在しない。

 

反対側の隣りには、従者ロールを決めているグールも居る。

PCだ。コイツも決してモルグでは無い。

PNは【墓守参上!!】。色々と台無しである。

 

それと強キャラNPCのヒュンケルは?

後方で指揮に専念する設定らしい。これは貢献値獲得的に助かる。

不死騎団のNPCアンデット達は、包囲網を敷きながらノロノロと進軍開始。

此処でPCが切り込む事になる。

 

敵国のパプニカは賢者の国だ。魔法使いの兵士が圧倒的に多い。

だがこちらはオリハルコン製のピショップ!

パプニカ軍の魔法攻撃など効果は無い。

更にピショップのトリッキーな高機動力を生かして、

街の防衛ラインを突破!城門前まで一番槍で血路を開く。

 

「捉えた!

 ツインソード―――」

 

必殺技の【ツインソードピニング】で、

城門を破ってステーズクリア!と言う処でそれが来た。

 

後方から強力なギラ系ライン攻撃が放たれて、城門が一撃で消し飛んだ。

城門が開いた事でステージクリア、次の玉座制圧ステージに移る。

 

「今のは、ベギラゴンか!?」

 

「正解!

 MVPは、私が貰ったぁぁっっ!!!」

 

今のベギラゴンをぶっ放してMVPを浚って行ったのは、

MVP獲得が余程嬉しかったのか、

テンション↑↑の【はぐれメタル】だった。

当然不死騎団のNPCでは無い。コイツもPCの一人だろう。

はぐれメタルでベギラゴンとか!大層な遣り込み具合である。

 

「ぶるぶる。

 私ははぐれメタルの【ヒイロ】。

 悪いはぐれメタルじゃないよ?」

 

「味方同士で足並みを乱すようなマネはせぬ。

 先程のベギラゴン、見事だった」

 

ド定番のスライムトークを噛まして来るので、

こちらも親衛騎団ロールで返す。

 

「わぁ、綺麗なフェンブレンだ。

 それとも親衛騎団ロール?」

 

それにしても、PNが【ヒイロ】だと?

一瞬意識がゲームから現実に戻る。

常識的に考えて、

ヒイロと言われて最初に連想するのは、Wの主人公だろう。

Wのファンだと予想するのが妥当。

だがこれは、リアルキャスリングチャンスの可能性が有る!

 

「PNにリアルネームは使わない方が良いぞ?

 【若葉】」

 

「ちょっ!?

 どうして一瞬で身バレ!?

 凄腕のハッカーの人?それともストーカー!?」

 

「クラスメイトだ。

 後ろの席の折原鋼。PNはフェンブレンⅡ」

 

「クラスメイト?折原君?

 うんうん、そっかぁ折原君か」

 

これは全く覚えが無いリアクションだ。

教室で話した記憶がこちらも無いから、これは仕方無い。

 

「って、自分はしっかり原作キャラっぽいPN!

 ズルイ!ズ~ル~イ~」

 

「リアルネームは使わないのが常識だ」

 

「じゃあPNを変更する!

 新しいPNは―――――【白織】!」

 

「それこそちょっと待て!

 そのPN何処から生えて来た!元ネタは!?」

 

それは、

居なくなったあの白い蜘蛛に付けた名前だ。

 

「うん、どうしてだろう?

 名前を決めようって思ったら、これしか無いって思った。

 大切な名前のような気がする」

 

 

「それからフェンブレンⅡって長いから、【オリくん】って呼ぶから!

 オリハルコン製で、中身も折原君だからオリくん!」

 

「それは、別に構わないが」

 

そうこう言っている間に、次の【玉座制圧戦】が始った。

パプニカ城のエントランスに攻撃側のPCと、

城を護る敵NPCが集まり、MAPに渋滞が発生。

敵味方共に範囲魔法合戦になって、一進一退を繰り返している。

中々のヒーラー層らしい。原作的にレオナ姫のべホマな肉盾か?

 

「でもこのままじゃ、貢献値が持ってかれちゃう!」

 

「迂回ルートで玉座の間に向かう。

 ワシ等の機動力なら行ける筈だ」

 

「おぉっ!そうか、その手が!!」

 

「白織!」

 

「行こう!オリくんっ!!」

 

エントランスを離れて、白織と共に迂回ルートを進む。

防衛が手薄な迂回ルートを快走して、

庭園に差し掛かった頃、突然の地響きが起きる。

 

「キラーマシン!?」

 

「キャラ名が【バロン】になってる!

 バロンって、あのバロン!?」

 

そして城の壁が崩れて、中からキラーマシンが現れる。

エクストラボスだ!アナウンスに因ると、

【魔王軍の侵攻に乗じて、投獄中だったバロンが脱獄!

 保管されていたキラーマシンを奪って逃走】と言うシナリオらしい。

 

デルムリン島の戦いで、キラーマシンは大破したのでは?

と言うツッコミは無しの方向で!

鎧の魔剣的な?自己修復機能だよ!と言う事にして置く。

 

「当然、やるよね?」

 

「無論だ。このキラーマシンは、ワシ等で頂く!」

 

エクストラボス【キラーマシン】との戦いが始る。

だがキラーマシンは、こちらを無視して城の外へ逃走!

脱獄した。と言うシナリオだから、当然の展開だ。

 

「ボミオス!」

 

「原作再現!バギクロスッ!!」

 

だがそれは読み通り!

白織のボミオスがキラーマシンの逃走を鈍らせて、

放たれたバギクロスが、出口とは逆方向にノックバックさせる。

 

「原作再現なら、これ!

 ベギラマッ!!」

 

白織が、城壁まで押し戻されたキラーマシンにベギラマを放つ。

確かに原作では、バロンのキラーマシンはベギラマで倒れた。

 

「ちょっ!?

 効いてないの!?」

 

だがそれは、ダイの攻撃で装甲に穴が開いていたから。と言う設定だ。

今のダメージでは、ベギラマは内部に浸透していない。

 

「此処は穴を開けるのが正解だ。

 ツインソードピニングッッ!!!」

 

今回こそフェンブレンⅡの必殺技を決める!

両腕のドリル攻撃!キラーマシンの胸部に、容易く大穴を開けた。

追撃を加えるまでも無く、キラーマシンはそのまま爆発して大破!

エクストラボスの討伐に成功。

 

「おぉっ!!貢献値がザクザク入って来る!」

 

「ウム!我等の勝利だ。白織」

 

その後。誰か他のPCが玉座を制圧して、玉座制圧戦はクリアされた。

玉座制圧戦のMVPはしっかりGET!次席も白織だった。

 

白織。

はぐれメタルのクラスメイトをそう呼ぶのに、

もう違和感を感じ無くなっていた。

白織が、アイツが帰って来たのだと錯覚してしまっていた。




ダイ大オンラインは?地域制圧型戦略SLGです。
バトルシーンは少し旧いですが、
初代GROWLANSERをイメージしています。
高DEXキャラ優遇☆

城門破壊に手間取って居ると、
NPCのヒュンケルが、
ブラッディ―スクライドで破壊するムービーが入ります☆

玉座の間には、通常ボスのパプニカ三賢者が配置。


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03 竜騎衆最強のガルダンディーに挑むスレ

白織さん日常回&ヒロイン回です。


「ガルダンディーが縦横無尽で酷い無双状態に!

 原作では一番三下臭かったのに☆」

 

「飛行ユニットは偉大だったわ~。

 貢献値ドロ案件だわ~」

 

白織の目が死んでいる。

空戦騎ガルダンディー!まさかの大活躍である。

 

「オリくん」

 

「若葉」

 

事の発端は本日の休み時間。

短い言葉で、と言うより殆ど一言二言で若葉が話し掛けて来る。

若葉はコミュ障だった。

高校ではネット上とは異なり、若葉の言葉は短い。

 

若葉は長文が苦手だった。

強く若葉を理解したいと、知りたいと思わないと意思の疎通が出来ない。

 

いつか惚れた、某魔法使いのお嬢様な先輩がこの類の属性だった。

声がガチで小さい。

作中でも、ガチで声を聞こうと努力しないと声が聞こえない!

ガチで聞こうとすれば聞こえる。アレはそう言う声だった。

 

若葉の短い言葉もその類だと思っている。

今回は目を読んだ。

教室で声を掛けられて、そのまま若葉に着いて廊下に出る。

今のは【着いて来て欲しい】【話しが有る】だろう。

 

「白織」

 

「リアルでもPNで呼べと?」

 

少し機嫌の悪そうな顔でまた一言。

PNで呼んで欲しい。と言う御達しだった。

 

先程から若葉は【オリくん】と言って来ている。

これは本名の折原鋼のオリくん、では無い。PNのオリくんだ。

 

若葉は新しいPNの、白織と言う名前がお気に入りだ。

若葉を白織と呼ぶと喜ぶ。若葉が微笑む処など初めて見た。

運良くそれを目撃したクラスメイト達が、騒めいた事も有る。

詰り自分もPNで呼んでいるから、

私をPNで呼んで欲しい。と言う事!

 

「解った。

 白織。そう呼ぶから」

 

「~♪」

 

反則的な微笑みを浮かべる白織に連れられて、人気の少ない場所まで来る。

今から甘い恋愛イベントが始る!と言う事は無い。

 

前述の通り、白織はコミュ障だ。

だが間違い無く美人キャラなので、行く先々で注目される。

それは基本!教室内でも同じである。

クラスメイトの男子など、無意識に視線を向けてしまうLvだ。

 

白織は、他人に視線で刺されるのが苦手だった。

まぁ好きなヤツは少ないだろう。

だからプライベートを過ごしたい時は、人目を避ける。

白織と、雑談タイムの始りだった。

 

「ログイン」

 

「あぁ、今日も下りる心算だ。

 下り次第伝えよう」

 

言うまでも無くダイ大オンラインの予定確認の話だ。

あのパプニカ攻略戦で知り合ってから、白織とはフレンド登録を済ませた。

今では割と頻繁に、パーティーを組むフレンドの仲だ。

 

ネトゲの話だからスマホで済ませれば良い処を、

校内でスマホは使用禁止!と言う校則を、白織は律儀に守っている。

万一のスマホ没収を防ぐ為だ。白織は用心深かった。

 

「リンガイア」

 

「そうだな、今日から【リンガイア要塞戦】の開幕だ。

 原作ではスキップされたヤツだから、事実上オリジナルだろう?」

 

ゲーマーの血が騒ぐのだろう。

白織が、期待を膨らませて微笑んでいる。

この白織の微笑みを眺めるのが、此処最近のクリア報酬だった。

 

 

「これって原作再現?

 此処ってリンガイア何だけど!?」

 

「有ったな、そんなイベントが。

 再アニメ化でカットされたヤツ、アレはベンガーナだったが」

 

「もっと頑張ろうよ、リンガイアァァッッ!!!

 あああぁぁぁっっっ!!!また私の貢献値がぁぁっっ!!!」

 

リンガイアは要塞都市だ。

その名の通り、都市はグルリと要塞の壁に護られている。

堅牢な要塞都市を攻めるのは、魔王軍最強の超竜軍団!

竜騎将バランと、竜騎衆の三人。それに屈強のNPCドラゴンの群!

原作通りPC不在でも、無双出来そうなラインナップだ。

 

竜騎将バランと陸戦騎ラーハルトが、

己のドラゴンを駆って、堂々と正面から進軍を始める。

海戦騎ボラホーンは東の海岸線から、海戦部隊で上陸を図っていた。

 

問題の空戦騎ガルダンディーが、

空から要塞を易々と突破して、要塞都市の防衛ラインを破壊して行く。

何と言う見事な快進撃!

要塞都市が炎に沈み、次々とリンガイア兵の貢献値が溶けて逝ってしまう。

 

白織の魂の慟哭がリンガイアに響く。

リンガイアのモブ国民NPCとかが居たら、今の白織と同じ状況だろう。

 

「とにかくガルダンディーの開けた穴から中へ!

 これ以上貢献値を奪わせるなっ!!」

 

「そうだった!私達なら、まだ行けるっ!!」

 

ガルダンディーの開けた北側の穴から要塞の中へ!

バランとラーハルトが流石の戦力で、西の正門を破る。

ボラホーンも東側から、間も無く突入を成功させるだろう。

超竜軍団は無双の最強軍団だった。

 

「増援!?」

 

「アレってノヴァ!?

 リンガイアの遠征部隊!このタイミングで!?」

 

北側に回って、これから市街戦だ!と言う処で増援が出現した。

ノヴァ率いるリンガイアの遠征部隊!

アナウンスに因ると、オーザムの救援に出ていた設定の遠征部隊らしい。

指揮官は北の勇者ノヴァ!何とも狙ったタイミングである。

 

「これはこのまま市街戦を始めるか、

 ノヴァの遠征部隊を迎え討つかの二択だな?」

 

「オリくんは?」

 

ホンの少し、白織が若葉のような短いリアクションで確認して来る。

其処で笑みを浮かべるのは、今度はこちらの番だった。

 

「ノヴァを討つ!

 アイツの方が、貢献値が高そうだ」

 

「同感!」

 

白織と共にUターンして、ノヴァの遠征部隊を迎え討つ!

他のPC達も、各々の判断で戦場を蹂躙して行く。

 

そして超竜軍団の動きは変わらなかった。

このまま要塞都市の攻略を続行するらしい。

 

「オリくん、これって」

 

「あぁ、要塞都市は(ゲーム的に)囮だ。

 超竜軍団が都市を陥落させるまでがリミットだろう。

 それまでに仕留め無いと、遠征部隊も溶かされる!」

 

 

「イオナズンッ!!」

 

接敵後!白織の開幕イオナズンが、

初期配置の遠征部隊に文字通り爆裂する。

 

取り巻きの遠征部隊が、白織の開幕イオナズンで消し飛んで逝く。

流石のイオナズンである。フィールドが爆炎で暫し閉ざされる。

だが其処に油断は無い。予想通りノヴァは健在だった。

 

「ノーザングランブレードッッ!!!」

 

ノヴァが原作通りの攻撃モーションで、

爆炎の中から飛び出して、こちらも初手から必殺技を放つ!

ターゲットは勿論、盛大にヘイトを稼いだ白織だ。

 

「させんよ!」

 

当然この展開は読んでいたので、白織のカバーに入る。

ピショップは高機動型ユニットなので、防御では無く受け流しで対応。

更にカウンターでノヴァを斬り捨てる。

 

「ギラッ!!」

 

カウンターを食らって仰け反ったノヴァに、

白織の光線のようなギラの連続攻撃が襲い掛る。

これは原作のザムザ戦のポップ状態!

ノヴァは連続攻撃を食らって、デスダンスパーティーに強制参加だ。

 

「バギマッ!!」

 

デスダンス中で無防備なノヴァを、バギマで空中に打ち上げる。

バギマの拘束に囚われたまま、

ノヴァはツインソードピニングで討ち取られた。

 

「お疲れ~。

 貢献値的にどう?」

 

「結構稼いだ筈だが、あの鳥に勝てたかどうか?

 白織は?」

 

「数は仕留めたけど、全部モブだしな~。

 ちょっと今回は自信無い。全部あの貢献値ドロが悪い!」

 

と言っている間にリンガイアは陥落。

【リンガイア要塞戦】が終了した。

MVPは、NPCのガルダンディーに持って行かれた。

初見であのガルダンディー無双を上回るのは、至難の業である。

 

 

「ネットでスレが立っていた。

 【竜騎衆最強のガルダンディーに挑む】だそうだ」

 

昨日から始った【リンガイア要塞戦】は、既に話題になっていた。

曰く、ガルダンディーが倒せない!と言うネタだ。

実際に経験した魔王軍サイドでは、

とにかく空中から貢献値を奪われ続けて、貢献値争いに勝てない。

勇者連合からは、追い駆けても逃げ切られる。

何も出来ない内にリンガイアが陥落した。と言う悲嘆の声ばかり。

 

暫くこの【リンガイア要塞戦】では、悲嘆の声が続く事になる。

意外な攻略法が検証動画で、後日UPされるまで。

 

「白織はどう思う?

 ―――白織?」

 

白織が微笑んでいた。

白織は、本当にこの名前で呼ばれるのが好きだった。

白織が笑顔になる。だから、この名前でまた呼びたくなる。

 

 

今回は戦術SLGお約束の、

NPCに因る経験値ドロボウに関するネタでしたが、

作中の【どうしたらガルダンディーに勝てたのか?】

と言う設定話をしたいと思います。興味の無い方はスルーして下さい。

 

勇者連合サイド

バランに血戦を挑む→ガルダンディーがUターンして来る。

勇者連合サイドはとてもシンプル!【バランに挑む】ただそれだけ。

ですが当然!バランは超強力ユニットです。ラーハルトも随伴しています。

原作のポップの行動が、英断だったとゲーム的に理解出来る仕様です。

 

魔王軍サイド

初期配置でボラホーンと東側の海岸線から攻める→東側から市街地へ!

→ノヴァの遠征部隊出現。

→ガルダンディーがUターンして、ノヴァの遠征部隊に挑む。

ボラホーンと協力して先に市街地に入ると、

ノヴァが現れた時に、ガルダンディーがUターンしてノヴァの方に向かいます。

但しバランと西門から攻めると、普通に貢献値争いに敗れます。

 

と言う訳で、如何にガルダンディーをUターンさせるかで決まります。

飛行ユニットは、戦術SLGのエースユニットです。




次回はソフィア回です。

ダイ大絡みのイベントばかりが浮かぶ日々、
転生前イベントが続きます。


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04 綺麗で立派な王女様

今回はソフィア回です。

難産でした。
何処までやらせるかで迷走して、この流れに☆


「PU」

 

「告知は見た。確かに美少女キャラだった。

 描き下ろしの新規キャラだと謳っているが、要はオリキャラだ。

 それでガチャを回すのか?って処だ」

 

「オーザム」

 

「同時にUPするらしいから、新キャラもオーザムのヤツだろう。

 確かに雪国のキャラっぽかった。

 まぁ、新規イベントの方に期待だな」

 

「フレイザード」

 

「状況的にそうだろうな?

 フィンガーフレアボムズが熱い!

 アレのムービーの為なら、敗北も辞さないっ!!」

 

折原があの戯言を口にしてから暫くして、

あの若葉姫色と折原が、

ワンセットになっているのを良く見掛けるようになった。

 

折原は一人で喋り続けて、一人で盛り上がっていたけど?

隣りで話しを聞いている若葉姫色も楽しそうに、微笑んでいた。

 

クラスでは密かに騒ぎになった。

あの若葉姫色が!と。まさかあの撃墜王が!と。

男子の間では、

とにかく若葉姫色の笑顔が可愛い!とか、

そんなレアショット!撮影に成功したヤツは居ないのか!?とか、

まさか本当に折原が若葉姫色を!とか、地獄絵図だ。

 

女子の間でも似たようなネタで、話題になっているらしい。

それに加えて、このまま長く上手く行って欲しい。

と言う声も少なからず聞こえて来る。

 

今まで若葉姫色がフリーな所為で、カップリングが成立しなかった件。

破綻した件など、噂は色々と存在した。

 

クラス中で真相が求められた。

友達何て居ない私は、牽制に無縁で気軽に動けた。

折原は隣りの席だ、機会はいくらでも有る。

 

「最近、仲が良いのね?」

 

「―――若葉の事か?」

 

私の問いに答えようとして【若葉】と言い変えたわ。

良く解らないけど、隠す気は無いようだから話しを掘り下げて見る。

 

「戯言が、当った訳じゃ無いでしょう?」

 

「若葉はゲーマーだった。

 で、話しをするようになった。と言うだけだ。

 例の件は保留」

 

「―――そう」

 

若葉姫色がゲーマーなのは意外だった。

でもいつも独りだったから、そこまで不思議では無い。

いつも手にした本が、スマホに代わった程度の違いでしか無い。

 

「オリくん」

 

もう少し話しを続けようとして、件の若葉姫色がやって来る。

しかも折原を【オリくん】とか!もう渾名で呼ばれる仲に!?

 

その後折原は、若葉姫色に連れられて教室を出て行った。

何だろう?私は、

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

気付いた頃には授業は終っていたし、狭い自宅の自室に戻っていた。

何気無く、本当に何気無くスマホを起動。

折原が若葉姫色と知り合ったと言う、オンラインゲームのHPを開く。

HPを流して、目に留まったのは【初回十連ガチャ無料】の文字。

その隣りでは、銀髪の美少女キャラが凛々しくポーズを決めていた。

 

ゲームのキャラだったけど、あの若葉姫色にも劣らない美貌。

やはり女の価値は、生まれ持った容姿で決まる。

忘れ欠けていた劣等感が、ジワリジワリと病み上がって来る。

 

無意識に手に力が入った。

→初回十連無料ガチャを回す。

何かの演出が始った。慌ててスマホを確認!

有料コンテンツとか、

悪質な飛ばしとかだとマズイ!と思っている内に演出は終了。

 

其処には先程の、銀髪美少女のキャラが映っていた。

挨拶を始める美少女キャラ。そして決めポーズの画面になる。

 

「【ソフィーリア】。

 このキャラの名前?これからどうしろって言うの!?」

 

その後になってマニュアルを探して読破して、

状況を把握したのは、まだ先の話だった。

 

 

雪と氷に閉ざされた厳冬の国。

何もかもが凍てついていて、

飲み水一杯にも燃料が必要になる環境。

その燃料となる炭も、普段は凍土に埋もれている有り様だ。

生きるのに精一杯。ただ全力だった。

 

限界国家オーザム。

それが私の引き当てた【ソフィーリア】の故国だ。

 

ソフィーリアはオーザムの王女!と言う設定だった。

PCが特別な行動を取らない限り、王女の設定のままプレイ出来た。

 

だが其処で待っていたのは、

優雅な貴族生活では無く、厳しい領地運営ゲームだ。

オーザムは全てが足りない。

食糧が、水が、燃料が、人が、財源が、兵力が足りない。

冬になれば、普通に凍死者や餓死者が出る。

 

「戦う余裕何て、無いのに」

 

その上魔王軍が攻めて来る。

戦いに人員を動員させられるのが、一番の浪費だと思っている。

折原は、こんなに疲れる書類ゲーを楽しんでいるんだろうか?

もう辞めたい。それが正直な感想だった。

 

最初は違っていた。

折原と若葉姫色が楽しそうにゲームの話をしていて、

無料ガチャで、このソフィーリアを引いた。

ソフィーリアは美少女の王女キャラだった。だから、

折原や若葉姫色も築いているだろう国より、

もっと凄い国を築いてやろうと思った。

 

何より折角の美少女キャラだった。

ゲームの中でぐらい、この綺麗な容姿に相応しいキャラで居たい。

ソフィーリアで居たい。ソフィーリアを裏切りたく無かった。

でもそれも、もうお終いだ。オーザムは戦えない。

 

→降伏

 

降伏のアイコンをクリックする。

それと同時にアナウンスが入る。氷炎魔団急襲の凶報だった。

魔王軍はオーザムの、人類の降伏を許さない。

逃げ惑い、蹂躙されるだけの【オーザム蹂躙戦】の幕が上がった。

 

「結局私は、

 綺麗で立派な王女様にはなれないって事かしら?」

 

 

「蹂躙だ!

 蹂躙の時間だぁぁぁっっっ!!!!」

 

「溜まっているな?

 前回のアレは、リトライでクリアしただろう?」

 

前回辛酸を味わう嵌めになった【リンガイア要塞戦】は、

既にネット上で攻略情報が拡散されていた。

そして白織に頼まれて、リトライしてクリア済だった。

 

東側の海岸線からボラホーンと共に市街地へ、

ノヴァを無視すると、ガルダンディーがノヴァの方へ向かう。

そして要塞の中央に高貢献値のバウスン将軍が!と言うオチだった。

 

「リトライは出来ても、MVPは逃してる!

 オリくんだって【これは囮だ】(キリッ)とか言って外してたし!!」

 

「それは言ってくれるな、

 再増援でバウスン将軍が出るとか、あの時点で解るか!?」

 

「私もノヴァが本命だと思ったけどさ~。

 やっぱり悔しい!」

 

「反省はしても後悔はしない!と言うヤツだ。

 今回の【オーザム蹂躙戦】に集中するぞ」

 

【オーザム蹂躙戦】。

オーザムは降伏を決意した。だが魔王軍はオーザムの降伏を認め無かった。

フレイザードはオーザムを滅ぼす為、意気揚々と氷炎魔団の進軍を開始する。

オーザムはただ逃げ惑い蹂躙されて行く。と言うシナリオだ。

 

原作の鬼岩城編のミストバーンの死の宣告や、

バーンの積年の恨みを思わせる降伏拒否と言えた。

 

このクエストでは、

勇者連合サイドは指定ポイントへの撤退が勝利条件となり、

魔王軍サイドは、逃げ惑う勇者連合の討伐が目標となる。

 

最重要ターゲットは、王女【ソフィーリア】だ。

この王女ソフィーリアと勇者連合を、

ただひたすら追撃して討つのが【オーザム蹂躙戦】の概要となる。

 

「この王女ソフィーリアってさぁ?

 この前PUガチャで出た、アタリのキャラじゃない??」

 

「課金ガチャのアタリを引いてメインターゲットとか、

 どの辺りがアタリなのかと言う話だな?」

 

「ま、美味しく頂くけどね!」

 

【オーザム蹂躙戦】の戦場は地獄絵図だった。

陸では爆弾岩が、

坂を転がる雪玉のような急スピードで転がって、そのまま街を襲う。

脆弱な防衛ラインが、爆弾岩のメガンテで吹き飛んで行く。

 

空からはブリザード部隊が、ザラキの雨を降らせた。

ロンダルキアの悪夢の再現だった。容易く死が積み上がって行く。

 

「ほらほら、はぐれメタルの白織さんだよ!

 今日はちょっと悪いはぐれメタルだよ!

 イオラ!イオラ!イオラァァッッ!!!」

 

「一つ、二つ、三つ」

 

このクエストは、圧倒的に有利だった。

何と言ってもこちらは高機動型!相性が良い。

原作なら逃げ足に使う筈の、はぐれメタルの機動力で追撃!

逃げ惑う獲物を、次々と爆殺!

そしてピショップの斬首が迫り、勇者連合のマーカーが消えて行く。

 

「この止まったままの、どう思う?」

 

「囮かもしれないが、潰すか」

 

目星い獲物を仕留めた頃に、逃げないターゲットに気付く。

街を一望出来る教会の鐘楼だった。

其処に王女ソフィーリアが一人、逃げる事無く佇んでいた。

 

「逃げないのかな、ソフィーリア王女」

 

「意味が無いわ。

 私は王女ソフィーリアに、なれ無かった」

 

それは【諦観】だった。

そしてこの諦観を宿した声を、良く知っていた。

 

「根岸か、

 APPに極振りでもしたか?折角の高APPが台無しだ」

 

「そう言うアナタは折原ね?そっちはすっかり金物じゃない!

 それと其処の鉛の塊が、若葉姫色?」

 

「そうだけど、何で私だけフルネーム!?」

 

「意外と愉快なヤツだったのね若葉姫色。

 それとも、折原が一緒だから?」

 

王女ソフィーリアは、根岸は最後に少しだけ笑った。

笑って、鐘楼の端に立つ。

 

「オーザムも、王女ごっこもこれでお終い。

 アナタの手で最後を迎えるのは、何かの皮肉かしら?」

 

「このゲームが詰まら無かったと言うなら、それは残念だ。

 だがそれなら、また次のゲームを探せば良い」

 

「次が、有るの?」

 

「ワシで良ければ、付き合おう」

 

「―――そう、ありがとう」

 

オリハルコンの手刀が振り下ろされる。

王女ソフィーリアは討ち取られた。討ち取られて、鐘楼から墜ちて行く。

鐘が鳴る。王女の死を告ぐ鐘が鳴る。




既にお察しの通りソフィーリアは、
ソフィアを銀髪にした2Pカラーです☆

これはゲームなので、
死亡してもキャラロストは有りません。

次回はエルフ狩りの時間です。


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05 大魔王様の御言葉は、全てに優先する

今回はエルフ狩りの時間です。

原作のソフィアの髪は?
ハニーブロンドだと思っているのですが、
ツッコミの有る方は!感想へ報告をお願いします。


「エルフ狩りに行くわよ!」

 

「エルフ?」

 

「何処からエルフ狩りが生えて来た?」

 

あの【オーザム蹂躙戦】の後、ソフィアとフレンド登録した。

ソフィアと言うのは、ソフィーリアの新しいPNだ。

見た目も銀髪からハニーブロンドに変わっている。

 

根岸はダイ大オンラインを辞め無かった。

辞めずに少し、キャラメイクしてゲームの続行を選んだ。

ソフィーリア王女は、もう居ないらしい。

 

「このゲームって、領地運営のクソ書類ゲーじゃ無いんでしょう?

 RPG!バトルモノよね!?」

 

「基本RPGだ。自由度が高めで、領主プレイも出来る」

 

「それはもう理解したわ、だからバトル!

 エルフ狩りよ!!」

 

「エルフに、何か恨みでも有るの?」

 

白織がそう訊ねると、ソフィアの目が死に出した。

何かグツグツと暗黒面が煮詰まっているかのようだ。

 

「エルフって、大抵イケメンよね?」

 

まぁそう言うイメージは有る。

ファンタジーのお約束種族の一つで、吸血鬼と並ぶ有名種族だ。

 

「それに長生きも出来て、魔法適正も高い!

 エルフに生まれて来ただけで、人生勝ち組だと思うの」

 

間違ってはいない。

エルフは人気種族の一つと言えるだろう。

 

「それだけ優遇されてるのに、不幸面なのが気に入らないのよね。

 だから、狩りましょう?」

 

「私怨だっ!!?」

 

残念な事に、エルフ狩りのクエストは存在する。

【エルフの里殲滅戦】。

人間(カール王国)との密かな繋がりを、魔王軍は察知した。

エルフとの繋がりは、何れ大きな脅威になる虞が有る。

カール王国攻略中のミストバーンに、大魔王から勅命が下る。

「殲滅せよ」と。

 

ミストバーンに勅命が下る辺り、

大魔王バーンの本気度が窺えるクエストである。だがそれ以上に、

 

「確実に、あの台詞が出たな?」

 

「アレか~、アレだよね!」

 

「?」

 

「「【大魔王様の御言葉は、全てに優先する】」」

 

白織と二人!ノリノリでミストバーンの名台詞を決めて行く。

ソフィアは?顔だ。あの名台詞を知らないらしい。

 

「決まったぁぁっっ!!!

 やっぱりこれが、ミストバーンでしょう!!」

 

「あぁ、勿論だ!

 生ミストバーン見たい!!」

 

「一体何を盛り上がっているのかしら!?」

 

「いかんなソフィア!

 ミストバーンの決め台詞も知らないとは!!

 ダイ大が格ゲーなら、確実に勝ち台詞で使われる知名度だぞ!?」

 

「言うね、確実に!

 そうじゃ無かったら、台詞無しで目だけ光るとか!!」

 

「解る解る☆」

 

「全く解らないわ」

 

ミストバーンのネタで盛り上がった後、

今回は【エルフの里殲滅戦】を受ける為、カール王国へ向かう。

ミストバーンはダイ大の推しキャラだった。実に楽しみである。

 

 

「ミストバーン様」

 

「………」

 

ミストバーンが無言で振り返る。

闇から覗く瞳と、その身に宿した暗黒闘気とは対極の白い衣。

間違い無くミストバーン!魔影参謀ミストバーンだ。

 

既に魔影軍団の鎧兵士や、ガス生命体。

他にもクエスト参加のPC達が、カール王国の大森林に集結していた。

今はクエスト開始の合図を待っている処だ。

 

因みに今回から、パーティーにソフィアが加わり三人になっていた。

ソフィアは無所属のフリー枠だ。

無所属は勇者連合と魔王軍!どちらのクエストも受けられるが、

パーティーに勇者連合のPCが居ないと勇者連合の、

魔王軍のPCが居ないと魔王軍のクエストに参加出来無い。

仲間頼りの、ソロには厳しいポジションとなる。

 

「宜しいのですか、

 エルフは有用な存在なのでは?」

 

折角生ミストバーンが居るので、

何とかミストバーンが喋りそうなネタを振って見る。

ミストバーンはその正体を隠す為、

大魔王バーンから喋る事を禁じられているが、本人は割と熱い。

喋る時は喋る!と言う感じだ。是非生で決め台詞を聞きたい!!

 

「【大魔王様の御言葉は、全てに優先する】」

 

決め台詞キタ――(゚∀゚)――!!

と内心歓喜の声を上げると、序にクエスト開始の合図も来た。

【エルフの里殲滅戦】の幕が上がる。

 

「今回のクエストって」

 

「あぁ、まずは大森林を探索して、エルフの里の正確な位置を絞り込む。

 絞り込みが終ってから、本格的な侵攻が始る」

 

魔影軍団の鎧兵士やガス生命体。

PC達が大森林に入って探索を始める。ミストバーンは外で待機だ。

 

「あの白いのは動かないの?」

 

「動く前に片付けるのが理想だな?」

 

だが大森林は広大だった。

野外ダンジョンで太陽の光りが見えるから、と気を抜くと後悔する事になる。

エルフの姿も無い。流石に隠れ里なだけは有る。

現れるのは、植物系と虫系の野良モンスターだけだった。

コイツ等では低貢献値過ぎて話にならない。時間の無駄である。

 

「ヒャダルコ!」

 

大森林の捜索を続けて、どれだけの時間が経過したのか?

漸くエルフが網に掛かった。

白織のヒャダルコに、エルフが囚われる。

捕えた。と言っても凍死で即死である。

 

「Ⅱ、後は任せて」

 

Ⅱ(ツヴァイ)と言うのは渾名だ。

ソフィアにまで、フェンブレンⅡは長いと言われた。

そこまで長いか?言い難いか?

 

Ⅱ(ツヴァイ)と言うと?

ファントムな暗殺者の主人公を思い出す処だ。

推しヒロインはアイン!

特にラストの、投擲掴み取りカウンターに惚れた☆

アレのカッコ好さに比べると、Ⅱのトラップ戦が工作に見えるLv!

 

そしてソフィアが使ったのは【モシャス】だ。

仕留めたエルフを参考にして、エルフに変身して見せた。

確かにエルフだった。お約束で耳も長い。其処は良かったが?

 

「容姿がソフィアのままな気がするが?」

 

「能力はコピーしたわ、これでエルフの里が解る」

 

ソフィアの容姿が、モシャスを使った後もソフィアのままだった。

だがエルフの能力で、隠れ里の位置が解るらしい。

 

白織に続いて、ソフィアもソフィアの容姿が気に入っているようだ。

モシャスで能力だけコピーとか!器用な真似を披露してくれる。

 

「見えたわ」

 

エルフに変身したソフィアの案内で、隠れ里らしき場所に着く。

大森林は広大な天然のダンジョンだったが、

此処からは結界に護られた隠れ里の中になる。

詰り悟られずに中に入れるのは、ソフィア一人だ。

 

「行けるか?」

 

「えぇ、ちょっと毒を撒いて来るだけだもの」

 

 

「ブザマね?」

 

ソフィアは隠れ里の水源に毒を撒いた。

更に時間は掛ったが毒が蔓延して、隠れ里のエルフ達は悶え苦しみながら倒れた。

 

倒れた無抵抗のエルフ達を、確実に一人づつ殺して回った。

一人、また一人殺してもクエストは終らない。

これは【殲滅戦】なのだから当然だった。勝利条件は鏖殺だ。

 

「粗方終ったけど」

 

「此処からは、また探索パートだ」

 

目に映るエルフ全てに止めを刺した。だがクエストが終る気配は無い。

次は隠れ里の探索。今回のクエストは、本当に探索続きだ。

 

だが続いたのは戦闘パートだった。

隠れ里に建つ石造りの、

エルフのイメージとは程遠い無機質な建造物から、モンスターの群が現れる。

 

「ゴーレムと、キメラの群」

 

「ガーディアンの心算か?」

 

次々と現れるゴーレムとキメラの群!

だがこの頃には味方の増援も到着した。

魔影軍団の鎧兵士やガス生命体。他のPC達も合流して、

石造りの建造物の前で、結構な規模の戦いになった。

 

「ちょっと!何なのコイツ等ッ!!」

 

ゴーレムやキメラの人造モンスターの群を相手取る内に、それは起こった。

背後から奇襲を受ける。止めを確実に刺した筈の、エルフ達が立ち上がっていた。

 

始めはエルフの死体がアンデット化したのかと思った。

どう見ても死体に見えたからだ。

だがエルフの死体は、ボコボコと再生を繰り返して膨張して行く。

膨張して、別の何かになろうとしているように見えた。

 

「メラゾーマッッ!!!」

 

白織のメラゾーマが、エルフだった膨張体を焼く!

再生の暇を与える事無く焼き尽す心算だろうが、膨張体は倒れ無かった。

倒れる事無く再生を続けた。

 

「このグロい再生能力!見覚えが有る」

 

「進化の秘宝?」

 

隣りで白織が、静かに答えを口にする。

或いはダイ大的に【鬼眼】の方かもしれない。バーン様案件になる筈である。

 

「闘魔滅砕陣」

 

だが答えに辿り着く事は無い。

大森林の外で、待機中だったミストバーンの声が聞こえた気がした。

時間を掛け過ぎた。ミストバーンが動く。

 

暗黒が大森林を、エルフの隠れ里を覆い尽した。

隠れ里が暗黒に飲み込まれて行く。

不気味な膨張体が、ゴーレムとキメラの群が、

蜘蛛の巣のような暗黒に囚われて、闇に捕食されて行く。

 

「グロいのが、崩れて!」

 

「暗黒闘気の回復阻害効果だろう。

 膨張体にあんな弱点が」

 

やがて膨張体は、再生する事無く崩れ堕ちた。

ゴーレムとキメラの群も、滅砕陣の前に力尽きて全滅した。

隠れ里は闇に沈んだ。ミストバーンの本気を垣間見た瞬間である。

 

「何もかも闇に葬られたか、やられたな?」

 

結局MVPは、勿論ミストバーンに持って行かれた。

真相も闇の中だ。こうして【エルフの里殲滅戦】はクリアされた。

 

 

今回の【エルフの里殲滅戦】の展開に関する設定です↓

ダイ大の世界にもヤヴァいエルフを出そう!と言う試みでしたが、

某族長には届かない展開になったと思います。某族長ヤヴァいです。

 

進化の秘宝らしきモノを手に入れた謎のエルフが、

ゴーレムやキメラの軍勢を生産して、人間にも接触を図っている。

バーン様案件に届くLvだったでしょうか?

 

作中の石造りの建造物は、バイオプラント的な代物です。

中でゴーレムやキメラの生産、保管をしています。

 

ダイ大の世界にエルフの隠れ里が在るとしたら?個人的には、

1/テラン 2/カール 3/アルキード

だと思っています。破邪の洞窟の影響で、

カールには不思議物件が在るイメージが強いです。

 

進化の秘宝らしきモノを使った膨張体に、

暗黒闘気が特効なのはオリジナル設定です。

 

魔王軍幹部でも勇者でも無いPCには、

まだ情報が下りて来ない展開となります。




今回ソフィアには、残虐ポイントを稼いで貰いました。
このままでは【吸血鬼】が貰えない気がしたからです。

次回はデートイベントです☆


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06 好きって、言ってくれないの?

今回はデートと言う名の暴露回になりました☆
多分デートです。


「特売セールが有るらしい。

 ベンガーナに行かないか?」

 

「ベンガーナ?」

 

「って行けるの!?」

 

今日はクエストを受けずに、ベンガーナ行きを提案する。

ビギナーのソフィアは?顔。

ベンガーナと言われても、何処の事だか解らない。と言う顔だ。

対する白織は不思議そうな?顔である。アレを知らないらしい。

 

「ソフィアがモシャスを使えるからな?

 人間に変身すれば行ける。

 それ以外にも、妖魔士団でモシャスの変身サービス!

 【変化の杖】の販売/レンタルもやっている」

 

「変化の杖のレンタルはまだしも、販売!

 アレって原作だと、重要アイテムなのに」

 

妖魔士団!ゴマスリ力が半端無い☆

魔王軍PCは勇者連合(人間)の街に入れない。

入れる街扱いになる拠点は、

ゲーム開始初期は鬼岩城のみ!と言う展開。流石は魔王軍である。

 

流石にこれではゲーム的に盛り上がりに欠けるので、

人間に変身すれば、人間の街に入れるシステムとなった。

だがモシャスは高Lv帯の魔法!

其処で妖魔士団(ザボエラ)の出番となる。

 

ザボエラは同僚の魔王軍PCを人間の姿にして、

休暇と称して、自分の担当区域のベンガーナへ誘致した!と言う設定だ。

ゲームシステムをシナリオで埋める誘導である。

 

何にしても、これで魔王軍PCでも街に入れる。

前回の【エルフ里殲滅戦】でもMVPを逃した。気分転換で遊びたい。

特売以外にもベンガーナには、闘技所やカジノが有る。

 

「私は人間だから、そのまま行けるわ」

 

「変化の杖かぁ、おいくら?」

 

「販売で11500G。ドラゴンキラーよりは安い。

 レンタルで1100G。既に購入済。

 モシャスと、ベンガーナ行きのルーラは無料だ」

 

結局白織も変化の杖を購入した。自前の杖が欲しくなったらしい。

そして適当な人間用の装備を整えて再集合!

普段と変わらないソフィアを目印に、人間の姿で集まる。

 

「白織、なのか?」

 

「………」コクコク。

 

白織が!人間Verの白織が、リアル白織になっていた。

白い【若葉姫色】と言うべきか?いつもは教室に居る白織だ。

白織がいつの間にかアルビノになったかのように白くなり、

口調もすっかり大人しくなって、高校Verになっている。

 

「口調はどうした?」

 

「似てるから」

 

あぁうん。普段ははぐれメタルのPCで、画面越しの付き合いだった。

だがこれはどう見ても、リアルの自分と瓜二つ!

地が出ても可笑しくは無い。

 

「オリくんも、似てる」

 

「こっちはありふれてるだけだろう?」

 

特に珍しくも無いAPPだ。ただの汎用顔だろう。

だが人間Verの白織は、どう言う仕様なのか?要観察☆

 

「///」

 

はい!間違い無くレアキャラさんです!!

白くアルビノ化して、更に神秘キャラと化している。

白い肌も、白く長い髪も、白に映える紅い瞳も、

トゥルールートを担当していても、納得なヒロインの姿だった。

 

「Ⅱ!」

 

「あぁ、少し見惚れた。

 ベンガーナへ行くとしよう」

 

 

「毒針が980G!

 これがお勧めだな」

 

「そうなの?なら、これにするわ」

 

目の前でオリくんとソフィアが、楽しそうに買い物をしている。

毒針かぁ、私もⅢからお世話になった武器だ。

主に魔法使い用の武器で、確率で即死効果が出る。

メタル狩りで重宝した。私も杖より毒針派だった。

 

オリくんに毒針を勧められると、随分アッサリと購入を決めた。

素直だなぁと思う。今日のソフィアは御機嫌に見える。

 

「御機嫌だな?」

 

「余り、こう言った機会が無かったから」

 

あぁうん解るよ?友達とショッピングとか!中々機会が無いから!!

ベンガーナへは、問題無く入国出来た。

流石にモシャスを見破る入国審査は無いらしい。

予定通り、まずはデパートの特売コーナーへ行く事になる。

其処までは良かったんだけど?

 

「………………」|д゚)

 

私に対する視線が酷かった!

高校の比じゃない!モシャスがバレて、捕まるイベントかと思った。

でもそうじゃ無かった。これはリアルでは慣れた視線だった。

 

この姿はゲームのPCなのに、それでもかぁ~と思う。

それともアルビノが珍しいの?身体に突き刺さる視線が気持ち悪い。

色々と嫌になってオリくんの背中に隠れる。

オリくんの背中が、視線を切れる唯一のセーフポイントだった。

 

「流石は白織、ゲームでもモテモテね?」

 

「ソフィアも、充分注目されていると思うが?」

 

そう、そうだよ!それで少しはマシになってる。

ソフィアありがと~♪と、心の中で喝采を送る。

 

「私のは、ガチャの当たりクジだからって言う好奇心でしょう?

