ハイスクールD×D 銀ノ魂を宿し侍 (イノウエ・ミウ)
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高校生の巫女姿は割とムラムラする

バンドリの方、碌に進めてないのに新作を書いてしまった。
反省はしているが、後悔はしてない(キリッ)。


メインヒロインは朱乃です。
ハーレム要員は今のところ
・小猫
・ゼノヴィア
・オーフィス
となっております。(逐次追加予定)


夜、この時間帯は、普通の人間なら明日の活動に備えるために体を休ませる時間であり、この時間帯で活動する生物は皆、闇の世界で生きる者ばかりである。

そう・・・それが例え、人間社会に潜む異形であってもだ。

 

「フフフ・・・もうすぐだ。もうすぐで俺の計画は完遂する」

 

廃棄された倉庫の中で小さく笑いながら呟くはぐれ悪魔の男。

主を失い、世を彷徨っていたはぐれ悪魔は、己を捨てた主に復讐するべく、この廃倉庫で復讐の為の準備をしていた。

そして、男の計画は遂に最終段階を迎え、復讐を開始するべく、廃倉庫から出ようとしたその時

 

「ウイース、どうも~ポピパ大好き芸人で~す」

 

「!? 何もんだ!?」

 

突如掛けられた声に反応して、はぐれ悪魔は慌てて振り向く。

そこにいたのは、ぼさぼさにセットされた銀髪に鋭い目つき、身体は細身で身長は一般男性の平均身長より少し上くらい、銀色のフード付きパーカーに紺色のジーンズを着ている少年が、気怠けな様子ではぐれ悪魔を見つめていた。

 

「何もんだ!?って言われて、馬鹿正直に名乗る奴がいるか?そんな奴、モンキー・D・ルフィだけで十分だろ?」

 

「何訳の分かんねぇこと言ってんだ!ぶち殺すぞ!」

 

「ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーやかましいんだよ。発情期でももっと静かにしてっぞコノヤロー」

 

悪魔を前にしているにも関わらず、少年は怖がるどころか何処か気怠けな態度で話す。

そんな少年の態度が気に障ったのか、はぐれ悪魔は顔を歪ませながら掌を少年に向けた。

 

「死ねぇ!」

 

掌から魔力を放出しようとした瞬間、少年の姿が消えた。

突如消えた少年に悪魔は手に溜めていた魔力を消し、少年を探そうと慌てて辺りを見渡す。

 

「おせぇよ」

 

少年はいつの間にか悪魔の背後におり、その背中で告げた。

その直後、悪魔の体が真っ二つに割れた。

 

「あ?」

 

悪魔は自身が斬られたことを認識できずにそのまま消滅した。

悪魔が消滅したのを確認すると、静寂が残った廃倉庫で少年はため息を吐いた。

 

「はぁ~・・・せっかくの土日だってのに、隣町まで来て、はぐれ悪魔の討伐とはぁついてねぇなぁ・・・」

 

そう言いながら、いつの間にか持っていた木刀を'特に何かする動作も無く'消滅させると、少年は倉庫から出ていき、そのまま夜の闇へと消えていった。

 

 

 

 

侍の国、僕らの国がそう呼ばれていたのは今は昔の話。

今現在この国では、妖怪や幽霊。天使、堕天使、悪魔などといった様々な異形が人間社会の中に混ざって暮らしている。

そんな国で生きる一人の少年、八神(やがみ)陸兎(りくと)

彼は現在、山の中を彷徨っていた。

 

「あぁ・・・いったいいつになったら駒王町に着くんだ?」

 

とある事情で隣町に来ていた彼は、現在駒王町に帰るために山道をバイクで走らせていた。

ぼさぼさに整えられた銀髪を揺らしながら、気だるけな目で周りを見渡す陸兎。

しかし、どれだけ見渡しても辺りは木々が生い茂ている森ばかり。

幾度なく続く同じ景色に飽き飽きしながらも進んでいくと、陸兎の視界に鳥居が映った。

 

「ん?あれは・・・神社か?」

 

陸兎は階段前にバイクを停めると、そのまま階段を登り、鳥居に近づいた。

鳥居の奥には本殿らしき建物が見え、陸兎はここで一休みしようと鳥居をくぐったその時

 

「あら?こんな所にお客さんなんて珍しいですわね」

 

声を掛けられ、振り向くと凛とした黒髪を一本に纏め、巫女服を着た少女が箒を持ちながら陸兎に笑みを向けていた。

 

「あんた、ここの神主か?」

 

「いえ、私はここでお手伝いをさせていただいているだけですわ。ここへは、どのようなご用で?」

 

「昨日、隣町まで仕事しに行ってたんだよ。んで、帰る途中でここを見つけたから、一休みしようと思ってな」

 

「まぁ、わざわざこんな山奥まで、どうもご苦労様です」

 

「ヘイヘイ、ご気遣い感謝なこって」

 

ペコリと頭を下げた巫女を一瞥すると、陸兎は本殿前にある階段に座り、上半身を仰向けにして倒れた。

その様子を見て、陸兎がかなり疲れていることを悟った少女は一つの提案をする。

 

「せっかくですので、中の方でお休みになってはいかがですか?」

 

「え?いいのか?」

 

「えぇ。それに、こんな場所で寝られては、他の参拝客の迷惑になりますわ」

 

「あぁ?参拝客なんて一人もいねぇ――「何か?」はい、すんません」

 

「ウフフ、いいですわよ」

 

目の前にいる少女が怒っている笑みを向けていることを悟った陸兎が慌てて謝ると少女は微笑みながら陸兎を案内した。

少女に案内されるがままに陸兎は境内を歩く。

やがて、一つの和室に辿り着き、少女は陸兎を座布団の座らせると、一旦部屋を出たが、しばらくすると湯吞を乗せた御盆を持ちながら戻ってきた。

 

「お茶です」

 

「どうも・・・お!中々美味いな」

 

「ウフフ、ありがとうございます」

 

少女が出したお茶を美味しそうに飲んでいる陸兎に、少女も満足気に微笑んだ。

 

「自己紹介がまだでしたわね。私は姫島朱乃、駒王学園の3年生ですわ」

 

「姫島ねぇ・・・二大お姉さまの一人がこんな所で巫女のお仕事をしているとはなぁ。俺は・・・」

 

「知っていますわ。駒王学園三大イケメンの一人、八神陸兎さん。それとも、問題児さんの方で呼べばよかったですか?」

 

「呼び方なんざどうだっていい」

 

特に興味なさそうな様子で返す陸兎。

そんな様子の陸兎にも、朱乃は笑みを崩さずに問いかける。

 

「ところで問題児さん、問題児さんは、隣町にはどのようなご用件でいらっしゃったのですか?」

 

「用ね・・・その前に、一つ聞いていいか?」

 

「? えぇ、何なりと」

 

一瞬、キョトンとしたが、すぐに笑みを浮かべる朱乃。

しかし、陸兎の次の言葉によって、その表情は驚きに変わった。

 

「あんた・・・悪魔か?」

 

「っ!?・・・ご存知ですの?」

 

「あぁ、俺は異形を知っている側の人間だ。それに、あんたの纏っている気、少なくとも人間のモンじゃねぇからな」

 

「・・・それだけで、私を悪魔だと見抜くなんて・・・正直、驚きましたわ。それで、私が悪魔だと知って、あなたはどうなさいますか?」

 

朱乃が少し警戒するかのように問いかけると、陸兎は微笑みながら答えた。

 

「別に退治しようだなんて思ってねぇよ。少なくともあんたは、そこいらにいるはぐれ悪魔よりかは、まともみてぇだしな。それに、本当に悪い悪魔だったら、お茶に毒とか仕込んで俺の身ぐるみを剝がしたりするだろ?」

 

「そうですか・・・もしかして、そのお仕事と言うのは・・・」

 

「あんたの予想通り、隣町に潜んでいやがったはぐれ悪魔の討伐だ」

 

そう説明すると、朱乃はなるほどと言わんばかりの表情で頷いた。

その後、学校での生活など世間話に花を咲かせており、ある程度話をした所で陸兎は立ち上がった。

 

「そんじゃ、そろそろお暇するとしますか」

 

「もう行かれるのですか?」

 

「俺も暇じゃねぇんだよ。これから、討伐完了の報告もしねぇと行けねぇし」

 

「そうですか・・・外まで送りますわ」

 

少し残念そうな顔をしながら、朱乃は陸兎と共に外に出た。

二人は鳥居の前に立ち、顔を見合わせる。

 

「そんじゃな。お茶、美味かったぜ。姫島」

 

「朱乃」

 

「あぁ?」

 

「そう呼んでください。苗字で呼ばれるのは、あまり好きではないので」

 

「そうか・・・んじゃ、また学校でな、朱乃」

 

そう言うと、陸兎は鳥居をくぐり、階段を降りていった。

朱乃は陸兎が去っていく様子を無言で眺め、やがて、バイクを走らせる音が聞こえると小さく呟いた。

 

「不思議な方でしたわ。男の方なんて苦手ですのに、こうもお喋りしてしまうなんて・・・」

 

男嫌いのはずの自分が、今日出会ったばかりの少年と親し気に会話できたことに、朱乃は複雑な気持ちを抱いていた。

 

「またお会いしましょう。八神陸兎君」

 

少なくとも悪い気分でない。そんなことを思いながら、朱乃は神社を去っていくバイクの音に耳を澄ませていた。

 

 

 

 

そして同日、赤龍帝を受け継ぎし少年が人間としての生を終えた。




オリ主の見た目は「アルゴナビス」の旭那由多みたいな感じです。


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第1章 旧校舎のディアボロス 
VR彼女は童貞のロマン


OP「Pray」
ED「ワンダフルデイズ」

※イッセーが非童貞になっていたので修正しました。


月曜日、週の始まりを告げる曜日であり、憂鬱になる者が多い曜日でもある。

八神陸兎もまた、昨日の疲れが残っているからか、気怠い様子で教室へと入っていく。

 

「おはよう、八神君。今日もカッコイイね」

 

「おはよう、今日も一日馬鹿騒ぎしようぜ腐女子共」

 

「よう、八神。死んでくれ」

 

「オーケー、後でテメェのケツの穴に竹刀ぶち込んでやっから覚悟しとけよ?」

 

教室でクラスメイトといつも通りの挨拶を交わしながら自分の席に座ろうとする。

 

「くらえ!八神陸兎!!積年の恨み!今日こそ晴らしてくれる!!」

 

「うおおおおおお!!」

 

「はぁ~・・・」

 

いつも通りのうるさい叫び声にため息を吐きながら、陸兎は頭を下げた。

その直後、彼の顔があった場所に左右から拳が通った。行き場を失った拳は、出したと思わしき人物たちの顔面に飛んでいき

 

「「ふべぇ!!」」

 

元浜と松田(馬鹿二人)はお互いの拳を顔面にくらい、仲良くノックダウンした。

 

「懲りないわね~あんたら。あんたらみたいなエロの塊が八神君に勝てるわけないでしょ」

 

そう言いながらやって来たのは、眼鏡を掛けた少女、桐生藍華である。

桐生は呆れながら、倒れている元浜と松田を一瞥すると、元浜が口を開いた。

 

「チキショー、いつもはエロトークで盛り上がる仲なのに、どうして問題児である八神だけがモテて、俺たちはぞんざいに扱われるんだ」

 

「そうだ!そうだ!理不尽だ!」

 

「理不尽も何も、覗きをしてる地点で既にあんたらと八神君との差は天と地よ。それに問題児って言っても、八神君のやったことと言えば、去年の体育祭の騎馬戦で全員の鉢巻きどころか身ぐるみを剝がして完勝する、放送室を乗っ取ってラジオの生放送をする、授業中に校長室で寛ぐ・・・ごめん、やらかしてきた事に関しては、あんたらより問題児だったわ」

 

「おい、そこは問題児じゃないって言い切れよ」

 

最終的に問題児という言葉に同調した桐生に思わずツッコむ陸兎。

すると、教室から見知った顔が入ってきた。

 

「お!我らが盟友イッセー!おはよう!」

 

「あ、ああ・・・おはよう・・・」

 

教室に入ってきたのは、元浜や松田と同じく、覗き常習犯として有名な兵藤一誠であった。

元浜の挨拶に覇気の無い様子で返す一誠。心なしか体調も悪いように見える。

そんな一誠を怪訝そうな顔で見つめていた陸兎だが、金曜までの一誠と今の一誠との変化に気づき、目を丸くした。

 

「(あれ?なんか、イッセー・・・悪魔に転生してね?)」

 

彼の纏っている気が明らかに人間の物では無かった。それに、金曜までと違って、彼の身に強大な力が宿っているのを感じた。

しかし、悪魔になった経緯が分からない。金曜まで普通の人間だった一誠が土日にいったい何が起きたのか。

そんなことを考えていると、一誠が元浜と松田に問いかけていた。

 

「なぁ・・・本当に夕麻ちゃんのこと覚えてないのか?」

 

「昨日の夜にも、そのことについてメールで聞いてきたよな?何度も言うけど、そんな子聞いた覚えないぞ」

 

「イッセーの夢だったんじゃないのか?」

 

二人の言葉を聞いて、顔をしかめる一誠。

 

「(なるほどな・・・)」

 

一方、三人の話を聞いてた陸兎は、一誠の身に起きた出来事をある程度察することができた。

おそらく一誠は、昨日その夕麻ちゃんという彼女に殺され、その後悪魔に転生したのだろう。

彼女が一誠を殺害しようとしたのは、彼の中にある何かを見つけ、自分たちの脅威になる前に破壊しようとした。その何かというのは、十中八九彼の中に眠っている神器(セイクリッド・ギア)だろう。

 

「俺は信じるぜ、イッセー」

 

「ホントか!?八神!」

 

陸兎の言葉に、一誠は安堵の表情を向ける。

そんな一誠の肩に手を置き、陸兎は真剣な表情で言った。

 

「イッセー、お前は昨日・・・一日中VR彼女にハマってたんだな」

 

「違ぇよ!!夕麻ちゃんは二次元の彼女じゃねぇよ!」

 

まさかの夕麻ちゃんVR彼女説に思わずツッコむ一誠。

しかし、陸兎は憐れむような視線を向けながら続ける。

 

「皆まで言うな。確かに、VR彼女は彼女のいない童貞に夢と希望を与える素晴らしいゲームだ。だが、童貞のお前はVR彼女で童貞を卒業する為に、二次元の女を自分の彼女だと言う変態を超えたオタク変態に成り下がってしまったんだな・・・うぅ、悲しいな・・・」

 

「イッセー、お前って奴は・・・」

 

「今度、飯でも奢るよ」

 

「お前ら、そんな憐れみの目で俺を見んな!つか、VR彼女で童貞卒業ってどういうことだ!?流石の俺もゲームのキャラを自分の彼女だって言うオタク個性は持ってねぇよ!」

 

「でも、童貞って事には変わりないでしょ?」

 

「そうだよ!チキショー!リア充爆発しろ!!」

 

憐れみの目を向けている三人に一誠はツッコむも、桐生に童貞という現実を突き付けられ、その場で叫んだ。ついでに、周りにいる女子たちが汚物を見るような目で一誠を見ていた。

 

「クソー・・・本当に夕麻ちゃんは俺の妄想彼女だったのか・・・?」

 

お前は昨日、その彼女に殺されたんだよって言うのは簡単だが、それを言っても混乱させるだけだ。

 

「心配すんな。VR彼女で満足できねぇなら、いつかSAOみたいなVRMMOが発売された時に、NPC女子の堕とし方をお前に伝授してやるよ」

 

「いや、NPC女子の堕とし方って何!?なんで、お前がそんなもん知ってんの!?」

 

なので、適当に一誠をあしらうと、自分の席に戻るのであった。

座る直前、未だ腕を組みながら思案している一誠を一瞥した。

 

「(地獄へようこそ、イッセー。ここから、お前の非日常の始まりだぜ)」

 

心の中で一誠に激励を送りながら、陸兎は今度こそ自分の席に座った。

 

 

 

 

昼休み、陸兎はとある人物がいる教室に訪れていた。

 

「剣夜、いるか~?」

 

教室のドアを開け、剣夜という人物に向けて声を掛ける陸兎。

すると、剣夜と思われる金髪の少年が陸兎の下にやって来た。

 

「なんだい?君が僕に用があるなんて、珍しいじゃないか?」

 

彼の名前は十門寺剣夜。白みのある金髪、整った顔立ちに、それに見合った爽やかな雰囲気、大学生と間違われてもおかしくない高身長。その上、成績も常に学年トップであり、スポーツも万能、生徒会にも所属している。(まさ)しく絵に描いたようなイケメンという言葉に相応しい人物である。

そんな学園一の人気者とも言える彼に、陸兎は臆することなく話しかける。

 

「話がある。ちょっくら、屋上に付き合え」

 

「・・・分かったよ」

 

ただならぬ雰囲気を感じ取った剣夜は、素直に従い、陸兎と共に教室から出た。

そして二人は、隣同士並びながら、屋上へと向かった。

ちなみに、剣夜はイケメンの部類に入る見た目と、その見た目通りの爽やかな雰囲気から、学園では駒王学園三大イケメンの一人に君臨している。

一方の陸兎もまた、性格はともかく見た目に関してはちょい悪イケメンの部類に入り、こちらも剣夜同様に三大イケメンの一人と言われている。

そんな二人が並んで廊下を歩いている。つまり、どういうことかと言うと・・・

 

「キャーーー!!見て!剣夜様と八神君が一緒に並んで歩いているわ!」

 

「駒王学園三大イケメンの内、二人が揃う光景なんて、中々見られないわよ!」

 

「剣夜様×八神君来たぁーーー!!」

 

「いいえ!八神君×剣夜様よ!」

 

腐女子が歓喜する光景の出来上がりである。

 

「ちっ、うるせぇ腐女子共だ」

 

「ハハハッ、元気があって何よりじゃないか」

 

そんな腐女子たちの歓声の中を陸兎は鬱陶しそうに、剣也は歓喜している女子たちに微笑みながら通っていった。

 

 

 

 

屋上に着いた二人は向かい合って話し出す。

 

「それで、話ってなんだい?屋上(ここ)に呼んだってことは、世間話ではないと思うけど・・・」

 

「兵藤一誠についてだ」

 

そう言うと、剣夜は笑みを崩し、真面目な表情になった。

 

「やっぱり、君も気づいたみたいだね」

 

「あぁ、薄っぺらだったがあいつの纏っている気、あれは間違いなく悪魔のモンだった。いったいいつから、あいつは悪魔に転生したんだ?」

 

「そのことについて、今朝ソーナに聞いたんだ。そうしたら、リアス・グレモリーが既に彼を自身の眷属にしたみたいでね。何でも、昨日の日曜日に堕天使に殺された彼を彼女が駒を使って悪魔に転生させたらしいんだ。しかも、厄介なことに転生させられた本人はその自覚がないというオマケ付きでね」

 

「おいおい、自分の眷属になったことを説明してねぇのかよ。そのグレモリーって奴、何考えてんだよ」

 

呆れていた陸兎だが、ふと「ん?」と疑問の声を上げた。

 

「死んだ奴を悪魔に転生させたって簡単に言ってるけどよ。よくよく考えたら、これって重大問題じゃね?」

 

「・・・そうだね。悪魔に転生させたことはともかく、これに関しては到底無視できない問題だ」

 

そう言いながら、困った顔をする剣夜。

しばらく思案していた剣夜だが、顔を上げて陸兎に伝える。

 

「ひとまずは兵藤一誠の監視をしてくれ。もし、悪魔の自覚が無いまま、堕天使や悪魔祓い(エクソシスト)に狙われたら、彼は今度こそ殺されてしまうかもしれない」

 

「りょーかい。やれやれ、ヤローのストーカーなんて誰得だよ」

 

「それと、もし途中で堕天使と戦うことになっても、リアス・グレモリーとその眷属には見つからないようにしてくれないかな。彼女たちには、日を改めて話す予定だから」

 

「ヘイヘイ、できる男は辛いねぇ~」

 

剣夜の指示に気怠そうに応えながら、陸兎は任務を遂行するべく屋上から出ていった。

残った剣夜は、屋上から見える駒王町の景色を見つめながら呟いた。

 

「今代の赤龍帝の目覚め、それに伴った堕天使の活発化・・・ホント退屈しないよ、この町は・・・」

 

その呟きは、誰にも聞こえることなく、屋上に吹いた風と共に消えていった。




十門寺剣夜(じゅうもんじ けんや)
見た目は「機動戦士ガンダム OOF」のピクサー・フェルミ。


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剣なんて時代遅れって言ってる奴、大抵かませ

放課後、兵藤一誠は夕暮れの道を歩いていた。

悪友の松田に誘われて、彼の家でエロDVDを見ていたが、途中で気分が乗らず、帰路についていた。

 

「どうなってんだ?今朝はあんなに怠かったのに、今では怠いどころか、力がみなぎってくる」

 

歩きながら一誠は徐々に力がみなぎってくる己の体に違和感を覚える。

違和感を覚えながらも、帰路についていると、突如後ろから気配を感じ、振り向くと、黒いスーツを着た男がいた。

 

「これは数奇なものだ。こんな辺境な地で、よもや貴様のような存在に出会うとは・・・」

 

そう言いながら、一誠に近づいてくる男。

その瞬間、一誠は己の直感が何かを感じたのか、こちらに向かって歩いてくる男から逃げるように走った。

 

「逃げ腰か?これだから下級の存在は困る」

 

だが、走った先には先程の男・・・いや、堕天使が背中の黒い翼を出して、一誠の前に降り立った。

 

「主の気配も仲間の気配も無し・・・となると、はぐれか。ならば、殺しても問題あるまい」

 

そう言いながら、堕天使は光の槍を出現させ、一誠の腹に突き刺した。

 

「っ!?がぁっ!?」

 

刺された腹の部分から焼けるような痛みを感じ、その場に膝を付き悶え苦しむ一誠。

苦しみながらも、刺さった槍を引き抜こうとした一誠だったが、槍が焼けるように熱くて触ることすらできない。

 

「痛いだろう?光はお前ら悪魔にとって猛毒だからな。安心しろ、すぐ楽になる」

 

一誠が苦しんでいる間に、堕天使は槍を再度作って、一誠に目掛けて投げようとしていた。

ここで死ぬのか?っと、一誠は徐々に薄れていく意識の中でそう思っていると・・・

 

「おーい、イッセー。何とか息はあるみてぇだな~」

 

「や、やが・・・み・・・?」

 

薄れていく意識の中で、一誠は陸兎の姿と彼の能天気な声が聞こえてくるのを感じた。

その直後、一誠の意識は途切れた。

 

 

 

 

陸兎が駆けつけた時には、一誠は光の槍に腹を貫かれていた。

普通の人間なら致命傷になりかねないが、悪魔となった一誠は体が人間よりも丈夫な為、この程度の傷では命に別状は無い。まあ、悪魔にとって光は弱点である為、痛いのには変わりないだろうが。

 

「貴様!何者だ!何故こんなところに人間がいる!?」

 

一誠の無事を確認し、命に別状が無いことに安堵していると、堕天使の男が陸兎に向かって叫んだ。

 

「何故って、決まってんだろ。友達(ダチ)がピンチの時に駆けつけねぇ奴が何処にいる?」

 

友達(ダチ)だと?笑わせてくれる。そいつは悪魔、人間に害をもたらす存在だぞ」

 

「小せぇな」

 

「何?」

 

陸兎に言われ、こめかみを僅かにひくつかせる堕天使。

そんな堕天使に向かって、陸兎は言葉を続ける。

 

「悪魔だからなんだ?こいつが悪魔だろうと、こいつはいつも学校で一緒にエロ話で馬鹿騒ぎしたり、たまに覗きがバレて落ち込んでるこいつを嘲笑う友達(ダチ)であることには変わりねぇよ。そんな小せぇ器でしか物事を考えられねぇんだ。堕天使ってのは脳みそまでカラスの糞でできてるみてぇだな」

 

「貴様・・・!いいだろう、その友達(ダチ)もろとも、冥府に送ってやろう!」

 

堕天使は羽を羽ばたかせて宙に浮かぶと、再度槍を作り、陸兎目掛けて投げようと構える。

対する陸兎は、堕天使に好戦的な笑みを向ける。

 

「そんじゃ、始めるとしますか」

 

そう言うと同時に、陸兎の右手から木刀が出現した。

その様子を見て、堕天使は顔をしかめる。

 

「そんなおもちゃで我ら誇り高き堕天使とやり合うつもりか?嘗められたものだな」

 

「心配すんな。自分の事を自分で誇り高き(笑)って言ってる痛いおっさんよりかは10倍マシだぜ」

 

その挑発が戦闘開始の合図となった。

挑発に乗った堕天使は憤怒の顔で光の槍を陸兎目掛けて投げた。

それに対し、陸兎は槍が当たる直前に木刀でその槍を真っ二つに斬った。

堕天使は槍を斬られたことに驚いていたが、すぐさま冷静になる。

 

「やるな。ならば、これならどうだ!?」

 

そう言いながら、片手ではなく、両手に光の槍をそれぞれ作り出し、それを陸兎目掛けて何回も投げつけた。

最初は捌いているような素振りをしていた陸兎だが、次第に槍の数が多くなっていき、最終的には公園全体に槍が降り注ぎ、その衝撃で辺りは砂煙に覆われた。

槍を捌いていた陸兎の姿は見えなくなり、捌いていた音も聞こえなくなった。

静寂と化した公園を見下ろしている堕天使は勝ち誇った笑みを浮かべる。

 

「フン!大口を叩いておいて結局はこの程度か。所詮は人間。あのような木刀(おもちゃ)で我らに挑もうなどと、実にこっけい――」

 

しかし、次の瞬間、その顔は驚きに変わった。

なぜなら・・・自分の目の前で、木刀を構えながらこちらに向けて笑みを浮かべている陸兎がいきなり現れたからである。

 

「知ってるか?剣士に向かってそんなことを言う銃使いって・・・二秒でバラバラにされるか、斬られる瞬間にウ○コ漏らしたかのような顔をするの二択なんだぜ」

 

「っ!?貴様いつの間に!」

 

その直後、陸兎は堕天使の腹部目掛けて目にも見えぬ速さで木刀を振った。

 

「ぐぉっ!?」

 

木刀の一撃を腹部に食らった堕天使は、その勢いのまま地面に落ち、うつ伏せに倒れた。

堕天使は何とか立ち上がるも、先程斬られた箇所に痛みを感じ、腹部を押さえている己の手を見て、目を見開く。

その手は真っ赤な血で染められており、斬られた箇所には血が溢れ出ていた。

堕天使は見開いた目で陸兎を見る。まさか、あんな木刀(おもちゃ)で、自身の体に傷をつけられるとは思っていなかった。

 

「な、なんだその刀は・・・!?神器か・・・!?」

 

「神器じゃねぇよ。似てるけど、神器とは別モンだ」

 

そう言うと、陸兎は神器と思わしき木刀を再度構える。

 

「そんじゃ、さっさとぶっ倒すとしますか・・・ん?」

 

追撃をかけようとした陸兎だが、ふと上から気配を感じ、その気配の正体が何なのか知ると、「はぁ~」とため息をついた。

 

「悪ぃが、どうやらここまでだ。グレモリーの眷属には見つかるなってあいつに言われてんだ」

 

そう言いながら、陸兎は手に持っている木刀を消滅させると、後ろに振り返った。

その姿を見て、堕天使が流血している腹部を押さえながら叫ぶ。

 

「ぐっ!貴様、逃げる気か!?」

 

「別に追ってきても構わないぜ・・・けど、そん時は首を置いてく覚悟で来やがれ・・・!」

 

「!?」

 

陸兎が咄嗟に放った殺気。それは、相手を殺すという意志を持った、本物の殺気だった。

その殺気を正面から受けた堕天使は、体中に鳥肌が立つのを感じ、動けずにいた。その瞬間、陸兎はその場から消えた。

 

「消えた!?」

 

突如消えた陸兎に戸惑っていた堕天使だが、その直後

 

「そこまでよ。これ以上、その子に手を出さないでくれるかしら?」

 

紅髪の悪魔、リアス・グレモリーが夕暮れの空から現れた。

 

 

 

 

次の日の昼休み、陸兎と剣夜は屋上で昨日起きた出来事について話し合っていた。

 

「なるほど・・・つまり、兵藤一誠は悪魔や堕天使のことについて知ったというわけだね」

 

「正確には、グレモリーがイッセーと接触したんじゃね?ってことだ。お前の忠告通り、グレモリーとは接触してねぇから、俺が去った後のことは分かんねぇよ」

 

剣夜に昨日の出来事について説明する陸兎は「けどよ」と言葉を続ける。

 

「グレモリーとは接触してねぇけど、イッセーには昨日俺がいたことがバレてんだ。遅かれ早かれ、俺らのことがグレモリーに知られるのは時間の問題じゃね?」

 

「それはこちらも承知の上だ。昨日も言ったけど、彼女たちにはいずれ話す予定だし、今は僕たちの正体がバレないように行動してくれ」

 

剣夜の指示に「ヘイヘイ」と返しながら、陸兎は屋上から出た。

 

 

 

 

そして放課後。昨日の夕方、リアスに救われた一誠は、今日の放課後オカルト研究部に来て欲しいとリアスに言われ、教室でリアス・グレモリーの使いを待っていた。

しばらくの間待っていると、教室の扉が開き、金髪の少年が入ってきた。

 

「やあ、兵藤君。部長の使いで君を迎えに来たよ」

 

「・・・お前か、木場裕斗」

 

教室に入ってきた少年は木場裕斗。陸兎や剣夜と同じく、駒王学園三大イケメンの一人に君臨する程の美少年だ。

内心では女子が来るのを期待していた一誠は、残念な気持ちを心の中にしまうと、木場の後に付いていく。

途中、二人が歩いている所を見て、腐女子たちが興奮していたが、何とかやり過ごしながら二人は旧校舎にあるオカルト研究部の部室に辿り着いた。

 

「ここがオカルト研究部の部室だよ」

 

木場がそう言うと、部屋の扉を開き、二人は中に入った。

中は至る所にロウソクが置かれ、壁や床、天井にまで魔法陣があったりなど、かなり不気味な雰囲気を感じる部屋だ。そして、その部屋に二人の人物がいた。

一人はソファーに座って黙々と羊羹を食べている白髪の少女、塔城小猫。もう一人はリアスの物と思わしき制服を手に持っている駒王学園二大お姉さまの一人、姫島朱乃。

そして、しばらくして部屋の奥から、朱乃に着替えを渡され、制服に着替えたリアス・グレモリーが出てきた。

 

「ごめんなさい、今朝シャワーを浴びれなかったから、ここで浴びてたの。待たせちゃったかしら?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「そう・・・それじゃあ、兵藤一誠君。貴方をオカルト研究部に歓迎するわ・・・悪魔としてね」

 

そこから先は色んな事を説明された。悪魔や堕天使などといったこの世界の裏に潜む異形について。昨日一誠を襲った男や日曜日に一誠を殺した天野夕麻が堕天使であること。夕麻が一誠を殺した理由が一誠の中に眠っている神器を危険視してのこと。夕麻に殺され、死に掛けていた一誠を召喚されたリアスが悪魔に転生させたこと。一誠の神器を目覚めさせてみたりなど。

一通り説明され、ある程度納得した一誠だったが、一つ気になったことがあり、それをリアスに聞いてみる。

 

「あれ?・・・一つ聞いていいですか?部長」

 

「えぇ、何でも聞いてちょうだい」

 

「オカルト研究部の部員って、ここにいる全員だけですよね?」

 

「? えぇ、ここにいる皆は部員であって、私の眷属でもあるのよ。それがどうかしたの?」

 

質問の意図が読めず、疑問を浮かべるリアスに一誠が問いかける。

 

「八神はオカルト研究部にいないんですか?」

 

「八神?それって確か・・・」

 

「木場君と同じ、駒王学園三大イケメンの一人ですわよ、部長」

 

朱乃に説明され、思い出したかのような顔をするリアス。

 

「あぁ、たまに昼休み中、放送室でラジオ放送をする問題児君ね。彼はそもそも悪魔じゃないから、オカルト研究部に所属してないし、私の眷属でもないけど、彼が何だって言うの?」

 

何故いきなり問題児である八神の名前が挙がったのか疑問に思うリアス。

そんなリアスに、一誠は昨日、薄れていく意識の中で見た出来事を伝えた。

 

「実は昨日、部長に助けられる前に、八神が俺のことを助けてくれたような気がしたんです」

 

「本当!?」

 

一誠の言葉に驚くリアスだったが、ふと昨日起きた出来事で気になった所を思い出し、冷静になって喋り出す。

 

「そう言えば、昨日の出来事で不可解な点が一つだけあったのよね。私が公園に駆けつけた時、対峙した堕天使の腹に刃物で斬られたような傷があったのよ」

 

「それって、もしかして八神がつけたものなんですか?」

 

「そこまでは分からないわ。私が来た時には一誠と堕天使しかいなかったもの」

 

そう言いながら、リアスはしばらくの間思案していたが、一誠の方を向いて命令した。

 

「一誠、貴方に部長として初の命令をするわ。明日の放課後、八神君をここに連れて来てくれるかしら?」

 

「八神をですか?はい、分かりました」

 

リアスの指示に特に反論はせず、一誠は首を縦に振った。

その後、一誠は悪魔の初仕事ということで、召喚に応じようとするも、悪魔になったばかりだからか転移することができず、自転車で召喚者の家に向かった。

残った部員は一誠が戻るまで部室で過ごすことになった。そんな中、朱乃がリアスに話しかけてきた。

 

「部長、一つよろしいですか?」

 

「何かしら?朱乃」

 

朱乃の顔を見て、ただごとではないと感じたリアスは真剣な表情で聞く。

 

「実は私、先日の日曜日に八神君とお会いしましたわ」

 

「!? 本当!?」

 

「えぇ。それで・・・彼は、私の事を悪魔だと見抜きました」

 

「「「!?」」」

 

これにはリアスだけでなく、木場や小猫も驚かされた。

朱乃と会ったことならまだしも、正体まで知られたとは思っていなかったリアスは恐る恐る朱乃に問いかける。

 

「ほ、本当なのそれは・・・?」

 

「本当よ。あれは、隣町近くの神社でお手伝いをさせていただいてた時のことでした――」

 

朱乃は陸兎と出会い、彼と話した事をリアス達に伝えた。

 

「隣町のはぐれ悪魔の討伐・・・そこは、私の管轄じゃないし、ありえなくはないと思うけど・・・彼は、五大宗家の関係者、或いは陰陽師に関係する何か・・・?」

 

「そこまでは、私にも分かりませんわ。でも、異形を知る人間であることは確かだと思われますわ」

 

朱乃の言葉を聞いて、リアスは再度思案するも、中々いい答えが浮かばない。

 

「彼はいったい何者なの・・・?」

 

リアスの発した呟きには誰も答えることができず、静かな時間だけが部室の中に過ぎていった。



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料理で下ごしらえが大事であるように、交渉にも下準備は必要

リアス・グレモリーは激怒した。とは言っても、かのメ○スのように真っ先に王様を取り除かんとする程ではないが。

その理由は二つあった。一つは先日自身の眷属にした兵藤一誠がシスターと出会い、彼女を悪魔にとって絶対に行ってはならない場所である教会まで案内したこと。それに関しては、軽い注意だけで済んだ。

そして、もう一つは・・・

 

「なんで、ここに八神君がいないのかしらねぇイッセー君?」

 

「そ、それはですね・・・色々と訳がありまして・・・」

 

お怒りの笑みを浮かべながら一誠の方を向くリアスに、一誠は恐る恐る今日の出来事を説明した。

 

 

 

 

今朝、シスターであるアーシアを教会に送った後、一誠は学校に着いたが、もう少しでHRが始まる為、陸兎には昼休み中に放課後オカルト研究部の部室に来るように伝えようと思っていた。

そして、昼休み。一誠は早速、陸兎の席に向かったが、そこに陸兎の姿は無かった。

一誠は周りにいる男子に陸兎がどこに行ったのか聞いてみた。

 

「なぁ、八神の奴どこに行ったんだ?」

 

「八神?それならさっき、食堂に行くのを見かけたぜ」

 

その情報を頼りに、一誠は食堂に向かったが、またしても陸兎の姿は無かった。

 

「八神ならさっき、体育館に行って来るって言ってたぜ」

 

周りの生徒に聞き、今度は体育館に向かったが・・・

 

「八神?それなら確か、バスケの試合に突然乱入してきて、敵味方問わず大暴れした後、図書室に行ったと思うぞ」

 

「八神君?図書室を見渡したと思ったら、いきなり詰め寄ってきて、『ここにジャンプとマガジンを毎週分置け。さもなくば、お前の顔面にスパーキング!すっからな』って言った後、校長室に行ったよ・・・正直、すっごい怖かったよ・・・」

 

「八神君なら、ここで私が出したお茶を一杯飲んだら、すぐ出ていってしまったよ・・・毎回思うんだけど、なんで彼はごく当たり前のように校長室(ここ)で寛ぐんだ・・・?」

 

「八神?そんなことより、ラーメン食いてぇー」

 

「おめぇ強そうだなぁ~。オラと勝負しねぇか?」

 

「俺はルフ○!海賊王になる男だ!」

 

「キャー!エロ兵藤よ!」

 

・・・・・・

 

 

 

 

「全然見つかんねぇーーー!!つーか、後半何!?明らかに、作品(次元)の壁を超えた存在が混ざってたんだけど!!最後に至っては、話すら聞いてもらえなかったし!俺と話すのそんなに嫌だった!?俺ってそんなにエロイ・・・な、うん」

 

結局、昼休み中に陸兎は見つからず、一誠が教室で陸兎を見つけた時には既に授業が始まっていた。

昼休みがダメなら放課後と、一誠は授業が終わってすぐ陸兎の席に向かったが、またしても陸兎の姿は無かった。

 

「八神ぃーーー!!どこにいるぅーーー!!」

 

「八神君なら、ポピパのライブを見に行くって言って、真っ先に教室から出たわよ」

 

大声で叫ぶ一誠に、桐生が冷静に話した。

一応、校門まで追いかけたが、既に陸兎の姿は無く、諦めた一誠はそのままオカルト研究部の部室へ向かうのであった。

 

「――以上が事の顛末です」

 

「はぁ~・・・流石は駒王学園の問題児ね。厄介さで言ったら、はぐれ悪魔の討伐の方がまだマシね」

 

一誠から事の顛末を聞かされたリアスは疲れたような顔をした。

 

「ひとまず、八神君の事に関しては明日にしましょう。明日は裕斗にも手伝わせるし、私も使い魔を使って彼を監視しておくわ」

 

「頼みます部長。俺一人だと、その内疲労で倒れますから。いや、ホントマジで」

 

割とガチ目の顔で語る一誠にリアスは苦笑いするしかなかった。

その時、部屋の扉が開き、朱乃が険しい表情で入ってきた。

 

「皆さん、お揃いですか?」

 

「どうしたの朱乃?そんな顔して・・・?」

 

「・・・大公からはぐれ悪魔討伐の依頼が届きました」

 

 

 

 

そして夜。リアス達オカルト研究部は、はぐれ悪魔討伐の為、町外れの廃屋にやって来た。

 

「イッセー、貴方には悪魔の戦い方について知ってもらうから、今日は見学しててちょうだい」

 

「はい、部長!」

 

一誠の力強い返事を聞くと、リアスは警戒しながら辺りを見渡す。

暗い廃屋の中を慎重に進んでいくリアス達。すると、小猫がふと上を見上げた。

 

「!? 上から来ます!」

 

小猫がいち早く上から気配を感じ、他の面々も戦闘態勢に入りながら上を見上げる。

その瞬間、小猫の言葉通り、上から何かが落ちてきて、その衝撃で辺りは砂煙で満たされた。

リアス達が警戒する中、煙は徐々に晴れ、落ちてきたものの正体が明かされる。

 

「あ"ぁ・・・」

 

「こ、これは!?」

 

リアスは上から落ちてきた'者'の正体に絶句した。他の面々も同様である。

上から落ちてきたのは、上半身は美人の女性だが、下半身は巨大な獣のような形をした化け物。

しかし、その姿は全身傷だらけだった。片腕は斬られ、数本ある異形の足もほとんど斬られており、立っているのがやっとの状態だ。

討伐対象がこんなボロボロな状態で落ちてきて、警戒を更に高めるリアス達。その時、コンテナの上から声がした。

 

「よぉ、遅かったじゃねぇか」

 

声に反応し、リアス達は一斉にコンテナの上を見上げると

 

「八神!」

 

木刀を肩に担ぎながら、こちらに向けて笑みを浮かべている八神陸兎がいた。

一誠が声を挙げ、他の面々が討伐対象をボロボロにしたと思われる陸兎に警戒する中、リアスは冷静になって問いかける。

 

「これは、貴方がやったの?」

 

「あぁそうだ。お前らを待っている間、暇だったから、それを潰してただけだ」

 

「待っている間・・・私たちがここに来ることを知ってたの?」

 

「正確に言やぁ、俺に討伐の命令を下した奴が知ってた」

 

「・・・貴方は何者なの?」

 

「悪ぃが、それに関してはまだ言えねぇな。んじゃ、俺帰るからそいつ(はぐれ悪魔)の後始末よろしく~」

 

「!? 待ちなさい!貴方にはまだ聞きたいことが――!」

 

後ろに振り向き、去ろうとする陸兎をリアスが慌てて引き止めようとすると、陸兎は顔をリアス達の方に向けて喋った。

 

「・・・明日の放課後、うちのリーダーがあんたらとこの部室に来るつもりだ。それまで我慢しろ」

 

そう言って、顔を戻した直後

 

シュッ!

 

「消えた!?」

 

陸兎の姿が突然消えて、戸惑うリアス達。

 

「・・・小猫」

 

「ダメです。気配が完全に消えました」

 

気配に敏感な小猫ですら捉えきれない程遠くへ移動・・・いや、転移したのだろうか。

ひとまず既に虫の息のはぐれ悪魔に止めを刺し、陸兎の言葉通り、明日の放課後まで待つことにしたリアス達であった。

 

 

 

 

次の日の放課後、旧校舎に向かう人影が四つあった。

昨日の夜、リアス達に放課後オカルト研究部の部室に来ると言った陸兎は、その言葉通り、オカルト研究部の部室に向かっていた。

勿論、ただ有言実行のために来訪しているのではなく、彼らには二つの目的がある。

その目的は、自分たちが何者なのかリアス達に説明する為。そして、それを説明した上でリアス達グレモリー眷属と交渉をするためである。

来訪者は陸兎の他に、彼にはぐれ悪魔討伐の依頼を下した剣夜。そして、その隣を歩く眼鏡を掛けた鋭い目つきの少女と三人の後ろで歩いている金髪ツインテールの少女。

 

「つーかよぉ、説明すんのになんで生徒会長さんが一緒に付いてきてんだ?」

 

「彼女は僕たちの正体を知る唯一の悪魔だからね。今回の事を説明する際に、ついでだから僕たちとの関係も説明しておこうと思ってね」

 

「剣夜の言う通り、リアス達はあなた達のことを知らない。下手に隠しておくより、一緒に説明しておいた方が、今後何かあった時、すぐに対応できるでしょう」

 

そう言いながら、剣夜の隣を歩く彼女は駒王学園生徒会長、支取蒼那。

彼女はこの学園で剣夜たちが何者かを知る唯一の人間・・・いや、悪魔である。

剣夜たちも蒼那が悪魔であることを知っている。特に剣夜とその後ろにいる彼女は人間でありながら、蒼那ことソーナとその眷属のみで構成された生徒会に所属しており、剣夜に至っては、ソーナとは小さい頃からの友達であり、幼馴染である。ソーナとできちゃった婚を夢見ている転生悪魔の少年が聞いたら泣きそうになる設定だ。

そんな剣夜の後ろを無表情で歩いている金髪の少女に剣夜が話しかける。

 

「本当に僕たちと一緒に付いてきて良かったのかい?麗奈、君は別に今回の交渉に参加しなくても、何の問題は無いんだけど・・・」

 

「・・・主をお守りするのが私の役目ですので」

 

彼女は七星(ななほし)麗奈(れいな)。太陽のような明るい金髪に宝石のように光り輝いている青い瞳。しかし、それとは裏腹に雪のような冷たい雰囲気を感じる彼女は、学園ではファンクラブ(非公式)が作られる程の人気者である。そして、剣夜の実家、十門寺家の使用人であり、剣夜の侍女でもある。

交渉するためとはいえ、己の主を悪魔たちが居座っている場所へ移動することを良しとしない彼女は、せめて護衛として、今回の交渉に同行することを前もって決めていた。

その思いは剣夜も熟知している為、これ以上は何も言わずに旧校舎へと向かう。

しばらく会話しながら歩いていると、旧校舎の前に辿り着いた。

 

「着いたみたいだね」

 

旧校舎に入り、オカルト研究部の部室と思われる部屋の前までやって来た剣夜たち。

先頭に立ち、扉の前に立つ剣夜。その後ろから陸兎が喋る。

 

「頼んだぜ、剣夜。刺激し過ぎた結果、戦闘になって、うっかり殺っちゃったって展開になんないようにな」

 

「分かってるよ。心配しなくても、交渉に必要な下準備はもう既に済ませてあるから、何の問題も無いよ」

 

顔を陸兎の方に向けながらそう言うと、目線を再び扉に移す。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

扉をノックすると、中から「どうぞ」とリアスの声が聞こえた。それに応じ、剣夜は部室の扉を開けた。




七星麗奈(ななほし れいな)
見た目は「魔法科高校の劣等生」のアンジェリーナ・クドウ・シールズの容姿を同じく「魔法科高校の劣等生」の司波深雪みたいなクールビューティー系美女にした感じ。


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最強の集団は十人くらいが丁度いい

今現在、兵藤一誠はかつてない緊張感に包まれていた。

昨日の夜、友人である八神陸兎から明日の放課後部室に来ると言われ、その言葉を信じ、待つことにしたリアス達。

その言葉通り、陸兎は複数の人物を連れて部室にやって来た。

彼らはリアスに進められるがままにソファーに座り(麗奈だけはソファーの後ろに立っている)、反対側のソファーにリアスが座って、その後ろに木場、小猫、一誠が立つことになった。

そこで彼は気づいた。あれ?この部屋ヤバくね?と。二大お姉さまに三大イケメン、ファンクラブ(非公式)が作られる程の美人生徒会長とその役員、学園のマスコットである小猫。一誠を除く全員が駒王学園の有名人である。

そして、そんな有名人だらけの部屋にいる一誠は、顔では平静を装っているが、内心物凄く居心地が悪かった。もっとも、一誠自身も学園ではエロ三人組の一人として、悪い意味での有名人ではあるが。

 

「お茶です」

 

「ほう、紅茶じゃねぇか。この間飲んだ緑茶も良かったが、こいつもいけるな」

 

「うふふ、ありがとうございます。お褒めが上手ですね」

 

「そりゃ俺は褒める時は噓偽りなく褒める脳みそまで真っ白人間だからな。あんたの紅茶は苦味よりも甘味を多めに含んだ俺好みの紅茶だ」

 

「まぁ!うふふ、嬉しいですわ」

 

内心緊張している一誠をよそに、人数分の紅茶を配り、そのままリアスの隣に座った朱乃は美味しそうに紅茶を飲む陸兎を見て、嬉しそうに微笑むと、そのまま彼と会話を始めた。

心なしか親しげそうに話している陸兎と朱乃。気になった一誠が陸兎に問いかける。

 

「おい、八神。お前、朱乃さんと知り合いだったのか!?」

 

「まぁな。日曜にお茶をご馳走になったぜ」

 

「マジか!?スッゲー羨ましい!」

 

「欲望に忠実だね~お前は」

 

純粋に羨ましがる一誠に向かって何処か呆れるように言う陸兎。

 

「ゴホン!二人共、そろそろいいかしら?」

 

「ハハハ、すみません。二人共、少し静かにしてよう」

 

咳払いしながら、会話している陸兎と一誠を睨み付けるリアス。剣夜がリアスに謝りながら、二人に注意した。

リアスと剣夜に言われ、会話を止めた一誠と陸兎を確認すると、剣夜は正面からリアスを見据えて喋った。

 

「それでは、まずは自己紹介からしましょう。僕の名前は十門寺剣夜。隣にいる見た目は問題児、頭脳も問題児の彼は僕の友人であり、問題児の八神陸兎です」

 

「おーい、ケツ穴まで小さくなった高校生探偵みたいな紹介してっけど、全部問題児なせいで行き着く先も問題児になってっぞ」

 

「いいじゃないか。これでも、見た目はマダオ、頭脳もマダオのマダオで紹介するかかなり悩んだよ」

 

「そんなんでいちいち悩んでんじゃねぇよ。つーか、この紹介だと、もはや俺の存在自体がマダオになってんだよ。暴ぜろイケメン」

 

自身に暴言を吐く陸兎を無視し、剣夜は後ろにいる麗奈の紹介をする。

 

「そして、後ろにいるのが、同じ生徒会の人間で僕の侍女でもある七星麗奈」

 

「七星です。どうぞお見知り置きを」

 

「(おぉー!まさかの従者系美女!普段から礼儀正しくクールビューティーな麗奈ちゃんだが、まさかこんなメイド属性まで兼ね備えていたとは!で、できる・・・!)」

 

丁寧にお辞儀をした麗奈を一誠は嫌らしい目で見ていたが、直後彼女から絶対零度の目で見られ、顔を青くした。

そんな一誠に誰も興味を示すことはなく、剣夜が話し合いを始めようと口を開いた。

 

「さて、自己紹介も済んだことですし、そろそろ始めましょうか」

 

「その前に、一ついいかしら?」

 

そう言って、手を挙げたリアスは目線をソーナの方に移す。

 

「ソーナ、貴方は彼らの事について知ってたの?」

 

「そうよ。だから、こうして話し合いの場に参加しています」

 

「・・・どうして、私に教えてくれなかったの?」

 

非難めいた視線でソーナを見るリアスに、剣夜が申し訳なさそうに話した。

 

「すみません、リアス先輩。ソーナにはある理由から内緒にしておくよう僕が告げ口しておいたんです」

 

「・・・その理由が、あなた達の正体に関することなのね?」

 

リアスがそう言うと、剣夜はコクリと頷いた。

 

「それでは、早速本題に入りましょう。まずは僕たちの正体を・・・と行きたいところですが、その前にリアス先輩、僕の名前に聞き覚えがありませんか?」

 

「貴方の名前?確か、十門寺・・・まさか!?」

 

剣夜の名前、正確には彼の苗字を口にした途端、リアスは目を見開いた。

 

「ご察しの通り、僕は十師族の家系の一つ、十門寺家の家柄の者です」

 

剣夜がそう言うと、リアスは険しい表情で息を吞んだ。

すると、後ろにいた一誠がおずおずとリアスに問いかける。

 

「あの~部長、十師族ってなんですか?それに十門寺家って?」

 

「・・・五大宗家とはまた違う、日本の陰陽師の組織よ。大昔、人間と妖怪との間で大きな戦いが起きたわ。その戦いで特に活躍した十人の陰陽師たちが、来たるべき異形との戦いに備えて作られた、日本で最強の陰陽師の集まりよ」

 

「十師族は名前の通り、十の陰陽師の家系で構成されています。その中で、特に優れた力を持つ家系、それが十門寺家です」

 

二人の説明を聞いた一誠は「へぇー」と興味深そうに剣夜たちを見た。

 

「つまり、十門寺の家はその十師族の中でもかなり強い権力を持っていて、強い陰陽師の人達がいっぱいいるってことか?」

 

「うーん、少し違うかな?」

 

一誠の言葉を否定した剣夜に疑問符を浮かべる一誠。

 

「十門寺家は他の十師族と違って、情報処理班や伝令班はいっぱいいるけど、実際に現場に出て除霊活動をする退魔師は僅か十人しかいないんだ」

 

「十人だけ!?そんなんで、最強の家系として成り立つのかよ?」

 

「それが成り立つのよ・・・」

 

表情を険しくしながら小さい声で呟いたリアスに首を傾げる一誠。

そんな一誠の疑問に答えるかのように剣夜は説明する。

 

「確かに、現場に赴く退魔師は十人しかいません。しかし、その一人一人が圧倒的な力を持ち、その力は日本に住まう異形同士の争いの抑止力となっています。そして、僕と陸兎と麗奈はその十門寺家が誇る最強の戦力。異形から人々を守り、日本の秩序を保つことを目的とした、十人の退魔師のみで構成された組織・・・《十天師》の一人です」

 

十天師、剣夜から述べられたその言葉に、リアスは険しい表情のまま小さく呟いた。

 

「十天師・・・まさか、ここでその名前を聞くことになるなんて・・・」

 

「部長、十天師ってなんですか?」

 

「一言で言えば、彼らは日本が誇る最強の退魔師の集まりよ。その強さは、一人一人が上級悪魔並みの強さを持ち、下手すれば最上級悪魔にすら勝るとも言われているわ。駒王町の領主になる前、お兄様から絶対に喧嘩を売るなって念入りに忠告されてたからよく覚えているわ」

 

リアスに説明された一誠は目を丸くしながら剣夜たちを見る。

 

「そんなに凄い奴だったんだな~八神たちって。でも、上級悪魔より強いって言っても、見た感じそこまでヤバそうには――」

 

「そりゃあ、今は力を押さえているからな。俺らが力を解放すりゃマジでヤベーぞ。ドモンもびっくりのスーパーモードになれるぜ」

 

「流石にGガンみたく体は金色にならないけど、そうだね・・・少なくとも、今この場で君たちを除霊する事くらい造作もないよ」

 

『!?』

 

一瞬だったが剣夜が放った凄まじい殺気にリアスと朱乃と一誠は顔を強張らせて、小猫と木場は咄嗟に身構える。しかし、その顔には自分で認識できないくらいの冷や汗をかいている。

緊迫した空気の中、ソーナがため息をつきながら剣夜に言った。

 

「剣夜、あまり刺激しないの。あなた、戦うためじゃなく交渉するために来たんでしょう?」

 

「ごめんごめん、少し脅かしてみようと思って。何せ、僕たち十天師は争いの抑止力となるために、日本に住まう異形にとって脅威となり得る存在であると認識しておかないとね」

 

ソーナに言われ、表情を緩めた剣夜だったが、一誠たちは先程充てられた殺気が体に残っており、その場から動けずにいた。

そんな中、リアスは紅茶を一飲みして心を落ち着かせると、会話を再開させる。

 

「あなた達の事については分かったわ。それで、ただ説明しに来たわけじゃなさそうね。さっきソーナが言ってた交渉って・・・」

 

「おっしゃる通り、ここからが本題です」

 

リアスの言葉に剣夜は真剣な表情で話を進める。

 

「本来、僕たち十天師はそれぞれ担当する地方に分かれて活動しています。ですが、一部の地域に関しては、何かあった時だけ介入する形で、普段は静観に徹しています。その地域と言うのが――」

 

「悪魔が収めている領地ね」

 

剣夜はコクリと頷きながら続きを話す。

 

「当然、リアス・グレモリーの領地である駒王町も、僕たちにとっては管轄外であり、はぐれ悪魔などの問題も全てあなた方に任せていました。しかし、今回は訳あって、あなた方と接触させていただきました。その訳というのは二つあります。一つはここ最近、駒王町で堕天使による異様な行動が多数見受けられること。そして、もう一つが・・・」

 

「堕天使による人間の犠牲者が出たことね・・・」

 

ゆっくりと出されたリアスの言葉に剣夜は再び頷いた。

すると、堕天使による犠牲者が自分の事だと気づいた一誠が、慌てながら剣夜に反論した。

 

「ちょっと待ってくれ!確かに俺は堕天使に殺されたけどよ。結果的に俺は部長に救われたんだし、そこまで問題にすることは――」

 

「兵藤君、それは結果の話だろう?結果的に君が助かったとしても、一度君が堕天使に殺されたという事実は変わらない。事実と結果を同じ目で見ないでくれるかい?」

 

「ぐっ!?」

 

剣夜に鋭い視線で睨まれ、たじろぐ一誠。だが、何とか反論しようと口を開こうとする。

しかし、その前に陸兎が一誠に険しい表情を向けながら喋る。

 

「イッセー。たまたまリアス・グレモリーが悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を持ってたから良かったけどよ。もし、リアス・グレモリーが転生用の悪魔の駒を持っていなかったら、テメェは悪魔に転生することなく、その場で死んでたんだぞ。そうなれば、お前の周りにいる人間はどうなる?お前の家族は突然死んだ息子を見て、どれだけ悲しむ?俺らにとって、死人を出したって事実は簡単に済ますわけにはいかねぇんだよ」

 

「そ、それは・・・でも――!」

 

陸兎に言いとどめられて尚、反論しようとした一誠だったが、その前にリアスに止められた。

 

「やめなさい、イッセー。彼の言う通り、貴方を一度死なせてしまったのは、私の管理不足でもあったんだから。それで、貴方たちは人間の犠牲者を出してしまった私たちにどんな賠償を要求するつもりなのかしら?」

 

一誠を止めたリアスは険しい表情でそう問いかけると、剣夜は少し表情を緩ませながら喋った。

 

「そんなに身構えないでください。僕たちは別にそれに対しての責任を追求する為に来たわけではありません」

 

そう言って一拍空けると、再度真剣な表情になってリアスに問いかけた。

 

「リアス・グレモリー公爵。僕たち十天師と同盟を結びませんか?」

 

「同盟ですって・・・!?」

 

剣夜の言葉にリアスは驚かずにはいられなかった。

十天師程の強力な勢力が、一領主でしかない自分に同盟を提案する意図が分からない。

ある程度時間が経ったことでひとまず冷静になり、リアスは同盟を結ぶ理由を問いかける。

 

「・・・理由を聞かせてくれるかしら?」

 

「先程も言いましたが、この町で堕天使の活動が活発化した今、僕たち十天師はその被害を最小限に抑えるために駒王町に住まう堕天使に睨みを効かせておく必要があります。そのためには――」

 

「予め、領主である私たちと手を組んだ方が動きやすくなるってことね」

 

「その通りです。それに、僕たちの力を借りることは、強力な戦力を自分たちの手の中に収めることができます。つまり、あなた方にも理はあると思われますよ」

 

確かに、何かあった時、十天師程の強力な勢力が味方になってくれたら、戦いや交渉等で圧倒的有利になるだろう。しかし、もし何らかのすれ違いが起きて、十天師が敵になるようなことがあれば、自分たちは確実に除霊されるだろう。自分の選択で眷属たちを危険な目に合わせてしまうことは絶対に避けなければならない。

理を選ぶかリスクを選ぶか。リアスが自身の選択に対して葛藤していると、ソーナが話しかけてきた。

 

「リアス、私はこの話に乗るべきだと思います。堕天使がこの町で良からぬ動きをしてる今、何かしらの大きな事件が起こる可能性があります。最悪の場合、この町全体を巻き込む事態になるかもしれない。もしそうなったら、その時貴方はその魔の手から貴方の眷属たちを、この町の住人を守り切れる?」

 

「・・・・・・」

 

ソーナに言われて、リアスは再び思案する。堕天使の目的は未だに不明。もしかしたら、組織で動いている可能性だってある。その矛先が自分たちグレモリー眷属に向けられるならまだしも、関係のない町の住民や一誠の家族に向けられたとなった時、果たして自分たちだけで守り切れるだろうか。この町を守る領主として、今自分が選ぶべき最善の選択は・・・

長々と考え、周りがリアスを見守る中、リアスは遂に顔を上げて答えを言った。

 

「・・・分かったわ。私たちグレモリー眷属は、あなた方十天師と同盟を結びます。皆もそれでいいかしら?」

 

「私は異論ありませんわ」

 

「僕も賛成です。今後何かあった時、十天師の皆さんが力を貸してくれたら心強いです」

 

「私も特に異論は無いです」

 

「難しいことはよく分かんねぇけど、同盟を結べば八神たちと喧嘩しなくて済むんだろ?だったら、俺も賛成だ!」

 

眷属たちも特に反対する様子はない。リアスはそれを確認すると、剣夜の方に目線を戻した。

その目線の意味を理解した剣夜は微笑むと、ソファーから立ち上がった。

 

「決まりですね」

 

「えぇ、これからよろしくお願いね」

 

剣夜とリアスは立ち上がり、お互い手を握った。

 

「さて、同盟も成立したことで、早速ですが一つお願いを聞いてもらえないでしょうか?」

 

「お願い?何かしら?」

 

リアスの手を放した剣夜は陸兎の方を向き

 

「彼を・・・オカルト研究部に入れてくれませんか?」

 

そう言いながら、剣夜は陸兎の肩に手を置いた。

 

「八神君を?どうしてかしら?」

 

「今後何かあった時、人間側と悪魔側とで情報の共有ができたら、こちらも色々と行動しやすくなります。それに、彼もまた僕と同じ十天師の一人です。戦力としては申し分ないと思います」

 

「そうね・・・八神君個人としてはどうかしら?」

 

「まぁ、ここに居りゃ学校だけでなく、夜までイッセーをイジリ倒せそうだしな。オーケー、入部するぜ」

 

「おい!それどういう意味だ八神!?」

 

「いいわ。入部を許可するわ」

 

「部長!?」

 

陸兎の言葉に物申そうとした一誠だったが、直後にリアスが速攻で入部を許可したことで、驚愕の表情をリアスに向けた。

 

「それでは、僕たちはこの辺で。また何かあれば、連絡ください」

 

そう言って、剣夜はソファーから立ち上げると、ソーナと麗奈と共に部室から出ていった。

剣夜たちが部室から出たのを確認すると、リアスは「フゥー・・・」と息を吐き、背中をソファーに預けた。

 

「お疲れ様です、部長」

 

「ありがとう、朱乃。まさか、かの有名な十天師と同盟を組むことになるなんてね・・・」

 

朱乃から紅茶のおかわりを貰ったリアスは一杯飲むと、陸兎に向けて右手を差し出した。

 

「それじゃあ改めて・・・これからよろしくね、八神陸兎君。オカルト研究部は貴方を歓迎するわ」

 

「オーケー・・・あー・・・あんたのこと、なんて呼べばいいんだ?」

 

「そうね・・・部長って呼んでくれるかしら?」

 

「了解。よろしく頼むぜ、リアス部長」

 

そう言いながら、陸兎はリアスから差し出された手を握った。



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JKと一緒に暮らすことなんてラブコメではよくあること

この時期になると、忙しくて執筆の時間があまり取れん。


リアスと握手を交わした陸兎は次に朱乃の方を見る。

 

「お前とは日曜以来だな。そんじゃ改めて、俺は八神陸兎。駒王学園の二年で問題児だが、裏の顔は十天師の一人だ」

 

「あらあら、では私も・・・改めまして、私の名前は姫島朱乃。駒王学園の三年生ですわ。そして、裏の顔はグレモリー眷属の『女王(クイーン)』を務めておりますわ」

 

そう言って、背中に黒い翼を出しながら朱乃は丁寧にお辞儀した。

 

「ほう、初めて会った時、只者じゃねぇとは思っていたが、グレモリー眷属の『女王』を務めていたとは・・・なるほど、通りでおっぱいがでっけーわけだ」

 

「いや、おっぱいの大きさ関係なくね!?」

 

「うふふ、人は見かけによりませんよ」

 

「朱乃さんも何普通に接しているんですか!?今のどう見ても、うふふって返す場面じゃないですよ!」

 

「うるせぇーぞ、イッセー。これだから発情期は」

 

「少し落ち着きなさい、イッセー君」

 

「あれれ~?これ、俺がおかしいのか!?」

 

しばらくの間、二人で一誠をひたすら弄すると、朱乃は後ろに下がり、今度は木場が入れ替わるようにやって来た。

 

「僕とは初めましてだよね?僕は木場裕斗。よろしく、八神君」

 

「おう、よろしくな。俺らの敵」

 

「敵!?僕、君に何かしたかな!?」

 

いきなり敵と言われ、驚く木場。

 

「勘違いすんなよ。俺らってのはイケメンに強い憎しみを宿す野獣みてぇな存在だ。奴らは常にイケメンを敵視し、イケメンを食い尽くそうとする。木場、お前も腐女子が狂喜するレベルのイケメンだから、俺らには常に警戒して生活しろよ。あ、イッセーも一応俺らの仲間だから、もし目が合ったら、そこいらに落ちているゴミ屑を見るような目で返してやってくれ」

 

「う、うん・・・分かったよ」

 

「おい!どさくさに紛れて俺のことディスってんじゃねぇよ!木場も真に受けて俺から距離を取ろうとすんな!つーか、さっきから木場のことばっかしか言ってるけど、八神も十分イケメンだろ!」

 

「ハハッ!なめんなよ。こちとら小学校の頃、学年一顔がイケてるランキングで二位だったんだぞ。しかも、一位の剣夜と大差での二位だぞ。イケメンって言われても、真の完璧チートイケメンが身近にいるせいで全然嬉しくねぇんだよ」

 

一誠に向かってそう言いながら、陸兎は制服の胸ポケットから羊羹を取り出した。

 

「!? 私のお菓子・・・!いつの間に・・・!?」

 

「部屋に入った時だ。旨そうだったから、ソファーに座る直前に地獄からの使者並みの速さですり替えて置いたのさ!(※取っただけです)」

 

「いや、そういう時に使うネタじゃないからなそれ!?」

 

ネタ(言葉)の使い方を間違いながらも、羊羹の包みを外し、そのまま羊羹を食べようとした陸兎から羊羹を取り返そうと小猫は素早い動きで陸兎に迫った。

しかし、後数センチで手が届くと思った次の瞬間

 

シュッ!

 

「!?」

 

陸兎の姿が突然消え、陸兎がいた場所を通り過ぎた小猫は慌てて動きを止める。

突然消えた陸兎に戸惑いながらも辺りを見渡す小猫。すると、陸兎は先程小猫がいた場所におり、手に持った羊羹を一口食べた。

小猫は先程よりも速いスピードで陸兎に迫ったが、またしても陸兎は急に姿を消し、今度は右側の方に移動してた。

 

「くっ!返してください・・・!」

 

「おぉ、中々いけるじゃねぇか」

 

何度も動き、必死になって陸兎を捕まえようとするが、陸兎を捕まえるどころか触れることすらできない。

やがて、陸兎が羊羹を食べ切ってしまい、それを目にした小猫は動きを止めると・・・

 

「・・・・・・(シュン)」

 

物凄くしょんぼりしてた。

その姿を見て、流石に悪いと思った陸兎は小猫に謝る。

 

「悪かったよ。詫びに明日、俺特性の手作りお菓子をお前にやるよ」

 

「・・・本当ですか?」

 

「応とも、侍は守れねぇ約束はしねぇよ」

 

そう言って頭を撫でると小猫は少しだけ機嫌が良くなった。

一方、リアス達は先程の陸兎の瞬間移動が気になってしまい、リアスが代表して陸兎に問いかける。

 

「ねぇ、八神君。昨日の時やさっき見せた瞬間移動、あれはいったい何なの?」

 

「これか?ただ素早く移動しただけだが何か?」

 

陸兎が発した率直な言葉に全員が固まる。

しばらくして一誠が我に返り、信じられないといった顔で陸兎に問い詰める。

 

「え?いや、噓だろ!?だって、どう見ても瞬間移動したようにしか見えなかったぞ!」

 

「こいつはそういう体術なんだよ。まぁ、木場の奴は気づいたみてぇだがな」

 

陸兎にそう言われ、全員の視線が木場に向く。

 

「・・・彼がさっき小猫ちゃんに追いかけられてる時、一瞬だったけど、地面に足を蹴って移動してたよ。正直あんな技、『騎士(ナイト)』の力を宿している僕でも、習得するのは難しいと思う」

 

「俺らはこの体術を『神速(カミソル)』と名付けている。ちなみに、十天師は全員『神速』ができるぜ」

 

十天師全員が今の瞬間移動じみた技を使える。さり気なくとんでもないことを言った陸兎にグレモリー眷属は呆気に取られた。

 

「なんというか・・・流石は最強の退魔師の集団ね」

 

「こんなもんじゃねぇぞ。俺ら十天師は異形と戦うために人体を超えた色んな技を持ってるぜ。こんくれぇの事をできないようじゃ上級悪魔となんざ到底戦えねぇよ」

 

陸兎の言葉にグレモリー眷属の面々は顔を強張らせる。

圧倒的過ぎる。彼は間違いなく、自分たちよりも強い力を持っている。それだけじゃない、もし彼が自分たちの敵になるようなことがあれば・・・

そんなリアス達の様子を感じ取ったのか、陸兎は少し笑みを浮かべながら喋った。

 

「でもまぁ、今は十天師であってオカルト研究部の部員でもあるんだ。もし、お前らになんかあった時は部員の一人として最低限の義理くらいは果たしてやるよ」

 

「!?・・・フフッ、そういう義理堅い子、嫌いじゃないわ。改めて、これからよろしくね、陸兎」

 

リアス・グレモリーは自身の眷属、それと親しい人物にしか呼び捨てで呼ぶことはない。今この場で陸兎を呼び捨てにしたこと。それは、陸兎の言葉を信じようという彼女なりの決意表明であった。

 

 

 

 

夕方、部活が終わり帰路についていた陸兎は後ろに気配を感じ、その場で立ち止まった。

 

「・・・いるんだろ?隠れてないで出てこいよ」

 

「あらあら、流石ですわね」

 

後ろに振り向き、気配の正体を確認すると、曲がり角から姫島朱乃が姿を現した。

陸兎はこちらに近づいてくる朱乃を見ながら、尾行の理由を問いかける。

 

「目的は俺の護衛・・・いや、監視ってことか?」

 

「はい、部長のご命令で」

 

「そりゃそうだろうな。同盟結んだとはいえ、自分たちを一瞬で除霊することができる奴を身近に置くんだ。警戒して当然だな」

 

「うふふ、どうでしょう?」

 

惚けるように微笑みながら、朱乃は陸兎の隣に並んだ。

帰路につきながら、二人は会話する。

 

「それで、お前はどこまで俺を監視するんだ?もう少しで家に着くぞ?」

 

「そうですわね・・・部長は、一日中と言っておりました。つまり、あなたの家に住まわせてもらうことになりますわ」

 

「・・・マジで?」

 

「マジですわ。あ、生活品の事に関してはご心配なく。自分で用意しておりますので」

 

「さいですか・・・」

 

この時、表情では無表情のままの陸兎だが、内心では・・・

 

「(おいおいおいおい!聞いてねぇぞ!なんだよ、このラブコメ展開!?こんな展開、ToLOVEるだけで十分だろ!?)」

 

日曜日に出会ったばかりの少女と同棲することになるとは思っておらず、かなり焦っていた。

そんな陸兎の内心を知りもしない朱乃は陸兎の顔を覗き込むように問いかける。

 

「ところで、ご家族はお家にいらっしゃいますか?もし、ご家族が一緒でしたら、挨拶をしておかないと・・・」

 

「はっ!あぁ、そうだったな!俺は一人暮らしだから、そこら辺の心配はいらねぇよ」

 

「一人暮らしですの?ご両親とかはいらっしゃらないので?」

 

朱乃がそう問いかけた途端、陸兎は少し顔を暗くしながらゆっくりと言った。

 

「・・・二人共死んだ。親父は俺がまだ小せぇ頃、母さんは五年前にな」

 

「!?・・・ごめんなさい」

 

「謝んな。顔の知らねぇ相手の事なんざ、いちいち気にしてたらキリねぇぞ」

 

そう言ったが、歩いている朱乃の表情は暗いままだ。

 

「はぁ~、そこまで気にするなよ。そうだ!なら、家に着いたら、何か一つ家事をやれ。それなら、文句はねぇだろ?」

 

「そうですわね・・・それなら、今夜のお夕飯は私が作りましょう。腕によりをかけて作らせていただきますわ」

 

「そいつは楽しみだな・・・お!着いたな」

 

そう言って、陸兎は立ち止まり、上を見上げる。朱乃もつられて上を見上げた。

二人の目の前にあったのは、かなりの階数があるであろう高いマンションだった。

如何にも高級そうなマンションを「まぁ」と興味深そうに見上げる朱乃をよそに、陸兎はさっさとマンションの中に入ってしまい、慌てて朱乃も中に入る。

マンションの中に入った二人はエントランスを通ってエレベーターの前に立つ。

 

「俺ん家はここの30階だ。最上階だから、他の階よりもひと味違うぜ」

 

二人はエレベーターに乗り、陸兎の部屋があるであろう30階まで目指す。

しばらくして扉が開き、廊下を歩いていると、部屋の扉前まで辿り着いた。

 

「ここが俺ん家だ」

 

そう言いながら、陸兎は扉を開けて中に入った。朱乃も後に続いて中に入る。

中に入った朱乃の目に広がった光景は彼女を驚愕させた。広いリビングに綺麗に整備されているキッチンやバスルーム、ふかふかのソファーにかなり大きいテレビ、窓の外には屋外の温水プールが設置され、そこから駒王町の景色を見渡すことができる。

正に高級マンションとも言える部屋に朱乃は感心しながら、陸兎に問いかける。

 

「とても広いですわね。家賃はおいくらでしょうか?」

 

「さぁな。そこら辺は十門寺が負担してるから俺は知らね。つか、このマンション自体が十門寺が所有してるモンだ。キッチンは向こうにあるから、好きに使ってくれ。部屋は空いてんのがいくつかあるから、好きな部屋を選んで勝手に使え」

 

「分かりました。うふふ、これからよろしくお願いしますね」

 

そう言うと、朱乃はキッチンに向かった。

朱乃が冷蔵庫を開いてるのを確認した陸兎はリビングを出て、自分の部屋の中に入った。

部屋に入った陸兎は机に飾られている一枚の写真を手に取った。

 

「・・・信じられるか?この間、出会ったばっかの女と一緒に暮らすことになったんだぜ。母さん、もし母さんが生きてて、息子が女を家に連れて来たら、どんな反応してたんだ?」

 

手に取った写真を見ながら、写真に写っている人物に問いかけるように喋る陸兎。

その写真に写っていたのは、幼い頃の自分と後ろで陸兎の両肩を掴みながらカメラに向かって微笑んでいる雪のように白い髪の女性の姿だった。



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男ってのは女を守れて初めて一人前になる

次回で第1章終わるかな?


朝、寝起き早々陸兎は三つの違和感を感じていた。

まず一つは昨日寝ていた布団が明らかに重くなっていること。

二つ目は何かいい匂いがすること。しかも、ただのいい匂いではない。普段から結構な数の女子が自分に寄ってくるから分かるが、この匂いは明らかに女子のいい匂いだ。

そして三つ、先程から自分の上に人が乗っているような感触を感じる。しかも、気配からしてただの人ではなく悪魔である。

これらの違和感から思い至る可能性を胸に秘めながら陸兎は恐る恐る布団を捲る。

 

「・・・・・・」

 

そこにいたのはほぼ全裸で眠っていらっしゃる朱乃さんだった。

状況が理解できず、死んだ魚のような目をしながら固まっていると、朱乃が「ん?」と目を覚まして陸兎の方を見た。

 

「あらあら、おはようございます」

 

「あ、うん、オハヨウ」

 

律儀に挨拶してくれたので、片言で返す陸兎。

 

「少し顔色が悪そうですわね。昨日は良く眠れましたか?」

 

「あぁ、大丈夫だ。睡眠はもう頭がボーとなるぐらい取れてるから心配すんな。なんなら、今の状況が理解しずら過ぎて、頭も体も全てボーちゃん状態になってるぐらいだ」

 

そう言って、体を起き上がらせると、陸兎同様に起き上がり、ベットの上に正座したブラとパンティーのみの朱乃の方を見た。

流石二大お姉さまと言われているだけあって、実にナイスバディの持ち主だ。

 

「んまぁ、いきなり人ん家に住みだしたり、人のベットに忍び込んだり、色々言いたいことはあるが、これだけ言わせてくれ・・・」

 

陸兎は心を落ち着かせるために一旦呼吸を整えると・・・

 

「何やっとんじゃーーーーーー!!!」

 

あらん限りの大声で叫んだ。

それに対し、朱乃はきょとんとした顔を浮かべた。

 

「あら?ひょっとして嫌でしたか?」

 

「嫌でしたか?じゃねぇよ!!お前、いつから布団の中(ここ)にいた!?」

 

「そんなの夜中に決まっているじゃありませんか」

 

「だろうな!予想通りの答えありがとよ!」

 

半ばやけくそ気味に叫んだ陸兎は「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」と息も絶え絶えになりながら、再度問いかける。

 

「何?お前ってそういう悪魔なの?会ったばかりの男の布団に潜り込むハレンチモンスターなの?」

 

「まさか、殿方の布団に潜り込むなんて、その日の気分でしかしませんよ」

 

「その日の気分で、まだ会って間もない男の布団に入るもんじゃありません!」

 

丁寧な口調で再度ツッコミを入れた陸兎は、もうこの話題に関しては切り上げようと思い、朱乃に着替えてくるよう促した。

 

「とりあえず、さっさと着替えてこい。俺は朝飯の準備をしてくるから」

 

「それなら、昨日みたいに私が作りましょうか?」

 

「いや、いい。小猫用のお菓子作りもあるしな」

 

そう言うと、陸兎は自分の部屋を出ていった。

 

「うふふ、本当に見てて飽きないお人ですわね」

 

残った朱乃はいたずらっ子のように微笑むと、制服に着替えるべく自身の部屋に戻った。

 

 

 

 

「・・・なんで、そんなに不機嫌なんだよ?」

 

「・・・朝食が美味しすぎましたわ」

 

現在、朱乃と一緒に登校している陸兎は隣で不機嫌な顔をしてた朱乃に怪訝そうな顔で問いかけた。

どうやら、陸兎が作った朝食が美味しすぎて、女としてのプライドが少し傷ついたようだ。

 

「そりゃこちとら五年前から一人暮らししてんだ。料理の一つもできねぇで、いったい何食っていけゃいいんだよ。そういうお前も昨日の夕飯、中々美味かったぞ」

 

「ありがとうございます。料理は小さい頃からしていますので大体の物は作れますわ」

 

「ふーん。誰に教えてもらったんだ?母親とかか?」

 

すると、朱乃の足がピタッと止まり、少し悲しげな顔をしながら言った。

 

「母は・・・死んでしまいましたわ。私がまだ小さかった頃に」

 

「・・・悪かった」

 

「いえ、大丈夫ですわ」

 

どうやら、お互い母親とは既に別れていたようだ。

その後、話題を変えてお互いの休日の過ごし方など日常での生活について会話を弾ませていく陸兎と朱乃。

やがて、学園の中に入り、しばらく歩いたところで朱乃と別れる。

 

「それでは私はこれで。放課後、また会いましょう」

 

「おう、じゃあな」

 

朱乃と別れ、教室の扉を開いた途端、エロ三人組が恐ろしい形相で陸兎に向かって飛びかかってきた。

 

「八神!なんでお前が朱乃さんと一緒に登校しているんだ!?」

 

「やっぱり顔か!?顔がいいから女の子にチヤホヤされるのか!?」

 

「イケメンめ!死にさらせぇぇぇぇ!!」

 

「はぁ~・・・フンッ!」

 

その光景を一瞥した陸兎はめんどくさそうにため息をすると、左右にいた元浜と松田の頭を掴み、真ん中にいる一誠の頭に思いっ切りぶつけた。

 

「「「ふげぇ!?」」」

 

お互いの頭がぶつかり合ったエロ三人組は情けない声と共に倒れるのであった。

 

 

 

 

そして放課後。陸兎はオカルト研究部の部室にやって来た。

 

「ウイース、どうも~ポピパ大好き芸人で~す」

 

「よっ、八神。相変わらずポピパ好きだな。少しはパスパレにも興味持てよ。アイドルバンドはいいぞ~。特にドラムを叩いている時の麻弥ちゃんの胸揺れといったら・・・!」

 

「ハイハイ、パスパレ派は黙ってろ。中の人が実際に演奏しているポピパさんはなぁ、他のバンドとはひと味違うんだよ。ちなみに木場は何派だ?」

 

「僕はRoselia派かな。実力派ガールズバンドなだけあって、聞いてて飽きないよ」

 

「お、剣夜と同じじゃねぇか。やっぱり、爽やか系イケメンは皆Roseliaが好きなんだな」

 

「え?何その法則?スッゲー気になるんだけど」

 

男子三人でガールズバンドトークに花を咲かせていると、陸兎はソファーに座っている小猫を見つけ、彼女の下へやって来た。

 

「よう、小猫。昨日約束してた通りお菓子作ってきたぞ」

 

「本当ですか・・・」

 

お菓子を持ってきたと言われた小猫は少し嬉しそうな顔をした。

 

「応とも。俺特性、牛乳プリンだ」

 

陸兎は鞄からラップで蓋されている容器とプラスチックのミニスプーンを取り出し、小猫の前に置いた。

容器の中には真っ白な牛乳プリンが入っていた。

 

「スゲー。美味そうだな」

 

近くで見てた一誠も純白のプリンに目を光らせる。

小猫はプラスチックのミニスプーンを手に取り、一口食べる。

 

「・・・美味しいです」

 

「そうか、食い終わったら容器は返せよ」

 

そう言いながら小猫の頭を撫でた陸兎は元の場所へ戻り、再び男子三人でガールズバンドトークに花を咲かせるのであった。

その後、小猫は牛乳プリンを残さず食べ、空になった容器はきちんと陸兎に返した。

 

 

 

 

陸兎がオカルト研究部に入部した日から数日後

 

「イッセーが風邪で休みだぁ?」

 

元浜と松田から一誠が風邪で学校を休んだことを聞いた陸兎は顔をしかめた。

 

「昨日まであんなに元気だったのにいきなり風邪を引くなんて・・・いったい何があったんだ?」

 

「・・・もしかして、昨日の夜に初めてをやったからとか!?」

 

「まさか!?・・・いや、だが前にリアス先輩と一緒に登校してたから、無くはないぞ!」

 

「おのれイッセー!羨ましい!」

 

馬鹿二人の会話は無視しつつ、陸兎は一誠の風邪について考える。

 

「(悪魔が風邪を引くことなんてありえねぇし、こりゃきっと何か裏があるな)」

 

少なくとも、只事ではないと陸兎は予想した。

そして、その予想は当たることとなった。

 

 

 

 

夜、陸兎はオカルト研究部の部室に向かっていた。

部室の前に辿り着き、いつも通り中に入ろうとした瞬間

 

パシッ!

 

頬を叩いたような音が部室に響き、部室に入ると風邪で休んでいた筈の一誠含む部員全員が揃っていた。

ただし、全員その表情はよろしくない。お互い向かい合う一誠とリアス、一誠の頬には平手で叩かれたような跡がある。そして、それを黙って見守る部員たち。

陸兎はあまり音を立てないように木場の下まで行き、状況の説明を求める。

 

「・・・何があった?」

 

「今日の昼頃に自分を殺した堕天使に攫われたシスターを教会まで助けに行かせて欲しいって一誠君が部長にお願いしてるんだ」

 

木場の説明を聞き、なるほどと言わんばかりに頷く陸兎。

要は女攫われたから助けに行きたいけど、行く場所が教会なせいでリアスに猛反対されているのだろう。

うん、そりゃ反対するわな、と陸兎は思った。上級悪魔ならまだしも、転生してまだ間もない一誠が教会に。しかも、堕天使や複数の悪魔祓いがいるであろう場所に行くというのだ。自殺行為もいいところだ。

前の方を見ると、一誠とリアスが未だに睨み合っていた。

 

「何度言えば分かるの?あのシスターの救出は認められないわ」

 

「じゃあ、俺を眷属から外してください」

 

「できるわけないでしょう!貴方はグレモリー眷属の『兵士』よ!勝手な真似は許せないわ!」

 

お互い一歩も譲らない一誠とリアス。

すると、魔法陣から朱乃が現れて、リアスに耳打ちした。

リアスは一瞬驚きつつもすぐに表情を戻し、朱乃と共に歩き出した。

 

「急用ができたわ。私と朱乃は少し外出するわ」

 

「部長!まだ話は終わって――」

 

何処かへ行こうとしているリアスを見て、一誠は慌てて制止しようとしたが、その前にリアスが口を開いた。

 

「いい、一誠。貴方は『兵士(ボーン)』が一番弱い駒だと思っているわよね?それは違うわ。『兵士』にはプロモーション、敵陣地の最奥に行けば『(キング)』以外の駒の特性を使えるの。それともう一つ、神器は想いの力で動くわ。想いなさい、貴方の想う力が大きければ、神器はきっとそれに応えてくれるはずよ」

 

そう言って、リアスは朱乃と共に魔法陣で何処かへ行ってしまった。

リアス達が転移したのを確認した一誠は黙って部室から出ようとしたが、その前に陸兎が扉の前に立ち、一誠の道を遮った。

 

「どこ行く気だ?」

 

「決まってるだろ。アーシアを助けにだよ」

 

「・・・俺はそのシスターの事なんざ一ミリも知らねぇから、お前がそこまで必死になる理由が分からねぇ。だが、今のお前がカイドウもびっくりの自殺願望者だってのは理解できる」

 

「自殺願望者でもいいさ。アーシアは俺の友達だ。俺が助ける」

 

「今のテメェはドラクエで言ったところのレベル1だ。それがレベル30の敵に挑むようなモンだぞ。戦う以前に瞬殺されるのがオチだ」

 

「じゃあ、どうすりゃいいってんだ!アーシアを見捨てて、ただ黙って怯えてろってか!?」

 

大声で怒鳴る一誠に対し、陸兎は興味ないと言わんばかりの表情で言った。

 

「知るか、他人にテメェの道を委ねんな。女護って死ぬか、女見捨てて生きるか。テメェにとって納得のいく結果になる道をテメェで勝手に選んでろ」

 

そう言って、陸斗は部室から出ていった。

 

「八神・・・」

 

陸兎が去った扉を一誠は黙って見つめていた。

彼は忠告こそしたが行くなとは言わず、選べと言っていた。それはつまり、行くか行かないかは自分自身で決めろということだ。

選ぶべき道?納得のいく結果?そんなの一つに決まっている。

一誠は意を決した表情で部室を出ようとすると、今度は木場が制止した。

 

「一人で行く気かい?神器があっても、堕天使と悪魔祓いの集団を一人で相手はできない」

 

「それでも行く」

 

「意気込みは立派だよ。でも、無謀だ・・・だから、僕も一緒に行くよ」

 

予想外の言葉だったのか、一誠は驚いた顔で木場を見た。

 

「僕もアーシアさんのことは知らないけど、僕は君の仲間だ。それに、部長は『兵士』は敵陣でプロモーションを発揮するって言ってたよね。つまり、部長は教会を敵陣地と認めたんだ。だから、僕が一緒に行っても何の問題はないだろう?」

 

そう言って笑ってみせた木場に、一誠はこれ以上何も問わなかった。

すると、二人の話を聞いてた小猫が口を開いた。

 

「私も行きます」

 

「小猫ちゃん?」

 

「二人だけでは不安です」

 

そう言って参加を決意した小猫に一誠は感動してた。

 

「感動した!俺は今、猛烈に感動してるよ小猫ちゃん!」

 

「あれ?僕も一緒に行くんだけど・・・」

 

木場が少し悲しそうな表情で言うと、一誠は「悪い悪い」と謝った。

 

「よし!行こう二人共!待ってろよ、アーシア・・・!」

 

決意を胸に一誠たちは部室を出てアーシアが囚われている廃教会へ向かった。選んだ選択の中で最高の結末を手に入れるために。

 

 

 

 

廃棄された教会付近の林、今その場所に陸兎はいた。

陸兎の目的は二つ。一つは既に廃教会に向かっているであろう一誠たち(木場や小猫も付いてきてると予想している)の戦いの行方を見守るため。もう一つはその廃教会で良からぬことを企んでいるであろう堕天使たちを苛める・・・じゃなくて、捕まえて目的を問いだすこと。

部室から出た後、剣夜から日本陰陽師協会直々の依頼だと聞かされた陸兎は、依頼を果たすべく、一誠たちとは別のルートで廃教会に向かっていた。すると、陸兎同様、教会に向かっているであろう二人の姿が陸兎の視界に写った。

陸兎は特に驚いた様子も無く、その二人に声を掛ける。

 

「どうやら目的は同じみてぇだな」

 

そう言って、声を掛けられた人物、リアスと朱乃は陸兎の方に振り向いた。

リアスは驚いた顔をし、朱乃は一瞬だけ驚いたがすぐに微笑んだ。そんな二人に陸兎は近づいてく。

 

「ここにいるってことは、貴方も依頼されたってこと?」

 

「まぁな。依頼したのは日本陰陽師協会の連中だけどな。ここ最近、ここら辺に潜んでいる堕天使を捕縛し、目的を洗い出せ。人類の脅威となるなら殺害もやむを得ずってな」

 

「そう・・・イッセーは?」

 

「多分先に行ったぜ。一応今のお前じゃ瞬殺されるぞって忠告しといたが、あれはその程度で引き下がるようなタマじゃねぇよ」

 

「そう思うなら、力尽くでも止めなさいよ・・・」

 

そう言いながら呆れるリアスに対し、陸兎は大声で笑った。

 

「ハハハハハ!そいつは無粋だろ!男が女護る為に戦おうとしてんだ。それを止めるKY野郎が何処にいる。あんただって、あんな事言っときながら、ひっそりと許可出しただろ?」

 

「うふふ、どうやらお見通しみたいですわね」

 

「はぁ~・・・まぁいいわ。私たちも急ぎましょう」

 

一応納得したリアスは陸兎を加えた三人で廃教会へと足を運ぶのであった。




・日本陰陽師協会
日本の陰陽師の親睦団体である。本部は東京の何処か(まだ決めてない)に置かれ、十師族同士の会議などが行われたりしている。


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想いの力は常識をも超える

第1章終わり!


教会の外れの森、リアス達三人はその奥にある廃教会を目指して進んでいた。

 

「たく、何処見渡しても木ばっかじゃねぇか。食いモンの一つや二つは無いのかねぇこの森は?俺の中にあるスッゲー森ランキングじゃ底辺に入るぞこりゃ」

 

「陸兎、油断しないの。何も無いからこそ、何時堕天使が襲ってくるのか分からないんだから」

 

「そうですわよ。気づいた頃には・・・ほら」

 

三人揃ってピタッと足を止め、朱乃が上を見上げると、空から三人の堕天使が現れた。

女の堕天使二人に男の堕天使一人。その内の一人、ドーナシークが陸兎を見て反応する。

 

「貴様!あの時の人間!?」

 

「ウイース、久しぶりだな」

 

「・・・やっぱり、あの時公園でイッセーを助けたのは貴方だったのね」

 

ドーナシークが公園で自身に手傷を負わせた陸兎に驚く中、公園の時の疑問が晴れたリアスは目の前にいる三人の堕天使に挨拶する。

 

「初めまして、私はリアス・グレモリー。早速だけど、貴方たちには消えてもらうわ。朱乃」

 

「はい、部長」

 

リアスに指示された朱乃は巫女服に纏うと辺り一面に魔法陣を張った。

 

「これは結界か!?」

 

「うふふ、逃がしませんわよ」

 

頬を赤らませながら言う朱乃を見て、陸兎はこっそりとリアスに問う。

 

「部長、朱乃ってドS?」

 

「ドS、ドS」

 

ひそひそと会話する陸兎とリアスをよそに、青髪の方の堕天使が喋り出す。

 

「どうやら、狙いは初めから我ら三人という訳か。流石はグレモリーの眷属だ。特にそこの人間、見た感じただの人間ではなさそうだな。纏っている気からして・・・悪魔祓いか?」

 

「違ぇよ。俺は退魔師だ。簡単に言やぁ、現場に出て人様に迷惑をかけてる悪霊や妖怪などを除霊する陰陽師の人、分かったか?」

 

「なるほど・・・極東の悪魔祓いという訳か」

 

「うーん、ちょっと違う気がするが・・・まぁ、いいか」

 

悪魔祓いは教会の加護を得て戦うのに対し、退魔師は教会の加護が一切無く、己の身体能力や技、妖術などを使って戦うのだが、これ以上説明するのが面倒だった陸兎は、極東の悪魔祓いという認識で一応納得してもらうことにした。

 

「さて、お喋りはこのくらいにして、そろそろ消えてもらうわ」

 

「フン、精々余裕ぶっているがいい。儀式が終われば、あのお方は貴様らですら敵わぬ存在になっているのだからな」

 

ドーナシークがそう言うと、堕天使三人は翼を広げ、一斉に空に飛び立った。

地上にいるリアス達を見上げていると、ドーナシークが二人に言った。

 

「この人間は俺が殺る。以前、斬られた借りがあるからな」

 

「ふ~ん。まぁ、好きにすれば。それじゃあ、私たちはグレモリーの方を・・・」

 

そう言いながら、金髪の堕天使とはリアスの方を向いた。

 

「どうやら、対戦相手が決まったみてぇだな」

 

「えぇ、私と朱乃で向こうの二人をやるわ。男の方は貴方に任せてもいいかしら?」

 

「応とも、グレモリーの名は伊達じゃないってとこ、見せてくれよ」

 

「貴方こそ、十天師の名が飾りじゃないってところを見せてちょうだい」

 

お互い健闘を称えると陸兎とリアス達はそれぞれの相手の前に立つ。

自身を見上げる陸兎にドーナシークは油断せずに光の槍を構える。

 

「前回は油断したが、貴様が退魔師となると、話は別だ。最初から本気で行かせてもらおう」

 

「うわぁ~出たよ、すぐやられてしまいそうなモブキャラのセリフ。よく、くっ!油断した!とか、今のは本気じゃなかったから次から本気出すわぁ(キリッ)、って言う奴いるけどよ、そういう奴程出番って少ない訳よ。つーまーりー、お前これで出番終わり~ガハハハハハwww」

 

思いっ切り煽る陸兎にドーナシークは顔を歪ませながら両手の槍を投げつけた。

おちゃらけていた様子の陸兎だったが次の瞬間、木刀を出現させて、二本の光の槍を木刀で弾いた。

攻撃を弾かれたにも関わらず、ドーナシークは驚いた様子もなく陸兎を見下ろす。

 

「やはり、ただの退魔師ではなさそうだな。特にその神器、名はなんという?」

 

「こいつか?こいつは『洞爺刀(エムブラスク)』。言っとくが、こいつは神器じゃねぇぞ」

 

この時、堕天使二人と戦っている最中に陸兎の会話が聞こえてきたリアスはこう思った。

 

「(漢字の意味と読み方、合わなすぎじゃないかしら・・・?)」

 

どうしたら、洞爺刀と書いてエムブラスクと読むのだろう。そんな疑問がよぎったリアスだったが、今は目の前の敵を倒すことを優先し、すぐさま戦闘に集中する。

そんなリアスをよそに、ドーナシークは特にこれといったツッコミをすることもなく、何故か笑い出した。

 

「ククク・・・少なくとも、そこいらの悪魔祓いや退魔師とは違うようだな。なら、これでどうだ!?」

 

そう言うと、今までのやつよりも少し大きめの槍を両手に持ち、陸兎目掛けて投げつけた。

 

「さっきとほとんど変わんねぇだろ。少しは脳みそ使え、カラス野郎」

 

めんどくさそうな顔をしながら、陸兎は『洞爺刀』を振った。

その瞬間、『洞爺刀』から斬撃のようなものが放たれた。それは巨大な光の槍を真っ二つに斬り、そのままドーナシークに向かった。

 

「何!?ぐぉ!」

 

予期してなかった攻撃にドーナシークは反応できず、斬撃を腹に食らってしまう。

前回同様、腹から血が流れ、ドーナシークは斬られた箇所を押さえながら陸兎に向かって問いかける。

 

「な、何なんだ!?貴様のその神器は!?」

 

「だから神器じゃねぇつってんだろ。こいつは誓約神器(プレージデッド・ギア)。かつて起きた人間と異形との大戦の後、強力な力を持つ神器に対抗する為に、当時の十師族が日本に住まう多くの技術者や陰陽師を集めて作った神器・・・所謂人間によって作られた神器だ」

 

「作られた神器だと!?そんな物、聞いたことがないぞ!?」

 

「だろうな。何せこいつは、日本で二十にも満たない数しか無いって言われている代物だ。まぁ、どうせ斬られるお前に言っても、仕方のないことだけどな」

 

斬られる。その言葉を聞いたドーナシークは怒り狂ったような形相をした。

 

「ふざけるな!俺は誇り高き堕天使だぞ!貴様のような下等生物に負けるはずがない!」

 

堕天使のプライドが傷つけられたのか、陸兎目掛けて無我夢中に大量の槍を投げるドーナシーク。

しばらくして槍を投げるのを止め、「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」と息を吐きながら下を見下ろす。しかし、そこに陸兎の姿は無かった。

 

「き、消えた!?何処にいった!?」

 

辺りを見渡すドーナシークだが、いくら下を見ても陸兎の姿は見当たらない。

 

「誇り高きねぇ・・・随分と高い所から見下ろしやがって・・・そんなんだからテメェは何も見えねぇんだよ」

 

ふと上から聞こえた声に反応し、上を見上げると、『洞爺刀』を両手に構えて持ち、こちらに向かって上から落ちてきている陸兎がいた。

ドーナシークは咄嗟に槍を出現させるも既に遅し。陸兎は両手に持った『洞爺刀』をドーナシーク目掛けて振り下ろし・・・

 

「見下ろしてばっかじゃ、俺の足しか見えねぇだろ。下ばっかり見てるから、テメェは本当に見えるモンを見落としちまったんだよ。来世では、人の腹くらいは見えるようになりやがれ」

 

その言葉と共に陸兎はドーナシークの体を真っ二つに斬った。

ドーナシークは信じられないと言わんばかりの表情で消滅し、無数の黒い羽が宙を舞った。

地面に着地した陸兎は一仕事終えた顔をしていると、こちらに近づいているリアスと朱乃の姿が見えた。

 

「そっちも終わったみてぇだな」

 

「えぇ、陸兎は・・・無事みたいね」

 

無傷の陸兎と地面に落ちた無数の黒い羽を見て言うリアス。

 

「誓約神器・・・人間が作った神器ねぇ・・・にわかには信じられないけど、その木刀から神器に似た力を感じるわね。誓約神器っていったいなんなのか、教えてくれるかしら?」

 

「悪いが、そいつに関しては事が終わってからにしようぜ。まだ一誠たちが教会の中にいるからな」

 

「・・・そうね。それじゃあ、早く中に入りましょう。と行きたいところだけど、その前に・・・」

 

リアスはドーナシークの物と思われる黒い羽を回収した。

すると、陸兎が驚愕の表情でリアスを見つめた。それに対して、リアスが「どうしたの?」と問いかける。

 

「部長・・・いくらなんでもカラスの羽集めが趣味って女子としてどうかと思うぞ・・・」

 

「違うわよ!これは堕天使を滅した証拠を回収してるだけよ!」

 

「あらあら、部長、趣味が悪いですわよ」

 

「朱乃!貴方は知ってるわよね!?」

 

二人でリアスをからかいながら、三人は魔法陣で廃教会へ向かった。

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「悪魔にとって光は猛毒。激痛でしょう?その激痛は悪魔にとって最も耐え難いものなのよ」

 

一誠は現在、一度自分を殺した堕天使レイナーレと対峙してた。しかし、その表情はよろしく無く、両足には光の槍が突き刺さっている。

二人が対峙している聖杯堂の椅子にはアーシアが仰向けに倒れていた。レイナーレによって神器を抜かれた彼女は既に意識は無く、心臓も止まっている。

 

「ぐっ!・・・うぉーーーーーー!!」

 

一誠は肌を焦がすような痛みに耐えながら、両足に刺さっていた光の槍を引き抜いた。

その様子を見て、レイナーレは感心したように呟く。

 

「大したものね。下級悪魔の分際で」

 

「こんなもの、アーシアの苦しみに比べたらどうってことねぇよ」

 

口では威勢を張っていた一誠だったが、途端にバランスを崩し、床に尻餅を付いた。

 

「それが貴方の限界かしら?まっ、下級悪魔にしては中々頑張った方ね」

 

レイナーレは見下すような笑みを浮かべながら、一誠を見ていた。

すると、一誠は尻餅を付いたまま何やら呟き出した。

 

「神様・・・じゃダメだな・・・俺は悪魔だから・・・魔王様か・・・」

 

「何言ってるの?あまりの痛さに壊れちゃった?」

 

一誠が訳の分からないことを言い出し、疑問に思っていたレイナーレだったが、次の瞬間、その表情は驚きに変わった。

 

「!?・・・そんな、噓よ!?」

 

「頼みます。後は何もいりませんから・・・こいつを・・・一発殴らせてください!」

 

倒したと思っていた男が立ち上がったからだ。

体には悪魔を象徴する黒い翼を生やし、怒りと闘気が混ざった目でレイナーレを睨む一誠。

 

「体中を光が内側から焦がしているはずよ!下級悪魔如きが立ち上がるはずが――!」

 

「あぁ痛ぇよ。今でも意識が飛んじまうくらいなぁ。でも・・・そんなのどうでもいいくれぇテメェがムカつくんだよ!」

 

Explosion(エクスプロージョン)!』

 

一誠の言葉と共に、彼の神器と思われる赤い籠手が声と共に光り輝いた。

次々と想定外のことが起き、戸惑うレイナーレ。そんなレイナーレをよそに、一誠はゆっくりとレイナーレに近づいていく。

 

「ひっ!?」

 

恐怖を感じたレイナーレは咄嗟に光の槍を作り、一誠目掛けて投げる。

しかし、一誠はその槍を赤い籠手で弾くと、猛スピードでレイナーレに迫った。

 

「い、いや!」

 

レイナーレは慌てて逃げようとしたが、飛び立とうとした瞬間、腕を一誠に掴まれた。

 

「逃がすか馬鹿!」

 

「私は、私は至高の――!」

 

「吹っ飛べクソ天使!!」

 

ガンッ!!

