わたしの命は想像、演じるのは姉さま (ひゃ)
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ほんもかぞくもだいすきでした

続けられるかは未定。書いていいのかも正直分からん。

一話から変に暗くなってしまった。けど基本的にコメディの予定。


 夜凪(めい)は幸福者だ。家族が好きで、本が好き。

 

 

 

 わたしが小さなころ、「だいすきなかぞく」は3人いた。ままとぱぱとおねえちゃん。でも、わたしにとっては沢山ある書籍や映画も家族みたいに大好きだった。

 

「いきてきたなかで、いちばんだいすきなじかんは、ねるまえのえほんのよみきかせ!!」

 

 いつもままが読んでくれた。ままはとても優しい。優しくてにこにこでカレーもおいしい。でも、「毎日カレーが食べたい!」っていってもダメって言うのだ。「今日は野菜炒めよ」って言ってカレーじゃないゴハンを作ってしまう。

 ままは優しいのに優しくなくて、ピーマンも食べなさいって言う。

 

 おねえちゃんはわたしの1つ上。でもわたしは背の低い女の子で、おねえちゃんは背の高い女の子だから「とってもおねえちゃん」なのだ。

 ままみたいに「ダメよ」っていっぱい言う。走っちゃだめ、手をつながなきゃだめ、もう寝ないとだめ、そんな風にままの真似みたいに。

 ごっこ遊びが大得意で、お母さん役もお姉さん役もとっても上手。お人形さんを持って劇をしても上手。おねえちゃんと一緒に遊ぶのはとても楽しい。

 

 ぱぱはあんまり遊んでくれなかった。ゴハンも作らない。でもままはぱぱがすきみたい。おねえちゃんも、あの頃は好きだったんだと思う。わたしも好きだったけど、その分嫌いだった。

 好きな人が遊んでくれないってことは、ちょっと嫌いになっちゃう。

 

 遊んでくれないぱぱが遊んでくれるようになったのは、「ある日突然」という感じだった。わたしがまだ小学校にも入らないような小さな頃、絵本を読み聞かせて貰っていた時に。

 読み聞かせが大好きだった。世界で一番楽しい事だと思っていた。いつもままが読んでくれる、たまにぱぱが読んでくれる。

 それなのにぱぱはズルをしたのだ。えほんのなかのあの子たちがけんかするのは、もっと長いはなしなのにひとことですませちゃった!!

 

 ……当時の私は字が読めなかった。平仮名も駄目。幼女だったからしかたない、けど、何十回も何十回も読んで貰っていた絵本の内容ははっきりと覚えていた。

 

「あ、解んのか?字が読めるなら自分で読めよ。読み聞かせは子供が思うよりも面倒なことなんだ。」

「よめないもん!よんで!」

 

 いくらか押し問答を繰り返すうち、ぱぱはちいさなわたしが家にある全ての絵本を一言一句余さず諳んじていることに気が付いた。

 

「なあ、パパに絵本を聞かせてくれよ。いいだろ?今までのお返しに。だが、絵本を見ないで(・・・・・・・)読み聞かせてくれ。」

「いいよ!なにがいい?」

 

 愚かにも、というべきか、わたし(幼女)は言われるがままに何冊も何十冊も諳んじて見せた。だが、世間を見渡すと意外と「絵本を暗記してしまう幼児」というのはたくさんいるものだ。

 だから何も特別ではない。はずだった。

 

 急激に娘に興味が湧いたらしい彼は、次の要求を出した。

 

「自分で話を考えろ。いいだろ?」

「いいよ!!!」

 

 未就学幼女、全力の全肯定である。言い訳をさせて貰えば、当時のわたしは嬉しかったのだ。いっぱいかまってもらえて。いっぱいあそんでもらえて。

 

 いっぱいいっぱい考えた。

 

「いじわるなピエロがいじわるにしっぱいしたらとってもおかしくて(滑稽で)人気者になる話」

「シンデレラが魔女にいたずらをしてツイホウ(追放)されてしまってうつくしい旅人になる話」

「女の子がおじいちゃんのふりをして神様と口ゲンカをする話」

 

 頑張れば頑張るほど、褒めて貰えた。遊んでもらえた。愛して貰えた。

 ティッシュで蜂のおもちゃを作って人形劇をしようとしたときもあった。もっと褒めて欲しかったから。「ナマハチ」って名前を付けると、ぱぱはびっくりするくらい大笑いしていた。

 

 わたしは「怠け者の蜂」のつもりだったのに、ティッシュなのに「生の蜂」なのは洒落が利いてる、らしい。

 

 

 わたしはどんどん成長した。幸いなことに、私は生まれながらの本狂いだった。おかしな英才教育は苦ではなかった、それどころか、とても楽しかった。

 

 おねえちゃんと一度だけケンカをした。ぱぱがおねえちゃんと遊ばないのが悪いのだ。

 

 それでもわたしは成長した。小学校に入り、文字が読めるようになり、『溺愛』にはますます拍車がかかった。わたしは海外のファンタジー長編に傾倒した。わたしの作品は紙に書くようになり、どんどん長いものを書くようになった。

 わたしは『父親(小説家)』の書いた作品を読んだ。

 

 そこにはわたしのお話が混ざっていた。

 

 

 盗作ではない。プロと小学生では筆力が違う。リアリティも悲哀も、迫力も、美しさも、複雑さも、とてもわたしでは書けない、あの人の小説だった。

 ただ、その内容の元ネタがわたしの子供じみた作品だった、というだけの話だ。

 

 裏切られたとは思わなかった。嘘つきだとも思わなかった。ただ、私が勘違いをしていただけだと気が付いた。

 

 ただ、「愛されてないんだな」と思った。

 

 

 その日、家に帰ったらお母さんとお姉ちゃんとお父さんがいた。「今日は何にもできませんの日です」と断ってお夕飯も食べないで眠った。お母さんとお姉ちゃんは心配したけど、お父さんはどうでもよさそうだった。

 

「どうしたの?具合悪い?」

「具合は悪いけど大丈夫だよ。ドグラマグラを読んだだけ。」

 

 そんな嘘をついた。あの人は納得したような、嬉しそうな顔をしていた。

 

 

 

 夜凪(めい)はそれでもしあわせ。家族が好きで、本が好き。

 

 家族が増えた。双子のレイとルイが産まれたので。わたしとお姉ちゃんは年子だけど、ずいぶん年の離れた弟妹ができたものだ。とてもとても可愛くて、双子を抱いたお母さんとお姉ちゃんは世界で一番幸福で美しい人たちに見えた。

 

 あの人はどうだったかな。それに、……わたしはどうなんだろう。ひとでなしのように見えていたかもしれない。

 

 お母さんとお姉ちゃんはとても優しくて美しい。それによく似てる。わたしはきっと父親に似ている。それがとても恐ろしい。

 

 お母さんが病気で死んでしまった。お姉ちゃんはずっとお母さんのそばにいて励ましていた。わたしはレイとルイの面倒を見ながら、お母さんとお姉ちゃんの着替えを持って来たり、料理をしたり、看病をしたり、お姉ちゃんを寝かしつけたりしていた。

 

「お父さんがきっとすぐに来るから、きっとちゃんとくるから!だいじょうぶ、大丈夫だから」

 

 お姉ちゃんがそう言っていたとき、来ないよ、と、わたしはそう思った。でも、わたしもわかっていなかった。

 

「景、命、ごめんね。お父さんを許してあげてね。」

 

 お母さんはわかってた。わたしよりもわかっていたんだ。あの人は来なかった。お葬式には来たけど……、あの時のことは思い出したくない。

 

 

 あの後、お姉ちゃんがレイとルイとわたしを抱きしめてくれた。カレーを作ってくれた。焦げててみんなで笑っちゃったけど、家族が大好きだと思えた。寂しくなってしまったけど、わたしはまだ幸福だと思える。

 

 

 

 家族が好きで、本が好き。愛している。

 弟妹は可愛い。お母さんは偉大だった。姉さまは偉大。わたし自身のことは……、ちょっと嫌いだけど。

 あの人のことは今でも好き。姉さまには言えないけど。愛されていなくても、与えられたものは消えなかった。わたしは本当に生まれながらの本狂いだった。読むことも創作も、やめられなかった。

 それに「あの人の事をわかっていて、それでも愛する」というのはわたしがお母さんに似ている証明みたいだから。

 

 

 

 姉さまはあの人が大嫌い。振り込まれるお金にも手を付けない。一生懸命アルバイトして、家族みんなを支えてくれてる。

 あの人はたまにわたしに会いにくる。でも近づけたくないみたい。いつでも守ってくれる。姉さまは、あの人に似ているわたしをレイやルイと同じように可愛がって愛してくれる。

 

 小説から離れることが出来なかった。家族から離れることも出来なかった。

 

 

 

 そしてわたしはまた成長して、小説でお金を稼げるようになった。オリジナルの同人作家だけど。収入がすこしある。運が良い事に。

 

 

 そしてもっと幸運なことに、姉さまが役者さんとしてデビューしましたっ。すごい。姉さまに才能と技術があるのはわかっていた。あの人はわかっていなかったと思うけど、いやでも気が付いていたかもな。

 才能があって綺麗な姉さまでも、成功できるかどうかには運も関係している。姉さまの凄さを世間が理解したのは素晴らしい事だ。

 

 姉さまは華々しく出世して、これから自分のやりたいことが出来るようになる。レイとルイにも余裕ができるし、ちょっとした贅沢も出来るようになる。

 

 

 しかし何よりも、大好きな家族が夢を一つ叶えたことを祝福しなくては!今日はわたしが料理します!姉さまの好きな物なんでも作るよ!

 

 

「ねえ命、命も欲しいものとかないかしら?いつもとってもいい子だし、私たち女子高生だもの。かわいい服とか買ってみようかしら?」

「姉さまとおそろいならば嬉しいけど、わたしは着飾るのには興味関心が向きません。わたしが求めるのは姉さまとレイとルイの笑顔と、美味しい食事を作ったり食べたりすることと、本を読んだり書いたりすることです。」

「そう……。でも、たまにはわがままを言ってね。……ごめんね。あの人が近づいてこなければ、もっと外出できるのに。」

 

 そう、あの人はかなり熱心にわたしに会いに来るのである。姉さまが守ってくれているが、おちおち散歩も出来ないくらいに。

 というか外に出してもらえない。姉さまに。

 

命姉(めいねえ)ー。命姉もおとうさんのこときらいなの?」

「もうルイ!その話だめ!」

「いいんだよレイ。でもね、大切なのは好きか嫌いかじゃなくて、似るか似ないかなんだよ。」

「きらいじゃないの?」

「命お姉ちゃん、おとうさんに似てるの?」

 

「似てるかもしれない。だけどそれは嫌なの。お姉ちゃんとレイとルイに嫌われたくないしね。だからね、大切なのは『もっとずっといいお手本』を見つけることだったんだ。

 お母さんとか、姉さまとか、テレビに出てくるウルトラ仮面とかね。」

 

 それに、小説の主人公たちとか。彼ら彼女らは誠実で魅力的な価値観の持ち主ばかりだから。それをお手本にして人間性を磨くのだよ!

 

 

 

 

 

 これは、天才女優と鬼才監督が出会って、とんでもないことをたくさんする話、……ではない。

 

 これは、姉に似ず芝居の出来ない妹が、異才の小説家の少女が、優しさとか慈悲とか義理とか人間として大切なことを大切にしながら、芸術家として成長する話。

 愛に飢えた彼女が、世界からの賞賛を受けて、けれど絶対に実写化したくないというこだわり(固定観念)を持つが故に、彼女の作品を絶対に演じたい姉や、絶対に映画にしたい舞台にしたい業界人たちから逃げ回ることになる喜劇(コメディ)でもあります。

 

 夜凪景は可愛い妹の小説の主演を、掴むことが出来るでしょうか?

 

 

 




夜凪命(よなぎめい)

景のひとつ下の妹。かわいい。黒髪おかっぱで500円のヘアワックスでオールバックにしてる。背は小さいほう。
空想してる時は視線がなかなか合わない。社交的で人に好かれるがけっこう猫かぶり。
家族大好き。本大好き。インプットもアウトプットも大好き。褒められるの大好き。承認欲求高め。役者の才能は無い。






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想像の「天使様」が

コメディを書いてみようと思って書き始めた話だったはず……。もしかして、自分コメディ書けない人……?



 姉さまが役者として大成した時より、少し時間を遡る。第151回夜凪家家族会議での出来事。

 

 

「昨日のひげの男怪しいと思った人、挙手をしてください。」

 

 姉さまがそう言った。ルイが手をあげた。レイが両手をあげた。命も手をあげた。びしっ!

