卑しか女杯さわやかカップ(G2) (夏目八尋)
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5回目の奇跡

自分の好きを詰め込みました。
毎日投稿予定なのでよろしくお願いします。


 12月の中山競バ場に、実況の驚きの声が響き渡った。

 

「大外から来たのはまさかまさかのハルウララ! 並みいるウマ娘たちをかわして差して駆け上がる! 残り200! 冬の中山に桜の花が咲こうというのか!!」

 

 ダートの女王と呼ばれたハルウララの大噴射に、誰もが声を張り上げる。

 

「どういうことだダートの女王! 砂のレースに飽き足らず芝のレースも制しようというのか! ありえないことがありえるのが有マ記念だとでもいうのかーー!?」

 

 奇跡が成立するまであと100、80、50……そして――

 

「咲いた! 咲いた! 桜が咲いた!! 勝ったのはハルウララ! ダートの女王が芝のグランプリを制し、夢を叶えましたーーーー!!」

 

 大歓声が勝者を祝福する。

 

 ゴール板の前を誰よりも早く駆け抜けた少女は、万来の声に両手を振って応えていた。

 

 

 

「やりきった、な」

 

 歓声の中、俺は大きな満足感と共に観客席を立つ。

 

 すでにチームメンバーたちはハルウララをねぎらうべく駆けていった後だ。

 人より何倍も素早い彼女たちだから、今頃はもう地下通路に辿り着いているかもしれない。

 

「奇跡は起きた。起こせた。満足だ」

 

 自分にできることはすべてやりきった。そんな確信があった。

 

「心も決まったし、あとは理事長にお伝えするだけだな」

 

 少し前に新しく就任した、小さくて愛らしい新理事長の顔が浮かぶ。

 なんでもウマ娘たちの未来の為にでっかい企画を考えているんだとかなんとか。

 

 とてもワクワクする話だとは思う。

 

 だが、そこに自分がいる必要はないと思った。

 

 

 

「あー! トレーナー!!」

 

 すでに集まっている仲間たちの中心で、今日のヒロインがぴょんぴょん跳ねている。

 いつもより泥にまみれていない、けれどいつも以上に汗だくの顔は、誇らしげな笑顔を浮かべていた。

 

「うっらら~!! みんなでトレーナーさんを胴上げしちゃおう!」

 

「……oh」

 

 ハルウララの一言に身の危険を感じたのもつかの間。

 気づけば俺はチームメンバーのウマ娘たちにとっ捕まり、外へと運び出されていた。

 

「えへへ……諦めて胴上げされてね。お兄さま」

 

「大丈夫です! この学級委員長がしっかりとキャッチしますから!」

 

「ぴゅーんって空高くテイクオーフ! しようね! トレーナーちゃん♪」

 

「このキングが胴上げするのよ。あなたも一流のトレーナーなら受け入れなさいな」

 

「うっらら~! それじゃいっくよー! せーのっ!」

 

 競バ場に新しい奇跡が刻まれたその日。

 

 胴上げされて高く高く飛ばされた俺の姿は、密着取材中の記者にしっかりと撮影され記事になった。

 

 

 

 栄光のチームアラウンド。

 

 次に全員揃って撮影された写真は、チーム解散を公式に発表した時となる。

 

 



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チームアラウンド

「驚愕っ! トレーナー業を辞するというのかね!? キミが!?」

 

「はい」

 

 秋山理事長の指摘に、俺はゆっくりと首を縦に振った。

 

「トレーナーとしてやれる最大限をやりきりました。満足です」

 

「驚嘆っ! キミほどのトレーナー、まだまだやれることはあるっ!!」

 

「例のスペシャルなレース企画とかですか?」

 

「肯定っ! まだその名は明かせぬが、企画は着々と進んでいる!!」

 

 彼女の口ぶりだと来年か再来年、いや、早ければ今年中でも発表がありそうだ。

 それを待ってからでも遅くは――まで考えて、頭を切り替えた。

 

「そこではきっと、新しい伝説が待っています。それを作るのは俺じゃありません」

 

「否定っ! チームアラウンドは新企画でも輝きを放つと確信している!」

 

 

 

 チームアラウンド。

 俺と俺が担当した5人のウマ娘たちで構成される、俺にとって最高のチーム。

 様々な、本当に様々な事をやったからアラウンド。

 

 そんなチームの実績は以下のとおりである。

 

 URA公式調べによるファン数100万人達成、ライスシャワー。

 前人未到の全距離G1制覇ウマ娘、サクラバクシンオー。

 変幻自在の4脚質G1制覇ウマ娘、マヤノトップガン。

 クラシック3冠有マを含む8冠にして二代目全距離G1制覇ウマ娘、キングヘイロー。

 ダート5冠にして芝のグランプリ有マの覇者、ハルウララ。

 

 どれもこれも、本人たちがやりたいと言ったことを一緒に叶えた結果だ。

 

 名前の通り、その勝利を祝福される存在になりたい。

 すべての距離を制覇して、完璧な委員長であると示したい。

 一番にキラキラを感じながら、みんなを魅了するウマ娘になりたい。

 偉大なる母を越え、一流のウマ娘であることを証明したい。

 一位になってみたい、有マで優勝してみたい。

 

 

 普段の彼女たちの姿から誰もが不可能だと口にする、そんな夢を叶えてみせた。

 だから世間からは4つの奇跡……先日のハルウララを足して5つの奇跡だなんて言われている。

 

 奇跡を、5回起こした。

 

 

 なら、もう十分だ。

 

 

 

「ありがとうございます、理事長。でも、もう決めたことですから」

 

「ぐぬぬ……」

 

「それに、俺にとっての集大成はちゃんとその企画に登場しますよ」

 

「初耳っ! それは一体……」

 

「詳しくは近々やってくる自慢の後輩トレーナーから聞いてください」

 

 きっと、6回目の奇跡は彼女が起こしてくれる。

 なにしろ俺の持てる限りの技術と彼女の家の力とで編み上げた、最高のウマ娘が来る。

 

(すべての距離、脚質に高い適性を持ち、芝も、ダートも、どこでだって走れる最高のウマ娘が……!)

 

 最高のウマ娘と、それを支える才覚溢れるトレーナー。

 彼女たちなら間違いなく次代を担える逸材になる、それを確信している。

 

 そのためのコツだって、しっかり伝授済みだ。

 

(トレーナーにとって大切なのは鋼の意志だと、あのノートにも書き加えておいたからな!)

 

 彼女が強い心でウマ娘と向き合ってくれさえすれば、奇跡なんて簡単に起こせるさ。

 

 

 

「確認っ! 決意は固いのか?」

 

「はい。次の時代にも間違いなく伝説は生まれます。だから俺に、悔いはありません」

 

「…………」

 

「…………」

 

 見下ろす形だとしても、真っ直ぐに理事長を見つめる。

 こちらを見つめ返す強い瞳が、言葉以上にどうして欲しいのかを雄弁に語っていて。

 

「……私はっ」

 

 理事長が口を開いた、ちょうどその時。

 

 彼女の頭の上に乗っている猫が、にゃーと鳴いた。

 

「っ!! ……了承っ! 手続きをするがいい! こちらも書類を受理したのち、動こう」

 

「ありがとうございます。では本日中に書類をお届けします」

 

「うむっ!」

 

 意思を曲げ、俺の望みを受け入れてくれた理事長に頭を下げ、部屋を出る。

 

「感謝、しかして、寂寥……」

 

 扉を閉じようとしたところで聞こえた、小さな声。

 心の底から惜しんでもらえた、そんな本音を感じる言葉ひとつで、俺の心はいっぱいになった。

 

(彼女はきっと、大成する)

 

 彼女の手腕ならURAもますます盛り上がることだろうと、あの小さな背中に俺は期待する。

 右腕としてあの敏腕秘書さんもいるのだから、きっと、間違いない。

 

 

 

「…………ふぅ」

 

 扉を閉じ、俺は少しのあいだその場に立ち尽くす。

 

 知らず緊張していたのか乱れていた呼吸を整え、次にするべきことを思い浮かべる。

 

(上に話を通したあとは、共に時代を駆け抜けた仲間たちに、ちゃんと伝える番だ)

 

 今日は大事な話があると、チームルームにみんなを集めてある。

 なんだかんだ聡い子たちだから、どんな話が飛び出るかはそれとなく理解しているだろう。

 

「よし、行くか!」

 

 覚悟を決めて歩き出す。

 この時の俺は、どういう幕引きでチームのラストを飾ろうか、としか考えていなかった。

 

 それがまさか、あんなことになるなんて。

 

 

 

「みんな、いるな?」

 

「ええ、当然じゃない!」

 

「うんうん! キングちゃんに起こしてもらってバッチリ!」

 

「ライスもちゃんと、いるよ……お兄さま」

 

「時間前行動は委員長の鉄則ですから!」

 

「それに、マヤたちにとって、今日はぜ~~ったいに、外せない用事がある日だから、ね!」

 

 チームルームで5人のウマ娘に迎えられた俺に、ウソみたいなホントの話が、待っていた。

 

 っていうかみんな、なんだか妙に、おめめがギラついていないかい?

 



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それぞれの想い

 チームルームに入ってから、俺は5人のウマ娘に辞意を伝えた。

 

「えー!? トレーナー、トレーナーをやめちゃうのー!?」

 

「ちょっと、ウララさん!? さっきまで私たちその話題で話してたわよね?」

 

「でもでも! びっくりしちゃったー!」

 

 やはりというかなんというか、おおよそのところは察してもらっていたらしい。

 レースにおいてもコースを読み切る力としての賢さが求められるから、そのトレーニングがしっかりと身についている証だと、内心嬉しく思う。

 

「お兄さま、お兄さまはそれでいいの?」

 

「ああ。俺はお前たち5人の夢を叶えられたことで大満足だからな」

 

「えへへ、トレーナーちゃんのおかげで、マヤたちいーっぱいキラキラしたもんね」

 

「おかげさまで、全方位に隙のない完璧な委員長となりました!」

 

「ライスも、ライスもね。お兄さまと一緒に頑張ったから、夢を叶えられたんだよ」

 

「だな。今やウマ娘の結婚式じゃ、黒染めしたお米を投げるのが定番だもんな」

 

 彼女たちがウマ娘界に与えた影響は大きい。

 ライスの祝福米もそうだし、マヤは毎日キラキラを求めたウマ娘たちの併走に引っ張りだこ。委員長は名実ともに完璧委員長として愛されているし、母の7冠を越えたキングは今や一流のウマ娘の名を欲しいままにしている。

 

「ウララも、これから忙しくなるな」

 

「そうなの?」

 

「うん。ウララちゃんに会いたいって人、きっと、沢山来るよ」

 

「そうなんだー? ウッララ~、楽しみ~♪」

 

 有マを制したダートの女王という新たな伝説も、きっとこの世界に少なからぬ影響を与えるだろう。

 己の長所を伸ばす者、可能性を拡張する者、この先もきっと現れる。

 

 彼女たちはそんな道を切り開いた先駆者で、俺はその手伝いが出来た幸運なトレーナーだ。

 

 

「トレーナーを辞めた後も、お前たち5人のサポートは可能な限りやるつもりだ。ただ、陣頭指揮を執ってああだこうだやる最前線からは身を引くつもりでいる」

 

「…………」

 

 改めて辞める意思を示せば、騒いでいた5人のウマ娘たちが沈黙する。

 

 少ししてその沈黙を破ったのは、キングヘイローだった。

 

「辞めたい意思は分かったわ。そしてそれを、私たちは止めるつもりもない」

 

 彼女の言葉に、俺は他のウマ娘たちの顔を見る。

 サクラバクシンオーも、ライスシャワーも、マヤノトップガンもみんな頷いていて。

 

 唯一、状況を分かってなさそうだったハルウララも。

 

「トレーナー。これからもウララたちのこと、応援してくれる?」

 

「それはもちろん。俺にとってお前たちは、最高の推しウマたちだからな」

 

「~~~!! だったら、トレーナーはトレーナーのやりたいことをしていいって、ウララも思うかなぁ?」

 

「ありがとう」

 

 彼女なりの納得をして、俺が俺の望む道を行くことを後押ししてくれた。

 

(話は済んだ、な)

 

 

 そう、俺はここまでしか想定していなかった。ホッとしていた。

 

 だから、続く彼女たちの言葉に、とっさにちゃんとした反応を返せなかった。

 

 

 

「それじゃあ、マヤたちも引退するって伝えないとだね~?」

 

「うん、だね」

 

「新たな一歩を踏み出すための、これもバクシンです!」

 

「へっ?」

 

 キョトンとしている俺に、キングがため息を吐いて言葉を紡ぐ。

 

「なに一流らしからぬ間抜け面を晒しているのよ。当然でしょう? 私たちはレースで夢を叶えたウマ娘。だから今度は、次の夢を追って駆け出すのよ」

 

「トレーナーちゃんがやりたいことするなら、マヤたちもやりたいことをするんだよ!」

 

「ちょ、ちょちょちょっと待ってくれ」

 

 見えない話にストップをかけようとしたが、彼女たちの言葉は止まらない。

 

「マヤはね~、トレーナーちゃんみたいに他のウマ娘ちゃんのトレーニングを応援するのもいいかなって思ってるんだ~。トレーナーちゃんと違ってマヤもウマ娘だから、一緒に走ってあれこれ教えてあげられるしね♪」

 

「ライスはね、絵本作家になって、ライスみたいにくらーい気持ちに満たされちゃいそうになってる子たちに、大丈夫だよって伝えてあげたい……!」

 

「もちろん! 私は完璧な委員長ですから! より高みを目指し世界の委員長になります!」

 

「レースでお母様に勝ったんですもの、次は服飾でもお母様に勝つのが、一流のウマ娘の次の道にふさわしいと思わない?」

 

「うわぁー! みんなすっごいねー! ウララも、次はもーっといろんなレースで一着取るんだぁ~」

 

「待ってくれ。言葉の洪水をワッと、一気に浴びせかけるのは!」

 

 5者5様の新たな望みを受け止めきれない。

 もともと個性の強い子たちだったのもあって、言葉のパワーが半端ない。

 

 誰だこんなに可愛い子たちをパワフルに育てたのは……俺です。

 

 

 

「まぁ、そういうわけでして。チームを解散しても、私たちには道がちゃんとあります」

 

 頭を抱えている俺に、バクシンオーがはにかんだ笑みで伝えてくる。

 

「なので、もしも貴方に次に目指す道があるというのなら、どうかその道をバクシンしてください」

 

「バクシンオー……」

 

「トレーナーちゃん。トレーナーちゃんはトレーナーを辞めたら、何するつもりなの?」

 

 マヤの問いかけに、俺は自分の未来について思いを馳せる。

 

(……思えば、トレーナーって仕事は天職だった。したいこととするべきことがぴったりと噛み合っていた気がする)

 

 もともと世話好きで、誰かの助けになれることで満足感を得られる性格だった。

 だからこの仕事を辞めたあとも、誰かの助けになれる道を行けたらと思う。

 

「――って感じかな?」

 

「ふむふむ、なるほどー」

 

 思いついたことをそのまま伝えれば、マヤはいつもの顎に人差し指を添える可愛いポーズをして何度も何度も頷いてから、閃いた、とキラキラした笑顔を浮かべ――

 

「じゃあさじゃあさ! トレーナーちゃんトレーナー辞めたあとは、マヤの専属サポートさんになったらいいと思う! ウマ娘のサポートをするマヤをサポートする仕事! ね、いいでしょ? ユー・コピー?」

 

「おお、それは名案だ。アイ・コピ……」

 

「ちょおおおおおっと! お待ちなさいっっっっ!!!」

 

 マヤからの提案に思わず流れで返事しそうになったところを、キングに止められる。

 

「ちょっとマヤさん! 抜け駆けは厳禁だと話したでしょう!?」

 

「え~? マヤ、そんな駆け引きみたいなことしてないよ~?」

 

「いいえ! 今回ばかりは擁護しませんよ、マヤノさん! トレーナーさんには委員長補佐として世界に来て貰わないといけないのですから!」

 

「ちょっとー! それこそマヤは認めないんだからねー!!」

 

「あ、あのっ、ライスも、ライスもお兄さまと一緒に、絵本を……作りたい、から!」

 

 怒り心頭といった様子で説教するキングと、それをかわすマヤ。

 それにバクシンオーとライスまでもが加わり喧々轟々とし始めるチームルーム。

 

「えへへっ。みんな、トレーナーとも~っと一緒にいたいんだね~」

 

 ウララの言葉に、さしもの俺も彼女たちの真意を理解する。

 

 彼女たちはみんな、引退後も俺に一緒にいて欲しい、支えて欲しいと望んでいるのだ。

 

(トレーナー冥利に、いや、男冥利に尽きる話だなぁ)

 

 こんなにも慕われて、嬉しくないはずがない。

 たとえこの四肢が千切れ飛ぼうとも、みんなの望みに応えるのが最善――

 

「おやおや~? その顔は、たとえこの四肢が千切れ飛ぼうとも、みんなの望みに応えよう、と考えている顔ですね?」

 

「なっ!?」

 

 バクシンオーにバッチリ言い当てられた。

 

「分かりますよ、なにせ私は委員長ですから! ですがそれはいけません。みんなが同じ、レースの方を向いていたこれまでならばいざ知らず、違う方向を向いている以上、支えられるのはひとつまでです!」

 

「……ええ、そうよ。ここから先は違う道。あなた一人に5つの道を背負わせるなんて真似、この場の誰一人として望んでなどいないわ」

 

「今日までは許したけど、ここからは誰か一人をじーっくり、見守って欲しいな? もちろん、マヤを見てくれるって信じてるけど♪」

 

「…………」

 

 3人の言葉にライスも頷き、ハルウララもニコニコしている。

 どうやらここまで、今朝の内に彼女たちは話し合って決めていたらしい。

 

 動けずにいる俺を横目に5人は頷き合うと、俺を囲うようにずらりと並び立つ。

 全員の視線が真っ直ぐに俺を見ていて、そこから期待と不安、緊張が伝わってきた。

 

 

「……お兄さま」

 

 そしてここから、俺は彼女たちの想いを改めて思い知らされる体験をするのだった。

 



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チームアラウンド・大告白大会!

