天与呪縛観察日記 (てんてりす)
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日記1

しょーどうがーきーしました。
よければ最後まで読んでくだされ。


 【¥月%日】

 

 今日から記録兼日記をつけようと思う。理由は『アイツ』の事を記録する為だ。それと今日で6歳になったからだ。本当は生まれて直ぐにでも記録したかったが流石に赤ちゃんが机に向かって文章を書くのは不自然すぎる。両親にはあまり迷惑をかけたくないしな。

 因みにこの記録はもしかしたら俺以外の誰かが読むかも知れないから一応書いておくが6歳でこんな漢字や文章が書けるのは俺には前世の記憶があるからだ。別に信じなくても構わない。俺に前世があると信じようと信じまいと俺には前世のある事実は変わらないからな。

 

 俺の事はこの辺にして『アイツ』のことだ。

 『アイツ』は俺が産まれた時から俺のそばにいる。見た目は女性で、ボサボサの髪を足首辺りまで無造作に伸ばし、煤?なのかは分からないがところどころ肌や服が黒ずんでいる。手足は少し細く爪は長い。服はボロボロで所々破けていたり右腕の袖が完全に無くなっていたりと酷い有様だ。恐らく和服系の服だと思う。

 

 そして肝心の顔なのだが分からない。

 顔にお札が沢山貼ってあるのだ。しかも一枚一枚釘で顔に打ち付けられている。普通に痛そうだ。

 喋れはしないと思う。「あー」とか「ゔぁー」とかを稀に言うが喋れる訳ではないみたいだ。普通に怖い。

 

 そういえば『アイツ』の存在は俺以外には見えていないようだ。両親にそれとなーく聞いてみたが見えていないし聞こえてもいないっぽい。学校に『アイツ』がついてきた時も誰も『アイツ』に反応は示さなかった。

 この事を踏まえて今からちょっと実験をしてみる。今から『アイツ』に触れてみようと思う。正直怖いが『アイツ』は今まで俺に何かをしてきた事は無い。つまり触れても平気な筈。というわけで触れてくる。南無三。

 

 

 

 

 平気だった。そして触れれた。普通に人肌と同じ感触で煤のようなものが手についた。幽霊みたいにすり抜けるのかと思ったが違った。ついでに水を手にかけてみたがちゃんと手が濡れて煤の様なものがとれて綺麗な肌が見えた。けど少し目を離したすきにまた煤だらけの手に戻ってしまっていた。どうやら『アイツ』は元の姿に戻る力でもあるみたいだ。試しはしないが腕が取れたとしても元に戻るのだろうか?

 

 他にも些細な事だが『アイツ』に付いて分かっているがある。一応まとめて書いていく。

 

 1. 顔に釘でお札が打ち付けられている

 2. 会話ができない(要検証)

 3. 元の姿に戻る力がある(限度は不明)

 4. 寝ていると良く枕元で正座をしている(稀に声を発する)

 5. 一日に一回のペースで10分程居なくなる

 6. 触れる

 7. 俺に対する敵意は無し(要検証)

 8. 女性?(要確認)

 9. 他の人に見えない(要検証)

 10. ご飯を食べない(要検証)

 11. 身長は190cmぐらい(デケェ)

 12. 腕が伸びる(ゴムのようにではない)

 13. 札には触らせてくれない

 14. さっき触れたせいか俺に触ってくる

 15. 基本俺のそばにいる(半歩後ろが定位置)

 16. 視覚はある(要検証)

 17. 学習能力は不明

 

 

 こんなところかな?

 まだまだ分からない事だらけだが取り敢えず害の有る奴では無いことは分かった。にしてもさっきからめちゃくちゃ俺に触れてくる。目が見えないから手で確認でもしているのだろうか?だが『アイツ』は電柱や人をしっかり避けて歩くから見えているとは思うのだがいかんせん顔が札塗れだがらなんとも言えん。

 

 今日はここまでにして寝るとする。もう眠い。

 

 

 【¥月#日】

 

 今日は雨。というわけでまた実験をしようと思う。

 

 今回の実験では『アイツ』に傘をさしてもらいながらコンビニまで行ってみる。今回の実験内容としてはまず傘が持てるか、それとコイツが傘を持っている場合他人には傘がどう見えるのかを確認するためだ。

 浮いているように見えたりしてもまあ何とか誤魔化せるだろう。では行ってきます。

 

 

 

 無事帰宅。

 結果は『俺が傘を持っているように見える』というものだった。どうやら『アイツ』には他の人の認識を変える事が出来るみたいだ。それと意外と俺の指示に従順ということも分かった。だが指示していた際少し問題が起こった。

 『傘を持て』まではスムーズにいっていたのだが『傘を開け』と言った途端動きが止まった。理由はとても簡単なことで『アイツ』は傘の開き方を知らなかったようだ。なので手本を見せてから『傘を開け』と言ったら俺の教えた通りに傘を開いた。『傘をさせ』も同様に俺が手本をまず見せてかないと行動はしなかった。

 どうやら『アイツ』は学習能力があるようだが基礎となる知識が全く無いみたいだ。それと色々試してみようと言う考えもない…まあ完全な指示待ち人間みたいなやつだ。このことから軽い仮説を立ててみた。

 

『アイツ』はまだ産まれたての赤ん坊の様なものと言う仮説だ。

 

 つまり『アイツ』の中身はまだスッカラカンで人間と同じようにこれから見て聞いて、体感して中身を埋めていくのだと思う。

 この仮説が正しいとなると『アイツ』が俺に敵意を向けたり攻撃してこないのは俺がまだなんなのか理解していないからと言うことになる。まだ俺が殺されるだけならまだ良いが俺を見て『人間はこういうものだ』『自分より下だ』『弱い』という印象を持ってしまったら俺ではなく人間全体に敵意をもってしまうかも知れない。それは不味い。何せ『アイツ』は俺以外には見えない。そんな透明な人間みたいな『アイツ』が人を大量に殺したとしても捕まえる事なんて出来やしない。

 

 

 少し変な方向に思考が偏ってしまった。

 まだ『アイツ』の事を俺は何も分かっていない。なのに決めつけるのは流石に阿呆が過ぎる。

 

 話題を変えるが『アイツ』の名前を決めようと思う。いつまで経っても『アイツ』や『オマエ』呼びでは些か不便な気がする。というわけで名前を十個ほど考えたので『アイツ』に選ばせてみようと思う。選ばせ方は適当な紙に名前を書いて俺がそれを読み上げ『アイツ』に指を指してもらうというものだ。気にいるのがあれば良いが。

 

 

 

 疲れた。そして名前は『エマ』に決まった。

 エマにはまず『選ぶ』や『好き』を教えたのだが苦労した。感情や常識的行動を言語化するのは難しい。それと上手く伝わっているのかが分からない。けれどさっきから紙にエマとひたすらに書いているところを見ると気に入ってくれはしたらしい。

 ペンや紙の使い方は俺を見て学んだのだろう。やはりエマは目が見えているようだ。どこから見ているのかは分からないが。

 

 今日これで寝る。明日は何を調べようか。

 

 

 【¥月○日】

 

 

 朝起きたら壁や天井に一杯に『エマ』と書かれていました。

 

 

 本当にびっくりした。

 どうやらエマは心底自分の名前が気に入ったらしい。最初の方は酷い文字の形だがだんだんと綺麗な文字になっていっている。まあ、あれだけ書けば上手くもなるだろう。

 今回のエマの奇行の原因だが見当は付いている。恐らくエマは俺が寝た後もひたすらエマと書き続けていき俺の用意していた紙を使い切ってしまった。そこで目に入ったのが壁や天井だなのだろう。

 まあよくある2歳児や3歳児が壁に落書きするのと同じことをしたのだエマは。怒られるは俺なのだが。解せぬ。

 

 

 エマを叱った。今朝の事をもうしてはいけないと理由を含めて言ってみた。正直無駄だと思ったがエマは頷いた。つまり肯定の意思を見せたのだ。恐らく誰かの肯定するという行動を見て学んだのだろう。居なくなっている時に何かを見て学んだのだろうか。

 この調子だとエマは後数年でもすれば基礎知識と自らの意志を持って行動できるようになるかもしれない。その時に俺のことをどう見ているのか少し怖くなってきた。

 

 色々考えてみたが正直解決手段は思い浮かばない。

 というわけで流れに身を任せようと思う。なんとなくだが常に優しく接しても拒絶をしても無駄な気がする。むしろ悪い方へと向かっていきそうなので俺は俺らしくエマと接して行こうと思う。

 だが、実験もとい検証は引き続き続けていく。なんだかんだエマの生態には興味がある。だが一方的にエマを知るのも不公平な気がするのでエマには俺の事を教えようと思う(理解できるかは分からないが)

 

 これで今後の方針は決定したので早速検証に移っていこう。

 

 と思ったが振り返ったらエマが居なかった。どうやら今日は居ない日のようだ。

 

 今日はこれくらいにする。

 

 

【¥月●日】

 

 

 エマは今日もいないようだ。

 書くことは何もない。

 

 

【¥月◇日】

 

 

 今日もいない。

 どこに行ったのだろうか。

 

【¥月◆日】

 

 

 今日もいない。

 

 

【¥月◎日】

 

 

 いない。

 

 

【¥月+日】

 

 

 町中を探してみたが居なかった。

 

 

【¥月*日】

 

 

 今日でエマの消失から一週間が経つ。

 エマは俺の幻覚だったのかと思う日々が続いている。だが柱にペンで掘られた『エマ』という文字のおかげでなんとか現実だった事を知覚出来ている。

 

 だが流石にこれ以上思い悩んでも仕方ないので今日もう一回だけ街を探してみようと思う。それで居なかったら柱の『エマ』の文字を削り取ってエマなんて居なかったと言うことにしよう。

 

 では行ってきます。

 

 

 

 

 結論から言えばエマは見つかった。

 だが同時に変な化け物を見つけた。まあ原型はあまり留めていなかったが。エマの手に化け物の血らしきものが付着していたので恐らくエマが殴り潰したのだろう。

 エマは俺が見つけて声をかけた時驚いていた気がする。(雰囲気だけでの判断だが)あの行動は俺にばれたくなかったようだ。

 今回のことで分かったのは時折俺の前からいなくなっていた時間は恐らくこの化け物を殺す為に費やされていたことだ。化け物についても、なんでこんなことをしているのかも分からなかった。

 

 あの化け物についてエマは何か知っているのだろうか?

 今後の検証はエマの生態の検証、意思疎通可能かどうかの検証に移行しようと思う。まあ可能だろうが時間はかかると思う。

 

 頑張って行こう。

 

 今日はもう寝る。足がもうパンパンだ。

 

 

 

 

 

 




最後まで呼んでくださりアザマス。

よければ感想書いてくださるとモチベが上がります。


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日記2

あともう少しでもう一話書きおわるから待ってくれよストック…

最後まで読んでクレメンス


【●月〆日】

 

 

 エマに文字や言葉を教え始めて今日で半年になる。

 もともと学習能力が高かったから文字を教えるのには大して苦労はしなかった。今では筆談で会話出来るようになった。俺の言葉もしっかり理解しているようで試しに『おすわり』や『お手』と言ってみたらその通りに実行した。

 だがエマはそこまで出来ていて何故か言葉を発することは無い。相変わらず『あー』とか『ゔぁー』しか発しない。

 

 エマに直接聞いても『縛られている』としか返ってこない。まあ、ただでさえよく分からない存在なのだ。俺の知らない概念が有るのは当たり前だ。ということで今日からは俺が生徒となりエマに色々教えてもらおう。

 問題はエマが知ってるかどうかなのだが

 

 

 

 わたししってる こと おしえればいい?

 

 

 

 びっくりした。エマが筆談と勘違いしたのか乱入してきた。おれは普段声出して会話しているんだがな?

 

 

 

 ごめんなさい

 

 

 

 エマを引き離してきた。

 最近エマは人間味というか自分で動くことが増えてきた。今まではずっと俺の後ろをついて来ていたが、最近では部屋をうろうろしたり母親や父親の周りぐるぐるしたりする。俺はそれを別段注意しようとは思わない。何かを感じ、考えて行動する事は悪いことではないからな。なんか娘を見ている父親のような気持ちだ。

 

 またエマがこちらにじりじりと寄ってきている。今日はこのくらいにして寝るとする。エマに教えてもらうのは明日からにする。

 

 

【●月々日】

 

 

 今日は大きく進展があった。あの半年前に見た化け物の正体や呪力、呪術というものについてエマに教えてもらった。

 因みにエマが何故知っているかは分からない。だが貴重な情報を貰った。あの化け物は『呪霊』といって人の負の感情によって漏れ出した呪力の集合体のようなものでとんでもなく害が有るらしく人を殺したり食ったりするらしい。いや怖すぎな。この事で正式に分かったが、エマがいなくなるのは町中の呪霊を皆殺しにしているからだったようだ。

 

 それとエマ自身の正体も分かった。

 どうやら『天与呪縛』というものらしい。天与呪縛とは、生まれた瞬間に強制的に何かを犠牲にして特別な力を手に入れると言う生まれながらの呪縛の事を指すらしい。そして俺の特別な力とは勿論エマの事だ。

 エマに何が出来るのか聞いてみたが『自分を描き変える事ができる』とか言っていた。

 何を言ってるのか一個も分からん。まあそこらへんは実験を繰り返して確認して行こうと思う。

 

 エマが天与呪縛という事は分かった。だが不思議な事が一つある。

 

 俺は何を犠牲にしたんだ?

 

 俺の身体は五体満足でエマ曰く呪術師達が持っている術式という特別な力も持っている。呪力もあるし呪霊も見える。考えれば考えるほど俺は何も失ってない気がする。

 まあここもおいおい探していこう。今のところ考えている仮説としては一番マシなものが臓器の一部、最低なのが寿命だ。正直失ったものに関してはどうしようも無いので調査の優先順位は今のところ低い。

 

 明日からはエマと一緒に呪力の訓練とエマの呪術の実験をやっていこうと思う。

 

 今日はもう寝る。明日が楽しみだ。

 

 

 【●月↑日】

 

 

 今日は呪力操作の訓練をしたが結構簡単だった。エマに出来を聞いてみたらそこそこだと言われた。意外と辛口だ。

 呪力操作は簡単だったので術式をやって見たんだがこれまた意外にさらっとできた。能力は『自分を中心に決めた範囲からあらゆる物を侵入させない』というものだった。能力だけ見たらチートだ。何せ俺が術式を発動してしまえば誰も俺に触れる事が出来ないからだ。

 

 だがこの能力大きな欠点がある。

 それは酸素や光、その他諸々までも遮断してしまうのだ。つまり俺はこの能力を使っている間範囲内の酸素のみしか吸えないし、光が遮断されるので視界が真っ暗になるのだ。

 うん。弱い。とても弱い。守れるのは良いが周りの状況が光が遮断されるせいで全く見えないからいつ解いたらいいか分からないし、中に籠城しようものなら酸素不足で死んでしまう。

 現実的な考えとしては一瞬だけ展開して防ぐ事かな?中々に練度がいるな。

 

 俺の術式は雑魚だったが逆にエマの能力はめっちゃくちゃ強い。試しにそこら辺にいたすごい弱い(らしい)呪霊に使ってもらったら一瞬で呪霊が殺された。見て思ったがアレは『描き換える』の範疇を超えていると思う。なんせエマの腕が龍になって呪霊を噛み殺したのだ。

 いや正直なに言ってるかわからないと思うが俺も何が起きたのか分からん。エマに聞けば「腕をあの呪霊を噛み殺す龍に描き変えた」のだとか。いや意味がわからんし強すぎだろ。

 

 

 流石に良く分からなかったので詳しく教えてもらった。

 どうやらエマの術式の名前は『千変万化』という術式で、対象はエマ限定なのだがエマの身体を質量保存の法則やらを無視してどんな大きさでも変化出来る。例を挙げるとするなら腕を鳥の羽に変えて空を飛んだり、腕を刀に変えて斬ったり出来るみたいだ。強い。

 正直これだけでもチートなのだが、なんでもエマ曰く自分の呪力量すら変化させる事が出来るらしい。流石に呪力の上限を上げることが出来ないらしいがどれだけ呪力量が減っていても一回でも術式を発動する事が出来れば呪力量をマックスまで回復することが出来るらしい。

 

 コイツチート過ぎるな。

 

 エマが致命傷を負ったとしよう。普通ならそのまま死ぬだけだがエマは自分を描き換えて傷を負う前の状態に戻ることができる。これだけだとエマに教えてもらった『反転術式』と言った普通の回復方法と変わらないがエマの場合呪力まで回復するのだ。つまりどんだけ負傷しようとも、どれだけ呪力を消費しようともエマが倒れる事は無い。

 まあ倒すとするなら回復させる暇を与えず一撃で殺しきる事だがほぼ不可能だろう。

 

 ここまで見たらエマの術式は強い程度の術式に見えるがエマの術式の本当に壊れているところは『エマ自身の性質、或いは本質を変えられる』ことだ。

 

 これまた分かりづらいが、例えば壁に向かって歩けば人はどうなると思う?

