女性限定なのにスカウトされた僕、なぜか美少女VTuberとなる (そらのすすむ)
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キャラ設定(ネタバレを含みます)
三期生キャラ設定


シロルーム第三期生、キャラ設定

 

※本編更新分までのネタバレを含みます。読む際は注意をしてください。

 

※チャンネル登録者数等は本編公開時に更新します。

 

 

 

 

☆主人公

●名前:小幡祐季(こはたゆき)

 性別:男

 年齢:二十歳 大学二回生[6月30日]

 一人称:僕

 所属:シロルーム三期生

 髪型:肩ほどまで伸ばした艶やかな黒髪。

 身長:150cm(男子平均よりも二十センチ低い小柄な体格と童顔)

 好きなもの:甘いもの。小柄な動物。部屋の隅。一人の時間。

 嫌いなもの:怖いもの。辛いもの。自分。人の多いところ。なれなれしい人。人気。

 

 

【アバター】

 名前:雪城ユキ(ゆきしろゆき)

 呼び名:ユキくん、ユキ

 チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ

 チャンネル登録者数:40.1万人

 

 性別:女

 年齢:十九歳

 一人称:僕

 あいさつ:わふぅー

 

(タグ)

 ファンネーム:犬好きさん

 推しマーク:  

 ファンアートタグ:犬写真

 配信タグ:犬拾いました

 メンバーシップ:段ボール研究会

 

(容姿)

 髪型:茶色の肩より少し長い髪

 体型:身長150cm。小柄な体型で白い肌

 服装:白のワンピースとその上から黄色の犬耳付きフードパーカー。段ボールに入っている。段ボールの文字は簡単に変えられる

 

 

 

【詳細】

 人見知りの臆病わんこ。基本的に逃げ腰だが、約束したことは守る。まず最初にどうやって逃げようかを考える。

 

 料理はできない。

 

 ただし、その他の家事については人並みにできる。

 

『人をダメにするわんこ』や『同期を殺す犬』といった物騒なあだ名もある。

 人によってはアルコールのように一種の依存症となるため、『ユキくん依存症』『ユキくん依存症候群』『ユキシンドローム』等と呼ばれ、過剰摂取を控えるようにする動きもあるとかないとか。

治療方法はユキくんを抱きしめて、その匂いや感覚を直接感じる『ユキセラピー』が有効と言われる。

 

 度々ユキを巡って三期生内(主にココネとユイ)で戦争が勃発しているが、ユキ自身は仲が良い(てぇてぇ)と思っている。

 

 自分の母親のせいで『ユキくん依存症』に過敏になっているユキは、そうなった人を避けようとする傾向にある。

 

 三期生の同期には返しても返しきれないほどの恩を受けたと思っており、同期が困っているときは、どんなことをしても助けたいと思っている。

 

 

 

 

 

●名前:大代(おおしろ)こより

 性別:女

 年齢:二十歳 大学三回生[9月14日]

 一人称:私

 所属:シロルーム三期生

 髪型:長い癖がかった茶髪。

 身長:165cm(ユキよりも十センチ以上高くスタイルの良い女性。常にお洒落な着こなしをしている)

 好きなもの:甘いもの。可愛いもの。歌。ユキくん。料理。掃除。お酒。

 嫌いなもの:勉強と名の付くもの全て。汚いもの。

 

 

 

【アバター】

 名前:真心ココネ(まごころここね)

 呼び名:ココママ、ココネ

チャンネル名:kokone_Room.真心ココネ

チャンネル登録者数26.7万人

 

 性別:女

 年齢:まだまだ子供(二十歳は公表済み)

 一人称:私

 あいさつ:ここにちは、ここばんは

 

(タグ)

 ファンネーム:ココフレ

 推しマーク:  

 ファンアートタグ:心絵

 配信タグ:心の拠り所

 

(容姿)

 髪型:長いピンクの髪

 体型:130cm。小柄な妖精で背中に薄い黄色の羽がある

 服装:緑のスカートの部分がギザギザになっているワンピース。

 

 

 

【詳細】

 三期生のまとめ役。基本的には常識人ではあるものの、ユキくんが絡むと暴走することも度々。

 

 初配信時に真っ先に助けてくれたこともあり、ユキからの信頼を一番勝ち取っている。

 

 ママ、という言葉を中々認められないが、ユキのママ……と言われると自然と頷く。

 

『ユキくん依存症』の被害者第一号。医者(のフリをした猫ノ瀬タマキ)から程ほどにするように進言されている(一種のネタになっている)が、今日も全力でユキにツッコんでいく。

 

 成人しているので、実は酒飲みであるが自宅でしか飲まない。そして、お酒を飲むと甘え上戸になる。

 

 

 

 

 

●名前:田島瑠璃香(たじまるりか)

 性別:女

 年齢:二十歳 大学二回生[4月21日]

 一人称:私

 所属:シロルーム三期生

 髪型:長めの金髪。

 身長:160cm(背丈はユキよりも十センチは大きく、スレンダーな体型。

 少しつり目)

 好きなもの:家事全般。配信系の機械。褒められること。勉強

 嫌いなもの:失敗したもの。炎上。叩かれること。孤独。

 

 

 

 

【アバター】

 名前:神宮寺カグラ(じんぐうじかぐら)

 呼び名:カグラ様、ポンカグ、ポン姫

チャンネル名:kagura_Room.神宮寺カグラ

チャンネル登録者数24.1万人

 

 性別:女

 年齢:十九歳

 一人称:私

 あいさつ:今日も来てあげたわよ!

 

(タグ)

 ファンネーム:親衛隊

 推しマーク:  

 ファンアートタグ:姿絵

 配信タグ:姫のご乱心

 

(容姿)

 髪型:金色の長い髪

 体型:160cm。胸は大きめ。←大きくしてくれと頼まれたからスタッフのノリで。もちろんパッド

 服装:黒のドレス服姿に頭には王冠

 

 

 

【詳細】

 王に内緒で放送をしている姫。基本的に傲慢ではあるもののその実はさみしがり屋。何に対しても興味を持つが、もちろん始めてやることなので失敗が多いポンコツさん。というキャラを極力演じようとしている。

 

 人気のために極力自分を殺そうとしているが、たまに素が出てしまっている。意外としっかりさん。

 

 機械にかなり強く、自室はほぼ配信用機械で埋まっている。逆に能力の全てをそれに特化してしまった、とも言える。

 

 三期生で唯一『ユキくん依存症』にかかっていない。

 

 頼られることが嬉しく、推されると基本受けてしまう。

 一番リスナーの反応を気にしており、よく一喜一憂しているエゴサ職人。

 

 実はかなり落ち込んだときに二期生の姫野オンプ(ひめのおんぷ)の配信を見て慰められてことから、Vtuberになることを決意。どうせなら同じシロルームに行きたいと三期生の応募をした。

 

 

 

 

 

●名前:結坂彩芽(ゆいさかあやめ)

 性別:女

 年齢:二十歳 大学二回生[7月7日]

 一人称:私

 所属:シロルーム三期生

 髪型:栗色の少し癖のある肩ほどの髪

 身長:150cm(小柄な少女。ただしピョンっと跳ねている一本のアホ毛分だけ祐季より高い)

 好きなもの:ゲーム。勝利。小柄なもの。三期生の全員。ぐうたら。

 嫌いなもの:野菜。睡眠時間。敗北。暗闇。リアルでの怖いもの。

 

 

 

【アバター】

 名前:羊沢ユイ(ひつじさわゆい)

 呼び名:ユイっち、ユイちゃん

チャンネル名:Yui_Room.羊沢ユイ

チャンネル登録者数26.0万人

 性別:女

 年齢:十八歳(永遠)←「羊は年をとらないのー」

 一人称:ゆい

 あいさつ:うみゅー、うにゅー

 

(タグ)

 ファンネーム:羊飼い

 推しマーク:  

 ファンアートタグ:羊皮紙

 配信タグ:羊布団

 

(容姿)

 髪型:真っ白なショートボブ

 体型:小柄な体型

 服装:羊の角がついたフードを被っている。服装も上は白のもこもこ。下も白のキュロットスカートで、健康そうな足が見えている。自分の体くらいはありそうな巨大なクッションを持っている。

 

 

 

【詳細】

「ふふふっ、全て計算なの。ゆいはわざとこうしてぐうたらしてるのだ」という言葉は冗談に聞こえて実は本当。

 

 意外と計算高い。

 

 リアルでの祐季の初めての友達。

 

 睡眠時間も長く見えるが実はかなり短く、大半をゲームに使っている。ゲームと名の付くものだと負けず嫌いで勝つまで続ける。

 

 この世の全てのゲームを網羅したいと思っている。

 

 野菜をこっそりと避けてはよくココネに怒られている。

 

 三期生全員のことが好きで『ユキくん依存症』だけではなく、ココネやカグラのことも好き。だからこそ、自分からイジりに行くし、配信はなるべくライブで。どうしてもダメなときはアーカイブで見ている。

 

 実はユキ以上の怖がり。※ただし、ゲームは除く。

 夜は電気を消して寝られず、一人で寝ようとすると体の震えが止まらない。

 だからこそ、人と良く接しようとする。

 

 

 

 

三期生、ユキくんと愉快な仲間たち

雪城ユキ→段ボールが本体の臆病ユキ犬姫。三期生の中心人物。

真心ココネ→三期生のママ……は仮の姿。実は犬が絡んだ時だけポンに早変わり。

神宮寺カグラ→ポン姫。だけど周り全員がポンになった時だけ覚醒する。

羊沢ユイ→ぐうたら羊。実は全て計算、とかなり黒い。



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一期生キャラ設定

シロルーム第一期生、キャラ設定

※ネタバレを含みます。読む際は注意をしてください。

 

 

 

 

 

●名前:青羽空(あおばそら)

 性別:女

 年齢:二十四歳

 一人称:私

 所属:シロルーム一期生

 髪型:長い茶髪

 身長:149cm

 好きなもの:絵。てぇてぇ。いたずら。辛いもの。お菓子。料理。コウ。ユキ。

 嫌いなもの:つまらないもの。苦いもの。うるさい人。料理以外の家事。

 

 

 

【アバター】

 名前:美空アカネ(みそらあかね)

 呼び名:アカネン、アカネパイセン、暴走特急

 チャンネル名:Akane Room.美空アカネ

 チャンネル登録者数:65万人

 

 性別:女

 年齢:十八歳

 一人称:私

 あいさつ:やっほー☆

 

(タグ)

 ファンネーム:お星様

 推しマーク:☆★

 ファンアートタグ:プラネタリウム

 配信タグ:天体観測

 

(容姿)

 髪型:ピンクの長い髪に星の髪飾り

 体型:スタイルの良い体。

 服装:黄色のワンピースには星の装飾がちりばめられている。

 

 

 

【詳細】

 一期生の暴走機関車。

 

 頼まれてもいないのに勝手にてぇてぇイラストを送りつけてくる。

 

 一期生トップで天真爛漫。

 

 シロルームが開始されて一番の問題点はどうやって彼女を御すかだった。

 

 ゲーム系実況者。たまにイラスト実況

 

 元イラストレーター。でも、今は配信の収入で暮らしていけるので、描きたいものを描くだけになっている。

 

 コウとは幼馴染である。

 

 

 

 

●名前:一ノ瀬海(いちのせうみ)

 性別:女

 年齢:二十四歳

 一人称:僕

 所属:シロルーム一期生

 髪型:黒のショートカット

 身長:170cm

 好きなもの:アカネ。スポーツ。家事。甘いもの。

 嫌いなもの:辛いもの。うるさい人。絵。

 

 

 

【アバター】

 名前:海星コウ(かいせいこう)

 呼び名:コウパイセン、飼育員、コウさん

 チャンネル名:Ko Room.海星コウ

 チャンネル登録者数:60.5万人

 

 性別:女

 年齢:十八歳

 一人称:ボク

 あいさつ:こみー

 

(タグ)

 ファンネーム:くらげさん

 推しマーク:  

 ファンアートタグ:水族館

 配信タグ:海の見物ショー

 

(容姿)

 髪型:水色の肩くらいに切りそろえられた髪

 体型:スレンダーな体

 服装:魚を基調としたパーカーと白スカート。魚の種類は多数。

 

 

 

【詳細】

 唯一美空の手綱を握れる、飼い主。

 

 シロルーム一の常識人にして、ツッコミ魔王。

 

 女子バスケで全国試合まで行くほどのスポーツ少女だったが、アカネに誘われるがままシロルームのライバーになった。

 

 女性からはとことんモテていた。

 

 家事全般は得意だが、なぜか料理に関しては壊滅的。それがわかってるので、作るのは好きでも作ろうとしない。

 

 昔はアカネのことを煙たがっていたが、とある事件であかねに助けられて以来、親友となった。

 

 

 

 

 

●名前:的場大輝(まとばだいき)

 性別:男

 年齢:二十七歳

 一人称:俺

 所属:シロルーム一期生

 髪型:黒髪を立たせている。

 身長:181cm

 好きなもの:特になし

 嫌いなもの:特になし

 

 

 

【アバター】

 名前:真緒ユキヤ(まおゆきや)

 呼び名:マオさん、ユッキー、ユキヤ様

 チャンネル名:Yukiya Room.真緒ユキヤ

 チャンネル登録者数:36万人

 

 性別:男

 年齢:二十五歳

 一人称:我

 あいさつ:ふっ

 

(タグ)

 ファンネーム:汝

 推しマーク:  

 ファンアートタグ:魔絵

 配信タグ:闇の宴

 

(容姿)

 髪型:白銀の髪と二本の角。

 体型:筋肉質の体。

 服装:黒を基調とした服とマント。

 

 

 

【詳細】

 クールな外見とミステリアスな雰囲気で女性人気を集めている。

 

 なにげに雑談からの悩み相談が人気。

 

 あまり周りのことに興味がなく、全ての事柄を客観的に見ることから、より適切なアドバイスができる。

 

 そして、自分自身にもあまり興味がない。

 

 ただし、それはユキに出会ってからちょっとずつ変化する。

 

 ユキの筋トレの師匠。

 

 

 

 

●名前:高田太一(たかだたいち)

 性別:男

 年齢:二十三歳 

 一人称:俺

 所属:シロルーム一期生

 髪型:黒の短めの髪。

 身長:176cm。メガネをしている。

 好きなもの:真面目。勉強。スーツ。炎上。

 嫌いなもの:不真面目。チャラ男。無反応。

 

 

 

【アバター】

 名前:野草ユージ(のぐさゆーじ)

 呼び名:ユージ、ユージ草、草

 チャンネル名:Yuzi Room.野草ユージ

 チャンネル登録者数:28万人

 

 性別:男

 年齢:二十一歳

 一人称:俺、俺様

 あいさつ:ちーっす

 

(タグ)

 ファンネーム:子猫さん

 推しマーク:✨ 

 ファンアートタグ:俺様の写真

 配信タグ:焼却炉

 

(容姿)

 髪型:金髪のトゲトゲとした髪

 体型:筋肉質の体。

 服装:体を見せつけるように前だけはだけている煌びやかな服装。

 

 

 

【詳細】

 チャラ男で軽い感じに話す色物枠。

 

 コメント欄が草で覆われる大草原雑談枠が有名で実に良く燃えている。

 

 実は影で努力をし続ける苦労の人で、本人の性格は真面目。

 

 ただし、少しそそっかしいところがあり、シロルームの本社へ応募したつもりが、なぜかライバーに応募してしまい合格。

 

 慣れないチャラ男キャラを日夜勉強して、チャラ男よりチャラ男らしくなっている。

 

 自身を炎上キャラだと認識しており、燃えた時こそが自分が評価された時だと思っている。

 

 ただし、根が真面目なので、人道を外れたことはしない。

 

 

一期生、暴走特急と草原の魔王

美空アカネ→言わずと知れた暴走特急。これでも落ち着いた? 誰かれ構わずに突撃する。

海星コウ→全てのポンを抑えることのできる唯一の人物……という不名誉な称号を得てしまった悲しき人物。後継者を探してる。

真緒ユキヤ→魔王。つまらなさそうに世を見ているが、ユキくんが現れたことで世界が変わった。

野草ユージ→草。

 



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二期生キャラ設定

シロルーム第二期生、キャラ設定

※本編更新分までのネタバレを含みます。読む際は注意をしてください。

 

 

 

 

 

●名前:西園寺綾子(さいおんじあやこ)

 性別:女

 年齢:二十二歳

 一人称:私

 所属:シロルーム二期生

 髪型:長めのもこもこした茶髪

 身長:163cm

 好きなもの:ゲーム。完璧にこなすこと。他人。のんびり。

 嫌いなもの:不完全な自分。素早く動くこと。

 

 

 

【アバター】

 名前:姫乃オンプ(ひめのおんぷ)

 呼び名:ヒメノン、オンプッチ、ほえぇ

 チャンネル名:Onpu Room.姫野オンプ

 チャンネル登録者数:46万人

 

 性別:女

 年齢:十八歳

 一人称:私

 あいさつ:はぅぅー

 

(タグ)

 ファンネーム:手下さん

 推しマーク: ✨

 ファンアートタグ:姫絵

 配信タグ:生姫

 

(容姿)

 髪型:ウェーブがかったピンクの長髪

 体型:スタイルの良い体。

 服装:白のフリルがたくさんあしらわれたドレス

 

 

 

【詳細】

 のんびり口調で話すゲーム以外は完璧なお姫様。リアルでも超絶金持ち。

 ただし、配信はゲームがメインなので、ポンコツだと思われている。

 二期生のまとめ役。

 

 厳格な両親の下、常に完璧であるべし、と教え込まれている。

 そんな中、初めて自分が完璧にできないゲームと出会い、それを克服するためにゲームをし続けている。

 その時にゲーム配信を知り、色んなゲームをするきっかけとしてシロルームへ応募する。

 

 親もそんな彼女の挑戦を密かに応援しており、実は毎晩欠かさずに配信を見ているし、ライブ配信は確実に待機している。

 

 

 

 

 

●名前:小野芽衣子(おのめいこ)

 性別:女

 年齢:二十二歳

 一人称:俺

 所属:シロルーム二期生

 髪型:黒のショートカット

 身長:158cm

 好きなもの:スポーツ全般。肉。酒。

 嫌いなもの:勉強。野菜。

 

 

 

【アバター】

 名前:貴虎タイガ(きとらたいが)

 呼び名:タイガ、虎

 チャンネル名:Taiga Room.貴虎タイガ

 チャンネル登録者数:51万人

 

 性別:女

 年齢:二十歳

 一人称:俺

 あいさつ:よっ

 

(タグ)

 ファンネーム:虎の子

 推しマーク:  

 ファンアートタグ:トラ絵

 配信タグ:サバンナ

 

(容姿)

 髪型:黄色と黒のコントラストな髪

 体型:スレンダーな体でトラの耳と尻尾がある。

 服装:黄色と黒のコントラストの袖なしワンピース

 

 

 

【詳細】

 常に暴走しているのになぜか最後は綺麗に収まるトラブルメーカー。

 獣人枠。

 脳筋プレーでゲームをする。

 

 運動音痴だが、体を動かすことは好き。猪突猛進でとりあえず当たって砕けてみるタイプ。

 かなりの幸運の持ち主で、宝くじに何度か当たったことがある。

 そして、実際に宝くじ動画で、大当たりを引き、大バズりをしたことで人気に拍車がかかる。

 他称、シロルーム随一の幸運。

 

 

 

 

 

●名前:三国椎名(みくにしいな)

 性別:女

 年齢:二十三歳

 一人称:私

 所属:シロルーム二期生

 髪型:黒のロング

 身長:153cm

 好きなもの:静かな場所。褒められること。お金。

 嫌いなもの:うるさい場所。貧乏。高級品。

 

 

 

【アバター】

 名前:氷水ツララ(こおりみずつらら)

 呼び名:つらたん、つららん、つらら

 チャンネル名:Turara Room.氷水つらら

 チャンネル登録者数:90万人

 

 性別:女

 年齢:十八歳

 一人称:私

 あいさつ:……来たのね

 

(タグ)

 ファンネーム:雪だるま

 推しマーク: ☃

 ファンアートタグ:絵つらら

 配信タグ:生つらら

 

(容姿)

 髪型:蒼銀の肩より少し長い髪

 体型:小柄な少女

 服装:水色の少しブカブカのワンピース

 

 

 

【詳細】

 ジト目をよくする口数少ない氷の女王でミステリアスな雰囲気を出している。

 シロルーム随一の歌のうまさ。ただし、ほとんど歌ってくれない。

 現シロルームトップ配信者。

 

 かなり貧乏な家で生まれており、お金に対する思いは人一倍強い。

 だからこそ、本当は恥ずかしいのであまり人前で歌いたくないのだが、スパチャで殴れば歌ってくれる。

 

 透き通るような声でのほぼ触れたことない、ゼロ知識からのゲーム実況。

 段々とうまくなっていく様子が好まれている。

 

 

 

 

 

●名前:揚津澪(あがつみお)

 性別:女

 年齢:十九歳

 一人称:私

 所属:シロルーム二期生

 髪型:長めの茶色

 身長:155cm

 好きなもの:楽しいこと。小さいもの。甘いもの。

 嫌いなもの:退屈。大きいもの。辛いもの。

 

 

 

【アバター】

 名前:猫ノ瀬タマキ(ねこのせたまき)

 呼び名:タマキン、猫、タマキパイセン

 チャンネル名:Tamaki Room.猫ノ瀬タマキ

 チャンネル登録者数:44万人

 

 性別:女

 年齢:十八歳

 一人称:にゃー

 あいさつ:にゃー

 

(タグ)

 ファンネーム:猫子

 推しマーク:  

 ファンアートタグ:猫鍋

 配信タグ:生ねこ

 

(容姿)

 髪型:茶色のショートカット

 体型:小柄で猫耳と尻尾がある。

 服装:制服

 

 

 

【詳細】

 猫オブザ猫。

 場を引っ掻き回すだけ引っ掻き回してくる。

 というのも全て計算で行なっている影の二期生まとめ役兼非常識枠。

 

 全てを把握したうえで一番面白い方向へと転がしていく。

 どこまで計算で、どこまでが天然なのか見せない。

 

 二期生なのに、リアルの年齢は三期生の面々と変わらない。シロルーム最年少デビューもしてる。過去にリアルで祐季と出会ったことのある数少ない人間。

 

 

二期生、表と裏の支配者

姫野オンプ→二期生の表の支配者。ゲーム以外は完璧にこなす常識人風。ただしのんびり

貴虎タイガ→幸運虎。全方位に対して幸運爆撃を行う。本人の力は最弱クラスでユキくんに匹敵する。

氷水ツララ→実はもっと頼られたいけど、本人の態度からあまり接してもらえない。ツンツン……

猫ノ瀬タマキ→二期生、影の支配者。全てをおかしい方向に運ぶ。

 



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四期生キャラ設定

シロルーム第四期生、キャラ設定

 

※本編更新分までのネタバレを含みます。読む際は注意をしてください。

 

※チャンネル登録者数等は本編公開時に更新します。

 

 

 

 

●名前:七瀬奈々(ななせなな)夏瀬(なつせ)ななとして活動中[登録者数20万人]。ユキくんにスパチャを投げるときはさすらいの犬好き)

 性別:男

 年齢:18歳

 一人称:私

 所属:シロルーム四期生(予定)

 髪型:長い銀髪。

 身長:146cm(低い小柄な体格と童顔)

 好きなもの:動画配信。かわいいもの。ユキくん

 嫌いなもの:大勢の人。孤独

 

 

【アバター】

 名前:天瀬ルル(あませるる)

 呼び名:るるちゃん

 チャンネル名:Ruru Room.天瀬ルル

 チャンネル登録者数:19.3万人

 

 性別:女

 年齢:18歳

 一人称:ぼく

 あいさつ:こんるるー

 

(タグ)

 ファンネーム:天使さん

 推しマーク:  

 ファンアートタグ:天写真

 配信タグ:生天使

 

(容姿)

 髪型:青銀色の短髪

 体型:身長145cm。小柄な体型で白い肌

 服装:青の刺繍が施された白の袖なしワンピース。頭には金の輪っか。背中には白の羽。

 

 

 

【詳細】

楽しいことを求めて天界より降り立った天使。

少し悪戯好きで、かわいいものにちょっかいをかけることを生業としている。

しかし、その反面、自分がちょっかいをかけることには弱い。

 

元々MeeTuberで活躍していた大人気配信者。

その人気はユキくん以上だったにも関わらず、突然の引退表明をする。

その理由はシロルーム四期生に合格したから。

人形にすら思える小柄で現実離れした容姿と透き通るような声を持っている。

 

あまりに人気すぎて、すぐに前世(夏瀬なな)がバレてしまったが、本人が楽しそうにしていることで、炎上せずむしろ人気が加速する。

 

ユキくんの大ファンで、常に最大のスパチャを投げようと心に決めている。

配信はほぼ必ずと言って良いほど、ライブで見た後で、アーカイブで三回は繰り返し見ている。

 

一足早く四期生に合格している。

動画上でだが、ユキくんから色々と教えてもらう約束をしている。

 

 

●名前:犬飼冬華(いぬかいとうか)(TOKAとして活動中[登録者数5万人])

 性別:女

 年齢:20歳 大学三回生

 一人称:私

 所属:シロルーム四期生(予定)

 髪型:短めの黒髪。

 身長:150cm

 好きなもの:愛されること。

 嫌いなもの:愛されないこと。

 

 

 

【アバター】

 名前:魔界エミリ(まかいのえみり)

 呼び名:エミリ、エミリン

チャンネル名:Emiri_Room.魔界エミリ

チャンネル登録者数:15.7万人

 

 性別:女

 年齢:20歳

 一人称:私

 あいさつ:こんえみー

 

(タグ)

 ファンネーム:悪魔っ子

 推しマーク:  

 ファンアートタグ:悪魔絵

 配信タグ:魔界配信

 

(容姿)

 髪型:短めの黒い髪と二本の黄色い角

 体型:150cm。

 服装:黒と赤のワンピース。

 

 

 

【詳細】

悪魔っ子ながら最初は清楚に振る舞っている。

しかし、その実態はヤンデレ気質。

ルルが三期生(主にユキ)を慕っていることを面白く思っていない。

しかし、ユキと話すことでその気持ちは和らいでいる。

相談役としてのユキは尊敬している。

ルルをとるユキは面白く思ってない。

 

基本的にどんなこともできるが、壁は物理で破壊するタイプ。

 

 

 

●名前:宇多野葵《うたのあおい》(うたのん、として活動中[登録者数3万人])

 性別:女

 年齢:22歳 大学四回生

 一人称:私

 所属:シロルーム四期生(予定)

 髪型:癖がかった金髪。

 身長:160cm

 好きなもの:酒、エロ、フウ、百合

 嫌いなもの:エロくないもの、BL

 

 

 

 

【アバター】

 名前:姉川イツキ(あねがわいつき)

 呼び名:イツキ、お姉様

チャンネル名:Itsuki_Room.姉川イツキ

チャンネル登録者数11.0万人

 

 性別:女

 年齢:22歳

 一人称:私

 あいさつ:こんー

 

(タグ)

 ファンネーム:イツキの友

 推しマーク: ♨

 ファンアートタグ:イツキ絵

 配信タグ:イツキTV

 

(容姿)

 髪型:茶色の長い髪

 体型:160cm。胸は大きめ。

 服装:胸元を協調したバニー衣装。

 

 

 

【詳細】

エロと百合をこよなく愛するお姉様

自身は暴走しがちだが、他人が暴走したときはなぜか抑える役割に回る。

フウとは仲良しで、よく二人でコラボをしている。

リアルでも知り合い。

 

歌唱力は高く、ゲームも実況『は』上手い。

暴走さえしなかったら、なんでもそつなくこなすタイプ。

 

 

 

 

 

●名前:立木未来美《たつきみくみ》(ミクチャンネルで活動中[登録者数7万人])

 性別:女

 年齢:18歳 大学1回生

 一人称:私

 所属:シロルーム四期生(予定)

 髪型:明るめの茶色。肩ほどまで

 身長:155cm

 好きなもの:ゲーム。四期生、イツキ

 嫌いなもの:一人。孤独。えっちぃこと

 

 

 

【アバター】

 名前:狸川フウ(たぬがわふう)

 呼び名:フウちゃん

チャンネル名:Fuu_Room.狸川フウ

チャンネル登録者数18.3万人

 

 性別:女

 年齢:18歳

 一人称:ふう

 あいさつ:こんポコ

 

(タグ)

 ファンネーム:子狸さん

 推しマーク: ☁

 ファンアートタグ:ふう絵

 配信タグ:生フウちゃん

 

(容姿)

 髪型:短めの茶色と丸い耳。頭になぜか金の王冠

 体型:152cm。小柄な体型

 服装:白のワンピースと金の王冠

 

 

 

【詳細】

四期生のまとめ役で、フウ以外全員がポン役と言うことで気苦労が絶えない。

とても明るく楽しそうに話す。

前世は人気配信者だった(四期生はほとんどそう)。

えっちぃことが苦手で顔を真っ赤にさせてテンパってしまう。

イツキとは前世の頃からの知り合いで仲良し。

 

ゲームは『超』がつくほどの下手。

涙目になりながら耐久する姿がまた人気である。

 

語尾に『~ポコ』と付ける。

 

 

 

 

 

●四期生暴走ポン組

ルルちゃん→ユキくん大好きっ子

エミリ  →四期生の絆命

イツキ姉 →えっちぃこと最優先

フウ   →苦労人純情狸



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本編第1章:三期生の絆
プロローグ:男なのに女性限定のVtuberにスカウトをされてしまった


小説家になろう、カクヨムで掲載させてもらっているものをこちらでも投稿させていただきます。
本日は第1章を全て。
明日以降は最新話に追いつくまで1話ずつ毎日投稿させていただきます。


 男のVtuberと言われて何人名前が挙がるだろうか?

 

 少なくとも僕は何人も思い浮かばない。

 お気に入り登録者上位やスパチャ(投げ銭)上位のVtuberは基本女性だ。

 

 だからこそ、男である僕がVtuberになるなんて、想像すらしていなかった。

 そんな未来があるなんて一度も考えたことがなかった。

 

 だからこそ、僕は今の状況に困惑していた。

 

 

 場所は近所の喫茶店。

 目の前にはスーツ姿の女性。

 

 彼女は興奮冷めやらぬ様子で僕に話しかけてくる。

 

 

小幡祐季(こはたゆき)君、あなたは絶対にVtuberになるべきです! 大丈夫、絶対に成功させて見せますから」

 

 

 この女性の名前は 湯切舞(ゆきりまい)

 スレンダーな体型の女性でシロルームの社員でもあった。

 

 

 シロルーム――最近名を上げているVtuber企業である。

 始まったばかりの企業ということもあって、会社自体は大きくない。

 しかし、ここ所属のVtuberは動画配信サイトMeeTube(ミーチューブ)で数十万人クラスのお気に入り登録者数がいる優秀なVtuber企業でもあった。

 

 

 確かに僕もここに所属しているVtuberの動画は見たことがある。

 雑談やゲーム、歌をメインに女性Vtuber同士の絡みが本当に尊くて、なにか悲しいことがあったときとかには動画を見ると心が癒やされた。

 

 

 そんな企業の社員からの薦め。

 何故こんなことになっているのか、僕にはわからなかった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 きっかけは駅へ向かっていた時に声をかけられたことにあった。

 

 

 

「そこの小柄な君、少し話をいいですか?」

 

 

 

 突然女性から声をかけられる。

 周りの人のことかと思って、キョロキョロと周りを見てみるが、女性が視線を向けているのはどう見ても僕だった。

 

 

 確かに僕は小柄だった。

 男子の平均から二十センチ以上も小さい背丈。

 女子高生、いや女子中学生にすら間違えられることもある童顔。

 肩ほどまで伸ばした艶やかな黒髪。

 

 世間一般では『男の娘』と称されることの方が多かった。

 

 

――うぅ……、そのせいで僕がどれだけ苦労してきたか……。

 

 

 容姿のことをとやかく言っても仕方ないのだが、正直あまり良い印象は持っていない。

 

 

 まず男子たちからは敬遠される。

 更衣室で着替えようとしても追い出されるし、そもそも仲間に加えてもらえることが少なかった。

 しかも、罰ゲームなのか、何度も男子から告白を受けている。

 もちろん僕にはそんな趣味はないので、その場から逃げ去っていたが。

 

 

 そんなことを生まれてからずっと繰り返してきたのだ。

 友達と呼べる存在は僕にはいなかった。

 

 

 それなら女子たちはどうか?

 

 

 その見た目からからかわれるようなことはあった。

 ただ、僕自身が人見知りで口下手なところがあるので、自然と距離を空けてしまった。

 

 

 

 そんな僕がまともに女性と喋れるはずもなく、くぐもりながら答える。

 

 

 

「え、えと、ぼ、僕のことでしょうか?」

 

「そうです。少し話したいことがあるので良いですか?」

 

「ぼ、僕はないです……」

 

「そうは言わずに少しだけですから……」

 

「し、知らない人と話をしたらダメだと言われてますから――」

 

 

 

 これは母さんから散々言われていたことだった。

 僕自身、もう大学生なので良いと思うのだけど何故かよく心配されていたのだ。

 

 

 

「私は 湯切舞(ゆきりまい)といいます」

 

 

 

 女性はそう言いながら名刺を渡してくる。

 

 

 

「ご、ご丁寧にありがとうございます。そ、その、僕は小幡祐季(こはたゆき)と言います……」

 

 

 

 僕も釣られるように名前を言って頭を下げていた。そして、これが間違いだった。

 

 

 

「小幡さん……ですね。これでもう知らない人じゃないですよ? 話を聞いてもらえますよね?」

 

 

 

 やたらグイグイとくる女性だった。

 

 

 

「そ、その、僕は特に話すことは――」

 

「私があるんです! とりあえずここじゃ目立ちすぎますね。宜しければ近くの喫茶店へ行きませんか?」

 

「えとえと、ぼ、僕はこれから帰らないと……」

 

「時間は取らせませんから……」

 

「うぅ、わ、わかりました。す、少しだけなら……」

 

 

 

 あまりにもグイグイくるので、周りの目が気になってしまい、思わず頷いてしまった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 喫茶店へ移動すると僕の前にオレンジジュース、女性の前にはコーヒーが置かれた。

 

 

 

「あ、あの……、僕は何も注文は――」

 

「大丈夫です。このくらい経費で落ちますから」

 

「は、はぁ……」

 

「それよりも改めて自己紹介を。私は湯切舞。シロルームで人事を担当してます。あと、次の三期生の担当を兼ねる予定となってます」

 

「ぼ、僕は小幡祐季です。そ、その大学生です……」

 

「えっ、大学生!? ほ、本当ですか!?」

 

 

 

 舞が驚きの表情を浮かべてくる。

 

 

 

「ほ、本当ですよ! よ、よく言われますけど……」

 

「そうですか……。これは逆にありがたいですね。小幡さん、Vtuberに興味ありませんか?」

 

「えと……、た、たしかによく見ますし、興味はあります。やっぱりイベントとか行って――」

 

「そうですよね!? やっぱり興味ありますよね!? よかった、これは決まりですね」

 

 

 

 舞が僕の手を掴んでくるので思わず言葉を止める。

 

 

 

「き、決まりってなんですか……?」

 

「もちろんシロルーム三期生に、ですよ! 年齢的に四期生になるかなと思ってたんですけど、良かったです」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!? 三期生!? えとえと、それって――」

 

「もちろん配信者に……ですよ?」

 

「無理です、無理です。ぼ、僕、人見知りなんです。し、知らない人を前にしたらまともに話せないです……」

 

「大丈夫ですよ、その初々しい感じがまた良いですから」

 

「えとえと、そ、そもそも、どうして僕なんですか?」

 

「それはもちろん、小幡さんを見た時にピンと来たからです! とにかく、このサイトを見てください!」

 

 

 

 舞がタブレットから見せてきたのは【シロルーム三期生募集】と書かれたサイトだった。

 

 

 その募集要項には二つのことが書かれていた。

●十八歳以上の女性であること

●配信経験があること

 

 

 それを見て、舞が勘違いしてることに気づく。

 

 

【この募集は女性限定の募集である】

 

 

 つまり、最初から僕は募集できない。

 

 どうやら僕のことを女性と思っているようだ。

 何度も聞いたその言葉に、僕は苦笑いをしながら答える。

 

 

 

「え、えと、その……、ご、ごめんなさい。やっぱり、僕、できる気がしないので断らせてもらっても……」

 

「うんうん、これからよろしく――って、な、何ですって!?」

 

 

 

 女性は大きく目を見開いて、立ち上がる。

 そして、顔を近づけてくる。

 

 

 

「ど、ど、どうして辞退するのです!? き、君なら十年、いや、百年に一人の逸材になれますよ!?」

 

「そもそも、僕、募集要件を満たしていませんから……」

 

「くっ、大学生って言ってましたけど本当は中学生でしたか……。確かにこの可愛さだと十八歳以上と言うことは――」

 

「と、歳のことではありません! 本当に僕は本当に大学に通ってます! で、でも、僕は男ですよ?」

 

 

 

 すると、女性は一瞬固まったあと、笑顔で言ってくる。

 

 

 

「あっ、なんだ……、そんなことですか。それなら大した問題にならないですよ。むしろ私的にはご褒美です!」

 

 

 

 親指をピンと立てて満面の笑みを見せてくる舞。

 

 

――だめだ、この女性。早くなんとかしないと……。

 

 

 性別を伝えたら終わると思ってたのにまさかの空振りで終わり、で僕は少し焦っていた。

 

 

 

「でもでも、この募集要項は全く満たしてませんよね?」

 

「そうですね。でも、私たちとしては人気者になってもらえる人なら大歓迎ですから。あくまでも募集要項は今欲しい人をまとめただけですよ?」

 

 

 

 目を輝かせて、早口で言ってくる女性。

 段々とその体も近づいてきてる気がする。

 

 

 

「そ、それと、僕、配信経験なんてありませんよ? 見たことしかありませんので――」

 

「なるほど、素人の恥ずかしがり屋さんの男の娘、声も可愛らしいし小柄、どれだけ役を積めばいいのですか!? 既に満貫は揃ってますよ!? 役満を目指すのですか!?」

 

「えっと、何を言ってるのかは分かりませんけど、そういうことですので動画配信は難しいかな、と」

 

「――全面サポートします」

 

「……へっ?」

 

「私が全面サポートを……、いえ、弊社シロルームが全力を持って協力させていただきます!」

 

「で、でもVtuberってやっぱり女性の方がいいですし……」

 

「そんなことないですよ。シロルームでも男性ライバーの方は数人いらっしゃいます。確かに役割はまた違いますけど、しっかり人気を取られてますよ?」

 

 

 

――あっ、そうなんだ。男性ライバーなら確かに……。それに動画配信もサポートしてくれるなら……。

 

 

 

 一瞬気持ちが揺らいでしまう。

 ただ、やっぱり不安の方が勝ってしまう。

 

 

 

「それでどうでしょう? 私と一緒に(美少女)Vtuberになりませんか?」

 

「す、すみません。(男性)Vtuberには興味ありますけど、やっぱり僕には荷が重いと言いますか、できそうにないです……」

 

「そうですか……。では、こちらに名前を書いてください」

 

 

 

 舞がそっと一枚の紙を差し出してくる。

 そこには【契約書】の文字が書かれていた。

 

 

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!? 僕、断りましたよね? そ、それになんで契約書を持ち歩いているのですか!?」

 

「えっ、小幡さん(きみ)みたいな子を見つけたときに逃がさないため?」

 

「怖いですよ!? な、なにさせられるのですか!? や、やっぱり僕、断ります。こ、これで失礼しますね――」

 

 

 

 下手な契約をさせられる前に立ち上がると、僕は家に帰っていった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 それから数日が過ぎた。

 すっかり僕の中で舞とのやりとりが薄れていたとき、事件が起こる。

 

 

 家に帰ってくると母さんが誰か連れてきていることに気づいた。

 リビングの方から笑い声が聞こえてくる。

 

 だからこそ、僕はリビングへ行かずにそのまま部屋へと戻ろうとする。

 しかし、そのタイミングで声が聞こえてくる。

 

 

 

「ゆーくん、帰ってきたの? ちょっとこっちに来てくれる?」

 

「えっ!? ど、どうして……?」

 

「ゆーくんにお客さんだよー!」

 

 

 

 僕に客? そもそも僕はぼっち……。

 わざわざ僕を訪ねてくるような人は思い浮かばない。

 

 そうなると母さんが騙されているだけだろう。

 

 

 そう思いながらリビングへ行くとそこには先日会った舞がいた。

 そして、その隣にまるで子供にしか見えない母さんが座って、笑みを浮かべていた。

 

 

 

「ゆーくん、聞いたよ。Vtuberになるんだって!? どうしてママに相談してくれなかったの?」

 

「えっ、あ、あれっ? ど、どうして? ぼ、僕、自宅を教えていない……」

 

 

 

 舞の行動に思わず恐怖すら感じてしまう。

 すると舞はにっこり微笑んでくる。

 

 

 

「えぇ、私も諦めようとしたんですけどね。よく考えるとシロルームの会長が確か『小幡』という名前だったことを思い出して、ダメ元で聞きに来たんですよ。そしたらまさかの小幡さん……、いえ、祐季くんのお母さんでしたので――」

 

「ママは大賛成だよ! ゆーくん、可愛いし」

 

 

 

 悪びれた素振りなく言う母さん。

 大学生である僕がいるにも拘わらず、母さんの見た目は子供のようにしか見えない。

 そんな母親がいるはずないだろう、アニメの中の存在だろう、言いたくなる気持ちもわかる。ただ、目の前に現存しているのだから仕方ない。

 

 

 

「可愛いとか関係ないよね!? 僕は男で募集要項も女性限定なんだし……」

 

「そこはほらっ、会長権限でどうにでもなるよ。やったね、ゆーくん。憧れのVtuberだよ?」

 

「み、見る方で憧れていても自分がしたいなんて思ってないよ! そ、それに母さんもシロルームの会長だなんて一言も言ってないよね?」

 

「別にシロルームのことは聞かれなかったし……。それにママは見た目があれだから表に出てこないでってアイリが言ってきたし。『子供が会長だなんて問題があるから』なんて言ってくるんだよ。酷いと思わない?」

 

 

 

 母さんがグッと身を乗り出してきて、不満そうに頬を膨らませていた。

 その仕草はどう見ても子供そのもの。

 しかし、それを言うと母さんが怒ってしまうので口には出さない。

 

 

 

「えっと、そのアイリ――揚津愛理(あがつあいり)代表が弊社、シロルームの代表になります。その小幡会長と揚津代表の二人がシロルームを起こした張本人でして――」

 

 

 

 舞が詳しい説明をしてくれる。

 ただ、そこで僕の動きが固まる。

 

 

 

「えっ!? 本当の本当に母さんが!? だって今までそんな素振りを見せてこなかったよね?」

 

「だって、家だと仕事を忘れたいでしょ? ゆーくんに癒やされたいでしょ? でも、ゆーくんも世界に羽ばたいてしまうんだね……。うん、悲しいけど応援するよ。頑張れー」

 

「もう、だからやるって言ってないでしょ!?」

 

「大丈夫、ゆーくんなら! だって男の子でしょ?」

 

「うっ……」

 

 

 

 思わず僕は口を閉ざしてしまう。

 

 散々少女扱いされ続けた僕は『男なら○○……』という言葉を聞くと断れなくなってしまう。それを母さんもわかってて敢えて使ってくる。

 

 

 

「ゆーくん、ファイト!! 大丈夫、男の娘だってVtuberになれるよ!」

 

「だ、だから勝手なことを言わないで!!」

 

「えっと、ではこちらが契約書で――」

 

「ま、舞さんも進めようとしないで!」

 

 

 

 一人でも相手にするのが大変なのに、ノリが良い人が二人もいて、僕は息も絶え絶えになっていた。

 

 

 

「はぁ……、はぁ……。ど、どうして僕をそこまでVtuberにしたいの?」

 

「えっ? だって、たくさんの人がゆーくんの放送を見に来るってことは、そのままゆーくんにたくさんお友達ができるってことだよね? そうなるとママ、うれしいな」

 

 

 

 母さんは僕に友達がいないことを心配してくれているようだった。

 もちろん、不安に思わせていることはわかっている。

 

 

 

「舞さんもどうして僕をそこまでVtuberにしたいのですか? 別に代わりの人はいくらでもいますよね?」

 

「いえ、祐季くんの代わりをできる人はいませんよ。それに祐季くんがとっても可愛いからはぁはぁしたいというだけで……」

 

 

 

 口から涎を出しそうになりながら目を輝かせて言っている。その姿はどう見ても不審者そのもの……。

 

 ここにいては危ない、と身の危険を感じていた。

 

 

 

「や、やっぱり僕、その、自分の身がかわいいので――」

 

「あー、違います違います。可愛い祐季くんがVtuberになったら沢山のてぇてぇを生み出してくれるんだろうなって……」

 

「てぇてぇ?」

 

「えぇ、尊いことを言うんですよ。見てたら『てぇてぇ』と言わざるを得ないような……。祐季くんならたくさんのてぇてぇが生み出せますよ! 私はそれが見たいんです!」

 

 

 

 きっぱりと言い切ってくる舞。

 

 

 男でも生み出せるのだろうか? という疑問はあるもののそこまで期待してくれる人は今までいなかった。

 

 

――母さんも舞さんも僕に期待してくれているんだな……。

 

 

 その気持ちは今まで感じたことのないもので、嬉しさで思わず笑みがこぼれてしまう。だからこそ、僕は頷いていた。

 

 

 

「わかりました。その期待に応えるためにも頑張ります!」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 舞が家に来てから三ヶ月ほど過ぎた。

 

 電話で何度か連絡を取り合っていたのだが、PCは何故か担当の舞が力を入れすぎたようで届くのに結構時間がかかっていたようだ。

 

 それがようやく届いた。

 ただ、何故か同封されてたアバターのイラストを見て固まってしまう。

 

 

 

「だ、騙された……」

 

 

 

 シロルームに男性Vtuberがいると聞いた時点で、僕も男アバターになるものだと思い込んでいた。

 

 しかし、もらったイラストには犬っぽい少女の絵が描かれていた。そして、一番上にはそのキャラの名前が書かれている。

 

 

[雪城ユキ]

 

 

 これがVtuberとして、名乗るべき名前のようだ。

 

 名前が同じユキというのは、被っていてもわからないということか?

 それとも僕がうっかり名前を言ってしまった時にフォローできるようにするためか?

 

 とにかく小柄でとても可愛らしい少女が描かれている。

 茶色の肩より少し長い髪。白のワンピースとその上から黄色の犬耳付きフードパーカーを着ている。

 

 更になぜか段ボールに入れられており、そこには『拾って下さい』の文字が書かれている。

 

 

 ただ、舞も男性Vtuberがいることしか言っていなかった。僕のアバターについてはこれといって言及していなかった。

 

 そして、既に契約している以上、このアバターで活動していくしかない。

 そこはもう悩んでいても仕方ない。覚悟を決めるしかなかった。

 

 

 

「はぁ……。それと他には何が届いたんだ……?」

 

 

 

 シロルームから送られてきた段ボールは三つ。

 

 一つは今のイラストや動画配信のやり方が書かれた本、あとはwebカメラなどが入っていた。

 細かい道具一式が入っているのだろう。

 

 次の段ボールを開けるとデスクトップのパソコンやモニターが入っている。

 

 

――これで全て揃ったと思うんだけど?

 

 

 最後の謎ダンボール。

 それに手をかけようとする。しかし、それはやたらと軽かった。まるで中に何も入っていないかのように。

 

 と、言うか本当に中身は空だった。

 よく見ると段ボールには『拾ってください』の文字が描かれていた。

 

 

 

「うん、これは見なかったことにしよう」

 

 

 

 その段ボールは部屋の片隅に置いて、パソコンを配置していく。

 そして、担当の用意した説明通りに必要なソフトを入れていく。

 

 

 SNSであるカタッター。

 チャットであるキャスコード。

 そしてもちろん動画配信サイトであるMeeTube。

 

 

 アカウントはシロルームが用意してくれるようで、既にキャスコードだけはアカウントがあった。

 

 企業所属のVtuberなのだから、当然なのだろう。

 

 

 

(きっと祐季くんは作ることから逃げると思いましたので、先に逃げられなくしておきました)

 という担当さんの声も聞こえてくるが、それは気にしない。

 

 機械が得意ではない僕としてはここまでしてもらえるとありがたい限りだった。

 

 あとは配信ソフトや2Dイラストを動かすソフトを入れるだけ。

 ただ、それだけでも頭が痛くなってくる。

 

 

 全ての準備を終えると新しく入れたキャスコードから担当へ連絡を入れる。

 

 

 キャスコード――グループを作り、メッセージを送りあったり、同時に通話できる便利なチャットアプリだった。

 

 

 ただ、使うことはないので、入れたことがなかった。

 

 だから、四苦八苦しながらなんとか舞へ報告を入れる。

 

 

 

ユキ :[機材届きました。ありがとうございます]

 

 

 

 報告がてらの簡単な内容。

 ただ、すぐに返信が来る。

 

 

 

マネ :[無事にセット出来たようですね。これでいつでも配信できますね。あと三期生のグループに祐季くんも入れておきますね]

 

 

 

 電話で聞いていたが、三期生は僕のほかに三人いるらしい。

 

 同期ということもあり、今後コラボをすることもあるから仲良くなっておく必要はある。

 

 一応、万が一、億が一のことを考えて舞には、他に男性がいないかと聞いてみると鼻で笑われてしまった。

 

 

 

『あははっ、今回の募集は女性限定でしたよ?』

 

 

 

――僕に対して言っていたことと違いますよ?

 

 

 

 口には出さなかったけど、心の中でそう思い、苦笑を浮かべていた。

 

 あと、配信中やチャット内では舞のことはマネさん、もしくは担当さんと呼ぶことになっていた。

 

 ただ、チャットでのやり取りはいいとして、グループ通話だとどうしても声が聞こえてしまう。

 

 話した瞬間に男だとバレてしまう……かもしれない。

 

 

 

ユキ :[む、無理です……。きっと僕の声を聞いた瞬間に美少女Vtuberになりたい変態さん、のレッテルを貼られちゃいますよ……]

 

 

 

 震える手で舞に直接チャットを返す。

 

 

 

マネ :[大丈夫ですよ。こんなに可愛いユキくんなら。それにユキくんの公式設定から性別の欄は消しておきました。バレたら最初から男の娘だったということにしましょう!]

 

ユキ :[きょ、拒否権は?]

 

マネ :[ないですね。最初から]

 

 

 

 秒で拒否の返答がくる。

 それを見たあと、僕は更に顔を青ざめていた。

 



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第1話:同期達

 それから何度か担当の舞や同期たちを交えて打ち合わせを繰り返していた。

 

 

――できるだけチャットで済ませてくれた舞には感謝してもし足りない。いや、そもそも女性限定なのを無理やりVtuberにしなかったらこんなことにはならなかったのでは……とも思わなくないが。

 

 

 ただ、何度かの通話でも男であるということはバレなかった。

 そして、ついに来るべき日が来てしまう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 初配信の日が決まり、カタッターで活動開始の告知をするように頼まれてしまった。

 カタッターに初呟きをする。それを意味するところはつまり――。

 

 

 

「遂に僕が雪城ユキ(ゆきしろゆき)として、全国デビューすることになるんだ」

 

 

 

 男の僕が美少女と偽ってVtuberデビュー。絶対バレたら炎上するやつだろう。

 

 

 

 ……ぶるぶる。

 

 

 

 急に怖くなって身震いしてしまう。こんな体調で投稿なんてできな――。

 

 

 

マネ :[体調不良でもやってくださいね]

 

ユキ :[マネさんはエスパーなの!?]

 

マネ :[ユキくんの性格を考えると簡単に分かりますよ]

 

 

 

――そんなにわかりやすいかな?

 

 

 

マネ :[では、ユキくんは同期三人の後に投稿してください。絶対に投稿してくださいね。アカウントは準備してありますので、こちらのパスワードで入ってください。アカウントID:@yuki_yukishiro パスワード:※※※※※※※※]

 

 

 

 試しに入ってみるとすでにプロフィールは簡潔に書かれていた。

 

 

 

 雪城ユキ@シロルーム三期生 @yuki_yukishiro

 シロルーム所属。三期生。

 0フォロー中 162フォロワー

 

 

 

 簡単な内容だったが、余計なことは書かない方がいいし、このほうが僕らしい、とそれ以上のことは書かないことにした。

 

 そして、肝心の部分。すでにフォロワーがいる。

 

 

 

「ど、どうして……」

 

 

 

 まだ開始の宣言もしていないのにすでに集まっている。

 これがシロルームのライバーが集めた知名度、というものなのだろう。

 

 

 

「だ、大丈夫、覚悟を決めよう」

 

 

 

 グッと両手を握るとそのタイミングで通知音が鳴る。

 

 

 

マネ :[逃げずにちゃんと告知してくださいね。まず内容を確認しますので投稿内容ができましたら教えてください]

 

ユキ :[大丈夫ですよ!?]

 

 

 

 まさかまた逃げると思われたようだ。

 心外だな、と思うが、今までの行動を鑑みるとそう思われても仕方ないだろう。

 

 

 

「よし、それならさっさと告知をして驚かせよう。でも、どんな告知にしようかな」

 

 

 

 色々なプレッシャーが一度に襲ってきて、その結果の気持ちの昂りだったのだろうか。それとも気の迷いだったのだろうか。

 

 自身のアバター。段ボールに入れられた犬っぽい少女の姿を見て、唐突に閃いていた。そして、その内容で舞に確認する。

 

 

 

 ピコっ。

 

 

 

マネ :[良い内容ですね。OKです]

 

 

 

 速攻でOKの返事がくる。

 

 おそらくここで時間をかけてしまうと呟くのを迷ってしまうと思ったのだろう。

 だからこそ、その勢いのまま投稿をする。

 

 一緒に作ってもらった段ボールだけしか映っていないヘッダー、段ボールから怯えた風に少しだけ顔を覗かせているユキのチビキャラアイコンも貼り付ける。

 

 

 

 雪城ユキ@シロルーム三期生 @yuki_yukishiro 今

 シロルーム三期生、雪城ユキ(ゆきしろゆき)といいます。

 だ、誰か拾いに来てくださいね。

 お、親はシロルーム一期生で先輩の美空アカネ(@akane misora)さんです。

 

 

 

 段ボールに書かれた内容をそのまま使うことにしたのだ。自分で考えるのはやっぱり恥ずかしいし。

 

 

 一仕事終えたところでカタッターを消そうとする。

 その瞬間に通知が全く鳴り止まなくなっていた。

 

 

 

「えっ、な、なに? 何が起こってるの?」

 

 

 

 原因を調べてみるとどうやらさっきの呟きにすでにとんでもないファボやRT、そしてリプがついているようだった。

 

 

 

[ヘッダーの段ボールオンリー、草]

[ちょっと拾ってくる]

[まて、俺が先だ!]

[何この犬。かわいい]

[絶対に見る]

[……好き]

 

 

 

――ど、どうなってるの。たった一回の呟きなのに……。

 

 

 困惑しつつ、あまりにも鳴り続けるので通知音を消す。

 そして、さっき三桁で驚いていたフォロワー数だが、一気に四桁へ届きそうな勢いで増えていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 そして、配信日当日。

 

 僕は緊張のあまり部屋の中で段ボールの中にうずくまり、震えていた。

 もしかすると担当の舞はここまで予想してユキくんの段ボールを送ってきたのかもしれない。

 

 狭い場所に入るとなぜかすごく落ち着く。

 もちろん、それは現実逃避で刻一刻と配信時間は迫ってくる。

 

 

 

「うぅ……、ほ、本当に僕で大丈夫なのかな……」

 

 

 

 男である僕が美少女Vtuberに……。

 

 やはりどうしてもそこが引っかかってしまう。

 担当さんからは『祐季くんは思いっきり祐季くんらしさを出してください! それ以上のことは求めませんので』と言われている。

 

 契約にも[男ということがバレてはいけない]という項目はない。

 

 

『全然バレてもいいですよー。むしろ、こんなに可愛い子が女の子のはずないですよね』

 

 

 と、担当さんは嬉しそうに言っていた。

 どう考えても炎上すると思うのだが。

 

 

 

――緊張してきたよ。このまま電波障害になったとかで、配信がなくならないかな……。

 

 

 

 そんなことを考えていると、ピコっと通知音がなる。

 

 

 

マネ :[ユキくん、今はどこも電波障害は起きてないので配信はしないとダメですよ]

 

ユキ :[べ、別にそんなことしようとしてないですよ……僕の考えを読まないで……]

 

マネ :[本当に分かりやすいですね。大丈夫ですよ、ユキくんなら――]

 

 

 

 もしかしたら励ますために連絡をくれたのだろうか?

 担当さんもおそらく三期生の放送前で忙しいはずなのに。

 

 

 そこまでしてもらったのだから、僕も頑張らないと――。

 

 

 

「そ、それにしてもなんで僕が一番最後なんだろう? うぅ……、みんなの配信、見に行かないといけないよね?」

 

 

 

 緊張しながら、MeeTubeを開き、まず初めに配信をする真心ココネ(まごころここね)のチャンネルへと飛んでいた。

 

 

 

◇◇◇

『《真心ココネ初配信》自己紹介枠。初めまして《シロルーム三期生/新人》』

5,147人が視聴中 ライブ配信中

⤴124 ⤵0 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

『みんな、はじめましてー! シロルーム三期生の真心ココネ(まごころここね)ですー。沢山の人に見に来てもらえて嬉しいなー。今日は短い時間ですけど楽しんでいってくださいね』

 

 

 

 三期生トップバッターは真心ココネ。

 アバターは長いピンクの髪をした小柄な少女だった。

 背中には薄く黄色い4枚の羽がある妖精。ただし、声は普通のお姉さん。

 

 実際にその名の通り、優しそうな声色をしている。

 

 

 

【コメント】

:こんばんはー

:こんー

:幼女だー

:ロリだー

:好きです

 

 

 

 まともに見られないほど勢いよくコメントが流れていく。

 その様子を見ると更に緊張感を増してしまうが、ココネは普通に対応をしていた。

 

 

 

『わわっ、コメント多いです。あと、ロリじゃないですよ!?』

 

 

 

【コメント】

:ロリココネ……

:幼女なのに……

:……好き

 

 

 

『もう、妖精さんは歳を取らないんですー。それじゃあ早速プロフィールを公開しますね』

 

 

 

 ココネらしく丁寧にアバターの設定を出していた。

 

 

 

●真心 ココネ(まごころ ここね)

 種族:妖精さん

 年齢:まだまだ子供

 詳細:半分は優しさでできている。じゃあ、残り半分は愛に決まってるよね?

 人と接するために生まれてきた妖精。

 配信予定:歌枠、雑談枠

 

 

 

「ざっとこんな感じですね。私、歌うことが好きだから歌枠をメインに取っていきたいと思います。一応ピアノとかも演奏できますので」

 

 

 

 にっこりと微笑むココネ。それを見た僕は少し焦ってしまう。

 

 

 

「ぼ、僕、あんな風にまとめてないよ……。ど、どうしよう……」

 

 

 

 今から作ろうとしても間に合わない。

 初放送から失敗してしまうのだろうか?

 そんな焦りを感じたタイミングでチャットの音が鳴る。

 

 

 担当さんからメッセージが飛んできたようだった。

 

 

 

マネ :[ユキくん、プロフィールのことを言うの忘れていました。準備は……出来ていませんよね?]

 

ユキ :[ま、マネさん……、ど、どうしましょう。今から準備して間に合うかな……]

 

マネ :[大丈夫です。それは私の方で準備させていただきます。ただ、放送時間ギリギリになりますので、確認してもらう時間はなさそうです。私に一任してもらってもよろしいでしょうか?]

 

ユキ :[は、はい、よろしくお願いします]

 

 

 

――よかった。これで九死に一生を得た。

 

 

 大慌てしている間にココネの放送が終わってしまう。

 意外と三十分は短いようだ。実際に放送している方は長く感じてしまうが――。

 

 

 

『では、名残惜しいですが、今日のところはここまでですね。次はカグラさんですー。概要欄にURLを貼っておきましたので、移動、お願いしますね』

 

 

 

 最後の最後までしっかりとまとめあげるココネ。担当さんから三期生唯一の常識枠と言われた彼女らしい。

 

 そして、終わる頃には既に視聴者の数が6000人を超えていた。

 そんな彼らは次のシロルーム三期生である神宮寺カグラ(じんぐうじかぐら)のチャンネルへと移動するのだった。

 

 

 

◇◇◇

『《神宮寺カグラ初配信》私の話を聞くと良いわ《シロルーム三期生》』

6,841人が待機中 20XX/05/05 20:30に公開予定

⤴214 ⤵12 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

 視聴者たちと一緒にカグラの放送へと移動する。

 そのまま移動しているということもあって、開始前から既にかなりの待機者が出ていた。

 

 

 

「うぅ……、この待機の人ってどんどん増えていくよね? それじゃあ僕のときは……」

 

 

 

 嫌な予感がしたのでそのことはもう考えないようにした。

 それよりもカグラの待機絵はなんだか訳が分からないものが描かれていた。

 

 

 赤やらオレンジやら緑やら青やらが不安を誘うように波模様に描かれていた。

 それを見た感想は――。

 

 

 

「画伯?」

 

 

 

 一番近い言葉を考えたらそれがぴったりだった。

 抽象画とでもいうのだろうか?

 とりあえずこの絵のどこが良いのか分からなかった。

 

 

 

【コメント】

:なんだ、この絵?

:見てると気味が悪くなってくるな

:待機

:とりあえずシロルームらしいな

 

 

 

 分からないのが僕だけじゃなくてどこか安心していた。

 そんなことを考えていると画面にカグラが表示される。

 

 金髪の長い髪。黒のドレスを着て頭には王冠。

 そして、抜群のスタイルをしたいかにもお嬢様といったアバターが表示される。

 

 

 

『仕方ないから来てあげたわよ』

 

 

 

 開口一番、腕を組みながらそんなことを言うカグラ。

 キャラには合っているが、さすがにその台詞にコメント欄も流れが加速する。

 

 

 

【コメント】

:はっ? 頼まれてないが

:高飛車キャラか

:俺は好きだな

:w

 

 

 

『私は神宮寺カグラ(じんぐうじかぐら)よ。今日はいかに私が素晴らしいかを教えてあげるわ』

 

 

 

 カグラはそう言いながら自分のプロフィールを公開する。

 ただ、自分で作り直していたココネと違い、カグラの場合は担当さんからもらったデータをそのまま書き写していた。

 

 

 

●神宮寺 カグラ(じんぐうじ かぐら)

 年齢;19歳

 髪型:金色の長い髪

 体型:胸は大きめ。←大きくしてくれと頼まれたからスタッフのノリで。もちろんパッド

 服装;黒のドレス服姿に頭には王冠

 詳細:王に内緒で放送をしている姫。基本的に傲慢ではあるもののその実はさみしがり屋。何に対しても興味を持つが、もちろん始めてやることなので失敗が多いポンコツさん。

 配信予定:料理枠(失敗メイン)、掃除枠(失敗メイン)、家事枠(失敗メイン)、雑談、ゲーム枠(失敗メイン)

 

 

 

 スタッフからの言葉が載っていたり、わざわざ失敗することが書かれていたり、決して表に出したくないような情報が多数書かれていた。

 

 

【コメント】

:……ぽんこつさん?

:なんだ、パッドか

:あれっ、何だか急にかわいく見えてきたぞ?

 

 

 

『いやぁぁぁぁ、忘れて忘れて。今のなし!』

 

 

 

 大慌てで手で画面を隠そうとする。

 しかし、コメント欄は更に勢いが加速していた。

 

 

 

【コメント】

:w

:切り取り班

:w

:草

 

 

 

 それから、放送時間が経過していくにつれてカグラのポンコツ具合が存分に発揮され、どんどん盛り上がっていき、そして放送時間が終了していた。

 

 

 

『はぁ……、はぁ……、こ、これで今日はおしまい。さっさと次のユイのところに行くと良いわ。URLは概要欄にあるからね』

 

 

 

 次は羊沢ユイ(ひつじさわゆい)の放送になる。

 みんなぞろぞろと移動を開始するので、そちらのチャンネルに移動をする。

 しかし、すでに気持ちは自分の放送に向いており、どこまで楽しめるか、正直未知数でもあった。

 

 

 

◇◇◇

『《羊沢ユイ初配信》初めてなの……《シロルーム三期生》』

7,641人が待機中 20XX/05/05 21:00に公開予定

⤴274 ⤵8 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

 ユイのチャンネルへと来る。

 そこでまず色々とおかしいことに気づいただろう。

 

 

 

「ちょっ!? た、タイトル!?」

 

 

 

 タイトルの言い回しがなんともおかしい。

 おかしくないんだけど、おかしい。

 

 

 思わずツッコんでしまいそうになるほどのインパクト。

 こんなのを見せられてしまったら自分の配信はどうなのだろう――。

 

 急に胃が痛くなってくる。

 

 これまで三期生はしっかり初配信を成功させていた。

 その影響もあり僕の緊張感はピークに近づきつつあった。

 

 放送の準備もある。ユイの放送は最後まで見られない。

 それでも、ここまで来たら見ずに居られなかった。

 

 

 

【コメント】

:待機

:まだかな

:わくわく

:小さいけど大きいな

:タイトル草

 

 

 

 コメ欄も良い具合に暖まっている。

 

 

――これがずっと見る側ならよかったのだけど。

 

 

 そんなことを思っているとユイの姿が現れる。

 

 

 真っ白なショートボブの女の子。

 しかも羊の角がついたフードを被っている。

 服装も上は白のもこもこ。下も白のキュロットスカートで、健康そうな足が見えている。

 あとは自分の体くらいはありそうな巨大なクッションを持っていた。

 

 

 そして、すでに目はトロンと……、いや、ほぼ閉じられていた。

 

 

 

『うにゅ? もう出番?』

 

 

 

【コメント】

:ユイちゃん、起きてー

:お子様はもう寝る時間

:俺が一緒に寝てあげようか?

:通報しました

 

 

 

『うみゅ、おはよー。ゆいは羊沢ユイ(ひつじさわゆい)。ぐうたらすることが趣味なの』

 

 

 

【コメント】

:あれっ、ぐうたらって趣味だったのか?

:俺と同じ

:俺もだ

:多過ぎ

 

 

 

『じゃあ、プロフィール出すね……』

 

 

 

 そして、画面に映し出されたのはしっかりとまとめられたプロフィールだった。

 下手をするとココネ以上に丁寧にまとめられていた。

 

 

 

●羊沢 ユイ(ひつじさわ ゆい)

 年齢:18歳

 性格:のんびり

 好きなもの:お布団、甘いお菓子、寝ること、ゲーム

 嫌いなもの:忙しいこと、辛いもの

 詳細:ふふふっ、全て計算なの。ゆいはわざとこうしてぐうたらしてるのだ。

 Vtuberになったきっかけ:ぐうたらするためなの

 座右の銘:果報は寝て待て

 配信予定;ゲーム枠、雑談枠、睡眠枠

 

 

 

『喋るの面倒だからまとめておいたよ……』

 

 

 

 眠たそうな声を出して、プロフィールを出したもののそれを読み上げることはしなかった。

 

 

【コメント】

:w

:w

:w

:ぐうたら系か

 

 

 

 ユイの放送も佳境に入ってくると、視聴者の数は7000を超えてしまっていた。

 

 

 

「この視聴者、そのまま僕のところへ来るんだよね? うぅ……、唐突に体調が悪くなった気が――」

 

 

 

 そんなタイミングで通知音が鳴る。

 

 

 

マネ :[そろそろ準備しておいてくださいね。体調は大丈夫ですから]

 

ユキ :[やっぱりエスパーですか?]

 

マネ :[返してこられるならまだ余裕がありますね。一応プロフィールの準備ができました。こちら送っておきますね。ついつい気合いが入ってしまいました]

 

ユキ :[……? ありがとうございます。本当に助かります。でも、本当に僕にできるでしょうか?]

 

マネ :[大丈夫ですよ。ユキくんは一人ではありませんから。困ったときはみんなに頼ったら良いのですよ。私たちはもう仲間ですからね]

 

ユキ :[は、はい。わかりました。ありがとうございます]

 

マネ :[あっ、話している間にユキくんの番ですね。頑張ってください]

 

ユキ :[ふぇ? わっ、ど、どこを押すんだっけ……]

 

マネ :[では、私はこれで]

 

 

 

 マネージャーの舞とのチャットを終えると、慌てながら配信ボタンを押していた。何の準備もできてないのに。

 

 

 

◇◇◇

チャンネル名:kokone_Room.真心ココネ

チャンネル登録者数1.75万人

 

チャンネル名:kagura_Room.神宮寺カグラ

チャンネル登録者数1.7万人

 

チャンネル名:Yui_Room.羊沢ユイ

チャンネル登録者数1.9万人



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第2話:伝説の初配信

『《雪城ユキ初配信》初めまして、拾ってくださいね《シロルーム三期生/新人さん》』

8,421人が待機中 20XX/05/05 21:30に公開予定

⤴374 ⤵4 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

【コメント】

:いよいよ次で最後か……

:俺、この子が一番好みだな

:おまおれ

:わくわく

:段ボールだけの画面、斬新だな

:そういえばヘッダーも段ボールだけだもんな

:恥ずかしがりなのかな?

:飼い主王に俺はなる!!

:待て、拾うのは俺だ!

:すでに8000人超えか。下手をすると1万人超えるんじゃないか?

:オラ、わくわくがとまんねーぞ!

:あれっ? 開始時間過ぎてないか?

 

 

 

 時間は超え、すでに放送中になっているにも拘わらず画面は何も変わらなかった。

 中央に段ボールがポツンと置かれているだけ。そこから動く気配がない。

 

 それもそのはずで、僕は必死にアバターを動かそうとしているのだが、なぜか動かなかった。

 

 

 

『あ、あれっ? アバターが動かないよ? ど、どうするんだっけ??』

 

 

 

【コメント】

:中性的だな

:声好み

:事故?

:慌ててるのかわいい

:誰か拾いに行ってやれ

:よし、俺が

:待て、俺が行く

:おまわりさん、こちらです

 

 

 

「はぁ……、はぁ……、こ、これでいいのかな?」

 

 

 

 コメ欄が勝手に盛り上がっている間に、ようやくアバターを動かすことができた。

 しかし、既に息は荒くなっていた。

 

 

 そして、アバターが動き出したことでゆっくり段ボールからフードについた犬の耳が見えてくる。

 

 

 

【コメント】

:あっ、出てきた

:かわいい

:持ち帰りたい

:おまわりさん、はやく!

 

 

 

――つ、次は何をするんだったかな。

 

 

 最初からミスをしてしまって、頭が真っ白になってしまう。

 何かを喋ろうとしてもすぐに言葉に詰まってしまう。

 

 

 

『あっ、えっ、そ、その……』

 

 

 

 段ボールからようやくチラッと顔を覗かせる。

 しかし、すぐに段ボールの中へと戻ってしまった。

 

 

 

『あ、あれっ? か、顔が出てこない……?』

 

 

 

 僕としては普通に顔を出したはずなのに、何故か顔が動かずに定位置のままだった。

 

 

 

【コメント】

:一瞬顔が見えた

:警戒してるな

:怖くないよ、出ておいで

:通報しました

:落ち着いて

真心ココネ :大丈夫。落ち着いて

羊沢ユイ :カメラの位置大丈夫?

 

 

 

 テンパってしまい、訳が分からなくなっているとココネがコメントでフォローを入れてくれる。

 

 

 

『あっ……、ココネ……ユイ……ありがとう。か、カメラだね……』

 

 

 

 カメラを少し調整するとようやく顔が動くようになる。

 

 

 

【コメント】

:ココネちゃん、ママみたい

:やっぱりママだったんだ

:ココママ、わんちゃんが困ってるよ

:ロリママw

真心ココネ :ま、ママじゃないよ!? とりあえず先に自己紹介しよっか?

 

 

 

 ココネのコメントが流れてくる。

 それを見てやることを思い出していた。

 

 

 

『あっ、そうだった。自己紹介……。ぼ、僕は雪城ユキ(ゆきしろゆき)です。そ、その、あの……』

 

 

 

 喋りながらゆっくりと顔を出す。すると、コメントが更に爆発をしていた。

 

 

 

【コメント】

:あっ、ちょっと顔出てきた

:好み

:僕っこキタァァァァァ

 

 

 

 ピコッ!

 

 

 

 そんな配信途中に何かの通知音が鳴る。

 それと同時にキャスコードの画面が少し映る。

 

 

 

マネ :[ユキくん、プロフィール貼って]

 

 

 

『あっ、そっか……。プロフィールを張らないと……』

 

 

 

 ようやく次の行動を思い出す。

 自分のミスに気づかずに……。

 

 

 

【コメント】

:チャット画面見えてて草

:担当から指示はいりましたw

:ユキくん、かわいい

 

 

 

『えっ、み、見えてる!?!?』

 

 

 

 コメ欄でキャスコードの画面が見えていることを知り、大慌てで消そうとする。

 

 

 

 ピコッ、ピコッ。

 

 

 

『ぴぃぁぁぁ……』

 

 

 

 なんとか消そうとしているときに更に追い打ちをかけるようにチャットの通知が来る。

 

 

 

マネ :[チャット画面消して]

 

ココネ:[大丈夫? 消し方分かる?]

 

 

 

 消そうとしているのにその間に通知が来るので、余計画面に表示されてしまう。

 そんな悪循環の中、四苦八苦してようやくキャスコードの画面を消すことができた。

 

 

 

『はぁ……はぁ……、や、やったよ……。消せたよ……』

 

 

 

【コメント】

:息エロい

:おめでとう

:自己紹介をせずに十分経過

:ユキくん……可愛すぎる

:まさかカグラ様を超えるポンコツくんが出てくるとは

:さすがシロルーム。トリは隠し球か

 

 

 

『自己……紹介? そ、そうだった。えとえと……』

 

 

 

 大慌てで今度は自己紹介を貼ろうとする。

 すると、そのタイミングでココネからチャットが来る。

 

 

 

ココネ :[困ってる? 私、コラボしようか?]

 

 

 

『う、うん。お、お願い……』

 

 

 

 テンパるあまり自己紹介をする前からコラボをする、という今までにない伝説を作ることになってしまった。

 それでもせっかく配信に来てくれた人たちをがっかりさせるよりは良いよね?

 

 思えば、初めての打ち合わせからココネも含めて三期生のみんなにはずっと助けられっぱなしで感謝してもしたりない程だった。

 

 また彼女たちが困った時には力にならないと。それが男らしさ……だよね。

 ただ、そんな状況になることが想像できないけど。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 それは三期生で初めて通話をしたとき。

 僕が男だということがバレないか不安に思い、そわそわとしていた。

 

 

――もうすぐメンバー全員での通話……。

 

 

 それを考えると胃がズキズキと痛む。

 

 

――熱が出たとかで通話に出られないとか、できないかな。

 

 

 そんなことを考えた瞬間にピコッと通知音がなる。

 

 

 

マネ :[熱でも出てくださいね]

 

ユキ :[マネさんはエスパーなの!?]

 

マネ :[ユキくんの性格を考えると簡単に分かりますよ]

 

 

 

 まるで盗聴でもされているのかと疑いたくなるほどタイミングの良い連絡。

 思わず周りを見渡してしまう。

 

 

 

マネ :[別に盗撮とか盗聴はしてませんよ]

 

ユキ :[ぼ、ぼ、僕はそんなこと考えてませんよ]

 

 

 

 震える手つきでチャットを返す。

 

 

 

マネ :[それなら大丈夫ですね。では、通話を開始しますので、とってくださいね]

 

 

 

 舞からその連絡が届いた次のタイミングで、通知音が鳴り響いていた。

 

 

――出たくない……。でも、釘を刺されたから出ないとだめだよね。

 

 

 しばらく迷ったあと、十秒ほど経って覚悟を決める。

 通話ボタンを押すと、知らない声の女性が大声を上げる。

 

 

 

カグラ:『やっときたの!? 遅いわよ』

 

『っ!?』

 

 

 

 いきなりの大声に思わず怯んでしまう。

 

 通話アプリの使用上、誰が話しているのかアイコンでわかるのはいい。

 それぞれがアバターで表示されてる。マネージャーの舞だけはなぜか眼鏡だけだったが。

 

 とにかく、同期四人。

 僕を除いて周りは全員女子。

 

 これで緊張するな、というほうが無理な要望だった。

 

 

 

ココネ:『ダメだよ、カグラちゃん。ユキくんは臆病な子だから優しく……、優しくでしょ?』

 

カグラ:『べ、別に怒ってるわけじゃないわよ。ただ、何かあったら心配でしょ』

 

 

 

 更に別の女性の声が聞こえてくる。

 そして、カグラはどうやら心配してくれたようだ。

 

 

――僕が男であることについては何も触れてこないんだな。

 

 

 案外声だけでは判断できないのかもしれない。

 

 

――確かにずっと可愛い声とか言われ続けてた。声変わりもしたはずなのに……。

 

 

 

『あっ……、えっとその……、ごめんなさい。その……遅れてしまって……』

 

ココネ:『大丈夫ですよ、これから始めるところですから』

 

 

 

 ココネの優しい声が聞こえてくる。

 それにどこかほっとしてしていた。

 

 

 

マネ :『はい、それじゃあ早速開始しましょうか。今回は三期生の交流も兼ねてます。コラボもしてもらいますので、仲良くしてくださいね。では、まずは自己紹介からしましょう。私が三期生の担当である湯切舞です。それで次は……』

 

ココネ:『私から行きますね。三期生、真心ココネ(まごころここね)。歌うことが好きなので、歌枠とか雑談枠をしていきたいです。みんな、コラボしてね』

 

カグラ:『まぁ、気が向いたらね』

 

ユイ :『一緒に睡眠枠をしよぉ……』

 

『ぼ、僕はちょっと……』

 

ココネ:『もう、三人ともそんなことを言って……。本当はコラボしたいんでしょ。このっ、このっ』

 

カグラ:『や、やめなさい。そ、それよりも次は私。神宮寺カグラ(じんぐうじかぐら)よ。家事とか料理が好きだからそれを放送していくわ』

 

マネ :『下手な物好きってこのことを言うんだって、最終面接では笑いが上がったのよね』

 

カグラ:『よ、余計なことを言わないで。と、とにかく料理で困ったことがあったら私に聞くといいわ』

 

『えっ、め、面接……?』

 

マネ :『えぇ、役員全員の前で面接よ』

 

『あれっ? ぼ、僕は……?』

 

マネ :『まぁ、ユキくんの場合は特殊でしたからね。そうしないとユキくん、逃げてましたし?』

 

 

 

――うぅ、本当に手玉に取るようにわかられてるなぁ……。

 

 

 確かに完全に断っていたもんな。

 母さんと担当さんががっつり推してこなかったら頷くことはなかった。

 

 実際に数日後、契約をしたことを後悔していた。

 ただ、もう逃げられないから、と諦めにも似た境地になっていたのだ。

 

 

 言葉を発せずに同期の自己紹介を聞いていると、いつのまにか残り二人になっていた。

 

 

――緊張してきたよ。このまま電池がなくなったとかで、通話を消したらダメかな……。

 

 

 

マネ :『ユキくん、PCは電源繋いでいますので電池はなくなりませんよ?』

 

『べ、別にそんな考えていないですよ……。僕の考えを読まないで……』

 

マネ :『本当に分かりやすいですね。次はユイさん、お願いします』

 

 

 

 僕と同じようにさっきからあまり声を発していないユイにバトンが回される。

 

 

 

ユイ :『うにゅー……、眠いよ……』

 

 

 

 とろけそうな声の女の子が、あくび混じりの声を出してくる。

 

 

 

ココネ:『ほらっ、ユイ、起きて。みんなで通話するって言ってたでしょ。自己紹介は?』

 

ユイ :『羊沢ユイ(ひつじさわゆい)。ゲーム配信とかしようと思ってるよ……。よろしくぅ……』

 

 

 

――最後間延びした言い方になってたのは寝てしまったから……じゃないよね?

 

 

 ただ、僕の前に変わったユイが自己紹介してくれたおかげで、少しだけ緊張がほどけていた。

 

 

 

マネ :『じゃあ最後はユキくん、お願いね』

 

『…………』

 

 

 

 緊張が解けてきたなんて嘘だった。名前を言われた瞬間に忘れようとしていた緊張感が戻ってきて、足が震え、目の前が真っ白になり、口がパクパクと動いていた。

 しかし、言葉が出てくることはない。

 

 

 

ココネ:『大丈夫ですよ、ゆっくりで』

 

カグラ:『えぇ、別に何か減るわけじゃないもんね』

 

ユイ :『うにゅ……、寝て待ってるよ……』

 

 

 

 みんなそれぞれ優しい言葉を掛けてくれる。

 同期三人の声に思わず目からは涙がこぼれそうになる。

 

 

――ここで頑張らないと男が廃るよね?

 

 

 覚悟を決めると大きく深呼吸をして声を発する。

 

 

 

『ぼ、僕はゆ、雪城ユキ(ゆきしろゆき)です。動画は全然分からないことだらけで、その……、できることからやっていこうと思います。よ、よろしくおねがいします……いたっ』

 

 

 

 お辞儀をするタイミングでモニターに頭をぶつけてしまう。

 すると、その声を聞いた同期のメンバーから笑い声が上がってくる。

 

 

 

ココネ:『あははっ、よろしくね。大丈夫、痛くない?』

 

カグラ:『まぁ、家事が教えて欲しかったらいつでもコラボしてあげるわよ』

 

ユイ :『一緒にゲームしよぉ』

 

 

 

 同期が優しい。それだけで彼女らとなら一緒にやっていけるという気持ちにさせられる。

 

 

――迷惑をかけないように頑張って行こう。

 

 

 心の中でそう固く決意していた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 そんな彼女たちが今回も助けてくれようとしている。

 いつかは彼女たちにも恩返しをしたいな。と考えながらココネとのコラボを承認していた。

 そして、隣にココネの姿を表示させる。それだけでずいぶんと頼もしく感じてしまう。

 

 

 

ココネ:『どうもー。さっきぶりのみんなも、初めてのみんなもココばんわー。シロルーム三期生。まとめ役。真心ココネでーす!』

 

 

 

 配信画面には、ろくに姿を現していない(ユキ)in段ボールと妖精少女ココネ。

 一体何の配信なのかわからなくなってくる。

 

 

 

【コメント】

:おっ、もうコラボか?

:こんなこと、前代未聞じゃないか?

:伝説を作った犬……いや、段ボールか

:もうユキくんの本体が段ボールに見えてきた

 

 

 

『ぼ、僕は段ボールじゃないですよ……』

 

ココネ:『それなら早く出てきてくださいねっ』

 

 

 

 ココネに促されるまま(動きは引っ張り出すような感じで)、顔をようやくリスナーたちに見せる。

 

 

 

ココネ:『はい、ということでようやく姿が出てきましたー。こちらが雪城ユキくん、本体です。僕っこ、僕っこです!? 呼び方はユキくん、ユキちゃん、ユキユキ、段ボールのどれでもオッケーです!』

 

『ちょ、ちょっと……、段ボールはその……』

 

ココネ:『それなら次はちゃんと早く段ボールから出てきてくださいねっ』

 

『わ、わかったよ。頑張るよ、ココママ……』

 

ココネ:『ま、ママじゃない……。ううん、ユキくんのママならいいかな』

 

『えっ!?』

 

 

【コメント】

:ココママがママと認めたw

:驚きのユキくんw

:なんだろう、この空間……

:自己紹介も終わってないのに……

:ココユキw

 

 

 

ココネ:『と、とりあえず次に行きますよ。ほらっ、まずは自己紹介! 貼るんですよね? できますか?』

 

『う、うん、大丈夫……』

 

 

 

 舞からもらったプロフィールを貼り付ける。

 すると、それをココネが読んでくれる。

 

 

 

ココネ:『えっと、まず名前は雪城ユキくんですね。とってもかわいい子ですよね。すごく好きです』

 

『あ、ありがとうございま……す……』

 

 

 さすがに面と向かって『好き』と言われると照れてしまう。

 

 

 

【コメント】

:尊すぎて死ぬ

:てぇてぇ

:死ぬな、俺

:てぇてぇわーるど……

 

 

 

 コメントの勢いが加速している。

 もうほとんど目で追い切れない。

 

 

 

ココネ:『次いきますね。飼い主(ともだち)を探している可愛そうなわんこ。配信予定は腕立てが一回もできないけど筋トレ枠?』

 

『うん、こんな軟弱な体じゃなくてちょっとは鍛えないとって――。自分に自信を持てたら友達もできるかなって思ってるんだ……』

 

 

 

 見た目が男の娘、ということもあって女子からは妹扱いされる上に男子からは露骨に避けられる。

 

 そのどちらも躱していたらいつの間にかぼっちになっていた。

 もっと男らしくなれば……と考えたことは一度や二度では済まなかった。

 

 

 

ココネ:『そんなことないですよぉ。ほらっ、私たちもう友達ですよね?』

 

『えっ、ほ、本当に? 本当にいいの?』

 

ココネ:『もちろんですよー』

 

『あ、ありがとう……。僕、友達ができたのは初めてだよ……。ぐすっ……』

 

 

 

 嬉しさのあまり、目から涙が流れてくる。

 

 

 

【コメント】

:全俺が泣いた

:ユキくん、俺たちも友達だぞー!

:通報しました

:てぇてぇが加速した

:ユキくんガチ泣き。よかったね……

神宮寺カグラ :私も友達になってもいいわよ?

羊沢ユイ :ゆいは友達?

 

 

 

『あっ、二人とも来てくれたんだ……。ありがとう……』

 

ココネ:『それより応えてあげたら?』

 

『そ、そうだね。も、もちろん、二人がよかったら……』

 

 

 

【コメント】

神宮寺カグラ :!? 聞いたわよ。もう忘れないからね

羊沢ユイ :うにゅ……時間、大丈夫?

:カグラ様、ガチで喜んでいて草

:一気に三人も友達が

:ユキくんが俺たちのはるか先へ行ってしまった

:自己紹介の途中で二十分経過

 

 

 

『二十分!? だ、大丈夫かな?』

 

ココネ:『もちろん大丈夫です。だって、すでに担当さんには連絡を付けてありますから』

 

『ふぇ?』

 

 

 

 首を傾げるとキャスコードを見てみる。

 するとそこに担当さんからのメッセージが残されていた。

 

 

 

マネ :『延長OKです。代わりに伝説を作って下さいね』

 

 

 

『え、延長ぉぉぉ……!?』

 

 

 

【コメント】

:おっ?

:マジか!?

:シロルーム初じゃないか? 初配信延長

:俺たちは伝説に立ち会うのか

:って、気づいたら視聴者1万を超えてるじゃないか!?

:視聴者だけじゃないな。お気に入りも余裕で1万を超えてやがる

 

 

 

『ちょ、ちょっと待って。延長しても、何もできないし、そ、それにみんな、本当にいいの?』

 

 

 

【コメント】

:もちろんだ

:そのためにここにいるんだからな

:初配信延長てぇてぇ伝説と聞いて

:よし、俺たちも盛り上がるぞ!

 

 

 

『みんな……、うん、ありがとう』

 

ココネ:『うんうん、よかったね。それじゃあ次にいってみようかー。自己紹介はまだ終わってないよ』

 

『あ、あれっ? でも僕が教えてもらった設定はそれだけ……』

 

ココネ:『えっと、挨拶は『わふー』で、語尾は『わふぅ』? 出来れば可愛い感じで言ってくれると担当としては嬉しいな……、と書いてありますね』

 

『そ、それは担当さんの願望でしょ!?』

 

ココネ:『でも私も聞きたいなぁ。それに挨拶は必要でしょ?』

 

『うぐっ……』

 

ココネ:『ここは試しに言ってみてリスナーの人に決めてもらうのはどうかな?』

 

『わ、わかったよ。えっと……、わ、わふわふ、わふぅ……』

 

 

 

【コメント】

:あれっ、ここは天国? 尊死した

:可愛すぎる

:ココママてぇてぇ

:挨拶は決まりだね

 

 

 

『え、ほ、本当にこれでやるの? ……わふぅ』

 

ココネ:『うーん、語尾はなかなか厳しそうね。とりあえず挨拶だけで良さそうかな』

 

『ご、ごめん……』

 

ココネ:『気にしなくていいよ。それじゃあそろそろ決めるものを決めて行こうか。挨拶は決まったし、後はタグだね』

 

『そ、そうか……。タグも決めないとダメだったんだね……』

 

 

 

【コメント】

:忘れてたな

:ココママがいて良かった

:ユキくん……草

:ここでユキくんを補充できると聞いて

 

 

 

『えっと、決めるのは生放送のタグとイラスト、リスナーさんたちの呼び方、だったよね』

 

ココネ:『そうね。マシュマロとかで募集してないのよね?』

 

 

 

 マシュマロとは匿名でコメントや感想、質問等を送れるカタッターと連動したサービスの一つだった。

 

 

 

『う、うん、まだカタッターだけでいっぱいいっぱいで……』

 

ココネ:『確かに今のユキくんを見ててもよくわかるね』

 

『そ、そんなにわかるかな……』

 

 

 

【コメント】

:わかる

:かわいかったよ

:ココユキ助かる

 

 

 

――評価は概ね良い? ようなので、これで良かったのだろう。

 

 

 

ココネ:『それならここで募集しましょうか。まずは皆さんの呼び方から……』

 

『よ、よろしく……』

 

 

 

【コメント】

:ユキ友

:飼い主

:オーナー

:犬好き

 

 

 

 ぽんぽんといくつかの案が出てくる。

 ただそれと同時に流れていく速度もかなり早い。

 

 

 

『えっと、あっと……、ど、どれにしたら……』

 

ココネ:『私は犬好きさんが好きですね。でも飼い主はダメ。だってユキくんの飼い主は私ですから』

 

『ちょ、な、何を言ってるの!?』

 

 

 

【コメント】

:公式飼い主宣言きましたー

:ユキくん飼いたかった俺、涙目

神宮寺カグラ :待て! 親は私だ!

羊沢ユイ :ゆいもゆいも。ユキくん、飼いたいな……

 

 

 

『ふ、二人とも。何を言ってるの!?』

 

 

 

【コメント】

:【悲報】三期生、ユキくんを巡って血で血を洗う飼い主戦争へ

:カグラ様と組み合わせるのはまずいだろう。ポンコツが加速する

:ユキユイはほんわかしそう

:ココママは飼い主というよりママだな

:ママ欲しい

:ココママは俺のものだ

 

 

 

 違う話へと流れていくので取りあえずココネのおすすめで選んでしまう。

 

 

 

『じゃ、じゃあ[犬好きさん]で。あと、ココママは僕のママなのであげません』

 

ココネ:『ユキくんから告白されちゃった……』

 

 

 

 ココネが照れた演技をする。

 それで自分で何を言ってしまったかわかり、顔を真っ赤にして慌ててしまう。

 

 

 

『そ、その、い、今のは告白というわけじゃなくて、その……あの……、ふきゅぅ……』

 

ココネ:『あっ、ゆ、ユキくん、しっかりして……』

 

 

 

 恥ずかしさのあまり目を回す。

 

 その結果、段ボールの下に顔を隠してしまい、垂れ下がった耳フードだけが見えている状態になる。

 その姿にコメントはさらに加速していく。

 

 

 

【コメント】

:これって初配信だよな?

:初々しいな

:可愛すぎる

:ユキくん、しっかり

:ココユキが尊すぎる

神宮寺カグラ :ま、負けた……

羊沢ユイ :一緒に睡眠枠したかったのに……

 

 

 

ココネ:『しばらくユキくんが戻ってきそうにないので、先に他のタグを決めちゃいたいと思いますー。次は生放送配信タグです』

 

 

 

 場を繋ごうとココネが進行してくれる。

 その間も心臓がバクバクとなり、口をただパクパクさせていた。

 

 

 

【コメント】

:生雪

:ユキくん観察

:犬拾いました

 

 

 

ココネ:『[犬拾いました]、いいですね。じゃあ、それで次はイラストタグを……』

 

『待って待って! か、勝手に決めて……』

 

 

 

 ゆっくり顔を出して慌てて言う。

 

 

 

ココネ:『でも、犬好きさんたちももうそのつもりよ』

 

 

 

【コメント】

:【悲報】ユキくん寝てるうちに配信タグが決められる

:犬拾いました、か。チェックしておかないと

:俺、道端に犬が捨てられてたらユキくんだと思って育てるんだ……

 

 

 

『うっ……、わ、わかったよ。それじゃあ配信タグは[犬拾いました]で。次はイラストのタグだよ』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん観察日記

:今日のわんこ

:犬写真

:ココユキ日記

 

 

 

ココネ:『ちょっと、私が入ってますよ。ユキくんはどれがいいですか?』

 

 

 

 どれもろくなものがない。

 しかし、犬好きさんたちが出してくれた案なので、一蹴しないで真剣に考える。

 

 

 

『そ、その……、犬写真……かな』

 

ココネ:『はい、三人目の人、当選です! おめでとうございます!』

 

 

 

【コメント】

:おめでとー

:おめ

:えっ、マジw

:おめー

:おめおめー

 

 

 

『こ、これで全部決めたよね?』

 

ココネ:『そうね。推しのマークは犬と足跡だもんね。あっ、そういえばユキくん、カタッターで今日の配信開始を呟いてました? 私見ませんでしたけど……』

 

『あっ!? し、してない。いってくる……』

 

ココネ:『うん、いってらっしゃーい』

 

 

 

 大慌てでカタッターに放送開始の呟きをする。

 

 

 

 雪城ユキ@シロルーム三期生 @yuki_yukishiro 今

21時半から三十分、初配信を行います。是非見にきてくださいね。

 

 

 

 時刻は既に22時。

 

 延長がなかったら既に終わっている時間でもある。

 つまりはただでさえお祭りムードになりつつある伝説の放送に更なる燃料を投下することに他ならなかった。

 

 

 

【コメント】

:放送終了のタイミングで開始告知をするの草

:w

:www

:草生えすぎと思ったけど、草以外なかった

:今来たけど、もう終わる?

:草草

 

 

 

『あっ、えっと、ち、違います。延長。延長することになりましたから』

 

ココネ:『今来た人も安心してユキくんを愛でていってくださいね』

 

『ぼ、僕の体力が持たないよ……』



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第3話:三期生初コラボ

ココネ:『さて、タグも決め終わったからあとは雑談かな。ユキくん、何か話したいことある?』

 

『ぼ、僕は何も考えてないよ……。自己紹介するのも一杯一杯だったし……』

 

ココネ:『うんうん、そうだよね。それならここは犬好きさんたちから質問を募集してみようか?』

 

 

 

 ピコッピコッ。

 

 

 

 時間が延長され、雑談が開始されようというそのタイミングで再びチャットから音が鳴る。

 

 

 

『あっ、音を消すの忘れてた』

 

ココネ:『大丈夫だよ。それより誰からかな?』

 

『ちょっと待ってね……』

 

 

 

 チャットを開けるとカグラとユイから送られてきたようだった。

 

 

 

カグラ:[私もコラボしてあげても良いわよ?]

 

ユイ :[うみゅ、仲間はずれ?]

 

 

 

――どうやら二人も僕のことを心配してコラボをしてくれようとしているようだ。

 

 

 そのことが嬉しくて、少し涙ぐみながら答える。

 

 

『ははっ……、カグラとユイからだったよ。一緒にコラボしたいって』

 

ココネ:『そうだよね。私だけだと不公平だよね。えっと、担当さんに……』

 

 

 

 ピコッ。

 

 

 

 再び通知音が鳴る。

 開けると今度は担当さんからだった。

 

 

 

マネ :[コラボOKですよ]

 

 

 

 簡潔に一行だけ送られてきたその言葉。

 

 

 

『担当さんからみんなのコラボ、OKが出ちゃったよ……』

 

 

 

【コメント】

:えっ?

:マジ?

:三期生全員集合?

 

 

 

ココネ:『うん、それじゃあ、全員コラボ許可を出してね』

 

『わ、わかったよ……』

 

 

 

――こんなこと、前代未聞だよね? 一体僕の初配信はどんな方向へいくの?

 

 

 

 困惑しつつも、僕のためを思ってくれているみんなに感謝をしながら、コラボの許可を出すのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『……ということで他の二人にも来てもらいました』

 

ユイ :『うみゅ、羊沢ユイ(ひつじさわゆい)なの。ユキくんの段ボールを回収するために来たの』

 

『えっ!? だ、ダメだよ。この段ボールは僕のだからね』

 

 

 

【コメント】

:うみゅ

:うみゅ

:うみゅ

:その段ボール、でかいし二人で入れないか?

 

 

 

ユイ :『なるほど、それは名案』

 

『名案、じゃないよ!? この段ボールは渡さないからねっ』

 

 

 

【コメント】

:どうしても拾って欲しい犬w

:ユキくん必死w

:ユキユイもいいな

:てぇてぇ

:全身を見せないために全力になるユキくんw

 

 

 

ユイ :『うみゅ……、ゆいたち、友達じゃなかったの……?』

 

『うっ……』

 

ユイ :『友達なら貸してくれる? 代わりに今度私の枕を貸してあげるから』

 

『わ、わかったよ……うぅ……』

 

 

 

 パソコンを操作して、段ボールをユイの方へ移動させる。

 そこで初めて全身絵が登場することになる。

 

 

 

【コメント】

:はっ!? 見惚れてた

:かわいい

:ワンピースだったんだ……

:切り取り班、頼んだ!

 

 

 

『は、恥ずかしい……』

 

 

 

 アバターとはいえ、こういった格好をしている、と分かってしまうと恥ずかしさを感じざるを得なかった。

 

 

 

ココネ:『大丈夫よ、何かあっても私が守ってあげるから』

 

『ココママ……』

 

ココネ:『ま、ママじゃないよ!?』

 

ユイ :『ぬくぬく……』

 

カグラ:『ちょっと、さっきから全く話が進んでないわよ。やっぱり私がいないとダメね』

 

『珍しくカグラさんが進行役をしてる』

 

カグラ:『珍しくないわよ! みんながボケ倒すからでしょ! 全く、一番しっかりした私がいないとやっぱりダメね』

 

 

 

【コメント】

:w

:w

:草

:w

:ココユキ最高……

:はぁ、ユキユイだろ?

:よし、戦争だ

:おいっ、誰かカグラ様の話を聞いてやれ

 

 

 

 一人話題に出てこないカグラはぷるぷると震えている。

 

 

 

『か、カグラさんも自己紹介してくれる? ほらっ、あとから来た人もいるから……』

 

カグラ:『ふ、ふんっ、仕方ないわね。べ、別に話題に上がらなくて悲しいとかは思ってないからね。私は神宮寺カグラ(じんぐうじかぐら)よ』

 

 

 

【コメント】

:カグラ様モードか

:ポンコツモードにいつ変わるのか見物だな

:もうポンコツモードじゃないのか?

 

 

 

カグラ:『わ、私はポンコツじゃないわよ』

 

『わかってるよ、カグラさん。僕はわかってるから……』

 

 

 

 みんなが思い思いに暴走するので、僕はサポートに回ることにする。

 自分の枠だけど……。

 

 

 

カグラ:『うぅ、さすがユキ……。私の唯一の友……』

 

 

 

【コメント】

:えっ、カグラ様もか?

:今回ぼっち多過ぎ

:呼んだか?

:なんだ、同類か

:急にカグラ様のこと、親近感が湧いたな

:ちょっと推してくる

:カグラ様かわいい

:カグユキか……。完全にノーマークだった

:おいっ、ぼっち同士を混ぜるのは危険だ

:ぼっち×ぼっち=俺たち

:なんだ、俺たちは美少女か

 

 

 

 ここに来てコメントは一番の伸びを見せていた。

 それを見てカグラは困惑している。

 

 

 

カグラ:『べ、別に私は友達が欲しかったわけじゃないんだからね!?』

 

『えっ、ぼ、僕とは友達じゃなかったの?』

 

 

 

 思わず顔を青くなる。

 すると僕に合わせるようにココネとユイも言う。

 

 

 

ココネ:『私も友達じゃないのですか?』

 

ユイ :『うにゅ……、違うんだ……』

 

カグラ:『あー、もう。みんな友達で同期よ! これでいいんでしょ!』

 

 

 

【コメント】

:デレた

:これがツンデレ

:カグラ様はツンデレか

 

 

 

カグラ:『うぅ……、どうしたらいいのよ』

 

『……素直になればいいんじゃないかな?』

 

カグラ:『それはあんたもよ! いつもこうやって話してくれたらもっと会話が弾むのよ』

 

『うっ、だ、だって、こんな大勢を前にしたら……』

 

 

 

 今の現状を思い出して、だんだんと青ざめていく。

 

 

 

カグラ:『だ、だから小さくならないの! 私たちがいるでしょ!』

 

『そ、そうだね。うん、頑張るよ』

 

 

 

【コメント】

:カグユキ、いいな

:ポンコツ×ポンコツ=尊い

:誰を推すか決められない……

:ここまで自己紹介定期

 

 

 

ココネ:『そ、そうですね。そろそろ次に行きましょう。せっかく私たち三期生全員が揃ったのですから、質問コーナーにしましょうか』

 

ユイ :『うにゅ、ゆいが好きなのは甘い苺ショートだよ』

 

ココネ:『まだ何も聞いてないですよ!?』

 

ユイ :『うみゅぅ……、今履いてるのは白だよ……』

 

ココネ:『だから何も聞いてな――。い、今何を言ったのですか?』

 

ユイ :『うにゅ、それじゃあ質問のある人はコメントで』

 

ココネ:『ちょ、ちょっと、ユイちゃん!? だからさっきのは一体何なのですか!?』

 

『えっと……、ユイさんとココママが漫才してたけど、気にせずにコメントをどうぞ……』

 

ココネ:『ゆ、ユキくんまで!?』

 

ユイ :『ゆいはユイって呼んでほしいな……』

 

 

 

【コメント】

:ココユイもいいなぁ

:ココユキといいライバルだ

:どうしてVtuberになろうとしたの?

:なんだかんだで三期生は仲がいいね

 

 

 

ココネ:『Vtuberになろうとしたきっかけですか。えっと、私は新しい世界を見つけるため、ですね。もっと自分を高めたいと思ったんですよ』

 

『すごい……。ココママ、色々考えてるんだ……』

 

ココネ:『全然ですよ、私なんて。そ、それじゃあ、順番に次はカグラさん、お願いね』

 

カグラ:『私は自分の姿を放送しないなんて世界の損失だから――』

 

ユイ :『うにゅ、寂しかったから友達が欲しかったんだね』

 

カグラ:『えぇ、そうよ。……って違うわよ!? また変なこと言って!』

 

 

 

【コメント】

:ここは極楽浄土か?

:カグラ様、寂しがりやだもんね

:段ボール、カグラ様に似合いそう

 

 

 

『えっ、こんな感じかな?』

 

 

 

 ユイのところにあった段ボールをカグラのところへ移動させる。

 王冠を被った姫様が捨てられてるそのシュールな光景。でも、それがカグラということを考えると妙にしっくりとくる。

 

 

 

ユイ :『うにゅ、似合ってるの』

 

ココネ:『確かにこれはすごく似合ってますね』

 

『うん、予想以上だった……』

 

カグラ:『って、私はダンボールがお似合いって言いたいの!?』

 

『わ、わかったよ。段ボールは元に戻すよ……』

 

 

 

 素直に段ボールを自分のところへ戻す。

 

 

 

【コメント】

:さりげなくユキくんがダンボールの中に戻ったw

:草

:カグラ様用の段ボールを探さないと

 

 

 

カグラ:『そんなものいらないわよ!?』

 

ココネ:『ほらっ、また話が脱線してるわね。元に戻すわよ。ユイちゃんはどうしてVtuberになろうとしたの?』

 

ユイ :『うにゅ、楽してぐうたらするためだよ』

 

カグラ:『……』

 

ココネ:『……』

 

『……』

 

 

 

【コメント】

:……

:……

:俺たちみたいだ

:俺を混ぜるな。俺はVtuberとして働くことすら嫌だ

:まだこうやってみんなを楽しませてくれてるだけ偉いよ

 

 

 

ココネ:『ぶ、ブレませんね、ユイちゃんは。そ、それじゃあ気を取り直して最後はお待ちかね、枠主であるユキくんに答えてもらいましょう。ではユキくん、どうぞ!』

 

 

 

 一瞬空気が固まってしまったのをなんとかココネは戻そうとする。

 ただ、僕の答えもユイとそこまで変わるわけじゃなかった。

 

 

 

『ぼ、僕はその……外堀を埋められた……』

 

ココネ:『えっ!? だ、誰に!?』

 

『担当さんと母さんだよ……。そうじゃないと人見知りの僕がするはずないよね……』

 

ココネ:『た、確かにユキくんは人一倍人見知りだもんね……』

 

 

 

【コメント】

:外堀を埋められるなんてアイドルみたいなこと、あるんだな

:アイドルみたいなものだもんな

:そのお母さんに感謝

 

 

 

 なんだかおかしな方向へと進み出してしまった。

 

 

 

『そ、それよりも次の質問、いきましょう。も、もう時間ないので』

 

ココネ:『そうですね。では次の質問はユキくんに選んでもらいましょう。コメントに書き込んでくださいね』

 

『えっ、僕!?』

 

ココネ:『もちろんですよ。だってここ、ユキくんの枠ですから。もちろん個人(ユキくん)宛の質問でもいいですよ』

 

『や、優しくしてね……』

 

 

 

【コメント】

:かわいい

:お兄さん、いじめたくなっちゃうぞ

:通報しました

:ユキくんに質問。同期の中で一番好きな人は?

:ユキくん以外の人に質問。ユキくんの好きなところは?

 

 

 

ココネ:『これは似た質問が来ましたね。告白タイムになるかな?』

 

『そ、そんなことしないよ。ぼ、僕が耐えられないから……』

 

ユイ :『ゆいはユキくんのこと、好きだよ』

 

『っ!?』

 

 

 

 突然の告白に顔を伏せて、思わず段ボールの中へ隠れてしまう。

 

 

 

ココネ:『あっ、ユキくん!?』

 

カグラ:『仕方ないわね、全く……。ほらっ、出てきなさいよ』

 

ユイ :『うにゅ、素直な気持ちを言っただけなのに……段ボール貸してくれたし……』

 

 

 

――わかってる。今の好き、がそういう好きじゃないくらい。でも、僕の精神がもたない……。

 

 

 赤くなる顔を必死に抑えようとしているうちもコメントは無情に流れていく。

 

 

 

【コメント】

:ユキユイの勝ちか

:ユイちゃん、ストレートだったなぁ

:ユキくーん、出ておいでー

:ユキくんが好きな人も聞きたかったなぁ

:でもこの反応は相思相愛なんじゃないか?

 

 

 

『うぅ……、僕は友達になってくれたみんなのことが好きだよ。で、でも……』

 

ユイ :『うみゅ、ゆいと同じだね』

 

ココネ:『あっ、そういうことだったのですね』

 

カグラ:『どういうことなの?』

 

ココネ:『私はカグラさんのことが好きってことですよ』

 

カグラ:『な、な、何馬鹿なこと言ってるのよ!?』

 

 

 

 カグラが必死に手を動かして慌てていた。

 その様子を見る限り、カグラだけどういうことかわかっていないようだった。

 

 今のユイの好き、は友達としての好きってことだということに。

 

 

 

【コメント】

:相変わらずのポンコツぶり

:そこがいい

:切り抜き班、頼んだ

:ユキくんがすっかり段ボールだね

:やっぱり段ボールが本体……

:でも、じっと見てるとたまに顔をのぞかせてる。そこがかわいい

:あっ、本当だ

 

 

 

『っ!?』

 

 

 

 顔をのぞかせていた僕はまたすぐに段ボールへと隠れてしまう。

 

 

 

ココネ:『つまり、だれがユキくんを拾い上げるか勝負ってことですね。ユキくん、私とコラボしませんか?』

 

『こ、コラボ……?』

 

ユイ :『うみゅ、ココママだけずるい……。ゆいもコラボする。お泊まりオフ……』

 

カグラ:『お、お泊まり!? さ、さすがにいきなりそれは……』

 

『お、お泊まりは僕の体が持たないよ……』

 

 

 

 精神的にもそうだが、そもそも僕は男。

 異性とお泊まりなんて論外だった。

 しかも、美少女Vtuberになった今、絶対に男であることは隠さないといけない事実だ。

 

 オフだけはない。

 絶対にオフだけはない。

 

 

 

ユイ :『うみゅ、なら仕方ないの。24時間耐久クソゲーオフで我慢するの』

 

『それは全然我慢してないよね!? むしろ悪化してるよ』

 

 

 

 思わず顔を出して突っ込んでしまう。ただ、すぐにまた引っ込める。

 

 

 

【コメント】

:オフコラボ……

:本当に仲がいいんだな

:24時間耐久……って死ぬのかな

:このメンバーだとユキくんも常識枠に入ってしまうのか

 

 

 

『僕はいつでも常識枠だよ!?』

 

ココネ:『なら段ボールから出てきてくださいね。んっしょっと……』

 

 

 

 ココネが持ち上げるような仕草をするので、仕方なく顔だけ出す。

 

 

 

【コメント】

:あっ、出てきた

:おかえり

:やっぱりココユキか

:ココママ以外常識人がいない

:むしろ常識人がいるのが珍しい

 

 

 

 ひどい言われようだった。

 

 でも、元々シロルームは規格外の人物がたくさんいる企業……。

 リスナー側なら僕も同じことを思っていただろう。

 

 

 

カグラ:『それよりもそろそろ時間じゃないかしら? あと一つくらいしか質問に答えられないわよ』

 

『うーん、それじゃあ簡単な質問、よろしく』

 

 

 

【コメント】

:もう1時間経ったのか

:明日のココユキ配信の時間は何時から?

 

 

 

『ま、まだ、コラボするって訳じゃ……』

 

 

 

 ピコッ。

 

 

 

 何度も消そうとしてたのにずっと忘れてた通知音。

 

 

 

ココネ:『あれっ、私も?』

 

カグラ:『私にも来てるわ。あっ、担当さんからね』

 

ユイ :『うにゅ、コラボは強制……』

 

『あぅあぅあぅ……』

 

 

 

 再び段ボールの中へと戻る。

 しかし、それをココネが許してくれなかった。

 

 

 

ココネ:『ユキくんの初めては私がいただきました!』

 

『ちょ、ちょっと、言い方!?』

 

 

 

【コメント】

:w

:w

:w

:草

:草

:おめ

 

 

 

ココネ:『ということで、ユキくんとコラボ動画をすることが決定しました。日程はさすがに来週になるかな。どっちの枠でするかとかはまた相談して告知を出します』

 

『うぅ……、僕、お腹が痛くなってきたから休まないと……』

 

ココネ:『担当さんから[ユキくんの体調が治るように病院に連れて行って強制的に出演させます]とのことです』

 

 

 

【コメント】

:w

:w

:草

:w

:担当さん、ユキくんのことを良くわかってるw

:ユキくん、逃げる気でいて草

 

 

 

ココネ:『あっ、本当に体調不良だった場合は日が延びるからね。あと、事前にマシュマロで質問を募集しますのでどんどん投げてください』

 

『僕には投げなくて良いよ……』

 

ココネ:『ユキくんはまだマシュマロ解放してないでしょ』

 

ユイ :『うぅ……負けた』

 

カグラ:『と、突発コラボを狙えば……』

 

ココネ:『ふふふっ、やっぱり裏から手を回して置いて正解だった……』

 

『黒い。ココママが黒いよ……』

 

ココネ:『あっ、こらっ。段ボールに隠れたらダメって言ったでしょ』

 

 

 

【コメント】

:草草

:w

:黒いw

 

 

 

『みんな、配信には来なくて良いからね。僕との約束だよ?』

 

 

 

【コメント】

:はーい

:はーい

:はーい

:みんな返事だけすぐる

:今から楽しみ

:全裸待機しておく

 

 

 

『か、風邪ひくよ? 服は着ようね。あと、みんな来る気でしょ?』

 

 

 

【コメント】

:もちろん

:当然

:服を着なかったらユキくんに心配してもらえるのか

:やめろ。その役は俺のものだ!

 

 

 

『うぅ……、こうなったらまたみんなに配信の練習付き合ってもらうから……。し、失敗しても怒らないでね』

 

 

 

【コメント】

:はーい

:はーい

:代わりに担当が怒りそう

:がんばっ

 

 

 

『うぅ……た、担当さんも怒らないでね……』

 

ココネ:『はいはい、ユキくんにはあとで私たちからも説教しておきますね』

 

『えっ!?』

 

カグラ:『まぁ、ここまでぐだぐだな初配信も珍しいから仕方ないわね』

 

『えっえっ!?』

 

ユイ :『うみゅー、この段ボールはユイがもらっておくからね』

 

『えっえっえっ!?!?』

 

ココネ:『では、本日の配信はここまでです。お疲れ様でした』

 

カグラ:『お疲れ様でした』

 

ユイ :『うにゅ、お疲れなの』

 

『ぼ、僕の配信枠……、お、おつか――』

 

 

 

この放送は終了しました。

『《雪城ユキ初配信》初めまして、拾ってください《シロルーム三期生/新人さん》』

2.6万人が視聴 0分前に配信済み

⤴6,471 ⤵67 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ

チャンネル登録者数4.2万人

 

 

 

◇◇◇

【コメント】

:w

:終わり方w

:枠主が締めないw

:これは超大型新人の予感w

:最後まで草だった

:最後まで言えないユキくんw



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第4話:新しい友達?

――終わった……。いや、終わってしまった……。

 

 

 初配信だとしても今回のことは前代未聞だろう。

 一人だと何もできずにココネを頼ってしまった。

 

 罪悪感で一杯の僕は配信が終わったあともモニターの前で座ったまま、茫然としていた。すると、そのタイミングで通話がくる。

 

 

 

マネ :『お疲れ様です』

 

ココネ:『お疲れ様でした』

 

カグラ:『お疲れ様』

 

ユイ :『おつかれ』

 

 

 

 それぞれみんなから労いの言葉をもらう。

 その言葉が優しくて、目から涙が浮かんでくる。

 

 

 

『お、お疲れ様です。みんな、本当にありがとう……』

 

 

 

 震える声で返事をする。

 

 

 

マネ :『ユキくんには色々と言うべきことがありますけど、とりあえず今日のところはよく頑張りました』

 

『うぅ……、ま、マネさん……』

 

マネ :『動画配信のやり方についてはゆっくり学んでいきましょうね。今日みたいなトラブルがもうないように』

 

『は、はいっ。頑張ります……』

 

マネ :『では、ユキくんの反省会はあとからしておきますが、とりあえず最高のスタートを切ることができました。チャンネル登録者数を見ましたか?』

 

ココネ:『はい、やっぱり気になりますから』

 

カグラ:『当然ね』

 

ユイ :『まだなの……』

 

『ぼ、僕もそこまで余裕がなくて……』

 

マネ :『では、確認してきてください。それで全てわかると思いますから』

 

 

 担当さんに言われて、チャンネル登録者数を確認しにいく。

 

 

『えっと、……4.1人? あっ、増えて4.2人に……』

 

ユイ :『私は2.4万人だったの』

 

 

 

 その数字はそれぞれが配信を終えたあとから更に跳ね上がっていた。

 その理由は主に僕とのコラボにあっただろう。

 

 

 

チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ

チャンネル登録者数4.2万人

 

チャンネル名:kokone_Room.真心ココネ

チャンネル登録者数3.0万人

 

チャンネル名:kagura_Room.神宮寺カグラ

チャンネル登録者数2.1万人

 

チャンネル名:Yui_Room.羊沢ユイ

チャンネル登録者数2.4万人

 

 

 

マネ :『えぇ、ユキくんが飛び抜けているとはいえ、みなさん高いです。更にユキくんは初配信後の数字としてはシロルーム史上最高の数値になります。あと、ユキくんは意図的に[万]の文字から目を離さないでください』

 

『や、やっぱりそうですよね……。4.2万人も……どうして僕に?』

 

ココネ:『みんなユキくんに興味を持ってくれたんですよ。それにさっきの配信もトレンドに上がってましたからまだまだ増えていくと思いますよ』

 

『ぼ、僕の痴態が広まっていく……』

 

カグラ:『Vtuberなんだから数字が全てよ。私だって2.1万人の数字を見たときは驚いたのよ。でも、これで三期生で一番少ないの……。見てなさい、絶対に追い越すから!』

 

『えっ、それで少ないってことはココママはやっぱり僕以上……?』

 

ココネ:『今のトップはユキくんですよ。私は3.0万人でした。多分ユキくんとコラボしたから、私のも比例して伸びたんでしょうね』

 

カグラ:『うぅ……、納得いかない。ユキ、必ず抜かすからね!』

 

『えっ、ぼ、僕はまだ自分のことで一杯一杯だから……』

 

マネ :『大丈夫です。あとユキくん、コラボはみんなとしてもらいますので、そのつもりで。ただ、今回のユキくんを見ていると最初は一番しっかりしてるココネさんかなって』

 

ユイ :『……ママだから』

 

ココネ:『ママじゃないですよ!?』

 

ユイ :『でもトレンドにも上がってた。ココママ……』

 

『やっぱりトレンドに上がってたのは僕じゃないんですね。よかった……』

 

 

 ホッとため息を吐いていた。

 しかし、ココネが無情にもそれを打ち砕いてくる。

 

 

ココネ:『違いますよ、ユキくん。私ので上がっていたのがそれになるだけで、ユキくんのだと、【段ボール】とか【初配信事故】とか【拾ってください】とか【雪城ユキ】とかが上がってましたよ。特に【雪城ユキ】は国内2位まで跳ね上がってました』

 

『な、なんでそんなに上がってるの!?』

 

ココネ:『当然ですよ、色々と前代未聞過ぎましたから』

 

ユイ :『うみゅ、やっぱりゆいともコラボを……』

 

マネ :『それはまた時期が来たらにしましょうね。二十四時間耐久はさすがにまだユキくんの体が持ちませんから』

 

ユイ :『お泊まりオフコラボでもいいのに……』

 

『もっと体が持たないよ!?』

 

マネ :『そういうことです。反省点も多いですけど、成果としては十分すぎますので、この調子で頑張っていきましょう』

 

『わ、わかりました。頑張ります……』

 

マネ :『それじゃあユキくん以外はお疲れ様。ユキくんは居残りね』

 

『えっ!?』

 

マネ :『反省会、しないとね?』

 

 

 担当である舞の優しい声が聞こえてくる。

 それがとても恐ろしいものに聞こえてしまう。

 

 

『お、お手柔らかに……』

 

 

 それから僕が解放されたのは日が変わってからだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 雪城ユキ@シロルーム三期生 @yuki_yukishiro 今

 配信に来てくれた犬好きさんたち、本当にありがとうございました。初めてで色々失敗してすみませんでした。また次の配信もよろしくお願いします。

 

 

 

 担当さんから解放された後、カタッターに今日のお礼を投稿していた。

 ただ、そこで見たフォロワー数なのだが、とんでもないことになっていた。

 

 

 

 雪城ユキ@シロルーム三期生 @yuki_yukishiro

 シロルーム所属。三期生。

 3フォロー中 43,025フォロワー

 

 

 

――ご、五桁!? な、なんでこんなに!?

 

 

 すごく驚いていたが、よく考えるとお気に入り登録数も4万を超えてるのだからおかしいことではない。トレンドも複数載っていたのだから……。

 

 

 通知を消しているのでそこまで影響はないが、投稿してすぐにとんでもない数のリプライがついていた。

 そして、その中にココネたちもいた。

 

 

 

 真心ココネ@シロルーム三期生 @kokone_magokoro 今

返信先:@yuki_yukishiro

ユキくん、お疲れ様。コラボ、楽しみにしてるよ❤️

 

 

 

 神宮寺カグラ@シロルーム三期生 @Kagura_Zinguuzi 今

返信先:@yuki_yukishiro

私ほどではないけど頑張ったわね。

 

 

 

 羊沢ユイ@シロルーム三期生 @Yui_Hitsuzisawa 今

返信先:@yuki_yukishiro

うみゅー、オフ会ー(੭ु˙꒳˙)੭ु⁾⁾ ばんばん

 

 

 

「ははっ、ユイもまだ起きてるじゃん。あれだけ眠そうにしていたのに……」

 

 

 

――本当に良い仲間たちに巡り会えたな。これなら僕もVtuberとしてやっていけるかもしれない……。

 

 

 そんな思いを抱きながら眠りにつく。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 翌日になり、いつものように大学へとやってきた。

 その手には担当さんからもらった【犬でもできる動画配信】と書かれた資料。

 

 しかも、ご丁寧に段ボールに隠れて震えているちびキャラユキくんが描かれている。

 昨日の間に担当さんが準備してくれたもので、朝、印刷をして持ってきたのだ。

 

 中には配信機器の設置方法から動画を配信する方法、更には動画配信中の注意点まで丁寧に書かれていた。

 

 

 

【動画配信中はチャット画面を開かないこと!】

 

 

 

 と、大きく書かれているのがいかにも担当さんらしい。

 ただ、あまりにも書かれている量が多いので覚えきれない。

 

 むしろ読んでいたら眠たくなってくる。

 昨日は日が変わるまでお説教を受けた上で、それからカタッターのリプを眺めていた。

 それの影響もあって三時間ほどしか眠っていなかった。

 

 そんな状態も相まって、今の状態で資料を読むと眠気に負けてしまうのは必然でもあった。

 

 

 

「すぅ……」

 

 

 

 慣れない配信疲れも相まって、結局講義が終わるまでずっと眠ってしまった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 目が覚めると隣には知らない少女が座っていた。

 

 花柄の白いパーカーと赤いスカート。

 栗色の少し癖のある肩ほどの髪。

 高校生? いや、中学生と言われても納得しそうなほど小柄な少女がそこにいた。

 

 そして、僕が持っていたはずの資料をなぜかその少女が持っていた。

 

 

 

「えっ、あれっ?」

 

「これって、君のだよね? ついつい気になって読ませてもらったよ。勝手にごめんね」

 

「それはいいんだけど、わかるの?」

 

「うーん、半分くらいかな? でも、君が雪城ユキのことが好きなのはよくわかったよ」

 

「えっ!?」

 

 

 

 ここで雪城ユキ(その名前)が挙がったことに驚きを隠しきれなかった。

 

 

 

「だって、この表紙のチビキャラって雪城ユキのアイコンでしょ?」

 

「あっ!?」

 

 

 

 そういえばすっかり忘れてた。

 なぜかこの資料の表紙にはユキくんのチビキャラが描かれてるんだった。

 

 

 

「あははっ……、そ、そうだよ。ば、バレちゃったね……」

 

 

 

 乾いた笑みを浮かべながらなんとか誤魔化す。

 すると、少女は嬉しそうに顔を近づけてくる。

 

 

 

「やっぱりそうなんだ。ユキくん、かわいいよね。私も好きだよ」

 

「そ、そうだよね。で、でも、まだ昨日初配信したところだよね?」

 

「うん。でもトレンド二位だったよね。しかもチャンネル登録者数も圧倒的でこのままだとシロルームトップになるんじゃないかな?」

 

「さ、さすがにそれは大変だよ。ほらっ、ずっとシロルームを支えてきた一期生を超えるなんて」

 

 

 

――今のシロルーム人気を作ったとも言える四人の一期生。

 

 

 

一期生の暴走機関車。

ピンクの長髪に星の髪飾り。黄色のワンピースを着たスタイルの良い女性。

頼まれてもいないのにてぇてぇいらすとを勝手に送りつけてくる、一期生トップの美空アカネ(みそらあかね)

 

唯一美空の手綱を握れる、飼い主。

水色の肩くらいに切りそろえられた髪。魚を基調としたパーカーと白スカートの

スレンダーな女性。

シロルーム一の常識人にして、ツッコミ魔王。海星コウ(かいせいこう)

 

クールな外見とミステリアスな雰囲気で女性人気を集めている。

白銀の髪に二本の角。筋肉質の体を持っている男性。

我が道を行く真緒ユキヤ(まおゆきや)

 

チャラ男で軽い感じで話す色物枠。

金髪のトゲトゲとした髪に眩い服の前がはだけて、自身の体を見せつけている。

[ユージ草]でコメントの全てを覆い尽くす、野草ユージ(のぐさゆーじ)

 

 

 

――このときはまだ男女二人ずつのメンバーだったんだよね。僕も男のアバターなら……。

 

 

 少し遠い目をすると勘違いした少女が力強く言ってくる。

 

 

 

「大丈夫だよ、ユキくんなら軽く超えてくれるよ!」

 

「そ、それよりもこの本に興味があるってことは君も動画配信を?」

 

 

 

 このままユキくんの話題だと何かボロが出てしまいそうだったので、違う話を振る。

 

 

 

結坂彩芽(ゆいさかあやめ)

 

「んっ?」

 

「私の名前だよ。そういえば言ってなかったなって」

 

「それもそうだね。えっと、僕は小幡祐季(こはたゆき)だよ」

 

「小幡ちゃん……だね」

 

「ぼ、僕は男だよ?」

 

「えっ!? ご、ごめん、今の今まで勘違いしてた。うん、でも、そうだよね。こんなに可愛い子が女の子のはずないもんね」

 

「僕としては可愛い子は女の子の方がいいなぁ」

 

「うーん、私はどちらでもオッケーだよ。あっ、話題それちゃったね。動画配信……、ちょっとだけならやったことあるよ」

 

「そっか……。僕も一回だけならあるんだよ……」

 

「なら、私たち動画初心者同士だね。よかったらまた動画の話とかしない? 友達に見てる人はいても配信となると少ししかいないんだよね」

 

「えっ、いいの?」

 

「もちろんだよ! あっ、小幡くんはどのチャンネルなの? お気に入り登録するよ」

 

「あっ、僕はね……」

 

 

 

 スマホを操作して動画配信サイト、ミーチューブを開く。

 そこに現れたのは雪城ユキのアカウントページ。

 今も増えゆくお気に入り登録者数は既に4.5万人に届いている。

 初配信の再生回数は六桁を超えている。

 

 トレンドから見に来てくれた人が登録してくれているのだろう。

 

 そして、アイコンの可愛らしい美少女、雪城ユキ。

 

 さすがにこれを自分のアカウントだと言えるはずもなく、それを見た瞬間にサッとサイトを閉じていた。

 

 

 目の前にはにっこり微笑む結坂。

 ユキくんが好き、と言っていた彼女に見せられる画面ではない。

 

 

 

「どうしたの?」

 

「そ、その、さ、サイトに入るパスワード、忘れちゃって……。ま、また今度でいいかな?」

 

「うん、全然いいよ。まぁ、あまり使ってないとそうなっちゃうよね」

 

「ど、動画を見るだけならするんだけどね……」

 

 

 

 乾いた笑みを浮かべながら何か対策を考えないといけないな、と頭を悩ませる。

 

 それで初心者なら初心者らしくユキくん以外のアカウントを作ればいいのでは? という考えに至っていた。

 

 

 

「そっか……。それなら仕方ないか……。また教えてね。それじゃあ私はそろそろ帰るよ。この資料、ありがとう」

 

 

 

 結坂が資料を返してくる。

 それを受け取ると手を振りながら講義室から出て行った。

 

 後に残された僕は初めてできたリアルの友達に感慨深さを感じていた。

 

 

――これもVtuberを始めたおかげかな。

 

 

 家に帰るとすぐさま担当の舞にチャットを送っていた。

 

 

 

ユキ :[マネさん、僕ってMeeTubeのアカウント、複数持つことってできるのですか?]

 

マネ :[動画視聴用のアカウントでしたら一応大丈夫ですよ。ただ、配信はしないで下さい]

 

ユキ :[や、やっぱりダメなんですね、配信は]

 

マネ :[そうですね。シロルームでは原則配信は公式アカウントのみでしてもらうことになっています。一応契約書にも書かれていますよ。騒ぎが起こったら大変ですからね]

 

 

 

 企業所属のライバーが外でトラブルを起こしてしまうと企業としての評判が下がってしまう。企業としては当然だろう。

 

 

 

マネ :[あっ、もし以前使っていたアカウントがあるのでしたら配信動画は残しておいてもらっても良いですよ。でも、新しく配信するのだけはやめてくださいね]

 

ユキ :[わ、わかりました]

 

マネ :[……何かあったのですか?]

 

ユキ :[いえ、友達が僕のチャンネルを聞いてきましたので、別で作れるならって思いまして]

 

マネ :[ユキくんに友達が!? 信じられないです……]

 

ユキ :[ど、どういうことですか!? 僕にだって友達くらい。……いえ、きっかけはマネさんの資料でしたけど]

 

マネ :[ユキくんがきっかけでしたか。それなら納得ですね]

 

ユキ :[うぅ……、わかりました。その子には何か別の対策を考えてみます]

 

マネ :[それがいいですね。それにユキくんは事情が事情なだけに、下手に正体がばれてしまうと大炎上しますよ。気をつけましょうね]

 

ユキ :[お、恐ろしいことを言わないでくださいよ……]

 

マネ :[ふふっ、では今日から配信頑張って行きましょうね]

 

ユキ :[うぅ……お腹が痛くなって……]

 

マネ :[病院の予約をしておきましょうか? 終わるタイミングに]

 

ユキ :[結局配信は強制なんですね……]

 

 

 

 どうやっても配信させようとしてくるので、ため息を吐きながら配信の準備をするのだった。



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第5話:反省会配信

『《♯犬拾いました》昨日の反省。雑談枠 《雪城ユキ/シロルーム三期生》』

1.2万人が待機中 20XX/05/06 20:00に公開予定

⤴274 ⤵0 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

 時間は20時5分前。

 すでにかなりの待機者がいるので、思わず緊張で体が強張ってしまう。

 

 

――何かやり忘れたことはないかな?

 

 

 意味もなくカタッターを開き、しっかり予告配信を投稿できているか確認していた。

 

 

 

 雪城ユキ@シロルーム三期生 @yuki_yukishiro 4時間前

本日、20時からライブ配信します。わふー ♯犬拾いました

 

 @247  ↺3,571  ♡1,472

 

 

 

 とんでもない数の反応があり、すでに追い切れていない。

 そして、ライブの方もまだ段ボールしか出ていないのに、コメント欄が盛り上がりをみせていた。

 

 

 

【コメント】

:待機

:わふー

:今日は一人なのか?

:間に合った

:待機

:今日こそ拾う

:今日も段ボールか

:でも、文字が違うな

:『反省中』wwwwww

:wwwwww

:草

 

 

 

 担当さんが新しく用意した段ボール。そこには『反省中』の言葉が書かれていた。

 きっとユキくんなら使えると思いますよ、といわれながら渡されたそれを早速使ってみたら、かなり盛り上がってくれている。

 

 

 自分で準備できると大きいのだけど、こればっかりは仕方ないので担当さんにお願いしている。

 

 しかも今は配信前に流れるミニアニメのようなものを準備してくれているようだった。

 

 シロルームでは三万人を超えたら、その記念配信としてミニアニメを公開することになっている。

 と言いつつ、初配信と同時に準備を初めてくれているのだが、僕の場合は予想を超える伸びをしていたのでそれが全然間に合わないらしい。

 

 

 もう十万人記念配信時にお披露目する3Dアバターも準備を始めてるといっていた。そっちは気が早いとも思うが、担当さんは今度は間に合わないなんてことにはしません! と息まいていた。

 

 だからこそ、今回の段ボール文字替えはあくまでも応急手段。

 しかし、それだけのことで盛り上がってくれている。

 

 

 ただ、盛り上がれば盛り上がるほど、僕の緊張感は高まっていく。

 

 

――うぅ……、やっぱり二回目でも慣れないな……。

 

 

 何を話すか、一応メモ帳(カンペ)はあるものの話し始めたらそれもあまり意味をなさない。

 しっかりとその都度対応する必要があるわけだ。

 

 大きくため息を吐いて、精神を落ち着ける。

 

 すると、そのタイミングでコメント欄にスパナのマークが見える。

 

 

 

【コメント】

真心ココネ :ユキくん、頑張ってー

神宮寺カグラ :私が来てやったぞ

羊沢ユイ :うにゅー、眠い

:三期生勢揃いw

:またコラボあるか?w

 

 

 

 三期生全員が応援に来てくれている。

 彼女たちもこのあと自分の配信を控えているはずなのに。

 

 小さく微笑むと覚悟を決めて配信をスタートさせる。

 

 

 

『わ、わふぅ……、こんばんは。ゆ、雪城ユキです。き、今日もひ、拾いにきてくれてありがとぅ…』

 

 

 

 ゆっくり顔を上げて、辛うじて耳が見えるくらいで挨拶をする。挨拶の仕方も担当さんと考えて作り出した。

 

 

 

【コメント】

:わふー

:わふー

:わふー

真心ココネ :わふー

:わふぅ

:また隠れてるwww

:俺が拾う!

:待て、俺が先だ!

:可愛すぎる

 

 

 

 開始と同時に流れるようにコメントの速度が上がる。

 それを見つつ、顔だけを段ボールから出していた。

 

 

 

『えとえと、今日はその……あの……、昨日の配信について反省会をしたいと……、ううん、したくはないけど、その……、担当さんがやれって言うから、仕方なく、嫌々、やりたいと思います……』

 

 

 

 それを言い終えるとサッと段ボールの中に隠れる。

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、見えたと思ったら隠れたw

:本当に嫌そうw

:わふー

:昨日は伝説を作ったもんねww

:wwww

:草しか生えない

 

 

 

『と、とにかく昨日は何がダメだったのか、皆さんからもコメントを書いてもらえませんか? ぼ、僕としては頑張ったの……ですけど』

 

 

 

 もう一度ゆっくりと顔を出す。

 流石に配信中は緊張からか体が小刻みに震える。

 

 

 

【コメント】

:何が……っていうか全部?

:全てが伝説だったのでよかったよ

:一つになんて絞れないよー

:今日はチャットが見えないね

 

 

 

『ふふっ、今日はちゃんと消しておいたよ』

 

 

 

 自信たっぷりに答える。

 すると、そのタイミングで通知音がなる。

 

 

 ピコッ!

 

 

『あぁ!? 通知音を消し忘れてる!?!?」

 

 

 

【コメント】

:wwww

:早速一つ

:誰からー?

:俺のことか

:なんだ、俺のことか

:おまえらwww

羊沢ユイ :読んでー!

 

 

 

『え、えっと、ちょっと待ってね。あれっ? ユイからだ。読んだら良いんだね? なになに、[ユキくんの今日のパンツは……]って、わわっ、な、何言わせようとするの、ユイ……』

 

 

 

 顔を真っ赤にして、段ボールへと隠れる。

 

 

 

【コメント】

:ユイちゃん、GJ

:かわいい

:惜しい

羊沢ユイ :b

 

 

 

『はぁ……、はぁ……、と、とりあえず通知音は消したからね。もう邪魔はできないよ』

 

 

 

 ユイならばこの後、何度かやってきてもおかしくない。

 そう考えて先に手を打っておく。

 

 

 

『そ、それじゃあ、僕から反省点を言うね』

 

 

 

 一応自分なりにまとめた反省点。それが書かれたメモ帳を表示する。

 ただ、キャスコードを消すことばかり意識していて、メモ帳が表示されたままになっていることには全然気づいていなかった。

 

 

 

【コメント】

:カンペだ

:カンペ見えてるよ

:せんせー、ユキくんがズルしてますー

:ココママー、ユキくんがズルしてるよー

真心ココネ :ママじゃないです

 

 

 

 

『わわっ、ど、どうしてわかるの!?』

 

 

 

 驚きの声をあげてしまう。

 

 

 

【コメント】

:見えてる

:w

:積極的に反省点を増やすスタイルw

 

 

 

『あっ……』

 

 

 

 慌ててメモ帳の表示を消す。

 この消す動作はミスをしすぎてだいぶ慣れてきた。

 

 

 

『と、とにかく僕なりにダメだった部分をまとめてきたから読み上げるね。えっとまずは[プロフィールを準備してなかったこと]かな』

 

 

 

 担当さんが大急ぎで準備してくれたやつで、そのおかげでなんとかなったが、からかわれるネタにもなってしまった。

 

 

 

【コメント】

:えっ!?w

:あれ、ユキくんが準備したやつじゃないんだw

:どおりでわふぅ、なんてセリフがあったのかw

:担当さんのコメントがあったもんね

 

 

 

 

『し、仕方ないよ。ぼ、僕、配信なんてするの初めてで、いきなりライブでしかもトリだなんて……、うぅ……』

 

 

 

 今考えても涙が出てきてしまう。

 他の人だったらもっと上手くまとめられたんじゃないかって考えずにはいられなかった。

 

 

 

『でもでも、あれはココママやユイも悪いんだからね!? 二人が完璧な放送をするから……』

 

 

 

【コメント】

神宮寺カグラ :あれっ、私は?

:ポンコツはポンコツを知るw

:www

:人のせいにw

 

 

 

『で、でも、他に問題はないよね? ぼ、僕なりには頑張ったし……』

 

 

 

【コメント】

:はぁ?

:はぁ?

:問題しかないんだが?

真心ココネ :ユキくん、正座(ニコッ

 

 

 

 

 ココネから怖いコメントがくる。これは素直に聞いておくべきだろう。

 

 

 

『は、はい、ココママ……』

 

 

 

 その場で正座をする。ただ、やり慣れてないせいですぐに足がピリピリと痛み出す。

 

 

 

『うぅぅぅ……ま、まだしないとダメ……?』

 

 

 

【コメント】

真心ココネ :放送終了までね

:鬼だ

:悪魔だ

羊沢ユイ :延長は?

:羊の悪魔もいる

 

 

 

 実際にしているところは見えないのだから無理にする必要はないのではないか、と思うけどなぜか素直に正座し続ける。

 

 

 

『あうぅ……、ご、ごめんなさい。もう……むり……』

 

 

 

 パタッ。

 

 

 慣れない正座に足が限界になり、そのまま倒れてしまう。そして、痺れてまともに動けなかった。ただ、倒れた状態でも喋ることは続けていく。

 

 

 

『あぅぅ……、いたたたっ。え、えっと、他にすること……、あっ、そうだ。もう一つ、なんか僕のチャンネルにバグが発生してチャンネル登録者数がおかしいことになってるので、運営さんに連絡しないと……』

 

 

 

【コメント】

:ユキくんの脳内がバグw

:www

:チャンネル登録者数が多いから疑うw

真心ココネ :そういえばユキくん、もう収益化申請できるんじゃないの?

 

 

 

『しゅう……えきか?』

 

 

 

 ココネのコメントを見た瞬間に動きが固まってしまう。

 

 

 MeeTubeではある一定の条件を満たすと動画の収益化が可能となる。

 その条件は動画の総再生時間が4,000時間とチャンネル登録者数が1,000人以上。

 

 

 一つ目の動画総再生時間は一つ目の動画で悠にクリアしている。延長された結果、一時間の動画が既に十万再生を超えている。

 チャンネル登録者ももうじき五万人超えそうだ。

 

 

 

『そ、そういえばできる……かも?』

 

 

 

 条件はすでに達成している。あとは申し込むだけ。

 

 

 

【コメント】

:スパチャの用意しないと

:収益化、興味なさそうw

真心ココネ :収益化通ったら記念配信だね

 

 

 

『え゛っ!?』

 

 

 

――記念配信? 何の記念? 罰ゲーム?

 

 

 コメントに頭が全く追いつかない。

 そこにさらに追い討ちをかけることを言われる。

 

 

 

【コメント】

:配信一回で記念配信にたどり着く犬。いや段ボールw

:記念配信楽しみ

羊沢ユイ :うみゅー、3万人記念配信……。5万人記念配信も……

 

 

 

『ちょ、ちょっと待って。そんなにたくさん記念配信なんてできないよ? だ、だからお気に入り登録者は増えなくて良いよ。増えなくていいんだからねっ!?』

 

 

 

【コメント】

:あっ、加速したw

:www

:5万人超えたよw

:3万人記念と収益化記念と5万人記念配信楽しみw

 

 

 

『あぅ……、な、何で増えるの? バグなの? そ、そうだよね。それにこう何度も記念配信をする必要はない……よね?』

 

 

 

【コメント】

:チャンネル登録者数は嘘つかないよ?w

:バグを疑わない犬w

真心ココネ :担当さんから[記念配信はしてください]だって

:担当きたw

:記念配信決定おめ!

 

 

 

『うぅぅ、わ、わかりました。内容、考えます……』

 

 

 

――記念ということもあって、いつもの放送だとダメだろう。ただいつも、と言えるほど配信もしていないのでそれほど気にしなくていいだろうか?

 

 

 

【コメント】

:配信オメw

:草

:筋トレ枠は?w

神宮寺カグラ :私もすぐに追いついてみせるわ

:カグラ様草

:カグラ様草

真心ココネ :私とのコラボが記念枠でも良いかもね。一緒にお祝いしましょう?

 

 

 

『うぅ、そ、それも合わせて考えるよ……』

 

 

 

【コメント】

羊沢ユイ :うにゅ、オフコラボ……

真心ココネ :それもいいね

 

 

 

 

『え゛!? お、オフ!?』

 

 

 

 流石に直接会ってしまうと性別がバレてしまう。それだけは何としても防がないと、待っているのは大炎上なのだから。

 

 

 

『と、とりあえず収益化の申請はしておくよ……。あとオフはなしで……。そ、それとで、できたらコラボもなしにしたいな……』

 

 

 

【コメント】

真心ココネ :ユキくんとのコラボは10日の20時から私の枠でやりますよ。皆さん、来てくださいね

:ユキくん、まだ抵抗してるw

:強制されてて草

:www

 

 

 

『うぅぅぅ、わ、わかったよ。男は度胸、女は愛嬌っていうもんね。度胸で乗りきるよ』

 

 

 

 何気なく言った言葉でコメント欄がざわつきだす。

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、それ違うw

:それだとユキくんが男にww

:www

:ユキくんは愛嬌

:度胸もユキくんには大事じゃない?

:でもユキくんは女の子だ?

 

 

 

『あぅあぅ……、そ、それはその……、ぼ、僕はその……もちろん男ではない……ですよ?』

 

 

 

 自分のミスに気づいて、大慌てで訂正をする。

 

 

 

【コメント】

:なぜ疑問w

:ユキくん、またテンパってる

:ママの出番だよ

真心ココネ :ママじゃないですよ

羊沢ユイ :こんなに可愛い子が男の子のはずがない

神宮寺カグラ :……どうせいつものテンパってるだけよ。深く考えるだけ無駄よ

:↑知ってた

:カグラ様がフォローしてて草

:ユキくん可愛いよ

 

 

 

『えっ、あっ、ありがとうございます? で、でも、僕は可愛くはないですよ? 僕よりココママやユイやカグラさんの方が可愛いですし』

 

 

 

 カグラに助け舟を出してもらった僕は心の中でお礼を言いながら、これ幸いにと全力でのっかる。

 

 

 

【コメント】

:可愛いw

:ユキくんは可愛さと愛嬌でできてるよ

:ありえない男疑惑に草

:ユキくんのことを一番わかってるのは実はカグラ様なのか

神宮寺カグラ :当然のことよ

:ポンコツ同士、息が合うんだろうね

:反省会で反省点を増やすの草

 

 

 

『うぅ……、ごめんなさい。僕、どうしても人見知りで、テンパってしまうと何話して良いかわからなくなってしまって……』

 

 

 

【コメント】

:ええんやでw

:ちゃんと謝れてえらいね

:なんだ、俺か

:俺だな

:同志よ

:↑お前たち人見知りすぎ。俺もだが

:大丈夫、俺たちはユキくんのことを信じてるよ

羊沢ユイ :パンツの色は?

 

 

 

『うっ、ぐすっ……、み、みんなありがとう。えっと、パンツの色はく……。っ!?!? ゆ、ユイ、何言わせようとしてるの!?』

 

 

 

【コメント】

:惜しいw

:惜しいw

:く……、黒か!?

羊沢ユイ :ぶいっ

:まさかここまで狙ってたのかw

:草

真心ココネ :こらっ、ユイ。人前でそんなこと聞いたらダメ!

神宮寺カグラ :ユキも女の子はそんなこと言ったらダメよ!

 

 

 

『はぁ……はぁ……、わ、わかったよ……。これは次の反省点として書いておくね。か、書き切れるかな……。新しいノート買わないと……』

 

 

 

【コメント】

:既に一冊使い切ってて草

:前回も今回も暴走してるもんね

:時間がw

 

 

 

『えっ、あっ、本当だ!? い、犬好きの皆さん、今日もありがとうございまし――』

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯犬拾いました》昨日の反省。雑談枠 《雪城ユキ/シロルーム三期生》』

2.4万人が視聴 0分前に公開済み

⤴8,734 ⤵14 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ

チャンネル登録者数5.3万人

 

 

 

◇◇◇

【コメント】

:途切れてて草

:w

:w

:最後の最後まで反省点を増やしていく犬

:↑段ボールだろ!



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第6話:友達の友達は知り合い?

――うぅ……、やってしまった……。

 

 

 気を抜いていたわけじゃないけど、予想外だった。男だとバレてしまうと大炎上。

 それが怖くてカタッターとかも見ることができない。

 

 

 

「あっ、そうだ。スマホの通知音、つけておかないと。……あっ!?」

 

 

 

 音を消していたから気づかなかったが、既にいくつかのチャットが届いていた。

 

 記念配信のこともそうだったが、他にもいくつか来ている。

 

 

 

ココネ:[ユキくん、お疲れ様。今日もハラハラしたね]

 

ユイ :[ユキくんのパンツの色は黒]

 

カグラ:[まぁ、一人では頑張ってたんじゃないかしら?]

 

マネ :[あとからじっくり反省会をしましょうね]

 

 

 

「うぐっ……」

 

 

 

 今日もまた反省会が確定してしまったようだ。

 そのチャットを見て思わずうなだれてしまう。

 

 確かに自分の性別は特秘事項だ。

 ちょっとしたことでもバレないようにすることは必須だった。

 だからこそ、素直に頷く。

 

 

 

ユキ :[お、お手柔らかにお願いします……]

 

 

 

◇◇◇

 

【シロルーム3期生】雑談スレPart3【拾ってください】

 

 

 

22:名無しのシロ三期推し

 昨日の配信見たか? ユキくん男疑惑

 

23:名無しのシロ三期推し

>> 22

 何言ってるんだ? あんな可愛い声の子が男のはずないだろう?

 

24:名無しのシロ三期推し

 それは確かにな。むしろわざと疑惑になるようにした気もするな

 

25:名無しのシロ三期推し

>> 22

 普通にキャラ付けだろうな。

 

26:名無しのシロ三期推し

>> 23

>> 25

 そうだよな。確か三期性は女性限定の募集だったもんな。

 

27:名無しのシロ三期推し

 まず面接で落とされるやつ

 

28:名無しのシロ三期推し

 そういえばそうだったな

 

29:名無しのシロ三期推し

 みんなユキくんで盛り上がりすぎw

 

30:名無しのシロ三期推し

 それよりお前ら、来週はついにユキくんの初めてだぞ

 

31:名無しのシロ三期推し

>> 30

 言い方w

 

31:名無しのシロ三期推し

>>30

 www

 

32:名無しのシロ三期推し

 おいっ、お前ら。この時間にゲリラコラボが始まったぞ!!

 

33:名無しのシロ三期推し

>>32

 コラボ!? まだココユキのコラボしか決まってなかったんじゃないのか!?

 

34:名無しのシロ三期推し

>>32

 しかもタイトルが『戦争勃発』!? 一触即発の雰囲気じゃないか!? 

 

35:名無しのシロ三期推し

 見に行ってくる

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 二回目の配信でも説教を受けてしまったので、睡眠不足だった。

 まだ若くて徹夜もできる、とは言われるけど、そんなことはない。眠いものは眠いのだから。

 

 大学の講義中に机に頬を付けて眠っていた。

 

 しかし、さんさんと照りつけてくる太陽に向けて目を少し開けて呟く。

 

 

 

「日がまぶしい……。太陽、墜ちないかな……」

 

「何恐ろしいことを言ってるの?」

 

 

 

 ゆっくり見上げるといつの間にか隣には結坂(ゆいさか)がのぞき込むように見てきた。

 それに驚くほどの元気もなく、顔だけそちらを向ける。

 

 

 

「結坂さん……、ごめんね、僕、ちょっと眠たくて……」

 

「何かしてたの? あっ、もしかして動画かな? 新しく配信したの?」

 

「えっと、うん……。したことはしたんだけど……」

 

「そっか……、もしかして視聴者とかお気に入り登録者数が気になって寝られなかったのかな? 私もそんな経験あるなぁ……」

 

「あっ、えっと……」

 

 

 

――そういえば昨日の視聴者数は結局見ていなかった。配信前に既に数千人いたことだけはわかっているけど……。

 

 

 

「そ、そうだよね。う、うん、普通はそう……だよね?」

 

 

 

 むしろ僕としては一人でも少ない方がいい、と思っている。

 こんなことを担当の舞に言ってしまうとまたお説教が始まるので口には出さないけど。

 

 

 

「うんうん、わかるよ。私もそうだったもん。ずっと張り付いていて、全然伸びないなぁってカタッターで呟いたり……、あっ、そうだ。よかったら小幡くん、MINE交換しない?」

 

「えっと、僕その……入れてなくて……」

 

「あっ、それじゃあ今入れてよ。私、第一号になるから――」

 

「う、うん、わかったよ」

 

 

 

 結坂に急かされるがままMINEを入れる。

 そして、結坂に教えてもらいながら彼女の連絡先を入れると嬉しそうな笑みを浮かべてきた。

 

 

 

「やった、小幡くんの初めてをもらっちゃった」

 

「ちょ、ちょっと、言い方!?」

 

「あははっ、今流行の言い方だよね。それじゃあ今夜にでも連絡入れるよ。それより、私そろそろ帰るね。小幡くんはどうするの?」

 

「えっと、講義は?」

 

「もうとっくに終わってるよ。小幡くんが寝てる間にね」

 

 

 

 どうやら休憩だと思っていたが、すでに終わっていたようだった。

 

 

 

「それじゃあ僕も帰ろうかな」

 

 

 

 今日の配信もどうするか考えないとだもんね。

 

 

 

「確か小幡くんも駅の方向だよね? それなら途中まで一緒に帰ろ!」

 

「えっと、い、いいけど……」

 

「よーし、それじゃあ、ゴーゴー!」

 

 

 

 結坂に手を掴まれて大学を後にしていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「小幡くんってこのあと、何するの? 私、駅前のカラオケ店で友達と会うんだけど、一緒にどうかな?」

 

 

 

 駅に向かっている途中で結坂が悪魔のような提案をしてくる。

 今でも一杯一杯になっているのに、結坂の友達が加わると話なんてできる自信がなかった。だからすぐに首を横に振っていた。

 

 

 

「そ、その……、ぼ、僕はこれから帰って配信の準備をしないとだし……」

 

「そっか……。残念だなぁ。その子もきっと小幡くんのことを気に入ると思ったのに……」

 

 

 

 本当に残念そうにする結坂。

 もっと押してこられると思ったので、ホッとため息を吐く。

 

 

 そして、カラオケ店の前にくる。

 そこには一人の女性がスマホを触りながら誰かを待っていた。

 長い癖がかった茶髪。僕よりも十センチ以上高くスタイルの良い女性だった。

 

 白のシャツワンピースとベージュのワイドパンツというお洒落な着こなしをしている女性で(ぼっち)としては近寄りがたい存在でもあった。

 

 どうやら、その女性が結坂の友達のようだった。

 

 

 

「待った?」

 

「ううん、今来たところ。それよりもそっちの子は?」

 

「同じ大学の友達。小幡くん、この人は大代(おおしろ)こよりさん。私たちより一歳年上の大学三回生で、配信もしてる人なの。私もいろいろと教えてもらってるんだ」

 

「あっ……、そ、そうなんだ……」

 

「ねぇねぇ、小幡くんも一緒にコラボ配信、なんてどうかな?」

 

 

 

 結坂が笑みを見せながら言うが、大代は少し難色を示していた。

 

 

 

「ほらっ、今日はもうカタッターで予告してるでしょ? それに私の枠だから――」

 

「あっ、そっか……」

 

「ぼ、僕はか、帰りますね。よ、用事もあるから……」

 

 

 

 僕からすれば女性(ゆいさか)たちは眩い。

 直接視界に入れてしまっては目がやられてしまう。

 

 それから身を守るため、逃げるように去る。

 

 

 

「あっ、またね。小幡くん」

 

「う、うん、また……」

 

 

 

 軽くお辞儀だけして走っていった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 カラオケ部屋へと案内された後、結坂はドリンクバーでジュースを取ると、残念そうに言う。

 

 

 

「……逃げられちゃった」

 

「全く……相変わらずね、ユイ。いえ、今は彩芽(あやめ)だったわね」

 

「うん、間違えたらダメだよ。こより」

 

「二人しかいないからつい……ね。でも、可愛い子だったね。配信してる子……なんだよね? 私は知らないけど」

 

「そうみたい。多分ユキくんを見て、配信しようと思ったんだろうね。わざわざユキくんのロゴを印刷したブックカバーを使ってるくらいだし」

 

「そっか……、でもそれなら尚更ダメでしょ。もし私たちがココネとユイってバレてしまうと騒ぎになってたよ」

 

「えーっ、きっとコラボしたら楽しいのに……」

 

 

 

 結坂は深く考えずに楽しそうかどうかで決めるところがある。

 今日も初めてのオフコラボをすると言うからこうやって待ち合わせたのに、友達連れで来ていたわけだから。

 

 

 

「でも、あの怯え方……。本当のユキくんってことはないよね?」

 

「あははっ、ないない。だって小幡くんは男の子だよ?」

 

 

 

 結坂があっさりと否定する。その言葉を聞いて、こよりは目を見開いて驚く。

 

 

 

「えっ!? う、嘘でしょ? どう見ても女の子だったよ? それも中学生か高校生くらいの……。女性ものの服とか似合いそうだし、着せ替えとかしてあげたいな……」

 

「むぅ……、もしかしてこより、私のことも中学生くらいに思ってない?」

 

 

 

 ジト目を向ける結坂に対して、こよりは乾いた笑みを浮かべていた。

 

 

 

「あ、あはははっ、な、なんのことかなー?」

 

「わかった、これはもう戦争だよ! そんなメロンを抱えてるママには負けないの!」

 

 

 

 結坂は胸を見比べて、こよりのことを涙目で睨む。

 

 

 

「カラオケの採点で勝負だね。負けないよ」

 

「私が勝ったらユキくんとの初コラボの座はいただくよ」

 

 

 

 ビシッと指を突きつける結坂。

 こよりはそれに動じることなく返事をする。

 

 

 

「歌で私に勝てると思ってるの? 返り討ちにしてあげるよ」

 

「歌唱力の違いが、採点の決定的差ではないことを教えてやるの!」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 真心ここね@シロルーム三期生  @kokone_magokoro 5分前

16時から羊沢ユイちゃんとカラオケゲリラオフをはっじめーるよー❤️

#生マ #ココユイ

 

 @9  ↺74  ♡15

 

 

 

 電車に乗っている時にその呟きを発見した。

 

 どうやらココネとユイがコラボするようだった。それもオフ会で。

 

 

――あの二人ってそんなに仲が良かったんだ……。も、もしかして、そのうち僕もオフでコラボしろ……なんて言ってこないよね?