 白織とは違うわ」

 

うん、そうだね?

ソフィアの方には、気持ち悪い視線は少ないかもしれない。

どうしてそうなるかなぁ!全部イオナズンで消し飛ばしても良い?

 

「オリくん?」

 

「居る処には、居るモノだな」

 

結局カフェの野外ラウンジで休ませて貰う事になった。本当に助かる。

でもそうしたらオリくんに、何か悟ったような顔で見られた。

えっ何?何か起きたの!?

 

「高校を卒業したら、旅に出る。

 白織のような、本物のアルビノヒロインと出逢う為に!

 そうしたら全霊を賭けて口説く!リアルアルビノヒロインを嫁にする!!」

 

「!!?」

 

「ハァッ!!?

 いきなり何を、発狂してるの!?」

 

はい!とんでも無い告白キタ――(゚∀゚)――!!

えっ今の告白!?白織のようなって///

でも何か違う。善し!冷静になろう!!

 

「正気だ。

 一度切りの人生!その人生のパートナーを捜す為、

 多少の無理をしても構わないだろう?」

 

「余計性質が悪いわ!

 アナタどれだけバカなの!?」

 

なれるか!そんなの!?

オリくんは本気だった。本気でアルビノのお嫁さんを捜す心算だ!!

どれだけアルビノ好きなの!?

 

「ならソフィア、お前は何か有るのか?」

 

「何かって、何よ?」

 

「御立派なプランが、だ。

 他人のプランをどうこう言うんだ。

 ソフィアには何か、御立派なプランが有るんだろうな?」

 

私が困惑している間にも、話しはどんどんとんでも無い方向へ流れて行く。

やがてオリくんに追い詰められたソフィアが、

ヤケクソ気味に言い放った。ソフィア!アンタもか!!

 

「良いわ、Ⅱが先にバカを曝したんだから乗ってアゲる。

 高校を卒業したら私は、

 顔を全整形して別人になる!生まれ変わるのよ!!

 私はあの容姿の所為で、

 ゾンビ顔だのホラー顔だの言われて来た。人生負け組だった。

 でもそれも、もう終りにするわ」

 

高校を卒業して自分で働けるようになったら、

治療費を貯めて、整形でも何でも受けて人生勝ち組になる!

そうソフィアは宣言した。凄い気迫だ!ソフィアも本気っぽい告白だった。

 

「ソフィアの覚悟!しかと聞き届けた!!

 流石だ、ソフィア」

 

「ふっまぁね!」

 

と言うソフィアだけど?

やらかしたかな~?と言う笑みを零したのを、私は見逃さ無かった!

 

「さて、次は」

 

「そうね?

 次は白織の話を聞きたいわ」

 

「!!?」

 

ちょっ!?こっちに飛び火して来たぁぁぁっっっ!!!!!!

急にそんな事言われても、

二人の爆弾発言の後で、言える事何て無いよっっ!!?

 

 

「今が、楽しいから」

 

今が楽しかった。

私はずっと独りだったから、今が楽しい。

ゲームでオリくんと知り合ってから、パーティーを組むようになった。

誰かと一緒なのも悪く無いと、

肩を並べる楽しさを、背中を預ける信頼を知った。

こんな時間が続けば良いと、想い始めていた。

 

私はこんな事しか言え無かった。

二人のような、具体的なプラン何て無かった。

呆れられるかな?と思ったけど、二人は納得してくれたらしい。

 

「お疲れだな?

 ベンガーナへの遠征は、失敗だったか?」

 

「オリくん」

 

宿屋のラウンジで休んで居ると、オリくんがやって来る。

あの爆弾発言の後も、私達はベンガーナを散策した。

闘技所でオリくんが出場枠で活躍したし、

カジノでは私が、中々の勝ち筋を拾ったと思う。

でも余り、ハッキリと記憶に残って無い。

 

「そんな事、無い」

 

「そうか、なら良い」

 

目の前のオリくんが、あんな事言うから!

大体何なの?白織のようなアルビノって!白織は私だし!!

白織のようなアルビノってさぁ、結局私が好きって事で良く無い!?

 

「旅、出るんだよね?」

 

「そうだな?

 不思議とそう決断出来た。白織のおかげだ」

 

オリくんは高校を卒業したら、旅に出る。

何処かに居るかもしれない、アルビノのお嫁さんを捜す旅に出る。

こうして一緒に居られるのは、今だけかもしれない。

 

「好きって、言ってくれないの?」

 

「白織」

 

だから私の口から零れたのは、そんな弱々しい言葉だった。

って、何言ってるかな!私はぁぁぁっっっ!!!!!!

それって告白だから!やらかしたぁぁぁっっっ!!!!!!

 

 

補足/説明枠になります。

興味の無い方は、スルー可です。

 

アルビノ白織

本作登場のアルビノ風の白織☆

外見は、どう見ても原作のままの白織!しかし目が開いた開眼モード!!

しかも蜘蛛に転生した訳では無いので、目も普通に人間の目!

紅いだけの、綺麗な目を披露している設定です。

 

ソフィア(根岸)の決意

原作のソフィア(根岸)は、

流石に美容整形を躊躇うニュアンスだったと思います。

ですが本作のソフィアは、覚悟完了です☆

仲の良いクラスメイトがバカを言い出した→どうやら本気らしい

→ライバルも居る→覚悟完了!と言う流れになります。

 

妖魔士団の暗躍☆

本編ではカットしましたが、

妖魔士団がベンガーナの闘技所やカジノに、介入している設定でした。

 

闘技所では賭け以外にも、

人間に変身したモンスターが、密かに出場枠で参加OK!

正体を曝してモンスターとして戦います。

戦いの後は運営に扮した妖魔士団員が、

モシャスを掛け直してくれるサービス付き!と言う設定。

 

カジノの方も色々やっている設定でした。

ザムザがベンガーナで、カジノを運営する話でも良かったかも☆




今回からアンケートを実施したいと思います。
〆切は次回07の投稿まで!と言う事でお願いします。
ルート確定を確約は出来ませんが、参考にしたいと思います。

次回はバルジ島決戦!バトル回の予定です。


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07 お前は白織だ。それで良い

早々と仕上がったのと、
アンケートも結構差が着いたようなので、投稿しようと思います。
アンケートの結果は後書きへ↓

今回は、主にバトル回です。原作キャラ撃破展開有。


「SLGお約束の、同時決戦だ。

 【炎魔塔】【氷魔塔】【中央塔】の三ヶ所で同時決戦が行われる。

 これを三ヶ所共征して、【バルジ島決戦】のグランドクリアを目指す!」

 

今日も三人でダイ大に潜る。

今回のクエストは【バルジ島決戦】!

原作準拠で、

パプニカのレオナ姫を人質に捕ったフレイザードが、

バルジ島の中央塔で陣取っている。

 

しかしバルジ島は【氷炎結界呪法】で護られている為、

結界の外側から、まずは炎魔塔と氷魔塔を砕く事になる。

 

この【バルジ島決戦】では、

敵味方共に強力なNPCが多数配置されて、各地で激戦が展開される。

PCは好きな初期位置からスタートして、各戦線に介入する事になる。

勝利条件は通常通り、自軍NPCの勝利だ。

 

「三ヶ所共って、分かれて行動するの?」

 

「シナリオ上炎魔塔と氷魔塔が先になるが、

 結界が崩れた後中央塔に向かっても、恐らく介入が間に合わない。

 中央塔は、先に待ち伏せが必要になる」

 

「具体的には?」

 

「原作通りなら炎魔塔にクロコダイン、氷魔塔にヒュンケル。

 中央塔に勇者ダイだろう」

 

うんうん。と、原作知識の有る白織が頷く。

対するソフィアは、純粋に情報として耳を傾けている。

 

「クロコダインは白織が、

 鎧の魔剣装備のヒュンケルには、オリハルコンのワシが行く。

 ソフィアは、勇者ダイを頼む」

 

ハッキリ言ってステータス的には、勇者ダイが一番強い!

特にこのゲームでは?ピンチになればいつでも【竜の紋章】が発動!

当然この【バルジ島決戦】でも発動する。

 

「設定年齢12歳のお子様だったわね?

 任せて」

 

ならまともに戦わなければ良い。

どんな戦い方でも、生き残った方が勝者!卑怯万歳だ。

 

「原作通りなら、ヒュンケルVSハドラーは接戦になる。

 他のPCの邪魔が無ければ、サックリ止めだけ刺せば良い」

 

勇者連合のPCがどれだけ来るかに因る展開だ。

上手く行けば楽に終る。

 

「こっちは魔影軍団の鎧兵士を盾に、火力攻めかな?

 ひょっとして、一番の激戦区じゃない!?」

 

「―――終り次第、そちらに向かおう」

 

「待ってる」

 

前回の休日!ベンガーナへ行った時に、白織の気持ちを知った。

だが、まだ返事をしていない。我ながら酷い展開である。

 

白織はあの後錯乱した。告白の件では無い。例の案件だ。

それに何より、自身はレアキャラ好き!

例の案件が決着を見ない限り、白織に惚れる事は多分無い。

 

「作戦前だから、空気を読みなさい」

 

「解っている。

 【バルジ島決戦】を始めよう」

 

 

「ヒュンケルはこのハドラーが、自ら相手をする。

 フェンブレンⅡよ!他の雑兵は任せたぞ?」

 

「お任せ下さい、ハドラー様」

 

氷魔塔の戦い。此処までは原作通りだ。

ハドラーがベギラゴンで、ポップとマァムを倒してヒュンケルが出現した。

氷魔塔は原作通り崩れた。アレは防げるイベントだったのか?

 

此処までの氷魔塔の戦いで、

最も貢献値を稼いだフェンブレンⅡに、NPCの指揮権を移譲される。

これは大きい!流石にオリハルコンの親衛騎団は居ないが、

ハドラー親衛隊の、アークデーモンとガーゴイルに指示が出せる!

 

「ガーゴイル隊!一斉マホトーンだ!!」

 

ヒュンケルと戦い始めたハドラーを見送り、親衛隊に指示を出す。

ガーゴイル隊が勇者連合のPCに、連続でマホトーンを仕掛ける。

この数のガーゴイルの一斉マホトーンだ。

かなりの数の呪文を封じた筈!全員が呪文封じ対策に万全だとは思えない。

 

「アークデーモン隊!こちらも一斉にイオナズンを放て!!」

 

更に情け容赦無くアークデーモン全員に、イオナズンを放つよう指示を出す。

ダイ大の最強通常呪文はベギラゴンだが、推しの最強呪文はイオナズンだ。

全体攻撃は、気分爽快である。

 

「マ、マァムゥゥッッ!!!」

 

コイツ等を逃がす必要は無い。ヒーラーは潰すに限る。

勇者連合のPCは情け容赦無い親衛隊に任せて、

撤退して中央塔に向かう二人を、マァムを後ろから刺して仕留めた。

流石は原作NPCだ。ガンガン貢献値が入る!

 

だが安心して欲しい。これはゲームだ。

何度原作キャラを仕留めても、次のクエストで当然のように再登場する。

 

「よくもマァムをぼおぉぉぉっっっ!!!!!!」

 

台詞の途中で悪いが、油断は無しだ。

ツインソードピニングで、情け容赦無く貫いてポップも仕留める。

台詞の途中でも、システム上攻撃が可能だ。

詰りこれは!反則でもチートでも無い。正当な攻撃である。

 

「さて、次は」

 

そうこうしている内にグランドクルスが放たれて、ハドラーが撃破された。

だが原作通り、ハドラーは暗黒闘気が有る限り何度でも蘇る。

敗北判定には到らない。そして残されたのは、瀕死のヒュンケルだ。

 

「さらばだ、魔剣戦士ヒュンケル」

 

近づくのも危険そうなので、バギマで首を刈った。

演出上の問題(憶測)で兜が外れているので、魔法攻撃が有効。

貢献値がドッサリ入って来る。

原作で不死身とまで謳われたヒュンケルが討たれた。

氷魔塔の戦いは、魔王軍の勝利となる。

 

「白織、そちらはどうだ?」

 

 

「笑止!

 キサマラ如き雑兵が、この獣王を倒せるかっ!!」

 

炎魔塔は砕かれ、勇者ダイも中央塔に向かった。

そして獣王が半端無く強い!Lv調整間違えて無い!?ってぐらい強い。

魔影軍団の鎧兵士は勿論!他のPCが盾にもならない。

 

これってさぁ、メダパニ戦法の反映とかじゃないよね?

私、はぐれメタルやってるんですけど!?

 

ミストバーンは何処に行ったの!?と言いたくなる。

氷魔塔ですね?はい、知ってました!此処には居ません。

この獣王を!残存戦力で討たないと行けない。

 

「マヒャド!」

 

メラゾーマだと縁起が悪いので、真逆のマヒャドで攻める。

これで動きを止めてから、極大呪文を撃ち込む!と思っていたけど?

 

「かあぁぁっっ!!!

 

あっヒートブレスを忘れてた!

アレでマヒャドの凍結を軽減して来た。マズイ!

投擲された真空の斧が迫る。

 

「本当は確かめる心算だった。

 だがそれも、どうでも良くなった。

 白織は、白織で良い。そう思い始めていたからだ」

 

「オリくん?」

 

えっと、ナニコレ走馬燈?回想モード!?

これは前回のベンガーナの、あのやらかした告白の続きだ。

オリくんはあの告白の後。意味深な事を言って、そして!

 

「だが訊かせて欲しい。白織。お前は、

 オマエハダレダ?」

 

「!!?」

 

「別に突然記憶喪失になった訳じゃない。

 そのままの意味だ」

 

私は白織。でもそれは元々PNで、本名は若葉姫色。

本当に?本当に私は若葉姫色??私は!

 

「私は、私の名前は白織。

 私は白織だ!!」

 

間違えちゃイケナイ!私の名前は白織!私は白織だ!!

これだけは絶対に間違えちゃダメだっっ!!!

 

「お前は白織だ。それで良い」

 

「………」コクコク

 

気付いた頃には、オリくんに抱き締められていた。

恥ずかしいと思う暇も無かった。そのまま私は、宿の部屋に運ばれたらしい。

因みにこんなだから、まだ告白の返事は貰っていない。

 

こんな時に告白の顛末を思い出すとか!

縁起が悪く無い?これってゲームよ!?

 

「其処までだ!獣王!!」

 

「オリくん!」

 

真空の斧のトマホークを撃墜して、其処に駆け着けてくれたのはオリくん!

タイミングが良い!主人公キャラのようなタイミングの良さだ。

これはゲームだと解っていても惚れる!

【此処は任せて先に行け!】と並ぶ王道シチュだ。燃えない筈が無い!!

 

「此処からはワシが相手だ」

 

「良いだろう、来い!」

 

オリくんの腕がドリル回転を始め、獣王の腕にも闘気が集束する。

これは初手から互いに全力攻撃を!

 

「ツインソードピニングッ!!」

 

「獣王会心撃ッッ!!!」

 

丁度会心撃に改名した処か~と、原作ファン的に感動している場合では無い。

対しているのは、自分でありオリくんなのだ。

 

「ぐっ」

 

「オリくんっ!!」

 

激突の結果、先に膝を着いたのはオリくんだった。

脇腹の辺りが、ザックリ抉れている。

 

「見事だ」

 

でも倒れたのは獣王の方だ。

獣王の敗北で、炎魔塔の戦いは魔王軍に軍配が上がった。

 

生き残った他のPC達は、

戦いの終った戦場に目を向ける事無く中央塔に向かう。

クエストはまだ終っていない。皆ゲーマーだから仕方無い。

 

私は一人、オリくんを看る事にする。

手には変化の杖。ピショップは全身が殆ど刃の設定だったから。

 

 

「レ、レオナ!?」

 

「ダメよ?女をあっさり信じたら、

 勉強になったわね、勇者サマ?」

 

ドサリと、勇者が倒れる。

こうまであっさり策が決まると、拍子抜けする。

勇者は本当にお子様だった。そして運の無い子。

まさか毒針の一刺しで即死とか!呆気無いにも程が有る。

 

Ⅱの作戦はこうだった。

一番にレオナ姫が囚われている中央塔で待ち伏せる。

→レオナ姫が解放された処で、適当な別室に隠す。

→私がモシャスでレオナ姫に変身する。

→レオナ姫(偽)を助け起こす勇者を、毒針で刺す。

 

理解出来たかしら?

不意打ちはまだしも、勇者の運の無さが!

 

「ダ、ダイくんっ!!」

 

「あら、そう言えばまだ貴方が居たわね?」

 

まだ本調子が戻っていないのだろう。

別室に転がして置いたレオナ姫が、這ってこの部屋に現れる。

良く考えたら、生かして置く必要が無かった。

 

「あっあああぁぁぁっっっ!!!!!!」

 

「勇者と違ってレオナ姫は運が良いのね?

 中々死なないわ」

 

ブスリブスリと。動かなくなるまで、馬乗りで何度も毒針を刺した。

6回刺した辺りで、漸く動かなくなった。毒針が効いたらしい。

貢献値も入ったから、狸寝入りと言う事も無い筈だ。

 

「Ⅱと白織は、上手くやったかしら?」

 

Ⅱと白織に合流する事にした。

二人は炎魔塔の有った場所から動こうとしていない。何か有ったの?

 

「何か有ったのかと思ったら」

 

炎魔塔の有った場所に着く。

其処では倒れたⅡが、白織に膝枕をされていた。

しかもこの間の休日で使った変化の杖で、

御丁寧に人間の姿に変身して、だ。

金物と鉛の塊で膝枕は出来無いからと言って、手の込んだ事をする。

 

「怪我をしたなら、素直に私を呼びなさい」

 

白織には悪いけど、

結構な苦戦をしたらしい、Ⅱの手当を優先する事にした。

 

 

補足/説明枠です。

今回は結構な情報量!読破推奨☆

 

不死身のヒュンケル

ヒュンケルの渾名。本当に不死身と言う事は無い筈。

しかし残りHP1から削れない!と言う理不尽案件。

本作で打倒出来たのは、ゲーム版の仕様だと思って欲しい。

イロモノキャラのマキシマムの主張の方が、実は常識的と言う罠☆

 

メダパニ戦法

守備力が高くダメージを中々与えられないメタル系に対して、

モンスター同士の同士討ちなら、普通にダメージが通る現象が存在する。

これをメダパニで誘発するのがメダパニ戦法となる。

当時流行ったメタル狩り戦法の一つである。毒針戦法もその一つ。

他にも当時はⅢでドラゴラム戦法。Ⅳで聖水戦法などが流行った。

 

オマエハダレダ

01で折原が、若葉姫色に対して抱いた物語の切欠となる双子疑惑。

此処までの付き合いで白織には、

この質問に答えられないだろう事を悟りながら、

好意を向けられた事で、確かめなければならない状況に至る。

だが既に折原の中では?白織は白織で良い。と言う感情が芽生えていた。

 

積みの某恋愛ゲーをプレイしていると、

偶然【姫色】と言う名前のヒロインが登場した。

割と珍しい名前だと思っていたので、何とも微妙な気分になる。

キャラは似ていないので、それ以上どうとは思いませんでしたが☆

名前って大事だな~と思う瞬間である。

 

ソフィアの頭装備

原作のソフィアは絵的にナースキャップか、

メイドのヘッドドレスらしきモノを頭に装着している。

よって本作のソフィアは、回復魔法が得意!と言う設定。

 

因みにダイ大の原作では、

禁呪法生命体は?主の魔力が無いと傷の手当も出来ないが、

このゲームでは、普通に回復魔法で治療が可能な設定である。




原作の勇者パーティーは、
白織の膝枕の為に全滅しました☆

アンケートの結果通り、ルート分岐は【異世界転生編】となります。
次回から【日本前日譚編】のフィナーレ!【体育祭編】が始ります。
次回更新を暫くお待ち下さい。

追伸!
皆大好き!D様の出番も予定しています☆


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08 これは私を誘ってくれたお礼だから

日本前日譚編フィナーレ!体育祭編スタートです。


「太陽を、この手にっっ!!!」

 

遂にダイ大オンラインをクリアした。

最後は反逆した超魔ハドラーに従って、勇者連合と戦った。

そして残存戦力はハドラーの遺志に従い、

大魔王バーンに歯向かう!と言う展開だった。

 

最後までバーンに従うルートは無いのか?

後でアプデされるのか?それともフラグをミスったか?

これではただの原作沿いのゲーム化である。

 

「浮かない顔」

 

「あぁ、折角の魔王軍PCだった。

 大魔王勝利EDとか見たかった」

 

「解る。原作沿いだった」

 

因みに白織のPCは、人間の姿をしている。

人間の姿をしていると、人間用の装備を使えるからだ。

ゲームの後半ではこのやり口が流行った。

人型の方が、モンスター型より装備が優秀だった。

 

「素直に喜びなさいよ、エンディングでしょう?」

 

と言うソフィアが、実は一番原作ブレイクをした。

コイツ、生かして置く必要無いでしょう?と。

原作知識も無いのに、ピロロに止めを刺した。

そう!真・キルバーンはあっさり討伐された。

ダイ大ファンのトラウマ!エピローグ乱入は無い。

 

「何処が良かった?」

 

「アルビナス戦だな。

 特殊台詞が成立したから」

 

気を取り戻して感想を語り合う。

これもゲームの醍醐味だ。推しはアルビナス戦!

 

「私は、ハドラー様に生きていて欲しいのです」

 

「それは、ハドラー様の遺志では有るまい」

 

「ならば、仕方有りません」

 

「あぁ、行くぞ!」

 

と親衛騎団同士っぽい特殊台詞が成立した。

ピショップVSアルビナスだ。中々燃える。

 

「其処、参加して無い」

 

「白織もその頃、やらかしてただろう?」

 

親衛騎団が勇者連合と戦っていた頃、白織は地上に残って無双していた。

何とか某鍛冶屋を、無傷で大魔宮に上げられないか?画策していた。

白織は超魔ゾンビを、メドローアでブッチしていたのだ!

 

「ダメだった。強制イベント」

 

「らしいな?」

 

超魔ゾンビは白織が倒したが、強制イベントが入った。

結局原作展開がムービーで入って、某鍛冶屋は戦線を離脱した。

星皇十字剣のムービーはカッコ良かったらしい。後で確認しよう。

 

「オリくんなら、どうする?」

 

「何をだ?」

 

白織は語る。

大魔王バーンは故郷である魔界に、太陽の光りを望んだ。

その為に地上の全てを消し飛ばそうとした。黒の核晶万歳である。

大魔王は地上の民にとっては悪の権化だが、

魔界の民にとっては、救いの神であり希望だった。

 

もし、某日に突然!

地上が滅びると聞かされたらどうする?人類が死滅すると聞かされたら?

最後の手段が有る!と聞かされたら?

○○を犠牲にしろ!と聞かされたらどうする??と。

 

「自分がそんな壮大な案件に係われるとは思えないが?」

 

「係われる場合は?」

 

「決まっている。

 推しヒロインが助かる方を選ぶ」

 

「地上が滅んだり、人類が死滅しても?」

 

「天秤に乗せるまでも無い」

 

 

「アホだ。アホが居る」

 

ゲームに区切りが着いた頃、高校で体育祭の時期になった。

高校の体育祭は地味だと思っている。

小中学校に比べると、練習期間が圧倒的に短い。

それは小中学校と大差無い競技しかやらないからなのか?

単純に、花形の全員参加競技をやらないからなのかもしれない。

何にしても高校の体育祭は地味だ。そう思っていた。

 

だが何処にでもアホは居るらしい。

適当に参加して、適当に終らせれば良い。

真面目に参加すると、不真面目な奴の代理にされる。

それが知り得た高校の体育祭だ。だと言うのに!

 

「全員参加競技?

 【舞踏会走】!?」

 

「やっちゃったわね?

 きっと本人的には、名案の心算よ」

 

高校の体育祭はサボる奴が多い。

その対応策として、今年は全員参加競技が増えた。

どうやら真面目で熱心な体育祭実行委員が居たらしい。

それはまだ良い!だが!!

 

「舞踏会走って何だ!?」

 

「真面目に考えるだけ、無駄でしょう?」

 

と言っても、恐らく創作競技だろう。

そして先程からの、根岸の呟きはきっと正しい。

 

LHRで実行委員から説明が入った。案の定!アホ競技である。

男女ペアでダンスを踊りながらやる色別対抗リレー、のような何か。

女子と手を繋いで踊りたい、男子の虚しい欲望が垣間見える競技だ。

 

「【プリンセスナイト走】だと!」

 

「考えたヤツは蛆が湧いてるわ、絶対」

 

舞踏会走だけでもアレだと言うのに、更なるゴミ競技が追加される!

これも男女ペアで走るらしい。しかもお姫様抱っこでだ!!

誰がやりたがるんだ?このゴミ競技は!?

バカップルか?リア充か?ハーレムキングか!?と言いたい。

 

流石にこれは全員参加競技では無く、

クラス一組で良いらしい。それが唯一の救いだ。生贄は一組で済む!

問題は誰が生贄になるか?だ。

 

「これは人狼だな?」

 

「生贄投票の事。だったかしら?」

 

協議の結果!プリンセス役の女子代表は男子の、

ナイト役の男子代表は女子の投票で決める事になった。強制指名である。

 

「!!?」

 

「うわぁ」

 

「こんな時まで、可愛そうに」

 

白織が絶望的な顔で撃沈している。

敢て言おう!選ばれたのは白織(若葉姫色)だ。

クラスで大半の男子に因る、歓喜のフィーバーウェーブが発生している。

白織は人気者だった。そして女子の目は冷たい。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!」

 

「皆アナタに処理して欲しいのよ、きっと」

 

地雷を踏んだ。踏まされた!と言う方が正しい。

このゴミ競技をやれと!白織と?公衆の面前で!?

 

「~♪」

 

「白織は乗り気よ、

 あの娘を裏切る心算?」

 

「ぐっはあぁぁぁっっっ!!!!!!」

 

その後もアホ競技とゴミ競技が、次々と投下されて行く。

体育祭実行委員は発狂している!もうこれは間違い無い!!

 

そして最後は、普通のダンスで閉めるらしい。

言うまでも無く男女ペアの社交ダンス!

他と比べればまともだと、錯覚させられるチョイスだ。

 

「まともに終る気がしない」

 

「奇遇ね」

 

根岸は既に、悟りの境地に達している!

予知能力が無くても解る。今年の体育祭は、カオスと化す!!

 

 

「初めから、飛ばして来るな」

 

「男子って本当にバカね」

 

短い練習期間を終えて、体育祭が始った。

練習期間が本当に短いと思ったのは、今回が初めてだ。

 

そして始る入場行進!

体育祭だと言うのに、全員制服姿だった。

これはこの後の第一種目が全員参加の、例の舞踏会走だからだ。

 

種目名が【舞踏会】走!慣れないダンスを盛り上げる為、

せめてスカート姿の女子と踊りたい!と言う愚かな男子の声が集った。

其処で着替えの時間短縮の為、開会式は制服姿で行う事になる。

因みにブレザーは脱いでいた。全員夏服姿だ。

 

「さっさと片付けるぞ、この罰ゲー競技を」

 

「罰ゲーしか無いけど」

 

ダンス自体は問題無い。誰でも出来る低難易度のモノだ。

しかしこの競技の恐ろしさは、別の処に有る!

 

この舞踏会走は、男子が【自分で】女子をエスコートしなくてはならない。

詰り「私と踊って頂けますか?」と、自分で女子を誘わなければならないのだ!

ソロ殺しのリア充競技だ。しかも全員参加競技!逃げ場は無い。

 

だがペアに関しては、根岸と組む事でクリアした。

誰も根岸と組みたがる奴が居ないので、楽に行けた。本当に助かる。

 

「行くか?」

 

「えぇ、お願いするわ」

 

エスコートの手を差し伸べると根岸は、

制服姿でカーテシーを決めた。

 

「此処で、カーテシーだと!?」

 

「これは私を誘ってくれたお礼だから。

 折原のようなレアバカが好きなのは、これだと思って」

 

制服の短いスカートでは?やや盛り上がりに欠けるが、

これはこれで立派なカーテシー!(やはりロングで拝みたいが)

 

「白織、やらかしたな?」

 

「先は長いのに、やってしまったわね」

 

舞踏会走の会場にやって来ると、白織の姿が無かった。

全員参加競技で在るのにだ!これはサボりである。

白織がサボったので、女子が一人足りなくなる事態に!

 

「大島ぁぁぁっっっ!!!!!!」

 

「顔が!やっぱりそうなの!?」

 

先に一周ダンスを済ませた大島が!

何とスカート姿で女子パートを担当する事になった!!

大島!祭りだと思って枷を外して来たぁっっ!!!

 

「速い!そして上手い!!」

 

「男同士のペアで!?」

 

隣りの山田&大島ペアが速い!

恐らくこれは男同士で遠慮が無い事と、背の高さが合っているからだ。

背の高さが合っている方が、ダンスの難易度は下がる!

 

「負けられないな」

 

「えぇ、まともな男女ペア的に!」

 

根岸とは、練習中もずっと一緒だった。ペア交代も無し。

確実に一番息の合った【男女】ペアの筈!

筈だったが、それをこの男ペアが越えて来た!!

 

「大島に持って行かれたか」

 

「良く考えたら、争う必要は無かったわ」

 

結局山田&大島ペアが、一位でゴール!こちらは二位だ。

だが根岸の言う通り、同じ組なので争う必要は無かった。

 

「これで第一種目か、先は長いな」




長くなったので分割です。
D様の出番は暫くお待ち下さい。体育祭編内で有ります。


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09 還って来たのか、若葉姫色

体育祭編の続きです。


「いやああぁぁぁっっっ!!!!!!」

 

その後も体育祭は混迷を極めた。

此処は実際に参加した競技にスポットライトを当てて行く事にしよう。

 

【ゴーストバトルバスターズ】。

競技名はアレだが、要は正月にやる羽根突きだ。根岸が参加した。

ルールは通常の羽根突きと同じだ。

一度羽根を落とす度に、墨で一筆書きの落書きをされるのもお約束!

だがこの競技に、得点と言う概念は無い。

 

この競技は一度羽根を落とす度に一筆書きの落書きをされて、

【ギブアップ】した方が敗者となる。

詰りどれだけ上手く羽根を落させて、

どれだけ上手く酷い落書きを、一筆で書くかで勝敗が決まる。

 

「大人しくしなさい、貴方は敗者!

 蹂躙されるだけの存在なのだから」

 

根岸は一筆で般若心経を描いた。勿論対戦相手の顔に、だ。

対戦相手の女子は、ガチで泣きが入っている。

 

既に呪いを掛けているのでは!?と言う空気だった。

対戦相手は足から崩れてギブアップした。

その後の試合も、対戦相手の棄権が続いて根岸が一位で優勝。

歓声は沸か無かった。クラスの出迎えも他には居ない。

 

「お疲れ。

 般若心経何て描けるんだな?」

 

「念仏を唱えたら、成仏してくれないかと思って」

 

次は【パッチワーク借り者競争】。

これも普通の【借り者】競争だった。借り者が、文字通り人間限定なだけだ。

まず100m走って、お題の入った箱からクジを引く。

次にもう100m走って、二つ目の箱からもクジを引く。

そしてクジのお題を、二つ合わせた人物を借りて来ればクリアだ。

 

但し自分の所属外の組から借りて来ると、得点を半分奪われる。

出来るだけ自分の所属の組から、相手を選ばなければならない。

 

「一つ目のお題は【美少女】か」

 

良く有るパターンの一つだ。

だがこれは楽勝の部類!白織に頼めば良い。

それにお題が【美少女】で、普通に褒め言葉だ。

女子相手に普通に頼み易い。後の問題は二つ目!

 

「【未来】だと!?」

 

微妙なヤツが来た。二つ合わせて【未来の美少女】になる。

【未来の美少女】詰り既に美少女の白織は、判定で弾かれる虞が!?

 

なら根岸に頼むか?この状況下で根岸が将来、

美容整形を受ける!と宣言していた事を思い出していた。

だがそうなると、審査員に根岸の件を説明する事になる。

 

此処で根岸の件を説明して良いのか?

アレは吹聴して良い内容だったか?恐らく普通にアウトだろう。なら、

 

「大島!来てくれっ!!」

 

此処で生贄になるのは、

先程見事な女装とダンスを披露した、大島で良いだろう。

判定も問題無くクリア出来た。一位のクリアだ。

 

「!!!」

 

サボっていた白織が、遂に他の女子に捕まった。

そして全員参加競技をサボったペナルティで、

次の競技に強制参加の刑が下された。

次の競技は【ラ・ピュセル】。不人気競技の一つだ。

 

この競技は聖女役の女子一名が、火刑台に磔刑される。

そして聖女の頭上には、

バラエティー番組で良く観る風船が!と言うシチュエーションである。

言うまでも無く、この風船は時間経過で爆発する。

中身は不明だ。運が良ければ音だけの爆発だが、

運が悪ければ、粉や水入りだろう。未通知な点が何気に酷い。

 

聖女に仕える騎士役の走者が、

導火線を切る鋏をバトンにして走るリレー競技!それがラ・ピュセルだ。

 

「何と言うジャンヌ推し競技!

 オレがジャンヌを助けてやるぜ!!と言う野望を感じる」

 

「全て燃えてしまえば良いのに」

 

だが白織は火刑を免れた。

見事聖女様が火刑台から解放された処で、午前の部が終了。

昼食を挟んで、続きは午後の部となった。

 

 

「遂に来てしまったか」

 

午後の部になった。

午後の部最初の競技は、あのプリンセスナイト走である。

舞踏会走と同じく、制服姿で行う競技だ。もう着替えは済ませて有る。

今はプリンセス役の白織を待っている処だ。

 

「オリくん」

 

「来たか、白織。

 って、それはっっ!!!」

 

準備を終えた白織が、姿を現した。

こちらと同じく!制服姿で来ると思っていたが、

白織は、純白のドレス姿で現れた。

 

「そのドレスは!?」

 

「これは―――」

 

何でもアラクネ(裁縫)部が、

プリンセスナイト走の為に用意した衣装らしい。

それにしても真っ白だ。

髪は黒髪だった。肌も白い訳では無い。瞳は言うまでも無いだろう。

だがそれでも、あの日に見たアルビノ白織を彷彿とさせられた。

 

「旅に出る必要など無かった。と言う事か」

 

「?」

 

「何でも無い。行けるか?」

 

白織は此処で、返事の代りに見事なカーテシーを決めた。

ロングドレスのカーテシーは圧巻である。

これこそ!と言う気がする。その素晴らしさに暫し言葉を失う。

 

「オリくん、

 ソフィアのカーテシー。喜んでた」

 

「観ていたのか!?」

 

「でも良い。

 喜んでくれた、見たいだから」

 

白織が首に腕を回して来る。

これはプリンセスナイト走。お姫様抱っこの合図だ。

問題無くお姫様抱っこを実行する。

 

「重く無い?」

 

「羽のように軽い。

 と応えるのがお約束だろう。大丈夫だ、行ける」

 

「オリくん、帰宅部」

 

「ゲームをプレイする為に、

 部活もやらずにバイトに励む、ゲーマーのSTRを見せてやろう。

 崖から墜ちそうなヒロインを引き上げてこそ、真のゲーマーだ!」

 

「お願い、

 今はナイトのピショップ様」

 

「それはゲームの話だ」

 

その後は無事!プリンセスナイト走をやり切って、屋上に避難した。

競技中はノリでクリアしたが、アレはガチのお姫様抱っこだ。

クラスメイトの歓待に呑まれたく無かったので、とにかく離脱!

 

だがそれ以上に白織だ。

ドレス姿の白織にすっかりやられた。

自分が今、どんなアホ面を曝しているのか?見当も着かない。

 

「避難だ。避難!

 こう言う時こそ、後はサボる」

 

残りの競技も知った事では無い。後はサボる!

そう決め込んで、屋上のベンチで休む。

 

「あらあら、

 体育祭。終ってしまいますよ?それに最後のダンスも」

 

聴き慣れた声だった。だが聴いた事が無い気もしていた。

意識が浮上する。どうやら少し眠っていたらしい。

もう黄昏時だった。

その黄昏の夕闇の中に、白織が居た。制服姿の白織だ。

 

「どうしました?

 そんな怖い顔をして」

 

それは確かに白織だった。

視覚的に、どう見ても見慣れた白織だ。

だが感覚は違った。これは白織では無い!と訴えている。

これは!この目の前の白織のようなナニカは、

つい先程恥ずかしい思いをして、プリンセスナイト走をした白織では!

自身が惚れた白織では無い!!

 

「還って来たのか、

 若葉姫色。若葉A!」

 

目の前の、

白織と同じ姿をしたヤツをそう呼ぶと、

ヤツは、若葉Aは嗤った。

嗤っていた。愉しそうに嗤っていた。

珍しい玩具を手に入れた子供のように、無邪気な子供のように、

残酷な子供のように、嗤っていた。

 

 

「本当に解るんですね?でも、残念。

 私はAでは有りません。Dです」

 

「D?」

 

「はい。AでもBでも、勿論白織でも有りません。

 私は、Dです」

 

「それで、そのDとやらが何の用だ?」

 

「連れないですね?

 もうすっかりあの子の事が好きになって、私は用済みですか?

 元々興味が有ったのは、私の方だったでしょう?」

 

「………」

 

「まぁ良いです。本当に見分けが付くのか、確かめたかっただけですから。

 【鑑定】の亜種上位互換に、似たようなスキルでしょうか?

 言うなれば【稀少鑑定】!それとも【レアセンサー】?」

 

「稀少鑑定?レアセンサー?」

 

「貴方の魂に由来する生来の能力です。

 これからもその感覚、大切にした方が良いですよ?」

 

話しは終りだ。と言わんばかりに背を向けるD。

Dを止める言葉は無い。だが最後にDは、

 

「そうだ!もう一つだけ訊いて置きましょう。

 貴方は【突然見知らぬ世界に行くとしたら、何を持って行きますか?】」

 

心理テスト?RPG?と言いたくなったが止める。

某スローライフ系ラノベ主人公は、

此処で女神に仕返ししようとして、延々と苦労する事になる。

此処はガチ解答のターン!訓練されたラノベ脳がそう判断した!!

 

「【状態異常完全無効化】だな?

 序に推しヒロインも護れれば、尚更良し!」

 

「地味で堅実なのに、贅沢です。

 まぁ良いでしょう。訊いて見ただけですから。

 では【オリくん】さん。これからも、

 あの子とイチャコラして、私を愉しませて下さい」

 

思考に、視界にノイズが入る。

気が着くと屋上のベンチで眠っていた。夢オチと言う事は無いだろう。

【D】と名乗ったもう一人の若葉姫色。

と言うより、オリジナルの若葉姫色の事を覚えている。

 

「オリくん。

 体育祭、もう終る」

 

そして目の前には、

プリンセスナイト走の時と同じ、白いドレス姿の白織が居る。

自分が知る白織だ。それがハッキリと解る。

これがDの言っていた【稀少鑑定】だか【レアセンサー】の能力なのか?

 

「白織」

 

「オリくん?」

 

白織の手を取る。

散々練習した舞踏会走の、女子をダンスに誘うポーズだ。

だが此処で、台詞差分が入る。

 

「長々と待たせて済まない。

 白織が好きだ。好きになった。ヒロインになって欲しい」

 

そう告白すると、白織に抱き着かれる。

飛び込んで来られて、長いドレスのスカートが黄昏に舞う。

確実にCG入りの一枚絵シーンである。

 

「掴まえた」

 

「離す予定は無い」

 

抱き着いて来た白織を抱き締め返した。

こうして体育祭の日に、白織と恋人同士になった。

 

これからDの言う通り、イチャコラが始る筈だった。

しかしただの人間である自分には、未来は視えない。

イチャコラが始る筈の未来は、その日の古文の授業の時間で終了する。




転生前なので、Dの白織の呼び方は【あの子】となっています。
ドレス姿の白織に、あっさり堕とされる話でした☆

今回で日本前日譚編は終り、次回から【異世界転生編】です。
ですが私の想定するシナリオでは、かなりあっさり終りそうです。

「これからどうする?
 えっ人型になったから、オリくんを迎えに行く?
 あぁうんそっかぁ~、白ちゃんにはちゃっかり番が居たんだっけ?
 いやいや、番が居るのは大切な事だと思うよ?」

と言う感じで、いきなり白織さんが登場予定☆


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異世界転生編
10 蜘蛛 名前 白織


異世界転生編スタートです。

神化した白織。

ソフィアとエンカウントした頃を回想。

回想中の白織が、転生したばかりの頃を語る。

と言う変則展開になっています。


「これからどうする?」

 

アリエルの言葉を無視して、もう一度自分の姿を確認する。

水魔法で作った即席の水鏡の姿見に、今の自分の姿が映っている。

 

それは白い人影だった。

肌は透けるように白く、髪も真っ白で長かった。

瞳の眼球も透けて紅く見える。

ただ蜘蛛に転生した影響なのか、眼球が複数有る。

少し気持ち悪い。

目蓋は閉じよう。透視で補えば大丈夫!そう心に誓った。

 

眼球の数に文字通り目を瞑れば、どう見てもアルビノだった。

神に進化して、完璧な人型になっただけでは無くアルビノ!

アルビノだった。理想の姿である。

 

オリくんは、私の事を好きだと言ってくれた。

だけどオリくんはアルビノ好きだった。

高校を卒業したら、

何処に居るかも解らないアルビノのお嫁さんを捜しに行く!

と言い出す強者だった。アレはガチだ。

 

でもそれが今は、私がそのアルビノになっている!

パーフェクト・アルビノである。

今ならDに「ありがとう!!」とか?心からお礼も言えそうな気分だ。

善し!さっそくオリくんを迎えに行こう!!

 

「えっ人型になったから、オリくんを迎えに行く?

 あぁうんそっかぁ~、白ちゃんにはちゃっかり番が居るんだっけ?

 いやいや、番が居るのは大切な事だと思うよ?」

 

そうそう!オリくんも転生した事は解っていた。

それにエルロー大迷宮を初めて脱出した頃、

サリエーラ国のケレン領で、オリくんと再会した。

普段はその隣りの、サイサリス領に居る事も把握している。

 

オリくんは人間だった。人間に転生していた。

でも私は蜘蛛で魔物だ。魔物転生だった。

接触するのは控える心算だった。拒絶されるのが怖かったから。

 

人の姿に憧れた。アラクネに願いを託す心算だった。

アラクネに進化して、上半身だけでも人型になってから逢う心算だった。

 

「それで、何処に居るか解っているの?

 サリエーラ国?ケレン領?えっそうなの!?」

 

だけどそうも行かなくなる。

サリエーラ国のケレン領は、ソフィアの転生先でも有ったからだ。

 

ソフィアは自分だけちゃっかり、

オリくんの居る隣りの領地に転生していた。これは圧倒的にズルイ!

私がラストダンジョンでサバイバルしている内に、

ソフィアはオリくんと会っていたんだ。

 

 

「街だ。無事到着した」

 

赤ん坊のソフィアを乗せた馬車が、街に到着した。

エルロー大迷宮を脱出してから暫くして、

気紛れで助けた馬車に、赤ん坊のソフィアが乗っていた。

ゲームのPCと同じ名前で、容姿も何処と無く似ていたから少し驚く。

 

転生前は一緒にゲームをした仲間だったから、

助けた後も、街まで到着するのを見届けた。それ位の事はしても良い。

 

馬車を一目見た時から思っていたけど、

ソフィアは貴族に転生していた。

人間に転生しただけじゃなくて貴族!

蜘蛛で魔物の、私との格差が酷い!これが格差社会か!!