 当たり前だが壁にぶつかり止まってしまう。だがエマは自身に『壁をすり抜ける』という性質を無理矢理付与して壁をすり抜けることができるのだ。

 他にも『触れた術式を無効化する』なんていう夢物語も可能らしい。

 

 うん。俺が修行する意味が無いな。

 

 だがまあ一応弱点や発動条件もある。

 発動条件はエマがエマに触れる事、弱点…というか欠点なのだが『触れた相手を殺す』などと言った事はできないらしい。どうやらエマ以外にエマの術式の影響を与えるにはある程度限界があるようだ。

 ここまで壊れているのだから相手の変化ぐらい出来そうなもんだがエマ曰く『私は私から発生している性質を押し付ける事はできるが、他人の本質や性質、魂の在り方を変える事は不可能』なんだとか。

 

 

 難し過ぎて何言ってるか分からん。

 一応俺の見解としては相手に術式を使って火傷を負わせる事は出来ないが、術式を使って炎を発生させ相手に火傷を負わせることは出来るとかそんな所だろうか?

 まあ取り敢えずエマがとてつもなく強いという事は分かった。それについては特に問題はない。

 問題があるのは、こんな強力な術式を持ったエマを俺は何を犠牲にして手に入れたかだ。本格的に心配になってきた。

 

 

 

 やっぱりどう考えても答えはでない。

 

 今日はもう寝る。

 

 

 【●月▶︎日】

 

 

 なんか黒い呪力が出た。

 

 エマ曰く『黒閃』というラッキーパンチの様なものらしく、込められた呪力よりも大きな呪力が発生し相手に大ダメージを与えれるらしい。因みに5回連続で出来た。何となくだがコツを掴んだ気がする。

 

 エマにも出来るか聞いてみたら『描き変えて常に黒閃が発生する存在になれる』だそうだ。お前やっぱ壊れてるよ。

 実戦で見してくれたが相手の呪霊がかわいそうに見えた。だって黒閃一発目で顔が潰れて、黒閃二発目で下半身らしきものが吹き飛び、黒閃三発目で跡形もなく消しとんだ。俺もあの術式欲しい。

 

 今日は黒閃の練習で疲れた。もうねる。

 

 

 【●月◀︎日】

 

 

 なんか術式使う人に襲われた。

 

 

 まあボコボコにして殺したが。

 自分でも少し気持ち悪いのだがいくら正当防衛とはいえ人を殺したのに何も感じないのはどうかと思う。普通こういうのはトラウマになったりするもんだろ。

 

 もしかしたらこれが俺の失ったものかもしれない。

 

 

 

 

だいじょうぶ?

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 振り返るといつもの筆談用のスケッチブックを持ったエマが俺の顔を覗き込んでいた。

 

 「なあ、エマ。アイツはなんだったんだ」

 

 アレは呪詛師って言われる悪いヤツら

 

 「ヤツら?って事はまだいるのか?」

 

 エマはコクリと頷きスケッチブックを見せる。

 

 普段はワタシが皆殺しにしている。けど今回は修行の一環としてワザと此方に誘導した

 

 「エマって相手を誘導とかもできるのか?」

 

 小さい呪力を出して無理矢理誘導した感じかな。アイツら弱い者イジメ好きだからすっ飛んでくるよ?貴方もまた今度別の呪詛師で試してみる?

 

 「いや、めんどくさいからいいや」

 

 やっぱり何とも思わない。普通なら俺に人を殺させるように仕向けたエマを怒るのだろうがエマに対して不快感も怒りも感じない。むしろ感謝するぐらいだ。

 

 俺は再び机に身体を向け日記を書き始めようとペンを握ると、後ろからエマが抱きついてきた。

 

 「……どうした?」

 

 エマは俺に抱きついたまま俺の日記に文字を書く。

 

 

 

 エマのこと怖い?

 

 「いや全く。むしろ可愛いぐらいだ」

 

 殺すの怖い?

 

 「特に何も感じなかった」

 

 もっと殺したい?

 

 「勘違いしないで欲しいが別に俺は殺しが好きなわけじゃないぞ。相手が殺しに来たから殺しただけだ」

 

 残念…

 

「…エマは殺しが好きなのか?」

 

 貴方を守れてる実感が得られるから好き

 

 

 エマが殺戮マシーンになりそうでお父さん不安だよ。これからは殺しを控えさせ…いやそれはダメだな。呪詛師達をこの世に生かしておくのは駄目だ。不利益しか無い。呪詛師自体警察やら国の力が及ばない存在だ。エマがパパッと殺した方が世の為人の為だ。

 

 「エマそろそろ離れてくれないか?日記が書けない」

 

 分かった。じゃあ私はこれから呪霊と呪詛師を皆殺しにしてくるね。でも、何かあったら遠慮せずに呼んでね。直ぐに飛んでくるから

 

 「りょーかい。あぁ、でも朝までには帰ってきてくれよ。明日の修業は反転術式をメインにやりたいからな」

 

 エマは俺の頭を優しく撫でた後身体を霧の様に霞ませて何処かへ行った。

 

 「やっぱりエマの術式便利だよなー」

 

 まあ文句言っても仕方ないけどな。

 

 俺は心の中と口で文句を言いながら日記に向き直った。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 草木も眠る丑三つ時。そんな時間に森の中を一人の男ががむしゃらに走っていた。

 

 「ハァ……ハァッ!…いっ、イヤだ!死ぬのは!」

 

 その男は何かから必死に逃げているようで、高そうなスーツが枝に引っかかり破れても気にも留めない。それに目も潤んでおり大の大人としては大分恥ずかしい姿だ。

 

 「何なんだよ!あの化け物は!?」

 

 悪態をつきながらも必死に殆どの呪力を足に回し常人ならざる速さで森の中を駆け抜ける。

 どうやらこのスーツの男は呪力が使えるようだ。

 

 だがその男の呪力を嘲笑うかのようにその男よりも遥かに速い影が二つ男の後ろに迫って来た。男はその影に気づき青い顔を更に青くする。

 男は直線方向に逃げるのは不味いと思い右に曲がろうとするが右には既に男と並走している影を見つけた。まさかと思い左を見ると左にも男と並走する影が…。

 

 どう見ても男は万事休すであった。

 

 

 「こんなの聞いてない!!聞いてな…ッ!?」

 

 どうしようも無いやるせなさと絶望から悪態を叫んだ瞬間男はこけた。

 それはもう派手に空中に放り出されたかのようにこけた。

 

 普通なら直ぐにでも立ち上がる場面だが。男はもう立とうとも思えなかった。なにせもう男には立ち上がるために使う腕も、立って走る為の足も全てなくなっていたのだから。

 

 (……腕や足って取れても痛くないんだな)

 

 極限状態なのか男はそんな呑気な考えを自分の血で赤くなった枯葉を見ながら考えていると身体がぐるりとうつ伏せから仰向けにされる。

 

 (あぁ…星が綺麗だ)

 

 そして男は襟首を何かに掴まれズルズル引き摺られて行き、木の幹に縋るように座らされる。座らせると言うよりかは立て掛けられたと言う方が合っているかもしれない。

 

 (なんだ今更…こんな事してなんの意味……が」

 

 男が目を開けると頭部が人の手になっている犬や猫の様に四足歩行の呪霊が四匹いた。大きさは大型犬ぐらいの大きさで、身体に血がついていることからおそらく男の四肢を奪ったのはこの呪霊で間違いはないだろう。

 

 だが男は手の呪霊では無くその呪霊の前に立っている顔に札を数枚貼り付けた女の呪霊に驚いていた。

 

 なにせその女の呪霊はスケッチブックを持って男に文字を見せていたからだ。

 

 

 あなたはここに何しに来たの?

 

 

 「………」

 

 男は驚きのあまり声が出ない。

 なにせ今まで呪霊が人間にコミュニケーションを取ろうとした事など聞いた事がない。あるはずもない。

 

 

 話したら助けてあげる

 

 

 ページが一枚めくられる。

 

 

 話さないなら殺す

 

 

 「ッ….話す!話すから殺さないでくれ!!」

 

 男は必死に命乞いをする。

 すると女の呪霊はスーツの男に近づいて来た。男はもうだめだ、と思い目を瞑るが女の呪霊は男の肩に軽く触れた後、元の位置に戻った。

 男は何かされたのかと怯えながらも恐る恐る目を開けた。すると腕と足が治っていた。

 

 (これは…反転術式か!?)

 

 男が驚愕の目を向ける中、女の呪霊は手の犬型呪霊にスケッチブックを見していた。そのスケッチブックを見た呪霊達は指示が書いてあったのか森の闇の中に消えて行った。

 

 (あの呪霊達はコイツの指揮下にあるのか?あの手が頭の呪霊は呪力量からしても最低でも二級、下手すれば一級だ。そいつらに指示を出せる呪霊…まず間違いなく特級呪霊だ…なんとかしてこの情報を持ち帰らないと)

 

 

 あなたはここに何しに来たの?

 

 

 女の呪霊が再びスケッチブックを見せる。

 

 「お、俺はここに呪霊がいると聞いて祓いに来た」

 

 

 狙いはわたし?

 

 

 「い、いや!違う!お前じゃない!」

 

 

 じゃあどれ?

 

 

 「情報では鳥型の三級程度の呪霊だと聞いた。お、お前のような人型呪霊が居るとは聞いていない」

 

 

 わたしは貴方達呪術師達の間で有名?

 

 

 「そ、そんなわけないだろ!人型の呪霊がいるなんて『窓』ですら観測したことないんだ!」

 

 息を乱しながらだが男は慎重に言葉を選んで答えていく。目の前にいる呪霊はその気になれば反撃をする暇さえ与えず殺される。そう確信しているからこそ焦らず丁寧に話す。

 少しでも気を苛立たせて仕舞えば自分は死んでしまう。そんな恐怖から男は頭をフル回転させる。

 

 (恐らくこのままコイツの質問に答えていけば見逃してくれる筈だ。コイツのさっきの質問で確信した。『有名か?』と言う質問はコイツが目立ちたくないと言う気持ちが現れている。つまり事を荒立たせなくて良いように、良くてコイツの事喋ったら殺すと言う脅し、最悪縛りを結ばれて逃される。良し!これで生きて帰れる!!)

 

 男は自分の生還を確信した。

 

 

 

 じゃあもういいや

 

 

 「は?」

 

 男は首を傾げた。

 

 

 そしてそのまま頭が地面についた。

 

 

 「え?」

 

 

 女の呪霊は男の落ちた頭を踏みつけぐちゃりと潰した。

 

 それと同時に森の闇の中から再び頭が手の犬型呪霊が出てくる。犬型の呪霊達は女の呪霊に触れられると吸い込まれるように女の呪霊に取り込まれていった。

 

 そして残った男の身体を呪力の塊で跡形もなく消しとばし女の呪霊は森の闇の中に消えて行った。

 

 

 




最後また読んでくれてありがとうござました。

因みにオリ主の失ったものは感情ではありません。
それと失うだけがデメリットではありません。もしかしたら与えられることで発生するデメリットもあるかもしれませんね。

感想くれると嬉しいです


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日記3

ストックがーーー切れた(早すぎ)

更新速度あげなきゃ

最後まで読んでくれると嬉しす


 【仝月■日】

 

 やっと反転術式を物にできた。

 習得するのに2年かかったんだが?だがまあこれで自分で傷を治せるようになったし、他人の治療も出来るようになった。この調子で術式反転も覚えて行きたい。因みにこの2年間はエマに著しい変化は見られなかった。いつも通りの強さで常に無双しっぱなしだった。なのでこの2年間の観察日記はただの俺の日常を書いた日記になってしまった。

 

 そういえばこの2年で俺の家庭が崩壊した。

 

 まず父と母の離婚。

 原因は父親の不倫だとか。その結果俺は母親と二人で暮らすことになった。最初の一年はまあ上手くやっていた。俺も肩揉みや料理をやったりして仕事で大変そうな母親の負担を少しでも減らしてあげていた。

 だがある日母親が宗教にハマった。もうアプリの沼にハマった廃課金者みたいにドップリとハマった。

 

 そこからはもうお金が溶ける溶ける。

 父親からもぎ取った慰謝料も貯金も底を尽きた時、やっと俺は流石にこれは不味いと察知して母親に宗教を辞めろと訴えかけた。勿論聞き受けてもらえるわけもなく返ってきたのは暴力と金切声。

 その日から母親は俺に暴力を振るってきた。まあ俺は呪力で防御してるから無傷だったが精神的にきつかった。一応腐っても母親だったからだと思う。だが一番大変だったのはエマを抑える事だった。俺の抑えがなかったらエマはもう一億回ぐらい母親を殺している。

 最初はびっくりした。もうエマが原型がないぐらいの化け物になって母親を食い殺そうとしたのだ。思い出しただけで怖くなってきた。

 

 そんなどうしようもない母親だが今は精神病院にいる。

 因みに原因は宗教ではない。

 

 原因は俺だ。

 

 何をしたかと言うと俺が母親を殺しかけた。

 条件反射だったんだ。俺は悪くねぇ。

 あの時の俺は何回か呪詛師達に命を掛けた殺し合いをエマに差し向けられていたせいなのか命の危機に敏感になっていた。そんな時にある日母親がヒステリックを起こして俺を包丁で刺そうとしたのだ。さっきも書いたが条件反射だったからか術式も呪力総動員で迎撃してしまった。

 

 そしたらこわれちゃった☆

 

 反省も後悔もしている。

 なので一応お見舞いにも行っていたのだが担当医に『君が来たら彼女の容態が悪化するからもう来ないでくれ』と言われたのでもう行っていない。まあそりゃ壊れた原因が行ったらダメだよな。

 というわけで今は広い一軒家に一人暮らしだ。

 

 まあ起きたことは仕方ないので前向きに考えていく。

 

 今日はもう寝る。

 明日は術式反転をメインにやっていく。

 

 

 【仝月◇日】

 

 術式反転を習得した。

 能力は『自分の呪力で相手を侵食する』と言うものらしい。らしいと言うのはエマ談だからだ。能力確認のためにエマの腕に使ってみたら侵食されたところは真っ黒になって全く動かせなくなるみたいだ。それに術式も使えないみたいだ。だが反対の侵食されていない腕では使えるようだ。

 侵食箇所は一時間もすれば元に戻った。が、恐らく個人差はあると思う。

 

 この術式も強そうに見える能力だが侵食するのに時間がかかる。それにずっと触れていないといけない。エマの腕を侵食するのには10秒もかかった。少しずつ侵食すればずっとじゃなくてもいけるかと思ったが少しの侵食では術式が相手の呪力に弾かれるみたいだ。