 他の誰の邪魔も入らない、チームアラウンドのチームルーム。

 

 俺の前を囲うように立って、真剣な表情を浮かべる5人のウマ娘たち。

 

 彼女たちは全員が全員、覚悟を決めた瞳で俺を見ていた。

 

 

 

「……お兄さま」

 

 そんな中、最初に口を開いたのはライスシャワーだ。

 

「ライス、お兄さまのおかげで、みんなに祝福されるウマ娘になれたよ。これからは、みんなを祝福してあげられるウマ娘になりたいって、そう思ってるの。だから、だからね」

 

 ぎゅっと胸に手を当て、こちらを見上げる視線が俺を射抜く。

 

「これからも、ライスのお兄さまとして、ずっと一緒にいてください……!」

 

 疑いようのない、告白。

 

 ハッキリと言いきった望みに、心を打たれた。

 いつも不安と悲しみを抱えていた少女の成長に、込み上げる物があった。

 

 

 

「次は私の番ですよ、トレーナーさん!」

 

 声をかけられ、その方向を見れば、そこには自信満々サクラバクシンオーの顔があった。

 

「委員長としてあるべき姿、すべての距離で当然の勝利を果たす。この言葉を叶えてくれたのは、ほかならぬ貴方です! 誰もがスプリンターになれと言う中で貴方だけが、じゃあ勝つためのレースプランを考えよう、と、何の疑いもなく全距離制覇への筋道を立ててくれました」

 

 相も変わらず自信過剰で、けれどどこか愛嬌があって傲慢とは程遠い顔がここにある。

 

「全距離を制覇したのですから、次は全世界を制覇するのが当然の道! その道をまた全速力で駆け抜けるには、貴方の力を借りた方がいいのは明白です! ですから! これからもずっと一緒に、バクシンしましょう! さぁ、さぁ!!」

 

 望めばどこまでも連れて行ってくれる、共に駆け抜けてくれる王者の風が吹いている。

 彼女と一緒に颯爽と世界を駆け抜けるのは、きっと清々しく心地よいだろう。

 

 何も恐れることはない。彼女の手を取れば、それは間違いなく叶うのだから。

 

 

 

「トレーナーちゃん!」

 

 ハツラツとした声が、意識が世界に飛んでいた俺を現実に引き戻した。

 マヤノトップガンが上目遣いに、にんまりとした笑顔で俺を見ていた。

 

「マヤね。トレーナーちゃんにはマヤのこと見ててねって、ずーっと言ってたでしょ?」

 

 言われて彼女との日々を思い起こせば、確かに何度もそう告げられていたことを思い出す。

 誰よりも注目を浴びるレディ、キラキラを目指す彼女らしい願いだと思っていた。

 

「あれね。今も同じ気持ちなんだけど、ほんのちょっとだけ違うんだ~。トレーナーちゃんはきっと、見てなくてもマヤのことを想ってくれてるって知ってるから、見られてなくても大丈夫なの」

 

 それはまるで、自らの手から俺が離れることをよしとする、さっきまでの言動とはちぐはぐな物言いで。

 だがそれは俺の勘違いなのだと、彼女の口からすぐに否定される。

 

「でも! それでもトレーナーちゃんにはマヤのことだけ見てて欲しいの。独占したいの。他の誰が誰を見ててもいいけど、トレーナーちゃんにはマヤだけを見てて欲しい。これからも、ずっと!」

 

 これ以上はないほどの真剣な彼女のまなざしは、言葉以上に俺の心に深く突き立った。

 小さな体の内側に秘めた情熱が、その視線を通して俺を内側から燃え上がらせた。

 

 

 

「……よろしくて、トレーナー?」

 

 沸き上がる熱をけん制するように、問いかけるような呼び声があった。

 染み入るような、それでいて芯の通った強い呼びかけは、キングヘイローのものだ。

 

「一流のウマ娘には、一流のトレーナーが必要だった。そして一流同士が出会い高め合ったことで、伝説は新たに塗り替えられたわ。ここまではいい?」

 

 問いかけに頷けば、彼女もまた深く頷き、言葉を続ける。

 

「これから私の目指す道も、レースと同じく困難で、厳しいものだと理解しているわ。だから私には、私を支える一流が必要なの。そしてそれは、あなただって確信してる」

 

 つまり! そう力強く宣言し、我らがキングは声高に謳い上げる。

 

「あなたには、これからも一番近くで私を支える権利をあげるわ! 効力は一生分よ! おーっほっほっほ!!」

 

 どこまでも高飛車な物言い。だが俺は、彼女の頬や耳が朱に染まっているのを見逃さなかった。

 

 気高さも、愛らしさも、どれをとっても一流の彼女をそばで支えられるなんて。

 そんな栄誉を他の誰かに譲るなんて、考えられるのだろうか。

 

 

 

「ほら、ウララさん。最後はあなたよ」

 

「うん!!」

 

 最後は笑い終えて沈黙に耐えられなくなったキングに促されてのハルウララ。

 もっとも新しい伝説を打ち立てたウマ娘。

 

「あのね、トレーナー!」

 

 元気に声を張る彼女の瞳は、誰よりも純粋な光に満ちていて。

 

「有マ記念で勝ちたいってわたしが言った時、本当はとっても難しいのかなぁって、なんとなく分かってたんだ~。だって、砂と違って芝の上は、なんだかぴょんぴょん跳ねちゃって、上手く走れなかったから」

 

 彼女の本来の適性はダート、砂を力強く駆けることに特化していた。

 だがそこは徹底した脚質管理と適応トレーニングにより克服し、今日の結果がある。

 もうひとつの懸念材料だった長距離への不安も、もともとあった彼女のタフさを基礎とする長期プランの身体強化で乗り越え、名実ともに芝砂選ばぬ真の女王へと覚醒した。

 

「でもでも、みんなと一緒にいっぱい頑張って、有マ記念で一着だよって教えてもらった時、ほんっと~に嬉しくて、嬉しくて……嬉しくて……!」

 

 瞳に桜を宿した目に、あの時を思い出してか雫が揺れる。

 

「だからね、もっとも~~~っといっぱい頑張りたいなって、思ったの!」

 

 瞬きひとつで雫を飛ばし、次に彼女が浮かべたのは満開の笑み。

 

「わたしね、きっともう何でも出来て、一人でも頑張れるって思うけど、でも、マヤちゃんが言ったみたいに、キングちゃんが権利あげたみたいに、ライスちゃんやバクシンオーちゃんもそう思ってるように、わたしも、トレーナーともっともっともーーーっと一緒にいたいって思ってるんだ~」

 

 だからね、トレーナー。

 

 誰よりも明るく純粋な少女が、それでも勝ちを望んだその先で。

 

「トレーナーがもっとずっと一緒にいてくれるっていうなら、わたし、負けないよ!」

 

 

 それは、ほかでもないこの場のすべてのウマ娘たちに対する、宣戦布告だった。

 

 全員が、それぞれの瞳に闘志を燃やし、向き合っていた。

 

 

 

「お兄さま!」

 

「トレーナーさん!」

 

「トレーナーちゃん!」

 

「トレーナー!」

 

「トレーナー!」

 

 交差していた視線が、再び俺を見る。

 

 誰一人として目移りを許さない、情熱的で、希望に満ちて、力強いまなざしが、俺へと向けられている。

 

 全員が「自分を選んで」と、心から願っていた。

 

 



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俺たちならではの解決策

 

 10の瞳に見つめられ、俺は、答えを出せずにいた。

 

(正直に言って、全員が魅力的すぎて選びようがない)

 

 

 ライスシャワーと一緒に絵本を作り、子供たちに祝福を与え続ける日々。

 

 サクラバクシンオーと共に世界中を駆け巡り、委員長としての規範を示し続ける日々。

 

 マヤノトップガンを支え、多くのウマ娘たちのキラキラを育み続ける日々。

 

 キングヘイローと肩を並べ、ウマ娘界の服飾でも一流を究めんとする日々。

 

 ハルウララの背中を押して、レースを自由に駆け回る彼女を見守る日々。

 

 

 そのどれもが光に満ちていて、どれもが俺にとって最高の未来だった。

 きっとこの世界で俺以上に幸福な男はいないだろう。

 

「俺は……」

 

 だからこそ、選べない。この5つの未来を選別することが出来ない。

 

(俺は、俺は一体どうすればいいんだ……!!)

 

 世界最大の贅沢な悩みを前に、俺は煩悶する。

 

(せめてあとひとつ、あとひとつでも判断する材料があれば……!)

 

 首を掻きむしりそうなくらいに悩み続ける俺を見て、5人のウマ娘は互いに顔を向き合わせると、まるでこれすらも予想通りだったとばかりに呆れたため息を零す。

 

「ま、トレーナーちゃんはそうだよね」

 

「わかります! わかりますとも! それだけ真剣に、平等に、誠実でしたから」

 

「それでこそ、ライスのお兄さまだから……」

 

「トレーナーがみーんな大好きだって、わたしたちは知ってるもんね」

 

「ええ、ええ。だからこそ、私たちも私たちらしく、あなたにアピールするつもりよ」

 

「え?」

 

 何のことだか分かってない俺に、彼女たちは声を合わせてこう言った。

 

 

 

 

「「「「「走り(レース)で!!!」」」」」

 

 

 

 

 それは俺と彼女たちとを今日まで繋いだ絆の形。

 夢を叶えた彼女たちが、もっとも自信をもって魅力だと言いきれる力。

 

「私たちでレースを行ない、勝ったウマ娘と共に未来を歩む! 実に模範的ですね!」

 

「マヤたちみんなが平等に、全力で勝ち負けを決めるには、これしかないよね」

 

「ええ、それにトレーナーを魅了する一番の方法は、勝利を捧げることだもの」

 

「うっららー! 全身全霊! ぜーったいに負けないよ!」

 

「ライスも、ライスも叶えたい夢のために全力を尽くすこと、お兄さまに教わったから!」

 

「……そうか、そうだな」

 

 彼女たちは勝ち負けを残酷に示す世界を勝ち抜いてきたんだ。

 だからこそその世界が持つ誠実さも、魅力も、俺以上に知り尽くしている。

 

 そんな彼女たちからの最上級のアピールを受ければ。

 

(俺の心も、きっと決まる)

 

 見届けよう。彼女たちの本気の戦いを。

 そしてその競争の果てに、俺も俺の進むべき道を選び取る。

 

「チームアラウンド、最初で最後の大レースだ! 距離はもちろん……」

 

「「「「「長距離で!!!」」」」」

 

 

 

 こうして5つの伝説を打ち立てた5人のウマ娘たちによる、長距離レースが開催と相成った。

 

 俺はこのことをあくまでチーム解散の記念レースと位置付けて、理事長たちに伝えた。

 

「歓迎っ!」

 

 伝説のウマ娘たちによる競争ということで、レース開催は即承認。

 大々的な解散セレモニーと共に行われることが約束された。

 

「期待っ!! 最後の最後までみなを楽しませようというその気概、感服する!」

 

「引退した後は、いっそURA運営委員会に所属してみませんか? トレーナーさん」

 

 年相応にワクワクした様子の理事長と、その隣で割と真剣に勧誘してくる敏腕秘書さん。

 

「それも魅力的ですけど、俺が選ぶ道はもう示されているんです」

 

 秘書さんのお誘いを丁重にお断りして、俺は力強く拳を握ってみせる。

 

「次のレース。きっと最高のものにしましょう。彼女たちのために!」

 

 トレーナーとしての最後の晴れ舞台でもあるそこで。

 俺は全力で彼女たちと向き合うんだ!

 

 

   ※      ※      ※

 

 

 そこからレースの日までは目まぐるしい日々が続いた。

 

 レース場の確保に始まり、セレモニーの段取り、世間への周知、それに関連する各社マスコミへの顔出しと、チームメンバー総出で動き回った。

 

「次のレース、ただの余興で終わらせるつもりはないわ。見てなさい、真の一流とは何か、示してあげる! おーっほっほっほ!」

 

「うっらら~! みんなで競争、とーっても楽しみ。でもでも、ぜ~ったいに負けられないんだ~! いっしょうけんめい頑張るから、応援よろしくお願いします!」

 

「マヤねマヤね。次のレースでトレーナーちゃんと大事な約束してるんだ! だからね、ぜ~ったい、マヤが勝つよ!!」

 

「ライス、おに…トレーナーさんに夢を叶えてもらったから、恩返しをしたいんです。だから、今度のレースは、ライスが勝ちますっ!」

 

「次のレースは完璧委員長が世界完璧委員長へとステップアップする大事なレースです! ゴール板を誰よりも早く駆け抜けてみせます! バクシンバクシーン!」

 

 各ウマ娘が別々の広告主へ出したコメントが、それぞれの見せた勝気と相まって支持を得、応援合戦を呼ぶ。

 レースの勝者は誰になるのか、伝説の中の伝説となるのは誰なのかと、ファンのあいだでも大盛り上がりすることになった。

 

『チームアラウンド解散記念レース』という名の炉に入れられた火は、決戦の日に向かい、確実にその熱を増していくのだった。

 



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レース、開幕っ!