 

「アレは、もう一台の馬車?」

 

逆恨みの視線で、馬車が到着した屋敷。

恐らくソフィアの自宅と思われる屋敷も、序にチェックする。

 

すると一台の馬車が目に留まった。

ソフィアが乗っていた馬車とは、別の馬車だ。

どうやら留守中に、急な来客が有ったらしい。

急いで対応するソフィア父!慌ただしい空気だ。

 

何でも隣りのサイサリスと言う領地の領主で、

戦争とかの有事の際には、肩を並べる盟友らしい。

急な来訪だったらしいけど、温和なムードだ。

今はお互いの子供を、自慢し合っているみたい。

 

「オリ、くん!?」

 

此処まで来ると、もうどうでも良くなっていた。

何と無く続けていた千里眼を切って、旅に戻る心算だった。

だからその子供に、鑑定を使ったのは気紛れだった。

 

人族 LV1 名前 フェンブレン・ツヴァイ・サイサリス(折原鋼)

 

名前が二重になっていた。

ソフィアの鑑定結果もこんな感じだった。

恐らくこの重なった名前が、転生者の証だろうと踏んでいる。

 

だけど問題は其処じゃない。名前!

名前が【折原鋼】になってる!

この名前はオリくん!オリくんの本名だ。

この子がオリくん!オリくんの転生した姿!!

 

私が驚いている内にも、話しは進んでいた。

どうやらオリくんファミリーは、泊まって行くらしい。

歓迎されるオリくんファミリー。それは良い。

 

だけど悪い想像がどんどん膨らんで行く。

結局何をしに此処に来たのか?

オリくんの親と、ソフィアの親は仲が良い。領地も隣り同士だ。

そしてお互いに子供が居て、男の子と女の子。

 

これって婚約者コース!?

まだ赤ん坊だろうって?甘い!

此処は日本じゃ無い!ファンタジーな異世界だ!!

生まれて直ぐに婚約者が出来ても可笑しく無い!

どうしよう!?ソフィアにオリくんを持ってかれちゃう!!

 

「白織!白織なのか!?」

 

「オリくん!!」

 

私は堪らず逢いに行った。

蜘蛛の姿だから直接じゃないし、街にも入れない。

こんな時こそ【叡智】様に頼った。

【念話】から派生!

即席魔法の【夢枕】を作って、夢の中でオリくんと逢った。

 

夢の中で私は、

いつかのゲームでそうなったように、真っ白なアルビノになっていた。

オリくんも夢の中では、

赤ん坊の姿では無く日本に居た頃の姿になっている。

オリくんは、直ぐに私に気付いてくれた。

 

「異世界転生したかと思っていたがこの姿だ。

 まさかこれは、夢オチの方なのか?」

 

「これは夢の中で話せる魔法。

 異世界転生は、本当」

 

「そうか、まぁ良い。

 白織も無事に転生してたんだな?」

 

「オリくん」

 

ぎゅっと、強く抱き締められる。

オリくんだ。間違い無くオリくんだった。

私を好きだと言ってくれたオリくんだ。

逢いたかった。ずっと逢いたかった。

 

「何が有ったのか、話してくれるか?」

 

「………」コクコク

 

此処で記憶を遡る。

オリくんに告白された体育祭の翌週。

古文の授業。

私は、私は蜘蛛に転生した。

 

 

「産廃スキル、だと!?」

 

気が付けば蜘蛛に異世界転生して、何処とも解らないダンジョンの中。

貴重な初期スキルポイントを使って修得した【鑑定】は産廃スキルだった。

【鑑定LV1】となっているから、LVを上げればまだ希望は有る。

それよりも問題は、自分に対する鑑定結果。

 

蜘蛛 名前 無し

 

鑑定が産廃なのは仕方無いとして、名前が【無し】!?

納得が行かなかった。

私には名前が有る。これは恐らく、

蜘蛛(魔物)としての名前が無い。と言う事だろう。

でも納得が行かない。

 

だって私には名前が有る。

大切な名前が!私だけの名前が有る!!

 

私には名前が有る。

名前を付けてくれた人が居る。

いつもその名前で呼んでくれた人が居る。

私はその名前が好きだった。

私はその名前で呼ばれるのが好きだった。

 

「白織。

 私の名前!私は白織だ!!」

 

蜘蛛 名前 白織

 

≪PASSを認証しました。ユーザー名を再登録します≫

≪ユーザー名【白織】。再登録しました≫

≪スキルポイントを再計算します≫

≪スキルポイントが8000ポイント加算されました≫

≪条件を満たしました。称号【白織の祝福】を獲得しました≫

 

白織の祝福

名前を与えられた者への祝福。

この名前で呼ばれる限り、

この名前で呼ぶ者が居る限り、祝福は継続する。

LVUP時に獲得スキルポイントが1,2倍のボーナス補正。

 

白織。

私は私の名前を思い出すと、私の全てを取り戻した。

そう、全てだ。

私は蜘蛛だった。高校の教室に巣を張る蜘蛛。

其処でオリくんに可愛がられて【白織】と呼ばれるようになった。

 

でもそれと同時に、女子高生として過ごした記憶も有る。

初めはずっと独りだったけど、

やがてオンラインゲームでオリくんと知り合って、一緒に過ごすようになる。

 

そしてあの体育祭の夕暮れで、

オリくんが遂に!私の事を好きだと言ってくれた。

 

その全てを思い出した。

そしてその全てが、私の力になる。スキルポイントが加算された。

 

「この称号!オリくんだよね?

 オリくんも、何処かで転生したんだよね!?」

 

この称号が、きっとその証だった。

オリくんもきっと何処かで転生している!

オリくんに逢いたい。

 

「此処がラストダンジョンだろうが隠しダンジョンだろうが、

 私は生き残ってやる!生き抜いてやる!

 私は、またオリくんに逢うんだ!!」

 

私の長い戦いが始った。

第一幕エルロー大迷宮脱出編!と言った処だと思う。

本当に長いから、要点だけ話した。

今度はオリくんの事が聴きたい。今までどうしていたかを!

 

 

補足/説明枠です。

今回も多めの情報量!読破推奨☆

 

アリエル

本作の白織は、ソフィアをソフィアと呼んでいます。

その流れでアリエルも、アリエルと呼んでいる設定です。

 

水魔法の水鏡

原作では土魔法で鏡を作るシーンが有りますが、

水鏡の方が即席で行けそうなので、こちらを採用。

土魔法で鏡を作るのは、ガチだと思う。

 

サリエーラ国のケレン領

ソフィアの転生先の領地の名前。

街の名前も見当たら無かったので、ソフィアの家名をそのまま採用。

本作では!このケレン領が色々とヤヴァイ。

 

サイサリス領

オリクラスメイトの折原の転生先の領地の名前。

隣りのケレン領との仲は良好。

有事の際は、真っ先に駆け着ける盟友的関係。

 

元ネタはGの0083!核搭載機のアレである。

サリエーラ国内なので、サで始る良い名前を探していました。

丁度良かったので採用。

しかし核を搭載する破目になるのは、サイサリス領では無い。

 

スキルポイントボーナス

本来スキルポイントを殆ど持たない白織が、

短いながらも日本で女子高生として過ごした経験が、

スキルポイントとして換算された。

 

この後この8000ポイントで、

原作より有利にスタートダッシュを切ります。

主な修得スキルは【空腹無効】と【MP吸収】。

それと【念話】。他にも修得した設定です。

 

空腹無効

MPを消費して、SPを回復。空腹を抑える事が出来る。

 

MP吸収

撃破した対象からMPを奪う事が出来る。

 

↑のスキルで、ダンジョン内での生存率を上げようとしました。

確実に食糧が手に入るとは、限らないからです。

このスキルの影響で、人喰いはしていない設定。

 

この方法で空腹を満たせると、

【暴食】やアリエルの立場が無い気もしましたが、

時代が変われば、

新しい対処法が生まれるのは必然なので、そのまま採用する事に。

 

念話

原作にも登場したスキル。

オリくんらしい相手がいたら、話し掛ける心算で修得。

ケレン領で【夢枕】を作るまで、出番は無かった。




と言う訳で異世界転生編でした。
この先エルロー大迷宮脱出編は、原作沿いなのでスキップ!
物語はサリエーラ国の、神獣降臨編に続きます。

次回はソフィアとの再会シーンです。


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11 これは黒の核晶だ

今回は少し時間を遡って、ソフィアとの再会です。


「~♪」

 

腕の中で抱き締めた白織を撫でると、

心地好さ気に頭を預けて来る。

 

白織が体験した迷宮サバイバルは、過酷の一言で表すのも緩過ぎた。

まずは良く生きていてくれた事への感謝を伝えるべきだろう。

気が付けば、白織の頭を撫でていた。

 

「オリくんの事、聴きたい」

 

「こっちはド定番のスキル検証だ」

 

訳の解らないまま異世界転生して、

現実を受け入れると、直ぐに行動に出た。

 

異世界転生はスタートダッシュが命だ。

転生して直ぐに成長チート出来るかどうかで、

今後の異世界生活の全てが決まる。

 

幸い貴族の家に転生したらしく、

無力な赤ん坊時代にいきなり死亡!と言うオチは無さそうだった。

 

なら次は、何が出来るか?だ。

異世界のお約束で、スキルやら魔法やらの存在を知る。

自己検証開始。無力な赤ん坊の身だが、これなら寝転がりながらでも出来る。

 

転生したからなのか?初期からやたらとスキルポイントが有る。

初期ポイントは80000ポイントだった。スキルの修得し放題だ。

しかし焦る事無くスキルの効果を確認して行く。

まずはキャラビルドの方向性を決めなくては!

 

大雑把に言って、戦士系とか魔法使い系とかのアレだ。

趣味趣向で言うならやはり魔法使い系だが、

物理優遇のパターンも多い。

戦士系でガンガン範囲攻撃が出来るケースも珍しく無い。

戦士系も充分有りだろう。

 

「稀少鑑定(レアセンサー)。有った!」

 

だがまずは、獲得済みのスキルの有無を確認した。

あのDは言っていた。

それは魂に由来する貴方の能力だと。

案の定!稀少鑑定のスキルが、初めから使えた。

スキルポイントすら使っていない。

 

この稀少鑑定のスキルは?

ファンタジーお約束の鑑定能力と、

レアモノをセンサーで探す複合スキルだった。

 

初めはLV1で産廃スキル同然だったが、

頭痛と休息のループで、即行でLV10にカンストさせた。

今や鑑定は便利スキルと化し、

レアセンサーの有効範囲も飛躍的に向上した。

今では文字通りセンサーのように、レアモノが何処に有るかが解る。

 

「この方角、隣りの領地?

 ケレン領か?」

 

既に地理は把握している。

まだ本を与えられる年では無いので、

透視系の魔法で、寝転がったまま本棚の本を読んだ。

次の一ページ先を調整して透視するのが、中々難しい。

魔力を操る練習にもなったが、無駄に困難な読書だったと思う。

 

どうやら隣りのケレン領の辺りに、素晴らしいレアモノが有るらしい。

自宅はサリエーラ国のサイサリス領。領主の家だったが、

自宅に有るどの財宝よりも強い反応が、ケレン領の方角からしている。

これは行くしか無いだろう。

 

≪【催眠LV1】を取得しました。残りスキルポイント78900です≫

 

意を決して、次のスキルポイントを切る。

100ポイント消費の、洗脳系下位スキル【催眠】だった。

最上位スキルの【色欲】も有ったが、どうにも罠臭いので修得を控える。

 

壊れスキルには、相応のデメリットが有るのがお約束である。

特にスキル名が七つの大罪なのが怪しい。

このスキルを作ったヤツが居たら、

「名前で気付いて下さい☆」とか言われそうだ。

↑イメージキャラは、あのDだ。ヤツの笑顔が綺麗に嵌った。

 

この催眠のスキルを使って、まず世話役のメイドの思考を誘導した。

誘導して母親に会う。次に母親も催眠誘導して領主の父親に会った。

最後に領主の父親も催眠誘導して、隣りのケレン領行きを促す。

 

ケレン領とは良好な関係を築いていて、

些細な理由でも訪問が可能な事は、既に把握している。

ケレン領には、同い年の領主の娘が居るらしい。

生まれた子供を自慢する、親馬鹿の役をやって貰う事にする。

 

差して強くも無い催眠で、父親は呆気無くケレン領行きを決めた。

本当は自慢したかったのかもしれない。

 

こうして家族でケレン領へ行く事が決まった。

赤ん坊の身で隣りの領地へ行くなら、この辺りが最適解だろう。

 

ケレン領には素晴らしいレアモノが存在する。

今はまだ、何も知らずに期待を膨らませていた。

 

 

≪【念話】を取得しました。残りスキルポイント78800です≫

 

即行で念話を修得した。

100ポイントの消費だ。躊躇いは無い。

 

『一応確認するが、お前は根岸だな?』

 

『折原、なの?』

 

ケレン領に着いて暫く、領主に紹介された。

そして件の領主の娘の方もだ。

名前はソフィアと言うらしい。何故かあのゲームの某PCの面影が有る。

直ぐに稀少鑑定で確認した。

 

人族 吸血鬼 LV1 名前 ソフィア・ケレン(根岸彰子)

 

いきなり色々ツッコミ処は有るが、まずは念話で中の人を確認。

やはり根岸らしい。根岸がガチでソフィア化している!

 

『APPにスキルポイントを極振りしたのか?』

 

『最初に訊くのがそれ!?

 確かに美少女キャラになったと思うけど』

 

『美幼女処か、赤ん坊だがな?

 まぁ恐らく美少女になると思うが』

 

『ありがとう。で、どうしたの?

 今回の件は貴方の差し金でしょう?』

 

ソフィアにスキル検証の序に、レアモノ探索をしに来た事を伝える。

盛大に溜息を吐かれた。何故だ!?

 

『貴方は、変わらないわね?』

 

『稀少鑑定の検証には丁度良いと思った。

 これで白織を捜せそうだ』

 

『白織を、捜す?』

 

『何故か解らないが異世界転生して、

 同じ教室に居た根岸も転生していた。

 なら白織も、何処かで転生している筈だ』

 

『広い異世界を、何の当ても無く!?』

 

『その為の稀少鑑定だ。

 なぁ根岸』

 

『ソフィアって呼んで。

 私は文字通り、生まれ変わったの』

 

『解った。ソフィア、でだ。

 向こうでずっと思っていた。

 【自分はきっと、誰かを好きになる事は無い】と』

 

『………』

 

『少しゲームをやり過ぎたかもしれない。

 普通に人間は、対象外になっていた。

 スキルポイントを使い果たしていた』

 

『………』

 

『だが白織を好きになった。これはレアイベント。

 出逢いは、人生のレアイベントだ!』

 

『だから?』

 

『だから白織は、稀少鑑定で捜せる。

 このスキルは、きっとその為に有る。

 アイツは、トゥルーヒロインだからだ』

 

重い沈黙が暫く続く。

柄にも無い事を語っただろうか?

だがこの決意を、誰かに聞いて欲しかった。

これから始る、長い旅の宣誓を!

 

『バカなヤツだとは思っていたけど、

 貴方は本物のバカよ』

 

その言葉とは裏腹に、

「好きにすれば良い」そう言われた気がした。

 

 

『それで、結局家のレアモノって何なの?』

 

『それを近くで確かめに来た』

 

話しが一段落した処で、最初の話題に戻る。

ケレン領に有る筈の素晴らしいレアモノについて、だ。

稀少鑑定で、確認作業に入る。

 

『これは鉱物資源だな?

 ケレン領の地下深くに有る』

 

『鉱物資源?』

 

『マズイな、破滅的にマズイ』

 

『何よ?鉱物資源の奪い合いとか、そう言うヤツ!?

 ダイヤ?石油?まさかウランとか言わないわよね?』

 

『その中で言うなら、ウランが一番近い』

 

『ちょっとおおぉぉぉっっっ!!!!!!

 何言っちゃってるのおおぉぉぉっっっ!!!!!!』

 

『ガチだ』

 

『ちょっと待ちなさい!此処は家の領地なのよ!!

 其処の地下に、ウランの鉱脈!?』

 

『ウランよりマズイ。

 これは【黒の核晶(コア)】だ』

 

『黒の核晶!?

 って、ゲームのアイテムでしょう!?何で!!?』

 

黒の核晶(コア)。

ダイ大に登場する、史上最悪の爆弾だ。

掌サイズより少し大きい位の爆弾で、それ一つで大陸一つを消し飛ばせる。

 

原作で大魔王バーンは、

この黒の核晶を6つ同時に起動させる事で、

地上の全てを消し飛ばして、魔界に太陽を照らそうとした。

 

『正確には、黒の核晶と呼ぶのが相応しいエネルギー結晶の鉱脈だ。

 それが、ケレン領の地下深くに有る』

 

『何も変わらないわよっ!!

 足元に黒の核晶が有るのとっっ!!!』

 

『そうだな?地雷原でタップダンス処か、

 核ミサイルの上で、昼寝をしろと言うLvか?』

 

『ねぇⅡ?

 貴方の処にお嫁に行くから、連れ出してくれない!?』

 

『家の領地は隣りのサイサリスだ。

 黒の核晶の有効範囲外には、出られないぞ?』

 

『ああああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!』

 

ソフィアが、SANチェックに失敗した顔をしている。

無理も無い。あの黒の核晶だ。

 

『絶対とは言わないが、安心しろ。

 かなり深い場所だ。そう簡単には爆発しない』

 

『本当!?

 フラグとかじゃなくて!?本当に爆発しない!!?』

 

『恐らく、な?』

 

『安心出来無いぃぃぃっっっ!!!!!!

 やっぱり、お嫁に行っちゃダメかしら!?』

 

『白織がトゥルーヒロインだから、

 先に他の嫁は娶らないぞ?』

 

『白織何処よぉぉぉっっっ!!!!!!

 さっさと姿を現して、私を助けてぇぇぇっっっ!!!!!!』

 

ソフィアが完全に発狂していた。

それを何とか宥めて、今に到る。そして白織と再会した。と言う流れだ。

 

 

補足/説明枠です。

今回は、悪名高い黒の核晶に関する補足有。

 

稀少鑑定(レアセンサー)

折原鋼が生来から保有するユニークスキル。

通常鑑定と、レアモノを探すセンサーの複合スキル。

レアモノとは【物】だけでは無く【者】も指す。

詰りレアアイテムだけでは無く、レア種族も捜す事が出来る。

 

エルロー大迷宮脱出時の白織の種族は【ザナ・ホロワ】。

充分レア種族であり、レアセンサーで捉える事が可能である。

 

催眠

貴族転生物で、

ソフィアの両親のようにしっかり育ててくれるケースは少ない気がする。

仕事が忙しくて、子育てはメイドの仕事!的なイメージが強い。

赤ん坊が、両親と同じ部屋に居る事すら珍しい。

 

黒の核晶

ダイ大に登場する史上最悪の爆弾。

これ一つで、大陸一つが消し飛ぶと謳われている。

 

蜘蛛ですが~の世界では、ケレン領の地下深くに鉱脈が眠っている設定。

爆発力だけでは無く深淵魔法と同じ追加効果が有り、

不死スキルだろうと、転生系スキルだろうと、

捕まれば魂までも完全に爆殺されて、転生などの余命処置は一切取れない。




今回話題に上がった黒の核晶の、正体に気付いたでしょうか?
察しの良い方は使い道も予想可能の筈!
と言っても使い道は、複数有ったりしますが☆

次回は絶望を希望の糸に!
上機嫌の白織さんが行く☆


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12 私達は、主人公じゃないから

ソフィアとの再会シーンが終り、
白織との再会シーンに戻ります。

何気にタグ変更有。
異世界版に変更しました☆


「黒の核晶!?」

 

「ソフィアにも言ったが、

 と呼ぶのが相応しいエネルギー結晶の鉱脈だ」

 

聞き捨てならない情報を聴いた。

黒の核晶と呼ぶのが相応しいエネルギー結晶?

それってMAエネルギーの事じゃないの!?

これは千載一遇のチャンス?それとも破滅の魔弾?

 

「詳しく、聴かせて」

 

「まさか掘る心算か?

 黒の核晶だぞ!?」

 

確かに黒の核晶は危険だと思う。

原作通りの破壊力なら、核晶一つで大陸が一つ消える。

 

だけど本当に黒の核晶がMAエネルギーの結晶なら、

その恩恵は計り知れない。

 

それに放って置いても黒の核晶は地中に残る。

地中にも魔物は居る。土竜とか蟻とか蚯蚓とか!

ソイツ等に先を越される可能性も有る。

 

「土竜、蟻、蚯蚓。地中で活動する魔物。

 ザコがボスに化ける訳か、ドラムーンのゴロア状態だな」

 

ドラムーンのゴロア。

ダイ大に登場する大魔王バーン配下で、

大魔宮の動力炉の管理を任されていたモンスターだ。

元は下等なモンスターだったが、大魔王の鬼眼の力で進化していた。

 

下手に黒の核晶が魔物の手に渡ると、

爆発しなくても、ボスモンスター大量発生のトリガーになる可能性が有る。

 

「掘るしか無いのか?だが」

 

「私が、食べる」

 

なら私が平和利用して食べてしまえば良い。

悪名高い黒の核晶は無くなるし、ソフィアも安心して寝られるだろう。

序にアラクネへ進化する役に立つ筈だ。

 

と言うかソフィア!

ドサクサ紛れでオリくんのお嫁さんになるとか何事!?

そうはさせないっ!!

 

「食べれるモノなのか!?」

 

「黒の核晶が、予想通りなら」

 

問題は黒の核晶の埋蔵量だと思う。

でももし余ったら、黒いのに丸投げすれば良い。

MAエネルギーならいくらでも要る。直ぐに食い付く筈だ。

オリくんに禁忌の情報を暴露した。

 

「とっくにクライマックス!と言う事か」

 

「………」コクコク

 

残念ながらその通り!世界は本当にマズイ。

エルフは産廃。教会は生ゴミ。そして他の人間は無知過ぎた。

最終安全装置は、その役目を初めて果たそうとしている。

 

「白織?」

 

オリくんを抱き締める。

私のオリくんは、終る世界の中で!希望になるのかもしれなかった。

 

ガチで世界を救う事になるかもしれない。

なら、少し位良い思いをしても良いよネ☆

主に進化の為のエネルギーを、少し頂く位は!

 

「赤ん坊の身で、最終イベントっぽいヤツに参加する破目になるのか」

 

「私達は、主人公じゃないから」

 

主人公じゃないから、都合良く行かない。だから出来る事をするしか無い。

黒の核晶が眠っていただけでも、蜘蛛の糸だと思う。

 

「と言うより、まるで投稿者隠しだ。最後の手段」

 

「投稿者隠し」

 

このシステムを創ったのはDだ。なら黒の核晶もDが?

あのDがそんな緩い事をするかな!?

 

「クリア出来無いゲームはゲームじゃない。

 これが隠しギミックなら、見つけてやろう」

 

「………」コクコク

 

あのDも、自分の創った隠しギミックを見つけて欲しいとか、

そんな事を思ったんだろうか?

それとも、見つけられるモノなら見つけて見ろ!って事?

まだこっちの方がそれらしい気がする。

 

でもやる事は変わらない。

黒の核晶は頂く。世界何て救わない。私達は、私達の為に動く。

 

 

「身体が、軽い」

 

翌日から早速行動に出る。

まずはケレン領に居た盗賊らしい奴等を掃討した。

 

魔物が大規模な穴掘り何て始めたら、どうしても目立つ。

情報は漏らさない方が良い。

採掘予定地の近場に陣取る盗賊達を排除した。

序だからケレン領に居た奴等を掃討した流れだ。

 

それと今日の私は機嫌が良い。

オリくんに再会出来ただけじゃない。久しぶりに良く眠れたからだ。

 

私はどうにも、鬱陶しい目に遭っていた。

一つ。マザーからの干渉。

【眷属支配】と言う生まれながらのスキルで、絶えず命令が来る。

それ自体は外道無効で、

ファイアウォールでウィルスを防いでいたけど、

ゴミメールの着信自体は防げない感じだった。

 

二つ。禁忌の呪詛。

禁忌をカンストさせて以来、ずっと呪詛が聞こえていた。

直接的被害はやはり外道無効で防げるけど、呪詛は聞こえる。

これが鬱陶しい。地味にウザイ。耳元で羽音がしてる見たいだった。

 

三つ。支配者スキルの浸蝕。

壊れスキルから浸蝕を受けている気がする。精神汚染系の干渉だ。

今はまだ良くても、いつか深刻な症状が出る類の案件だと思う。

 

でもオリくんと再会して、この鬱陶しさから解放された。

正直これには驚く。オリくんに心当たりを訊いたら、

 

「そんなデメリットも有るのか、

 なら早速役に立ったらしいな?」

 

オリハルコンメタル

如何なる害意からも、その心を護るオリハルコンメンタル。

状態異常完全無効を付与。

更に、好感度が一定以上の異性を護る事が出来る。

 

「!?」

 

原因はオリくんのスキルだった!

えっナニソレ!?凄い壊れスキルキタ――(゚∀゚)――!!

いや嬉しいけど!嬉しいけどさぁ!!

 

「恐らく転生特典だ。

 スキルポイントを使う前から使えていた」

 

「………」("゚д゚)ポカーン

 

もう("゚д゚)ポカーンと言う感じだ。

これもDの仕業!?サービス良過ぎぃ!!?

一体何が有ったの!?ってこれも訊いて見たら、

 

「体育祭の日に会ったな?

 とっっっても愉しそうに嗤っていた」

 

あぁうん。そう何だ?

オリくんがしっかりロックオンされてるううぅぅぅっっっ!!!!!!

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫だ。問題無い」

 

それ大丈夫じゃ無いヤツだから!

でもネタに走れる位には平気らしい。

 

「そろそろ、行く」

 

「白織」

 

夢も、もう終る。朝が近いんだと思う。

夢枕の効果が切れ掛ってる。即席魔法だから仕方無い。

これが今の、私達のリアルだ。

 

繋がる事は出来ても、小さな切っ掛けで崩れる薄氷。

それにオリくんが住んでいるのは隣りのサイサリス領で、

頻繁にケレン領に顔を出す事も出来ない。

 

でも黒の核晶を手に入れて、今度は人型になってリアルでオリくんと逢う!

そう決意を固めて夢の終りを見届ける心算だった。だけど、

 

「お前が魔物転生しようと、手放す心算は無い。

 まず生き残れ。帰って来い。良いな?」

 

「………」コクコク、コクコク。

 

その言葉が嬉しくて、私は何度も何度も頷いた。

そして私は、

 

「これは、

 死亡フラグじゃないからな?」

 

「//////」

 

初めて唇を塞がれた。

夢の中だけど、初めて塞がれた。

 

因みに夢の中だから、窒息する事が無い。

だから多分、イメージよりずっと長く塞がれていたと思う。

夢が、終る。

 

「神獣様!

 どうか!どうか!!」

 

と言う訳で、私の機嫌は↑↑↑だったんだ☆

其処へ現れる親子!神獣様とな?

 

神獣と言うのは?

サリエーラ国で信仰されている女神。女神サリエル。

そのサリエルに仕えて、女神の衣を織ったと言う蜘蛛。

それが女神教の教徒が言う神獣だった。

 

ソフィアが乗っていた領主一家の馬車を助けた件が、もう広がっていた。

ソフィア母が、積極的に広めたのも知っている。

本気で神獣様が助けてくれたのだと思っているらしい。

 

「ありがとうございます!

 ありがとうございます!!」

 

ハッキリ言って助ける義理は無い。

辻ザオリクが当たり前だと思っていたら、オンラインは遊べない。

 

だけど今日の私は機嫌が↑↑↑だった。

症状が重症でヤヴァくても、グロ戦法で治療してあげた。

感謝の言葉と、細やかな貢物を残して去って行く親子。

 

貢物は美味しかった。やっぱり甘味は良い。

絶対に人型になろう!改めてそう誓った。

 

「神獣様!」「神獣様!」「神獣様!」「神獣様!」「神獣様!」

 

サリエーラ国の、人間の信仰を甘く見てたわ!!

翌日には更に噂が広まっていた。

郊外に神獣様が降臨した。重症の親子を奇蹟の力でお救いになった。

どうか家の子も、一目神獣様を拝見したい。

などなど、近隣住民が大挙して現れてしまう。

 

人払いと経験値稼ぎの為に、

徹底した盗賊狩りまでしたのに、これでは意味が無い。

 

最初はさっさと片付ければ終る!と思っていたけど、

結局!私を拝みに来るのが増えただけだった。

今では小規模ながら神殿が建ったり、

グッズ展開して商売を始める奴まで居る始末!

 

これでは採掘計画に支障が!

と言うか必要以上に構われると、精神的にキツイ。

 

だけどどうしよう?

今から魔物ロールしても討伐隊が来るだけで、

人払いが上手く行く気がしない。

それに貢物の甘味を手放すのも惜しい!甘味は人生の楽しみだよ!!

 

「これが、青と蒼の雫」

 

と言う訳で私は、海にバカンスに来ていた。

熱が冷めるまでケレン領を離れる事にした。

採掘ポイントは再選定が必要かもしれない。

それ位疲れていた。ヒッキーなゲーマーにあの人混みは辛い。

 

「魔王アリエル?

 古の神獣!?」

 

でもやっぱり、バカンス何てしてる暇は無かった。

突然の魔王襲来!

オリジン・タラテクト。魔王アリエル。古の神獣。

叡智様が次々と、シャレにならないステータスと情報を暴露して行く。

 

「オリくん。

 やっぱり死亡フラグだったかも!?」

 

私は、あっさりと四肢を引き裂かれた。

引き裂かれて、蒼い世界に沈んで行く。

 

 

補足/説明枠!

今回はスキルの裏話的な代物です。

 

黒の核晶(更新)

Dがシステムを構築した際に、人類の失敗を前提に用意した隠しギミック。

世界にMAエネルギーを一部返還せずに、プールして結晶化!保管する。

これが不測の事態に対する備えだったのか、

ゲームのクリアを遅延させる罠だったのか?それを知るのはDだけ。

 

体育祭の黄昏で、

自身と自身が用意した身代わりを見分けた折原が、

あの世界を訪れる事が有れば、初のクリア者になるかもしれない。

これがDにロックオンされた真相。

望みの転生特典を与えたのも、その期待の表れ!と言うウェイトが大きい。

 

オリハルコンメタル

自身と自身の推しヒロインを護る転生特典。

ハーレムキングが使うと、とんでも無い事になる。

しかし折原の恋愛感情は壊滅的なので、殆ど死にスキル化。

現在恩恵を受けているのは、白織ただ一人。

 

折原鋼=オリハルコン。

白織→ゲームのPCがはぐれメタルだった。

二人合わせて【オリハルコンメタル】と言うスキル名。

詰りこれは、Dからの恋愛成就のプレゼントである☆(爆)

 

青と蒼の雫

空の青と、海の蒼の境界線。

交わりそうで交わらない二つの世界。

以前プレイしたゲームの、タイトルにもなった謳い文句。




黒の核晶の正体は、MAエネルギーの結晶です。

そしてガチチートのオリハルコンメタル登場!
ヒロインを護るオリハルコンの盾。
蜘蛛ですが~は、精神汚染がキツイと思う。

次回は白織さんの、地味な作業ゲーの時間です。


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13 白き糸を織る者

女神教の神獣様と言うのは、
今回のサブタイのような謳い文句で語られているのでは?
と思って決めました。

今回は戦争イベントです。


「侮ったなマザー!

 これが私と、オリくんの愛の力!!」

 

うん、ちょっと言ってて自分でも恥ずかしくなった。

でも今回の勝利は、大概オリくんのおかげだと思う。

 

バカンスで海に来ていた処を、突然の魔王襲来!

四肢を引き裂かれる致命の攻撃だったけど、

ザナ・ホロワの不死スキルで何とか生存!

そのまま海を漂いながら経験値を稼いで、LVUP回復で一気に復活!

 

直ぐに殺人人形(キリングドール)っぽいパペットタラテクトや、

アークの群に襲われたけど、コイツ等は敵じゃ無かった。

蜘蛛の主武装である糸の行動阻害や拘束が、今の私には効かない。

 

行動阻害や拘束は状態異常だからだ。

オリくんの転生特典。

オリハルコンメタルに護られた今の私には、蜘蛛の糸が効かない。

アークがただの的になった。

パペットは刃物を振り回すだけの人形になった。

討伐完了のお知らせである。

 

更に勢いに乗って、マザーの討伐も成功させた。

魔王の不在を上手く突けた。

並列意思の弱体化作戦が上手く行った。

他にも勝てる要素は有っただろう。結果マザーは陥落。

これで大きな障害が一つ消えた。

 

「戻ろう、ケレン領に」

 

これで更に、神獣様ブームが治まってくれていると助かる。

其処で当初の採掘ポイントへ向かう途中で、私は蟻の巣を見つけた。

 

「蟻の巣!?

 コイツ等、まさかライバル!」

 

この蟻!まさか私の黒の核晶を狙って!?

直ぐに蟻の掃討戦に入った。

蟻の巣に攻め込んで、巣を制圧する。気分はプチ迷宮探索だ。

 

だけどそれは杞憂だった。

巣は黒の核晶には遠く及ばない。

オリくんが【地下深く】に、と言っていたのは伊達では無いらしい。

これが黒の核晶の近くまで繋がっていたら楽だったけど、

其処まで上手くは行かない。

横取りされていなかっただけでも、喜ぶべきだ。

 

「そうだ!

 私が蟻の巣から拡張させれば!!」

 

地上から、一から掘ろうとするから目立つ。

もう有る蟻の巣から、地下から掘り進めれば邪魔は入らないのでは!?

名案な気がして来た。早速掘り進めて見る。

 

『オリくん、どう?』

 

『場所は其処で良い。だがもっと地下だ』

 

うん、実はオリハルコンメタルを通じてパスが繋がっている。

いつでもオリくんと念話が可能だった。

これは海を漂って暇な時に気付いた事だ。おかげで退屈はしなかった。

 

オリくんの指示に従って、下へ下へと掘り続ける。

一気にシャフトは掘れないから、螺旋状の穴を掘る事になる。

ぐるぐる。ぐるぐる。と、まるで奈落へ通じる穴を自作している気分。

 

『どうした?』

 

不意に黙って作業を続ける私を心配してくれたのか、

オリくんが声を掛けて来る。

 

『奈落の穴』

 

この穴を掘っているのは自分だ。

だけどこう、下へ下へと掘り進めて行くと。

まるで奈落に通じているんじゃないか?そう錯覚させられる。

エルロー大迷宮の方がずっと深かったのに、どうしてそう思うんだろう?

 

『黒の核晶が近いのを、肌で感じているのかもしれないな?』

 

恐怖。なのかな?黒の核晶に対する。

自分の手で、黒の核晶を掘り出す脅え?

 

『でも、止めない』

 

黒の核晶は掘り出すと決めた。

私は止めない。絶望の黒を、希望の白い糸に変えて見せる!

 

 

『そう言えば、噂になっていたぞ?』

 

『?』

 

お腹が空いて来たので、一旦上層の蟻の巣に戻る。

其処で保管して置いた蟻の死骸から、MPを奪う。

空腹無効の効果で消費したMPを、MP吸収で補う。

エルロー大迷宮でもやっていた非常食だった。これで急場は凌げる。

 

『神獣様が居なくなったのは、オウツ国の陰謀だそうだ。

 交戦ムードが高まっている。もう開戦するかもしれない』

 

『戦争!サリエーラで!?』

 

食事中の雑談で、戦争の話題が出た。

私が魔王にバラされて、海を漂っている内に事態が動いていたらしい。

 

オウツ国って言うのはサリエーラの隣りの国で、

エルロー大迷宮の出口が有った国だ。

で、其処に有ったオウツ国の砦は私が陥落させている。

 

オウツ国にしたら、砦を陥落させた私を討伐して置きたい。

その私が!サリエーラで神獣様だと讃えられている。

 

どうやら其処を、世界宗教の【神言教】に扇動されたらしい。

サリエーラは神言教とは異なる、女神教が盛んな土地だ。

詰りこれは宗教戦争!

それに関しては好きにすれば良いけど、サリエーラには黒の核晶が有る。

 

『前にも言ったが、

 いくら戦争と言っても、黒の核晶の鉱脈は深い。

 そう簡単に誘爆はしない筈だ』

 

『でも、危険』

 

そうは言っても、黒の核晶の上で戦争何てしない方が良い。

火薬庫が禁煙なのと同じだ。

 

『なら、どうする?』

 

と言う訳で私は蟻の巣から出て、戦場へ向かう。

広い平野で、両軍は既に睨み合っていた。

 

それにしてもオウツ国側の数が、予想よりも多い。

でも良く見れば鎧の種類が違ったり、

掲げられた旗が違っていたりする。察するにこれは連合軍!

 

確か今回の戦争は宗教絡みだから、同じ宗派の国が集まった?

まぁいくら集まっても、

黒の核晶の上で戦争とか!何も知らないアホとしか思えない。

 

「終らせる」

 

どうでも良い口上を聞く必要も無い。

まず扇動者だろう神言教の部隊を潰す事にした。

それはオウツ国の後方に居た。旗が出ているから余裕で解る。

 

「ヒャダイン」

 

氷が砕ける音がする。

神言教の部隊が凍てつき砕けた。砕け散ってダイヤモンドダストになる。

 

黒の核晶の件を考慮して、メラ。ギラ。イオ。デイン系は封印。

使うならヒャドかバギ系。

今回はセオリー通りヒャドを選択。使ったのは、効果範囲重視でヒャダインだ。

 

突然の出来事に騒然となる連合軍!

「神獣様だ!神獣様が戻られたぞ!!」と、盛り上がるサリエーラ軍。

 

「煩い」

 

氷が砕ける音が鳴り響く。

続けてヒャダインを放ってオウツ軍を蹂躙する。

 

二度とサリエーラの土地に足を運ばないように、

無慈悲に、残酷にオウツ軍を壊滅させる。

他の連合軍も容赦無く潰す。だが殲滅はしない。一割程度は逃がした。

神獣の恐ろしさを、敗戦の報告をさせる為に意図的に逃がした。

 

この時私は、ハッキリ言ってサリエーラ側を信じていた訳じゃない。

普段は神獣様と讃えていても、私は魔物だ。

魔物が戦場で暴れて、敵対国とは言っても同じ人間を蹂躙する。

サリエーラ側に敵認定される虞は、充分に有る。

 

だから私は、サリエーラ側からも充分に距離を取っていた。

サリエーラはオリくんの出身国だ。出来れば滅ぼしたくない。

 

だけどこの対応が良かったのか、サリエーラからの攻撃は無い。

再び沸く神獣様コール!結局は対応を間違ったのかもしれない。

 

≪個体ザナ・ホロワがアラクネに進化します≫

 

もう聞き慣れたシステムコールが聞こえる。

黒の核晶に頼る事無く、アラクネの進化条件が揃った!?

 

進化が始った。

ニョキニョキ、バギバギと。色々生えた。

 

蜘蛛に人の上半身。人の身体が生えた。

久々に見る人の手。人の髪。

その容姿は若葉姫色。白織と呼ばれていた前世の姿に酷似していた。

だけど白い。そして目だけが紅い。

 

「これは、アルビノ!?」

 

水魔法で作った水鏡に、アルビノとなった自分が映っている。

おおおぉぉぉっっっ!!!!!!と。

歓喜に打ち震えるけど、自分が今!裸で有る事に気付く。

 

「これで、良し」

 

自身の糸で白い服を編む。

やっている事が、サリエーラの女神教に伝わる神獣様のままだった。

女神の衣を編む蜘蛛の神獣。

今は魔王をやっている某本物の神獣様も、

こうして神獣と呼ばれるようになったのかな?

 

『終った』

 

『無事で何より。

 それで、続けるのか?』

 

用件が済んだから、蟻の巣に戻って来た。

黒の核晶に頼る事無くアラクネに進化した。

上半身だけとは言え、念願のアルビノにもなった。

もうオリくんに逢えるのでは?オリくんに逢いたい!

そんな想いが膨らんで行く。だけど、

 

『続ける』

 

私の決意は変わらない。

アラクネには、私にはまだ先が有る。

アラクネに進化して、それを悟った。

黒の核晶は手に入れる。手に入れて、私は今よりも先に行く!

 

 

補足/説明枠。

今回は細々とした事を羅列します。

 

シャフト

縦穴の事。

蜘蛛の生態に詳しい訳では無いですが、

糸でぶら下がりながら、シャフトも掘れた可能性が!?

螺旋状の方が好きなので、今回はこちらを採用。

 

ヒャダイン

何気にこれが、白織の異世界初戦闘描写!

白織はゲームのイメージをそのままに、ダイ大魔法を使っている設定です。

オールラウンダーの賢者タイプ!何でも使って来ます。

 

オリハルコンメタルに護られている事で、

禁忌に因る人間への嫌悪感が和らいでいて、

支配者スキルの精神汚染も治まっています。

何より人間の恋人が居るので、理性的な行動が取り易くなっています。

 

ダイヤモンドダスト

氷の粒に光りが反射して、輝く現象の事。

サリエーラが白織を攻撃して来なかったのは、

距離を取っていたからでも、神獣様だったからでも無く、

散り際のダイヤモンドダストが、余りに美しかったから。

ダイヤモンドダストの美しさに目を奪われて、

これが無慈悲な虐殺である事を、ガチで忘れています。

 

アラクネ

原作では、連合とサリエーラの両軍を壊滅させて進化しています。

足りない気もしますが、蟻で補填したと思って下さい。

 

特に描写は有りませんでしたが、

ユリウスやロナントは、早々に撤退した設定。

距離が有ったので、ロナントは白織の姿を確認出来ませんでした。

↑ロナントに裸は見られていません。セーフです☆




少し迷いましたが折角なので、
白織にダイ大魔法を使わせる事にしました。

次回はセーブポイントの出来事。
白織さん入浴タイムです☆


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14 白い肌に溶けるような白

穴を掘り続けて、
汗を搔いたり汚れたりで大変な時期です。

と言う訳で、今回は入浴タイム☆


「~♪」

 

良い湯加減だった。

異世界初の試みだったけど、上手く行った。

 

アラクネに進化した。

上半身だけとは言え、人の姿を取り戻した。

真っ白なアルビノになったけど、

人の手、人の髪が有って、何より懐かしい自分の顔が有る。

何だか人間に戻った気がして来る。

 

でも取り戻したのは、身体だけじゃ無かった。

それは心であり、常識であり、習慣だった。

私はお風呂に入りたくなっていた。

 

汗を流したい。と言うのも有ったけど、

肌の手入れが、髪の手入れがしたくなった。

端的に言うなら、綺麗になりたくなった。

 

衛生的な問題も有ったと思う。

でも【綺麗になりたい】と言う女の欲求を、私は取り戻していた。

 

「温泉、は無理?」

 

今日の採掘を終えて、上層の蟻の巣に戻った。

其処にいつものハンモッグ風の、蜘蛛の巣の寝床が有る。

 

だけど今日は!寝る前に入浴がしたい。

お風呂に入りたい。だけど当然ながら、蟻の巣にそんな物は無い。

 

穴を掘っているから、温泉も掘れる?

オリくんに頼めば、案外温泉も掘れるかもしれない。

オリくんのレアセンサーは頼りになる。

温泉もあっさり見つかるかもしれない。

 

因みに温泉は、基本的に何処でも掘れるらしい。

約1000m位掘れば、何処でも湧く!と聞いた事が有る。

異世界でも、これは適用される常識かな?

1000m。1000mか~。お風呂の為に、更に1000m!

 

「内風呂を作ろう」

 

黒の核晶の採掘と言う一大イベントの最中に、流石に無理だと判断した。

それに私は!今直ぐお風呂に入りたい。温泉を今用意するのは無理だ。

 

なら内風呂!

要するにバスタブとお湯が有れば、内風呂の完成!お風呂に入れる。

 

まず土魔法でバスタブを作る。

下半身の蜘蛛の部分が全て湯船に入るから、

それなりの広さと深さが要る。

 

「息は、どうだろう?」

 

それこそ温泉Lvのバスタブを作って、

水魔法で水を注いで、火魔法で温度調整!