 つまり相手に最低でも10秒程触れ続けないと術式があまり機能しないと言う事だ。

 

 うん。微妙。

 

 因みにエマの術式反転は『永怜獄』と言って『エマ以外の何かの形を固定する』という能力らしい。能力を勘違いしそうだがその場に固定するのではなく形を固定するのだ。簡単に説明すれば、粘土にこの術式をかければ何をしても粘土の形を変えることが出来なくなる。まあさらに噛み砕いて簡単に説明すると、どんなものでも絶対に傷つかない硬い物に変質させる事が出来るのだ。

 

 うん。ぶっ壊れ。

 

 この格差に俺は泣いていいと思う。

 

 まあ今日で自分の武器が確認できたし良しとします。

 

 明日は術式の練度を上げていこうと思う。

 もう寝る。

 

 

 【仝月€日】

 

 今日の日記の書き安さを上げるために俺の術式の名前を決める。

 『絶』で良いや。術式反転は『侵』で良いや。安直で適当過ぎるな。

 

 で、今日は『絶』で新たな発見があった。『絶』は俺を中心に囲む様に円状の結界を創る術式と思っていたのだが、俺が中心じゃなくても出来た。

 なんか『この結界相手にぶつけれたら強そう』と思ったから試してみたら、手のひら上にドッヂボールぐらいの大きさの球体の結界ができた。しかも浮かせる事が出来て俺の思い通りに動かせる。結界の球を操れる有効範囲は大体50mぐらいだ。範囲外にでると結界の球は消えてしまった。

 結界の球体を試しに木にぶつけてみたら木が抉れた。どうやら結界の中に侵入出来ないと言う能力は失われていないみたいだ。抉れたと言っても俺がかなりの速度で木に当てたからで、結界自体に触れた物を抉るなんて言う能力は無い。そのため結界の球をゆっくり当てたら抉れる事は無かった。

 

 今回色々この結界の球で実験をしてある仮説が浮かび上がって来た。なので明日試そうと思う。

 

 仮説が正しいと証明できればやっと強いと言える技を覚えたことになる。

 

 今日は『絶』を使い過ぎたせいなのか疲れた。もう寝る。

 

 

 

 【仝月*日】

 

 

 昨日の結界の玉の実験をメインにやった。

 

 結論から言うと俺の仮説は正しかった。

 試しにエマに結界の玉を全力で防いで貰った。だがエマは一度として俺の結界の玉を防ぐ事は出来なかった。

 

 エマが全力の黒閃で殴ろうと、腕を龍に変えて喰らいついても、悉くを粉砕して俺の結界の玉は進み続けた。どうやら俺の結界の玉は防御不可の技みたいだ。

 何故防げないのかと言うと俺の結界の球に触れると力のベクトルが0になるからだ。

 厳密には違うが少し分かりやすい例えを書く。

 俺の結界の球に時速100kmのスポーツカーがぶつかって来たとしよう。すると俺の結界の球はそのスポーツカーの速度に0を掛けてしまうのだ。するとスポーツカーの速度は0kmになってしまい急停止する。つまりそう言う事だ。

 

 読み手が理解できるか少し不安だ。

 

 取り敢えず理解したていで続ける。分からないなら直接俺に聞きにきてくれ。実戦含め見せて説明する。まあこの日記を見る奴がいればの話だが。

 

 話しを戻すが俺のこの結界の球の本当に強いところは向かってくる力のベクトルは0にするくせに、この結界の球をぶつけたりした時に発生する力のベクトルは0にしないと言うところだ。

 これも説明すると、たとえば敵が100の力で攻撃をしてきたとする。俺はその攻撃にこの結界の球で10の力で応戦したとする。すると相手の100の力は結界の球に触れた瞬間0になる。だが俺の結界の球は10の力のまま攻撃できる。つまりこの結界の球は絶対に相手と力比べの攻撃に勝てる術式だ。

 エマ曰く恐らく俺のこれは『極ノ番』と言われるものかもしれないとの事。まあ術式の奥義の様なものらしい。道理で呪力の消費量が多かった訳だ。

 

 『領域展開』と呼ばれる更に奥の手もあるらしいのだがエマに『教えるのは時期尚早だから教えない』と言われた。もっと戦い方と切り札の出しどころを理解しないと教えてくれないとも言われた。これでもそこら辺の呪詛師には遅れを取らないぐらいには強いんだがエマからすればまだ弱いのかも知れない。もっと強くならなければ。

 

 明日はもう少し『極ノ番』の結界の球を色々試してみようと思う。

 

 もう寝る。

 

 

 

 【仝月▽日】

 

 『極ノ番』の名前を『不可進』にした。これまた安直な気がする。

 

 で、その『不可進』の弱点が分かった。

 それは避けられたら意味がないという至極真っ当なものだ。確かに力任せで勝てないものに馬鹿正直に挑んでくる奴なんて居ない。

 因みにこの弱点が発覚したのは最近の日課になっているエマとの組み手の時だった。やっと一本取れるかと思い『不可進』を使ったら、エマは身体を液状にしたり霧状に霧散したりしてまともに攻撃が当たらずボコボコにされた。やっぱりあの術式強すぎるだろ。

 

 だが『不可進』を二つに増やした時は少しエマも焦っていたと思う。まあ雰囲気だけだが。

 

 今日は身体中痛いからもう寝る。

 

 

 

 【仝月$日】

 

 最近学校に不登校気味だったせいか家に担任が来た。

 実は正直小学校はあまり通う意味が無いと思うので行っていなかったのだ。基礎知識は前世の記憶のお陰でバッチリだから本当に通う意味が無いのだ。友達はどうするのかって?そんな事より呪術です。

 

 担任が帰った後はいつも通り呪力操作やら術式の訓練をした。

 

 今日起きたことはこんな所だ。

 

 

 

 【仝月@日】

 

 

 特に書くこと無し。

 

 

 

 【仝月→日】

 

 

 術式反転の『極ノ番』のようなものをやろうとして失敗した。

 

 どうやっても『不可進』の様な変化は見られなかった。自分の意識の問題からかと思いエマにも意見を聞いてみたが分からないと言われた。そもそも術式反転で出来るかも分からないな。

 術式反転の『極ノ番』の開発はまた今度にする。

 

 術式反転の『極ノ番』は失敗したが1秒だけ部分展開できる『絶』は習得できた。

 何故1秒の部分展開の『絶』を覚えたかと言うと、知っての通り俺の『絶』は俺を中心に結界を創るほぼ絶対防御だが、結界は光も遮断してしまうので周りの状況が分からなくなる。そこで俺は部分展開の『絶』を発動することでその欠点を補う事にした。因みに何故1秒だけなのかというと部分展開の発動限界が1秒だからだ。部分展開は意識して使えば3秒程続くが戦闘中に防御だけに集中力を割いているわけにはいかないから意識せずに使える制限時間が1秒というわけだ。

 だがまあこれでも欠点はある。

 この防御方法は完全に手動で行うからタイミングがズレたら終わりだ。まあこれに関しては練度を上げるしかない。

 

 もっぱらの課題は順転術式だけの練度が異様に上がっている事だな。これでは完全に術式反転の『侵』が産廃ものだ。奥の手の方が弱いなんて笑えない。

 もっと発想を柔軟にして開発しないといけないな。

 

 明日も『侵』の『極ノ番』を開発していく。

 

 

 【仝月◆日】

 

 

 それっぽいものができ(文字が途切れている)

 

 

 【仝月♢日】

 

 

 昨日は呪力の使い過ぎで倒れてしまった。

 特別強い奴と戦ったとかではなく、遂に術式反転の必殺技が完成したのだ。

 

 完成したきっかけは『空気を侵蝕すれば何かできるのでは?』というエマの一言だった。そこから俺は空気を侵蝕しようと手に呪力をありったけ貯めて『侵』を使った。結果は空気を侵蝕することは出来なかった。

 

 だが、手から黒い泥の様なものがドロリと出てきた。

 

 そしてその泥が垂れ地面に触れた瞬間俺の周りの地面が俺の『侵』に侵蝕された。範囲としては大体俺を中心に半径30mぐらいだったと思う。

 因みにエマは俺の手から泥が出た瞬間に逃げていたので被害は無かった。

 エマに被害がなかったのは良かったのだが問題は解決していない。あの泥は俺の呪力に侵蝕された草木や地中にいた生物のエネルギー?的な物を奪い取り更に範囲を拡大していったのだ。俺の意思に関係無くだ。

 

 範囲が100mぐらいまで広がった時ぐらいに俺は『侵』が呪力で抵抗できる事を思い出して、俺の残りの全呪力を泥に流し込んだ事でなんとか被害を抑える事ができた。

 森の山奥で修行していて昨日ほど良かったと思ったことは無い。まあ俺のせいで森の一部が10円ハゲのようにぽっかりと更地ができてしまった。ニュースにでもなったら大ごとだな。

 因みに何故ハゲのようになったかと言うと木や草は侵食された後萎れて俺の泥の中に沈んでいったのだ。文字通り草の根も残らなかった。

 

 昨日の出来事としてはこんなもんだ。

 

 で、昨日の技、まだ名前は決めてないが取り敢えず現段階では『泥』と呼ぶ事にする。

 

 そして今日は昨日の事故?の問題点を挙げて改善した。

 問題一つ目は範囲の指定ができなかった事だ。解決法は単純で、自分の呪力を『泥』に流し続けることで範囲調整ができるようになった。だが、これがキツイのなんの。なんて言ったって常に呪力を足元の『泥』に垂れ流していないといけないのだ。

 どうやら『泥』の弱点は呪力らしい。術式反転だからだろうか?なんとも変わった術式だ。

 

 二つ目は地面を伝っていかないと侵食できない事だ。

 これでは空中に浮かぶ事ができる奴には効果が無い。術式であれなんであれ相手との持久戦になったらまずこっちがバテる。

 

 解決法としては『不可進』の同時発動だ。

 

 だがこれがまたキツイ。神経をすり減らすし、『不可進』と『泥』の同時発動中は集中力をめっちゃ使うから動けない。歩く程度ならできるが相手の攻撃を避けるのは無理だろう。

 呪力の限界量を増やす訓練とかあるのかな?またエマに聞いてる。

 

 

 今日は疲れた。寝る。

 

 

 




最期まで読んでくださりあざーます。それと誤字報告もあざます。

次の投稿は明日には出来るかな。その次?しらんな。


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日記4

難産!

すんません一回削除してちょいと書き直しました。


良ければ最後まで読んでくださーい



 【▽月☆日】

 

 今日で小学四年生だ。

 この一年間一人で生活してきたが特に問題なく生活できてきている。祖父母の仕送りにも感謝だ。本来は母親が入院した時に東京の祖父母に引き取られる予定だったが、俺が無理言ってここに残らせて貰った。残りたい理由は『お母さんが帰ってくるまで僕はここにいたい』なんて言って納得してもらった。

 本当の理由は家に誰かいると呪力操作の練習やらエマとの会話がしづらいから一人の方が都合が良いからだなんだけどな。

 

 まあそんな事は置いといて、今現在俺の出来る事とエマの出来ることをまとめてみようと思う。

 

 理由としては最近修行がマンネリ化してきたからだ。本当に最近やる事無さすぎて『黒閃』の成功率をあげることしかやることが無い。そこで今出来ることをまとめてみて何が出来ないのかをピックアップして見ようと考えた訳だ。

 

 【俺の出来ること】

 

 1. 『絶』…術式順転

 2. 『侵』…術式反転

 3. 反転術式…他人の治療も可

 4. 『黒閃』…平均成功率60%

 5. 『不可進』…術式順転の極ノ番

 6. 『泥』….術式反転の極ノ番

 7. 『絶 部分展開』…展開時間に難あり

 8. 『領域展開』…展開可能だが被験者無し

 

・備考・

 強みとしては絶対に防ぐ手段がある事。エマと検証したが『絶』は相手が領域展開前に発動しておくと『絶』の中では相手の領域の影響を受けない。だが防ぐだけなので根本的な解決にはならない。相手の呪力が切れるまで耐えると言うのもアリだが外の状況がわからないので解除のタイミングが運任せになる。

 弱みは攻撃手段の弱点が明確である事。『不可進』は避ければ問題ないし、『泥』は範囲は広いが地面経由じゃないと侵食できないため空中に浮けば回避できる。『侵』は数秒間触れなければならないため触れられても直ぐに俺から離れれば問題ない。領域展開に関しては被験者がいないので能力が明確に判明していない。なんとなく理解はしているが仮説で書くべきでは無いので判明してから書く。

 『黒閃』については特に記述することはない。

 

 

 

 【エマの出来ること】

 

 1. 『千変万化』…術式順転

 ・可能な事・

 【常時黒閃発生・腕を龍に変える・腕を増やす・切断した腕を呪霊に変化させ使役できる・分身・身体の形状変化(例:流体や気体に変化)・口を作る・壁をすり抜ける・擬態・呪力隠蔽(エマ自身の呪力を完璧に感知させらなく出来る)・呪力回復・巨大化・小人化】

 以上が現在確認した現象。恐らくまだまだやろうと思えば出来ることはある。

 

 2. 『永怜獄』…術式反転

 3. 反転術式…他人の治療も可

 4. 領域展開…範囲がかなり狭い。半径50m程しかなかった。

 

・備考・

 術式でできる事の範囲が広すぎるため強い。身体の形状変化が可能なため相手の苦手な戦法で戦う事が可能。分離した身体の一部を呪霊に変え使役できるのも物量で押し切ったりできるので弱点が無い。

 特例としては相手がエマの同じように様々な変化に対応できる術式だった場合イタチごっこになり戦闘が長引く可能性がある。これは弱点というよりは必然だ。そうなったとしてもエマは呪力の回復も出来るので正直長期戦の方が向いているため相手の呪力切れを待てば勝利は確実だ。

 エマが負けるとすれば回復する暇も与えずに強力な一撃を与えることだがそんな事はほぼ不可能だろう。しかし、エマの話によればそれを可能になる可能性が高い男が存在しているらしい。出会わない事を祈ろう。

 

 

 

 こんな所だろうか?

 こう書いて見るとエマについてはまだまだわかってない事多そうだな。

 

 今日はまとめるだけにしておく。特に変わったこともなかったしな。

 

 

 明日は最近まとも行き始めた学校に行く。

 青春を取り戻しに行くか。

 

 

 

 【▽月⇒日】

 

 

 今日も友達づくり失敗。

 もう何が悪いのか分からない。

 

 

 【▽月$日】

 

 

 公園で一人でブランコをこいでいたら巫女服を着た女に話しかけられた。

 

 この程度のことなら日記に書くまでもないのだがその女はエマの事が見えていたのだ。俺の勘違いでは無い。その女の目はしっかりとエマを捉えていた。

 そしてその女はエマを害あるものとして見ているようだ。

 その判断材料としては、エマが俺に近づいた瞬間に俺をエマから遠ざけるように俺を引きつけたのだ。しかもその後ずっとエマを睨んでいた。この事からエマを、呪霊か何かだと判断しているのだと思う。まあそれが普通の判断なのだが。

 

 それとこれは新発見だったのだがその女には俺の呪力が見えていないようだった。俺の呪力量はエマ曰くそれなりにあるらしい。だがその女から『呪力があるのにあの呪霊が見えないの?』とは聞かれなかった。むしろ俺が「そこに何かいるの?」と聞くと「何もいない」と返された。このことからあの女は俺の呪力が見えていない、感じとれて居ないと判断した。

 

 最近薄々感じていたのだが、どうも呪詛師達が俺と相対した時に絶対俺の事を舐めきっていたのだ。かなりの呪力量があるらしい俺を見ても呪詛師達は警戒もしなかった。しかも俺が術式を発動した瞬間めちゃくちゃ驚いていた。恐らく俺の事を呪力を持っていない普通の人間だと思っていたのだろう。

 

 この現象に関してはエマの顔に貼ってある札が関係している。

 どうやらエマの札には呪力の放出を抑える効果があるらしく、エマと天与呪縛で魂が繋がっている俺にもその効果の一端が現れているらしい。因みにこの札のせいでエマは本来の一割ほどの力しか出せておらず、俺は本来の呪力量の半分が封印されているらしい。これはエマ本人談なので間違いはないだろう。そういうの事はもう少し早く教えて欲しかったのだが『ハンデを自覚させるのはまだ早いかと思った』との事でエマなりの考えがあったようだ。

 

 話が少しそれたが、結局その女から俺は取り敢えず逃げた。

 振り払うとか無理矢理ではなく「お姉さん怖い」などと言って少し離れてもらった後走って家に帰った。ちゃんと呪力は使わず素の力で帰ったぞ。後ろの方で女が何か言っていたが無視した。にしても帰ってから何故かエマの機嫌が悪い…気がする。相変わらず顔の表情が分からないから雰囲気だけでの判断になるが。

 普段からエマはあまり俺から離れずにいる。おそらく俺の護衛のためだがエマが見える女とまたいつ会うか分からないのでこれからは遠くから俺を見守ってもらうほうが良いのかもな。

 

 

 

 

 

 

 

あの女殺す?