 そして、レース当日。

 

「ご覧ください! とても1チームによる記念レースとは思えないほどの盛り上がりぶりです!」

 

「ワアアァァァァァァァ......!!」

 

 

 選ばれたのは中山競バ場2500mコース。

 有マ記念とまったく同じ条件のレースは、5人のウマ娘全員が勝利を飾ったコースだ。

 

 直前に行われたチームアラウンドの解散セレモニーから観客の熱気は最高潮。

 記念撮影が終わるころには、すでに感極まって泣き出すファンも多数見かけられた。

 

「さぁ、URA理事長のご挨拶も終わり、いよいよこの時がやって参りました! 各ウマ娘の本バ場入場です!!」

 

 解説役はハルウララが有マを制した時のアナウンサーさんが快諾してくれた。

 淀みなく読み上げられる声に、記念レースはますます本格的なレースの装いを持つ。

 

 俺はいつでもコースに出られる観客席側ゴールそばのスペースに陣取って、彼女たちを見ていた。

 

 

「さぁ最初に入ってきたのは一枠一番、サクラバクシンオー! 2大スプリント制覇、Sステークスにおいては2連覇という大記録のみならず、春秋天皇賞、マイルチャンピオンシップ、そして有マ記念と史上初の全距離G1制覇を成した伝説のウマ娘です!」

 

 誰よりも最初に駆け込んできたバクシンオーに手を振れば、彼女はこちらにちらりと視線を向けただけで、すぐ視線を観客へと戻し、両手を振ってアピールする。

 誰よりも模範的な優等生を自負する彼女らしい、キビキビとした対応だった。

 

 

「続けて来ますは二枠二番、ライスシャワー! 彼女が勝利した重賞レースはここに語りきれるものではありません。URA公式調べ、ファン数100万人の記録は未だ誰にも破られておりません! 今回も推しウマ娘人気1番を引っ提げてターフを踏みます!」

 

 ライスが芝を踏んだその瞬間、大歓声が巻き起こった。

 それは間違いなく彼女のこれから行く未来を祝福する、ヒーローへ向けた声援だった。

 嬉しそうにしているその顔を、俺は一生忘れない。

 

 

「三枠三番、マヤノトップガン! 数多のG1で披露された変幻自在の脚質は、今日はどんな形で披露されるのか! トレーナーとの約束も気になるぞ。出るか、勝利の女神の投げキッス! 彼女がレースにいるだけで、世界はキラキラ輝きだしている!!」

 

 飛行機を模したポージングは彼女お約束のファンサービスだ。

 柔らかでしなやかな足の運びと小柄な体躯の愛らしさに観客が魅了されている中、ほんのわずかな隙を突き、俺に向かってウィンクしてくるその要領の良さに、何度だってしてやられてきた。

 

 

「さぁ、我らのキングの登場だ! 四枠四番キングヘイロー! 的確な状況判断から終盤一気に駆け上り、見事見事の大逆転の差し切りこそが一流の証! 緑のお嬢様は今回も泥くさ……華麗な勝利を刻めるのか!」

「ちょっと! 余計な一言がございませんの!?」

 

 その上品なたたずまいに反して戦い方は死力を尽くした終盤疾走が武器のキング。

 緻密な試合運びとそれを完成させた時の爆発力は、あらゆる者をひれ伏せさせるまさしく王の勝ち方だと俺は疑わない。

 そんな彼女がこちらと目が合って、見てなさい、と不敵に笑った。

 

 

「お待ちかね! 絶対の女王が早くも中山競バ場に戻って参りました! 五枠五番、ハルウララ!! ダートの女王有マの奇跡の大勝利はみなさま記憶に新しいと思います! 同じ条件のこのレース、コースを肌で強く覚えている分彼女が有利かー!?」

 

 最後にぴょんっと飛び跳ねるように本バ場入りしたハルウララ。

 苦手だった芝も今では友達になったんだろう、楽しそうに上を駆け回っている。

 彼女が芝の本当の楽しさを覚えるのは、これからだ。

 

 

「さぁ5つの伝説が無事本バ場入場を果たし、レースはもう間近となりました」

 

 勝負服に身を包んだ俺の愛バたちは、G1レースもかくやという緊張感をもって最後の精神統一に入っている。

 絶対の集中力をもって挑むライスやキングはもちろん、レースのすべてを楽しむことを至上としているウララでさえ、今は観客の声も届かないくらいに集中していた。

 

「さぁ、今日もバクシンバクシーン!」

 

「マヤちん、今日もかわいい♪」

 

 相変わらずな二人が相変わらずで観客たちは笑っていたが、俺には二人がいつも以上に自分を鼓舞しようとしているように見えていた。

 

 

 

「……」

 

 スターターを務めるのは、秋山理事長だ。

 緊張の面持ちだが真剣さがよく感じられるのは、それだけ彼女もこのレースに価値を見出してくれているということか。

 

(確実っ! スタートは成功させる!)

 

 彼女が旗を掲げると、これまた記念レースとは思えない、生演奏でファンファーレが鳴り響く。

 本気の本気のレースにしたいという願いに応えた結果のそれである。

 

 彼女たちの真剣勝負に対する、俺なりの全力だった。

 

「各ウマ娘、淀みなくゲートに入っていきます!」

 

 誰一人調子を乱すことなく、心が焦りすぎるでもなく、最高の仕上がりだった。

 

「今、最後のキングヘイローがゲートインし、一斉に構えを取る!」

 

 5人の伝説のウマ娘の息は、ぴったりと揃っていた。

 

 見届けた係員の合図で、ランプが赤く点灯した、次の瞬間。

 

「……開幕っ!」

 

 寸分違わぬ完璧なタイミングで秋山理事長がゲートレバーを引き。

 

「「「「「!!!」」」」」

 

 ゲート解放と同時に、ウマ娘たちは一斉に芝を蹴りあげ、駆け出した。

 



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競い合う伝説

「さぁ各ウマ娘いっせいに綺麗なスタートを切りました!」

 

 誰一人として出遅れはいない。

 

 だがその中でも抜きんでて美しいスタートダッシュを決めたウマ娘がいた。

 

 

 

「さっそく出てきました1番サクラバクシンオー! 今回も見事なスタートダッシュです!」

 

 サクラバクシンオー。

 逃げと先行を使い分けて数多のレースを駆け抜けた彼女は、5人のウマ娘の中で最もスタートが上手いウマ娘だ。

 

「バクシンバクシーン!!」

 

 見る人をうっとりさせる美しいフォームで駆け出した彼女は、内枠という有利を存分に使ってスタートから他者を圧倒する走りを見せる。

 まるで短距離を走っているようだと言われる全力疾走こそが、彼女が3200mすらも走り切る最強の委員長スタイルである。

 

(最初から最後まで、誰にも私の前は走らせません! 絶対的な勝利! それこそがあの人と私が積み上げてきた、模範的委員長のあるべき姿なのですから!)

 

 積み上げてきた勝利の数だけ、広げてきた可能性の幅だけ、足は大きく前に出る。

 

 冬の中山に、疾風の桜が咲き誇る。

 

 

 

「さぁレースのペースを握るのはやはり彼女かサクラバクシンオー、最初からバクシンが止まらな……おおっと!! いや、違う。スタートダッシュで爆走しているのはもう一人いるぞ!」

 

 実況の叫びに観客たちもその姿を確かめる。

 

「サクラバクシンオーのすぐ後ろ! あの小柄な弾丸はマヤノトップガン!! マヤノトップガンです!!」

 

 王者サクラバクシンオーの背後にぴったりとくっついて、マヤノトップガンも逃げペースについてきていた。

 ちゃっかりバクシンオーの長身を風除けにするクレバーさも、彼女は示していた。

 

「ナ、ナンデストー!?」

「へっへーん! バクシンオーちゃん一人で走らせると怖いもんねー。だから、マヤがピッタリ、ついてってあ・げ・る♪」

「ぬぁー!!」

 

 背後からのプレッシャーに、バクシンオーが無理矢理ペースを上げる。

 だがしかし、マヤはぴったり張りついて離れずに、彼女の左後ろにマークする。

 

 彼女の天性の勝負勘は、今日も冴え渡っていた。

 

 

 

「これは苦しいサクラバクシンオー。マヤノトップガンは今日は逃げで勝負のようです。そんな二人の1バ身半後ろ、静かに先行ペースを取るのはライスシャワー。得意の領域で今回も最前列をマークしているぞ!」

 

 ターゲッティングした相手を徹底マークし、最後には仕留めて勝つ。

 

 ライスシャワーが得意とする必中必勝のパターンは今日も見事に決まっていた。

 

「バクシンオーさんに、ついてく、ついてく……!!」

 

 彼女がマークしたのは今日もバクシンを、逃げを選ぶだろうと予想したバクシンオーだ。

 今、ライスの前に立つ二つの影は、彼女が勝利の薔薇を手にするための誘導灯だった。

 

(ライス、がんばるからねっ! お兄さま……!)

 

 

 

「――まったく! 3人ともペースが速すぎるのよっ!」

 

 前を走る3人のウマ娘に対して、だいぶん距離を取って後を追うウマ娘が一人。

 

「さぁ、ペースの早そうなこのレース、適切な位置取りは出来ているのか4番キングヘイロー! 彼女の得意とする距離を維持できるかが勝負の分かれ目だ!」

 

(そんなこと、このキングが分かってないわけないじゃない!!)

 

 離され過ぎないように、近づき過ぎないように。

 己が知識と勘のすべてを使って適切な距離を測りながら、キングヘイローが行く。

 

「このペース、間違いなく終盤に影響する。焦っちゃダメよ、冷静に、冷静に……」

 

 自分に言い聞かせながらテンポを刻み、ここぞという呼吸を得たところで息を入れ、カーブへと突入する。

 

「……いける!」

 

 キングの描いた弧線は、美しい軌道をなぞって紡がれていた。

 

 

 

「さぁさぁここまで来ましてハルウララ、最後尾のスタートとなったがどうでしょう? 解説のネイチャさん」

 

「はいはーい。ナイスネイチャでーす。これは、追い込みを得意とする彼女の脚質に合った位置取りですねぇ。うんうん、悪くない悪くない」

 

「いい勝負が期待できますか?」

 

「商店街の応援団も来てるみたいなんで、ウララちゃんには頑張って欲しいところかなぁ」

 

「愛されてますからねぇ。解説ありがとうございました!」

 

 ハルウララは一番後ろ。とはいえ、走りについてこれていないわけではない。

 

「えへへ、やっぱりみんな、すーっごく早い。わたしはまだまだかも。……でも!」

 

 芝を蹴る彼女の足は軽やかで、決して速度を落とさない。

 

(前の方はすごく早いけど、キングちゃんがそんなに速度を上げてない。だったらわたしは、キングちゃんの走りを信じて、タイミングを、合わせる!)

 

 勝つための貪欲さ、そして計算高さは彼女も鍛え上げている。

 最新の有マを制したウマ娘は、誰よりも知っているコースの癖を読み切って、虎視眈々と最後尾から勝利の瞬間を狙っていた。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 勝負は4コーナーを越えて、直線。そして坂を上って中盤戦へと差し掛かる。

 

「ふっ……ふっ……ふっ……!!」

 

「えへへっ、バクシンオーちゃん疲れちゃった?」

 

「なんの! まだまだ!! バクシンシーン!!」

 

 全速力で坂を上った影響か、息のあがった様子を見せるサクラバクシンオーに、まだまだ余裕の表情のマヤノトップガンが煽りを利かせ、かく乱する。

 

「???」

 

 その動きに混乱したのは、バクシンオーではなく少し後ろのライスシャワーだった。

 一見無駄にしか見えない左右移動に、彼女のマークしていた目が逸らされたのである。

 

「……♪」

 

 そして、それを見逃す天才マヤではなかった。

 

 彼女はとんってんったんっとコーナーを回る際にワザと速度を落とし、ライスシャワーにその背を近づける。

 

「!?」

 

 目を逸らした隙に自分が速度を出し過ぎていた、と咄嗟に思った彼女がペースを落とせば、直後、マヤは再加速してバクシンオーの背に再び食らいつく。

 

「あっ……!!」

 

 ペースを落とすタイミングが悪い。

 カーブによる減速に加えて幻惑による減速を重ねてしまったライスは、次の直線の入りで大きく距離を離されてしまう。

 

「バァクシンバクシンッ!!」

「ビューンッ!」

 

 明らかにペースを落としたライスを残し、下り坂でも構わず大爆走するバクシンオーの背後にぴったりとマークし圧をかけ続ける。

 踏み込みどころを絶対に間違えないマヤの脚質自在の走法が、レースをかき乱していた。

 

(このレース、絶対に負けられないんだもん。マヤの全力、ちゃーんと受け止めてよね、みんな!)

 

 揺れる琥珀色の瞳から、バチッと心の稲光が走った。

 

 

 

(状況が変わった? ライスさんが減速、これは……!)

 

 前方の変化は後方の動きにも影響を与える。

 前を行くウマ娘たちを広い視野で追っていたキングヘイローは、状況の変化から大きな選択を迫られていた。

 

(ここでペースを上げてライスさんを抜くか、あえて抜かず、追いすがるだろう彼女の背に張りつくか)

 

 これからの展開を大きく左右する選択である。

 差しとはこうした小さな変化から最善の答えを探り、仕掛け所を掴む作戦。

 

 8冠を掴んだその聡明な思考が、取るべき答えを瞬時に叩き出す。

 

「……普通なら、ここで加速するんでしょうけど、ね!」

 

 キングはペースを上げなかった。

 速度を落とすライスシャワーの背後について、彼女の再加速にペースを合わせていく。

 

(私が相手をしているのは普通ではない人たち、全員があの人と共に時代を駆け抜けた伝説たち。私が認めなくても誰もが認める超一流のウマ娘。定石通りに動いていては、負ける!)

 

 果たして、キングの予想は正しかった。

 

 速度を大きく落としたライスシャワーは、しかし、驚くほどの再加速をしたのである。

 

 

 

(悪戯されてもライスは変わらない。前の人に、バクシンオーさんに、ついてく、ついてく!)

 

 青い炎が灯る。

 遠く遥かに見える小さな影を追って、黒い刺客と称された少女が行く!

 

(お兄さまが隣にいる未来を、ライスは絶対に、諦めない……!!)

 

 段々と黒いオーラを纏い始めるライスシャワー。

 

 強烈な追い上げは、減速を許されない先行作戦にあるまじき奇跡の足のなせる技だった。

 そして今まさに突入する下りの直線こそ、彼女の得意な道筋だった。

 

(本当、とんでもないライバルたちがいたものだわ)

 

 己の作戦が功を奏したのを確信し、キングは内心で感嘆のため息を吐いた。

 追い抜くためにペースを上げていたら、差し返されてそれをまた追うという無理に無理を重ねる展開になるところだった。

 

 じわじわとペースを上げつつも確かに溜められている足に勝利への確信を強めながら、彼女は自らの後方を走るウマ娘のことを少しだけ考える。

 

(さぁ、あの子はついてこれているかしら。この伝説の領域に――)

 

 振り返ろうとして、やめた。

 

 振り返る必要はないのだと、背後に迫る気配から察したからだ。

 

(あぁ、もう! 一流のトレーナーというのは本当に厄介ね!)

 

 心の中で悪態をつくキングの少し後ろから、ハルウララは笑顔で腕を振っていた。

 

 

 

(た、た、たっのし~~~~~~!!)

 

 どんどん溜まる疲労が気持ちいい。

 速度が上がるたび、強く感じる風が気持ちいい。

 前を行く仲間でライバルなみんなの、本気の全力をビリビリ感じて気持ちいい。

 

 今まさに、ハルウララは芝のレースを最大限に満喫していた。

 

(どこで仕掛けたらいいんだろ? 今かな? まだかな? えへへ、考えるのが楽しい!)

 

 最初はダートでこの気持ちを教えてもらった。

 真剣にレースをするという楽しさを、真剣に勝負をすることの楽しさを。

 

 それを芝でもやってみたいと、憧れの舞台でもやりたいと願ったら、叶えてもらった。

 まるで魔法使いみたいな人だと、ウララはトレーナーのことを想う。

 

「……うんっ!」

 

 そんな彼と、出来ればトレーナーとその担当ウマ娘という関係で、もっと走り続けたい。

 そのためにはこの勝負、負けるわけにはいかない。

 

「行くならやっぱり、ここ、だよね! トレーナー!!」

 

 それは彼女が最高の勝利を飾った有マ記念で、スパートを始めた場所と同じ場所。

 体力と根性任せの超ロングスパート。

 

 最後尾からすべてのウマ娘をぶっちぎって差し切った、伝家の宝刀。

 お友達からそれを名乗ることを許された、必殺技。

 

「不沈かぁぁぁん! ばっつびょおーーーーーっっ!!」

 

 気合の声を上げ、ハルウララが加速を開始する。

 

 

 伝説たちのレースは半ばを越え、終盤へと差し掛かろうとしていた。

 



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決意の時

「さぁ伝説のウマ娘たち、それぞれの得意な位置で勝負所を迎えるぞ! 記念レースを勝利で飾るのは一体誰なのか!」

 

 興奮に色めき立つ実況を聞きながら、俺は手に汗握って彼女たちの勝負を見守っていた。

 

 ここまでの試合展開、そしてここからのスパート合戦。

 正直言って誰が勝ってもおかしくない、誰一人として勝ちを諦めていない状態で。

 

(あぁ、俺の育てたウマ娘たちは、本当に、本当に……!)