 

一誠の放った渾身の一撃はレイナーレの顔面を見事捉え、レイナーレは教会の窓を壊して外まで吹き飛んだ。

 

「ざまぁみろ・・・」

 

レイナーレが吹き飛んだ様子を見て、満足気に微笑んだ一誠はその場に倒れ込みそうになったが、その前に木場が一誠を支えた。

 

「まさか一人で堕天使を倒すなんてね」

 

「遅ぇよ、イケメン王子」

 

「ごめんごめん、君の邪魔をするなって部長と陸兎君に言われてさ」

 

「部長?それに八神も・・・?」

 

教会に行くことを反対してた二人が何故ここにいるのか。疑問に思っているとリアスが一誠の下へやって来た。

 

「お疲れ様、イッセー。貴方なら倒せるって信じてたわ」

 

「部長・・・本当ですか?部長と八神が一緒に来てたって?」

 

「えぇ、朱乃も含めた三人で一緒に用事を済ませたから、教会の地下に転移したの。そうしたら、裕斗と小猫が大勢の神父と戦っているじゃない」

 

「部長と陸兎君がいてくれたおかげで助かりました」

 

「八神・・・たく、あんなこと言っといて結局来るなら、一緒に付いてきても良かっただろ・・・」

 

なんだかんだ言いつつも、結局来てくれた悪友(陸兎)に一誠は呆れるように微笑んだ。

すると、教会の扉から小猫と陸兎が入ってきて、小猫が倒れているレイナーレを引きずっていた。

 

「部長、持ってきました」

 

「小猫、それは持ってきたって言わねぇ。引きずってきたって言うんだ」

 

「そうですね。部長、引きずってきました」

 

「いや、言い直さなくていいから・・・」

 

陸兎に指摘され、律儀に言い直した小猫にリアスが呆れていると、陸兎が真剣な表情でリアスと一誠の方を向いて言った。

 

「部長、イッセー。こいつを起こす前に一つ頼みを聞いてくんねぇか?」

 

「頼み?何かしら?」

 

「依頼では、今回の事件の首謀者は可能な限り捕獲しろって命じられているんだ。お前らがこいつを殺したくても、俺がokを出すまで手を出さないでくれるか?」

 

「そうね・・・下手に断って、十天師と戦争になるなんてことは絶対に避けたいし・・・分かったわ。イッセーはどうかしら?」

 

「・・・正直言って、こいつは殺したいくらい憎いけど・・・どうするかは、部長と八神に任せます」

 

一誠に非殺生の許可を貰ったリアスは倒れているレイナーレに話しかけた。

 

「初めまして、レイナーレ。私はリアス・グレモリー」

 

「うぅ・・・グレモリー一族の娘か」

 

リアスに声を掛けられ目覚めたレイナーレは憎らし気にリアスを睨み付ける。

 

「どうぞお見知りおきを、短い間だけどね。それと、貴方のお友達なんだけど・・・私と彼で滅しておいたわ」

 

「!?」

 

レイナーレの前で三枚の羽を舞い散らせたリアスに、レイナーレは信じられないと言わんばかりの顔をする。

 

「馬鹿な!?グレモリーの一族ならまだしも、ただの人間が堕天使を倒せるはずが――!」

 

「そりゃただの人間だったらやられてたでしょうね。でも、彼はただの人間じゃない。彼は十天師の一人よ」

 

異形にとって驚異となり得る存在なだけあって、流石に十天師の名前を知っていたのか、レイナーレは驚愕の表情でリアスと陸兎を見る。

 

「グレモリーの娘に十天師だと・・・!?何故、貴様らが手を組んでいる!?」

 

「目的が一致してたからよ。この町に潜んでいる貴方たちの良からぬ計画を阻止するためにね。まぁ、私個人としては、私の可愛い下僕に手を出されたって理由もあったけど・・・」

 

そう言いながら、一誠を見つめるリアスに、一誠は「部長・・・」と嬉しそうに声を漏らした。

 

「レイナーレ。この子の神器はただの神器ではないわ。持ち主の力を十秒ごとに倍化させ、神や魔王の力すらも超えることができる・・・十三種の神滅具(ロンギヌス)の一つ。赤龍帝、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』」

 

「っ!?(神をも滅ぼすことができると言われている神滅具の一つがこんな子供に・・・!?)」

 

下に俯きながらレイナーレは有り得ないと言った顔をする。

リアスはレイナーレを見つめながら言葉を続ける。

 

「さて、本来なら、ここで消えてもらうんだけど・・・」

 

そう言うと、リアスは陸兎の方を見た。

目線の意味を理解した陸兎はレイナーレの前に出て喋る。

 

「日本陰陽師協会からは今回の件の首謀者はブタ箱にぶち込んで、その目的を洗い出せって言われてんだ。大人しくしてたら、お前は殺さずに日本陰陽師協会まで連行してやるよ。まぁ、流石に死刑にはしねぇだろうが、しばらく自由な生活は送れないと思っておけ」

 

「ふざけるな!誰が下等な人間の下に――っ!?」

 

陸兎の言葉に反論しようとしたレイナーレだったが、言い終わる前に自身の首元に『洞爺刀』の刃先が当てられ、驚きながら陸兎を見る。

 

「図に乗るなよ、カラス野郎。テメェらの目的が分かった今、テメェはもう用無しなんだよ。今の俺には、この場でテメェの首を斬る権限があることを忘れんな」

 

陸兎の放った殺気を浴び、「ひっ!」と悲鳴を上げながら怯えた表情になるレイナーレ。

すると、その様子を遠くで見てた一誠を見つけると、レイナーレは魔法で天野夕麻の姿になった。

 

「一誠君、助けて!あんなこと言ったけど、私は貴方を愛してるの!その証拠にほら!このブレスレット、貴方に貰って以来、ずっと付けてたの!」

 

レイナーレは一誠に助けを求めようと、目元に涙を溜めながら懇願した。

 

「・・・・・・」

 

しかし、一誠はその助けをレイナーレから目線を逸らすことで拒絶した。

その反応を見て、レイナーレは更に必死になって助けを求めようとした。

 

「い、イッセー君!?お願い助けて!私は利用されてただけなの!」

 

「・・・部長、こいつは捕まえねぇ。殺っていいぞ」

 

「分かったわ。私の可愛い下僕に手を出すな!」

 

「あぁーーーーーー!!」

 

醜い言い逃れに嫌気がさした陸兎がリアスに言うと、リアスは滅びの魔力でレイナーレを消し飛ばした。残ったのは、宙に舞う無数の羽とアーシアの神器だった。

リアスはその神器を手に取り、一誠に渡した。

 

「これをアーシア(彼女)に返しましょう」

 

「・・・はい」

 

アーシアの神器を受け取った一誠はアーシアの下へ行き、眠っている彼女の上に神器を置いた。

 

「・・・すみません部長、偉そうなこと言って。ごめん八神。お前に納得のいく選択をしろって言われたのに、俺はアーシアを助けることが・・・!」

 

「泣くなイッセー、まだ完全に死んだわけじゃねぇ」

 

陸兎の言葉に、一誠は涙を流しながら驚いた顔で陸兎を見た。

すると、リアスがポケットから一つのチェスの駒を取り出した。

 

「イッセー、彼女を私の『僧侶(ビショップ)』として悪魔に転生させてみるわ。この子の回復能力は『僧侶』として魅力的だしね」

 

そう言って微笑むと、リアスはアーシアの前に立ち、詠唱を始めた。

 

「我、リアス・グレモリーの名において命ずる。汝、アーシア・アルジェントよ。今再びこの地に魂を帰還せ締め、我が下僕悪魔となれ」

 

アーシアの周りに魔法陣が展開され、彼女の胸に置かれた駒が赤く輝きながら彼女の胸へと入っていった。

魔法陣が消え、「フゥー」と息を吐くリアスに一誠が問いかける。

 

「部長、アーシアは・・・?」

 

「黙って」

 

リアスがそう言った途端、アーシアが目を覚ました。

 

「あれ・・・?」

 

「アーシア・・・!」

 

目を覚ましたアーシアに一誠は近づき、彼女の体を抱きしめた。

 

「イッセーさん、私・・・」

 

「・・・帰ろう、アーシア」

 

怪訝そうな顔をしながら呟くアーシアに涙を流しながら静かに言う一誠。

その様子を眺めてたリアスは後ろに振り向き、陸兎の隣に立った。

 

「これにて一件落着だな」

 

「えぇ、シスターを悪魔にしたことに関しては、後で色んな所から色々と言われそうだけどね」

 

「そん時は俺らも加勢してやるよ。口だけ達者なペーペーの戯言なんざ、シスターの髪の毛一本くらいの重さしかねぇよ。それに・・・この結果は、イッセー自身がテメェの信念を貫き通して得たモンだ。こんくれぇの奇跡があったって、バチは当たらねぇだろ」

 

そう言いながら、陸兎は教会を照らしている月を見上げた。

夜を照らす月は相も変わらずに光り輝いていた。

 

 

 

 

次の日、陸兎のクラスに転校生がやって来た。

 

「初めまして、アーシア・アルジェントと申します。慣れないことが多いですけど、どうかよろしくお願いします」

 

「転校生だ!しかも、金髪美少女!」

 

「バストサイズ!ウエスト!その他諸々全てグゥー!」

 

『うぉーーーーーー!!!』

 

金髪美少女という転校生に歓喜する男子たち。

しかし、直後にアーシアは爆弾を落とした。

 

「私は今、兵藤一誠さんのお自宅にホームステイしています」

 

『何ぃーーーーーー!!??』

 

「どういうことだ!?イッセー!」

 

「なんで、ここ最近お前のところにばっかフラグが立っているんだ!?」

 

「知らねぇよ!」

 

言われた一誠は元浜と松田に言い寄られ、周りの男子たちも一誠に言い寄った。

そんな男子たちに対し、女子たちは親し気にアーシアと接していた。すると、陸兎がアーシアに近づいてきた。

陸兎(イケメン)の登場で頬を赤らませる女子たちをよそに、陸兎はアーシアに挨拶する。

 

「あ~どうも。俺は八神陸兎。イッセーのダチだ」

 

「アーシア・アルジェントです。陸兎さん、よろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしく。それと、もしイッセーににゃんにゃんされたら、すぐ俺に知らせてくれ。何、痛いことはしねぇ。ちょっくら、『洞爺刀』のサンド・・・バックになってもらうからよ」

 

「おい!サンドバッグって言い直そうとして言い切るな!それだと結局、俺がボコボコにされるだけじゃねぇか!」

 

サンドバッグにする気満々の陸兎と一誠の鋭いツッコミにアーシアは小さく微笑んだ。

こうして、少し変わった彼らの新しい日常が始まるのであった。

 

 

 

 

そして放課後、陸兎は剣夜と屋上にいた。

 

「教会に居座った堕天使及び悪魔祓いは君とグレモリー眷属によって全て除霊。事件に関わったシスターが悪魔に転生か・・・まっ、完璧とは言い難いけど、依頼としては良しとしようか。それにしても、転生してまだ間もない悪魔が堕天使を、しかも一番強そうだった相手を倒すなんてね・・・」

 

「それほどまでにイッセーはあのシスター・・・アーシアを助けてぇと思ったんだよ。それこそ、本来なら勝てるはずのねぇ相手に一発食らわせるくらいにな」

 

「兵藤一誠君・・・面白いね彼。力は無いはずなのに格上の相手に挑もうとする無鉄砲さ。まるで、君みたいだ」

 

「冗談でも、あのエロス一世と一緒にすんじゃねぇ。次言ったら、北極に放り投げて、氷の塊にした後、『北極のイケメン』って名前で美術館に売りつけるぞ」

 

「ごめんごめん・・・でも、これからが本番だよ」

 

そう言って、剣夜は真剣な表情で陸兎を見た。

 

「赤龍帝を宿している以上、これから先、兵藤一誠は必ず大きな勢力に狙われるだろうね。もし、その強大な渦に君や君の周りの人達が巻き込まれた時、君はどうするんだい?」

 

「そん時は・・・ぶった切るだけだ。相手が例え、悪魔だろうと神だろうとな」

 

剣夜に一言返した陸兎は体を駒王町の方に向けた。

 

「ホント・・・退屈しねぇな。この町は・・・」

 

小さい声で呟きながら、夕焼けに照らされる駒王町を眺めていた。




誓約神器(ブレージデッド・ギア)
大昔に起きた人間と妖怪との大戦の後、当時の十師族が強力な力を持つ神器(セイクリッド・ギア)に対抗すべく、各地方の技術者や陰陽師を集めて作り出した神器。詳しい詳細は次回へ。


黒歌と八坂、九重親子をハーレム要因(ヒロイン)に追加します。
なお、イッセーのハーレム要因は今のところリアス、アーシア、イリナ、レイヴェルとなっております。
まだ未定なのはロスヴァイセです。正直かなり悩んでいます。もし、陸兎とイッセーどちらの方がいいという意見がありましたら、感想やメッセージでご意見の方をよろしくお願い致します。


次回からは少し番外編を挟んでから第2章、戦闘校舎のフェニックスに入りたいと思います。


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幕間
説明パートはレッツパーリィーの後で


今回は陸兎&アーシア入部パーティーと誓約神器の説明会です。


「それじゃあ、皆。グラスは持ったかしら?」

 

リアスの問いに部室にいたオカルト研究部の面々はうんと頷いた。

 

「では、陸兎とアーシアの入部を記念して皆、乾杯!」

 

『乾杯!』

 

グラスを上に上げて、部員全員が声を挙げた。

陸兎はグラスに注いであるジュースを一口で飲み干すと「ぷはっ!」と声を挙げる。

 

「うふふ、おかわりはいくらでもありますから、好きなだけ飲んでください」

 

「お、ありがとよ」

 

朱乃からジュースを注いでもらい、一口飲むと陸兎は辺りを見渡す。

 

「しっかしまぁ、歓迎会の癖に派手にやるもんだ」

 

「十天師同士では、こういった歓迎会はしないのですか?」

 

「新しい十天師の歓迎会なんて、挨拶と担当地域を決めるだけで終わるから、最早歓迎会じゃくて、ただの業務連絡なんだよ。たく、大金持ちだってのに、ケーキの一つも用意しねぇんだから、ケチもいいところだ」

 

そう言って、テーブルからショートケーキが置かれた皿を取り出し、右手にフォークを持って食べようとしたが

 

「!? それは私のケーキです・・・!」

 

陸兎が手に持っているのが自分のケーキだと気づいた小猫が慌てて陸兎に迫る。

しかし、陸兎は入部時の時同様、『神速(カミソル)』で小猫の猛追を躱していき、気づいたら、あっという間にケーキを食べ切ってしまった。

自分の分のケーキを全て食べた陸兎をジト目で睨む小猫。

 

「そう睨むなよ。ほら、お詫びのクッキーだ。それと、俺の分のケーキをやるよ」

 

「・・・いただきます」

 

鞄から取り出したクッキーが入った袋を小猫にあげると、小猫は上機嫌にクッキーを食べた。

その様子を見て、朱乃が微笑む。

 

「あらあら、小猫ちゃんはすっかり陸兎君になついちゃったわね」

 

「なるほど、お菓子か・・・俺もこの方法で小猫ちゃんを餌付け・・・好感度アップしよっかな~」

 

「やめとけ。お前がやったら、上がるのは小猫に対する好感度じゃなくてエロ度だろ」

 

「確かにそうですわね。イッセー君だと、渡す時顔にエロいことを考えて渡しそうですし」

 

餌付け作戦で小猫の好感度アップを企んでいた一誠だが、直後の陸兎と朱乃の言葉によって、その場で床に両手を付きながら項垂れた。

 

 

 

 

「ところで気になったんだけどさ」

 

部員皆で賑やかに会話してた時に突如一誠が口を開いた。

全員が何事かと一誠の方を見る中、一誠は陸兎の方を見て喋る。

 

「八神の神器っていったいどんなやつなんだ?部長からは木刀みたいな形をしてるって言われたけど」

 

一誠の問いに全員が陸兎の方を見る。

 

「そう言えば、陸兎はあの木刀のことを誓約神器(ブレージデッド・ギア)って言ってたわよね」

 

「私も気になっていましたわ。普通の神器と違って、人によって作られた神器だとおっしゃっておりましたわ」

 

リアスと朱乃の言葉に他の面々は目を見開きながら陸兎を見る。

一方、全員の目線が自分の方に向けられた陸兎はため息をついた。

 

「はぁ~・・・まぁ、説明するって言ってたし、仕方ねぇか」

 

そう言うと、陸兎は手元に『洞爺刀』を出現させた。

 

「誓約神器ってのは、普通の神器と違って人間の体に宿らず、日本の各地に眠っているから、持ち主が現れるまでは神器の効果は発動しねぇけど、眠っている誓約神器を見つけた人間がその体に誓約神器を宿すことで初めて神器の効果が発動される。簡単に言えば、主と契約をすることで力を発揮する神器だ」

 

「主と契約?いったいどんな契約をするのかしら?」

 

「そいつは従来の神器と同じ・・・命だ」

 

陸兎の言葉に部室が暗い雰囲気に包まれる中、木場が口を開く。

 

「つまり、この神器は初めから人の中にあるんじゃなくて、元々はただの道具で、その人と契約をすることで神器になるってことでいいかな?」

 

「あぁ、誓約神器は日本で二十にも満たない数しかないって言われている代物だ。そして、誓約神器の一番の特徴は持ち主が死んでも、神器は消滅することなく、また別の場所へ飛んでいき、次の主が現れるまで眠りにつくことだ。そうやって、今に至るまで誓約神器は受け継がれてきたんだよ」

 

「受け継がれるね・・・そういうところは神器と似ているのね」

 

「そうですわね。人から人へと受け継がれていきながら長い時を過ごして、今に至るんですもの」

 

「なんだかロマンチックですね」

 

リアス、朱乃、アーシアが陸兎の説明を聞いて呟く。

その横で一誠が陸兎に問いかける。

 

「なぁ八神。その誓約神器って日本であちこちに眠っているんだよな?ひょっとしたら、まだ誰にも渡っていない誓約神器も・・・?」

 

「無くはないな。十天師は全員、誓約神器を持っているが、それを抜きにしても、誓約神器ってのは貴重だし、探し出すのは困難だと言われている」

 

「んじゃさ、もし俺が誓約神器の一つを見つけて、そいつと契約すれば、俺は二つの神器持ちに――」

 

「そいつは無理だな」

 

神器が二つ持てるようになるという一誠の考えを否定する陸兎。

 

「言っただろ?誓約神器は一応は神器だ。神器が人間の体に一つしか眠っていないように、誓約神器も一つしか契約できねぇよ。それに、全ての人間が誓約神器を使えるわけじゃねぇんだ」

 

陸兎の言葉に首を傾げるリアス達。

 

「誓約神器には適正ってモンがあるんだ。その誓約神器と適正がいい奴程、誓約神器は従来の力より何倍もの力を発揮することができるし、逆に適正が悪けりゃ誓約神器を触っても何の効果も発揮しないし、最悪の場合、触った瞬間に誓約神器そのものに殺されることもある」

 

「マジで・・・?」

 

「マジだ。過去にそうなった奴を俺は知っている」

 

神器に殺されたという事実にゾッとするリアス達。

少し部屋の雰囲気が悪くなったのを感じたリアスが慌てて話題を変えた。

 

「それで、その『洞爺刀』はいったいどんな力を持っているのかしら?」

 

「こいつは持ち主の感情に応じて、霊力を上げる神器だ。あ、霊力ってのは人間の中に眠っている異形を滅する力だ。まぁ、悪魔で言ったところの魔力みたいなモンだ」

 

「感情に応じて霊力を上げる?具体的にはどんなことができるの?」

 

「例えば、目の前に斬りたい相手がいた時に、そいつを斬りたいって感情が強い程、『洞爺刀』に纏う霊力が強くなるんだ。工夫すりゃ『洞爺刀』に溜めてある霊力を斬撃として飛ばしたりすることもできるぜ」

 

「なるほど・・・霊力は異形を滅する力だし、それなら確かに、この間廃教会であの堕天使を斬ることができたのも納得だわ」

 

堕天使もまた、異形の一つ。異形を滅ぼす力である霊力には弱い。

陸兎がドーナシークを真っ二つに斬ることができたのも、斬る瞬間『洞爺刀』に霊力を纏っていたからなのだろう。

一通り説明を聞いてリアス達が納得する中、一誠がおずおずと手を挙げながら聞いてきた。

 

「なぁ・・・一つ気になってたんだけどよ・・・なんで、洞爺刀と書いてエムブラスクって呼ぶんだ?」

 

「・・・普通だろ?」

 

「全然普通じゃねぇよ!なんだよエムブラスクって!?どっからどう読めば洞爺刀がエムブラスクになるんだよ!?」

 

一誠の言葉にリアス達はうんうんと頷いた。皆、気持ちは同じなのだろう。

それに対して、陸兎は「あ!」と何か思い当たった顔で喋り出した。

 

「そう言えば、こいつを作った当時の十天師の一人が周りが引く程のドМでな。妖怪に追い詰められて、くっ殺状態になった時に上がるドМ霊力で除霊してたらしくてよ」

 

「ドМ霊力って何!?なんつうトンデモパワー出してんだその十天師!」

 

「それで、そのドМ十天師がある日、ドМ霊力をもっと有効に使えないかと考え、生み出したのがこの木刀だ。ドМをぶるわぁぁ!させるラスク。略して『洞爺刀(エムブラスク)』」

 

「おいー!途中で若本さん要素あったぞ!?ぶるわぁぁ!が出てきたぞ!?後、最後のラスク関係なくね!?」

 

まさかの誕生秘話に一誠は次々とツッコミを入れる。

ちなみに、『洞爺刀』を開発した当時の十天師は、筋肉モリモリのドМ大男だったと伝えられている。

 

「けど、戦国時代の頃に何故かドSの侍が『洞爺湖』の契約者に選ばれてよ。それ以来、М専用誓約神器からS専用誓約神器になったんだよ」

 

「なんだよ!S専用誓約神器って!?シャア専用みたく言おうとしても、Sの意味がドSなせいで全然かっこよくねぇんだよ!」

 

「・・・ドМからドS専用誓約神器になったんだしさ、名前もエム(・・)ブラスクからエス(・・)ブラスクに変えた方が良くね?」

 

「どうでもいいわ!」

 

ちなみに一誠以外の面々は、既に話に付いてこれないと悟り、ツッコミを一誠に任せて、各自料理に舌鼓を打ったり、会話をしたりでパーティーを楽しんでいた。

 

「おい!人がこんだけツッコミをしてる横で、お前ら何食わぬ顔でケーキ食ってんじゃねぇよ!」

 

「アム・・・このケーキ、めちゃくちゃ美味いから、何個でも食えるな」

 

「それ、俺のケーキ!」

 

誓約神器の説明を終えた陸兎もまた、再び美味しいケーキを堪能しながらパーティーを楽しむのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

パーティーが終わった次の日、一誠はツッコミ疲れで一日休むこととなった。




次回はアニメに沿って生徒会との顔合わせとドッチボールです。


※陸兎の使い魔についてアンケートを取ります。


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ドッチボールで顔面セーフがあるけど、絵面的にはアウト

歓迎パーティーから数日後。

オカルト研究部の面々はいつも通り部室でくつろいでいると、リアスが陸兎、一誠、アーシアの三人に話しかけてきた。

 

「使い魔ですか?」

 

「えぇ。イッセー、アーシア、貴方たち二人には使い魔と契約してもらうわ。陸兎の方は契約しなくても問題ないけど、オカルト研究部の部員として活動する以上、使い魔と契約しておいて損は無いと思うわ」

 

使い魔というのは、悪魔にとって必要不可欠な存在であり、偵察や監視、相手の追跡など主をサポートする役割を持っている。

そのことについて、三人に説明していると、部室の入口から声がした。

 

「失礼します」

 

入口の扉が開かれ、部室に入って来たのは生徒会長のソーナを始めとする生徒会の面々だった。

生徒会の突然の来訪にオカルト研究部の面々が疑問に思う中、唯一生徒会の事を知らないアーシアが一誠に問いかける。

 

「あのー・・・どちら様でしょうか?」

 

「あのお方は生徒会長、支取蒼那先輩だよ。それに副会長の真羅椿姫先輩や生徒会長補佐の十門寺剣夜、副会長補佐の七星麗奈ちゃん、つか、生徒会のメンバー全員いるじゃねぇか!?」

 

驚く一誠をよそに、リアスがソーナに来訪の目的を問う。

 

「眷属全員お揃いでどうしたのソーナ?」

 

「お互い下僕が増えたことだし、ご挨拶をと」

 

ソーナから下僕という言葉を聞いて、疑問に思った一誠が隣にいた朱乃に問いかける。

 

「えっと・・・生徒会長って、もしかして凄いお方ですか?」

 

「イッセー君、この方の真実のお名前はソーナ・シトリー。上級悪魔シトリー家の次期当主様ですの」

 

「マジかよ!?前に十門寺と一緒に部室に来た時、悪魔関係の人だとは思っていたけど、そんな凄い人だったなんて・・・」

 

「ついでに言やぁ、剣夜とは小さい頃からの幼馴染らしいぜ。つーか、剣夜。なんか生徒会全員いるみてぇだけど、この感じだと、他の奴らにもお前と麗奈の事を話したのか?」

 

「まぁね、一応この町で十天師として活動することになった以上、こちらも正体を明かしておかないとね」

 

どうやら、生徒会の人間も剣夜と麗奈が十天師であることを知ったようだ。

朱乃と陸兎から説明を聞いて、一通り納得した一誠。その様子を感じたソーナは最近悪魔に転生させた自身の眷属の紹介をする。

 

「紹介するわ。彼は匙元士郎。最近、私の『兵士』になったわ」

 

「へぇー、俺と同じ『兵士』か。よろしくな」

 

同じ『兵士』として、親睦を深めようと一誠は匙に挨拶した。

しかし、匙は何処か小馬鹿にしてるかのような顔で返す。

 

「俺としては、変態三人組の一人であるお前と同じにされるなんて、酷くプライドが傷つくんだけどな」

 

「なっ!?なんだとテメェ・・・!」

 

「お、やるか?俺は駒を四つも消費した『兵士』だぜ」

 

「つまり、ただのモブキャラじゃねぇか」

 

陸兎が呟いた言葉に匙は顔をしかめながら陸兎に目線を向ける。

 

「なんだお前は?いきなり人をモブキャラ呼ばわりしやがって、失礼な奴だな。つか、よく見たら問題児の八神陸兎じゃないか。まさか、悪魔だったとはな。問題児のお前に相応しい役職だな。なんなら、この場で退治してやろうか?『兵士』の駒を四つも消費した俺の力でな」

 

「はっ!たかがボードゲームの駒の数だけで勝敗が決まれば、世の中に苦労なんて言葉は生まれねぇよ。それに、俺はグレモリー眷属でも悪魔でもねぇよ」

 

陸兎の発した悪魔じゃないという言葉に、陸兎を悪魔だと思っていた匙は目を丸くする。

そんな彼に向かって、リアスが説明する。

 

「彼は八神陸兎。普段は問題児だけど、裏の顔は十天師よ」

 

リアスから紹介されて、匙は再び陸兎に目線を向け、今度は驚いた顔で陸兎を見た。

 

「えぇ!?十天師って、会長が言ってた憎き十門寺剣夜や麗奈ちゃんと同じ、異形にとって驚異となりうる存在で絶対に戦ってはいけないと言われている最強の退魔師!?」

 

「そうよ。今の貴方が戦っても、絶対に彼に勝つことはできない」

 

「そ、そんなのやってみないと分からないじゃないですか!大体、こんなガサツで態度が悪い奴が十天師なわけ――」

 

「あ"ぁ?」

 

「ひっ!?」

 

あまりにも甞められていた為、陸兎が少しばかり威嚇すると、匙は顔を青くしながら素早くソーナの後ろに隠れ、そのままソーナの後ろで震えていた。

その様子を見て、ソーナはため息をつくと、頭を下げた。

 

「ごめんなさい、八神君。それと兵藤君も。私の眷属が無礼な態度を取って」

 

「か、会長!?こんな奴らに謝る必要なんて――」

 

「黙りなさい、匙。元はと言えば、貴方が最初に兵藤君にとった態度からして、こっちに非があるのは明白よ。あれは挨拶をしてきた人に対して、取っていい態度では無いわ。分かったら、貴方も二人に謝りなさい」

 

「・・・悪かったよ」

 

そう言って、匙も頭を下げたことで、この場はひとまず収まった。

 

「ところでリアス。一つ聞きたいのだけど、来週使い魔のことで彼に依頼するつもり?」

 

「えぇ、そのつもりよ。もしかして、ソーナの所も?」

 

リアスの問いに頷くソーナ。

二人の言う彼という人物は使い魔を手に入れるに当たって必要な人物だが、依頼できるのが月に一回と非常に少ない。

どちらが先に依頼するかでお互い頭を悩ませ、しばらく経った後にリアスが提案した。

 

「ここは一つ、勝負でもして、勝った方が彼に依頼できる権利を得るでどう?」

 

「勝負?もしかして、レーティングゲームでもする気?」

 

ソーナの問いにリアスは「まさか」と言うと、キリッとした顔で言った。

 

「ここは高校生らしく、スポーツで決めましょう」

 

その後、話し合いによりオカルト研究部VS生徒会のドッチボール対決で勝った方が先に依頼できることになった。

ん?テニスの試合はどうしたのかって?特にアニメと変化無いからカット。気になる奴はアニメか原作見ろ。

 

 

 

 

生徒会との遭遇から数日経った金曜の夜、ドッチボールの時間がやってきた。

 

「これより、生徒会対オカルト研究部との試合を始めます」

 

陸兎を含む部員全員が参加しているオカルト研究部に対して、生徒会はオカルト研究部より人数が多い為、麗奈ともう一人が審判を務めている。

 

「ハッ!」

 

「ぐっ!」

 

生徒会の女子のボールが小猫の腹部に掠り、着ていた体育着が破れた。

 

「小猫ちゃん!?」

 

「問題ありません。掠り傷です」

 

「お前自身に問題無くても、その貧相な体が丸見えになってんぞ。見ているこっちが恥ずかしいから、さっさとこれ着ろ」

 

「・・・ありがとうございます。でも、貧相は余計です」

 

そう言いながら、小猫は陸兎のジャージを着ながら外野へと向かう。

その後の試合は白熱していた。時には魔力を駆使して、体育館の窓ガラスが割れるぐらいのレベルまで盛り上がっていた。

しかし、そんな熱い試合をしているにも関わらず、未だに動かない者が二人いた。

両チームの中で唯一の人間である陸兎と剣夜である。

先程から、彼らは自分の方にボールが来た時だけは避けているが、それ以外は一向に動く気配がない。

一向に動く気配のない陸兎を見て、ソーナは狙いを陸兎に定める。

 

「くらいなさい!シトリー流バックスピンシュート!!」

 

「よっと」

 

ソーナが投げたボールを難なく躱した陸兎。

しかし、ボールは陸兎の後ろを通った瞬間、軌道を変えて、陸兎に向かって再び迫ってきた。

追尾してくるボールを躱し続ける陸兎。しかし、ソーナが投げたボールは勢いが衰えることなく、軌道を変えながら次々と陸兎に迫っていた。

しつこい追尾に痺れを切らした陸兎は一誠の近くに寄ると、彼に声を掛ける。

 

「たく、しつけぇなー。こうなったら・・・イッセー!合体技だ!」

 

「お、おう!合体技・・・合体技!?」

 

合体技と言われたが、陸兎と合体技をした覚えがない一誠は戸惑う。

そんな一誠の後頭部を掴んだ陸兎は追尾してくるボールの前に一誠を置きながら叫ぶ。

 

「行くぜ!これが俺とイッセーの合体技!必殺!ガードベント!!」

 

「ちょ、おま!?あうっ!」

 

後頭部を掴まれ、逃げることができなかった一誠は、自身の象さんにボールがクリティカルヒットし、象さんを抑えながら悶絶した。

周りが啞然と見守る中、陸兎は悶絶している一誠を見て一言。

 

「・・・良し」

 

「良しじゃないでしょう!」

 

同じ部活のメンバーを平然と盾にした陸兎にリアスがツッコんだ。

 

「落ち着け部長。よく言うだろ、近くにいたお前が悪い」

 

「貴方が近くに寄ったからでしょう!王蛇ネタで誤魔化そうとしない!」

 

「心配すんな。当たったのが顔面だったら絵面的にアウトだったけど、股間に当たってくれたお陰で絵面もセーフだし、イッセーにとっては修行にもなって、正に一石二鳥じゃねぇか」

 

「全然一石二鳥じゃないでしょう!股間に当たっても絵面的には十分アウトよ!ていうか、股間にボールを当てることのどこが修行なの!?」

 

「バカヤロー!股間は男にとって象徴でもあり、最大の弱点でもあるんだ。そこを鍛えずして何を鍛えろという!部長、今度の部活の時にイッセーの股間に思いっ切りスパーキングしてやってください。そうすれば、あいつは必ず強くなれる」

 

「そ、そうなのかしら・・・今度、試しにやってみましょうかしら?」

 

「や、八神、テメェ・・・覚えてろよ・・・!後、部長・・・その特訓方法、絶対に間違っていますから止めてください・・・俺の股間が死にます・・・」

 

陸兎の気迫に押され、思わぬ勘違いをしそうになったリアスを、一誠が悶絶しながら止めようとした。

一誠が股間をアーシアによって治療している間、陸兎は落ちてあるボール拾い、目線をコートに残っている生徒会の面々に向けた。

 

「さてと、イッセーと会長のお陰でアップも済んだし、早いとこ終わらせて、さっさと寝るとしますか」

 

遂に陸兎が動き出し、コートに残っているソーナと匙は緊張しながら陸兎を警戒していた次の瞬間

 

ブンっ!

 

「!?」

 

突っ立っていた匙の腹に突如ボールが直撃し、ボールはその勢いが止まることなく、匙ごと後ろへと飛んでいき

 

バーン!

 

体育館の壁を壊して、外に飛び出た。

そして、外まで吹き飛ばされた匙は、体育館から少し離れた場所でようやく背中に地面が着き、停止した。

 

「え・・・?」

 

一瞬の出来事にソーナは何があったのか分からず、穴が空いた壁と外で倒れている匙を呆然と見る。

他の面々も呆然として空いた壁とその奥で倒れている匙を見つめる中、陸兎は腕で汗をふく動作をしながら一言。

 

「フゥー・・・良し!準備運動終わり!今から、本気出すわ」

 

この時、グレモリー眷属とシトリー眷属の面々はこう思った。

 

『(陸兎(八神)君だけは、絶対に敵に回したらダメだ・・・!)』

 

敵に回せば、必ず自分たちは滅される。両者の心情が見事に一致し、顔を青ざめながら陸兎を見つめていた。

そんな彼らと違い、外に倒れていた匙を審判を務めている麗奈の横に置いた剣夜は陸兎の方に目線を向ける。

 

「やってくれたね。まさか、去年よりも更にパワーアップしているなんて・・・驚いたよ」

 

指先でボールを回転させながら呟いた剣夜はボールを手に持って構える。

 

「それじゃあ・・・次は僕の番と行こうか」

 

そう言った次の瞬間、剣夜は陸兎たちの方ではなく、体育館の壁に向かってボールを投げた。

剣夜の行動の意図が掴めず、陸兎以外の面々が目を見開きながら疑問に思う中、壁に向かっていたボールは壁にぶつかった瞬間、強烈なスピンを生みながら跳ね返り、天井へ向かっていった。

更に天井にぶつかったボールは今度は壁にと、こんな感じに剣夜が投げたボールは壁やら天井やらで跳ね返り続けながら、体育館をあちこち飛び回り、最終的にリアスの方へと迫って来た。

リアスは咄嗟に魔法陣を展開し、受け止めようとしたが

 

「!? 回転が強すぎる!・・・キャ!?」

 

強力なスピンにリアスは己の魔法陣で受け止めることができず、自身の体にボールがぶつかり、更に強力なスピンによって、ジャージがビリン!と破け、下着のみとなった。

 

「いや~ん!」

 

「キャ!?」

 

リアスにぶつかったボールは、今度は朱乃に向かい、彼女は成す術も無くアウトになり、着ていたジャージが破ける。更に、今度はアーシアへと迫り、彼女も抵抗する暇もなくスピンボールの餌食となった。

そして、三人をアウトにしたボールは、そのまま地面で回転し続け

 

パシッ!

 

外野にいた椿姫の手元にピッタリと収まった。

 

「い、一気に三人もアウトにするなんて・・・これが、最強の退魔師の力・・・!」

 

丸見えとなった己の体を両腕で隠しながら悔しそうな顔で呟くリアス。

一気に三人もアウトになり、残り一人となってもう後が無いオカルト研究部。

 

「これで残りは陸兎一人だね」

 

「おいおい、何勝った気でいるんだ?勝負は最後の一秒まで分からないって言うだろ?例えば・・・'バシッ!'・・・試合中、たまたまお前の頭上を飛んでたはぐれ悪魔がその場で糞をして、その糞がお前の頭上に落ちてくることだってあるかもしんねぇぞ」

 

「ハハハ、流石にそんなことはないと思うな。カラスじゃあるまいし」

 

しかし、こんな状況であるにも関わらず、陸兎は余裕な態度を剣夜とソーナに見せる。ついでに、話している隙をついて、椿姫が魔力を込めて投げたボールをノールック(しかも片手)でキャッチし、それに対して、椿姫が体育座りで落ち込んでいたのを他の生徒会のメンバーが宥めていた。

 

「ウシッ!・・・行くか・・・!」

 

「・・・下がってて、ソーナ」

 

陸兎の雰囲気から、ただならぬ力を感じた剣夜はソーナを後ろに下がらせ、自身は前に出てボールを受け止めようと体制を整える。

陸兎はボールを持ちながら、一度コートの後ろまで下がると、そこから勢いよく剣夜に向かって走り出した。

そして、相手コートのライン間近で足を踏み込んだ瞬間、踏み込んだ床にひびが入り

 

「チェストォォォーーーーーー!!!」

 

陸兎は叫び声と共に渾身の一球を投げた。

常人の目では見えないくらいの速さで迫るボールを、剣夜は何とかキャッチしたが

 

「ぐっ!?」

 

あまりにもパワーが強すぎて、剣夜は匙同様、ボールごと後ろに飛ばされ、体育館の壁を突き破った。

しかし、それだけでは終わらなかった。ボールは勢いが衰えることなく更に向こうへ進んでいき、遂には校舎の壁をも突き破った。

それも、一回だけでなく次々と壁を突き破っていき、一番奥の壁が壊れた直後

 

どっかーん!!

 

高い衝撃音が響き渡り、それ以降何も聞こえることはなかった。

あっという間の出来事に誰もが呆然となり、静かになる体育館。そんな中、一誠が恐る恐る聞いてくる。

 

「な、なぁ、八神。十門寺、死んでないよな?」

 

「何言ってんだ?死んだに決まってんだろ。何せ、俺の愛と怒りと悲しみが混ざったヤッベーボールだからな。これで死ななかったら、最早人間辞めて――」

 

その瞬間、体育館の壁が破壊され、強力なスピンがかかったボールが陸兎に迫った。

陸兎は即座に反応し、そのボールを両手で受け止めたが

 

「う、うおぉぉぉぉぉ!?」

 

手元にあるボールがキャッチしているにも関わらず強力なスピンをしており、そのスピンの力によって、ボールは陸兎ごと上へ上がり、体育館の天井を貫いた。

 

「やれやれ、前までは校舎の壁で止まったけど、まさか、校舎の壁を全て壊すなんてね・・・」

 

そして、壊された壁の穴から、ジャージがボロボロになっている剣夜が姿を現した。

ジャージに付いた土や葉を払っている剣夜に、ソーナが恐る恐る問いかける。

 

「ね、ねぇ、剣夜。貴方、何したの?」

 

「さっき飛ばされた場所から、ボールを投げただけだよ。飛ばされた場所から陸兎にたどり着くまでの軌道や回転の威力を計算しながらね」

 

そう言いながら、晴れやかな顔で戻って来た剣夜だが、周りは二人が次々と繰り出す神業に最早何も言えなくなっていた。

そんな中、夜空へ飛ばされた陸兎が地面に着地すると、剣夜を睨みつける。

 

「おいおい、去年よりも上へ上がる高さが上がってんじゃねぇか。危なく、天界まで旅行するところだったぜ・・・いいぜ、俺もまだまだ本気だしてねぇからな。そのムカつくにやけ顔を歪ませてやるよ」

 

「フッ、かかってきなよ。今日こそ、僕が勝たせてもらうよ」

 

その後の描写は敢えて書かないが、お互いに火花を散らせ合う二人は、どちらかが再起不能(アウト)になるまで全力で戦闘(ドッチボール)を楽しんでいた。

そして、リアス達は化け物二人の戦闘(ドッチボール)に巻き込まれないよう、必死に逃げるのであった。

 

 

 

 

夜が明けて、太陽の日が昇り、辺りが明るくなり始めた頃、決着は遂についた。

 

「「ハァ・・・ハァ・・・」」

 

最早体育館の原型をとどめていない瓦礫の地面で、ボロボロの状態で大の字に倒れる陸兎と剣夜。

 

「・・・結果はドローだな」

 

「そう、だね・・・」

 

そんな二人の間にはボールの原型をとどめていないこげ茶色の何かが置かれている。

超人二人の凄まじい投球に耐え切れなくなったボールは最早使い物にならず、オカルト研究部VS生徒会のドッチボール対決の結果はドローという形で幕を閉じた。

しばらく倒れていた二人だが、やがてゆっくりと立ち上がり、お互いの顔を見る。

 

「たく、しばらくやれねぇ内に回転の力が上がりやがって。いったいどんな体してんだテメェは?」

 

「君こそ、前はあそこまで飛ばなかったよ。そんな風になるまで体を鍛えて、いったい何を目指しているつもりなんだい?」

 

両者愚痴を言い合っていた二人だったが、再びお互いの顔を見合わせると、笑みを浮かべた。

 

「次は俺が勝つ」

 

「それはこっちのセリフだよ。その日が来るまで負けた時の言い訳を考えておくんだね」

 

次は俺が勝つと熱い友情を胸に二人は体育館を立ち去ろうとした。

 

「「貴方たち・・・」」

 

だが、そんな二人の前にリアスとソーナが怒りのオーラを漂わせながら立った。

 

「随分、楽しそうに暴れてくれたわね。こっちは巻き込まれないよう必死に逃げてたのに、人の気も知らないで・・・!」

 

「学校がめちゃくちゃになったじゃない・・・どう責任を取ってくれるのかしら・・・?」

 

オーラを剝き出しにしながら完全にお怒りの様子のリアスとソーナ。

そんな二人に対して、陸兎と剣夜はお互いの顔をしばらく見つめ、顔を戻したと思った次の瞬間

 

シュッ!

 

『神速』でその場から消えるように逃走した。

 

「あ!逃げたわ!」

 

「待ちなさい!逃がしはしないわ!」

 

何としても捕まえようと、リアスとソーナが背中に黒い羽を出現させた次の瞬間

 

どっかーん!!

 

突如、衝撃音が響き渡り、辺りに砂煙が舞い上がる。

何事かと思い、二人が段々と晴れていく砂煙を眺めていると、晴れてきた砂煙から、上半身が瓦礫に突き刺さって、犬○家と化した陸兎と剣夜が現れた。

 

「全く・・・ダメですよ。陸兎さんも剣夜様も。人に迷惑を掛けたんですから、しっかりと反省しないと」

 

そして、二人が飛んできた方向から、麗奈が微笑みながらやって来た。

微笑みながらこちらに向かって歩いてくる麗奈。しかし、その後ろにはリアス達のような怒りのオーラとは違い、冷たく、けれども、力強く恐怖を感じる絶対零度のオーラが漂い、この場にいる誰もが、そのオーラに圧倒され、動けずにいた。

 

「それではリアス部長、支取会長。後の事はよろしくお願いします。あ、剣夜様の方は一時間後、取りに行く予定ですのでそのつもりで」

 

「「あ、ハイ」」

 

リアスとソーナにそう伝えると、麗奈は去っていった。

残った面々はただ呆然としていたが、とりあえず、陸兎と剣夜はそれぞれのリーダーから1時間程説教を食らい、剣夜は十門寺家総出で体育館と校舎の壁の修復、陸兎は旧校舎の掃除を一人(朱乃の監視付き)でするという罰が下された。

ちなみに、使い魔の件だが、試合はドローだったが、オカルト研究部の方が使い魔を持っていない眷属が多い為、先に依頼する権利を手に入れることとなった。

そして、オカルト研究部と生徒会との間で一つの方針ができた。

この学園で一番敵に回してはいけないのは麗奈であると。




次回は陸兎の使い魔が登場します。


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ペットを買う時は計画的に

タグに追加された通り、今回の話ではあのキャラが登場します。


ドッチボールという名の戦闘から数日後。

リアス達オカルト研究部は現在、使い魔の森という場所に来ていた。

 

「何だか、不気味な森ですね・・・」

 

見慣れない森に不安そうな顔になるアーシア。

リアス達は警戒しながら辺りを見渡していると、上から声が聞こえてきた。

 

「ゲットだぜぃ!」

 

声に反応し上を見上げると、木の枝の上に立っているランニングシャツにキャップを後ろに被っている中年の男がいた。

 

「俺は使い魔マスターのザトゥージだぜぃ!」

 

「ポケモンマスターになるのが夢だけど、全然リーグ優勝できないサトシ?」

 

「そうそう、ポケモンゲットだぜぃ――って違う!俺は使い魔マスターだ!毎回リーグに挑戦しては、大人の事情で優勝させてもらえないスーパーマサラ人ではない!」

 

陸兎のボケに対して、乗りツッコみで返すザトゥージ。

 

「彼は使い魔に関してのプロフェッショナルよ。三人共、この人の説明を聞いて、自分に合った使い魔を手に入れてみせなさい」

 

「「はい!」」

 

「・・・ん?」

 

リアスの言葉に力強く返事した一誠とアーシアに対して、ふと気配を感じた陸兎は後ろを見る。

早速出発しようとしたが、前の方にいた陸兎がリアス達の方を向いて問いかける。

 

「なぁ、行くのはいいんだけどよ。その白い奴は一緒に来んのか?」

 

陸兎の問いに一誠が答える。

 

「白い奴って、もしかしてザトゥージさんか?いくら何でも、いい歳してランニングシャツにキャップを後ろに被ったクソださファッションのおっさんを連邦の悪魔と一緒にしたら、ガンダムに失礼だろ」

 

「お前は俺に対して失礼だぜぃ」

 

一誠の言葉に青筋を立てるザトゥージ。

 

「いや、そうじゃなくて・・・ほら、お前らの後ろにいるでかい奴」

 

「何言ってんだ?後ろに・・・って、うわっ!?」

 

一誠が振り向くと、そこには白くて巨大な犬がいつの間にか座っており、リアス達は驚きながら巨大犬を見る。

 

「わぁ!可愛いワンちゃんです」

 

「いや、見た目は可愛いと思うけど、でかすぎだろ!」

 

「えっと、ザトゥージさん。この子も使い魔なのかしら?」

 

「いや、こんな使い魔、俺も見たことがないぞ。見た感じ、犬型の使い魔みたいだが、それにしては少し大きすぎねぇか?」

 

未知の使い魔に疑問を抱くザトゥージをよそに、陸兎はリアス達の方を見て喋る。

 

「やれやれ、使い魔つってたから、どんな珍生物が出ると思ったら、発情期を少しだけ終えたワン公じゃねぇか。しかも、こいつ妙に俺になついてねぇか?」

 

「全然なつかれてねぇじゃねぇか!頭がっつり噛まれてるぞ!血が流れまくってるぞ!」

 

「陸兎さん、早速仲良くなっていますね。羨ましいです」

 

「アーシア!?それ、仲良くなっているって言わないから!ただ、食われかけているだけだから!」

 

平然と話していた陸兎だったが、彼の頭にいつの間にか巨大犬が嚙みついており、陸兎は頭から血を流していた。

そんな陸兎に対してアーシアは羨ましがり、一誠は頭を嚙まれて尚平然としている陸兎と間違った解釈をしているアーシアにツッコみを入れた。

巨大犬と彼らのやり取りを見て、木場がリアスに聞く。

 

「えっと・・・どうします、部長?」

 

「そうね・・・害はなさそうだし、一緒について来ても良さそうかしら?」

 

特に害はなさそうだと判断したリアスは、巨大犬も一緒に連れていくことにした。

 

 

 

 

使い魔の森を進んでいく陸兎たち。

すると、ザトゥージが足を止め、前の方に指差した。

 

「あれを見ろ」

 

ザトゥージが指差した方を見ると、大鷲ぐらいの大きさをした蒼いドラゴンが木の枝の上で羽を休めていた。

 

蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)、蒼い雷撃を扱うドラゴンの子供だぜぃ」

 

蒼雷龍を見つめるリアス達の隣でザトゥージが説明する。

一誠はザトゥージの説明を聞きながらまじまじと蒼雷龍を見ていると、朱乃が提案してきた。

 

「イッセー君は赤龍帝の力を持っていますし、相性はいいんじゃないかしら?」

 

「そっか・・・よし!蒼雷龍!君に決め――」

 

「あぁ!」

 

蒼雷龍を使い魔にすべく、一誠が前に出た途端、アーシアが小さな悲鳴を上げた。

悲鳴に反応し、一誠が慌てて振り向くと、彼女の体にねばねばした緑色の何かが落ちてきた。

 

「ちょ、コラッ!」

 

「あらあら、はしたないですわ~」

 

「ぬるぬる・・・キモ・・・」

 

更にリアス、朱乃、小猫の体にも緑色の何かが落ちていき、体に付着した。

すると、彼女たちの服が徐々に溶け始めていった。

 

「うおおおぉぉぉーーー!!!な、なんて素敵な展開なんだ!」

 

そして、この光景を見て、当然興奮しざるを得ない男が我らがエロス一世である。女性陣がスライムによって服を溶かされる姿を見て、一誠は鼻血を出しながら叫んでいた。ちなみに、木場とザトゥージは目元にだけ付着しており、陸兎と巨大犬は既に落下地点から離れて成り行きを見守っていた。

 

「こいつはスライムだぜぃ。女性の服を溶かす以外、特に害は無いんだが・・・」

 

「服を溶かすだと!?」

 

目元にスライムが付着しながらザトゥージが説明すると、隣で聞いていた一誠が大きく反応した。

 

「部長!俺、このスライムを使い魔にします!」

 

「ちょっとイッセー!使い魔は悪魔にとって重要な物なのよ!ちゃんと考え――あぁ!?」

 

「考えました!今日からお前は俺の使い魔だ、スラ太郎!」

 

既に名前を付けており、スライムを使い魔にする気満々の一誠。

その時、陸兎と同じようにスライムの落下地点から離れていた巨大犬がスライムと悪戦苦闘中のリアス達の方に寄り、大きく息を吸い込んで大声で吠えた。

 

「ワォ―――ン!!!」

 

大声で吠えた瞬間、リアス達にへばりついていたスライムは巨大犬の叫び声によって、ほとんどがバラバラに吹き飛ばされて四散した。

 

「スラ太郎ぉぉぉぉぉぉ!!な、なんていうことだ・・・!だが、しかし!お前の意志は俺がしっかりと受け取ったぞ!」

 

相棒(勝手に任命)の死に一誠はショックを受けるが、残ったスライムによって破れかかっていた服が全て溶けて、リアス達の生まれたての姿が見れそうになり、再び興奮し出した。

そして、遂にリアス達の生まれたての姿が見え始め、一誠のテンションが最高潮に達しかけたその時

 

「やれ」

 

「ワン!」

 

ガブ!

 

「うわぁ!なんだ!?急に目の前が真っ暗に!?」

 

陸兎に命じられた巨大犬が一誠の頭に齧り付いた。

一誠は自身の頭に齧り付いている巨大犬を必死に引き剝がそうとした。

 

「クソ!こいつ、放せ!これじゃ、部長たちのすんばらしい生まれたての姿が見れねぇじゃねぇか!あ、ちょ、そこはやめっ、あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!???」

 

必死の抵抗も虚しく哀れ一誠は巨大犬の甘嚙みの餌食となった。

その光景を見て、呆れるように陸兎が呟く。

 

「やれやれ、これだからエロス一世は。男はなぁ、どんな状況に陥っても、武士のように常に冷静な心を持つのが常識ってモンだろうが。たかが、女の裸が丸出しになっただけで発情するとはぁ情けない奴だぜ」

 

「そう言って、しっかりガン見してるじゃないですか、この変態先輩」

 

真顔でリアス達をガン見する陸兎目掛けて小猫がパンチしたが、陸兎はそれをひらりと躱した。

 

「フッ、当然だろ。女の裸には男の夢と希望が詰まってんだ。それを見ないで何を見ろと言う!」

 

「そんな夢と希望、さっさとゴミ箱に捨てて来てください」

 

陸兎を殴ろうと何回もパンチを繰り出す小猫だが、陸兎は余裕な表情で次々と躱していったが・・・

 

「フハハハハッ!当たらなければどうということはないのだよ!お前は大人しくその貧相な裸体を一生俺に見せつけているが――いいっ!?」

 

ガブ!

 

「あ・・・」

 

いつの間にか後ろにいた巨大犬によって、陸兎は頭を嚙まれた。

体を動かさず屍のように頭を嚙まれる陸兎と一誠、無我夢中に二人の頭を嚙んでいる巨大犬。その光景を無言で見ていた小猫は、見なかったことにして、体にへばりついているスライムの撤去を始めるのであった。

 

 

 

 

「「あああぁぁ・・・」」

 

「大丈夫ですか、お二人共?」

 

巨大犬に嚙まれ続けられていた陸兎と一誠は現在アーシアの神器で治療されていた。

頭から流れ出る血を止血してもらった二人は起き上がり、アーシアの方を見る。

 

「はい、終わりました」

 

「ありがとう、アーシア・・・?」

 

アーシアにお礼を言った一誠だが、彼女の腕に抱かれている蒼雷龍を見て目を丸くする。

 

「実はイッセーさん達が気絶している間、この子になつかれてしまって、そのまま使い魔として契約したんです」

 

そう言って、アーシアは嬉しそうに蒼雷龍の頭を撫でると、蒼雷龍は気持ち良さそうな顔をした。

その光景を見て、一誠が羨ましがっている横で、リアスが陸兎に問う。

 

「それで、結局この子はどうするの?」

 

リアスが巨大犬の方を見て言う。

一応は助けられたが、この巨大犬が得体の知れない生物だってことは変わりない。

そのまま放っておくか、或いは倒してしまうか。巨大犬の扱いに悩んでいると陸兎がザトゥージに問いかける。

 

「おっさん、こいつペットとして使えると思うか?」

 

「ペット?んまぁ、害はなさそうだから、使い魔としては十分使えるとは思うが」

 

ザトゥージの言葉を聞いた陸兎はリアスの方に向いて言った。

 

「こいつは俺が面倒を見る。それでいいか?」

 

「え?・・・まぁ、危害はなさそうだし、陸兎になついてたから、使い魔としては、ある意味陸兎と相性は良いと思うわ」

 

「決まりだな」

 

そう言うと、陸兎は巨大犬の方に顔を向けた。

 

「つーわけだ。今日からお前は俺の使い魔(ペット)だ。テメェが飽きないよう、毎日こき使ってやるから光栄に思えよ」

 

「ワン!」

 

「おう!よろしくな!えっと・・・」

 

巨大犬の方に寄り、頭を撫でようとした陸兎だったが、途中で難しい顔をして悩み出した。

気になったリアスが問いかける。

 

「どうしたの?」

 

「いや、こいつって名前が無いだろ。だから、名前を付けといた方が呼びやすいと思ってな」

 

「それもそうね・・・それで、どんな名前を付けるの?」

 

定春(さだはる)

 

陸兎が発した名前に固まるリアス達。リアスが代表して名前の理由を問う。

 

「えっと・・・どうして、そんな名前を付けようと思ったのかしら?」

 

「うーん・・・なんか、定春って名前に聞き覚えがあるというか・・・元々、こんな名前だったんじゃないかっていうシンパシーを感じたんだよ」

 

シンパシーってなんだよと思ったリアスだったが、ツッコむとめんどくさくなりそうだったから、納得することにした。

結局、白い犬の名前は定春と名づけられ、陸兎の使い魔となった。

そして、蒼雷龍と契約したアーシアと違い、一誠は使い魔と契約することができなかった。

ちなみに、陸兎と契約した定春だが・・・

 

「それじゃあ、これからよろしくお願いしますわね、定春」

 

「ワン!」

 

「はぁ~、これから食費が増えそうだ・・・」

 

部室に定春が住めそうな場所が無かった為、陸兎の家に住むこととなった。




次回、オリジナルの話を一つ挟んでから、戦闘校舎のフェニックスに入りたいと思います。


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見えない物を見えないままでいるより、見えるようになった方が十倍いい

ロスヴァイセは陸兎のヒロインにしました。
決め手はマダオ(まるでダメなお兄さん)とマダオ(まるでダメなおb・・・お姉さん)の組み合わせが見たいでした。
陸兎のヒロインが多い気がするけど、年中おっぱいおっぱい言ってる変態男子より、問題児だけどやる時はやるちょい悪イケメンの方がモテるよね!


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とある日の日曜日。

この日陸兎は朱乃と一緒に買い出しに来ていた。

 

「これで一通りの物は買ったな」

 

「えぇ、他に買うものはなさそうですわね」

 

一通り買い物を済ませた二人は歩きながら話していた。

 

「しかしまぁ、相変わらず浅草(ここ)はあやかし(妖怪の別名)の宝庫だな。見えない奴らにとっちゃ勿体無い光景だぜ」

 

そう言いながら、陸兎は辺りを見渡す。

二人が現在いる所は観光地として有名な浅草であり、一見普通の街並みだったが、街の至る所にあやかしが潜んでいる。

しかし、あやかしは悪魔である朱乃や高い霊力を持つ陸兎を除いて、一般の人間には見えない存在である。

その為、街歩く人々はあやかしの存在に気づくことなく、何気ない日常を送っているのである。

 

「そうですわね。私たち悪魔には見える存在も普通の人間には見えないのですから」

 

「まぁ、悪魔や堕天使と違って、人間は基本的に特別な何かってモンがねぇからな。俺や剣夜みたいに霊力が高い奴とか少数しかいねぇだろうしよ。こうして、自分では見えない何かに気づかぬまま、人間ってのは生きてるわけよ」

 

何処か思うような顔で呟いた陸兎は、ふと何か思い出したかのように口を開いた。

 

「そういや、確かここら辺にあれがあったよな・・・朱乃、この後予定はあるか?」

 

「特にありませんけど」

 

「んじゃ、ちょっくら寄り道しようぜ」

 

そう言うと、陸兎は歩き出し、朱乃も後に続く。

数分間歩き、陸兎がやって来たのは浅草の裏路地だった。

 

「ここだ」

 

「これは・・・ただの壁みたいですけど・・・」

 

裏路地の壁を不思議そうな顔で見ていた朱乃だったが、壁からただならぬ気を感じて顔を変える。

 

「!? この気・・・もしかして!?」

 

「そのもしかしてだ」

 

そう言って、陸兎は壁に向かって足を踏み入れた瞬間、壁に吸い込まれるように消えていった。

朱乃も同様に壁・・・いや、壁の形をした入口に入っていった。

入口に入った朱乃は辺りを見渡しながら喋る。

 

「ここは・・・隠世(かくりよ)ですか?」

 

「あぁ、あやかしが住まう隠された地だ」

 

二人の目に映る景色は一見普通の河川敷に見えるが、流れている清い水や所々に咲いている紫の花が神秘的な雰囲気を感じさせる。更に奥の方には和風の建物がずらりと建てられているが、どれも現世に比べると少し不安定で、現世の物を見よう見まねで建てられたように感じる。

その場所を陰陽師やあやかし、三大勢力はこう言う。隠世(かくりよ)と。

隠世とは、あやかしが住まう世界である。人が住まう世界、現世(うつしよ)と繋がっており、隠世に住まうあやかしは隠世の色んな場所に存在する門を通って現世に来ることがある。また、隠世の門は普通の人間では通ることができず、霊力が高く、あやかしが見える人間である陸兎や同じ異形の悪魔である朱乃などが通ることができる。

二人が先程足を踏み入れた場所は浅草など、あやかしが隠れ潜んでいる地域でたまに現れる現世から隠世へ繋がる門であった。

隠世の景色を見渡しながら先へ進んでいくと陸兎に向かって声を掛ける者が現れた。

 

「八神しゃま~」

 

「あぁ?」

 

声がした方へ振り向くと、小さな河童みたいな生物が陸兎に向かってちょこちょこと歩いて来た。

 

「よう、久しぶりだな。ただ飯食らい」

 

「久しぶりでしゅね。それとただ飯食らいは余計しゅ」

 

親し気に話す陸兎と小さき河童。気になった朱乃が陸兎に問う。

 

「もしかして、この子も妖怪ですか?」

 

「あぁ、己の愛くるしい体を利用して、人の飯をしょっちゅうたかるただ飯食い共だ」

 

「失礼でしゅね。河童たちは親切なお人にご飯を分けてもらっているだけでしゅよ。ところで、そちらの美人さんは誰でしゅか?」

 

そう言いながら、小さき河童こと手鞠河童(てまりがっぱ)は朱乃の方を見る。

 

「私は姫島朱乃。悪魔ですわ」

 

「悪魔?聞いたことがないでしゅね」

 

「簡単に言やぁ、外国版あやかしだ」

 

「なるほど、つまり河童たちと同じわけでしゅね。よろしくでしゅ!」

 

「うふふ、よろしくね」

 

朱乃の事を自分と同じあやかしだと勘違いしてる手鞠河童だが、朱乃は特に不機嫌な様子になることもなく、自身の手のひらに手鞠河童を乗せ、頭を撫でながら微笑んだ。

しばらくの間、手鞠河童と話していた陸兎たちだったが、新たに聞こえてきた声に反応して振り向く。

 

「うぅ・・・」

 

そこにはボロボロになっている手鞠河童がこちらに向かってふらふらと歩いていた。

 

「た、助けてくださいでしゅ・・・」

 

「おいおい、どうしたんだそんなボロボロで?」

 

「実は・・・」

 

手鞠河童の話によると、彼らは牛のあやかし牛鬼が仕切っている食品サンプル工場で朝から晩まで過酷な労働を強いられており、給料も日給千円ときゅうり一本だとのこと。

お陰で手鞠河童たちは日々の過酷の労働により身も体もボロボロになっている。この手鞠河童は見張りの目を搔い潜り、何とか隠世まで逃げて来たのだと言う。

事情を聞いた陸兎はめんどくさそうな顔でため息を吐いた。

 

「はぁ~・・・はぐれ悪魔といい、あやかしといい、何処の異形にも馬鹿はいるモンだな」

 

「八神しゃま・・・」

 

「分かってら。あやかしの問題となると、放っておくわけにはいかねぇしな」

 

仕方ないといった表情でそう言うと、陸兎は朱乃の方を見る。

 

「つーわけだ。悪ぃな、朱乃。ちょっくら馬鹿共を〆てくるから先に帰ってくれ」

 

「そうですか。なら、私もご一緒させていただきます」

 

「はぁ!?」

 

「一人で行くより、二人で行った方が何かあった時にお互い助け合えるでしょう?それとも、こんな来たこともない場所で帰り道も分からない私を一人置いていく気かしら?」

 

「たく・・・付いて来たけれゃ勝手にしろ」

 

仕方ない、と言った感じで朱乃に言った陸兎。

そんな様子の陸兎を見て、手鞠河童たちはにやけながら陸兎に言った。

 

「おやぁ、八神様、もしかして照れてるでしゅか?」

 

「不良のツンデレなんて今時流行らないでしゅよ」

 

「うるせぇ!ただ飯食らい共!」

 

 

 

 

隠世から現世へ戻って来た陸兎たちは手鞠河童に言われた地下工場へやって来た。

 

「ここか・・・」

 

工場を見上げながら呟く陸兎。

二人は警戒しながら工場の中へと進んでいき、地下の階段を降りたその時

 

ガシャン!

 

「「!?」」

 

奥の方から激しい物音が聞こえ、二人は早足で奥へ進む。

そして、奥の部屋に入ろうとした時、部屋の中から巨大な牛のあやかし牛鬼と、その牛鬼と真っ正面から対峙している紅葉のような紅い髪に、所々に釘が打ち付けられているバットを持った少女の姿が見えた。

部屋に入ろうとした二人は入るのを止め、入口から薄っすらと顔を出し、様子を見ることにした。

 

「あの方は・・・?」

 

「おいおい、なんでお前がここにいるんだよ・・・」

 

不思議がる朱乃と違い、陸兎は困ったような顔で少女を見ていた。

巨大な牛鬼と対峙している少女は余裕そうな態度で牛鬼を見つめて、その態度が気に食わなかったのか牛鬼は憤怒の表情で少女に襲い掛かった。

 

「おのれ陰陽師め!鎌倉の時に限らず、二度も我らの居場所を奪うつもりか!だが、俺は鎌倉で名を馳せた牛鬼!かの大戦で源頼光と後に十師族と言われた退魔師と戦った牛御前の末裔だ!貴様ら人間に負ける道理などない!」

 

襲い掛かろうとしている牛鬼を朱乃が止めようと雷を放出しようとしたが、陸兎に止められた。

どうして止めるの?と言いたげな目線で見つめる朱乃をよそに、陸兎は少女の方を見ていると、少女は自身に襲い掛かっている牛鬼に向けて笑みを浮かべた。

 

「馬鹿ね。私はあんたよりずっと大物よ」

 

その瞬間、少女は持っていたバットを牛鬼目掛けて思いっ切り振って、工場の壁まで吹き飛ばした。

 

「アハハ!場外さよならホーーームラン!」

 

「まぁ・・・」

 

「相変わらず、豪快な鬼嫁っぷりだな」

 

大将と思われる牛鬼をバット一本で吹き飛ばした少女に朱乃は感心し、陸兎は乾いた目で呟いた。

すると、少女の背後から仲間と思われる牛鬼が少女目掛けて拳を振り下ろそうとした。

 

「ツメが甘いぞ真紀」

 

「後ろにも目ぇ配れ、鬼嫁」

 

だが、その前に食品サンプルと『洞爺刀』(霊力は纏わせてない)が牛鬼の顔面にぶつけられ、牛鬼は後ろから倒れた。

『洞爺刀』を投げた陸兎と真紀と呼ばれた少女は食品サンプルが投げられたと思わしき場所へ振り向くと、そこには学生服を着た黒髪のイケメンがいた。

 

「別に言われなくても気づいてたわよ。ていうか、馨はともかく、なんで陸兎もいるのよ?」

 

「隠世にいる最中、ただ飯食らい共に頭下げられて仕方なくここに来たんだよ。たく、夫婦揃って、こんな所にまでデートしに来てんじゃねぇよ。ここは一般人が来るとこじゃねぇぞ」

 

「俺だって分かっているさ。でも、さっき弱っている手鞠河童に会ってな。そいつらから事情を聞いた真紀が勝手にここに来たんだよ」

 

「だったら、尚更お前が止めろよ。元旦那なんだし、元妻のやんちゃぐらい気合いでどうにかしろ」

 

「気合いで止めれたら苦労はしないさ。お前だって知ってるだろ?真紀がこういうのを放っておけない事を。それとも、お前なら止めれるのか?あの鬼嫁を」

 

「・・・無理だな」

 

「だろ・・・」

 

親し気に会話をする三人を見て、またもや置いてけぼりをくらった朱乃が陸兎に問う。

 

「あの~、お知り合いですか?」

 

「お、そうだったな。こいつは天酒馨。女の方は茨木真紀。どっちもあやかしが見える人間だ。しかも、前世の記憶を持っていて、その前世がかの有名な酒吞童子と茨木童子だ」

 

「まぁ!確か、大昔に日本で起きた人間と妖怪との戦いで数多くの妖怪の軍を率いたと言われている二匹の鬼ですわね」

 

「まぁ、合っているよ。結局は負けて滅んだんだけどな。まさか、こうして人間に転生するなんて思ってもいなかった」

 

「ちなみに、私たちは転生後も高い霊力を持っているから、あやかしとかも普通に見えるのよ。だから、前にたまたま暴れているあやかしの現場に居合わせた事から陸兎とも知り合いなのよ。勿論、陸兎が十天師って言われてて、退魔師の中でめちゃくちゃ強いって事も知ってるわよ」

 

何故か胸を張って自慢げに言う真紀と言う少女。

それに対して、馨と言われたイケメンは朱乃の方を見て問いかける。

 

「それにしても、陸兎が女を連れて歩いているなんて、珍しいことでもあるんだな。えっと・・・あんたは?纏っている気からして、ただの人間じゃなさそうだが・・・」

 

「まぁ、貴方も陸兎君みたいに私の正体を見抜いたのですか?これは驚きました。では、それらの事も踏まえて・・・私の名前は姫島朱乃。ご察しの通り、私は人ではなく悪魔ですわ」

 

「え?・・・もしかして、あの悪魔か!?」

 

「噓!?ここら辺では駒王町って町に何人か潜んでいるとは聞いてたけど、実際に会えるなんて・・・」

 

「なんだ、お前らも悪魔のことを知ってたのか?」

 

「噂程度だけどな。前世の頃、悪魔や三大勢力に関する話を日本にやって来た異国のあやかしから聞いたんだ」

 

流石元あやかしの王なだけあって、異国の異形の情報は抜かりなかったようだ。

そんなことを思いながら、陸兎は三人に向かって言う。

 

「それよりも、俺はともかく一般人のお前らと悪魔の朱乃はそろそろここを出た方がいいぞ」

 

「そうだな。もうすぐここに浅草あやかし労働組合が来る予定だ。陰陽師の中で一番有名な退魔師の陸兎ならまだしも、俺たちは一般人だ。特にそっちの姫島さんは悪魔なんだろ?もし連中に鉢合ったら、騒ぎになるぞ」

 

馨がそう言うと、陸兎たちは急いで工場から出ようとしたが、その前に、床に倒れている大将と思わしき牛鬼の方へ陸兎が寄ってきた。

 

「おい、そこの牛鬼(デカ物)。もうすぐここに浅草あやかし労働組合が来る。あいつらはあやかし即滅殺!の日本陰陽師協会と違って、あやかしの事情にも熱心に聞いてくれる連中だ。もし、テメェら自身の居場所が欲しけりゃそいつらに相談しろ。それと、次またただ飯食らい共に同じことしたら、今度は顔面じゃなくテメェらのどでけぇケツに『洞爺刀』ぶっ刺すからな」

 

「そ、その白い頭に木刀・・・貴様まさか!?あの白鬼(しろおに)――ふべぇっ!」

 

「その名前で呼ぶんじゃね。そいつは普段俺の脳みその最奥に入れてあんだ」

 

何か言いかけた牛鬼を陸兎は『神速』で近づき、顔面を蹴り飛ばした。

気絶した牛鬼のうめき声と手鞠河童たちの喜びの声をBGMにしながら、陸兎たちは食品サンプル工場を出た。

その後、馨たちと別れた陸兎と朱乃は駒王町に帰るべく浅草の駅へと向かっていた。

 

「それにしても、意外でしたわ。まさか陸兎君に十門寺君や七星さんの他に妖怪が見えるご友人がいたなんて」

 

「意外は余計だ。仕事上、こういった見える人間と絡むことなんざ、何度だってある・・・って、何笑ってんだ?」

 

「うふふ、ごめんなさい。でも、良かったですわ。陸兎君って、周りとはあまり関わらないタイプの人間だと思っていましたので、十門寺君やイッセー君の他に、きちんとお友達がいて安心しましたわ」

 

「別に好きで絡んでる訳じゃねぇよ。でもまぁ・・・こういった見える奴ら同士で関わり合うのも悪くないとは思っているぜ」

 

「そうですわね」

 

素っ気なく言う陸兎に朱乃は微笑みながら、二人は帰路へとつくのであった。




・手鞠河童
『浅草鬼嫁日記』に登場するあやかし(妖怪)。名前の通り手鞠サイズの河童。

・天酒馨
『浅草鬼嫁日記』の登場人物。一見普通の高校生(イケメン)だが、前世は鬼のあやかし酒吞童子。

・茨木真紀
『浅草鬼嫁日記』の登場人物。見た目は活気のある女子だが、前世は鬼のあやかしであり、酒吞童子の妻である茨木童子。


ちなみに、大昔に起きた人間と妖怪の戦いとは『浅草鬼嫁日記』で起きた人間(源頼光率いる武士や退魔師の軍)対酒吞童子率いるあやかしの軍との戦いを指している。


日本サイドを原作より強化しようと思い、登場させた『浅草鬼嫁日記』のキャラ達。尚、本編での出番はそんなに無い予定(下手したら出番がライザー以下になるかもしれない)。
次回から第2章、戦闘校舎のフェニックスに入ります。


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第2章 戦闘校舎のフェニックス
ライザーの声が子安なのは間違っているだろうか


第2章開始です!OP、EDは1章のままです。本編を見る前に必ず聞きましょう(噓です。聞かなくても普通に見れるのでブラウザバックしないでください)


朝、朱乃と一緒に学園へ登校した陸兎はいつも通り教室に入った瞬間

 

「「死にさらせぇーーー!!」」

 

「ほい」

 

「「ふべぇ!!」」

 

いつも通りの怨念が籠った声に呆れながら、自分に向かって飛びかかって来ている馬鹿二人の顔面を思いっ切りアッパーした。

 

「やれやれ、毎日毎日ホント飽きねぇなお前ら。同じネタを三回もやれば、視聴者も飽きてくるってよく言うだろうが」

 

毎日のように飛びかかってくる元浜と松田にうんざりしながら、陸兎は席に着くと、一誠とアーシアが教室に入ってきた。

 

「うーす、イッセー、アーシア」

 

「おはようございます。陸兎さん」

 

「あぁ、おはよう八神・・・」

 

いつものように挨拶すると、アーシアはいつも通りの笑顔で返してくれたが、一誠は何処かぎこちない様子で挨拶を返すと、陸兎に話しかける。

 

「なぁ八神、少しいいか?」

 

「どした?彼女ができなさすぎて、とうとうホの字に進んだか?」

 

「違ぇよ!いいか、よく聞けよ」

 

一誠は一旦息を吸って、真剣な表情で喋った。

 

「部長が昨日、夜這いに来たんだ」

 

「・・・・・・」

 

一誠の言葉を聞いて、しばらくの間無言になる陸兎。

やがて、可哀想な人を見るような目で一誠を見つめながら喋った。

 

「イッセー・・・部長はVR彼女に登場しねぇぞ?」

 

「だから、VR彼女にハマってねぇよ!つーか、まだ続いてたのかよそのネタ!」

 

またもやVR彼女にドハマり中疑惑をかけられそうになった一誠は即座に否定した。

 

 

 

 

そして放課後、陸兎はいつもより遅れてオカルト研究部の部室にやって来た。

 

「今日は随分と賑やかだな。人もいつもより二人増えてるし・・・つか、一人マジでヤベーのがいるんだけど・・・」

 

いつもとは違うただならぬ気配を感じながらも、陸兎は部室に入る。

 

「ウイース、皆大好き陸兎パイセンが来たぞ~」

 

能天気に部室に入った陸兎が見たのは、オカルト研究部の部員に加え、チンピラホストみたいな雰囲気をした金髪の男とメイド服を着た銀髪の女性だった。

リアスと金髪の男が睨み合い、銀髪メイドが間を挟むような形で立っていたが、陸兎が部屋に入って来たことで全員の視線が陸兎に向いた。

 

「お嬢様、こちらの方は?」

 

「彼は八神陸兎。日本最強の退魔師の集団、十天師の一人よ」

 

「なるほど、彼がかの有名な・・・」

 

そう言いながら、銀髪メイドが陸兎の方を見る。

陸兎は銀髪メイドから感じるただならぬ力に内心警戒しながら喋る。

 

「なぁ、そっちのメイドさんとホスト擬きは誰だ?つか、このメイドめっちゃくちゃヤバそうな力を感じるんだけど」

 

「申し遅れました。私はグレモリー家に仕えているグレイフィアと申します。先程までの出来事を簡単に説明しますと、リアスお嬢様とあちらのフェニックス家の三男、ライザー・フェニックス様が婚約することになったのですが、それに対してお嬢様が反対し、お互い睨み合っておりました」

 

「ほほう、これはどうもご丁寧に。しかし、銀髪メイドと来たか・・・なぁ、あんた。この場の時間を停止させることができる魔法を使えたりするか?」

 

「時間停止魔法ですか?いいえ、できません」

 

「そうか。あんたから紅魔館の銀髪メイドの面影を感じたから、ひょっとしたらとは思っていたが・・・残念だ」

 

残念そうな顔をする陸兎に対して、「はぁ・・・」と何処か困ったような顔で返したグレイフィア。

すると、先程から自分の事を無視して話し続けてたからなのか、金髪の男ライザー・フェニックスが不機嫌そうな顔でリアスに問いかける。

 

「おい、リアス。さっきから俺を無視して話しているが、何なんだこの人間は?」

 

「!?」

 

話しているライザーの姿を見た瞬間、陸兎の目が大きく見開かれた。

驚愕の表情でライザーを見つめたまま動かなくなった陸兎に、リアスが話しかける。

 

「陸兎?どうしたのかしら?」

 

「・・・まさか、ここであなた様に会えるなんて思いもしませんでした」

 

「八神?」

 

普段はあまり使わない敬語を使って話す陸兎に一誠が疑問に思っていると、陸兎はペンを取り出し、ライザーの前に差し出しながら頭を下げた。

 

「ファンです。握手とサイン貰ってもよろしいですか?」

 

『えぇーーー!!?』

 

思いもよらぬ行動にオカルト研究部の部員は一斉に声を上げて驚いた。

事の成り行きをグレイフィアは真顔で見つめ、ライザーは突然サインを求められた事に動揺するも、すぐさま平常心を取り戻して言った。

 

「ふ、ふむ・・・まさか人間界に俺のファンがいたとはな。しかも、悪魔ではない下等な人間・・・だがまぁ、例え下等な人間であろうと、その思いに応えてやるのが上級悪魔の務めだ」

 

サインを求められたからなのか、ライザーは上機嫌に言うと、ペンを受け取り、陸兎の方を見た。

 

「どれ小僧、特別にサインをしてやろう。何処にサインすればいい?」

 

「ありがとうございます。じゃあ、ここに『八神君へ、ボボボーボ・ボーボボより』ってサインを――」

 

「誰だそいつはぁーーー!?俺はライザー・フェニックスだぁーーー!!」

 

別人のサインを書かれそうになったライザーはペンを陸兎の額に投げながらツッコんだ。

ペンを額に当てられた陸兎は後ろに倒れそうになるも、ギリギリ踏みとどまり、その勢いのまま、驚愕の表情でライザーに詰め寄る。

 

「えぇー!ば、馬鹿な!その金髪アフロ!作り込まれた体にボーボーの胸毛!何よりも、その立派な子安ボイス!どっからどう見ても、ボボボーボ・ボーボボさんじゃないですか!」

 

「なわけないだろ!どっからどう見ても、そいつの特徴と俺の容姿が一致してないだろ!合っているとしたら、最後の子安ボイスぐらいだろ!」

 

ライザーの言葉を聞いて、「メタいわよ、ライザー・・・」とリアスが呟いた。

苦笑い、或いは呆れた表情で見つめるリアス達をよそに、二人の口論は続いていく。

 

「大体なんだ!如何にも適当に付けたような名前をしてる奴は!?ただの馬鹿にしか見えんぞ!」

 

「貴様!あの伝説のハジケリスト、ボボボーボ・ボーボボさんを侮辱するとは、なんと無礼な!」

 

「無礼なのはどう見ても貴様の方だろう!そんな訳分からん金髪アフロと俺を一緒にするな!」

 

「ボボボーボ・ボーボボさんを馬鹿にすんじゃねぇ!一度はP○Aから苦情が沢山来て、ほとんどの放送局で放送打ち切りになったけど、そこから二十年掛けて再び注目を浴び、更には今年のエイプリルフールでグランブルーファンタジーとコラボを成し遂げた偉大なお方だぞ!」

 

言い争いは徐々にデッドヒートしていき、ライザーは炎を、陸兎は霊力を出し、部室は完全に二人の発する圧に飲まれていた。

 

「そこまでです。もし、この場で暴れるとなれば私が相手しましょう」

 

一触即発の空気になっていた為、一人無言で成り行きを見守っていたグレイフィアが二人を止めた。

言い合っていた二人だったが、グレイフィアの凄まじい魔力のオーラを感じ、ライザーは勿論、十天師である陸兎も素直に従い霊力を収めた。

 

「話を戻しますが、お嬢様はライザー様と婚約する気はないと考えてよろしいですか?」

 

「勿論よ」

 

「分かりました。ならば、レーティングゲームで決着をつけることにしましょう」

 

レーティングゲーム。上級悪魔が己の眷属同士で競い合う冥界のゲーム。

グレイフィアが言うには、レーティングゲームでリアスが勝てば婚約破棄できると言うことだ。

そのことにライザーは首を縦に振り、リアスも渋々納得した。

その後、ライザーはリアスの眷属の少なさを鼻で笑うと、自身の眷属全員をこの場に呼び出した。

眷属はライザー以外の全員が女であり、それを見た一誠は何故か号泣していた。

 

「おい、リアス。そこの下僕君はなんで俺を見て号泣しているんだ?」

 

ライザーは自身を見て大号泣している一誠を引き気味に見つめる。

 

「気にしないで。この子の夢がハーレムなの」

 

リアスが説明している横で一誠はうんうんを頷いていた。

一方、ライザーの眷属たちは汚物を見るような目で一誠を見ていた。

 

「キモいですわ」

 

「そう言うな。ユーベルーナ、こっちに来い」

 

ライザーはユーベルーナと呼ばれた眷属の一人を自身の近くに呼び出すと、その場でディープキスをしだした。

 

「なっ!?」

 

「あらあら」

 

「はわぁ!?真っ暗です!」

 

「陸兎先輩、見えません」

 

「お前にはまだ早い」

 

あまりにも大胆な光景に一誠は目を見開き、朱乃はアーシアの、陸兎は小猫の目と耳を塞いだ。

ディープキスし終えたライザーは勝ち誇ったような顔で一誠を見る。

 

「お前にはまだこのステージは早すぎるどころか一生できまい。下級悪魔くん」

 

「何だと!?」

 

ライザーの小馬鹿にしたかのような発言に一誠は怒りだし、『赤龍帝の籠手』を出現させた。

リアスが「やめなさい!」と一誠を止めようとするが、一誠はライザーに向けて怒鳴り出す。

 

「お前なんか部長とは不釣り合いだ!この女たらし野郎!」

 

「・・・お前、その女ったらしに憧れているんだろう?」

 

「ぐっ!・・・それとこれとは別だ!」

 

「うわー、開き直ったよこいつ」

 

論破されたにも関わず開き直った一誠に、陸兎は軽くドン引きしていた。

そんな陸兎を無視し、一誠はライザーに嚙みつく。

 

「英雄色を好む。人間界の言葉らしいな。中々いい言葉だろう」

 

「なにが英雄だ!テメェなんて、焼き鳥だろ!」

 

焼き鳥と言われ、ライザーの顔に青筋が浮ぶ。

 

「威勢だけはいいようだな。下級悪魔が・・・!」

 

「ゲームなんて必要ねぇ!全員この場で倒してやらぁ!」

 

ライザーに殴り掛かる一誠に対して、ライザーは焦る様子もなく、眷属の一人に命令した。

 

「ミラ、やれ」

 

「はい、ライザー様」

 

ミラと呼ばれた少女が棍棒を持ちながら、一誠の前に立ちふさがる。

一誠は戸惑いつつも、棍棒を叩き落そうと拳を振るったが、ミラは拳を出そうとしたことで隙だらけとなった一誠の脇腹に棍棒を叩きつけようとした。

 

「ハーイ、そこまで」

 

だが、ミラの棍棒が一誠の腹に当たる直前に、陸兎が間に挟み、棍棒を素手で受け止め、一誠の拳を『洞爺刀』で防いだ。

 

「なんで止めるんだよ八神!」

 

「馬鹿野郎、一時のテンションに身を任せやがって。ここで騒ぎを起こしてみろ。最悪レーティングゲームが中止になるぞ」

 

「八神様の言う通りです。ここで暴れるとなれば、私も力づくで止めさせていただきます」

 

陸兎とグレイフィアに諭され、一誠は渋々『赤龍帝の籠手』を収めた。

一誠が落ち着いたのを確認した陸兎はグレイフィアの方を向いて問い掛ける。

 

「一つ聞きてぇんだけどよ。そのレーティングゲーム、眷属以外の奴が参加しても大丈夫なのか?」

 

「公式なら眷属以外の参加は禁じられておりますが、今回行われるのは非公式のレーティングゲーム、ルール上は問題ないかと思われます。後は相手から許可を取る必要がありますが・・・」

 

そう言って、グレイフィアはライザーを見ると、ライザーは答えた。

 

「俺は構わん。散々甞めてくれたツケ、払わせてもらうぞ人間」

 

「テメェこそ、ボボボーボ・ボーボボさんを名乗った罪、償わせてやるよ」

 

「それは貴様の勘違いだろうが!・・・まぁ、いい。リアス、ゲームは十日後でどうだ?」

 

「それはハンデのつもり?」

 

「そうだ。今すぐ始めてもいいが、何せ君たちにとって、始めてのレーティングゲーム。これぐらいのハンデがあってもいいだろう。まぁ、それでも俺たちが負けることなど万が一にも有り得えないがな」

 

ライザーはリアス達を嘲笑うように言うと、眷属たちの下に歩み寄る。

 

「それじゃあリアス、次はゲームで会おう」

 

そう言い残して、ライザーは眷属たちと共に炎の魔法陣の中へと消えていった。



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修行パートは重要だが、十年も続けば人生の10%は損する

ライザーがやって来た翌日、リアス達オカルト研究部の面々は現在山を登っていた。

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」

 

一誠は大量の荷物を背負いながら息も絶え絶えと登っている。

 

「イッセーさん、少し持ちましょうか?」

 

「ダメよアーシア。これも修行のうちよ」

 

見かねたアーシアが荷物を少し持とうとしたが、リアスに止められた。

一誠は気づいていないが、彼は大量の荷物に加えて、荷物の上に手を置いてぶら下がるように寝ている定春も背負っている為、原作以上に修行していた。

 

「お先に」

 

「あばよ、とっつぁん」

 

「待ちやがれ・・・イケメン共・・・!」

 

「お先に失礼します」

 

「な、なんだと・・・!?」

 

木場と陸兎に追い越され、一誠は必死に追いかけようとしたが、直後に後ろから追いついてきた小猫が自分の倍以上はある荷物を背負って歩いているのを見て絶句した。

そんな一誠を無視し、荷物を背負っている三人は会話し始める。

 

「それにしても、凄いですね陸兎先輩。この荷物、普通の人間なら背負って歩くだけでも不可能なのに、それを軽々と持ち歩くなんて・・・」

 

「そうだね。いつごろから鍛えているんだい?」

 

「五年くらい前だ。そっから今日に至るまでずっと鍛えてら」

 

「五年か・・・僕も悪魔に転生して、それくらい経つけど、こうも差があると少し自身を無くすよ」

 

「無くすのはテメェの勝手だが、本当に大事なモンだけは無くさないようにしろよ。それに、強くなんなきゃ、護れるモンも護れねぇしな・・・ところで部長。駒王町から結構離れたが、いったいどこに向かってんだ?」

 

そう言いながら、リアスの方を見ると、リアスは後ろに振り向いて答えた。

 

「グレモリー家が所有してる別荘よ。この先を進んだ所にあるわ」

 

「なるほどな・・・ん?ここら辺って確か、少数のあやかしが住んでるって聞いたぞ。住処の近くで勝手に修行したら流石にマズくねぇか?」

 

「そこら辺は大丈夫よ。山に住んでいる妖怪さん達には、予め事情を説明して、十日間別の山に住んでもらうようお願いしてあるから」

 

どうやら、あやかしの事に関しては問題なかったようだ。心配事も杞憂に終わって、リアス達は道を進んでいく。

しばらく歩いて、やっと別荘らしき建物にたどり着いたが・・・

 

「む、無駄にでけぇ・・・」

 

そこにあったのは、別荘というより、お偉いお坊ちゃまが住んでそうな豪邸だった。巨大な建物の横には巨大なプールもあり、数千万は軽くいってそうな価格の物件であった。

 

「おいおい、これホントに別荘なの?どっからどう見てもスネ夫の家、いや、スネ夫の家以上だぞこれは」

 

予想だにしなかった別荘を見て、ドン引きする陸兎。

その時、遅れて一誠がやって来た。

 

「ぜぇ・・・やっと着いた・・・」

 

「お疲れ様です、イッセーさん。定春くんもおはようございます」

 

「え?定春?」

 

アーシアから聞こえた定春という言葉に一誠は疑問を浮かべながら荷物を降ろして後ろを見ると、荷物にぶら下がった定春が大きなあくびをしていた。

 

「定春テメェ!いつから乗っていやがった!?」

 

「山に登る頃からよ。修行になると思って、敢えて黙っておいてたけど、どうやら、いい修行になったみたいね。さて、早く着替えて修行を開始しましょう」

 

「ぶ、部長・・・悪魔ですか・・・?」

 

「悪魔よ」

 

 

 

 

レッスン1、木場と剣の稽古

 

「剣の動きだけじゃない、相手の動きもよく見るんだ」

 

「くっ!でぁーーー!」

 

「遅い!」

 

木場に向かって大きく振りかぶった一誠だが、木場はその隙をついて木刀を叩き落とすと、そのまま一誠の頭に木刀を振り下ろした。

 

「ぐぁ!」

 

木刀をもろに食らって、その場に倒れる一誠。

陸兎は倒れた一誠を一瞥すると、一誠が持っていた木刀を手に持って木場の前に立つ。

 

「次は俺とだな。言っとくが、俺相手に手加減はいらねぇぜ木場」

 

「勿論、そうさせてもらうよ!」

 

そう言うと、木場は先程までとは違う『騎士』本来のスピードで陸兎に斬りかかる。

対する陸兎は表情を変えることなく、淡々と木場の攻撃を防いだ。

 

「お前の剣は確かに早ぇが、それだけだ。お前の動きから、お前の攻撃パターンを予測すりゃこれくらい簡単に見切れる」

 

「なるほど・・・勉強になるよ!」

 

陸兎に言われながらも、木場は再び攻撃を仕掛ける。

その後も木場は持ち前のスピードで幾度も攻撃するも、陸兎は全て防いだり、体を捻って躱したりしている。

その様子をリアス達は感心しながら見ていた。

 

「流石ですわね」

 

「えぇ、『騎士』である裕斗のスピードと互角に渡り合うなんて・・・」

 

「いいえ、それだけじゃありません。陸兎先輩、さっきから一歩も動いてないです」

 

小猫に言われ、リアス達は陸兎の方を見ると、言われた通り、陸兎は先程から後ろに振り向きながら木場の攻撃を防いだりしているが、自分から仕掛ける素振りはしてない上、その場から一歩も動くことすらもせず、黙々と攻撃を防いでいる。

それは、木場の剣が早すぎで防ぐのが精一杯という理由じゃない。一歩も動いていない事と先程から変わらない表情から、明らかに陸兎が本気を出していないことが見受けられる。

木場も手を抜かれていることを感じて、顔色に焦りが見えてきた。

そして、木場が剣を大きく振りかぶった瞬間、陸兎が動いた。

 

シュッ!