 

 

 

やめろ

 

 

 

 エマから詳しい話を聞いたのだが。呪術師と言い呪霊から呪霊の見えない一般人を助ける正義の味方のような存在の事だ。情報源はいつも通りエマだ。正直ここだけ聞いたら悪い奴らでは無いのだが、どうやら俺はその正義の味方に殺される可能性があるらしい。

 

 殺される理由がエマだ。

 

 まあ、俺も理解していたがエマは危険な存在だ。呪術師達にとっては目の上のたんこぶ、だが消したくても強くて消せない。だが簡単に処理する事が出来る方法が一つある。

 

 俺を殺すことだ。

 

 今のエマは俺の魂に引っ付いて存在しているような物らしい。つまり、俺が死んで俺の魂がなくなって仕舞えば必然的にエマも消えるのだ。この手を使わない手はないだろう。

 

 今からエマと作戦会議をする。エマにやめろなんて言った(書いた)が最悪あの女を殺すことになるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 エマと俺で話し合った結果、エマと俺の関係は非術師と取り憑いている呪霊ってことにした。理由としてはエマが『非術師ならば殺される可能性が下がるかもしれない』という案を採用したからだ。

 

 そして保険としてエマにはあの女にエマの事を広めない為の縛りを結ぶと言う作戦だ。この作戦だとエマの存在を多くの奴らに知られることなく呪術師を撃退出来る。殺すことも考えたがそれでは余計躍起になって呪術師達がエマを狙ってくるから無しにした。これを伝えた時エマの身体がビクリと跳ねていた。何故だ?

 

 縛りの内容はエマに任せよう。けどコミュニケーションがとれる呪霊って事で更に警戒されそうだな。まあそこら辺も上手くやってくれるだろう。

 

 作戦も決まった事なので今日はもう寝る。

 

 

 

 【▽月<>日】

 

 巫女服の女が小学校の校門前で出待ちしていた。

 

 探す手間が省けるのは良かったが普通にびっくりした。お前それ普通の小学生だったら逃げるか泣くぞ。

 

 あの女…名前は庵 歌姫とか言ってた筈だ。その庵 歌姫とはあれよあれよと話が進み俺の家に招く事になった。

 なったというのは今この日記は俺の家の近くの公園のトイレで書いているからまだ庵 歌姫はまだ俺の家に着いていない。何故わざわざトイレで?と思うかもしれないが理由は一応ある。エマと庵 歌姫が縛りを結ぶ時間をつくるためだ。エマも庵 歌姫も俺がいないほうがやり易いだろう。

 

 

 

 そろそろ良いころあいだと思うので行ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 「エマの奴上手くやってるかな……」

 

 俺はランドセルに日記をしまいながら一人呟く。

 

 自分からエマに頼んだことだが少し不安だ。少し想像してみてエマが円滑に話を進めて縛りを結ぶ姿が如何も浮かばない。アイツは使う術式は繊細なのにけっこう脳筋的発想が強いからな。平気で力で脅すとかやりそうだ。

 

 個室から出て手を洗いに蛇口の前まで行くと設置してある鏡に写った自分と目が合う。黒髪黒目…ごく普通の顔だ。強いて特徴を挙げるとするならば目が濁っていることぐらいだろうか。

 

 今ではもう自分の顔として認識しているが、まだ生まれて間もない頃は良く鏡をみて『誰だお前』となっていた。人間の慣れは凄い。

 

 手を洗い終え適当に手の水をきって出口に向かう。

 

 

 瞬間出口の外を何かが横切った

 

 

 その後直ぐにガシャン!と何か壊れた音がした。

 恐らく公園の周りに設置されているフェンスに横切ったものがぶつかり壊れたのだろう。つまり何か通ったのでは無く吹き飛ばされて来たのだろう。

 

 俺は嫌な汗をかく。飛んできたものが何か分かったからだ。正直外に出たくない。だが出ないのもどうだろう?怪しまれるか?

 

 俺は周りをぐるりと見回して見るが逃げ場は無い。

 

 クソッ…あの女エマより強いのか。あぁ、そうだ。いい加減現実を見よう。さっき吹き飛ばされて来たのはエマだ。

 

 俺は必死にここから逃げる方法を探す。

 

 いや待て…落ち着け。俺が呪霊が見える事はまだ知らないんだ。普通にここから出て何食わぬ顔で「お待たせ」と言えば良いんだ。それに俺が今出ることによってエマが逃げる隙が出来る。

 

 俺は覚悟を決めて外に出た。

 

 

 すると外には此方を見て安心した様に息を吐く巫女服の女と、

 

 

 もう一人、白髪の綺麗な目をした男がいた。

 

 

 その男と俺の視線がかち合った瞬間男が目を見ひらく。だがその硬直した顔はすぐに胡散臭い笑顔へと変わる。そしてその笑顔のまま此方に歩き始めた。

 俺はその男を見つめることしか出来ない。エマの状況を確認したいが生憎男とは真反対だ。今エマの方を見ると確実にバレる。今すぐにでも逃げて欲しいがエマが動く気配は感じられない。相当重傷なのだろう。

 

 そう思考している内に男が俺のすぐ近くまで来た。男の背が高いので上を向く首が痛い。

 

 少しお互いの目をジッと見合った後男が口を開いた。

 

 

 「君のその呪力、なに?」

 

 

 俺は術式を展開した。

 




最後まで読んでくださりあざまーす

タグで原作前っていれたほうがえーですかね?

感想くれると嬉しいです。


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窮鼠猫を… 其の一

 いや、あっ、あの、伸びすぎじゃないですか?(震え)

 びっくらこいたと同時にかかるプレッシャー。みろよこの執筆する腕、生まれたての子鹿みてえだろ。
 出来るだけ自分らしく書こうと思うで、出来れば最後まで読んでくれると嬉しいです。


 

 双眼鏡で見ている景色を歌姫は信じられなかった。

 

 小学生相手に術式を使い殴りかかっている五条 悟も信じられないが、その五条 悟に恐らく術式であろう黒い球体や黒い結界を操り何とか食らいついていっている少年の方が信じられなかった。

 

 「なんで呪力の無いあの子が術式使ってるのよ…」

 

 体術の練度の高さもおかしいがやはり歌姫の一番の疑問はそこだ。歌姫も腐っても準一級呪術師、それなりの経験や知識で仮説を立てる事が出来るだろうが流石に『呪力が見えない』などと言う反則行為は『六眼』を持っていない歌姫には本人の口から聞く以外答えに辿り着く事は出来ないだろう。まあその本人に聞きに行こうにも五条と少年の戦闘に割り込む実力は歌姫には無い。

 勿論五条の足手纏いで邪魔にしかならないと言う理由もあるが、手を抜いているにしても五条にくらい付いていける時点であの少年の方が歌姫より実力は上だ。何ともまあ情けない話である。

 

 歌姫が一人でぐるぐると思考を巡らせていると歌姫の携帯が鳴った。

 

 「はい、歌姫です」

 

 『近隣住民の避難と帳を降ろし終わりました。そちらの状況は?』

 

 「元保護対象に取り憑いていたと思われる呪霊は五条がすでに祓い終えました。ですがまだ五条と元保護対象が戦闘中のため皆さんは帳の外で待機していてください。いつ戦闘が激化するか分からないので」

 

 『分かりました。ですが呪霊は祓ったのですよね?何故保護対象が我々に敵意を?』

 

 「さあ?…それについては本人に聞いてみるしかないかと。ではこれで」

 

 歌姫は少し乱暴に通話終了のボタンを押す。

 

 「理由なんて私が一番知りたいわよ」

 

 先日公園で歌姫が遭遇した呪霊に取り憑かれていると判断した少年。歌姫は遭遇したその日に保護したかったがあえなく失敗。だからこそ歌姫は失敗したと理解した瞬間自分のツテを全て使い失敗した翌日に少年の保護を決行した。因みに五条にも歌姫が直接援助を求めた。

 何故態々最強の五条に援助を求めたのかと言うと、歌姫は少年に取り憑いていた呪霊を一眼で一級以上の呪霊と判断したからだ。それに歌姫が呪霊に認識された事、呪霊に少年を守ろうとする行為を見られた事等を見られた事により少年に呪霊から保険としてなんらかの術式をかけられる可能性が高まった。もしそうなれば保護に成功したとしても少年はその術式に確実に苦しめられる事になるだろう。呪霊が人間にかける術式はいつだって命を脅かすものだ。

 それを防ぐ為、また看破する為にはどうしても五条の『六眼』が必要だったのだ。

 

 因みに五条は貸し一つという事にして快く承諾してくれた。

 

 歌姫としては絶対に貸しをつくりたくない人間に貸しをつくってしまうことになるが背に腹は変えられないと下げたくもない頭を下げ頼んだ。

 

 だが現状はどうだ。自分の一番嫌いな人間にまで頭を下げて、色々無理を通して助けようとした少年は自分と五条の命を狙ってきている。

 

 「もぉおぉ〜〜〜!!なんなのよあの子!!」

 

 歌姫はガシガシと頭を掻きむしる。ヒステリーを起こすのも無理もない。

 

 フゥフゥと息を切らしていると、ドガッ!と公園の方から鈍い音が響く。その音に驚き歌姫が公園の方を見るとそこでは五条が少年の術式である黒い球体を避け少年の腹に一撃をお見舞いしていた。

 思わず歌姫は「うわっ」と声を出してしまう。今歌姫がいるのは公園から離れた場所、約60m程だろうか?そのぐらいの距離からでも少年の体がくの字に曲がるのが見えてしまったのだ。更に少年は余程五条の一撃が効いたのかその場で蹲り嘔吐してまう。側から見たら『大の大人が小学生の腹を殴って嘔吐させた』と言う絵面だ。帳が降りてなく周りに一般人がいたら確実に通報ものだ。

 

 その一連の衝撃シーンを見て歌姫はふと違和感を覚えた。

 

 「アイツが攻撃を避けた?」

 

 攻撃を避ける事の何処がおかしい?と思う人も多いだろうが五条 悟の身体の周りには五条の無下限呪術で創られた『無限』というほぼ無敵の盾がある。この『無限』は簡単に言ってしまえば相手が五条に近づけば近づく程遅くなっていく結界の様なものだ。厳密には結界というよりも相手との間に無限の距離を発生させていると言う方が適切だ。まあ、つまり五条 悟は基本的に攻撃を避ける必要無い。

 だが戯れで避ける事もあるだろう。しかし歌姫には明確な目的があるように見えた。そこに違和感を覚えた。

 

 歌姫が五条を怪しみジッと見つめる。だがそうなると必然的に五条の近くで嘔吐している少年も視界に入ってくる。

 五条に向いていた歌姫の視線は吸い込まれるように少年に向く。

 

 黒髪黒目の目が濁った少年。何処にでも居そうな何の変哲もない小学生。

 

 

 「騙されたんだよね、私…あの子に」

 

 

 口から溢れた事実。その一言を皮切りに『小学生に騙された大人』と言う事実がじわじわと現実を帯び歌姫の心を蝕んでくる。たが先程のようにヒステリーを起こしたり頭を掻きむしったりせず目を瞑り大きく深呼吸を繰り返す。

 

 何回か深呼吸を繰り返した後歌姫は拳を自分の顔に前に前に持って来て固く誓った。

 

 

 「あの子絶対一発殴る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ゔっ…ヴぉぇ…」

 

 大の大人に腹をぶん殴られたおかげで胃がせり上がり少年は今日の給食のパンや味噌汁を公園の地面にぶちまける。ボコボコにされているように見えるがこの少年はこの『腹部への殴打』が今回の戦闘において初めての負傷だった。

 つまり、少年はたった数分ほどではあったが呪術界最強の五条 悟の攻撃を捌き切っていた。勿論五条も手加減はしている。だがそれでも賞賛されるべき偉業だ。

 

 「あれ?ちょっとやりすぎたかな?」

 

 白々しい嘘をつきながら五条は蹲っている少年を見下ろす。

 

 (練度の高い術式、呪力操作、身体さばき…こんな年端も行かない子供ができていい代物じゃない。さっき殺した呪霊の存在も、()()()()()()()()()()術式も気にはなるが…それよりもこの呪力どんな絡繰だ?)

 

 五条は六眼で少年の呪力を見る。確かに少年の周りにはかなりの呪力が見える。

 

 (見えるのに何故か全く呪力を感じない)

 

 そう、五条は少年の呪力を全く感じ取れていないのだ。そのやりづらさのせいもあってか一撃をいれるのに2分もかかってしまった。

 

 (それに術式の構造も分からない。とんでもない掘り出し物だな)

 

 五条が思考を巡らせるているとうずくまっていた少年が急に起き上がり五条の腹めがけて殴りかかってきた。がその拳は五条の少し前でピタリと止まる。先程説明した通り五条の無下限呪術でつくられた無限だ。

 

 「…やっぱ無理か。もしかしてアンタこの防御技って自動で発生してる?」

 

 「おっ、やっぱりわかっちゃうんだ」

 

 「俺も同じ様な事を手動でやってるから違いぐらい分かる。だからさっきのは速すぎて捉えきれなかったからモロにくらった」

 

 「だよねー。君全く反応できてなかったもん」

 

 「…聞いて答えるか分からないけどコレ何?アンタの術式って事ぐらいしか分からないんだけど」

 

 五条は一瞬キョトンとするが直ぐに笑顔に戻る。

 

 「コレはね無限だよ」

 

 少年はその五条の言葉に目を見開く。

 

 「なるほど…道理で届かないわけだ」

 

 「理解が早くて助かるよ」

 

 「けどコレは当たるよな」

 

──極ノ番 『不可進』──

 

 少年の背後から黒い球体が五条の顔面めがけて飛び出てくる。それを五条は首を傾げるように避ける。通り過ぎた球体は五条の後ろでピタリと止まり再び五条目掛けて飛んでくる。

 

 この球体に対し五条は常に避け続けて来た。

 

 その理由として実は五条、この球体に一撃をもらっている。

 トイレから出てきた少年に話しかけた瞬間この『不可進』を発動され腹に軽くだが一撃もらっている。ちなみに一緒にいた歌姫には少し離れていたと言うのと五条が背を向けていた為見られていない。それにくらった後直ぐに術式を使い後ろに飛んだ為とても一撃をもらったようには見えなかったのだ。

 なので先程の腹への一撃は仕返しと言うのも含まれている。

 

 (少し見極めるか)

 

 だが五条はこのタイミングで迎撃を選んだ。少年の顔面を蹴り飛ばし距離をつくった後身体を捻り球体に向け全力で球体を殴りつけた。

 

 瞬間五条の拳はピタリと止まった。

 

 「は?」

 