 

 今この瞬間にも、彼女たちは俺の愛バなんですと叫び出したい気持ちがあった。

 

 それほどまでに、5人のウマ娘一人一人の走りに俺は魅せられていた。

 

 

 全員の事が好きすぎて、誰一人として選ぶことなど出来はしない。

 

 でも決めなければいけない。だから俺は、このレースを一秒たりとも見逃さない。

 

 

 最後の最後、ゴール板を誰が一番に越えるかは、きっと俺の心で決まるから。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「さぁ、下りの直線を越えてコーナーに差し掛かる、最後の勝負が始まるぞ! ここまでの試合いかがですか、解説の――」

 

「フン。オマエ、アタシに熱を与えておいて、こんなところで負けるんじゃないぞ」

 

「グラスちゃん、エルちゃん、セイちゃん、せーのっ! けっぱれー! キングー!」

 

「頑張って下さい、バクシンオーさん!」

 

「おう! 負けるんじゃねーぞ! ウララー!!」

 

「必ず勝利を勝ち取ると信じています、ライスさん……!」

 

「ひ、ひぇぇぇ……!」

 

 突如として乱入してきた大勢のウマ娘たちによって解説席が一番の応援席になる中、5人のウマ娘たちはそれぞれの思いを胸にコーナーへと駆け込んでいく。

 

 

 

「バクシンバクシン! この道は、譲れません!!」

 

「マヤちん、テーイクッ、オーフ!! まだまだ元気いーっぱいだよ!」

 

「ついていくのは……ここまで!」

 

「うっららーーーー!!」

 

「……来たわ、絶好のタイミング!」

 

 最初に仕掛けを発動させたのは、キングヘイロー。

 左足を大きく外へと踏み込ませ、前方のライスシャワーを外から抜きにかかる。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

 バチバチと、彼女の踏みしめた左足が稲妻を放ったかのように見えた。

 直後、速度を落とさず外へと回り、ライスの外に並び立つ。

 

「!?」

 

「ここからは、キングの時間よ!!」

 

 ここまで温存気味にしていた足を全開にして、キングは加速しコーナーへ。

 

 対してライスはというと、キングのことを一瞥したのち、視界から彼女のことを消去した。

 

「ライスは……」

 

 見たのは内側、インコース。

 

 最短でコーナーを曲がる、やや危険も伴うルート取り。

 

 

 だが。

 

 

「ライスは……負けない!!」

 

 彼女もまた、全開に足を踏み込んでコーナーへと駆け込んだ。

 

 その時である。

 

 

「こっこだーーー!!」

 

 

 外に広がったキングと、内に寄せたライス。

 二人のあいだに出来た隙間を力任せに突っ切る桜色のウマ娘、ハルウララがいた。

 

「ウララさん!?」

 

「ウララちゃん!?」

 

「うーっららーーーーーーー!!!」

 

 ウララの加速はカーブに入っても止まらない。

 ぐんぐんと伸びを見せたままコーナーへ突進し、強引に力で外にかかる力をねじ伏せる。

 

 

 

 後方の動きは、前を行く二人にもしっかりと届いた。

 

「ふぅん、やっぱりちゃんと追いついてくるんだ? だったら!」

 

 あれだけ動いていったいどこにその余力があるというのか、マヤノトップガンの高いスタミナに裏打ちされた健脚が、ここぞとばかりにトップのサクラバクシンオーを追い抜きにかかる。

 

「そろそろトップを譲ってよ! バクシンオーちゃん!」

 

「……フッフーン!」

 

 だが、マヤの挑発に返ってきたのは、どこか余裕のあるバクシンオーの笑みだった。

 

「ちょっと、後ろを気にし過ぎてしまいましたね?」

 

「えっ」

 

 コーナーも終わり最終直線へと入ろうかというところ、それは起こった。

 

「バクシンッ! バクシンッ! バックシーン!!!」

 

 突然の急加速。マヤの追従を振り切り、バクシンオーが最終直線一番乗りを果たす。

 トップスピードを越えたトップスピード。

 

 否、バクシンスピードである。

 

 

「こっそり直線で足を溜めていました。この知的な戦略もまた、委員長のなせる技です!」

 

「えーっ!」

 

 サクラバクシンオーに知略がないなどとはマヤは微塵も思っていない。

 

 どんな時でも全力前進をモットーとする彼女が減速することを迷わず選ぶ。その選択にこそ彼女は驚かされていた。

 

(ホントのホントに本気なんだ。バクシンオーちゃん。分かってた、分かってたけど……!)

 

 自分と同じくらいにあの人を想う人がいる。

 それが嬉しくて、悔しくて、絶対に負けたくないと、彼女の心に新たな火が灯る。

 

「トレーナーちゃんは! マヤがぜーーーーったい! 一番大好きなんだからー!!」

 

 魂のままに叫びをあげたマヤが、最終直線でスタミナを一気に燃やして加速する。

 

 二人は互いに睨み合い、先頭を絶対に譲らないと横並びになった。

 

「いいえ、いいえ! あの人は私と一緒に、世界へバクシン、するん、です!!!」

 

「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダー!!! マヤのなのーーーー!!!」

 

 走りで思いをぶつけ合う。

 

 そしてその戦いに、残る三人が名乗りを上げないわけがなかった。

 

 

 

「どいてどいてどいてー! わたしが全部、跳ね除けちゃうよーーー!!」

 

「ライスは、負けない!!」

 

「最後に勝つのは、この、キングよ!!」

 

 内からライスが、外からウララが、そして大きく外からキングが来る。

 

「っあーーーーー! 並んだ! 並んだ! ここに来て並んだ! 中山の最終直線! 5人の伝説が横並びになったー!!」

 

 登り坂がある。

 

 左手には観客席がある。

 

 そこから、あの人が見ている。

 

 

 

(((((絶対に、勝つ……っ!!!)))))

 

 

 

 最高の仲間で、最高のライバルと、ここで雌雄を決する。

 

 実力は互角。互いの持ちうるすべての力を使ってここまで来た。

 

 後は坂を駆け上がる、気合と根性、心の勝負。

 

 全身全霊の末脚が、全員同時に発動する。

 

 

 青薔薇が、驀進の桜吹雪が、変幻自在の弾丸が、電光石火の稲妻が、満開の桜が、己の夢を掴むため、競い合う。

 

 

「ああああああああーーーーーーー!!!!」

 

 

 5つの叫びが、中山の登り坂に響き渡った。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「…………!!」

 

 心が震えた。

 

 心だけじゃない、歓声に、彼女たちの足音に、己のすべてが打ち震えた。

 

 万人を魅了する最高のレースがそこにあった。

 伝説と並び称された5人のウマ娘による本気のレース、本当の伝説はここにある。

 

 

(これが、これが彼女たちが俺へと向けた……)

 

 これが自分と未来を歩んで欲しいという、思いの、願いの、全力アピールだということを、俺だけが知っている。

 

 

「……頑張れ」

 

 知らず、声を出していた。

 

「頑張れ、頑張れ!」

 

 段々と声が大きくなっていた。

 

「頑張れ、―――!!」

 

 俺は俺の衝動のままに、彼女の名前を呼んでいた。

 




毎日投稿はいったんここまで。次の投稿は日曜予定。
土曜まではアンケート期間にするので、投票お願いします!!


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IFルート1:ハルウララEND

ここからは各ウマ娘たちと迎えるエピローグ。
すべてIFなので、自分がこれだと思ったエンディングが真エンド!の精神で。


 坂を上って、最後のほんの少しのまっすぐを駆け抜けたら、ゴール。

 

 ついこのあいだ走ったレースと一緒。

 

 みんなを追い抜いて、誰よりも早くゴールする。

 

 

 

 あの人が教えてくれた、とっても楽しいこと。

 

 みんなが一生懸命に目指す、一等賞。

 

 たった一人しか手に入れられない、特別で、すごくて、魅力的なもの。

 

 

 

 絶対に、勝ちたいレース。

 

 

 

「うーーーーららーーーーーーー!!」

 

 なのに。

 

(足が、持ちあがらない、よぉ……!)

 

 踏み込んだ坂道は、前来た時よりも重くて。

 

 誰よりも今、この道に詳しいはずなのに。

 

 

(なん、で……!?)

 

 息が上がって、苦しい。

 

 減速できないから、前よりももっと早く足を前に出す。

 

 条件はみんな同じはずなのに、わたしが一番苦しい思いをしている気がする。

 

「中山の坂に入ってハルウララ苦しそうだ! 上りきれるか、頑張れ! 負けるな!」

 

 そっか。実況の人から見ても、わたしが一番苦しそうにしてるんだ。

 

 理由は、少し考えればなんとなく分かった。

 

 

(みんなの中でわたしが一番、未完成だから……)

 

 チームアラウンドに一番最後に入ったウマ娘。

 

 ダートを駆け抜け、芝のグランプリでも勝った、奇跡のウマ娘。

 

 でも、その奇跡は5番目で、わたしの前には4人の伝説がいる。

 

 

 

「誰にも、誰にも渡さない! トレーナーちゃんは、マヤの、だぁぁぁぁぁ!!!」

 

 隣を走っていたマヤちゃんが、わたしの少し前に出た。

 

 坂道を誰よりも上手に上って、ゴールに一番近い場所に行っちゃった。

 

(負け、かぁ……)

 

 わたしはそれに、ついて行けなくて。

 

 少しずつ離されていくのを肌で感じて、踏み込んだ足から力が抜けていく。

 

 減速しそうになる。

 

 

 そうなったら勝てないって、何度も何度もレースをしてきたから、わたしは知ってる。

 

 

 

「頑張れ! ウララーーーー!!」

 

「!?」

 

 でも、わたしの名前を呼んだその声が。

 

 わたしに、もう一度だけ立ち上がる力をくれた。

 

 

「う……」

 

 止まりそうだった足に、もう一度力を入れる。

 

 ぐっと踏みつけた芝が、わたしにどうしたらいいか教えてくれた。

 

「うーーーーららーーーーーーー!!!」

 

 踏みしめて、跳ねればいいって!

 

 

 

「減速しかけたハルウララ、飛び跳ねるように坂を上って前に出たマヤノトップガンに食い下がるーーーー!!」

 

 マヤちゃんの背中が見えた。

 

 また隣に並んだ。

 

 

 勝負はまだ、終わってないよ!

 

 

「ウララちゃん!」

 

「マヤちゃん!」

 

 坂道はここでおしまい。

 最後のほんのちょっとのまっすぐな道。

 

「マヤは絶っっっっ対にぃ、負けないんだからぁぁーー!!」

 

 マヤちゃんが叫んだ。

 

(その気持ち、わたしもすっごく分かるよ。だって、ずっと一緒にいたいもんね)

 

 でもね、わたしには確かに聞こえたんだよ。

 

(トレーナーが、わたしを応援する声が!!)

 

 だから、わたしは絶対の絶対の絶対の絶対に、負けられない!!

 

「わたしが、勝ぁぁぁぁぁぁぁつ!!! うーらーらーーーーー!!!」

 

 芝を力いっぱい踏みしめて、前に跳ぶ。

 

 最初は苦手だった緑の絨毯は、もう、とっくのとうに、わたしの友達だから。

 

 

「!?」

 

 

 マヤちゃんの少し前に、蹴り出したわたしの体が飛び出して――

 

 

「……ハルウララ! ハルウララだ! 力強い踏み込みで芝を行く! 頭ひとつ、いや! 半バ身でマヤノトップガンを差し切って今、ゴーーーーーールッ!!!」

 

 

 ――わたしが、勝った。

 

 

「桜が咲いた! 桜が咲いた! もっとも新しい伝説が伝説たちの頂点に……――」

 

 実況さんの声が遠ざかっていく。

 

 喜んだり悲しんだりしている客席のみんなの声も、わたしには聞こえない。

 

「……頑張ったな、ウララ!」

 

「!!」

 

 たった一人。

 

 あの人の姿だけがハッキリ見えて、あの人の声だけがハッキリと聞こえた。

 

「うーーーーららーーーーーーーー!! やったよーーー! トレーナー!!!」

 

 だから、わたしは思いっきりジャンプして、あの人にアピールした。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 春のある日のトレセン学園。

 

 

「うっららーーーー!!」

 

「くぅぅぅ、ムリーーーーーー!!」

 

「ウララ先輩、早すぎるぅぅぅーーー!!」

 

 レースを前にしての最終調整模擬レース。

 

 希望者の後輩ウマ娘たちをぶっちぎり、ハルウララが芝の1600mを走破した。

 

「タイムは……ん、悪くないな。いい感じだぞ、ウララー!」

 

「! うん!!」

 

 手を振り声を上げれば、向こうのウララがその倍以上の動きで手を振り返してくる。

 正直とても可愛い。

 

 

 

 チームアラウンドを解散してから、俺はハルウララの専属トレーナーになった。

 トゥインクルシリーズでまだまだ走りたいという彼女の願いに応えての続投だった。   

 

『開催っ! URAファイナルズ!!』

 

 秋川理事長の新レース開催宣言はウマ娘界に衝撃と共に受け入れられ、誰もがその最初の栄誉を手に入れようとこぞってトレーニングに力を入れ始めた。

 俺もここに残ったからには彼女と共に、最初のトロフィー受賞者となるべく頑張るつもりである。

 

 それを発表した際、一部ではウララのことをラスボスとか魔王などと呼ぶ向きがあったが、こんなに愛らしい頑張り屋に対してまったく異なことを言うものだ。

 

 こと、彼女が至った領域に関しては、きっとみんなに辿り着ける可能性があるのだから。

 

 

 

「うっららー♪ トレーナーッ!」

 

「えっ、うおっ!!」

 

 知らぬ間に急接近してきたウララに飛びつかれ、支えきれず芝の上に押し倒される。

 

 俺の上にまたがった格好になった彼女は、妙にしっくりした顔でむふーっとしている。

 

「こら、どくんだウララ」

 

「えっへへ。はーい!」

 

 素直にどいてくれたウララの手を借りて立ち上がる。

 終始楽しそうな彼女はいつものように体を左右に揺らしながら、ニコニコしていた。

 

 そのニコニコ笑顔の奥にある願望を見逃さず、俺は彼女の頭をよしよしと撫でる。

 

「えへへ……」

 

「あー、ウララ先輩がまたトレーナーさんに甘えてる!」

 

「いいなー、仲良しー」

 

 途端に照れ照れとしだしたウララを見て、後を追ってきた後輩ウマ娘たちも慣れた様子でからかいだした。

 

「噂になってますよー。ウララ先輩とトレーナーさん、恋人なんじゃないかって!」

 

「ホントのところはどうなんですかー?」

 

「えぇ…っと」

 

 こっちにまで絡んできたのをどうするかと対策を考えていたら。

 

 

「えっへっへー。わたしとトレーナーは、ずーっと一緒だって約束したんだよ!」

 

「ちょ」

 

 

 ウララの口からこともなげに真実が告げられてしまう。

 

「ウララ!」

 

「あっ」

 

 注意した頃にはもう遅い。二人の後輩ウマ娘の目はきらっきらに輝いて。

 

「や、や、やっぱりだーーーー!!」

 

「ヒヒンッ、ごちそうさまでしたーーー!! ものども、噂の真実が出たぞよー!」

 

 手に入れた言質を御旗に振って、ぴゅーっとどこぞへ駆け去ってしまう。

 

「えーっと、ごめんね、トレーナー……」

 

「いやぁ、遅かれ早かれバレることではあったからな。それが今だっただけさ」

 

 俺とウララはURAファイナルズへの出場をもってトゥインクルシリーズから退くことを決めていた。

 そしてその後は改めて、二人一緒に歩む道を進んでいくと、そう約束していた。

 

「あと3年、色々やってたらすぐだな」

 

「うんうん。そうだね!」

 

 この3年、ハルウララは通常よりもレースに出場する機会を多めにトレーニングメニューを組んでいる。

 それは芝も砂も問わない彼女が、存分にレースを楽しむために構成されたメニューで。

 

(事前にローテーションについては公表しているし、次代のヒロイン候補のウマ娘たちには元気よくチャレンジしてもらいたいものである)

 

 トレーナーこそが魔王であるという噂については否定する要素などない。

 

 

 

「さて、併走する子もいなくなったし、最後は砂を軽く流してくるか」

 

「はーい! 見ててね。トレーナー!」

 

 再びコースへ駆け出したウララを見送り、俺は彼女とのこれからを考える。

 

(次の課題は中距離だな。マイルと長距離での速度の出し方は心得ているが、中距離だとどうしても伸びきらなかったり走り過ぎたりする。そこをじっくり調整すれば、3代目全距離G1制覇ウマ娘も夢では……)

 

 と、ついつい深い思索にふけってしまったせいで。

 

「トレーナー!」

 

「うおあっ!!」

 

 再びすっ飛んできたウララに体当たりされ、俺は再び芝の上に押し倒されてしまった。

 

「えへへ! 走ってきたよ!!」

 

「は、早かったな。正直びっくりだ」

 

「うん! なんだか前より、砂のコースともずーっと仲良くなれた気がするんだ~♪」

 

「そいつは何より……で」

 

 今度のウララはどういうわけか、俺の上からどいてくれない。

 

 俺の上にまたがったままじっとこちらの顔を見下ろし、桜色の瞳で見つめてくる。

 

 

 

「ねぇ、トレーナー」

 

「なんだ?」

 

 いつもより少しだけ真剣味の増した声に、こちらも真面目に返す。

 

「ずーっと、一緒にいようね?」

 

 次いで彼女の口から零れたのは、なんてことのない、当たり前の問いかけだった。

 

「ああ、ずっとな」

 

「えへへっ」

 

 だから当然の答えを返すと、しかしいつも以上に嬉しそうにウララは照れてみせた。

 

「あのねっ、トレーナー」

 

「なんだ?」

 

 繰り返される前振りに、同じように答えたら。

 

 

 

「………………大好きっ!」

 

 

 

 予想外の言葉と共に、予想外のことをされ。

 

 今年もトレセン学園に咲く桜は、満開だったと知った。

 

 

                         -END-



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IFルート2:マヤノトップガンEND

 最後の坂に入った。

 

 アタシの前には、やっぱりあの娘が居た。

 

「バクシンバクシンッ! バックシーーーーン!!」

 

「坂に入っても変わらない! ほんのわずかな差ではありますが、サクラバクシンオー先頭です! 自分より前に誰かが立つことを驀進王は許さないっっ!!」

 

「……!!」

 

 悔しい。

 悔しい悔しい!