 

『神速』で木場の後ろに回り込み、その勢いのまま木刀を横に振った。

 

「!? 後ろ!」

 

「遅ぇ」

 

「ぐっ!」

 

木場は何とか反応したものの、防ぐまでには至らず、脇腹に木刀をくらい、地面に倒れた。

陸兎は木刀を下ろすと、立ち上がろうとしてる木場の下へ歩み寄る。

 

「悪ぃ、少し強く振り過ぎた」

 

「・・・いや、大丈夫だよ。もう一戦いいかい?」

 

立ち上がりながら再戦を求める木場に無言で頷く陸兎。

その後、復活した一誠も加わり、レッスン1はいつの間にか、陸兎との稽古に成り代わっていた。

 

 

 

 

レッスン2、魔力の操作

 

「魔力は体全体を覆うオーラから流れるように感じるのです。意識を集中させて、魔力の波動を感じるのですよ」

 

「できました!」

 

悪戦苦闘してる一誠の隣でアーシアの手のひらに緑色の魔力の塊が浮かんでいた。

 

「あらあら、やっぱりアーシアちゃんには魔力の才能があるのかもしれませんね」

 

アーシアの魔力の才能に感心していた朱乃は、机に置いてある水の入ったペットボトルに魔力を流し込むと、ペットボトルの水が氷のトゲになって、内側からペットボトルを突き破った。

 

「慣れれば、何もない所から火や水、雷などを操ることができますわ。アーシアちゃんは次にこれを練習してください。イッセー君は引き続き、魔力を集中させる練習から。大事なのはイメージ。頭に浮かんだことを具現化するのですよ」

 

「は、はい!集中、集中・・・」

 

朱乃に言われ、一誠は再び魔力を集中させる。

ふと朱乃の方を見ると、彼女の着ているジャージが段々と薄れていき、そこには立派な膨らみが・・・

 

「ぐへへへ・・・ふべぇ!?」

 

「集中乱れてっぞ。エロス一世」

 

見える前に、陸兎から手刀をくらい、頭を押さえながら悶絶する一誠。

 

「いててて・・・少しは加減しろよ・・・つか、八神は魔力の練習しないのかよ?」

 

「アホかテメェ。俺はそもそも人間だし、悪魔祓いでもねぇから魔力なんて使えねぇよ。代わりに、霊力なら使えるけどな」

 

そう言いながら、陸兎は指先に白い小さな霊力の塊を出現させた。

それを見ながら、一誠が陸兎に問い掛ける。

 

「前から気になってたけど、魔力と霊力ってどう違うんだ?」

 

「一番の違いは扱えることができる者がそれぞれ違うことです。人間は魔力が使えない代わりに霊力を、悪魔は霊力の代わりに魔力が使えますわ」

 

「へぇーそうなんですか。でも、どうして悪魔は霊力を使えないんですか?」

 

疑問に思う一誠を見た陸兎は小さい霊力の塊を一誠の額目掛けて投げた。

 

「!? いっでぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「霊力は異を滅する力。異形である悪魔が使えないのも当然だろ」

 

「あらあら、痛そうですわね」

 

「これでも小豆程度の霊力しか出してなかったから、精々肌が焼ける程度の痛みしか感じねぇだろうよ」

 

「そ、それで精々かよ・・・」

 

少量の霊力であるにも関わらず焼けるような痛みを感じ、額を押さえながら戦慄する一誠。

その後、額に感じる焼けるような痛みに耐えながら、一誠は魔力操作を再開するのであった。

 

 

 

 

レッスン3、小猫と組み手

 

「えい」

 

「ぐはぁ!」

 

小猫の拳が一誠の腹に直撃し、一誠は後ろにある木に衝突した。

 

「「弱・・・」」

 

小猫と陸兎の呟きが重なる。

 

「打撃は体の中心線を狙って的確かつ抉り込むように打つんです。次は陸兎先輩ですね」

 

「おう、かかってこいよ」

 

小猫が構えるのに対して、陸兎が特に構える様子もなく、お互い見つめ合う。

しばらくの間お互い見つめ合っていたが、先に仕掛けたのは小猫だった。

 

「行きます」

 

「っ!?」

 

以前よりも接近するスピードが上がり、陸兎は思わず小猫のパンチを正面から受け止めた。

 

「前よりも速くなってねぇか?」

 

「毎日あれだけ追いかけ回してたら、嫌でも攻撃するスピードが上がります」

 

そう言いながら、小猫は次々とパンチを繰り出していく。

だが、先程と違って陸兎はパンチを全て『神速』で避けていく。

 

「さっきは突然のことで驚いたが、そんな正面しか見えてねぇパンチに当たる程俺は弱くねぇぞ」

 

「くっ・・・!まだまだです」

 

顔に焦りが見えながらも小猫は強力なジャンピングキックを繰り出すも、陸兎はそれを難なく躱す。

しかし、陸兎の後ろは高さ十数メートルはあるであろう崖になっていた。キックの勢いで止まれなかった小猫は重力に従って下へ落下した。

 

「!? しまっ――!」

 

思いもよらない出来事に小猫は背中に翼を出すことも忘れ、崖の下に落ちていく。

その時、上から陸兎がやってきて、落ちていく小猫の体をお姫様抱っこのように受け止めた。

 

「フゥー、危ねぇ危ねぇ」

 

「にゃ!?」

 

空中でお姫様抱っこをされて、思わず猫の鳴き声のような声を上げる小猫。

そんな小猫をよそに、陸兎は宙に浮かび・・・いや、宙を蹴って空を飛び(・・・・・・・・・)、そのまま崖の近くの地面に着地した。

 

「おうおう、随分と猫みたいな声したな。いつの間に発情期の猫に転職したんだお前は」

 

「お、降ろしてください・・・」

 

「ハイハイ」

 

小猫は顔を赤らめながら陸兎に降ろされた。

すると、一部始終を見ていた一誠が羨望の表情で陸兎を睨んだ。

 

「お、おのれ八神!なんて羨ましいことを!」

 

「イッセー先輩、休憩はもう済んだみたいですね。それじゃあ、再開しましょうか」

 

「え?ちょ、どっちかっていうと、もうちょっと休憩したいなぁていうか・・・「えい」ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

お姫様抱っこされた差恥感のせいなのか、小猫の拳は心なしか先程よりもかなり強くなっていた。

その後、一誠の悲鳴が山に響き渡るのであった。

 

 

 

 

そして夜、一日の修行を終えたリアス達は夕飯を食べることになったのだが・・・

 

「なんで、飯のほとんどがジャガイモばっかなんだよ?」

 

出された料理が小吹芋やポテトサラダなど、ほとんどがジャガイモ料理であり、テーブル一面に埋め尽くされているジャガイモ料理の数々に陸兎はドン引きしていた。

 

「いや~部長に魔力を操作しながら料理を作れって言われたんだけど、思いのほか上手くいって、調子に乗ってたら、皮を剥きすぎちゃって・・・」

 

「どうせ、部長たちの裸体を想像して、皮を剝きながら発情してたんだろ?」

 

「変態ですね」

 

「ぐっ!?クソ、ほとんど間違ってないから、何も言い返せねぇ・・・」

 

陸兎と小猫の言葉に言い返せず、たじろぐ一誠。

そんな一誠にリアスが話しかける。

 

「イッセー、今日一日修行して、どうだったかしら?」

 

「俺が一番弱かったです。後、八神がめちゃくちゃやばかったです」

 

「そうね。陸兎に関しては私も同感だわ」

 

今日一日、陸兎の底知れぬ強さを間近で見て、顔を引きつらせながら共感するリアス。尚、当の本人はジャガイモ料理に舌鼓を打っており、こちらの話は聞いてなかった。

 

「イッセー、それとアーシア。強さはどうであれ、貴方たちの『赤龍帝の籠手』と回復力は貴重な戦力よ。相手もそれを理解してるだろうし、今回の修行で最低でも逃げる力だけはつけてほしいの。いいかしら?」

 

「「はい」」

 

二人の力強い返事に安心したリアスは、安心したかのように微笑むと、席を立ちながら喋った。

 

「さて、食事も終えたことだし、お風呂に入りましょうか」

 

「お風呂!?」

 

お風呂と言われて、興奮気味に反応する一誠。

 

「あら、イッセー。私たちの入浴してる所を覗きたいの?何なら一緒に入る?私は構わないわ」

 

いたずらっ子のような顔で一誠に話しながら、リアスは朱乃の方を見る。

 

「朱乃はどう?」

 

「うふふ、毎日陸兎君の背中を洗っていますし、たまにはイッセー君の背中を洗うのもいいですわね」

 

「・・・ちょっと、待ってください」

 

朱乃が放ったトンデモ爆弾に一誠が陸兎の方に目線を向ける。

目線を向けられた陸兎は「フッ」と軽く笑うと、一誠に向けて喋る。

 

「なぁ、イッセー。朱乃のおっぱいって・・・最高にイカしてるぜ(グッ)」

 

「チキショーーー!!」

 

親指を立てながら自慢してきた陸兎に、一誠は憤怒の叫び声を上げた。

嘆いている一誠をよそに、リアスはアーシアと小猫に問い掛ける。

 

「アーシアも愛しのイッセーと一緒なら大丈夫よね。小猫はどう?」

 

「嫌です」

 

「ですよね~」

 

即答だった。予想通りと言わんばかりに陸兎が口を開いた。

結局、混浴は無しで男女別に入ることとなった。



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夜中の男女の会話は愛の告白と勘違いする

最近、暑すぎて執筆が全然進まない・・・


翌日、リアス達はリビングに集まっていた。

ん?風呂の描写?何の取柄もないヘンテコな会話しかしてなかったためカット。

 

「その昔、我々悪魔と堕天使、そして神率いる天使は三つ巴の大きな戦争をしたの。結局、勝利も敗北も無く大戦は終結したけど、全ての勢力が大幅に減少したわ」

 

テーブルを囲いながら、リアスは悪魔の歴史について説明していた。

 

「悪魔は永遠に近い寿命を持つ代わりに出生率が物凄く低いの。大戦後は72柱と言われている純血の上級悪魔の家系のほとんどが絶滅したから、種そのものが絶滅の危機にあるの。これが悪魔が人間を転生させて眷属を増やす理由よ・・・私からの話はこれで終わり。次は陸兎、最強の退魔師である貴方の話を聞いてもいいかしら?」

 

話を終えたリアスがそう言うと、陸兎はめんどくさそうにため息を吐きながら席を立った。

 

「言っとくが、俺は一応人間側だ。いくら同盟結んだとはいえ、全部は話さねぇぞ?」

 

「構わないわ。陰陽師という組織がどういうものか知りたいだけよ」

 

そう言いながら、陸兎と入れ替わるように椅子に座るリアス。

陸兎はあからさまに面倒な顔で説明し始めた。

 

「まずは陰陽師について話すぞ。元を辿れば、今から遥か大昔に日本であやかし、一般で言う妖怪が多数見受けられるようになったんだ。あやかしは人間よりも優れた能力や妖術を使い、その気になれば人間をあっという間に支配できる力を持っていた。それで、支配されるのを恐れた当時のお偉いさん方があやかしを一匹残らず駆逐する為に作られた組織、それが陰陽師だ」

 

めんどくさそうな顔をしながらも、陸兎は真面目に説明する。

 

「陰陽師は基本的に異形の監視及び人間に害をなす異形の排除を目的としていてな。当然、陰陽師という一つの組織だけあって、それらには色んな役職があるが、今回は実際に現場に出て、異形を除霊する退魔師について紹介するぞ。まず、退魔師になるための絶対条件が霊力の高い人間、すなわちあやかしが見える人間だ」

 

「妖怪が見える人間?悪魔や堕天使は普通の人間でも見えるけど、妖怪は見えないのか?」

 

「あやかしは他の異形と違って、高い霊力を持ってるから、同じくらい霊力に敏感な奴じゃねぇと見ることはできねぇな。逆に魔力という霊力とは違った異能を持つ悪魔や堕天使は普通に見えるだろうし、悪魔祓いでも才能がある奴なら見えるかもな」

 

一誠の質問に答えながら陸兎の話は続いていく。

 

「退魔師は主に霊力を纏った武器や妖術を使って戦うが、神器や俺みたいに誓約神器を使う奴もいる。つか、十天師は全員、誓約神器持ちだし、十師族の退魔師にも神器や誓約神器持ちは何人かいると噂で聞いたことがある。後は・・・札だな」

 

「札?」

 

「あぁ、退魔師にとって欠かせない道具だ。札には種類によって様々な効果を持つモンがあるが、そうだな・・・この三つなら喋っても問題ないか」

 

そう言って、陸兎はズボンのポケットから三枚の札を取り出した。

 

「まず一つは霊力結界の札だ。こいつを発動させると、霊力の結界を辺りに張ることができる。んまぁ、こいつは標的を逃がさない時に使うし、結界なんざ悪魔やあやかしでも似たようなモンは使えるから、こいつの説明これで終了~」

 

説明しながら、『結界』と書かれた札をリアス達に見せる。

 

「二つ目は異形を捕縛する為の札だ。つっても、どんな感じなのか分かんねぇだろうし、実際に見た方が早いな。朱乃、ちょっと俺の前に来てくんねぇか?」

 

「はい・・・こうですか?」

 

陸兎の正面に朱乃が立つと、陸兎は朱乃に向けて『縛』と書かれた札を投げた。

その瞬間、札から大量の縄が飛び出し、朱乃に襲い掛かった。

朱乃は咄嗟の事に抵抗する暇もなく、自身の体を胸を強調した縛り方で縛り付けられて、バランスを崩して床に倒れた。

 

「ああぁ!?こ、これは・・・!いけませんわ~!」

 

縄をほどこうと必死にもがくが、縄は厳重に縛りつけられているうえ、無理にほどこうとすると縄が体に食い込む為、ほどくことができず、何故か恍惚の表情で床に転がる朱乃。

あまりにも破廉恥な光景にリアスとアーシアは顔を赤くし、木場は朱乃から顔を背け、小猫は嫌悪の眼差しで陸兎を睨んだ。

 

「ウオォーーー!!な、なんて夢のある札なんだ!!」

 

そして、予想通りと言うべきか、エロス一世は興奮気味に、縛られた朱乃をガン見していた。

そんな彼らの事を気にともせず、陸兎は説明を再開する。

 

「こんな感じに、霊力を含んだ縄で相手をエロい縛り方で捕縛するイケない札だ。これを作った奴はイッセー並みのエロスと欲望の塊を持った性犯罪者だったかもな」

 

「おい!どういう意味だ!?」

 

「そのまんまの意味だエロス一世。まぁ、俺はこの札は基本男には使わないけどな」

 

「え?なんでだよ?」

 

疑問符を浮かべた一誠に向けて陸兎はドヤ顔で言った。

 

「男の縛りプレイって誰得だよ(グッ)」

 

「確かに(グッ)」

 

両者、親指を立てながらドヤ顔で共感し合う。そんな二人を見て周りは苦笑いしていた。

陸兎は朱乃を縛っている縄をほどきながら三枚目の札の説明をする。尚、縄をほどいている最中に朱乃が残念そうな顔をしてたが、陸兎は見なかったことにした。

 

「最後は魔封じの札だ。この札には霊力が含まれていて、異形が触れたら、あらゆる魔力が使えなくなる代物だ」

 

「あらゆる魔力が使えないですって!?」

 

「応とも。試しに触ってみろよ」

 

陸兎に言われ、『封』と書かれた札を手に取るリアス。

触ってみたが、特に何の変化もなく、疑問符を浮かべるリアスに陸兎が言う。

 

「んじゃ、適当に魔力を出してみろ。心配すんな。どうせ、魔力は使えねぇんだから」

 

陸兎の言葉に、多少戸惑いはしたが、リアスは何もない場所に滅びの魔力を放とうとした瞬間、彼女は自身の体に焼けるような痛みを感じた。

 

「うっ!?な、何・・・!?魔力を出そうとしたら急に痛みが・・・!」 

 

「これがこの札の特徴だ。相手の異能に反応して、札に仕込まれている霊力がその異能を封じる。ついでに、霊力が札から溢れ出るから、この札に触れると、悪魔にとってかなり痛いと思うぜ。しかも、それだけじゃない。こいつは張った物にも影響されるんだ」

 

リアスに渡した札を返してもらったら、陸兎は一誠の方に寄り、彼が座っている椅子に札を張った途端

 

「!? うわぁちぃーーー!!?」

 

一誠は突如椅子から跳び上がり、尻を押さえながら床に転げまわった。

 

「こんな感じに、札を張った物にも霊力が纏われるってことだ。こいつは戦闘より魔除けの札として使われることが多いな。戦いでこいつを使う退魔師なんざ俺は見たことねぇ。以上が退魔師についての説明だ。悪いが、後は言えねぇからそれで満足してくれや」

 

「えぇ、十分よ。ありがとう」

 

説明をし終えた陸兎に礼を言いながら、リアスは椅子から立った。

 

「まぁ、中には異形は徹底的に排除するべきだっていう過激派も少なくはねぇ。寧ろ、退魔師の大半がそういう奴らだ。そいつらに馬鹿やらせない為に俺たち十天師が睨みを効かせているが、それでも馬鹿はいるモンだからな。お前らも、そういう奴らに会ったら気をつけろよ。下っ端ならまだしも、上級の退魔師はそこそこ実力はあるからな」

 

その言葉に顔を強張らせるグレモリー眷属。

そんな中、リアスが真剣な表情で陸兎に提案した。

 

「ねぇ、陸兎。貴方、悪魔に転生してみない?」

 

リアスの提案に、彼女の眷属たちは驚き、陸兎も目を丸くした。

リアスは駒を二つ取り出して陸兎に見せる。

 

「今の私の駒は『騎士』と『戦車』がそれぞれ一つずつあるわ。貴方ならどっちもいけると思うし、貴方くらいのレベルだと、上級悪魔になるのも夢じゃ――」

 

「悪いが、そいつは断らせてもらうぜ」

 

リアスが言い切る前に、陸兎はリアスの提案を断った。

 

「今の俺は、人間(こいつ)が気に入ってるんだ。人間は異形よりも圧倒的に寿命が短いし、悪魔や堕天使と違って特別な何かが何も無い。けどな、何も無いからこそ人間ってのは、その何かを見つける為にテメェの命を燃やして生きてるんだよ。そんな転生したら強くなっちゃったなろう系主人公みたいに強くなったところで何の喜びも達成感も感じねぇよ」

 

「そう・・・分かったわ」

 

納得したような顔でリアスが言うと、今度はアーシアに協会について説明を求め、アーシアは皆に協会や悪魔祓いについて説明するのであった。

 

 

 

 

修行開始から数日経ったある日の夜。

陸兎は定春と一緒に別荘の敷地を散歩していた。

 

「マジでスネ夫の家以上じゃねぇか。別荘だってのに、どんだけ敷地面積あるんだよ。剣夜と言い、部長と言い、金持ちってのは無駄使いが好きだよな~。お前もそう思うだろ?」

 

「ワン!」

 

「おぉそうか・・・ん?」

 

陸兎が何かに気づいて足を止めた。前を見ると、風呂上がりなのか着物を着た朱乃がこちらに向かって来た。

 

「あら?こんな夜中にお散歩ですか?」

 

「まぁな。お前も散歩か?こんな夜中に散歩なんて物好きな奴だな」

 

「うふふ、お互い様ですわ」

 

一言言い合いながら二人は定春の背中に座った。

 

「さっきは悪かったな。いくら俺がドSとはいえ、流石にあんなハードのプレイはやりすぎた」

 

「構いませんわ。寧ろ、あんなにも激しく縄が食い込んで刺激的でしたわ」

 

「・・・前から思ってたけど、お前って結局どっちなの?」

 

「どちらもいけますけど、ドSの方になら基本私はされるがままですわ。何なら、これから毎晩そのお札で私を縛りつけて、あんなことやこんなことを――」

 

「よし!この話はやめにしよう」

 

陸兎はドSではあるが、絵面がヤバいR18禁までのレベルには行かないように心掛けている。

別の話題に切り替えようとした時、朱乃が少し不安そうな表情で話してきた。

 

「後数日にライザー・フェニックスとのレーティングゲームが始まりますわね。陸兎君、今の私たちは勝てるでしょうか?イッセー君も最近は少し自信が無いみたいですし」

 

「そんな心配かよ。別に大丈夫だろ。ほれ、あれを見てみろ」

 

そう言いながら、陸兎は向こう側にあるテラスの方に指を差し、朱乃も陸兎が指差した方に目線を向ける。

そこにいたのは、向かい合って話している一誠とリアスだった。

 

「言っただろ、大丈夫だって」

 

「うふふ、そうですわね」

 

テラスで話している一誠とリアスの方を見ながら、二人は会話を弾ませていくのであった。

 

「朱乃先輩と陸兎先輩、こんな所で何の話をしてるんでしょう?」

 

「お二人共、とても楽しそうに話してらっしゃいますね」

 

「邪魔したら悪いかもしれないね」

 

そして、そんな二人を柱の影に隠れながら見ている小猫とアーシアと木場であった。

余談だが、この時陸兎は既に三人が覗き見していることに気づいており、朱乃と一通り会話した後、柱の影に隠れている三人の下に迫り、頭上に拳骨を食らわせるのであった。

 

 

 

 

その次の日、リアス達は別荘の平地へやって来た。目的は一誠の修行の成果を確認する為である。

 

「イッセー、『赤龍帝の籠手』を使いなさい。それで裕斗と戦ってみせるわ」

 

「はい、『赤龍帝の籠手』!」

 

一誠の叫び声に応じて『赤龍帝の籠手』が出現した。

 

「イッセー、今の貴方の限界まで強化しなさい」

 

Boost(ブースト)!」

 

Boost(ブースト)!』

 

一誠の叫び声と共に『赤龍帝の籠手』からマダオボイスが響き渡り、彼の体を一段階強化した。

その後、一誠は「Boost(ブースト)!」と叫びながら己を強化し続け、最大で12回も強化することができた。

 

「今までの貴方なら12回も強化はできなかった。これは貴方がちゃんと成長してる証よ」

 

「俺の・・・」

 

一誠は『赤龍帝の籠手』を見つめながら呟くと、木刀を持っている木場の方へ向いた。

 

「始め」

 

「行くぞ!『赤龍帝の籠手』!」

 

Explosion(エクスプロージョン)!』

 

強化が完了し、一誠は自身の体に力が溢れ出るのを感じた。

そんな一誠に木場が『騎士』のスピードで接近する。

 

「はぁーーー!」

 

「うっ!?うおっ!」

 

一誠は『赤龍帝の籠手』で木場の一撃を受け止めると、反撃に彼に向けて蹴りを入れたが、木場はそれを躱して後ろに下がる。

 

「イッセー、魔力の塊を打ちなさい!」

 

リアスに言われ、一誠は手のひらに魔力の塊を出現させる。

しかし、その魔力の塊は練習した時と変わらず小さいままだった。

 

「くっ!このぉーーー!!」

 

顔をしかめながらも、一誠は叫び声と共に魔力の塊を殴りつけた。

その瞬間、凄まじい魔力が木場の方へ放たれた。

 

「!?」

 

木場は驚きながらも、上に跳んで躱す。

しかし、木場が躱した巨大な魔力はあやかしの住処であろう山の方に向かっていた。

 

「おいおい、こりゃヤベーぞ・・・」

 

そう言いながら、陸兎は『洞爺刀』を出現させて、地面を大きく蹴って跳び上がる。更に空中でもう一度地面を蹴るような動作をすると、陸兎の体は加速し、魔力の前へ追いついた。

そして、一誠が放った巨大な魔力を正面から『洞爺刀』で斬り捨てた。

 

「まさかここまで成長するなんて驚きだわ。まぁ、それをいとも簡単に斬った陸兎も流石ね」

 

リアスが陸兎の方を見ると、陸兎はいつの間にかリアス達の所に戻っていた。

 

「いやー、危ねぇ危ねぇ。こんな事は北海道から沖縄までフルマラソンするくらい真似したくねぇな。それとイッセー、一応この山はあやかしの住処なんだから壊そうとすんなよ。運が良かったな。俺がいなかったら、お前はこの山に住んでるあやかしに呪殺されてたかもな」

 

「怖いこと言うなよ」

 

陸兎の言葉に顔を青くする一誠。

そんな彼らを見つめながら、リアスが木場に問う。

 

「裕斗、さっきのイッセーの攻撃はどうだった?」

 

「正直驚きました。あの一撃は上級悪魔クラスの一撃です」

 

そう言いながら、木場は木刀を見せると、木刀が二つに割れた。

 

「イッセー、それと陸兎。現段階で貴方たち二人は私たちの中で最高クラスの攻撃力を持っている。レーティングゲームは貴方たち二人が勝敗の要になると私は思っているわ。後は自分を信じなさい」

 

「自分を・・・はい、部長!」

 

「んまぁ、ボチボチやりますか」

 

リアスの言葉に一誠は元気よく返事し、陸兎は仕方ないといった感じで返した。

その後リアス達は、決戦当日になるまでひたすらに修行し、各自レベルアップしていくのであった。



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チェーンソーの扱いには気をつけろ

レーティングゲーム当日の深夜、部室に集まったリアス達はゲームが開始される時間になるまで待機していた。

皆が黙って待機する中で、陸兎は一人ソファーに座って寝息を立てていた。

すると、ソーナと椿姫、それと剣夜が部屋に入ってき、扉が開く音によって陸兎は目を覚めた。

 

「生徒会長と副会長、それに十門寺も。なんでここに?」

 

「レーティングゲームは両家の関係者に中継されるの。彼女はそれの中継係」

 

疑問符を浮かべた一誠にリアスが説明する。

 

「自ら志願したのです。リアスの初めてのゲームですから」

 

「ライバルに恥じない戦いを見せてあげるわ」

 

ソーナとリアスが会話してる横で、剣夜が陸兎に話しかける。

 

「やぁ、陸兎。調子はどうだい?」

 

「ふわぁ~、問題大ありだボケぇ。今何時だと思ってんだ。人間ならとっくにお眠の時間だぞ。夜勤料請求するぞ、給料もっと上げろ」

 

「うん、問題ないみたいだね」

 

いつも通りの陸兎に剣夜は笑顔で言った。

すると、部室に魔法陣が出現し、そこからグレイフィアが現れた。

 

「皆様、準備はよろしいですか?開始時間になりましたら、こちらの魔法陣から戦闘用フィールドに転移されます」

 

「転送用フィールド?」

 

グレイフィアの言葉に疑問を述べる一誠。

そんな一誠の疑問に、朱乃が答える。

 

「ゲーム用に作られる異空間ですわ。使い捨ての空間ですから、どんなに派手な事をしても大丈夫」

 

そう言って「うふふ」と微笑む朱乃を一誠は引き気味に見ていた。

 

「私は中継所の生徒会室に戻ります。武運を祈っていますよリアス」

 

「それでは皆さん、ご武運を。それと陸兎が何かやらかしたら、ゲーム終了後すぐ僕に言ってください」

 

「お前はオカンか、チートイケメン」

 

陸兎の文句を聞きながら、剣夜たちは部室を出た。

その直後にグレイフィアが口を開く。

 

「それと今回の戦いには魔王ルシファー様もご覧になられます」

 

「そう、お兄様が・・・」

 

「え?お兄様!?部長のお兄さんって魔王なんですか!?」

 

驚く一誠の横で木場が説明する。

 

「『紅髪の魔王(クリムゾン・サタン)』ことサーゼクス・ルシファー。サーゼクス様は大戦で亡くなられた前魔王ルシファー様の後を継いで魔王になったんだよ」

 

「それで部長さんがグレモリー家の後継ぎに・・・」

 

アーシアが呟く横で陸兎はぶつぶつと呟いてた。

 

「魔王ねぇ・・・まぁ、悪魔と言ったら定番中の定番だな。レベルは50くらいありゃ倒せるか?パーティー編成はそうだな・・・勇者は勿論だが、攻撃枠にバトルマスターか魔法戦士、それと回復要因に賢者を入れて――」

 

「いや、そんなドラクエみたいなRPG要素で簡単に倒せるわけないでしょう。ていうか、倒したらダメでしょうが」

 

魔王討伐計画をRPG風に立てている陸兎にリアスがツッコんだ。

無論、これは陸兎の冗談であり、「冗談、冗談」と陸兎が言うと、グレイフィアは「はぁ~」とため息を吐くと、リアス達に向けて言った。

 

「そろそろ時間です」

 

「分かったわ。行きましょう」

 

グレイフィアに言われ、リアス達は魔法陣の中に入る。

すると、魔法陣が光り輝き、リアス達はバトルフィールドへ転移された。

 

 

 

 

目を開いた一誠が最初に見せたのは困惑の表情だった。その理由は目を開いた先に見えた景色が先程と変わらず部室だったからである。

 

「まさか転移失敗・・・?」

 

何度か自分の未熟さのせいで転移できないことがあり、今回もまた自分のせいで部員全員がバトルフィールドに転移できなかったと思い込み顔を青くする一誠。

しかし、その心配は部室に響いた声によって杞憂に終わった。

 

『皆様、今回のレーティングゲームで審判を務めさせていただきますグレモリー家の使用人グレイフィアでございます』

 

校内放送のように流れているグレイフィアの声が部室に響く。

 

『今回のバトルフィールドはリアス様とライザー様のご意見を参考にし、リアス様が通う駒王学園のレプリカを用意しました』

 

「レプリカ?」

 

「外をご覧なさい」

 

リアスに言われ、カーテンを開ける一誠。

すると、外の景色は見慣れた暗い夜の空ではなく、オーロラが漂う神秘的な空。そして体育館や新校舎などの建物、その周りにある木の位置まで丁寧に再現されていた。

驚く一誠とアーシアに木場と朱乃が説明する。

 

「ここは異空間なんだ」

 

「そこに学校をそのまま再現したのですわ」

 

「へぇー、異空間を作るのはまだしも、建物まで再現しやがるとはな」

 

「悪魔の技術力ってどんだけ凄まじいんだよ」

 

駒王学園の建物まで細かく作り上げた悪魔の技術力に陸兎と一誠は感心した。

 

『両陣営、転移された先が本陣となります。リアス様の本陣は旧校舎のオカルト研究部の部室、ライザー様の本陣が新校舎の学長室。相手の本陣に『兵士』が侵入を果たせばプロモーションが可能になります。それでは、ゲームスタートです』

 

ゴーン、ゴーン

 

グレイフィアの説明が終えて、レーティングゲーム開始の鐘が異空間に響いた。

 

「陸兎先輩、これを」

 

小猫はピンク色の玉を陸兎に渡した。

 

「これを耳に入れてください。それで遠くにいる相手と話しができます」

 

「なるほど、現世で言う通信機みたいなモンか」

 

小猫の説明を聞いて、陸兎は通信機を耳に入れた。

その横でリアスが駒王学園の地図を取り出し、机に広げた。

 

「敵本陣は新校舎、校庭を突っ切るのが一番早いんだけど・・・」

 

学園の地図を見ながら、リアスは作戦を立てる。朱乃、木場、小猫の三人も加わり、作戦会議は本格的に進んでいく。

そして、その様子を見守る陸兎と一誠とアーシアの三人。

 

「戦うって難しいんですね」

 

「あぁ、そうだな。ところで、八神は作戦会議に参加しないのか?」

 

「俺はこういうのは向いてねぇからな。こそこそ作戦を立てるのは剣夜の役目で、俺はどっちかというと、敵本陣で暴れまくる戦車スタイルだ」

 

「な、なるほど・・・随分と個性的なんだな」

 

一誠が引き気味に納得すると、リアスが全員に向けて命令する。

 

「まずは防衛ラインの確保よ。裕斗と小猫は森にトラップを仕掛けてちょうだい。朱乃はトラップが設置したら森周辺に幻術を掛けておいて」

 

「俺はどうすんだ?」

 

リアスが眷属たちに命令する中で陸兎が己の役割を問う。

 

「そうね・・・貴方はトラップを仕掛け終えるまで朱乃の護衛をしてもらえるかしら。いつどこでライザーの眷属が潜んでいるのか分からないしね。その後は小猫と一緒に体育館の制圧に動いてちょうだい」

 

「りょーかい。そんじゃ、さっさと行こうぜ」

 

「そうだね。それでは部長、先に行って参ります」

 

「エスコート、よろしくお願いしますね。陸兎君」

 

そう言いながら、陸兎たちはそれぞれ行動に移すべく、部室から出ていった。

部室に残ったのはリアスと一誠とアーシアの三人。一誠が少し困ったような顔でリアスに問う。

 

「あのー部長、俺たちはどうすればいいですか?」

 

「アーシアは私とここに残ってちょうだい。回復サポート要因の貴方が倒れたら元も子も無いわ。イッセーはそうね・・・」

 

リアスはしばらく考えた後、ソファーに座ると、一誠に向けて命令した。

 

「貴方はここで横になりなさい」

 

「え"ぇ?」

 

思いもよらなかったリアスの命令に一誠はマヌケな声を上げた。

その後、一誠は膝枕という名の悪魔の力の封印を解く儀式を行い、憧れの部長の膝枕に一誠は終始嫌な笑みを浮かべていた。そして、そんな一誠とリアスをアーシアはほっぺを膨らませながら羨ましそうに見るのであった。

 

 

 

 

一方、中継所の生徒会室ではソーナと椿姫と剣夜の三人が現在の様子を中継で見ていた。

 

「リアス様が動きましたね」

 

「駒が不足している分、完全に本陣を固めるのは不可能。となると、速攻で推していくしかないですね」

 

椿姫とソーナが現在の戦況について話していると、ソーナが剣夜に話しかける。

 

「剣夜、貴方はどう思う?」

 

「そうだね・・・確かに、今のグレモリー眷属が勝つには短期決戦が望ましい。こちらのスタミナが切れる前に一気に『(キング)』を取ることが重要かもしれないけど、ただ取ろうとするだけでは勝てないと僕は思うな」

 

それはソーナ達も分かりきっていることだ。戦略も無しに闇雲に特攻するだけでは王は落とせない。

二人に目線を向けながら、剣夜は自分の考えを言う。

 

「グレモリー眷属が勝つ為の一番の勝利の決め手は、こちらの強い駒が如何に早く相手の駒を倒せるかだね」

 

「早く倒すこと?確かに、相手の駒を早めに落とせば、その分リアス達は有利になるけど、どうしてそれが一番の決め手なのかしら?」

 

「いくら相手の駒を倒しても、向こうの『王』がグレモリー眷属側の『王』を倒してしまえば、その時点で負けだからね」

 

「・・・まるでリアスがライザー・フェニックスより弱いって言い方ね」

 

剣夜の言いたい事はこうだ。速やかにフェニックス眷属を駒を落とさなければ、グレモリー眷属がフェニックス眷属と戦っている間に、ライザーがリアスを倒してしまうことがあるということだ。

ソーナ自身もその可能性については考えていたが、言外に親友がライザーより弱いと言われ、剣夜を睨んだ。

 

「誤解をしたのなら謝るよ。これはあくまで僕の主観的な考えだし、勝負なんて戦ってみないと分からないものだよ。でも、僕がリアス・グレモリーの立ち位置なら、この方法を使うよ。少ない駒であろうと、工夫すれば全ての駒は倒せるし、少ない駒だからこそ、いくらでも工夫のし甲斐がある。一番は、こちらの『王』が取られる前に相手の駒を全滅させること。後は全ての駒をこちら側に集めて、確実に相手の『王』を取る。これが今のグレモリー眷属が取れる最善の策だと僕は思うな」

 

剣夜の説明を聞いて、一応は納得したソーナ。その隣で今度は椿姫が口を開く。

 

「ですが、眷属が5人しかいないリアス様に対して、ライザー様の眷属はフルの15人。相手の駒を如何に早く全滅させるのが決め手だと剣夜君は言いますが、この数では相手の駒を素早く倒すのは愚か、全滅させることすら難しいと思われます」

 

「そうだね。でも、これはレーティングゲーム。いくら駒が多くても、その駒一つ一つに相手の駒を倒せる強さがあれば、いくらでもやりようはある。何より・・・」

 

剣夜は少し間をおいてから二人に向かって言った。

 

「今回のグレモリー眷属には『女王』よりも更に厄介な駒が一つだけあるからね・・・」

 

そう言いながら、剣夜はモニターに映っている友の姿を見つめた。

彼は今、グレモリー眷属の『兵士』と『戦車』と一緒に体育館へと入っていった。その姿を見て、剣夜はモニター越しに呟く。

 

「陸兎・・・君はどう動くんだい?」

 

 

 

 

陸兎、一誠、小猫の三人はリアスの命令に従い、体育館へやって来た。

体育館に入り、ステージ裏に身を潜めた所で足を止める。

 

「・・・いやがるな」

 

「はい・・・気配からして四人です」

 

「そこにいるのは分かっているわよ。グレモリーの下僕さん達!」

 

体育館の中から声が聞こえ、隠れるのは無意味だと悟った陸兎たちはステージ裏から堂々と姿を現した。

ステージから見下ろした陸兎たちの視線に映ったのは、チャイナ服を着た少女と双子と思われる小柄な少女たち、それと先日一誠を棍で突き飛ばそうとした少女ミラだった。

 

「敵は四人か」

 

「はい、見た感じ『兵士』が三人に『戦車』が一人。特にあの『戦車』、かなりレベルが高いです。単純な戦闘力なら『女王』レベルです」

 

「マジかよ。まぁ、こっちの不利は分かってたことだ。やるしかねぇ」

 

そう言って、一誠は『赤龍帝の籠手』を出現させた。

 

「私は『戦車』を相手します。『兵士』は陸兎先輩とイッセー先輩に任せます」

 

「なら、俺はあの双子っぽい奴らを相手してやるよ。イッセーはあの青髪にこの間の借りを返してやんな」

 

「オッケー。んじゃ、行こうぜ!」

 

それぞれ戦う相手が決まったところで、陸兎たちは一斉に動いた。

一誠たちがそれぞれ戦う相手に攻撃を仕掛ける中で、陸兎は『洞爺刀』を出現させて、双子目掛けて振り下ろす。

双子はそれを後ろに跳んで躱すと、懐からチェーンソーを取り出して、陸兎に振り下ろした。

 

「「バーラバラ!バーラバラ!」」

 

「うおっ!?」

 

思いもよらなかった武器に驚きながらも、『洞爺刀』で防いだ陸兎だが

 

「ぐっ!はじかれる・・・!?」

 

チェーンソーの凄まじい回転刃は『洞爺刀』の刃をはじき、陸兎は二撃目が来る前に何とか後ろに下がると、双子に向かって大声で叫んだ。

 

「コラッ小娘共!そいつは草を刈る為の道具だぞ!それを躊躇なく人に向けんじゃねぇ!」

 

「何わけ分かんないこといってるんですか!」

 

「さっさとバラバラになってください!」

 

物騒な事を言いながらチェーンソーを振り回してくる双子に文句を言う陸兎だが、双子は何食わぬ顔でチェンソーを振り回す。

 

「たく、今どきジェイソンの真似事(※ジェイソンはチェーンソーを使いません)をする小娘がいるとはなぁ。しょっちゅう人に銃を突き付ける麗奈と言い、しょっちゅう人に釘バットを振り回す真紀と言い、最近の小娘は随分アグレッシブだなおい」

 

文句を言いつつも、双子が振るうチェーンソーを次々と躱す陸兎。

 

「あぁもう!しつこい!」

 

「さっさとバラバラになってくださーい!」

 

「さっきから、バラバラバラバラ人に向けて適当にチェーンソー振り回しやがって。チェンソーマンの世界の人間かよテメェら・・・」

 

ぶつぶつと呟きながら、陸兎はチェーンソーを振り上げながらこちらに向かって跳んできた双子に向けて、叫びながら『洞爺刀』を振った。

 

「とっとと、チェンソーマンの世界に帰りやがれ小娘共!!」

 

「「きゃーーー!!」」

 

霊力は纏ってなかったため、双子の体が真っ二つになることはなかったが、『洞爺刀』を振った勢いとその風圧は凄まじく、小柄な双子の体を体育館の壁まで吹き飛ばした。

 

「やるな八神!俺も負けてらんねぇぜ!」

 

そう言いながら、一誠はミラの棍棒を『赤龍帝の籠手』で防ぐと、反対の方の拳で棍棒を砕く。

そして、棍棒を砕かれて驚くミラの隙をついて、彼女の右肩に手を触れた。

 

「バラバラになれ!これが俺の必殺技!『洋服破壊(ドレス・ブレイク)』!」

 

一誠が指を鳴らした途端、ミラの着ていた服が下着ごと弾け飛んだ。

 

「イヤーーーーーー!!」

 

服が弾け飛び、全身真っ裸になったミラはその場に蹲って悲鳴を上げた。

 

「フハハハハ!!脳内で女の子の服を消し飛ばすイメージ永遠と妄想し続けて、俺は持てる魔力の才能を全て女の子を裸にする為に使い切ったんだ!これぞ俺の必殺技!『洋服破壊』だ!」

 

この原作ハイスクールD×Dの主人公とは思えない最低最悪な行為に、ライザーの眷属は全員汚物を見るような目で一誠を睨み、更には仲間であるはずの陸兎と小猫すら同様の視線を一誠に向けた。

 

「最低最悪の攻撃ですね」

 

「全くだ。とてもじゃねぇが、主人公がする攻撃じゃねぇな」

 

「あんな主人公、ジャンプにいたら炎上ものですね」

 

「あんなのと同列にされたら、炭治郎やデクに失礼だな」

 

「お前ら言いたい放題だな!」

 

言いたい放題の二人に一誠はツッコんだ。

その時、三人の通信機からリアスの声が聞こえてきた。

 

『三人共、聞こえる?朱乃の準備ができたわ。速やかに体育館から出てちょうだい』

 

「っ!?分かりました」

 

リアスの指示に従い、三人は体育館の出口へ向かう。

 

「逃げる気!?重要拠点を捨てるつもりか!?」

 

後ろからチャイナ服を着た『戦車』の声が聞こえたが、三人は速やかに体育館から出た。

その瞬間、体育館に巨大な雷が落ち、その雷は体育館を破壊した。

 

『ライザー様の『兵士』三名、『戦車』一名戦闘不能』

 

グレイフィアの放送が聞こえる中、陸兎たちは上を見上げる。

そこには、巫女服を着た朱乃がいた。

 

「朱乃先輩の通り名は『雷の巫女』その力は知る人ぞ知る存在だそうです」

 

見上げる陸兎と一誠の横で小猫が説明する。先程の雷は彼女が仕掛けたものだった。

顔を赤らめながら自身が破壊した体育館を見下ろす朱乃を見つめていると、通信機から再びリアスが話しかけてきた。

 

『まだ、相手の方が数は上よ。朱乃の魔力が回復次第、私達も前に出るわ。それまでに各自、次の作戦に向けて行動してちょうだい』

 

「はい、えっと・・・次の作戦は・・・」

 

「裕斗先輩とグラウンドで合流して、一気に相手を殲滅します」

 

小猫が次の作戦について一誠に説明する。

 

「そうか。なら、さっさと木場と合流するか。行こうぜ、八神、小猫ちゃん」

 

「触れないでください」

 

小猫の手をつなごうとした一誠だったが、先程の『洋服破壊』のせいか、小猫に拒絶された。

 

「だ、大丈夫だよ。味方に使うわけないだろ」

 

「それでも、最低な技です」

 

そう言いながら、小猫はグラウンドへ向かって歩き出した。

その後ろ姿を見ながら、一誠は頬を指で搔きながら困ったような顔で喋った。

 

「完全に嫌われちゃったかな・・・?」

 

「いっそ、全世界の女子から嫌われろ汚物」

 

「ひでぇ言われよう!?気持ちは分からなくないけどさ!」

 

横でぎゃーぎゃー言っている一誠を無視して、陸兎は小猫を追いかけようとしたその時

 

「!? 避けろ小猫!」

 

「え?」

 

陸兎が突如大声で叫び、小猫が振り向いて反応したその時

 

ズドーン!!

 

小猫がいた場所に突如巨大な爆発が起きた。

 

「ちっ!遅かったか!」

 

「小猫ちゃん!」

 

陸兎と一誠がすぐさま爆発に巻き込まれた小猫の下へ駆け寄る。

陸兎たちが近づいた時には煙が晴れて、小猫の姿が見えたが、小猫はボロボロの状態で倒れていた。

 

「小猫ちゃん!しっかりするんだ!」

 

「うぅ・・・すみません、もっと部長のお役に立ちたかっ――あぁ!」

 

その言葉を最後に小猫の体は光り輝き、やがて淡い光と共に消滅した。

小猫のリタイアに一誠は悔しそうに俯き、陸兎は上を見上げて爆発を起こしたと思われる人物を睨む。

 

「うふふ、まずは一人目」

 

そこにはライザー・フェニックスの『女王』ユーベルーナが不敵な笑みを浮かべながら、こちらを見下ろしていた。



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気持ちの強さだけでは物事は上手くいかない

「ライザーの『女王』か!?」

 

一誠が空中に浮かんでいるユーベルーナを見上げながら叫ぶ。

 

「よくも小猫ちゃんを!降りてきやがれ!俺が相手だ!」

 

「落ち着けイッセー。一時の感情で動いて、状況が更に不利になったらどうすんだ?」

 

『陸兎の言う通りよ。戦闘不能になった者は別の空間に転送されるだけで、別に小猫が死んだわけではないわ。冷静になりなさい』

 

小猫を倒したユーベルーナに怒りを露わにする一誠だが、陸兎とリアスに落ち着くよう諭される。

そこに先程体育館を破壊した朱乃がやって来て、ユーベルーナと一誠の間に入った。

 

「お二人共、ここは私に任せて先へお行きなさい。私が全身全霊を持って小猫ちゃんの敵を取りますわ」

 

「一度貴方と戦ってみたかったの。『雷の巫女』」

 

「あらあら、それは光栄ですわ。『爆弾王妃(ボムクイーン)』さん」

 

お互いオーラを纏わせながら睨み合う朱乃とユーベルーナ。

その様子を啞然と見上げる一誠に、陸兎が肩を置いて話しかける。

 

「・・・行くぞイッセー。小猫の犠牲を無駄にすんな」

 

「くっ!・・・分かりました」

 

ユーベルーナを朱乃に任せることにした二人は、グラウンドに向けて走った。

その途中、グレイフィアの放送が聞こえてきた。

 

『ライザー様の『兵士』三名戦闘不能』

 

「向こうの『兵士』が倒された・・・木場がやったのか?」

 

「らしいな。っ!?止まれ!」

 

走っていた陸兎だが、倉庫の影から気配を感じ、足を止める。

すると、倉庫の影から木場が現れた。

 

「そっちは上手くいったみたいだな」

 

「まぁね。陸兎君たちは・・・そうでもないみたいだね」

 

小猫がリタイアしたのは木場も知っている。三人は一旦倉庫の中に入って作戦を立てることにした。

 

「小猫ちゃんの件は無念だよ。普段はあまり感情を表に出さないけど、これでも結構張り切ってたからね」

 

「そうなのか・・・木場、八神、絶対に勝とうぜ」

 

「勿論」

 

「当然だろ」

 

倉庫の中で、必ずゲームに勝利することを三人で誓い合っていると、通信機からリアスの声が聞こえた。

 

『聞こえる三人共、私はアーシアと本陣へ奇襲するわ。その間、できる限り敵を引きつけて時間を稼いでくれる』

 

「奇襲!?」

 

リアスの立てた作戦に驚きの声を上げる一誠。

 

『朱乃の魔力が回復するまで待機する予定だったけど、相手が『女王』を前に出した以上、やむを得ないわ』

 

「しかし部長、『王』が本陣に赴くなんて、リスクが高すぎます」

 

『それは相手も承知の上よ。いくらフェニックスの肉体が不死身でも、心まではそうじゃない。相手の戦意を失うまで攻撃を加えれば・・・』

 

「心が不死身じゃないのはあんたも同じだろ」

 

陸兎のその言葉にリアスは口を止める。

 

「あのボーボボ擬きがどれだけ強ぇかはよく分かんねぇが、ヤローが部長より強くて、先に部長がリタイアしたらどうすんだよ」

 

『・・・勿論、私一人ではライザーに敵わない可能性だって考えているわ。だから、残りの駒を全て片付けたら、すぐにこっちと合流してちょうだい。後は全員でライザーを倒してチェックメイトよ』

 

「ちょっくら、考えが甘すぎる気もするが・・・りょーかい。今回の指揮官は部長だ。今はあんたの命令に従ってやるよ」

 

リアスの作戦を聞いて、渋々納得した陸兎。

三人は作戦を実行するべく、倉庫を出て、グラウンドへ辿り着く。

 

「やい!ここにいるのは分かってんだ!正々堂々勝負しやがれ!」

 

一誠がグラウンド響く大声でライザーの眷属を挑発する。

すると、グラウンドが霧に包まれた。しばらくして霧が晴れて、そこから現れたのは、頭に布を巻いた甲冑を着ている少女だった。

 

「私はライザー様に仕える『騎士』カーラマインだ。堂々と真っ正面から出てくるとは、正気の沙汰とは思えんが、私はお前らのような馬鹿は大好きだ」

 

「僕はリアス様に仕える『騎士』木場裕斗。『騎士』同士の戦い、待ち望んでいたよ」

 

フェニックス眷属の『騎士』の登場に、同じ『騎士』である木場が前に出る。

 

「良くぞ言った。リアス・グレモリーの『騎士』よ!」

 

お互いに剣を構えた二人は、そのまま素早い速さで剣戟を繰り広げた。

 

「スッゲー・・・つか、これ俺らの出番無くね?」

 

「そうでもねぇぞイッセー、見ろ」

 

『騎士』同士の戦闘に圧倒されている一誠の横で、陸兎はグラウンドを見渡す。

すると、グラウンドの隅から次々と少女たちが姿を現し、二人に近づいてきた。

 

「カーラマインったら、頭の中まで剣で埋め尽くされているんですもの。どんくさいったらありはしませんわ。しかも、せっかく可愛い子を見つけたと思ったら、そちらも剣バカだったなんて・・・全く、ついてませんわ」

 

独特なツインテールをした金髪の少女が代表して陸兎たちの前に出て喋った。

 

「おうおう、残りの皆さん全員集合ってか。随分と張り切ってんな」

 

陸兎が眷属全員の登場に呟く中、金髪の少女は二人をまじまじと見つめていた。

 

「それにしても・・・そちらの銀髪の方は見た目はマシみたいですけど、そっちの方は見た目も中身も悪そうですわね」

 

「分かってんじゃねか。こいつは年中おっぱいとエロしか考えてない、頭から体まで全てエロでできてる全女子の敵ことエロス一世だ。それを一目見ただけで見抜くとは・・・貴様できるな」

 

「売ったな、今絶対喧嘩売っただろイケメンゴラァ」

 

さり気なく一誠を侮蔑している陸兎に、拳をプルプルと震わせながらキレる一誠。

その時、仮面を被った女性が一誠に殴り掛かった。

 

「うわっ!?」

 

「私はイザベラ。ライザー様にお仕えする『戦車』。行くぞ、リアス・グレモリーの『兵士』よ!」

 

そう言うと、イザベラは再び一誠に殴り掛かり、そのまま戦闘となった。

残った陸兎は金髪の少女に話しかける。

 

「んで、俺の相手はお前らか?」

 

「ごめんあそばせ、(わたくし)は戦いませんの」

 

「あぁ?」

 

少女の言葉に疑問を浮かべる陸兎。

すると、二人の会話を聞いていたのか、イザベラが一誠と戦いながら答えた。

 

「あの方はライザー様の妹君、レイヴェル・フェニックス。『僧侶』としてゲームに参加しているが、実際は観戦しているだけだ」

 

「そう言うわけですので、私の代わりにこちらのニィ、リィが相手して差し上げますわ。二対一になりますけど悪く思わないでいただきますわ。これはお遊びではなくレーティングゲームですので」

 

「関係ねぇよ。相手が二人だろうが、十人だろうが、俺のやるべき事は変わらねぇよ」

 

二対一という不利な状況でも、陸兎は文句を言うことなく、手元に『洞爺刀』を出現させて構える。

 

「悪ぃが、うちの馬鹿部長が、今からそっちの『王』に挑むみてぇなんだ。さっさと援護に行きてぇから・・・すぐに終わらせるぞ」

 

「随分と威勢がいいですわね。ですが、たかが人間相手にこれだけの相手が務まるとも?」

 

小馬鹿にしてるかのような顔で言うレイヴェルに対し、陸兎は表情を変えることなく喋る。

 

「一つ訂正させてもらうが、俺はたかがじゃねぇ。護るべきモンを護り、テメェの道をテメェの剣で切り開く侍だ。それと、あんまり他人を見下す発言はしねぇ方がいいぞ。そのたかがに負けたとなりゃ、恥ずかしくて表にも出歩けなくなるぜ」

 

「言ってくれますわね・・・ニィ、リィ、やってしまいなさい!」

 

レイヴェルが隣にいた『兵士』二人にそう命令すると、『兵士』の二人は陸兎に襲い掛かった。

対する陸兎は、普段のだらけきった目を鋭くさせ、両腕を動かして何らかの構えを取る。

 

「その目ん玉でしっかり見やがれ。鬼をも斬り殺すことができる侍の剣を・・・!」

 

明らかに強くなった陸兎のプレッシャーに怯みつつも、『兵士』二人は左右から陸兎に攻撃を仕掛ける。

そして、『兵士』二人の拳が陸兎に当たろうとしたその時、『洞爺刀』が猛威を振るった。

 

「夜叉神流!本来なら二刀だが、今は一刀!『鬼嵐(おにあらし)』!」

 

『洞爺刀』と陸兎の左腕が勢いよく振られた途端、その刃風は瞬く間に竜巻となった。

 

「「ニャーーーーーー!!」」

 

「きゃーーーーーー!!」

 

荒れ狂う斬撃の竜巻は『兵士』の二人を飲み込み、更に、和服を着た『僧侶』も巻き添えにした。

竜巻に巻き上げられた三人は、そのまま地面に落下し、光となって消えた。

 

「そ、そんな・・・!人間相手に一気に三人もやられるなんて・・・!?」

 

あっという間に三人を倒した陸兎に戦慄するレイヴェル。

 

「うわぁーーーーーー!!」

 

その直後、女性の悲鳴が聞こえ、振り向くと、一誠がイザベラを倒していた。

 

『ライザー様の『兵士』二名、『僧侶』一名、『戦車』一名戦闘不能』

 

グレイフィアの放送がフィールドに響く。

眷属が一気に四人もやられた事に啞然とするレイヴェル。そんな彼女に陸兎が話し掛ける。

 

「一つ聞きてぇんだけどよ。この世界で人間のオリ主が必殺技も無しに、己の体と刀一本で戦うって無理があるんじゃね?そりゃ、銀魂の世界の奴らは必殺技とか特に無くて、刀一本で天人とハイスペックな戦闘ができるけどよ」

 

「? 意味が分かりませんわ?」

 

「でもさぁ、ハイスクールD×Dって言う天人よりもヤベー異形がわんさかいる世界で、悪魔ならまだしも人間のオリ主が必殺技の一つや二つ持ってないと、絶対に大した活躍ができねぇだろ?」

 

「だから、貴方は一体何をおっしゃっておりますの!?」

 

メタい発言をする陸兎に、訳分からんといった顔でツッコミを入れるレイヴェル。

 

ドーン!

 

その直後、新校舎の屋上が爆発した。

 

「部長!?」

 

『大丈夫。今、ライザーと交戦中よ。私のことよりも、今は目の前の敵に集中しなさい。このリアス・グレモリーの下僕の力、見せつけておやりなさい!』

 

自身を心配する一誠に対し、リアスは自分の事より、目の前の敵に一誠の力を見せつけてやれと力強く命令した。

その思いに応えるべく、一誠は『赤龍帝の籠手』を構える。

 

「そうだ・・・俺は部長の下僕。赤い龍帝さんよ、俺に力を貸してくれ。部長の思いに応えるために・・・あいつらをぶっ倒す力を!」

 

DragonBoosterSecondLiberation(ドラゴンブースターセカンドリベレーション)!』

 

一誠の思いに応えるかのように『赤龍帝の籠手』が形を変えた。

しばらくの間、形が変わった『赤龍帝の籠手』を見つめていた一誠は、木場と陸兎に向けて叫ぶ。

 

「木場!お前の神器を解放しろ!八神はグラウンドから離れてくれ!」

 

「解放・・・分かった。『魔剣創造(ソード・バース)』!」

 

「うわー、なんかヤバそうな予感」

 

一誠の言葉と己の勘が働き、陸兎は速やかにグラウンドから離れた。

その間に、木場は自身の神器『魔剣創造(ソード・バース)』の力を解放し、地面に剣を突き立てると、『魔剣創造』の力が地面を突き進み、一誠の下へ迫る。

一誠はその力が自身の足元に近づくと、地面を『赤龍帝の籠手』で殴りつけ、『魔剣創造』の力を受け取った。

 

Transfer(トランスファー)!』

 

その直後、グラウンドの地面から無数の魔剣が生えてき、ライザーの眷属たちを襲った。

 

「きゃーーーーーー!!」

 

「あぁーーーーーー!!」

 

「私の・・・負けだ・・・」

 

無数の魔剣はレイヴェルを吹き飛ばし、体に突き刺さった『騎士』二人を戦闘不能にさせた。

 

『ライザー様の『騎士』二名戦闘不能』

 

「あの金髪はギリギリ助かったみてぇだな」

 

グレイフィアの放送を聞いて、レイヴェルは戦闘不能にならなかったと悟った陸兎だったが、どのみち戦わないのなら追撃の必要はないと考え、一誠の下に駆け寄る。

 

「随分派手に暴れたなイッセー」

 

「おう!これが『赤龍帝の籠手』の新たな力、『赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)』だ!」

 

新たな力を手に入れた一誠は、陸兎に向かって叫んだ。

 

ドカーン!

 

その直後、体育館から巨大な爆発音が聞こえ、陸兎たち三人は、驚きながら爆発がした方へ振り向く。

 

「あ、朱乃さん!?」

 

そこには、ボロボロになりながら下に落ちていく朱乃の姿が見えた。落ちていく朱乃は地面に体が付く前に光となって消えた。

戦闘不能になった朱乃を呆然と見つめる三人。

その時、三人の足元に魔法陣が置かれた。

 

「!? 離れろ二人共!」

 

いち早く気づいた陸兎が二人に向かって叫ぶ。木場は咄嗟に動いたが、反応が遅れた一誠は陸兎に襟首を掴まれて魔法陣から離れる。

その直後、三人がいた場所に巨大な爆発が起きた。

陸兎は爆発が起きる前に『神速』で爆心地から素早く離れ、一誠も陸兎に襟首を掴まれながら離れた為ダメージは無かった。

 

「がっ!」

 

「木場!」

 

だが、逃げ遅れた木場は爆撃をもろに食らい、そのまま戦闘不能になった。

 

『リアス様の『女王』一名、『騎士』一名戦闘不能』

 

「またテメェかよ・・・ミス紫」

 

グレイフィアの放送が聞こえる中、陸兎は鬱陶しそうに上を見上げる。

そこにいたのは、朱乃と戦っていたはずのユーベルーナだった。

 

「テメェ!朱乃さんと戦ってたんじゃねぇのか!?」

 

「えぇ、戦ってたわよ。流石は『雷の巫女』と言うだけあって、中々手強かったけど、これのお陰で逆転できたわ」

 

一誠の疑問に答えるかのように、ユーベルーナは一本の小瓶を見せた。

 

「これは『フェニックスの涙』。如何なる傷も一瞬で直すことができるフェニックス家の秘宝よ」

 

「なっ!?そんなのありかよ!」

 

「ゲームでの使用は二つまで許されているわ。フフフフフ、これで形成逆転ね」

 

そう言いながら、ライザーのいる新校舎に向かって飛ぼうとするユーベルーナ。

 

「!?」

 

だが、目の前に放たれた白い斬撃によって遮られた。

ユーベルーナは斬撃が放たれた方へ振り向くと、『洞爺刀』の刃先を彼女に向けている陸兎がいた。

 

「・・・行け、イッセー」

 

「八神・・・!」

 

ユーベルーナの前に陸兎が立ち塞がり、一誠に先に行くよう促す。

 

「俺がこいつの相手をする。その間にお前は部長と一緒にケリをつけろ。お前が・・・あのボーボボ擬きを倒せ」

 

「でも!こいつは皆を!」

 

「何度も同じこと言わせんな。一時の感情で動くんじゃね。今お前のやるべきことはこいつをぶん殴ることか?違うだろ。こいつに怒りをぶつける暇があんなら、さっさとテメェの『王』を助けにいきやがれ。一主の『兵士』なら、テメェのやるべきことを見失うな」

 

「!?・・・分かった。やられんなよ!」

 

陸兎に健闘を祈りながら、一誠はリアスを救うべく新校舎へ入っていった。

残った陸兎は宙に浮かんでいるユーベルーナを睨みつける。

 

「それで、貴方一人が残ったみたいだけど、悪魔でもない人間が空を飛んでいる私に勝てるのかしら?」

 

「へっ!お前も相手が貧弱な人間だったから、油断してたら斬られたってパターンがお望みみてぇだな」

 

「まさか、貴方が他の子たちを倒してきたのは私も知ってるわ。だから・・・油断はしない。確実に仕留めてあげるわ!」

 

そう言いながら、ユーベルーナが杖を陸兎に向けて途端、陸兎の足元に魔法陣が置かれた。

陸兎は魔法陣が発動される前に地面を力強く蹴って空中へ跳び、そのままユーベルーナに斬りかかる。

しかし、ユーベルーナは更に上空に飛んで、陸兎の剣から離れた。

 

「確かに、ここまで剣を届ける実力はあるみたいね。でも、翼が無い人間では、空を飛ぶことはできない」

 

その言葉通り、背中に翼が無く、飛行魔法も使えない陸兎は、重力によって下に落ちていく。

その隙を狙ってユーベルーナが杖を再び構えたその時、彼女の表情が驚きに変わった。

 

「なっ!?くっ!」

 

本来なら下に落ちるはずの陸兎が、再度上空へ上がって、ユーベルーナに斬りかかったからだ。

ユーベルーナは咄嗟に杖を前に出して防ぐが、次の瞬間、陸兎の姿が消えた。

 

「消えた!?どこへ!?」

 

消えた陸兎を探そうと辺りを見渡し、上を見上げた瞬間、ユーベルーナの目が見開いた。

 

パシュン!パシュン!

 

なぜなら、陸兎は空中の空気を何回も蹴り続けることで空中に留まっており、まるで空中そのものに立っているかのようにユーベルーナを見下ろしていたからである。

そう、陸兎は空を飛んでいたわけではない。強靭な足で空気を蹴って空中を高速移動していたのだった。

驚くユーベルーナを尻目に、陸兎は再び空気を力強く蹴り、それを何回も繰り返しながらユーベルーナの周りを高速で飛び回る。

驚いてたユーベルーナは何とか冷静さを取り戻し、魔法で陸兎を下に落とそうと杖を構える。

 

「目で追い切れない・・・!」

 

だが、空中を自在に高速移動している陸兎のスピードは、悪魔であるユーベルーナの目ですら、追いつくのは容易でなかった。

そして、ユーベルーナの目が陸兎のスピードに追いつけなくなった瞬間、陸兎はその瞬間を見逃さず、腰に『洞爺刀』を当てながら彼女に接近した。

 

「夜叉神流一刀『牙王静流(がおうせいりゅう)』」

 

そして、一瞬のすれ違いざまに居合の一撃を放った瞬間、ユーベルーナの体から血が飛び散った。

 

「あぁ!?」

 

体を斬られたユーベルーナはそのまま下へ落ちていき、地面に当たる途中で消滅した。

 

『ライザー様の『女王』一名戦闘不能』

 

「うちの部員に迷惑掛けんじゃねぇよ爆弾野郎」

 

光となって消えたユーベルーナを一瞥すると、陸兎は宙を蹴って、どこかへ飛んでいった。

 

 

 

 

「まさかライザー・フェニックスの『女王』を単独で倒すなんて・・・」

 

「だから言ったでしょ。今回のレーティングゲームで一番厄介な駒は陸兎だって」

 

モニターを見ながら呟くソーナに、剣夜は自慢げに言った。

 

「これで後はライザー・フェニックスだけね。リアス達の残りの駒はリアスに兵藤君にアルジェントさん、それと八神君」

 

「現在、リアス様と兵藤君がライザー様と戦闘中ですが、どちらも苦戦中。そこに十天師である八神君が加わるとなると、流石のライザー様も手には負えないでしょう」

 

「まぁ、陸兎の場合、三人じゃなくても、一人でライザー・フェニックスは倒せるけどね」

 

「それは言い過ぎ・・・でもないかしら。朱乃を破った『女王』を無傷で倒したし・・・」

 

そんなことを呟きながら、ソーナは再び画面を見つめる。

そして、予想だにしてなかった陸兎の行動に目を丸くした。

 

「彼は一体何をしているのかしら?」

 

「これは・・・まさか・・・!?」

 

この行動は剣夜も予想しておらず、驚きながら画面に目を向けた。

 

 

 

 

一方、新校舎の屋上では、一誠とリアスがライザーと対峙していた。

 

「「はぁ・・・はぁ・・・」」

 

「ククク・・・随分と辛そうに立っているじゃないかリアス」

 

笑みを浮かべる余裕のあるライザーに対して、二人はボロボロであり、何とか立っている状態だ。

 

『ライザー様の『女王』一名戦闘不能』

 

「ほう、あの人間、ユーベルーナを倒したか・・・だが、こちらが優勢であることには変わりはない。そうだろうリアス?」

 

『女王』がやられて尚、笑みを崩すことなく、そう問い掛けるライザー。

対するリアスは、ボロボロで息も絶え絶えといった状態でライザーを睨む。

 

「ぐぅ・・・!」

 

「イッセーさん!」

 

これまでの戦闘の疲れとライザーから受けたダメージによって膝を付いた一誠に、既に何度目かも分からない回復を行うアーシア。

そして、回復を終えた瞬間、突如アーシアが倒れた。

 

「アーシア!」

 

何回も神器を使い続けたことによって、彼女の体は既に限界を迎え、立つことすら精一杯になっていた。

 

「すみません・・・イッセーさん。私・・・まだ・・・」

 

「もういいわ。貴方はここで休んで」

 

これ以上、彼女の神器『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』を使わせるのは危険だと判断したリアスはアーシアを下がらせ、再びライザーを睨みつける。

 

「リアス!君はもう詰まれている。諦めてリザインしたらどうだ?」

 

「誰がリザインするもんですか!詰まれているですって!?私はまだ健在よ!そうでしょう、イッセー!」

 

「はい!俺、馬鹿だから、詰みとかよく分かんないですけど、俺はまだ戦えます!行くぞ!Boost(ブースト)!」

 

一誠は自身を強化しながら、ライザーへ迫る。

ユーベルーナの不意打ちが無かった為、ダメージが原作より少し減った一誠は倒れることなく、その拳をライザーに向けて振るう。

 

「無駄だ」

 

しかし、それを簡単に食らってやるほどライザーという男は弱くない。突撃する一誠の僅かな隙を見つけたライザーは、一誠の拳が自分に届く前に、その隙をついて彼の腹に蹴りを入れた。

 

「ガッ!」

 

ライザーに腹を蹴られた一誠は屋上から二階の屋根へ転げ落ちた。

 

「ライザー!」

 

それを見て、激情したリアスがライザーに向けて滅びの魔力を放つ。

しかし、ライザーは滅びの魔力が当たった箇所を炎に変えて再生した。

 

「リアス!君だってもう限界のはずだ。素直にリザインしたらどうだ?」

 

「誰が・・・!」

 

リザインするよう促すライザーに、険しい顔をしながらも断るリアス。

その時、二階の屋根に倒れた一誠が立ち上がろうとした。

 

「大丈夫っすよ部長。俺・・・どんなことしても勝ちますから・・・!最強の『兵士』になる。部長とそう約束しましたから・・・!」

 

既に限界を迎えているであろう体を無理矢理動かし、ふらふらと立ち上がる一誠。

 

「俺はまだ戦えます・・・約束守りま――ガハッ!」

 

リアスに向けて喋り続けてた一誠だが、ライザーの蹴りによって遮られた。

 

「こうも俺にたてついた根性だけは認めてやろう。だが、所詮は下級悪魔。いくら気持ちが強かろうが、それに見合った実力なければ、何も守ることはできんよ」

 

そう言いながら、ライザーは既に瀕死の一誠を何度も殴ったり蹴ったりする。

しかし、一誠はライザーに殴られながらも、その闘志を消すことなく、ひたすらに喋り続ける。

 

「俺、まだ戦えますから・・・勝ちますから・・・!」

 

「イッセー!下がりなさい!なんで私の命令が・・・!?」

 

リアスが下がるよう一誠に命令するが、一誠は決して引くことはせず、薄れていく意識に残っている僅かな闘志を燃やし続ける。

ひたすらに一誠をボコボコにしたライザーは一誠の頭を掴み、反対側の手に炎を出現させた。

 

「不愉快だな。口先だけの下級悪魔が、しつこく吠える姿という物は・・・!」

 

直後、僅かに聞こえた一誠の呟きと、未だに消えない闘志がライザーの目に映った。

 

「部長・・・俺・・・カチマス・・・ブチョウノタメナラ・・・」

 

「・・・レーティングゲームで万が一死者が出た場合、それは事故として扱われ、出した側は何の咎めも無しに終わる。良いだろう。実力の違いを見せつけて尚、まだこの俺にたてつこうというのなら仕方あるまい・・・」

 

そう言いながら、ライザーは手元の炎を肥大化させた。

 

「ここで死ね!くだらない忠義心と共に!」

 

「やめてライザーーーーーー!!」

 

ライザーの炎が一誠の体を焼き尽くそうとしたその時、リアスがライザーに抱きついた。

 

「私の負けよ。リザインします」

 

「ぶ、部長・・・」

 

一誠が最後に見たのは、涙を流しながらライザーにリタイアを求めるリアスの姿だった。

 

『リアス様のリザインを確認。このゲームはライザー・フェニックス様の勝利となります』

 

その直後、一誠は意識を失い、グレイフィアの声がフィールド中に響いた。

 

「・・・・・・」

 

そして、その光景を少し離れた建物から見守る陸兎であった。

 

 

 

 

レーティングゲームの審判を務めたグレイフィアは、ある人物がいる部屋へ入った。

 

「レーティングゲーム、終了致しました。サーゼクス様」

 

「あぁ、お疲れ様グレイフィア」

 

如何にも高級そうな椅子に座りながら、審判を務めたグレイフィアに労いの言葉を掛ける赤髪の青年。

彼こそが、冥界の現魔王であり、リアスの兄でもある悪魔。『紅髪の魔王』サーゼクス・ルシファーその人である。

 

「それにしても、彼はどうしてリアス様たちの戦いに手を出さなかったのでしょうか?」

 

グレイフィアが思い起こすように呟く。

先程のレーティングゲーム、ライザーの『女王』ユーベルーナを単独、それも無傷で倒す実力がありながらも、陸兎は一誠たちの救援に行くことなく、新校舎より少し離れた建物の上でただ戦闘の様子を見守っていた。レーティングゲームを観戦していた大半の者達は、陸兎がライザーに怖気づいたとがっかりしたり、笑ってたりしていたが、同じ『女王』の身であるグレイフィアは、最強の退魔師の一人であり、『女王』を無傷で倒せる実力を持つ人間が『王』相手に怖気づいたとは思えず、何か別の理由があったのではないかと予想していた。

思案するグレイフィアの隣でサーゼクスが答える。

 

「それは簡単なことだよ。もし、彼が戦いに介入したら、確かに勝負には勝ってただろう。だけど、リアスには婚約を破棄するが為に十天師を雇った卑怯者みたいな汚名を着せられるだろうね」

 

「!? まさか、不名誉な評価を全て自分に着せて、リアス様の名誉を守る為に、ライザー様との戦いの時だけ敢えて手を出さなかったと?」

 

「或いは、それ以外の理由があるとか・・・フフフ、中々食えないね。彼は」

 

そう言って微笑むと、サーゼクスは席を立った。

 

「さて、私も行くとしようか」

 

「婚約パーティーが行われるライザー様のお屋敷にですか?」

 

問いかけるグレイフィアに、サーゼクスは顔だけをグレイフィアに向けて答える。

 

「決まっているだろう。噂に聞く白鬼(しろおに)君に会いに行くんだよ」

 

そう言いながら笑みを浮かべるサーゼクスは、これから悪戯を仕掛けるいたずらっ子のようだと、グレイフィアは思った。




夜叉神(やしゃがみ)
陸兎が扱う剣術。鬼をも斬り殺すことができると言われ、刀一本と二本で繰り出す技が複数個あり、刀の本数ごとにそれぞれ一刀、二刀と技名が変わる。

・夜叉神流二刀『鬼嵐(おにあらし)
二刀の刀を左右に構え、勢いよく振って、周りにいる敵を薙ぎ払う技。刀を振るった時に生まれる旋風は凄まじく、近くにいると、刃風に巻き込まれて上空へ吹き飛ばされる。余談だが、陸兎は威力こそ弱まるが一刀、更には両腕だけで旋風を起こせる。

・夜叉神流一刀『牙王静流(がおうせいりゅう)
『神速』で一気に詰め寄って相手を斬る居合の技。作中では空中で繰り出したが、空中に蹴りを入れるたびに、蹴った際の空気音が出るから、地上の方が無駄な音を出すことなく一瞬で相手を斬れる。


ちなみにレイヴェルは、吹き飛ばされて以降、戦いの様子をずっと傍観してました。ただし、ユーベルーナを倒した陸兎が、兄の下に向かわず、戦いの様子を眺めていた事には、流石の彼女も目を丸くした。
次回で第2章終わりです。


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バイクに乗る時はかっこいいと思う言葉を叫べ

ライザーとのレーティングゲームから翌日。

昨日のレーティングゲーム終了後、傷ついた一誠を兵藤家へ送った陸兎は、この日の夜、一誠の見舞いの為、再び兵藤家へとやって来た。

玄関前に立ち、インターフォンを鳴らす。すると、扉から現れたのはアーシアだった。

 

「陸兎さん・・・」

 

「よっ、イッセーの調子はどうだ?」

 

「イッセーさんはまだ目覚めていません」

 

悲し気な表情でそう言うアーシアに「そうか」と返しながら、陸兎は兵藤家へ入る。

アーシアに案内され、一誠の部屋に入ると、ベットの上で上半身を起こしている一誠がいた。

 

「イッセーさん!目が覚めたんですね!良かった!」

 

「アーシア・・・それに、八神・・・」

 

目元に涙を浮かべながら一誠に抱きつくアーシア。

一誠は寝起きだからなのか、ぼんやりとした目で辺りを見渡してたが、ふと思い出したのか、慌てた様子で聞いてきた。

 

「そうだ!勝敗は!?」

 

「勝負はグレモリー眷属の負けだ。お前が倒れている最中に部長が降参したそうだ」

 

「そんな・・・!」

 

レーティングゲームの結末を知り、一誠は悔しそうな顔で拳を握りしめる。

 

「ごめん、俺がもっと強くて、お前が来るまでに耐えていれば・・・」

 

「謝んな。寧ろ謝るのは俺の方だ。なにせ、俺は向こうの『女王』を倒した後、お前らがボーボボ擬きと戦っている間、救援に行かないで近くの建物から戦いの様子をずっと眺めてたしな」

 

「なっ!?」

 

陸兎の言葉に目を見開く一誠。

彼の次の言葉が出る前に、陸兎は事情を説明する。

 

「なんで来てくれなかったんだって言う前に理由を話しておくぞ。一つは、俺が部長の眷属でないこと。もし、眷属でもない俺がボーボボ擬きを倒したら、部長にはレーティングゲームに勝つために、或いは婚約を解消するために強い人間を雇った卑怯者やらの汚名が着せられるのは明白だった。だから俺は、全力を出さなかったし、ボーボボ擬きとの戦いでは、手を出さずに傍観して、お前らだけでヤローを倒すべきだと思った。そうすれば、仮にお前らが負けたとしても、不評のほとんどは最後の戦いで戦わず、その場から逃げ出した俺に向けられるしな。もう一つは・・・お前のためだイッセー」

 

「俺の・・・ため?」

 

呆然としている一誠に、陸兎は真剣な表情で言う。

 

「お前・・・部長の事好きだろ?」

 

「!?・・・あぁ、そうだよ。あの人が一番に自慢できる最強の『兵士』になりたいって思っている」

 

一誠も一瞬戸惑いつつも真剣な表情で質問に答えた。

 

「赤龍帝を宿している以上、お前はこの先もっと強くならないといけない。ましてや、テメェの護りてぇモンを護るためなら尚更だ。俺や周りの奴らがいつもいるとは限らねぇし、もし一人になった時、テメェの大事なモンをテメェ一人でも護れる力をお前に付けてほしかった。以上が、俺があの時お前らの戦いに手を出さなかった理由だ。今のを聞いて、まだ納得できないんだったら・・・好きなだけ俺を殴るこった」

 

「・・・いや、俺にお前を責めたり殴ったりする資格なんてない。全ては俺の力不足のせいだ」

 

そう言いながら、一誠は力弱く呟く。

 

「あいつに言われたんだ。威勢が良くても、力が無ければ守れるものは守れない。全くその通りだった。あれだけ大見得切ったのに、手も足も出せないまま惨めにやられて・・・最後まで部長に迷惑掛けて・・・最強の『兵士』になる。部長とそう約束したのに・・・チキショー・・・!」

 

「イッセーさん・・・」

 

目に悔し涙を流しながら、自分の弱さを嘆く一誠。

そんな一誠に、アーシアは何て声を掛けたらいいのか分からず、黙って聞いていた陸兎は一誠の前に立って口を開いた。

 

「・・・お前の取るべき道は二つだ。一つは全てを諦めて、大人しく望まない結婚を受け入れること。もう一つは・・・もう一度あのボーボボ擬きに挑んで、今度こそ部長を取り戻すこと。そして、俺はそのための手段を持っている」

 

そう言いながら、陸兎が取り出したのは赤い魔法陣が描かれた二枚の紙だった。

 

 

 

 

レーティングゲームが終わって、しばらく経った後

 

「少しいいかい?」

 

気を失った一誠を担ぎ、彼の自宅へ向かおうとした陸兎をある人物が呼び止めた。

声がした方に振り向くと、グレイフィアと自分を呼び止めたと思われる赤髪の青年がいた。

 

「あんたは?」

 

「私はサーゼクス。リアスの兄にして、冥界を治める魔王の一人だ」

 

「へぇー、あんたが魔王か・・・なるほど、確かに強ぇな」

 

そう言いながら、赤髪の青年ことサーゼクス・ルシファーをまじまじと見つめてた陸兎は来訪の目的を問う。

 

「そんで、魔王様が俺に何のようだ?」

 

「少し君に会ってみたいと思ってね。日本神話が誇る最強の退魔師の集団、十天師が一人『白鬼(びゃっき)』八神陸兎君。それとも、白鬼(しろおに)って呼べばいいかな?」

 

「・・・あんたがどこでそれを聞いたのか知らねぇが、とりあえず『白鬼(びゃっき)』の方で頼む。白鬼(しろおに)って呼び方はあんま好きじゃねぇしな」

 

そう言って、顔をしかめる陸兎を見て、何か察したサーゼクスは話題を切り替えた。

 

「先のレーティングゲーム、見事だと言っておこう。フェニックス眷属を6人も倒し、最後まで無傷でゲームを切り抜けた実力。流石は最強の退魔師と呼ばれるだけある」

 

「そう褒めんなよ。最後に至っては、チビって、何もできなかったんだしさ」

 

「おや?あれはリアスの名誉を守るために、わざと手を出さなかったのではないのかい?それとも、何か別の理由でもあったのかい?」

 

「さぁ、どうだろうな」

 

お互い微笑みながら会話をする陸兎とサーゼクスだが、二人の間の空気はただならぬプレッシャーを感じ、隣にいたグレイフィアは若干顔を強張らせた。

 

「まぁ、その辺に関しても詳しくは聞かないでおくことにするよ。さて、もっと話したいところだけど、生憎私も忙しいものでね」

 

そう言うと、サーゼクスは懐から二枚の紙を取り出した。

 

「これを君にやろう。この後行われる予定の婚約パーティーの招待状みたいな物だ。それと・・・もし、そこの彼が目覚めた時、彼にまだリアスを救う気持ちがあるのなら・・・いや、この先は言う必要はないか」

 

そう言いながら、サーゼクスは二枚の紙を陸兎に差し出した。

陸兎はそれを暫し見つめていたが、無言でそれを受け取ると、サーゼクスは満足気に微笑んだ。

 

「それじゃあ、また会える時を楽しみにしているよ」

 

そう言うと、サーゼクスは後ろに振り向いて去っていった。グレイフィアも陸兎に一礼して、彼の後を追った。

 

 

 

 

「――つーわけだ」

 

「魔王様が俺に・・・」

 

そう呟きながら、意を決した表情で一誠は陸兎が持っている紙を手に取ろうとした。

だが、一誠が手に取る前に、陸兎は腕を上に動かして紙を取らせないようにした。

 

「一つ聞くぞ。こいつはあくまで会場に行けるだけの代物だ。そこに行ったからといって、部長が戻るとは限らねぇんだぞ」

 

「分かっているさ、そんなこと」

 

「・・・どうやって、取り戻す気だ?」

 

「!?」

 

陸兎の言葉に一誠の顔が若干揺らぐ。

 

「その身で思い知っただろ?ヤローの強さを。ヤローはお前より圧倒的に強い。何の策も無く、もう一度戦っても、馬鹿でも結果は見える。ましてや、お前の傷はまだ完治してねぇ・・・下手したら死ぬぞ?」

 

「ダメですよイッセーさん!そんな体で行って、もしまたボロボロになったら私――!」

 

陸兎の言葉を聞いてたアーシアは一誠を止めようする。

しかし、一誠は顔を二人の方に向けながらゆっくりと口を開く。

 

「・・・お前の言う通りだよ八神。俺はあいつに全然敵わなかった。性格どうとかはともかく、強さだけ見れば、あの野郎は俺より強い・・・でも、それが何だってんだ!約束したんだ。部長の思いに応えられる最強の『兵士』になるって。だったら、どんなに惨めだろうが!不可能って言われようが!主の思いに応えるために戦う!それが、兵士(へいし)ってモンだろ!」

 

一誠の表情は揺るがない信念に満ちていた。

周りから惨めと言われようが、一誠はリアスのために戦い続ける。一誠はリアスに命を捧げた兵士(へいし)なのだから。

 

「・・・例えテメェが絶対に敵わない相手でもか?」

 

「あぁ、そうだ!例えそれで、俺が死んだとしても――あ痛ぁ!?」

 

陸兎のデコピンを額に食らった一誠は背中からベットに倒れた。

 

「テメェが死んでどうすんだ?命を懸けて主を護るならまだしも、テメェ自身が死んで、主を悲しませる兵士がいるとしたら、そんな野郎は兵士以下だ・・・でもまぁ、及第点といったところだな」

 

そう言いながら、満足気に立ち上がった陸兎は一誠に背中を向けた。

 

「出発の準備をしろ。俺は外にいるから、準備ができたら外に来い」

 

そう言い残して、陸兎は部屋から出て、そのまま外に出ると、玄関の近くに置いてあった自身のバイクに寄りかかった。

 

「フゥー・・・」

 

一息つきながら上を見上げる。空はレーティングゲームの幻想的な空ではなく、いつもと変わらない星が少しだけ見える夜空。外の空気も春の夜とは思えないくらい冷たかった。

変わらぬ夜空を見上げてた陸兎の耳に、この間話した時に言っていた剣夜の言葉が聞こえてきた。

 

『力は無いはずなのに格上の相手に挑もうとする無鉄砲さ。まるで、君みたいだ』

 

「あぁ・・・お前の言う通りだ。あいつは立派な悪ガキだ」

 

夜空を見上げながら呟いていると、家の入口から一誠とアーシアが出てきた。

 

「悪ぃ、待たせた」

 

「気にしてねぇよ。ん?何だそれは?」

 

一誠に紙を渡しながら、彼の持っている物について問い掛ける。

 

「聖水と十字架だ。どっちもアーシアから借りた。あの鳥野郎をぶっ飛ばすためにな」

 

「そっか。そんじゃ、行こうか」

 

「お二人共、どうかお気をつけて」

 

アーシアに見送られながら、二人は紙を上に掲げた。

その瞬間、二人の上に魔法陣が出現し、二人は転移されるのであった。

 

 

 

 

場所は変わって、ここは婚約パーティーが行われる会場。

ここには、ライザーとリアスの婚約を祝うべく、両家の関係者やその眷属たち、その他の上級悪魔など大勢の悪魔が集まっていた。

 

「言いたい放題だね。ライザー様の妹さん」

 

上級悪魔に自身の兄を自慢しているレイヴェルを遠目で見ながら木場が呟いた。

朱乃、木場、小猫の三人も正装して、婚約パーティーに参加していた。今回のレーティングゲームに参加した者でパーティーに来ていない者は、ライザーによって重傷を負った一誠とそんな彼を看病するために彼の自宅に残ったアーシア。そして、一誠を自宅に運んだ陸兎の三人のみ。

 

「二人共、分かっていると思いますけど・・・」

 

「はい、まだ終わってません」

 

「えぇ、彼は必ず来ます」

 

三人はこの婚約パーティーで必ず一誠がリアスを攫いに来ることを予想していた。

その時、炎と共にライザーが姿を現し、会場全体に響く大声で喋った。

 

「冥界に名だたる上級悪魔の皆様。此度の婚約パーティーにお集まりいただき、誠にありがとうございます。今宵のパーティーは、我がフェニックス家と名門グレモリー家にとって、歴史に残るものとなるでしょう。それでは紹介致します。我が妃、リアス・グレモリー!」

 

ライザーの声と共に魔法陣から白いドレスを身に纏ったリアスが現れた。

美しき花嫁の登場に会場にいる者達が「おー」と声を上げたその時、歓喜でいっぱいの会場にそぐわない音が入口から聞こえてきた。

 

ブロロロロ・・・

 

「ん?」

 

小猫が僅かに聞こえてきた音に反応し、入口の方に振り向く。

 

ブロロロロ・・・!

 

「おい、何か聞こえないか?」

 

「何の音だこれは?」

 

他の者達も、何らかの音に気づいて、会場を見渡す。

 

ブロロロロ!

 

「これは・・・バイクのエンジン音?」

 

「あらあら」

 

木場が音の正体に気づき、その横で朱乃がこれから起こることを予想し、微笑んでいた。

その音はだんだん大きくなっていき、会場にいる全員が音が聞こえてきている入口の方を見たその時

 

「アクセルシンクロォォォォォォ!!!」

 

入口の扉が勢い良く開かれて、バイクに乗っている陸兎が叫び声を上げながら飛び出してきた。

陸兎は後ろにしがみついている一誠の襟首を掴んで、思いっ切り投げる。

 

「おら、行って来い!」

 

「ちょ、おま、あぁーーーーーー!?」

 

陸兎に思いっ切り投げ飛ばされた一誠は人混みの上を通り、ライザーの前へと落ちた。

 

「いてて・・・覚えてろよ八神・・・部長!約束、果たしに来ました!」

 

陸兎に恨み言を言いつつも、一誠は立ち上がり、リアスに向けて叫んだ。

 

「貴様!あの時の下級悪魔か!?」

 

「下級悪魔じゃねぇ!俺はオカルト研究部二年、兵藤一誠!部長の・・・リアス様の処女は俺が貰う!」

 

「なっ!?取り押さえろ!」

 

ライザーに命令され、衛兵たちは慌てて一誠を取り押させようとしたが、彼らの前に陸兎が立ち塞がった。

 

「おっと、男が女攫うために男見せようとしたんだ。邪魔すんなよ」

 

手元に『洞爺刀』を出現させ、笑みを浮かべながら立ち塞がる陸兎。

更に、その後ろから朱乃たちもやってきて、陸兎同様先に行かせまいと立ち塞がった。

 

「随分派手な登場したね」

 

「花嫁を攫いに行くんだ。こんくらいのサプライズは必要だろ?」

 

「うふふ、大胆でしたわ」

 

「サプライズはその辺にして、さっさと倒しましょう」

 

軽い会話をしながら、彼らは衛兵たちと戦闘を始めた。

一方、会場にいる者達は、突然現れた陸兎と一誠に混乱し、啞然と見ていると、サーゼクスが前に出て説明し出した。

 

「彼をここに呼んだのは私です。少し余興をしたいと思いまして」

 

彼が言うには、ドラゴンの力を確かめるべく、赤龍帝の力を宿す一誠とフェニックスの力を宿すライザーをここで戦わせて会場を盛り上げるつもりなのだと言う。

サーゼクスの説明に一部の者は渋い顔をしたが、「伝説のドラゴンとフェニックスの勝負はいい余興になる」とサーゼクスが言うと、渋々納得した。ライザーもまた、魔王の頼みを無下にすることはできず、勝負することを承諾した。

一通り説明を終えたサーゼクスは一誠に問い掛ける。

 

「さて、兵藤一誠君。余興とは言え、せっかくの勝負だ。何か賭けないと面白くない。君が勝ったら望みを一つ叶えてあげよう。何を望む?」

 

「俺の望みはただ一つ、リアス様を取り戻すことです」

 

サーゼクスの問いに一誠は迷いなく答えた。

勝負することが決まり、即席のバトルフィールドへ転移した一誠とライザーはお互い睨み合う。

 

「一度痛めつけて尚、再びこの俺に挑むとはな・・・覚悟はできているんだろうな?」

 

「あぁ!10秒でケリを付けてやる!」

 

「ふんっ!ならば、俺はその減らず口を5秒で聞けなくしてやる!」

 

「行くぜ!うぉーーーーーー!!」

 

一誠は己の力と知識を全て出し切ってライザーへ挑む。

全ては主であるリアスの婚約を解消し、彼女の願いであるリアスとして自由な恋愛をさせるために・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、なんやかんやでライザーに勝ち、なんやかんやでライザー妹とフラグが立ち、なんやかんやでリアスを救い婚約を破棄することができた一誠でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待ってぇーーーーーー!!このシーンは俺と部長が恋仲になる為の一歩を歩みだす重要なシーンだぞ!それをなんやかんやで適当に済ましてんじゃねぇよ!そもそも、この小説、俺の扱い雑過ぎじゃねぇか!?俺、仮にも原作の主人公だぞ!このままじゃ、俺モブキャラも同然になっちゃうぞ!第3章から俺ここにいないかもしれないぞ!お前ら、それでいいのかよおい!?

(´Д⊂Σ『次回予告』ぶはぁっ!?

(゚Д゚)⊃『次回予告』ちょ、行かせねぇぞ次回予告。原作でもやってる戦闘シーンをいちいち書くの面倒だから適当に流す気だろおい!

Σバン!『次回予告』あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」




『次回予告』
次回、第3章 月光校庭エクスカリバー




の前にいくつか番外編挟みます。

<オマケ> ハイスクールD×D最終回?

フェニックス家の屋敷。本来なら婚約パーティーが行われるはずだったこの屋敷は現在、燃えていた。
屋敷の中は燃えながら瓦礫となって崩れ落ち、落ちていく瓦礫に当たらないよう逃げ惑う人々。
そんな燃えている屋敷の中を威風堂々と立っている二人。フェニックス家三男ライザー・フェニックスとグレモリー眷属の『兵士』兵藤一誠。
彼らは今、リアス・グレモリーの婚約の座を掛けて決闘を始めるところだ。

「俺はただ壊すだけだ。この腐った世界を」

「なんか、どこぞの鬼兵隊が混じってる気がするんだけど・・・まぁ、いいか。ケリをつけようぜ!」

そう言いながら、一誠はライザーとぶつかり合う。
全ては己が主である部長を幸せにし、願えば部長のおっぱいを吸うために。

「イッセーーーーーーー!!」

一誠の背後から、主であるリアスの叫びが燃える屋敷に響いた。




「はぁ・・・はぁ・・・」

瓦礫の中から顔を出した一誠はふと辺りを見渡す。
屋敷だった建物はその面影を残すことなく崩れており、地面を覆いつくす程の瓦礫が辺りに散らばっている。
そして、瓦礫の中に埋もれている人物を見て、一誠は目を見開いた。

「ぶ、部長・・・?」

彼が目にしたのは、血を流しながら倒れているリアスだった。彼女は息をしておらず、既に事切れていた。
いや、リアスだけでない。

「朱乃さん!小猫ちゃん!アーシア!木場!八神!」

彼の知っているオカルト研究部の部員全員が辺りに倒れており、既に彼らも動かぬ屍となっていた。

「そんな・・・そんな・・・!」

一誠は認められない現実に膝をつく。
倒れているリアスを掬い上げ、起こすように彼女の体を揺らすが、彼女が目覚める様子はない。

「うわぁーーーーーー!!」

何もかも無くなり静寂と化した場所で、一誠の虚しい叫びが響くのであった。




どうしてこうなった。
気づいたら一誠は真っ白な虚無の空間にいた。
何もない世界で、一誠はひたすらに思う。俺はただ部長のおっぱいを吸いたかっただけなのに・・・

「でも、部長に付いていく事を決めたのはイッセー君自身だろう?」

「イッセー君が選んだ道だからこそ、こうして今、後悔してらっしゃるのでは?」

「大丈夫です。イッセー先輩は既に手遅れって言っていい程の変態ですから」

「イッセーさんは間違っていません。欲望に忠実なだけです」

「・・・特に無いからパス」

「イッセー、貴方のエロスは一体何処にあるのかしら?」

一誠の耳に部員たちの声が響く。
では、と一誠は自分に問う。自分はどうすれば良かったのだと、一体誰のおっぱいを吸えば良かったのだと。
自問自答する一誠だったが、ふと彼が推しているガールズバンドのボーカルの声が聞こえてきた。

「まん丸お山に彩りを、丸山彩でーす!」

その時、一誠はようやく一つの答えへと辿り着くことができた。

「そうか・・・俺は部長のおっぱい大好きのエロスじゃなくていいんだ」

一誠は立ち上がり、己が導き出した答えを言った。

「俺には・・・パスパレが・・・麻弥ちゃんのおっぱいがあるんだ!」

その時、虚無の空間が突然駒王町の街並みへと移り変わった。
そして、一誠の周りを自身の見知っている人達が囲んで、彼に拍手を送っていた。

「おめでとう」(←朱乃)

「おめでとう」(←木場)

「おめでとう」(←小猫)

「おめでとう」(←アーシア)

「おめでとう」(←ソーナ)

「おめでとう」(←剣夜)

「おめでとう」(←麗奈)

「おめでとう」(←ドライグ)

「おめでとう」(←リアス)

「おめでとさん」(←陸兎)

皆から祝福の言葉が告げられる中で、一誠はここにいる皆に向けて最高の笑顔で感謝の言葉を言った。

「ありがとう」




エロスに、ありがとう




リアス・グレモリーに、さようなら




そして、全てのパスパレファンへ




おっぱい❤


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幕間
少年は思春期を超えると、いつの間にかパパになる


今回は銀魂のある話のオマージュとなっております。


ある日の放課後。陸兎、一誠、木場のオカルト研究部男子三人は旧校舎へ向かいながら話をしていた。

 

「聞いたかお前ら?元アイドルのきびうんこができちゃった結婚したってよ」

 

「腐ってんな」

 

一誠の言葉にいつも通りのだらけた顔で返す陸兎。

 

「最近の世の中って腐りまくりだよな。やれーできちゃった婚やら、やれー出会い系やら、物事に対しての筋道ってモンがないよな」

 

「ホントだよな。世の中もそうだが、学園にも腐った奴がいるし、溜まったもんじゃないぜ」

 

陸兎のその言葉に、一誠は足を止めて、詳しく聞き出す。

 

「学園に腐った奴がいるって・・・いったい誰なんだよ?」

 

「そんなの、お前と木場に決まってんだろ」

 

「はぁ!?なんで俺と木場が腐ってんだよ!?」

 

「誤魔化すなよ。学園で女子が噂してっぞ。最近は木場×兵藤か兵藤×木場だって。どうせ毎晩毎晩、部長とアーシアには内緒で、夜中に二人っきりであれやこれやしてんだろ?」

 

「・・・なぁ、お前の腐ってるは、いったいどういう意味の腐ってるなんだ?」

 

「そりゃ勿論、腐女子歓喜の関係――」

 

「おいやめろ。ただでさえ危ない噂が広がってんのに、これ以上行ったら、俺マジで舌嚙み切るぞ?」

 

「僕は別に、もう少し君と関係を築いてもいいけど・・・」

 

「木場ぁー!お前一度マジでぶっ飛ばすぞ!」

 

笑顔でアブナイ発言をする木場に一誠がマジギレした。

そんなやり取りをしながら進んでいくと、いつの間にか旧校舎が見えてきた。

旧校舎の入口に立ち、扉を開けようとしたその時、陸兎の足元から声が聞こえてきた。

 

「バブ~」

 

「ん?」

 

声がした方に振り向くと、そこにいたのは赤ん坊だった。籠の中で小さな手足をゆらゆらと動かしているその姿は実に愛らしい。

しかし、容姿はボサボサした銀髪頭に気だるけな目。その見た目はどっかの誰かさんにそっくりだった。その上、赤ん坊の上には『あなたの子供です。責任持って育ててください。私はもう疲れました』と書かれた紙が置いてある。

一誠と木場がその誰かさんに目線を向ける中、誰かさんは自分そっくりの赤ん坊をジーと見つめる。

 

「いや、ないない。これはない」

 

そう言いながら、旧校舎に入ろうとした誰かさんこと陸兎だったが

 

「バブ~!」

 

「・・・・・・」

 

後ろから、自分を呼んでるかのような赤ん坊の声が聞こえ、後ろ歩きで戻る。

 

「いやいやないない。あれはあれだったから。そう、あれだった。だから、ない」

 

もう一度自分に言い聞かせて、陸兎は再び旧校舎に入ろうとしたが、赤ん坊は今度はでっかい声で叫んだ。

 

「バブバァブー!」

 

「ないないないないないない!ないったらない!そう、あれはあれだ!なんやかんやで色々あったけど総合するとない!」

 

三度目の呼びかけに、流石の陸兎も顔を青くしつつも、必死に否定する。

しかし、赤ん坊は止まらない。

 

「バブゥ」

 

「だーかーらー!」

 

「何やってるの貴方たち?」

 

ふと入口の扉が開き、そこにいたのは、玄関が騒がしくて様子を見に来たリアスだった。

 

 

 

 

「腐ってるわ」

 

「腐ってます」

 

「腐ってますわ」

 

「腐ってます?」

 

オカルト研究部女子部員から一斉に軽蔑の眼差しを向けられる陸兎。正確には、向けているのはリアスと小猫であって、朱乃は面白そうに微笑んでおり、アーシアは腐ってるの意味が分からず、きょとんと首を傾げた。

 

「だから誤解だって。俺は別に隠し子も既成事実も作ってねぇよ。そんな保健体育1の奴がやりそうなミスを俺がするわけないだろ」

 

「誤魔化さないで。その癖っ気のある天然パーマに如何にもやる気がなさそうな目。どっからどう見ても、貴方の遺伝じゃない」

 

「馬鹿野郎、俺は絶対に天然パーマの遺伝子を自分の子供に移さないって決めてんだ。例え遺伝子を操作して、コーディネーター第一号にしてでも、俺はサラサラヘアーの子供を作る」

 

「自分の子供をジョージ・グレンにしようとすんな。連合とザフトで戦争が起きるぞ」

 

遺伝子操作で新しい人種を作ろうとしている陸兎に、一誠がツッコんだ。

その横で、陸兎の腕の中にいる赤ん坊をジーと見つめていた小猫が口を開く。

 

「部長、この子様子がおかしいです」

 

「これは・・・もしかして、お腹がすいてるのかしら?」

 

リアスも赤ん坊の様子がおかしいことに気づき、赤ん坊の様子から腹がすいてるのだと予想した。

 

「腹減ってるって言われてもな。部室に赤ちゃんが食えそうな物ってあったっけ?」

 

「あら、でしたら私の乳を飲ませて差し上げますわ」

 

「あ、朱乃さんのおっぱいを吸うだと!?貴様!なんて羨ましい真似を!俺にも飲ませろ!」

 

「とりあえず、お前は黙るか一回死んでこい。後、女子高校生がテメェのでっけぇ乳を見知らぬガキに吸わせるのは、どうかと思うぞ?」

 

一誠に毒を吐きながら、見知らぬ赤ん坊に母乳を飲ませようとしている朱乃を制止する陸兎。

そうこうしている間に、リアスが何処から取り出したのか、ミルク瓶を手に持って、赤ん坊を抱きながらミルクを飲ませていた。

 

「あらあら、いっぱい飲んでいますね」

 

「部長、本物のお母さんみたいです。私にもやらせてください」

 

「わ、私も少しだけ抱っこしてみたいです!」

 

「僕ももう少し近くで見てもいいですか?」

 

「あ!ずりぃ!なら、俺も!」

 

「コラッやめなさい。落っこちちゃったらどうするのよ」

 

「(え?なにこれ?)」

 

いつもとは明らかに違う部室の雰囲気に困惑する陸兎。

そんな陸兎を気にともせず、リアス達は部屋の奥から取り出した子供用のおもちゃを使いながら赤ん坊を愛でていた。

 

「こんなこともあろうかと、部室に子供用のおもちゃをいくつか用意してあったのよ」

 

「こういうのを用意しないとダメですから、世話が焼けますね。赤ちゃんのお世話は」

 

「うふふ、あまり笑わないところも、どっかの誰かさんとそっくりですわ」

 

「確かにそうですね。日本のことわざで言う親は子に似るってこう言うことなんですね」

 

「でも、そこがまた可愛いと僕は思うよ」

 

「ホントだよなー」

 

「(なんか、皆メロメロになってるし・・・)」

 

「陸、貴方はあんな父親になったらダメよ」

 

「リク王、ミルクまだいる?」

 

「陸次郎、お母さんよ」

 

「リクルートちゃん、こっち向いてください」

 

「リッキー、一緒に遊ぼう」

 

「八神、アホの八神」

 

「(他人の赤ん坊を勝手に名付けんな!つーか、全部俺にちなんでんじゃねぇか!)」

 

他人の赤ん坊に好き勝手名前を付けている部員たちにツッコミつつも、場の空気に耐え切れなくなった陸兎は大声で叫んだ。

 

「うわぁーーーーーー!!」

 

「あ!待ちなさい!」

 

そして、素早い動きで赤ん坊を持ち上げると、そのまま部室を出て、猛スピードで学園を出た。

一誠たちは慌てて追いかけたものの、校門を出たところで陸兎の姿を見失った。

 

「あの野郎!また捨ててくるつもりだな!」

 

「追いかけるわよ!」

 

リアスが眷属たちに指示しながら翼を広げようとしたその時、後ろから声を掛けられた。

 

「あのーすみません。少しよろしいでしょうか?」

 

声を掛けられ、後ろに振り向くと、複数の人物が立っていた。

その中心にいたのは、杖を持った老人だった。

 

 

 

 

駒王学園から逃げるように出た陸兎が向かった場所は東京の浅草だった。

そこである人物に会い、色々と相談しようと思っていたのだが・・・

 

「腐ってるわね」

 

「お前もかよ。何、流行ってんの腐ってるって言葉。最近の女子が使う言葉ランキング一位なの?」

 

陸兎をゴミを見るような目で見つめる少女、茨木真紀に対して、陸兎は半ば疲れた様子で言った。

そんな真紀の隣で、陸兎や真紀同様あやかしと縁のある少年、天酒馨もまた、同様の視線を向けていた。

 

「だから言っただろ。放課後、旧校舎の玄関でこいつを拾ったんだよ」

 

「そう言われてもな。この赤ちゃん、どっからどう見ても、お前とクリソツじゃないか」

 

「馬鹿だなお前。今時の子供はゲームやネットのし過ぎで、皆こんな顔なんだよ。お前も一度24時間ゲーム生活にチャレンジしてみ?そう言う顔になるから」

 

「無茶言うな。そんな生活すれば、視力が下がるだろ」

 

呆れるように馨が言うと、陸兎は「そうだ」と何か思いついた顔をした。

 

「なぁー、いっそのことお前らでこいつを預かってくれよ」

 

「はぁ!?なんで俺たちが!?」

 

「いやだって、お前ら前世は夫婦だったんだろ?こう言った子育てとかしてたんじゃねぇのか?」

 

「子供のあやかしとかならば世話したりしてたけど、実際に子供を産んで、育てた経験なんてないぞ」

 

「なんだよ。子育てもしねぇで、毎晩合体してたってのかよ。そんなんだから、リア充に対して怒りの炎を宿した頼光に除霊されるんだよ」

 

「誰も毎晩合体したって言ってねぇよ!つーか、頼光絶対そんな理由で俺たちを襲うわけ・・・あ」

 

「心当たりあんじゃねぇか」

 

否定しようとしたが、心当たりがあるのか言葉を濁した馨をジト目で見る陸兎。

 

「たく、これだから鈍感系イケメンは。この間だって、実はお前のことが少し気になってる日本陰陽師協会の女性役員からプレゼントを渡されそうになった時に『さっき真紀から似たような物貰ったのでいらないです』って真顔で断ったら、目に薄っすら涙を溜めながら去っていったって聞いたぜ。なんだよお前、ヘタレと鈍感を兼ね備えた主人公かよ」

 

「おい待て、なんでお前がそれを知ってんだ!?」

 

「なんですって!?あんた、また私をダシに使って断ったのね!」

 

「お前も話に乗ってくんな!それに、その人料理が壊滅的だし、もし貰って、そのまま食べたら絶対病院のベット行きになると思ったんだよ。渡されそうになった時も、箱からダークマターらしきオーラが漂ってたし・・・」

 

「問題はそこじゃないでしょう!断るのはまだいいとして、なんで断る際にいちいち私の名前を使うの!?そんなことしたら、渡そうとした人は泣くに決まってんじゃん!」

 

「うぐっ!それはだな・・・」

 

真紀の剣幕に圧倒され、たじろいでいく馨。

 

「あんたが私の事をそれだけ思ってくれているのは嬉しいけど、きちんと渡す側の気持ちも考えてから断りなさい!千年前もそうだったけど、あんたって恋愛面に関しては基本ヘタレなのよ!あの時もそうだったし、この時も――」

 

「え?さっきまで非難の対象は陸兎だったよな?なんで矛先がいつの間にか俺に向いてんの?」

 

先程まで非難されていたのは陸兎だったのに、いつの間にか対象が自分になっている事に困惑する馨。

 

「ちょっと!陸兎も何か言いな――え?」

 

「あ」

 

ふと真紀が陸兎の方に顔を向け、そこで見たのは、四つん這いでこの場から退散しようとしている陸兎と彼の横で同じく四つん這いで真紀から離れようとした赤ん坊だった。

真紀の方に振り向いた二人の顔は、それはもうそっくりであり、言わなければ親子と見間違える程だった。

真紀は無言で釘バットを手に持つと、陸兎の顔面に向けて思い切っり振った。

 

「やっぱり、クリソツじゃねぇかぁーーーーーー!!」

 

「ふべぇ!」

 

「なんで俺までーーーーーー!?」

 

何故か馨も釘バットで殴られ、吹き飛んだ二人は近くの川に落ちた。

 

「最低ね。あんたら二人、そこで一生流されてなさい」

 

ゴミを見るような目で二人を一瞥すると、真紀は去っていった。

一方、川に落とされた二人はというと・・・

 

「(はぁー・・・なんで俺の周りには、人の話を聞かない奴しかいないんだ?)」

 

「(それは、お前も普段から人の話を聞かないからだろ)」

 

心の中で会話しながら、流されていくのであった。

 

 

 

 

一方、駒王学園では、一人の老人にグレモリー眷属が対応していた。

 

「あのー、どちら様で?」

 

「申し遅れました。私は東京で営業を勤めております飯田加平と申します。少しお聞きしたいことがありまして、こちらの写真の人物を見かけなかったでしょうか?」

 

そう言いながら、加平は一枚の写真をリアスに見せた。写真に写っているのは、二十代くらいの女性。

リアス達はその写真を見つめていたが、誰も見覚えがなかった為、リアスが代表して頭を下げながら答えた。

 

「すみません。誰も見覚えがありません」

 

「そうですか」

 

「あのー、失礼ですが、この女の人がどうかしたんですか?」

 

遠慮無しに質問した一誠に、リアスが咎めるような視線を向ける。

しかし、加平は気にしてないようで、リアス達に事情を語る。

 

「実は、先日私の大切な孫が突然居なくなってしまって・・・」

 

「それって、誘拐ですか?」

 

「孫はまだ赤ん坊で、歩くことすらおぼつかないので恐らく。それで、調査したところその娘が赤ん坊を連れてこの町に来たと聞きまして・・・」

 

「それは大変ですね・・・っ!?」

 

加平が説明する最中に、アーシア以外の部員が突如一斉に旧校舎の方に振り向いた。

何者かが学園内に侵入したのを気配で感じたからである。

 

「・・・裕斗、小猫」

 

「はい、部長」

 

「捕まえてきます」

 

リアスに命令された木場と小猫は旧校舎に向かって走っていった。

急に走り去った二人を見つめながら、加平はリアスに問い掛ける。

 

「えっと・・・今のは?」

 

「気にしないでください。少しやるべき事があったので、頼んだだけです。それよりも、もしこれが誘拐だとしたら、かなり大きな問題ですよね?警察に相談しないんですか?」

 

「何分込み入った事情がありまして、あまり公に広めるのは・・・」

 

リアスの問いに、少し焦っているかのように答える加平。

 

「とにかく、どうかこの娘を見かけたら連絡だけでも・・・あ!孫の写真もありますのでこれを・・・」

 

加平がもう一枚の写真をリアスに渡したその時、木場と小猫が戻ってきた。

 

「部長、旧校舎に入ろうとした侵入者を捕まえたのですが・・・」

 

「この女の人、人間じゃありません。悪魔です」

 

二人の間に挟まれながら歩いていたのは、見た目が二十代ぐらいの茶髪の女性。あの写真に写っていた女性だった。

写真と同じ女性が現れたこともそうだが、女性が人ではなく悪魔だったことにリアス達は驚愕する。そんな中、真っ先に口を開いたのは加平だった。

 

「捕えろ!」

 

加平に命じられ、彼の周りにいた二人の黒服が女性に襲い掛かった。

女性は突然襲い掛かれた為に抵抗する暇もなく左右の腕をそれぞれ掴まれ、加平の前に出される。

 

「やめて!離して!」

 

「ようやく見つけたぞ女狐め。勘四郎をどこへやった!?言え!」

 

怒りの形相で孫の居場所を問う加平だが、女性は一向に口を開く気配はない。

その様子に激昂した加平は女性の顔を平手打ちすると、黒服に命じた。

 

「連れていけ」

 

加平に命じられ、黒服二人は女性の両腕を掴んだまま車に乗った。

加平や残りの黒服もまた、車に乗ろうとしたが、その前にリアスが制止した。

 

「待ちなさい」

 

リアスに制止され、顔をリアスの方に向ける加平。

 

「百歩譲って、その人が貴方のお孫さんを誘拐したのなら、私も何も言わないわ。だけど、その人が悪魔だとしたら、こちらも黙って返すわけにはいかない。彼女は勿論、貴方たちにも詳しい話を聞く必要があるわ」

 

「・・・これは家族間の問題です。あなた方には関係のないことだ」

 

「関係ならあるわ。私はこの駒王町を治めている領主ですもの。人間同士の関係ならまだしも、悪魔が関わっているとなれば見過ごせないわ」

 

リアスがそう言うと、加平の表情が嫌悪に満ちた。

この町が悪魔によって治められていることは加平も知っている。故に、孫を奪った女と同じ悪魔であるリアスに良い感情なんて持てなかった。

 

「同じ悪魔だから、その女を庇うつもりか?所詮、貴様らも人の大事な物を奪おうとする薄汚い悪魔というわけか」

 

「なんですって・・・?」

 

加平の物言いに、リアスが少しだけ怒りながら微小のオーラを纏う。そのオーラに当てられ、まだ車に座っていない残りの黒服たちは、加平を護るかのように前に出る。

一発即発の雰囲気になりかけたその時、リアスに声を掛ける者が現れた。

 

「待ってリアス」

 

声を掛けた者は生徒会長であるソーナ。

ソーナは加平の正面に立ち、堂々と話し出す。

 

「私はこの学園の生徒会長を務めております支取蒼那と申します。何か、うちの学園の生徒に御用ですか?」

 

「ふん!用ならとっくに済んだわい!」

 

「なら、なるべく騒ぎを起こさないようお帰り願いいただきます。ここには他の生徒もおりますので」

 

そう言いながら、ソーナが辺りを見渡すと、周りの生徒たちが「なんだ、なんだ?」と気になるような視線でリアス達を見ていた。

加平はその視線に少しドキッとしつつも、黒服たちと共に去っていった。

 

「ソーナ、なんで止めたの?」

 

「ごめんなさいリアス。でも、あの人に手を出したら、日本陰陽師協会を敵に回すことになるわ」

 

「え?」

 

詳しく話を聞くことを制止したソーナを睨んだリアスだったが、ソーナの予想だにしなかった返答に疑問符を浮かべた。

その横で、一誠たちは加平が残していった赤ん坊の写真を見て、目を見開いた。

 

「ちょ、部長!見てくださいよこの写真!」

 

一誠が慌てた様子でリアスに写真を見せる。

 

「これは・・・!まずいことになりそうね・・・」

 

写真を見たリアスは、不安気な表情で呟いた。

その写真に映っていたのは、ボサボサとした銀髪に気だるけな目の赤ん坊。現在、陸兎が連れ歩き回っている赤ん坊だった。

 

 

 

 

あの後、川から上がった陸兎は、赤ん坊と共に住宅街を歩いていた。

しかし、何の進展もないまま未だ厄介事に巻き込まれている為、陸兎は何処か疲れている様子だった。

 

「はぁ~、なんか自分に自身無くなってきたな。お前ホントに俺の息子じゃないんだよな?」

 

「アプ?」

 

「お前の本当の親はどこにいるんだよ。早くこの地獄から俺を解放してくれ・・・なぁ、お父さーんって呼んでみて、お父さーんって」

 

「バブーブー」

 

「・・・ん?」

 

そんなやり取りをしながら歩いていると、いきなり不審な者達に囲まれた。

二人を囲んでいる者達は黒スーツにグラサンをかけた男たちだった。

 

「おいおい、確かに俺はお父さんを呼んだけど、こんなにいるなんて聞いてねぇぞ?しかも、如何にも危ねぇ取引をしてそうなお父さんばっかだな」

 

「貴様、社長の孫を誘拐したあの悪魔の愛人か?社長の孫を誘拐して飯田屋の財産でも狙うつもりか?」

 

軽口を叩く陸兎を無視しながら、黒服の一人がそう言うと、他の者は姿勢を低くし、すぐにでも陸兎を襲い掛からん勢いだった。

あまり状況を理解できなかった陸兎だが、このまま事が進めば、物騒な事になりそうだと思った陸兎は、両手を軽く上げて黒服たちに落ち着くよう促しながら問い掛ける。

 

「ちょっと待てよ。とりあえず、一旦落ち着いてこっちの話を聞いてくれ。俺は別に誘拐なんてしてねぇ。愛人?財産?何それ?全然分かんないんだけど・・・」

 

「ふん!なら、その赤ん坊を置いていけ。さもなくば・・・」

 

「分かった分かった。寧ろ、面倒事が片付いて大歓迎だ。好きなだけ持っていきやが――ん?」

 

ふとズボンに違和感を感じ、下を見下ろすと、赤ん坊が陸兎のズボンを掴んでいた。

赤ん坊の考えていることは陸兎でも分からない。けれども、何かしらの意思を伝えようとしていることだけは理解できた。

そんな赤ん坊を無言で見続けていると、一向に赤ん坊を渡す気配の無い陸兎に痺れを切らした一人が声を上げた。

 

「従わないのなら、力づくで奪うまでだ!」

 

一人の言葉と共に、黒服たちは一斉に襲い掛かった。

黒服たちのせっかちな態度に、陸兎は額に青筋を浮かべる。

 

「だーかーらー!さっさと持ってけって言ってんだろうがぁぁぁぁぁぁ!!」

 

そして、大声を上げながら赤ん坊を上にぶん投げた。

 

「こ、こいつ!?なんて真似しやがる!」

 

黒服たちが陸兎の奇行に驚きつつも、空中に投げられた赤ん坊を受け止めるようと慌てて追いかける。

その時、陸兎は手元に『洞爺刀』を出現させた。

 

「ふっ!」

 

ズバッ!