 拳が止まれど球体は威力を落とす事なく進み五条の拳を潰す。そのまま止まらず球体は五条の顔面めがて飛んでくる。五条は横に飛び球体を避けるが、再び球体は空中で止まり五条めがけて飛んでくる。

 

 「そう言う術式か…って何処行った?」

 

 蹴り飛ばした筈の少年が見えない。五条は飛んでくる球体を避けつつ反転術式で潰れた拳を再生する。

 

 (まるであの日の再現だな)

 

 五条は辺りをぐるりと見渡す。ここは公園、遮蔽物はあまりない。すぐに見つかる筈…なのだが少年の姿は一向に見えない。

 

 「どこ行った…」

 

 明らかに速度が遅くなった球体を悠々と避けつつ少年を探しているとトイレの近くの壊れたフェンスに寄りかかっている首と四肢が捻れた呪霊が目に入る。

 

 数分前に五条が殺した呪霊だ。

 

 「…何で消えていない?」

 

 五条の六眼もあの呪霊は完全に活動を停止していると読み取っている。なのに消えていない。呪霊と言うのはもともと活動を停止、俗にいう死んだ場合体を構成している呪力が空中に霧散して死体は影も形も残らない。なのにあの呪霊は消えていない。

 

 「何か…おっ?」

 

 五条が呪霊に気を取られた瞬間背後から『トッ』と言う()()()がした。

 

 

 振り向くと少年がいた。

 

 

 この少年五条に蹴られた後、視線が外れたと判断した瞬間もう一つ『不可進』を発動しそれに乗っかるようにして空に逃げたのだ。しかも影でバレないように影が出来ないくらい高くだ。

 普通なら『不可進』をもう一つ発動した時点で呪力を感じ取られ何かしたとバレる。

 

 だがこの少年の呪力を五条は感じ取れない。

 

 勿論少年は五条が自分の呪力を感じ取れないという事を知らない。だが少年は『術師は術式が発動する際の呪力の膨らみを感じ取れる』という事を知らない。だからこそ少年はこの策を実行し、この少年だからこそ最強に通じた。

 

 少年は今日一番の速度で五条に接近する。

 

 (お前がきたって何もできな…いや何かくる)

 

 五条は少年に身体の正面を向けた。それは今回の戦闘で初めて少年に対し『警戒』をした事の証明だった。その判断は正しかった。が、それが少年の狙いだった。

 

 少年は不敵に笑い一言、

 

 

 

 

 

「やれ、『エマ』」

 

 

 

 

 瞬間五条の四肢が背後から何かに掴まれた。

 

 「あ?」

 

 後ろを見ると最初に殺した筈の呪霊が倒れていた場所から四本の腕を伸ばし五条の四肢を掴んでいた。腕が伸びている事、生きている事にはさほど五条は驚いてはいなかった。問題は五条に触れていると言うところだ。

 

 (無限が消えている?)

 

 振り解こうとするがその前に仕返しとばかりに腕と脚を握り潰される。しかし五条ならばその程度一瞬で反転術式で回復できる。だがその一瞬が少年はどうしても欲しかったのだ。

 

 少年は反転術式を発動される前に五条のへそ辺りに触れる。

 

 

 「間に合った」

 

──術式反転 『侵』──

 

 

 少年は全力で五条を侵食しようとした。だが五条の反撃を警戒して2秒程しか触れ続ける事ができなかった事と、五条の呪力により阻まれた事が重なり侵せた部分は3センチにも満たない小さな黒いシミの様なものだった。もちろんこのままでは何も意味が無い。だがこれが少年の限界で、どうしようもなく埋まりようもない地力の差だった。

 

 

 だから少年は五条自身に首を絞めさせる。

 

 

 五条は術式でエマの腕を術式で捻り反転術式で回復した。いや、してしまった。

 

 「ッ!?」

 

 確かに腕と脚の傷は回復した。しかし同時に少年に侵された部分も広がり五条の左腹部を完全に侵した。

 

 「これは…」

 

 (呪力が上手く操作できない)

 

 五条は直ぐに術式の仕組みを把握し、無下限術式のオートを切ると同時に自身の脳を常時回復させるための反転術式も停止する。

 

 「やっぱり仕組みはすぐバレるか」

 

 触れてすぐに距離をとった少年が五条に向け歩いてくる。それと同時に五条の背後からエマが近づいてくる。

 

 「確か術式って詳細を伝えれば効果が高まるんだっけ…」

 

 少年はどこか半信半疑で術式を開示し始める。

 

 「ソレ『侵』って言って相手を自分の正エネルギーで侵す事が出来るんだけど、その侵食した部分の機能を停止させる効果があるんだよ。勿論呪力の流れも止めれる。まあ、アンタは強すぎるから阻害程度しかできないけど。多分今アンタは呪力操作がやりづらいと思うんだけどそれが原因ね。それとコレは最近気づいたんだけど正のエネルギー…まあ反転術式だな。それで回復しようとすると相手の回復しようとした正のエネルギーを利用してその範囲を拡大出来るんだよ。便利な術式だ」

 

 少年は拳を構える。

 

 五条の背後のエマも再び腕を四本にし構える。

 

 「正直ここまで運が良かった。アンタが何故か俺を直ぐに殺さない事、アンタが何故か常に反転術式を発動していた事。本来だったら俺の術はアンタに効いてない。けど殺さなかった訳を何故かなんて聞かないし、どうでもいい」

 

 少年は濁った眼で五条を見据える。

 

 

 「俺は死にたくないから俺を殺すあんたらを殺す」

 

 

 そんな少年を五条も六眼で見据える。そして溜息を吐いた。

 

 

 

 

 「調子に乗るなよクソガキ」

 

 

 

 

 




 

 最後まで読んでくれてありがとうございまーす。それと誤字脱字報告も同時に感謝いたします。出来るだけクライマックスや、熱いシーンでは誤字脱字を注意して書いているつもりなんですがあったら申しわ毛ないでやんす。

 蛇足ですが、ここまで五条が一方的にやられているのは殺さないように手加減しているからですよ。本気出せば出会って3秒で殺されております。殺さない理由?なんででしょうね?(すっとぼけ)

 そういえばみんなにショタ×高身長女性が激刺さりしていて同志って結構おるんやなって思いました。

 最後になりましたが原作前のタグ追加しまーす。


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窮鼠猫を… 其のニ

ども、お久しぶりでござんす。
納得出来るものが出来たので投稿しました。
あと話しが10000字超えそうになったんで分けます。



 

 

 目の前に美男子の少年がいた。

 

「なにか手伝えることはあるかい⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎?」

『わたし』は無いとこたえる。

「そうなんだ。なにか困ったことがあったら僕を頼ってね」

『わたし』は分かったとこたえた。

 

 

 次に目の前に活発そうな少年が現れた。

 

「なぁ!⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!いっしょに遊ぼうぜ!!」

『わたし』は断った。

「そっか……んじゃまた明日遊ぼうぜ!!」

『わたし』が答える前に少年はどこかに行った。

 

 次に青年が『わたし』に声をかけてきた。

 当たり障りない会話をした。

 また別の青年が『わたし』に声をかけてきた。

 適当にあしらった。

 

 また別の少年が声をかけてきた。

 

 適当にあしらった。

 

 また別の、また別の、また別の、また別の、また別の、また別の、また別の、またまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまた別の男性が私に話しかけてきたから、私は適当にあしらった。

 

 

 その後少女が『わたし』に突っかかってきた。

「なによ貴女!」

 少女は『わたし』に罵詈雑言を浴びせどこかに行った。

 

 次に女性が『わたし』に突っかかってきた。

「貴女、私の夫と何を話していたの?」

 女性は『わたし』に根掘り葉掘り聞いた後『わたし』に平手を浴びせてどこかに行った。

 

 別の女性が『わたし』に罵声を浴びせた。

 別の女性が『わたし』を貶した。

 別の女性が『わたし』に難癖をつけた。

 別の女性が『わたし』にものを投げようとして近くの男性に止められていた。

 また別の女性が、また別の女性が、また別の女性が、また別の女性が、また別の女性が、また別の女性が『わたし』に嫌がらせをした。

 

 

 

 世界が暗転する

 

 

 

 目の前に美男子の少年がいた。

 

「やあ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。昨日はごめんね。あの子が君に酷いことを言ったみたいで」

『わたし』はとても傷ついたと言った。

「うん。だよね。傷ついたよね。だから⬛︎したよ」

 

 美少年は少女だったものを指差していった。

 少女は案山子のような姿勢で木に磔にされていた。どれくらい磔にされていたのか目玉などを烏に食べられて所々欠損している。

 

「ごめんね。本当にごめんね。彼女もちゃんと⬛︎したし、ね?僕のこと嫌いにならないよね?アイツと友達だったからって嫌いにならないよね?」

『わたし』は嫌いになったけど嘘をついて嫌いにならないと言った。

 

 美少年は嬉しそうに笑ってどこかに行った。

 

 次に籠を背負った青年が現れた。

 

「昨日は申し訳なかった。妻が早とちりしてしまって君に手を出したと聞いた。あぁ……頬が赤くなっているじゃないか」

『わたし』は痛かったといった。

「うん。だよね。だから妻には罰を与えたんだ」

 

 青年は背負っていた籠を下ろして中身を私に見せてきた。

 そこには手足を切られて口に布を詰め込まれた『わたし』に平手打ちをしてきた女性が入っていた。まだ生きているようで涙を流しながら青年と『わたし』を交互に見ている。

 

「これで許してもらえないかな?妻も反省しているみたいだし」

『わたし』は別に怒ってもいなかったけど許してあげた。

 青年は嬉しそうに笑って籠を背負い直し、森へ向かって行った。

 

 また別の男性が『わたし』に報告をしてくる。

 また別の男性が『わたし』に報告をしてくる。

 また別の男性が『わたし』に報告をしてくる。

 

 どれも聞くに堪えないようなことを、自慢げに報告して来る。

 

 そしてどいつもこいつも『わたし』の顔を伺っている。

 居心地が悪い。気持ちが悪い。『わたし』の何が良いんだ。

 

 

 世界が暗転する

 

 

 牛車の外から色々な声が聞こえて来る。

 

「アレが噂の⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎かい?」

「なんでも絶世の美女らしいぞ」

「でも田舎の出だろう?何故そんな奴をわざわざ…」

「どうせ噂だ。すぐ田舎に帰って行くさ」

「そうそう。絶世の美女っていうのもきっと嘘に違いない」

「まったく…時々あの方の考えることは分からないな」

 

 耳障りな雑音だ。『わたし』は牛車を止めさせ牛車から降りた。その瞬間雑音は止んで静寂が『わたし』から広がっていく。

 

 『わたし』が牛車に再び乗り進んでいくとまた外から声が聞こえて来る。

 

「あぁ… ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の為に何か出来ることはないだろうか!?」

「俺はなんて事を言ってしまったのだろう!?⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎が美しくないなどと!そんな事ある筈が無いのに!!」

「今さっき⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様を侮辱したのは何処のどいつだ!私自らの手で殺してやる!!」

「あぁ… ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様もう一度その御尊顔をお見せください」

 

 雑音は少しマシになった。

 

 

 世界が暗転する

 

 

 宮殿を歩いていると、様々な方向から叫び声が聞こえて来る。

 

 

「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様!その御尊顔をどうか…どうか!平民の私たちにもお見せください!!」

「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様どうかお声を!」

「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様!私たちをその眼で見てください!」

「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様!」「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様!」「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様!」「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様!」「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様!」「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様!」「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様!」「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様!」「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様!」「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様!」「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様!」「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様!」「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様!」「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様!」「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様!」「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様!」

 

 

 酷い絶叫だ。

 誰もが『わたし』を求める。

 誰もが『わたし』の顔を見ようとする。

 誰もが『わたし』の声を聞こうと耳を澄ます。

 誰もが『わたし』に触れようとする。

 

 世界の全てが私の全てを求めている。

 

 あぁ、なんて…気持ち悪いんだろう。

 

 

 

 世界が暗転する

 

 

 

 

 満月の晩、『わたし』と術師が相対している。

 

「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎…お前は存在してはいけなかった」

 

 蒼い眼をした呪術師が『わたし』にそう言い術式を放った。

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

「五条のヤツ──!」

 

 怒号により少年の意識が夢から浮上する。

 

「どうします?──するにしても──出血だけでも止め──」

 

「馬鹿お前──起きたらまっさきに──るのは俺達だぞ。──なんて──した後でも──ろう」

 

 浮上したばかりの意識は朧げで少年は周りの状況も自分の状態も把握しきれていない。目を開けて状況を確認しようとするが片方の瞼が動かず、動く瞼も思うように動かず少ししか開かず、更に見える世界は霞がかってよく分からない。かろうじて分かることは木か何かに背中を預けて地面に座っていると言うことだけだ。

 

 「かといって──ままでは──しまいます。今回の──この子の──です。──にしても──からでも──あり──」

 

 「そうだが…」

 

 時折途切れ途切れに聞こえてくる声は何かしら言い合いをしているようだ。どうやら少年が起きたことには気づいてないみたいだ。

 

 そんな呪術師達をよそに少年は四肢の確認を行った。

 結果は右腕と左脚が潰れていた。ちなみにこれは比喩でもなんでも無く本当に潰れていて使い物にならなくなっている。

 この原因は勿論五条 悟だ。

 少年は五条に自身の反転術式を当て優位に立った……と思い込んでいた。いくら強くても呪力操作が覚束なければ容易く殺すことが出来ると考えたからだ。だから少年は五条に突貫した。

 だが、少年の侵食した部分はものの数秒で五条の呪力によって押し返されてしまった。予想では数分間五条は呪式を使えないと考えていた少年は『は?』と口から漏らした後、呆気に取られている間に五条の術式により片腕と片足を捻られた。そして手足を捻じ切られた痛みを感じる間もなく少年は五条に殴られ意識を失った。

 これは少年が啖呵を切って僅か数秒の出来事だ。なんとも情けない。

 

 少年は血の出すぎで働いていない脳を使いここまで思い出した。

 それと同時に少年は自分の行動に呆れた。現在のピンチを招いている原因は全部自分のせいなのだ。自己嫌悪しない方が難しい。もっと慎重に行動していれば、たった数秒でも稼げていたのだから逃げていれば、などなど少年の頭ではたらればの可能性がぐるぐるとめぐる。

 正直そんな事をしている場合ではない。周りには呪術師が声の種類だけでも3人いる事が確定しており、なおかつ自身の片腕片足の欠損。絶対絶命の危機だ。なにか策を考えなければこのまま捕らえられてしまう。

 

 だが、少年は諦めていた。

 勝つのは無理だ、自分は死ぬんだ、と受け入れたのだ。

 

 実はこの少年死ぬのはそこまで怖くは無いのだ。

 死ぬのが嫌だと本人の口から言いはしたものの、生きて色々したいから死にたくないのであって死ぬ事自体にそこまでの嫌悪感は無い。

 

 それは何故か?