 とっても悔しい!!

 

 作戦成功したつもりが、それを利用されてリードされちゃってるなんて!

 

(この勝負は、この勝負だけは、絶対負けられないのに!!)

 

 誰よりも真っ直ぐに、トレーナーちゃんにアタックし続けてきた。

 そして今日のレースに勝ちさえすれば、アタシの思いは必ず通じるってとこまで来た。

 

 今日のレースの主役は、間違いなくアタシのはずだった!!

 

 

(……なのに!!)

 

 

 最終直線。

 心臓破りの坂を一番最初に上り始めたのは、アタシじゃなくてバクシンオーちゃんだった。

 

 坂が得意なライスちゃんは中盤で消耗させられた。

 キングちゃんは大外に回る分のロスがある。

 ウララちゃんにとって今日の早いレース展開は間違いなく負担だったはず。

 だから、この坂でアタシがトップになれさえすれば、勝てるはずだった。

 

 

(なんで、なんでなんでなんでなんで!!)

 

 

 泣きそうになる。

 

 作戦はほぼ完ぺきだったからこそ、たったひとつの誤算に全部持っていかれるなんて許せない!

 

(でも、一番許せないのは……みんなの気持ちを勝手に下に見てた、マヤ自身だ!!)

 

 自分が一番、トレーナーちゃんのことが好きだと思ってた。

 この思いさえあれば、絶対に負けないと思っていた。

 

 でも、それだけじゃ足りなかった。 

 

 

(思いの強さも、そこにかけた情熱も、みんなマヤと同じか、それ以上にあった)

 

 

 だからここまで食い下がって、追いついてきて、今マヤの前にいたりする。 

 

 悔しい。

 悔しい悔しい!

 今以上の自分になれない自分が、悔しい!!

 

 逃げ切れない、差し切れない、何が変幻自在の脚質だ。

 

 勝てなきゃ意味なんてないのに。

 

 この勝負に負けちゃったら、マヤには何も、残らないのに!!

 

 

 

(……………………違う!!)

 

 今考えるべきはそんなことじゃない。

 

 まだ終わってないのに、勝負のあとのことなんて考えてる場合じゃない!!

 

「……負けるな、負けるなアタシ」

 

 萎えそうな気持ちに喝を入れる。

 

「マヤちんは、一番にキラキラしてるウマ娘。トレーナーちゃんと一緒に磨き上げた、見る人すべてを魅了する、さいっこうにキラキラしてる、大人のレディを目指す……まだまだ伸び盛りの、ウマ娘だぁぁぁぁぁーーーーーー!!!」

 

 成長しろ、覚醒しろ、今この瞬間にもっと、もっと速くなれ!!

 

 そうして前に進むアタシだからこそ、あの人は魅了されてくれるんだから!!

 

 

 

「やはり来ましたね、マヤノさん!」

 

「ううん、マヤは来たんじゃないよ。ここからも~っと先へ、行くんだよ!!」

 

 行くって決めた、その時に。

 

 

 

 

「―――――えっ!!」

 

 

 あの人の呼び声が、聞こえた気がした。

 

 

 

 

(この坂の向こうで、トレーナーちゃんが待ってくれてる!?)

 

 だったらもう、止まってなんていられない。

 

「マヤちん、ていく、おーーーーーーっふ!!!」

 

 大地を蹴って、飛び上がる。

 

 

 

「んマヤノトップガン!! マヤノトップガンです! 坂をカタパルトにして大加速!! サクラバクシンオーを今追い抜いて、一番に坂を駆け上がりました!! 小さい体のいったいどこにそんなスタミナがあるんだーーー!?」

 

 坂を上ったらゴールが見えた。

 

 あの向こう側でトレーナーちゃんが待っている。

 

 アタシのたったひとつの着陸基地が、そこにある!

 

「おおおおおお! バクシンッ! バクシンッ! バァクシンッ!!」

 

「トレーナーちゃんは! 誰にも! 渡さない!!」

 

 だって。だってだって!

 

「アタシが一番! トレーナーちゃんのことが! 大好きだからぁーーーーーー!!」

 

 誰よりも早く、一番にこの想いを届ける。

 

 

 

「マヤノトップガン! 今一着でゴーーーーールッ!! チームアラウンド解散記念を制したのは、すべての伝説の中でもっとも強い伝説は! マヤノトップガンでした!!」

 

「トレーナー……ちゃーーーーーーーーん!!」

 

「おおっと、マヤノトップガン。ゴール板を抜けてすぐ、コースから観客席の方へと駆けていく。彼女の向かう先には……ああ! トレーナーです、彼女のトレーナーが立っています!」

 

 マヤ、勝ったよ!!

 

「今、マヤノトップガンがトレーナーに飛びかかり! ああーっと!! 私の口からは申し上げられません!! ですが、勝利のランディングキッスは彼女の十八番だとここで実況に代わりまして申し上げたいと思います!!」

 

 誰が見ていようがもう関係ない。

 

 勝ったのはアタシで、だから、トレーナーちゃんは――

 

 

「ね。これからはずーっと、マヤのこと見ててね?」

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 秋、とある地方のトレセン学園。

 

「うんうん! そうそう! ほら、足をそこでしっかり上げて!」

 

「はい! あ……!」

 

「どう? 楽になったでしょ? その方がきっともーっとキラキラ走れるよ!」

 

「はい! ありがとうございます! マヤノ先生!!」

 

 解散記念レースのあと、マヤノトップガンはレースを引退、正式にトレセン学園のトレーナー資格を取得後、各地方のトレセン学園を渡り歩いての指導員となった。

 

 そして俺は、そんな彼女を補佐する彼女専属のサポーターとなる。

 

 

 

「マヤノ先生! 私にも指導お願いします!!」

 

「いいよー! えっとー、キミは……差しが得意なら、コーナーを練習しよっか」

 

「ええ!? 私まだ何も言ってないのにどうして分かるんですか!?」

 

「見れば分かるよー! それじゃあ教えるから一緒に来てね!」

 

「わわっ! 待ってー! マヤノ先生ー!!」

 

 鋭い直感と、並外れた観察眼は指導員として非常に優秀で、ウマ娘として同じ視点が持てるのもあり、その指導は的確、最適、効果てきめんと言った様子だった。

 

 ここ数年で地方のレベルが跳ね上がり、中央がますます盛り上がっているという話を聞くが、間違いなく彼女の功績だろうと俺も鼻高々である。

 

 

 

「すいません、練習メニューで相談が……」

 

「ああ、どれどれ」

 

 俺もマヤに負けないよう、彼女の教えを活かせるメニューをウマ娘たちに提案し、彼女専属のサポーターとしての役割を果たしていこう。

 

「彼女からの指示はフォームの改善だったか? なら、スタミナが切れてきても崩れないように姿勢維持する練習を多めに……」

 

「あああああーーーーーーー!!!」

 

 と、指導中に響く大声に、俺はまたかと声の主の方を見た。

 

「ちょっと! 近すぎるのは、ダメーーーー!!」

 

 声の主は大急ぎで俺と指導を受けに来たウマ娘の間に割り込んで、その小さい体でむんっと胸を張った。

 

「いい? この人はマヤのダーリンなんだから、近づきすぎちゃめっ! だからね!」

 

「え、あ、はい」

 

 いきなりの指摘にキョトンとしたウマ娘さんには申し訳ないが、こちらが俺の愛バです。

 

「ダーリンも! 熱心な指導はいいけど、ちゃんと節度を守るように!」

 

「はいはい」

 

「マヤから目を離したらダメなんだからね!」

 

「それはもちろんだ」

 

「! そ、そう? えへへ、分かればいいよ。それじゃまた行ってきます! ちゅっ」

 

「行ってらっしゃい」

 

 

 

 投げキスしてから元気に駆け出したマヤを見送ると、半ば放心状態のウマ娘さんから指摘される。

 

「ホントに、伝説のウマ娘とそれを支えた伝説のトレーナーさん、なんですよね? 私には、ただのバカップルにしか見えません」

 

「これでも指導は完ぺき、各地で大好評の二人だぞ」

 

「そう、ですよね。実際、とてもためになるお話を聞かせていただいてます」

 

 解散記念レースで起こった珍事はしっかりとカメラに抑えられており、翌日のニュースを大いに騒がせた。

 だがそれも年が経てば風化して、今や伝説もURAファイナルズの話題に塗り替えられている。

 

「私も、頑張れば中央に行って、伝説になれますか?」

 

「……ふむ」

 

 久しぶりに、気骨のある目と問いかけを得て、俺も真剣に彼女を見る。

 

「中央は厳しい。才能と、努力と、そして運を味方につけた者にしか勝利の女神は微笑まない」

 

「……やっぱり」

 

 少女の顔が曇る。彼女はどうやら自分に自信がないらしい。

 

 ならばと、俺はハッキリと告げることにした。

 

 

 

「だが、不可能を可能にした伝説は、確かに存在する」

 

「!?」

 

 俺の目は、併走トレーニングでウマ娘たちを指導する、一番大事な人を見つめる。

 

 小柄な体に無限のタフネス、そして変幻自在の脚質を持った、不可能を可能にした伝説のウマ娘を。

 

 今もなお成長し、俺のことを魅了して止まない最高のレディを。

 

「彼女を、そして俺を、信じて指導を受けてみるといい。判断するのはその後でも遅くない」

 

「……はい!」

 

「うん、いい顔だ」

 

「あっ……」

 

 元気な返事ににっこりとほほ笑むと、ウマ娘さんの頬がポッと赤みを増した。

 

 あ、これはマズい。

 

 

 

「ああああ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」

 

 さっき以上に大きな声で、そして全速力で駆けてくる俺のパートナー。

 

「ダーリンの! バカーーーーーー!!」

 

「ちょっと待ってくれこれはちがグハァァァァァッ!!!」

 

 弾丸と呼ばれた少女の体当たりは、ものの見事に俺を軽く宙に浮かせた。

 

「ふー、ふー」

 

「あいたたた。誤解、誤解だって」

 

「フーンだ!」

 

 独占欲の強いこの子は、俺の弁明に対してぷりぷりと怒ってはいるものの、内心では真実をとっくに見抜いている。

 

 だからこれは、儀式のようなものだ。

 

「どうしたら許してくれるんだ?」

 

「許して欲しかったら、マヤが一番だって、みんなの前で証明してっ!」

 

「……分かった」

 

 どう証明するべきかは、彼女が示している。

 

 目を閉じ、顎を突き出しこちらを見上げるその姿勢がすべての答えだ。

 

「せ、先生たち……ほぁっ」

 

 そうして俺は、これまで何度だって繰り返してきた儀式を行なう。

 

 骨の髄まで彼女に夢中だってことを、今日もまた、みんなの前で証明した。

 

 

 

「へへんっ、これでわかったでしょ? この人は、マヤちんの、だよ!」

 

 

 

 そう言って俺にぎゅっと抱き着いているマヤは、誰よりもキラキラに輝いていた。

 



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IFルート3:サクラバクシンオーEND

 

 ただ、一心不乱に前に進めと、私の心が叫んでいます。

 それこそが絶対で、それこそが勝利に必要な要素なのだと、そう言っています。

 

 ですが、本当にそれだけで勝てるのでしょうか?

 

「バクシンバクシンバクシンッ! バックシーン!!」

 

 目の前には急こう配の坂。

 直前に下りがあった分、余計に駆け上がるのがしんどそうな道です。

 

 本当にこの道を、ただ真っ直ぐに走るだけで、私は勝てるのでしょうか?

 

 

 

「……ライスは」

 

 何かが足りないと思っているその矢先、右側から聞こえてきたのはライスさんの声でした。

 

「ライスは、負けない……! ライスは、お兄さまと一緒に……未来を掴むんだ!!」

 

「!?」

 

 

 ああ、なるほど。

 

 私に足りないのは、彼に対する思いでしたか。

 

 

 

 この坂をただ上るだけなら、私には造作もないことでしょう。

 ですがこの坂を上り、かつ、ライバルの誰一人として私の前を走らせない。となると、話が違ってきます。

 

 最後の勝利を掴むためには強い渇望、願いが必要なのだとあの人も言っていました。

 だからこそ、すべてにおいて模範的な走りを見せるという私は、勝利に対する理想的なモチベーションを有する優等生らしい優等生だったわけですしね。

 

(そういえば、さっき私はマヤノさんの作戦に対して足を溜める選択をしましたね)

 

 あれも今考えれば不思議な話です。

 

 彼女のことなんて気にしないで、一心不乱にバクシンしていたらよかった気もします。

 

 少なくともいつも通りの私ならそうしていたに違いありません。

 もちろん、そんなことをしていたら終始ハイペースだったこのレース、今まさに力を失い、坂をヘロヘロになりながらバクシンすることになっていたのですが。

 

 ではこうなることを予想していたのかと言われたら、違うような気がします。

 

(あの時は確か……そう、マヤノさんの作戦に乗ってしまうと負けてしまうから、と考えていましたね)

 

 

 

 負け。

 

 負けとは何でしょう?

 

 

 

 私にとっての負けとは、模範的な委員長としての姿を示せなかったときが負けです。

 

 つまり、誰よりも強いことを示せなければ負けというわけです。

 

(では、そうなりたくないから私は行動を変えた?)

 

 これも何かしっくりきません。

 

 重要な、とても大切な何かが欠けている気がします。

 

(やはり、ここは彼について考えるのが答えへの近道でしょう)

 

 このレースに勝つことで得られる栄誉。

 

 それはこの先もずっと、あのトレーナーさんと一緒にバクシンし続けられることにほかなりません。

 

 私にすべての距離のレースで勝利する道を拓いてくれたあの人となら、トゥインクルシリーズで定められたすべての距離を越え、全世界あらゆるコースでバクシンすることが出来るに違いありません。

 

(だから私はここにいて、だから私は勝とうとしている)

 

 ですがどうやらマヤノさんを始めライスさん、キングさんは同じ道を行くということにそれ以上の何かを感じている様子です。

 

 ウララさんは私に近いのかなと思ったりもしますが、それはまだ私が彼女について、他の仲間たちほど月日を過ごしていないが故の見落としがあるやもしれません。

 

(そんな彼女たちの特別と、私の持つ特別は、比べるとどちらが大きいのでしょう?)

 

 夢以上の何かがある分、みなさんの方が大きいのでしょうか?