 

 

 少し嫌な予感はしたものの、今回は関係ないので二人の応援をしておく。

 

 

 

 雪城ユキ@シロルーム三期生 @yuki_yukishiro 今

返信先:@kokone_magokoro

わふー、2人ともがんばれー(・ω・)

 

 

 

 打ち間違えて、顔文字がすごく真顔だったが、これも僕らしい、と納得することにした。

 そのままスマホを消そうとすると僕のリプに更にリプがつく。

 

 

 

 羊沢ユイ@シロルーム三期生 @Yui_Hitsuzisawa 今

うにゅー、ユキくんも来る? 一緒にオフしようなの(੭ु˙꒳˙)੭ु⁾⁾ばんばん

 

 雪城ユキ@シロルーム三期生 @yuki_yukishiro 今

ぼ、僕はまだ外で……。それにオフはちょっとムリ……

 

 真心ここね@シロルーム三期生  @kokone_magokoro 今

そこ、さりげなくユキくんの初めてを奪おうとしないでください。私のものですよ!

 

 羊沢ユイ@シロルーム三期生 @Yui_Hitsuzisawa 今

うみゅー、今日の賭けはそれなの。ユキくん、覚悟してなの。ゆいがユキくんの初めてをもらうの(੭ु˙꒳˙)੭ु⁾⁾

 

 雪城ユキ@シロルーム三期生 @yuki_yukishiro 今

ちょ、ちょっと、言い方!? と、とにかく僕も見に行くから変なことはしないでね

 

 

 

 それだけ言うと家に帰ってすぐに部屋へと向かい、チャンネルへと飛んでいた。

 

 

 

◇◇◇

『《戦争勃発》ユキくんの初めて争奪カラオケゲリラオフ《真心ココネ/羊沢ユイ/シロルーム三期生》』

3,578人が待機中 20XX/05/07 16:00に公開予定

⤴174 ⤵2 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

【コメント】

:待機

:タイトルw

:不穏だねw

:w

:わくわく

:待機

 

 

 

――あっ、なんだ、カラオケか。もっと殺伐としたことをするのかと不安になったけど、案外平和的で良かった。

 

 

 

雪城ユキ :ってなんで僕が景品になってるの!?

:景品いて草

:ユキくんだw

:ユキくんは参加しないの?

:あとカグラ様がいれば三期生全員集合か

:カグラ様は争奪しないの?

神宮寺カグラ :私は奪い取る側よ。

:ユキくん争奪戦だw

雪城ユキ :そ、それなら僕も勝負する側に……

:ユキくん参戦しましたw

 

 

 

 ついつい書き込んでしまったら、コメ欄で更に盛り上がりを見せてしまう。

 そして、その盛り上がりのまま配信がスタートされる。

 

 

 

ココネ:『ココフレのみんなー、ここにちはー。真心ココネですよー』

 

 

 

【コメント】

:ココママー

:ココママー

:ココママー

:ココママー

雪城ユキ :ココママー

:ココママー

:ココママー

 

 

 

ココネ:『ママじゃないですよー。あと景品(ユキくん)も来てたんですね』

 

 

 

――なんだろう。すごく身の危険を感じたんだけど。

 

 

 

 思わず背筋が凍り付くような気がした。

 でも、それを気にすることなく、ココネは話を続ける。

 

 

 

ココネ:『では、今日のコラボ相手に来てもらいますね。白いもこもこの下には黒い闇が埋まってる。羊沢ユイちゃんですー』

 

ユイ :『うみゅ、うるさいの……』

 

 

 

 相変わらず眠そうな声を出しながらユイは登場する。

 ただ挨拶じゃなくて、迷惑そうにココネに対して言っていた。

 

 

 

【コメント】

:うみゅー

:うみゅー

:うみゅー

雪城ユキ :ユイ、寝てた?

 

 

 

ユイ :『うみゅー、待っててなの、ユキくん。ゆいが魔の手から救って上げるの』

 

ココネ:『だ、誰が魔の手ですか!? で、では、今日の動画の説明をさせていただきます。今日はユイちゃんと二人でカラオケ店へ来ております』

 

ユイ :『うにゅ、うるさくて眠れないの』

 

ココネ:『ね、寝ないでください!?』

 

 

 

【コメント】

:相変わらずの天然w

:ココママの方がロリなのにw

:www

雪城ユキ :このまま引き分けでコラボなしにならないかな?

:ユキくん草

:ユキくんが逃げようとしてるw

 

 

 

ココネ:『ゆ、ユキくんも逃げないでください! 十日のコラボはもう決まってますからね!?』

 

ユイ :『うみゅ、その前にゆいとのコラボを入れてやるの……』

 

 

 

【コメント】

雪城ユキ :えっ、ユイが勝ったらコラボ増えるの? こ、ココママ頑張れ……

神宮寺カグラ :私が代わりに奪おう

:ユキくん草

:カグラ様もw

:二人ともwww

 

 

 

ココネ:『ふふふっ、ユキくんの応援があったら私は負けませんよ』

 

ユイ :『うみゅー、裏切られたの……』



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第7話:大戦争!? ユキくん争奪カラオケ対決ゲリラオフ

ココネ:『それじゃあ、まずはマシュマロを答えていくよー』

 

ユイ :『うみゅー、おまかせするのー。終わったら起こしてなのー』

 

ココネ:『ちょ、ちょっと、待ってください! ほらっ、私が答えるのですから、ユイちゃんが読んでください』

 

ユイ :『面倒なのー……』

 

 

 

 ユイは本当に面倒そうな声を出していた。それをココネは呆れた様子で見ていた。

 

 

 

ココネ:『いいから早く! そうじゃないと本当に今日の対決は引き分けでカグラさんが初コラボということになりますよ!』

 

 

 

【コメント】

:草

:w

:w

:ユイちゃんは相変わらずだったw

神宮寺カグラ :ガタッ

カグラ様が反応してるw

雪城ユキ :ぼ、僕がコラボしない道も……

 

 

 

ユイ :『うにゅー、それは絶対にダメなのー。仕方ないから読むの。[ココママは誰のママなのですか? 僕のママになってもらえませんか?]。うん、どうぞなの』

 

ココネ:『か、勝手にあげないでください! 私は誰のママでもないですよ。ただ、誰かのママになりたいとしたら……ユキく――』

 

ユイ :『次の質問は[ココママは何歳なのですか?]。えっと、二十歳なの』

 

ココネ:『勝手に答えないでくださいー! それに私がユキくんのママって言うところも割って入らないでください!』

 

 

 

【コメント】

:w

:w

:草

:ココママ、二十歳なんだ

:一応公式設定にも載ってたな

:ユイちゃんにいいように手玉に取られるココママ

雪城ユキ :ココママは僕のママだよ

 

 

 

ココネ:『ゆ、ユキくん……』

 

ユイ :『うにゅ、いい加減ママということを認めるの。さて、それじゃあ次行くの。[ココママがてぇてぇすぎて――]、うん、これは違うね』

 

ココネ:『ちょ、ちょっと、勝手に省かないでくださいよ!? わ、私が読みますよ。なになに、[ココママがてぇてぇすぎて、夜もご飯三杯しか喉に通りません。ところで今日のパンツの色は何ですか?]って、何言わせようとしてるのですか!?』

 

ユイ :『うにゅ、だから省いたのに……。ちなみにゆいの今日のパンツは――』

 

ココネ:『言っちゃダメーーーー!!』

 

 

 

 ココネの大声が響き渡る。

 

 

 

【コメント】

:ママ叫ぶw

:惜しかったw

:ユイちゃん策士w

:食べすぎw

 

 

 

ココネ:『はぁ……、はぁ……、そ、それじゃあそろそろ歌の方へ行きましょうか? 私の本領発揮ですね』

 

ユイ :『うにゅ、店員さん、そろそろお会計を――』

 

ココネ:『だ、ダメですよ!? まだ入って一時間も経ってないんですから』

 

ユイ :『うみゅ、もうゆいの勝ちでいいから終わるの……』

 

ココネ:『なんで歌わずに負けを認めるのですか!? こうなったら圧倒的差で勝っちゃうからね』

 

ユイ :『うにゅ、胸の差が勝敗の決定的差だと言うことを教えてあげるの』

 

ココネ:『な、なんの勝負なのですか!?』

 

 

 

【コメント】

:草

:w

:ココママはママだけど、ロリだもんな

神宮寺カグラ :胸の差なら私が圧倒的だな

:圧倒的絶壁w

神宮寺カグラ :そ、そんなことあるはずないわよ!?

 

 

 

 カグラが適当にコメント欄で弄られ始めたタイミングで、音楽が聞こえてくる。

 

 テレビでよく流れている音楽。

 

 

――誰が歌ってたんだったかな?

 

 

 ここ最近動画配信くらいしか見ていなかったので、誰が歌っていたのかわからなくなる。

 ただ、その曲を歌っているココネの声はとても綺麗で、思わずコメントを書くのをわすれてしまう。

 

 

 

ココネ:『〜〜♪』

 

ユイ :『うにゅ、うまいの……』

 

 

 

 ココネが歌い終わるとユイが悔しそうに口を噛み締めていた。

 

 

 

【コメント】

:88888

:88888

:88888

:88888

雪城ユキ :88888

:88888

神宮寺カグラ :88888

美空アカネ:88888

:一期生筆頭が見にきてて草

:暴走特急だ!

 

 

 

ココネ:『えっ、あ、アカネ先輩!? スパナつけますね』

 

ユイ :『うにゅー、おひさー』

 

ココネ:『こらっ、ユイ。なんてことを言ってるの!?』

 

 

 

【コメント】

美空アカネ :いいよいいよ、そのくらい。それよりどこ?

:いきなり場所を聞くw

:相変わらずの暴走特急w

 

 

 

 

ココネ:『えっと、場所を教えてもいいですけど、放送は終わってますよ、来られる頃には』

 

 

 

【コメント】

美空アカネ :なーんだ、じゃあやめとくよ。あと、ユキくん。三万人突破記念イラスト出来てるから使ってね。エチエチに描いたからね

:ユキくんのえっち画像!?

:ちょっと待て。バンされるぞ!?

:その前に見ないと!

雪城ユキ :ちょ、ちょっと待てください。僕、そんなこと聞いてないですよ!?

美空アカネ :うん、今言ったからね。じゃあねー

 

 

 

 とんでもないことを言い残した後、美空は姿を眩ませていた。

 そして、すぐにチャットの通知が鳴る。

 

 

 

――あ、あれっ? 誰だろう?

 

 

 

 ココネとユイは今配信しているからこないだろうし、カグラとはまだ個別で連絡を取り合ったことはない。

 そう考えると考えられるのは担当さんから……。

 

 

 

――で、でも、何か問題を起こしたわけでも――。

 

 

 

 僕は途中で固まってしまう。

 問題で言えば起こしていない数の方が少ない。

 またお説教か……、と少し気持ちが沈みながらチャット画面を開く。

 

 

 

アカネ:[やっほー、ゆっきくーん]

 

 

 

「わっ!?」

 

 

 

 予想外の相手からの連絡で思わず身じろいでしまう。

 

 

 

ユキ :[こ、こんにちは、美空先輩]

 

アカネ:[はははっ、そんな緊張しなくていいよ。先ほど言ったでしょ? イラストだよ、早速使ってね]

 

 

 

 それだけ言うとアカネは一方的にユキくんのイラストを送りつけてくる。

 

 白のワンピースタイプの水着を着ているユキくん。フリルがたくさんあしらわれて、とても可愛く描けているところをみると、さすがアカネと言わざるを得なかった。

 その上からは犬柄の黄色い半袖パーカーを着ているので、水着としては比較的露出は少ない方だろう。

 いつもならフードを被っているが、水着バージョンは被らずにぼさぼさの茶色い髪と犬の髪留めが見えている。

 

 

 

ユキ :[あ、ありがとうございます、美空先輩]

 

アカネ:[もう、アカネでいいよ。それに合わせた2Dイラストも送るし、水着で動くユキくんを楽しみにしてるよ、今晩]

 

ユキ :[え゛っ!?]

 

 

 

 絵だけなら貼ればおしまいだが、動くとなるとまた別だった。

 

 ある意味僕の魂がアバターに入っているようなもの。

 いかにも女性らしい格好をしてしまうと本当に女性になってしまっているのでは、と錯覚させられてしまう。

 

 だから抵抗はあるものの、これだけ素晴らしいものを渡されてしまうとやらないとは言えなかった。

 

 

 

アカネ:[あと、ユキくん段ボールハウスの種類も増やしたからそっちも使ってね]

 

ユキ :[あ、ありがとうございます。今度使わせてもらいます]

 

 

 

 

 もらった以上、アバターは水着バージョンにしないといけない。僕の性格を考えてわざわざ露出の少ないワンピースタイプにしてくれたのだから。

 

 それに動かすのが僕自身、と言うことを考えなければイラストはとても可愛かった。

 これを見せない、ということは考えられなかった。

 

 

 

アカネ:[それじゃあ、渡したからね。あと、今度コラボしようね]

 

ユキ :[はいっ。……えっ!?]

 

 

 

――何か変な言葉を見た気がする。

 

 

 ついつい初めの文字で返事をしてしまったが、よくよく見るとコラボについてまで書かれてあった。

 

 

 

アカネ:[あははっ、言質とったからねー。担当さんにいつにするか聞いておくよ]

 

ユキ :[あうあう、お、お手柔らかに……]

 

 

 

 承諾をしてしまったので、そこから断ることもできず、頷くしか出来なかった。

 

 

 

アカネ:[聞いてた通り、いい子だね。騙し打ちみたいに言ったから拒否することもできたのに]

 

ユキ :[そ、その、嘘だけは良くないですから]

 

アカネ:[ふふっ、楽しい子だね。ほどほどに加減してあげるよ。それじゃあ、またねー]

 

 

 

 アカネと話している間にユイの歌も終わっていた。

 

 

――全く聞けなかった……。

 

 

 少し残念に思いながら結果を聞く。

 

 

ココネ:『うっ、ま、負けた……』

 

ユイ :『ぶいっ』

 

 

 

【コメント】

:これは予想外の結果に

:ココママ敗北

:信じられない

 

 

 

 コメントを見る限り、ユイが勝ったようだ。

 ただ、歌に関しては絶対の自信を持っていたココネが負けた、ということを信じられなかった。

 

 

 

【コメント】

雪城ユキ :い、一体何があったの!?

 

 

 

ユイ :『うにゅ、音程の通りに歌うだけなの。採点ゲーム(・・・)ならゆいに負けはないの』

 

ココネ:『うぅ……、このままだとユキくんが……。ま、負けないですよ』

 

ユイ :『歌のうまさが採点の決定的差ではないことを教えてやるの』

 

ココネ:『うぅ、みんな、私に力をわけてくださいー!』

 

 

 

【コメント】

:w

:w

:w

:パロw

雪城ユキ :ココママ、頑張れ。これ以上コラボが増えたら僕の体がもたないよ……

:二人が真剣勝負してる間にユキくんがコラボ増やしてる件w

 

 

 

ココネ:『ユキくん? どういうことですか?』

 

ユイ :『……ギルティ?』

 

 

 

【コメント】

:修羅場きたーw

:ユキくんピンチw

:さて、ユキくんの回答は?

 

 

 

――こうなったら放送から離れて……。

 

 

 

ココネ:『あっ、逃げないでくださいね。今グループ通話に繋げますから』

 

ユイ :『うにゅ、ユキくんアバターを登場させて……と』

 

 

 

 勝手にユキのアバターが表示されてしまう。

 そして、本当にキャスコードから通話がかかってくる。

 

 

――この通話、出なくても……。

 

 

 

ココネ:『もし、出なかったらユキくんとのコラボはお泊まりオフコラボにします』

 

『こ、怖いよ!? それになんで僕の考えを読んでるの!?』

 

 

 

 ココネの言葉に思わず通話に出て声をあげてしまう。

 

 

 

ココネ:『ユキくん、わかりやすいですからね。と、いうことで皆さんお待ちかね、雪城ユキくんの登場です!』

 

ユイ :『ぱちぱちー』

 

 

 

 やる気なさそうなユイの声が聞こえて来る。

 それに合わせてコメントも一気に流れていく。

 

 

 

【コメント】

:88888

:88888

:88888

:88888

:ユキくんだw

 

 

 

『ゆ、雪城ユキです。みなさんこんにちは。じゃ、じゃあもう出たからもう良いよね? それじゃあ僕はこれで。お疲れさ――』

 

ココネ:『まだ帰ったらダメですよ? それよりも誰とコラボすることになったのですか? カグラさんですか?』

 

 

 

【コメント】

神宮寺カグラ :私なのか? 何も聞いてないけど

:w

:w

:カグラ様じゃなかったw

 

 

 

ユイ :『うみゅ、それならゆいともコラボするの。明日で良い?』

 

『ちょ、ちょっと待ってよ。こ、コラボはアカネ先輩からだよ。その……イラストももらっちゃったし、うっかり僕が頷いちゃって――』

 

 

 

【コメント】

美空アカネ :ふふふっ、ユキくんの2回目は私のものだ!

:出た、暴走特急w

:まさかユキくんに突撃したのか?

:ユキくんじゃ暴走特急を抑えることなんてできないんじゃないか?

:早く海星パイセンを呼んでくるんだ!

:ユキくんの身が危ないぞ!

 

 

 

――なんだろう。アカネ先輩、すごい言われようだった。

 

 

 いや、動画を見たらわからなくもない。

 常に興味を持った方向へ全力に突っ込む。

 

 それを抑えることができるのは数少ない。

 

 

 

ココネ:『ゆ、ユキくん、そのときは私も呼んでね。ユキくんは私が守るから……』

 

ユイ :『うみゅ……、骨は拾って上げるの……』

 

『ちょっと待って!? どうして僕、死ぬ流れになってるの!?』

 

ココネ:『だ、だって相手はアカネ先輩ですよ!? シロルームで一番危険な人ですよ!? ユキくんも警戒なくポンポン受けたらダメですよ!』

 

『うっ……、ご、ごめんなさい……』

 

 

 そこまで危険な相手とは思わずにみんなに心配をかけてしまった。

 さすがに反省をせざるを得なかった。

 

 

 

【コメント】

美空アカネ :酷い言われようじゃないかな? 何もしないよ? ただ喋るだけで

海星コウ :全く、余計なトラブルを起こさないでよ!

:飼育員きたーw

:海星パイセン、お持ち帰りお願いしますw

 

 

 

 コメント欄に一期生の海星コウ(かいせいこう)が現れたことで、コメントが更なる盛り上がりを見せていた。

 そんなタイミングでユキのスマホから通知音が鳴る。

 

 

『あれっ? 担当さんからだ……。[コラボはアカネ先輩とコウ先輩、二人一緒にしてもらいます。ユキくん一人だとまだ危ないので。あとコラボ配信をするのはシロルームの規約上、一月先になる]らしいです。断ることは……できないみたい』

 

ココネ:『コウ先輩がいるならまだなんとか……』

 

ユイ :『うにゅ。ユキ、がんばっ。ゆいのコラボも忘れないでなの』

 

『うん、ありがとう、ユイ……って、また!?』

 

ユイ :『うみゅ、みんな聞いてたよね? ユキくんとのコラボが決定なの』

 

ココネ:『ユキくん……、素直すぎます……』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん草

:草

:w

:w

:w

:ユイちゃんは策士(自称)だもんな

:今のはユキくんが素直すぎるでしょw

:またってことは暴走特急の方も……

美空アカネ :なるほど、これをすればユキくんとコラボし放題……

海星コウ :ユキくんに嫌われたいの?

美空アカネ :こ、今回だけだよ

 

 

 

『わ、わかったよ……。約束したのは僕だし、いつかしないといけないことだもんね。頑張るよ……。えっと、日にちは五年後くらいで良いかな?』

 

ユイ :『ゆみゅ、長いの! 一応ココママが最初って決まってるから次の日がゆいなの! アカネ先輩は五年後で良いの!』

 

 

 

【コメント】

美空アカネ :私は今からでも良いんだぞ? 服を脱いで待ってる!

海星コウ :じゃあボクはアカネにかける氷水を準備しておくね

美空アカネ :やっぱり服を着て待ってる。だから氷水はやめて

:なんだろう、このカオス空間

:別にいつものシロルームだろう?

:それよりカラオケ対決はどうなったんだ?

:満点を取ったユイちゃんの勝ちだろう? どうやってもココママは引き分けしか取れないわけだし

 

 

 

『あっ、そっか。カラオケ対決の邪魔したらダメだね。僕は今度こそ消えるね』

 

ココネ:『うん、またね』

 

ユイ :『うみゅ、ばいばーい』

 

 

 

 二人に見送られて、通話終了を押す。

 そして、僕がいなくなってからは再びカラオケ勝負が始まっていた。

 

 二時間にも及ぶ勝負の末、ココネも満点をたたき出し、勝負は引き分けに終わっていた。

 ただ、僕としては二人とコラボをすることになってしまったので、この勝負自体に何の意味もないけど。

 

 

 

ココネ:『中々やりますね、ユイちゃん』

ユイ :『うにゅ、そっちも。まさか追いつかれるとは思わなかったの』

 

 

 

 二人の中で熱い友情が芽生えていた。

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《戦争勃発》ユキくんの初めて争奪カラオケゲリラオフ《真心ココネ/羊沢ユイ/シロルーム三期生》』

1.4万人が視聴 0分前に公開済み

⤴4,326 ⤵94 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:kokone_Room.真心ココネ

チャンネル登録者数3.3万人

 

 

 

◇◇◇

【コメント】

:いい話だったw

:あれっ、最終回?

:俺たちの戦いはこれからだ

:ココユイ、いいね

:引き分けに見えてユキくんの一人負けw

:確かにw

 



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第8話:三万人記念コラボ配信

 雪城ユキ@シロルーム三期生 @yuki_yukishiro 4時間前

本日、20時からココママ(@kokone_magokoro)と一緒にライブ配信します。

記念配信と言うことでココママの枠ではなく、僕の枠ですることになりました。わふー ♯犬拾いました ♯ココユキ

 

 @654  ↺1.1万  ♡2.0万

 

 

 

 ついにココネとコラボをする日になってしまった。

 ただ、自然とそこまで怯えていなかった。

 

 それもそのはずでココネとはすでに二回コラボ……といって良いのかわからないけど、コラボをしている。

 

 一番話しやすい相手だった。

 

 

 

ココネ:[そろそろだけど、ユキくん、大丈夫?]

 

ユキ :[うん、なんとかなりそう]

 

 

 

 ちょっと前までだとすぐに逃げ出したくなっていたのが、嘘みたいだった。

 これも何度も配信を経験したからだろう。

 

 

 

ココネ:[でも、アカネ先輩からもらったイラストを使うんでしょ? 本当に大丈夫?]

 

ユキ :[……あっ!?]

 

 

 

――すっかり忘れていた。

 

 

 三万人記念に使うのはユキくんの水着イラストとアバター。

 さすがにその恥ずかしさは普段の格好の比ではない。

 

 

 僕が水着アバターの少女を動かしている。

 ……変態以外の何者でもない。

 

 それを思い出した瞬間に急に恥ずかしくなる。

 

 そして、胃が痛くなってくる。

 

 

 

ココネ:[もう告知してますから辞められないですよ?]

 

ユキ :[ま、まだ何も言ってないよ!?]

 

ココネ:[だから、言わなくてもわかりやすいんですよ、ユキくんは]

 

ユキ :[ちょっと緊張してきただけだから大丈夫だよ]

 

ココネ:[それならいいけど、でも、本当に無理してるなら言ってくださいね]

 

ユキ :[うん、ありがとう。それじゃあそろそろ放送時間だから]

 

 

 

 すでに配信時間の五分前。

 そろそろ準備をしておいた方がいいだろう。

 

 

 

◇◇◇

『《♯犬拾いました ♯ココユキ》登録者数三人記念コラボ配信。他にも色々と報告があるよ《雪城ユキ/真心ココネ/シロルーム三期生》』

1.8万人が待機中 20XX/05/10 20:00に公開予定

⤴774 ⤵0 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

【コメント】

:3万人おめでとー

:5万人おめでとー

:おめでとー

:ユキくん、おめでとー

:相変わらずの開幕段ボールw

:おめでとう

:開幕段ボールにも慣れてきたなw

:でも、今日は初コラボだろう?

:ユキくんの場合、初配信コラボとかあったからな

:今日もてぇてぇの予感

:よく見ろ! 三人だw

:本当だw

 

 

 

 今日もかなりの待機者がいる。

 やはり、記念配信ということとコラボということもあるのだろう。

 今日も相変わらず画面中央に段ボールが一つ、置かれただけの配信画面。

 

 まさかそれが変わると思っていない視聴者たち。

 

 

――やっぱり緊張してきたかも。

 

 

 大きく深呼吸をして、配信開始を押す。

 

 

 

『わ、わふぅ……、犬好きのみなさん、こんばんはー。き、今日も拾いに来てくれてありがとうございます……』

 

 

 

 段ボールの中からちょっとだけ顔を出して、すぐにまた段ボールの中へと戻っていく。

 

 

 

【コメント】

:わふー

:わふー

:あれっ? 今日はすぐ隠れた

:段ボールユキくんw

:いつものw

:なら俺が拾って行きますねw

:やめろ、俺が拾う!

:通報しました。ユキくんは俺が拾う

:草

:草

 

 

 

『あのあの、み、みなさん、今日はぼ、僕のお気に入り三人記念配信に来てくれて、ありがとうございます。なんか桁がおかしいことになってますけど、本当は三人だと思ってます。ただ、誤表示でも嬉しいです。ありがとうございます』

 

 

 

 チラっと顔を見せる。すると勘の鋭い人に気づかれてしまう。

 

 

 

【コメント】

:誤表示草

:お気に入り3人記念配信w

:3人か。俺が貴重な1人だな

:俺もそのうちの1人か

:俺も入ってるぞ

:俺もだな

:すでに4人いて草

:ユキくん、いつものパーカーを着てないな

:そういえば普通に髪が見えてるな

:まさか新衣装!?

:報告があると言ってたもんな

 

 

 

『あうあう……、と、とりあえず今は五人になってますけど、三人、ありがとうございます』

 

ココネ:『もう、ユキくん! 三万人、ですよ! 記念配信なんだから頑張りましょう!』

 

 

 

 紹介の前にココネが現れて、注意をしてくる。

 

 

 

『で、でもでも、この僕に三万人もお気に入りがいるなんておかしいよ。ほ、ほらっ、きっと今日はココママの三万人記念配信なんだよ。ココママも超えてたよね?』

 

ココネ:『えぇ、超えてましたよ。それより、なんで私、段ボールと話をしてるのですか?』

 

『えとえと、僕は段ボールだから……かな?』

 

 

 

【コメント】

:段ボールだと認めてて草

:ココママも3万人おめでとー

:今日もココママのツッコミが冴え渡る

:まだ早い。何か爆弾を用意してそうだ

 

 

 

ココネ:『そんなわけないですよ……。アカネ先輩とコラボの約束をしてまでそのアバターをもらったんですよね? 私もまだじっくり見てないから見せてくれませんか?』

 

『うぅ……、ココママは普通の服だからいいんだよ。さ、流石にこの時期に水着は恥ずかしいよ……』

 

 

 

 ココネが苦笑を浮かべている横で真っ赤になりながら言う。その際に再びちょっとだけ顔が見える。

 

 

 

【コメント】

:み、水着だと!?

:ユキくんの水着!?

:ほ、本当だ、いつものパーカーじゃない!

:び、ビキニなのか!?

:わくわく

 

 

 

ココネ:『ほらっ、みんな待ってますよ。ユキくん、出てきてください……』

 

『わ、わかったよ……。そ、それじゃあ……』

 

 

 

 確かにコメントを見てもみんな期待していることは良くわかる。

 だからこそ僕は頑張って少しだけ顔を出す。

 フードを被っていないので、少しボサッとした茶色の髪と犬の髪留めが画面に映る。

 

 

 

『ど、どうかな……』

 

ココネ:『うん、ユキくんの顔が今までよりもはっきりと見えますね。でも、みんなが見たいのは頭じゃないですよね?』

 

 

 

【コメント】

:段ボール邪魔w

:段ボール燃やせw

:ユキくん、早くー

 

 

 

ココネ:『ほらっ、みんなユキくんの姿を見たいんですよ』

 

『でもでも、やっぱり恥ずかしいし……』

 

ココネ:『それなら無理やり出しますか?』

 

『うぅ……、ココママが怖いよ……』

 

ココネ:『ほらっ、私の三万人記念でもあるんですよね? それなら私のために見せてくれないですか?』

 

 

 

――うぅ……、ココママのため……と言われたら……。

 

 

 今までココネには様々なことで助けてもらってきた。そんなココネの頼みとあっては聞かないわけにはいかなかった。

 

 

 

『わ、わかったよ。で、でも恥ずかしいから少しだけね……』

『楽しみですね。ではユキくんの新衣装、どうぞ!』

 

 

 

 段ボールを横に避ける。

 するとその瞬間にコメント欄が爆発する。

 

 

 

【コメント】

:うぉぉぉぉ、まぶしすぎる

:色っぽい

:ユキくんの表情がまた

:可愛すぎる

:ココママのために頑張るユキくん

 

 

 

ココネ:『ユキくん……』

 

『な、なにかな。や、やっぱり似合わない……かな。僕には』

 

ココネ:『か、可愛すぎますー! そ、その、も、持って帰ってもいいですか!?』

 

『だ、ダメだよ……』

 

ココネ:『えいっ』

 

 

 

 ココネが飛びついてくる。

 ただ、アバター上なので、掴める訳でもないのだが、こうした方が喜んでもらえるかなと、ココネを動かして、僕と重ねる。

 

 

 

ココネ:『ユキくんだ……。ユキくんだよ……』

 

『うぅ……、なんだろう……。触られてるわけじゃないのに……』

 

ココネ:『ユキくん、やっぱりオフしようよ。直接触りたいよー』

 

 

 

 ココネがどう見てもアウトな発言をしてくる。

 それに今のココネは危なすぎて近づきたくなかった。

 

 

 

『お、オフはちょっと……』

 

ココネ:『でもでも、ユキくん、可愛すぎますから……』

 

 

 

 理由が理由になっていない。

 それよりもココネがここまで暴走してくるとは思わなかった。

 

 

 

【コメント】

:ココユキは盤石

:ココママw

:魔性の犬、ユキくんw

 

 

 

『はいっ、もう終わり。話が進まないからね』

 

 

 

 それをいうと再び段ボールを元に戻す。

 

 

 

ココネ:『あぁ、ユキくんの水着が……』

 

『ほらっ、他にも発表があるからね。次いくよ次!』

 

 

 

【コメント】

:珍しくユキくんが仕切ってるw

羊沢ユイ :うみゅー、ユキくんの水着はゆいがおいしくいただくの

:ユイちゃんが草すぎる

:他の発表……わくわく

:ココママも実はポンコツだった

:おかしいな。ユキくんが常識枠に見えてきた

:ユキくんはポンコツ枠だw

 

 

 

『つ、次はこっちだよ。アカネ先輩に描いてもらったイラストだよ。こっちも水着だね。むしろこれに合わせてアバターも作ってくれたみたい』

 

ココネ:『こっちのユキくんもかわいいですね』

 

 

 

――あれっ、ココママの態度がだいぶ戻ってる?

 

 

 少し不思議に思って聞いてみる。

 

 

 

『もう元に戻ったんだ……』

 

ココネ:『うん……、あまりに可愛すぎたから少し我を忘れちゃったみたいです……。もう大丈夫ですよ……』

 

『それはよかった。僕、少しココママとの距離を空けた方がいいのかなって思っちゃったよ』

 

ココネ:『だ、ダメですよ。ユキくんの飼い主は私ですからね』

 

 

 

【コメント】

:ココユキいいなぁ

:イラスト、いいね

:でも、これをもらうためにユキくんは生け贄に

:ユキくん、可愛い犬だった……

 

 

 

――なんだろう……。コメント欄、まるで僕が死ぬみたいになってるんだけど……。

 

 

 

『と、とりあえず二つ目がこのイラストでした。そして、三つ目。僕のカタッターでマシュマロを募集することになりました』

 

ココネ:『ユキくん、頑張ってマシュマロの入れ方とか聞いてきましたからね』

 

『そ、それは内緒だよ、ココママ……』

 

ココネ:『ということで、次回からユキくんの質問はマシュマロでお願いしますね』

 

『そ、それは僕の台詞……』

 

ココネ:『それじゃあ次にいってみましょうか? 明日ユイちゃんとコラボするんですよね?』

 

『そ、それも僕の――』

 

 

 

 台詞を全て持って行かれて僕はどんどんと段ボールの中に沈んでいく。

 

 

 

【コメント】

:w

:w

:w

:ユキくん沈むw

:ユキユイもおいしいね

 

 

 

『えとえと、は、配信内容は何かのゲームをするみたいだよ。僕、ゲームって好きだったんだ……』

 

 

 

――一人でできるしRPGとかでコツコツレベルを上げていくのは何も考えずにできるから。

 

 

 

ココネ:『でも、ユイちゃんって結構ガチ勢だから大丈夫ですか?』

 

『うん、[ユキくんも大声出して楽しめるゲームを用意した]って言ってたからちょっと楽しみなんだよね』

 

ココネ:『そ、そういえばユキくん、ホラー系の映画って苦手だって言ってましたよね?』

 

『……? 急にどうしたの? 確かに怖いのは苦手だけど……』

 

ココネ:『そっか……。うん、生きて帰ってきてくださいね』

 

『……? 大げさだなぁ……。ゲームをするだけだよ?』

 

 

 

【コメント】

:あっ……

:あっw

:なるほどな

:明日が楽しみだ

:ユキくん、ご愁傷様w

:俺たちにとってはご褒美ですw

羊沢ユイ :ゆいにとってもご褒美なの

 

 

 

ココネ:『と、とにかく明日のコラボはともかく、他に発表があるんですよね?』

 

『そ、そうだった。まだ準備中にはなるんだけど、三万人記念にミニアニメを作ってもらえることになったよ。まだまだ先は長いね……』

 

ココネ:『ユキくんは十万人記念もすでに準備されだしてるよね? ユキくんの3Dアバター、楽しみだなぁ』

 

『あははっ、みんな気が早いよね。そんな十万人なんてすぐに行くはずないよね? だから加速しないでください。お願いします』

 

 

 

 お気に入り登録が急激に増え出したので、慌てて謝って増えるのを食い止めようとする。

 しかし、更に増加の一途を辿っていた。

 

 

 

『な、なんで!?』

 

ココネ:『みんなユキくんの雄志を見てみたいんですよ。頑張って十万人、目指しましょうね』

 

『うぅ……、僕は十人くらいで良いんだけど……』

 

 

 

【コメント】

:お気に入り登録しましたw

:3D!?

:全身が動くユキくん……楽しみすぎるw

:果たして動くのは段ボールなのか、ユキくんなのか?

:そんなことを言ってるうちに7万人突破おめでとうw

:早いwwwww

 

 

 

『ど、どうしてみんな僕のことを見に来るの……?』

 

ココネ:『みんなユキくんが好きなんですよ』

 

『あぅあぅ……、そ、その、面と向かって言われるとやっぱり恥ずかしいよ……』

 

 

 

 段ボールの中に隠れて、恥ずかしさを紛らわせる。

 

 

 

『そ、そうだ。あと、コラボはアカネ先輩、コウ先輩とも予定しています。楽しみにしてください』

 

ココネ:『良いイラストもらっちゃったもんね。振り回されない程度に頑張ってね』

 

『う、うん……、本当に良いイラストだよね……。エチチなイラストって聞いてたから驚いたけど、本当に僕らしい良いイラストだったよ……。ただ、このアバターはしばらく封印だよ……』

 

ココネ:『あははっ、まだ夏には早いですもんね。少し寒かったかな? ユキくん、よく頑張りました』

 

 

 

 ココネが頭を撫でる動作をしてくれる。

 褒められることが嬉しくて思わず頬が緩んでしまう。

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、お疲れ様

:何故だろう、涙が止まらない

:ユキくん、頑張った

 

 

 

 

『ありがとう、ココママのおかげだよ』

 

ココネ:『ううん、そんなことないよ。ユキくんが頑張ったからだよ。だからこれからも一緒に頑張っていこうね』

 

『うん……』

 

ココネ:『あと私とオフコラボもしようね』

 

『うん……って、もうその手には乗らないよ。僕、オフは――』

 

ココネ:『ユキくん、チャットを見てくれるかな?』

 

 

 

 ココネがにっこり笑みを浮かべる。

 それを見て嫌な予感がする。

 

 

 

『そ、その、僕、またチャット欄を表示したらダメだから――』

 

ココネ:『ユキくんならそう言うと思ったので、私が代わりに読んであげますね。担当さんからで[オフコラボもしてくださいね]だそうです』

 

『わー、わー、な、何も聞こえない。聞こえないよー!』

 

 

 

――た、担当さんは何を考えているんだ!? 僕が男だってバレてしまったらどうするつもりなんだろう?

 

 

 

【コメント】

羊沢ユイ :うにゅ、ゆいもやるの!

:ユイちゃんのコメが早い!?

:ユキくんの反応草

:よっぽどやりたくないんだ……w

 

 

 

ココネ:『ユイちゃん、ごめんね。今回もまたユキくんの初めては私がもらうことになるよ。担当さんが[まずはココネさんとのオフでお願いします]って言ってるから』

 

 

 

――なるほど、一応騒ぎにならないように、一番上手く対応してくれそうなココネに頼んでるんだ……。

 

 

 いつかはオフコラボもしないといけない。

 同じシロルーム三期生としては当然だろう。

 

 だからこそ慣らしていく必要があるわけだ。

 

 

 

『えと、あの……、お、お手柔らかにお願い……。お、怒らないでね……』

 

ココネ:『楽しみにしてますね。日はいつにしましょうか?』

 

『二十年後くらいかな?』

 

ココネ:『じゃあ来週ですね。詳しいことは後から相談しましょう』

 

『さ、流石に来週は心の準備が……』

 

ココネ:『えっと、十七日の今日と同じ時間にお泊まりオフっと。枠は今度こそ私の方でやりますよ。みんな、よろしくお願いしますね!』

 

『ちょ、ちょっと待って!? なんで勝手にお泊りにしてるの!?』

 

ココネ:『その方が楽しいから?』

 

『ぼ、僕の気持ちは?』

 

ココネ:『ユキくんにも楽しんでもらいますから』

 

 

 

――うぅ……、もう断れない流れができてしまってる。どうにかして、男だとバレないように気をつけないと。

 

 

 

 一抹の不安を抱えながら放送は終わりを迎えていた。

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯犬拾いました ♯ココユキ》登録者数三人記念コラボ配信。他にも色々と報告があるよ《雪城ユキ/真心ココネ/シロルーム三期生》』

4.4万人が視聴 0分前に公開済み

⤴1.2万 ⤵94 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ

チャンネル登録者数8.1万人

 

 

 

◇◇◇

【コメント】

:お泊まり楽しみ

:明日はユキユイコラボか

:カグラ様とはコラボしないのか?



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第9話:突発!? コラボオフ会

 ココネとのコラボが終わった後、僕は恐る恐るキャスコードの画面を開くと、確かにそこには担当さんからの言葉が載っていた。

 

 

――本当にオフを承諾してる……。

 

 

 一瞬気が遠くなりそうになる。

 ただ、僕のことを男だと知ってる担当さんが大丈夫だと思ったんだ。

 それなら問題はない……のか?

 

 

 頭を悩ませていると担当さんから連絡が来る。

 

 

マネ :[同期メンバーには性別がバレても構いませんよ]

 

ユキ :[ぼ、僕が構うんですよ!? 変態扱いされたくないんです!]

 

マネ :[大丈夫ですよ、ユキくん。可愛いは正義ですから!]

 

ユキ :[な、何の自信ですか!? それに僕は男らしいですよ!]

 

マネ :[ふふっ、それは楽しみです]

 

 

 

 担当さんが意味深な言葉を呟いてくる。

 そして、その意味がわかるのは次の日の朝だった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 羊沢ユイ@シロルーム三期生 @Yui_Hitsuzisawa 今

うにゅー、今夜、ユキくんとコラボでホラー耐久するよー。ユキくんの悲鳴を見にきてねー(੭ु˙꒳˙)੭ु⁾⁾ばんばん

♯羊布団 ♯ユキユイ

 

 

 

 カタッターで突如流れた今日の放送内容。

 それを見た瞬間に僕はキャスコードを開き、ユイへとメッセージを送っていた。

 

 

 

ユキ :[ホラーゲームなんて聞いてないよ!?]

 

ユイ :[うにゅ? ユキくんが楽しめるゲームって言わなかった?]

 

ユキ :[言ったよ! それで僕はホラーが苦手って言ったよね?]

 

ユイ :[うみゅ、たくさん叫んでる方がホラーを楽しんでるって言わない?]

 

ユキ :[い、言わないよ!? こ、怖いものは本当に怖いんだからね!]

 

ユイ :[うにゅ、ゆいの中だとご褒美なの]

 

ユキ :[ユイぃぃぃぃぃぃ]

 

 

 

 そういうことでユイとのコラボ内容はホラーゲームということになってしまった。

 

 配信をするだけでいっぱいいっぱいなのにユイとのコラボ、更にそれがホラーゲーム、という。

 

 一つでもしんどいのに三つも重なると気持ちが落ち込んでしまう。

 

 ただ、ここが講義室だったということもあり、僕のことを心配してくれる人がいた。

 

 

 

小幡(こはた)くん、どうしたの? なんだか落ち込んでるみたいだけど」

 

 

 

 結坂(ゆいさか)が初めて会ったときのようにのぞき込んでくる。

 ただ、それをまともに相手にできるほど、今の僕には元気がなかった。

 

 

 

「あっ、結坂さん……。うん、ちょっと色々とあってね……」

 

「どうしたの? 私で良かったら相談に乗るよ?」

 

「結坂さんってホラーゲーム、やったことある?」

 

「うん、ゲームは好きだよ。小幡くんも好きなの?」

 

 

 

 結坂が少し食い気味に聞いてくる。

 

 

 

「ううん、僕はホラー系は苦手なんだよ。それなのにやることになって……」

 

「あれっ? えっと、小幡くんがホラーをするの?」

 

「そうなんだよ……。だから気が気でなくて……」

 

 

 

 結坂が不思議そうに首を傾げてくる。

 

 

 

「えっと、小幡くん……、そのホラーって誰かと一緒にするの?」

 

「うん、そうだよ。同期……ううん、知り合いと今晩に――」

 

 

 

 どこまで言って良いのか迷いながら伝える。

 すると、結坂はスマホを取り出して、何か打ち始める。

 

 そして、すぐに僕のスマホから通知音が鳴る。

 

 

 

「やっぱり……。だからオフを嫌がってたんだ……」

 

「えっ!?」

 

 

 

 結坂が何か悟ったように言ってくる。

 その理由がわからずに僕は届いたチャットを確認する。

 すると、そこにはユイからのメッセージが届いていた。

 

 

 

ユイ :[もしかして、ユキくん?]

 

 

 

「えっ!?!? ゆ、ユイ!?」

 

「ちょ……、小幡くん! こっちに来て!!」

 

 

 

 思わず声を上げてしまうと、結坂は大慌てで僕の手を引っ張って講義室を出て行く。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 とりあえず近くのカフェへとやってきた。

 そして、飲み物だけを頼むと結坂は改めて頭を抱えていた。

 

 

 

「あんな人がいる場所で大声上げたら駄目でしょ? 私たちは正体がバレたらダメなんだからね!」

 

「うっ……、ご、ごめん。さすがに驚いてしまって……」

 

「まぁ、そうだよね……。うん、小幡くんだとそうなるね。でも、確かにマネさんが考えそうなことだよ」

 

「うん……、特に性別はね……。絶対に黙ってくれって言われ……てはいないけど、僕の気持ち的にね」

 

 

 

 むしろ担当さんは全然バレてもいいとすら言っていたが。

 

 

 

「でも、同期なら大丈夫って言ってたよね? どうせ今日はコラボなんだし……、そうだ! 小幡くん、今日のコラボはオフコラボにしない?」

 

「えっ!? で、でも、僕は男だし、その……」

 

「あははっ、改めて聞くとやっぱりユキくんそのものだね。小幡くんならかわいいし大丈夫。やっぱりかわいいは正義だよ!」

 

 

 

 かわいいと言われ、少しモヤモヤとした気持ちになる。

 結坂とはそれほど背丈は変わらない。二人並んでいるとそれこそ姉妹に間違えられるかもしれないほどだ。

 だからこそ可愛いと言ってくるのもわかる。

 

 わかるんだけど、男の僕としてはどうしてもモヤモヤとしてしまう。

 

 

 

「さすがにいきなりうちへ連れて行くのは色々と問題がありそうだからその……」

 

「それなら私の部屋に来れば良いよ。私、一人暮らしだし、そのあたりは問題ないよ?」

 

 

 

 どんどんと外堀を埋めていく結坂。

 でもさすがに男女二人きりになるのは……と必死に抵抗をする。

 

 

 

「い、いや、女の子の部屋に僕が行くのも――」

 

「大丈夫、小幡くんなら」

 

 

 

 結坂が笑みを浮かべながら言ってくる。

 

 その表情を見ていると本当に男扱いされてないんだな、と改めて分かる。前々から分かっていたことだけど。

 

 

 

「で、でも、やっぱり、オフは……」

 

「――ホラー、怖いんだよね? 配信時間は夜だよ? 一人で誰もいない部屋でやるのって怖くないの?」

 

「うっ……」

 

 

 

 暗がりで誰もいない部屋。そんな中、一人でホラーゲームをする。

 

 考えただけで言葉を詰まらせてしまう。

 

 

――絶対に夜寝られなくなるやつだ……。トイレにも行けなくなるやつだ……。

 

 

 

「二人でした方が恐怖感って拭えない? どうかな、私の部屋で一緒にオフコラボやろうよ?」

 

 

 

 にっこり微笑んでくる結坂。

 それを見て、僕はうなだれてしまう。

 

 

 

「わかったよ……。うん、どうせ正体もバレたんだから、オフを断る理由もないもんね」

 

「やたー、それじゃあ早速準備しよ! あっ、マネさんにも報告しておくね。あと、ココネを挑発して……」

 

「こ、ココママ、悲しまないかな?」

 

「悔しがるだろうね。ふふっ、次に会ったときが楽しみ」

 

 

 

 結坂が悪い笑みを浮かべていた。

 それを隣で見ていた僕は苦笑を浮かべることしかできなかった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 結局僕は結坂の部屋へとお邪魔することになった。

 

 結坂の部屋は大学の近くにあるマンションの一室だった。

 マンションはセキュリティーもしっかりしていて、不審者が入ってくるところが想像できないほどだった。

 

 

 そして、部屋にはいくつもの可愛らしい小物が置かれており、整理整頓が行き届いていた。

 女の子らしいぬいぐるみや大きめのクッションもいくつか置かれているところが結坂らしい。

 

 

 

「うちの親がね、こんなところを用意したんだよ。私一人だと不安だって」

 

「大事にされてるんだね……」

 

「そうだね。しっかり防音されてる部屋だから動画配信しても正体がバレる心配もないよ。だから思いっきり叫んでね」

 

 

 

 満面の笑みを向けて結坂が言ってくる。

 こうなってくると一切叫ばずにクリアしてやろう、という気持ちが強くなってくる。

 

 

 

「それにしても結坂さんって普段の姿からは全然Vtuberだってわからないよね」

 

「放送でも言ってたよ。あのキャラは計算だって」

 

「ほ、本当に計算だったんだ……」

 

「でも、驚いたのは私の方もなんだからね。ユキくんがまさかの小幡くんだったなんて……。どうりで私にチャンネルを見せられなかったわけだね」

 

「担当さんに別のチャンネルを作って良いかと聞いたけど、それもダメだって言われたからどうするか困ってたところなんだよね」

 

「あははっ、よかったね。別に作る必要がなくて――」

 

「僕としてはちょっと複雑だけどね……」

 

「それよりも夜まで時間あるけど、試しにゲームをちょっとやっておく? その方が夜も余裕を持ってできるよね?」

 

「助かるよ。明るかったらまだ怖くないもんね」

 

「それじゃあ、ゲームを準備してっと。あと私は配信の告知をしておくね」

 

「僕も告知しておくよ」

 

 

 

 それから結坂はゲームをセットしたあとにパソコンに向き、カタッターで告知をしていた。

 

 

 

 羊沢ユイ@シロルーム三期生 @Yui_Hitsuzisawa 今

返信先:@Yui_Hitsuzisawa

うみゅー。突発だけど、今日のコラボはオフコラボになることが決まったの(੭ु˙꒳˙)੭ु⁾ばんばん

ユキくんの生声とっても可愛いの(੭ु˙꒳˙)੭ु⁾⁾はぁはぁ……

楽しみにしてて欲しいの

 

 

 

 一応僕の方でもユイの呟きを引用して、告知しておく。

 

 

 

 雪城ユキ@シロルーム三期生 @yuki_yukishiro 今

えとえと、今日はユイに拾われてしまいました。

そのその……、一人でホラーゲームをするのはやっぱり怖くて、二人なら大丈夫かなって。

だからその……、ぜひ見に来てくださいね。

 

 

 

 僕の呟きを見た瞬間に結坂は少し不満そうに言ってくる。

 

 

 

「やっぱりユキくん、可愛いね。なんだろう……、負けた気持ちになるよ」

 

「しょ、勝負してるわけじゃないんだからね……」

 

「うん、それはわかってるんだけど……」

 

 

 

 不服そうな結坂。

 すると早速知り合いからリプが飛んでくる。

 

 

 

 真心ココネ@シロルーム三期生 @kokone_magokoro 今

ど、どういうことですか!? お、オフは私が先って……

 

 羊沢ユイ@シロルーム三期生 @Yui_Hitsuzisawa 今

うみゅ、勝ったの(੭ु˙꒳˙)੭ु⁾⁾

 

 雪城ユキ@シロルーム三期生 @yuki_yukishiro 今

ご、ごめんね、ココママ。僕、やっぱり怖くて……

 

 真心ココネ@シロルーム三期生 @kokone_magokoro 今

ユイ、詳しい話はあとから聞くからね!

 

 羊沢ユイ@シロルーム三期生 @Yui_Hitsuzisawa 今

音消して待っておくの(੭ु˙꒳˙)੭ु⁾⁾

 

 

 

 そんなやりとりをした後、僕は練習がてらホラーゲームをするのだった――。

 

 

 

◇◇◇

『《♯羊布団 ♯ユキユイ》突発オフコラボ! ホラーゲー、ユキくんがクリアするまで終われまてん《羊沢ユイ/雪城ユキ/シロルーム三期生》』

1.0万人が待機中 20XX/05/11 20:00に公開予定

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【コメント】

:唐突にオフが始まったな

:オフはココママからじゃなかったのか?

:待機

:わくわく

:ココママ、初めてを奪われて草

 

 

 

 いつもよりも更に多くの人が待機している。

 それだけでいつもなら緊張してしまうところだったけど、今の僕は涙目になりながらユイの部屋にあったクッションに抱きついていた。

 

 

 

『ぐすっ、ぐすっ、こ、怖かったよ……。あんなの、クリアなんて無理だよ……』

 

ユイ :『あっ、ユキくん、もう音入ってるからね』

 

『っ!?!? ま、まだ喋れないよ、僕……まだ配信できる状態じゃないよ。ちょ、ちょっと待ってて……』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん泣いてる?

:ユイちゃんにオフを強制されたから?

:ユイちゃん酷い

 

 

 

ユイ :『ち、違うの。ユキくんはただ、今日配信するホラーゲームの練習をしてたの』

 

『うぅ……、も、もう大丈夫。そ、それに泣いてなんかいないからね……』

 

 

 

【コメント】

:理解したw

:つまり放送中はこうなるとw

:ユキくんw

 

 

 

ユイ :『うみゅ、ユキくんが戻ってきたところで本日の配信を始めるの。ゆいはシロルーム三期生の羊沢ユイなのー』

 

 

 

 ユイのアバターが画面に登場する。

 相変わらず眠そうなトロンとした瞼と大きなクッションが特徴的な少女だ。

 

 

 

【コメント】

:うみゅ

:うみゅ

:うみゅ

:うみゅ

 

 

 

ユイ :『そして、もうバレてしまってるけど、今日は色々と伝説を作り上げたユキくんこと、雪城ユキくんに来てもらってるの。あっ、段ボールは剥いでおくよ』

 

 

 

 ユイがユキin段ボール(ぼく)の姿を画面に出した瞬間に段ボールを奪っていた。

 

 

 

『わ、わふぅ……、ゆ、雪城ユキです。段ボール取られてお化けに怯えながら寒空の下、歩いてます。ひ、拾いに来てくれてありがとうございます……』

 

 

 

【コメント】

:わふー

:わふー

:今日こそユキくん拾うぞ

:ユキくん、ちゃんと挨拶できてる

:本当にオフ会?

 

 

 

『えとえと、オフ会というより、拉致られました?』

 

ユイ :『人聞きわるいよー。さすがに一人でホラーをさせるとユキくんが泣いちゃうと思ったからサポートしようとしたんだよ。手取り足取り……』

 

『わっ!? ゆ、ユイ、くっついてこないで』

 

ユイ :『ユキくん、小さくて可愛いよ……なでなで』

 

『な、撫でるなー。ち、小さいっていうならユイも僕と変わらないでしょ!』

 

ユイ :『うにゅー、私の方がアホ毛の分大きいよ……』

 

『アホ毛を入れるなー!』

 

 

 

【コメント】

:俺たちは何を見せられてるんだ

:というより何も見えない

:映像は!?

:3Dじゃないのが悔やまれる

:ユキユイは可愛らしくていいな

:ユキくんも昨日より自然体な感じがいい。

:どっちも持ち帰りたい……

真心ココネ :ど、どうして、ユイがオフコラボしてるの!?

:ママ登場

:修羅場w

 

 

 

ユイ :『段ボールに書かれてた通り、ユキくんを拾ったから』

 

『ぼ、僕は別に捨ててあった訳じゃ……なくはないけど』

 

 

 

 設定と今の状況とで板挟みになってしまい、ユイの手から段ボールを取り戻すと顔を隠してしまう。

 すると、ユイはニヤリと微笑みながら言う。

 

 

 

ユイ :『だから今日からゆいがユキくんを飼います!』

 

 

 

【コメント】

真心ココネ :だ、ダメーーーーーー!!!

:ママ発狂w

:ユキくんを飼うのは俺だ!

:通報しました

:ユキくん、本当に捨てられてたのか

 

 

 

ユイ :『うにゅ、ということで負けココママは置いておいて、早速ホラーゲームを始めたいところだけど、ユキくんの体がまだ小刻みに震えてるから先にマシュマロ読んでいくの。ユキくん、お願いできるかな』

 

『ご、ごめんね。えっと、この画面のを読んだらいいんだね?』

 

 

 

 さすがにさっきくっつかれたときにまだ震えてることに気づかれてしまったようだ。

 ユイの配慮に感謝しながらパソコンに映っている質問を読んでいく。

 

 

 

『えっと、[ユイっち、うみゅー。いつも眠たそうにしているユイっちですが、どのくらい睡眠時間をとってるのですか? また、どのくらい欲しいのですか?]だって』

 

ユイ :『うみゅー、ゆいは毎日十二時間しか寝られてないの。あと十二時間くらいは寝たいの』

 

『って、それだと一日中寝てることになるよ!?』

 

ユイ :『うにゅ、一日中寝られるなんて幸せなの』

 

 

 

【コメント】

:ぐうたら草

:寝過ぎw

:ユキくんはどうなの?

 

 

 

『えっ、ぼ、僕!?』

 

ユイ :『もちろんだよ。ゆいとお昼寝コラボするためにも聞いておきたいの』

 

『えっと、そうだね……。昨日は二時間ほどは寝たよ? その……緊張して――』

 

ユイ :『っ!?』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、少ない

:もっと寝て

:少なすぎ草

 

 

 

ユイ :『ユキくん、今すぐに寝るの! ゆいのベッドを使っていいの』

 

『い、いや、それはダメだよ。絶対にダメだよ……』

 

ユイ :『そんなことを言ってたら倒れるの。ほらっ、早く早く!』

 

『そ、それよりつ、次の質問にいくよ』

 

ユイ :『うにゅ、ユキくんは後からゆいが責任を持って寝させるの』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、逃げた

:ユイっちがお姉さんでユキくんが妹かな

:ママはココママだね

:つまり父親はカグラ様か

:……俺だったらグレるな、カグラ様が親だと

神宮寺カグラ :私は全てを滑る王女になるのだから当然でしょ?

:誤字草

:いや、確かに全て滑ってる

:www

神宮寺カグラ :ご、誤字に決まってるわよ

 

 

 

『えっと、[うみゅー、ユイっちのモコモコが柔らかくて気持ち良さそうなのですが、実際にどのくらい気持ちいいのですか? 触った感触も含めて教えてください]』

 

ユイ :『うみゅ、そうだね。それなら実際に触ってもらう方が良いかもしれない。ユキくん、触ってくれる?』

 

 

 

 ユイが自分の腕を差し出してくる。

 その小柄な体に相まって細く白い腕。ただ、さすがにそれを僕から触れることははばかられた。

 

 

 

『そ、そ、そんなこと、ぼ、、僕にできるはずないでしょ!?』

 

ユイ :『うにゅ、大丈夫。ゆいが良いって言ってるの。ほらほらっ』

 

 

 

 更にぐいぐいと腕を押し寄せてくる。

 

 

 

『だ、だって僕……、僕……』

 

 

 

 男である僕がそんなことできるはずがない。

 

 顔を赤く染めながら必死にそれを押し返そうとする。

 その時にぷにっと何か柔らかいものを触れてしまう。

 

 

 

ユイ :『うみゅっ!?』

 

 

 

 驚きの声を上げるユイ。

 慌てて僕は自分が触ってしまったものを見る。

 

 それはユイのほっぺだった。

 マシュマロのように柔らかく弾力のある頬。

 それに気づいた僕は慌てて手を離そうとする。

 

 

 

『ご、ごめ……』

 

ユイ :『うにゅ、少し驚いただけなの。いいの、ユキくんなら……』

 

 

 

 ユイが思わせぶりな態度を取ってくる。

 

 確かに映像はあくまでもアバターだけで動きに合わせて左右に動く程度。

 

 でも、声だけ聞くとそこでただならぬことが起こっていると予想することができる。

 実際は少し頬を触れて、慌てて僕が離れていっただけ。ということでもそれは画面には映らないのだから。

 

 だからこそユイはそれを最大限に生かそうとしていた。

 

 

 

ユイ :『うにゅ、どうだった? 柔らかかった?』

 

『う、うん……』

 

 

 

 僕は慣れないことに蒸発してしまいそうなほど真っ赤に顔を染めながら、小さい声で答えていた。

 すると、それに合わせるようにコメ欄が爆発する。

 

 

 

【コメント】

:な、何が起きてるんだ!?

:映像をくれ!

:画面の向こうでえっちぃ光景が!?

:切り取りだ! 切り取り班はまだか!?

:てぇてぇ

真心ココネ :ふ、二人とも!? な、何をしてるの!?

:ユイっちは柔らかいのか……

:確かに柔らかそうだもんな……。大きいし

:ユキユイが至高か

:俺、もうダメだ……。先に逝く

:待て、早まるな。俺が先に逝く

:お前が逝くのか!w

:神宮寺カグラ :ちょ、ちょっと、何をしてるの!

:ナニをしてるんだね

:www

 

 

 

ユイ :『うみゅ、ユキくん、そろそろベッドへ行くの』

 

『…………』

 

 

 

【コメント】

:キタァァァァァ、ベッドシーンだ!

:あれっ、ユキくん、生きてる?

:俺は死んでる

:俺もだ

:↑お前たちw

 

 

 

『あの、ユイ……。分かっててやってるよね?』

 

ユイ :『うにゅ、もちろんなの』

 

 

 

【コメント】

:……?

:どういうことだ?

:ユキくんがすごく冷静に

:賢者タイム?

 

 

 

『とりあえず勘違いさせてしまってごめんなさい。今のは僕がユイのほっぺを触ってしまって、ユイが悪乗りしただけになります』

 

 

 

 僕はその場で何度も頭を下げていた。

 すると、ユイは舌を可愛くだして笑みを浮かべる。

 

 

 

ユイ :『妄想が捗るの?』

 

『僕は反応に困ったよ!?』

 

 

 

 珍しく大声を出してしまう。

 

 

 

ユイ :『これはユキくんがどんなシーンでも冷静にいられるか、ホラーゲームの特訓も兼ねてるの』

 

『そんな風には見えなかったよ。だって、ユイ、すごく悪い笑顔だったもん!』

 

 

 

【コメント】

:悪魔っ子ユイっちwww

:なんでだろう、すごくかわいいのに黒い……

:でも俺は好きだ!

:ユキくんが落ち着いてるw

:大声のユキくん、初めて見たw

真心ココネ :何もなかったんだ……。よかった……

:ココママが安心してるw

:ママ、ママだけど幼女だから……

 

 

 

『と、とりあえず、この話題はここまで! ユイは柔らかかった。それでいいよね?』

 

ユイ :『うみゅ。せっかくだし、ゆいもユキくんの感触を見るの』

 

『へっ!?!?』

 

 

 

【コメント】

:ユイっち、名案

:それだ!

:ユキくんもやっぱり柔らかいのかな?

 

 

 

『ど、どうして同意するの!? ぼ、僕は触っても柔らかくないよ……』

 

ユイ :『うにゅ。ユキくん、覚悟するといいの』

 

『よ、よくないよ……』

 

 

 

 ユイから距離を取ろうとして逃げていくが、ジワジワと距離が詰められる。

 そして、ユイは腹黒い声で言ってくる。

 

 

 

ユイ :『待て待てーなの』

 

『ま、待たないよー……』

 

 

 

【コメント】

:はぁ……癒やされる

:俺も追いかけるぞ。待て待てー

:↑通報した

 

 

 

ユイ :『うにゅ、捕まえたの』

 

『わわっ!?』

 

 

 

 画面に引きずり込まれるユキin段ボール(ぼく)

 実際もユイに腰あたりに手を回されている。

 

 

 

『えいっ……』

 

 

 

 こちょこちょ……。

 

 

 

 ユイがそのまま脇腹をくすぐってくる。

 

 

 

『あははっ、ゆ、ゆい、こ、こしょばい……や、やめ……』

 

 

 

 思わずその場で笑い転げてしまう。

 

 

 

【コメント】

:俺もしたい

:通報しました

:俺もされたい

:どMおつ

 

 

 

『はぁ……はぁ……』

 

ユイ :『ユキくんを倒したの。ぶいっ』

 

『ぶ、ぶいっ、て僕はモンスターじゃないよ』

 

 

 

 息を荒げながらゆっくりと起き上がる。

 

 

 

【コメント】

:息エロい

:はぁはぁ

:エロエロ

:切り取り班頼む!

 

 

 

ユイ :『うみゅ、それじゃあ、ユキくんの緊張もほぐれてきたところで、本動画の目的であるホラーゲームをやっていくの』

 

『そ、それじゃあ、本日の配信はここまでです。お疲れ様でした』

 

 

 

 段ボールに隠れていた僕は配信を終える挨拶をする。

 もちろんそれをユイは許してくれなかった。

 

 

 

ユイ :『ダメなの! もう、勝手に始めるの!』

 

 

 

【コメント】

:勝手に終わらせようとしてるの草

:まだまだ始まってないのにw

:ユキくんは相変わらずユキくんだったw

:www

真心ココネ :ユキくん、頑張れー



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第10話:大絶叫、ホラー実況

『ほ、本当にやるの……?』

 

ユイ :『うにゅ、当然なの』

 

 

 

 モニターを前にして僕は緊張のあまり体が強張っていた。

 恐怖をかき立てるような音楽が流れているので、仕方ないだろう。

 

 しかし、そんな僕を前にしてもユイは容赦がなかった。

 

 

 

『うぅ……、どうして今が夜なの……。太陽さん、戻ってきてよぉ……』

 

ユイ :『うにゅ、この前、[太陽、堕ちないかな]って言ってなかった?』

 

『い、言わないでよ!? あれは気の迷いだったんだから……』

 

 

 

 震える手でゲームコントローラーを持ちながらユイに言う。

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、厨二病w

:♯太陽堕ちないかな

:♯太陽堕ちないかな

:♯太陽堕ちないかな

:www

:www

:www

 

 

 

『や、やめてー!? タグ付けて僕の痴態を広めないでー!』

 

ユイ :『それよりユキくん、始まったの。楽しみなの』

 

『それよりって、僕にとっては死活問題だよ。ひっ!?』

 

 

 

 タイトル画面が出た瞬間に驚いて目をギュッと閉じる。これなら怖いものを見なくて済む。

 

 あとは……どうやって魔王討伐(ホラーゲーをクリア)するか……。

 

 アドベンチャー系ならただ会話を進めたらいいだけなのだが、今回は移動パートがある。

 

 進む先がわからないと攻略のしようがない。

 

 でも、今回はオフコラボ。

 つまり、一人っきりで攻略するわけではない。

 困ったときには素直にユイを頼れば良いんだ。

 

 

 

『ゆ、ユイ……、す、進む先を教えてくれない……?』

 

 

 

 ユイに聞いてみたけど、返事がない。

 

 

 ど、どうして……?

 さっきまで一緒に配信してたはずなのに……。

 

 

 

『ゆ、ユイ……、ど、どこに行ったの……?』

 

 

 

 恐る恐る目を開く。

 まだボタンを押していないので、モニターはタイトル画面のまま。

 配信画面にもユキくんとユイの姿が映っている。

 

 しかし、周りにユイの姿だけがなかった。

 

 

 

『えっ!? ゆ、ユイ? ほ、本当にどこ行ったの?』

 

 

 

 目を開き、周りを見渡す。

 すると、そのタイミングで肩を叩かれる。

 

 

 

ユイ :『ゆーきーくーんー』

 

『ピィァァァァァァ……』

 

 

 

 

 突然聞こえたユイの言葉に飛び跳ねそうになるくらい驚いて、その場で顔を伏せ、ぶるぶると怯える。

 

 

 

 

ユイ :『うにゅ、ユキくん、驚きすぎなの。飲み物とってきたから渡そうとしただけなの』

 

 

 

 ユイの手にはペットボトルのお茶が二本。

 本当に飲み物を取ってきてくれたようだ。

 

 ただ、僕はユイが何事もなかった安堵感からその体に思いっきり抱きついてしまう。

 

 

 

『ゆ、ユイ……、よ、よかったぁぁぁ……。お化けに襲われたのかと思ったよぉぉぉ……』

 

ユイ :『大袈裟なの。それよりその、そろそろ離れてほしいの。そ、その、ゆいも恥ずかしいの……』

 

 

 

 ユイが少し照れた表情を浮かべていた。

 

 しかし、恐怖から僕はどうしても離れることができなかった。

 

 

 

『も、もう少しだけこうしてていい……?』

 

ユイ :『はぁ……、仕方ないの。ユキくんの好きなだけくっついてると良いの』

 

 

 

 すると、ユイはため息を吐きながら頷いていた。

 

 

 

『うん……、ありがとぉ……』

 

 

 

【コメント】

:まだ始まってないのにw

:悲鳴助かる

:甘えん坊ユキくん

真心ココネ :ゆ、ユキくん、大丈夫?

美空アカネ :おっ、いい悲鳴

:ユキくん、クリアできるのか?

 

 

 

ユイ :『うにゅ、大丈夫? 無理そうならまずはユイが――』

 

『ううん、が、頑張る。ゆ、ユイが僕のために考えてくれた企画だもん』

 

 

 

 ようやく動けるようになったので、僕は再びコントローラを手にホラーゲームに取り掛かる。

 ただし、チラチラとユイがどこにも行かないかを確認しながら――。

 

 

 

ユイ :『うみゅ、大丈夫なの。もうどこにも行かないの』

 

『う、うん……、信じてるよ……』

 

 

 

 そう言いながらもチラチラとユイを見るのを忘れない。

 

 

 

ユイ :『もう、ユキくんにはゆいがいないとダメなんだから……』

 

 

 

【コメント】

真心ココネ :ゆ、ユキくんのママは私だよ!?

:ココママがママ認めてて草

:ママ悔しそうw

美空アカネ :私が拾って帰るぞ

:www

:暴走し始めてるw

 

 

 

『えとえと、怖いんですけど、ゲームの紹介をしてもらいます。ユイに。ぼ、僕は耳を塞いでるから……ってなんでヘッドホンを付けるの!? うぅ……、さ、さっきより音がはっきり聞こえちゃうんだけど……』

 

ユイ :『やっぱりゲームをするならヘッドホンは必須なの。それじゃあ、今日していくゲームを説明するの』

 

 

 

 ユイがそういうと配信画面にホラーゲームの詳細が表示される。

 

 それは有名なホラーアドベンチャーで、美術館から異なる世界へ飛ばされた主人公の少女を操って、元の世界へと戻る。というただのホラーではなく、しっかりとしたストーリーと謎解きの要素があり、名作として名高いゲームであった。

 

 

 

ユイ :『説明するのは面倒だからいつも通りなの』

 

『えっ、な、なに……へ、変なことをしないでよ……』

 

 

 

【コメント】

:良いチョイスw

:人気どころできたな

:いつもの物臭さw

:しかし、ユキくんの耳には入らないw

 

 

 

ユイ :『うみゅ、早速始めていくの』

 

『うぅ……、序盤を少し触ったから余計に怖いよ……。ひぃ……』

 

 

 

 ゲームを始めると、すぐにちょっとした仕掛けで悲鳴をあげてしまう。

 

 

 

【コメント】

:悲鳴いいw

:ユキくん涙目w

:ユキくん、がんばれw

:悲鳴助かる

 

 

 

『はぁ……、はぁ……』

 

 

 

 僕は少し息を荒くして、目に涙を浮かべていた。

 すると隣でユイが応援してくれる。

 

 

 

ユイ :『うにゅー、ユキくん、みんな応援してるの。頑張るのー』

 

『う、うん、頑張……ピィァァァァァァ!?』

 

 

 

 突然ゲーム内でマネキンだと思っていたものが動き出して、思わず大声をあげてしまう。

 

 

 

ユイ :『うみゅ、とっても良い叫びっぷりなの』

 

『うぅ……、変なことを言わないで……、ピィァァァァァァァ!?!?』

 

 

 

 ユイにツッコミを入れようとしても、ゲームのせいでまともにツッコめない。

 

 

 

ユイ :『うみゅ、好きなことをし放題なの』

 

 

 

【コメント】

真心ココネ :変なことをしたらダメだよ!?

:悲鳴助かる

:ユイちゃん草

:渾身の悲鳴回

:悲鳴好きにはたまらない

:悲鳴助かる

 

 

 

 

 コメント欄では散々な言われようだった。

 そもそも僕の悲鳴なんて誰が聞きたいんだろう……。

 

 

――うぅ……、こんなホラーなんかに負けては男が廃る。な、何かの本で確か男は包容力で女性を守ってあげるものだと書いてあった。ぼ、僕がホラーゲーム(てき)からユイを守らないと!

 

 

 チラっとユイの方を見て、更に気合いを入れる。

 その瞬間にまたゲーム内で絵画が動き出す。

 

 

 

『ピィァァァァァァ……!?!?』

 

 

 

 思わず大声をあげてしまう。

 

 

 

ユイ :『うみゅ、ユキくんも喜んでくれて嬉しいの』

 

 

 

 後ろでユイは満面の笑みを浮かべていたが、僕自身はそんなことを気にしている余裕は全くなかった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『ひぐっ……、ひぐっ……、そ、そろそろ終わり……だよね?』

 

ユイ :『ユキくん成分が満タンなのー』

 

 

 

 ずっと叫び続けて四時間後。

 

 いつの間にか僕はユイの膝の上に座り、すっぽりと彼女の腕の中に収まっている。

 そして、ユイは満足そうな表情を浮かべていたが、僕は全く余裕がなくそのことについては触れない。

 

 ずっと悲鳴を上げすぎて、反抗できる気力がなかったのもある。

 しかし、それとは別に側にユイがいるという安心感のおかげでホラーゲームの恐怖も幾分か和らいでいた。

 その点だけは感謝していた。

 

 ただ、この企画を持ってきたのもユイ、ということは忘れていない。

 

 

 

『わふぅぅぅ……、ゴ、ゴールまだぁ?』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、頑張れー

:あまり寝てないって言ってたもんな。そろそろ限界か?

:そろそろユイちゃんの出番?

:でもそろそろ終わりじゃなかったか?

美空アカネ :いいぞ、もっと叫べー

海星コウ :アカネ、正座する?

美空アカネ :ユキくん、あとちょっとだから声を出さずに頑張れ―!

:www

:www

 

 

 

 

ユイ :『ユキくん、もうすぐで一回目のエンディングだよ。あとちょっとだから……』

 

『そっか……、もうすぐゴールなんだね……。もう、ゴールしてもいいよね……』

 

 

 

 時刻はすでにニ時を回っている。

 昨日、まともに寝ていない僕はすでに眠気のせいでふらふらであった。

 もちろん原因はそれだけではないが――。

 

 

 

ユイ :『ユキくん、まだゴールしたらダメなの。それは死亡フラグなの』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、頑張れー!

:あと少しだよー!

:エンディングまで突っ走れー!

:死亡フラグwww

 

 

 

 みんなの応援とすぐ近くからユイの声援を受けながら、僕はなんとかエンディングへとたどり着く。

 

 一回目ということもあり、エンディングはノーマルエンド。

 それでも頑張ったということもあり達成感はすごかった。

 

 

 

『や、やったよ、みんな……。僕、クリアできたよ……』

 

ユイ :『よく頑張ったね、ユキ』

 

 

 

 ユイが頭を撫でてくれる。

 

 

 

『えへへっ……、あ、ありがとう……。ユイが抱きしめてくれたおかげで僕も恐怖が――』

 

 

 

 そこで僕の動きが固まった。

 

 

――そ、そういえば僕、いつからユイに抱きしめられていたのだろう?

 

 

 自然と顔が赤く染まっていく。そして、慌ててその場から離れようとする。

 

 

 

『あわわわっ……、ご、ごめん、ユイ。ぼ、僕、ずっと、ユイに抱きしめられていて……、その……』

 

ユイ :『うみゅ、ゆいもユキくん成分をたっぷり補充できたから満足なの』

 

 

 

 ユイが笑顔を見せてくれる。

 それを見て僕はホッとため息を吐いていた。

 

 だからこそ気づいていなかった。

 ココネが[ユイはガチ勢だから、生きて帰ってきてね]と心配してくれた本当の理由を。

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、おつ

:おつ

:おめでとう

:おめー

:お疲れ様ー

:おめでとー

美空アカネ :良くやった。さすがは私のしもべだ!

海星コウ :お疲れ様。頑張りすごかったよ

 

 

 

――祝福されると気持ちいいね。頑張った甲斐があるよ。

 

 

 僕は笑顔でみんなに返事をする。

 

 

『えへへっ、みんなありがとう。怖かったけど頑張ってよかったよ。すごくストーリーもよくて、その、最後は怖さもあったけど、やっぱり先が気になってなんとかクリアすることができたよ。みんなの応援のおかげだよ。本当にありがとう』

 

 

 

 クリアしたという安堵感からようやく心の底から笑うことができた。

 

 

 ホラーゲーム。

 確かに怖かったけど、でもここまで達成感があるのならまたやってもいいかな。

 

 それに気づかせてくれたユイには感謝の気持ちしかなかった。

 

 

 

『ユイもありがとう。すっごく楽しかったよ』

 

ユイ :『うにゅ、楽しんでくれてるならよかったの』

 

 

 

 ……? なんだろう、今の言葉に何か違和感を感じたのだけど?

 

 

 

【コメント】

:いい終わり方だった

:ノーマルエンドだな

:楽しんでくれてる?

:まるでまだ続くみたいだな?

:いつものユイちゃんなら全てのエンディングを見るまで耐久だよな?

:やめて、ユキくんのライフはもうゼロよー

真心ココネ :……ユキくん、まだ油断したらダメだよ

 

 

 

 コメントを見てて、ようやく違和感に気がつく。

 そうだ、終わりならここで最後の挨拶をしているはずなんだ。

 それで綺麗に終われるはずだから。

 

 でもユイは動こうとしない。

 まるでまだゲームは()()()()()()()かのように。

 

 

 

『えとえと、も、もう放送、終わるんだよね?』

 

ユイ :『うにゅ、もちろん、ゲームを()()()したら終わるの』

 

『そ、それじゃあもう終わらないと……』

 

ユイ :『うにゅ? まだユキくんはクリアしてないよ? エンディング、全部見てないよね?』

 

『え゛!?』

 

 

 

 嫌な予感はこれだったんだ……。

 

 

 ユイはゲームのガチ勢だから、全てのエンディングを見て当然。

 一つのエンディングを見て終わり、なんて考えはなかったんだ――。

 

 

 僕を抱きしめてくれているユイはにっこり笑顔で告げてくる。

 

 

 

ユイ :『うみゅ、残りのエンディングも頑張るの』

 

『あのあの、こ、これ以上は僕の体がその……』

 

ユイ :『うみゅ、最後まで楽しまないとなの』

 

『あうあう……、ぼ、僕はもう十分に楽しんだし、ほらっ、たくさん叫んでもう喉がその……』

 

ユイ :『うにゅ、みんなもここで終わるのはよくないよね?』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、頑張れ!

:こうなったらユイちゃんは誰にも止められない

:耐久でもいつもこうだもんな

:ご愁傷様

真心ココネ :ユキくん……骨は拾うからね

 

 

 

『うぅ……、わ、わかったよぉ……。や、やればいいんだよね……』

 

 

 

 覚悟を決めた僕は全エンディングを目指して突き進んでいくことになった。

 

 もちろんすぐ後に悲鳴が木霊し始めることになる。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 全てのエンディングを見終えた時、すでに日が上りきったあとだった。

 

 

 

『うぅ……、怖かったよぉぉぉ……』

 

ユイ :『うにゅ。よしよし、よく頑張ったの』

 

 

 

 すでに涙目になりながらユイの胸元で震えてしまう。そんな僕の頭をユイはゆっくり撫でてくれていた。

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、お疲れ様

:お疲れ様ー

:おつかれー

真心ココネ :お疲れ様ー

 

 

 

『僕……僕……が、がんばった……、すぅ……』

 

ユイ :『ユキくん、どうしたの? えっ、ユキくん!?』

 

 

 

 心配そうな声を上げるユイ。

 しかし、それに反応することもなく限界が来てしまい、放送中にも関わらず糸が切れたかのように意識が落ちてしまった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 目が覚めると既に夕方だった。

 いつの間にか僕には布団が掛けられており、隣で結坂が微笑みかけてくれていた。

 

 

 

 

「おはよう、ユキくん」

 

 

 

「うん、おはよ……って、あれっ? 僕、寝てしまって……。ほ、放送は!?」

 

「大成功だったよ。これもユキくんのおかげでね」

 

 

 

 結坂が手でVの字を作って笑みを浮かべてくる。

 

 

 

「アーカイブ、見る?」

 

「うぅ……、少し怖いけど見たいかな」

 

「わかったよ、それじゃあこっちに来て」

 

 

 

 結坂に促されて、彼女の隣へと移動する。

 そして、僕が寝てしまった後の放送を見ることになった。

 

 

◇◆◇

 

 

 

『僕……僕……が、がんばった……すぅ……』

 

ユイ :『ユキくん、どうしたの? えっ、ユキくん!?』

 

 

 

 結坂が必死に声を上げるが、僕はすっかり寝てしまっており、返事がなかった。

 

 

 

『すぅ……、すぅ……』

 

ユイ :『あっ、寝ちゃったのか。ユキくん、頑張ったもんね……』

 

 

 

 ユイはどこか安堵の表情を浮かべる。

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、寝ちゃったんだ

:たくさん叫んだもんね

:俺的にはご褒美でした

:そんなところだと風邪ひくよ? 俺が持ち帰ってあげよう

:通報しました。代わりに俺が持って帰る

:お前たちw

:ユイちゃん、素が出てない?

:珍しいな。というか素があったんだ

 

 

 

ユイ :『うにゅ、ゆ、ゆいの素はこっちなの……。それとユキくんは寝顔も可愛いの。持ち上がらない……。仕方ないの』

 

 

 パサッ。

 

 

 何かが掛けられる音が聞こえる。

 それと同時に配信画面のユキくんの上にも段ボールが置かれる。

 

 書かれている文字は[睡眠中]で、更に頭上には『Zzz……』の文字が置かれる。

 

 

 

ユイ :『うにゅ、ユキくんも寝ちゃったことだし、寝息を聞きながら今日のゲームの総評にいくの』

 

 

 

【コメント】

:まだ続くのか!?

:ユキくんの寝息……

真心ココネ :起こしたらダメだよ!

:本当にユキくんのママだなw

神宮寺カグラ :コラボ……

:カグラ様、羨ましそう

:そういえばカグラ様の初コラボは誰がするんだろう?

神宮寺カグラ :べ、別にコラボしたいわけではないからね

:わかりやすすぎw

 

 

 

ユイ :『うみゅ、今日のゲームの総評は【ユキくんは可愛かった】に尽きるの。怯えてるユキくんも必死にゲームをしてるユキくんもクリアしてるユキくんも全部全部、とっても可愛かったの。それを引き出せるゲームは最高以外の何物でもないの。みんなもそうだよね?』

 

『すぅ……すぅ……』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、かわいいよ

:はぁはぁ

:通報しました

:直接見たい

 

 

 

ユイ :『うみゅー、直接見れるのはオフをしてるゆいの特権なの。ユキくんの初めてのお泊まりはゆいのものなの』

 

 

 

 ユイは画面に向けてブイ、としていた。

 そして、そこで配信は終わっていた。

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯羊布団 ♯ユキユイ》突発オフコラボ! ホラーゲー、ユキくんがクリアするまで終われまてん《羊沢ユイ/雪城ユキ/シロルーム三期生》』

3.2万人が視聴 0分前に公開済み

⤴1.0万 ⤵87 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:Yui_Room.羊沢ユイ

チャンネル登録者数3.7万人

 

 

 

◇◇◇

【コメント】

真心ココネ :お、お泊まり!?

:俺も泊まりたい!

:通報しました

:ユキくん、もう寝ちゃってるよな?

:二人で一つのベッドか



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第11話:ユキくん、動く!?

 ユイとのコラボはトレンドに上がっていた。

 それも[♯ユキユイ]が日本で一位になっていた……。

 

 他にも[♯羊布団]や[♯太陽堕ちないかな]なども入っていた。

 

 

――僕の黒歴史が……。

 

 

 思わず頭を抱えてしまったのは言うまでもない。

 しかも、ユイの家に泊まってしまった訳だし、大学も休んでしまった。

 

 その日一日はとても配信をする、という気分にはなれなかった。

 

 

 

「ユキくん、もう一日泊まっていってもいいんだよ? ほらっ、今日もコラボしようよ」

 

「ぼ、僕は今日は休むよ。流石に疲れたから……。ユイがまた配信するなら見に行くよ」

 

「そっか……。ユキくんは耐久に慣れてないもんね。しょうがないなぁ。わかったよ、それじゃあ、絶対に見に来てね」

 

 

 

 ユイは苦笑を浮かべながら言う。

 

 

 

「あと、またオフコラボしようね」

 

「え、えと、ほ、ホラーじゃなかったらね……」

 

「えーっ、次はVRのホラーゲームをしようと思ったのに……」

 

「そ、それはユイが一人の時にするといいよ。そ、それじゃあね」

 

 

 

 逃げるようにユイの部屋から出てきた僕は自分の部屋に戻ってきて、ようやく人心地つく。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 雪城ユキ@シロルーム三期生 @yuki_yukishiro 今

その……、昨日ちょっと頑張りすぎましたので、本日は配信をお休みさせていただきます。ご、ごめんなさい。また次の配信の時に拾いに来てください……

 

 

 

 早速カタッターで本日の休みを報告する。

 そして、同期の配信予定を見てみる。

 

 

 

「あっ、今日はカグラさんも放送するんだ……」

 

 

 

 ココネやユイも今日は放送するみたいだが、思い返すとカグラの放送をライブで見に行ったことがほとんどないことに気づいた。

 

 

 

「せっかくだし、今日はみんなの放送に顔を出すかな」

 

 

 

 配信しないと決めると意外と気持ちに余裕ができて、さっそくココネの配信から見に行くことにした。

 

 

 

◇◇◇

『《雑談》ユキくんの初めて取られたよー《真心ココネ/シロルーム三期生》』

1.2万人が視聴中 ライブ配信中

⤴541 ⤵52 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

ココネ:『うぅ……、ユキくんの初めてを取られましたよー』

 

 

 配信画面を開いた瞬間にココネが泣いている姿が目に映る。

 その姿を見た瞬間に驚いて声を上げてしまう。

 

 

 

「えっ、こ、ココママ!?」

 

 

 

 そこまで僕とのオフを楽しみにしてくれていたのだと思うと、なんだか胸がギュッと痛んでくる。

 

 

 

【コメント】

:ユイちゃんが一歩先を行ったね

:ユキくんの弱点をうまくついたもんね

:でもココママもオフをするんじゃないの?

 

 

 

ココネ:『うん、オフはしますよ。よーし、こうなったらユキくんを虜にする方法をみんなで考えましょう!』

 

 

 

 満面の笑みを浮かべるココネ。

 

 

――ココママ、なんて恐ろしいことを考えてるんだ。……って、僕が聞いてたらダメな話なんじゃないのかな?

 

 

 

ココネ:『まず配信前のお買い物は基本だよね? そのあとはどこかでちょっといいランチを食べて……。うーん、でも、ユイちゃんがいうにはユキくんはユイちゃんよりも小さいみたいだし、お子様ランチとかがあるファミレスの方がいいのかな?』

 

 

 

――ちょっと待って!? ココママの中で僕の年齢って何歳になってるの!?

 

 

 いくらなんでもお子様ランチを食べる年じゃないことくらいわかりそうなのに。

 そのことを思わずコメントしそうになるが、グッと堪える。

 

 どういう行動をしてくるかわかれば事前に防ぐ対策を取れるからだ。

 

 

 

【コメント】

:子供扱い草

:ユキくんwww

:シロルームは18歳以上だよな?

:www

:ロリロリ

 

 

 

ココネ:『それからそれから、昼から映画とか行くのもいいかも。ユキくん、表情豊かそうだから見てるだけで楽しめるし、ユイちゃんみたいにホラーの映画を見て……』

 

 

 

――あれっ? なんだろう。行動がまるでデート……ではないか。そもそも性別を男だと思われてないし、子どもに思われてるなら休日に遊びに出掛けてるだけか。

 

 

 

ココネ:『それで夜は一緒にお風呂に入って、それからパジャマで放送するんですよ。二人で布団に寝転がりながら……。それで放送が終わったらそのまま寝るんです。とっても楽しみですね』

 

 

 ココネが幸せそうな笑みを浮かべていた。

 ただ、僕は動きが固まった。

 

 

 

【コメント】

:全部放送してくれ

:楽しみ

:雪城ユキ :い、一緒にお風呂はちょっと……

:あっ、ユキくんがいたw

 

 

 

ココネ:『あっ、ユキくん。ちょうどよかった、今度のオフだけど、どんなパジャマが良いですか? 一緒に見に行きますか? うーん、今から楽しみですね』

 

 

 

【コメント】

雪城ユキ :そ、その、ぼ、僕、パジャマは持ってるから……そ、それじゃあ

:あっ、逃げたw

:逃げたw

:wwwwwwww

 

 

 

ココネ:『うーん、やっぱりちゃんと手綱を付けないと逃げられますか……。オフの時も気をつけないと……』

 

 

 

 最後にココネの恐ろしい言葉を聞いた僕は次にユイのチャンネルへと向かった。

 

 

 

◇◇◇

『《雑談》睡眠枠 《羊沢ユイ/シロルーム三期生》』

1.5万人が視聴中 ライブ配信中

⤴652 ⤵41 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

 ユイの配信画面は相変わらずだった。

 もこもこの服を着たユイがクッションを抱えて眠っている。

 

 

 

ユイ :『すぅ……、すぅ……』

 

 

 

「って、本当に寝てる!?」

 

 

 

 その姿を見た僕は大慌てでユイに対してコメントをする。

 

 

 

【コメント】

雪城ユキ :ユイ、起きて!

:あっ、こっちにユキくんがw

:ユキくん、逃げて。罠だよw

:あぁ、犬が引っかかってる……

雪城ユキ :えっ、罠?

 

 

 

ユイ :『うみゅー、ユキくんなの。やっと来てくれたのー』

 

 

 

 ユイが突然目を覚まして起き上がる。

 

 

 

ユイ :『待ってたの。ユキくん、通話して良い?』

 

 

 

【コメント】

:唐突すぎるwww

:wwwwwwwwww

雪城ユキ :えっと、今はそのちょっと……

 

 

 

ユイ :『うみゅー……、残念なの。ならもう一回寝るの……』

 

 

 

 それから本当にユイが眠りだしてしまう。

 

 

 

【コメント】

雪城ユキ :ちょ、ちょっと待ってよ!? なんでそうなるの!?

:ユキくん必死w

:罠とも気づかずにw

:開始したときに宣言してたからな。ユキくんと喋るまで寝るってw

 

 

 

ユイ :『うみゅー! バラしたらダメなのー!! ゆいはただユキくんの声が聞きたかっただけなの。今日、ユキくんの配信、お休みだから』

 

 

 

 ユイが駄々っ子のポーズをする。

 

 ただ、よく考える。ユイは結坂なんだよな……と。

 

 つまり、これもなにか考えがあってしていることなのだろう。

 

 じっとユイの考えを読む。

 

 さすがに昨日の今日でコラボをしようなんてことは……まぁ、考えていても受けてもらえるとは思っていないだろう。

 全力で僕は拒否するから。

 

 

 そうなってくると本当に声を聞きたいだけ?

 いやいや、それこそあり得ない。さっきまで一緒にいたわけだし。

 

 それにどうして僕の声を聞きたいなんて思うの?

 しかも配信中に……。

 

 

 つまり、僕をからかおうとしているのだろう。

 現に僕が来てからコメントが多くなっている気がする。

 

 

 

【コメント】

:ユキユイ待機

:やっぱりユキユイはいいよな

雪城ユキ :わ、わかったよ。配信が終わったら、あとから電話するよ

:ユキくん優しい

 

 

 

ユイ :『うみゅ、なら今日の放送はこれでおしまいなの。今すぐにユキくんに電話してくるの』

 

 

 

 本当にまだ始まったばかりの放送を終わらせそうなユイの言葉を聞いて、僕はすぐに通話のボタンを押していた。

 

 

 

『ちょ、ちょっと、ユイ!? なんで配信を終わらせようとしてるの!?』

 

ユイ :『うみゅ? ユキくんと通話するためなの? それよりもユキくん、通話してよかったの?』

 

『だ、大丈夫じゃないけど、まだ放送時間があるでしょ。ほらっ、勝手に終わらせないで頑張って……。僕の声を聞いたら大丈夫なんだよね?』

 

ユイ :『うみゅっ、ユキくんに言われたら頑張るしかないのー』

 

『そ、それだけ言いに来ただけだから。そ、それじゃあ、僕はこれで――』

 

ユイ :『に、逃げるの早いの!? じ、自己紹介くらいして欲しいの』

 

『わ、わかったよ。わふー、羊飼いのみんな、こんばんはー。シロルーム三期生の雪城ユキです。じゃあ、今度こそ僕はこれで――』

 

ユイ :『うにゅ、ユキくんの声を聞けたからゆいは満足なの。今日はこのくらいにしておくの。ユキくん、お疲れ様なの。しっかり二十四時間寝ないとダメなの』

 

 

 

 一日丸々休めってことを言いたかったのかもしれない。

 

 確かに他人の配信を見て回るのもいいけど、普段知らない人の前で配信をするなんて慣れないことを続けているので精神的に消耗している。

 

 たまにはじっくり休むことも必要だった。

 もしかして、この注意喚起をするためにわざわざ僕を呼んだのだろうか?

 

 さすがにそれは考えすぎな気がするけど、一応お礼を言っておく。

 

 

 

『……ありがとう、ユイ。今日はゆっくり休むね。羊飼いのみんな。少しだったけど、お疲れ様ー』

 

ユイ :『またなのー』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、ばいばーい

:早いwww

:ユキくん、お疲れ様ー

:ユイちゃんが大人しく引き下がってる!?

:明日は雪でも降るのか!?

 

 

 

ユイ :『うみゅ、明日はユキくんがゆいの放送に降ってくるの』

 

『降らないよ!?』

 

 

 

 通話を切ろうとしていたけど、思わず言わずにはいられなかった。

 

 

 

『と、とりあえず、またそのうち……』

 

ユイ :『うみゅ、あとから電話も待ってるの』

 

 

 

――もしかして、二回話そうと考えたとか? と、とりあえずユイのことは気にせずに、カグラさんの放送へ行こう。

 

 

 

◇◇◇

『《♯姫のご乱心》孤高を生きていくわよ!《神宮寺カグラ/シロルーム三期生》』

8,314人が視聴中 ライブ配信中

⤴214 ⤵11 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

 カグラの放送に来たのだが、なんだか違和感を感じてしまう。

 まるでお酒でも飲んでいるかのようなやさぐれ方をしていた。

 

 

 

カグラ:『べ、別に私は誰かとオフコラボしたいわけじゃないのよ? 私は一人がいいのだから……』

 

 

 

 何やら必死にリスナー達に話しかけていた。

 その様子を見ればカグラが誰かとオフ会をしたがっていると言うことが良くわかった。

 でも、自分からは中々言うことができないのだろう。

 

 

 ただ、それなら僕にもできることがある。

 なんだかんだでカグラさんは僕のことを助けてくれた。

 

 

 初配信の時は心配してコラボをしてくれたり、初通話の時も一番最初に声をかけたりしてくれた。

 

 

 自分からオフ会を言い出せないのなら、僕から声をかけるべきだよね?

 恩を仇で返してはダメだ。

 しっかりと助けてもらった分は返さないと。

 

 

 少し手が震えている。

 当然だろう。今まで自分からそういったことはしてこなかったのだから。

 

 

――もし、拒絶されたらどうしよう。

 

 

 今まで否定され続けた人生が僕に恐怖を抱かせる。

 

 

 でも、ここは動くべき! いや、動かないといけない!!

 

 

 僕は覚悟を決めるとコメント欄でまずは確認を入れる。

 

 

 

【コメント】

雪城ユキ :えと……、か、カグラさんはオフコラボ、したくないの?

 

 

 

 緊張して、文字を打つ手が震えてしまう。

 本当はもっとストレートに聞きたかったのだが、少し遠回しに言ってしまった。

 しかし、僕がいるとは思ってなかったのか、カグラは慌てていた。

 

 

 

カグラ:『ゆ、ユキ!? そ、そんなことないわよ!? わ、私は別にオフコラボしたくないわけじゃなくて、その……あの……』

 

 

 

【コメント】

:こっちにもユキくんがw

:カグラ様テンパってるw

:ユキくん、ナイスツッコミw

:ポンコツモード突入w

 

 

 

 酷い書かれようであるけど、これはこれでカグラのことを楽しんでくれているともいえるのだろう。

 でも、カグラは嫌がっているわけではないようだった。

 それなら――。

 

 僕は覚悟を決めるとカグラに一通、チャットを送る。

 

 

 

ユキ :[今、少しだけコラボに入っても良いかな?]

 

 

 

 見てくれたらカグラだったら何らかの反応を見せてくれる。

 それがないならコメントでチャットを見て、って書いたら良いだろう。

 

 そう思っていたのだが、案外早くカグラは反応してくれる。

 

 

 

カグラ:『えっ!? ど、どういうこと……!? だ、大丈夫よ』

 

 

 

 慌てながらなんとか頷いてくれるカグラを見て、僕はキャスコードの通話ボタンを押していた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 他人のコラボに入るのはやはり、緊張はしてしまう。

 

 しかし、今回は覚悟を決めて動いたのだから、と自分に言い聞かせて気持ちを落ち着ける。

 

 カグラがユキくんin段ボール(ぼく)を表示させたのを確認した後で、みんなに向けて挨拶をする。

 

 

 

『わ、わふぅー、カグラ親衛隊の皆様、こんばんはー。シロルーム三期生の雪城ユキです。き、今日は()がカグラさんを拾いに来ました。よろしくお願いします』

 

 

 

 僕が頭を下げるとカグラは慌てて言ってくる。

 

 

 

カグラ:『ちょっ、ちょっと、いきなり何を言ってるのよ! わ、私が拾われるわけないでしょ!?』

 

『えと……、親衛隊のみんなはどう思う? 僕が拾っていって良いかな?』

 

 

 

 カグラが簡単に同意してくれるとは思っていなかったので、リスナーの人に確認をする。

 

 

 

【コメント】

:どうぞ

:どうぞどうぞ

:どうぞどうぞ

:ユキくんが積極的だw

:今日はユキくんが色んなところに現れるw

:珍しいw

:ユキくん、大人になったんだね……

:おま、言い方w

 

 

 

『わ、わふぅ、ありがとうございます。では、カグラさんは僕が拾っていきます』

 

カグラ:『だ、だから、ユキもなにを言ってるのよ!?』

 

『えとえと……、そのオフ……』

 

カグラ:『へっ!?』

 

『だ、だからその……、お、オフコラボを僕としてくれないかなって……』

 

 

 

 少し緊張した声でカグラに言う。

 もっと話の流れでスムーズに言えると思ったのだが、さすがに緊張してしまって声が上擦ってしまった。

 

 

 

カグラ:『お、お、オフコラボ!? な、なにを言って――』

 

『ら、来週はココママとのオフコラボがあるし、その次はアカネ先輩たちとのコラボがあるから……、あ、明後日とかはどうかな?』

 

 

 

――カグラさんも僕と同じで日が離れてしまったら断ってくるはず。

 

 

 日に日に怯えてしまう気持ちはよくわかる。

 だからこそあまり予定の日は遠くしない。

 

 それにカグラから日にちを言ってくれることはないだろうから、自分から空いている日を言う。

 

 

 

カグラ:『い、いきなりそんなこと言われても。べ、別にオフをしたいわけじゃ――』

 

『だ、ダメかな……?』

 

カグラ:『うっ……、そ、そんなことないわよ! ゆ、ユキがそこまでやりたいって言うなら仕方ないわね。ユキの頼みだもんね。しょうがなくオフコラボをして上げるわよ』

 

 

 

 カグラは嬉しそうに上擦った声で返してくる。

 

 

――よかった……、断られなくて……。

 

 

 僕はどこか心の中でホッとしていた。

 みんなこんな気持ちでコラボの申し込みをしていたんだな、と思うと今まで簡単に断っていたのが申し訳なく思えてくる。

 

 

 

――次からはもっと真剣に断ろう……。

 

 

 

『と、ということで明後日にカグラさんとオフコラボをすることが決まりました。内容は追って報告します。そのその……、わ、枠はカグラさんの方で良いかな?』

 

カグラ:『えぇ、もちろん構わないわよ』

 

『そ、それじゃあ、僕はこ、この辺りで……。か、カグラさん、あとからチャット送るね』

 

 

 

 それだけ言うと僕は通話を消していた。

 

 

 

【コメント】

:【速報】カグユキオフコラボ決定!!

:よかったね、カグラ様

:カグラ様念願のオフコラボ

:ポンコツ同士、どんなコラボになるのか……

:ユキくんもお疲れ様w

:今日のユキくん、積極的だったね

:今から楽しみw

:カグラ様、嬉しそうw

 

 

 

カグラ:『べ、別に私は嬉しいとか思ってないわよ!? ゆ、ユキが言うから仕方なくコラボしてあげるだけなんだからね。ユキ、断ると泣いてしまうだろうし――』

 

 

 

 カグラは必死に言い訳をしていたが、その表情から笑みが消えることはなかった。

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯姫のご乱心》孤高を生きていくわよ!《神宮寺カグラ/シロルーム三期生》』

1.8万人が視聴 0分前に公開済み

⤴2,741 ⤵12 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:kagura_Room.神宮寺カグラ

チャンネル登録者数2.6万人



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第12話:十万人記念コラボ配信

――やってしまった……。つい勢いでカグラさんにコラボを申し込んでしまった。しかもオフで……。

 

 

 カグラの配信終了の文字を見ながら僕は思わず頭を抱えていた。

 

 

 しかし、自分から申し込んだ以上、悩んでいても仕方ない。

 まずは放送の内容を考えるのと、カグラとどこで待ち合わせるのか。あとしないといけないことは……。

 

 頭を悩ませているとチャットの通知音が鳴る。

 

 

 

マネ :[ユキくん、聞きましたよ]

 

 

 

 担当さんからの突然の連絡。

 しかも僕に関することらしい。

 

 一体突然なにを言い出しているのだろう、と僕は思わず聞き返してしまう。

 

 

 

ユキ :[えっと、な、なにを聞いたのですか?]

 

マネ :[オフの件ですよ。ユキくんから申し込んだ、とか。ここまでユキくんが成長してくれて、担当として嬉しいです]

 

ユキ :[ぼ、僕だって本当はしたくないですよ!? で、でも、カグラさんには色々と助けてもらったし、僕の力になれるならって……]

 

マネ :[うんうん一応他の人なら私に報告してから決めて欲しいところですけど、同期なら大丈夫ですよ]

 

 

 

 あっ、そうか。担当さんにもコラボを決める前に連絡しておかないといけなかったんだ。

 

 

 

ユキ :[ごめんなさい、勝手に決めてしまって……]

 

マネ :[いえ、全く問題ないですよ。むしろ毎日でも構わないですよ]

 

ユキ :[ま、毎日は僕の体が持ちませんので……]

 

マネ :[わかってますよ。だけど、随時他の人ともコラボしてもらいますよ?]

 

ユキ :[だ、大丈夫です。もうユイともココママともコラボしましたから……]

 

マネ :[アカネさん達のあとはユージさんやユキヤさんとかともコラボを予定してます。多分ユキくんならこのお二方はやりやすいんじゃないかなと……]

 

ユキ :[た、確かにやりやすいです……]

 

マネ :[炎上の恐れもあるので、男性とのコラボは悩ましいところではあるのですけどね]

 

ユキ :[えっ!? そ、それはこ、困ります……]

 

マネ :[大丈夫ですよ。安心してください]

 

ユキ :[あ、安心できないですよ……]

 

 

 

 まさか、同性同士のコラボがそんなに恐ろしいものとは思わなかった。

 いや、ユキくんは一応認識は女性になるのだろう。

 そうなると、男女の組み合わせは炎上の恐れがあることも分かった。

 

 担当さんは大丈夫と言うけど、僕の新しい悩みの種ができることとなった。

 

 

 

マネ :[あっ、『コラボすることになった』報告は積極的にしてくださいね。特にユージさん達のコラボは]

 

ユキ :[ほ、本当に大丈夫なのかな……]

 

マネ :[それよりもユキくん。カグラさんとのコラボ内容、決まってるのですか!?]

 

ユキ :[えっと、そ、それはまだなんですよ……]

 

マネ :[それなら料理対決……なんていうのはどうでしょうか?]

 

ユキ :[ぼ、僕、料理なんてできませんよ?]

 

マネ :[カップ麺くらい作れますよね?]

 

ユキ :[そのくらいなら……]

 

マネ :[それなら問題ないです。負けたカグラさんには罰ゲームとして、お泊まりオフコラボを行ってもらいますので]

 

ユキ :[ま、まだ、カグラさんが負けると決まったわけじゃないですよ……?]

 

マネ :[カップ麺が作れたら勝てますよ。ユキ君のキャラ付けにもなりますし……]

 

ユキ :[わ、わかりました。それなら料理対決を提案してみますね]

 

 

 

 本当に良いのかな……と思いながらも担当さんから聞いた放送内容をそのままカグラに伝えてみる。

 すると、すぐに了承の返事がきた。

 

 

――カグラさん、料理は得意って言ってたもんね。枠でしようと思ってるって。やっぱりこれって担当さんの罠なんじゃないかな?

 

 

 一抹の不安を抱えながら、放送当日まで必死に料理の練習をするのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 そして、オフの当日。

 さすがに僕の家は母さんもいるので、カグラさんの家へお邪魔することになっていた。

 

 ガチガチに緊張したまま、カグラの部屋があるマンションへとやってきた。

 そして、中々覚悟が決まらずに玄関前をうろうろとしていると突然ドアが開く。

 

 

 

「いつまでそうやって迷ってるのよ!」

 

 

 

 出てきたのは長めの金髪の少女だった。

 背丈は僕よりも十センチは大きく、スレンダーな体型。そして、白のパーカーと赤いスカートをはいていた。

 少しつり目なところがキツい印象を与えるかもしれない。

 

 それでも綺麗な少女だった。

 

 

 

「えっ、あっ、ご、ごめんなさい……。その、僕……」

 

「ユキでしょ!? 早く呼びなさいよ、全く……。入って来なさい」

 

「う、うん……、し、失礼します……」

 

 

 

 カグラに案内されるがまま、僕は部屋の中へと入っていく。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 カグラの部屋は最低限の家具しか置かれていなかった。

 ただ、配信用の部屋にはパソコン機器がしっかり置かれており、いくつかのモニターや見たこともない道具がいくつも置かれている。

 

 

 

「無骨な部屋で悪かったわね」

 

 

 

 じろじろと部屋を見ているとカグラが不満そうに告げてくる。

 

 

 

「そ、そんなことないよ……。カグラさんの部屋はーー」

 

「……田島瑠璃香(たじまるりか)よ」

 

「えっ!?」

 

「私の名前。瑠璃香と呼んでくれたら良いわ」

 

「あっ、そ、そうだね。ぼ、僕は小幡祐季(こはたゆき)です……。好きに呼んでください……」

 

「ユキはユキで良いわけね。あの担当が考えそうなことだわ」

 

 

 

 瑠璃香は腕を組んで眉をひそめていた。

 確かに普通なら同じ名前にすることはない。

 それをあえて同じ名前にする。

 色々と理由は考えられる。

 

 

 

「多分、僕がポロッと自分の名前を言うかもしれないって思われたんだろうね」

 

「ユキならあり得るわね」

 

「さ、さすがの僕でもそんな事はしないよ!? そうじゃないと自分のことがバレてしまうし……」

 

「それもそうね。でも、ユキって本当にイメージ通りの姿よね。なんていうか、子犬っぽいというか」

 

「べ、別にそんなことないと思うんだけどな……」

 

 

 

 オドオドとしながら、置かれている機械を眺める。

 僕の家には担当さんから受け取った分しかないから少し興味があった。

 マイクだけでもいくつも種類があるし、モーションキャプチャーの道具もあった。

 

 

 

「かぐ……ううん、瑠璃香さんって機械に詳しいんですね。僕は全然だから羨ましいです」

 

「ど、どうせ女らしくないって思ってるんでしょ?」

 

「そんなことないよ? むしろかっこいいと思ってるよ?」

 

「えっ、そ、その、あ、ありがとう……。で、でも、私もユキみたいに女の子らしくなりたいのよ」

 

「えと……、ぼ、僕は別に女の子らしくなくていいんだよ……」

 

「ーーそうだったわね。本当にユキが男だなんて、直接見た今も信じられないわよ」

 

 

 

 何故か初めから瑠璃香には僕の性別がバレていたらしい。

 そのことに驚いてしまう。

 

 

 

「えっ!? ど、どうして?」

 

「普段のチャットとかでわかるでしょ? まぁ、Vtuberには性別は関係ないものね。私としてはボイチェンでバ美肉してるのかと思っていたけどね」

 

「ば、ばび……??」

 

「まぁ、ユキは今のユキのままでいいってことよ」

 

「えっ? うん、ありがとう……」

 

「なんか調子狂うわね。まぁ、ユキと一緒だといつもだけどーー」

 

「えと、それって褒めてる?」

 

「……どうかしらね」

 

 

 

 瑠璃香は楽しそうに笑っていた。

 それを聞いて僕は頬を膨らませていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「配信までは時間があるわね。ユキ、少しモーションキャプチャーを使ってみる?」

 

「えっ、いいの!?」

 

 

 

 流石にアバターの全身が動いている姿は興味がある。

 担当からも3Dアバターを作ってるとは言われていたが、それなりの値段がするモーションキャプチャーはまだ手が届かなかった。

 

 

 

「アバターは以前使っていた私のやつしかないけどね」

 

 

 

 それでも自分の動きに合わせて動くのは楽しみであった。

 

 そんな事を思っていた時に担当さんから連絡が来る。

 

 

 

マネ :[ユキくんの3Dアバターとミニアニメができましたよ。早速使ってくださいね]

 

ユキ :[えと……、3Dはお気に入り登録者十万人の時にお披露目なんじゃなかったのですか?]

 

マネ :[えぇ、それでユキくんの登録者数は今9.9万人ですよ? 日に日に増えていってますから]

 

ユキ :[……えっ!?]

 

 

 

 慌てて自分の登録者を見にいく。

 すると担当さんがいう通り、そこには[9.9万人]の文字が浮かんでいた。

 

 

 

「う、うそ……!? いつの間にこんなに増えて……」

 

「まぁ、ユキの人気を考えると当然ね」

 

 

 

 隣で頷く瑠璃香。

 しかし、僕は信じられずに呆然とその数字を見ていた。

 

 

 

「ま、前の配信終わった時はまだ八万人だったのに……」

 

「アーカイブでも増えていくわよ。このままトップに上り詰めるしかないわね」

 

「うぅぅぅ……、僕はほどほどでいいよぉ……」

 

 

 

 思わず頭を抱えてしまう。

 

 

 

マネ :[見ましたか? だから今日は十万人記念配信とコラボ配信の二つ、してくださいね]

 

ユキ :[きょ、拒否権は?]

 

マネ :[ニコッ]

 

ユキ :[な、ないんですね……]

 

 

 

 僕は思わず頭を抱えてしまう。

 

 

 

マネ :[せっかくなので3D配信をしてはどうでしょうか?]

 

ユキ :[そ、そうですね。それをしてみます……]

 

マネ :[では、よろしくお願いしますね。アバターとミニアニメを送っておきますから]

 

ユキ :[み、ミニアニメまで……]

 

 

 

 知らないうちにどんどんとユキくん関係が進んでいっている。

 一体どこまで広がっていくのか……。

 

 

 

「えっと、3Dのやり方、教えてもらっていいかな?」

 

「えぇ、もちろんよ」

 

 

 

 瑠璃香に教わりながら、僕は配信の準備を進めていった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 雪城ユキ@シロルーム三期生 @yuki_yukishiro 今

ま、まもなくお気に入り登録者数が10人ということで、12時から10人まで配信させていただきます。色々と初お披露目もあるので見に来て下さいね。わ、わふー ♯犬拾いました ♯カグユキ

 

 

 

 相変わらず配信前の告知は緊張してしまう。

 しかも今は瑠璃香によって、モーションキャプチャーが付けられている。

 

 更に瑠璃香の家のPCを借りて配信の準備をしていた。

 

 

 

「まぁ、こんなところね。開始前にはもらったミニアニメを付けておいたわよ」

 

「うん、ありがとう……。助かるよ」

 

「いいわよ。その代わりに昼の記念配信もコラボさせてもらうわよ?」

 

「もちろんだよ……。僕一人だとどこまで話できるかわからないから……」

 

「ふふっ、ユキの人気にあやかって私もお気に入り増やすわよ」

 

「えっと、僕にできることだったらいくらでも手伝うよ」

 

「それなら概要欄に私のページを張っておくわ。それで十分よ」

 

 

 

 配信の準備を全て瑠璃香がしてくれるので、僕としては本当に楽をさせてもらっていた。

 サムネまでも準備してくれて、僕はただ放送に備えるだけで良かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『《♯犬拾いました ♯カグユキ》登録者数10人超えるまでコラボ配信。他にも色々と報告があるよ《雪城ユキ/神宮寺カグラ/シロルーム三期生》』

2.0万人が待機中 20XX/05/14 12:00に公開予定

⤴957 ⤵6 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

「待ってる人数、おかしくない!?」

 

「ユキなら普通じゃない? 私だと考えられないけど……」

 

 

 

 瑠璃香はどこか遠い目をしていた。

 

 

 

「だ、だって、今は昼……」

 

「それよりミニアニメ、流すわよ。音声も入るから注意してね」

 

「うん、わかったよ」

 

 

 

 配信開始を瑠璃香に任せて、僕は息を整える。

 そして、画面にミニアニメが表示される。

 

 

 段ボールに入ってるユキくんが顔を出して、隠れて……を繰り返す単調なもの。

 ただ、やっぱりそれだけでもあるとないだと全然動画の雰囲気が違った。

 

 

 

【コメント】

:うおっ、アニメがついた

:既に登録者は10人超えてる件w

:10万人も超えてないか?w

:ユキくん、今一番伸びてるもんな

:そっか、今日はカグラ様とオフの日か

:10万人超えそうだったから慌ててしたんだろうな

:このアニメとかも設定はカグラ様がしてそうw

:家事以外のことはできるもんな、カグラ様w

:10万人突破おめでとー

:おめでとー

:おめわふー

:おめでとー

羊沢ユイ :おめでとー

真心ココネ :おめでとー

美空アカネ :おめでたー

:アカネさん、違うw

:相変わらずの暴走www

海星コウ :おめでとー。アカネは回収するね

真緒ユキヤ :おめでとう。よくやった

野草ユージ :チーっす、おめおめちゃーん

:一期生全員集合w

:ユージ草

:ユージ草

姫乃オンプ :おめでとーなのですー

貴虎タイガ :おめっす!

氷水ツララ :おめでとうございます

猫ノ瀬タマキ :おめでとーだにゃ

:うおっ、二期生まで全員いるぞ!?

 

 

 

――えっ!?

 

 

 驚きのあまり声が出そうになったのをかろうじて抑える。

 

 

 

 シロルーム二期生。

 シロルーム人気を加速させた人たちで、その特徴はなんと言っても個性豊かな面々だった。

 

 

 まるで本物のお姫様。のんびりとした口調で話す。

 ウェーブがかったピンクの長髪と白のフリルがたくさんあしらわれたドレス。とてもスタイルが良い。

 ゲーム以外はほとんど完璧な姫乃オンプ(ひめのおんぷ)

 

 二期生の獣人枠の一人。

 黄色と黒のコントラストな髪と同じ柄の袖なしワンピース。トラの耳と尻尾がある。

 常に暴走しているのになぜか最後は綺麗に収まるトラブルメーカー、貴虎タイガ(きとらたいが)

 

 ミステリアスな少女。

 蒼銀の髪は肩より少し長く、水色の少しブカブカのワンピースを着ている小柄な少女。

 ジト目をよくする口数少ない氷の女王、氷水ツララ(こおりみずつらら)

 

 猫オブザ猫。

 茶色のショートカットをしてるが、なぜか制服を着ている。猫耳と尻尾がある。

 常に面白い方向に転がるように計算して、場をかき乱すだけ乱していく猫ノ瀬タマキ(ねこのせたまき)

 

 

 

 二期生はまとめるとこんな感じの人たちだった。

 一期生同様に僕からしたら雲の上の存在。

 そんな人たちが目の前にやってきたのだから、緊張で体が固まってしまう。

 

 

 そんなタイミングで配信が開始される。

 

 ただ、僕は緊張から声が上擦ってしまう。

 

 

 

『わ、わ、わふぅぅぅ……』

 

 

 

【コメント】

:わふー

:わふー

:わふー

:わふー

:わふー

猫ノ瀬タマキ :あれっ? 今日は段ボールもなしにゃ?

:姿見えないよー?

:ユキくん、なんか緊張してる?

 

 

 

『あうあう、そ、その……あの……、き、今日は僕のお気に入り十人までコラボ配信に来てくれてありがとうございます……』

 

 

 

【コメント】

:10人w

:wwwww

:草

:もう10万人も超えてるよw

:まだ姿が見えない……

 

 

 

『あっ、本当だ……。それじゃあ、今日の放送は終わります。お疲れ様でした……』

 

カグラ:『って、まだ始めてもいないでしょ!? それに十人じゃなくて十万人でしょ!?』

 

『うぅぅ……、もう配信の目標は達成したからいいでしょ……』

 

カグラ:『ダメに決まってるわよ! ほらっ、早くやりなさい! 私、挨拶もしてないのに喋ってしまってるでしょ!』

 

『カグラさんがこのまま喋っててくれて良いんだよ……』

 

 

 

【コメント】

:このやりとり久しぶりw

:いつものユキくんだw

:www

:最近、ユキくん大人だったもんねw

:お帰り、俺たちのユキくんw

真心ココネ :ユキくんは私のですよ!

:ココママ草

:ママ草

 

 

 

 

『わ、わかったよ……。頑張るよ。頑張れば良いんだよね……。えとえと、みなさん、こんにちは。雪城ユキです。本日は僕の登録者十人記念に来てくださってありがとうございます。今日はこのあとのコラボも控えてますので、カグラさんに来てもらいました。それじゃあ、あとはよろしく……』

 

カグラ:『今日はユキが仕方なくオフをして欲しいといったから、来てあげたわよ。決して私がしたいって言ったわけじゃないからね。そこは間違えないように。あと、ユキは逃げようとしないこと!』

 

『うぅ……、わ、わかったよ。今日の設定とか諸々はカグラさんにしてもらいました。ミニアニメ、どうでしたか? 僕、動いてましたよね?』

 

 

 

【コメント】

:可愛かったよ

:お持ち帰りしたい

:ここまで画面には誰もいない

:可愛い

 

 

 

『わふっ……、それはよかった。それじゃあ、今日の配信はここまで――』

 

カグラ:『だーかーらー、違うでしょ!! 今日はユキくん十万人突破記念と言うことで、超えたタイミングから3Dユキくんが登場する予定だったのよ。最初から超えたせいでユキくんが緊張してぐだぐだになってるけど』

 

 

 

【コメント】

:ぐだぐだを見に来てるから大丈夫w

:3D!?

:わくわく

:まだー?

:もう10万人超えてるよー?

羊沢ユイ :うみゅー、段ボールから引きずり出す?

猫ノ瀬タマキ :にゃにゃにゃ、ユキくんはイジりがいがありそうだにゃ

:タマキパイセンに目を付けられたユキくんwww

 

 

 

『うぅぅぅ……、わ、わかったよ。そ、その、段ボールがないから恥ずかしいんだけど……』

 

 

 

 画面に僕の動きに合わせて動くユキくんが表示される。

 一番標準のワンピース姿のユキくん。

 

 それが全身で表示されている。

 ややうつむき加減なのは、僕が恥ずかしがっているから、というのが大きい。

 

 

 

『も、もういいかな?』

 

カグラ:『もちろんダメよ。せっかくの3Dなのだからもっと動かないと!』

 

『うぅ……、わ、わかったよ……』

 

カグラ:『それじゃあ音楽鳴らすから踊ってみてね』

 

『えっ!? む、無茶ぶりだよ……』

 

 

 

 本当にカグラは音楽を鳴らし始める。

 その音に合わせてとりあえず体を動かしてみる。

 ただ、あまりにも突然のことで足が絡まってその場で転けてしまう。

 

 

 

『わぷっ!?』

 

カグラ:『ゆ、ユキ!? だ、大丈夫!?』

 

 

 

 カグラが慌てて近づいてくる。

 僕は苦笑を浮かべながらその場で立ち上がる。

 

 

 

『う、うん、大丈夫……。ってほ、放送中だよ。い、今のところはカットで……』

 

カグラ:『ライブ配信でしょ!』

 

 

 

【コメント】

:毎回何かしてくれるユキくんw

:草

:wwwww

:3Dユキくんもかわいい

:かわいい

:お持ち帰りしたい

:犬のおまわりさん、ここです

貴虎タイガ :犬と虎、どっちが強いか勝負しよーぜ

猫ノ瀬タマキ :猫もいるのにゃ

羊沢ユイ :うみゅー、ゆいもいるのー

真心ココネ :よ、妖精も……

:ココママ、無理ありすぎw



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第13話:料理?対決、開始

カグラ:『それよりも今日は色々と告知があるんでしょ? 頑張りなさいよ』

 

『うん、ありがとう……カグラさん。えとえと、今日はこの3Dの僕とミニアニメの初お披露目でした。そのその、三万人と十万人の記念にもらいましたので……。あとはコラボの予定を発表したいと思います。カグラさん以外は担当さんが勝手に決めちゃってたんだよ……。僕はその……一人で隠れて、誰も見ていないところで配信したかったのに……』

 

カグラ:『……ユキらしいわね。まぁ、私は一緒にやりたいなんて人はいないでしょうけど……』

 

 

 

【コメント】

:また自虐的カグラ様に戻ってしまった

:大丈夫だよ、カグラ様。ユキくんがいるよ。

姫野オンプ :同じ姫ですし、私とコラボしますかー?

野草ユージ :た、担当からってまさかここで発表するのか? 燃えるぞ?

:ユージ草

 

 

 

カグラ:『えっ、ひ、姫野さん!?』

 

『カグラさん、おめでとう。コラボ決まったね』

 

カグラ:『わ、私は別にしたかったわけじゃないんだからね。で、でも、ありがとうございます。そ、その……また後から連絡します』

 

 

 

【コメント】

:カグラ様おめ

:おめでとう

:おめでとー

姫野オンプ :ではお待ちしますねー

:姫姫コラボ楽しみ

 

 

 

 コメントが祝福の言葉で覆い尽くされる。

 今なら言えるかもしれない。

 

 僕は覚悟を決めて言う。

 

 

 

『えとえと。その……、僕がコラボ決まってるのは来週のココママとのオフと、その次はアカネさん達とのコラボ。あとは真緒ユキヤさんや野草ユージさんとのコラボが決まってるよ』

 

 

 

【コメント】

:へっ?

:はっ?

真緒ユキヤ :うむ、ユキの担当から根性をたたき直してくれと頼まれてな。筋トレ枠をするつもりだ

:はぁ?

:ユージ燃やす

:草燃やす

野草ユージ :ちょ、ちょい待てよ! 何で俺だけなんだよ!? ユキヤも同罪だろう?

:炎炎炎

:炎草炎

:炎炎炎

:真緒さんはユキくんを鍛えてくれるから

:チャラ男許さない

 

 

 

『あ、あれっ?』

 

カグラ:『はぁ……、まぁこうなるわね。一応言っておくとユキに限らずシロルームの全員とコラボしていくわけだから、この順番はたまたまなのよ』

 

『ま、まだ詳細は決まってないんだけどね。き、筋トレ枠か……。ははっ……、お手柔らかに……』

 

 

 

【コメント】

:草炎

:草炎

:炎炎

猫ノ瀬タマキ :炎草炎

美空アカネ :炎草炎

真緒ユキヤ :せっかくの3Dだ。試しにここで腕立てでもしてみるか?

野草ユージ :ちょっとお前たちまで燃やすな!! ユキヤは関係ないふりをするな!こっちこい!

:草炎

:草炎

 

 

 

 コメント欄が一気に燃えている。

 さすがの経験に僕は困惑していた。

 

 

 

『あ、あわわわっ、そ、その、僕、ど、どうしたら……?』

 

カグラ:『こういうのはね、放置するしかないのよ』

 

『で、でも、みんな怒って……。そ、その、僕が悪くて……』

 

カグラ:『はぁ……、わかったわよ。それならこういうと良いわ』

 

 

 

 それからカグラが一度音声をミュートにして、耳元である台詞を言ってくれる。

 

 

カグラ:『ほらっ、言ってみるといいわ』

 

『う、うん』

 

 

 

 僕は少し深呼吸をして気持ちを整える。

 

 そして、上目遣いをしながら言う。

 

 

 

『ぼ、僕のために争わないで……。こ、これ以上燃やされると僕、泣いちゃいましゅ……』

 

 

 

 肝心なところで噛んでしまう。

 そのせいもあり、一気に顔が真っ赤になり、その場でうずくまる。

 

 

 

『うぅぅぅ……、箱があったら入りたいよぉ……』

 

カグラ:『いつも段ボールに入ってるわよね?』

 

『いつも入ってるけど、今日はないもん。その、家に忘れてきたから……』

 

カグラ:『なら次からは忘れないことね。わかった?』

 

『うん……。そうするよ……』

 

 

 

【コメント】

:ユキかわ

:ユキくんのためなら仕方ないな

:ユキくん、泣かせたくないからな

:俺はむしろ泣かせたい!

:通報しました

:カグラ様、今日はしっかりしてるな

真心ココネ :ほ、本当は私がそこにいたはずなのに……

:ココママ草

:あれ? 草燃やすターンは終わり?

 

 

 

『あっ、収まった……。よかった……』

 

カグラ:『これに懲りたら安直な発言はしないことね』

 

『た、担当さんが積極的に言ってくれって言ってたから……』

 

カグラ:『なるほど……、確信犯ね。あとで締めておきましょうか』

 

『だ、ダメだよ。いつもお世話になってるんだから』

 

カグラ:『それよりも告知はそれくらいかしら?』

 

『えっ? うーん、そうだね。あとは来週のココママコラボでお気に入り登録者五人記念配信をするよ?』

 

カグラ:『もう十万人超えてるでしょ。しかも今日が十万人記念配信だし……』

 

『えっ? あっ、そ、それもそうか……。五万人記念ができなかったよ……』

 

カグラ:『ついに五万人を認めたわね』

 

『あっ……』

 

 

 

【コメント】

:カグラ様策士w

:時間遡行ユキくん

:草

:草

:ユージ草

:草

野草ユージ :俺、関係ないだろ!?

:草

 

 

 

『あぅあぅ……、そ、そろそろ僕も自覚しないとって思ってね。たくさんの人たちが僕の動画を見に来てくれてるんだって……。こんななにもできない僕を楽しみにしてくれてるんだって……』

 

カグラ:『はぁ……、全く。そんな当たり前のことを今更考えてたの?』

 

『あ、あた……。ぼ、僕が必死に悩んでたのに……』

 

カグラ:『だってそうでしょ? ここにいるみんな、ユキのことが好きだから来てるのよ。もちろん私も含めてね。だからユキはユキらしくそのまま突っ走ると良いのよ! その姿をみんなが見たいのだからね』

 

 

 

【コメント】

:あぁ、俺たちはユキくんが好きだぞ

:ユキくん、好きだー!

:結婚してくれー

:カグラ様がかっこいい!?

:このカグラ様は偽物だ!

羊沢ユイ :うみゅ、ゆいもユキくん好きなの

真心ココネ :当然私もですよ

 

 

 

 コメント欄が暖かくて、思わず僕は涙が流れてしまう。

 

 

 

『うぅ……、みんなありがとう……。ぼ、僕、頑張っていくからね……』

 

カグラ:『はぁ……、全く……』

 

 

 

 隣でカグラは苦笑いを浮かべていたが、その表情はどこか穏やかなものだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『あっ、そうだ。これは最後の告知になるけど、このあと、今晩十八時から僕とカグラさんのコラボオフがあるよ。料理対決だよ』

 

カグラ:『ふふふっ、返り討ちにしてあげるわよ』

 

『うぅぅ……、やっぱり無茶だと思うけど、精一杯頑張るから応援してね。僕が作る料理は僕の枠で、カグラさんが作る料理はカグラさんの枠で放送するよ。そのあと、総評はカグラさんの枠でするから、みんな忘れずに来てね』

 

カグラ:『実際に食べるのは私たちだけど、見た目とかの評価はみんなにしてもらうからね。必ず来るのよ!』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、大丈夫か?

:食えるものができるのか?

:死なないで……

:ユキくん、悪いことは言わないからやめた方がいいぞ

 

 

 

『えとえと、た、たしかに僕はそんなに料理を作ったことがないし、どこまで食べられるような料理になるかはわからないけど、その……が、頑張るよ!』

 

カグラ:『まぁ、私には敵わないでしょうけど、ほどほどに頑張るといいわよ』

 

『うん、カグラさんの料理、食べるの楽しみにしてるね』

 

 

 

 料理、得意って言ってたもんね。

 どんなものが食べられるのか、今からでも楽しみだった。

 

 ただ、コメント欄には僕を心配するコメントが溢れかえっていた。

 

 

 

『だ、大丈夫だよ。と、とにかくこのあとの放送もよろしくね。そ、それじゃあ、わふっ……』

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯犬拾いました ♯カグユキ》登録者数十人超えるまでコラボ配信。他にも色々と報告があるよ《雪城ユキ/神宮寺カグラ/シロルーム三期生》』

5.2万人が視聴 0分前に公開済み

⤴1.9万 ⤵87 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ

チャンネル登録者数10.1万人

 

 

 

◇◇◇

【コメント】

:ユキくん、本当に大丈夫かな?

:毒を食って平気なやつはいないだろ

:前、カレーを作るのに野菜を一切切らずに入れた上で焦がしてたぞ?

:まだ食えるならマシだ。肉焼いたときは炭にしてたぞ?

:ユキくん、死ぬな

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 無事に放送を終えることができた。そのことで僕はホッとしていた。

 

 燃えるかもしれない、という恐怖を感じたこと。

 その際にもカグラに助けてもらったこと。

 

 そのことは感謝してもしたりないくらいだった。

 ただ、とりあえず燃やすこと前提だった担当さんには文句を言っておこう。

 

 そう思い、スマホを開いた瞬間に通知が来る。

 

 

マネ :[そのうち必要になると思いまして、カグラさんがフォローできるうちに試してもらいました]

 

ユキ :[僕、まだ何も言ってませんよ!?]

 

マネ :[ユキくんが考えてることはわかりやすいですから]

 

ユキ :[それなら事前に言っておいてくださいよ! 僕、怖かったんですから……]

 

マネ :[言ったら放送自体しなかったですよね?]

 

 

 

 ……うん、おそらくしなかった。

 なにか理由を付けて断っていたことが容易にイメージできる。

 

 

 

マネ :[まぁ、本当なら女性ライバーと男性ライバーはコラボさせないのがシロルームの決まりなんですけどね]

 

ユキ :[そ、それじゃあ、やっぱり僕、コラボしなくても……]

 

マネ :[それはユキくんが女性と認める……ということですか?]

 

ユキ :[うぐっ……]

 

マネ :[まぁ、ユキくんは事情が事情ですから、色々と模索しながらやっていくと思います。今回もその実験だと思ってください]

 

ユキ :[わ、わかりました。ぼ、僕はやれることをやらせていただきます]

 

マネ :[うんうん。ただ、ユージくん達とのコラボは燃える可能性があるから二人同時のコラボにするね。何度も燃えたらユキくんの体が持たないもんね。あと、二期生達も順番にコラボしていくことが決まってるから]

 

ユキ :[……きょ]

 

マネ :[拒否権はないからよろしくね]

 

 

 

 うぅ……、やっぱりコラボは全員か……。

 

 ただ、何度もコラボを繰り返してきただけあって、そこまで抵抗はなくなってきている。

 そんな自分が怖い。

 

 今回みたいなオフコラボじゃないもんね。

 

 さすがにオフコラボはどうしても緊張する。

 既に僕の正体がバレている結坂と瑠璃香さん以外は……。

 

 

 

「あっ、そういえばユキは今日、泊まっていくのよね? どうする、お風呂は先に入る? 後からにする?」

 

 

 

 瑠璃香に言われて、僕は顔を赤くする。

 

 

 

「ぼ、僕はその、か、帰……」

 

「まさか帰るなんて言わないよね? オフコラボなんだから、とことんするわよ! そうね、料理対決のあと、お風呂入ってから寝るまでのコラボをする感じでいいわよね?」

 

「あうあう、そ、その……」

 

「えぇ、わかってるわよ。私の枠の後はユキの枠で。リレー形式にすれば良いんでしょ?」

 

「えと、そ、そこはずっと瑠璃香さんの枠で良いけど――」

 

「本当に!? 助かるわ! 私、少しお気に入り登録者数が伸び悩んでいて、迷ってたの」

 

「えっと、でももう三万人くらいいなかった? 十分すぎないかな?」

 

「まだ三万人に届いてないのよ。ユキは十万人超えてるでしょ!? それにココネやユイはもう四万人……。やっぱり負けられないわ」

 

「うーん、僕もなんで伸びてるかわからないからなぁ。ただ、僕にできることがあったら手伝うからね」

 

「ありがとう。なら今日はお泊まりオフ決定ね」

 

「えっ!?」

 

 

 

 こうして気がつかないうちに外堀を埋められてしまうのだった。

 

 

 

◇◇◇

 雪城ユキ@シロルーム三期生 @yuki_yukishiro 今

本日二回目の配信。カグラさんとのコラボオフ会になります。なんと料理上手のカグラさんに料理対決を挑みます。お、応援してくださいね。枠はメインがカグラさんの枠、料理中だけそれぞれの枠で行います。わ、わふー ♯カグユキ料理対決

 

 

 

 カタッターで呟いた後、僕は料理の準備を始めていた。

 とはいっても、それほど難しいものは作ることができない。

 

 そもそも実家暮らしの僕はまともに料理をしたことすらない。

 でも、そんな僕にもできる魔法の料理がある。

 

 味は完璧。

 塩分やカロリーは少々気になるものの、食べ盛りの男子だった僕が気にするほどのことではなかった。

 

 

――ほとんど食べさせてもらえなかったけど。

 

 

 お湯を沸かせばたったの三分で完成。

 最近は五分とかのものも増えてきてるけど、それだけで食べられる、料理下手の僕でも作れる魔法の料理がある。

 

 

 カップ麺。

 

 

 料理対決自体を冒涜してるようにも思えるが、今の僕にできる精一杯がこれだった。せめて食べられる料理にする必要があるからね。

 もちろん担当さんからも許可をもらっている。むしろ担当さんから勧められたものだ。

 

 そして、罰ゲームはお泊まりオフ会。

 

 ただ、すでに僕はユイとお泊まりはしてる。

 今日はカグラさんとも強制でするわけだし、唯一してないのはココネだけ……。

 

 でも、一度してしまったら耐性がつくのか、そこまで罰ゲームという感じがしない。

 

 おそらく担当さんとしてはここで負けさせて、嫌がる僕に強制お泊まり会をさせようとでもしたのだろう。

 慌てる僕の姿を見て『てぇてぇ』とでも言おうとしたのだろう。

 

 

――ふふふっ、すでに目論見は潰れてるよ。いつも僕の考えを読んでくる担当さんだけど、今日は裏をかかせてもらうからね。

 

 

 僕は担当さんが悔しがる姿を想像して不敵に笑みを浮かべていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 一応お互いが作る料理は作る前まで内緒……ということで、放送開始5分前になる。

 

 

『《♯姫のご乱心 ♯カグユキ料理対決》ルール説明&マシュマロ読み《神宮寺カグラ/雪城ユキ/シロルーム三期生》』

2.0万人が待機中 20XX/05/14 18:00に公開予定

⤴1,365 ⤵2 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

 既にかなりの数の待機者がいる。

 ただ、最近の僕の配信だといつもこんな感じだ。

 

 これもチャンネル登録者数が増えた影響だろうか?

 

 僕もずいぶんと自分に自信を持てるようになったみたいだ。

 正確には自分の枠じゃないから……ということがかなりの枠をしめているのだが――。

 

 でも、カグラは違ったようだった。

 

 

 

「えっ、な、なにこの待機者数……」

 

「うん、多いよね」

 

「って、なんでユキは平然としているのよ」

 

「僕、いつもこんな感じだからね……」

 

「はぁ……、そういえば昼もそうだったわね。でも、私のチャンネルだとあり得ない数字よ……。これもユキとのコラボのおかげかしら?」

 

「力になれたのなら嬉しいよ」

 

「……なるほどね。ユキはいつもこのプレッシャーと戦ってたのね」

 

「えっと……、僕の場合は余裕がなくて、そこまで意識が回らなかったのもあるけどね……」

 

「ふふふっ、それでこそユキよ。うん、大丈夫。行きましょうか!」

 

 

 

 カグラは自分の中で自己解決したようだった。

 

 

――この辺りやっぱりカグラさんは強いな……。僕はみんなに助けてもらってようやく立ち上がれたのに……。

 

 

 

【コメント】

:ついに来てしまったか

:地獄の料理……

:ユキくん逃げてー

:カグラ様放送でここまで人がいるのは初か?

:昼の放送の影響もあるだろうな

 

 

 

 コメントが賑わいだしたところでカグラが話し始める。

 

 

 

カグラ:『シロルーム三期生、神宮寺カグラ。今日も仕方ないから来てあげたわよ!』

 

 

 

 堂々と通る声を出すカグラ。

 その姿は純粋にかっこいいなと思える。

 おそらく、瑠璃香としての彼女を見たからだろう。

 

 おそらく僕たちの中で一番真剣に動画配信のことを考え、自分で研究して、一人悩み抜いている彼女のことを――。

 

 

 

【コメント】

:待ってたよー

:いや、待ってなかったぞー

:段ボールが転がってるwww

:今日は『拾われました』かwww

 

 

 

カグラ:『もう気づかれてるけど、今日はなんとシロルーム三期生トップ登録者を誇る雪城ユキに来てもらったわ。もちろんオフでね』

 

『わ、わふぅ……。どうも、雪城ユキです……。今日はカグラさんに拾われてお邪魔させてもらっています。そ、その……、よろしくお願いします』

 

 

 

 段ボールから覗くように顔を出す。そして、軽く頭を下げた後にすぐに段ボールの中へと隠れる。

 

 

――やっぱり段ボールの中って落ち着くよね。

 

 

 

カグラ:『くっ、相変わらず可愛いわね。まぁ、私には及ばないけどね』

 

 

 

【コメント】

:カグラ様の負けw

:可愛さは断トツユキくん

:一体どんなポンコツ具合を見せてくれるのか

:そもそもポンコツコンビで配信が成立するのか?

:ユキくん、すぐに隠れてて草

:昼間は段ボールがなかったもんね

:ユキくんの全身が見られる貴重な配信だった

 

 

 

『えとえと、酷い言われような気がするけど……?』

 

カグラ:『そうかしら? いつもこんな感じよ?』

 

『あ、愛されてるんだね……』

 

 

 

 思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 しかし、カグラはそれを誇らしげに言い返してくる。

 

 

 

カグラ:『まぁ、私にかかればこの程度、造作もないことよ』

 

『ほ、褒めてないんだけど……』

 

 

 

【コメント】

:ユキくんがフォローに回ってるw

:自分の枠じゃないときは自然体だよね、ユキくん

:普通逆だよねw

:カグラ様が早速ポンコツにw

 

 

 

カグラ:『と、とにかく、これからマシュマロを読んでいくわよ。答えるのはユキで良いのかしら?』

 

『えっ、ち、違うよ。この枠はカグラさんの枠だから、答えるのはカグラさんだよ?』

 

カグラ:『そういうものなのね。わかったわ。では、まず最初のマシュマロね。[カグヤ様、こんばんは]』

 

『えっと……、そ、それだけ?』

 

カグラ:『えぇ、これだけね。あと言わせてもらうと、私の名前は神宮司カグラ(じんぐうじかぐら)よ。カグヤじゃないから……』

 

『あっ、本当だ!? 良く気づいたね』

 

カグラ:『自分の名前なら当然でしょ』

 

『うーん、僕だったらスルーしてしまうかも……』

 

カグラ:『ユキは間違いようがないからね』

 

 

 

【コメント】

:あれっ、名前間違えるフラグ?

羊沢ユイ :カグちゃーん

:グラ様ー

:カンペ様ー

:わざと間違えるやつ多過ぎw

 

 

 

カグラ:『だから、私は神宮寺カグラよ! かんぺなんてユキじゃないから使ってないわよ!』

 

『ぼ、ぼ、ぼ、僕だって使ってないよ……。今日は――』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、動揺しすぎ

:前も見てたもんね

:カグラ様の持ちネタがついにできたか

:まだまだ持ちネタあるぞw

:これから積極的に名前弄りを入れていこうw

:早速マシュマロに投げてきたw

 

 

 

『うぅぅ……、本当に今日は見てないよー』

 

カグラ:『このままじゃ先に進まないから次のマシュマロに行くわよ! 全く、たかが挨拶でどれだけ時間かかるのよ……』

 

『ご、ごめんね。僕のせいで――』

 

カグラ:『ユキのせいじゃないわよ。それよりも次はこれ。[得意な料理はなんですか? ちゃんとした料理で逝ってください]。【言って】の漢字が違うわよ……』

 

『えっと、料理で……逝く? おいしすぎてかな?』

 

カグラ『……。私の得意料理はパスタよ。最近はクリームパスタにハマってるわ』

 

『おいしいよね。僕も好きだなぁ。でも、自分で作ろうとすると中々難しいんだよね。僕はレトルトのを食べるばっかりだよ』

 

カグラ:『確かにユキは苦手そうよね。まぁ今日は私の料理を見て勉強していくといいわ』

 

『うん、楽しみにしてるよ』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん死亡フラグw

:ユキくん、純情すぎw

:ユキくん逃げてwww

:カグラ様から何を勉強するんだ?

:ユキくんの勝ちに一万賭けるぞ!

:なら俺はユキくんに五万ペリカだ!

:俺は金欠だからユキくんに諭吉一枚だ!

:誰かカグラ様に賭けないと賭けが成立しないだろ

:自分から負けに行く奴はいないだろw

 

 

 

 なぜか僕が勝つと思われてるようだった。

 そんなに僕、料理できるように見えるのだろうか?

 ユキくんのアバターでもあまり料理ができそうには見えない。

 

 ううん、僕がそう見えないだけで意外と料理ができるように思われてるのかも。

 

 

 

【コメント】

:三期生で一番料理が出来そうなのはココママだけどな

:ユイちゃんもなかなか作ってくれなさそうだけど、うまそうだよな

羊沢ユイ :うみゅー、めんどう

:相変わらずで草

 

 

 

カグラ:『も、もう次行くわよ! えっと[カグラ様のリアルの友達は何人いますか?]』

 

『……』

 

 

 

 ぼっちの僕たちには中々つらい質問が来てしまった。

 思わず言葉に詰まってしまう。

 

 

 

カグラ:『ゼロよ! 文句あるの?」

 

『えと……、そ、その……、僕もゼロだったから……』

 

 

 

【コメント】

:これは質問主が悪いw

:トラウマを刺すw

真心ココネ :私は友達だからね

:カグラ様には親衛隊もついてるからな

 

 

 

『と、とりあえず次の質問に行こう。あと、今は僕たち、友達だからね。ゼロじゃない安心してね』

 

カグラ:『そ、そうよね。ありがとう、ユキ。それじゃあ次で最後にしましょうか。[カルマ様、こんばんは]って、私は神宮寺カグラよ! 何で業を背負ってる様な名前になってるのよ!』

 

『えっと……、その……あははっ……』

 

カグラ:『ユキも何か言いなさいよ!? まるで私がその通り見たいでしょ!?』

 

『大丈夫だよ。僕はカルマさんがどんな業を背負ってても友達でいるからね』

 

カグラ:『だから、私はカグラよ! カ・グ・ラ!』

 

『わ、わざとだよ、わざと。だから叩かないで……』

 

 

 

【コメント】

:俺たちは何を見せられてるんだ……

:ユキくん草

:ぺちぺち

:ユキくん楽しそうw

 

 

 

 

カグラ:『さて、気を取り直して――。それじゃあ、そろそろ今日の料理対決のルールを説明をさせてもらうわよ。まずはこの後、お互いの枠で料理を作るわよ。時間は三十分。交互に作らせてもらうわ』

 

『概要欄にお互いの放送枠を書いておくので、見にきてね』

 

カグラ:『書いたのは私よ。まぁ、やる順番はクジで決めるわ。それはこれからするけど、料理を作ってる間は別の部屋で待機。食べる時までお互いの料理は見ないでいくわ』

 

『見たかったけど仕方ないね。あとでアーカイブで見るよ』

 

カグラ:『それで最後は私の枠で食事会と結果発表ね。大まかに流れはこんなところよ。それで負けた方には罰ゲームね』

 

『う、うん……、手加減してね……』

 

カグラ:『ふふふっ、楽しみにしてるといいわよ。何をしたらユキが悦んでくれるか真剣に考えてきたから』

 

『か、漢字が違う気がするけど、ぼ、僕もカグラさんが喜んでくれるものを考えてきてあるよ』

 

カグラ:『それは楽しみね。まぁ、それが披露されることはないけどね。それで結果発表は私たちの食事レポートと完成した料理を見てもらって、リスナーの人に決めてもらうわ。それが一番公平だからね』

 

『あっ、そうなんだ……』

 

 

――まぁ、僕に勝ち目はないんだけどね。

 

 

 見た目はカップ麺。

 味はカップ麺。

 その名はカップ麺。

 

 

――うん、それでどうやっても勝てるはずないよね。

 

 

 

【コメント】

:俺たちも食べたいぞ! ユキくんの料理

:カグラ様が羨ましい

:ユキくんに一票だ

:俺もユキくんだ

 

 

 

『ちょ、ちょっと待って!? まだ料理を作ってないからね!? それに僕、本当に苦手だからその……、ちゃんと見て決めて欲しいな……』

 

カグラ:『くっ……、これが人気の秘訣なのね……。私にはできないわね……』

 

 

 

 カグラが隣で悔しそうに口を噛みしめていた。

 なぜ悔しがってるのかはわからない。そもそも僕は普通の態度をしているだけなのに……。

 

 

 

『と、とりあえずクジをするよ』

 

 

 

 カグラと二人クジを引く。

 その結果、僕が先に料理をすることになった。

 

 カップ麺だと伸びちゃうけどいいのかな……?

 

 そんなことを思いながら料理の準備を始めていた。



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第14話:料理?対決、決着

『《♯犬拾いました ♯カグユキ料理対決》料理? 作るよ《雪城ユキ/神宮寺カグラ/シロルーム三期生》』

2.5万人が視聴中 ライブ配信中

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【コメント】

:待ってました!

:ユキくんの手料理だ

:わふー

:わふー

:わふー

:段ボールが『料理中』だw

:本人がいないのに笑わせるスタイル

 

 

 

『えとえと……、い、いますよ……?』

 

 

 

 ゆっくり顔を出す。

 さすがに作るのがカップ麺だと緊張を隠しきれない。

 もっと手の込んだものを作れたら良かったのだけど……。

 

 

 

『わ、わふー……。犬好きの皆さん、こんばんは。雪城ユキです。今日はカグラさんに拾われて、料理対決をやる、なんておかしなことになってます。でも、やるからには僕ができる精一杯をやろうと思います』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、がんばれー

:わふー

:楽しみ

:間に合った……

真心ココネ :ユキくん頑張れ

羊沢ユイ :うにゅ、食べに行って良い?

 

 

 

『え、えと……、きょ、今日はカグラさんの家だからその……食べに来るのはまた今度……。というか僕がユイの手料理を食べに行きたいよ……』

 

 

 

 さすがにわざわざ来てもらうのに、カップ麺しか出せない……なんて思われたくない。

 その考えからの返答だったのだが、コメント欄が勝手に盛り上がる。

 

 

 

【コメント】

:ユキユイのお泊まりコラボ決定?

:むしろカップル決定?

羊沢ユイ :うみゅー、いつにする? いくらでも料理作るの?

真心ココネ :ゆ、ユキくん。わ、私も作りますよ

:ユキくん的にはユイちゃんが一歩リードか

:ココママ焦りすぎw

 

 

 

『えっと……いつがいいんだろう? とりあえずユイには後から連絡するよ。ココママの料理も食べたいな……。それにそろそろコラボの話をしたいし、ココママにもあとから連絡するね。でも、今日連絡できるのかな……? 料理対決の後、寝るまでオフコラボ配信するとか言ってたし……』

 

 

 

【コメント】

:えっ!?

:それは初耳w

:まさかの今日三回放送w

:ユキくん頑張るw

;わくわくw

 

 

 

『えっ!? あっ、ま、まだ言ったらダメなやつだったかも。ゲリラ配信的な予定だったかもしれないし。い、犬好きの皆さん、今のは忘れて下さい……。そ、そうじゃないと僕が怒られちゃうので……』

 

 

 

 慌てて頭を下げる。

 当日の放送予定は基本的に配信予約していたので、ついつい油断してしまった。

 ただ、今日の寝るまで配信は完全なゲリラ配信。

 

 僕たち二人が寝間着に着替えてから適当に雑談する感じになるはずだった。

 だから、いつもみたいなしっかりとした放送でもないし、本当に適当に喋るだけになる。

 

 

 

【コメント】

:大丈夫、聞かなかったことにして待機してるよ

:うまくいったらユキくんの寝言が聞けるのか

:超楽しみw

:時間空けておく

:草過ぎる

:お前たち、しっかり聞きすぎ。待機するのは俺だけで十分だw

:www

羊沢ユイ :眠たいけど頑張って起きてるの

真心ココネ :ゆ、ユキくん……

:そろそろ十分経過。ユキくんの料理進行状況は……?

 

 

 

『あっ、もうそんなに……。ま、まだなにもしてないよ。そ、その、経過は写真でカタッターにあげていくからそっちを確認してね。と、とりあえず準備するよ……』

 

 

 

 僕は慌てて、ポットの準備をしていた。

 

 

 

『えとえと、そ、それじゃあ、改めて今日僕が作る料理を説明させてもらいます。ぼ、僕が作るのはこちら! か、カップ麺です!!』

 

 

 

 配信画面に前もって準備しておいたカップ麺の画像を表示させる。

 

 

 

【コメント】

:えっwww

:カップ麺www

:wwwww

:草

:料理wwww

真心ココネ :ユキくん、カップ麺は料理じゃないよ?

:草草草

:これこそ俺たちのユキくんw

 

 

 

『た、ただのカップ麺じゃないよ? ほらっ、お湯を入れて三分だけだと、料理じゃないし、その……なんと葱と卵を準備しました! これを完成後に入れちゃいます』

 

 

 

 今度は葱と卵の写真を配信画面に表示する。

 もちろんカップ麺の封は既に切ってあり、あとはお湯を入れるだけ。

 万全の体制だった。

 

 

 

【コメント】

:余裕のユキくんwww

:でも、確かにこれならw

:失敗はないかwww

:料理ってなんだろうなw

:ユキくんならカップ麺でも失敗はありえるw

 

 

 

『い、いくら僕でもカップ麺での失敗は数回しかないよ。昔、間違えてスープ捨てちゃったこととか、お湯と間違えて水を入れちゃったりとか、そのくらいだよ』

 

 

 

 コメントに思わず反応してしまう。

 ただ、それがリスナーたちに餌をあげる形となってしまう。

 

 

 

【コメント】

:本当に失敗してて草

:これは良い勝負かもしれない

:まだ食べられるだけマシだろw

:俺はユキくんが出してくれた料理なら毒でも食ってみせる

 

 

 

『ど、毒は食べたらダメだよ!? そ、それよりも次の準備をしていくね。えっと、葱を切らないとだね。包丁、包丁……っと』

 

 

 

 両手でしっかり包丁を握りしめて、まな板の上に置いた葱をにらみ付ける。

 そして、覚悟を決めると思いっきり包丁を振り下ろす。

 

 

 

 ザクッ!!

 

 

 

 甲高い音が鳴り、葱が二本に切れていた。

 

 

 

『ふぅ……。葱を切るだけでも大変だね……』

 

 

 

 半分に切れた葱を見て、額の汗を拭う。

 

 

 

【コメント】

:葱切る音じゃなかったw

:ユキくん、危ないよw

真心ココネ :ユキくん、猫の手だよ、猫の手。包丁は危ないからね

猫ノ瀬タマキ :呼んだかにゃ?

:タマキパイセン現れてて草

:この際ユキくんの身を守れるのなら誰でもいいw

 

 

 

 みんな酷いことを言っていた。

 べ、別に猫の手のことを忘れていたわけじゃない。

 そ、そうだよ、あまり料理をしないからうっかりしてただけだよ。

 

 

 

『えと……、猫の手、猫の手……っと』

 

 

 

 今度はしっかり猫の手を作り、葱を切る。

 

 

 

『にゃ、にゃー……』

 

 

 

 ザクッ!!

 

 

 

 結果は同じで葱がもう半分に切れただけだった。

 

 

 

【コメント】

:や、やめてくれ。ユキくんが怪我をする

:猫の手を作っただけで使ってないw

:怖すぎるw

猫ノ瀬タマキ :ユキくんが猫族の仲間入りにゃ

真心ココネ :ゆ、ユキくん、今どこにいますか? すぐに行きます

:ココママ、本気で心配してて草

羊沢ユイ :うにゅ、時間ないの

 

 

 

『えっ!? あっ……、と、とりあえず、葱は諦めて……た、卵を……、あっ!?』

 

 

 

 慌てて卵を入れようとしたら、そのまま落として割ってしまう。

 さすがに床に落ちたものを入れるわけにはいかない。

 

 

 

『うぅ……、卵落としちゃった……。あとで(スタッフさん)がおいしくいただきます……』

 

 

 

【コメント】

:w

:w

:草

:wwwww

:wwwww

:ユキくんの圧勝かと思ったけど良い勝負してるw

 

 

 

『も、もう予備ないよ……。し、仕方ないから普通のカップ麺でいくよ……』

 

 

 

 ただ、そのままカップ麺の容器にお湯を入れて作ったのでは、見た目があからさまにカップ麺なので、敢えてラーメン皿にうつす。

 そして、そこにお湯を入れて適当に蓋をする。

 

 

 

『こ、これであとは三分待つだけだよ』

 

 

 

【コメント】

:容器に移すの草

:でもこれはユキくんの勝ちかなw

:食べられるからなw

:見た目にこだわるユキくんw

 

 

 

『さ、三分だよ。と、とりあえずこれで完成だよ』

 

 

 

 容器を移し替えたことで、一応ラーメンらしい見た目にはなっている。

 葱と卵を無駄にしたのはもったいなかったけど……。

 

 

――うん、ちゃんとした料理だね。

 

 

 一応写真を撮って、カタッターに上げておく。

 

 

 

【コメント】

:w

:草

:w

:www

:草

:ラーメンだな

:カップ麺だからな

 

 

 

『えとえと、こ、これで僕の方は完成です。そ、それじゃあ、カグラさんにバトンを渡しますね。みなさんも概要欄からカグラさんの枠に行ってくれると嬉しいな。そ、その……、僕は見たらダメなことになってるから、ぼ、僕の代わりに……ねっ。それじゃあ、よろしくおね――』

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯犬拾いました ♯カグユキ料理対決》料理? 作るよ《雪城ユキ/神宮寺カグラ/シロルーム三期生》』

3.6万人が視聴中 0分前に公開

⤴1.1万 ⤵41 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ

チャンネル登録者数10.2万人

 

 

【コメント】

:挨拶中で切れるのはユキくんの芸だなw

:うぉぉぉ、ユキくんに頼まれたら行くしかないぜ!