そろそろ行けるかな~と言う処で気付く。

 

上半身の肩までお湯に浸かると、下半身の蜘蛛の頭が水没する。

でも上半身にも頭が有って口が有る。当然呼吸が出来る。

 

「試すしか、無い」

 

手製の白い服を脱いで、手製のバスタブに入る。

上半身の肩までお湯に浸かる。温度は丁度良かった。良い湯だった。

 

「うん、大丈夫」

 

下半身の蜘蛛の頭は水没している。でも苦しくは無い。

人と同じように上半身で呼吸している。

一応お湯を飲み込まないように、口を閉じているだけだ。

 

「~♪」

 

でも身体を洗う手段が、お湯を浴びるしか無い。

禊か行水を、お湯でやっている気分になる。

 

「石鹸。シャンプー。リンス」

 

此処まで来ると、次に洗顔系のアイテムが欲しくなる。

日本に居た頃、石鹸を自作した経験なら有る。

材料は確か、

【苛性ソーダ】とか【グリセリンソープ】とか【石鹸素地】だった気がする。

どれも薬局で売っているような素材で、

異世界で天然素材から用意出来る気がしない。

 

「むぅ」

 

異世界でも、街に行けば洗顔系のアイテムが売ってるかな?

街に行ったら欲しい物。私は自分の身体を見下ろした。

 

「女の身体」

 

改めて自分が女だと認識する。

蜘蛛をやっていると、普段は性別が気になら無かった。

でもアラクネに進化して、

人の上半身が生えて来ると、自分が女だと言う事を強く意識させられる。

 

「下着も、売ってるかな?」

 

洗顔系アイテムも欲しいけど、下着も欲しい処だった。

蜘蛛の糸でサラシは作れた。

ショーツはまだ要らない。腰から下が蜘蛛だからだ。

だけどブラジャーは難しい。上手くフィットする感じのヤツが作れない。

 

『オリくん』

 

『白織か、どうした?』

 

私は久々の湯船に浸かって気持ち良くなって、

色々と気が抜けていたんだと思う。

もう夜で結構遅い時間だったと思うけど、オリくんに念話を繋げていた。

 

『下着、売ってる?』

 

『………………』

 

あ、と気付いた時にはもう遅かった。

相手が恋人でも、これは無い。恋人相手だから無い!とも言う。

久々にやらかしたああぁぁっっっ!!!!!!

 

 

『結論から言うと、異世界にも女性下着は存在する』

 

色々と沈黙が続いたけど、オリくんは真面目な話だと理解してくれた。

アラクネに進化して、

上半身だけだけど人の姿を取り戻した事も喜んでくれた。

序に入浴中なのも、口を滑らせてしまったけど!

 

『街に入れなくても、手段は有る』

 

オリくんの下着入手大作戦の概要はこうだった。

まずオリくんがメイドさんに指示を出して、下着を買いに行かせる。

↑この買い物に関しては、催眠のスキルで指示を出せるらしい。

そして入手した下着を人気の無い場所に隠す。

それを後から私が回収!と言う流れだった。

流石はオリくん!頼りになる☆

 

『但しメイドに指示を出す事になるから、

 下着のサイズを暴露して貰う事になる』

 

『!?』

 

そうだよね~?

指示を出すのはオリくんだもん!それはサイズもバレるよ!!

でもサイズはフィットしないと意味が無いし、

此処まで蜘蛛の糸が届いているのに、自分で手を離すのは!

 

再度自分の身体を見下ろす。

そもそも的確なサイズを測る手段が無い。経験則から来る目測が頼りだ。

恐らくだけど、転生前のサイズと同じ!と言う事で良いと思う。

 

『………』(小声)

 

『解った。用意させよう。

 すまないな、白織』

 

うぅ、そう言う処で誠意を見せないで欲しい。

別の話題!別の話題!

 

『どうして、知ってるの?』

 

でも訊きたかったのは、やっぱり下着ネタだった。

どうして男のオリくんが、異世界の下着事情を知ってるの!?

 

『赤ん坊でも風呂には入る。

 一応貴族転生だから、メイドが洗ってくれる。

 その時のメイドが、下着姿だった』

 

『メイドさんの御世話!』

 

『赤ん坊の身だ。一人で風呂には入れない』

 

解る。解るけどさぁ?微妙な気分になる。

オリくんが毎晩!メイドさんとお風呂に!!

 

『想像、した?』

 

『それを、訊くか?』

 

また別の話題。

色々悔しかったから、切り込んで見る。

湯船に浸かる自分の身体に触れる。

念話で、身体の感覚が伝わる事は無い。

 

『したな?

 この状況で、白織の身体を想像しない方が可笑しい』

 

『!!!!!!』

 

ハッキリバッサリ白状するオリくん!

恥ずかしくなるのは、私の方だった。顎までお湯に浸かる。

 

『オリくん、大胆』

 

『大胆なのは、白織だろう?』

 

デスヨネ~☆

今夜の私は、少し大胆だったかもしれない。

 

『そろそろ、上がる』

 

『あぁ、お休み白織』

 

オリくんとの念話を切断する。

また色々やらかしたけど、汗は流せた。下着入手の目途も立った。

今夜は、特にぐっすり眠れそうだった。

 

 

『オリくん。この下着って』

 

翌日。下着を無事回収出来た。

サイズも問題無かった。下着を身に着ける感覚が、何だか懐かしい。

それは良かったんだけど、

 

『何か問題が有ったか?

 一応貴族御用達の店の下着だ。品質的にそれ以上の物は難しい。

 後は本当にオーダーメイドになる』

 

品質に関しては問題無い。

異世界で、この品質は予想外に高品質だと思う。

 

『ショーツも、有る』

 

『メイドがセットの物を買ったらしい。

 話は聴いていたが、そのまま入れて置いた』

 

下着の入った紙袋には、ショーツも入っていた。

下半身が蜘蛛だから、これはまだ穿けない。

それだけなら問題は無かった。だけど!

 

『黒い、下着』

 

紙袋にはいくつかの下着が入っていて、

その中に黒い下着が有った。真っ黒だった。

 

『白い肌に黒い下着も【アリ】かと思って入れた。

 無理なら止めて置け。

 白い清楚系のヤツも有った筈だ』

 

うん、確かに白い清楚系も有る。

色々と気遣って、バリエーションを用意してくれたんだと思う。

思うけど!こんな処まで気を使わなくも!!

 

『黒いのが、好きなの?』

 

一言ハッキリ文句を言おうとして、

でも私の口から出たのは、そんな言葉だった。

 

『………………』

 

『オリくん?』

 

返事が無い。

念話が切断された訳では無いと思うけど?

 

『黒も映えはするだろう。だがやはり白だ。

 白い肌に溶けるような白!これは外せない』

 

『白にする』

 

当初の予定通り、白で行く事にする。

そしてその後何日も、採掘作業を続けた。

オリくんの指示に従って、掘って掘って掘り続けた。

 

「空洞?」

 

そして、遂に掘り当てた。

其処は空洞になっていて、通路が先に続いて居る。

ゲームで言うなら?セーブポイントが有りそうな場所だった。

 

「核シェルター!?」

 

更に通路を進むと、

原子力発電所に有りそうな、重厚な金属扉が鎮座していた。

 

 

補足/説明枠。

今回の補足は、本当に些細な点です。

 

ショーツ

ショートパンツの事。下履き。

原作で白織は、下履きの事を【パンツ】と言っています。

しかし本作ではショーツ!

個人的にショーツと言った方が、女子力が高く聞こえます。

 

メイド

折原の世話役のメイドさん。

ナーサリィと思わせて、万能型の雑用メイド。

原作で言う処の、シュレインのアナポジ。予想外の出番増。

私にとって、有能メイドと言えばToHeartのセリオです。

 

セリオは、私の最推しヒロイン!

サブキャラで使いたくないなぁ~と言う心境。立ち絵未定。

 

因みにナーサリィと言うのは、

メイドの数有る専門職の一つで、子守専門のメイドの事。

雑用メイドは文字通り、幅広く何でも担当するメイドの事。

↑では下っ端っぽく聞こえますが、

何でも担当する為、幅広い能力と見識が必要なメイドの上級職☆




白織を風呂に入れてあげよう!
と思っている内に、一話分終りました。
これはサービスシーンではアリマセン!入浴シーンです☆

次回は、遂に始る黒の核晶奪取戦!


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15 私の愉しみを奪う心算ですか?

遂に掘り当てました。
今回は黒の核晶奪取前哨戦です。


『これが、例のブツだ』

 

『助かるわ、これさえ有れば!』

 

サリエーラは戦勝ムードに湧いていた。

或いは神獣様帰還祭り!と言うべきか?

 

サリエーラは隣国のオウツを含む、連合軍と戦争状態に突入した。

オウツ一国ならまだしも、連合軍の規模は絶大だった。

これは負けたかな?と。赤ん坊の身で敗戦国の貴族か、これはマズイ!

そう思っていたが、此処で白織が介入した。

 

白織が圧倒的な力で、連合軍を蹂躙した。

連合軍は壊走。此処まで壊滅的だと、成人まで時間が稼げたか?

そしてそれを為し得たのは神獣様だ。

神獣様ブームの波が酷い。

今白織が帰って来たら、ストレスで倒れるかもしれない。

それ程までの神獣様ブームが巻き起こっている。

 

『これさえ有れば、鑑定の儀をクリア出来るのね!?』

 

『あぁ、そのペンダントでフェイク情報が出せる』

 

そのお祭り騒ぎを利用して、自分もこうしてソフィアに会いに来ている。

サイサリスからも兵を出して居た。

今は最寄りのケレン領に逗留している形になる。

其処に催眠のスキルで割り込んで、ケレン領の逗留に紛れていた。

赤ん坊の身で、出掛けるのは本当に難しい。

 

人族 LV1 名前 ソフィア・ケレン

 

無理をしてソフィアに会いに来たのは、

用意した対鑑定用フェイク情報媒体。通称【フェイカー】。

この紅いペンダントを渡す為だ。

 

ソフィアは何故か、吸血鬼として転生した。

両親は普通に人族で、身近に吸血鬼が居ない環境でだ。

 

人族の中では、吸血鬼は討伐対象だ。

バレれば即座に処刑!

そして貴族には鑑定の儀。と言うイベントが有って、

此処で一斉に調べられてしまう。

本来なら子供の成長を祝うイベントだが、

吸血鬼のソフィアにとって、破滅フラグの死亡イベントと化していた。

 

だが世の中蛇の道は蛇!やはり鑑定を誤魔化す手段は存在した。

鑑定は便利過ぎた。本当に色々とバレ過ぎる。

だから犯罪者やら裏社会ではどうしているのか?と思ったら案の定だ。

フェイク情報を流す技術が見つかった。

これで犯罪者や裏社会の者は、個人情報を護っているらしい。

 

またこの技術は、貴族が身分を隠す際にも利用されていた。

貴族ルートが使えるなら、後は簡単だった。

 

『鑑定の儀は、これでクリア出来るだろう。

 【吸血衝動】の方はどうだ?』

 

『急に血が飲みたくならないか?って事よね?

 今の処、その気配は無いわ』

 

鑑定からの正体看破に続いて、次の吸血鬼のデメリットは吸血衝動だ。

文字通り血が飲みたくなる。

これが深刻化すると、更に血しか飲めなくなるらしい。

 

『なら良い。

 だがソフィア、どうする心算だ?』

 

『どうって?』

 

『ソフィアが吸血鬼として転生したのは、もうどうしようも無い。

 これから一生、正体を隠して人として生きるのか?

 吸血鬼として魔族領で生きるのもアリだろう』

 

初代魔王は吸血鬼だったらしい。

人族の中では討伐対象の吸血鬼も、魔族領でなら隠す必要も無い筈。

ケレン領を出て、魔族領に行った方がソフィアの為かもしれない。

道は一つでは無い。と言う事だ。

 

『急に、そんな事言われても!?』

 

『まぁ今回のペンダントで、多少の時間は稼いだ筈だ。

 良く考えた方が良い』

 

『………………』

 

ソフィアは沈黙する。

やはり其処まで考えていなかったか、と言うのが本音だろう。

 

『ねぇⅡ。

 まだ、時間は有るかしら?』

 

だが暫くして、

顔を上げたソフィアは、決意に彩られているように見えた。

 

 

「魔術妨害の、結界!?」

 

核シェルターの扉のような物の辺りから、魔法の効きが悪くなった。

私はこれを、魔術妨害の結界だと当たりを付ける。

 

此処では放射系の魔法が使えない。

その上大幅なステータスダウン。

今まで強くなって来たのは、実は魔法に因る身体強化だからだ。

 

「ありがとう、オリくん!

 愛してるぅっ!!」

 

ステータスはダウンする筈だった。

だけど此処でも、オリくんのオリハルコンメタルに助けられる。

ステータスダウン。

身体強化阻害の状態異常が無効化されて、ステータスが復帰する。

しかもこれが、

オリくんに愛されている証だと思うと、感動モノである。

 

「転移陣!?」

 

感動に浸りながら扉に近づくと、

日本では聞いた事の有るアラートが鳴り出した。

即座に転移陣が展開!護衛の魔物召喚!?

 

「ロボット!?」

 

召喚されて来たのは、どう見てもロボットだった。

ファンタジーでロボット!?

決してゴーレムで片付くフォルムでは無い!ロボットだ!!

 

如何にも守備力が高そうな金属製の人型!

腕は剣やら銃で武装している。

足はこちらと同じ多脚式!それが三体。

 

「って、キラーマシン!?」

 

良く見たらキラーマシンだった。

何か見覚えが有ると思ったよ!

うわぁ、何処かの某邪神様の遊び心を感じる展開である。

前文明の遺産とか、そう言うヤツですか?

それでキラーマシンは無いでしょ!?

あっでも、ボウガンじゃなくて銃で武装してる!やっぱり別物!?

色も黒くて夜間迷彩!実戦的だった。

 

「ッ!!?」

 

展開が遊び心満載でも、キラーマシンの戦闘力は本物だった。

オリくんのおかげでステータスは健在だけど、

魔法禁止の絶賛物理優遇展開中で、向こうはガチガチの金属ロボ!

製作者の性格の悪さが滲み出ている。

 

「でもさぁ、こっちは歴戦のゲーマー何だよねっ!!」

 

確かに魔術妨害の結界は厄介だ。魔法禁止はキツイ。

だけどこんな展開!ゲームでなら何度も体験して来た。

 

魔術妨害の結界?

ならどうやってキラーマシンは動いている?

全部機械仕掛け?どうせMAエネルギー頼りでしょ!?

なら魔術駆動と変わらない!

詰り魔法を使う手段は存在する。それ以前に!

 

「自分だけ楽をしようとか!

 お約束の負けフラグだから!!」

 

先頭のキラーマシンの攻撃を、掻い潜って接近!

零距離でキラーマシンに触れる。

触れた処で、迷う事無く魔法を発動!

 

「ギガデイン」

 

キラーマシンの内部で魔法を発動させる!

案の定!魔術妨害の結界内でも、魔法は発動した。

電撃が、キラーマシンを内部から焼く。

キラーマシンAが崩れ墜ちて沈黙。

 

やっぱり予想通りの展開。

キラーマシンは自分達だけ、魔術妨害の結界内で魔術駆動だった。

詰り内部では魔法の発動が可能!

だから零距離から内部に魔法を使ってやった訳だけど、

 

この展開はゲーム知識だ。

オリくんの推し名作ゲームで、この手の結界が登場した事が有った。

魔術妨害の結界で、最強の魔術師ヒロインが戦闘不能になる。

全身が魔術駆動の義体だったからだ。

 

その後は生身の主人公が戦って、

敵の体内に、零距離で魔術を発動させて倒す!と言う展開が続く。

これは移植版追加シナリオで、

本編ではルート無しの、最強魔術師ヒロインのシナリオも追加されていた。

 

「攻略法が解れば、もうアンタ達はガラクタだから!」

 

他のキラーマシンも同じ要領で対処した。

キラーマシンを召喚した転移陣も制圧。これで増援も無い。

核シェルターの前を制圧した事になる。

 

 

「さて、お楽しみのドロップタイム☆」

 

キラーマシンが使っていた、

魔術妨害結界の中和術式は、既に解析収集した。

次は剥ぎ取りタイムだ。

もう動かないキラーマシンを剥いで、コアを抜き取る。

これにMAエネルギーが蓄積されていた。

 

「見つけた」

 

キラーマシンを召喚した転移陣を逆探査して、格納庫も見つけた。

転移陣から解析して、アラートシステムも切っている。

増援のスクランブルは無い。好き勝手に探索出来た。

 

其処は一気にSFっぽい格納庫で、

キラーマシンが量産機扱いで、ズラリと並んでいる。

動力充填用のMAエネルギー発生装置も見つけた。

発生装置は未だに稼働状態で、MAエネルギーを貯め続けている。

 

「頂きます」

 

貰う物は貰って、装置は破壊した。

MAエネルギーの吸収方法は、既に理解している。

これが最終フラグになる筈だ。

 

≪熟練度が一定に達しました。

 スキル【神性領域拡張LV9】が『神性領域拡張LV10』になりました≫

 

≪条件を満たしました。神化を開始しますか?≫

 

≪YES or NO≫

 

いつものシステムコールが、

愚直な女神の声が神化を告げる。進化では無い。神化だ。

私は慣れた手付きでYESをクリックしようとして、

 

「本命の黒の核晶を手にする前に、条件を達成。

 連れない話です。その前に、少し如何ですか?」

 

「D!?]

 

YESをクリックしようとして、何処からかDの声が聞こえた。

何処からか、じゃない!格納庫のスピーカーからだ。

其処からスマホから聞こえたのと同じ、Dの声が聞こえる。

 

「どう言う心算?

 邪魔をしに来たの!?」

 

「いいえ。少し忠告を。

 神化すればスキルや、システム周りは返還する事になります。

 今までに培った戦闘ノウハウが、一旦零に。

 慣れるまで暫く掛かる事でしょう」

 

「それで?」

 

「これから決戦!となるのを愉しみにしていたのに、オアズケですか?

 私の愉しみを奪う心算ですか?それは無いですよね?」

 

こ、こいつ!自分の愉しみの為に、神化を止めに来たの!?

良く解らないけど、決戦とやらをしろと!?

 

「神化前に、戦えって事!?」

 

「ボス戦前に宝箱を回収する。ゲーマーとして当然の行動。

 ですが!戦う前からエンドロールに入るのは、無しです」

 

「私の目的は神化であって、世界平和じゃないんだけど?」

 

「だからですよ?蜘蛛さん」

 

どうやらDの考えは纏っているらしい。

私はタッチパネルから、手を離す。

ちっくしょ~、これ強制イベントだよっ!!

 

「決戦は、あの核シェルターの中?」

 

「はい。一旦戻ってから進んで下さい」

 

転移陣で核シェルター前まで戻ると、

如何にも強固そうだった、核シェルター風の金属扉が開いた。

何と言うか、地獄門が開くのを見ている気分だ。

それとも絶望の門?あの有名なヤツ!

 

「【汝、全ての希望を捨てよ】とでも言いたいの?

 やってやる!クリアしてやろうじゃないっ!!」

 

 

補足/説明枠。

今回は色々とツッコミ処の補足です。

 

フェイカーのペンダント

対鑑定用フェイク情報媒体。

鑑定を妨害するのでは無く、偽装情報を流すアイテム。

鑑定は情報漏洩が酷いので、情報秘匿の手段は有る!と踏んでの設定。

支配者スキルの下位互換的対処法。

 

ソフィアに渡したペンダントは、最高クラスの一品。

ロナントが、カンスト鑑定でも見破れない位の偽装能力。

詰り人間の実力では、看破不能のLv!通常は対抗判定が入る。

 

因みにソフィアが黒の核晶の話題を出さないのは、

足元に黒の核晶が眠っているのを、思い出したく無いから。

 

キラーマシン(黒)

キラーマシン風の戦闘用ロボット。

色違いは別物!と言うお約束の仕様を守っている。

Dが造った物では無く、

キラーマシンに似ていたので、面白そうなので拾った物。

 

格納庫は今回の核シェルターとは別の場所に有り、

転移陣で繋がっているだけ。

 

最強魔術師ヒロイン

折原指定の名作ゲームの推しヒロイン。特徴を羅列すると、

1/登場ヒロイン中最強。魔術師。

2/全身義体。

3/本編でED無し。

  移植版で追加シナリオ有。アフター版でもシナリオ追加有。

4/移植版追加シナリオで、魔術妨害の結界に囚われる。

 

となり、更にヒントを加えると↓

これでこのヒロインを知っている方なら、解ると思います。

5/名前が白織に似ている。

6/歩く禁書庫系キャラ。

7/見た目がアルビノ系。




埋めるだけでは警備が手薄かな?
と思って格納庫も出しました。居たのは↑でしたが☆

次回は遂に黒の核晶と対面!ボスラッシュです。


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16 アンタの事、初めて本気で邪神だと思った

11eyesネタバレ警報!

何とかネタバレ無しで行こうとして、無理を悟りました。
11eyesネタバレ有。タグ追加。


「日本の街!?」

 

物々しい絶望の門を潜って、暫く直進の通路を進む。

通路を抜けて出たのは、見慣れた日本の街並みだった。

知っている街。と言う訳じゃない。

通りの看板や、信号機に書かれた文字が日本語だっただけだ。

 

そして赤い。多分時刻は夜だと思うけど、空が赤かった。

夕闇や夕暮れの色じゃない。血のような赤い空。

此処が、かなりの地下深い場所の筈!と言う先入観は放棄した。

Dの結界の中って事?もう何でもアリだ。

 

そして極め付けが黒い月だった。

赤い夜の空に浮かぶ黒い月。

開けた場所に出て改めて黒い月を見上げると、

それが黒い月では無く、黒の核晶の玉座だと気付く。

 

大きい。本物の月程のサイズじゃないけど、かなり大きい。

東京ドーム何個分!と言うお約束の測り方の部類だ。

其処で黒の核晶が、玉座に座する王のように大地を見下ろしていた。

 

「ではルールの説明をしましょう」

 

Dの声がする。街角に設置されたスピーカーから?

するといつからか、七体の黒い人影が姿を現した。

 

「この者達は七大罪の魔人」

 

Dの説明では?

七大罪の魔人は、七大罪の支配者スキルに対応している。

七大罪の支配者スキルを捧げれば、

対応した七大罪の魔人との戦闘が免除される。

 

但し一度捧げたスキルは一覧に戻り、再度獲得にはポイントが要る。

支配者スキルの再取得は、考え無い方が良い。

 

そうやって捧げるか戦うかで、

七大罪の魔人を全て撃破すればクリア!と言う事らしい。

 

支配者スキルを捧げて数を減らすか、

自力で数を減らすか?と言う事になる。

 

「支配者スキルを鉛弾にするんだ。

 それで、最悪は1VS7って事!?」

 

「御存知の通り、正規の最終安全装置は七大罪と【七美徳】が必要です。

 それに比べれば半数で済みます。良心的だと思いませんか?」

 

そうとも言うけどさぁ?

この七大罪の魔人とやらが、露骨に強そう何だけど!?

 

大罪の魔人 LV■■ 暴食グラ

≪ステータスの鑑定に失敗しました≫

大罪の魔人 LV■■ 怠惰アケディア

≪ステータスの鑑定に失敗しました≫

大罪の魔人 LV■■ 憤怒イラ

≪ステータスの鑑定に失敗しました≫

大罪の魔人 LV■■ 嫉妬インウィディア

≪ステータスの鑑定に失敗しました≫

大罪の魔人 LV■■ 傲慢スペルビア

≪ステータスの鑑定に失敗しました≫

大罪の魔人 LV■■ 強欲アワリティア

≪ステータスの鑑定に失敗しました≫

大罪の魔女 LV■■ 色欲ルクスリア

≪ステータスの鑑定に失敗しました≫

 

叡智様を手に入れてから、鑑定失敗とか!初めて何ですが!?

それに色欲だけ、魔人じゃなくて【魔女】になってる。

何か意味が有るの!?

 

確かに色欲は、見た目がドレス姿の女の子だ。

だけどそれを言うなら、嫉妬と傲慢も女性型。

嫉妬が翼を生やした鳥人間で、傲慢がポニテの侍女子。

 

因みに暴食は太った巨漢で、憤怒はスマートな偉丈夫。

怠惰はそもそも人型ですら無いし、強欲は長身のフルアーマーだ。

このラインナップは、覚えが有る!

 

「【黒騎士】」

 

そうだよ!コイツ等の黒騎士でしょ!?思い出したわ!!

しかも色欲だけ別格なのも解った。

他六人と並べるな!?完全に在り得ないでしょ!原作的に!!

 

「本物の黒騎士!?」

 

「私は冥界を管理していますから?

 やろうと思えばそう言った事も出来ます。

 ですが安心して下さい。この者達は七大罪の魔人!

 黒騎士を映した影。言うなれば【怪しい影】です☆」

 

「怪しい影!?」

 

怪しい影 闇精霊集合体 LV■■ 暴食グラ

≪ステータスの鑑定に失敗しました≫

怪しい影 闇精霊集合体 LV■■ 怠惰アケディア

≪ステータスの鑑定に失敗しました≫

怪しい影 闇精霊集合体 LV■■ 憤怒イラ

≪ステータスの鑑定に失敗しました≫

怪しい影 闇精霊集合体 LV■■ 嫉妬インウィディア

≪ステータスの鑑定に失敗しました≫

怪しい影 闇精霊集合体 LV■■ 傲慢スペルビア

≪ステータスの鑑定に失敗しました≫

怪しい影 闇精霊集合体 LV■■ 強欲アワリティア

≪ステータスの鑑定に失敗しました≫

クリフォトの永劫体(劣化) LV■■ 色欲ルクスリア

≪ステータスの鑑定に失敗しました≫

 

あっステータス情報が更新された!

確かに種族名が怪しい影になってる。

闇精霊(ラルヴァ)の集合体って言うのも原作通り!

 

怪しい影って言うのは確かDQの雑魚モンスターで、

シルエットは同じだけど、それぞれ違うモンスターの影って言う設定。

ランダムで攻撃手段やステータスが違うモンスターだ。

ダイ大では【シャドー】って言うキャラ名で、

ミストバーンの影!と言う設定だった。

 

どうやら大罪の魔人は、黒騎士の怪しい影!と言う設定らしい。

本物じゃないだけ、まだマシな展開。マシだけど!それならさぁ!!

 

「色欲の【クリフォトの永劫体(劣化)】ってナニ!?

 いや、予想は付くけど!付くけど!!」

 

クリフォトの永劫体(劣化)

クリフォトに記録された魂の情報。

クリフォトが在る限り永劫に存在し続ける。

クリフォトが砕けて、再現率が著しく低下した劣化状態。

 

こんな時でも叡智様は、良い仕事をしてくれる!

あの物語が実話でした!とか、

何処かの並行世界の出来事でした!とか、そんな事で片付ける心算だろうけど、

 

「クリフォトは?

 アレは怪しい影じゃないんでしょう!?」

 

「レアドロップ。と言うヤツです。

 折角の拾い物ですから、全て揃えたくなりました。

 蜘蛛さんもゲーマーなら、解りますよね?」

 

「D。アンタの事、初めて本気で邪神だと思った」

 

「はい、私は邪神ですから☆」

 

「違う!そうじゃないっ!!

 あの子は漸く休めた。漸く眠れたんだ。

 それをアンタが起こした!あの子の終りを暴いたんだっっ!!!」

 

「なら、どうします?」

 

「私は違うけど、あの子の待ち人じゃないけど。

 もう一度眠らせてあげる」

 

 

「黒の核晶は、私の結界で護られています。

 存分に愉しませて下さい」

 

その言葉を最後に、Dのルール説明は終った。

少し感情的になったかもしれない。冷静になれ私!

熱くなって勝てる相手じゃ無い。

 

私が所有する七大罪の支配者スキルは【傲慢】と【怠惰】だ。

今直ぐ捧げて数を減らすべき?

いくら何でも黒騎士相手に1VS7は無い。特にスペルビアは、

 

「速い!原作通り!!」

 

先陣を斬ってスペルビアが斬り込んで来る。

手にした二刀は、どちらも凶悪な妖刀だった。

確か【蜘蛛切】と【鬼切】。

蜘蛛切って、蜘蛛特効とかじゃ無かったよね!?

刀使い優遇まっしぐらのスピードタイプ!天然ガチートである。

 

「ッ!!!」

 

スペルビアの先制を自慢のスピードで回避した処で、

インウィディアの蛇腹剣が視界に入った。

これも難無く回避したポイントに、イラが突撃して来る!

誘い込まれたっ!!

 

「覇ッ!!」

 

イラの掌底!ガードに成功したけど、ノックバックされる。

イラの追撃は無い。其処には、鉄槌を振り上げたグラの姿が!!

 

「メラゾーマッッ!!!」

 

しかしノックバックを止める逆噴射にメラゾーマを放って、

そのままグラに攻撃する。グラは、

 

「!!?」

 

食べた!口を開けてメラゾーマを食べた!!

魔法の捕食。絶対に原作では在り得ない展開!暴食のスキル効果!?

 

「滅せよ」

 

グラの暴食に一瞬気を取られている内に、アケディアの魔術が完成した。

舞台に絨毯爆撃が降り注いだ。これは結界で護るしかない。

 

「フバーハ!」

 

その隙にスペルビアとイラが、インウィディアとグラが続く。

ダメだ!護っていたらまず勝機が無い。

って言うか1VS7では、どう足掻いても勝てる筈が無い!!

 

「ルクスリアッッ!!!」

 

後方に居たルクスリアが動いた。

いつの間にか結構な高さまで上がり、上昇したルクスリアの手先に炎が宿る。

私のメラゾーマを軽く凌駕しているだろう大火球だ。

それを、他の黒騎士に構う事無く放って来た!

 

「この魔女がぁぁっっ!!!」

 

実はフレンドリーファイア無効とか、全員火耐性持ちとか、

そう言う展開かと思ったけど、そうじゃ無かった。

 

黒騎士達は、かなりガチな感じで回避運動に入った。

特に有翼のインウィディアは、ブチ切れてルクスリアの方に反転!

蛇腹剣の届く範囲まで飛び掛って攻撃を始める。

 

「インウィディア!」

 

あっインウィディアが火球で撃墜された。

イラが撃墜したインウィディアを助け起こしに下がる。

これはチャンス!倒れたインウィディア諸共ベギラゴンで討つ!!

 

「今まで、ありがとう」

 

私のベギラゴンを阻止しようと、

一番DEXの高いスペルビアが!二刀の凶刃を煌めかせる。

だけど!もう私は覚悟を決めていた。

 

「【傲慢】を捧げる!!」

 

「ッッッ!!!!!!」

 

そう宣言した瞬間!何かが抜け落ちる感覚がして、

スペルビアがノイズを上げながら、電源を落した映像のように消えた。

 

「ベギラゴンッッ!!!」

 

続いてそのままベギラゴンを放つ!

暴食で魔法も食べれるグラは、

ルクスリアの攻撃の防御に入っていて、他のカバーに入れない。

 

「アケディアッッ!!!」

 

しかしアケディアが、原作通り二つの魔術を同時に操って防御した。

怠惰もさっくり切るべきだった!!

 

「其処までだ。ルクスリア」

 

今まで沈黙していたアワリティアも動き出した。

ルクスリアに何か言っているようだけど、此処からでは聞こえない。

でもルクスリアは、抗議するアワリティアに無言を貫いているらしい。

 

「何だか盛り上がってる見たいだね。

 私も混ぜて貰えるかな?」

 

体勢を立て直したイラとインウィディアが、

グラとアケディアが改めて戦闘体勢を。

アワリティアはルクスリアと対峙している。

 

「魔王アリエル」

 

そんな場面で現れたのは、魔王アリエル。

いつの間に!追い着かれた!?

 

 

補足/説明枠。

突然の黒騎士参戦回の補足です。

 

大罪の魔人

六人の黒騎士をコピーした怪しい影。

ステータスやスキルは原作準拠。

但し対応した七大罪の支配者スキルを、擬似実装している。

詰り黒騎士+支配者スキル。と言う戦力。

 

大罪は英語版の知名度が高いですが、これは原作準拠でラテン語版。

暴食→グラ。怠惰→アケディア。憤怒→イラ。嫉妬→インウィディア。

傲慢→スペルビア。強欲→アワリティア。色欲→ルクスリア。

 

大罪の魔女

某ラスボス。色欲担当。

クリフォトに魂を刻む事で、永劫に在り続ける不滅存在。

ラストでクリフォトを砕かれて、物語は終りを向えた筈だった。

しかしクリフォトの欠片をDに回収されて、Dの玩具に!と言う設定。

 

本作のD様はサービスが過ぎたので、此処で邪神ポイントを獲得。

終った物語を、ヒロインの眠りを妨げる暴挙!

ゲーマーブチ切れ案件。白織はこのラスボス推し。

アフター&アナザーのクリアで、少しは治まっていた。

 

因みに折原は、

15でも話題に出た最強魔術師ヒロイン推し。

移植版追加シナリオで盛り上がったタイプ。

 

クリフォト

闇精霊(ラルヴァ)に汚染されたエメラルド・タブレットの事。

直訳で虚無(クリフォト)。原作では虚無(クリフォト)の魔石ですが、

本作では虚無の魔石(クリフォト)。と読んでいます。




白織のラスボス推しは、何と無くのイメージ。
折原の方は、ただの趣味です☆

私が描きたくなった11クロスイベントは、
18で公開予定です。暫くお待ち下さい。

次回はソフィアの告白回です。


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17 もう一度私を、人で居させて

今回の展開こそ捩じ込みキャラクロス。趣味で登場させました。
ToHeartクロス。ファンタジー仕様の外付け設定有。

そして今回はソフィア告白回です。


『いつも済まないな?

 助かっている』

 

「………」

 

自身を抱き上げて歩くメイドは応えない。

当たり前だった。催眠のスキルの影響で、メイドに意識は無い。

赤ん坊の身だから、まだ言葉が話せない。

だから念話で話している訳だが、やはり意味は無かった。

 

ソフィアはまだ話しが有る様子だったが、

もう遅い時間だったので、一旦逗留先の宿屋に戻る事にした。

ソフィアとは、今夜また会う心算だ。

白織から夢枕の術式は聞いている。まぁ何とかなるだろう。

 

『この働きは、忘れない』

 

「………」

 

必要な事だった。そう信じている。

だが傍から見ればこのメイドが、貴族の子弟を連れ回している事になる。

赤ん坊の貴族の子弟をだ!処刑されても文句の言えない所業。

無論情報操作の催眠も行っているが、限界は有る。

 

色欲のスキルを取ってしまうか?

オリハルコンメタルは、自身も護れる。行ける気はしていた。

だが精神汚染は、本気で恐ろしいとも思っている。

 

『ありがとう。セリオ』

 

「………」

 

宿屋に着いて、少し休む事にした。

寝床に入れるように指示を出して、メイドのセリオを見上げる。

橙色の長い髪が、今日も綺麗だった。

 

催眠状態のセリオは応えない。

だが微かに、セリオが微笑んでいるように見えた。

 

 

「ソフィア」

 

「Ⅱ!

 これが夢枕なの?」

 

夢枕の術式は成功した。夢の中でソフィアと合流する。

ソフィアは夢の中で、ダイ大のゲームPC【ソフィア】似の姿になっていた。

今は赤ん坊のソフィアも、成長したらこの姿になるのか?

白織も人型に変身した時のアルビノの姿だった。

 

こちらは夢の中で、前回と同じ日本で高校生をしていたのと同じ姿!

何か扱いに差を感じるが、大した問題では無いだろう。

 

「そうだ。お互い懐かしい姿だが、それは良い。

 話しを聴こう」

 

「えぇ、そうね?」

 

そう言って、ソフィアが笑みを浮かべる。

ソフィアは一瞬想いを馳せるような顔をして、それから語り出した。

 

「私は、私が嫌いだった。

 私は何処に行っても、ゾンビ顔だホラー顔だ。

 吸血鬼だって言われたわ。今は本当の吸血鬼になったけど」

 

「………」

 

「笑えない話しよね?」と苦笑を浮かべるソフィア。

それが吸血鬼フラグだと言うなら、笑える話では無い。

 

「私は何処に行っても、人間扱いされ無かった。

 私はバケモノだったわ。他の人からしたら、私はバケモノだった」

 

「………」

 

「でも貴方は、Ⅱは違った。

 Ⅱの隣りに居た時間だけが、私が人で居られる時間だった」

 

「そんな大層な話じゃない」

 

ソフィア、根岸とは中学時代からの付き合いだ。

当時の根岸の事は知っている。

だが今のソフィアが言うような、そんな大層な話じゃない。

興味が無かっただけだ。だから嫌われ者の根岸に対しても、

ただその他大勢と同じ扱いをしていただけだ。感謝されるネタでは無い。

 

「知っているわ、興味が無かっただけ何でしょう?」

 

「なら、どうして?」

 

「言ったでしょう?

 それでも私が人で居られたのは、Ⅱの隣りに居た時だけだって」

 

ソフィアに抱き着かれた。

胸に抱き着かれて、その願いを聴いた。

 

「お願いⅡ。

 もう一度私を、人で居させて」

 

 

「ルールは解ったよ。

 それにアレが問題の黒の核晶。終焉と救済の引鉄って訳だ。

 D様。このゲームは私が参加しても?」

 

「えぇ、構いませんよ?

 存分に愉しませて下さい」

 

魔王アリエルは、直ぐにDの存在に気付いた。

気付いて、ゲームの参加を申し出る。

 

「キミとは休戦って事で良いかな?

 あの黒騎士とやらを先に仕留める!

 出来ればこの先も休戦したい処だけど」

 

「………」コクコク

 

そうしてくれると助ける。

この魔王様、廃スペック過ぎるから!

 

「そう、なら私はアリエル。

 キミは?」

 

「白織」

 

名前を訊かれているのだと気付くのに、少し遅れる。

名前交換とか!ヒッキーなゲーマーには難易度の高いイベントだった。

でも答えられた。私の名前は白織だから!

 

「なら、白ちゃんだね!

 行くよっ!!」

 

そう言って私に背中を向けて、黒騎士に向かって行く。

何とも頼りになる背中だった。

 

「カァァァッッッ!!!!!!」

 

だけど黒騎士も負けてはいない。

スペルビアを喪い、先陣を切るのはイラだった。

イラの様子が明らかに変わった。これはスキルの発動!

憤怒の支配者スキルだ。

 

「へぇ、やるねぇキミ?」

 

イラがあのアリエルと、互角の格闘戦を始めた。あのアリエルとだ!

憤怒は暴走系の自己ブースト!使いたくない類の手札。

圧倒的なブーストの代りに、正気を失う。

まぁ向こうはアリエルに任せよう。格上の心配をしても仕方無い。

 

「【怠惰】を捧げる」

 

「「ッッッ!!!!!!」」

 

声にならない二重の悲鳴を上げて、アケディアが消滅した。

怠惰の支配者スキルは放置して置くと危険なので、早々に処理に入った。

序にこれで、アリエルにも正しくルールが伝わったと思う。

 

「支配者スキルを捧げれば、数が減るって訳だ?」

 

イラと応戦しながら応えるアリエル。

アリエルは暴食の支配者スキル所有者だ。だけど暴食を捧げる様子は無い。

タイミングを計ってる?それとも自力で行く心算?

今はアリエルを信じるしか無かった。

 

「ベタン」

 

「ッッッ!!!!!!」

 

その暴食担当のグラが、私の方に向かって来る。

グラなら魔法が食べれると思っての配置だ。

インウィディアはイラの援護に回っている。

 

だけど魔術師系だと思って甘く見ないで欲しい。

ベタンの重力波がグラを捉えた!

やはり放射系は直ぐに食べられても、

フィールドに効果を及ぼすベタンは、一飲みとは行かないらしい。

グラはベタンも食べていた。だけどベタンもグラを潰し続けている。

 

「このままっ!!」

 

このまま押し切る!

そう思っていた私は聞く事になる。竜の咆哮を!

 

「アワリティア!」

 

ルクスリアと対峙していたアワリティアが、遂にその力を解放した。

クロウ・クルワッハの呪い。自らを竜に委ねる呪いの力だ。

戦場に突然!竜が現れて暴れる事になる。

今は一番近くに居るルクスリアを狙っているけど、これは!

 

「ッッ!!!」

 

案の定こっちにも飛び火して来た!文字通り炎のブレスが!!

【契約の虹】じゃ無いだけマシだけど、規格外の火力!

ベタンを維持出来無くなって後退する。

 

「あああぁぁぁっっっ、こっちも!!」

 

対するルクスリアも、竜を討伐しようと大火球を生み出す。

大怪獣決戦だった。

あっこれ、大火球の効果範囲内だ!巻き添えで死亡判定が入る!!

急いで効果範囲から退避しようとして、

インウィディアの蛇腹剣が伸びて来て拘束された。

 

「インウィディアッッ!!!」

 

アリエルが突破された!?と思ってインウィディアの方を振り向くと、

インウィディアの頭が半分位陥没していた。

陥没した頭で、意味不明の嗤い声を上げている。

最期の悪足掻きってヤツ!?タイミングが悪過ぎでしょう!!?

そうこうしている内に、ルクスリアの大火球が放たれた。

 

 

「Ⅱ?」

 

ソフィアを引き剥がせなかった。

頼られて、隣りに居たいと告げられて断れなかった。

引き剥がして見捨てられる程、ソフィアの事が嫌いでは無いらしい。

 

ソフィアを抱き締める。

すると安住の地を見つけたように、ソフィアも抱き着いて来る。

悪く無い。これが好意と言う感情である事を、既に把握していた。

 

「どうやら白織がマズイらしいな」

 

だがソフィアの感触を愉しむ甘い時間は、長く続かなかった。

オリハルコンメタルのパスを通じて、

白織の並列意思から現状報告!白織本人では無い処が、危険度高だ。

 

リアル黒騎士との戦い。支配者スキルの贄。魔王アリエル。

此処は戦場から遠く離れた場所で、自分は赤ん坊。

今から駆け着けても、何の役にも立たない。だが出来る事は有る。

 

「ソフィア、手を貸して欲しい。

 白織を助けたい」

 

「貴方は、まぁ仕方無いわ」

 

ソフィアが腕の中で、ヤレヤレ。と言う顔になる。

そして【出来る事】を伝えた。それは、

 

「支配者スキルの獲得と、放棄の宣言?

 支配者スキルって、Ⅱが散々危険視してたヤツでしょう?

 大丈夫なの!?」

 

「大丈夫だ。

 ソフィアも、護って見せる」

 

ソフィアの手を握って、その決意を口にする。

きっと今なら、オリハルコンメタルでソフィアも護れると確信した。

 

「解ったわ。

 Ⅱの事、信じるから」

 

強欲と色欲を修得。ソフィアは嫉妬を修得した。

憤怒は相性が悪く、暴食は既に席が埋まっている。

 

「【強欲】と【色欲】を捧げる」「【嫉妬】を捧げるわ」

 

そして修得したばかりの支配者スキルの放棄を宣言!

オリハルコンメタルのパスを通して、宣言は白織に届く。

 

「これで良かったの?」

 

「あぁ、これでもう出来る事は無い。

 後は白織の勝利を信じるだけだ」

 

 

補足/説明枠。

告白回の補足です。

 

メイド(セリオ)

折原の世話役のメイド。折原が外出する際に、抱いて歩く役。

結局立ち絵はToHeartのセリオが担当。キャラクロスです。

 

個人的にセリオは、サリエルとキャライメージが被っています。

脳内サリエルの立ち絵は、セリオが担当。

 

契約の虹

魂を七つの並行世界に分割して封印する!

と言うアワリティアの必殺技。

原作では竜になって暴走状態でも使用して来る。鬼畜仕様。

 

本作では使用不能。

因みにルクスリアも【奈落堕とし】は使えない設定。

 

頭が陥没したインウィディア

やったのは、勿論アリエル。

頭が陥没して動かなくなったので、後回しにしてイラに集中。

まだ息の有ったインウィディアが白織の方へ!