 

「レイ、二人分も上げないで不正よ。」

 

 命も両手をあげた。姉二人を見たルイが、パッと顔を輝かせて真似して両手をあげた。

 

「命、ルイ、不正よ。」

 

「必要悪です姉さま。あの男は信用なりません。」

「おねーちゃん美人だから狙われてるんだよ!監督は監督でもえっちな監督に決まってるわ、顔に描いてた!」

「車おっきくて怖かったしヒゲだし絶対悪い奴だよ。今度来たらケーサツ呼ぼう。」

 

「……やっぱりそうよね。ぬか喜びするとこだったわ。」

 

 物憂げにため息をつく姉さま。警戒心が強いのは父親の影響()である。

 

「わたしには根っからの悪人という風には思えませんでしたが、未成年女性(姉さま)の家に事前の連絡もなく訪ねてきたのが怖いです。

 住所は個人情報ですよ!礼儀知らずにもほどがあります!訴えたら勝てます!」

 

 まあしかし訴えるにも相手の素性がわからないので、とりあえず「次来たら警察を呼ぶ」という結論で夜凪四姉弟は合意に至った。

 

 しかし、長姉 景がその男に誘拐されるのはその日の内の事である。

 

 

 まあしかしその事件には次女 命は関わらないのでひとまず彼女の事を紹介しよう。

 

 夜凪命。15才。高校一年生。実の父親にして文学の師につけ狙われている。姉に「あの人(父親)と接触禁止令」が出されており、おちおち外出もできないひきこもり(不可抗力)。

 通信制の高校に籍を置いているが、本業は同人作家。絵はそこそこだが筆力は確か。特に発想力がずば抜けており、「次は何が出てくるのか金を出してでも読みたい!」という固定ファンもいる、人間びっくり箱(作家のすがた)。

 引きこもりの割に社交能力が高く、コミュ力に欠けた所のある姉の代わりにご近所づきあいを請け負う。お裾分けハンターとしても家計を支えるが、別に狩っているわけではない。老人から絶大な人気を誇る。

 知力は高いが体力は無い。中学時代は保健室登校だった。フレンドリーで勉強を解り易く教えてくれるので、当時の異名は「学力とコミュ力のある座敷童」。

 

 かつて、夜凪家にはネットが存在しなかった。そこで命は、自分でネット環境を用意することにした。

 

 ルーターが約5千円。月々の料金が3千円ちょい。夜凪家の家計から見るとかなり痛いが、自分のポケットマネーに余裕があった。

 命には、あちこちの家の暇を持て余したご老人の家でお茶やお菓子をごちそうになって帰ってくる習性があるが(異様に老人にモテる)、時々おこづかいをあげようムーブを断り切れないときがあるのだ。

 

 金銭トラブルはマズイと命も分かっているので、基本的に徹底的に断るようにしている。しかし、相手も手強いのだ。亀の甲より年の劫。具体的には「お年玉」のタイミングで徹底的に攻めてくる。

 姉さまと双子たちの分まで用意して貰っては、命の一存で断ることなど出来ようもない。普段節制に努めている分、マイファミリーは善意の施しに弱い。

 

 というわけで、保護者不在の夜凪家ではあるが年始にはご近所からのお年玉攻撃を喰らい、プチ豪遊をするのが恒例である。

 

 閑話休題。

 

 まあそんな理由で、命にはささやかな貯金があったのだ。浪費するタイプでも無いし。

 

 ネット環境を手に入れた命はネット小説を読み漁った。気が狂うほど読んだ。図書館の蔵書に少し飽きてきていた本狂いの命にとって、そこは新しい宝の山であった。

 

 ネット小説に出会い、プロより面白いこともあるめちゃくちゃな素人小説を知って価値観がひっくり返された。命の人生史に残る大事件であった。

 

 

 まあそこからの苦労はあえて省略しよう。自分で書いたものをあの人以外に公開するようになり、躓くことも思うようにいかないこともあったが些細な話だ。

 元々、積み上げてきた筆力があるのである。こつこつ作品を積み上げれば、支えとなるファンも増えていった。

 

 しっかり書いて、推敲して、もう一回推敲して、継続して続ける。あとはもう時間の問題だった。

 

 現在の命の活動状況は、連載中のネット小説が3本。有料のネット小説が18本。自費出版した電子書籍が2冊。

 月々の収入はだいたい3万~5万。まちまちである。

 

 JKにしては破格の上出来であると思うのだが、姉さまのようにバイト(労働)していない分「もっと頑張りたい」という認識は強い。

 

 というか姉さまにはもっと楽して欲しい。学校で友達とか作ってきて欲しい。遊ぶ時間があるのかすら疑問である。

 

 頑張り屋さんの姉さまも大好き!!だけど過労はNGです!

 

 

 同人作家JK、夜凪命。ファンは主に愛はあるが拡散力は無いタイプが多く、いわゆる「読み専」ばかりだった。たまに感想が届き、一部の者だけが金を出してくれる。若さを思えば素晴らしい城を建てたともいえるが、安定しているとはとても言えない現実。

 世間に名の知れた小説家には程遠い、今現在だった。

 

 まあ本人的には「道のりは長いけど、努力していく」というつもりだったのだが、「流行」とか「ヒット」とか「ブーム」とか、そんなのは彼女が思うよりもずっと気まぐれで、運任せで、そして運命的であった。

 

 姉の景が初めてのCM(作品)を完成させたその日。ひとりの女優がある小説を拡散した。

 

 

タイトル「天使を演じるのは、ただの子供の遊びで済むだろうか」

 

 百城千世子がそのネット小説を読んだのはほとんど偶然、ではなかった。千世子の日課はエゴサーチである。自分の評判を確かめるため、結果を次にフィードバックするために、信者もアンチも丸裸にする。

 

「このネット小説、めっちゃすこ。ちよこちゃそ主演で映画化してくれ。まじで。」

「いやこれ「天使」主役っていえるか?舞台装置じゃね?まあ確かにスターズの天使はハマり役かも。」

「おもしろいわ。作者ダレ?「よるのいのち」さん?「夜の命」?しらん。」

 

 千世子のエゴサに「百城千世子に演じて欲しい作品」が引っかかるのは珍しいことではない。そして千世子は大抵、話題に上がっていた作品を確認する。

 「アタリ」なら準備をしておく。「ハズレ」なら放っておく。内容は「アタリ」でも映画化する可能性が低い隠れた名作であれば、アリサさんに話をまわしておく。

 

 その小説は、「大アタリ」だった。

 

 剣と魔法の世界。いわゆる異世界モノ。ハイファンタジーで転生者などは無し。魔法を使える数人の子供たちをメインに、陰謀と冒険を描く。

 

 あらすじには、

「ひとりが魔法で「天使の幻」を作り、ひとりが軽い魅了魔法を仕掛け、ひとりが仲間の姿を隠し、ひとりが策略をたてる。

 子供たちが皆で協力して天使を演出してみた。ただの悪戯のつもりだった。

 

 大人たちは驚くほど愚かで、あっさり「天使様」を信じてしまった。「村を救ってください」「盗賊が」「飢えが」「重税が」

 

 子供たちは苦しい現実を何も知らなかった。泣きながら縋る母親たちの姿に、「バレたら叱られるどころじゃない、皆で死んでしまうかも」と後に引けなくなった子供たちは、必死に作戦を立てて「天使様」として村を救おうとする。」

 

 すごく、面白かった。

 

 美しい天使は「天使作成役」の子の「理想の美少女」の姿をしてるけど、宗教的には「天使は男性のはず」という世界観。これは現実のキリスト教も確かそんな感じだよね。

 子供だから無学。だから天使を美少女にしちゃったんだ。

 

 それを察して天使の中で演技をする子が、男性的に振舞ってカバーしようとする。「僕のどこが少女に見えるのか?ああ、哀れな地上の子たち。君たちの知識で僕を判断しないで。」って。

 

 これ、凄く良い!!

 

 この「中の子」がたぶん主人公だよね。他の子より魔法が苦手だけど頭が良くて、現実的。参謀役だ。魔法を使わない作戦立案と天使の演技を担当してる。

 

 緊迫したシーンも多いし、現場での活躍もきっちり果たす。凄く良い。男の子だけど、そうじゃなかったら演じてみたいくらい。

 

 問題は、ネットで無料で公開されてる作品だってこと。(千世子)が「天使様」を演じるためには、出来ればスターズで映画化したい。

 商業化、映画化、ううん、せめて3年、いや2年以内には演りたい。

 

 まずアリサさんに話を通して……。こういう作品って書籍化するのにどういうルートを辿らせればいいのかな?とりあえず人気がなくっちゃはじまらない。

 

 

 どうしても、「この天使」を演じたい。

 

 百城千世子は「天使」ばかり演じていた。

 だからこそ、「天使を演じる役者」を演じたいと思った。「男っぽい天使」がやりたいと思った。「主役」ではなく、「舞台装置」であり、「世界観」であり、「作品のすべて」ともいえるこの役を演じたいと思った。

 

 

 だから、拡散した。天使パワーは強力だった。だから使った。そして、ネットの力もまた偉大である。

 

 

 夜凪景と夜凪命。ともに芸術家の姉妹は、奇跡的にも同時に世間に発見された。

 

 

 その結果はまず、バズった。その後に「スターズの天使」と姉さまが、「天使様」役をどちらが演じるか争うことになるとは、だれも予想していなかったことである。

 

 




夜凪命

好きな映画
ジブ〇はだいたい好き。特に「風の谷の〇ウシカ」姫姉さまがとっても姉さま。

ハ〇ー・ポッターシリーズは嫌いだけど好き。原作派であるため、初見では「あのシーンもこのシーンも無くなってる!」と感じてかなり嫌いだったが、慣れると割と好きになった。


基本的に映画はあまり見ない。「映像と音」にあまり慣れていない(本ばかり読んでるから)ので、すぐにキャパオーバーしてしまう。ちょっと苦手。
原作既読か、もしくはアニメ映画なら休み休み見れる。



連載作品「天使を演じるのは、ただの子供の遊びで済むだろうか」
 主役の子供たちが陰謀を巡らせ、脇役の大人たちが必死で冒険するという逆転構造のファンタジー小説。評判はかなり良いが、ネット小説らしく長すぎで、話も多すぎ。
 作者は有料化の予定はない。趣味兼、有料小説と作者の宣伝を担当してくれる作品。



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安心して下さい、手遅れです

感想くれたひと、ありがとうございます!なんか頭よさそうな感じの面白い返信返せなくてごめんね。

誤字修正しました!報告してくれた人、ありがとうございました!


 夜凪命は慄いた。

 

「ひえ……。評価伸びてる……。」

 

 正直に言えば訳が分からなかったし、正直に言わなくても理解が出来なかった。

 

「なんか知らんが爆発的に伸びてる……。天使ごっこだけずば抜けて、いや、他のもだいぶ伸びてるな……!?バグか?」

 

 とりあえず深呼吸して、ノーパソを再起動して、もう一度確認した。

 

「いやこれバグじゃないですね……。おかしいのはわたしの頭ですか?それとも世界ですか?」

「命ねーちゃんがパソコンにおしゃべりしてるー!」

「どうしたの?あんち?なぐさめてあげようか?」

 

 あっ、レイとルイが今日も可愛い。大丈夫だ。世界も頭もおかしくないぞ。

 

「んーん、ちょっと予想してない反響があってびっくりしただけ。心配しないでくださいまし。」

「そうなの?もしかしてうりあげ増えそう?」

「増えそうですね……。」

「やったー!おかし買ってくれる!?」

「それは姉さまと相談しないとです。」

 

 まあ姉さまはこころよく許すだろうが。そうそう、姉さまの事だが、めでたいことに役者としての所属事務所が決定したのである。

 

 あのヒゲが社長というのは実に不安だけども、雪ちゃんさんはとてもマトモで素敵なお姉さんだったし。

 雪さんに誠心誠意姉さまへの失礼を謝罪され、(主に姉さまと雪さんが)ヒゲへの制裁を行い、ちゃんとした会社であるという説明をうけ、姉さまが映ったCMを見せてもらい、第152回夜凪家家族会議を経て、妹弟トリオは姉さまの門出を祝福したのである。

 

 ちなみにわたしの決定打は、姉さまと雪さんの息の合った美しいハイキックと、躱そうともせず甘んじてそれを受けたヒゲの潔い態度です。

 わたしの「必殺本の角アタック」も綺麗に決まったし、いつまでも遺恨を残すことは辞めておく。

 

 怪しいヒゲ男、本名黒山墨字。無罪放免です。おめでとう。でも調子に乗るなよ。

 

 

 今は黒山さんが姉さまを時代劇のエキストラの仕事に連れて行っている。やるではないかヒゲ。

 

 実際、エキストラは超重要な経験値らしい。ネットで仕入れた知識だが。

 

「まあ姉さまはなんだって真剣に頑張るので心配はいらないですね。お夕飯を作って帰りを待っていましょう。」

 

 わたしの「天使」が異様にバズっていることはひとまずスルーである。というか向き合いたくない。現実を直視したくない。

 

 あの人が出てきませんように……!姉さまのお邪魔になったら今度こそ許さないぞ。

 

 

 

 

 SNSを中心に大きく評判を上げつつあるネット小説「天使を演じるのは、ただの子供の遊びで済むだろうか」

 

「この作品、作者との連絡は取れたの?スミス。」

「清水です。いえ、現在小説サイトとの交渉中です。作者本人との連絡は取れていません。」

 

 芸能事務所スターズ、社長、星アリサ。

 

 元大女優。現在も役者、映像業界において大きい影響力を持つ人物である。

 芸能事務所社長としてのそれは、女優だった頃よりも大きい。現役時代の彼女は、どれほど偉大でも「ひとりの女優」だった。それに対して現在スターズに所属する役者は天才ではないが、一人でも無い。

 

 「人数」が増えれば「出られる映画」も増える。「今どきの映画」のほとんど全てに、スターズの役者は出演しているのだ。……それも、主役として。

 

 強大な影響力は全て、役者の心を守るために。そうして育てられた者が、またスターズの名声を高めていく。本当に素晴らしい無限ループである。

 

 彼女と、スターズの人間にとっては。スターズ以下の凡人にとっては妬みの対象であり、スターズ以上の役者(怪物)を求める玄人にとっては障害である。

 

 しかし、その影響力はあくまでも「役者・映像業界」をメインとしたものだ。文字と絵の世界においては幾らかその威光も弱まる。

 

 まあ、スターズに嫌われても関係ないですしおすしー。アニメ化しちゃえば役者なんていらない、むしろそっちのが最高では?