:でも、あのカグラ様だぞ?

羊沢ユイ :うみゅ、ゆいが直接行くの

真心ココネ :わ、私も行きます

:同期組が乗り込もうとしてるw

猫ノ瀬タマキ :場所、わかるのかにゃ?

真心ココネ :うっ……

美空アカネ :私も行くぞ! 食べる専門で

海星コウ :はいはい、アカネには私が料理を作ってあげるから我慢しなさい

美空アカネ :夕飯、ゲッドだぜ!!

:wwwww

:おっと、そろそろ移動しないとな

 

 

 

◇◆◇

『《♯姫のご乱心 ♯カグユキ料理対決》実力の差を見せつけるわよ 《神宮寺カグラ/雪城ユキ/シロルーム三期生》』

2.1万人が視聴中 ライブ配信中

⤴812 ⤵12 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

カグラ:『ふふふっ、ついにこの日が来たわね。ユキがどんな料理を作ったかはわからないけど、私が圧倒的実力でねじ伏せるわ』

 

 

 

 カグラは意味深に微笑んでいた。

 その姿が神宮寺カグラという姫のアバターにぴったりで、まるで悪役のようにしか思えなかった。

 

 

 

【コメント】

:カグラ様、腹黒w

:圧倒的実力でねじ伏せられるかw

:いや、ユキくんはあれだったぞ?w

:結構良い勝負するんじゃないか?w

:wwwww

 

 

 

カグラ:『あっ、料理の中身までは教えるのダメだからね。それはルール違反だから。わかったら返事をしなさい』

 

 

 

【コメント】

:はーい

:はーい

:はーい

猫ノ瀬タマキ :はーいにゃ

:はーい

羊沢ユイ :うみゅー

 

 

 

カグラ:『みんな、良い返事ね。それじゃあ、私が作っていく料理を発表するわ。今日はシンプルなピザを作っていくわ!』

 

 

 

 カグラはピザの材料をテーブルに載せ、それをカタッターに上げていた。

 さすがに生地を一から作るようなマネはしないようで、シンプルにピザ生地とトマトソース、チーズやサラミ、ピーマンなどが置かれている。

 

 

 

【コメント】

真心ココネ :カグラさん、意外とできる?

:なんだ、炭かw

:炭になる未来が見える

姫野オンプ :ピザはおいしいのですー

:まぁ、載せて焼くだけなら……

:つまり炭かw

 

 

 

カグラ:『そ、そんな失敗はしないわよ! それじゃあまずはピザ生地を洗って……』

 

 

 

 画面から水の流れる音が聞こえてくる。

 その時点でおかしな行動をしていることは十分にわかる。

 ただ、それだけではなく、洗い終わった生地を突然床にたたき付け始めていた。

 

 

 

カグラ:『えいっ、えいっ!!』

 

 

 

 ドスッ!! ドスッ!!

 

 

 

【コメント】

:既にできた生地を準備してなかったか??

:俺たちは何を見せられているんだ?

:まさか生地を水で洗ってないよな?

真心ココネ :き、生地はもうできてるやつを買ってきたんだよね??

羊沢ユイ :うみゅ。ユキくん、ご愁傷様なの

 

 

 

カグラ:『ふぅ……、これで生地は良いわね。あとはソースの方を付けて焼くだけね』

 

 

 

 額の汗を拭うカグラ。

 その目の前には無残なピザ生地が置かれていた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 ドスッ!! ドスッ!!

 

 

 

「な、なんの音!?」

 

 

 

 突然隣の部屋から響いてきた何かをたたき付けるような音に、僕は思わず驚いてしまう。

 とても料理をしているようには思えない。

 

 ただ、料理に自信がある瑠璃香が作っているのだから、そういうものなのだろう。

 

 うどんとかパンとか、そういったものが確か叩いたあとに発酵させたりしてたはず。

 

 

――でも、そんな時間ないよね?

 

 

 何もせずに待っている時間は不安がかき立てられていく。

 ジッと部屋の隅に座っているが、意味もなくスマホを開いて自分のMeeTube(ミーチューブ)画面を開いたりしていた。

 

 

チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ

チャンネル登録者数10.2万人

 

 

 どう見てもおかしい数字だよね?

 きっと一桁くらい間違ってるよね?

 ……うん、きっとそれだ!

 

 

 そんなことを思っているとMeeTube(ミーチューブ)からメールが届いていることに気づく。

 

 

 

「えっと、何が来たんだろう……。えっ??」

 

 

 

 メールを開いた僕は驚きのあまり動きが完全に固まっていた。

 

 

【収益化の許可】

 

 

 それを見ると足が震えてくる。

 確かに申し込んだのは僕だし、シロルームという企業に属している以上、それは必要なことだった。

 

 でも、それに見合うだけの配信ができているのか……?

 そう考えると不安以外なにも浮かばなかった。

 

 

 

◇◇◇

『《♯姫のご乱心 ♯カグユキ料理対決》実食。決着 《神宮寺カグラ/雪城ユキ/シロルーム三期生》』

2.4万人が視聴中 ライブ配信中

⤴1,125 ⤵3 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

 完全に固まっていた僕の前にカグラが完成した料理を持ってやってくる。

 もちろん配信画面にはユキくんin段ボール(ぼく)とカグラさんのアバターが左右に配置され、中央にわかりやすいように銀の丸い蓋の画像が二つ置かれていた。

 

 

 

カグラ:『どうしたの? 何か固まってるみたいだけど……』

 

『な、な、なんでもないよ? えっ、あっ、ほ、放送始まってる??』

 

カグラ:『もちろんよ。これから試食をするんでしょ?』

 

『い、いつもと違うスタートだったから、その……』

 

カグラ:『それもそうね。ここから見る人もいるわよね。えーっ、コホン。改めて、よくきたわね、親衛隊のみんな。私は神宮寺カグラ。あなたたちの姫よ。そして、こっちは囚われの犬であるユキよ』

 

『わ、わふー、って、勝手に捕らえないでください! えとえと、親衛隊の皆さん、犬好きの皆さん、こんばんは。シロルーム三期生、最弱の犬こと雪城ユキです。えとえと、捕らえられてないので、今日も拾いに来てくださいね』

 

 

 

【コメント】

:わふー

:わふー

:わふー

:カグラ様ー

:わふー

:今日も段ボールが輝いて……はいないな

:スタートからぐだぐだw

:カグユキらしいw

:ユキくんは登録者数で三期生最強w

:早速拾いに行くぞ!

 

 

 

『わふわふ、と、登録者数のことはようやくわかったんだよ。きっと僕のチャンネル登録者数だけきっと一桁間違ってるんだね。1.02万人ならみんなより少ないくらいだし、納得だよね』

 

カグラ:『そんなわけないでしょ!? もうじき銀の本が送られてくるわよ』

 

 

 

 銀の本とはチャンネル登録者数が十万人超えた人に送られる、一種の称号だった。

 百万人を超えると金の本が送られてくる。

 

 ただ、百万人(それ)を超えるにはかなり難しく、シロルームのVtuberにそれを果たした人は未だにいない。

 

 

 

『えとえと、ほ、ほらっ、まだ届いてないから……。だ、だからねっ、きっとまだ超えてないんだよ……』

 

カグラ:『はぁ……、そんなにすぐ来るはずないでしょ。収益化だって審査で時間がかかるんだから、銀の本もしっかり調べた上で送られてくるはずよ』

 

『その……収益化って時間、かかるんだよね? 一年くらいかかるよね?』

 

カグラ:『そこまでかからないわよ。早かったら一週間ほど、遅かったら数ヶ月ほどらしいわね。そこは動画再生回数等によって優先順位が決まるらしいからね』

 

『そ、そうなんだ……』

 

カグラ:『人気者ほど、やっぱり早いのよ。だからユキはそろそろ許可が出るんじゃないかしら?』

 

『ほ、ほ、ほらっ、に、人気者でいったらココママやユイだって……』

 

 

 

【コメント】

真心ココネ :私はまだですよ

羊沢ユイ :うみゅ、ゆいもまだなのー

:さすがにまだ早いか

:スパチャ投げさせろー

:まぁ、ユキくんが最初に許可が出るだろうな

:カグラ様を抜く辺りがまたw

 

 

 

『わふっ、そ、その、僕はその……あの……』

 

 

 

 思わず慌ててしまう。すると、何か察したカグラが話を変えてくれる。

 

 

 

カグラ:『なるほどね。それよりも、そろそろ料理対決をしないと時間がなくなるわよ?』

 

『あっ、そ、そうだね。冷めたらもったいないよね』

 

カグラ:『えぇ、そうよ。雑談はあとからゆっくりできるからね』

 

『お、お手柔らかに……』

 

 

 

 思わず苦笑を浮かべてしまう。

 

 

 

【コメント】

:いよいよかw

:果たしてどちらが勝つのかw

:いや、勝者はいるのか?w

:wwwww

:楽しみだ

 

 

 

カグラ:『それじゃあ同時に蓋を開けるわよ』

 

『う、うん……』

 

 

 

 少し緊張しながら、同時に蓋を開ける。

 それと同時に配信画面にお互いの料理の写真が表示される。

 

 僕は皿に移されたカップ麺。

 カグラのは丸くて真っ黒の……。

 

 

 

『――炭?』

 

カグラ:『ち、違うわよ!? どこからどう見てもピザでしょ!?』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、ナイスツッコミw

:確かに炭だよなwww

:真っ黒だしwww

:草

:草

真心ココネ :ユキくん、無理して食べたらダメだよ……

 

 

 

『ぴ、ピザなんだ……。あはははっ……』

 

 

 

 苦笑い以上のことができなかった。

 確かによく見ると黒の他にもチーズの黄色やピーマンの緑が一部見え隠れしている。

 

 

 

カグラ:『ユキの方は……ラーメンね』

 

『うん、そうだよ』

 

カグラ:『この麺はお湯を入れて三分のやつじゃないかしら?』

 

『えと……、あははっ……』

 

 

 

 あっさりカグラにバレてしまう。

 自分で料理ができるならあまり食べないかと思ったけど、やっぱりわかるんだな……。

 

 

 

カグラ:『――これはもう勝ったわね』

 

『えとえと、た、食べられるんだよね、これ?』

 

 

 

 カグラは伸びきった麺を、僕は(ピザ)を手に、同時に口へと運ぶ。

 

 

 

 ガリッ……。

 

 

 

 本来食べ物から聞こえてはいけないような、音が聞こえた後、口の中に広がる苦みと苦み、更にほろ苦さも合わさって、それはまさに炭だった。

 

 

 

『えっと、その……、あの……、うん、お、おいしいよ?』

 

カグラ:『そんな引きつった顔で言われても信用できないわよ。本当の味を言いなさい』

 

『そ、そんなことないよ。と、とってもおいしいよ。この……炭?』

 

カグラ:『ピザよ!』

 

『あっ……、うん。言い間違えただけ……。その……、後味が苦みしかないことと、チーズが伸びる感触とか、ピリッと刺激的なサラミの味とか、酸味がアクセントになるピーマンの味とか、そういった物が一切ないくらいで、その……、おいしいよ? ちょっと焦げ臭さもあるかな』

 

カグラ:『それはおいしいって言わないでしょ!? ユキのほうは伸びてしまってるし、お湯が多いからスープは薄いし、冷めてるし……、まぁ、もう少し頑張ると良いわね』

 

『うぐっ……。だ、だって、三十分待つとは思わなかったから――。それに僕が作れるのってこのくらいだし――』

 

 

 

 二人でお互いの料理を食べながら品評していく。

 そして、完食をするとコメント欄に勝敗が書き込まれ始める。

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、優しいね

:ユキくんの切り方は怖かった

:どう見ても炭なのに全部食べてたもんね

:食べられる分だけユキくんの方がマシか?

:正直どっちも変わらないように見える

羊沢ユイ :うみゅ、引き分けなの

真心ココネ :むしろ、どっちも負けかな

:それだ

:どっちも負けか

:罰ゲームはどうなるんだろう……

真心ココネ :担当さんが[どちらも負けなら私が罰ゲームを決めます]って言ってるよ?

:担当さんきたw

 

 

 

『えっ? だ、だって、僕にカップ麺でいいって言ったのも担当さんで――。あっ……』

 

 

 

――もしかしてどっちも負けさせて、二人ともに罰ゲームを言うつもりだった??

 

 

 

【コメント】

:どっちも負けだな

:どっちも負けで

真心ここね :ちなみに二人負けの場合は[三期生全員で温泉旅行の旅]だそうです

羊沢ユイ :うみゅー、ご褒美なのー

 

 

 

――ちょ、ちょっと待って。もしかして、その旅行をみんなで行かせようとしてたの!? た、確かに僕が勝った場合の罰ゲーム、カグラさんにお泊まりオフをさせるってことも満たしてる。

 

 

 

『か、カグラさん。カグラさんはどんな罰ゲームを考えてたの?』

 

カグラ:『もちろんユキが同期全員を誘ってのオフコラボよ』

 

『や、やっぱり……』

 

 

 

――また嵌められた……。

 

 

 確かに誰か一人とオフでコラボしたり、泊まったり……はしたことがある。

 しかし、全員となるとまた話は変わってくる。

 

 更に温泉。つまり――。

 

 

 

【コメント】

羊沢ユイ :うみゅー、ユキくんたちと一緒に温泉なのー

真心ここね :えぇ、楽しみですね

:夜はもちろんパジャマ配信か

:楽しみ

:四人仲良く温泉……

 

 

 

『む、無理無理。絶対に無理! 仲良く温泉なんて僕には無理だよ!? ねっ、カグラさんもそうだよね?』

 

カグラ:『みんなと……温泉……』

 

 

 

 カグラはどこか嬉しそうに惚けていた。

 

 

 

カグラ:『し、仕方ないわね。罰ゲームは罰ゲームだものね。大人しく受けるわよ』

 

『か、カグラさん!? ま、まだ料理対決は結果が出てないから。ほらっ、みんな。どっちが勝ちかコメント欄に書いて!』

 

 

 

【コメント】

:もちろん両者負け

:ユキくん、ごめん。二人とも負け

:賭け金はスパチャができるようになったら払うよ

:俺もだ

:くっ、生活費が……。ただ、約束は約束だ

:てぇてぇには勝てない。二人とも負けだ

:ユキくん必死w

:温泉旅行に行ってらっしゃい

 

 

 

 両者負けではっきり勝敗がついてしまい、思わず僕は項垂れてしまった。

 

 

 

カグラ:『勝敗もついたことだし、今回の放送は終わりよ。罰ゲームの内容についてはまた追って報告するわ。それじゃあ、次の私の放送も見に来るのよ』

 

『あっ……、えとえと、ば、罰ゲームは嫌だけど、その……約束だから頑張ります。本日はありがとうござ――』

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯姫のご乱心 ♯カグユキ料理対決》実食。決着 《神宮寺カグラ/雪城ユキ/シロルーム三期生》』

4.3万人が視聴 0分前に公開済み

⤴1.4万 ⤵72 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:kagura_Room.神宮寺カグラ

チャンネル登録者数4.8万人

 

 

 

◇◇◇

【コメント】

:いつものユキくんw

真心ココネ :ユキくん、お疲れ様

羊沢ユイ :うみゅ、おつかれなの

:温泉旅行回楽しみ

:次まで待機



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第15話:敗者の宴

「ちょ、ちょっと待って!? 何この登録者数――」

 

 

 

 料理対決の放送が終わった後、僕が食べ終えた皿を洗っていると、色々とパソコンを弄っていた瑠璃香が大声を上げてくる。

 

 

 

「な、何があったの!? 問題が起こったの?」

 

「どうしてお気に入り登録者の数が倍近くに増えてるの!?」

 

 

 

 どうやら瑠璃香は自分のお気に入り登録者数が増えすぎたことに驚いているようだった。

 

 

 

「あー……。うん、よくあるよね、そのバグ……」

 

「ユキのはバグでも何でもないわよ!? これもユキの力? とんでもないわね……」

 

「……僕は特に何もしてないよ。瑠璃香さんには色々と助けてもらったからその恩返しができたら、ってコラボをしただけだよ?」

 

「それでもよ! 何か困ったことがあったら言いなさい! 私にできることなら手を貸すわ」

 

「それなら、一つ相談に乗ってもらっても良いかな?」

 

 

 

 僕は先ほど、MeeTube(ミーチューブ)から届いたメールについて相談することにした。

 

 

 

「なるほどね。もうユキは収益化の許可が下りたんだ……」

 

「うん、それでどうしたらいいのかなって――」

 

「そういったことはまず担当さんに相談すると良いわよ」

 

「あっ、そっか。うん、わかったよ。ありがとう、瑠璃香さん」

 

「べ、別に大したことはしてないわよ。それに私の方こそありがとうね」

 

「僕の方こそ何もしてないよ。一緒にコラボできて楽しかったよ」

 

「……私もよ」

 

 

 

 瑠璃香は小声で呟いて、すぐにパソコンの方へと振り向いてしまった。

 

 

 それを見た後、僕は担当さんに連絡を入れようとスマホを見る。

 すると、既に担当さんからの連絡が来ていた。

 

 

 

マネ :[おめでとうございます]

 

ユキ :[まだ何も言ってませんよ?]

 

マネ :[ユキくんのことならわかります。収益化の話をしていたときに明らかに食いついてましたからね]

 

ユキ :[うぅぅぅ……、なるべく平常心を保とうとしたんだけど……]

 

マネ :[そうですね。多分数人しか気づいていないと思いますよ]

 

ユキ :[気づいている人はいたのですね……]

 

マネ :[えぇ、ココネさんやユイさんはもちろん、カグラさんも気づいていましたよね?]

 

カグラ:[ユキの様子がおかしかったからね]

 

ユキ :[そ、それじゃあ、すぐにでも収益化の設定を――]

 

マネ :[いえ、それは記念放送にしてしまいましょう。ただ、ユキくんの予定を考えますと……少しココネさんと相談しますね]

 

ユキ :[わ、わかりました。では、僕はいつも通りにしておきますね]

 

マネ :[はい、いつも通りに配信してくださいね]

 

ユキ :[それは僕のいつも通りじゃないのですけど……。あっ、あと、温泉旅行の件ですけど――]

 

マネ :[もう予定に入れちゃってますよ? なしにはできないですからね]

 

ユキ :[わ、わかりました。旅行には行ってきます。その……十年後とかに――]

 

マネ :[日もこちらでとっておきます。来月の休日に]

 

ユキ :[うぅ……、早すぎますよ……]

 

マネ :[ユキくんが嫌がることは分かっていますからね]

 

ユキ :[えっと、当日はその……法事が――]

 

マネ :[会長に来月は特に何もないことは確認済みですよ]

 

ユキ :[か、母さんーーーー!!]

 

 

 

 やっぱり僕はまだ担当さんを上回ることはできないようだった。

 スマホを片手にその場でうな垂れていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 担当さんとの連絡を終えると瑠璃香が聞いてくる。

 

 

「お風呂を入れるけど、ユキは先に入る? それともあとから?」

 

「ぼ、僕はそろそろ帰――」

 

「この後も配信するんでしょ!? 逃がさないからね」

 

 

 

 にっこりと微笑んでくる瑠璃香。

 顔は笑顔なのだが、何故か有無を言わさないような迫力があった。

 

 

 

「そ、そんな、無理にたくさん配信しなくても……」

 

「むしろ、今がチャンスでしょ? せっかくのお泊まりオフなんだから寝るまで雑談配信は基本でしょ?」

 

「うぅぅ……、瑠璃香さんはすごいね。僕はいかに放送回数を少なくしようかって考えてるし……」

 

「もちろんよ。私はVtuberが好きだからね。何度も私自身励まされてきたの。だから、私もそうなれたらな、ってシロルームに応募したの」

 

 

 

 瑠璃香が語ってくれたシロルームに応募した理由。それは奇しくも僕自身も思っていたことだった。

 

 

 

「あれっ、瑠璃香さんって『自分を見せないのは損失だ』とか『友達を作りたい』とか言ってなかった?」

 

「それはもちろんキャラ作りよ! 私のアバターは姫キャラなんだから、それなりに姫らしい姿を見せないと! あと友達を作りたいっていうのは私が言ったんじゃないから!」

 

「キャラ……か。瑠璃香さんももっと素直に自分を出してもいいんじゃないかな? ほらっ、たまに僕相手に出てるやつとか」

 

「で、出てないわよ!? でも、まさかユキに説得される日が来るなんてね……」

 

「か、カグラさんも僕のことをどう思ってるの!?」

 

「えっ? 人見知りで臆病なポンコツ犬?」

 

「うぅ……、当たってるから言い返せない……」

 

「でも……、そうね。わかったわ、次から思いっきり私を出していくから覚悟してね、ユキ!」

 

「えとえと、それじゃあ僕はそろそろ帰るよ」

 

「だから、何で逃げようとするのよ!? 逃がさないに決まってるでしょ!」

 

「だってだって……」

 

「ふふっ、この私を引き出したのはユキなんだからとことん付き合ってもらうわよ!」

 

 

 

――あれっ? もしかして、僕、余計なこと言っちゃった?

 

 

 ヤル気になっている瑠璃香を不安に思いながら逃げる機会を失った僕は、結局彼女の家に泊まることになってしまった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 結局風呂には瑠璃香が先に入り、僕が後から入ることになった。

 

 瑠璃香のお風呂は意外と短めですぐに上がってきたのだが、少し濡れた髪と白のシャツと短パンというラフな格好に僕は直視できず、すぐに顔を背けていた。

 

 

 

「ユキ? どうしたの?」

 

 

 

 

 瑠璃香は僕の態度が面白かったのか、少しからかってくる。

 

 

 

「べ、別に何でもないよ。そ、それよりも僕もお風呂に入ってくるね」

 

「えぇ、いいわよ。あっ、配信の準備をしておくからお風呂から上がってきたら、カグラって呼んでね。念のために」

 

「そっか……、万が一に音声が入るとまずいもんね。わかったよ。それじゃあ、行ってくるね」

 

 

 

 僕は瑠璃香と別れて浴室へと向かっていった。

 奇しくもそれが瑠璃香の罠だとは気づかずに。

 

 

 

◇◆◇

『《♯姫のご乱心 ♯敗者の宴》寝るまで雑談 《神宮寺カグラ/雪城ユキ/シロルーム三期生》』

2.2万人が視聴中 ライブ配信中

⤴632 ⤵2 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

【コメント】

:敗者たちの宴www

:草しかない

:段ボールが二つwww

:『敗者』って書いてあるねw

:片方は『入浴中』になってるな

:……がたっ

:どっちだ!?

:ユキくんかカグラ様か

 

 

 

カグラ:『みんな、さっきぶりね。シロルーム三期生、神宮寺カグラ、来てあげたわよ』

 

 

 

 カグラは姿を表すとどこか自信ありげなその言葉遣いにリスナーたちが不思議そうにする。

 

 

 

【コメント】

羊沢ユイ :うみゅ? カグラ、何かいいことあった?

:カグラ様が楽しそうだw

:敗者なのにw

:負けたことが嬉しい?w

猫ノ瀬タマキ :カグラちゃん、虐められたいにゃ?

:やばい人がいたw

:いや、やばい猫だw

 

 

 

カグラ:『別に虐められたいわけじゃないわよ!? そ、それよりもこの段ボール、見えるかしら?』

 

 

 

 カグラはにっこりと微笑む。

 その隣には『入浴中』と書かれた段ボールが置かれていた。

 そして、コラボ相手であるはずのユキは声すら聞こえない。

 

 そこから導き出される答えは一つだけだった。

 

 

 

【コメント】

:ま、まさか

:ユキくん入浴中!?

:映像を! 映像をくれ!!

:ユキくんはぁはぁ

 

 

 

カグラ:『もうすぐ、お風呂上がりのユキが来るわよ。ユキからも寝るまで雑談の配信許可はもらってるからね。みんなで思う存分堪能しましょう』

 

 

 

 カグラはすごく悪い笑みを浮かべていた。

 

 

 

【コメント】

:あれっ、今日のカグラ様、何だか黒いw

:みんながカグヤ様、カグヤ様って虐めるから

:あれっ、カグヤ様だった?

 

 

 

カグラ:『誰がカグヤよ!? 私は神宮寺カグラよ!』

 

 

 

 ある意味持ちネタになりつつある名前弄り。

 慣れてくれば逆に美味しいかもしれない。

 リスナーからネタを提供してくれるので、こちらとしてはそれを正すだけで笑いが取れるのだから――。

 

 

 

カグラ:『それよりもそろそろかしらね』

 

 

 

 カグラのその言葉とともに彼女の後ろから声が聞こえてくる。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 お風呂から上がって、服を着替えようとした僕。

 しかし、つい先ほどまで、洗面所に置いていた僕の服はなくなっており、代わりにユキくんが着てるような白のワンピースが置かれていた。

 それ以外に服はない。

 

 これを着なければ、全裸で女性の前に立つ変態ということになる。

 着たら女装をしている変態。

 

 どっちがマシか……。

 いや、何も着ないで全裸のまま瑠璃香の前に立つのはどう考えてもマズい。

 

 まだ服を着てる方が犯罪的ではないか。

 でも、女装……。

 いや、とりあえず元の服を取り戻すまでだから……。

 

 覚悟を決めた僕は置かれていた服を着ると、そのまま急いで瑠璃香のいる部屋へと向かっていった。

 

 

――そういえば、瑠璃香は配信準備をしているから、名前では言わないで欲しいって言ってたね。

 

 

 瑠璃香はさっきのラフな格好のままパソコンを触っていた。

 

 そして、喋る練習でもしているのか、画面に向かって話していた。

 

 この辺りが瑠璃香のVtuberとしてのプロ意識、というものだろう。

 僕にはないものなので、これは学ばないといけない。

 

 

 

カグラ:『それよりもそろそろかしらね』

 

 

 

 練習の途中で申し訳ないとは思ったけど、瑠璃香に話しかける。

 

 

 

『えと、る……、か、カグラさん、その……僕の服は? 何故かワンピースに変わってたんだけど?』

 

 

 

【コメント】

:ユキくんきたァァァァァァ!!

:お風呂上がりユキくんはぁはぁ

:よし、俺もワンピースを着てくる

:俺も着てくる

:なんで持ってる?w

 

 

 

 目の前にあるモニターが配信画面になっており、コメントが流れていることに気づくと僕の動きは固まっていた。

 

 

 

『えっ? ど、どういうこと??』

 

カグラ:『もちろん先に配信を始めただけよ?』

 

『えっ? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?』

 

 

 

 勝手に配信されていたことに驚いて、僕は思わず大声を上げてしまった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『も、もう、驚かさないでよ……。すごくびっくりしたんだから……』

 

カグラ:『こういったハプニングも必要でしょ? みんなに喜んでもらうには』

 

『うん、それはわかるけど……。あと、僕の服は?』

 

カグラ:『料理で汚れていたから洗濯中よ。明日には乾くと思うから、それまでは私の服で我慢してね』

 

『でも、流石にこの格好は恥ずかしいし、そのちょっとサイズは大きいかな……』

 

カグラ:『さすがに小柄なユキの体型に合う服がなかったのよ。後は寝るだけだから大きい分には問題ないわよ』

 

『そ、それもそうかな??』

 

 

 

【コメント】

羊沢ユイ :ゆいも行く!!

真心ココネ :わ、私も行きます!

猫ノ瀬タマキ :私も行くのにゃ

美空アカネ :なら私は一升瓶を持っていこう

:一升瓶wwwww

:ユキくんたちに飲ませたらダメだろw

美空アカネ :ココママは飲めるでしょ?

:幼女に飲ませる鬼畜w

海星コウ :アカネは回収してゴミ箱に詰めておきます

美空アカネ :ひ、酷い

:ワンピースのユキくん、はぁはぁ

 

 

 

カグラ:『それにしても、本当に似合うのね。なんだか悔しいわね』

 

『に、似合わなくて良いよ!? ぼ、僕は――』

 

 

 

 思わず男って言いかけたけど、なんとか言い留まった。

 

 

 

『僕は……、こ、子供じゃないからね!?』

 

 

 

 なんとかおかしくない言い訳をできた気がする。

 すると、カグラもそれを察してくれる。

 

 

 

カグラ:『そんなことないわよ。子供みたいに可愛らしいし小柄だし、同じ女として悔しいわね。なんでこんなに可愛いのよ』

 

 

 

 カグラに髪をわしゃわしゃと触られる。

 

 

 

『わふっ……、さ、触らないで……』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん可愛い

:ユキくんは小柄

羊沢ユイ :うみゅ、ユキくんはゆいより小さいの

:アホ毛の分だけw

:ユイっちwww

 

 

 

カグラ:『さて、それじゃあ前置きが長くなってしまったけど、コラボ相手のユキくんよ。シロルーム、みんなの妹ね』

 

『ちょ、ちょっと待って!? いつの間にそんなこと決まったの!?』

 

カグラ:『今私が決めたのよ。でも、反対意見はないと思うわ』

 

 

 

【コメント】

羊沢ユイ :うにゅ、ユキくんはゆいの妹

真心ココネ :わ、私は飼い主ですよ?

猫ノ瀬タマキ :犬は敵にゃ

美空アカネ :おっ、妹か? パン買ってこーい!

海星コウ :ちょっと、アカネ! それは違うでしょ? ユキくんが妹なのは私も賛成よ

:ばらけるwww

:みんな暴走するからなwww

 

 

 

カグラ:『多数決でユキくんはみんなの妹に決定ー! はいっ、拍手』

 

 

 

 カグラが拍手をするとそれに呼応するようにコメント欄でも祝福の言葉が投げられる。

 

 

 

【コメント】

:888888

:888888

:888888

羊沢ユイ :888888

真心ココネ :888888

猫ノ瀬タマキ :888888

美空アカネ :ユージ888888

海星コウ :888888

野草ユージ :ちょっ!? 今来たら俺燃やされてないか!?

:ユージ草

:ユージ草

:ユージ草

 

 

 

『ちょっと、勝手に決めないでよ……。わふぅ……、ということで、知らないうちに妹にさせようと暗躍されているシロルーム三期生、雪城ユキです。段ボールハウスの中に籠もりますので探さないでください……。ふぁぁぁ……』

 

 

 

 流石に立て続けの配信疲れが出てきたのか、小さくあくびをしてしまう。

 

 そのあと、カグラのパソコンを少し弄って、ユキくんを段ボールハウスの中へ入れておく。

 段ボールの茶色と屋根の赤色が目印の小さな家。寝転がってようやく入れるサイズ。

 

 結構前からもらっていたのだが、今回が初お披露目だった。

 そして、僕自身もカグラが先に準備してくれていた布団へと移動する。

 

 

 

【コメント】

:あくび助かるw

:ユキくん、隠れちゃった……

:怖くないよー、出ておいでー

:通報しました。犬のおまわりさんに

:あくび助かる

美空アカネ :その家は冷暖房完備、防犯機能付きの最新段ボールハウスだよ

:とんでもない設定来ましたwww

:ユキくん、おねむ?

:頑張ってたもんね

 

 

 

『ぬくぬくするよ……。ふぁぁぁぁ……』

 

 

 

 布団にくるまっただけのつもりだったが、急に眠気が襲ってきて、再びあくびをしてしまい、目もトロンと垂れてくる。

 

 

 

カグラ:『ユキ、もう眠い?』

 

『うーん、流石に今日は少し頑張りすぎたかな……。料理対決は結構長時間だったし、その前に記念配信もしたから……』

 

カグラ:『私のために無理させてしまったわね』

 

『そんなことないよ。僕がしたかったからしたことだからね……』

 

 

 

【コメント】

:まだ日が変わる前なんだけど……

真心ココネ :ユキくん、おやすみ

羊沢ユイ :うみゅー、もう寝る時間なのー

:おつー

:おやすみー

:登場五分で退場するユキくんw

:今日ユキくん頑張ったもんね

 

 

 

『わふ……、ご、ごめんね、みんな。僕は先に休むからカグラさん、あとはよろしく……』

 

カグラ:『仕方ないわね。なら後はユキくんの寝顔を存分に観察させてもらうわね』

 

『うん……』

 

 

 

 そこで僕の意識は落ちていた――。

 最後のカグラの言葉は耳に入らずに――。

 

 そして、カグラの配信はいつしか僕の寝息を聞く配信になっていた。



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第16話:ユキくん、冴える?

 カグラとのコラボを終えた次の日。

 僕は途中で寝落ちしてしまった配信のアーカイブを見て悶絶していた。

 

 

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!? な、何で僕の寝息が入ってるの!? しかも音楽消して、瑠璃香さんもわざわざ何も喋らないようにして――」

 

「えっ? もちろんみんな聞きたそうだったからよ?」

 

「ぼ、僕の寝息なんて聞いてもみんな楽しくないよ!? うぅぅ……、また僕の痴態が広められてしまった……」

 

「みんな微笑んでたわよ?」

 

「ど、どうして……。うぅぅ……、ますます僕の正体をばらせなくなったよ……」

 

 

 

 思わず身震いしてしまう。

 しかし、もう配信されてしまった後なのだからどうすることもできない。

 

 

 

「と、とりあえず今日は僕、帰るね。えっと……、僕の服は?」

 

「あー……うん、それがね……」

 

 

 

 昨日洗濯してもらっていた服を探すが、どこにもなかったので瑠璃香に確認をすると、彼女はすごく言いにくそうな顔をしていた。

 

 ものすごく嫌な予感がした僕は、恐る恐る聞いてみる。

 

 

「……な、何かあったの?」

 

「洗濯機が回ってなくて、さっき回したところだからその……、ユキの服はまだ着れる状態じゃないのよ」

 

「えっ!?」

 

「ま、また乾かして持っていくからその……、今日はその格好のまま帰ってくれるかしら?」

 

「そ、そんな……。この格好で帰ったら僕、変態扱いされるよ!?」

 

「大丈夫よ。とっても似合ってるから……」

 

 

 

 瑠璃香が顔を背けながら言ってくる。

 ただ、僕は必死に抵抗をする。

 

 

 

「嬉しくないよ!? これだとどこからどうみても女装少年だよね!?」

 

「可愛らしい少女にしか見えないわよ。ううん、これはもっとやばいわね。ココネとユイが取り合ってる気持ちがわかるかもしれないわ」

 

「や、やめてよ!? 同期三人が僕を取り合うなんて……」

 

 

 

 ココママはしきりに一緒にお風呂に入ったり、寝たりしようとしてくる。

 ユイは朝までホラーゲームをしようとしてくる。

 最近だと、自分の身の危険すら感じるようになってきていた。

 

 

 その点、瑠璃香だとあくまでも配信が中心。

 

 確かに恥ずかしいところを撮られたりはするけど、それも配信のためで、グイグイとくる感じは……そこまでない。

 気を利かせたつもりが、ちょっとポンコツして服が着られなくなったりするくらいで――。

 

 

「ユキが私を頼ってるのなら仕方ないわね。わかったわ、とりあえずユキが恥ずかしくないようにしてあげるわ」

 

「ほ、本当!? ありがとう」

 

 

 

 僕が笑みを向けると、瑠璃香は頬を緩ませていた。

 そして、タンスの中から大きめのリボンを取りだし、少し険しい表情をしながら、僕の髪に白い大きめのリボンを結んでいた。

 

 

 

「うっ……、この破壊力……。本当にやばいわね。わかっていても可愛すぎるわ……」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

――うぅぅぅ……、ますます恥ずかしいよ……。

 

 

 瑠璃香の手によって、僕はどこからどう見ても可愛らしい少女になっていた。

 

 確かに今の格好を見て、誰も僕が男だとは思わないだろう。

 つまり、恥ずかしいのは僕だけ。

 

 照れたら変に思われるので、なるべく平静を装う。

 あとは知り合いにさえ会わなければ問題ない。

 

 そもそも、僕の知り合いは片手で数え切れるほどしかいない。

 

 瑠璃香の家から帰るまでの時間に、その知り合いに会う可能性なんてほぼゼロにも等しいだろう。

 

 

 

「あれっ? 君って確か小幡くん……だよね?」

 

「えっ!?」

 

 

 まさか声をかけられるとは思わず、ついつい反応してしまう。

 そこでしまった、と思い、慌てて訂正する。

 

 

 

「そ、その、僕はこ、小幡ではない……ですよ?」

 

「あーっ、やっぱり小幡くんだー!」

 

 

 

 振り返ってみるとそこにいたのは、以前結坂の友達として紹介された女性だった。

 

 名前は確か……。

 確か……。

 

 

 

「えとえと、知らない人とは話したらダメだから――。その……ごめんなさい」

 

 

 

 思わず謝ると女性は苦笑をする。

 

 

 

「あっ、ひどいよ。前も自己紹介したはずだよ? 大代(おおしろ)こより。彩芽(あやめ)ちゃんの友達で小幡くんの一つ上の大学三回生だよ」

 

「あっ、はい。えっと、僕は小幡祐季(こはたゆき)です。その、よろしくお願いします」

 

 

 

 軽く頭を下げると大代は笑みを浮かべていた。

 

 

 

「あははっ、やっぱり小幡くんじゃん」

 

「あっ……。ゆ、誘導尋問なんて酷いですよ……」

 

「別にそんなことしてないんだけどね。それより、今日はずいぶん可愛い格好をしてるんだね? 小幡くんって本当に男の子?」

 

「えとえと、これには深い事情があって……」

 

「うんうん、わかってるよ。彩芽(あやめ)には内緒にしておくよ。……家に持って帰っていい?」

 

「だ、ダメです……。そのその、これは本当にたまたまなんです……」

 

 

 

 考えれば考えるほど、顔が赤くなってくる。

 

 確かに側から見ればただの女装少年。それは変態以外の何物でもなかった。

 しかし、そのことを知ってか知らずか大代は普通に話しかけてくる。

 

 

 

「私は可愛かったらオッケーだよ。妹も欲しかったからね」

 

「っ!?」

 

 

 

 思わず後ろに下がって身を守る。

 

 

――担当さんといい、ユイといい、大代さんといい、何で僕の周りにはこういう人ばかりいるのだろう?

 

 

 

「あー、違う違う、取って食おうとかそういう理由じゃないよ。可愛いものって見ると目の保養になるよね? 別にそこに性別は関係ないかなって」

 

 

 

 手をばたつかせて顔を赤らめながらいう大代。

 

 ただ、ここは道の往来。そこまで人通りが多い道ではないものの、それでも道ゆく人はいる。

 そんな道のど真ん中でさっきの言葉。

 

 すぐに大代の顔は赤くなり、急に僕の手を引っ張ってくる。

 

 

 

「こ、小幡くん、ちょっと付いてきて!」

 

「えっ、ちょ、ちょっと待って……」

 

 

 

 僕の言葉は耳に入らないようで、大代に連れられるがまま僕は近くの喫茶店に入っていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 テーブル席に向かい合う大代とワンピース姿の僕。

 そして、大代は手を合わせて僕に謝ってきていた。

 

 

 

「ご、ごめんね、小幡くん。勝手にお店に入っちゃって。ここは私が奢るから許して」

 

「えと、お金は良いのですけど、その……僕は自分の格好が――」

 

 

 

 女装をしたままの方が気になって落ち着かなかった。

 

 

 

「そ、それは可愛いから大丈夫だよ。でも、本当にごめんね。お詫びに何でも食べていいから……」

 

 

 

 そんなタイミングで僕のお腹が鳴っていた。

 

 よく考えると昨日の晩から、あの失敗作の料理しか食べていない。

 ろくなものを食べていないのだからお腹が減るのはある意味当然だった。

 

 

 

「えと、そ、それじゃあ僕はサンドイッチのセットを」

 

「うん、私は苺のパフェにしようかな。店員さーん、いいですかー?」

 

 

 

 大代は手をあげて大声で店員を呼んでいた。

 よくそんなことができるな、と僕は思わず感心してしまう。

 

 コミュ障の僕だと店員さんがそばを通るまで、呼ぶことなんてできない。

 そもそも喫茶店に入ることすらままならない。

 

 改めて僕には大代は眩く思えてきた。

 

 

 

「んっ、私の顔に何かついてるかな?」

 

 

 

 無意識のうちに大代のことを見ていたようだった。

 不思議に思った彼女が尋ねてくる。

 

 

 

「な、何でもないです……。その……眩しいなって」

 

 

 

 インドアな僕からすれば陽キャである大代が直視できないほど眩かった。

 

 

 

「そんなことないよ……。店員さんを呼んだだけだよ?」

 

「僕にはできないよ……。あっ、そうだ……。大代さんはどこで結坂と出会ったのですか?」

 

「彩芽と? うーん、初めて会ったのは会社の面接かな?」

 

 

 

――面接? バイトか何かかな? そういえば配信についても教えてもらったって言ってたかな?

 

 

 

「バイト仲間だったのですね……」

 

「バイト……とはちょっと違うんだけどね」

 

 

 

 苦笑をする大代。

 ただ、そのタイミングで僕のサンドイッチが運ばれてくる。

 

 色鮮やかな黄色(たまご)(キャベツ)(トマト)といった食材に思わず感動してしまうのは、昨日の料理が黒一色だったからだろうか?

 

 焦げ臭くもなく、弾力あるパンを見ると思わず喉を鳴らしてしまう。

 

 すると大代が気を遣って言ってくる。

 

 

 

「あっ、先食べてくれていいよ。私のパフェは遅いだろうし」

 

「すみません。それじゃあ、いただきます」

 

 

 

 手を合わせたあと、僕は目の前に置かれたサンドイッチを口に運ぶ。

 

 

 

「お、美味しい……」

 

「……普通のサンドイッチだよ?」

 

「普通って幸せですよね。普通って」

 

 

 

 昨日のことを思い出して、思わず遠い目をする。

 すると、大代が笑いをこぼしていた。

 

 

 

「あははっ、小幡くんって変わってるって言われないかな?」

 

「そ、その、言われるような友達がいなくて……」

 

「あっ、ご、ごめん。……あれっ? 彩芽は友達じゃないの?」

 

「えっと、ユイ……坂が僕の初めての友達かな」

 

 

 

 うっかりユイと言ってしまいそうになるが、慌てて訂正する。

 気づかれたかな? っと不安になったが、大代は笑みを浮かべて僕を見ていただけで、どうやら気づいてまではいなさそうだった。

 

 

 

「そうなんだ。それなら私が小幡くんの友達第二号に立候補しようかな?」

 

 

 

 笑みを浮かべながら、あっさりと言ってくる大代。

 

 

――こんなに簡単に言えるんだ。僕だったら今の言葉を発するのに一晩悩んで、諦めるのに……。

 

 

 ただ、突然のことに思わず言葉を詰まらせてしまう。

 

 

 

「えっ? あ、あの、その……」

 

「も、もちろん無理にとは言わないよ?」

 

「えとえと、大代さんとは会ってまだ二回目なのに……その、良いのですか?」

 

「あっ、私のことはこよりでいいよ」

 

「じゃあ、僕のことは祐季でいいですよ?」

 

「うーん、私は小幡くん、のほうが呼びやすいからそっちで良いかな? ちょっと、祐季くんだと別の人と重なりそうで――」

 

「あっ、はい。わかりました。それじゃあ、僕も大代さんで……」

 

「こよりでいいですよ?」

 

「はい、大代さ……」

 

「こよりでいいですよ?」

 

「おおし……」

 

「……こより」

 

「わ、わかりました……、こよりさん」

 

 

 

 こよりからの有無を言わさない圧力に負けてしまう。

 

 友達第二号が圧倒的陽キャのこよりさん。

 満足そうに微笑む彼女を見ると僕は苦笑いを隠しきれなかった。

 

 

 

「うーん、まだ少し固い感じだけど仕方ないかな。あと私に敬語はいらないよ。緊張感は徐々にときほぐしていくからね」

 

 

 

――もしかして、早まっちゃったかな?

 

 

 少し不安を感じた瞬間にこよりが手を伸ばしてくる。

 

 

 

「ひっ!?」

 

 

 

 思わず目を閉じてしまう。

 しかし、特に何かされたわけでもなく、一瞬頬に手の感触を感じただけだった。

 

 

 

「小幡くん、口についてたよ」

 

 

 

 こよりの手にはサンドイッチに挟まっていた玉子が掴まれていた。

 そして、それをそのままこよりはそのまま口へ運ぶ。

 

 

 

「あっ……」

 

「うん、なかなか美味しいね、ここの玉子」

 

「なっ、なっ……」

 

 

 

 にっこりと微笑むこより。

 

 ただ、僕は自分が食べてたものを、こよりに食べられたことへの驚きと恥ずかしさが入り混じって、うまく言葉を発することができない。

 

 頬が赤く染まっていくのを感じる。

 すると、そのタイミングでこよりのパフェが運ばれてくる。

 

 すると、こよりはパフェと僕を見返して、スプーンでパフェのクリームをすくって、僕の方へ差し出してくる。

 

 

 

「はいっ、小幡くん。玉子のお返しだよ?」

 

「あわわわっ……、そ、その、僕……、僕……、ふきゅぅ……」

 

 

 

 恥ずかしさの許容を超えてしまい、僕は目を回していた。すると、こよりは心配してくれる。

 

 

 

「わわっ、小幡くん、大丈夫!? ご、ごめん、やりすぎたよ」

 

「きゅぅ……」

 

「も、もうしないから。小幡くん、戻ってきてー……」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 それから僕が意識を取り戻すのは数分後だった。

 目を覚ました時にいつの間にか隣に移動していたこよりは不安そうに聞いてくる。

 

 

 

「小幡くん、大丈夫……?」

 

 

 

 まだまともに意識が覚醒していない僕は、何も考えずぼんやりと思ったことを呟いていた。

 

 

 

「ママ……?」

 

「だ、誰がママですか!?」

 

 

 

――あ、あれっ!? も、もしかして、今って配信中だった!?

 

 

 こよりのその反応がココママに見えてしまい、思わず飛び起きる。

 しかし、そこは喫茶店で、隣でこよりがぼんやり僕のことを眺めていた。

 

 

 

「あ、あれっ? こより……さん?」

 

「小幡くん……、起きたんだ……。ごめんね、少し調子に乗りすぎちゃったみたいで……」

 

「ううん、僕も慣れてなかったから、その……、恥ずかしさの許容を超えちゃったみたいで……」

 

「私も可愛い妹ができた気分になって、やりすぎちゃった。反省するよ……」

 

「そ、その……、僕ももうちょっと耐えられるように頑張るよ……。そのうち……」

 

「そっか……。じゃあこのパフェを……」

 

「そのうち! そのうちだからねっ!?」

 

 

 追い討ちをかけてこようとするこよりの攻撃をかい潜り、なんとか喫茶店での猛攻を防ぐことができた。

 

 こよりをココママっぽいと感じたからだろうか。知らず知らずに自然としゃべり方は普段の僕に近づいていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ようやく解放されて、家に戻ってきたときにはすでに夜になっていた。

 流石に今日も配信できる気力がないので、同期の放送を眺めてるとココママが配信しているようだったので、見にいくことにした。

 

 

 

『《♯心の拠り所》雑談。新しい友達ができたよ《真心ココネ/シロルーム三期生》』

1.6万人が視聴中 ライブ配信中

⤴961 ⤵1 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

ココネ:『ココフレのみんなー、ここばんはー! シロルーム三期生の真心ココネですよー』

 

 

 

【コメント】

:ココママー

:ココママー

:ココママー

:ココママー

:ココママー

 

 

 

ココネ:『ママじゃないですよー。それよりココフレのみんな、聞いてください。今日、私に新しい友達ができたんですよー』

 

 

 

 ココネは嬉しそうに話していた。

 その本当に幸せそうな表情を見ているとこっちまで嬉しくなってくる。

 

 

 

【コメント】

:てぇてぇの予感

:ぼっちには眩しすぎる

:ココママ嬉しそう

:お、男じゃないよな?

 

 

 

ココネ:『白のワンピースと大きなリボンが似合う、とっても可愛らしい子なんですよ。妹に欲しい子なんですよー』

 

 

 

 その言葉に僕は一瞬固まる。

 ただ、白のワンピースを着てリボンを付けている子ならたくさんいる。

 僕とは無関係なはずだ。

 

 たまたま同じ服を着ていたから一瞬焦ってしまった。

 

 苦笑いのまま、僕はコメントを眺める。

 

 

 

【コメント】

:白のワンピース……、ユキくんか!

:リアルユキくんキタァァァァァァ!!

雪城ユキ :ぼ、僕は関係ないよね!?

:本物いたw

 

 

 

ココネ:『あっ、でもユキくんに似てるかもしれないです。小柄でそれこそ中学生くらいにしか見えなくて、しかもしかも、ほっぺについたサンドイッチの玉子を取ってあげると顔を真っ赤にしてたんですよ……』

 

 

 

――んっ? どこかで聞いたことがあるような出来事……。

 

 

 額から冷や汗が流れる。

 

 

――ま、まだ、何人もいるよね。そ、その、ワンピースを着てて、サンドイッチを取ってもらった人なんて……。

 

 

 

ココネ:『それがあまりに可愛くて、ついつい私のパフェをあーんってしてあげたんですよ。すると恥ずかしすぎたみたいで、目を回しちゃって……。とってもウブな子だったんですよ。やっぱり可愛いって正義ですよね』

 

 

 

【コメント】

:その子もシロルームに来てくれないかな?

:まだ中学生なんだろう? 数年待て

:ワクワク

:今から楽しみ

:ココママがユキくんから浮気してる

 

 

 

ココネ:『浮気じゃないですよ!? ゆ、ユキくんは私の大切な友達ですよ。そ、そうですよね、ユキくん? ……ゆ、ユキくんも何か反応してくださいよ……?』

 

 

 

 ココネが不安そうな声をあげていた。

 ただ、僕は別の考えに心を揺らされていて、まともに反応が出来なかった。

 

 

――こよりさんがココママだったんだ……。

 

 

 思えば初めて出会った時はココユイのコラボがあった日、ユイである結坂と一緒にいたのはこよりだった。

 

 他にも初めて出会ったのが会社の面接。

 その会社がシロルームのことなら、二人が出会っててもおかしいことではない。

 

 それに加えて、今の僕の情報……。

 寝起きに感じたココママの雰囲気……。

 

 一個一個だと確証は持てなかったけど、ここまで揃ってしまうとほぼ決まりだった。

 

 

 

――ちょ、ちょっと待って!? そういえば僕って、あのこよりさんとお泊まりのオフコラボをするの!? そ、そんなの体がもたないよ……。

 

 

 ゲームで疲れて寝てしまったユイとのオフ会や、気がついたら泊まることになっていたカグラとは違う。

 

 最初から泊まることが決まってる配信。

 

 

 

「うぅぅ……、知らなかったらよかった……」

 

 

 

【コメント】

:あれっ? 本当にユキくんの反応がない?

:もしかして逃げた?

:ココママ怯えてて草

:ユキくん、落ち込んじゃったねw

 

 

 

ココネ:『そ、そんなことないですよ!? み、見ててください。今通話して私たちの仲を証明してみせますから――』

 

 

 

――ま、まずい……。今ココママから電話がかかってきたら余計な反応をしてしまいそうだよ。と、とりあえずコメントで反応して……。

 

 

 

【コメント】

雪城ユキ :べ、別に気にしてないよ……

:めっちゃ気にしてて草

:ユキくん拗ねたw

:wwwww

雪城ユキ :えっ、ちが……

 

 

 

 コメントも途中にキャスコードから通話がかかってくる。

 相手はもちろんココネからだった。

 

 

 

『えとえと……、な、何かな?』

 

ココネ:『ユキくんー、違いますからね。私はユキくんのママですからね』

 

 

 

【コメント】

:ココママの台詞が酷いw

:ココママがママを認めてて草

:珍しいw

:ココママ、ユキくんが絡むとポンコツになるよな?

:人をダメにするユキくん、かw

羊沢ユイ :うみゅ、ココママがユキくんを手放したのでゆいがもらっていくの

:ユキくん依存症だな、これは

 

 

 

『ちょ、ちょっと!? なんで僕がクッションみたいな名前がついてるの!?』

 

ココネ:『ユキくんー、私を許してー』

 

『ゆ、許すも許さないも僕は別に怒ってないよ。ほらっ、ココママにはいつもお世話になってるし、その……とっても感謝してるんだから』

 

ココネ:『ゆ、ユキくん……』

 

 

 

 ココネは涙を拭う仕草をする。

 

 

 

『そ、それよりも一応僕、自己紹介した方がいいかな? ココママも僕のアバター、出す? 今ならなんとか話せるよ?』

 

ココネ:『そ、そうですね。ユキくんにフォローされるなんて……』

 

『ぼ、僕も昔のままの僕じゃないんだからね。みんなのおかげで成長したから……』

 

ココネ:『あとは声が震えてなかったら完璧でしたね』

 

『あぅ……』

 

 

 ようやく本調子に戻ってくるココネ。

 それを見て、僕は少しほっとしていた。

 

 

 

ココネ:『改めてユキくん、自己紹介をよろしくおねがいします!』

 

『それじゃあ、僕は帰るね。お疲れ様で――』

 

 

 

 僕ならこういう対応をする方が自然かな、とわざと帰ろうとする。

 すると、ココネが慌てて言ってくる。

 

 

 

ココネ:『ちょ、ちょっと待ってください! ユキくんから言ったことですよ!? 最後まで責任を取ってください。私はもう、ユキくんがいないとダメな体になってしまったのですから』

 

『ちょ、ちょっと言い方!? わざとでしょ!? ねぇ、わざとだよね!?』

 

ココネ:『……だって、ユキくんの初オフも私だって言ってましたよね?』

 

 

 

 ココネが少しすねた口調になる。

 確かにココネから言ってきたこととはいえ、その約束は守れなかったことになるので、僕は申し訳なく思う。

 

 

 

『それはその……、ごめん。その、成り行きで……』

 

ココネ:『しかも、カグラさんともオフしてましたよね?』

 

『……うん、それは僕から誘ったことだし言い訳できないかも』

 

ココネ:『ツーン……』

 

『ご、ごめん、ココママ。その……ぼ、僕にできることなら何でもするから――』

 

ココネ:『……それならコラボ配信の前に一緒にお買い物へ行ってくれますか?』

 

『そ、そのくらいなら……』

 

ココネ:『ユイちゃんがしてたみたいに、配信中にギュッと抱きしめてもいいですか?』

 

『えっ!? うぅぅぅ……、それはその……』

 

ココネ:『ユイちゃんにはよくて、私はダメなんですね……』

 

 

 

 ココネのアバターが落ち込んでみせる。

 

 

――いつもココママには助けてもらってるから、断れない……よね? でも、オフ会で抱きしめられる……。ココママではなくこよりさんに……。

 

 

 

 真剣に頭を抱えて悩む僕。

 

 

 

『うぅぅぅぅ……。ど、どうしたらいいんだろう……』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん苦渋の決断wwwww

:頼む、ユキくん。俺たちのためにも

:ユキくん、頑張れ

羊沢ユイ :うみゅー、ユキくんは柔らかかったの

:火に油を注いでて草

 

 

 

ココネ:『どうですか、ユキくん?』

 

『うぅぅぅ……、わ、わかったよ。オフ配信の時も同じ様に抱きしめたいって思うのだったらいいよ……』

 

ココネ:『ありがとうございます。ならあとは、一緒のお風呂と同じベッドで寝るだけですね』

 

『さ、流石にそれはダメ!!』

 

ココネ:『むぅぅぅ……、恥ずかしがり屋のわんこさんですね。大丈夫、少ししか襲わないですから――』

 

『お、襲う気だったんだ!? ぜ、絶対にダメだよ!!』

 

 

 

【コメント】

:ココママ草

:絶対見にいく

:楽しみ

羊沢ユイ :ゆいは一緒に寝たの

:wwwww

:まだ油を注ぐwwwww

 

 

 

ココネ:『ユキくんと一緒に寝るの、楽しみですね』

 

『えっ!? そ、それは断ったはず――』

 

ココネ:『ユイちゃんはよくて私はダメなの?』

 

『ココママ、怖い。怖いよ……? そ、それにユイの時もカグラさんの時も僕は先に寝ちゃったから詳しく知らないんだよ……』

 

ココネ:『あっ、そういう方法があったんですね。なら私も――』

 

『あっ、よ、余計なことを……。だ、大丈夫、僕は起きてるから……』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん自爆してて草

:いつものユキくんだw

:wwwww

:いつも先に寝るユキくんw

:緊張して前日寝られないらしいもんなw

:子供なんだなw

:ここまでユキくんの自己紹介なしw

 

 

 

『あっ、わ、忘れてた。わ、わふぅー、み、皆さん、初めまして。シロルーム三期生の雪城――』

 

ココネ:『では、次回のオフコラボ配信をお楽しみに。乙ココー』

 

『あー、ちょ、ちょっと、まだ僕の自己紹介が終わってな――』

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯心の拠り所》雑談。新しい友達ができたよ《真心ココネ/シロルーム三期生》』

2.4万人が視聴 0分前に公開済み

⤴1.0万 ⤵24 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:kokone_Room.真心ココネ

チャンネル登録者数4.8万人

 

 

 

【コメント】

:自己紹介の途中で終わる犬www

:毎度飽きさせないなw

:ユキくんらしいw

:17日が楽しみだw



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第17話:急募、お泊まりオフ対策配信

 結局ココネの配信はグダグタのまま終わってしまった。

 それも僕らしいと言えば僕らしいけど……。

 

 ただ、ココネのライブ放送が終わった後、僕はしばらく呆けていた。

 

 

――まさかココママがこよりさんだったなんて……。

 

 

 しかもオフ配信の前に買い物の約束や配信中に抱きつかれる約束、更に僕が先に寝てしまったら、隣に寝てくるなんてことも言っていた。

 そんな状態で平静を装うのは難しく動きが固まっていたのだが、キャスコードの通知音で我に帰ることができた。

 

 

 

 ピコッ!

 

 

 

「わわっ、だ、誰!?」

 

 

 

 慌ててスマホを開くと、メッセージはココネからだった。

 

 

 

ココネ:[明後日は10時に駅前でいいですか?]

 

 

 

 どうやら買い物へ行く時間の確認だった。

 

 

ユキ :[いいよ……]

 

 

 

 こよりと二人で出かける。

 そのことを考えた瞬間に胃がキュッと締め付けられるように痛んでくる。

 ユイやカグラと一緒に配信したときはあくまでも配信だけ。

 こうやって一緒に出かける様なことはしなかった。

 

 

 

ユキ :[やっぱり僕、少し体調が悪くて――]

 

ココネ:[それは大変ですね。私の家でしっかり看病しますね]

 

ユキ :[えと、ち、違っ……]

 

ココネ:[私、料理も得意ですから。美味しいお粥とか作りますよ]

 

ユキ :[美味しいお粥……]

 

 

 

 一瞬それもいいな、って思ってしまった自分がいた。

 しかし、すぐに首を横に振ってその考えを振り払う。

 

 

 

ユキ :[そ、そういうことじゃなくて、その……]

 

 

 

 僕が気にしていることはココネがこよりだってことだった。

 しかし、そのことに気づいていないココネはいつもの僕だと思っていた。

 

 

 

ココネ:[大丈夫ですよ。私が手取り足取り案内しますから、ユキくんは体だけ持ってきてください。あとは全て私に任せてくれたらいいですから――]

 

ユキ :[あうあう……。へ、変なことをしないでよ……]

 

ココネ:[…………はい]

 

ユキ :[なに、その間は……]

 

ココネ:[あははっ、気にしないでください。あと当日の配信予定なんですけど、カグラさんのところでしてた、寝るまで雑談配信でいいですか?]

 

ユキ :[わ、枠はココママの枠だからお任せするよ]

 

ココネ:[分かりました。思う存分に楽しんでもらえるように頑張りますね]

 

ユキ :[楽しんで……ってホラーゲームじゃないよね?]

 

ココネ:[あははっ、違いますよ。あっ、映画は見に行きましょうね。あと、夜は楽しくおしゃべりをしましょう]

 

ユキ :[え゛っ!? ほ、ホラー映画!?]

 

ココネ:[楽しみです。一緒に見ましょうね]

 

ユキ :[で、でも、一緒に行くのは買い物って――]

 

ココネ:[買い物のついでに映画を見るのは普通ですよね?]

 

ユキ :[そ、それならもっと楽しい映画を――]

 

ココネ:[ちょうど見たい映画があったんですよ]

 

ユキ :[あうあう……、ぼ、僕、目を瞑ってても良いかな?]

 

ココネ:[もちろんですよ。一緒に来てくれるだけでいいですから]

 

ユキ :[わ、わかったよ。そ、それなら……頑張る]

 

ココネ:[あと、私とのコラボの次の日に、ユキくん単独で収益化解禁の記念配信をしてほしいって担当さんから連絡がありましたよ]

 

ユキ :[記念ばっか……]

 

 

 

 毎週どころかそれこそ数日に一回のペースで記念配信をしてる気がする。

 それこそ記念が日常枠のように……。

 しかも、今度は収益化の記念。

 

 考えない様にしてたけど、思い出したら緊張で足が震えてくる。

 

 

 

ココネ:[収益化、おめでとうございます。やっぱりユキくんはすごいですよね。恥ずかしがりながらも、みんなの期待に応えようと必死になって……]

 

ユキ :[あ、ありがとう……。で、でも僕は自分のことに必死で、ただ闇雲に頑張っただけですよ]

 

ココネ:[そういうところがみんなユキくんに惹かれる理由なんでしょうね――]

 

ユキ :[えっ?]

 

ココネ:[あ、あははっ……、な、何でもないですよ。そ、それじゃあ当日楽しみにしてますね]

 

 

 

 こうして、ココネとのチャットは終わった。

 

 

 

「と、とりあえず今日の配信の準備をしないとね……」

 

 

 

 さすがに明日は準備とか、ココネのオフや記念配信の緊張から配信できる気がしない。

 そうなると今のうちに配信しておく必要があった。

 

 

 

◇◇◇

『《♯犬拾いました》た、助けて……《雪城ユキ/シロルーム三期生》』

1.1万人が待機中 20XX/05/15 22:00に公開予定

⤴682 ⤵1 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

【コメント】

:なんだか不穏なタイトルだな

:さっきのやつだろ?w

:wwwww

:ユキくん的にはピンチかw

:俺たち的にはご褒美だw

:ユキくんの段ボール、久々だw

:『拾ってください』だなw

:今日こそは俺が拾うぞ

:俺、この間犬を拾ってしまったんだ

 

 

 

 単独配信に、犬好きの人たちが盛り上がりを見せていた。

 配信前の画面には段ボールが一つ、映ってるだけなのに……。

 

 でも、よく考えるとこの画面も久々に思える。

 

 そして、配信予定の時間になったので、ミニアニメを開く。

 段ボールから見え隠れするユキくんのちびキャラ。

 

 

 

【コメント】

:ユキくん可愛い

:ちびキャラ可愛い

:ユキくんだけでも設定できる様になったんだ

:成長するユキくん

 

 

 

 ミニアニメが終わるタイミングで、ユキくんをダンボールに入れて表示させる。

 

 

 

『わ、わふー……』

 

 

 

 ちょっと顔を覗かせながら言う。

 ただ、普通に言ったつもりが緊張で声が震えてしまっていた。

 

 

 

【コメント】

:わふー

:わふー

:わふー

:わふー

:わふー

羊沢ユイ :うみゅー

神宮寺カグラ :来てあげたわよ

美空アカネ :わふー

貴虎タイガ :よっす

:今日は多いなw

:常識枠がいないぞwww

 

 

 

『えとえと、突然の配信なのにたくさん来てもらえてありがたいです。シロルーム三期生の雪城ユキです。わ、わふー。き、今日はちゃんと言えた……』

 

 

 

【コメント】

:w

:w

:www

:おめw

:w

:w

羊沢ユイ :ユキくん、えらいえらいなの

:挨拶を言うためだけの枠w

 

 

 

『ユイ……ありがとう……。――あっ、ち、違うよ? 挨拶を言おうとして枠開いたんじゃないよ? み、みんなに相談したいことがあったんだよ』

 

 

 

 僕は一度引っ込めた顔をゆっくり出すとコメントを眺める。

 

 さすがにココネの前では言えないことなので、コメント欄に彼女の名前がないことを確認してから言う。

 

 

 

『相談っていうのはそのその、明後日のことなんだよ』

 

 

【コメント】

:楽しみw

:楽しみw

:明後日か。開けておかないとw

美空アカネ :私も行きたい!!

貴虎タイガ :トレーニングか? 俺も行く!

羊沢ユイ :うみゅ、ゆいも行くの!

:www

:自由な先輩たちwww

 

 

 

『絶対に一緒にお風呂入ろうとしてくるよね? 一緒に寝ようとしてくるよね? それにホラー映画にまで連れて行かれるんだよ……。絶対に僕の体が持たないよ……』

 

 

 

 考えただけでも緊張で体が震えてしまう。

 

 そもそも性別を考えるとお風呂は絶対にダメだ。そこだけは回避しないと――!

 

 

 

『それで、どうにかしてオフコラボをなしにすることはできないかな?』

 

 

 

 僕としては真剣に相談していたのだが、コメントによって一刀両断されてしまう。

 

 

 

【コメント】

真心ココネ :できないですよ

:ココママ来てて草

:www

:ユキくんの相談終わりw

:www

 

 

 

『こ、ココママ!? ど、どうしてここに!? ……あっ、ち、違うよ。ココママとコラボオフをするのが嫌なわけじゃない――。ううん、嫌か嫌じゃないかと言えば、誰かとコラボすること自体がその……、嫌なんだけど。……でもでも、それはココママが嫌とかそういうわけじゃなくて、そのその――。……ごめんなさい』

 

 

 

 必死に言い訳を考えていたものの、僕とのコラボを楽しみにしてくれていたココママを裏切ってしまうことになりそうだったので、素直に謝る。

 

 段ボールにその身を隠しながら――。

 

 

 

【コメント】

:ユキくんw

:素直に謝るユキくん

:謝れて偉いよ

真心ココネ :ユキくん、もしかして私のこと嫌いですか?

 

 

 

『き、嫌いじゃないよ!? そんなことあるはずないよ!? だってココママは最初からずっと僕のことを助けてくれた恩人で、その……感謝しかないよ』

 

 

 

 僕は必死に答えていると、ココネは更にコメントを書いてくる。

 

 

 

【コメント】

真心ココネ :じゃあ好きですか?

:ココママがストレートだw

:www

:草

:ココママw

 

 

 

『あうあう……。そ、その……あの……』

 

 

 

 恥ずかしくて返答に困ってしまう。

 ただ、ここで答えなかったら、ココママのことを嫌いと言うことになりかねない。

 

 ずっと僕のことを助けてくれた恩人にそんな真似をできるはずもなく、僕は覚悟を決める。

 

 

 

『そ、その、ココママのことは……、す、好きだよ……』

 

 

 

――何を言わされてるのだろう、僕は。

 

 

 

 茹で上がりそうなほど顔を赤くしながら、小声で言う。

 

 ただ、恥ずかしくなってしまい、言うときは顔を出していたものの、すぐに段ボールへと隠れてしまう。

 

 画面のユキくんだけではなく、僕も同じように担当さんからもらったユキくん段ボールに――。

 

 

 

【コメント】

:だめだ、俺はもう逝く

:骨は拾ってくれ

:俺も逝く

真心ココネ :えへへっ、私もユキくんのこと、大好きですよ

:誰か切り抜きを頼んだ……。俺は逝く……

羊沢ユイ :うみゅー、ゆいは?

美空アカネ :私は?

貴虎タイガ :俺に隙はない!

:一人違うwww

:やめてあげて。ユキくんのライフはもうゼロよ

:さりげなく混ざるアカネパイセンw

 

 

 

『えとえと……、い、言わないとダメなの……? ダメ……なんだよね?』

 

 

 

 ほんの少し、フードの部分だけ見え隠れしながら、僕は犬好きさんたちに確認をする。

 

 願わくば、逃げ道を用意してもらえることを期待しながら。

 

 

 

【コメント】

:一思いに逝かせてくれ……

:楽しみ

:ユキくん、任せた

羊沢ユイ :うにゅ、言って……くれないの?

美空アカネ :うにゅ、言ってくれないの?

:↑暴走してて草

貴虎タイガ :言う? 果たし合いか?

:↑暴走してて草

:常識枠が足りないw

:ココママがいるぞ!?

:ココママはユキくんを前にした場合だけポンコツだ

:ポンしかいないw

 

 

 

 犬好きの人たちから圧倒的に望まれているようだった。

 そうなると言うしかない……よね?

 

 

――うぅぅぅ……。恥ずかしいのに……。

 

 

 顔を真っ赤にしながら、もう一度ゆっくり段ボールから出す。

 一瞬脳裏に結坂の顔が浮かぶが、それを振り払い、心を無にして言う。

 

 

 

『ゆ、ユイももちろん好きだよ……。アカネさんは……海星先輩にお返しします。そのその、は、果たし合いはお、お断りさせてもらいます……』

 

 

 

【コメント】

:はっ、ここは天国か!?

:かわいすぎる

:ユキくん可愛い

羊沢ユイ :うにゅー、ゆいもだよー

美空アカネ :うっ、こ、コウはやめてくれ。死にたくない……

:アカネパイセンのトラウマを刺激w

海星コウ :アカネ、好きだよ?(ニコッ

:コウパイセンきたァァァァァァwww

美空アカネ :こ、こ、コウ!? わ、私も好きだよ!?

海星コウ :その話は後からゆっくり聞くから、ね

美空アカネ :た、助け……

:パイセン、ご愁傷

:パイセン草

 

 

 

『あ、あれっ? なんの放送だったかな?』

 

 

 

 いつものように犬好きさんや同期の面々に振り回されてしまう。

 なんの放送をしていたのか、とタイトルを見て思い出す。

 

 

 

『あっ、そ、そうだった。明後日のことだった。ど、どうしよう……、僕の体、持つのかな?』

 

 

 

【コメント】

:ようやく本題に入ってて草

:でもココママ本人がいるのにw

真心ココネ :大丈夫です。全て私に任せてください!

:ココママ草

:ココママに任せておけば安心w

 

 

 

『それはほらっ、ダメでしょ。一緒に出かけるのなら全部をココママに任せるのじゃなくて、その……ぼ、僕もココママを楽しませてあげたいし……。で、でも、僕に何ができるのかわからないし……』

 

 

 

 遊びに行くのなら一方的に何かをしてもらう、というのは違う気がしていた。

 友達同士なら一緒にいて楽しくないと本当の友達とは言えない。

 

 

 

『そ、それにココママは綺麗なお姉さんだし、その……明るいし、眩しすぎるよ……』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん優しい

:あれっ、ユキくんとココママって会ったことある?

真心ココネ :えっ? あぁ、ユイから聞いたのですか?

羊沢ユイ :うみゅ? 教えてないの

真心ココネ :面接……でも会ってないですよね?

 

 

 

『えと、あの……、その……。め、面接の時は会ってない……よ?』

 

 

 

 ピコッ。

 

 

 

『あっ、ま、また忘れてた……』

 

 

 

 キャスコードの通知音が鳴る。

 これももはやお家芸になりつつある。

 

 

 

【コメント】

:この音もユキくんらしさだよなw

:www

:草

:通知音助かるw

 

 

 

 慌ててキャスコードを開く。

 すると、連絡はココネからだった。

 

 

 

ココネ:[もしかして、私とユキくんって出逢ってるのですか? 面接の時以外に]

 

[えと……、うん]

 

 

 

 ここは誤魔化してもどうせ明後日にバレてしまうので、素直に答える。

 

 

 

ココネ:[……そういうことですか。私とユイちゃんの共通の知り合い……。そうなると小幡くんしかいないですよ……]

 

[あ、あははっ……。お、驚くよね、やっぱり]

 

ココネ:[いえ、もしかしたらユキくんかなって思ってたんですよ。でも、わかってたならもっと早くに教えてくださいよ]

 

[ぼ、僕も気づいたのはさっきのココママの配信で、だから……]

 

ココネ:[それでお風呂を嫌がったり、一緒に寝るのを嫌がってたのですね]

 

 

 

 僕の正体もようやくココネに伝わったようだ。

 でも、最初からこれでよかったのかもしれない。

 

 僕が男だとわかったら無理にお風呂へ入ったりとかしないはず。

 

 

 

ココネ:[でも私は気にしないので、一緒に寝ましょうね]

 

[っ!? き、気にしてください!!]

 

ココネ:[ユキくんみたいな妹、欲しかったんですよ]

 

[だ、だから最後まで話を――]

 

ココネ:[それよりもユキくん、こっちに集中して配信の方を忘れてない?]

 

[あっ!?]

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、黙っちゃったね

:何かあったのか?

:待機

 

 

 

『あっ、ご、ごめんなさい。そ、その、ココママに相談してたら喋れなかったよ……。で、でも、少しだけ不安が解消されたよ。みんな、相談に乗ってくれてありがとう』

 

 

 

 僕は犬好きのみんなに頭を下げていた。

 

 

 

【コメント】

:えぇんやで

真心ココネ :ユキくん、可愛かったです

羊沢ユイ :うみゅ、ゆいも混ぜるの!!

真心ココネ :当日はもちろんいつものワンピースを着てくるのですよね?

 

 

 

『えっ!? いつものって僕が毎日ワンピースを着てる様に言わないでよ!? 普通の服だよ?』

 

 

 

 やっぱり、僕。いつもワンピースを着るように思われてたんだ……。

 

 

 

【コメント】

:やっぱユキくんだとワンピースとパーカーだよな

羊沢ユイ :ゆいの時はパーカーだったの。犬の足跡がついてるやつで可愛かったの

:やっぱり犬のパーカー

:ユキくんは可愛い

真心ココネ :わかりました。なら可愛い服も準備しておきますね

 

 

 

『も、もう、だから僕は自分の服くらい持っていくからね。そ、それじゃあ、今日の放送はそろそろおしまいにするよ。犬好きさんのみんな、今日も来てくれてありがとう。また次の放送もお楽しみに。明日はオフ会の準備で、明後日はココママと放送だから、次の放送は明明後日になるかな。では、お疲れさ――』

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯犬拾いました》た、助けて……《雪城ユキ/シロルーム三期生》』

3.3万人が視聴 0分前に公開済み

⤴1.1万 ⤵11 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ

チャンネル登録者数10.3万人

 

 

 

【コメント】

:もうちゃんと挨拶ができないのは芸になってるな。

:ユキくんwwwww

:結局問題解決してなくて草

:明後日も楽しみ



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第18話:ココママ5万人記念配信

――どうしてこの世はこんなに無情なのだろう……。

 

 

 窓の外から明るく燦々と照らしてくる太陽に向けて、眉をひそめていた。

 

 カーテンレールには逆さに釣られたたくさんのてるてる坊主。

 

 風邪を引かないかなと思って敢えて薄い服を着ていたのだが、風邪も引かなかった。

 

 ただ、ココママとのオフ会や収益化の記念配信があると考えると、ここ数日ろくに眠ることができてない。

 

 

 そんなこともあり、体調、精神ともに最低でココママとのオフの日を迎えた。

 

 

 服装はもちろんいつもの少しぶかぶか気味のパーカーとジーパン。

 犬の足跡付きパーカーがまさかユキくんと結び付けられるとは思わなかったが、それほどたくさん服を持っているわけでもないので、結局着やすいこの服を選んでしまう。

 

 

 そして、駅前にたどり着く。

 時間は朝の九時。

 約束の時間より一時間は早い。

 

 

 行くのは嫌だったが、それでも約束は約束。

 万が一にも遅れることのないように早めに出てきたら早く着きすぎてしまったようだった。

 

 

 

「遅れてこよりさんに迷惑をかけるよりマシだよね?」

 

 

 そんなことを考えていると突然知らない人から声をかけられる。

 

 

 

「君、こんなところに一人でいるの? 迷子なら一緒に親御さんを探してあげようか?」

 

 

 

 怪しい人から声をかけられたのかと思い、顔を上げるとそこにいたのはメガネをかけ、きっちりと髪を整えたいかにも会社員といったスーツ姿の男がいた。

 

 どう見ても真面目そうな人だったので、僕は少しだけホッとする。

 

 ただ、知らない人には違いない。

 絶対その口車に乗せられてはダメだ。

 

 

 

「ご、ごめんなさい。その……知らない人とは話したらダメだって――」

 

「いや、別に怪しいものじゃない――」

 

「こ、小幡くん!? だ、大丈夫!?」

 

 

 

 突然、僕と男の人の間を割って入る人がいた。

 それは大代こより……つまり、ココネだった。

 

 今日は白のフリルがついたカーディガンとピンクのスカートを履いていて、とても可愛らしい。

 ただ、そんなこよりが鋭い視線で男の人を睨んでいる。

 

 

――あれっ、その役目は普通、男の僕じゃないの?

 

 

 何故か庇われている……。

 いや、確かに背丈はこよりの方が高いし、理由はわかるけど、どうにも腑に落ちない。

 

 

 

「こよりさんこそ、ここは僕に任せてください」

 

 

 

 こよりの代わりに僕が前に立つ。

 すると、男の人が目を大きく見開いていた。

 

 

 

「あぁ、その子は大代さんの知り合いだったのですか?」

 

「えっ、あれっ、高田太一(たかだたいち)さん? どうしてここに?」

 

「いや、これからシロルームに向かうところですよ。ちょっと打ち合わせにね。そこで周りをキョロキョロ見回している迷子の子がいたからね」

 

「あぁ、そういうことですか……」

 

「ぼ、僕、迷子じゃないですよ……。子供でもないですよ……」

 

「それは悪かったね。なんかすごく困ってる風に見えたから」

 

 

 

 どうやらこの人はシロルーム関係者のようだった。男の人ってことは裏方の人とかかな?

 

 首を傾げながら、一応関係者なら……と挨拶をする。

 

 

 

「あっ、いえ、わざわざ気を遣っていただいてありがとうございます。ぼ、僕は小幡祐季(こはたゆき)といいます。その、よろしくお願いします」

 

「俺は高田太一。よろしくお願いします。……えっ、小幡祐季?」

 

 

 

 やはり小幡、と言う名前に反応するようだった。

 

 

――シロルームの会長……だもんね。僕もいまだに信じられないけど。

 

 

 

「それより、私の(・・)小幡くんをどこに連れて行こうとしてたのですか? いくら高田さんといえど、返答次第では――」

 

「ちょっ、ちょっと待ってよ!? いつ僕がこよりさんのものになったの!?」

 

「はははっ、確かにこれはママって言われるわけですね。最初の頃と雰囲気がずいぶん変わりましたね」

 

「えっと……、僕の意見は?」

 

「なんていっても小幡くんは私の友達ですからね」

 

 

 

 僕抜きに話が進んでいく……。

 ただ、微笑むこよりを見て、僕も笑みを浮かべる。

 

 

 

「そ、そうだよ。うん、こよりさんとは友達だもんね」

 

「やっぱりまだ少し固いね」

 

「……ご、ごめん」

 

「気にしなくていいよ。小幡くんも慣れてくれたらマシになるだろうし」

 

「……やっぱりそうですか。小幡くんがあの――。そして、これが噂の三期生随一のてぇてぇコンビ。おっと、そろそろ行かないと。二人とも、また今度」

 

 

 

 腕時計を確認した後、高田は慌てて去って行った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ごめんね、小幡くん。待たせちゃったかな?」

 

 

 

 こよりが不安そうに聞いてくる。

 

 

 

「そ、そんなことないよ。時間も待ち合わせより一時間も早いし……。で、でも、いきなり声をかけられたのはびっくりしたかな」

 

「小幡くん、かわいいからね。もっと注意しないと」

 

「えっと、ぼ、僕は男だから……」

 

「関係ないよ! そんなことをしてると悪い人に拾われていくよ!」

 

「うっ、ご、ごめんね。心配かけて……」

 

「うん、気をつけてね。でも、ちゃんと謝れて偉いね」

 

 

 

 こよりから頭を撫でられる。

 

 

 

「むぅ……、もしかして、僕のこと、子供扱いしてる?」

 

「あははっ、そんなことないよー」

 

 

 

 こよりが目をそらしながら言ってくる。

 

 

 

「そういえばさっきの人ってシロルームのスタッフさん? こよりさんは知ってたみたいだけど……」

 

「えっと、小幡くんになら言っても良いのかな? ちょっと待ってね」

 

 

 

 こよりがスマホで何か確認をしていた。

 一つずつ確認して打つ僕とは違い、ものすごい勢いで文字を打っていた。

 そのことに驚いていると、こよりが一度頷いて僕の方を向いてくる。

 

 

 

「担当さんから許可をもらったよ。とりあえず歩きながら話そっか」

 

「うん、わかったよ」

 

 

 

 こよりの隣に並んで歩き出す。

 

 

 

「手でも握る?」

 

「に、握らないよ!?」

 

「あははっ、もう、顔を真っ赤にして……。やっぱりユキくんはかわいいなぁ。……はっ!? ち、違うね、小幡くんだね……」

 

「もしかして、僕、身の危険? 今すぐに逃げた方が良いよね? うん、そうだね。自分の身が可愛いもんね」

 

「だ、ダメだよ!? 今日の配信を私がどれだけ待ち望んでいたか。やっと念願叶ってできるオフコラボなんだからね」

 

「うん、わかってるよ」

 

「あっ、それとさっきの高田太一(たかだたいち)さんは一期生の野草ユージさんだよ」

 

「そうなんだ。……へっ!?」

 

 

 

 あまりに簡単にこよりが言ってくるのでスルーしかけてしまったが、話の内容を理解すると驚いてしまう。

 

 

――あの人が野草ユージさん!? ぜ、全然印象が違うんだけど……。

 

 

 野草ユージと言えば『ユージ草』を代表とする炎上芸が得意で、チャラ男風の見た目とそれに付随する行動。

 ただし、たまに見える真面目な雰囲気がギャップを生み、人気を出している一期生の男性Vtuberだ。

 

 

 

「えとえと、ほ、本当なの? だ、だって、すごく真面目そうな人だよ!?」

 

「ユイちゃんと同じでキャラを作ってるみたい」

 

「い、色んな人がいるんだね……」

 

「小幡くんも、だよ」

 

「あっ……」

 

 

 

 確かに僕みたいに性別まで偽ってる人はシロルームにはいない。

 

 そう考えると、高田さんのこともおかしいことには思えなかった。

 

 

 

「それじゃあ、早速服を買いに行こうか。前のワンピースも可愛かったし、リボンももちろんいるし、他にも色々と買いたいね」

 

「……もちろんこよりさんのもの、だよね?」

 

「あははっ、何を言ってるの? もちろん小幡くん用だよ」

 

「――僕、やっぱり帰って良いかな?」

 

「ダメだよ!? だってほらっ、これからユキくんとして出かけるときもあるでしょ? そのときに男物の服で行くの? 正体ばれてしまうよ?」

 

「た、確かにそれは一理あるね」

 

「でしょ。だから今日は女性用の服を探します!」

 

 

 

 ……あれっ? なんでこうなるんだろう?

 

 

 

 結局僕はこよりに手を繋がれて、そのまま一緒に買い物や映画に連れ回されていた。

 途中で女性ものの服に着替えさせられて――。

 

 

 

◇◆◇

『《♯心の拠り所 ♯ココユキ》登録者数5万人記念。寝るまで雑談 《真心ココネ/雪城ユキ/シロルーム三期生》』

2.1万人が待機中 20XX/05/17 22:00に公開予定

⤴475 ⤵0 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

【コメント】

:ついにこの日が来たか

:てぇてぇ爆撃の準備はできている

:ココママ、5万人おめでとう

:おめでとう

:おめでとう

:おめでとー

:オメー

:全裸待機しててよかった

 

 

 

 

 待機画面に表示されているのはココネとユキが楽しそうに笑い合っている姿。

 ココネの元にファンアートとして届けられたものだった。

 

 配信時間開始になるまで待機しているココネ。

 彼女の下にもミニアニメが届けられ、それが本日初お披露目でもあった。

 

 配信まであと五分。

 さすがに緊張を隠しきれない。

 大きく深呼吸をして、ジッとモニターを眺める。

 

 そして、ついに配信時間がやってくる。

 

 手はず通りに流れるミニアニメ。

 チビキャラのココネが画面上を飛び回り、ユキくんに抱きついたり、ユイとバチバチと視線をぶつけ合ったりする。

 そんなアニメをしばらく流した後、ココネのアバターが配信画面に登場する。

 

 

 

ココネ:『みんなー、ここばんはー!! シロルーム三期生、真心ココネですよー』

 

 

 

【コメント】

:ココママ―

:ココママー

:ココママー

:ココママー

:ココママー

:ココママー

 

 

 

 配信と同時にいつものココママ爆撃が来る。

 ただ、それも慣れたものでココネはいつもの返答をする。

 

 

 

ココネ:『ママじゃないですよー。それよりも今日は私の五万人記念配信に来てくれてありがとうございます。こんなにすぐに五万人を超えるなんて思っていなくて、驚いちゃいました』

 

 

 

 ココネがみんなの前で頭を下げる。

 ただ、配信画面には未だにココネしか現れていない。

 

 いつもだとユキくんの段ボールが置かれているはずなのに……。

 

 

 

【コメント】

:五万人おめー

:おめでとー

:おめでとう

:あれっ、ユキくんはー?

:段ボールがないよ?

:まさか逃げられたの?

:おめでとー

 

 

 

ココネ:『やっぱり気になっちゃいますよね、ユキくん。では、ユキくんに登場してもらいましょう』

 

 

 

 ココネはそういうとマイクを動かす。

 自分の膝の側へ。

 すると、そこには寝息を立てて眠っている祐季がいた。

 

 

 

『すぅ……、すぅ……』

 

 

 

【コメント】

:あっ……w

:寝息w

:ユキくんwww

:寝ちゃってるんだ……www

:あれだけ先に寝ないって言ってたのにねw

羊沢ユイ :ユキくんはお子ちゃまなの

:寝息助かる

 

 

 

ココネ:『ちょっと今日、はしゃぎすぎて寝ちゃったみたいです。それに、今日のこととか色々と考えてて、この数日まともに寝てないみたいなんですよ。そういう事情ですから少し休ませてあげて、ユキくんが起きるまでは私が一人で進行していきます。ということで、ユキくんの段ボール……っと』

 

 

 

 ココネは[睡眠中]と書かれた段ボールを配信画面に表示する。

 

 

 

ココネ:『それじゃあ、まずはマシュマロ読みからはいりますね。その後に今日のオフ会のことを話していきたいと思います』

 

 

 

【コメント】

:寝息助かる

:楽しみ

羊沢ユイ :うみゅー、ゆいも行きたかったの

:わくわく

:ユキくんの寝顔が見たい

 

 

 

ココネ:『ダメですよ。ユキくんの寝顔は今日は私が独占するのですから。では、まず最初のマシュマロから』

 

 

[ココママ、ユキくん、ここばんは。最近、ユキユイがてぇてぇすぎて、ココユキが疎かになっている気がします。ココユキ推しの僕としては是非とももっとコラボをしてもらって、てぇてぇところをたくさん見せて欲しいです]

 

 

ココネ:『良いことを言いますね。では、早速担当さんにユキくんの予定を抑えてもらいましょう。少し待って下さいね』

 

 

 

 カタカタと文字を打つ音が聞こえる。

 

 

 

【コメント』

:ココママw

:こうやってユキくんを抑えてたんだw

:ココママ、黒いw

:寝てる間に予定を入れられるユキくんw

:いや、これが本来の予定の組み方なんじゃないのか?

 

 

 

ココネ:『だって、よく考えてくださいよ。オフコラボ、とっても楽しみにしてたんですよ。それなのに、私の膝で寝ちゃってるんですから』

 

 

 

【コメント】

:膝枕だと!?

:なんだその空間はw

:俺、ココユキを信じてよかった……

羊沢ユイ :うみゅ、ユキくんをとられたのー

:wwwww

 

 

 

ココネ:『では、そろそろ次のマシュマロにいきますね』

 

 

[ユキくんのダンボールの中は、″あったか〜い″ですか? それとも、″つめた〜い″ですか?]

 

 

ココネ:『うーん、これはユキくんに答えてもらいたかったですね。ただ、今は寝ちゃってますので、代わりに私が、一緒に入って確かめちゃいますね。よいしょっと……』

 

 

 

 段ボールの中にココネのアバターを動かす。

 そのあと、実際にユキくんの肌に触れる。

 

 

 

『うみゅ……、すぅ……すぅ……』

 

 

 

 一瞬驚いた声をあげるもののユキくんは目覚めることなく、そのまま眠っていた。

 

 

 

ココネ:『ユキくんは……いえ、ユキくんの段ボールはとっても暖かかったです。ぷにぷにで……』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん可愛いw

羊沢ユイ :うみゅ、ユキくん、柔らかいの

:wwwww

:ユキくん依存症が二人もw

:ユキシンドロームかw

;ユキローム被害者かw

:ユキローム草

 

 

 

ココネ:『それじゃあ、そろそろ今日のオフ会について話させていただきますね。まずは私とユキくんが買い物に行った話から――』

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「ユキくん、猫耳フードのパーカーも似合うんじゃないかな?」

 

 

 

 ショッピングモールに行った僕は、まず女性ものの服屋へと連れて行かれた。

 もちろんこよりが選んでいる間、僕は店の外で待っているつもりだったのだが、なぜか一緒に連れて入られて、今に至る。

 

 

 

「えっと……、それって女性向けだよね? そもそも僕に似合うはずがないですよ……」

 

「あらっ、お客様、とてもお似合いですね。試着をされてみますか?」

 

 

 

 店員さんに声をかけられてしまう。

 しかも、似合うと言われると複雑な気持ちになってくる。

 

 

 

「えっと、その僕は……」

 

「ほらっ、ユキくん! 実際に来てみましょう。きっとお似合いですよ」

 

「に、似合いたくないですよ!?」

 

「えっと、他にも似合いそうなのは……」

 

 

 

――こ、これは早く着ないとどんどん服が増えていくやつ?

 

 

 

「えとえと、ぼ、僕は試着室へ行ってくるね」

 

「あっ、待って。私も一緒に行くよ!」

 

「べ、別に着るくらいなら一人でできるよ?」

 

「私も見たいんですよ」

 

「仲がいいのですね。姉妹ですか?」

 

 

 

 店員さんが微笑ましそうに聞いてくる。

 すると、こよりは嬉しそうにうなづいていた。

 

 

 

「はいっ! 姉妹です」

 

「ち、違いますよ!? ただの友達ですから!」

 

「むぅ……、いい加減私の妹だって認めてよ」

 

「そ、それならこよりさんだって、ママってことを認めてよ」

 

「私はユキくんのママだよ?」

 

「うっ……」

 

 

 

――そうだった……。なぜか僕が言ったときだけママって認めてるんだった。

 

 

 

「と、とにかく僕はこの服を着てくるよ」

 

「楽しみに待ってるね。えっと、デジカメデジカメ……」

 

「と、撮らなくて良いよ!?」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 それから試着室で猫耳のフードがついているパーカーを着てみた。

 

 

 

「えっと……、やっぱり僕が猫は変じゃないかな?」

 

「うーんそうですね。やっぱり小幡くんは犬耳ですよね」

 

「……ないものは仕方ないよね。うん、それじゃあお店から出て……」

 

「こちら犬耳フードのついたパーカーです」

 

 

 

 店員さんがタイミングを見計らって黄色のパーカーを持ってくる。

 

 

 

「わわっ、な、なんであるの!?」

 

「最近の人気商品になりますね。Vtuberの方が犬耳フードを着てるみたいで――」

 

 

 

 完全に(ゆきくん)のことだった。

 ガックリと肩を落とす僕とは打って変わり、こよりは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

 

 

「ありがとうございます。これなら小幡くんに似合いそうですね。まるでユキくんみたい……。あっ、そうだ。それならユキくんに合わせて、白のワンピースを下に着てみましょうか」

 

「えっ、い、嫌だよ!?」

 

「大丈夫、似合いますから!!」

 

「で、でも、僕、ズボンは履きたいから――」

 

「それならこっちのレギンスを履いて、その上からワンピースを着て、パーカーを羽織るといいですよ。きっと似合いますから!」

 

 

 

 こよりが力説してくる。

 ただ、前みたいにワンピース単独と比べると抵抗心は少ない。

 

 

――ズボンさえあれば、少し丈の長い服を着てる感じだもんね。それなら昔、母さんによく着せられた気がする。

 

 

 

「わ、わかったよ。これならいいよ……」

 

 

 

 それだけ言うと僕は実際に服を着てみた。

 

 それをこよりに見てもらうと彼女は目を輝かせて、いきなり抱きついてきたので、逃れるのが大変だった。

 

 

 

「こ、小幡くん、まるで本物のユキくんみたいで可愛いです……」

 

「こよりさん、そ、その、ココママが出てるよ……。は、離して……」

 

「はっ、ご、ごめんね。つい、小幡くんが可愛すぎて……。とりあえず今日の服はそれでいましょう。私がお金を払いますので」

 

「えっと、悪いよ。それにお金くらい僕が……」

 

「大丈夫だよ。それにこれはユキくん登録者数十万人のお祝いだから。どこかでしたかったんだよ。できればユキくんにちなんだ物を……」

 

「そ、そうなんだ……。うん、ありがとう……」

 

 

 

 誰かにこうやって祝われるのは初めてだったので、嬉しく思い、素直にうなづいていた。

 

 

――僕もココママにサプライズを準備してるもんね。

 

 

 僕と同じでこよりも何かサプライズをしたかったのだろう。

 

 

 

「だからこの服は私が買うよ。あとはユキくんのパジャマだね」

 

「えっと、お泊まりだって言ってたから寝巻きは用意してるんだけど……」

 

「あっ、あの着ぐるみパジャマとか良さそう。ほらっ、犬の着ぐるみだよ」

 

 

 

 楽しそうに僕を引っ張っていくこより。

 

 僕の祝いも兼ねていると言われたらあまり強いことは言えず、僕もなす術なくそのまま引きずられて行った。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

ココネ:『買い物は主にこんな感じですね。ちなみに今はユキくん、犬耳パーカーと白のワンピース、あとは黒のレギンスを着てますよ。アバターと近い格好ですね。頭には勝手に大きなリボンをつけちゃいましたけど』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん可愛いw

:こういうのが聞きたかったんだ

:ユキくんがこれを聞いてたら恥ずかしがってたんだろうな

:↑それも聞きたかった

羊沢ユイ :うみゅー、ゆいには何をくれるの?

:ユイちゃん、自由すぎw

 

 

 

ココネ:『こんな感じにユキくんが起きるまで今日の出来事を話していこうと思います。では、次は服を買い終わった後、映画館に行った話ですね』

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「ほ、本当にホラー映画見るの?」

 

 

 

 恐怖のあまり足が震えていた。

 右手は映画の半券を。そして、左手は知らず知らずのうちにこよりの服を掴んでいた。

 そんな僕を見て、こよりは満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 

「えっ、違いますよ? 今、ホラー映画はやってませんから」

 

「……えっ? でも、この前の連絡で――」

 

「私はホラー映画なんて一言も言ってないよ? 小幡くんが勝手に勘違いしたんじゃないかな?」

 

「う、うそ……。だ、だって……」

 

 

 

 僕は改めてココネとのチャットを確認する。

 すると、確かにココネはホラー映画ではないって否定していた。

 

 ただ、映画に関しては一切内容には触れず、ココネが見たかったもの……としか言っていない。

 

 

 

「よかった……。ホラーじゃないんだね。それなら安心して見られるよ」

 

「うん、グロ系だから安心だね」

 

 

 

 それを聞いた瞬間に僕は回れ右をして、そのまま出口の方へ向かって駆け出す。

 ただ、すぐにこよりに腕を掴まれてしまう。

 

 

 

「待って!? どこにいくの?」

 

「えっと、その……、トイレ?」

 

「トイレは逆方向だよ! もう、堂々と逃げようとしないで!」

 

「うっ、ご、ごめんなさい……。グロ系も怖いから……」

 

「嘘、嘘だから。本当は今流行の感動の恋愛ものだから」

 

 

 

 こよりは慌てて訂正をしてくる。

 僕があまりにも怖がっていたから、ちょっと騙しただけのつもりだったみたいだ。

 

 確かに受け取った映画の半券にも恋愛もののタイトルが書かれていた。

 それをもらっていたにも関わらず気づかなかったのは僕の落ち度でもあった。

 

 

 

「よ、よかったよ……。これなら僕でも見られそう……」

 

「うん、小幡くんにも楽しんでもらうって言ったもんね」

 

「ありがとう……、ココママ……」

 

「もう、こんなところでその名前はやめてよ」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 映画が終わると僕は涙を流していた。

 というのも、こよりと見た映画は悲運の恋愛を描いた作品で、最後は死に別れる……というものだった。

 

 それがあまりにも悲しくて、涙を流さずにはいられなかった。

 

 

 

「うぅぅぅ……、どうしてあそこで死んじゃったの……。は、ハッピーエンドでも良かったんじゃないの……」

 

「感動の大作って言われてたものだからね。大丈夫、小幡くん。ハンカチ、使う?」

 

「うん、ありがとう……」

 

 

 

 こよりから受け取ったハンカチで涙を拭う。

 すると、こよりが僕の頭を撫でてくる。

 

 

 

「小幡くん、感受性が強いんだね……。こういう話も嫌いだった?」

 

「ううん、大丈夫……。ただ、やっぱり僕は物語の中ではハッピーエンドがみたいよ……」

 

 

 

――きっと、それが求められてるのも僕たちなんだね。

 

 

 リスナーの人たちが僕たちを求めて見に来る。

 疲れた気持ちを癒やしたり、心が穏やかになったり、日々のちょっとした日常に砂糖を加えることのできる存在。

 

 

 一緒に楽しんだり、喜んだり、たまには悲しんだり、怒ったり……。

 リスナーの人と一緒に寄り添っていくことこそ、求められることなんだろう。

 

 

 

「そっか……。あっ、そういえば小幡くん、この前私の料理が食べたいって言ってたね。せっかくだし、夕食は食材を買って一緒に作る? 料理も教えてあげるよ。この前みたいにならないためにも」

 

「あ、ありがとう……」

 

「配信中は小幡くんを抱きしめる権利をもらってるからね。このくらいならお安いご用だよ」

 

「えっと、やっぱり抱きしめたままの配信はするの……?」

 

「もちろんだよ。ユイちゃんもしてたんだし、私もユキくん成分を堪能したいからね」

 

「ぼ、僕からは何の成分も出てないよ。マイナスイオンとか……」

 

「ユキくん依存症は大変な病気だからね。定期的にユキテラピーをして、症状を落ち着けないと」

 

「ゆ、ゆきてらぴー……?」

 

「うん、アロマテラピーのユキくんバージョン」

 

「そ、そんなのないよ!?」

 

「なんだったら、今すぐ試してみる?」

 

「しないよ!? 絶対にしないからね!?」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

ココネ:『映画館ではこんな感じだったんですよ。泣いてるユキくんもとっても可愛かったんですよ!』

 

 

 

 ココネが幸せそうに話していた。

 

 

 

【コメント】

:ユキくんなら容易に想像ができるw

:でも映画館なんてよく行ってくれたな

:ユキくん、基本逃げるもんなw

羊沢ユイ :うみゅ、うらやましい……

:ユキテラピーwwwww

:なるほど、ユキテラピーに行けば良いのかw

 

 

 

ココネ:『ユキテラピーは今は私の特権ですよ?』

 

 

 

 膝で眠るユキを撫でながらココネは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

 

 

ココネ:『それで映画の後は食材を買ってきて、一緒に料理をしたんですよ』

 

 

 

【コメント】

:……えっ!?

:悲劇が再び

:ゆ、ユキくん、怪我してない!?

:炭……

:いや、カップ麺か

 

 

 

ココネ:『そんなことないですよ。ユキくんはただ料理をほとんど作ったことがないだけでしたので、教えてあげたらちゃんと切ることができましたよ』

 

 

 

【コメント】

:ママすごい

:さすがママ

:その調子でカグラ様も頼む

:幼女が幼女に料理を教える

:はぁはぁ

:通報しました

 

 

 

ココネ:『だいたい今日一日はそんな感じでしたね。一緒にお風呂だけはできませんでしたけど、楽しかったです。それにユキくん、私にサプライズをしてくれたんですよ』

 

 

 

 ココネは嬉しそうに写真を画面に表示させる。

 

 今も部屋に飾ってある犬のぬいぐるみ。

 座った状態のそれは手に小さな看板を持っていた。

 

 

 

『ココママ、登録者数5万人おめでとう。いつも助けてくれてありがとう。雪城ユキ』

 

 

 ユキがこっそりサプライズとして用意したココネへのプレゼントだった。

 いつもココネにお世話になっているお礼として。

 買い物と映画が終わり、ココネの家へ着いてから恥ずかしそうに渡してきた。

 

 それをもらった瞬間にココネは嬉しさのあまり涙が流れ、それがまたユキを慌てさせてしまった。

 

 

 それはもうココネの一生の宝物だった。

 

 

 ただ、それを誰かに自慢したかった。だからこそ、リスナーのみんなに見せていた。

 

 

 

【コメント】

:これをユキくんが?

:ユキくん優しい

羊沢ユイ :うみゅ、羨ましいの!!

:ココママ、本当に嬉しそう

 

 

 

ココネ:『普段、いっぱいいっぱいなのに……。しかも、自分の記念日は一向に認めないくせに、こういうところだけはしっかりしてくれるんですよ。このわんちゃんは……』

 

 

 

 ココネが慈しみの視線を送り、その頭を優しく撫でていると、ユキの瞼がゆっくりと動いていた。



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第19話:ココユキ、オフコラボ配信

 なんだか周りがまぶしい……。

 あれっ、そういえば僕、いつの間に寝てたんだろう?

 

 意識がはっきりと覚醒しないまま、僕はゆっくりと瞼を開けていた。

 すると何か頭に柔らかい感触があった。

 

 そして、目の前にはこよりの顔がある。

 

 

 

ココネ:『ユキくん、おはようございます』

 

『……おあよー、ココママ』

 

 

 

 まだ意識がはっきりとしないので、ろくに呂律が回っていない。

 

 どうして目の前にこよりがいるのか……。

 きっとまだ夢なのだろう……。

 

 そう思い、再び微睡みの中へ意識を落とそうとしたときに、モニターに映る配信画面が目に留まる。

 

 

 

『うにゅ? あ、あれっ?』

 

 

 

 目を擦り改めて、画面を見る。

 

 勢いよく流れるコメント。

 

 一瞬ぼんやりとしていた意識が瞬時に覚醒する。

 

 

 

【コメント】

:おあよー

:ユキくん、おあよー

:おあよー

:おあよー

羊沢ユイ :うにゅー、おあなのー

:おあよー

:寝ぼけ声助かる

:おあよー

 

 

 

『ふぇっ!? えとえと……、そ、その……、これはどういうこと??』

 

ココネ:『ほらっ、ユキくん。配信するって言ってたじゃないですか。時間が来たので配信をしてたんですよ』

 

『ちょ、ちょっと待って。そ、それって今始まったところ?』

 

ココネ:『そろそろ三十分が過ぎるところですね。今日のオフ会の話をして、今はユキくんのサプライズプレゼントの話をしてたところなんですよ』

 

『ふぇっ??』

 

 

 

 僕はもう一度配信画面に視線を向ける。

 いつものココネのアバターとユキくん(ぼく)の段ボール。それと犬のぬいぐるみ。その手に持っている看板には――。

 

 

 

『ぴぃぁぁぁぁぁぁぁぁ……。な、なんでそれをみんなに見せてるの!?』

 

ココネ:『もちろんみんなに自慢したかったんですよ。ユキくんが私のためにプレゼントしてくれたものですから』

 

『で、でも、その……。ぼ、僕は恥ずかしいよ……』

 

 

 

 思わず顔を俯けてしまう。

 頬は熱を帯びたかのように赤くなり、配信画面を直視できない。

 

 

 

『と、とりあえず、もうそれはいいよね? みんな、見たよね? ほらっ、早くしまって……。みんな忘れてね……』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、必死w

:良い贈り物だと思うよ

:ユキくん可愛いw

:悲鳴助かる

羊沢ユイ :うみゅ、ユキくん。ゆいのは?

 

 

 

『ゆ、ユイの時も何か考えるよ。た、ただココママには一番お世話になったからね。まず最初に渡したかったんだ……。だって、今こうやって僕がみんなの前で配信をできているのはココママのおかげだから――』

 

 

 

 思い返せば僕が初配信の時に手を差し伸べてくれたのはココネだった。

 それにコラボをすることになったときも真っ先にしてくれて、僕が安心してコラボをできる道を作ってくれた。

 

 

 

ココネ:『ゆ、ユキくん……』

 

 

 

 ココネは嬉しそうに目に涙を溜めていた。

 

 

 

『それでせっかくだから形に残るものが良いなって思って、それで僕だったら犬のぬいぐるみが良いかなって。喜んでもらえたのならよかったよ……』

 

ココネ:『あ、ありがとう、ユキくん。ユキくんがそこまで私の事を考えてくれていたなんて……』

 

『わわっ、だ、抱きつかないで、ココママ。……と、とりあえず、こ、この話はおしまい! そ、それよりも今日は記念配信でしょ。し、しっかりしないと――』

 

 

 

【コメント】

:ココユキはいいな

:なんだろう、俺も泣けてきた

:やっぱりココユキだな

:先に逝く

:俺ももうダメだ……

:お前たち、まだ逝くな。俺が先だ

:お前もかw

 

 

 

ココネ:『ぐすっ……、そ、そうですね。今日は寝るまで記念配信ですもんね。ユキくんも起きたことですし、改めてユキくんの自己紹介をしてもらいますね』

 

『わ、わふー、み、みなさん、今日は僕が寝てしまっていて申し訳ありません。シロルーム三期生、雪城ユキです。今日はココママに拾われてやってきました。よ、よろしくお願いします』

 

 

 

 ココママが改めて僕のアバターを表示させる。

 もちろんしっかりと段ボールの中に入れてくれる。

 

 

 

ココネ:『まずは段ボールユキくんからですね。今日は私の記念配信なので、ユキくんの可愛いところを思いっきり話したいと思います』

 

『えっと、それは違うんじゃないかな? ココママの記念だから、ココママのすごいところを話さないと!』

 

ココネ:『むぅ……、意見が分かれましたね。こうなったらココフレのみんなに聞いてみましょうか』

 

『うん、そうだね。ココフレのみんなはココママのすごいところを聞きたいよね? 僕に料理を教えてくれた話とか――』

 

ココネ:『あっ、それもう話しちゃいました』

 

『えっ!?』

 

ココネ:『それよりもユキくんのすごいところとか、可愛いところとかを聞いてみたいですよね?』

 

『ちょ、ちょっと……、もう話してるって聞いてないよ? えっえっ……、い、一体どこまで話したの!?』

 

 

 

【コメント】

:これはユキくんの話を聞きたいな

:どっちも聞きたい

羊沢ユイ :どっちもなのー

:どっちも聞きたい

 

 

 

ココネ:『あははっ、やっぱりどっちもになりますか。時間もありますし、ゆっくり話していきましょうね』

 

『うん、ココフレの人がそう言ったから仕方ないけど、そろそろ僕を離してくれないかな?』

 

ココネ:『嫌ですよ? 今日は一日ギュッとユキくんを抱きしめながら配信するって決めてましたから』

 

『うぅ……、やっぱり僕の体が持たないよ……』

 

ココネ:『私の記念配信なのですから、このくらいのわがまま、いいですよね? それに配信中は抱きしめて良いって言ってましたよね?』

 

『うっ……』

 

 

 

 た、確かに今日はココママの記念だ。僕が恥ずかしいだけで我慢すればココママにも喜んでもらえる。

 

 

 

『わ、わかったよ……。今日だけ……だからね』

 

ココネ:『わーい、ありがとうございます』

 

『むぎゅ……』

 

 

 

 ココネが力一杯抱きしめてくるので、思わず声が漏れてしまう。

 

 

 

【コメント】

:画面の向こうで一体何が!?

:これだ、これを待っていた!

羊沢ゆい :うみゅ!? ゆいも混じるの!

 

 

 

『と、とりあえずこのままだと話が進まないよ……。えっと、どんな話をしたらいいのかな?』

 

ココネ:『そうですね。お互いの好きな部分を言っていくっていうのはどうでしょうか?』

 

『……えっと、それってすごく恥ずかしくない?』

 

ココネ:『ユキくんに私の好きなところを言ってもらえるのなら本望ですよ』

 

『うっ……、が、頑張るよ』

 

 

 

 既に顔が赤く染まってる感じがする。

 それでもここは頑張るしかない、と必死に耐える。

 

 

 

ココネ:『そうですね。でも、ただ言い合うのも芸がないですね。ここは勝負をしませんか?』

 

『勝負?』

 

ココネ:『えぇ、お互いが見つめ合ったまま好きなところを言うんですよ。それで先に顔を背けた方が負け。負けた人は罰ゲームとかどうですか?』

 

『わ、わかったよ……』

 

 

 

 顔を背けなかったら良いだけなら簡単だよね?

 そんな軽い気持ちで受けてしまった。

 

 

 

【コメント】

:これはやばいw

:ユキくんの負けw

羊沢ユイ :うみゅ、ゆいも参加したい

:ユキくんwww

:そもそもじっと見てられるのか?w

猫ノ瀬タマキ :罰ゲームは何がいいかにゃ

美空アカネ :おっ、コウと一緒にしたやつ

海星コウ :ボクが圧勝したやつね

美空アカネ :つ、次は負けないから!

 

 

 

『そ、それじゃあ、ココママ、離してくれる?』

 

ココネ:『どうしてですか?』

 

『だ、だって、見つめ合うにはその――』

 

ココネ:『このままでもできますよね?』

 

 

 

 ココネと見つめ合う。

 その瞬間に僕は安易に勝負を受けてしまったことを後悔した。

 

 すぐ目と鼻の先にココネの顔がある。そう考えると自然と顔が熱くなり、今すぐにでも顔を背けたくなった。

 でも、背けてしまったら負けてしまう。

 

 なんとか我慢して、ジッとココネを見る。

 

 

 

『や、やっぱり近すぎない?』

 

ココネ:『すぐ近くでユキくんの顔を見られて嬉しいです』

 

 

 

 ココネはまだまだ余裕があるようで、にっこり微笑んでみせる。

 

 

 

ココネ:『それでは先にどちらから言いますか?』

 

『僕からで良いかな?』

 

 

 

 こういうのは先に相手を負かせてしまうのが必勝法だ。

 あまり長く続けられるほど、僕にも余裕はない。

 

 

――こうなると先手必勝だ!

 

 

 

ココネ:『もちろん構いませんよ。それじゃあ、ユキくん、私の好きなところを言ってください』

 

 

 

 じっと期待した視線を送ってくるココネ。

 そう見つめられると言う側でも恥ずかしくなってくる。

 

 

 

『ココママはいつも困ってる僕を助けてくれるとっても優しい人なんだよ。初めての配信で何もできなかった僕に優しく手を差し伸べてくれたし、何もできない僕に対して必ず最初に助けてくれるのが、ココママだったんだ……。だから、ココママは僕にとって特別で、その……』

 

 

 

 流石に話していると恥ずかしくなってくる。

 ただ、いつもの感謝を示す良い機会かもしれない。

 

 僕は笑みを浮かべながら言う。

 

 

 

『そんなココママが好きだよ。……いつも感謝してるよ』

 

 

 

 多分顔がゆでだこのように赤くなっているだろう。それでも素直な気持ちを伝えられたことが何よりも嬉しかった。

 

 ただ、配信されていることは完全に頭の中から抜け落ちていた。

 

 

 

【コメント】

:うっ……、俺は先に逝く

:ユキくん……

:可愛すぎる……

:切り抜きはまだか!?

:ボイスで売って欲しい

:ユキくん、お持ち帰りできないかな

:破壊力抜群すぎ

 

 

 

ココネ:『ゆ、ユキくん……、私のことをそんな風に思ってくれてたんですね……。ありがとうございます』

 

 

 

 僕の渾身の言葉を聞いていたココネは顔を背けるどころか、むしろ真剣に僕の目を見て、嬉しそうにお礼を言ってくる。

 

 その表情を見て、僕は恥ずかしさのあまり慌てふためいていた。

 

 

 

『あわわわっ……、そ、その……、その……。うぅ……、恥ずかしいよぉ……』

 

ココネ:『まだ、これから私の番ですよ』

 

『て、手加減してね……』

 

ココネ:『そうですね。ユキくんが出会った頃の話で来たわけですし、私もそうしますね』

 

 

 

 ココネがジッと僕に視線を合わせてくるので、既に恥ずかしくなりながらもその視線を外さないようにする。

 

 

 

ココネ:『ユキくんは困ったことがあるとすぐに逃げようとするんです』

 

『ふぇ!?』

 

 

 

 まさかいきなり貶されるとは思わずに呆けてしまう。

 ただ、ココネの話はそこでは終わらない。

 

 

 

ココネ:『しかも、恥ずかしがり屋で人見知り。他人を前にするとオドオドとして、ろくに話せなくなるんですよ』

 

『あ、あの……、そ、その、これって好きなところを言うんじゃ……?』

 

 

 

 なんだろう……、穴があったら入りたくなってきた。段ボールには入ってるけど。

 

 

 

【コメント】

:ココママw

:辛辣w

:ユキくんのライフはもうゼロよー

:なんだ、俺のことか

:俺もユキくんだったか

:お前らw

 

 

 

ココネ:『でも、そんなユキくんですけど、一度決めた約束は絶対守ってくれるんですよ。約束の中身を変えようとはしますけど、決めたことだけは絶対に守ってくれるんです。それに、常に私たちのことを考えてくれてるんですよ。カグラさんが困ってた時は真っ先にオフコラボをしてましたよね?』

 

『えっと……、あ、あれは、たまたまカグラさんがしたそうだったから……』

 

 

 

【コメント】

:そういえば三期生の配信ではだいたい見かけるな

:見れなかったのは全部アーカイブで見てるらしいし

:確かに一番同期愛がすごいのか

神宮寺カグラ :あ、あれはユキがどうしてもっていうから仕方なくやったのよ

:ユキくんのことならよく見てるココママ

 

 

 

ココネ:『ユイちゃんの時もそうですよ。あれだけ嫌がってたホラーゲームとオフ会。その二つが重なってるのに、断らずに頑張ってましたよね。しかも、最後までずっと……』

 

『あ、あれはユイが僕のことを思ってしてくれたコラボだから……』

 

ココネ:『嫌なら最初から断ることもできたんですよ。ユイちゃんも別にユキくんが嫌がることをしようとしてたわけじゃないですから』

 

『そ、そんなこと、考えもしなかった……。だってそんなことをしたらユイが悲しむよね?』

 

ココネ:『そういうところがユキくんの良いところなんですよ。今日だって、まともに眠れてないのに私に付き合ってくれましたし、私たちが悲しむことはしない。ユキくんはすごく優しいんですよ』

 

『そんなことないと思うけど……』

 

 

 

【コメント】

:確かにあの時のユキくん、頑張ってたよな

:ユイちゃん、容赦ないから

羊沢ユイ :うにゅ!? ユキくん、また寝てないの!?

:ユイちゃん驚きすぎw

:爆弾級のてぇてぇが襲ってきそうだ

 

 

 

ココネ:『だから……ですよ。自分のことよりも他人のことを優先して、必死に頑張ってくれるユキくんのことが……、私は好きですよ』

 

『っ!?!?』

 

 

 

 耳元で囁くように言われる。

 それを聞いた瞬間に僕は驚いて顔を真っ赤にする。

 

 

 

『あのあの、ぼ、僕……、その……、ふきゅぅ……』

 

 

 

 思わず目を回して視線を背けて逃げようとしてしまう。

 すると、ココネはにっこりと微笑んでくる。

 

 

 

ココネ:『やったー、勝ちましたー!』

 

 

 

【コメント】

:あの迫力はやばかったw

:ユキくん、どんまい

:ココママ、おめー!

:ココママが本気出す

 

 

 

『わふぅ……。ココママ、ずるいよ……』

 

ココネ:『えへへっ、落としてから上げる。基本ですよ?』

 

 

 

 ココネはにっこりと微笑んで一度僕から離れてくれる。

 

 

 

ココネ:『それじゃあ罰ゲームですね』

 

 

 

 一度離れたかと思うと、すぐに戻ってくるココネ。

 その手には……、いつの間にか今日買ってきたたくさんの服が握られていた。

 

 

 

ココネ:『ユキくん、それじゃあ、この服に着替えましょうね。ユキくんのファッションショーです』

 

『わ、わふぅぅぅぅ……、だ、誰か助け――』

 

ココネ:『ユキくん、約束の罰ゲームですよ。買ってきた服、全部着て下さい』

 

『うぅぅ……、さ、さすがにはずかしいよ……』

 

ココネ:『大丈夫です。絶対に似合いますから……』

 

 

 

 ピコッ! ピコッ!

 

 

 

 ココネに追い詰められた瞬間にスマホの通知音が鳴る。

 

 

 

ユイ :[うみゅ、写真よろなの]

 

カグラ:[私にもその写真をくれないかしら?]

 

 

 

 三期生のチャット欄に表示された無情なその言葉。

 どうやらここに僕を助けてくれる人はいないようだった。

 

 

 

ココネ:[仕方ないですね。公開はしたらダメですよ]

 

ユイ :[うみゅ、もちろんなの。夜のお供にするの]

 

ユキ :[ちょ、ちょっと!? な、何に使うつもりなの!?]

 

ユイ :[それはもちろん内緒なの]

 

ユキ :[怖い、怖いよ!? か、カグラさんはそんな変なことに使わないよね?]

 

カグラ:[も、もちろんよ。拡大コピーをして部屋に飾るくらいよ。おかしい使い方はしないわ]

 

ユキ :[そ、それも十分おかしな使い方だからね!?]

 

ココネ:[本当に二人ともおかしい使い方をしますよね。大丈夫ですよ、ユキくん。私は普通の使い方しかしませんから安心してください]

 

ユキ :[いやいや、それもおかしいよ!? そもそも使うって何!? しゃ、写真を撮るだけ……だよね?]

 

ココネ:[…………もちろんですよ?]

 

ユキ :[ちょ、ちょっと待って!? 何、今の間!? 絶対別のことも考えてたよね!?]

 

ココネ:[安心してください。何も痛くないですから]

 

ユキ :[あ、安心できないよ? や、やめて……]

 

 

 

 なんとか逃げようとするものの既に身動きはココネによって押さえられている。

 

 それに罰ゲームを受けると言ったのも僕だ。

 一度頷いた以上、素直に受けるしかない。

 

 だから僕は覚悟を決めることにした。

 

 

 

『そ、その……、じ、自分で着替えられるから――』

 

ココネ:『えーっ、ユキくんを着替えさせてあげるのも楽しみの一つだったんですけどね。うーん、仕方ないですね。その代わりちゃんと全ての服に着替えてくださいね』

 

 

 

【コメント】

:俺たちも見たいぞ

:せ、せめて服だけでも

羊沢ユイ :ぶいっ

:ま、まさか、ユイちゃん、手に入れたのか?

:ぐぬぬっ、なんとか見る方法はないのか?

 

 

 

『み、見る方法なんてないよ!? そ、その、みんなに見せるなんて、僕がもたないからね!?』

 

ココネ:『うん、私のコメントで妄想を捗らせてね』

 

『そ、それも禁止だよ!? こ、ココフレと犬好きのみんな、妄想もしたらダメだからね。僕との約束だよ!?』

 

 

 

【コメント】

:はーい

:はーい

:はーい

:ユキくんがどんな服を着るのか楽しみ

美空アカネ :妄想が捗る! うぉぉぉぉぉ!

海星コウ :アカネ、うるさい!

:草

:wwwww

 

 

 

 それから仕方なしに隣の部屋で違う服に着替えて、ココネの前に姿を現した。

 

 それは袖なしワンピースだったり、普通のパーカーと短めのスカートだったり、何故かかなり大きなシャツ一枚だったり、女性用制服だったり……。

 

 そして、最後には着ぐるみパジャマを着ていた。

 

 

 

『こ、これでいいかな?』

 

ココネ:『はいっ、たっぷり堪能させていただきました。この写真はユキくんフォルダに大切にしまっておきますね』

 

『……すぐに消して』

 

ココネ:『ダメですよ!? 私の一生の宝物なんですから!』

 

『そ、そんなものを宝物にしなくても……』

 

 

 

【コメント】

:写真を撮られるたびにユキくんが悲鳴あげてて草

:悲鳴助かる

:ココママ草

 

 

 

『そ、それじゃあ、これで罰ゲームも終わりだね。そ、そろそろ寝る時間かな?』

 

ココネ:『まだダメですよ。ユキくん、むぎゅー……』

 

『ココママはいつまで抱きついてるの、もう……。ふわぁぁぁ……』

 

 

 

 後ろからずっとココネが抱きしめてきている。

 ただ、流石に今日一日ずっと抱き締められていたら僕も慣れてくる。

 

 ずっと顔は真っ赤だし、最初はジタバタしてたので、騒ぎ疲れてしまった……とも言える。

 しかも寝不足もあって、さっき少し寝たにも関わらず、再び眠気が襲ってくる。

 

 

 

ココネ:『もちろん寝るまでですよ。違いますね。寝る時もずっと一緒ですよー』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、おつかれ?

羊沢ユイ :うにゅ、ユキくんはそろそろ寝る時間なの

美空アカネ :あとから完成したイラスト送るからね

:暴走特急が暴走してて草

美空アカネ :もちろん今日ユキくんが着た服装のイラストだよ

:わくわく

:楽しみ

:暴走特急が仕事してくれた

 

 

 

『ぼ、僕はもうそろそろ眠くなってきたんだけど……』

 

ココネ:『はいっ』

 

『えっと……、まだ抱きついたまま……?」

 

ココネ:『はいっ』

 

『や、約束だから仕方ないよね……。で、でも、僕はもう……うにゅ……』

 

 

 

 次第に瞼が重くなっていく。

 

 コクリ……、コクリ……、と頭が上下に揺れてしまう。

 

 

 

 

ココネ:『ユキくん、起きてますか?』

 

『……うん』

 

 

 

 遠くの方でココネの声が聞こえる。

 だからこそ、その内容はわからないまでもとりあえず頷いておく。

 

 

 

 

ココネ:『ユキくんは私のこと、好きですか?』

 

『……うん』

 

ココネ:『三期生の中で私が一番好きですか?』

 

『……うん』

 

 

 

【コメント】

:ココママの誘導尋問草

:ユキくん、何を言わされてるのか

:誘導草

:寝言助かる

:ユキくん、やっぱり子供だね

羊沢ユイ :うみゅ、ユキくんの一番はゆいなの!!

 

 

 

ココネ:『それじゃあユキくん、また私とオフコラボしてくれますか?』

 

『…………』

 

ココネ:『ちょ、ちょっと、なんでここで黙っちゃうのですか!?』

 

『すぅ……、すぅ……』

 

ココネ:『あっ……、寝ちゃったのですね……』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、お疲れ様

:wwwww

:ココママの作戦失敗www

:草

:草

:wwwww

 

 

 

ココネ:『ちょっとはしゃぎすぎちゃいましたね。ユキくん、反応が大げさで楽しいですから……』

 

『すぅ……』

 

 

 

【コメント】

:わかるw

羊沢ユイ :うみゅ、わかるの

:わかるw

:ユキくん可愛いw

 

 

 

ココネ:『さすがに長く続けてもユキくんを起こしちゃうから、今日はこの辺りで終わりにしますね。乙ココでしたー』

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯心の拠り所 ♯ココユキ》登録者数5万人記念。寝るまで雑談 《真心ココネ/雪城ユキ/シロルーム三期生》』

3.6万人が視聴 0分前に公開済み

⤴1.2万 ⤵23 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:kokone_Room.真心ココネ

チャンネル登録者数:5.3万人

 

 

 

◇◇◇

【コメント】

:乙ココ

:乙ココ

:乙ココユキ

羊沢ユイ :うみゅ、二人ともおつかれなの

:おつー

美空アカネ :できたぞー。ユキくんに送りつけたー。おつかれー

海星コウ :おつかれさまー

神宮寺カグラ :おつかれ

:おつかれさまー

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 翌朝、目が覚めると僕はベッドの上に寝かされていた。

 そして、当然ながら隣にこよりの姿が……なくて、こよりは床に布団を敷いて寝ていた。

 

 

――言ってることとやってることが全然違うよ……。

 

 

 配信中は散々抱きついてきた癖に、僕が寝てしまうと一切手を出してこない。

 やはりあれは配信用の姿だったのだろう。

 

 こよりを起こさないように僕はスマホを確認すると、アカネ先輩からチャットが届いていた。

 

 

 

アカネ:[イラストができたから送るね]

 

 

 

 簡潔な一言と共に、数枚のイラストが添付されていた。

 それは昨日僕が着せられた服をユキくんに着させた、服違いのイラストだった。

 

 そして、最後にはユキくんとココネが二人寄り添い合って、楽しそうに笑うイラストが添えられていた。

 

 そのイラストはあまりにも尊すぎて、一人で見ているのがもったいなく思えてくる。

 

 

 

ユキ :[ありがとうございます、アカネ先輩。大切に使わせていただきます]

 

アカネ:[いいよいいよ。それよりも来週のコラボ、楽しみにしてるからね]

 

ユキ :[は、はい。緊張しますけど、頑張ります]

 

アカネ:[大丈夫、全てこのアカネお姉さんに任せておきなさい。弄んであげるから]

 

ユキ :[そ、その……、お手柔らかに……]

 

 

 

 アカネにお礼を伝えた後、僕は再びイラストを眺めていた。

 

 まさにてぇてぇとしか言いようがない、とても良いイラスト。

 これを僕一人で見ているのはなんだか違うような気がした。

 

 だから、僕はこよりが起きるのをしばらく待っていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 こよりが目覚めた後、僕はすぐさま彼女にアカネからもらったイラストを見せていた。

 

 すると、こよりも思わず笑みをこぼしていた。

 

 

 

「とっても良いイラストだね」

 

「うん、本当にアカネ先輩には頭が上がらないよ……」

 

「あっ、でも、配信中はまた別だからね。私たちの時みたいになんでも頷いていたらダメだよ!」

 

「それは大丈夫……かな?」

 

「うぅぅ……、心配だなぁ。私もコラボに入れたら良かったんだけど……」

 

「何か用があるの?」

 

「うん、他期生コラボ解禁日だからね。私もユイちゃんもカグラさんも全員コラボがはいってるんだ……」

 

「あっ、そっか……。あれっ? でも、僕以外は男性とはコラボしないよね?」

 

「うん、私は氷水ツララ先輩、カグラさんは姫野オンプ先輩。それでユイちゃんが猫ノ瀬タマキ先輩だったかな。基本的には雑談枠で、先輩からの質問を答える枠になると思うよ」

 

「そっか……、一期生は僕だけなんだ……」

 

「油断したらダメだよ! アカネ先輩を舐めたらダメだからね。答えたらダメな質問は答えないこと!」

 

「うーん……、わかったよ。なるべく気をつけるね」

 

「あと、このイラスト、私ももらって良いかな? 私の待機画面にも使いたいよ」

 

「うん、もちろんだよ」

 

 

 

 こよりにもイラストを送った後、僕は今日の配信のために早めに家へと帰ることにした。

 

 

 

「小幡くん、今日は頑張ってね。収益化の記念配信、きっと大変なことになるから」

 

「えっと、うん。が、頑張ってくるよ……」



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第20話:緊張の収益化記念配信

 雪城ユキ@シロルーム三期生 @yuki_yukishiro 4時間前

本日、20時から収益化が通ったことの記念配信を行います。そ、その……、今日も拾いに来ていただけると嬉しいです ♯犬拾いました

 

 @2,684  ↺5.3万  ♡11.0万

 

 

 

 カタッターで早速呟いておく。

 そして、しばらく放置しているととんでもない数の反応があり、思わず足が震えてきてしまう。

 

 

 

「だ、大丈夫、大丈夫……」

 

 

 

 呪文のように何度も自分に言い聞かせる。

 ただ、それでも早くなった心臓の鼓動は止まらない。

 

 収益化……。つまり、これから僕の配信で広告収入や投げ銭(スパチャ)をしてくれる人たちが出てくるわけだ。

 

 果たしてそれに見合うだけの配信ができているのか……?

 そう考えると不安以外になにも浮かばなかった。

 

 今までの配信はまだ気が楽だった。

 でも、企業に所属するVtuberとしてはやはり、収益のことを考えないといけない。

 

 その凄まじい重圧に一人で立ち向かうことを考えると恐怖で体が震えて、目の前が真っ暗になってくる。

 

 そんな状態で僕は配信の準備をしていた。

 

 

 

◇◇◇

『《♯犬拾いました》収益化記念配信。マシュマロとか読んでみるよ《雪城ユキ/シロルーム三期生》』

3.0万人が待機中 20XX/05/18 20:00に公開予定

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【コメント】

:ユキくん、おめでとー

:おめでとー

:あれっ、まだ投げられないのか?

:おめでとー

真心ココネ :おめでとー

羊沢ユイ :うみゅー、おめなのー

神宮寺カグラ :おめでとう、ユキ

:おめでとー

:おめでとーーーーー

美空アカネ :おめでとー

姫野オンプ :おめでとー

猫ノ瀬タマキ :おめにゃー!

氷水ツララ :おめでとうございます

海星コウ :おめでとう!

貴虎タイガ :おめっす!

真緒ユキヤ :よくやった

野草ユージ :おめでとちゃーん

 

 

 

――多くない? 待機してる人もコメントの数も。

 

 

 しかもシロルームメンバー全員が見に来ている。

 確かに十万人記念配信の時も全員が来ていた。

 

 あのときはすぐ隣にカグラがいてくれたけど、今は一人。

 その孤独感が僕に不安をかきたてる。

 

 でも、収益化の記念配信なのだから一人で頑張らないといけない。

 

 今までココネやユイ、カグラに力になってきてもらった。

 今度は僕が成長している姿を見せる番だ。

 

 既に配信五分前。

 

 緊張感から汗がにじり出ている。

 それはまるで初配信の時の様だった。

 

 

 一応配信画面に今朝、アカネ先輩からもらった色んな服を着たユキくん(ぼく)のイラストを表示させておく。

 

 

 

【コメント】

:ユキくんの新衣装だ

:いや、これは昨日ユキくんが着てた服じゃないか?

:あっ、本当だ

:ユキくん可愛い

 

 

 

 服装は概ね好評だった。

 

 ただ、その反応で僕の緊張が晴れるわけでもない。

 

 そんな状態のまま、配信が始まってしまった。

 

 

 

『わ、わふー。そ、その、あの……し、シロルーム三期生の雪城ユキです。きょ、今日もぼ、僕を拾いに来てくださってありがとうございます……』

 

 

 

 緊張をしたまま、声を出す。

 ガチガチに震えた声で――。

 

 すると、早速ミスをしてしまう。

 

 

 

【コメント】

:あれっ、アバター出てないよ?

:アバターまだー?

:また3D?

真心ココネ :ユキくん、大丈夫?

 

 

 

『だ、大丈夫……、えとえと……これをこうで……と』

 

 

 

 まさかこんな初歩的なミスをしてしまうなんて思わなかった。

 少し泣きそうになりながら慌ててアバターを表示させる。

 

 しかし、それだけではなく、誤って以前ユイとしていたホラーゲームも流れてしまう。

 

 

 

『ぴあっ!? な、何!? 何が起きたの!?』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、落ち着いて

:大丈夫だよ

羊沢ユイ :うみゅ、ゲーム配信?

 

 

 

『うぅぅぅ……、い、今消したよ……。こ、これで大丈夫……かな?』

 

 

 

 ゲームの音も切った。アバターも表示できた。

 これで問題はないだろう。

 

 

 

『えとえと、改めてこんばんはー』

 

 

 

 声を出すものの反応が返ってこない。

 

 

 

【コメント】

:あれっ? ユキくん、喋ってる?

:何も聞こえないよ?

神宮寺カグラ :ユキ、ミュートになってない?

 

 

 

『えっ、ミュート!?』

 

 

 

 僕は慌てて確認をする。

 すると、本当にミュートになったままだった。

 慌てて、ミュートを解除する。

 

 

 

『ご、ごめんなさい。そ、その……、ぼ、僕、気づかずにずっと一人で喋ってた……』

 

 

 

 既に涙声になっている。

 

 せっかくの記念配信。

 収益化を発表するこの場でミスの連発。

 

 頭の中は混乱して、目から涙が流れていた。

 

 

 

『ど、どうしよう……、そ、その、僕……、僕……』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、落ち着いて

真心ココネ :大丈夫?

羊沢ユイ :うみゅ?

神宮寺カグラ :ユキ、いける?

 

 

 

 同期たちの声が優しい。それが余計に悲しくなってくる。

 

 目からは涙が溢れ、すでに止まらなくなっている。

 

 

 

『うぅぅ……、ぼ、僕……、初配信で失敗したから、今回のこの収益化配信では成長した姿を見てもらおうと思ったんだけど……、ま、また失敗してしまって、その――』

 

 

 

【コメント】

:大丈夫だよ

:ユキくん、泣かないで

:落ち着いて

海星コウ :大丈夫。問題ないからね

 

 

 

 コメント欄で優しい言葉を掛けられるのが、余計に悲しくなってくる。

 

 すると、そのタイミングでキャスコードの通知が来る。

 もちろん、動揺していた僕が音を消しているはずもなく――。

 

 

 ピコッ! ピコッ! ピコッ! ピコッ!

 

 

 

『ぴぃぁぁぁぁぁ……。あっ、つ、通知音か……』

 

 

 

【コメント】

:いつものやつ

猫ノ瀬タマキ :落ち着くにゃ

美空アカネ :誰からー?

 

 

 

 早速キャスコードを開くと同期のメンバーと担当さんからチャットが来ていた。

 

 

 

ココネ:[ユキくん、一人で抱え込まないで。私たちは同期で仲間なんだよ。私で良かったらいつでもコラボはいるよ]

 

カグラ:[私もユキに助けてもらったからね。いつでも助けるわよ]

 

ユイ :[うみゅー、コラボ入るー? 二人でてぇてぇさせるの]

 

マネ :[コラボしてもらっても構いませんよ。時間も伸びてしまっても大丈夫ですので]

 

 

 

 その画面を見た瞬間に僕の目から涙が流れる。

 

 僕がどれだけ彼女たちの力になれてるのかわからないけど、それでも助けてくれる。

 最終的には僕一人でなんとかしないといけないと思っていた。

 けど、そうではないようだ。

 

 

 だって、僕たちは仲間でお互い助け合う関係で、一人だとてぇてぇは生み出せないのだから……。

 

 

 ようやく自分が見えてきて、覚悟を決めることができた僕は涙を拭い、まっすぐ配信画面の先にいるリスナーたちを見据える。

 

 そして、落ち着いた声で言う。

 

 

 

『ありがとう……、ココママ、カグラさん、ユイ。……そうだよね、僕は一人でここまで来たわけじゃない。みんなで協力して、時に助け合って、時にふざけ合って、そうやってこの場所へ来たんだもんね。この放送に来てくれている犬好きさんたちも、いつも僕を支えてくれたんだもんね。僕、一人でなんとかしないといけないって勘違いしてたよ。みんな、僕の記念配信のために力を貸してもらってもいいかな?』

 

 

 

【コメント】

:泣いた

:ユキくん……悩んでたんだね

:俺たち犬好きはみんなユキくんの味方だぞ!

真心ココネ :もちろん

神宮寺カグラ :任せて

羊沢ユイ :うにゅ!

 

 

 

『と、言うことで今日の記念配信は突発的だけど、三期生全員のコラボだよ。じ、自己紹介もまだだけど、みんな集まったら一人ずつ紹介していくね。その……僕の大事な仲間を』

 

 

 

【コメント】

:ゲリラコラボ来たぁぁぁぁ

:同期四人コラボだ!!

:ユキくん、がんばれー!

姫野オンプ :頑張ってなのー

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 早速僕は三人にコラボの承諾を出すと、みんなのアバターを表示する。

 そして、チャットの方で確認をする。

 

 

 

ユキ :[いきなりで悪いけど、みんな準備はいいかな?]

 

ココネ:[もちろんですよ]

 

ユイ :[うみゅ!]

 

カグラ:[ユキの方こそ準備いいかしら?]

 

 

 

『うん、ありがとう。それじゃあ改めて、本日は僕の収益化記念配信に来ていただいて、ありがとうございます! シロルーム三期生の雪城ユキです。今日はココママ、ユイ、カグラさん、そして、たくさんの犬好きさんたちに拾われてここまでたどり着くことができました。今日も楽しんでいってもらえたら、と思います。よろしくお願いします』

 

 

 

 もう僕に迷いはなかった。

 しっかりと通った声で挨拶をすると、コメントにお祝いの言葉が流れる。

 

 

 

【コメント】

:おめでとー

:おめでとー

:全俺が泣いた。一生応援するぞ!

:おめでとー

氷水ツララ :おめでとうございます

:ユキくん、おめでとー

:おめでとー

 

 

 

『あ、ありがとう……。ぐすっ……、みんな優しいね。そ、それじゃあ、早速、僕の同期……、ううん、違うね。僕のかけがえのない仲間を紹介します。まずはココママからお願い』

 

ココネ:『えへへっ、改めて言われると照れちゃいますね。シロルーム三期生。ユキくんのママで、一番の友達で、大好きな仲間である真心ココネです。よろしくお願いします』

 

 

 

 ココネが頭を下げる。

 すると、それと同時に割って入る声があった。

 

 

カグラ:『待った!』

 

ユイ :『異議ありなの!!』

 

ココネ:『異議を却下します!』

 

 

 

 指を差しながらいうカグラとユイに対して、ココネは木槌を叩く仕草をしていた。

 

 

 

ユイ :『うにゅー、ユキくんの一番はゆいのものなの!』

 

カグラ:『いや、私のものだぞ?』

 

『ぼ、僕はみんな一番だから、け、喧嘩はしないで……』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん戦争勃発www

:やっぱりこの四人のコラボはいいな

:ユキくんが自然体になった

:ただし、進行は遅くなるw

 

 

 

『えとえと、そ、それじゃあ、気を取り直して、ポンコツ姫だけど、研究熱心。配信のことを一番真剣に考えてくれてるカグラさん、お願いね』

 

カグラ:『だ、誰がポンコツ姫よ!? 全く、仕方ないわね。シロルーム三期生、神宮寺カグラよ! ユキに請われて仕方なく来てあげたわよ! 感謝しなさい』

 

『うん、いつも助かってるよ。カグラさん、本当にありがとう』

 

カグラ:『っ!? べ、別に私がしたいからしてるだけよ。そ、そんなにストレートにお礼を言われると調子が狂うわね……』

 

 

 

【コメント】

:カグラ様w

:お礼を言われ慣れてないカグラ様w

:自己紹介だけで三十分過ぎるな

:てぇてぇだからこのままずっと続いてくれたらいい

 

 

 

ユイ :『最後に僕が三期生の中で最も信頼してる、一番大好きな同期を紹介します。ユイ、お願いね』

 

ユイ :『うみゅー、紹介に預かった羊沢ユイなの。よろしくなのー』

 

『……えっと、なんで、僕のモノマネをしてるの、ユイ』

 

ユイ :『うみゅ、バレちゃったの』

 

『さすがに目の前で、僕のモノマネをしてたらわかるよ』

 

ココネ:『そ、そっくりでした……』

 

カグラ:『わ、私はわかっていたぞ?』

 

 

 

【コメント】

:本当にそっくりだった……w

:ユイちゃんの新たな一面がw

:まぁ、普段は見せてくれないよな

:ようやく自己紹介が終わったw

 

 

 

『犬好きのみんな、本当に長々と待たせちゃってごめんね。僕一人だとまだまだダメダメだから……』

 

ココネ:『そんなことないですよ。ユキくんは頑張ってますよ』

 

ユイ :『うみゅ!』

 

カグラ:『一人でダメならみんなで頑張ればいいだけよ』

 

『うん、まだみんなを頼らせてもらうから……。ということで、この度はたくさんの方に支えられて、収益化の許可がおりました! これも僕を支えてくれた同期のみんな、担当さん、シロルームの先輩方、犬好きさんたちのおかげです。本当にありがとうございます』

 

 

 僕が頭を下げると、ココネが言ってくる。

 

 

 

ココネ:『ユキくん、ほらっ、みんなが待ってるから収益化の設定をしないと』

 

『あっ、そうだった。ちょっと行ってくるね……』

 

 

 

【コメント】

:いてらー

:スパチャ待機

:この時を待っていた

:ずっと投げたかったんだ

:爆撃するとユキくん、驚きそうだなw

:むしろそれが見たいw

 

 

 

 僕が収益化の設定をしている間にコメントが盛り上がっていた。

 

 

 

『ただいまー。無事設定できたよー』

 

ココネ:『ユキくん、おかえりなさい。それじゃあみんな、一斉に爆撃をどうぞ!』

 

 

 

 ココネが手を差し出す。

 すると、その瞬間にコメント欄が赤や黄色と言ったさまざまな色に染まる。

 

 

 

【コメント】

:ユキくんおめでとー

《美空アカネ :¥10,000 一番はもらった!!》

《:¥20,000 おめでとー》

《:¥10,000 以前の賭け金》

:ユキくんおかえりー

《:¥10,000俺の食費だけど》

《:¥50,000 ペリカがなかったから円で》

《:¥1,000 ごめん、これだけしかなかった》

《:¥5,000 おめでとー》

《:¥10,000 本日のてぇてぇ費》

《さすらいの犬好き:¥50,000 頑張ったで賞》

《:¥500》

《:¥200》

《:¥300》

:お前ら投げすぎw

《:¥1,000 ずっと待ってたからな》

《:¥2,000 おめでとー》

《:¥30,000 収益化おめでとー》

 

 

 

『わ、わふっ!? み、みんな投げ過ぎですよ!? そ、それにその……金額は一円とか二円で良いんですよ!?』

 

カグラ:『そんな額、投げられないわよ!?』

 

ユイ :『うみゅ、せっかくだからもらっておくと良いの』

 

ココネ:『そうですよ。みんな、ユキくんが好きで、応援したいからこうしてスパチャを投げてくれてるんですよ。だからユキくんはみんなにお礼を言うといいんですよ』

 

『わ、わかったよ。えとえと、みなさん、本当にありがとうございます。ダメダメな僕ですけど、もっともっと頑張って行きますね。た、ただ、無理はしないで下さいね……』

 

 

 

【コメント】

《:¥10,000 大丈夫だ、問題ない》

:お金で殴るスタイルwwwww

:ユキくん、相変わらずだったw

 

 

 

『と、とりあえず、スパチャありがとうございます。えっと……、名前を読んでいった方が良いのかな?』

 

カグラ:『最後にまとめて読むか、別枠で読むので良いと思うわよ。ただ、ユキの場合は別枠の方が良さそうね』

 

『わ、わかったよ。それじゃあ、別の枠でお礼を言うね。えとえと、次は何をするんだっけ?』

 

ユイ :『マシュマロなのー』

 

『あっ、そうだった。マシュマロ、マシュマロ……』

 

ココネ:『私が読みますね。ユキくんが答えてください』

 

『ありがとう、ココママ……』

 

 

 

【コメント】

:良い関係

:ココユキ……いい

:ココママ優しい……

 

 

 

ココネ:『ママじゃないですよー。それじゃあ、まず最初のマシュマロから読みますね』

 

 

[ユキくん、わふー。最近ココママとたくさんの服を買ったユキくんですが、一番気に入っている服はどれですか?]

 

 

ココネ:『これは昨日買ったユキくんの服への質問ですね。えっと、私は制服が似合ってたと思いますよ? せっかくですからカグラさんとユイちゃんにも昨日の中で一番好きな服を聞いてみましょうか?』

 

ユイ :『うみゅー、裸ワイシャツが良かったのー』

 

『ちょ、ちょっと!? は、裸じゃなかったよ!?』

 

 

 

【コメント】

:ユキくんの裸シャツ

《:¥2,000 シャツ代》

美空アカネ :ユイっち、わかってるー!

貴虎タイガ :装備なしで戦うのもいいな

:戦うの草

 

 

 

『ちょ、シャツ代ってもう買った後だから、これ以上買わないよ!?』

 

ココネ:『それなら新しい服を買いにいきましょうね。また今度――』

 

『も、もうしばらくは要らないよ。ココママにはたくさん買ってもらったから……。そ、それよりカグラさんはどうだったの?』

 

 

 

 これ以上裸シャツの話題が続くのが辛かったので、カグラに話題を振る。

 

 

 

カグラ:『……着ぐるみ』

 

『えっ!?』

 

 

 

 カグラが小声で言ってきたので、思わず聞き返してしまう。するとカグラはすぐに首を振っていた。

 

 

 

カグラ:『いえ、なんでもないわ。どれも似合ってたわよ!』

 

ユイ :『うみゅ、カグラは着ぐるみパジャマユキくんが好きすぎて、はぁはぁしてたからお持ち帰りしたいらしいの』

 

カグラ:『そ、そこまでは言ってないわよ!?』

 

 

 

【コメント】

:wwwwww

:着ぐるみユキくんも良かったな

:カグラ様、わかってるな

:犬らしさが一番出てたもんな

《:¥2,000 着ぐるみ費》

 

 

 

『だ、だから、その……持ってるからね!? 服の代金はいらないからね』

 

ココネ:『新しい着ぐるみも買って欲しいんですね。私に任せてください!』

 

『も、もう着せ替え人形は嫌だよ……』

 

ココネ:『ほらっ、犬好きさんが望んでるから仕方ないですよ』

 

『こ、ココママの笑顔が怖いよ……』

 

ココネ:『それより次はユキくんの番ですよ。どの服がお気に入りですか? あと今はどの服を着てますか?』

 

『あぅあぅ……。い、今着てるのはココママが初めに選んでくれたやつだよ。その……犬耳のパーカーのやつ……が一番、好きかな』

 

 

 

 実際にはこの収益化配信のことで頭がいっぱいだったので服を着替えるのを忘れてただけだった。

 

 昨日ココネと買いに行った犬耳パーカーと白のワンピースと黒のレギンス。

 意外と着てても落ち着く……。

 

 

――はっ!? べ、別に女装したいわけじゃないからね!?

 

 

 

ココネ:『ゆ、ユキくん……。うん、私も一番好きだよ!』

 

 

 

 ココネが抱きつく仕草をしてくる。

 もちろん今日はオフではないので、直接抱きつかれているわけではない。

 

 でも、やっぱり直接『好き』と言われることは何度言われても慣れない。

 

 思わず顔を俯けて照れてしまう。

 

 

 

『あうあう……、そ、その……それだと僕のことが好き……みたいに聞こえるよ……。服……、服だよね?』

 

ココネ:『もちろんユキくんのことですよ!』

 

ユイ :『うみゅ、ココママ、ずるいの! ゆいもユキくんのこと、好きなの』

 

『わ、わふっ、服、服のことだからね!? 僕、関係ないからね!?』

 

カグラ:『全く、全然話が進んでないじゃないの! ほらっ、次に行くわよ! ココネ、読んでちょうだい!』

 

ココネ:『わ、わかりました。では、次のマシュマロにいきますね! 時間的にも次が最後ですね』

 

『えと……、は、早くないかな?』

 

ココネ:『時間は大丈夫ですけど、ユキくんが限界ですよね? 無理したらダメですよ』

 

カグラ:『そうね。今も気力で保ってるだけでしょうからね』

 

ユイ :『うみゅ、今日は寝るの。ユキくんの頑張りはみんなわかってるの』

 

 

 

【コメント】

:数日まともに寝てないんだもんな

:昨日も寝落ちてたし

:ユキくん、おやすみ

《:¥10,000 早く寝なさい》

:スパチャでw

 

 

 

『みんな……、うん、ありがとう。それじゃあ次のマシュマロを最後にするね。ココママ、最後にふさわしいのをお願い』

 

ココネ:『うん、そうですね。……あっ、これなんかいいかもしれないです』

 

 

[ユキくん、こんばんは。ユキくんが今、一番大切なものはなんですか?]

 

 

ココネ:『どうですか? みんな、ユキくんに聞きたくないですか?』

 

ユイ :『うみゅ、聞きたいの』

 

カグラ:『まぁ、コラボ前に言っちゃってるようなものだけど、締めるにはちょうどいいわね』

 

『ふ、ふぇっ!? ど、どうしてそんなことに!?』

 

 

 

【コメント】

:もちろん聞きたい

:わくわく

:楽しみ

:ユキくんの大切なもの……

:なんだろう?

 

 

 

『えっと、みんなが聞きたいなら――。といっても最初言ったことと変わらないよ? 僕の一番大切にしたいもの……、失いたくないものは、三期生のみんなや犬好きさんたちとの絆だよ。そのおかげで僕はここまで来られたわけだから。だから、みんなありがとう、大好きだよ……。うぅぅ……、やっぱり直接言うのは恥ずかしいね……』

 

 

 

 思わず顔を伏せてしまう。

 

 

 

ココネ:『ユキくん……。私もユキくんのおかげでここまで来ることができたんですよ』

 

カグラ:『そうね。私もユキのおかげで色々と吹っ切れたからね』

 

ユイ :『うみゅ、ホラーゲーム配信、楽しかったの』

 

 

 

【コメント】

《:¥50,000 泣いた》

《:¥50,000 ユキくんのために》

:俺たちもユキくんのためになってたんだな

:これからも推していくからな

《:¥50,000 感動した》

:てぇてぇを期待してるぞ

 

 

 

『わわっ、だからスパチャは本当に無理したらダメだよ。みんながお金で苦しむことの方が僕は嫌だからね』

 

 

 

 上限いっぱいのスパチャが立て続けに来たことに慌てて、僕は犬好きの人に注意を促す。

 すると、どういうわけか更にスパチャが加速していた。

 

 

 

【コメント】

《:¥10,000 投げたら心配してもらえると聞いて》

《:¥5,000 ユキくんが笑ってくれるなら》

:ユキくん、優しいな

《:¥500》

《:¥1000》

《:¥10,000 今月の食費》

 

 

 

『ちょ、ちょっと。食費を投げたらダメ!? で、でも、本当にたくさん応援してくださってありがとうございます』

 

ココネ:『それじゃあ、そろそろ今日の放送は終わりにします。ユキくんは後から強制で休ませておきますね』

 

カグラ:『まぁ、元はといえばユキが自分で思い悩んだのが理由だからね。私からは説教をしておくわ』

 

『えっ、せ、説教!?』

 

ユイ :『うみゅー、ならゆいはユキくんと添い寝するの』

 

ココネ:『そ、それはダメですー!!』

 

ユイ :『うみゅ、それじゃあ本日の配信はここまでなの。お疲れ様なの』

 

カグラ:『お疲れ様でした』

 

ユコネ:『ユイちゃんはあとから注意しておきます。お疲れ様でした』

 

『また僕の配信を……、お、おつ――』

 

 

 

この放送は終了しました。

『《♯犬拾いました》収益化記念配信。マシュマロとか読んでみるよ《雪城ユキ/シロルーム三期生》』

5.0万人が視聴 0分前に配信済み

⤴2.1万 ⤵27 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ

チャンネル登録者数11.0万人

 

 

 

◇◇◇

【コメント】

:成長したと思ったけど、やっぱりユキくんだったw

:むしろ最初より話せなくて草

:でも、これがユキくんw

:お前たち、すっかりユキくん依存症だなw

:治療薬くださいw

:治療薬ってユキくんの悲鳴じゃね?

:喜んでくれてる姿もそうじゃないか?

:つまり、どうやってもユキくんから離れられないわけだw



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閑話:先輩たちと四期生募集
第0話:新しい後輩ができたよ ♯赤コウ


『《♯天体観測 ♯赤コウ》後輩ができたよ《美空アカネ/海星コウ/シロルーム》』

1.6万人が視聴中 ライブ配信中

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 シロルーム一期生の筆頭。暴走特急とも名高い美空アカネ。

 

 ピンクの長い髪に星の髪飾り。

 スタイルはよく、黄色の星柄のワンピースを着ている。

 

 そんな彼女は配信画面にて楽しそうな笑顔を浮かべていた。

 

 そして、その隣には魚の頭の形をしたパーカーと白のスカートを履いている水色の短めの髪をした少女――海星コウの姿もあった。

 

 

 

アカネ:『やっほー! みんなのアイドル、美空アカネだよ!』

 

 

 

 今日、シロルームの三期生が初配信をすると聞いて、いてもたってもいられなくなったアカネはコウに頼んで、後輩たちの配信前に枠をとっていた。

 

 今回の後輩は四人。

 最初は三人だと聞いていたのだが、急遽一人追加されて四人になっていた。

 

 何でも三期生の担当が自らスカウトしてきたとっておきの子らしい。

 

 

 妖精少女、真心ココネ。

 ポンコツ姫、神宮寺カグラ。

 ぐうたら羊、羊沢ユイ。

 そして、噂のスカウトを受けた臆病犬、雪城ユキ。

 

 

 中々個性的な面々が集まっている。

 これだけ見ているとみんな暴走しそうで、これから楽しいことになりそうだった。

 

 

 

【コメント】

:やっほー

:やっほー

:やっほー

:今日はどんな暴走を見せてくれるんだろう?