 

そして、『神速』を使って男たちを斬り、そのまま下に落下する赤ん坊を片腕でキャッチした。

だが、陸兎の攻撃を凌いだ者が一人だけいた。

 

「!?」

 

キンッ!

 

即座に反応し、咄嗟に『洞爺刀』で防ぎながら、自身に向けて刀を振った人物を見る。

その男は黒スーツを着ておらず、私服の上に羽織を羽織り、オレンジのグラサンをかけている。そして、『神速』を使用した攻撃から逃れ、それで生まれた隙を的確について、彼に一太刀加えようとしたことから、相当な手練れであることが分かる。

 

「ほう・・・さっきの『神速』に加えて、その反射神経。中々いい腕をしてるじゃないかあんた」

 

「(こいつの纏っている気、強い霊力を感じる。てことは退魔師か)・・・ただの用心棒って訳でもなさそうだな・・・何モンだ?」

 

「何、通りすがりの人斬りならぬ異形斬りだよ」

 

男の言葉に、陸兎はいつものだらけきった顔から戦闘モードの顔へと切り替える。

 

「ククク・・・さっきよりも殺気が増したねぇ。いいねぇ、実にいい」

 

楽しそうに笑いつつも、男は手に持った刀を鞘に戻した。

 

「片腕で殺り合うには惜しい男だ。行きな。次は両腕が使えていることを祈ってるよ」

 

「・・・・・・」

 

道を譲った男を警戒しつつも、陸兎は赤ん坊を手に抱いて走り去った。

男は終始楽しそうに笑いながら、去っていく陸兎の背中を見続けるのであった。




お気づきかもしれませんが、これの元になっているのは銀魂の『ミルクは人肌の温度で』です。
母親が悪魔だったり、似蔵のモチーフキャラが退魔師だったりなど、一部ハイスクールD×Dならではの設定となっておりますので、後編も引き続き読んでいただけたら幸いです。


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社会に出たらまずはアポの取り方を覚えろ

長くなりそうだったので、更に二つに分けました。


※9月10日追記
後編がかなり長くなりそうだったので、後編の内容の一部を中編に入れて再投稿しました。


先程、陸兎によって倒された黒服たちは、必死になって陸兎と赤ん坊を探していた。

 

「クソ!どこに行った!?」

 

「まだ、遠くに行ってないはずだ!探せ!」

 

辺りを見渡しながら、向こうの方へと走り去る黒服たち。

そんな彼らを壁に寄りかかって眺めていた少年が口を開いた。

 

「・・・もう行ったよ」

 

壁に寄りかかっていた少年、剣夜がそう言うと、彼の隣にあった壁が崩れ、そこから赤ん坊を抱いた陸兎が現れた。

 

「相変わらず便利だな。お前の『錬成』能力は」

 

先程、裏路地を塞いでいた壁は剣夜の誓約神器で作った物だ。

まだ誓約神器の名前は控えておくが、彼の誓約神器はあらゆる物を『錬成』し、本物そっくりのレプリカを作ることができる。

一見、地味に見える誓約神器だが、実はとんでもない力を持っている。その説明もまた別の機会に。

 

「それにしても、こんな街中で逃走中をやるなんて、今回は何をやらかしたんだい?」

 

「別に何もやってねぇよ。それよりも、あのハンター擬きは何なんだよ?」

 

剣夜の質問に一言で答えながら、自分と赤ん坊を追っていた黒服の正体を剣夜に問う陸兎。

 

「あれは恐らく、東京で営業をしている大企業、飯田屋の者だ。飯田屋は表向きは普通の会社だけど、何分黒い噂が多くてね。普通なら調査の対象になるけど、飯田屋は日本陰陽師協会のスポンサーも務めているから、こっちから下手に出ることができないんだ」

 

「ついでに、向こうはこっちに金を出してるから、そいつに何かあった時、俺ら退魔師が動く必要があると。さしずめ、虎の威を借りる狐・・・いや、狸親父ってことか・・・」

 

剣夜の説明を聞いて、加平という人物を一言で表す陸兎。

一方、剣夜は陸兎の抱いている赤ん坊を見つめる。

 

「それにしても、この赤ちゃん、本当に君にそっくりだね。正直、君が女の子を家に連れて、チョメチョメしたって言われても納得できるくらいだよ」

 

「だから、やめてくんない。なんで、どいつもこいつも俺に既成事実をつけたがるの?後、チョメチョメって何時の言葉だよ。今時の高校生でチョメチョメなんて言葉知ってる奴いねぇだろ」

 

またもやあらぬ疑いをかけられ、半ば疲れた様子で否定する陸兎。

一方、剣夜は陸兎が抱いている赤ん坊を興味深そうに見つめる。

 

「本来、赤ちゃんは今の自分の状態を伝える為に数時間に一回は泣くって聞くけど、この子は全然泣かないどころか泣く気配すら見せないね」

 

「冗談じゃねぇ。ここで泣き出してみろ。ホント川にぶん投げてやらぁ」

 

「バブ!」

 

「おう、そうだ。男はパーマに失敗した時以外は泣いちゃいけねぇ。お前はその分、イッセーより見込みがあるぞ・・・ん?」

 

赤ん坊の様子がおかしいことに気づき、ふと下を見下ろす。

すると、赤ん坊の下半身から水が溢れており、着ていた服を濡らしていた。

 

「どうやら、下は泣き虫みたいだね」

 

啞然とする陸兎の隣で剣夜が呟くのであった。

 

 

 

 

場所は変わって、ここは飯田屋本社。

大企業ということだけあって、建物は高層ビルとなっており、建物の中には飯田屋で働いている一般の会社員や社内を掃除する清掃員などがいる。

そんな会社の中に、人ならざる者達が三人。異形の存在を知らず、懸命に働いている人間たちの中に混ざっていた。

 

「こうして見て回ると、一見普通の会社にしか見えないよな」

 

「確かにそうだね。でも、所々に何かを隠しているような嫌な雰囲気を感じるよ」

 

「裕斗先輩の言う通りです。気を抜かないで調査しましょう」

 

清掃員の恰好をしながら社内を歩き回っている木場、小猫、一誠の悪魔三人。

ソーナから飯田屋と言う会社が日本陰陽師協会のスポンサーを務めており、下手に手を出せば日本陰陽師協会を敵に回すと忠告されたリアスだったが、このまま黙っておくことはできず、誘拐の真相及び飯田屋の秘密を確かめるべく木場、小猫、一誠の三人を潜入させた。

変装や手続き等に時間が掛かったものの、何とか潜入できた三人は清掃員として働きながら、飯田屋の秘密を探っていた。

 

「中々見つからないな・・・」

 

「これだけ大きな会社となると、隠している場所も限られているだろうね」

 

会話しながら辺りを見渡す一誠と木場。

すると、三人の耳に僅かだが音が聞こえてきた。

 

パシャ!

 

「「「!?」」」

 

突如水をかけたような音が聞こえ、三人は音がした方へ走り出す。

少し走ったところで、入口が鉄の扉でできている部屋を見つけた。音の発生源はこの部屋からだった。

余談だが、本来この鉄の扉は頑丈にできており、中の音が外に漏れない作りになっているのだが、悪魔である三人は聴力が普通の人間よりも優れているため、この部屋で鳴った音を聞こえることができたのである。

三人は真っ先に部屋に入ることはせず、まずは中の様子を確認しようと聞き耳を立てた。

 

「おやぁ?君たち、ここは立ち入り禁止だよぉ」

 

その時、三人に声を掛ける者が現れて、慌てて振り向くと、他の社員と違って黒服を着ておらず、私服の上に羽織を羽織って、オレンジのグラサンを掛けた男が三人を見据えていた。

ここでバレるのはマズいと思った一誠が慌てながらも何とか誤魔化そうとする。

 

「あ、あぁ!俺たち、新入りで、ちょっと道に迷っちゃって・・・」

 

「臭いねぇ、ネズミ臭い噓つき人間の匂いが・・・いや、噓つき悪魔の匂いがするねぇ」

 

「「「!?」」」

 

自分たちを匂いだけで悪魔だと見抜いた男に対し、一誠たちは一斉に戦闘態勢に入る。

その様子に男は嬉しそうに微笑んだ。

 

「ククク・・・いい殺気だねぇ。さっきの男といい、あんたらとも中々楽しめそうだ」

 

そう言いながら、男は腰に構えた刀を引き抜いた。

 

「ちょっと相手してくれるかい?この、人斬り改め異形斬りの胃蔵と」

 

 

 

 

あの後、剣夜を別れた陸兎はスーパーでおむつを買って、公園のベンチで赤ん坊のおむつを取り換えていた。

 

「お!お前右曲がりじゃねぇか。良かったな。将来大物になれるぞ」

 

「ムゥ」

 

「なんだ?小便漏らしたぐれぇで落ち込むんじゃねぇ。男は上と下が別の生き物だからな」

 

「これでよし!」と言っておむつの取り換えが済んだ陸兎はベンチに座った。

 

「たく、親父に間違われたり、誘拐犯に間違われたり、厄日だ今日は」

 

「アウ」

 

「あぁ悪ぃ、お前の方が厄日か。お互い大変だな。でもまぁ、生きていりゃこういう日もある。オメェもこの先、人生でもっと大変な事が起こるぞ」

 

そう言って、陸兎は立ち上がると、赤ん坊を背負い、落ちないように赤ん坊ごと自分の体に布を巻いた。

 

「いいか、これはある少年ジャンプ漫画のニート侍の言葉なんだけどよ、人生の80%は厳しさでできてんだ。いやホント、その通りだよ。俺なんて、80%どころか90%もあるぜ。けど、何も悪いことばかりじゃねぇ。こういう一日が終わった後のいちご牛乳は美味いんだ。事が全部済んだら、一緒に一杯やろうぜ」

 

「アウ」

 

「よし!行くか!」

 

背中に背負っている相棒との約束を胸に、陸兎は目的を果たすべく飯田屋本社に向かった。

 

 

 

 

一誠たちが胃蔵に見つかる少し前、飯田屋本社に連行された誘拐犯らしき女性は、柱に括り付けられて拷問を受けていた。

 

パシャ!

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

顔に水をかけられた女性は呼吸を整えながら、水をかけた拷問官を睨みつける。

 

「勘四郎様をどこにやった!?」

 

「この性悪女が!」

 

「・・・・・・」

 

二人の拷問官が女性に問い掛けるも、女性は何も喋らない。

その様子を眺めていた加平は、ゆっくりと彼女に近づく。

 

「全く、勘一郎め。この悪魔のどこに惚れたと言うのだ・・・」

 

そう呟きながら、加平は女性の前に立つと、彼女の顔を掴んだ。

 

「雇ってやった恩を忘れ、人の息子をたぶらかした挙句死に追いやい、更にはその子まで攫うとは、この薄汚い悪魔め!」

 

「・・・勘四郎を攫ったのは、貴方たちの方でしょう」

 

「何?」

 

表情を歪ませる加平に、女性は力強く言い返す。

 

「あの子は私の子です!誰にも渡さ――!」

 

「やれ」

 

「!? あぁー!」

 

力強く叫ぼうとした女性だったが、加平に指示された拷問官が彼女を括り付けている縄に霊力を送らせると、彼女は体中に焼けるような痛みを感じて悲鳴を上げた。

全身が焼けるような痛みに息も絶え絶えになりながら、女性は加平を睨みつける。

対する加平は、先程の行為を何とも思わない様子で平然と喋り出す。

 

「お前のような薄汚い悪魔から飯田屋の者が産まれただけでも恥だというのに、まだ勘四郎を子と言うか!?あの子は飯田屋の跡取りとして、私が立派に育てる。どうしても言わんと言うのなら・・・」

 

そう言いながら、加平は拷問官に指示すると、拷問官は腰にかけていた刀を抜いて、女性の前に突き出した。

 

「どうせ人間よりも長く生きることができるんだ。なら、目の一つが無くなったところで問題は無かろう?」

 

「・・・・・・」

 

刀を向けられて尚、女性は決して口を割ろうとはしなかった。

 

ドーン!

 

その時、入口の扉が破壊され、そこから三人の男女、胃蔵に見つかった一誠たちがなだれ込むように入ってきた。

加平たちは驚きながら入口の方を見る。目線の先には刀を抜いた胃蔵がいた。

 

「お楽しみのところすいませんね。何せ、怪しいネズミを見つけたもんで」

 

胃蔵が説明する中、加平の目線は部屋に入ってきた三人に向けられた。

 

「貴様らは、あの学園にいた赤髪の悪魔の――」

 

「悪いな爺さん。あんたの事を詳しく調べてこいって部長に言われたんだ。悪く思うなよ」

 

驚く加平に、一誠が加平を睨みつけながら言った。

 

「こんなところまで追いかけてくるとは困った人たちだ。私情故に、これ以上お手伝いは必要ないと申したはずですが?」

 

「安心しろ。あんたが私情で動いてるように、こっちも私情で動いてんだ。それにしても、孫想いの祖父ちゃんにしては、やりすぎじゃねぇか?」

 

「あなた方もお節介にしては、やりすぎですぞ。世の中には知らぬ方がいいと言うこともある」

 

加平がそう言うと、部屋の入口から次々と黒服たちが入ってき、三人を囲むように立った。

囲まれた三人は、背中合わせになりながら戦闘態勢に入る。

 

「やれやれ、部長には穏便に済ませろって言われたのに、こうなってしまえば、もう穏便には済まされないね」

 

「仕方ありません。こうなったら、プランBに変更しましょう」

 

聞き覚えのない単語を言う小猫に、一誠が恐る恐る問い掛ける。

 

「なぁ、小猫ちゃん。プランBって・・・?」

 

「それは勿論・・・物理で突破です」

 

 

 

 

一方その頃、陸兎は勘四郎を飯田屋に返すために飯田屋本社へとやって来たのだが、受付で止められていた。

 

「だから、社長さんに会わせてくれって言ってるんですよ」

 

既に何度も行われているやり取りに、陸兎の相手をしてる受付の女性は内心疲れながらも顔に出さず、同じ質問を繰り返す。

 

「失礼ですが、アポの方を取られておりますか?」

 

「だから、さっきから言ってるけど何だよアポって?あ!もしかして東北のフルーツ?社長さん好きなんですか青森アッポ―をたべるんご」

 

apple(アップル)じゃねぇし、たべるんごは山形だろ」

 

陸兎の言葉に青筋を立てながらも笑顔でツッコむ女性。

このようなやり取りを既に何度も繰り返しており、中々社長に会わせてもらえない陸兎は文句を言い始めた。

 

「たく、何なんだよ。さっきからアッポーとか辻野あかりとかよぉ。こっちは社長に会いてぇだけだってぇのに」

 

「アウ」

 

「おぁ、そうだ。最近の世の中はな、何をやるにも色々と登録やら何やら、訳分かんねぇ手続きをしないといけねぇ時代なんだよ。フットワークってモンが悪いんだフットワークってモンが。あーあ!いったい日本はどうなっていくんだろうなぁー!」

 

言いたい放題言う陸兎に、これ以上騒ぐのなら追い出そうと女性の脳内にそのような考えが思い浮かんだその時、建物全体が突如揺れ出した。

 

「な、何!?」

 

建物全体の揺れに、女性は一瞬だけ上を見上げた。

そして、すぐに目線を戻すと、目の前に陸兎はいなかった。

 

「あ!お客様困ります!」

 

騒ぎの隙をついて、近くにあったエレベーターに乗ろうとしてる陸兎を慌てて制止しようと女性は声を掛ける。

しかし、陸兎は既にエレベーターに乗り込み、女性の方に目線を向けると一言。

 

「アポ」

 

「ナポ」

 

その直後、エレベーターのドアが閉じ、陸兎たちは上の階へ登っていくのであった。

 

 

 

 

「なんということだ・・・!」

 

加平は目の前の光景に絶句していた。

黒服の者達は加平のボディーガードを務めるだけあって、それこそ並みのあやかしや悪魔とも戦えるくらい凄腕の精鋭ばかりだった。

しかし、加平の目の前に広がっている光景は、その精鋭たちが全員地面に倒れてる姿である。

 

「どうした爺さん?随分顔色が変わったな。さっきまで余裕こいて笑ってたのによ」

 

加平に向かって喋る一誠に対して、加平はこの光景を引き起こした三人の悪魔を忌々し気に睨む。

同じ悪魔でも下っ端程度だと思っていたが、彼らは自分たちの想像以上の力を発揮し、あっという間に襲い掛かってきた黒服たちを全滅させた。

 

「いいねぇ。こうでなくちゃ面白くない」

 

だが、こんな状況下でも胃蔵は未だに笑みを崩していなかった。

木場は微笑みながらも油断せず剣を構える。

 

「余裕そうですね。こっちは三人に対して、そちらはもう貴方一人ですよ」

 

「ククク・・・そういう言葉は、俺の居合いを防いでから言うんだな」

 

「!?」

 

その瞬間、胃蔵は『神速』で高速移動しながら木場に迫った。

木場は咄嗟に反応をし、剣を僅かに動かしたがその直後、木場の肩から血が飛び散った。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁ!」

 

斬られる直前、『神速』に反応できた木場は咄嗟に剣を動かして、胃蔵の剣の軌道を僅かに逸らしたため、傷自体は致命傷でないが、斬られた箇所から焼けるような痛みを感じ、その場で肩を押さえながら蹲る。

一方、木場を斬った胃蔵は、自身の居合いに反応できた木場を称賛した。

 

「一撃で逝かせるつもりだったけど、一瞬とはいえ俺の剣に反応するとはね・・・中々いい腕してるじゃないかあんた」

 

「テメェ!」

 

仲間を斬られて怒った一誠が『赤龍帝の籠手』で胃蔵に殴り掛かる。

 

「動きはいい。でも、真っ直ぐすぎじゃないかねぇ」

 

しかし、胃蔵は一誠の拳を体を横に捻らして躱し、『神速』の居合いで一誠の腹を斬った。

 

「がっ!?」

 

斬られた一誠は木場同様、その場に膝を付いて斬られた部位を押さえる。

しかし、一誠はこの痛みに覚えがあった。

 

「この痛み・・・まさか霊力・・・!?」

 

以前、陸兎から霊力が異形にとってどれほど毒になるのかを、その身で体験したからこそ、一誠はこの焼けるような痛みの正体を当てることができた。

 

「激痛かい?この痛みは君たち異形にとって炎で体を焼かれるも同然だからねぇ」

 

不敵な笑みでこちらを見つめる胃蔵に、彼に傷を負わされた一誠と木場は顔をしかめる。

その時、メキメキと音がした。音がした方に胃蔵が振り向くと、強力な腕力で女性を括り付けていた柱を壊し、それを持ち上げている小猫がいた。

 

「このままここで戦うのは不利です。一旦この人を連れて移動しましょう」

 

そう言いながら、小猫はへし折った柱を胃蔵目掛けて投げた。

胃蔵は瞬時に刀で柱を斬りつけた。真っ二つに斬れた柱が部屋の壁にぶつかり、衝撃が部屋を揺らす。

だが、目の前には既に一誠たちはおらず、代わりに床に穴が開いていた。

胃蔵が柱を斬っている隙に、床を殴って穴を開け、そこから逃げたのだろう。

 

「おのれ・・・!何をしておる!さっさと女たちを見つけ出せ!」

 

加平は怒りながらも倒れている黒服たちに指示を出し、逃げた一誠たちを追わせた。

 

「ククク・・・さて、君たちはどこまで足搔いてくれるかな?」

 

加平や黒服たちが、慌てながら部屋を出る中、胃蔵はただ一人、一誠たちが逃げ出した穴を見つめ、楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 

一方、胃蔵から一旦逃げることにした一誠たちは、社内の廊下を歩いていた。

 

「お二人共、傷はどうですか?」

 

「大丈夫だよ小猫ちゃん。痛みも、もう治まったし、さっきこの人から手当てしてもらったからね」

 

心配する小猫に向かって微笑む木場の肩には包帯が巻かれていた。

拷問部屋から脱出した直後、胃蔵に斬られた木場と一誠は助け出した女性から軽い手当てを受けていたのだ。

その女性は現在、一誠と話している。

 

「それじゃあ、勘四郎は無事なんですか!?」

 

「はい。今は俺たちの仲間と一緒にいるはずです」

 

一誠はこれまでに起きた出来事を女性に話すと、今度は女性の身に何があったのか問い掛ける。

 

「今の話を聞いて、あの子の母親が貴方だってことは分かりました。もし良ければ、何があったのかも教えてくれますか?それくらい聞く権利は、俺たちにもあると思います」

 

一誠の問いに、女性は少し悩んでいたものの、ゆっくりと口を開き、自身とその子である勘四郎の身に起きた出来事について話すのであった。




次回で完結となります。


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赤ん坊にも記憶と心はある

今回で番外編完結となります。


始まりは、飯田屋に就職した女性が一人の男に出会ったのがきっかけだった。

女性の名前は登古。彼女は悪魔でありながらも幼い頃から現世の都会に憧れており、将来は東京で働くことを夢見てた。

そして、成人した彼女は憧れの東京にやってきたのだが、異形である彼女を雇う者がいなく、中々就職先が見つからなかった。挙句の果てに、異形ということもあり、退魔師から狙われる日もあったのだと言う。

そんな彼女を雇ってくれたのが飯田屋だった。登古は飯田屋の使用人として、病弱で寝たきりとなっている加平の息子、飯田勘一郎の世話を任された。

勘一郎という人物は、登古を含む使用人に、よくいたずらを仕掛けていたが、悪魔である登古にも友人のように接する優しい性格の持ち主だった。

そんな勘一郎に、登古は徐々に惹かれていった。

ある日のこと、いつも通り勘一郎の世話をしていた登古だったが、ふと勘一郎が口を開いた。

 

『なぁ、登古。悪魔ってどのくらい生きるんだ?』

 

『そうですね・・・最低でも数百年くらいですね』

 

『そりゃまた、退屈な時間が続きそうだな。俺みたいに、もうすぐ死ぬ奴なんかとは大違いだ』

 

『そんなこと言うものではありません。旦那様も悲しみますよ。旦那様は勘一郎様の病気を治そうと必死なんですから』

 

『あのおっさんは俺を飯田屋の跡取りとしか考えてねぇよ。財産とか跡取りとか、そんなに大事なモンかね?」

 

『・・・それは、私にとっては我儘に聞こえます。全てを持っている人の』

 

『そうかもな。それだったら、俺は何もいらねぇな。どうせ後少ない命ならそうだな・・・俺は桜の花びらになりたいな』

 

『桜の花びらにですか?でも、桜の花びらは春が終わるころに全て散ってしまわれますわよ』

 

『いいんだよ。だって、こんなにも綺麗に、その身を咲かせているんだからさ』

 

勘一郎が見上げている庭には、満開の桜が咲き誇っていた。

それから二人は、こっそりと屋敷を出て、東京から離れた一軒家で暮らし始めた。

生活こそは貧しかったものの、お互いに泣き合い、笑い合いながら、二人は幸せな日々を過ごしていった。

しかし、その幸せは長くは続かなかった。

二人が駆け落ちしてから一年経ったある日、勘一郎の病気が悪化したのだ。それと同時に、加平も二人の居場所を特定し、部下と共に家にやって来た。

 

『ようやく見つけたと思ったら、この様だ。私の下で大人しくしていれば、病が悪化することはなかった。全て貴様のせいだ』

 

激怒した加平は勘一郎を屋敷に連れ戻し、登古を飯田屋から追放した。

追放された登古は、勘一郎が死ぬ最後の瞬間まで彼の姿を見ることはなかった。

それから少し経ったある日、登古から一人の赤ん坊が産まれた。彼女は己の子を勘四郎と名付け、死んだ勘一郎の分まで勘四郎を立派な子に育てようと決心した。

だが、程なくして勘四郎の噂を聞きつけた加平が、勘四郎を跡取りとして飯田屋に連れていこうとした。

勘一郎を失い、子である勘四郎をも失うことを恐れた登古は、勘四郎を連れて、住んでいた家を出た。そんな二人を飯田屋の者達が毎晩追いかけていた。

追手の手が日に日に厳しくなっていく中、登古はある日、複数の悪魔が住んでいる駒王町という町とその町を治めているリアスという悪魔の存在について聞いた。

登古は同じ悪魔であるリアスに会って、自分と勘四郎を飯田屋から守ってもらおうと思い、駒王町にやって来た。だが、追手もまた、駒王町まで追いかけてきた。

追手に追われてた登古は、勘四郎をたまたま近くにあった建物、駒王学園の旧校舎の傍に勘四郎を置くと、自分は囮となって追手の目を引き、追手を撒いた後で勘四郎を迎えに行こうと思っていた。

そして、その勘四郎を陸兎が見つけて今に至る。

 

「貴方たちには、すまないことをしたと思っています。私の勝手な都合で、こんな事に巻き込んでしまって」

 

「気にしないでください登古さん。それに、この事は僕たちにも関係はあります」

 

木場の言葉に、きょとんとする登古。

その隣で小猫が説明する。

 

「私たちは、貴方が探していたリアス先輩の眷属です。ここに来たのも、リアス先輩のご命令があったからです」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「はい。ですから、まずはここを出て、これからの事はリアス先輩に相談しましょう。大丈夫です。あの人なら、きっと貴方たちのことを何とかしてくれるはずです」

 

そう言って、小さく微笑む小猫を見て、登古は希望に満ちた表情を浮かべた。

 

「それにしても、あの爺さん。予想以上のゲス野郎だな」

 

「ゲスはその女だ」

 

一誠が呟いた途端、前の方から声が聞こえてきた。

正面を見ると、加平が先程よりも多い数の黒服たちを引き連れて、通路の奥に立っていた。

 

「そいつさえいなければ、飯田屋は安泰だった。勘一郎に飯田屋を継がせて、私の生涯の仕事は完遂するはずだった。それを、貴様のような薄汚い悪魔に壊された!私がどんな思いで、この飯田屋を守ってきたか分かるか!?泥水を啜り、汚い事にも手を染め、良心すらも捨ててここを守ってきた私の気持ちが分かるか!?」

 

「勘一郎様は貴方のそういうところを嫌っていました!何故こうも飯田屋に執着するのですか!?」

 

「ふん!女、子供には分かるまい!」

 

「分かりたくねぇな。そんな気持ちなんて」

 

「何?」

 

加平の言葉に反論したのは一誠だった。

 

「自分自身の目的の為に他人の自由を奪って、その幸せを奪おうとするテメェの気持ちなんて分かりたくもねぇ!そんなテメェの歪んだ気持ちが分かるくらいなら、俺は子供でいた方が何倍もマシだ!」

 

しかし、一誠の怒りの籠った言葉にも、加平は鼻で笑った。

 

「そんなものは所詮世間を知らぬ者の戯言に過ぎないのだよ小僧。男は何か成すために、命すらも掛ける必要がある。成すものは人それぞれだが、私にとって、それは飯田屋なのだよ。飯田屋を守るためなら、私はいくらでも汚れてくれる!私にはその覚悟があるのだよ!」

 

そう言うと、加平は周りにいた黒服たちに「行け!」と指示する。黒服たちは一斉に襲い掛かった。

それに対して、一誠たちは応戦しようと戦闘態勢に入ったその時

 

ドーン!

 

『ぐぁーーー!!』

 

衝撃音と共に黒服たちが一斉に吹き飛ばされて地面に倒れた。

衝撃が煙となって、辺りを曇らせていく中、煙の中から人の声が聞こえてきた。

 

「すみませーん、社長室はここですかー?」

 

煙の中から聞き覚えのある声が聞こえ、一誠たち悪魔組は目を丸くした。

やがて煙が晴れ、そこから現れたのは・・・

 

「アッポー」

 

「ナポー」

 

りんごを片手に持った陸兎と勘四郎であった。

 

「なんだ貴様は!?」

 

「なんだチミはってか?そうです、私が子守狼です」

 

何者かと問い掛ける加平に、陸兎は某変なおじさん風に言った。

そんな彼に向かって、今度は一誠が問う。

 

「八神!なんでここに!?」

 

「どしたイッセー?とうとう部長に愛想つかれて、ここに就職したのか?まぁ、お前のことなんざどうでもいいから、とりあえず今の状況を30字で説明しろ」

 

「いきなり出てきて、とんでもないこと言いやがったな!?もし、部長に愛想つかれたら、俺はガチで死ねるぞ。とりあえず30字は無理だから、なるべく簡潔に説明すると・・・」

 

一誠は今までに聞いてきたことや見てきたこと全てを陸兎に話した。

説明を聞き終えた陸兎は、めんどくさそうな顔をしながら加平を見た。

 

「おいおい、せっかくガキ返そうと思って、わざわざ足を運んだってのに、どうやら無駄足だったみてぇだな」

 

「無駄足ではない。その子は私の孫だ。飯田屋の大事な跡取りだ。こちらに渡せ」

 

「俺はこいつから解放されんなら、ジジイだろうが母ちゃんだろうがどっちでもいいけどな。お前はどうなんだ?」

 

「マウ」

 

勘四郎の意志を聞いた陸兎は、「そうかい」と頷くと、登古に勘四郎を渡した。

 

「悪ぃな爺さん。ジジイの汚ねぇ乳を吸うくらいなら、母ちゃんの貧相な乳しゃぶってた方がマシだってよ」

 

「やめてくれません!その嫌らしい表現、やめてくれません!」

 

陸兎が発した嫌らしい表現に顔を赤らめる登古。

一方、加平はまだ諦める様子はなかった。

 

「ふん!逃げ切れると思うなよ。こちらには、まだ切り札が残っている」

 

加平がそう言った途端、一誠たちの後ろの方から足音が聞こえ、後ろに振り向くと、胃蔵がこちらに向かって歩いてきた。

 

「盲目の身でありながらも、数多くの異形を一撃で葬ってきた居合いの達人。その傭兵の名は岡部胃蔵。『異形斬りの胃蔵』の異名を持つ男だ」

 

「やぁ、また会えると思っていたよ。今度は両腕が使えるみたいだねぇ」

 

そう言いながら、嬉しそうに笑う胃蔵。

一方の陸兎は、何処か納得したかのような顔で口を開いた。

 

「なるほどな。どっかで見たことある面だと思ったら・・・テメェ、退魔師の傭兵『異形斬りの胃蔵』だな」

 

「ほう、この俺も有名になったモンだねぇ」

 

「『神速』で相手の懐に入り、相手が気づいた頃には、既にその首を斬り取っている居合いの達人。そんな傭兵が、こんな大企業の社長さんに雇われてたとはなぁ」

 

「俺は傭兵なんでねぇ。それ相応の報酬さえ払えば、いくらでも斬ってあげるよ。例え獲物が・・・同じ人間であってもねぇ!」

 

そう言った直後、胃蔵は『神速』で陸兎に急接近した。

それに対して、陸兎は咄嗟に『洞爺刀』を振ったが、胃蔵が陸兎の後ろまで移動した瞬間、陸兎の肩から血が飛び散った。

 

「八神!」

 

斬られた陸兎の下に、一誠と木場が駆け寄る。

更に、あの一瞬で起きた出来事はそれだけではなかった。

 

「勘四郎が!?」

 

「いけないねぇお母さん。赤ん坊はしっかり抱いておかないと」

 

登古の腕に抱いていた勘四郎が消え、胃蔵が口を開いた頃には、胃蔵の刀に吊るされている勘四郎の姿が見えた。

胃蔵はあの一瞬で陸兎の肩を斬ったと同時に勘四郎を奪ったのだ。

胃蔵から勘四郎を渡された加平は、上機嫌に喋る。

 

「よくやった胃蔵。後はゆっくりと高みの見物と――」

 

「悪いねぇ社長さん。俺もあの男を相手するのに手一杯みたいだ。さっさとガキを連れて逃げな」

 

そう言って、膝を付きながら額を押さえている胃蔵の頭からは血が流れていた。

先程の一瞬、陸兎はただ『洞爺刀』を振ったのではなく、その一瞬の間に胃蔵の額を斬ったのだ。

あまり思しくない現状に、加平は顔を険しくさせていると、腕の中にいる勘四郎が突如暴れ出した。

 

「こ、コラッ!暴れるな!どうしたと言うんだ!?」

 

慌てて勘四郎をあやすも、勘四郎が止まる様子はない。

 

「おいおい、随分嫌われてんなぁ」

 

その様子を見ていた陸兎が、加平に向かってそう言った。

 

「俺と一緒にいた時は、初デートで緊張している中学男子並みに大人しかったってぇのによぉ。孫ってのは普通、祖父ちゃんの事を好きなはずなんだけどな・・・祖父ちゃんの資格ねぇんじゃねぇのかあんた?」

 

「う、うるさい!胃蔵、さっさと止めを刺せ!」

 

陸兎に向かってそう言うと、加平は胃蔵に止めを刺すよう促し、勘四郎を抱えながら逃走した。

 

「イッセー、木場、小猫。先に行け」

 

陸兎は後ろにいる一誠、木場、小猫の三人に加平を追うよう言った。

それに対して、一誠が待ったをかける。

 

「待ってくれ!あいつに一人で相手するなんて、いくら何でも無茶だ!ここは皆で、あいつを倒してから――」

 

「もしこいつが、本物の『異形斬りの胃蔵』だとしたら、こいつは中級悪魔クラスを討伐できる程の実力者だ。はっきり言うが、今のお前らが戦っても足手纏いになるだけだ。俺にできることは俺がする。だから、お前らはお前らのできることをしろ」

 

「でも!」

 

未だ引く様子のない一誠に、陸兎は三人に向かって笑顔で言った。

 

「後で・・・必ず行くからよ」

 

陸兎の思いを受け取った一誠たちは決心し、登古と共に加平を追った。

一人残った陸兎は、正面から胃蔵を見据える。

 

「いいのかねぇ。侍が果たせぬ約束をするもんじゃないよ」

 

「心配いらねぇよ。こう見えて、俺はデートの待ち合わせ場所に30分前には絶対に行くくらい律儀なんでね」

 

「ククク・・・やっぱり、面白い男だねぇ」

 

嬉しそうに笑う胃蔵に対して、陸兎は一つ胃蔵に問い掛ける。

 

「一つ聞いていいか?お前、なんで傭兵になったんだ?退魔師で食う気なら、地方の陰陽師局で働いた方が給料もいいだろ」

 

「・・・俺は若い頃に目が逝っちまったねぇ」

 

胃蔵は語る。かつて目を失った彼は、その損失を他の器官で補っていたことを。目が無くなったのなら、他の器官でその穴を埋めればいいと。

 

「おかげで今じゃ、鼻も耳も人一倍勘が鋭くなってねぇ。前よりも色んな物が見えるようになった。ところで、あんたは見たことあるかい?命が断たれた瞬間に出てくる'あれ'を」

 

そう言いながら、楽しそうに語る胃蔵の顔は狂気に満ちていた。

 

「'あれ'は魂って奴かねぇ?殺った瞬間にぼわぁと出てくるんだけど、これが綺麗な色をしててねぇ。色んな命ごとに、'あれ'の色が違うから、何回見ても飽きないんだよ。だけど、今の現代社会で無差別に人斬りなんてしてたら、退魔師の連中にすぐ捕まっちまうからねぇ。かと言って、俺みたいな命を奪うのを楽しむ外道を頭がお堅い連中が雇うはずがなかった」

 

「それで傭兵になったって訳か。確かに退魔師って職は、傭兵だろうが依頼さえ受けりゃ、余程の事がない限り、命を奪おうとも法で罰せられる事はないからな」

 

納得した陸兎は、目つきを鋭くさせ、体中に闘気を湧き上がらせながら胃蔵に向かって言った。

 

「俺は写輪眼や皇帝の眼(エンペラー・アイ)などの特別な眼は持ってねぇが、そんなもん無くても俺には見えるぜ。テメェの汚ねぇ魂の色がな。ウンコみてぇな汚ねぇ色しやがって。テメェみてぇに命を奪って喜ぶ奴なんざ、他人の痛みも苦しみも何一つ見ようとしねぇクソ野郎だけだ。テメェの魂は何も見えちゃいねぇよ」

 

そう言いながら、陸兎は『洞爺刀』の刃先を胃蔵に向ける。

 

「来いよ、テメェの汚ねぇ魂ごとその頭叩き割ってやる――っ!?」

 

闘気を剥き出しに構えていた陸兎だったが、胃蔵はその瞬間で生まれた隙を見逃さず、『神速』で陸兎に斬りかかった。

移動を終え、後ろに振り向いた彼の見えない目に映った光景は、右腕を斬り落とされ、そこから血を流しながら倒れている陸兎の姿だった。

 

「来いよって言ったから来てやったけど、ちと早すぎたかねぇ。どうやら、見えてないのはあんたの方だったねぇ」

 

一仕事終えた胃蔵は、一服と言わんばかりに点鼻薬を鼻に入れようとした。

その時、点鼻薬を持つ彼の腕が突如誰かに掴まれた。

 

「どした?俺が斬られた幻覚でも見たのか?」

 

「!? 馬鹿な!?」

 

胃蔵は目の前に斬ったはずの男が立っていることに驚きつつも、再度刀を抜いたが、そこで彼は異変に気づいた。

 

「なっ!?刀身が折れてる!?」

 

「抜き身も見せねぇ『神速』の居合いが仇になったな」

 

胃蔵の持っている刀の刀身が折られていた。

胃蔵は陸兎を斬り損ねたのではなく、刀身が無かった為に斬れなかったのだ。

 

「(まさか、最初の一撃で既に俺の刀を!?しかし、霊力を纏った刀だぞ!それをどうやって・・・?)」

 

「どうやら、俺の気配は見えても、俺が持ってる誓約神器の波動は見えなかったみてぇだな」

 

最初の一太刀で陸兎は胃蔵の額だけでなく、その刀さえも折っていたのである。陸兎の闘気に応じて、身に纏う霊力を高めた『洞爺刀』の力によって。

 

「!?(誓約神器だと!?馬鹿な!それだけの大きい色、俺が気づかないはずが――)」

 

しかし、胃蔵は更に疑問符を浮かべた。陸兎が誓約神器を持っているのだとしたら、その強力な色を自分が見逃すはずがない。

胃蔵は再度正面を見るが、見えない目に映っている物は、目の前にいる男の凄まじい闘気のみだ。

 

「(いや、違う!あの男の闘気が濃すぎたんだ!誓約神器の激しい色すらも凌駕する程に)」

 

胃蔵は誓約神器が放つ色を感じ取れなかったわけではない。それ以上の凄まじい色を持つ陸兎の闘気が誓約神器の色をも覆したのだ。

 

「言っただろ。お前の魂は何も見えちゃいねぇって。もうちょっと目ん玉見開いて生きろ!このタコ助!」

 

呆然とする胃蔵の隙を付いて、陸兎の一撃が胃蔵の脳天にヒットした。

陸兎は床に倒れた胃蔵を一瞥すると、一誠たちの後を追うのであった。

 

 

 

 

一方、加平を追いかけてた一誠たちは、飯田屋の屋上で遂に加平を追い詰めた。

 

「はぁ・・・!はぁ・・・!勘四郎は渡さんぞ!飯田屋もだ!」

 

「飯田屋なんて好きにしてください!でも、その子は私の子です!」

 

「忌々しい女だ。私から勘一郎を奪って、更には勘四郎まで奪う気か!」

 

追い詰められながらも、加平は正面に立っている登古に向かって叫ぶ。

その時、加平の腕の中にいた勘四郎が再び暴れ出した。

加平は慌てて勘四郎をあやすも、勘四郎が止まる様子はない。

その様子を見て、登古は真剣な表情で言った。

 

「勘四郎にも聞こえているんです。貴方の言っている事が」

 

登古の言葉に加平は一瞬「うっ!」と顔を歪ませるも、すぐに言い返す。

 

「馬鹿な!こんな赤ん坊に分かるはずが――」

 

「分かるんですよ!そして、覚えているんです。どんなに幼くても、優しく抱かれていた時の事は・・・」

 

そう言うと、登古は前に勘一郎が言っていた事を語る。

そこには、たくさんの綺麗な花と祭壇、綺麗な女性の写真が置いてあった。

そして、幼き自分を腕に抱きながら父は亡き妻の写真の前でこう言っていた。

 

『大丈夫。お前がいなくてもやっていけるさ。飯も私が作るし、おむつの取り換えもだ。だから、安心して眠ってくれ。勘一郎と飯田屋は私が必ず守ってみせる』

 

その言葉は加平にとっては何気ない一言だったかもしれない。

だけど、幼い勘一郎にとって、その言葉は死ぬまで忘れることのなかった大切な言葉だった。

 

「・・・・・・」

 

「こんなことをして、勘一郎様や奥様が喜ぶとでも?」

 

登古に諭された加平は、先程までの憎悪の表情から一転して、悲しげな顔で俯いた。

 

「・・・勘一郎は産まれた時から病弱だった。どれだけ死力を尽くしても、人の1/3しか生きられないと医者に言われてな。だが、妻は1/3しか生きられないのなら、その3倍笑えるように生きていけばいいと・・・桜の花のように、短くとも美しく鮮やかにその花を咲かせてあげようと言っていた。だが、私は妻より利口ではなかった。勘一郎を檻に入れたかのように育てた。金を手に入れる為に汚い事にも染めた。日本陰陽師協会との繋がりも得た・・・どんな形であろうと、生きていて欲しかった。妻にも、勘一郎にも・・・結局、皆無くしてしまった。約束も、何もかもだ・・・」

 

そう言って、加平はその場にしゃがみ込んだ。

そこに映っていたのは、大企業として成功した社長の姿でなく、その代償に、大切な者達を失ってしまった一人の老人の姿だった。

 

「・・・っ!?」

 

ふと自身の頬を触れられ、驚きながら下を見下ろすと、勘四郎が加平の頬に触れていた。

その様子を見た登古は、優しく微笑みながら加平に近づく。

 

「何も無くしてなんかないじゃないですか。勘四郎は私の子供です。でも、貴方の孫でもあるんですよ。だから、今度家に来る時は、飯田屋の社長としてでなく、孫想いのおじいちゃんとして来てくださいね。お茶くらい出しますから」

 

「うぅ・・・うぅ・・・!」

 

加平は勘四郎を抱きながら、その場で泣いた。

愛すべき家族を失ったと思っていた男にも、まだ自分の事を愛してくれている家族は残っていた。

 

「やれやれ、これで一件落着だな」

 

その様子を、一誠たちは後ろの方で見ながら安堵するのであった。

 

 

 

 

辺りがすっかり暗くなった頃、陸兎たちは飯田屋を出て、勘四郎と登古を連れて駒王町の公園にやって来た。

しばらくの間、公園で話していると、魔法陣が出現し、リアスが現れた。

 

「登古さん、貴方と勘四郎くんの事なんだけど、この町で住めるよう手配しておいたわ」

 

「本当ですか!?」

 

「えぇ。仕事の方も、いい場所が見つかり次第、貴方たちの所に連絡するわ」

 

リアスの言葉に驚きながらも、登古はリアスに頭を下げた。

 

「皆さん、この度は誠にありがとうございました。この御恩は一生忘れません」

 

勘四郎を守ってくれた陸兎たち、自分たちの住処を用意してくれたリアスに礼を言う登古。それに対して、リアス達は気にするなといった感じで微笑んだ。

そこから少し離れた所で、陸兎と勘四郎はベンチに座って約束の一杯を飲んでいた。

 

「「プハッ!」」

 

陸兎はいちご牛乳、勘四郎はミルクを一気に飲み干して息をついた。

 

「どうだ、うめぇか?」

 

「アウ」

 

「何?酒の方がいい?馬鹿言ってんじゃねぇよ。酒は色んな所に毛が生えてから飲めるんだ・・・そうだな」

 

陸兎はベンチから立ち上がり、正面から勘四郎を見据える。

 

「いつかお前が大人になって、その時にまだ俺のことを覚えていたら、また会いに来い。そん時は酒でも何でも、いくらでも付き合ってやるよ」

 

「ヤウ?」

 

「おう、こいつは約束だ。侍は果たせない約束はしねぇんだよ」

 

そう言いながら、陸兎は勘四郎の頭を撫でた。

 

「精々いっぱい食って、いっぱい寝て、さっさと大人になるこった・・・じゃあな、いつでも待ってるぜ」

 

そう言い残して陸兎が去った途端、勘四郎は大声で泣き出した。

勘四郎の泣き声を聞き、登古が慌てて駆け寄る。「普段は滅多に泣かないのに」と不思議がりながら登古は勘四郎をあやした。

勘四郎の下を去った陸兎は、ふと花びらが散りゆく桜の木を見上げる。

 

「春もそろそろ終わりか・・・」

 

その呟きは、少し暖かすぎる春風と共に消えていった。




次回はオリキャラ達の紹介となります。


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キャラ紹介じゃあああ!!その1

第2章までに登場したオリキャラ&他作品キャラの紹介です。


・八神陸兎(やがみ りくと)

身長:175cm

体重:68kg

年齢:17歳(原作開始時は16歳)

誕生日:11月22日

好きなもの:焼肉、いちご牛乳

嫌いなもの:グリンピース、働くこと

容姿:「アルゴナビス」の旭那由多を銀さんみたく死んだ魚のような目をした高校生にした感じ。ただし、戦闘(マジモード)になると、那由多みたく鋭い目つきになる。

CV:杉田智和

駒王学園に通っている二年生。授業中に校長室でくつろいだり、昼休み中に放送室を乗っ取って生放送したり、他クラスの体育の授業で試合中に乱入したりなど、よく問題行動を起こすことから学園では問題児と言われている。ただし、周りの生徒や教師たちは陸兎の問題行動に嫌がる様子はなく、覗きや痴漢行為をするエロ三人組の方が問題視されているため、そこまで嫌われていない。寧ろ、見た目がちょい悪イケメンの部類に入るため、駒王学園の三大イケメンの一人として君臨しており、一部の女子から人気がある。

一見少し変わった高校生だが、その裏の顔は陰陽師の家系の集まり、十師族の中で一番の力を持つ家系、十門寺家が誇る最強の退魔師の精鋭部隊、十天師の一人。遥か昔、人によって作られた神器、誓約神器(ブレージデッド・ギア)の一つ『洞爺刀(エムブラスク)』の契約者であり、『白鬼(びゃっき)』の異名を持つ。他にも、白鬼(しろおに)とも呼ばれることもあるが、本人はそう呼ばれることを嫌っている。基本的に『洞爺刀』一本で戦い、その戦闘能力は並みの堕天使を一瞬で葬ることができるくらい高い。また、『神速(かみそる)』という地面を一瞬だけ力強く蹴って高速移動する技や、強靭な足で空気を蹴って空中を自由に飛んだりすることができる。他にも、夜叉神流という鬼をも斬り殺すことができると言われている剣術を使える。

一誠とは、彼が悪魔に転生する前からの悪友であり、彼からエロDVDを借りたり、覗きや痴漢行為をした彼を罵倒したりなど、それなりに仲はいい。リアス達オカルト研究部の部員からは、最初こそは警戒されていたものの、いくつかの交流を得て、それなりの信頼は得られている。特に朱乃とは、監視という意味合いで同棲しており、彼女のハレンチな行動に振り回されつつも充実した生活を送っている。

 

 

・十門寺剣夜(じゅうもんじ けんや)

身長:189cm

体重:65kg

年齢:17歳(原作開始時は16歳)

誕生日:10月30日

好きなもの:刺身、うどん

嫌いなもの:無し

容姿:「機動戦士ガンダム OOF」のピクサー・フェルミみたいなミステリアスな雰囲気を持つイケメン。

CV:立花慎之介

陸兎と同じ、駒王学園の二年生。人間の身でありながらシトリー眷属のみで構成されている生徒会に生徒会長補佐として所属している。成績は学年トップでスポーツ万能、誰にでも親身に接する穏やかな性格の持ち主であり、学園では三大イケメンの一人として絶大な人気を誇っている。

その裏の顔は、十門寺家当主の一人息子にして次期当主。そして、十天師を束ねる頭目でもある。頭目なだけあって、戦闘能力だけでなく指揮能力も高く、高いカリスマ性も兼ね備えている。あらゆる物を『錬成』し、本物そっくりのレプリカを作れる誓約神器の契約者である。

陸兎とは、小さい頃からの幼馴染であり、彼の過去を知る数少ない人物の一人である。ソーナとは、小さい頃に何度か会っており、自身の補佐を任せられる程彼女から高い信頼を得ている。他の生徒会の面々も同様で、剣夜のことを高く信頼している。ただし、ソーナとできちゃった結婚を望む匙元士郎からは、信頼こそはされているものの、同時に憎敵として激しく恨まれている。

 

 

・七星麗奈(ななほし れいな)

身長:158cm

体重:52kg

年齢:17歳

誕生日:4月7日

好きなもの:オレンジジュース、華道

嫌いなもの:コーヒー(ブラック)

容姿:「魔法科高校の劣等生」のアンジェリーナ・クドウ・シールズをクールビューティー美少女にした感じ。

CV:早見沙織

十門寺の使用人で剣夜の侍女。普段は駒王学園に通う二年生であり、副会長補佐として生徒会に所属している。成績は剣夜程ではないがかなり高く、学年トップ10に入り込んでいる。10人中10人全員が美しいと言うであろう美貌と誰にでも敬語を使って丁寧に接する性格から、学園ではファンクラブ(非公式)が作られるくらい人気がある。

他の二人同様、彼女も十天師の一人で、銃型の誓約神器の契約者である。

主である剣夜には、普段は侍女として彼の命に忠実に従うが、彼が危険な場所に行こうとすると、彼の制止を押し切ってでも付いていこうとする頑固な一面もある。陸兎とは、主である剣夜の幼馴染であり、友人であると同時に同僚でもある。ただし、剣夜か陸兎が人に迷惑をかけるような事をすれば、手を出すことすらもお構いなしに容赦なく止める。この時の彼女は、顔は笑っているものの、彼女の周りには、リアスとソーナの怒りのオーラを上回るくらいの冷たい冷気が漂っており、近くで見てたグレモリー眷属とシトリー眷属はその場から動けずにいた(同時にこの学園で一番敵に回してはいけない者は麗奈だと認識させられた)。

 

 

・定春

『銀魂』に登場するキャラ。使い魔の森に住んでいたところを陸兎たちに拾われ、その場のノリで陸兎の使い魔(ペット)になる。現在は陸兎の家に住んでいる。原作同様、誰かの頭に嚙みつく癖は健在で、被害者は主に陸兎と一誠。

 

 

・天酒馨

『浅草鬼嫁日記』に登場するキャラ。一見普通の高校生(イケメン)だが、前世は大妖怪、酒吞童子。あやかしが見える程の高い霊力を持ち、戦闘に関しては、一般退魔師を超える実力を持っている。前にあやかし関係の出来事に首を突っ込んだ(真紀によって無理矢理巻き込まれた)際に、たまたま現場に居合わせた陸兎と出会い、一緒に事件を解決したことがある。それ以降、たまに浅草にやって来る陸兎と世間話をしたり、一緒にご飯を食べたりなど、彼の良き友人となっている。

 

 

・茨木真紀

『浅草鬼嫁日記』に登場するキャラ。活気的な少女だが、前世は酒吞童子の妻、茨木童子。馨同様、高い霊力を持ち、戦う際は釘バットを使用する。原作みたいに困っているあやかしを放っておけない優しい性格は健在で、前にあやかし関係の出来事に首を突っ込んだ際に、たまたま現場に居合わせた陸兎と出会い、一緒に事件を解決した。それ以降は馨同様、彼の良き友人となっている(たまに釘バットで彼の顔面をぶん殴ることはあるが)。

 

 

・飯田勘四郎

『銀魂』の勘七郎をモチーフにしたオリキャラ。祖父、飯田加平の手から逃れるために、母親である登古に連れられ、駒王町にやって来たのだが、登古とはぐれた際に陸兎に拾われたせいで、色々とトラブルに巻き込まれてしまう。容姿が陸兎とクリソツ。

 

 

・岡部胃蔵

『銀魂』の岡田似蔵をモチーフにしたオリキャラ。似蔵と違って、人斬りでなく退魔師の傭兵であり、『異形斬りの胃蔵』という異名を持つ。




次回から第3章、月光校庭のエクスカリバーとなります・・・ですが、ここでお知らせがあります。


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第3章 月光校庭のエクスカリバー
友達の家にお邪魔する時は親に迷惑を掛けるな


ハルト「逃げるな貴様!!『ソードアート・オンライン IF』から逃げるなぁ!!」

えーい、うるさい!そっちの方の執筆が全然進まないから、ちょっとこっちでリハビリするだけだ!
というわけで、第3章開始です!

新op「CORE PRIDE」
新ed「反抗声明」

op銀魂じゃないんかい!って思っている方もいるかもしれませんが、まぁ・・・同じ悪魔繋がりということで。
銀魂edの「反抗声明」で女性キャラ達がウェディングドレス姿で登場しますけど、皆さんが一番好きなキャラは誰ですか?ちなみに、私は陸奥です。


ライザーとのレーティングゲームから月日が流れ、気温が上がり、夏の季節になりかけている今日、陸兎たちオカルト研究部は兵藤家へお邪魔していた。

いつもなら旧校舎で活動するが、今日は年に一度の大掃除のため、旧校舎で活動することができず、一誠の家で悪魔による定例会議を行っていた。

そんな中、陸兎は会議にはほとんど参加せず、一人一誠の部屋を漁っていた。

 

「おいイッセー、エロ本はどこに隠してんだ?」

 

「ば、馬鹿野郎!部長たちの前でそんなの教えるわけ――」

 

「お、エロ本発見」

 

赤面する一誠を尻目に、本棚に隠されていたエロ本を見つけた陸兎。

 

「なにぃぃぃぃぃぃ!!な、何故バレた!?」

 

「単純すぎんだよお前は。後は・・・こことここ、それとここだな」

 

「止めて!これ以上、俺の青春を皆に晒さないで!」

 

次々とエロ本を見つけていく陸兎に、一誠は顔がトマトのように真っ赤になる。

その時、部屋の扉が開き、一誠の母親がお菓子を乗せているお盆を持って部屋に入って来た。

 

「お邪魔しますよ」

 

「うーす、イッセーのお母さん。あんたの息子、部屋の至る所にエロ本隠してましたよ~」

 

「おいぃぃぃぃぃぃ!!なにばらしてんだお前!」

 

「あらあら、お友達と仲良くしてて何よりだわ」

 

親にエロ本を見られ、焦る一誠をよそに、一誠の母親は侮蔑や嫌悪の感情を出すことはなく、一誠と陸兎に向かって微笑んだ。

そんな母親の反応が予想外だったのか、陸兎は目を丸くしながら問いかける。

 

「随分落ち着いていますね。息子がエロス一世でショックを受けたりしないんですか?」

 

「イッセーがエロいのは小さい頃から知ってるからね。そうそう、小さい頃と言えばこれ!」

 

「って、俺のアルバムじゃねぇか!?」

 

母親が見せてきた自身のアルバムに、一誠は思わず叫んだ。

一誠の母親はいくつかあるアルバムの内の一つを開き、オカルト研究部の女子たちに見せる。

 

「これが小学生のイッセーで、これが幼稚園のイッセー。この頃から女の子のお尻ばっかり追いかけててねー」

 

「小さいイッセー小さいイッセー小さいイッセー、はぁ~」

 

「すんません部長、ちょっときめぇす」

 

一誠のアルバムを見ながら、ポツリポツリと顔を赤らめながら呟くリアスにドン引きしながら、陸兎は近くにいた小猫に話しかける。

 

「なぁ、小猫。もし、小せぇ頃のイッセーの写真が学園に売ってたら、何枚買う?」

 

「一枚も買いません。イッセー先輩ですし」

 

「だよなぁ。イッセーだし」

 

「俺だからってどういうことだ!?せめて一枚でもいいから買ってくれよ!」

 

二人の会話を聞いた一誠は、自身の写真が一枚も売れない事に悲痛の叫びを上げた。

場所は違えど、いつもと変わらぬオカルト研究部の様子に、木場は微笑みながら一誠に話しかける。

 

「アハハ、いいお母さんだねイッセー君」

 

「どこがだよ・・・そう言えば木場、お前って家族は――」

 

「・・・ねぇ、イッセー君」

 

一誠のアルバムを見ていた木場だったが、あるページを開いた瞬間、木場の手が止まり、低い声で一誠に問い掛けた。

 

「この写真に写っているこの剣に見覚えある?」

 

「いや、覚えてねぇ。何せガキの頃だし」

 

「まさか、こんなところで目にするなんてね・・・」

 

そう言いながら、木場は苦笑した。しかし、写真を見つめるその目は、激しい憎悪に満ちていた。

その憎悪に一誠は気づかぬまま、木場から放たれた言葉を聞いた。

 

「これは・・・聖剣だよ」

 

「・・・・・・」

 

そして、その憎悪を陸兎は見逃さなかった。

 

 

 

 

日が沈み、辺りが暗くなった頃、オカルト研究部は駒王町の廃棄工場に集合していた。

目的は工場の中に潜んでいるはぐれ悪魔の討伐である。

 

「あの工場の中に、はぐれ悪魔が?」

 

「えぇ、今晩中に討伐するよう大公も言っておりましたわ」

 

「それだけ危険な存在ってことね。私と朱乃は外で待ち構えてるから、イッセーと裕斗と小猫で敵を外におびき出してちょうだい。アーシアは後方で待機、陸兎はアーシアの護衛・・・って寝てる!?」

 

「ガァー!ゴォー!」

 

部員たちに指示を出す中で陸兎の方を向いたリアスだったが、当の本人は立った状態のままいびきを掻きながら寝ていた。

驚くリアスをよそに、朱乃が微笑みながら彼女に声を掛ける。

 

「そっとしておいてあげましょう。私たちと違って、陸兎君は夜中に弱いんだから」

 

「はぁー、まぁいいわ。頼んだわよ三人共」

 

「「はい」」

 

「・・・・・・」

 

「裕斗?」

 

「あ、はい」

 

木場が遅れて返事をしたが、三人は工場の中へ入った。

すると、数分経たずして、中から激しい戦闘音が聞こえてきた。

 

「皆さん、大丈夫でしょうか・・・?」

 

「・・・ん?」

 

アーシアが心配そうな表情で見守る中、ふと中の様子に異変を感じ取った陸兎が目を覚めた。

陸兎はまじまじと工場の入口を見つめていたが、面倒な顔をしながら呟く。

 

「おいおい、何やってんだ木場・・・」

 

「陸兎さん?」

 

隣にいたアーシアは疑問符を浮かべながら目覚めた陸兎の方に振り向くと、陸兎は『神速』で一気に工場内へ瞬間移動した。

そして、木場の上に馬乗りになっている上半身が女性、下半身が蜘蛛のはぐれ悪魔を『洞爺刀』で斬った。

 

「陸兎君!?」

 

「さっさとやっちまいな小猫」

 

「!? はい」

 

突然の陸兎の登場に驚きつつも、彼の一言で小猫はすぐさま状況を理解し、怯んだはぐれ悪魔に向けてアッパーをかました。

アッパーによって上に飛ばされたはぐれ悪魔は、工場の天井を突き破って外に出た。そこに朱乃が雷をお見舞いし、黒焦げになったはぐれ悪魔は地面に落下した。

 

「グレモリーの名において、貴方を滅するわ!」

 

止めにリアスが滅びの魔力を放ち、はぐれ悪魔は断末魔を上げながら消滅した。

 

「やったか!?」

 

「お前それフラグ・・・だけど、今回はその心配はねぇな」

 

工場の外に出ながら、フラグを立てようとした一誠を慌てて制止しようとするも、はぐれ悪魔は跡形も無く消滅したのを見たので、復活することはないと判断した陸兎。

 

パチン!

 

ふと乾いた音が響き渡り、音がした方に振り向くと、木場とリアスが向かい合っていた。

しかし、リアスの表情は険しく、木場の顔には平手された痕があった。

 

「少しは目が覚めたかしら?陸兎が咄嗟に気を利かせてくれたから良かったけど、一歩間違えば誰かが危なかったのよ」

 

「すみませんでした。今日は調子が悪いみたいなので、これで失礼します」

 

注意するリアスに対して、木場は塩対応で流しながら、そのまま立ち去ろうとする。

そんな木場を一誠が呼び止める。

 

「待てよ木場!今日のお前マジで変だぞ。もし、悩みがあるなら話してくれ。俺たち仲間だろ?」

 

「仲間か・・・イッセー君、君は本当に熱いね。でもね、僕は基本的な事を思い出したんだよ。僕が何のために戦っているのか・・・つまり、僕の生きる意味さ」

 

「生きる意味・・・それって――」

 

「復讐か?」

 

いつの間にか一誠の隣にいた陸兎が、一誠の言葉を遮るように言うと、木場は少し驚いた顔になった。

 

「・・・気づいてたのかい?」

 

「まぁな。イッセーの家に行った時にな」

 

そう言いながら、陸兎は真剣な表情で木場に向かって言う。

 

「お前が誰に復讐しようが、それがお前にとって必要な事なら俺は止めやしねぇ。何せ俺自身、復讐を経験したことがあるからな。だから、一つアドバイスをしてやるよ」

 

「アドバイス?」

 

「・・・俺が復讐を果たした時、そこに喜びは一切無かった。あったのは、達成感と虚しさだけだった・・・復讐ってのは、お前が思っている以上に過酷なモンだ。やるつもりなら、それ相応の覚悟は持っておきな」

 

アドバイスを聞いた木場は、無言で陸兎を見つめていたが、「覚えておくよ」と一言言うと、そのまま去っていった。

 

 

 

 

「教会ではかつて、聖剣を扱える者を人工的に生み出す『聖剣計画』が行われていましたわ」

 

リアス達と別れた後、家に戻った陸兎は朱乃から木場の過去、彼の復讐の動機について聞いていた。

聖剣エクスカリバー。悪魔にとって一撃でも食らえば消滅する恐れもある武器だが、使える者が限られているという欠点があった。

教会はその欠点を補うために、人工的に聖剣を扱える者を生み出す『聖剣計画』が行われた。その計画の人材の一人として、当時まだ人間だった頃の木場がいた。

しかし、木場は聖剣に適応することができず、同じく適応できなかった者達と共に処分されそうになったが、命からがら逃げ出した。そして、逃げた先でリアスと出会い、彼女の眷属になったのだと言う。

 

「大方、その計画によって殺された同士の恨みを晴らす為に、エクスカリバーを一つ残らず駆逐してやるってことか。復讐としちゃ、よくあるパターンだな」

 

朱乃からある程度話を聞いた陸兎は、木場の復讐について頭の中でまとめ上げた。

そんな中、朱乃が先のはぐれ悪魔討伐の際に、別れ際で聞いた陸兎と木場との会話で気になったことを陸兎に問いかける。

 

「そう言えば、陸兎君も復讐の経験があるとおっしゃってましたね。陸兎君は復讐を果たした時、復讐をして良かったって思ったことがあるのですか?」

 

「・・・さぁな。木場の奴にはああ言ったが、俺自身あの復讐が正しかったかどうか・・・今となっては分かんねぇことだ・・・」

 

そう語る陸兎の目が一瞬机に置いてある一枚の写真に向いたのを朱乃は見逃さなかった。

写真に写っているのは幼い頃の陸兎と彼の母親。彼の母親が既に亡くなっているのは前に聞いたが、詳しい事情については聞かされていない。というよりも、彼自身そのことについて話そうとしないし、何度か聞こうとしたが、毎回はぐらかされる。

もしかしたら、その復讐に彼の母親が関係しているのではないだろうか。そんなことを思っていると、突如陸兎が声を上げた。

 

「あーやめだやめ。こんな辛気臭ぇ空気を出すなんざ俺らしくねぇ。色々動いて疲れたし、今日はもう寝る」

 

「何でしたら、今夜は一緒のベットで寝ましょうか?」

 

「自分の部屋戻れ・・・と言いてぇけど・・・お前がいいなら勝手にしろ」

 

「うふふ、かしこまりました」

 

部屋の電気を消し、二人は陸兎のベットに横になる。

すると、朱乃が突如陸兎の体を抱きしめ、自分の胸に陸兎の顔を寄せた。

 

「・・・何やってんだ?」

 

「こうしたら、少しは気持ちが和らぐんじゃないかしら?」

 

「そんなんされて喜ぶ奴なんざ、ガキかエロス一世だけだろ・・・たく、もういい。窒息しない程度に抱きしめてくれ」

 

「はい」

 

諦めた様子で朱乃の腕に抱かれた陸兎だったが、ふと小さい声で彼女に呟いた。

 

「・・・ありがとよ」

 

その小さな呟きを、朱乃は微笑みながら聞かなかったことにした。



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信仰者でもやっていい事と悪い事がある

次の日、陸兎は剣夜に呼び出されて、駒王学園の屋上にやって来た。

 

「そんで、ここに呼び出した用件はなんだ?まぁ、ここ(屋上)に呼んだってことは、絶対面倒なことだとは思うが」

 

「・・・昨日、日本陰陽師協会本部に教会の使者が訪ねて来たんだ」

 

昨日、陸兎たちがはぐれ悪魔の討伐に向かっている少し前に、東京にある日本陰陽師協会の本部に教会の使者二人が訪ねて来た。

彼女たちが言うには、教会が保管している聖剣エクスカリバーが盗まれ、盗んだ犯人である堕天使の幹部がこの日本に滞在しているのだと言う。

彼女たちはそれの奪還、或いは破壊を目的として日本に来訪し、教会と堕天使のいざこざに余計な混乱を生むのを防ぐべく、退魔師並びに各地方の陰陽師局の介入をしない事を交渉しに来た。

陰陽師協会の面々はその交渉に頭を悩ませていたが、一般人を巻き込まない事とエクスカリバーの回収が済めば即座に撤退することを条件に今回の件に干渉しないことを約束した。

 

「事情は粗方分かった。んで、本題は?」

 

「聞いてなかったのかい?向こうは余計な混乱を防ぐために、僕らに一切の介入をしないこと約束――」

 

「そんな口約束、上の連中があっさり守るわけねぇだろ。どうせ、裏でそのエクスカリバーとやらを破壊して、そいつを奪った堕天使を潰して来いって言われてんだろ?」

 

「・・・そこまで分かっているのなら話は早い。十天師頭目として命ずる。聖剣エクスカリバーを奪取、或いは破壊し、この町の平和を脅かす堕天使を排除せよ」

 

「りょーかい。けどよ、奪った奴を除霊するのは構わねぇが、聖剣は奪取した後どうすんだ?それと、もし教会の人間と鉢合わせるようなことになったら?」

 

「なるべく衝突しないよう穏便に対応してくれ。聖剣の方も心配はいらないよ。上はこっちでエクスカリバーを回収したら、ちゃんと返すつもりだから・・・返すまでの間、ちょっと調べるつもりでもいるみたいだけどね」

 

「下心満載だなおい。まっ、俺らには関係のないことだな」

 

そう言うと、陸兎は屋上から出ようとしたが、扉を開けようとした瞬間、剣夜が再び話しかけてきた。

 

「それと、さっき言った教会の使者なんだけど、今朝ソーナの所に来たみたいでね。明日の放課後、オカルト研究部の方にもお邪魔するみたいだから。その場にいてもいいけど、なるべく変な騒ぎは起こさないように」

 

「それって絶対面倒な事が起こる前振りじゃん」

 

げぇと顔をしかめながらも、陸兎は屋上から出ていった。

一人残った剣夜は、変わらぬ駒王町の景色を見つめながら呟く。

 

「エクスカリバー、堕天使幹部、赤龍帝・・・そして、先日の情報処理班の報告で出された日本に滞在していると思われる白き龍、白龍皇の存在。これらの強大な存在が何の因果かこの町に集おうとしている・・・これもまた、神が定めた運命と言うべきか・・・それとも、起こるべくして起きている必然か・・・」

 

とりあえず、自分たちのやるべき事は一つ。これらの存在から人々を守り、日本の平和を脅かす存在を排除し、その秩序を守ること。そう決意を改めながら、剣夜は昼休みが終わるまで駒王町の街並みを眺めていた。

 

 

 

 

そして次の日、剣夜の言う通り、教会の使者がオカルト研究部の部室にやって来た。

 

「会談を受けて頂き感謝する。私はゼノヴィア」

 

「紫藤イリナよ」

 

ソファーに座りながら、青い髪に緑のメッシュを入れている少女ゼノヴィアと、栗色の髪をツインテールにしている少女イリナは自分たちの名前を名乗った。

 

「神の信徒が悪魔に会いたいだなんて、どう言うことかしら?」

 

二人の向かい側にあるソファーに座っているリアスは、挑発的に問いかける。

その後ろで、オカルト研究部の面々は立ったまま見守っているが、悪魔にとって弱点とも言える聖剣が目の前にあるため、ただならぬ緊張感に包まれている。

特に木場はゼノヴィア達を憎悪の視線でジーと睨んでいる。もし、何かあれば即座に斬りかかりそうな雰囲気だった。

リアスの問いに答えたのはイリナだった。

 

「元々行方不明だった一本を除く六本のエクスカリバーは、教会の三つの派閥が保管していましたが、そのうちの三本が堕天使に奪われました」

 

「奪われた!?」

 

イリナの説明を聞き、一誠が驚きの声を上げる。他の面々も声は上げなかったが、陸兎以外は驚いていた。

そんな中、ゼノヴィアは布に巻かれた聖剣を持ち、リアス達に見せる。

 

「私たちが持っているのは、残ったエクスカリバーの内、『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』」

 

「私の方は『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』よ」

 

イリナもまた、腕に巻かれている紐のような聖剣を見せる。

 

「それで、私たちにどうしてほしいの?」

 

「今回の件は我々と堕天使の問題だ。この町に巣食う悪魔に要らぬ介入をされると面倒なのだ」

 

「随分な物言いね。私たちが堕天使と組んで、聖剣をどうにかするとでも?」

 

「悪魔にとって聖剣は忌むべきものだ。堕天使共と利害が一致するじゃないか」

 

ゼノヴィアの物言いに、リアスは瞳を赤く染め上げる。彼女がキレかかっていることが、この場にいる誰もが感じた。

ゼノヴィアは特に気にすることなく言葉を続ける。

 

「もしそうなら、我々は貴方を完全に消滅させる。例え、魔王の妹だろうとな」

 

「そこまで私を知っているのなら言わせてもらうわ。私が堕天使と手を組むことなんて無いわ。グレモリーの名にかけて、魔王の顔に泥を塗るような真似はしない」

 

真剣な表情でリアスが言い切ると、ゼノヴィアは「フッ」と笑った。

 

「それが聞けただけで充分だ。今のは本部の意向を伝えただけでね。魔王の妹が、そこまで馬鹿だとは思っていないさ」

 

「なら、私が神側。即ち、貴方たちに協力しないことは承知しているわけね」

 

「無論、この町で起こる事に一切の不介入を約束してくれれば良い」

 

「・・・了解したわ」

 

リアスの了承を得ると、ゼノヴィアとイリナは立ち上がった。

 

「時間を取らせてすまなかった」

 

「せっかくだし、お茶でもどう?」

 

「いや、悪魔と馴れ合うわけにはいかない」

 

リアスの誘いをゼノヴィアは断ると、イリナと共に部室を出ようする。

しかし、ゼノヴィアの目線が突如アーシアに向けられた。

 

「兵藤一誠の家を訪ねた時、もしやと思ったが・・・アーシア・アルジェントか?」

 

「え?あ、はい」

 

突然名を呼ばれて、アーシアは少し驚きながら返事する。

 

「・・・まさかこんな地で魔女に会おうとはな」

 

ゼノヴィアから吐かれた魔女と言う言葉に、アーシアはビクッと体を震わせた。

イリナもアーシアの存在に気づき、彼女を見る。

 

「あぁ、貴方が魔女になったって言う元聖女さん?堕天使や悪魔をも癒す能力を持っていた為に、追放されたって聞いてたけど、悪魔になっていたとはね~」

 

「あ、あの・・・私は・・・」

 

ずかずかと言い寄られ、アーシアはどう対応すればいいのか分からず、戸惑っている。

そんなアーシアに、ゼノヴィアは軽蔑の視線を向ける。

 

「しかし、かつて聖女と呼ばれていた者が悪魔とはな。堕ちれば堕ちるものだな」

 

「!? テメェ!」

 

「ダメです、イッセー先輩」

 

ゼノヴィアの物言いに、一誠が突っかかろうとするが、小猫に止められる。ここで教会と揉め事を起こすわけにはいかないことは、一誠でも分かっている。

そんな中、ゼノヴィアはアーシアに問いかける。

 

「まだ我らの神を信じているのか?」

 

「ゼノヴィア。彼女は悪魔になったのよ。悪魔になった彼女が主を信仰してるはずないでしょう?」

 

「いや、背信行為をする輩でも、罪の意識を感じながら信仰心を忘れない者がいる。その子には、そういう匂いが感じられる」

 

「へーそうなの?ねぇ、アーシアさんは今も主を信じているの?」

 

イリナの問いに、アーシアは悲しそうな顔で答える。

 

「・・・捨てきれないだけです。ずっと、信じてきたから・・・」

 

だが、アーシアの返答を聞いたゼノヴィアは、布に包まれている聖剣を彼女に向けた。

 

「ならば、今すぐ私たちに斬られるといい。君が罪深くとも信仰心を忘れていないのなら、我らの神も救いの手を差し伸べてくれるはずだ。せめてもの情けだ。私の手で断罪してやろう」

 

下僕が斬られそうになり、流石に黙って見ているわけにはいかないと、リアスは席を立ち、ゼノヴィアに向けて軽くオーラを出しながら言う。

 

「そこまでよ。これ以上、私の下僕を貶めるのは止めてくれるかしら?」

 

「貶める?これは信徒として当然の情けに過ぎないがな」

 

「っ!?」

 

我慢の限界だった。自身を制止していた小猫の手を振りほどき、一誠はアーシアを守るようにゼノヴィアの前に立った。

 

「ふざけるな。アーシアはな・・・!ずっと一人ぼっちだったんだぞ!」

 

「聖女は神からの愛のみで生きていける。それなのに、愛情や友情を求めるなど、元よりアーシア・アルジェントに聖女の資格なんて無かったのだ」

 

「何が神からの愛だ!アーシアの優しさを理解できない奴らなんて皆馬鹿野郎だ!」

 

「・・・君はアーシア・アルジェントのなんだ?」

 

視線を鋭くさせながら問いかけるゼノヴィアに、一誠は正面から言い切った。

 

「家族だ!仲間だ!友達だ!お前らがアーシアに手を出すのなら、俺はお前ら全員敵に回してでも戦う!」

 

「・・・その発言は我々教会への宣戦布告か?」

 

「イッセーお止めに――」

 

「よく言ったイッセー」

 

一誠を制止しようとしたリアスの言葉を遮ったのは陸兎だった。

彼は豪快な笑みを浮かべながら喋り出す。

 

「やっぱ、オメェはこうじゃないとな。アーシアも神ってモンを便利な道具だと思ってる馬鹿の発言なんざ気にすることねぇぞ」

 

陸兎の発言にゼノヴィアは一瞬目を開き、すぐさま殺気を含んだ視線を陸兎に向けた。

 

「貴様・・・今なんと言った?我らが主を道具だと?」

 

「そりゃそうだろ。さっきからテメェはアーシアを斬るために神って言葉を使って、殺しを正当化しようとしてんじゃねぇか。お前らの慕っている神は、よっぽどお前らにとって都合のいい存在なんだな」

 

「なんですって!?」

 

次々と繰り出される発言に、ゼノヴィアはそうだが、イリナも怒りを露わにする。

特にゼノヴィアは今にでも陸兎に飛びかからん顔をしながらも、何とか感情を抑えているといった感じだ。

 

「我らの神を愚弄する気か・・・!主の尊き教えを知らない貴様が・・・!」

 

「知らねぇな。悪行を正当化するために使われる神なんざ。テメェの脳みその奥まで神って言葉だけでできてる連中が信仰してんだ。祟られている神もいい迷惑だろうな」

 

「貴様!!」

 

等々激情したゼノヴィアは、聖剣を陸兎に向けた。

 

「悪魔に取りつかれた異端者め!主を冒涜したその発言!万死に値する!」

 

「やるか青髪?」

 

聖剣を構えたゼノヴィアに対して、陸兎もまた『洞爺刀』を手元に出現させ、目つきを鋭くさせる。

一触即発の空気になったその時、新たに介入する者が現れた。

 

「丁度いい。なら、僕が相手になろう」

 

二人の会話に介入したのは、今までのやり取りを壁に背中を預けながら聞いていた木場だった。



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復讐は人生を変える路線変更であるが、人生の終点ではない

いきなり介入してきた木場に、陸兎は不機嫌な様子で彼に話しかける。

 

「おい、木場ぁ。テメェ、他人の喧嘩に割り込むなんて、いい度胸してるじゃねぇか」

 

「悪いね。相手が聖剣使いである以上、黙って見てるわけにはいかない」

 

「・・・この喧嘩を先に売ったのは俺だ。んで、あの青髪が買った。それを横から奪い取ろうなんざ、物事に対しての筋道ってモンが通ってねぇよな?」

 

「分かるよ。でも、僕にだって譲れないものはある」

 

お互い睨み合う陸兎と木場のただならぬ空気に、オカルト研究部の面々はハラハラしながら見守る。

しばらく睨み合っていた二人だったが、先に折れたのは陸兎だった。

 

「・・・仕方ねぇな。先行はお前に譲ってやら。つーわけだ。俺を斬りたかったら、まずはこいつを斬るんだな」

 

「いいだろう。この男を断罪し、貴様を引きずり出してやる」

 

先に木場と戦い、勝てたら陸兎と戦える形でゼノヴィアは納得した。

その後、リアスの計らいの下、旧校舎の前にある芝生で殺し合い無しの決闘を行うことになった。

 

 

 

 

旧校舎を出た一同は、それぞれの立ち位置につく。

一誠の前にはイリナがおり、木場の前には宣言通りゼノヴィアがいる。そして、戦いの騒音が聞こえぬよう辺りにはリアスの結界が張られており、その端で他の面々は決闘の様子を見守っていた。

 

「では、始めようか」

 

ゼノヴィアとイリナは白いローブを脱ぎ捨て、黒い戦闘服の姿になった。

そして、ゼノヴィアは『破壊の聖剣』に巻いてある布を巻き取り、イリナも腕に巻いている紐を引っ張ると、それは日本刀のような形になった。

 

「兵藤一誠の『赤龍帝の籠手』、アーシア・アルジェントの『聖母の微笑』、そして君の『魔剣創造』・・・異端の神器が揃ったものだ」

 

「僕の力は同志たちの怨みが生み出した物でもある。この力でエクスカリバーを叩き折る!」

 

木場は己の憎悪を隠すことなく、『魔剣創造』を周囲に発動させる。

その中から二本の魔剣を握り、そのままゼノヴィアに攻撃を仕掛ける。

 

「燃え尽きろ!そして凍り付け!ハァーーーーーー!」

 

聖剣に対する怒りのせいなのか、普段の時とは違い、炎の魔剣と氷の魔剣を無我夢中に振るう木場。

それを見ていた陸兎は呆れた様子で呟く。

 

「おいおい、そんな駄々っ子攻撃で倒せると思ってんのか?」

 

「全くっだな!」

 

陸兎の呟きに応えるかのように、ゼノヴィアは木場の持っている二本の魔剣を一振りで粉々にした。

そして、『破壊の聖剣』を勢い良く地面に突き立てた。

 

ドーン!

 

その瞬間、地面が激しく揺れ出し、聖剣を突き立てた場所には巨大なクレーターができた。

ゼノヴィアは突き立てた『破壊の聖剣』を再び構えながら木場に向けて宣言する。

 

「『破壊の聖剣』は伊達じゃない!」

 

「七つに分けられて尚、この破壊力・・・七本全部を破壊するのは修羅の道か・・・」

 

そう呟きながら、木場は新たに巨大な一本の魔剣を作り出す。

 

「その聖剣と僕の魔剣の破壊力。どちらが上か勝負だ!」

 

木場はその魔剣を両手に持ちながら、ゼノヴィアに向かって突っ込んでいく。

 

「・・・決まったな」

 

「「「え?」」」

 

「勝敗分かったんですか?」

 

リアス、朱乃、アーシアの三人は驚き、小猫が陸兎に問いかけた。

陸兎は「あぁ」と言うと、目つきを鋭くさせながら口を開く。

 

「この勝負・・・」

 

「ハァーーー!」

 

陸兎が言うと同時に、木場が魔剣をゼノヴィアに向けて振るおうとした。

それに対して、ゼノヴィアは冷静に木場の動きを観察して、そして・・・

 

「木場の負けだ」

 

「ガハッ!」

 

木場の腹に『破壊の聖剣』の柄頭が当たり、木場は口から血反吐を吐きながらその場に崩れ落ちた。

 

「君の武器は多彩な魔剣とその瞬足だ。巨大な剣なんて持ってしまえば、その自慢の速さを封じることになる。そんなことも判断できないとはな・・・」

 

「怒りで頭に血が上っているとは言え、流石にアホ過ぎるだろ木場・・・」

 

何処か失望したかの様子でゼノヴィアと陸兎は、地面に倒れている木場を一瞥した。

木場は立ち上がろうとしたが、聖剣のダメージが大きいことによってそれは叶わず、ゼノヴィアはそんな木場をもう見向きもしないで、目線を次の・・・というより、本来の目標に向けた。

ちなみに、一誠VSイリナは案の定イリナが勝ちました。

 

「おい!案の定ってどういうことだ!?つーか、俺らの戦闘シーンカットかよ!そりゃねぇぜ!」

 

「そうよ!不公平だわ!」

 

一誠とイリナが戦闘シーンカットに対して抗議する中、ゼノヴィアは結界の端で決闘を見物していた陸兎を睨む。

 

「さぁ!約束通り次は貴様の番だぞ!」

 

そう言いながら、ゼノヴィアは『破壊の聖剣』を陸兎に向けた。

陸兎は「はぁー」とため息をつきながらも歩き、彼女の前に立つと、『洞爺刀』を手元に出現させて構えた。

 

「ゼノヴィア、私も加勢しようか?」

 

「必要無い。たかが異端者の人間。イリナの手を借りるまでもない」

 

イリナの加勢を断ると、ゼノヴィアは『破壊の聖剣』を構え、陸兎に怒りをぶつける。

 

「神聖なる主の教えを理解しようとしない野蛮な異端者め!神の名の下に貴様を断罪してくれる!」

 

「・・・俺が異端者なら、テメェらはなんだ?神と言ういるかも分かんねぇモンにすがり、善悪の判断も付けれねぇ狂信者か?それとも、何も考えることができず、与えられた命令にただ黙って従うだけの操り人形か?」

 

「!? 貴様!」

 

陸兎の発言に、ゼノヴィアは更に怒りを込み上げる。

だが、次の瞬間

 

ドクン!

 

「!?」

 

目の前にいる陸兎が、凄まじい闘気を体中から溢れ出させ、この場にいる者達と周りの草や木々を震え立たせた。正面にいるゼノヴィアもそうだが、見ているリアス達も陸兎の急激な変化に顔を強張らせる。

 

「(なんだ!?先程まで何も感じなかったオーラから一転して、急激に強まったこの男の凄まじい闘気(オーラ)は!?)」

 

先程までの怠そうな雰囲気から一転して、目つきを鋭くさせながら、強い殺気を出している陸兎を見て、ゼノヴィアは怒りを忘れ、目の前にいる男に対して恐怖を感じ出した。

 

「悪ぃが、今の俺は機嫌が悪いんだ。だから・・・一瞬でケリを付けてやるよ」

 

「な、何・・・?」

 

陸兎の力強い闘気に圧倒されながらも、ゼノヴィアは冷や汗をかきながら彼を見据える。

対する陸兎は、ゼノヴィアのことをジーと見つめていた。長い時間彼女を見続け、周りがただならぬ緊張感に包まれている中、ようやく足を一歩前に出した瞬間

 

スゥ

 

その場から消えた。

 

「な!消えた!?」

 

「後ろよ!」

 

イリナに声を掛けられ、ゼノヴィアは慌てて後ろに振り向くと、陸兎は既に『洞爺刀』を持っている手が下に下がっている状態だった。

驚きつつも、ゼノヴィアはすぐさま『破壊の聖剣』を構え直したが、ゼノヴィアに背中を向けている陸兎が顔をゼノヴィアの方に向けながら口を開いた。

 

「一つ言っとくが、早くそこから離れた方がいいぞ・・・もう手遅れだけどな」

 

「なんだと!?」

 

陸兎の言葉に疑問符を浮かべたゼノヴィアだったが、次の瞬間、彼女は自身の体が突如浮かび上がる感覚を感じた。

 

「!? あああぁぁぁ!!」

 

それは一瞬で大きくなり、瞬く間に彼女の体を上空へ吹き飛ばした。

学園の三階くらいの高さまで飛ばされた彼女は、そのまま落下し、地面に激突した。

 

「う、うぅ・・・」

 

呻き声を出しながらも何とか立ち上がろうとするが、突如彼女の周りに発生した斬撃の竜巻と地面に大きく叩き付けられたダメージによって上手く立ち上がれない。

突如上空に吹き飛ばされたゼノヴィアを見て、オカルト研究部やイリナは驚いている。

 

「い、今何が起きたの・・・!?」

 

「な、なんて凄まじい剣技なんだ・・・!」

 

「今の見えたの裕斗!」

 

「確証はないですけど・・・」

 

先程の出来事が僅かに見えていた木場の言葉に皆が耳を傾ける中、木場は先程陸兎が繰り出した神業について語る。

 

「彼は一瞬にも満たない速度で高速移動して、移動してるすれ違い様に彼女の周りに刀を振って、強力な斬撃の風を起こしたんです。ただ、それを繰り出したスピードが速いなんてレベルじゃない。スピードもそうですが、技の繊細さも凄かったです。一切のブレや無駄な音の無い完璧な動きでした。普段の彼の『神速』すらも凌駕するスピードで、一転の狂いも無く繰り出された完璧な動作。これら二つが合わさることで、彼が刀を振ってから技が発動されるまで、数秒のラグがありました。まるで・・・技が彼のスピードに追いつけなかったかのように・・・」

 

木場の解説を聞いたリアスは啞然と陸兎を見つめる。

強いことは知っていたし、陸兎がまだ力を隠しているのも薄々感じていたが、まさかここまでとは思っていなかった。しかも、これで本気だとは思えず、彼にはまだ上があると、リアスの悪魔的直感が感じていた。

いったい彼は自分たちに、どれだけ本当の実力を隠しているのだろう。どれだけ強くなれば、彼の至る境地まで届くのだろうか。

そんなことを思っているリアスをよそに、陸兎は『破壊の聖剣』支えに立ち上がろうとしているゼノヴィアに決闘を続行するか問いかける。

 

「んで、まだ続ける気か?」

 

「よくもゼノヴィアを・・・!」

 

「やめろイリナ!私たちの目的は奪われた聖剣の回収。そして、それを奪った堕天使・・・『神の子を見張る者(グリゴリ)』の幹部コカビエルだ。ここでこの男相手に余計な体力を使うわけにはいかない」

 

同じ教会の仲間を痛めつけられ、激昂したイリナをゼノヴィアは制止した。

だが、彼女たちをやり取りを聞いてた一部の者は驚愕の表情となる。

神の子を見張る者(グリゴリ)』、堕天使の中枢組織であり、堕天使総督を始めとした強力な堕天使たちが多数属している。それの幹部クラスとなると、上級どころか最上級悪魔にすら匹敵する。

そんな相手をたった二人で倒すなど、ほぼ不可能と言える。

驚いているリアス達をよそに、ゼノヴィアは脱ぎ捨てた白いローブを再び纏うと、リアスに話しかけた。

 

「勝負は私の負けだ。だが、最初の約束は守ってもらうぞ、リアス・グレモリー」

 

「ちょっと待ちなさい!『神の子を見張る者』の幹部コカビエルですって!?そんな大物相手にたった二人で挑むつもり!?」

 

「無論、危険なのは我々も承知している。だが、聖剣を堕天使に利用されるくらいなら、この身を引き換えにでも消滅させる・・・無駄話が過ぎたな。それじゃあ、失礼するよ」

 

「イッセー君!裁いて欲しかったら何時でも言ってね!アーメン!」

 

そう言い残し、ゼノヴィアとイリナは去っていった。

それと同時に、聖剣のダメージからようやく回復した木場が、どこかへ立ち去ろうとした。

それを見たリアスが、慌てて木場を呼び止める。

 

「待ちなさい裕斗!私の下から離れるなんて許さないわ!貴方はグレモリー眷属の『騎士』なのよ!はぐれになんてさせないわ!」

 

「・・・すみません部長。でも、あの時あそこから逃げ出すことができたのは、同志たちの犠牲があったからなんです。だから、僕は復讐を果たし、彼らの怨みを晴らさないといけない。そうでないと・・・僕は前に進むことができません」

 

そう言って、木場は再び歩き出したが、彼の行く手を遮るように、陸兎は木場の正面に立った。

 

「・・・邪魔しないでくれ。僕は復讐を果たすまで止まれない。止まるわけには行かないんだ」

 

「んなことしねぇよ。前にも言ったが、お前が前に進むために、その復讐を必要とするなら、俺はお前を止めやしねぇ。けど、復讐を続けるつもりなら、せめて復讐が終わった後のことも考えておくこった。お前の人生の終着点は、お前の復讐が終わった時じゃねぇだろ?」

 

「・・・・・・」

 

陸兎の言葉に、木場は何も返さず、彼の横を通り過ぎていった。

 

 

 

 

「ってな事が昨日起こったぜ」

 

翌日の放課後、陸兎は人気の少ない場所で剣夜と報告を兼ねた電話をしていた。

 

『まぁ、僕たちの目的はバレてないみたいだし、ギリギリセーフってことにしよう。とりあえず、こっちでも分かったことがあってね。昨夜、街外れの廃教会で神父の遺体が見つかったんだ。それで、その遺体を解剖した結果、神父の遺体には僅かだけど聖剣の因子が・・・聖剣で斬られた痕があったんだ。だけど、盗んだ犯人であるコカビエルは堕天使だから、聖剣なんて使えるはずがない。つまり・・・』

 

「そいつの他にも共犯者が。それも聖剣が使える奴がいるってことか。堕天使の幹部に加えて、聖剣使い・・・そんな奴らをたった二人ぽっちの戦力でなんとかしろって・・・教会ってやっぱ馬鹿の集まりか?」

 

呆れるように言う陸兎に、「気持ちは分からなくないよ」と返す剣夜。

 

『それと・・・少し問題が起きたんだ』

 

「問題?ひょっとして、こっちの動きが向こうにバレたとか?」

 

『いや、調査に関しての問題じゃないんだ。問題って言っても、それほど大したことはないんだけど・・・』

 

どこか言いづらそうな様子の剣夜に、疑問符を浮かべる陸兎。

しばらく空白の時間が続いたが、剣夜は意を決するかのように言った。

 

『もし、任務に時間が掛かるようであれば、本部は東北の十天師に救援を要請するつもりなんだ。しかも、向こうも既に救援に応じることを承諾済みなんだ』

 

「・・・どっちが来るんだ?」

 

『・・・'彼'の方』

 

「問題だらけじゃねぇか!」

 

剣夜の言葉を聞いた途端、陸兎は一転して怒り声になる。

 

「ふざけんなテメェ!あの野郎がこっちで暴れてみろ!学園どころか町一体が吹き飛ぶぞ!」

 

『だ、大丈夫だよ。コカビエルの実力がそんなに大したことなければ、彼もそこまで本気は出さないだろうし、もし戦闘になっても、結界で囲めば辺りに被害は・・・』

 

「結界でどうにかできたら苦労しねぇことぐらいオメェも知ってんだろ!頭の中が嫁とカレーと戦闘だけでできてるあの馬鹿は!」

 

十天師はそれぞれ各地方ごとに配属されており、陸兎と剣夜と麗奈の三人は関東(関東、中部地方)を担当している。それ以外では、東北、北海道に二人。関西(近畿、中国地方)に二人。四国、九州、沖縄に二人ずつ担当することになっている。

その中でも、東北、北海道を担当する二人、特に剣夜が言っていた'彼'は、陸兎は勿論、剣夜ですら頭を悩ませる人物である。

ちなみに、これまでの説明を聞いて、あれ?一人足りなくね?と思っている方がいるかもしれないが、残りの一人に関しての説明は、また別の機会とさせていただく。

 

『とにかく!彼がここに来る前に、僕たちは何としても聖剣を回収し、コカビエルを除霊すること!僕の方でも調査は進めておくし、少しでも目ぼしい情報があったらすぐ伝えるから、そっちも何か進展があったら、すぐに報告してくれ。それじゃあ』

 

そう言うと、剣夜は電話を切った。

 

「たく、簡単に言ってくれるぜあのチートイケメン」

 

文句を言いながらも、陸兎はスマホをしまうと、その場で考え込む。

 

「(闇雲に探しても無駄に時間を食うだけだしな・・・心当たりがあるとすりゃ昨日の連中だが・・・)」

 

考え込む中で、陸兎は昨日戦った教会の人間であるゼノヴィア達のことを思い浮かべた。彼女たちも目的は聖剣の回収であって、同じ目的を持っているのなら共闘できる可能性だって無くは無い。

しかし、彼女たちは教会の人間で、陸兎は教会の人間に最低限接触することを禁じられている。だが、あくまで最低限であり、仮に彼女たちに任務の内容がバレても、上層部の人間がエクスカリバーをつまみ食い(調べることが)できなくなるだけであって、自分自身は精々報酬が増えないだけで、責任を問われないのであれば、特に問題は無い。

しばらく悩んでいたが、駒王町が先程述べたある男によって滅ぶよりかはマシだと結論付け、彼女たちと接触し、共闘を申し出ることにした。

 

「仕方ねぇ。昨日決闘したばっかで気まずいが、あの青髪に聞いてみるか・・・」

 

気まずい感情を抑えながらも、陸兎は昨日決闘した青髪の少女(ゼノヴィア)(とおまけ(イリナ))を探し出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、迷える子羊にお恵みを~」

 

「天の父に代わって、哀れな私たちにお慈悲を~」

 

「・・・・・・」

 

陸兎はここに来るまでの間、内心彼女たちと関わりたくないと思っていたが、任務だから仕方ないとある程度割り切っていた。

しかし、今目の前に映っている光景を見て、彼はこう思った。

任務とかどうでもいいから関わりたくねぇと。




余談だが、決闘の際に陸兎の機嫌が悪かった理由は、人の決闘を横から奪い取った挙句、頭に血が上ってたとは言え本来の力を出さないまま負けた木場を見たからです。しかし、その後のゼノヴィアとの戦いでほとんど発散されました。


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決闘した次の日に決闘相手と再会するとなんか気まずい

不審者という言葉を知っているだろうか?