 

 しかし、星アリサには引き下がれない理由があった。……女優をしているとたまにあるのだ。人生に必要な作品が。

 

「この作品(映画)は、必要かもしれない。百城千世子の女優人生に。」

 

 ただの直観である。当たっていたかどうかは、彼女本人が演じ終わってみてからでないとわからない。

 

 しかし、この「天使様」……。今までの千世子のイメージこれ以上なくぴったりでいて、同時に異なる。可愛らしい美少女と作り物の天使はまったく違う。男性的なふるまいも、全ての中心でありながら主役ではない点も。

 

 つまり、これまでのイメージを全く損なわずに、新しいイメージを与えることが出来る。

 

 新規ファンの大幅な開拓、女優としてのキャラクターの変化と成長……。もしかしたら、最近たまに見る「男装女子」を演じる百城千世子なんてものも実現するかもしれない。

 

 けれど、これはまだ捕らぬ狸の皮算用、甘い期待にすぎない。良い結果を出せるか、最高に良い結果になるか、それはまだわからないけれど……。

 

 私がやるのは、役者を守り、作品を用意して演じさせ、そして失敗を未然に防ぐこと。

 

 これは千世子のためだけではない。アキラにも芽のある話だ。

 

 天使の「中の少年」。主人公。魔法使いであり、魔法は苦手で、賢く現実的、そして役者。

 

 これは星アキラが演じられる役だ。

 

 アキラと千世子が共演し、二人でひとつのように対等に張り合える。千世子に存在感を喰われても、主人公としてはむしろその方が良い。千世子が輝けば輝くほど、そのすべては主人公の功績になる。

 

 むしろアキラが影のように振舞うことで、影の黒幕として、主人公の強さが際立つ。

 

 二人ともに大きな出世が期待できる、その上原作の現在の評判から考えても大きなヒットが見込める。……とても見逃せない獲物である。

 

 

「しかし社長、ネット小説はライトノベルに近い扱いなので、今からでは、書籍化やコミック化、アニメ化その後実写化という流れが普通です。時間がかかり過ぎます。

 いえ、もちろん数年単位が映画の普通ですが……。百城さんたちの年齢がそぐわなくなるのでは?」

「書籍化した後、直接映画化すればいいでしょう。アニメ化を望むファンも多いけれど、そもそもの流行のきっかけは「百城千世子に演じて欲しい」よ。

 作者と出版社に交渉して、スターズ主催で映画化する。そうすれば、かかる時間は最低限で済むわ。

 アニメや漫画を経由すれば、二次元に執着し、そもそも実写化自体を嫌がるファンも増えるわ。それを避けるためにもね。」

「アニメ制作会社がすでに動き出していますが。」

「牽制しておきなさい。」

 

 

 ひとつの小説を、二次元が持っていくか、三次元が持っていくか、その戦いは既に(作者の知らないところで)火ぶたを切っていたのである。

 

 

 所変わって、ある劇団の稽古場。ある若手の団員が、大好きな演出家の先生に課題を出されて紙束を持参していた。

 

 課題は「最近読んだ文字で、一番演じてみたくなったもん提出しろ」である。それを何故かあんまり関係の無い先輩男優が最初に読んでいた。

 

 何故だろうと(彼以外の)全員が思ったが、気まぐれな男のすることなので全員放置して稽古に戻った。

 

 それは、コピー用紙にプリントされた、最近バズってるネット小説だった。通称「天使遊び(てんあそ)」である。

 

 彼はそれを、ある種のトランス状態で読んだ。内容には没頭してるが、頭の中でこの役を俺が演じたら、を何パターンもシミュレーションしている。

 

 全てを読んで、それで、その先が読みたいと思った。この先があるはずだと思った。でも、今はそれよりも……、

 

「巌さん!俺この作品やりたい!」

 

 何が気に入ったのか、子供の役作りをしていない時には珍しく、子供のような表情を浮かべて、その役者は、明神阿良也は叫んだ。

 

 

 




夜凪命の二次オタ的自己評価

自称「にわかオタク」。愛は強いがお金を払えないので、「推しに貢げない分際でオタクをなのれぬ」「そもそも原作買えないし、情弱だし」という意識がある。
お金に余裕が出来たら、漫画とラノベを買いまくるつもり。

妙な英才教育を受けているので、オタク的にも常識知らず。妙にズレているところがある。が、姉の方が天然なので自覚がない。


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未成年です、ゆるして

 その日、姉さまの目はグルグルしていた。わたしのほっぺはニコニコしていた。

 

「……大金が、振り込まれている。一体食費何か月分……、何のお金?」

「これはあれではないでしょうか、姉さま。初めてのお給料というやつでは。おめでとうございます。」

 

 

 場面転換。時は進んで、その日の夜。銭湯でのこと。

 

「CMのギャラを受け取りたくない!?そんなのダメに決まってるでしょ!来月ネット配信だって決まってるのに!」

「ほらー、雪ちゃんの言うとおりだよー。貰っときなよー。」

「ですです。」

「受け取れないわ……。あの時私は父親じゃなくて、この子たちのためにシチューを作る芝居をしてたの。台本無視よ。役者失格だわ。」

「おねーちゃんはマジメ過ぎだよ!カフェのバイトクビになって今新聞配達だけなんでしょ!」

「……うん。」

「最近おねーちゃんだけオカズ一品少ないでしょ!?」

「そ、そんなことないわ。」

「誤魔化さないでください、姉さま。ちゃんと食べて下さらないなら、わたくしお姉さまよりも少ないお食事しか食べないことにいたします!」

 

「ルイもアッチが良かったのにー。」

「ヤダ。俺寂しい。……お前ら4人暮らし?」

「うん。おかーさんは昔死んでー、おとーさんはどっかにいてお金振り込んでくれてるんだって。でもおとーさんのお金は嫌だから使わないんだってー。」

「ふーん。……夜凪ー!!あれを商品として満足して買った会社がいんだぞ!お前そいつらに「価値ないもの売ったから金はいらねえ」って言えるのか!ケジメのつけ方間違えんなよ夜凪!!」

 

 クロヤマの怒鳴り声が女湯まで響き渡る。うるせえですわ……。ところで銭湯の名前が「黒の湯」だったけど身内?

 いちおう社長と新人の関係にあるクロヤマと姉さまであるが、力関係的にはクロヤマは双子たちにも負ける。でもお仕事関連では姉さまよりも強いからややこしいのだ。

 ジャンケンみたいな三竦み?

 

 社長からのお説教が「分かったかなど素人さん!!バーカ!バーカ!」で締めくくられたところで姉さまがフライアウェイ。

 

「ちょっと沈めてくるわ。」

 

 仕切り壁を越えて男湯に乗り込もうとする様は、とても格好いい。カッコイイけどね!

 

「コラァア!」

「姉さま、子供が真似をいたします。お風呂場では走ったりしちゃダメなんだぜ……?ジャンプなんてもってのほかですわ!」

 

「う、ごめん、命……。」

 

 優雅に着地した(すごい)姉さまがすう、吐息を吸い込み素晴らしい発声(おおごえ)で言い返した。

 

「分かったわよ!次からちゃんと演るから早く仕事させてよ!」

「ハハッそろそろ自分の仕事は自分で持ってこい!」

 

 

「うるさいんだよ黒山ァ!!!家賃あげるよ!!!」

 

「ごめんなさいもうしません」

 

 

 !?おばあさんの声、男湯から?ここからは声しか届かない。猫被りのお猫様よ、どうか我が声に宿り給え!

「あっ、大家さんでしょうか?騒がしくしてしまってごめんなさい。すみません、挨拶が遅れました、夜凪と言います。姉が最近こちらの大黒天さんに雇われて…。これからお世話になります。あとで改めてご挨拶に伺ってもよろしいでしょうか……?」

 

「なんだコイツ急に……。」

「クロちゃん静かにして。命ねーちゃんがヨソユキモードだから。」

 

 

 その後、菓子折り(雪さんに経費で落としてもらった)を持って挨拶に赴きました。まる。

 菓子折りが三倍になって帰ってきたぜ。クロヤマの家賃安くしてくれるって!(老人ハンターの本気)

 

「良くやった夜凪妹座敷童!」

「不審者卒業生の分際で上から目線が過ぎますわよ。刺してもよろしくて?」

「現役不審者だったことは過去一度もねーよ!」

「「自覚がなかったの……!?」」

 

 姉さまと雪さんの驚愕の声が見事なハーモニー。

 

 大人女性陣とクロヤマがいくらか揉めたのち、話題が「お仕事の勝ち取り方」のお話にそらされ(卑怯なりクロヤマ)、なんかテレビを見ることになったのである。場面転換。

 

 

 クルクルと、

 

 くるり、くるりと天使が踊っている。幼く無邪気で悪戯で、それでいて美しい。まるで人間じゃないみたいに、二次元みたいに。

 

”スターズの天使”百城千世子

 

『意地悪してごめんなさい。もう撮ってもいいですよ、好きなだけ。』

 

「女優百城千世子。今一番売れてる若手女優だな。お前たちの世代の代表格だ。夜凪、こいつをどう思う?」

「べ、別に好きとかじゃないかな。フツーかな。」

「フツーに天使。CGみたい。」

「二次元みたいな完成度です。それはそれとして映像に酔いました。いつもよりはましですが……。」

(あ、こいつらも夜凪だった。……酔う?今ので?)

 

「……一瞬で私たちを夢中にさせた。綺麗……。なのに顔が見えない(・・・・・・・・・)。」

 

 ニヤリと小さく、クロヤマが笑ったのが見えた。この人、やっぱりあの人やお爺ちゃん達に似ている。蘊蓄(うんちく)語るタイプの男性が、周囲に気兼ねなくワガママに生きてるイメージ。

 老人か、もしくは芸術家。

 

「無理ですよ!墨字さん一度、スターズに審査員として潜り込んでけいちゃん見つけて来たんでしょ!?もう目つけられてるし、オーディション受けてもどうせ落とされ―――」

「私この人に会ってみたい。」

 

 姉さまがそういうのなら、わたしは応援しますけど。努力が報われない事も多いですし。……ところでプロジェクターってテレビ?ほんとに?

 

 

 ……それはそれとして、次女 命は姉さまと大人さんたちにご相談があります。

 

 

 

 

 その映画「デスアイランド」は、集A社の人気コミックが原作である。制作は、というか主催はスターズ。

 

 芸能事務所主催の映画。スターズの監督が撮り、映る役者の半分(ほぼメイン)はスターズ。それ以外の役者のオーディションもスターズが行う。

 

 ……どういうことなの?

 

 ちょっと命は映画業界に詳しくないのでどういうことなのか理解できないんですが、映画って映画の製作会社が作るものなんじゃないの?

 芸能事務所って芸能人の管理とかフォローとか、マネージメントをするところじゃないの?

 

 よくわからない。よくわからないが、星アリサ、やばいひとです。

 

 デスアイランドは超テキトーに言えば、集A社とスターズだけで完成する映画だ。だからつまり、……とってもなかよしなんだね!

 

「は?集A社でネット小説を書籍化?いやまあ、ありえなくはねえんじゃねえの?知らねえけど。あそこも今web小説大賞とかいろいろやってるだろ。」

 

 うちの天使(わたしの作品)に、書籍化の話が来ました。

 

 声かけてくれたのは集A社。その後ろ(ほぼ隣)にスターズ。おはなしを要約すると、こう。

 

「「天使を演じるのは、ただの子供の遊びで済むだろうか」を集A社で書籍化して、そのままスターズで実写映画化しませんか???

 映画公開日と書籍発売日を同じ日にして、世間の注目を集めましょう!うまくいけば、一躍時の人ですよ。

 

 ご了承いただけない場合にも、一度お話させてください。つきましては、親御さん(・・・・)にご相談の後、ご連絡お願します。」

(作者が未成年であることは公開してる)

 

 夜凪命は良くご存じである。愛しのお姉さまの、触れてはいけない「龍の逆鱗」を。

 

「……命。どうしても「親御さん」が必要なの?」

「えっとね姉さま、わたしは今15才でしょ?」

「だからどうしたっていうの?命はあの人よりもずっと立派な人間よ。」

「わあい褒められた。でも姉さま、未成年者にはどんな法的契約も一方的に取り消すことが出来る、魔法のクーリングオフ特権があるの……。」

 

 世界観的にはあまりにも早過ぎた羅刹女の登場。いや命には「姉さまが不動明王の表情をしている」と感じたが、しかし、必死に冷静さを保とうとする夜凪景は、むしろ逆にこれ以上なく怒りを表現しきっていた。

 

 先程のシーンから誰も退室していないが、現在おしゃべりをする能力が維持されているのは、景と命だけである。

 

「だからね、出版社の人たちもクーリングオフされると困るから、親を「法定代理人」に指名してわたしの代わりに契約を結ぶの……。」

「あの人じゃなくて私じゃダメなの?」

「姉さまも未成年です……。」

「私には法定代理人なんていないけれど、それでも女優の仕事が出来ているわよ。」

「それは、雪さんとクロヤマが魔法のクーリングオフで「えいや」される覚悟で姉さまと直接契約してくれてるからです。」

 

 だからたぶん、どこか余所の会社から引き受けた仕事に姉さまが未成年特権でブッチした場合、クロヤマが責任をとらされる。たぶん。

 

「それで、…………命はどうしたいの?」

「わたしは、今はデビュー出来なくてもいいです。もしかしたら、またチャンスが来るかもしないし。もうチャンスが来なくても、もっと大事なものが此処に在ります。」

 

「そう。……助かるわ。ごめんなさい、命。いつも負担を掛けて……。私の我儘に付き合わなくてもいいのよ?」

「いいえ姉さま!わたしはこう見えて、反抗期が制御できない悪い子なだけです!」

 

「……気に入らねえな。」

「言いたいことがあるなら、はっきり言ってくださいクロヤマ。」

「チャンスが来て、それが貴重なもんだって解ってんだろ?それを諦めてんのが気に入らねえ。」

「クロちゃんあんち?命ねーちゃんのあんち?」

「もっかい切る?カチンコソードつよいよ?」

 

「ちっげえよ!つかアンチじゃねえし!あー!文句は読んでから言ってやる!貸せ!読ませろ!」

「前々から思ってたけど、クロヤマって時々語彙力がJKよね。」

「おい!カチンコソード俺によこせ!コイツを斬る!」

 

 わたしは個人的には、この話は受けたかった。集A社、つまり週刊少年ジャンプ、その沼に永住することを誓ったにわかオタとしては、自作小説が憧れの出版社から書籍化されるなら、正直まじに死んでもいい。

 

 でも、でもでもでも、正直めちゃくちゃ未練があるが、夜凪命まだ15才、これからの可能性に賭けて!姉さまの笑顔のために!