:わくわく

 

 

 

アカネ:『おやおやー、私の暴走が見たいのかい? いいよ、ライブ配信では言えないような、コウの恥ずかしい秘密をあれこれ暴露しちゃうぞー!』

 

コウ :『って、何言おうとしてるのよ!? この枠はライブ配信でしょ!?』

 

 

 

 コウは力の限り、アカネの頭を叩いていた。どこから出してきたのか、巨大なハリセンで。

 

 運動神経抜群のコウとインドア派のアカネ。

 

 そんなコウが思いっきり叩くと結果は分かりきっている。

 

 

 

アカネ:『痛ぁぁぁぁぁぁぁい。折れる折れる。首折れるよ!?』

 

コウ :『軽く叩いただけだよ。ぷちっと蚊を潰す感じに』

 

アカネ:『蚊か!? 私は蚊なのか!?』

 

コウ :『もう一回軽く叩いておく? 壊れたテレビってこう斜め三十五度に思いっきり叩くと直るって言うよね?』

 

アカネ:『わ、私はテレビじゃないよ? た、叩いても直らないよ?』

 

コウ :『手遅れなら破棄しないとね?』

 

アカネ:『優しく包むように捨ててね。ユキくんの段ボールの隣にうずくまるから』

 

 

 

【コメント】

:ユキくんって?

:段ボールといえば三期生に一人いたな

:段ボール単独ヘッダーの子か

:確か今日から配信開始じゃなかったか?

 

 

 

アカネ:『うん、何を隠そう。そのイラストを描いたのが私だよ! これ以上ないくらいの仕上がりになったと自負しているよ』

 

コウ :『とっても可愛らしい子だよね。ボクも早く会いたいな』

 

アカネ:『本当なら初配信の一番コメントを奪いに行きたいんだけどね。担当がダメだって。全く担当も人が悪いよね』

 

コウ :『ボクとしては担当さんの意見に同意するよ。だってアカネでしょ? 私は何も言われてないし……。それにどんなことをコメントするつもりだったの?』

 

アカネ:『もちろんガチガチに緊張してるだろうから、先輩としてその緊張をほぐす優しい質問をね――』

 

コウ :『うん、とりあえずその質問とアカネはゴミ箱に捨てておくね』

 

アカネ:『ま、待って! せめてその質問の中身くらいは聞いてよ! 私が昨日寝ずに考えたやつなんだから!』

 

コウ :『ボクとの電話中に寝てた人が何を言ってるのよ』

 

 

 

【コメント】

:草

:草

:wwwww

:草

:寝てるやんw

:草

 

 

 

アカネ:『……てへっ』

 

コウ :『えっと、不要品回収のちらしはなかったかな?』

 

アカネ:『ちょ、ちょっと!? 私、不要なものじゃないよ!? 三期生のえっちぃイラストとか、どう考えても必須だよね!?』

 

コウ :『……当面はアカネと三期生は接触させないように言われてたから、見つからない様に捨てておこうかなって』

 

アカネ:『み、みんな、えっちぃのは好きでしょ? だから緊張をほぐす質問は、まず下着の色を聞いて、スリーサイズを聞いて、風呂でどこから洗うかを聞くのは基本でしょ!?』

 

コウ :『それのどこが基本なのよ!? どう見てもセクハラでしょ!?』

 

アカネ:『えっ!? 何を言ってるの、コウ。確かに異性が聞くなら犯罪だけど、同性の私が聞くのは問題ないよ。ただのスキンシップだから』

 

コウ :『そんなわけないでしょ! 全くもう……』

 

アカネ:『それよりもコウ。自己紹介はもういらないかな?』

 

コウ :『あっ、もうアカネのせいで……。リスナーのみんな、こみー。ボクはシロルームの海星コウだよ』

 

アカネ:『はははっ、全くコウは……。配信の邪魔をしたらダメでしょ?』

 

コウ :『うん、わかった。とりあえず十回でいい?』

 

アカネ:『私に愛を囁く回数か?』

 

コウ :『えっ? 右ストレートの回数よ?』

 

アカネ:『死んじゃうから。私、死んじゃうから――』

 

コウ :『それじゃあ、アカネは後から殺っておくとして、今日はこのあと配信予定の後輩くんたちについて、話したいと思います』

 

アカネ:『まて、まだ私は納得していない――』

 

コウ :『アカネ、うるさいよ!』

 

アカネ:『はいっ……。うぅぅ……、私の放送枠なのに……』

 

 

 

 アカネは隅の方へアバターを移動させていじけてしまった。

 しかし、コウはそれを気にすることなく話を続ける。

 

 

 

コウ :『とは言っても、詳しい話は直接見に行ってほしいから、私が話すのは簡単な説明とコラボが解禁されたらどんなことをしたいか、とかかな?』

 

 

 

【コメント】

《:¥1,000 飼育費》

:相変わらずで草

:やっぱりアカネパイセンの暴走を抑えられるのはコウパイセンだけ

:コラボ解禁されてもアカネパイセンとコラボしてくれる人はいるのか?

:悪名高いもんな

 

 

 

コウ :『そこはほらっ、一応全員とコラボをすることになっているからそのうちね……』

 

アカネ:『はははっ、私はきっとコラボが殺到するよ。いやー、人気者は困るなぁ』

 

コウ :『はいはい、別の世界線の話はいいからね』

 

アカネ:『この世界線の話だよ!?』

 

 

 

【コメント】

:草

:草

:確かにお気に入り登録で言うならw

:ただそれもつらたんに抜かれてたよな?

 

 

 

アカネ:『どうせ私はクソ雑魚ナメクジなんだ……。全ての後輩に抜かされていって、老害とか言われるようになるんだ……』

 

コウ :『大丈夫、アカネ。ちゃんとアカネのことをわかってくれる人はいるよ』

 

アカネ:『コウ……』

 

コウ :『ほらっ、壺を売りたそうにしてる人とか、仏像を売りたそうにしてる人とか』

 

アカネ:『どっちも詐欺じゃん!?』

 

 

 

 思いっきり机を叩くアカネ。

 それを聞いてコウは笑い声をあげる。

 

 

 

コウ :『あははっ、冗談よ、冗談。もちろんアカネのことをわかってるのはボクに決まってるでしょ。後輩くんたちにうつつを抜かしてるから、ちょっとからかいたくなっただけよ』

 

アカネ:『あっ……、うん、ごめん』

 

 

 

【コメント】

:落としてから上げるw

:おとなしい暴走特急はかわいいな

:でも、話は進まないw

 

 

 

アカネ:『そうだよね。でも、コウも大切だけど、これから配信する後輩たちも気になるよ? その中の一人、雪城ユキは私がイラストと2Dデザインを担当したんだから』

 

コウ :『あの時はデザインに迷って、ボクに何度も相談に来てたもんね。苦労しただけあって、やっぱり想いも人一倍あるよね』

 

アカネ:『他の子も可愛いんだけどね。特にあの段ボール! あれこそ一番力を入れた部分だからね!』

 

コウ :『あれを描くために何度も段ボールを買ったもんね。一番大切だからって』

 

アカネ:『楽しむことに全力を出さないでいつ出すの?』

 

コウ :『はいはい……、普段から出してくれたならいいんだけどね』

 

アカネ:『労働と愉悦は違うものだからね! 私を働かせたいならそれ相応の対価を持ってこーい!』

 

コウ :『はいはい。この放送枠をちゃんと終わらせることができたら、お菓子持っていってあげるよ。一緒に食べよう』

 

アカネ:『よーし、今日の配信は終わり――』

 

コウ :『ちゃんと最後まで配信を終わらしたらよ?』

 

アカネ:『まで一気に話して、さっさと終わらせるぞー!』

 

 

 

【コメント】

:w

:草

:餌に弱いw

:飴と鞭w

:なんだかんだで面倒を見るコウパイセンw

:w

 

 

 

アカネ:『とりあえず、コラボをしてヤリたいこと……。ヤリたい……』

 

コウ :『なんでそこを強調するの!? 意味も変わるでしょ! 全くもう……。ボクは雑談したり、一緒に遊んだりしたいね。二期生の子は特徴のある子が多かったから後輩って感じがしなかったんだよね』

 

アカネ:『あははっ、コウがそれをいうの?』

 

コウ :『アカネに言われたくないよ!?』

 

アカネ:『私はポンだからな!』

 

コウ :『……そんな自信満々に言わないでよ』

 

アカネ:『えっと、三期生としたいことだね。配信途中にえっちぃイラストを送りつけてから、雑談をするのとかも――』

 

コウ :『……やるなら自分の枠でやりなさいよ』

 

アカネ:『なるほど、その手があったか!?』

 

コウ :『本当にするなら全力で止めるからね。そういうことだから、この後配信されるボクたちの後輩、応援してあげてください。会ったことはないけど、とっても可愛い子たちですので』

 

アカネ:『任せて! 舐め回すようにじっくり見てくる!』

 

コウ :『アカネはボクと一緒におやつを食べるんでしょ? その時に一緒に見るからね』

 

アカネ:『まさかこのことを予想して、おやつに誘ってたのか!? 海星コウ、なかなかやるね……』

 

コウ :『いらないの? それならお菓子は全部ボクが食べるけど』

 

アカネ:『いるー!』

 

 

 

【コメント】

:草

:落ちたなw

:w

:やっぱ飼育員はすごいな

:ただ、暴走特急がママになるのか。かわいそうだな

:雪城ユキ……か。見にいってみるかな

 

 

 

コウ :『それじゃあ、本日二十時からボクたちの後輩である三期生の配信があるからぜひ見にいってあげてね。詳細は概要欄に貼ってあるからね。最初は真心ココネちゃん、からかな』

 

アカネ:『どう見てもロリにしか見えない妖精だね。じゅるり……』

 

コウ :『はい、食べ物じゃないからね。手をあげたら通報するよ』

 

アカネ:『そ、そ、そんなことしないわい』

 

 

 

【コメント】

:説得力なさすぎw

:www

:草

《:¥300 通報費》

:絶対手を出すwww

 

 

 

コウ :『ほらっ、これがアカネの信頼度よ』

 

アカネ:『くっ……、私はただ本能の赴くまま生きてるだけなのに……』

 

コウ :『それがダメなのよ。アカネのいいところでもあるんだけどね』

 

アカネ:『コウがいいなら私は問題ない!』

 

コウ :『もう、それよりも次に行くよ。後輩くんを紹介するんだよね?』

 

アカネ:『そうだった。次はポンコツ姫だな。これはヒメノンの対抗馬かな? ヒメノンはゲーム以外は完璧だけど、こっちの子は完全にポン枠だな。私もそうだが……、はっ、まさか私のライバル!? コウはやらんぞ!』

 

コウ :『全く、決めつけは良くないよ。すごくできる子かもしれないからね。それにボクはアカネのものではないからね?』

 

アカネ:『な、なんだと……。うぅ……、落ち込んだ。やる気が出ない……。もう流しでいいよね? 次は羊。以上!』

 

コウ :『こらこら、それだけで済むわけないでしょ!? 確かに羊だけど、ちゃんと羊沢ユイって名前も言ってあげて!』

 

アカネ:『めんどい……。眠そうな顔をしているのと、枕を持っているところを見るとこの子もポン枠かな?』

 

コウ :『だから勝手に決めつけない! そんなみんながみんなだったら、まとめるの大変でしょ!? アカネ一人でボクがどれだけ苦労しているか……』

 

アカネ:『私は数少ない常識枠だよ?』

 

コウ :『お菓子いらないの?』

 

アカネ:『私はポンです。お菓子ください……』

 

コウ :『よろしい。それじゃあ、最後だね。この子がアカネの子だね』

 

アカネ:『私とコウの愛の結晶だな』

 

コウ :『はいはい、名前は雪城ユキくんだね。あれっ、くん表示なの?』

 

アカネ:『……流された』

 

 

 

【コメント】

:同期の三人がユキくん呼びをしていたから

:俺たちもユキくんって呼んでるな

:アカネパイセン草

:まさかの全員ポン枠かw

:意外と最初のロリがまとめ役なのかもw

 

 

 

コウ :『えっと、この子は恥ずかしがり屋のわんこさんですね。段ボールに隠れてるんですよね』

 

アカネ:『あぁ、良く聞いてくれた。なんと言ってもあの少し照れた顔つき。涙目になりながら段ボールから顔を覗かせる仕草。本来動くはずがない犬耳フードを擬似的に動かす。他にも小柄な見た目とぴったりな細っそりとした体型。更に更に、肌の色とあう白のワンピースと黄色のフードパーカー。犬っぽい茶色の髪。どれをとっても最高の出来だ。さすが私!』

 

 

 

 やはり自分が描いたからか、アカネは興奮混じりに早口になりながら語っていた。

 

 

 

コウ :『はいはい、アカネは最高ですね。ただ、確かにこの子も可愛いですね。守ってあげたくなる感じがありますし』

 

アカネ:『適当にあしらわれた……』

 

コウ :『だいたい三期生の簡単な説明はこんな感じかな。イラストと設定だけで判断してるだけで、実際にボクたちも話したことがあるわけじゃないからね。コラボできることが楽しみだな』

 

アカネ:『よし、早速コラボを申し込んでくる!』

 

コウ :『こらっ、まだでしょ。でも、自分が描いたイラストの子だもんね。うん、わかったよ。ボクの方から三期生の担当さんに話をしておくよ。()()()()()()ね。できるだけ早くにコラボができるように』

 

アカネ:『よし、早速担当に言ってくる!』

 

コウ :『ボクが、って言ったでしょ!? 余計なことをするとお菓子を抜きにするよ?』

 

アカネ:『コウ、任せた! 私はユキくんに投げつけるイラストを描いておく』

 

コウ :『恥ずかしがり屋っぽいからエッチくしすぎたらダメだからね。私がチェックするから』

 

アカネ:『任せて! きわっきわのビキニに――』

 

コウ :『ボクの話、聞いてた?』

 

アカネ:『……わかりました』

 

 

【コメント】

:草

:初めての先輩コラボが暴走特急になるわんこ

:かわいそうwww

:人見知りなのに、初先輩コラボかw

:案外コウパイセンみたいなタイプかも

:wwwww

 

 

 

アカネ:『おっと、そろそろお菓子……いや、放送終了の時間かな。また次の配信で会おうね。ばいばーい』

 

コウ :『バイバーイ!』

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯天体観測 ♯赤コウ》後輩ができたよ《美空アカネ/海星コウ/シロルーム三期生》』

3.1万人が視聴 0分前に公開済み

⤴1.1万 ⤵24 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 チャンネル名:Akane Room.美空アカネ

 チャンネル登録者数:63万人

 

 

 

【コメント】

:本当にコウパイセンは暴走特急を止められるのか……

:三期生楽しみ

:ばいばーい

:ばいばーい

:待機しておくね



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第20.5話:四期生募集

 シロルーム本社。

 三期生担当である 湯切舞(ゆきりまい)は送られてくるたくさんの書類と睨めっこをしていた。

 

 

 シロルーム四期生募集。

 ユキくんたち三期生が想像以上に活躍してくれたこともあり、早期に四期生を募集することとなった。

 

 活動の開始は七月頃を予定。

 ユキくんたちが五月だったことを考えるとかなり急ピッチの募集になっている。

 

 更にその募集数を増やした要因は他にもある。

 

 カタッター上で少しバズっていた募集要項。

 

 

 

 シロルーム【公式】 @shiroroom 5月18日

【お知らせ】

シロルーム四期生、女性Vtuberを募集中。

募集要項:18歳以上。性別不問。

配信経験:歌、ゲーム等の配信がある方(なくても可)

 

 @1,425  ↺21.5万  ♡11.1万

 

 

 

――うん、我ながら馬鹿げていると思う。

 

 

 年齢が十八歳以上なら誰でも良いですよ、と言っている様な募集。

 これならたくさん来てもおかしくない。

 

 更にこの募集に油を注いでくれたライバーがいた。

 

 

 

 雪城ユキ@シロルーム三期生 @yuki_yukishiro 5月18日

僕の後輩さんを募集してた……。ぼ、僕、まだ先輩になる自信ないよ……。

でも、僕も頑張って先輩さんらしくなるから、どんどん応募してね

 

 @2,684  ↺15万  ♡31万

 

 

 

――あざとすぎるよ、ユキくん。これを天然でやってくるのだから恐ろしい……。

 

 

 ユキくんのこの呟きをきっかけに募集人数がかなり増加してしまった。

 主に犬好きたちから、ユキくんに会うために……。

 そして、募集に対する質問がユキくんに集まった様で、彼は慌てて連絡をしてきた。

 

 

 

ユキ :[た、担当さんー、なんか僕のところにどうやって応募したら良いのって質問がたくさん来てるんだけど……]

 

マネ :[公式の方で募集の仕方を呟きますので、それをRTしてもらっても良いですか?]

 

ユキ :[り、リツ……ですね。わ、わかりました]

 

 

 

 これでユキくんの騒動は終わったものの、ダブルでバズった効果は大きく、その結果がとんでもない応募数だった。

 

 そこから少しでも可能性のある子に分けていくのは中々大変な仕事。

 とりあえず最初は性別で分けていく。

 ユキくんみたいなタイプはまずいないので、よほど気になる人以外は弾いてしまう。

 

 

 あくまでも募集しているのは女性Vtuberなのだから――。

 

 

 そうなってくると、結局最後に残るのはいつもの数ほどだった。

 

 舞はため息を吐きながら、書類を全て確認していった。

 すると、珍しく気になるプロフィールの子を発見する。

 

 

 年齢は十八歳でようやく今年から応募できる様になった様だ。

 

 ただ、問題はその驚くべき経歴。

 

 既にMeeTubeでかなりの人気を博しているMeeTuberだ。

 

 お気に入り登録者数二十万人もいるのならそのまま続けて行くこともできるだろう。

 

 しかも、顔出しをしている。

 添付されている動画を確認するとそこに映っているのはとても小柄で可愛らしい少女だった。

 

 

 チャンネル名は『夏瀬(なつせ)なな』。

 

 

 本名? と思ったが、どうやら少しもじってるだけで、別名の様だった。

 本名は七瀬奈々(ななせなな)

 

 

 どこか現実離れした可愛らしさと長い銀髪をしており、確かにMeeTuber(ミーチューバ―)として人気が出るだろうと思わされた。

 更に透き通る様な綺麗な声をしており、少し棘のあるしゃべりも人気の一因だった。

 

 

 段々とシロルームのことが知れ渡ってきた様で、お気に入り登録者がそれなりにいる配信者は増えてきた。

 数万人のお気に入りがいる人はちらほらと見受けられ、当然ながらそういった人たちは一次面接を通過させている。

 

 ただ、彼女の場合は即決していいのでは……と思えるほどの実績だった。

 

 

――とにかく一度会うにしても、一応上の人と相談しておきましょうか。

 

 

 どうしてそんな人が来てくれたのかというと、理由はユキくんを見て……とのことだった。

 

 どうやら彼女は、隠れてユキくんの配信を欠かさず見ている上に上限いっぱいのスパチャを投げている、という強者だった。

 

 ここまでのファンは珍しいが、今のユキくん人気を考えたらそういう人間が出てもおかしくはない。

 ただ、それが人気配信者となるとありがたい限りだった。

 

 

 

「ユキくんと組み合わせると面白そうですね――」

 

 

 

 ニヤリと微笑んだ舞は彼女の書類を持って上へ掛け合いに行っていた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 とあるマンションの部屋の中。

 そこに置かれたパソコン画面には、どこか怯えながらも楽しそうに話す雪城ユキの姿が映っていた。

 

 同期の三人と楽しそうにしている姿。

 それを見たら自然と自分も励まされる。

 

 

 

「よし、今日も頑張ろう。ユキくんと会うために……」

 

 

 

 側に置いている姿見で自分の今の姿を確認する。

 

 

 さらさらで、腰あたりまで伸びた銀色の髪。

 五歳は若く見られるほどの童顔。

 146cmしかない小柄な体型。

 その姿を生かせる様に服装は白の袖無しワンピース。

 

 

 どこからどう見ても可愛らしい少女である七瀬奈々(ななせなな)

 

 

 七瀬はMeeTuberに憧れて配信を始めていた。

 いつも楽しそうに笑っている動画配信者たちのように、みんなに笑顔を届けられたら自分も楽しいだろうな。

 

 

 がむしゃらに……。とにかく必死にやってきた。

 

 

 その結果、収益化を果たしチャンネル登録者数もうなぎ登りに増えていき、人気配信者の道を駆け上がっていった。

 

 

 ただ、人気になればなるほど、その重圧が七瀬を襲う様になる。

 

 

 七瀬はリスナーの人に楽しんでもらうことを第一に考えていた。

 

 

 自分のことなど考えず、とにかくリスナーが楽しんでもらえる動画を……。

 人気配信者なのだから、それが当たり前だと――。

 

 

 それはもう孤独な戦いだった。

 何か一つが狂ってしまうと、築き上げた牙城が一気に崩れてしまう気がしていた。

 本当は好きで始めたはずの動画配信だけど、次第に配信すること自体が怖くなっていた。

 

 

 常にギュッと胃が締め付けられる様に苦しくなり、恐怖とストレスからまともに夜も寝られない。

 こんなに苦しいならいっその事辞めてしまおうかと思ったことも何度もあった。

 

 

 しかし、それをするにも別の悩みが出てくる。

 

 まずは金銭面の問題。

 MeeTuberで稼ぐことはできるが、まだ収益化が通って間もない。

 それほど生活に余裕があるわけでもなかった。

 

 それを辞めるとなると別の仕事が必要になってくる。

 しかし、顔出しして既に有名になりすぎている。

 結局雇ってもらえたとしても、そこで求められるのは配信者としての自分だろう、と。

 

 

 結局はどんなに悩み苦しもうが、動画配信を続けるしか道はなかった。

 この苦しみから解放してくれるものはないんだ、と諦めていた。

 

 

 そんな絶望の中で出会ったのがユキくんの放送だった。

 

 

 最初は新人Vtuberがあたふたと配信してる良くある光景にしか見えなかった。

 

 今一番伸びているシロルームにしてはらしくない初心者を選んだものだと不思議に思っていた。ただ、次第にその配信から目が離せなくなった。

 

 

 そもそも、ユキくんは一人で頑張っているわけではない。

 むしろ一人ではできないことを認め、助けてくれる仲間たちと楽しそうに配信をする。

 

 

 そんな姿に七瀬は心を打たれていた。

 

 

 本当に自分がやりたかったのは、ユキくんたちみたいに仲間と笑い合って、楽しそうに配信をすることだったんだ――。

 

 

 そして、収益化配信で七瀬と全く同じ『配信は自分一人でどうにかしないといけない』という悩みを涙ながらに語ったユキくん。

 それを仲間たちと乗り越えた姿を見て、七瀬は自然と目に涙が浮かんでいた。

 

 

 本当に自分がしたいものはそこにある。

 それなら、自分がすることは今までと同じでがむしゃらに前へと進み、それを勝ち取るまで!

 

 

 それを決意した七瀬の目には既に涙はなかった。

 

 

 ユキくんみたいな配信者に……。

 

 

――ううん、違う。本当に私が欲しているのはユキくんたちの様な絆の輪に入ること。

 

 

 それからユキくんの配信は全て欠かさずに見ている。

 ライブは絶対に見に行くし、そのあとアーカイブで見るのも忘れない。

 

 

 それだけで摩耗した精神が癒やされていた。

 次も頑張ろうと思えた。

 

 

 だからこそ、その感謝の意味も込めて、ユキくんに初スパチャを投げたのは良い思い出だった。

 

 

 流石にそのままの『夏瀬なな』のアカウントは使えないので、別アカウントとして『さすらいの犬好き』を作って――。

 少しでもユキくんの助けになるなら、と毎回スパチャを投げている。

 

 

 そして、待ちに待ったシロルーム四期生の募集が始まった。

 それを見た七瀬はすぐに応募を済ませていた。

 

 募集要項は簡単で、年齢さえクリアしていたら良い。

 

 ただ、配信経験が書かれている以上、動画もあった方がいいはずと思い、自分の中で一番再生回数の多い動画を添えて送る。

 

 

 今のシロルームの成長速度を考えるとライバルは同じ人気配信者になるはず。

 でも、自分は負けない。

 

 

 本当に自分がやりたいこと。

 自分も夢がそこにあるのだから。

 ダメなら何度でも挑戦する! 絶対に合格するために!

 

 

 そんな決意の下、応募したシロルーム四期生。

 そして、すぐに七瀬の下に三期生の担当が直接会いたいという返事を送ってくるのだった。

 

 

 

◇◆◇

『《♯犬拾いました》 後輩さん、募集中です《雪城ユキ/シロルーム三期生》』

2.1万人が視聴中 ライブ配信中

⤴1,154 ⤵0 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 今日もいつもと同じ雑談配信。ただ、僕は少し緊張していた。

 

 その理由は配信の内容にあった。

 

 

【四期生募集】

 

 

 後輩ができることを喜んだだけだったのに、それを呟いた結果、なぜかバズってしまった。

 結果的に応募人数がかなり増えたみたいなので、僕はやはり緊張をしてしまう。

 

 

――まだ自分のことでいっぱいいっぱいなのに本当に後輩ができるなんて……。

 

 

 ただ、そこはそれ以上気にしても仕方ないので、配信の準備をする。

 

 開幕のミニアニメ後、随分と慣れた手つきで段ボールに入ったユキくんを表示させる。もちろん最初は段ボールの中に隠れた状態で。

 

 

 

『わふぅ……、み、みなさん、こんばんは。シロルーム三期生の雪城ユキです。きょ、今日も拾いに来てくださってありがとうございます』

 

 

 

 ちらっと顔を覗かせる。

 しかし、すぐに顔を引っ込めていた。

 

 

 

【コメント】

:わふー

:わふー

:わふー

《:¥500 わふー》

:わふー

:わふー

《:¥5,000 わふー》

 

 

 

『わわっ、いきなりきた!? す、スパチャありがとうございます。そ、その……、本当に無理をしないでくださいね。た、ただの挨拶だから……まだ』

 

 

 

 突然の挨拶と同時のスパチャに驚いた僕は、投げてくれた人にお礼を言いつつ、心配もしていた。

 

 ゆっくり顔を出して、不安げな表情を見せる。

 

 

 

【コメント】

《:¥1,000 投げると心配してもらえると聞いて》

:wwwww

《:¥500 わふー》

《:¥500 わふー》

《さすらいの犬好き:¥50,000 今日の犬好き費》

 

 

 

『わわわっ……、そ、その……、そんなにたくさん投げられると僕……その……。そ、それにさすらいの犬好きさん、その……犬好き費はいらないからね。そ、そんなにたくさん投げなくてもいいんだよ……』

 

 

 

【コメント】

:スパチャに怯えてダンボールに隠れてしまったw

《:¥1,000 怖がらなくていいんだよ》

:wwwww

:ここまで自己紹介のみw

:むしろ自己紹介が終わってるだけ成長してるw

 

 

 

『えとえと……、か、隠れたらスパチャで殴られるのなら、その……、顔を出すね……』

 

 

 

 恐る恐る顔を出す。

 本当ならすぐにでも顔を隠したくなるのだけど、そうするとまたスパチャで殴られそうなので、涙目ながら耐える。

 

 

 

【コメント】

:なんだろう、苛めたくなる

:www

:ユキくんかわいい

さすらいの犬好き:しまった、もう投げられない

:草

 

 

 

『な、投げすぎはダメだからね。そ、そろそろ本題に入るよ。そうじゃないと放送枠が終わりそうだから……』

 

 

 

 時間を確認しながら進行する。

 もうすでに十分が過ぎている。

 

 このままだとコメントに流されて何もできずに終わってしまうだろう。

 

 

 

『と、とりあえず今日は前に僕が呟いた後輩さんの募集について話したいと思います。とはいっても、僕も募集要項以上のことは知らないんだけどね』

 

 

 

 カタッターで書いた呟きを配信画面に表示させる。

 

 

 

『えとえと、まだまだ配信したばかりなのに、もう後輩ができるみたい。きっと、僕より配信経験がある人だよ……』

 

 

 

【コメント】

:間違いない

:ユキくん、配信経験ゼロだったもんな

:夏頃からだったか?

:その頃までにはユキくんもしっかり配信できるよ

:ユキくんも先輩か

 

 

 

『うぅぅ……、先輩になったら色々と教えていかないといけないんだよね? ぼ、僕にできるかな……』

 

 

 

 でも、よく考えてみると僕自身がまだ先輩から何かをしてもらった記憶はない。

 むしろコラボをするのはこれからになるので、それを受けてから考えるので良いかもしれない。

 そうなると少しだけ気が楽になる。

 

 

 

『そ、そうだ。犬好きさんたちの中に四期生の応募をした人はいるのかな? 今回は結構たくさんの人が募集してくれたみたいだから』

 

 

 

【コメント】

:俺も応募したぞ

:俺もだ

さすらいの犬好き:もちろん応募した

:もちろん

羊沢ユイ :うみゅ

 

 

 

『って、ユイは違うよね!? それに意外と男の人も応募してるんだね。……ユージさんみたいになりたいのかな?』

 

 

 

 男性Vtuberでパッと名前が浮かんだのは、この前に会った野草ユージだった。

 

 アバターのキャラを演じるために自分とは遠いキャラを演じる、配信者の鑑の様な人だった。

 僕自身も性別を偽って配信していることもあり、尊敬しているし、直接会ってから一緒にコラボをするのが楽しみな人でもあった。

 

 

 

【コメント】

:しまった、シロルームにはユージ草がいた

:お、俺は燃えたくない

:これもユキくんと会うためだ

:ユキくんに面接で会えるのならどんな無茶でも引き受けてやる

 

 

 

『ふぇっ!? ぼ、僕は会いませんよ? 僕は面接とは無関係だから……』

 

 

 

 突然のコメントに僕は少し慌てていた。

 

 

 

『そ、それにオフもあまりしたくないから……。担当さんに言われたら仕方ないけど……、でもでも、男性の方だとどうなんだろう??』

 

 

 

 僕の性別を考えると男性とのコラボは何もおかしくない。

 現に真緒さんやユージさんとはすることになっている。

 

 でも、それも担当さんから言われたことなので、自分で決めたものではない。

 担当さんも他期生とのコラボは連絡して欲しいと言われているので、無理にする必要もないだろう。

 

 

 

【コメント】

羊沢ユイ :うみゅ? ユキくん、もうオフコラボしてくれないの?

:くっ、敵はユキくんの性格だったか

:そもそも会えるかどうかは書類選考が通ってからだ

さすらいの犬好き:問題ない。通るまで送れば絶対通る

:↑本気すぎて草

 

 

 

『ゆ、ユイはまた今度温泉行くことになってるよね? と、とにかく、僕も早く後輩ができると良いなぁ。オフじゃなくて、ただのコラボとかなら、ちょっと不安だけど頑張るし……。それに困ったことがあったら、チャットとかでも答えたりできると良いな……。僕が教わる側かもしれないけど――』

 

 

 

 でも、先輩に話しかけるなんて早々にできないよね?

 だって、僕も一応シロルームみんなのチャットは知ってるけど、未だにやりとりをしたことがあるのはアカネ先輩だけだったりする。

 

 同期のチャットは毎日、ほぼ全ての時間で動いているけど。

 

 昼間はココネがいるし、夕方はカグラさん、夜はなぜか寝てるはずのユイがいる。

 僕は常にキャスコード画面を開いているので、寝ていない限り返答はしている。

 

 

――もしかするとそれがずっと動いてる理由かもしれないけど。

 

 

 あとはカタッター。

 通知数がとんでもないことになるのもずいぶんと慣れてきて、ようやくリプを返したりとかも出来る様になった。

 

 

 

【コメント】

さすらいの犬好き:その……、通ったら色々と教えて欲しい

:↑草

:流石に通る前からの約束は草

 

 

 

『そうだね。うん、わかったよ。もし、さすらいの犬好きさんが通ったら、僕になんでも聞いてね。頑張って答えるから』

 

 

 

 笑顔を浮かべながら返答をする。

 

 

――うん、そうだよね。困ってる後輩に頼られるのもいいよね。



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本編第2章:先輩と後輩
第1話:コラボ解禁!? 暴走特急と臆病わんこと飼育員 ♯あかわふこみー


 僕が動画を配信する様になって早一ヶ月。

 月も変わり、いよいよ他期生とのコラボが解禁される日になってしまった。

 

 

 先週からちょくちょくと海星先輩やアカネ先輩と打ち合わせという名の雑談チャットを繰り返していた。

 色々と実りのあるものもあれば、アカネが勝手に暴走してるだけの日もあったが……。

 

 

 

コウ :[ユキくん、大丈夫かな? 一応ボクの方でアカネの暴走は抑えるけど、たまに飛び火するから気をつけてね]

 

ユキ :[ぼ、僕にどうにかできるのかな……?]

 

アカネ:[そんな時は私に任せろ!]

 

コウ :[ほらっ、たまにこんなアホなことを言うでしょ? そんな時は無視したらいいからね]

 

ユキ :[せ、先輩相手にそんなことできないですよ……]

 

コウ :[うんうん、ユキくんはいい子だね。でも、アカネを先輩なんて思ったらダメだよ。猛獣の類だと思っておかないと]

 

アカネ:[どうせ私は猛獣なんだ。がおー、ってユキくんを食べる側なんだ……]

 

ユキ :[た、食べたらダメですよ!?]

 

アカネ:[がおー!]

 

ユキ :[わ、わふっ!?]

 

コウ :[こらっ、アカネ! 今は打ち合わせでしょ? 余計な話は時間の無駄になるから後からにしなさい]

 

アカネ:[……うん、ごめんね。後から思いっきり襲うことにするよ]

 

ユキ :[えっと、あの、で、できたら襲うのもやめてください……。そ、それで僕はどうしたら……?]

 

コウ :[ごめんね。本当ならボクたちがリードしないといけないんだけどね]

 

アカネ:[そうだぞ、コウ。邪魔するんじゃない!]

 

コウ :[……何回喰らいたい?]

 

アカネ:[……お菓子?]

 

コウ :[ううん、膝蹴り]

 

アカネ:[コウの膝蹴りを受けたら死ぬよ!?]

 

ユキ :[そ、その……、海星先輩? さ、さすがに暴力は良くない……ですよ?]

 

アカネ:[やっぱりユキくんはいい子だな。よし、私がモミモミしてあげよう]

 

ユキ :「えっと、モミモミ……ですか?]

 

アカネ:[あぁ、もちろんだろう? その慎ましやかな二つの双丘を――]

 

コウ :[ごめんね、ユキくん。ちょっと、このアカネ(バカ)を捨ててくるね]

 

アカネ:[す、捨てるなー!]

 

ユキ :[えと……、そのままじゃ捨てにくい……ですよね? 僕の段ボール、使います?]

 

コウ :[あははっ、いいねその返し。その段ボール、喜んで使わせてもらうよ]

 

アカネ:[ゆ、ユキくんの裏切り者ー!?]

 

ユキ :[えと……、その……、打ち合わせは終わりですか?]

 

コウ :[あっ、ごめんね。ちょっと、アカネのいないところで二人で打ち合わせしましょうか?]

 

アカネ:[わ、私を除け者にするなんて、ひどいぞ! さては私がいないところで二人、イチャイチャするんだな。私もまぜろー!]

 

コウ :[ねっ、ライブ配信の話ができないから後からゆっくりしましょう。とりあえず配信はユキくんの枠でするから準備だけ頼んでもいいかな?]

 

ユキ :[あっ、はい。わ、わかりました。がんばりますね]

 

アカネ:[頑張らなくていいぞ。私は生まれてこのかた、頑張ってないからな。自分の好きなことを好きなだけすればいい]

 

コウ :[まぁ、アカネに同意するのも癪だけど、ボクたち相手に緊張しなくていいよ。アカネが適当だからね]

 

アカネ:[そうそう、私が適当だから気にするな! あはははっ]

 

ユキ :[そ、それでいいのですね……]

 

コウ :[アカネの考えを深く考えたらダメ。何も考えずに本能で動いてるから]

 

ユキ :[わ、わかりました。気をつけますね]

 

アカネ:[あと私から一つ、敬語は使わなくていいよ]

 

ユキ :[で、でも、海星先輩はもちろん、アカネ先輩も一応先輩だし……]

 

コウ :[ふふっ、一応、ね]

 

ユキ :[あっ!? ご、ごめんなさい、僕、とんでもないことを……]

 

コウ :[気にしなくていいよ。ボクももっとユキくんには素を出して欲しいかな。まぁ、今は難しくても、犬好きさんたちの前だと……ね]

 

ユキ :[あっ……。そ、そうですね。見にきてくれてる犬好きさんたちに楽しんでもらわないといけないですもんね]

 

コウ :[そういうことね。だから、ボクたちへの敬語は考えなくていいからね。それよりも中身をしっかり考えましょう]

 

ユキ :[はいっ!]

 

アカネ:[おやっ、なんだか疎外感を感じるな]

 

コウ :[いつものことでしょ?]

 

アカネ:[それもそうだな]

 

ユキ :[あ、あははっ……、本当にそれでいいんだ……]

 

 

 

 二人のやりとりに思わず僕は苦笑を浮かべてしまう。

 

 結局三人の打ち合わせで決まったのは、僕の枠で配信をすること、だけだったので、もう一度コウ先輩と二人で話し合うことになった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 海星先輩の説明はわかりやすく、二人で打ち合わせすると安心できるほどだった。

 

 ただの雑談なのだが、話す内容についてはトークカードを準備してくれており、今まで僕がしてきたような、行き当たりばったりの雑談はしていないことがよくわかった。

 

 トークカードの中身はさまざまだった。

 

 

[好きなお菓子]

[最近買ったもの]

 

 

 みたいな定番のものから

 

 

[お風呂でどこから洗うか]

[一番好きな同期]

 

 

 

 など、答えるのがちょっと恥ずかしいようなものもあった。

 

 

 この辺りはやっぱり海星先輩。

 

 安心感がすごいのと、リスナーの人が喜びそうなもののバランスを考えて配信の準備をしてくれるので、勉強になった。

 

 

 

コウ :[ユキくんは真面目だね。ボクも教え甲斐があるよ]

 

ユキ :[そ、そんなことないですよ。僕、知らないことが多いのでとっても勉強になりました]

 

コウ :[うんうん、たまにはこういうのもいいね。ユキくんみたいに素直な子だと。ただ予定はね、まぁ、壊されるものなのよ……]

 

 

 

 なんでだろう……?

 海星先輩から哀愁のようなものを感じる。

 

 

 

ユキ :[海星先輩……]

 

コウ :[ユキくんもコウって呼んでくれていいからね。同じアカネに迷惑をかけられる人間として仲良くしましょう]

 

ユキ :[そ、そうですね。わかりました、それじゃあ、コウ先輩って呼ばせてもらいます]

 

コウ :[うんうん、本当にユキくんは素直でいい子だね。アカネもこうなってくれると良いんだけど……]

 

ユキ :[あ、あははっ……]

 

 

 

 僕はコウ先輩の言葉に苦笑しか浮かべられなかった。

 

 

 

◇◇◇

『《♯犬拾いました ♯あかわふこみー》コラボ解禁。雑談枠 《雪城ユキ/美空アカネ/海星コウ/シロルーム》』

2.6万人が待機中 20XX/06/01 20:00に公開予定

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【コメント】

:ついに来たか。暴走日

:コウパイセンがいるからどうにかなるはず……

:ユキくん、無事に戻ってきて

《:¥500 通報用の電話代》

:待機画面は……初めて見るイラストだな

:アカネパイセン、良い仕事するな

 

 

 

 今回のコラボ用にアカネ先輩が(ユキくん)とコウ先輩、アカネ先輩の三人が描かれているイラストを準備してくれた。

 

 

 僕がアカネ先輩にちょっかいをかけられているのをコウ先輩が止めているイラストは、まさに先日のチャットの光景そのものだった。

 

 

 緊張は少しある。

 

 でも、つい先ほどまでコウ先輩と話していたからか、それとも先月までココネたちとたくさんコラボをしたからか、ずいぶんと落ち着いていた。

 

 

 ちょうど同じ時間にココネたちもコラボ配信をしていると頑張らないと、と思わされる。

 だからこそ、僕は配信が始まる前に一言、三期生のチャット欄に書き込みをする。

 

 

[み、みんな、頑張って……]

 

 

 それだけ打つとすぐに配信画面の方を注視する。

 ちょうど開始時間になったのでミニアニメを流した後、三人のアバターを表示させた。

 

 

 そして、大きく深呼吸をすると、段ボールからユキくんの顔を出して声を上げる。

 

 

 

『わふー、犬好きのみなさ――』

 

 

 

 しかし、思わぬ方向から邪魔が入り、僕の言葉は遮られてしまう。

 

 

 

 

アカネ:『やっほー、みんな、お待たせしたねー! みんなのアイドル、美空アカネだよ!』

 

『……へっ!?』

 

 

 

 僕が挨拶を言おうとした瞬間に、それに被せる様にアカネが言葉を発してくる。

 それに思わず口から声が漏れてしまう。

 

 

 

コウ :『ちょっと、アカネ!? 何をしてるの!? まずはユキくんの挨拶からでしょ?』

 

アカネ:『いやー、ちょっと緊張してるみたいだったからね。緊張をほぐそうかと』

 

コウ :『それでいきなり段取りを崩す人がどこにいるのよ!?』

 

アカネ:『ここにいるよ?』

 

コウ :『はぁ……。ちょっとアカネは締めておくから、ユキくんは先に進めてくれるかな?』

 

『えと……、わ、わかりました……』

 

アカネ:『ま、待て、私は何も悪いことをしてな――。あぁぁぁぁぁ』

 

 

 

【コメント】

:初手、乗っ取りw

:草

:流石パイセンw

:これ、本当にまともに進まないんじゃないか?

:一期生のアバターが消えたw

 

 

 

『す、すみません。ちょっと放送事故があったけど、後からカットしておくね』

 

アカネ:『ライブだからカットなんてできないぞー』

 

『遠くの方からアカネ先輩らしき声が聞こえるけど、とりあえずコウ先輩に任せて……。改めて、わふー。犬好きのみんな、こんばんはー。シロルーム三期生の雪城ユキです。本日はイラストという名のアカネ先輩の罠にかかってしまい、こうしてコラボをすることになっちゃいました。危ないと思ったら通報をよろしくお願いします……』

 

アカネ:『あ、危ないってなんだ!? わ、私は何もしないぞ?』

 

コウ :『はいはい、出番まで待ってないとね』

 

『あ、あははっ……、で、では気を取り直して、まずはコウ先輩から自己紹介をお願いします。その……、アカネ先輩は勝手にしちゃいましたし』

 

 

 

 コウを呼んだタイミングで改めて二人のアバターを登場させる。

 

 

 

コウ :『それもそうだね。犬好きのみんなー、こみー! シロルームの海星コウだよ。今日はアカネの暴走を抑えるために呼ばれたからよろしくねー』

 

 

 

【コメント】

:こみー

:こみー

:こみー

:わふー

:わふー

:俺たちのユキくんを守ってくれ!

《さすらいの犬好き:¥50,000 出遅れた》

 

 

 

『わわっ、さすらいの犬好きさん、今日もありがとうございます。そ、そんな無理して投げなくても――』

 

アカネ:『直接貢いでくれてもいいんだよ』

 

『うん、直接貢いで……って、そんなこと言わないよ!?』

 

 

 

 ついついアカネにつられて変なことを言いそうになる。

 しかし、慌てて言い淀む。

 

 ただ、その僕の一瞬の言葉にコメントが反応していた。

 

 

 

【コメント】

《:¥1,000 貢ぎます》

《:¥500 ユキくんのためなら》

《:¥10,000 友達代》

《:¥10,000 心配してもらえると聞いて》

《:¥1,000 犬好きならもちろん》

 

 

 

『ちょ、ちょっと待って。だ、だから投げすぎだって!?』

 

アカネ:『今のユキくんの言葉を訳すと「もっと投げてこーい!」だね』

 

『ち、違うよ!? そんなこと言わないからね!?』

 

コウ :『……アカネ?』

 

 

 

 コウがアカネに対してにっこりと微笑む。

 すると、アカネは慌てふためていた。

 

 

 

アカネ:『べ、別に私は何もしていない……。ただ、少しでもユキくんの助けになればって……』

 

コウ :『ユキくん、封印――』

 

『えっと……、う、うん……』

 

 

 

 僕は慌てて自分が入っている段ボールを大きく表示して、アカネの上から被せてしまう。

 

 

 

アカネ:『わ、私の姿が見えないなんて世界の損失でしょ? だ、だから段ボールの封印はやめて……』

 

コウ :『悪は滅びるの。しばらくは段ボールの中で反省するといいよ』

 

『僕の段ボール……』

 

 

 

 口元に指を当てて、羨ましげに段ボール(アカネ)を見る。

 

 

 

【コメント】

:暴走特急が封じられてるw

:こんな押さえ方があるなんて……

:コウさん、すごい

:ユキくんだけ相変わらずだったw

:段ボール、返して欲しそうだねw

:段ボールに入っていないユキくんは久々かも

《:¥1,000 私服代》

《:¥500 段ボール代》

 

 

 

『だ、だから、新しい服を買わなくても持ってるからね? だ、段ボール代はありがたく貰っておこうかな……、うん……』

 

コウ :『ユキくん、そろそろ次に進みましょうか?』

 

『そ、そうだね。えっと、まずはマシュマロ……』

 

アカネ:『マシュマロなら任せて! とっておきのやつを選ぶよ!』

 

 

 

 アカネが巨大段ボールから顔だけ出して言ってくる。

 

 

 

コウ :『――本当に大丈夫よね?』

 

アカネ:『私を信じて!』

 

コウ :『はぁ……、わかったわよ。それじゃあ、一旦アカネにまかせてみるわね』

 

アカネ:『よーし、それじゃあ読っむよー』

 

 

[ユキくん、わふー! いつも同期と楽しそうにしているユキくんですが、同期の中で一番好きなのは誰ですか?]

 

 

アカネ:『これはこれは、三期生同士で火花がバチバチと出そうなマシュマロだ。とっても楽しそうだね』

 

コウ :『アカネのコメントはともかく、これは気になる人が多いかも。実はトークカードに準備してた一つだもんね。ユキくん、答えられるかな?』

 

『えっと……、その……』

 

 

 

 僕は今までのオフ会のことを思い出す。

 

 

 ホラーゲームをした結坂。

 料理対決をした瑠璃香。

 一緒に買い物へ行ったこより。

 

 

 みんなそれぞれ良いところがあって、その中から一人を選ぶなんてことはとてもできなかった。

 

 

 

『ご、ごめんなさい……。やっぱり僕には一人を選ぶことはできないよ……。ユイはあえてふざけてる素振りを見せてるけど、僕を楽しませようとしてくれてる。カグラさんは何事も必死で、僕に機材の使い方を教えてくれた。ココママはいつも僕の心配をしてくれてる。みんな僕のことを考えてくれてるのに、一人なんて選べないよ――』

 

コウ :『ユキくん……。確かにユキ君の言う通りね。みんな違ってみんな良いんだね』

 

アカネ:『なるほど、つまりユキくんはハーレム狙いということだね』

 

『は、は、ハーレム!?!? ち、違うよ!? ただ、僕はみんなのことを大切な仲間って思ってるだけで……』

 

アカネ:『うん、同期全員を侍らせる犬の王……。うぉぉぉぉ……、たぎってきたーーーー!!』

 

コウ :『はいはい、じゃあそのまま一人でたぎっておいてね』

 

 

 

 興奮するアカネを適当にあしらうコウ。

 その二人に僕は振り回される一方だった。

 

 

 

【コメント】

:混ざりたい

:↑草

:俺も混ざりたいぞ

:草

 

 

 

アカネ:『おっと、ごめんね。マシュマロ一つで昇天するところだった。次を読んでいくよ』

 

 

[最近ユキくんのことを考えると夜も三食しか食べられません]

 

 

コウ :『食べ過ぎだね。一日に何回食べるんだろう?』

 

『えっと、ぼ、僕も朝昼晩の三食だから同じだね……、うん』

 

アカネ:『質問はまだ先だね。えっと[ところでユキくんの今日の下着は……]って、ぐはっ!?』

 

 

 

 アカネが下着と言った時点でコウの右ストレートが炸裂していた。

 

 

 

コウ :『もう、アカネは……。あまり変なことを言うと殴るわよ?』

 

『あ、あの……、コウ先輩……。もう殴ってますよ?』

 

コウ :『大丈夫、峰打ちよ』

 

『峰ってなんだろう……? パンチにもあるのかな?』

 

アカネ:『死ぬ……、本当に私が死んじゃうよ!?』

 

コウ :『大丈夫。ボクのアカネがそんなに簡単に死ぬはずないよ? でしょ?』

 

アカネ:『うっ……、こ、コウにそう言われたら死ぬわけにはいかない……』

 

『えっと、あれっ? なんのマシュマロだったかな?』

 

アカネ:『下着の色だろう?』

 

『あっ、そうだった。えっと、今日の僕の下着の色はし……、ってなんでそんな質問があるの!?!? 教えないよ!?』

 

アカネ:『聞いたか、みんな! ユキくんの下着の色はし……、ってコウ、ごめん。も、もうやめるから……。こ、これ以上殴られたら私の体が持たないよ……』

 

 

 

 喜び勇んで話そうとするアカネだったが、側で笑顔を浮かべているコウの威圧を感じて慌てて謝っていた。

 

 

 

コウ :『それならわかるわよね?』

 

アカネ:『あ、あぁ……、わかったよ。私はド派手な赤い下着だよ』

 

コウ :『そうそう……。って、違うわよ!?』

 

アカネ:『そして、コウの今日の下着はみず……ってやめて。痛い、痛いよ?』

 

 

 

 顔を赤くしたコウが無言でアカネのことを叩いていた。

 

 

 

『あ、あははっ……、えっと、話が進まないって言ってたのはこのことなんだね……』

 

アカネ:『はぁ……、はぁ……、そ、そんなことないよ。きょ、今日はまだ進んでる方かな……』

 

 

 

 満身創痍で息も絶え絶えになりながら、アカネは答えていた。

 

 

 

 

コウ :『はぁ……、せっかく会話カードを準備したのに全て無駄にして……。もう放送時間が終わるじゃない……』

 

アカネ:『よし、延長だ!』

 

『それじゃあ、今日の配信は終わるね。乙わふーでした』

 

コウ :『乙こみー』

 

アカネ:『ちょっと待て! まだ私は戦えるぞ!?』

 

コウ :『もう、誰と戦うのよ……』

 

アカネ:『そ、それにまだ最大の問題を解決してないよ』

 

『えと……、最大の問題……?』

 

アカネ:『あぁ、タグだよ! なんでユキくんとコウだけ挨拶で私だけ名前なんだ!?』

 

コウ :『でも、あかねの挨拶って「やっほー」でしょ。タグに入れても誰か分からないわよ?』

 

アカネ:『だから、私の新しい挨拶を考えてよ!』

 

コウ :『でも、配信時間がね……。ユキくんの予定もあるだろうし……』

 

『えっと、僕は延長しても大丈夫――』

 

 

 

 特にこの後の予定もないから問題ないかなと思ったのだが、そのタイミングでキャスコードの通知が鳴る。

 何故かグループチャットの通話で、そこに複数のココネアイコンがあったが。

 

 

 

ピコピコピコッ……、ピコピコピコッ……。

 

 

 

『あっ、ココママから電話がかかってきたから、その――』

 

アカネ:『うん。せっかくだし、放送しながら出るといいんじゃない?』

 

『で、でも……、その……、いいのかな?』

 

コウ :『一応聞いた方がいいかもだね、延長するなら。でも、配信してることは知ってるはずだから』

 

アカネ:『よし、私が先輩らしく聞いてあげよう。通知をとってくれたまえ』

 

『えとえと、本当にいいのかな? と、とにかく聞いてみるよ』

 

 

 

 不安になりながらその通話をとっていた。



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第2話:氷の女王と優しき妖精 ♯ココツララ/ポンコツ姫の大進撃 ♯ヒメ姫

『《♯心の拠り所 ♯ココツララ》コラボ解禁。ツララ先輩と歌うよ《真心ココネ/氷水ツララ/シロルーム》』

2.0万人が待機中 20XX/06/01 20:00に公開予定

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【コメント】

:ま、マジか!?

:つらたんが歌ってくれるのか!?

:いつもはよほどのことがないと歌ってくれないのに

:しかも、ココママと一緒に

:楽しみだ

 

 

 

 ココネは珍しく配信前に緊張していた。

 自分のコラボ相手はシロルームで一番のお気に入り登録者数を誇る氷水ツララ。

 

 

 確かにココネも五万人を超え、最近になって収益化の申請も通っている。

 ユキくんに比べると一歩劣るが、それでもシロルーム新人だと言うことを考えるとかなり伸びている。

 

 

 ただ、これもやはりユキくんとのコラボによるところが大きい。

 相手がトップの人物だと考えると緊張で動きが固まってしまう。

 

 

 

「が、がんばらないと!」

 

 

 

 待機画面の状態で気合いを入れるために声を上げる。

 

 

 

【コメント】

:あれっ? ココママの声、聞こえた?

:もう放送開始してるのか?

:ココママのミス?

 

 

 

――えっ!? あっ、ミュートになってない!?

 

 

 ココネからしたら珍しいミス。

 急いで音量をミュートにして、気持ちを落ち着ける。

 

 そのタイミングで、まるで測ったかの様にチャットに文字が書き込まれる。

 

 

ユキ :[み、みんな、頑張って……]

 

 

 一期生二人とのコラボという大役を任されているユキくん。

 ただでさえ人見知りで怯えがちのユキくんなのに、こんな時にまで他のみんなのことを心配してくれている。

 

 緊張しながら打ったであろうその文字を見て、ココネは自分の緊張が解れていくのを感じた。

 

 

 おそらくユキくんはみんなのアーカイブを見る。

 

 

――せっかくユキくんに励まされたのに、下手なところは見せられないよね。

 

 

 両頬を叩き、気合いを入れ直すとツララから連絡が来る。

 

 

 

「大丈夫ですか? 配信、できます?」

 

「まかせて下さい! 頑張ります!」

 

「そうですか。では、よろしくお願いします」

 

 

 

 簡潔で業務的な内容の連絡。

 

 ただ、それでもココネの雰囲気が変わったことをツララは読み取って、小さく微笑んでいたことをココネが気づくことはなかった。

 

 

 

ココネ:『みんな、ここばんはー!! シロルーム三期生の真心ココネですよー。さっきは急に声が入っちゃってごめんなさいねー。緊張からミュートにし忘れちゃって』

 

 

 

【コメント】

:ココママー

:ココママー

《:¥500 ママー》

《:¥1,000 ココママー》

:ココママー

:緊張珍しい

 

 

 

ココネ:『ママじゃないですよー。それよりも今日はなんとこの人に来てもらいました。うん、驚きですよね。では、どうぞ。ツララ先輩』

 

 

 

 画面にツララのアバターを表示させる。

 

 

 蒼銀の長い髪をした小柄な少女。

 水色の大きめのワンピースを着て、冷たいジト目を向けてくる。

 

 

 

ツララ:『――氷水ツララ(こおりみずつらら)

 

ココネ:『あ、あははっ……。相変わらず簡潔ですね、ツララ先輩。そのほうがわかりやすい……のかな? 早速ですけど、今日は歌枠……ということで一緒に歌う枠の予定です』

 

ツララ:『――可愛い後輩のため』

 

ココネ:『せ、先輩……。ありがとうございます。ここは先輩のご厚意に存分に乗っちゃおうと思います』

 

 

 

 ココネは思わずツララに抱きつこうとする。

 しかし、ツララは長い髪をなびかせて、サッとココネを躱していた。

 

 

 

ココネ:『うぅぅ、躱されちゃいました。ユキくんなら上手くいくんですけど……』

 

ツララ:『――次は歌う? それともマシュマロ?』

 

ココネ:『展開が早いです……。なんか新鮮です。それにツララ先輩、クールです』

 

ツララ:『――そう。ありがと』

 

 

 

【コメント】

:草

:草

:確かにいつも自己紹介だけで半分くらい使うからな

:つらたんはむしろいつもこのペースw

:ココママは相変わらずで草

:つらたんも相変わらずw

 

 

 

ツララ:『――雑談が良かった?』

 

ココネ:『そうですね。今回は初コラボですから、ココフレのみんなは少し戸惑っているかもしれないですね。少し雑談を入れた方が良いかもしれません』

 

ツララ:『――面倒』

 

ココネ:『め、面倒って……。ほ、ほらっ、みんなが望んでいることですから……』

 

ツララ:『――冗談』

 

ココネ:『あ、あははっ……。そ、そうですよね』

 

 

 

 ツララの態度に思わず苦笑を浮かべてしまう。

 

 

 

【コメント】

:ココママが振り回されてるw

:つらたんの不思議空間が勝ったか

:いや、雑談が長くなってきてるところを見ると互角か?

:確かにつらたんが冗談を言うなんて初めてじゃないか?

 

 

 

ココネ:『そ、それじゃあ、次はマシュマロを読んでもらってもいいですか?』

 

ツララ:『――わかった』

 

 

[ココママ、ここばんは。他期生との初のコラボと言うことで、どんな気持ちで挑んでますか? 緊張してますか?]

 

 

ツララ:『――私はいつも通り』

 

ココネ:『あははっ……、そ、そうですね。私はやっぱり少し緊張していました。音の件もいつもなら念を入れてチェックするのに、それもうっかりするくらい緊張してました。ユキくんの気持ちがわかった気がしますよ』

 

ツララ:『――んっ、過去形?』

 

ココネ:『はいっ、この放送の前にチャットでユキくんに励まされたんですよ。これはもう頑張るしかないですよね!?』

 

ツララ:『――そう』

 

 

 

 ツララの短い言葉。しかし、その口には笑みがこぼれていた。

 

 

 

ツララ:『――良い関係ね』

 

ココネ:『はいっ!』

 

ツララ:『――次のマシュマロ』

 

 

[ココママ、つらたん、ここばんは。最初はココママがユキくんを飼っているのかと思いましたが、今はまだ捨てられているままなのかと思ってきました。拾って帰っても良いですか?]

 

 

ツララ:『――どうぞ』

 

ココネ:『だ、だめですよ!? ゆ、ユキくんは誰がなんと言おうと私が飼うのですから、持って帰ったらダメです! ツララ先輩も勝手にあげないで下さい!!』

 

ツララ:『――今は私とコラボ中だから』

 

 

 

 ツララはそれだけ言うと顔を背けていた。

 

 

 

【コメント】

:つらたんすねたw

:初めての後輩とのコラボだもんなw

:草

 

 

 

ココネ:『そ、その……、ツララ先輩にも感謝してます。今回のコラボ、歌枠を引き受けてくれて……。私、ツララ先輩の歌が好きでいつか一緒に歌いたいって思ってたんですよ』

 

 

 

 その思いを聞いて、ツララはココネの方へと顔を戻していた。

 そして、いつもよりほんのりとピンクに染まった顔のまま、表情を変えずに言う。

 

 

 

ツララ:『――そろそろ歌う?』

 

ココネ:『そ、そうですね! 喉がかれるまで、放送が続くまで歌い続けましょう!!』

 

 

 

 ココネが笑みを浮かべながら大声を出す。

 

 

 

ツララ:『――帰って良い?』

 

ココネ:『ダーメーでーすーよー! 歌うのは約束ですー! ほらほらっ、コメントで曲のリクエストをお願いします。ツララ先輩が逃げる前に』

 

 

 

【コメント】

:草

:ココママ、調子取り戻してきたねw

:これはこれでいいなw

:つらたんが珍しくたくさん歌う?

:つらたんのシングル曲は?

 

 

 

ツララ:『――一曲は歌う。約束だから』

 

ココネ:『私、ツララ先輩が歌ってる姿、好きなんです。そんな大好きな先輩と一緒に歌えて嬉しいです。一曲だけなんて寂しいこと、言わないで下さいよ』

 

ツララ:『――そう? わかった。可愛い後輩のために歌う』

 

 

 

 ツララは赤く染まった顔を隠す様に背けていた。ただ、その口には笑みがこぼれていたが。

 

 

 

【コメント】

:つらたんちょろすぎw

:直接好きって言われることはないもんな

:二期生のメンバーはあれだからなw

:直接煽られる耐性がないのかw

:一期生もあれだなw

:この絡みは三期生ならではだな

 

 

 

ココネ:『それじゃあ、まずは先輩のシングル曲を一緒に歌いましょう。それから募集していく感じで』

 

ツララ:『――私、知らない歌は歌えない』

 

ココネ:『その時は残念だけど、違う歌に変更します。ココフレのみんな、わかったかなー?』

 

 

 

【コメント】

:はーい

:はーい

:はーい

:はーい

:すっかりココママにw

 

 

 

 それからココネの綺麗な声とツララの透き通るソプラノボイスが響き、みんな静聴していた。

 

 一曲、二曲……と歌う毎に、ココネの笑顔に釣られて、ツララの硬かった表情も次第に和らいでいった。

 そして、ツララは最後に小さな声で呟いていた。

 

 

 

ツララ:『――楽しかった』

 

 

 

 それを聞いたココネは満面の笑みで答える。

 

 

 

ココネ:『はいっ! また一緒にやりましょう!』

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯心の拠り所 ♯ココツララ》コラボ解禁。ツララ先輩と歌うよ《真心ココネ/氷水ツララ/シロルーム》』

4.5万人が視聴 0分前に公開済み

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チャンネル名:kokone_Room.真心ココネ

チャンネル登録者数9.1万人

 

 

 

◇◇◇

『《♯姫のご乱心 ♯ヒメ姫》コラボ解禁。姫同士の優雅なゲーム《神宮寺カグラ/姫野オンプ/シロルーム》』

1.9万人が待機中 20XX/06/01 20:00に公開予定

⤴2,189 ⤵1 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

 憧れのVtuberである姫野オンプとのコラボ。

 三期生の中では比較的配信に慣れているカグラですら緊張してしまう。

 

 それも当然で今も、チャットで連絡を取り合っているのがまさしくその憧れの女性。配信画面で見るしか叶わないと思っていた相手なのだ。

 

 そんな人物とコラボをできる、となると慌てても仕方なかった。

 

 

 

カグラ:[そ、そ、その、先輩。きょ、今日はよろしくお願いします]

 

オンプ:[あれー? 緊張してるのですー?]

 

カグラ:[あっ、はい……。やっぱり憧れの先輩を前にするとどうしても……]

 

オンプ:[初々しいのですねー。私も初めての頃はそんな感じでしたよー。でも、私相手に緊張しなくていいのですよー]

 

カグラ:[そ、そういうわけには――]

 

オンプ:[いつもの「なのじゃー」口調でいいのですよー?]

 

カグラ:[そ、そんな口調、使ってないですよ!?]

 

オンプ:[あはは、その調子ですよー。もうちょっと緊張を解いていくのですよー]

 

 

 

 どうやらオンプは緊張をほぐしてくれようとしているようだった。

 

 

――そういえば私もユキに対して同じことをしてたわね。

 

 

 この感覚は緊張する側になってみないとわからないものだった。

 むしろユキはこの感覚と毎回戦っていたのだと思わされる。

 

 そのタイミングでチャットが書き込まれる。

 

 

ユキ :[み、みんな、頑張って……]

 

 

 自分が一番緊張しているのに、他の人を心配してくるわんこ。

 

 

 

「ユキにだけは負けていられないわね。このくらいのコラボ、余裕でこなさないとね」

 

 

オンプ:[聞こえてるのですよー]

 

カグラ:[えっ!? あぁ、す、すみま――]

 

オンプ:[いい感じなのですー。ユキくんさんに心配をかけないためにもこのコラボ、余裕で終わらせるのですよー]

 

 

 

 安心した声をあげるオンプ。

 

 

――そうよね。先輩に気を遣って、リスナーに楽しんでもらえないなんて配信者としてダメよね。

 

 

 

カグラ:[そうですね、頑張ります!]

 

 

 

 覚悟を決めるとカグラは配信画面にミニアニメを表示する。

 

 カグラが色んな家事を挑戦して、その上で失敗していくような、カグラとしては物申したくなる。

 

 でも、リスナーのことを考えると、少しでも笑ってもらえる方がいいのではないかな、とそのままミニアニメとして設定していた。

 

 

 

【コメント】

:ついにカグラ様にもミニアニメがついた

:ポンカグ草

:これで三期生全員についたな

:収益化も無事に通ってたな

:今日も楽しみ

 

 

 

 緊張しているはずなのに、どこか楽しみに思っている自分がいる。

 小さく微笑んだ後、ミニアニメの終わりを確認してアバターを表示させる。

 

 

 

カグラ:『みんな、今日も来てあげたわよ。シロルーム三期生。万能姫の神宮寺カグラよ!』

 

 

 

【コメント】

:ポンひめー

:ポンかぐー

:カグラ様ー

《:¥1,000 ポンひめー》

 

 

 

カグラ:『誰がポンよ!? 私以上にしっかりしてる三期生はいないでしょ?』

 

 

 

 思わずツッコんでしまうカグラ。

 ただ、いつものことなので、深呼吸をして、話を続ける。

 

 

 

カグラ:『コホンっ、と、とりあえず今日からコラボ解禁だからね。以前コメントで約束したオンプ先輩に来てもらったわよ』

 

オンプ:『はぅぅ……、みなさん、こんばんはー。シロルーム、二期生の姫野オンプなのですよー。同じお姫様だからお邪魔しちゃったのですー。ポン姫ですよー』

 

 

 

【コメント】

:万能姫きたw

:ゲームだとポンだからある意味間違ってない?w

:自分から名乗るの草

 

 

 

カグラ:『今日はこのオンプ先輩と一緒にゲームをしていくわよ! えっと、レースゲーム……ね』

 

オンプ:『はいー。キャラが可愛らしいのですよー。亀さんとかキノコさんとか恐竜さんとかおひげさんとか』

 

カグラ:『オンプ先輩はやったことがあるわけね。私は初めてだから、どこまでオンプ先輩にくらいつけるか、の勝負になるわね』

 

オンプ:『胸を借りるつもりで思いっきりくるといいですよー。返り討ちにしちゃいますからー』

 

 

 

 自信ありげな声を出すオンプ。

 かたや初心者。かたやゲーム配信をメインとする経験者。

 その差は歴然とも言える。

 

 

 

カグラ:『それなら三回勝負で負けた方は罰ゲーム……とかはどうかしら?』

 

 

 

 不敵な笑みを浮かべるカグラ。

 

 

 どう見ても負けに行く勝負。

 それでもあえて罰ゲームを付けるのには理由がある。

 

 リスナーのみんなはその方が盛り上がってくれるから。

 ただの勝負よりも遥かに盛り上がってくれるので、罰ゲームを付けない理由はなかった。

 

 

 

オンプ:『いいですねー。もちろんお受けするのですよー。私が勝ったらそのパッドを外してもらうのですー』

 

 

 

 オンプの視線がカグラの胸へと向いていた。

 

 

 

カグラ:『ふぇ!? ぱ、ぱ、パッドじゃないわよ!?』

 

オンプ:『楽しみですねー。それじゃあ早速始めましょうか』

 

カグラ:『ちょっと待って。まだ話は――』

 

 

 

 カグラの静止をものともせずに、オンプはゲームを開始していた。

 

 

 

カグラ:『わわっ、ちょ、ちょっと待ってよ。私、やり方がまだわからな――』

 

オンプ:『簡単なゲームですから大丈夫ですよー。十二人のキャラでレースをして勝てば良いだけですからー。私たち以外CPUにしておくので勝てますよー』

 

 

 

【コメント】

:これは流石にカグラ様が負けるな

:罰ゲームwww

:でも、オンプ先輩のプレーを考えると

:……良い勝負か?

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 三回の勝負が終わり、勝敗はあっさりとついてしまった。

 

 

 

オンプ:『うぅぅ……』

 

 

 

 涙目になりながらギュッとコントローラーを握りしめるオンプ。

 彼女の画面には十二位の文字がデカデカと輝いていた。

 

 

 

カグラ:『えっと、オンプ先輩……? も、もう一回やりましょうか?』

 

 

 

 カグラの画面にはデカデカと一位の文字が輝いている。

 

 初めはさすがに慣れていなかったカグラ。

 七位からスタートしていたのだが、次第に慣れてきて、二回目は四位。そして、三回目には一位になっていた。

 

 ビギナーズラックもあったかもしれない。

 しかし、それだけでは説明できないこともあった。

 

 妨害の亀甲羅やバナナの皮にはわざとかと思うレベルで悉く引っかかっていき、池という池には落ち、見ていて可哀想になってくるレベルだった。

 

 結果的にはまさかの一度も触ったことがないカグラの三連勝。

 さすがにかわいそうに思ったカグラは、思わず声をかけていた。

 

 

 

オンプ:『うぅぅ……、約束は約束なのですー。なんでも罰ゲームを言って欲しいのですー』

 

カグラ:『わかったわ。それじゃあ罰ゲームね』

 

オンプ:『も、もっとかわいいパンツをはいておけば良かったですよー。と、トレーニングに付き合うのだけは嫌なのですー。ほ、ホラーも苦手なのですー』

 

 

 

 青ざめるオンプ。その罰ゲーム内容から誰が言ったのか容易に想像がつく。

 

 

 パンツはおそらくアカネ先輩かタマキ先輩。

 トレーニングはタイガ先輩。

 ホラーはツララ先輩。

 

 

 だいたいこの辺りの人が罰ゲームに指定してきそうだ。

 男性とはおそらく罰ゲームがある様なものはしていないだろうし、コウ先輩は怖がる様な罰ゲームはしなかったのだろう。

 

 

 三期生で言うなら、ユイは相手が恥ずかしがる様な罰ゲームをしてくるだろう。

 ココママやユキくんはコウ先輩と同じタイプ。

 カグラはむしろ罰ゲームを受けるタイプだった。

 

 そのカグラがまさかの勝利をしてしまった。

 負けるつもりでいたのだから、内容には少し困ってしまう。

 

 

 

【コメント】

:まさかの三連勝w

:ヒメノン、ここまでポンだったとは

:というかカグラ様、普通に上手くないか?

:カグラ様、実はポンじゃなかったのか?

:一体どんな罰ゲームを言うのか

 

 

 

カグラ:『それじゃあ、罰ゲーム。また今度、別のゲームで一緒にコラボをすること!』

 

オンプ:『――それでいいのですかー? 全然罰じゃないのですよー?』

 

カグラ:『罰よ! だ、だって、また私に負けに来るのだからね』

 

オンプ:『わかったのですよー。次は私が勝てるようなソフトを持ってきますねー』

 

 

 

 こうして、次のコラボを取り付けつつ、良い雰囲気のままカグラの放送は終わっていた。

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯姫のご乱心 ♯ヒメ姫》コラボ解禁。姫同士の優雅なゲーム《神宮寺カグラ/姫野オンプ/シロルーム》』

3.9万人が視聴 0分前に公開済み

⤴1.5万 ⤵22 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:kagura_Room.神宮寺カグラ

チャンネル登録者数8.7万人



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第3話:凸撃、隣のモノマネ対決!? ♯猫羊

『《♯羊布団 ♯猫羊》凸撃、隣のモノマネ対決!?《羊沢ユイ/猫ノ瀬タマキ/シロルーム》』

2.1万人が待機中 20XX/06/01 21:00に公開予定

⤴1,290 ⤵2 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

 ユイはタマキと相談して、あえてコラボ配信のタイミングを一時間ずらしていた。

 もちろん担当には事前に確認済みで、許可はもらってある。

 

 

 理由は簡単で今回の配信内容にあった。

 

 

 特定の誰かのものまねをして、シロルームのライバーに電話。

 モノマネをしたユイたちが本物か、それとも別の人物かを当ててもらうというもの。

 そのためにシロルームメンバー全員のキャスコードアイコンも集めた。

 

 さすがに自分の名前のアカウントで通話をしたら、誰かバレてしまうので、そこを誤魔化すために準備したものだった。

 

 

 そして、皆が放送を終えるこのタイミングで通話。

 それなら流石に他人の放送は見ていないだろう、と。

 

 

 そして、本人か偽物かを答えてもらい、ユイとタマキのどちらが多く騙せるかを競いあうゲームだった。

 

 

 

タマキ:[絶対に負けないのにゃ!]

 

ユイ :[うにゅ、頑張ってなの。ゆいは適当にするの]

 

タマキ:[とか言って闘争心メラメラなんだにゃ。それともゲーム(・・・)で負けを認めるのかにゃ?]

 

ユイ :[うにゅ? それは違うの。猫相手だと適当にやってもぼろ勝ちしてしまうって意味なの。ゆいを本気にさせてから言うといいの]

 

タマキ:[適当と言いながら、やる気満々なのにゃ。でも、油断していられるのも今のうちにゃ。七色の声を持つにゃーに勝てるなら勝ってみるといいにゃ]

 

ユイ :[うみゅ。罰ゲーム忘れてない? 負けた方は勝った方のいうことを一つ聞くの]

 

タマキ:[わかってるのにゃ。とっても楽しみだにゃ]

 

ユイ :[うにゅ、猫が跪いて謝ってくるのを楽しみにしてるの]

 

 

 

 チャット画面から目を離したユイはユキからもらった羊の着ぐるみに身を包み、気合を入れる。そして、ユイは軽く自分の声色を確かめる。

 

 

 

「わ、わふぅ……。ぼ、僕はシロルーム三期生の雪城ユキです。そ、その、今日は拾いに来てくれてありがとう……」

「ここばんはー、シロルーム三期生の真心ココネですー。ママじゃないですよー」

「仕方ないから来てあげたわよ。神宮寺カグラ。カグヤじゃないからね!」

 

 

 

 同期三人の声を出してみる。

 

 

 

「うん、大丈夫……。でも、相手は何を考えているかわからないタマキ先輩。これだけじゃ不十分かも。本当に何を考えているか分からないもんね」

 

 

 

 相手は二期生の裏のまとめ役、と称される人物。

 

 一体何を考えているのか、全く読めなかった。

 

 

――わざわざ私の得意分野で勝負してくるなんて……。

 

 

 ただ、ユイとしても主導権を相手に握られるつもりもない。

 それに、何よりもゲーム(・・・)で負けるわけにはいかない。

 

 

 

「勝つのはユイなんだから」

 

 

 

 少し気合を入れた後、みんなの配信前に送られてきたユキくんのチャットを見る。

 

 

ユキ :[み、みんな、頑張って……]

 

 

 いかにもユキくんの緊張が伝わってくるその言葉。

 でも、同時に三期生みんなのことを心配してくれていることもよく伝わってくる。

 

 

 

「これはユキくんのためにも、負けられないね」

 

 

 

 さらに覚悟を決めるとユイは配信画面にミニアニメを流し始める。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ミニアニメが終わると配信画面に二つの段ボールを表示させる。

 ユキくんがいつも使ってる段ボールだが、その文字が違う。

 

 

[私は誰でしょう]

 

 

 そう書かれた段ボール。

 それだけ画面に表示させるとユイは声を出す。

 ただし、それはいつものセリフではなかった。

 

 

 

ユイ :『わふぅ……、羊飼いのみなさん、こんばんは。シロルーム三期生の雪城ユキです。今日も拾いに来てくれてありがとうございます』

 

 

 

【コメント】

:えっ!? ユキくん?

:ユキくんもコラボだった?

:タイトルには書いてないな

:もしかして、前みたいにユキくんを誘拐したのか?

 

 

 

――あれっ? ちょっとコメント欄が酷くないかな?

 

 

 思わず苦笑いを浮かべてしまうが、それを画面では見せないようにする。

 

 

 

タマキ:『うみゅー、コメントうるさいの』

 

 

 

 ユイがユキくんの声で登場したからか、タマキは敢えてユイの声で登場してくる。

 ただ、微妙に違う声。

 

 

 少しトーンが低いし、掠れてる感じがする。

 でもここがユイの放送、と言う付加価値が加わると違和感は和らいでいた。

 

 

 

【コメント】

:ユイちゃん、風邪でもひいた?

:早く治した方がいいよ

《:¥1,000 治療費》

:いや、待て。タイトルを考えると偽物?

 

 

 

ユイ :『うみゅー!! ゆいは風邪なんて引いてないの! 猫は嘘をついたらダメなの!』

 

タマキ:『うみゅー、治療費ありがとうなの。ゆいは本物のゆいなの』

 

ユイ :『全然違うの! みんな、猫に騙されたらダメなの!』

 

タマキ:『にゃにゃ、羊にも騙されたらダメなのにゃ』

 

 

 

【コメント】

:草

:ユイちゃんは相変わらずモノマネが上手いな

:たまきんは微妙に違うんだけど、特徴を捉えてるんだよな

:意外とわからないかもしれない

 

 

 

ユイ :『うみゅー、改めてシロルーム三期生の羊沢ユイなのー。開始早々疲れたので今日の配信は終わるの。お疲れなのー』

 

タマキ:『にゃー! ちょっと待つにゃ! にゃーの自己紹介がまだにゃ。にゃーはシロルーム二期生の猫ノ瀬タマキなのにゃ。それじゃあ、お疲れ様なのにゃー!』

 

 

 

 二人で手を振って、そのまま配信画面がエンディングに切り替わる。

 

 

 

【コメント】

:まさかのw

:終わった?w

:ツッコミ役が不在だからw

:何もせずに終わったw

:モノマネ対決は?w

:ツッコミを……。ツッコミを呼べ!

:草

 

 

 

 流石にこのまま配信が終わらせることはせずに、すぐに画面を元に戻す。

 

 

 

ユイ :『うみゅ、ツッコんでくれないと本当に終わっちゃうの』

 

タマキ:『それはそれで楽しいかな、と思ったのにゃ。二人でとことんボケ倒すのにゃ!』

 

ユイ :『うにゅ、それもいいの。それならツッコミは通話する相手に期待するの』

 

タマキ:『それだにゃ! 早速通話だにゃ!』

 

ユイ :『うみゅ、最初の相手はタマキ先輩に任せるの』

 

タマキ:『んにゃ、それじゃあまずはこの人にゃ』

 

 

 

 ピコピコピコッ……、ピコピコピコッ……。

 

 

 

 キャスコードの通知音が鳴り響く。

 

 

 

【コメント】

:一体誰にかけたんだ?

:たまきんなら二期生か?

:ユイちゃんの枠だから三期生という可能性もあるな

:いや、黒い猫だぞ? きっと暴走特急を召喚するはずだ

:ツッコミ役が欲しいと言っただろう? つまり召喚するのはポン枠だ! カグラ様だ!

:なぜポン?w

:ポンじゃツッコメないぞ!? ますますカオスにw

:むしろそれが狙いかw

:呼ばれそうなポン……、ユキくんか!?

 

 

 

 電話相手を予想するコメントが流れていた。

 つまり、タマキ先輩が呼ぶ相手は、ここで一切名前が上がっていない相手ということをユイは予想がついた。

 

 

 

ユイ :『うみゅ、草先輩か真緒先輩?』

 

タマキ:『にゃにゃ、よくわかったのにゃ』

 

 

 

 タマキが驚いた表情を見せたその瞬間に電話がつながる。

 

 

 

ユキヤ:『――どうした?』

 

 

 

 繋がったのは、ユイが予想した一人。

 真緒ユキヤだった。

 一期生のミステリアスな雰囲気を持った男性Vtuber。

 そのクールな声が通話先から聞こえてくる。

 

 

 

【コメント】

:まさかの真緒さんだwww

:ど、どうなるんだ!?

:一番冗談が通じないタイプじゃないか?

:も、物真似をするんだよな?

 

 

 

ユイ :『やっほー! ゆっきーだねー。どうしてこんなところに来たの?』

 

 

 

 ユイは迷わずに美空アカネの真似をしていた。

 あまり接点がないであろう二期生や三期生よりも一期生のまねで行った方がバレやすい分、力の差がはっきりとわかるだろう。

 

 

 

ユキヤ:『……美空アカネか? いや、違うな。なんの真似だ、羊沢ユイ。いや、それだけじゃない。三期生が簡単に俺にかけられるはずない。そうなると……猫ノ瀬タマキもいるのか?』

 

タマキ:『にゃにゃにゃ!? な、何も言う前から当てるのはずるいのにゃ!』

 

ユキヤ:『なるほど、モノマネを当てていくゲームだったか。それはすまないな。俺はそういった類のものは苦手だ』

 

ユイ :『うみゅー、仕方ないの。これはどっちも引き分けなの』

 

タマキ:『にゃ、にゃーの作戦が裏目に出てしまったのにゃ』

 

ユキヤ:『俺はもう用事はないな? それじゃあ、失礼するぞ』

 

 

 

 悔しそうに口を噛み締めるタマキ。ただ、その仕草は明らかに嘘っぽい。

 きっと、この結果も予想通りだったのだろう。

 

 そんな中、ユキヤは電話を切っていた。

 

 

 

ユイ :『うみゅ、次はゆいが掛けるの』

 

タマキ:『にゃにゃ、ユキくんかにゃ? そろそろ声が聞きたくなってきた時間なのにゃ?』

 

ユイ :『ユキくんは後からゆっくり電話するの。だから大丈夫なの。今は勝ちに行くの』

 

タマキ:『それは楽しみなのにゃ。一体どんな人物でくるのにゃ?』

 

 

 

【コメント】

:ユイちゃんならそう言いつつユキくんに平気でかけるからなぁw

:予想外のところでくるならユージ草か?

野草ユージ :人の名前に草を生やすなー

:ユージがいて草

:本物w

:略してユージ草

 

 

 

タマキ:『ユージ草が配信見てるから別の人しかないのにゃ。誰を選んだのにゃ?』

 

ユイ :『うにゅ、もちろんこの人なの』

 

 

 

 ユイは自信たっぷりに答える。

 そして、自分のチャットから連絡をとる。

 

 

 

ココネ:『あれっ、ユイ? どうしたの?』

 

 

 

 普段の敬語じゃないココネが電話に出る。

 

 

 

【コメント】

:ココママ、同期相手だと砕けた話し方になるんだw

:何も言わずにバレてて草

:何を考えてるんだ、ユイちゃん

:草

 

 

 

ユイ :『私はシロルーム三期生、真心ココネですよー』

 

 

 

 ユイは敢えてココネの声色で話し始める。

 タマキならこの意図をわかってくれると信じて――。

 

 

 

【コメント】

:草

:草

:まさかの本人w

:絶対バレるだろw

:草

:草

 

 

 

ココネ:『ユイ? なんで私の真似をしてるの? もしかして配信中?』

 

ユイ :『配信中ですよ。どれだけ物真似で騙せるかをしてるんですよ』

 

 

 

 その二人のやりとりを見て、ピンときたタマキは二人の間に割って入る。

 

 

 

タマキ:『私が本当の真心ココネですよ。ほらっ、ママじゃないですよー』

 

ユイ :『私がシロルーム三期生のココネですよ』

 

ココネ:『ちょ、ちょっと、配信してるならリスナーの人が困惑しちゃいますよ!? それに私が本当の真心ココネですよ!?』

 

 

 

【コメント】

:草

:混沌としてきたw

:ユイちゃん、本当にうまいなw

:たまきんはまだわかるw

:ココママが必死で草

:草

 

 

 

ユイ :『うにゅ、これだと誰が本物かわからないの』

 

タマキ:『こうなったら別の人に聞きに行くしかないにゃー』

 

ココネ:『ちょ、ちょっと待って!? どこをどう見ても私が本物ですね!? そもそも私に電話をしてきたんですよね!?』

 

ユイ :『うにゅー、仕方ないの。こうなったら三期生のことを一番わかっているユキくんに聞くしかないの』

 

タマキ:『にゃにゃ、まだ向こうも配信をしているみたいだから、ちょうどいいにゃ』

 

ココネ:『わ、私も参加するのですか? ゆ、ユキくんに迷惑かからないかな……』

 

ユイ :『うみゅー、それじゃあアイコンと名前をココネに変えるの。それでグループにユキくんを――』

 

タマキ:『まだ配信が続いているのだったら、アカネパイセンとコウパイセンも誘わないとダメなのにゃ』

 

ココネ:『えっ!? わ、私、コウ先輩と話すの、これが初めてなんですけど、こんな形になるのですか!?』

 

ユイ :『うみゅ、きっと名前を覚えてもらえるの』

 

ココネ:『ぜ、全然良くないですよー!?』

 

タマキ:『んにゃ、それじゃあココネっちは参加なしっと。にゃーとユイっちのどっちかが本物のココネっちとユキくんに認めてもらえるわけだにゃ』

 

ユイ :『ゆいはそれで全然いいの。ユキくんを独り占めなの』

 

ココネ:『だ、だめです!? わ、私も参加します! ユキくんにココネと認めてもらうのは私です!』

 

ユイ :『仕方ないの。それじゃあ、ココママはゆいたちの正体がバレてから(・・・・・)しか話したらダメなの。一緒に話すと流石にココママだとわかるの。だから、一番最後に話してそれで正体を当てられたらココママの勝ち、もし間違えたらユイたちの勝ちなの』

 

ココネ:『わ、わかりました。ユキくんなら私の事をわかってくれるはずですから――』

 

 

 

 ユイたちに負けなくない一心でついつい引き受けてしまう。途中まで話せないというかなり不利な状態で――。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 ライブ配信中に突然かかってきたココネからの通話。

 一応アカネやコウに確認をした後、僕はその通知を取っていた。

 

 

 

『あの……、ココママ? 今、まだ放送中なんだけどその――』

 

アカネ:『パンツの色を教えてくれない?』

 

 

 

 僕の言葉に割り込むようにアカネが余計なことを言ってくる。

 

 

――しかも、僕の声色を真似て……。

 

 

 慌てて僕はココママに訂正を入れる。

 

 

 

『えと、あの、ち、違うよ? 今のはその……、あ、アカネ先輩が言ったことで――』

 

ココネ?:『もう、ユキくんは。そんなに私のパンツが知りたいのですか? 教えるのはユキくんだけですよ? ちょっと待ってください。今確認しますので――』

 

 

 

――あ、あれっ、なんかココママがおかしい? って、今の反応はユイだよね? モノマネでもしてるのかな?

 

 

 一瞬訳もわからずに固まってしまう。

 

 でも、すぐに我に返るとこのままだと僕が変態だと言うことになりそうなので、反論をする。

 

 

 

『ち、違うよ!? そ、その、見なくていい……。見なくていいから!?』

 

アカネ:『そうだよ。僕が見に行くから!』

 

『あ、アカネ先輩!? ぼ、僕そんなこと言わないよ!?』

 

 

 

【コメント】

:アカネパイセンの暴走が始まったw

:というか、この人、自分が見たいだけだよな?w

:草

:でも、なにげにユキくんに似てるなw

:本人がいなかったらわからないんじゃないか?w

:ココママは何か変だな

:でも、ユキくんが絡むとこんな感じじゃないか?w

:確かにユキくん依存症だもんな。ココママ

 

 

 

コウ :『ユキくん、もう一回封印しちゃう?』

 

『あっ、そ、そうだね……。えいっ』

 

 

 

 アカネに再び段ボールを被せる。

 これで段ボールが二つ重なっていて、ちょっとのことでは顔が出せない様になった。

 

 

 

アカネ:『ぐっ……、しまった。これだと出られない。段ボールに僅かに残るユキくんの残り香を嗅ぐことしかできないじゃないか!』

 

『か、嗅がないで下さい!! もう、僕が使ってた分は取り戻します。代わりにこっちに入っていて下さい!』

 

 

 

 僕は段ボールを取り戻すと、コウと二人準備していた真っ黒に塗った怪しげな段ボールにアカネを閉じ込める。

 取り戻した段ボールは当然僕の方へ……。

 

 

――やっぱり段ボールがあると落ち着くね。

 

 

 

アカネ:『うおっ、な、なんだこの段ボール……。私はこんなのを用意してないぞ!?』

 

コウ :『えぇ、私とユキくんの合作よ。アカネの暴走が止まらなくなったときに使おうと思ってたのよ』

 

『そ、その……、できたら使わないならそれでも良いと思ってたんだけど。全くユイは……、アカネ先輩を暴走させたらダメだよ』

 

アカネ:『くっ……、せっかく合法的にユイちゃんのパンツを聞くチャンスだったのに……』

 

コウ :『えっ!? 今のユイちゃんだったの!?』

 

 

 

【コメント】

:へっ!?

:今のユイちゃん!?

:ココママじゃないの!?

:ユキくん、わかってたの??

:全然気づかなかった

:アカネパイセンも気づいていただと!?

:コウさんが気づいてなかったのに

 

 

 

 確かに声だけだとわかりにくいよね。

 どちらかと言えば、話の内容だから普段から接してないとわかりにくいかも。

 

 

 

『アカネ先輩、わかってたんですね』

 

アカネ:『当然だよ? さすがに嫌がる相手に聞くなんてそんなこと……、いつもしてるけど、でも、相手の本質を絵に落とし込む私が、明らかにココネちゃんじゃない話し方を見逃すわけがないよ』

 

 

 

 少しだけアカネ先輩のことを感心してしまう。

 だから、黒段ボールの封印を解いて、僕と同じ段ボールに入れておく。

 

 

 

コウ :『あ、あれっ? これじゃあ、ボクだけ仲間はずれみたいじゃない?』

 

アカネ:『ユイちゃんだとわからなかったコウが悪いよ。それじゃあ、あらためて、ユイちゃん、今日のパンツは――』

 

ユイ :『うみゅ……、ばれたのなら仕方ないの。ゆいの配信、モノマネ対決だったからうまく相手をだませたら勝ちだったの。敗者のゆいは当てた暴走特急の言うことを聞くの。今日のパンツは――』

 

ココネ??:『ちょ、ちょっと、そんなに簡単にパンツの色を教えたらダメですよー!』

 

 

 

 別のココネが話に加わってくる。

 

 今度は雰囲気や話の内容は本物のココママに思える。でも、声が微妙に違う……。

 でも、風邪を引いてるとか、マイクが変わったとか、そういう事情で違うくらいにも思える。

 

 

――でも、そもそもココママなら最初から止めてこなかったのはおかしくないかな? それならモノマネをしているのはユイのコラボ相手の――。

 

 

 

『えと……、もしかして猫ノ瀬先輩?』



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第4話:勝利は誰の手に? ♯あかわふこみー

タマキ:『うにゃ、上手くだませると思ったのに惜しかったのにゃ』

 

『さ、流石にわかるよ……。ココママの声は何度も聞いてるから』

 

ユイ :『うみゅ、ユキくんが想像以上に強敵だったの』

 

 

 

 悔しそうにするユイとタマキ。

 一応、僕の配信画面に二人のアバターも静止画だけど表示する。

 

 ただ、あまりにも人が多くなりすぎたので、緊張してきた僕は次第に段ボールの中に体を埋めていった。

 

 

 

コウ :『えっと、ボク達の方もまだ配信中だったけど、よかったのかな?』

 

ユイ :『うみゅ、問題を出す側と答える側の両方が見られるからきっと楽しいの』

 

『で、できたら事前に教えてほしかったよ……』

 

ユイ :『それだとモノマネが来るとわかって身構えてしまうの。それにまだモノマネは終わってないの』

 

『……えっ?? で、でも、ユイのコラボって猫ノ瀬先輩だけだったよね?』

 

ユイ :『特別ゲストなの。どうぞなの』

 

ココネ:『えっと……、今更ですごく出にくいんですけど、三期生の真心ココネですよ』

 

ユイ :『本物のココママも連れてきたの』

 

 

 

 にっこりと微笑むユイのかけ声と共に現れたのは三人目のココネだった。

 その瞬間にアカネがきっぱりという。

 

 

 

アカネ:『よし、偽物だ!』

 

コウ :『……確かにココネちゃんならもっと早くに二人にツッコんでいそうだよね?』

 

 

 

 真っ先にユイのことを言い当てたアカネとコウは偽物、という方に傾いている様だった。

 

 確かにこのタイミングまで一切何も言わなかったのは、ココネとしては違和感がある。

 事実、僕もさっきその違和感で猫ノ瀬先輩を当てている。

 

 

――でも、なんでだろう……。ココママと言われても全く違和感がない……。

 

 

 猫ノ瀬先輩の場合は声色が少し違った。

 ユイの場合は話す内容がおかしかった。

 

 

 でも、このココネにはその違和感が全くない。

 それこそ本人にしか思えないレベルだ。

 

 

――ユイがわざとらしく[本物]って言葉を付けたのも気になるかな。

 

 

 今までユイは嘘を言って騙したことはない。

 

 敢えてそう思わせる様に言うことで、相手から勘違いさせていた。

 

 

――つまり僕は……、うん。素直にユイとココママを信じたらいいんだね。

 

 

 にっこり微笑むとアカネとコウに向けて言う。

 

 

 

『アカネ先輩、コウ先輩、違うよ。この人は本物のココママだよ』

 

タマキ:『にゃにゃ、意見が分かれたのにゃ』

 

ココネ:『ゆ、ユキくん……』

 

ユイ :『うみゅ、どうするの? 多数決?』

 

アカネ:『ユキくんがそういうなら私は全力で乗っかるよ! この枠はユキくんの枠だ! あえて間違ってそうな方を選ぶ。これぞ、配信者って感じだよね?』

 

『えっ!? ち、ちが……』

 

コウ :『はぁ……、アカネはまた適当なとこを言って……。でも、ボクたち以上にココネちゃんを知ってるユキくんがいうなら間違いないね。ボクもユキくんに乗るよ』

 

タマキ:『間違えたら当然、罰ゲームなのにゃ。それでもいいのかにゃ?』

 

アカネ:『もちろんだよ!!』

 

コウ :『ちょ、ちょっと!? またタマキもいきなりそんなことを追加をしてこないでよ。アカネも勝手に乗らない! ……ユキくん、大丈夫?』

 

『うん、大丈夫。むしろ、今の猫ノ瀬先輩の言葉が致命的かな。相手に猜疑心を植えつけて悩ませようとしてるんだね。僕はユイとココママの言葉を信じるだけだから……。この人は本物のココママだよ』

 

 

 

 段ボールから少し顔を覗かせて、はっきり言う。

 

 

 

ココネ:『ゆ、ユキくん……。や、やっぱりわかってくれたんですね』

 

 

 

 ココネが声を震わせながら喜んでくれる。

 

 

 

【コメント】

:さすがユキくん

:この流れは絶対に偽物だと思った

:まさかの本物だった!

野草ユージ :うそっ、本物なのか!?

:驚きすぎ草

 

 

 

ユイ :『うみゅぅぅぅぅ!! ま、負けたの……』

 

タマキ:『にゃははっ、ユイっちは自信あったからにゃ』

 

『えっと……、当てることができたのはユイのおかげだよ』

 

ユイ :『うみゅ? ど、どういうことなの??』

 

『だって、ユイが[本物]のココママって言ったでしょ? ここでユイが嘘をつくはずないもんね』

 

ココネ:『確かにユイはそんな嘘はつきませんね。わざと言葉を隠すことはあっても』

 

 

 

 僕のいうことにココネが同意してくれる。

 

 

 

コウ :『なるほど、同期だからこそわかる……か。ボクとアカネみたいな感じだね』

 

アカネ:『えっ!? バットで一方的に殴られる関係なのか?』

 

コウ :『また喰らいたいの?』

 

アカネ:『お菓子?』

 

コウ :『もちろん右ストレートよ♡』

 

アカネ:『死ぬよ!?』

 

『えっと……、その……、ぼ、暴力を振るい合う仲ではない……かな。僕も痛いの嫌いだし……』

 

ユイ :『うにゅー、全力を出して負けたのは悔しいけど、でも楽しかったの。またやりたいの』

 

『あ、あははっ……、そ、そのときは事前に教えてよ……』

 

ユイ :『うみゅ、もちろん、内緒でするの』

 

タマキ:『それじゃあ、そろそろ罰ゲームを決めてもらう時間なのにゃ。今回の勝者はココネっちなのにゃ』

 

ココネ:『えっと……、今回のは私というよりユキくんの勝ちに見えますけど』

 

ユイ :『うみゅ、確かにユキくんはすごかったの』

 

タマキ:『それじゃあ、ユキくんの勝ちなのにゃ。はい、拍手なのにゃ』

 

 

 

【コメント】

:888888

《:¥8,888》

:888888

野草ユージ :888888

:888888

 

 

 

アカネ:『あははっ、ユージが書くと燃えてるみたいだね』

 

 

 

 アカネがコメント欄を見て爆笑していた。

 

 確かにパチパチ……という音が火花を出して燃えている音にも聞こえる。

 

 

 

【コメント】

:ユージ888888

野草ユージ :勝手に燃やすな

:ユージ888888

《:¥8,888》

 

 

 

『わわっ、スパチャで拍手、ありがとうございます。何が何だかわからないまま勝者になってしまいました……』

 

ユイ :『うみゅ。罰ゲームの発表、よろしくなの』

 

『へっ!?』

 

タマキ:『そうにゃ。勝者が敗者に罰ゲームを与えることができるのにゃ。今回の勝者はユキくんなのにゃ。好きな罰ゲームを言うといいのにゃ』

 

アカネ:『くーっ、せっかくユイちゃんとタマキのあられもない姿を見るチャンスだったのに……。はっ!? ゆ、ユキくん……、ものは相談だけど――』

 

コウ :『はいはい、アカネはちょっとあっちへ行ってましょうね』

 

アカネ:『わ、私はまだ何も言ってな――』

 

 

 

 アカネ先輩の声が小さくなっていく。

 

 

 

ココネ:『ほらっ、なんでも好きなことを言って良いんですよ。ユキくんがしたいこと、して欲しいことはなんですか?』

 

 

 

 ココネが優しい言葉を掛けてくれる。

 

 

――僕がしたいこと……か。

 

 

 後輩ができたらまたシロルームの雰囲気が変わるかもしれない。

 突発的な大人数でのコラボだったし、雰囲気に飲まれてあたふたとしてしまったわけだけど、でも楽しかったかな……。

 

 

 

『また、こういう大人数でのコラボもその……してみたい……かな? た、大変だったけど……』

 

ユイ :『うみゅ、ゆいに任せておくと良いの! ユキくんとの大人数オフコラボ、考えてみるの!』

 

タマキ:『にゃにゃ、それもいいかもしれないのにゃ。担当の根回しは任せるにゃ』

 

『えっ!? ち、違うよ? オフじゃないよ……?』

 

コウ :『なんともユキくんらしいと言うか、罰ゲームらしくないというか……』

 

アカネ:『よし、全員集合のサムネなら任せて!』

 

 

 

【コメント】

:シロルーム全員でのコラボか。

:今だと十二人か? すごい数になるな

:ただ、オフだと配信されないのか?

野草ユージ :俺っちももちろん参加するぞ!

 

 

 

ココネ:『オフだと集まる場所が大変かもしれませんね。集まるのは同期で、コラボは全員で……という形の方が良いかもしれないです』

 

コウ :『それもそうね。私たちは更に男女で分かれることになりそうだけどね』

 

『あっ、それなら僕は――』

 

ユイ :『うみゅ。もちろん、ユキくんはゆいたちと集まるの!』

 

ココネ:『当然ですね。ユキくんは三期生のメンバーですから』

 

『あぅぅ……、そ、そうなるよね。うん、お手柔らかにお願いね……』

 

タマキ:『全員でやるとなると急いだ方が良いかもなのにゃ。今は四期生募集で担当たちも忙しくしているのにゃ』

 

『そ、そうだ、四期生……。僕たちにも後輩ができるんだよ。どんな子なんだろう。楽しみだね』

 

 

 

 思い出した様に言うとココネがすねた口調で言ってくる。

 

 

 

ココネ:『ユキくんは三期生なんですからね』

 

『えっ? もちろんそうだけど……?』

 

ココネ:『あんまり四期生の子に浮気したらダメですからね』

 

『浮気!? し、しないよ、そんなこと……』

 

ユイ :『うみゅ、そうなの。ユキくんはちゃんと次にゆいとコラボをしてくれる良い子なの』

 

『えっ!?!? は、初耳だよ!?』

 

ユイ :『今言ったの。約束なの』

 

『わ、わかったよ……。えと……、真緒さんたちとのコラボの前ならできるかな……』

 

ココネ:『あーっ、わ、私もコラボを……』

 

『えとえと……、あっ、ご、ごめん。ユイのを入れたら次は少し先になるかも……。さ、再来週で良いかな?』

 

ココネ:『うぅぅ……。わかりました。それでお願いします』

 

ユイ :『うみゅ、早い者勝ちなの。ブイッ!』

 

アカネ:『なら私も――』

 

コウ :『はいはい、ボクがコラボしてあげるから我慢してね』

 

 

 

【コメント】

:大人気ユキくんw

:コラボだらけw

:ユキくんも成長したね。あれだけコラボ嫌がってたのに

:同期だと慣れたのかな

 

 

 

コウ :『ユキくん、そろそろ時間が――』

 

『あっ、そ、そうだね。それじゃあ、最後にみんな挨拶と報告が何かあったらどうぞ』

 

アカネ:『次こそはみんなが聞きたいエチエチな情報を聞き出すから楽しみにしててね。あと、私のタグはユキくんに任せた!』

 

『えっ!? き、聞いてな――』

 

コウ :『ボクはその情報を聞き出そうとするのを全力で阻止するよ! でも、今日はユキくんとのコラボ、新鮮で楽しかったよ。真面目な後輩くんもいいね』

 

アカネ:『こ、コウは渡さないよー!』

 

ユイ :『うみゅー、勝負に負けたけど、ユキくんとコラボできることになったからチャラなの』

 

タマキ:『にゃにゃ、全員コラボ、楽しみだにゃ。次はどんな罠を仕掛けるかにゃー』

 

ココネ:『なんかものすごく振り回された気がしますけど、たまにはこういうのも良いかもしれませんね』

 

『あの、アカネ先輩。僕、タグのことは全く聞いてな――』

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯犬拾いました ♯あかわふこみー》コラボ解禁。雑談枠 《雪城ユキ/美空アカネ/海星コウ/シロルーム》』

6.3万人が視聴 0分前に配信済み

⤴3.1万 ⤵47 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ

チャンネル登録者数17.0万人

 

 

 

◇◇◇

【コメント】

:相変わらずのユキくんだったw

:おつーw

:お疲れ様

:タグ押しつけられてて草

:お疲れー

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 配信後、僕はアカネのタグに頭を悩ませていた。

 

 相手は先輩。

 下手なものはつけられない、と考えると僕一人では荷が重かった。

 

 

――ううん、動画のネタをもらった、と考えればいいのかな?

 

 

 そんなタイミングで送られてくるコウからのグループチャット。

 

 

 

コウ :[ユキくん、大丈夫? アカネのタグは適当に「あかー」とかでいいからね]

 

アカネ:[それ、適当すぎない!?]

 

コウ :[つまり、そこまで悩まなくていいってことよ。ユキくんは思い込むタイプでしょ?]

 

アカネ:[よし、それなら今日からみんな、挨拶は「あかー」だ!]

 

コウ :[……アカネ一人でやってよ。そういうわけだから、同期の子につける感じで大丈夫だよ]

 

 

 

 コウは僕に気を遣って、こんなメッセージをくれていた。

 

 ただ、それでも僕自身が納得できるものを渡したい……と色々と案を出して消してを繰り返していると、いつの間にか朝になっていた。

 窓から見える眩しい朝日を見て眉をひそめていた。

 

 

――なんで太陽っていらないときに限って登ってくるのかな。

 

 

 部屋には紙が周りに散らかっている。

 そこまでして、ようやく候補を絞ることができた。

 

 

[ソラー]

[キラッ]

[シュタッ]

 

 

――うん、我ながらボキャブラリーのなさに驚く。

 

 

 

「って、も、もう大学に行く時間だよ!?」

 

 

 

 時計を見ると既に走って行かないと間に合わない時間。

 

 

――今の僕の格好……、ココママに買ってもらった服だ。

 

 

 昨日の配信はすごく緊張していたので、三期生のみんながくれたものを手元に置いて勇気をもらっていた。

 

 

 ココママが買ってくれたユキくんに近い服。

 なぜか服装のことを話したあと、ユイが押しつける様に渡してきた犬の足跡を模した腕時計。

 カグラさんからもらった巨大骨クッション。

 

 

 骨クッションは今、ユキくん段ボールの中に入っている。

 配信中は段ボールを側に置いて、ギュッと骨クッションを抱きしめながら配信をしている。

 恥ずかしいときとかはそれに顔を(うず)められるし、たまにしてしまう寝落ちもクッションがあれば安心だった。

 

 

 そして、腕にしている腕時計。なぜか女性用なのは犬にちなんだ男性ものが見つけられなかったのだろう。

 腕まで気にする人はいないし、これは普段から愛用していた。

 

 

 ココママの服はやっぱり黒のレギンス、白のワンピース、黄色い犬耳パーカー、の組み合わせが一番落ち着くので、みんなの力を借りたいときはこの格好でいたのだ。

 

 

――部屋の中だから、問題ないよね……。そ、外に出るわけじゃないし……。

 

 

 そう言い聞かせて着ていたのだが、今はもう家を出ないと遅刻をしてしまう。

 着替えている時間は――。

 

 

 

「うぅぅ……、悩んでる暇はないよね? ち、遅刻よりはマシかな……」

 

 

 

 ろくに寝ていない、思考が停止した頭で下した結論はそのまま大学に行く……というものだった。

 

 慌てて鞄を持つと、僕はそのまま部屋を飛び出す。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 まずは駅に向かって、必死に走って行く。

 

 

 時間はギリギリ。でも、休まずに走れば間に合うはず……。

 

 

 今まで運動してこなかったことが悔やまれる。

 すぐに僕の息は上がってしまい、呼吸を荒くしながらも気力で駅へと向かっていた。

 

 

――全ては遅刻を免れるために……。

 

 

 駅に着くと、呼吸を落ち着けながら電車の時間を確認しているタイミングで、突然声をかけられる。

 

 

 

「すみません……、少し良いですか?」

 

 

 

 突然声をかけられたことに驚きつつ、そちらに振り替えると、そこには長い銀髪の小柄な少女がいた。

 

 

 僕よりも少し小さな少女。

 頭には赤のキャスケットを被り、白のワンピースを着ており、幼い顔立ちもあって、数歳年下のようにも見える。

 

 でも、僕自身がよく言われていることなので、相手が年上のつもりで接する。

 

 

 

「あっ……、はい。えっと……、その……、どうしました?」

 

「この場所に行きたいのですけど、場所がわからなくて……。どの電車に乗ったらいいかわかりますか?」

 

 

 

 彼女が見せてきた手紙には見知った名前が書かれていた。

 

 

 

【シロルーム】

 

 

 

 直接足を運んだことはないものの、やはり自分が所属する企業。

 その場所等はしっかり調べてあるし、行き方ももちろんわかる。

 でも、気になるのがその手紙に書かれていた先の言葉だった。

 

 

 

【シロルーム四期生、一次試験合格。二次試験のご案内】

 

 

 

 どうやらこの子はシロルームの面接へ向かう様だ。

 

 

――もしかすると僕の後輩になるかもしれない子……。さすがに無碍(むげ)にはできないよね?

 

 

 

「あっ……」

 

 

 

 少女と話しているうちに、乗る予定の電車が出発してしまう。

 

 

――つまり、今から向かっても遅刻……。

 

 

 今日の講義もそれ一つだったので、大学へ行く理由がなくなってしまった。

 

 

 

「その……よかったら案内しようか? 僕の予定もなくなったから……」

 

「えっ!? いいのですか? で、でも、そこまでしてもらったら悪いですよ……」

 

「大丈夫、僕もシロルームには少し用事があるから――」

 

 

 

――せっかく行くのだから担当さんにでも挨拶していこうかな。

 

 

 そんな軽い気持ちで提案してしまった。

 

 今までの僕だと自分からそんなことを言うなんて考えられないのだが、少しずつ配信をすることで僕も成長しているのだろう……。

 

 

 

「ありがとうございます。本当に助かります。あっ、私、七瀬奈々(ななせなな)っていいます」

 

「僕は小幡祐季(こはたゆき)です。それにしても君、シロルームの面接を受けるんだね」

 

「そうなんですよ。やっぱりシロルームのVtuberって憧れますよね」

 

「えと……、そ、そうだね……」

 

 

 

 目を輝かせて言ってくる七瀬。

 流石に自分がそのシロルームに所属しているとは言えずに、苦笑を浮かべてしまう。

 

 

 

「特に三期生! ユキくんが私の推しなんですよ。見てて癒やされるし、どこか応援したくなるんですよね」

 

 

 

 目の前でユキくん(ぼく)について熱く語る七瀬。

 流石にそれを聞いていると恥ずかしくなってくる。

 

 

 

「と、とりあえず急いだ方が良いんだよね? い、行こうか?」

 

「はいっ! よろしくお願いします!」



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第5話:七瀬奈々と夏瀬なな

「そういえば、どうして僕に声をかけてきたの? 駅だと色んな人がいたよね? 駅員さんとかもいたし……」

 

「そ、その……やっぱり大人に声をかけるのは怖くて。私の事を知ってる人がいるかもしれませんし。そ、それとお姉さんは話しやすそうでしたから」

 

 

 

――まぁ、僕も知らない人に声をかけるのは怖いし、同じことだよね。お姉さんじゃないけど。

 

 

 

「えっと、ぼくはお姉さんじゃ――」

 

「あっ、えっ?? もしかして年下ですか?? その、私十八歳なんですけど」

 

「僕は十九……って、そういうことじゃなくて――」

 

「あははっ、やっぱりお姉さんじゃないですかー」

 

「そ、その……、僕は男……だよ?」

 

「えっ!? あっ……、そうなんですね。おにーさんだったんですね」

 

 

 

 意外とすんなり納得してもらえる。

 そこに僕は少しだけ違和感を覚えてしまった。

 

 

 

「でも、やっぱり私からしたらお姉さんです。お姉さんって呼んで良いですか?」

 

「そ、それなら僕の名前で呼んでよ。小幡でも祐季でもどっちでもいいから――」

 

「祐季姉様……」

 

 

 

 上目遣いでぽつりと呟く。

 その姿を見ていると思わず僕も頬が染まってしまう。

 

 

 

「姉様はいらないから……。ゆ、祐季だけでいいよ」

 

「ダメなのですか? 残念です……」

 

 

 

 露骨に落ち込んでくる七瀬。

 

 

 

「あっ、だ、ダメってわけじゃなくて、その……、僕は男だから、お姉さんって呼ばれるのは恥ずかしいって言うか、なんというか……」

 

「あははっ、わかってますよ。今は(・・)小幡さんって呼ばせてもらいますね」

 

「うん、そうしてくれると嬉しいな。……今は??」

 

「はい。それじゃあ、シロルームまでよろしくお願いします」

 

 

 

 どこか引っかかったが、シロルームの最寄り駅に着いたので、そこで話は途切れてしまった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 シロルーム本社はオフィスビルだった。

 入り口にはガードマンが立ち、中はスーツを着た人たちが行き交っていた。

 それを見上げる僕と七瀬。

 

 見た目はシロルームに興味を持っている少女にしか見えないだろう。

 

 

 

「ここがシロルーム……なんですね」

 

「そうみたい。僕も直接来たのは初めてだけど、広いね……」

 

 

 

 本来なら中に入るのも躊躇ってしまうような場所。

 でも、僕たちは関係者なのだから入っても問題ないはず。

 

 

 そう思っていたのだが――。

 

 

 

「ここは小学生が遊ぶ場所じゃないですよ。危ないですから」

 

 

 

 入り口のガードマンによって止められてしまう。

 

 ただ、背が低い見た目少女にしか見えない二人が中に入ろうとしているのだから、当然と言えば当然だった。

 

 

 

「えっと、僕はその……小学生じゃ……」

 

「そ、そうですよ! 私たちは別に小学生なんかじゃありませんよ!」

 

「中学生でしたか。それは申し訳ありません」

 

「ちゅ、中学生でもないですよ!? ぼ、僕は大学生ですよ!?」

 

「だ、大学生!? あっ、も、もしかして小幡祐季さんですか?」

 

 

 

 何故かガードマンの人に名前を言い当てられてしまう。

 

 

 

「えっ、ど、どうして……?」

 

「見た目中学生くらいにしか見えない子は小幡祐季さんで、関係者だからもし来られたら通すように、と仰せつかっております」

 

「こ、小幡さんって一体何者なんですか?」

 

 

 

 七瀬から驚きの目を向けられる。

 

 

――母さんか担当さんの仕業だろう……。もっと別の言い方があるでしょ……。

 

 

 僕は苦笑を浮かべてしまう。

 

 

 

「ぼ、僕はただの大学生だよ……。と、とにかく僕たちは通らせてもらいますね」

 

「は、はい。お止めして申し訳ありませんでした」

 

 

 

 やたら恭しく頭を下げてくる警備員に見送られて、僕たちはシロルーム本社の中へと入っていった。

 

 

◇◇◇

 

 

 

 本社に来たのはいいけど、そこで僕は固まってしまう。

 

 周りを見ても知らない人だらけ。

 後ろには僕の後輩……になるかもしれない子。

 

 流石に何も知りません……とは言えない。

 

 

――こ、こういう時は担当さんを呼べばどうにかしてくれるよね?

 

 

 とりあえず真っ直ぐ受付へと向かっていった。

 

 

 

「シロルームへようこそ。どのようなご用件でしょうか?」

 

「えっと、たんと……じゃなかった。 湯切舞(ゆきりまい)さんを呼んでいただけませんか?」

 

「かしこまりました。では、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

「そ、その……、小幡祐季……です」

 

「では、少々お待ちください」

 

 

 

 受付の女性が内線で話をしてくれている間、七瀬が小声で聞いてくる。

 

 

 

「湯切舞さんって?」

 

「えと……、なんていうのかな。僕の知り合い……でいいのかな?」

 

 

 

 流石にシロルーム三期生の担当さん……とは言えないもんね。

 そんなことを思っていると、内線での話が終わったようだった。

 

 

 

「確認できました。上の部屋に来て欲しい、とのことでしたのでエレベーターで四階へと行っていただけますか?」

 

「かしこまりました」

 

 

 

 言われた通りに四階へと向かう。

 ただ、エレベーターを降りた瞬間にシロルームのアバターたちに出迎えられる。

 

 そこで動きが固まってしまう。

 

 

 

「あっ……、ポップか……」

 

 

 

 エレベーターホールに置かれていたのは等身大ポップだった。

 

 まず最初に元気に笑顔でピースをした美空アカネと優しそうに微笑む海星コウ、ジト目を見せる氷水ツララと段ボールから涙目で顔を覗かせる雪城ユキのポップが目立つ場所に置かれていた。

 

 

 

「って、僕!?」

 

「えっ??」

 

「あっ、ううん、なんでもないよ……」

 

 

 

――そうだった……。驚きすぎてうっかりしてたけど、隣に七瀬がいるんだった。

 

 

 その七瀬は僕のポップを前にして目を輝かせていた。

 

 

 

「……すごいですね、この等身大ユキくんポップ。持って帰りたい……」

 

「え゛!?」

 

「あっ、ち、違いますよ!? ただ私の部屋に飾って、一日中眺めていたいだけですよ!?」

 

 

 

――それでも十分危ない気がするんだけど……?

 

 

 

 少し七瀬から距離を開けてしまう。

 ただ、七瀬はユキくん(ぼく)のファンらしいから、そういったグッズみたいなものは欲しいのかもしれない。

 まだユキくんグッズは発売していないから。

 

 他のシロルームメンバーのことを考えるとすでに作り始めてるんだろうな、とは思うけど。

 

 

――流石に僕は自分のポップはいらないかな。

 

 

 とか、そんなことを考えていると担当さんがホールにやって来る。

 

 

 

「ここにいたんですね、ユキくん。なかなか来ないので、誰かに拾われたのかと心配しちゃいました。って、そっちの方は?」

 

「えっと、この子は七瀬――」

 

「あぁ、夏瀬ななさんですね。なかなか来ないと思ったらユキくんと一緒にいたのですね。はじめまして、シロルーム三期生担当の湯切舞といいます。よろしくお願いします」

 

「さ、三期生の担当……!? あっ、は、はじめまして。夏瀬ななの名前で配信させてもらってます七瀬奈々です。よろしくお願いします」

 

 

 

 一瞬困惑する七瀬だが、すぐに頭を下げて挨拶をしていた。

 

 

 

「あれっ? なつ……せ?」

 

 

 

 さっき聞いた名前と違うような……?

 

 

 不思議に思った僕は、七瀬の方に向く。

 

 

 

「えっと、驚かせちゃいましたか?」

 

「えっと、名前がいくつもあるの?」

 

「ち、違いますよー。私の配信者としての名前です。聞いたことないですか? 夏瀬なな。ちょっとは名前が知られてきてると思ったのですけど」

 

「ご、ごめんね。僕、そこまで詳しくなくて……」

 

「いえ、私がまだまだなんですよ。もっと頑張らないと!」

 

 

 

 七瀬はギュッと両手を握りしめて気合を入れていた。

 

 

 

「うん、そうだね。あっ、面接、頑張ってね」

 

「そうですね。すぐにでも面接を始めたいのですけど大丈夫ですか?」

 

「もちろん大丈夫です!」

 

「あっ、面接官は小幡会長になるのですけど、ユキくんも会って行きますか?」

 

「ぼ、僕は帰ろうかな……」

 

 

 

 回れ右をしてエレベーターの方へ行こうとしたときに、後ろから抱きつかれる。

 

 

 

「どうして帰っちゃうのよ、ゆーくん! ママがこんなに会いたがってるのにー」

 

「こういうところだよ!? と、とにかく離れてよ! 七瀬さんが見てるんだから」

 

 

 

 慌てて離れると母さんは目をキョトンとさせている七瀬をじっくり見ていた。

 

 

 

「へぇ……、ゆーくんはこういう子が好きなんだ……。てっきりココネちゃんやユイちゃんのことが好きなんだと思ったよ」

 

「ちょ、ちょっと、母さん!? 別に七瀬さんはそういう仲じゃないよ!? 困ってたからシロルームに案内してあげただけだから……」

 

「……? えっと、そちらの方は?」

 

 

 

 母さんの対応に困惑する七瀬。

 すると、冷静に担当さんが答えてくれる。

 

 

 

「こちらはシロルームの会ちょ――」

 

「ゆーくんのママだよ! よろしくね」

 

 

 

 担当さんの言葉を遮る母さん。

 僕に抱きつくと手でブイの文字を作りながら七瀬に話しかけていた。

 

 

 

「ぼ、僕はもういいよね? 母さんにも会ったことだし、あとはたんと……舞さんと少しだけ話をしてから帰るよ」

 

「そうですね。私の方も今後の予定を確認しておきたかったので、ちょうどよかったです」

 

「えと……、本当に小幡くんって何者なの?」

 

「ぼ、僕は普通の大学生だよ……」

 

「もう、普通じゃないでしょ! とぉーーっても可愛い大学生だよ。今日もユキくんみたいな格好をして……。あっ、ユキくんといえば、どうかな、この等身大ユキくん、いいでしょ」

 

「うん、ゴミ箱にでも捨てておくね」

 

「だ、ダメですよ!? 捨てるなら私がもらいます」

 

 

 

 僕と母さんを割って入るように七瀬が言ってくる。

 

 

 

「えっ?」

 

「あっ、七瀬ちゃんはユキくんファンなの?」

 

「あっ、は、はい……。そ、その……」

 

 

 

 七瀬は顔を染めて俯けていた。

 その反応はまるで恋をする乙女のようで、全てを理解した母さんは僕の顔を見て、ニヤリと微笑んでいた。

 

 

 

「じ、実はその……、ユキくんがいたから私は配信を続けて来れたんです。それで、四期生に応募したことを伝えたらユキくんが色々教えてくれるって……、その、約束してくれて――」

 

「へぇー、ユキくんがそんな約束をしてくれたんだ……」

 

 

 

 母さんがジト目で僕のことを見てくる。

 

 

――えっ? そんな約束、してないけど?

 

 

 僕は首を傾げていた。

 

 

「あっ、でもでも、配信中のやりとりですから、その……たくさんのコメントの一つだと覚えていないかも――」

 

「大丈夫、配信中の約束でもユキくんは約束を守ってくれるよ。ねっ、ゆーくんもそう思うよね?」

 

「えっ? あ、うん。そ、そうだね。約束したならユキくんは守ってくれる……よ?」

 

「はいっ! そう信じて私は合格を目指します!」

 

 

 

 にっこりと微笑む七瀬に迷いはなさそうだった。

 

 

――でも、どうしよう……。僕がその雪城ユキだとバレると幻滅しないかな。このままこっそり隠れて帰ってもいいかな。

 

 

 身を縮こめて、エレベーターの中へ乗り込もうとするが、それがバレて母さんに捕まってしまう。

 

 

 

「そっか……。うんうん、そこまでやる気なら問題なさそうだね。Vtuberは皮も大事だけど、シロルームでは中の人間を特に重視してるの。見た目で最初に人を集めることができても、結局長期的な人気はその人の内面によるところが大きいからね。それは七瀬ちゃんもよくわかってるよね?」

 

 

 

 必死に逃げようと手足をばたつかせる僕。

 しかし、全く逃がせてもらえない。

 

 そんな僕をよそに七瀬は一度頷いていた。

 

 

 

「さすがお気に入り登録者数二十万の人気MeeTuber(ミーチューバ―)だね。でも、一人でやってきたってことはただ、楽しいだけじゃなかったんだよね? 苦しいことも辛いこともたくさんあったんだよね? だからこそこのシロルームに応募したんじゃないかな?」

 

 

 

 母さんの鋭い視線が七瀬へと向く。

 ただ、僕は別の意味で驚いていた。

 

 

――えっ、チャンネル登録者数二十万!? ぼ、僕より多いんだけど。

 

 

 ぽっかりと口を開けて呆けていた僕をよそに、七瀬は震える声で聞く。

 

 

 

 

「わ、わかるの……ですか? ただリスナーのためだけに動画を作る。そこに自分はいない。本当の自分がどこにいるのかって虚無感が……」

 

「もちろんだよ。だからこそみんな幸せに――。それがシロルームの企業理念だよ。リスナーだけじゃない。ライバーも幸せに……楽しまないとね。困った時に助け合える仲間たちがいる。こんなに素晴らしいことはないよね? これはゆーくんが一番わかるかな?」

 

 

 

 突然話を振られて一瞬呆けてしまうが、大事な話をしているので僕も真面目に答える。

 

 

 

「ふぇっ? ……あっ、うん、そうだね。今の僕がいるのも助け合える仲間たちのおかげだから……。みんなには感謝してもしたりないよ」

 

 

 

 にっこり微笑む母さんに七瀬は思わず涙を流していた。

 

 

 

「ぐすっ……。い、色々教えてくれてありがとうございます。やっぱり私がここを目指して間違いなかったです。なんとか合格できる様に頑張ります」

 

「うんうん、七瀬ちゃんもいい子だね。あっ、でも、合格の努力はもういらないかな?」

 

「えっ? ど、どういうことですか!? まさか不合格――」

 

「か、母さん!? ど、どういうこと!?

 

「元々七瀬ちゃんの実績は十分だからね。それに今の応答で七瀬ちゃんの為人(ひととなり)はわかったよ。シロルーム四期生、大変なこともあるだろうけど頑張ってね。舞ちゃん、七瀬ちゃんのアバターの準備、よろしくね」

 

 

 

 母さんは優しい笑みを浮かべる。僕を抱きしめたまま――。

 すると、七瀬は深々と頭を下げていた。

 

 

 

「あっ、は、はいっ! ありがとうございます」

 

「えっと、あの……母さん。そろそろ離してくれないかな?」

 

「そうだったね。ゆーくん、もう逃げ場はないよ。ちゃんと約束を果たしてあげてね」

 

「うぅぅ……。わかっててやってたよね? もしかして、僕を苦しめて楽しんでる?」

 

「そんなことないよ。ゆーくんを慕って凄い子が来てくれたんだよ。これを喜ばない親なんていないよ」

 

 

 

 まっすぐに言われるとどこか恥ずかしく思えてくる。

 確かに七瀬は僕がいたからこそシロルームへと来てくれた。

 これは誇るべきことであって、恥ずかしがる様なことではないだろう。

 

 

 

「そういえば小幡さんがやたらシロルームで名前を知られていたのは、お母さんが会長だったからなんですね」

 

「あっ、違うよ? 元々ゆーくんは知らなかったからね。ゆーくんは正真正銘シロルームの関係者だよ。えっと、ゆーくん、どうする? ママから言おうか?」

 

 

 

 本当は黙っていたかったのだが、もう四期生として合格してしまったのなら隠し通すこともできない。

 確かに本格的に活動するのはまだ先だが、それでも色々と教えてあげる約束もしてる。

 

 

 思わず僕はため息を吐く。

 

 

 

「大丈夫、自分で言えるよ。僕の後輩になるわけだもんね。すーはー……」

 

 

 

 どうしても緊張はしてしまう。

 大きく深呼吸をして気持ちを落ち着け、覚悟を決めると僕は母さんの手から脱出を図る。

 

 

 そして、失敗する。

 

 

 逃げられない様に固く掴まれる。

 

 

 

「ちょ、ちょっと、母さん!? いつまで僕を掴んでるの!?」

 

「もちろんゆーくん成分を吸収し終えるまでよ」

 

「もう、大事な話をするときくらい離してよ!」

 

「ダメよ。だってゆーくん、逃げるでしょ? 今も逃げようとしたし……」

 

「そ、そ、そんなことないよ。た、たまにしか逃げないから……」

 

 

 

――うん、逃げることの方が多いかな。だから、母さんはしっかり捕まえていたんだ……。

 

 

 

「わ、わかったよ。ちゃんと言うからもう大丈夫……」

 

「えっと、どういうこと……ですか?」

 

 

 

 七瀬が困惑気味に聞いてくる。

 

 

 

「その……、つまり、僕がその……」

 

 

 

 どうしてもリアルで言うとなると緊張してしまう。

 それでも相手は僕の後輩。頑張らないと。

 

 

 

「ぼ、僕がシロルーム三期生の雪城ゆきゅ……」

 

 

 

 …………。

 

 ここ一番の大切なところで思いっきり噛んでしまった。

 その恥ずかしさから顔が真っ赤に染まっていくのを感じた。

 

 

 

「……帰る」

 

「ま、ま、待ってください! 小幡さんがユキくん様!?」

 

「ちょ、ちょっと待って!? 何その呼び方!? さっきまで普通にユキくんって呼んでたよね!?」

 

「わ、私だって分をわきまえてますから。でも、突然目の前に憧れの存在が現れたら混乱しますよね!? だって、私にとっては救世主様でもあるんですよ?」

 

 

 

 目を輝かせながら尊敬の眼差しを向けてくる七瀬。

 

 

 

「きゅ、救世主!?!? ぼ、僕は何もしてないよ。ほ、ほらっ、普通に呼んでいいから」

 

「わ、わかりました。それが他ならぬユキくん様の頼みなら涙を飲んで、ユキくん……と呼ばせていただきます。ユキくんの前では――」

 

 

 

 わざとらしい泣き真似をしてくる。

 

 

 

「ぼ、僕がいない時には[様]付けで呼ぶんでしょ!? そうなんだよね!?」

 

「それは私の配信を見て調べてくださいね」

 

 

 

 ちょろっと舌を出して、いたずらっぽく言う。

 その姿からもさっきのはやっぱり泣き真似だったんだとわかる。

 

 

 

「ぼ、僕よりも七瀬さんの方がすごいからね!? 僕から教えることなんて何もないよね?」

 

「そ、そんなことないですよ!? 私もVtuberになったことはありませんから、その……」

 

「そ、それもそうか……。うん、約束もしたもんね。僕でよかったら聞いてね」

 

「はい、ありがとうございます。それじゃあ、連絡先を交換しましょう!」

 

 

 

 

 僕たちはスマホでキャスコードやMINEの連絡先を交換しあった。

 

 

 

「うんうん、青春だね。これでゆーくんにも春が訪れ――」

 

「えっ、あっ、そ、その、私に春だなんてそんな……。流石に中の人の恋愛は企業系Vtuberだと御法度。……あれっ、異性じゃないならいいのかな?」

 

「えっと、僕は男だよ?? さっきも言ったと思うけど」

 

「えぇ、ちゃんと聞きましたよ。ユキくんも男だって――」

 

「え゛!? 僕()? ま、まさか――」

 

 

 

 

 困惑する僕に対して、担当さんが説明してくれる。

 

 

 

「はい……、七瀬さんもユキくんと同じ……ですよ」

 

「そっか……。ゆーくんに訪れたのは春じゃなくて、同性の友達……だったんだね。うんうん、ママはどっちでも歓迎するよ。だって、二人とも可愛いからね」

 

 

 

 母さんが嬉しそうに笑みをこぼしていたが、僕は困惑のあまり動きが固まっていた。



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第6話:タグ決めるよー ♯犬拾いました

 ついに僕のMINEに四人目が追加された。

 

 

 四期生の七瀬奈々(ななせなな)

 僕よりも小柄な少女……だと思っていたのだが、実は同性の後輩。

 

 

 なぜか僕のことを神の如く崇拝していることと、見た目がどう見ても可愛らしい少女……、ということを除いたら今まで得ることができなかった男の友達だった。

 

 

 しかも、僕と似た……少女っぽい見た目をしていることで、悩みを共感してもらえるかもしれない。

 例えば、ココママたちに女性ものの服を着させられることとか――。

 

 

 

「あれっ? でもよく考えると七瀬ってワンピースを着てたよね?」

 

 

 

――もしかすると七瀬にとっては女性服は抵抗のある物ではない……ということ? いやいや、そのことで相談に乗ってもらえなくても、頼れる味方であることには違いないよね。

 

 

 それを考えると今まで感じていた重圧が少し軽くなった気がした。

 ココネたちも確かに仲間だけど、異性であると言うことを考えると、どうしても一歩引いてしまう。

 でも、七瀬の場合はそんなことを考える必要がない。

 

 

 

「あっ、そろそろ配信の準備をしないと……」

 

 

 

 今日はソロでのライブ配信日。

 明日はユイとのコラボであることを考えると、そこまで長時間の配信はできない。

 

 

 

「うーん、犬好きさんたちと一緒にアカネ先輩のタグを考えればいいよね」

 

 

 

◇◇◇

『《♯犬拾いました》タグ決めるよー《雪城ユキ/シロルーム三期生》』

1.2万人が待機中 20XX/06/02 20:00に公開予定

⤴473 ⤵0 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

【コメント】

:はじまった

:こんばんはー

:タグ決めw

:昨日言われたやつかw

:暴走以外に思いつかない

 

 

 

 今回はミニアニメを短めにさっとアバターを表示させる。

 

 

 

『わ、わふぅー……。犬好きのみなさん、こんばんはー。雪城ユキです。今日も拾いに来てくださってありがとうございます。今日はあまり時間が取れませんけど、その……、ゆっくりしていってください』

 

 

 

 いつもならさっと段ボールに顔を隠すところだけど、今日は顔を軽く覗かせたままにする。

 

 

 

【コメント】

:あれっ?

:今日は隠れないの?

:ユキくん必死w

《:¥1,000 餌代》

:ユキくん拾いたい

 

 

 

『え、餌代!? ぼ、僕、ちゃんとご飯食べてるから安心して。で、でも、ありがとうございます。そ、それじゃあ、早速本題に入っていきたいと思います! その……、明日はユイとのコラボだし、準備もあって長い時間の配信ができないから……』

 

 

 

 僕はサッと考えていた三つのタグを表示させる。

 

 

[ソラー]

[キラッ]

[シュタッ]

 

 

 でもここから選んでもらうより一から考えた方がいいかもしれない、と思った僕は慌ててさっきの表示を消す。

 

 

 

『えとえと、今のはその……見なかったことに……してくれる?』

 

 

 

 顔を赤くして段ボールに隠れながら言う。

 

 

 

【コメント】

:ソラー、任せて!

:シュタッ、忘れた

:キラッ、何も見てない

:↑お前たちw

:草

 

 

 

『あわわわっ、そ、その、僕も昨日一晩考えてたんだけど、全然思いつかなくて……。朝からさっきまでは少し出掛けてたから、せっかくだし犬好きさんたちにも意見をもらえたら嬉しいなって……』

 

 

 

 段ボールから再び顔を覗かせる。

 上目遣いで、お願いするように……。

 

 

 

【コメント】

:いっそ、全部渡してみるのはどうかな?

《さすらいの犬好き:¥50,000 出遅れた。詫び代》

:暴走特急ならアカーとかでも良さそうだな

:前のタグ、アカだったw

:というかいつも赤だよなwww

羊沢ユイ :うみゅ、サボりさんだ

 

 

 

『わわっ、な……、違う。さすらいの犬好きさん、そ、そんなに投げなくていいんだからね。僕に詫びる必要なんかないよ。それに配信も始まったところだからね』

 

 

 

 動揺してうっかり七瀬と言いかけてしまう。

 それをなんとか踏みとどまる。

 

 

 

『あ、あと、ユイ。今日はサボりじゃなくて、その……、色々と用事があってシロルームに行ってたんだよ……』

 

 

 

【コメント】

羊沢ユイ :うみゅ、あとからじっくり聞かせてもらうの。コラボの打ち合わせしながら

真心ココネ :私も聞きたいですね

さすらいの犬好き:大丈夫だ、問題ない

:混沌としてきたなw

:本題を忘れてないか?

 

 

 

 コメントにココネまで参加してしまう。

 というか、みんな僕のライブ配信によく顔を見せるけど、自分の配信は大丈夫なのかな?

 

 ふとそんなことを思い、みんなのMeeTubeチャンネルを見てみる。

 

 

 

『えぇ!?』

 

 

 

 そこで見たライブ配信のタイトルを見て、思わず声を上げてしまう。

 

 

 

『《♯心の拠り所 ♯ココユイ》ユキくんのライブ同時視聴しましょう《真心ココネ/羊沢ユイ/シロルーム三期生》』

1.2万人が視聴中 ライブ配信中

⤴541 ⤵2 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

『ちょ、ちょっと待って!? どうしてココママたちがコラボで同時視聴枠を取ってるの!?』

 

 

 

【コメント】

:ユキくんが同時視聴に気づいたw

:草

羊沢ユイ :うにゅ、ユキくんの声を聞かないと元気でないの

真心ココネ :気づかれちゃいましたねw

 

 

 

『うぅぅ……、もう二人は』

 

 

 

――後からチャットで文句を言っておこう。

 

 

 

『あれっ? それでなんの話をしてたかな?』

 

 

 

【コメント】

:w

:ユキくん草

真心ココネ :タグの話だよ

羊沢ユイ :うみゅ、明日のコラボの話と次のゆいとのコラボの話なの

 

 

 

『ゆ、ユイのは……違うよね? タグ……。うん、タグの話だね。……どうしよう? コウ先輩は適当に渡してくれたらいいって言ってたけど、普通に使ってもらえるタグにしたいし……』

 

 

 

 その割に僕が考えたのはあまりいいもの……とはいえない。

 

 

――アカネ先輩で思いつくこと……、段ボール??

 

 

 

『そうだった……。アカネ先輩はかなり段ボールを調べてたって言ってたね? 僕も段ボールに入ってるし、その……[段ボール研究会]とかはどうかな?』

 

 

 

【コメント】

:段ボールwww

:さっきのよりはタグらしいかも

美空アカネ :それだ!!

:本人いて草

羊沢ユイ :ゆいもユキくん段ボールに入るの。二人でぬくぬくなの

海星コウ :それだとボクは関係さなそうだけどねw

美空アカネ :ならコウは脱会だな。

真心ココネ :むしろユキくんのメンバーシップの名前にいいかも。

海星コウ :確かにボクたちのタグというよりはメンバーシップだね

 

 

 

 メンバーシップ。

 月額の料金を支払いメンバーに加入すると、さまざまな特典がある。

 シロルームの場合だと、加入者限定の絵文字や限定公開の配信等だった。

 

 

 そして、僕もすでにメンバーシップの許可は降りている。

 絵文字も段ボールメインに色々と用意してもらっていた。

 

 

 後は名前を決めるだけだったが、まさか今決まるとは思わなかった。

 

 

 

『えっと……、そ、それじゃあ[段ボール研究会]は僕のメンバーシップの名前に使わせていただきます。特典はいくつか用意してますので、また折を見て募集します。えとえと……、シロルームだと月々七百円になるのかな? む、無理しない程度にメンバー加入してくれると嬉しいよ。せっかく始めたのに0人だと僕、泣いちゃいそうだから――』

 

 

 

【コメント】

《:¥700 メンバーになります》

《:¥700 加入しまーす》

《真心ココネ :¥700 加入しますね》

《羊沢ユイ :¥700 うみゅ、当然!》

《美空アカネ :¥7,000 私のメンバー力は10だ!》

さすらいの犬好き:くっ、もう投げられないせいでメンバーになれない。

《:¥700 メンバー費》

《:¥700 段ボール研究会に入ります》

 

 

 

 突如として投げられるメンバー加入費と同額のスパチャ。

 それを見て僕は慌てて言う。

 

 

 

『ちょ、ちょっと!? ま、まだだよ。まだ開始してないからね!? な、なるべく早くに開始するからそれまではちょっと待っててね。あ、あとココネとユイまで乗らないで! アカネ先輩は……うん、言っても無駄かな』

 

 

 

 今までのアカネの行動と実際にコラボをした感覚から、諦め混じりにため息を吐く。

 

 

 

『あとは、な……、ううん、さすらいの犬好きさんはたくさん投げすぎです。嬉しいですけど、そ、その……、もし無理をしているなら僕、悲しくなっちゃいますよ……』

 

 

 

 僕は顔を染めてサッと隠してしまう。

 

 

 

【コメント】

:ユキくんw

さすらいの犬好き:わかった。ユキくんを悲しませないように全力で投げる

:↑辞める気なくて草

海星コウ :アカネ? ユキくんを悲しませたらわかるよね?

美空アカネ :わ、私はスパチャを投げただけだぞ!?

 

 

 

『と、とにかくメンバーシップ名は[段ボール研究会]で、特典は絵文字とたまに限定配信するくらいかな? 他にもできることがあったらしていきたいかも。僕を応援してくれるって人はよろしくお願いします』

 

 

 

 少し頭を出して、小さく下げる。

 

 

 

『あと決めることは……。そうだ、タグだった。研究会は使ったから……作成委員会? コラボ配信用のタグならおかしくないよね?』

 

 

 

【コメント】

美空アカネ :それだ!!

:草

:暴走特急草

海星コウ :結局アカネはなんでもいいんだよね。でも、今回のならボクも関係してるのかな?

:暴走特急、飼育員、犬のコンビで段ボール作成委員会かw

:コラボタグを作ったってことは、またコラボをするわけか

美空アカネ :よし、ユキくんとのコラボ決定だよ!!

:あぁ……。ユキくんがまた捕まった……

:草

海星コウ :そのときはボクも行くから安心してね

真心ココネ:今度こそ私も一緒に行きます!

:ココママ草

羊沢ユイ :うみゅ、それならゆいも行くの!

:ユイちゃんw

:また前みたいに多数のコラボがw

 

 

 

『多すぎるよ。ほ、ほらっ、全員コラボをもうすぐするんでしょ? それで我慢して欲しい……かな、今は。と、とにかくタグが決まったので、今日は終わります。相談に乗ってくれてありがとうございます。明日はユイのところにお邪魔するので、そっちまで拾いに来てくれると嬉しいです。では、乙わふーでした』

 

 

 

『《♯犬拾いました》タグ決めるよー《雪城ユキ/シロルーム三期生》』

2.1万人が視聴中 ライブ配信中

⤴1.0万 ⤵14 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ

チャンネル登録者数17.6万人

 

 

 

【コメント】

:ユキくんが最後まで言えただと!?

:信じられない。最後まで言えない芸風だと思ってた

:乙わふー

:乙わふー

:お疲れ様ー

真心ココネ :お疲れ様ですー

羊沢ユイ :うみゅー

海星コウ :お疲れ様

美空アカネ :おつー

さすらいの犬好き:あれっ? まだ配信中?

真心ココネ :ま、まさかユキくん!?

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『ふぅ……、今日の配信も無事に終わったな……』

 

 

 

 配信を終えた僕は安堵のため息を吐いていた。

 ギュッと骨クッションを抱きしめて、そのまま机にへばりついていた。

 

 

 

『ふぁぁぁ……、流石に一日、バタバタしてたから疲れたよ……。本当に母さんも無茶振りをするよね。あっ、ココママやユイにチャット送らないと……。あれっ、もう来てる?』

 

 

 

 半分寝ぼけたまま、僕はパソコンからキャスコードの画面を開いていた。

 

 

 そこに表示されているグループは三つ。

 

 

[シロルーム]

[三期生『1』]

[段ボール作成委員会]

 

 

 

『あっ、もうグループ名が段ボール作成委員会に変わってる……。これはアカネ先輩かな? 相変わらず仕事が早いなぁ……』

 

 

 

 三期生のグループに[1]の文字が表示されている。

 誰かが送ってきたのだろう。

 

 

 

『誰からかな? あれっ、ココママ??』

 

 

 

 迷うことなくそのメッセージを開くと、そこには短い文字が書かれていた。

 

 

 

ココネ:[ユキくん、配信画面!!]

 

 

 

『配信……画面? なんだろう??』

 

 

 

 それを見た瞬間にさらにキャスコードの通知が連続でくる。

 

 

 

ユイ :[配信画面見て!!]

 

コウ :[配信に戻ってきて!!]

 

アカネ:[切り忘れ配信ナイスb]

 

 

 

 みんなのチャットを見てようやく自分が何をしてしまったのかわかる。

 

 

 

『え゛っ!?!?』

 

 

 

 慌ててパソコンのモニターを見る。

 そこには切ったはずのライブ配信がそのまま続いていた。

 

 

 

『う、嘘っ!? き、切り忘れた!?!? あぅあぅ……、み、みんな、もしかして今までの声、聞こえてたの??』

 

 

 

【コメント】

:もちろん

:悲鳴助かる

:落ち着いてるユキくんもよかった

真心ココネ :よかった……、戻ってきてくれた

羊沢ユイ :うみゅ、よかったの

美空アカネ :帰ってきてしまったんだ。残念

海星コウ :こら、楽しんだらだめでしょ!

 

 

 

『うぅぅぅぅ……、へ、変なこと言ってなかったよね?? 僕……、うっかりしてたよ。本当にごめんなさい……』

 

 

 

 顔を真っ赤にして困惑しながら頭を下げる。

 

 

 

『そ、それじゃあ、今度こそ配信を終わります。お、乙わふ――』

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯犬拾いました》タグ決めるよー《雪城ユキ/シロルーム三期生》』

2.5万人が視聴 0分前に配信済み

⤴1.3万 ⤵16 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ

チャンネル登録者数17.7万人

 

 

 

◇◇◇

【コメント】

:やっぱりこの終わり方だよなw

:ちゃんと言えたら消し忘れなんだなw

:乙わふー

:乙わふー

真心ココネ :今度こそお疲れ様です

羊沢ユイ :うみゅー

さすらいの犬好き:乙わふ

海星コウ :お疲れ様

美空アカネ :おつつー

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

――うぅぅ……、やってしまった。

 

 

 配信の消し忘れ。

 自分のプライベートを晒してしまう危険な行為。

 いつも気をつけていたのだけど、疲れや寝不足からかうっかりしてしまった。

 

 

――と、とにかくもう一度配信が消えてるか確認して……と。

 

 

 

 配信の切り忘れが怖くなった僕は声を出すことなく、自分のMeeTubeチャンネルへと飛んでいた。

 

 

 

「あっ……、今度は大丈夫だった……」

 

 

 

 しっかりライブ配信が終わっていることを確認した後、今度は消し忘れのことを教えてくれた人たちにお礼を言うのと、担当さんに謝っておく。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 配信切り忘れの件は翌日の朝になっても引きずっていた。

 

 ただでさえ二日続けてあまり寝ていないので、体力的にはかなり限界に近い。

 でも、それ以上に精神が参っていた。

 

 

 

「はぁ……、やっぱりこのままだとダメだよね……」

 

 

 

 大学の講義が終わった後、目に見えるほど大きなため息をしていると、心配してくれた結坂が声をかけてくる。

 

 

 

「大丈夫? すごく顔色が悪いよ? それに何か悩んでるみたいだけど?」

 

「うん……。その……昨日のやつ、失敗しちゃったなって……」

 

「消し忘れの件だね。それなら大丈夫だよ。担当さんも怒ってなかったでしょ?」

 

「うん、全然怒ってなかった……」

 

「私も前にうっかり配信したまま一日すぎてたけど、何も言われなかったからね」

 

「さ、さすがにそれは長すぎるよ……」

 

「あははっ、よく消えなかったよね。それが驚きだよ」

 

「……僕が気にしすぎなのかな??」

 

「うーん、それが祐季くんの良さでもあるんだけどね。でも、それでユキくんが体調を崩すなら……。あっ、そうだ。それなら今日のコラボ配信、こんなのはどうかな?」

 

 

 

 結坂が何かを伝えようと僕の耳に口を近づけてくる。

 すぐ側に結坂の顔があると少し緊張して、僕は思わず息を呑む。

 すると――。

 

 

 

「ふぅー……」

 

 

 

 突然息をかけられて、僕は顔を赤くして慌ててその場を離れてしまう。

 

 

 

「わふっ!?!? な、な、何をするの!?」

 

「あははっ、相変わらず祐季くんは反応がいいね。ごめんごめん。次はちゃんと教えるから――」

 

「うん……、もうやめてよ」

 

 

 

 再び隣に戻るともう一度結坂が口を近づけてくる。

 そして、今度は小声で言ってくる。

 

 

 

「せっかくだから、ユキくんが昨日してしまった配信の切り忘れが罪かどうか、リスナーさんに聞いてみない? 裁判形式で、他にもいくつか事案も募集して……。題して『うみゅー裁判』!! どうかな?」

 

 

 

 にっこり微笑みながら言ってくる結坂。

 きっとこのままだと僕が悩んだままだと感じたのだろう。

 それならいっそみんなに罪かどうかを問うてみる。そうすることで僕の気持ちが和らぐと考えて……。

 

 

――うん、本当に僕は仲間に恵まれているよね。

 

 

 嬉しさのあまり、目に涙から涙を流す僕。

 それを見て結坂は慌てていたが、気にすることなく僕は大きく頷いた。

 

 

 

「ありがとう……。それでお願いして良いかな?」



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第7話:うみゅー裁判。ゆいが裁くのー ♯ユキユイ

『《♯うみゅー裁判 ♯ユキユイ》うみゅー裁判。ゆいが裁くの《羊沢ユイ/雪城ユキ/シロルーム三期生》』

2.0万人が視聴中 ライブ配信中

⤴351 ⤵2 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

【コメント】

:まさかのユイちゃん裁判長登場w

:ユキユイきたぁぁぁ

:待ってた

:うみゅー裁判w

:わくわく

 

 

 

 ミニアニメ後に登場したのは木槌をもち、頭に偉そうな黒い帽子を被ったユイといつも通り段ボール。

 その段ボールには[ひこくにん]と可愛らしくポップ体で書かれていた。

 

 

 

 そして、配信画面だけではなく、現実にも僕はユイの部屋にお邪魔していた。

 その理由は僕の体調面にあった。

 あまりにも顔色が悪かったので、結坂に強制的にベッドインさせられていた。

 

 

 

「配信時間に起きられないよ……」

 

「そのときは私が場を持たせるから、祐季くんは休んで! 今のままだと本当に倒れるよ!」

 

 

 

 本当に僕を心配して出てきた言葉だとわかったので、ここは大人しく聞くことにした。

 

 

 

「それじゃあ、僕は家に帰って――」

 

「私の家で寝ていくと良いよ。そうすれば配信時間ギリギリに起こしてあげられるから」

 

「えっ?? で、でも、さすがにそれは――」

 

「あははっ、今更だよ。前も一回泊まってるんだから遠慮しないの。ほらっ、行くよ!」

 

 

 

 こうして、僕は再び結坂の部屋へお邪魔することになった。

 ただ、相当無理をしていたのか、ベッドへ押しやられるとすぐに眠りについてしまった。

 

 

 そして、起きたら既に配信画面が付いていたのだ。

 始まったばかりだけど、結坂が僕に気を遣ってわざと起こさなかったのは容易に想像が付いた。

 

 寝ぼけ眼で結坂の顔を見る。

 結坂はいつの間にか羊の着ぐるみに着替えていた。

 

 

――あれって僕が五万人突破記念にあげたやつだよね? 使ってくれてるんだ……。

 

 

 それを見ると僕の口から自然と笑みがこぼれていた。

 

 

 

ユイ :『うみゅー、静粛に、静粛に、なの!』

 

 

 

 カンカンカン!!

 

 

 

 結坂はどこから持ってきたのか、本物の木槌を鳴らしていた。

 

 

 

【コメント】

:うみゅー

:うみゅー

:うみゅー

:木槌助かる

:うみゅー

:誰一人黙ってなくて草

 

 

 

ユイ :『うみゅ、今日はうみゅー裁判所へようこそなの。ゆいは裁判長の羊沢ユイなの。今日は面倒な事案をとことん放り投げていくからよろしくなの』

 

 

 

 ユイは当初予定していた僕の事案を後回しにしようとしていたので、僕は起き上がり、ユイの隣へと移動する。

 

 

 

『わ、わふぅ……。今日最初の被告人、雪城ユキです。唐突にうみゅー裁判所へ連れてこられました。よろしくお願いします』

 

 

 

 突然の僕の登場にユイは跳びはねそうなくらい驚いていた。

 

 

 

ユイ :『ゆ、ユキくん!? まだ休んでなくて大丈夫??』

 

『うん、ありがとう。少し体調も戻ったから大丈夫だよ。あと、少し素が出てるよ……』

 

ユイ :『うみゅ!? す、素って何なの?? ゆいにはわかんないの』

 

 

 

 思わず元に戻ってしまうほど心配してくれたのだろう。

 僕はユイを安心させる様に微笑みかける。

 

 

 

【コメント】

:わふー

:わふー

:わふー

:うみゅー裁判所w

《:¥1,000 裁判費》

:ユキくん被告w

:ユイちゃん、優しいね

:ユキくん、大丈夫?

真心ココネ :無理したらダメだよ

 

 

 

 素が出てしまった恥ずかしさからか、ユイは顔を染めながら木槌を叩いていた。

 

 

 

ユイ :『うみゅー。静粛に、静粛に、なの。騒がしいとゆいが寝られないの』

 

『ね、寝たらダメだからね!?』

 

ユイ :『うにゅ……、とりあえずユキくんの事案なの。有罪なの』

 

 

 

 カンカンカン!!

 

 

 

 何か説明する前から有罪にされてしまった。

 

 

 

『な、なんでとりあえずで有罪扱いされてるの、僕!?』

 

ユイ :『うみゅー……、眠たいからなの。睡眠罪なの……』

 

『それ、違うよね?? 僕のせいじゃないよね!?』

 

 

 

【コメント】

:睡眠裁判w

:有罪www

:ユキくん、ドンマイw

《:¥1,000 判決代》

 

 

 

『と、とりあえず、まずは事案を紹介してよ……。というか、僕のは僕が紹介したらいいんだね』

 

ユイ :『うみゅー、よろしくー』

 

『えとえと、僕のは昨日の配信のことだよ。その……配信の切り忘れをしてしまって、色んな人に迷惑をかけちゃったから……。みんなに改めて謝りたいなって。ご、ごめんなさい。それでその……みんなに迷惑をかけてしまった僕の罪を裁いてください』

 

 

 

 僕は段ボールから顔を出して頭を下げる。

 

 

 

ユイ :『うにゅ、羊飼い裁判員のみんなはどう思うの?』

 

 

 

【コメント】

:みんな通る道だよなw

:ユイちゃんは既に何回かしてるしな

神宮寺カグラ :気をつけないとプライバシーとか色々と危ないわよ

:カグラ様も実は一回してるもんなw

:三期生でまだしてないのはココママくらいじゃないか?

:三期生のポントリオw

真心ココネ :ミスは誰にでもありますよ

:これは無罪だな

:無罪

 

 

 

 コメント欄でも僕をフォローしてくれる温かい言葉が流れている。

 それが嬉しくて、ゆっくり顔を上げて声を漏らす。

 

 

 

『み、みんな……、あ、ありがとう……。うん、次からは注意するね……』

 

ユイ :『うみゅ。それじゃあ、とりあえず有罪なの』

 

 

 

 カンカンカン!!

 

 

 

『って、ちょ、ちょっと待ってよ!? この流れでなんで有罪なの!?』

 

ユイ :『うみゅ? コインを投げて裏だったから?』

 

 

 

 確かにユイの手元のテーブルには裏向けのコインが置かれていた。

 

 

 

『こ、コインで決めないでよ!? ほらっ、ちゃんと裁判長らしく……ね』

 

『うみゅー……、わかったの。それじゃあ、改めて……』

 

 

 

 カンカンカン!!

 

 

 

 ユイが木槌を鳴らし、意味深な間を置く。

 

 

 …。

 ……。

 ………。

 …………。

 

 

ユイ :『すぅ……』

 

『って、寝たらダメだよ!?』

 

ユイ :『うみゅ!? 仕方ないの。ユキくんは[もっと自分を(ねぎら)ってあげましょう罪]で有罪なの』

 

『えっ!? な、なんの罪なの、それ……』

 

ユイ :『うにゅ、ユキくんはなんでも自分一人でしようとするの。それが結果的に自分を追い込んでしまってるの。今日もいつ倒れるかって凄く心配してしまったの』

 

『あっ、うん……。それはごめんね……。ベッドまで借りてしまって……』

 

 

 

【コメント】

:まさか前と同じでオフコラボだったのか!?

:確かにユイちゃんのいうことももっともだな。

:配信の消し忘れで俺たちが迷惑することはないもんな

:体調面で心配をかけたのなら仕方ない

:有罪だな

 

 

 

ユイ :『ユキくんはもっとゆいたちを頼ってくれても良いの。だから一人で悩まないで、[もっと自分を労ってあげましょう罪]なの』

 

『うっ……、ま、前よりはマシになったんだよ……。ほらっ、こうやって普通にオフコラボもできる様になったでしょ? 連絡も怯えずに出来る様になったし……』

 

ユイ :『まだまだ足りないの。今日も倒れるギリギリまで無理をしてたの。だから有罪なの』

 

 

 

 カンカンカン!!

 

 

 

 無情にも甲高い音が響き渡る。そこで僕はガックリと肩を落としていた。

 配信画面にはユイのミニキャラが[ゆ~ざい]と書かれた紙を掲げたスタンプが表示される。

 

 

 

【コメント】

:有罪w

:これは仕方ないw

真心ココネ :これはユイちゃんが正しいですね

神宮寺カグラ :ユキは頑張りすぎ

:ユキくんに倒れられたら困るから有罪だなw

 

 

 

ユイ :『うみゅ、決まりなの。ということで、ユキくんには今日の配信中[ゆいを抱きしめる]の刑に処すの』

 

『えぇぇぇ!?!? な、なんでそうなるの!?』

 

ユイ :『ユキくんが一人で頑張ってるからなの。もっと他人(ゆい)がいることをぬくもりで感じてもらうの』

 

 

 

【コメント】

真心ココネ :異議あり!!!!