一言で言えば、不審な行動をしている者。即ち、犯罪を犯す可能性のある怪しい人物である。

今、陸兎の目の前にいる二人は、正しくその言葉に該当するであろう。

 

「えー、迷える子羊にお恵みを~」

 

「天の父に代わって、哀れな私たちにお慈悲を~」

 

こんな町の路頭で物乞いをする白いローブを纏った二人組。怪しい以外の何者でもない。

現に街歩く人々は、謎の二人組を奇怪な視線で見ている。向こうにいる親子は「ママぁ、あれ何ぃ?」「見ちゃいけません!」と定番のやり取りを繰り広げている。

 

「困ったわ。このままじゃ先の食事すらも取れないわ。なんでこんなことに・・・」

 

「・・・元はと言えばイリナ。お前がそんな詐欺紛いの絵を購入したから、私たちの支給金が無くなったじゃないか」

 

「仕方ないでしょ!この絵には聖なるお方が描かれているんだから!こうなったら、異教徒脅してお金貰う?主も異教徒相手なら許してくれそうなの」

 

「それとも寺を襲撃して、賽銭箱とやらを奪うか・・・」

 

「・・・・・・」

 

不審者二名のやり取りを死んだ魚のような目で見ていると、なんか物騒な会話をしだすゼノヴィアとイリナ。

極力、というか一切関わりたくなかった陸兎だったが、目の前で堂々と犯行予告してる不審者を見逃すわけにはいかないと、ズボンのポケットから『縛』の札を取り出し、ゼノヴィアとイリナの目の前に来るように投げた。

 

「な、何!?」

 

「くっ!か、体が!?」

 

突然目の前に札が見えたと思ったら、札から大量の縄が迫り、あっという間に白いローブに隠れている二人の体を縛り上げた。

二人は驚きながらも縄を解こうと体を揺らすも、両腕と胸周りに巻かれた縄は解ける気配が無く、二人の体に食い込んでいた。

周りが突如妙な動きをし出した(周りから見れば、二人の体は白いローブで隠れているため、二人がどんな状態なのか見えない)二人組に疑問を抱いている中、陸兎は二人の下に近づくと、スマホをトランシーバーのように口元に当てながら喋った。

 

「あー、あー、駒王町の町中で犯行予告をしている不審者二名発見。直ちに本部に連行する」

 

「え!ちょ、ちょっと待ちなさい!私たちは別に怪しい者じゃ――」

 

「町のど真ん中で堂々と犯行予告してる奴らが怪しくないわけねぇだろ!おら!連行だ!」

 

「何をする!?放せ!」

 

後ろで騒いでる不審者二名(ゼノヴィアとイリナ)を無視しつつ、陸兎は片手で彼女たちを縛っている縄の先端を引っ張り、もう片方の手で近くに置いてあった謎の絵と『破壊の聖剣』を持ちながら裏路地へ入っていく。

そして、人通りが全く見えなくなった箇所で、陸兎は『神速』を応用した強靭なジャンプで宙に跳び、近くにあった建物の屋上に着地した。

 

「え!?い、今何が起きたの!?」

 

「急に浮かんだと思ったら、いつのまにかこんな場所まで飛ばされるとはね・・・」

 

慌てふためくイリナに対して、ゼノヴィアは比較的冷静だった。

慌てていたイリナだが、自身とゼノヴィアをこんな恰好にした元凶と目が合うと、憤怒の表情となって叫ぶ。

 

「ちょっと貴方!いきなり出てきたと思ったら、女の子をこんな嫌らしい縛り方で縛り上げるなんてサイテー!」

 

「いやだってさぁ、あのままゴメーン待ったー!の勢いで話しかけたら、こっちまで不審者扱いされるかもしれないだろ。それだったら、不審者を連行しに来た警察って設定で話しかけた方がマシだろ。まぁ、俺は警察じゃなくて退魔師だけど・・・」

 

「だからって、ここまできつく縛ることないでしょう!この変態!」

 

「うるせぇ!俺だって、このR-18ギリギリの札を作った奴に物申したいことがいっぱいあんだよ!テメェがこんなもん作ったせいで、この小説がR-18になりかけてんだよ!」

 

「(この小説というか、ハイスクールD×D自体が既にR-18の作品の気がするが・・・これは言わない方が良さそうだな)」

 

陸兎とイリナがギャーギャー騒ぐ中、一人メタい考えをするゼノヴィアであった。

しばらく騒いでいたイリナだったが、ある程度経ったところで落ち着いた。

それを確認した陸兎は、ゼノヴィア達に聞きたいことがあり、二人を探していた事を語り出す。

 

「俺はお前らを探してたんだ。少し聞きたいことがあってな」

 

「その前に聞かせて欲しい。君はいったい何者なんだ?さっき、退魔師と言っていたが、もしかして・・・」

 

「お前の予想は正解だ。俺は退魔師だが、ただの退魔師じゃねぇ。十天師って言えば分かるか?」

 

「!? なるほど。昨日のあの強さを見れば納得できるよ」

 

「ゼノヴィア、十天師って何?」

 

「・・・イリナ、情報が疎いにも程があるぞ・・・」

 

ゼノヴィアはため息をつきながら、十天師の説明をした。

ゼノヴィアの説明を聞いたイリナは、驚愕の表情で陸兎を見るが、そんな彼女を無視して、ゼノヴィアは陸兎に問いかける。

 

「それで、その最強の退魔師の一人が私たちに何の用だ?」

 

「・・・俺は今、日本陰陽師協会から一つの依頼を受けている。日本に潜入した堕天使を滅し、そいつが奪ったとされている聖剣を回収、或いは破壊することだ」

 

「「!?」」

 

陸兎の言葉を聞いた二人は、驚愕の表情となる。

 

「どういうことだ?陰陽師は今回の件に一切の関与をしないはずだったのではないのか?」

 

「そんなもん、上の連中は守りゃしねぇよ。つーか、聖剣を奪った堕天使組織の幹部を二人だけで倒したいから、俺らは一切手を出すな。ジブンとこの国が危機に晒されてるってのに、そんな馬鹿げた事を言われて、素直に従えって方が無理だろ」

 

「それは・・・まぁ、否定はできないな」

 

教会が下した命に思うところがあるのか、ゼノヴィアはそれほど否定的では無かった。隣にいるイリナも同様だ。

 

「話を戻すが、俺がお前らに接触した理由は一つ。こうして同じ目的を持つ者同士、共闘を申し出ようと思ってな」

 

「・・・君はいったい何を企んでいる?あくまで私の憶測にすぎないが、君がエクスカリバーを回収する依頼を、私たちに知られるのはマズいのではないのか?」

 

「お前の考えは半分当たりだ。この依頼で俺らが先にエクスカリバーを回収できたら、上はお前らに渡すまでの間、内緒でエクスカリバーの研究をするみたいでな。もし、そのことを知ってたら、お前らは本部に殴り込んでもエクスカリバーを取り返すつもりだろ?」

 

「当然だ」

 

陸兎の言葉に、きっぱりと返すゼノヴィア。

 

「はっきり言って、俺は上層部の連中が嫌いだ。あいつら一切戦わない癖に口だけは偉そうにしててよ。いやホント、思い出しただけでマジムカつく。だから、今頃エクスカリバーを研究することができて、ホクホク気分でいやがる連中に、エクスカリバーは回収できませんでした!って報告を聞かせて一気に沈んだところを、裏で上層部ザマァって笑ってやること。これが俺の真の狙いだ(まぁ、一番はあいつが来る前にさっさと終わらせたいからなんだけど・・・これ以上説明すんの面倒だし、別に言わなくてもいいな)」

 

一部情報を省きながらも、己の野望を明かし、ドヤ顔する陸兎。

そんな陸兎に、ゼノヴィアは呆れた顔で言う。

 

「何というか・・・君は性格が悪いな」

 

「失敬な。男はなぁ、中学になってから二十歳(はたち)になるまでヤンチャなんだよ。それでどうする?手を組むのか組まないのかどっちなんだ?」

 

改めて共闘するのかしないのか聞き出す陸兎。

しばらくの間、無言で見つめ合う陸兎とゼノヴィアだったが、やがてゼノヴィアは首を縦に振った。

 

「・・・分かった。その申し出を受けよう」

 

「いいのゼノヴィア?そりゃ、悪魔の手を借りるよりマシだと思うけど・・・」

 

「悪魔の手を借りるのは難しいが、同じ人間なら問題無い。上には十天師の力を借りたと報告すればいいだろう。それに・・・私だって命は惜しい」

 

ゼノヴィアの言葉を聞いて、陸兎は少し感心した。

 

「意外だな。てっきり、死ねと言われたら素直に従う狂信者だと思っていたが・・・どうやら、まともな判断もできるみてぇだな」

 

「私は信徒であるが、その前に一人の人間だ。主の為に命は懸けるが、主以外に死ねと言われても、素直に従ってやるつもりはないさ」

 

そう言って、ゼノヴィアは小さく微笑んだ。

そんな彼女の決意を聞いて、イリナも渋々だが納得した。

 

「共闘成立だな。んじゃ、早速だけどお前らに聞きたい事があるんだが・・・」

 

「ちょっと待ってくれ!その前に一つだけ・・・誠に遺憾だが、一つだけ君に頼みたいことがある・・・」

 

無事共闘が成立し、早速彼女たちから聖剣の事を聞き出そうとした陸兎をゼノヴィアが呼び止める。

まだ何かあるのかと思いながら陸兎はゼノヴィアの方を見ると、彼女はイリナと顔を見合わせると二人同時に正座をして、床に付く勢いで頭を下げた。

 

「私たちに・・・何か食べる物を恵んでください」

 

両手は後ろ手に縛られているため床に付いていないが、その体勢は正真正銘の土下座だった。

 

 

 

 

それから場所は代わって、駒王町のとあるファミレス。

陸兎は彼女たちに話しかけたことを後悔してた。

 

「美味い!この国の食事は格別に美味い!」

 

「これよこれ!ファミレスのメニューこそ私のソウルフード!」

 

「・・・・・・」

 

共闘が成立した後、ゼノヴィアの望みを叶えるために、陸兎は二人(縛っていた縄はファミレスに向かう前に解いた)を連れて近くのファミレスに向かった。

だが、席に座った途端、この二人はあらん限りの勢いで注文し、出されてくる料理を次々と腹に収めていった。

最初はスゲー食ってんなぁと思いながら見ていた陸兎も、次々と死んでいく財布の中身を目にし、今では半ば放心状態となっている。

 

「なんてことだ。信仰の為とは言え、異端者に救われるとは世も末だ」

 

「あぁ、主よ!この心優しき異端者にご慈悲を!」

 

「ご慈悲なんていらねぇから、これ以上頼まないでくんない?俺の財布がスペランカーもびっくりな勢いで死んでくんだけど――「「おかわり!!」」お前らホント容赦ねぇな!」

 

もし、任務を無事に終えたら、教会にメシ代を請求してやろうと、ジャンボパフェ(二つ目)を食べながら決心する陸兎であった。

 

「何やってんだ八神?」

 

「ん?」

 

そんなことを考えていると、不意に声を掛けられ、声がした方に振り向くと、そこにいたのは見知っている男女三人。

 

「イッセー、小猫・・・誰だ?」

 

「匙だ!匙元士郎!前に会っただろ八神陸兎!」

 

訂正、一人覚えていなかった。

怒鳴りながら名乗る人物を見て、陸兎は思い出したかのように言った。

 

「あー、お前か。沙慈・クロスロード」

 

「だから、匙元士郎だ!名前違ぇし、苗字も漢字が間違ってるぞ!」

 

「何言ってんだ?沙慈・クロスロードは沙慈が名前でクロスロードが苗字だから、何もかも違うだろ」

 

「どうでもいいわ!」

 

「おい、食事中だぞ。静かにしないかモブ士郎」

 

「所詮あなたは銀魂で言う山崎ポジなんだから、あまり喋らないでくれるモブ崎君」

 

「うおーーー!!こいつらうぜーーー!二人初対面だけどマジでうぜーーー!」

 

自身に対してのあんまりな対応に、匙は怒りの咆哮を上げる。

そんな匙を無視して、陸兎は一誠に問いかける。

 

「んで、お前らは何の用で俺らに話しかけて来たんだ?」

 

「あぁ、実は・・・」

 

陸兎に問われ、一誠はこれまでの経緯を説明する。

一誠もまた、エクスカリバーの破壊を目的として行動しており、その道中で匙に協力を頼み、更に一誠の行動を察し、彼を尾行してた小猫も現れた。

二人の協力を得られた(匙は嫌々だったが)一誠は、ゼノヴィアとイリナを探していると、ふとファミレスの窓を見た小猫が、店の中でファミレスの料理を食べてる三人を発見。

何故陸兎が彼女たちと一緒にいるのか疑問に思いつつも、一誠たちは店の中に入り、陸兎に声を掛けて今に至る。

その後、一誠は自分たちもエクスカリバーの破壊に協力させて欲しいとゼノヴィア達に申し出た。

 

「事情は分かった。いいだろう。一本なら協力しても構わない」

 

「ちょっとゼノヴィア!そこの八神君は人間だからまだいいけど、イッセー君たちは悪魔なのよ!」

 

あっさりと受け入れたゼノヴィアに対して、イリナは流石に悪魔の手を借りるのはマズいと、陸兎の時以上に否定的な様子だ。

 

「心配すんな。こいつらは俺の手下って事にしておけば問題ねぇよ」

 

「なるほど。それなら問題無いな」

 

「問題・・・ないのかしら?」

 

「大ありだろ!いつから八神の手下になったんだよ俺ら!」

 

陸兎の提案を聞き、三者それぞれ違う反応をしたが、最終的に十天師に仕えている悪魔たちの手を借りたで落ち着いた。

その後の話し合いでは、ファミレスを出た後に木場と合流し、互いの情報を交換し合うことになった。

 

「そんじゃ、飯も食ったことだし、早速行動開始といきますか」

 

そう言うと、陸兎は席を立ち、店から出ようとする。

すると、会計せずに店を出ようとしている陸兎を見て、店員が慌てて彼らに声を掛ける。

 

「あのー、お客様。お会計・・・」

 

「あぁそうだな。んじゃ、そこのエロ茶髪とモブ顔に」

 

「かしこまりました。お会計11640円になります」

 

「うわっ、高っけー。金足りるかな・・・って、おい!なんで俺らがお前らのメシ代払うことになってんだ!」

 

「そうだぞコノヤロー!って、いねぇし!」

 

いきなりメシ代を払わされる事になり、一誠と匙は陸兎に物申そうとしたが、いつの間にか陸兎(ゼノヴィア、イリナ、小猫の三人も)は店を出ており、その場にいなかった。

結局、一誠と匙はメシ代を払うことになり、店を出た後、血眼になって陸兎たちを探した。そして、陸兎たちを見つけると、二人はすぐさま陸兎に殴りかかったが、見事返り討ちにされ、木場と合流するまでの間、二人は犬〇家の状態で放置されるのであった。

ちなみに、二人が律儀に払うとは思っていなかった陸兎は、小猫に諫められたこともあって、二人が支払った分の金額を二人のズボンのポケットにこっそり入れた。



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不審者に話しかけられたらいかのおすしに従え

先に言っておきますが、これが今年最後の投稿になります。


「事情は分かったよ」

 

木場と合流した陸兎たちは、彼に一連の流れについて説明した。

説明を聞いた木場は、納得したかのように頷いたが、「でも」と言いながら、ゼノヴィアとイリナの方を睨んだ。

 

「正直に言うと、エクスカリバー使いに破壊を承認されるのは遺憾だね」

 

「随分な物言いだな。今の君はグレモリー眷属を抜け出したはぐれ悪魔だ。今ここで斬り捨ててもいいんだぞ?」

 

木場の物言いに腹を立て、『破壊の聖剣』に手を掛けるゼノヴィア。木場もいつでも魔剣を出せるように、手に魔法陣を展開させる。

しかし、一触即発の空気になりかけた二人の間に陸兎が入り込んだ。

 

「そこまでだ。テメェら戦いに来たのか?それなら俺も混ぜろよ。どうなるかまでは保証しねぇがなぁ」

 

「「っ!?」」

 

陸兎の殺気の籠った物凄い威圧に押され、木場とゼノヴィアは思わず一歩引き下がる。

殺気を当てられた事で冷静になったゼノヴィアは、気を取り直して教会側の情報について話し出す。

聖剣計画は教会の間でもかなり嫌悪されていて、計画の首謀者であるバルパー・ガリレイは異端の烙印を押され追放された。そのバルパーが今回の件に関わっているとのこと。

それを聞いた木場も情報交換として、先日木場と会い、エクスカリバーを持っていたはぐれ神父、フリード・セルゼンの存在を二人に明かした。

そして、エクスカリバーの破壊に木場も協力することを承諾し、共闘が無事成立したところで、ゼノヴィアとイリナは去っていった。

すると、木場は一誠の方を向いて、彼に話しかける。

 

「イッセー君、悪いんだけど、この件に君たちは――」

 

「悪ぃが、そもそも俺は上から受けた依頼を果たす為に、この共闘を提案したんだ。そいつが達成されるまで引くわけにはいかねぇな。つか、依頼を受けていなくても、俺はこの件に手を引くつもりはねぇよ。友達(ダチ)が一人危ねぇことしようとしてんのなら尚更な」

 

一誠の代わりに陸兎がそう答える。

一誠もまた、木場の両肩をガシッと掴みながら真剣な表情で言う。

 

「八神の言う通りだ。大事な仲間をはぐれになんかさせられるか!」

 

「心配しなくても、お前の復讐の邪魔をするつもりはねぇよ。露払いは俺らがして、止めはお前が刺す。これなら文句はねぇだろ?」

 

「二人共・・・でも・・・」

 

まだ迷っている木場だったが、そこに小猫が木場のズボンの裾を掴みながら寂しげな顔で言う。

 

「私は・・・裕斗先輩がいなくなるのは寂しいです」

 

「・・・参ったね。小猫ちゃんにまで言われたら、断り切れないよ」

 

小猫にまで説得されて、木場は等々観念したかのように言った。

 

「本当の敵も分かったことだし、皆の好意に甘えさせてもらうことにするよ」

 

木場の説得に成功し、一誠は大いに喜び、小猫と陸兎はフッと小さく微笑んだ。

すると、一人話に付いていけなかった匙がおずおずと手を上げる。

 

「あー、一つ聞いていいか?エクスカリバーを破壊するのは分かったけど、それと木場に何の関係が・・・」

 

「そうだね。それじゃあ、僕の過去を話そうか」

 

そう言って、木場は自身の過去を語り出した。

教会で行われた聖剣計画。木場を含む被験者たちは、毎日過酷な実験を行われても、いつか恵まれる日が来ると信じ、希望を持ちながら過ごしていた。

しかし、聖剣に適合した者は一人も現れず、木場たちは計画隠蔽のため毒ガス処分されることになる。

同志たちが次々と毒ガスにやられる中、木場は仲間たちのおかげで一人逃げ出すことに成功。そして、逃げた先でリアスと出会い、彼女の眷属悪魔となった。

 

「うおーーーーーー!!」

 

木場の過去を聞いた匙は、めちゃくちゃ号泣してた。

 

「木場ぁ!お前にそんな辛い過去があったなんて・・・!決めたぞ兵藤!俺はやるぞ!会長のお仕置きがなんだ!」

 

「よく言ったぜ匙!熱い男だよお前は!」

 

そんな匙の熱い思いに、心打たれたのか、一誠は彼の思いに大きく共感した。

その後、匙はソーナとできちゃった結婚をするという自身の夢を語り、それを聞いた一誠が感動。二人は号泣し、熱い友情を見せつけた。

だが、その空気に水を差すかのように陸兎が言う。

 

「でもよぉ、確か会長って剣夜の幼馴染だったよな。しかも、普段から仲良さそうに話してるよな」

 

「っ!!?」

 

陸兎の言葉を聞いた匙は、先程の号泣から一転して、この世の終わりみたいな顔をしながら崩れ落ちた。

 

「そうだ・・・会長の隣には、あの憎き十門寺剣夜がいるのだぁぁぁぁぁぁ!!」

 

そして、ゆっくりと立ち上がると、今度は憤怒の表情となって叫んだ。

 

「だいだいなんだよあいつ!テストの成績はいつも学年トップ!運動神経もめっちゃ良い!そして、イケメン!その上、会長と言う美人の幼馴染がいて、それに釣り合うかのようなイケメンだし!名家の次期当主だから大金持ちで!美少女侍女の麗奈ちゃんがいつも傍にいるし!イケメンだし!生徒会でもいつも皆に頼りにされて!更にあいつ自身いい奴過ぎて、なんだかんだ言って俺もあいつの事頼りにしてるし!イケメンだし!もう、完璧を通り越してチート過ぎんだよ!あのチートイケメンはぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

公園のど真ん中で、怒りの雄叫びを上げる匙。はっきり言って近所迷惑もいいところである。

すると、先程匙と意気投合してた一誠が、号泣しながら匙の両手を掴んだ。

 

「匙!俺はお前を応援してるぜ!イケメンなんかに負けんな!」

 

「応よ!兵藤、俺はやるぜ!必ずかのチートイケメンをぶっ潰し、会長の始めては俺がもらう!」

 

すっかり意気投合した二人は、夕日に向かって「「うぉーーーーーー!!」」と叫んだ。

 

「正直、ウザイです」

 

「アハハ・・・」

 

「まっ、応援してやらんこともないが、剣夜(あいつ)が会長に恋心を抱かない限り、負けることはねぇだろうな」

 

そんな二人を小猫は鬱陶しそうに、木場は苦笑い、陸兎は興味無さ気に見守るのであった。

 

 

 

 

そして夜、陸兎たちは駒王町の廃教会に集まっていた。

 

「悪魔が神父の恰好するなんてねぇ」

 

「抵抗はあると思うけど、我慢してね」

 

「目的のためなら、何でもするさ」

 

黒い神父の服を着ながら呟く匙にイリナが言う。その横で木場が一人呟いていた。

全員が神父の服を着たのを確認すると、ゼノヴィアが提案する。

 

「全員で動くのは非効率だ。二手に別れよう」

 

「じゃあ、俺たちは町の東の方を回る。八神も俺たちと一緒でいいよな?」

 

「オーケー」

 

「では、私たちは西の方を回ろう。何かあったら、イリナの携帯に連絡してくれ」

 

ゼノヴィアの提案の下、悪魔側(+陸兎)と教会側の二手に別れて捜索することになった。

別れる途中でゼノヴィアが一誠に何やら話していたが、陸兎は特に気にしなかった。

そして現在、陸兎たちはある場所に来ていた。

 

「ここって、前に八神が倒しちまったはぐれ悪魔がいた場所だよな?」

 

「懐かしいねー。そう言えば、退魔師として始めて部長らと出会ったのはここだったな」

 

かつて陰陽師局の依頼で、ここに潜んでいたはぐれ悪魔を倒し、その後にリアス達と遭遇した場所を懐かしむように見渡す陸兎。

奥に進んでいく陸兎たちだったが、しばらく進んだところで、異変に気づく一同。

 

「なんだ?この悪寒・・・?」

 

「・・・おい、上から不審者が降ってきてんだけど、心当たりある奴いるか?」

 

「「「「!?」」」」

 

陸兎がそう言うと、一行は一斉に上を見上げる。

すると、上空から神父の恰好をした白髪の男が、長剣を振り上げながら木場の下へ降ってきた。

 

「イヤッホー!「ヤクザキック!」ふげらっちょ!」

 

白髪の神父が木場に斬りかかる前に、陸兎の渾身のヤクザキックが顔面にヒットし、白髪の神父ことフリード・セルゼンは背中から地面に落ちた。

 

「って、うおい!何やってんだ八神!?」

 

「いやだってさぁ。夜道を歩いてたら、いきなり不審者が出てきたからつい。よく言うだろ。不審者に出くわしたら'いかのおすし'を守れって。生か('いか')して返すな、('の')天かち割れ、('お')声で叫び出したら黙らせろ、'す'ぐ止めを刺せ、('し')体は残すな」

 

「そんな墨まみれのブラックいかのおすしがあるわけねぇだろ!子供たちの未来、違う意味で真っ黒になるぞ!」

 

あまりにもブラック過ぎるいかのおすしにツッコむ一誠。

すると、陸兎に蹴られたフリードが勢い良く立ち上がり、鼻血を出しながら陸兎に向かって叫ぶ。

 

「おいコラクソ人間!人がクソ悪魔をぶっ殺してる途中で攻撃しちゃいけないって小学校で習わなかったのかテメェ!」

 

「うるせぇぞ。新川君(シュピーゲル時)みてぇな顔をした松岡禎丞(汚いキリト)。テメェは一生、島崎信長(汚いユージオ)と仲良くしてろ」

 

「朝田さん!アサダサン!って、やかましいわ!」

 

「・・・何だろう。フリードの奴がまともに見えてきたんだけど」

 

「狂人キャラから出落ちキャラにランクダウンしましたね・・・可哀想」

 

上からかっこよく登場しようとした瞬間に顔面を蹴られ、更には蹴られた相手におちょくられているフリードに、一誠と小猫は憐れみの視線を向けた。

陸兎に弄ばれてたフリードは、気を取り直して手に持ってる聖剣を構えた。

 

「俺の華麗な登場シーンを台無しにしやがって!このクソ銀髪!テメェは俺様がぶっ殺してやるよ!この『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラビットリィ)』でな!」

 

「悪いけど、君の相手は僕だ!」

 

木場が我先にとフリードに突っ込んでいく。

木場の魔剣をフリードは上に跳んで躱し、反撃に『天閃の聖剣』を振り下ろすが、それを魔剣で防ぐ木場。

そこから先は両者激しい攻防を繰り広げていった。木場は持ち前の『騎士』のスピードで次々と攻撃を仕掛けていく。しかし、フリードもまた『天閃の聖剣』の力によって、木場と同じくらいのスピードで戦っていた。

そんな激しい高速戦闘に、見ている一誠は圧倒されていた。

 

「なんてスピードだ。『騎士』のスピードと互角に渡り合ってるなんて」

 

「そうか?『神速』の速度に比べりゃ普通だろ?」

 

「陸兎先輩の普通は、普通じゃないので参考になりませんね」

 

「おいコラ、サラッと人に向かって毒を吐くんじゃない・・・って、聞いてねぇし」

 

陸兎のツッコミを聞き流しながら、小猫は携帯を取り出し、イリナ達に連絡し始めた。

一方、高速戦闘を繰り広げている木場とフリードを見ながら、一誠が顔をしかめる。

 

「クソ!木場に力を譲渡させたいけど、速すぎて近づけねぇ。何とか奴の足を止めることができれば・・・」

 

「足を止める?なら、俺に任せろ!」

 

一誠の言葉を聞いた匙は自信満々に言うと、彼の手の甲からデフォルメされたトカゲの顔のような物が現れた。

 

「伸びよライン!」

 

匙の声と共に、そのトカゲ顔から触手のような物が伸び、空中を飛んでいたフリードの片足に巻き付いた。

すると、先程まで素早い動きで動いていたフリードの動きが急激に遅くなった。

 

「これが俺の神器、『黒い龍脈(アプソープション・ライン)』だ!」

 

黒い龍脈(アプソープション・ライン)』はラインを相手に繋ぎ、繋いだ相手の力を吸い取る神器。更に言うなら、五大龍王の一角、黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)ヴリトラの力を宿している。

自身の神器を誇らしげに解説する匙に、陸兎は感心しながら彼に向かって喋る。

 

「やるじゃねぇか。地味なキャラに見合った地味な攻撃だ!」

 

「言うな!俺も地味だなって思ってんだよ!どうせ俺は山崎ポジのモブキャラだよコノヤロー!」

 

涙目になりながらも、匙は腕を引っ張ると、片足を引かれたフリードはバランスを崩して床に尻を付く。

フリードはすぐさま片足に巻き付いているラインを斬ろうとするが、いくら『天閃の聖剣』を振るっても、ラインが斬れる様子はない。

 

「ナイスだ匙!後は木場の下まで飛んで、力を譲渡すれば・・・」

 

「ならば、イッセー!合体技だ!」

 

「おう!合体技・・・って、まさかまた俺を盾にする気か!?」

 

陸兎の言葉に勢い良く反応した一誠だが、すぐさまドッチボールでの出来事を思い出し、顔を青ざめる。

その直後、陸兎は両手を後ろに組み、軍隊の隊長の如く大声で叫んだ。

 

「気をつけぇ!!」

 

「は、はい!」

 

急に大声で叫ばれて、一誠は思わず気をつけの姿勢になる。

 

「右腕上げーーー上げ!!」

 

「右腕上げ!?こ、こうか!?」

 

出された指示に困惑しながらも、一誠は言われた通り右腕を上げた。

すると、陸兎は一誠の体を持ち上げ、彼は某子供人気アニメのあんぱんがウイルスに止めを刺す為に使う必殺パンチのような姿になった。

 

「行くぜ!俺とイッセーの合体技第二弾!必殺!イッセーミサイル!!」

 

「結局、こういう役割かぁぁぁぁぁぁ!!」

 

陸兎に投げ飛ばされた一誠は、絶叫を上げながら木場の下へ飛んだ。

 

「木場ぁー!受け取れ!」

 

「イッセー君!?」

 

一誠はこちらを見ながら驚いている木場の肩に触れ、力を譲渡させた。

 

「受け取った以上は仕方ない。有難く使わせてもらうよ。『魔剣創造』!」

 

「うおっ!?」

 

フリードは驚きながらも、地面から次々と迫ってくる魔剣を打ち払う。

しかし、魔剣は一向に止まる気配がなく、フリードの顔に焦りが見え始めてきた。

 

「『魔剣創造』か・・・使い手の技量次第では無敵の力を発揮する神器だな」

 

その時、建物の奥から声が聞こえ、全員が声がした方に振り向くと、建物の中から白い神父服を身に纏った眼鏡を掛けた老人が現れた。

 

「おー、バルパーの爺さん!」

 

「何!?」

 

フリードが発した男の名に、木場が大きく反応する。何せ、ゼノヴィアが話した聖剣計画の首謀者の名と同じだからだ。

バルパーはフリードに向かって言う。

 

「フリード、まだ聖剣の使い方が十分でないようだな」

 

「そうは言ってもねぇ爺さん。このクソトカゲのベロベロが邪魔でねぇ」

 

「体に流れる因子を刀身に込めろ」

 

「どれどれ、体に流れる因子を刀身に込めて・・・テイっ!」

 

「オワッ!」

 

フリードはバルパーの言われた通りに『天閃の聖剣』を振るうと、足に巻き付いていたラインが斬れ、匙はラインを引いていた力が急に途切れた勢いで後ろに転び尻餅を付く。

 

「なるほど・・・聖なる因子を有効活用すれば、更にパワーアップするってわけか。それじゃあ、俺様の剣の餌食になってもらいましょうか!」

 

聖剣のオーラによって光り輝いている『天閃の聖剣』を構えながら、フリードは先程よりも素早いスピードで木場に斬りかかった。

 

「させん!」

 

キンッ!

 

だが、『天閃の聖剣』が木場に届く前に、ゼノヴィアが木場の前に出て、『天閃の聖剣』を受け止めた。

 

「ヤッホー!連絡貰ったから駆けつけて来たわよ」

 

「そういう手筈でしたから」

 

更にイリナもやって来て、困惑してた一誠と匙に、フリードと戦っている間携帯でイリナに連絡してたことを小猫が説明した。

聖剣同士の鍔迫り合いの中、ゼノヴィアがフリードに向かって叫ぶ。

 

「フリード・セルゼン!バルパー・ガリレイ!神の名の下に断罪してくれる!」

 

「俺の前で、その憎たらしい名前を出すんじゃねぇ!このビッチが!」

 

ゼノヴィアの言葉に激昂するフリードだが、直後木場が魔剣を振り下ろし、回避するため後ろに飛んだフリードはバルパーの横に立った。

すると、バルパーがフリードに声を掛ける。

 

「お前の任務は教会の者を消すことだ。聖剣を持つ者が二人もいるのはマズい。ここは引くぞフリード」

 

「合点承知の助!それでは皆さん、サラダバー!」

 

フリードが閃光弾を地面に叩き付けるように投げると、辺りは白い光に覆われた。

そして、光が止んだ頃にはフリードとバルパーの姿は無かった。

 

「追うぞイリナ!」

 

ゼノヴィアが真っ先に走り出し、イリナも後に続く。更に木場も彼女たちの後を追うように走り出した。

 

「おい!待ってくれよ!たく、どいつもこいつも勝手だな」

 

「全くね」

 

我先にフリード達を追いかけていった木場たちに、一誠は困り顔をしていると、彼の耳に聞き覚えのある声が聞こえた。

一誠は恐る恐る振り向くと、そこにはソーナと椿姫、リアスと朱乃がいた。

 

「やれやれ、勝手な部下を持つと、上司も大変だねぇ」

 

一誠と匙がそれぞれの主の顔を見て「ヒィ!」と怯える後ろで、陸兎はやれやれと言わんばかりの顔で呟くのであった。




最後の陸兎の言葉を剣夜が聞いてたら彼はこう言います。
剣夜「お前が言うな」

<予告>
元日に正月特別編を投稿します。お楽しみに。


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自己紹介は第一印象が大事

「それじゃあ裕斗は、そのバルパーを追っていったのね?」

 

「はい、ゼノヴィアとイリナと一緒に。何かあったら、連絡をくれると思うんですが・・・」

 

現在、一誠と小猫はリアスの前で正座させられ、説教を受けていた。その隣には、同じく匙がソーナの前で正座させられ、説教を受けている。

一誠の言葉を聞いたリアスは、目線を小猫の方に向ける。

 

「小猫、貴方までどうしてこんなことを?」

 

「・・・私も、裕斗先輩がいなくなるのは嫌です」

 

小猫の思いを聞き、リアスはため息をつきながら喋る。

 

「過ぎたことをあれこれ言うつもりはないわ。でも、貴方たちのやったことは、悪魔の世界に影響を及ぼすかもしれなかったのよ」

 

「はい、すみません部長」

 

「すみません」

 

リアスの言葉に頷きながら、一誠と小猫は彼女に謝った。

その時、隣で匙を説教していたソーナ達の方からパシッ!と音がした。

 

「貴方には反省が必要みたいですね。お尻叩き千回です!」

 

「ヒイイイイイ!ごめんなさい会長ぉー!」

 

振り向くと、ソーナが手に魔力を籠めながら匙の尻を叩いており、一発ごとに匙の悲鳴が鳴り響いていた。

その光景を見ていた一誠は、顔を青くしながらリアスの方に振り向く。彼女も尻叩き千回するのではないかと危惧していると、リアスは一誠と小猫の名前を呼んだ。

 

「イッセー、小猫」

 

「は、はい!」

 

緊張気味に返事する一誠だが、リアスは一誠と小猫を引き寄せて抱きしめた。

 

「馬鹿な子たちね。本当に心配ばかりかけて・・・」

 

「(ウッホー!お尻叩き千回かと思いきや、まさかの部長からの熱い抱擁!俺、部長の下僕で良かったー!)」

 

予想外の抱擁に、一誠はテンションが上がり、間抜け面を晒した(顔を赤らめた)

だが、現実は甘くなかった。

 

「さて、イッセー。お尻を出しなさい。貴方もお尻叩き千回よ」

 

「・・・え?」

 

抱擁を解いた後、唐突に言ってきた死刑宣告(お尻叩き千回)に呆然とする一誠。

しばらくして思考が戻った一誠は、驚愕の表情となって叫ぶ。

 

「えぇー!ここは許してくれて、お尻叩き千回は無くなるパターンじゃないんですか!?」

 

「そうはいかないわ。下僕の躾は主の仕事だもの。それに・・・」

 

リアスがチラッと視線を横に向ける。

 

「あれよりはマシだと思うけど・・・」

 

視線の先に映った光景は、めちゃくちゃ寒そうに体を震わせている陸兎がいた。パンツ一丁で尖った波形の板の上で正座しており、両手首は縄で縛られ、膝の上には大量の石が置かれている。

そして、彼の正面には笑ってない笑みを浮かべている剣夜がいた。

 

「それで、まだ何か言いたいことはあるかい?」

 

「人間って、こういう寒い状況下で風呂に入ると、めちゃくちゃあったかく感じるらしいぜ」

 

「麗奈、もうマイナス10度下げてくれ」

 

「かしこまりました」

 

剣夜の指示に従い、麗奈は氷をモチーフとした青白い色の銃を持つと、陸兎に向けて引き金を引いた。

すると、銃口からマイナス10度は軽く超えているであろう冷たい冷気が放たれ、ただでさえカチコチに凍っている陸兎の体を更に凍えさせる。

 

「おわぁぁぁぁぁぁ!!ちょ、死ぬ!流石に死ぬって!大体、依頼内容は別に秘密事項じゃねぇんだし、教会側に漏らしたって、そこまで問題ないだろ!?」

 

「・・・百歩譲って、依頼内容を教会側に漏らしたことはまだいい・・・でもね、僕は君にこう言ったよね?何かあったら、すぐに報告しろって。なのに、君は全然こっちに報告しないで、いつの間にか教会側に情報をばらしてるし。オマケに、ソーナ達の力を借りて、ようやく見つけたと思えば、肝心の犯人を取り逃すし、情報を持っているであろう教会側の人間とははぐれる始末。おかげで僕が上層部に報告した時に、どれだけ彼らにいらない愚痴を言われたか分かるかい?不必要な言葉を延々と聞かされた僕の心情が分かるかい?」

 

「イヤー、あれはなんて言うかーほら、社会でよくある嫌いな上司からの嫌がらせみたいなモンよ。寧ろ、こういう嫌いな上司の嫌味にも文句を言わずに付きやってやるのが、リーダーの役目――」

 

「うるさい、黙って座ってろ」

 

「お前なんかキャラ変わってない!?」

 

陸兎たちを見つけた後、剣夜は一連の出来事を日本陰陽師協会に報告したのだが、返ってきた言葉の90%が嫌味やら愚痴などであり、剣夜はそれをただ黙って、それはもういい笑顔で聞いてた。

そして、報告をし終えた後に湧き上がってきた怒りのベクトルは、全て嫌味の原因を作った問題児の方の幼馴染へと向かい、彼は陸兎にストレス発散という名のお仕置きを実行していた。

その後、陸兎が言葉を発する度に彼の悲鳴が鳴り響き、剣夜によるお仕置きは数時間に渡り続くのであった。

 

「・・・部長、尻叩き千回受けます」

 

「素直でよろしい」

 

その光景を無言で見つめていた一誠は、大人しくリアスのお仕置きを受けるのであった。

 

 

 

 

数日後、陸兎は剣夜と一緒に駒王町を探索していた。

 

「はぁー、結局一から探す羽目になってんじゃねぇか。マジめんどくせー」

 

「どっかの誰かがきちんと報告していれば、君の言うめんどくせー事にはならなかったと思うんだけどね」

 

一人呟く剣夜の言葉を聞き、気まずそうに顔を逸らす陸兎。

この間の独断での行動以降、陸兎は監視の意味も込めて剣夜と一緒に行動する羽目になり、嫌々と聖剣に関する情報を集めていた。

 

「やはり、こうも情報が少ないと、探し出すのは容易じゃないか。この間、君が遭遇した聖剣使い達に連絡を取れたりできないのかい?」

 

「そうしてぇのは山々なんだが、あいつら電話しても一向に出る気配が無いんだよなぁ。木場も電話に出ねぇし・・・問題児共が」

 

お前が言うなと言いたげな顔を陸兎に向ける剣夜。

その時だった。

 

ドーン!

 

「「!?」」

 

遠くにある山の方から、突如激しい戦闘音が聞こえてきた。それと同時に、僅かだが強い気配を感じ取った。

二人は顔を見合わせると、すぐさま『神速』で移動する。

数秒も経たずに音がした方に着いた二人は、そこで倒れている人物を目にした。

 

「・・・遅かったか」

 

「みたいだね」

 

二人の視線の先には、ボロボロになったイリナが倒れていた。

黒い戦闘服は所々切り裂かれており、彼女自身も傷を負っている。そして、彼女が持っているはずの『擬態の聖剣』が彼女の腕に巻かれていなかった。

 

「聖剣使いなのに聖剣を持っていない。となると・・・」

 

「十中八九奪われただろうな」

 

そう結論付けながら、陸兎はスマホを取り出し、一誠に電話する。

しばらくすると、木場以外のオカルト研究部の面々が魔法陣から現れた。

 

「八神!イリナは!?」

 

「十門寺家の人間に頼んで、東京の病院に運んでもらったよ。心配しなくても、俺が見た限りじゃ命に別条はねぇよ」

 

陸兎の言葉を聞いてホッと安堵する一誠。

丁度そこに、剣夜から連絡をもらったソーナ(と匙)が魔法陣から現れた。

 

「連絡を受けて来たのはいいけれど・・・剣夜、どういう状況か説明してもらえるかしら?」

 

「勿論だよ。けど、その前に――」

 

リアス達に状況を説明する前に、剣夜は後ろに振り向くと、一本の木に向けて右手をかざした。

すると、彼の左右に二本の剣が現れ、猛スピードで木に向かって飛んでいった。

その時、迫りくる二本の剣を避けるかのように、木の影から一つの人影が現れ、剣夜が飛ばした二本の剣はそのまま目の前にあった木を切り裂いた。

驚くリアス達をよそに、剣夜は木の影から現れた人物に声を掛ける。

 

「さっきからずっと殺気を出しながらこっちを見つめてたみたいだけど、僕たちに何か用かい?奇妙な悪魔祓い君」

 

「いんやぁ、人がちょっくらエクスカリバーを試し斬りしたい衝動に駆られてただけだってのに、いきなり攻撃してくるとはねぇ。人にいきなり蹴りを入れやがったそこの死んだ魚の目をしたクソ人間といい、退魔師ってのは血の気が多い連中の集まりかねぇ?」

 

木の影から現れたのはフリードだった。彼はいきなり攻撃して来た剣夜を不快な表情で見つめていたが、自身を見つめているアーシアと目が合うと、一転して笑みを浮かべた。

 

「おやおやー?クソ悪魔共に寝返ったアーシアちゃん。クソ悪魔ライフ、楽しんで――」

 

「『錬成』」

 

「オワッ!?」

 

アーシアへの皮肉を言い切る前に、誓約神器を発動させた剣夜が、自身の周りに先程よりも数が多い剣を作り出し、フリードに向けて飛ばした。

突然の攻撃に、さっきまで笑みを浮かべていたフリードは驚きながらも何とか躱した。

 

「あっぶねー!おいコラ、イケメン野郎!喋ってる最中の人間に、いきなり刃物を飛ばすなんざ、どういう教育してんだテメェ!」

 

「悪いけど、僕は無駄なことが嫌いなんでね。あまり時間を掛けている暇もないし、君の持っているエクスカリバー、さっさと破壊させてもらうよ」

 

文句を言うフリードに対して、剣夜は聞く耳を持たず、更なる攻撃を加えようと新たに複数の剣を作り出す。

それを見たフリードは、慌てながら待ったを掛ける。

 

「ちょちょちょ、ちょい待ちちょい待ち!俺は別に戦いに来たわけじゃないんだ。ちょっくら、そこの赤毛のお嬢さんに話があるんだって!」

 

「私に?」

 

フリードに用があると言われて、リアスは疑問符を浮かべる。

 

「そう・・・うちのボスがさぁ!」

 

笑みを浮かべながら上を見上げるフリード。

その直後、辺り一帯が結界で覆われ、フリードに釣られてリアス達も上を見る。

すると、十枚もの黒い翼を広げている男が空に浮かんでいた。

 

「初めまして、グレモリー家の娘。我が名は――」

 

「剣夜!」

 

「分かっている!『錬成』!」

 

「ウオっ!?」

 

空に浮かんでいる男が自己紹介する瞬間、陸兎に名を呼ばれた剣夜は、周囲に何十本もの剣を作り出し、それら全てを男に向けて飛ばした。

咄嗟の攻撃に男は驚きながらも、翼を広げながら無数に迫る剣の雨を躱していく。

その隙を狙うかのように、間合いに入った陸兎が『洞爺刀』で男に斬りかかる。

 

「くっ!小賢しい!」

 

男は咄嗟に光の槍を作り出し、『洞爺刀』を防ぐと、反撃と言わんばかりに作り出した槍を陸兎に向けて投げた。

陸兎は槍を『洞爺刀』で弾き飛ばすと、剣夜の横に立つ。

男もまた、先程と同じ位置に浮かび、ぜぇ、ぜぇと呼吸を整えながら陸兎と剣夜を睨んだ。

 

「貴様ら!人が名乗ってる途中で攻撃してくるとは!堕天使どころか悪魔でもそんなことする奴は滅多にいないぞ!」

 

「すまないね。君の顔がどう見ても敵の顔をしてから、つい反射的に動いてしまったよ。そうだろう?堕天使の幹部、コカビエルさん」

 

「やっぱ見た目って大事だよな。人との関係は第一印象から決まるって言うし」

 

怒る男改め堕天使コカビエルに対して、悪びれる様子もなく喋る剣夜と陸兎。

 

「そもそもお前、俺らがここに着いた時からずっと上にいたよな?なのに、イッセー達がここに来るまでの間、一言も喋りもしないって、何お前コミュ障なの?それとも、自分から人に話しかけれないタイプ?何千年も年取ってそうなおっさんが今更コミュ障を患っているって・・・恥ずかしくないの?」

 

「貴様・・・!下等生物如きが、至高の存在である俺を馬鹿にするか・・・!」

 

「ちょっとボスぅ。目的はご挨拶で、こいつらとやり合うのはもっと先じゃないんすか?まぁ、俺様としては、今すぐここでやり合うのはありなんですけどね」

 

小馬鹿にするかのような態度を取る陸兎に、殺意を募らせていくコカビエルだったが、フリードに宥められ、冷静になると再び笑みを浮かべた。

 

「俺の目的はただ一つ。リアス・グレモリー、お前の根城である駒王町で暴れようと思ってな。そうすれば、嫌でもお前の兄であるサーゼクスが出てこざるをえない」

 

「なんですって!?そんなことをすれば、堕天使と神、悪魔との戦争が再び勃発するわよ!」

 

「ククク、エクスカリバーを奪えば、ミカエルが戦争を仕掛けてくると思ったのだが、寄こしたのが雑魚の悪魔祓い共と聖剣使い二匹だ。つまらん、余りにもつまらん!」

 

ここに来るまでの間に倒してきた相手の事を思い出し、興醒めと言わんばかりの顔で叫ぶコカビエル。

一方でコカビエルの言葉を聞いた剣夜は、納得したかのような顔をする。

 

「なるほど。つまり君たちは、始めから天使と堕天使と悪魔による三つ巴の戦争を引き起こす為に行動してたということかい?」

 

「その通りだ!退魔師・・・いや、十天師の小僧!俺は三つ巴の戦争が終わってから退屈で退屈で仕方なかった!アザゼルもシェムハザも次の戦争に消極的でな。アザゼルに至っては、神器とか言う訳の分からん物を集め出して、研究に没頭し始める始末だ」

 

「アザゼル・・・確か、堕天使の組織『神の子を見張る者』の総督だったね」

 

「そう言えば、貴様と隣の小僧が持っている物。アザゼルはかなり気にしていたぞ。確か、人工的に作られた神器らしいが・・・」

 

「悪いけど、僕らが宿している物を君に、ましてや堕天使の総督にも教えるつもりはない。聞きたかったら、力づくで聞くんだね」

 

「フンッ!まぁ、アザゼルが夢中になっているだけで、俺はそんな物に興味は無い。堕天使、神、悪魔・・・それぞれがギリギリの所で均衡を保っている。俺はこの状況を完全に破局させ、この手で戦争を引き起こす!」

 

三つ巴の戦争を引き起こすことを堂々と語るコカビエル。その顔は狂気に満ちていた。

 

「完全な戦争狂ね」

 

リアスはコカビエルという堕天使を一言で表した。

 

「だから、今度は貴様ら悪魔に仕掛けさせてもらう。ルシファーの妹、リアス・グレモリー。レヴィアタンの妹、ソーナ・シトリー。そして、最強の退魔師、十天師よ。それらが通う学び舎なら、さぞや魔力の波動が立ちこめて、混沌が楽しめるだろう!戦場としては申し分あるまい!」

 

「イカレてやがる・・・」

 

コカビエルの狂気に、言葉を失う匙。

 

「うちのボス、このイカレ具合が素敵で最高でしょー!俺もついつい張り切っちゃうわけさ。こんなご褒美まで頂いてくれちゃうしさぁ!」

 

フリードは笑いながら上着を広げた。

広げた上着の中には、複数の聖剣と思われる剣が仕舞っていた。

 

「エクスカリバー・・・」

 

「!? まさか、あいつの持ってるの全部!?」

 

「そのようですわね」

 

小猫が呟き、驚いている一誠の疑問に朱乃が答えた。

 

「無論勿論、全部使えるハイパー状態なんざます!俺って最強!アハハハハハハ!」

 

一人笑うフリードをよそに、コカビエルは翼を広げ、更に上空へ飛び立つ。

 

「俺たちは一足先に貴様らの学び舎へ行く。そこで戦争をしよう。魔王サーゼクスの妹、リアス・グレモリーよ!」

 

そう言いながら、コカビエルは手元に魔法陣を展開させると、そこから大量の光の槍が降ってきた。

 

「させない!『八咫鏡(やたのかがみ)』!」

 

剣夜が両手をかざすと、彼の手元に巨大な鏡が出現し、大量の光の槍を全て跳ね返した。

 

「スッゲー、やるじゃねぇか十門寺!」

 

あれだけの槍を全て跳ね返した剣夜を一誠が称賛した。

しかし、槍を跳ね返した本人はあまり良い顔はしておらず、目線を駒王町の街並みが見える高台の方に向ける。

 

「連中、逃げたな。どこに行った?」

 

「恐らく、駒王学園だろうね。さっき、そこで戦争をすると宣戦布告してたしね」

 

陸兎の質問に答えながら、駒王町の街並みを見つめる剣夜。

その横で、一誠が拳を震わせながら呟く。

 

「あいつら、本気で学園を滅ぼす気か!?」

 

「いいえ、あのクラスとなると、学園どころかこの町自体、滅ぼすことなど容易いでしょう」

 

「そんな・・・!そんなこと・・・絶対にさせてたまるか!」

 

ソーナの言葉を聞いて、決意を固める一誠。

他の面々も同様であり、コカビエルの野望を阻止すべく、陸兎たちは急いで駒王学園へと向かうのであった。

ちなみに、駒王学園に向かう途中、リアスはさっきの出来事で一つ気になったことを陸兎に問う。

 

「ところで陸兎。さっき十門寺君が出したあの鏡。もしかして・・・」

 

「ご察しの通り、あれは日本神話が誇る『三種の神器』の一つ『八咫鏡』だ。あいつの誓約神器は、そんなヤベーモンすらも簡単に作り出すことのできる代物だ」

 

「・・・さりげなく、とんでもないことを言ってる気がするけど、今はコカビエルの方が優先だし、彼の話はまた今度にしましょう」

 

とんでもないことを聞いたリアスだったが、今優先すべきことはコカビエルの野望を阻止することであると、気持ちを切り替えるのであった。

 

 

 

 

そして数時間後、陸兎たちは駒王学園の校舎前に集まっていた。

 

「リアス、学園全体を結界で覆いました」

 

「こっちの方も結界の構築が終わりました」

 

結界を張り終えたソーナと剣夜がリアスに報告する。

現在、学園の周りにはシトリー眷属の面々が張っている結界に覆われており、更にリアス達が待機している場所の外側には、日本陰陽師協会によって派遣された一般退魔師たちが張っている第二の結界に覆われている。

結界を二重に張っているのは、万が一が起きた場合、町の被害を最小限に抑える為である。これは剣夜が日本陰陽師協会にコカビエルの件を報告した際に提案し、陰陽師側もそれを承諾し、結界を張るために近くの陰陽師局に所属している退魔師たちに緊急の派遣要請を下した。

 

「リアス、できるだけ結界は維持しますが、外に被害が出ないとは限りません。ましてや、相手は堕天使の幹部」

 

「本来でしたら、町の人達を遠くに避難させたかったんですが、この町に住まうほとんどの人間は、貴方たち異形の存在を知らない。それどころか、退魔師や陰陽師の存在すらも」

 

「仕方ないわね。堕天使がこの町を滅ぼそうとしているから早く逃げなさいっていきなり言っても、何も知らない人達から見れば、私たちは異常者にしか見えないわね」

 

ソーナと剣夜の言葉を聞いたリアスは、この町を治める者として、やるせない気持ちになりながらため息をつく。

悪魔という存在が、人間社会に隠れて存在してる以上、そうなることはリアスも分かっていた。

ならば、自分たちができることはただ一つ。裏に住まう存在として、表で平穏な暮らしをしてる者達を護り切ること。

決意を固めるリアスを見た剣夜は、目線を陸兎の方に移して、真剣な表情で彼に話しかける。

 

「さて、陸兎。知っての通り、僕と麗奈は他の退魔師たちと外の結界を維持するために、ここに残る必要があるから、戦線に出ることができない。だから、コカビエルの討伐は君に任せるよ」

 

「分かってら。心配しなくとも、果たされた依頼はきちんと果たしてやるよ。無論、誰一人犠牲にするつもりはねぇよ。オカルト研究部の皆(あいつら)結界を張っている者達(お前ら)もこの町の連中もな」

 

「フッ、そう言うと思ったよ・・・死ぬなよ?」

 

「あったりめぇよぉ。少しデケェカラス如きにやられてちゃ、主人公は名乗れねぇよ」

 

お互いに微笑みながら、拳を突き付けた。

その横でリアス達が魔王を呼ぶか呼ばないかで話し合っていた。

兄である魔王サーゼクスを呼ぶことに消極的であったリアスだったが、朱乃が既にサーゼクスを呼んでいると言う。最初は朱乃を非難していたリアスだったが、彼女に論されたことで納得し、一時間後にサーゼクスが来るという形で終わった。

そんなこんなで、着々と準備が進められていく中、唐突に携帯の着信音が鳴り響いた。

 

プルルルル!

 

「ん?失礼、少し外します」

 

着信元は剣夜の携帯であり、彼は一言断りを入れながら少し離れた場所に移動し、電話に出た。

しばらく電話していた剣夜だったが、突如驚いた、というより焦っているような顔をし、電話を切った頃には凄く険しい表情をしていた。

普段の爽やかな雰囲気を持つ彼らしからぬ顔に、周りは何事かと剣夜を見ていると、彼は陸兎の名を呼ぶと、そのまま彼を連れて、またしても少し離れた場所に移動した。

また厄介事かと思いながら面倒な顔を隠さないで聞こうとした陸兎だったが、剣夜から発せられた言葉で、その顔が驚きへと変わった。

 

「陸兎、緊急事態だ。もし、コカビエル討伐に時間がかかれば、上層部は東北にいる彼に救援を要請するみたいなんだ」

 

「!? マジか・・・!?」

 

陸兎は驚かずにはいられなかった。東北の十天師への救援要請。それは、陸兎や剣夜がこの件で最も危惧してたことである。

東北、北海道を担当する'彼'は、十天師の中でも高い戦闘能力を持つ上、一度ギアが入り出すと、敵を滅ぼすまで後先構わず暴れ続ける厄介な性格を持っている。それこそ、今現在危機に晒されている駒王町が数分足らずで瓦礫の山となるくらいに。

しかも、本来予定してた救援を要請する時間よりも少し早い。

 

「後、どれくらいだ!?」

 

「今が夜の23時30分で、次の日になったら救援を要請するみたいだ。つまり後30分だ」

 

剣夜から告げられたタイムリミットに、陸兎は悪態付く。

 

「クソッ!こういう事態を避けるために、早めに行動したつもりだったってのに、どんだけせっかちなんだよ上の奴ら!」

 

「仕方ないさ。町一つが滅ぶとなれば、誰だって焦ってしまうさ。とにかく、結界の維持は僕らがしておくから、君はグレモリー眷属と一緒に何としてもコカビエルを倒すんだ。それでも、もし間に合わなくて、コカビエルを討伐した後に、彼がグレモリー眷属の皆を狙い出したら・・・」

 

「そん時は、俺が力づくで止めてやらぁ。お前らには悪いが、もしあいつとやり合うことになったら、結界維持に全力を出してもらうぜ。じゃねぇと、せっかく町が助かったってのに、また滅んじまうかもしんねぇからな」

 

「・・・笑えない冗談だよ」

 

真剣な表情で言う陸兎に、剣夜は疲れ混じりのため息を吐いた。

用が済み、陸兎はリアス達の下に戻ると、皆に気合いを入れるかのように声を上げた。

 

「よし!行くぞお前ら!敵は目の前だ!一時間なんて待ってられるか!30分以内にケリをつけてやらぁ!」

 

「ず、随分やる気満々ね。でも、言われるまでもないわ。皆!必ず生きて、全員無事に帰るわよ!」

 

「「「「はい!」」」」

 

「応!」

 

リアスの言葉に応じて、オカルト研究部の面々は気合いの入った返事をした。

気合い十分のまま、陸兎たちはコカビエルへ挑むべく、結界の中へ入っていった。




ちなみに、新年特別編で酒吞馨が出した年賀状に書いてあった通り、馨は結界(退魔師の方)の外でずっとスタンバってます。


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どんなガラクタでも、そいつが大切に思っているのなら、それは宝である

今回は特に原作と変わらないかな?


校舎に入り、グラウンドに辿り着いた陸兎たちをコカビエル達が待ち構えていた。

近くでは空中に展開されている魔法陣の周りを四本の聖剣が神々しい光を放っている。そして、魔法陣の中央にはバルパーの姿がいる。その上にはコカビエルが宙で椅子に座っており、陸兎たちを見下ろしていた。

リアスは堂々とコカビエルの前に立つと、魔法陣について問いかける。

 

「コカビエル、あの光は何なのかしら?」

 

「四本のエクスカリバーを一つにするらしいぞ。あの男の念願らしいが、俺には関係ない。それで、サーゼクスは来るのか?それとも、セラフォルーか?」

 

「生憎だけど、お兄様もレヴィアタン様も来ないわ。貴方の相手は私たちがするわ」

 

「・・・そうか」

 

コカビエルは失望したかのような顔をすると、手元に巨大な光の槍を出現させ、それを体育館に向けて投げた。

 

ドカーン!

 

その直後、激しい爆発が起こり、辺り一帯に爆風が広がった。

陸兎以外の面々は激しい爆風に思わず尻餅を付く。そして爆風が止み、リアス達が再度体育館を見ると、体育館は跡形も無く消えていた。体育館があった場所には、先程の巨大な光の槍が地面に突き刺さっていた。

 

「つまらん、この程度で腰を折るとは実につまらん。まぁ、そこの退魔師・・・いや、十天師は先の攻撃でも一切動じてなかったようだが」

 

「この程度でチビってちゃ、最強の退魔師だなんて呼ばれねぇよ」

 

「ククク、どうやら貴様とは中々楽しめそうだな。少なくとも、魔王と戦う前の余興にはなりそうだ」

 

臆することなく答えた陸兎を見て、コカビエルは嬉しそうに笑う。

 

「さて、余興として、まずは俺のペットと遊んでもらおうか!」

 

コカビエルがそう言うと、宙に浮いてる椅子の下から魔力が放たれ、それは地面に向かっていった。そして、地面を抉ると魔法陣が現れ、巨大な炎の柱が吹き荒れた。

そこから黒い巨体に三つの首がある巨大な犬、ケルベロスが咆哮を上げながら現れた。しかも、二匹。

 

「あれはケルベロス!?なんてものを持ち込んでるの!」

 

リアスが驚くのも無理はない。ケルベロスは地獄の番犬と言われて、本来なら冥界の門の近くに生息している魔物なのだから。

 

「ビビってる暇ねぇぞ。こんなヤベー犬、現世で暴れられたらいい迷惑だ。部長らは全員で一体を頼む。残りの一体は・・・俺一人で十分だ!」

 

驚いているリアスの隣で陸兎がそう指示を出すと、我先にと一匹のケルベロスの下へ走り出した。

こちらに近づいてくる陸兎に気づいたケルベロスは、三つの首から一斉に炎を吐いた。

 

「そんなチンケな炎で、侍の魂を熱くできると思ってんじゃねぇぞ犬!」

 

しかし、陸兎は『洞爺刀』で膨大な炎を真っ二つに斬り裂いた。

そして、そのまま『神速』でケルベロスの首の一つに向かって跳び、『洞爺刀』を腰に当てて構える。

 

「夜叉神流一刀『闇夜ノ半月(やみよのはんげつ)』」

 

半月を描くように繰り出された横薙ぎの一閃は、瞬く間にケルベロスの首を切断した。

首が一つやられたからなのか、他の二つの首が激情したかのように咆哮を上げると、陸兎に向けて再び炎を吐こうとする。

 

「ハァ!」

 

だが、そこについ先日はぐれたばっかりのもう一人の聖剣使いの少女、ゼノヴィアが『破壊の聖剣』でもう片方の首を切断した。

 

「加勢に来たぞ。八神陸兎」

 

「別に必要無かったんだが・・・ありがとよ。これで終わりだ!」

 

ゼノヴィアに礼を言いながら、陸兎は宙を蹴って残りの一つの首に急接近すると、止めと言わんばかりに、陸兎の感情に応じて力を増幅させた『洞爺刀』でケルベロスの胴体ごと真っ二つに斬った。

ケルベロスを倒した陸兎とゼノヴィアは、そのまま地面に着地する。横を見れば、一誠たちの方も既にもう一匹のケルベロスを倒しており、木場も合流していた。

 

「まさか、こうもあっさり倒してしまうとはな・・・面白い!実に面白いぞ!」

 

あっという間に二匹のケルベロスを倒した陸兎たちを見て、コカビエルは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「完成だ」

 

不意にバルパーの声が聞こえ、陸兎たちが一斉に振り向くと、魔法陣にあった四本のエクスカリバーが一本に統合されて、眩い光を放った。

 

「ヤベーな、あれは」

 

「えぇ、あれだけの力が一気に放たれたら・・・」

 

膨大なオーラを前に、この後に起こる出来事を察した陸兎とリアスは顔をしかめながら言う。

その呟きに答えるかのように、バルパーが笑みを浮かべながら言った。

 

「想像通りだ。後20分でこの町は崩壊する」

 

「防ぎたかったら、この俺を倒してみるがいい。倒せたらの話だがな!」

 

そう言いながら、コカビエルは十枚の黒い翼を生やし、座っていた椅子から立った。

コカビエルが放つ圧倒的なプレッシャーにリアス達もそうだが、十天師である陸兎でも、いつもの死んだ魚のような目はしておらず、真剣な表情でコカビエルを警戒している。

しかし、木場だけは、コカビエルには眼中にない様子で一人、バルパーの方へ歩み寄る。

 

「バルパー・ガリレイ。僕は聖剣計画の生き残り・・・いや、正確には貴方に殺された身だ」

 

「ん?」

 

「悪魔に転生した事で、こうして生き長らえている。僕は死ぬわけにはいかなかったからね。死んでいった同志たちの仇を討つために!」

 

憎しみの籠った目で木場はバルパーに向かって突進していく。

 

「危ない!」

 

だが、木場はバルパーの事しか考えてなかったのか、背後にいるコカビエルが光の槍を自分に向けて投げようとしていることに全く気づいていなかった。

リアスの言葉によって、木場はようやく気づいたが、コカビエルは既に光の槍を木場に向けて投げていた。

 

「マズい!」

 

「くっ!」

 

ドカーン!

 

一誠と小猫が素早いスピードで駆けつけようとしたが、直後に光の槍は地面に衝突して、大爆発を起こした。

一誠と小猫は爆発の余波で吹き飛ばされるだけで済んだが、近くにいた木場は直撃こそ避けたが、ダメージは大きく、うつ伏せに倒れていた。

 

「直撃は避けたか。すばしっこいネズミだ・・・フリード!」

 

直撃を避けた木場に感心しながら、コカビエルはフリードを呼んだ。

 

「はいな、ボス!」

 

「最後の余興だ。四本の力を得たエクスカリバーで、こいつらをまとめて始末してみせろ」

 

「ヘイヘイ!チョー素敵仕様になったエクスなカリバーちゃん!確かに拝領しましたでござます!さぁて、誰から殺っちゃいましょうかねぇ?」

 

狂ったような目で見つめるフリードに、陸兎たちは警戒する。

そんな中、立ち上がろうとしてる木場の下にバルパーが近づき、憎しみの籠った目で自身を見つめる木場に話しかけた。

 

「あの計画で被験者が一人脱走したと聞いていたが、卑しくも悪魔に堕ちていたとは・・・だが、君らには感謝している。お蔭で計画は完成したのだからな」

 

「完成・・・?」

 

「君たち適正者の持つ因子は、聖剣を扱えるまでの数値を示さなかった。そこで、一つの結論に至った。被験者から因子だけを抜き出せば良いとな」

 

「なっ!?」

 

バルパーの言葉に驚愕の表情となる木場。

 

「そして結晶化する事に成功したのだ。これが、あの時の因子を結晶化した物だ。最後の一つになってしまったがね!」

 

そう言いながら、バルパーは懐から青く光り輝いている結晶を取り出した。

すると、バルパーの話を近くで聞いてたフリードが急に笑い出す。

 

「アハハハハハ!俺以外の奴らは途中で因子に体がついていかなくて、死んじまったんだぜぇ!そう考えると、やっぱ俺ってつくづくスペシャル仕様ざんすねぇ!」

 

大笑いするフリードを見ながら、ゼノヴィアは納得したかのように呟く。

 

「聖剣使いが祝福を受ける時、あのような物を体に入れられるが・・・なるほど、あれは因子の不足を補っていたのか」

 

すると、ゼノヴィアの言葉が聞こえたのか、バルパーは忌々しそうに言う。

 

「偽善者共めが。私を異端者として排除しておきながら、私の研究だけは利用しよって。どうせ、あのミカエルのことだ。被験者から因子を抜き出しても、殺してはいないだろうがな」

 

「・・・なら、僕らを殺す必要はなかったはずだ。どうして・・・!?」

 

木場は必死に立とうとしながら、殺気の籠った目でバルパーに問う。

 

「お前らは極秘計画の実験材料にすぎん。用済みになれば、廃棄するしかなかろう」

 

「っ!?・・・僕たちは主の為と信じて、ずっと耐えてきた。それを、それを・・・!実験材料・・・?廃棄・・・?」

 

平然と自分たちの事を実験材料と言ったバルパーに、信じられないと言った顔をする木場。

バルパーは持っている結晶を木場の足元に向けて投げる。

 

「この結晶が欲しければくれてやる。既に完成度を高めた物を量産出来る段階まできているのでな。もはやこれは、使い道のないガラクタにすぎん」

 

木場は静かにしゃがみ込み、足元に転がる結晶を手に取る。

結晶を握りしめている木場は、目を瞑りながら結晶を両手で包み込む。その顔には怒り、悲しみ、懐かしさ、後悔などといった様々な感情が混ざり込んでいた。

しばらくの間、結晶を握っていた木場は、ゆっくりと立つと、小さな声で呟いた。

 

「バルパー・ガリレイ。貴方は自分の研究、欲望の為に、どれだけの命を弄んだ・・・!」

 

その時だった。木場が持っている結晶が淡い光りを放ち、グラウンドを包み込んだ。

そして、木場の周りには複数の人の形をした青い何かが立っていた。

 

「あれは、この戦場に漂う様々な力。そして、裕斗君の心の震えが結晶から魂を解き放ったのですわ」

 

朱乃が一誠たちに説明する中、木場は霊魂となった聖剣計画の同志たちに語りかけるように言った。

 

「僕は・・・ずっと・・・ずっと思っていたんだ。僕が、僕だけが生きていて良いのかって。僕よりも夢を持った子がいた。僕よりも生きたかった子がいた。なのに・・・僕だけが平和な暮らしをして良いのかって・・・!」

 

すると、突然綺麗な歌声が辺りに響き渡った。

そして、霊魂の一人が木場の服を掴み、彼が自分の方へ振り向くと、微笑みながら口を開いた。

 

『自分たちのことはもういい。君だけでも生きてくれ』

 

声は聞こえなかったが、口の動きで喋った内容を理解した木場は涙を流した。

霊魂たちは一斉に浮かび上がり、淡い光を放ちながら、一人一人が口を開く。今度は声も聞こえた。

 

『大丈夫――』

 

『皆が集まれば――』

 

『受け入れて。僕たちを――』

 

『怖くない。例え神がいなくても――』

 

『神様が見てなくても――』

 

『僕たちの心はいつだって――』

 

「一つ・・・」

 

少年少女たちの声が聞こえた後に木場がそう呟くと、霊魂たちは一つの大きな光となって木場を包み込んだ。

その光はとても温かく、アーシアと一誠は涙を流していた。

やがて木場を包んでいた光が消えると、木場は再びバルパーを見る。

 

「同志たちは僕に復讐を願ってなかった。願ってなかったんだ。でも、僕は目の前にいる邪悪な存在を打ち倒さなければならない。第二、第三の僕たちを生み出さないために!」

 

そう言いながら、魔剣をバルパーに向けて構える木場。その目には、先程までの憎悪や殺意は一切無かった。あったのは、己の成すべき事を成そうとする決意だった。

 

「フリード!」

 

「はいなぁ!」

 

バルパーは己の身に危険が迫っていると感じて、フリードを呼ぶと、フリードはすぐに駆けつけ、二人の間に立った。

 

「フンッ、愚か者めが。素直に廃棄されれば良いものを」

 

バルパーが何やら言っているが、木場は聞く耳を持たない。

そこに一誠が木場にエールを送る。

 

「木場ぁー!フリードの野郎とエクスカリバーをぶっ叩けぇー!あいつらの想いと魂を無駄にすんな!」

 

「やりなさい祐斗!貴方はこのリアス・グレモリーの眷族。私の『騎士』はエクスカリバー如きに負けはしないわ!」

 

「祐斗くん!信じてますわよ!」

 

「ファイトです・・・!」

 

「木場さん!」

 

一誠に続きリアス、朱乃、小猫、アーシアがそれぞれ木場にエールを送った。

 

「あーあー、なに感動シーン作っちゃってんですか?聞くだけでお肌がガサついちゃってもうげんかーい!とっととテメェらを斬り刻んで、気分爽快といきましょうかねぇ!」

 

聖剣を構えるフリードに対して、木場は魔剣を天に向けて掲げた。

 

「僕は剣になる。僕の魂と融合した同志たちよ。一緒に超えよう。あの時果たせなかった想いを、願いを、今!」

 

その直後、魔剣から聖と魔の力が吹き荒れた。

 

「部長、そして仲間たちの剣となる!『魔剣創造』!!」

 

神々しい輝きと禍々しいオーラが一つとなり、魔剣へ吸収されていく。

 

「『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』。聖と魔を有する剣の力、その身で受け止めるがいい!」

 

木場は己の作り出した魔剣、いや聖と魔の力が合わさった剣、聖魔剣を構えた。

その様子を後ろから見つめていた陸兎が木場に向かって言う。

 

禁手化(バランス・ブレイク)・・・どうやらお前も、俺たちのいるステージの一歩目に至ったみてぇだな。なら、お前のやるべきことはただ一つだ・・・やって見せろよ木場!」

 

「分かっているよ陸兎君。何とでもなるはずだ!」

 

「聖魔剣だと!?」

 

連邦に反省を施す組織の構文みたいなやり取りをする陸兎と木場をよそに、バルパーは驚愕の表情で木場が作り出した聖魔剣を見る(無意識に例の構文のセリフを言っちゃってる)。

そんなバルパーに向かって歩み寄る木場。

そこにゼノヴィアが現れ、木場の隣に立った。

 

「リアス・グレモリーの『騎士』よ。八神陸兎が提案した共闘はまだ生きているか?」

 

「・・・だと思いたいね」

 

「ならば、共に破壊しよう。あのエクスカリバーを」

 

「良いのかい?」

 

「もはやあれは、聖剣であって聖剣ではない。異形の剣だ」

 

そう言いながら、ゼノヴィアは『破壊の聖剣』を地面に突き刺す。

 

「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ」

 

ゼノヴィアは右手を真っ直ぐ伸ばしながら言霊を発すると、途端に空間が歪んだ。

そして、歪みの中心から鎖に絡まった一本の剣が出現し、ゼノヴィアは剣の柄を掴むと、剣に絡んでいた鎖が一気に外れた。

 

「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する!聖剣デュランダル!」

 

聖剣デュランダル。エクスカリバーに並ぶ、この世の全てを斬り刻むと言われている聖剣。

ゼノヴィアはデュランダルを手に持つと、バルパーに向けて構えた。

 

「馬鹿な!私の研究ではデュランダルを扱える領域まで達してないぞ!」

 

「私はそいつやイリナと違って数少ない天然物だ」

 

「完全な適正者・・・真の聖剣使いだと言うのか!?」

 

驚いているバルパーをよそに、デュランダルを見つめていた陸兎は、ゼノヴィアに問いかける。

 

「つかよ、そんなスゲー剣使えるなら、なんで最初っからそいつで戦わなかったんだ?」

 

デュランダル(こいつ)は触れた物はなんでも斬り刻む暴君でね。私の言うことも碌に聞かない。それ故に異空間に閉じ込めておかないと、危険極まりないんだ」

 

「それってつまり、毎日人の頭を嚙んでくる定春みてぇなモンか?」

 

「・・・例えがよく分からないが、まぁそんな感じだ」

 

陸兎の質問の意味が分かっていなかったが、その場のノリで答えるゼノヴィア。

 

「そんなのアリですかぁー!?」

 

フリードは叫びながら、エクスカリバーを枝分かれさせると、それをゼノヴィアに向けて放つ。

しかし、ゼノヴィアはデュランダルを一振りしただけで、枝分かれしたエクスカリバーを全て砕いた。

 

「ここに来てチョー展開!?」

 

驚くフリードに向けて、ゼノヴィアはデュランダルを振り下ろす。

 

「所詮は折れた聖剣。このデュランダルの相手にはならない!」

 

「クソったれ!そんな設定いらねぇんだよ!」

 

宙に跳びながら悪態付くフリードだが、その後ろに木場が現れる。

 

「そんな剣で、僕たちの想いは断てない!」

 

聖魔剣を受け止めたフリードは、そのまま木場と空中で激しい剣戟を繰り広げる。

激しい剣戟の末、次第にフリードが押されていく。

 

「ぐっ!調子に乗ってんじゃねぇぞクソ悪魔がぁー!」

 

フリードは一度距離を取ると、大声で叫びながらエクスカリバーの力を最大限に解放させ、猛スピードで木場に接近する。

それに対して、木場は腰を少し下ろしながら聖魔剣を構え、目を瞑りながら陸兎との特訓の日々を思い出す。

 

「(陸兎君がよく使う『神速』。ただ早く動くんじゃなくて、一瞬のスピードで相手に接近する居合の業。腰を少しだけ低くしながら足首に一瞬だけ力を籠めて、力が解放された瞬間に一気に地面を踏み込んで・・・加速する!)」

 

「何ぃ!?」

 

木場は陸兎が扱う『神速』を頭の中で想像しながら見よう見まねで繰り出し、フリードのスピードをも凌駕する一瞬の速度で間合いに入った。

そして、いきなり目の前に木場が現れたことに驚くフリードに向けて、聖魔剣を振り下ろした。

 

パキンッ!

 

「グハッ!」

 

木場が振り下ろした聖魔剣はエクスカリバーを砕き、その勢いのままフリードの体を斬った。

 

「ざけんな・・・この俺が・・・クソ悪魔如きに・・・」

 

斬られた箇所から血を流しながら、フリードは地面に倒れた。

 

「見ていてくれたかい皆。僕たちの剣はエクスカリバーを超えたよ・・・」

 

木場は聖魔剣を握りしめながら上を見上げ、誇らしげに微笑むのであった。




・夜叉神流一刀『闇夜ノ半月(やみよのはんげつ)
半月を描くように、刀を真横に振るう一閃の一撃。


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人間という名の生き物

「何と言うことだ!聖と魔の融合など理論上不可能なはず!」

 

聖魔剣というイレギュラーな現象に困惑するバルパー。

そんなバルパーを気にともせず、木場は聖魔剣をバルパーに向けた。

 

「バルパー・ガリレイ。覚悟を決めてもらおう!」

 

そう言いながら、ゆっくりとバルパーに近づく木場。

だが、バルパーは突如思い至った顔をしながら喋り出した。

 

「そうか、分かったぞ!聖と魔、それらを司る存在のバランスが大きく崩れているのなら説明はつく!つまり、魔王だけでなく、神も――ふげぇ!?」

 

興奮気味に喋っていたバルパーだったが、突如顔面を蹴られ、数メートル飛ばされる。

その時、バルパーがいた場所に光の槍が刺さった。もし、あの場所にいたら、バルパーは光の槍に刺されていただろう。

光の槍を投げたコカビエルは、バルパーの顔面を蹴った・・・自身の槍からバルパーを助けた人物、陸兎に問う。

 

「何のつもりだ十天師?」

 

「勘違いすんな。俺はこいつを助けたわけじゃねぇ。テメェに木場の復讐の邪魔をさせないために動いたんだ」

 

そう言いながら、陸兎は呆然としている木場に目を向けた。

呆然としていた木場だったが、陸兎の意図を察した木場は、彼に「ありがとう」と礼を言うと、すっかり腰の引いたバルパーに向かって歩み寄った。

 

「ま、待て!誰が身寄りのない貴様らを育てたと思っている!そうだ!君の聖魔剣。私の力があれば、より強力な――」

 

ズバッ!

 

命乞いするバルパーの言葉に一切耳を傾けることなく、木場は聖魔剣でバルパーの首を斬った。

 

「終わったよ、皆・・・」

 

そう言いながら、木場は手に持っている聖魔剣を見た。聖魔剣を見つめている木場の目に、喜びの感情は無かった。あったのは虚しさだけだった。

その光景を上から見ていたコカビエルは、心底つまらなそうに言う。

 

「フンッ!とんだ茶番だったが・・・まぁいい。余興は終わりだ。赤龍帝の小僧、限界まで赤龍帝の力を上げて、誰かに譲渡しろ」

 

「なんだと!?」

 

「私たちにチャンスを与えるというの?ふざけないで!」

 

甞められていると思われ、リアスが強気で反論する。

だが、コカビエルは凄まじいオーラを放ちながら言い返す。

 

「ふざける?それは貴様らの方だろう。その程度で俺を倒せると思わないことだな!」

 

コカビエルが放つ圧に、押しつぶされそうになる一誠とリアスだったが、お互いの手を掴みながらゆっくりとコカビエルに近づいていく。

そして、最大限まで強化されたところで一誠が口を開いた。

 

「来ました、部長!」

 

Transfer(トランスファー)!』

 

『赤龍帝の籠手』から発せられた声と共に、最大限まで強化された力がリアスに譲渡された。

力を譲渡されたリアスは、凄まじいオーラを放ち、その両手には滅びの魔力を限界まで凝縮させていた。

 

「消し飛びなさい!」

 

リアスが凝縮させた滅びの魔力の塊は、龍のような形をしながら、コカビエルに向けて放たれた。

 

「フンッ!」

 

コカビエルはそれを真正面から受け止める。

 

「面白い!面白いぞ!サーゼクスの妹!」

 

「はぁーーーーーー!!」

 

『赤龍帝の籠手』によって最大限に強化された滅びの魔力をコカビエルは余裕そうに受け止めていく。

リアスは更に出力を上げて畳み掛けようとするが・・・

 

「うぅ・・・!あぁ!」

 

譲渡された力を全て使い果たし、リアスは魔力の消耗によって、背中から倒れた。

 

「雷よ!」

 

リアスの頑張りを無駄にしないと、朱乃が雷をコカビエルに向けて放つも、コカビエルはそれを翼で防ぐ。

 

「俺の邪魔をするか!?バラキエルの力を宿す者よ!」

 

「私をあの者と一緒にするな!」

 

コカビエルの言葉を聞いた途端、朱乃は目を見開きながら激情した。

一方で二人の会話を聞いてた陸兎が、一つ気になったことを隣にいたゼノヴィアに聞いた。

 

「なぁ、バラキエルって誰だ?」

 

「堕天使の幹部だ。『雷光』の二つ名を持つ雷の使い手だと聞いているが・・・」

 

「雷ね・・・」

 

そう呟きながら上を見ると、朱乃が魔力の消耗で息切れしていた。

朱乃がこれ以上雷を打つことができないと悟ったコカビエルは、地上へ降り立つ。

それを確認した木場とゼノヴィアは、お互いの顔を見て頷くと、コカビエルに向かって走りながら、後ろにいる一誠に指示した。

 

「兵藤一誠!私たちが時間を稼ぐ!」

 

「その間にイッセー君はパワーを溜めてくれ!」

 

「わ、分かった!」

 

一誠の返事を聞くと、木場とゼノヴィアは左右からコカビエルに斬りかかる。

 

「聖剣と聖魔剣の同時攻撃か。フッ、面白い!」

 

コカビエルは両手に光の剣を出現させて、二人の剣を受け止めた。

 

「そこ・・・!」

 

足が止まったコカビエルに、小猫が上から殴り掛かる。

だが、コカビエルは背中にある翼を猛スピードで動かし、三人を斬り刻んだ。

 

「随分と愉快な眷族を持っているなリアス・グレモリー!赤龍帝、聖剣計画の成れの果て・・・そしてバラキエルの娘!」

 

「なっ!朱乃さんが堕天使の幹部の娘!?」

 

「あれだけの威力の雷と『雷光』の二つ名を持つ堕天使の力を宿しているから、まさかとは思っていたが・・・」

 

コカビエルの言葉を聞いて、一誠と陸兎が驚いた。陸兎の方はさっきのゼノヴィアの説明を聞いて、ある程度察していたようだが、それでも真顔になりながら驚いていた。

コカビエルはリアスを興味深そうに見ながら言う。

 

「ククク、リアス・グレモリー。お前も兄同様ゲテモノ好きのようだな!」

 

そう言いながら、リアスを嘲笑うコカビエル。

当然、主を馬鹿にされて、一誠が黙っているはずがなかった。

 

「やい!このクソ堕天使!テメェ、これ以上部長や朱乃さんにふざけたことを言ってみろ!俺がテメェをぶちのめしてやるからな!」

 

「その通りだ。貴様は必ず断罪する。神の名のもとに!」

 

一誠に続くように、ゼノヴィアもデュランダルを構えながら叫ぶ。

だが、ゼノヴィアの言葉を聞いた途端、コカビエルは突如笑い出した。

 

「フハハハハハ!!」

 

「何がおかしい!?」

 

突然笑い出したコカビエルに突っかかるゼノヴィア。

そんなゼノヴィアをコカビエルは何処か憐れむような目で見た。

 

「いや、神もいないのに、よくもまぁ神のためになどと戯言を言うことができるなと思ってな」

 

『!?』

 

その言葉に、ゼノヴィアだけでなくこの場にいる全員が反応する。

コカビエルは心底楽しそうな様子で喋り続ける。

 

「本当はこの場で言うつもりはなかったが、戦争を起こすのだ。黙っている必要もない・・・よく聞け!先の戦争では、四大魔王と共に、神も死んだのだ!」

 

『!?』

 

コカビエルが告げた衝撃の事実に、この場にいる全員の目が見開いた。

 

「噓だ・・・噓だ・・・!」

 

「そんな・・・主が・・・!?」

 

その中でも特に大きく反応したのが、教会所属のゼノヴィアと元教会のシスターであるアーシアだった。今まで信じていた()が、既に死んでいると言われたのだから無理はない。

 

「あの戦争の後、どの勢力も人間に頼らねば存続できない程に落ちぶれた。天使も堕天使も悪魔も、三大勢力のトップ共は神を信じる人間を存続させるために、この事実を封印したのさ。まぁ、そんなことはどうだっていい。俺が一番許せんことは、神と魔王が死んだ以上、戦争継続は無意味だと判断したことだ!耐え難い!耐え難いんだよ!一度振り上げた拳を収めるだと!?あのまま戦っていたら、堕天使(俺たち)が勝てたはずだ!アザゼルの野郎も二度目の戦争はないと宣言した!ふざけるな!」

 

憤怒の表情で叫ぶコカビエルを見て、アーシアが震えながらコカビエルに問う。

 

「主はもういらっしゃらない?それでは、私たちに与えられる愛は・・・!?」

 

「ミカエルはよくやっているよ。神の代わりとして、天使と人間をまとめているのだからな」

 

今度はゼノヴィアが問いかける。

 

「大天使ミカエル様が神の代行を?では、我らは?」 

 

「システムさえ機能していれば、神への祈りも祝福も悪魔祓いもある程度動作はするだろうしな」

 

「!?」

 

コカビエルの言葉を聞いたアーシアは、その場に崩れ落ちた。

咄嗟に小猫が支えるが、アーシアはショックのあまり気を失っていた。

 

「とは言え、神を信じる者は格段に減ったがな。聖と魔のバランスを司るものがいなくなったため、その聖魔剣のような異質な現象も起こるわけだ。本来なら聖と魔が交じり合う事はあり得ないからな。お前たちの首を土産に、俺だけでも、あの時の続きをしてやる!」

 

「くっだらね」

 

不意にそう言ったのは、興味無さそうな顔でコカビエルを言葉を聞いていた陸兎だった。

突然言ってきた陸兎の発言に、コカビエルは眉をひそめながら問いかける。

 

「聞こえたぞ小僧。何がくだらないだと?」

 

「全部だよ。テメェの小せぇプライドもそうだが、戦争なんてモンを起こすためだけに、この町を・・・無関係の人間を巻き込んでんじゃねぇよ」

 

そう言った陸兎を、コカビエルは鼻で笑った。

 

「無関係の人間だと?フンッ!下等生物が何百人死んだところで、何か問題でもあるのか?」

 

「なんだと!?」

 

コカビエルの言葉に一誠が反応する。

 

「そうだろう!所詮人間は何も持っていない哀れな生物だからな!天使や堕天使の力は使えない。それどころか神器の力が無ければ、魔力すらも碌に扱えない。そんな下等生物が何百人死んだところで、この世界に何の影響は出ないんだよ!」

 

「何も持っていないね・・・」

 

叫ぶコカビエルを見つめながら、陸兎は木場に声を掛ける。

 

「木場、悪いが魔剣・・・できれば刀、最悪曲刀でもいいから作れるか?」

 

「え?・・・刀の形をした魔剣なら作れなくはないけど、魔剣は魔力を持ってないと扱うことができない。人間の陸兎君じゃ、持ったとしても魔剣の力は発揮されないと思うよ・・・」

 

「心配いらねぇよ。俺が欲しいのは'魔剣'じゃねぇ。侍にとって命とも言える物、'刀'だ」

 

陸兎がそう言うと、木場は慌てながら『魔剣創造』の力で一本の刀を作り出して、陸兎に渡した。

陸兎はその刀を片手で何回か素振りして、悪くないと言わんばかりの顔で笑うと、コカビエルの下へ歩み寄る。

 

「何をする気だ?」

 

「決まってんだろ。どの道、後15分・・・いや、今は23時50分だから10分か。後10分でオメェを倒さねぇと、この町がヤベーんだ」

 

二本の刀を両手に持ちながら、陸兎はコカビエルの前に立つと、目を鋭くさせながらコカビエルに向けて言った。

 

「ゲームのやりすぎで充血してやがるその真っ赤な目でよく見やがれ。オメェが散々下に見ていやがる人間という名の生き物を・・・!」

 

そう言いながら、陸兎は『洞爺刀』ともう一本の刀を地面に突き刺したその時だった。

 

「霊力展開、『異能殺し(ラムダ・ブレイカー)』発動!」

 

陸兎の足元に鬼のような顔を模した陣が、陸兎を中心に展開された。そして、その陣から莫大な霊力の柱が吹き荒れ、陸兎の姿を覆いつくした。

その霊力の柱から周囲に放たれている霊力に、一誠たちもコカビエルも肌が焼けるような感覚を感じて、顔をしかめる。唯一人間であるゼノヴィアは特に何も感じておらず、突然顔をしかめた一誠たちを見て疑問符を浮かべる。

やがて光の柱が収まり、陸兎の姿が露わになる。彼自身は特に変わった様子は無いが、彼の周りを白い靄のようなものが包んでいた。

一誠たちが緊迫した空気の中で見守る中、陸兎はコカビエルに向かって口を開く。

 

「お前はもう、俺に触れることすらできねぇよ」

 

「何?」

 

「今から数秒、俺はここを動かねぇから当ててみろよ。ご自慢の堕天使の力とやらでな」

 

「小僧・・・どうやら、余程死体を残したくないようだな」

 

陸兎の物言いに、コカビエルは額に青筋を浮かべると、手元にこれまでとは比べ物にならない程の巨大な光の槍を出現させた。

 

「自分の言った言葉の愚かさを思い知りながら・・・死ね!」

 

光の槍は猛スピードで陸兎に向かって投げられ、陸兎に刺さろうとした瞬間

 

ドカーン!!

 

槍による大爆発が起き、辺りを爆風が包み込んだ。

 

「陸兎君!」

 

「八神!」

 

朱乃と一誠が悲鳴のような声を上げる。さっきの攻撃が明らかに直撃だったからだ。

 

「フンッ!所詮は下等生物。最強の種である堕天使に挑んだのが貴様の運の尽き――っ!?」

 

つまらなそうに呟くコカビエルだったが、爆風が晴れた瞬間、その目が見開かれた。

 

「どした?俺が跡形も無く吹き飛んだ幻覚でも見たか?」

 

爆風から現れた陸兎は、特に傷も負った様子はなく、平然とその場に立っていた。更に、周りの地面は爆発によって巨大なクレーターができているが、陸兎が立っている場所だけは無傷であった。

 

「くっ!これならどうだ!?」

 

コカビエルは焦りながらも、手元に魔法陣を展開させ、小さい光の槍を大量に放った。

無数の光の槍が突っ立ったままの陸兎に当たろうとした瞬間、光の槍が陸兎の目の前で急停止し、同時に陸兎の正面には霊力で作られた壁のような物が存在していた。それはまるで、陸兎を守っているバリアのようだった。

その直後、そのバリアに防がれていた光の槍は、霊力に包まれて消えた。それは一つだけに限らず、無数に降り注ぐ光の槍を全て相殺させていた。

 

「攻撃を防いだ!?いや、槍そのものが消えた!?」

 

木場は目の前に映っている異常な光景に驚愕の表情となる。

やがて全ての槍を防ぎ、全く無傷の陸兎が堂々と立っている姿に、リアス達は安堵よりも驚きで目を見開いていた。

それはコカビエルも同様だった。

 

「な、なんだ!何なんだその能力(ちから)は!?」

 

何千年も生きてる自分が、今まで一度も見たことのない力に動揺するコカビエル。

そんなコカビエルに向けて、陸兎は説明する。

 

「『異能殺し』は人間が持つ霊力を己の意思で物理的に具現化させる力だ。俺が正面にあらゆる攻撃を防ぐ壁を作りたければ、霊力は俺の意思に答えてくれる。そして、霊力は異を滅する力。お前が異の攻撃・・・つまり、魔力や光を使った攻撃をし続ける限り、お前の攻撃は全て『異能殺し』で作り出した霊力の壁によって相殺される!」

 

陸兎の説明を聞いたコカビエルは、信じられないと言わんばかりの顔をする。見下していた下等生物が、自分の知らない未知の力を持っている事実に、焦りを感じずにはいられなかった。

 

「馬鹿な!?何も持たない人間如きに、そのような能力(ちから)があるはずが――」

 

「オメェの言う通り、人間は何もねぇ生き物だ。頑張っても1000年以上はぜってぇ生きれねぇし、包丁で刺されるだけで死ぬ。魔力もねぇ、翼もねぇから空も飛べねぇ。霊力がめっちゃあっても、見えないモンが見えるようになるだけで使えねぇ。何もかもがねぇ哀れな生き物だ・・・けどな、何もねぇからこそ、そこから何かを見つけるんだよ。始めっから持っている奴が最強?違ぇよ。自分にねぇモンを見つけて、育てて、他のモンと合わせたりすることで、初めて、持っている奴より先へ進めるんだよ。誓約神器を作った奴も、『異能殺し』を生み出した奴もそうだ。始めから持っていたモンに満足せず、自分に無かったモンを見つけて、育てて、他のモンと合わせたりしたからこそ、生まれることができたんだ。そうやって、人間はオメェらよりも圧倒的に短い歴史(時間)の中でずっと繋がってきたんだよ!」

 

威風堂々と陸兎は『洞爺刀』をコカビエルに突き付けた。

そんな陸兎を見て、コカビエルの心に一つの感情が生まれた。今まで、魔王や神などと言った圧倒的な存在と対峙しても感じる事がなかった'恐怖'という感情だ。

有り得ない。こんな魔王でも神でもないただの人間に、至高の存在である自分が恐怖を感じるはずがない。必死に否定しようとしても、目の前にいる男から感じる魔王や神とは違うオーラが、コカビエルの心を支配していた。

 

「さてと、種明かしも済んだことだし、そろそろケリを付けようぜ」

 

「ふざけるな!俺は至高の種族!貴様如きに負けるはずがないのだぁぁぁぁぁぁ!!」

 

内なる恐怖を押し殺しながら、激情したコカビエルは巨大な光の槍を陸兎に向けて投げる。

それに対して、陸兎は霊力が込められた『洞爺刀』を振り、霊力の斬撃を放った。

『異能殺し』によって普段の斬撃よりも一段と強力になっている斬撃は、光の槍を真っ二つに斬り裂き、そのままコカビエルの体をも斬り裂いた。

 

「グハッ!」

 

斬撃を浴びた箇所から赤い血と煙が出ているが、コカビエルは痛みに耐えながら、再び陸兎を見下ろす。しかし、地面(そこ)にいるはずの陸兎の姿は無かった。

どこにいった!?と必死に探していると、自分が浮かんでいる場所より更に上に忌々しい人間の呟きが聞こえた。

 

「夜叉神流二刀・・・」

 

二本の刀を後ろに持ちながら、コカビエルに近づく陸兎。

コカビエルは咄嗟に光の槍を両手に出現させ、攻撃を防ごうと槍をクロスさせて構えるが、そんなのを気にともせず、陸兎は凄まじい速さでコカビエルに接近し・・・その牙を剝いた。

 

「『白虎猛進(びゃっこもうしん)』!」

 

「ガハッ!?」

 

コカビエルは体に虎の縞模様のような傷を受け、堕天使の象徴とも言える黒い翼を斬り落とされながら、地面に落下した。

 

「馬鹿な・・・この俺が、下等な人間如きに・・・!」

 

僅かな呟きと受け入れぬ現実を残し、コカビエルは地面へと落下する。かつて三つ巴の戦争を生き残った堕天使は、白虎の牙によって遂に倒れるのであった。

コカビエルが浮かんでいた場所には、無数の黒い羽根が舞い散った。

 

 

 

 

「剣夜様、あの光・・・」

 

「どうやら『異能殺し』を発動させたみたいだね」

 

霊力の柱を結界越しに見つめながら呟く剣夜。

陸兎が『異能殺し』を発動させたということは、それだけコカビエルという堕天使が強敵であると言える。そう思いつつも、今は自分たちのすべきことが優先だと、剣夜は瞬時に気持ちを切り替え、結界の維持に集中するよう麗奈に言う。

 

「どちらにせよ、僕らがやることは変わらない。陸兎がコカビエルを倒してくれるまで、この結界を維持し続けるんだ」

 

「はい、承知しました――!?」

 

突如上からただならぬ気配を感じ、麗奈は夜空を見上げる。剣夜も同様に夜空を見上げながら、空から感じる身に覚えのある気配に顔をしかめた。

 

「剣夜様、この気配・・・」

 

「まさか、こうも早く来るなんてね。彼らしいって言えばらしいけど・・・」

 

困った様子で剣夜は結界の一部を解除させて中に入ると、眷属たちと一緒に一つ先の結界を維持し続けているソーナに話しかけた。

 

「ソーナ、このままでもいいから聞いてくれるかい?」

 

「剣夜・・・!?どうしたの?悪いけど、結界を維持し続けることで手一杯だから、そう長くは――」

 

「ソーナ、今から結界が破壊されると思うから、すぐに再構築の準備をしてくれ」

 

「なんですって?それはどういう――」

 

言葉の意図が理解できず、ソーナが問いかけたその時だった。

 

パリン!!

 

突如空から黒い閃光(・・・・)が降ってきて、二つの結界が砕ける音が辺りに響いた。




・『異能殺し(ラムダ・ブレイカー)
人間が持つ霊力を己の意思で物理的に具現化させる力。簡潔に言えば、己の考えていることを霊力で実現させる力である。敵の攻撃を防ぐバリアを作ったり、防御不能の波動弾を放ったり(使い手次第では持っている物から打つことができる)など、使用用途は様々。
強力な力故に、発動させる条件は非常に厳しい。具体的には大量の霊力を持っている、普通の人間よりも一段と優れている身体能力を持っている、強い集中力とイメージを持っている。これからの条件から、一般退魔師でもほとんどの者が『異能殺し』を発動させることができない。
また、霊力を半ば強制的に解放させているため、使用してる間、体力をかなり消耗する。そのため、『異能殺し』が使える一般退魔師でも、発動してから一時間くらいが限界。陸兎は半日くらい使用し続けることができるらしいが、使用した後の疲れが半端ないのと、霊力を刀に纏えば、大抵の異形は除霊できるから、今回の時みたく余程の事がない限り使うことは無い。

・夜叉神流二刀『白虎猛進(びゃっこもうしん)
両手で持った刀を後ろに背負うように構え、間合いに入った相手に向けて両手の刀を振り下ろす。


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黒と白

前回の投稿からお気に入り登録者数が少し減ってしまった・・・
原因は恐らく『異能殺し』だと思っています。まぁ、私も書いてる内に、ちょっとオカルトチック過ぎて、銀魂らしくねぇなとは思いましたけど・・・
これはあくまで、銀魂要素を入れたハイスクールD×Dの二次小説ですので、多少のオカルト要素は目を瞑っていただけたら幸いです。


さて、気を取り直して第3章の続きといきましょう。今回は陸兎たちが作中で散々言ってた東北、北海道を担当する十天師が登場します。ついでに、白龍皇も。


「スッゲー・・・」

 

自分たちをかなり苦しめていたコカビエルだったが、それをいとも簡単に倒してみせた悪友(陸兎)に、一誠は圧倒されていた。

 

「これが陸兎の・・・十天師の本来の力・・・」

 

一誠の隣でリアスが呟く。十天師という退魔師が、どれだけ規格外かを改めて感じ取った。

そう思いながら、陸兎のことをジーと見つめていた一同だったが、木場がある異変に気づいた。

 

「魔法陣が消えてない・・・?」

 

そう、地面に展開されている魔法陣がまだ消えてないのだ。

まさかと思い、一誠たちがグラウンドの方を見ると、そこには斬られたはずのコカビエルが立っていた。

 

「しつけぇな。まだ生きてやがったのか」

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・この俺が・・・貴様如きに・・・負けるはずがない・・・」

 

体から血を流し、黒い翼も斬られて、息も絶え絶えに立っているコカビエルだが、その瞳には目の前にいる陸兎に対して強い殺意が感じられた。

だが、陸兎はその強い殺意に臆する様子はなく、今度こそ止めを刺してやろうと二本の刀を再び構えたその時だった。

 

パリンッ!