 

 チャンスの神様!見逃します!

 

 




夜凪景の雇用状態

おそらくたぶん、法定代理人を立てていない状態。だと思いたい。
もしもスタジオ大黒天が父親と繋がっていて、これまでも女優としての活動がすべて法的には親の庇護下で行われていたら、作者は黒山墨字を恨み、原作者をもう一度恨む。

自己解釈です!法律にも正直自信は無いです!


命ちゃんは本当は書籍化したかった。でもお父さんに頼らずにどうにかする方法がわからなかったので相談した。でも空気で「だめかも」と思ったので日和った。
実写映画化はイヤ。でも書籍化はしたい。でも親は頼れない。……流石にワガママが過ぎますわ、わたくし。今は牙を研ぐ時ですのよ。
今までの同人活動はほぼ自営業みたいな感じだったのかも。わからん。

「作品を家族より優先する」というのは夜凪命にとって禁忌。絶対に堕ちたくない悪への道、みたいな。ゲッシュに反することはしないのだ!




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オーディションと掲示板

掲示板回って個人的に好き


【オリ同人】よるのいのち先生文学感想スレ【全年齢】part3

 

 

1:名無しのいのち

オリジナル同人作家、しかも全年齢、しかもガチ未成年で活動中「よるのいのち」先生作品感想スレです。

雑談、考察、作者関連ご自由にどうぞ。映画化疑惑の話題はセーフですが、百城千世子の話題はスレチですスターズスレに行け。

 

・sage推奨

・荒らし、天使(スターズの方)信者はスルーしましょう

・次スレは>>950が立ててね

 

2:1です

↑スレ立てってこれでいいの?初めてなんでわからん。前スレでうっかり950踏んじゃって……。

なんか足りない気がする、自分ではわからぬ。教えて偉い人。

 

3:名無しのいのち

おつー。いんじゃね?まあ新ジャンルみたいなもんだし

 

4:名無しのいのち

乙。そんな気にすんなよ

 

5:名無しのいのち

>>1乙ー m(*・ω・*)乙

 

6:名無しのいのち

おつおつ、

 

>>1天使(☆)関連の荒らし多いよな、ドルオタはこれだから┐( -”-)┌ヤレヤレだぜ…

 

7:名無しのいのち

>>6そう言う俺らは二次オタだけどなwww

 

8:名無しのいのち

>>7異議あり(##゚Д゚)=σ もれは純文学とラノベの狭間にあるみたいなよるいのweb小説オタだぞー!!!

 

 

378:名無しのいのち

よるいの先生の新作本カエター!読んだ?

 

379:名無しのいのち

それ通販オンリーのやつだろ、10時間で売り切れてた。買えんかった。

ホント急に人気出たよなヨルイノ

 

380:名無しのいのち

再販して欲しい。それはそれとして内容しりたいーー!!ネタバレщ(゚Д゚щ)カモーン

 

381:名無しのいのち

りょ。以下ネタバレ注意

 

 

 

「少女探偵を取り調べろ」

語り部、ってか視点は警察側なのね。そんで事件はもう探偵が解決してんだけど、その探偵が警察といつもお馴染みみたいな顔見知りなわけ。

で、絶対探偵が勝手に情状酌量して事件のナンカ隠してるだろ!って警察は思ってるわけ。そっから始まんのよ。

一冊に短編が7つ、事件も7つ入ってんだけど、全部その始まり方。もうオマエラ探偵タイホしろし……!って感じの常習犯(探偵)

7つ全部説明めんどいからオチだけネタバレすると、少女探偵ちゃん男の娘でしたーー!やたー!俺氏大勝利なんだが!?

 

382:名無しのいのち

買う。買いたい。言い値で買おう。

 

383:名無しのいのち

>>382転売阻止\( `^´)/

だがまあ、俺も買いたい。まじで再販してくれ。

 

384:名無しのいのち

ちょっっと確認していい?おまえらスターズの記者会見見た?

 

385:名無しのいのち

>>384デスアイランドのオーディションのやつ?みたよ。ちよこ可愛かった。ちょっとカレンっぽくないけど、まあしょうがない。

よるいの「天使」にはキャラぴったりだからマジでそこは安心してる。はよ映画化してくれ。

 

386:名無しのいのち

>>385そうそれ。確認したいの。

天使映画化すんなら絶対スターズじゃん?そんときも今回みたいなオーディションとかやるんかなー?と思って。どう思う?

 

387:名無しのいのち

いやまあ、話題作りとしてはありか…??(≧ω≦)??

死愛はオールキャラ高校生だけど天使は老けたキャラも多いしな。ジジババとか。モブばっかだけど。

スターズ若手ばっかだし、サブキャラをいっぱいオーディションするんじゃねーの?

 

388:名無しのいのち

でもさ、主人公星アキラとかだろ。シャイン君似合わなくね?「主人公もオーディションです!」ってなったらどうしよう。祭り?

 

 

 

【脱無名】死愛オーディション受験スレ【大スターに俺はなる!】

 

1:名無しで無名の役者

死愛オーディションを受ける若手無名役者の為のスレ

芸能事務所「スターズ」主催、集A社漫画原作、映画「デスアイランド」のメインキャスト24名中半分の12名が一般オーディションで選ばれます。

状況報告、情報交換。その他雑談など気軽に。

 

・非役者、脱役者、ガチ素人はお断り。消えろとは言わんが俺らは人生賭けてんだよROMってろ。

・荒らしはスルーしろ

・sage推奨

・不合格でも荒らしになるなよ、妬ましいのはしょうがない。

・原作ファンはほぼ荒らし。実写化否定するだけなら荒らしだが解釈情報提供者は貴重なので囲い込め。

・次スレは(あるかわからんが)>>980が立ててね。

 

2:名無しで無名の役者

>>1スレ立ておつ。助かる。

 

3:名無しで無名の役者

>>1乙。

俺めちゃくちゃ受けたいし人生逆転したいんだが、三十路で高校生役いけると思う?まあダメ元でも死ぬ気出すわ。

 

 

687:名無しで無名の役者

報告します。二次審査おちました。そして病みました。ちょっと失踪してきます……。

 

688:名無しで無名の役者

>>687乙。強く生きろ。書類審査で落ちたやつもいるんだぞ。オレとか。

 

689:名無しで無名の役者

>>687乙。おまおれ。俺も落ちた。映像審査えぐくない?

 

690:名無しで無名の役者

>>689まあココで500人まで絞られるわけだしな。

 

691:名無しで無名の役者

で、その五百人が最後には12人になる、という訳ですね……。

 

692:名無しで無名の役者

なんだこのバトルロイヤル。デスゲームはもう始まっていた……!?

 

693:名無しで無名の役者

こっから更に茨の道ってコト、ですか。厳しい。

この状況で言うのはアレですが、二次通りました。

 

694:名無しで無名の役者

>>693オメーー!!

まじでおめでとういやマジで。ねたましいわ。呪いの手紙送っていい?

 

695:名無しで無名の役者

>>693おめでとう。本当に凄いと思うぞ。がんばれ。

>>694荒らしになるなよ。気持ちはすごくわかる。

 

696:名無しで無名の役者

三次審査でやっと演技させてもらえんだろ?いいなー。俺も手塚(監督)に会いたいよ。

今まで落としてくれてありがとうって、殴りに行きたい。俺の分殴ってきてくれ。後生だから……

 

697:名無しで無名の役者

暴力はいかんぞ。演技で殴って来いよ。

 

698:名無しで無名の役者

千世子の記者会見から、えーっと一か月くらい?やっと選ばれし12人の引き立て役が決定すんのか……。

 

 

968:名無しで無名の役者

オワタ。三次審査も終わったが俺も終わった……。絶対落ちた……。

 

969:名無しで無名の役者

>>968お疲れ。まだ分かんないだろ、希望すてるなよ。

で?どんな審査だった?手塚殴れたか?

 

970:名無しで無名の役者

>>969オマエ>>696だろwwww

ていうかマジで何があった?三次受けたやつだいたいツイッ〇ーで死んでるんだが……。

 

971:名無しで無名の役者

まじで難関だった。三次というか惨事。悪問すぎた。

 

「制限時間5分!

無人島で目が覚めました遭難してます。時間内に殺し合い始めてね!

実力無かったら制限時間内に終了させます。」

 

異常。

 

972:名無しで無名の役者

>>971誤字草 以上だろ

まあ確かにそれは異常。悪問過ぎるわ。何分戦えた?

 

973:名無しで無名の役者

たぶん……一分くらい……?殺せなかったし、殺されなかったわ……。俺なんで生きてんの???

 

974:名無しで無名の役者

>>973発狂してて草。ざまあ。

でもそのめちゃくちゃなやり方で結果出してるからなスターズ。

悪問だったんならあれだろ、だいたい他の受験者も似たり寄ったりの演技だったんじゃねーの?

 

運が良ければまだ選ばれる可能性はある。

 

975:名無しで無名の役者

>>968おま俺

1分切ったかもしれんが、越えたと思いたい。でも最大5分戦えるんだよな、ヤダ、俺のレベル低すぎ?

 

976:名無しで無名の役者

あの時、突然終了と告げられて、過去イチ俺より売れてる女に恐怖感じた。町田リカさんの話です。

 

977:名無しで無名の役者

>>976町田怖くないだろwww

 

978:名無しで無名の役者

>>976ほんとそれな。俺の人生が終了させられたかと思ったわ。

 

979:名無しで無名の役者

なあなあ、他スレでオーディションの話題あったんだけど、「天使の遊び」のやつスターズで映画化のウワサあんじゃん?

あれも今回みたくオーディションして欲しい。俺一次で落とされたけど、絶対年齢が原因なんだよな。

 

980:名無しで無名の役者

>>979おまえいくつ?おっさんおばさんに高校生はキッツいだろ……。

 

次スレ立てる?終わりにする?

 

981:名無しで無名の役者

>>980立てろ立てろ。愚痴り足らんわ。

次オーディションあるかもの話題ももっと深堀したい。

 

982:名無しで無名の役者

>>981同意。了解。

 

次スレ

【脱無名】俳優オーディション受験スレ【失敗済み】part2 

 

 

 

「なあこれ映画にしようぜ。」

「嫌ですわ。」

「なあこれ映画にしようぜ。」

「否ですわ。」

 

 どうも、いやですわbotです!嘘です。夜凪命、姉さまの妹です。こっちは不審者botのクロヤマ!

 

「あっ、命ちゃん。景ちゃんに電話したよ。すぐこっち来るって。ごめんねうちの社長が。」

「イヤデスワ。」

「命ちゃん?命ちゃーん!?壊れた!?コラァ!墨字さん!子供みたいなワガママ止めて下さい!」

「これ映画にしようぜ柊。お前も読めよ。」

「読みますけど、映画作るならもっとちゃんと仕事してください。」

「嫌だ。」

「……原作本のある映画作りたがるの珍しいですね?」

「こいつ下積みがちゃんとしてんだよ。基礎的な話じゃなくて、「見たことないモノを言葉で想像させる」って芯ががっつり出来てる。

で、毎回なんか不思議っつーか奇妙なもの用意して、それを魅力的に魅せる。だからこれ映画にしようぜ。」

「いやですわ……。」

 

 この人、この人なんか、わたしを客観的かつ主観的にガッツリ評価してきて、き、気持ち悪いな……。

 「なんか変なもの出せ」はわたしの中での毎回のノルマみたいなものである。それ見抜かれてるよね。気持ち悪い。やだ。

 

 クロヤマはとりあえず、「麦茶に見せかけためんつゆ」という古典的な手段で黙らせた。雪さんから拍手をもらえた。

 やったぜ。

 

「それにしてもすごいね景ちゃん。本当に12人に選ばれちゃうなんて。書類審査でアリサ社長に落とされて当然かと思ってましたけど。一体どんな不正したの?」

「けほっ、けほっ、

 何もしてねーよ。ただ真正に評価するように「お願い」しただけだ。」

「いや…、どんな「お願い」よ……。」

「だから今の夜凪じゃ落ちてもおかしくないと思ってたよ。手塚か…、あいつ思ったより酔狂だな。」

 

 スターズはこの不審者に弱みでも握られてるんですか?わたしはとても心配になります。

 

ガチャ、

 ドアノブの音がして、姉さまが事務所に来た。

 

「あっ、けいちゃんおめでとー。電話で話した通り通知が来てたの。」

「パンパカパーン、おめでとうございます姉さま。ボクもとっても嬉しいんだ!」

「「デスアイランド」受かったって……。私が……?本当に?」

「ああ良かったな。けほ、これで千世子と会えるぞ。」

「…………黒山さん、私はこのままじゃダメだ。どうすればいい……?」

 

 そう言った姉さまは、わたしには泣き出しそうに見えた。

 

 




よるのいのち
夜凪命のペンネーム。通称「よるいの先生」
ファンは幼女説と実はおっさん説で日々戦争を繰り広げているらしい。


シャイン君
「天使を演じるのは、ただの子供の遊びで済むだろうか」の主人公
キラキラネームに見えて、「シャドウ+メイン」の意なので「影にいる主人公」です。とよるいの先生から解説が入っている。
大人しいだけに見せかけた男の子。


夜凪命の口調
ふつうは敬語。誰にでも。
ただし漫画のキャラの口調を冗談めかしてフラフラする癖がある。とくにお嬢様口調多し。
言ってる内容は常にだいたい「家族大好き」


黒山監督
著作権はしっかり考えるちゃんとした大人。なのでまずは作者に許可をとりに行く。
どんどん嫌われていく。


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天使の素顔

 夜凪命、とても久しぶりの外食である。

 