 

 だから私はこんなところで思い悩んで、今まさに追い抜かれようとしているのでしょうか。

 

 

 

「……ライスシャワーだ! ライスシャワーやはり坂に強い! スタミナ切れが心配だが、それをモノともしない力走で坂を駆け上っていく!!」

 

 ほら、ご覧なさい学級委員長。

 あれが夢と思いを背負ったウマ娘の、美しい走姿です。

 

 あれこそ模範的、ウマ娘が目指すべき素晴らしい所作だとは思いませんか。

 

(そう。ここで勝つために必要なのは、思いです)

 

 私に足りないもの。

 その答えが見つからなければ私はここで、負けます。

 

 負けてしまってはあの人とはもう、一緒に走ること叶いません。

 それはとても残念で、考えるだけでもしょげてしまいそうです。

 

 ああでも、私にはここで答えに至れるほどの閃きは――

 

 

「頑張れ、バクシンオー!!!」

 

「―――ちょわわっ!?」

 

 

 その時、確かに耳に捉えました。

 

 あの人が、私に勝てと言っているのを。

 

 

 そしてますます不思議なことに、さっきまで散々思い悩んでいたあれやこれやが、今は綺麗になくなってしまったのです。

 

 

 彼は言いました。

 

 このレースでも模範的な委員長でありたいならば、バクシンして勝て、と。

 

 確かにそう言ったのが聞こえました。

 

 

 

「ならば! 私はその声援に応えなければなりません!!」

 

「!?」

 

 ライスさん、マヤノさん、ウララさん、キングさん。申し訳ありません。

 

 

 

 このレース、私が勝ちます!!

 

 

 

 

「ばぁぁぁぁくしんっ! バクシンバクシンバクシンバクシンバクッシンッシーンッッ!!」

 

「でったぁぁぁぁぁ! サクラバクシンオー驚異の末脚! 前に出ようとしたライスシャワーをかわし、単独トップで坂を駆け上がるーーーー!!」

 

 これがバクシンである以上、ここが坂か平地かなどということに意味はありません。

 

 ただ、今よりもっと多くの距離を走って、あらゆる場所でバクシンは委員長であることを証明するのみです!

 

「ライスは、負けない!!」

 

「いいえ、勝つのは委員長たるこの、私です!!!」

 

 全速全開! 私と彼のバクシンロードはまだまだ、続きます!!

 

 そうです。思いなら、私にだってあるのです。

 

「あの人の隣に立つのは、それをなすのは、この私をおいてほかにないの、ですからっ!!」

 

 迷いなく、ゴール板の前を駆け抜ける。

 

 

 そう、勝ったのは――当然に!

 

 

「……勝ったのはサクラバクシンオー! やはり誰にも前を走らせない! 絶対王者の貫禄をここでも示したサクラバクシンオーが、解散記念レースを制しましたぁぁぁ!!」

 

 

 模範的で完ぺきな委員長たるこの私、サクラバクシンオーです!

 

 

 

「……勝ちましたよ、トレーナーさん!!」

 

 当然、見ていてくれましたね。トレーナーさん!

 

 ここから先もずっと一緒に、私たちの可能性を広げていきましょう!!

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 夏。日本ではないどこか。

 

「さぁ、来ましたよ! トレーナーさん!!」

 

「ああ、ついにきたな!」

 

 俺とサクラバクシンオーは、例の解散記念レースのあと、さっそく世界に羽ばたき各地のレースで数多のウマ娘たちと競い始めた。

 

 そこには当然勝ったり負けたりのドラマがあり、短い距離から長い距離、曲がりくねったコースから真っ直ぐなコースまで、数えきれないほどのレースがあった。

 

 

 

「あらゆる距離で委員長たる規範を示す、その最終局面とも言えるレースです!」

 

「間違いなく。ここが世界、最長だ!」

 

 俺たちが立っているこの場所は、一面の緑広がるモンゴルの大平原。

 

 ここで行われるレースこそ“世界で最も長い距離を複数のウマ娘が走るレース”と名高い、モンゴルダービー。

 

「その長さにして1000km、650マイルの大レース」

 

「それを私が、駆け抜けます!」

 

 本来ならば大人数のウマ娘がチームを組んで、40キロごとに走者を変えて走るリレー形式のレースだが、ここにいる俺のチームは俺とバクシンオーの二人だけ。

 

「休憩は入れる。だがほぼ5~6日ぶっ通しで走ることになるが、いけるか?」

 

「ふっふっふ、問題ありません! それを想定してのトレーニングも続けて来たじゃありませんか!」

 

 その話を仲間たちにした時、さすがにバカじゃないのと呆れられもした。

 

 だが、誰一人としてそれが出来ないなんて言わなかった。

 

「みなさんもタイミングが合えば応援に来て下さるということです。ここはぜひとも、私が世界最高の委員長であるというところをお見せせねばなりませんね!」

 

「大丈夫、お前ならやれるさ」

 

 俺も、彼女も、完走出来ておめでとう! で、終わるつもりはない。

 

 目指すのは優勝。たった一人でレースを駆け抜け、すべてを越えて勝利する。

 

 それを目指して今日まで調整に調整を重ねてきた。

 

 

 

「いつも通りと言えばそうなのですが、これがまったく、負ける気がしていません」

 

 ちょわっ、とポーズを取りながらコースを睨む彼女からは、満ち満ちた気力が見える。

 

 そんな背中を頼もしく思っていたら、振り返ったバクシンオーから珍しい言葉を聞いた。

 

「……それもこれも、あなたがいつもそばにいてくれるからだと、私は思います」

 

「バクシンオー?」

 

「改めてここで伝えさせてください。いつも私と一緒にいてくれて、ありがとうございます」

 

「よせよせ。照れるから」

 

 本当に照れ臭くって鼻を掻いた俺に、海外でも咲き乱れるバクシンの桜が言う。

 

「あなたがそばにいる限り、私は常に勝ち続けます! 模範的な委員長として、世界に誇る委員長として、あなたの愛を一身に受けるウマ娘として!」

 

 遠くで、レースの始まりが近いことを示す楽器の音がする。

 

「ウマ娘の可能性はどこまでも広がっているのだと、証明しに参りましょう!」

 

「……ああ。誰でもないお前が、それを証明してくれ。サクラバクシンオー!」

 

「はい!」

 

 俺の言葉に、バクシンオーがニッコリと歯を見せて笑う。

 

 無邪気な王者は今日も全力全開。新たなバクシンロードを突き進もうとしている。

 

 

 

 

 

「あ、そうですそうです。トレーナーさん」

 

「なんだ?」

 

 

 

 

 

 

「………………愛してます。きっと、誰よりも強く」

 

「!?!?」

 

 

 

 

 

 

 不意打ち。

 

 少し照れながら手を振り、スタートラインへと向かうバクシンオーを見送る。

 

「……かなわないなぁ」

 

 きっとこれからも、どこまでも彼女の行く道に付き添うことになるだろう。

 

 俺はそれを、誇らしいと思った。

 

「さぁ、今日も明日も明後日も、どこまでもバクシンしますよ! バクシンシーン!!」

 

 スタートの合図と共に彼女が駆け出す。

 

 俺の愛バは、今日も絶好調だった。

 



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IFルート4:ライスシャワーEND

 視界が霞んで、足がもつれそうになった。

 

 自分のペースで走れなかったから、ここまで体力、もたなかったんだ。

 

「おにい……さま…………」

 

 全身全霊を振り絞っても、みんな同じで横並び。

 このまま坂に入ったら、ふんばれる人が前に行く。

 

(ライスは……踏ん張る足なんて……もう…………)

 

 坂を上りきれるかどうかも、分からない。

 途中で転んで、無様に坂を滑り落ちてしまうかもしれない。

 

 ううん、きっとそうに違いない。

 

「頑張れーー!! ライスーーーー!」

 

 お兄さまの声援が聞こえた気がしたけど、これもきっと、ライスの勝手な妄想。

 一番弱って見えるライスを、優しいお兄さまが応援してくれる。そんな甘えた願い。

 

 

 

「さぁ各ウマ娘同時に坂路に入った……っと、どうしたことだライスシャワー! ペースダウン!! マヤノトップガンの対先行策にスタミナを使い切ったかー!?」

 

 踏ん張れない。足が持ち上がらない。

 

 坂は得意なはずなのに、誰よりも遅いペースでしか上がれない。

 

「おにい、さま……おに……さま…………」

 

 涙がぽろぽろ溢れてきて、どうしようもなくて。

 

 勝てないって思って、ごめんなさいって思って、何もかもが暗くなりそうな、そんな時。

 

 

 

「走りなさい! ライスシャワー!!」

 

「!?」

 

 

 

 すごく大きな声で、私を叱る声がした。

 その声を出した人はとっても怒ってて、でもそれ以上に悲しそうだった。

 

 顔を上げたら、私の前を走る4人がいて。

 

 声を出した人は、私から一番遠いところで一番前を走ってた。

 

「キング……さん?」

 

 呼んでも返事は返ってこない。振り返るようなこともしない。

 

 当然だ。今はそもそもレース中だし、私の声はとっても小さい。

 

(でも、走れって……どういうこと?)

 

 どうしてキングさんがそんなことを言うんだろう。

 

 ライバルが減って、キングさんが有利になるのに、どうして……?

 

 

 

「……あ」

 

 そんなの、当たり前だった。

 

 私たちの誰一人として、それは絶対にやっちゃいけないことだった。

 

(誰か一人でも勝つことを諦めたら、それは、私たちを否定することになる……!)

 

 みんなが出来ないって言うことを、出来るにしてきたのが、チームアラウンド。

 それを叶えてくれたのが、お兄さま。

 

 そんなお兄さまの最後のレースで、誰かが勝負を諦めたりなんかしたら。

 

 勝てっこないって、不可能だって、言ったりなんかしたら。

 

 

(そんなの、絶対、許せない!!)

 

 

 ブレブレだった視界がハッキリとしてくる。

 振り絞りきって何もなくなっていたはずの体に、もう一度走れるだけの力が湧いてくる。

 

「勝ち負けじゃない……お兄さまのために」

 

 坂を踏む足が、とてもよく馴染む。

 ここは私の得意なところだって、ダメダメだったライスを奮い立たせてくれる。

 

「ライスは……負けない!!」

 

 もう一度、私の心に蒼い炎を灯せ!!

 

 

 

「ライスシャワー! 息を吹き返したーーーー!! 伸びる! 伸びる! 減速必至の上り坂でぐんぐん加速していくーーーー!! 漆黒のステイヤー! 長距離と坂はやはり彼女のモノかー!!」

 

 みんなの背中が近づく。

 みんな必死になってるって分かる。

 

 でも、みんな。

 

(それでいいって、言ってくれてる!!)

 

 坂道を、駆け上がる!!

 

「はやーい! 速い、速いぞライスシャワー! 最下位から一気にトップに躍り出て坂道を走破だ! 大外キングヘイローも脚色は衰えない! 踏ん張りきれるかライスシャワー! 後続も誰一人として勝負を諦めてなどいないぞ!!」

 

 

 ライスは……負けない!!

 

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「キングさん……! ありがとう!」

 

「!?」

 

「ライス……勝つよ!!」

 

 競り合いながらの、最後の加速。

 追い抜き際にちらりと見えたキングさんの表情は。

 

「……もう、しょうがないわね」

 

 なんて言ってそうな、とっても優しい笑顔でした。

 

 

 

「ライスシャワー今一着でゴォォール!! 最後の最後で奇跡を起こした一番人気ライスシャワー! 漆黒の祝福は、この最後の大レースでも見事その役目を果たしましたーーーー!!」

 

 大歓声が、私を迎えてくれた。

 

 ゴール板を越えた先で、べしゃっと一度コケちゃったけど、みんなに引き上げてもらった。

 

「ラ・イ・ス! ラ・イ・ス!」

 

 祝福の雨を受けながら、観客席を見つめたら。

 

「……おめでとう、ライス」

 

 一番大好きな人の、祝福の笑顔が輝いて見えました。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 都内某所。保育園。

 

「――こうして、優しい猫さんは、みんなと一緒に幸せに暮らしましたとさ。おしまい」

 

「わぁぁぁ! よかったー!」

 

 今日はライスシャワーの作った絵本の読み聞かせ会に、俺も一緒に参加していた。

 彼女の書いた絵本は彼女自身の知名度もあり飛ぶように売れ、その小さな体に抱えていた思い、願いが込められた優しい物語の数々に、多くの人々の反響を呼んでいた。

 

「やっぱり本家本元が読むとそこに込められた気持ちもより伝わりやすくなるな」

 

 多忙な中で不定期に行われるライスの読み聞かせ会は、近所の子供たちに毎回大好評を博しており、次はいつだと子供たちにせっつかれるところまでがセットになっている。

 

「あうっ、えっと、次は……」

 

「すぐして! 来週して!」

 

「明日がいい! 明日もやってー!」

 

「えぅぅ、お、お兄さま~……!」

 

 助けを求められたので彼女の元へと行き、ひっつき虫みたいになってる子どもたちを一人ずつ丁寧にはがしていく。

 

 子どもたちの中にはどさくさ紛れにただライスにくっつきたいだけなおませなボーイズ&ガールズもいるから油断ならない。

 

「おっちゃんだけずーるーいー!」

 

「おじちゃんジャマー!」

 

「うぐっ」

 

 子ども目線で見れば仕方のない言葉にザクザクやられつつも、ライスを救い出す。

 

 ただ、俺がおじさん呼びされるのにはもうひとつ理由があり――

 

 

 

「お兄ちゃんどいて! ライスちゃんにタッチできない!!」

 

「あ、あの人は、ライスのお兄さま、だから」

 

「じゃあ、おじちゃん!」

 

「うん……それなら、いいよ」

 

 そんな、ライスからのちょっとした独占欲めいたものも要因となっている。

 

「今日もありがとうございます。この時間だけは、私たちも楽させてもらってます」

 

「いえいえ、こちらこそ活動の場をお借り出来てありがとうございます」

 

 もう何度か通ったおかげで顔見知りになった保育士さんと挨拶をかわし、今日はもう退場することにした。

 人気者のライスはまだいてくれとせがまれていたが、またねとライスがちゃんと口にしたことで、しぶしぶだが解放される。

 

「ふぅ……」

 

「お疲れ様、ライス。今日も大変だったな」

 

「んーん。ライス、今日もとっても楽しかったよ」

 

 解散記念レースに勝った翌年、ライスは絵本作家デビューを果たした。

 それから季節が巡るごとに少しずつ活動の幅を広げて、今日に至る。

 

 世間ではURAファイナルズの出走馬がもう間もなく決まるということで、どんなウマ娘たちが蹄跡を刻むのかと、俺も楽しみにしていた。

 

 

 

「……ねぇ、お兄さま」

 

「なんだ?」

 

 家への帰り道、改まって声を掛けてきたライスは、どこか不安そうにしていた。

 

「お兄さまは、ライスといて、楽しい?」

 

「何をいまさら」

 

 本当に、何をいまさら、という話題だった。

 

「だって、絵本作りなんて、お兄さまからしたらつまらないかもしれなくて……ライスは相変わらずダメダメなこともいっぱいあって、お兄さまには迷惑ばっかりかけちゃってるから」

 

「俺はとっても充実してるよ。絵本作りも面白い。出版社との交渉も楽しいしな」

 

 今の俺の役割は、フリーで活動するライスを補佐する編集者兼プロデューサー。

 

 彼女が楽しく絵本作家を続けられるよう尽力する日々は、思ったよりも忙しかった。

 

 

 

「今だって、今度はどんなお話を書いてくれるのかって、ワクワクしてるよ」

 

「本当? えへへ……だったらライス、嬉しいな」

 

 俺の言葉のひとつひとつで一喜一憂してくれるライス。

 トレーナーになった時からずっと一途にお兄さまと慕ってくれている彼女に、俺はもっと色々尽くしたいと思う。

 

 本音を言うと、もう少し進んだ関係になりたいと思っているのだが。

 

「なぁ、ライス。俺にはもっと、わがまま言っていいんだぞ?」

 

「ふぇぇ……わがままなんて、そんな」

 

「そもそも、だ。俺はライスのわがままが聞きたくて、今ここにいるようなもんだからな」

 

 みんなに祝福されるウマ娘になりたい。

 そんな夢を語った彼女に、特大の希望を叩きつけてやりたいと、そう願ったのが始まり。

 