:↑ココママが力の限り叫んでるwww

:ココママ草

:ココママw

 

 

 

ユイ :『うみゅ、異議は却下なの。傍聴人(ココママ)は静かにするの』

 

 

 

 ユイはそう言いながら僕の方に移動してくる。

 

 

 

ユイ :『うにゅ、いつもゆいたちから抱きしめることはあってもユキくんからはないの。だから、ユキくんの練習にもなるの』

 

『うぅぅ……、ぼ、僕には難易度が高いよ……』

 

 

 

 配信画面ではユキくんとユイだが、リアルでは僕と結坂である。

 さすがに結坂を抱きしめる……と考えると普通の緊張では収まらない。

 

 

 

『よし……』

 

 

 

 覚悟を決めた僕は結坂の体を抱きしめる……ことなく、その場から立ち去る。

 ただ、結坂は僕に対して飛びついてくる。

 

 

 

ユイ :『うみゅ、まだまだ訓練が足りないの。ユキくんの行動なんてお見通しなの』

 

『うぅぅ……、離してよー。ぼ、僕には荷が重すぎるよぉ……』

 

ユイ :『今日のところはゆいが抱きしめておくの。次までに頑張って特訓しておくの』

 

『えっと、ユイとのコラボはもうないよね……?』

 

ユイ :『明日するの』

 

『ほ、ほらっ、僕体調が悪いから明日は配信を休むよ……。そ、その……、明後日には真緒さんたちのコラボがあるし』

 

ユイ :『うみゅー、残念なの。明明後日……はダメだったの。そこはタイガとコラボなの』

 

『ぼ、僕もそこにはココママとのコラボが――』

 

ユイ :『うみゅー!! そんなに予定が詰まってるユキくんは罰としてユイの膝に座ってもらうの!!』

 

 

 

 結坂の膝の上に座らされる。もはやここが定位置というかのように――。

 

 

 

【コメント】

:いつもの光景w

真心ココネ :私のコラボ、覚えていてくれたんですね

神宮寺カグラ :べ、別に私はコラボしたいわけじゃないからね? でもユキがしたいならいつでも言ってくれて良いのよ?

:↑ここまでもいつもの流れw

 

 

 

『えとえと、カグラさんとのコラボも入れたいけど、その日にちが……。ココママと3人のコラボでも良いかな??』

 

 

 

 悩んだ末の結論。

 ただ、こればっかりはココネに聞かないことには判断ができなかった。

 

 

 

【コメント】

真心ココネ :そうですね。私は構いませんよ。カグラさんとのコラボもしてみたかったですから

神宮寺カグラ :わ、私も構わないわよ。ユキがしたいならね

:3人コラボ開催決定

:どんな配信になるのか楽しみw

 

 

 

ユイ :『うみゅ、ユイもしたかったの!!』

 

 

 

 バンバンと机を叩くユイ。先にコラボが入っているならどうすることもできない。

 

 

 

『ほ、ほらっ、ま、また今度コラボするんでしょ? それで我慢してよ……』

 

ユイ :『うみゅー。もう一回コラボの約束を取り付けたの。楽しみにしてるの』

 

 

 

【コメント】

:ユキくんw

:こうやってコラボばかり組まされていくんだなw

:ユキくん優しいからw

:ユキユイ決定しましたw

 

 

 

『えとえと、日はまだいつかわからないからね。僕、予定見ないと全然わからなくなってきたし……』

 

ユイ :『うみゅ、仕方ないの。ユキくんの事案が解決したから次に移るの。ユキくんはユキくん裁判員として、判決を下すお手伝いをしてもらうの。ゆいの膝の上で――』

 

『ひ、膝は関係ないよね!? とりあえず僕がこの事案として集められたものを読んでいけば良いんだね?』

 

ユイ :『うみゅ、任せるの。終わったら起こして欲しいの』

 

『こらっ、ユイもちゃんと聞かないとダメでしょ』

 

ユイ :『うみゅぅ……、ユキくんが愛を囁いてくれたら起きるの』

 

『はいはい……、ユイ、好きだよ。これでいい?』

 

 

 

 コウがアカネに対処していた様に僕もため息交じりにユイに言う。

 意識をすると恥ずかしいが、ただ文章を読んでるだけの感じで言えば意外と気にすることなく言うことができる。

 

 

 

ユイ :『うみゅ……、ユキくんが適当なのー。恥ずかしがってるユキくんを返して欲しいの』

 

『いつまでも同じ僕じゃないからね。何度も言ってたら慣れてくるよ……。それよりも起きたのなら早速読んでいくよ』

 

 

 

【コメント】

:【悲報】ユキくん成長する

:塩対応のユキくんか

:コウパイセンを見習ったんだろうな

:いつまで持つのだろう?

:この配信の最後までもつといいけどw

 

 

 

『えっと、それじゃあ読んでいくよ』

 

 

[ユイ裁判長、ユキくん裁判員、こんばんは]

 

 

『わふぅ、こんばんは』

 

ユイ :『うみゅ、有罪なの!』

 

『ま、まだ内容を言ってないよ!? つ、続きを読むね』

 

ユイ :『うにゅー……、任せるの』

 

 

[最近、どこかの羊が私の犬を狙っているみたいなんです。人のものを取るのって泥棒だと思うんですよ。この羊を裁いてくれませんか? お願いします]

 

 

 

『牧場の人なのかな? 確かに泥棒はよくないよね? でも裁くのは羊さんなんだ……』

 

ユイ :『この羊は無罪なの。むしろこの事案を持ってきた人が有罪なの』

 

『えぇぇ!?  な、なんでそうなるの?』

 

ユイ :『うみゅ。だって考えてみるの。犬と羊が戯れているのはどう考えても癒やしの空間なの。そこに争いなんてないの』

 

『うーん、言われてみたらそうかも……。羊さんもかわいいし、犬さんもかわいいもんね』

 

ユイ :『つまり、そんな楽しそうな光景を曲がった目でしか見れないこの人こそが諸悪の根源なの! 有罪(ぎるてぃ)なの!』

 

『そ、それじゃあ、この罪状は何になるのかな?』

 

ユイ :『もちろん、[ユキくんはゆいのもの(かわいいものはかわいい)罪]なの』

 

『なるほど……。かわいいものには罪がないってことだね』

 

ユイ :『うみゅ、そうなの。ユキくんには罪はないの』

 

『僕、関係ないよね? それにさっき、思いっきり有罪って言われたけど……』

 

ユイ :『さっきはさっき、今は今なの』

 

『……深く考えないことにするよ。とりあえずこの羊さんは無罪と言うことで』

 

 

 

 カンカンカン!!

 

 

 

【コメント】

:草

:絶対ココママだw

:ユキくん、気づいてないw

:自分が犬だってわかってないのか?w

:段ボールだと思ってるもんなw

真心ココネ :ど、どうして私が有罪なのですか!?

:ココママがバラしてて草

 

 

 

ユイ :『うみゅ、ココママは放っておいてさっさと次に行くの』

 

『えっと、さっきの事案ってココママからのものだったんだ……。あれっ? ココママって牧場持ってたの?』

 

ユイ :『ココママには頑張ってたくさんの羊を育ててもらうの』

 

『ココママ、頑張ってね……。それじゃあ次の事案だよ』

 

 

[ユイ裁判長、ユキくん裁判員、こんばんは]

 

 

 

『わふぅ、こんばんはー』

 

ユイ :『うみゅ、ゆうざ――』

 

『ユイは放っておいて続き読むよ』

 

ユイ :『放っておかれたの……』

 

 

[最近、電柱を見かけるたびに[拾ってください]と書かれた段ボールが落ちてないか探してしまう自分がいます。ペット飼育不可のアパートに住んでるのに。こんなユキくん依存症の僕を裁いてもらえませんか?]

 

 

『わふっ、そんなところに僕は落ちてないから探さなくても大丈夫だよ。ちゃんと拾いに来てもらうときにはカタッターで告知を出すから』

 

ユイ :『うみゅ、これは無罪なの。すぐに入院して治療するの。ユキくん依存症は大変な病気なの』

 

『ぼ、僕依存症なんてないからね!?』

 

 

 

【コメント】

:俺もユキくん依存症だな

:俺もだな

:ここにいるみんなそうだろw

:ユイちゃんもだなw

真心ココネ :ユキくん依存症にはユキセラピーですよ

神宮寺カグラ :私は大丈夫よ!

 

 

 

『もう、みんなも勝手なこと言って……』

 

ユイ :『うみゅー、ユキセラピー癒されるのー』

 

『た、ただ抱きついてるだけだよね!? もう、次行くよ。時間的に次が最後かな?』

 

ユイ :『うみゅ、有罪!』

 

『まだ選んですらいないよ!? えっと……あっ、これがいいかも』

 

 

[ユイ裁判長、ユキ裁判員、こんばんは]

 

 

『わふっ、こんばんはー』

 

ユイ :『うみゅー、こんみゅー』

 

『ま、まともに挨拶を!? それにそれは初めて聞く挨拶……ってそうじゃないね。まずは事案っと』

 

 

[最近名前を間違えられることが多くなりました。その都度、訂正をしているのですが、日に日に間違える人が増えています。そんなにわかりにくい名前をしてるでしょうか? 特に最近ではスパチャで間違えた名前を言われるので、強く言おうにも言えなくて困っています。最近ではそれをどこか望んでいる自分もいます。これは贅沢な悩みなのでしょうか? それともわざと間違えてくる人たちがおかしいのでしょうか? Z宮寺Kグラ]

 

 

『名前を間違えられるのは悲しいね。僕だったら落ち込んじゃうかも』

 

ユイ :『うみゅ。でも、このケグラさん、名前を間違えられることに喜びを感じてるように見えるの』

 

『よ、よろこび!?』

 

ユイ :『うみゅ。だからこれは双方にメリットがある行いなの。もちろんどちらも罪になんて問えないの。喧嘩両成敗なの』

 

『えと……、なんか意味は違う気がするけど、つまり、無罪ってことだね』

 

ユイ :『うみゅ、そうなの!』

 

 

 

 カンカンカン!!

 

 

 

 ユイが木槌を鳴らすと最後の判決も下っていた。

 

 

 

【コメント】

:ケグラ様草

:なんだ、カグラ様喜んでたのか。もっとやるか

神宮寺カグラ :そんなことないわよ!? それに私じゃないわよ!

:わかりやすすぎ草

 

 

 

ユイ :『うみゅ、本日はこれで閉廷なの。また次回開催までおやすみなのー』

 

『わふっ、おやすみなさ――』

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯うみゅー裁判 ♯ユキユイ》うみゅー裁判。ゆいが裁くの《羊沢ユイ/雪城ユキ/シロルーム三期生》』

4.2万人が視聴 0分前に公開済み

⤴1.3万 ⤵17 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:Yui_Room.羊沢ユイ

チャンネル登録者数9.5万人



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第8話:フィットネスゲームで勝負をするよ ♯囚われのユキ犬姫

 ユイとの配信が終わった瞬間に、僕はスイッチが切れた様に意識が遠のいていった。

 最後に聞いた言葉は――。

 

 

 

「やっぱり、元々限界だったんだよね、祐季くん。お疲れ様……」

 

 

 

 という結坂の心配そうな声だった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 そして、翌朝はすっきりとした目覚めで起きることができた。

 

 

――久々にゆっくりと寝れたかも……。

 

 

 いい気晴らしになったので、ユイには感謝してもしたりなかった。

 

 

 

「また顔色が悪かったら、今度は強制的に拾って帰るからね! だから無理しないこと! わかった?」

 

「気をつけるよ。ありがとうね、結坂……」

 

「うん、私も見に行くから頑張ってね。炎上放送」

 

「や、やっぱり燃えるのかな……」

 

 

 

――できたら僕としては穏便に放送を終えたいところだけど……。

 

 

 

「ユージ先輩がいるからね。あの人がいる放送で燃えないことの方が珍しいよ? むしろ、そうなる様に考えてるのかな?」

 

「うぅぅ……、今から胃が痛いよ……」

 

「難しく考えなくても、そういうものだと思っておくと良いよ。燃えても祐季くんのせいじゃないからね」

 

「う、うん……、頑張ってみるよ」

 

「あっ、でも、なにか心配なこととかあったら連絡してよ。いつでも相談に乗るからね」

 

「いつもありがとうね。何かあったらすぐにチャットを送るよ」

 

「そういって祐季くんはいつもため込むんだから……。気になったら逆にこっちから送るからね!」

 

 

 

 帰りにもう一度結坂に注意されてしまう。

 

 

――確かにすぐに思い悩んでしまうのは僕の悪いところだよね。三期生の絆とか言って、全く頼らないのは逆にみんなに不義理を働いている。むしろ、悩んでいるときこそ相談するべきだったな……。

 

 

 次に何かあったときはしっかり相談させてもらおう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 真緒さんやユージさんとコラボ。幸いなことにオフではないので、まだ気持ちは楽だった。

 

 

 でも、男性Vtuberとして最前線で戦う尊敬すべき先輩たち。

 いつもとはまた違った不安は抱く。

 

 それはチャットでも出てしまう。

 

 

 

ユキ :[あ、あの、その……、きょ、今日のコラボ……ですけど、どうしますか?]

 

ユキヤ:[――なんでも良い。何かやりたいことはあるか?]

 

ユキ :[ふぇ!? あ、あの……、その……。ぼ、僕もなんでもいいです……]

 

ユージ:[確か筋トレ枠にするって言ってましたよね? 本当に筋トレをするわけにはいきませんので、フィットネスゲームとかはどうですか? ミニゲームの成績で勝負するのも楽しそうですし]

 

ユキ :[えとえと……、その……、ぼ、僕は大丈夫です……]

 

ユキヤ:[――問題ない]

 

ユージ:[了解。勝負なので一番成績が悪かった人は罰ゲームで。……良くある『カタッター名を変更する』とかですね。あと枠はユキくんの枠でいいですか?]

 

ユキ :[ぼ、僕の枠ですか?]

 

ユキヤ:[――全く問題ない]

 

ユージ:[はぁ……、ユキヤは相変わらずですね。サムネとタイトルは俺が準備しますから、ユキくんは配信の準備をよろしくお願いします]

 

ユキ :[は、はい。わかりました]

 

 

 

 ただのチャットではあるものの、ユージがいなかったらまともに配信内容も決まっていなかっただろう。

 

 普段の配信に出しているチャラい感じはチャットでは全くない。むしろ場をまとめてくれる良きお兄さんといった感じがしていた。

 

 

 一方の真緒さんは普段の配信と変わらないので、二人だと萎縮してしまいそうだ。

 

 

――本当にこんな状態で配信ができるのかな?

 

 

 そんな不安を感じたまま配信時間を迎えていた。

 

 

 

◇◇◇

『《♯囚われのユキ犬姫》フィットネス勝負。真の犬力を見せつけるよ! 《雪城ユキ/真緒ユキヤ/野草ユージ/シロルーム》』

2.0万人が待機中 20XX/06/05 20:00に公開予定

⤴345 ⤵53 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

【コメント】

:ついに来てしまったか。

:燃やす準備はしてきた

:ユキくんに勝ち目はあるのか?

:ユージ草

:真緒さんに勝てるのか?

:いやいや、無理だろw

 

 

 

 ミニアニメと共にコメントがかなり加速していた。

 今まで以上のコメントの速さに怯えながら、アニメが終わった瞬間に三人のアバターを出現させる。

 

 

 段ボールに入っている犬風アバターの僕。

 今日の段ボールは[助けてー!!]と書いてある。

 

 一応今日は二人に捕まっていて、そこから何とか逃げだそうとしている設定だった。

 

 

 真緒さんは白銀の長髪に二本の角が生えた魔王風のアバターだった。腕を組み、服装もそれらしく黒のマントを羽織り、同じく中にも黒の服を着ていた。

 

 

 ユージさんは相変わらずチャラチャラとした雰囲気のアバターだ。

 トゲトゲと言えるほど尖らせた金髪と煌びやかな服装の前だけを(はだ)けさせて、筋肉質な体を見せつけていた。

 

 

 そんな二人に挟まれているユキくん……。

 うん、確かに囚われているようにも思える。段ボールに入ってるわけだし。

 

 

 そんなことを思いながらいつもどおり段ボールをユキくん(ぼく)に被せようとしたのだが……、うっかりミスをしてしまい真緒さんに被せてしまう。

 

 

 

『あっ!?』

 

 

 

 思わず声を漏らしてしまうが、真緒さんは気にした様子もない。

 

 真緒さんの魔王風アバターが段ボールの中に入る。

 そこに書かれている[助けてー!!]の文字。

 

 

 青ざめてしまう僕を他所に、ユージが思わず笑っていた。

 

 

 

ユージ:『くくくっ。いいっすね、それ。ユキヤにお似合いっすよ』

 

ユキヤ:『なんだ、段ボールか。いつも雪城が使ってるものだろう? 問題ない』

 

 

 

【コメント】

:wwwww

:まさかの初手段ボール攻撃www

:ユキくんが挑発w

:草

:真緒さん相手にやるなw

:ユキくんwww

 

 

 

 パフォーマンスだと思われてしまったようだ。

 真緒さんも同意しているので、もう戻すこともできない。

 

 

――と、とりあえず僕も段ボールに入って……。

 

 

 恥ずかしさを紛らわす意味も込めて、僕も段ボールに入り、顔を隠してしまう。

 そして、少しだけ顔を出しながら言う。

 

 

 

『わ、わふー。み、皆さんこんばんはー。今日はと、囚われのユキ犬姫……。――って、誰が姫なの!? と、とにかく、姫なんかじゃないからね……。普通の犬の雪城ユキです。今日はフィットネスゲームで真緒さんやユージさんをばっさばっさと倒して、ここから逃げ出したいと思います。よろしくお願いします』

 

 

 

【コメント】

:犬姫草

:わふー

:わふー

:どう見ても真緒さんたちには勝てないだろw

:わふー

:わふー

《:¥500 わふー》

:ユキ犬姫わふー

 

 

 

ユキヤ:『ふっ。この魔王である我、真緒ユキヤ相手にいつまで平静でいられるかな』

 

ユージ:『ちょっち、俺っちのことも忘れないで欲しいっす。シロルーム最強のイケメンこと、野草ユージを。ほらっ、ユキっちはもっと俺を頼ってくれて良いんだよ? 力になるっすよ。カモーン』

 

 

 

 ユージがわざとらしくウインクをしてくる。

 もちろんそれはスルーするのがいつもの流れなので、僕もスルーする。

 

 

 

『えとえと、真緒さんは強敵だけど、ぼ、僕も三期生のみんなから力をもらってるから負けるわけにはいかないよ。全力でいくからね』

 

 

 

ユージ:『お、俺っちは無視っすか……』

 

 

 

【コメント】

:ユキくんスルーw

真心ココネ :ユキくん、頑張って下さい

:ユージ草

:ユージ草

羊沢ユイ :うみゅ、涙目ユキくんかわいいの

神宮寺カグラ :ユキなら大丈夫よ

:ユージ草

:ユージ草

:草生えすぎて、すごく燃えそうだw

美空アカネ :燃やす?

:ユイちゃんだけ応援してなくて草

 

 

 

ユージ:『ちょっち!? まだ燃やしたらだめっすよ。ここは俺の枠じゃないんっすから』

 

『そ、その……燃やさないで貰えると、助かる……かな。僕じゃ止められないし……』

 

ユキヤ:『――それもまた一興だ』

 

『一興じゃないですよ!? そ、それよりも今日はフィットネスゲームで勝負をするんですよね? えっと、この輪っかを使うのかな?』

 

ユージ:『今人気のやつっすね。その輪っかを押し込んだり引っ張ったりして変形させたり、適度な筋トレをして物語を進めるゲームっすね』

 

ユキヤ:『――ゲームだからな。このくらい余裕だろう?』

 

『僕はその……初めてだからどうだろう? あとこの輪っか……、ゲームが始まったら変形するんだね。今は全く動かないけど』

 

 

 

 丸い輪っかを実際に押したり引いたりしてみたけど、今は何も動かなかった。

 ただ、その僕の話を聞いてユージは固まっていた。

 

 

 

ユージ:『べ、別にこの硬さはゲームが始まっても変わらないっすよ? ま、まぁ、やってみたらわかるっすね。早速始めるっすよ!』

 

 

 

 ユージは苦笑を浮かべていた。

 

 

 

『わかったよ。早速起動するね』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、見た目通りひ弱w

:今日はユキくんの負けかw

:真緒さん、勝ってくれ!

:ユージ草には負けるな!

:でも、今日はユージ草が一番まともw

真心ココネ :ユキくん、無事に帰ってきて下さい……

美空アカネ :そこだよ、ユージを燃やすんだ

海星コウ :いらないことをするとアカネを燃やすよ?

美空アカネ :しょ、消火器はしっかり用意してあるから

:↑草

 

 

 

 ゲームを起動させるとフィットネスゲームらしくまず最初に身長と体重を求められる。

 

 

 

『えっと、身長は150cm……。次は体重――』

 

 

 

【コメント】

:流石に隠すよな

:いや、ユキくんのことだ。うっかりとBMIの数字をさらしてくれるはずw

羊沢ユイ :うみゅ、ゆいと同じ身長……

:計算の準備はできている

:↑お前たちw

:まぁ、何人もさらしてるVtuberがいるもんな

:ある意味罠だよな、ここ

真心ココネ :ユキくん……、大丈夫かな

 

 

 

『体重は40kg……』

 

 

 

 普通に隠すことなく体重も入力する。

 すると、ユージが慌てた様子で言ってくる。

 

 

 

ユージ:『ちょ、ちょい待ち!? そこは隠すところっしょ!?』

 

『ふぇ?? 別に隠す必要なんてないよね?』

 

 

 

――別に体重なんて見られて困る様なことはないし。確かに痩せすぎてるから、母さんからもっとたくさん食べろ、と言われるけどその程度だもんね。

 

 

 ただ、他のみんなからはそうは思われていなかったようだ。

 

 

 

【コメント】

:珍しくユージに同意だ

:まさか隠すこともしないとはw

:ユキくんらしいといえばらしいかw

:でも、痩せすぎだな

真心ココネ :やっぱり!?

:ココママ、驚きすぎw

:いや、驚くでしょw

:今日のためにBMIの計算を覚えたのが無駄になった

 

 

 

 コメント欄の勢いが加速したそのタイミングでキャスコードの通知音が鳴る。

 

 

 

 ピコッ!

 

 

 

『わっ……、あっ、チャットか。』

 

 

 

 どうしても突然音が鳴るこのチャット音は慣れなかった。

 慌てて中を確認するとココネからのメッセージだった。

 

 

 

ココネ:[ユキくん、体重なんて言ったらダメです!! か、隠して下さい!]

 

 

 

『えっ……、なんで言ったらダメなの?? 別に僕は気にしないよ?』

 

ユージ:『いや、あのな……。まぁ、ユキっちがいいんだったらいいっすけど――。ユキヤからも何か言ってくれっすよ』

 

ユキヤ:『――何か問題があるのか?』

 

ユージ:『はぁ……、あんたたちに聞いた俺がバカだったっす』

 

『えとえと、何かはわからないけどドンマイです』

 

ユージ:『いやいや、なんで俺っちがミスしたいになってるんっすか? 全てユキっちのことっすよ!?』

 

『……??』

 

 

 

【コメント】

真心ココネ :ユキくん……、あとでお説教です

:ココママのお説教入りまーすw

:体重がバレる恥じらいも見たかった

:ユキくんらしいw

:おかしい。ユージが普通に見える

:まさか今日のユージは別人?

:↑それだ!

:草が生えない……。燃やせない……

 

 

 

『と、とにかく体重も入れ終わったし、先に進めるよ。えっと、まずは力の調整? 負荷を選択?? えっと……、ど、どれがいいのかな?』

 

ユキヤ:『大したことはない。最強でいいだろう』

 

ユージ:『ちょい待ち! ユキっちの見た目を考えると最弱でいいと思うっすよ』

 

『ぼ、僕としてはその……、できたら普通を選びたいんだけど……』

 

ユージ:『後から負荷は変更できるから、俺の言う通りにした方がいいっすよ?』

 

『あっ、そうなんだ……。わかったよ、それじゃあ一番弱い負荷で……』

 

ユージ:『まずは軽いミニゲームから始めるっすよ! 一応練習で』

 

 

 

 ユージが選んだのは軽く走って、コインを集める物だった。

 

 ベルトコンベアの上を早く走ったり、遅く走ったりして、コインを取りに行く。

 たまにジャンプしたりとかも必要になる物だった。

 

 

 

ユキヤ:『――この程度、問題ない』

 

『えっと……走ればいいんだよね? それに輪っかを押す?? うん、だ、大丈夫』

 

ユージ:『ユキっちは本当に大丈夫っすか? まぁ、とにかく練習で一回してみるっすよ』

 

 

 

 僕たちの返事を聞いたあと、ユージはゲームをスタートしていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『はぁ……、はぁ……、はぁ……』

 

 

 

 軽いやつから始めたはずなのに僕は肩で息をして、まともに喋ることすらできなかった。

 

 

――い、意外と大変なんだね……。

 

 

 ゲームと思って侮っていたかもしれない。

 しっかりとしたフィットネスゲームみたいで、すでに汗が流れている。

 

 そして、画面にはスコアランク『―』という文字が表示されている。

 

 

 つまり、0点。

 計測不能だった、ということだ。

 

 

――こ、これ、勝てるの? ううん、ここまで大変なゲームなんだから、そんなに悪い数字じゃない……よね? みんなきっと一緒の数字……だよね?

 

 

 淡い期待を抱いていたのだが、それは粉々に粉砕される。

 

 

 

ユージ:『それじゃあ俺っちから言うっすよ。俺はランクA。凡ミスしてしまったっすね。ユキヤはどうだった?』

 

ユキヤ:『――S。ふっ、この程度造作もない』

 

ユージ:『流石っすね。今回は簡単なものを選んだから当然っすよね。そうそう低いスコアは取らないっす』

 

『あ、あはははっ……』

 

 

 

 もう乾いた笑みしか浮かべることができなかった。

 

 

ユージ:『それでユキっちはどうだったんっすか?』

 

『わふっ!? ぼ、僕はその……あの……、な、なし……です』

 

 

 

 恥ずかしくなって、ゆっくり顔を段ボールへと隠す。

 ただ、僕の返答を聞いてユージも固まっていた。

 

 

 

ユージ:『なし……って、0点ってことっすか!? う、嘘じゃないっすよね?』

 

『えと……、うん。そ、そう書いてあるし……』

 

 

 

 次第に泣きそうになってくる。

 

 

 

【コメント】

:0点って初めてみた

:ユキくん……

真心ココネ :ゆ、ユキくんは必死に頑張ったよ

:つ、次から本番だから

羊沢ユイ :うみゅ、ユキくんらしいの

《:¥1,000 お疲れ様》

 

 

 

 僕の顔がゆっくり段ボールへ沈んでいくそのタイミングで、真緒さんが顔に手を当てて笑い出していた。

 

 

 

ユキヤ:『くくくっ。はははははっ。中々興味深いやつだ、雪城ユキ!』

 

『ま、真緒さんまで!? わ、笑わないでくださいよ。そ、その……、僕は必死に……』

 

 

 

 思わず涙目のまま真緒さんに対して大声を上げてしまう。

 しかし、それはユージによって止められる。

 

 

 

ユージ:『ちょっと待つっす! ユキヤがこんなに楽しそうにしてるなんて、初めてみたっすよ』

 

『えっ!? それってただ、僕の痴態が笑われてるだけですよね!?』

 

ユキヤ:『――よし、今日は雪城に0点以上を取らせる! ユージもいいな?』

 

 

 

 真緒さんは本当に楽しそうに笑いながらユージへ言う。

 

 

 

ユージ:『……まぁ、ユキヤがそれでいいならいいっすよ。珍しいっすね、ユキヤが自分の意見を言うの……』

 

『あ、あの……。ぼ、僕の意見は――?』

 

ユキヤ:『はーっははっ、次のミニゲームへ行くぞ! 我が必ず一定の成果を上げさせてやるぞ!』

 

『わ、わふぅぅぅ…………!?!?』

 

 

 

 僕の意見は聞かれることなく次のミニゲームへと進んでしまう。

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、ご愁傷……

真心ココネ :ユキくん、無事に帰ってきてね……

羊沢ユイ :うみゅー、ゲームなら負けないの! ゆいともするのー!

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 放送終了ギリギリまでミニゲームを続けた。

 

 真緒さんの特訓やユージさんのアドバイスもあり、かろうじてランクが表示される最低である、Cランクに到達することができた。

 

 

 

『わ、わふ……。も、もう動けないよ……』

 

ユキヤ:『――今日はこのくらいか。最初から飛ばすわけにはいかないからな』

 

ユージ:『いやいや、十分飛ばしてたっすよ!? ユキっち、大丈夫っすか?』

 

『だ、大丈夫……。で、でも、さすがに疲れたかな……』

 

 

 

 息を荒くしている僕。今にもその場に倒れそうだった。

 

 

 

【コメント】

真心ココネ :ユキくん、お疲れ様

《:¥2,000 乙わふ》

:吐息エロい

:でも、これって捕らえられたままじゃないのか?

:犬姫を助けるのは一体誰なのか?

羊沢ユイ :ゆいなの!

《:¥10,000 捕虜生活に使って下さい》

 

 

 

ユージ:『それじゃあ、今日最下位の成績だったユキっちには罰ゲームっすね』

 

『うぅぅ……、お、お手柔らかに……』

 

ユキヤ:『――カタッター名を選べるのだったな。囚われのユキ犬姫でいいんじゃないか? @の後ろにでもつけてくれ』

 

ユージ:『なるほどっすね。それは良いアイディアっす。今日から全体コラボまでユキっちは囚われのユキ犬姫っすよ。それじゃあ拍手』

 

 

 

【コメント】

:888888

:888888

:888888

真心ココネ :ゆ、ユキくんは私が救い出しますから

羊沢ユイ :うみゅ、囚われ……働かなくて良い……。羨ましいの

神宮寺カグラ :罰だから仕方ないわね

:888888

美空アカネ :なんだ、ユージが燃えてる音か?

《:¥10,000 ユージ8888888》

《:¥10,000 草8888888》

《:¥10,000 ユージ火》

《:¥10,000 ユージ炎》

《:¥10,000》

 

 

 

『わ、わふっ!? さ、最後の最後に赤スパで燃やさないでー』

 

ユージ:『仕方ないっすね。むしろ良くここまで持ったと感心するっす』

 

『そんなこと言ってないで止めて……』

 

ユキヤ:『――放送終了だな』

 

ユージ:『おーつかれちゃーん♪』

 

『ちょ、ちょっとまっ――』

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯囚われのユキ犬姫》フィットネス勝負。真の犬力を見せつけるよ! 《雪城ユキ/真緒ユキヤ/野草ユージ/シロルーム》』

3.9万人が視聴 0分前に配信済み

⤴1.3万 ⤵61 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ

チャンネル登録者数18.2万人

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 雪城ユキ@囚われのユキ犬姫 @yuki_yukishiro 今

わ、わふー。フィットネス勝負に負けたので、しばらくは囚われのユキ犬姫として生きていくの……。誰か助けに来て……。

 

 

 

 約束通りカタッター名を変える。

 結局配信の最後は赤スパ一色で、派手に燃えていたので反応が気になった。

 

 だからカタッターを確認していたら色んな人からリプが来る。

 

 

 

 真心ココネ@シロルーム三期生 @kokone_magokoro 今

返信先:@yuki_yukishiro

今すぐに助けに行きます!!

 

 

 

 神宮寺カグラ@シロルーム三期生 @Kagura_Zinguuzi 今

返信先:@yuki_yukishiro

不当な扱いを受けたら言いなさい! すぐに行くわ

 

 

 

 羊沢ユイ@シロルーム三期生 @Yui_Hitsuzisawa 今

返信先:@yuki_yukishiro

うみゅー、三食昼寝付き労働なしなら代わってあげるの(੭ु˙꒳˙)੭ु⁾⁾

 

 

 

――みんな相変わらずだな。

 

 

 どうやら反応自体がそれなりにあるようなので、これはこれでユキくんのアカウントとして考えるならおいしい結果になるだろう。

 そんなことを思ってるとチャットが来る。

 

 

 

アカネ:[ユキくんの新衣装を準備したよ。でも、まさかちょうど良いタイミングになったかもしれないね。早速使うと良いよ]

 

 

 

 まさかのアカネからだった。

 そして、いつから描いていたのか、そこにはいつもとは違うユキくんの展開図が描かれていた。



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第9話:ユキくん、新衣装発表!? ♯ココユキカグラ

 真緒さんたちのコラボの次の日、僕は筋肉痛で身動きが取れなかった。

 

 

 

「うぅぅ……、動けない……」

 

 

 

 さすがにこの状態でオフコラボは無理なので、前もってココネとカグラには伝えておく。

 

 

 

ユキ :[そ、その……、僕、今日は筋肉痛で動けなさそうで……、ごめんね]

 

ココネ:[仕方ないですね。ユキくん、昨日頑張ってましたからね]

 

カグラ:[えぇ、そうね。ユキは動かない方が良いわね]

 

 

 

――わかってもらえてよかった。

 

 

 僕は少しホッとしていた。

 

 

 

ユキ :[じ、じゃあ次コラボする日を決め――]

 

ココネ:[私たちが行くなら問題ないですよね?]

 

ユキ :[ふぇ!?]

 

カグラ:[それもそうね。ココネの家がユキの家に変わるくらいよ]

 

ユキ :[で、でも、その……、ぼ、僕の家は――]

 

ココネ:[あっ、ユキくん、両親と住んでたんだった? 一応確認だけしてもらって良いかな?]

 

 

 

――そんなことを母さんに聞いたら二つ返事が来るよ。

 

 

 

 ため息交じりに一応確認だけ取りにいく。

 筋肉痛を庇う様にまるでロボットの様な動きをして――。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「あれっ、ゆーくん? どうしたの、面白い動きをして」

 

「……ちょっと筋肉痛でね。それで母さんに頼みがあるんだけど良いかな?」

 

「大丈夫だよ。それで誰がゆーくんの初めてをもらうのかな? ココネちゃんかな? ユイちゃんかな? それともカグラちゃん? あっ、もしかして七瀬ちゃん?」

 

「ま、まだ何も言ってないよ!? それに言い方!! 変な勘違いをしてないよね!? ただ、コラボ配信のために部屋に来てもらうだけだよ!? た、確かに僕の部屋に人が来るのは初めてだけど……」

 

「でしょー。これでもゆーくんのママだから言いたいことくらいわかるよ。でも、せっかくゆーくんの記念日にお仕事があって出ないといけないんだよね。……サボろうかな」

 

「ダメだよ!? シロルームのみんなに迷惑がかかるでしょ!?」

 

「うぅぅ……。ゆーくんの初体験を一緒にお祝いするんだー!!」

 

「な、何大声出してるの!?!? み、みんなに勘違いされるでしょ!? ほらっ、早く行ってきて。ぼ、僕の配信を見たらどういう状況かわかるでしょ!?」

 

 

 

 僕はピリッと体が痛むのを堪えながら、母さんを玄関へと押していく。

 

 

 

「あっ、それもそうだね。動けないゆーくんがあんなことやこんなことをされてる姿を妄想すれば良いんだね。わかったよ、あとから何回も見るね」

 

「そ、そんなことしないよ!? もう、そんなこというなら見なくて良いよ」

 

「ママは会長としてシロルームライバーのチェックをしないと。だからこれはお仕事。しっかりとゆーくんの成長を見ないといけないんだよ。お仕事だもん。別にゆーくんの動画の切り抜きを作ったりとかはしてないから安心してね」

 

 

 

――どうしてだろう。自分の母親ながらあまり信用はできないのだけど……。

 

 

 

「……信じるよ。……信じてるからね」

 

「あははっ、大丈夫。とってもかわいいところを選りすぐるから任せてよ!」

 

 

 

 母さんがビシッと親指を立ててくる。

 

 

 

「って、それって切り抜きをするってことでしょ!?」

 

「んーっ……、ほらっ、ユーくんのかわいいところを見てもらうのも会長の仕事だから」

 

「関係ないよね、それ!?」

 

「それにしても今日のゆーくんもかわいいね。そのユキくんの服、お気に入り?」

 

 

 

 今の僕の格好はいつものワンピースと犬耳パーカーとレギンスだった。

 

 普通の男物を着ていったらこよりに着せ替え人形にさせられるのが目に見えていたので、それならまだ着慣れている今のユキくんスタイルが一番マシだった。

 

 

 

「こ、これはココネにもらったものだからその……」

 

「あぁ、なるほどね。うんうん、仲が良いのはいいことだね」

 

 

 

 母さんが子供扱いをするかのように僕の頭を撫でてくる。

 

 

 

「わふっ……。か、母さん、僕はもう大学生だよ……。そ、それにそろそろ会社行くんだよね? いってらっしゃい」

 

「うぅ……、やっぱり行きたくないよー。ゆーくんと一日も離ればなれになるなんて……」

 

「はいはい、他の人に迷惑がかかるでしょ」

 

「ゆーくんが冷たいよー……。うぅ、行ってくる。帰ってきたらお帰りのハグをしてね」

 

「覚えてたらいいよね。……秒で忘れておくけど」

 

「ママが覚えておくから強制でするからね」

 

 

 

 それだけ言うと母さんは悲しそうな視線を送りながら家を出て行った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

ユキ :[ただいま。確認してきたよ……]

 

ココネ:[それじゃあ、今日の18時頃にユキ君の家でいいですか?]

 

カグラ:[えぇ、構わないわ]

 

ユキ :[ぼ、僕……、まだ何も言ってないよ?]

 

ココネ:[ユキくんのことだからわかりますよ。ダメだったら、本当に申し訳なさそうにまず謝ってきますからね]

 

 

 

 すっかり僕の考えを読まれている様だった。

 

 

――そんなにわかりやすいかな……。

 

 

 

ユキ :[ま、まぁ、確かにOKはもらってきたんだけど……]

 

ココネ:[ありがとうございます。ユキ君の家、楽しみですね]

 

カグラ:[な、何か持っていった方が良いのかしら? 菓子折とか]

 

ユキ :[今日は僕しかいないから大丈夫だよ]

 

ココネ:[えっ!? ゆ、ユキくん一人でいるのですか!? あ、危なくないですか?]

 

ユキ :[――たまに思うんだけど、ココママって僕のことを小学生くらいに思ってない? 僕、大学生だよ?]

 

ココネ:[あっ、そ、そうでしたね。うん、ユキくんは大学生。大学生でしたね……。し、知っていましたよ]

 

ユキ :[うん、ココママにはしっかり抗議しないといけないね]

 

カグラ:[それはあとからにして。それよりも今日の配信のことよ]

 

ユキ :[僕にとっては死活問題なんだけど……。まぁ、雑談のネタにもなるか――]

 

ココネ:[それで、どんな配信が良いですか? ユキくんが動けないなら雑談メインの方が良いですか?]

 

ユキ :[あっ、それなら僕、新衣装もらったんだよ。その公開配信をしてもいいかな? 動けないから、どこまでできるかわからないけど]

 

ココネ:[ほ、本当なんですか!? どんな衣装ですか!?]

 

ユキ :[えとえと、せっかくだから内緒にしておくよ。でも、すごくかわいいよ]

 

ココネ:[うぅぅ……、ユキくんのいぢわる……]

 

ユキ :[わ、わふっ。でもでも、その方が放送中に楽しんでもらえるかなって。……あぅあぅ]

 

カグラ:[はぁ……、気づきなさいよ、ユキ。ココネはわざとそう言ってるのよ]

 

ユキ :[えっ!?]

 

ココネ:[もう、カグラさん。ばらさないでくださいよ! せっかくあとちょっとでユキくんが新衣装を見せてくれそうだったのに]

 

カグラ:[ユキが私たちを喜ばそうとしてくれてるんでしょ? なら乗っておきなさいよ]

 

ココネ:[うっ、そ、そうですね。わかりました。楽しみにしてますね]

 

ユキ :[そ、そこまで期待されると少し自信がなくなっちゃうんだけど……。うん、た、楽しみにしててね]

 

 

 

 それからみんなが来ても大丈夫な様に僕は夕方に向けて部屋を片付け始めていた。

 動ける範囲で……。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 約束の十八時まであと五分ほどになると、僕はそわそわして、意味もなく部屋の中を行ったり来たり歩いていた。

 やはり部屋に誰かを上げるというには初めての体験で、その緊張は今までの比ではない。

 

 

――何か変なところはないよね??

 

 

 部屋は掃除したし、パソコンの他には骨クッションと段ボールくらいしか置かれていない。

 僕自身の格好はココネがくれたユキくんセット。

 腕にはユイがくれた腕時計。

 

 

 どこをとっても全く問題のない格好だと思う。いつもこの格好だというのは言いっこなしだ。一番楽な格好だから……。

 

 

 そして、ちょうど五分前になると呼び鈴が鳴る。

 

 

 

 ピンポーン!

 

 

 

「あっ、は、はーい……」

 

 

 

 少し緊張しながら、玄関へと向かい、扉を開ける。

 すると、笑顔を見せるこよりと瑠璃香(るりか)の姿が現れる。

 

 

 

「やっほー、祐季くん。待たせたかな?」

 

「あっ、え、えっと、大丈夫……。うん、僕も今来たところだから……」

 

「あははっ、ここ祐季くんの家だよ。今来たも何もずっといたでしょ?」

 

「あっ……!? そ、そうだね……」

 

 

 

 かなり緊張していた様で、変な返事をしてしまう。

 ただ、こよりはいつも通り笑顔で返してくれるので気は楽だった。

 

 

 

「こらっ、祐季が困惑してるわよ。とりあえず中に入らせてもらっても良いかしら?」

 

「あっ、ごめん。どうぞ。その……、散らかってるけど――」

 

 

 

 それから二人を僕の部屋に案内する。

 

 

 

「へぇ……、ここが祐季くんの部屋か……。噂には聞いてたけど、本当にユキくん段ボールがあるんだね」

 

「うん、担当さんがパソコンと一緒に送ってきたんだよ……」

 

「それでこの骨クッションがカグラさんがくれたやつだね」

 

「そ、そうだよ。僕も良く抱きしめてるんだ……」

 

「へぇ……。えいっ!」

 

 

 

 こよりは骨クッションを抱きしめる。

 

 

 

「……ふかふかで良い気持ち。このまま寝ちゃいそう」

 

「うん、おやすみ……」

 

「本当に寝ないよー。オフ会が終わってからだよー」

 

「そ、そうだよね……。あっ、る、瑠璃香さんは何を見てるの?」

 

 

 

 僕のパソコンを興味深く見ている瑠璃香へ視線を向ける。

 

 

 

「――このパソコン、中々良いものを使ってるわね。さすがシロルーム、侮れないわね。私もそろそろパソコンを新しくしようかしら」

 

「えっと、僕はどんなパソコンなのか全くわからないんだけどね……」

 

 

 

 瑠璃香が言うのだったら間違いはないのだろう。

 その点、パソコンを準備してくれた担当さんには感謝だな。

 

 

 

「十分片付いてますね。わ、私が綺麗に掃除して上げようと思ったんですけど……」

 

「そ、そんなこと、こよりさんたちにさせられないよ!? ゆ、ゆっくりくつろいでよ」

 

 

 

 僕は急いで二人に座布団を準備する。

 そして、向かい合う様に座ると急に緊張してくる。

 

 

 

「こ、こう集まったのはいいけど、何話して良いかわからないね。ぼ、僕、人を部屋に呼ぶのって初めてで……」

 

「別に普段通り私の膝の上に来てくれたら良いんだよ? ほらっ」

 

 

 

 こよりは両手を広げてくる。

 

 

――うん、断言できる。それだけは絶対に普段通りじゃない。

 

 

 苦笑を浮かべつつ僕たちは雑談をしたり、一緒に食事(作るのはこよりで、瑠璃香は台所立ち入り禁止令が発動)したり、こよりが一緒にお風呂に入ろうとしてくるのを妨害したりして時間を潰していた。

 

 

 

◇◇◇

『《♯ユキ犬姫拾いました ♯ココユキカグラ》ユキくん、新衣装発表!?《雪城ユキ/真心ココネ/神宮寺カグラ/シロルーム三期生》』

2.8万人が待機中 20XX/06/06 22:00に公開予定

⤴657 ⤵0 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

 

【コメント】

:今日は少し遅かったんだな

:唐突の新衣装だと!?

:ユキくんの場合、作る方が追いついてないんだろうな

:このタイミングの新衣装……、どんな感じなんだ?

:わくわく

 

 

 

 既に待機してる人が期待のコメントを送ってくる。

 あまり期待されすぎると逆に不安になる。

 

 そんな気持ちを抑えつつ、僕はミニアニメを流し始める。

 

 

 その間にココネたちの準備が良いかを確認する。

 

 カグラは既に配信モードになっている。

 ココネは……。

 

 

「ユキくんの着ぐるみ姿……、かわいいですー」

 

 

 寝間着の犬着ぐるみを着た僕を見てココネは笑みがこぼれていた。

 

 

――うん、ポンモードだね。平常運転かな。

 

 

 思わず苦笑を浮かべてしまう。

 

 

 

「そろそろミニアニメ終わるからミュート消すよ。よろしくね」

 

 

 

 二人にそれを伝えたあと、段ボールで姿を隠したユキくんとココネ、カグラのアバターを表示させる。

 

 

 

『わ、わふー、犬好きの皆さん、こんばんはー。囚われのユキ犬姫こと雪城ユキです。き、今日は助けに来てくれてありがとうございます』

 

 

 

【コメント】

:わふー

:犬姫に違和感がないw

:わふー

:わふー

《:¥500 わふー》

:わふー

 

 

 

『スパチャ、ありがとうございます。ふふっ、このくらいじゃ僕、驚かなくなったよ。成長の証だね』

 

 

 

 前までスパチャが来るたびに慌ててたのが嘘のように、冷静でいられる様になった。

 これもずっと弄ばれ続けてきたから、の成長だろう。

 ただ、それもすぐに勘違いだと思い知らされる。

 

 

 

【コメント】

《:¥10,000 ほう》

《:¥20,000 本気出していいのか?》

《:¥50,000 成長したユキくんなら驚かないよな?》

《:¥20,000 今月の食費》

《:¥30,000 お前ら、赤スパばっかw》

《:¥50,000 犬姫にお仕置きを》

《:¥30,000 ユキくんへ》

《:¥20,000 成長したユキくんなら耐えられるよね?》

《:¥10,000 お友達代》

 

 

 

 僕の言葉に反応して怒涛の赤スパラッシュがやってくる。

 これには流石の僕も慌ててしまう。

 

 

 

『わ、わふぅぅぅぅ!? み、みんな、投げすぎ!? 投げすぎだから……。ぼ、僕がわるかったよ。謝る。謝るから赤スパで殴らないで……』

 

 

 

 僕が涙声になっていると隣からカグラがため息交じりに言ってくる。

 

 

カグラ:『はぁ……。今の言い方だとスパチャくるってわかるでしょ?』

 

『ふぇ!? わ、わかるの!?』

 

ココネ:『……わかりますね』

 

 

 

――つまり、知らず知らずのうちに僕がスパチャをおねだりしてしまったようだ。

 

 

 

『ご、ごめんなさい。そ、その、僕は大丈夫ですから、無理に投げないでください……』

 

 

 

【コメント】

《:¥10,000 いいから投げさせろ!》

:↑スパチャで殴るw

《:¥10,000 ユキくん、応援してるよ》

:ユキくんかわいいw

 

 

 

『あわわわっ、ま、まだくる……』

 

カグラ:『ユキのことを応援したいって気持ちなんだから素直に受け取りなさい。「ごめんなさい」より「ありがとう」の方が喜んでくれるわよ』

 

『わ、わふっ。み、みなさん、本当にありがとうございます』

 

ココネ:『ユキくん、そろそろ先に進めないと!』

 

『そ、そうだね。えと……、き、今日はなんと僕の家にココママとカグラさんをお招きしてます。お、お泊まり会です。強制です。しくしく……』

 

 

 

【コメント】

:な、なんだと!?

:ユキくんが家に人を招くと!?

:明日は雪か

:ユキくんだけにな

:……

:ユキくん泣いてるw

 

 

 

『えとえと、それだと僕が人を招いたことないみたいだよ。……うん、ココママたちが初めてだし、来てもらった理由も僕が筋肉痛で動けないからなんだけどね……』

 

 

 

【コメント】

:それでこそ俺たちのユキくんだ!

:ユキくん、お帰り

:明日は普通の天気だな

《:¥10,000 おかえり、ユキくん》

:よかった。ユキくんがどこか遠くへ行ったのかと思った

 

 

 

『うぅ……、みんなで僕を馬鹿にしてないかな? そ、そうなんでしょ!?』

 

ココネ:『ユキくん、そろそろ私たちも紹介して下さい』

 

カグラ:『ユキ、今日は姿を見せてないんだから、透明人間が喋ってるみたいでしょ』

 

『そ、それもそうだね。まずは三期生のママ、ココママだよ』

 

ココネ:『犬好きのみなさん、ここばんはー。ユキ犬姫のママ、真心ココネですよ』

 

 

 

【コメント】

:ココママー

:ココママー

:ココママー

:ココママー

 

 

 

ココネ:『みんなのママじゃないですよー。ユキくんのママですからね』

 

『うん、ココママは僕のママなのであげないですよ』

 

ココネ:『うんうん、そうですよね』

 

 

 

 ココネが後ろから更に力強く抱きしめてくる。

 ただでさえ筋肉痛でゆっくりとしか動けない僕はそこから逃げることができなかった。

 

 

 

『む、むぎゅ……こ、ココママ、動けな――』

 

ココネ:『あっ、ごめんなさい。ついついユキくんが嬉しいことを言ってくれたから――』

 

 

 

 ココネが僕から離れて、頭を下げてくる。

 

 

 

『い、言うだけならいくらでも言うよ……』

 

 

 

 ユイの問いかけにも素で返せるほどに僕は成長している。

 そのくらいで恥ずかしくなっていた昔の僕ではない。

 

 

 

ココネ:『そういえば、ユイちゃんの時もそうでしたね。それなら私にも同じように好きって言ってくれますか?』

 

『うん、もちろんだよ。ココママ、す……』

 

 

 

 以前同様にあっさり言おうとしたのだが、ジッとココママが僕の目を見て真剣な表情を見せていた。

 それはユイの時にあった冗談の様な空気ではなく、真面目に答えないといけない様な気がした。

 

 すると、途端に恥ずかしくなってきて、顔を背けてしまう。

 

 

 

『そ、その……、あの……、あ、あうぅぅぅ……』

 

ココネ:『ふふふっ、ユキくんもまだまだですね』

 

 

 

 ココネは嬉しそうに笑みを浮かべたあと、ようやく元の笑顔に戻ってくれる。

 

 

 

『うぅぅ……。辱められたぁー。僕、まだまだだったよぉ……』

 

 

 

 涙目になりながら呟くと、カグラが呆れた声を出してくる。

 

 

 

カグラ:『ねぇ、私はどうしたらいいのかしら? このまま帰ったら良いの?』

 

『あっ、ご、ごめん。つ、次はカグラさん、お願い』

 

カグラ:『犬好きのみんな、来て上げたわよ。神宮寺カグラよ。今日はユキ犬姫の段ボールだけもらって帰るからよろしくね』

 

『っ!?!? こ、この段ボールはあげないよ!? ぼ、僕のだからね』

 

カグラ:『それが嫌ならちゃんと配信を頑張ること! ほらっ、今日は発表があるのでしょう?』

 

『あっ……、うん。ありがとう。頑張るよ!』

 

 

 

【コメント】

:カグラ様がすっかりお姉さんに

:ポン姫の汚名返上か?

:ユキくんも犬姫だから

:ポン三人w

:あれっ、三期生の常識枠は?

:ユキくんじゃない?

:ここまで枠主アバター登場なしw

 

 

 

『わ、わふっ、今日はなんと僕の新衣装の発表があるんだよ。しかもココママたちにもまだ内緒にしてるんだよ』

 

ココネ:『ユキくんがいぢわるしてきたんですよ。あとからお仕置きが必要ですね?』

 

『わふっ!?!? お仕置き!? ほ、ほらっ、ただ、ココママたちも犬好きさん達と一緒に驚いて欲しかっただけだよ!?』

 

ココネ:『ふふっ、冗談ですよ』

 

 

 

【コメント】

:うぉぉぉ

:楽しみだー

:だから今まで段ボールから出てこなかったのか

:段ボールから出ないのが、今更すぎて気づかなかった

:もしかして新衣装は段ボール?

《:¥2000 服代》

 

 

 

『ふ、服代はいらないですよ。も、もう着てますからね。ま、まずは頭から……』

 

 

 

 いつものようにソロソロ、と頭を出していく。

 

 

 髪色はいつもと同じ茶色なのだが、フリルと犬耳があしらわれたヘッドドレスを付けている。

 

 

 

『ど、どうかな? いつものフードじゃなくて違うタイプの犬耳なんだよ』

 

ココネ:『か、かわいいですー』

 

『わふっ、まだ頭だけだから……。後ろから抱きつかないで……』

 

 

 

【コメント】

:ロリータ系か?

:かわいい

:どこか姫っぽいなw

:ココママw

:ユキくんも嬉しそう

:あれっ? 髪伸びてない?

 

 

 

『わふっ、気づいちゃった? うん、実は頑張って髪を伸ばした……っていう設定で――。って、あわわっ。今の話はなし。設定はなし。が、頑張って伸ばしたんだよ。変なところまで読んじゃっただけだからね!?』

 

カグラ:『全く、気をつけないとダメでしょ。ユキは』

 

 

 

【コメント】

:草

:それ、カグラ様が言うのw

:設定w

:なんだ、やっぱりいつものユキくんか

:続き早くー

:初配信で設定全て晒してたカグラ様に言われるユキくんw

 

 

 

カグラ:『あれは初配信だったからちょっとミスしただけよ!?』

 

『う、うん……。つ、次にいくね。えっと、服……服……』

 

 

 

 更にゆっくりと服が見えるように立ち上がる。

 

 

 薄黄色のフリルやリボンがたくさんあしらわれた純白のドレス風ワンピース。

 その上にはピンクのリボンが付いた白のボレロを着ていた。

 

 

 

『どうかな。この服、とってもかわいくないかな? アカネ先輩が言うにはユキ犬姫バージョンなんだって。元々はロリータドレス風に書いてたらしいけど、ちょうどいいからユキ犬姫にするって言ってたよ。姫って言うより、貴族のお嬢様って感じにも見えるけど、でも僕に合ってるからいいんだろうね。あと足も、すごく装飾に凝ってるんだ……』

 

 

 

 今度は足の方へとカメラを切り替える。

 

 

 少し厚底の靴で、デフォルメされた犬が描かれた白の長めの靴下を履いている。

 

 

 パーツパーツで見せ終わったので、最後に全体を見せる。

 そして、すぐに段ボールに戻りたくなるのを我慢して、頬を染めながら聞いてみる。

 

 

 

『ぼ、僕的にはすごくかわいいと思うんだけど、みんなはどう思うかな……?』

 

 

 

 少し反応が気になってそわそわとしてしまう。

 ただ、その姿に真っ先に反応する人物がいた。

 

 

 

ココネ:『ゆ、ゆ、ユキくーん! と、とってもかわいいですー!』

 

 

 

 ココネが抱きつこうとしてくる。

 ただ、さすがにこのタイミングで抱きついてくるのは予想が付いたので、準備しておいた骨クッションでガードする。

 

 

 

『ふふふっ、さすがに何度も抱きつかれたからね。今のは僕でも読めるよ』

 

ココネ:『うぅぅ……、ユキくんがグレてしまいました……』

 

 

 

 ココネが目元に手を当てて泣く真似をする。それを見た僕は慌ててしまう。

 

 

 

『わわっ、べ、別に僕はグレたわけじゃないよ。そ、その……、泣かないで……』

 

ココネ:『今ですー!』

 

 

 

 ココネが骨クッションを退けて僕に抱きついてくる。

 

 

 

『わ、わふっ!?』

 

 

 

 手足をバタつかせても逃げることができない。

 そして、ココネは満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 

ココネ:『えへへっ、ユキくん成分補充ですぅ……』

 

『わふわふ……、は、離して……』

 

ココネ:『だめですよぉ……』

 

カグラ:『はぁ、全く……』

 

 

 

 頬をスリスリしてくるココネとそこから必死に逃れようとする僕。

 そして、その側でカグラはため息を吐いて僕を助け出してくれる。

 すると、ココネは名残惜しそうな表情を見せてくる。

 

 

 

カグラ:『ユキ……、そろそろ衣装について詳しい説明してくれるかしら』

 

『わふっ!? あっ、助かったよ……』

 

ココネ:『ゆ、ユキくんを取られました……』

 

カグラ:『と、取ってないわよ!? こうしないといつまでも話が進まないでしょ!?』

 

『うん、捕まったままだと何もできなさそうだったよ……』

 

ココネ:『ゆ、ユキくんが可愛すぎるのが悪いんですよ。姫風のロリータファッションなんて、ユキくんに似合いすぎててお持ち帰りしたくなって当然なんですよ! 犬好きのみなさんもそうですよね!?』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん拾いたい

:犬姫かわいい

:かわいいは正義

:ユキくんを拾うのは俺だ!

:ロリ犬姫最高

《:¥5000 姫代》

 

 

 

『わ、わふっ!? ぼ、僕の味方はいないの!?』

 

ココネ:『これでユキくんの可愛さが証明されました』

 

カグラ:『はぁ……、また話がズレてるわよ。ユキくんの新衣装の話をするのでしょう?』

 

『そ、そうだった。実はアカネ先輩から、この新衣装の展開図をもらってるんだよ。正面から見たユキくん(ぼく)と横から見たユキくん(ぼく)と後ろから見たユキくん(ぼく)がわかるんだよ。えっと、どこだったかな?』

 

 

 

 パソコンを弄って展開図を探す。

 

 

 

『あったあった。みんな、これを見てくれるかな? ユキくん(ぼく)の展開図なんだけど、さっきのだと後ろまでは見れなかったけど、後ろもしっかりとフリルが描かれててとってもかわいいんだよ。それにそれに背中からみるとどれだけ髪を伸ばしたかよくわかるよね。あとは……あれっ、この右下のって――』

 

 

 

 よく見るとそこにはとんでもないものが描かれており、僕は思考が停止してしまう。

 そして、すぐに顔が赤くなって、モニターを手で隠してしまう。

 

 

 

『だ、ダメぇぇぇぇ。み、見たらダメぇぇぇ!!』

 

 

 

 

 展開図にはユキくん(ぼく)下着(・・)についても書かれていたのをすっかり忘れていた。

 

 

 可愛らしい犬の足跡模様がついた白のパンツ。

 その下にアカネさんの文字で[パンツもこだわっておいたよ。犬柄パンツだよ]と書かれていた。

 

 

 

【コメント】

:犬柄パンツw

:パンツ助かる

:まさかの下着大公開

《:¥5,000 パンツ代》

:パンツ助かる

 

 

 

 慌てて、画面を弄って、下着の部分を見えないように調整する。

 ただ、それでも恥ずかしさは消えなくて、顔を真っ赤にしていた。

 

 

 

『うぅぅ……、みんな、今のは忘れて……。何も見なかったことにして……』

 

ココネ:『切りぬきさん、お願いしますね』

 

『み、身近に裏切り者がいたっ!?!?』

 

ココネ:『だってかわいいものはじっくり見たいですよね?』

 

『た、確かにかわいいものは見たいですけど、ぼ、僕はその……、かわいいわけじゃない――』

 

ココネ:『かわいいです! ユキくんはどこをどう見てもかわいいですよ!? カグラさんもそう思いますよね!?!?』

 

カグラ:『え、えぇ、確かに悔しいけど、ユキはかわいいわね。そこは間違いないわ』

 

ココネ:『ほらっ、カグラさんもそう言ってますよ。だからユキくんのかわいいところを見るのは何もおかしいことじゃないんですよ』

 

『そ、そうなのかな……??』

 

 

 

【コメント】

:ココママの洗脳w

:ユキくんwww

:さっきのことも忘れてそうw

:なんだろう……、今日はカグラ様よりココママの方がポンコツに見えるw

 

 

 

『わ、わふっ!? そ、そうだよ、かわいいとかそういうのじゃないんだよ!? 全世界に僕の痴態が公開されてしまったんだよ……!? うぅぅ……恥ずかしいよぉぉ……』

 

カグラ:『――今更気にしても仕方ないわよ。それよりも犬好きたちが配信を待ってるわよ。ほらっ、頑張って』

 

『か、カグラさん……。うん、ありがとう。そ、そうだよね。僕たちを見に来てくれてるんだもんね。僕、頑張るよ』

 

 

 

 ぐっと両手を握りしめて気合を入れる。

 まだ少し恥ずかしさは残るものの、もう目を回して動けなくなるようなことはなかった。



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第10話:幸運虎とぐうたら羊 ♯羊虎/雑談するよー ♯ココユキカグラ

『《♯羊虎》うみゅー、王冠を取るの!《羊沢ユイ/貴虎タイガ/シロルーム》』

2.8万人が視聴中 ライブ配信中

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 ユキくんがライブ配信をしていた頃、ユイもコラボ配信を行っていた。

 

 コラボ相手は貴虎タイガ。

 

 内容はゲーム配信ということもあり、パーティー系のアクションゲームを準備していた。

 

 

 基本的な操作は移動やジャンプ、掴む……くらい。

 ラウンド毎に参加者が減っていって、最後の一人になるまで競い合うといったパーティゲームだった。

 タイガは基本壁があれば壊して進むタイプ……、ということを聞いていたので、こういったシンプルなゲームの方がいいのでは、と思ったのだ。

 

 

 

【コメント】

:珍しい組み合わせ

:動物ペアだな

:のんびりユイっちと暴走タイガか

:しかも今日するゲームってオンライン対戦のやつか

:ユイっち勝てるのか?

 

 

 

――どういうこと?

 

 

 ユイはかなりのゲーマーとして知られているはず。

 そうなると普通はタイガが勝てるのか、と思うはずなのに……。

 

 

 疑問を抱きながらユイは配信を始めていた。

 

 

 

ユイ :『うみゅー、こんみゅー。ゆいはお布団の守り神、羊沢ユイなのー。よろしくなのー』

 

 

 

【コメント】

:うみゅー

:うみゅー

:こんみゅー

《:¥500 うみゅー》

:こんみゅー

:お布団の守り神w

 

 

 

ユイ :『うみゅー。それじゃあ、そろそろ配信を終わりにするの。お疲れ様なの』

 

タイガ:『おっ!? もう終わりなのか? お疲れー!』

 

 

 

 ユイのボケに対して、ツッコミが来ずにタイガも乗っかって来る。

 

 

 ただ、そこまでは想定通り。むしろ先を読みやすいタイガだからこそ準備できた流れだった。

 

 

 ユイはそのままエンドロールを流す。

 

 

 

【コメント】

:w

:ユイちゃんw

:本当に終わりそうw

:ついにぐうたらするユイちゃんの悲願が果たせるか?w

:タイガがこの流れを破壊してくれるはず

 

 

 

 エンドロールも終わり、配信を終了させようとした、そのタイミングでキャスコードの通知音がなる。

 

 

 ピコっ!

 

 

 いつもなら絶対にしない通知音鳴らしというミスを敢えてする。

 

 その送り主はもちろん担当。

 

 

 

マネ :[ちゃんと配信はしてください]

 

 

 

 よく見てるな、と思わず感心してしまう。

 ユイがぐうたらしすぎた時にいつもこの注意が飛んでくる。

 

 

 

ユイ :『うみゅー、担当さんに怒られたから仕方なく配信を続けるのー。めんどいのー』

 

タイガ:『続けるのか!? よし、任せろ!』

 

 

 

 何事もなかったかのようにエンドロールを消して、アバターを表示する。

 

 

 羊型アバターのユイに対して虎型のアバターのタイガ。

 

 黄色と黒のコントラストな髪の中に耳があり、スレンダーな体つきと細く長い尻尾。

 そして、服装も黄色と黒の袖なしワンピースを着ていた。

 それはもう、どこからどう見ても虎にしか見えない。

 

 そして、食物連鎖から考えると、ユイは食べられる立場にいた。

 

 

 

ユイ :『うみゅ!? よく見るとゆいは羊だから食べられちゃう!? 大ピンチなの』

 

タイガ:『ジンギスカンって美味いもんな』

 

 

 

 斜め上の回答をしてくるタイガ。

 確かにこれは他の人とは違う対応が必要になりそうだった。

 

 

 

ユイ :『うみゅみゅ!? 食べる気!? ゆいを本当に食べる気なの!?!? ゆい、ピンチなの!?』

 

タイガ:『ユイってジンギスカンだったのか!?』

 

 

 

 口元に手を当てるタイガ。

 それをみると本当によだれを垂らしている様に思えてしまう。

 

 

 

ユイ :『うみゅ、ち、違うの!? ゆいはゆいなの! ラム肉じゃないの!』

 

タイガ:『あははっ、なら問題ない!』

 

ユイ :『うみゅー……、調子狂うの……』

 

 

 

【コメント】

:さすが暴走枠w

:ユイちゃんが手玉に取られてるねw

:下手に考えるとドツボ嵌まるからなw

《:¥2,000 ラム肉代》

:二期生は三期生みたいに素直な子が少ないからなw

 

 

 

ユイ :『と、とりあえず気を取り直して……。今日はタイガと一緒にゲームをするのー』

 

タイガ:『ゲームと言えば俺だからな。任せておけ!』

 

ユイ :『うみゅ、どこからこの自信が来るのかわからないけど、一緒に王冠を目指すの』

 

タイガ:『おう! んっ、なんだこのマトリョーシカみたいなやつは。敵か?』

 

ユイ :『うにゅ、それは自分の操作キャラなの。自分で自分を倒したらダメなの。ふぅ……、今日はツッコミが大変で疲れそうなの……』

 

 

 

【コメント】

:ユイちゃん頑張れ

:なんだろう、結末が既に見える

:石橋を叩いて粉砕するタイプだからな、タイガ

:自分が……だよな?w

:もちろん周りにいる全員を……だよw

 

 

 

タイガ:『早速始めるか……って、いきなりどこかに落ちてるぞ?』

 

ユイ :『参加者を探してるだけなの。しばらく待つと良いの』

 

タイガ:『よし、始まった。で、なんだこれは? たくさん扉があるぞ?』

 

ユイ :『うみゅ。それはいくつかある扉のうち、通れるのが数個だけあるの。それを何回か繰り返して、規定人数以内にゴールするといいの』

 

タイガ:『なるほど。要するに突っ込めばいいわけだな!』

 

ユイ :『うみゅみゅ!? ち、違うの。た、正しい扉を見つけないとダメなの!』

 

 

 

【コメント】

:ユイちゃん草

:まぁ、説明を聞くタイプじゃないもんなw

:でも、これってタイガ最強のやつじゃないか?

:あぁ、運が絡むものでタイガに勝てる人間はいないだろう?

:でも、羊だw

 

 

 

 そして、ゲームが開始される。

 

 六十人ほどのキャラが一斉に動き出してゴールを目指していく。

 

 まっすぐにゴールを目指すのもあり、妨害もあり。とりあえずなんでもできるゲームだった。

 

 

 

タイガ:『数がいたらとりあえずぶっ飛ばしたくなるよな? パンチはどのボタンでできるんだ?』

 

ユイ :『うみゅ!? そんなボタンはないの!?』

 

タイガ:『ちっ、残念だ。とりあえず俺はとことんまっすぐ進むぜ!!』

 

 

 

 そういうとタイガはまだ開いていない扉に向かってまっすぐ進んでいく。

 すると、その扉は正解だった様であっさり先に進んでいく。

 

 

 

ユイ :『うみゅ、運がいいの……』

 

 

 

 タイガのあとを追いかけていくユイ。

 

 これは椅子取りゲームの様なもので最初は一位になる必要はない。

 脱落さえしなければ良かった。

 

 

――最終的に勝てば良い。

 

 

 そう思っていたのだが、運が良かっただけに思えたタイガから嫌な雰囲気を感じ取った。

 

 

 理由はわからない。

 でも、全力を出さないと負ける様な気がした。

 

 自分の全力……。つまり手の内を隠しつつ、最後の最後で勝利をつかみ取る。

 ゲームにおいてユイに負けはない。

 

 

 この嫌な感覚を感じたからこそ平静を保たないといけない。

 

 ユイは大きく深呼吸をして、いつもどおりの態度を取る。

 

 

 

ユイ :『タイガは初っぱなから飛ばしすぎなの。最初は流すだけで良いの』

 

タイガ:『はははっ、負け惜しみか? 悔しかったら勝ってみろ!』

 

ユイ :『うみゅ、言ってると良いの。最後に勝つのはゆいなの。本気を出すまでもないの』

 

 

 

【コメント】

:ユイちゃんはいつも通り挑発してるw

:ゲーム勝負だから本気なんだなw

:ゲーム操作は下手だけど、幸運だけで全てを破壊するタイガw

:選ばれるゲームは全て運系か。

:勝てるのか?

:幸運虎にぐうたら羊が挑む!

 

 

 

 瞬時に判断して、最短ルートを辿っていくユイ。

 

 しかし、突っ込んだ先、全てが正解の扉であるタイガに勝てるはずもなく、初戦は二位という結果になった。

 

 

 

ユイ :『うみゅ、無事に通過したの』

 

タイガ:『はははっ、まだまだ俺には勝てないな。もっと全力を見せてみろ!』

 

 

 

 何もせず、運だけで勝った様に思ってしまうのは初心者のすることだろう。

 ユイほどのゲーマーになるとはっきりわかる。

 

 

 運も実力(・・・・)のうち。

 そして、タイガは自分の力(その幸運)を遺憾なく発揮している。

 

 

 だからこそ、ユイも全力を出して立ち向かわないといけない。

 

 

 

ユイ :『うみゅ、最後の最後はゆいが勝つの』

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 それからユイとタイガは一進一退の勝負を繰り広げていた。

 

 

 完全に運だけのものはタイガが圧勝。

 少しでも技巧が必要な物だと競い合う。

 

 

 そして、ついに最終戦。

 最後に勝ち残った者が優勝となるところまで来た。

 

 

 残った人数は八人。

 ゲーム内容は妨害してくる障害物を避けて、頂上にある王冠をとる。

 

 

 

タイガ:『なかなかやるな』

 

ユイ :『うみゅ、ついに最後の勝負なの。覚悟するの』

 

 

 

 ユイとタイガは二人、バチバチと火花を飛ばし合っていた。

 

 

 

【コメント】

:ど、どっちが勝つんだ?

:ユイちゃん、頑張れ

:タイガも負けるな

:目が離せなくなってきた

 

 

 

 最後の勝負が始まる。

 

 ユイもタイガもまっすぐに頂上を目指していった。

 ただ、タイガだけはほぼ障害に引っかからずにまっすぐ進める一方、ユイはどうしてもそれを躱すのに時間がかかる。

 

 でも、それをユイ自身が最短ルートを見極め、ミスのないプレイで差を縮めていく。

 そして、山頂にほぼ同時にたどり着く。

 

 

――あとは王冠を取るだけ。

 

 

 そして、ほぼ同時に王冠をつかみ取る。

 

 

 

タイガ:『…………』

 

ユイ :『…………』

 

 

 

 最後の最後に運の勝負。

 

 でも、ユイとしては全力で挑んだ結果の勝敗。

 どちらに転んでも納得するつもりだった。

 

 

 

タイガ:『……負けたよ』

 

 

 

 タイガのその言葉でユイはようやく自分が勝利していることに気づいた。

 いつもならわかりやすいように喜ぶのだが、今回ばかりは違った。

 

 

 

ユイ :『うみゅ……、良い勝負だったの』

 

タイガ:『そうだな。またやりたいな』

 

 

 

 お互い友情の様なものが芽生えた気がしていた。

 だからこそユイはにっこり微笑んで言う。

 

 

 

ユイ :『うみゅ、疲れるからもう嫌なの』

 

タイガ『えっ!? ち、違うだろ!? そこはがっちりと拳をつけ合って再戦を約束するところだろう?』

 

 

 

【コメント】

:草

:ユイちゃんらしいw

:予測できない羊w

:ぐうたら羊が買った

《:¥10,000 おめでとう》

:良い勝負だった

:ユイちゃん、おめでとう

 

 

 

ユイ :『嘘なの。楽しかったの。またやるの。次は最初から(・・・・)本気を出すの』

 

タイガ:『あぁ、正面から粉砕してやる!』

 

 

 

 結果的にお互い笑い合って終わることができた。

 

 

 

ユイ :『うみゅ、次は一切運が絡まないゲームを用意するの』

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯羊虎》うみゅー、王冠を取るの!《羊沢ユイ/貴虎タイガ/シロルーム》』』

3.9万人が視聴 0分前に公開済み

⤴1.1万 ⤵24 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:Yui_Room.羊沢ユイ

チャンネル登録者

数10.1万人

 

 

 

◇◇◇

【コメント】

:ユイっち酷いw

:確実に勝つつもりだw

:まぁ、タイガのあの幸運はチート級だからな

:乙うみゅー

:草

 

 

 

◇■◇

『《♯ユキ犬姫拾いました ♯ココユキカグラ》ユキくん、新衣装発表!?《雪城ユキ/真心ココネ/神宮寺カグラ/シロルーム三期生》』

5.8万人が視聴中 ライブ配信中

⤴5,874 ⤵21 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

 新衣装発表が終わり、顔を真っ赤にしていたもののカグラのおかげで僕の気持ちは落ち着いていた。

 

 

 

『えとえと……、衣装の話が終わったし、僕の家で過ごした話でもしようかな?』

 

ココネ:『私とユキくんが一緒にお風呂に入った話ですね』

 

 

 

【コメント】

:ユキくんとココママがお風呂か……

:ユキくんが体を洗ってもらってたのかな?

:泡を嫌がるユキくん……

:ダメだ、俺はもう逝く……

 

 

 

『ちょ、ちょっと、堂々と嘘をつかないで!? い、今のはココママの妄想話だからね。そんなこと、一切なかったからね!?』

 

ココネ:『もう、ユキくんは照れちゃって……。私が優しく体を洗って上げたじゃないですか』

 

『わ、わふっ、そ、そんなことないよ!?』

 

カグラ:『はいはい、ココネもその辺にしておきなさい。またユキが目を回して倒れるわよ』

 

『ぼ、僕は大丈夫だよ!? もうそんなことはないよ……。もう子供じゃないんだし……。子供?? あっ、そうだ。一つ、ココママを問い詰めないといけない話があったんだった……』

 

ココネ:『――そろそろ配信終了にしましょうか?』

 

『しないよ!? それよりココママは僕のこと、小学生だと思ってない? さっきははぐらかしてきたけど』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん小学生疑惑w

:確かに見た目的には十分ありえる……w

美空アカネ :ランドセルユキくんも良いね

:暴走特急だwww

:あれっ、これって次の新衣装……w

:ユキくんは小学生

:なんだ、ロリかw

 

 

 

『な、なんで小学生派の方が多いの!? こう見えてもちゃんと十九歳だよ!? 今月末に二十歳になるよ!? お酒も飲めるよ!?』

 

ココネ:『えっ?? ユキくん、今月末が誕生日だったのですか!?』

 

『えっ? あっ、うん。そ、そうだけど、どうして??』

 

ココネ:『……。誕生日記念配信をしないといけませんね』

 

 

 

 一瞬間を開けたココネ。ただ、にっこり微笑んでとんでもないことを言ってくる。

 

 

 

『こ、ここでも記念配信が来るの!?!?』

 

カグラ:『こればっかりはしかたないわね。まぁ、頑張りなさい』

 

『うぅぅ……、わかったよ。担当さんから連絡があったら考えるよ……』

 

 

 

【コメント】

:誕生日と言うことは記念品も発売するのか!?

:楽しみ

:そういえば三期生の誕生日を忘れていたな

:今月末か。バイト代貯めておく

 

 

 

『わわっ、ま、まだ決まったわけじゃないから!? そ、それにお金は無理に使ったらダメだからね!? 自分の生活を優先してね!?』

 

カグラ:『誕生日だと記念ボイスとかを販売するわよね? ユキ、本当に何も聞いてないの?』

 

『うーん、まだ全然……』

 

カグラ:『なら覚悟しておくと良いわ。どんなボイスにするか考えないといけないから』

 

『う、うん……。ちょっと覚悟しておくよ』

 

ココネ:『前もって担当さんに確認しておいて、ちゃんと予約しておかないと――』

 

『――ココママ?』

 

ココネ:『べ、別に私はユキくんのボイスを買えばいつでも聞ける、とかそんなことは考えていませんよ!?』

 

 

 

 それはほとんど答えを言っている様なものだった。

 

 僕はため息交じりに言う。

 

 

『ココママならいつでも僕の声を聞けるでしょ? ほ、ほらっ、キャスコードの通話でも話せるわけだし……』

 

ココネ:『えっ? 通話しても良いのですか? ユキくん、嫌がるかなって極力チャットにしてたんですよ?』

 

『も、もちろんだよ。き、緊張はするけど、その……、さ、三期生のみんななら断る理由はないよ』

 

ココネ:『あ、ありがとうございます』

 

『わわっ、だ、だから抱きつかないでー』

 

 

 

 再びココネに捕まった僕はそのままバタバタと手足を動かしていた。

 

 

 

【コメント】

:今まで通話してなかったのかw

:ココママ草

:また捕まったw

美空アカネ :妄想が捗るね。一体ナニをしてるのかな?

:カタカナw

 

 

 

カグラ:『まったくもう……』

 

『わふわふ……、ココママ、離してよ……』

 

ココネ:『ユキくん、暖かいですぅ……』

 

『ぼ、僕で暖を取らないで……。というか、もう蒸し暑くなってくる時期だよね!?』

 

カグラ:『ほらっ、じゃれ合うのは後からにしなさい。そろそろ放送時間が終わるわよ? 最後に衣装をもう一回見せた方が良いわよね?』

 

『わ、わふっ、わかったよ。ほらっ、ココママ、離れて……』

 

ココネ:『……仕方ないですね。ユキくんの晴れ姿のためですから――』

 

 

 

 ココネが離してくれた瞬間に僕はカグラの後ろへと移動する。

 

 

 

カグラ:『ユキ、私の後ろに隠れてないでほらっ、最後の挨拶をして』

 

 

 

【コメント】

:ココママ警戒されてて草

:カグラ様がお姉さんにw

:ユキくんw

 

 

 

『わ、わふっ、きょ、今日は僕の新衣装公開ライブに来ていただいてありがとうございます。途中、その一部お見苦しいものをお見せしましたが、無事放送することができて良かったです……』

 

ココネ:『大丈夫ですよ、ユキくん。みんなわかってますから』

 

カグラ:『そうね、ユキがミスをするのは今更だからね』

 

ココネ:『えぇ、しっかり切り抜いて後世にユキくんのかわいいところを広めてもらいますね』

 

『そ、そんなことをしたら僕、その……、泣いちゃいますからね。だ、だから、あのシーンは切り抜かないで……。お願いします……』

 

 

 

【コメント】

:はーい

:はーい

:はーい

《:¥50,000 ユキくん、泣かないで》

美空アカネ :誰も切り抜かなかったら私がするね

:草

:みんな返事だけ良すぎw

 

 

 

『そ、それじゃあ、本日もありがとうございました。乙わふ――』

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯ユキ犬姫拾いました ♯ココユキカグラ》ユキくん、新衣装発表!?《雪城ユキ/真心ココネ/神宮寺カグラ/シロルーム三期生》』

6.7万人が視聴 0分前に配信済み

⤴2.0万 ⤵23 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ

チャンネル登録者数19.1万人

 



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第11話:引退配信 ♯夏瀬なな+α

 ココママとのコラボが終わってから数日が過ぎた。

 記念配信をすることになってしまったので、僕は慌ただしい日々を送っていた。

 

 

 まずはボイスの収録。

 

 

 これは自分で犬好きさんたちへ向けたメッセージを言うのだが、やはり喜んでもらえるようにしたい。

 

 そうなるとただ喋るだけでは不十分。

 出来るだけ気持ちを込めたものにしたい。

 

 しかも、ボイスの内容は僕のおまかせらしい。

 

 

 

「や、やっぱり告白するようなセリフ……だよね?」

 

 

 

 考えただけで顔が赤くなってしまう。

 

 

 

 一応このことでココネたちにも既に相談はしているのだが――。

 

 

 

ココネ:[ユキくんの告白が聞きたいです! 一生の宝にします!]

 

カグラ:[そうね。日々のお礼でも言ったらどうかしら?]

 

ユイ :[うみゅー、寝言をいれておくのー]

 

 

 

 ココネは本能剥き出しだし、カグラさんのは硬い気がする。

 ユイは……まぁ特殊な需要はあるかもしれないけど、どれもピンと来なかった。

 

 

 一番近いのはココネのやつだろうけど、流石に特定の誰かに対する告白なんて恥ずかし過ぎて、考えるだけで、頭が蒸発しそうになる。

 

 

――もう少し僕にも言えて、それらしい台詞はないかな? でも、他に相談する人は……。

 

 

 キャスコードの連絡先を見る。

 

 

――七瀬とかはどうかな? 僕の悩みも共感してくれるかもしれないし……。

 

 

 それとは別に七瀬について気になることもあった。

 

 

 今までは[さすらいの犬好き]として配信に来て、スパチャを投げてくれていた。

 更にコメントもしっかり残してくれていたのが、ここ最近のライブ放送ではその姿を見かけていない。

 

 

 最初はこういう日もあるかな……くらいに思っていたのだが、それが何日も続くと流石に気になって来る。

 

 

 

「一応連絡を送っておこうかな。何かあったのなら力になれるかもしれないし……」

 

 

 

 そう考えた僕は七瀬へチャットを送る。

 既にできている四期生のアカウントへ。

 

 

 アカウント名は[天瀬ルル(あませるる)]。

 

 

 小さいアイコンでしか見れないが、青銀色の髪をしていて、長さは肩くらいのショート。その頭の上に金の輪っかが見えるので、天使系のアバターだと推測できる。

 それがシロルームでの七瀬のアカウントだった。

 

 

 

ユキ :[最近あまり姿を見かけませんけど、お元気にしてますか?]

 

 

 

 ココネとかに送るときはこんなに堅苦しく送らないのに……、と思わず苦笑してしまう。

 

 

 そもそも七瀬にチャットを送ること自体、これが初めてなので仕方がない。

 忙しいならしばらくは返ってこないかも、と思ったが、すぐにチャットが返ってくる。

 

 

 

ルル :[す、すみません。ここ最近、四期生の活動の準備と夏瀬ななの活動を終えることの後始末に追われてて、ライブ配信に行けてないんです。で、でも、その分アーカイブは毎日ずっと聞いてますよ!]

 

 

 

 毎日ずっと聞いてる、って部分は聞きたくなかった。

 元気そうでよかった……。

 

 

 

 すると、そのアイコンから通話がかかってくる。

 

 

 

ルル :『もし、よかったらなんですけど、今度夏瀬ななの引退放送をするので、そのときに枠に来てくれませんか? ち、ちょっとだけでもいいので……。ユキ先輩がいるってわかると私、頑張れる気がするので――』

 

 

 

 七瀬の声は少し震え、怯えている様子が見てとれた。

 引退放送となると今までのファンから何を言われるかわからない。

 それに今まで続けてきたアカウントでの最後の配信。

 

 恐怖や悲しみ、その他色々な感情が入り交じっていて押しつぶされそうになっているのだろう。

 

 

 僕が行くだけでそれが和らぐなら力になりたい。

 ただ、実際に顔を出すと色々と問題がある。

 

 僕はあくまでも企業所属のVtuber。

 他人のところに顔を出すには担当の許可がいる。

 

 でも確認をするくらいならいいはず。

 

 

 

ユキ :『色々と確認してみるよ。ただ、期待しないで待っててね』

 

ルル :『は、はい。あ、ありがとうございます……』

 

 

 

 今は怯えている七瀬だが、きっと配信になったら自分を押し殺して、夏瀬ななを演じるのだろう。

 それがどれほど苦しいのか、僕にはわからない。

 

 

 僕にできることはだが、七瀬を応援して背中を推してあげることだけ。

 七瀬自身が決めたシロルーム四期生。その楽しさを教えてあげることだけだった。

 

 

――うん、そうだよね。七瀬は僕に来て欲しい(・・・・・)って言ったんだから、僕ができることは七瀬の力になることだけだよね?

 

 

 覚悟を決めた僕はすぐに担当さんに連絡を取る……前にまずは母さんに電話をしていた。

 

 

 

◇◆◇

『《引退放送》今までありがとう。夏瀬なな最後の放送だよ!』

8.0万人が視聴中 ライブ配信中

⤴2,384 ⤵271 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

【コメント】

:夏瀬ちゃん、本当に引退するの??

:始まった

:嘘……。今知った

:ずっと推しだよ

 

 

 

なな :『みなさん、こんばんは。夏瀬ななです。今日はたくさん集まっていただいてありがとうございます』

 

 

 

 七瀬はいつもの雰囲気で話し始めていた。

 そこに変わった様子はない。

 でも、よく見ると体が小刻みに震えている。

 

 

 

なな :『突然の発表、驚いたよね。うん、私も驚いた。まさか私がこんな決断をするなんて。本当にごめんなさい』

 

 

 

 七瀬は頭を下げて謝っていた。

 

 

 

なな :『で、でも、これだけは言わせてほしいの。悪い理由での引退ではなくて、むしろ逆! 私の夢のために。どうしても私のやりたいことをするために、引退を決意しました!』

 

 

 

【コメント】

:ほ、本当に引退するのか?

:夏瀬ちゃんの夢、応援するぞ

:がんばれー

 

 

 

なな :『みんながいたから私はここまで来られたんだよ。だから、みんなには感謝してもし足りないよ。本当にありがとう……』

 

 

 

【コメント】

:夏瀬ちゃん、今までありがとう

:俺も感謝してるよ

:寂しいよー

 

 

 

なな :『それじゃあ、最後の配信、いっくよー!』

 

 

 

 七瀬が笑顔を見せて楽しそうに歌い出す。

 

 そこには先ほどまでの震えていた七瀬奈々はいない。

 今いるのはみんなを楽しませようとしている夏瀬ななだけだった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

なな :『……楽しい時間ってあっという間に過ぎていくね。うん……、色々とあったけど、夏瀬ななとして過ごしていた時間は私にとって大切なものだったよ。少しだけ心残りがあるとするなら、その……最後には来て欲しかったかな……。うん、仕方ないんだけどね……』

 

 

 

 七瀬はコメント欄に視線を向ける。

 もしかしたら……と思っていたけど、やっぱり難しかったのだろう。

 別アカウントでコメントしてくれたのかもしれないけど、その場合、やっぱり判断することはできない。

 

 かといって、ユキくんアカウントだと、どうしてもシロルームの企業としての意向がある。

 

 

――仕方ないよね。

 

 

 そう思い、苦笑いしてコメント欄から視線を外す。

 

 すると、このタイミングでキャスコードの方から通話がかかってくる。

 

 

 

 相手は――ゆ、ユキくん!?

 

 

 

なな :『み、みんな、ごめんね。ミュートにするからちょっと待ってて』

 

 

 

 大慌てでミュートにしたあと、通話をとる。

 

 

 

なな :『ゆ、ユキくんですか!?』

 

ユキ :『わふっ、お、驚きすぎだよ。……うん、僕が遅れたのが悪いんだよね。ごめん……』

 

なな :『そ、そんなことはないですけど、その――』

 

ユキ :『と、とりあえず詳しい話は後にしよう。コラボ許可をもらってきたよ』

 

 

 

 ユキの声が震えている。

 かなり無理をしてるのがよくわかる。

 

 

――私のために? まだ会って数回の、ただ先輩後輩の間柄である私のために? ううん、ユキくんはこういう人なんだ。臆病なくせに優しいんだ。先輩後輩関係なく、困ってる人なら助けてくれる。だから私も惹かれたんだ――。

 今日もただ一言、コメントをしてくれるだけでよかった。私も言葉足らずで全部伝えていなかったのは悪かった。

 でも、私のためにかなり無理をしてくれたのだろう。企業系Vtuberであるユキが、今は個人のMeeTuberである夏瀬ななとコラボをするなんて……。

 

 

 並大抵のことで承諾が得られるとも思えない。

 それでもそんな苦労をお首に出さないで、いつものように……。

 

 

――全くこの先輩は……。本当に最高のサプライズプレゼントをくれるんですね……。

 

 

 七瀬は目に涙を浮かべながら笑顔を見せていた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

【コメント】

:遅いな……

:何かトラブルか?

:電話でもきたのか?

:あっ、戻ってきた

:ななちゃん、泣いてる?

 

 

 

なな :『み、みんな、ごめんね。すごく待たせちゃったね。そ、その……、私も突然のことで驚いちゃって……。ある人が私の引退にあたってサプライズプレゼントをくれたんだよ。それが嬉しくてその……』

 

 

 

 七瀬の目からは涙が止まらずに溢れ出ていた。

 しかし、その表情は笑顔で悪いことがあったのではない、ということだけわかる。

 ただ、その涙もすぐに拭って笑顔を見せていた。

 

 

 

なな :『と、とりあえず、ここにも来てくれたから、みんなにも挨拶をしてもらうね』

 

 

 

 七瀬に促された僕は覚悟を決めて、大きく深呼吸をする。

 そして、気合を入れて大声で言う。

 

 

 

『わ、わふぅー!! み、皆さん、こんばんはー!!』

 

 

 

 しかし、音量調整に失敗しているのか、その声はほとんど聞こえなかった。

 

 

 

【コメント】

:誰が来たんだ?

:全く聞こえないよ?

:遠くの方から小さい声だけは聞こえたな

 

 

 

 速攻帰りたくなる。

 自分の枠だったら今すぐにでも切っていたかもしれない。

 

 でもここは七瀬の枠。

 しかも、最後の配信枠だ。

 

 この程度で負けるわけにはいかない。

 一旦音量調整を行なった後、もう一度僕は挨拶をする。

 

 

 

『わ、わふぅー。こ、こんばんは。こ、今度は聞こえてるかな? まだダメなら言ってほしいな?』

 

なな :『私の方は大丈夫だよ。だから隠れようとしないでね』

 

 

 

【コメント】

:聞こえたけど、この声って……

:ま、まじか?

:大事な時にミスをして場を和ますこの感じ……

:どうやって連れてきたんだ??

:他のライバーならともかく同期からも逃げる臆病だぞ?

:ユキ犬姫だぁぁぁぁ!!!!

 

 

 

 散々な言われようだった……。

 というか、七瀬のリスナーたちにも僕のこと、知られているんだ……。

 

 そう考えるとどこかいつもと同じような雰囲気を感じてくる。

 

 

 

『えっと……、ぼ、僕だってやる時はやるんだよ……。本当は今も逃げ出したいくらい緊張してるけど、今日に限っていえばやらないといけない時だからね。それとユキ犬姫……は広めたくていいよ。ただの犬、でいいからね。シロルーム三期生、雪城ユキです。その……、夏瀬ななさんが引退されると聞いて、コラボの許可を取ってきました。ど、どうぞよろしくお願いします……』

 

 

 

 僕が言い終えると七瀬はユキくんのイラストを画面の端に表示してくれる。

 

 

 

なな :『本当にびっくりしたよ。確かに私の枠に来て欲しいって言ったけど、まさかコラボの許可まで取ってきてくれるなんて……』

 

『えっと、だって「来てほしい」ってコラボのことだよね? だからちょっと色々と頑張ったんだよ』

 

 

 

 普通ならかなり厳しいコラボ許可。

 だから僕はまず母さんに相談をしてみた。七瀬の個人アカウントでの最後の活動を応援してあげたい……と。

 

 ただ、いつもなら二つ返事をくれる母さんでもこの時ばかりは回答を渋っていた。

 だから、何度も何度も説得を繰り返して、ようやく母さんが頷いてくれてから担当さんに相談をした。

 

 僕にしてはかなり動いたと思う。

 母さんにはココネに買ってもらった服を着て写真を撮らせる約束をさせられたが――。

 

 

 

なな ;『えっと、それはコメントがほしいなってことだったんだよ。流石にユキくんは企業所属のVtuberなので、できてもこの辺りかなって……』

 

『……僕、コメント欄に帰るね。乙わふ様でした』

 

なな :『待って待って! せっかくきたんだからゆっくりしていってよ。わ、私、本当に感動したんだから……」

 

 

 

【コメント】

:コラボしなくていいと分かった瞬間に速攻帰ろうとするユキくん草

:いつものユキくんだw

:コラボ慣れしすぎたなw

:でも楽しそうな雰囲気

:ななちゃんが引退するんだって忘れそうだな

 

 

 

『うぅぅ……、ここまで来ちゃったから仕方ないよね。今までお疲れ様』

 

なな :『あ、ありがとう……。ユキくんから言われると照れちゃうね』

 

『でも、本当に今日で最後なんだね……。その……、初めてコラボできたのにもうお別れになっちゃうんだね……』

 

 

 

 そのことを考えると、僕の方が悲しくなってくる。

 七瀬の最後の配信だから楽しんでもらえるようにしないといけないのに、目からポロポロと涙が出てしまう。

 

 すると、七瀬は優しい笑みを浮かべる。

 

 

 

なな :『ユキくん、私の代わりに泣いてくれたんだね。ありがとう……』

 

『だって……、だって……。これが最後だと考えると本当に悲しくなって……。これからもいてほしいのに……』

 

なな :『大丈夫だよ、確かに夏瀬なな(わたし)はいなくなるけど、天瀬ルル(わたし)はいるから。だから、これからもずっとよろしくね』

 

『うん……、うん……、そ、そうだよね。そうなんだよね……。こんなところで泣いてたらダメだよね』

 

 

 

 僕も涙を拭いとる。

 流石に七瀬みたいにすぐに元通り、と言うわけにはいかず、涙声のままだった。

 

 なんとか笑みをこぼせるくらいにはなっていた。

 でも、終了時間が迫ってくるとやはり涙が堪えられなくなってくる。

 

 そして、それは七瀬も同じのようだ。

 

 

 

なな :『本当に私は幸せだったよ……。リスナーに見守られて、ユキくんが駆けつけてくれて……、最高の引退配信だった……。今までの私だったら考えられなかった。グスッ……。ほ、本当に、本当にありがとう……。明日から夏瀬ななはいなくなるけど、それでもみんなの心には残り続けるから。そして、私がこうして、MeeTuberとして成長できたのもみんなのおかげだから――』

 

『うぅぅ……、ほ、本当にいなくなっちゃうんだね……。ぼ、僕は忘れないよ。ちゃんと心に刻みつけるからね……』

 

なな :『ユキくん……。うん、大丈夫だよ。私自身はいなくならないよ。ちょっと違う道へ進むだけだからね。だから、もし別のところで新しい私に会えたら……。その私が今よりも……。ううん、今とは比べ物にならないほど楽しそうにしていたなら、そっと背中を押してほしいな。もし、その私が不幸だと思うなら、無理やり夏瀬ななへの道に戻してほしいな』

 

『大丈夫だよ……。夏瀬さんが楽しい生活を送れるように僕も協力するからね』

 

 

 

 僕を見て決意したという七瀬。

 

 先輩として、仲間として、そして、この配信に呼んだもらった友人として……、七瀬に楽しんでもらえるように頑張らないと。

 

 

 

【コメント】

:今までありがとう

:絶対に忘れないよ

:お疲れ様

:本当にありがとう

 

 

 

なな :『みんな、本当にありがとう。……お、終わるタイミングがないね。私だと終われないかも……。ゆ、ユキくん、終わりの挨拶、お願いしてもいいかな?』

 

『ぼ、僕!? うん、わ、分かったよ。でも終わりじゃないよね? 始まりの挨拶だよね?』

 

なな :『で、でも、今日は最後の配信で……』

 

『な、夏瀬さんが新しい道へ進む記念の日だから……。そ、その……、終わりじゃないよ。だから、今までありがとう。これからも頑張っていこうね!』

 

なな :『う、うん! みんな、本当に今日はありがとう』

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《引退放送》今までありがとう。夏瀬なな最後の放送です』

9.8万人が視聴 0分前に配信済み

⤴2.0万 ⤵13 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『《♯ユキ犬姫拾いました》いまのきもち……聞いてほしいな《雪城ユキ/シロルーム三期生》』

1.2万人が待機中 20XX/06/13 23:00に公開予定

⤴392 ⤵0 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

 夏瀬なな引退放送の後、僕は落ち込む気持ちを隠しきれずに思わずゲリラ配信をしていた。

 

 引退自体はどうすることもできないこと。

 

 

――だからこれは僕の愚痴……。

 

 

 それを犬好きさんに言うのは気が引ける。

 でも、この気持ちを隠したままにするのも何か違う気がしたので、思いきって枠を取っていた。

 

 

 すでに始まっているミニアニメ。

 いつものようにコメント欄が流れていく。

 

 

 

【コメント】

:ユキくんの気持ち?

:珍しいタイトルだな

:何かあったのかな?

:昨日のアレじゃないか?

:あぁ、ユキくん泣いてたもんな。

 

 

 

 すでに察しがついている人もいるようだった。

 

 ミニアニメが終わったのを確認したあと、犬姫バージョンのユキくんを表示する。

 

 もちろん段ボールの中に入れるのを忘れない。

 

 

 

『わ、わふぅ……』

 

 

 

 いつもの挨拶をしようとしたのだが、言葉が出ず、声が漏れただけになってしまった。

 

 弱々しい声……。

 

 これだけで何かあったのだと理解できる。

 

 

 

【コメント】

:わふぅ

:わふぅ

:元気ないね

《:¥10,000 元気出して》

:ユキくん大丈夫?

 

 

 

 コメントでも心配されてしまう。

 

 

 

『だ、大丈夫……。うん、大丈夫だよ。ごめんね、心配かけて……』

 

 

 

 せっかく見に来てもらったのに、逆に心配させてしまったら申し訳ない。

 もっとしっかりしないと……。

 

 

 

『そ、その……、き、今日はさっきあったことを話そうと思います……』

 

 

 

 思い出した瞬間に目から涙が出てくる。

 

 

 

『うぅぅ……、も、もう知ってる人はいるよね。そ、その……、僕の知り合いだった夏瀬ななさんが引退を――』

 

 

 

 ここまで言って、もう涙がだらだらと流れて、まともに言葉が出なくなってしまう。

 

 

 

【コメント】

:ユキくん頑張れ

:無理しなくていいんだよ

:落ち着くまで待つよ

 

 

 

『あ、ありがとう。む、無理じゃないよ。言わずにそのまま別の配信をすることもできたんだよ。でも、いつも来てくれるみんなには聞いて欲しいなって思っ……』

 

 

 

 涙を拭いながら、なんとか笑みを作ろうとする。

 しかし、うまく表情を作れずに引き攣った笑みになってしまう。

 

 それでもなんとか話を続けていく。

 

 

 

『夏瀬さんが引退するのは聞いてたんだ……。悪い意味での引退じゃないことも知ってるし、夏瀬さんが完全にいなくなるわけではないことも知ってる……。でも、今まで頑張ってきたものが簡単に無くなっちゃう。それが急に怖くなったんだよ……。僕はいつまで雪城ユキ(ぼく)でいられるのかなって……』

 

 

 

 また涙が流れてしまう。

 

 

 

【コメント】

:安心して

:ユキくんはユキくんだよ

:大丈夫だよ

 

 

 

『うん、ありがとう。大丈夫、僕はもう大丈夫……』

 

 

 

 涙を拭うと強い視線を向ける。

 

 

 

『僕は今のシロルームが好きだよ。友人でもあり、仲間でもあるココママやユイ、カグラさん……三期生のみんなが大好きだよ。少し暴走気味なアカネ先輩や落ち着いてるコウ先輩、他にも面白おかしくてもなんだかんだ優しい先輩たちが好きだよ。これから入ってくる四期生の後輩たちも好きだよ。そして、犬好きさんたちのことももちろん大好きだよ……』

 

 

 

 少し顔を染めながら言う。

 恥ずかしいけど、大事なことなので顔だけ段ボールから出しながら……。

 

 

 

 

【コメント】

:告白助かる

:逝く……

:俺もダメだ

:衛生兵、衛星兵はいないか!?

:俺も逝く……

 

 

 

『だからね。僕はこの場所をなくしたくない。この場所は僕にとってはかけがえのない宝物だから。だから、僕はこの場所を守っていくよ。逃げ出したくなる時もあるけど、その……頑張るから。でも、僕は何もできないただの犬だからね。もしよかったらだけど、犬好きさん、これからも僕に力を貸してね』

 

 

 

 ようやく持てた覚悟。

 

 スカウトされたから……、とどこか他人事のように思っていた。

 でも、これからは僕自身……。ううん、僕を含めたみんなといられるこの場所を守るために頑張ろう。

 

 

 

【コメント】

《真心ココネ :¥50,000 ユキくんは十分頑張ってますよ》

《さすらいの犬好き:¥50,000 やっぱり強いよ、ユキくん》

《:¥1,000 ユキくんのためならいくらでも手を貸すぞ!」

《:¥5,000 ユキくんがテンパってるところは好きだ》

《:¥10,000 力になるぞ》

《神宮寺カグラ :¥50,000 ユキが力を貸して欲しいなら仕方ないわね》

《:¥50,000 少ないけどユキくんのためなら》

《:¥30,000 今月これだけしか投げられない。ごめん》

《羊沢ユイ :¥50,000 交通費とゲーム代なの》

《美空アカネ :¥50,000 次のコラボ、いつにする?》

 

 

 

『わわっ、きゅ、急に来た!? た、たくさんありがとうございます。みんなが力を貸してくれるから今の僕がいるんだよ。でも、その……。無理は本当にしないでね。みんながいなくなると僕、悲しいからね』

 

 

 

 いつもみんなには助けてもらっている。感謝してもし足りないくらいだ。

 この放送は僕だけじゃなくて、みんな一緒に作ってるんだよね。

 

 

 

『あっ、あとユイ? そのゲーム代と交通費ってなにかな? アカネさんとのコラボは……、ほらっ、来週にシロルーム全員のコラボがありますから、それで……』

 

 

 

【コメント】

:アカネパイセン、体良く断られてて草

:全体コラボって何するんだろうな?

:シロルーム全員で12人か

:まだできるゲームがあるな

美空アカネ :くっ、かくなる上はえっちぃイラストを人質に無理やりコラボを……

海星コウ :アカネ、何言ってるのかな? 最近あまりパソコンで暴走してないなって思ったらスマホでしてたんだね

美空アカネ :こ、コウ!? くっ、見つかってしまったか……。

羊沢ユイ :うみゅー、もちろん次にするVRゲーム用のお金なの。ユキくん、機材持ってないから

 

 

 

『いつの間にか僕の持ってる機材まで把握されてるのはなんでかな? 前のお泊まりの時? なんか部屋漁りしてたもんね』

 

 

 

 VRゲーム機ってやっぱり値が張るから中々手を伸ばせなかったんだよね。

 コラボで使うなら買ってもいいかもしれない。

 

 

 

『アカネ先輩はご愁傷様……。最近コウ先輩を見ないなって思ったらそんなことがあったんですね。全体コラボの内容は……そろそろ発表されるのかな? オフじゃなくなりそうだから僕としては嬉しいかな。うん……』

 

 

 

【コメント】

真心ココネ :予定通り配信が終わりましたら三期生でオフ会をしますよ?

:ココママ草

:ユキくんどんまい

 

 

 

『で、でも、夜だし、ぼ、僕、配信終わったら寝ちゃうかも……』

 

 

 

【コメント】

真心ココネ :わかりました。では、私の方が行きますね

:草

:コラボ楽しみ

 

 

 

『わ、わふっ、本当に皆さん、ありがとうございます。おかげで少し気持ちが楽になったかも……。で、ではそろそろ今日の放送を終わりま――』

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯ユキ犬姫拾いました》いまのきもち……聞いてほしいな《雪城ユキ/シロルーム三期生》』

2.3万人が視聴 0分前に配信済み

⤴1.0万 ⤵14 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ

チャンネル登録者数23.0万人

 



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第12話:大暴走! オオカミは誰だ!? ぱーとわん ♯ポンコツルーム

 結局ボイスは僕の……犬好きさんたちへの気持ちを素直に言うことにした。

 

 僕が決意したこと。みんなのことを好きなこと。

 

 それが何故か担当さんには大好評で「是非とも次もお願いします」と言われてしまう。

 

 

 成長して、ユキくんバージョン2になった僕は今までの僕とは違う。

 前までならオドオドと断っていたところ。でも今は――。

 

 

『わ、わふぅ……、そ、その……、拒否権は?』

 

 

 

――うん、気持ちは変わっても人はそう簡単に変わるものじゃないよね。

 

 

 まず当然のごとく断りから入ってしまう。

 すると、担当さんはにっこりと悪魔のほほえみをしてくる。

 

 

マネ :『もちろんないですよ!』

 

『はぁ……、なら僕に聞く理由がないですよね?』

 

マネ :『いえ、ユキくんが乗り気かどうかで、「たくさん」か「超たくさん」を決めようとしたんですよ』

 

『ど、どっちも変わらないよ!?』

 

マネ :『今のユキくん人気、凄いですからね。そろそろ二期生を抜かしそうなほどに……』

 

『……僕、まだ何もできてないんですけどね』

 

 

 

 むしろこれから本気を出してやっていこうと考えているくらいだった。

 

 

 

マネ :『あっ、そうそう。今度のシロルームライバー全員による人狼ですけど、枠はユキくんのところでやりますので』

 

『え゛っ!? ど、どうして僕の枠で!?』

 

マネ :『事の発端はユキくんの一言でしたからね。だからユキくんの枠でするのが一番自然なんですよ』

 

 

 

 確かに全員コラボのきっかけは、僕が「大人数でコラボしたい」と言ったからだった。

 そこからとんとん拍子に予定が組まれて、気がついたら全員でコラボすることになっていた。

 

 まだまともに話したことがない人もいる。

 それなのに全員コラボ……。

 しかも枠主で……。

 

 

――ぼ、僕にできるのかな……。

 

 

マネ :『大丈夫ですよ、ユキくんなら』

 

『だ、だから、僕の考えを読まないで!?』

 

マネ :『何もしなくても読めてしまうからダメなんですよ。わかりやすすぎますよ』

 

『うぐっ……。こ、こうなったら見ててくださいよ。次の人狼では僕が最後まで生き残りますから』

 

マネ :『はい、楽しみにしてますね』

 

 

 

 ついつい担当さんに乗せられて、変な約束をしてしまった。

 でも、勝てば問題ないわけだよね。

 

 

 

◇◇◇

『《♯ポンコツルーム人狼》大暴走! オオカミはだれだ!?《シロルーム》』

3.0万人が視聴中 ライブ配信中

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 ついに配信日当日。

 配信画面にはシロルームのメンバー全員が映っていた。

 そして、特殊なツールを使った上でのチャットが準備されている。

 

 サムネはわざわざこの日のためにアカネが描いてくれた全員集合しているイラスト。

 一応ゲームの司会進行を務めるGMはコウになっていた。

 

 

 

アカネ:『おい、なぜ私じゃないんだ!?』

 

 

 

 と、一部反対意見も出たが、そもそもこの暴走気味のシロルームメンバー全員を抑えられる常識人は数えるほどしかいない。

 

 というより、おそらくコウしかいなかった。

 

 

 

コウ :『決まったものは仕方ないよ。ボクの代わりにアカネが生き残ってね』

 

アカネ:『仕方ないな。全力で生き残るよ!』

 

 

 

 コウの一言であっさりアカネが引いてくれる。

 これこそが飼育員と言われる所以だった。

 

 

 

『えとえと、そろそろ開始しますので、準備お願いしますね』

 

 

 

 一応ライバー皆に確認をした後、僕はライブ画面を切り替える。

 知らない人もいるので、緊張も一倍だった。

 それでも頑張っていくと決めたのだから、気合を入れる。

 

 配信画面はサムネと同じで全ライバーが載っている。

 流石に今日は2Dを使うわけにもいかないので、全員静止画だった。

 

 ただ、話している時にはその人の画面が光ってくれる。

 

 準備はこのくらいでいいだろう。

 早速僕は配信を開始する。

 

 

 

『わ、わふぅー、みなさんこんばんは。えっと、ここからどうするんだろう?』

 

ココネ:『まずは村の紹介ですよ、ユキくん』

 

『そ、そうだった。ありがとう、ココママ。えっと、ここはシロルームのライバーが集まる村です。では、一人ずつ自己紹介と意気込みを言ってもらいますか?』

 

アカネ:『ふははっ、私は美空アカネ(みそらあかね)。この村を統べる王ぞ。今日は村人を支配する王という役割をするよ。よろしくねー』

 

 

 

 真っ先に自己紹介をするアカネ。

 もちろん全力でネタに割り振ってきてくれるので、次の人も言いやすい空気を作ってくれる。

 

 

 

ユキヤ:『ふっ、我こそが真の王、真緒ユキヤ(まおゆきや)だ。何もしなくても皆、我の前にひれ伏す運命だ』

 

 

 

 真緒さんはいつも通りの挨拶をしてくる。

 言っている台詞はアカネとほぼ同じなのに冗談で言っている感じは全くしない。

 むしろ本心で言っている様に思える。

 

 

 

ユージ:『ちーっす』

 

アカネ:『草っす』

 

 

 

 ユージの挨拶を遮る様にアカネがモノマネをしてくる。

 

 

 

ユージ:『そうっす、草っす……。って、違うっすよ!? 俺っちは野草ユージ(のぐさゆーじ)っす。今日こそは……』

 

アカネ:『炎の海に飛び込みたいっす』

 

ユージ:『全く違うっすよ!? ちょくちょく似てない俺っちのまね、やめてほしいっすよ!?』

 

 

 

 ユージの慌てる声が聞こえてくる。

 ただ、他の人はそれを気にすることなく自己紹介を続けていた。

 

 

 

オンプ:『はぅぅ……、姫野オンプ(ひめのおんぷ)なのですよー。オオカミさんなのですよー。がおーなのですよー』

 

タイガ:『よっ、貴虎タイガ(きとらたいが)っす。今日は村人もオオカミも全て粉砕するぞ!』

 

ツララ:『――氷水ツララ(こおりみずつらら)。役職をきっちりこなすだけよ』

 

オンプ:『オオカミさんになったらがおーっていうのですねー』

 

ツララ:『――それが役職ならね』

 

 

 

 オンプの楽しそうな声を軽くかわし、ツララはいつもの冷たい返しをする。

 

 

 

タマキ:『うにゃ、にゃーは猫ノ瀬タマキにゃ。オオカミで最速キルをするのにゃ』

 

『えっと、別に殺す速度は変わらないんだけどね……。それじゃあ、次は三期生だね』

 

ココネ:『ならまずは私からいきますね。みなさん、ここばんはー。三期生、真心ココネ(まごころここね)ですよ。今日はユキくん(オオカミ)を守るために行動します。よろしくお願いします』

 

アカネ:『狂人だ。狂人がいる!』

 

ココネ:『ユキくんを守るためなら狂人でもなんでもやりますよ』

 

『えっと、僕の身より自分の身を案じてね……。あと、僕は犬だけど、オオカミじゃないからね?』

 

 

 

 思わずココネに口出ししてしまう。

 

 

 

カグラ:『神宮寺カグラ(じんぐうじかぐら)よ。今日こそはポン姫なんて言わせないんだからね』

 

ユイ :『うみゅー、ポンポン姫なの』

 

カグラ:『ポンの数を増やしてくれって言ったわけじゃないわよ!?』

 

ユイ :『ゆいはゆいなのー。羊なのー。とってもおいしいから襲ってくるといいのー』

 

『えっと、僕は雪城ユキ(ゆきしろゆき)です。あと、ユイはしっかり自己紹介しないと。羊沢ユイ(ひつじさわゆい)って』

 

ユイ :『うみゅー、めんどいからやっといてなの』

 

『ま、まぁ、もうやっちゃったもんね。えっと、意気込み……。ぼ、僕は犬だけどオオカミじゃないから……、こ、殺さないでね』

 

コウ :『ボクは今回のゲームマスターを仰せ使った海星コウ(かいせいこう)です。あまりにもアカネが暴走するようならゲーム外から鉄槌を下すのでよろしくね』

 

『そ、それじゃあ、僕からルール説明をします』

 

 

 

 一応枠主だから、ということでゲーム説明をすることになっていた。

 補足はコウがしてくれるので、安心して言うことができる。

 

 

 

オオカミは三人。

オオカミは毎晩一人ずつ村人を殺す。

村人は怪しい人を毎日一人処刑する。

オオカミを全員処刑できたら村人の勝利。

村人を殺していって、オオカミと同じ数にできたらオオカミの勝利。

 

 

 

『えっと……、こんなところかな』

 

 

 

 用意してもらったカンペを読み上げていく。なるべく棒読みにならないように……。

 すると、コウに褒められる。

 

 

 

コウ :『ユキくん、よく頑張ったね。それじゃあ役職の方はボクから説明するね』

 

 

 

[占い師]:1人

毎晩一人だけ、人か狼かを占える。最初の一人はランダムで教えられる。

[霊媒師]:1人

死んだ人間を占って、処刑された人間を人間か狼かわかる。

[段ボール]:1人

村人を守ることができる。でも、自分を守る事はできない。

[狂人]:1人

アカネのこと。人狼が勝つと狂人も勝つ。

[オオカミ]:3人

毎晩一人美味しく食べる。その人はオオカミ同士のチャットできめる。

[村人]:4人

なんの力も持たない普通の人。

 

 

 

コウ :『こんなところかな』

 

『……あの、一つ聞いていいかな?』

 

コウ :『うん、言いたいことはわかるよ。いつの間にか役職を書き換えられて段ボールになってるの。通常だと騎士とか狩人の役職だね』

 

『段ボールってオオカミから人を守れるんだ……』

 

コウ :『守れないよ!? 普通は守れないからね!?』

 

『だ、だよね……』

 

 

 

 最近段ボールに入りすぎて、万能の防具に思えてたけど、やっぱり段ボールも紙だもんね。

 

 

 

コウ :『それにしても、意外と普通に進行できてるね。驚いたよ』

 

『えとえと、これで普通……なのでしょうか?』

 

コウ :『……周りを見るとわかるよ』

 

 

 

 コウに言われてメンバーを見て、思わず苦笑を浮かべてしまう。

 

 

 

『あ、あははっ……。うん、普通(・・)に進むって難しいんですね』

 

コウ :『だからユキくんも早くGMができるほど成長してね』

 

『が、頑張ります……』

 

コウ :『うんうん、それじゃあゲームの方を始めるよー!! まずは自分の役職を確認してね。配信画面にも表示しないのでリスナーの方も一緒に推理してみてね』

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『わふっ!?』

 

 

 

 僕は自分の役職を見て思わず声を上げてしまう。

 まだミュートになっていないことを気づかずに――。

 

 

 

『わわわっ、みゅ、ミュートにしないと……』

 

 

[段ボール]

 

 

 それが僕の役職。

 

 

――うん、段ボールが本体とか言われてた僕らしい職業ではある。

 

 

 でも、誰をオオカミから守るかを考えないといけない、重要な役目でもあった。

 

 自分は段ボールでは守れない。

 常にオオカミに食べられる可能性を考慮して、下手に正体を明かすべきではない。

 

 

――それなら僕は村人らしい行動を心掛ければいいだけだよね?

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

コウ :『みなさん、役職を確認し終えましたか? それじゃあ、ゲームを始めます。ここはシロルームのメンバーが暮らす小さな村。平和な日常を送っていましたが、ある晩、村人が一人亡くなりました。なんと、この村にはメンバーに化けたオオカミがいるそうです。村人たちは疑わしいものを毎日一人ずつ処刑することに決めました。ということで、朝を迎えました。ゲームマスターの海星コウがオオカミに襲われて無残にもなくなっていました。では、議論の方をどうぞ』

 

 

 

 コウの言葉と共にアカネが大声を上げる。

 

 

 

アカネ:『こ、コウゥゥゥゥーーーー!!!!』

 

 

 

 うん、大げさすぎるこの態度がまたアカネらしい。

 

 

 

アカネ:『くっ、かならず私が敵を取ってやるからな、コウ!!』

 

タマキ:『にゃにゃ、そんなことを言ってアカネがオオカミなんじゃないのかにゃ?』

 

アカネ:『なるほど、私がオオカミでコウを食べたのか。それは気がつかなかった』

 

ユージ:『えっ、それでいいんっすか!? い、いや、それよりも早くオオカミを探す必要があるっすね?』

 

アカネ:『いやオオカミかオオカミじゃないか、の前にみんなに一つ言いたいことがあるよ――』

 

 

 

 深刻な口調でアカネが問いかけてくる。

 もしかすると何か気づいたのかもしれない、と僕たちは全員静かにする。

 

 

 

ツララ:『――なにかしら?』

 

アカネ:『……とりあえずユージを吊らない?』

 

『……』

 

 

 

 一瞬場を沈黙が襲う。

 そんな中、まず声を上げたのが吊られそうになっているユージ本人だった。

 

 

 

ユージ:『ちょ、ちょっと待つっすよ!? 何で理由もなく俺っちが吊られそうになってるんっすか!?』

 

アカネ:『いつも燃やされてるから、処刑され慣れてるかなって』

 

ユージ:『そんなこと慣れたくないっすよ!? ちょっ、ユキヤからも何か言ってくれっすよ』

 

ユキヤ:『――それもまた一興だ』

 

ユージ:『一興じゃないっすよ!?』

 

『えっと、あの……。ちょっといいかな?』

 

 

 

 このままだと一向に話が進まなさそうなので、僕から声をかける。

 

 

 

アカネ:『ユキくんもユージは燃やし……、吊った方が良いと思うよね?』

 

ユージ:『ちょっ、ま、まさかユキっちもそんなことを思ってるっすか!?』

 

『そ、そんなことないよ。た、ただ、ちゃんと話し合わないとその……、オオカミの人が有利になっちゃうかなって――』

 

ココネ:『それもそうですね。ユージさんが燃やされるのは良いですけど、ユキくんが吊られるのだけは避けたいです!』

 

ユージ:『お、俺っちは吊られるの確定なんっすか?』

 

カグラ:『あれっ? その言い方だとユキもオオカミなのかしら?』

 

『え゛っ!? ど、どうして……??』

 

ユイ :『うみゅー、ユキくん、役職配られたときに驚いてたの。村人だと何も驚かないはずだから、何かの職持ちかオオカミで決まりなの』

 

『そ、そ、そんなことないよ?? ぼ、僕はその……、む、村人……だよ?』

 

アカネ:『あははっ、ユキくんはわかりやすすぎるね。オオカミの耳が見えてるよ』

 

『わふぅー、ち、違うよ? こ、これは犬耳だよ!? ち、違うよ、僕はその――』

 

オンプ:『あのー、すこしいいのですー?』

 

『あっ、お、オンプさん。ど、どうしましたか?』

 

オンプ:『私、実は占い師さんなのですー。それで初日の結果なのですけど、ユキくんは白なのですよー?』

 

『お、オンプさん……。あ、ありがとうございます!』

 

 

 

 これで僕がオオカミである疑惑は晴れたはず。

 すると、これに合わせて声を上げる人物がいた。

 

 

 

ユキヤ:『ふははははっ、お前が占い師だと!? 笑止! 真の占い師はこの俺だ!!』

 

 

 

 いやいや……、ただの魔王にしか思えなかったんだけど……。

 

 

 思わず苦笑を浮かべてしまう。

 

 

 

ココネ:『真緒さんが占い師だったら初日は誰を占ったのですか?』

 

ユキヤ:『そうだな。初日はカグラだ。白だったがな』

 

『えっと、この場合ってどうしたら良いのですか?』

 

ココネ:『多分、オンプさんと真緒さんのどちらかが嘘をついてるんだと思いますけど……』

 

『じ、じゃあ、もう一人がオオカミってことだよね?』

 

ココネ:『違いますよ。狂人って可能性がありますね』

 

『あっ、そ、そっか……。えっと、僕としてはオンプさんを信じたいんだけど……』

 

カグラ:『まぁ、この二人は吊らなくて良いわよ。狂人か占い師だから』

 

『……なら他の人だね』

 

ツララ:『――タイガ。あなた、どうしてさっきから黙ってるのかしら?』

 

タイガ:『その、役職がわかんないっす』

 

オンプ:『それはどういうことなのですー?』

 

タイガ:『……読めないっす』

 

 

 

 読めない? えっと、そんな難しい漢字があったかな?

 

 

 思わず僕は首を傾げる。

 できるだけわかりやすく進めるようにしたつもりなんだけど……。

 

 

 

ツララ:『――もしかして、霊媒師……かしら?』

 

タイガ:『それだ! 霊媒師だ!! 悪を払う伝説の職業だな! 拳で全てを潰す!!』

 

ツララ:『――全く違うわよ』

 

オンプ:『でも、タイガちゃんは嘘は言わないから間違いないのですよー』

 

『えとえと……、そうなると怪しい人は誰だろう??』

 

カグラ:『出てない役職は騎士だけね。ユキがオオカミの確率があがったんじゃないかしら?』

 

『だ、だから僕はその……、村人だよ』

 

 

 

 騎士とバレてしまうとオオカミに殺される確率がどうしても上がってしまう。

 だからこそ、僕は自分の職業をオープンにするわけにはいかなかった。

 すると、そんな僕を見たココネが声を上げる。

 

 

 

ココネ:『私は騎士……ううん、段ボールだよ。それで今晩はユキくんを守るね』

 

『ココママ……』

 

 

 

 僕を庇っていってくれたのだろう。

 それは率直に言って嬉しかった。

 

 

――でも、どうしてその役職を言ってくるのか……。その役職を持っているのは僕なのに。

 

 

 

アカネ:『やっぱりユージを燃やすしかないね!』

 

ユージ:『ついに吊るじゃなくなったっすね!? お、俺っちはアカネが怪しいっすよ。オオカミであることを否定しなかったっすからね』

 

アカネ:『はははっ、私はオオカミだぞー。がおーーーー』

 

 

 

 アカネは笑いながら言ってくる。

 

 

 でも、本物のオオカミがそんなことを言うだろうか?

 

 

 

ユイ :『うみゅー……、アカネは凄く嘘っぽいの』

 

カグラ:『でも、候補には違いないわね。今の候補はアカネ先輩とユージ草さんとユキね』

 

『わふっ!? 僕は違うよ!? ち、違うからね。だ、だから吊らないで……』

 

アカネ:『はははっ、私を止められるコウはもういない! 私は自由だぁぁぁぁ!!』

 

ユージ:『誰が草っすか!? 俺っちはやってない! 無実っすよ!?』

 

コウ :『はい、討論の時間は終わりです。では全員投票をしてください』

 

 

 

 コウの声と共に僕たちはミュートにする。

 

 

――議論の時間が足りなかった……。みんな思い思いに暴走するから……。それにまさか自分がオオカミの候補になるとは思わなかった。

 

 

 

「えとえと、だ、誰に投票したら良いんだろう??」

 

 

 

 僕も含めて候補は三人。ただ、それとは別に堂々と嘘を言ってきたココネ。

 それも含めて候補は四人になる。

 

 この中で一番怪しいのは……。

 

 

 

「うん、アカネさんに入れよう」

 

 

 

 僕は論外だし、ユージさんはいつものノリで吊られそうになっていた感じに見えた。

 

 ココママは情報が少なすぎる。

 騎士なら真っ先にオオカミに食べられちゃうのに、それがわかってて名乗り出るなんて……。

 色々と不明確な部分がありすぎるけど、この一晩を乗り越えたらそれもわかるだろう。

 

 つまり、今回で一番疑わしいのはアカネと言うことになる。

 

 アカネはオオカミであることを一切否定していない。

 暴走特急なので、わざとそうしているようにも見えるけど。

 

 あと、なにげに凄く話していた様に思える。

 

 その辺りからも僕は彼女に投票を決めていた。

 

 

 

コウ :『では、投票結果を開示します。今回投票されたのは以下の方です』

 

 

 

美空アカネ:ユージ、オンプ、ユキ、ココネ、カグラ

野草ユージ:アカネ、ユキヤ、タイガ、ユイ

雪城ユキ:タマキ

猫ノ瀬タマキ:ツララ

 

 

 

コウ :『ずいぶんばらけましたね。でも、一番多いのは美空アカネさんですね。さぁ、アカネ、最後に一言どうぞ』

 

アカネ:『私は帰ってくるぞ!! あいるびーばーーーっく!』

 

コウ :『では、オオカミの人と役職持ちの人はそれぞれ指定先を選んでください』

 

 

 

 えっと、これで僕は誰を守るのか指示しないといけないんだよね。

 普通なら占い師の人や霊媒師の人を守るべきなんだろうけど……、なんでだろう。

 

 

――僕はここでココネを守らないといけない気がしていた。

 

 

 もしココネがオオカミなら守っても不発に終わるだろう。

 でも、あのとき僕を庇うためだけに嘘のカミングアウトしてくれたのなら……。

 

 

 

「ダメでも何か失うわけじゃないもんね。よし――」

 



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第13話:大暴走! オオカミは誰だ!? ぱーとつー ♯ポンコツルーム

コウ :『夜が明けました。殺された人はいませんでした。では、討論を開始してください』

 

 

 

 どうやら僕の思惑通り殺された人はいなかったようだ。

 

 

 ココネが騎士を偽装してくれた。

 オオカミはココネを狙いにくるはず。

 それなら僕はココネを守るだけだった。

 

 

 そして、その思惑がうまく行って今日殺された人はゼロだった。

 序盤に上手く防げたのは大きなアドバンテージになるはず。

 

 

 

タイガ:『殺されたものがいない? どういうことだ?』

 

ココネ:『私が守ったユキくんを狙ったってことでしょうね。私の目が黒いうちはユキくんには手出しさせませんよ』

 

タマキ:『それは不自然だにゃ。ココネは段ボールをカミングアウトしてたにゃ。それならココネを食べちゃうのが普通じゃないのかにゃ?』

 

カグラ:『ど、どういうことかしら?』

 

『えっとね。騎士……違う。段ボールはね、自分自身を守ることができないんだよ。だから、今回みたいなことが起こらないように、まずオオカミさんは段ボールを美味しく食べるのが基本なんだよ』

 

ユイ :『うみゅ、そうなの。きっとユキくんがあまりに美味しそうだったからココネより先にパクパクしたいと思ったの』

 

『ぼ、僕は食べてもおいしくないからね!? そ、その……、た、食べないでね……』

 

カグラ:『そうなるとココネは段ボールじゃない?? えっと、なんで自分が殺されるのに段ボールだと言ったの?』

 

ユイ :『うみゅ、オオカミの食べる相手を絞るためなの。もしくはココママが狂人なの』

 

ユージ:『あれっ、狂人って占い師の二人のどっちかじゃないっすか?』

 

ユイ :『うみゅ、まだどっちかがオオカミの可能性もあるの』

 

ユージ:『あっ、そうっすね。確かにその可能性もあるっすね』

 

ココネ:『――そういうユイちゃんも怪しいですよ? ユキくんがオオカミって印象を強くしたのはユイちゃんの一言でしたよね?』

 

ユイ :『うみゅ? なんのことなの?』

 

ココネ:『ユキくんが「役職持ちかオオカミ」って言ってましたよね?』

 

ユイ :『うみゅ、そうだと思ったの。役職を見たときに悲鳴を上げてたの』

 

ココネ:『わざわざオオカミ(・・・・)と言ったところが怪しいんですよ。ユイちゃん、もしかしてオオカミですか?』

 

『えっ!? や、やっぱりユイがオオカミさんだったの!?』

 

ユイ :『うみゅー、ユイは羊なの。おいしく食べられる側なの』

 

タイガ:『ジンギスカンか!?』

 

ユイ :『やっぱり嘘なの。ゆいを食べてもおいしくないの』

 

ツララ:『――ラム肉はまず臭みを取らないとね』

 

『あ、あはは……、また変な方向に進んでるね』

 

 

 

 オオカミ候補にユイが加わったが、どうにもはっきり黒という証拠はない。

 それでもどこかユイの台詞には違和感を感じていた。

 

 

 

ユージ:『それにしてもなんとか生き延びたっす。助かったっす』

 

タマキ:『なら、次は草を吊るにゃ!』

 

ユージ:『ちょっ!? な、何を言ってるっすか!? 俺っちはまだ生きたいっす!』

 

タマキ:『オオカミには裁きを下すにゃ』

 

オンプ:『あの……、今回もその……、占い結果が出たのです』

 

『そ、そっか、オンプさん、占い師だもんね』

 

ユキヤ:『我が占い師だ』

 

『あぁ、そうだった……。二人いたんだね……』

 

 

 

 やっぱり真緒さんって占い師って感じがしないんだよね。

 見た目で判断するのはダメだけど。

 

 

 

『それじゃあ占った理由と誰を占ったのか聞いていいかな?』

 

オンプ:『はぅぅ、私は少し怪しかったのでカグラさんを占って白だったのです』

 

カグラ:『えっ!? 私がどうして怪しいのよ!?』

 

オンプ:『はぅぅ、カグラさん、「ユキもオオカミなの」って言ってたのですよ』

 

カグラ:『ユージ草さんとユキで二人だったでしょ?』

 

ユイ :『ポンポン姫のポンポン具合を忘れたらダメなの。きっと今も草とユキくんをオオカミだと思ってるの』

 

カグラ:『まぁ……ユキは違うわね。見てたらわかるわ』

 

ユイ :『うみゅ、確かに見たらわかっちゃうの』

 

『ちょっと待って、それってどういう――』

 

ユイ :『うみゅー、それよりも占い結果なの』

 

『そ、そうだった。ま、真緒さんはだれを占ったのですか?』

 

ユキヤ:『我はもちろん、雪城を占ったぞ! 一番怪しかったからな。結果は当然クロだった。そうなってくると真心も怪しいな? 二人は確実に繋がっているからな。これでオオカミは全員確定だな』

 

『ふぇっ!?』

 

ユイ :『実はユキくんは黒かったの?』

 

ココネ:『ちょ、ちょっと待ってください! オンプさんの占いだとユキくんは白でしたよ!? いきなり決めつけるのは良くないですよ』

 

タイガ:『全員吊れば問題なしだ!』

 

ココネ:『全員は吊れないですよ!? そういえばタイガさん、死んだ人を白か黒、見れるんですよね? アカネさんはどうでしたか?』

 

タイガ:『んっ? ああ、オオカミだったぞ? でも、元々オオカミだって言ってただろう?』

 

ココネ:『なるほど、つまり、オオカミはあと二人なんですね』

 

『えっと……、まだ二人もいるんだね……』

 

 

 

 やっぱりアカネさんがオオカミだったんだ……。

 

 

 

ユージ:『なるほど……、今回のオオカミ候補はユイという訳だな』

 

ユイ :『うみゅー、草とユキくんなの』

 

『ぼ、僕はオンプさんから白だって。ま、真緒さんからは黒と言われたけど――』

 

ユイ :『うみゅー……、オンプは狂人の可能性は残ってるの。ねむねむなの……』

 

『ゆ、ユイ!? ま、まだ寝たらダメだよ!? 最後まで頑張って……』

 

ユイ :『うにゅー、最後まで頑張るの……』

 

ユキヤ:『やっぱり雪城だな。最有力といっても過言ではない』

 

『ぼ、僕は違うからね!?』

 

 

 

――ユキヤさん……、やっぱり狂人っぽいね。僕が段ボールってことに気づいてそうだし、殺そうとしてるよね?

 

 

 

コウ :『はい、討論の時間は終わりです。では全員投票をしてください』

 

 

 

 コウの声とともにミュートにして、誰に投票するかを考える。

 

 

 ココネが指摘したユイ。

 言動からはっきり黒だと言える部分はない。

 

 ただ、怪しい部分はいくつもある。

 いつもよりも微妙に口数が多いことと、オオカミに食べられたがっている言動をしていること。

 そして、なにより僕やココネが違和感を感じていた。

 

 

 次にユージ。

 キャラ的に疑われてる可哀想な人。

 おそらく白に近い人だとは思うけど、確定にまではできない。

 

 

 そして、僕。

 ……うん。僕は自分がオオカミじゃないことはわかってる。

 

 

 最後に疑われてるのはココネ。

 ただ、ココネがオオカミなら他のオオカミに狙われる理由がない。

 

 

――そう考えるとやっぱりユイかな。

 

 

 他に怪しい人もいないので、今回はユイに投票しておく。

 

 

 

コウ :『では、投票結果を開示します。今回投票されたのは以下の方です』

 

 

 

羊沢ユイ:オンプ、タイガ、ユキ、ココネ、カグラ、ユイ

雪城ユキ:タマキ、ユキヤ

真心ココネ:ユージ

猫ノ瀬タマキ:ツララ

 

 

 

コウ :『ついにユージさんの投票数がゼロになりましたね。一番多いのは羊沢ユイちゃんですね。って、自分で自分に入れちゃってますね。では、ユイちゃん、最後に一言どうぞ』

 

 

ユイ:『うみゅ、やっぱり最大の敵はユキくんだったの』

 

コウ :『では、オオカミの人と役職持ちの人はそれぞれ指定先を選んでください』

 

 

 

 コウの声で誰を守るか考え始める。

 ただ、やはりココネを守る必要があるだろう。

 僕の代わりに騎士を偽ってくれてるのだから。

 

 そう思い、迷わずにもう一度ココネを選んでいた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

コウ :『夜が明けました。貴虎タイガさんが無残に亡くなっていました。では、討論を開始してください』

 

『た、タイガさんが!? ど、どうして!?』

 

ツララ『――霊媒師だったからね。対抗馬もいなかったし』

 

タマキ:『うにゃ、タイガ……いいやつだったにゃ』

 

ツララ:『――ねぇ、少し聞いてもらえるかしら?』

 

 

 

 ツララが意味深な間を取ってくる。

 そして、場が静まったのを見計らって言ってくる。

 

 

 

ツララ:『――タマキ? あなた、オオカミよね?』

 

タマキ:『にゃにゃ!? い、いきなりなんなのにゃ!?』

 

 

 

 今までまともに話題に上がっていないタマキを疑ってきたツララ。

 

 

――全く疑う余地なんてなかったと思うけど……。

 

 

 でも、よく考えると投票の度にツララはタマキに入れていた。

 

 僕たちがユイに違和感を感じた様に同期にしかわからないことがあったのかもしれない。

 

 

 

ツララ:『――私から言うことはそれだけよ。判断はみんなに任せるわ』

 

タマキ:『にゃにゃにゃ、こんなことを言ってくるツララは凄く怪しいのにゃ。絶対黒なのにゃ!』

 

ツララ:『――それもみんなの判断に任せるわ』

 

『えっと……、どっちが本物なんだろう?』

 

ココネ:『さすがに判断の基準が少なすぎてなんとも言えないですね。こういう場合は順番に吊っていくしかないのですけど……』

 

ユキヤ:『ふふふっ、そのための我であろう。しかと占ってあるぞ。猫ノ瀬は白だ!』

 

オンプ『ご、ごめんなさいなのです……。私はその……、ココネさんを占って白だったのです』

 

 

 

 占い師と言っている二人がそれぞれ占い結果を言ってくる。

 ユキヤは偽者だとわかっているので、この場合信じるのはココネの結果だろう。

 

 

 

ユージ:『あれっ? でももうオオカミは二人吊れてるんっすよね? あとはユキっちを吊ったら終わりじゃないんっすか?』

 

タマキ:『そういうわけじゃないのにゃ。霊媒師が死んでしまったから本当にユイっちがオオカミだったのかわからないのにゃ』

 

オンプ:『そうなのです。私が調べたらわかるのです……』

 

『それならオンプさんを次、段ボールの人が守れば――』

 

ユージ:『で、でも、段ボールの人って誰っすか? 未だに名乗りあげてないっすよね?」

 

ココネ:『私が名乗り上げてますよ?』

 

ユージ:『いやいや、ココネっちはどうみても違うっすよ!? 狂人っすよね? あれっ? それだと占い師の片方がオオカミっすか!? あれあれっ??』

 

『えっと、ココママは普通の村人……だよね?』

 

 

 

――ずっとココママが身を挺して僕のことを守ってくれてたわけだもんね。オオカミはあと一人のはず……。ここは余計な選択肢を減らすことで、確実に勝利をものにする。

 

 

 

ココネ:『ユキくん、もういいのですか?』

 

『うん、もう大丈夫。あとは任せるよ』

 

ココネ:『わかりました。私は段ボールって言いましたけど、本当は普通の村人でした。その……、わざと私を狙ってもらった方が本当の段ボールの人が守りやすいかなって……』

 

ユージ:『ほ、本当の段ボールっすか?』

 

『うん。今わかってる役職の人って真緒さんが狂人。姫野さんが占い師。ツララさんかタマキさんがオオカミ。それでオオカミの人は別にあと一人いるかどうか……』

 

ユキヤ:『待て、我は狂人などではないぞ……』

 

『……わかりますよ。僕が騎士……段ボールですから』

 

ユージ:『ど、どういうことっすか!? ユキっちが段ボール??』

 

カグラ:『まぁ、ユキがオオカミではないということはわかってたからね』

 

『カグラさん、口ではなんだかんだ言っても、ずっと僕に投票を入れてなかったもんね。あと、役職持ちは段ボール以外全員名乗り出てたから、ココママが出てくれないと多分最初に僕が食べられてたと思うよ』

 

ココネ:『あははっ……、ユキくん、役職を見たときに悲鳴上げちゃいましたからね。それで何か役職を持っていることはわかりましたからね』

 

『うん、だからあとはお願いね、ココママ。次、僕は食べられちゃうけど、明日にツララさんとタマキさんのどっちがオオカミさんかわかるし、あと白かどうかの判断ができてない人はユージさんだけだからね。オオカミさんが生き残ってるならユージさんを吊って終わりだよ』

 

カグラ:『えっ、ほ、本当に?』

 

『うん、僕とココママとカグラさんは白判定を受けてるからね。ツララさんとタマキさんは今晩分かるからね。生き残った方をオンプさんが調べてくれたら……』

 

カグラ:『で、でも、今晩オンプさんが吊られたら終わりじゃないのかしら?』

 

『今晩、僕はオンプさんを守るよ。だから今晩オンプさんは死ぬことがない。狂人はオオカミさんを勝たせたいわけだから、既に名乗り出てる真緒さんと考えるのが自然で、そうなるとまだ分からないのはユージさんだけだから……』

 

カグラ:『な、なるほどね……。で、でも、それだとユキは名乗り出る必要がなかったんじゃないかしら?』

 

『一応、ココママが本当に狂人の可能性も合ったからね。僕が聞いても騎士……段ボールを名乗り続けるならココママが狂人で真緒さんがもう一人のオオカミさんかなって……』

 

ココネ:『つまり……詰みですね』

 

ツララ:『――その推理にはまだ粗がありますけどね。ユキが本当にオオカミの場合、ココネがその相方である可能性が高い。今回私かタマキ吊ってオオカミが一人食べる。明日も残った方を吊ってオオカミが一人食べる。すると、オオカミが二人村人が二人になります。――二人を見てるとオオカミじゃないことくらい分かりますけど」

 

 

 

――なるほど、そういうパターンもあったのか。

 

 

 

『どちらにしてもツララさんとタマキさんの役職が分かれば終わりますね』

 

ツララ:『――今回は私に入れると良いわ。占いで黒認定されるタマキも楽しそうだからね』

 

タマキ:『にゃにゃにゃ!?』

 

コウ :『はい、討論の時間は終わりです。では全員投票をしてください』

 

 

 

 タイミング良く討論が終わり、ミュートにする。

 

 

 投票先はツララかタマキ。

 最後にわざわざ僕の補足をしてくれたツララは白の様な気がする。

 

 

――どちらにしてもローラーをするのだから同じ気がする。

 

 

 ならツララが最後に言った様に今回はタマキで統一するべきだろう。

 

 

 

コウ :『では、投票結果を開示します。今回投票されたのは以下の方です』

 

 

 

氷水ツララ:ユキヤ、ユージ、ツララ、オンプ、ユキ、ココネ、カグラ、

猫ノ瀬タマキ:タマキ

 

 

 

コウ :『なんか異様な光景ですね……。一番多いのは氷水ツララちゃんですね。では、ツララちゃん、最後に一言どうぞ』

 

 

 

ツララ:『――やることはやったし、何も言うことはないわ』

 

 

 

コウ :『では、オオカミの人と役職持ちの人はそれぞれ指定先を選んでください』

 

 

 

――これで僕の仕事も終わりだな。

 

 

 最後にオンプを守る。そして、僕はそのまま食べられちゃうだろう。

 でも、しっかり仕事を果たしたのだからこれでいいはず……。

 

 そして、次の朝が来る――。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

コウ :『夜が明けました。野草ユージさんが無残に燃やされていました。では、討論を開始してください』

 

 

 

 まさかのコウの言葉に僕は一瞬耳を疑った。

 

 

 

『えっ!? ぼ、僕の推理が外れてたの!?』

 

ココネ:『大丈夫ですよ、ユキくん。オンプさんに調べてもらえばそれでおしまいだから』

 

『そ、そうだね。オンプさん、お願いします』

 

オンプ:『はいなのですー。えっと、タマキさん、真っ黒さんなのです』

 

『あっ、よかった……。そ、そうだよね……。やっぱりタマキさんがオオカミさんだったんだ……』

 

タマキ:『うにゃ。勘の良いツララをすぐに吊らなかったのは失敗だったのにゃ』

 

『えっと、それでどうして最後に僕を食べなかったのですか?』

 

タマキ:『どうせ吊られるのにゃ。それなら全力でネタに走るのにゃ!』

 

『あ、あははっ……、そ、そういうことだったんだ……』

 

 

 

 どうしてだろう……。

 裏で「ネタで俺っちのことを燃やすなー!!」と言ってるユージの声が聞こえる。

 

 

 

『とにかく今度こそ終わりだね』

 

 

 

 最後にタマキを吊って、人狼ゲームは終了した。

 

 

 

コウ :『では、タマキちゃん、最後に一言どうぞ』

 

『にゃーを倒しても第二、第三のにゃーが現れて、必ず草を燃やすのにゃ!』

 

 

 

――うん、既に燃えたあとだけど……。

 

 

 

 僕たちは苦笑いでタマキの声を聞いていた。

 そして――。

 

 

 

コウ :『さて、村に平和が訪れました、村人チームの勝利です!』

 

 

 

 無事に僕たちは勝利を手にすることができていた。

 

 

 

ココネ:『ユキくん、やりましたよー!』

 

『うん、ココママやオンプさん、他のみんなのおかげだよ!』

 

ユージ:『なんで俺っちだけ食べられずに燃やされたんっすか?』

 

アカネ:『それは私が要望しておいたよ』

 

ユイ :『うみゅ、ココユキを崩さないとやっぱりゆい一人じゃ勝てないの』

 

ユキヤ:『うむ、こういうのも中々楽しかったぞ』

 

タイガ:『次は簡単な文字にしてくれ!』

 

オンプ:『はぅぅ……、生き残っちゃいましたのです……』

 

カグラ:『なかなか楽しかったわよ』

 

ツララ:『――ユキ、中々興味深いわ』

 

タマキ:『にゃにゃ、悔しいのにゃー! 上手く隠れてたと思ったのににゃ!』

 

コウ :『はい、と言うことでみんなの役職は以下の通りでした。ここまで見てくれてありがとうございます。お疲れ様でしたー』

 

 

 

美空アカネ:オオカミ

野草ユージ:村人

真緒ユキヤ:狂人

 

姫野オンプ:占い師

貴虎タイガ:霊媒師

氷水ツララ:村人

猫ノ瀬タマキ:オオカミ

 

雪城ユキ:段ボール(騎士)

真心ココネ:村人

神宮寺カグラ:村人

羊沢ユイ:オオカミ

 

 

 

『お、乙わふ――』

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯ポンコツルーム人狼》大暴走! オオカミはだれだ!?《シロルーム》』

11.0万人が視聴 0分前に配信済み

⤴3.4万 ⤵24 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ

チャンネル登録者数25.0万人

 



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第14話:成長の登録者数25万人+誕生日記念凸待ち配信

『《♯ユキ犬姫拾いました》25万人+誕生日記念凸待ち配信 《雪城ユキ/シロルーム三期生》』

3.6万人が待機中 20XX/06/30 18:00に公開予定

⤴2,145 ⤵0 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

 ついにこの日が来てしまった。

 

 

――僕の誕生日……。

 

 

 まさかの記念配信をさせられるとは思わず、ココネに相談をしたら、凸待ち配信をしてはどうかと勧められた。

 

 

 向こうから通話が来るのを待つ……という恐ろしい企画。

 しかも、掛かってきた人に対して僕から話しかける、という無理難題。

 

 

――ううん、僕も覚悟を決めたんだから頑張らないと!

 

 

 まだまだシロルームの中にはコラボをできていない先輩も多い。今回のことが話すきっかけになるかもしれない。

 

 それと、今回に関して言えば四期生たちが既に動き出している。

 

 

 

天瀬ルル(あませるる)

 小柄な体型をした白い肌の天使。青銀色の肩くらいの髪。

 青の刺繍が施された白の袖なしワンピース。

 頭には金の輪っかと背中には白の羽を持っている。

 

 やはり七瀬のアバターは天使だった様だ。

 カタッターのヘッダーでその全体像がわかる。

 

 そして、七瀬以外のアバターもそこで初めて見ることができた。

 

 

 

魔界エミリ(まかいのえみり)

 短めの黒い髪と二本の黄色い角。七瀬に負けず劣らず小柄な背丈。

 黒と赤のワンピースを着た悪魔型のアバター。

 

 

 

姉川イツキ(あねがわいつき)

 茶色の長い髪をしたお姉さん。

 胸は大きめでそれを協調したバニー衣装を着ている。

 

 

 

狸川フウ(たぬがわふう)

 短めの茶色の髪と丸い耳。頭になぜか金の王冠を被っている。

 小柄な体型で白のワンピースを着ている狸の少女。

 

 

 

 四期生はこんな組み合わせになっていた。

 僕と同じ動物枠の少女もいるし、なかなか癖の強そうな人もいる。

 そして、なぜか今回凸してくる中に四期生のメンバーもいるかもしれないらしい。

 

 今のユキくん人気にあやかってスタートダッシュを決めたいのだろう。

 あと、七瀬が懇願したのかもしれない。

 

 担当からも既に許可が出ていると聞いている。

 

 

――誰も来てくれないかもしれないけどね。

 

 

 考えていると悲しくなってくるけど、その可能性も考慮しないといけない。

 

 他の人たちも自分の放送があったり、用事があったり、と予定があるだろうから無理を言うわけにはいかない。

 

 

――ただ、それでも、ちょっとだけでも時間があるなら来てくれると嬉しいな……。

 

 

 すでに凸待ち配信をすることは伝えてある。

 

 

 僕の方もせっかく来てもらうのに、うまく話せないなんてことがあってはダメなので、コウ先輩とアカネ先輩に相談(アカネ先輩はいつのまにか勝手に参戦してたのだが――)して、トークカードを作っていた。

 

 

『僕のことをどう思ってるか』

『今、ハマってること』

『今日のパンツの色は?』

 

 

 最後のを提案された時には思わず赤面してしまったが、これを出してきたのはコウ先輩だった。

 

 

 

コウ :[今のユキくんなら大丈夫だと思うから]

 

ユキ :[だ、大丈夫じゃないですよ……。は、恥ずかしいですよ……]

 

コウ :[でもね、これはシロルームの伝統あるトークカードで、凸待ち配信だといつも使われるんだよ。まぁ、パンツ以外は無理に聞かなくてもいいよ。時間と相談で使ってね]

 

ユキ :[パンツは強制なんだ……]

 

アカネ:[元々、そのトークカードは私が準備したものだ]

 

ユキ :[このアカネさん、吊っていいですか?]

 

コウ :[もちろんだよ]

 

アカネ:[吊ーるーなー。コウも了承するなー。うぅぅ、ユキくんのお祝いにイラストを描いてきたのに]

 

ユキ :[あっ、ご、ごめんなさい。そ、その……、ありがとうございます]

 

アカネ:[うんうん、当日のサムネにでも使ってよ。それじゃあね]

 

コウ :[あっ、もうアカネは。それじゃあユキくん、頑張ってね]

 

 

 

 こんなやり取りをして、トークカードの準備をしていた。

 

 

 そして、今配信画面にはオープニングのミニアニメを流している。

 その間、僕は心臓の鼓動が速くなっているのに気付く。

 

 

 手は震えている。

 

 

 大きく深呼吸をして気持ちを落ち着けようとしていた。

 

 

――大丈夫、誰か来てくれるはず……。

 

 

 今すぐ逃げ出したくなる気持ちをギリギリのところで堪えていた。

 

 そして、アニメ終了と同時にユキ犬姫と段ボールを表示する。

 

 

 

【コメント】

:お誕生日おめでとー

:おめでとー

《:¥10,000 おめでとー》

:ユキくん、おめでとー

:おめでとー

《:¥5,000 おめでとー》

 

 

 

『わ、わふっ!? み、みなさん、早速のお祝い、ありがとうございます。シロルーム三期生、ユキ犬姫こと雪城ユキです。あっ、も、もうユキ犬姫にしなくてよかったね……》

 

 

 

【コメント】

:わふー

:わふー

:ユキ犬姫がすっかり定着してるな

:ユキ犬姫でも大丈夫

《:¥3,000 ユキ犬姫かわいい》

:ユキくん、今日も可愛いよ

 

 

 

『そ、それならこのままで行きたいと思います。今日は僕のお気に入り登録者数二十五万人突破と誕生日の記念配信に来てくれてありがとうございます』

 

 

 

 一瞬段ボールから顔を出して、すぐにさっと隠してしまう。

 

 

 

『わふっ、間違えてた。二十五万人じゃなくて、二十五人だった……。どっちにしてもとんでもない数だよね……。信じられないよ……』

 

 

 

【コメント】

:間違えてないよ

:25万人で合ってるよ

《:¥25,000 おめでとー》

:25万人と誕生日おめでとう

《:¥25,000 25万人おめでとー》

:誕生日おめでとー

《:¥2,525》

 

 

 

『み、みんな……。ぐすっ……。あ、ありがとう。本当にありがとう……。こうやってたくさんの人にお祝いされると嬉しいな……』

 

 

 

 母さんも家にいることが少なかったので、誕生日も一人寂しく過ごしていた。

 それがこうやって、たくさんの犬好きさんたちに祝ってもらえる……。

 それだけで今日の配信をした甲斐があった。

 

 誰も来てくれなかったら、犬好きさんたちとゆっくり雑談をしよう。

 

 

 

『ぐすっ……。ほ、本当に嬉しいよ。い、今まで、誰かと過ごす誕生日なんてしたことないから……。犬好きさんたちが祝ってくれただけで幸せだよ……』

 

 

 

【コメント】

:泣いた

:なんだ、俺か

《:¥5,000 ケーキ代》

《:¥10,000 プレゼント代》

《:¥50,000 誕生日のお祝い》

 

 

 

『あ、ありがとう……。その……、今日は誕生日ということもあって、いろんな人たちと話したいなと思います。……ということで、シロルームのメンバーからの凸待ちをします。誰か来てくれるといいな……。誰も来なかったら犬好きさんたち、慰めてね……。あっ、あと今日、僕の記念日ということで記念グッズがいくつか発売されます。えと……、ボイスといくつかのグッズかな? みんなへの気持ちを込めたので、聞いてもらえると嬉しいかな……。は、恥ずかしいけど……』

 

 

 

【コメント】

:もちろん聞いたぞ

:ユキくん、可愛かった

:グッズも注文した

《:¥5,000 グッズ代》

 

 

 

『わわっ、グッズ代はその、販売店の方にお願いしますね……。そ、それで今日は流石に何も準備なしだと話せないので、トークデッキを準備しました。先輩と相談して決めたやつ……だよ。えとえと……、トークデッキも表示して……と』

 

 

 画面の右上にコウ先輩と考えてたトークデッキを表示しておく。

 

 

『僕のことをどう思ってるか』

『ハマってること』

『今日のパンツの色は?』

 

 

 

【コメント】

:あっ……

:このトークデッキ

:暴走特急か

:ユキくん……、聞く先輩が違うよ

:草

 

 

 

『あっ、違うよ……。このトークデッキはコウ先輩と決めたんだよ。その……、シロルームの伝統らしくて、でも、今の僕ならきっと使いこなせるからって……。それなら成長した僕を見てもらいたいなって……』

 

 

 

【コメント】

:まさかのコウ先輩w

:ユキくん、聞けるのか?

:それも含めての成長なんだろうw

:先輩からの試練w

 

 

 

『それじゃあ、そろそろ凸待ちのサーバーに……って、あれっ?』

 

 

 

――すでに待ってる人がいる?