 姉さまがデスアイランドのオーディションに合格し、お祝いに雪さんとクロヤマが食事に連れ出してくれたのだ。

 クロヤマの奢りである。くるしゅうない。

 

「こんなんじゃ私、役者なんて名乗れない。役者じゃなかったら私は一体何者なのよぉ……。」

「うんうんそうやって大人になんだよ。夜凪、飲め飲め。」

 

「コラァア!高校生に何してんじゃあ!!」

 

 オレンジジュースである。とても美味しい。ごくごく。

 

「おねーちゃん映画出れるってほんと?」

「てゆーか何飲んでるのよ……。」

「ジュースですよ、レイ、ルイ。」

「オレンジジュース。一緒に飲も。黒山さんがおごってくれるって。」

 

「何はともあれお祝いはしようよ結果オーライなんだし。」

「柊、こいつ雰囲気で泣き上戸になるぞ。もっと飲ませようぜ。

 ま、今後の課題が明確になって良かったじゃねーか。欠陥だらけのお前の芝居に足りないもの。その一つが”自分を俯瞰する力”だ。」

「フカン?」

「幽体離脱みたいなもんだよ。演じてる自分を外から見下ろしコントロールする技術だ。」

 

「比喩表現つかうなら、使うってあらかじめ言いましょう?クロヤマただの電波か、突然ファンタジーなことを言い出した変な人みたいになってますよ。」

「ひどいわ。私本気で相談してるのに宗教勧誘なんて。」

「クロちゃんまだオバケ信じてるの?」

「もしかしてまだトイレ一人で行けないの?」

「夜凪家このやろう。」

 

 まあわたしはオバケ信じてますけどね!説明力は大切ですが、その前にまずこの人は信用がない気がいたします。

 

「荒唐無稽な話に聞こえるかもだけど、役者さんにはそういう技術があるんだよ本当に。」

「雪ちゃんまで酔っぱらい?」

 

 まあしかし、たまの外食は美味しい。オレンジジュースは美味しいし、普段と違う味付けの揚げ物もおいしい。

 自分で作らなくていいのもしあわせだし(ほぼ主婦のJK)。

 

 外出するとあの人に捕まる恐れがあるけど、まあちゃんとした大人が一緒にいてくれるし。雪さんの事だけど。クロヤマの事ではないけど。

 不審者に不審者をぶつけたら、ゲームみたいにぽこんと両方消えたりしないかな……?あれ、ぷよぷよ?

 

 クロヤマの解説は、「スターズには技術があるから盗んで来い」という結論だった。まあそれに異論はない。

 言うことは正論なんだよな、この男……。

 

 まあ、わたしたち家族も、大黒天の人間も一緒にいけないのである。姉さまの、いや、女優 夜凪景の初めての一人でのお仕事だから。

 

 

 

 

 

「「私達、俳優の使命は観客を虜にすること。素顔を晒してありのままに演じることを人間というなら、

 だったら私は人間じゃなくていい。

 

 これでいいかな?夜凪さん。」」

 

(”天使”の顔が、一瞬視えた、とても怒っている。)

 

 

 

 

 

 

 天使の素顔は 誰も知らない

 

 産みの親(製作者)を除いては、の話ですけど。

 

 姉さまがとても怯えて帰ってきた。誰ですかわたしたちの大好きなおねーちゃんをおどかした奴は。え、百城千世子?

 そうか……、そんなら、しょうがないな……。

 

 場所はスタジオ大黒天。クロヤマが姉さまに目を閉じさせて、”客観的な視点を想像させる”稽古をしていた。

 この男、いろいろ手段を選ばない故にすこぶる傍若無人。のくせにやる事は有能なんだよな……。

 

「客観的に手前を俯瞰できないお前が、芝居をコントロールできないのは当たり前だわな。千世子とは違う。奴は自分の目玉を捨てたんだ。その代わりに、自分を俯瞰する複数の目玉を選んだ。客観的な美しさだけを求めて、自己を排除した。お前の言葉を借りるなら「綺麗なのに顔が見えない」だ。

 まぁ、プロだな。……(後略)」

 

「(前略)……私も千世子さんみたいに「商品」になればいいの?」

 

「なりたいか?」

 

 千世子さんはなりたくてなったんだろうな、と思います(小並感)。

 姉さまは役者の素顔は見えるのが当然、という前提の感性を持っている。そして百城千世子の顔が見えないことに違和感を抱く。

 つまり姉さまが普段見ている名作古典映画の役者さんたちは、「自己排除」においては彼女以下ということだ。姉さまは”画面の向こう側の彼ら”のことが好きなのだから。

 

 でも、百城千世子の素顔は、百城千世子の天使を愛しているんだと思う。自己を排除した作品は、故に創り手の”性癖”がモロに出る。

 彼女はきっと、天使が好き。天使を愛する大衆が好き。わたしの子(シャイン君)とおなじで。

 

「私は私のまま天使みたいになる。」

「だから「盗め」つってんだ。全部吸収して取り込んで来い夜凪。」

 

 結論が出たみたいですね。

 雪さんの説明によると、もうすぐ泊まり込みで撮影が始まるらしい。姉さまと久々に離れ離れになってしまう。妹弟は寂しいです。

 

 

 

 

 昆虫と、他人の横顔が好きな変な子供だった。そうしたら他人の目が怖くなって、現実の世界が生きづらくなって、逃げるように作り物の世界に没入した。

 

「役者に向いてる」

 

 アリサさんがそう言ってくれて嬉しかった。私のすべてをコントロールして、寝る事も忘れて、観客の望む仮面を作る作業に没頭した。

 生きづらかった世界ががらりと色を変えた。女優は天職だと思った。

 

 ある小説を読んで、私に、ほんとうに翼が生えたとすら感じた。私にまだ、沢山の可能性があることに気づいた。

 もう一度世界が色を変えて、演りたい事がたくさん増えた。

 

 作り物を演じてみて、男の子を演じてみて、男装してる子を演じてみて、悪い子を演じてみて、素直じゃない子を演じてみて、黒幕を演じてみて、賢すぎる人を演じてみて、愚かな人を演じてみて、

 

 そんな貴女が天使だと、もっとファンに愛されたくなった。

 

 世界が文字通り広がったけれど、そのきっかけを与えてくれた作品は思い通りにはならなかった。

 

 作者の家庭の都合で書籍化、映画化が断られてしまった。直接交渉することも出来なかった。メールだけのやり取りで、こちらの人間と直接会話すらしてくれなかった。

 

 未成年なのはしょうがない。どうにもならない。家庭の都合は、どうにかできたかもしれない。スターズを信頼して、頼ってさえくれれば。

 

 諦めたわけじゃないけど、行き詰ってしまった。そんな状況でも、他にも仕事がたくさんある。私頼りの酷いホンでも、完璧に演じたいから。

 

 

 明神阿良也がネット上に動画をアップした。すごく珍しいことだったけど、その内容がわたしにとっては問題だった。

 

 「天使遊び」の……、ファンアートって言えばいいのか、「演じてみた」って言うのかな?無許可で許される範囲なのか、私にはわからなかったけど。

 

 主人公のシャインを一人芝居で演じる、明神阿良也。その動画は、非常に注目されていた。「天使」は全く登場しないその演技が。

 

 舞台装置もまったくなく、本当にただの一人芝居だった。なのに、天使様の幻が画面の前にいる私達にも視えてくるような、そんな、表現力によるパワープレイ。

 

 奪われる、と思った。負けたくないと初めて思った。天使は、私の(モノ)だ。

 

 

 デスアイランドは私が思っていたよりも面倒くさい仕事だった。監督はウソツキだし、夜凪さんは制御不能で暴走しちゃって、みんなまで無茶な演技をしだして。

 私まで巻き込まれちゃった。でも案外、私の横顔も綺麗だった。

 

 夜凪さんはああいうのを”芝居”と呼んでいたんだ。私の芝居はもっと上手くなるよ。それ、盗んじゃったから。

 

 

 

 

 烏山武光と源真咲がそれを見つけたのは、偶然だった。それ、というか……夜凪似の座敷童?

 

「は?」

「ん?……座敷わらしは本当にいたのか……!」

「いやそんなわけないだろ。」

 

 スタッフのトラックの背後に浴衣を着たおかっぱ頭の少女。そして夜凪似。この状況は何だろう、と二人は思った。

 打ち上げとはいえ、デスアイランドの関係者以外がここにいるとは考えにくい。スタッフにしては若い、というか幼いし、共演者にはこんな少女は居なかった。

 

「いやマジで座敷童じゃ……。」

「俺に君の幸運をわけてくれないだろうか。必ずブロードウェイに立つ男になるぞ!」

「いや聞けよ。ありえないだろやっぱ。」

 

 この間ざしきわらしちゃん無言である。

 

「しかし夜凪に似ている気がしないか?」

「ああ、確かに…」

 

「わたしのことは秘密にしていてくださいね。」

 

 座敷童はそれだけ言って、夜の闇に紛れて消えた。二人の俳優は、なんかこう、場の空気に酔ったのかもしれない、とか、どうせ言っても信じてもらえない、とか考えて、忘れることにした。

 

 マジの座敷童だったら、俺たち売れるといいな、と思った。

 

 

 

 

 夜凪命は夜に隠れて、俳優たちの団欒を盗み見ていた。姉さまに友達ができるなんて、いったいいつぶりの事だろうか。

 姉さまの、いつもの偽らない横顔。知らない俳優たちの、観られてる事に気づかない気の抜けた横顔。知ってる女優の、観られることを意識した、天使の横顔。

 

 生身の人間しかいないんですが、何故か映像酔いが回ってきますね……。

 

 知らない大人たち。多分あの変な人が監督。クロヤマといい、映画監督って不審者ぶるのがノルマなのですかね?

 花火を手に持ってくるくるまわる、無邪気な姉さま。呆れたようなご友人たち。もっと爆発的な背の高い男。

 

 さっきのやつだ、とぼけた方。楽しいことするな……。

 

 和気あいあいとはしゃぎあう、芸術家たち。そう、役者も、演出家も、スタッフも、みんなが芸術家らしく楽しそうに見える。

 姉さまの「無地」字入りTシャツが、無秩序なサインにより前衛的なオシャレなTシャツになっていく。

 

 それをわたしは、じっと観ていた。夜に隠れて眺めていた。

 

 気配を消すのは得意分野なのです。

 

 でもそんな時間はそう長くは続かずに、なんだか騒がしくなって、星アリサが姿を現した。

 

 監督(たぶん)が何故かヤバイ叱られるという顔をして(クロヤマと同じ表情)、スターズの人たちが「何故ここに!?」という顔をして、他の人たちが「サプライズかな?」という顔をしていた。

 姉さまがきょとんとしていて、天使が天使の表情をしていた。

 

 ワレ、大ピンチ。捕まってしまう……。

 

「夜凪景、あなたの妹を捜しているのだけど。」

「……え?命?レイ?」

 

 ええい、ままよっ。ダッシュ!!

 

 隠れていた命は、走り出して姉に飛びついた。おなかに頭をぐりぐりするのである。

 

「え!?命!?どうしてここに!?」

「やはり此処に辿り着いていたのね……。捜したわよ。」

 

「さっきの座敷わらし!?」「夜凪さんの妹?」「どうして星アリサと?」「妹さん?なんで来たの?」「似てる~。」「誰だ今座敷わらしって言ったやつ。」

 

「姉さま、姉さま……。」

「命?どうしたの?どうしてここにいるの?レイとルイは?」

「姉さま……。で、死愛(デスアイ)原作漫画家のサインに釣られクマー。座敷童の誘拐は犯罪ですわ……。」

 

 うるうる。全力で媚び媚び。涙目で訴えかけるわたしはそう、確かに合意で連れてこられたのである。

 

 サインは!漫画家のサインは反則だろうがよ!オタクにとって!

 

 




【悲報】「夜凪命、出版社に対してちょろい」

描写の無いところは原作通りに進んだ模様。


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天使は実在する

集A社&スターズ と よるのいのち先生 のメールのやりとり(簡略)

『書籍化&映像化しませんか?保護者の方もご一緒にお話しさせてください。』
→「家庭の事情で無理ですわ」
『断るにしても、一度お会いさせてください。』
→「ごめんなさいなのです。」
『ご家庭の方には内密にされていても構いません。直接お話させて下さい。』
→「神よ許したまえ……。ムリです。」
『……集A社の見学に来ませんか?漫画家のサインをプレゼントしますよ!』
→「……行きますクマ。」


 時はデスアイランド最終撮影日、昼頃にまでさかのぼる。夜凪命、またの名をよるのいのち先生は、南の島で、迷子になっていた。

 

「にゃああー」

「ニャー」

 

 おおう、返事してくれた。南国ののら猫さんは、近所ののら猫さんよりもフレンドリーですわ……。

 

 嗚呼、何故こんな状況になってしまったのでしょう……?