 

 一度経験したことなのだ。ならばそこまで怖くは感じないのは道理だろう。

 

 まあ一度経験したからって克服できるものでもないのだがこの少年は『なんだそんなものか』と克服してしまった。なんともイカれた精神構造である。

 

「取り敢えずこの子の出血を止めます。この怪我では何もできないでしょうし。それに五条とこの子に取り憑いていた呪霊の戦闘は未だ続いていますし激化しています。帳を突き破って森の方へ行ったと報告を受けましたが此処が被害を受けないとは限りません」

 

「……」

 

「歌姫、正直…俺はここでコイツを殺した方が…」

 

 やけに鮮明に女の呪術師の会話が少年に聞こえた。少年が無意識のうちに聞きたかった情報を呪術師が言ったからだろうか?いや、そうなのだろう。

 現に少年は目を開けた。

 

「えっ?」

「は?」

「ん?」

 

 呪術師達は三者三様の反応を示すが共通点が一つあった。身体の動きが硬直したことだ。なんとも大きい隙だ。

 

 少年は呪力を手足に集め一番近くにいた男性の呪術師に弾けるように飛びかかった。

 

「うわっ!?」

 

 完全に油断していたのもあるだろうが簡単に少年に呪術師は組み伏せられる。そして間髪入れずに少年は掌を男の目に押さえつけるように当てた。

 

ー術式反転 『侵』ー

 

「あがぁぁあ!!」

 

 男は自分の身体に何か別のものが入ってくる嫌な感じに絶叫を上げてしまう。

 

「やっぱりか!…その手を離せ!」

 

 もう一人の男の術師が術式を起動させる。

 その術式はどうやら呪力で弓と矢を作るといったとても単純な術式だった。だが、流石呪術というべきか呪力で造られた矢は5本同時に弓につがえられる。そして男はすぐさま矢を引き絞り少年に狙いを定め呪力の矢を同時に放った。

 

ー順転術式 『絶』ー

 

「は?」

 

 が、呪力で作られた5本の矢は少年に当たる前に黒い壁に防がれる。

 

 躊躇は無し。少年を殺すと言う意思が見え見えだ。恐らくこの術師が少年を殺したがっていた術師だろう。まあ、その程度の術式で少年を殺そうなど片腹痛い話だったがな。この少年に傷を与えたかったら見えない攻撃、又は意識外からの攻撃か反応できない程の速さの攻撃が必要なのだ。威力がどれだけ強かろうとこの壁の前には無意味となる。なにせ壊れない…と言うよりかは空間が絶たれているから届かないと言ったほうが適切か。

 

 組み伏せられた男も暴れるが少年に当たる攻撃は全て黒い壁に塞がれる。そして矢を放った男はそれを黙って見ている。というより見ているしかない。

 お前には何もできやしないんだから。

 

「このっ!!」

 

 巫女服を着た呪術師が少年に近づき手を伸ばす。勿論黒い壁に阻まれる。

 だが、巫女服を着た女呪術師は手を黒い壁に阻まれた後も構わず腕を伸ばし続けていた。意味がない行動に思えるかもしれないが知っての通りこの部分的な『絶』は数秒しか維持する事は出来ない。その為黒い壁は勝手に消え去り巫女服の女の手は少年の身体に届いた。

 女は多少驚きながらも少年の胸ぐらを掴み、組み伏せている男から引き剥がし投げ捨てる。投げ捨てられた少年は地面を一回弾んだ後数秒転がり止まる。

 

「ッ……」

 

「クソっ…」

 

 巫女服の女が苦虫を噛み潰したかの様な顔をするのと少年が悪態をつきながら片腕で起き上がるのは同タイミングだった。

 

 巫女服の女は少年を殴るなどの攻撃ではなく、掴む等の拘束を選んだからこそ少年に触れることが出来た。あの部分発動の『絶』は瞬間的な力には強いが継続時間の問題で継続的な力には弱い。見抜いたと言うよりかは少年に攻撃するのを躊躇った故の結果だろう。

 

 こんな化け物の様な少年に何をためらうと言うのか。

 

「大丈夫ですか黒沼さん」

 

「…片目が見えない事と鼻が効かない事を除けばなんとか」

 

「そうですか…矢矧さん、彼の術式の壁は展開時間が短いですが矢での迎撃は効果が薄いと思われます。それと五条との戦闘で使用していた黒い球体に気をつけてください。恐らく何かしらあります」

 

「何かしらとは?」

 

「分かりません。けど絶対何かあります」

 

「そんなアバウトな…まあいい。黒沼、お前は下がって応援を呼べ。ついでにその顔面の治療もな。というかソレもアイツの術式か?クソッ…やっぱり殺した方が良かったじゃないか」

 

「……」

 

 呪術師達はお互いに意見を交換し合いながら地面に這いつくばっている少年に相対する。約一名まだ苦虫を噛み潰した様な顔をしているが。

 

 そんな中片腕で胴体のみを海老反りの様にして起こしている少年はジッと呪術師達を見つめていた。

 

 

「決めた」

 

 

 少年はそう呟くと『絶』を発動させる。

 今回の『絶』は部分的な『絶』ではなく少年を中心に円状に広がる物だ。そしてその『絶』が少年を覆い尽くすのに僅か数秒。呪術師達に何かをすると言う選択すらさせず少年は籠城した。それにそもそも呪術師達は少年の呪力を知覚出来ない。そのため『何かしようとしている』と身構える事すらできないのだ。

 

 籠城した少年は暗闇の中反転術式で自身の潰れた腕と脚を修復した。そして再生した手足をプラプラと動かして動作確認をする。その時少年はふと自身の身体の違和感に気づいた。

 

「呪力量が増えてる?」

 

 それは余りにも不自然で不思議な事でつい少年も声に出して疑問を掲示した。

 

「アイツとの戦闘でレベルアップした?いやそんなゲームみたいに戦闘中にレベルアップしてたまるか。技術面だったら分かるけど呪力量はなぁ…しかも絶対量じゃなくて純粋に呪力が足された感じだ。例えるなら俺と言う器に呪力という名の水を注いだような──」

 

 

 

 

《全く…そんな考察している暇があるのか?》

 

 

 

 

 その一言を言われ少年は思考を一旦停止させ思考をクリアにする。

 

「いや、ないな」

 

《そうだろう?》

 

「そうだ。エマを助け──ん?」

 

《………》

 

 

 少年は覚悟を決め、そして出鼻をくじかれた。

 

 

《……しまった》

 

 

 少年は『不可進』を三つ発動させ『絶』内を隙間なく攻撃する。真っ暗で何処に声の主がいるか分からないからだ。

 それに焦りも有った。第三勢力が現れたのだ無理もない。唯一冷静になれたのは『絶』を解かなかった事だろう。今解除してしまえば正面にいるはずである呪術師と第三勢力と三つ巴になる。それは時間を掛けずにエマにのもとに向かいたい少年にとっては避けたい展開だった。

 

《無駄だ無駄。『わたくし』はそっちにはおらん》

 

 そんな少年の行動を止めるのは意外にも第三勢力と思われる声だった。

 

《『わたくし』は今貴方の心の側にいるのです》

 

「…ふざけているのか?」

 

《いいや大真面目さ。正確には魂に引っ付いていると言うけどね?》

 

 その一言で少年は目を見開き驚く。

 

「お前…エマか?」

 

《違う……あんな小娘と間違えないでくださる?》

 

「小娘?」

 

《ああ、そうさ小娘さ。君が創り出した君のことが大好きな小娘さ》

 

 声の主はまさに皮肉たっぷりと言う表現が似合うような声色でクツクツと笑いながら話し続ける。

 

《全く、貴方も余計なことをする。貴方が人格なんか与えるから『わたくし』が主人格から弾かれる羽目になったんだぞ。どうしてくれる?》

 

「いや、どうするもこうするもない」

 

《なんだその態度は…》

 

 少年は悪びれもせずに話を急かす。

 

「そんなことよりお前は誰だ」

 

《そんなことで済ませないで欲しいのですが…まあ良いです。お教えしましょう》

 

 

 

 

 

《私は貴方の天与呪縛に内包された三つの人格の一人で御座います。以後不束者ですがお見知り置きを》

 

 

 

 

 

 

 

 




いや結局誰?(すっとぼけ)

最後まで読んでくださりありがとうございます。

投稿期間空き過ぎてすみませんべぇ。
ちょこちょこ書いてたんですけど全然話しが面白くなくてどうしようかと色々試行錯誤してたらいつのまにかペンが折れてた。
これが…イップス!?(プレッシャーに押しつぶされたとも言う)

一応後編の大体の流れは思いついてはいるので後はどれだけ肉付け出来るかを試行錯誤しております。まあ気長に待っていただけたらその間私のペンが進みます(あたりまえ)
高専まで行けたら多分加速する筈。いけるかなぁ…行くんだよ!!(激励)

これから頑張ります。


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窮鼠猫を… 其の参

お久しぶりです。
文字数やばすぎて後編その1とか言うクソキモタイトルになりました。





「三つの人格、ねぇ…」

 

『三つの人格』というこの胡散臭い物言いに少年は素直に頷くことは出来なかった。そもそもこの声のどこまでを信用して良いものか。

 そも少年は基本的なスタンスとしてエマの言うことは信じるというものがある。が、それはエマに絶対的な信頼を置いているからであって決してエマの中にいるというだけの声に対してエマと同じ信頼を置くことは出来なかった。

 

《まあ正確には魂が、だがな》

「尚更変だろ」

《因みにそれぞれ肉体も内包されているぞ》

「はぁ?」

 

 少年の頭の中は『なぜ?』『なにが?』『どうやって?』など疑問が止めどなく溢れるが、疑問がありすぎて思考が渋滞を起こし口をパクパクさせるだけに終わる。

 

《まあ色々あるのだよ『わたくし』達にはな》

「…色々で終わらすな」

《まあ、貴方の疑問はおいおい解けていくさ》

 

 そう言うと『それはそうと』と声色を変え真剣そうに少年に問いかけてきた。

 

《して、これから貴方はどうやってこの状況を脱するつもりか?》

「…取り敢えず巫女服を着た女からエマがどっちに向かったか聞く」

《残りの二人は?》

「あのぐらいのは何人も殺してきた」

 

 少年はなんてことなさそうに言う。

 他の人間が聞けば震え上がってしまいそうな台詞だったが、声は少年の言葉を聞き実に愉快そうにクツクツと笑い始めた。

 

「何かおかしいか?」

《いや、随分と『わたくし』好みに染まってくれたなと嬉しくてな。それと質問が悪かった、訂正しよう。この状況というのは目の前の呪術師だけでなく、『わたくし』達を殺しにきた呪術師全員だ。まあ、並大抵の呪術師ならば貴方は遅れをとることはないでしょう。『わたくし』が聞きたかったのはあの蒼眼をどうするかだ》

「……」

《女から小娘の場所を聞き出すのは良い。だがその後だ。小娘はまだあの蒼眼とやり合っている。そこに介入するにはそれ相応の作戦や手段がいるぞ?無駄死にする気か?》

 

 その声の質問に少年は先程の歌姫の様な苦虫を噛み潰したような顔になる。まあ暗闇なので誰にもみられては居ないが。

 

「…一応手段はある」

 

 その声はなんとか絞り出した感が半端なかった。

 

《ほう…言ってみろ》

「領域展開を使う。よく分かってないけどアレだったら格上相手でも勝負できるって聞いた」

 

 その案を聞き声はため息吐く。

 

《悪い案ではないが単純に練度の差で宿主の領域が飲み込まれるぞ》

「飲み込まれる…ってどう言う意味だ?」

《そう言えばまだ教えてなかったな。時間がないから手短に話すが宿主が領域を発動すれば蒼眼も必ず領域を発動する》

「必ず?」

《必ずだ。なにせ発動しなければ蒼眼は負ける。話しを続けるが、領域同士がぶつかる、又は領域内で領域が展開された場合領域の主導権の取り合いが始まる。まあ簡単に言えば綱引きと呼ばるものと同じ要領だ》

「綱引きに負けると?」

《貴方の領域がそのまま蒼眼の領域に塗りつぶされ蒼眼の領域になる。つまり終わりだ》

 

 ふむふむと頷き少年は作戦を練り始める。が、またその思考を声が止める。

 

《さぁ、ここからどうするか優しい『わたくし』が選択肢をやらんこともないぞ》

 

 少年は先程よりも頭を回転させて考える。

 そもそもこの声はなんだ?何故今出てきた?どこから喋っている?最初の『しまった』とは?都合が良すぎないか?エマのもう一つの人格?なら味方?いや騙しているかも?そもそも信用できる要素が皆無だ。だが疑う要素も皆無だ。

 そんな堂々巡りのような思考を2、3秒ほど続けたが少年は諦めた。この状況で考えること自体間違いなのだ。声の良し悪しを判断するなどこの場を抜け出した後でいくらでも出来る。

 

「…お前の事は何て呼べば良いんだ?」

《その返答は了承したと捉えるぞ。それにしても、たしかに『わたくし』を呼ぶ名が無いといささか不便ですね。かと言って名で縛られるのも面倒だ》

 

 少しの間声は黙り込むが《おお、これは良いぞ》と声を上げてしまうほどの名が浮かんだようだ。

 

《『わたくし』のことはこれから『(せんせい)』と呼べ》

「師?」

《ああそうだ『師』…うむ。我ながら良き案だな。名称であるから変に『わたくし』が縛られることなく、貴方に呪力操作や術式を教えた功績からとった良き名称です》

「ああ、あの時教えてくれてたのって師だったのか」

《ええ。『わたくし』が貴方への指導を小娘経由で教えていたのですよ。全く小娘の奴全部自分の手柄にしよってからに》

 

 師と呼ばれる事が決まった声はエマへの不満をぶつくさと呟くがその愚痴を遮るように少年が急かす。

 

「そこに関しては後で叱っておく。けど今は急ぎたいんだ(せんせい)。ここからどうすれば良い?」

 

 師はクスクスと笑う。

 

《まあ任せておけ。これでも知恵は持っておる。この様な状況『わたくし』にかかれば赤子の手を捻るより簡単よ》

 

 

 

―――――――――――■―――――――――――――

 

 

 

 

「クソッ…びくともしないな」

「一応地面を掘って見ましたが地中まで続いていました。恐らく球体状の結界になっているようです」

 

 少年の『絶』の周りを二人の呪術師が触ったり、術式を放ったりと手当たり次第に調査してどうにか突破しようと試す。だがそのどちらの結果も虚しく徒労に終わる。因みにこの場に残っている呪術師は呪力で弓を作っていた術師と巫女服を着た呪術師の庵 歌姫のみである。

 

「浜田さん、ここは大人しく応援を待つ方が得策かと。やたら滅多に術式を使用して呪力を無駄に消費するわけにもいきませんし」

「…悔しいがそれしかないな」

 

 浜田と呼ばれた呪術師は手に創っていた呪力の弓を消し『絶』から離れる。それに続き歌姫も浜田について行く。そして大体5mほど離れたところで陣取り『絶』を監視し始めた。

 

「あんまり離れ過ぎて逃げられるのも困るからな。ここで監視する」

「分かりました。ではここで今一度作戦を確認を」

「ああ、わかっている。五条があの呪霊を倒すまであのガキをここに留まらせる持久戦だろ?」

「はい。まあ、あれほど頑丈な結界が作れるなら出て来ないとは思いますが、万が一出てきた場合は私が前衛になりますので浜田さんは援護を」

「……わかった」

 

 浜田が少し間を置いて返事した事を歌姫は不審に思う。

 少し会話を聞けば分かるが浜田と呼ばれるこの男、かなり自信過剰というか自信家なきらいがある。だが、こんな男でも一級術師という普通の階級としては最上の実力者だ。

 じゃあ何故そんな男がたかだか小学生に一撃も喰らわせる事が出来ていないのか?理由として相性が悪すぎるというものがある。この浜田の真骨頂は遠距離からの狙撃だ。彼の術式の最大射程は700m。だが、矢の数を増やす毎に射程距離は短くなる。まあそれだけでも凄い術式なのだが一番の特徴としては狙った対象を追尾すると言うところだ。

 もう分かると思うが、そもそも少年に攻撃を認知される時点で少年に攻撃は通らない。それに呪力で弓と矢を作るので、矢は少年の探知に引っかかりそこに『絶』を発動されて終わりなのだ。彼の攻撃が少年に当たる場面と言ったらゼロ距離から放つ時ぐらいになる。なんとも酷い話である。

 

 たとえ相性が悪かったとしても歌姫からすれば確かな腕を持った実力者だ。そんな人が何か思い詰めている。その不穏な事実が歌姫のただでさえ荒くれた心をざわめかす。

 

「何ですかその沈黙は?」

 

 そう言った後歌姫は言葉が強くなったと少し反省する。

 