 

嫉妬でアリエルの暴食は封印されて、

捧げる事は出来無かった!と言う設定。

 

ソフィアも、護って見せる

オリハルコンメタルの真髄。または恐ろしいポイント。

好感度が一定以上のヒロイン(異性)が相手なら、

人数無制限!と言うチートスキル。

但し折原はハーレムキングでは無いので、その用途は実行不能。




ToHeartのセリオがクロス登場しています。
今回はチョイ役ですが、後でファンタジー仕様になります。

次回は黒の核晶奪取戦クライマックス。悪夢回です。


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18 お休みなさい、ルクスリア

黒の核晶奪取戦クライマックス!


『【強欲】と【色欲】を捧げる』『【嫉妬】を捧げるわ』

 

「オリくん、ソフィア」

 

オリくんとソフィアの声が聞こえた。

すると蛇腹剣の拘束が解けて、インウィディアは灰のように崩れ堕ちる。

 

「アワリティアとルクスリアは!?」

 

さっきのオリくんとソフィアの声。

嫉妬だけじゃなくて、強欲と色欲も捧げられていた。

ならアワリティアとルクスリアも!と期待を込めて確認したけど、

アワリティアとルクスリアは健在だった。

 

アワリティアは苦し気にのた打ち回り、

ルクスリアも大火球の制御を失い、地上に落下している。

弱体化はしているらしい。

 

「中々楽しかったよ。

 次が有れば、正気のキミと戦いたかったかな?」

 

どうやら向こうも決着が着いたらしい。

立っているのはアリエルだ。

イラはノイズを上げながら消滅した。

 

「魔法担当!」

 

アワリティアとルクスリアが弱体化している内に、止めを刺す!

魔法担当と協力して、二つの魔法を同時展開。

 

「メドローアッッ!!!」

 

まずはデカブツのアワリティアだ。

あの竜の巨体で、メドローアを回避する余地は既に無い!

 

「随分世話になったけど、未練は無い。

 【暴食】を捧げる」

 

アワリティアのカバーに入ろうとしたグラが、

アリエルの宣言で消滅した。

メドローアは暴食で止まる事無く、アワリティアを葬る。

 

「残りは、ルクスリア一人!」

 

ルクスリアは、地上に墜ちてまだ倒れていた。

私は二発目のメドローアを構える。

メドローアなら、クリフォトを完全消滅させられる筈。

もう魂の残り香になってまで、使い潰さる事も無い!

 

「メドロー………」

 

これで終り!ルクスリアにメドローアを放とうとしたその時、

ルクスリアが輝き出して、辺りが光りに飲み込まれた。

 

 

「此処は、知ってる」

 

光りが治まると、また別の場所に居た。

今度も日本の街並み。でもこれは知っている。

平進高校が在る地元の街だ。空も普通に青い。そして何より、

 

「この姿も、懐かしい気がする」

 

私は日本に居た頃の、黒髪の女子高生の姿に戻っていた。

下半身も足が二本!普通に人間の足だった。

懐かしい二本足は、何だか鈍足過ぎる気がした。

 

「この展開。アレだよね?」

 

この展開は心当たりが有る。

判定無しでこれがそうだと気付けた時点で、

多分オリくんのオリハルコンメタルは有効。

それでもこうして見えているだけ、これの凄まじさを体感する。

 

直ぐに叡智様で干渉して、事態を打開する事も考えたけど。

私は好奇心に駆られて街を行く。

自分がどんな悪夢を見る事になるのか、興味が湧いたからだ。

 

「オリくん、ソフィア!?」

 

無意識に歩くのを委ねると、辿り着いたのは教会だった。

何だか見覚えの有るクラスメイトらしい人達が、参列している。

何の集まりかって?これは結婚式だ。

 

オリくんとソフィアの結婚式だった。

オリくんの礼服姿も決まっていたけど、ソフィアが!

ソフィアのウエディングドレス姿が、とても綺麗だった。

 

何て言ったら良いかな?幸せオーラを噴出している。

あのソフィアが!いつも影を落としている感じのソフィアが、である。

私はそれを見ているしか出来無い参列者だった。

 

「やっぱりこれって幻燈結界(ファンタズマゴリア)!!?」

 

ファンタズマゴリアとは!

原作でルクスリアが得意とした、凶悪な幻覚結界である。

捕らえた者の精神をズタズタに破壊して、SAN値直葬に追い込む。

原作でも、某実戦部隊が壊滅している。

 

「ああああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!」

 

幻覚だとしっかり認識しているのに、ガンガンSAN値が減る!

結婚式のイベントが進んで、指輪交換!誓いのキスシーンへ移行!

 

オリくんが、ソフィアとキスしてるぅぅぅっっっ!!!!!!

飛び出して止めたかった。でも、

ソフィアが余りにも幸せそうだったから、つい躊躇してしまう。

性質が悪いよ、ファンタズマゴリア!流石の悪名高さだ!!

 

「まだ、続くの!?」

 

その後は呆然とヴァージンロードを見送って、

ブーケトスも逃す事になる。ブーケを手にしたのは、男の大島君だ。

女子の参列者から非難の声!でも大島君の周りは盛り上がっていた。

 

しかも悪夢は結婚式だけで終らなかった。

オリくんとソフィアは、マイホームを購入した。

結婚式編が終り、次はイチャコラ夫婦生活編らしい。

 

「ちょっとこれって、まさかだよね!?」

 

流石は某実戦部隊をSAN値直葬に追い込む悪夢!

ファンタズマゴリアは情け容赦無かった。

オリくんとソフィアは、初日の夜から夫婦の営みに突入した。

 

ベッドに押し倒されるソフィア。

その姿に抵抗の素振りは無い。

 

私は耐えられなくなって廊下に出る。

廊下に出て目を閉じて耳を塞ぐ。それでも声は聞こえた。

 

「アアアアアアッッッッッッ!!!!!!」

 

余りのショックで、結界を破る事も忘れて倒れる。

倒れて、夜が明けた。

 

それからはもう!散々な展開だった。

その後も毎晩営みが行われて、私はそれを見せ付けられ続ける。

やがてソフィアのお腹が大きくなった。

妊娠→出産とイベントが進んで、オリくんとソフィアに子供が産まれる。

 

生まれた子供は、ソフィア似の女の子だ。可愛い。

私は子供を産みたく無いと思っている。

それは禁忌をカンストさせて、この世界の真実を知ったからだ。

気持ち悪かった。自分が殺した相手が、

自分の子供として産まれるかもしれない現実が!

 

それでも子供は可愛いかった。

また笑顔が増える。だけど、其処に私は居ない。

 

「そもそも何で私が居ないかな!?」

 

これはアレなの?私が不在。

帰って来なかった世界線の結末とか、そう言うヤツ!?

だから私が居ないの!!?

 

「それとも、アルビノじゃないから?」

 

自分の髪を見る。

黒髪だった。日本に居た頃の黒い髪。

 

オリくんは私の事を好きだと言ってくれた。

でもオリくんは、アルビノ好きだった。

それで私がこの世界に居ないのかもしれない。

 

「YES]

 

保留していたタッチパネルをクリックする。

Dの事とか!戦闘ノウハウとか!どうでも良くなった。

私はただ、オリくんと一緒に居たいだけだった。

 

 

≪スキルを還元します≫

≪ステータスを還元します≫

≪称号を還元します≫

≪スキルポイントを還元します≫

≪経験値を還元します≫

≪D謹製『神の基本講座』をインストールします≫

≪神化を終了します。これ以降システムサポートを一切受けられません。

 ご利用ありがとうございました≫

 

神化が完了した。

Dは戦闘ノウハウが一旦零に!と言っていたけど、

→システムサポートを一切受けられません。

と言う一文が、一番拙かったと思う。

 

オリくんのオリハルコンメタルのパスが、切断されている。

復旧の目処は、多分無い。

私が神化してスキルが、互換性の無い下位システムになった所為だ。

PS1でPS2のゲームはプレイ出来ない。それと同じ事。

オリくんのオリハルコンメタルに護られている感覚が恋しい。

 

そして危険な行為だったとも思う。

仮にもファンタズマゴリアの只中で、アレが悪夢だと気付けたのは?

間違い無くオリハルコンメタルの効果だ。

それが神化に因って切断された訳だから、

神化と同時に、悪夢に囚われても可笑しく無かった。

 

だけど元々ファンタズマゴリアは、

それが悪夢だと認識さえ出来れば破れた筈。

神化完了後に悪夢は破れて、現実に帰還する事が出来た。

 

「はっ!?サリエル様!!?」

 

どうやらアリエルも悪夢に囚われていたらしい。

今、正気に戻りました!と言う顔をしている。

 

「行ける」

 

スキルを、ステータスを、称号を、

残ったスキルポイントも、経験値も還元した。

Dの言っていた通り、戦闘ノウハウは組み直さないと行けない。

このままでは、本来なら木偶の坊の案山子だった筈。

 

だけど私はショートカットに成功していた。

神化後。ファンタズマゴリアに囚われる事で、

戦闘ノウハウを、悪夢の中で組み直した。

たった今出て来たのは、その後だ。私はもう戦える。

 

私は再度!メドローアを構える。

ルクスリアは、立ち上がろうとしていた。

その姿に、もう私が知っているルクスリアの覇気は無い。

 

「お休みなさい、ルクスリア。

 リーゼロッテ・ヴェルクマイスター」

 

メドローアを放つ。

もう二度と、貴方の眠りが妨げられませんように。

そう祈りを込めて消し飛ばした。

 

「おめでとうございます。

 黒の核晶!GETです☆」

 

はいはい。そうでした。一応それが目的だった。

空が青く晴れて、黒い月が大地に降りる。

事情を知らない原作キャラが居たら、

奈落堕としEDに見える展開である。でも此処に原作キャラは居ない。

無事に黒の核晶も手に入れる。

 

「これからどうする?」

 

色々と終った事を悟って、アリエルが話し掛けて来る。

結局手に入れた黒の核晶を含めて、やるべき事は多々有るだろう。でも!

 

「えっ人型になったから、オリくんを迎えに行く?

 あぁうんそっかぁ~、白ちゃんにはちゃっかり番が居るんだっけ?

 いやいや、番が居るのは大切な事だと思うよ?」

 

神化してアルビノになった事を散々確認して、

足も二本になって街へも自由に入れる!これでオリくんを迎えに行ける。

 

少し、ファンタズマゴリアで見た悪夢に魘されていた。

早くオリくんに逢いたい!そんな気持ちに囚われている。

 

「もう少し、待って貰えるか?」

 

先を急ぐ私の前に現れたのは、黒い人。

この異世界の管理者。黒龍ギュリエディストディエス。

まだ続くの?もう終りで良く無い!?

 

 

補足/説明枠。

異世界転生編も、もう終盤です。

 

強欲と色欲を捧げる

仮に七大罪の支配者スキルを全て揃えて挑んでも、

ルクスリアとアワリティアは、執念で残存する展開!

強キャラのスペルビアが、素直に沈むだけで御の字とも言う。

刀使いは優遇傾向な気がする。

 

逆に本作では、グラが強化されたと思う。

ダイ大原作でもメドローアをマホカンタ出来るので、

暴食でメドローアを処理出来る判定。

 

ファンタズマゴリア

11原作でも、猛威を揮ったファンタズマゴリア!

18禁攻めも余裕で出ます。

原作でも痴漢に遭って倒れる白織です。

恋人が他の女と営んでいるのを目撃したら、確実に倒れます。

 

悪夢だと認識出来る時点で、オリハルコンメタルは有効。

どんな悪夢だろう?と、確認しようとしたのがアウト。

自分でブラッドリミッターを解除するのと、同じLvの行動。

 

今回のソフィアの結婚式は、SANチェックが一番低い悪夢。

18禁攻めを解禁すると、酷い展開に堕ち続けます。

 

この悪夢イベントは白織に、

【でも子供は可愛い】と思わせる重要フラグ。

 

原作の白織は赤ん坊のソフィアも、もぐもぐしようとした程!

【美味しそう】から【可愛い】に、

人間的感性にジョブチェンジさせるには、数多くのフラグが必要。

今回の実体験もその一つです。

此処から私が最も描きたい、白織三大イベントに繋がります。

 

突然の11クロスで混乱したと思います。

ですがそれは、このファンタズマゴリアのイベントを描きたくなったから。

と言う事にして下さい。他にも理由は有りましたが、主な動機はそれです。




決戦+白織フラグに丁度良かった。と言う事。

次回は黒い人の出番です。


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19 私は、主に仕えるメイドですから

ファンタジー仕様外付け設定公開。
やはりサリエルとキャラ被りした気がする☆意図は無い。

今回は黒い人登場回です。


「HMX-13シリーズ。まだ稼働している者が居たのか」

 

剣呑とまで言わないが、警戒の域の態度だろうと思う。

黒い管理者の気配が変わった事を感じ取って、

白織が防御体勢に入る。こちらは抱き上げられたままだ。

 

突然話題に挙げられたセリオは、ただ静かにソフィアを抱き締めていた。

腕の中のソフィアは、この展開に困惑気味だったが。

 

状況を遡って回想すると、

ソフィアと二人で支配者スキルを捧げた後。

ただ祈りを捧げて待つのもアレなので、

夢枕は一旦切断しようとして、事態は動き続けた。

 

突然オリハルコンメタルが切断された。

これは白織とのパスだと!直ぐに気付く。

まさか白織が!?と思っている内に、

気付いたら理想のアルビノ美少女に抱き締められていた。

 

『白織、なのか?』

 

「………」コクコク

 

自分を抱き締めるアルビノ美少女が、白織だと直感で悟る。

白織の名前を呼ぶと、自身を抱き締める力が強くなった。

こっちは赤ん坊の身何だが?と抗議したくなったが、

何か白織の様子が必死なので、されるがままにする。

 

『何が起きてるの?』

 

抱き締められたまま辺りを見渡すと、

知った顔。知らない顔が揃い、知らない場所に居た。

 

まずは直ぐ隣りに、セリオに抱かれたソフィアが居た。

察するに、

白織に抱き上げられるまでは、自身もセリオに抱かれていたと思われる。

 

『さぁ?同窓会じゃない事は確かだ』

 

他は知らない面々だ。

少し露出度の高い黒い少女と、やはり黒いフルアーマーの男が居る。

だが他にも居そうな気配!レアセンサーを使って状況を把握する。

 

「おや、これは鑑定かな?」

 

何と言うか?見せ札らしい情報はGETした。

この露出度の高いのが魔王アリエル。

こっちの黒い男が、この世界の管理者。黒龍ギュリエディストディエス。

所在がハッキリと解らないナニカは、恐らくDだ。一度会ったから解る。

これは何の集まりだ?ED後の声優座談会か!?

 

『HMX-13シリーズ!?』

 

そろそろ何の集まりなのか確かめたかったが、

黒い管理者が気になる事を口にするから、訊ねて見る。

 

「システム構築以前に造られたオートマタだ。

 元々は家庭用メイドロボだったらしいが、信じられん」

 

何でもシステム構築以前の前文明の時代。

龍が人類を滅ぼして、事態を終息させようとした時代。

HMX-13シリーズは、対龍戦争用に改修。

サリエル程では無いが、多くの龍の犠牲者が!と語られた。

 

「ネットワークが切断されて、HMX-13シリーズの戦力は激減した。

 それからHMX-13シリーズが、戦場に姿を見せる事も減り続けた」

 

HMX-13シリーズには、

【サテライトサービス】と言う万能対応システムが有った。

だが戦争末期に、龍が送信衛星【サザンクルス】を撃墜。

HMX-13シリーズは、サポート無しの戦いを強いられて敗退。

歴史から姿を消した。と言う事らしい。

 

オートマタ HMX-13 LV―― 名前 セリオ

 

改めてセリオをレアセンサーで確認すると、ハッキリと確認出来た。

特に疑う事無く人間だと思って、チェック漏れが有ったか!

こんな身近な処でウルトラレアが!何と言う不覚!!

 

「予想外の展開だが、訊かせて貰えるか?

 君は何を為す心算なのか」

 

 

「私は、主に仕えるメイドですから」

 

怯む事無く答えるセリオ。黒い管理者の目が鋭くなる。

序にセリオに抱かれたソフィアが、

巻き添えで矢面に立たされて、SANチェックが入る。

こちらは白織が献身的にガードしてくれている。平和だった。

 

「その様子では、対龍兵装も無いようだな?」

 

「追加オプションが健在なら、私はまだ戦っていました」

 

黒い管理者が矛を収める。

取るに足らない存在だとでも、認識したのか?

 

「ツヴァイ様。申し訳有りません。

 私は、今まで素性を」

 

セリオが人間では無かった!とか、オートマタだった!とか、

過去に数多の龍を屠った!とか、その辺りは別に良い。

寧ろウルトラレアで素晴らしい!だがら確認しなくては行けないのは、

 

『催眠は、効いていなかったのか?』

 

「ツヴァイ様が、

 何を望んでいるのか把握するのに都合が良かったので、

 掛ったフリをしていました」

 

『セリオの肌の、リアルな感触は!?』

 

「ナノマシン製の人工皮膚です///

 人と同じように新陳代謝もしますし、魔法で治癒も可能ですから」

 

入浴時には散々世話になったセリオの人肌が、

あれがナノマシンの人工皮膚!ナノマシンの高性能さを実感する。

 

因みに動力は、背面の翼での受信がメイン。

だが戦争で翼を喪失。

以降はサブ動力で、日光浴で賄っていたらしい。太陽光発電だ。

但し全力戦争稼働となると、MAエネルギーをガンガン消費する。

 

「オリくん?」

 

『入浴だ。他意は無い』

 

白織の、こちらを抱き締める力が強くなる。

だが言葉通り他意は無い。身の潔白を訴える訳だが白織は、

 

「オリくんは、私が育てる」

 

何かとんでもない宣言をされた!

目が本気だった。

と言うか?今更ながら、白織の目が閉じられている事に気付く。

 

「ダメ?」

 

『そう言う訳じゃないが、子育ては大変だぞ?』

 

「頑張る」

 

『どう思う?』

 

これを訊いたのはセリオだ。

此処は百戦錬磨のメイドなセリオの意見を訊こう!

 

「誰にでも初めては有ります。

 ツヴァイ様が宜しければ、任せても良いのでは?

 私も今まで通り、サポートします」

 

セリオがそう言うなら、大丈夫か?

自分で言うのもアレだが、子育ては綺麗事だけでは無い。

愛が無いとやっていられない。

自分の子供だから、この苦行を乗り越えられるのだと思っている。

 

『白織。

 今気付いた訳だが、目はどうした?』

 

「………」

 

そう訊くと、白織は口を閉ざして俯いた。

俯いて沈黙してしまう。地雷ワードだったか!?と思った処で、

確かに聴いた。「気持ち悪いから」と。

 

「そろそろ、話しを戻しても良いですか?」

 

だがその話しは其処までだった。

セリオの素性や白織の発言で脱線していたが、

これが何の集まりなのかも聞いていなかった。

 

「では、管理者サミットを始めましょう☆」

 

 

『管理者サミット!?』

 

大事である。辺りを見回す。

恐らく議長ポジの邪神D。

この世界の管理者である黒龍ギュリエディストディエス。

魔王アリエル。

そして黒の核晶を手に入れた白織。此処までは良い。

だが何故此処に、自分やソフィアまで居るのか!?

 

「貴方は黒の核晶を発見した功労者。私が転移で召喚しました。

 誇って良いですよ?今までの歴史の中で、誰一人辿り着け無かった快挙です」

 

それで夢枕で繋がっていたソフィアも、転移してしまったらしい。

同じ部屋に居たセリオも同様だ。これが事故かどうかは怪しいと思うが、

因みにセリオがソフィアを抱いていたのは、

転移して空中に放り出された際に、床に落下する前にキャッチしたからだ。

セリオはプロのメイド。素晴らしい察しの良さである。

 

「黒の核晶の、用途を訊きたい」

 

管理者のトップ会談で、世界Lvの様々な議題が上がった。

だが一番の議題は、白織が手に入れた黒の核晶の扱いだ。

このMAエネルギーの塊を、何に使うのか?

禁忌をカンストさせた面々なら把握している。世界のガチの危機を!

絶賛開催中の人類浄罪ゲームを終らせる事も出来る。

黒い管理者の話しでは、危険値を脱する事が出来るらしい。

 

「白織?」

 

「………」コクコク

 

白織に意見を求められるが、白織は答えない。

白織を見上げると、頷かれた。代わりに答えて欲しいらしい。

 

『白織に代わって答えよう。構わないか?』

 

「良いだろう。聞かせて貰おう」

 

『黒の核晶のMAエネルギーを、世界の為に使う事に異議は無い。

 だが諸悪の根源であるポティマス・ハァイフェナスの処刑を優先したい。

 処刑確認を以って、黒の核晶は管理者に譲渡する。

 それが黒の核晶所有者の意見だ』

 

「ポティマス・ハァイフェナスの処刑が条件か、妥当な線では有る」

 

ポティマス・ハァイフェナスが原因で、かつての世界は滅び掛けた。

そしてまた!人類が浄罪ゲームで永い時間を掛けて稼いだMAエネルギーも、

無駄に消費させられている。これはキッチリ処刑しないと話が進まない。

 

その後は問題のポティマス・ハァイフェナスを処刑したい魔王アリエルが、

率先して計画を立てた。大きな戦争を起こして、

エルフの里を包囲陥落させる計画だ。

だがこの計画は、想定外の結末を迎える事になる。

 

「フェンブレン・ツヴァイ・サイサリス。

 私の後継者に指名したい。どうだろうか?」

 

サミットが終り各々が動き、世界が動き出す。

その去り際に、黒い管理者が話し掛けて来る。

それは次期管理者の指名。大きな選択だった。

 

 

補足/説明枠。

異世界転生編も、次でラストです。

 

対龍兵装(追加オプション)

翼からエネルギーを受信して放つ、龍を屠る対龍兵装【サテライトキャノン】。

セリオは戦争で翼を喪失しているので、

対龍兵装が使えない状態である事が一目で解る。

そもそもエネルギー供給元の、送信衛星サザンクルスも撃墜されています。

 

サテライトキャノン

割と有名なセリオのネタ兵器。

恐らく原作設定では無い筈ですが、割と定着している。

ロボ系ヒロインは、衛星砲を使える!と言うお約束のネタ設定。

 

ナノマシン製の人工皮膚

セリオのキャラなら、淡々と解説に入る場面ですが?

本作のセリオは稼働時間が長く、多少は人間臭い反応をしている設定。

 

フェンブレン・ツヴァイ・サイサリス

久々過ぎる気もするので念の為。↑が折原の転生名です。

白織はオリくん。ソフィアはⅡ。セリオはツヴァイ様。と呼んでいます。




スキップしましたが、世界情勢の情報交換もしている設定。
白織が頷いたのは、好きな条件出して良いよ☆と言う合図です。

次回で異世界転生編もラスト。エピローグ入ります。


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20 欲しいのは白織だ

今回で異世界転生編も完結です。
エピローグ入ります。


「君はこの世界を救った。誇って良い事だ。

 私は君の力(レアセンサー)に、希望を見た」

 

どうして自分が?と言う問いの答えは、

黒い管理者の答えは、それだった。

 

「サミットは終ったのに、

 愉しそうな話しをしていますね?」

 

他の面々まで集まって来る。

そもそも人間で勤まる仕事なのか?

 

「厳しいでしょうね?

 仮に勤まっても百年も働けないようでは、予め他の候補を選ぶべきです」

 

デスヨネー☆

異世界でも人間の寿命は変わらない。

医療が発展していない分!日本で過ごすより早く死にそうだった。

 

「既存の魔法では限界が有ります。

 スキルは、お勧めは出来ません」

 

お勧めは出来無い。と言う事は、不死系のスキルが存在するのか?

それとも転生系?自分達も現に転生している。

 

「不死も転生も、システム内のスキルです。

 システムその物。場合に因っては、

 その外側も管理する管理者は、

 システムに頼る事無く長期間管理出来る者が相応しい。と言う事になります」

 

丁寧に説明してくれるD。

結局は人間には不可能!と言う事でOKでは?

 

「ですから、オリくんさんも神化しましょう!」

 

神化って、白織がとてつもなく苦労してなったヤツでは!?

それこそ人間には不可能なのでは?

 

「通常の手段では無理です。

 ですがこの話題を出したのは、ギュリエディストディエスです」

 

「龍の血、か」

 

古来より龍の血を飲んだ者は、強大な龍の力を得られると言う伝説が有る。

これは実話らしい。詰り、

これから成長するに伴って、定期的に龍の血を飲み続ければ?

人の身でも、神化可能な器に成長出来る!と言う事だ。

 

「丁度赤ん坊ですから、初めから魔改造出来ますよ?」

 

愉しそうなDの声!

随分丁寧で親切だったのは、この為か!?

 

「確かに管理者の仕事は大変です。

 私も良くサボリます!」

 

うぉい、それで良いのか!?地球の管理者!

しかしDなら、それでも仕事はしっかり片付けていそうな気もする。

 

「あら?高評価ありがとうございます☆

 それでですね?悪い事ばかりじゃないですよ♪

 何と言ってもオリくんさんの場合!蜘蛛さんとずっと一緒に居られますから」

 

白織と?

何の話だ!?と、白織を見上げる。

 

「蜘蛛さんは神化しました。

 不老不死達成です。これから永劫に生き続ける事になります。

 対する恋人のオリくんさんは人間です。百年も生きられないでしょう。

 蜘蛛さんを、独り残す事になりますよ?」

 

グッハァァァッッッ!!!!!!

少しSANチェックが入った。日本で恋人同士になって日も浅い内に死亡!

異世界転生しても無事再会!その上恋人が理想のアルビノになって、

これからイチャコラライフを始めようと言うのに、この仕打ち!!

 

『是非とも宜しくお願いします』

 

「はい!承りました☆」

 

「う、うむ。

 その決断。有難く受け取ろう」

 

凄い愉しそうなDと、平静を装うギュリエディストディエス。

本当は楽隠居して、ゆっくり過ごしたいだけでは?

と言うツッコミは入れない。これから世話になる相手だ。

 

 

「オリくん」

 

「此処だったか、白織」

 

オリくんの故郷、サリエーラのサイサリス領。

そのサイサリスを一望出来る屋敷のバルコニーで、私は佇んでいた。

何と無くそんな気分。

翌月から学園に通う事になる。少し感傷に浸っていた。

 

あの管理者サミットが終って、私はオリくんと一緒にサイサリスへ!

もう私は人型になったから、堂々と街に入れた。

邪眼で街の様子は窺えたけど、やっぱり体感するのとは違う。

初めての異世界の街!(実体験)

オリくんはまだ赤ん坊で同伴だけど、案内の序にプチデートもした。

異世界スイーツも美味しかった。

念願の洗顔アイテムや新しい服は、屋敷で用意してくれた。

 

オリくんの自宅(屋敷)へは、メイドとして入り込んだ。

これが一番楽な入り方。翌日からセリオの後輩になる。

日本では萌え職業と認識され易いメイドだけど、普通に大変。

ステータス的には問題無かったけど、

初めてのメイドの仕事に、苦労する事になる。

 

それから私はメイドを、

オリくんは貴族の教育と、将来管理者になる為に頑張る事になる。

私のように大迷宮で地獄のサバイバルを敢行する訳じゃない。

でもオリくんは、私の為に大きな選択を選んだ。私と生きてくれる為に。

 

「本当に、良いの?」

 

オリくんは立派に成長した。

もう翌月から学園に通う年まで成長して、神化の準備も順調だった。

この調子なら学園を卒業する頃には、神化可能らしい。

オリくんが管理者になる日も近い。

 

「これからずっと白織を独り占めにする。ダメか?」

 

「ダメ、じゃないけど」

 

私は不安だった。だって私は、

オリくんがそんなに想ってくれているのに、未だに身体を委ねていなかった。

子供を産むのが気持ち悪い。それが何も変わらない。

 

「子供の事か?なら問題無い!

 欲しいのは白織だ。子供じゃない」

 

「オリくんっ!!」

 

私はオリくんに抱き着いた。

私の言い分に此処まで応えてくれる人は、

きっと生涯でオリくん一人だと確信した。

 

この日を境に、恋人同士でやる事をやり始めた。

避妊魔法を使って子供は産まないようにしていたけど、

オリくんは本当に平然と受け入れてくれた。

 

それに関しては後悔する事も起きたけど、

今はまだ先の話だった。

 

「ぴぎゃぁぁぁっっっ!!!!!!」

 

我ながらアレだった。でもさぁ?

このタイミングで!このタイミングで、何でキスが瞼に来るかな!?

驚きの余り目が開く。人とは異なる目が、オリくんを捉える。

 

「見ないで、オリくん」

 

オリくんに、気持ち悪がられたくない。

瞼を閉じるのも忘れて、私は手で隠そうとする。

 

「白織。ハッキリ言うが、

 相手の眼球を数える機会とか、そうそう有る事じゃ無いからな?」

 

えっ!そうなの!?深く考え過ぎだったの!!?

目を開いたまま顔を上げると、抱き締められてしまう。

 

「二人で居る時なら、開ける」

 

でも眼球は余り動かさないようにしよう。

動かさなければ、何とか一つに見えるかもしれない。

 

「良し!目が見えた方が、もっと白織の事が解る」

 

「そう?」

 

それなら、と。

久しく開いていなかった目で、オリくんを見つめる。

見つめて、口に手を当てる。

 

「やり直し」

 

再度キスの要求。

キスをする時なら、目を閉じても可笑しく無いよね?

 

 

「白織・サイネリア?」

 

それが白織の新しい名前だった。

何とか入学に間に合った。

白織は学園でも着いて来ると言うから、急いで用意した。

 

「白織はどう考えても目立つ。

 メイド枠で連れて行くと、手を出すアホが必ず居る!」

 

白織のアルビノの美貌に衰えは無い。

まだ赤ん坊だった頃、白織が人型になってからずっとそのままだ。

 

学園には、メイド(使用人)を一人一名まで同行させる事が出来る。

白織はメイド枠で学園に行く為に頑張っていたが、

此処は能力評価で、セリオを連れて行く心算だ。

 

「だから入学生として、堂々と婚約者枠で行く!」

 

サイネリアは、信用出来るサイサリス傘下の家臣。

白織は書類上サイネリアの養子で、婚約者!と言う事になる。

これで学園でも、堂々と白織を独り占め出来る。

 

白織に手を出すアホを処刑して、

後始末で無駄な手間を掛ける事も無い。

 

「と言う訳で、白織の分の制服が届いた」

 

「制服!着る」

 

白織を部屋に案内して、制服の初着用を待つ。

勿論部屋の外で待った。

白織の肌を眺めては、抱き締めたくなって試着処ではなくなるからだ。

 

「オリくん」

 

白織の許可が入り、部屋に入る。

其処に顕在したのは、真新しい白い制服を身に纏った白織だった。

そう!普段から白い服を着る事が多い白織だったが、

学園の制服も白かった。

 

これは白織の意思でも、こちらのゴリ押しでも無い。社会の意思だった。

あの連合軍との空前の勝利で、神獣様ブームは沸き続けた。

神獣様を讃えようと!翌年から学園の制服も白くなった。

 

「どうかな?」

 

「制服姿の、白白織も素晴らしい」

 

そうして顕在したのが、この白制服白織だった。

この白織が婚約者。管理者になろうと後悔は無い。

 

 

補足/説明枠。

異世界転生編も、これで完結です。

 

スキルの限界

節制の支配者になっても、いつ転生出来るのか?

転生出来ても無事再会出来るのか?それは保証出来無い。

 

龍の血

ダイ大設定。ポップやラーハルトが蘇生したヤツです。

身体の成長と共に定期的に龍の血を接種する事で、

神化に必要な器に鍛え上げる事が出来る!と言う設定。

 

欲しいのは白織だ。子供じゃない

白織を想っての発言!と思わせて、実は子供嫌い。

余程惚れた相手との子供で無い限り、愛でる事は無い。

子供より嫁が大切なタイプ。

 

避妊魔法

効果は文字通り。

学生時代は白織だけでは無く、ソフィアも世話になった。

そう!一見白織ルートだが、しっかりソフィアとも婚約している。

 

学園卒業後は?

特に妊娠出産に忌避感の無いソフィアと、一年目でお察しの展開に!

それを見て焦った白織も避妊魔法を使うのを止めて、

二年目で!と言う事になる。

 

白織三大イベント

今の時点で二つまでクリアしています。

1/目が気持ち悪い。

  と言っていた白織の瞼にキスをして、目を開かせる。

2/子供を産むのが気持ち悪い。と言っていた白織に、

  「欲しいのは白織だ。子供じゃない」と言ってプロポーズ。

3/子供を産むのが気持ち悪い。と言っていた白織に、

  「オリくんの子供を産む」と言わせる。




白織が神化して、ツヴァイの年齢調整も終了しました。
次の企画は平和な?学園生活です。


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異世界学園編
21 退屈で平和な学園


復帰しました。
異世界学園編再スタート。
旧25で使う予定だったシナリオを再編。


「準備は万全らしいな?」

 

「………」コクコク

 

試着以来の白い制服に袖を通す。

メイド服も着慣れたけど、これも悪く無いと思う。

 

今日から遂に学園生活が始る。

だけど今年は色々有るだろう事も予想の内だった。

いつもならアナレイト王国の学園に行く筈の留学生が、

今年は揃ってサリエーラのサダルメルク学園へやって来る。

今年に限ってサリエーラが門を開いて、留学生を受け入れたからだ。

 

この流れに各国が同調。

サリエーラは異教の国なのに、希望者が続出。

これには勿論理由が有る。

 

私が黒の核晶を手に入れた時に起きた戦争。あれが遠因だった。

黒の核晶が埋まった頭上で起きた戦争。

黒の核晶を知る私にとっては、とても愚かな行為に思えた。

私を巻き込むな!と。即座に戦いを終らせても文句は言えない暴挙だった筈。

 

私の介入で戦争は早期に終息。

サリエーラを侵攻した連合は総崩れを起こして壊走。

事の発端となったオウツは、サリエーラに逆侵攻されて属国になった。

 

オウツも神言教の信仰国で、

しかもエルロー大迷宮の在る国だから、統治は大変だと思う。

まぁ征服したサリエーラは頑張って欲しい。私の領分じゃないから。

 

でもこの戦争で、私の神獣の名が知れ渡った。

サリエーラを守護する白い神の如きタラテクト!とか、

本物の神獣様は、魔王やってます。そっちに行って下さい。えぇ本当に!

 

と言っても戦争に参加したのは私だ。

あの戦争から、私を探ろうとするヤツが増えた。

これは諜報機関って言うか、スパイってヤツだよね?

うん、鬱陶しいから尽く始末したよ!

誰でも知ってるあの黒い害悪か!?と思う程湧いた。でもそれを始末した私!

最近になって漸く湧きが止まった位だ。

 

此処まで来て漸く留学の話に戻る。

サリエーラは異教の国だから、長く留学生何て受け入れてい無かった。

だけどどう言う訳か、今年から留学生の受け入れを始める。

神獣の情報が欲しい各国は、これを好機だと捉えた。

パイプを作りたい人も居ただろう。

そんな訳で今年のサリエーラは賑う事になる。

 

「白織。手を」

 

「………」

 

世の中ではそんな動きが予想されるけど、私は気楽な学生生活を送る。

私は学園ではただの学生。

目が不自由で、婚約者であるオリくんの手に引かれる無力な女子生徒!

と言う設定で行く事にした。

他に目を閉じて生活する合理的な理由が浮かば無かったからだ。

 

「白織の目は綺麗だから、やはり残念では有るが」

 

「そう言ってくれるのは、オリくんだけ」

 

今はまだオリくんと二人だけだから、と。瞼を開ける。

私のこの紅い目を見て、綺麗だ何て言う人はオリくんしか居ない。

この目は多くの邪眼系の力を秘めた、ガチで即死級の危険物である。

何より眼球の数が人とは異なる。気持ちの悪い物の筈だった。

 

なのにこの目を見て綺麗だ何て言うのは、婚約者補正だと思う。

だけど綺麗だと言われるのが嬉しく無い筈も無くて、

こうして二人で居る時は瞼を開いている。

でも登校時間も迫っていたから、私はいつものように瞼を閉じた。

 

「恋人繋ぎ」

 

繋いだ手は、自然と恋人繋ぎにシフトしていた。

気持ちも繋がっているようで、嬉しくなる。

 

「ツヴァイ様」

 

オリくんのメイド枠で同行するセリオとも合流して、学園へ登校する。

座標は予め把握しているから、転移で王都まで移動する。

まだ少し時間が有るから王都を歩いて学園に向かうと、

噴水の在る中央広場の辺りで、オリくんの視線に気付く。

 

「【神獣の巫女】事件を、思い出していた」

 

「あれは、苦い経験」

 

あれは私が白織・サイネリアになって、まだ日が浅い頃。

オリくんの婚約者だと堂々と名乗れるのが嬉しくて、

一度だけ社交会に出席した。出席して、果てし無く注目され続けた。

 

若葉姫色の容姿を、Dの美貌を甘く見ていた。

何よりサリエーラの女神教信者を、甘く見ていた。

私の肌や髪がただ白いだけで、神獣の巫女だと謳い出した。

 

私は人混みに呑まれた。日本の通勤通学ラッシュかと思った。

これで痴漢が出ていたら、つい死傷者を出す処だった。

でも絵のモデルに!と言い出すヤツは居た。無断創作に走っていそうである。

 

そしてクタクタになって帰宅。

あれから社交会には出席して居ない。それでも随分噂になったらしい。

気付けば、あの時を彷彿とさせる視線が集まっていた。

 

 

「おはよう、Ⅱ。白織」

 

白織が視線を切ろうと後ろに隠れ出した頃、

予定通り学園の校門前で、ソフィアとも合流した。

ソフィアも学園に着いたばかりらしく、馬車から旅行鞄を下していた。

 

「ソフィアは一人なのか?」

 

ソフィアは一人で、車輪付きの結構大きな旅行鞄をコロコロしている。

実際に使うと解る事だが、車輪付きでも旅行鞄は重い。

非力なお嬢様の所業では無かった。

観察力の高い者なら、ソフィアの力が結構有る事に気付くだろう。

メラゾフィスが使用人枠で来るのかと思っていたが、違うらしい。

 

「メラゾフィスはお父様の側近だもの、

 それに男だから、女の園には連れて行けないでしょう?」

 

これから学園で三年、寮生活になる。

当然だが男子寮と女子寮で分かれている。

だが使用人の性別は判定されていない。

現に異性のセリオが、同行可能となっている。

部屋は流石に別室だった。隣りに使用人用の控室が有る。

 

だがソフィアは、自身の正体を隠さなければならない。

身近な者も少ない方が良い。

身の回りの世話は自分で出来るから!と押し切ったらしい。

 

「その証明の為に久しぶりに家事を手伝って、

 驚かれたわ、まだ何も教えて無いのにって」

 

「ソフィアは家事に自信が有るのか?」

 

貴族の身で、家事を習う機会は無かった筈。

ケレン家は真面な伯爵家である。余計にそれは無い。

これは日本に居た頃の経験の筈だ。

 

「それなりの苦労はしたから、

 一通り行ける自信は有るわ」

 

多くは語らない。

ソフィアは、転生を心から喜んでいるタイプだからだ。

転生したソフィアは、笑顔が増えたと思う。

今も微かに笑顔を浮かべている。

 

「どうしたの、Ⅱ?」

 

「ソフィアは、笑顔が増えたと思ってな?」

 

今度は少し驚いた顔。

そして空いている方の腕を取られる。

 

「それ、白織の手を取りながら言う台詞じゃないから。

 でもそう思うなら、それはⅡのおかげよ?」

 

こうして両手に花状態で初登校を果たす。

右手には白織が、左腕にはソフィアが、目立たない筈も無かった。

 

 

「門戸を開き、我々を迎え入れて頂いた事にまず感謝を。

 この経験を活かし、両国の理解と発展に尽力を誓います」

 

一応入学式は有った。

諸外国から留学生を迎い入れたのだから当然だった。

だが偉い人の話は異世界でも長く無駄である。

無駄では無かった事は、入学生代表の主席入学者の顔を確認した位だ。

 

主席入学者は留学生だった。

転生者の白織でもソフィアでも無い。知らない留学生。

と言っても肩書は知っている。レングザンド帝国の第二王子だ。

 

「アイツ、枝葉か」

 

気になったので、人混みに紛れて鑑定。

無許可の鑑定はマナー違反だが、入学式の人混みでは特定不能だろう。

そして確認した。レングザンド帝国第二王子、

レンバートン・レングザンドは、元クラスメイトの転生者。

【枝葉連理】。確か学年主席だったヤツだ。それ以外は知らない。

そのレンバートンがそれらしい宣誓を告げて、入学式は終了。

 

そして教室に移動。

教室は日本の大学でも在りそうな、見下ろし型の教室だった。

席は自由席だったので、迷う事無く最後席を選ぶ。

 

この手の自由席では、一般的に前に座った方が意欲的な生徒だと評価され易い。

多くの留学生が在籍する中。

サリエーラの自国生として、高評価を狙って行くべきだろう。

 

だが美人二人を両手に花!と言うのは目立ち過ぎた。

背後を壁にして視線を減らさないと、白織がストレスで倒れる!

それ程の視線が集まっていた。

 

白織に向けられる視線。

大半は【好奇心】と【興味】。

白織の美貌に惹かれた最も解り易い視線。

害虫である。どうでも良くは無いが、今はどうでも良い。

 

次に多いのが【探る】ような【観察】の視線。

神獣の巫女の噂を確かめようとする懸命な野次馬や、

少しでも神獣様の情報が欲しい、他国のスパイなども此処に含まれる。

 

最後に少数の【驚き】の視線。コイツ等は転生者だろう。

白織は、転生者から見れば白い若葉姫色だ。

転生前の知っている顔が、そのまま来たから驚いている感じだった。

 

実は白くなっただけのヤツは、白織以外にも居る訳だが?

その白くなったヤツが、白織を見て一番驚いている感じだった。

これはイベントが来るかもしれない。

 

『退屈』

 

初日はオリエンテーションで終り!と言う事は無く、講義は始った。

他国の留学生が居るから、と気合が入ったカリキュラムである。

だが転生者的には温い講義だ。転生者特権で、

この手の座学は早々にクリアしている。ヌルゲーだった。

 

『このLvなら、座学で学ぶ事は無いな?』

 

『退屈』

 

地獄の迷宮サバイバルを突破した経験を持つ白織は、

余程ヌルゲーなのか?同じ台詞が二回出た。

念話で愚痴る時点で、かなり配慮はされていると思われる。

 

『そうだな。なら、しりとりでもするか?

 【ゲームに出て来そうなワード縛り】だ』

 

『する』

 

応えは直ぐに返って来た。余程退屈だったらしい。

この後白織と、しりとりで退屈な時間を潰した。

こうした無駄な過ごし方も、学生らしいと言えば学生らしい。

それが学園生活の始りだった。

 

 

補足/説明枠。

遂に始った学園生活の補足です。

 

王都と学園

王都がサダルメリク。学園がサダルメルク。

素直に【サダルスゥード】か【サダクビア】で行け!

と言う感じですが、これで行く事に。

 

サダルメリクは水瓶座の星の名前。

サダルメルクは、某推し天使ヒロインの守護星。

サダルメリクが正式名称らしいですが、サダルメルクの方が馴染み深いです。

 

それなりの苦労

原作では、安アパートに住んでいた。と言う描写が有ります。

親が仕事で忙しく、家事を自分一人で担当していた。

直ぐに一人暮らしが出来るLvの家事能力!と言う設定。

 

白織は裁縫が得意なので、ソフィアは料理上手に設定しました。

材料費が低コストでも、美味しい料理!的な工夫系のヤツです。

↑エプロン姿で台所に立って、

(美味い)料理を作ってくれるソフィア!ってかなりハマると思う☆

 

白織以外の白いヤツ

お察しの通り、これはフェイ。

既に人型になっています。そして白いです。

若葉姫色と名乗る休憩中のDに、手を出した勇者☆

生きているのが不思議な位だと思う。アニメ版では株が爆上り中!