 

 数日前、命は集A社の見学を楽しみ、お土産のサインを貰ってご機嫌でおうちへ帰った。なんか見覚えのある星アリサ社長とも会ったが、そんなものは忘却の彼方であった。

 

 そして今日。突如として家を訪ねてきた星社長と秘書のスミスに丸め込まれ、気付いたら飛行機に乗せられていて、気付いたら南の島に来ていて、そして、迷子になってしまったのである。

 

 いやそうはならんやろ。

 

 命は決して、押しに弱くはない。むしろ強い。丸め込まれるよりも、丸め込む方が得意である。

 

 しかしあの女性、星アリサさん。彼女を見ていると、「映像酔い」するのだ。

 

 女優を引退して久しいはずだが、まるで常にスポットライトが当たっているような存在感。厳格にして優美な美貌。表情は硬く、距離を置いた態度。

 

 わたくしの敗因は、そう……、ふたつありますわ。ひとつは映像酔いしたこと。ふたつめはコミュ力の敗北ですの……。

 

 姉さまがスターズのオーディションを受けた以上、夜凪家の住所が知られていることは意外ではない。オーディション中に星アキラ殿が、その後にクロヤマが訪ねてきたことからも命の中では周知の事実である。

 

 そして現在、姉さまが女優として取り組んでいるお仕事がスターズ主催であり、姉さまが未成年である以上、スターズには、そしてその社長には姉さまの緊急連絡先を知る権利と義務がある。

 

 そして姉さまが、そう、夜凪景は体調不良を起こした。撮影中に雨に当たり、寝込んでしまったのだそうだ。

 

 その連絡を受けたわたしは、そしてレイとルイは、雪さんも、心配で心配でたまらなかった。多分クロヤマはあんまり心配していなかった。

 

「風邪ぐらい誰でもひくだろ。すぐ治る。」

「どちらのどなたがお風邪を召しても構いませんが!姉さまがご病気なんて、とても久しいことなのです!きっと心細いでしょうに、心配なのです……。」

「健康優良児かよ。」

「うん、とっても!」「おねーちゃんカゼひかない。」

 

 まあそして、何故か次女の命が一人で姉さまの迎えに行ける?ことになって、星アリサ同伴で飛行機に乗ったのである。どうしてそうなった???

 

 ただひとつ理解できるのはそう、上手く引きずり出されたということである。

 

 ……ここにきて、「天使遊び」が狙われていないと考えるほど命は鈍感でも謙虚でも無かった。

 

 だが、向こうも想定していなかったであろうトラブルが起きてしまったのだ。おかげで考える余裕と時間ができた。

 

 トラブルとは単純に、スターズ(主に千世子)目当てに集まっていたファンたちが星アリサに気づき、大騒ぎになってしまったのである。

 そしてスターズ関係者でない少女が、人の波に流されてはぐれてしまったというわけです。

 

 初めて来た南の島で、一人で迷子。大ピンチ、という訳ではない。

 

 命はこんなのなれっこなのである。あの人の英才教育にこういうのがあったので。

 

 「はじめてのお〇かい」という命が大好きなテレビ番組がある。父曰く「要するにとても困っている人間はエンターテインメントになる」のである。

 ヒトデナシめ。

 

 なので命は、あの人に言われて小学生の身で一人で遠出をしたり、めっちゃ遠くで放り出されて「一人で帰って来い」させられた経験があるのだ。

 そして旅日誌?というか、体験を文章で纏め上げるところまでが課題であった。

 

 まあ、一晩帰れなかった時はお母さんと姉さまに非常に心配をかけてしまったが、それほど深刻な問題ではなかった。

 なにせ命ちゃんはかわいいので。ルックスの話ではなく、猫被りの話だ。

 

 コミュニケーション能力と体力の問題。いざとなれば交番に駆け込めば良し。「迷子なんです。」と道を聞けば、大抵の人間は親切にしてくれる。

 ましてや飛び切り賢そうな幼女であるのだから、飴ちゃんをくれたり車で送ってくれたりもする。

 知らない人にホイホイついていくのはめちゃくちゃ危ないが、まあいざというときのためにGPSを持たされていたので。

 

 なつかしい思い出です。お母さんと死別してからは家に籠りきりでしたが、人生経験はとても役に立つものですね。

 

「すいません、迷子なんですけど。この辺で目印になるような場所ご紹介いただけないでしょうか?」

「あら~、可愛いおじょうちゃん。迷子?旅行?」

「はい。はぐれてしまって。」

「そっかー。最近映画の撮影やってるもんね、その見物かな?あそこの角を右に曲がって、それから……」

 

 これをボーナスステージと言いますのね。楽勝でしたわ。

 

 

 

 

 

 

 そして現在に戻る。夜である。

 

 サインに釣られて正体を現し、姉の体調不良を口実に南の島までさらわれてきた「よるのいのち」、本名を夜凪命。追い詰められた彼女は、もはや最後の命綱とばかりに姉にしがみついていた。

 

「ぎゅうう。です。」

 

 星アリサは彼女を覚えていた。忘れもしない夜凪景のオーディション、『野犬』というテーマに対し圧倒的な無言劇を見せた夜凪景。そして彼女に魅了される観客たち。

 

 その場にいた全員が、ただの観客にされてしまうような演技に対して、ただ一人目を背けていたのが夜凪命だった。

 

 奇妙で、すこし気味が悪くて、よく覚えている。

 

 よく似た姉から目を背ける少女。そのくせ、誰よりも姉の演技を賞賛していた。きらきらしい言葉を使って。

 

 すこし青褪めた顔で、役者のように猫を被って、実の姉の演技を上っ面だけで称賛する。そういうふうに見えて、気味が悪かった。

 認めるしかないが、夜凪景の芝居は確かに素晴らしい物だった。それを、何故?

 

 「よるのいのち」と対面して、彼女だと判明して、不快感や不気味さを感じなかったと言えば嘘になる。夜凪家とは相性が悪いのかもしれないとすら思った。

 

 気味の悪さはすぐに興味に変わった。

 

 この私から目を逸らす。姉にそうしていたように。そして顔色を悪くする。

 

 恐れられているわけでは無い。憎まれているわけでも無い。そう言った感情なら簡単に把握できる。だけど、違う。

 

 視線を逸らす前に、目を丸くしてじっと見詰めてくる。まるで猫か幼児のように。うっとりと見惚れるかのように、見詰めてくる。

 

(見たことないタイプの人間ね。小説家なら知的か内向的かとも思ったけれど、そのどちらでもなさそう。”落とす”手掛かりがつかめない。

 

 なんとしても、彼女に映画化の同意をさせなければいけない。)

 

 だからこうして連れてきた。彼女の実姉である夜凪景が現在だけ、スターズの下で仕事をしていることを縁にして、千世子とアキラと直接会わせる。

 

 デスアイランドの現場ならスターズの人間が多くいる。彼女の姉もいる。千世子が説得出来れば、もしくは場に呑まれてくれれば良し。そうでなくても、大勢の嘆願に押されてくれれば良し。

 家族の同意が得られればさらに大きい。

 

 現場の戸惑いは大きいが、千世子は流石に冷静だ。すでに彼女を魅了するために微笑んでいる。手塚はらしくもなく動揺しているらしい。

 

「あー、社長?どうして来られたんですか?台風はありましたが、結果的には何の問題も……、」

「ええ。予定通り撮り終えることが出来たようね。」

「……なら、どうして?」

 

 それは皆そう思っている。というかこの状況に疑問しかない。

 だが、夜凪命を観察していて答える気の無い星アリサに代わり、秘書の清水が返答を返す。

 

「オーディション組の夜凪さんが体調を崩されたということで、彼女のご家族に連絡したところ、……妹さんが迎えに来た、という流れです。」

 

 いまいち答えになっていないが、清水自身も理解しきれていない。謎の状況に楽しかった打ち上げ(BBQ)が静まり返る。

 

 シーーーーン

 

「えっと、命?心配かけてごめんなさい。私、もう大丈夫だから!漫画家のサインって?誘拐?え、えっと……、そう!あのね!私、千世子ちゃんと友達になったのよ!あのね、聞いて欲しいことがたくさんあって……」

「はい。姉さま。」

「私、カメラに隠れて吐いたのよ!!それでね、千世子ちゃんがとっても天使で、綺麗でね、」

「天使。」

 

 妹がそう言うと、姉はそれきり黙り込んでしまった。景は妹の調子が悪いことを察知したのである。知らない人が大勢いるのに、社交的に振舞わずに言葉が少ない。何か考えている。

 景は妹のこういう調子が苦手だった。

 

(私は解ってもらえるように話すのが苦手だけど、いつもは命の方から歩み寄ってくれる。でも、こういう時の命は私よりも解り辛いのよね……。あの人にちょっと似、)

 

 何をするのか、何をしたいのか理解できない、そういうところが座敷童なのである。でもかわいいから許されているところもある。

 

「天使。」

 

 そうつぶやいた命は、すっと景から離れて百城千世子をみた。視て、観て、何故か愛おしげにみつめた。

 

「わたしは映画には詳しくないです。ですが、好きな言葉はあります。『私のジジを見つけたわ』『他の者はルーナを演じることが出来た。けれど彼女はルーナだった』。

 ……なるほど。頭ではなく感覚が理解を示します。よく似てるとか、生き写しとか、そういう話では全く無い。」

 

 ふらふらと軽い足取りで夜凪命が百城千世子に歩み寄る。愛おしそうに、まるで我が子を見るように。

 

「『オレの天使が、ここにいる。実在する。』」

 

 誰も、何も反応できないままに、そのまま抱き着いた。さっきまで姉にしてたように、家族みたいに抱き締める。

 千世子も反応が出来ずに、人形のようにただ抱き締められていた。暖かくて、不快感はない。

 

「あれ?」

 

 不思議そうな声を出して、命は千世子から離れた。手のひらを自分の頭にそえ、とんとんと叩きながら首をかしげる。

 

「姉さま、わたしいま、もしかして、バグりました?」

「え、うん。オレって言ってたわ。わざとじゃないなら”ばぐ”ね。」

 

「ああーー、うーーん、申し訳ない。ご迷惑おかけしまう。きゅう。」

 

 きゅう、ぱたん。

 

 夜凪命はそのまましゃがみこんで気絶した。

 

 




まず、命ちゃんは夕食を食べていません。昼もろくに食べていません(アリサさんが居たからキョドってあんま食べなかった)。
そして乗り物酔いをします。飛行機に乗ってきました。
そして映像酔いをします。ここには役者が大勢います。

だいぶ理性が死んでいる状態だったため、とても挙動不審になりました。ガチで死にかけのオタクの挙動。
健康であればあるほどマトモに見える、不健康になればなるほど奇人(座敷童)に寄る。そういう子です。

寝て食って元気になれ。


アリサさんが疑問に思っているところ、命ちゃんは映像酔いしているだけです。


「私のジジを見つけたわ!」by小説家シドニー=ガブリエル・コレット
 自作『ジジ』のブロードウェイ主演にオードリー・ヘップバーンを選んだ時の言葉。

「他の応募者はルーナを演じることが出来た。けれどイヴァナはルーナだった。」
 映画『ハリーポッター』のルーナ・ラブグッド役にイヴァナ・リンチが選ばれたときの言葉。


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巣立ちの条件


作者の黒歴史に立ち会った皆、心配かけてごめんね。


 

「ご丁寧にごめんなさいします。」

 

 夜凪命が倒れた翌日のこと。俳優やスタッフたちが泊まっていた施設の、姉が昨日まで寝込んでいたベッドから身を起こして、彼女は星アリサと話していた。

 

 映画化の話を、断っていた。

 

「……何故?「家庭の事情」という話なら、こちらで話を付けられるわ。」

「そこらへんは姉さまとお話ししてください。ですがそれ以前に、「天使遊び」は外に出す予定の無かった話なんですよ。

 だらだらまったり更新のお話なんです。書籍化どころか、完結の予定すらあやふやなんですから。」

「そんなもの、貴女が修正すればいい話でしょう。」

「それはそう。……んー、でもですねぇ、んーーーー。」

 

 まだ顔色の悪いまま、ベッドの上で髪をくしゃくしゃとひっかきながらぶつぶつと何か考え事をする『よるのいのち』。

 言葉を探すように、考えを纏めるように目を閉じて話し出す。

 

「天使には、いいえ、天使だけではないですが、我が子には愛されていて欲しいんですよ。作品は、永遠に息をしているものですから。死なない、死ねない以上、この子たちの命が幸福な物であって欲しい。

 

 ……ほら、アニメや漫画の、二次元の『実写化』を絶対に拒絶する人たちっているでしょう?わたしもかなりそれ(・・)なんですよ。

 

 空想は理想ですから。それに、読者の想像も自由ですから。千差万別の『解釈』があって、その全てに一致する『実写』なんてありえないでしょ。

 

 がっかりさせたくないし、失望させたくない。ましてや嫌われてしまったらどうしよう。

 

 ……なんてね。コホン、で、あるからして、わたしの作品を実写映画化することには同意できません。」

 

「…………私を、スターズを馬鹿にしているのかしら?そんなことは有り得ないわ。スターが大衆を失望させることは、決してない。」

 

「じゃあ『デスアイランド』はどうなんだよ。」

 

 命は唐突に、ごっそりと表情をそぎ落として対等な口振りで話し出す。

 

「ねえちょっと、デスアイランドですよデスアイランド。手塚監督が姉さまたちとつい昨日まで撮影していたあの漫画原作映画だよ。

 

 きいていいかな?一番撮りたかったのは、撮る必要があったのはなに?オリキャラのケイコ?そのラストシーン?主人公のカレン?千世子さんの素顔?

 

 さぞ素晴らしい映画(・・・・・・・)になったんでしょうけど、それって本当に『デスアイランド』???」

 

「何の事かわからないわ。……事実の確認を急ぎます。」

 

 星アリサ社長、撤退!!!

 

 

 

 

 

 ふう、ひとまず一勝、でいいのかなぁ?

 

 こんにちは、命ちゃんです。昨夜は失態を晒した座敷童です。ところでお腹がすきました。

 

「命!おかゆ作ってきたわよ。食べられる?」

「姉さま、おかえりなさい。喜んでいただきます。」

「あれ?アリサさんは?来てると思ってたけど。」

「さっき退室されました。今日は仕事をしに来た皆さんが帰られますからね。最高責任者はさぞお忙しいのでしょう。ふみゃ、あつい……。ですわ。」

 

 ふうふうしながら美味しいお粥を食べる。美味しい。勝利の美粥である。まだ敵地だが。

 目覚めてすぐ、姉さまに映画撮影で何があったか詳しく聞いていたから勝利できた。それが無かったら勝てなかった。

 手塚由紀治、昨日「叱られる」という顔をしていたのはそういうわけか。わたしは解釈違いには厳しいぞ。

 

 そして推しへの侮辱にはもっと厳しい!お前の推しがチヨコエルなのは理解した!だがデスアイランドと姉さまを踏み台にしてんじゃねえよ!