 

 

 

『あっ、アカネ先輩とコウ先輩か。うん、前もって相談したし来てくれたんだね。そ、それじゃあ、早速繋げるよ……』

 

 

 

 僕も凸待ちサーバーに入る。

 すると間髪を容れずにアカネが話してくる。

 

 

 

アカネ:『やはー、来たよー、ユキくん。おめでとー』

 

コウ :『ユキくん、お誕生日おめでとー』

 

『あっ、アカネ先輩、コウ先輩、ありがとうございます。は、早いですね……』

 

アカネ:『一番は私のためにある!』

 

コウ :『とか言ってて、「ユキくんは誰も来ないと不安がるから速攻で顔出すよ!」って言ったのはアカネなんだよね』

 

アカネ:『言ーうーなーよー!!』

 

『あははっ、いえ、本当にありがたいです。ありがとうございます』

 

 

 

 暴走してるように見えて、なんだかんだで僕のことを心配してくれてる。

 だからこそ、アカネ先輩は信頼できる先輩の一人だった。

 

 

 

コウ :『あっ、ユキくん、そろそろトークデッキ――』

 

『あっ、そうだね。作るときに相談に乗ってもらった二人に聞くのはあれですけど……、えっと、僕のこと、どう思いますか?』

 

アカネ:『もちろん好きだぞ!』

 

『ふぇ!?』

 

コウ :『あははっ、もちろんボクも好きだよ。ただ、それだけだと話にならないよね。ユキくんはついつい手を貸したくなるんだよ。臆病なのに、頑張ってるところを見るとね。妙に母性をくすぐるよね」

 

アカネ:『うむ、好物だ! 甘い味がしそうだ』

 

コウ :『アカネは後から沈めておくね』

 

『あははっ……、相変わらずだね。えっと、次は最近ハマってること?』

 

アカネ:『もちろん、ユキくんだ!』

 

コウ :『アカネは最近よくユキくんイラストを描いてるもんね。ボクは手作りでちょっとした小物を作ってるよ。ユキくんに合いそうな髪留めも作ったから今度渡すね』

 

『えと、その……、ぼ、僕は髪留め、あまり使わな……。いえ、大切に使わせてもらうね』

 

 

 

 断るのは簡単だけど、わざわざ僕のためにくれると言うのを断るのも悪い気がして、僕は頷いていた。

 

 

 

コウ :『うんうん、やっぱりユキくん、強くなったね』

 

アカネ:『あっ、コウがさりげなくユキくんとオフ会の約束を取り付けてる。私も私も!』

 

『も、もちろんですよ。また、やりましょう。その……、五十年後に』

 

アカネ:『コラボより伸びてるよ!?』

 

『あ、あははっ……。あ、あと最後にその……あの……』

 

 

 

 流石に最後の質問をするのは緊張を通り越して、顔が強張ってしまう。

 

 

 

コウ :『ユキくん、頑張れ』

 

『あっ、コウ先輩……。ありがとうございます。そ、その……、最後にパン――』

 

アカネ:『私はもちろん履いてないぞ!』

 

『えっ? は、履いてな――? えっ、えっ??』

 

コウ :『全くアカネは……。ユキくんのその反応を見たいがために脱いでたもんね。ちなみにボクは水色のやつだよ。じゃあね』

 

 

 

 そこでコウとアカネは去って行った。

 

 

 

『ちょ、ちょっと待って。履いてないってどういうこと!? あれっ、ぼ、ボクの知らない世界があったんだけど……』

 

 

 

【コメント】

:さすがアカネパイセン

:わざわざ脱いでくるのかw

:コウパイセン、すごく先輩してるな

:ユキくんが一番信頼してそうな先輩だもんな

 

 

 

『それにしても僕のためにわざわざ待ってたくれたんだ……。優しい先輩たちだよね……。あっ、もう次が……』

 

オンプ:『はぅぅ、お誕生日おめでとうなのですー』

 

 

 

 今度はオンプ先輩が一人で来てくれたようだった。

 

 この前の人狼以外では話したことのない先輩。

 少し緊張してしまう。

 

 

 

『お、オンプ先輩……、あうあう……、あ、ありがとうございます……。その……、嬉しいです』

 

オンプ:『はぅぅ、緊張しすぎなのですよー。この前、一緒にオオカミさんを追い詰めた仲なのですよー』

 

『そ、そうですね。うん、大丈夫。僕は大丈夫……』

 

オンプ:『まだまだ固いのです。そうなのです、今度一緒にコラボするのですよ。きっと、緊張しなくなるのですよー』

 

『ふぇ!? いいのですか?』

 

オンプ:『もちろんなのですよー』

 

『あ、ありがとうございます。楽しみにしてますね。あっ、あと最後にその……、あの……、ぱ、パンツの色は?』

 

オンプ:『はぅぅ!? ぱ、パンツの色なのですか!?』

 

『えとえと、あの、……う、うん』

 

 

 

 すると、しばらく間が空いた後、オンプが小声で言ってくる。

 

 

 

オンプ:『し、白のレースのやつなのです。そ、それじゃあ、またチャットするのです』

 

 

 

 ちゃんと答えてくれたあと、オンプは去っていった。

 

 

――でも、よく考えると僕、最後にパンツの色を聞いたあとでコラボするの?

 

 

 

『うぅぅ……、こ、今度謝っておこう。へ、変なことを聞いちゃったから……』

 

 

 

【コメント】

:コラボすらしてないのにパンツの色を聞く犬w

:それにしても二番目にひめのんか

:まずは三期生の誰かだと思った

 

 

 

『あっ、もう次が――』

 

 

 

 誰も来ないかも……と思っていたのが嘘のように、間をおかずに続々と人が来てくれる。

 

 嬉しい反面、慌ただしくていっぱいいっぱいになってしまう。

 

 

 

タマキ:『はぅぅ、ユキくん、お誕生日おめでとうなのですよー』

 

タイガ:『どこかからオンプの声がするぞ? ユキ、誕生日おめでとう!』

 

『今回はアイコンを変えてないから分かりますよ、タマキ先輩。あとタイガ先輩も、わざわざありがとうございます』

 

タマキ:『にゃにゃ、バレちゃったのにゃ。ちなみににゃーのパンツは黄色いやつにゃ』

 

タイガ:『んっ? 俺のは黒だぞ?』

 

『わわっ、先手を取って言わないで……。そ、それはぱ、ぱんつの話は締めなんだから……』

 

タマキ:『にゃにゃにゃ、人狼ではいいようにされたから仕返しにゃ』

 

タイガ:『先手必勝、いい言葉だよな?』

 

『えとえと、まだ質問は残ってますよ。そ、その……、お二人は僕のことをどう思ってますか?』

 

タマキ:『んにゃ? 食べ放題?』

 

『な、何を食べるのですか!? ぼ、僕、犬だから食べられないですよ!?』

 

タイガ:『ジンギスカン食べ放題……』

 

『ゆ、ユイ逃げてー!!』

 

タマキ:『にゃにゃ、冗談は置いておいて、よく頑張ってるのにゃ。にゃーはユキの状況が一番よくわかるのにゃ。また今度ゆっくりお酒を飲んで語り合うのにゃ』

 

『僕まだお酒は……って、今日から飲めるのか。うん、わかったよ。また今度ゆっくり話そうね』

 

タマキ:『一升瓶を準備しておくのにゃ』

 

タイガ:『樽がいるな!』

 

『さ、流石にそんなに飲めないよ……』

 

タマキ:『にゃにゃ、それじゃあまたにゃー』

 

タイガ:『今度試合しような』

 

『えっ!? 試合って――』

 

 

 

 意味深な言葉を残して、二人は去ってしまった。

 

 

 

【コメント】

:相変わらずの猫だったw

:ちゃっかりオフコラボの約束してるけどなw

:ユキ犬姫とポンタイガーの対決か

:ユキくんが勝つなw

《:¥10,000 ユキくんの勝ちに1万》

《:¥30,000 ユキくんの勝ちに今月の食費》

 

 

 

『ちょ、ちょっと待って! ぼ、僕、戦うことなんてできな――』

 

 

 

 今はいないタマキたちに言おうとした言葉。

 それを次に入って来た人に聞かれてしまう。

 

 

 

ユキヤ:『なんだ、我と戦いたかったのか?』

 

ユージ:『ちーっす、ユキっち。誕生日おめおめちゃん』

 

ユキヤ:『ふっ、祝いだな』

 

『真緒さんと草さん、ありがとうございます!』

 

ユージ:『誰が草っすか!?』

 

ユキヤ:『お前だろう?』

 

『えっと、その……、誕生日だから、こういうノリも許されるかなって。その、怒ったのなら、ご、ごめんなさい……』

 

ユージ:『怒ってない。怒ってないっすよ!? むしろ、美味しいっすからどんどん言ってくれっす!』

 

『あっ、はい。これから草さんって呼びますね』

 

ユージ:『だから俺は草じゃないっすよ!?』

 

ユキヤ:『ふむ、それもまた一興だ』

 

ユージ:『全然一興じゃないっすよ!?』

 

『あははっ……、えと、それじゃあ、せっかく来ていただいたので、お二人は最近ハマっていることってありますか?』

 

ユージ:『俺っちは俺っち自身を飾り付ける宝石探しっすね。この世の宝はまさに俺っちのために存在するっすよ!』

 

ユキヤ:『草だな』

 

ユージ:『草じゃないっすよ!?』

 

『宝石か……。綺麗だけど、僕はあまり欲しいって思わないかも。小さいし無くしそうで……』

 

ユキヤ:『それならば無くさないサイズの宝石を買えばいい。我は最近トレーナーの学習をしておるぞ』

 

『えっ!? そんなことをしているのですか?』

 

ユキヤ:『うむ、雪城をより効率的に鍛えるために必要なことでな。中々いい勉強になるぞ』

 

『ぼ、僕のためだった!? そ、そこまでしてくれなくてもいいんだよ……?』

 

ユキヤ:『我がしたいからしてるまでだ。別に雪城のためではない』

 

『僕のことなのに!? ま、まぁ、真緒さんがそれでいいんだったら……。あっ、そのあと最後に……』

 

ユージ:『ユキっち、ちょっと待つっす!』

 

『どうかしましたか?』

 

ユージ:『最後の質問は俺たちには不要っす。そもそも男のパンツの色を聞きたい人なんているわけないっす』

 

『……? 結構みんな喜んでますよ?』

 

 

 

 僕が答えそうになるとコメントの流れが加速していた。

 きっと、ユージや真緒さんでも同じだろう。

 

 

 

ユージ:『くっ、これだから天然は……。ユキヤも何か言うっす!』

 

ユキヤ:『我は黒のボクサーだ!』

 

ユージ:『違うっすよ!? そういうことじゃないっすよ!? はぁ……、まぁいいっすよ。俺っちは黒と青のタイプっす』

 

 

 

 大きなため息と共にユージたちは去っていった。

 

 

 

『何が言いたかったんだろう……?』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん草

:予定を崩さないユキくんw

:これで半分以上来たのか

:そろそろ三期生か?

 

 

 

 しかし、次に来たのは予想外の人だった。

 

 

 

ツララ:『……』

 

『えっ、あっ、ツララ先輩。よ、ようこそ……』

 

ツララ:『――誕生日おめでとうございます』

 

『あ、ありがとうございます』

 

ツララ:『……』

 

『……』

 

 

 

 

 か、会話が続かない。

 独特な空気を持つツララ先輩にどう話しかけたらいいのか迷ってしまう。

 

 しかし、覚悟を決めるとトークデッキを使っていく。

 

 

 

『あっ、えっと……。ツララ先輩、僕のことどう思ってますか?』

 

ツララ:『――面白い子よ』

 

『あっ、はい。あ、ありがとうございます』

 

ツララ:『……』

 

『……わ、わふっ』

 

ツララ:『――このまま拾って帰っていいかしら?』

 

『わふっ、だ、だめですよ!?』

 

ツララ:『――そう』

 

 

 

 本当に残念そうな声で言ってくる。

 

 

 

『えとえと……その……パ――』

 

ツララ:『――人のパンツを聞く前に自分のを答えるべきじゃないかしら?』

 

『あうあう、そ、そうですよね。えとえと、ぼ、僕のやつは……そ、その……犬が描いてある白の……』

 

ツララ:『――それじゃあ行くわ。次はコラボするから』

 

『あっ、まだツララ先輩のを――』

 

 

 

 き、切れてしまった……。

 もしかして僕、辱められただけ?

 

 

 

『うぅぅ……、は、恥ずかしいよ……』

 

 

 

【コメント】

:つらたん草

:ユキくんが言わされてて草

:パンツ助かる

《:¥10,000 パンツ代》

:つらたんはココママでも苦戦してたからな

:本当に三期生が来ないな

:これで一期生と二期生は全員来たもんな

:次かかって来たら三期生か

 

 

 

『うぅ……、みんな、どうして来てくれないんだろう……?』

 

 

 

 不安に思い始めたそのタイミングで更に人がやってくる。

 

 

『あっ、なんだ……。みんな遅れてただけか……』

 

 

 安心しながらアイコンを見る。

 

 

 

『えっ!? あっ、る、ルル!?』

 

ルル :『ユキ先輩ー、お誕生日おめでとうございます』

 

『ありがとう。わざわざ来てくれたんだね』

 

ルル :『先輩のためならたとえ、ユージ草先輩が燃えてる火の中でも、アカネ先輩が暴走して海星先輩に押さえてる水の中でも飛び込んで、油を注ぎますよ!』

 

『うん、それはやめてね。取り返しがつかなくなるから』

 

ルル :『はーい、わかりました。ユキ先輩を困らせる人たちはギルティしておきますね』

 

『もっとダメだからね!? と、とりあえずルルは一度自己紹介してくれるかな? ほらっ、知らない人も多いだろうし』

 

ルル :『わかりました。真の犬好き、天瀬ルル(あませるる)です。ユキ先輩に手を出す愚か者を片っ端からやっつけるためにここに来ました。よろしくお願いしまーす!』

 

『えっ、ち、違うよ!? 何その破滅天使みたいな役割……。ほ、ほらっ、ルルは明日から配信開始するシロルーム四期生でしょ?』

 

ルル :『あっ、そっちはかりそめの姿です』

 

『そ、そうだったの!?』

 

 

 

【コメント】

:草

:ユキくん大好きっ子か

《:¥10,000 新人教育費》

:また濃いキャラを

:でも、話し慣れてるな

:どこかで聞いたことのある声だな

 

 

 

ルル :『それよりも先輩、ぼくには聞いてくれないのですか? トークカード……』

 

『あっ、そうだね。まずは僕のことをどう思ってるのか……』

 

ルル :『しっかり百万文字ほどに抑えて書いてきましたよ』

 

 

 

 何だか恐ろしいことを聞いた気がしたので、別のカードを使うことにする。

 

 

 

『……は飛ばして、最近ハマってること……』

 

ルル :『そっちはまだ八十万文字くらいですね。いかに先輩の動画が良くてハマってるのかを書き綴って……』

 

『……そっちも飛ばして、今日のパンツ――』

 

ルル :『もう、先輩。そんなにぼくのパンツが見たいのですか? いいですよ、先輩なら直接見せても……』

 

『はい、四期生の天瀬ルルちゃんでした。拍手ー』

 

ルル :『あっ、待ってください、先輩。ぼくはまだ話したいことが――』

 

 

 

 このままだといつまでも居座りそうだったので、僕はルルとの会話を終わらせる。

 

 

 

【コメント】

:四期生の配信は明日からか

:楽しみな子だったな

:見に行くか

:まさかの四期生だったな

 

 

 

 一応チャットでルルに途中で通話を切ってしまったことを謝っておく。

 

 すると、入れ違いにまた別の人がやってくる。

 

 

 

エミリ:『あの、おめでとうございます……』

 

『あ、ありがとうございます……』

 

 

 

 やって来てくれたのは、四期生の魔界エミリ(まかいのえみり)だった。

 

 

――もしかして、僕と一緒で人前だと緊張するタイプなのかな? そ、それなら僕が先輩らしいところを見せないと……。

 

 

 僕は覚悟を決めて話しかける。

 

 

『わ、わふっ、あの、あの……』

 

エミリ:『……ません』

 

 

 

 何かボソボソっと小さな声が聞こえた。

 

 

 

『えと……、ご、ごめんね。き、聞こえなかった……』

 

エミリ:『えっと……、ルルは渡しません』

 

『わ、わふぅ……。えとえと……ルル……?」

 

 

 

 あれっ、この子ってルルと繋がりのある子?

 

 

 

『だ、大丈夫だよ。ぼ、僕はとったりするつもりはないから……』

 

エミリ:『で、でも、あの子、四期生の集まりの時も先輩、先輩、先輩……。あの子は私たちの仲間です。わ、渡さない……じゃないですね。私たち、先輩には負けませんから! ルルの気持ちは私が勝ち取ります』

 

『あうあう……、そ、それはごめんね……。ルル、シロルームに入ったきっかけが僕みたいだから……』

 

エミリ:『あっ、そ、それはわかる気がします。私もユキ先輩たち三期生の仲の良さを見てシロルームに入ったんですよ。あんな風に仲良くなりたいって……。でも、いざ四期生で仲良くしようとしたらルルがあんな感じでしたから……』

 

『あぁ……、うん。なるほどね。やっぱり同期で仲良くしたいもんね』

 

エミリ:『わかってくれますか?』

 

『よくわかるよ。僕だって、三期生のみんなとはずっと仲良くしたいと思ってるし……、その……、今も誰も来てないのが寂しくて……』

 

エミリ:『もしかして、それって――。いえ、私の口から言うべきではないですね。そうですね、またルルのことで相談させてもらってもいいですか?』

 

『もちろんだよ。あっ、じ、自己紹介がまだだったね。よかったら初配信の日も含めて宣伝していく?』

 

エミリ:『い、いいのですか!? ありがとうございます。私は魔界エミリ(まかいのえみり)。シロルーム四期生で初配信は二番手。明日、ルルの後にします。よろしければ見に来てくださいね』

 

『犬好きのみなさん、ぜひよろしくお願いしますね。さ、最後にその……、えっと、あの……』

 

エミリ:『私は紫のレースのやつですよ。それじゃあ、失礼します』

 

 

 

 不穏な空気で始まったけど、綺麗に収まってくれてよかった……。

 

 

 

【コメント】

:悪魔っ子か

:ルルちゃんをめぐって不穏な争いが……

:それを言うならすでにユキくんを巡って三期生同士の争いが……

:そこにルルちゃんも参加してるんだよね

 

 

 

『後輩の子も含めてたくさん来てくれました。僕、こんなに誕生日をたくさんの人から祝われたの初めてだよ……。でも、みんなはどうしたのだろう? 今日は配信もしてないはずなのに……』

 

 

 

 改めてみんなのチャンネルを見に行く。

 

 やっぱり誰も配信はしていない。チャットも特に動いていない。

 

 もしかすると、今日に凸配信をする連絡が届いてないのかも、と見てみるとしっかり既読がついていた。

 

 

 

『うぅ……、みんな……』

 

 

 

【コメント】

:ココママ、早く来てあげてー!

:時間間違えたか?

:ユキくんのことになると目の色が変わるココママがそんなミスをするか?

:ユイちゃん、寝てないよな?

:カグラ様は……普通に日を間違えてたとかありそう

 

 

 

『あっ、また来た……』

 

 

 

 しかも二人。

 今度こそは……、と通話を始める。

 

 

 

イツキ:『ユキ先輩、お誕生日おめでとうございますぅ』

フウ :『おめでとうございますポコ』

 

 

 

 次にやってきたのも四期生の二人だった。

 

姉川イツキ(あねがわいつき)狸川フウ(たぬがわふう)

 

 

 

『わふぅ、二人とも、わざわざきてくれてありがとう』

 

イツキ:『私もユキ先輩と話すことができて嬉しいですよぉ』

 

フウ :『ルルちゃんとエミリちゃんだけおめでとうを言いにきて、ふうたちが何も言わない訳にはいかないポコですから』

 

『えっと、いきなり先輩のところに来るのは緊張したよね』

 

イツキ:『それがユキ先輩の場合はそこまで緊張してないんですよねぇ』

 

フウ :『ふふふっ、なんだか妹みたいな感じがするポコですよ』

 

『わ、わふっ!?』

 

イツキ:『本当に妹ですねぇ』

 

『ち、違うからね。あっ、二人も宣伝していくといいよ』

 

イツキ:『ありがとうございますぅ。私は姉川イツキ(あねがわいつき)。エロと百合をこよなく愛するシロルーム四期生ですぅ。初配信は明後日ですぅ。よろしくお願いしますぅ』

 

フウ :『ふうは狸川フウ(たぬがわふう)ポコ。シロルーム四期生でイツキちゃんと同じく明後日に配信を予定してますぽこ。よろしくお願いしますポコ』

 

『よかったら、見に行ってくださいね。後、ぼ、僕は妹ではないからね。ほらっ、これでも先輩だからね』

 

イツキ:『その段ボールごと持って帰って、家で色々としてもいいですかぁ?』

 

『い、色々??』

 

イツキ:『それはもちろん家ですることと言ったら、数えるほどしかないですよぉ? ベッドでモニョモニョとかお風呂でモニョモニョとか……』

 

『わ、わふっ!?!? た、助け……』

 

 

 

 この人からアカネ先輩のような匂いを感じた。

 思わず僕は段ボールの中に姿を隠していた。

 

 

 

フウ :『こらっ、イツキちゃん。また変なことを言ってポコ』

 

イツキ:『ならフウが付き合ってくれるかしらぁ?』

 

フウ :『はぁ……、エッチなことをしないならいいポコ』

 

イツキ:『エッチなことをしないなら何をするのよぉ』

 

フウ :『何もしなくていいポコ。嫌なら行かないポコよ?』

 

イツキ:『わ、わかったよぉ……』

 

『あ、あははっ……、大変だね……』

 

フウ :『イツキちゃんも悪い子じゃないポコですから……』

 

『そ、それじゃあそろそろパンツの色を教えてくれるかな……』

 

フウ :『え゛っ!? せ、先輩!?!?』

 

イツキ:『あははっ、なんですか、先輩も乗り気だったのですねぇ。いいですよぉ、パンツの色だけじゃなくて脱ぎたての現物を――』

 

フウ :『そ、その……、あの……、うぅぅ……、セクハラポコよぉ……。ご、ごめんなさい。ご想像にお任せします』

 

『わふっ。う、うん、それで十分だよ。これを答える人たちがおかしいよね。シロルームにはたくさんいるけど……』

 

 

 

 そこで四期生の二人は去っていった。

 フウの反応は僕の反応に近く、妙に親近感が湧いてしまったが。

 

 

 

【コメント】

:暴走姉とエロ耐性ゼロのたぬきか

:たぬきがまとめ役になるわけか

:楽しみだね

:初めてきてくれた後輩にパンツの色を聞いていく犬w

:ユキくんも成長したね……

:毒された、とも言えるかw

 

 

 

 

『これで……ぜ、全員になるのかな? そ、そろそろ配信を終えないといけないんだけど……』

 

 

 

――やっぱり三期生は来てくれなかった……。

 

 

 がっくりと肩を落としてしまう僕。

 すると、そのタイミングで通知……ではなく、家の呼び鈴が鳴る。

 

 

 

『た、宅配便でもきたのかな? ご、ごめんね。ちょっとミュートにするね……』

 

 

 

 ミュートにすると僕は玄関へと急いで向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 戻ってきた僕は困惑したままミュートを消していた。

 

 

 

『わ、わふっ……。ちょ、ちょっと何が起こったのかわからないんだけど、その……あの……。ちょっと待ってね……』

 

 

 

 僕は急いで配信画面を準備する。

 すでにいるユキくんアバターの他にもう三人。

 

 

 

【コメント】

:えっ!?

:ま、まさか……

:いや、三期生ならあり得る

:わくわく

 

 

 

『あ、あの……、僕の凸待ち配信……。なんと、三期生のメンバーが直接僕の家に凸してくれました』

 

ココネ:『ユキくん、お誕生日おめでとうございます。本当なら通話しようとしたんですけど、どうしても直接言いたくて、来ちゃいました』

 

ユイ :『うみゅー、ユキくん、おめでとーなのー。ココママの準備が遅かったの……』

 

ココネ:『ゆ、ユキくんの誕生日プレゼントを準備してたんですよ!?』

 

カグラ:『ユキ、おめでとう。まぁ、私たちは見てるだけしかできなかったからね』

 

ユイ :『ゆいは手伝ったの。見てたのはカグラだけなの』

 

ココネ:『いえ、色々と食材を準備してくれたのはカグラさんですよ。ユキくん、これ、私たちからのプレゼントです。受け取ってくれますか?』

 

 

 

 ココネから大きな箱を渡される。

 

 

 

『えっと、ほ、本当にいいの? ぼ、僕がもらっても……』

 

ココネ:『もちろんですよ。むしろ受け取ってくれないと困ります』

 

ユイ :『うみゅ、遠慮なくもらうの』

 

カグラ:『これはユキのために作ったんだからね。いらないと言われても困るわよ』

 

ココネ:『早速開けてみてください』

 

『うん……』

 

 

 

 箱を開けてみると中には生クリームのケーキが入っていた。

 

 中央に[ユキくん、誕生日おめでとう]と書かれており、その周りには僕たち四人のアバターを形取った砂糖菓子が置かれていた。

 

 

 

カグラ:『この砂糖菓子を準備したのが私なのよ』

 

ユイ :『うみゅー、文字を書いたのはゆいなの』

 

ココネ:『それで私がケーキを作りました』

 

 

 

 それぞれが笑顔で教えてくれる。

 ただ、このプレゼントは僕にとってはただの贈り物以上の価値があった。

 

 

 親以外からの初めての誕生日プレゼント。

 大切な……、本当に大切な仲間からの贈り物。

 

 

 しかも、僕のためにわざわざ三人が協力して手作りで作ってくれたもの……。

 それを受け取った僕は喜びを通り越してポロポロと涙を流してしまう。

 

 

 

ココネ:『ゆ、ユキくん!? き、気に入らなかったですか……?』

 

 

 

 僕の姿を見てココネは慌てふためいていた。

 

 

 

『ぐすっ……、その、すごく嬉しくて……。ほ、本当に嬉しいのに、どうして涙が……』

 

 

 

 何度拭っても涙が留まることなく流れて、止まることがなかった。

 

 

 

『ぐすっ……。あ、ありがとう……。ほ、本当にありがとう……。ぼ、僕、こんな風に他人から祝ってもらうのは初めてで――。そ、その……、本当は今日ずっと不安だったんだ……。みんな来てくれないのかなって、心配してたんだ……。そ、それがこんなにも素敵なプレゼントを準備してくれていたなんて、そ、その……』

 

 

 

 泣いている僕の頭をココネはそっと抱きしめてくれる。そして、何度も頭を撫でてくれた。

 

 

 

ココネ:『ユキくん、嬉しい時は思いっきり泣いていいんですよ。胸ならいくらでも貸してあげますから……』

 

『あ、ありがとう、ココネ……』

 

 

 

 いつもなら慌てふためくところだけど、今日はなぜか心が落ち着き、自然と頭を預けることができた。

 

 そして、涙が止まるまでココネの胸で泣かせてもらうことになった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

『ご、ごめんね、せっかくみんな来てくれたのに、僕、泣いてしまって……』

 

ココネ:『いえ、構いませんよ』

 

ユイ :『むしろ役得でした』

 

ココネ:『そうそう、役得……って、ユイちゃん! また私の真似をして……』

 

ユイ :『うにゅ、ココネの気持ちを代弁してあげただけなの』

 

『あっ、役得は否定しないんだ……』

 

カグラ:『それよりもケーキは冷蔵庫に入れておくわよ。ユキ、食事まだよね?』

 

『う、うん、まだだよ』

 

ココネ:『そうだと思って、色々と準備して来ましたよ。流石にこちらは買って来たものですけど……』

 

ユイ :『うみゅー、だから配信が終わったら一緒に食べるのー!』

 

ココネ:『そうですね。これから盛大にユキくんの誕生日パーティーをしましょう』

 

『わ、わふっ!? うん、そうだね』

 

 

 

 一瞬驚いたものの僕は大きく頷いていた。

 そして、配信画面をじっと見る。

 結局凸待ち配信にはシロルームのライバーが全員来てくれた。

 

 

 総勢十五人。

 

 

 今までの僕だと一対一になるとまともに話せなかっただろう。

 特に初めて喋る相手だと特に――。

 

 

 そう考えると雪城ユキとして活動する様になって、アカネ先輩たちや七瀬と接することでずいぶんと話せる様になった気がする。

 

 

 まだまだ振り回されることも多々ある。

 ちょっとしたことで驚いてしまったり、言葉が出なかったり、怯えたり、泣いてしまったり……。

 どうして他の人たちに比べると経験不足だった。

 

 

 それでも、地に足を付けて頑張っていこう……。

 一歩一歩前に進んでいこう……。

 みんなが僕のことを見に来てくれてるのだから――。

 

 

 僕は笑みを浮かべて配信画面の向こうにいるであろう人たちに向けて言う。

 

 

 

『今日来てくれた先輩さん、後輩さん、ココママ、カグラさん、ユイ、そして犬好きさんたち。本当にありがとう。今日一日、忘れられない誕生日になったよ! 一生思い出に残る記念日になったよ! だからその……本当にみんな大好きだよ……。わ、わふぅ……は、恥ずかしいね……。あははっ……』

 

 

 

 僕は素直にお礼を言うと顔を真っ赤にしていた。

 

 

 

『それじゃあ、本日の配信はここまでにさせていただきます』

 

ココネ:『乙ここでしたー』

 

ユイ:『うみゅー、乙みゅー』

 

カグラ:『お疲れ様!』

 

『乙わふさまでした!!』

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯ユキ犬姫拾いました》25万人+誕生日記念凸待ち配信 《雪城ユキ/シロルーム三期生》』

12.0万人が視聴 0分前に配信済み

⤴4.1万 ⤵2 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ

チャンネル登録者数26.1万人

 

 

 

◇◇◇

【コメント】

:ユキくんが最後まで言えてる!?

:また消し忘れか??

:いや、ちゃんと消えてるぞ!?

:マジか……

:ユキくん、成長したんだな……

:少し寂しい気もするな……

:お疲れ様でした

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 配信を終えると、早速テーブルに色々な料理を並べていった。

 

 

 お寿司やチキン、色とりどりのサラダ、おにぎり、ハンバーガー、ピザ、パスタ……。

 

 

 

「えっと、祐季くんの好みがわからなかったから適当に買って来たよ」

 

 

 

 こよりがテーブルに並べながら苦笑を浮かべる。

 

 

 

「ううん、どれも好きな料理だよ」

 

「だよね、祐季くんはお子様だからこういう料理、好きだよね?」

 

「そ、それは偏見だよ? それに僕、結坂と同じ歳だからね!?」

 

「こらこら、彩芽(あやめ)。今日の主役をからかってどうするのよ」

 

 

 

 瑠璃香(るりか)さんが紙コップにジュースを注いでくれる。

 そして、紙皿や割り箸もそれぞれに配ってくれていた。

 

 

 

「ありがとう、瑠璃香さん」

 

「このくらい当然よ」

 

「料理も配り終わったね。彩芽も大丈夫?」

 

「うん、もちろんだよ! この後に遊ぶゲームもしっかり準備したよ!」

 

「パジャマも準備したし、お泊まりパーティーだね。前もって会長に確認しておいて良かったよ」

 

「みんな……、本当に今日はありがとう。僕、こんなに楽しい誕生日、初めてよ……」

 

「祐季くん、何を言ってるの?」

 

 

 

 お礼を言うとこよりが不思議そうに言ってくる。

 それを聞いて、僕は声が漏れてしまう。

 

 

 

「ふぇ?」

 

「だって、誕生日パーティーは今からだよ。もっともっと楽しくなるんだよ? 今で満足してどうするの?」

 

「そうだよね、まだ祐季くんへの誕生日プレゼントも渡してないんだからね」

 

「えっ、さっきもらったよ。大きなケーキ……」

 

「あれはシロルーム三期生としてのプレゼント。これから渡すのは私たち、個々からのプレゼントだよ」

 

 

 

 そういうと結坂は鞄から小さな袋包みを取り出して、渡してくる。

 

 

 

「はいっ、私からは新作ゲームだよ。また一緒に遊ぼうね」

 

「えっ!? あ……、うん……。ありがとう……」

 

 

 

 困惑しながらもなし崩し的に結坂からゲームをもらい、それをギュッと抱きしめていた。

 

 

 

「次は私ね。本当はパソコン回りの道具をあげたかったんだけど、祐季のところは完璧すぎたからね。今回はブルーライトカット入りの伊達眼鏡にしておいたわ。結構目を酷使するから長時間モニターを見るときに使うと良いわよ」

 

 

 

 瑠璃香は相変わらず利便性を優先していた。

 しかし、僕のことを何よりも思っての選択。

 それが素直に僕には嬉しかった。

 

 

 

「最後に私からはこれですね。頑張って作ったんですよ」

 

 

 

 こよりからは手作りのぬいぐるみを四体渡される。

 それはどこか僕たち四人のアバターに似たもの……。

 

 

 

「祐季くん、三期生大好きっ子だからね。こういうものの方が喜ぶかなって思ったんだよ」

 

 

 

 三者三様のプレゼントを両手で抱きしめると僕は再び目から涙が流れてくる。

 

 

 

「み、みんな……、本当にありがとう。だ、大事にするね……」

 

「ほらっ、祐季くん。まだまだパーティーはこれからだよ!? こんなところで感動してたら先まで持たないよ! まずは一緒にご飯食べよう!」

 

「祐季の分、お皿に装っておいたわよ」

 

「ゲームもするからね。休んでる暇はないよ」

 

「ぐすっ……。そ、そうだよね。うん、そうだよね。今日はまだまだこれからだもんね」

 

 

 

 僕は涙を拭うと三人に向かって笑顔を浮かべていた。

 



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第1話:ユキくん大好き天使、天瀬ルル

 結局、パーティーはすぐにお開きとなっていた。

 その理由はもちろん僕にある。

 

 精神的にも肉体的にもかなり無理をしていたようで、ココネたちとケーキを食べた後、ゲームをしている途中に力尽きてしまった。

 

 そして、気がついたら次の日の昼になっていた。

 

 

 

「あ、あれっ、僕……?」

 

 

 

 気がつくとベッドに寝かされていた。

 

 そして、床には布団が敷かれ、そこでココネたち三人は眠っていた。

 いや、寝ていたのは二人だけだった。

 

 

 

「あれっ、祐季くん? もう起きたんだ……」

 

「結坂こそやけに早く起きてたんだな」

 

「んっ……? 私はまだ寝てないだけだよ? 祐季くんの寝顔、堪能させてもらったよ……」

 

「えっ!? ね、寝てない!? そ、それはちゃんと寝ないとダメだよ!? それに僕の顔なんて見ても面白くないよね?」

 

「そんなことないよ。祐季くんの幸せそうな顔を見てたら、こっちまで幸せになってくるんだよ。一晩見てても飽きないよ」

 

「わ、わふっ!? 一晩中見てたの!? こ、怖いよ!?

 

「あははっ、さすがにそこまではしてないよ。祐季くんが何か寝言を言う度に見てただけだよ。でも、役得役得。大丈夫だよ、とっても可愛かったから」

 

「あぅぅ……。そ、そういうことじゃなくて、ぼ、僕が恥ずかしいんだよ……」

 

「可愛いは正義だよ? つまり祐季くんは正義だよ?」

 

「も、もう……、そういうことが言いたいんじゃなくて……。まぁ、何かしたわけじゃないならいいよ……」

 

「……うん、ナニモシテナイヨ」

 

「えと……、何をしたの?」

 

「大丈夫、祐季くんには何もしてないよ……。祐季くんにはね」

 

「ゆーいーさーかー?」

 

 

 

 ジト目を向けると、結坂は手を合わせて謝ってくる。

 

 

 

「ごめーん、祐季くんがあまりに幸せそうに寝てたからその……、写真を撮っちゃった……」

 

 

 

 そういってスマホを見せてくる結坂。

 そこには嬉しそうに眠る僕の姿があった。

 

 

 

「はぁ……、まぁ、そのくらいならいいよ。僕の写真なんて撮っても仕方ないだろうけど……」

 

「拡大コピーして部屋に飾っておくよ」

 

「それはダメー!?」

 

「あはははっ、それは冗談だよ。それよりも昨日、私たちにはトークデッキ使わなかったんだね?」

 

「えっ? だって配信も終わってたし、そもそもあれは初対面の人とかに緊張するから使ってただけで、みんな相手だと使う必要はないよね?」

 

「それもそうだけど、せっかく気合の入れたパンツ履いてたんだけどな。ユキくんを驚かせようと……」

 

「え゛っ!?」

 

「あはははっ、それも冗談だよ。それよりももう昼だけど、ご飯食べる? 昨日の残りでよかったら温めるよ?」

 

「うん、ありがとう……。少しもらえるかな?」

 

 

 

 結坂にご飯の準備をしてもらっていると、こよりや瑠璃香も起きてきて、昨日のパーティーの続きをすることになった。

 

 

 

◇◇◇

『《♯ユキ犬姫拾いました ♯コユユカオフ会》四期生初配信、同時視聴するよー 《雪城ユキ/真心ココネ/神宮寺カグラ/羊沢ユイ/シロルーム三期生》』

1.4万人が待機中 20XX/07/01 20:00に公開予定

⤴964 ⤵0 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

 結局、四期生の初配信までみんなで過ごすことになったので、同時視聴枠をとって一緒に見ることにした。

 

 本当だったら一人で配信もせずに見るつもりだったけど、担当さんから既に声を交わしてるから、僕たちはコメント等をしていいと言われていた。

 

 それなら、と同時視聴枠をする許可をもらったのだった。

 

 

 一人だったらわざわざ枠を取ることなく、軽くコメントして終わりだったけどね。

 

 せっかくみんないるなら枠を取った方が犬好きさんたちも喜んでくれるもんね。

 

 

 

 

【コメント】

:まさかの三期生勢揃い

:昨日の凸からずっと一緒だったのかw

:本当に仲がいいなぁ

:シロルーム随一の仲の良さじゃないか?

:ユキくんを中心にまとまってるもんな

 

 

 

『わ、わふぅ……。みなさん、こんばんはー。わわっ、今日もたくさん。僕の放送じゃなくて、ルルの放送へ行ってあげてくださいね』

 

 

 

【コメント】

:開幕追い出し宣言w

:ユキくんらしいw

:ユキくんと一緒に四期生を見守るぞ

:楽しみだなw

 

 

 

『そ、そうだったね。レベルアップしたユキ犬姫バージョン一です。今日は誕生日以降、同期三人と一緒にいたので、そのまま後輩さんを見守りたいと思います』

 

ココネ:『ユキくん、今までは一以下だったんですね……』

 

ユイ :『うみゅ、そろそろ寝る時間?』

 

カグラ:『まぁ、私以上の姫が現れるわけないわよね』

 

ユイ :『うみゅ、カグラはポンコツ界最強の姫なの』

 

カグラ:『それって、単にすごくポンって言ってるだけじゃないの?』

 

ユイ :『ポンポン姫は伊達じゃないの』

 

『あ、あはははっ……。ちょっと話が逸れそうだけも、その、今日は時間に限りがあるので、早速四期生一番手の天瀬ルルの配信を見に行きたいと思います』

 

 

 

 そうして僕は画面にルルの放送を表示していた。

 

 

 

◇◆◇

『《天瀬ルル初配信》自己紹介……はほどほどにユキ先輩の魅力を語るよ 《天瀬ルル/シロルーム四期生》』

1.2万人が待機中 ライブ配信中

⤴247 ⤵0 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

【コメント】

:一人目はユキくん大好きっ子か

:妙に喋り慣れてた子だよな?

:近視感があるんだよな

:どこかで聞いた声……

 

 

 

ルル :『こんるるー! どうも初めまして、ぼくは段ボール研究会No.1の天瀬ルル(あませるる)と言います。あっ、あとついでにシロルーム四期生なんかもしてます』

 

 

 

 初めて配信画面上で姿を表すルル。

 

 小柄な体型をした白い肌の天使。青銀色の肩くらいの髪。

 青の刺繍が施された白の袖なしワンピース。

 頭には金の輪っかと背中には白の羽を持っている。

 

 そういったものは、カタッターのヘッダーと同じだった。

 

 背中の羽は動きに合わせてひょこひょこと動くので、より天使感が増しているくらいだろうか?

 

 

 

【コメント】

:四期生はついでw

:まさかの段ボール研究会No.1

:ユキくん好きもここまできたかw

:小柄で可愛らしい子だな

 

 

 

ルル :『まずはプロフィールを……と。あれっ、ユキ先輩がライブしてる?』

 

 

 

 ルルの動きが固まり、そして、やってきたリスナーたちに告げる。

 

 

 

ルル :『ユキ先輩が配信してるので、これからこの放送は同時視聴枠にしようと思います。いえ、します!!』

 

 

 

 プロフィール紹介やダク決めをすっ飛ばして、いきなり同時視聴宣言をしてくるルル。

 そして、本当に画面にユキくんたちの配信を表示させていた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

『な、なんで初配信なのに、僕たちと一緒で同時視聴枠をするの!?』

 

ユイ :『うみゅ、開幕ポンなの』

 

『と、とりあえず通話を……』

 

 

 

 僕は慌ててルルに電話を掛けていた。

 すると、ワンコールも鳴らないうちにルルが通話に出る。

 

 それをみんなに聞こえるようにしてから話す。

 

 

 

ルル :『ユキ先輩、どうしました? ぼくの声が聞きたくなったのですか?』

 

『いやいや、なんで同時視聴枠になってるの!? ほらっ、初配信は色々決めるものがあるでしょ!?』

 

ルル :『ぼくの初配信とユキ先輩の放送。大切なのはもちろん先輩の放送ですよね!?』

 

『そんなわけないよ!? 僕の枠はおまけで、今日のメインはルルの初配信なんだからね!? ほらっ、リスナーさんが待ってるよ』

 

ルル :『えっと、コメント欄を見る限りだと「いいぞ、もっとやれ」とか「期待の新人だ」とかいうコメントが流れていますね。つまり、これはリスナーさんが望んでること、です』

 

 

 

 同時視聴してなくても、ルルがいたずらっぽい笑みを浮かべているのが良くわかる。

 

 

 

『はぁ……、わかったよ。ルルがこっちを見てるなら、ルルのタグは僕の方で募集してみるよ』

 

ルル :『え゛っ!? せ、先輩からのプレゼント!? 一生大事にします』

 

『大袈裟だよ!? 大袈裟すぎるからね!?』

 

ルル :『先輩にぼくの初めてを捧げますね……』

 

『もう、勝手に言ってるといいよ。はぁ……』

 

ルル :『ため息じゃなくて、もっと照れてくださいよ。ユキ先輩、冷たいです……』

 

『はいはい、わかったよ。恥ずかしい恥ずかしい……。じゃあ、タグを決めようか』

 

ルル :『なんだか扱いが適当ですよ……』

 

 

 

 口を尖らせているルルを放っておいて、僕は決めないといけないタグを確認する。

 

 

 推しマークは既に決まっているはずなので、決めるのはファンネームとファンアートタグと配信タグか……。

 

 

 

『まずはファンネームタグだね。みんな、何かないかな?』

 

 

 

【コメント】

:ユキくんが先輩してる!?

:ユキくんを見ると暴走するタイプか

:ココママか

:ココママを暴走特急で混ぜた感じだな

:塩対応ユキくん登場だw

 

 

 

ユイ :『うみゅ、ユキ天使で』

 

『僕は関係ないよね!?』

 

ココネ:『わ、私はユキくんを見ても暴走しないですよ?』

 

『胸に手を当てて考えてみるといいよ』

 

ココネ:『触りたいのですか? いいですよ、ユキくんなら……』

 

『ぼ、僕が触りたいって言ったわけじゃないからね!? だ、だからじわじわ近づかないで……』

 

ルル :『むぅ……ぼくと違う反応……。やっぱり時間の差を埋めるのは大変です。で、でも、負けないよ!』

 

『そ、そんなことで競わないで! ルルもココママは僕の恩人だからね』

 

ココネ:『ゆ、ユキくん……』

 

ルル :『うぅぅ……、これで勝ったと思うなー!』

 

『はいはい、何も競ってないよ……』

 

カグラ:『もう、天使さんでいいでしょ』

 

『うん、そ、それで。きまらなさそうだし、カグラさんのそれでいいね』

 

 

 

【コメント】

:ポンが集まるとカグラ様が真面目モードに

:期待のポン天使だ

:どちらかと言えばユキくんが新人みたいだw

 

 

 

『ど、どんどん決めていくよ。次はファンアートタグを――、って、なんで僕が進めてるの?』

 

ルル :『ぼくは自分のイラストよりユキ先輩のイラストが欲しいです。どんどん犬写真へ送ってください』

 

『そ、それは僕のファンアートだよ!? それにほらっ、僕と一緒に描かれたファンアートが来るかもしれないよ?』

 

ルル :『なら天使写真でいいですよ』

 

『ず、ずいぶんと適当に行くんだね……』

 

ルル :『ちなみにここでいう天使はユキ先輩のことです』

 

『僕は天使じゃなくて犬だからね!?』

 

ルル :『簡単でわかりやすい良いタグだと思いますよ』

 

『……本心は?』

 

ルル :『……難しいのだとぼくが覚えられない』

 

『みんなー、もっと複雑なやつをお願いねー』

 

ルル :『ユキ先輩が僕に無理難題を!? ぐっ、せ、先輩からの試練……、受けるしかないです』

 

ユイ :『天写真はどうなの?』

 

カグラ:『短くなってるわよ』

 

ルル :『そ、それにします!』

 

『なら、あとは配信タグだね。僕だと「犬拾いました」とか「ユキ犬姫拾いました」だね。うん、ココママが勝手に決めちゃったやつ……』

 

ココネ:『ユキくんがぼんやりしてましたからね。私からの初めての贈り物ですね』

 

ルル :『むぅぅ……』

 

 

 

 ルルは頬を膨らませて拗ねていた。

 

 

 

『こ、ココママ、今は抑えて……』

 

ルル :『僕もユキ先輩に配信タグを決めてもらいたいです!』

 

『や、やっぱりこうなった……。うーん、僕、こういうの考えるの苦手なんだよね……。た、たとえば「生天使」とか……?』

 

ココネ:『ゆ、ユキくん……』

 

カグラ:『……そのままね』

 

ユイ :『ゆいよりもまっすぐなの……』

 

『ほ、本当にこういうのを考えるのは苦手なんだよ……』

 

ルル :『いえ、これ以上ない完璧な配信タグです! 写生させてもらって額に入れて飾りますね!』

 

『や、やめて!? そ、そんなすごいものじゃないから! むしろ僕の痴態を広めてるだけだから!』

 

ルル :『いえ、ユキ先輩がぼくのために考えてくれたものですから。これ以上ない宝物ですよ。……えへへっ』

 

 

 

――まぁ、ルルが嬉しそうだからいいか。

 

 

 僕は満面の笑みを浮かべてるルルを見て苦笑いをしていた。

 

 

 

『後はプロフィールだよね? 本当なら最初に言わないといけないやつだったんだけど、ルル、準備はしてる?』

 

ルル :『一応準備してありますよ。ユキ先輩の配信より重要度は低かったですけど』

 

『いやいや、僕の配信はアーカイブに残すから、自分の配信を優先してよ……』

 

ココネ:『とりあえず今貼ってくれるかな? せっかくだから、ここでプロフィール紹介をしてしまいましょうか』

 

ルル :『がるるるる……。ママには負けない』

 

ココネ:『な、なんで威圧されてるのですか? プロフィール紹介に勝ちも負けもないですよ?』

 

『ルル、お願いね』

 

ルル :『はい、わかりました。大至急貼らせていただきます!!』

 

 

 

 ルルが敬礼をして、すぐにプロフィールを貼ってくれる。

 

 

――ルルは何故かココネを敵認定しているけど、僕としては仲良くしてほしいな……。

 

 

 

●天瀬ルル(あませるる)

 年齢:18歳

 性格:悪戯好き

 好きなもの:動画配信。かわいいもの。ユキ先輩

 嫌いなもの:孤独。

 詳細:楽しいことを求めて天界より降り立った天使。少し悪戯好きで、かわいいものにちょっかいをかけることを生業としている。

 Vtuberになったきっかけ:ユキ先輩と一緒にコラボをするため。あわよくばオフ会をして一緒にお泊まりをして、お風呂にも一緒に入って、それでそれで――。

 座右の銘:ユキ先輩命

 配信予定:ユキ先輩についての雑談。ユキ先輩とコラボ。その他適当に

 

 

 

『うん、なんだろう……。僕、身の危険を感じるから放送終わってもいいかな?』

 

ルル :『ま、待ってください。冗談です。冗談ですから』

 

ユイ :『うみゅー? どのあたりが?』

 

ルル :『いくらユキ先輩がかわいくても、そこまでたくさん悪戯しないですから』

 

『それじゃあ、今日の配信はこの辺りにします。犬好きのみなさん、乙わふさまでした』

 

ルル :『早いですよ!? ほ、ほらっ、ぼくのわからないことを優しく手取り足取り教えてくれるって言ったのは先輩じゃないですか!? あの時からもうぼくは先輩なしでは生きられない体になってしまったんですよ?』

 

『色々と妄想で変換されすぎてるよ……。僕が言ったのは「わからないことを教える」って部分だけだよ……』

 

カグラ:『まぁ、ユキに手取り足取り教えるなんてこと、できるはずないもんね』

 

ココネ:『ユキくん、恥ずかしがり屋さんですからね』

 

ユイ :『うみゅ、ユキくんはこっちから突っ込んでいかないとなかなか難しいの』

 

ルル :『なるほど……、メモ帳、メモ帳……』

 

『ちょっと待って!? 何をメモするの!?』

 

ルル :『あっ、ちょっとユキ先輩は聞かないでくださいね。今、ユキ先輩の落とし方をユイ先輩に聞くところですから』

 

ユイ :『うみゅー、任せるといいの』

 

『ユイはそんなこと教えなくていいから!! ルルも聞かないの!』

 

ルル :『ユキ先輩のお願いでもそれは聞けないです。ユキ先輩を落とせるのなら、ぼくは悪魔にでも羊にでも魂を売りますから』

 

『落とせないよ!? ユイも変なことを言わないで!!』

 

ユイ :『うみゅー、残念なの……』

 

カグラ:『はぁ……、どっちにしてもそろそろルルの配信時間は終わりじゃないかしら? 次はエミリの配信でしょ?』

 

ルル :『わかりました。では、急いでぼくの配信を締めてきますね。それでこっちに合流します! 通話はそのまま繋いでおいてください!』

 

『えっと、それって僕の枠でコラボするってこと?? い、いいのかな……?』

 

ココネ:『一応担当さんには確認を取っておきましたよ。色々と型破りな方ですけど、ユキくんならいいって言われました』

 

『ありがとう、ココママ……』

 

ココネ:『いえ、ユキくんのためならお安い御用ですよ』

 

ルル :『むぅぅ……、こ、これで負けたなんて思わないからね! 次こそ勝ってみせるから!』

 

ココネ:『えっと、勝負なんてしてないですよ?』

 

『あ、あははっ……』

 

 

 

 変な方向に暴走を続けていただけで、ルルの初配信は終わってしまった。

 しかし、ルルのリスナーもコメント欄で喜んでいたようなので、これはこれでよかったのだろう。

 

 

――なんだろう。僕の気苦労が増えそうだな……。

 



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第2話:四期生の絆は? 魔界エミリ ♯コユユカオフ会

『《魔界エミリ初配信》自己紹介と四期生の魅力を話すよ 《魔界エミリ/シロルーム四期生》』

1.4万人が待機中 ライブ配信中

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【コメント】

:二人目だ

:天使っ子のルルちゃんとは正反対の悪魔っ子か

:かわいいね

:いたずらっ子っぽいな

 

 

 

 二人目の配信が始まった。

 その様子を僕は不安げに眺めていた。

 いや、エミリの配信自体には不安はないのだが、逆に同時配信枠を取っている僕の枠。

 今、僕の周りを包む空気感が不安を醸し出していた。

 

 

 

ココネ:『ほらっ、ルルちゃん。同期の子の放送ですよ。私たちとコラボするよりエミリちゃんとコラボした方が良くないですか?』

 

ルル :『いえ、エミリも放送に慣れてるので、ぼくが行く必要なんてないですよ。そんなに心配ならココ先輩が行ってください。ぼくはユキ先輩と一緒にいますから』

 

 

 

 通話越しにココネとルルが火花を飛ばしあっていた。

 

 

 

ユイ :『うみゅー、みんな仲良しなの……』

 

カグラ:『これのどこが仲良しなのよ!?』

 

『あ、あははっ……』

 

 

 

 早くも混沌とし始めた僕の配信。

 

 

――おかしいな……。ココママもルルも自分の配信の時はもっと落ち着いた、しっかりとした雰囲気なのに……。

 

 

 

『ほらっ、始まったよ。……ってあれっ? ミニアニメがついてる?』

 

ルル :『あっ、そうでした。エミリって、こういうことが得意みたいでぼくも作ってもらってたんですよ』

 

『あれっ?? でも、ルルの配信画面では見なかったよね?』

 

ルル :『はい、今思い出しました……』

 

『あぁ、そういうこと……』

 

 

 

 僕もよく忘れることがあるから仕方ないよね。

 すでにミニアニメを持ってたことを知ってたら、注意することもできたんだけど、今知ったところだし……。

 

 

 

カグラ:『あっ、放送が始まったわよ』

 

 

 

 カグラのその声と共に僕たちは意識をエミリの放送へ向ける。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

エミリ:『みんなー、こんばんはー。シロルーム四期生、魔界エミリ(まかいのえみり)だよ。今日は私の放送へ来てくれてありがとー! まだまだ至らない点はあるけど、よろしくねー!』

 

 

 

 悪魔のアバターと共に元気よく飛び出してくるエミリ。

 

 

 短めの黒い髪と二本の黄色い角。七瀬に負けず劣らず小柄な背丈。

 黒と赤のワンピースを着た悪魔。

 

 

 ただ、そのアバターの姿からは想像がつかないほど爽やかな雰囲気だった。

 

 

 

ココネ:『なかなか爽やかな子ですね』

 

『う、うん……、そうだね……』

 

 

 

――あれっ? 昨日の通話の時はもっと暗い、闇堕ちしていそうな声をしていたはずなのに……? もしかして別人だったのかな?

 

 

 同時視聴していた僕は首を傾げていた。

 

 

 

カグラ:『まぁ、ルルがこんな感じだからいいんじゃない?』

 

ルル :『ぼくほどしっかりした人はいないですからね。大丈夫です、ユキ先輩。四期生はぼくがまとめあげますよ! ユキ先輩の名を賭けて』

 

『勝手に僕の名前を賭けないでくれるかな……』

 

ユイ :『うみゅ……、この子、少し違和感があるの』

 

 

 

 ユイが珍しく画面をジッと見ていた。

 

 

 

ココネ:『えっと、みんなが暴走するので、まともな人が増えるのは嬉しいです』

 

『ココママも暴走しなかったらいいんだけどね……。最近だと僕が三期生をまとめてるなんて誤報が広まってるんだからね』

 

カグラ:『まぁ、それは間違ってないわよ』

 

ユイ :『うみゅー、ユキくんはゆいのものなの。すりすりー』

 

『わわっ、ユイ、頬をすりすりしないで!?』

 

ココネ:『ダメですよ、ユイちゃん!? それは私の役目です!』

 

 

 

 空いている方の頬をココネがすりすりとしてくる。

 

 

 

『ど、どっちも違うよ!? だ、だから離れて……』

 

ルル :『むぅぅ……、そうですよ! それはぼくの役目ですよ』

 

『ルルの役目でもないからねっ!?』

 

カグラ:『ユキの取り合いは後からにしてくれる? プロフィール紹介が始まったわよ』

 

ルル :『プロフィールよりもユキ先輩の方が大事ですよ?』

 

『僕はその、新しい後輩さんのプロフィールは見たいな……』

 

ルル :『ほらっ、ココネ先輩、ユイ先輩、ポン先輩、早くエミリのプロフィールを見ますよ! 遊んでる暇なんてないです!』

 

ココネ:『あははっ……、ルルちゃんってユキくんが関わると人が変わるね……』

 

ユイ :『うみゅー、ココママは人のことを言えないの』

 

カグラ:『誰がポン先輩よ!?』

 

『と、とにかく、エミリさんの放送を見ようよ……』

 

 

 

 騒いでる四人を焚き付けて、僕たちは再びエミリの放送を注視していた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

エミリ:『それじゃあ、まずはプロフィールを紹介するね』

 

 

 

●魔界エミリ《まかいのえみり》

 年齢:20歳

 性格:寂しがりや

 好きなもの:四期生、愛、賑やか

 嫌いなもの:悲哀、孤独

 詳細:魔界に住んでいた悪魔。でも、愛に飢えており、愛を求めて人間界にやってきた。人恋しさに憧れを持つやさしき悪魔

 Vtuberになったきっかけ:三期生の仲良さにあこがて

 配信予定:コラボをたくさんしたいな

 

 

 

エミリ:『その……、たくさんの人に愛してもらえると嬉しいな』

 

 

 

 エミリが上目遣いで微笑んでいた。

 

 

 

【コメント】

:任せろ

:愛してるぞ

:四期生大好きっ子か

:そういえばルルちゃんがもうユキくんたちとコラボしてたな

 

 

 

エミリ:『え゛っ!?』

 

 

 

 ユキくんという文字を見てエミリが驚きの声を上げる。

 

 

 

エミリ:『う、嘘ですよね? エミリだってまだコラボをしたことがないのに……。四期生はみんな仲良しのはずなのに……。あっ、ご、ごめんなさい。今のは独り言です。気にしないでください』

 

 

 

【コメント】

:黒いw

:草

:今もユキくんたち、見てるんじゃないか?

 

 

 

エミリ:『あっ、そうですね。それならルルちゃんに通話を掛けてみますね』

 

 

 

 その言葉と同時にルルの方で通話音が聞こえる。

 

 

 

ルル :『エミリから通話が来た。うん、無視しよう』

 

『さも当然のように無視したらダメだよ!?』

 

ココネ:『あははっ……、ユキくんの初めてを思い出しますね。理由は違いましたけど、すぐ逃げようとしてましたし……』

 

ルル :『その話、詳しく!』

 

『ほらっ、ルルはその前に通話だよ』

 

ルル :『わかりました。最速で切ってきます』

 

『切ったら可哀想だよ!? ほらっ、同期の仲間でしょ?』

 

ルル :『そうですね。ユキ先輩が仰るのなら――』

 

 

 

 一度ルルが僕たちの方から消えて、エミリとの通話に出る。

 それを僕たちはエミリの配信で見守る。

 

 

 

ルル :『エミリ、どうしたの?』

 

エミリ:『あっ、ルルちゃん。よかった、出てくれた……』

 

ルル :『普通に出るよ。ぼくたち、同期でしょ?』

 

エミリ:『うん、そうだよね。私、心配しちゃったよ。ほらっ、ルルちゃんをユキ先輩に取られるんじゃないかって……』

 

ルル :『そんなことないよ。ぼくは誰にも取られないから安心してよ。ぼくがユキ先輩をココママ(魔の手)から救おうとしてるだけだから――』

 

エミリ:『うん……? どういうことかわからないけど、とりあえずよかったよ。あっ、そうだ。よかったら私とコラボしてくれないかな? ほらっ、一人だと心細いし、昔の三期生みたいに……』

 

ルル :『ごめんね。ぼく、これからユキ先輩とのコラボに戻るから。それじゃあね』

 

 

 

 それだけ言うとルルは通話を切っていた。

 

 

 一人、口をぽっかり開けたままのエミリ。

 笑顔のまま、固まっていた。

 そして、配信画面からは鈍い音が聞こえてくる。

 

 

 ポカポカ……。

 

 

 

 どうやらエミリが机を叩いているようだった。

 

 

 

エミリ:『……取られないって言ったじゃない。なんでエミリとのコラボじゃなくて、ユキ先輩を選ぶのよ。同期でしょ。仲間でしょ。普通はエミリのところに来るんじゃないの』

 

 

 

 ポカポカ……。

 

 

 

 ひたすらエミリは叩くのをやめなかった。

 

 

 

【コメント】

:黒い……

:ヤンデレか

:まぁルルちゃんはユキくん大好きっ子だから

:台パン助かる

 

 

 

 そんな感じにエミリの気持ちをかき乱すだけ乱してきたルルは何事もなかったかのように戻ってくる。

 

 

 

ルル :『ただいまー』

 

『あっ、おかえりー。……じゃないよ!? せっかくだからコラボをしてあげたらよかったのに……』

 

ルル :『いえ、ユキ先輩をお待たせするわけにはいかないですから!』

 

ココネ:『えっと……、すごく闇堕ちしてますよ……』

 

ユイ :『うみゅー、クロクロなの』

 

『ぼ、僕のことはいいからとりあえず、コラボしてあげて……。このままだと可哀想だよ』

 

ルル :『むぅぅ……。ユキ先輩、ぼくがここにいるのは嫌なのですか?』

 

『そ、そんなことないよ。ほらっ、今度また一緒にコラボするから今は行ってあげて』

 

ルル :『わかりました! オフコラボ、約束ですよ!』

 

 

 

 ルルは今までで一番明るい声を出して戻っていった。

 

 

 

ココネ:『ユキくん……、いいように約束させられてますよ……』

 

ユイ :『うにゅー、オフコラボなの』

 

『まぁ、ルルは一度会ったことがあるし、気が楽だからね』

 

 

 

 それに同じ性別だから滅多なことは起きないだろう。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

エミリ:『……どうしてユキ先輩のほうがいいのよ。確かにとっても可愛らしい先輩だけど、それでも私は同期の仲間なんだよ。それなのに、それなのに……』

 

 

 

 段々と闇落ちが激しくなっていた。

 

 すると、そのタイミングで通話が掛かってくる。

 

 相手はルル。

 

 一瞬笑みを浮かべたものの、すぐに元の態度に戻り、通話に出る。

 

 

 

ルル :『エミリ、大丈夫かな?』

 

エミリ:『つーん。今更どうしたの? ユキ先輩とコラボをするって言ったじゃない』

 

ルル :『えっと、そうなんだけどね。やっぱりエミリと一緒に話ができたらな、って戻ってきたんだ。でも、迷惑なら行くね』

 

エミリ:『べ、別に迷惑なんて言ってないよ。ただ、やっぱり寂しかったの。ほらっ、ルルちゃんは同期なのに、いつもユキ先輩、ユキ先輩、って言って私たちのことはあまり話さないから。その……、あまり親しくないんじゃないかなって……』

 

ルル :『……そんなことない。ぼくにとって、エミリは大切な同期だよ。たった四人しかいない仲間だからね』

 

エミリ:『そ、そうだよね!? うん、やっぱりそうだよね!? 心配して損したよ。やっぱり同期は好きあって当然よね。愛し合って当然だよね!?』

 

ルル :『えっと、そこまでは言ってない……』

 

エミリ:『えっ……、エミリのこと、好きじゃないの……? 愛してくれないの……?』

 

ルル :『怖い! 怖いよ!? ぼ、ぼくはいつものエミリのほうが好きかな。ほらっ、いきなり刺されそうじゃないし……』

 

エミリ:『そ、そうだよね。うん、ごめんね。ほらっ、私ってすぐに不安になっちゃって……』

 

ルル :『わかってくれたなら大丈夫だよ、ぼくもイツキもフウもいるんだから安心してね。みんないなくなったりしないから』

 

エミリ:『うん、そうだよね。心配して損したよ。それじゃあ、このままコラボしてくれる?』

 

ルル :『仕方ないなぁ……』

 

 

 

【コメント】

:ルルちゃん、優しい

:悪を払う天使

:でも既にユキくん依存症にかかってるんだよな

 

 

 

エミリ:『それじゃあ、ルルちゃんとコラボすることになったので、二人で私の配信タグを決めていきたいと思いまーす!』

 

 

 

 何事もなかったかのように笑顔を見せてくるエミリ。

 そんな彼女の様子にルルは苦笑を浮かべてしまう。

 

 

エミリ:『まずは配信タグだけど、どんなのがいいかな?』

 

 

 

【コメント】

:ヤンデレさん

:悪魔っ子

:包丁

:ルルっ子

 

 

 

ルル :『ぼくの名前はやめてね。えっと、流石に怖いのは除いたら悪魔っ子しか残らないんだけど……』

 

エミリ:『ヤンデレって誰のことだろうね。私、清純だからわからないよ』

 

ルル :『鏡を見てくるといいよ』

 

エミリ:『ルルちゃんに抱きついてる私が見えたよ』

 

ルル :『うん、その鏡は壊れてるから破壊しておくね。本物ならぼくとユキ先輩が抱き合ってるのが映るから』

 

エミリ:『そんなのが見えたら割っちゃうよ?』

 

 

 

【コメント】

:似たもの同士w

:割られる鏡が可哀想w

:四期生はこういう方向なのか

:またポンがポンを呼んでいく……

 

 

 

エミリ:『どんどんいくよー。次はファンアートタグだね』

 

ルル :『ぼくは天写真になったよ』

 

エミリ:『なら私は悪写真? 流石に語呂が悪いね』

 

ルル :『悪魔絵とかはどうかな?』

 

エミリ:『ルルちゃんが出してくれたものだから、それにするね。それで最後は……配信タグだね。ルルちゃんはどうやって決めたの?』

 

ルル :『えっ、ぼく? ぼくはユキ先輩に決めてもらったよ。ぼくの宝物だよ』

 

エミリ:『むぅぅ……、そ、それなら私の配信タグはルルちゃんが決めて! それを私の宝物にするから!』

 

ルル :『別にいいよ。でも、何か怒ってる?』

 

エミリ:『怒ってないよ!』

 

ルル :『やっぱり怒ってる……。そうだね、エミリは悪魔っ子だから魔界配信とかどうかな?』

 

エミリ:『あっ、いい感じだね。それにするよ』

 

ルル :『そんなにあっさり決めてよかったのかな?』

 

エミリ:『だって、同期の大切な仲間が決めてくれたものだもん。大切に使うよ』

 

ルル :『それならよかったけど……、あっ、もうちょっとでユキ先輩の放送が終わっちゃう! 今日はまだスパチャ投げてないんだよ。ごめんね、エミリ。ぼく、ちょっと行ってくるね!』

 

エミリ:『あっ、ちょっと待って。まだ私の放送は――』

 

 

 

 そこで会話がぷつりと途切れてしまった。

 それから配信終了までポカポカと机を叩く音が鳴り響いていた。

 

 

 

エミリ:『絶対に負けないんだから。ルルちゃんは私たち四期生のメンバーなんだから……』

 



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第3話:百合姉と健全たぬき

 ある意味初配信からとんでもないインパクトを与えてしまったルルとエミリ。

 

 その様子を狸川フウ(たぬがわふう)こと立木未来美(たつきみくみ)姉川イツキ(あねがわいつき)こと宇多野葵(うたのあおい)の二人は呆然と眺めていた。

 

 

「二人とも、なかなか強烈だったね……」

 

 

 未来美は苦笑をしていたが、葵は大爆笑をしていた。

 

 

「あははっ、なかなか面白いよ。エミリちゃん……、要チェックだね」

 

「……変なことしたらダメだからね」

 

「そんなことするはずないでしょ。お姉さんはただ全裸でオフ会を――」

 

「わぁぁぁぁ……!?!? だ、ダメだよ!? ダメだよ!? ぜっっっっったいにダメだからね!?」

 

 

 

 未来美は顔を真っ赤にして、手をばたつかせて慌てていた。

 それを見た葵は未来美に抱きついていた。

 

 

 

「あーっ、もう。みくちゃんは可愛いわね。お姉さんがハグハグしてあげよう」

 

「わわっ、や、やめてよ……。もう……」

 

 

 

 口では文句を言いつつも、抵抗する素振りを見せない未来美。

 むしろ、大人しくされるがままになっていた。

 

 

 

「それにしても、また一緒にこうしていられるなんて、信じられないよ……」

 

「お姉さん的には全然気にしてなかったのに、みくちゃんが遠慮しちゃったからでしょ」

 

「だ、だってぇ……」

 

 

 

 未来美が配信したきっかけは葵にあった。

 葵がMeeTubeでゲーム実況をしていたのを見て、同じ話題ができればもっと葵と話せるよね……という考えで始めていた。

 

 ただ、それが裏目に出てしまい、未来美のチャンネル登録者数はあっという間に葵を抜いてしまい、それをきっかけに少し話しにくくなって葵とは疎遠になってしまった。

 

 何かを話しかけると葵が気にするのでは……、と未来美が遠慮してしまったのだ。

 

 でも、巡り巡ってこうして同じシロルームの、しかも同期として配信できるようになった。

 

 それがきっかけでこうして葵と元の仲に戻ることもできた。

 いや、今まで離れていた分、思いっきり甘えていた。

 

 

「初配信で少し緊張してるから一緒にいていい?」

 

 

 と、無理を言ってこうして葵の部屋にお邪魔していたのだ。

 

 

「ま、まずは葵ちゃんの放送だね。大丈夫? 準備はできてる?」

 

「大丈夫。エミリちゃんからもらったミニアニメは準備できてるし、プロフィールは……まぁ、適当に作ったから」

 

「適当って、大事なところだからね!? 最初にたくさんの人に見てもらわないとお気に入りの伸び方に差が出てきてしまうからね!?」

 

「お姉さんはそこまで気にしないんだけどな……」

 

「私が気にするの!? もう、前みたいに疎遠になるの、嫌だからね、私……」

 

「大丈夫よ。もう同じ企業ライバーの同期なんだからいつでも会えるよ。家も隣でしょ?」

 

「う、うん……。そ、そうだね。ありがとう……。って、なんで私のスカートをめくってるの!?!?」

 

 

 

 未来美は顔を赤面させて必死にスカートを押さえていた。

 

 

 

「はははっ、目の前に可愛い子がいるのにスカートを捲らないなんて、失礼だとは思わないか?」

 

「思わないよ!? もう……、相変わらずなんだから……」

 

「とにかく安心して見ててよ。しっかりお姉さんが暴走して、最後のまとめを任せるから」

 

「ちょっと、なんで私がまとめる役なのよ!?」

 

「お姉さんがまとめられると思ってるの? できると思う?」

 

 

 

 久々に見にきた葵の部屋はかなり散らかっており、未来美がそれを片付けていた。

 しかも、シロルームとの細かい打ち合わせも未来美が予定を組んで、葵と一緒に行っていた。

 

 年齢的には葵の方が上なのだが、しっかりしているのは未来美。

 いや、年齢で言うならルル同様に未来美もシロルームで最年少。

 

 でも、四期生全員が暴走するわけにはいかない。

 自分がしっかりするしかなかった。

 

 

 

「葵ちゃんにはできないね。昨日の様子だとルルちゃんやエミリちゃん……にも任せられないし、うん、消去法だと私になるんだね――」

 

「大丈夫! みくちゃんならできるよ!」

 

「うん、励ましてくれるのは嬉しいけど、いい加減スカートから手を離してくれないかな?」

 

「それは気にしなくていいよ?」

 

「き、気にするよ!?」

 

 

◇◇◇

 

 

 

『《姉川イツキ初配信》お姉さんの紹介よ 《姉川イツキ/シロルーム四期生》』

1.0万人が待機中 ライブ配信中

⤴362 ⤵0 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

【コメント】

:色っぽいな。

:珍しいお姉さんタイプ

:まさかコウ先輩タイプか!?

:いや、今のところ暴走枠しかいない四期生だぞ?

:全員暴走枠かw

 

 

 

 ミニアニメを流し終えるとイツキはその姿を表していた。

 

 

 茶色の長い髪をしたお姉さん。

 胸は大きめで、それを協調したバニー衣装を着ている。

 

 

 そして、何より自身が色っぽいことを理解しているイツキが、それらしい表情を見せていた。

 

 

 

イツキ:『あららっ、みんな、お姉さんの配信にきてくれたの? ありがとうね。お姉さんはシロルーム四期生、姉川イツキ(あねかわいつき)よ。よろしくね』

 

 

 

【コメント】

:色っぽい

:よろしくー

:意外と普通だw

:ついに新しい真面目枠が来たか

 

 

 

イツキ:『あらあら、みんなお姉さんの真面目な話が聞きたいの? でもちょっと待ってね。今日は色々と決めないといけないからね』

 

 

 

 イツキはそういうと自身のプロフィールを表示させていた。

 

 

●姉川イツキ《あねがわいつき》

 年齢:22歳

 性格:自由奔放

 好きなもの:酒、エロ、フウ、百合

 嫌いなもの:エロくないもの、BL

 詳細:エロと百合をこよなく愛するお姉様

自身は暴走しがちだが、他人が暴走したときはなぜか抑える役割に回る。

 Vtuberになったきっかけ:女の子同士がわちゃわちゃする様子を見て

 配信予定:歌枠、コラボ枠、ゲーム枠

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 イツキが普通に配信できているところを見てフウは少しホッとしていた。

 これなら大丈夫だろう、と自分の配信を準備することにした。

 しかし、それがすぐに間違いだったことに気づく。

 

 

 

イツキ:『プロフィールもタグもすぐに決まっちゃったわね。それじゃあ、お姉さんからひとつ、真面目な話をしましょうか。そう、宇宙誕生の話よ』

 

 

 

【コメント】

:まさかの宇宙w

:突拍子のない話w

:草草

 

 

 

イツキ:『そもそも、宇宙とは女の子のスカートの中から生まれるものよ! 具体的にはフウのパンツよ! つまりパンツには宇宙の真理全てが詰まっているのよ。それでフウのパンツなんだけど、さっき見た時は――』

 

 

 

 突然訳もわからない前振りから斜め上のエロ談義を始めるイツキ。

 それを隣で聞いていたフウは動きが固まっていた。

 

 

 

【コメント】

:まさかのエロw

:フウって次の子だよな?w

:ワクワク

狸川フウ:な、何勝手に人のぱ……下着について語ってるの!?!?

:本人居て草

 

 

 

イツキ:『でもでも、みんな可愛い子のパンツは見たいわよね? 色を知りたいわよね? この愛の伝道師たるお姉さんがその夢を叶えてあげるわよ。でも、フウはまだまだお子様だから白の小さいリボンがついたやつなのよね。もっと大人のやつを履いてもいいと思うんだけど……。って、痛い、痛いわよ、フウ』

 

 

 

 ポカポカポカ……。

 

 

 フウは無言でイツキのことを叩いていた。

 その顔は真っ赤で目に涙を溜めて……。

 

 

 

フウ :『か、勝手に言わないでよ……。は、恥ずかしくて外に出られなくなるよ……』

 

イツキ:『大丈夫よ! フウが家を出られないならお姉さんが一生面倒見るからね』

 

フウ :『イツキ……』

 

イツキ:『だから安心してお姉さんに身も心も全て捧げてくれていいんだよ。むしろ今からレッツゴー!!』

 

フウ :『……っ!?!? あぅあぅ、な、何を……、何を言ってるのよ、ば、ばか!! 本当にばか!!』

 

 

 

 ポカポカポカ……。

 

 

 

【コメント】

:やっぱり暴走枠だったw

:次のフウって子が四期生の真面目枠か

:楽しみだな

:というか一緒にいたのか

:初配信からオフ会か

 

 

 

フウ :『もう、次余計なことを言ったらしばらく家に行かないからね! 部屋も片付けないからね!』

 

イツキ:『うん、大丈夫だよ。お姉さんが代わりにフウの部屋に行くから』

 

フウ :『い、家にも入れないから!!』

 

イツキ:『わかったよ。今は余計なことを言わないから』

 

フウ :『それでいいの。そ、それじゃあ、私は自分の配信準備をしてくるからね』

 

 

 

 それだけ言うとフウは言葉を発することがなくなった。

 

 

 

◇◇◇

『《狸川フウ初配信》自己紹介ポコー 《狸川フウ/シロルーム四期生》』

1.2万人が待機中 ライブ配信中

⤴483 ⤵0 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

【コメント】

:さっきの子だな

:もしかして、語尾があるのか?

:さっきなかったぞ?w

:苦労屋狸

 

 

 

 さっきイツキの枠でついつい声を出してしまったせいで、少し枠に顔を出すのが恥ずかしい。

 それでも出ないわけには行かないので、ちょっと顔を出す。

 短めの茶色の髪と丸い耳。そして、頭に乗っている金の王冠が顔を覗かせる。

 

 

 

フウ :『こ、こんポコー。ふうは狸川フウ(たぬがわふう)ポコ。そ、その……、さっきの話はできれば忘れてください。ついつい、口を挟んでしまいました……。あっ……ぽ、ポコ』

 

 

 

 次第に調子が戻っていき、全身を表示させていた。

 小柄な体型で白のワンピースを着ている狸の少女。

 

 

 

【コメント】

:語尾は意識しないと忘れちゃうのかw

:かわいい

:しかも純情w

:照れてる顔がまたいいな

 

 

 

フウ :『ご、語尾ってなんのことポコか? ふうは自然体です……ポコよ』

 

 

 

 図星を突かれて慌ててしまう。

 しかし、深呼吸をして気持ちを落ち着けると画面にプロフィールを表示させる。

 

 

 

●狸川フウ《たぬがわふう》

 年齢:18歳

 性格:純情で真面目

 好きなもの:ゲーム。四期生、イツキ

 嫌いなもの:一人。孤独。えっちぃこと

 詳細:四期生のまとめ役をしている狸少女。自分以外全員がポン役と言うことで気苦労が絶えないが、明るく楽しそうに話す。えっちぃことを言われると顔を赤面させて、頭が働かなくなる。

 Vtuberになったきっかけ:知り合いを増やしたかった

 配信予定:ゲーム枠、コラボ枠、雑談枠

 

 

 

【コメント】

:嫌いなものの欄www

:言ってみたいw

:まさかのまとめ役w

:まとめ……られるのか?

 

 

 

フウ :『ふぇっ!? な、なんで? そ、そんなこと書いてないはずなのに……。あっ!? も、もしかして――』

 

 

 

 フウは隣にいるイツキを睨みつける。

 すると、イツキはイタズラがバレた子供のように舌を出していた。

 

 

 

フウ :『や、やっぱり……。イツキちゃんが勝手に書いたんだね。わ、私がそんな……、え、えち……、そ、そんな変なこと書くはずないもん!!』

 

イツキ:『ほらっ、フウ。語尾、忘れてるよ』

 

フウ :『っ!? ぽ、ポコ……』

 

イツキ:『それにフウはお姉さんのこと、好きでしょ? 間違ってないよね?』

 

フウ :『う、うん……』

 

イツキ:『それにえっちぃことはいつもしてるよね?』

 

フウ :『そ、それは嘘ポコ!! ふうはそんなことしないポコ!!』

 

 

 

 ポコポコポコ……。

 

 

 イツキを何度も叩く。

 

 

 

イツキ:『もっとオープンになろうよ。お姉さんはいつでもウェルカムだからね』

 

フウ :『やっぱり身の危険ポコ。誰か応援を呼ばないとだめポコ』

 

 

 

 そう言った瞬間にキャスコードの通話が鳴る。

 相手は……エミリだった。

 

 

 

エミリ:『応援が欲しいんだよね? 来てあげたよ?』

 

フウ :『丁重にお帰りくださいポコ』

 

エミリ:『ど、どうしてよ!? 応援が欲しいんだよね?』

 

フウ :『うん、応援が欲しいポコ。でも、ポン枠はいらないポコ。これ以上増えるとふうだと扱いきれなくなるポコ。それに、エミリだとイツキの力にもなるポコ。より悲惨なことになるのが目に見えるポコ』

 

エミリ:『うぐっ……、確かに否定できないね……』

 

フウ :『でも、イツキちゃんとも仲良くしてくれてありがとうね。そこは感謝してるポコよ』

 

エミリ:『っ!? き、気にしなくていいよ。同期で仲間だもんね。仲良くするのは当然だからね』

 

イツキ:『仲間なら裸の付き合いをするのも当然よね?』

 

フウ :『い、イツキちゃん!?!? な、何を言ってるの!? そんなこと当然のはずが――』

 

エミリ:『そうよね。同期同士愛し合ってるならそのくらい当然よね? ルルちゃんも呼んでやりましょう』

 

フウ :『ふうがおかしいポコかな? 違うよね!? どう考えても二人がおかしいよね?』

 

 

 

【コメント】

:やっぱりぽん二人を抑えきれないかw

:まだポンはもう一人いるw

:おとなしそうな子だもんな

 

 

 

イツキ:『よし、お姉さんが全力で協力しよう』

 

エミリ:『流石イツキさん、よくわかってる』

 

 

 

 二人の間で熱い友情が芽生えていた。

 ただし、それはモザイクのかかったピンクの感情からだったが――。

 

 

 

フウ :『わかったポコ。そこまで言うならふうはルルちゃんを連れて、三期生のユキ先輩の下へ行くよ。きっと、ユキ先輩ならこの配信を見ているはずだし、ふうたちが困っていたら見放さないと思うから……ポコ』

 

 

 

【コメント】

雪城ユキ:えっと……、困ってるなら手を貸すよ?

:ユキくん、本当にいたw

:まぁ、昨日の配信も見てたもんな

:今日は同時視聴枠は取ってないんだな

 

 

 

フウ :『ユキ先輩……ありがとうございます。それでどうするポコ?』

 

 

 

 フウがにっこり微笑むとすぐにエミリが折れていた。

 

 

 

エミリ:『そ、その……、二人が嫌がることはしないから安心して……』

 

イツキ:『お、お姉さんは諦めないから……』

 

フウ :『はぁ……、イツキちゃんは後からお仕置きしておくポコよ……』

 

イツキ:『えっ? お仕置き?? はぁはぁ……』

 

フウ :『うん、晩御飯にイツキちゃんが嫌いな野菜炒めを作ってあげるポコ。ふうの作った料理、ちゃんと食べてくれるポコね?』

 

イツキ:『うぐっ、そ、そういうお仕置きは嫌だー!!』

 

 

 

 こうして四期生、二人のポンに挟まれて、フウの初配信は無事? に終わっていた。

 



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第1話:夏瀬はルル? ♯ユキルル

 約束した以上、オフコラボをするために僕は動いていた。

 

 

 コラボ解禁されるのは一ヶ月後……そのはずだから――。

 

 

 一応担当さんにもいつからコラボをしていいのか確認をする。

 すると、担当さんからは予想外の返答がくる。

 

 

マネ :[えっ、四期生とコラボですか? ユキくんはいつでもいいですよ? 暴走して後輩を潰すようなことはしませんから――]

 

ユキ :[えっ!? でも、僕たちの時って――]

 

マネ :[いきなりアカネさんとコラボすることになったら、ユキくんが帰らぬ人になってしまう恐れがありましたからね]

 

ユキ :[あぁ……]

 

 

 

 今でこそアカネ先輩とは親しくさせてもらっているが、その行動は自由奔放そのもの。

 いつ暴走するかわからない彼女といきなりコラボをしてしまうと、今後にも影響が出てきそうだった。

 

 

 

ユキ :[わかりました。それじゃあ、ルルと一緒にオフコラボをさせていただきます]

 

マネ :[あっ、でも、食べられないように気をつけてくださいね?]

 

ユキ :[あははっ、僕は食べ物じゃないですよ]

 

マネ :[いえ、そういうことでは――]

 

 

 

 担当さんは何を気にしているのか……。

 僕は苦笑をしながら、七瀬にオフの日程を連絡していた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 七瀬と二人でオフ会をすることになった。

 場所は七瀬の部屋……と言うことになったので、僕はいつもの格好をして出かけていた。

 

 

 

「ユキ先輩、いらっしゃいませ。お待ちしてました」

 

 

 

 七瀬の部屋に着くと嬉しそうに出迎えられる。

 

 

 

「えっと、部屋でもその格好なんだね」

 

 

 

 七瀬は以前同様、白のワンピース姿で見ていると普通の少女にしか見えなかった。

 

 

 

「この格好が楽なんですよ。昔からこういう服ばかり着てきたので――」

 

「あぁ、そういうことだね。僕も昔、母さんに着させられたよ……」

 

「それにしても、今日のユキ先輩、可愛いですね!」

 

 

 

 七瀬が嬉しそうに抱きついてくる。

 

 

――なんだろう……、こうやってみてると可愛い弟? 妹? が出来た感じかな。

 

 

 僕はそっと七瀬の頭を撫でていた。

 

 

 

「えへへっ……」

 

 

 

 嬉しそうに微笑む七瀬。その表情を見ると僕も嬉しくなる。

 

 

 

「あれっ? でも、この服は初めて七瀬と会ったときと同じ格好だよ?」

 

「ユキ先輩はいつも可愛いってことですよ。もう、言わせないでくださいよ……」

 

 

 

 七瀬は恥ずかしそうに照れていた。

 

 

 

「えと……、僕なんかより七瀬の方が可愛いよ」

 

 

 

 男の七瀬にこういうのはどうかとも思ったけど、七瀬は目を大きく見開いた後、嬉しそうに微笑んでいた。

 

 

 

「ありがとうございます、ユキ先輩。私、ユキ先輩のこと、だーいすきですよー!」

 

 

 

 再び七瀬が僕に飛びついてくる。

 

 

 

◇◇◇

『《♯生天使 ♯ユキルル》ユキ先輩とお泊まりするよ 《天瀬ルル/雪城ユキ/シロルーム》』

1.0万人が待機中 20XX/07/05 20:00に公開予定

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【コメント】

:まさか同期コラボより先にユキくんとのコラボがくるとは

:よくユキくんが承諾したな

:約束してたもんな

:ユキくん、約束の言葉に弱いから

:ミニアニメがもうついてるのか

:四期生は全員ついてるよな

 

 

 

 今回は忘れずにミニアニメを流していた。

 そして、すぐに僕たちのアバターを表示させていた。

 

 

ルル :『みんなー、こんるるー! ついに念願が叶って、ユキ先輩に初めてをもらってもらえた天瀬ルルです。ぼく、幸せになります……』

 

『ちょっ!? 開幕早々なに変なことを言ってるの!? ただ、ルルの家にお泊まりに来ただけだからね。あっ、僕はシロルーム三期生の雪城ユキです。わ、わふっ、よろしくね』

 

ルル :『ユキ先輩と二人っきりでお泊まり……。これは何をしても許されるってことだよね? ……ごちそうさま』

 

『な、なにをする気なの!? ぼ、僕は普通に楽しく過ごすつもりだよ? もしかして、僕ライオンの檻に閉じ込められちゃった? に、逃げないと!?』

 

ルル :『逃げたらダメですよー! それにさっきギュッて抱きしめてくれましたよね?』

 

『あっ、そんなことでいいの? はいっ、これでいいかな?』

 

 

 

 さっきと同じようにルルを抱きしめる。

 相手がココネやユイとかの異性なら緊張してしまうが、同性のルルならそれほどの抵抗はなかった。

 

 もちろん人と接すること自体の抵抗はあるもののそのくらいだった。

 

 

 

ルル :『はわわわっ、み、みなさん。ぼ、ぼく、今、ユキ先輩に抱きつかれてます。ここは天国ですか? ぼく、ゴールしてもいいのですか?』

 

『何変なことを言ってるの? それよりも話を進めるよ』

 

ルル :『すぅー、すぅー……。はぁ……、ユキ先輩はいい香りがします……。幸せです……』

 

『だからそういう話じゃないよ……。ルル、今すごく危険な人に見えるよ……』

 

 

 

【コメント】

:ユキくんが冷静だw

:あれっ? このユキくんは本物?

真心ココネ:ユキくん、私の時は嫌がるのに

羊沢ユイ:うみゅー! ゆいもゆいも

魔界エミリ :……やっぱり敵はユキ先輩でしたか

姉川イツキ :お風呂の話はまだー?

狸川フウ :イツキちゃん、変なことを言ったらダメだよ!?

:やっぱりこの声……

 

 

 

『そ、それじゃあ、今日はマシュマロを読んでいくね。ルルもそれでいいよね?』

 

ルル :『ぼくはもう少しユキ先輩の人肌を感じていたい――』

 

『ルルもいいって事なので、読んでいくね。えっと……』

 

 

[ユキくんとの初コラボ、ルルちゃんは何をしてもらいたいですか?]

 

 

ルル :『えっ? これ言ってもいいのですか? といってもあとは添い寝くらいですよね? ギュッて抱きしめてもらいながら寝たいです』

 

『えっ!? 今日はどちらかといえば雑魚寝じゃないかな?』

 

ルル :『いえ、おんなじ布団で寝たら添い寝です! ユキ先輩が抱きしめてくれないならぼくから抱きつきに行きます!』

 

『えと、あっ、うん。まぁ、それは構わないけど……』

 

ルル :『だから先輩、あとから二人、くんずほぐれずの状態で寝ましょうね』

 

『えとえと……、多分僕は先に寝ちゃうよ?』

 

ルル :『わかりました。隣でじっくり寝顔を堪能します!』

 

『僕の寝顔なんて見てても楽しくないよね?』

 

 

 

【コメント】

真心ココネ:私は楽しいです!

羊沢ユイ:ゆいも見たいの

魔界エミリ :ぐぬぬぬっ

狸川フウ :エミリちゃん、ただのオフ会だからね

姉川イツキ :女の子同士、くんずほぐれずのお泊まり会……、妄想が捗るね

美空アカネ:うんうん、わかってるね、後輩くん。えっちぃことは正義だからね

海星コウ:はぁ……、アカネ、変なことを言うなら押し込めるからね

美空アカネ:押し入れなら快適空間に改造してあるぞ?

海星コウ:洗濯機の中にだよ?

美空アカネ:わ、私は汚れてないから回しても落ちないぞ!?

 

 

 

ルル :『あっ、そういえば、ユキ先輩はぼくとのオフでやりたいことってありましたか?』

 

『えっと、そうだね……。うーん、僕はどちらかといえば頼られたかった……かな。僕、後輩さんっていなかったから……』

 

ルル :『あははっ、本当にユキ先輩は可愛いですね。はむはむしていいですか?』

 

『は、はむはむ?』

 

ルル :『はい、こうするんですよ』

 

 

 

 ルルは笑顔を見せると突然僕の耳を咥えてくる。

 そして、口を動かしてくるので、僕は思わず声が漏れてしまう。

 

 

 

『わわっ!? わ、わふっ……!?!?』

 

 

 

【コメント】

:悲鳴助かる

:ルルちゃん、幸せそうだな

真心ココネ:ゆ、ユキくんは渡しませんよ!

羊沢ユイ:うみゅ? ユキくん、いつもより嫌がってない?

 

 

 

『も、もう、ルルは……。つ、次の質問に行くからね』

 

ルル :『はーい!』

 

 

[今、すごく楽しそうなルルちゃんのことを応援しています。これからも頑張ってください。一生推していきます!]

 

 

『あれっ? これだけ??』

 

 

 

 マシュマロだから質問以外もくるだろうけど、今日の質問として募集した結果これが来ていた。

 ただ、そのマシュマロを見て、ルルは目に涙を浮かべていた。

 

 

 

ルル:『うん、そっか……。ありがとう……。ぼく、頑張るよ……』

 

『……? うん、よかったね、ルル』

 

 

 

 よくはわからないけど、ルルにしかわからない意味が込められていたのだろう。

 だからこそ、僕は何も言わずにルルが泣き止むのを見守っていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

ルル :『ごめんなさい、変なところを見せてしまって……』

 

『気にしなくていいよ。それより次が最後の質問かな?』

 

ルル :『最後はぼくが選んでもいいですか? ユキ先輩に聞きたい質問があるんですよ』

 

『うん、もちろんいいよ。どれにするの?』

 

ルル :『もちろんこれですよ!!』

 

 

[シロルームの中で誰が一番好きですか?]

 

 

 

【コメント】

魔界エミリ :ガタッ

真心ココネ:ガタッ

美空アカネ:ガタッ

猫ノ瀬タマキ:ガタッ

姉川イツキ:ガタッ

羊沢ユイ:スゥ……

:一気にメンバーが反応してて草

:ルルちゃんはともかくユキくんは誰なんだ?

 

 

 

『えっと、これって戦争になるやつじゃないのかな? 大丈夫??』

 

ルル :『大丈夫です! ぼくはもちろんユキ先輩ですよ!! 大好きですよ!!』

 

『うん、ありがとう』

 

 

 

 僕が好きな人……か。

 やっぱり同期三人はみんな好きなんだよね……。

 その中から一人を選ぶなんて僕にはできないよね……。

 

 

 

『やっぱり僕は選べないよ。ココネもユイもカグラさんも僕のために色々と力を貸してくれたんだから……。みんな好きだよ』

 

 

 

 

【コメント】

真心ココネ:ユキくん……私もですよ

羊沢ユイ:ゆいもなの

美空アカネ:まーけーたー

 

 

 

ルル:『むぅ……、まだぼくは入れないんですね……』

 

 

 

 隣でルルは頬を膨らませていた。

 

 

 

『えっと、あははっ……。る、ルルのことももちろん好きだよ?』

 

ルル :『……おまけみたいですね。むぅぅ……、それなら一緒にお風呂に入ったことを話しちゃいますよ!?』

 

『別に普通にお風呂に入ってただけだよ?』

 

ルル :『体の洗いっこをしましたよね?』

 

『うん、まぁルルがどうしてもって言ったからね。でも、それ以外何もなかったよね?』

 

ルル :『えぇ、何もなかった……ですね』

 

 

 

 ルルは意味深な笑みを浮かべていた。

 でも、本当に何もなかったからそれ以上のことは言えない。

 

 

 

【コメント】

真心ココネ:ユキくん、あれだけ頼んでもお風呂に入ってくれなかったのに

羊沢ユイ:うにゅ、次はゆいも入るの

:さっきからえみりんの霊圧がないんだけど

:今頃机を叩いてるんじゃないか?

 

 

 

 確かにエミリはルルのことを気にしてたからな。

 放送が終わったらフォローしておかないといけないかな。

 

 

 

『って、ココネもユイもお、お風呂は一緒に入らないからね』

 

ルル :『えっへーん、ぼくだけの特権だよ』

 

『ルルも余計なことを言って挑発しないで!?』

 

 

 

 ピコピコピコ……。

 

 

 

 妙なタイミングで通知音が鳴る。

 

 

 

『……誰からだろう?』

 

ルル :『出たぁぁぁ! ユキ先輩の得意技、通知音鳴らしですね』

 

『別に得意技って訳じゃないけどね。あれっ、エミリから?』

 

 

 

 不思議に思いつつ、通話に出る。

 

 

 

『どうしたのかな?』

 

エミリ:『……エミリは負けませんから!(ポカポカ……)』

 

『えっと、なんのこと?』

 

エミリ:『ルルちゃんのことです! エミリ、ユキ先輩に勝負を挑みます!』

 

『えっ……? あっ、コラボでの対決? ゲーム対決とかかな? もちろんいいよ』

 

エミリ:『逃げる気ですか……って、えっ? いいの……ですか?』

 

『僕でよかったらいくらでもコラボに乗るよ?』

 

エミリ:『あっ、そうですか……。ち、調子が狂う……(ポカポカ……)。それなら四期生と三期生のコンビでの対決にしませんか? エミリはルルちゃんと組みますので』

 

 

『うん、いいよ。僕は誰と組もうかな? また連絡入れるね』

 

エミリ:『あっ、は、はい。お願いします……。また色々決めたらご報告しますね』

 

『うん、よろしくね』

 

 

 

 こうしてエミリとの通話が終わった。

 

 

――わざわざこのタイミングでコラボの申し込みをしてきたのはどういう理由なんだろう?

 

 

 

ルル :『ぼく、ユキ先輩と組みたかったですよ』

 

『エミリが三期生と四期生の対決をしたかったみたいだからね』

 

 

 

【コメント】

:ゲーム対決か。ユキくんはパートナーに誰を選ぶんだろうな

:さっきはみんな好きって言って誤魔化してたもんな

:ゲームならユイっちじゃない?

真心ココネ:私とやりましょう!

羊沢ユイ:ゲームならゆいなの

美空アカネ:私とコウのペアも参戦するぞ!

海星コウ:こらっ、勝手なことを言わないの

 

 

 

『それじゃあ、今日の配信はここまでかな?』

 

ルル :『これからぼくは大人の階段を登ってきますね』

 

『ただ一緒にお泊まりオフをするだけだからね?』

 

ルル :『お泊まりがただのお泊まりだと思わないで下さいね』

 

『それじゃあ、僕はそろそろ帰るね』

 

ルル :『ゆ、ユキ先輩、帰ろうとしないでくださいよ。な、何もしないですから!!』

 

『その言葉信じるからね』

 

ルル :『任せてください!』

 

『はぁ……、わかったよ。それじゃあ、みんな、乙わふーでした』

 

ルル :『乙ルルですー』

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯生天使 ♯ユキルル》ユキ先輩とお泊まりするよ 《天瀬ルル/雪城ユキ/シロルーム》』

3.1万人が視聴 0分前に配信済み

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チャンネル名:Ruru Room.天瀬ルル

チャンネル登録者数10.1万人

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「なんか七瀬のチャンネル登録者数、一気に伸びてないかな?」

 

「えっと、多分私が夏瀬なな、ということが広まったから……ですね」

 

「えっ!? ど、どうして!?」

 

「そもそも、声とか変えたりしてなかったですからね。いつかはバレるかなと思ってました。想像よりは早かったです」

 

「そ、そんな……。それじゃあ、バレたことで炎上を――」

 

「その心配はなさそうですね。むしろ私を応援してくれるって、マシュマロでも来てましたよね? あれは嬉しくて思わず泣いちゃいました」

 

 

 

 七瀬は微笑んでいた。

 ただ、やはり少し怖かったようで、その体は震えていた。

 だから、僕は苦笑をしながら言う。

 

 

 

「大丈夫だよ。何があっても僕は七瀬の味方だからね」

 



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第2話:パートナーは誰の手に? ♯ココユイ大決戦

ココネ:『彩芽、ちょっといい?』

 

 

 

 ユキルルの放送後、ココネはすぐユイに通話をしていた。

 

 

 

ユイ :『どうしたの? 何か用?』

 

ココネ:『ユキくんのパートナーの件だよ』

 

ユイ :『さっきの放送で言ってたやつだね』

 

ココネ:『うん、せっかくだから祐季くんへのアピールも兼ねて、コラボで勝負しない?』

 

ユイ :『いいの? ゲームだと私に勝てる人はいないよ?』

 

ココネ:『もちろん! 彩芽を倒して、私は最強の座を手に入れるよ』

 

 

 

 実際はどこまでくらいつけるのか、自分の力を見るために勝負を挑んだ感じだけど、できればユキくんのパートナーになりたいという気持ちはあった。

 

 

 

◇◇◇

『《♯ココユイ大決戦》ユキくんのパートナーを賭けて《真心ココネ/羊沢ユイ/シロルーム》』

1.0万人が待機中 20XX/07/06 18:00に公開予定

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 唐突にその勝負は始まっていた。

 僕のパートナーをかけて勝負するのに僕は何も聞いてない。

 それに三期生ならカグラさんも入れないといけないはずだけど……。

 

 

 

【コメント】

:やっぱりこうなったか

:ユイっちにココママがどこまで食らいつくか見ものだな

:がんばれココママ

:カグラ様は?

雪城ユキ :えと、僕は見てたらいいのかな?

:ユキくんがいたw

 

 

 

ココネ:『みなさーん、ここばんはー。シロルーム三期生のまとめ役、真心ココネです。ユキくんは今日も景品なので、ゆっくり見ててくださいねー』

 

ユイ :『神宮寺カグヤよ。よく来てくれたわね!』

 

 

 

 ココネとユイのアバターが表示されたのだが、何故かカグラの声が聞こえてくる。

 

 

 

【コメント】

神宮寺カグラ :私はカグヤじゃないわよ!

:本物いたw

雪城ユキ :相変わらず似ててびっくりしたよ

:羊草

 

 

 

ユイ :『うみゅー、羊さんなのー。今日はゆいが勝つところを見にきてくれてありがとーなのー。ゲームはココママに任せたけど、勝つのはゆいなの』

 

ココネ:『そんなことを言っていられるのも今のうちですよ。今日はいろんなパーティーゲームができるやつでとことんトランプをしたいと思います』

 

ユイ :『うみゅ? トランプ?』

 

ココネ:『はい、大富豪をとことんするんですよ』

 

ユイ :『うみゅ? 大丈夫なの? ユイ勝っちゃったの』

 

ココネ:『大丈夫ですよ。私、こう見えても得意なんですよ、大富豪……。ってなんでもう勝った前提なんですか!?』

 

ユイ :『ゆいに負けはないの』

 

 

 

【コメント】

:あぁ……

:ココママの敗北が見える

雪城ユキ :ココママがんばれ

神宮寺カグラ :ココネの負けね

 

 

 

ココネ:『なんで、みんな私の負けを予想してるのですか!? 見ててくださいよ、圧勝して見せますからね!』

 

ユイ :『ココママ、どんまいなの』

 

ココネ:『まだ負けてないですよ!? これからやるところですよ!?』

 

ユイ :『本日の配信はこれでおしまいなの。乙みゅー」

 

ココネ:『って、勝手に終わらせないでください! 見ててくださいよ、圧倒的差で勝ってみせますから……』

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 それから大富豪が始まった。

 ただ、すぐに決着はついてしまう。

 

 

 

ココネ:『見てください。なかなかいい手札じゃないですか?』

 

ユイ :『うみゅ、それはよかったの。それじゃあ、革命なの』

 

ココネ:『なっ!?』

 

ユイ :『うみゅ、これであがりなの』

 

 

 

 当然のように手でブイの字を作るユイ。

 一方のココネは涙目になっていた。

 

 

 

ココネ:『うぅぅ……、いい手札が裏目に出ちゃいました。だ、大貧民……』

 

ユイ :『うみゅ? ココママは大富豪、得意じゃなかったの?』

 

ココネ:『と、得意……です。で、でも、まだ勝負は終わってないですよ! 十回勝負ですからこれからです!』

 

ユイ :『返り討ちなのー』

 

 

 

 それから勝負はすぐについていた。

 ユイは一度も大富豪から落ちずに、逆にココネはずっと大貧民のままで――。

 

 

 

ココネ:『うぅぅぅ……、ボロ負け……』

 

ユイ :『うみゅ、ゆいが十連勝なの。まだするつもりなの?』

 

ココネ:『ま、まだまだ……、う、運が少し悪かっただけです。きっとそうに決まってます……』

 

ユイ :『運も勝負のうちなの。幸運虎でも引っ張ってくるといいの』

 

ココネ:『ま、まだ負けないの。ユキくんは渡さないの……』

 

ユイ :『なら次のゲームにするの。何がいいの?』

 

ココネ:『う、運が絡まない神経衰弱で……』

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 神経衰弱をやり始めた二人。

 数回お互いの番がまわったら、あとはずっとユイのターンだった。

 

 

ユイ :『ゆいのターン! ドロー! 七なの。更にゆいのターン! ドロー! 七なの。揃ったの。更にゆいのターン! ドロー……』

 

ココネ:『……。わ、私の番が回って来ないです……』

 

 

 

 既にココネの目には涙が浮かんでいる。

 その手にはまぐれで当たった一組のペアが握られていた。

 

 

 

【コメント】

:掛け声が違うゲームだw

雪城ユキ :こ、ココママがんばれ

:ユイちゃん圧勝

《:¥500 ココママがんばれ》

:ココママは偶然当てた一組だけか

:ユイっち、おめでとう

 

 

 

ユイ :『うみゅー、まだするの?』

 

ココネ:『も、もちろんですよ……。私が勝つまでしますよ!』

 

ユイ :『いくらでもかかってくるといいの。一度でも負けたらゆいの負けでいいの』

 

ココネ:『じ、じゃあ次はポーカー……』

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

ココネ:『やった、これなら勝てそうです……』

 

ユイ :『うみゅ、ユイはあんまりなの』

 

ココネ:『えへへっ、ついに私の勝ちですね』

 

 

 

 嬉しそうにカードをオープンする。

 

 

 

ココネ:『ストレート』

 

ユイ :『フォーカードなの』

 

 

 

 ユイのカードを見た瞬間にココネの表情が固まる。

 

 

 

ココネ:『つ、次……』

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

ユイ :『ブラックジャックなの』

 

ココネ:『……つ、次』

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 なんだろう……。

 段々とココネを見てるのが辛くなってくる。

 

 今も7並べで一枚も出せずに目に涙を溜めていた。

 

 

ココネ:『うぅぅ……、やっぱりゲームだとユイには勝てないのかな……』

 

ユイ :『ゆいにはまだまだ届かないの』

 

 

 

【コメント】

:圧倒的勝利w

《:¥5,000 勝利おめでとう》

美空アカネ :私参上! 勝負なら乗るぞ!

貴虎タイガ :おっ、勝負か? 粉砕してやるぞ?

:ポンが集まる

姉川イツキ:お姉さんもやりますよ。脱衣麻雀

猫ノ瀬タマキ :にゃーもやるのにゃ。たくさん脱ぐのにゃ!

雪城ユキ :脱ぐのがゲームじゃないですよ!?

狸川フウ:わわっ!? イツキちゃん、変なこと言ったらダメポコよ!?

神宮寺カグラ :私も参戦してあげるわ

:メンバーがやばいw

海星コウ :全く、全員でやるなら私も参戦しないとね。でも、フウちゃんにも協力してもらわないとね

狸川フウ:わ、私ポコですか!?

:たくさん集まったwww

 

 

 

ココネ:『えとえと……、なんかすごい人数が集まってしまいました……。ユキくんのパートナーを決めるはずなのに……。しかも四期生の子もいますね……。今スパナつけておきますね』

 

ユイ :『何人でもかかってくるといいの! ユイは負けない!』

 

ココネ:『ここまで人数が増えてしまったら勝負の内容をどうしましょうか?』

 

ユイ :『うみゅー、ここまで増えるとチーム戦になるの』

 

ココネ:『わかりました。こちらの内容はまたコウ先輩やフウちゃん、あとは二期生もいるのでツララ先輩に相談しますね。それよりも今回の勝負です! 次に行きますよ!』

 

 

 

【コメント】

魔界エミリ:いいですね。それぞれの期生同士の対決

天瀬ルル :ぼくはユキ先輩と

雪城ユキ :あっ、その方が僕は助かるよ。一人に選ばなくていいから……

魔界エミリ:ならその方向で考えますね

 

 

 

ココネ:『えっ? パートナーを決めない?』

 

ユイ :『ココママが先走り過ぎなの』

 

ココネ:『だってだって……。わ、私早とちりしてました。そ、その……、ユキくんのことになると――』

 

ユイ :『ココママはユキくんのこと大好きなの』

 

ココネ:『う、うん……』

 

ユイ :『ユイも大好きなの』

 

 

 

【コメント】

雪城ユキ :わ、わふっ!?

:告白合戦始まるw

天瀬ルル :ぼくもユキ先輩のことが好きですからね!

狸川フウ :ルルちゃんはここで話をややこしくしないでポコ

魔界エミリ :フウちゃんはエミリの味方なんだ

:闇落ちしてるw

 

 

 

ココネ:『でもでも、私は他にもユイちゃんのこともカグラさんのことも大好きですよ! その……、ユキくんはなんで言いますか、放っておかない感じがありますので――』

 

ユイ :『うみゅー、よくわかるの。ついつい虐めたくなるの』

 

 

 

 なんだろう……。すごく酷い言われようだ。

 

 

 

【コメント】

雪城ユキ :ココママやユイとは後からじっくり話す必要がありそうだね

神宮寺カグラ :私も久々に入るわ

:三期生の話し合い、聞きたい

:配信してほしい

《:¥50,000 配信待機》

美空アカネ :私も加わりたいぞ!

海星コウ :ダメよ。大事なお話だからね

魔界エミリ :四期生も話し合いをしましょうか

天瀬ルル :ぼくはユキ先輩たちの話し合いに

姉川イツキ :お姉さんは賛成よ

狸川フウ :わかったポコ。枠を準備するポコ。ルルちゃんも来るポコよ

 

 

 

ココネ:『わ、枠を開くかどうかはまたみんなで相談しますね』

 

ユイ :『うみゅー、今日は圧倒的勝利だったの』

 

ココネ:『うぅぅ……、次までにユイに勝てるように特訓します……』

 

ユイ :『乙みゅーなのー』

 

ココネ:『乙ココでした』

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯ココユイ大決戦》ユキくんのパートナーを賭けて《真心ココネ/羊沢ユイ/シロルーム》』

3.1万人が視聴 0分前に公開済み

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チャンネル名:kokone_Room.真心ココネ

チャンネル登録者数:15.0万人

 

 

 

【コメント】

:乙ここー

:乙みゅー

:おい、既に三期生の枠があるぞ

:カグラ様のチャンネルか

:よし、待機しよう

 

 

 

◇◇◇

『《♯コユユカ反省会》オフ雑談。お酒でも飲みながら本音をぶつけ合うわよ《神宮寺カグラ/雪城ユキ/真心ココネ/羊沢ユイ/シロルーム》』

2.6万人が待機中 20XX/07/07 00:00に公開予定

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 ココネの配信が終わるとすぐにカグラさんが枠を取ってくれたので、そちらで三期生全員の配信を行う。

 ただ、普通に配信するのではなく、急遽オフをすることになった。

 

 

 

ユキ :[えっと……、お酒?]

 

カグラ:[えぇ、そうよ。みんな、もう飲めるでしょ?]

 

ユイ :[うみゅー、ユイの誕生日は――]

 

ココネ:[明日だったよね?]

 

ユキ :[えっ!? な、なんで教えてくれなかったの!?]

 

ユイ :[ユイはアバター誕生日は別の日で設定してるの。二回も祝ってもらうのは変なの]

 

ユキ :[ダメだよ! ちゃんとお祝いしなきゃ!]

 

ユイ :[うみゅー、こういう時のユキくんは頑固なの]

 

ユキ :[大切なユイのお祝いだからね]

 

カグラ:[そうなのよ。実は明日からみんなお酒が飲めるのよ。だから、本音で話し合うならその方がいいかなって思ったの。枠も明日からにしたのはそれが理由よ。もちろん無理に飲まなくてもいいわ]

 

ユキ :[それでどこに集まろうか? オフをするんだよね?]

 

カグラ:[えっ? ユキの部屋でしょ?]

 

ココネ:[ユキくんの家ですね]

 

ユイ :[もう向かってるの]

 

ユキ :[えっ!? ど、どうして?]

 

カグラ:[だって、まず寝るのはユキでしょ?]

 

ユイ :[うにゅー、ユキの部屋は落ち着くの]

 

ココネ:[飲み物とかおつまみとかは準備していきますね]

 

 

 

 こんなやりとりがあり、しばらくすると僕の部屋にみんなが集まっていた。

 

 

 

【コメント】

:お酒!?

:ユキくん……、あっ、そうか。この前誕生日だったんだ

:みんな一応成人してるのか

《:¥500 お酒代》

:ユキくん、お酒弱そうだな

 

 

 

 ミニアニメを流しながら、僕の部屋のテーブルにはチューハイやおつまみが広げられていった。

 

 そして、ミニアニメが終わると四人のアバターが表示される。

 

 

 

カグラ:『みんな、来てあげたわよ。神宮寺か・ぐ・ら・よ! どうせ間違えてくるから今日は強調してあげたわよ』

 

 

 

【コメント】

:ポン姫ー

:カグヤ様ー

:ジン様ー

:カラク様ー

:カクヤ様ー

:↑ここまで正解なし

 

 

 

カグヤ:『だから神宮寺カグラよ! と、とにかく今日は三期生みんなに集まってもらった……というかユキの家に集まったわよ』

 

ココネ:『みんなー、ここばんはー。妖精さんこと真心ココネですよー』

 

ユイ :『うみゅー、ポンコツ羊なの。ねむねむなのー』

 

ユキ :『わふぅ……、こんばんは。雪城ユキです。なんか急にみんなが家に来ちゃいました……』

 

 

 

【コメント】

:こんばんはー

:うみゅー

:わふー

:ここばんはー

 

 

 

カグラ:『まずはみんな飲み物は渡ったわよね?』

 

 

 

 僕たち全員がチューハイを持っていることを確認して、カグラは声を上げる。

 

 

 

カグラ:『それじゃあ、かんぱーい』

 

ユキ :『かんぱーい』

 

ココネ:『かんぱーい』

 

ユイ :『うみゅー』

 

 

 

 僕は生まれて初めてお酒を口にする。

 

 

 

ユキ :『わふっ、思ったより飲みやすいんだね……』

 

ココネ:『そこまで強いのは買ってきてませんからね』

 

ユイ :『うみゅー、なかなか美味しいの』

 

カグラ:『たまにはこういうのもいいわよね』

 

ユイ :『うみゅー、それじゃあそろそろお疲れ様なのー』

 

ココネ:『こら、ユイ。また勝手に終わらせようとして……』

 

ユキ :『あはははっ、相変わらずのユイだね』

 

カグラ:『勝手に終わらせたらダメよ。まだ雑談らしい雑談はしてないでしょ』

 

 

 

【コメント】

:みんな楽しそう

:これこそ三期生だな

天瀬ルル :ぼくも行きたかった……

:ルルちゃんがいきなりいたw

 

 

 

ココネ:『ユキくん、眠たくなったらいつでも膝を貸しますからね』

 

ユキ :『うん……。って、やっぱりココママは僕を子供扱いしてるよね?』

 

ココネ:『私はユキくんのママですからねー』

 

ユイ :『うみゅー、ユキくんはまだまだお子様なの』

 

ユキ :『ユイも僕のことを子供扱いしてる? 同じ歳なのに……』

 

ユイ :『とっても可愛い妹なの』

 

カグラ:『私からも一つあるわよ。そろそろ私はポン姫から脱したと思うのだけど……』

 

ユイ :『ポンカグ姫なの』

 

ユキ :『えっと、確かに最近はカグラさんよりココママの方がポンの確率が高いかな?』

 

ココネ:『えっ、私ですか!?』

 

ユイ :『うみゅー、ココママはユキくんの前だとポンに変わるの』

 

ココネ:『うぅぅ……。だって、ユキくんが悪いんですよ。私たちとは一緒にお風呂入ってくれないのに、ルルちゃんとは入って……。私たちよりもルルちゃんとの仲を取っちゃうのかなって不安だったんですよ!』

 

ユキ :『えっ……、あっ……、うん。それはごめんね』

 

 

 

 流石に理由がココネたちは異性でルルは同性だから……とは言えずに頷くくらいしかできなかった。

 

 

 

ココネ:『ユキくん、私たちのこと好きですよね?』

 

ユキ :『も、もちろんみんなのことは好きだよ』

 

ココネ:『えへへっ……。好きって言ってもらいました』

 

 

 

 ココネの顔は少し赤く染まっていた。

 ただ、それは恥ずかしさからきているものではなく、どうやらお酒で酔って赤くなっているようだった。

 

 そういえば僕も少し暖かくなってきた気がする。

 

 

 

カグラ:『ココネとユキは大丈夫? 普通のジュースも買ってあるわよ?』

 

ココネ:『大丈夫ですぅ。私、お酒は好きですから。でも、みんなでこうやって飲める日が来るなんて思ってなかったですよ』

 

ユイ :『うみゅ、思ったより早くに終わることになりそうなの』

 

ユキ :『ふわぁぁぁ……、なんだか眠たくなってくるね』

 

カグラ:『ココネは酔うと甘え上戸になって、ユキは眠たくなるタイプみたいね』

 

ユイ :『うみゅー、カグラは強いの』

 

カグラ:『ユイもね』

 

ユイ :『うみゅー、ジュースみたいなものなの』

 

 

 

 結局、配信中に僕とココネは眠りについてしまい、カグラとユイの二人で雑談をすることになった。

 



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間話:四期生初配信
第3話:♯コユユカ反省会二人脱落済み/四期生全員集合。ポンコツ王は誰の手に?


ユキ :『すぅ……すぅ……』

 

ココネ:『すぅ……、ゆきくん……』

 

 

 

 ユキとココネは二人、先にベッドで眠っていた。

 

 その寝言を背にカグラとユイは配信を続けていた。

 

 

 

カグラ:『本当にこうやって見ると姉妹にしか見えないわね』

 

ユイ :『うみゅ、ゆいも混ざるの』

 

カグラ:『こらこら、起こしたらダメだからね!』

 

ユイ :『残念なの。写真で我慢しておくの』

 

カグラ:『それもダメよ。起こしちゃうでしょ! それにしてもユイと二人、こうして話し合うのって初めてよね?』

 

ユイ :『うみゅー、カグラはなかなかコラボしてくれないの』

 

カグラ:『その理由はわかるでしょ? ゲームコラボはどう考えてもユイには勝てないわよ』

 

ユイ :『――負けるとわかってて勝負を挑んでくるといいの』

 

カグラ:『私にそんなココネみたいなことはできないわよ。これでもしっかり勝算をつけてからしか挑まないんだから――』

 

ユイ :『うみゅ!? りょ、料理対決も勝算があったの!?』

 

 

 

【コメント】

:ユイっちが本気で驚いてるw

:あれじゃ仕方ないだろうなw

:でも負けてないからある意味勝算はあったのか

《天瀬ルル :¥50,000 あとでユキ先輩の寝息を切り抜かないと》

 

 

 

カグラ:『あ、あの時はとりあえず誰かとコラボしたかったのよ。ほらっ、ちょうどお気に入り登録者数が伸び悩んでた時期だったから』

 

ユイ :『ゆいに相談してくれたら――』

 

カグラ:『中々、相談できなかったのよ。特に同期はライバルって思ってたから――』

 

ユイ :『ゲームで叩き潰してたの』

 

カグラ:『潰したらダメでしょ!?』

 

ユイ :『うみゅー、冗談なの。でも、言ってくれたらみんな力を貸したの。カグラもユキくんと一緒で自分でなんとかしようとしすぎなの。もっと頼って欲しいの』

 

カグラ:『そうね。ユキとコラボをして私も反省したわ。それからちょくちょくコラボをするようになったからね』

 

ユイ :『ならゆいともするの。ボコボコにするの』

 

カグラ:『だからなんで負けに行かないといけないのよ!』

 

 

 

【コメント】

:カグラ様が弱音って珍しいな

:少し酔ってるのか?

:ユイっちは本当に何も変わらないな

 

 

 

カグラ:『でも、協力プレーのゲームなら楽しそうね』

 

ユイ :『うみゅ、それもいいの。今度はゆいとコラボをするの』

 

カグラ:『えぇ、そうね。ユイとは初めてのコラボになるわね』

 

ユイ :『うみゅ、背後からざっくり殺るね!』

 

カグラ:『きょ、協力プレーのゲームでしょ!?』

 

ユイ :『敵の敵は味方なの。逆もまたしかりなの』

 

カグラ:『味方は味方でしょ!? 全く、ユイは相変わらずね……』

 

ユイ :『うみゅ、ゆいはゆいなの。最強なの』

 

 

 

【コメント】

:協力プレーという名の個人戦w

:ユイちゃんw

:カグユイコラボ決定!

:おめでとー

 

 

 

カグラ:『ユイ、ちゃんと飲んでる?』

 

ユイ :『うみゅ、一升瓶でもよゆーなの』

 

カグラ:『って、それジュースよね!?』

 

ユイ :『飲み潰れるほど飲まないの』

 

カグラ:『まぁ、ユイはそうよね。ユイこそもっと自分を出してくれてもいいんじゃないのかしら?』

 

ユイ :『うみゅ、十分に出してるの。ほらっ、すりすりー』

 

カグラ:『はぁ……、それが隠してるって言うのよ』

 

 

 

 カグラはため息混じりに頬をすりすりとしてくるユイを見ていた。

 

 

 

ユイ :『うみゅー、照れてくれないとつまんないの』

 

カグラ:『もっと本気で来てくれたら恥ずかしくなるわよ……』

 

ユイ :『難しいの……』

 

カグラ:『だって、それなら私もできるわよ?』

 

 

 

 カグラの方からユイに抱きつく。

 

 

 

ユイ :『うにゅっ!?』

 

カグラ:『あれっ? ユイはやられるほうは苦手?』

 

ユイ :『うみゅーーーー!? は、離すのー!!』

 

 

 

 ジタバタと手足を動かすユイ。

 

 

 

カグラ:『ユイ、小さいから抱き心地いいね』

 

 

 

【コメント】

:ユキくんが寝てるからユイちゃんがその役目に

:抱きつくカグラ様

:ユイっち、ジュースだったんだ……

:照れてるユイっちは珍しいね

 

 

 

カグラ:『それじゃあ、今日のところはそろそろ終わりにしましょうか? 私もそろそろ眠くなってきたから――』

 

ユイ :『うみゅー、ゆいはあと百時間は戦える』

 

カグラ:『自分の枠で頑張るといいわ。それじゃあ、お疲れさま』

 

ユイ :『乙みゅー』

 

ユキ :『すぅ……』

 

ココネ:『あ、あれっ、私寝ちゃって……』

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯コユユカ反省会》オフ雑談。お酒でも飲みながら本音をぶつけ合うわよ《神宮寺カグラ/雪城ユキ/真心ココネ/羊沢ユイ/シロルーム》』

6.1万人が視聴 0分前に公開済み

⤴2.0万 ⤵6 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:kagura_Room.神宮寺カグラ

チャンネル登録者数14.7万人

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 三期生のオフ会を見て、エミリは早速四期生全員に連絡をとっていた。

 

 

 

エミリ:[私たちもオフ会をしない?]

 

イツキ:[おふ……ろ。はぁはぁ……]

 

フウ :[イツキちゃんは変なことをしたらダメですよ!? オフ会、私も構いませんよ]

 

ルル :[えっと、私は……、うん、そうだね。一度私のことも話したほうがいいかもしれないね。今はユキ先輩の切り抜きくらいしかしてないし、配信がないタイミングだといくよ]

 

フウ :[あははっ……、ルルちゃんは相変わらずですね。今日の夜だとユキ先輩は放送していませんね。どうですか?]

 

エミリ:[またユキ先輩……。エミリ負けない……]

 

イツキ:[お姉さんは大丈夫よ]

 

ルル :[それなら私も大丈夫だよ]

 

 

 

 こうして、一度四期生同士が集まることになっていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 集まる場所は七瀬の部屋。

 時間は夕方。

 

 一応二十時から配信をする予定をしていたから、その前から集まろうという話だった。

 

 流石に七瀬は色んな事情を抱えているので、少し緊張していた。

 

 そして、約束の時間の五分前に呼び鈴が鳴る。

 

 

 

「あっ、はーい」

 

 

 

 七瀬が扉を開けると、家に来る前に集まっていたのか、三人の女性がいた。

 

 

 黒のショートカットで、ボーイッシュな見た目。動きやすそうな黒の半袖パーカーと赤のミニスカートを履いた少女。

 

 

 癖がかった金髪ととてもスタイルの良い体つき。白のTシャツと黒のパンツというラフな格好をしたお姉さん。

 

 

 肩ほどまでの明るい茶髪の小柄だけど、女性らしい見た目。ベージュのワンピースとその下から黒のレギンスを履いた少女。

 

 

 と、三者三様の見た目をしていたが、誰が誰か判断がつく。

 

 

 

「いらっしゃい。とりあえずここにいるのもあれだから、中に入ってよ」

 

 

 

 七瀬が奥の部屋へと案内する。

 

 

 昔から使っている配信用の部屋。

 当然ながら夏瀬ななの時代から使っているものなので、見る人が見たらわかるものだった。

 

 

 

「やっぱりルルちゃんが夏瀬なな、だったんですね」

 

 

 

 茶髪の少女がしみじみと言ってくる。

 

 

 

「うん、そうだよ。昔は夏瀬ななを名乗ってたよ。でも、もうそっちは引退したからね。今は天瀬ルルだよ。あっ、本名は七瀬奈々(ななせなな)だよ。外で呼ぶ時はそっちでお願いね」

 

 

 

 

 すると、今まで黙っていた黒髪の少女が突然七瀬に抱きついていた。

 

 

 

「わわっ……」

 

「七瀬ちゃん、配信では見てたけど、やっぱり凄く可愛いよ。あっ、私は犬飼冬華(いぬかいとうか)。配信では魔界エミリだよ」

 

「う、うん、よろしくね。あと、離してくれないかな」

 

「満足したら離すよ」

 

「うぅ……、身動きが取れない……」

 

 

 

 背丈が人一倍低い七瀬。

 すっぽりと犬飼の体に収まってしまうせいで、逃げようにも逃げられない。

 

 

 

「お姉さんは宇多野葵(うたのあおい)よ。可愛い子がくんずほぐれつする姿は良いわね。目の保養になるわ。あっ、配信では姉川イツキの名前でしてるわよ」

 

 

 

 金髪のお姉さんである宇多野は頬に手を当てて、ニヤけていた。

 すると、茶色の小柄な少女が呆れた表情を見せる。

 

 

 

「葵ちゃん、初対面の人に変なところを見せたらダメだよぉ……。私は立木未来美《たつきみくみ》。その、狸川フウです。本当の夏瀬ななさんの配信部屋に来られるなんて、夢みたいです……」

 

 

 

 立木は目を輝かせて部屋を見ていた。

 やはり部屋で配信していたこともあって、それなりの広さの部屋でカメラやテレビくらいしか置かれていない。

 今はパソコンも置いているが、それでも部屋の広さは完全に持て余していた。

 

 

 

「このくらい大したことないよ……」

 

「えっと、私や葵ちゃんも配信はしてましたけど、普通の部屋でしたよ……」

 

「お姉さんたちはゲーム配信メインだったもんね」

 

「あれっ、ということは二人も配信をしてたの?」

 

「うん。ただ、七瀬ちゃんに比べるとお気に入りも少なかったし、まだまだだったけどね。あと、犬飼さんも……だよね?」

 

「うん、そうだよ。今回は期間が短かったから配信経験がある人を優先したって聞いたかな」

 

「でも、募集要項には驚いたかな。今回は性別の指定がなかったもんね」

 

「あっ、そのことで私から少し話があるんだよ……。その……、私は男だよ」

 

「……えっ!?」

 

 

 

 七瀬がそのことを告げると周りのみんなは固まっていた。

 ただ、すぐに笑い出していた。

 

 

 

「私は全く問題ないよ。この程度で壊される四期生の絆じゃないもんね。ずっとこのまま抱きしめてたいかな」

 

「お姉さんも見た目が可愛いなら問題なし。むしろ男女なら合法? なるほど、これは特殊な性癖じゃなくて、一般的な感情……。よし、これからみんなでお風呂に入ろう!」

 

「ちょ、葵ちゃん!? へ、変なことを言わないで! 男女で一緒のお風呂はないよ! でも、私も問題ないかな。七瀬ちゃんは七瀬ちゃんだもんね」

 

「みんな……、ありがとう……」

 

 

 

 七瀬はようやく肩の名が降りて、ホッとしていた。すると、犬飼が嬉しそうに言う。

 

 

 

「これで四期生同士の絆が深まったね」

 

 

 

◇◇◇

『《ルエイフオフ会》四期生だよ、全員集合。ポンコツ王は誰の手に?《天瀬ルル/魔界エミリ/姉川イツキ/狸川フウ/シロルーム四期生》』

1.0万人が待機中 20XX/07/08 20:00に公開予定

⤴964 ⤵0 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

【コメント】

:四期生コラボも全員か

:中々面白いメンバーだよな

:そうか、ルルちゃんは四期生だったな

:ユキくんにくっついてるから三期生みたいなものだったからな

:台パンまだかな

 

 

 

ルル :『みんな、こんるるー。ぼくは天瀬ルルだよー。今日は残念ながらユキ先輩は一緒じゃないけど、同期の四期生に来てもらったよ』

 

エミリ:『ちょっと!? それだとエミリたちはおまけみたいでしょ!?(ポカポカ……)』

 

ルル :『エミリ、まだ早いよ。順番に出てきてくれないと』

 

 

 

【コメント】

:こんるるー

:こんるるー

:台パン助かる

:ルルちゃん草

 

 

 

ルル :『それじゃあ、改めて。四期生のみんなに自己紹介してもらうよ』

 

エミリ:『(ポカポカ……)ルルちゃんは渡しません!』

 

イツキ:『お姉さんはルルちゃんがユキ先輩を選んでも、エミリちゃんを選んでもどっちも好物よ。そろそろ先は進展してくれても――』

 

フウ :『もう、エミリちゃんもイツキちゃんもちゃんと自己紹介をしないと……ポコ』

 

ルル :『……語尾、忘れてたね』

 

イツキ:『もう、フウは可愛いわね』

 

フウ :『わわっ。イツキちゃん、抱きつかないで……ポコ!』

 

エミリ:『エミリはルルちゃんに……』

 

ルル :『わっ!? ま、また捕まった……』

 

エミリ:『えへへっ、ルルちゃんは可愛いよ……』

 

 

 

【コメント】

:自己紹介なしw

:ある意味これが自己紹介w

:混沌としてるw

雪城ユキ :みんな仲良さそうでよかった

 

 

 

ルル :『あっ、ユキ先輩! 先輩もコラボ入りますか!?』

 

エミリ:『むぅ……(ぽかぽか……)』

 

ルル :『痛い、痛いよ、エミリ。叩かないで』

 

フウ :『イツキちゃんもいい加減離れてポコね。そうじゃないと明日の朝ごはんに野菜――』

 

イツキ:『朝からやめてー!』

 

 

 

【コメント】

雪城ユキ :えっと、今日はやめておくよ。みんなで楽しんで

:カオスw

:お姉さんの弱点は野菜w

:この流れが自己紹介w

 

 

 

フウ :『ようやくイツキちゃんが離れてくれたので、ふうがみんなを紹介するポコ。机を叩いてるのが魔界エミリちゃん。さっき怒ったのが姉川イツキちゃん。それでふうが狸川フウ……ポコ』

 

ルル :『ユキ先輩……』

 

エミリ:『(ポカポカ……)』

 

フウ :『もう、ルルちゃん! しっかりしてポコ。あと、ルルちゃん、四期生のことどう思ってるポコ?』

 

ルル :『えっ? みんなのこと? もちろん好きだよ?』

 

エミリ:『っ!? そ、そうよね。うん、そうだよね。みんなのこと、大好きよね? もちろん私も好きよ』

 

イツキ:『お姉さんはみんな好きよ。もっとくんずほぐれつしてくれたら更に好きになるわよ?』

 

フウ :『はいはい。イツキちゃんは水を差さないようにね……ポコ。もちろんふうもみんなのこと、好きポコよー』

 

 

 

【コメント】

:あのカオス空間がうまく収まったw

:狸すごい

:伊達にコウ先輩の後釜と言われてないな

美空アカネ:んっ、私のことを呼んだか?

:コウ先輩の名前に反応する暴走特急w

 

 

 

フウ :『それじゃあ、改めてマシュマロを読んでいくポコよー!』

 

ルル :『フウちゃんが選んでくれたんだね。ありがとう』

 

フウ :『任せてポコ! しっかりとしたやつを選んだポコ』

 

イツキ:『なるほどね。フウらしいね』

 

フウ :『それじゃあ読むポコー』

 

 

[四期生の皆さん、こんばんは。僕はご飯が好きで一日三杯食べています。皆さんの好きな食べ物はなんですか?]

 

 

フウ :『そうポコね。ふうはラーメンとか好きポコよ。ついつい悪魔の時間に食べたくなって困るポコ』

 

ルル :『わかるよ。夜に食べたら後から後悔するってわかるんだけど、それでも食べたくなるんだよね。えっと、ぼくはチョコレートとかが好きだよ。カカオが多めのやつを朝に食べてるんだよ』

 

フウ :『ふうはカカオが多いのは苦手ポコ。その……苦くて……』

 

イツキ:『フウはお子ちゃまだからね』

 

フウ :『も、もうふうは大人ポコ……』

 

イツキ:『あらっ、本当かしら。なら、お姉さんが大人らしいエッチな話――』

 

フウ :『ふうは子供でいいポコ!』

 

エミリ:『私は辛いものが好きよ。激辛って書かれた文字を見るとついつい食べたくなるの。ルルちゃん、今度一緒に行かない?』

 

ルル :『えと……、ぼくは少し苦手かな。ちょっと辛いくらいのものなら食べられるけど……』

 

エミリ:『大丈夫、普通の辛さのもあるから』

 

ルル :『うん、それなら大丈夫だね。みんなで一緒に行く?』

 

エミリ:『えっ!? い、いいの!?』

 

フウ :『ふうも辛いものは苦手ですけど、食べられるものがあるならいいポコ……』

 

イツキ:『可愛い子が必死に汗をかきながら、食事をする……。そそられるわね』

 

フウ :『イツキちゃんはお留守番ポコね』

 

イツキ:『嘘よ、嘘! お姉さんも一緒に行くわよ!』

 

ルル :『全員参加だね。エミリもそれでいいかな?』

 

エミリ:『も、もちろん! うん、後から行く日を相談しようね』

 

ルル :『あっ、それなら後からユキ先輩も――』

 

エミリ:『そ、そのお店は四人しかダメなところなの。だからユキ先輩はまた今度で』

 

ルル :『そっか……。それなら仕方ないね。個人的に誘うことにするよ』

 

 

 

【コメント】

雪城ユキ :ぼ、僕は辛いものが全くダメだから……

:速攻断られてて草

:四人しかダメな店w

:四期生も暴走はよくするけど仲はいいな

:ルルちゃんが意外と普通の対応をしてるw

 

 

 

イツキ:『最後はお姉さんの好きな食べ物ね。お姉さんの好きな食べ物は女の子の――』

 

フウ :『ダメー!! ダメポコーー!!』

 

 

 

 よからぬことを言いそうになっていたイツキをフウが大声で止めていた。

 



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第4話:四期生全員集合。ポンコツ王は誰の手に? ぱーとつー

フウ :『き……、気を取り直して、次のマシュマロにいくポコ』

 

イツキ:『お姉さんはまだ途中――』

 

フウ :『それはもう良いからね! えっと、次は……』

 

 

[最近買ったものはなんですか?]

 

 

フウ :『最近買ったものですか……。ふうは服を買っちゃったポコ。今着てるやつポコ……。って、わわっ』

 

イツキ:『フウ、かわいいよ……』

 

エミリ:『フウちゃん、かわいい……』

 

 

 

 二人が抱きついてくるのでフウはアタフタとしていた。

 

 

 

ルル :『えっと、ぼくも抱きついた方が良いのかな?』

 

フウ :『そ、それはダメポコー! そ、それより、ルルちゃんが買ったものはなんですか?』

 

 

 

 二人に頬をスリスリされながら必死に進行をするフウ。

 

 

 

ルル :『えっと、ぼくはユキ先輩の記念ボ――』

 

フウ :『つ、次の質問行きます!!』

 

 

 

【コメント】

:危険を察したw

:この狸、できるw

:でも、捕まったままw

 

 

 

イツキ:『あらっ、お姉さんは聞かなくて良いの?』

 

エミリ:『(ぽこぽこ……)』

 

フウ :『ふう、叩かれてるからいいポコよ。叩くものがないからってふうを叩くな、ポコー!』

 

エミリ:『あっ、ご、ごめんね。つい……』

 

フウ :『ふうも質問が悪かったポコ。次の質問に移るポコ』

 

 

[尊敬する先輩は誰ですか?]

 

 

フウ :『それじゃあ、まずルルちゃんからどうぞポコ! この質問なら思う存分答えてくれても良いポコよ』

 

ルル :『尊敬する先輩……。もちろんユキ先輩だよ!! 臆病だけど、とっても優しい先輩。本当は人前に出るのも苦手なのに、みんなに喜んで欲しいからって頑張ってて、それが三期生みんなに伝わって、それが本当に良くて……。あとあと、ぼくが本当に困っていたときに無理を言ったら、笑って力を貸してくれて……。本当に頭の上がらない先輩なんだよ』

 

 

 

 ルルが少し早口になりながら、興奮していた。

 その様子を見てフウたちは微笑ましい視線を送る。

 

 

 

フウ :『確かにユキ先輩は良い人ですもんね。たまに逃げようとするけど』

 

イツキ:『ルルちゃんとのセットは目の保養になったわ』

 

エミリ:『私にも相談に乗ってくれるって言ってくれるくらい良い人ではあるね。もちろんルルちゃんは渡さないけど』

 

 

 

【コメント】

雪城ユキ :わ、わふぅ……。ぼ、僕は何もしてないよ……

:公開処刑w

:今のシロルームを引っ張ってるのはユキくんだもんなw

:本人は段ボールに隠れてるけどなw

 

 

 

エミリ:『私はココネ先輩ですね』

 

ルル :『あー、分かる気がする。ぼくに対する扱いとか……』

 

エミリ:『ち、ちがうよ!? 確かにユキ先輩を見ると暴走するところはあるけど、他の時はしっかりとメンバーをまとめてるし、とっても優しい先輩ですよ』

 

ルル :『あ、あははっ……、そうですね。確かにエミリちゃんに少し似てるかも……』

 

イツキ:『ココユキは鉄板ですよね。お姉さんも好きよ。やっぱり女の子がイチャイチャとしてるところは良いよね。特にココユキは密着度が――』

 

フウ :『ほらっ、イツキちゃん。また変な方向に話が行ってるよ……ポコ』

 

エミリ:『三期生の仲の良さは羨ましいよね。私たちも負けていないけど』

 

フウ :『ふうたちはまだまだこれからポコね。これから三期生に負けないほど仲良くなるポコ』

 

イツキ:『お姉さんとしてもみんなが仲良くイチャイチャしてくれるのはおいしい……、ううん、嬉しいわよ』

 

フウ :『それならみんな変な方向へ暴走したらダメポコ! これからはどんどんコラボをして仲良くなっていくポコ』

 

 

 

【コメント】

:ココユキは鉄板だよな

:四期生は暴走枠だからどうまとめるかが問題になるな

:エミリンの尊敬する人はココママか。それっぽいな

:ユキルルを見ると暴走するw

 

 

 

イツキ:『お姉さんは当然だけどアカネ先輩よ。やっぱりえっちぃイラストを描いてくれるのは良いわよね』

 

フウ :『えっちぃのはダメだよ!? それにアカネ先輩、口ではそういってもあまり描いてないような……』

 

ルル :『ユキ先輩のイラストもとってもかわいいものでしたよね!?』

 

エミリ:『確かに暴走特急って言われてる割にはあまり暴走してない様な気がするね』

 

 

 

【コメント】

:暴走特急、昔はすごかったもんな

:今は飼い主がしっかり手綱を握ってるから……

:シロルーム代表にえっちぃイラストを送りつけたのは伝説だよな

 

 

 

フウ :『えっ!? あ、揚津(あがつ)代表に!?』

 

エミリ:『えぇ、そうらしいわね』

 

イツキ:『暴走特急と言われる所以ね。揚津代表も元々Vtuberだから』

 

ルル :『揚津代表? えっと、会長は違う人……だよね?』

 

フウ :『ルルちゃんは知らないポコか? シロルームは揚津代表と小幡会長が作ったポコよ。ツートップポコ』

 

ルル :『そういうことなんだ……』

 

イツキ:『あの暴走……、すごいわよね。惚れ惚れするわ……』

 

フウ :『イツキちゃん、お願いだからそんなことしないでね』

 

イツキ:『さすがのお姉さんでもそこまではできないわよ』

 

 

 

【コメント】

:よく無事だったよな

:むしろあれがきっかけで一期生に誘われたって聞いたぞ?

:元々アカネパイセンが一人だったんだよな

 

 

 

フウ :『イツキちゃんは少し心配ポコ。……えっと、フウはやっぱりコウ先輩ポコ。あのみんなをまとめ上げる姿はかっこいいポコ』

 

イツキ:『四期生はフウがまとめてるものね』

 

ルル :『えと……、ぼ、ぼくも手伝うよ?』

 

エミリ:『私も協力するからね』

 

フウ :『みんな……。手伝ってくれるつもりならもう少し暴走を減らしてくれると嬉しいポコ』

 

イツキ:『それは無理ね。えっちぃのは私の生きがいだから』

 

フウ :『わわっ!? だ、だからそれがダメポコよー!!』

 

ルル :『ぼくはそこまで暴走してないよね?』

 

エミリ:『私も全然暴走してないわね』

 

フウ :『二人とも正座ポコ』

 

ルル :『えっ!?』

 

エミリ:『ど、どうして!?』

 

 

 

【コメント】

:ポンは自分がポンだと知らずw

:ルルちゃんはユキくんを見ると暴走するもんな

:エミリンはそんなルルちゃんを見たら暴走するし

:フウちゃん、大変w

:返事してるけど、どうなるか

 

 

 

フウ :『そ、そろそろ次のマシュマロぽこ。今度は逆のパターンなの』

 

 

[好きな四期生は誰ですか?]

 

 

フウ :『ふうはもちろんイツキちゃんポコ。たまにちょっと恥ずかしいことを言うけど、それでもふうにとっては優しいお姉ちゃんポコ』

 

イツキ:『私もフウのこと、大好きよー!』

 

フウ :『わわっ、抱きつかないでー! って、服の中に手を入れてこないで!!』

 

エミリ:『私は四期生みんなのことが大好きよ!』

 

イツキ:『私もエミリのこと好きよー!』

 

 

 

 イツキはエミリのことも抱きしめてくる。

 

 

 

フウ :『って、イツキちゃんはいい加減にしてポコ!!』

 

 

 

 フウはようやくイツキを引き離すと威嚇してみせる。

 

 

 

ルル :『えっと、ぼくもみんなのことを好きだよ』

 

イツキ:『よしルルちゃんもお姉さんがハグハグしてあげよう』

 

ルル :『えと、それは遠慮しておこうかな』

 

エミリ:『なら私がするね』

 

ルル :『わわっ、だからダメだって!!』

 

 

 

 ルルはエミリに捕まり、足をバタつかせる。

 

 

 

エミリ:『ルルちゃん、かわいいよ……』

 

 

 

【コメント】

:やばい、暴走してるw

:三人のアカネパイセンを相手にしてるようなものだもんな

:四期生=暴走ポン組

:三人のコウパイセンを呼んでこないと!

 

 

 

フウ :『と、とりあえず、落ち着いて欲しいポコ。四期生は暴走ポン組なんて変な呼ばれ方をしてるポコ』

 

イツキ:『暴走組……良いわね』

 

フウ :『イツキちゃんはしばらく静かになの。ややこしくなるポコ』

 

エミリ:『うっ、それは確かに嫌かな』

 

ルル :『僕はそこまで気にしないけど……』

 

フウ :『とにかく、四期生正常化計画をするポコ』

 

ルル 『おー!』

エミリ『おー!』

 

イツキ:『お姉さんはポンなフウも可愛いと思うけどね』

 

 

 

【コメント】

:不服そうなイツキ姉様w

:ポンコツフウちゃんも可愛いかも

:全員ポンだとひどいことになるぞ!

:三期生のことかw

 

 

 

フウ :『つ、次は最後のマシュマロポコー』

 

イツキ:『はい、これね。読んでくれる?』

 

フウ :『わかったポコー。イツキちゃんもやっと真面目にしてくれるようになったポコ。えっと……今履いているパンツの色は何色ですか? ってえっ!? えぇぇぇぇ!?!?』

 

 

 

 質問を読み上げた瞬間にフウは顔を真っ赤にしていた。しかし、そんなことを気にすることなく三人は質問に答えていく。

 

 

 

ルル :『パンツかぁ……。今日は黒いやつかな』

 

フウ :『ちょ、ちょっと待っ――』

 

エミリ:『私は紫のレースよ』

 

フウ :『だ、だから、待って――』

 

イツキ:『お姉さんはもちろん履いてないわよ!』

 

フウ :『!?!? い、イツキちゃん!? は、履いてな……!? えっえっ!?』

 

イツキ:『次はフウね』

 

フウ :『!?!? うぅぅぅぅ……、だ、だからこういうところですぅぅぅ!! こんなにあっさり答えないで!!』

 

ルル :『フウちゃん、語尾……』

 

フウ :『ポコーーーー!!』

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《ルエイフオフ会》四期生だよ、全員集合。ポンコツ王は誰の手に?《天瀬ルル/魔界エミリ/姉川イツキ/狸川フウ/シロルーム四期生》』

2.5万人が視聴 0分前に配信済み

⤴8,291 ⤵12 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:Ruru Room.天瀬ルル

チャンネル登録者数12.0万人

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 放送が無事? 終了した。

 ただ、立木は顔を真っ赤にして、すでに茹で蛸のようだった。

 

 

 

「みんなに言いたいことがあるの!」

 

「どうしたの? ついに観念してパンツの色を答える気になったかしら?」

 

「ち、ち、違うよ!? なんでこんな質問が紛れ込んでいるの!? 私、入れた覚えないよ!?」

 

「もちろんお姉さんが混ぜておいたからよ。シロルームと言ったらこの質問でしょ?」

 

「そうだけど……、そうだけど……」

 

 

 

 立木は宇多野のことを叩きながら不服そうな表情を見せる。

 

 

 

「まぁ、嫌なら無理に混ぜる必要もないんだけどね。でも、リスナーの人たちは盛り上がるよね」

 

 

 

 七瀬が宇多野に同意する。

 

 リスナーのことを最も大事にする。

 夏瀬ななが一躍人気になったそのスタイルは天瀬ルルとなった今も健在だった。

 

 

 

「でも、宇多野さんの場合、違う思惑があったよね? みんなのパンツ、聞きたかったの?」

 

 

 

 犬飼がジト目を向けていた。

 

 

 

「もちろんお姉さんは聞きたかったわよ!!」

 

「って、葵ちゃん!! やっぱりそうだったんだね!?」

 

「えっちぃ方向になるとみくちゃんはポンコツになるからね。ほらっ、暴走ポン組って呼ばれたくないんでしょ?」

 

「あぅあぅ、こんな質問、答えられるはずないよ!? 七瀬ちゃんも犬飼ちゃんもなんで普通に答えられるの!?」

 

「えっと、別に減るものじゃないかなって?」

 

「私もこの手の質問はくると思ってるから、決まった回答を準備してたの」

 

「うぅぅ……、私が変なの? 普通は恥ずかしいと思うの……」

 

「大丈夫、みくちゃん。恥ずかしがってる姿も可愛いから!」

 

 

 

 宇多野がグッドポーズをしてくると、なおさら立木は顔を赤くしていた。

 

 

 

「と、とにかく、これからどうしたら四期生が暴走ポン組と言われないようにするか考えたいと思います!」

 

 

 

 顔を染めたまま立木は仕切り直しに声を出す。

 

 

 

「ユキ先輩を呼べば良いよ!」

 

「またユキ先輩……(ポカポカ……)」

 

「ほらっ、こういうところだよ!?」

 

「えっ? ユキ先輩を呼んだらダメなの?」

 

「四期生って言ってるよね?(ポカポカ……)」

 

「葵ちゃん、ど、どうしよう……」

 

「お姉さんに任せなさい。二人とも、裸で話し合いましょう!」

 

「っ!?!? な、なんで裸になるの!?」

 

 

 

 再び顔を赤面させる立木。

 一方宇多野は自分から脱ぎ出し始めている。

 

 

 

「赤裸々に話すんでしょ? なら脱ぐところからよね!?」

 

「違うよ!? なんでそうなるの!? それに七瀬ちゃんがいるんだよ!? そんな中で脱げるはずが――」

 

「うぅぅ……、四期生の絆のため……。四期生の絆のため……」

 

 

 

 恥ずかしそうにしている犬飼。それでも上のシャツから脱ぎ始めようとしていた。

 

 

 

「脱がなくていいからね!? もう、こういうところが暴走してるって言われるんだよ! って、イツキちゃんも何でスマホを向けてるの!?」

 

「おかず用に?」

 

 

 

 すでに上の服を脱いでいる宇多野からスマホを没収して、無理矢理服を着せておいた。

 

 

 

「うぅぅ……、宝物がぁ……」

 

「と、とにかく、これからえっちぃことは禁止だからね! 四期生がこれからしっかりやっていくためには必要なことだからね!」

 

「四期生に必要……!? う、うん、わかったよ。絶対しない!」

 

 

 

 犬飼があっさり頷いてくれる。

 

 

 

「ルルちゃんもユキ先輩は四期生が仲良いことを喜んでくれてたよね? こんな風に仲違いしてていいの?」

 

「わ、私もそんなこと絶対しないよ! ユキ先輩のためにみんなで仲良くするよ!」

 

 

 

――なるほど。思ったより素直なのかも。そうなるとあとは一人。

 

 

 

 立木はじっと宇多野を見る。

 

 

 

「ふふふっ、私はその程度の言葉じゃ屈しないわよ!」

 

「葵ちゃん、野菜――」

 

「うん、言わないわ」

 

 

 

 こうして、立木は無事に四期生全員を陥落することに成功していた。

 ただ、ポンたちはその数分後には言ったことを忘れるのだった――。

 



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第5話:結坂の誕生日 プレゼントはどうする? ♯ユキ犬姫拾いました

 突然知った結坂の誕生日。

 すでに日にちは一日過ぎてしまっている。

 

 でも、何もしないというわけにはいかなかった。

 

 

 

「えっ? 何もしなくて良いよ……」

 

 

 

 結坂自身はこういってくれているが、それでもやっぱり大好きな仲間であり、かけがえのない友達である。

 

 こういった記念日は一緒に祝って上げたい。

 

 でも、自分の誕生日は祝ってもらったものの、他人の誕生日をお祝いしてあげたことはない。

 

 

 いったいどんなことをしてあげたら結坂は喜んでくれるのか?

 やっぱり何か贈り物をしてあげた方が良いよね?

 結坂の場合は……ゲーム?

 

 

 何が好きそうかと考えてもそんなことしか思い浮かばない。

 ただ、こういった時に相談できる仲間が僕にはいる。

 

 早速ココネとカグラに連絡を取ることにした。

 

 

 

ユキ :[二人に相談したいことがあるんだけど、いいかな?]

 

ココネ:[どうしましたか? なんでも聞いてくださいね]

 

カグラ:[配信のことかしら?]

 

ユキ :[ううん、ユイの誕生日のことなんだよ]

 

ココネ:[そういえば昨日が誕生日って仰ってましたね。と、いうことはプレゼントのことですね。一緒に観に行きますか?]

 

カグラ:[それはいいわね。私もユイには何かプレゼントしたいわね。一緒にいきましょうか]

 

ユキ :[えっ、いいの? ありがとう]

 

ココネ:[いえ、私たちもユイにはプレゼントをしたいですからね]

 

カグラ:[同期で仲間だからね。当然よ]

 

ユキ :[うん、それじゃあ明日でいいかな?]

 

ココネ:[もちろんですよ]

 

カグラ:[分かったわ。それじゃあ、十時頃に集合でいいかしら?]

 

ユキ :[大丈夫。みんな、ありがとう]

 

 

 

 本当に優しい仲間を持つことができて僕は幸せだな。

 

 

 

◇◇◇

『《♯ユキ犬姫拾いました》雑談だよ。三期生の二人とお出かけしたよ《雪城ユキ/シロルーム三期生》』

1.2万人が待機中 20XX/07/09 20:00に公開予定

⤴729 ⤵0 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

 雑談枠をとった僕はいつもどおり段ボールに入ってるユキくん、ユキ犬姫バージョンを表示させていた。

 

 

[拾ってください]

 

 

 この言葉が書かれた段ボールは久々に使ったかもしれない。

 簡単に段ボールの文字も変えられる様になってきたので、その枠に合わせて色々と変えてきたのだが、やっぱりこの文字が一番落ち着く気がした。

 

 

 

【コメント】

:今日こそユキくんを拾って帰る!

:久々な気がする。その段ボール

:三期生の二人?

:ユイっちとココママじゃないか?

:カグラ様……

《天瀬ルル :¥50,000 間に合った》

:今日もルルちゃんがいるw

《:5,000 ユキくん飼育費》

 

 

 

『わ、わふっ!? またルルがいる!? ほらっ、もう投げなくて良いよ。あと、飼育費はいらないよ。でも、ありがとうございます』

 

 

 

 開始前にスパチャに反応してしまう。

 でも、すぐに深呼吸をして気持ちを落ち着ける。

 

 

 

『こんわふー。みなさん、こんばんはー。雪城ユキです。今日もたくさん拾いに来てくれてありがとうございます』

 

 

 

【コメント】

:こんわふー

:わふー

:拾いに来たよー

《:¥500 こんわふー》

:わふー

 

 

 

『えとえと、今日はココママ、カグラさんの二人と一緒にお出かけしたよ。その……、色々とサプライズをしたくてね』

 

 

 

 珍しくいらずら子っぽく舌を出してみる。

 

 

 

『実はユイにいつもお世話になっているプレゼントを贈ろうとひっそり買いに行ったんだよね。内緒だよ』

 

 

 

【コメント】

:ユイちゃんもこの放送を見てるんじゃないのか?w

天瀬ルル :ぼくもユキ先輩からプレゼント欲しいな

:ルルちゃんw

 

 

 

『あっ、えと……。そうだね、ユイが見てるかもしれないからプレゼントの中身についてはまだ話さないよ。今日はね、その買い物に行った話をしようかなって……。僕がどんなプレゼントを買えば良いか迷っていたときに二人が助言してくれたんだよ……』

 

 

 

 僕は今日、出かけた時のことを思い出しながら語っていく。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「祐季くん、待った?」

 

 

 

 待ち合わせ時間の一時間前。

 僕は相変わらず一人で待っていると、すぐこよりがやってくる。

 

 

 

「待ってないよ。今来たところ」

 

「むしろ待つ気だったんだよね? 来るのが早すぎるよ。祐季くんは可愛いから遅れてくるくらいでちょうどいいんだよ! 前も草さんに襲われてたよね?」

 

「あれは別に襲われてたわけじゃないよ? それにさすがに遅れてくるのは悪いよ……。あと、僕はこうやってみんなを待ってる時間も好きなんだよ。こよりさんや瑠璃香さんとどんなところを見て回ろう……とか、ご飯は何食べよう……とか。それを考えてるだけで時間って過ぎていくよね。ってわふっ!?」

 

 

 

 突然こよりから抱きしめられる。

 

 

 

「祐季くんは相変わらずの可愛さだね。ギュッと抱きしめたくなるよ」

 

「抱きしめてる!! もう抱きしめてるから!!」

 

 

 

 必死に手足をバタつかせるけど、こよりから抜け出すことはできなかった。

 

 

 

「でも、出かけるのに今日もユキくんスタイルなんだね」

 

「あっ……」

 

 

 

 僕の今の格好はいつものワンピースとレギンスと犬耳パーカー。通称ユキくんスタイル。

 

 こよりからのプレゼントで、意外と落ち着くので家ではこの服装でいることが多かったのだが、最近はこのまま外に出ても違和感を覚えることが減ってきた。

 

 

 

「ぼ、僕は男なのに……」

 

「祐季くん、いい加減認めよう。祐季くんは可愛いんだよ。可愛いは正義だよ」

 

「うぅぅ……、そ、そんなことないよ。ぼ、僕だっていつかはみんなから頼られる様な……、ユージさんや真緒さんみたいな大人の男になるんだ……」

 

「祐季くんは私の妹になるんだよ」

 

「なれないよ!?」

 

「もう、二人してなに漫才をしてるの。こんな道の往来で……」

 

 

 

 僕とこよりのやりとりは瑠璃香がやってくるまで続いていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「それで今日はユイの誕生日プレゼントを買うのよね?」

 

 

 

 瑠璃香が確認がてら聞いてくる。

 

 

 

「うん、そのつもりだよ」

 

「それならせっかくだし、ユイに来てもらって突然プレゼントを渡すのはどうかしら?」

 

「あっ、サプライズだね。うん、せっかくだしやろう」

 

「そうだね。一応彩芽ちゃんに来てもらう話だけしておくね。今日は配信はするの?」

 

「えっと、元々僕は配信枠を取ってて……」

 

「それならそのあとに来てもらう様に連絡するね。あとは担当さんに彩芽ちゃんの誕生日についての話をしておいて……。ケーキは流石に作る時間ないね。買っていこうか」

 

「ありがとう……。助かるよ……」

 

「それじゃあ、早速プレゼントを買いに行きましょうか。そのあとで一緒にご飯を食べて――」

 

「な、なんで当然のように手を繋いでくるのかな?」

 

「祐季くんが迷子にならない様にするためだよ」

 

「まぁ、祐季ならフラッとどこかに出かけていきそうだからね」

 

「そ、そんなことないよぉ……」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『そんな感じでみんな一緒に出かけてきたんだよ。でも、僕はフラッと迷子になりそうだからって無理やり手を繋がせられたんだよ? 酷くないかな? 僕、そんなに子供に見えるかな?』

 

 

 

【コメント】

:見える

:むしろ手を繋いでおかないと怖い

:どこかでうずくまって泣いてそうw

天瀬ルル :先輩が迷子になっても僕が探し出します!