 

突然結界が割れる音が鳴り響き、それと同時に・・・

 

ドーン!

 

コカビエルがいた場所に、突如上から黒い光が猛スピードで降ってきて、地面に衝突した。グラウンドに衝撃が響き渡り、辺りに砂煙が舞う。同時に、地面に展開されていた魔法陣が消えた。

一誠たちは突然結界が破壊された事に驚きながらも、凄まじい砂煙と衝撃の余波に飛ばされないよう必死に足を踏ん張る。

 

「おいおい、まだ0時になってねぇだろうが・・・」

 

だが、陸兎だけは何処か焦っているような顔で呟いた。

やがて衝撃で生まれた砂煙が徐々に晴れていき、閃光が落ちたと思わしき場所から人影が現れた。

 

「やれやれ、強ぇ堕天使と戦えるって聞いて、青森からひとっ飛びして来たってのに・・・」

 

砂煙に映っている人影から声が聞こえてくる。声質からして男だと一誠たちは判断する。

そうしている間にも、砂煙は徐々に晴れていき、砂煙に隠れていた人影が遂にその姿を現した。

 

「よりにもよって、一番見たくもねぇ野郎の顔を見ることになるとはなぁ」

 

そう言いながら、陸兎を不機嫌そうな顔で睨んでいたのは、黒髪に赤メッシュを付けている少年だった。

背は陸兎と同じくらいあり、白い服の上に黒いジャケットを羽織り、両手を紺色のズボンのポケットに入れながら陸兎を見つめるその瞳は、獣のように鋭く、普通の人が見れば思わずひるんでしまう程の力強さがあった。

不機嫌な顔で陸兎を見つめる少年に対して、陸兎もまた不機嫌な顔で少年に話しかける。

 

「それはこっちのセリフだバカヤロー。テメェ、なんで結界の中に入って来やがった?」

 

「そりゃ、邪魔だったからぶっ壊したに決まってんだろ」

 

「入ってきた方法は聞いてねぇよ!なんで人様の結界の中に勝手に入って来たのか理由を聞いてんだ!」

 

「こんな町のど真ん中で結構な規模の結界を張ってんだ。興味が湧かねぇわけねぇだろ」

 

「・・・あっそ」

 

当たり前と言わんばかりの顔で言い切る少年に、陸兎は疲れ切った様子で言った。

そんな様子の陸兎を無視しつつ、少年は陸兎に問う。

 

「んで、討伐対象の堕天使の幹部はどこにいんだ?教えろ、俺がすぐにぶっ潰してやるよ」

 

「どこにいるもなにも、今お前が踏んでるだろ」

 

「あぁ?何言ってんだ?俺が踏んでるのはただの地面だろうが」

 

「いや、今お前が踏んでるただの地面が、お前が探してる堕天使の幹部だよ」

 

陸兎に言われて少年が足元を見ると、顔以外の部分が地面の奥に埋まっていて、泣きそうな顔で気絶しているコカビエルの顔面が彼の靴に踏まれていた。

 

「うわっ、何だこいつ?ひょっとして、さっきの着地だけでくたばったのか?堕天使の幹部ってのは、ギャグ補正があれば、簡単に倒せる存在なのか?」

 

「んなわけあるか。俺がこいつを虫の息にした所に、お前がいきなり乱入して来て、そのまま止めを刺したんだよ」

 

「え?何お前、俺が来るまでに、こんな弱そうな奴を虫の息にすることしかできなかったの?うわっ、ひょっとして舐めプか?今時舐めプとか流行らねぇぞ。こんな舐めプ野郎と同じ組織の所属とかマジ勘弁してほしいぜ」

 

「ねぇ、斬られたいの?ひょっとして今すぐここで斬られたいタイプ?何なら、俺が介錯してやろうか?その赤メッシュごと、みじん切りにしてやろうか?」

 

明らかに煽っている少年の発言に、青筋を浮かべる陸兎。

すると、今までの二人の会話を呆然と聞いてた一誠が我に返って、突然現れた少年に突っかかろうとする。

 

「やい、テメェ!いきなり現れて――「やれるもんならやってみな。この世で赤メッシュに一番相応しい人間は、俺か美竹蘭だって事を教えてやるよ」いいか!俺は――「うっせー、アフグロ派。赤メッシュなんて、思春期真っ盛りのJKが後の黒歴史になるとも知らずに付けてるようなモンだろうが。普通は猫耳だろ猫耳。戸山香澄様が率いるポピパが一番だろ」オマケに――「あぁ!?ポピパなんて愛と勇気と主人公補正だけで生きてるバンドだろうが。ここはやっぱ、Roseliaと肩を並べる事ができるアフグロが最強だろ」を吸うのは俺だけ――「オーケー、ならば戦争だ。ポピパの素晴らしさをケツの髄まで教えてやるよ」俺はハーレム王にな――「上等だ。いつも通りがモットーのアフグロ魂で跡形も無く燃やし尽くしてやらぁ」って聞けよお前ら――っ!?」

 

ドカーン!

 

一誠を無視し続けていた少年だったが、突然陸兎の方を向いたまま目にも止まらぬ速さで腕を振るうと、陣風が一誠の真横を通り過ぎて、後ろにある校舎の壁を破壊した。

何が起きたのか分からずに破壊された校舎の壁を呆然と見つめる一誠たち。そこに、少年が目線を一誠の方に向けながら、苛立ち混じりの声で喋る。

 

「うるせぇんだよカエル野郎。さっきから耳障りな声で喚きやがって・・・死にてぇのか?」

 

少年の鋭い眼光から、凄まじい殺気とコカビエル以上のオーラと闘気が溢れ出し、それを正面から受けた一誠は、顔を青くしながら体を震わせた。

少年はそれを一瞥すると、つまらなそうに口を開いた。

 

「あーあ、せっかく強ぇ野郎と戦えるって聞いて来たってのに、いざ来てみれば、陸兎(ムカつく野郎)の顔を見るは、うるせぇカエルに吠えられるは、とんだ無駄足だったぜ・・・お前もそう思うよな?」

 

「そんなことはないさ。少なくとも、面白いものは見ることができたからな」

 

少年が上を見上げながら喋った事と、突如上から聞こえた声に、陸兎たちは一斉に上を見上げる。

そこにいたのは、全身に白い鎧を纏っている人物だった。鎧の各部分には宝玉のような物が埋め込まれていて、背中から生えている青い翼が月明かりの光に照らされて、光り輝いていた。

突如現れた謎の人物に一誠たちが驚く(陸兎だけは気づいていたのか、特に驚いた様子はない)中、少年が謎の人物に話しかける。

 

「纏っている気からして、俺と同じ臭いがするが・・・テメェ、白龍皇だな?」

 

「ご名答。我が名はアルビオン。君やそこの一誠(宿敵君)と同じ龍を宿し者」

 

『!?』

 

二人の会話を聞いてた一誠たちは、二つの内容に驚かされた。一つは赤龍帝と対をなす存在である白龍皇がここにやって来たこと。もう一つは、白龍皇と話している少年が、二天龍に並ぶ龍の宿主だということ。

目を見開きながら驚いている一誠たちをよそに、少年と白龍皇は会話を続ける。

 

「まさか、ここで俺の同類と会えるとはなぁ。せっかくだし、いっちょここで殺り合おうぜ」

 

「俺もそうしたいところだが、生憎俺の目的は君と戦うことじゃない。そこで埋まっているコカビエル。それと、フリード・セルゼンの回収をアザゼルに頼まれてね」

 

「そう固い事言わずに遊ぼうぜ。こっちはさっきから体がうずうずして仕方ねぇんだ・・・!」

 

「本音を言えば俺もだ。これだけ強力なオーラを持つ相手と戦うのは久しぶりだからな・・・!」

 

お互い闘気を湧き上がらせながら、黒いオーラを放つ少年と白いオーラを放つ白龍皇。二人の纏っているオーラは凄まじく、近くで見てた一誠たちが冷や汗をかきながら体を震わせる程だった。

すかさず、陸兎が二人の間に入って止める。

 

「やめとけ。お前ら二人が暴れたら、せっかく助かったこの町があっという間に滅ぶだろうが。オメェも、こいつや俺と戦うために来たわけじゃねぇだろ?」

 

「チッ・・・まぁいい。勝負はお預けといこうぜ、白龍皇」

 

「そうさせてもらうよ。ここで君と戦えば、俺は本来の目的を達成できなくなる体になってるかもしれないからな。だけど、せっかく会えたんだ。名前を聞かせてくれないか?君と・・・コカビエルを斬ったそこの十天師よ」

 

白龍皇は少年と隣にいる陸兎の名を問う。

二人は一度顔を見合わせると、再度白龍皇の方を見ながら名前を言う。

 

「八神陸兎。この学園の2年だ」

 

無六(むろく)龍牙(りゅうが)だ。普段は青森にいるから、俺と戦いたくなったら、いつでもそこに来な」

 

「八神陸兎に無六龍牙・・・覚えておこう」

 

そう言うと、白龍皇は埋まっていたコカビエルを引っこ抜き、近くで倒れていたフリードを担ぐ。

 

『無視か白いの?』

 

空に飛び立とうとした白龍皇を呼び止めたのは、『赤龍帝の籠手』から発せられた声だった。

 

『生きていたか赤いの』

 

『赤龍帝の籠手』発せられた声に反応するかのように、白龍皇の鎧の宝玉から声が発せられた。

 

『せっかく出会っても、この状況ではな』

 

『いいさ、いずれ戦う運命だ。そこにいる黒い龍も含めてな。また会おう、ドライグ』

 

『あぁ、またなアルビオン』

 

お互いに別れを告げて、二天龍同士の会話は終了した。

二天龍同士の会話を見届けた白龍皇は、一誠の方に顔を向けながら喋った。

 

「全てを知るには力が必要だ。強くなれよ宿敵君。今の君では、俺やそこの無六龍牙には勝てない」

 

「なんだと!?」

 

一誠にそう言い残し、白龍皇は青い翼を広げて飛び立った。

それを見た龍牙も、後ろに振り向きながら帰ろうとする。

 

「俺も帰るぜ。討伐対象が消えた以上、もうここに用はない。それに、依頼が済んだらベットで一つになろうぜって聖良(せら)と約束してるからな。だから、帰って聖良成分を補充してくらぁ」

 

「勝手にしやがれ。つか、一生してろバカップル」

 

さり気なく番になろうとする龍牙に向けて、吐き捨てるように言う陸兎。

しかし、訳も分からずに散々好き放題させられて、一誠が黙っているはずがなかった。

 

「待てよ!お前らはいったい何なんだよ!いきなり現れたと思ったら、すぐに帰ろうとしやがって!つか、女の子とベットに一つになろうって・・・お前、童貞卒業者かよ!チキショー!」

 

「・・・はぁ~」

 

嫉妬混じりの一誠の叫びを聞きながら、龍牙はめんどくさそうにため息をついた直後

 

シュッ!

 

「!?」

 

『神速』で瞬時に一誠の目の前まで移動して、人差し指を一誠の首元から僅か数ミリ手前に突き付けた。

一瞬の出来事に目を見開いて驚く一誠の顔を確認した龍牙は、再び後ろに振り向いた。

 

「お前に一つ忠告してやるよカエル野郎。俺に喧嘩を売りたけゃ、今の動きくらいは目で追えるようになっときな。じゃねぇと・・・その首が一瞬で吹っ飛ぶと思え」

 

言外に自分はいつでも一誠(お前)を殺せる。そう言い残すと、龍牙は強靭な脚力で宙に跳び、そのまま黒い閃光となって飛び去っていった。

残された一誠たちは、ただ呆然と黒い閃光を見上げていたが、いち早く我に返ったリアスがパンッと手を叩いた。

 

「色々あったけど、ひとまず町は救われたわ。皆のおかげよ」

 

いくらかの蟠りを残しつつも、ひとまず駒王町は救えたことに、一誠たちは安堵する。

そんな中、陸兎は聖魔剣をジーと見つめている木場に話しかける。

 

「復讐を終えた気分はどうだ木場?」

 

「・・・君の言った通りだったよ。復讐を終えても、そこに喜びは感じなかった。でもね、虚しさは感じたけど、同時に見つけることができたんだ」

 

「見つけること?なんだそりゃ?」

 

「僕の生きる意味さ」

 

そう言うと、木場はリアスの下に歩み寄る。

そして、彼女の前に立つと、その場で膝を付いて頭を下げた。

 

「部長、僕は部員の皆を・・・何よりも、一度命を救ってくれた貴方を裏切ってしまいました。お詫びする言葉が見つかりません」

 

「でも、貴方は帰ってきてくれた。それだけで十分。それに禁手化なんて、主として誇らしい限りよ」

 

「っ!?・・・部長、僕はここに改めて誓います。僕、木場祐斗はリアス・グレモリーの眷族『騎士』として、貴方と仲間たちを終生お守りします」

 

「ありがとう、裕斗」

 

そう言いながら、リアスは木場を自身の胸に引き寄せて抱きしめた。

その光景を他の皆は暖かい目で見守っていた。

 

「アバぁ!オマム、ウゥアアアシンオト!」

 

「黙ってろ。今、いいシーンなんだから」

 

ただし、一誠だけはリアスの胸に抱きしめられている木場に物申そうとしたが、後ろから陸兎に羽交い締めにされ、更に口元を手で塞がれて上手く声が出なかった。

もっとも、一誠の嫉妬は、この後木場へのお仕置きとして行われたお尻叩き千回を見たことで、消え去るのであった。

 

 

 

 

「無事かいソーナ?」

 

「えぇ、貴方が咄嗟に受け止めてくれたおかげで何とか・・・」

 

幼馴染(剣夜)にお姫様抱っこされてるからか、少し顔を赤らめながら言うソーナ。

先程、空から舞い降りた黒い閃光によって、結界が強制的に破られ、結界を張っていたソーナ達シトリー眷属の面々は、その衝撃で吹き飛ばされていた。

ソーナだけは剣夜が咄嗟にお姫様抱っこで受け止めたから特に怪我はしてないが、他の面々はあちこちで倒れており、今は麗奈が一人一人の治療に回っていた。

 

「それよりも剣夜。あの黒い光は何なのかしら?それに今回の件、貴方たちが日本陰陽師協会から依頼を受けていた事は知ってたけど、貴方はいつもと違って何処か焦っているように感じたわ。もしかして、さっきのあの黒い光が、貴方が焦っていた事と関係があるのでは?」

 

険しい顔で剣夜に問いかけるソーナ。

剣夜は少し顔をしかめたが、諦めた様子で話した。

 

「あの黒い光の正体は、僕たちと同じ十天師の一人だよ。今回の件で僕らが依頼を達成するのに時間が掛かれば、この町に派遣される予定だった」

 

「同じ十天師・・・それが、貴方が焦っていた事と何の関係が?」

 

「簡単なことだよ。彼が本気で暴れたら、この町を滅ぼすことぐらい容易いからさ」

 

「!?・・・彼がですか?」

 

「そう・・・彼の名は無六龍牙。『暴龍(ぼうりゅう)』の異名を持ち、その身に龍を・・・下手をすれば、二天龍に並ぶ程の力を持つ龍・・・始原の龍バハムートを宿している問題児さ」

 

 

 

 

コカビエルの騒動から数日後、暗い夜の公園のベンチで一人座っている少女がいた。

 

「・・・・・・」

 

覇気の無い様子で一人座るゼノヴィアは、これまでの出来事を思い返す。

聖剣を回収し、教会本部に帰ろうとしたゼノヴィアに待っていたのは、教会からの追放だった。

理由は話してくれなかったが、おそらく、神の死を知ってしまったからだろう。

とにもかくにも、ゼノヴィアは教会を追放され、今は何も無いただのゼノヴィアになってしまった。

何故、自分だけが知りたくもない秘密を知ってしまったのだろう。一緒に派遣されたイリナとは、空港で別れた。その際に見た異端者となった自分を侮蔑するかのような目と心無い言葉は一生忘れないだろう。

これからどうすればいいのか。何のために生きていけばいいのか。信じていた神を失い、ゼノヴィアは見えない路頭に迷い込んでしまった。

その時だった。真っ暗な彼女の世界に一筋の光が差し込んだ。

 

「よぉ、そこの死んだ魚の目よりも酷い目をしてやがるお嬢さん。何か困りごとでもあるのか?」

 

「君は・・・」

 

不意に声を掛けられ、俯いていた顔を上げると、そこにいたのは僅かな間だったが、共に戦った悪魔ではない人間の少年。自身を見つめるその目は、コカビエルと戦った時とは違い、とても濁っていて、まるで死んだ魚のような目だった。

その光はあまりにも濁っていた。けれども、真っ暗な世界にいたゼノヴィアにとっては、とても眩しく感じた。

陸兎はゼノヴィアの許可をもらうことなく、彼女の隣に座る。ゼノヴィアも陸兎をベンチから払い除けるようなことはしなかった。

 

「「・・・・・・」」

 

しばらくの間、お互い無言だったが、先に口を開いたのは陸兎だった。

 

「辛ぇのか?」

 

「!?・・・あぁ」

 

「そんなにショックだったのか?」

 

「・・・生きがいだったからな」

 

そう呟きながら俯くゼノヴィア。

陸兎は一瞬ゼノヴィアに顔を向けたが、すぐさま顔を前に戻すと、ゼノヴィアに言い聞かせるように口を開いた。

 

「落ち込むなって言うつもりはねぇ。けど、そういうのは早めに割り切った方がいいぞ。死んだ奴は口も利かねぇし、何も与えねぇぞ」

 

「!?」

 

陸兎の言葉が気に食わなかったゼノヴィアは、感情を剥き出しに叫んだ。

 

「君に何が分かる!神を信仰してない君に!神は私の全てだった!私の生きる意味だった!それを――」

 

「でも、お前は生きてるだろ」

 

「!?」

 

「確かに神はいねぇ。けど、それを信じていたお前は生きている。なら、お前ができる事といったら一つ・・・(そいつ)の分までお前が生き続けること。死んだ(そいつ)に胸を張れる生き方をお前がすりゃいいだろ」

 

「・・・・・・」

 

陸兎の言葉に、ゼノヴィアはただ黙ったまま俯く。

 

「これだけは知っておきな。お前の道を決めんのは他の誰でもねぇ。自分(テメェ)の道は自分(テメェ)で決めるモンだ」

 

「私の道・・・」

 

ゼノヴィアの呟きを耳で聞いた陸兎は、ベンチから立ち上がった。

 

「俺が言えるのはここまでだ。後はお前自身で決めな・・・まっ、少なくとも、自分の信じた道を進んでいりゃ、少しは楽に生きれると思うぜ」

 

そう言い残し、陸兎は公園を去っていった。

残ったゼノヴィアは、陸兎に言われた自分の道について必死に考えた。

考えに考えて、やがて一つの答えに導いた彼女は、公園を出ると、ある場所に向かうのであった。




・無六龍牙(むろく りゅうが)
見た目は「バンドリ」の美竹蘭をTS化した感じ。作中で描写されてた通り、陸兎と凄く仲が悪い(「銀魂」で言う銀さんと土方みたいな関係)。

長かった第3章も次回で終わりです。お楽しみに。


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章末に新キャラが登場した時のワクワクめっちゃ半端ない

翌日の放課後、オカルト研究部の部室へ入った陸兎、一誠、アーシアの三人にある人物が声を掛けてきた

 

「やぁ、赤龍帝。それと、昨日ぶりだね十天師」

 

「な、なんでお前がここに!?」

 

「身に覚えのある気配がすると思ったら、やっぱりお前だったか・・・」

 

陸兎と一誠に挨拶したのは、駒王学園の制服を身に纏ったゼノヴィアだった。

この間まで教会の聖剣使いだったはずの彼女がこの場にいることに、一誠とアーシアは驚いた。陸兎は部室に来る途中でゼノヴィアのオーラを感じ取っていたため、特に驚いていなかった。

 

「お前なんでここにいんだよ?しかも、悪魔になってるし・・・」

 

「え?悪魔って・・・」

 

陸兎の言葉に一誠が反応しながらゼノヴィアの方を見ると、彼女の背中から黒い翼が生えた。

 

「神がいないと知ってしまったのでね。そこの八神陸兎に言われて、自分の道を自分で考えた結果、破れかぶれで悪魔に転生したんだ」

 

「破れかぶれにも程があるだろ・・・んで、お前はどんな駒なんだ?」

 

「『騎士』よ。デュランダル使いが加わったのは頼もしいわ」

 

陸兎の質問に答えたのはリアスだった。ゼノヴィアが加わったことで、木場に並ぶ『騎士』が揃ったことで、気分良さげだった。

 

「今日からこの学園の2年に編入させてもらった。よろしくね、イッセー君」

 

「真顔で可愛い声を出すな!」

 

「ふむ、イリナの真似をしたのだが、中々上手くいかないものだな」

 

「・・・種田さんスゲーな」

 

イリナの言動を真似したゼノヴィアに一誠がツッコむ一方、彼女の凄まじい声の切り替えっぷりに、陸兎は彼女の中の人を称賛していた(メタい)。

その後、ゼノヴィアはアーシアに謝り、アーシアがそれを許すと、今度は木場に話しかけ、再び手合わせしたいと言い、木場も望むところだと答えた。

すると、今度は陸兎の方に近づき、彼に話しかける。

 

「八神陸兎。君には感謝している。あの時、君の言葉が無ければ、私は暗い道の中を迷い込んだままだった」

 

「そりゃどうも。まっ、悪魔に転生するとは思ってなかったけどな」

 

「それで・・・その・・・君に一つ頼みたいことがあるんだ」

 

ゼノヴィアは少し顔が赤くなっており、モジモジとした様子で喋っていたが、やがて女は度胸と言わんばかりの顔で叫んだ。

 

「私を・・・君の家に住ませてくれないだろうか!?」

 

ゼノヴィアから発せられた衝撃発言に辺りがシーンとなった。

陸兎はゼノヴィアの言葉に呆然となっていたが、困惑しながらも彼女に理由を問う。

 

「えっと・・・なんで、俺ん家に住みたいって思ったんだ?」

 

「・・・今まで私は、神こそが全てだと思って生きてきた。その神がとっくの昔に死んでいて、私のこれまで神に全てを捧げてきた人生は何だったのかって自暴自棄になっていたよ。でも、例え神がいなくても、この世界は続いていく。神がいなくても、私はここで生きている。そう思えるようになったのも、そのきっかけをくれたのも、紛れもなく君だ」

 

「だから」とゼノヴィアは真剣な表情で自分の想いを言った。

 

「私はこの目で見てみたい。君という侍について、もっと知ってみたい。それが、私の選んだ道だ」

 

陸兎の顔を正面から見ているゼノヴィアの表情は真剣だった。

そんな彼女の決意を聞いて、陸兎はどうすればいいのか分からず、同居人の意見を聞こうと、顔を朱乃の方に向けた。

視線の意味を察して朱乃は、すぐさま自分の意見を言った。

 

「私は構いませんわよ。定春君に続いて、ゼノヴィアちゃんも増えたら、きっと賑やかになりそうですわ」

 

そう言いながら、朱乃は楽しそうに微笑んだ。

同居人からも許可をもらい、陸兎は再度ゼノヴィアを見る。こちらを見つめる彼女の目は至って真剣だ。

数秒お互いの顔を見つめ合っていた陸兎とゼノヴィアだったが、やがて陸兎が仕方ないと言った様子で頭に手を当てながら口を開いた。

 

「分かったよ。俺みたいな問題児でも、お前が何かを得られるってんなら、それを見つけるまで、好きなだけ俺ん家にいてくれ」

 

「ありがとう。八神陸兎」

 

「違うだろ。ゼノヴィア」

 

「!?・・・そうだな。これからよろしく頼む。陸兎」

 

そう言って、二人は握手を交わした。

その後はリアスがオカルト研究部の活動再開を宣言し、彼らのいつも通りの日常が再び始まるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって、ここは大勢のあやかしが住まう世界、隠世。

この隠世には、天神屋という隠世で古くから愛され続けている老舗宿がある。

そして、その天神屋の隅っこには、夕がおという小料理屋が存在していた。

 

「よし、明日の仕込みはこれで終わり!」

 

その夕がおで、仕込みが終わってひと段落ついた人間の少女が疲れ切った様子で椅子に座った。

緑の着物を着て、若女将の雰囲気を持つ少女の名は津場木葵。人間の身でありながら、訳あってこの夕がおで小料理屋を営んでいる少女である。

 

「お疲れ様です葵さん。疲れてませんか?」

 

椅子に座っている葵に狐のような尻尾が九つも生えている銀髪の少年が話しかける。

少年の名は銀次。今は人間の見た目をしているが、その正体は九尾である。天神屋では若旦那を務めており、今は葵が営む夕がおで手伝いをしている。

自身を気遣う銀次に、「大丈夫」と返す葵。

そこにガラガラと夕がおの入口の扉が開き、中から一人の男が入って来た。

 

「やぁ、葵。調子はどうだい?」

 

「あ!大旦那様!」

 

「・・・何しに来たの?大旦那様」

 

男に笑顔を向ける銀次に対して、葵は素っ気ない態度で男に接した。それもそのはず、目の前にいる男は自分を隠世に連れて来た張本人なのだから。

二人が言っていた大旦那という男は、その名の通り、天神屋の大旦那を務めている鬼神である。彼は葵の祖父が天神屋に残した借金の肩代わりとして、当時普通の大学生だった葵を隠世に連れていき(半ば強制的に攫った)、彼女を自分の嫁にしようとした。

しかし、葵は嫁入りすることを断り、祖父の借金は自分が働いて返すと宣言し、現在は夕がおの店主として、借金返済に励んでいる。

そんな彼女は、自分を無理矢理隠世に連れて来た大旦那に苦手意識を持っている。大旦那もそれを承知しており、素っ気ない態度を取る彼女に苦笑いした。

 

「相変わらずの塩対応だね。まぁ、いいけど。顔を出した理由かい?それは勿論、君の顔を見に来たのさ。しばらくの間、俺は現世に出張することになったからな」

 

「大旦那様が現世に?何かあったのですか?」

 

問いかける銀次に、大旦那が説明する。

 

「近頃、この日本で異国のあやかし同士による会談が行われるんだ。その会談の日本神話代表として、俺が出ることになったんだ」

 

「大旦那様がですか!?」

 

「そうだ。他の神様やあやかし達は、この間日本のある町で起きた堕天使の騒動の後始末に追われてな。皆、忙しくて手が付けられないみたいなんだ。それで、手の余った者達の中から誰が会談に行くのかを決めた結果、俺が貧乏くじを引くことになったわけさ」

 

やれやれと言わんばかりに喋る大旦那の言葉を聞いて、葵が一つ気になったことを大旦那に問う。

 

「ちょっといい?異国のあやかしって、ひょっとして悪魔や天使様のこと?それに、大旦那様がさっき言った堕天使って・・・」

 

「なんだい葵。君は彼ら異国の者の存在について知っていたのかい?」

 

「昔お祖父ちゃんから聞いたの。日本にあやかしが隠れ潜んでいるように、世界には悪魔や天使様などの様々な異形が人間の中に混ざって暮らしているって」

 

「その通り。ちなみに、遥か大昔に天使、堕天使、悪魔との間に三つ巴の大きな戦争が起きたんだ。今回の会談は、その和平を結ぶための会談だ」

 

「そんな重要な会談に、大旦那様が呼ばれたの!?」

 

貴重な会談だと知り、葵は思わず驚いてしまう。和平を結ぶのはいいことだが、もし上手くいかなかったら、再び戦争が起こるかもしれない。

そんな葵の不安を感じ取った大旦那は、彼女に向かって微笑んだ。

 

「まぁ、重要な会談って言っても、どの勢力も戦争以降は大きく衰退したみたいだし、余程のことがない限り、もう一度戦争するってことは、ほぼ無いと思うよ」

 

そう言うと、大旦那は後ろに振り向いた。

 

「というわけで、しばらくの間天神屋を留守にするから、何かあれば、他の従業員たちに言ってくれ。それじゃあ」

 

「はい。いってらっしゃいませ大旦那様」

 

「・・・いってらっしゃい」

 

銀次と葵に見送られながら、大旦那は夕がおを出た。

そして、天神屋の外に出たところで、ふと隠世の夜空を見上げた。

 

「異国のあやかしが人間が住まう現世で。しかも、この日本の地で会談か・・・昔なら、到底考えられないことだ。これもまた、時代の移り変わりとでも言うのかい?アザゼル・・・」

 

隠世の夜空を見上げながら、大旦那はかつてこの天神屋に来たことがある堕天使総督の名を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に場所は変わって、ここは日本陰陽師協会の本部。東京駅からすぐの近くの高層ビルの秘密の地下に存在する陰陽師の巣窟である。

その中にある会議室では現在、十師族同士による緊急会議が行われていた。

と言っても、各当主たちが会議室に集まっているわけではなく、会議室には縦長の丸テーブルがあり、その上にモニターが十台置かれている。当主たちはそこからリモートで会議に参加していた。ただし、どの家系もモニターに顔を出しておらず、声のみの参加となっている。

 

「以上が、堕天使の幹部コカビエルが起こした騒動の全容となります」

 

十天師の頭目を担う剣夜が報告書を読み上げながら、各当主たちに今回起きた出来事について説明した。

会議の内容は、先日『神の子を見張る者』の幹部コカビエルが起こした事件について、各当主たちの意見を聞き、今後の三大勢力の動きに対しての対策を踏まえての話し合いを行う予定だ。

数あるモニターの内、今回の会議の議長を務める五蝶(ごちょう)家の当主が口を開いた。

 

「ふむ、まずは聖剣の破壊及び堕天使幹部の討伐、ご苦労様でした」

 

「フンッ!異形共の力を借りずとも、貴様ら十天師の力だけで、何とかなっただろうに」

 

そう呟いたのは、三ノ輪(みのわ)家の当主だった。

不満いっぱいの様子で呟いた三ノ輪家の当主を、五蝶家の当主が咎める。

 

「口を慎みなさい。一歩間違えたら、町に住まう一般人が巻き込まれるところだったのですぞ」

 

「だが、三ノ輪家の言い分も分からなくはない。我々の国を異形共の好き勝手にされたら溜まったものではない」

 

三ノ輪家に賛同するかのように喋ったのは、二色(にしき)家の当主だった。

 

「だいたい、悪魔が治める町を守ること自体が間違っているのだ。聞けば、その町にはあの凶悪な二天龍の片割れである赤龍帝が居座っていると聞いているが?」

 

「なんだと!?それが本当なら無視できない事態だぞ!」

 

「全くだ。すぐに排除した方が、この日本のため――」

 

「お言葉ですが」

 

言いたい放題言う当主たちの言葉を遮るように、剣夜が力強い声で言う。

 

「僕たち十天師は、あくまでこの国の人々を護り、秩序を乱す者を排除するために存在しています。赤龍帝や、その主であるリアス・グレモリーは多少の問題はあれど、少なくとも人々に害をなす存在でないことは確かです。それに、駒王町の領主リアス・グレモリーは魔王サーゼクス・ルシファーの妹。もし、彼女に手を出した場合、どうなるかはお分かりですよね?」

 

剣夜の言葉に、先程まで不満を言っていた当主たちは顔をしかめる。

魔王の身内に手を出せば、魔王の怒りを買い、最悪人間と悪魔の戦争に勃発する恐れがある。そうなれば、身体、技能共に劣る人間は圧倒的に不利と言える状況になり、万が一勝てたとしても、お互い甚大なダメージを負うことは明白だ。故に当主たちも強気にはなれない。

悪くなった場の空気を変えようと、五蝶家の当主が口を開いた。

 

「止しましょう。少なくとも彼らは、我々の国の民を守るために戦ってくれたのですから。それよりも、今はもっと重大な事について、議論すべきでしょう」

 

「重大な事だと?それはいったいなんだと言うのだ?」

 

「それは・・・今度、日本で行われる天使、堕天使、悪魔の三竦みによる会談についてです」

 

五蝶家の当主の言葉に、ほとんどの当主がモニター越しでざわつきだす。

すぐさま、異形に対しての当たりが強い三ノ輪家の当主が反論した。

 

「ふざけるな!奴ら、この国を自分たちの所有物だと思っているのか!」

 

「忌々しい奴らだ。あくまで借りている土地の分際で、神聖な日本の地を何処まで汚すつもりだ・・・」

 

二色家の当主がそう呟くと、他の家系の当主たちも不満を漏らす。

十師族と言っても、全ての家系の者が同じ考えを持っているわけではない。大半は異形に対しての当たりが強い過激派であり、五蝶家などの穏健派はごく僅かだ。

人間は昔から異の存在を嫌う。時代が変わっても、人間の異形に対しての憎しみが消えるわけではない。寧ろ、五蝶家などの穏健派がいるのが珍しい方だ。

場に不満が捲き散る中、十師族の中で中立の立ち位置にいる二家の内、四羽(しば)家の当主が口を開いた。

 

「皆さん、少し落ち着きましょう。私たち陰陽師の人間がいくら言ったところで、向こうからしたら、部外者の遠吠えに過ぎませんわ。どうしても気に入らないと言うのなら、力づくで止めてみてはいかがかしら?三大勢力のトップが集まる会談を」

 

四羽家の当主の言葉により、会議室は静まり返った。一時の感情だけで三大勢力に戦争を仕掛ける程、当主たちは馬鹿ではない。

場が静まったのを確認した四羽家の当主は、会談の話題を出した五蝶家の当主に問いかける。

 

「それで、その会談が今回の会議に何の関係があるのかしら?」

 

「ふむ、実はその会談では、三大勢力のトップだけでなく日本神話の代表、更に人間側の代表にも会談の見届け人として参加して欲しいと、天照大神様のお声を聞いた巫女様からのお告げがあったのです」

 

「そして、その人間代表を私たち十師族の中から決めるというわけですね」

 

四羽家の当主の言葉に頷く五蝶家の当主。

日本神話のトップ、天照大神。その神の声が聞けるという五蝶家に属する巫女が、天照大神から会談のことについて聞いたのだという。

しかし、会談に出席することに対して、どの家系も手を上げることはしなかった。会談に行くのが面倒とか、そういうわけではない。ただ単に、異形共と同じ空気を吸うのが嫌だという理由で、会談に参加しようとは思っていないからだ。

勿論、全ての家系がそう思っているわけではないが、ほとんどの家系が子供染みた理由で参加しようとしない現状に、五蝶家の当主は頭を悩ませていた。

一向に手が上がらず、時間だけが過ぎていく中、四羽家の当主がある男に向けて口を開いた。

 

「十門寺さん。貴方、先程から一言もおっしゃっておりませんけど、何か言いたいことがあるのではないかしら?」

 

各当主たちの目線が一斉に一つのモニターに集中する。

そのモニターの中で、男はただ黙って、今までの会議の内容を聞いていた。

他の当主たちとは異様な雰囲気を漂わせており、モニター越しでも、その異質さが伝わる程、男は異常だった。

この男こそ、十門寺剣夜の父にして、十師族最強の家系、十門寺家の現当主である。

四羽家の当主に言葉を求められて尚、彼は黙ったままだったが、数秒経った後に、ふと口を開き

 

「つまんね」

 

退屈そうな声で、ただその一言だけを述べた。

当然、他の家系の者達(四羽家だけは「フフッ」と小さく微笑んでいた)は困惑しており、五蝶家の当主が代表して問いかける。

 

「つ、つまらないとは、いったいどう意味ですかな?十門寺君」

 

「この会議がだ。そんなもん決める為だけに、わざわざこいつらを呼んでまで決めようとしてんじゃねぇよ」

 

「な、なんだと!?貴様!この日本の今後を左右する大事な会議をつまらないだと!?」

 

十門寺家の当主の言葉に、反論する三ノ輪家の当主。

だが、反論された本人は、特に気にする様子もなく、言葉を続けていく。

 

「どいつもこいつも、さっきから聞いてりゃ、同じようなことを飽きずに言いやがって・・・テメェらの小せぇ価値観で物事に白黒付けて、思い通りにならなかったらガキみてぇに吠えまくる・・・そんなガキ共の遠吠えを近くで聞かされる側は溜まったモンじゃねぇ」

 

「我々は陰陽師だぞ!異形共を滅するのは当然のことだろ!」

 

「その通りだ!この世界を異形共の好きにさせないために、我々人間が異形共を排除せねばならんのだ!」

 

「そして、いずれは我々人間一人一人の手で、この世界を作り上げていくのだ!それを――」

 

「黙ってろ、三下共」

 

「「「!?」」」

 

反論してきた過激派の当主たちを、十門寺家の当主は重厚感のある声で黙らせた。

 

人間(俺ら)が世界を作るだぁ?馬鹿言ってんじゃねぇ。人間がいて、動物がいて、そして異形がいるからこそ、初めて世界ってのが成り立つんだよ。そんなことも分かんねぇのか、馬鹿共!」

 

十門寺家の当主から放たれた力強い言葉とその重みに、反論してた当主たちは何も言えずに、ただ黙って十門寺の文字が書かれたモニターを睨みつけた。

そんなことを知りもしない十門寺家の当主は、視線を五蝶家の当主のモニターに向ける。

 

「分かっただろ?こいつらに頼んだところで無駄だってことが」

 

「ふむ・・・しかし、そうなると、会談に参加するのは・・・」

 

「だから、俺が行ってやるよ」

 

先程まで会議の様子を退屈そうに聞いてたはずの十門寺家の当主が、突然会談の参加に立候補し、当主たちの間に驚きと困惑が広がる。

五蝶家の当主が確認のため、十門寺家の当主に問いかける。

 

「確かに、十師族の中で中立の立ち位置にいる十門寺君なら、問題ないと思われますが・・・よろしいのですか?」

 

「どの道、他の家系があれな以上、行けるとなりゃ、オメェら穏健派か俺ら中立の家系しかいねぇだろ。面倒だが、向こうの連中がそれぞれのトップを出してくんだ。こっちもガチの面子で出迎えてやるのが礼儀ってもんだろ。それによぉ・・・天使()堕天使(カラス)悪魔(コウモリ)の親玉が一堂に集まるんだ。そそらねぇわけねぇだろうが・・・!」

 

モニター越しからでも感じる凄まじい闘気に圧倒される当主たち。会議室で聞いてた剣夜も、父のモニターから放たれる異質なオーラに冷や汗をかいた。

その闘気に圧倒されつつも、いち早く我に返った五蝶家の当主が口を開いた。

 

「理由はともあれ、十門寺家は我々十師族の中で最も力を持つ家系・・・いいでしょう。十門寺君、会談の参加、お願いできますかな?」

 

「あぁ、任せときな」

 

「では、今度行われる三竦みの会談。人間代表として十門寺君が参加することでいいですね?皆さん」

 

五蝶家の当主がそう問いかけると、他の家系の者達は異議なしと賛成した。中には三ノ輪家など黙ったままの家系もいたが、反対してるわけでもないので、賛成として受け取った。

会談に出席する家系も無事決まり、今回の会議を終わらせようとした五蝶家の当主は、最後に十門寺の当主に問いかけた。

 

「十門寺君。本来ならこんなことは言うべきではないのですが・・・万が一、その会談で何らかの狂いがあって、異形たちが君たちに牙を向くようなことがあれば・・・」

 

五蝶家の当主の問いかけに対して、十門寺家の当主は見えないモニターの先で豪快な笑みを浮かべながら言った。

 

「心配いらねぇよ。もし、そいつらが日本・・・いや、世界の敵に回るようなことになれば・・・俺が滅ぼしてやるよ。例え相手が、魔王だろうと神だろうとな・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天使、堕天使、悪魔。そして、あやかしと人間。それぞれの思惑が飛び交う中、時代のうねりは着実に訪れようとしていた。




以上で第3章完結となります。
ここから二つ程番外編を挟んでから第4章に移りたいと思っています。
また、第4章では原作で言う三大勢力会談の話となっています。魔王少女や堕天使総督などと言った原作キャラは勿論、前回登場した無六龍牙、今回の最後に登場した大旦那や十門寺家の現当主など、たくさんのキャラが登場します。お楽しみに。


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幕間
年賀状をもらったら返事を出せ


明けましておめでとうございます。今回は新年特別編となっています。銀魂やハイスクールD×Dの他にも色んな作品のキャラがゲストとして登場しますので、そういうのが苦手な方はブラウザバックを推奨します。
駒王町の時期は正月ですが、時系列は第3章が終わった辺りとなっています。


「年賀状ってあるじゃん。あれってわざわざハガキに書いて送る必要ある?明けましておめでとうとか、結婚しましたとか。そんな短い内容のモン伝えるだけならL〇NEとかで十分だろ。わざわざ紙に書いて言う必要ねぇだろ。つまり何が言いたいのかって言うと・・・」

 

陸兎は両手でこたつをバンッ!と叩くと、大声で叫んだ。

 

「なんで年明け早々、こんなハードな作業しなきゃならねぇんだ!なんでどいつもこいつも一枚一枚全部手書きで送ってきてんだ!こんなの今日中に終わるわけねぇだろ!今年もよろしく書いてる内に来年になるだろうが!もう面倒だから、来年から手書きで年賀状送ってきた奴ら全員死刑でファイナルアンサー!」

 

「はいはい、とりあえず死刑は全てイッセー君が受けるとして、喋る暇があるのなら、早く年賀状を送ってくれた方々への返事を書いて、皆でおせちでも食べましょう」

 

ビシッと指を指しながら発した陸兎の愚痴を軽く流しながら、黒い着物を着た朱乃は年賀状を手に取る。彼女の正面には青い着物を着たゼノヴィアがおり、陸兎の正面には体のほとんどをこたつの中に入れて寝ている定春がいた。

そして、彼らが入っているこたつの上には、それはもう大量のハガキが置かれていた。

 

「美容室にしか来なかったって超言いてぇー!だいだい、今は第3章の真っ最中だろ。それをすっぽかして、なに新年特別編書いてんだあの作者。こんなもんに時間費やすくらいなら、さっさと本編進めろよ。皆、将軍かよォォォされるサーゼクス様を見るの楽しみにしてんだよ」

 

大量の年賀状を前にグダグダと文句を言う陸兎。

そんな陸兎に向けて、ゼノヴィアは笑みを浮かべながら言った。

 

「まぁいいじゃないか。こういう平和な時間の中、色々な人の年賀状を見ながら、二人と話して過ごす正月。私は好きだぞ・・・ん?この人物はいったい誰なんだ?私は知らんぞこんな名前の人」

 

「えーと、なになに・・・坂本辰馬・・・って、銀魂の坂本辰馬から来てんじゃねぇか!」

 

「まぁ!この小説が銀魂要素をいくつか入れた二次小説とは言え、まさか銀魂の方から年賀状が来るなんて」

 

「おいおい、まさか銀魂要素があまりにも低レベル過ぎて、それに対する苦情が来たんじゃ・・・」

 

銀魂キャラからの年賀状に、陸兎は不安そうな表情で年賀状を見る。

 

『この小説に定春君がいるってことは、当然ワシの出番もありますよね? by坂本辰馬』

 

「んなモンねーよ!定春はともかく、銀魂キャラはほとんど江戸時代の人間だから、現代社会が舞台のこの小説じゃ出しにくいんだよ!テメェは一生、銀魂アニメのopとedにだけ出てろ!」

 

メタい発言をしながら年賀状をビリビリと破く陸兎。

その横で、朱乃が一枚の年賀状を手に取る。

 

「あら?この方も確か銀魂のキャラでしたわよね。陸奥さんって方ですけど・・・」

 

『破ってもムダじゃき。後、ワシにも出番寄こせ by陸奥』

 

「お前も出番欲しいのかよ!」

 

「他にも快援隊の方々からいっぱい届いてますわ」

 

朱乃が見せた大量の年賀状には、どれも『ワシの出番もありますよね?』や『破ってもムダじゃき』など同じ内容の物ばかり書かれていた。

 

「どんだけ用意周到!?うぜぇよこいつら。どんだけ出番欲しいんだよ!」

 

大量に送られてきた出番要求の年賀状に、陸兎は怒鳴り散らす。

そんな陸兎に、朱乃が一枚の年賀状を渡す。

 

「陸兎君、桂小太郎さんからも年賀状が来てましたわよ」

 

「今度は桂かよ!あのヅラ、銀魂で結構出てんだから、こっちで出る必要ねぇだろうが!」

 

文句を言いながら渡された年賀状を見る陸兎。そこに書かれていたのは・・・

 

『教えてくれ。いつまでスタンバっていれば、俺は桂小五郎の生まれ変わりとして登場できるんだ!?エリザベスは何も言ってくれない。教えてくれ銀時! by桂小太郎』

 

「んなモン俺が知るか!桂小五郎さんの魂がテメェみたいな馬鹿の塊になるわけねぇだろ!後、俺銀さんじゃねぇし!髪はボサボサの天然パーマだし、声も杉田智和だけど、俺はニート侍じゃなくて、ぴちぴちの男子高校生だよバーカー!」

 

「陸兎君、銀魂のキャラではないけれど、馨さんからも年賀状が来てますわ」

 

「はぁ?あいつは定春同様、この小説を面白くするために、作者が登場させている他作品キャラで、既に本編にも出てんだろ。今更、出番が欲しいなんて年賀状出すはずが――」

 

『コカビエルとの決戦の回、結界の外でずっとスタンバってました by酒吞馨』

 

「知るかーーー!!」

 

パンッ!と年賀状を床に叩き付けながら、陸兎は大声で叫んだ。

 

「あの時の戦いは、とても激しいものだったし、木場や陸兎がかなり目立ってたから、出るタイミングが無かったのか。悪いことしたな」

 

申し訳なさそうに呟くゼノヴィアをよそに、陸兎は既に疲れている様子で言う。

 

「マジでうぜぇよこいつら。さっきから他作品キャラの出番要求の年賀状ばっか来るんだけど。こんなんばっかなら、キリトとアスナの結婚報告が来た方が何倍もマシだ」

 

「・・・陸兎君、キリトさんとアスナさんではございませんけど、結婚報告の年賀状なら一応来てますわよ」

 

「え?」

 

朱乃から渡された写真付きの年賀状を見る。

 

『結婚しました。ザマァ見ろ十門寺剣夜 by匙元士郎』

 

の文字が書かれた写真には、白いタキシードを着た匙と、白いウェディングドレスを着たソーナがお互いに抱き合っている様子が写っていた。

ただし、ソーナの方は、薄っすらとだが別の人間の顔の輪郭が見えていた。

 

「何やってんのこいつ?」

 

「これは何処からどう見ても合成写真ですわね。支取会長の胸が巨乳なはずないですもの」

 

「しかも、この年賀状色んな所に送ってるみたいだぞ。ほら、生徒会長ファンクラブの者達から血まみれの年賀状が・・・」

 

「いや、怖ぇよ。ファンクラブ怖ぇよ」

 

各々が偽結婚報告の年賀状にコメントしていると、ゼノヴィアが一つの年賀状に目をつける。

 

「お!結婚報告以外で言えば、新年の抱負が書かれた年賀状もあったぞ」

 

「新年の抱負?」

 

ゼノヴィアの言葉に疑問を抱きつつも、陸兎は渡された年賀状を見る。

 

『ガオー、今年はRAS年で決まりね!Roseliaなんて、もはや先の時代の敗北者だわ。友希那など敢えて言おうkass(カス)であるとね! byチュチュ』

 

「ふむ、これはまた変わった新年の抱負だな」

 

「え?これの何処が新年の抱負?どっからどう見ても、Roseliaの悪口にしか見えないんだけど?」

 

「このチュチュさんは恐らく、バンドリアニメ三期の時、所謂いきり時代の時のチュチュさんですわね」

 

「そう言えば、あの年賀状に書かれていたRoseliaの人達からも、年賀状が届いてたぞ」

 

ゼノヴィアが五枚の年賀状を順番に並べる。

 

明けましておめでとうございます。全然手を付けていませんが、バンドリ小説の方でもよろしくお願いします猫耳ぶっ殺す by氷川紗夜』

 

明けましておめでとう!今年はよりかっこいいドラマーになるぞー!猫耳ぶっ殺す by宇田川あこ』

 

明けましておめでとうございます。作者さん、いつも応援ありがとうございます。これからも、私やRoseliaの皆の事を応援してください猫耳のお供もぶっ殺す by白金燐子』

 

明けましておめでとう。八神さん、あなたはポピパ派みたいだけど、今年はあなたをRoselia派にしてみせるわ他の三人もぶっ殺す by湊友希那』

 

RAISE A SUILENぶっ殺す!! by今井リサ』

 

「おいぃぃぃぃぃぃ!!リサ姉!殺意丸出し過ぎだろ!RASのメンバー全員ぶっ殺すつもりなんだけどこの子!」

 

「恐らく、幼馴染で親友である友希那さんを馬鹿にされて、怒りの炎を灯してしまわれたのでしょう。弟さんをいなかったことにされたり・・・可哀想な方ですわ・・・ぐすっ」

 

「なんで泣いてんの!?」

 

何故か泣き出した朱乃にツッコむ陸兎。

その横で、ゼノヴィアが一枚の年賀状を手に取る。

 

「陸兎、銀魂でも浅草鬼嫁日記でもバンドリでもない作品のキャラから年賀状が来てるぞ」

 

『アリブレにイーディスってヒロインいるけど、あいつの取り柄って百合だけで、運営の依怙贔屓だけで生きてる贔屓ヒロインだよね byコハル』

 

「今度はSAOかよ!」

 

「言われてみれば、イーディスってSAOゲームのキャラの中でかなり優遇されてる気がするな。本人の人気が高いというのもある気がするが・・・」

 

「銀髪騎士、姉属性、百合、巨乳・・・うん、こりゃ人気出るな」

 

「二つ目の姉属性の時点で既に人気が出ますわね。どの作品でも姉属性を持つキャラというものは、殿方のハートを鷲掴みにしてしまいますから」

 

「そのイーディスからも年賀状が届いてるんだが・・・」

 

『SAOIFにコハルってヒロインいるけど、あいつ何の取り柄も無い普通系ヒロイン過ぎてマジ泣けるわ。やっぱ時代は百合でしょ百合 byイーディス』

 

「お前も似たような年賀状かい!つか、こいつら口調が若干チンピラぽくなってない!?こんなキャラだったっけこいつら!?」

 

明らかにキャラ崩壊してる二名の年賀状にツッコんでいると、ゼノヴィアが複数の年賀状を見て、「ん?」と声を漏らした。

 

「陸兎、さっきの二人からたくさんの年賀状が届いてるぞ」

 

『おいコラ待て。誰が何の取り柄もない普通系ヒロインだゴラァ! byコハル』

 

『お前だよオ・マ・エ!どこにでもいるような普通の一般人みたいな見た目した冴えないヒロイン(笑)のことだよwww byイーディス』

 

「なんで年賀状内で会話してんだこいつら!?」

 

『冴えない(カッチーン)・・・よーし、分かった。表出ろ百合野郎!恋愛のれの字も知らない百合好きに、正統派ヒロインの力を見せてやる! byコハル』

 

『上等だゴラッ!普通系ヒロインに真のヒロインってモンを教えてやるよ! byイーディス』

 

『まあまあ、二人共落ち着いて。同じSAOのキャラなんだし、少しは仲良く―― byミト』

 

『しゃしゃり出てくんな!映画限定のモブキャラ!! by普通の一般人』

 

『名前が茨城県の県庁所在地と同じだからって調子に乗ってんじゃねぇぞ水〇アナ!! by百合野郎』

 

『・・・言ったな。言ってはいけないこと言ったな!!絶対に許さない!テメェら二人まとめて私の鎌で切り刻んでやらぁ!! by水〇アナ』

 

『『『うおーーーーーー!!! by狂乙女(バーサーカー)三名』』』

 

「うるせぇぇぇ!!!」

 

狂乙女(バーサーカー)と化してしまった三人の年賀状をビリビリと破く陸兎。

 

「何このチンピラ狂乙女(バーサーカー)共!?しかも、途中で一人増えてんだけど!?もう全員キャラ崩壊もいいところだよ!こんな狂乙女(バーサーカー)な姿、ファンが見たら泣いちゃうぞ!つか、俺が既に泣きそうだよチキショーがぁぁぁぁぁぁ!!」

 

散々叫んだ陸兎は、疲れ切った様子でコタツの上に顔を乗せぐったりとした。

その横で、ゼノヴィアがまたもや一枚の年賀状に目をつけた。

 

「む?陸兎、またSAOのキャラから年賀状が来たぞ」

 

「えー、もう勘弁してくれよー。ただでさえ、さっきまで狂乙女(バーサーカー)共の喧嘩に巻き込まれたばっかだってのによ・・・」

 

「それなんだが、このキャラどうやら名前が無いみたいなんだ」

 

「おいおい、SAOのノーネームドキャラって言ったら、そんなのアンダーワールドで戦いは数だよ兄貴!を証明した米中韓のプレイヤー共みたいなモブキャラしかいない――」

 

『4周年、ずっとスタンバってました bySAOIF主人公』

 

渡された年賀状に写っていたのは、SAOIF4周年のキービジュアルを撮っているスタジオの隅に一人悲し気な顔で体育座りしているSAOIF主人公がいた。

 

「・・・全然モブキャラじゃなかったな。バリバリの主人公だったな」

 

「この方は確か、公式サイトにデフォルトの容姿が書かれているにもかからわず、4年も使われてないから、4年間公式サイトでずっと同じポーズをされ続けている可哀想な主人公ですわね」

 

「主人公なのに4年も出番が無いとは不憫な奴だ。他にも、彼から複数の年賀状が届いてるんだが・・・」

 

『僕って主人公だよね?なのに、4年もガチャの実装や一枚絵が無いっておかしくない?』

 

『デフォルト容姿が無い主人公なら分かるよ。でも、僕公式サイトにデフォルト容姿が載ってるのに、初期のキービジュアル以降使われないまま、4年もずっと公式サイトで同じポーズされ続けているんだけど』

 

『4周年生放送の時にSAOIF主人公は君自身だって竹内P(SAOIFのプロデューサー)が言ってたんだけど、そんなら初めっからデフォルト容姿なんて書くなよ。新規の人が公式サイトの僕を見たらオマ誰!?状態になるだろうが』

 

「知らねぇよ!オメェの主人公事情なんて!文句なら竹内Pに直接言え!」

 

愚痴ばっかの年賀状にツッコむ陸兎。

そんな中、朱乃が複数の年賀状を手に取り、「あら?」と声を上げた。

 

「こちらの年賀状は、SAOIF主人公さんを励ましていらっしゃる明るい内容となっておりますわ」

 

そう言いながら、複数の年賀状をテーブルに置いた。

 

『SAOIF主人公(笑)は所詮ソシャゲ主人公の敗北者じゃけ byグランブルーファンタジー主人公グラン』

 

『安心してください。俺も名前の無い主人公ですから、SAOIF主人公(笑)さんと同じですね。あ!ごめん。俺、名前は無いけど、中の人がいるし、俺自身ガチャで何個か実装されてるし、何ならアニメにも出てるんだった。プフッ(笑)! by白猫プロジェクト主人公』

 

『大丈夫ですよ。僕も3周年で中の人とガチャデビューを果たせましたし、SAOIF主人公(笑)さんにもまだチャンスはあるはずです。あ!でも、SAOIF主人公(笑)さんは4周年でもガチャや中の人どころかキービジュアルにも載せてもらえませんでしたねwww byテイルズオブリンク主人公アレン』

 

『ガンバ(笑) byプリンセスコネクト!Re:Dive主人公ユウキ』

 

「どこが励ましの年賀状だ!全員SAOIF主人公を貶してんじゃねぇか!」

 

「お!SAO原作主人公のキリトからも来たぞ」

 

『さっき、SAOIF主人公(あいつ)に複数の年賀状が届いて、嬉しそうに涙を流したと思ったら、年賀状を見終えた瞬間、血反吐を吐くような勢いで倒れたんだ。当然、仮想世界だから血は出ないけど、あの顔はマジで血が出ててもおかしくない顔だった。何か心当たりは無いですか? byキリト』

 

「あぁ、やっぱりショックだったんだな・・・」

 

「4年経っても、一向に出番はもらえず、他作品主人公には馬鹿にされ・・・」

 

「サ終までには出番あるといいな・・・」

 

本編には登場せず、未だ公式サイトに載ってるだけ主人公と化しているSAOIF主人公を憐れむ陸兎とゼノヴィアであった。

そんな中、朱乃が一枚の年賀状に目をつけた。

 

「二人共、副会長から年賀状が来てましたわよ」

 

『匙がここ一週間、行方が分からないの。何か知らないかしら? by真羅椿姫』

 

「・・・知ってます?」

 

「知らない知らない。皆目見当もつかねぇよ」

 

変な汗をかきながら否定する陸兎を尻目に、朱乃は新たに二枚の年賀状に目をつける。

 

「あら?七星さんとセラフォルー様からも年賀状が来てますわ」

 

「ちょ、麗奈はともかく、あんたは第4章に登場する予定だろうが。いくら新年特別編だからって、サプライズにも程があるだろうが――」

 

『新年明けましておめでとー☆今年の目標は蛇退治を頑張るぞ☆ついさっきも、イキのいい黒い蛇を一匹退治しちゃったぞ☆ byセラフォルー』

 

『喪中につき新年のご挨拶をご遠慮申し上げます。12月にペットのカメレオンが凍死致しました事をここに記します by七星麗奈』

 

「・・・犯人確定ですわ」

 

「ザマァ見ろ十門寺剣夜って言葉が気に食わなかったんだな・・・」

 

犯人の年賀状を見ながら呟く二人の横で、ゼノヴィアが一枚の年賀状を手に取る。

 

「陸兎、マスキングって人から年賀状が届いてるんだが・・・」

 

「マスキング・・・あぁ、RASのドラムか。あいつ、ヤンキーみたいな見た目してるけど、めちゃくちゃ良い姉御キャラだから、結構好感持てるんだよな。えーと、どれどれ・・・」

 

『チュチュの奴、ここ数日マンションにいねぇんだ。連絡もつかねぇし、心配だな・・・ byマスキング』

 

「・・・・・・」

 

「・・・これって、絶対どっかのリサ姉の仕業――」

 

「いやいやいやいや、リサ姉なんてあだ名、世界中探せば500人に一人はいるはずだよぉ。いくらあんな年賀状が送られて後とは言え、なんの根拠も無しに決めつけるのは――」

 

「あら?この方もバンドリのキャラでしょうか?」

 

『最近、リサ先輩が赤い何かが塗っていた猫耳のヘッドホンを手に持ちながら、物凄く上機嫌に街を歩いてたんだ。それと、RASのチュチュが少し前から行方不明になってんだ。そのせいで、ポピパの皆もチュチュのこと心配してて練習にあまり集中できてねぇんだ。もし見かけたら知らせてくれよ by市ヶ谷有咲』

 

決定的な証拠を前に、何も言えなくなる陸兎。

そんな彼に追い打ちをかけるように、朱乃が新たに一枚の年賀状を手に取る。

 

「あら?キリトさんに続いてアスナさんからも年賀状が来てますわ」

 

『明けましておめでとうございます。私が出ている『ソードアート・オンライン IF』では、現在SAOアインクラッド編の話に沿った原作ルートが進められておりますので、そちらの方もよろしくお願いします。さて、宣伝はここまでにして、そろそろ本題に移ります。こうして皆さんに年賀状を送ったのは、皆さんにお聞きしたいことがあったからです。先程、名前の無い主人公みたいな顔をした茶髪の男の子がアインクラッドの外へ続いている柵の上に儚げな表情で立っていました。そして、そのまま両手を広げて涙を流しながら、アインクラッドの外へ身を投げ出しました。キリト君に聞いたら、顔を真っ青にしながら修行と答えたのですが、あれはいったい何の修行なのか私には分かりません。どんな修行なのか、教えていただけないでしょうか? byアスナ』

 

「・・・名前の無い主人公みたいな顔をした茶髪の男の子・・・完全にSAOIF主人公だろうな。それにアインクラッドの外に身を投げ出す・・・これって、もしかしなくてもじ――」

 

「よし!もう止めよう!これ以上、年賀状見るの止めよう!とりあえず、出してくれた連中には『ハイスクールD×D5期待ってます』って返事しようぜ!」

 

ゼノヴィアが言い切る前に、これ以上年賀状を見るのは危険だと感じ取った陸兎が制止にかかった。

 

「ふむ、陸兎がそう言うのなら、後はこの一枚だけにしよう・・・む?なんだこの年賀状は?ナロウゴンド島という場所から来たみたいだが・・・」

 

「どこだよそこ!?そんな島に知り合いや他作品キャラいたっけ!?」

 

「なんか・・・マミューダパオという名前なんだが・・・」

 

「誰だよそいつは!?」

 

色んな疑問を抱きつつも、陸兎たちは年賀状に書かれている内容を読み始める。

 

『私の名は、長谷川マミューダパオ』

 

「いや、これ銀魂のマダオこと長谷川泰三さんじゃねぇか!何やってんだあの人!」

 

思わぬ人物からの年賀状にツッコミを入れる陸兎。

 

『私はこの島に飛ばされる前の記憶がありません。私が最後に覚えていたのは、江戸の町を歩いていたら、突如頭上に巨大な雷が落ちて・・・気づいたら、果てしない空の上にある畳の上に座っていました。そして、私の目の前には眼鏡を掛けたご老人がいました』

 

『とーいうわけで、お前さんは死んでしまった』

 

「んー、イセスマ!」

 

聞き覚えのある展開に、思わず反応してしまった陸兎。

 

『私はそのご老人によって、この島に飛ばされました。見知らぬ土地に飛ばされ、どこに進めばいいのか分からなかった私を、目が覚めた場所から少し歩いた所にあったMADAO村の人々が歓迎してくれて、彼らは私に、この村で一番'まるでダメなおっさん'臭がする者に与えられる名前。マミューダパオ、略してマダオという名前を与えてくれた』

 

「結局マダオって呼ばれるんかい!」

 

『MADAO村の人々は心優しい。その証拠に、彼らは毎日私の顔面に木の実を投げ与えてくれます』

 

「どう見ても嫌われてんだろ!」

 

『私は記憶を無くしていたが、ここの暮らしに満足感と気持ち良さを感じています』

 

「この人ただのMだった!」

 

『記憶を無くす前、私には何らかの使命があったはず。しかし、それが何なのか思い出せない。この島・・・いや、この世界に飛ばされた時に持っていた謎の記号が記された紙切れ。もしかしたら、これが私の記憶を呼び戻すヒントになるのかもしれない・・・』

 

※ここから先は回想に入ります

 

 

 

 

この世界に飛ばされてから数日後、マミューダパオことマダオは、紙切れを村長に見せた。

 

「マダオよ。この島では我らMADAO村の他に三つの村が存在する。我らはその三つの村と長きに渡って縄張り争いを繰り広げている。そして、それらの村を統治している者達は皆、お前と同じ紙切れを持っていた」

 

「!? 本当ですか!?」

 

村長から語られた事実に、驚愕の表情となるマダオ。

 

「奴らもマダオ、お前と同じ異界の者かもしれん。奴らは恐るべき強さで村のリーダーとなり、我らの聖地を蹂躙し始めた。もはや我らでは奴らに太刀打ちできん。だが、マダオ。同じく異界より現れたお前なら・・・」

 

村長の言葉にマダオは何も答えることができなかった。

村のリーダーとなった三人に比べて、自分は何の変哲もないマダオ。下手したら死ぬかもしれない。

それでも・・・

 

 

 

 

場所は変わり、島の中央にある平地。

そこでは今この瞬間、ZIMI村とBANDO村とDEBAN村による三つ巴の戦いが繰り広げられようとしていた。

先頭にそれぞれの村のリーダーと思わしき人物たちが立ち、その後ろに大勢の部下を率いている。

三者お互い睨み合っていたが、戦いの時は突然訪れた。

 

『うぉーーーーーー!!!』

 

雄叫びと共に、三つの村の人々は、村のリーダーを先頭に、一斉に敵に向かって走り出した。

その時、戦場のど真ん中に突如マダオが現れ、彼はその場で堂々と仁王立ちした。

先頭に立っていた三人は、マダオの姿に気づき、一斉に足を止める。

 

「何者だ!?」

 

「邪魔よ!退きなさい!」

 

「聖なる戦の邪魔をしてまで出番が欲しいか貴様!」

 

それぞれの村のリーダー達がマダオに向けて武器を突き付けるも、マダオは腕を組んだまま臆することなく口を開く。

 

「くだらねぇ争いは止めろ。我らは皆、大地の子。家族のはずだ」

 

shut up(シャラップ)!あんた達と一緒にしないで!この村でいっちばんstrong(ストロング)な村は私たちBANDO村よ!」

 

「何を言う!我らZIMI村こそが、この聖なる島を統べる村だ!」

 

「それは違う。この島で一番に出番を求めているのは僕たちDEBAN村だ!」

 

マダオの制止の言葉を聞いても、止まる気配のない三人。

すると、マダオは一枚の紙切れを上に掲げ、三人に見せながら言った。

 

「いや、俺たちは同じ目的を持った同志のはずだ」

 

「「「っ!?」」」

 

マダオが紙切れを見せた瞬間、三人は一斉に驚き、持っていた武器を地面に置くと、ゆっくりとマダオの方まで歩いて行く。

 

「自分が誰なのか・・・」

 

「自分のすべきことが何なのか・・・」

 

「ずっと探していた・・・」

 

「記憶に残っているのは、黒と金色のクワガタから放たれた青白い輝き・・・」

 

「大量の拳が飛んできた後、簀巻きにされて、海に沈められ・・・」

 

「この島に来た時から・・・」

 

「「「ずっと一人だと思っていた」」」

 

気がつけば、四人は抱き合い、涙を流していた。

そして、彼らはお互いの紙切れを取り出し、上に掲げた。紙切れはどれもバラバラで、合わさるような物ではなかったが、彼らの心は既に一枚に合わさっていた。

 

「じ、ジミー様!戦は!?」

 

「そんなくだらねぇことをしてる暇はない」

 

動揺する部下の質問に答えながら、仮面を外す匙元士郎。

 

「では、どうすると言うのですか?」

 

「決まってるでしょ」

 

同じく部下の質問に答えながら、仮面を外すチュチュ。

 

「僕らがやるべきことはただ一つ」

 

SAOIF主人公も己の仮面を外し、意を決した表情で言う。

そんな彼らを見て、マダオは笑みを浮かべながら言った。

 

「皆で年賀状書こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『というわけで、この素晴らしい出会いを少しでも大勢の人達に伝えたくて、私はこの出来事をモチーフにした小説を書く事にしました。タイトルは・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異世界転生したら家族になりました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

の文字が書かれた写真には、長谷川と匙とチュチュとSAOIF主人公がお互いの肩を組みながら笑顔を向けていた。

 

「・・・・・・」

 

陸兎は無言でライターを手に取りながら窓を開け、写真付きの年賀状を燃やした。

 

「陸兎、こっちの年賀状はどうする?」

 

ゼノヴィアから渡された一枚の年賀状を無言で見る。

 

『出番が欲しかったので、グレートレッドに乗って、ナロウゴンド島へとスタンバってたら、グラブルの世界に着いてました byグレモリー眷属一同』

 

「カァー、ぺっ!」

 

朱乃、ゼノヴィアを除くグレモリー眷属からの年賀状に、陸兎は唾を吐き付け、そのままくしゃくしゃに丸めると、窓の外に捨てた。

 

「陸兎、オチはどうする?」

 

「朱乃、頼む」

 

「かしこまりました。読者の皆さん、明けましておめでとうございます。今年もこの小説並びに作者様のことをよろしくお願いします」




「異世界転生したら家族になりました」は3022年に公開予定です


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近所付き合いを大切にしないと、いつか困った時誰も助けてくれない

今回は銀魂のあのキャラが登場します。それに伴い、タグを少し編集しました。


とある日の休日、陸兎は兵藤家へお邪魔していたが、ある深刻な悩みに悩まされていた。

 

「ハクション!たく、どうなってんだよ。この花粉の量」

 

「ハクション!外はかなり酷いらしいぜ。今は花粉のシーズンじゃないのに、もう町中が花粉だらけで、皆ぐちょぐちょのべろんべろんになってるってよ」

 

現在、駒王町では大量の花粉が発生しており、町歩く人々は次々と花粉症に掛かってしまい、くしゃみを連発していた。

それは、兵藤家の中も同じだった。一向に止まらないくしゃみに、陸兎と一誠は頭を悩ませていた。

 

「噂じゃ、この花粉はただの花粉じゃないらしい。なんでも、この花粉は未知の宇宙人が地球侵略の為に用意したもので、人々を花粉で弱らせようとしてるとか」

 

「そんな馬鹿な」

 

「有り得なくはないだろ。なんたって、この作品はフィっクション!です。実際の人物、団体、事件など一切関係ありません」

 

「そんな注意事項、今更必要ねぇだろ」

 

「それもそっか。銀魂で歴史上の人物をモチーフとしたキャラが登場するように、ハイスクールD×Dでも既に色んな所の神話の神やら異形やらが登場してるしよ。ノンフィっクション!のノンもありゃしねぇ」

 

部屋にあるティッシュを使用しながら、会話をする陸兎と一誠。

すると、アーシアが一誠の部屋に入って来た。

 

「イッセーさん、回覧板が届きました」

 

そう言って、アーシアは一誠に回覧板を渡した。

 

「あぁ、回覧板か。確か、次は鈴木さんの所だったよな。外は花粉でいっぱいだし、なるべく家から出たくないけど・・・仕方ないか。ちょっと届けに行ってくるよ」

 

「あ、私もご一緒します」

 

「せっかくだし、俺も行ってやるよ。その鈴木さんとこからティッシュをぬす・・・ちょっくら借りてくる」

 

「おいコラ、さりげなく窃盗しようとすんな」

 

隣人の家で窃盗を犯そうとする陸兎にツッコミながら、一誠は家を出た。

そして、隣の鈴木さん宅へやって来た陸兎たちだったが・・・

 

「・・・なぁ、お隣の鈴木さん、随分と変わった家に住んでんな。一本の巨大な木に住むって、あやかしでもそんなにいねぇぞ。つか、なんだよヘドロの森って?森を愛しすぎて、自分ちを迷いの森にリフォームしたの?」

 

「あれー?おっかしいなー?確か、鈴木さんの家って普通の一軒家だった気がするんだけど・・・」

 

「入口から見て、お花屋さんでしょうか?」

 

そこに建っていたのは、家と言うよりも、高層ビル並みの高さを持つ巨大な大樹であった。

大樹を見上げながら呆然とする陸兎と一誠をよそに、アーシアが大樹の中へ入り、慌てて二人も中に入る。

大樹の中には花が咲いている植木鉢があちこちに置かれており、内装から花屋だと予想するアーシア。しかし、肝心の店員はどこにも見当たらない。

 

「すみませーん、誰かいませんかー?」

 

アーシアは声を大きくしながら、誰かいないか呼びかけた。

その時、店の奥からドスン、ドスンと何やら大きな足音が聞こえてきた。突然の大きな足音に陸兎たちは驚きながら、足音がした方を見つめると、店の奥から人影が姿を現した。

その人影は徐々にこちらに近づいており、近づくにつれて大きくなっていく足音に、陸兎たちは少し警戒する。

そして、その人影が三人の目の前に現れた途端、三人は一斉に固まった。

 

「どうも初めまして。本日、この町に引っ越してきました屁怒絽(へどろ)です。放屁の'()'に怒りの'()'、ロビンマスクの'()'と書いて'屁怒絽'と言います。この花屋の店長をやっていますので、何卒よろしくお願いします」

 

そこにいたのは、2メートルは超えているだろう巨体に、頭には2本の角と長い黒髪と髭が生えており、2本の角の間には一輪の花が咲いている。口には2本の鋭い牙、瞳の色は赤く、何よりも肌の色は人肌とかけ離れている緑色であり、どっからどう見ても鬼にしか見えない生物がいた。その生物は服を着ておらず、代わりにエプロンを掛けており、この花屋の店長だと言った。

本来の悪魔よりも悪魔している店主の登場に、陸兎たちは顔を青くしながら呆然と突っ立っているのであった。

 

 

 

 

その後、陸兎たちは屁怒絽宅へ招待されて、昼食をご馳走させてもらうことになった。

畳が敷かれた和式の部屋に並んで正座する陸兎、一誠、アーシアの三人。その前では、屁怒絽がキッチンで包丁を研いでいた。

 

「おい、あれが隣の鈴木さんか?なんか、めちゃくちゃ怖くね?どっからどう見ても、地球を征服しに来た宇宙人にしか見えねぇんだけど・・・ひょっとして、整形手術に失敗して、顔面崩壊したってやつ?」

 

「んなわけねぇだろ!俺だってよく分かんねぇよ!昨日までニッコリスマイルを向けてた鈴木さんが、今日になったら、あんな凶悪スマイルを向けてきて、もう何がどうなってんだよ!」

 

屁怒絽に聞かれないよう小声で会話する陸兎と一誠だが、一誠は昨日まで普通の人間だったはずの隣人が、化物になっていることに混乱していた。

すると、包丁を研いでいた屁怒絽が嬉しそうに口を開いた。

 

「イヤー、回覧板を届けるために、わざわざ三人で来ていただいてすみませんね。おもてなしに、今軽くつまめる物を用意しますからね」

 

「「「(つ、つままれる!このままでは確実につままれる!)」」」

 

包丁を光らせながら淡々と言う屁怒絽に、三人は食われるのではないかと恐怖する。

恐怖を抑えながらも、何とかここから脱出すべく、陸兎は丁寧な言葉で屁怒絽に話しかける。

 

「あ、あのー、屁怒絽様。いや、屁怒絽伯爵」

 

「屁怒絽で結構です」

 

「あのー、おもてなししてくれるのは嬉しいんですが、さっき父が危篤との連絡が入ってですね。すぐに帰らないと――」

 

「なんですと!?どうして早く言ってくれないんですか!あのー、心配なので、僕も付いてきていいですか?」

 

「「「(付いてくるつもりだ!地獄の果てまで付いてきて、俺(私)たちを危篤にするつもりだ!)」」」

 

噓を付いてこの場から離れようとしたが、どこまでも付いて来ようとする屁怒絽を見て、陸兎は諦めた。

 

「やっぱりいいです。結構どうでもいい親父だったんで」

 

「え?そうなんですか?」

 

「はい、ホントもう、どうでもいいです。早くお葬式を挙げたいなって思ってたくらいですし」

 

「そうですか。お葬式の際は、是非うちの花を使ってください。精魂込めて育て上げた花ですから、きっとお父様を極楽浄土に導いてくれるでしょう」

 

「「「(導かれる!お父様だけじゃなく、人類全員が極楽浄土に導かれる!)」」」

 

本人は(架空の)父親の事を想って言っているのだが、あまりの恐怖に人類滅亡の未来を想像してしまう三人。

 

「あ、あのー、屁怒絽さん。どうして花屋になろうと?」

 

少しでも屁怒絽を刺激しないよう注意しながら、一誠が花屋になった経緯を聞いた。

すると、屁怒絽は苦笑いをしながら、花屋になった経緯を話し出す。

 

「ハハハ、似合わないでしょう?こんな見てくれじゃねぇ・・・僕は花になりたいんです。この外見のせいで、昔から皆に怖がられてたものでね・・・せめて、心だけでも花のように綺麗になりたいと・・・少しでも、花と近くにいられる仕事がしたいと思ったんです。でも、やっぱり向いてないみたいだ。今までお客様が寄ってくれたことなんて一度もない。兵藤さん達だけですよ。怖がらずに僕と接してくれたのは・・・」

 

「「「(すみません、めちゃくちゃ怖いです)」」」

 

嬉しそうに語る屁怒絽だったが、三人は内心めちゃくちゃ怖がっていた。

しかし、見た目とは裏腹に、穏やかに接してくれている屁怒絽を見て、アーシアは悪い人ではないと疑問を持ち出した。

 

「あのー、お二人共。もしかしたら屁怒絽さん、本当はいい人なんじゃないでしょうか・・・」

 

アーシアは二人に己の考えを言ったが、陸兎はそれを否定した。

 

「違うな。あれはギャップルールだ」

 

「ギャップルールですか?」

 

「あぁ。普段はリーゼントの奴が、たまに良いことをすれば、物凄く好感度が上がる。逆に普段はいい子ちゃんが、ちょっと悪いことをすると、無茶苦茶悪い奴に見える。それがギャップルールだ」

 

「でも、それだったら屁怒絽さんも同じじゃないですか?普段は怖い見た目ですけど、教会に捨てられた赤ちゃんを拾ったり・・・」

 

「馬鹿野郎!どっからどう見ても、赤ん坊を食う絵にしか見えねぇよ!食事する二秒前だよ!」

 

ギャップルールの説明を聞いたアーシアは、大雨の中で教会前に捨てられた赤ちゃんを拾う屁怒絽の姿を想像したが、陸兎に言われて、赤ちゃんを食べようとする鬼の姿に変わった。

 

「だいたいお前らは、外見とちょっと落差ができたからって絆されすぎなんだよ。人は見かけによらないなんて言葉は、世間知らずの妄言だ。大事だよ第一印象は。信じるんだインスピレーション、感じるんだイマジネーション」

 

そう言いながら、陸兎はキッチンに置いてある鍋を指差した。

 

「いいか、アーシア。あの鍋の中、数時間後にはどうなっていると思う?」

 

「えっと・・・美味しいお料理ができてます!」

 

「違う!これだから世間知らずのシスターは。今から正解見せてやっから、よく見てろ」

 

 

 

 

数時間後、火を通していた鍋がぐつぐつと音を立て始めた。

 

『お!そろそろ煮えたかな?』

 

そう言いながら、屁怒絽は煮えた鍋の蓋を開けて中身を見た。

その中にあったのは・・・骨のみとなった陸兎と一誠とアーシアが煮込まれている姿だった。

 

「「ヒイイイイイ!!」」

 

最悪な結末を聞かされた一誠とアーシアは、顔を青くしながら悲鳴を上げた。

 

「な、見えただろ?俺たちの未来」

 

陸兎の言葉にうんうんと頷く一誠とアーシア。

それを見た陸兎は、手に『洞爺刀』を持ちながら、腰を引くした。

 

「もはや一刻の猶予も無い。奴が地球を征服する前に、何としてでも除霊する。それに・・・あれを見ろ」

 

「あれは・・・ジャンプを下に敷いて、冷蔵庫の高さを調整しているのか?」

 

陸兎が指を指した先には、冷蔵庫の高さ調整に使われている少年ジャンプが置いてあった。

 

「ジャンプはなぁ、男たちが夢と冒険に心震わせた本だ。それをあんな使い方する奴が・・・いい奴なわけねぇーーー!」

 

「そんな理由!?」

 

一誠のツッコミを受けながら、陸兎は怒りと共に飛びかかった。

次の瞬間、陸兎に気づいた屁怒絽が、何処から取り出しのか分からない大きな石を手に持ち、陸兎に向けて投げた。

 

ドーン!

 

石は猛スピードで陸兎の真横を通り過ぎ、そのまま天井を貫いた。

一瞬の出来事に反応できず、大の字で倒れている陸兎の下に屁怒絽が近づくと、彼はしゃがみ込んで、あるものを指に乗せた。

 

「イヤー、危なかった。危うくてんとう虫を踏むところでしたよ。殺生はいけない」

 

指にてんとう虫を乗せながら注意する屁怒絽。彼はてんとう虫を踏み潰しそうになった陸兎を止めたのだ。

しかし、陸兎たちにとって、先程の出来事は恐怖でしかなく、危険を感じた一誠は、隣で啞然としてるアーシアに逃げるよう叫んだ。

 

「逃げろアーシア!」

 

「は、はいぃぃぃ!!」

 

一誠の叫びでハッと我に返ったアーシアは、すぐさま逃げようとした。

だが、逃げようとしたアーシアの目の前に包丁が飛んできて、壁に突き刺さった。

壁に刺さった包丁を凝視しながら止まっているアーシアの下に屁怒絽が近づき、アーシアの前に置いてあった植木鉢を手に持ちながら喋った。

 

「ダメだよ君も。あうやく植木鉢を倒すところでしたよ。殺生はいけない」

 

「ヒィ!」

 

屁怒絽の力強い目力に、腰が抜けてしまうアーシア。

一方、大の字で倒れていた陸兎は、心の中で自分の愛する神(推しバンドのボーカル)に祈っていた。

 

「(神様・・・はもう死んでるからダメだ。なら、香澄様だ。香澄様、どうか・・・どうか俺に力を・・・!)屁怒絽ぉー!お前に地球は渡さねぇーーー!!」

 

再び『洞爺刀』を握りしめ、叫び声と共に突進しながら、陸兎は屁怒絽に斬りかかった。

その隙に、一誠は腰が抜けてしまったアーシアを抱えて、薄暗い通路をひたすらに走っていた。

 

「イッセーさん!陸兎さんが!陸兎さんが・・・!」

 

「諦めろアーシア!俺たちは必ずここから脱出して、この世界の危機を部長たちに伝えないといけないんだ!あいつが残してくれたモンを無駄にすんじゃねぇ!」

 

ひたすらに走る一誠とアーシアは、陸兎が既に死んでいると思い込んでいた。

その時、背後から猛スピードで何かが近づいてき、それはあっという間に一誠たちを追い越した。

 

「いぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ!!」

 

そう、それは悲鳴を上げながら猛スピードで逃げている陸兎の姿だった。

 

「ちょ、八神!お前、地球を守るんじゃなかったのか!?」

 

「地球より自分じゃー!」

 

「ごもっともぉー!」

 

そんなやり取りを繰り広げながらも、陸兎たちは薄暗い通路を走り回った。

しかし、あちこち走り回っても、出口が見つかる気配がなく、それどころか同じ通路ばかりが続いている。

走り続けた末に、陸斗たちは一つの部屋を見つけ、そこに向かって、頭から滑り込んだ。

 

「!?・・・お、おい、あれ・・・!」

 

一誠が顔を上げながら絶句しており、他の二人も一誠に釣られて顔を上げると、目を見開いた。

そこにあったのは、巨大な台座のような物であった。それはまるで、何かを捧げる為に置かれており、部屋の薄暗い雰囲気から察するに、この部屋は・・・

 

「祭壇!?」

 

「やっぱりか!あれって、生贄捧げるんだよな!絶対俺らを捧げるつもりだよな!」

 

「イヤー!主よ!お助けください!」

 

この部屋が生贄の祭壇だと思い込み、陸兎たちは体を震わせる。

だが、彼らは気づいてなかった。三人が入った部屋の入口に『寝室』と刻まれた石板があったことに。

 

「兵藤さん!どこですか!?」

 

「「「!?」」」

 

屁怒絽の声が聞こえた三人は、咄嗟に近くにあった草花の中に隠れた。

ちょうどそこに、屁怒絽が部屋の中に入って来た。

 

「あれー?おかしいなー?確か、こっちから物音が聞こえたんだけど・・・聞き間違いかな?早く見つけないと・・・」

 

そう言いながら、部屋から出ようとする屁怒絽を見て、安堵する陸兎たちだったが・・・

 

「クチョン」

 

「「!?」」

 

草花から漂う花粉に耐えきれず、アーシアは可愛らしいくしゃみをしてしまった。

陸兎と一誠が咄嗟にアーシアの口元を塞いだが、屁怒絽はその可愛らしいくしゃみの音すらも聞こえてたようで、その場で足を止めると、顔を三人が隠れている草花の方に向けた。

 

「見つけましたよ」

 

「「「っ!!!」」」

 

屁怒絽に見つかった三人は、すぐさま草花から飛び出し、再び薄暗い通路を走り出した。

 

「嫌だぁー!童貞のまま死ぬなんて嫌だぁー!」

 

「一誠!お前が犠牲になれば、全て丸く治まる!」

 

「治まるか!完全に俺を生贄する気だろ!つか、いつの間にか階段上ってんだけど!俺たち外に出なきゃいけないのに、これ上っていっていいのかよおい!?」

 

走り続けていた三人は、いつの間にか螺旋階段を上っていた。

そのことに一誠が気づいたが、陸兎とアーシアは走るのに必死でそれどころではない。

 

「だったら、お前一人で降りろ!」

 

「ふざけんな!アーシアもなんか言ってやってくれ!」

 

「イッセーさん!貴方の事は一生忘れません!」

 

「お前ら鬼か!?」

 

「鬼はあれだ!」

 

顔を後ろに向けながら叫ぶ陸兎に釣られて、二人も顔を後ろに向ける。

 

「待ってくださーい!」

 

そこにいたのは、鬼のような形相(本人は至って普通の顔をしてる)で三人を追いかける屁怒絽の姿だった。

 

「「鬼だぁーーー!!」」

 

迫り来る(屁怒絽)の姿に、一誠とアーシアは号泣しながら叫んだ。

三人は無我夢中で走り続けて、果てしない螺旋階段を上り続けた。

 

「あれ見ろ!ひょっとして出口じゃねぇか!?」

 

一誠が螺旋階段を上り切った先にある出口らしき扉を発見した。

三人はその扉まで走り、その勢いのまま扉を開けた。

だが、そこにあったのは出口ではなく、駒王町の街並みが広がる展望台のような場所だった。

 

「兵藤さん!やっと追いつきましたよ・・・」

 

駒王町の街並みに呆然としていると、屁怒絽が三人に追いついた。

既に逃げ場は無く、完全に追い詰められた三人だが、陸兎が意を決した顔で一歩前に出た。

 

「一誠、アーシア、短い付き合いだったな」

 

「八神・・・」

 

「陸兎さん・・・」

 

威風堂々と立つ陸兎の後ろ姿を見て、二人は思った。彼はこれから、己の命を懸けて自分たちを逃がすつもりなのだと。

そうは問屋が卸さんと、一誠が『赤龍帝の籠手』を出現させて、陸兎の隣に立つ。

 

「一人でかっこつけんなよ。この町を・・・いや、この世界を守りたいのは、お前だけじゃねぇんだ。俺たちの住む世界を、あいつの好きにさせてたまるかよ」

 

「フッ、馬鹿だな。お前は・・・」

 

「八神もな・・・」

 

お互いに笑みを浮かべ合うと、二人は屁怒絽の前に立った。その姿は、これから死地へ向かう特攻隊のようだった。

 

「アーシアはここから飛んで、この事を部長たちに伝えてくれ。その間の時間は俺たちが稼ぐ」

 

「待ってください!陸兎さん!イッセーさん!」

 

「心配するな。部長たちが来るまでの間、何がなんでも生き残ってみせるからさ」

 

「イッセーさん・・・」

 

覚悟を決めた一誠の姿に、アーシアは涙を流した。

二人は屁怒絽の前に立ち、こちらを見下ろしている屁怒絽を睨み付けると

 

「行くぜ!」

 

「応!」

 

「「うぉーーーーーー!!」

 

勢い良く跳んで、そこから屁怒絽の顔面へ向けて、ジャンピングキックをお見舞いした。

 

「あ、こんなところにてんとう虫」

 

「「え?」」

 

しかし、屁怒絽が突然しゃがんだことで、二人の蹴りは屁怒絽の顔面に当たらず、真っ直ぐ通り過ぎていく。

その先にあったのは、駒王町の街並みであり、その下は当然地面が無い。

一瞬だけ停止してた二人の体は、徐々に落下していった。

 

「「あああぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

「陸兎さん!イッセーさん!」

 

重力に従って落ちていく二人に、アーシアは悲鳴のような声を上げた。

その時、下に落ちようとしてた二人の体がピタッと動きを止めた。

宙に止まった陸兎と一誠が上を見上げると、陸兎の足を一誠が掴み、一誠の服の襟を掴んでいる屁怒絽がこちらに安堵の表情を向けていた。

 

「良かった。大丈夫ですか?皆さん」

 

「「「あ、ありがとうございます・・・」」」

 

心の底からホッとしている屁怒絽を見た三人は、毒気が抜かれたようなお礼を言うのであった。

その後、屁怒絽は特に地球征服をする様子もなく、この町の花屋として生活していた。最初は怖がっていたアーシアも、今ではすっかり仲良くなっており、今度、一誠の父と母を屁怒絽宅へ招待するつもりらしい。一誠はめちゃくちゃ不安がっていた。

ちなみに、駒王町の領主であるリアスは、屁怒絽の事は知ってたようで、彼女曰く

 

「彼は鬼の妖怪らしくて、今まで色んな人達から避けられてたらしいの。それを聞いて、ほっとけないって思っちゃって・・・この町で暮らすことを許可したのよ。まぁ、町の花粉が凄いことになってるから、定期的に花粉の除去をしないといけないのが難点だけど・・・」

 

と少し困った様子で語るのであった。

余談だが、屁怒絽と初顔合わせした時は、流石のリアスもめちゃくちゃ怖がっており、今でも少し怖いらしい。




・屁怒絽
「銀魂」に登場するキャラ。怖い外見とは裏腹に礼儀正しく穏やかな性格の持ち主。原作では荼吉尼(だきに)の天人だが、この作品では鬼のあやかしとして登場している。その強さは原作と変わらず化物じみている。


定春に続く銀魂キャラ二人目の登場は屁怒絽でした。
それと、ちゃーんの件はカットしました。一話に収めたかったというのもありますが、一誠は草履じゃなくて普通の靴を履いてるから、鼻緒が切れて転ぶことができないですし、そもそも悪魔として鍛えられている一誠がうっかり転ぶ姿なんて想像つきませんので。


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息子と食うラーメンの味は格別に美味いけど、見知らぬ幼女と食うラーメンの味は未知数

今回は陸兎とあのキャラが遂に出会います。


屁怒絽の一件から一週間後の休日。

この日陸兎は、自宅で一人のんびりと過ごしていた。

 

「え!?ワンピース、また休載するの?おいおい、尾田先生大丈夫か?今年は劇場版もあるし、無理してないといいんだけど・・・」

 

ベットの上でうつ伏せになりながらジャンプを読む陸兎。その頭を定春がかじりついているが、陸兎は特に気にしていない。

すると、陸兎の腹からグゥーと腹の虫の音が鳴り響いた。ふと時計を見ると、針は12時前を差していた。

しかし、冷蔵庫には材料が無く、朱乃は町の神社の手伝いをしており、ゼノヴィアはアーシアに駒王町を案内してもらい、家にはいない。

要するに、食材が無いので自分で作ることができず、同居人二人も家にいないため、買い出しさせることもできないのだ。

 

「そうだ。ラーメン食いに行こう」

 

何がそうだなのか知らないが、行きつけのラーメン屋で食事を取ることにした陸兎は、嚙みつく定春を頭から退かし、出かける準備をする。

準備が完了し、玄関の扉を開けたところで・・・彼の足はピタッと止まった。

 

「・・・・・・」

 

扉を開けた先には、長い黒髪に露出の高いゴスロリ衣装を着ている無表情な幼女が立っていた。

陸兎は瞬時に思った。あ、これ絶対面倒なこと起きるパターンだ、と。

そんな彼の心境を知りもしない幼女は、ジーと彼を見つめたままだ。

このまま呆けていても何も進展しないため、陸兎はとりあえず幼女に話しかける。

 

「えっと・・・どちら様?」

 

「我、オーフィス」

 

「うわぁ、スッゲー普通に答えたよ」

 

簡潔に名前を述べた謎の幼女ことオーフィス。

オーフィスは陸兎を興味深そうに見つめながら問う。

 

「お前、何?」

 

「俺か?俺は八神陸兎だ」

 

「違う、お前の力。我、知らない、我、見たことない」

 

「見たことないって天然パーマの事か?それなら、銀魂の漫画やアニメDVDを買えば、いくらでも見れるぞ」

 

「お前、不思議」

 

「俺からみりゃ、お前の方が不思議だわ」

 

突然現れた謎の幼女と会話する陸兎だったが、外出することを思い出して、陸兎に用があると言っていたオーフィスに断りを入れようとする。

 

「悪いけど、俺はこれからラーメンを食いに行かなきゃならねぇんだ。だから、これ以上お前に構ってる暇はねぇんだ」

 

「食事?それなら我、必要ない」

 

「お前が良くても、俺がダメなんだよ。それに、ラーメンはなぁ。最近、ゼノヴィア(食いしん坊)が居候したせいで、物凄く上がってしまった我が家の食費をワンコイン(500円)で抑えてくれる至高の食い物なんだよ。それを今食べないで、いつ食べろと言う!」

 

「そのラーメンを食べること。我の用事より大事?」

 

「あぁ、大事だ。何なら、お前も食ってみるか?」

 

「我も?」

 

陸兎の誘いに、オーフィスは少し考える素振りを見せたが、ラーメンと言う自分の知らない未知の存在に興味を持った彼女は、その誘いに乗ることにした。

 

「分かった。ラーメン、我も食べる」

 

「決まりだな」

 

そう言いながら、陸兎はオーフィスの体を持ち上げ、自身の肩に乗せてやると、今度こそ外に出るのであった。

こうして、陸兎と謎の幼女オーフィスの奇妙な一日が始まった。

 

 

 

 

外に出た陸兎たちだったが、町歩く人々から注目を浴びていた。

 

「ねぇ、あの男の人に肩車してる女の子。あの子の着てる衣装、少し破廉恥すぎない?」

 

「あれって、所謂ゴスロリ衣装よね?妹にあんな露出の高い衣装を着せて、肩車させるって・・・最低なお兄さんね」

 

「ていうか、あの子たち兄妹なの?髪の色が全然違うし、とても兄妹には見えないわ・・・もしかして、誘拐!?」

 

「絶対そうよ。あの男、見た目は死んだ魚のような目をしてるけど、夜中になったら寝ている女性にあれやこれやしそうな雰囲気してるし」

 

「幼女と野獣・・・ありだわ!」

 

それもそのはず。陸兎に肩車されているオーフィスは、極めて露出の高いゴスロリ衣装を着ており、とても外には出せない恰好をしている。そんな状態の彼女を肩車しながら歩く陸兎を町の人々は、ひそひそと話しながら訝しげな目で見ていた。一部頬を赤らめている変人もいるが・・・

 

「? 周りから視線を感じる。我、見られてる?」

 

「あんまり気にしねぇ方がいいぞ。この町の連中、90%は頭のおかしい奴らだから」

 

きょろきょろと周りを見渡すオーフィスに向かって忠告する陸兎。当然、陸兎もその頭のおかしい奴らに入ってるのは、言うまでもないだろう。

そんな感じで歩いていると、目的地であるラーメン屋に辿り着き、陸兎は入口の扉を開けて中に入った。

 

「おや、陸兎じゃないか。いらっしゃい」

 

「ウイース、笠松さん」

 

こちらに向かって微笑んできたラーメン屋の店主こと笠松に、陸兎は手を軽く上げて返事した。

すると、笠松は肩車しているオーフィスに気づき、目線を陸兎の方に戻すと、訝しげな目で彼を見た。

 

「なんだい陸兎。あんた、いつの間に誘拐犯に成り下がっちまったんだい?」

 

「なわけあるか。高校生から誘拐犯に転職なんざ、人生5回あってもしたくねぇよ。こいつはちょっくら知り合いから預かってるガキでな。腹ごしらえに、あんたとこのラーメンを食わせてやろうと思って連れて来たんだよ」

 

「そうかい。まっ、それだけうちの店を気に入ってくれたんなら嬉しいね。それで、注文はいつも通りでいいのかい?」

 

「あぁ。いつも通り、醬油チャーシューをこいつの分も含めて頼む」

 

「そんな小さい子にも?大丈夫なの?」

 

「心配すんな。こいつが残したら、俺が食えばいい話だからな」

 

「それが狙いかい・・・」

 

やれやれと言わんばかりの顔で注文を受け取った笠松は、厨房でラーメンを作る準備をし始める。その間に、カウンター席へと座る陸兎とオーフィス。

麵を茹でている間、笠松は陸兎に話しかけた。

 

「最近、調子はどうだい?」

 

「良いとは言えねぇな。この間なんか、コカビエル(でっけぇカラス)を退治したと思ったら、空から無六龍牙(怪人赤メッシュ)白龍皇(コードギアスに出てきそうな奴)が降ってきてよぉ。色々大変だったぜ」

 

「そうかい。まっ、元気そうで良かったよ」

 

他愛のない会話をしていると、笠松は湯切りした麵をスープの入った丼に入れ、そこにチャーシューを始めとした様々な具材を乗せていく。

 

「はい、醬油チャーシューお待ち」

 

ラーメンが出来上がり、カウンターにチャーシューがたっぷり乗ったラーメンが二人分置かれた。

陸兎は出されたラーメンを見つめながら頬を緩ませると、パンッと両手を合わせる。

 

「いただきます!」

 

そう言うと、陸兎は一心不乱にラーメンへと食らいついた。

それを見たオーフィスは、陸兎がやったように両手を合わせると

 

「いただきます・・・」

 

と言い、手に箸を持ちながら麵を掴むと、ちゅるりと音を立てながら啜った。

 

「・・・やはり、'ちゅるり'我に食事は不要'ズズッ'。でも'ズズズッ'、ラーメン、少しだけ'ズズズズズッ!'興味深い'ズズズズズズズズッ!!'」

 

「いや、少しどころかめちゃくちゃハマってるよな。さっきからスッゲー勢いで食ってるぞ」

 

オーフィスの視線はラーメンに集中しており、だんだんと麵を啜るスピードが早くなっている彼女に、陸兎はツッコんだ。

そうしてる間にも、オーフィスは丼にあった麺やチャーシューを全て食べ切り、残ったスープを丼を両手に持ってぐいっと飲み干した。

そして、空になった丼を見つめていたオーフィスだったが・・・

 

「・・・(ショボーン)」

 

「「(めちゃくちゃ物足りないって顔してる・・・)」」

 

寂しそうな顔で丼を見つめるオーフィスを見て、陸兎と笠松は心の中で彼女の心情を察した。

 

「あー、おかわりが欲しければ、いくらでも作ってあげるよ」

 

笠松がそう言うと、オーフィスは無表情であるが、何処か嬉しそうな様子で空の丼を持ちながら「おかわり」と言った。

笠松はすぐさま二杯目のラーメンを作り始める。その間にカウンターからひょっこり顔を出して、厨房をガン見するオーフィス。

そして、二杯目のラーメンが出来上がり、オーフィスの前に置かれると、彼女はすぐさま麵に食らいついた。

飲み物を飲むような速度で麵を啜るオーフィス。その様子を隣で見てた陸兎は、頭に一つの不安がよぎった。

 

「(おいおい、このままの勢いだと十杯、二十杯は行くんじゃね?そうなったら、俺の財布が死ぬぞ・・・!)」

 

そう思いながら、陸兎はオーフィスに、これ以上おかわりを頼まないでくれ、と心の中で願う。

そんな彼の願いも虚しく、オーフィスはあっという間に二杯目を食べ終わると、再び丼を笠松の方に向けて言った。

 

「おかわり」

 

「(あ、死んだわ。俺の財布)」

 

そして、陸兎の財布が死んだ。

 

 

 

 

「我、満足」

 

「トホホ・・・」

 

店を出てから満足そうな様子のオーフィスに対して、空となった財布を見つめながら涙する陸兎。

空となった財布を悲しげに見つめる陸兎を見て、オーフィスはきょとんと首を傾げた。

 

「お前、満足そうに見えない。どうして?」

 

「吞気だなお前。羨ましいぜ・・・まぁ、いいか。そんで、ラーメンの味はどうだった?」

 

「ラーメン、興味深い。我、ラーメン、また食べたい」

 

「そうかい。まっ、次は自分で金を払ってくれよ」

 

金は失ったが、満足そうに語るオーフィスを見て、陸兎は小さく微笑んだ。

すると、オーフィスは一瞬だけ顔を別の方向に向けたが、すぐさま陸兎の方に戻して言った。

 

「我、帰る」

 

「急だなおい。何か用事でもあんのか?」

 

陸兎の言葉に頷くオーフィス。

 