「だから、いまさら何をわがまま言われたところで、問題はない」

 

「あぅ、そっか。そっかぁ……」

 

 改めてわがままを言えと言われて、ライスは納得はしたがどうしようかと悩んでいて。

 

 さすがにこっちも無茶振りしたかと反省していた頃に、返事があった。

 

 

 

「あのね、お兄さま。ライス、ちょっとやってみたいことがあるの」

 

「お、なんだ。どんとこいだ」

 

「えっと、えっとね。ちょっとお耳を貸してね」

 

 言われるがままに、ライスの方へと耳を寄せれば。

 

 

 次の瞬間。

 

 

 

 

 

「あのね、ライス……あなたのことが、大好きです」

 

「!?」

 

 

 

 

 

 突然の告白。

 

 そして、気のせいかもしれないが、何かが触れたような感触があって。

 

「えへへ、ライス。悪戯しちゃった……♪」

 

 ライスはすぐに俺から離れると、ぴょんぴょんと跳ねるように先に行ってしまう。

 

「おにーさまー!」

 

 そして少し離れたところで振り返り、こっちに元気よく手を振り始めた。

 

 

 

「…………」

 

 自分は誰かを不幸にしてばかりの、ダメダメなウマ娘だと言っていた少女。

 今や誰もが祝福のウマ娘だと呼んではばからない、そんな素敵なウマ娘に成長した彼女は。

 

「おにーさまー!」

 

 今日も、ありがたいことに俺の一番近いところで、笑ってくれている。

 

「あっ!」

 

「ん? ああ……」

 

 何かを見つけたライスに釣られて俺も目を向ければ、そこは教会。

 キラキラと瞳を光らせる彼女の目に映っているのはきっと、人々に祝福されながらバージンロードを進む、新郎新婦の姿だ。

 

 

「おめでとうー!」

 

「おめでとうー!」

 

 

 式が終わり、車に乗って新たな門出といったところだろうか。

 盛り上げどころ、幸せに続く道を歩む二人に向かって、それは投げられる。

 

 

「お幸せにー!!」

 

 

 黒染めのライスシャワー。

 

 人々を幸せにする祝福のおまじない。

 

 

 

「……いいなぁ」

 

「…………」

 

 きっと無意識だろう、ライスはそう呟きを零すと、ちらりとこちらを見て、また照れて目を逸らす。

 

 そんな彼女に笑みを向けながら、俺はそっと、手にしたカバンに意識を向けた。

 

(……そろそろ、いいよな?)

 

 カバンの中に隠して久しい、小さな箱。

 

 それを彼女の前で開いてみせる日は、きっとそう遠くない。

 



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IFルート5:キングヘイローEND

 

 

 

 声が、聞こえた気がした。

 

 聞き間違いようがない。大好きなあの人が、自分を応援する声が聞こえた。

 

 

 

 

「……!!」

 

 瞬間、前しか見えていなかった視界が突如として開けた。

 中山の最終直線。ゴール前の最終難関、心を挫く心臓破りの坂。

 

 そこに挑む横並びのライバルたち。

 全員気持ちが急いているのか、前を見て、顔を上げて、ゴールを睨んでいる。

 

(……違う)

 

 ここで勝ちたいならば、やるべきことはそうじゃない。

 広がった視界とひどく冷静な思考が、私が取るべき最適解を叩き出す。

 

 

 

 姿勢を低くし、坂に足先を穿つように踏み込んで、蹴り上げる力を込める。

 坂を登るのではなく、跳び上がっていく。

 

 理想的な戦略、理想的なフォーム、ここまでのレース運びが完璧だったが故に出来る、すべてを振り絞った後の、限界を超えたもう一歩。

 

 それは私の、キングヘイローの最も得意とする距離から始まる真の末脚。

 最終1ハロン。200mの絶対速度。

 

 

 Pride of KING.

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「!?」

 

 誰よりも早く坂を駆け上がる。

 大外、観客席に最も近いところで、誰が最強なのかを見せつける。

 

 

 

「キングだ! キングヘイローだ! 我らが王が抜きんでた!!!」

 

 実況の叫び声が聞こえる。

 自然と私の口元に笑みが浮かぶ。

 

(そう、そうよ! 伝えなさい! 世界に向けて、あの人に向けて伝えなさい! このレースを制するのが誰なのか、あなたの一番が誰なのか、高らかに謳い上げなさい!)

 

「うーらーらーーーーー!!」

 

「!?」

 

 その背に、追いすがる声がした。

 

 

 

「まだだ! キングの後ろにハルウララ! その差は一バ身もないぞ!!」

 

 満開の桜は、未だに散っていなかった。

 

 心臓破りの坂をパワーと根性で踏み越えて、最新の有マの覇者が食らいつく。

 

「わたしが、勝つんだ!!」

 

「……!」

 

 勝利への渇望。

 

 誰よりも近くで彼女のことを見ていた私だからこそ、その言葉の持つ意味を理解する。

 

(ウララさん。走ることをただ楽しんでいたあなたも、変わったものですわね)

 

 同室で、同チームで、同じ人を好きになった子。

 世話を焼かされてばかりで、ちょっと妹みたいだとも思っていた子。

 

 そんなウマ娘を、何の疑いもなく好敵手と呼べる日が来るなんて思ってもいなかった。

 

「勝つのはキングか! ウララか! キングヘイローか! ハルウララか!!」

 

 坂が終わる。

 

 もうゴールは目と鼻の先。

 

「うーーーーーららーーーーーーー!!!」

 

 最後の最後のひと搾り。

 

 全部を出し切った者が見せる、命を削り取って踏み出すもう一歩。

 

 

 

「……だからこそ!」

 

 踏み込む足の所作ひとつが、姿勢のひとつが、勝敗を分ける。

 

「!?」

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 最後の最後まで、頭は下げない。

 

 前を見て、勝利に向かって手を伸ばす。

 それこそが王者の、真のキングの勝ち筋だから!

 

(勝つのは私! キングヘイローなんだからっ!!)

 

 風を切り、ゴール板の前を駆け抜ける。

 

「……ッ!!」

 

 大歓声が沸き起こる。勝者は誰だとみんなが着順を確かめる。

 

 でも、私たちはもう知っている。

 

「…………」

 

 私を見る彼女は笑っていた。

 涙を堪えた笑みだった。

 

 

 

「――勝ったのは、キングヘイロー!! チームアラウンド解散記念レースを制したのは、8冠ウマ娘、キングヘイローだぁぁぁぁーーー!!」

 

 勝者(わたし)の名を、客席の誰も彼もが声を上げて叫んでいる。

 

 そんな中、一人だけ黙って私を見ている人がいるものだから、すぐに分かった。

 今のあの人には軽く手を振り返すだけで十分。あとでたっぷり褒めてもらいましょう。

 

「う……ううっ………」

 

 私の背後で、誰かが泣いている。

 だからといって振り返らない。この場からも立ち去らない。

 

 それが勝者の、レースのすべてを背負う者の責務だから。

 

「ご覧なさい! 伝説のレースを制した、最強のウマ娘はここよ!!」

 

 だから、誰よりも視線を集めることで、彼女たちの涙を隠す。

 

 ほんの少し何かが違っていれば、あそこにいたのは私だったかもしれないのだから。

 

 

「そう! 勝ったのはこの私! キングヘイローよ! さぁ! 全員その目に、最高最強の伝説を、焼き付けて帰りなさい!! おーっほっほっほ!!」

 

 

 その日、どんなG1レースにだって負けない勝負に勝った私は。

 

 誰よりも誇らしく胸を張り、喝采を浴びた。

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 俺がチームアラウンドを解散してから、2年が経った。

 

 世間では秋川理事長が開催を宣言したURAファイナルズの話題で持ち切りであり、トゥインクルシリーズ界隈はますますの盛り上がりを見せていた。

 

「キングさん! 新しいオーダー入りました!」

 

「社長! このあいだ完成した勝負服着た子、昨日のレースに出てましたよ! 映像確認しましょう!」

 

「ぎゃー! 助けて社長! 針が指に刺さりましたー!」

 

「ちょっと! みんな一度に言い出したら対応できないでしょう! オーダー取ったならお客様のお話の詳細を書類にまとめて提出、映像確認はお昼時間に食べながら見るわよ。あとあなたはすぐに医務室に行って処置してもらってきなさい!!」

 

「「「はーい!」」」

 

 対応できないと言いつつも、しっかりひとつずつに的確な指示を飛ばすキングヘイロー。

 彼女はレース人生を引退後、新しい勝負服ブランドを立ち上げファッション界に殴り込みをかけた。

 

 この界隈で既に名の知れた彼女の母親から、まずはうちの子会社として働いたらといった提案を跳ね除けての、1からのスタート。

 ノウハウの少ない状態からのスタートは決して順風満帆とはいかないものだったが、それでも2年たった今、確かな仕事ぶりが評価され、着々とその名が知られ始めている。

 

 そんな彼女を補佐する社長秘書が、今の俺の仕事だった。

 

 

 

「キング、スケジュールに変更だ。これから急ぎでインタビューを1件こなしてくれ」

 

「ちょっと、どういうこと?」

 

「今度のファッショングランプリでお前のお母さんとかち合うだろう? それを聞きつけた乙名史さんがいっちょ噛みしたいってな」

 

「んもぅ! あの人は! 昔のコネを使うことになんの躊躇もないのね!」

 

「だが、彼女の手腕は確かだ。ここらでひとつ一流なところを見せておくのも悪くない」

 

「…………」

 

「? どうした?」

 

 目を見開いて口をぽかんと開けたキングを見ていると、少ししてやれやれと首を左右に振り、彼女は小さく鼻を鳴らして笑う。

 

「あなたも冗談抜きで躊躇なく一流という言葉を使うようになったわね、って思ったのよ」

 

「そんなのスカウトの時からそうだったろ?」

 

「いいえ、あの時あなたが使っていた一流という言葉は、ただ過去の実績からそう言っていただけだったでしょう? それでも私と共に一流を名乗ってくれる、私を一流だと認めてくれるあなたに、あの時の私は縋りついて、そして誰もが思ってもいなかった伝説を打ち立てた」

 

「そう、だな」

 

「でも、それだけじゃダメ。過去は過去、終わったことなの。本当の一流は、常に自分を高め続けて、新しい事へ挑戦し続ける存在でなくてはならない。……だからあなたが、私と同じニュアンスでその言葉を使いだしたことに、ちょっと思うところがあったのよ」

 

「……なるほどな」

 

 

 

 さすがキングだ。一流という言葉に一家言ある。

 

 と、思っていたら。近くにいたウマ娘の社員が一言。

 

「ようは大好きな彼が自分色に染まってくれて嬉しいってことですよね、社長?」

 

「なっっっっっ!?!?!?」

 

 どうやら図星だったらしい。

 キングの顔が真っ赤に染まった。

 

「あ、あなたねぇ! 私がそんな! いちゃりゅうが……!!」

 

「はいはいストップ。キング、インタビューを受けに行こう」

 

「ちょ、ちょっと! 私はあの子に教育を……!」

 

「はいはい」

 

 ムキになりかけたキングの肩を抱いて、事務所の外へと連れだす。

 一緒に廊下に出た頃には、キングはすっかり大人しくなっていた。

 

「…………」

 

 否、お嬢様はムスッとしていた。

 

 

 

「キング?」

 

「…………」

 

 呼びかけに対してキングが俺の顔を見上げると、手の甲を俺の腰に押し当て、ぐりぐりと擦りつけてくる。

 

「手」

 

 それが何を要求しているのかは、2年の付き合いで理解済みだ。

 

「はい」

 

「……ん」

 

 言われるがまま手に手を重ねて指を絡めれば、キングの尻尾が優雅に揺れる。

 

「いい? 次で一流の仕事ぶりを示して、私たちの実力をお母様に認めさせるの」

 

「ああ」

 

「そのための一流の準備も、一流の根回しも、すべてこなしてきたわ」

 

「そうだな」

 

「私たちに負けはない。あるのは絶対的な勝利のみよ」

 

「その通りだ」

 

 今からファッショングランプリ当日のことを考えているのだろう。

 重ねた彼女の手の平から、緊張しているのが感じ取れた。

 

 

 

 実際のところ、実力、実績、すべてにおいて次の舞台でデザイン部門のグランプリ候補なのは間違いない。

 レースに対して一切の妥協を許さなかったように、ファッションにおいても彼女は一流を貫いている。

 

 それに根回しに関しても……グランプリとは別件で、彼女のお母さんからとっくにお墨付きを貰っていた。

 

『あの子のこと、末永くお願いね』

 

 それの意味することが分からないわけがない。

 

 そして俺の答えも、あのレースの日から一切変化していなかった。

 

「勝つわ。勝って、ファッション界でも一流を証明して……そうしたら」

 

 キングがゆっくりと俺に身を寄せる。

 いつもの半分以下の速度で廊下を進みながら、記者の待つ応接室へと向かう。

 

「ねぇ、その時は……」

 

 応接室の前まで来て再び口を開いたキングが、俺を上目遣いに見つめてきた。

 

 潤んだ瞳、しっとりとした唇。

 

 彼女のすべてが俺を魅了する。

 

「…………」

 

 彼女が今、何を望んでいるのか。

 

 俺には手に取るように分かっていた。

 

 

「ねぇ……」

 

 

 

 催促する声に応え、ゆっくりと顔を近づけ……そして――。

 

 

 

 

 パシャッ

 

 

 

 

「「!?」」

 

 

 シャッターを切る音で、俺たちは我に返った。

 

 見れば、応接室の中ではなく、廊下の先に乙名史記者が立っていた。

 

「ちょっとお手洗いをお借りして戻ってきたんですが……これはスクープですね!」

 

 とうに俺たちの関係を知っている彼女のわざとらしい言葉に。

 

「なっ、なっ、なななな……!!」

 

 それでもキングは顔を真っ赤にすると、俺と繋いでいた手を払い、声を張る。

 

「何をやっているのよ、あなたはーーーーーー!!!」

 

「きゃー!」

 

 そして始まる追いかけっこを眺めながら、俺は場に流されかけたことを反省した。

 

 一流のウマ娘のそばにいる一流の相棒として、何度でも彼女が一流であることを証明し続ける。

 それはどんなに自分と彼女の関係性が変わったとしても、変わらない使命だった。

 

「キング! ランチ食べながらレース見るんだろ! 乙名史記者とじゃれ合ってないで仕事するぞ!」

 

「ちょっと! じゃれ合ってなんてないでしょ!」

 

「トレーナーさーん」

 

「こら! どさくさに紛れて触ろうとしない! あの人は私の物なんだから!!」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

「……あっ」

 

「……今の、記録しておきますね」

 

「~~~~~~!! インタビューはなしよ! なしにするわよ! なしにするんだからー!!」

 

 

 そんな愉快なやり取りも交わしつつ、日々は短距離スプリントの如く過ぎ去って。

 

 あくる日。ウマ娘たちの活躍を報じる記事の中に、彼女のことが記された。

 

 

 

『伝説の8冠ウマ娘、ファッショングランプリにおいても一流であることを証明する。そのウマ娘の名は、キングヘイロー』

 

 記事の執筆者である乙名史記者は、その締めくくりをこう綴る。

 

『あの人の娘と呼ばれていたお嬢様は、いつか彼女が言った通り、自らの母親をこそ、あのお嬢様の母と呼ばせようとしていた』

 

 一枚の写真と共に。

 

『そんな彼女の隣には、長年彼女を支え、これからも永遠とそれを行なうと誓った、彼女の最愛の、一流のパートナーの姿があった』

 

 




ここまで読んでくださり圧倒的感謝っ!
当初予定していた物語は「ここまで」でしたが、あと一話の追加をもって締めとさせてもらいます。アンケの結果が圧倒的なんだよなぁ……!

ってことで、最後までよろしく!