:ルルちゃんの本心がダダ漏れw

 

 

 

『まぁ、そのあと、本当に迷子になって迷子センターに連れて行かれたんだけどね。犬耳フードのパーカーを着た小学生くらいの女の子が迷子になってます……、なんて放送されて凄く恥ずかしかったよ……』

 

 

 

 迷子センターではずっと俯いたまま、恥ずかしさを隠すために手はギュッと握って足の上に置いていた。

 きっと顔も真っ赤だったし、涙目だったかもしれない。

 

 

 そこの職員さんには何度も「大丈夫、すぐに親御さんが来てくれますよ」って、励まされたけど。

 

 

 

『本当に何で僕が大人だって説明しても聞いてくれないかな。もうお酒も飲めるんだよ……。まぁ、飲んだ次の日、頭が痛くなったから無理して飲まないけど……』

 

 

 

【コメント】

:w

:本当に迷子になってたw

:ユキくんらしいw

天瀬ルル :ぼ、ぼくがその場にいたら拾って帰ったのに!

猫ノ瀬タマキ :ダメにゃ。にゃーが連れて帰るのにゃ!

美空アカネ :私が連れて帰るよ。私がユキくんのママだから

姫野オンプ :ダメなのですよー。ユキくんとココネちゃんは私が保護するのですよー

:ユキくんの取り合いが勃発w

:ヒメノンがユキくん取り合いに参戦しましたw

:そういえば三期生の誰も顔を出してないな

 

 

 

『ちょっ、なんでみんなして僕が迷子になる前提なの!? あとみんなはちょっと別の用で来られないんだよ。だから今日は僕一人の配信だよ……。久々だと少し寂しいよね』

 

 

 

 特にシロルームの面々は暴走……、ううん、ちょっと個性的な人たちが多くて一緒にいると僕まで楽しくなってくる。

 そんな日が続いていると、いざ一人で配信すると寂しく感じてしまう。

 

 

 

『でも、来週からまたたくさんコラボがあるもんね。えっと、四期生(こうはい)さんたちが考えてくれてる全体コラボに、姫乃オンプ先輩とのコラボ……』

 

 

 

【コメント】

:全体コラボがあるのか

:こっちのひめ姫コラボはほのぼのしそう

:眠くなりそうだな

姫乃オンプ :そんなことないのですよぉ。シューティングゲームでバチバチなのですよぉ

 

 

 

『シューティング、いいよね。僕も好きだよ。あんまり上手くはないけど……』

 

 

 

 ゲーム自体はそれなりにしてきたけど、どうにも反射神経を使うものは苦手だった。

 普段の運動神経も影響してるのだろうけど、どうしてもワンテンポズレてしまったり、隙をつかれて負けることが多かった。

 

 

 

【コメント】

姫乃オンプ :大丈夫なのですよ。私が教えますのですよ

:不安しかないw

:結末が見えるw

:いや、姫を信じろ

 

 

 

 

『えとえと、他にはツララさんもコラボをするって言ってたな。あとは……動物園だった』

 

 

 

 

【コメント】

:動物園?

猫ノ瀬タマキ :うにゃ、忘れたらダメなのにゃ!?

貴虎タイガ :一撃で粉砕してやる

:犬vs虎の最弱決定戦w

 

 

 

『ぼ、僕は最弱じゃないからね!? きっと貴虎先輩も猫ノ瀬先輩も軽く倒して勝つからね』

 

 

 

 正直勝てる気はしないけど、ここは強く言っておく方が面白いよね?

 

 

 

『あっ、動物園だから他にも誘える人がいるね。やるゲームによっては別の人? 動物? も誘ってもいいかも』

 

 

 

【コメント】

天瀬ルル :ピクッ

:いやいや、ルルちゃん、天使でしょw

狸川フウ :もしかしてふうポコ?

:そっか、フウちゃんは狸だもんね

猫ノ瀬タマキ :フウも参加決定にゃ!

貴虎タイガ :狸もまとめて吹き飛ばす!

狸川フウ :ふう、吹き飛ばされるポコか!?

 

 

 

『あっ……、フウちゃんも加わるということで僕、猫ノ瀬先輩、貴虎先輩、フウちゃんの四人でコラボします。タグは……令和遊び合戦ぽんぽことか?』

 

 

 

【コメント】

:ぽんぽこwwwwww

:ついにユキくんが自分のことをポンだと認めたw

:いや、ユキくんは常識枠だろ?w

:たまきんとタイガは間違いなくポン枠だw

狸川フウ :あのあの、ふうでいいポコか?

 

 

 

『もちろん僕は賛成だよ? 断る理由はないし、フウちゃん、かわいいもんね』

 

 

 自然と可愛いといってしまうあたり、僕も随分とシロルームに染まってきたのかもしれない。

 ただ、口に出すまでは自然と出てくるのだが、言った後すぐに顔が赤く染まってしまう。

 

 

 

『わわっ、今のはその……。こ、後輩としてかわいいってことだからね。あのあの……、べ、別に他意はないからね……』

 

 

 

【コメント】

天瀬ルル :むぅぅ……、フウの裏切り者……

狸川フウ :!? ふ、ふうは裏切ってないポコ!?

:ルルちゃんwww

天瀬ルル :ぼくもユキ先輩にかわいいって言われたいよ

 

 

 

『えっ? ルルももちろん僕のかわいい後輩だよ?』

 

 

 

 ルル相手なら別に照れることなくいうことができるので、普通に言う。

 

 

 

【コメント】

天瀬ルル :えへへっ。ユキ先輩に愛してるって言われちゃいました

魔界エミリ :ポコポコ……

狸川フウ :エミリちゃん、それだとふうを呼んでるみたいポコ

:みんな暴走しすぎて草

猫ノ瀬タマキ :にゃにゃにゃ、にゃーには言ってくれないのかにゃ

 

 

 

『も、もうこれ以上はその……配信時間的に厳しいかな。と、とりあえず今日はこのくらいで……。乙わふ――』

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯ユキ犬姫拾いました》雑談だよ。三期生の二人とお出かけしたよ《雪城ユキ/シロルーム三期生》』

4.1万人が視聴 0分前に配信済み

⤴1.2万 ⤵5 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ

チャンネル登録者数28.5万人

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 僕の配信が終わるとこよりや瑠璃香がにっこりと微笑む。

 

 

 

「そろそろいいかな?」

 

「そうだね。もちろん準備はできてるよ」

 

「祐季が配信してる間にばっちりよ」

 

「うん、二人ともありがとう」

 

「祐季くんがいるって言ったらすぐに来てくれましたよ」

 

「早速中に入ってもらうわね」

 

 

 

 二人が結坂を呼びに行ってくれる。

 その間に僕はクラッカーの準備をする。そして――。

 

 

 

「うみゅ? ゆいはなんで呼ばれた――」

 

 

 

パンッ!!

 

 

 

 結坂が不思議そうに部屋に入ってきたタイミングでクラッカーを鳴らす。

 

 

 

「お誕生日おめでとー!」

「彩芽ちゃん、おめでとうー!」

「おめでとー!」

 

「う、うみゅ? こ、これはどういう――??」

 

 

 

 困惑する結坂に対して、僕が説明をしていく。

 

 

 

「ほらっ、ちょっと前が結坂の誕生日だったでしょ? だからお祝いしようと思ったんだよ」

 

「そ、そんなの良いって言ったのに……」

 

「僕たちがお祝いしたかったんだよ。少し遅れちゃったけどね」

 

「きっかけは祐季くんだったけどね」

 

「そうね。こうやって仲間でやっていくのだから当然よね」

 

「みんな……、うみゅ、ありがとうなの」

 

 

 

 結坂は嬉しそうに笑みを浮かべていた。



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本編第3章:ココユキの対立?
第6話:誰の絆が最も強い? ♯ポンルーム伝言ゲーム


 ついにシロルーム全体コラボの当日になってしまった。

 

 しかも、期生対抗の対決ということでチーム戦だった。

 負けたら当然だけど罰ゲーム……。

 

 

 

「うぅぅ……、大丈夫かな……?」

 

 

 

 伝言ゲームということだけど、本当に上手く伝えることができるのか、僕のせいで負けないか……と、今から不安でしかなかった。

 

 

 

「体調が悪くなったから今日はお休みにさせてもらおうかな……」

 

 

 

 なんだが頭がふらふらする気がする。

 うん、きっと一日しっかり寝て休まないとダメだね。

 

 僕がベッドへと向かおうとした瞬間にキャスコードの通知音が鳴る。

 

 

 ピコピコ……。

 

 

 えっと、誰からかな……。ココネから?

 

 

『どうしたの?』

 

ココネ:『ユキくん、配信の準備はできてますか?』

 

『えっと、それだけど、僕やっぱり――』

 

ココネ:『もちろん休むなんて言わないですよね?』

 

『うっ……』

 

ココネ:『最近なかったけど、やっぱり大人数の時は緊張しますか?』

 

『……うん。それもあるけど、やっぱりチーム戦っていうのがね。みんなに迷惑をかけちゃうんじゃないかなって――』

 

ココネ:『大丈夫ですよ。誰も迷惑なんて思っていませんから。それに三期生は私たち四人で初めて全員が揃うんですよ? 一人でも欠けたら三期生じゃありませんからね。だから、三期生の絆を見せつけるのにユキくんが欠けたらダメなんですよ!』

 

『そっか……。うん、そうだよね。わかったよ。僕、頑張るからね』

 

ココネ:『その意気ですよ! でも、本当に体調が悪いなら言ってくださいね。そのときは無理したらダメです!』

 

『大丈夫……。みんながいるから頑張るよ……』

 

 

 

◇◇◇

『《♯ポンルーム伝言ゲーム》誰の絆が最強か?《シロルーム》』

1.6万人が待機中 20XX/07/14 20:00に公開予定

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【コメント】

:ついに始まった

:ちゃんと伝わるのか?

:全く違うものをいいそうw

 

 

 

コウ :『みなさん、こみー。ボクはシロルーム一期生の海星コウだよ。今日はフウちゃんと二人でゲームの進行をさせてもらうよ』

 

フウ :『こ、こんぽこー。お、恐れ多くもコウ先輩と一緒に進行を担当させてもらうことになりました、四期生の狸川フウ、ポコ。そ、その、尊敬する先輩と一緒に進行することになって凄く緊張してるポコが、頑張るポコ』

 

コウ :『はい、よくできました』

 

フウ :『えへへっ……』

 

 

 

 頭を撫でる仕草をされたフウは嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 

 

 

アカネ:『コウは渡さないぞ!』

 

エミリ:『フウは四期生よ!』

 

 

 

 進行の途中に声を挟んでくる人がいるけど、もちろんコウはバッサリと切り捨てる。

 

 

 

コウ :『外野(あかね)はまだ喋らないでね。ルール説明のあとに順番に紹介していくから』

 

フウ :『えっと、エミリも邪魔したらだめポコよ。四期生は暴走ポン組じゃないことをみせるポコよ』

 

 

 

【コメント】

:さすがコウパイセンがいるとスムーズにいくな

:ぽんぽこも中々

:安心して見てられる

 

 

 

コウ :『それじゃあ、早速ルール説明をフウちゃんにしてもらうね』

 

フウ :『は、はいポコ。えとえと……、今回する伝言ゲームは出題された内容をその名前を使わずにチーム全員に伝えるゲーム……ポコ。伝え方は毎回変わって、指定した方法で伝えてもらうポコ。【カタカナのみ】【英語のみ】【名詞のみ】【擬音のみ】とか色々な条件を出していくポコ。それで出題者一人の方に伝えてもらって、残り三人の方に回答してもらうポコ』

 

コウ :『うん、ありがとう。正解したら三点。あと条件を満たしてない伝え方があったらアウト宣言していくよ。一回アウトで減点一。三回アウトで終了になるからね。回答者は開始の合図をした後は気をつけてよ。それじゃあ、順番に名前と意気込みを言ってもらおうかな。まずは一期生チーム。アカネ、お願いね』

 

 

 

 一期生のアバターを表示させる。

 

 

 

アカネ:『やっほー! 宇宙一の美少女、語彙力つよつよアイドルこと美空アカネだよー。今日は私の語彙力で草を燃やしていくからよろしくねー』

 

ユージ:『ちょい待つっす!? 俺っちは味方のはずっすよ!?』

 

ユキヤ:『ふっ、真緒ユキヤだ。我が勝つことは決まっているので、適当に草を持ってハンデを背負ってやる』

 

ユージ:『は、ハンデって酷くないっすか!? 俺っちも頑張るっすよ!?』

 

 

 

 必死にユージが訂正しているが、それもコウは容赦なく切り捨てる。

 

 

 

コウ :『はい、時間が押してるからユージくんの自己紹介はそれでいいかな?』

 

フウ :『こ、コウ先輩!?』

 

 

 

 フウは隣で驚いていたが、コウはニコニコと微笑んでいた。

 

 

 

ユージ:『ちょい、だめっすよ!? 俺っちは――』

 

アカネ:『草っす。今日は燃えるために頑張る――』

 

ユージ;『――っす。って、なんで俺の声真似をしてるんっすか!?』

 

コウ :『はい、一期生チームでしたー』

 

フウ :『ぱちぱち……』

 

ユージ:『ちょっち待つっす。俺はまだ――』

 

 

 

 容赦なく一期生の面々の音が消されていた。

 

 

 

コウ :『チームワーク抜群のメンバーでしたね』

 

フウ :『あ、あははっ……。ものすごく個性的な方たち……ポコね』

 

コウ :『最初の頃は纏めるのが大変だったのよ……。まぁ、フウちゃんなら分かってくれると思うけど――』

 

 

 

 コウが遠い目を見せる。

 おそらく元々は今フウの置かれている、周りがポンで暴走している……という状況だったのだろう。

 

 

 

フウ :『た、大変ポコ……』

 

コウ :『頑張ってね。ボクの代わりに』

 

フウ :『こ、コウ先輩の代わりは無理ポコー!?』

 

コウ :『ふふっ、それじゃあ次は二期生チームね』

 

 

 

 二期生のアバターが表示される。

 

 

 

オンプ:『はぅぅー、二期生の姫野オンプなのですよー。精一杯ボケられるようにがんばるのですよー』

 

タイガ:『なにっ!? ボケたら良いのか? 貴虎タイガだ! ボケるってどうするんだ?』

 

ツララ:『……貴方は普通にしていると良いのよ。氷水ツララ……。適当にやるわ』

 

タイガ:『んっ、普通で良いのか!?』

 

タマキ:『にゃっふー、こんにゃー、にゃーにゃー。挨拶だけでもこれだけの語彙がある最強の猫、猫ノ瀬タマキなのにゃ。今日はユキくんをけちょんけちょんにやっつけて、みんなに涙目上目遣いのユキくんを披露するのにゃ。よろしくなのにゃ』

 

タイガ:『挨拶を増やしたら良いのか?』

 

コウ :『はい、二期生のみんな、ありがとう。安定感が凄いね。一番落ち着いてる気がするよ』

 

フウ :『……羨ましいポコ。あまり暴走してなくて』

 

コウ :『ある意味一番カオスなんだけどね』

 

フウ :『……?? どういう意味ポコ??』

 

コウ :『まだこれはフウちゃんには早いわね。あまり暴走はしないポンだと思ってくれたら良いわよ』

 

フウ :『良くわからないけど、わかったポコ!』

 

コウ :『さて、それじゃあ、次にいきましょうか。大本命。シロルームで一番絆が強いのは……と言われたら真っ先に上がるのがこちら。三期生、いきますね!?』

 

 

 

 ついに僕たちの名前が言われてしまう。

 すこし緊張しながら僕はミュートを解除していた。

 

 

『え、えとえと……、あの……』

 

ココネ:『あっ、まずは私が自己紹介しますよ。ユキくんは深呼吸でもして落ち着いてください』

 

『う、うん……、ありがとう……』

 

ユイ :『うみゅ。早速、三期生の絆を見せつけてるの。ユイも混ざるの』

 

ココネ:『じ、時間がないですよ。ほらっ、ユイちゃんもしっかりしてください』

 

ユイ :『うみゅー、残念』

 

ココネ:『では、改めて、シロルーム三期生の真心ココネですよ。今日は三期生を纏めて頑張って行きたいと思います』

 

ユイ :『ママなの』

 

ココネ:『ママじゃないですよー。それじゃあ、次はカグラさん、お願いしますね』

 

カグラ:『全く、相変わらずね。私は神宮寺カグラよ。でも、三期生にはユキのことなら全て分かるココネとゲーム最強のユイ。そして、最強の――』

 

ユイ:『ポン姫』

 

カグラ『――である私がいるのよ。段ボール一つ抱えても余裕ね。って、ユイ、何勝手に話しているのよ!』

 

ユイ :『大したことじゃないの。本当のことを言ったの。あと、ゆいは羊なの。数字を数えて寝るのがお仕事なの。今日もすぐに寝たいと思うの』

 

ユキ :『ゆ、ユイ、寝たらダメだよ!? わ、わふっ。そ、その、僕はえと……、段ボールです。えとえと、喋るのは苦手だから足引っ張っちゃうと思うけど、が、頑張りますね』

 

ココネ:『ユキくんは段ボールじゃなくて、ユキくんですよ。それに今日は動かないので隠れられないですよ』

 

ユキ :『あうあう……。その、僕以外のみんな、頑張って……』

 

コウ :『はい、ということで三期生、段ボールと愉快な仲間たちでした』

 

フウ :『やっぱりあまり暴走してないポコね……』

 

コウ :『まぁ、三期生はどちらかといえばオフになったときに暴れまくるからね。ココママが』

 

フウ :『うぅぅ……、次が心配ポコ……』

 

コウ :『大丈夫よ。それじゃあ四期生、お願いね』

 

ルル :『みんな、こんるるー。ユキ先輩の一番弟子、天瀬ルルだよ。今日はぼくとユキ先輩の絆を見せつけるために徹底的に間違えていきたいと思います。よろしくねー』

 

エミリ:『(ぽこぽこ……)』

 

イツキ:『はーい、お姉さんは姉川イツキよ。今日もみんなを辱めていきたいと思うからよろしくねー』

 

フウ :『はぁ……、やっぱり……』

 

コウ :『ポンとすぐ分かるね。さすがポンポコ組』

 

フウ :『ポン組ポコ……。ち、違うポコ。普通に四期生ポコよ!』

 

エミリ:『ちょ、ちょっと待って。エミリはまだ自己紹介を――』

 

 

 

 慌てて話すエミリだが、そのままミュートにされてしまった。

 画面の向こうでいつものように台パンをしてるエミリを想像して、フウは苦笑を浮かべていた。

 

 

 

コウ :『それじゃあ、そろそろゲームを始めていくね』

 

フウ :『まずは一期生から……ポコね。コウ先輩も混ざるポコ?』

 

コウ :『えぇ、そうなるわね。今回のお題はフウちゃんが考えてくれた物でおねがいね』

 

フウ :『ま、任せるポコ。とっておきのものを考えてきたポコ』

 

コウ :『それは楽しみね。それじゃあ、回答者の発表をお願いね』

 

フウ :『わかったポコ。回答者はアカネ先輩ポコ。お代は直接アカネ先輩に送るポコ』

 

 

[鍋を名詞のみで伝える]

 

 

フウ :『まずは簡単なところを選んでみたポコ。それじゃあ、スタートポコ!』

 

 

 

◇■◇

 

 

 

アカネ:『ふははははっ、来たぞ来たぞ、私の時代が!!』

 

 

 

 自信たっぷりのアカネが笑い声を上げていた。

 しかし、その様子を見てコウは慌て出す。

 

 

 

コウ :『アカネ!? もう始まってるのよ!?』

 

アカネ:『へっ?』

 

フウ :『一期生チーム、アウトポコ』

 

コウ :『はぁ……、言ったでしょ? 開始の合図をしたら気をつけてって』

 

ユージ:『草しか生えないっすね』

 

 

 

 ユージのその言葉にアカネは少しピクッとしていた。

 そして――。

 

 

 

アカネ:『草! 炎! 草! 肉、汁。土器!』

 

ユージ:『ちょっ!? 俺っち、燃やされてないっすか!? しかも思いっきり絞られて』

 

ユキヤ:『うむ、草は良く燃えるからな』

 

ユージ:『理由になってないっすよ!?』

 

コウ :『えっと、草ってもしかして何かの野菜?』

 

アカネ:『葱、白菜、白滝、ユージ、炎』

 

ユージ:『やっぱり、隠れて俺っちを燃やしてるっすよ!?』

 

ユキヤ:『ユージを食材にしたもの……、闇の儀式か?』

 

コウ :『えっと、葱と白菜を使うもの……』

 

ユージ:『俺っちは食材じゃないっす!!』

 

 

 

 具材の名前を言うだけで予想できる今回は用意した問題の中でも比較的簡単な方だった。

 ただ、一期生……、主にアカネによってそれは変な方向へと進んでいく。

 

 

 

コウ :『火を使うと炭ができるよ? ユージさんを炭に……』

 

ユージ:『もういいっす。俺っちだけでも真面目に考えるっす』

 

ユキヤ:『ユージ……、草……、燃える……、炭……、はっ!? 暗黒物質か!!』

 

コウ :『それだね! うん、ボクが料理をするとアカネがいつも言ってたよ! 「コウの料理は暗黒物質ができあがるから私が作る」って』

 

ユージ:『えっと、絶対に違うと思うっすけど?? 普通に俺っち以外は具材名って考えると鍋とかじゃないっすか?』

 

コウ :『そんなことないかな。アカネがボクに向けて食材名で言ってきてるんだから、失敗したものを言ってるはずだよ』

 

ユキヤ:『うむ、相手は暴走特急だ。まともな答え方をするはずがない』

 

アカネ:『わ、私だってまともな回答をすることもあるんだよ!?』

 

フウ :『えとえと、二回目のアウトポコ』

 

 

 

 フウが無情に宣言するとアカネは悔しそうに口を噛みしめて、それ以上何も言わなくなっていた。

 

 

 

ユージ:『今回はもっとシンプルなやつじゃないっすか? ほらっ、美空がそこまで言ってるんっすよ?』

 

コウ :『うーん、普通に考えたら鍋だと思うけど……』

 

ユキヤ:『ユージが燃えてるもんな』

 

ユージ:『だから俺っちは関係ないっすよ!? きっと鍋っすよ!!』

 

フウ :『えっと、では、回答は[鍋っすよ]ってことでよろしいポコか?』

 

ユージ:『全く良くないっすよ!?』

 

コウ :『えっと、フウちゃん。回答は[鍋]でお願いね』

 

フウ :『はい。では正解は……』

 

 

 

 フウは少し口を閉ざして、意味深な間を開ける。

 これはコウから頼まれていたことだった。

 

 

 

フウ :『正解です! おめでとうございます!! ぱちぱちぱち……』

 

 

 

 フウの拍手が響き渡る。

 

 

 

ユキヤ:『我が間違えるはずなかろう』

 

ユージ:『思いっきり暗黒物質って言ってたっすよね?』

 

アカネ:『本当に私を何だと思ってるの!?』

 

コウ :『普段の行動のせいでしょ?』

 

アカネ:『うぐっ……』

 

フウ :『ということで、一期生チームのポイントは一点でした』



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第7話:誰の絆が最も強い?ぱーとつー ♯ポンルーム伝言ゲーム

コウ :『やってみたら中々難しいね』

 

フウ :『えっと、自分から難しくしてたように見えたポコけど……?』

 

コウ :『そんなことないよ。本気で考えてたんだけど?』

 

フウ :『その……、コウ先輩って料理……。えと、何でもないポコ』

 

コウ :『そうね。そろそろ次にいきますね。優勝候補の二期生に登場してもらいますね』

 

フウ :『優勝候補ポコ?』

 

コウ :『えぇ、一番バランスがいいのが二期生だからね。回答者は……あっ――』

 

フウ :『えっと、貴虎タイガ先輩ですね』

 

コウ :『二期生は残念ながら不正解でした。次は三期生にいくね』

 

フウ :『まだ終わってないポコよ!?』

 

コウ :『見たらわかるよ。問題文を――』

 

フウ :『……??』

 

 

[段ボールを英語のみで伝える]

 

 

フウ :『シンプルな問題ですよね? それこそ直接言っても良いですし……』

 

コウ :『聞いてたらわかるよ』

 

 

 

 コウの不安をよそにタイガに問題が伝えられる。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

タイガ:『よし、任せろ! 英語だな!』

 

オンプ:『はぅぅ!?』

 

ツララ:『――降参しても良いかしら?』

 

タマキ:『にゃははっ、これはやられたのにゃ』

 

 

 

 タイガの言葉を聞いて二期生の間に諦めのムードが漂っていた。

 

 

 

フウ :『えっと、それじゃあ、スタートポコ!』

 

 

 

 フウの合図と共にタイガが英語? を言い出す。

 

 

 

タイガ:『英語、英語……。ダンボールって英語じゃないのか!?』

 

ツララ:『――はぁ、やっぱりこうなるわよね』

 

 

 

 ツララがため息交じりに言う。

 

フウ :『普通に日本語ポコね。しかも答えを言ってるポコ! アウトポコ!!』

 

コウ :『さすがに答えを言ってしまうとね……』

 

タイガ:『どうしてだ? ダンボールはカタカナだから英語だろう??』

 

ツララ:『――カードボードボックスよ』

 

オンプ:『なのですよ』

 

フウ :『えっと、この場合はどうするポコか?』

 

コウ :『……例えば狸、だと英語でなんて言うかしら?』

 

 

 

 コウはフウの姿を見ながら言う。

 

 

 

タイガ:『肉だ!!』

 

フウ :『っ!?!? ふ、ふうは食べ物じゃないですよ!?』

 

オンプ:『その前に英語ですらないのですよ』

 

コウ :『フウちゃん、語尾忘れてるよ』

 

フウ :『……ポコ』

 

タマキ:『仕方ないのにゃ。回答者がタイガになってしまったからにゃ。運が悪かったのにゃ』

 

ツララ:『――むしろ運が良いのでは?』

 

オンプ:『ボケボケさんなのですよー』

 

タマキ:『そういえば全力でボケるっていってたのにゃ。本人の希望通りなのにゃ』

 

コウ :『それじゃあ、二期生組は失格ということで』

 

フウ :『お疲れ様ポコ』

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

フウ :『凄かったポコね。色々と』

 

コウ :『回答者に当たった人が悪かったね。でも、大本命が撤退したとなるとどこが勝つかまだわからないね』

 

フウ :『よ、四期生も頑張るポコ!』

 

コウ :『では、次は今のシロルームを象徴している三期生たちに登場してもらうね』

 

フウ :『回答者は……あっ、ユキ先輩ですね』

 

『えっ!? ぼ、僕!?!?』

 

 

 

 突然な前を言われて、モニターの前でビクッと飛び跳ねてしまった。

 

 

 

ココネ:『大丈夫ですよ、ユキくん。私たちに任せてください!』

 

ユイ :『うみゅー、負けはないの』

 

カグラ:『私がいるのよ。余裕で勝つわ』

 

『み、みんな……。う、うん、精一杯頑張るよ……』

 

フウ :『それじゃあ、ユキ先輩への問題はこちらポコ』

 

 

[傘を擬音で伝える]

 

 

『えっ!?!? こ、これを擬音で!?』

 

コウ :『では、スタート!』

 

『ぽつぽつ……、ちゃぷちゃぷ……』

 

 

 

 なんとなく傘を差した状態で歩いている音を想像して言ってみる。

 ただ、思いのほか伝わってくれない。

 

 

 

カグラ:『雨かしら?』

 

ユイ :『うみゅー、眠くなるの』

 

ココネ:『水の音ですね』

 

『ざーざー、ちゃぽちゃぽ……。えとえと……、あっ、ばさばさ……、ぱしぱし……』

 

 

 

 傘を開く音や、雨を弾く音も追加してみる。

 

 

 

カグラ:『やっぱり雨で決まりよ』

 

ユイ :『うみゅー、まだ決めるのは早いの』

 

ココネ:『そうですね。もう少しヒントが欲しいところですね』

 

 

 

 ヒント……か。

 でも、傘ってそのくらいの音しかしないような……。

 形を音で表す?

 

 先が尖ってるところとか持ち手の部分が湾曲してるところとか……。

 

 

 

『ちくちく……、にゅーん、にゅっ!? ひ、ひたっ……』

 

 

 

 湾曲した部分を表すのに言った時に思い切って舌を噛んでしまい、涙目になる。

 それでも、余計な言葉を出すことは何とか堪えていた。

 しかし、それでも漏れた言葉はあり、みんな驚きの表情を見せていた。

 

 

 

カグラ:『えっ??』

 

ユイ :『うみゅ』

 

ココネ:『ゆ、ユキくん……』

 

 

 

 えっ、ど、どうしたの!? 今のアウト??

 

 

 みんなの言葉を聞いて焦りだしてしまう。

 でも、それを口に出したら一回アウトになってしまうから、みんなの出方を待つことにした。

 

 

 

ココネ:『ゆ、ユキくん、今のとっても可愛かったです。もう一回、もう一回お願いしてもいいですか? 今度はちゃんと録音しますので』

 

ユイ :『うみゅ、ゆいはばっちり録音してるの』

 

カグラ:『べ、別に私はもう一回聞きたいとは思ってないわよ? でも、問題を解くためには必要なことだからね』

 

 

 

 えと……、もう一回言うの?

 

 

 

『ちくちく……』

 

 

 

 さっきと同じ、傘の先端を表した擬音を口にする。

 

 

 

ココネ:『そ、そっちじゃないです……。も、もう一つの方を……』

 

『えっ、にゅーん、にゅーん?』

 

ユイ :『うみゅー、もう一つの方なの』

 

『もう一つって、今は二つしか言ってないよ!? あっ……』

 

フウ :『擬音以外の言葉を言ったので一回アウト……ポコ』

 

 

 

――しまった。思わず口を挟んでしまった。

 

 

 一度深呼吸をして気持ちを落ち着ける。

 

 

――もう余計な言葉に耳を貸さない。うん、大丈夫。

 

 

 頭の中で考えを纏めて、今度は続けて言ってみる。

 

 

『カチャっ、バサッ。テクテク……、ザーザー、ぽちゃぽちゃ……。カチッ。カランっ……』

 

 

――どうかな? 一応帰宅シーンを想像して擬音を出してみたけど、通じたかな?

 

 

 不安げに三人の反応を待つ。

 

 

 

カグラ:『雨の時の帰宅シーンみたいね』

 

ココネ:『ユキくんと二人で相合い傘……』

 

ユイ :『うみゅ、段ボールで捨てられてたユキくんに傘を差して上げる感動のワンシーンなの』

 

フウ :『はい、終了ポコー。では、答えをお願いしますポコー』

 

ココネ:『それじゃあ、せーので言いますね。せーの』

 

コユカ:『『『傘(です)(なの)』』』

 

コウ :『それじゃあ、正解はユキくんに発表してもらいますね。どうですか?』

 

『えっと、うん。正解だよ』

 

フウ :『さすがの連携だったポコ』

 

コウ :『そうね。しっかり可愛さをアピールしつつボケてくれて、最後には正解してくれたね』

 

『えとえと……、僕、全くボケてないんだけど……。それに可愛さのアピールなんて――』

 

ココネ:『噛んだときのユキくん、とっても可愛かったです。あとから切り抜いてそこの部分だけリピート再生します』

 

『や、やめて!? どう見ても僕の痴態だからね。そこは』

 

ユイ :『そうなの! そんなことをしたらダメなの!』

 

 

 

 ユイが僕の味方をしてくれる。

 そこで思わず笑みがこぼれる。

 

 

 

『そ、そうだよね!? そんなことをしたらダメだよね?』

 

ユイ :『うみゅ、それはユイがするの!』

 

『そ、そういう問題じゃないよ!?』

 

カグラ:『はぁ……、ユキも諦めなさい。二人がしなくても誰かするわよ。それならまだ気心の知れた二人の方がマシでしょ?』

 

『それもそうか……。うん、なら二人にお願いするよ……』

 

ココネ:『任せてください! ユキくんの可愛さを存分に出して見せます!』

 

ユイ :『うみゅ、ゆいもトコトンこだわってみせるの!』

 

『うぅぅ……、はやまったかな……』

 

コウ :『三期生、段ボール組は二点でした。現在トップだね。さすがナンバーワンの絆と言われてるだけあるよね』

 

フウ :『ふ、ふうたちも負けないポコよ!?』

 

コウ :『そうだね。次はみんなお待ちかね。新生ポンポコ組の登場だよ!』

 

フウ :『四期生。四期生ポコ!』

 

コウ :『回答者は……。あっ、まさかのフウちゃんだね。頑張れ』

 

フウ :『えっ!? ちょ、ちょっと待って欲しいポコ。それだと答える側が暴走して――』

 

コウ :『では、早速登場してもらいましょう』

 

 

 

 無情にも四期生のアバターを表示されて、それ以上何も言えなくなってしまった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

コウ :『では、ここからはボクが一人で進行していくね。早速お題をフウちゃんに送ります』

 

ルル :『ユキ先輩、可愛かったよ……』

 

エミリ:『(ぽこぽこ……)』

 

イツキ:『やっぱり百合百合してるのはいいわね……』

 

 

 

 既に暴走を始めてる四期生の面々に不安を覚えつつ、フウはお題を見る。

 

 

 

[ロリポップ(ペロペロキャンディー)をカタカナのみで伝える]

 

 

フウ :『こ、これって……。危ない問題ポコ……』

 

コウ :『はい、ではスタート!!』

 

 

 

 コウの合図と共に開始されたのだが、しばらくフウは何も言わずにジッとしていた。

 

 

 

イツキ:『どうしたの、フウ? 何か困ったことでもあるの?』

 

エミリ:『大丈夫よ。私たちの絆が試されているんだからなんとしても答えるわ!』

 

ルル :『うん、ぼくも精一杯頑張るからね。ユキ先輩が見てるんだから格好悪いところは見せられないよ』

 

 

 

 意外と四期生たちはまとまりを見せてくれていた。

 そのことに安心したフウは改めて、お題を見る。

 

――ペロペロキャンディーをカタカナだけで……。

 

 流石にお題の回答をそのまま言うのは反則だ。

 それなら伝えるべきことは飴であることとその形になる。

 

 

 

フウ :『グルグルー。ペロペロ-』

 

 

 

 擬音と変わらない……。

 でも、カタカナを使っているので間違いはないはず。

 

 

 

ルル :『グルペコ?』

 

エミリ:『犬かな?』

 

イツキ:『フウ、かわいいよ……。はぁはぁ……』

 

 

 

 ルルとエミリはしっかり考えてくれているが、イツキだけは吐息を漏らしていた。

 フウにはこのあとに続く言葉は予測できるので、嫌な汗が流れていた。

 ただ、フウが何かを言う前にエミリが声を出していた。

 

 

 

エミリ:『イツキもそういうことは後からにしなさい! あとならじっくり話を聞いてあげるから』

 

イツキ:『それもそうね。あとからエミリちゃんとはじっくりフウの可愛さについて語り合おうかしら』

 

エミリ:『望むところよ!』

 

 

 

 

――望まないでー!!

 

 

 司会ということもあり、フウのアバターは他の人たちとは違って動く2Dアバターだった。

 だからこそ恥ずかしがっていることがよくわかってしまう。

 

 

 

フウ :『あうぅ……』

 

エミリ:『ルルちゃんもユキ先輩が見てるのよ! しっかりやらないと!』

 

ルル :『ユキ先輩が……見てる!? で、でもユキ先輩には勝って欲しい……』

 

エミリ:『ユキ先輩に成長した姿を見せて褒められたくない?』

 

 

 

 エミリのその言葉を聞いた瞬間に、ルルの表情は変わっていた。

 

 

 

ルル :『ペロペロとグルグル……。それとフウの恥ずかしがる様子と戸惑った口調。犬とかの動物ならここまでの表情にはならないはず。きっと、このペロペロは本当に自分のすること……。そうなったらグルグルは見た目? もしかして、ロリポップ?』

 

イツキ:『そうね。お姉さんもそうだと思うわ。フウのあの表情はまず食べ物よ。まだまだ確証はないけど、その可能性が高そうね』

 

エミリ:『はぁ……、そこまでわかっててわざとさっきまでの行動をしてたの?』

 

 

 

 エミリがため息混じりの声を出す。

 それほどまでに二人の様子はこれまで見たことない、真剣な様子だったのだ。

 

 

 もちろん進む先は己が欲望のため。

 

 

 それでも、元々人気配信者。

 こういったイベントには慣れていたのだ。

 

 

ルル :『フウ、他にヒントはあるかな?』

 

フウ :『カラフル、アマアマ』

 

ルル :『二人はどう思う? 僕はほぼ間違いないと思うけど?』

 

イツキ:『お姉さんも同じ意見よ』

 

エミリ:『なら、私も否定する理由はないね』

 

コウ :『もういいのかしら? では、回答をどうぞ!』

 

ルエイ:『『『ロリポップ』』』

 

コウ :『それじゃあ、フウちゃん。答えをどうぞ』

 

フウ :『せ、正解ポコ……。すごいポコ……』

 

 

 

 驚きの声を上げるフウ。

 それもそのはずで、思い思いに暴走すると思っていたみんながまとまっていたのだ。

 

 これでもうポン組なんて言われることはない――。

 

 

イツキ:『さぁ、終わったわよ。エミリちゃん、お姉さんとえちえちな話をしましょうね! 今すぐに』

 

エミリ:『四期生の絆を見せつけられたからね。イツキとは四期生の素晴らしさについて語りあうよ』

 

ルル :『ユキ先輩、見てくれました! 貴方のルルが活躍しましたよー!』

 

 

 

 伝言ゲームが終わった瞬間に暴走を始めてしまう三人。それを見た瞬間にフウは肩を震わせていた。

 

 

 

フウ :『せっかく……』

 

コウ :『ミスなく正解で四期生チームは三ポイント。優勝は四期生チームでした!』

 

フウ :『せっかく誉めようとしたポコなのに、やっぱりポン組だポコー!!』



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第8話:つよつよしゅーてぃんぐ ♯音犬

「うぅぅ……、本当に切り抜かれてる……」

 

 

 

 僕は恨みがましくMeeTubeの切り抜き動画を見ていた。

 昨日の全体配信で僕が噛んでしまった部分だけを繰り返し流して何が楽しいのだろう……。

 

 そう思ったのだが、その切り抜きを作っているのがココネとユイ。

 

 それを見た瞬間に僕は二人に連絡を入れていた。

 

 

ユキ :[うぅぅ……、切り抜き、本当に作ったんだ……]

 

ココネ:[当然です! ユキくんのかわいいところは共通財産ですから]

 

ユイ :[うみゅー、当然]

 

ユキ :[別にかわいいところでも何でもないよ。ただ、僕が恥をかいてるだけの部分だよ……]

 

 

 

 頬を膨らませて文句をチャットに書き込んでいると、三期生チャットとは別の連絡が届く。

 

 

 

オンプ:[はぅぅ……、今、お時間よろしいですか? そ、その、ちゃっと慣れなくて……、良かったら通話の方で……]

 

ユキ :[もちろん大丈夫ですよ]

 

 

 

 チャットを返した瞬間に通話が鳴る。

 

 

 

オンプ:『は、はじめまして。姫野オンプです』

 

『えっと、はじめまして……? でいいのですか?』

 

オンプ:『その、いつもの感じで話してもらったら良いですよ。私は元々こんな感じですから』

 

『でも、先輩ですから……』

 

オンプ:『先輩も後輩もないですよー。同じシロルーム仲間ですよね?』

 

『わ、わかりました。そ、その……がんばりますね……』

 

オンプ:『全然変わってないですよー。コラボまでに慣れてくださいねー』

 

『わふっ!? が、がんばります』

 

オンプ:『それでコラボの話ですけど――』

 

『あっ、そうでしたね。えっとシューティングゲームをするんですよね? どれをするのですか? 準備しますので』

 

オンプ:『あっ、準備はいらないですよ。私の家にもうありますから』

 

『……えっと、それってどういうこと――?』

 

オンプ:『それよりどこに迎えに行ったらいいですか? コラボの日は明日ですよね?』

 

『迎えに行く?? も、もしかしてオフコラボなんですか?』

 

オンプ:『――?? 違うのですか? その方がコラボってしやすいですよね?』

 

 

 

――えっと、三期生とはオフをしたことがあるけど、二期生の場合はどうなんだろう?

 

 

 

『その……、担当さんに確認してから――』

 

オンプ:『あっ、担当さんには連絡しましたよ。コラボをするのですから報告がいりますもんね』

 

『あっ、そうなんですね……』

 

 

 

――担当さんが良いのならそれでいいのかな? 事前に確認しているってことは僕の性別も知ってるってことだもんね。

 

 

 一抹の不安は抱えたままだけど、とりあえず僕は承諾をしていた。

 

 

『集まるなら駅前とかの方が良いですか?』

 

オンプ:『少し目立つと思いますけど、大丈夫ですかー?』

 

 

 

 目立つ? もしかして、オンプさんって有名人なのかな?

 

 

 

『僕はその……、普通の格好で行くので大丈夫だと思いますけど……?』

 

オンプ:『ユキくんスタイルですよね? 私も見るのは楽しみですー』

 

『えっ!? あの、えっと……』

 

 

 

 できれば普通の格好で行きたかったけど、前もって言われてしまう。

 確かにあの格好はあまり街では見かけないので、見間違えることもない。

 

 相手の容姿がわからない以上、目立つ格好をするのはおかしいことではなかった。

 

 それにあの格好をしていると男性に思われない。

 それが良いことかと聞かれると頭を悩ませてしまう。

 

 

『わかりました……。その、当日は犬耳フードがついたパーカーを着ていきます。その……、オンプ先輩はどんな格好をしてきますか?』

 

オンプ:『私ですか? そうですね……、真っ黒の車で行きますよ。では、よろしくお願いしますね』

 

『えっ!? く、車!?』

 

 

 

 クルマの絵が描かれた服ってことなのかな?

 あまりオンプ先輩のイメージではないけど、あくまでも僕が持っているイメージはアバターでの先輩だもんな。

 

 実際に会ってみると全く違う人、という可能性もあるよね。

 

 苦笑を浮かべながら明日の準備を始めていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 翌日、約束通り僕は犬耳フードのパーカー、白のワンピース、黒のレギンス、というユキくんセットを着た上で待っていた。

 

 

 

「えっと、黒の車の服を着た人……黒車の人……』

 

 

 

 容姿はわからないので、とりあえず言われた通りの人を探していた。

 

 ただ、場所は駅前。

 たったそれだけの情報で見つけられるほど、周りの人は少なくない。

 

 

 

「うーん、いないなぁ……」

 

 

 

 ただ、時間はまだ待ち合わせの一時間前。

 

 

 ココネじゃないからそんな早くに来るはずもないか……。

 

 

 ついついいつもの感覚で探してしまった。

 

 

 うん、僕が早く来すぎてしまっただけだもんね。約束の時間までゆっくりしようかな。

 

 

 

「すみません。その服ってもしかしてユキくんのですか?」

 

「えっ??」

 

 

 

 突然男の人から声をかけられて驚いてしまう。

 

 もちろんその人物は知っている人ではない。

 知らない人に声をかけられたので思わず警戒してしまう。

 

 一歩後ろに下がり、鋭い視線を向ける。

 

 ただ、その人が着ている服が車が描かれた黒い服だった。

 

 

――もしかしてこの人がオンプ先輩??

 

 

 いやいや、オンプ先輩は女性のはず。

 確かに僕がルルみたいなパターンもあるかもしれないけど、この人の場合は明らかに男の人とわかる声をしている。

 

 

――そういえば以前ココネからも注意されたな。

 

 

 知らない人とは話してはいけない。

 明らかに怪しい人だもんな……。

 

 

 

「よろしかったら写真を撮らせてもらっても――」

 

「そ、その、僕、人を待ってるだけなので――」

 

 

 

 一体僕の写真なんて撮って何をしようとしているのか……。

 全くその意図が分からずに警戒心をあらわにしてしまう。

 

 すると、その瞬間に僕の目の前に黒塗りされた車が止まり、中からスーツ姿でサングラスの男の人が出てくる。

 

 

――もしかして、写真を口実に僕を誘拐するつもりだった??

 

 

 思わずその場から逃げ出そうとする。

 しかし、その瞬間に体を掴まれて逃げることができなかった。

 

 

 

「は、離して――」

 

「えっと、ユキくん……ですよね?」

 

 

 

 僕にだけ聞こえるように小声で聞いてくる。

 その声は聞き慣れたオンプ先輩の声そのままだった。

 

 確かに僕の体を掴んでいるのは黒服の男ではなく、別の女性だった。

 

 白のワンピースをきた、それこそお嬢様としかいえないような人。

 長くもこもことした茶色の髪。

 優しくゆっくりとした声。

 

 イメージしたオンプ先輩そのままの姿の人がそこにいた。

 

 そして、その人がにっこりと微笑みながら僕に声をかけてきた男の人に話しかける。

 

 

 

「この子は私の連れで、別にコスプレをしてるわけじゃないんですよ。だから写真は遠慮してもらっても良いですか?」

 

「あっ、そうなんですね。それは申し訳ありません」

 

 

 

 男の人は素直に謝ってその場から去っていった。

 

 その様子を見て僕はほっと心を撫で下ろしていた。

 

 

 

「遅れてしまって申し訳ありません。なるべく早く着くようにしたのですけど」

 

「いえ、時間はまだ早いですから……。えっと、オンプ先輩? ですよね」

 

「はい。ただ、ここでは西園寺綾子(さいおんじあやこ)と呼んでもらっても良いですか? 色々と問題がありますので」

 

「あっ、そうですね。申し訳ありません」

 

「いえ、私は良いのですけど、その黒服さん達がですね――」

 

「綾子様。流石に人目が集まっております。そろそろ出発した方が宜しいかと」

 

「そうですね。ユキくんがよろしければ」

 

「ぼ、僕は大丈夫ですよ……。ただ、ずっと抱きしめられてるとその……恥ずかしいです」

 

「それもそうですね。確かにこの格好だと人目が集まりますよね。では、車に乗ってください」

 

 

 

 そのまま言われるがまま、黒塗りの車へ乗り込んでいた。

 でも、乗った後に再び抱きしめられていた。

 

 

 

「あ、あの……、さっきも言いましたけど、抱きしめられたら恥ずかしい――」

 

「大丈夫ですよ。ここだと人目を気にする必要はありませんから――」

 

「そ、そういう意味じゃなくてその……」

 

「あれっ? 違いました? ユキくんの担当さんからは『ユキくんは恥ずかしがり屋だから抱きしめて落ち着かせてあげると良いですよ』って聞いていたんですけど」

 

「ち、違います!! その……、逆に落ち着かないです……。色々と当たって……」

 

 

 

 西園寺は女性らしい体つきをしている。

 そんな状態で抱きつかれていたら当然ながら僕に色々と当たっている。

 

 そんな状態なので思わず頬を染めていた。

 

 

 

「あっ、すみません。お見苦しいものを――」

 

「いえ、むしろ僕の方がすみません」

 

「私は気にしていませんので大丈夫ですよ。別に女の子同士なわけですから――」

 

 

 

 にっこり微笑みかけてくる西園寺。

 

 

 

「えっと、こんな格好をしてますけど、僕はその……男……ですよ?」

 

「ふぇっ!?」

 

 

 

 抱きついたままの西園寺の表情が固まっていた。

 

 ただ、この後の反応はココネたちで分かっている。

 シロルームの面々は僕が男と知っても全く気にしない。

 

 むしろ、それを知った上でさらに抱きついてくるような人たちだった。

 だからこそ僕もさらに抱きしめられるのを覚悟していた。

 

 しかし、西園寺はすぐに僕を離して、俯いていた。

 

 

 

「ほ、本当に申し訳ありません。わ、私、その……、あの……、男の人に接するのは初めてで――」

 

「えっと、僕の方こそなんだかごめんなさい」

 

 

 

 結局西園寺の家へ辿り着くまで無言のまま微妙な空気を漂わせていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 一体どんなところに行くのだろう……と思っているとやたら大きな建物へと連れて行かれた。

 

 

 

「えっと、ここが西園寺先輩の家……??」

 

「あっ、は、はい。そ、そうです……えとえと、それであの……ほ、本当にコラボ、するんですよね??」

 

 

 

 緊張した様子の西園寺。

 ここまで緊張されていると僕の方も反応に困ってしまう。

 

 

 

「えっと……、し、しないならしないでも大丈夫……ですよ?」

 

「あっ、いえ、気にしないでください。するって言っちゃいましたから……」

 

「む、無理はしないでくださいね。僕はその……、無理にしなくても」

 

「いえ、大丈夫です。そ、その、まさか男の人とは思わずに。ど、どう接して良いのか分からなくて……」

 

「えとえと、僕の性別を知ってる三期生たちは何も変わらずに接してくれてますね。逆に僕の方が申し訳なく思うほどで――」

 

「あっ、そ、そうですよね。ごめんなさい。私の方が先輩なのに。ぜひ一緒にコラボしましょう」

 

 

 

 再び微笑みかけてくれる西園寺。

 その顔は赤く染まっているものの決意に満ちたものだった。

 

 

 

「そ、それが普通の反応だと思いますよ。でも、よろしくお願いします」

 

 

 

 その様子を見た僕は苦笑を浮かべながら頭を下げていた。

 

 

 

◇◇◇

『《♯音犬》つよつよしゅーてぃんぐ《姫乃オンプ/雪城ユキ/シロルーム三期生》』

1.9万人が待機中 20XX/07/18 20:00に公開予定

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【コメント】

:珍しいコラボ

:つよつよとは?

:安心して見られそう

:ユキくん、先輩との単独コラボはこれが初めてだな

 

 

 

オンプ:『はぅぅ……。みなさん、こ、こんばんは。姫乃オンプなのです。き、今日は後輩のユキくんさんを招いてシューティングゲームをしていくのです』

 

 

 

 少し緊張した様子を見せるオンプ。

 

 

――いや、違うか……。

 

 

 チラチラと僕のことを見ているところを見るとどう接したら良いのか迷っているみたいだった。

 相手が緊張していると分かると僕自身も緊張してしまう。

 

 

 

『えとえと……、わ、わふぅ。あ、あのあの、ゆ、雪城ユキ……です。きょ、今日はオンプ先輩のおうちにお邪魔してます。そ、その……、あの……、だ、誰か拾いに来てください……』

 

 

 

 すると、僕が緊張していると分かったのか、オンプは大きく深呼吸をして、にっこり微笑みかけてくる。

 そこにさっきまでの恥ずかしそうにしていた姿はなかった。

 

 

 

オンプ:『はぅぅ……、今日は私が拾ってきたのですよ? 誰にも渡さないのですよ? それに今日のユキくんさん、ちょっと固いのです。緊張してるのですか?』

 

 

 

――さすがに僕よりも長く活動をしているだけある。

 

 

 気持ちを切り替えたオンプは赤い顔をしながらもいつもの話し方をしていた。

 

 ただ、僕はまだそこまで上手く切り替えができない。

 今すぐにでも段ボールに隠れたくなる気持ちを抑えながら、何とか声を出す。

 

 

 

『そ、その……、やっぱり先輩とのコラボって緊張してしまって……。で、では、乙わふでした……』

 

オンプ:『はぅ!? 勝手に終わったらダメなのですよ!? まだこれからなのですよ。それにさっきからずっと敬語を使ってるのですよ。わかりました。ユキくんさんは今日一日敬語禁止令なのですよ。破ったら罰ゲームなのですよ』

 

 

『えとえと……、そ、そんなことを急に言われましても……いたっ』

 

 

 

 実際は痛みなんて全く感じないほど軽く頭を小突かれただけなのだけど、急なことだったので思わず声に出してしまう。

 

 

 

オンプ:『禁止したばかりなのですよ』

 

『そ、それをいうならオンプ先輩も同じことです……だよ』

 

オンプ:『私は語尾なのですよ。抜いたら私じゃなくなってしまうのですよ』

 

『で、ですよ、の部分は抜くことができま――できるよね?』

 

オンプ:『はぅぅ……、気づかれちゃったの。仕方ないので、今日はこの話し方でいくの』

 

『あとあと、別に普通のコラボでも良かったんじゃないで――? それにこの部屋、広すぎ……るよ? なんかモニターも僕より大きいし――』

 

オンプ:『……? ここはうちだと狭い方の部屋なの?』

 

 

 

 オンプが不思議そうな顔をしている。

 それを見るかぎり本当のことを言ってるのだろうけど、なおさら恐ろしかった。

 

 

 

『え、えと……、僕の家のリビングより広いよ……』

 

 

 

【コメント】

:ヒメノンはお姫様だもんな

:ユキくんは拾って帰ります

天瀬ルル:ユキ先輩が捕まってる……。助けに行かないと

:ルルちゃん草

:敬語禁止か。

:普段のユキくんは敬語じゃないもんな

:むしろヒメノンの方が大変だ

 

 

 

オンプ:『へ、部屋の広さはいいの。それよりも早速始めるの』

 

『そ、そうですね……。が、頑張りま……いたっ』

 

 

 

 気を抜いたらまたオンプに叩かれてしまう。

 今度は部屋の中にあったくまのぬいぐるみで。

 

 

 

オンプ:『ダメなの。私も頑張ってるの。だからユキくんさん……ユキくんも――』

 

『は……。う、うん。頑張る……』

 

 

 

 ギュッとくまのぬいぐるみを抱きしめて気合いを入れる。

 

 

 

オンプ:『では、今日のゲームを紹介するの。とはいっても、銃を持って互いに打ち合うだけの簡単なゲームなの』

 

『えっと、僕は初めてするのだけど……。だ、大丈夫?』

 

オンプ:『任せてなの。私はこう見えても何回かしたことあるの。つよつよなの』

 

『えっと……、どこかで見たことがある展開で、恐怖しか感じないんだけど……』

 

 

 

 そういえばカグラとコラボをしていたときも同じようなことを言っていた気がする。

 ゲームの種類が違うからかもしれないけど、あまりその自信を信じられずに恐怖を抱いていた。

 

 

 

オンプ:『大丈夫なの。対戦ならともかくこれは協力して相手チームと戦うの。私に任せてほしいの』

 

『わ、わかりま……わかったよ。ぼ、僕も精一杯頑張りま……頑張るね。そ、その……、しゃべり方に気を取られるかもしれないけど……』

 

 

 

【コメント】

:数回でつよつよw

:怯えるユキくん久々w

:結果が見えるwww



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第9話:つよつよしゅーてぃんぐぱーとつー ♯音犬/協力対戦。敵の敵は味方?? ♯カグユイ

 ゲームをやり始めて数分後。

 

 オンプはあっさり倒されて、必死に抵抗した僕もすぐに倒されてしまった。

 

 

――本当に一瞬で……。

 

 

 

『あ、あの、オンプ先輩……? えっと、つよつよ……は?』

 

オンプ:『うぅぅ……。こんなはずじゃないの……』

 

 

 

 オンプは涙目になりながら、ぎゅっと自分のスカートを握りしめていた。

 

 

――よほど負けたのが悔しいのかな?

 

 

 

『だ、大丈夫です。ちょ、調子が悪いときってありますよね……いたっ』

 

オンプ:『うぅぅ……、敬語はダメなの……』

 

 

 

 涙目になりながらも、いつの間にかそばに置いていたハリセンで叩いてくる。

 

 

 

『えぇぇ……、今も継続で……なの!?』

 

オンプ:『も、もちろんなの……』

 

『わ、わかり……。わかったよ。気をつける。でも、その……つよつよは??』

 

オンプ:『うぅぅ……、たまたま……。たまたまなの。本当はもっとつよつよなところを見せるの』

 

『だ、だよね……。うん、びっくりしちゃったよ』

 

オンプ:『つ、次は大丈夫なの。うん……』

 

 

 

【コメント】

:いつもの光景

:つよつよw

:少し涙声w

真心ココネ:ユキくん、オンプ先輩。頑張って……

 

 

 

 それから数回挑戦していくと段々やり方が分かってきて、僕もすぐには死ななくなってくる。

 ただ、一方のオンプは……最初と変わらずに速攻で死に続けた。

 

 

 これは協力して相手と戦うシューティングゲーム。

 最終的に二対一になったら勝てないので、結果的に僕たちは負け続けていた。

 

 

 

オンプ:『うぅぅ……。私、何度もやったことがあるのに……』

 

『その……、げ、元気を出して……。まだ始まったところだから。ほらっ、一緒に一勝を目指そうよ……』

 

オンプ:『ゆ、ユキくん……あ、ありがとうなの……』

 

 

 

 オンプが涙目になりながら僕の方をじっと見てくる。

 

 すぐ近くにオンプの顔がある。

 

 僕が頬を染めて、思わず顔を背けてしまう。

 すると、オンプも同じように顔を背けていた。

 

 

 ただ、その動きはアバターにも反映される。

 アバターも照れた表情でお互い顔を背け立ていた。

 

 

 

【コメント】

:照れてるw

:初々しいなw

天瀬ルル:ゆ、ユキ先輩……。ぼくのことは遊びだったのですか!?

:↑草

 

 

 

『えっと、ルルとはまだあそび配信はしたことない……かな? ほらっ、雑談オフだけだし、一緒に泊まったくらい?』

 

オンプ:『ふえぇぇぇっ!?!? と、泊まったの!?』

 

『えっ? 別に何もおかしいことではないで……よね?』

 

オンプ:『えっ!?!? だ、だって……えっ!?』

 

 

 

 オンプは何度も僕の姿を見てくる。

 

 別にルルとは同じ性別だし、それにオフ自体は他の人ともしている。今更驚かれるようなことでもないと思うけど……。

 

 

 

【コメント】

天瀬ルル:うぅぅ……、一緒にお風呂にも入ったのに

:そういえばそんなことを言ってたな

:ヒメノン驚きすぎw

真心ココネ:お、お風呂!? そうだった、忘れてました……

 

 

 

オンプ:『お、お、お風呂!?!? あのあの……、さ、さすがにそれはそのその……』

 

『えっと、そうで……だよね。うん、僕も恥ずかしいんだけどね……』

 

オンプ:『恥ずかしいとか恥ずかしくないとかじゃなくて……。えっと、あれあれっ?? わ、私が変なの?』

 

『あ、あははっ……、ぼ、僕も変だと思いま……思うよ?』

 

 

 

【コメント】

:オフだと別におかしいことないんじゃないか?

:ヒメノンはお嬢様だからな

:そうか、ヒメノンならおかしくないか

 

 

 

『そ、それよりも次のゲームに行きましょう。今度は勝てますよ』

 

オンプ:『そ、そうなの……。あっ……』

 

 

 

 オンプが思い出したようにいつの間にか側に置かれていたはりせんで叩いてくる。

 

 

 

『痛っ……』

 

オンプ:『ほらっ、敬語はなし……なの』

 

『う、うん、ごめん……。あれっ、今度の対戦相手……』

 

オンプ:『えっと、[ユイ羊]さんと[ポン姫]さんなの』

 

『……ど、どこかで聞いたことないかな??』

 

 

 

 心当たりがありすぎる名前。

 一人ならともかくそれが二人なのだから、おそらく間違いないはず……。

 

 

 

オンプ:『も、もしかして知り合いさんなの?』

 

『多分だけど、ユイとカグラさんじゃないかな?』

 

オンプ:『えっと、ユイちゃんさんとカグラちゃんさん!? 三期生の?』

 

『その名前には無理に[さん]を付けなくていいんじゃないかな? 僕の時にも思ったけど……』

 

オンプ:『この方が話しやすいの。で、でも、ユイちゃんさんはゲーム上手いし、カグラちゃんさんも上手かったから大変なの』

 

『えっと、カグラさんはどうかな……?』

 

 

 

 僕は苦笑を浮かべながらジッと対戦相手のことを見ていた。

 

 

 

◇◆◇

『《♯カグユイ》協力プレイでシューティングゲームをするわよ《神宮寺カグラ/羊沢ユイ/シロルーム三期生》』

1.5万人が視聴中 ライブ配信中

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カグラ:『みんな、こんばんは。今日も神宮寺カグラが来てあげたわよ』

 

ユイ :『うみゅ、それじゃあ、もう帰っても良いの』

 

カグラ:『帰らないわよ!? なんで速攻私が帰ることになってるのよ!?』

 

ユイ :『うみゅ、それじゃあゆいが帰るの。乙うみゅーなの』

 

カグラ:『って、なんでいつもいつも帰ろうとするのよ! ほらっ、頑張ってよ。せっかく初めてのコラボなんだからね』

 

ユイ :『うみゅー、全体コラボとか良くしててあんまり初めてって感じがしないの』

 

カグラ:『まぁ、それはそうよね。私も同じ気持ちよ。それで今日はどんなゲームをするのかしら?』

 

ユイ :『うにゅ、言ってたとおり協力して相手を倒すシューティングなの。バンバン倒すの』

 

 

 

 ユイは楽しそうに笑みを浮かべていた。

 

 

 

カグラ:『私にできるのかしら? 初めてやるのよ?』

 

ユイ :『うみゅー、ユイに任せておくの』

 

 

 

 両手を挙げて自信たっぷりに答えるユイ。

 その挙動に一抹の不安を感じずにはいられないカグラだった。

 

 

 

カグラ:『あれっ、相手って?』

 

ユイ :『えっと、 [ユキ犬姫]と[音姫]なの。どこかで聞いたことがあるの』

 

カグラ:『そういえば今日、ユキとオンプ先輩がコラボをしてたわね。ゲーム配信だったかしら?』

 

ユイ :『ふふふっ、ユキくんをコテンパンに倒してみせるの』

 

カグラ:『黒いわよ、ユイ。それよりもユキの敵になるのは料理対決以来ね。前は引き分けだったけど、今回は勝たせてもらうわよ』

 

ユイ :『うみゅ、やる気十分なの。コテンパンにするの。うみゅ、それならユキくんに通話をするの。きっと楽しいの』

 

カグラ:『大丈夫かしら? 向こうも配信中よね?』

 

ユイ :『ダメなら通話に出ないの』

 

カグラ:『それもそうね。試すだけなら良いかしら……』

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

ピコピコピコ……。

 

 

 

『あれっ、通話? ユイからだ』

 

オンプ:『ユキくんのお家芸の通知鳴らしなの』

 

『お、お家芸ってわけじゃないで……よ。それよりも――』

 

オンプ:『出て大丈夫なのです……、なの。きっと、対戦のことなの』

 

『わかりまし……、わかったよ』

 

 

 

 オンプがはりせんを持って構えていたので、慌てて訂正して通話ボタンを押す。

 

 

 

『どうしたの??』

 

ユイ :『うみゅ、声が聞きたかっただけなの』

 

『へっ!? それだけ!?』

 

ユイ :『うみゅ、それだけなの』

 

カグラ:『ち、違うでしょ!? ちょっとまだ切らな――』

 

 

 

 カグラがまだ何か言いたそうだったが、ユイはそのまま通話を切ってしまった。

 

 

 

『えっと……、何だったんだろう?』

 

オンプ:『いつものことなの。ユキくんの配信を見てるとそんな感じなの』

 

『えっ!? ほ、本当に??』

 

オンプ:『そうなの。今までの配信を見返してみるとよくわかるの。私も全ては見られてないけど……』

 

 

 

 オンプが申し訳なさそうな表情を見せる。

 ただ、それは仕方ないことだ。

 

 全員を追うなんて一日が四十八時間あっても無理なことだった。

 僕自身も最近は同期の皆は配信を見てるけど、他の人は切り抜き動画を見ることの方が多かった。

 

 そんなことを考えていると再び通知音が鳴る。

 今度の相手は――カグラだった。

 

 

 

『えっと、どうしたの?』

 

カグラ:『も、もうユイに切らせないから聞いてくれるかしら?』

 

『――今からする対戦のことだよね?』

 

カグラ:『えぇ、そうよ。改めて宣戦布告しようと思ってね』

 

『えっと、それはいいけど、カグラさんはいいの?』

 

カグラ:『どうかしたのかしら?』

 

『もうゲーム、始まってるよ?』

 

 

 

 僕は話しながらも自分のキャラを動かしていた。

 でも、カグラはその場で留まったまま。

 いつ狙われてもおかしくなかった。

 

 

 

カグラ:『あぁぁぁ、い、いつの間に始まったの!? と、とにかく覚悟すると良いからね!』

 

 

 

 それだけいうとカグラは通話を切る……ことなくそのままにしていた。

 そのおかげで向こうの状況もリアルタイムに入ってくる。

 

 

 

ユイ :『うにゅー、どんどん撃つの!』

 

カグラ:『いたたっ、私を撃ってるわよ!?』

 

ユイ :『気のせいなのー! どんどん撃つのー!』

 

カグラ:『痛い、痛いって! だから私を撃ってるって言ってるわよね!?』

 

ユイ :『味方の味方は敵なのー!!』

 

カグラ:『味方よ!? 敵じゃないわよ!!』

 

 

 

【コメント】

:実質三対一w

:カグラ様www

:これならまだ勝ち目があるかもwww

:いや、これは二対一対一じゃないか?w

:ユイちゃん一人勝ちがあるかもw

 

 

 

『えとえと……、大丈夫?』

 

カグラ:『っ!? だ、大丈夫よ!?』

 

ユイ :『うみゅ、ゆいが三人に圧勝するの』

 

カグラ:『だから味方よ!!』

 

オンプ:『えっと、これ、撃っちゃってもいいの?』

 

 

 

 オンプが困った様子で僕のことを見てくる。

 

 

 

『大丈夫だよ。二人とも僕たちを油断させようとしてるだけなので』

 

オンプ:『そ、そうなの? えいっ!』

 

『いたたっ、それ、僕だよ!?』

 

 

 

【コメント】

:フレンドリーファイアの応酬w

:ヒメノンw

:ヤバいな。チーム戦なのに個人戦だw

天瀬ルル:ぼくだったらユキ先輩と完璧なコンビネーションを見せることができたのに……

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 それから勝負は混戦を極め、気がついたときは僕たち三人は瀕死でユイ一人だけがピンピンしていた。

 

 

 

ユイ :『うぃなーなのー』

 

カグラ:『ど、どうしてあんな米粒くらいしか見えないところから当てられるのよ……』

 

『うぅぅ……、やっぱりユイは強かったよ……』

 

オンプ:『な、何もできなかったのです……』

 

 

 

 がっくりと肩を落とすオンプ。

 

 

 

ユイ :『ふふふっ、ゆいに勝つのは百億年早いの』

 

『それって一生勝てないってことだよね!?』

 

オンプ:『負けちゃったのです……』

 

 

 

 画面に表示されているのは『敗北』の文字。

 

 

 

【コメント】

:惜しかった

:ユイちゃんは強かった

:でも、ユキくんの腕上がってきてるな

天瀬ルル:ユキ先輩、今度は僕ともやりましょう

:ヒメノン、敬語に戻ってるねw

 

 

 

オンプ:『あっ……。ゆ、ユキくん、た、叩いて欲しいの』

 

 

 

 オンプははりせんを手渡してくる。

 ただ、さすがにそれを女の子相手に使う勇気は僕にはなかった。

 

 しかし、オンプは少し怯えた表情を見せながらはりせんを差し出して動かない。

 

 

 

『えっと、本当にいいの……?』

 

オンプ:『や、約束は約束なの……』

 

 

 

 別にはりせんで叩く約束はしてないんだけど、確かに敬語を使わない約束はしたもんね。

 そこまで言われてしまったらやるしかない。

 

 僕は覚悟を決めるとオンプからはりせんを受け取る。

 そして、涙目になりながらぎゅっと目を閉じるオンプに対して、軽く……。本当に軽く当たる程度にはりせんを当てる。

 

 

 

オンプ:『手を抜いてるの……』

 

『こ、これ以上はできないよぉ……』

 

オンプ:『で、でも、罰が……』

 

『ぼ、僕の罰じゃないよね!? ならこれで大丈夫だよ……。そ、それよりもほらっ、つ、次のゲームに行こうよ。ゆ、ユイ達には流石に勝てなかったけど、それでも僕たちはうまくなっているはずだよ!?』

 

オンプ:『そ、そうなの。今度こそ初勝利目指して頑張るの!!』

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 それからゲームをしばらく続けていた。

 流石になかなか勝てなかったものの、日が変わる頃にようやく僕たちは初勝利を飾ることができた。

 

 

 

オンプ:『――う、そ……』

 

『う、嘘じゃないよ! や、やっと勝てましたよ!?』

 

 

 

 思わず僕とオンプはハイタッチをしていた。

 そして、オンプは感極まって思わず僕に抱きついてくる。

 

 

 

オンプ:『や、やったよ、ユキくん! わ、私、こうやって勝つことがなかったから本当に嬉しいの』

 

『あぅあぅ……、そ、その……、お、オンプ先輩……!?』

 

 

 

 僕は必死に手足をバタつかせて抵抗したが、身体差によってまともに抵抗できなかった。

 

 

 

『お、オンプ先輩……、お、落ち着いて……。そ、その……、い、いろんなところが当たってます……』

 

オンプ:『はぅっ!?』

 

 

 

 オンプはようやく我に帰ると顔を真っ赤にして僕を離してくれる。

 

 

 

オンプ:『あぅあぅあぅ……、そ、その、あの……、ご、ごめんなさい……。私、その……、う、嬉しくて……』

 

『えとえと……、ぼ、僕の方こそその……、あの……、ありがとうございます?』

 

オンプ:『……ふふっ』

 

 

 

 僕が訳もわからずにお礼を言うとオンプは、クスクスと笑い出していた。

 それに釣られるように僕も笑い出す。

 

 

 

オンプ:『き、今日は本当にありがとう。その……、また一緒にやりませんか? また別のゲームも――』

 

『も、もちろんだよ。僕もその……、こうやって一緒に成長していけて……、た、楽しかったよ……』

 

 

 

 僕が微笑みかけるとオンプは顔を染める。

 

 

 

オンプ:『そ、そっか……。こういうところが他の子を落としていくんだね。天然のタラシさんなんだね……』

 

『そ、そんなことないよ……』

 

 

 

 あらぬ誤解を押し付けられそうになりながらも、良い雰囲気のままオンプとのコラボを終えることができた。

 



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第10話:ユキくん、リードする? ♯氷雪

 時間も遅くなってしまったので、このまま僕はオンプ先輩の家に泊まることになった。

 

 もちろん部屋は別。

 この辺り、オンプ先輩はさすがだった。

 

 いや、ただ家が広すぎるだけか。

 いくつも広く綺麗な客間が用意されている上に、それぞれがバストイレ付き……。

 

 高級ホテルと言われても頷いてしまいそうだった。

 

 

 

「きょ、今日はここで泊まってください……」

 

「えと、その……。ぼ、僕は無理に泊まらなくても……」

 

 

 

 思わず気が引けてしまう。

 

 それもそのはずで、部屋は天蓋付きのベッドやこれ以上ないくらい大きなテレビ。窓の外からはプール付きの庭が見え、とても客間には見えない。

 

 

 

「いえ、時間も遅くなりましたので、ぜひとも泊まっていってください。そ、その……。わ、私がよわよわだったせいで、こんな時間になってしまったのですから……」

 

 

 西園寺が本当に申し訳なさそうにしおらしく言ってくる。

 

 

 

「そんなことないですよ。そ、それに僕も楽しかったですから」

 

 

 

 そんな僕の返答に驚いたオンプ先輩だったが、すぐに笑みを浮かべていた。

 

 

 

「ふふふっ、みんながユキくんとコラボをしたがる理由が良くわかります。ユキくん、優しいです……。ま、また明日、お送りしますから今日のところはゆっくり休んで下さいね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 

 オンプが部屋を去って行ったあと、僕はお風呂に入った。

 そして、いつの間にか用意されていた寝間着(しかも犬の着ぐるみ)を着て、そのままベッドへ飛び込む。

 

 そして、スマホを眺めていると充電が切れそうになっていることに気づく。

 

 

 

「あっ……、充電しないと……。でも、充電器も持ってきてないし、帰ってからでいいかな……」

 

 

 

 SNSの返事とかができないのが心残りだけど、明日に説明したら分かってもらえるよね……。

 

 

 そばに置かれたテーブルにスマホを置くと次第に瞼が重くなっていく。

 意外と疲れていたようで僕はそのまま眠りについてしまった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 こよりは先ほどのユキとオンプ先輩の配信を見た後、慌てて彼にチャットを送っていた。

 

 

 

ココネ:[ユキくん、さっき話してたお風呂のことってどういうことですか? まさか本当にルルちゃんと一緒に入ったりなんてしてませんよね?]

 

 

 

 ただ、本当なら祐季にだけ送ったつもりだったが、動揺していたこともあり、三期生のグループチャットに送ってしまう。

 

 

 

ユイ :[うみゅ、ゆいとも入るの!]

 

ココネ:[えっ!? は、入るのですか!?]

 

カグラ:[流石にダメでしょ?]

 

ユイ :[ゆいは問題ないの。お風呂、お風呂(੭ु˙꒳˙)੭ु⁾⁾]

 

ココネ:[わ、私が許しません!]

 

ユイ :[でも、ルルちゃんとならおかしくないの]

 

カグラ:[まぁ、ルルのあの入れ込み様なら別におかしくないわね]

 

ココネ:[えっ? お、おかしいと思うのは私だけですか??]

 

ユイ :[うみゅ、そうなの]

 

カグラ:[それにしてもいつも一番に反応するユキが全く姿を見せないわね。何かあったのかしら?]

 

ユイ :[うみゅ、オフコラボだからお泊まりなの!]

 

ココネ:[あっ、そうですね。今頃オンプ先輩とお泊まりしてるのですね]

 

 

 

 ユキの返事がないことを気にしていたココネはホッと安堵の息を吐いていた。

 それと同時に、またユキがオンプ先輩とお風呂に入るのでは、と不安を感じずにはいられなかった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

――早起きしてしまった。

 

 

 

 時間はまだ朝の五時。

 ようやく日が上り始めたかという時間である。

 

 部屋には大きな窓が付いているとはいえ、しっかりとカーテンが閉められており、それを開けない限り日の光が部屋に入ってくることはない。

 

 それならなぜこんな時間に目が覚めたのか?

 

 ベッドが寝にくかったのかといえば、むしろその逆で体にフィットする柔らかいマットとふかふかで暖かい掛け布団は、十分に天日干しされていたようで日光の香りを感じたほどだった。

 

 

――たまにしか干すことのない僕の布団とは大違いだった。

 

 

 何も気になることがなければいくらでも寝ることができただろう。

 でも、配信後の反応を見ずに寝たというのがなくて、どうしてもそのことが気になってしまった。

 

 ただ、見ようにもスマホの充電が切れていては確認することができない。

 その状況は昨夜とは変わらない……はずだった。

 

 

 

「――あれっ?」

 

 

 

 気がつくといつの間にかスマホが充電されており、普通に電源がつくようになっていた。

 

 

 

「あっ、この机が置くだけで充電される様になっているのか……」

 

 

 

 置いただけで充電できるものがあることは聞いたことがある。

 所詮その程度で、実際に使ったことはないけど――。

 

 

 早速電源をつけるとものすごい数の通知が現れる。

 

 

 

「わわっ、ど、どうしてこんなに……」

 

 

 

 連絡をくれた人たちの名前をみる。

 

 

 ココネ、カグラ、ユイ……と言った三期生の名前がまず目に止まる。

 同期である彼女たちとは予定がなくても毎日連絡をとっている。

 一日連絡が取れなかったのだから通知があってもおかしくない。

 

 それと最近だとよく来ているのはルルだった。

 当然ながらルルからも連絡が来ている。

 

 

 

「ココママ……、何かあったのかな? やたらたくさん通知が来てるけど……。あれっ? ツララ先輩からも来てる??」

 

 

 

 そういえばコラボをするって言ってたよね。

 

 

 早速ツララ先輩からのチャットを開く。

 

 

 

ツララ:[――明日拾いに行っても良いかしら?]

 

 

 

 相変わらず簡素な連絡。

 

 

――これが昨日に来てたってことは、今日の話だよね? 一緒にコラボをしようって意味だと思うけど、本当に僕を拾いにくるって意味だったら大変かも。今は家に誰もいない訳だし……。

 

 

 そう思った僕は慌ててツララ先輩に返信をする。

 

 

 

ユキ :[えっと、今僕はオンプ先輩の家にいまして、その――]

 

ツララ:[――そう、わかったわ]

 

 

 

 短い文章で理解してくれるツララ先輩。

 これで別の日にコラボを延ばしてくれるはず……。

 

 

 

ツララ:[――それじゃあ、あとからよろしく]

 

ユキ :[えと……、そ、それってどういう――]

 

 

 

 詳しいことを聞こうと思ったタイミングにはツララ先輩がオフラインになっていた。

 

 

 

「あっ……。もういなくなったんだ……」

 

 

 

――ツララ先輩は相変わらずだな……。

 

 

 思わず苦笑を浮かべてしまう。

 さて、それじゃあ僕があとすることは……。

 

 

 

「ココママたちに連絡を返しておかないと……。ってゆ、ユイとは一緒にお風呂には入らないからね!?」

 

 

 

 ログを遡って見つけてしまったユイのコメント。

 それに思わずツッコミを入れてしまった。

 

 

 

「おっと、それどころじゃないね。みんなにチャットを返していかないと……」

 

 

 

 それから僕はオンプ先輩が朝食で呼びに来るまでの間、ずっとチャットを返し続けるのだった――。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ユキくんは朝はご飯で良かったですか? その……、パンが良いなら準備させますけど……」

 

「えとえと、パンで大丈夫……ですよ? それよりもあの……、えっと、その――」

 

「(ぱくぱく……)」

 

 

 

 不安そうな表情を見せるオンプ先輩の隣で僕は苦笑を浮かべながら隣を見ていた。

 そんな僕たちの隣で黙々とご飯を食べている長い黒髪の小柄な少女。

 

 

 

「そ、その……、オンプ先輩の妹さん……ですか?」

 

「あ、あははっ……。ち、違いますよ。その子は三国椎名(みくにしいな)ちゃん。えっと、この子もシロルー――」

 

「――ユキを拾いに来た」

 

 

 

 簡潔に理由だけ言ってくる少女。

 その雰囲気はまるで――。

 

 

 

「も、も、もしかしてツララ先輩ですか!? ど、どうしてツララ先輩がここにいるのですか!?」

 

「――拾いに来た?」

 

「そ、それだけじゃ分からないですよ!?」

 

「えっと、あははっ……。なんか急に来たんですよ、椎名ちゃん。私は朝ご飯を一緒に食べに来たとばかり思ったんですけど……」

 

「――ユキがオンプの家にいると言った。だから拾いに来た。それだけ……」

 

「ひ、拾わなくても……、そ、その、普通のコラボをするんですよね??」

 

「――ユキはオフ限定でしょ? いつもオフしてる……」

 

「ち、違いますよ!?!? 僕は普通のコラボでも……。えっと、べ、別にコラボなしでも良いんですよ!?」

 

「――今日オフコラボする。もう宣伝した」

 

 

 

 ツララ先輩はカタッターの画面を見せてくる。

 

 

 

 氷水ツララ @turara korimizu 3時間前

犬拾いに行く ♯氷雪

 

 @1,387  ↺1万  ♡1.5万

 

 

 

「えっ!? こ、これって、もしかしてコラボの――?」

 

「――ユキがオンプの家に拾いに来てっていったから拾いに来た。このままコラボ。……OK?」

 

「全然OKじゃないですよ!? ……ま、まぁ、コラボはする予定でしたし、僕の心の準備以外はできてますけど……」

 

 

 

 しかし、僕の言葉を気にした様子はなく、ツララ先輩はそのままオンプ先輩の方を向いていた。

 

 

 

「――オンプはどうする? 入る?」

 

「私は今日、自分の枠を取ってますので残念ですけど……。次こそはつよつよな姿をユキくんに見せないといけませんので、猛特訓枠です!」

 

 

 

 オンプ先輩は両手をギュッと握りしめて気合を入れていた。

 その姿が逆に微笑ましくて、思わず笑みを浮かべてしまう。

 

 

 

「――そう」

 

「そ、それじゃあ、僕も自分の枠を――」

 

 

 

 こっそりその場から離れようとしたけど、すぐにツララ先輩に腕を掴まれてしまう。

 そして、少し涙目になりながら上目遣いをしてくる。

 

 

 

「――ユキは拾って帰る。ユキは枠取ってないから。それとも私じゃ嫌? 私のこと、嫌い?」

 

 

 

 その言葉に僕は一瞬言葉に詰まってしまう。

 

 

 

「うっ、。そ、その、嫌でも嫌いでもないですよ? で、でも何で僕の枠を確認してるのですか!?」

 

「えっと……、一応配信予定は流れてますからね……」

 

 

 

 オンプ先輩が苦笑を浮かべていた。

 すると、ツララ先輩はしてやったり、と言った感じにドヤ顔を見せながらピースをしていた。

 

 

 

「――メンバーの分はチェック済み」

 

「ぼ、僕も確かにチェックしてるけど……。最近直接見にいけなくて切り抜きになっちゃってるかも」

 

「――それじゃあ、ユキは拾っていくわね」

 

 

 

 逃げ場のなくなってしまった僕は観念して、がっかり肩を落としていた。

 

 

 

「うぅぅ……、わ、わかりました。で、でも、そ、その……、怪しいところには連れて行かないでくださいね?」

 

「――私が気持ちいいことをしてあげる」

 

「や、やっぱり僕帰るーーー!!!」

 

 

 

 艶やかな表情を浮かべてくるツララ先輩に僕はその場から逃げ出し、そして、すぐに捕まっていた。

 その様子にオンプ先輩は笑みを浮かべる。

 

 

 

「ふふっ、これじゃあどっちが女の子かわからないですね」

 

「ぼ、僕は男ですからね!?」

 

「――どっちでも構わないわ」

 

「ぼ、僕が構うんですよ!?」

 

「あ、あははっ……、が、頑張ってくださいね」

 

 

 

 苦笑をするオンプ先輩に見送られて、僕はツララ先輩の家へと向かっていった。

 

 

――僕が家に帰れるのはいつになるのだろう?

 

 

 

◇◇◇

『《♯氷雪》犬を拾ったわ《氷水ツララ/雪城ユキ/シロルーム》』

2.3万人が待機中 20XX/07/19 20:00に公開予定

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【コメント】

:ユキくん拾われたw

:こんわふー

:こんつららー

:今日は段ボールだなw

:ユキくんで会話になるのか?

 

 

 

 配信画面の中央には既に僕の段ボールがポツンと置かれている。

 それ以外には特に何も置かれていないので、逆に孤独感を味わってしまう。

 

 

――実際に僕がそこにいる訳じゃないのに……。

 

 

 そして、段ボールはまるで無関係と言わんばかりに画面の端から僕たちの姿を表示させるツララ先輩。

 

 

 蒼銀の少し長い髪。青いぶかぶか気味のワンピースを着た小柄な少女であるツララ先輩。

 

 茶色の少し長い髪。白のワンピースとその上から黄色の犬耳付きフードパーカーを着た標準タイプのユキくん(ぼく)

 

 

 小柄な二人が並ぶと、かわいさのあまり思わず微笑んでしまいそうだった。

 しかし、そんなかわいさとは裏腹にツララ先輩の一言はとても強烈なものだった。

 

 

 

ツララ:『――来たわよ』

 

 

 

 腕を組み、それ以上何も言うことはないといった感じに目を閉じていた。

 

 

――まさかいつもこんな感じの配信なの?

 

 

 そういえばツララ先輩はあまり口数が多くなく、よく喋るタイプではなかった。

 だからこそ、僕が頑張る必要がありそうだった。

 

 

 

『ちょ、ちょっとツララ先輩!? じ、自己紹介から始めないと!?』

 

 

 

 僕の言葉を聞いたツララ先輩が仕方なさそうに口を開く。

 

 

 

ツララ:『――氷水ツララ(こおりみずつらら)

 

『そ、それだけですか?』

 

ツララ:『――何か問題でも?』

 

『えと……、な、何もないです……』

 

 

 

 僕は思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

 

 

【コメント】

:つらたんの圧w

:隠れる段ボール取られてるから逃げられないw

:問題しかないw

:ユキくんがんばれw

 

 

 

『わ、わふわふっ。こ、今度は僕の番ですね。そ、そのその、僕は三期生の雪城ユキです。き、今日は、と、突然拾われちゃいました。えとえと、ざ、雑談の配信になるのかな? が、頑張っていきます!』

 

ツララ:『――頑張らなくても良いわよ』

 

 

 

 僕の決意は一瞬でツララ先輩に否定されてしまう。

 

 

 

『えっ!? で、でも――』

 

ツララ:『――私が拾ってきたのだから、私に任せておくと良いわよ』

 

『つ、ツララ先輩……』

 

 

 

 そっぽを向きながらなんとか先輩らしいところを見せようとしてくるツララ。

 そういえばアーカイブで見たココネとのコラボの時もこんな感じだった気がする。

 

 つまり、僕はツララ先輩に頼る形で配信を進めていけばいいわけだね。

 

 

 

ツララ:『――飼い犬の面倒はしっかり見る。お手』

 

『わふっ!』

 

 

 

 言葉につられてツララ先輩の手に自分の手を乗せていた。

 

 

 

ツララ:『――お座り』

 

『わふわふっ』

 

 

 

 僕はその場に座り込もうとすると、ツララ先輩が無理やり自分の膝に座らせてくる。

 

 

 

『つ、ツララ先輩!?』

 

ツララ:『――飼い主の言うことは絶対。次はちん……』

 

『そ、それは言ったらダメですよ!?』

 

 

 

 なんとか危険なワードを言われる前に言葉を挟むことができた。

 

 

 

ツララ:『――別に変な言葉じゃないのに……。ちん……』

 

『わ、わふっ!? だ、だからダメですよ!? そ、それより最初は何をしますか?』

 

ツララ:『――マシュマロを読んでいくわ』

 

 

 

【コメント】

:つらたんが先輩らしさを

:ユキくんも頑張ろうとしてる

:いつまで持つかなw

:ユキくんの犬の姿、かわいい

 

 

 

ツララ:『――[次の歌枠はいつですか?]』

 

『えっと、これはツララ先輩が答えるべきものじゃ――?』

 

ツララ:『――ユキが答えると良いわ』

 

『ち、違いますよね!? そ、そもそも僕、歌枠なんてしたことないですからね!?』

 

ツララ:『――ならするといいわ。明日で良いかしら?』

 

 

 

 問答無用に僕の放送内容を変えようとしてくるツララ先輩。

 速攻で僕は反論していた。

 

 

 

『よ、よくないですよ!? そ、そもそも僕、人前で歌うのはその……に、苦手で――』

 

ツララ:『――人がいるって考えるからダメなのよ』

 

『そ、それならツララ先輩。う、歌を教えてください……』

 

ツララ:『――うっ』

 

 

 

 僕が上目遣いで頼むとツララ先輩は息を詰まらせていた。

 

 

 

【コメント】

:ユキくんナイスw

天瀬ルル:ユキ先輩の歌、楽しみ

:当たり前のようにルルちゃんがいて草

《:¥5,000 つらたん歌ってー!》

:つらたんとユキくんのコラボ歌枠か

 

 

 

『ちょ、ちょっと待って!? ぼ、僕は歌は下手だからその……あの……!?』

 

ツララ:『――仕方ないわね。ユキがどのくらい歌えるかも知りたいから、マシュマロ終わったら何曲か歌う?』

 

『えとえと、い、いいのですか? その……、無理に歌わせることになって――』

 

ツララ:『――仕方ないわよ。コメント欄を見るとわかるわ』

 

 

 

 ツララ先輩に促されるまま、僕はコメント欄を確認する。

 

 

 

【コメント】

《:¥500 歌楽しみ》

:わくわく

《天瀬ルル:¥10,000 ユキ先輩の歌代》

:どんな歌を歌うのかな?

《:¥1,000 投げろ。つらたんが歌うには金がいる》

《:¥500 投げ時か》

《:¥2,000》

《:¥1,000》

 

 

 

『わわっ、こ、こんなにたくさん……。み、みんな無理しないで――』

 

ツララ:『――どんどん投げると良いわ』

 

『そう、どんどんと……。って、そんなこと言ったらダメですよ!? 本当にたくさん来ちゃいますから……。み、みんな、無理をしたらダメだからね!?』

 

 

 

 僕が慌てて停止を促す。

 すると、スパチャの勢いは更に加速していた。

 

 

 

【コメント】

《:¥1,000 ユキくんに心配してもらえるなら》

《天瀬ルル:¥20,000 ユキ先輩に頼まれたら投げるしかないですよ》

《:¥500 投げろー》

《:¥10,000 飼育代》

《:¥5,000 カラオケ代》

《:¥3,000 教育費》

 

 

 

『わわっ、さ、更に加速した!?』

 

ツララ:『――なるほどね。あそこは引いた方がお金になるのね。勉強になるわ』

 

『つ、ツララ先輩も冷静に分析してないで助けてくださいよぉ!?』

 

ツララ:『――大丈夫よ』

 

 

 

 ツララ先輩の自信たっぷりの声。

 さすが僕とは配信歴が違うだけあって頼もしい。

 

 

 

ツララ:『――私はいくらもらっても困らないわ!』

 

『歌!! 歌行きますよ!! さっさと歌ってしまってこの枠閉じましょう!!』

 

ツララ:『――はっ!? なるほど、今から一日歌い続けたらお金の山が……。――ユキ、侮れないわね』

 

『そ、そんなこと考えてないですよ!? は、早く歌を――』

 

ツララ:『――仕方ないわね。それじゃあ、いつもみたいにリクエストをスパチャで……』

 

『ふ、普通のコメントでリクエストを書いてください。そ、その、変なことはしないでください……』

 

ツララ:『――スパチャは変なことじゃないわよ?』

 

『ぼ、僕の体が持たないんですよ!? 十分に変なことです!』

 

ツララ:『仕方ないわね。それじゃあ、普通に投げてくれたら良いわ。適当に拾って歌っていくから』

 



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第11話:歌うユキくん ♯氷雪/ふとした疑惑 ♯ココエミ

――うぅぅ、本当に僕が歌うの??

 

 

 少し体を強張らせながら僕は画面をジッと見て固まっていた。

 恐怖から小刻みに震えてしまう。

 

 

――音痴の僕が人前で歌う?? 今まで誰かと一緒にカラオケとかに行くこともなかった僕なのに?

 

 

 

 動揺のあまり目の前が真っ白になってしまう。

 すると、突然ツララ先輩は僕を抱きしめてくる。

 

 

 

『つ、ツララ先輩!? い、一体何を!?』

 

 

 

 まさかツララ先輩まで抱きしめてくるとは思わずに、僕は驚きの声を上げてしまう。

 しかし、ツララ先輩はいつもと変わらない淡々とした口調で言ってくる。

 

 

 

ツララ:『――大丈夫。安心して。楽しんでくれたら良いから……』

 

『あぅあぅ……、そ、その……、あ、あの……』

 

 

 

 今は歌うことの動揺より抱きしめられていることの緊張の方が大きいのだけど……。

 

 しかし、それに気づいていないのか、ツララ先輩はさらに顔を近づけてくる。

 そして、すぐ耳元で艶やかな吐息と共に呟いてくる。

 

 

 

ツララ:『――ただ歌うだけだよ』

 

『わふっ!?!? あ、あの……、その……、ち、近いです。近いですよ……。そ、それより……、い、今のまま歌う……のですか?』

 

 

 

 驚きのあまり、顔を俯け、赤く染まってる顔を隠しながら答えると、ツララ先輩は首を傾げていた。

 

 

 

ツララ:『――?? 歌うときはもちろん普通に歌う』

 

 

 

 なにおかしいことを言っているのか、と言わんばかりに飄々と言ってくる。

 その態度を見て、僕は乾いた笑みを浮かべていた。

 

 

 

『……ですよね』

 

 

 

 さすがにココネやユイみたいにはならないよね。

 むしろこの態度が普通だろう。

 

 

 僕はどこかホッとため息を吐く。

 すると、ツララ先輩はすぐに離れてくれる。

 

 

 

ツララ:『――落ち着いた?』

 

『あ、はい。ありがとうございます。も、もう大丈夫です。が、頑張れます』

 

 

 

 僕が大きく頷くとツララ先輩は小さく微笑んでいた。

 

 

 

ツララ:『――それじゃあ頑張って。歌、適当に入れるから……』

 

『はいっ!! えっ?? ぼ、僕一人ですか!?』

 

ツララ:『――ユキがどのくらい歌えるのか見たい』

 

『そ、それはそうですよね……。うぅぅ……、が、頑張りますけど、その……き、期待しないでください。ぼ、僕、歌は本当にダメで……』

 

ツララ:『――大丈夫。耳塞いでおくから』

 

『それ、全然大丈夫じゃないですよね!?!?』

 

ツララ:『――冗談。しっかり聞いておく。でも、ユキは誰も聞いていないと思って歌ってくれたら良いから』

 

 

 

 ツララ先輩なりに、自然と僕が歌えるように考えてくれたのだろう。

 それなら僕は頑張って歌うしかできない。

 

 

 

『は、はいっ。が、頑張ります!!』

 

 

 

【コメント】

:つらたん、お姉さんしてるね

天瀬ルル:ついにユキ先輩の歌が始まる……

:ルルちゃんは相変わらずw

:ユキくん、気合十分だねw

姫野オンプ :ツララちゃんの歌、好きなのです

美空アカネ :はーっははっ、私参上!!

:シロのメンバーが集まってきたw

:ひめのんがいるから安心だな

:暴走特急がいるせいで抑えが効かないけどなw

 

 

 

『うっ……、な、なんでこのタイミングでみんなくるの……。ぼ、僕の歌は人に聞かせられるものじゃ――』

 

ツララ:『――始まる』

 

 

『も、もう……!?』

 

 

 

 ツララ先輩が流してきた曲は有名なアニメの主題歌だった。

 これならたしかに僕でも歌詞が分かる。しっかり考えて曲を選んでくれたようだ。

 

 でも、わかるだけで歌えるとは言っていない。いや、できるだけまともに聴こえるように頑張ろう。

 

 僕は全身で音程をとりながら歌が始まるのを待っていた。

 

 

 

ツララ:『――頑張って』

 

『は、はい。え、えと……。~~♪(棒読み)』

 

 

 

 精一杯歌詞通り、音程通りに歌おうと頑張る。

 ただ、慣れていない、ということもあり必死に曲に追いつこうとするだけで精一杯だったが。

 

 

 

【コメント】

:棒読み助かる

:上下に揺れて音程をとるユキくん、かわいいw

:ユキくん……本当に苦手だったんだ……

天瀬ルル:ユキ先輩、とってもかわいいです。お持ち帰りしたいです。いや、します!!

美空アカネ :あははっ、棒読みじゃん! 私と良い勝負だな

姫野オンプ :とっても頑張りました、なの。可愛かったの

《:¥1,000 頑張れユキくん》

《:¥500 歌代》

:かわいい

 

 

 

 ようやく一曲歌い終えるとコメント欄では必死に僕を応援するコメントが流れていた。

 明らかに音程がはずれていた。

 それにどう見ても音痴にしか聞こえない歌。

 

 でも、それでもみんな僕のことを貶めようとはせずに褒めてくれる。

 それを見ていると嬉しさもあり、下手な歌を聞かせてしまった恥ずかしさもあって自分から段ボールに入ってしまう。

 

 すっぽり頭から隠れてしまうユキくん。

 そんな僕を見て、ツララ先輩はため息交じりに言っていた。

 

 

 

ツララ:『――歌ってる姿は可愛かったんだけどね。慣れるところから始めましょうか』

 

『はい……』

 

ツララ:『――そのうちシロルーム全体ライブとかもあるから』

 

 

 

 嫌なことを聞いてしまったかもしれない。

 基本的に歌うのは歌が得意なメンバーだろうけど、それでも僕自身も歌う必要が出てくるだろう。

 

 段ボールから恐る恐る顔を出して、青ざめた顔をしながら答える。

 

 

 

『が、頑張って練習します……』

 

ツララ:『――教えられることは教えるから』

 

『あ、ありがとうございます』

 

 

 

 ツララ先輩の優しさに感謝しながら僕は頭を下げていた。

 

 

 

ツララ:『――とにかくまずは歌を楽しむところから。一緒に歌いましょうか』

 

『は、はい。よ、よろしくお願いします』

 

 

 

 ツララ先輩は僕の肩に手を回してくる。

 そして、二人で一つのマイクを使い、一緒に歌を歌う。

 

 たじたじとした態度の僕とは裏腹に、ツララ先輩の歌う姿は堂々としてかっこよく、輝いていた。

 

 僕もあんなふうに堂々と歌えるようになれるかな……。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 それから僕は放送の続く限り、ツララ先輩に歌の特訓をしてもらうことになった。

 一緒に歌ったり、ツララ先輩に見本を見せてもらったり、僕が一人でもう一度歌ったり――。

 

 それですぐに歌が良くなる訳ではなかったが、前よりも楽しく歌うことができるようになっていた。

 最後には歌いながら笑みすら溢れていた。

 

 

 

『こ、これからは僕も歌の枠を開いて練習をしようかな……』

 

ツララ:『――日頃から練習をしていると上手くなる』

 

『ツララ先輩も練習をしているのですか?』

 

ツララ:『――企業秘密よ』

 

『同じシロルームですよー!?』

 

ツララ:『――内緒よ』

 

『えーっ』

 

 

 

 おそらく今の歌唱力を保つために練習をしているのだろう。

 でも、それを言うのが恥ずかしいから言いたくないわけだ。

 それに、置かれている配信用機材。

 特に音響関連は機械に強いカグラにも引けを取らないものばかりだった。

 

 

――きっと裏ではものすごく練習をしているのだろう。

 

 

 それを察した僕はそれ以上、無理に聞こうとはしなかった。

 

 

 

◇◆◇

『《♯ココエミ》憧れの先輩と雑談《魔界エミリ/真心ココネ/シロルーム》』

1.1万人が視聴中 ライブ配信中

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 ユキくんたちのコラボが配信されている同時刻。

 ココネたちもコラボ配信を行っていた。

 

 

 

エミリ:『みんなー、こんえみりー! シロルーム四期生、魔界エミリ(まかいのえみり)だよ。今日はなんと憧れの先輩とコラボをすることができたよー。これを機に同期の子と仲良くなる方法を色々と聞いちゃうからねー』

 

ココネ:『悪魔っ子のみんな、こんここー! 三期生の真心ココネ(まごころここね)ですよー。今日は可愛い後輩のために一肌脱ぎたいと思います』

 

エミリ:『えっ、服を脱いでくれるの? どうしよう……。私、そういう趣味はないんだけど……』

 

ココネ:『ち、違いますよ!? そんなことをするはずないですよね!?』

 

エミリ:『知ってるよ。だからわざとからかったんだよ』

 

ココネ:『先輩をからかったらダメですよ』

 

エミリ:『あはははっ。私はそんなことしないよ。やりそうな同期の子はいるけどね』

 

ココネ:『イツキちゃんだね……』

 

エミリ:『うん……、そうだね。どうしたら仲良くなれるかな……』

 

ココネ:『みんな、十分仲がいいと思いますよ?』

 

エミリ:『そんなことないよ。フウちゃんは確かに仲良くなろうとしてくれてるけど、イツキちゃんとルルちゃんは……ね。どうしたらココママ先輩みたいにみんな仲良くなれるの?』

 

ココネ:『ママじゃないですよー。でも、みんな仲良く……ですか? うーん、そこまで私たちは意識したことがないんですよね。意識しすぎるのが良くないんじゃないですか?』

 

エミリ:『でも、意識しないとルルちゃんはフラフラっとユキ先輩に近づいて……。そうだ、ユキ先輩で思い出したんだけど、ココママ先輩って確かユキ先輩とお泊まりしてたよね? 流石に一人暮らしの部屋で一緒にお風呂は入らないよね?』

 

ココネ:『私の部屋だと一人で入るのが精一杯ですね。一人暮らし用の部屋ですから――。でも、小柄なら一緒に入ったりはできるんじゃないかな?』

 

エミリ:『そ、そうだよね。うん、普通に考えて一緒にお風呂に入るなんて無理だよね。いくら尊敬している先輩と一緒に、でも』

 

 

 

 その一言で誰のことを言っていたのか、ココネにはわかってしまう。

 

 

 ユキくんとルルちゃん。

 流石に異性同士で一緒にお風呂に入るのは良くないと思ってしまう。

 

 

 ユキくんは小柄だし、ルルちゃんも小柄。

 少し広めのお風呂なら入ることはできる。

 

 そして、エミリも同じことを考えていた。

 

 

(ルルちゃんが男の娘だし、流石に女の子のユキ先輩と一緒にお風呂に入るのはまずいよね。どう考えてもおかしいよね? そもそも私たちと先に入るのが筋だよね?)

 

 

 全く同じことではなく、少し黒い部分が見え隠れしていた。

 そして、無意識まじりに、コツコツ……、と机を叩いていた。

 

 

 

【コメント】

:でたw

:台パン助かるw

:ルルちゃん大好きだもんねw

 

 

 

ココネ:『え、エミリちゃん……、そ、その……、机を叩いてますよ……』

 

エミリ:『あっ……、え、えへへっ……。た、叩いてないですよ。タイピング音ですよ。あははっ……』

 

ココネ:「全然タイピング音には聞こえなかったけど……』

 

エミリ:『嫌だなぁ。ココママ先輩の聞き間違いだよ。まだ耳が遠くなるには早いよ』

 

ココネ:『わ、私、そんなに年取っていません!!』

 

エミリ:『そ、そうだよね……。えっと、ご、ごめんなさい……』

 

 

 

 ココネの言葉から発せられた圧にタジタジになりながらエミリは素直に謝っていた。

 

 

 

【コメント】

:真面目なココママだ

:エミリンもそこまで暴走してないね

:なんで真面目に議論してるんだろう?

:ユキくんとルルちゃんが一緒にお風呂に入っただけ……だよな?

:……羨ましかったんだろうな

 

 

 

エミリ:『べ、別に羨ましいわけじゃないからね!?』

 

ココネ:『羨ましい……。うん、そうなのかな?』

 

エミリ:『こ、ココママ先輩!?』

 

ココネ:『エミリちゃんもそうですよね? 同期の子が自分たちより先輩と仲良くしてるのが羨ましくもあって、悔しくもあるんですよね? 本来なら自分たちが一番長い時間、苦楽を共にしてるはずなのにって――』

 

エミリ:『そ、そういうわけじゃ……。ううん、違うね。多分そうなんだろうね』

 

ココネ:『あははっ、自分の気持ちってよくわかるようでわからないですよね』

 

 

 

 エミリに言いながらもココネは自分の考えを頭でまとめていた。

 

 

 

――私もユキくんが異性だから……とか、考えすぎてたかもしれないですね。ユキくんはユキくんで私たちは仲間なんですから。それにユキくん……って考えると一緒にお風呂に入ってもなにもおかしくないですからね。もしかして、ルルちゃんもそれがわかってて一緒に……?

 

 

 

ココネ:『なるほど……。私もまだまだですね』

 

エミリ:『……?? どういうこと?』

 

ココネ:『ルルちゃんはすごいってことですよ』

 

エミリ:『もちろんよ! ルルは私の同期だからね!』

 

 

 

 嬉しそうに、得意げに言ってくるエミリ。

 

 

 

ココネ:『私ももっと腹を割って話さないといけませんね。ユキくんと、同じお湯に浸かりながら……。今度温泉に行くのでせっかくですし、突撃しちゃいましょうか』

 

エミリ:『それはいいね。大浴場なら一緒に入ってもおかしくないもんね』

 

ココネ:『エミリちゃんもせっかくですし、四期生全員で旅行に行ってはどうですか? 仲を深めるきっかけになるかもしれないですよ』

 

エミリ:『それいいね。早速みんなに提案してくるよ!』

 

ココネ:『えっ!? い、今ですか!?』

 

エミリ:『もちろん。善は急げだよ! あっ、場繋ぎをよろしく!』

 

ココネ:『えっ!? わ、私が……ですか!?』

 

 

 

 ココネが驚いている間に、エミリは姿を消してしまった。

 

 

 

ココネ:『えとえと、一人になっちゃいました。ど、どうしましょうか? 一人でできること……、う、歌でも歌いましょうか?』

 

 

 

【コメント】

:ココママの歌だー!

:わくわく

:そういえばユキくんも歌ってたよ

 

 

 

ココネ:『ツララ先輩とコラボしてましたもんね。私も後からゆっくり見たいと思ってますよ』

 

 

 

 歌の準備をしながら、ココネは微笑んでいた。

 そこに少し悩んでいたココネの姿はなかった。



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第12話:シロルーム遊び合戦ポンぽこ

 軽く話しただけで決まった今まであまり絡んだことのない四人でのコラボ。

 

 僕と猫ノ瀬先輩、貴虎先輩、あとはフウちゃん。

 

 普段だと絶対に考えられないメンバーでのコラボはどう転ぶのか全く予想がつかなかった。

 

 そんな相手だから配信内容を決めるチャットにも緊張しながら入っていた。

 

 

――うぅ……、本当は逃げたいんだけど……。

 

 

 しかし、後輩のフウちゃんがいる中で流石に逃げるという選択肢を選ぶわけにもいかず、不安に思いながらチャットに参加する。

 ただ、僕の心配はすぐさま杞憂に終わっていた。

 

 いや、それは新たな心配事の幕開けでもあったのだが――。

 

 

 

タマキン:[うにゃーーーー!! コラボは絶対に二十四時間耐久バトルがいいのにゃ!!]

 

幸運トラ:[おっ、いいな。一切寝ずに血で血を洗う対決をするんだな。これぞ合戦だ!]

 

ユキ犬姫:[い、色々とおかしいですよ!?]

 

ポンぽこ:[そ、その……、それより、ふうの名前がおかしくなってるんですけど……]

 

 

 

 暴走する先輩二人とそれを宥める後輩二人。

 普通、この逆なんじゃないのかと思いながら、反論をしていく。

 

 

 

タマキン:[にゃにゃ、そこはほらっ、配信中以外は語尾付けないからにゃ。個性がなくなると思って代わりに付けておいたのにゃ! 褒めてほしいのにゃ!]

 

幸運トラ:[確かにこれならわかりやすくて良いな! 俺がユキ犬姫を救ってやる!]

 

ユキ犬姫:[わわっ、僕の方もいつの間にか変わってる!? それに僕は救われる側なのですか!? おかしいですよね!? 普通、僕は救う側のはずですよ!?]

 

タマキン:[んにゃ?? 何がおかしいのかにゃ?]

 

ユキ犬姫:[えーっ、お、おかしいですよ!?]

 

ポンぽこ:[ユキ先輩はその……、可愛いですから、さらわれちゃう気持ちがわかります]

 

ユキ犬姫:[ふ、フウちゃんまで……]

 

 

 

 味方が誰もいなくなり、思わずその場で手をついて俯く。

 

 

 

幸運トラ:[魔王タマキンにさらわれたユキ犬姫を救うため、勇者タイガとペットの狸が魔王に挑む! 耐久のタイトルはこれでいいんじゃないか!?]

 

タマキン:[採用にゃ!!]

 

ユキ犬姫:[か、勝手に決めないでくださいよ!? 配信内容と全く関係ないですよね!?]

 

ポンぽこ:[え、えと……、タグは♯シロルーム遊び合戦ポンぽこですよね!?]

 

タマキン:[【《♯シロルーム遊び合戦ポンぽこ》タマキンにさらわれたユキ犬姫を救うため、勇者タイガとペットの狸が魔王に挑む!《猫犬vs虎狸》】で決定なのにゃ!]

 

ユキ犬姫:[えー……、い、嫌ですよ。それだと本当に僕、お姫様役になっちゃいますよ……]

 

幸運トラ:[えっ? ダメなのか? もうカタッターに予告したぞ?]

 

ポンぽこ:[ふぇ!?]

 

ユキ犬姫:[えっ!?]

 

 

 

 僕とフウは驚きの声を上げ、そして、慌てて貴虎先輩のカタッターを見に行った。

 

 

 

 貴虎タイガ@シロルーム二期生  @taiga_kitora 3分前

明日のコラボ配信、タイトルが決まったぞ!

【《♯シロルーム遊び合戦ポンぽこ》タマキンにさらわれたユキ犬姫を救うため、勇者タイガとペットの狸が魔王に挑む!《猫虎vs犬狸》】

魔王タマキンを倒すためにみんなの力を俺に分けてくれ!!

 

 @16  ↺1,571  ♡2,475

 

 

 

 既にかなり拡散された後だった。

 ほとんど時間が経ってないのに……。

 

 思わず僕はガックリと手を地面についていた。

 

 

 

タマキン:[なはははっ、もう覚悟を決めるしかないのにゃ。悪役令嬢ユキ犬姫の誕生にゃ]

 

ユキ犬姫:[ぼ、僕、悪役でも令嬢でもないですよ……]

 

ポンぽこ:[ユキ先輩はまだ人なだけマシですよ……。ふうはペット扱い……ですから]

 

幸運トラ:[友達はボール! 喰らえ、今必殺の狸ボール!!]

 

ポンぽこ:[えっと、ふうも魔王様側に付いて良いですか?]

 

幸運トラ:[くっ、最愛のペットにも裏切られて、逆境からのスタートか! 萌えてきたーー!!]

 

ユキ犬姫:[誤字ってますよ。それだと変な意味になっちゃいます。それに今日は色んな遊びをするんですよね? トランプとか色々な遊びが入ったゲームで。三対一だと勝負にならないですよ!?]

 

タマキン:[んにゃ。確かに勝負する種目次第だと、三対一でも厳しいのにゃ]

 

ユキ犬姫:[えぇぇぇぇ!?!? そんなに貴虎先輩って強いのですか?]

 

タマキン:[世の中、強い強くないの尺度で測れない、頭のおかしいトラがいるのにゃ。実際に戦ってみたらわかるのにゃ]

 

 

 

 僕的には猫ノ瀬先輩の方が謀略に秀でているので強いと思ったのだけど、意外な力の差があるようだった。

 

 

 

幸運トラ:[今日こそは勝ーーーーつ!!]

 

ポンぽこ:[って、いつも負けてるんじゃないですか!?]

 

タマキン:[にゃはははっ、相手の出方がわかるならそれに合わせて戦うだけなのにゃ]

 

ユキ犬姫:[黒い……。黒すぎますよ、猫ノ瀬先輩]

 

タマキン:[にゃっはっはー、魔王タマキンは伊達ではないのにゃ!]

 

ポンぽこ:[うぅぅ……、ど、どっちについても恐ろしいです……。――あれっ?? えっと、貴虎先輩?]

 

幸運トラ:[どうかしたのか? 一騎打ちなら喜んで乗るぞ!]

 

ポンぽこ:[ち、違いますよ!? そ、その……、これだとふうとユキ先輩が猫ノ瀬先輩と貴虎先輩に挑む形になってますよ!?]

 

ユキ犬姫:[えっ?? あっ、本当だ……]

 

タマキン:[にゃははっ、もう告知してしまったから仕方ないのにゃ。勇者と魔王が手を組んで姫とペットを討伐するのにゃ]

 

幸運トラ:[タマキとペアか。何も考えなくてもいいから楽だな!]

 

ポンぽこ:[こ、これって勝ち目があるのですか……?]

 

ユキ犬姫:[あ、あははっ……、そ、その、善戦したと言われるように頑張ろう……]

 

ポンぽこ:[……ですよね。精一杯頑張らせてもらいます]

 

タマキン:[にゃははっ、かかってくるといいのにゃ。蹂躙してやるのにゃ!]

 

 

 

 こうして、どう見ても負け戦にしか思えないメンバー分けで勝負をすることになってしまった。

 

 ただ、今のままなら惨敗することが目に見えていた。

 だからこそ僕は個人チャットでフウちゃんに連絡を入れていた。

 

 

 

ユキ犬姫:[こ、このあとって時間あるかな?]

 

ポンぽこ:[このあとは……はい、大丈夫です。空いてますね]

 

ユキ犬姫:[それなら一緒に練習しない? せ、せめて善戦できるように……]

 

ポンぽこ:[それもそうですね。わかりました。枠の準備もしておきますね]

 

ユキ犬姫:[えとえと、配信枠まではとらなくても――]

 

ポンぽこ:[いえ、きっとみんなも見たいはずですからね]

 

 

 

 四期生の中ではまともなフウちゃん。

 でも、やはり根っからの配信者のようでみんなが見たいなら配信を考える様だった。

 

 

 

ユキ犬姫:[そ、それもそうだね。うん、わかったよ。それじゃあ一緒に配信をしようか]

 

ポンぽこ:[はいっ! よろしくおねがいします!]

 

 

 

 こうして、突然に僕とフウちゃんのコラボ配信が決まっていた。

 予告もないゲリラ配信なのでそこまで人は来ないだろうし、下手なプレイ動画を配信してしまっても何とかなるだろう。

 

 

 

◇◇◇

『《♯シロルーム遊び合戦ポンぽこ前夜祭》練習会ポコ《狸川フウ/雪城ユキ/シロルーム》』

1.2万人が待機中 20XX/07/24 20:00に公開予定

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 白のワンピースを着た狸少女のフウ。

 ユキ犬姫バージョンのユキくん(ぼく)

 

 

 二人並んで仲良く大部分に映し出されたゲーム画面を見る形で表示される。

 

 いつも通り段ボールに入れられていて、いざという時には隠れることができる。

 何かあったら全力で隠れよう。

 一応ちゃんと動けるか確かめておくことにする。

 

 

 

フウ :『み、みなさん、こんぽこー! ふうは狸川フウぽこー! 今日もたくさん見に来てくれてありがとー、ポコー!!』

 

ユキ :『こそこそ……』

 

フウ :『今日は明日するコラボ配信の特訓をしていくポコ! あと、今日はユキ先輩に来てもらいました。わざと声を出して存在感をアピールしているユキ先輩、どうぞポコ』

 

ユキ :『べ、別にアピールはしてないよ!? ちゃんと隠れられるか試してただけでその――』

 

フウ :『いきなり隠れないでくださいポコ! うぅぅ……、ユキ先輩にはこれがあるんだった。忘れてたポコ……』

 

 

 

 フウが必死に僕を段ボールから引きずり出そうとしてくる。

 もちろんそんなことで簡単に出て行くほど僕は甘くない。

 

 散々みんなに鍛えられた僕は簡単には段ボール警備員の仕事を辞めることはない。

 

 

 

ユキ :『わふ……、久々にぬくぬく環境なの……』

 

フウ :『でーてーきーてーくーだーさーいー!!』

 

ユキ :『大丈夫。顔は出すよ』

 

 

 

 段ボールから顔だけ出して話をする。

 すると、フウちゃんは呆れ顔を見せてくる。

 

 

 

フウ :『仕方ないポコね。とりあえずこれで進めていくポコ。それより、ユキ先輩。そろそろ挨拶をお願いするポコ』

 

ユキ :『そ、そうだったね。みなさん、こんわふー。シロルーム三期生の雪城ユキです。明日、魔王にさらわれちゃうらしいので、そうならないように鍛えたいと思います。あのメンバーならさらわれるのは僕じゃなくてフウちゃんだと思うんだけど……』

 

フウ :『そ、そんなことないポコ。ユキ先輩はとっても可愛いから当然なの。それに今もユキ犬姫様ポコなの』

 

ユキ :『そんなことないよね? 子狸さんたちはどう思う? かわいいフウちゃん、お持ち帰りしたいよね?』

 

 

 

 実際に面としてあったことはないけど、今までの配信の様子から、とっても可愛らしい子を想像することができた。

 だからこそ、リスナーのみんなに確認をしてみる。

 

 

 

【コメント】

:フウちゃんはかわいいよね

魔界エミリ :フウは私が連れて帰るわよ

:エミリン草

:ユキくんは姫様イメージがすっかり付いちゃったもんね

:フウちゃんは姫様って言うより妹だよね

 

 

 

フウ :『ほらっ、みんなもこう言ってるポコよ』

 

ユキ :『うぐっ……、ま、まぁ、決まったものは仕方ないもんね。僕も覚悟を決めて返り討ちにするよ。そして、先輩たちを姫扱いしてみせるよ!』

 

フウ :『その意気ポコ!』

 

 

 

【コメント】

:明日の相手って誰だっけ?

:猫と虎だろ?

:勝ち目ないじゃんw

:善戦できると良いねw

魔界エミリ :フウなら勝てるわよ。私がペアを組もうか?

天瀬ルル :ユキ先輩とはぼくがペアを組むよ

:ルルちゃんwww

:三つ巴の戦いにwww

 

 

フウ :『明日はユキ先輩とのペアだからね。この役目は他の誰にも渡さないポコ』

 

ユキ :『あっ、えっと……、その……、うん。ありがと……』

 

フウ :『ち、違うポコよ!? そ、その、ふうは別にルルちゃんみたいにユキ先輩のことが好きだから、とかそういう意味で言ったわけじゃないポコ!!』

 

 

 

 フウが顔を真っ赤にして慌てて否定し始める。

 すると、当然ながら反応してくる人たちは出てくる。

 

 

 

【コメント】

天瀬ルル :ぼくの敵はココママだと思ったけど、フウちゃんだった!?

魔界エミリ :四期生……。絆……。やっぱりユキ先輩は敵……。

:約二名ほど闇落ちしかかってるんだけど……

:ユキくんは魔性の犬w

羊沢ユイ:うみゅー、ユキくんはユイのものなの。誰にも渡さないの!

:またややこしい羊が

美空アカネ:そうだぞ。ユキくんもフウちゃんも私のものだ!

:また増えた!?

 

 

 

ユキ :『ちょっと、ここはフウちゃんの枠だからね!? 僕のところみたいなテンションで来ないで……』

 

フウ :『あ、あははっ……、ルルちゃんとエミリちゃんにはあとできつく言っておきますね……、ポコ。』

 

 

 

 フウちゃんは乾いた笑みを浮かべながら言ってくる。

 ただ、その目だけは笑っていなくて、僕にはどこか恐怖すら感じられた。

 

 

 

ユキ :『お、お手柔らかにね……』

 

フウ :『ユキ先輩に、じゃないポコよ!?』

 

ユキ :『そ、それじゃあ取りあえずゲームをしようか? 今日は特訓だから順番に色んなゲームをしていこっか?』

 

フウ :『えっと……、まずは大富豪からポコね』

 

ユキ :『ルールはシロルームでいつもしている基本的なもので良いよね?』

 

フウ :『明日もそれでするポコね。わかったポコ』

 

 

 

 早速僕たちは大富豪を始めていた。

 ルールは八切りあり、革命あり、ジョーカー上がりなし……等々で、人数は四人。

 勝負は五回で、最終順位が勝敗となる。

 

 みんな平民の最初は配られるカード運が大きく勝敗を作用すると言っても過言ではなかった。

 そして、今回僕に配られたカードはいくつかのペアはあるものの飛び抜けて強いわけでもなく、平凡な手札だった。

 その辺りは僕らしい。

 

 でも、大富豪は運だけで勝敗が付くゲームでもない。

 カードを出すタイミング等、戦略性も問われるゲームだった。

 

 

 

ユキ :『フウちゃんはカード、どうだった? 僕はイマイチだったよ』

 

フウ :『ふうもそこまでよくないポコ。下手をすると最下位になるかもしれないポコ』

 

ユキ :『最初は運が大きく絡むもんね』

 

フウ :『そうポコね。運が大きく――。えっ? 運!?』

 

ユキ :『どうしたの、フウちゃん?』

 

 

 

 驚きの表情を浮かべるフウちゃん。

 何か問題でもあったのだろうか?

 

 

 

【コメント】

:運www

:幸運トラに勝てるはずがないw

:いや、カードで負けてても戦略で勝てばいいだろう?

:相手はタマキンとのペアだぞ?

羊沢ユイ:ユイが手を貸そうか?

:勝ち目ないねw

天瀬ルル :ぼ、ぼくも力を貸すよ?

姉川イツキ :お姉さんはフウを抱きしめて癒やしてあげるわ

魔界エミリ :四期生全員が手を貸すなら私も貸さないわけにはいかないわね

美空アカネ :はははっ、シロルームの裏ボスたるこのアカネ様が手を貸してやろう!

:暴走特急www

 

 

 

フウ :『み、みんな……、ありがとう……ぽこ』

 

ユキ :『えっと……、裏で結託して挑むのかな? いいのかな、それで……』

 

 

 

 僕は苦笑を浮かべながら成り行きを見守っていた。

 そして、大富豪の結果はCPU相手に僕が三位、フウちゃんが四位という最高の結果を叩きだし、僕は諦めにも似た表情でみんなの力を借りることを決めるのだった。



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第13話:シロルーム遊び合戦ポンぽこ、ぱーとつー

 強大な敵である『勇者タイガと魔王タマキ』を倒すべく、僕たちはオフで集まることになった。

 

 実際に配信に上がるのは僕とフウちゃんの二人。でも、裏ではみんなの力を借りることになる。

 

 若干卑怯に思えるかもしれないが、これも魔王と勇者(どちらも自称だけど)という強大な相手を倒すために必要なことなのだ、と自分に言い聞かせる。

 

 勇者でもないただの捨てられた犬(を僕自身が自称。さらわれた姫よりはいいかな)とペットの狸(ペットじゃないポコ―!! という声が聞こえてくるが、この際それは聞かないことにする)で相手にするには、たくさんの仲間を集めるより他なかった。

 

 仲間はぐうたら羊と甘えん坊天使と台ドン悪魔、歩く十八禁。あとは暴走特急……。

 

 

 

「フウちゃんはこのメンバーをまとめられるのかな? 僕は自信がないな……」

 

 

 

 さすがに配信中だけだとは思うけど、僕とフウちゃん以外は全員が暴走枠。

 

 

 コウ先輩も呼んだ方が良いかな?

 あとは……ココママとか? カグラさんを呼ぶのもいいかな?

 ただ、あんまり人が増えても大変だね……。

 

 

 今でも七人。既に多すぎる。

 しかも、今回集まるのはフウちゃんの家だった。

 

 

 さすがにこれ以上勝手に増やすのはできない。

 

 

 あと、人数が集まるので、さすがにココママからもらった服を着ていく。

 犬耳フードパーカーと白ワンピース、あとは黒レギンス。

 完全なユキくんスタイル。

 どこからどう見ても可愛い女の子にしか見えない。

 

 

 ……うん、何でだろう。自然と涙が出そうになるのは。

 

 

 でも、大人数でいるときに下手に僕の性別をバラして問題を起こすべきではない。ただでさえ問題だらけのメンバーなのだから――。

 

 

 少し緊張しながらフウちゃんの家へと出かける準備をする。

 人が集まるなら、と一応お菓子やジュースも準備して――。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 待ち合わせ場所はフウちゃんの家。

 時間は予定の一時間前。

 

 

――やってしまった……。

 

 

 フウちゃんの家で待ち合わせなのに、そわそわして早く着いてしまった。

 

 

 さすがにまだ準備してるところだよね? 早すぎても迷惑だよね。

 

 

 いくら何でもこの時間から呼び出すこともできない。

 かといって周りは住宅街。

 待ち時間まで、この辺りでうろうろとして回るのはどう見ても不審者だ。

 警察とかを呼ばれても困る。

 

 

 見た目的には不審者というより不良学生で、補導される方になるだろうけど、その事実を僕は認めようとはしなかった。

 

 

 

「うーん、どうしようかな……」

 

 

 

 どこか喫茶店でも探して入ろうかな、と考えたときに突然声をかけられ、思わず飛び跳ねそうになってしまう。

 

 

 

「君、さっきからこの家を見て何か考え事をしてるみたいだけど、みくちゃんのともだ……。いとこの小学生??」

 

 

 

 ジーンズと少しダボっとした白シャツ、というラフな格好をした、長い癖がかった金髪のお姉さん。

 

 まだ昼前という時間にも関わらずその手には缶ビールが握られており、まるで品定めをされているかのような視線を送ってくる。

 

 さすがに知らない人相手だと緊張してしまう。

 しかも相手が日も高いうちから白昼堂々とお酒を飲む相手と考えると尚更だった。

 

 思わずたどたどしい口調で話してしまう。

 

 

 

「ぼ、僕は小学生じゃない……です」

 

「じゃあ、中学生だ。ちょっと待ってるといい。今ミクちゃんを呼んでやる」

 

「ぼ、僕、そのミクちゃんって子が誰かわからな――」

 

 

 

 全てを言い切る前に、お姉さんはフウちゃん宅の呼び鈴を鳴らしていた。

 

 

――もしかして、ミクちゃんっていうのがフウちゃんの本名?

 

 

 

「あ、あわわわっ……。そ、その……、ま、まだ早い――」

 

 

 

 勝手に呼び出されてしまって慌てふためいてしまう。

 しかし、それを気にすることなくお姉さんは笑みをこぼしていた。

 

 そして、すぐに中から可愛らしい声が聞こえてくる。

 

 

 

「はーい、どちらさまですかー?」

 

「お姉さんだ、お姉さん。開けてくれ!」

 

「姉姉詐欺かな? 私にはお姉さんはいないし、お断りしてるよー」

 

「じゃあ、勝手に入る」

 

 

 

 問答無用で扉を開けるお姉さん。

 鍵はかかっていなかったようだ。

 

 

 

「もう……、今日は先輩たちも来るから掃除をしてるって言ったよね、葵ちゃん……」

 

 

 

 すぐに呆れ顔の少女が出迎えてくれる。

 

 明るい茶髪を肩程までに伸ばした小柄な少女。とはいっても僕よりは背が高い。

 ベージュのワンピースと黒のレギンスと履いた可愛らしい子。

 

 そして、その子が隣にいた僕のことを見て、不思議そうに首を傾げる。

 

 

 

「えっと、そっちの子は葵ちゃんの知り合い?」

 

「お姉さんは知らないわよ。ミクちゃんの家の前で困ってたから、ミクちゃんの親戚なのかなって」

 

「うーん、会ったことはないかな? それにその犬フードはまるで――。そういえば、アーカイブでユキ先輩そっくりな服装をしてるって……。ま、まさか!? も、もしかして、ほ、本物のユキ先輩ですか!?」

 

 

 

 少女は僕の容姿や衣服をじっくり眺めて、ハッとした表情を浮かべ、慌てて確認してくる。

 

 

 

「わわっ、こ、ここはその……、そ、外だから……。って、良いのか。僕の名前は祐季だし……」

 

 

 

 一瞬慌てたものの、名前だけだと問題ないことにすぐ気づいた。

 

 

 

「ほ、本当に祐季先輩だったんだ……。えっと、私より年下……、ってことはないよね?」

 

「お姉さんは中学生くらいだと思ってるわよ?」

 

「えとえと……、その……」

 

 

 

 僕は周りに人がいないか、不安に思いながら確認をする。

 すると、ミクちゃんと言われた少女も僕が何を気にしているか、気づいたようだった。

 

 

 

「と、とりあえずここで立ち話もあれですから中に入ってください。そ、その……、ち、散らかっていますけど……」

 

「ううん、ごめんね。こんなに早く来ちゃって……」

 

「いえ、大丈夫ですよ。では、こちらにどうぞ」

 

 

 

 少女に案内されて部屋へと移動する。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ミクちゃんの部屋は可愛らしい小物やぬいぐるみがたくさん置かれた少女らしい部屋だった。

 どこか良い香りもする気がする。

 

 部屋を見た瞬間にそんなことを思ったが、実際に香ってくるのは葵ちゃんと言われたお姉さんが持っているビールの匂いだった。

 

 

 

「あっ、葵ちゃん!? また昼間からビールを飲んで……」

 

「これはビールじゃないわよ。ただの黄金聖水よ。体が癒やされる魔法の薬よ」

 

 

 

 少し頬を赤めながらとんでもないことを口にしてくる。

 それを聞いたミクちゃんは顔全体を真っ赤にして、慌てて葵の口を押さえていた。

 

 

 

「葵ちゃん!! 今は私と二人じゃないから!! ほらっ、高校生……じゃない。ユキ先輩がいるからダメだよ!!」

 

「ぼ、僕は大学生だよ!?」

 

「ふぇっ!?」

 

「あらっ、こんなにかわいい子が大学生のはずないわよ」

 

 

 

 お姉さんに捕まってしまう。

 そして、頭をなでなでと撫でてくる。

 

 

 

「わわっ、や、やめ……」

 

「シロルームはかわいい子が多いからお姉さん、眼福だわー」

 

「触ってる。触ってるから……」

 

「あ、葵ちゃん!? せ、先輩になんてことを!?」

 

「ふにふにで柔らかい……。ユキ先輩が人気なのが良くわかるわね」

 

「は、離して……」

 

「葵ちゃん、ユキ先輩を離さないと怒るよ!?」

 

 

 

 ミクちゃんは頬を膨らませて葵を睨んでいた。

 ただ、その姿は端から見ても可愛らしく、葵には逆効果だった。

 

 

 

「ミクちゃんも可愛いわ。お姉さんがなでなでして上げよう」

 

「したらダメだよー!!」

 

「あっ、やっと逃げられた……」

 

 

 

 ようやく葵から離れることができた僕は一旦距離を開けて、警戒心を露わにする。

 

 

 

「もう、葵ちゃん! 本気で怒るよ?」

 

「あー、わかったわよ。はいっ、これでいいかしら?」

 

 

 

 葵は残念そうにミクちゃんを離す。

 

 

 

「ふぅ……、やっと離れてくれた……。そ、それじゃあ改めてそれぞれ自己紹介をしましょうか。まず私は狸川フウ(たぬがわふう)こと立木未来美(たつきみくみ)です。そ、その……、よろしくおねがいします」

 

 

 

 未来美が恭しく頭を下げてくる。

 

 

 

「次はお姉さんね。お姉さんは宇多野葵(うたのあおい)よ。エロと百合をこよなく愛する姉川イツキ(あねがわいつき)とはお姉さんのことよ」

 

 

 

 グビッと缶ビールをあおる葵。そのままあぐらをかいて座っていた。

 

 ただ、ダボっとした服のせいで、見えてはいけないものが見えてしまいそうで、僕は落ち着かなかった。

 

 

 

「おやおやー? お姉さんの下着(ブラ)が見たいのかな? 思う存分に見るといいよ」

 

「も、もう、葵ちゃん!! そんなことをしたらダメでしょ!!」

 

「問題ないわよ。だって女同士でしょ?」

 

「それはそうだけど、女同士でもダメなものはダメです!!」

 

 

 

 未来美は必死に抵抗をしていたが、茜は飄々とした態度をとっていた。

 

 

――流石にこの状態で僕が男だって話はできないよね。

 

 

 僕はその様子を苦笑いで浮かべて見守ることしかできなかった。

 

 

 

「って、あれっ? お姉さんがイツキちゃんだったんだ……」

 

 

 

 ただの顔馴染みかなと思っていたけど、言われてみたら確かにイツキの性格そのものだった。

 

 

 

「お姉さんの溢れ出る魅力は隠しきれないわよね?」

 

「はいはい、溢れ出てるよ。それでユキ先輩はなんてお呼びしたら良いですか?」

 

「あっ、そ、そうだね。うん、僕は小幡祐季だよ。……だから、ユキ先輩のままで大丈夫かな?」

 

「あっ、そうなんですね」

 

「年下の小さな子を先輩呼び……。はぁ……はぁ……」

 

「はいはい、葵ちゃんはちょっとゴミ箱にでも入っててくれるかな?」

 

「ゴミ箱プレイなんてなかなか高度なことをしてくるわね、ミクちゃん。良いわよ、望むところよ」

 

「えっ、望んじゃうんだ……?」

 

 

 

 以前アカネ先輩が全力で拒否していたのは覚えているけど……。

 

 

 

「全く、やるなら一人でしてね。それよりもユキ先輩……、私と同じ歳ですか? 私は今大学一階生ですけど」

 

「それなら僕の一つ下だね」

 

「あっ、そ、そうなんですね。それじゃあ、やっぱりユキ先輩で」

 

 

 

 少し驚きの表情を浮かべていた未来美。

 彼女も僕の年齢を疑っていたことがよくわかる。

 

 

 

「そっか……。仲が良いなって思ったけど、元々二人は顔馴染みだったんだね」

 

「そうなんですよ。私が配信するきっかけになったのが、葵ちゃんで――」

 

「もうお姉さんが産んだも当然ね!」

 

「えぇ、私がいるのは葵ちゃんのおかげ――」

 

 

 

 途中で言い淀む未来美。

 そして、ポカポカと葵を叩き出す。

 

 

 

「もう、葵ちゃん! だから話の腰をおらないで!」

 

「はっはっはっ、それもお姉さんにとったらご褒美だ!」

 

「あ、あははっ……。二人は仲がいいんだね……」

 

 

 

 思わず苦笑いをしてしまう。

 すると、未来美は顔を赤く染めて、慌てて否定してくる。

 

 

「ち、違いますよ!? わ、私は普通ですからね!?」

 

「お姉さんも普通よ? 普通に可愛い女の子()が好きなだけよ?」

 

「葵ちゃんは全然普通じゃないですよ!? ……い、良いところもあるんだけどね」

 

「ミクちゃーーーん!!」

 

「わわっ、だ、だから抱きつかないで!!」

 

「あははっ……」

 

 

 

――本当にこの状態でコラボなんてできるのだろうか?

 

 

 僕は不安を隠しきれず、苦笑を浮かべていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 漫才のようなやりとりを終えた後、未来美が座布団を持ってきてくれる。

 

 

 

「ご、ごめんなさい。ずっと立たせたままで……。これに座ってください」

 

「気にしなくて良いよ。ありがとう」

 

 

 

 僕は早速部屋の隅に座布団を敷こうとして、葵に止められてしまう。

 

 

 

「ユキ先輩は今日の主役よ。そんな隅に座らないでど真ん中でドンとあぐらをかいてくれてもいいのよ?」

 

「ぼ、僕はその……、隅の方が落ち着くから……」

 

 

 

 特に今日は人がたくさん集まる。

 流石にそんな中で目立つ場所を陣取るなんて僕にできるはずもなかった。

 

 ただ、今回に限って言えば未来美も葵の味方をしていた。

 

 

 

「ユキ先輩はそんな端にいかないでここに座ってください!」

 

 

 

 せっかく端に置いた座布団を部屋の真ん中へと移動させる未来美。

 

 

 

「そ、そんな……。それじゃあ、せめて段ボールを――」

 

「さすがにうちには段ボールはないですよ……」

 

「お姉さんも持ってないわね」

 

「うぅぅ……、これじゃあ味方に囚われてるも同然だよ……」

 

「大丈夫ですよ、ユキ先輩! 今日はさらわれたお姫様の設定になってますから!」

 

「それ、何のフォローにもなってないからね!?」

 

「はっはっはっ、お姉さんがお持ち帰りしてあげよう」

 

「き、今日は拾うの禁止だからね!?」

 

 

 

 葵のボケを返すのに必死になってしまう。

 

 普段からこうして鍛えられてるから四期生の濃いメンバーをまとめられるんだろうな。

 

 

 

「それじゃあ、私はもう少し準備をしてますからユキ先輩はくつろいでてくださいね」

 

「あっ、僕も手伝うよ!」

 

 

 

 どうせ部屋の真ん中に座っていても落ち着かないので、すぐさま立ち上がろうとする。

 

 しかし、未来美は首を横に振る。

 

 

 

「いえ、お客さんにそんなことさせるわけにはいきませんよ! ゆっくりしててください」

 

「今日の配信は僕とフウちゃんの二人でするものでしょ? なら僕はお客さんじゃないよ。だから手伝うね」

 

「……断っても手伝ってきますね? わかりました。それじゃあ、手伝ってもらっても良いですか?」

 

「うん、ありがとう」

 

「あははっ、お礼を言うのは私の方ですよ。って、あと十分ほどしかない!? い、急いで準備しましょう」

 

「とりあえず僕は座布団を敷いていくね。あとは飲み物とかおやつを買ってきたからそれも出しておくね」

 

「わ、私は配信の準備をしますね。葵ちゃんは――」

 

「お姉さんはゴロゴロしてるわ」

 

「えっ?」

 

「うん、葵ちゃんはゴロゴロしてて。でも、ちゃんとベッドで寝てよね」

 

「おっけー」

 

「それで良いんだ……」

 

 

 

 のそのそとベッドへ移動する葵を見て、僕は苦笑をする。

 すると、未来美がため息混じりに言ってくる。

 

 

 

「葵ちゃんだと手伝いが逆に邪魔になってしまうんですよ……」

 

「あぁ……、そういうことなんだね……」

 

「そ、そんなことないわよ! 見てなさい。お姉さんがしっかり準備をしてあげるわよ!」

 

「あっ、それなら葵ちゃんは他のみんなのお出迎えをよろしくね」

 

「お姉さんに任せなさい!」

 

 

 

 嬉しそうに葵は玄関へと向かっていった。

 

 

――体良く部屋から追い出しただけじゃなのかな?

 

 

 そんなことを思いながら僕たちは二人、配信オフの準備をしていくのだった。



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第14話:シロルーム遊び合戦ポンぽこ、ぱーとすりー

「よし、こんなところかな?」

 

「はい、ありがとうございます。ユキ先輩のおかげでみんなが来る前に準備を終わらせることができました」

 

 

 

 未来美の部屋には人数分の座布団やコップ。

 テーブルの上にはおやつやジュース。

 退屈しのぎのトランプ。

 

 さすがにお酒の類は置いていない。

 まぁ、この部屋の主たる未来美が未成年なので当然だろう。

 

 葵だけはどこからか、ビール缶をいくつか持ってきていたが……。

 

 そして、部屋に置かれたパソコンモニターにはフウちゃんと僕のアバターが映っており、もう一つのモニターはゲーム画面が映し出されていた。

 

 あとはみんなが来るのを待つだけだった。

 

 先ほどと同じ場所に座ると、未来美がそのまま隣に座ってくる。

 

 

 

「今日は頑張りましょうね。罰ゲームを避けるためにも」

 

「うん。……えっ、罰ゲーム!?」

 

 

 

 さすがにそんな話はしてなかったはずだけど、未来美は当然のように言ってきた。

 

 

 

「はい。シロルームのコラボ対決ならありますよね?」

 

 

 

 確かに僕自身は何も聞いていないけど、いつも通りなら何かしらの罰ゲームがあっておかしくない。

 

 

 

「確かに……、何かあってもおかしくないね」

 

「なら、こちらから提案するのはどうでしょうか? 例えば、一週間真面目に過ごしてもらう……とか」

 

「うーん、真面目に暴走しそう……」

 

 

 

 むしろ普段から真面目にしてる、と言い出してきそうなところが恐ろしいところでもあった。

 

 

 

「……ですよね。その辺りが問題ですよね」

 

「それはみんなに相談しても良いかもね。せっかくみんな来てくれるのだから――」

 

 

 

 そんなことを話していると葵が恍惚とした表情で戻ってくる。

 その手には……結坂の姿があった。

 

 荷物のように抱えられた結坂は必死に手足をばたつかせていた。

 

 

 

「うみゅーーーーー!! 離すのーーーー!!!!」

 

「はぁ……、お姉さんは幸せよー……」

 

「あ、葵ちゃん!? 知らない人にそんなことをしたらダメ!!」

 

「ゆ、結坂!? だ、大丈夫!?」

 

「うみゅ……? ゆ、ユキくん……。そ、それじゃあ、誘拐されたわけじゃないんだ……」

 

 

 

 結坂はほっとため息を吐いていた。

 そして、未来美に怒られた葵は結坂を離して残念そうな表情を浮かべていた。

 一方の結坂は僕の後ろに隠れて警戒心をあらわにしていた。

 

 ……いや、後ろから僕を抱きしめてくる。

 

 

 

「久々にユキくん成分、吸収なのー」

 

「わふっ!? ぼ、僕はそんな成分出てないよ!?」

 

「なら、お姉さんはこっちを……」

 

「も、もう、葵ちゃん! ただでさえややこしいのに余計に掻き乱さないで!」

 

 

 

 結坂が加わることで、更に混沌とする。

 そんな状況を何とかしようと未来美が目を回しながら聞いてくる。

 

 

 

「そ、それよりもそちらの方はユキ先輩の知り合いだったのですね」

 

「あっ、そうだった。みんなの自己紹介が必要だね。この二人は四期生の狸川フウちゃんこと立木未来美(たつきみくみ)ちゃんと姉川イツキさんこと宇多野葵(うたのあおい)さんだよ。それじゃあ、ユイも頼んで良いかな?」

 

 

 

 一応アバター名の方がわかりやすいかな、とそちらで教えてあげる。

 すると、ユイは眠たそうな表情を見せながら両手を挙げる。

 

 

 

「うみゅー! ユイはユイだよー! ユキくんの飼い主だよ」

 

「ち、違うよ!? 僕は飼われてないからね!? えっと、ユイは結坂彩芽(ゆいさかあやめ)だよ。もう、ユイモードになるといつもそんな感じなんだから……」

 

 

 

 ため息交じりに、なぜか僕が結坂の紹介をする。

 

 

 

「あっ、ゆ、ユイ先輩だったのですか!? ご、ごめんなさい、葵ちゃんが変な真似を――」

 

「お姉さん的には問題ないわよ」

 

「葵ちゃんの行動が既に問題だよ!?]

 

「うみゅー……、それより、ユイがベッドを使って良いかな? 配信が終わったら起こしてほしいの……」

 

「だ、ダメだよ!? ここに寝に来たわけじゃないよね!?」

 

 

 

 ベッドに潜り込もうとするユイを慌てて止める。

 

 

 

「うにゅ……? もう朝なの?」

 

「ずっと朝だよ!?」

 

「お姉さんが添い寝をしてあげるわよ?」

 

「葵ちゃんは余計なことをしないでください!!」

 

「うみゅー……、狸はうるさいの……」

 

「私ですか!? 私がおかしいのですか!?」

 

「えっと……、おかしいのはユイの方だから安心して……」

 

「すぅ……、すぅ……」

 

「お姉さんも寝ようかしら。よいしょっと」

 

「だ、ダメーーーー!!」

 

 

 

 同じくベッドに入ろうとする葵を体をはってガードする未来美。

 

 

 

「うみゅ、やっぱりうるさいの……」

 

「もう……、だからまだ寝る時間じゃないよ……」

 

「シエスタは良い羊の嗜みなの」

 

「……初めて聞くよ、その言葉」

 

「なら、しっかり脳裏に刻みつけておくと良いの」

 

「嫌だよ……、ユイにしか当てはまらないでしょ……。それよりユイはゲームって得意だったよね?」

 

「うみゅ。ユイに勝てる人間はいないの」

 

 

 

――あれっ? 僕の替え玉として結坂に戦ってもらったら勝てるんじゃないの?

 

 

 一瞬そんな考えが浮かんだけど、すぐに首を横に振って否定する。

 

 

 

「うん、心強いよ。相手が相手だから、僕たちだけじゃ手に余るし……」

 

「そ、そうですよね。どうやっても勝てる気がしなくて――。でも、何もせずに罰ゲームを受けるのは嫌ですし……」

 

「あらっ、罰ゲームがあるの?」

 

 

 

 未来美に抱きついたままの葵が聞いてくる。

 

 

 

「まぁ、あるよね? なかったことがないし……」

 

「うみゅー、きっとユキくんをもみくちゃにするつもりなの。そんなの絶対にユイが許さないの!!」

 

「えっ、僕限定!? むしろ、それなら可愛い未来美ちゃんが……」

 

「わ、私よりもユキ先輩の方が可愛いですよ!? だから安心して生け贄になって下さい」

 

「お姉さん的にはどっちも歓迎よ。あられもない姿のミクちゃんとユキ先輩を見られるのなら」

 

「ちょっ!? ど、どうして僕たちが罰ゲームするの前提なの!?」

 

「しかも、勝手に罰ゲームを決めてるし……」

 

 

 

 呆れ顔の未来美と息を少し荒くする葵。

 きっと良からぬ想像でもしているのだろう。

 

 今日会ったばかりなのに未来美がどれだけ苦労してきたのか良くわかってしまう。

 だからこそ、僕は彼女の手を掴み、ジッと目を見ながら言う。

 

 

「僕にできることがあったら手伝うからいつでも相談に乗ってね」

 

「えっ!? ……あっ、はい。あ、ありがとうございます」

 

 

 

 キョトンと一瞬呆けていた未来美だが、顔を染めて俯きながら頷いていた。

 その表情を見て、僕も照れてしまい顔を俯けていた。

 

 

 

「うみゅー!! ユキくんはユイのものなのー!!」

 

「ぼ、僕は誰のものでもないよ!?」

 

「はははっ、お姉さんは三人ともでも大歓迎だ!」

 

「葵ちゃんは変なこと言わないで!? そ、それよりも四人いたらとりあえずゲームの練習ができますね。他のみんなが来るまでしてみますか?」

 

「お姉さんが勝って、三人とも罰ゲームにしてあげるわ」

 

「ゲームでユイに勝てるはずないの!」

 

「えっ、な、なんで罰ゲームなんですか!?」

 

「ユイに勝てるわけないよね?」

 

 

 

 それから、しばらく僕たちはゲームをしていた。

 結果は当然ながらユイの圧勝だった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「うみゅー、みんな罰ゲームなのー!」

 

 

 

 両手を挙げてうれしそうな声を出すユイ。

 負けるのは想定通りだけど、まさか運も絡む大富豪で一回も勝てないのは予想外だった。

 

 

 

「この結果なら仕方ないね……」

 

「でも、ユイ先輩一人を相手に勝てないならこのあとも大変ですよね?」

 

「そんなこともないよ。たしかに僕たちだけだと勝ち目はないけど、今回はユイの手助けもあるわけだし――」

 

「それじゃあユイは寝るの。おやすみなの……」

 

 

 

 再び布団に戻ろうとするユイの後ろからしがみついて、それを止める。

 

 

 

「だ、ダメだよ!? ユイだけが頼りなんだからね……」

 

「ユキくんから抱きしめてくれるの、初めてなの。仕方ないから協力するの」

 

 

 

 ユイはうれしそうに布団に入ろうとするのをやめてくれる。

 そのユイの言葉で僕は顔を真っ赤に染めて、慌てて離れようとする。

 しかし、僕の手をがっちりと掴んで離してくれない。

 

 

 

「あ、あの……、ユイ??」

 

「うみゅー、ユキくんへの罰ゲームは決まりなの。今日一日、犬語で喋りながらユイを抱きしめるの。たまに愛を囁いてくれるとユイが喜ぶの」

 

「えっ!? い、犬語!? わ、わふっ?? こ、これでいいのかな?」

 

「うみゅー……、語尾が足りないの。ちゃんと語尾には『わん』って付けるの!」

 

「わ、わん?? わふっ??」

 

「うみゅ、それでもいいの。今日一日はそれなの」

 

「そ、そんな……。わふぅ」

 

 

 

 つまり今日の配信はずっとこれを言わないといけないの?

 うぅぅ……、凄く恥ずかしいんだけど……。

 いや、よく考えるとあまり喋らなかったらいいのか。うん、それでいこう。

 

 

 

 問題が解決された僕は一応カタッターに罰ゲームを受けた報告をする。

 これをしておかないと僕はただ、犬の真似をする変な人扱いされてしまうから……。

 

 

 

 雪城ユキ@今日一日犬語 @yuki_yukishiro 今

 わふぅ……。ユイたちとオフでゲームをして負けちゃったわふっ。罰ゲームで今日一日、犬語で話さないといけなくなったわふぅ……。明日には元に戻るから気にしないで欲しいわふ。

 

 

 

 ふぅ……、これでよし。

 

 

 やるべき仕事を終えた僕は額の汗を拭っていた。

 すると、速攻でシロルームメンバーからのリプが付きまくる。

 

 

 

 天瀬ルル@シロルーム四期生 @ruru_amase 今

すぐ見に行きます!

 

 真心ここね@シロルーム三期生  @kokone_magokoro 今

ユキくん、かわいいですよ。もふもふしてあげます

 

 羊沢ユイ@シロルーム三期生 @Yui_Hitsuzisawa 今

ユキくんはユイが飼ってるの。

 

 美空アカネ@天才美少女 @Akane Misora 今

はははっ、犬姫は私のものだ!

 

 猫ノ瀬タマキ@シロルーム二期生 @tamaki nekonose 今

これはいいにゃ。今日の罰ゲームでしばらく犬語で話してもらうことにするの

 

 貴虎タイガ@シロルーム二期生 @taiga kitora 今

犬猫の仲だから戦いは必然だったか

 

 姫野オンプ@シロルーム二期生 @Onpu Himeno 今

犬さんと猫さんは仲良しなのですよー

 

 氷水ツララ @turara korimizu 今

また犬拾いに行く

 

 神宮寺カグラ@シロルーム三期生 @kagura zinguuzi 今

はぁ……、また変なことに巻き込まれてるわね

 

 

 

 ちょっと待って!? み、みんな反応しすぎじゃないかな!?

 いや、見なかったことにしよう……。

 

 

 

 少し焦りながら僕はカタッターの画面を閉じていた。

 

 

 

「うみゅー……、ユキくんの罰ゲームは決まったとして、あとはポコちゃんとイツキなの」

 

「ぽ、ポコ……ですか!?」

 

「お姉さんは何でも歓迎よ。服でも脱いで抱きしめてあげますよ?」

 

「あ、あははっ……、そ、その、センシティブに引っかからないようにしてね。……わふ」

 

「うみゅ、イツキは一人我慢大会なの。たっぷり服を着て脱いだらダメなの」

 

 

 

 ユイはビシッと指を突きつけながら言う。

 

 

――それなら確かにセンシティブに引っかかるようなことはないよね。

 

 

 ユイのファインプレーに思わず心の中で賞讃の言葉を投げかけていた。

 しかし、葵は息を荒くしていた。

 

 

 

「はぁ……、はぁ……。まさかこのお姉さんに我慢プレイを強要するなんてなかなかハードプレイをお望みなのね。可愛い顔をしてドSだなんて――」

 

「はい、葵ちゃんはそのくらいにしておいてね。ただ、葵ちゃんが着れる服はその……私の家にはないですね。取ってきてくれる?」

 

「えぇ、もちろんよ。ちょっと待っててね」

 

 

 

 葵が急いで部屋を出て行く。

 そこでようやく場に平穏が訪れていた。

 

 

 

「うみゅー、あとはポコちゃんなの」

 

「えっと、私はその……フウ……ですよ?」

 

「なら、今日一日ポコちゃんなの!」

 

「ふぇっ!?!?」

 

「うみゅー、とっても可愛いの」

 

「えっと、それはカタッター名とかを今日だけ変える感じかな? ……わふ」

 

「うみゅ。それで自己紹介は『シロルーム四期生、狸動物園のポンぽこポコー!』でいくの」

 

「そ、それはさすがにその……」

 

「うーん、それなら最初に元の名前を言わせてあげてほしいよ。せっかく先輩とのコラボなんだから、ほらっ、見に来てくれた人に名前を覚えてもらうためにも――わふ」

 

「うみゅ、確かにそれはあるの。ユイも最初の頃、お気に入りを増やそうと頑張ってたの」

 

「僕の場合はその……、どうやってお気に入りを増やさないか考えてたんだけどね……。わふ」

 

「えっ、そ、そうなのですか? でも、ユキ先輩のお気に入り数……、もう四十万近いですよ?」

 

「えっ!? あぁ、ほ、本当だ……。これってまた記念配信の流れになる……よね? わふ」

 

 

 

 僕は頭を押さえて悩みたくなる。

 

 

 

「だ、大丈夫ですよ、ユキ先輩ならあっという間に五十万にも届きますよ」

 

 

 

 未来美が両手をギュッと握りしめながら僕を励まそうとしてくれる。

 もちろん、それは逆効果だったが。

 

 

 

「どうやったら減ってくれるかな……わふ」

 

「へ、減らしたらダメですよ!?」

 

「うみゅー、ユキくんの犬好きさんはユイがもらっていくの」

 

「と、とにかく、挨拶の最初に名前を言ってから、罰ゲームで今日はポコです……でいいよね? わふ」

 

「うにゅー、仕方ないの。それで手を打つの」

 

「ほっ……。あ、ありがとうございます。ユキ先輩」

 

 

 

 未来美がうれしそうにお礼を言ってくる。

 少しは先輩らしいことができたかな……。

 

 僕は安堵の息を吐いて、自然と未来美の頭を撫でていた。

 

 

 

「うみゅー!! ゆいもゆいも!!」

 

「ゆ、ユイは関係ないよ!?」

 

 

 

 口では呆れ顔になりながらも、結局ユイの頭も撫でていた。

 

 すると、その瞬間に部屋に入ってくる三人の影が見える。

 

 

 

「は、離して……。ぼくはユキ先輩に会うために――」

 

「ルルちゃんは私と一緒にフウちゃんをサポートするの!!」

 

「はいはい、ルルもエミリもお姉さんがもふもふしてあげるからね」

 

 

 

 どうやらイツキが戻ってきたのだが、その腕の中にはなぜかルルとエミリがすっぽり収まっており、ご満悦の表情を浮かべていた。

 



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第15話:シロルーム遊び合戦ポンぽこ、ぱーとふぉー

「えっと、ルルとエミリさん?」

 

 

 

 突然やってきた二人に僕は驚きの声を上げてしまう。

 そして、自分の今の格好を見る。

 

 片手でユイを抱きしめながら頭を撫でている。

 未来美は恥ずかしそうに僕の顔を見て顔を赤めている。

 

 その状況から何かただならぬことがあったことは容易に想像が付くというもので――。

 

 

 

「ゆ、ユキ先輩!? な、何をしてるんですか!?」

 

「えっ、あっ、こ、これは……」

 

 

 

 慌ててユイの頭から手を退けようとするが、それを他ならぬユイが阻止してくる。

 

 

 

「うみゅー、ユキくんはユイのものなの」

 

「ち、違うよ!? これはただの罰ゲームだから……わふ」

 

「むぅ……、ユキ先輩はぼくのものですよ!!」

 

 

 

 頬を膨らませて、羨ましそうに僕を見てくるルル。

 それを聞いて、僕は慌てて反論する。

 

 

 

「それも違うからね!! ……わふっ。僕は誰のものでもないからね!! ……わふっ」

 

「そうだよ。ルルもフウも四期生のものだよ。ユキ先輩には渡しませんからね!」

 

 

 

 今度はエミリが参戦してくるが、それは僕にとっては望ましいことだった。

 

 

 

「あっ、うん……。どうぞどうぞ……わふっ」

 

 

 

 迷うことなく差し出すとルルは慌てて反論していた。

 

 

 

「わわっ、ユキ先輩、勝手に渡さないでください!! それにイツキ!! いい加減に離して!!」

 

「嫌よ! お姉さんには百合が足りないわ!」

 

 

 

 当然のように言ってくるイツキ。

 もちろんすぐにうなづけるものではないようで、ルルは必死に抵抗をしていた。

 

 

「百合ならそこにフウがいるよ! ぼくはもう良いでしょ!? 早くしないとユキ先輩が取られちゃう!!」

 

「そうよそうよ、百合ならフウちゃんがいるわよ。私はルルちゃんを抑えるから!!」

 

「それもそうね。みんなお姉さんが捕まえて抱きしめたら幸せ百合空間になるわね。さぁ、みくちゃん。お姉さんに飛び込んでくると良いわよ」

 

 

 

 みんな暴走するので全く制御が効かなくなっている。

 こんな状態を抑えることができるのだろうか?