「我、また会いに来る。その時に聞かせて、お前の力」

 

オーフィスの言葉に、陸兎は少し顔をしかめた。まだ会って間もないが、見知らぬ幼女にお前呼ばわりされ続けられるのは、気分が良くない。

 

「さっきも言ったが、俺はお前って名前じゃねぇ。俺の名前は八神陸兎だ。覚えとけ、オーフィス」

 

「陸兎・・・分かった。陸兎、また会いに来る」

 

そう言い残すと、オーフィスは一瞬で消え去っていった。

 

「・・・うん。やっぱり、そっち側の奴だったかあいつ」

 

人間離れした速度で消え去ったオーフィスを見て、彼女がただの幼女ではないということを実感しながら、陸兎は帰路に着くのであった。

後に陸兎は、一緒にラーメンを食べたこの幼女が、実はとんでもない生物であったことを知るのだが、それはまた別の話である。




・笠松
「銀魂」に登場する幾松をモチーフにしたオリキャラ。未亡人なのは幾松と同じ。


というわけで、陸兎とオーフィスの出会いを書いたところで、今回の幕間は終了になります。
次回から第4章に入りますが、リアルの都合&SAOの方の執筆に専念するので、またしばらくの間、更新の方を休止とさせていただきます。
元々SAOの方の執筆が上手く行かず、リハビリを兼ねての第3章だったので、リアルの都合を含めて、戻ってくるのに少し時間が掛かるかもしれません。
ですが、必ず戻ってくるので、気長に待っていただけたら幸いです(お気に入り登録や高評価してくれる人が増えたらもっと嬉しい)。
それでは皆さん、第4章でまたお会いしましょう。


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第4章 停止教室のヴァンパイア
子作りする時はラブホか用具室の中で


明けましておめでとうございます。
初めましての人は初めまして、お久しぶりの人はお久しぶりです。約2年空けていましたが、今回から第4章に入ります。
opとedは第3章と変わりません。小説を見る前と見た後に一曲聞いてみてはいかがでしょうか?どちらも良い曲です。


「冗談じゃないわ!」

 

放課後のオカルト研究部の部室。

一誠から報告を受けたリアスが声を上げながら怒りを露わにする。

それを聞いた陸兎は、朱乃との会話を中断して、リアスに怒りの理由を問う。

 

「どした部長?言っとくが、俺は久しぶりに再開したハイ魂の最初のセリフがあんたであることが冗談じゃねぇ」

 

「リアス、私は貴方が私の『王』だということが冗談じゃありませんわ」

 

「私は貴方たちの今の発言が冗談であって欲しいわね」

 

自身をおちょくる陸兎と朱乃に青筋を浮かべながらも、リアスはため息を吐きながら、先程一誠が言ったことを思い返した。

昨日の夜、彼の依頼者である人物が、堕天使の総督アザゼルと名乗り、コカビエルの企みを察知して、駒王町に潜入していたことを明かした。ついでに、一誠の『赤龍帝の籠手』や誓約神器にも興味があると言い、最後に近いうちに天使、堕天使、悪魔のトップ同士で首脳会談が行われると告げられた。

そのことに対して、リアスは営業妨害やら可愛いイッセーに手を出そうとしてるやらで怒りを露わにしていたが、それを聞いてた陸兎は、普通に依頼して、きちんと料金(対価)払ってるんだから別に営業妨害じゃなくね?や興味があるだけで、誰も手を出すなんて言ってねぇよとツッコミたかったが、ツッコんだらツッコんだで、火に油を注ぐことになりそうだったので、心の中にとどめておいた。

代わりに小猫が、それとは全く違うことをリアスに問いかけた。

 

「部長、近いうちにトップ同士の首脳会談が行われるって本当ですか?」

 

「えぇ。さっき、私の所にも連絡があったわ。一度トップ同士が集まり、今後の関係について話し合うことになったの」

 

「俺も剣夜から聞いたぜ。しかも、参加するのは三種族のトップだけじゃねぇ。日本神話、更には人間の代表も会談に参加するってよ」

 

「なんですって!?そんなの聞いてないわよ!」

 

聞き覚えのない情報を耳にしたリアスは、驚愕の表情で陸兎に詰め寄った。

 

「何でも、会談が行われる場所が日本のどっからしくてな。自分とこの国で異国の代表同士で会談が行われるんだ。見届け人は必要だろ?それに、この間のえっと・・・名前分かんねぇからでかカラスで。でかカラスが起こした騒動に関する詳しい情報を聞いて、今後の方針を決めるためらしいぜ」

 

「コカビエルが起こした騒動が天使、堕天使、悪魔の三竦みだけでなく、日本の国そのものにまで影響を及ぼすとは・・・」

 

ゼノヴィアがポツリと呟いた。コカビエルが起こした騒動はかなりの影響を及んでいるようだ。

 

「その日本神話と人間の代表は、いったい誰なのかしら?」

 

「日本神話は分かんねぇが、人間代表は既に決まってるぜ。十師族の中で最も力のある家系、俺たち十天師を部下に持つ十門寺家現当主、十門寺道玄三武郎(じゅうもんじどうげんざぶろう)だ」

 

十師族最強の家系、十門寺家の現当主の名を告げる陸兎。

その重厚感溢れる名前に、その場の空気は一気に重くなった。

 

「言っとくが、ただの人間だと思うなよ。御当主の持つオーラはお前らの持ってる魔力や闘気を遥かに上回ってる。何よりもその強さは、もはや人の領域ってモンを超えてやがる。俺や剣夜ですら、全力で戦っても、あの人に一度も勝ったことがねぇ」

 

「お前や十門寺が一度も!?」

 

「それだけ規格外なんだよあの人は。本気で戦えば、魔王や神ですらも撃ち滅ぼせるとも言われている。人類最強、地球上にいる人間の中で、その言葉に一番相応しいと言える人間だ」

 

人類最強、その言葉の重みは計り知れない。少なくとも、この場にいるオカルト研究部の面々にとっては、想像付かないだろう。

 

「この会談で、お前らは人類最強の男をその目で見ることになるんだ。せいぜい度肝抜かさないよう気をつけるんだな」

 

不敵な笑みを浮かべながら喋る陸兎を、一誠たちは冷や汗をかきながら見るしかなかった。

 

 

 

 

数日後、リアス達オカルト研究部の部員は学園のプールサイドに集まっていた。

 

「うわぁ、スッゲーな」

 

「ウフフ、去年使ったきりですもの」

 

「何故私たちがプールの掃除をするんだ?」

 

「本来なら生徒会の仕事なのだけど、コカビエルの一件のお礼に、今年は私たちが担当することになったの」

 

「いや、それお礼じゃなくね?どう見ても仕事押し付けられてるだろ」

 

「その代わりに、掃除が終わったら一足先にオカルト研究部だけのプール開きよ」

 

陸兎の質問に答えながら笑みを浮かべるリアス。

それを聞いてやる気を出したのは、リアス達の水着姿を想像してテンションが上がった一誠だった。

 

「オッシャー!ビバ、プール掃除!プール掃除万々歳だぜぇ!」

 

「イッセー先輩、顔が嫌らしいです」

 

嫌らしい顔で叫ぶ一誠に、小猫がツッコむのであった。

 

 

 

 

その後、プール掃除が終わり、水着に着替えた陸兎はプールサイドで他の面々が来るのを待っていた。

着換えの途中、一誠と木場がホモホモしい空気を出していたので、一足先に更衣室から出たのだ。

しばらくすると、水着に着替えた一誠が疲れた様子でやって来た。

 

「つ、疲れた・・・」

 

「よう、木場とのにゃんにゃんは終わったか?」

 

「やってねぇよそんなの!冗談でも、そんな恐ろしいこと言うんじゃねぇ!」

 

恐ろしい事を言う陸兎に向かって叫ぶ一誠。

するとそこに、着替えを終えた女性陣がやって来た。

 

「ほら、イッセー。私の水着どうかしら?」

 

「ブハッ!さ、最高です・・・!」

 

リアスの水着姿を見て、鼻血を出しながら褒める一誠。

その隣で、朱乃は陸兎に話しかける。

 

「あらあら、部長ったら張り切ってますわね・・・陸兎くん、私の水着はどうかしら?」

 

「お、おう・・・ヤングジャンプの表紙に載ってるグラビアアイドルみてぇだな。思春期の男子には刺激が強すぎるぜ・・・」

 

そう言って、顔を赤らめながら視線をずらす陸兎。思春期の男子らしい反応に、朱乃も満足そうに微笑んだ。

そこにスクール水着を着たアーシアと小猫もやって来る。

 

「イッセーさん、私も着替えて来ました」

 

「おぉ!可愛いぞアーシア。お兄さん、ご機嫌だぜ!」

 

「そう言われると嬉しいです」

 

アーシアの水着姿を素直に褒める一誠に対して、陸兎はスク水を着てる小猫を無言でまじまじと見つめる。

小猫は恥ずかしそうにしてたが、陸兎が小猫とリアス達の方に目線をチラチラと交互に動かしているのを見て、疑問符を浮かべる。

やがて、陸兎が小猫の肩にポンと手を置き、憐れむように言った。

 

「・・・小猫」

 

「・・・なんですか?」

 

「気にすることねぇよ」

 

そう言いながら、グッと親指を立てる陸兎。

当然、小猫の次の行動は一つしかなかった。

 

「えい」

 

「ぐえぇ!」

 

小猫のアッパーを顎に食らい、陸兎は上に飛んで、ドバンッとプールに落ちた。

プールに沈んだ陸兎を睨みながら、小猫は一言。

 

「最低です」

 

「何やってるんだか・・・イッセー、それと陸兎、あなた達二人にお願いがあるの」

 

呆れながら事の一端を見てたリアスは、一誠と陸兎に声を掛けた。

 

 

 

 

「まさか、お前が泳げないとはねぇ」

 

「ぷはー、陸兎先輩、付き合わせてしまってすみません」

 

「気にすんな。野郎と泳ぐのはともかく、後輩の女子と泳ぎの練習なんざ、宝くじで1等当たるのと同じ価値があるってモンよ」

 

バタ足で泳ぐ小猫の手を持ちながら、後ろにゆっくりと下がる陸兎。

何故、陸兎がこんなことをしているのかと言うと、小猫は泳げないようで、泳ぎの練習をしてもらいたいとリアスから頼まれたのだ。ちなみに、アーシアも泳げないらしく、今は一誠が教えている最中だ。

 

「っと、端に付いたか」

 

そう言って、止まった陸兎だったが、急に止まったことで、バタ足してた小猫が勢い良く陸兎にぶつかり、彼に抱きつくような体勢になった。

 

「(ヤベっ、また殴られるか?)」

 

警戒する陸兎だったが、小猫は頬を赤らめて、恥ずかしそうに言った。

 

「陸兎先輩は優しいですね。たまに意地悪な時もありますけど」

 

「そ、そうか?まぁ、先輩は後輩から飯を奢って貰えるくらい尊敬されろって言われてるからな。これくらいどうってことねぇよ」

 

予想外の反応に、しどろもどろになりながらも、陸兎は言葉を返しながら小猫の頭を撫でた。

その後も一通り練習をし、終えた頃には、小猫はビニールシートの上で横になって休んでいた。

 

「やれやれ、後輩のお守りも楽じゃねぇな・・・」

 

疲れた様子で呟く陸兎は、ふと視線を移すと、一誠とリアスが何やら話していた。

 

「ねぇ、イッセー、背中にオイル塗ってくれないかしら?」

 

「オイル!?はい!喜んで!」

 

スタイル抜群の女子、それも憧れの人の背中にオイルを塗れるというイベントに、一誠は興奮しているようだ。

 

「青春してんねー・・・ん?」

 

「陸兎くん、私にオイル塗ってくれませんか?」

 

二人の様子を眺めていると、朱乃が後ろから抱きついてきた。しかも、ノーブラで。

陸兎の背中に豊満な胸がムニュと当たり、その感触に思わず顔を赤らめる陸兎。

 

「(何ぃーーー!?おいおい、こんなラッキーイベント予想してねぇぞ!まさか、高校生活二年目にして、遂に俺にもお熱い春がやって来るとは!落ち着け、八神陸兎!戻ってこい平常心!忘れるな普通の心!)」

 

内心焦りと興奮でいっぱいになりながらも、極力冷静さを保ちながら言った。

 

「仕方ねぇな。俺の華麗なるオイル捌きで、オメェの体の隅々までオイルまみれにしてやるよ」

 

「ウフフ、期待してますわ」

 

微笑みながら、朱乃はシートの上でうつ伏せになり、その隣に陸兎は座った。

横を見ると、一誠がリアスの背中にオイルを塗っていた。

 

「手際がいいわねイッセー。背中が終わったら、胸にも塗ってくれるかしら?」

 

「む、胸にもーーー!!?」

 

リアスの発言に、興奮する一誠。

 

「たく、情けねぇな・・・」

 

それを呆れた様子で見ながら、陸兎は朱乃の背中にオイルを塗る。

 

「これだから発情期のエロス一世は・・・侍たるもの、如何なる場合でも常に平常心を保つもんだ。ましてや、女子の背中にオイルを塗るだけで発情しちまうなんて、情けないったらありゃしねぇ、いやホント、マジで」

 

「陸兎先輩、鼻血出てますよ」

 

淡々とオイルを塗る陸兎だったが、鼻からはドクドクと鼻血が出ており、休んでいた小猫に指摘された。

そんな感じにくつろいでいると、陸兎はゼノヴィアがいないことに気づいた。

 

「そういや、ゼノヴィアはどうしたんだ?」

 

「確かに、全然姿を見せないな・・・」

 

一誠も辺りを見渡すが、ゼノヴィアの姿はない。

すると、二人の会話を聞いたアーシアが口を開いた。

 

「ゼノヴィアさんなら、慣れない水着に着るのが手間取って、少し遅れるって言ってましたよ」

 

「それにしては、遅すぎるだろ。ちょっくら見てくるわ」

 

少し心配になった陸兎は、彼女を探すべく、プールから出た。

 

 

 

 

ゼノヴィアはプールの用具室にいた。

 

「お!見つけたぜ。何やってんだお前?」

 

「ん?あぁ、陸兎か。初めての水着に、着るのに時間が掛かってな」

 

「おいおい、いくらなんでも掛かりすぎだろ。アニメ銀魂一話分は見れるぞ」

 

「教会にいた頃は大した娯楽が無かったから、こういうのはどうにも慣れなくて・・・それで、着替えている最中に、考え事をしてたんだ。陸兎、君に頼みたいことがある」

 

「頼みごと?まぁ、俺にできる範囲でなら手伝ってもいいが・・・」

 

陸兎がそう言うと、ゼノヴィアは真剣な表情で口を開いた。

 

「陸兎・・・私と子作りしないか?」

 

「・・・ん?」

 

ゼノヴィアから放たれた爆弾発言に、陸兎の思考は停止した。

何故と考える暇もなく、陸兎はゼノヴィアに押し倒された。

 

「あのー、ゼノヴィアさん。なんで、俺は性に飢えた獣に食われる3秒前の体勢になってんだ?」

 

「順を追って話そう。以前までの私は、神に仕えて奉仕するという夢や生きがいがあった。だが、今は悪魔だ。私には夢や目標が無くなったと言える。いや、君のことをこの目で見たいという目標はできたが、具体的にどうすればいいのかはまだ見つかってない状況だ。そこで、リアス部長に相談したら、悪魔は欲を持ち、欲を叶え、欲を与え、欲を望む者、好きに生きてみなさいと言われてな。だから、私は君の事を少しでも知れるよう、君と子作りすることにしたんだ」

 

「うん、悪いんだけど、今俺が知ったのは、お前がイッセーとは別方向の変態だってことだけだよ」

 

「君とコカビエルとの戦いを見て分かった。君の潜在能力は堕天使幹部や上級悪魔。いや、それ以上の存在と並んでいると言っていい。その上、君の練り上げられた闘気は、ドラゴンのオーラすらも食らう鬼そのもの。そんな君と子供を作るんだ。きっと、強い子供が産まれるに違いない。これもまた、神の導き――痛ぁ!」

 

「どんな神の導きだよ。神という名の自己中だろそれ」

 

途中神に祈り、ダメージを受けたが、反論する陸兎を無視して、ゼノヴィアは水着を外した。

 

「私には男性経験がない。だから、そこら辺は君に合わせよう。さぁ、陸兎。私を抱いてくれ!」

 

ゼノヴィアは陸兎に抱きつき、自身の唇をゆっくりと彼の唇に向けて近づけてきた。

だんだん近づいてくる唇を目の前に、陸兎は悟りを開く。

 

「(拝啓、お母様。俺は今、人生の新たなステージに立つようです。え?展開が早すぎないかって?知るか!なんか、いつのまにかこうなってんだし、このままゴーイングした方が流れ的にいいだろ!獲物はもうすぐそこまで迫ってんだし、覚悟を決めろ俺!見てろよ、全国五万人のポピパファンの皆さん!これが、童貞を卒業する侍の瞬間じゃぁぁぁぁぁぁ!)――ってなるわけねぇだろうがぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

一瞬雰囲気に飲まれそうになった陸兎だったが、すぐさま正気を取り戻し、ゼノヴィアを突き放した。

ゼノヴィアはショックを受けた顔で喋る。

 

「な、何故だ陸兎!私とは子作りしたくないと言うのか!?」

 

「いやまぁ、ぶっちゃけこのままゴーイングすんのも悪くないけど、いくらなんでも過程を飛ばしすぎだろ!性欲に飢えて、無差別に女から童貞を奪う怪盗レイプ侍かお前は!?」

 

「失礼な!そんな下劣な輩と一緒にするな!私は性欲を満たしたいんじゃない!強い子供が欲しいだけだ!」

 

「そんな真面目な顔で言っても、相手の許可なく、無理矢理襲ってる時点で一緒だよバーカ!」

 

ごもっともな正論を言いながら、陸兎はビシッとゼノヴィアに指を突き付けた。

 

「そもそも、お前は子作りする以前に、子作りをするために必要なことをしてねぇんだよ!」

 

「必要なことだと!?それはなんだ!?教えてくれ!」

 

「いいだろう、教えてやる。それは・・・保健体育を習うことだ!」

 

「ほ、保健体育だとぉ!?」

 

ゼノヴィアは雷に打たれたかのような衝撃を受けた。

 

「日本にはこういう言葉がある。保健体育習わざる者、子作りすべからず!習うべきことを習わず、安易な気持ちで子供を産むなど愚の骨頂!」

 

「そ、そうだったのか・・・」

 

ガクッと肩が下がり、頭を俯かせるゼノヴィアだったが、しばらくすると、意を決した顔で宣言した。

 

「どうやら、私にはまだまだ足りないものがたくさんあるようだ。その保健体育とやら、必ずこの手に収めてみせるぞ!」

 

「ハハハハハ!精進するがいい!」

 

ゼノヴィアの決意に、陸兎は高笑いを上げながら健闘を讃えた。

 

「何やっているのかしらあの子たち?」

 

「あらあら、ウフフ」

 

「馬鹿ばっか・・・」

 

その様子を陰から様々な表情で見守るリアス、朱乃、小猫であった。




陸兎の事を理解するために陸兎と子作りするという、原作とは違う理由で原作と変わらず子作り志望の女と化したゼノヴィアでした。
今回、名前だけ登場した十門寺家の現当主ですが、本格的な登場は会談が始まる頃になります。


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子供の頃ハマってたアーケードゲームの楽しさは大人になっても変わらない

前回の話の感想で中々興味深い質問が来たので、こっちにも載せます。
Q:EDの「反抗声明」に登場する銀魂キャラをハイ魂キャラに置き換えたら?
・最初の銀さん、新八、神楽→陸兎、一誠、リアス
・Aメロのお妙さん、さっちゃん、九兵衛、ツッキー→朱乃、アーシア、小猫、ゼノヴィア
・Bメロのお通ちゃん、鉄子、幾松さん→イリナ、ギャスパー、グレイフィア
・サビのまた子、陸奥、そよ姫、信女→麗奈、聖良(第4章で登場予定のオリキャラ)、セラフォルー、ソーナ
・合間に登場するお登勢さん達→ミルたん
こんな感じになります。後は皆さんの脳内で想像してみてください。


「いやー、危ねぇ危ねぇ。危うく、童貞卒業の代償に大事なモンを失うところだったぜ」

 

「全く、何かあったと思ったら、そんなはしたないことをしようとしてたなんて・・・」

 

「陸兎を責めないでやってくれ。陸兎が私を襲ったんじゃない。私が陸兎を襲ったんだ」

 

「原因がなんか言ってるよコノヤロー」

 

プールでのひと時を終えて、部室に戻った陸兎は、先程の出来事をリアス達に話していた。

それを聞いたリアスは呆れ顔を見せて、ゼノヴィアは陸兎を庇おうとしたが、あまりフォローになってない発言に陸兎は顔を顰めた。

 

「随分と賑やかだね。何かのイベントかい?」

 

すると、声と共に魔法陣が出現し、そこからサーゼクスとグレイフィアが現れた。

 

「お、お兄様!?」

 

「あ、魔王様じゃん」

 

リアスが驚きの声を上げて、眷属の朱乃、木場、小猫はその場に跪いた。遅れて一誠も同じように跪く。魔王を見たことないアーシアとゼノヴィア、知っているけど跪く必要性を感じず、吞気に声を出した陸兎の三人は、立ったままであった。

そんな彼らにサーゼクスは声を掛ける。

今日はプライベートで来ていることを伝えて、新しい眷属であるアーシアとゼノヴィアに挨拶をしたら、次は陸兎に話しかける。

 

「この間のレーティングゲーム以来だね。八神陸兎君」

 

「まぁな。あの時は一誠共々世話になったな」

 

「そうみたいだ。十天師がこの学園にいると聞いた時は、私も心配だったが、その様子だと、良い関係を築いているみたいだ。これからも妹と仲良くしてもらいたい」

 

「りょーかい。貴重な魔王様からの頼みだ。きちんと守ってやるよ。しっかし、魔王は割と忙しそうなイメージがあったが、まさかプライベートで部室訪問とはねぇ・・・魔王様って、実は暇人なのか?」

 

「ちょ、陸兎!?」

 

場合によっては罰せられるかもしれない無礼な発言にリアスが慌てるが、サーゼクスは笑顔で返した。

 

「これでも午前はちゃんと仕事してきたよ。それに、プライベートって言っても、ここに来たのは理由があるんだ」

 

「理由?それはいったい・・・」

 

問い掛けるリアスだったが、次のサーゼクスの発言で驚愕の表情となる。

 

「決まっているだろう。公開授業が近いから妹の勉学に励む姿を是非とも間近で見ようとね」

 

「!? なんでお兄様がそれを・・・グレイフィアね。お兄様に伝えたのは・・・!」

 

「勿論、父上もちゃんと来る」

 

「お兄様は魔王なのですよ?仕事を放り出してくるなんて・・・」

 

「いやいや、これは仕事でもあるんだよ。三大勢力のトップ会談を、この学園で執り行おうと思っていてね」

 

「!? こ、この駒王学園で!?」

 

リアスや黙って会話を聞いてた一誠たちが驚いた。陸兎も知らなかったのか、驚愕の表情となっていた。

 

「この学園には様々な縁があるからね。赤龍帝に十天師、これらの強大な存在が一堂に集う学園。偶然という言葉では表しきれないよ」

 

そう語るサーゼクスに、リアス達は何とも言えない顔をするのであった。

 

 

 

 

翌日の日曜日。休日にも関わらず、陸兎はこの日、朝から家を出て、昨日言われた待ち合わせ場所に向かっていた。

 

「悪ぃ悪ぃ、遅れたわ」

 

「遅いぞ八神。あまりサーゼクス様待たせんなよ」

 

「別に気にしてないよ。こちらから頼んだ身だ。文句は言えないよ」

 

待ち合わせ場所に着くと、私服姿の一誠とスーツを着たサーゼクスに昨日と変わらずメイド服のままのグレイフィアがいた。

昨日サーゼクスから、翌日に駒王町の観光――ではなく、下見をすることを告げられ、その案内役に一誠と陸兎を選んだのだ。

 

「それじゃあ、案内をお願いするよ」

 

「は、はい!それで、サーゼクスさん。まずはどこに行きますか?」

 

やや緊張気味に問う一誠に、サーゼクスは答える。

 

「ゲームセンターに行こうと思う」

 

「ゲームセンター!?それはまた、意外ですね」

 

「冥界には娯楽が無いから、この国の娯楽を学んで、冥界にも取り入れたいと思ってね」

 

そんな話をしていると、駒王町にあるゲームセンターに辿り着いた。

 

「これは凄いな・・・」

 

目の前に広がる数々のゲームに圧倒されるサーゼクス。

興味深々に見渡してたサーゼクスは、クレーンゲームに目を付けた。

 

「この四角い箱は何だい?」

 

「クレーンゲームですね。二つのボタンでアームを操作して、中にある物を掴んで、あそこの開いてる所まで運ぶゲームです。上手く運べたら、中にある物をゲットできます」

 

説明する一誠の横で、陸兎が深刻な顔をしながら付け足す。

 

「甘く見てはいけないぜ。こいつはな、何万もの金を吸い上げてきた人食いマシーンだ。もうちょっとで取れるといった所で中々ゲットすることができず、多くのキッズとオタク達がその命を自ら絶ってしまった」

 

「クレーンゲーム、そんな悲惨なゲームだったっけ!?」

 

クレーンゲームの底知れぬ闇に驚く一誠の隣で、サーゼクスが笑みを浮かべる。

 

「それは興味深い。是非とも試してみよう」

 

そう言って、サーゼクスは巨大な白いペンギンのような生物のぬいぐるみが入った台の前に立つと、コインを入れて挑戦した。

その様子を陸兎は悪い顔で眺めていた。

 

「(くっくっくっ、馬鹿め。その興味深さが、このゲームじゃ仇になっちまうのさ。クレーンゲームは実に闇が深いゲームだ。後ちょっと、後ちょっとの所で取れると言った所で中々取れないのが、このゲームの闇だ。そうやって、奴らは多くのチビッ子と童貞たちを底なし沼に引きずり込んできた。それがクレーンゲームだ。さぁ、身をもって知るが良い魔王。底の無い沼に落ちていく恐怖を――!)」

 

「あ、一発で取れた」

 

「ええええええ!?一発でゲットしたよ!たった100円でめっちゃでかいぬいぐるみゲットしたよ!」

 

あっさりとぬいぐるみをゲットしたサーゼクスに、一誠は驚いた。

陸兎は目を見開いたまま呆然としてたが、何食わぬ顔で口を開いた。

 

「まぁ、クレーンゲームなんて所詮、コツさえ分かれば誰でもできる簡単なゲームだ。普段高くて買えない物をたった100円で買える言わばボーナスマシーンみたいなモンだ」

 

「さっきまで人食いマシーンって言ってたよな?一気に緩くなったな」

 

さっきまで人食いマシーンと言ってた人物とは思えない発言に、一誠はツッコミを入れた。

 

「次はこれだ。格闘ゲーム」

 

「格闘ゲーム・・・これは戦ったりするのかい?」

 

「はい、一対一で戦って、先に相手のライフをゼロにした方が勝ちになります」

 

「まぁ、物は試しだ。魔王様、俺とひと勝負行こうぜ」

 

「そうだね。よろしく頼むよ」

 

サーゼクスは頷き、両者ゲーム台に座る。

コインを入れて、キャラクター選択画面に移り変わる。

 

「これは誰を選んだらいいんだい?」

 

「自分の好きなキャラを選んだらどうだ?基本の操作はどれも変わらねぇから。ちなみに、俺はおさるの大将ヒデヨシを選ぶ」

 

「なら、私は闇の将軍イエヤスで」

 

「名前に癖ありすぎじゃね?このキャラ達」

 

癖のあるキャラに一誠がツッコミを入れる中、画面が移り変わり、開始前の画面に遷移される。

それぞれの選んだキャラが左右対称に置かれて、試合開始の合図が出た瞬間、陸兎は素早くコントローラーを操作して、相手に攻撃を仕掛けた。

 

「おらぁ!怒涛の三連撃コンボじゃ!」

 

「うぉーい!サーゼクス様はこのゲーム初めてなんだぞ!少しは手加減しろよ!」

 

いきなり強烈なコンボを浴びせた陸兎に、一誠は手加減するよう言う。

しかし、陸兎はこれまた強烈な悪人顔をしながら発言する。

 

「手加減?何を言っているのかなぁ?これは真剣勝負だぜ。例え相手が初めてゲームをやる初心者でも、台に座れば誰だって対等だ。強力なコンボを打ち続けて、何の抵抗もできず無様に負かせようが何の問題はない!」

 

「最低な野郎だよ!悪質な初心者狩りの良い例だよお前は!」

 

「ほれほれー、魔王様ぁ。この華麗なるコンボ、防げるもんなら防いで――」

 

ゲス顔で相手を煽ってた陸兎だったが、直後相手のカウンターを受けてしまった。

 

「あ」

 

そこから更に、先程の陸兎よりも圧倒的に多い連続コンボを決められて、見事K.O.された。

 

「勝者、サーゼクス様」

 

「逆転負けされたぁーーー!」

 

グレイフィアが勝者の名を告げる横で予想外の結果に驚く一誠。

不利な状況からの逆転勝ちという神プレイを見せたサーゼクスは、満足そうに笑った。

 

「いやはや、あそこであの強力なコンボが決まるとは思わなかったよ。何となくできると思ってやってみたが、ダメもとでもやってみるものだ」

 

「今のコンボ何となくでやったの!?ヤベーよ魔王様、プロも真っ青のゲームセンス発揮してるよ!」

 

サーゼクスの秘められた才能に一誠が戦慄してると、逆転負けされて呆然としてた陸兎が、やや引き攣った顔で語り出した。

 

「ま、まぁ、今のは所謂ビギナーズラックみたいなモンだ。経験者たる者、初心者にも花を持たせてやるのが責務と言うものだ」

 

「花持たすどころか、めちゃくちゃ枯らそうとしてたよな?責務全うするどころかボロクソに放棄しただろ」

 

「というわけで、次はレースゲームで勝負だ!」

 

「何がというわけだ!最早案内忘れて、ゲームで勝つことが目的になってんじゃねぇか!」

 

一誠のツッコミを無視しながら、陸兎とサーゼクスはレースゲーム用の椅子に座り、ゲームを開始した。

その結果は・・・普通に負けました♪

 

「勝者、サーゼクス様」

 

「普通に負けたぁーーー!」

 

「あそこでドリフトからのショートカットが決まったのは気持ち良かったな」

 

「めちゃくちゃプロの運転技術じゃん!スゲーよ魔王様、一回走っただけで上級者のテクニック使いこなしてるよ!」

 

またしても凄まじいゲームテクニックを発揮したサーゼクスに、一誠は素直に称賛した。

一方、二度も負けて、プライドをズタズタにされた陸兎は、やけになって叫んだ。

 

「ウォォォォォォ!!まだまだ勝負はこれからじゃ!ゲームセンター歴2年!初心者同然の魔王なんかに負けてたまるかぁーーー!!」

 

 

 

 

「るーるーるーるるるーるー」

 

「結局、どのゲームもボロ負けだったな」

 

謎の歌を歌いながら虚ろな顔で歩く陸兎を引き攣った顔で見つめる一誠。

あの後も陸兎は色んなゲームで幾度もサーゼクスに挑んだが、全て負けてしまい、ゲームセンターを出る頃には、半ば放心状態となっていた。

そんな陸兎を尻目に、サーゼクスは歩きながら次の目的地を話す。

 

「次は神社に行ってみたいと思う」

 

「神社ですか?なんでまた?」

 

「神社は古くから日本人や神々に愛されている場所だからね。前から気になってたんだ」

 

一誠の質問に答えながら歩いていると、目的地の神社に辿り着いた。

すると、放心状態から復活した陸兎が、素朴な疑問をサーゼクスにぶつけた。

 

「なぁ、魔王様。悪魔にとって聖なる力は毒だよな?神社も形は少し違うが、辺りに聖なる力が漂ってるから、いくらあんたが魔王でも入ったら黒焦げになるぞ」

 

「その心配はない。今からその力を私の魔力で払うからね」

 

「え?ちょ、まっ!」

 

陸兎が止める暇もなく、サーゼクスが手を前に出して、魔力で神社にある神聖な力を払おうとしたその時

 

ブンっ!

 

「!?」

 

「な、なんだ!?」

 

「サーゼクス様!」

 

突如吹き荒れた陣風によって魔力が吹き飛び、前に出していたサーゼクスの腕がその陣風によって弾かれた。

その光景を見た一誠は驚き、グレイフィアが腕を押さえながら険しい顔をするサーゼクスの下に駆け寄る。

心配するグレイフィアに「大丈夫だよ」と言いながら、サーゼクスは視線を先程自身の魔力を弾き返した神社の方に向けた。

 

「ふむ、この神社の神聖な力を払おうとする異質な力を感じたから、とりあえず浄化して、力の正体を助かめようと外に出てみれば・・・」

 

その時、神社の奥にある境内の扉が開き、そこから人が出てきた。

 

「これはまた、とんでもない大物に出会ったな」

 

そう言いながら、陸兎たちに近づいてきたのは、白いワイシャツを着ている雪のような白い肌をした黒髪の男だった。サーゼクスのような冷たい美貌を持ち、陸兎たちを見つめるその瞳は、サーゼクスの紅髪のように紅い。

自身の魔力を弾き飛ばしたと思われる男に、サーゼクス達が警戒する中、口を開いたのは陸兎だった。

 

「お!大旦那様じゃねぇか」

 

「やぁ、陸兎。久しぶりだね。最近あまり顔を見てなかったけど、元気そうで何よりだ。たまには、天神屋に顔を出してもいいんだよ」

 

「今はクソ忙しいから無理だ。けどまぁ、時間がありゃその内あんたの宿屋にまた泊まりに来てやるよ」

 

「楽しみにしてるよ。ところで、この間また無断で隠世に入ったよね?」

 

「げぇ!」

 

いい笑顔で言ってきた大旦那の言葉を聞き、陸兎は顔を青くした。

 

「本来、人間が隠世に行くためには、ちょっとした手続きと少し高めの金が必要だ。なのに、君は一度ならず二度も金を払わないで隠世に入って来るときた」

 

「俺が悪いんじゃねぇ。あやかしの国のくせに簡単に入れる隠世の入口が悪いんだよ。だから、そんなに怒んないでください」

 

「ハッハッハッ、別に俺は怒ってないさ。とりあえず、隠世の入国料を君が連れてた悪魔の娘の分も含めて払ってもらおうか今すぐ」

 

「噓ぉーーー!!ここは大目に見てあげるってパターンじゃねぇのかよぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「そんなパターンあるわけないだろ」

 

笑顔のまま入国料を請求する大旦那に、陸兎はがくしっと膝を付いた。

そんな彼に、一誠が陸兎と親し気に話す大旦那について問う。

 

「八神、知り合いなのか?」

 

「ん?まぁな。こいつの名前は大旦那。名前の通り、宿屋の大旦那のふりをした鬼神様だ」

 

「初めまして、異国の異形の方々。俺は大旦那。隠世で天神屋という宿屋を営んでおります。先程の魔力を見て、少し気になったのですが・・・そこの赤髪の方。貴方はひょっとして、悪魔の長である魔王様ですか?」

 

「その通りだ。私はサーゼクス・ルシファー。冥界を治めし魔王の一人だよ」

 

「なるほど、貴方が・・・」

 

顎に手を当てながらサーゼクスを見つめていた大旦那だったが、ふと真顔になって言った。

 

「神社という物は、古来より人々に愛され続けられている日本の神々が住まう神聖な地。異国に住まう貴方が気になってしまうのも無理はない。だが、その神聖な力を物理的に払い、神聖な地に土足で入ろうとするなど言語道断。そのような愚行をしなくとも、許可証があれば悪魔であろうと普通に入れるのだから」

 

「う、うむ・・・それはすまない。以後気をつけよう」

 

「本当に気をつけていただきたい。俺がいたから大事にはならなかったが、神社は我々あやかしや日本の神々にとって神聖な場所。それが少しでも汚されてしまえば、神々の怒りを買うのは間違いないだろう。例え、貴方が魔王であろうともだ」

 

「・・・本当にすまなかった」

 

「私からも頭を下げさせてください。我が主が軽率な行いをしてしまい、申し訳ございませんでした」

 

サーゼクスは頭を下げながら謝罪した。グレイフィアも彼の隣で頭を下げた。

それを見た大旦那は、顔に笑みを戻した。

 

「とにかく、神社に入りたかったら、まずは許可証を貰いに行きましょう。ここから近い所に許可証が貰える場所があるので、俺が案内しますよ」

 

「感謝する。大旦那殿」

 

「いえいえ、もうじき会談に出席なさるんですから。その間、魔王様には是非ともこの国の良さを知っていただきたいと思っています」

 

そう言いながら、大旦那は歩き出し、陸兎たちも後に続く。

大旦那が案内してる中、一誠は先程の会話で気になったことを大旦那に聞いた。

 

「えっと・・・大旦那様でしたっけ?なんで、会談のこと知ってるんですか?」

 

「それはだな。俺もその会談に出席するからだ」

 

「大旦那様がか?ひょっとして、日本神話の代表としてか?」

 

陸兎の言葉に頷きながら、大旦那は目的地に辿り着くまでの間、自分が会談に参加することになった経緯を話した。

やがて、大旦那が言ってた場所に着き、一誠とサーゼクスとグレイフィアの悪魔三人分の許可証を貰ったところで、大旦那と別れることになった。

 

「それでは、俺はこの辺で。会談の日にまたお会いしましょう。魔王サーゼクス・ルシファー様」

 

「こちらこそ、貴殿と再び会えるのを楽しみにしている」

 

最後にサーゼクスと握手を交わすと、大旦那は去っていった。

それを見届けた陸兎たちは、再び下見という名の観光に戻るのであった。




・大旦那
「かくりよの宿飯」に登場するキャラ。第3章の最後にも説明したが、隠世で天神屋という宿屋の大旦那を務める鬼神。ちなみに、曹操と声優が同じ。


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授業参観は人によっては公開処刑になる

感想で指摘された箇所を修正しました。考えてみれば、剣夜たちとの話し合いの際に、ソーナが言った今代の赤龍帝にリアス達が反応しないのはおかしいですね。そもそも、なんでソーナが一誠が赤龍帝だと知ってんだ?って疑問も生まれますね(まぁ、剣夜に教えてもらったとか理由付けようと思えば付けられるんですけどね)。
ちなみに、剣夜や陸兎は一誠が赤龍帝だということを彼がまだ人間だった時から知ってました。


・今回の話の内容
作る+白い物=?
これだけで何のネタか分かった貴方は一人前の銀魂マニアです。


サーゼクスが駒王町に来た翌日、陸兎はいつも通りの時間で家を出た。

 

「そんじゃ、先に行ってるぜ」

 

「行ってきます。朱乃先輩」

 

朱乃は少し遅れてから登校するとのことで、先に家を出た陸兎とゼノヴィアは駒王学園に向かって歩いていた。

 

「先日はすまなかった。君のことを考えずに突っ走りすぎた」

 

「別に気にしてねぇよ。合体未経験の女子にはよくある間違いだ」

 

「そこでだ。私はある物を使って練習することにしたんだ。確か、コンド――」

 

「とりあえず、お前は保健体育を百年くらい習ってろ」

 

そんな会話をしながら登校してると、見知った顔が見知らぬ人物に絡まれていた。

 

「ん?イッセーと・・・もう一人知らねぇ奴がいるな」

 

一誠と向かい合う形でいるのは、陸兎よりも濃い目の銀髪をした長身の青年だった。

しかし、その青年から感じるプレッシャーは普通の人間とは思えないほど濃く、少しだけ警戒していると、ゼノヴィアが声を上げた。

 

「あれはまさか、白龍皇か!?」

 

白龍皇。先日のコカビエルの騒動で陸兎が倒した(止めを刺したのは龍牙だが)コカビエルを回収しに来た白い鎧を纏った存在。それと同じオーラをあの青年から感じた。

青年の気配から敵意は無いと判断し、一誠と話す青年を眺めていると、ゼノヴィアが手にデュランダルを持って飛び出しそうだったので、肩を掴んで制止させた。

 

「落ち着け。様子からして、向こうは戦いに来たわけじゃねぇらしい。木場もその剣しまえ。銃刀法違反でしょっぴくぞ」

 

「!? 陸兎君。でも・・・」

 

同じく聖魔剣を持って近づこうとした木場に声を掛けて制止させる。

戸惑う木場をよそに、陸兎は白龍皇と思われる青年に話しかけた。

 

「よぉ、この間ぶりだな」

 

向こうも陸兎に気づき、言葉を返した。

 

「八神陸兎か・・・この姿は初めてだな。改めまして、俺はヴァーリ。白龍皇『白い龍(バニシング・ドラゴン)』だ」

 

「そっか。ランスロット・アルビオンのパチモンかと思ってたが、きちんと人の姿もあるみてぇだな」

 

白い鎧の姿を思い出しながらそんなことを言うと、ヴァーリが問いかけてきた。

 

「君にも問おう。八神陸兎、君はこの世界で何番目に強いと思う?」

 

「三番だ」

 

予想外の答えだったのか、ヴァーリはキョトンとした顔になった。

 

「随分中途半端な数字だな。君の性格から考えて、てっきり一番と答えるかと思ってたが・・・」

 

「残念なことに、絶対に勝てねぇと骨の髄まで刻まれちまった人間が二人程いてな。いつか超えてやるつもりだが、少なくとも今は無理だ」

 

「ほう、是非とも会ってみたいものだ」

 

「まぁ、そう急ぐな。その内会談で会えると思うぜ。何せ、その人らも会談に参加するらしいからな」

 

「そうか。会談には俺も参加するから、会うのが楽しみだ」

 

そう言って、ヴァーリは楽しそうに笑うと、いつの間にか来てたリアスに向かって口を開いた。

 

「兵藤一誠は貴重な存在だ。だが、過去二天龍に関わった者は碌な人生を送らないらしい。君たちはどうなんだろうね?」

 

「・・・・・・」

 

リアスは何も答えず、冷や汗をかきながらヴァーリを見据える。

そんな彼女を見て、満足そうに微笑みながらヴァーリは去っていった。

 

 

 

 

その後、各教室に入った陸兎たちは、授業の準備をしていた。

 

「俺はおかしいと思っている!イケメンの八神はともかく、何故か最近イッセーまでもが女の子にモテ始めていることに!」

 

「その通り!これはもはや、世界の法則が崩れていると言っていい!」

 

「どんな法則だよ。それに、俺は八神ほどモテてねぇよ」

 

相も変わらず一誠に嫉妬を向ける元浜と松田。それに対して、面倒だと言わんばかりに言葉を返す一誠。

その隣で桐生が陸兎たちと会話してた。

 

「そ・れ・で、実際はどうなの?2人はもう兵藤や八神君に抱いてもらったの?」

 

「き、桐生さん!それはいくらなんでも破廉恥すぎます!」

 

「ふむ、私としては保健体育を一通り習ってから、実行するつもりだ」

 

「なるほど。でも、善は急げって言うからね。うかうかしていると、あいつらはあっという間に食べられてしまうかもよ」

 

「た、食べられるんですか!?」

 

「む、それは無視できないな。やはり、性交の予定を早めるべきか・・・」

 

「・・・花の女子高校生がなんつー会話してんだ」

 

そんな感じに時間を潰していると、後ろの方から親たちが入って来た。

やがて、後ろは親たちで埋まり、前の扉から教師が入って来る。

授業は英語なのだが・・・何故か机には白い長方形の物体が置かれた。

 

「いいですか。今渡した紙粘土で好きな物を作ってみてください。動物でも人でもいい。自分が思い描いたありのままの表現を形作ってください」

 

教師がそう説明するが、机に置かれた紙粘土を見て、陸兎が手を上げた。

 

「先生、どう見てもこれは美術の授業ですよね?イングリッシュじゃなくて、アートですよね?」

 

「そういう英会話もあるのです」

 

「あるわけねぇだろ!紙粘土で誰と何英語で会話しろってんだ!?」

 

「諦めようぜ八神。なんか、皆もう作り始めてるし」

 

普段ボケ側の陸兎がツッコミを入れるほどの異常な授業だが、周りは気にしてる様子なく紙粘土をこねり出したのを見た一誠が諦めの顔で言った。

陸兎も渋々と言った様子で、紙粘土をこねり出した。

 

『おぉ!』

 

しばらくすると、一誠の机の方から驚きの声が上がった。

 

「あれって、リアスお姉様じゃない!」

 

「凄いそっくり!」

 

一誠が作ったのは、リアスのミニ人形だった。

脳内に焼き付いたリアスの体を想像しながら作ったそれは、彼女の顔からスタイル、胸の大きさまで本物そっくりと言っていいくらいの出来栄えだった。

 

「素晴らしい!兵藤君、君にこんな才能があったなんて!」

 

「それにしても、胸までそっくりね。つまり、手が覚えているほど触りまくっているってことね」

 

「クソ!イッセーの野郎!やはり、先輩と・・・!」

 

「嘘よ!リアスお姉様がこんな野獣と・・・!」

 

「イッセー!俺の芸術と交換しないか!?」

 

「そんなゴミより、俺は5000円出す!」

 

「私は7000円出すわ!」

 

感動する者、考察する者、嘆く者、自分の作品や金で交渉する者など周囲の反応は様々だった。

その光景を見ながら、陸兎は呆れた様子で口を開いた。

 

「たく、どいつもこいつも素人だな。こんな童貞の欲望を詰め込んだ人形に騒ぎやがって・・・芸術ってモンを分かっちゃいねぇ」

 

「そういうお前は何作ったんだよ?八神」

 

一誠がそう問い出すと、陸兎は作った作品を手に持って、ドンっと置いた。

 

「見やがれ。これが本物の芸術だぁ!」

 

陸兎が作った物。それは・・・巨大な二つの玉の間に砲身と思われる棒が置いてある大砲だった。その形はまるで、男性の下半身にある'アレ'のようだった。

 

「小説終わるぅぅぅぅぅぅ!!」

 

絶叫を上げながら、体を使って陸兎の作品を周りに見せないようにする一誠。

突然奇怪な行動に出た一誠に、陸兎は冷静に問う。

 

「おいおい、何叫んでんだよ。女のヌードに比べたら千倍マシだろ?」

 

「ざけんな!どう見たってそっちの方が卑猥だろ!親たちもいんのに、なんつーモン作ろうとしてんだコラ!」

 

「お前が何勘違いしてるのか知らないけど、こいつはあれだ。ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲だよ」

 

「アームストロング2回言った!大事なことなので2回言ったよ!つか、あるわけねぇだろこんな卑猥な大砲!」

 

あたかも適当に付けた名前にツッコミながらも、一誠はネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲の存在を否定する。

尚も食い下がる一誠に、陸兎は呆れた様子で喋る。

 

「たく、思春期のエロスは普段からエロいことばっか考えてるから、'棒'とか'玉があればすぐそっちに話持ってくんだよ」

 

「マジキモい」

 

「しばらく私に話しかけないで」

 

「いや、だって明らかにおかしいだろ・・・'アレ'じゃないとしたら、いったい何だよそれ?」

 

女子達から軽蔑の眼差しを向けられつつも、一誠は陸兎に疑問を投げかける。

そこに、騒ぐ一誠が気になったゼノヴィアが、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を見に来た。

 

「どうしたんだイッセー?随分騒いでいるようだが、いったいどんな物を作ったんだ?」

 

「ちょ、ゼノヴィア!見ない方が――」

 

女のゼノヴィアには刺激が強いと思い、慌てて止めようとした一誠だったが・・・

 

「これは、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃないか。再現度たけぇなオイ」

 

「ええええええ!?知ってんのこれ!?マジであんの!?俺が知らないだけで、実在するの!?」

 

なんとゼノヴィアがこの卑猥な大砲を知っていたのだ。

驚く一誠の隣で、ゼノヴィアは説明する。

 

「遥か昔、処刑されるイエスのド玉を撃ち抜いた兵器だ。歴史の教科書でその時のイエスの絵を見た時は驚いたが、まさか兵器の方もこの目で見ることができるとは・・・」

 

「まさかの衝撃事実!?教科書に載ってる十字架に張り付けられたイエスの絵、○玉撃たれた時の奴だったの!?」

 

ゼノヴィアから語られたイエスの衝撃の事実に、驚愕の表情となる一誠。

すると、アーシアが陸兎たちの所に近づいてきた。

 

「ゼノヴィアさんがあんな真剣な顔をするなんて・・・そんなに凄い物を作ったんですか?陸兎さん」

 

「おう、アーシアにも見せてやるよ」

 

「見せるな!アーシアは健全なんだ!こんな破廉恥な物見せたら――」

 

必死に止めようとした一誠だが、アーシアはネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を視界に入れた瞬間、目を大きく見開いた。

 

「まぁ!これはひょっとして、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲ですよね。再現度たけぇなオイ」

 

「アーシア!!!?」

 

まさかアーシアまでもが、この卑猥な砲台を知っているとは思わず、しかもゼノヴィア同様、最後はおっさんぽい口調で喋ったのを見て、一誠は目が飛び出るほど驚いた。

 

「別名『教会のイナズマ』。クリーム戦役における惨劇、『ロンドンのケーキ七個』を引き起こした地獄の兵器です」

 

「ゼノヴィアと言ってること違ってんだけど。何、クリーム戦役って?何、『ロンドンのケーキ七個』って?ロンドンでケーキを7個食べただけだろそれ?」

 

色々ありすぎて疲れた一誠は、アーシアの説明に覇気の無いツッコミで返した。

 

「おい、俺今スゲーこと思いついた。翼付けようぜ翼」

 

「砲身の所にすべり台を付けるのもありかもしれんな」

 

「お二人共素晴らしいです!素敵な発想だと思います!」

 

そんな一誠をよそに、陸兎、ゼノヴィア、アーシアの三人はネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲の話題で盛り上がっていた。

 

「(あぁ、神様。俺の周りにはまともな奴がいないのでしょうか・・・?)」

 

その光景を見た一誠は、涙を流しながら、自分の周りにまともな人間(悪魔)がいない事を嘆くのであった。もっとも、彼自身まともの部類に入るかは微妙であるが・・・

え?どうしてまともじゃないのかって?女子の着替えを何回も覗いている変態がまともであると?

 

 

 

 

「よくできてるわね」

 

昼休み、飲み物を買うため外に出た陸兎と一誠とアーシアは、同じく外に出てたリアスと朱乃に出くわした。

そこで一誠は、先程作ったリアスの人形を本人に見せた。

 

「あらあら、流石毎日部長のお体を見て触っているイッセー君ですわ」

 

「いやいや、部長の体はきちんと脳内保存してますから」

 

朱乃にも称賛されて、照れ顔を見せる一誠。

そこに陸兎が口を挟んだ。

 

「そんな思春期の呪いが詰まった特級呪物より、俺の芸術も見てくれや」

 

「げぇ、それは・・・」

 

陸兎が持ってるネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を見て、先程からこの大砲に苦しめられている一誠が顔を顰める。

 

「(頼む、部長だけは健全であってくれ・・・!)」

 

自身の憧れの人が、こんな卑猥な大砲の存在を認知してないで欲しいと願いを込めながら、一誠はリアスを見つめる。

果たして一誠の願いは届くのか・・・!?

 

「あら、これはネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃない。再現度たけぇなオイ」

 

「部長ぉ・・・」

 

残念!一誠の願いは、リアスのおっさんぽい口調と共に砕かれたとさ。

残酷な現実に号泣してしまう一誠。そんな彼を気にすることなく、リアスは説明する。

 

「三大勢力による戦争が起こる遥か昔、三大勢力でちょっとした小競り合いが起きたわ。その第8万4649次スーパースポーツデー大戦の時に、劣勢となった悪魔軍が投入した秘密兵器よ。この兵器で私たち悪魔軍は、これまで優勝常連だった堕天使軍を破り、3000年ぶりの'優勝旗'を手にしたわ」

 

「どーでもいいし長げぇよ!なんだその世紀末な運動会は!?何スポーツデーって英語にしてんだよ!全然かっこよくねぇんだよ!つか、8万4649年間もなんつー大規模な運動会してんだ!それで、あの珍兵器が使われたのもビックリだよ!」

 

色々ツッコミどころが多すぎて、一誠は半ば錯乱した状態でツッコミを入れた。

その時、体育館の渡り廊下から騒がしい声が聞こえた。

 

「体育館で魔女っ子の撮影会だと!?」

 

「写真部として、これは収めなければならぬ!」

 

見てみると、複数の男子達が体育館へ走っていった。

 

「魔女っ子?」

 

「まさか!?」

 

「あらあら」

 

疑問符を浮かべる一誠の横で、リアスは驚愕の表情となり、朱乃は面白そうに笑う。

ひとまず、騒ぎの正体を確かめるため、陸兎たちも体育館に向かうのであった。




※この物語は言うまでもなくフィクションです。実際の人物、団体とは一切関係ありません。
最後に・・・イエスさん、ごめんなさい!


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大人でも魔法少女に憧れる時はある

今回は新しい十天師が登場!更にあのキャラの母親も出るぞ。後、セラフォルー様も。


体育館に入った陸兎たちの目に映ったのは、カメラを持った複数の男子達が、壇上に立っている誰かを撮影している光景だった。

 

「もう一枚お願いしまーす!」

 

「こ、こちらに目線くださーい!」

 

壇上で撮られていたのは、魔法少女のような格好をした黒髪ツインテールの少女がいた。

カメラの前で次々とポーズを取り、スティックを器用に振り回すその仕草は、本物の魔法少女と思えるくらい完璧だった。

そんなコスプレ少女を見て、最初に反応したのは一誠だった。

 

「あれは確か、『魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブ』のコスプレじゃないか!」

 

「うわぁ、お前この年で魔法少女ものにハマってるとか、童貞を拗らせたオタクかよ」

 

「違ぇよ!俺のお得意様がこのアニメが好きで、一緒に全話見たんだよ!」

 

あらん疑いが掛けられそうになり、必死に否定する一誠。

しばらくすると、生徒会の匙が壇上にやって来て、撮影してる男子達に怒鳴った。

 

「コラァ!学校で何やってんだ!ほら、解散解散!」

 

「横暴だぞ生徒会!」

 

「撮影会くらい良いだろう!」

 

『そうだそうだ!』

 

「公開授業の日にいらん騒ぎを作るな!早く解散しろ!」

 

匙がそう言うと、男子達は渋々と言った様子でその場から解散した。

それを見届けたら、今度は騒ぎの原因と思われるコスプレ少女に問う。

 

「あのー、ご家族の方でしょうか?」

 

「うん☆」

 

「そんな格好で学校に来られると困るんですが」

 

「えー、ミルミルミルミルスパイラル~☆」

 

匙が注意を促すも、コスプレ少女は可愛らしくウインクしながらポーズを決めたりと、聞く耳を持たずだった。

 

「だから真面目に――」

 

「よぉ、匙。ちゃんと仕事してるじゃないか!」

 

「からかうなよ兵藤。今は――」

 

「何事ですか?」

 

からかう一誠を軽くあしらいながら注意を続けようとした匙だが、直後体育館からソーナと彼女に付き従うように剣夜と麗奈が入ってきた。

 

「ソーナちゃん!見ぃつけた☆」

 

「え?」

 

厳格な雰囲気を漂わせていたソーナだったが、コスプレ少女に声を掛けられると、一転して恥ずかしそうにしながら顔を逸らした。

そんなソーナの様子を気にともせず、コスプレ少女は壇上を降りて、ソーナに近づいた。

 

「どうしたのソーナちゃん?お顔が真っ赤ですよ。せっかくの再会なんだから、もーーーっと喜んでくれてもいいと思うの!お姉様、ソーたんって抱き合いながら、百合百合の展開でね☆」

 

「お姉様?」

 

コスプレ少女が言ったお姉様の言葉に一誠が疑問符を浮かべた。

その疑問にリアスと匙が答える。

 

「セラフォルー・レヴィアタン様よ」

 

「現四大魔王の一人で会長のお姉様だ。俺もお会いするのは初めてだけどな」

 

「「え!?」」

 

「マジか・・・魔法少女改め魔王少女ってか」

 

コスプレ少女の正体が魔王であり、ソーナの姉でもあることに驚く一誠とアーシア。陸兎もまた、驚いた様子で呟いた。

視線の先では、ソーナの後ろにいた剣夜がセラフォルーに話しかけた。

 

「やれやれ、相変わらずのシスコンぶりですね」

 

「剣夜君!おひさー!元気にしてた?」

 

「はい、おかげさまで。セラフォルー様」

 

「もう!昔みたいにセラ義姉さん(姉さん)でいいのよ☆麗奈ちゃんも久しぶり☆」

 

「はい、お元気そうで何よりです」

 

どうやら剣夜と麗奈はセラフォルーの事を知っていたようで、ごく普通に挨拶していた。

 

「セラフォルー様は昔と変わらないですね。そちらの衣装も似合ってますよ。本物の魔法少女みたいで可愛いらしいです」

 

「もうやだ!褒めたって何も出ないわよ☆あまりソーナちゃんを他の誰かに渡したくないけど、こんなにいい子なら、剣夜君がソーナちゃんの婿入りする展開もありかも☆」

 

「お姉様!?」

 

「すみません、セラフォルー様。僕はそのうち家を継がないといけないので、婿入りは無理です。ソーナが家に嫁入りするなら別ですけどね」

 

「ちょ、剣夜!?貴方まで何を――!?」

 

「んー、それもいいわね☆何なら、お姉ちゃんも混ぜて、三人でトライアングル展開するのもありかも☆」

 

親し気に話す剣夜とセラフォルー。いつの間にか幼馴染と結婚させられそうになり、顔を真っ赤にするソーナ。

その様子を後ろで眺める陸兎たち。

 

「仲がいいな。会長のお姉さんと十門寺」

 

「会長と幼馴染なのは知ってたが、お姉様とも交流があるとはねー。しかも、お姉様は妹を剣夜の嫁に出す気満々ときた」

 

「な、なん、だと・・・!?」

 

陸兎の呟きに、匙が大きく反応した。ソーナとできちゃった結婚を夢見る彼にとって、その事実はあまりにも衝撃的なものだった。

そんな彼らをよそに、リアスが前に出てセラフォルーに挨拶する。

 

「セラフォルー様、お久しぶりです」

 

「あ!リアスちゃん!おひさー!」

 

「今日はソーナの公開授業に?」

 

「そうなの!ソーナちゃんったら酷いのよ。今日のこと黙ってたんだから!お姉ちゃんショックで天界に攻め込もうとしちゃったんだから☆」

 

「こえーよ、このお姉様!サラッと笑顔でとんでもないこと言ってるよ!」

 

笑顔で天界に戦争を仕掛けようとしてるセラフォルーに、ツッコミを入れながらドン引きする一誠。

一誠のツッコミを受けたセラフォルーは、彼と陸兎の方に視線を向ける。

 

「リアスちゃん、あの子たちが噂のドラゴンと問題児君?」

 

「はい。イッセー、陸兎、ご挨拶を」

 

リアスに従い、一誠と陸兎はセラフォルーに挨拶をした。

 

「は、初めまして!兵藤一誠です!リアス・グレモリー様の『兵士』です!」

 

「どーも、このチートイケメンの幼馴染してる八神陸兎でーす。十天師してまーす」

 

緊張気味の一誠に対して、だらけた態度で挨拶する陸兎。

しかし、セラフォルーは気にすることなく、二人に挨拶を返した。

 

「初めまして。魔王のセラフォルー・レヴィアタンです☆レヴィアたんって呼んでね☆」

 

「ほう、名前の後に敢えて'たん'を付けることで、自分があたかも魔法少女だと思い込んでいる痛い中二病であることを証明してるとはな」

 

「エッヘン☆伊達に2000年も魔法少女をやってるわけじゃないの☆」

 

「・・・セラフォルー様。今の、明らかに威張る場面じゃないですよね?おもくそ中二病って言われてますよね?」

 

「しかし、忘れてはいけない。最近の魔法少女は杖を使って魔法を打つだけではない。ある日突然、白い兎のような未確認生命体と契約して、魔法少女になったと思いきや、マミられたり、あたしってホント馬鹿・・・になったり、独りぼっちは寂しいモンな、になったりしてな。色々闇が深いんだよ」

 

「――っておい!まど○ギの話はやめろ!あれは特殊なだけで、魔法少女は基本、お○ャ魔女みたいな優しい世界なんだ!」

 

魔王の前だというのに、相も変わらず馬鹿騒ぎする陸兎と一誠。

そこにソーナが口を挟んだ。

 

「お姉様。私はこの学園の生徒会長を任されているのです。いくら身内だとしても、そのような行動や格好は――」

 

「あらあら、随分賑やかなこと。この場所で何か祝い事でも行われるのかしら?」

 

ソーナが喋っている最中、新たに女性の声が聞こえて、全員が振り向くと、着物を着た白い髪の女性と私服を着た薄いピンク色の髪の少女が体育館に入ってきた。

そのうちの白い髪の女性を見たセラフォルーと剣夜が大きく反応した。

 

桜蘭(おうらん)の叔母様!」

 

「母上、何故ここに?授業が終わって、帰ったのではないのですか?」

 

「何故?可愛い息子が友人と楽しそうに話す姿を拝みに行かない母親がいますか。ここに来たのは単なる偶然。貴方の気配を辿ったら、たまたまここに着いただけですわ」

 

扇子を広げて、堂々としながら語る桜蘭と言われた剣夜の母親と思わしき女性。

今の会話を聞いてた一誠が陸兎に問う。

 

「もしかして、十門寺のお母さんか?」

 

「あぁ、十門寺(じゅうもんじ)桜蘭(おうらん)様。俺たち十天師を従えている御当主様の嫁で剣夜の母親だ」

 

「へぇ・・・スッゲー美人だな」

 

一誠の言う通り、十門寺桜蘭は剣夜の母親と言われて納得の美人だった。雪のような白い髪、墨色の瞳を持ったその容姿は、まるで白樺の木の精のよう。お淑やかで気品に満ちた佇まい。桜の花のデザインが散りばめられた白い着物を身に纏い、扇子を煽る様子は、正に現代の大和撫子であった。

剣夜と一通り会話した桜蘭は、ソーナとセラフォルーに声を掛ける。

 

「ソーナちゃんにセラフォルーちゃんも久しぶりね。最後に会ったのは、中学校の卒業式以来かしら?」

 

「は、はい、お久しぶりです・・・」

 

「叔母様も元気してたかしら?昔みたいにレヴィアたんって呼んでいいのよ☆」

 

「ウフフ、そうね。レヴィアたんちゃんは魔法少女だものね」

 

「うん☆魔法少女レヴィアたん☆悪い天使、堕天使は皆、この魔法の杖でカチンコチンにしちゃうよ☆」

 

緊張気味のソーナと違って、陽気に会話するセラフォルーと桜蘭。

 

「まぁ、見た目と違って、かなり陽気なとこもあるがな」

 

「ノリがいい人ね。魔王であるセラフォルー様とも対等に話してるし、肝が据わっているお母さんね」

 

桜蘭という人物の器量の大きさに感心するリアス。

すると、一誠が桜蘭の隣にいる少女について問う。

 

「ところで、お母さんの隣にいる可愛い子は誰だ?」

 

「可愛い子?いったい誰が・・・ゲッ」

 

一誠に言われて、桜蘭の隣にいるピンク色の髪の少女を視界に入れた瞬間、陸兎はあからさまに嫌な顔をした。

そんな彼をよそに、麗奈がその少女に話しかける。

 

「聖良、貴女も来てたのね」

 

「久しぶり麗奈。相変わらず賑やかだね。麗奈の周りは」

 

「私としては、もう少し自重して欲しいけどね」

 

お互い笑顔で話す麗奈と聖良と言われた少女。

知り合いなのかと思いながら見てる一誠たちに、剣夜が少女を紹介する。

 

「皆さんにも紹介します。彼女は四宮(しみや)聖良(せら)。十天師の一人で、東北地方と北海道を担当しています」

 

「初めまして、四宮聖良です。この間はリュウ君がお世話になりました」

 

「十天師・・・」

 

礼儀正しく一誠たちに頭を下げて挨拶する聖良。

一方、目の前にいる少女が十天師だと言われて、真剣な表情になるリアス達悪魔組。そんな中、一誠は先の聖良の言葉で気になった事を問いかけた。

 

「リュウ君?誰ですかそいつ?それにこの間って・・・」

 

見知らぬ人物について問う一誠に、聖良は微笑みながら答える。

 

「無六龍牙君、私と同じ東北と北海道の十天師。強くて、カッコイイ私の彼氏だよ!」

 

笑顔で語られたその人物を一誠は徐々に思い出してきた。

 

「無六龍牙って・・・コカビエルをぶっ倒したあの赤メッシュ野郎か!」

 

「そうだ。あの怪人赤メッシュと付き合っている変人だ。しかも、毎晩合体してるって噂だぜ」

 

「マジで!?あんなガサツそうな奴がこんな可愛い子と毎日・・・許せん!羨ましすぎるだろ!」

 

「今だけはお前の気持ちに同意してやるよ」

 

脳内で龍牙と聖良がベットでイチャつく姿を想像しながら嫉妬する一誠に、陸兎は珍しく共感した。自分の嫌いな人物が彼女とイチャついているのは、彼も気に入らなかったのだろう。

騒ぐ一誠を無視して、今度は麗奈が聖良に問いかけた。

 

「聖良、あなたがここにいるのは、ひょっとして数日後に行われる和平会談が関係してるのかしら?」

 

「そうだよ。ほら、会談には人間代表として当主様が出席するでしょ。その護衛に麗奈たち関東組の十天師の他に、私とリュウ君の東北・北海道組が選ばれたの。一応、会談が終わるまでの数日は、この町に滞在するつもりだよ。今日は朝早くからこの町に来て、公開授業を見に行く桜蘭様の護衛の任務があったけど、明日からは任務も無いし、リュウ君と一緒に観光しようと思うんだ」

 

自身の予定を楽しそうに語る麗奈。

しかし、今の聖良の言葉に聞き捨てならない事があった陸兎は恐る恐る問う。

 

「おい、ちょっと待て。まさか、あの野郎もこの町に来てんのか?」

 

「うん、来てるよ」

 

「ふざけんな!あんな歩く天災も来たら、街が大変なことになるぞ!頭の中がピンクと茶色だけでできてるミスターカレー馬鹿――っ!」

 

怒鳴っていた陸兎だったが、突如彼の周囲を'目を凝らさなければ見えないくらいの細い糸'が囲んでいた。

恐る恐る正面を見ると、黒いオーラを纏いながら、ハイライトが消えている目で微笑む聖良の姿があった。

 

「陸兎君?毎回言ってるけど・・・もし、私の前でリュウ君を悪く言うのなら・・・バラバラにするよ?」

 

「ア、ハイ、すみません」

 

顔を真っ青にしながら謝罪する陸兎を見て、聖良はよろしいと言わんばかりの笑顔で陸兎を囲んでいた糸を引っ込めた。

 

「こ、怖いです・・・」

 

「恐るべし、女子の怒りのパワー・・・」

 

そばで見てたアーシアと一誠も顔を真っ青にしながら震えていた。

一方、剣夜たち十天師にとっては、見慣れた光景なので、気にすることなく彼女に話しかける。

 

「聖良、君は母上の護衛で来てるみたいだけど、龍牙はどうしたんだい?今日は二人で護衛するはずじゃなかったのかい?」

 

「リュウ君なら、町に着いた途端に面倒だって言って、どこか行っちゃった。流石に二人揃って任務をほったらかしにするわけにはいかないから、私一人で護衛することになったけど・・・今頃は町のゲームセンターとかで遊んでいるんじゃないかな?」

 

「うん、予想通りだね」

 

「全く・・・まぁ、あの人がこういう任務を真面目にこなすとは思いませんが・・・いいの聖良?彼氏が彼女をほったらかして、一人勝手に遊んでいるのよ」

 

心配する麗奈に、聖良は笑顔で答える。

 

「大丈夫。夜にきちんと防音付きのホテルを予約してるから。そこで、私はリュウ君と一つになって、あんなことやこんなことや・・・!今日はどんなプレイで行こうかな。私から攻めて、リュウ君が優しく受け止める正統派プレイ!それとも、縄で縛った私を野獣になったリュウ君がそのまま食べちゃう逆転プレイ!私はなんの抵抗もできず、その身をリュウ君に捧げるの!あー!どっちがいいかなー!迷っちゃうなー!」

 

頬を赤らませながらウフフフフフっと楽しそうに笑う聖良。

完全に自分の世界にトリップしてしまった彼女を陸兎たちは引き気味に見守るのであった。

 

 

 

 

場所は変わって、駒王町にある建物の屋上。

その場所で一人の少年が駒王町の町並みを見渡していた。

何も語ることなく町歩く人々を眺めていると、後ろから力強い気配を感じた。

 

「強力なドラゴンの気配を感じてここに来てみれば・・・君もこの町にいたとはな。無六龍牙」

 

現れたのはヴァーリ。彼は町を眺めている龍牙の後ろから語りかけた。

龍牙は驚く素振りを見せず、背中越しのヴァーリに言葉を返した。

 

「別に来たくて来たわけじゃねぇ。うちのボス直々の任務でこの町に来ることになったんだ。護衛という名のただ黙って異形共のお喋りを聞くだけの退屈な任務のな」

 

「俺も似たようなものだ。ちなみに、君の言うボスとはいったい誰のことだ?十天師の頭目である十門寺剣夜か?それとも、君たち十天師を部下に持つ十門寺家の当主か?」

 

「当主の方だ。じゃなきゃ、誰があんなスカシ野郎の命令なんか聞くか」

 

剣夜のにやけた面を思い出しながら、不快そうに語る龍牙。どうやら、頭目である剣夜の方は、かなり嫌われているようだ。それでも、この凶暴な龍を従えているとなると、剣夜もまた、かなりの強者であることは間違いないだろう。

そう思いながら、ヴァーリは龍牙の隣まで歩くと、彼と同じように駒王町の町並みに視線を向けた。

 

「三大勢力のトップに、赤龍帝の兵藤一誠と白龍皇の俺、始原の龍バハムートの力を宿す君を含む十天師数名と彼らを支配してる十門寺家。これだけの強大な存在が、後数日で同じ場所に集まる。面白いと思わないか?」

 

「・・・あぁ、確かに面白れぇな」

 

龍牙は手を顔に当て、口元を歪ませながら喋る。

 

「この町も中々に愉快だぜ。さっきから、人間の中に異形共が何十匹も混ざってやがる。しかも、人間も異形もそれが当たり前かのように普通に暮らしているときた。ホント愉快すぎるぜ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今すぐぶち壊したくなるくらいになぁ・・・!」

 

そう言いながら、龍牙は殺意の籠った目を町全体に向けた。口元は笑っているが、指の間から見えるその目から、ただならぬ嫌悪と憎しみをヴァーリは感じた。

 

「異形という存在は嫌いか?」

 

「あぁ嫌いだ。反吐が出るくらいにな」

 

「そうか。まぁ、俺にはどうでもいいことだ。俺は強い奴と戦えたらそれでいい」

 

「何なら、今ここであの時の続きをするか?」

 

「それはいい提案だ・・・と行きたい所だが、残念なことに俺も今は命令に従っている身でな。勝手な真似はできないんだ」

 

「つれねぇな。まぁ、機会ならいくらでもあるだろうよ」

 

「そうだな。近いうちにな・・・」

 

意味ありげな笑みを浮かべるヴァーリ。

何か企んでいると感じた龍牙だったが、興味がないのでスルーした。

 

「ところで、一つ気になったんだが・・・」

 

ヴァーリが龍牙の方を。正確には龍牙の左手に視線を向けながら問いかけた。

 

「君の手に持っているその・・・茶色い液体が詰まったそれはなんだ?さっきから変な匂いがするから気になってたんだ」

 

龍牙の左手に持つそれは、マヨネーズの容器であるが、中に入っているのは、白いマヨネーズとは程遠い茶色い液体のようなものだった。しかも、容器からはスパイスの独特な香りがする。

龍牙は真剣な表情でヴァーリの質問に答える。

 

「決まってんだろ。俺特製、マイカレーだよ」

 

「・・・は?」

 

予想外の回答に、思わず呆けた声を出してしまうヴァーリ。

 

「ほら、人間ふとした時にカレーを摂取したくなる時があるだろ。そのためのいつでも飲めるマイカレーだ。カレーラーなら絶対に欠かせない必需品だろうが」

 

そう言って、注入口に口を付けてカレーを直飲みする龍牙を見ながら、ヴァーリは「そうか・・・」と若干引き気味に返した。心なしか、目線を龍牙の方に合わせないようにしている。

 

「「・・・・・・」」

 

両者の間に無言の時間が続く。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・飲むか?」

 

「いや、いい・・・」

 

 

 

 

場所は駒王学園に戻り、体育館では馬鹿騒ぎが続いていた。

 

「それでね☆次に私は、魔法少女ミルキー!壁の外にいる巨人は一匹残らず駆逐よ☆って言いながら、魔法で巨人を凍らせた後、兵士さん達の前で華麗に登場するの☆」

 

「いいわね~。なーんか、どこかで聞いたことがある世界観だけど、気のせいね」

 

「おや?陸兎が持ってるそれ(前回作った作品)、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃないか。再現度たけぇなオイ」

 

「おいおい剣夜。お前、前回そのセリフ言えなかったからって、今ここで言ってんじゃねぇよ。言っとくけど、この後のセリフ、作者が思いつかなかったから、お前の分はもうねぇぞ」

 

「あぁ!リュウ君リュウ君リュウ君リュウくんリュウクン!!」

 

「なんだこのカオスな状況・・・」

 

最早撮影会を通り越して、各々がやりたい放題やっているこの状況に、一誠は戦慄した。

 

「もう耐えられません!」

 

すると、この状況に耐え切れなくなったソーナが、涙目になりながら逃げるように体育館を出ていった。

 

「待ってソーナちゃん!」

 

「それじゃあ、僕はソーナのフォローをしてくるよ」

 

「いってらっしゃい。私は先に帰ってるわ」

 

セラフォルーはソーナを追って体育館から走り去り、剣夜も桜蘭に一言告げると二人の後を追い、桜蘭はそんな息子を見送った。

 

「なんか、嵐のような時間だったわね」

 

「同感です」

 

あれほど騒がしかったのが噓のように静かになり、疲れた様子で話すリアスと一誠。

一方、匙は膝を付きながら一人涙を流していた。

 

「うぅ・・・会長ぉ・・・俺のできちゃった結婚の夢がぁ・・・!」

 

「匙、お前は今泣いていい・・・」

 

「まぁ、あんぱんでも食え・・・悲しい話だ。この公開授業の真の被害者は鯵なのかもしれないな」

 

「おい、名前間違えてるぞ。美味そうな名前だな」

 

自身の夢であるソーナとのできちゃった結婚の夢が更に遠ざかってしまった現実に絶望する匙。

そんな彼を一誠と陸兎が匙の肩に手を置きながら慰めていた。しかし、陸兎は匙の名前を覚えておらず、一誠に指摘された。

そして、その光景を見てた聖良が独り言を呟く。

 

「あの人、眼鏡の会長さんとくっつきたいんだよね?どうして、できちゃった結婚に拘るんだろう?」

 

「・・・これに関してはツッコまないであげましょう。私もずっと疑問に思っていることだけど・・・」

 

聖良の呟きに、呆れた様子で答える麗奈だった。




・十門寺桜蘭(じゅうもんじ おうらん)
見た目は「鬼滅の刃」の産屋敷あまね。
十門寺家現当主の妻であり、剣夜の母。妖麗な見た目に反して、お茶目で陽気な性格。(見た目は若いが)圧倒的年上のセラフォルーをちゃん付けで呼んだりするなど器量が大きい。

・四宮聖良(しみや せら)
見た目は「五等分の花嫁」の中野三久だが、髪の色は一花のような薄いピンク。
東北・北海道を担当するもう一人の十天師。同じく東北・北海道を担当する無六龍牙の彼女であり、彼と同棲している。合体も経験済み。
※本編でドMが垣間見えたが、さっちゃんポジションのキャラにするつもりはないです。


本作のセラフォルー様は変わらずシスコンですが、剣夜のことも認めており、妹と三人でトライアングル展開するのもありだと思っています。
龍牙はマヨラーではなく、カレーラーでした。


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一時停止ではきちんと(みぎ)(ひだり)を見てから進め

機動戦士ガンダムSeedFreedom最高だったぜ!Seedシリーズはガンダムを知るきっかけとなった作品なので、その新作を映画館で見ることができて光栄です!
今回からあの堕天使総督が本格的に登場します。


公開授業の翌日、オカルト研究部は放課後になると、旧校舎一階にある開かずの教室と言われていた部屋の前に立っていた。

 

「んで、この中にいんのか?引きニートが」

 

「その表現やめなさい。これでも、きちんと悪魔の仕事はしているわよ」

 

『KEEP OUT』と書かれた黄色いテープが幾重に張られている扉を見つめながら呟いた陸兎に、リアスが注意した。

 

「部長、昨日サーゼクス様が言ってた『僧侶(ビショップ)』がこの部屋の中にいるんですか?」

 

「そうよ。深夜には封印の術が解けるから、旧校舎内限定で部屋に出ていいことになってるの。でも、中にいる子がそれを拒否しているわ」

 

一誠の問いに、深刻な顔で答えるリアス。

事の発端は、昨日の公開授業が終わった夜、一誠の家にリアスの父やサーゼクスが訪れた際に、サーゼクスが発した一言から始まった。

なんでも、封印してたもう一人の『僧侶』を解放するとのことだ。

その『僧侶』は強大な力を持っているが故に危険視されており、今まではリアスの力が足りず、サーゼクスの判断で封印されていたが、ライザーやコカビエルとの一戦、一誠やアーシア、ゼノヴィアといった新しい眷属も増えたことで、これまたサーゼクスの判断で解放することを許可された。

 

「要するに、引きこもりなんですか?」

 

「でも、この子が一番の稼ぎ頭なんですのよ」

 

「マジですか!?」

 

呆れたように問いかけた一誠だったが、朱乃の言葉を聞いた途端に驚いた。

 

「パソコンを介して、特殊な契約を人間と執り行ってるんだ」

 

「そりゃ、随分と現代チックなこった。本とかに出てくる邪悪な存在がやる事とは思えねぇな」

 

木場の説明を聞いた陸兎が呟く。

そんな彼の呟きに補足するかのように、リアスが口を開いた。

 

「そうでもしないと契約が取れないのよ。基本的に人間は悪魔に対して良い感情を持っていない人が多いからね。そういう人の為に、こうした形で関係を保つようにしてるわ。ずっと古いやり方に拘ってたら、今の人間社会の時代に取り残されてしまうもの」

 

「へぇー、悪魔にもそう言う考えの奴がいるんだな」

 

リアスの説明を聞いて、少しだけ感心する陸兎。

悪魔は歴史や古い文化を重視してるイメージがあったが、今の悪魔は少し違うようだ。

彼がまだ退魔師の卵だった時に教わった悪魔は、プライドが高く、人間を見下しており、捕まえては自分の欲の為に利用する邪悪な存在と教えられたが、その悪魔がこうして見下しているはずの人間の技術を使っているのを見ると、とてもではないがそう思えなくなる。

 

「(まぁ、部長達が例外なだけであって、それ以外の悪魔は基本的に人間(俺ら)を見下してるけどな・・・いや、魔王様二人からはそんな様子は微塵も感じられなかったな)」

 

無論、全ての悪魔がリアスやサーゼクス達と同じ考えではないことを陸兎は忘れない。彼はあくまで退魔師であり、人々の平穏な暮らしを脅かす異形を滅ぼす存在なのだから。

そんなことを思っていると、リアスが封印を解いていた。

 

「封印が解けます」

 

小猫の呟きと共に、赤い魔法陣が扉に貼られてた黄色テープを消滅させた。

 

「扉を開けるわ」

 

封印が解けた扉をリアスが開けようとした次の瞬間

 

「嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「な、何だぁ!?」

 

とんでもない声量の絶叫が中から発せられてきた。突然の絶叫に一誠が困惑する。

リアスは部屋の中に入り、目の前に置いてある黒い棺に話しかけた。

 

「ごきげんよう、元気そうで良かったわ」

 

「な、何事なんですかぁーーー!?」

 

棺の中から男なのか女なのか分からない中性的な声がする。この段階では、まだ性別は判断できない。

朱乃が棺に近づきながら声を掛ける。

 

「封印が解けたのですよ。さぁ、私たちと一緒に出ましょう?」

 

「嫌ですぅ!ここがいいですぅ!お外怖いーーー!!」

 

優しい声で言いながら、朱乃は棺の蓋を開けると、駒王学園の女子の制服を着た人物がこちらに涙目を向けながら叫んだ。

 

「おぉ!女の子!しかも、アーシアに続く金髪美少女!」

 

その人物を見た一誠が興奮気味に声を上げる。

 

「フッ」

 

「何だよ木場!?」

 

何がおかしかったのか、一誠の反応を見た木場が小さく笑い、それに対して一誠が文句を言う。

すると、リアスから衝撃の事実が語られる。

 

「イッセー、この子は男の子よ」

 

「え?」

 

リアスから語られた衝撃の事実に、一誠は呆けた声を出しながら固まってしまった。

 

「ぶ、部長・・・今、何と?」

 

「見た目は女の子だけれど、この子は紛れもなく男の子」

 

「ウフフ、女装趣味があるのですよ」

 

「ええええええ!!?」

 

叫ぶ一誠をリアスは気にせず、涙目になっているギャスパーを優しく抱きしめながら紹介する。

 

「この子はギャスパー・ヴラディ。私の眷族でもう一人の『僧侶』。一応駒王学園の一年生で、転生前は人間とヴァンパイアのハーフよ」

 

「ヴァ、ヴァンパイア・・・」

 

「吸血鬼って・・・こいつが!?」

 

ギャスパーの紹介を聞いて、アーシアとイッセーが意外そうな顔をする。言われてみれば、彼の口元にヴァンパイアの象徴とされている鋭い牙がある。

 

「こんな残酷な話があっていいものかぁ!?見た目は完全に美少女な姿なのにぃ!」

 

しかし、一誠にとって、そんなことはどうでもよく、それ以上にギャスパーが男であることにショックを受けていた。

 

「でも、よく似合ってますよ?」

 

「その分ショックがデカいんだって!つか、引き篭もってる癖に、その女装はいったい誰に見せるんだよ!?」

 

アーシアの言葉に強く返しながら、一誠はギャスパーに女装してる理由を問う。

 

「だ、だって、この格好の方が可愛いもん・・・」

 

「'もん'とか言うなぁ!一瞬だが、アーシアとお前のダブル金髪美少女『僧侶』を夢見たんだぞ!」

 

「人の夢と書いて儚い」

 

「童貞の夢なんてそんなモンだろ」

 

「そこ!シャレにならないから止めろ!」

 

横で呟いた小猫と陸兎に、ビシッと指を指しながら叫ぶ一誠。

 

「ギャスパー、お願いだから外に出ましょう?」

 

「嫌ですぅーーー!」

 

「ほら、部長が言ってるんだからさ――」

 

「ヒィーーー!」

 

リアスに言われても外に出ることを拒否するギャスパーに、一誠が若干苛立ちながら彼の腕を掴もうとした瞬間、ギャスパーの悲鳴と同時に空間が揺らいだ。

その瞬間、一誠やリアス達は石像のように動かなくなった。まるで、ギャスパー以外の時間が止まっているかのようだ。

 

「お?なんか、急に静かになったな」

 

「ふえ?」

 

しかし、陸兎だけは普通に動いており、真顔で周囲を見渡しながら呟いた。

それを見たギャスパーが驚愕の表情となる。

 

「な、なんで動けるんですか!?僕の力が発動してるはずなのに!」

 

「一瞬だが体に奇妙な感覚を感じたからな。咄嗟に霊力を体に纏って、そいつを防いだんだよ」

 

「そ、そうなんですか・・・初めて見ました。僕の力が発動しても動ける人・・・」

 

見ると、彼の周りに白いオーラのような纏っているのをギャスパーは感じた。

近づくと肌がピリピリするが、それ以上に自身の力が発動しても動ける存在にギャスパーは少しだけ安心を感じていた。何せ、これまで自身の神器が発動して、動けた者を見たことがなかったから。

そんな彼の心情を知らない陸兎は、力の正体について問う。

 

「そんで、見た感じ周りの奴らがポーズ画面のような状態になってるが、これはお前の力ってのが原因なのか?」

 

「はい、僕の神器の力なんです。僕の神器は『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』と言って、僕の目に写った物や人の時間を停止させてしまうんです」

 

「そりゃまた反則な神器なこった。イッセーが宿したら、100億パーセント覗きに使うだろうよ・・・待てよ、時間が止まっているということは・・・」

 

ギャスパーの説明を聞いた陸兎は、物凄く悪い顔を浮かべる。

しばらくして、神器の力が解けて、一誠たちが動けるようになった。

 

「あれ?八神、お前いつの間にこいつの隣に・・・」

 

『ブフッ』

 

一誠が呟いた途端、他の部員たちが彼の顔を見て笑い出した。

急に笑い出した部員たちを見て、困惑する一誠。

 

「え?どうしたんですか部長?皆も俺を見て笑って・・・」

 

「イッセー、鏡を見なさい」

 

リアスに言われて、一誠は部屋にある鏡を見る。

 

「な、なんじゃこりゃーーー!?」

 

鏡に写っていたのは、う○この形をした眼鏡とチョビ髭のラクガキが施された自身の顔だった。

 

「ガハハハハハハッ!」

 

いつの間にか顔にこんなラクガキをされている事に驚いていると、陸兎が腹を抱えて爆笑した。

一誠はすぐに彼が犯人だと察した。

 

「八神ぃ!テメェの仕業か!?」

 

「悪ぃな!最近、お前を弄るのが少なくなってる気がしてな。せっかく、お前らが動けない状況なんだから、普段できないボケをかましてやろうと思ってな。似合ってるぜ、う○こ眼鏡www」

 

「うるせぇ!そんなモンに気合い入れんでえぇわ!」

 

怒る一誠だったが、割り込むようにリアスが陸兎に問う。

 

「ちょっと待って。陸兎、もしかしてだけど、貴方ギャスパーの力が効いてなかったの?」

 

「あぁ、咄嗟に霊力を纏って防いだ」

 

「流石ね・・・最強の退魔師の名は伊達じゃないわね」

 

まだ見えぬ陸兎の力に戦慄するリアスだった。

 

 

 

 

その後、リアスと朱乃と木場の三人は、会談の打ち合わせのため席を外し、残りのメンバーは外でギャスパーの特訓をすることになった。

 

「嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ほら走れ!モタモタしてると、このデュランダルの餌食になるぞ!」

 

デュランダルを持ったゼノヴィアに追いかけられながら悲鳴を上げるギャスパー。

 

「吸血鬼狩りみたいだな」

 

「つか、最早イジメだろこれ?」

 

一誠と陸兎がそんな会話をしてると、ギャスパーが木に背中を付けながら座り込んだ。

 

「うぅ・・・どうして、こんなことをするんですか?」

 

「健全な精神は健全な肉体に宿る。まずは体力から鍛えるのが一番だ」

 

「ゼノヴィアの奴、随分と楽しそうだな」

 

「え、えぇ・・・あぁいうノリがお好きなみたいですね・・・」

 

楽しそうに笑みを浮かべるゼノヴィアを後ろで見ながら呟く一誠とアーシア。

 

「もうダメですぅ!一歩も動けません!」

 

「ギャー君。これを食べればすぐに元気になる」

 

ギブアップ宣言するギャスパーに、小猫が近づいた。その手にヴァンパイアが苦手とするニンニクを持ちながら。

 

「ニンニク嫌いーーー!」

 

「好き嫌いは駄目だよ、ギャー君」

 

当然ギャスパーはニンニクを持つ小猫から逃げ出し、小猫は手にニンニクを持ったままギャスパーを追いかける。

 

「小猫ちゃんもちょっと楽しそうですね」

 

「小猫ちゃんがこんなことをするなんて意外だな。いつも、八神に弄られてるからか?」

 

「おいおい、お前程弄ってるつもりはねぇよ」

 

「そう言われても嬉しくねぇよ・・・」

 

意外な行動をしてる小猫に、戸惑い気味のアーシアと一誠。

一誠はいつも陸兎に弄られている鬱憤晴らしのつもりだと考えていたが、当の本人は自分よりも弄っているつもりはないと言い、いつも弄り倒されている身としては、正直言われてもあまり嬉しくない発言にげんなりする一誠。

 

「おぉ、やってるな」

 

すると、匙がこちらにやって来た。

 

「お、文字じゃねぇか」

 

「だから、匙だ!漢字が二文字に増えてるぞ!」

 

相も変わらず名前を間違える陸兎に、自身の苗字の漢字が二文字になっていることも含めてツッコミを入れる匙。

一誠がここに来た理由を聞く。

 

「なんのようだ匙?」

 

「解禁された引き篭もり眷族がいると聞いて、ちょっと見にな・・・おぉ!金髪美少女かよ!」

 

「女装野郎だけどな」

 

「マジか・・・こんな残酷な話があっていいものか」

 

ギャスパーを見て興奮する匙だったが、男だと分かった途端、両手と両膝を地面に付けてショックを受けていた。一誠も気持ちは分かるぞ、と言わんばかりの顔で頷く。

すると、陸兎が首を横に動かしながら口を開いた。

 

「ところで・・・さっきから如何にも無職って感じがするおっさんがこっちを見てんだけど、お前らの知り合いか?」

 

「失礼だな。これでも、堕天使のトップなんだぜ俺は」

 

『えっ!?』

 

声がした方に振り向くと、浴衣を着た金髪の男がこちらに視線を向けながら立っていた。

その男は一誠に声を掛ける。

 

「よぉ、赤龍帝。この間以来だな」

 

「アザゼル・・・!」

 

一誠はこの男をよく知ってた。自分のお得意様であり、堕天使の総督だと、この間目の前で堂々と宣言してた。

他の面々も数日前にアザゼルの事を一誠から聞いており、それぞれの武器を手に持ちながら、アザゼルを囲むように立つ。

そんな彼らに、アザゼルを忠告する。

 

「やめとけ。お前らが束になったところで勝負にすらならねぇよ。まぁ、そこの十天師が相手なら、良い勝負ができるかもしれないな」

 

陸兎の方を指差しながら告げるアザゼルだが、一誠たちは武器を収める様子は見せない。尚、指を差された陸兎だけは、『洞爺刀』を出す様子も見せず、吞気な顔でアザゼルを見てた。

警戒しながら、一誠がアザゼルの目的を問う。

 

「何しに来たんだ・・・?」

 

「ちょっと散歩がてら見学に来たんだ。それと、聖魔剣使いとそこにいる十天師、『白鬼(びゃっき)』に用があってな」

 

「・・・木場ならここにはいない」

 

「そうか。まぁいい。本命はどちらかというと、お前さんだからな。白鬼(しろおに)君」

 

そう言うと、アザゼルは陸兎の方に視線を向ける。

対する陸兎は、少し顔を顰めながら喋る。

 

「とりあえず、白鬼(しろおに)って呼び方は止めろ」

 

「そうか。じゃ、『白鬼(びゃっき)』君で呼ぶぜ」

 

「好きにしろ。んで、なんのようだ?デートのお誘いって訳ではないみてぇだが」

 

「男とデートする趣味なんざ俺にはねぇよ。お前さんの持つ、人工的に作られた神器、誓約神器について聞きたい事があってな」

 

アザゼルの目的が陸兎の持つ誓約神器だと知ると、陸兎は『洞爺刀』を出現させた。

 

「前々からそいつに興味があってな。神器ってのは、元々神が作った異質な力だ。俺も長年研究しているが、まだまだ解明されてないことも結構ある。それを人工的に、ましてや人間が作ったなんて、とてもじゃないが俺には信じられねぇな。少なくとも、そいつは間違いなく人間の領域を超えていると言っていい」

 

「かもな。んで、俺に聞きたいことってなんだよ?」

 

「別に大したことねぇよ。その誓約神器について、お前さんが少しでも知っていることがあれば教えてくんねぇかって話だ。そいつはいつの時代、誰が作り出した物なのか、とかな」

 

誓約神器について少しでも知っていることはないか問うアザゼル。

神器を長年研究している彼にとって、人間が作り出した誓約神器という存在は、神器以上に異質な力なのであろう。

陸兎はひとまず、自分の答えを言う。

 

「悪いが、こいつがいつどこで作られたかは、俺には分かんねぇよ。作った奴に関しても、当時陰陽師に関わってた技術者としか言いようがねぇ」

 

「・・・まぁ、そう言われると思ったよ。誓約神器ってのは神器よりも分からないことだらけでな。俺が800年くらい調査しても、分かったことはこいつが霊力で動いているのと、持ち主が死んだら次の契約者と契約されるまで日本のどこかに飛ばされること。後は神器同様人間にしか宿らないことぐらいだけだ。それ以外の事については調査中だが、一向に進展がない厄介な代物だよ。そいつをただの使い手でしかないお前さんが、詳しい情報を知ってるとはハナから思ってねぇよ」

 

予想通りと言わんばかりの顔で喋るアザゼル。

そんなアザゼルの態度が気に入らなかったのか、陸兎は呆れた様子で口を開いた。

 

「そう思うなら、最初っから聞くなよ。いい年したおっさんの癖に、こういうのには疎いんだな。そんなんじゃ、女ができてもすぐに離婚されるぞ」

 

「な、何言ってんだ!?俺は別に女になんて興味はねぇぞ!」

 

女性関係の話になった途端、何故か焦り出したアザゼル。

それを見た陸兎は、何かを察したのかニヤリと笑いながら言葉を続ける。

 

「へぇー、そうかい。ところで、あんたの周りって結婚してる奴はいるか?」

 

「・・・割といる」

 

「なるほど。そんで、周りが次々と結婚してる状況を見て、あんたはどう思っている?」

 

「・・・正直、ちょっとだけ羨ましいと思っている」

 

「だけど、あんたは何万年も生きてるけど、今まで一度も結婚したことが・・・」

 

「・・・ない」

 

「やっぱりな。初めて見た時から結婚した奥さんに逃げられてそうな奴だなって思ってたよ。飽きるほど長生きして、堕天使のトップになっても、生活に関してはダメダメだな。まるで駄目なおっさん・・・」

 

陸兎はとびっきりの悪い顔を浮かべながら一言。

 

「マダオ♪」

 

「ぶっ殺すぞ!」

 

今まで生きた人生の中で一番と言える程の不名誉なあだ名で呼ばれてキレるアザゼル。

ひとまず冷静になったアザゼルは、ギャスパーの神器についてアドバイスした。

 

「とにかく!俺の用事は終わりだ。近いうちに会談でまた会えるだろうから、その時はよろしくな・・・あ、言い忘れてたが、そこのヴァンパイアの神器を制御したかったら、赤龍帝の血を飲ませるか、ヴリトラの力で余分なパワーを吸い取るといい。じゃあな」

 

そう言い残すと、アザゼルは去っていった。

堕天使総督の突然の来訪に困惑してた一誠たちだったが、気を取り直してギャスパーの特訓を再開するのであった。




神器好きのアザゼルが、人工的に作られた誓約神器に興味を持たない訳がないんですよね。
それと、見て分かる通り、この作品のまるで駄目なおっさん、略してマダオ枠はアザゼルです(笑)。流石にアザゼルの立場上、本家マダオのような無職ネタはできませんが、それなりの扱い?にできよう私なりに頑張りたいと思います。


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後輩は先輩の背中を見て育つ

アザゼルが去った後もギャスパーの特訓は続いた。

途中眠いとの理由で陸兎は帰ったが、一誠たちは夜中までギャスパーの特訓をしていたのだが・・・

 

「んで、色々試した結果、引きこもりに逆戻りと」

 

「すまん・・・」

 

陸兎に言われて、気まずい様子で謝る一誠。

陸兎が帰った後、体育館に移動し、アザゼルに言われた通り、匙の神器をギャスパーの頭に繋いで、力を抑えることはできたが、肝心のギャスパーがその力をコントロールすることができず、この特訓は失敗に終わった。

結果、めげてしまったギャスパーは、翌日再び部屋に閉じこもってしまったのだ。

 

「ギャスパー、出てきて頂戴。無理に出そうとした私が悪かったわ」

 

「ふぇぇぇぇぇぇん!」

 

リアスが優しく声を掛けるが、部屋にいるギャスパーは大声で泣き叫ぶばかり。

 

「すみません、部長。忙しい時期なのに呼び出しちゃって」

 

「気にしないで。貴方たちはこの子の為に頑張ってくれたもの」

 

謝る一誠に、気にするなと返したリアスは、ギャスパーの経歴について話し出した。

 

「ギャスパーの父親は名門のヴァンパイアなのだけれど、母親は人間なの。ヴァンパイアは悪魔以上に血統を重んじる種族だから、ギャスパーは家で差別的な扱いを受けていたわ。それでも仲間が、友達が欲しかったギャスパーは、今度は人間界に来たけど、そこでは化物扱いされて、更には時間を止めるなんて力まで授かった上に、制御もできない。いつしか周りから怖がられ、嫌われるようになったわ。自分が気づかない内に何をされるのか分からない。そんな存在と一緒にいたいとは思わないでしょうね」

 

暗い顔で語ったリアスは、扉の方を見る。

部屋の中からギャスパーの泣き声が聞こえてくる。

 

「僕、こんな力なんていらない。皆止まっちゃうから、皆怖がるし、嫌がる・・・ぐすっ・・・僕だって、仲間の、友達の止まった顔を見るのはもう嫌だぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ギャスパーの悲痛な叫びを聞き、何とも言えない顔になるリアスと一誠。

すると、今までの話を黙って聞いてた陸兎は、頭をかきながら口を開いた。

 

「しょうがねぇなぁ・・・」

 

「八神?」

 

「どうするの?」

 

扉の前に立った陸兎に、疑問の声を上げる一誠とリアス。

次の瞬間、陸兎は『洞爺刀』を振り、封印されているはずの扉を真っ二つに斬った。

 

「「「ええええええ!!?」」」

 

あっさりと封印の扉を破った陸兎を見て、一誠とリアス、中にいるギャスパーさえも驚きの声を上げた。

そんな彼らの様子を気にともしない陸兎は、そのまま部屋の中に入り、ギャスパーを肩に担いだ。

 

「ふぇ!?」

 

「ちょっくら借りてくぞ」

 

「待ちなさい!ギャスパーをどこに連れて行く気!?」

 

慌てながら聞いてくるリアスに、陸兎は堂々と答えた。

 

「ちょっくら、こいつと散歩してくるわ」

 

そう言うと、陸兎はギャスパーを担いだまま、窓から旧校舎を出た。

残されたリアスと一誠は、二人が出ていった窓を呆然と見つめる。

 

「えーと・・・どうします?部長」

 

「・・・ひとまず、彼に任せましょう」

 

ギャスパーの事は陸兎に任せると決断したリアスは、祈る様に青空を見上げた。

 

 

 

 

一方、外に出た陸兎は足を宙に蹴り続けながら空を飛んでいた。

 

「ふぇぇぇぇぇぇ!なんでお空飛んでいるんですか!?陸兎先輩って悪魔じゃないですよね!?」

 

「体鍛えりゃ、人間空だって飛べる」

 

「いや、普通無理ですよね!?」

 

担がれたまま叫んでいるギャスパーに、淡々と答えながら飛ぶ陸兎。

やがて、町の真ん中まで辿り着くと、陸兎は軽々と地面に着地し、肩に乗せたギャスパーを降ろした。

 

「うぅ・・・まさか、こんな形で連れ出されるなんて思いませんでした・・・」

 

「こうでもしねぇと、お前一生引きこもるだろ。途中何回も時間停止しやがって・・・」

 

「・・・やっぱり、陸兎先輩には効かないんですね」

 

途中何度も神器を発動させても、止まることなく飛び続けてた陸兎を見ながら、ギャスパーは呟く。

今まで人間から化物呼ばわりされていたが、この人なら、自分の力を怖がらず、受け入れてくれるのだろうか。

 

ぐぅ~

 

そんなことを思っていると、ギャスパーの腹部から可愛らしい腹の虫の音が鳴った。

 

「どうやら、腹は主人よりせっかちみたいだな」

 

「あうぅ・・・」

 

陸兎の指摘に、恥ずかしそうに頬を赤めるギャスパー。

ひとまず腹ごしらえをしようと、二人がやって来たのは、町の中にある小さな定食屋だった。

 

「陸兎先輩、ここは・・・?」

 

「俺がよく行く食堂だ。量が多いし、値段も良心的だ」

 

「でも、僕お金持って・・・」

 

「安心しろ。今日は全部俺の奢りだ。おばちゃん、いつもの頼む。お前はどうする?」

 

「えーと・・・おまかせでお願いします」

 

曖昧な答えにも、亭主と思われる女性は微笑みながら頷き、料理を作り出した。

数分後、それぞれの料理が届いたのだが・・・ギャスパーには唐揚げ定食が、陸兎にはご飯の上に溢れんばかりの餡子が乗せられた見るからに激甘な丼が置かれた。

あまりにも得体が知れない料理に、ギャスパーは恐る恐る問い掛ける。

 

「り、陸兎先輩、この料理はいったい・・・?」

 

「宇治銀時丼だ。運動した後はこれが一番だと言われている最強の料理だ。ほれ、お前も食ってみろ」

 

「え!?これをですか!?」

 

驚きながら、ギャスパーはその宇治銀時丼を見つめる。

甘さの大草原と言えるくらい餡子が敷き詰められており、見るだけで胸焼けしそうだ。

絶対に美味しくない。だけど、先輩が注文したのなら、もしかしたら美味しいかもしれない。

覚悟を決めたギャスパーは、箸を手に取り、餡子が乗ったご飯を口に入れた。

 

「!?」

 

その瞬間、ギャスパーの目が大きく見開かれた。

しばらくの間、ギャスパーは無言だったが、ゆっくりと箸を置いて一言。

 

「・・・もう、いいです」

 

口内に広がる強烈な甘味を感じながらギャスパーは思った。

この人の舌は何か特殊な呪いでも掛けられているのだろうかと。

 

 

 

 

その後も陸兎は色んな場所にギャスパーを連れ回した。

 

「ヒイイイイイイ!!」

 

「おい!吸血鬼がゾンビ相手に怖がってんじゃねぇ!」

 

「そう言われても怖いものは怖いんですぅーーー!」

 

ゲームセンターのゾンビゲームで遊んだり。

 

 

 

 

「今だ!神器を発動させろ!」

 

「は、はい!」

 

カキーン!