 

 でも助かった。あんがとう手塚さん。

 

「今日一緒に帰ろうね、命。そういえば、その浴衣どうしたの?」

「はっ、忘れていました!姉さま、至急電話を貸してください!雪さんに衣装を借りたまま遠出してしまいました!謝らねば!」

 

「はい。私のスマートフォンで良かったら、使ってください。」

「千世子ちゃんありがとう!!!」

 

 ふぉあ!?……姉さまが、ねえさまが天使を部屋に連れこんでる!人間の気配はなかったのに!

 

「命、雪ちゃんに電話繋がったわよ?」

「……お、お借りいたします……。」

 

 ふええ、天使さん(女優)にスマホ借りちゃったよぉ。あもしもし?雪さん?心配かけてごめんなさいです~。

 

 電話をしながら、そわそわする。なんだか肌がひりひりする感じがするのは、視られているからだ。めっちゃ見られているからだ。

 めいには理解できます。百城千世子、人間観察をするタイプの芸術家。

 

 だって今みられてるもん。

 

「はい、はい。ちゃんと無事に帰りますよう!ハーイ。ちゃお(またね)。」

 

プツッ、

 

「貸してくれてありがとうございました。ご用は済んだのでお返しします。」

「ううん。どういたしまして。夜凪さんの妹さんだよね?まだ挨拶してなかったから、話しておきたくて。」

「あっ、ほんとだわ。ごめんなさい千世子ちゃん、この子は(めい)。私の一つ下の妹なの。」

「夜凪命です。初めまして。」

「初めまして、百城千世子です。」

 

 ふ、不穏!なんだこの静かすぎるご挨拶タイムは!嵐の前の静けさですかね!?それはそうとしてマジ天使!

 

「まだまだ伸びしろのある天使だから、よろしくね。よるのいのち先生?」

「ふえ?」

 

 ぎゅうっと、小柄なわたしをまるで人形でも抱き締めるように。ぎゅうっとしてきた。アイエエエ!?天使!?天使ナンデぎゅうするの!?

 

 あ、わたしか。わたしがさきにハグしたんだ。

 

「ち、千世子さん。ちょ、ちょっと待ってください。いま現在のわたしは正常です。昨夜は錯乱していたのです。今が正気なのです。

 なので、言わないといけないことがあります。映画化は」

「ダメ。」

「ホワット?なんと?」

「だめだよ。断っちゃダメ。絶対に映画化するから。私が。」

 

 最後まで言わせてくださいまし。天使って未来予知もできるの?それとも女優はみんなできるの?もしかして姉さまもこれから覚える?

 

「何故、でしょうか。どうして断言なさるのですか?」

「私が演りたいから。それだけじゃだめ?」

「構いません。……構いませんが、それだけではないのでしょう?演技っぽいですし。心当たりがあるなら、全て知ってみたいものです。」

「第一に、私が演りたいから。それから、第二じゃなくて最大の理由は、大衆がそれを望んでいるから。

 

 わかってるでしょ?今の貴女の読者は、特に「天使を演じるのは、ただの子供の遊びで済むだろうか」の読者さんたちは、皆がそれを望んでいるよ?

 映画して欲しいと思ってて、私に(天使に)天使を演じて欲しいと思っていて、そしてそれが実現すると確信している。思い込みみたいなものだけどね。愛するものは自分の希望を叶えてくれる、っていう無意識の傲慢。

 

 ファンって、そういうものでしょ?天使は愛されているんだから、貴女の天使様(作品)はとっても愛されてるんだから。期待に応えないと、がっかり(・・・・)させちゃうよ?」

 

 

 ……まさしく、仰る通りで。

 

 実写映画化することで嫌われる。それが二次元のよくあるパターンだ。だけど、わたしの天使はすでにそのルートを外れている。

 

 初めから、実写映画化期待作として人気に火が付いている。だから、映画化しないと失望させる。嫌われる。

 

 つい先刻、星アリサ社長に告げたお断りの理由。あんなのは詭弁すぎる。断れない理由ははっきりしているのに、それをそのまま断る理由として述べるなんて。

 

 ヤダ、わたくしペテン師。

 

「わたしの大切な作品に、大好きな我が子に、しあわせに愛されて欲しい。それは当然の想い。

 

 ……ですが、その為に自作品を籠の鳥にするつもりはありません。わたしの作品ですが、映画化すれば、アニメ化すれば、漫画化すれば、他の誰かの作品にもなる。

 独り占めしたい、そんな気持ちはありますが、それでは毒親というものです。創り出した以上、巣立ちを見送る義務があります。

 

 確かに、千世子さんの言う通りですよ。映画化のおはなし、断ってはいけません。」

 

「……そう思ってたなら、どうしてアリサさんに断るなんて言ったの?」

「……命、私のせいかしら?」

「いいえ!いいえ、姉さまのせいなどではありません!確かに家庭の事情というのもありますが、それ以前の問題、信用の問題です!」

 

「信用の問題って、なにかな?」

「ですからつまり、そう、初対面の御方にうちのこをお嫁にやれるものですか!?お婿にだってだめです!そういうおはなしです!

 

 『デスアイランド』先輩の件だってまだ納得できていません。信頼の無いかたに、わたしの作品の、わたし以外の製作者にはさせられません!」

 

 うちの子が侮辱されたら、無視されたら、虐げられたら、貶められたら?そんな心配が付きまとう。信頼できる相手なら、喜んで巣立ちを見送ろう。

 

 いやゴメン嘘。泣きながら見送る。

 

 百城千世子さんは、信頼できる。わたしの天使様を任せられる。でもスターズは?手塚由紀治はどうだ?

 

 姉さまとデスアイランド先輩を蔑ろにするような、そんな相手にはとても我が子を任せられない。

 

「つまり、私のことは信頼してくれてるんだね?」

 

 

「なら、私にすべて任せて。天使様は主人公じゃない。けど、私は主役だから。だから、監督も、脚本も、スタッフも、他の俳優も、もちろんスターズも、全部に私の影響が届く。

 

 『よるのいのち』先生が認められない雑音(ノイズ)が入ってたら、私が責任をとってなんでも貴女の言うことを聞くよ。

 

 だから、私が天使を貰っても良い?」

 

 わたしを抱いたまま、天使が耳元で悪魔みたいに囁いた。

 

 

 

 

 

 

 一方東京、無人の舞台劇場にて。二人の男が、舞台演出家と映画監督が話していた。

 

「感情ってのは臭うもんだからよ、俺が欲しいのは(くせ)ぇ役者だけだ。確かにこの女は俺の舞台に出る資格があるかも知れねぇ。

 気に入らねぇのはお前だよ黒山。俺を利用して良いとこだけ持ってこうってか?

 

 潰すぞコラ。」

「ウィンウィンでしょうが。夜凪はきっとあんたの最後の舞台に相応しい役者になる。……その妹も、あんた無き(亡き)後の天球の、心強い仲間になるかもしんねぇしな。」

「新人の家族を、稽古期間中見学自由にしろって?おいおい、授業参観じゃねぇんだぞ。一、二度様子を見に来るとか、差し入れに来るってんならともかくだ。稽古は見せ物じゃねえ。本番じゃねえんだ。」

「あんたんとこの役者(ガキ)がネットに上げてる、あの芝居。あれの原作はその『妹』の書いた話だぞ。」

「……なんだと?」

 





爆死のダメージは、スランプのダメージを吹っ飛ばした、気がする。良い物を書きたいの気持ちが溢れたので。だけどこれも爆死したかもしれんと不安に思う。いきるってつらいんだなぁ。by作者


今話の命ちゃんは、いつもオールバックにまとめてある髪が解けています。なので髪を掻いたりもしています。(普段はしません)
そして天使にハグされながら(あっ、シャワー浴びたい。しにたい。)とかこっそり思ってたりします。

クロヤマはたぶん命にまたキレられる。
未成年の個人情報!ですわよ!?

手塚監督がデスアイランドでしたことは、命ちゃん的には理解はするが絶許案件。



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変わり者の相性

どうやら前回の再投稿は、爆死せずに済んだっぽくて死ぬほど安堵しました。これからもがんばるぞ。


 ひとまず夜凪景の初めての映画のお仕事が終わり、姉弟がみんなお家にいる普段の生活に戻った、ある日の事。

 

「舞台?」

「ああ。チケットを貰ってな、2枚ある。行って来いよ。」

「私それより次のオーディションを受けたいのだけど。」

「観劇も勉強だ。お前(役者)にとっても、(作家)にとってもな。せっかくだから2人で行って来いよ。」

 

「……2人で、ですか?わたしと姉さまだけで?レイとルイを置いて?」

 

じとぉ……。

 

 のっそりとソファから起き上がり、命は黒山を咎めるような眼差しで見る。この子は南の島から帰って以来、ずっと何かを悩んでいる様子なのだ。

 

「……気分転換になるだろ。なんだよお前こないだから。鬱陶しいからさっさと元気出せ。」

「むぐぅ。」

 

 何を悩んでいるのか家族にも黒山や雪にも話さずに、ぐるぐると一人で悩んでいる様子の座敷童ちゃんである。

 

「……ご遠慮します。四人家族に2人分のチケットをプレゼントするような、デリカシーの無い男の誘いに乗りたくありません。

 姉さまとデートするなら、もっとわたしたちの好きなところを選びますわ。」

「舞台は好きじゃねえってのか?」

「むかし親に連れられて行って、人酔い(映像酔い)して寝込んじゃったのです。ねこねこ。」

「お前は虚弱か。」

「大正解。なのですが、クロヤマに指摘されるのは不愉快ですね。」

「はあ。じゃあ夜凪だけでも行って来いよ。千世子でも誘ってよ。」

「!!千世子ちゃんを!?」

 

 

 大黒天のみんなが、元気にわちゃわちゃしている。景の新品のスマホを囲んで、(一人だけ)ドキドキしながら天使と連絡を取っている。

 

 その賑やかな声を聴きながら、命はまたソファに沈んだ。

 

(百城千世子……。どうしたらいいのでしょう?わたし、わたし……、二次元のプライドも、作家としての矜持も、嗚呼、わたし、未熟者ですわ……。)

 

 

 

 

 

「あ、お帰りお姉さま!デートはどうでしたか?舞台、楽しかったですか?」

「…………。」

 

 舞台に行った当日の夜、姉さまがうつ伏せで拗ねていた。わたくしの美しい姉が死んだ魚のよう。

 そんな姉さまに雪さんが、「明神阿良也」さんという舞台役者さんについて解説をしてあげている。

 

「(前略)…とんでもない実力者だよ。舞台もすごかったでしょ?」

「……うん。本当にすごかったわ。(中略)観客と役の境目がなくなる感じ(・・・・・・・・・・・・・・)。鳥肌が立った。

 

 なのに会ってみたら失礼なセクハラ男だったのよ!!舞台の上ではステキだったのに騙された気分だわ!」

「あーそれで不機嫌だったのね…。」

「姉さまにセクハラなんて、命知らずな男もいたものですね。……あ!駄洒落じゃないですよ!」

「……ん?」

「おねーちゃん反抗期?」

「おねーちゃんたち思春期だよ。」

「……悔しいわ。私あんなお芝居できない。」

 

「できないじゃねーよするんだよ。阿良也にあってお前に欠けているもの、”観客への意識”だ。(中略)……阿良也のあれ(・・・・・・)はすべての役者に必要な能力だ。」

「…黒山さん。久しぶり。」

「昨日も一昨日も会ってるよね!?」

「そうだっけ?」

「クロちゃんいつ働いてるの?」

「一応確認しておきますと、姉さまの時間感覚は集中力ですぐにズレるのでこれは本気で言ってますよ。ざまあクロヤマ。」

「夜凪家この野郎。新しい仕事紹介してやんねーぞ。」

「仕事!?お芝居の!?私オーディション受けてないのに!」

「良い鼻を持った演出家はときにオーディションなんて必要としねぇもんだ。阿良也の芝居に近づきてぇならココに行け。

 お膳立ては済んである。」

 

 ぐぬぬクロヤマ墨字、腹立つけど有能である。姉さまがキラキラしている。

 

「あ、夜凪、のーえっと作家のほう、妹のほう、命、お前も行けよ。」

何故(なぜ)!?です!?なにゆえ!?」

「お前の姉が新しく世話になる現場だ。挨拶くらいしろ。あと、そこの元締め、じゃねえ、えっと……ボス、あー一番偉いジジイに、お前が小説家だって紹介してあるから。」

「……個人情報!わたし!未成年!おのれクロヤマ!この世の不条理の擬人化め!」

「比喩の規模がでかいな、オイ。」

 

 わたしは渾身の物理攻撃を実行した。いつの世も本の角アタックが大正義である。

 

「そういえば、阿良也君ってちょっと……、『座敷童むーぶ』?してる時の命に似ていたわ。」

「その人絶対変な人ですよ。」

「お前が言う?」

 

 

 

 

 

 知らない(役者)が沢山いて、芝居の事で喧嘩して、騒がしい初めて来た舞台演劇の稽古場。夜凪景はそこで、パイプ椅子に座り殺気立つ老人と、ごろごろしている明神阿良也に出会う。

 

「で、お前が夜凪か。」

「……はい。」

「一人か?姉妹で来ると聞いていたが。」

 

 一方夜凪命は、ストライキ中であった。

 

「此度ばかりは許せぬ!命は!無職ニートひきこもりじぇーけーなのですが!?趣味で同人作家してますけど!稼いでますけど!おたくの社員ではありませんが!?勝手に、わたしを、斡旋するなーー!」

「でもお前の姉はウチの役者だし。身内身内。」

 

「コラア黒山!めいちゃんイジメてんじゃないよ!!家賃上げるよ!」

「ごめんなさい!」

 

 

 場面転換。数時間後。

 

 やはり人脈。人の助けはすべての苦難に勝る……!