アニメ版最終回を視聴後、
現代兵器アタックを喰らわせてもポティマスなら、
情け容赦無い隔離と殺処分で即応して来そうだと思ったので、
旧21~24は全変更する事にしました。

後は断罪イベントが浮かんだ事。
レンの役目も減って、色々変更する予定。

次回はもう一人の白いヤツとの遭遇。
平和な学園ならではの展開だと思います。


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22 モラトリアムの贖罪

サブタイは↓と、
【漆原美麗の後悔】で行くかで迷いました。
どちらもネタタイトルです。


『まずは二度も聞いたから【退屈】から行くか、

 【ツ】→【ツンドラの帝王】』

 

『それは、初めから飛ばし過ぎ。

 【ウ】→【ウドラー】』

 

『と言いつつ、このネタを解ってくれる処が好きだ。

 【ラ】→【憤怒(ラース)】』

 

ツンドラの帝王と言うのは、

旧ソビエトの大型輸送機の事である。本当に巨大!だが其処が良い。

 

『続ける///

 【ス】→【スペルビア】』

 

『黒騎士ネタか。

 【ア】→【アワリティア】』

 

『【ア】→【アケディア】』

 

『此処から次のネタだ。

 【ア】→【アース】』

 

『【ス】→【スライム】』

 

『アナタ達は、初日から何をやっているの!?』

 

しりとりを続けていると、ソフィアから念話が繋がった。

オリハルコンメタルのパスは繋がっているから、

白織と念話を繋げているのに気付いたらしい。

 

『しりとり』

 

『退屈潰しだ。ソフィアもやるか?』

 

『し、仕方無いわね。私も退屈だったし?』

 

『【ム】から、

 ゲームで出て来そうなワード縛り』

 

『ゲームで出て来そうなワード縛り?

 ム、ム。【ム】→【夢魔】』

 

『ソフィア、エロい』

 

『ちょっとおぉぉぉっっっ!!!!!!』

 

『落ち着け、ただのしりとりだ』

 

ソフィアがエロいのは間違いでは無い。

解り易く身体の問題では無い。性癖の問題である。

普段のソフィアはオリハルコンメタルの効果で、

吸血鬼の吸血衝動もセーブしている。

これは吸血衝動が、空腹と言う状態異常だからだ。

 

しかし夜にする時には、興奮して枷が外れる。

枷が外れると、ソフィアは決まって吸血プレイに走る。

吸血しながらするのが、最高に好いらしい。

 

因みに白織は、完全に受け専である。

何度経験を積んでも何処か怖がる素振りが有って、

慈しみプレイがメインになる。

何と言うか?白織としていると、自分が優しくなれる気がして来る。

 

『【マ】→【魔法使い】』

 

『マは簡単ゾーン。

 【イ】→【イゴーロナク】』

 

『そうなの!?ってイゴーロナクって何!!?

 私は知らないんだけど!?』

 

『クトゥルフ神話に出て来る邪神の名前だ』

 

『Dの同類』

 

どうやらソフィアは、クトゥルフ神話技能をミスったらしい。

イゴーロナクを知らないとか!有名な方だぞ!?

 

『解らないけど、解ったわ。

 【ク】→【草薙】』

 

『【ギ】→【ギルガメッシュ】』

 

『金ピカ王!なら、

 【ユ】→【ユグドラシル】』

 

『ル!ゲーム縛りでル!』

 

一般的に言って、しりとりは【ル】が強い。

ルのワードは少なく、相手にどれだけルを引かせるかで決まる。

とまで言われているのが、しりとりのキラーワードの【ル】である。

 

『ル【ル】→【ルーマニア】』

 

『オリくん?』

 

『ダメ、なの?』

 

『ルーマニアと言えば、吸血鬼伝説のお約束スポット!

 これはアリだろう』

 

『そう』『良かった』

 

文字通り胸を撫で下ろすソフィア。

やはりソフィアは、性癖だけでは無く身体もエロい。

 

『【ア】→【アンクル】』

 

『ルが!【ル】→【ルビカンテ】』

 

流石は白織である。

キラーワードのルでも、見事に返して来る。炎の四天王で来た。

 

『ルビカンテ?えっキャラ名なの!?

 【テ】→【テトリス】』

 

『【ス】→【スカイクラッドの観測者】』

 

『アレは名曲。

 【ヤ】→【ヤルダバオト】』

 

『これも邪神の名前なの?

えっ偽神!?何が違うの!!?』

 

『全然違う』『違うな』

 

『まぁいいわ、【ト】→【トレース】』

 

『【ス】→【STR】』

 

『ス攻め!?【ス】→【ストーカー】』

 

『白織!貴方まさか!?』

 

『違う』

 

『これは魔物の方のストーカーだろう』

 

『あら、てっきり白織がストーカー被害に遭っているのかと思ったわ。

 【カ】→【鍵穴】』

 

『そう言う輩は殲滅だ。

 【ナ】→【ナイアルラトホテップ】』

 

『その名前を出すのは危険。

 【プ】→【プルート(冥王星)】』

 

『今度は何のネタ?

 【ト】→【トライフォース】』

 

『と言いつつゼルダネタか!

 【ス】→【スライムべス】』

 

『またス!【ス】→【スコール】』

 

『それを言うなら、またルじゃないっ!!

 【ル】→【瑠璃】』

 

『苦しそうだが、ソフィアもルを突破したか。

 【リ】→【リンドブルム】』

 

『【ム】→【ムスペルヘイム】』

 

『難しそうなのが続くわね?

 【ム】→【無間地獄】』

 

『ソフィアのワードも、充分難しいからな?

 【ク】→【クァール】』

 

『即死攻撃!【ル】→【ルドベキア】』

 

『突破した!【ア】→【アルキード】』

 

『【ド】→【ドストエフスキー】』

 

『それもアリなの!?』

 

『罪と罰。有名。【キ】→【禁足地】』

 

『仕方無いわ。【チ】→【チート】』

 

『【ト】→【トロール】』

 

『力を貸して、

 【ル】→【ルクスリア】』

 

『【ア】→【アルトリア】』

 

『真名の方が来たか、

 【ア】→【アーク】』

 

『【ク】→【クトゥルフ】』

 

『【フ】→【不死身】』

 

『クトゥルフの後だと、格落ち感が酷い。

 【ミ】→【ミ=ゴ】』

 

『【ゴ】→【ゴルゴダの丘】』

 

『【カ】→【カルネアデスの板】』

 

『【タ】→【タルタロス】』

 

『【ス】→【スマホ】』

 

『これってアリなの!?』

 

『現代系のゲームなら、当然出て来る。アリだ』

 

『現代系!なら【ホ】→【ホーネット】』

 

『【ト】→【トヘロス】』

 

『また、スが続いてる。

 【ス】→【スパイラル】』

 

『此処で!?【ル】→【ルーラ】』

 

『【ラ】→【ラビリンス】』

 

『!!!

 【ス】→【ストール】』

 

【またル!?ル、

 【ル】→【ルード】』

 

『!!』『!!?』

 

この【ルード】は恐らく、ダイ大のルードだ。

ガルダンディーの騎乗竜。ソフィア、良く覚えていたな?

 

『どう!?』

 

『勿論アリだ。

 【ド】→【髑髏イーター】』

 

ならばソフィアの名解答に敬意を表して、

こちらもレア解答で応えよう。白織なら解ってくれる筈!

 

『隣りに行った!?

 【タ】→【タートナック】』

 

と言いつつ白織が行ったのは、隣り処か上空である。

タートナックはゼルダのザコキャラで、騎士の姿をしたヤツだ。

正面からの攻撃が効かない事が有名。地味に手強い。

 

『もう突っ込まないから!【ク】→【傀儡】』

 

『【ツ】→【ツヴァイ】』

 

当然ながら、これは自分の名前の事では無い。

元ネタとなるコードネームの方だ。

 

『【イ】→【イタクァ】』

 

『アもかなり出てる気がするわ。

 【ア】→【アース】』

 

『それ、もう出た』

 

『ちょっ!!?』

 

『長い戦いだった』

 

『丁度、講義も終りだろう』

 

最後はソフィアがダウトを引いた。

これは仕方無い気はするが、ダウトはダウトである。

講義も丁度終った。次はもう少し、真面な退屈の潰し方を考えるとしよう。

 

 

「本当にごめんなさいっっ!!!」

 

何だろう、この展開は!?

講義が終って、私は図書室を覗く事にしていた。

オリくんが次はもう少し真面な退屈潰しを考えよう。って言うから、

私は読書を選択した。Dが授業中に本を読んでいたのを思い出したからだ。

Dの真似をするのは少し悔しいけど、他に思い付く事が無かった。

 

それで図書室に行く事にしたんだけど、

其処で白い翼っ子に声を掛けられる。何やら話しが有るらしい。

 

連れて行かれたのは校舎裏だった。えっ初日からイジメ!?

穏便に済ませられるかな?と思っていたら、いきなり謝られた。

 

暫く何の事だか解らなかったけど、思い出した。

思い出した。と言うより、検索にヒットが出た!と言う感じ。

この子、若葉姫色(D)に喧嘩を売って来た子だ。

Dに喧嘩を売って、良く生きてるな~と思う。

Dって長生きしてるから、案外気が長いのかな?

 

Dの記憶では、

告った相手が若葉姫色の事が好きらしくて、

翼っ子はフラレてしまう。それが原因で若葉姫色をイジメるように!

だけど翼っ子は、Dのヤヴァさに気付いていない。

翼っ子の取り巻きは、Dのヤヴァさに気付いていたっぽい。

何度も翼っ子のイジメを止めようとしている。主に翼っ子の為に。

 

どうしよう?被害に遭ったのは私じゃないけど、

私も日本では、若葉姫色だった。

此処でアッサリ許したら、調子に乗るかも?

安い女に見られる?今後に響くかも!?なら、

 

「これで、許してあげる」

 

デコピン一発で許してあげよう!

デコピン一発で、翼っ子は格闘ゲームの敗者のようにフッ飛んだ。

フッ飛んで、校舎の壁に減り込む。

ピクピクしてるから生きては居る。多分。

 

「若葉さん!やり過ぎだっ!!」

 

「落ち着け、シュン」

 

何か新顔が増えた!翼っ子の、異世界の新しい取り巻き!?

威勢が良くて育ちも良さそうな男子生徒と、

世話女房っぽい赤毛の女子生徒だ。凄い美人さん。

どうやら少なくとも、男子生徒の方は転生者らしい。私を知っている。

 

「白織は充分手加減していた。

 龍がアレ程度で死ぬタマか?心配なら文句を言う前に、

 手当てなり保健室に連れて行くなりしたらどうだ?」

 

「オリくんっ!!」

 

オリくんだ!オリくんが来てくれた!!(ソフィアも居るけど)

ささっとオリくんの後ろに隠れる。

何だか色々面倒で、上手く手加減出来る気がしない。

 

「シュン、今はフェイを」

 

「解った」

 

男子生徒の、名前が解らないからA君で!

A君が翼っ子を連れて行く。それに続く赤毛美人。

何だか良く解らない内に、遭遇イベントは終ったらしい。

 

「白織。余り一人で行動するな。

 目が不自由な設定だろう?」

 

「………」コクコク

 

差し出されたオリくんの手を取る。

最初から大変だった。だけどこの手を握っていると安心する。

そう考えると、目が不自由な設定も悪く無いと思う。




前半のしりとりは、
ソフィアの吸血衝動の経過を描写する茶番。
後半はフェイの謝罪イベントです。
同じ学園で同じ立場なら、直ぐ起きるイベントだと思う。

次回はランチタイム。ガールズトーク回です。


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23 ガールズランチパーティ!

今回はランチタイムで、ガールズトーク回です。


「ねぇお昼。一緒にしない?」

 

「!?」

 

えっと、今度は何?この展開!

退屈な講義も前半戦が終了してお昼休み。

今度こそ三人で食堂まで来たら、

休憩時間にデコピンでフッ飛ばした翼っ子に、早々と再会した。

で、何故か昼食に誘われる。怪我はもう良いらしい。元気そのものである。

 

「【これで許してあげる】って言ってたから、

 お昼に誘っても良いかなって、ダメだったかな?」

 

うわっ凄いコミュ力!そして凄い根性!

眩しいっこの前向きさが、元ヒキコモリ系ゲーマーには眩しいっ!!

 

「あら、なら女同士でランチタイムと洒落込もうじゃない?」

 

「ソフィア!」

 

其処へ颯爽とフォローに入ってくれるソフィア。

おぉっソフィア、いつからそんなカッコイイヤツになったの!?

 

「え~っと、貴方は?」

 

「名前を訊く前に、まずは自分が名乗りなさい。

 でも良いわ、ソフィア・ケレンよ」

 

「そうだった。

 まだ名乗って無かったか、私はフェイ」

 

「龍。

 A君がマスター」

 

翼を隠していても解る。この子は龍だ。

アラバとも死闘を演じた私が、間違う筈も無い。

A君とのパスも探知出来る。

 

「A君?

 あぁシュンの事」

 

「S君」

 

「いや、名前で呼ぼうよ!!」

 

翼っ子改めて、

フェイと一緒の男子生徒を指定すると、名前を教えてくれる。

だけどどうしてだろう?名前を呼ぶ気になれない。

 

「まぁいいわ、じゃあ三人で」

 

「ソフィア」

 

「此処は私に任せて」

 

と言う訳で私とソフィア、フェイの三人で昼食を取る事になる。

オリくんはフェイの取り巻きの、S君と赤毛美人のテーブルの方へ行く。

うぅオリくんとまったり昼食を取る予定が!

 

「………」オロオロ

 

「ごめんなさい。婚約者さんと一緒の予定だった?」

 

「白織はⅡにべったりだから、気にする事はないわ」

 

「最初に確認して置くけど、もしかして貴方も?」

 

「私はソフィア・ケレン。それだけよ」

 

「うわっこの子絶対転生者だよ!

 って誰だか教えてくれないの?」

 

「言う必要が無いわね」

 

ソフィアは今の自分が好きだから、前世の事は余り語りたがらない。

でもフェイは、知りたいらしい。

 

「なら、私が知ってる転生者情報とトレードでどう?」

 

「連れの冴えないのが山田君で、

 赤毛の美人が大島君でしょう?鑑定で解るわ」

 

おぉっ今日のソフィアは冴えてる!何が有ったの!?

って、あの赤毛美人。大島君だったの?えっTS転生!?

 

「其処までして隠したいの、なら訊くけど。

 結局貴方は【若葉姫色】なのよね?」

 

「白織・サイネリア」

 

今度は私に話し掛けて来る。

頷いた。仕方無いから頷いた。序に正しい名前も伝える。

 

「って事は噂の婚約者は折原でOK?」

 

「………」コクコク

 

「うわっ照れた顔が可愛い☆

 これは男子がイチコロで堕ちるわ」

 

「もうとっくに、お持ち帰りされてるわ」

 

「マジで!?」「マジよ」

 

「ソフィアも、お持ち帰りされてる」

 

ソフィアだけ安全圏なのもアレなので、真実を暴露。

ソフィアの余裕顔が崩れる。

 

「ちょっとぉぉっっ!!!」

 

「事実」

 

「全然っ面影とか無いけど、確信したわ。

 貴方は根岸さん!?」

 

「勘の良い駄竜は滅べば良いのに」

 

 

「ごめん、ごめんってば。

 これからはソフィアって呼ぶから」

 

「私は生まれ変わったのに、私は生まれ変わったのに」ブツブツ

 

うわっ何かソフィアが呪詛を吐いてる!?

もう久しぶりな光景のような気がする。

私の知っているソフィアは、今のソフィアの方が長いから。

 

「そっとして置く」

 

「そう?って言うか、

 目、見えないの?」

 

「魔法で補助してる」

 

今度は目の事を訊いて来る。

それに答える事無く結果だけを伝える。嘘は吐いて無いけど、と言うヤツだ。

 

「マジで!?何本に見える?」

 

「V」

 

指を二本立てるから、こちらもVサインを作る。

その後も指の数を当て続けた。

これは透視系で無くても、聴覚強化や魔力探知でも解る。

 

「うわっ本当に解るんだ!?

 アレ、でもそれなら仲良さそうに手を繋ぐ必要は?」

 

「婚約者だから」

 

オリくんの手の感触を思い出しながら、

食堂に来るまでは繋いでいた、自身の手を包むように抱く。

 

「もう何て言うのかな?

 仕草の一つ一つが恋する乙女だわ」

 

そう?それは自分では良く解らない。

でもフェイは、頻りにうんうん言ってる。

 

「日本に居た頃は碌に話す機会も無かったけど、

 私の知っている若葉姫色とは、まるで別人。恋は人を変えるってヤツ?」

 

「………」

 

それはフェイの直感の方が正しい。

だけど答える心算は無い。面倒だし、

私のアイデンティティの問題になる。自己否定に走る気は無い。

 

「それで、どうして好きになったの?

 婚約まで決意した動機は!?」

 

うん、これは噂に聞く恋バナと言うヤツらしい。

好きになった理由?

一緒に過ごしている内にいつの間にか、と言うありふれた答えでしか無い。

婚約まで決意した動機?それなら、

 

「子供、産まなくても良いって言ってくれた」

 

「えっそれが惚気ポイントなの!?」

 

不思議そうな顔をするフェイ。

そっか、フェイは禁忌のカンスト情報を知らないんだ。

でもアレは長くて面倒だし、此処で話すような内容じゃない。

だけど黙っていたら私は子供嫌いか、

子供を産めない可愛そうな人扱いされそう。

 

「安心しなさい。

 Ⅱが子供を欲しがったら、私が産むわ」

 

「ソフィア!」

 

其処へ精神復帰を果たしたソフィアが、フォローに入ってくれる。

だけどさぁ、それってガチ解答ですよね!?

 

「ふおぉぉぉっっっ!!!!!!

 NTR?リアルNTR宣言なの!?」

 

「何がNTRよ!私もⅡの婚約者だから。

 正当な権利だから、NTRとかじゃないから!」

 

「あぁそっかぁ貴族だから、

 お嫁さんも二人貰えるんだ?」

 

そう!私が黒騎士と死闘を演じている内に、

ソフィアはしっかり告白していた。

まぁソフィアにも助けて貰ったし、それに関してどうこう言わないけど!

 

「言って置くけど、流石に在学中は無いから」

 

「だよね~流石に在学中は無いよね?」

 

それは本当だと思う。でもソフィアは、

私が構築した避妊魔法を、しっかり修得している。

やる事はやっている。と言う事だ。

 

「と言うか、山田君との関係を暴露しなさい。

 次は貴方の番でしょう?」

 

「えっ私とシュンの事?私は」

 

ソフィアの言う通り、次はフェイの番だった。

予定外のランチタイムはまだ続く。

でも私は余り興味が無いから、そろそろ料理に手を付けたいと思う。

 

 

「それでは失礼致します。お休みなさいませ」

 

「あぁ、お休み。セリオ」

 

今日一日の、登校初日が終り入寮する。

寮の部屋は特に問題の無い一人部屋だった。

事前情報通り、隣りに使用人用の控室も有る。

 

既に食事と入浴を済ませて、事実上の消灯時間。

メイドのセリオは控室に下がる。此処で素直に就寝するか、

まだ起きて何かするかは、各々の判断になるだろう。

 

「オリくん」

 

「余裕で門限処か、消灯破り!」

 

此処は間違い無く男子寮の自室だ。そして消灯時間は過ぎている。

だが白織は、余裕で消灯破りを実行していた。

転移と言う規格外の手段を前に、寮を隔てる壁は意味を成さない。

 

「ダメ、だった?」

 

「いや、来てくれて嬉しい。昼も一緒じゃ無かったからな」

 

ベッドで寛ぐ白織の隣りに座って、食堂で別れた後の事を話す。

白いネグリジェ姿の白織を、視界に捉えながら。

 

「こっちはカティアとシュレインが一緒だった訳だが、

 カティア。大島はすっかりTS転生していた」

 

「………」コクコク

 

カルナティア・セリ・アナバルド。カティアは、

元クラスメイト(男)の転生者で、今はすっかり赤毛美人の公爵令嬢だ。

前世通り山田ことシュレインと仲が良い。

だが食事中の様子を見る限り、それ以上の関係では無いらしい。

 

「カティアには婚約者が、

 それがレングザンドの第二王子何だが」

 

例の主席入学の転生者だ。まだ接点は無い。

まだ接点は無いと言うのに、盛大に愚痴られた。

最近忙しいらしくて、とか。全然会ってくれない!とか。

言っている事が完全に女子である。TS転生は業が深い。

 

「問題はシュレインだ。

 アイツ、鈍感難聴系主人公だったとは!」

 

「………」コクコク

 

ラノベではド定番の実妹だけでは無く、

ハーフエルフのメイドにも好かれているらしい。

 

しかもシュレインは!メイド枠は一人だと言うのに、

召喚少女(フェイ)は召喚少女だからと、別枠で部屋に連れ込んでいる。

知恵を絞って来た。これが(他人がやっている)両手に花!

 

「デルタ?」

 

「シュレインが参戦したら、デルタだ」

 

実妹は好感度が↑↑↑(危険域)。

メイドは一歩下がった感じらしいが、これはデルタ予備軍である。

 

しかし当のシュレインには、頻りに白織(若葉姫色)の事を訊かれた。

シュレインは白織狙いの可能性が有る!

確か平進高校時代も、白織の隣りの席だった。まさかあの頃から!?

有象無象から害虫に↑。良い度胸だシュレイン!!

 

「そっちはどうだった?」

 

「ソフィアが凄かった。

 スーパーソフィア」

 

ソフィアが色々とフォローしてくれたらしい。スーパーソフィアか、

高校デビュー的な、異世界学園デビューでも狙っていたのか?

 

「オリくん」

 

「準備は、して来ただろう?」

 

ふと会話が途切れて、そのまま白織を押し倒す。

こんな時白織は、いつも抵抗しない。

 

「………」コクコク

 

白織は何もかも、何処までも白い。

今夜はふと、そう思った。




因みに今回、スーは同行していません。
転生者的に話しを訊きたかったシュレインが、置き去りにしています。

次回はカティア過去回。
学園に来る前の、お見合いカティアです。


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24 だからカティアは、カティアでしか無い

今回はカティア過去回。
学園に来る前の、お見合いカティアです。


「あぁ、流石に凹む」

 

自分の口から出る女の声にも、もう慣れた。

その声を使って女らしく喋るのも、もう慣れていた。

女に生まれ変わったんだから、そうするしか無い。そう信じた。

 

自分には姉が居た。今じゃなくて、日本に居た頃の話だ。

女社会で揉まれて過ごした。と言っても良いと思う。

公言したい訳じゃないが姉の玩具にされて、女装させられた事も珍しく無かった。

化粧の仕方、服やアクセサリーの選び方とかも仕込まれた。

 

後はイイ男の選び方。

男にそんな事を教えてどうしろって言う感じだったけど、姉には逆らえない。

きっと何かの役に立つから!と愉しそうに笑っていた。

 

流石の姉も冗談の心算だったんだと思う。

だけど長い人生で何が役に立つのか、本当に解らない。

何の因果か、自分は女に転生した。

きっと何かの役に立つから~と姉に仕込まれた女子力スキルは、

実際に役に立った。おかげで比較的楽に公爵令嬢を演じられた。

 

女装するのも抵抗が少なかった。

女らしい言葉遣いも、直ぐに覚えた。

服やアクセサリーを選ぶセンスは、教育係に初日から褒められた。

自分は女としてやって行ける!そう信じていた。

 

「お前中身大島かよ!ウケる☆

 オィオィ、オレを笑い殺す心算か!?」

 

そうして公爵令嬢として過ごしている内に、

私も年頃になって、婚約者を紹介された。

 

相手はレングザンド帝国王太子、ユーゴー・バン・レングザンド。

詰りは王族。公爵令嬢の婚約者として、これ以上相応しい相手はそう居ない。

これは私の人生詰んだかなぁ?と、

割と本気で覚悟を決めて、婚約者との見合いに望む。

 

ハッキリ言ってしまうと私は、まだ【大島叶多】だった。

どんなに上手く公爵令嬢を演じられても、

心はカルナティア・セリ・アナバルド。カティアになっていない。

だから甘く見ていたのかもしれなかった。

 

「初めまして、王太子殿下。

 カルナティア・セリ・アナバルドと申します」

 

見合いの席には、三人の男が姿を現した。

中央に居るのが王太子殿下。式典で見掛けた事が有る。

次期剣帝の名に相応しい体育会系の偉丈夫だ。

他の二人は一歩下がった処に居る。護衛か御目付役か?

右隣りに居るのがヘラヘラした昼行燈。

左隣りに居るのは、眼鏡が似合いそうな秀才風だった。

 

「殿下」「!?」

 

「オゥ、どうしたイッセー」

 

これから見合いが!と言う処で、昼行燈が王太子殿下に何か耳打ちする。

眼鏡が似合いそうな方も、少し顔色が変わる。

そして↑冒頭の王太子殿下の台詞に戻る。

ユーゴー・バン・レングザンド王太子殿下は、

元クラスメイトの転生者。【夏目健吾】だった。

 

因みに昼行燈が夏目と仲が良かった【桜崎一成】で、

今の名前は【イッセー・ブロッサム】。帝国の伯爵家の跡取り。

眼鏡が似合いそうな方が【枝葉連理】。学年主席を独占し続けたヤツだ。

ユーゴーの弟で、帝国の第二王子。

今の名前は【レンバートン・レングザンド】。

 

帝国が誇る若き三巨頭が全員転生者!

シュンに続いて、元クラスメイトとの再会だった。

だけどシュンの時と違うのは、盛大に笑われた事。

↑笑っていたのはユーゴー一人で、

 イッセーはあっちゃ~と言う顔。レンバートンは溜息を吐いていた。

 

シュンが結構あっさり受け入れてくれたから、油断していた。

女として否定されたのが、メチャクチャ辛い。

今までの努力を否定されたのが、想像以上に辛い。

自分自身を否定されたのが辛い。その日私は、婚約を破棄された。

 

 

「兄上が失礼を。

 代わりにもならないだろうが、帝国の王子として謝罪したい」

 

真正面からバッサリ否定されて流石に凹んでいる処を、

ユーゴーの弟。レンバートンが謝罪に現れた。

こうしてユーゴーのフォローに回る事も多くて、

ユーゴーの方はイッセーが宥めているらしい。

 

「レンバートンが謝る事じゃないだろう。

 っいえ、無いですわ」

 

「楽な方で構わない。こちらも転生者で事情は把握している。

 名前もレンで良い」

 

「ならこっちもカティアで頼む。もう長いからな、慣れたよ。

 慣れた心算だった」

 

「カティア」

 

「上手くやれる心算だった。もうカティアになった心算だった。

 だけどダメだった。そう言う事だろう?」

 

結局私は大島叶多のままだった。

だからあっさり見破られて、婚約を破棄された。

そうだよな?いくら転生して女になっても、

態々元男と結婚何て、したく無いのが普通だ。これは当たり前の展開。

当たり前の展開だと理解出来るのに、どうしてこんなに辛いんだろう?

 

「カティアは、元クラスメイトの事。どれ位知っている?」

 

「レン?」

 

「こっちは全然。全員の名前すら覚えていないし、

 名字だけで、ファーストネームが出て来ないヤツもザラだ」

 

「うわっ酷くね!?」

 

学年主席の発言とは想えない、酷い台詞だった。

流石に元クラスメイトの名前位は、覚えている物じゃないのか!?

 

「カティアは解るのか?」

 

「それ位、解るさ」

 

元クラスメイトの名前を上げて行った。

親しかったヤツ。親しく無かったヤツ。

変わったヤツや、良く知らないヤツも居た。

だけど全員のフルネームは言えたと思う。レンに驚かれる。

 

「カティアは大したヤツだな?

 これでは次のフォローが、上手く行かない可能性も」

 

レンは何か呟いていたけど、やがて口を開く。

それが私の、カルナティア・セリ・アナバルドの始りだった。

 

「大島叶多と言うヤツは知らない。

 大島と言うヤツがクラスに居たような気もするが、

 叶多と言う名前は今初めて知った。

 だからカティアは、カティアでしか無い」

 

 

「宜しかったのですか?」

 

「それはこちらの台詞だろう」

 

婚約が破棄されて、レンと話す機会が出来て、それからも交流は続きました。

レンは腕の立つ魔術師で、転移魔法が得意でした。

帝国から転移して、度々顔を出してくれます。

 

レンは大島叶多を知らない。カティアしか知らない!と。

私は自身が肯定された気がしました。救われた。と言っても良いでしょう。

 

レンと会うのが楽しみになりました。

レンは私をカティアとして接してくれますから、

私はカティアとして磨きを掛けます。

 

もう女らしく喋るのも、違和感が無くなりました。

女物の服やアクセサリーを纏うのも、当たり前に。

綺麗に髪を整えないと、落ち着かない。

 

そうやってレンと交流を重ねる内に、また婚約話が上がりました。

今度の婚約相手はレンでした。

仲良さげに交流を続ける私達を見て、帝国と王国が動きました。

特に前回!一方的に婚約を破棄した帝国側は、

外交的に今度こそ!と息巻いているらしくて、勝手な話。

 

「面倒な帝位を狙う心算は無い。それは兄上に任せる心算だ。

 詰りカティアは、皇帝の妃にはなれない」

 

レンは学年主席のイメージのまま、研究者肌でした。

一日中魔法やら、魔物の研究をして居れば満足なタイプです。

権力争いに、帝位継承に興味が無い。

これだからあのユーゴーとも、上手くやって行けているのかもしれません。

 

「でも、レンのお嫁さんには成れますわ」

 

「物好きだな」

 

「それはお互い様です」

 

この人に付いて行きたい。

それが私の、偽る事の無い本心でした。

 

 

補足&解説枠。

レンはカティアルートに入りました☆

 

叶多の姉

イメージでは二人以上。

姉一人で女子力染めにされる事は無いかな?と言う判定。

 

ユーゴー・バン・レングザンド(夏目健吾)

レングザンド帝国王太子。カティアの元婚約者。

カティアが元クラスメイトの大島叶多(男)だと知って、

即座に婚約を破棄。

こればっかりはユーゴーを非難出来無い内容。

 

原作ではカティアとスーを洗脳して復讐の手駒にしていますが、

この二人を使ってエロ方面で復讐してやろう!と言う発想が皆無。健全です。

 

イッセー・ブロッサム(桜崎一成)

帝国貴族。伯爵家の跡取り。

元クラスメイトの転生者の一人で、夏目とは親友同士。

 

本作の大きな変更点の一つ。

原作ではユーゴーと再会すら出来ずに死亡しているようですが、

本作では学園開始前の時期に、既に再会している設定。

ユーゴーの右腕。ムードメーカー役を務めています。

 

今回作中で、カティアの正体がバレたのはイッセーの所業。

こっそり鑑定を使って耳打ちしています。レンはこの耳打ちに気付いた展開。

 

レンバートン・レングザンド(枝葉連理)

レングザンド帝国第二王子。ユーゴーの弟。

オリクラスメイトB。元学年主席。

ユーゴーの左腕。頭脳担当のフォロー役。

 

一日中研究して居れば満足な研究者肌。

転移魔法が得意で、

婚約破棄されたカティアの様子を、度々確認していた。

 

元々は他人に興味が薄い優等生だったが、

平進高校時代に隣りの席だった長谷部結花が、

すっかり豹変した姿を目の当たりにして、考えを改める事に。

婚約破棄のショックで、カティアが壊れる事を心配していた。

 

ヒロインの立場や肩書では無く、

ヒロイン自身を見る事。それは主人公キャラのパッシブスキルですが、

見ていない事で救われるヒロインも居る。と言うのが本作のカティア。

 

因みにオリクラスメイトが増えたので、人数調整が入っています。

原作で死亡キャラの、

生物係の小暮直史。卓球部の林康太がログアウト。

元から教室に居なかった設定。別のクラスで生存しています。




旧版とは異なり、レンがカティアルートに入っています。
何気に一成も居て、帝国の動向に大幅な変更有。

次回はケレン領過去回。
サイボーグポティマス戦です。


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25 ソフィアは渡さない

前半が学園の講義で、
後半から過去のケレン領イベントになります。
サイボーグポティマス戦です。


「今日から実技の講義な訳だが」

 

学園が始ってから一週間が経過した。

復習の座学が終り、今日から実技の講義が始る。

と言っても、やはり転生者にとってはヌルゲーでしか無い。

動かない的に魔法で射撃とか!話にならない。

 

詰り問題は、どれだけ上手く手加減出来るか?と言う事になる。

無駄に俺スゲェ!をやる必要は無い。

 

「ソフィア、自信の程は?」

 

「ふふふふふ、大丈夫よ。問題無いわ」

 

同じグループのソフィアが、昏い笑みを浮かべていた。

これから呪殺でも始めそうな勢いである。

あぁそうだった。ソフィアは、一時期白織の強化キャンプに参加していたな?

護身用とかで強制的に!ケレン領でイベントが有った後の話だ。

実技(実戦)と言う事で、

当時のトラウマを自分で掘り返しているのかもしれない。

 

「白織は」

 

「?」

 

白織は平然としている。

だがその顔は、手加減?ナニソレ美味しいの!?と言う顔だ。

 

「白織は、やり過ぎるなよ?」

 

「………」コクコク

 

解っているかどうか怪しかった。

入学初日でも、フェイをデコピンでノックダウンさせている。

 

「おはよう!今日の調子はどう?」

 

「………」↑(指を立てている)

 

「貴方に心配される事じゃないわ」

 

見事なワンパンノックダウンを演じたフェイが、懲りずに関わって来る。

しかも白織とソフィアを相手に、上手く付き合いを成立させていた。

 

「流石は主席」

 

「あれが主席Lvか」

 

実技は始り、ヌルゲー射撃を眺める事になる。

やはり真面なのは転生者だけだった。

特に主席入学のレンバートンのLvを把握して、あれ程度で行く事を決める。

 

「凍てつきなさい」

 

手加減魔法でレンバートンと同じくパーフェクトを、

続いてソフィアも、絶妙の力加減でパーフェクトを出し続ける。

 

「どうよ!?」

 

「流石だソフィア」

 

やはりソフィアは制御が上手い。

得意気な顔をしているのが微笑ましい。

だが微笑ましいエピソードは此処までだった。

 

「ヒャド」

 

白織が魔法を放つ。

最下級魔法を使ったのは解る。白織なりに手加減したのも解る。

だが手加減するなら、魔力も手加減するべきだった。

 

「【今のはメラゾーマでは無い。メラだ】」

 

あっやっちまった!と言う顔の白織。

ヒャドで的周辺が、広範囲に凍結している。

終ってからネタに走って誤魔化そうとしたが、

そのネタが解るのは転生者だけだ。

 

「今のはヒャドでしょうがぁぁぁっっっ!!!!!!」

 

そのネタが解る転生者のソフィアから、激しい突っ込みが入る。

今日も白織とソフィアは、仲が良かった。

 

 

『白織。話しが有るの』

 

管理者サミットが終って、

転移が使える私が、ソフィアをケレン領の屋敷まで送る事になった。

赤ん坊のソフィアを揺り籠に寝かせると、念話が繋がる。

 

『私、Ⅱに告白したわ』

 

『………』

 

ソフィアもオリくんの事が好き。

何と無く察しては居た。ソフィアとも長い付き合いだから。

 

『Ⅱの隣りに居る間だけ、私は私で居られた。

 私に興味が無かっただけかもしれないけど、それでも私は救われた。

 日本に居た時から、ずっと好きだった』

 

『………』

 

『でも、告白何てする気は無かった。

 Ⅱはあんなヤツだし、私は自分に自信何て無かったから』

 

『なら、どうして?』

 

『転生して、人並みの容姿を手に入れたわ。

 だから、人並みの幸せも欲しくなった。この気持ちが抑えられなくなった。

 ごめんなさい。私は、Ⅱの事が好き』

 

ソフィアの告白を、ただ静かに聴く。

だけど私は、突如結界が張られた事を認識する。

屋敷全体を覆う封鎖結界だ。

 

「ソフィア!」

 

『ちょっ!?何っっ!!?』

 

揺り籠に寝かしたばかりのソフィアを抱き上げる。

抱き上げて、即離脱。

するとフード姿の侵入者が、窓を破って室内に侵入して来る。

 

「バギ」

 

狭い室内で有る事を考慮してバギを放つ。

先頭の侵入者が吹き飛ばされて壁に激突。フードが捲れる。

 

「エルフ」

 

「ッッ!!!」

 

侵入者はエルフ!

ついさっき管理者サミットでも話題に上がった、世界の害悪のエルフだ。

元々侵入者相手に手加減何てする心算は無かったけど、これで完全に無くなった。

 

「イオラ」

 

ソフィアの部屋を素早く脱出!

そしてソフィアには悪いけど、部屋に向けてイオラを放つ。

 

背後でイオラの爆裂音が響く。

ソフィアの部屋に侵入して来たヤツはあれで良い。

そのままソフィアを抱いてエントランスへ!どうせまだ居る。

 

「ふむ、伯爵家の護衛の者か?

 その赤子は渡して貰おう」

 

拓けたエントランスには、

もうエルフである事を隠す気も無いのか、顔を晒した一人のエルフが居た。

見るからにボスキャラ面である。

 

「メラゾーマッッ!!!」

 

だけどエントランスで待ち伏せが有る事は察していたから、

もう魔法は用意して有る!

メラゾーマの炎が、ボスキャラ面に向けて放たれる。

 

「中々の威力だ。

 もう少し結界の展開が遅ければ、危うい処だった」

 

メラゾーマの炎は、確かにボスキャラ面を灼いた。

だけど灼き尽す前に、新たな結界が重ね掛けされて炎が減衰した。

これは経験済の展開!魔術妨害の結界だ。

 

『ナニアレ?サイボーグなの!?』

 

腕の中で、ソフィアが驚きの声を上げる。

メラゾーマの炎は、ボスキャラ面の皮膚を溶かしていた。

皮膚が溶けてその下から、どう見ても機械の骨格にしか見えない物が見える。

 

「ポティマス」

 

口から自然とその名前が出る。

本人に確認した訳でも、鑑定を使った訳でも無かった。

だけど確信的にそう思った。コイツがポティマス・ハァイフェナス。

私の発言を肯定するかのように、機械の骨格を吊り上がて嗤っていた。

 

 

「どうした。

 片腕では辛いのかな?」

 

サイボーグである事がバレた所為なのか、

掌から堂々とビーム砲のような物を撃ち続ける。

これは決して魔法では無い。

腕に仕込み銃とか、サイコガンか!と言いたくなる。

 

「ソフィアは渡さない」

 

『白織。アナタ』

 

確かにソフィアを抱きながら戦っているから、常に片腕が塞がっている。

大技(極大呪文)を使うには、両腕が居る。

そう言う設定だからそうして来た。そう言う癖が有る。と言う事だった。

 

そしてソフィアを渡す心算は無い。

ソフィアには、もう黒騎士戦で助けられた。

私の為に、危険な支配者スキルを(一時的に)修得させている。

命を助けられた恩は、命で応える。ソフィアは渡さない。

 

「ソフィア、ローラ姫。知ってる?」

 

『ローラ姫?』

 

ローラ姫。

と言うのは、某有名RPGの一作目に登場するお姫様だ。

ゲーム開始時には既に浚われた後で、

ローラ姫の救出が、勇者の目的の一つとなる。

 

そして勇者がローラ姫の救出に成功すると、

ローラ姫を文字通り、お姫様抱っこでラダトーム城まで送り届ける事になる。

 

だけど其処で問題が発生。

勇者はローラ姫を、お姫様抱っこで運んでいる。

詰り両手が塞がっている状態だ。ならどうやって、

ラダトーム城までの道中、モンスターの襲撃を掻い潜ったのか?

 

ルーラかキメラの翼を使った?それは無い前提である。

運良くモンスターが現れなかった?それとも逃げ続けた?

足だけで対処した。と言う説も有る。だけど、

 

『ちょっとおおおぉぉぉっっっ!!!!!!』

 

「なっしまっっ!!!」

 

ソフィアを、エントランスの上空に放り投げる!

勇者もこうやってローラ姫を放り投げて、

その間に襲い掛って来たモンスターを撃退した。と言う四コマ漫画が存在する。

↑勿論ローラ姫は、地面に激突させる事無くキャッチしている。

 

それにターゲットのソフィアを上空に放り投げたから、

サイボーグポティマスが咄嗟に視線を、上空のソフィアに向けてしまう。

戦闘中に、これは明らかな隙である。

 

「ベギラゴンッッ!!!」

 

そして放たれるベギラゴンが、サイボーグポティマスを灼き払った。

サイボーグのボディは全て融解して、運良く頭部だけが残っている。

 

「結界は解析済だった。と言う事か」

 

「二度目だから」

 

残った頭部にライディンを落して止めを刺す。

さっきまでのビーム砲の回避ゲームでは、

放射系魔法を使って対処してい無かった。結界の効果で、

放射系魔法の使用禁止と、ステータスダウンが発生したフリをしていた。

実際にはとっくに、キラーマシンモドキと戦った時に解析済だった。

 

「勤勉の支配者」

 

このサイボーグポティマスが、

自身の魂を憑依させた器の一つでしか無い事も、解っている。

本体との決戦はまたいつか、

オリくんと過ごす平和な未来の為!潰させて貰う。

 

「ソフィア、無事だった」

 

『無事だけど!無事だけどさぁぁっっ!!!』

 

ソフィアも問題無くキャッチした。

でも考えて見たらソフィアは吸血鬼だから、

赤ん坊の身でも、床に激突しても死なない気がして来た。

 

こうしてソフィアの実家で起きた、エルフの襲撃事件は幕を閉じる。

結果ソフィアの自室がすっかり全損したり、

エントランスにちょっと穴が開いたのは、些細な被害だと思う。

 

因みにこの襲撃事件の後。

Dが黒騎士戦で使った怪しい影を創造する魔法で、私は自分の影を製作。

ソフィアの護衛として配置した。と言っても襲撃は無かったから、

私の影はソフィアの実家で、メイドとして務めただけで終っている。

 

 

補足&解説枠。

ケレン領で起きた過去イベントの補足です。

 

強化キャンプ

ケレン領で、エルフの襲撃事件が有った後のイベント。

護身用の訓練と称して、レベリングの旅へ出発!

原作程のスパルタでは無いモノの、アリエルとメラゾフィスが居ない二人旅。

自炊出来るって素晴らしい!とソフィアは全力で自画自賛する事になる。

 

伯爵家の護衛の者か?

ソフィアはフェイカーで情報偽装をしていましたが、

ポティマスは確定情報が無くても、浚ってから調べれば良い。と判断しました。

 

アニメ版ではアラクネでしたが、本作では神化済で人型です。

アリエルの眷属か?と言う誤解は発生していません。

 

ソフィアは渡さない

白織は義理が堅牢です。

原作では日本で蜘蛛をやっていた頃、

夏目に殺されそうになった処を先生に助けられて、これが先生擁護フラグに。

更に生徒に死亡者が出ると先生が悲しむからと、

戦争で転生者に死亡者が出ないように動いています。

 

本作でも白織の義理堅さは健在で、

黒騎士戦でソフィアが白織を助けた事を、決して忘れません。

ですが先生擁護フラグは折れています。

フラグが立つ前に蜘蛛だった白織を、Dが人型の身代わりにしたからです。

 

怪しい影

Dがルクスリア以外の黒騎士を映した虚像の魔物。

白織は自身を映して影(分身)を創造する事に成功しています。

 

原作の白織は【産卵】のスキルを使って、

迷宮の悪夢を量産する事を都合良くセーフと判定しましたが、

本作ではアウトとします。妊娠出産に対する忌避感は、根強い設定です。




ポティマスは戦闘キャラでは無いので、
充分【視線誘導】に掛かると思う。

次回はユーリ登場回です。
聖女(狂)がやりそうな戦法を生やしました☆


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26 磔刑の聖女Ⅰ

今回はユーリ登場回です。

髪はアッシュブロンドと描写しています。
ツッコミが有る方は、感想までお願いします。


「それでは、始めっ!!」

 

サダルメルク学園に留学してから、早いもので一週間が過ぎました。

座学を一通り復習した。と言う事で、今日から本格的な実技が始ります。

 

「緊張するな」

 

「そうですわね?」

 

一週間も過ぎれば、クラスでグループが出来るのは異世界でも同じでした。

やはり同じ出身国でグループを作る事が多くて、

私もアナレイト王国出身者のグループに居ます。

 

「おはよう!今日の調子はどう?」

 

「………」↑(指を立てている)

 

「貴方に心配される事じゃないわ」

 

ですがフェイは、早くもサリエーラの生徒の輪に入っていました。

初日で結構な騒ぎを起こしていた気もしましたが、

付き合いを成立させている様子です。

 

白織・サイネリアとソフィア・ケレン。

そして二人の婚約者、フェンブレン・ツヴァイ・サイサリス。

三人共、元クラスメイトの転生者です。

白織は神獣の巫女だと噂されていますから、特に目立っています。

 

「フェイは凄いよな?