 

「(これ、何の意味があるんだろう・・・?)」

 

バッティングセンターで疑問を浮かべながらもギャスパーが丁度いいタイミングでボールを停止させ、それを陸兎が打ったり。

 

 

 

 

「気合い入れろギャスパー!こんなんじゃ、ポピパ愛が伝わらねぇぞ!もっと腕を大きく振って、会場全体に響くよう叫んで!」

 

「ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!」

 

ライブハウスで行われている推し(ポピパ)のライブで、一緒にペンライトを振り回しながら盛り上がり(この時、二人は『ポピパLOVE』と書かれた鉢巻きを頭に巻いていた)。

 

 

 

 

「というわけで、山登るぞ!」

 

「いきなり!?いくらなんでも唐突過ぎませんか!?」

 

「男はなぁ、ふとした瞬間山を登りたくなる時が訪れるのさ。そんじゃ、行くぞ!」

 

「ちょ、登るって、そのままてっぺんまで飛ぶんじゃ!?」

 

「そのまさかだぁーーー!」

 

「ヒイイイイイイ!」

 

ギャスパーを抱えたまま、駒王町にある山の頂上までひとっ飛びし

 

「どうだ?頂上から見た景色は?」

 

「凄い・・・テレビやパソコンで見たものと全然違います・・・」

 

山の頂上から見える駒王町の街並みを堪能したら

 

「うしっ!そろそろ日も暮れるし、帰るか!」

 

「帰るって・・・まさか!?」

 

「当然、来た道を戻るに決まってんだろ・・・ダイナミックになぁ!」

 

「やっぱりぃぃぃぃぃぃ!!」

 

猛スピードで山を下るのであった。

 

 

 

 

そんな感じで遊び回ってたら、あっという間に夕方になった。

 

「つ、疲れました・・・」

 

一日中陸兎に振り回されたギャスパーは、疲れた様子だった。

そんな彼に、陸兎は今日の感想を聞く。

 

「んで、今日一日外に出てみてどうだった?」

 

「・・・正直、無理矢理連れ出された上に、色々振り回されたりして散々でした。でも・・・」

 

一拍空けながら、ギャスパーは笑顔になって言った。

 

「とっても楽しかったです!色んな所に行って、美味しいものを食べたり、色々遊んだり、綺麗な景色を見れて、僕が生きた人生の中で一番笑顔になれた日でした!」

 

「だろ。引きこもってたら、こんな体験はできないだろうよ」

 

陸兎がそう言うと、ギャスパーは顔を俯かせながら陸兎に問いかけた。

 

「陸兎先輩は・・・自分の力が怖いって思わないんですか?」

 

「思わねぇよ。この力があるから、俺はテメェの護りたいモンを護ることができるからな」

 

きっぱりと言った陸兎に、ギャスパーは一瞬驚いたが、再び暗い顔になって口を開いた。

 

「僕にだって・・・護りたい人達はいます。でも、僕の力は皆を不幸にします。いつか僕の力が護りたい人達の時間さえも止めてしまうかもしれない・・・!皆が止まってしまった世界で、独りぼっちになってしまうことが怖いんです!だから、僕は――うみゅ!?」

 

喋ってる途中のギャスパーの頬を両手で抓り、彼の言葉を遮る陸兎。

 

「はいはい、そういう暗いのは無しだ。そもそも、テメェの毛先から何まで時間が止まる世界なんざ一生起きやしねぇよ。そうじゃなきゃ、歴史なんてモンはこの世に生まれてねぇだろ」

 

「でも、もしかしたら今後そうなるかも・・・」

 

「心配すんな。仮にもし、そんな世界が来たとしても・・・」

 

陸兎はギャスパーに向けて、優しく微笑みながら言った。

 

「俺はちゃんと、お前の前で動いてやるよ。めちゃくちゃ怠くて動くのが面倒な時が来てもな」

 

そう言いながら、ギャスパーの頭を撫でる陸兎。

目頭が熱くなるのを感じながら、ギャスパーは震える声で口を開いた。

 

「本当に動いてくれるんですか?途中で止まったりしませんよね?」

 

「あったりめぇよ。こちとら後輩に追い越されるほど柔な背中はしてねぇよ」

 

そう言って、陸兎はギャスパーに背中を見せながら語る。

 

「覚えときな後輩。侍はな・・・果たせない約束はしねぇんだ」

 

そう語る陸兎の背中は、夕焼けに照らされて光り輝いていた。

普通の人から見たら、何の取柄も無いちっぽけな背中。けれど、ギャスパーにとっては、あまりにも大きく、自分の闇を払う光のようだった。

気づいたら、ギャスパーは涙を流しながら泣いていた。

 

「おいおい、泣くなよ。男は便所以外の場所で泣いちゃいけねぇよ」

 

「うぅ・・・だってぇ・・・!」

 

「たく、世話が焼ける後輩だぜ・・・」

 

やれやれと言った様子で、陸兎はギャスパーが泣き止むまで、彼の頭を撫で続けた。

 

 

 

 

「お!やっと戻ったな」

 

「お帰り陸兎君。その様子だと、ギャスパー君と打ち解けられたみたいだね」

 

ギャスパーの部屋に帰って来た二人を出迎えたのは、一誠と木場の二人だった。

陸兎とギャスパーが戻り、この場にオカルト研究部の男子が揃った所で、一誠が上機嫌に口を開いた。

 

「丁度良かった。俺は今、オカルト研究部男子チームによる連携を考えてたんだ!」

 

「連携?」

 

「何でも、イッセー君が僕たち四人の連携を思いついたみたいでね。興味深い話だったから、ここで二人が戻るのを待ってたんだ」

 

「ふーん、そんで、その連携ってのはなんだ?」

 

興味無さそうな陸兎だったが、一応聞くことにした。

一誠は自慢げに笑いながら、その連携について話した。

 

「まずは俺が力を貯める!その貯めたパワーをギャスパーに譲渡させる!そして、ギャスパーが時間を止める!その間・・・俺は停止した女の子を触りたい放題だ!」

 

「は?」

 

「えーと・・・それだと僕と陸兎君は必要ないんじゃないかな・・・?」

 

あまりにもくだらない。というか、明らかに一誠しか得しない連携に、困惑する陸兎と木場。

 

「いいや!俺がエッチな事をしている間に敵が攻めてくるかもしれないだろ!お前と八神は命懸けで俺を護ってくれ!これぞ、完璧なれん――フゲェ!?」

 

興奮気味に語る一誠の頭を陸兎が『洞爺刀』で思いっきり叩いて黙らせた。

一誠は体を床に埋め込みながら気絶し、彼を気絶させた陸兎は、ゴミを見るような目を一誠に向けながら言った。

 

「こいつは一度警察に突き出そう。その方が世のためになる」

 

「・・・友人をあまり悪く言いたくないけど、僕もそうした方がいいんじゃないかなって思ったよ」

 

普段は一誠に肯定的な木場も、こればっかりは難色を示した。

その後はアーシア達が部屋に入って来て、アーシアが人見知りなギャスパーの為に、頭に紙袋を被せるという提案をし、それをギャスパーが気に入ったりと、色々ありつつも、最終的に皆で焼肉を食いに行くことになり、三年生を除く陸兎たちオカルト研究部の面々は、和気藹々とした様子で部屋を出た。

尚、一誠はそのまま放置された。ついでに言うと、木場とギャスパーからは忘れ去られ(陸兎は気づいた上で放置&高速で顔に紙を貼り付けた)、後から来たアーシア達に至っては、いたことすらも気づいてもらえなかった。不憫な男である。

数時間後、部屋に入って来たリアスは、体を床に埋められ、顔に『私は後輩を犯罪に利用しようとした変態野郎です』と書かれた紙が貼られたまま気絶している一誠を発見し、大いに驚くのであった。




あれ?ギャスパーってヒロインだったっけ?
それは置いといて、今回でようやく4章の半分行きました。逆に言えば、まだ半分もあります。色々内容が濃いんじゃよ原作4巻は。


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女は顔よりも心で決まる

今回の話、前半は天使長とのやり取り、後半は陸兎と朱乃の会話です。


ギャスパーが解放されてから数日後。

この日陸兎と一誠は、放課後朱乃に呼ばれて、神社に来ていた。

 

「なぁ、八神。神社は悪魔にとって超アウェイだよな。これ俺が入って大丈夫なのか?」

 

「大丈夫だろ。朱乃曰く、この神社は悪魔でも安全に入れる術を施してるみたいだからな」

 

神社に続く階段を登りながら、そんな会話をする一誠と陸兎。

すると、見えた所で、巫女服を着た朱乃が二人を出迎えてくれた。

 

「いらっしゃいませ。陸兎君、イッセー君。ごめんなさいね、急に呼び出してしまって」

 

「いえいえ、気にしてませんよ」

 

「しっかしまー、随分懐かしいモンだ。俺とお前が初めて会ったのは、この門の前だったよな」

 

陸兎が懐かしむように眺めていると、朱乃が陸兎と初めて出会った時のことを思い出しながら微笑んだ。

 

「ウフフ、そうでしたわね。あの時は死んだ魚のような目をした殿方が、地面に寝転がっていたので、かなり警戒しました。あまりにも目が死んでいたので、人に化けたお魚が陸で死体ごっこをしてるのかと思いましたわ」

 

「死体ごっこって・・・独特過ぎる表現ですね、朱乃さん」

 

そう言って、若干引き気味になる一誠。

そんな彼をよそに、陸兎が神社に呼んだ理由を聞く。

 

「そんで、俺らをここに呼んだ理由はなんだ?」

 

「私はある方を出迎える為に、ここにいますわ」

 

「ある方?それはいったい・・・」

 

「彼らが赤龍帝と十天師ですか?」

 

ある方について一誠が聞こうとした瞬間、新たに第三者の声が聞こえた。

声がした方に振り向いた途端、空が光り出して、そこから人が現れた。

白いローブを身に纏い、背中には黄金の十二枚の羽が生えている髪の長い青年だ。

 

「初めまして、兵藤一誠君に八神陸兎君。私はミカエル、天使の長をしています」

 

そう言って、天使の長ミカエルは優しく微笑むのであった。

 

 

 

 

朱乃に案内されて、陸兎たちは神社の本殿に入る。勿論、ミカエルも一緒だ。

ミカエルと対面になるように座る陸兎と一誠。何処か緊張気味の一誠と違い、陸兎は変わらず平常心のまま、ミカエルに問い掛ける。

 

「えーと、ミカエル様、でしたっけ?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「早くしないと、イッセーが緊張死しそうなんで、早速本題に入ってもらっていいですか?」

 

「おい!確かに緊張はしてるけど、流石の俺もそれで死なんわ!」

 

気遣っているのかそうでないのか分からない陸兎の発言に、ツッコミを入れる一誠。

そんな二人をミカエルは微笑ましく見てると、彼らの間に淡い光が輝き出した。

 

「なんだ!?」

 

一誠が腕で目元を隠しながら驚く。

光は徐々に弱まり、やがて消えたが、代わりに一本の剣が宙に浮いていた。

 

「これはドラゴンスレイヤー、龍殺しの剣『アスカロン』です。これを貴方がたに授けようと思いましてね」

 

「これを!?」

 

「・・・なんで、俺らなんすか?」

 

驚く一誠に対して、陸兎はこの剣を自分たちに与えようとするミカエルの真意を問う。

 

「三大勢力による大戦後、大規模な(いくさ)こそ無くなりましたが、小規模な鍔迫り合いは今でも続いてます。このままこの状況が続けば、いずれ三大勢力は滅ぶ。或いは他の勢力の横合いを受けるでしょう。八神陸兎君、君にこの剣を託そうと思ったのは、君並びに十天師の存在が、三大勢力を始めとした各勢力同士による争いの抑止力になって欲しいと考えています。現に貴方たちは人間でありながら、強大な存在とも対等に戦える力を持っています」

 

「抑止力ね・・・いいのかい?人間は異形に対して良い感情は持ってねぇ。その内、あんたらに牙を剥く可能性だってある。そんな存在にこんな上等なモン渡しちまって」

 

「心配してませんよ。少しだけ、魔王サーゼクス殿から貴方の事を聞きましたが、貴方は少なくとも我々の敵になる人間ではない。私はそう信じています。それに、コカビエルを倒してくれた貴方には非常に感謝しています。それは天使だけでなく、堕天使、悪魔も同じ気持ちです。これは三大勢力からの御礼と受け取って構いません」

 

「それは光栄なこった。けど、悪いがこいつはイッセーにやってくれ」

 

「え!?」

 

一誠に預けるべきだと主張した陸兎に、一誠は驚きながら彼に視線を向けた。

一方、ミカエルは表情を変えぬまま、陸兎が一誠を選んだ理由を聞く。

 

「理由を聞いてもいいですか?」

 

「まず一つ、俺は基本この『洞爺刀』一本で戦うからだ。まぁ、夜叉神流には二刀流の技もあるが、もう一本の剣は木場がいれば簡単に手に入るし、最悪こいつの禁手化で補える。二つ目は今のイッセーはハッキリ言ってひよっこもいいとこだ。けど、面倒なことに、こいつは色んな所からモテモテみたいでな。いつ襲われてもいいように、身を守る為の武器は必要だろ。そして三つ目。これは一番重要なことだし、他人に話すのも酷なんだが・・・」

 

「構いません。話していただけますか?」

 

深刻な顔をする陸兎だったが、ミカエルに言われて、意を決した様子で三つ目の理由を話した。

 

「こんな自分は目立ちたがり屋ですって主張してる金ぴかな剣を持って振り回すの、恥ずかしいからヤダ」

 

「そんな理由ぅーーー!!?」

 

まさか過ぎる理由に、一誠の絶叫が本殿に響き渡る。

ミカエルも予想外の答えに、少し困った様子で口を開いた。

 

「ま、まぁ、確かにアスカロンの見た目は結構目立つので、自己主張が激しすぎるかもしれませんね。では、これは赤龍帝に渡します。いいですか?」

 

「はい、それでいいです」

 

ミカエルがそう言うと、一誠は疲れた様子で返事した。

そして、ドライグのアドバイスを受けながら、『赤龍帝の籠手』にアスカロンを同化させることに成功した。

 

「これで用事は済みました。では、私はこれで・・・」

 

「あの!帰る前に一つ貴方に聞きたいことが・・・!」

 

去ろうとするミカエルを慌てて引き止める一誠。

しかし、ミカエルは羽を広げると、全身を光で包み込みながら口を開いた。

 

「生憎今は時間がありません。ですが、会談の席で必ずお聞きしましょう」

 

そう言い残して、ミカエルは光となって消えていった。

 

 

 

 

その後、リアスが神社にやって来たと思ったら、一誠を連れて帰ってしまい、現在は陸兎と朱乃の二人っきりである。

 

「お茶ですわ」

 

「サンキュー」

 

朱乃から渡されたお茶を飲みながら寛ぐ陸兎。朱乃はそれを見ながら小さく笑っている。

場所は違えど、同棲してる二人にとっては、いつもと変わらない日常である。 

お茶を飲んで一息ついたところで、ふと陸兎が口を開いた。

 

「・・・一つ、聞いていいか?」

 

「えぇ、勿論ですわ」

 

朱乃は笑みを浮かべながら聞こうとした。

 

「あのでかカラスと戦った時、あいつが言ってたよな?お前が堕天使の幹部の娘だって」

 

その言葉を聞いた途端、朱乃の顔から笑顔が消えて、表情が暗くなっていた。

 

「本当なら、戦いが終わって家に帰った後で聞くつもりだったが、お前が話したくなさそうな顔をしてたからな。時間を空けて、聞くことにした・・・それで、どうなんだ?」

 

「・・・そうよ。私は堕天使バラキエルと人間との間に生まれた者です」

 

間がありながらも、朱乃は真剣な表情で陸兎の問いに答えた。

そこから彼女は、自分の過去について話し出した。

 

「母はとある神社の娘でした。ある日傷つき倒れていた堕天使の幹部バラキエルを助けて、そのまま恋に落ちました。その時の縁で産まれたのが私です」

 

そう言いながら、彼女は翼を広げた。

いつもの悪魔の翼ではない。片方に悪魔の翼、もう片方に堕天使の翼。見るからに異質な両翼が彼女の背中に生えていた。

 

「悪魔の翼と堕天使の翼、私はその両方を持っています。元々堕天使の羽が嫌で、私はリアスと出会い、悪魔となったの。でも、生まれたのは堕天使と悪魔、両方の翼を持ったおぞましい生き物。フフフ、この身に汚れた血を宿す私にはお似合いかもしれません」

 

そう言って、朱乃は自らを自虐するかのように笑った。

 

「この汚れた翼、陸兎君はどう思います――」

 

「お!今週のジャンプ、ルリドラゴンの連載再開するのかー」

 

「――って、聞いてるの!?」

 

陸兎は朱乃の方を見ず、どこからともなく取り出したジャンプを読みながらくつろいでいた。

 

「あー聞いてる聞いてる。ゴムゴムの実かと思ったらヒトヒトの実モデル'ニカ'だったって話だろ?」

 

「全然聞いてないわよね!・・・いいえ、そうよね。こんな醜い化物の言葉なんて、聞かなくて当然よね・・・」

 

「何言ってんだお前?こんなに顔が良くて、胸もでかい化物がいてたまるかよ」

 

陸兎はきょとんとした顔で言った。

そんな陸兎の反応に、朱乃は一瞬驚いたが、すぐに暗い表情に戻った。

 

「・・・やっぱり、貴方は変わらないのですね。私の正体を知っても、貴方はありのままの自分であり続けている・・・だから、私は――っ!」

 

「やれやれ、初デートで緊張してるJKの顔で何を言うのかと思えば・・・」

 

叫ぶ朱乃の言葉を遮りながら、陸兎は立ち上がり、真剣な表情で朱乃に言った。

 

「お前が誰から産まれようとも、お前はお前だろ。なら、そのままでいいじゃねぇか。誰からの血を引いてようと、お前がお前のままでいる限り、俺はお前のことを嫌いにならねぇよ。寧ろ、このままずっと家にいて欲しいくらいだ。母さんが死んでから、ずっと一人で生きてきた俺だけど、お前やゼノヴィアが家に来てから、毎日が楽しくて仕方がねぇんだ。だから、これからもお前はいつも通りのお前でいろ。例え今みたいにヘラることあっても、俺が受け止めてやるよ。お前のそのでっけぇ胸ごとな」

 

「・・・殺し文句言われちゃいましたわね。そんなこと言われたら、本気になっちゃうじゃない」

 

朱乃は目に涙を溜めながら、けれども笑顔でそう言うと、そのまま陸兎に抱きついてきた。

 

「・・・早速有言実行ってか?」

 

「えぇ、そうよ。少しだけ、このままでいさせて頂戴・・・」

 

「しょうがねぇなぁ。こんな機会、二度と来ねぇだろうからな。お前のその馬鹿デケェ胸、精々堪能させてもらうぜ」

 

「ウフフ・・・(ありがとう陸兎君・・・今はまだ難しいけど、いつか必ず、この想いを貴方に伝えますわ)」

 

密かに秘めた想いを胸に抱きながら、朱乃は陸兎にその身を委ねた。




次回からいよいよ会談が始まります。


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ジャンプ作品の最強ポジションのキャラは割と死にやすい

三大勢力会談開始!遂に十門寺家の当主が登場します。


「それじゃあ、行くわよ」

 

『はい!』

 

リアスの言葉に、今回の会談に出席する眷属が返事する。

部室に残る眷属は、ギャスパーと小猫の二人。ギャスパーは会談中に力が発動したら騒ぎになる恐れがあるので残ることになり、小猫はそんな彼の付き添いである。

 

「ギャスパー、しっかりお留守番してるのよ」

 

「はい・・・ところで、陸兎先輩はいないんですか?」

 

ギャスパーがこの場にいないオカルト研究部の部員の中で唯一の人間である先輩について聞き出す。

 

「陸兎は私たちと違って、人間代表として参加するから、そっちの方にいるわ」

 

「そうですか・・・見送りたかったけど、仕方ありませんよね。陸兎先輩にはよろしく伝えておいてください」

 

「分かったわ。小猫、ギャスパーのこと頼んだわよ」

 

「はい、いってらっしゃい」

 

ギャスパーと小猫に見送られながら、リアス達は今回の会談が行われる新校舎の会議室に向かった。

 

 

 

 

コンコンとリアスが会議室の扉をノックする。

 

「失礼します」

 

そう言って、リアスは扉を開けて部屋の中に入る。

室内には既に椅子に座っている三大勢力のトップに、彼らの護衛と思わしき人物が数人後ろに控えている。

悪魔側はグレイフィアに生徒会長のソーナと副会長の椿姫、堕天使側は白龍皇のヴァーリ、天使側は・・・

 

「イリナ!?」

 

「っ!?・・・・・」

 

イリナの姿を見て、驚きの声を上げるゼノヴィア。対するイリナは一瞬驚いたが、すぐに顔を背けた。

 

「紹介するよ。私の妹とその眷属だ。先日のコカビエル襲撃の件で活躍してくれた」

 

サーゼクスが他の陣営にリアス達を紹介した。

 

「ご苦労様でした。改めてお礼申し上げます」

 

「悪かったな。俺のとこのコカビエルが迷惑かけた」

 

「なんつー態度だ・・・」

 

礼を言ったミカエルに対して、悪びれる様子もなく謝罪するアザゼル。その態度に一誠が嫌悪感を露わにする。

 

コンコン

 

すると、新たに扉がノックされる音が聞こえた。

 

「失礼します」

 

そう言って、入って来たのは五人の少年少女たち。その全員が上位の存在と対等に戦える実力を持ち、異形の脅威と言われる存在、十天師に属する人間だ。

頭目の十門寺剣夜を初め、関東を担当する八神陸兎と七星麗奈、東北・北海道を担当する無六龍牙と四宮聖良。十人いる十天師の内、半分が今回の会談に参加するのだ。

一切の乱れなく堂々と入って来た彼らに、この場にいる者達はただならぬ緊張感に包まれる。

横一列に並んだ剣夜たちは、その場に片膝をついて、テーブルに座っている各勢力のトップに(こうべ)を垂れる。

 

「三大勢力のトップの皆様方、もうじき我らが(おう)がご到着いたします。今しばらくお待ちいただけたい」

 

真ん中にいる剣夜が頭を下げながらそう告げる。

堂々と頭を垂れる彼らの姿に、周りの者達は呆然とする。普段から無気力でだらしない印象を持つ陸兎も、きちんとした姿勢で頭を下げており、彼を知っている者達は驚いていた。

尚、彼の友人である一誠はというと・・・

 

「(あの聖良ちゃんの胸、しゃがんでるからこそ目立つあのナイスボディ!大きさからして、部長たちにも引けを取らないおっぱい・・・お触りしたい)」

 

「おい、そこの赤ガエル」

 

陸兎には興味を示さず、聖良の胸を嫌らしい目で見てると、彼に声を掛ける者がいた。

視線を向けると、聖良の隣にいた龍牙がゴゴゴゴゴっと殺気を出しながら一誠を睨んでいた。

 

「なに聖良のことを嫌らしい目で見てやがんだ・・・殺すぞ?」

 

その凄まじい殺気に、一誠や彼の隣にいるアーシアは顔を青くし、他のグレモリー眷属が腰を低くして、いつでも飛び出せるよう警戒する。

剣夜が「龍牙」と彼を咎めるように言うと、龍牙は「チッ」と舌打ちしてから殺気を収めた。

それ見てた周りは、喧嘩ごとにならなかったことに、ホッと安堵した。

その時、会場の空気が揺らいだ。

 

ドスン!

 

『!?』

 

突如響いた大きな足音と異質な気配に、この場にいる十天師を除く全員が大きく反応した。

一方、十天師たちは立ち上がると、開きっぱなしになっている扉の脇に寄った。まるで、これからやって来る者の道を邪魔しないように。

 

ドスン!ドスン!

 

足音はだんだん大きくなっていき、それにつれて気配も大きくなっていく。その気配に、一誠たちはそうだが、サーゼクスやアザゼルなどの上位の存在も冷や汗をかきながら警戒している。

やがて、入口の方に巨大な人影が現れ、それが部屋に入ったことで、その姿を現した。

そこにいたのは一人の男・・・いや、漢だった。

筋肉が異常なまでに目立つ鍛え上げられた肉体。肩まで伸びた長い金髪。100人中100人全員が見れば逃げ出すであろう悪鬼の如き強面に、三日月の形をした白い髭。上はアザゼルのような黒いジャケットを身に纏い、下もまた黒のズボンを履いている。

この漢こそ、剣夜の父にして、十師族で最も大きな力を持つ家系、十門寺家の現当主。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十門寺(じゅうもんじ)道玄三武郎(どうげんざぶろう)

 

その漢が部屋に入った瞬間、空気が完全に変わった。

 

「(な、なんだよこの爺さん!本当に人間か!?)」

 

一誠を始めとしたグレモリー眷属は、その強大な威圧感に恐怖し、体の全細胞が震え上がるのを感じた。見ると、ソーナや椿姫、イリナも同じような反応だ。

三大勢力のトップやヴァーリといった上位の存在は、震えはしなかったが、その顔は険しいままだ。

彼らが道玄三武郎に感じたもの・・・それは'死'だった。

圧倒的強者による、命乞いすら許さぬ蹂躙。あらゆる生物の頂点に立つ者のみ許された特権。それを彼らは、自らの肌、骨の髄、血液、一つ一つの細胞で本能的に感じ取っていた。

 

「ハァ!ハァ!ハァ!」

 

アーシアが苦しそうに息を何度も吐いていた。無理もない。こんな居るだけでも命を取られてしまいそうな空間に、か弱い彼女がまともに居られるはずがない。

そんなアーシアの様子を隣で見た一誠は、恐怖を必死に抑えながらアーシアの手を掴むと、彼女は力強くその手を掴み返した。

呼吸は先程に比べたら、大分マシになっていき、震えこそあるが、彼女は一誠に視線を向けて、大丈夫だと伝えた。

そうしていると、道玄三武郎の他に、二人の人間が入って来た。

一人は剣夜の母である十門寺桜蘭。公開授業で見た時と変わらず、美しい美貌と凛とした佇まいで、道玄三武郎の後ろを歩く。

そして、もう一人は道玄三武郎程ではないが、筋肉が目立つ茶髪の大男だった。

 

「(誰だ?このおっさん・・・)」

 

見知らぬ人物に一誠が疑問符を浮かべると、大男が前に出て、二つある椅子を引くと、その椅子に道玄三武郎と桜蘭が座り、大男はそのまま剣夜たちがいる方に移動して、彼らの隣に立った。

そして、二人が椅子に座り終えたところで、道玄三武郎は口を開いた。

 

「悪ぃ、ちょっくら遅れた」

 

「い、いや、気にしてない」

 

戸惑いながらもサーゼクスが冷静に対応する。

異質な雰囲気を漂わせる道玄三武郎の存在に、会場の空気が重苦しくなる。

 

「いやはや、すみません。お待たせして申し訳ない」

 

そんな空気を一変させるような爽やかな声が聞こえて、開いてる扉から日本神話の代表である大旦那と彼の部下と思わしき顔を隠した人型のあやかし数人が入って来た。

駒王町で会った時と違い、大旦那は豪華な黒い着物を身に纏い、額には鬼を象徴とする二本の角が生えていた。

 

「席を見るからに、どうやら俺が最後みたいですね。自国へ招いたというのに、その国の神話代表が一番最後に来てしまうとは・・・慙愧の念に堪えません」

 

「・・・いえ、時間通りなので大丈夫です。どうぞお座りください」

 

「寛大な心、感謝致します」

 

そう言って、ミカエルに一礼すると、大旦那は椅子に座り、部下たちは後ろに控えた。

すると、アザゼルが笑顔で大旦那に声を掛けて来た。

 

「お!大旦那じゃねぇか!久しぶりだな。元気してるか?」

 

「やぁ、アザゼル。700年ぶりだ。こちらは今も昔も変わらぬままだよ」

 

大旦那もまた、笑みを浮かべてアザゼルに言葉を返す。

二人は古くからの友人のような雰囲気で会話する。

 

「そちらこそ、700年という長い年月が経ったのに、姿は昔のままじゃないか。人間は50年足らずで老いていくというのに」

 

「俺らにとっちゃ、700年なんてあっという間だからな。そうだ。今度また、お前さんとこの宿屋に泊まらせてくれよ。割と気に入ってるし、今まで泊って来た宿屋の中で一番と言っていい」

 

「宿を営む大旦那として、これ以上ない誉れだ。従業員一同、いつでも歓迎するよ」

 

そんな感じに、親し気に会話してた大旦那とアザゼルだったが、サーゼクスによって中断される。

 

「お二方、世間話はそこまでにして頂きたい」

 

サーゼクスが注意すると、二人は会話を止め、再度サーゼクスが口を開いた。

 

「これで参加者は全員揃った。それでは会談を始めよう」

 

この会談に参加する者全てが入室したのを確認したサーゼクスの発言によって会談が始まった。

 

 

 

 

「――以上が、私、リアス・グレモリーとその眷族。そして、十天師数名が関与した事件の顛末です」

 

「私、ソーナ・シトリーも彼女の報告に偽りが無い事を証言いたします」

 

「同じく十天師が頭目、十門寺剣夜も彼女たちの言葉に一切の虚偽が無い事をこの場に証言いたします」

 

会談が始まり、最初はリアスとソーナと剣夜の三人によるコカビエルの騒動に関する報告から始まった。

あの日起きた出来事をリアスは噓偽り無く話し、ソーナと剣夜も彼女の報告に噓が無かったと証言した。

 

「ご苦労、下がってくれ」

 

「ありがとう、リアスちゃん、ソーナちゃん、剣夜君☆」  

 

サーゼクスが指示して、セラフォルーが後ろに下がる三人にウインクを送る。

 

「さて、アザゼル。リアスの報告を受けて、堕天使総督の意見を伺いたい」

 

サーゼクスに意見を求められたアザゼルは、不敵な笑みを浮かべた。

 

「意見も何も、コカビエルが単独で起こしたことだからな」

 

「与り知らぬことだと?」

 

「目的が分かるまで泳がせておいたのさ。まさか、俺自身が町に潜入してたとは奴も思わなかったようだがな。ここは中々住み心地がいい町だぞ」

 

「話を逸らさないでもらいたい」

 

ミカエルの問いに答えながら、話題を変えるように言うアザゼルだったが、サーゼクスに咎められた。

 

「だから言っただろ。そこの十天師二人がコカビエルを倒して、白龍皇に連行してもらった。その後は『地獄の最下層(コキュートス)』で永久冷凍の刑にした。もう一生出てこれねぇよ」

 

コカビエルを倒してから一連の流れを説明するが、トップの顔は険しいままだ。

 

「問題はコカビエルが事を起こした動機ですよ。コカビエルは貴方に不満を抱いていた」

 

「だろうな。戦争が中途半端に終わっちまったことが相当不満だったんだろう。俺は戦争なんか今更興味ねぇからな」 

 

「不満分子ってことね・・・」

 

そう呟くセラフォルーに対して、アザゼルが言葉を返す。

 

「お前さんらも色々あるみたいじゃねぇか」

 

その言葉にセラフォルーが顔を顰めるが、サーゼクスは表情を変えぬまま口を開く。

 

「それは今回の会談とは関係のないことだ。今回の会談の目的は――」

 

「もうめんどくせぇ話はいい。とっとと和平を結んじまおうぜ」

 

アザゼルがそう言うと、天使、悪魔の陣営の者達が驚愕の表情となった。

一方、不思議そうな顔をしているのが、日本神話及び人間の者達だ。和平を結ぶ会談の筈のなのに、和平を提言されて、何をそんなに驚いているのだろう。

 

「皆さん、随分動揺していますね。これは元々和平を結ぶための会談だったのでは?」

 

「い、いえ、確かにそうですが、まさか堕天使側から和平を提言されるとは思わなかったので・・・」

 

大旦那の言葉に、戸惑いながら喋るミカエル。

日本神話や人間側は知らないが、堕天使はどうも(普段の行いのせいか)天使や悪魔に比べて信頼されていないのだ。

 

「ですが、アザゼルの言う通りです。これ以上、戦争を続けたら、種族そのものが存続の危機に危ぶまれます。戦争の大本であった神は消滅したのですから」

 

続けてミカエルがそう言うと、アーシアやゼノヴィア、イリナといった現及び元教会の関係者が暗い顔をする。

この場にいる者達は、全員神の死について知っている。無論、コカビエルとの戦いにいなかった他の十天師や道玄三武郎、大旦那も既に把握済みだ。

 

「さて、この和平について、会談の見届け人である日本神話と人間代表に意見を願いたい」

 

「意見も何も、こちらは和平について何も言うことはない。日本神話は今後も三大勢力と協力関係を築いていくだけだ。これは日本神話のトップ、天照大御神様の言葉と受け取ってもらいたい」

 

アザゼルから意見を求められて、大旦那はそれに答える。

しかし、道玄三武郎は腕を組んだまま、何も喋る気配がない。

 

「どうなされましたか?十門寺殿」

 

「・・・異形共が和平を結ぶことに関しちゃ、俺は言うことねぇ。だが、この世の全ての人間がオメェらの和平を望んでいると思ってんのか?」

 

「どういうことですか?」

 

疑問符を浮かべるサーゼクスを始めとした異形の者達。

そんな彼らに、道玄三武郎は告げた。

 

「簡単なことだ。連中はオメェら三大勢力がもう一度戦争を起こして、そのまま同士討ちしてくれるのを期待しているからだ」

 

「!? そんな馬鹿な!」

 

「いいや、ありえなくはないな。昔から人間は俺ら異の存在を嫌うからな」

 

動揺するミカエルに対して、アザゼルは難しい顔をしながら言う。サーゼクスやセラフォルーも思うところがあるのか顔を険しくしている。

道玄三武郎が言葉を続ける。

 

「聞けば、カラス共は神器を持っているだけで人間を殺し、コウモリ共は人間をテメェに転生させてるらしいじゃねぇか。鳥共は何もしてねぇが、下っ端の教会連中がテメェの神を崇めてねぇって理由で一般人を殺しているときた・・・ふざけてんのか?」

 

そう言った途端、道玄三武郎の雰囲気が明らかに変わった。

ズシリと今まで以上に空気が重くなり、部屋にいる者達はその空気に押しつぶされそうになる。

誰もが理解した。今、この怪物は怒っていると。

 

「散々好き放題やっておいて、いざ立場が危うくなったら、都合のいいように記憶を書き換える。仮にも日本神話から許可を貰って、この国に居座っている割には、ちょっくらやんちゃし過ぎじゃねぇか?」

 

「し、しかし、我々の存在を知ってしまえば、人間は我々に敵意を向ける可能性だってある。それに、先の戦争で私たちは絶滅の危機に晒されている状況なんだ。こうでもして、悪魔の出生率を増やしていかなければ、私たち悪魔は滅んでしまう」

 

「・・・そうだな。生物ってのは、テメェ自身を存続させる為に、ありとあらゆる手段を使うモンだ。そこに異論はねぇ」

 

人間を悪魔に転生させていることを否定されると思いきや、あっさりと認められて、サーゼクス達は惚けてしまう。

しかし、道玄三武郎が言いたいのはそこではなかった。

 

「けどよぉ、それはそこの嬢ちゃんみてぇに筋を通してたらの話だろうが」

 

道玄三武郎はリアスをチラッと見たら、威厳のある声で言う。

 

「テメェの答えを無視して、一方的に攫い、周りの記憶を都合のいいように置き換える。そんなやり方を誰が認める。知ってしまえば、オメェらに敵意を向けるだぁ?当然だろうが。テメェの体や脳みそを散々弄くり回されて、それを知った奴らが、その怒りをどこに向けるかは明白だ。オメェらはオメェら自身で敵を増やしているのさ」

 

道玄三武郎の言葉は、異形を知る人間たちの怒りの声に聞こえた。

理不尽に転生、或いは殺されて、更には隠滅という理由で、その人物の記憶を知らぬ間に消されてしまう。そんなことをされていたと知った人間やその人物の関係者が、それを行っていた悪魔や堕天使に怒りを抱かないはずがない。

三大勢力はその自覚が無いまま、今まで多くの人間を殺害、転生させていき、関連する人間の記憶を消していった。それが自らの敵を増やしている行為だと知らずに。

 

「仁義を欠いちゃこの人の世は渡っていけねぇ!そいつを外したら、それはもはや人間という生き物に対する冒涜だろうが!」

 

「でも、それは一部がやってることで――」

 

「だから、自分たちは関係ないってか?テメェらはそういう連中を率いている王だ。王が動かねぇと民衆は動かねぇ。逆に民衆がやらかした時に、全部背負うのが王だ。神話の時代から決まってる掟だろうが」

 

道玄三武郎の言葉に、セラフォルーは顔を顰めながらも反論しようとするが、そこにサーゼクスが待ったをかけた。

 

「止めるんだセラフォルー。あの戦争を得て、私たちは悪魔の古き思想を捨て、人間と共に歩む道を選んだ。しかし、それを認めない者がいるのも事実だ。その者達に対して、罰することもせず、黙秘している私たちにも責任はある・・・十門寺殿、貴殿の・・・いや、人間の想いは十分伝わった。それを踏まえて、今の貴殿の率直な意見を聞かせてもらえないだろうか?」

 

自分たちの失態や人間側の主張を認めた上で、サーゼクスは改めて和平に対する道玄三武郎の意見を求めた。

 

「ひとまず、こっち側の答えは、三大勢力の和平に異論はねぇ。だが、オメェらが少しでも人間(俺ら)に牙を剝けることがあれば・・・容赦はしねぇ。全員叩きのめすだけだ!」

 

自分の手をグッと握りしめ、闘気を放出させる道玄三武郎。その強力なオーラに、この場にいる誰もが圧倒された。

普通に見れば、人間が三大勢力という強大な存在を侮っている発言にしか聞こえない。しかし、道玄三武郎の重圧と彼から放たれている猛者の闘気は、その言葉を本当に実現させてしまうかもしれない説得力があった。

 

「・・・肝に銘じておく」

 

故にサーゼクスも反論することなく、道玄三武郎の言葉を真意に受け止めた。

話はこれで終わりかと思いきや、アザゼルが手を上げながら口を開いた。

 

「あー・・・こんな話をした後にするのもあれなんだが、俺からあんたに質問してもいいか?」

 

「好きにしな」

 

「ありがとよ・・・俺が聞きたいのは一つ。あんたら陰陽師の連中が作った神器、誓約神器について、あんたが少しでも知ってることがあれば教えてくれないか」

 

アザゼルの質問に対して、道玄三武郎が目を細めながら質問の意図を問う。

 

「そいつを聞いてどうするつもりだ?テメェらの所に取り込もうってか?」

 

「無論、そんなつもりはねぇし、悪用もしなければ、所持者を襲うなんてこともしないと、この場で誓わせてもらう。ただ、神器を研究してる身として気になってな。あんなとんでもない物を誰がどうやって作ったとかな」

 

噓偽りなく自分の考えを伝えたアザゼルを見て、道玄三武郎は少し間をおいてから質問に答えた。

 

「・・・誓約神器に関しちゃ、俺も詳しいことは知らねぇ。何せ、こいつが作られた後、当時の十師族の当主を始めとした陰陽師の連中がお前みたいな輩に悪用されないよう、こいつに関する資料を一つ残らず破棄したらしいからな。だが、こいつを作った奴に関しては、一人心当たりがある」

 

「ほう、そいつはいったい・・・?」

 

安倍晴明(あべのせいめい)

 

道玄三武郎から語られたその人物に、他の者達は目を見開いた。

一方で安倍晴明のことを知らないアーシアは、疑問符を浮かべていた。

 

「どなたでしょう?」

 

「俺も妖怪退治の凄い人ってぐらいの印象しか・・・」

 

「とんでもねぇ。俺ら陰陽師の人間にとっちゃ、伝説の勇者並みのスゲー退魔師だ」

 

安倍晴明について話す一誠とアーシアに、会話を聞いてた陸兎が訂正した。

 

「安倍晴明か・・・嘗て鬼の王と呼ばれた妖怪、酒吞童子を討った英雄、源頼光と対をなす陰陽師最強の退魔師。俺たち異形に対抗する数々の術や道具を作った天才と言われていたが・・・なるほどな。確かに、そいつなら作れてもおかしくはないな」

 

そう言って、納得するアザゼル。

そこにサーゼクスが口を開く。

 

「そろそろ良いだろうアザゼル。これ以上、会談と関係のないことを話すべきじゃない」

 

「そうだな。十分収穫はあったし、これ以上は追求しねぇよ」

 

サーゼクスに言われて、アザゼルはこの話題を切り上げた。

その後、アザゼルは二天龍である一誠とヴァーリにも意見を求め、ヴァーリは強い奴と戦えればそれでいいと言う。

対する一誠は、なんて言えばいいか悩んでいたが、アザゼルに助言されて、一時はリアスとエッチがしたいと仮にも兄であるサーゼクスがいる前でトンデモ発言をしたが(尚、聞いてたサーゼクスは怒らず、小さく笑っていた)、最終的に仲間の為に力を使うという結論を出した。

すると、ミカエルが一誠に声を掛けて来た。

 

「赤龍帝殿、私に話があるとの事でしたが」

 

「!?・・・いいんですか?」

 

はい、とミカエルが答えると、一誠は真剣な表情で言った。

 

「どうして、アーシアを追放したんですか?」

 

その問いに、ミカエルはこう答えた。

神の死後、加護と慈悲と奇跡を司るシステムが残った。

そのシステムの力が、時が経つに連れて弱まっていき、少しでも長くシステムを保つ為に、システムに悪影響を及ぼす存在、アーシアのような堕天使や悪魔を癒すことができる者やゼノヴィアのような神の死を知ってしまった者などを教会から遠ざけるしか無かったのだ。

 

「私の力不足で、貴女たちに辛い思いをさせてしまい申し訳ございません」

 

一通り話したミカエルは、アーシアとゼノヴィアに謝罪した。

 

「(じゃあ、ゼノヴィアは教会(私たち)を裏切ったんじゃなかったの・・・!?)」

 

一方、ゼノヴィアが追放された真実を聞かされたイリナは、驚愕の表情で彼女を見た。

ゼノヴィアは真っ直ぐな眼差しでミカエルを見ながら口を開いた。

 

「どうか頭をお上げください。長年、教会に育てられた身。多少の後悔はありますが、新しい仲間や夢を見つけることができて、今は悪魔としての生活に満足しています。他の信徒には申し訳ありませんが・・・」

 

「・・・・・・」

 

そう言って、ゼノヴィアは申し訳なさそうにイリナを見る。その目を見たイリナは、何も言えずに呆然とするだけであった。

アーシアもまた、ゼノヴィアの隣で自分の想いを語った。

 

「私も今、幸せだと感じております。大切な人達とたくさん出会えましたから」

 

「貴女たちの寛大な心に感謝します」

 

二人の想いを聞いたミカエルは、安堵の顔を見せた。

その様子を周りは微笑ましく見守り(一部つまんなそうな顔をしてた者もいたが)、場は和やかな雰囲気になった。

だが、そこで空気を読まずに口を開いた者がいた。

 

「そういやぁ、俺の部下がそこのお嬢さんを殺したんだったな」

 

「!?」

 

アザゼルに視線を向けられたアーシアはビクッと体を震わせた。

すると、一誠が怒り混じりに叫んだ。

 

「他人事みたいに言うな!あんたに憧れてた堕天使の女が、あんたの為にアーシアを殺したんだよ!」

 

「"すっ"」

 

「!?・・・っ!」

 

アザゼルの鋭い視線に、一誠は一瞬たじろぐが、すぐさま睨み返す。

一方、詳しい事情を知らない大旦那が説明を求めた。

 

「ふむ、さっきの報告には無かった出来事みたいだが何の話だ?」

 

「コカビエルの事件の前に、駒王町で堕天使によるちょっとした騒動が起きたんです。その時、ここにいる兵藤一誠及びアーシア・アルジェントがアザゼル総督の部下に殺害されたんです。まぁ、この件はその部下の独断のようで、アザゼル総督は関与してなかったみたいですが」

 

「なるほど・・・」

 

剣夜から説明を聞き、理解した大旦那がアザゼルに向かって口を開いた。

 

「アザゼル。これはあくまで君の部下が勝手に引き起こした事であり、君が責められるべきだとは言わない。だが、部下の失態は上司の責任と言うだろう。流石に首を切れとまでは言わないが、彼らに対して、何らかの償いはするべきじゃないか?そうしてもらわないと、納得しない子もこの場に一人いるみたいだしね」

 

「うっ・・・」

 

そう言いながら、大旦那は一誠の方にチラッと顔を向ける。視線を向けられた一誠は気まずそうな顔をした。

 

「無論、そのつもりだ。赤龍帝、この件に関してお前さんが納得しないんだったら、別の形で償ってやるよ」

 

「何を・・・!」

 

人を見下すようなアザゼルの態度に、再度一誠が嚙みつこうとした瞬間、この会場全ての時間が止まり出した。




<駒王町コソコソ噂話>
1300年代、鎌倉幕府が滅び、室町時代に移り変わる頃、『誓約神器』の存在を知ったアザゼルは、その秘密を探るべく、日本各地を歩き回っていた。
しかし、『誓約神器』は当時の陰陽師でも最重要機密事項であった為に、中々調査が進まず、疲労が溜まったアザゼルは息抜きに隠世を訪れた。
隠世の幻想的な景色を楽しんでいると、たまたま散歩してた大旦那と出会う。
鬼神と堕天使、お互い初めて見る未知の存在に、心が躍ったアザゼルと大旦那はすぐ仲良くなり、そのまま大旦那が営む宿、天神屋に案内されて、アザゼルはそこで一夜を過ごした。天神屋の従業員たちも最初は未知の異形であるアザゼルに警戒したが、見下すことなく気さくに話しかける彼の性格(後は彼自身の顔の良さ)もあって、最終的には良好な関係を築くことができた。
尚、後日無断で隠世に入ったことで、アザゼルは多額の罰金を支払う羽目になり、シェムハザ(『神の子を見張る者』の副総督)から大量の小言を貰うのであった。


・十門寺道玄三武郎(じゅうもんじ どうげんざぶろう)
見た目は「刃牙」の範馬勇次郎だが、髪型は「ワンピース」の若い頃の白ひげで、口元にも三日月の形をした白い髭が生えている。
十門寺家の現当主。妻の桜蘭や息子の剣夜と違い、イケメンや美女とは程遠い闘争本能剥き出しの厳つい漢。息子が頭目を務める十天師を部下に持ち、その実力は人間でありながら魔王や神々に届くとも言われている。今作のオリキャラの中で一番強いと断言できるザ・チート人間。


会談はアニメ版を基準に進めていきます。そのため、原作では会談に出席していないイリナも登場しています。
また、少しネタバレになりますが、道玄三武郎や桜蘭と一緒にいた茶髪の大男は十天師です。見た目は「とある魔術の禁書目録」の後方のアックアです。名前、能力に関しては次章以降のお楽しみということで。


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急いでいる時は近道よりも回り道の方が安全

「い、今のはいったい・・・」

 

一瞬体に襲われた妙な感覚に、疑問の声を上げながら周りを見渡す。

 

「ご無事ですか?剣夜様・・・」

 

「ふむ、一瞬空気が揺らいだから、咄嗟に霊力を纏ってみたけど・・・」

 

「正解だったね。リュウ君も何ともない?」

 

「当然だ。あんな小細工、俺に通用するかよ」

 

「ケッ、そのまま止まっちまえば良かったのに・・・しっかし、こいつは・・・」

 

十天師たちが会話しながら状況を確認する。

見ると、一部の者達が時間が停止したかのように止まっていた。

この現象に見覚えのある一誠は呟く。

 

「まさか、ギャスパーの力・・・?」

 

「らしいな。動けるのは上位の力を持った俺たちトップと大旦那」

 

「俺たち(ヴァーリと一誠)はドラゴンのお陰だな。リアス・グレモリーは兵藤一誠に触れたから。そっちの連中(木場とゼノヴィアとイリナ)は聖魔剣。十天師たちは・・・なるほど、全員霊力で防いだのか・・・ん?十門寺家の当主とそこの女(桜蘭)は・・・霊力を纏っていない?上位の存在だからなのか?」

 

アザゼルとヴァーリが動いている者達の動ける理由を解説する。霊力を体に纏っているのを感じる十天師たちはともかく、纏っている気配すら感じさせない道玄三武郎と桜蘭が動いていることに、ヴァーリが疑問を抱いていた。

 

「なんだあれは!?」

 

一誠が声を上げて、全員が窓を覗くと、駒王学園の上空に魔法陣が展開されていて、そこからローブを着込んだ複数の人間が現れた。人数はざっと百人以上いるだろう。

 

「魔術師ね・・・全く、魔女っ子の私を差し置いて失礼なのよ!」

 

セラフォルーが現れた人間たちの正体を言いながら緩く怒っていた。

 

「しかし、この力は・・・?」

 

ミカエルの呟きにアザゼルが答える。

 

「恐らく、あのハーフヴァンパイアを強制的に禁手状態にしたんだろう」

 

「ギャスパーを!?」

 

「私の眷族がテロリストに利用されるなんて・・・これほどの侮辱はないわ!」

 

一誠は驚き、リアスは自身の眷属がテロリストに利用されていることに怒りを感じていた。

そうしている間にも、外では変化が起きていた。

会談の警護を担当している天使、堕天使、悪魔たちが、停止されている状態で次々と転移されていた。

 

「転移魔術・・・どうやら、この結界にゲートを繋げている者がいるようですね」

 

「逆に、こちらの転移用魔法陣は完全に封じられています」

 

ミカエルとグレイフィアが今の状況を説明する。

かなり不利な状況であるのを察したアザゼルがやれやれと言った顔で口を開いた。

 

「やられたな」

 

「あぁ、こちらの会談中に襲撃とは、敵も大胆な事をするようだ」

 

大旦那もアザゼルの言葉に同調する。

 

「襲撃するタイミングといい、リアス・グレモリーの眷族を逆利用する戦術といい・・」

 

「裏切り者がいる・・・」

 

ミカエルの言葉に、イリナは呟きながら、視線をゼノヴィアに向ける。ミカエルから事情を聞いたとはいえ、そのわだかまりは簡単に解けるものではなかった。

 

「とにかく、このままじっとしている訳にもいくまい。ギャスパー君の力がこれ以上増大すれば、我らとて止められてしまう」

 

「なら、話は早ぇな」

 

サーゼクスが懸念した直後、突然そんな声が聞こえて、全員が振り向くと、龍牙が凶悪な笑みを浮かべながら、どこかへ行こうとしてた。

すかさず剣夜が呼び止める。

 

「どこに行くつもりだい?」

 

「決まってんだろ。この状況をどうにかしたいのなら、それを引き起こしてる元凶をぶち殺せば済む話だろうが」

 

龍牙の発言に、グレモリー眷属は一瞬何を言ってるのか分からなかったが、すぐにその意味を理解して、怒りの眼差しで彼を睨んだ。

その言葉の意味。それは神器を暴走させているギャスパー本人を殺して、時間停止を解除しようというのだ。

当然、そんなやり方をリアス達悪魔が認めるはずがなく、龍牙に怒りを向ける。

剣夜もまた、顔を険しくさせながら龍牙に言う。

 

「・・・龍牙、魔王様やウラディ君の『王』がいる前だよ。人間と悪魔の関係を悪化させる真似はよしてくれないか?」

 

「ハッ、悪魔と仲良しごっこして何の価値があるんだよ。人に迷惑を掛けるゴミ屑が一人死んだところで、社会に何の支障も出ねぇだろ」

 

「!? テメェ!」

 

ギャスパーをゴミ屑呼ばわりする龍牙に、一誠が激情した。

 

「今、ギャスパーのことをゴミ屑って言ったか!?」

 

「そうだろうが。空間の時間を止めることができる異形・・・人間にとっちゃ、害をなす存在でしかねぇ」

 

「ふざけるな!ギャスパーのことを何も知らない癖に、勝手なこと言ってんじゃねぇ!」

 

「は?会ったこともねぇ奴のことなんざ知ってるわけねぇだろ」

 

「ギャスパーはずっと苦しんで来たんだよ!神器の制御ができないから、周りから嫌われて、一人ぼっちになって、それでも制御しようと必死に頑張ってきたんだ!その努力を踏みにじるようなことをする奴は俺が許さねぇ!もし、ギャスパーに手を出してみろ!俺がテメェをぶっ飛ばしてやる!」

 

力強くそう宣言する一誠。

対する龍牙は、心底めんどくさいといった顔をする。

 

「・・・力を持っただけの雑魚がカエルみてぇにギャーギャー騒ぎやがって・・・耳障りでうぜぇんだよ・・・」

 

鬱陶しいと言わんばかりに喋る龍牙は、冷たい目で一誠を見た。

 

「お前、殺すわ」

 

そう言った直後、龍牙の姿が消えて・・・彼の拳が一誠の顔面を捉えようとした瞬間、ガキーン!!と金属同士がぶつかり合ったような衝撃音が響いた。

全員が一誠の方を見ると、彼の正面には龍牙の拳を一本の木刀が防いでいた。その先には・・・『洞爺刀』で龍牙の拳から一誠を守った陸兎が、鋭い目で龍牙を睨んでいた。

 

「・・・なんのつもりだ?三下ぁ」

 

「その質問にはテメェが答えろ」

 

不機嫌な様子で喋る龍牙に、陸兎も低い声で返す。

遅れて、リアスや木場などが武器を構えたり、魔力を出しながら龍牙を睨む。

龍牙は周りから敵意を向けられても気にともせず、殺気を陸兎に向けながら口を開いた。

 

「人間に害をなす異形を殺すのは退魔師の役目だろ。異形共と一緒に仲良しごっこしてきたせいで、元々おかしかった頭が更にいかれちまったか?」

 

「安心しろ。俺の頭は今も昔も天然パーマのままだよ。テメェのウンコみてぇな色した脳みそと違ってな」

 

「そうか。俺はてっきり、糖分の過剰摂取でテメェの脳がドロッドロッに溶けたせいで、そんなメンヘラチックな頭になっちまったのかと思ったぜ」

 

「そう思うなら、眼科にでも言って目を直してこい。テメェの中二病拗らせた赤メッシュより数倍マシだよ・・・それとも、'普段からいっぱい殺してきたから'、有害と無害の判別もできない頭になったのか?」

 

陸兎がそう言った瞬間、龍牙の体から大量の闘気が放たれた。

龍牙が放つドス黒いオーラに周りが圧倒される中、龍牙は低い声で口を開いた。

 

「・・・よく分かった。どうやら、よっぽど面白れぇ死体になりてぇようだな」

 

「上等だゴラ。テメェのそのカレーまみれな脳みそ、真っ二つにしてやるよ」

 

陸兎もまた、力強い闘気を放出させながら龍牙に殺気をぶつける。

白と黒、二つのオーラがぶつかり合い、この場の空気を震えさせる。

両者互いに睨み合い、戦いが始まろうとした次の瞬間、新たに声を上げる者がいた。

 

「おう、随分楽しそうなことしてるじゃねぇか。俺も混ぜろよ」

 

低く、けれども重圧な声で道玄三武郎は顔を動かして二人を見た。

彼の燃え上がるような闘気は、部屋のあちこちにヒビが走り、一瞬で二人のオーラを塗り替えた。場は一気に道玄三武郎の独壇場となった。

誰もがその闘気を前に動けないでいる中、道玄三武郎は冷や汗をかきながらこちらを見てる二人に告げた。

 

「いい色だ。テメェらのその'闘気'。至高の領域に一歩踏み出していやがる。是非とも味見してぇモンだ。何、心配すんな・・・例え途中で屍になろうと、欠片だけは残しておいてやるよ・・・!」

 

先程までお互いの殺気をぶつけ合っていた二人は、道玄三武郎の圧倒的な闘気に押されてしまう。

しばらく無言の時間が続いたが、道玄三武郎の介入により、すっかり毒気が抜けた様子で龍牙が口を開いた。

 

「・・・白けたぜ。ちょっくら表の掃除してくる」

 

そう言って、龍牙の姿が消えたと思った瞬間、ドーン!と会議室の壁が破壊されて、辺りに衝撃や石片が飛び散った。

周りの者達は腕を前に出しながら飛んでくる衝撃や石片を防ぐ中、外の方から先程と同じような衝撃音が鳴り響き、砂塵が舞い散る。

外にいる魔術師たちが慌てた様子で、衝撃がした方に向くと、砂塵が晴れた場所に龍牙が立っていた。

その姿も先程までの彼と違い、両腕に龍の形をした黒い籠手を纏い、背中にはドラゴンのような漆黒の翼が生えていた。

自身の誓約神器を発動させて、やる気満々と言った様子の龍牙に、陸兎が顔を顰める。

 

「あんの馬鹿!」

 

「私も行くね。リュウ君一人だと心配だから」

 

「ちょ、おい!」

 

呼び止めようとする陸兎を無視して、聖良は龍牙が壊した穴から外に出た。

外では魔術師たちが龍牙に向けて魔力弾を放っていく。

しかし、龍牙は驚異的な速度で降り注ぐ魔力弾を躱していくと、近くにいた魔術師の一人に拳を突き出した。

突き出された拳は魔術師の腹部に当たり・・・龍牙の右腕が魔術師の腹を貫いた。

魔術師は何が起きたのか分からず驚いた顔をしてたが、龍牙が右腕を引っこ抜いたら、バタリッと倒れた。

既に魔術師は事切れており、空いた腹から血がどんどん流れる。

それを見た周りの魔術師は動揺し、その隙を逃さず、龍牙は次の獲物に向けて拳を振るう。

魔術師の集中砲火を気にともせず、龍牙は次々と魔術師を葬る。腹部だけでなく、腕や足、頭に首などあらゆる箇所を一撃で粉砕していき、彼の体や翼に血がこびりついていく。

その姿はまるで、戦場を獅子奮迅の勢いで暴れ回る龍そのもの。

 

「とんでもねぇ力だな」

 

「これが、嘗て聖書の神が恐れた空を作りし創世の神、始原の龍バハムートの力・・・!」

 

アザゼルが冷や汗をかきながら言い、ミカエルは創世神であり、始原の龍であるバハムートの力に戦慄する。

そんな彼らに、剣夜は龍牙の持つ誓約神器について話す。

 

「彼の誓約神器の名は『始原龍の星砂(バハムート・フラグメント)』。バハムートの力の欠片を体内に取り込み、人体の力を限界以上に引き出す能力です」

 

「ちょ、待てよ。バハムートの力を取り込むって・・・欠片つっても神の力だぞ!人間がそう簡単に扱える代物モンじゃねぇんだぞ!?」

 

「えぇ。ですから、この誓約神器は陰陽師では最も危険な誓約神器と危険視されていて、歴代でも龍牙を含めて、たった三人しか適合できなかったと聞いています」

 

「いや、三人って・・・十分過ぎるだろ。これを作った安倍晴明はマジで何者なんだよ・・・」

 

バハムートの力を使いこなす龍牙もだが、それを基にした誓約神器を作った安倍晴明に戦慄しながら、アザゼルは戦いの様子を見る。

背中の翼による飛行や『神速』を始めとした様々な体術を使いながら、次々と魔術師を屠っていく龍牙。

無論、魔術師たちもこの状況を黙って見てるはずもなく、遠距離から龍牙を狙い撃とうと手をかざした。

しかし、魔法を放とうとした魔術師たちの動きが突如止まり出した。

 

「なんだ?動きが急に止まって・・・」

 

「!? 見て!魔術師たちの体に細い糸が・・・!」

 

木場が魔術師たちの体に細い糸が絡まっているのに気づいた。

まるで蜘蛛の巣に絡まった蝶のように動けなくなる魔術師たち。その中心には、魔術師たちを拘束している糸を手で掴みながら宙に浮いている聖良の姿があった。

 

「『月の機神糸(アリアネンセ)』。彼女が付けてるグローブには、霊力で作られた強靭な糸が仕込まれていて、相手の拘束や切断の他、使用者によって様々な活用ができる多様性豊かな誓約神器」

 

剣夜の説明通り、聖良が付けている指ぬきグローブに糸を生み出していると思われる機構が付いていて、そこから大量の糸が放出されていた。

それら糸は彼女の周りに展開されており、近くの木や建物にも糸がかかっているのが分かる。彼女が浮いて見えるのも、糸の上に乗っているからだ。

公開授業の時に陸兎を脅したのも、恐らくこの誓約神器の力なのだろう。

糸で拘束されている魔術師たちが苦しそうに呻く中、聖良は冷たい目で両腕をクロスさせた。

 

赤の死舞踏(レッド・マカブル)

 

その瞬間、糸に絡まっていた魔術師たちの体が一斉にバラバラになった。

大量の血が飛び散り、バラバラになった遺体が落ちていき、地面を赤色に染め上げる。

 

「うぅ!」

 

「イッセー君!」

 

一誠は気持ち悪くなり、口に手を置いて、吐きそうになるのを必死に抑える。顔は大きく青ざめ、目に薄っすらと涙が溜まっている。

今までの人生の中で人の死は一度も見たことない。いや、レイナーレやはぐれ悪魔など、人の形をした異形が死んでいくのを見たことはあるが、どちらも死体が残らず、リアスの滅びの魔力で跡形も無く消滅という形だったため、死というものに対して、あまり実感が湧かなかった。

だからこそ、今この場で人が死んでいく様を。それも、こんな惨たらしい方法で殺されたのを見て、死への恐怖やら何やら、そう言った負の感情が一気に吐き出されてしまった。

人はグロいものを見ると気持ち悪くなる。無論、人それぞれによるが、少なくとも一誠は悪魔に転生して尚、それに対する耐性はまだ低かったようだ。

木場が慌てながら彼の背中をさするが、一誠の気分が良くなる様子はない。

 

「紫藤さん、大丈夫ですか?」

 

「あ、ありがとうございます、ミカエル様・・・」

 

イリナも気分が悪くなったようで、ミカエルが心配そうな表情で彼女の顔を覗き込んだ。

一誠と違い、教会の任務で何回か死体を見たことがあるため、彼ほど顔色は悪くなかったが、それでも気分は優れない。元教会の戦士だったゼノヴィアは、幼い頃から教会で育ち、精神が鍛えられているからなのかダメージは少なかった。

 

「こんな風に彼女が任務に出向いた先は、いつも赤い血で染まる。故に付いた二つ名は『赤月』。白き月すらも赤で染める殺しのプロだ」

 

「殺しのプロって・・・」

 

剣夜の言葉に、幾らか回復した一誠が動揺する。

その言い方だと、まるで退魔師と言うより、殺し屋に近いではないか。

そんな彼の気持ちを察したのか、陸兎は苦笑しながら口を開いた。

 

「まぁ、十天師は正義の味方じゃねぇからな。国の秩序を乱す存在と判断されたら、すぐにでも排除しに行く。それが例え、同じ人間だろうとな・・・その中でも、あの二人は十天師の中で'最も殺しに躊躇がない'奴らだと言っていい」

 

そう言いながら、陸兎は窓の外を真剣な表情で見つめる。

視線の先には、次々と魔術師たちを殺していく龍牙と聖良が見える。

校庭が徐々に赤く染まっていき、あまりにも残虐な光景に、一誠は見ていられなくなり、目を背けてしまう。

 

「・・・ひとまず、向こうは大丈夫そうだな。今のうちに俺らはヴァンパイアの小僧を何とかしねぇとな。危なっかしくて反撃もできやしねぇぜ」

 

窓の方を見ながら、アザゼルがそう言う。

すると、リアスがサーゼクスに進言してきた。

 

「お兄様、旧校舎に未使用の『戦車』の駒があります」

 

「・・・なるほど、キャスリングか」

 

キャスリングとは、レーティングゲームにおいて、『王』と『戦車』を入れ替える技だ。リアスはその特製を利用して、ギャスパー達がいる旧校舎まで瞬間移動しようという算段だ。

グレイフィアが確認した所、現状でキャスリングが可能な人数は二人までとなっており、最初にリアス自らが志願し、次に一誠が志願した。

転移する者が決まったところで、新たに志願する者が現れた。

 

「俺も行くぜ」

 

そう言って、志願してきたのは陸兎だった。

しかし、キャスリングをする人物は既に決まっており、陸兎がどうやって旧校舎まで行くのか疑問に思った一誠が彼に聞く。

 

「行くってお前・・・転移は二人までじゃ・・・」

 

「んなモン必要ねぇよ。旧校舎までひとっ走りしてくらぁ」

 

「危険よ!外には魔術師たちが待ち構えているし、校舎内にだって罠が仕掛けられてるのかもしれないのよ!」

 

リアスが反対するが、陸兎は気にともしない。

 

「そんなモン、まとめてぶった斬るだけだ・・・後輩のピンチだってのに、先輩がボーっと突っ立ってる訳にいかねぇだろうが」

 

真剣な表情で語る陸兎の決意を聞き、リアスはこれ以上反論しなかった。

代わりに、サーゼクスが前に出て、真剣な表情で言った。

 

「頼んだよ。陸兎君」

 

「その想い・・・十天師が一人、『白鬼(びゃっき)』八神陸兎がしかと受け取った」

 

サーゼクスに託され、陸兎は覇気のある表情で言葉を返した。

すると、今まで何も喋らなかったヴァーリが口を開いた。

 

「そんなことしなくても、無六龍牙が言ってたように、ハーフヴァンパイアごと吹き飛ばせば、それでいいんじゃないか?」

 

「テメェ!」

 

彼もまた、ギャスパーを殺して時間停止を解除しようと考えており、それに対して一誠が怒る。

 

「ちったぁ空気読めよ。和平を結ぼうって時だぜ?」

 

「じっとしてるのは性にあわん」

 

「なら、始原の龍の手伝いでもしてやったらどうだ?お前さんもあいつには興味あるだろ」

 

「そうだな」

 

アザゼルに言われて、ヴァーリはそのまま外に飛び出した。

そして、空中で背中に光の翼を。自身の神器を展開させると、小さく呟いた。

 

「禁手化」

 

Vanishing(バニシング)Dragon(ドラゴン)Barance(バランス)Breaker(ブレイカー)

 

声が聞こえた瞬間、ヴァーリの体を光が包み込み、彼の全身に白い鎧が纏われる。

鎧を纏ったヴァーリは、そのまま魔術師たちが溜まっている場所の中央に移動する。

当然、魔術師たちはヴァーリに攻撃するが、効いている様子はない。よく見たら、魔力弾が当たる直前に小さいシールドのようなもので防いでいるのが見受けられる。

 

「フンッ!」

 

ヴァーリは手に溜めた魔力を一気に放出させると、魔力が雷のように広がり、彼を囲んでいた魔術師はおろか、龍牙が戦っていた魔術師まで消滅させた。

狙ってた獲物が横取りされる形で消滅してしまい、龍牙は苛立ちながらヴァーリに向かって叫んだ。

 

「チッ、邪魔すんな!」

 

「そう言うな。どちらが多く屠れるか勝負と行こうじゃないか」

 

そう言いながら、ヴァーリは次々と魔術師を消滅させ、負けじと龍牙も続く。

 

「す、スゲー・・・めちゃくちゃ強いじゃねぇか・・・」

 

「だが、あの強さは危険な匂いがする・・・」

 

龍を宿し二人の猛攻に、一誠は圧倒されていた。その隣でゼノヴィアは二人の異常な強さに危機感を覚える。

驚きはしたが、ひとまずはギャスパーと小猫の救出が優先と判断した一誠は、リアスと陸兎に声を掛ける。

 

「部長、八神、必ずギャスパー達を助けましょう」

 

「えぇ」

 

「応よ。先行ってるぜ」

 

そう言うと、陸兎は『神速』でこの場から消えるように移動し、リアスと一誠もキャスリングで転移するのであった。

 

 

 

 

一方、場面は旧校舎に移り変わる。

ギャスパー達が待機してた封印の部屋には、魔術師が複数いて、部屋にいたギャスパーと小猫は魔法で手足を貼り付けにされる形で拘束されていた(何故か小猫は逆さで吊るされていたが)。

すると、部屋に魔法陣が出現し、キャスリングで転移した一誠とリアスが現れた。

 

「ギャスパー!小猫ちゃん!助けにき――'ドーン!'たぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

「ギャスパー!小猫!クールでカッコイイ先輩が助けに来たぞ!」

 

魔法陣から一誠とリアスが転移した途端、部屋の扉を蹴り飛ばしながら陸兎が入ってきて、彼の前にいた一誠は、背中から陸兎の蹴りを食らい、扉ごと吹き飛ばされた。

突然現れた陸兎にタイミング悪く吹き飛ばされた一誠。周りが何とも言えない空気になる中、状況を把握してた陸兎は、奥で倒れている一誠に驚きの声を上げた。

 

「なっ、イッセー!」

 

次に見知らぬ服を着た者達が視界に映り、何かを察した陸兎は、視線の先にいる魔術師たちを睨み、怒りの感情を出しながら叫んだ。

 

「お前ら!よくもイッセーを!」

 

『いや、貴方(先輩)のせいでしょ(ですよ)!!』

 

一誠が倒れているのは魔術師たちのせいだと勘違いしてる陸兎に向かって、敵味方両方からツッコミの声が上がった。

気を取り直して、リアスが捕まっている二人に声を掛ける。

 

「と、とりあえず・・・ギャスパー、小猫、無事みたいね」

 

「リアス部長、陸兎先輩にイッセー先輩・・・!」

 

「部長・・・こんな時に言うのもあれなんですが、このタイミングでよくこのセリフが出ましたね」

 

「言わないで。自覚してるから」

 

小猫の指摘に、リアスは少しだけ疲れた様子で返した。

一方、魔術師たちの方も正気に戻って、陸兎たちに脅しをかけた。

 

「どんな手品を使ったのかは知らないけど、少しでも動いたら・・・」

 

そう言って、魔術師の一人がギャスパーに魔力を溜めた手を向ける。

すると、ギャスパーが涙を流しながら口を開いた。

 

「部長・・・僕を殺してください・・・」

 

「な、何を言ってるの!?」

 

自分を殺してと懇願するギャスパーに、リアスは困惑する。

 

「僕なんか死んだ方がいいんです。臆病者で、役立たずで、それどころかこんな力のせいで、また皆に迷惑を・・・!」

 

「馬鹿なこと言わないで!」

 

弱々しく語ったギャスパーの言葉をリアスは力強い声で返した。

 

「貴方を眷属にした時、私は言ったはずよ。私の為に生きて、同時に自分が満足できる生き方を見つけなさいって。貴方は私の眷属よ。だから、私にいっぱい迷惑を掛けなさい。その度に私は何度も貴方をしかって、慰めてあげる。貴方がその答えを見つけるまで、私は決して貴方を見捨てない!」

 

「リアス、部長・・・」

 

リアスの決意にギャスパーの心が揺れ動く。

彼女の隣にいた陸兎も口を開いた。

 

「たく、お前はそうやって事あるごとに殻に閉じこもりやがって・・・亀でもそんなに閉じこもらねぇぞ」

 

「陸兎先輩・・・」

 

「お前は確かに臆病で弱虫だ。その上、護りたいって言っておきながら、テメェの力も制御できねぇ。情けないったらありゃしねぇ」

 

「ちょっと陸兎!」

 

「だが!・・・いざという時、男見せる奴だって思っている。少なくとも、俺はそう信じているぜ。だからよ・・・」

 

陸兎は一拍空けると、自分の体の心臓部分に手を当てながら叫んだ。

 

「テメェも俺たちを信じろ!テメェが信じている俺やグレモリー眷属を!テメェ自身が信じているその魂に従え!ギャスパー!」

 

陸兎の叫びがギャスパーの心を動かした。

更に、陸兎に蹴られて、床に倒れていた一誠も起き上がり、ギャスパーに向かって叫んだ。

 

「そうだギャスパー!テメェもグレモリー眷属だろうが!男見せろ!ギャスパー!!」

 

そう言いながら、一誠は籠手にアスカロンを出現させると、自身の手を軽く斬って、ギャスパーがいる方へアスカロンを振った。

アスカロンに付いた血が、ギャスパーの顔にべたりと付く。

 

「!?」

 

その血をギャスパーが舐めた途端、彼の体に異変が起こった。

瞬く間に強力な時間停止が起き、部屋にいる全ての存在を停止させた。

唯一動ける陸兎は、変化したギャスパーの姿を見ながら口を開いた。

 

「・・・随分、真っ黒になったな」

 

「はい、これが僕の護る力です」

 

ギャスパーは無数のコウモリに変化していた。

その力は凄まじく、魔術師たちや小猫、先程まで神器の影響を受けなかった一誠とリアスすらも止めていた。

 

「見せて貰ったぜ。お前の熱い魂を・・・!なら、俺も先輩の意地を見せてやんねぇとな!」

 

そう言うと、陸兎は『洞爺刀』を腰に当てて、居合の構えを取る。

 

「動けねぇ奴を斬るのもあれだ。峰内で勘弁してやるよ・・・夜叉神流一刀『乱れ咲(みだれざき)桜花(おうか)』!」

 

陸兎は部屋全体を目で追えない速さで動き回りながら『洞爺刀』を振るう。

 

「そして時は動き出す」

 

最後に決め台詞を言った直後、時間停止が解除される。

その瞬間、部屋にいた魔術師たちは一人残らず倒れた。

 

「え?」

 

「あれ?」

 

「いつの間に・・・」

 

リアスと一誠、いつの間にか拘束が解かれた小猫が呆けた声を出す。先の陸兎の技の余波で拘束していた魔法陣が壊されたのだ。

 

「もしかして、ギャスパーが・・・?」

 

「はい!僕が時間を止めて、その間に陸兎先輩が倒しました」

 

「そう・・・流石ね」

 

「やるじゃねぇかギャスパー!」

 

「えへへへ」

 

リアスと一誠に褒められて、ギャスパーは嬉しそうに笑う。

その後、キャスリング前にアザゼルから渡された暴走を抑える腕輪(二つ渡され、一つは一誠が付けている)をギャスパーに付けたところで、リアスが口を開いた。

 

「さぁ!急ぎましょう!」

 

リアスを先頭に、外に出ようとしたその時だった。

 

ドーン!

 

「な、なんだ!?」

 

「敵襲!?皆、注意して!」

 

突如前方にあった旧校舎の壁が壊れ、その衝撃に一誠が驚き、リアスは部員に声を掛けながら警戒する。

壊れた箇所は砂塵に覆われているが、徐々に晴れていき、そこから人影が姿を現した。

 

「う、うぅ・・・」

 

そこには眼鏡を掛けた悪魔の女がボロボロの姿で倒れていた。




・夜叉神流一刀『乱れ咲(みだれざき)桜花(おうか)
居合の態勢で構えた後、周りを超高速で斬り刻んでいく技。


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ご立派な大義を抱えようがテロに義も痔もない

社会人となり、忙しい毎日を送っている作者です。ですが、社会人となっても、投稿は続けていきたいと思います。


リアス達がギャスパーの救出に向かっている一方、会議室では突如一つの魔法陣が出現した。

 

「サーゼクス様!」

 

「この魔法陣・・・まさか!?」

 

グレイフィアとサーゼクスが魔法陣に反応する。悪魔にとって、見覚えのある物だったからだ。

 

「御機嫌よう、現魔王サーゼクス殿にセラフォルー殿」

 

そんな言葉と共に、魔法陣から眼鏡を掛けた女の悪魔が現れた。

 

「あ、貴女がどうしてここに!?」

 

「先代レヴィアタンの血を引く者、カテレア・レヴィアタン!」

 

セラフォルーが驚き、サーゼクスが女の名前を言う。

 

「世界に・・・破壊と混沌を!」

 

挨拶を終えたカテレアは、手に持った杖を上に掲げる。

その直後、杖の先が光り出し、膨大な爆発が起こった。

会議室は跡形も無く壊されたが、中にいる者達は全員無事だった。

 

「三大勢力のトップが共同で防御結界・・・フフフ、なんと見苦しい!」

 

自身の魔法を防がれて尚、カテレアは余裕のある笑みを浮かべている。

そんな彼女にサーゼクスが問う。

 

「どう言うつもりだ?カテレア」

 

「そちらが行ってる会談の、正に逆の考えに至っただけです。神と魔王がいないのならば、この世界を変革すべきだと」

 

「カテレアちゃん、止めて!どうしてこんな・・・」

 

セラフォルーがカテレアを説得しようとするが、カテレアはセラフォルーを見た途端、憎悪の眼差しで彼女を睨んだ。

 

「セラフォルー・・・私からレヴィアタンの座を奪っておいてよくもぬけぬけと!」

 

「わ、私は・・・!」

 

「安心なさい。今日、この場で貴女を殺して、私が魔王レヴィアタンを名乗ります」

 

魔王であるセラフォルーに、自信満々に宣言するカトレア。

 

「やれやれ、悪魔共のとんだクーデターに巻き込まれたかと思ってたが・・・」

 

「和平を止めるのが目的じゃなさそうだな。それなら、会談が始まる前に襲うだろうし、トップが揃っている場を敢えて襲撃したということは・・・」

 

アザゼルと大旦那の言葉を聞いて、ミカエルが結論付ける。

 

「貴女の狙いは、この世界その物というわけですね?」

 

ミカエルの問いに、カテレアはすぐに頷いた。

 

「えぇ、ミカエル。神と魔王の死を取り繕うだけの世界など必要ありません。この腐敗した世界を私たちの手で再構築し、変革するのです!」

 

狂気に満ちた笑みで己の野望を語るカテレア。

 

「くだらねぇな」

 

そこで反応したのは、心底つまんなそうな顔をしている道玄三武郎だった。

それを聞き逃さなかったのか、カテレアは不快そうな表情で道玄三武郎を睨んだ。

 

「そこの人間、今何と言いました?」

 

「くだらねぇんだよ。変革なんて言っときながら、やってることはテロときた・・・小せぇ、何もかも小せぇんだよ。そんな奴が世界を変えるなんざ、できるわけねぇだろ。テメェのそのちっぽけな器じゃ、何も変えることはできねぇよ」

 

「下等生物が私を愚弄するな!」

 

道玄三武郎の言葉に激情したカトレアは、杖を道玄三武郎に向けて、魔力弾を放った。

誰も止める暇もなく、魔力弾が道玄三武郎に当たろうとした瞬間・・・

 

「あ?」

 

その言葉と共に、道玄三武郎は飛んできた魔力弾を軽く左手で払った。まるで、周囲を飛び回る小蝿を払い除けるように・・・

 

ドーン!

 

「なっ!?」

 

簡単に魔力が払われて、驚愕の表情となるカテレア。

 

「失せな、小娘」

 

次の瞬間、カテレアの目の前に拳を構えた道玄三武郎が現れ、彼女の腹をグーで殴り付けた。

 

ドン!!

 

「ガハッ!?」

 

凄まじい衝撃音と共に、カトレアは何が起きたのか考える間もなく、そのまま吹き飛ばされ、旧校舎の壁を破壊した。

 

 

 

 

そして、場面は前回の最後に戻る。

ギャスパー達の救出に成功した陸兎たちは、吹き飛ばされて壁に衝突し、ボロボロな状態で倒れているカテレアに驚いていた。

 

「カテレア・レヴィアタン!どうしてここに!?」

 

「誰ですか?部長」

 

「嘗て戦争で滅んだ旧魔王の血を引く者よ。戦争が終わっても、徹底抗戦を望んだため、冥界の隅に追いやられた悪魔。でも、これはいったい・・・?」

 

リアスが疑問に思っていると、カテレアは起き上がり、憤怒の表情となった。

 

「お、おのれぇ・・・!下等生物がよくも・・・!」

 

口からは血を吐き出し、体も痣だらけだが、その顔は酷く歪んでおり、殺意の塊とも言えるほどだった。

警戒する一誠たちに気づかぬまま、カテレアは悪魔の翼を展開すると、瞬く間に道玄三武郎の下へ向かう。

 

「よくも偉大なる血を引く私の体に触れたわね!絶対に許さない!私は真なる魔王の血を引く者よ!下等生物如き、一瞬で屠ってあげるわ!」

 

魔力を放出しながら、カテレアは道玄三武郎に殺気を向ける。

そんな彼女を道玄三武郎は、眼中に無いと言わんばかりに見つめ、それでカトレアの怒りが更に増したその時、割り込む者がいた。

 

「待ちな大将」

 

そう言いながら、道玄三武郎を呼び止めたのはアザゼルだった。

 

「こいつの狙いは俺たち三大勢力みたいだからな。これ以上、あんたらの手を煩わせるわけにはいかねぇ。ここから先は・・・俺が相手してやるよ」

 

立ちふさがるアザゼルに、カテレアは顔を顰める。

 

「アザゼル・・・!退きなさい!堕天使総督が私の邪魔をするな!」

 

「随分お怒りのようだな。けど、あんな風に言われて当然だろ。お前らのやってることなんざ、陳腐でくだらねぇ、物語であっさり退場する悪役がやることだぜ」

 

「黙れ!これ以上、私を愚弄するな!」

 

アザゼルの挑発を受けて、カトレアは標的を彼に変え、魔法を放つ。

アザゼルは背中から黒い羽を生やすと、宙に飛んで魔法を躱す。

そのまま二人は空中で戦いを始めた。

 

「よろしいのですか?父上」

 

「構わねぇよ。小物の相手なんざ興味ねぇ」

 

結果的に獲物を横取りされる形になり、良かったのかと父に聞く剣夜に対して、本人は元々カテレアのことなど眼中に無かったので、全然気にしてなかった。

 

「ひとまず、我々はこの状況をなんとかしないといけないな」

 

「そうですね。多勢に無勢、消耗戦に持ち込まれるのは避けなければ・・・」

 

カテレアはアザゼルに任せて、サーゼクスとミカエルはこの状況を何とかしようと思案する。

 

「今、グレイフィアがゲートの解析を行っています」

 

「それまで時間を稼がなきゃいけないってこと?」

 

サーゼクスの言葉に、セラフォルーが問いかけると、木場が名乗りを上げた。

 

「なら、僕たちが敵の攻撃を防ぎます!」

 

彼は既に聖魔剣を手に持っていて、彼の両側にはゼノヴィアとイリナ(ローブを外し、戦闘服になっている)もいた。二人もそれぞれの武器を手に持っている。

 

「元からミカエル様の警護としてお供したんです。これくらいの事はやらせてください」

 

「心配入りません。私たちには、頼りになる仲間がいますから」

 

そう告げると、三人はこちらを攻撃している魔術師に斬りかかった。

それを見た麗奈は、剣夜に進言する。

 

「剣夜様、私たちも・・・」

 

「分かっている。この状況を見て、十天師の頭目として放っておくわけにはいかない」

 

そう言うと、剣夜は魔術師たちの方に体を向ける。

 

「『錬成』」

 

剣夜がそう言った瞬間、彼の両手に二本の剣が錬成される。

そして、作った剣をそれぞれの手に持つと、剣夜は戦場に飛び込んで、魔術師を次々と斬っていく。

麗奈もまた、手元に氷をモチーフにした青白い銃を出現させ、魔術師を凍らせていく。

そんな風に戦っていると、ギャスパー達の救出に成功した陸兎たちが援軍に現れた。

 

「皆、無事か!?」

 

「イッセー君!」

 

木場が嬉しそうな顔で反応する。

陸兎たちはサーゼクスから状況を聞くと、ギャスパーをサーゼクスの近くに預け、木場たちに加勢する。

 

「要するに、ゲートが閉じるまでここを守ればいいんだな!?」

 

「そんじゃまっ、もうひと働きするか!」

 

状況はこちらが優勢になったが、向こうも数が多く、決定打には至っていない。

そんな中、後ろで陸兎たちが戦っているのを見ていたギャスパーが叫んだ。

 

「リアス部長!陸兎先輩!」

 

突然自分の名前を呼ばれて、リアスと陸兎はギャスパーを見る。

 

「僕は・・・僕は先輩のような誰かを護れるカッコイイ男になりたい!僕を拾ってくれたリアス部長の期待に応えたい!だから!・・・僕も仲間の為に戦います!」

 

そう言いながら、ギャスパーは腕に付けていた神器を制御する腕輪を外した。

それを見たリアスは、慌てながらギャスパーを止めようとする。

 

「お止めなさい!お兄様、ギャスパーを止めて――」

 

「やめろ!あいつは今、男になろうとしてんだ。黙って見届けてやれ」

 

リアスを制止した陸兎は、真剣な表情でギャスパーに視線を向ける。

 

「僕だって・・・僕だって・・・!男なんだぁーーー!!」

 

ギャスパーが叫ぶと、彼の体から光が広がり出した。

 

「あらあら?」

 

「いったい何が・・・?」

 

「分かりません」

 

光が収まった瞬間、朱乃やソーナなど今まで止まっていた者達が動けるようになった。

すぐさまセラフォルーがソーナに抱きつく。

 

「ソーナちゃん、お帰り☆」

 

「お、お姉様!?」

 

「ギャスパーが暴走した停止状態を打ち消したってこと?」

 

「やりやがった!スゲーぞ、ギャスパー!」

 

リアスが呟く横で、一誠がギャスパーを褒める。

ギャスパーは力を使い果たしたのかぐったりとしており、動けるようになったアーシアが後ろから支えた。

 

「敵のゲートも停止しています」

 

「これで一安心ってことね☆」

 

グレイフィアの報告を聞き、セラフォルーが安堵する。

 

「そろそろ遊びは終わりにしようか・・・禁止化(バランス・ブレイク)!」

 

一方、上で戦ってたアザゼルは、自身が開発した人工神器『堕天龍の閃光槍(ダウン・フォール・ドラゴン・スピア)』を禁止化させて、全身鎧を纏った姿になると、一気に決着を付けに来た。

 

「あちらはそろそろ終わりそうですね」

 

「それなら、こっちも一気に終わらせようか」

 

麗奈の呟きに剣夜がそう返した瞬間、彼の周囲には大量の剣が作られた。

その数はパッと見ただけでも百を超えていて、赤い空が剣で覆いつくされる。

 

「散れ」

 

剣夜の一言と共に、停止してた剣が一斉に降り注ぎ、魔術師たちを襲う。

猛スピードで降り注ぐ無数の剣を前に、魔術師たちは成すすべもなく、その身を斬られて、命を刈り取られていく。

 

「す、スッゲー、敵が一気に倒されていく・・・」

 

「末恐ろしいよ。あれだけの量をあんなスピードで飛ばせるなんて・・・」

 

その光景に一誠は圧倒され、木場は剣夜の力に戦慄する。

降り注いだ剣は、一瞬で百を超える魔術師を葬った。

運良く生き残った者もいたが、陸兎たちによって倒され、この場にいる魔術師は一人残らず無力化された。

 

「ああああああ!!」

 

アザゼルと戦ってたカテレアもまた、自身の命を懸けた攻撃をアザゼルの片腕を犠牲に防がれて、その隙にアザゼルが投げた光の槍を頭に食らい、消滅した。

 

「まだまだ改良の余地はありそうだな。ひとまず誓約神器レベルを目標にしとくか。もう少し付き合ってもらうぜ相棒・・・さてと、向こうも片付いたみたいだし、これで終わり――っ!?」

 

ドーン!

 

カトレアを倒し、禁手を解いたアザゼルは、一息つこうとしたが、突如背中から爆撃を受けた。

 

「なっ!」

 

突然アザゼルが地面に衝突し、一誠は驚きの声を上げる。

アザゼルはダメージを受けながらも服に付いた土を払いながら、攻撃をしてきた人物を見上げる。

 

「っててて、ヤキが回ったもんだ・・・なぁ、ヴァーリ」

 

「悪いな、アザゼル。こちらの方が面白そうだったんだ」

 

「ヴァーリ!裏切り者はテメェか!」

 

ヴァーリの言葉から、一誠は裏切り者は彼であると察した。

対するアザゼルは、そんなことを気にしておらず、ヴァーリに一つ問い掛ける。

 

「なぁ、ヴァーリ。一つ聞きたいんだが・・・うちの副総督のシェムハザが、三大勢力の危険分子を集めている集団の存在を察知していてな。確か、『禍の団(カオス・ブリゲード)』と言ったか?」

 

アザゼルから言われた『禍の団』の言葉に、サーゼクスとセラフォルーが反応する。

 

「『禍の団』・・・」

 

「危険分子を束ねるなんて、相当な実力者じゃないとそんなこと・・・」

 

セラフォルーの疑問に答えるようにアザゼルが言う。

 

「んで、そのまとめ役が『無限の竜神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィス。まさか『白い龍』がオーフィスに降るとはな」

 

「ドラゴンだって!?」

 

「無限の竜神・・・神も恐れた最強のドラゴン・・・!」

 

一誠とリアスが大きく反応する。他の者達も、無限と言わしめる強大なドラゴンがテロリストのトップである事実に驚いている。

しかし、陸兎だけは違う意味で驚いていた。

 

「(オーフィスって・・・まさか、この間のあいつ?)」

 

そう。つい先日、同じ名前をした幼女と彼は出会っているのだ。一緒に町を歩いて、ラーメンを食べた事は、陸兎にとって思い出に残っている出来事だ。

 

「(え?あのゴスロリ幼女、そんなスゲードラゴンだったの?いやいやいやいや!確かに、めちゃくちゃヤバい気配を感じたけど、俺普通にあいつとラーメン食ってたんだけど!仮にもテロリストのボスだぞ!いくら何でも自由過ぎるだろ!いや、もしかしたら別人の可能性も・・・そうだよな。あんな不思議ロリがボスな訳ないよな!見た目はロリ、中身はBBAのキャラは、よく色んな作品で見るけど、そんな特定の客層を集めるようなキャラ設定をテロリストのボスがする訳ないよな!)」

 

「どうしたんだい?陸兎」

 

「い、イヤ、ナンデモナイヨー」

 

汗をダラダラ流しながら思案する陸兎を気に掛けた剣夜に声を掛けられて、陸兎は片言になりながら誤魔化した。

そんな彼をよそに、ヴァーリは話を進める。

 

「それは違う。確かに俺はオーフィスと組んだ。だが俺もあいつも覇権だの世界だのに興味はない。力を利用しようとしてる連中が勝手に付いて来ただけだ」

 

「なるほどな。てっきり、カトレアと仲良くつるんでたのかと思ったぜ・・・魔王の座を奪われた同士でな」

 

「魔王の座ですって!?」

 

「どういうこと!?」

 

アザゼルの言葉に驚くセラフォルーとリアス。

 

「俺の名はヴァーリ・ルシファー。死んだ先代魔王の血を引く者。前魔王の父と人間の母との間に産まれたハーフなんだ」

 

ヴァーリから告げられたその事実に、ほとんどの者が驚愕の表情となる。

 

「そうか。人間との・・・私たちが知らないわけだ」

 

「真の魔王が血縁でありながら、半分人間であるが故に、偶然にも『白い龍』を宿すことができた。全く、冗談みたいな存在だよお前は」

 

「奇跡という言葉は、俺のためにあるのかもな」

 

そう言いながら、ヴァーリは光の翼の後ろに何枚もの悪魔の翼を生やして見せる。

 

「こいつは過去と現在、そして未来においても、最強の白龍皇になるだろう」

 

アザゼルがそう呟いた途端、動き出したのは龍牙だった。

 

「面白れぇ。最強の白龍皇か・・・相手にとって、不足はねぇな」

 

龍牙は笑いながらヴァーリの前に立つ。

 

「強い奴と戦いたいんだろ?なら、俺と殺り合おうぜ。俺は十天師でテメェは潰すべきテロリスト。戦う理由としては十分過ぎるだろ」

 

「そうだな。コカビエルの時も、その後も、ずっと君と戦えなかったからな。ここで雌雄を決しよう・・・それにしても、君も中々数奇な運命に合っているじゃないか」

 

「あ?」

 

突然自身のことを言われて、龍牙は疑問を浮かべる。

 

「君のことを少し調べさせてもらったよ。何でも、君と四宮聖良は親に捨てられたらしいな」

 

「え!?」

 

ヴァーリの言葉に、聞いてた一誠は驚きながら龍牙を見る。

当の本人は明らかに不機嫌な顔をしており、近くで聞いてた聖良は顔を俯かせていた。

 

「親に捨てられた君たちは、その後最強の退魔師を育成する研究所で育てられ、そこで殺し合いの毎日を送った。生き残る為に同胞たちを殺し、薬物を摂取され続けた君たちは、人間を超えた肉体と殺しの技術を得た・・・中々波乱に満ちた人生じゃないか。君が始原の龍に選ばれたのも納得だ」

 

「・・・よし分かった。白龍皇、テメェは俺が直々に殺してやるよ」

 

笑いながら言う龍牙だったが、その体からはあらん限りの闘気と殺意が溢れ出ていた。

ヴァーリは満足そうにしながら、視線を一誠の方に移した。

 

「しかし、運命は実に残酷だ。俺や無六龍牙は壮絶な人生を歩んでいるというのに、兵藤一誠だけは普通の人生ときた。つまらない、あまりにもつまらなすぎて笑いが出たよ」

 

「なんだと!?」

 

いきなり話を振られた上、自分の人生をつまらないと言われ、不機嫌になる一誠。

龍牙もまた、一誠を見ながら彼を小馬鹿にするような顔をする。

 

「なるほどな。お前とあの赤ガエルのオーラに違いがあり過ぎると思ったら、どうやら悪魔になるまでは、何も知らねぇモブだったってことか」

 

「そうだ。俺たちと彼の間には天と地以上の差がある・・・そこで、こういう設定はどうだ?」

 

間をおいて、ヴァーリは一誠に告げた。

 

「俺が君の両親を殺し、君は復讐者となる」

 

「なっ!!?」

 

その発言に一誠は驚愕の表情となる。

 

「親を俺のような貴重な存在に殺されれば、多少は重厚な運命に身をゆだねられると思わないか?君の両親だって、老いて普通に死んでいくつまらない人生より、そっちの方がよっぽど劇的だ」

 

一誠の様子を気ともせず、ヴァーリは淡々と喋っていく。

すると、傍で聞いてた龍牙は高笑いした。

 

「ハハハハハ!そいつは良い!こんな力を持っただけのはた迷惑な異形を産んだんだ!死んで償わねぇといけねぇよなぁ!?」

 

「な、なんてことを・・・!」

 

「あんのクソ馬鹿・・・!」

 

二人の悪魔のような考えに、アーシアは震えており、陸兎は仮にも十天師という重い立場にいるにも関わらず、許可なく一般人を殺害しようと企む同僚に悪態付く。

そんな中、家族を殺すと言われた本人は、静かな怒りを燃え上がらせていた。

 

「殺すぞ、この野郎」

 

初めて会ってから、さぞ聞いたことがない低い声に、戦慄するグレモリー眷属。

 

「重厚な運命?償う?父さんや母さんがテメェらになんかしたのかよ?なんで・・・なんで、俺の父さんと母さんがテメェらの都合に合わせて殺されなくちゃならねぇんだよぉぉぉぉぉぉ!!」

 

WelshDragon(ウェルシュドラゴン)overbooster(オーバーブースター)!』

 

一誠の怒りに応えるように、『赤龍帝の籠手』が光り輝き、瞬く間に一誠の体を包んだ。

光は一誠の体を纏い、全身を赤い鎧に変えていった。

やがて光が止むと、彼は禁手化の姿となり、力強く宣言した。

 

「テメェらなんかに、親を殺されてたまるかよ!!」

 

体から強力なオーラを放出させる一誠を見て、ヴァーリは嬉しそうに笑う。

 

「見ろアルビオン!兵藤一誠の力が桁違いに上がったぞ!」

 

『神器は強い想いを力の糧とする。純粋な怒りがお前と始原の龍に向けられているのさ。それこそ、ドラゴンの力を引き出せる真理の一つだ』

 

「そう言う意味では、俺より彼の方がドラゴンと相性がいいというわけか」

 

白い龍アルビオンとの対話で納得するヴァーリ。

一方、龍牙もまた、一誠の強大なオーラに怯む様子はなく、笑みを浮かべながら喋る。

 

「なるほどな。龍を宿してるだけあって、パワーは並みの雑魚悪魔よりあるようだな・・・なら、こっちも少しガチでいくかぁ!」

 

そう言った直後、龍牙はドン!と地面を力強く踏んだ。

 

「霊力展開!『異能殺し(ラムダ・ブレイカー)』発動!」

 

龍牙の足元に龍の紋様が描かれた陣が展開され、そこから霊力の柱が空まで上がり、中心にいた龍牙を包み込む。

一誠たちはこの光景を見たことがある。嘗てコカビエルと戦った時に陸兎がやった技だ。

やがて柱が消えて、柱の中心にいた龍牙の体を白い靄のようなものが纏っていた。

バハムートの黒と霊力の白、二つのオーラが混ざり合い、彼の周囲を異質な空気が包む。

 

「お前、さっき言ったよな?俺を殺すって・・・」

 

緊迫した空気の中、龍牙は手をピストルのような形にして、ゆっくりと一誠の方に向ける。

 

「っ!?」

 

次の瞬間、背筋がゾクッとし、一誠はほぼ無意識に体を逸らした。

 

ズドーン!

 

そのコンマ一秒、彼がいた場所の後ろで激しい衝撃が起こり、校舎の一部が破壊された。

 

「な、何!?」

 

「今のはいったい!?」

 

リアスと木場が驚きの声を上げる。他のグレモリー眷属やソーナと椿姫、イリナも驚愕の表情となっている。

一誠は驚きながら龍牙を見ると、彼の指先から霊力が煙のように上がっていた。

龍牙は『異能殺し』の力で指先に溜めた霊力をピストルのように撃ったのだ。もしも、咄嗟に体を逸らさなかったら、一誠は霊力の玉に撃ち抜かれていただろう。

こちらを警戒しながら見てくる一誠に、龍牙は力強く言った。

 

「やれるもんならやってみろ!本物の殺しがどういうものか、その薄汚ねぇ体に刻んでやるよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?この章での俺の戦闘シーンこれで終わり?俺、この小説の主人公だよね?皆にチヤホヤされて、ライバルと熱い戦いを繰り広げる存在だよね?なんで、原作主人公と原作主人公のライバルとオリキャラの三つ巴の戦いを枠から見物するキャラに成り下がってんの?確かに、前回の話で大活躍してたけどさぁ。主人公なんだからこう、もっと出番あっていいと思うの。そもそも、なんで龍牙(あの野郎)があんなに目立って、俺がこんな扱い受けてんの?おかしくない?おかしいよね。読者もあんなカレーの臭いを固めた馬鹿の戦いより、天然パーマの侍の素晴らしい活躍シーンの方が見たいだろ。だから、俺の戦闘シーンをもっとふや――」

 

ありません!




陸兎の戦闘シーンは今章ではもうないです。ここからは一誠VSヴァーリVS龍牙の三つ巴の戦いになります。


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