【謝辞】
感想、評価、ここすき、ありがとうございます!
おかげでなんか日刊ランク載ったとかでやべぇな…ってウマ娘パワーに戦慄しました。
重ねてもっといろんな人に読んでもらえたら嬉しいんで、さらなる応援、感想、気軽に高評価バシバシ叩きつけてもらえると幸せです。
ほめられて伸びます。縦に。


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IFルート6:みんな一緒END

 俺は、無我夢中で声を張り上げた。

 

「頑張れ、ライス! 坂はお前の一番得意なところだろ!」

 

 あまりにも情熱的なレースに、内に沸き上がった衝動が抑えきれなかった。

 

「行け、サクラバクシンオー! お前のバクシンはまだまだこんなもんじゃない!!」

 

 彼女たちの走りのすべてが、俺の心を激しく揺さぶり、魅了した。

 

「そこだ、マヤ! まだスタミナは残ってるだろ、振り絞れ!!」

 

 だから喉が張り裂けようとも、口から血が出ようとも、俺は叫ぶ。

 

「ウララ! ここはお前のパワーの見せ所だ! ぶちかませ!!」

 

 大観衆の声にも負けないように、彼女たちに絶対にこの声を届けてやると、必死に。

 

「キング! お前の距離だ! 仕掛けろーーー!!」

 

 俺は、無我夢中で声を張り上げた。

 

「みんな! 輝けぇーーーーーーー!!!!」

 

 

 

 

「「「「「!?!?!?」」」」」

 

 

 

 

 5つの奇跡を成し遂げた5人の伝説のウマ娘たち。

 

 その輝きをどこまでもどこまでも磨き上げたい。それこそが俺の望みだった。

 

 

「うん、うん! ライス行くよ……っ! お兄さまっっ!!」

 

「バクシンッ! バクシンッ! バァァァァァクシーーーンッ!!!!!」

 

「届いたよ! 見ててね!! トレーナーちゃあああああん!!!」

 

「えへへ。うんっ! うーーーーーららぁあああーーーーーーー!!!!」

 

「そう、そうよ! ここからはこの、キングの距離よ!!」

 

 

 限界を越えて、彼女たちは中山の坂を駆け上がる。

 

「譲らない譲らない! 誰一人として前を譲らない!!! 坂に入っても横一列! それぞれの持ち味を活かしきり、5人のウマ娘が爆走だーーーー!!」

 

 歓声が上がる。

 誰もが期待していた展開に、心の底から声を張り上げ彼女たちの背に夢を乗せる。

 

 この場に立っていた観衆のすべてが望んでいた。

 ああ、願わくばこのレースが、どこまでも終わらずに続きますように、と。

 

 コースを走っていたウマ娘たち全員が思っていた。

 こんな最高のレースだからこそ、自分が一着になりたい、と。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 それは誰の叫びだったか。

 誰かが望み、誰かが応えた声がする。

 

「5人全員が坂を上りきり、最後のわずかな直線を行く!! 勝つのは一体どのウマ娘か! あの栄光のゴール板の前を駆け抜け、最強の伝説となるのは一体、誰なのか!!!」

 

 

 そして。

 

 

「ゴォォーーーーーーーーーール! ゴールゴールゴールゴールゴールだぁぁぁぁ!!」

 

 アナウンサーが吼える。

 あらん限りのマイク音声が中山競バ場に響いたが、ゴールの瞬間に誰が勝ったのか、その口からは語られなかった。

 

「わかりません! わかりません! 私にはわからない! 勝ったウマ娘がわからない!!」

 

 それはこの場にいた全員が同じ意見だった。

 

「おい、誰が勝ったんだ? バクシンオーか?」

 

「いや、ウララちゃんじゃないか?」

 

「キングだって、絶対!」

 

「ライスちゃんよ! 最後の勢い見てなかったの!?」

 

「マヤノちゃんしか勝たん」

 

 各々が推しウマ娘の勝利を信じていたが、それでもみんなの視線は掲示板を見つめる。

 

 

 

(誰だ。誰が勝ったんだ?)

 

 俺の目にも、誰が勝ったのかわからないほどの接戦だった。

 

 人の目に見定められないほどのわずかな差異なら、より正確な機械に頼るほかない。

 

「「「「「「…………」」」」」

 

 ウマ娘たちも寄り添い合いながら、何も語らず、答えが出るのを待っている。

 

「判定……出ました! 掲示板に映します!!」

 

 それら機械を操るスタッフたちが、大急ぎで動いた、その結果。

 

「……これが、答えか」

 

 俺の視線の先、電光掲示板に掲げられたレースの結末は――。

 

 

 

 

 

 

「…………同着! 同着です! 一位同着! 5人のウマ娘! 寸分たがわず同時にゴール板の前を通過していました!! 5人全員が一着です! 奇跡が、6度目の奇跡が起きましたーーーーー!!!」

 

 

 URAの歴史に、またひとつ、チームアラウンドが伝説を刻んだ。

 

 

「……ああ、もう!」

 

 俺はいてもたってもいられなくなり、コースの中へと、彼女たちの聖域へと飛び込む。

 

「「「「「トレーナー!?」」」」」

 

「お前たち、最高だ!! みんな俺の、最高の愛バだよ!!!」

 

 あらん限りの力をふるって、5人のウマ娘を全員まとめて抱きしめる。

 俺の心は、決まった。

 

 誰に何を言われようとも、俺は俺の願いを、貫き通す。

 

「ライスシャワー、サクラバクシンオー、マヤノトップガン、ハルウララ、キングヘイロー」

 

 

「あわわわ、え、な、なに? お兄さま?」

 

「ちょわわっ、なんですか? トレーナーさん!?」

 

「えへへぇ、なぁに? トレーナーちゃん」

 

「わぷぷっ、どうしたの、トレーナー?」

 

「ちょ、こら、こんな……なによ、トレーナー?」

 

 

「お前たちの新しい夢は、俺が絶対に叶える。だから――」

 

 5人をそれぞれに見つめて、俺は彼女たちにだけ聞こえる声で乞い願う。

 

「俺の新しい夢に、全員付き合ってくれ」

 

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 あの日、チームアラウンド6回目の奇跡の日から、1年後。

 

 俺は、今もなお、彼女たち5人のウマ娘と共にいた。

 

「トレーナーちゃん、見てみて! マヤちん可愛いでしょ?」

 

「お、よく似合ってるぞ。着こなし方もバッチリだな」

 

「へっへーん。ま、キングちゃんも頑張ってくれたもんね」

 

 真新しい衣装を身に纏うマヤノトップガンが、俺にピッタリくっつきながら、同じ衣装を身に纏ったキングヘイローの方を見る。

 

「当然でしょ? このデザインの才能も一流なキングがデザインした新たな衣装なのよ?」

 

「うんうん! キングちゃんのおかげでわたしもマヤちゃんみたいにもーっとキラキラできてるよ! ありがとう!」

 

「なぅっ。あ、あなたはもうちょっとキラキラを抑えてもいいんだからね、ウララさん?」

 

「へへぇ、キングさん。照れてる……♪」

 

「分かります、分かりますとも! みなが同じ衣装を纏い共に立つ。制服とはかくあるべきです!」

 

「ちょっと、ライスさんにバクシンオーさんまで……って、これは制服じゃないわよ!」

 

 バクシンオーの言葉に、キングが訂正を入れる。

 

「これは――アイドルのライブ衣装なんだから!!」

 

 そう。

 

 あれから俺は、アイドル事務所を立ち上げて彼女たちのプロデュース業を始めたのだ。

 

 

 

「今日もみんなで、頑張ろうね?」

 

「もちろんですとも! 今日のライブを終えれば次はいよいよ全国ツアーですから!」

 

「高知にも行くんだよね? えへへっ、楽しみ~♪」

 

 レースで奇跡を起こしたチームアラウンドが次の舞台に選んだのは、ステージの上。

 ウマ娘たちのもうひとつの輝きの場だった、ウィニングライブを究める道だった。

 

 あの最高のレースを俺の愛バたちが駆け抜けた日の夜。

 俺はチームルームで彼女たちをこれでもかと口説きに口説き、引きずり込んだ。

 

 

 ライブの衣装はキングヘイローのデザインを全面的に取り入れること。

 

 ライブ中に物語的シチュエーションも採用し、それにはライスシャワーの力を借りること。

 

 全国でライブツアーをしたあとに、サクラバクシンオー主導で世界進出すること。

 

 ハルウララにはトゥインクルシリーズにもう少し在籍してもらい、宣伝も兼ねてまだまだ砂と芝の女王としてその猛威を振るってもらうことにして。

 

 いかにアイドルがキラキラしているのかをマヤノトップガンに語りつくした。

 

 

 その上で、本来の彼女たちの望みにも可能な限り沿ってみせると誓った俺に。

 

 5人のウマ娘たちは最終的に「仕方がない」と受け入れてくれた。

 

 

 

「グググイ……レースで結果を出せませんでしたからねぇ」

 

「マヤちんだけを応援してくれてたら、きっと勝ってたのに」

 

「今は、その意見で納得しておくわ」

 

「ライスは、みんなと一緒にいられるのも、嬉しい、よ?」

 

「わたしも嬉しいよ! だから、みんなの分もめいいっぱい走ってくるね!」

 

 みんなもそれぞれに思うところはあるようだが今はまた、同じ道を歩むことを楽しんでくれている。

 

 

 

「そろそろ出番でーす。待機お願いしまーす!」

 

「ハーイ! スタッフさん。マヤちんのこと、ちゃーんと見ててねっ?」

 

「は、はひぃっ!!」

 

「ちょっと! マヤノさん?!」

 

 そして今日も、数多の奇跡を起こしたウマ娘たちは、新たな伝説を刻みに行く。

 

 

「さぁ次はみなさんお待ちかね! 伝説のウマ娘たちの登場です! 新たな伝説が刻まれる瞬間を、私もみなさんと一緒に目の当たりにしましょう!」

 

 前振りが入り、全員がステージに跳び上がるギミックへと乗り込んだところで俺を見る。

 

「……行ってこい! みんな!!」

 

 そう言って力強く頷いてみせれば、彼女たちもまた頷きを返して。

 

 それだけで、俺は今日のライブも成功すると確信する。

 

 

 

 ファンファーレが鳴る。

 手拍子が、足踏みが、ステージに上がる彼女たちを出迎える。

 

「さぁ、今回は新曲を引っ提げての登場です! ウマ娘たちの新たな夢の舞台、URAファイナルズの出場者だけがウィニングライブで歌うことを許される課題曲の先行お披露目! この勢いと情熱に、あなたはついていくことが出来るのか?!」

 

 これは、今も友好関係を築けているトレセン学園、秋川理事長たちとの絆の歌。

 

「それではお聞きください! チームアラウンドで、うまぴょい伝説!」

 

 それを次代を担う新たな伝説たちへ向けて、5人の奇跡のウマ娘が謳い上げる。

 

「位置についてー? よーい……」

 

「「「「「ドン!」」」」」

 

 

 

 ……その日のライブを映した公式動画は、うまチューブを通して全世界に配信された。

 

 レースを駆け抜けたい。ウィニングライブで踊りたい。

 

 そんな新たな時代のウマ娘たちに、彼女たちを支えるトレーナーたちに、想いは放たれた。

 

 

 

「さぁ、トレーナーさん。彼女があなたが担当するウマ娘です」

 

「……いーい? アタシを支えるって言った言葉、忘れてないんだからね? 頼んだわよ、私の“一番”のトレーナー♪」

 

 

 チームアラウンドが残した伝説は、また新たな伝説を呼び覚ましていく――。

 

 

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 

 

「へっへーん! 今日もマヤちんがいっちばんキラキラしてたでしょー?」

 

「いいえ、全国区の学級委員長たるこの私こそが、今日のライブの覇者でした!」

 

「ライスも、ライスもいっぱい頑張ったよ……!」

 

「あら、すべてはこのキングのデザインした衣装があったからこそだって、忘れてないかしら?」

 

「今日もとーっても楽しかったよね、トレーナー!」

 

 ライブ後、拠点にしているマンションの一室で、俺たちはライブ成功を祝した打ち上げパーティーをしていた。

 

「みんな、今日も輝いてたぞ。次のライブではもっと輝けるように、また磨きに磨いてやるからな」

 

 彼女たちのことをねぎらい、褒めながら、さらなる上を目指して俺はトレーニングのプランを練り上げていく。

 

 そんな俺の背後で、こそこそと5人の伝説がひそひそ話をしていた。

 

 

 

「ねぇーえー? 今日も決着つかなかったんだけど!?」

 

「おかしいですねぇ、私にメロメロになっているはずだったのですが」

 

「ここまで来ると、あの人の視線を一人だけに集めるのはかなり困難かもしれないわね」

 

「うん……お兄さま、みんなのことが大好きだから……」

 

「わたしは、このままずーっとみんな一緒もいいなって思うよ?」

 

 何を話しているのかはわからないが、5人が仲良しなのはとてもいいことだと思う。

 

「みんな一緒…やはりここはもう、その路線しかないのかもしれませんね」

 

「誰か一人じゃなく、みんなであの人のちょうあ…ちょ……こほんっ」

 

「……えへへ」

 

「えー! やだやだ! マヤちんを選んでくれなきゃやだー!」

 

「えー? そうは言ってるけど、マヤちゃんが“今の”トレーナーのこと大好きだーって、わたし、知ってるよ?」

 

「ふぐぅっ! ウララちゃんに言われると何も言い返せない」

 

「やはり……どこか海外に本拠を移籍し、本格的な計画をですね」

 

「あ、海外なら、ライスね、行きたいところが……」

 

「そんなお気軽に本籍変えてどうするつもりなのよ!?」

 

「だってだってキングちゃん。トレーナーとみんなと、ずっと一緒にいられるんだよ? キングちゃんもその方がいいでしょ? ね?」

 

「はぐぅっ! ウララさん、最近なんでもパワーでゴリ押しすればいいと思ってません?」

 

 色々と聞こえてきているし、多分聞かせようとしているんだろうと思うが、今は聞こえないふりをしておく。

 

 というか、そもそもの話として。

 

 いざとなったら、俺は全員を養う気でいるのだ。

 そのための蓄えも稼ぎのアテも、十分以上に準備している。

 

 海外に拠点を移すのだって、彼女たちが一番に幸せになれるなら迷いなんてない。

 彼女たちが望む形に合わせながら、その上で俺は、彼女たちを俺の望む道に連れていく。

 

 

 

(……悪いがもう5人とも、手放すつもりも、逃がすつもりもないぞ)

 

 あの日。あの最高のレースに魅せられた俺は、どこまでも強欲になった。

 

 彼女たちと共に歩み、新たな伝説を作り続ける。奇跡を起こし続ける。

 俺の残りの人生すべてを賭けて、それを成し遂げる。

 

 

 俺は、俺の愛バたちと、この先もずっと一緒に生きると決めた。

 

 

 これが俺の答え。どれだけ常識外れだろうと、俺の選んだ道だ。

 だが、この道を進むことに何の憂いもない。

 

 なぜならば――。

 

 

 

「チームアラウンドはこれまで何度となく、不可能と言われたことを可能にしてきたからだ……なんてな」

 

「なぁに、どうしたの。トレーナー?」

 

「どうせまた、よからぬことをでも考えているのでしょう?」

 

「いよいよ世界へ羽ばたく算段が出来ましたか!? トレーナーさん!」

 

「ライス、お兄さまと一緒ならどこにでも行くよ……!」

 

「お出かけ上等だよ! どんな場所でも、どんな時でも、マヤちんが何度だってトレーナーちゃんをメロメロにするんだから!」

 

「おーおー、頼もしいな。俺の大好きな愛バたちは」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 素直な言葉に顔を真っ赤にする愛しいウマ娘たち。

 

 彼女たちと一緒なら、俺はどこまでだって行けると確信していた。

 




ここまで読んでくださり圧倒的感謝!!
これにて本物語は完結となります。

(G1)グレードについてはそりゃもう沢山の先駆者様がいらっしゃるのでそちらにお任せして、自分の好きを詰め込んで今回のお話を書かせてもらいました。
一人の男を複数のウマ娘が己のすべてを賭して奪い合う、まさしく卑しか女杯。
勝手知らずで色々手探りしつつ編み上げましたが、楽しんでもらえたなら幸いです。


【謝辞】
感想、評価、ここすき、ありがとうございます!
なにやらちょっとだけ週間ランキングにものっていたとかで、やはりマジかよ……と戦慄しました。
この物語の更新は終わりますが、これからもいろんな人に読んでもらえたら嬉しいんで、さらなる応援、感想、気軽に高評価など叩きつけてもらえると幸せです。
私は誰々ルートの世界線の住人、とか。この話のここが好きとか言及して貰ったら大喜びします。


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