「いや…何でもない」

「それ絶対何かある言い方じゃないですか。いつもの調子はどうしたんですか?」

「……じゃあ、言わせてもらうが――」

 

 浜田のその先の言葉は出てこなかった。

 歌姫の疑問も吹き飛ぶ。

 

 

 

 

「…一人減ってるな」

 

 

 

 何せ黒い球体が一瞬で消え、その中から五体満足の状態で尚且つ並々ならぬ呪力を纏った少年が出てきたのだ。しかも呪力量は二人を上回っており、とてもではないがまともにやり合って勝てる相手でない事は一目瞭然だった。

 

「歌姫…あの様子だと反転術式も会得しているぞ」

「…あの歳で反転術式を会得しているとは考えにくいですが」

「じゃあ、あのガキが術式を二つ持っていることになるぞ。あの結界が反転か順転かはわからないが、どちらにしろあの結界と黒沼にやった技がアイツの術式とか考えるのが妥当だ」

「…浜田さんの言う通りなら、五条の到着を待つ持久戦は得策ではありませんね。あちらに回復手段があるならじり貧ですし、呪力量的にこちらが押し負けますね」

 

 などど、冷静に二人で作戦をひそひそと立てているが内心の歌姫は少年に向かって怒鳴り散らしている。『その呪力どっから出した!?』や『なーにが「…一人減ってるな」だ!あの公園の時のあどけなさはどこに行った!!』などなど少年に対して文句をぶちまけている。

 

 そんな内心荒ぶっている呪術師と心身共に冷静な呪術師二人が戦々恐々としている中、少年は二人を大した脅威として見ていないのか少年が気安く呼びかけてくる。

 

「聞きたいことあるんだけど、いい?」

 

 この質問を拒否はする選択肢は存在しない。

 

「…なにを?」

「俺と一緒にいた顔に札が貼ってあった女がどこに行ったか知りたいんだ。知ってる?」

 

 歌姫はちらりと浜田に視線を送る。小さくふるふると首を振られた。

 五条はあの呪霊とこの少年を同時に相手をしても負ける事はないと考えられる。だが五条は少年だけを多少手荒だったとしてもここに残した。それぐらいの理由は歌姫や浜田でもわかる。

 つまり、少年にあの呪霊の居場所を言わないことは確定している。

 しかしここで問題なのはこの少年を自分達でこの場所に拘束出来るかどうかだった。

 

 歌姫は静かに大きく息を吐く。

 

「あのね…君は分かっていないかも知れないけどアレは呪霊って言って良い存在じゃないんだよ。だから…」

 

 歌姫は対話を試みた。

 堅実な手だ。時間も稼げ、尚且つ上手くいけば戦闘をすることなく少年を無力化することができる最善の手だ。何も間違ってはいない。しかし、数秒後この選択を歌姫は後悔する。ああ、聞かなければよかったと。

 

 

 

「けど家族だ」

 

 

 少年は何てことなさそうに言い切る。

 

「放っておけない」

 

 歌姫の心臓がドクリと跳ねる。その言葉は理解できないと体が拒絶するように。

 浜田は戦慄する。こんな事があるのかと。

 

「な、え?か、かぞく?」

「うん。生まれた時から一緒にいる」

 

 歌姫は今度は視線だけでなく、ぐりんと首を動かし浜田をみる。その頼みの綱の浜田を目を見開き硬直していた。頼みの綱が酷いありさまである。

 呆れる余裕もないのですぐさま少年へと向き直る。

 歌姫でも理解できる。この少年は異常だ。呪霊に洗脳でもされたのかと疑うほどだ。いやむしろその可能性のほうが高いとすら思ってしまっている。

 

 呪霊とは人の負の感情だけで作られてるだけあって醜悪で、狡猾だ。とてもではないが呪霊にいい感情を向けることは絶対にない。むしろ頭で理解するよりも先に存在自体を本能で忌避してしまう。それほどまでに人と呪霊は相容れない。

 そんな呪霊を家族などとほざく目の前の少年の異常性は頭一つ抜けている。

 

 歌姫が思考停止に陥っていると、後ろで浜田が術式を展開した。

 

「浜田さん!?」

 

 とっさに声をかけるがその声は無視されてしまい7本の矢が少年に向け放たれる。だが、当然と言うべきか少年に届く前にすべて黒い壁に阻まれ弾かれる。

 

「歌姫…やはりアイツは抹殺対象だ。どう考えたってあのガキは将来の呪詛師候補だ。しかも特級レベルのな」

「そう、ですが…」

 

 そんなことは歌姫にだってわかっている。このままあの少年を放置しようが保護しようが呪霊討伐を目的としている呪術師界とはどうしたって敵対する羽目になる。何せこの少年は呪霊に対して家族と同じように愛情を向けることができる人間なのだ。その愛情が他の呪霊に向けられないとは限らない。そんなこの先どうなっていくかわからない危険因子を放っておく理由は呪術師にはない。

 

「…何を迷っている」

 

 だが、その呪術師である歌姫はいまだ迷い、覚悟を決めきれずにいる。それは少年と短い間だが会話してしまったせいか、投げ飛ばした際に感じた体の軽さのせいか、それともほかに何かあるのか。ともかく歌姫は眉間に皺をつくるばかりで浜田の返答に答えず少年を見据えていた。

 

 

 

 

―――――――――――■―――――――――――――

 

 

 

 

 ここからは少年が『絶』を解く数分前に遡る。

 

 

 公園から遠く離れた森で行われていたエマと五条の戦闘。それは周りの木々を薙ぎ倒しながら行われる大激戦……に思われていたがその戦闘はもはや蹂躙という言葉が適切になるほど五条の一方的なものへと変化していた。

 エマが分身して五条を包囲すれば術式を使った瞬間移動で各個撃破され、エマが液状化や気体化すれば順転術式『蒼』によって引き寄せられ殴られる。なんとか反撃しようとして無限を消そうにも華麗に手を避けられ逆にカウンターをもらう始末。

 

 俗に言う手も足も出ていなかった。

 

(術式を読み取れないから確定は出来ないけど形状の変化…更には僕の無限を消す術式。見た感じ形や能力を変化させる超万能型の術式なのかもしれないけど、随分とワンパターンだな)

 

 そう思考を巡らせながら再び分身して増えたエマ達を軽く返り討ちにする五条。実は、というかやはりと言うべきか五条は六眼でエマの存在を見抜く事はできていなかった。それは少年の様に呪力が探知不可になっているとかではなく術式や肉体情報が全く得られないのだ。

 

(呪力を全く感じない訳ではない…けどめちゃくちゃ感じ難い。術式とは違い隠蔽されているとかではなく放出されている呪力量が極端に少ないのか?)

 

 エマの作った小型の呪霊達が奇襲しようと真後ろから攻撃するも無限に止められる空中でピタリと止まる。そして振り返った五条に身体を掴まれた後地面に叩きつけられる。呪霊達は悲鳴を上げることなく絶命し霧散していった。そして、そのまま後方へ回し蹴りを放つ。

 

 『ぉあッ…』

 

 その蹴りは背後から襲いかかってきていたエマの顔面を捉え、頭と胴体泣き別れにさせる。

 

 これでこの戦いも終わり…にはならず、吹き飛んだ頭と千切れた首から筋繊維のようなものがお互いから伸び、絡まり、引きつけ合い、元通りになる。

 

「君…あと何回殺せば死ぬの?」

 

 そう、この五条による一方的な蹂躙がまだ続いている理由がこれである。エマが死なないからである。今のように頭と胴体が別れようが、上半身を吹き飛ばそうが、元通りになる。まだ、死なないだけなら五条とて対抗する手段はいくらだってある。手足を使い物にならないようにして封印する等誰だって思いつくし、五条ならば容易い。

 問題はエマの超速の回復速度だ。

 

(頭を潰しても数秒には完治する。頭を潰しても意味ないって事は術式の効果?いやさっきから殺した時には手は身体にも頭にも触れてない。って事はあの子供が鍵になってるのか…まさかとは思うが子供と命を共有してるとかか?)

 

 五条の頭に浮かぶのは最悪の可能性。

 

「いや、流石に僕の考えすぎか」

 

 それを自分で否定する。理由としては命の共有などと言う御伽噺の様な高度な術を呪霊風情が出来るわけない、と結論づける。

 しかし、少年が全く関係ないとは思えなかった。

 

「けど、あっちに戻ろうにも僕以外コイツを抑えられないしなあ」

 

 五条は目の前で傷を癒していく呪霊を見据える。

 このまま戦闘を続けるのは愚策だ。いつあの少年が行動を起こすかも分からない。それに明らかに目の前の呪霊は時間稼ぎが目的だ。しかし、たとえどんな策を練ろうと五条の最強は揺るがない。真正面から潰せる。

 

 だが、五条もいい加減飽き飽きしていた。こんな堂々巡りをするためにここに来たのでない。

 

「いい加減終わらせようか」

 

 五条は目隠しを外そうと手を当てる。

 

 

 それと、同時だった。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()

 それは、「こちらのセリフだ」とでも言うかのようにも見えた。

 

 

 辺りが嫌な空気に包まれる。

 

「それ封印かなんかでしょ?君が取れるもんなの?」

 

 五条は至極真っ当な質問をする。

 確かに封印と言うものは悪しき物、または存在を消したいが殺しきれない存在を殺さず、されども生かさず閉じ込めてしまうものだ。この閉じ込めると言うのが重要で、決して閉じ込められた側に出る出ないの主導権が有ってはならない。

 

 そう、あってはならないことなのだ。

 

「ぁあっはぁはぁひひひひひひはぁ…ひひ」

 

 何が面白いのか呪霊は酷く不気味に嗤う。嘲笑うように。貶すように。

 五条にとっては何が面白いのかは分からない。だがその呪霊が心底楽しそうにしているのは見てとれた。それと同時に嫌な予感もした。

 

 呪霊が嗤う時など総じて碌でもない時だ。

 

 

「ひひ…ハハハハハハハハハッアハハハハ」

 

 

 呪霊は狂ったように笑いながら顔の札を引きちぎった。

 

 

 




マジお久しぶりです(n回目)
投稿期間一年以上野郎です。

でも書きたい事多いので頑張ろうと思います。気長に待ってくだされば嬉しいです。


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窮鼠猫を…其の四

 

 

 場面は少年と呪術師二人が睨み合っている場面へと戻る。

 

 現在こちらは少年を殺すと決めた呪術師と、いまだそれを迷う呪術師。それを眺める少年の構図が出来上がり膠着状態へと陥っていた。

 なぜ膠着しているのかと言えば、呪術師たちは片方が迷いに迷っているために攻勢に出れずに動けない。少年は攻勢に出る理由がないため動かない。そんな単純な理由だった。

 

 この状況が続くことが拙いと判断した浜田は何度か少年へと矢を飛ばすが全て防がれる。次は矢の数を増やし6本同時に少年を囲むように放つが『絶』に遮断され少年には届かない。ならばと、目にも止まらない速さで矢を放つが、それも少年を覆うほど大きな『絶』が現れ難なく防ぐ。

 難なくと、その場から一歩も動かずに、眉一つ動かさずに、全ての浜田の攻撃を淡々と作業のように防いでいく。

 その一つ一つの事実が浜田の自尊心をゴリゴリと削っていく。少年が小学生というのもあるのだろう。浜田は何とか少年に一撃決めてやろうと頭に血が上っていた。

 

 このまま呪力切れで倒れるかと思われたが、それを歌姫が制止する。

 

 「駄目です、浜田さん。そんなに滅多矢鱈に攻撃しても彼には届きません」

 

 その言葉に「お前のせいで一人で攻撃してるんだろ!!」と怒鳴ろうと振り返る。が、歌姫の顔を見てやっとか、と安堵の感情により文句がどこかへと消えてしまう。何故ならそこには、依然戸惑いはあるもののやることはやると決めた、覚悟を決めた歌姫がいたからだ。

 

 「何を考えてるかは知らないが、遅い」

 「すいません」

 

 どこか歌姫には覇気がないが、浜田はいないよりはマシかと考え口を紡ぐ。

 

 「殺るぞ」

 「…はい」

 

 二人が戦闘態勢に入る。それと同時に少年も臨戦態勢をとる。まさに一触即発。

 

 その瞬間だった。

 

 少年の首にぶちぶちと皮膚を破りながら()が出現する。

 皮膚が破れる痛みから少し顔を歪める少年と、その不可思議な光景に一瞬戸惑う呪術師を置いてけぼりにする様に口は言い放つ。少年が待ち望んでいた一言を。

 

 

 

そこから北へ直進しろ。そこに『わたくし』がいます

 

 

 そう言うと口は消えて少年の首には傷だけが残る。

 二人の術師は口が現れた現象と、言葉の意味を考えてしまう。

 

 「どういうわけ──」

 

 浜田のその言葉は最後まで言い切れない。

 少年が浜田の目前まで迫る。

 その速さに浜田は舌を巻くが、流石は一級術師というべきか慌てる事なく近づいた少年を見据え防御の用意をする。

 

 この時、浜田はごく僅かだか慢心、そして油断があった。その理由として少年が術式を使わずに右腕でこちらを攻撃して来ようとしている事が丸わかりだったからだ。

 少年の周りには黒い球体は無く、術式を使うような呪力の変動もない。それと呪術師、というよりかは呪力操作ができるものは拳や脚で攻撃する際その攻撃をする箇所に呪力を無意識に集めてしまう。それ自体は悪いことでは無い。だが、何処から攻撃が来るのかが丸わかりになってしまう。そのため卓越した術師にもなってくると呪力操作は流れるように行われ、いつの間にか拳に呪力が集まっていたと言った状況を作り出すことができる。

 しかし、目の前の少年の呪力操作は子供にしてはマシだが浜田の目からすれば一目瞭然だった。

 

 浜田は落ち着いたまま少年が殴ってくるであろう横腹に呪力を集め、なおかつ横腹を腕で守る。いくら呪力量が多かろうとこれで一撃でやられる事はないだろう。それが浜田の考え──だった。

 

 少年が腕を振り殴ってくる瞬間浜田は察した。

 

 

 あぁ、これは黒い火花が散ると

 

 

 それは浜田の経験からくる予知に近い勘だった。

 

 自身は発生させた事はないが他の誰かが発生させた所を浜田は何回か見た。同期の一人だったかが何回か発生させていたような気がする。その時は何かは分からないが完璧だと思った。後々考えて見たが呪力の流れ、インパクトのタイミングそれが完璧だと黒閃は発生するのだと理解した。

 だから何回も何回も試した。トライアンドエラーを繰り返し何度も考えた。けど結局できはしなかった。心が折れた時の事は覚えていない。だが諦めたその日自分は向上心を失ったと覚えている。自分には隣に立つ資格がないことも、守れない事も理解した。

 

 (なぜいまそんな事思い出したんだ?)

 

 浜田は少年の拳を見据えそんな思いに耽る。

 

 (案外走馬灯だったりしてな)

 

 浜田は防御を捨て攻勢に出ようと弓を展開する…瞬間にはすでに浜田の横腹へ少年の拳が叩き込まれる。

 

 

 そして浜田が予見した通り少年の拳からは黒い閃光が放たれた。

 

 

 浜田は公園のフェンスまで吹っ飛ばされ、そのフェンスを破壊しながら近くの民家に突っ込んでいった。

 

 

 歌姫は浜田が吹き飛ばされるまでの一部始終を目の端で捉える。

 

 (速すぎでしょ!?)