 

 

 

 僕は助けを求めるべくユイの顔を見る。

 

 

 

「うみゅー、どうしたの? ゆいたちも同じことをするの? いいの」

 

「ち、違うよ!? そ、そんなことしないからね!? ……わ、わふっ」

 

 

 

 えっと……。本当にこの場を収めるにはどうしたらいいの?

 

 

 

 こんな時にコウ先輩がいてくれたら……とつくづく思えてしまう。

 すると、そんなときに大声を上げる人物がいた。

 

 

 

「もう、ルルちゃんもエミリちゃんも葵ちゃんも、この前一緒に話したでしょ!! ポン組脱却を目指すって言ったでしょ! 大人しくして!!」

 

「えっと、ぼくは大人しくユキ先輩に……」

 

「先輩に迷惑をかけたらダメ! ユキ先輩に嫌われるよ!?」

 

「はい……」

 

 

 

 シュンとしおらしく落ち込むルル。

 するとエミリが慌てて言いつくろおうとする。

 

 

 

「私は四期生をまとめようと……」

 

「自分から乱す方へ回ったらダメ!! 余計バラバラになっちゃうから!」

 

「う、うん、そ、そうだよね。わかった……」

 

 

 

 未来美に怒られた二人はその場に座り、小さくなる。

 すると、その様子を見ていた葵が頬に手を当てて恍惚の表情を浮かべていた。

 

 

 

「怒ってるみくちゃんも可愛いわね」

 

「……お酒のおつまみはキュウリの一本漬けを――」

 

「部屋の端で黙ってるわ」

 

 

 

 怒った未来美があっという間に四期生の暴走を抑えてしまった。

 それを見た僕は思わず感心してしまう。

 

 

 ――なるほど……。あんな感じに鞭でいうことを聞かせる感じにするんだね。ユイの嫌がることは……寝ること? 本人はぐうたらキャラを演じてるけど、ユイが寝てる姿って一度も見たことないし、そもそも基本耐久ゲームをしてるからまともに寝てないはず。……よし!

 

 

 覚悟を決めた僕はユイの耳元で呟く。

 

 

 

「そ、その……、ユイも無理やりベッドに入ろうとするなら……、僕も一緒に寝ちゃうよ?」

 

「うみゅー! 大歓迎なの!!」

 

 

 

 両手を挙げて喜ぶユイ。

 そのまま僕を押してベッドの方へ行こうとする。

 

 

 ……あれっ、なんだろう? ユイの反応が思っていたのと違うかも……。

 

 

「えっと、その……、あの……。こ、ここは暴走したことの反省をする場面じゃないの?」

 

「うみゅ? 違うの。ここはユキくんとユイが仲いいところを見せつける場面なの。カムカムなの」

 

「あうあう、や、やっぱりさっきのはなしで。わ、わふぅぅぅ……」

 

 

 

 為す術もなくユイによってベッドに寝かされてしまう僕。

 ただ、ユイは一緒に入ってこようとはしなかった。

 

 

 

「ユキくんは開始まで休んでると良いの。どうせ今日もまたろくに寝てないの。寝ないとダメなの!」

 

「そ、そ、そんなことないよ!? ちゃ、ちゃんと寝てるから……」

 

「うみゅ。それなら昨日はどのくらい寝たの?」

 

「えっと……、その……、さ、三時間くらいかな?」

 

「うみゅ、今日はユキくんの代わりにユイが出るの。ユキくんは寝てると良いの!」

 

「だ、ダメだよ!? 今日は僕のコラボだから」

 

「うみゅー、それなら寝ておくの!!」

 

「で、でも、ここは未来美ちゃんの部屋だから……」

 

「ユキ先輩、眠たいのですか? 私の事は気にしなくて良いので今のうちに寝ておいてくださいね」

 

 

 

 何とか逃れようとするが、未来美が最後の逃げ道を断ってくる。

 いや、少し心配そうな表情をしているところから好意で言ってくれているのは良くわかるのだが……。

 

 

 

「もし寝ないのならこのままユイも一緒に寝るの。ずっと抱きついたままなの」

 

「わ、わかったよ。そ、それじゃあゆっくり休ませてもらって――」

 

「それじゃあ、ぼくも一緒に寝て――」

 

「ダメだよ、ルルちゃん! ユキ先輩は疲れてるの。休ませてあげて……」

 

「ルル、寝るの? 僕は起きるから寝てくれて良いよ」

 

「ほらっ、こうなっちゃうんだよ。ユキ先輩だと。ルルちゃんは我慢してね」

 

「うぅぅ……、ユキ先輩のために今回だけは我慢しますね……」

 

 

 

 未来美に言われてルルが引いていく。

 まさかこんなことが起こるなんて……。

 

 

 

「というか、これって僕、本当に寝るやつなの??」

 

「うみゅ、もちろんなの! 罰ゲーム忘れてる罰なの!」

 

「あっ……。わ、わふっ」

 

「遅いの。だから配信が始まるまでゆっくり休むと良いの。このくらい言わないとユキくんは寝てくれないの」

 

 

 

 ユイが頬を膨らませながらジッと見てくる。

 

 

 

「えとえと、ぼ、僕はもうちゃんと休めてるから安心してくれていいよ……。わふっ」

 

「うみゅーーーー!!」

 

 

 

 更にユイが顔を近づけてくる。

 そして、すぐ目と鼻の先にユイの顔が現れたことで思わず僕は頬を染めて視線を逸らしてしまう。

 

 

 

「えっと、休む。休むから……」

 

「うみゅー!! ちゃんとユイの目を見て話すの」

 

「そ、そんな……」

 

 

 

 僕がユイの相手をするのに困っているタイミングで遠くから葵の声が聞こえてくる。

 

 

 

「はぁ……、いいわね。眼福だわ……。あっ、カメラ、カメラ……」

 

「ユキ先輩……。ぼくという者がいながら……」

 

「もう、二人とも……。邪魔したらダメだからね……」

 

 

 

 ――うぅぅ……、誰も助けてくれなさそう……。

 

 

 結局、僕はユイにジッと見つめられながら、未来美のベッドで寝る……というおかしい状況を甘んじて受け入れるしかなかった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 しばらくするとユキの寝息が聞こえてくる。

 

 

 

「本当にお疲れだったんだ……」

 

 

 

 眠っているユキを見て、優しい笑みを浮かべる未来美。

 ユキの方が年上なのだが、どこかその視線は妹に向ける姉の姿そのものだった。

 

 

 

「うみゅ、そうなの。ユキくんは無茶をするから休憩を強要してちょうどいいくらいなの」

 

「今回のコラボ、ご迷惑だったでしょうか? その、私とペアなんて――」

 

「うみゅ。そんなことないの。ユキくんもきっととっても楽しみにしてたの。ただ、それと同時に先輩らしくしないと、って色々と悩み込んじゃっただけなの」

 

「や、やっぱり私のせい……」

 

 

 

 少し落ち込む未来美。

 すると、そんな彼女の肩を葵がそっと抱いてくる。空いてる手でビールをあおりながら。

 

 

 

「心配かけたと思うのなら、それ以上に楽しい配信にしたらいいのよ。ミクちゃんならそれができるでしょ?」

 

「あっ……。そ、そうだね! うん、またコラボしたいって思ってもらえるように全力で楽しんだらいいんだね」

 

「そうよ。それでお姉さんは返り討ちにされたミクちゃんを優しくハグして、なでなでしてあげるわ」

 

「むぅ……、少し葵ちゃんのことを感心したのに、やっぱり葵ちゃんは葵ちゃんだね。絶対に私たちが勝つから罰ゲームなんてあり得ないよ!」

 

「はっはっはっ、それは楽しみだ。勝ったらお姉さんを抱きしめる権利をあげよう」

 

「もう! それ、どっちも同じことだからね!」

 

 

 

 頬を膨らませながら葵を注意する。

 ただ、それと同時に心の中では感謝をしていた。

 

 葵は自分の好みもあるだろうけど、未来美のことを心配してわざとさっきみたいなことを言っているのがよくわかるから……。

 

 すると、そんな時に突然呼び鈴がなる。

 

 

 

「あっ、だ、誰かきたのかな? 私、見てくるね」

 

 

 

 少し照れを隠しながら未来美は小走りで玄関へと向かっていった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「はーい、どちら様ですかー?」

 

「私だ、私。開けてくれ」

 

「私私詐欺ですか? 詐欺はお断りしてます」

 

 

 

 口ではそう言いながらも、こういうことを言ってくる葵はすでに部屋にいることを思い出して首を傾げる。

 

 

 

――ま、まさか本当に詐欺!? そ、そうじゃないと名前も言わないのは変だよね?

 

 

 

 恐る恐る玄関を開ける。

 すると、そこには長い茶髪をツインテールにした小柄な少女がいた。

 赤のミニスカートと白の半袖パーカーを着ているところを見ると年下にしか見えない。

 

 ただ、ユキのこともあったので、未来美はなるべく丁寧な態度をとる。

 

 

 

「えっと、うちに何か用事でしょうか?」

 

「ふふふっ、私の顔を見たものは生かしておかんな」

 

「えぇぇ……、そっちが呼び鈴を鳴らしたのに、ですか?」

 

「おぉ、狸よ。死んでしまうとは何事だ」

 

「し、死んでないですよ!? って、その呼び方……。も、もしかして、アカネ先輩ですか!?」

 

「くくくっ、我が名を知るものがいるとは。勇……、いや、狸ポコよ。この裏ボスたる美空アカネに挑むとはなかなか見どころのあるやつだな。さぁ、かかってくるといい。……あいたっ!」

 

 

 

 突然アカネの頭が何者かによって叩かれる。

 

 

 

「もう、アカネは! やっぱりボクが一緒に来てよかったね」

 

 

 

 アカネの後ろから現れたのはコウだった。

 その姿を見て未来美はほっとため息を吐いていた。

 

 みんな暴走しそうなメンバー。

 流石に自分一人では荷が重いのでは、と感じていたところだった。

 

 

 

「わ、私はまだ何も変なことをしてないぞ? 本当だからな?」

 

「はぁ……、今のやり取りが変なことじゃなくて何が変なことなのよ?」

 

 

 

 ため息混じりのコウ。

 

 

 

「今のが至って普通の私だ。いたっ!」

 

「余計ひどいよ!! ふぅ……、フウちゃん、家の前で騒がしくしてごめんなさいね。流石にアカネだけだと心配でついてきちゃったの」

 

「いえ、私としては助かりました。その……集まってるメンバーがちょっと……」

 

 

 

 未来美がチラッと部屋の方を見る。

 そこには四期生の姿が見えていた。

 

 

「あぁ……、四期生だけでもまとめるの大変だもんね。わかったよ、ボクも協力するよ」

 

「よろしくお願いします」

 

「あっ、一応オフで会うのは初めてだから自己紹介をしておくわね。ボクは海星コウこと一ノ瀬海(いちのせうみ)。こっちは美空アカネこと青羽空(あおばそら)だよ」

 

「ふふふっ、天才美少女イラストレーター、アオゾラとは私のことだ!」

 

「はいはい、それは聞いてないからね」

 

「あ、あははっ……。えっと、私は――」

 

「狸だね」

 

「はい、狸こと……。って違いますよ!?」

 

「もう、アカネ! 邪魔したらダメでしょ!」

 

「うぅ……、わ、わかったよ……」

 

 

 

 アカネが反省したのを見計らって、未来美は一度咳払いをする。

 

 

 

「コホンっ。わ、私は狸川フウこと立木未来美(たつきみくみ)です。そ、その……、よろしくお願いします」

 

「うん、よろしくね。未来美ちゃん」

 

「はははっ、究極神たる私に仲良くしてもらえるだけありがたいと思うといいよ」

 

「それじゃあ、未来美ちゃん。中へ入りましょうか」

 

「あっ、えっと……、はい」

 

 

 

 コウは部屋へ入っていく。

 アカネを置いて……。

 

 

 

「ちょ、ちょっと待て。わ、私も入るぞ! 入るからな。待て。待ってよ……」

 

 

 

 慌ててアカネも中へと入ってくる。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 ……うーん、少し賑やかになってきたかな。

 

 

 軽く休んだ僕は周りの話し声で目が覚めていた。

 時間にして三十分ほどしか眠っていないが、それでも眠気は随分と取れていた。

 

 ただ、意識が覚醒すればするほど、今の状況が恥ずかしく思えてくる。

 

 

「今日初めて会った後輩の女の子。そんな子のベッドで眠るなんて……。恥ずかしさを通り越して、責任を取らないといけない。これは新たな百合カップルの誕生か?」

 

 

 

 ……。

 

 まるで僕のセリフの如く言ってきたのは、いつの間にか部屋にやってきたアカネ先輩だった。

 いや、その姿は初めて見るが、声から間違いようがなかった。

 

 

 

「えっと、アカネ先輩……。何をしているのですか?」

 

「んっ? 『ドキドキ、憧れの(ユキ)先輩を落とすまで』っていう恋愛ゲームだが?」

 

「ゲームじゃなくて、今作りましたよね、そのタイトル……」

 

「バレたか。ついついユキくんが面白おかしい表情をしていたからな」

 

「はいはい。アカネ、そのくらいにしておきなさい。ユキくんはまだ本調子じゃないのだからね」

 

「仕方ないな。早く体調を回復させて、私に弄られるといい」

 

「いやですよ……。それよりもコウ先輩も来てくれたのですね」

 

 

 

 僕はシロルーム暴走枠をたった一人で抑えられるその頼もしい先輩の姿を見て、ようやく安心することができた。



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第16話:シロルーム遊び合戦ポンぽこ、らすとぱーと

「えっと、突然押し寄せてごめんなさい。流石にアカネを一人、野放しにするのは飼い主としてどうかと思ったの」

 

「いえ、僕としては助かりました。ちょっとその……濃いメンバーだけが集まってしまいましたから……」

 

「まぁ、そうね。これがシロルームと言ってしまったらおしまいだけど、基本暴走する子ばっかりだから早めに慣れておくと楽でいいよ」

 

「えっと、とても慣れる気がしないです……」

 

「そこは……ファイトだよ!!」

 

 

 

 コウ先輩が応援してくれる。

 

 

 

「わ、わかりました。が、頑張らせていただきます」

 

「うんうん、その意気だよ」

 

「うみゅー! ユキくんがもう起きてるの!! まだ、ゆっくり寝てないとダメなの!!」

 

「えっと、僕はもう目が覚めたから……」

 

「だーめーなーのー!! ユキくんが倒れたらみんな心配するの!」

 

「ははっ……、良い仲間を持ったね。これはゆっくり休むしかないね」

 

「そうみたいですね……。でも、さすがにこれだけ集まるとその……気になって寝られないですよ」

 

「まぁ、普通の部屋に合計八人だもんね。座ってるだけで精一杯かも」

 

「うみゅー。だからユキくんはベッドなの。ユイもベッドなの」

 

「ぼくもベッド……」

 

「はいはい、ルルちゃんは私たちと一緒に固まるからね」

 

「うぅぅ……、ユキ先輩の寝顔がぁぁぁ……」

 

「よし、なら私が!」

 

「アカネ? いらないことをしたら捨てるよ?」

 

「えっと、ゴミ箱??」

 

「ううん、焼却炉」

 

 

 

 満面の笑みを浮かべながら伝えるコウ先輩。

 あまりにも普段通りの口調から本当にやりかねないと思えてしまう。

 だからこそ、アカネは慌てて首を横に振る。

 

 

 

「な、何もしないから燃やさないで!」

 

「うんうん、何もしなかったら良いよ」

 

「ほっ……」

 

「良く燃えてるから、炎上の単語は怖いんだね」

 

「そ、そんなことないよ! 私は最凶魔王! 燃えることなんて造作もないの」

 

「それじゃあ、また燃えてみる?」

 

「は、はははっ、そ、その程度で私に勝ったと思うなよー」

 

 

 

 体を震わせながらも何とか強がってみせるアカネはその指をコウに突きつけていた。

 

 

 

「……別に勝ち負けを競ってないよ。とにかくアカネは暴れないでね」

 

「――コウの膝に座らせてくれたら考える」

 

「はぁ……、わかったよ。ボクの膝に座ってくれたら良いから……」

 

「やったー」

 

 

 

 アカネがうれしそうにコウの膝の上に座る。

 それを見ていた葵が未来美を自分の膝に座らせる。

 すると、未来美は驚いて顔を真っ赤にしていた。

 

 

 

「えっ? えっ? あ、葵ちゃん!?」

 

「はははっ、お姉さんの膝に座らせてあげよう」

 

「えとえと、べ、別に私は座りたいわけじゃなくて……」

 

「お姉さんが座らせてあげたいのよ」

 

「うぅぅ……、へ、部屋が狭いから仕方ないんだよね? ……わ、わかったよ。このままで我慢する」

 

「もっと正直に言うと良い。実はミクちゃんはお姉さんの膝に座りたかった、と」

 

「うぅぅ……、座るならお酒臭くない人が良かったよ……」

 

 

 

 未来美たちの様子を見ていたエミリが自分の膝とルルの姿を見比べていた。

 そして、覚悟を決めて声を出す。

 

 

 

「あの、ルル? 良かったら私たちも……」

 

「ゆーきせんぱーい、ぼくを膝に座らせてくださーい」

 

「あっ……」

 

 

 

 ベッドの方へ駆け出していくルルを見て、エミリは声を漏らす。

 そして――。

 

 

 ぽこぽこ……。

 

 

 机をたたき出すエミリ。

 

 

 

「そ、それ、パソコンデスクだから……、だ、ダメだよ……」

 

 

 

 葵の上に座っていた未来美が慌てて立ち上がるとエミリを後ろから抱きしめる。

 

 

 

「エミリちゃん、パソコン壊れちゃう……」

 

「あっ……、うん。ごめんね……」

 

 

 

 すぐにエミリが叩くのをやめてくれるので、未来美はホッとため息をついていた。

 

 

 

「あと、ルルちゃん! さっきもユキ先輩を休ませてあげるって言ったよね?」

 

「うぅぅぅぅ……、わ、わかったよ。あぅ!?」

 

「ふふふっ、ルルちゃん。捕まえたー」

 

 

 

 未来美が退いた後、いつの間にか葵はルルの側に寄っていて、捕まえてしまった。

 足をバタつかせるルル。

 しかし、この中でも特に小柄のルルに逃れる術はなかった。

 

 

 

「お姉さん、今日は凄く役得なの」

 

「うぅぅ……、ユキ先輩が側にいるのに触れないなんて、厄日だよー」

 

 

 

◇◇◇

『《♯シロルーム遊び合戦ポンぽこ》タマキンにさらわれたユキ犬姫を救うため、勇者タイガとペットの狸が魔王に挑む!《猫虎vs犬狸》《犬狸視点》』

2.1万人が待機中 20XX/07/25 20:00に公開予定

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 ついに放送開始間際になってしまった。

 パソコンの前に僕と未来美が隣同士に座り、周りを囲むように他のみんながいた。

 

 

 

「うぅぅ……、飲み過ぎたわ……」

 

 

 

 一人既に脱落状態だったが、そこは気にせずに配信の方へと意識を向ける。

 待機画面は例のごとくアカネ先輩が描いた物。

 

 コウモリが飛び交う邪悪な城をバックに、怪しげなマントに身を包んだ猫ノ瀬先輩と、勇者の服装を着て訳がわからなさそうに魔王の隣に立つ貴虎先輩、猫ノ瀬先輩の手を掴まれて、涙を流しながら助けを求めているユキ犬姫(ぼく)とその三人を睨み付ける狸。フウちゃんではなく、紛うことなき狸。

 

 

 

「って、フウは本物の狸さんじゃないポコー!?」

 

 

 

 と配信モードに入っていたフウが叫んでいたのが聞こえた。

 ミュートだったので、ここにいるメンバーにしか聞こえないが、その反応を見たアカネ先輩は満足そうな表情を見せていた。

 

 

 ただ、リスナーの人たちはその画像を見て喜んでいるようだった。

 

 

 

【コメント】

:こんぽこー

:こんわふー

:まさか本物の狸がw

:狸www

:ユキくんが似合いすぎてるw

:それを言うならタマキンの魔王がイメージ通りなのだがw

:勇者、そっちは敵側だwww

 

 

 

タマキ:『そろそろ準備はいいかにゃ?』

 

タイガ:『もちろんだ! いつでもかかってこい!』

 

タマキ:『だからにゃーたちは味方にゃ。いい加減わかってほしいのにゃ』

 

タイガ:『敵も味方も吹き飛ばす!』

 

ユキ :『えっと、吹き飛ばしたらダメだよ……わふっ』

 

タマキ:『にゃにゃ!? それが噂のユキくん犬モードかにゃ。とってもいいのにゃ』

 

ユキ :『うぅぅ……、約束は約束だから仕方ないんだよ……、わふ』

 

フウ :『ユキ先輩はいいポコ。ふうはその……、ポコを名乗らないといけないポコ』

 

タマキ:『二人とも気合十分なのにゃ。これはにゃーたちも本気で行かないとまずいのにゃ』

 

タイガ:『任せろ! 全ツッパでいってやる!』

 

タマキ:『ち、違うのにゃ。にゃーが言った通りにするのにゃ』

 

タイガ:『それじゃあ始めるぞ!』

 

タマキ:『ま、待つにゃ! まだ話は終わって――』

 

 

 

 珍しく猫ノ瀬先輩が慌てている声が聞こえた。

 しかし、無常にも配信が開始されてしまう。

 

 そのタイミングで僕たちの見ている画面には四人のアバターが映し出されていた。

 

 

 

タマキ:『にゃははっ。よくぞきた、勇者ポコよ! 我こそはシロルームの裏番長にして、大魔王猫ノ瀬タマキなのにゃ!』

 

タイガ:『ちょっと待て! 勇者はこの貴虎タイガだぞ!?』

 

タマキ:『わかってるのにゃ。でも、勇者と魔王が手を組むのはおかしいのにゃ』

 

タイガ:『んっ? 何もおかしくないぞ?』

 

タマキ:『そうなのかにゃ? それなら気にしないのにゃ。では、よくぞ来たのにゃ、狸ポコよ。世界の半分を支払えば仲間にしてやってもいいのにゃ』

 

フウ :『ちょ、ちょっと待つぽこ! それだとフウ……ポコは踏んだり蹴ったりポコ!』

 

タイガ:『なんだ? 踏まれたかったのか?』

 

フウ :『ふ、踏まれたくないポコ!』

 

ユキ?:『わふっ、それよりも話を進めないと……。配信時間がなくなってしまうよ。……わふ』

 

『ちょ、ちょっと待ってよ、ユイ。勝手にしゃべらないで!? ……わ、わふぅ』

 

ユイ :『うみゅ、仕方ないの。ユイはユキくんのブレーンに戻るの』

 

タマキ:『にゃははっ、なるほどにゃ。しっかりニャーたちに勝つ準備はしてきた様にゃ。これで安心して挑めるのにゃ』

 

 

 

【コメント】

:なるほど、ユキくんにはゆいっちがついてるのか

:ゲーム勝負なら確かにゆいっちだな

:これはもしかすると勝ち目があるかもしれないな

 

 

 

タイガ:『おう、一人でも百人でもかかってこい!』

 

タマキ:『さすがに百人は多いのにゃ』

 

『そういってくれると思ったから、僕たちは助っ人を呼んでるよ……わふっ。一応事前に確認もしたけど――』

 

タイガ:『知らん!』

 

『わ、わふぅ……』

 

タマキ:『にゃははっ、にゃーはしっかり聞いているのにゃ。もちろん問題ないのにゃ。こっちには最強の幸運トラが付いているのにゃ』

 

タイガ:『俺のことか。任せておけ! タマキもろとも全て倒してやる!』

 

タマキ:『にゃにゃ!? だからにゃーは味方なのにゃ!?』

 

『……うん、ということで一応僕たちのサポートをしてくれる人たちを紹介……するのはやめておくよ。……わふわふ』

 

 

 

 今のメンバーを見て考えを改める。

 確かにゲーム対決である以上、ユイがいるという点はプラスに働くだろう。

 でも、残りのメンバーは?

 

 

 右を見ても、左を見ても、ポンポンポン……。

 

 

 唯一違うのはコウ先輩だけ。

 ただ、コウ先輩にはみんなをまとめ上げて欲しいから……。

 

 

 

アカネ:『酷いよ、ユキくん! このアカネちゃんを紹介しないなんて、全地球の損失だよ!? アカネさんがいないとゲームに勝てないと言ってきたのはユキくんじゃないか!?』

 

『そんなこと言ってないよ!? そ、その……、手を貸してくれるのはありがたいわふけど』

 

 

 

【コメント】

:あっ……

:察した……

:ポンVS最凶か

:ユキくんたちの罰ゲームは何だろうな?

 

 

 

『ま、まだ負けたわけじゃないよ!? そ、それにコウ先輩も来てくれてるから大丈夫だからね。わふぅぅぅ……』

 

フウ :『と、とにかく勝負をしてみたらわかるポコよ。やるのは大富豪でいいポコか?』

 

タイガ:『おう、金を稼いだら良いんだな?』

 

タマキ:『全然違うのにゃ。でも、いいのかにゃ? これはにゃーたちに有利なのにゃ』

フウ :『大丈夫ポコよ。そのためにみんな集まってもらったポコから。……うん、一人酔い潰れてるけど……』

 

 

 

 フウは服がはだけ、へその辺りが見えている葵を見て苦笑を浮かべていた。

 

 

 

タマキ:『それなら問題ないのにゃ。それじゃあ、早速始めていくのにゃ』

 

 

 

 こうして雑談もそこそこに大富豪は始まった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 配られた手配を見る。

 

 

 

『うっ……』

 

 

 

 どうやったら勝てるのか、全く見えないほど酷い手札。

 弱いカードのペアがある程度で、一番強いカードはQ。

 階段にもならない程度にマークが別れ、8も一枚だけ。

 

 

 

タマキ:『あっ、ユキは酷い手札だったのにゃ』

 

『そ、そ、そんなことないよ!? つ、つよつよのカードばっかりで困っただけだよ。……わふっ』

 

タイガ:『なにっ!? ユキは強いのか!?』

 

タマキ:『タイガは何も考えずに全力を出すだけでいいのにゃ。あとはにゃーがなんとかするのにゃ』

 

タイガ:『当たり前だ! 勝負は常に全力。当然だ!』

 

フウ :『ふ、ふう……、ポコたちが返り討ちにするポコ。ぜ、絶対に負けないポコ!』

 

『あっ、そ、そうだ。この勝負って負けた方に罰ゲームがあるの?』

 

タマキ:『もちろんにゃ。負けたチームは勝ったチームのいうことを聞いてもらうのにゃ。一人一つずつがちょうどいいのにゃ』

 

『や、やっぱりそうなるよね。うん、頑張る……わふっ!』

 

 

 

 グッと気合いを入れるとすぐにユイに相談をする。

 

 

 

「えっと……、これって勝ち目あるかな?」

 

「……ないの。うーん、この手札だとどう動くかな……?」

 

 

 

 僕の方に体を寄せ付けながら一緒にモニターを見て悩んでくれるユイ。

 後ろからはアカネ先輩とコウ先輩の視線を感じるが、そちらはなるべく気にしないようにする。

 

 フウの方も四期生の面々が付いている。

 ただ、ルルはチラチラと僕の方を見ているし、エミリはそんなルルを見てガンガンと机を叩いているし、葵は寝ている。

 向こうの方が大変そうだな……。

 

 

 

「えっと、僕はユイがいたら平気なのでフウちゃんを手伝ってあげてください」

 

 

 

 アカネ先輩とコウ先輩に対して、そう告げる。

 

 

 

「そうね……。確かにユイちゃんがいたらユキくんは大丈夫だね」

 

「激うまな裏ボスの私もいるぞ!」

 

「えっと、上手いアカネ先輩はフウちゃんを手伝ってもらえますか?」

 

「あぁ、任せておけ! 私の力で勝ってあげよう」

 

 

 

 うれしそうに笑みを浮かべながらフウの側へ向かうアカネ先輩。

 その後ろに付いていくコウ先輩。

 

 

 

「うみゅ、決まったの! ここはユキくんの力を任せるの!」

 

「えぇぇぇぇ!?!?」

 

 

 

 悩んでいたユイが出した結論はまさかの放置だった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 もちろんユイに見放され、最弱の手札を持っている僕に勝ち目があるはずもなかった。

 

 

 

タイガ:『はっはっはっ、俺のターン! ドロー!』

 

フウ :『な、何も引かないポコよ!?』

 

タイガ:『喰らえ!! 今必殺の2だ!』

 

 

 

 僕が3を一枚出した後、いきなり最強の2を出してくるタイガ。

 もちろんそれより強いカードはジョーカーしかないわけで――。

 

 

 

フウ :『ぱ、パス、ポコ』

 

タマキ:『にゃははっ。にゃーももちろんパスにゃ』

 

『ぼ、僕もパスだよ。……わふっ』

 

タイガ:『俺に勝てる奴はいない!』

 

フウ :『ま、まだカードが一枚切れただけポコ。勝負はここからポコ』

 

 

 

 気合を入れるフウをよそにタイガは再び2のカードを出していた。

 

 

 

フウ :『ふぇっ!?』

 

『わ、わふっ!? ど、どうして??』

 

 

 

 確かに強いカードだが、わざわざ他のカードがないタイミングで出すものでもない。

 僕が不思議に思っていると、貴虎先輩はさも当然のように言ってくる。

 

 

 

タイガ:『んっ? 強いカードを出したら勝てるんだろう?』

 

『……??』

 

 

 

 なぜかルールが湾曲して伝えられていた。

 

 

 

『猫ノ瀬先輩、それってどういう……?』

 

タマキ:『――それ以上難しいことを理解してもらえなかったのにゃ……』

 

 

 

 猫ノ瀬先輩が遠い目をする。

 それを聞いて僕も乾いた笑みを浮かべていた。

 

 

 

『わふっ、そ、そういうことなんだね……わふっ』

 

タマキ:『でも、逆を言えばそれだけのルールだけ知っておけば、タイガは勝てると踏んだのにゃ』

 

タイガ:『ふははっ、多少のハンデくらいで勝てると思うなよ』

 

 

 

 えっと……、いいのかな?

 せっかくの強いカードをこんな無駄にして……。

 

 そんなことを思いながら流される2のカードを見ていた。

 そこから、同じことが二回繰り返されたが……。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 まさかそのあと、強い順位カードを出されていくとは思わなかった。

 結局僕たちは一枚も出すことなくタイガが一番最初に上がり、大富豪になっていた。

 

 

 

タイガ:『圧勝だ!!』

 

『――えっと、何この状況……わふっ』

 

フウ :『運が強いってレベルじゃないポコ!?』

 

タマキ:『にゃははっ。どうだ、参ったかにゃー』

 

 

 

 その後、なぜかジョーカーだけ隠し持っていた猫ノ瀬先輩が二位に。

 フウちゃんが三位になり、僕は最下位の大貧民となっていた。

 

 

 

タマキ:『にゃははっ、このまま最下位を独走するのかにゃ?』

 

『ま、まだだよ。そ、それに五回勝負で最後の順位で勝敗を分けるはずだよ?』

 

タマキ:『強いカードを渡してまで勝てると思うなにゃ』

 

 

 

【コメント】

:確かにこれはきついな

:ユキくん、勝てるのか?

:幸運トラはともかく、タマキンも魔王を名乗ってるだけあって上手いな

:ユイっちがいても勝てないのか?

 

 

 

 コメントが流れてる中、僕は隣にいるユイに話しかける。

 

 

「やっぱり負けちゃったよ……。これからどうするの?」

 

「うみゅー。二枚カードを交換できるのは強みなの。それで今の戦いではっきりタイガの弱点もわかったの。あとはユキくん自身の運しだいなの」

 

「僕の……運??」

 

「勝てるタイミングが来たら起こして欲しいの」

 

 

 

 ユイが僕の膝を枕に寝ようとする。

 

 

 

「ちょっ!? ゆ、ユイ!? 寝たらダメだよ!? 死ぬよ!? ……僕が」

 

「うみゅー……、そのときはそのときなのー。大人しく罰ゲームを受けると良いの」

 

「そ、そんな……」

 

「でも、勝てる手札が来たときはゆいを信じて欲しいの。何があってもゆいがユキくんを勝たせるの」

 

 

 

 それだけいうと、本当にユイは目を閉じてしまった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 彼女が目を覚ますことなく三戦が終わり、一切順位の変動がなかった。

 

 そして、最終戦。

 

 

 

タマキ:『にゃにゃ、やっぱりにゃーたちには勝てないにゃ』

 

タイガ:『はははっ、最強の勇者に勝てるはずないだろう!』

 

フウ :『うぅぅ……、どうするポコ。このままだと罰ゲームが……』

 

ユキ?:『問題ないよ』

 

『って、またユイが喋ってる!? ほらっ、喋るなら僕の隣に表示してもらうから……わふっ』

 

ユイ:『うみゅー、めんどうなのー』

 

 

 

 フウちゃんが表示してくれたので、仕方なくそのまま喋るユイ。

 

 

 

『それより、本当に問題ないの? だって、この手札……』

 

 

 

 ぱっと見たかぎりだと、最初配られたときよりも悪い。

 

 三枚ペアが二つあるくらいだけど、そもそもこれを出すタイミングが最初しかなさそうだ。

 

 

 

ユイ :『うみゅー、やっぱりこの手札が来たの。パターンを見た限り多分来ると思ったの。だからユキは安心して見てると良いの。ユイがいうことに間違いはないの』

 

 

 

 自信たっぷりの表情を見せるユイ。

 ただ、僕にはどうしてそこまで自信が持てるのかわからない。

 

 ただ、猫ノ瀬先輩は何かを察したようだった。

 

 

 

タマキ:『にゃにゃ、もしかして……』

 

ユイ :『ふふふっ、ことゲームにおいてユイに負けはないの』

 

タマキ:『ぐぬぬっ、相手の力を測り損ねたのにゃ』

 

 

 

 ユイとタマキのやりとりの中、僕とフウちゃんはついていけずにその場で呆けていた。

 

 

 

『えっと、どういうことかな? ……わふぅ』

 

フウ :『え、えっと……ポコにもよくわからないポコ……』

 

タイガ:『はははっ、私に負けはなーい!』

 

 

 

 ぼんやりしている三人。

 すると、ユイとタマキが突然静かになっていた。

 

 手元を見た限りだとスマホの文字を打っているので、チャットで何かやり合っているのだろう。

 

 

 

ユイ :『うみゅ、わかったの』

 

タマキ:『にゃにゃにゃ、絶対に負けないのにゃ』

 

ユイ :『うみゅー、ユキくんはユイの指示に従ってくれたら勝てるの』

 

『ユイ……』

 

 

 

 いつにもなく頼もしいユイの姿に僕は感動すら覚えていた。

 そして、ユイが言っていたことをゲームが始まってすぐに思い知らされる。

 

 

 

『あっ……、これって――』

 

 

 

 四枚ペアのカードがあった。

 弱いカードが強くなる革命を起こせる。

 

 

 ――まさかユイはこうなることまで予測してたの??

 

 

 これは本当に勝てるかもしれない。

 

 

 

『ユイ、まず最初はもちろんこのカードだよね?』

 

 

 

 革命のカードを出そうとするけど、ユイは首を横に振っていた。

 

 

 

ユイ :『違うの』

 

『えっ?? でも、これしかないと思うけど……』

 

ユイ :『ユイが勝つためには、まずこっちのカードなの』

 

 

 

 ユイが指さしたのは三枚ペアの方だった。

 これも革命した後の方が強いと思うけど、何かユイに作戦があるんだろうな。

 

 

 

『ほ、本当に良いのかな?』

 

ユイ :『うみゅ、これで大丈夫なの。ユイを信じるの』

 

 

 

 カードを出そうとした瞬間に僕の動きが固まる。

 

 

 

『そういえばユイ。さっき、チャットをしてたけど相手ってもしかして猫ノ瀬先輩?』

 

タマキ:『うにゃ。そうなのにゃ。ユイっちには、ユキくんとフウちゃんが負けたときの罰ゲームを教えただけにゃ。ユキくんは【次のオフにユキ犬姫の服装をしてもらう】のにゃ。フウちゃんには【四期生たち全員で裸のお付き合いをしてもらう】のにゃ』

 

『えっ!?!?』

 

フウ :『えっ……!?』

 

『ちょ、ちょっと待って……。僕、ユキ犬姫の服装なんてもってない――』

 

タマキ:『既に準備済みなのにゃ。この勝敗如何で担当さんからユキくんへ届けられるのにゃ』

 

フウ :『ふう……、ポコも裸の付き合いだなんてそんな……』

 

タマキ:『にゃ、旅行の手配も準備済みなのにゃ。安心して行くといいにゃ! あっ、四期生とエロ特急は既に買収済みにゃ』

 

 

 

 それを聞いたフウは慌てて四期生たちの方に視線を向けていた。

 

 

 

「えっと……、ぼく、ユキ先輩があの服を着るの、見たくて……」

 

「四期生全員で旅行なんて私が反対するはずないよ!」

 

「お姉さんは全裸の付き合い、賛成よー」

 

「はははっ、ユキ犬姫衣装を着た姿を写真でくれると言われたら断る理由はない!」

 

 

 

 いつの間にこんな買収をしていたのか……。

 

 

 

『ちょ、ちょっと待って。つまり、僕たちはたった二人でみんなを相手にしないといけないの!?』

 

フウ :『か、勝てる気がしないポコ……』

 

タマキ:『はははっ、信じてた仲間に裏切られる気持ちはどうにゃ? たまには魔王らしいことをしてみたのにゃ』

 

 

 

――ど、どうしよう……。これ、ユイを信じたら負けるやつ……だよね? でも、本当にユイが裏切るような真似をするなんて……。

 

 

――勝てる手札が来たときはゆいを信じて欲しいの。

 

 

 先ほどのユイの言葉が僕の脳裏に浮かび上がる。

 

 うん、そうだよね……。難しいことは考えなくていいんだよね。僕はただ、ユイを信じたら良いだけなんだから――。

 

 

 僕は笑みを浮かべるとユイが言ったカードを場に出していた。

 

 

 5が三枚。

 

 

 さすがに三枚ペアはあまり持っていないと思うけど……。

 

 

 

タマキ:『にゃーはパスにゃ』

 

 

 

 タマキがすぐにパスしてくる。

 僕たちのカードが弱いので、強いカードは二人に固まっているのだろう。

 

 さすがにこのタイミングで、別カードを出すべきじゃないと思ったのだろうな。

 次にフウちゃんの番だった。

 

 

 

フウ :『えっと、これはどうしたらいいポコ……』

 

 

 

 四期生のみんなが敵側だとわかったフウちゃんは困惑していた。

 すると、その肩をポンッと叩く人物がいた。

 

 

 

コウ :『大丈夫よ。ボクが力になるから。その……、ゲームはそこまで得意じゃないけどね』

 

 

 

 コウ先輩が安心させるために笑顔を見せていた。

 

 それを聞いたフウちゃんは思わず目に涙を溜めていた。

 

 

 

フウ :『こ、コウ先輩……。あ、ありがとうございます……』

 

コウ :『でも、フウちゃんたち四期生もこんなことでバラバラになるような仲じゃないよね? みんなが離れそうなら引き戻すのはフウちゃんの役目だよ』

 

フウ :『……っ!? そ、そうですね。四期生のことはふうに任せてください』

 

コウ :『うんうん、それじゃあ、アカネのことは私に任せておいてね』

 

 

 

 満足そうな表情を浮かべるコウ。

 もうフウは大丈夫だと、すぐにその視線をアカネへと向けていた。

 

 

 

アカネ:『や、やるのか、コウ! いくらコウといえども溢れ出した私のパッションは止められないぞ!』

 

コウ :『……人に与えられたものでいいの? 違うでしょ? アカネはもっとすごいものを自分で生み出す側でしょ?』

 

アカネ:『……うぐっ。た、確かに、それはあるな』

 

コウ :『それに、ボクのアカネは誰かに使われるような人じゃないでしょ?』

 

アカネ:『あ、あぁ、そうだな。わかった、私はタマキンに使われるような人間ではなかったな。私は私だ! よし、それじゃあ早速、勝手にユキくんのあられもない姿を描いてくるか』

 

 

 

 

 あっさりアカネの説得に成功していたコウ先輩。それを見て、フウも気合を入れていた。

 

 

 

フウ :『エミリちゃんはふうの敵になるの? 四期生の仲を分断させるの?』

 

エミリ:『わ、私も別にフウを困らせたいわけじゃなくてその……、やっぱりみんなで旅行に行きたくて……』

 

フウ :『それなら勝って、罰ゲームで旅行券を奪っちゃおうか』

 

 

 

 フウがイタズラした子供のように舌を出すと、エミリは大きく頷いていた。

 

 

 

エミリ:『そっか……。そういう方法があったんだね。うん、わかったよ。それなら私はフウの味方をするわ。四期生の仲を分断させるわけにはいかないからね』

 

フウ :『ありがとう、エミリちゃん』

 

 

 

 フウがエミリを抱きしめると、彼女は嬉しそうに顔を赤く染めていた。

 

 

 

フウ :『さて、次はルルちゃんだね。ルルちゃん、本当にそんなことをしていいの?』

 

ルル :『どういうことかな? ぼくはただユキ先輩の可愛い姿を見たいだけで――』

 

フウ :『ユキ先輩に嫌われてまですることかな? 違うよね? ルルちゃんはユキ先輩の姿を見たいんじゃなくて、ユキ先輩自身に好かれたいんだよね?』

 

ルル :『うぅぅ……。た、確かにそうかも』

 

フウ :『なら嫌われるようなことをしたらダメ。ほらっ、ユキ先輩たちと一緒に魔王を倒そう?」

 

ルル :『うん、そうだね。ありがとう、フウちゃん。ぼく、道を間違えるところだったよ!』

 

 

 

 フウと熱い握手を交わすルル。

 これで二人。あとは――。

 

 

 

イツキ:『あとはお姉さんね。お姉さんはそうそう説得されたりは――』

 

フウ :『そう……。なら、明日からイツキちゃんのご飯は全てピーマンのみじん切りにしておくね。それじゃあ、ゲームを再開しよっか』

 

イツキ:『ちょっと待って!? お姉さんの説得だけ雑すぎない!? ほらっ、お姉さんにももっとこう、熱い抱擁を――』

 

フウ :『ナスの田楽もセットにしておくね』

 

イツキ:『全力でフウ様の力になりますので、勘弁してください』

 

 

 

 イツキは頭をつけて謝ってくる。

 全員を無事に説得できたフウは安心して、出すカードの相談をする。

 

 

 

フウ :『一応出せるカードはあるけど、どうする?』

 

 

 三枚あるのはフウの最強カードであるKだった。

 さすがにそれを出すのはもったいない気がする。

 

 でも、ルルがすぐに言ってくる。

 

 

 

ルル :『何かユキ先輩が企んでるね。これは出したほうが良くないかな?』

 

フウ :『ユキ先輩のことはルルちゃんが一番わかってるもんね。なら、このカードは出すね』

 

 

 

 フウがKを三枚出す。

 すると、貴虎先輩が不敵な声を出していた。

 

 

 

タイガ:『ふっふっふっ、この程度か。これでこの勇者を倒そうなどと片腹痛いわ!』

 

タマキ:『それにフウちゃん、語尾を忘れてるのにゃ。狸は狸らしくたぬたぬ言うといいにゃ』

 

フウ :『たぬたぬは言わないポコーーーー!!』

 

 

 

 フウの言葉が響き渡るその瞬間にタイガは1を二枚とジョーカー出していた。

 

 

 

タイガ:『俺も学んだぞ! ジョーカーはコピーカードだ!』

 

『えっと、違いますよ……わふっ』

 

 

 

 自信たっぷりに言うタイガに対して、僕は苦笑を浮かべる。

 

 もちろんカードは2も全てタイガが持っているので、他のみんなに出せるカードはない。

 場が流れ、再びタイガの番がくる。

 

 

 

タイガ:『カードが切れたら弱いのを出す。四天王最弱を召喚だ!』

 

 

 

 タイガが出したのは一枚のカード、7だった。

 

 珍しく弱めのカード。

 

 そして、次は僕の番が回ってくる。

 

 

 

ユイ :『うみゅー、これで不安要素がなくなったの。万一にも革命を返される心配がないの』

 

『えっと、それじゃあ、さっきあえて三枚を出したのって……』

 

ユイ :『うみゅ、ジョーカーを使わせるためなの。新しいルールを知った人は使いたくなるものなの。勝つために相手を観察するのも当然なの』

 

 

 

 ユイはえっへんと胸を張っていた。

 

 

 

『そ、それじゃあ、ユイは別に猫ノ瀬先輩に寝返ったわけじゃないんだね……』

 

 

 

 信じたとはいえ、どこか心の中で不安があった。

 だから、ユイが味方でいてくれたことにホッとしていた。

 

 

 

ユイ :『うみゅ、当然なの。相手がこういう手を使ってまで本気で挑んでくれてるのに、手を抜くなんてゲーマーのゆいには考えられないの! 相手が本気を出してるなら、こっちも本気で迎え撃つの! でも、カード傾向を分析するのは流石のゆいでも疲れたの。あとは任せるの』

 

 

 

 今度こそユイは僕の膝を枕に寝息を立て始める。

 

 それは珍しいユイの寝顔だった。

 

 すごく力になってくれたことに感謝をしながら、僕はユイの頭を軽く撫でていた。

 

 

 

『ありがとう、ユイ。ここまで頑張ってくれて……』

 

ユイ :『……うみゅうみゅ、ユイへのご褒美はユキ犬姫の衣装を着てくれるだけでいいな』

 

『うん……。って、えっ!?』

 

ユイ :『うみゅー、聞いたの。ユキくんはユイのためにユキ犬姫の衣装を着てくれるの!』

 

 

 

 ユイは目を開けて、ちょろっと舌を出していた。

 

 

 

『ま、また、僕をはめて――』

 

ユイ :『それよりもほらっ、早くゲームでトドメを刺してくるといいの。今の手札的にユキくんと狸が負けるはずないの』

 

 

 

 ユイに言われるがまま、僕はカードを出していき、そして、初めての大富豪を獲得していた。



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第17話 三期生の温泉旅行(開始編)

 まさか、本当にこの二人に勝てるなんて思わなかった。

 勝敗がついた後も僕は信じられない気持ちのまま配信画面を眺めていた。

 

 間違いなく僕の画面には『大富豪』という文字が浮かび上がっている。

 

 そして、それは同時に貴虎先輩が都落ちで最下位になったことを意味していた。

 

 

 

タイガ:『ど、どうして俺が負けてるんだ! まだ俺は戦えるぞ!?』

 

タマキ:『もう戦えないのにゃ。タイガは最後の最後に油断したのにゃ』

 

タイガ:『くっ、きゅうり、猫を噛むとはこのことか!』

 

フウ :『えっと……、きゅうりではなくて窮鼠……だと思うポコよ?』

 

タイガ:『きゅーそ? なんだそれは』

 

フウ :『えっと、追い詰められたねず――』

 

タマキ:『それは狸のことにゃ。にゃっにゃっにゃっ、勇者を落としたところで奴は最弱にゃ。喜ぶのはこの魔王を倒してから――』

 

フウ :『これでフウは上がりポコ。……えっと、何か言ってたポコ?』

 

タマキ:『ぐ、ぐぬぬっ。で、でも、勝った数はにゃーたちの方が多いのにゃ!』

 

『でも、このゲームは最終順位が勝敗になるよね? つまり、僕たちの勝ちだよ!』

 

フウ :『や……。やったポコーーーー!! 勝ったポコーーーー!』

 

 

 

 感極まったフウちゃんが隣にいる僕に向かって抱きついてくる。

 それをサッとかわそうとするが、もちろん僕の動きを読んだユイが体を掴んできたせいで、なすすべなくそのまま抱きつかれてしまう。

 

 

 

『わわっ、ユイ!?』

 

ユイ :『うみゅ、今日は譲ってあげるの。ユイ、お姉さんだから』

 

フウ :『ありがとーポコ―』

 

ユキ :『ちょっ!? ぼ、僕は商品じゃないからね!?』

 

タマキ:『うにゃ、負けたのにゃ。仕方ないから何でも罰ゲームを言うといいのにゃ。さすがに全裸で外に出るのはなしにゃ!』

 

イツキ:『――ガタッ』

 

フウ :『ちょっと、イツキちゃん!! 反応しないでポコ!!』

 

タマキ:『にゃははっ、まぁ、女同士全裸になったところで恥ずかしくもないのにゃ。裸の付き合いも大切にゃ』

 

フウ :『そ、それポコ! ふうからの罰ゲームは用意してた温泉旅行のチケットをふうにください!』

 

タマキ:『にゃんだ、やっぱり裸同士のお付き合いがしたかったのにゃね。担当さんに渡しておくのにゃ』

 

フウ :『ち、違いますよ!? ただ、みんなで旅行に行きたいだけですからね!? みんなも楽しみにしてるだろうし、断るわけにはいかないポコ』

 

タマキ:『にゃははっ、にゃーにはわかっているのにゃ。狸は温泉でみんなの裸を見たいえっちぃ子なのにゃ』

 

イツキ:『よくわかったな!』

 

フウ :『ぜ、全然違うポコ!! そ、それじゃあ、ユキ先輩も罰ゲームをどうぞポコ』

 

ユキ?:『僕もユキ犬姫の衣装が欲しいな。もう準備してあるんだよね?』

 

タマキ:『もちろんにゃ。それじゃあ、ユキにはその衣装を送っておくのにゃ』

 

『えっ!? ぼ、僕、何も言ってない――』

 

ユイ :『うみゅー、これで収まるべきところに収まったの。ユキくんの新衣装、楽しみなの』

 

 

 

 ユイがうれしそうな声を上げる。

 もちろんさっきの声を出したのもユイだ。

 僕の声真似をするのが日常茶飯事になってきているユイ。その精度も日に日に上がっており、一瞬僕が声を発したのかとすら思えてしまうほど……。

 

 

 

『えっと、僕そんな衣装をもらってもその……、誰かに見せるわけじゃないし……、その……』

 

ルル :『ユイ先輩――』

 

ユイ :『うみゅ、任せておくの!』

 

 

 

 ルルとユイが何やら目でやりとりをしていた。

 特に何か口に出しているわけではないが、なんでだろう……? 凄く嫌な気がした。

 

 思わず身震いしてしまう。

 とりあえず何も見なかったことにしよう。

 

 

 

【コメント】

:ユキ犬姫がリアルで誕生!

:どこに行ったらユキ犬姫は拾えますか?

:ユキ犬姫は段ボールの中にいることが少ないからな

:姫様だもんな

:ユキくん、似合いそう

 

 

 

『って、ちょっと!? ぼ、僕はそんな服、似合わないからね。ほ、ほらっ、今も――』

 

ユイ :『うみゅ、普通のユキくんの姿なの。とっても似合ってるの』

 

『うんうん、そうそう。普通のユキくん(ぼく)の姿で――。あっ……』

 

ルル :『ユキ先輩はとってもかわいいですよ、安心してください!』

 

『全然安心できないよ!? むしろ身の危険を感じるよ!?』

 

 

 

【コメント】

:ユキくんの姿が似合うならユキ犬姫も似合うよな

:容易に想像が付くw

《:¥10,000 服代》

 

 

 

『えとえと、ふ、服代はその……、猫ノ瀬先輩の枠に投げてください。で、でも、ありがとうございます』

 

タイガ:『ユキの服か!? なら俺はとっておきの段ボールを用意してやろう! ユキがそのまま入れるような特別デッカくて運びやすい新品のやつだ! 大は小を食べるからな』

 

タマキ:『兼ねる、にゃ』

 

『ほ、本当ですか!? あ、ありがとうございます!』

 

 

 

 僕が笑顔を見せながらお礼を言う。

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、今日一番の笑顔だw

:なるほど、ユキくんの誕生日には段ボールを大量に送ればいいのか

:ちょっと待て。俺は全然違うものを送ってしまったぞ?

:俺もだ!?

:しまった……。もう少し早くに知っていれば――

:ふふふっ、俺はとっておきの段ボールを送ったぞ! 中に別のものを入れてしまったが

:新品じゃないと意味がないぞ!?

 

 

 

『あっ、誕生日プレゼント……。たくさん届いているって聞いてます。本当にありがとうございます。ただ、その……僕の部屋が埋まってしまいそうだから、まだ運営さんに預かってもらってるんだ……。そ、その……、量が……ね』

 

 

 

 一度シロルームの本社で見たけど、倉庫一つ埋まるほどの段ボールが置かれていた。

 あれが全て僕へのプレゼントじゃないと思うけど……。

 

――ち、違うよね!?

 

 自分でフラグを立てていっている気がするけど、この際気にしないことにする。

 

 

 

タマキ:『倉庫、まるまる埋まるなんてユキはみんなに愛されてるのにゃ』

 

ユイ :『ユキくんはユイのものなの!』

 

ルル :『いえ、ユキ先輩はぼくのものです!!』

 

イツキ:『あらっ、女の子同士の対立? お姉さんも挟まれるために参加しようかしら?』

 

アカネ:『ユキくんは私が奪っていくぞ!』

 

コウ :『はいはい。アカネはちょっと黙っててね』

 

アカネ:『くっ、コウがいるせいで身動きが上手くとれない……』

 

 

 

 また、みんなの暴走が始まりだしている……。このままだとまずそうだ。

 

 僕はチラッとフウちゃんの顔を見る。

 すると、フウちゃんは理解してくれたようで、一度頷いてくれる。

 

 

 

フウ :『わかったポコ。ふうに任せて欲しいポコ!』

 

 

 

 四期生のこととなるとフウちゃんが頼りになるな。

 

 

 

『ポンにはポコだよね。うん、やっぱりフウちゃんしか勝たん』

 

 

 

 笑みを浮かべて頷いていると、フウちゃんはとんでもない言葉を告げてくる。

 

 

 

フウ :『ユキ先輩はふうの頼れる先輩ポコ。もちろん、ふうがもらっていくポコ。賞品ポコ』

 

『ふ、フウちゃん!?』

 

フウ :『ということで、今度は二人きりでオフコラボしましょうね。ユキ先輩』

 

 

 

 にっこりと微笑んでくるフウちゃん。

 屈託のない笑顔を見ると僕も断る……という選択肢を選ぶわけには行かずに――。

 

 

 

『えっと、その……、また熟考をして返事を――』

 

フウ :『日にちは温泉旅行の後。八月の頭で予定しておきますね』

 

『わわっ、ま、まだ僕、返事をしてないよ……』

 

フウ :『えへへっ、ユキ先輩のことはルルちゃんからしっかり聞いてますから。押してダメなら体当たりしろって』

 

『うぅぅ……、ルルぅ……』

 

ルル :『ぼくはただ、ユキ先輩の良いところを広めたかっただけですよ? 本音では、あまりコラボをしたくなくて断りたいけど、頼られたら断り切れずに悩んでしまうユキ先輩とか、ぼくだけしか知らない姿は自慢したくて――』

 

フウ :『ほ、本当に予定があるとかなら延期しますので、そのときは遠慮なく言ってくださいね』

 

イツキ:『フウちゃん、興奮して語尾を忘れてるわよ』

 

フウ :『あっ……。ぽ、ぽこぽこ……』

 

『ははっ……、わかったよ。うん、知らない人とやるよりは全然大丈夫だから……。それに今度は邪魔されないように、二人でしよっか?』

 

フウ :『いいポコか!? あ、ありがとうございます、ユキ先輩!』

 

 

 

 一度は離れてくれていたフウは感極まって、再び僕に飛びついてくる。

 もちろん僕が避けられないようにユイがしっかり逃げ道を塞いでいるので、為す術なく僕は抱きつかれていた。

 

 

 

ルル :『あっ、フウが裏切りを!? ゆ、ユキ先輩はぼくのものなんだからね!!』

 

 

 

 ルルが僕たちの間を割って入るように飛びついてくる。

 それを皮切りにポンたちが一斉に動き出す。

 

 

 

ユイ :『ならユイも――』

 

 

 

 隣にいるユイがさも当然のようにそのまま僕を抱きしめてくる。

 そして、他の面々も僕たちの方へ向かって飛びついてきて――。

 

 

 

エミリ:『フウちゃんまで!? 二人ともユキ先輩には渡さないからね!!』

 

イツキ:『お姉さんを混ぜてくれないなんて酷いわよ』

 

アカネ:『はははっ、この場は混ぜ返さないとアカネ様の名が廃るね?』

 

コウ :『はぁ、全く……。ここまで暴走すると少し引くまで止められないね。むしろ、ここは流れに乗らないのも変だよね?』

 

 

 

 こ、コウ先輩まで……。

 

 

 みんなに飛びつかれた僕は重さに耐えかねて、そのまま目を回していた。

 

 

 

この放送は終了しました。

『《♯シロルーム遊び合戦ポンぽこ》タマキンにさらわれたユキ犬姫を救うため、勇者タイガとペットの狸が魔王に挑む!《猫虎vs犬狸》《犬狸視点》』

12.0万人が視聴 0分前に配信済み

⤴2.6万 ⤵28 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:Huu Room.狸川フウ

チャンネル登録者数18.3万人

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 無事にポンぽこ大戦が終わり、次の日には担当さんから連絡が来ていた。

 

 

 

マネ :『ユキくん、猫ノ瀬さんから贈り物が届いてますよ』

 

ユキ :『えっ!? もう届いたのですか!? いくら何でも早すぎる……』

 

マネ :『前もって送っていたみたいですね。まぁ、あの二人に勝つなんて信じられないですから』

 

ユキ :『ははっ……、まぁ、実質二対八でしたもんね。ここまで人数差があったらさすがに勝たないと……』

 

マネ :『それでも……、ですよ。それにあそこまで人を集められたのはユキくんたちの人望のおかげです』

 

ユキ :『どちらかといえば僕、というよりフウちゃんでしたね』

 

マネ :『そんなことないですよ。ココネさんも行きたがってましたよ。カグラさんも。他にもオンプさんがさり気なく酷い罰ゲームにならないように裏から手を回してくれてたり、猫ノ瀬さんがその……、裏技(チート)を使わないようにツララさんが監視してくれてたり。それにそれに、ユキヤさんが裏でリスナーを呼び込んでくれてたり、いざ燃えたときにはユージさんを投入する準備もできてたんですよ?』

 

ユキ :『えっと、ゆ、ユージさんの扱い、酷くないですか?』

 

マネ :『いえ、これはユージさんからの提案だったのですよ。その、猫ノ瀬さんは色々とありまして、本当にどこまで裏で手を引いてるかわかりませんでしたから、そこを抑えられたのはユキくんの人望なんですよ』

 

ユキ :『えっと……、そ、そこまでするんだ……』

 

マネ :『えぇ。勝つためにはどんなことでもする子、ですよ。特に勝ちたい、と思ったときには――』

 

ユキ :『それじゃあ、昨日僕勝ったのってまずかったんじゃないのですか?』

 

 

 

 もしかして、猫ノ瀬先輩に嫌われた!?

 急に不安が押し寄せてくる。

 

 

 

マネ :『大丈夫ですよ。むしろ、ライバル認定して『次は勝つ!』と闘争心をメラメラに燃やしてましたよ』

 

ユキ :『それはそれで困るような……』

 

マネ :『頑張ってくださいね。あと、ついに来週ですね。ココネさんにチケットを渡してますけど準備はできてますか?』

 

ユキ :『準備? 来週って何かありましたか? ココママとコラボ?』

 

マネ :『やっぱり忘れてましたか。三期生の旅行ですよ!』

 

ユキ :『旅行? ……あっ!?』

 

 

 

 そういえば三期生全員で温泉旅行に行くことになっていた。

 しっかり、夏にタイミングを合わせて……。

 

 

 

マネ :『そうだと思いましたよ。一応明日、ココネさんに時間を取ってもらってますから準備に付き合ってもらってください。配信は二日間お休みですよね?』

 

ユキ :『ま、まさか、このために休みを取っていたのですか!? 積んでたゲームをしようとしたのに……』

 

マネ :『積みゲームですか? 例えばどういったものですか?』

 

ユキ :『えっと、竜のクエストとかですよ。一人でするRPGが多いです』

 

マネ :『あっ、そちらなら大丈夫ですよ。タイトルごとに聞いてくれたら配信に使えるかどうか調べますから』

 

ユキ :『ふぇっ!? え、えっと、ど、どういうことですか!?』

 

マネ :『ゲーム枠で配信しましょうね』

 

ユキ :『えぇぇぇぇぇ!? ……いや、いいのかな? 僕の好きなことだから……』

 

マネ :『もちろんですよ、ユキくん。遠慮なく配信しちゃってください。それじゃあ積んでるタイトルは今度教えてくださいね。配信できるかはこちらで調べておきますので』

 

ユキ :『で、でも、ゲームってやり出したら止まらないから、一人だと結構長時間しちゃうかも……』

 

マネ :『そうですね。あんまり長いと大変ですからね』

 

ユキ :『ですよね。だから、この話はなかったことに――』

 

マネ :『前、ユイさんが一週間耐久ゲーム配信をしようとしたときはさすがに止めちゃいましたね』

 

ユキ :『えっと、僕の配信は米粒みたいな短さなのでやらせていただきます……』

 

 

 

 そうだった……。シロルームはこういうところだった……。

 断る基準が一週間なら、数日徹夜する程度だとむしろ歓迎されてしまいそうだ。

 

 僕はガックリと肩を落としていた。

 

 

 

マネ :『ユキくんが構わないならそれでいいのですけど……』

 

ユキ :『えっと、それじゃあ、僕はココママに明日の予定を聞いておけばいいのですね? 僕のために時間を作ってもらうのも悪いから、僕一人でも――』

 

マネ :『大喜びして配信を急遽休むことにしてましたよ?』

 

ユキ :『な、なんでそこまで!?』

 

マネ :『だって、最近ユキくん、他の人とのコラボばかりでココネさんと会うこと、減ってますよね? 寂しがっていましたよ?』

 

ユキ :『コラボの予定を入れたのって担当さんですよね?』

 

マネ :『それでも……ですね。ほらっ、ユキくんって用事がないと連絡しないですよね?』

 

ユキ :『そ、そういうものじゃないのですか?』

 

マネ :『――まぁ、ユキくんにそういうことを求めても仕方ないですよね。なので、明日はたっぷりココネさんに付き合ってあげてくださいね』

 

ユキ :『あれっ? 明日は僕の旅行の準備――』

 

 

 

 気がついたら目的が変わってるんだけど……?



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第18話 三期生の温泉旅行(準備編)

 知らず知らずのうちに僕の旅行準備計画が予定されていた。

 ただ、こよりさんと二人、と考えると気持ちが楽だった。

 

 

 すでに何度も出かけているし、家にも行った。

 これ以上恐れることがあるだろうか?

 

 

 そう思っていた時期が僕にもありました。

 

 

 例のごとく待ち合わせ時間の一時間前に着くように家を出た。

 買い物に行くということで待ち合わせ場所は駅。

 

 そこでいつものように僕は、こよりさんが来るのを待つ……はずだったが――。

 

 

 

「えっ!? ど、どうして先に来てるの!?」

 

 

 

 すでにこよりさんは駅で僕のことを待っていた。

 

 

 

「あっ、祐季くん。今日はゆっくり来たんだね」

 

「そ、そんなことないと思うけど……。ほらっ、待ち合わせの一時間前だよ?」

 

 

 

 スマホの時計を見せる。

 それを受け取ったこよりさんは確かめるように、時計を見る。

 

 

 

「うーん、予定通りの十時だよ?」

 

「えっ!? 待ち合わせ時間は十一時……だよね? あ、あれっ? ぼ、僕、間違えた!?」

 

「うん、そうだよ。あっ、だから祐季くんには十一時って伝えたんだったね。いつもの祐季くんなら一時間前に来ると思ってたから――」

 

 

 

 こよりさんはスマホを返してくれる。

 そしてすぐに頬を膨らませてくる。

 

 

 

「……そういえば祐季くん、最近私の事を避けてなかった?」

 

「そ、そんなことないよ!? でも、ちょっと忙しくて中々連絡が取れなかったんだよ……」

 

「それはわかってるよ。わかってるけどその……」

 

「あっ、うん、ごめんね。心配させたみたいで――」

 

「うぅぅ……、私も変なことを言ってごめんなさい。その、祐季くんはやっぱり祐季くんだね。今日はちょっと祐季くんらしい格好じゃないけど……」

 

 

 

 外出するから、と今日は普通のパンツスタイルだった。

 

 

 

「えとえと、前にココママに選んでもらった服は旅行に持っていくから、もう鞄の中に仕舞ってあるんだよ」

 

「あっ……、そういうことなんだ。それは私の考えが及ばなかったね。うん、もっとたくさん可愛い服を選んであげるよ」

 

「で、できたら普段から着られるような服も選んでくれるとその……うれしいな」

 

「うん、任せて!!」

 

 

 

 つい先ほどまで怒っていたかと思ったのだが、すぐに笑顔へと戻っていた。

 そして、さも当然のように手を繋いでくる。

 

 

 

「それじゃあ、行こ! 今日はたくさん買う物があるからね」

 

「えっと、でも旅行にいくための準備……だよね? 服もあるし、足りないものは向こうで買えば良いし、……あとは何かいる物があるの?」

 

「いっぱいあるよ。祐季くんの服とか、祐季くんの浴衣とか、祐季くんの着物とか……」

 

「って、全部僕の服っ!?!? だ、大丈夫だよ、僕、この前こよりさんに買ってもらった服があるし、ほらっ、あまりたくさんあっても、みんなと出かけるときくらいしか着ないし……」

 

「これからもたくさんお出かけするから、たくさんあっても困らないと思うよ」

 

「お、同じ服で良いよ……」

 

「ほらっ、行くよ。今まで祐季くんに会えなかった分、今日はたっぷり堪能するって決めてたんだからね!」

 

「き、今日じゃなくても明日もあるよ?? それにあまり明日に疲れを残したくないから――」

 

「疲れたら私がおんぶしてあげますね」

 

「そ、それ、逆だよ!?」

 

「冗談だよ。でも、明日もあるから今日は早めに集まったの。配信も休みにさせてもらったのは、みんなでたっぷり遊ぶためだよ」

 

「三期生全員で集まるの、久しぶりだもんね。それも旅行に行けるなんて……。でも、その間配信できないけど、大丈夫なのかな?」

 

「――大丈夫だよ。祐季くんの寝言だけを流した放送とか、私は楽しみにしてるから」

 

「しないよ!? そんなこと――」

 

「私がするから大丈夫!」

 

「大丈夫じゃないよ!?」

 

「あははっ、仕方ないよ。祐季くんがかわいいのがいけないんだよ」

 

「そ、そんなことないよ!? それをいうならこよりさんだって――」

 

 

 

 そこまで口にして、今自分が何を言おうとしていたのかに気づく。

 すぐに顔が真っ赤に染まり、こよりさんが見られなくなって、顔を背けてしまう。

 

 

 

「私がどうしたの?」

 

「し、知らないよ。それよりも早く行こう!!」

 

 

 

 先を歩いて目的地であるショッピングモールを目指す。

 

 ただ、最近こういった事に慣れすぎててうっかりしていたけど、僕は男でこよりさんは女性。

 

 こうやって二人っきりで出かけるのって、どうみてもデート……だよね?

 

 意識をしてしまうと、どうしても恥ずかしくなってしまう。

 

 この先、本当にどうなるのだろう――。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 一度あった事って二回あるって思わないとダメだよね。

 

 

 僕は苦笑をしながら、目の前の光景を眺めていた。

 こよりさんが真剣な表情を浮かべて、僕の服を選んでいる姿を――。

 

 

 ただ、ここって女性服売り場なんだよね……。それもかわいい系のものが揃った……。

 おかしくない? ねぇ、おかしくないかな??

 それにこよりさん、服だけじゃなくて、水着なんかも見てない??

 あれっ、僕の目が悪くなっただけかな?

 

 

 思わず顔を背けたくなってくる。

 

 ただ、こういう光景を見ると、今日出かけているのはデートではなく、単に僕をおもちゃ……もとい着せ替え人形にして遊ぼうとしているだけだとわかった。

 

 

 うん、そうだよね。

 こよりさん、いつもは真面目なお姉さんに見えるけど、僕を前にするとこうだったもんね。

 知ってたよ。うん、知ってた……。

 

 

 

「うーん、こっちのピンクのスカートも似合いそうだし、でもでも、祐季くんには可愛らしい柄がついているほうが……。迷うなぁ……。全部買っちゃおうかな?」

 

「ぜ、全部はさすがに多すぎるよ!?」

 

「でもでも、全部買ったとしてもルルちゃんが今まで、祐季くんにスパチャで投げた分には遠く及ばないんだよね」

 

「ルルは言っても聞かないからね……」

 

 

 

 その分、僕もルルに何か返せたら……とは思っているけど、中々忙しくて一緒の配信ができてないのが現状だった。

 もちろん忙しいのは僕だけじゃなくてルルも同様だが――。

 

 

「祐季くんも可愛いルルちゃんには、あまり強く言えないんだね……。ルルちゃん、可愛いもんね。すごく懐かれてるみたいだし……」

 

 

 

 意味深に二回同じ事を言うこよりさん。

 

 

 

「まぁ、ルルは確かに可愛いけど、僕に懐いているのは同性だから、他の人たちより僕に相談しやすいだけだと思うよ?」

 

 

 

 シロルームのメンバーなら知ってることだと思って、当然のように言う。

 ただ、その瞬間にこよりさんの動きはゆっくりと固まっていた。

 そして、ロボットのような動きで僕の方を見てくる。

 

 

 

「えっ……、ど、同性ってアバターのこと……だよね??」

 

「――こよりさん、もしかして聞いたことない? 僕と同じだよ」

 

「祐季くんと同じって事は性別が段ボール……」

 

「そんなわけないでしょ!?」

 

 

 

 思わずつっこみを入れてしまう。

 こよりさんにしては珍しくわかりやすいほどに動揺をしているようだった。

 

 

 

「あっ、そ、そうだよね。えっと、私はルルちゃんが元々配信してた夏瀬ななちゃんだってことくらいしか聞いてなくて――。あ、あれっ、ということはルルちゃんって男の娘?」

 

「ちょっと、言い方は気になるけど、そうだよ。って、あれっ? 一緒にお風呂入った、とか言ってたよね? 異性の子と入るわけないし、それでわかるよね?」

 

「わからないよ!? だって祐季くんは取っても可愛らしい女の子にしか見えないんですからね! もし襲われたら――」

 

「――こよりさんは心配しすぎだよ。でも、ありがとうね」

 

「い、いえ、私の方こそ勝手に暴走してごめんね。――あっ」

 

 

 

 何か思い出したように、こよりさんが口に手を当てる。

 そして、申し訳なさそうに言ってくる。

 

 

 

「えっと……、その……、明日行く温泉なんだけど、実は混浴のところなんだ……。担当さんにお願いして……」

 

「えっ!?!? ど、どうして……!?」

 

「だって、ルルちゃんが良くて、私たちがダメって言われたから、それなら一緒に入って驚かそうと思って……。ルルちゃんが男の娘だなんて思わなかったから――」

 

「ルルちゃんは関係ないよね!? ほらっ、僕たちは異性だから……。それにこよりさんが良くても結坂や瑠璃香(るりか)さんがダメって言うはずだよ!?」

 

「もちろん二人の承諾はもらってるよ」

 

「な、なんで!?!?」

 

「えっと……、ほらっ」

 

 

 

 こよりさんが僕の方にスマホを見せてくれる。

 そこには結坂や瑠璃香さんとのやりとりが残されていた。

 

 

 

ココネ:『今度の温泉、混浴もあるところなんだって』

 

カグラ:『こ、混浴!?』

 

ユイ :『うみゅー。こんよくー。たのしみなのー』

 

カグラ:『ち、違うわよ、ユイ! し、知らない人と一緒になんて入れないわよ!?』

 

 

 

 瑠璃香さんの反応を見ていると安心してくる。

 これが普通の反応だよね。楽しみにしているのはおかしいよね。

 

 ただ、カグラさんが心配していることはそういうことじゃなかった。

 

 

 

ココネ:『貸し切りにもできるらしいよ。担当さんにお願いして、当日は貸し切ってもらったよ』

 

ユイ :『うみゅー、さすがココママなの。ママなのは伊達じゃないの』

 

ココネ:『ママじゃないですよ!? うぅぅ……、最近四期生の子たちにもママ扱いされるんですよ。何とかそれを払拭しようとしてるんですよ……』

 

カグラ:『それは……無理ね。もう一期生や二期生からもママ扱いされてるわよ。でも、貸し切りなら問題ないわね』

 

ココネ:『えぇぇ、先輩たちからもママって呼ばれてるって本当ですか!?』

 

ユイ :『うみゅ、ユイもユキくんも全力で広めてるの』

 

ココネ:『ちょっと、何してるのですか!? ダメですよ、そんなことをしたら!!』

 

カグラ:『……今更じゃないかしら? もう手遅れでしょ?』

 

ココネ:『て、手遅れじゃないです!』

 

ユイ :『ココママはもうユキくんのママなの』

 

ココネ:『それは……そうですけど』

 

 

 

 話題が脱線するのはいつものことだけど……。

 

 

「こよりさん、そこは否定してよ!?」

 

「えっ? 間違ってないよね」

 

「間違ってるよ!?」

 

「まぁ、それはおいておいて、見ての通り誰も反対してないよね?」

 

 

 

 確かにココママの言うとおり、誰も反対をしていない。

 

 

 

「み、みんな、おかしいよ!? ぼ、僕は男なのに……」

 

「ユキくんは性別、段ボールだよ?」

 

「だ、段ボールが本体じゃないよ!? ほらっ、今日は段ボールを着てないでしょ?」

 

「そうだった……。祐季くんの服を見ないと! 可愛いのを選んであげるからねー」

 

「えっと、僕は自分で自分のを見れるからこよりさんは自分のを――」

 

 

 

 あたふたとしていると側にいた店員さんに目をつけられてしまう。

 

 

 

「なにかお探しでしょうか?」

 

「わわっ、え、えと、えと……」

 

 

 

 店員さんに急に話しかけられるのって苦手なんだよね……。

 

 僕が言葉に詰まらせていると代わりにこよりさんが答えてくれる。

 

 

 

「はいっ! 祐季くんの服を探しにきました!」

 

「ち、違うよ……」

 

 

 

 恥ずかしさのあまり、こよりさんの後ろに隠れて、顔を覗かせながら言う。

 

 すると、店員さんは笑みを浮かべながら言う。

 

 

 

「お姉さんと服を買いに来たのかな? 私が良い服を見繕ってあげますね」

 

「えっと、いらな――」

 

「はいっ、お願いします!」

 

 

 

 僕が断ろうとしても、こよりさんがあっさり引き受けてしまう。

 そして、そのあと僕は予測通り、二人の着せ替え人形となり、昼を過ぎる頃にはたくさんの手荷物を持つこととなった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「うぅ……、やっぱり服を着せられるんだね……」

 

 

 

 ショッピングモールにあるフードコート。

 買った服の一つ、なぜかうさ耳が付いた純白のパーカーを着ていた僕は、シクシクと涙を流していた。

 

 

 

「大丈夫です。とっても可愛いですよ」

 

 

 

 両手を合わせて、はにかんでいるこよりさん。

 

 

 

「可愛い服って事はわかるよ。……着ているのが僕じゃなかったらね」

 

「違うよ! 祐季くんが着ているから良いんだよ!」

 

 

 

 こよりさんが当然のように言いきってくる。

 

 

 

「それに、このパーカー……、もこもこしてて少し熱いね。秋用とかじゃないのかな?」

 

「可愛いを作るためなら、そのくらい我慢できるよね? みんなを魅せるのが配信者だもんね」

 

「うぅぅ……、僕、顔出し配信してないよ……。だから服で魅せる必要はないよ……」

 

「私のやる気が出ます!」

 

「き、今日は配信しないから……。やる気にならなくてもいいんだよ……」

 

「明日、配信するよ。今から気合い入れておかないとね!」

 

 

 

 そんなことを言いながら僕に抱きついてくるこよりさん。

 いつもの部屋なら良いけど、ここはフードコート。

 

 僕たちのやりとりを見ている人たちもいる。

 

 

 

「こ、こよりさん。抑えて……、ほらっ、ここは外だから……」

 

「――部屋の中ならいいんだね? うん、言質はとったからね」

 

「えっ……、ち、ちが――」

 

 

 

 笑顔を見せてくるこよりさんを見ていると僕も仕方ないかと思えてきて、思わずため息を吐いていた。

 



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第19話 三期生の温泉旅行(寝るまで配信編)

『《♯コユユカ温泉旅行》寝たら終了。寝るまで耐久配信《雪城ユキ/真心ココネ/神宮寺カグラ/羊沢ユイ/シロルーム》』

4.2万人が待機中 20XX/07/28 00:00に公開予定

⤴120 ⤵0 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

 温泉旅行当日。

 一応頼まれていたので、当日の夜に配信を予定していた。

 みんなに話したいこともたくさんあったし、こうやって三期生全員が集まってのオフコラボも久しぶりだったので――。

 

 

 

 待機画面には、アカネ先輩がノリノリで描いていた、バスタオル姿で温泉に入る僕たち四人の姿。

 

 奥の方で呆れた表情を浮かべながら、僕たちを眺めるカグラさん。

 僕の腕を掴み、満足そうな表情を浮かべるココママ。

 僕のバスタオルを引っ張ろうと、ニヤリ微笑んでいるユイ。

 そして、真ん中で顔を真っ赤にして慌てふためいている(ゆきくん)

 

 うん、未来予知でもできるのかな?

 と、思えるほど、全く同じ事が温泉でも繰り広げられたので、思わずこれを待機画面に選んでしまった。

 

 

 

【コメント】

:寝るまで耐久って、もうユキくんの寝る時間じゃないのか?

:開始即終了が見えているw

天瀬ルル :うぅぅ……、なんで温泉旅行が別なの……。

姫野オンプ :楽しそうで何よりなのですよー

:今頃、ユキくんたちは温泉か……

:俺も入りたいな

:↑通報しました

 

 

 

 まだ開始一時間前にも拘わらず、コメントが大いに盛り上がっていた。

 そして、コメントで予想されていたとおり、僕は既にあくびをかみ殺して、なんと寝ないように堪えていた。

 

 

 

「ユキくん、大丈夫? まだ配信開始まで時間があるし、少しだけ寝ておく?」

 

 

 

 こよりさんが優しい言葉を投げかけてくれる。

 しかし、僕は首を振る。

 

 

 

「大丈夫……。今寝ると配信時間に起きられなさそうだから……」

 

「ユキくんがそういうなら仕方ないね……。でも、昨日も寝てないのだから無理をしないでね……」

 

「うみゅ?! またユキくんは寝てないの!? 開始したら即終了しておくから、早く寝るの!」

 

 

 

 既に配信モードに入っている結坂がポンポン、っと布団を叩いてくる。

 

 

 

「ね、寝ないよ!?」

 

「寝るの!!」

 

「はぁ……、二人とも、そのくらいにしておきなさい。ユキも起きてても良いけど、それで体調を崩したら許さないわよ。ユイは逆に寝なさい! あなたが寝てるところは見たことないわよ」

 

 

 

 瑠璃香が呆れながら言ってくる。

 

 

 

「た、確かに、ユイが寝てるところは見たことがないかも……」

 

「う、うみゅ!? ゆ、ユイはちゃんと寝てるの! ユキくんと同じ布団で寝てるの!」

 

「ダメですよ!? ユキくんは私と一緒に寝るんですからね!?」

 

「ち、違うよ!? 僕は一人で寝るからね!?」

 

「もう、みんな一緒に寝たら良いんでしょ!?」

 

 

 

 呆れながら言ってくる瑠璃香さん。

 

 でも、それも間違ってるよ……。瑠璃香さんもだんだんと三期生の毒に蝕まれてない?

 

 

 

「うみゅ、それなの!!」

 

「決まりですね!」

 

「えっと……、僕の意見は……?」

 

 

 

 当然のように無視される僕の言葉に思わず口を挟んでしまう。

 すると、こよりさんが当たり前のように言ってくる。

 

 

 

「ユキくんを一人にして、もし誰かに襲われでもしたら大変ですからね」

 

「……何で僕が襲われる方なの?」

 

「うみゅ、確かにユキくんは襲われそうなの。ゆいが段ボールで犯人を吹き飛ばすの!」

 

「ぼ、僕の段ボールは渡さないからね!?」

 

「――その前に段ボールは武器にならないことを突っ込みなさいよ……」

 

 

 

 瑠璃香が呆れ顔を浮かべてくる。

 

 

 

「そ、それもそうだね。段ボールは防具だもんね」

 

「それも違うわよ……」

 

 

 

 そんなやりとりをした後、結局僕たちはみんなで固まって眠ることになった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 配信開始の時間となる。

 画面には、いつものアニメーションを流していた。

 そして、僕の瞼は重くなり、うつらうつらしていた。

 

 

 

ココネ:『ユキくん、大丈夫?』

 

ユキ :『だ、大丈夫……。ね、寝てないよ……?』

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、起きてた!?

:でも、すぐ寝そうw

:頑張れw

天瀬ルル :ユキ先輩、僕と一緒に寝ましょう

:ルルちゃんが本能ダダ漏れだw

 

 

 

ユキ :『うにゅ……、ね、寝てないからね……』

 

ユイ :『うみゅー、うにゅーはユイの言葉なの!!』

 

カグラ:『とりあえず、ユキは寝てなさい。フラフラしてるわよ』

 

ユキ :『だ、大丈夫……。僕、まだ寝てないからね……』

 

ココネ:『はいはい、ユキくんはこっちですよ。私のお膝で寝て下さいね』

 

ユキ :『うん、ココママ……』

 

 

 

 ココネに膝枕をされながら、僕の瞼はゆっくり閉じていった。

 

 

 

ユイ :『うみゅ! ということで、今日の配信はここまでなの。お疲れ様なの!』

 

ココネ:『こらっ、ユイちゃん。ユキくんが寝てるからもう少し静かにね』

 

カグラ:『まだ開始一分も経ってないわよ……』

 

ユキ :『うみゅ……、僕はまだ寝てないよぉ……』

 

カグラ:『確かに一旦枠を閉じて、別枠をした方が良いわね』

 

ココネ:『そうですね。では、一旦お疲れ様です』

 

 

 

【コメント】

:やっぱりユキくんだったw

:開始早々w

天瀬ルル :ユキ先輩の寝言、かわいい

:次枠が始まるまで待機してるよ

:ユキくんは拾っていきます

《:¥1,000 寝息期待》

 

 

 

この放送は終了しました。

 

『《♯コユユカ温泉旅行》寝たら終了。寝るまで耐久配信《雪城ユキ/真心ココネ/神宮寺カグラ/羊沢ユイ/シロルーム》』

5.1万人が視聴 0分前に公開済み

⤴1.5万 ⤵16 ➦共有 ≡₊保存 …

 

チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ

チャンネル登録者数40.1万人

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『《♯コユユカ温泉旅行》静かに雑談《真心ココネ/雪城ユキ/神宮寺カグラ/羊沢ユイ/シロルーム》』

5.1万人が視聴中 ライブ配信中

⤴367 ⤵2 ➦共有 ≡₊保存 …

 

 

 

【コメント】

:始まった

:やっぱりユキくんはおねむかw

:耐久RTAだったなw

:おいっ、お前ら、静かにしろ。ユキくんの寝息が聞こえないだろ!

天瀬ルル :ぼくには聞こえる

 

 

 

 ユキくんが寝てしまったので、今度はココネのアカウントから配信を始める。

 すると、さっきまでいた人たちがそのまま移動してくるので、いきなり視聴者数が増加していた。

 

 

 

ココネ:『みなさん、ここばんはー。真心ココネですよー。今日はユキくんが寝ているので静かに進めていきたいと思います』

 

 

 

 ココネが小声で話していく。

 すると、それに呼応してカグラが小声で自己紹介をする。

 

 

 

カグラ:『神宮寺カグラよ。さすがに旅行の夜は疲れるわね』

 

ユイ :『うみゅ? そうなの? ユイはまだまだ元気なの! これから耐久配信も余裕なの!』

 

カグラ:『絶対しないわよ!?』

 

ココネ:『こらっ、二人とも! うるさくしたらダメでしょ!』

 

ユイ :『うみゅ、ココママが一番うるさいの』

 

ユキ :『うにゅ……、んっ……? もう朝……?』

 

ココネ:『まだ夜だから寝ておいてくださいね』

 

 

 

 起きそうになったユキを再び寝かしつけるココネ。

 

 

 

【コメント】

:相変わらずの三期生w

:ユキくんの寝言助かる

:ココママがまともだw

:ユキくんが寝ちゃったからな

 

 

 

ココネ:『とりあえず、温泉旅行に来てるので、昼の話でもしましょうか?』

 

ユイ :『うみゅ、温泉に入ったの!』

 

ココネ:『さ、さすがにそれだけじゃわからないですよ。順番に話していきますね。えっと、まずは駅で待ち合わせをした話からですね』

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 温泉旅行当日。

 僕はリュックとトランクを必死に運んで、待ち合わせ場所に来ていた。

 

 

 

「うぅぅ……、重い……」

 

 

 

 こうやって誰かと旅行に行くということがなかったので、必要になりそうな荷物を片っ端から準備していた。

 

 その結果が今の大量の荷物だった。

 

 

 

「あっ、祐季くん、おはよ……って、その荷物、どうしたの!?」

 

 

 

 僕の姿を見た瞬間にこよりさんは驚きの声を上げる。

 

 

 

「おはよう、こよりさん。えっと、旅行の荷物だよ??」

 

「夜逃げでもしたのかと思ったよ!? 重くないの?」

 

「あ、あははっ……」

 

「重いのですね。ちょっとこっちに来て! まだ私の家の方が近いから、いらない荷物は置いておこう?」

 

「だ、大丈夫だよ!? このくらい――」

 

「いいから!」

 

 

 

 こよりさんに引っ張られて、一旦彼女の家へと向かう。

 そして、着いた瞬間に鞄がひっくり返される。

 

 

 

「えっ!? ちょ、ちょっと、こよりさん??」

 

「うーん、これもいらない。あれもいらない……」

 

 

 

 ぽいっ、ぽいっ、っと避けられていく荷物たち。

 

 

 

「祐季くん、さすがに温泉旅行へ行くのに温泉の元はいらないよ? いくらなんでも……」

 

「で、でも、いざ行ったときに、温泉が工事中で入れない……とかなったら、みんな困るかなって。ちょっとでも、温泉の気分が味わえるかなって――」

 

「考えすぎだよ。それに温泉街へ旅行に行くのだから、どこか入れるよ。うーん、ちょっと私が整理するから、祐季くんはこの服に着替えておいて!」

 

 

 

 こよりさんに、ユキ犬姫の衣装を渡される。

 薄黄色のフリルやリボンがたくさんあしらわれた純白のドレス風ワンピース。

 あまりにも高い完成度。

 サイズもぴったり。

 

 どう考えても僕用に作られたものだった。

 

 

 

「うん、わかったよ……。って、えっ!? ど、どうして、こんなものがここにあるの!?」

 

「担当さんから預かってきたよ! 『写真よろね!』ってコメントを添えてね」

 

「き、着ないよ!? い、今の格好でも頑張ってるんだからね!?」

 

 

 

 今の僕の格好は通常のユキくんスタイルだった。

 ワンピースと犬耳パーカー。それにレギンス。

 

 こよりさんに買ってもらったもので、知り合いに会うときや、近くの場所へ行くときなら問題はないのだけど、やっぱり旅行ともなると勇気がいる。

 

 そのおかげで、昨日もろくに寝ることができなかった。

 ただ、旅行の前日なら普通だよね?

 

 

 

「えっ? 着てくれないの?」

 

 

 

 こよりさんが凄く悲しそうな表情をする。

 

 

 

「うっ……。あっ、えとえと……、その……」

 

 

 

 さすがにそんな表情をされると僕も言葉に詰まってしまう。

 

 

 

「祐季くん……、私の事が嫌いになった……?」

 

「そ、そんなことないよ!?」

 

「なら、着てくれる……?」

 

「うぅ……、うぅ……、わ、わかったよ。ちょっとだけだからね?」

 

「やったー!  はいっ、これとこれ、あとはこれもいるかな?」

 

 

 

 服だけじゃなくて、ヘッドドレスから靴下、挙げ句の果てに靴すらも渡される。

 

 そして、こよりさんは満面の笑みを浮かべていた。

 それを見て、僕は謀られたことに気づく。

 

 

 

「だ、騙されたの、僕!?」

 

 

 

 そう言いながらも言ってしまった以上、着ないわけにはいかないので、僕は渋々ユキ犬姫の格好をすることになった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「うぅぅ……、は、恥ずかしいよ……」

 

 

 

 着替え終わった僕は顔を真っ赤にしながら、ギュッと服を握りしめて恥ずかしさを堪えていた。

 すると、こよりさんは恍惚の表情を浮かべて、何度も写真を撮ってくる。

 

 

 

「祐季くん、とってもかわいいよ。額に入れて飾りたいよ。はぁ……はぁ……」

 

「ちょっ!? 危ない人になってるよ!?」

 

「危なくないよ? ほらっ、ちょっと写真を撮ってるだけだよ?」

 

「撮らなくていい……。撮らなくていいから……」

 

「また一つ、祐季くんアルバムの写真が追加されたよ」

 

「いつの間にそんなアルバムが!?」

 

「あっ、これは秘密でした。忘れて下さい」

 

「忘れられないよ!? うぅぅ……、恥ずかしいよ……。なんだか、スースーするし……」

 

 

 

 今まで着てきた服は下にレギンスを履いて、まだ男としての威厳を保っていた。

 しかし、今回は素足を出している。

 長めの靴下を履いているとはいえ、それがレギンスの代わりにはなり得ない。

 

 つまり、いつもの数倍、数十倍、いやもっとかもしれない。

 そのくらい恥ずかしいのだった。

 

 

 

「この下にズボン、履いて良い?」

 

 

 

 一応こよりさんに確認をすると、笑顔ですぐに返事してくれる。

 

 

 

「ダメ! だよ」

 

「――だよね……。うん、知ってたよ……」

 

「だって、こんなに可愛いんだから。祐季くんはかわいい。かわいいは正義だよ!」

 

 

 

 この話題を続けると、更に何か着させられるかもしれない。

 少し離れた方が良いかもしれない。

 

 

 

「そ、そうだ。こよりさん、僕の荷物はどうなったの?」

 

「あっ、準備できてるよ。ほらっ」

 

 

 

 僕が話題を変えようとしたことに気づいていないのか、こよりさんは普通にトランクを渡してくる。

 たくさんあった荷物は、どういう魔法を使ったのか、トランク一つだけに収まっていた。

 

 

 

「す、すごい……」

 

「えへへっ。これが私の収納術だよ。必要最低限のものだけ持っていけば十分だからね」

 

「ほ、本当にありがたいよ……。こよりさん、ありがとう」

 

「うん、それなら次は水着に――」

 

「そ、そろそろ待ち合わせの時間じゃないかな!? ほらっ、こよりさん、もう行く準備をしないと!」

 

「あっ、もうそんな時間かぁ……。残念だね」

 

 

 

 こよりは少し寂しそうな表情を浮かべていた。

 

 

 

「で、でも、旅行中はずっと一緒でしょ!? 違うのは夜、寝るときの部屋くらいかな? だから寂しくないよ?」

 

「えっと、少し違うけど、それもそうだね。うん、それじゃあ、行こっか?」

 

「うん、そうだね。それじゃあ、僕はそろそろ元の服に――」

 

「それじゃあ、行こっか?」

 

「僕の服――」

 

「行こっ?」

 

「うん、わかったよ……」

 

 

 

 押し切られるまま、僕はユキ犬姫の姿で家の外に出ることになっていた。



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第20話 三期生の温泉旅行(寝るまで配信編ぱーとつー)

ユイ :『うみゅー!! ユキくんの写真、欲しいのー!!』

 

ココネ:『そうですね。あとから三期生のチャットに貼っておきますね』

 

カグラ:『それでユキがあんな格好をしていたのね。さすがに見たときは驚いたわよ』

 

ユイ :『いつものユキくんだったの』

 

ココネ:『可愛かったから普通ですよ?』

 

カグラ:『まぁ、可愛かったことは否定できないわね』

 

 

 

【コメント】

:リアルユキ犬姫だと!?

:お、俺も見たい

《天瀬ルル :¥10,000 こ、これでぼくにも写真を下さい》

:↑ルルちゃんwww

:ココママ策士w

 

 

 

ユイ :『次はユイたちが登場するの。ココママたちが遅れてやってきたところなの』

 

カグラ:『そうね。それじゃあ、待ち合わせ場所から電車で移動するところまでを話しましょうか?』

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「うみゅーーー!! 遅いのーーーー!!」

 

 

 待ち合わせ場所にたどり着いた僕たちは、揃って結坂に怒られていた。

 

 

 

「ご、ごめん……。少し遅れちゃって……」

 

 

 

 時間は待ち合わせの二分後。

 それだけ聞くとたいしたことないように思えるかもしれない。

 でも、いつも一時間前には着いているはずの僕がいなかったのだ。

 きっと凄く心配していたに違いない。

 

 だからこそ、僕は素直に謝っていた。

 

 

 

「全然待ってないから構わないわよ。彩芽(あやめ)もついさっき来たところよ」

 

「あっ、バラしたらダメなのー!」

 

「それよりも今日は……、まぁ、祐季の服については何も言わないでおくわね。いつものことだから――」

 

「とっても可愛いの。これって例の賞品なの?」

 

「そうみたい。私が預かってたので、せっかくだから着てもらっちゃった」

 

 

 

 こよりさんはいたずらがバレた子供のように、可愛らしく舌を出していた。

 

 

 

「うぅぅ……、それよりもこの服、着替えたい……」

 

「ダメだよ?」

「ダメなの!」

「諦めなさい」

 

 

 

 三人に即答されてしまう。

 

 

――あれっ? これって僕がおかしいのかな?

 

 

 

 思わず首を傾げてしまう。

 しかし、それを気にする暇もなく、僕たちは移動することになった。

 

 

 

「そういえば、今回温泉行くのって、僕たち三期生だけなんだね」

 

「最初は四期生も同じ日にしようとしたらしいよ? でも、みんな集まるとゆっくり仲を深めることもできないから、って担当さんが配慮してくれたみたいだね」

 

「うみゅー、枕投げは多いほうが楽しいの!」

 

「メインは温泉よ?」

 

「桶を投げて戦うの!」

 

「あ、危ないわよ! 私も投げ返すわよ?」

 

「もう、二人とも。温泉は遊ぶ場所じゃないよ!」

 

 

 

 こよりさんに注意される結坂と瑠璃香さん。

 

 

 

「うみゅー……、ごめんなの。ユキくんのタオルを捲る程度に抑えておくの」

 

「そうね。私も彩芽に乗せられすぎたわ。ごめんなさい。今度、祐季のアルバムを見せてあげるから許して欲しいわ」

 

「仕方ないね。二人がそんなに反省してるなら……」

 

 

 

 こよりさんが結坂や瑠璃香さんと熱い握手を交わしていた。

 しかし、僕には不穏な台詞にしか聞こえなかった。

 

 

 

「ちょっと待って! なんか色々とおかしいことが聞こえたけど気のせいかな?」

 

「うみゅ、気のせいなの!」

 

「ちょっ!? まだどれのことかも言ってないよ!? それに気のせいじゃないからね!?」

 

「とりあえず祐季くん、そろそろ電車に乗るからあんまり騒いだらダメだよ。はいっ、迷子にならないように手を繋ぎましょう」

 

「うん……。って、僕、子供じゃないからね!? 迷子にならない……とは言えないけど」

 

「迷子になるなら手を繋いでおこうね」

 

 

 

 こよりさんに手を掴まれてしまう。

 

 

 

「うみゅ!? ユイも掴むの!!」

 

 

 

 こよりと反対の手を結坂が掴んでくる。

 

 

 

「ちょ、ちょっと!? なんで二人とも握ってくるの!? る、瑠璃香さん……た、助け……」

 

「あっ、電車が来たわよ。ほらっ、急いで!!」

 

 

 

 僕のことを視界に入れようとせずに、さっさと電車の方へ行ってしまう。

 

 

 

「そうだね。私たちも行こっか」

 

「うみゅー! 温泉でゆっくりするの」

 

「ぼ、僕は一人で歩ける! 歩けるからぁ……」

 

 

 

 僕たちも三人で手を繋いだまま、電車へと向かって行った。

 

 

 

◇◇◇

 

【コメント】

:珍しくココママがママしてる

:ユキくんをお持ち帰りしたい

天瀬ルル :ぼくとユキ先輩が離ればなれになったのは担当さんのせい……

:ルルちゃん、怖いよ!?

:ユキ犬姫を探せばユキくんに会えるのか

 

 

 

ココネ:『そういえば、まだカグラさんのユキくんアルバムを見てないですね』

 

カグラ:『わかってるわよ。さすがに持ってきてないから今度うちに来てくれるかしら?』

 

ココネ:『わかりました。それじゃあ、私のユキくん写真集(お宝)も持っていきますから、それを眺める雑談オフでもしますか?』

 

ユイ :『うみゅー、ゆいもゆいも!! ゆいも行くのー!!』

 

カグラ:『わかったわよ。でも、くれぐれもユキには内緒よ?』

 

ココネ:『そうですね。ユキくんにはバレたらダメですね。邪魔してきますから』

 

ユイ :『うみゅー、わかったの。黙ってるの』

 

 

 

【コメント】

天瀬ルル :ぼ、ぼくも行きたいです!

:楽しみなコラボ配信だ

:みんなでユキくんアルバムを持ち寄って感想を言い合うのかw

:他に行きたい人もいそうw

 

 

 

ココネ:『では、次は電車の中での出来事ですね』

 

ユイ :『トランプ―!!』

 

カグラ:『はいはい、みんなでゲームしてた話ね』

 

ユキ :『すぅ……』

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 電車に乗ると早速、戦争が勃発していた。

 その理由は誰がどの席に座るか……という、単純な物だった。

 

 

 

「うみゅー! ゆいが隣に座るの!」

 

「私が隣に座って、責任を持って祐季くんを見るよ」

 

「はぁ……、全く二人は――」

 

 

 

 いつものやりとりだけど、ここは電車の中。

 人の目が気になって、僕一人だけそわそわとしていた。

 

 そこでため息交じりの声を出していた瑠璃香さんを見てハッとなる。

 こよりさんと結坂が争っているなら、一番喧嘩にならない場所は――。

 

 少し考えた結果、僕は瑠璃香さんの隣に座っていた。

 

 

 

「あっ……」

 

「うみゅ!?」

 

「えっ?」

 

 

 

 三人とも驚きの声を上げるが、僕は平然と言ってのける。

 

 

 

「ここに座るのが一番喧嘩にならないよね?」

 

「そ、そうだね……」

 

「うみゅー……、負けたの……」

 

「祐季もやるようになったわね」

 

 

 

 そして、結局窓際に僕とこよりさん。

 通路側に瑠璃香さんと結坂が座ることになった。

 

 それからしばらくは電車の揺れを感じながら、のんびり雑談をしていたのだが、唐突に結坂がトランプを持ち出してくる。

 

 

 

「勝負なのー!!」

 

 

 

 電車の中でもやたら元気な結坂。

 

 

――うん、旅行中ってテンションが上がるよね。

 

 

 理由はわかりつつも、僕は昨日寝ていないこともあり、心地よい電車の揺れによってウトウトとしていた。

 

 

 

「うみゅ? 祐季くん、眠たいの?」

 

「うーん、大丈夫……」

 

「私が膝を貸そうか?」

 

 

 

 こよりが自分の膝を叩いてくる。

 ただ、向かい合って座っている現状でその膝を使うことはできない。

 いや、そもそもが使うつもりもなかったけど……。

 

 

 

「だ、大丈夫だよ!? そ、それよりもトランプだね。……う、うん、やろっか」

 

 

 

 顔を染めて、大慌てで言う。

 すると、こよりさんはどこか残念そうだった。

 

 

 

「うみゅー、それなら祐季くんの膝枕を賭けて勝負なの!」

 

「負けないよ!」

 

 

 

 こよりさんと結坂がバチバチと火花を飛ばし合っている。

 その様子を呆れた顔で見ていたのは、瑠璃香さんだった。

 

 

 

「全く……、こんな電車の中で人目につくことをしたらダメでしょ?」

 

「る、瑠璃香さん……」

 

 

 

 暴走を始めたときに味方になってくれるのは瑠璃香さんだけだよね。

 やっぱりカグラさんしか勝たないよね。

 

 目を輝かせて、瑠璃香を見ているとカグラさんは更に言葉を続ける。

 

 

 

「迷惑を掛けないように、膝枕は今日の夜にするべきでしょ。全く、他の人に迷惑を掛けたらダメよ!」

 

 

 

 うん、僕の味方はここにはいなかったらしい……。

 

 

 

「そ、それよりもどうして当たり前のように僕が景品になってるの!? た、たまには僕じゃなくて、結坂やこよりさんが景品をやってよ」

 

「それじゃあ景品にならないよ」

 

「うみゅー、みんなが欲しいものだから必然的に祐季くんになるの」

 

「まぁ、他の人だと景品にならないわよね。景品役に私がいないことは気になるけど」

 

 

 

 どうしても、僕が景品、という部分は揺るがないようだった。

 それなら追加のルールを加えるべきだよね?

 

 

 

「わかったよ。それなら僕が勝った場合は――」

 

「うみゅ、好きな人に膝枕をしてもらうと良いの」

 

「全員でも良いよ」

 

 

 

 ちょっと待って!? それだとどっちにしても景品ってことじゃないの!?

 

 

 

「うぅぅ……、ま、負けないからね! 僕が勝って、誰にも膝枕をされないってルートを勝ち取ってみせるよ」

 

「うみゅ、そんなことを言って、全員に膝枕されることを望んでるの、祐季くんは」

 

「ち、違うよ!?」

 

「そんなこと私が許さないよ!? 勝つのは私だからね!」

 

 

 

 結局いつもどおり、景品を賭けた大富豪が始まっていた。

 そして、本気になったこよりさんは結坂に勝るとも劣らない結果を残していた。

 ただ、やはりゲームでは結坂の上をいく者はいなくて、結局負けてしまった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「うみゅ-、勝ったの!」

 

「ま、負けた……」

 

 

 

 座席の上に立ち、ガッツポーズをする結坂。

 一方、床に手を付きがっくりと肩を落とすこよりさん。

 

 

 

「あ、あの……、そ、そこまで悔しがらなくても……」

 

「だって、祐季くんの膝枕だよ!?」

 

「ぼ、僕がされるほうだよね? えっと……、別に恥ずかしいだけで嫌なわけじゃないからその……、いつでもしてくれていいんだよ……?」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「あっ……、えっと、人前じゃなかったらね……。ほ、ほらっ、二人の時とか……」

 

「二人っきりの時は祐季くんを自由にして良いんだね!」

 

「うみゅー。ちゃんと聞いたの。祐季くんと一緒にホラーゲームするの」

 

「えっ!? ち、ちがっ……。そういう意味の自由じゃない……」

 

「そうね。私も料理がうまくなった……と思うから、そろそろ祐季に食べてもらおうかしら?」

 

「そ、それはその……。た、食べられるもの……だよね?」

 

「どういう意味よ!?」

 

「それなら、今度祐季くんとオフコラボをするね。約束だよ?」

 

「うみゅー、ユイもするのー!」

 

「私もするわよ」

 

「えとえと、多いよ……。そ、その、予定を見てからね……」

 

「大丈夫だよ。祐季くんの予定は把握してるからね」

 

「ちょっ!? なんで僕が覚えてないのに、こよりさんが覚えてるの!?」

 

「隙があったらコラボを入れようと確認してるからね。自分の予定をみるついでに一緒に見るだけだからね」

 

「た、確かに予定には載ってるけど……、も、もしかして結坂と瑠璃香さんも覚えてるの!?」

 

「うみゅ? ユイは知らないの」

 

「私もさすがに自分の分だけね。その日の配信予定くらいは見てるけど」

 

「ユイはその日の分も見てないの」

 

 

 

 なぜか結坂が一番偉そうにしている。

 その様子に苦笑を浮かべながら、僕はこよりさんの方を見る。

 

 

 

「えっと、確かに僕も三人の予定は見てるね……。うん。最近忙しくてライブで行けてないけど……」

 

 

 

 なぜか最後に僕がこよりさんのフォローをすることになってしまう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ココネ:『結局、ユイが圧勝しちゃったよね』

 

ユイ :『うみゅ、ユイにゲームで勝とうなんて五万光年早いの!』

 

カグラ:『えっと、光年は距離だし、そもそも結構な接戦だったでしょ?』

 

ユイ :『うみゅ……、正義は最後には勝つの』

 

ココネ:『だ、誰が悪ですか!?』

 

ユイ :『ココママなの』

 

カグラ:『はいはい、また話が脱線してるわよ。どんどん次へいきましょう。次は温泉街を歩いた話かしら?』

 

 

 

【コメント】

:ユイちゃんは強いなぁw

:あれっ、でも今、膝枕してるのはココママ……

:カグヤ様……、どんどん自然になってるな……

:三期生のまとめ役は実は力グラ様?

 

 

 

カグラ:『カグヤじゃないわよ! いつも言ってるけど。あと、さり気なく『(ちから)』の漢字を使ってるけど、わかってるからね』

 

ユイ :『うみゅ、あの頃の純粋なハグラ様を返して欲しいの』

 

ココネ:『えっ? カグラさん、純粋じゃないの?』

 

カグラ:『誰がハグラ様よ!? あと、今でも十分純粋だからね?』

 

ユイ :『うみゅ……、この流れはするべきかなって思ったの』

 

ココネ:『みんなに愛されてるんですね』

 

カグラ:『わ、私はもっと普通に相手をしてくれていいのよ?』

 

 

 

【コメント】

:普通に相手してるだけだよな?

:カグラっち、こうやって相手にして貰えるのがうれしそうだからな

:ココママが段々自然に戻ってきたなw

:ユキくんが寝ちゃってるからなw

 

 

 

カグラ:『また脱線してるわね。と、とりあえず次よ次。ユキが迷子になって大変だったのよね』

 

ココネ:『ユキくん、誘拐されたのかと思って大変でしたよね……』

 

ユイ :『うみゅ!! ユキくんはまだまだ子供なの! 次からはユイがしっかり手を繋いでおくの!』

 



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第21話 三期生の温泉旅行(寝るまで配信編ぱーとすりー)

 温泉街に辿り着いた僕たちは、まず最初に荷物を置くために旅館へ向かっていた。

 それはいいのだが――

 

 

 

「いい加減、この服着替えてもいいかな?」

 

「だめ! 絶対にだめ! だってとってもかわいいんだもん!」

 

「ちょっと待って!? それって理由になってないよね?」

 

「ものすごくちゃんとした理由だよ」

 

「うみゅ、もちろんなの。祐季くんはとってもかわいいから祐季くんなの」

 

「諦めなさい。祐季が口でこの二人に勝てるはずないでしょ?」

 

「うぅぅ……、だってこの姿はものすごくスースーするんだよ? ぼ、僕男なのに……」

 

「うみゅ、祐季くんは性別祐季くんなの」

 

「シロルームの中ではそうなっているわね」

 

「間違いないよ。あと、犬好きのみんなも同じこと思っているかな?」

 

「……僕に味方はいないの……?」

 

「うみゅ、みんな味方なの!」

 

「そうだよ、みんな祐季くんの味方だよ!」

 

「ほ、本当かなぁ……」

 

 

 

 疑心暗鬼でみんなのことを見る。

 しかし、こよりさんも結坂も、いつもと同じ笑顔を見せてくるので、本心からの言葉とわかる。

 

 

 

「うん、わかったよ……。納得はできないけど、みんな僕の味方って信じるよ」

 

「わかってくれたんだね。ところで祐季くん、あの服、祐季くんに似合いそうだと思いませんか?」

 

 

 

 こよりさんが指を差した先には、浴衣ドレスが飾られていた。

 

 

 

「やっぱり、僕の味方じゃないよね……?」

 

 

 

 僕のその呟きは誰にも聞かれることなく、こよりたちの楽しげな声によってかき消されていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「それでやっぱりこうなるんだよね……」

 

 

 

 当然のように僕は浴衣ドレスを着させられていた。

 僕だけではなく、みんな色違いのものを着ていたけど……。

 

 

 

 分かっていたこととはいえ、目から涙が出てきてしまうのは、男の子だからだろうか?

 

 

 

「うみゅ、祐季くんは男の娘なの!」

 

「僕の考えを勝手に読まないで……。あと、『こ』の漢字だけ僕とは違うのを想像してるよね!?」

 

「気のせいなの」

 

「祐季くん、とっても似合ってますよ! それに私たちが着てるのに、祐季くんだけ着てないと逆に目立っちゃうよ? もしかして、目立ちたかったの?」

 

「そ、そんなことないよ!? め、目立たなくていいからね!? 僕は部屋の隅でうずくまってるのがお似合いだからね!?」

 

 

 

 慌てて全力で否定をする。

 しかし、それは逆効果だったようだ。

 

 

 

「部屋の隅に置かれた段ボールにうずくまるユキくん……。これはもうお持ち帰りしても誰も怒らないよね?」

 

「うみゅー! ユキくん、持ち帰り放題なのー!」

 

「そ、そんなにたくさんいないからね!? 僕は一人だけだよ??」

 

「それにしても、なんで男の祐季が一番似合ってるのよ! なんだか悔しいわね」

 

「仕方ないよ。だって、祐季くんだもん」

 

 

 

 瑠璃香さんとこよりさんが遠い目をしながら話している。

 

 

 

「そ、そんなことないよ!? こよりさんも赤い浴衣がとっても似合ってるし、瑠璃香さんの黒の浴衣も大人の女性っぽくて、似合ってるよ? 僕なんかとは比べものにならないよ」

 

「うみゅー! ゆいはゆいは?」

 

「うん、結坂の黄色い浴衣も元気そうに見えていいと思うよ。でも、いつまでその喋り方でいるの? その……、周りの人にバレないかな?」

 

 

 

 結坂のしゃべり方はどう見てもユイそのものなので、いつかはバレてしまうのでは……、と不安になってくる。

 すると、結坂はため息交じりに言ってくる。

 

 

 

「うみゅ、それをいうなら祐季くんは自分の姿を見ると良いの! どこからどうみてもユキくんなの! 浴衣を着てるからまだわからないけど、普段の服なんてユキくん過ぎて、逆に怪しまれてないの!」

 

「そ、そこまでユキくんじゃないよね!?」

 

「それなら鏡を見てみますか?」

 

「PCもあるからユキくんの配信と見比べてみるといいわ」

 

 

 

 こよりさんが手鏡を渡してくれる。

 そして、瑠璃香さんがパソコンで僕の配信画面を流してくる。

 

 

 

「わわっ!? こ、こんなところで流さないでよ!?」

 

 

 

 慌てて、パソコンの画面を隠していた。

 

 

 

「やっぱりユキくんはユキくんなの」

 

「えぇ、とってもかわいいよね」

 

「まぁ、仕方ないわよね。祐季は祐季だからね」

 

「ま、全く……どうしてこんなものを持ってるの!?」

 

「えっ、パソコンのこと? だって、このあと配信をするって言ったわよね?」

 

「あっ……」

 

 

 

 旅行のことに頭がいっぱいですっかりそのことが抜け落ちていたかもしれない。

 

 

 

「ど、どうしよう……。僕がユキくんだってバレてしまったら女装してる変態さんだって思われちゃうよ……」

 

 

 

 その場で蹲って頭を抱えてしまう。

 すると、そんな僕の方をこよりさんが叩いて励ましてくる。

 

 

 

「大丈夫だよ、祐季くん」

 

「こ、こよりさん……」

 

「祐季くんは男の子には見えないよ。とってもかわいい女の子にしか見えないから」

 

「ぼ、僕は男だからね!?」

 

「うみゅー、祐季くんはいい加減に認めると良いの」

 

「み、認めないからね!? ぜ、絶対に認めないからね!?」

 

「はぁ……、こんなところで騒いでないでそろそろ先に行きましょう? せっかく観光地にまで来たのに、入り口にもたどり着かずに騒いで終わるつもりなの?」

 

「あっ……、ご、ごめん。うん、そうだよね。せっかく来たんだもんね。よし、今日は格好のことは忘れて思いっきり楽しもう!」

 

「おー!!」

 

 

 

 こうして、僕たちは色んな場所を見て回っていた。

 ただ、ついついテンションが上がってしまったのか、気がついたら僕は一人になっていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「あ、あれっ? こ、ここはどこだろう?」

 

 

 

 さっきまでは観光客向けの土産物屋や食べ物やなどがたくさん並んでいたところにいたのだが、いつの間にか路地を歩いていた。

 

 

 住宅街まで来ちゃったのかな?

 

 

 普通に一戸建ての住宅が建ち並んでいる。

 元の場所へ戻るにはどう行ったら良いのだろう?

 

 

 

「ねぇ、こよりさん達は元の場所の戻り方ってわかる?」

 

 

 

 僕の後ろを歩いていたこよりたちの方に振り向く。

 しかし、そこには誰もいなかった。

 

 

 

「あ、あれっ? こよりさん? 結坂? 瑠璃香さん? ど、どこに居るの?」

 

 

 

 慌てて周りを見回す。

 しかし、人らしい人は見当たらない。

 

 

 

「も、もしかして、みんな迷子になったの? わわっ、た、大変だ。ゆ、誘拐とかされてないよね? と、とりあえず探さないと!!」

 

 

 

 元来た道を駆けていく。

 しかし、それは元の道ではなく、全然違った道だった――。

 

 

 

◆◆◆

【コメント】

:ユキくんらしいw

:浴衣ドレス……、見てみたい

《天瀬ルル :¥20,000 浴衣ドレス代》

:そういうルルちゃんの浴衣ドレス姿も見てみたいな

美空アカネ :呼んだ?

:お帰りください

:ちょっと待て。アカネパイセンが来たって事はユキくんのイラストが更新され生可能性が

美空アカネ :あとから写真をよろしくね!

 

 

 

ココネ:『ユキくんらしいですけど、そのあとは大変でしたよ。ユキくん、とってもかわいいですから、誰かに誘拐されたのかと思いまして……』

 

ユイ :『うみゅー、ゆいが拾っていくの!』

 

カグラ:『はいはい、段ボールを送っておくからそれで我慢しなさい』

 

ユイ :『うみゅー、ユキくん段ボールなのー!」

 

 

 

 ユイの体の半分が段ボールで埋まってしまう。

 その代わりにユキくんの場所には布団が置かれていた。

 

 

 

ココネ:『そんなことを言って、ユイもあのときは真剣に焦っていましたよね?』

 

ユイ :『うみゅー、ゆいはいつでもみんなのことを心配しているの』

 

カグラ:『まぁ、ユキの場合は特に心配よね。本当に誘拐されてもおかしくないわけだし……』

 

ココネ:『結局、そのあとすぐに見つかったから良かったものの、大変でしたよね』

 

ユイ :『ユキくんも必死に探していたみたいなの』

 

カグラ:『これからユキはしっかり捕まえておかないといけないわね』

 

ココネ:『私が手を掴んでおきますね』

 

ユイ :『うみゅー! それはユイの仕事なの!』

 

カグラ:『はいはい、両手があるでしょ。二人とも掴んでもらえば良いわよ』

 

ココネ:『それです!』

ユイ :『それなの!』

 

 

 

 ほぼ同時に声を上げるココネとユイ。

 

 

 

ココネ:『とりあえず、みんなも気になってそうなので、続きを話していきますね』

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 しばらく周囲を探していたけど、どうしてもみんなを見つけることができなかった。

 それどころか、ますます今どこに居るのかわからなかった。

 

 

――そ、そうだ! スマホがある!

 

 

 これでこよりさん達に連絡をすれば……。

 藁にもすがる思いでスマホからこよりに掛ける。

 

 すると、ワンコールもおかずに電話に出て貰える。

 

 

 

ココネ:『ゆ、ユキくんですか!?』

 

ユキ :『う、うん、そうだけど……。い、今どこに居るのかな?』

 

ココネ:『し、心配しましたよ……。でも、無事でよかった。私たちはまださっきのお団子を食べたお店の近くにいますよ? ユキくんはどこですか?』

 

ユキ :『僕は住宅街にいるよ? 目印は……、こ、公園があるよ? 小さいところだけど……』

 

ココネ:『こ、公園ですか!?』

 

 

 

 驚きの声を上げるこよりさん。

 そして、小声でユイたちに相談をしていた。

 

 

 

こより:「祐季くん、いま公園近くにいるらしいですけど、近くに公園ってあるかな?」

 

結坂 :「うみゅー、知らないのー」

 

瑠璃香:「そうね……、この辺の公園だといくつかに限られるわね。他に特徴はないかしら?」

 

 

 

ココネ:『ユキくん、他の目印はありませんか?』

 

ユキ :『め、目印……? えとえと……』

 

 

 

 大慌てで回りを見渡していた。

 しかし、本当に住宅街で回りに変わったものは何もなかった。

 

 

 

ユキ :『ご、ごめん……。何もないみたい……』

 

ココネ:『何もないのですね?』

 

 

 

こより:「それでわかるかな?」

 

瑠璃香:「大丈夫ね。意外と目印になりそうなものがあるところがあるから、それを除外していって……、うん、多分ここの公園!」

 

結坂:「うにゅー、もう大丈夫なのー!」

 

 

 

ココネ:「場所を特定しましたから、もう少し待っててもらってもいいかな? 絶対にそこから動いたらダメだよ?」

 

ユキ :「わ、わかったよ……」

 

 

 

 あっさり場所をわかってくれる。

 やっぱりみんな頼りになるなぁ。

 僕はここから動かなかったら……。

 

 

 

「あ、あの……、だ、大丈――」

 

 

 

 突然知らない人に声をかけられて、僕は飛び跳ねそうなくらい驚いて、そのまま違う場所へ向かって、走っていった。

 

 

 

 そして、僕に声をかけたにも関わらず、逃げられてしまった男の人は、なんとも言えない表情のまま、その場で固まっていた。

 

 

 それを繰り返すこと、数回。

 ようやく僕はこよりさんたちに出会うことができた。

 その姿を見た瞬間に思わず僕は目から涙が出てしまい、そのままこよりさんに飛びついていた。

 

 

 

「わっと……」

 

 

 

 危うく倒れそうになりながらも、しっかり僕を抱きとめてくれるこよりさん。

 

 

 

「もう、一人でどこかに行かないで……」

 

「ご、ごめん……。心配かけちゃったね」

 

「祐季くん、誘拐されたのかと思ったよ……」

 

「安心して。そんな時は必死に逃げるから……」

 

「安心できないよ。祐季くんがいなくなるなんて、もう考えられないから……」

 

 

 

 それからしばらくこよりさんは僕に抱きついたままだった。

 流石にこの体制は恥ずかしいのだけど、心配をかけたのは僕なのだから、としばらくはされるがままになっていた。

 

 

 

「全く、往来のど真ん中で何をしてるのよ」

 

「うみゅー、ゆいも混ざるのー!」

 

「やめておきなさい。今は――」

 

 

 

 結坂は瑠璃香に掴まれていて、抱きつきに行くことはできなかった。

 そして、しばらくしてここが道のど真ん中ということに気づいた僕は顔を真っ赤にして、照れてしまうのだった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ココネ:『すごく焦っちゃったんですけど、ユキくん、無事に見つかって良かったです』

 

ユイ :『お持ち帰り失敗なの』

 

カグラ:『持ち帰ったらダメでしょ!?』

 

ユイ :『うみゅー、でも、一家に一人、ユキくんは必要だと思うの』

 

ココネ:『本当にそうですよね。仕方ないので、私がもらって行きますけど』

 

ユイ 『うみゅー! ユキくんはゆいがもらうの!』

 

カグラ:『一家に一人……、確かに必要かもしれないわね』

 

 

 

 ついに最後の砦たるカグラが陥落しそうになっていた。

 しかし、すぐに首を横に振っていた。

 

 

 

カグラ:『違う違う! そうじゃないでしょ!?』

 

ココネ:『あっ、担当さんから連絡が来ましたよ』

 

 

 

 意味深なココネの発言。

 少し不安になりながら、カグラたちもスマホからその連絡を見る。

 

 

 

マネ :『ユキくんのぬいぐるみを作る許可、もらってきましたよ。他にもユキくんのオリジナルシングルや特典グッズも。あっ、この情報はもう発表もしていいですよ。確定したことですから』

 

 

 

カグラ:『あっ……』

 

ユイ :『うみゅ!?』

 

ココネ:『やりましたね! 私たちの願いが通じたのかも』

 

カグラ:『はぁ……、これって本人が寝てる間に発表していいやつなのかしら?』

 

ユイ :『許可をもらってるからいいの』

 

ココネ:『むしろこのタイミングで連絡が来たってことはユキくんが寝てるうちに発表して、既成事実を作って欲しいってことでしょうね』

 

 

 

 ココネの膝ですやすや眠っているユキを慈しみの視線で眺め、その頭を撫でていた。

 

 

 

【コメント】

:えっ、なになに?

:重大発表!?

:わくわく

天瀬ルル :ぼ、ぼくのところには来てないよ!?

美空アカネ :私のところにも来てない。ちょっと担当の指を詰めてくる

海星コウ :同期じゃないからでしょ!? 全く……

 

 

 

ココネ:『えっと、その発表ですけど、なんとユキくんのオリジナルグッズ等の発売が決まりました。その中にユキくんぬいぐるみもありますよ!』

 

ユイ :『ちょっと買い占めてくるの』

 

カグラ:『全く、そんなことをしたらダメに決まってるでしょ!』

 

ユイ :『そんなことを言って、カグラもマネさんに一個頼んでたの』

 

カグラ:『あっ……、い、言わないでよ!?』

 

ココネ:『一つでいいなんて、カグラさんは控えめですね』

 

カグラ:『流石に100個単位で頼むココママには負けるわよ』

 

ココネ:『ユキくんぬいぐるみ専用ルームも必要になりますね』

 

ユイ :『部屋が余ってるゆいに死角はないの!』

 

カグラ:『二人とも買いすぎよ。販売するのはぬいぐるみだけじゃないでしょ!?』

 

ココネ:『あっ、そうでした。ユキくんに内緒で、ユキくんのオリジナルシングル曲を作ることが決まりました! ユキくんに内緒で!』

 

ユイ :『これでいつでもユキくんの声が聞けるの』

 

カグラ:『別に電話すればいつでも聞けるでしょ?』

 

ユイ :『いつでもは聞けないの』

 

ココネ:『確かにユキくんが電話をとってくれるなんてレア中のレアですからね』

 

 

 

【コメント】

:ユキくんグッズだ!!

:お金貯めておかないと!

《天瀬ルル :¥10,000 こ、これでぼくにもグッズを》

《:¥10,000 グッズ代》

:楽しみ

:朝起きたらユキくん、驚くんじゃないかな?

:もう発表してしまってるわけだもんな

:ここから断れないかw

 



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第22話 三期生の温泉旅行(寝るまで配信編ぱーとふぉー)

ココネ:『長々とお待たせしてしまいましたね。温泉旅行なのに、中々温泉に入る話までできませんでしたから、待っていた人もいたのではないですか?』

 

ユイ :『うみゅー、凄く待たされたのー!』

 

カグラ:『誰のせいだと思ってるのよ!?』

 

ユイ :『カグラっちのせい?』

 

カグラ:『誰がカグラよ!? って、合ってるわね』

 

ユイ :『うみゅ、違う名前が良かったの? カグっち』

 

カグラ:『カグラで良いわよ!?』

 

ココネ:『まぁ、こうやって話が脱線するのはいつものことですもんね』

 

ユイ :『うみゅー、そろそろココママは膝枕役を変わるの!』

 

ココネ:『はいはい。また明日になったら変わってあげますよ』

 

ユイ :『うみゅーー!! それだとユキくんが起きてしまうの!!』

 

ユキ :『うぅぅ……』

 

 

 

 ユキが起きそうになった瞬間に三人は言葉を発しなくなっていた。

 その間も無情にコメントだけが流れていく。

 

 

 

【コメント】

:ユキくん、まだまだおねむかな?

:段々声が大きくなっていったからな

:まだココママが膝枕をしていたのか!?

天瀬ルル :うぅぅ……、ぼくもしたいのに……

 

 

 

ココネ:『こ、このままだと、ユキくんが起きてしまいそうなので、最後についさっきの話をして、終了したいと思います』

 

ユイ :『うみゅ、みんなで温泉に入ったの』

 

カグラ:『さっき決まったことは、また配信終了後にまとめておくわ。どうせ、二人ともやらないだろうし』

 

ユイ :『うみゅ、助かるの。だからカグラっちは大好きなのー』

 

カグラ:『はいはい。暑苦しいから抱きつかないでよね』

 

ココネ:『ではスタートです』

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 迷子になりながらも、ようやく僕たちは宿へとたどり着いた。

 

 どこか古さを残しながらも、落ち着く佇まいをした木造二階建て。

 入るとすぐに頭を下げた女将さんに出迎えられてしまう。

 

 

 

「ようこそ、雪の宿へ。お名前を頂戴してもよろしいでしょうか?」

 

「あっ、はい。えっと、僕は雪城……じゃない。小幡祐季(こはたゆき)といいます」

 

 

 

 思わず、本名じゃなくて、ユキくんの名前を言ってしまうところだった。

 

 配信の度に自己紹介をしているので、最近だと自分の名前より言う回数が多いから、ついうっかり言いそうになる。

 みんなもユキくん、としか呼ばないのでなおさらだった。

 

 ちょっと前だと、結坂が小幡くんと呼んでくれていたのだが、いつのまにかユキくんになってるし……。

 

 結坂自身もユイのしゃべり口調でいることを考えると、案外引っ張られるものかも知れない。

 

 注意しないと……。

 

 

「小幡様ですね。少々お待ち下さい。えっと、シロルームご一行様、でよろしかったでしょうか?」

 

 

 

 ちょっと待って!? マネさん、僕たちの正体、隠す気があるの!?

 

 

 

 思わず驚いてしまうが、こよりさんは平然とした態度で答えていた。

 

 

 

「はい、まちがいありません」

「では、お部屋に案内させていただきます。付いてきて下さい」

 

 

 

 女将さんに案内された先はそれなりに広い和室だった。

 奥に縁側もあり、そこから整えられた中庭を一望することもできる。

 

 そして、部屋はたった一つだけ。

 

 

 

「では、何かあったらお呼び下さい」

 

 

 

 女将さんが恭しく頭を下げた後、部屋を出て行ってしまった。

 

 

 

「も、問題しかないんだけど……。ど、どうしよう……。僕、どこで寝たら良いの?」

「どこって、ここで一緒に寝るよね?」

 

 

 

 こよりさんがさも当然のように言ってくる。

 

 

 

「でもでも、おかしいよね? やっぱり僕、女将さんに頼んで別の部屋を――」

「もう、そんなことしなくていいよ、ユキくん。それよりもゲームしよ?」

 

 

 

 結坂がカバンの中から大量のゲーム機を取りだしていた。

 それより僕は今の話し方に違和感を覚えてしまう。

 

 

 

「あれっ、もうユイのしゃべり方をしなくて良いの?」

「さすがに部屋の中ではしないよ。あれ、意識的に作ってるから結構疲れるんだよ、元に戻すのは――」

「――それならさっきも無理にユイの話し方をしなくてよかったのに……」

「どうしても、緊張するとあのしゃべり方になってしまうんだよ。最近ずっとあれだからかな?」

 

 

 

 確かに結坂が言わんとすることはよくわかる。

 僕がさっき、自分の名前を間違えそうになったことと同じだった。

 

 

 

「でも、今は普通の話し方で良いんだよね? それなら僕の言いたいこともわかるよね?」「うん、祐季くんが一緒に寝ることだよね? 私は何も問題ないかな?」

「な、なんで!?」

「前も一緒に寝てるよね? それも二人っきりで。それと比べると人も多いから問題ないかなって」

「――うっ、言われてみると確かに」

「よかったね、祐季くん。ハーレムだよ」

「ぼ、僕は縁側の方で寝るね。そ、そこは譲らないからね?」

「大丈夫。どうせいつものように祐季くんは先に寝てしまうでしょ?」

「きょ、今日はしっかり起きてるよ! 見てて、絶対に日が変わるまで起きてるからね!」

「それなら今日の配信タイトルは『《♯コユユカ温泉旅行》寝たら終了。寝るまで耐久配信《雪城ユキ/真心ココネ/神宮寺カグラ/羊沢ユイ/シロルーム》』でいいかな? ユキくんの枠でするし、責任重大だね」

「僕の枠で良いの? 本当に良いの?」

「うん、ユキくん睡眠RTA、楽しみにしてるね」

「ぜ、絶対にそんなことにならないからね!?」

「それは楽しみだよ」

 

 

 

 ニコッと笑みをこぼす結坂。

 僕は絶対に思い通りにはさせない、と固い決意を抱いていた。

 

 

 

「それじゃあ、そろそろ祐季くんがどこで眠るか決めない?」

 

 

 

 改めてこよりさんが仕切ってくる。

 さすが、この中で一番最年長。とは言ってもたった一歳差だけど。

 

 

 

「そうだよね。やっぱりこの中で唯一の男である僕が寝る場所は大事だよね?」

 

 

 

 さすがわかってくれている。

 何か問題が起きたら大変だもんね。

 

 

 

「はいはーい! 私の布団が良いと思うよ!」

 

 

 

 まずは結坂が手を挙げて言ってくる。

 

 

 

「ちょっと待って! なんでそうなるの!?」

「そうだよ! ここはやっぱり私の布団で寝るべきだと思うよ」

「こ、こよりさん!?」

 

 

 

 どうやらこよりさんも僕を自分の布団へ連れ込もうとしていたようだった。

 お互いに一歩も引かずに言い争っている仲、僕は瑠璃香さんに助けを求めて視線を送る。

 

 

 

「はぁ……、全く、布団は四人分用意されるのよ。一緒の布団で寝る必要なんてないでしょ?」

「そう、それ。それだよ! 僕が言いたかったのは……」

「それなら私が祐季くんの隣に……」

「同級生である私が隣で寝るのは相応しいよね?」

 

 

 

 また、二人でにらみ合う。

 

 

 

「えっと、僕が端で寝るから隣、瑠璃香さんにお願いしても良いかな?」

「「祐季くん!?」」

 

 

 

 こよりさん達が言い争っている中、隣でこよりさんに頼む。

 すると、二人は驚きの声を上げていた。

 

 

 

「ど、どうして……?」

「祐季くん……。もしかして、私の事、嫌いになった? や、やっぱりホラーゲームは嫌だったかな?」

 

 

 

 悲しそうに持ってきたゲームソフトを眺める結坂。

 

 

 

「うん、それは嫌だけどそういう理由じゃないよ?」

「それじゃあ、どうして?」

「なんか身の危険を感じてね……」

 

 

 

 普通は逆なんだろうけど、今回ばかりは仕方ない。

 一番僕の身を守れそうなのが瑠璃香さんだというだけだった。

 

 

 

「わかったわ。そういう並びにしましょうか。でも、それも祐季が寝落ちたらできないからね?」

「うっ……、も、もちろんわかってるよ……」

「それなら早速温泉に行きませんか? ここの大浴場、美容健康に効くって有名なんですよ」

 

 

 

 こよりさんが手を当てて、にっこりと微笑む。

 ようやく一人の時間がきてくれるようだった。

 

 

 

「それもそうだね。いつまでもこの姿のままにはいかないもんね」

 

 

 

 普通のパジャマを取り出し、温泉へ行く準備をする。

 

 

 

「あっ、祐季くん。せっかくだから浴衣にしない?」

 

 

 

 そういえば女将さんが出て行く前に人数分置いていった気がする。

 

 

 

「そうだね。その方が雰囲気が出るかも……」

「よーし、それじゃあ、しゅっぱーつ!!」

 

 

 

 結坂が僕の手を掴んで、勝手にどこかへ連れて行く。

 

 

 

「あっ、祐季くんと行くのは私です!!」

「ぼ、僕は一人で行けるから……」

「ちょっと待って。ここの大浴場って――。はぁ……、まぁ、今更気にするメンバーじゃないわね」

 

 

 

 ため息交じりに瑠璃香さんが一番後ろで付いてきていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 脱衣場へとやってくる。

 ここは暖簾によって、男女が分けられている。

 当然ながら僕は男の方へ、他のみんなは女の方へと行くのだが――。

 

 

 

「祐季くん、そっちは男の人の方だよ。祐季くんはこっち」

「こよりさん……、僕の性別を勘違いしてない?」

「祐季くんの性別?」

 

 

 

 こよりさんは首を傾げていた。

 なんでそこで迷うの!?

 思わず口に出したくなるのをグッと堪える。

 

 

 

「祐季くんの性別は祐季くんだよ!」

 

 

 

 結坂が迷うことなく言い切ってくる。

 

 

 

「それだね! だからこっちだよ!」

 

 

 

 なぜか僕を女性の脱衣場へと連れ込もうとするこよりさん。

 

 

 

「そっちも違うよね? というか僕は普通に男だからね!?」

「まぁ、ふざけるのも程ほどにしておきなさい。私たちだけなら良いけど、ここには他のお客さんもいるのだからね」

 

 

 

 確かに周りにいる人たちが僕らの方を見ていた。

 目立ちすぎたかも知れない。

 

 

 

「それにほらっ、見てみなさい。祐季くん用の脱衣室も準備してあるわよ」

 

 

 

 瑠璃香さんが指さした先にはなぜか、第三の暖簾が掛けられていた。

 そして、そこには『ダンボール』と書かれていた。

 

 

 

「し、資材置き場のことじゃないかな?」

「祐季くん専用の脱衣室があるんだね。それなら仕方ないかな」

「これはもう、お風呂上がりに拾って帰るしかないの」

 

 

 

 うん、結坂に捕まらないように気をつけないとね。

 きっとホラーゲーム24時間耐久とかさせてくるだろうし。

 

 

 

「えっと、本当にここは僕のところなの? ほらっ、僕は普通に男の脱衣室へ……」

「そんな、他の男の人に迷惑をかけること、したらだめだよ!」

「迷惑なんてかけないよ!? 普通の行動だからね!?」

 

 

 

 ため息交じりに……、そこが資材置き場であることを期待しながら僕は、『ダンボール』の暖簾をくぐっていく。

 

 中は至って普通の脱衣場だった。

 そして、部屋の片隅にはユキくん段ボールが置かれている。

 それを見た瞬間に、ここは僕のための部屋であることを理解してしまった。

 

 

 

「全く……、マネさんだね。こんなことをするのは」

 

 

 

 こよりさん達と一緒に着替えるような羽目にならなかったので、その点だけは感謝していた。

 

 今まで来ていた浴衣ドレスを脱ぐと、それを畳んでから、浴場へと向かう。

 

 

 

 

 

 

「うわっ、やっぱり本格的だね。こんなに広いんだ……」

 

 

 

 一人で使うのはもったいないくらい、目の前に広々とした温泉が広がっていた。回りの風景も楽しめて、風情ある空間がそこには広がっていた。

 

 そして、客は僕の他に誰もいなかった。

 

 まぁ、ダンボールの浴場へ入る人はいないよね?

 

 苦笑を浮かべながら温泉へ入ると思いっきり手足を伸ばしていた。

 

 

 

「ふわぁぁぁ……、やっぱり気持ちいいなぁ……。温泉へ連れてきてくれたマネさんには感謝だな。色々とトラブルはあったけど……」

 

 

 

 ぼんやりと景色を眺めながら温泉を楽しんでいたら、別の声が聞こえてくる。

 

 

 

「見て見て。凄く広い温泉だよ!」

「本当だね。やっぱり温泉で有名なところだけありますね」

 

 

 

 近くからこよりさんと結坂の声が聞こえてくる。

 その瞬間に僕は体をタオルで隠し、温泉を囲っている岩陰に身を隠していた。

 

 

 

「もう、ここは混浴って言ったでしょ? せめて体を隠しなさい」

「大丈夫だよ。今の時間は貸し切りにしてもらってますから」

「うんうん、それなら安心だよね」

「全然安心じゃないわよ!? それだと祐季には見られるってことになるわよ!」

「祐季くんなら問題ないよね?」

「今更じゃないかな?」

「お風呂は違うでしょ!?」

「大丈夫、これでルルちゃんに追いつけるから」

 

 

 

 瑠璃香が頭を抱えていた。

 ただ、この場合だと瑠璃香の方が正しいと僕は思えてくる。

 

 これは僕がおかしいのかな?

 

 女性の過半が僕がいても問題ないと言っているので、それが普通のように思えてくる。

 

 と、とにかく、僕の姿は見られないように――。

 

 

 

「あっ、祐季くん、先に入っていたんだね」

 

 

 

 結坂が僕の方へと駆け寄ってくる。

 当然ながら僕とは違って、タオルで体を隠していないので、色々と見えてはいけないところが見えている。

 いや、湯気さんが頑張ってくれているので、僕からは見えていないけど、それは少し距離があるからだった。

 

 

 

「えとえと、そ、その……、ま、前を隠して……」

「えーっ、今更いらないよね? 面倒だもん」

「いるよ!? いるから、お願い」

「それじゃあ、私のお願いを一つ、聞いてくれる?」

「聞く! 聞くから早くお願い!」

「わかったよ。そこまで言われたら仕方ないね」

 

 

 

 結坂がようやく自分の体にタオルを巻いてくれる。

 そして、いくらでも場所がある広い温泉なのに、わざわざ僕の隣にくる。

 

 

 

「うみゅぅ……、なかなか気持ちいいね……」

「う、うん、本当だね」

 

 

 

 どうしても、隣にかわいらしい女の子がいると思うと僕は緊張してしまって、顔が引きつっていた。

 

 

 

「あっ、彩芽(あやめ)ちゃんだけずるいよ! 私も祐季くんの隣で入る!」

 

 

 

 場所はいくらでもあるのに、わざわざ僕の隣に浸かってくるこよりさん。

 

 

 

「こ、こよりさんもタオルを巻いて!? こ、混浴だと普通だよね!?」

「それなら私も一つ、お願いを聞いてくれますか?」

「聞く! 聞くから!!」

「はぁ……、全く、何をやっているのよ……」

 

 

 

 ため息を吐く瑠璃香さん。

 それをよそに、僕はただ頷くしかできなかった。

 



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第23話 三期生の温泉旅行(完)

「そ、それで、二人は一体、僕に何をさせるつもりなの……?」

 

 

 

 両脇を固められた僕は、引きつった表情のまま二人に聞いていた。

 

 

 

「温泉旅行から帰ったら私とコラボ配信をしよう」

 

 

 

 こよりさんはにっこり微笑んで、言ってくる。

 

 

 

「あっ……。ご、ごめんね。そうだよね。最近、コラボしてなかったもんね。うん、約束だよ」

 

 

 

 なんだか申し訳なくなって、思わず謝ってしまう。

 

 

 

「えへへっ、久しぶりに祐季くんとコラボだ……。楽しみにしてるからね」

 

 

 

 うれしそうに、はにかんでみせるこよりさん。

 

 

 

「そ、それじゃあ、いつものようにこよりさんの枠で――」

 

「もちろん、オフコラボだね」

 

「えっ!? ……う、うん、わかったよ」

 

「あれっ? いつもの祐季くんならもっと嫌がると思ったのに……」

 

「今回は僕が全然コラボできてなかったのが悪いからね。ぼ、僕にできることならするよ……」

 

「うん、楽しみにしてるね」

 

 

 

 わざわざお願いで言うようなことでもないけど……。

 こよりさんなら、いつでもコラボをするのに……。

 

 

 と、言ってたら結局ほとんどしていなかったので、こういう形を取ったのだろう。

 もしかして、結坂も?

 

 

 僕は結坂の方を振り向く。

 すると、結坂はニコッと微笑んでいた。

 

 

 

「私もオフコラボで良いよ?」

 

 

 

 あっ、やっぱりそうなんだ……。

 最近、同期のコラボがなかったもんね。

 もっと時間を作るしかないかな。……僕、大丈夫かな?

 

 

 予定が埋まりすぎている気がする。

 一応あとからマネさんに連絡を入れておこう。

 

 

「ふふっ、色々と動いておかないと。あとから担当さんに例の件を確認しないといけませんね」

 

 

 

 不敵な笑みを浮かべるこよりさん。

 なんだろう、温泉に浸かって体は温まっているはずなのに、ものすごく悪寒を感じてしまう。

 何か良からぬことを企んでいるような……。

 

 それでいて、この件は触れたらダメな気がしてしまう。

 きっと聞いてしまったら、もう後には引けないような、そんな約束をさせられる気がする。

 

 触らぬ神に祟りなしだよね……。

 

 

 

「例の件ってなに? 私、聞いてないよ?」

 

 

 

 僕がわざわざ聞かなかったのに、結坂がそのことを触れてしまう。

 すると、こよりさんは口元に人差し指を持っていって、一度僕に視線を向けてから微笑む。

 

 

 

「内緒、ですよ。またうまく言ったら教えてあげますね」

 

 

 

 

 

 

 その後、逃げるように大浴場から出ると、浴衣を着たこよりさんたちと合流する。

 

 

 

「祐季くん、その浴衣、とっても似合ってるね」

 

「そ、そうかな……。ぼ、僕だけじゃなくて、こよりさんも凄く似合ってますよ」

 

 

 

 お風呂上がりのやや湿った髪。

 やや紅潮した頬。

 浴衣から見え隠れするうなじ。

 

 普段見慣れないその姿を見て、緊張してしまった僕は思わず顔を背けてしまう。

 ただ、それが間違いだった。

 

 その隙を突いて、結坂が僕に向かって飛びついてくる。

 

 

 

「ゆっきくーん!! 私はどうかな?」

 

「わわっ、ゆ、結坂!? そ、その、あの……」

 

 

 

 薄い浴衣生地から直に当たる胸に思わず顔を紅潮させて、あたふたと手をバタつかせる。

 そんな僕の様子を見て、結坂は目を細めてニヤリと微笑む。

 

 

 

「あれれっ? 祐季くん、どうしたのかなー? 顔が真っ赤だよー? 熱でもあるのかなー?」

 

「あ、あわわわっ……」

 

 

 

 ますます体をくっつけて、顔を近づける結坂。

 恥ずかしさやら緊張から、僕は目を回し、何とかその場を逃れようとする。

 すると、そんな僕に助け船を出す天使のような人がいた。

 

 

 

「彩芽ちゃんばっかりずるい! 私も祐季くんとくっつく!!」

 

 

 

 助け船ではなく、死刑宣告だった。

 天使だと思ったこよりさんは、悪魔のような笑みを浮かべながらジワジワと近づいてくる。

 

 小柄な結坂でも困惑してしまったのだ。

 こよりさんに同じように抱きつかれたら……。

 

 顔に恐怖の色を浮かべる僕。

 すると、今度こそ僕に助け船を出してくれる。

 

 

 

「全く、そんなに祐季を取り合うなら、あれで勝負したら良いじゃない」

 

 

 

 ため息交じりの瑠璃香さんが指差した先にあったのは、卓球台だった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

ユイ :『うみゅー。こうして、血で血を洗う一大抗争が起こることになったの』

 

ココネ:『起こりません』

 

ユイ :『うにゅー、囚われのユキくんを助け出すのは一体誰なのか。悪の魔王妖精、ココママを倒す勇者ユイは一体誰なのか……』

 

カグラ:『……自分の名前、言ってるじゃない』

 

ココネ:『わ、私は魔王なんかじゃないですよ!?』

 

ユイ :『勝利のダンボールを手にするユイは一体誰なのか。次回に続くのー。それじゃあ、乙ユイなのー』

 

 

 

 ユイが眠そうな顔をしながら、手を振って、ユキくん段ボールの中へと入っていく。

 

 

 

ココネ:『おつここ……って、まだ終わらないですよ!? それにユキくんもユキくんのダンボールは私のものです』

 

カグラ:『さり気なくユキも含めたわね……』

 

ユイ :『うみゅー。やっぱり悪の大魔王なの。卓球で倒すしかないの』

 

ココネ:『わかりました。勝負に乗ります!』

 

カグラ:『はいはい。まだそこの話をしてないでしょ。勝負をするならユキを起こさないように部屋の隅でしてなさい』

 

 

 

 カグラに窘められて、ユイとココネは枠の端へ移動する。

 

 

 

【コメント】

:相変わらずのカオス空間w

:いつもの景品ユキくんw

天瀬ルル :ぼ、ぼくも参加します!!

:やっぱりユイっちが勝つのか?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 なんでこんなことになっているのだろう?

 

 

 

 卓球台を挟んで向かい合うこよりさんと結坂。

 ばちばちと視線を飛ばし合っており、その顔は真剣そのものだった。

 

 

 

「ふふふっ、そろそろ彩芽ちゃんとは決着をつけないとって思ってたんだよね」

 

「それは私の台詞なの。こよりに祐季くんは渡さないんだからね。祐季くんの初めて(の友達)は私なんだから」

 

「そ、そんなこと、許さないから。祐季くんは私が貰います!」

 

 

 

 二人の背後に禍々しいオーラのようなものを感じてしまう。

 そんな様子を見て、心配になって瑠璃香さんに話しかける。

 

 

 

「もしかして、僕、身の危険?」

 

「もしかしなくても危険よ」

 

「うぅぅ……、僕、どうしたらいいんだろう……」

 

「別に簡単なことでしょ? 卓球の景品が祐季なんだから……」

 

 

 

 瑠璃香さんがさも当然のように言ってくる。

 

 

 

「そっか……。勝負が付く前に逃げたら良いんだね!」

 

「違うわよ!? 祐季が参戦して二人に勝てば良いのよ」

 

「……さすがに運動は苦手だから」

 

 

 

 思わず眉をひそめてしまう。

 でも、よく考えると僕は男。

 力では負けないわけだし、卓球だともしかすると勝てるかも……。

 

 

 そんなことを思いながら、こよりさんたちの勝負へと視線を向ける。

 その瞬間に目にも留まらない速度の球が、顔の横を通り過ぎていった。

 

 

 

「なかなかやるね」

 

「勝負なら負けないからね!」

 

 

 

 メラメラと火花を飛ばし合う二人。

 勝負はほぼ互角に進んでいるようだった。

 ただ、僕の動きは固まってしまい、まるでロボットのような動きのまま、顔だけを瑠璃香さんの方へ向けていた。

 

 

 

「あの二人に勝てるとでも?」

 

「……私が悪かったわ」

 

 

 

 瑠璃香さんも遠い目をしていた。

 ただ、すぐに僕の方へ振り向いてくる。

 

 

 

「と、とりあえず、あの二人は邪魔したらダメだから私たちも卓球をする?」

 

「そ、そうだね」

 

 

 

 結局僕たちが取れる手段は、現実逃避だけだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「勝った」

 

 

 

 卓球の勝負は結局結坂の勝利で終わったようだった。

 一方の僕たちは一進一退の、中々良い勝負をしていた。

 

 もちろん何度もラリーの応酬が続く……というわけではなく、ミスがミスを呼び、更にその上でミスを重ねる、といった感じだったが。

 

 

 

「初めてやったけど、なかなか難しいね」

 

 

 

 スカッ。

 

 

 

 サーブを空振りながら、瑠璃香さんに話しかける。

 

 

 

「祐季はもう少し運動をしたほうがいいわね。体を鍛えたらもう少し男らしくなるんじゃないかしら?」

 

 

 

 次は瑠璃香さんが明後日の方向へサーブを打っていた。

 ラリーすら始まらない……。

 でも、これはこれで新鮮味があってなかなか楽しいかも知れない。

 

 そんなことを思っていたら、突然後ろからこよりさんに抱きつかれる。

 

 

 

「祐季くんを鍛えさせるなんてダメだよ! 祐季くんは今のままが1番可愛いですよ!?」

 

「祐季くんマッチョ化計画か……。ちょうどいいゲームがあるからやりにくる? ちょうどRTAが人気だから祐季くんも挑戦すると良いよ」

 

 

 

 瑠璃香さんの後ろに移動していた結坂がにっこり微笑みながら言ってくる。

 

 

 

「ゲームなら僕にもできそうだから良いかも……」

 

「うんうん、ダイエットにもちょうどいいって聞くし、瑠璃っちもどう?」

 

「瑠璃っちって、また新しい呼び名を作って……。でも、そうね。肘の下とかちょっとプニプニしてきたから気になってたのよね」

 

「わ、私もお腹……、ううん、健康のために一緒にしようかな?」

 

「ココママはプニママになったのかな?」

 

「ま、まだプニってないですよ!? プニってない……ですから」

 

 

 

 不安げに自分のお腹を触るこよりさん。

 その……、目のやり場に困るから僕の後ろでそういったことをするのはやめて欲しいんだけどな……。

 

 

 

「――全然気にする必要はないと思うけど?」

 

「祐季くんは痩せてるから気にしなくて良いよね」

 

「ぼ、僕はもっと筋肉質な……」

 

「わかったよ! それじゃあ、今度みんなでフィットネスアドベンチャーのRTAに挑戦しよっか。目指せ世界記録!」

 

 

 

 にっこりと嬉しそうな笑みを浮かべる結坂。

 それを見ているとどうしても不安を隠しきれない。

 

 

 なんだろう……、踏み込んではいけないところへ踏み込んだような、そんな気持ちを抱いてしまった。

 

 

「えっと、その……、RTAって確か、スピードを競うんだよね? フィットネスでどうやってするの?」

 

「それは当日のお楽しみだよ。マネさんに配信できるかの確認をしておくね。日は……、来月ならまだ予定の埋まっていない日があったよね?」

 

「うん、それはある……けど」

 

「なら決まり! 3期生、フィットバトル。負けたユキくんは勝った人の良いなりになるの。それは別の配信枠を用意して貰おうっと」

 

「ちょ、ちょっと待って!? どうして僕が負ける前提なの!? 結坂が負ける可能性だってあるよね?」

 

「私がゲームで負けるとでも? 今日からみっちり体を作っていくよー。夢の世界で」

 

「あっ……、現実に鍛えるんじゃないんだね?」

 

 

 

 その態度はいつもの結坂でどこかホッとしてしまう。

 

 

 

「でも、そのコラボはさっきお風呂で言っていたコラボとは……」

 

「もちろん別だよ!?」

「当然別だね」

 

「うん、……だよね」

 

 

 

 即答されてしまったので、僕は思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

 

 予定……、大丈夫かな?

 この旅行が終わったらまたとんでもなく忙しくなりそうなんだけど……。

 

 

 

◆◆◆

 

 

ココネ:『以上が今日の出来事ですね。そのあと、配信の準備をして、今……って感じですよ』

 

ユイ :『うみゅー、勝負に勝ったのでユキくんはユイが貰うの』

 

ココネ:『ダメですよ。ユキくんが起きちゃいますからね』

 

ユイ :『うみゅー……、ココママがずるいの……。ユキくんのダンボールだけでも先に貰っておくの』

 

 

 

 ユイが自分の体にユキくん段ボールを重ねると、そのまま中へ隠れてしまう。

 

 

 

カグラ:『ほらっ、それよりも今後のコラボの発表もするのよね? フィットネスのやつ。さっき日も決まってたわよね?』

 

ココネ:『そ、そうでしたね。来月、フィットネスアドベンチャーのタイムを競うコラボをします』

 

ユイ :『うみゅー、負けたココママは罰ゲームなの』

 

ココネ:『ま、まだ負けてません!』

 

ユイ :『でもプニプニボデーじゃ、勝てないの』

 

 

 

 ユイがニヤニヤと笑みを浮かべ、実際にココネのお腹を触っていた。

 それから必死に逃れようとココネが動こうとする。

 

 しかし、膝で寝ているユキを起こさないためにもジッと耐えるしかできなかった。

 

 

 

ココネ:『ユイちゃん!? ユキくんが起きちゃいますよ!?』

 

ユイ :『うみゅー、起きたら今度はユイが膝枕するの』

 

ココネ:『そうじゃなくて、起こすことがダメ――』

 

ユキ :『うーん……、もう朝……?』

 

 

 

 ユキが眠そうに目を擦りながら体を起こす。

 

 

 

ユイ :『うみゅ、もう朝なの』

 

ココネ:『全然違いますよ!? まだまだ夜ですからね!?』

 

ユキ :『なんだ、まだ夜なんだ……。お休み……』

 

 

 

 一瞬起きたユキだったが、またすぐに眠りに就いてしまう。

 

 

 

ユイ :『あっ!? またユキくんがココママの膝に!? それになんでユイよりココママを信じてるの!?』

 

ココネ:『ふふっ、これがユキくんの信頼の差、ですよ。悔しかったら、ユイちゃんももっとユキくんに信頼されると良いですよ』

 

ユイ :『うみゅ……、つ、次の対戦では目にものを見せてやるの……』

 

カグラ:『全く違う方向に進んでるわよ。それよりそろそろ今日の配信を終わりにするわよ。これ以上はユキも起きてしまいそうだし……』

 

ココネ:『そ、それもそうですね。では、今日はありがとうございます。乙ココー』

ユイ :『うみゅー』

カグラ:『乙カグラー』

ユキ :『むにゃむにゃ……』

 

 

 

【コメント】

:おつかれさまー

:おつー

:乙ここー

:乙ココー

:乙ユキー

 

 

 

この放送は終了しました。



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