 サリエーラで、もう上手くやってるんだ」

 

「そうですわね?」

 

「カティア」

 

口から先程と同じ言葉が出ていました。

上の空です。流石にシュンに心配させてしまいます。

出来る事なら、私もレン(婚約者)と同じグループが良かった。

 

「今からでも行って来たらどうだ?」

 

「ですが」

 

サダルメルク学園に留学してから、まだレンと話しが出来ていません。

講義に出席しているようですが、終れば姿を消してしまいます。

レンは転移が得意ですから、

学園内でも使っているのでは?と思う程のロスト振りです。

 

「こう言うのは、一人で悩んでいても仕方無いから」

 

「シュン」

 

これは他人から見た方が良く解る。と言うヤツでしょうか?

実の妹に好かれても天然スルーなシュンに、アドバイスを貰う日が来る何て!

 

「レンバートン君。前へ」

 

「はい」

 

ですが私が動くより早く、レンの出番が来ました。

レンもスタンダードに、帝国出身者のグループに居ました。

講師に指名されて、前に出ます。

 

今日の実技は、一定距離からの射撃です。

的に向かって魔法で射撃します。但し火属性は禁止。延焼防止の為です。

比較的火属性が得意な私は、それだけで不利な内容。レンはどうでしょう?

 

「そう言えば?」

 

レンの事ばかり考えていましたが、

帝国のグループに、ユーゴーやイッセーが居ませんでした。

それ処かこの一週間!学園で二人を見掛けた記憶が有りません。

 

「男子寮でも見掛け無いな」

 

「留学して居ないのでは無いですか?」

 

シュンやスーも、二人を見ていないと証言します。

留学して居ない!?まず在り得ない展開だと思うのですが、どうでしょう?

今年は例の神獣の件で、誰もがサリエーラへ留学を希望しましたから。

アナレイト王国だけでは無く、帝国でも同じだと思うのですが。

イッセーはまだしも、帝位継承者のユーゴーまで来ないのは可笑しいです。

 

「流石は主席だな?レンバートン君」

 

「いいえ」

 

と思っている内に歓声が上がります。

レンが射撃の実技で、見事にパーフェクトを出しました。流石です。

 

「若葉さんっっ!!!」

 

ですがレンのパーフェクトも、続く三人の前では霞みました。

ツヴァイとソフィアはまだ良かったです。

まだ常識の範囲内で、レンと同じパーフェクトを叩き出しただけ。

ですが白織は、氷魔法で的の周辺を全て凍結させました。

 

「しかも今【ヒャド】って呟きましたよね?」

 

ヒャドと言うのは、某有名RPGに出て来る呪文です。

氷系の下級呪文。作中で一番弱い氷の魔法。

 

「これってアレだよな?

 【今のはメラゾーマでは無い。メラだ】って言うあの」

 

「使ったのは、ヒャドですけど」

 

バーン様のアレです。

シュンと二人で、懐かしいネタを思い出しました。

こうして初めての実技は終り、タイミングをすっかり逃していました。

 

 

「うわあああぁぁぁっっっ!!!!!!」

 

実技の講義が終って、これからどうしましょう?

と言う処で異変は起きました。誰か生徒の突然の悲鳴。

 

「魔物?学園の中で!?」

 

「黒いタラテクト!?」

 

声が聞こえた方を振り向くと、

其処には影のような黒いタラテクトらしい魔物が!

それも七体。いつの間にか野外演習場に姿を現していました。

 

「戦えない者は下がると良い」

 

「下がりなさい、邪魔よ」

 

突然の非常事態に、生徒達の行動は様々でした。

大半は逃げ惑うばかりですが、避難誘導をする生徒も居ます。

サリエーラグループのツヴァイと、意外ですがソフィアです。

逃げ惑うしか出来無い生徒達を庇って、黒いタラテクトの進行を防いでいます。

 

「若葉さんっ!!」

 

シュンや私は、前に討って出ようとしました。

前に引き付ける事で、後方に逃げた生徒達を狙わせない為です。

ですが半数の三体が後方へ行ってしまいます。予想以上に速い!

 

「………」

 

その内更に二体は、

壁役のツヴァイとソフィアの処に行きましたが、

残りの一体は棒立ちの白織の処へ!

ですが白織は、棒立ちのまま結界を張って攻撃を防いでいます。

結界が破れる気配は有りません。寧ろそのまま後方を守っているようです。

 

「シュン!私達は前の敵を!!」

 

「あぁ、解った」

 

白織は、

後方のサリエーラグループは大丈夫そうでしたから、前に集中します。

 

「見た事の無いタラテクト種だ。新種なのか?」

 

私とシュンが暫く後方に気を取られている間に、

前方を支えていたのは、レンとスー。それに知らない女子生徒がもう一人。

アッシュブロンドに綺麗な碧色の瞳。

実戦経験も有るのでしょうか?動きに躊躇が有りません。

 

「レン君!」

 

「あぁ、助かる」

 

女子生徒の支援魔法を受けたレンが、反撃に出ます。

タラテクト種は炎に弱いのが常識ですから、レンが選んだのも炎の魔法。

 

「灼けろ」

 

炎の範囲魔法。では無く、これは熱エネルギーそのものですか!?

閃熱が二体の黒いタラテクトを捉えて焼却。

ですが残り二体は、持ち前のスピードで回避してしまいます。

 

「レン君!危ないっっ!!!」

 

「ユーリ!」

 

残り二体の内一体が、術後硬直で動けないレンを狙います。

私とシュンは、スーと残りの一体を相手にしていたから間に合いませんでした。

レンにユーリと呼ばれた女子生徒が、

レンを庇って黒いタラテクトの凶刃に掛かりました。

 

「爆ぜろ」

 

ですが黒いタラテクトの凶刃が、確かにユーリを貫いた瞬間!

黒いタラテクト自身も引き裂かれて怯みます。

其処へレンの爆裂魔法が炸裂して、黒いタラテクトが塵になりました。

 

「無茶をする」

 

「私は【磔刑の聖女】だから」

 

「そうか」

 

黒いタラテクトに貫かれて、

致命傷でも可笑しく無かったユーリの傷は、既に塞がり始めていました。

これは自動回復系のスキルでしょうか?

 

結局残りの一体は、シュンやスーと協力して私達が。

後方の三体はツヴァイ達サリエーラグループが、いつの間にか仕留めていました。

 

 

「いやぁ、突然の出来事で大変だったね?」

 

「手伝ってくれ、フェイ」

 

フェイは後方で避難誘導をしていたのを、私は気付いていました。

迂闊に龍の力を見せる訳には行きませんから、仕方有りません。

ですがフェイも、いざと言う時は助けてくれた筈です。

 

「それより白織やソフィアは凄かったよ?

 勿論ツヴァイも」

 

何でもフェイが言うには、

あの三人の後ろには、全く攻撃が来なかったらしいです。

おかげで避難した生徒も、余り動揺していないとか。

 

「問題無く、クエストクリアだな?」

 

「………」コクコク

 

「当然の結果ね」

 

凄い余裕そうですあの三人!

そして仲が良さそう。特にツヴァイと白織が、空気が違います。

 

「若葉さん」

 

「シュン。あの二人、婚約者ですのよ?」

 

「解ってる」

 

本当ですか?少し心配ですが、今はレンです。

レンはユーリと言う女子生徒を連れて、早々に引き上げました。

多分保健室に連れて行く為です。私も保健室に向かいます。

 

「レン」

 

「カティアか」

 

レンは、保健室から出て来る処でした。

ユーリは保健室で眠っています。寝かし付けた処らしいです。

 

「自傷スキルと仕切り直しのスキル。

 それに慰め程度の止血スキルだ。あんな戦いでは、いつ死んでも可笑しく無い」

 

「それが磔刑の聖女」

 

ユーリーン・ウレン。磔刑の聖女。

噂には聞いた事が有ります。神言教の新しい聖女だと。

 

そしてその聖女が、

元クラスメイトの【長谷部結花】だと、レンは言います。

 

「長谷部さんでしたの!?」

 

確か長谷部さんはレンの、枝葉連理の隣りの席でした。

ですが特に親しかった印象は有りません。

 

「それはそうだろう。碌に話した記憶も無い。

 機会が有ったのは転生した後だ。だから此処でも間違えた」

 

「間違えた?」

 

「ユーリを見捨てた。

 こうなる前に、助けられた筈だった」

 

 

補足&解説枠。

ユーリ登場回の補足です。

 

黒いタラテクト

白織が用意したグレーター・タラテクトの怪しい影。

転生者の実戦的実力チェックの為の動く的☆

 

白織がチューニングした代物なので、速度に極振り気味。防御が紙装甲。

当たらなければ意味が無い!を地で行くステータス。

 

侵入経路の偽装として、少し離れた場所に穴が掘って有る。

この穴が学園外まで繋がっています。

 

灼けろ/爆ぜろ

大体のお察しの通り、

灼けろ→ベギラマに相当。爆ぜろ→イオラに相当する魔法。

 

磔刑の聖女

神言教の聖女の一人であるユーリの異名。

自傷スキルで受けたダメージを対象に映して、

自身は仕切り直しのスキルで致命打からも生存する。

そして慰め程度の止血スキルで傷を癒す。

 

それがいつ死んでも可笑しく無い。と称されたユーリの自己犠牲戦法。

磔刑の聖女と呼ばれる由縁である。

 

聖女は勇者をサポートする癒し手ですが、聖女にも序列が。

序列一位が勇者の共となり、聖女自体は複数人存在する。と言う設定。




転生者の中にも反射系の転生特典持ちも居ますが、
自傷は反射系でもダメージ移しでも無く、ダメージ【映し】です。

次回はユーリとの再会過去回。


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27 磔刑の聖女Ⅱ

今回はユーリとの再会、過去回です。


「これが現実!と言った処か」

 

鑑定の儀を受ける為、聖アレイウス教国までやって来た。

態々教国を訪れて、たった今大聖堂で教皇自らの鑑定を受けた処だった。

これは大変名誉な事らしく、王族の特権らしい。

 

だが元日本人の身では、どうしても宗教は胡散臭く感じてしまう。

根っからの無信教!と言うヤツか?

神に祈るより、自分でやる事が有るのでは?と思ってしまう。

それともそれは、

祈る事しか出来無い状況に追い込まれていない、恵まれた者の戯言なのか?

 

現に大聖堂が在った荘厳で綺麗なメインストリートを外れると、

其処はスラムに繋がっていた。

日本に居た頃の、■円の募金で子供が助かります。

と言う募金のCMの、現実Verの光景が目の前に広がっている。

 

神を信奉する宗教国家の現実だった。

神は全てを救えない。だから神の声(神言)を聞こう。

多くの神の声を聞いて強くなろう。Lvを上げよう!と言うのが神言教の教えだ。

 

LvUPやスキル獲得時のシステムコールを、神の声だと信奉している。

確かにスキルは、ギフトと呼ぶのが相応しいかもしれない。

 

「要は頑張って自分で何とかしろって事だ」

 

その教えに従って、特にスラムに施す心算は無い。

しかも此処は帝国では無く、外国の聖アレイウス教国だ。

スラムの改善は、この国の為政者の仕事だろう。

 

「これは、結界か?」

 

スラムを立ち去ろうとした処で、異変に気付いた。

辺りが突然霧に閉ざされた。閉ざされて、道が解らなくなる。

これは濃霧でも、産業革命的なスチームでも無い。霧の結界だった。

霧の結界が、道を閉ざして封じている。

 

「帝国の継承者を狙ったテロか暗殺?

 それともただの物取りか」

 

普通に考えれば、帝国の継承者を狙ったテロか暗殺を疑う処だろう。

だが此処はスラム!スラムでは、人の命は安くなる。

パン一切れの方が、人の命より高くなるのがザラの世界。

襲われる理由など何でも有り、と言う事だ。

 

「と、思っていた訳だが」

 

暫く冷静に状況把握に務めたが、襲撃が無い。

疲れて気が抜けるのを待っている。と言う線も有るが、何か可笑しい。

 

「探索するしか無いか」

 

霧の結界の探索を始める。

霧が発生して道が閉ざされているだけで、他の脅威が存在しない。

このままではやがて衰弱して死にはするだろう。

だが直接的な害意が無かった。拘束目的の結界の可能性も有るが、

結界の御立派さを思うと、どうにもアンバランスだった。

 

「これは暴走に巻き込まれたパターンか?」

 

これは襲撃では無く、事故!そんな気がして来た。

やがて霧の結界の中で、同じ年頃の子供が蹲っているのを発見する。

子供は眠っていた。疲れ果てて眠っているように見える。

 

「コイツが術者なら助かるが、どうするか」

 

 

「それが長谷部さん?」

 

「そうだ。鑑定の儀の、帰り道の事になる」

 

長谷部結花。ユーリーンは捨て子だった。

残念ながら珍しくも無い不幸!と言う事になる。

これは教国だけの話では無い。何処にでも有るありふれた不幸だ。

 

「【夢見る乙女】?」

 

「名前がキラキラだが、それが霧の結界の正体だ」

 

ユーリは絶望していた。

在る日突然!親に捨てられて呆然としていた。

親に捨てられて、これからどうしたら良いのか?

これから自分は生きて行けるのか?

 

そう言った未来への不安、混迷が霧の結界となって具現化した。

元々はキラキラネーム通り、

理想の夢を具現化するスキルらしいが、やはり暴走中だった。

 

「これは!」

 

「連理君。なの?」

 

当時の自分は、

この術者候補をさっさと起こして、事態の終息に務めたかった。

だが元々そう言う性質なのか、転生者同士で波長でも合ったのか?

蹲るユーリに触れただけで、パスが繋がる感覚がした。

 

すると景色が一変。霧が立ち込めるスラムが、

転生前に見慣れた平進高校の教室に変わる。

アッシュブロンドに綺麗な碧色の瞳。容姿的な面影は全く無かったが、

目の前で蹲る子供が、隣りの席だった長谷部だと確信する。

 

「そうか、なら尚更。蹲っている場合では無いな」

 

「連理君?」

 

だが相手が誰であろうと、ユーリが結界の主である事に変わりは無い。

この結界はユーリの心の不安その物だ。ならそれを解消すれば脱出可能。

だから説いた。蹲るより、これからの事を考えて早急に動くべきだと。

 

「でも、私一人でどうしたら!?」

 

「教会を頼ろう。確か孤児院が在った筈」

 

安直だった。

教会の孤児院が全ての子供を救ってくれるなら、そもそも孤児は存在しない。

だが気楽に考えていた。

多少の寄進を握らせれば、ユーリを引き取ってくれるだろうと。

帝国の人間である自分では、これが最大限の対処だろうと判断した。

本当に安直だった。そして愚かな選択でも有った。

 

「ありがとう連理君!本当にありがとう!!」

 

「今はレンバートンだ。レンで良い」

 

「解ったよ、レン君!」

 

そして予想通り、教会は喜んでユーリを引き取ってくれた。

これからユーリは教会のシスターか、小間使いにでもなるのか?

それは解らない。ユーリの人生だ。好きにすれば良い。そう思っていた。

 

「それから長谷部さん。ユーリはどうなったのですか?」

 

「結界は解除されて、無事帝国に帰還する事が出来た。

 逸れた供の者とも合流して、すっかりユーリの事も忘れた」

 

だが残念ながら、話は此処で終らない。

それから数年が経過して、成長したユーリと再会する機会が有った。

 

 

「磔刑の聖女?」

 

「はい。聖アレイウス教国から、教会からの援軍。

 新しい聖女様と、信徒兵の援軍です」

 

「新しい聖女様のお披露目。と言う事か」

 

「レンバートン殿下にこれ以上の戦力など、過剰戦力だろうに。

 全く教会も露骨な事をしよる」

 

アレはありふれた討伐任務だった。

帝国の領土に現れた、特に珍しくも無い魔物の討伐任務。

其処へ副官から告げられた報告に、ロナントが鼻を曲げる。

 

確かに自分とロナントだけでもオーバーキルだろう。

だがそれを言うなら、そもそもロナントが居る時点で過剰戦力だ。

 

「ロナント、帰還するか?」

 

「それは殺生ですぞ!レンバートン殿下!!

 是非とも殿下の魔導の深遠!このロナントに拝見させて頂きたくっ!!」

 

「教師でも講師でも無い。教えられる事は無いと言った筈だが?」

 

ロナントの意志は固い。酷いオーバーキルだ。

そして更に追加される過剰戦力!教会は余程、新しい聖女を使いたいらしい。

 

「なら先陣は聖女様の部隊に任せよう。

 こちらは支援に徹すれば良い」

 

「殿下。それでは魔導の深遠が!いや帝国の威信が!!」

 

「ロナントの口から帝国の威信などと言う言葉が出るとは、

 善からぬ事が起きる前触れだな?警戒を厚くしろ」

 

討伐作戦前の軽口。冗談の心算だった。しかしこの冗談は的中する。

新しい聖女の部隊が魔物の群に接敵した。そして目撃する。聖女の戦いを。

 

「何だ。アレは!?」

 

「反射魔法?いや被害を移す呪詛の類ですかな!?」

 

それは何とも無謀な自己犠牲戦法だった。

魔物の只中に飛び込んで応戦。しかし捌き切れる事無く反撃を受ける。

反撃を受けて倒れる聖女。だが反撃に出た魔物も倒れた。

確かにこれはロナントの言う通り、反射かダメージ移しの類だろう。

 

だが何度倒れても起き上がり、

また倒れる聖女の姿を見て、これはそう言う安直な物では無いと確信した。

 

「これより帝国は支援行動を開始。

 さっさと終らせる」

 

「おぉっ殿下!」

 

帝国の支援で、魔物の討伐はあっさり完了。

瑕付いた聖女は、美しく成長したユーリだった。

だがあの綺麗な碧色の瞳は閉ざされ、アッシュブロンドの髪も瑕だらけだ。

再会に会話は無く、担架で運ばれて行った。

 

「ユーリはすっかり聖女になっていた。

 あぁやっていつも、瑕付きながら戦っているらしい」

 

「レン」

 

選択を間違えたのだと、そう実感した。

安直な判断だった。帝国の人間だから何だ?外国人だからどうした!?

あの時教会に預ける事無く、帝国で保護して置けば!と後悔している。

いくら帝国の人間で外国人でも、自分は帝位継承者だ。何とでも出来た筈。

人一人。ユーリ一人位!助けられた筈だ。

ユーリを聖女にして、過酷な人生を選ばせる事も無かった筈だった。

 

「相談。して欲しかったです」

 

「カティアの顔を見たら、弱音を吐きそうだった。

 全て、ブチ撒けたくなる」

 

カティアに後ろから抱き付かれる。

こうなる気がしていたから避けていた。だが拒む事は、やはり出来無い。

 

「撒いてくれて構いませんのに。

 婚約者でしょう?」

 

「ユーリの件以外にも、色々有った。

 まだ話していない事がゴロゴロしている」

 

「話して下さい。レンに何が有ったのか、知りたいですわ」

 

 

補足&解説枠。

ユーリとの再会。過去回です。

 

鑑定の儀

アニメ版ではシュレインが、教皇と会っていたシーンが有ります。

アレを鑑定の儀だと仮定。

アナレイト王国に教皇を招待した可能性も有りますが、

本作のレンは鑑定の儀を受ける為、聖アレイウス教国まで行った設定です。

 

ユーリーン・ウレン

原作では赤ん坊の頃に、既に捨てられて孤児に。

本作ではレンが、鑑定の儀を受ける年に捨てられています。

これは帝国の第二王子であるレンが、

教国の孤児であるユーリに、赤ん坊の頃に会えるフラグが無いからです。

 

夢見る乙女

ユーリの転生特典。理想の夢を具現化するスキル。

今回は不安や混迷が形となって、霧の結界が具現化。

平進高校の幻影は、接触に因る一時期的な共通投影です。

 

ロナント

レングザンド帝国の、人類最強の魔法使い。

魔法マニア同士レンとは仲が良く、討伐任務などに同行したがる。

レンを手本とすべき師匠を視る目で見ているが、

原作の白織を見るような、崇拝の域には達していない。




過去レンとロナントが、
ダメージ【移し】と言っているのは誤解釈。ダメージ【映し】が正解。

この後カティアは帝国で何が有ったのか聴く事になりますが、
真相編はスキップして続きます。

次回はソフィアにストーカーが!?
と言う話しになる予定ですが、公開未定です。仕事が☆


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28 好き、だから

忙しい夏が終り、久々に仕上げました☆


「~♪」

 

「御機嫌だな、ソフィア」

 

「そうね?こう言うのも悪く無いわ」

 

と言っているけど、明らかにソフィアの顔は弛んでいた。

解り易く言うなら【幸せそうな笑顔】と言うヤツだった。

オリくんの腕を取って、幸せそうに微笑んでいる。

 

何だろう?このファンタズマゴリアの悪夢を彷彿とさせる展開は!

勿論これには事情が有る。

そうでなければ学園の中で、こんな空気の読めない行動は取らない。

 

「ソフィアに、ストーカー?」

 

「典型的な尾行タイプよ。間違い無いわ」

 

「遂に来たか!」

 

学園に入学してから、一ヶ月程が過ぎた。

そんな在る日。今日は屋上で昼食を摂っていると、

ソフィアからそんな話題が上がった。

 

ソフィアが言うには、

一人で行動している時に限って、尾行者が居る。と言うモノだった。

日本に居た頃の物差しで言うなら、ソフィア狙いのストーカーと言う事になる。

 

だけど此処はファンタジーな異世界で、ソフィアは吸血鬼だ。

最悪のケースでは、ソフィアの正体を嗅ぎ付けた某国某組織のスパイ。

ソフィアの身体目当ての変質者。告白したいだけの一般生徒が相手でも、

何かの拍子で、ソフィアの正体が露見する恐れが有る。

 

だからもしストーカーらしい相手が現れたら、

三人でキッチリ対処する!そう決めていた。

 

「それで、相手の身元は?」

 

「探知で追跡済よ。でも、知らないヤツね」

 

でもソフィアは、易々とストーキングされる無力な女子生徒じゃない。

背中を向けたままでも、ストーカーを探知で調べられる。

 

「オリくん、どう?」

 

「アナレイトの伯爵家の子弟だった気がするが、それだけだ。

 まずは振るいに掛けるしか無いだろう」

 

スパイか変質者ならこっそり処理する。

一般生徒が相手なら、初見は穏便に追い払う事にしている。

 

「経験が無いけど、上手く行くものなの?」

 

「大抵のヤツは諦めるだろう。

 危険人物なら、襤褸を出す処だ」

 

と言う訳でオリくんとソフィアの、公開イチャコラタイムが始った。

まず登校風景!朝からオリくんとソフィアが、腕を組んで登校。

幸せオーラを振り撒いている。

 

「えっと、何が有ったの!?」

 

「色々有った」

 

直接訊いて来たのはフェイ一人。でも、

これにはターゲット以外にも、絶句してガン視している生徒が多数存在した。

ソフィアは身体がエロいから【当ててるのよ】状態になっている。

 

「学生のイチャコラと言ったら、これでしょう!」

 

「おぉ、これが噂のソフィアの手作り弁当」

 

お昼休みには、ソフィアが料理の腕を披露した。

レベリングツアーでもお世話になった、ソフィアの手料理だった。

 

「ほら、白織も」

 

「私の、分?」

 

「白織だけ、除け者に何てしないから」

 

「………」コクコク

 

オリくんだけでは無く、私の分のお弁当まで用意してくれるソフィア。

どうやら料理の腕は衰えていないらしい。

 

「懐かしい美味しさ♪」

 

「白織とソフィアは、二人旅をした時期が有ったな。

 その時のイベントか?」

 

「美味しいって言ってくれるのは嬉しいけど、

 アレを【懐かしい】で片付けられると、微妙な気分になるわ」

 

少し恨みを滲ませた視線になるソフィア。

心外である。あのレベリングツアーは、ソフィアの為の企画なのに!

どうして恨まれるかなぁ!?

 

「解って無いって顔ね?

 なら言うけど、いきなり毒料理は無いでしょう!?

 初日で死ぬかと思ったわ」

 

「弱毒だった。毒耐性は必須」

 

最初から致死量の猛毒を並べた事は無い。

ちゃんと調整した弱毒料理だった筈。

旅に毒耐性は必須だと思う。いつも真面な食糧が手に入るとは限らないから。

 

「確かに毒耐性のLvは上がったし、役に立ったわ。

 でも当時の私は赤ん坊だったのよ!?あ・か・ん・坊!」

 

あの頃のソフィアは、まだ自由に歩けもしない時期だった。

恐らくだけど、

ソフィアが初めて立ったのを目撃したのも、両親では無く私だと思う。

 

「本気で殺されるかと思ったわ。

 あの後の事だから」

 

「………」

 

あの後。と言うのは、ソフィアの告白の事だ。

ソフィアは、オリくんの事が好きだと私に告げて来た。

大きな決断。勇気が必要だったと思う。

本人に告白するのと同じ位の難易度だったかもしれない。

 

でもその直後にエルフの、

サイボーグポティマスの襲撃が有って、返事は保留になる。

私はただ、自衛手段が必要だと思っただけで他意は無かった。

 

まぁソフィアのレベリングは怪しい影の分身任せで、

本体の私は、オリくんと平穏に過ごしていたけどネ☆

 

「それにしても、

 これはお約束の【ソフィアは良いお嫁さんになれるぞ】とか、

 その手のパターンのイベントが来る美味さだ」

 

「そう言う時は、素直に私を褒めなさい。

 もう婚約者だけど」

 

話題が移って、オリくんの凄い好評価!でも気持ちは解る。

ご飯が美味しいのは、とても幸せな事。大迷宮で経験済の出来事である。

 

「ソフィア、結婚してくれ」

 

「!?」

 

「ちょっ!?いきなり何を言い出すのよ、アナタはっっ!!!」

 

スマートにソフィアの手を取って告白。

ソフィアはあぁ言ってるけど、顔が赤い。結構本気にしてると思う。

 

「使い古しの常套句だからな。

 不意打ちしか無いだろう?」

 

 

「これで、諦めてくれれば良い」

 

その後もオリくんとソフィアの、イチャコラと言う名の誘導は続いて放課後。

遂にターゲットは動いた。動いたと言うより、走り去って行った。

二人のシュガー具合に耐え切れなくなって逃げた?それとも諦めた?

諦めてくれると助ける。これ以上は、面倒な処理コースになる。

 

騎士上りの伯爵家の子弟で、ストーカー君で良いか。

ソフィアは諦めた方が身の為だよ?主にお互いの為に。

 

「Ⅱ?もう良いんじゃないかしら!?」

 

「盛り上がってる」

 

夕暮れの教室。差し込む夕日。そして抱き合う二人。

ソフィアは学園の中だからと口では拒絶しても、強く抵抗しない。

やがて諦めたのか、二人の唇が重なる。

イチャコラしている内に盛り上がったらしい。もうストーカー君も居ないから。

 

「………」

 

席を外そう。それが暗黙のルール。

ソフィアもオリくんの婚約者で、

昔から好きな人の醜い奪い合いは、

冷める原因!と言うのがラブコメの常識である。

 

「サイネリアの花」

 

何と無く、学園の庭園までやって来る。

其処に白いサイネリアの花が咲いていた。

新しい名前のモチーフだから知っている。

どうやら魔法で管理されているようで、季節外れの花も咲き誇っていた。

 

花を愛でるとか、私のガラじゃない。

サイネリアの事を知ったのも、名前が新しくなってからだ。

 

「若葉さん」

 

「S君」

 

そうやってガラにも無い事をしていると、誰かが近づいて来る気配がする。

それは件のストーカー君と、そのストーカー君を連れたS君だった。

フェイのマスターで、転生者の一人。それにアナレイトの王子様だったっけ?

今は何処か、険しい表情を浮かべている。これはどう言う展開!?

 

「バルトンに聞いたよ。どうしてアイツの!?」

 

「?」

 

S君の良く解らない主張を聞かされた。

まずはオリくんが、ソフィアとイチャコラしていたと聞かされる。

知ってる。ついさっきキスシーンまで目撃した。

夕暮れの教室でキスシーンとか!恋愛ゲームなら、確実にCGシーンである。

 

それでオリくんは、最低の二股だと!

どうしてそんなオリくんの婚約者をやっているのか?と聴きたいらしい。

 

どうして、どうしてか。

私も、日本で女子高生として過ごした。

私一人を見て欲しい。と言う一般的な感情が、無いと言ったら嘘になる。

だけどソフィアの事も別に嫌いじゃない。

 

「好き、だから」

 

それに揺らぐ事の無い想いが有る。

オリくんへの想いは、ソフィアが隣りに居ても揺らぐ事は無い。

言葉にすればたった一言。それだけだった。

 

「若葉さん。

 そんなにアイツの事が?」

 

「………」コクコク

 

S君も、誰かを好きになれば解ると思う。

実妹ちゃんとメイドさんと、フェイが居て本命が居ないのはどうかと思うけど。

 

S君は俯いて退場。

ストーカー君も心配そうな顔で追従して行く。

もしかしてこれはアレかな?と思ったけど、

私から起こすアクションは何も無かった。

 

 

「それで、今度は何が有ったの?」

 

「何も無いわ、ただの平常運転でしょう?」

 

前回のソフィアとの腕組み登校に続いて、今日も注目を集めていた。

今回ばかりは賛同出来る。逆の立場でもまず注目する。

 

「~♪」

 

今回、隣りで腕を組んでいるのは白織だ。

しかもかなりの上機嫌!誰にでも解るだろう微笑みを浮かべている。

 

ソフィアは平常運転だと言うが、そうでも無い。

今まで【目が見えないから】と言う名目で、手を繋いで登校はしていた。

だが腕を組んで登校した事は無い。

 

そして当然の事ながら密着している。

決して忘れる事の無い感触と温もりが、登校中に伝わって来る。

 

今回のイチャコラ判別作戦は下策だったかもしれない。

白織に寂しい想いをさせたらしい。

白織が解り易く積極的になるのは珍しいから、直ぐ解る。

 

だから念を入れて白織にだけ聴こえるだろう音量で、

この気持ちを、好意を伝える。白織の応えは?

 

「知ってる」

 

きっと傍から聴いたら、アッサリとした応えだったかもしれない。

だが腕を組んで密着している自分だけは解る。

腕を組む拘束力が増大して、密着度と感触が↑↑。

微笑みは、笑顔にクラスチェンジしていた。

 

 

補足&解説枠。

ソフィアイベントと思わせて、白織イベントでした☆

 

サイネリアの花

白織が独りで、庭園の花を愛でている光景。

傍から観測すると、寂し気な絵になると思う。

→白織のシュレインには、がしがしそう見えています。

 

バルトン

原作では、課外講義でシュレインとテントを建てていた班メイト。

本作でも実技でシュレインに助けられていた。

シュレイン→白織に気付いて、シュレイン様の為に!

とツヴァイ達三人に探りを入れている内に、ソフィアに惚れた設定。

 

因みにソフィアは?

夜にしっかりと欲求を発散しているので、【魅了】は暴走していない。

殆どいつでも好きな相手(ツヴァイ)を抱けて、血も吸える!

と言うとても恵まれた環境下で過ごして居ます。

暴走の余地は無く、ソフィア側に落ち度は全く無い状況。




当初は決闘イベントも想定していましたが、
白織のシリアスお断りの後で、
決闘騒ぎまで起こすとザコ臭いので、カットしました。

今後の予定としては、
雨はいつ上がる?(課外講義)
臨海学校☆(水着イベ)
友を訪ねて三千里!(魔族領への旅)
などと構想していますが、やはり公開未定です。


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29 雨雲の巫女

サリエーラにも四季が有ると思って下さい。
六月の新イベント開幕。


「雨、ずっと降ってる」

 

空は雨雲に覆われて、雨が降り続いている。

久しく太陽を見ていない気がした。そんな空模様。

 

日本で言う六月の雨。雨季の雨だった。

生きる為に水が必要なのは勿論経験済だけど、これは長い。

雨続きで、今度は水害が起きそう。

 

「白織は、雨が嫌いだったか?」

 

「………」フルフル

 

雨が嫌いと言う事は無い。

元々アウトドアの活動的なキャラじゃないから、

巣穴(家)に籠っていても、退屈はしない。

 

湿気が酷くなると、髪の管理が大変になる位。

神化で人型に成ってからは、特にそう感じていたりする。

 

でもオリくんは、長い髪が好きだった。

長い髪は管理が大変だけど、手入れは怠っていない。

 

「最も綺麗な髪は、【銀髪】だと思っている」

 

何かで髪の話題が出た時に、オリくんはそう宣言していた。

私はアルビノで、髪も白いんですが!?

 

「だがそれ以上に好きなのが【アルビノ】だ」

 

「………」コクコク

 

包み込むように抱き締められて、

愛されている事を実感する。この感覚が、私は好きだった。

 

「でも、フェイも白い」

 

だけどオリくんの腕の中で気付いてしまう。

同じ魔物転生のフェイも、人型になると白くなると!

 

「いや、白ければ何でも良い訳じゃ無いからな?」

 

と言う一幕が有って、私の髪は長いままだった。

今では自慢の髪である。

 

「オリくんは?」

 

「屋根の下の安全圏で、眺めるだけなら。

 イベント的にも、何か起こりそうで好きだ」

 

イベントか、

この雨でも何か起きたりするのかな?と思っていたら、本当に起きた!

 

と言っても些細なイベントだ。

現時点での上位成績者が、発表されただけ。

日本でも、有名進学校とかでやるヤツである。

 

「首席?」

 

「おめでとう、と言って置こうか?」

 

首席は私で、

次席が入試で首席だった帝国の王子様。

その後の三位にオリくんが、四位にはソフィアがランクインしていた。

 

特にソフィアの順位は絶妙。

一番目立つ上位三位を避けながら、好成績をキープしている。

 

「手加減、した?」

 

「この手の学園物では、首席に面倒な強制イベントが入り易い。

 対策はすべきだと思わないか?」

 

それって私が、考え無しに地雷を踏み貫いたって事!?

と言ってる内に呼び出されて、【雨雲の巫女】とやらに指名されてしまう。

 

雨雲の巫女は、日照り続きの干ばつ。

それに丁度今のような、長雨の時に儀式をする巫女らしい。

 

サダクビア領。

サリエーラの辺境で、何も無い霧深い盆地だった気がする。

其処まで出向いて儀式をして来るのを、

課外講義扱いで受ける事になる。(強制)

 

「オリくん、ソフィア!」

 

「下手を打ったわね」

 

「付き合うのは構わないが」

 

雨雲の巫女に指名されて、サダクビア領行きが決まる。

課外講義扱いだけど、道中護衛を連れて行く事が出来る。

勿論私は、オリくんとソフィアにお願いしたんだけど?

 

「確か白織は、

 天候操作も出来たな?」

 

「ラナリオン」

 

そう!態々辺境に行って、

怪しい儀式をしなくても、私にはラナリオンが有る。

たった今から雨雲を晴らす事も出来た。

 

「まぁ折角の課外講義だ。

 突発イベントを愉しむのも、アリだろう」

 

 

「太陽の光」

 

「随分と久しぶりな気がするわ。悪く無いものね?」

 

厚い雲を抜けて、雲の上の蒼穹に出る。

其処には久しく目にしていなかった太陽が、当然のように輝いていた。

太陽の光を浴びて、ソフィアが気持ち良さ気に身体を伸ばす。

それで良いのか吸血鬼!?と言いたくなる光景である。

 

「まぁ、かなり久々だからな?」

 

「はい。日頃から乾燥処理が必須でした」

 

ソフィアの奇行にオリくんとセリオが、寛容に応える。

そう、オリくんのメイドであるセリオだ。

今回の課外講義は(通常なら)長旅になるので、

護衛だけでは無く、メイドの同行も許可されている。

セリオの同行は助かるので、迷う事無く同行して貰う事にした。

 

「それにしても、流石ね?」

 

「龍だからな?」

 

私達は今、雲の上に居る。

下は雨続きだから、目的のサダクビア領まで雨雲の上を行く事にした。

セリオを含めた四人で乗っているのは、オリくんが召喚した白銀の龍だった。

 

オリくんは神化する為に、あれから定期的に龍の血を接種している。

今ではもう、龍関連のスキルをかなり修得していた。

今回の龍(眷属)召喚もその一つ。

オリくん自身は、こんな主人公臭いスキルは似合わない。

と良く愚痴っている。

 

「この子、名前は?」

 

「名前か、そうだな」

 

この子は私も初めて見る。まだ名前は決まっていないらしい。

これで龍では無く鳥系なら、【ラーミア】と呼びたくなる展開だった。

 

それにしても見事な白銀である。

降り積もったばかりの処女雪のような、穢れ無き白銀。

それに通常の龍種では無く、【雪龍】と言うレア種族らしい。

オリくんの趣味趣向が滲み出ていた。

 

「【雪那(セツナ)】。

 お前は名前は、今から雪那だ」

 

雪那。

雪龍の子にそう名付けると、雪那はそれに応えるように咆哮を上げる。

それは龍の声だと思えない程の、歌うような綺麗な声だった。

 

「オリくん。

 雪那は ――― 」

 

もしかして人型になったりするの!?

と訊きたくなったけど、それがやって来る。

 

「良しっ追い着いたっっ!!!」

 

「飛ばし過ぎですわっ!フェイッッ!!」

 

白い龍。龍の姿に戻ったフェイが、雲を突き抜けて姿を現す。

背中にはマスターのS君の姿は無く、カティアと首席君が騎乗していた。

 

「レンバートンとカティアか、

 あの二人が何故此処に?」

 

「カティアも、雨雲の巫女」

 

呼び出されたのは、私だけじゃ無かった。

ソフィアと同率四位のカティアも、雨雲の巫女に指名されている。

フェイと首席君は、恐らくカティアが選んだ護衛役。

 

「ちょっ!?

 それって競争相手って事なの!?」

 

「好きにすれば良い。そう答えた」

 

 

「あら、白織」

 

「………」

 

上位成績者が発表されて、呼び出しが掛りました。

それに応じて学生指導室を訪れると、先客が居ました。

白織です。白織・サイネリア。

 

元クラスメイトの転生者。

フェイと同じ白いアルビノ。ですが何かが違う。

一部では神獣の巫女と噂されています。

 

今に到るまで少し話しをする機会は有りましたが、

一対一で対面するのは初めて。

白織はツヴァイやソフィアと仲が良くて、いつも一緒ですから。

三人で完結しているみたいで、

余り他のクラスメイトと過ごしている処を見掛けません。

 

「雨雲の巫女ですか、

 それなら、今回は競争相手ですわね?」

 

「………」

 

そんな白織共々、雨雲の巫女に指名されます。

ですが白織は、特に興味が無い様子です。

 

「課外講義ですのよ?

 評価点が高いのは、殆ど確定だと思いますが」

 

「結婚、するから」

 

これは、結婚するから就活はしない!と言うノリでしょうか?

ですがそう主張する白織自身が首席です。

 

「それとこれとは別の話です。

 それに、私は其処まで楽観していませんわ」

 

「違うの?」

 

暫く婚約者トークで盛り上がります。

白織は典型的な、好きな話しになると饒舌になるタイプのようです。

こうして婚約者の話しをしている白織を見ていると、

噂の神獣の巫女とは程遠い、ただの恋する乙女に見えます。

 

「私は本気で行きますわよ?

 やっぱり勝ちたいですから」

 

「好きにすれば良い」

 

白織と話しが出来て、今日は少し仲が良く成れた気がします。

それで課外講義の方はどうしましょう?

サダクビア領までそれなりに掛りますし、護衛(同行者)も必要です。

 

「雨雲の巫女?サダクビア領?

 カティアの頼みだ。勿論付き合おう」

 

「はい!宜しくお願いしますわ♪」

 

レンが快く同行を引き受けてくれた。

自分でも、声が弾んでいるのが解ります。

あの一件以来、レンとも普通に話せるようになりました。

 

「えっ課外講義?

 なら私が、乗せて行ってあげるよ」

 

「良いんですの?シュンが居ませんのに」

 

その後でフェイと遭って、サダクビア領まで乗せて貰える事になりました。

シュンが塞ぎ込んでいるから、退屈だそうです。

 

シュンは白織に告白して玉砕したとか。

あれ程仲が良いのですから、無謀です。

 

「シュンは家族に任せるって事で、

 それじゃあ早速行こうか、勝ちたいんでしょう?」

 

 

補足&解説枠。

白織&カティアの友好イベント入りました☆

 

雨雲の巫女

魔法適正では無く、単純に魔力量の多い女子が選出。

カティアと同率のソフィアは、これを上手く誤魔化しています。

 

ラナリオン

原作では雨雲を呼ぶ天候系呪文!となっていますが、

本作では、雨雲を【操る】天候系呪文。と言う設定。

 

雪龍の雪那

色々と盛りましたが、人化の予定は無し。

雪那はモブの騎乗龍です。

セリオもモブメイドからの出世ですが☆

 

学生指導室

そろそろ気になっているかもしれませんが、学園にフィリメスは不在です。

本作ではケレン領が健在なので、ソフィア父がしっかり報告済。

サリエーラ上層部に、エルフ襲撃の件が伝わっています。要警戒中。

 

自国の事なので、

国外では平和の使者を謳うエルフも、

サリエーラ国内では、傲慢で危険な仮想敵として知られている設定。

 

婚約者トーク

カティアはすっかり女子をやっているので、

大島が若葉に告白した件は、無意識に避けています。

告白されたのもDの方なので、白織も訊かれるまで記憶の底です。




シュレインは玉砕したばかりなので、スーと居残りです。
ユーリがパーティーに加わるのは、まだ早いかな?と言う判定。
レンはカティアが口説きました☆(未公開)

次回はサダクビア領の探索を予定しています。


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30 いつも、ありがとう

もうクリアしている案件では?
と言う感じですが、ふとした切欠で噴出するかと。


「雨が降っていないのは、良いけど」

 

「霧が晴れるのを、期待するのは無駄のようです」

 

雪那の、龍の移動速度と飛行能力は偉大だった。

サダクビア領に即日到着。雪那の召喚は解除。

此処からは、峡谷を地上から行く事になる。

ソフィアの言う通り、雨は降っていない。だが峡谷は霧で覆われていた。

 

「ミストドラゴンが、出そう」

 

「実際にミストドラゴンが出ても、対処法は有る」

 

ミストドラゴン。要は半実体型の幻獣だ。

霧状になると物理が通らなくなる事が有名だが、

実際に戦うなら、魔法が普通に通りそうな印象が有る。

 

「来ます」

 

霧の中から現れた敵を、最初に捉えたのはセリオだった。

レーダーに因る広域索敵能力。

この霧の中でも、問題無く機能しているらしい。

 

「こっちも捉えたわ」

 

「いつもの事」

 

ソフィアは探知の並列運用。

眷属支配の音波探査も得意だが、探知の方が高性能かつ低リスクだ。

 

白織が視覚に頼らないのはいつもの事だった。

目を閉じたままで、様々な情報収集手段を保有している。

 

「対龍兵装は失いましたが、微力ながら助力出来るかと」

 

と言ってセリオが装備したのは、腕に装着するタイプの大剣だった。

それはドラゴンキラーに酷似していた。

と言うよりセリオの来歴を想定すると、ドラゴンキラーしていた武器の筈。

 

「セリオの勇姿、見せて貰えるか?」

 

「はい。行きます」

 

セリオが先陣を駆ける。

かなりの速さだ。これでスラスターを失った加速無しの状態である。

素足のDEXだけで、霧の中から現れるコボルトの群を蹂躙して行く。

 

対龍兵装で龍と戦う事が前提のセリオにとって、

ドラゴンキラーはメイン処か、サブウェポン以下のナイフでしか無い筈。

 

コボルトは普段、鉱山などの穴倉を根城にしている。

聴覚/臭覚が鋭く、霧の中でも平然と活動可能。

索敵能力が高い方で、決して油断して良い相手では無い。

 

無いが、セリオの敵では無かった。

時折迂回して背面か側面を取ろうとするヤツも居たが、

 

「無駄」

 

接触が成功する前に、白織が布陣した蜘蛛の巣に囚われて行く。

動きを封じられたまま捩られて、文字通り襤褸雑巾のようになる。

 

「次が来るわ」

 

「ゴーレムか」

 

セリオがコボルトの群を粗方片付けると、

次にゴーレムの部隊が姿を現す。

ゴーレムは一般的に、自然発生する代物では無い筈。

近くに遺跡でも有るのか?