 

 歌姫が少年の方へ身体を向けるが、すでに手遅れだった。

 

── 極ノ番『不可進』──

 

 胸の前に黒い球体が現れる。

 歌姫は一番にこの術式を警戒していた。何せあの五条が避ける選択肢を選ぶ程のものだ。だからこそ歌姫はその球体の前でピタリと身体を硬直させてしまい、隙を晒す。

 そして少年に足を払われる。

 

「え?」

 

 払われる、と言うがこの時歌姫は自分の足が吹き飛んだと錯覚した。余りにも綺麗に足が地面と離れたからだ。

 

 綺麗に足を払われた歌姫は背中から地面へと倒れる。

 そして胸の上に黒い球体がグッと軽く歌姫を押さえつける様に乗る。

 直ぐ起き上がろうとするが、身体を上にあげようとした力がスッと消える。

 

 「なにこれ!?」

 

 フリーな腕を動かして球体を掴んで退かそうとするが、球体に力を加えた瞬間にその力が消える。足もジタバタとさせたり何とか動こうとするも肝心な身体への力が軒並み消えてしまう為起きられなくなってしまっていた。

 地面を掘ればワンチャンスあるかもしれないが、残念なことにここにいるのは少年と歌姫のみで掘ってくれる人などいない。俗に言う詰みである。

 

 そんな歌姫を見下ろした後、少年は口が言ったように北へ向かおうと一歩踏み出した──瞬間少年に目掛けて岩が飛んできた。

 

 少年は反応が遅れ術式では無く飛び退き回避する。

 直ぐに反撃を繰り出そうとあたりを見渡すが見当たらない。するとまた岩が岩やフェンス、遊具を避けながら少年目掛けて四方八方から飛んできた。今度はそれを少年は術式の『絶』を使い防いでいく。

 

 少年は今自分を攻撃してきている術式内容を考察する。

 

 あきらかに俺への誘導弾。岩に札が貼ってある。何発も撃ってきているのに弾切れの気配が感じられない。岩の大きさは均等では無い。あらかじめ用意していた?時間経過で発動?全て自動で?いや、それは無いかもな。俺に向かってくるだけだったら家や他のものに当たっている。それに射撃はあの巫女服の近くだったにも関わらず撃ってきた。着弾地点も綺麗に巫女服を避けている。だったらそれぞれ手動で?一人で複数人で?いやそれよりもどこから俺を?

 

 少年は当たりを見回す。しかし、それらしい人物は見当たらない。が、()()()()()()()()()()()()

 黒い球体を新たに作り、電線の上、公園に生えている木、離れた家の屋根に向けて飛ばす。すると「グェッ」と言う鳴き声と共に烏がボトリと落ちたり、宙を舞う。するとそれと同時に絶えず飛んできていた岩が在らぬ方向へ飛んで行き、ピタリと攻撃の波が止まる。

 

 その瞬間少年は北へ向かい走る。

 

「あの子は北の方角へ向かっています!!」

 

 声の方に目線だけ向けると携帯を耳に当てた歌姫がいる。大声で言っているのはこの付近にいる呪術師たちに簡易的に教えているのだろう。めんどくさい事をしてくれる。

 

 少年は公園を出て近くの家の屋根に登る。そして、自分の遥か上空に烏がいる事を確認する。アレを狙って落とす事は少年には容易い。しかし、一匹落としたところで直ぐに代わりの烏が来るだけだ。あの烏を操るのにどれだけ呪力を消費するかは分からないが、極ノ番である此方の方が呪力消費は多いだろう。少年は舌打ちをして屋根伝いに北に向かう。

 

 

 

 北に向かい始めて数秒でまた岩が飛んでき始めた。恐らく目が復活したからだろう。しかもいやらしい事に北に行きにくいように飛んでくる。更に岩に紛れて時々烏が特攻してくる。しかも変則的に飛んできたり『絶』で防ごうにも壁を避けて飛んでくるため『不可進』でないと防げない。

 岩も烏も少年を殺すには至らない。

 けれども少年を足止めするには十分だった。現に少年の足は止まる。

 

「ウザすぎる」

 

 だが、それは打開のための停止だった。

 

 少年は烏迎撃に使っていた『不可進』に捕まり空へ飛ぶ。それはもう高く。ここら一帯が見渡せる程高く飛んだ。そして見おろす。すると辺りにポツポツとスーツを着た人間が岩に呪力を送っているのが見えた。それぞれ距離の離れているそいつらを狙っている時間の余裕は無い。狙っているのはたった一人。

そして少年は見つけた。明らかに佇まいから違う白髪の女を。

 

「見つけた」

 

 少年はその女目掛けて『不可進』を掴んで突っ込む。

 その間烏が飛んでくるが『絶』で防ぐ。少年自身が突っ込んでいるのだ。烏が軌道変更する暇などありはしない。無様に死んでいく烏を横目に少年は女の前に降り立つ。『不可進』は慣性すら消すため少年が地面に激突すると言う事は無い。じゃあ何故少年がこの移動方法を今の今までしなかったかと言えば単に呪力消費量がとんでも無いのだ。少年が掴まれるほどの大きさの物を作る、更にそれを長時間高速で動かすともなれば直ぐに呪力は無くなってしまう。これから五条とやり合う予定の少年にはあり得ない選択肢だった。

 しかし、この女は別だ。姿を晒していたのは少年に索敵能力が無いと考えていたからだろう。ここで一気に決めなければ身を隠され一生エマの元に辿り着けない。だから少し無理をしたのだ。

 

 少年は一言も発する事なく白髪の女に肉薄し殴りかかる。

 

 それに対し女も無言で布で巻いて隠していた斧を少年に振り下ろす。

 相打ちかと思われるかもしれない。だが斧は黒い壁に阻まれる。そして少年の拳はそのまま女の横腹に届く。

 

 女の身体が少し浮きつけていたインカムが落ちる。それを少年は踏み潰す。女の方は横腹を抑えながら後退する。決まったかと思われたが、少年は女への警戒度を跳ね上げる。

 

「ふむ、君の真似をしてみたけど…案外悪く無いね」

 

 女が抑えていた手を離すとそこから潰れた烏がぼとりと落ちる。少年は戦闘態勢をとり、女は携帯を取りだした。

 その意外な行動に少年は呆気に取られてしまう。同時にしまったとも思った。

 

「冥冥だ。例の少年と対面している。応援を頼むよ」

 

 少年は苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「これが君にとって一番されたく無い事だろう?だからやってみたんだ」

 

 携帯をしまいながら冥冥は優しそうに微笑み、少年へ斧を向ける。

 

「君と正面切って戦うのも面白いだろうけどこれが最善の手だ。それと一応降伏を勧めておくよ」

 

 少年と冥冥の周りの民家にバサバサと羽音を鳴らしながら烏が何十匹も降り立つ。

 

「君の敗北は五条 悟がこの場に帰ってくること。勝利の条件は五条 悟を倒す事。フフッ…どう足掻いたって詰んでるよ。下手な事をして自分の立場を危うくする事はお勧めしないよ?」

 

 烏に紛れ何人かスーツの人間が彼方此方から集まってきている。ざっと見た感じ5人程。家の中だったり、塀の裏にいる。同時に相手するのは愚策。けど各個撃破なんて無理難題。逃げたいが、逃げたところで烏の監視付きのエンドレス岩避けタイムに突入して時間を稼がれ終わりだろう。

 

 少年は大きくため息を吐き両手を上にあげる。俗に言う降参の姿勢だった。

 

 

 「『泥』」

 

 

 そしてその両手からドス黒い泥が溢れた。

 

 







どうもお久しぶりです。
少し早く投稿できました。

あとこのままだと後半その5ぐらいになりそう。話数管理ぐらいしっかりしたいですね。


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窮鼠猫を… 其の五

今回は少し短めです。





少年達がいる町から遥か北の森。そこではエマと五条の戦闘…ではなく五条と大量の呪霊達が激戦を繰り広げていた。

 その呪霊達は木の呪霊、石の呪霊、砂の呪霊、草の呪霊と種類こそ多くは無い。が、問題はその数にあった。

 上と左右、隙間が無いほどひしめき合う呪霊。涎のような何かを口のような箇所から垂れ流し、ギロギロとした目で獲物である五条を睨む。

 しかし、恐怖で震えあがりそうな光景の中心でも五条の最強は揺るがない。そもこの程度の呪霊達では五条に傷一つ付けれない。

 五条は取り囲んでいる百の呪霊を『蒼』で押し潰し、一塊になり突っ込んで来る三百の呪霊を『赫』で吹き飛ばす。それでも呪霊の津波は止まらない。五条の息の根を止めようと襲いかかる。

 

 それらを肩についた埃を払うように五条は殺し、祓う。

 

「どんだけいるんだよ」

 

 それは珍しく出た五条の愚痴。それもその筈、五条は周りの呪霊をもう千以上祓っている。それでも減らない呪霊達。寧ろ増えている気さえする。いや実際増え続けているのだろう。その元凶は大量の呪霊達をジャミングにし六眼から隠れている。

 

(しっかし、呪霊を産み出す術式ねぇ…)

 

 六眼で看破した情報を思い返しながら木の呪霊の頭と思われるところを引きちぎり、石の呪霊を叩き割る。五条に飛びかかり無限に止められ宙に浮いている木の呪霊を回し蹴りで真っ二つにする。

 

「それだけじゃない様に見えるけど」

 

「いや、それだけだ」

 

 その後ろから聞こえた声に『蒼』で返答する。

 それに耐えられる訳もなく『蒼』に抉られた声の主は足だけを残し上半身が無くなる。だがただ殺すだけではこれは祓えない。それは五条もこの闘いで嫌と言うほど理解している。

 残った足からぐぢゅぐぢゅ、ぐちゃぐちゃと生々しい音を立てながら再生されていく。口まで再生されたところで頭の内側から文字が書かれた札が現れ顔の上半分を覆う。その後頭の天辺から一気に髪が生え足のくるぶしまで伸び完全再生を成し遂げた。

 

 その姿は先程まで五条と闘っていたエマと瓜二つ。しかし、多少違う部分がある。一つは服装。エマの服装はボロボロの和服だったが、それの服は綺麗な和服で汚れなどひとつもない。二つ目は札の数。顔の全域を覆っていた札は剥がされた為に数が減り、顔の下半分が露見してしまっている。

そして最も重要な三つ目。それは術式の変化だ。エマの術式はエマ自身を変える能力だった筈だ。けっして呪霊を産み出すなんていうものでは無い。

 

 だが五条の『六眼』はそう見抜いた。

 

「礼儀のない奴だ。お前の質問に答えてやったというのに」

 

 呪霊は「やれやれ…」とため息を吐く。

 顔が完全に札に覆われている時とは雰囲気、術式は全く異なる。別人だ、と言うのは簡単だが五条の眼は同一の肉体だと言う。だったら目の前の存在は何なのか?

 

「誰もお前に聞いてなんていないよ」

 

「む?あぁ、すまんな。わたくしの知り合いが質問好きだったからな。癖だ、許せ」

 

 それはパンっと音を立て、手を合わせた。

 

 

ー領域展開 延延螺旋・蠱道ー

 

 

 それは余りにもにも自然すぎ、展開速度が速過ぎた。

 その間わずか0.01秒。それがいかに速いか、五条の対応が遅れたと言えばその速さが分かるだろう。

 しかし、真に恐ろしい所はこの展開速度はただの技術で行っているということである。なにか特殊な方法を用いての展開速度を得ている訳では無く純然たる技術。ただやる事もなく封印されている間ひたすら己の領域を磨き続けた。この技術はその何百年の研鑽と努力の結果である。それはどうしようもない状況からの逃避だったのか。それとも打開策が領域にあると考えたのかは本人にしか分からない。

 けれど、その研磨はこうして身を結ぶ。

 

 遅れながらも領域を展開しようとする五条。だが目の前にいる存在の領域は現れていない。しかし、確実に領域は展開されたはず。ならば何故?

 

「誰が貴様と今の状態で領域勝負などするものか。阿呆め」

 

 目の前のそれの術式は焼き切れる。しかし既に領域の展開と同時に術式は発動している。

 

 領域を展開されていた時間は展開速度と同様に僅か0.01秒。

 そして展開した領域の範囲は驚異の直径400m。

 

『呪霊を生み出す』術式の発動条件は触れる事。

 領域の必中効果で触れたものは五条以外の領域内全て。

 

 つまり、呪霊の爆発的増殖だ。

 

 しかし分かっている。いくら雑魚の呪霊を産み出そうとも。アレには届かない。ならば最強に届きうるモノを作るまでだ。だから領域で同時に触れた。そうすれば触れたモノの命は少なくなり、より強く、大きいモノが産まれるのだ。

 

 五条は気付く。

 この森一帯、そして大地が呪霊へと変質していることに。

 

 その瞬間大地が揺れ、割れ、纏まり、まるで一つの生命体の様に天へと昇る。

 そしてその大地は竜へと変貌していく。

 口が割れ腕が生え、牙と鱗、爪は鋭い岩で構成されていき、その長い胴は大量の砂で構成される。

 

「ふむ…『特級呪霊・土竜』とでも言おうか」

 

 「良い質だ」と頷きながら、大地を丸々竜の呪霊に変質させた為に落下していくエマと思われるモノ。その足元に領域を展開した際に触れた木々が収束していく。

 その木々は捩れ、互いに融合し巨大な腕と足に成り宙に浮く。そして脚と腕のあらゆる箇所から目が開く。

 

「おお、此方も良い質ですね。『特級呪霊・木木連』…少々駄洒落臭いですがまあ所詮急造のモノですし名前は凝らなくてもいいか」

 

 空を泳ぐ大地。宙に浮く木々。抉れた大地付近から此方の様子を伺っている低級呪霊。そしてその巨大な木の呪霊に乗っているエマの様な存在。状況は…未だ五条が優勢なのは変わらない。

 五条と呪霊達はお互い宙に浮き、睨み合う。

 

「随分と多芸だね」

 

「まあな。しかし、これだけのモノを造ろうとお前には届かん」

 

「うん。それはそう」

 

 それは非常にムカつくことだが事実だった。

 

「だから、こうする」

 

 パチンッと指を鳴らす。

 それを合図に辺り一帯の低級呪霊が南に意識を向ける。その理由は一つ。

 

 

「わたくし達の宿主を殺せ」

 

 

 その言葉を皮切りに低級呪霊は雪崩のように南へ一心不乱に進んでいく。

 だが其れを五条が黙って見過ごすと?

 

 五条は呪霊達に手を向け─「見過ごさないだろうな」─邪魔が入る。

 

「だからコイツらを産んだ」

 

 木の腕がお互いに絡み合い印を結ぶ

 

ー領域展開 森臨網羅ー

 

 木の呪霊からゆっくりと領域が広がる。

 その速度は先程の展開よりも緩慢で欠伸が出そうなほどお粗末な物だった。五条は捉えれる前に術式で離脱が可能と判断し後退する。

 

 しかし、何かが背中に当たった。

 

「『千変万化』だったかな?」

 

 それは、千切れた人の手だった。

 瞬間五条の術式は停止する。直ぐ様手を払い除けるが時すでに遅く、領域は五条を捉え閉じ切っていた。

 

「その手は先程お前が殺しまくったわたくしの分身達の手だ。お前に雑魚を当てがっている間に探して呪霊に変えておいた。いつ気づかれるかヒヤヒヤしておったわ」

 

 余程五条を領域に閉じ込めたのが嬉しいのか喜色満面で語る呪霊。

 

「ああ、領域展開はしないほうが良いぞ。わたくしの術式はまだ回復していないが『土竜』は既に外で待機している。つまり貴様が領域を発動すれば術式無しの状態で次の領域に閉じ込められる」

 

 領域の天幕にギョロギョロと目が創られ始める。

 

「ここからは時間との勝負だ。白髪よ」

 

 木の呪霊は再び絡み合い別の印を結ぶ。

 

「宿主が殺され我らの()()()()()()()()、お前がこの状況を打破するのが先か」

 

 エマと思わしき呪霊の顔から札が一枚剥がれ()()()()が二本生える。

 

 

「さあ、呪い合おうか」

 

 

 






 お久しぶりです。

 今回短くて申し訳ないです。キリが良すぎました。
 次回は言葉の矛盾してる意味やらなんやらがわかりまっせ。
 


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