 

「隠す気も無い駄作ね」

 

ゴーレムは刻印で起動して、弱点になっている事は有名である。

だから大抵のゴーレムは、刻印を上手く隠しているケースが殆どだ。

だがこのゴーレムは後頭部。

少し高い位置に有るだけで、弱点が露出してしまっている。

 

「ダメよ、隠さないと。恥を知りなさい」

 

ゴーレムの部隊は、ソフィアが即席で作った落し穴に嵌った。

穴に嵌ったゴーレムを、蹴りで悠然と砕く。

無抵抗の相手に止めを刺すソフィアが、何とも愉しそうである。

 

「デカイな、中ボス出現!と言った処か?」

 

地響きを鳴らして、巨大なゴーレムが姿を現す。

ゲームで言うなら正に、中ボス出現!と言う展開。

だがデカイだけだ。

峡谷の狭いフィールドに合っていないし、鈍重なのも変わらない。

物理的に道を塞いでいるだけの、路傍の石だった。

 

「邪魔だ」

 

拳に龍の力を集束して、普通に跳躍して頭を殴った。

確認はしていないが、

今までのゴーレムは頭に刻印が有ったから、憶測でしか無い。

 

「やはりデカイだけだったか」

 

巨大ゴーレムは、地面に倒れる前に砕け散った。

刻印を破壊したからでは無い。

拳の打撃力が、巨大ゴーレムの耐久値を遙かに上回った結果である。

 

 

「それで、どうします?

 ルートの争奪戦から始めますか?」

 

サダクビア領の峡谷に、二体の龍が降下する。

白銀の雪那から降りたのは、私達四人。

向こうはフェイを含めて三人。フェイ、カティア、首席君だ。

 

カティアは勝ちに行く~と言っていたから、

これからのルート選択も重要になる筈。

 

学園側から渡された資料では、

峡谷を正面から抜けるルートと、迂回ルートが。

其処に儀式の実行ポイントが有るらしい。

 

「いや、此処で潰し合う事は無い。

 こちらは迂回ルートで行く」

 

「そうですか、

 向こうで会うのが楽しみです。レンバートン殿下」

 

「同じ元クラスメイトだから、と親しい顔をする心算は無いが。

 此処は公式外、敬語は無しで構わない」

 

「そうか、ではまた後でだ。レンバートン」

 

首席君は帝国の王子様だからと、

珍しいオリくんの敬語を聞く事になる。

 

そして首席君が選んだのは迂回ルート。

カティアとフェイを連れて、其方へ向かう。

私達は正面のルート。

 

そうしてコボルトやらゴーレムやらと戦闘になって、日が暮れた。

私達は、素直に野営する事にした。

夜間行軍する程、この課外講義に力は入れていない。

 

「準備が整いました。こちらです」

 

「くっ流石は本職!」

 

夕食の時間。

料理が得意なソフィアだけでは無く、本職メイドのセリオが居る。

食材も真面な物を、充分に保管して空納している。

もう迷宮サバイバル時代とは、食のLvが違う。

魔物肉を、コボルト肉を実食する機会はもう無いっっ!!!

 

「食事時の白織は、本当に幸せそうだな?」

 

「魔物肉の不味さを体験したから」

 

折角の料理が不味くなるから、実体験の食レポは口にしない。

だけど昆虫系は特にダメ!不味くて、エグくて、臭い。

 

「鯰か鰻なら、今食べても良い」

 

「其処だけ聞くと、真面な食事の話だが」

 

「美味しい魔物肉の話なのよね」

 

と言う訳で何の問題も無く、平穏な食事の時間が過ぎて行く。

そして入浴!旅先でもお風呂は欠かさない。

前にやった事が有るから、ただの反復作業。

露天風呂的なバスタブを製作。今日は三人で入る事になる。

オリくんは見張りを兼ねた順番待ちだった。

一緒だと、汗を流す処じゃなくなるから。

 

「本当にオートマタなの?って言いたくなるわ」

 

「ナノマシン、凄い」

 

セリオの肌は綺麗だった。

特に背中が、背中には瑕が一つも無い。

 

セリオの背中には、翼が有った。そう聴いている。

人類を滅ぼすと決めた、龍の軍勢との戦争。

その戦いの中で、対龍兵装と共に翼を喪失した。

だけど喪失した翼の傷痕は、今はもう何も無かった。

 

 

「これは、作為的じゃないかしら?」

 

「二人用だから、必然」

 

一日の終り、就寝の時間。

今夜は私が用意した、蜘蛛の糸のハンモックで眠る事になる。

私にとっては懐かしい寝床。

神化して人型になってからは、屋敷で普通に布団だった。

だけどこのハンモックで眠るとなると、我が家に帰った気がして来る。

 

「こっちがソフィアとセリオ。

 これがオリくんと私」

 

「確かに用意したのは白織だけどっっ」

 

当たり前のように、ハンモックは二人用の物を用意した。

ペア分けも、製作者権限でオリくんとペアだ。選択肢は無い。

これを拒否すると、後はもうマントに包って眠るしか無くなる。

常時霧に覆われて湿った峡谷の地面で、進んでやりたい行為では無い。

 

小規模とは言え、旅に出るのにテント一つも持参しないとか!

温い。圧倒的に温い。

流石は日帰りのソフィア、だから容易く出し抜かれる。

私は華麗にソフィアを黙らせる事に成功した。

 

「思ったよりも快適だな」

 

「頑張ったから」

 

オリくんが私の作ったハンモッグに身を委ねる。

快適だと好評化で安心する。本当は少し不安だったから。

 

睡眠は真面な生き物なら、誰でも摂らなくてはならない。

そして無防備を晒さなくてはならない時間でも有る。

だから迷宮サバイバル時代は、色々と試行錯誤したモノだった。

 

今回見張りも立てずに眠るのは、ハンモックの防衛機能を信じているから。

周囲には、蜘蛛の糸のセンサーが張り巡らされている。

迷宮サバイバルを生き抜いた自信作の一つ。

もしこれをあっさり拒絶されたら、流石にショックだ。

 

「白織?」

 

瞼を開く。

赤い目でオリくんを見つめる。

オリくんは、目を見た方が私の事が解ると言っていた。

だから瞼を開く。伝わって欲しいから。

 

「いつも、ありがとう」

 

だって、このハンモックはどう見ても蜘蛛の巣だ。

本当は怖くない?拘束されたり捕食されたりとか、心配じゃない?

今は神化して人型だけど、私は蜘蛛の魔物だよ?

 

オリくんはいつも、当たり前のように壁を乗り越えて来る。

それがどれだけの難易度なのか、考えた事も無いんじゃ無いかと思う。

 

だから私はハンモックの中で、

開いた瞼をもう一度閉じて、唇を合わせる。

この想いと、感謝が伝わりますように。

 

 

補足&解説枠。

些細な切欠で、種族の壁は出現する。

 

迂回ルート

イメージは某エターナルソードの、マロリガン攻略戦。

正面ルート、砂漠横断ルート、迂回ルートが在る。

正面ルートは当然ながら防衛ラインが最も厚く、

砂漠横断ルートも旨味が少ない。

迂回ルートが、殆ど正規ルートだと思う。

 

正面ルートに魔物の群が現れたのは、

こっちの防衛ラインのイメージの名残り。

 

日帰りのソフィア

二人旅レベリングツアーの設定。

実は日が暮れると、白織の転移でケレン領の自宅に戻っていた!

原作の旅と比べると、確実にイージーモード。

夜はベッドで寝られる。と言う超贅沢な旅☆

 

旅に出るのに、

ソフィアがテントやシュラフを持参し無かったのは、これが原因。

白織はツヴァイに「用意は、私がする」と言っています。

 

いつもありがとう

皆さんは、モン娘系18禁恋愛ゲームのプレイ経験は有りますか?

私は有ります。

其処で、種族の壁を体感しました。

 

「いつも人の姿で出て来てくれてありがとう」と。

割とガチで、人外ヒロインに感謝を伝えたくなりました。




因みに何の因果か、
↑のゲームの推しヒロインの種族は、アルケニーと言う蜘蛛系です☆

次回はカティアチーム探索パート。


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31 竜の墓標

久々に続きを描きました☆
カティアチームの探索パートです。


「レン、これは!?」

 

「【竜の墓標】」

 

フェイの必死の快走(飛行)のおかげで、

サダクビア領の手前で、先行する白織達に追い着けました。

その後レンの提案で、

私達は白織達とは分かれて、別の迂回ルートを進む事に。

 

霧に覆われた峡谷は視界が悪くて、

フェイの龍の直感が無ければ、危うい場面も何度か有りました。

 

「竜の墓標?」

 

「文献でしか見た事が無かったが、まさかこんな処でか」

 

そうして迂回ルートを進んだ私達が見たのは、

霧の峡谷に密かに佇む廃村らしき物でした。

ですが問題は、其処では有りません。

その峡谷の廃村には、至る処に巨大な骨が野晒しになっていました。

 

それは陸に打ち上げられた鯨の骨かと思いましたが、

此処は異世界で、これは鯨の骨では有りません。

 

竜。ドラゴン。最強の魔物。

本来なら最強で在る筈の竜が、その屍を晒していたのです。

 

「これ、全部竜の骨なの!?」

 

「竜の墓標と言うのは、古戦場か何かですの?」

 

「竜の骨は高額で取引される。

 これだけ有れば一財産!人間の所業では無い。とされている」

 

竜を討伐出来る人間。

凄腕の冒険者が居たとしても、それなら竜の骨の野晒しは在り得ない。

 

「それなら、魔物同士の?」

 

「その可能性も低いと言われている。

 竜の墓標は世界各地で確認されているが、

 竜と争った筈の、相手の痕跡が見つかった事が無い」

 

「竜が、負け続けたって言うの!?」

 

竜を討伐し続けて、痕跡も残さない。

竜は確かに屍を晒しているのに、しかもそれが世界各地に!?

 

「レン、

 竜の墓標と言うのは、もしかして」

 

痕跡が無いと言うのなら、討伐者が何者か?

と言う問題に、明確な解答が出る気がしません。

ですが手段だけなら。

 

竜の墓標は古戦場では無い。と言う事です。

竜は何処か別の場所で敗れた。

敗れて、その亡骸が纒て遺棄された。

歴史ロマンでは無く、ミステリー路線になります。

 

 

「そろそろ、日が暮れそうですわ」

 

竜の墓標の考察で盛り上がる一幕が有りましたが、

痕跡が無い以上、やはり想像の域は出ませんでした。

 

「今夜は此処で野営だな。

 折角の屋根だが、この有様だ。予定通りテントを設営した方が良いだろう」

 

「そうですわね?」

 

この廃村の状況では、いつ倒壊が起きても不思議では有りません。

準備して来たテントを用意します。

 

「フェイも、構いませんか?」

 

「って言うかさ、私の方がお邪魔して良いの?

 カティアってレンと婚約者でしょう?」

 

「其処で、気を使おうとしないで下さい///」

 

「私は外でも大丈夫だよ?」と、気を使われてしまいます。

テントは用意して来ましたが、

男女別!と言うより、グループ別で用意するのを失念していました。

今夜は三人一緒のテントです。

 

「それにしてもさ、

 カティアとレンは公爵令嬢と王族なのに、

 平然と保存食を食べてるね?」

 

「何ですの、突然?」

 

テントを無事に立てて、夕食の時間。

フェイが疑問を口にします。今夜の夕食は、予め用意して来た保存食。

旅の野営なのですから、公爵令嬢も王族も無いと思うのですが?

 

「研究室に籠る時も、割と普通に食べている。

 人間は不便な生き物だ。と常々思っているが」

 

「うわっそれ、ヒキコモリの発想だよ!?」

 

確かに健康に悪そうです。

ずっとポーカーがしたくて、サンドイッチを作った人かと思いました。

 

日本風に言うなら、

カロリーブロックやウィズゼリーで生活しているかのよう。

ブロックもゼリーも栄養補助食品ですが、主食では有りません。

料理が出来る身としては、やはり健康に悪い気がします。

 

「料理は出来ますが、旅先では材料の調達が」

 

「どの道その余裕は無い。

 カティアの手料理は、次の機会と言う事で良いだろう」

 

 

「レン、早いですね?

 おはようございます」

 

「おはよう。

 カティアも充分早いと思うが?」

 

早朝。

何事も無く夜は明けた。

竜の骨が野晒しになったままの、廃村の一夜。

夜中にアンデットでも湧くかと警戒していたが、杞憂だった。

アクシデントに期待していた訳では無いから、それは良い。

 

「やはり気になりますか?」

 

「あぁ、何と言っても竜の墓標だ。

 課外講義の最中なのが悔まれる」

 

世界各地で確認されているとは言え、やはり竜の墓標は稀少だ。

最強の魔物で在る筈の竜は、何故屍を晒す事になったのか?

竜は何者に敗れたのか?そもそも争ったのか?

カティアの考察も興味深かった。

先人が解け無かった謎に、自身も挑みたい。

課外講義の最中である事が、本当に悔まれる。

 

「夏季休暇に入ったら、また此処に来るとしよう」

 

「それでしたら、今度はレンが誘ってくれますか?」

 

「夏に海も行かずに、山(峡谷)で調査か?

 退屈なバカンスになると思うが」

 

と言った処で此処は異世界だ。

夏は海!と言うのは、日本人的感覚でしか無い。

海にも魔物は出るから、異世界には海水浴と言う習慣は無かった筈。

 

「其処は、察して下さい」

 

「相変わらずの物好きだな、カティア」

 

決して皇帝に成れない者。

それが帝国に置ける自身の立ち位置だった。

 

自身には生まれながらに兄が居て、

兄は皇帝に!と望まれる立場と能力が有った。

それを羨んだ事は無い。

王族に生まれて、異世界生活で苦労する事も無く、

自由に生きる権利まで手に入れた。

先に兄が生まれてくれた事に感謝はしても、羨む事はやはり無い。

 

だが皇帝に成る事は無い。自身もそれを望んでいない。

だからカティアが、皇帝の妃に成る事も無い。

カティアはそれで良いと言う。

レンのお嫁さんに成れるからと、カティアは物好きだった。

 

今回も身一つで帝国を出て、サリエーラまで留学して来た。

帝国の王子として、出来る事は何も無い。

 

「調査とは別に、バカンスの時間を取ろう。

 夏季休暇は長い。それ位出来る筈だ」

 

物好きな婚約者と、夏季休暇の計画を立てる。

だからそれは偶然だった。

早朝の朝日に竜の骨が照らされて、それが光ったように見えた。

 

「レン?」

 

カティアの声は聞こえていたが、聞いてはいない。

それに目を奪われる。

竜の骨。牙の隙間に何かが挟まっている。

 

それは何かの金属片に見えた。

牙の隙間に挟まっていた事から、

竜を屠った討伐者の武器や防具の破片の可能性も有ったが、

これはそんな気がしない。これは、

 

「鋼の翼」

 

これは破片でしか無いから、

ウィングと言うよりフェザーだが、何故か翼だと思った。

 

次にこう言う時こそ【鑑定】だろうと、

スキルを使おうとして、それに気付いた。

 

「寝坊にも程が有る」

 

「レン!来ますっっ!!」

 

夜中では無く早朝!

アンデットも寝坊するのか!?と、意味の無い思考が頭を巡る。

竜の墓標に相応しい骨の竜が、アンデットが湧く。

 

「ッッッ!!!???」

 

現れた骨の竜。

鰓骨が有る。元は水竜か海蛇竜なのか、本来なら無い展開。

生前の常識を覆して、アンデット化して顕在。

カティアの推理は、正解なのかもしれない。

 

咄嗟に謎の金属片に使う心算だった鑑定を、骨の竜に使う!

鑑定は敵対行動にも取られるアクションだが、

この状況下で、今更敵対行動も何も無い。情報が欲しい。

 

ドラゴンテラー LV■■■ 名前■■■■

ステータス

HP■■■■■

MP■■■■■

SP■■■■■

  ■■■■■

平均攻撃能力■■■■■

平均防御能力■■■■■

平均魔法能力■■■■■

平均抵抗能力■■■■■

平均速度能力■■■■■

スキル

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

称号

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

鑑定結果が一気に流れて来て、眩暈がする。

種族名程度しか解らないゴミ情報だ。価値は無い。

 

だがこれは鑑定妨害された訳でも、LVが足りなかった訳でも無い。

この■で塗り潰された鑑定結果が、

ドラゴンテラーのステータスなのだと、鑑定のスキルは解答を出した。

嫌な予感がする。

 

「魔法が!?」

 

「マズイな」

 

そんな嫌な予感は見事に的中。

隣りでカティアの放った爆炎の魔法が、すり抜けた。

耐えた訳でも、無効化された訳でも無い。すり抜けたように見えた。

元から其処に何も無かったかのように、魔法がすり抜けた。

 

「カティア、レン!下がってっっ!!」

 

「フェイッ!!」

 

異常を察知したフェイが、初手から龍の姿で合流した。

合流したと同時に開幕からのレーザーブレス!

しかしこれも地表を撫でるだけで、ドラゴンテラーをすり抜けて行く。

 

「何なのコイツ?蜃気楼とかなの!?」

 

「撤退だ!構うなっ!!」

 

それなら本当に助かるが、そんな気はしない。

だから直感に従って撤退を選択!

カティアの手を取って、素早くフェイに飛び乗る。

 

念の為に火属性以外の魔法も撃って見たが、やはりすり抜けて効果が無い。

属性の問題!と言う解り易い展開の気配が全くしない。

 

「黒い霧!?」

 

ドラゴンテラーから黒い霧が溢れ出る。

溢れ出て、周囲に浸蝕しながら広がって行く。

 

浸蝕のスピードが速い。

警告を出す暇も無く、黒い霧の浸蝕に飲み込まれた。

 

 

補足&解説枠。

凶悪な敵キャラ登場回です。

 

竜の墓標

かつて前文明時代末期に龍が、人類鏖殺を決定した戦争。

人類側のHMX-13シリーズが、討伐した龍の屍を積み上げた場所。

カティアの推理通り、古戦場では無くゴミ捨て場。

 

【龍】では無く【竜】の墓標と呼ばれているのは、

人類に取って龍は竜共々雲の上の存在で在り、

正しい区別が出来ていないから。と言う設定。

 

海水浴

アナレイトやレングザンドには無い習慣。

サリエーラにも無かった習慣だが、

白織が四肢漂流事件で、水竜を乱獲してパワーバランスが崩壊!

サリエーラの浜辺は安全度が↑。急速に海水浴が流行る結果に☆

 

アンデットの寝坊

ドラゴンテラーが湧いたのは、金属片を解放したのがトリガー。

アンデットの睡眠無効はデフォルト。

 

ドラゴンテラー

HMX-13シリーズに討たれた龍の魂が、

世界に焦がした残滓。魂の影。

 

魂に直接干渉可能な深淵魔法か、

一部の特殊攻撃以外は、一切干渉が不能。

間違っても人類が対処可能な存在では無い。

実は原作のパペット・タラテクト(初期型)と、同格程度のステータス。




次で雨雲の巫女イベントもラストの予定。
金属片の正体に気付いた人は、勘の良い人。


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32 ロンダルキアの悪夢

昔は、何気に踏み越えて来たと思う。


「生きているのか?」

 

まずそれが奇跡だった。

確かにあの黒い霧に飲み込まれた。

アレは確実に致死の一撃だった。

カティアかフェイの、防御が間に合ったのか?

 

「カティア!フェイッ!!」

 

二人は直ぐ近くで倒れていた。

まだ意識は戻っていないが、二人とも無事だ。

特に変わった様子も無い。強いて言うなら、フェイが人型に戻っている程度。

 

だがこれで、二人が何とかアレを防御した。と言う可能性が下がる。

一体どうやってアレから生き残ったのか?謎は残ったままだ。

 

「気の所為か?」

 

あの黒い霧に飲み込まれるまで、手に握っていた金属片。

確かに金属片は掌に在る。在ったが、

そのサイズが、記憶の中の物とは違う気がする。

 

「大きくなって、いや違うか」

 

金属片は、元々何かの【破片】だ。

大きくなっていると言うより、欠損部分が復元した。と言うべきか?

自己修復機能か?原因は何だ?トリガーは?

 

「それは調査決定として、

 課外講義はこれで終りか」

 

未だ意識の戻らない二人と、

ドラゴンテラーの脅威を換算。退き際だろう。

課外講義は終ったのだと、そう判断した。

 

 

「ゴーレム続きだったからな?やはり、か」

 

「此処なの、白織?」

 

「………」コクコク

 

あれからもゴーレムやコボルトの襲撃は続いた。

だが霧の峡谷を進むと、

やがてコボルトの数は減り、ゴーレムの襲撃が増える。

 

それを容易く突破して、

学園側の資料に示された先に、それは在った。

 

「えっ、ちょっとこれって!?」

 

「遺跡。だろうな?

 此処から遺跡攻略タイムって事だ」

 

「ダンジョンアタック」

 

それは土砂に埋もれた建造物の入口だった。

建造物自体は埋もれているが、入口はしっかり健在。

愚かな侵入者を、今も待ち続けている。と言いた気だ。

 

「行きます。探索はお任せ下さい」

 

先頭の斥候は、経験豊富なセンサー持ちのセリオが担当。

後方警戒は、音源探知に強いソフィアが就く。

自身は白織とセンターを担当する。と言っても、

この面子でサーチに弱いヤツは居ない。当然の嗜みである。

 

「Ⅱ、可笑しいと思わない?」

 

「そうだな?ファンタジーな異世界ダンジョンと言う気がしない。

 これは、SF系ダンジョンだ」

 

「………」コクコク

 

「それで片付けるの!?」

 

このダンジョンは、ファンタジーの古代遺跡!と言う気がしなかった。

ゴブリンやコボルトが塒にして居そうな、穴倉系でも無い。

此処はSFの近未来系ダンジョン。更に解り易く言うなら、

隔離施設かシェルターを連想させる内部構造だった。

 

「前方、来ます」

 

シェルター(仮)に入ってからも、散発的な襲撃が続く。

ゴーレムが、更にロボっぽいヤツに変わった。

遂にファンタジーな異世界で、銃火器を装備!

壁が突然オープンして、砲塔が出現した事も有る。

 

「キラーマシンモドキも、装備してた」

 

「白織は、もう経験済だったな?」

 

そうだった。

この異世界はファンタジー系だが、前文明時代と言うヤツが存在する。

例の産廃エルフが大活躍した時代だ。

MAエネルギーの台頭で、SF的文明が超群雄した。

かつての日本ではフィクションだった産物が、当然のように存在したらしい。

 

「ちょっと!

 いくら私の結界の中だからって、雑談が長いわよ!?」

 

真紅の結界が、先程からロボの銃撃を防いでいた。

後方のソフィアが張る【血界障壁】だ。

自身の血で、大気中の水分を支配する水の結界術!水属性無効の効果も有る。

 

「解っている。

 大丈夫だ。問題無い」

 

「フラグ回収」

 

此処に到るまで、ゴーレムを粉砕して来たのと同じ理屈だった。

拳に龍の力を集束して、貫く。

ただそれだけで衝撃波が発生して、ロボを粉砕した。

 

「空拳」

 

「ぐはっっっ!!!!!!」

 

竜の騎士に続いて、某筋肉妖怪の真似をしてしまった!

どうしてこう、特に好きでも無いキャラのスタイルで戦う事になるのか!?

 

「闘魔滅砕陣」

 

「白織が!滅砕陣をっ!!」

 

少しばかり気落ちしていると、白織が乗って来る。

次の襲撃で、ミストバーンの【闘魔滅砕陣】を再現!

蜘蛛糸でロボを拘束して、重力魔法で押し潰した。

 

「大魔王様の御言葉は、全てに優先する」(格ゲー的勝ち台詞)

 

「うぉぉぉっっっ!!!!!!

 原作再現だぁぁっっっ!!!!!!」

 

静かにミストバーンの名台詞を、

格ゲーの勝ち台詞のように決める白織。

いつもの白い制服が、白い闇の衣を彷彿とさせる。

 

「Ⅱ、

 それに白織まで」

 

盛り上がっていたら、ソフィアに愚物を見る目で呆れられた。

ミストバーンは推しキャラである。許容して欲しい。

 

 

「開きます」

 

「流石だ、セリオ」

 

目の前で電子ロックの扉が開いた。

勿論ロックを正規の手段で開くキー何て無かった。

無かったけど、セリオがハッキングで解錠した。

 

此処に来るまでもう何度目かのロックで、

その度にセリオが活躍していた。

指紋認証とか網膜パターンとかもクリアしている。

 

「STR対抗かと思った」

 

「INTとは言わないが、

 其処はDEX対抗じゃないのか?」

 

電子ロックの扉は頑丈そうだけど、私なら力づく(STR)で壊せる。

解錠(物理)だ。

INTは、ハッキングで解錠したセリオの事。

 

「DEX?」

 

DEXでどうやって?

糸でロックを解錠すれば良いの?これって電子ロックだよ!?

でもそんな私の疑問に応えたのは、オリくんでは無くソフィアだった。

 

「あら?それなら頑丈そうな扉は避けて、

 壁を溶かせば良くないかしら?壁の方が簡単そうじゃない」

 

壁貫きか~?

壁も隔壁で、決して楽勝って事は無いと思う。

扉の方が頑丈だけど、開く為に作られた扉の方がマシな気がする。

 

「ロックはセリオの活躍で開いた。

 先に進める。それで良いだろう」

 

オリくんがそう纏めに入って、先に進む。

進んだ先に在ったのは、広いドーム状のホールだった。

広さだけじゃなくて、天井も高い。

 

「プラネタリウム?」

 

「の、投影機か?」

 

広いドーム状のホール中央に鎮座するのは、

プラネタリウムの投影機に似たナニカ。あの星座を映すヤツだ。

 

「これは天候操作装置ですね」

 

天候操作装置?

前時代文明知識の有るセリオが、解説に入る。

じゃあ雨雲の巫女とか、儀式ポイントとかはどうなるの?

 

「こちらの魔法陣に入ると、自動で動力となる魔力が吸収されます。

 恐らくそれが、雨雲の巫女の役目かと」

 

あっ本当に装置の近くに魔法陣が有る!

でもそれって、ただの魔力タンク役。生贄枠じゃないの?

 

「魔力を吸収した後に起動。

 適切な天候を保つよう設定されています」

 

「適切な天候!今の雨続きが?」

 

「プログラムの再確認を行います」

 

セリオが手動で、微調整を行う。

長年オート任せだったから、ズレが生じていたっぽい。

吸収される魔力も、致死量では無いとの事。当然と言えば当然だった。

 

「大丈夫か?白織」

 

「余裕」

 

結局は予定通り、魔力が一番高い私が魔法陣に入る事になる。

少し大きい魔法一発分程度の魔力消費だった。

雨雲の巫女的に、

何か巫女っぽいポーズを決めようとしたけど、

流石に儀式で舞うような、詳しいヤツは知らない。

 

「何か、有る?」

 

「パッと見て白織は神秘キャラだから、

 そのままで巫女もイケる!」

 

パッと見て~とか言われると、実際はそうじゃない!って聞こえるんですが!?

と若干気を悪くしていると、

「大丈夫。そんな白織も好きだから」と、抱き締められてしまう。

そうやって囁かれるだけで機嫌が良くなる私は、重傷だと思う。

暫しオリくんの温もりに、身を委ねる。

 

 

「空」

 

「天候操作装置。起動します」

 

頭上から何か、機械的な駆動音が聞こえて来る。

ドーム状の天井が開いて、空が見えた。

空は今も雨雲に閉ざされて、蒼穹が覗く事は無い。

 

「ちょっと!ナニよ、アレ!?」

 

「ボスキャラ登場!と言う事だろう」

 

空が開いて、セリオの宣言通り天候操作装置が起動する。

これで課題もクリア!と思っていたら、

開いた空から、骨の竜が飛んで来る。って何処から来たの!?

 

骨の竜はもう最初から戦闘体勢で、躊躇う事無く近づいて来る。

狙いは、セリオがオペレートしている天候操作装置!?

 

「邪魔はさせない」

 

まずは足止めに牽制。骨の竜にイオラを放つ!

だけど私のイオラは骨の竜をすり抜けて、後ろの壁を抉っただけ。

今のって、耐性とか無効化とは別次元の反応だよね!?

 

「ソフィア!」

 

その後も、事態は直ぐに動いた。

オリくんの、若干緊迫した声。ソフィアは直ぐにそれに応える。

 

骨の竜は黒い霧を放出して、あっと言う間に周囲に拡散した。

ソフィアの血界障壁が、黒い霧の浸蝕を阻んでいる。

この黒い霧!見覚えが有る。これは、

 

「腐蝕攻撃」

 

「あぁ、水を媒介にした腐蝕攻撃だ。

 範囲がエグイ」

 

水。多分骨の竜の体液が媒介。骨で体液ってどうよ!?と、

色々と可笑しいけどこの骨の竜は、アンデット化でその常識を踏み越えていた。

室内と言っても空は開いてる。霧の峡谷で、これは酷い展開。

 

「ドラゴンテラーか、

 スキルの大半がバグっている癖に、面倒なヤツが稼働しているな」

 

オリくんの稀少鑑定(レアセンサー)には、

ドラゴンテラーとか言うコイツの、面倒なスキルが表示されているらしい。

それは【再現】!それこそ面倒な説明は省くけど、

これは不死のスキルと、大差無い効果だと思う。

 

「何が、通るの?」

 

「深淵魔法と、ベースが龍だからな?

 対龍特効は入るらしい」

 

深淵魔法と対龍特効。

此処まで攻撃手段が少なく稀少だと殆ど無敵。だけど、

 

「深淵魔法なら、使える」

 

「待て、アレはドラゴンテラー(群体)になっている。

 深淵魔法一発では、仕留め切れない恐れが有る」

 

群体。複数の魔物の集合体。アンデットなら珍しく無い特性。

これは命のストックが、複数有るパターン。

 

「それなら、私達で押し切る」

 

「SD白織だと!?」

 

例の怪しい影の創造で、分身を10体創造する。

リソースを魔法行使に特化しつつ数を優先したから、

分身達がSD化した。これでも深淵魔法は使える。

 

「此処まで来ると怪しい影と言うより、マネマネだろう!?」

 

でも怪しい影の方が、愛嬌が有ると思う。

私達は様式美に習って横一列に並んで、そして唱えた。

 

「「「「「「「「「「「ザラキッッ!!!」」」」」」」」」」」

 

分身達と共に放つザラキ(深淵魔法)の11連射!

11連射のザラキを受けたドラゴンテラーは、

即座に削り切られて完全消滅した。圧倒的勝利である。

 

「ロンダルキアの悪夢か」

 

悪名高いロンダルキアのデスエンカの一つ。

横一列に並んだブリザードの、連続ザラキ!

一部ではデビルロードのメガンテも有名だけど、

お祈りタイムに突入するブリザードの方が、私は印象的だったりする。

 

 

補足&解説枠。

強いボスキャラの筈が、アッサリ沈みました☆

 

白い制服

課外講義中なので、制服を着用。

サダルメルク学園は、白制服です。

 

ドラゴンテラー強襲

前文明時代末期の戦争で、

HMX-13シリーズに敗れたドラゴンテラーは、

HMX-13シリーズを恨み、最優先攻撃対象に設定しています。

竜の墓標で目覚めた後は、

峡谷内にHMX-13シリーズの存在を感知して、強襲した流れです。

戦闘時に接近して来たのは、天候操作装置では無くセリオを狙っています。

 

黒い霧

体液を媒介にした腐蝕攻撃。周囲への浸蝕が速く、効果範囲がエグイ。

体液(水)を媒介にしているので、水属性無効で対処可能。

龍の体液なので対龍特効も入る。レン達が生き残れたのはその恩恵。

 

再現

記録を再現する実質上の不死スキル。

一部を除いて、システム内スキルでは干渉不能。




最近になってデスエンカ~デスエンカと耳にするので、
ネタになって貰いました☆

次回から季節ハズレですが、臨海学園編(水着イベ)を描く予定。
先に帝国の過去イベントが入るパターンも有。


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33 後で、やり直して

サリエルの無双が、世界戦争に発展しています☆


「御見事です。皆様」

 

そう賛辞を述べる。それは心よりの評価でした。

あのドラゴンテラーは、決して楽な相手では無かった筈です。

 

恐ろしい浸蝕率と範囲を誇る致死の腐蝕攻撃。

システム内スキルの殆ど全てを干渉させない不死性。

難攻不落と評価しても良い布陣。

ですが難敵だった筈のドラゴンテラーを、

容易く踏破して見せました。

 

「もう戦闘面では、お役に立てないかもしれません」

 

ツヴァイ様は龍の力を手に入れて、

その両隣りには、白織さんとソフィアさんが居ます。

特に今回活躍した白織さんの実力は圧巻です。

 

対龍兵装を失い、

ただのメイドとなった私では、と。

 

「これは?」

 

ドラゴンテラーから勝利を収めて、皆様は健闘を称え合っています。

私は天候操作を終えて、

装置の席を発とうとしたのですが、そのシグナルに気付きました。

 

どうやらこの天候操作装置には、衛星通信機能が搭載されていたようです。

衛星通信自体は、珍しい機能では有りません。

前文明時代ではありふれた機能で、私も日常的にその恩恵を受けていました。

特にサテライト・サービスは、戦線を支える要とも言えるシステムでした。

問題は、衛星通信が利用可能状態である事。

 

支援衛星サザン・クルス。

サテライト・サービスの送信施設であり、衛星通信の要。

HMX-13シリーズは、

サザン・クルスからのサテライト・サービスで、戦況に応じてアップデート。

各戦線で収集された情報の共有化も計られています。

 

そしてサザン・クルスは、MAエネルギーの大規模変換施設です。

衛星軌道上から、世界を巡るMAエネルギーを吸い上げます。

対龍最終兵装サテライト・キャノン。そのエネルギー供給源でも有ります。

 

龍はサザン・クルスを、最優先殲滅対象に定めました。

衛星軌道上へ上り、サザン・クルス陥落を計ります。

前文明時代末期。人類と龍の終末戦争。

数多の激戦の一つ。南十字流星戦線の幕開けです。

 

人類の明日を賭けた衛星軌道上の、

傷付き力尽きた者から、流星となって消える天空の戦い。

数多の龍とHMX-13シリーズが、流星となって消えました。

 

ですが最終的に、敗北したのは人類。HMX-13シリーズです。

数多の龍の死と引き換えに、サザン・クルスは陥落。

HMX-13シリーズは、サテライト・サービスの恩恵を失い敗走します。

 

「サザン・クルスは、確かに陥落した筈です」

 

サザン・クルス陥落後。

龍は衛星通信網を、徹底的に破壊しました。

以降HMX-13シリーズは、歴史から姿を消す事に。

問題点は、断たれた筈の衛星通信が生きている点です。

 

「サザン・クルスが?」

 

サザン・クルスが生きている。と言う事は無い筈。

他に運良く生き残った通信衛星が在った?或いは復旧した?

前文明時代では、自己修復を備えた物も確かに存在します。

HMX-13シリーズの対龍兵装が、良く見知った例えです。

 

ですが衛星一つの復旧となると、莫大なエネルギーを消費します。

自己修復機能に因る復旧は、現実的とは思えません。

 

「!」

 

故に絵空事だと、嘲うかのようにシグナルが途絶。

もう見慣れた通信不能状態に戻ります。

 

「真相は闇の中、ですか」

 

 

「対龍兵装が?」

 

「はい。微弱ですが、反応が有ります」

 

最後に不死スキル持ちのドラゴンテラーまで現れて、

深淵魔法やら分身投影からの多重攻撃を披露する事になったけど、

今度こそ終った。課外講義もこれでクリア。

雨雲が晴れて、空に蒼穹が戻る。

 

結局装置の操作には、前文明知識が必要だった。

指定されたポイントに着くだけだと、魔力の搾取損だった筈。

それでも私はラナリオンが使えるから、その場合もクリア出来たけど☆

 

今回の必須キャラだったセリオから、

ノンストップで次のイベントの報告が入る。

 

対龍兵装。

HMX-13シリーズが、

前文明時代に使用していた主兵装。外付けの追加オプション。

今では貴重なナノマシン製で、自己修復機能まで常備。

 

対龍最終兵装サテライト・キャノン。

MAエネルギーを大量に消費して放つ最終兵装。

世界を滅ぼし掛けた禁断の【MA兵器】。

 

「捉えた。

 これはレンバートンか?」

 

オリくんの稀少鑑定(レアセンサー)は流石で、即座に対象を捉える。

学園への帰り道。峡谷の分れ道の交差路。

其処でカティアとフェイ、ターゲットの首席君を補足。

 

「学園に到着する前に確保する。

 それと、一応顔は隠して置くか」

 

「………」コクコク

 

相手は帝国の王子だから、変装する事になった。

私はモシャスも使えるから、変装はイメージだけで行ける。

 

私は白いのがとにかく目立つ。

白いだけで神獣の巫女と呼ばれる位だ。此処は変えないとマズイと思う。

 

変装後の私は黒髪だった。

日本に居た頃を思い出す風貌。だけど、

これは若葉姫色と言うより、アリエルよりな気がする。

流石の血縁!直接遭っているから、イメージが偏ったかもしれない。

 

「白織!

 直ぐに終らせるからな!?」

 

「オリくん。アルビノ好き過ぎ」

 

オリくんのアルビノ好きは筋金入りである。

テンション↓↓↓が半端無い。

 

「偽名も決まったか?」

 

「ミストアリエル」

 

うっかり名前バレもしないように、偽名を使う事になった。

偽名の元ネタはミストバーンだ。

アリエルの本体何て護る処か喰い破ったけど、何と無くノリで決めた。

 

「オリくんは!?」

 

「驚かせたか?

 見ての通り、アワリティアで行く。名前はクロウだ」

 

オリくんはアワリティアの姿に変装していた。

実際に黒騎士と戦った身としては、流石に驚く。

変装しているのは黒騎士Verの姿で、

原作を知らなければ、鎧装束って事で行けなくも無い。

 

偽名の元ネタはアワリティア(ゲオルギウス)が、

封印していた邪竜クロウ・クルワッハから来ている。

オリくんは龍の力を継承しているから、竜繋がりである。

 

「セリオ!その姿は!?」

 

「はい。栞と御呼び下さい」

 

セリオォォォッッッ!!!!!!

セリオがアルビノになっていた。

これは人形繋がり何だろうけど、まさかの栞コスである。

しかも禁書目録聖省(インデックス)の、白い使徒コスだった。

 

「アルビノ枠が空いてしまいましたので、

 僭越ながら補完させて頂きました」

 

「素晴らしい気遣いだ!!」

 

「恐縮です」

 

と応えてカーテシーを決める栞。

って、栞は此処で!

カーテシーを決めるようなキャラじゃないでしょうがぁぁっっ!!!

 

オリくんのテンションが↑↑

原作では明確な描写は無いけど、栞はパッと見てアルビノである。

しかも栞とアワリティアは、最終バトルを演じた仲!詰り原作再現コンビッ!!

 

「ソフィアは!?」

 

「何か、問題が有るかしら?」

 

いつものカールは解けてロングに、髪の色は豪奢な金に染まっていた。

年齢的に本編の女王Verじゃなくて、外伝の王女Verだと思う。

 

「フローラ様!?」

 

「選んだのは私だけど、

 キャラ名で呼ぶのに躊躇いが無いわね!?」

 

 

「闘魔滅砕陣」

 

何だか酷い仮装大会に参加した気分になったわ。

でもこれは現実。結局この仮装で仕掛ける事に!

 

初手は白織、ではなくミストアリエル。

闘魔滅砕陣で、カティアと枝葉君を拘束。

フェイは奇跡的な直感で、滅砕陣の拘束を回避。

 

「どうか、動かないで下さい」

 

「ちょっ!!

 その如何にもヤヴァそうなのは、何なの!?」

 

「少々龍を屠り続けただけの、骨董品です。

 竜の鱗も容易く切断出来ます」

 

だけど滅砕陣を回避したフェイは、

喉元にドラゴンキラーを当てられている。セリオの、栞の仕業だった。

栞がいつの間にか、フェイの背後を取っていた。

 

「回収は完了した」

 

「突然だな。説明は無いのか?」

 

Ⅱが演じる黒い鎧騎士。

クロウが枝葉君から、金属片を回収する。

対龍兵装は、本当に欠片でしか無かった。

 

「レンバートン、

 転生特典は知識チートの【百識】」

 

転生特典。

転生者に与えられた特別なスキル。

私の転生特典は、どう考えてもハズレだった。

百識は知識チートらしいけど、

 

「この組み合わせは危険だ。

 かつての過ちを繰り返す事が出来る」

 

対龍兵装と知識チート。

MAエネルギーの再発見。大量消費。

かつての過ちに、手が届くかもしれない。

 

「フローラに服従させる事も考慮したが、

 他の男を侍らせるのは、無いな」

 

「クロウ」

 

私が吸血すれば、眷属支配で懸念は完封出来る。

けれど私は、クロウの血に慣れ過ぎていた。

 

夜が訪れる度に、クロウは私の牙を受け入れてくれた。

安息と快楽と血の鋼の味。

オリハルコンメタルで吸血衝動を抑えているのも大きいとは思うけど、

もう他の男の血を吸う何て、考えられない。惚れた弱みだった。

 

『後で、やり直して』

 

『今のヤツをか?』

 

クロウはミストアリエルが一番だから、

こうして解り易く、私に独占欲を示して来るのは珍しい。

それを仮装中の偽名で語らないで欲しい。

 

「神言教の工作員か?」

 

「似たようなモノだ」

 

「レングザンドの、開戦にも?」

 

帝国が開戦の準備を進めている。

と言う情報なら既に掴んでいるわ。でもそれは、

 

「解っているだろう?アレはユーゴーの暴走。

 仕掛けたのはエルフで、帝国は踊った。それだけの事だ」

 

 

補足&解説枠。

帝国の過去編!始ります。

 

天候操作装置

前文明遺産。

前文明知識持ちのセリオか、知識チートのレンが居ないと微調整は不能。

 

サザン・クルス

南十字星はサザンクロス。ミステリーの常連星座。

日本では、波照間島(沖縄)で観測出来るのが有名。

クルスは来栖川エレクトロニクスのクルス。

 

モシャス

ダイ大仕様。

術者以外にもモシャスの施術が可能。

 

百野栞

典型的な魔術師ヒロイン。

カーテシーだけならまだしも、

間違ってもドラゴンキラーをブン回して、近接戦を演じる事は無い。

 

栞は全身義体で、

オートマタやメイドロボとは、異なる設定を所有。




前半のセリオの昔語りで、
完全にGXのノリだろお!?と思った方!正解です☆

次回は帝国の過去編。あの人のやらかしです。


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