 

「そう思うなら尚更だろ。劇団天球に行けば人脈が広がるぞ。」

「やです。やーなのです。」

「なんでだよ。別にお前人見知りするようなタイプじゃねえだろ。」

「そう思うならクロヤマ、お前はやはり節穴ですわ。人が怖いから愛想良く、ただそれだけのことなんですから。

 縁起でもない、コホン、失礼、誤字りました。演技でもない、「嫌われたくない」という本心からの猫被りだからこそ、わたしは容易く愛されるのです。

 まあ、安い親愛などは、脆く捨てられるものでもありますけどね。」

「……ま、理解出来なくはない。よくある真理だな。」

「オヤジギャグですか?」

「は?何が。」

「心の理と書いて「心理」。真の理と書いて「真理」。知的ぶった洒落になってますわよ。」

「お、マジだ。ああ、さっきお前が言ってた「誤字りました」は同系統の洒落を遠慮がちにアピってるわけだ。」

「いえ、口頭で「誤字った」と主張するだけの変人ムーブです。」

 

「本題に戻りますよ。つまり、わたしは生粋の人見知りなんです。ニンゲンコワイなのです。一度「安心」認定できれば大丈夫ですけど、でも、それ以前に超重要難関イベント「初対面」を回避したいのです。」

 

「甘えてんじゃねえよ。そんなやり方じゃ自由が無いだろ。」

「欲しい自由と別に興味ない自由があるんですよ。クロヤマだって、まあ、わたしと違って人見知りはしませんが、クロヤマだって、人との信頼を築こうとはしないでしょう?」

「は?」

「言っておきますけど、わたしはクロヤマにされて不快だった事、全部伝えてきましたよ。「姉さまに失礼」とか「個人情報を守ってくれ」とか、色々。だから、わたしあなたのこと大嫌いなんです。」

「…………。」

 

 そう、この男一言も謝っていないのである。悪い事をしたと思っていないから。彼女らの喜び、将来のためになることをして、ウィンウィンだと思っているから。

 指摘されてなお普通に思っているが。

 

 それでも、やっと気づいた。嫌われるのが当然だという現状に。

 

「…………………。」

 

 でも謝らないのである。否、謝れないのである。

 

 何故なら、男の子だから。トシいくつだてめぇ。

 

 自分が悪い事を理解して、それでも素直に謝れない大人げない男に、あいにくながら夜凪命は慣れていた。表情で理解してくれたことがわかったので、今日はもういいのである。

 

(一歩前進。謝罪してもらうのはまた今度にいたしましょう。時間をかけてたっぷり悩めよ良い年した大人が。)

 

 ストライキ終了。

 

「……まあ、わたしはクロヤマのこと人間関係的には嫌いですが、変な人としては好みですよ。好きじゃあないですけど。

 現実は空想より奇なり、みたいな人と、ずっと友達になりたかったんですから。クロヤマの事は嫌いですけど。」

 

 ずっと、そう思っていた。だから、嫌いな人に優しいのだ。命ちゃんは大人なのである。

 

(もうじゅーごさいですからね!いえい!)

 

 

 

 

「『よるのいのち』?『天使』とか、『探偵調べろ』とかの?」

「ああ、そういやお前ハマってたな。動画あげたんだったか。」

 

 気怠げな色男だった明神阿良也が、みるみるうちに楽しげに、幼げに、子供っぽい表情になっていく。

 

「俺、よるのいのちに会いたい。」




感想欄で指摘がありましたが、作中の

「アニメ化から実写化する流れが普通」という理屈は命ちゃんの感覚です。彼女は体質上、実写映画が見れません。
なので、「知ってるアニメ」が実写化したヤツしか知らないわけです。

「世間知らず」の一部ですね。父親に情報統制もかけられてたので、常識におもわぬバグがあります。

誰か指摘すればそれがバグだとわかるのですが、もともと漫画・アニメ・二次元系統のネット小説、ラノベだった上に、表紙などに綺麗なイラストを全作品に用意しているのでみんな「ああ、売れたらアニメ化する系統か」という認識があります。

なので命のバグと噛み合っちゃってるんです。しばらく自覚しないと思います。


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いつのまにか役者が増える

ちょっと間が開いちゃった。申し訳ない。


「俺、よるのいのちに会いたい。」

 

「「「ダメ」」」

 

 四方八方からまったく同時に、口を揃えて同じ言葉が飛んでくる。ここにいる者は皆だいたい役者であるが、台本もないのにこの有様。

 

 明神阿良也へのある意味での信頼がうかがえる。

 

「ダメよ!阿良也君は凄い人だけど、でもセクハラ男でもあるのよ!妹に会わせるなんて絶対ダメ!!」

「…だ、そうだぞ。阿良也。」

「は?失礼な真似なんてしないよ。ただ話をしたいだけ。いいだろ。」

「よくねーよ。相手が小娘だってわかってねえのか。ちょっと黙ってろ。夜凪、黒山から話は聞いてるな?」

「ううん。とりあえず行って来いって……。」

「あの野郎。」

「はあ……。新入りが来るっていうから、誰かと思えば……、巌さん鼻詰まってんの?あんたの最後の舞台、この子に潰されるよ?」

「俺の配役に口出すのか、偉くなったなクソガキ。」

 

 シンと稽古場が静まり返る。突然現れて、『よるのいのち』の姉だという新入りの役者。彼女を次の舞台(最後の舞台)に出すという巌裕次郎。それに異を唱える明神阿良也。

 その場に居た役者たちの心は、困惑に包まれた。

 

((とりあえず、『妹さん』ってことは年下の女の子だろ?阿良也は近づけちゃダメだろ……。))

 

 困惑する劇団員たちにただひとつ明白だった事は、明神阿良也を自由にしてはいけないということである。

 

「わっ、私、一生懸命がんばるから!」

「……公演は3か月後だ。台本を渡す。演目は『銀河鉄道の夜』。俺達と一緒に死への旅と行こうか、夜凪景。」

 

 

 

 

 姉さまが帰ってきました。汗だくで。何故?

 

「姉さま、タオルをどうぞ。シャワー浴びますか?」

「うん、そうする。ありがとう命。」

 

 何故、初めて行った稽古場から帰ってきて、汗だくになっているのでしょう?これは稽古でかいた汗というには、乾いていない、いいえ、今この瞬間まで全力疾走していたような……?

 

 なぜ?なにゆえ?ほわい?

 

「ふ、ふふふ……!足は、足は私の方が速かったのよ。芝居ではまだ負けても、鬼ごっこをすれば私に勝てる役者はいないかもしれないわ。」

「何の話ですか?鬼ごっこ、したんですか。どうして……?」

 

 

(経緯はこうである。『よるのいのち』に会いたい明神阿良也が夜凪景についていこうとした。劇団天球の人間たちがそれを阻もうとした。突破された。景は逃げた。阿良也は追った。

 鬼ごっこである。勝者、夜凪景。)

 

 

 まあ、姉さまが満足げなのですべて良し。夕飯の用意を続けるべし。今夜は生姜焼きです。

 シャワーから上がった姉さまの着てきたティーシャツが、キーゼルバッハ部位なのですが。食欲が削がれる……。

 キーゼルバッハ部位というのは、鼻血が出やすい場所のことです。わたし、ものしり。

 

 今日も謎の多い姉さま。家族からしてもふしぎがいっぱい。どこで買ってきたんですかそれ。

 

「あら?命、今日は家族で夕飯食べるの?嬉しいけど、雪ちゃんと黒山さんは?」

「お姉さま、大人にはお酒を飲んで一日を終えたいときというのがあるそうですわ。」

「そうなの。」

 

 正確にはバツが悪くなった黒山墨字が逃げて、それを雪さんが追いかけたのですけど。

 

 叱られて謝れない大人の男性というのも、たまには役に立ちますね。家族水入らずの夕食はちょっと久しぶりです!

 

 うまー。

 

「美味しい。命また料理上手になった?」

「いえいえ、今日はレイとルイも手伝ってくれたので、その分美味しいんですよ。あとはお母さんと姉さまのレシピが良いのです。」

「生姜すった!」

「たまねぎ切った!」

「えらいわ。ありがとう、レイ、ルイ。すごく美味くなってる!」

 

 

 そして夜は更け、夜凪景は友人との電話で『巌裕次郎がいかに恐るべき男か』を知るのであった。

 

「姉さま?台本読まなくていいんですか?ページが進んでませんが……。」

「おねーちゃんね、さっき電話してから顔色悪いのに、私がもう寝よって言っても台本読むんだよ。」

「おねーちゃん最近色んな顔するよねぇ。お友達できたし。」

「なるほど……。でも無理は禁物ですよ姉さま。寝ましょう!レイ、ルイ、やっておしまいなさい!」

「「てやーー!!」」

「ああっ、ゆるして!台本が、台本が、巌さんは常に木刀を握っている演出家なのに!」

「寝ないこは戦も出来ませんよ姉さま!」

 

 

 

 

 

 次の日、結局台本はさっぱり頭に入らなかったらしい姉さまはしょんぼりしながら、同時に追い詰められた子兎のようにビクビクしながら稽古に向かった。

 

 そしてムムムと考え込むように、やっぱりしょんぼりしながら帰ってきた。大黒天に。

 

「頭では分かってるの。阿良也君の芝居は大袈裟なのにリアル。動作から感情が伝わってくる感じ。」

「分かってんじゃんそれだよそれ!」

 

 わくわくと楽しそうに、雪さんが姉さまの意見に同意を示す。姉さまを応援しているのだろう。

 ちなみにわたしは、その雪さんにひっついている。わたしたちを挟むようにレイとルイ。ちょっと離れたところにクロヤマが立っている。

 

 まだ謝られていないので、距離を取られているのだ。意地っ張りめ!

 

「そう思って身体を動かそうとするとなんていうか……」

「感情がついてこないんだろ。」

「そう!そんな感じ!」

「……あー。」

 

 レイと同じく、わたしも内心で「あー」である。姉さまと共に生きてきて、感情がついて来ていない様子は何度も見ている。

 ぎこちない笑顔、引きつった表情、エトセトラ。

 

「スターズのオーディションの時は?どうやって涙を流した。」

「あれは始め、お母さんのお葬式を思い出して演じていたの。でもなぜかその時は涙が流れなくて、黒山さんにバカでも分かるように演じろって言われたから、お葬式から家に帰った後、はじめて涙が流れた時の感情を思い出して涙を流したの。」

「ま、そんなとこだよな。中には涙腺コントロールする奴もいるが。」

 

 スッ、パコン!

 

 雪さんが静かにクロヤマの頭を叩く。きゃー!すてきー!デリカシーのある大人、さいこー!

 姉さまが気にしていない様子だから、何も言わない。でもクロヤマは許せないから行動は起こす。叩く。

 良いことするなぁ、雪さん。

 

「イタッ、なんだよ!……あー、悪かったな。」

 

 わたしと目が合って、気まずそうに謝られた。クロヤマ、ちょっと成長したか?

 

「……役者にもいろんなタイプがいるんだよ。例えば、」

 

 クロヤマがホワイトボードの中心にまっすぐ横線をひき、ちっちゃい似顔絵と「表現」「感情」の文字を書き、役者さんの演じ方について説明しだす。

 

 表現しない姉さま、役作りをしない千世子さん。うっ、百城千世子……!『天使』どうしよう…!?

 

 悩み事がフラッシュバックしてフリーズしていたわたしを余所に、話は進んでいく。雪さん絵が下手なんですね。

 

「私に足りないもの……、掘り下げた感情を表現するための技術……。」

「“技術”なんて大袈裟なもんじゃねーよ表現力なんて。自然に皆できてるもんだ。」

「え?皆?」

「そう。お前の妹は特にな。だろ?おい命。座敷童ごっこはどうした。関係ありませんって顔してんじゃねーよ。」

「命にはできてるの?私できないけど…、役者なのに。」

「できてるよ。人間誰しも本能的に出来てる。忘れてるだけさ。」

「それ、どういう」

 

「あーーーーー!!!ちょ皆静かに!」

「!?」

「お前が一番うるせーよ。」

 

≪星アキラ熱愛か!?明神阿良也の舞台挨拶に現れたアキラさんですが謎の美少女と―――≫

 

「何してんのけいちゃん。」

「あれ?お前千世子と行ったんじゃなかったの?」

「オシャレして行ってよかった。TV出演……。」

「そういう問題じゃないから。」

「ウルトラ仮面……。」

 

 ……姉さまが刺される!!??

 

 姉さまが、わたしたちの大事な姉さまが、イケメン俳優の女性ファンに刺されてしまう!いや女性とは限らない、過激なファンに刺されてしまう!

 

 くっ、後悔しても時すでに遅し。やはりわたしが行くべきであった……。せめて、姉さまが刺される前にこのわたくしが星アキラを刺すしか……!!

 

「ウルトラ仮面……!」

 

 はっ!いけないいけない、弟のヒーローを刺すわけにはいきません。わたしだってお姉ちゃんですから!!

 

 

 

 

 

 一方その時、スターズ事務所では。

 

≪星アキラ熱愛か!?明神阿良也の舞台挨拶に現れたアキラさんですが謎の美少女と―――≫

 

「こうなっては(ほとぼり)が冷めるまで待つしかありませんね。」

「冗談じゃないわ。いくらの損失になると思ってるの。千世子と手塚で手いっぱい、『よるのいのち』の案件も考えなくてないけないのに。

 参るわね、夜凪景。」

 

(いいえ、むしろこれはいい機会かしら?

 この損失を賠償させる、なんて流石に未成年の姉妹には非道すぎる。けれど、『天使遊び』の映画化で和解すれば……。いえ、それでもやはり駄目ね。酷すぎる。

 原作者に嫌われるのは避けたいし……。)

 

「……仕方ない。2人があの場にいた必然性を作るわ。」

「というと?」

「アキラを巌裕次郎の舞台に出演させる。あの3人を共演させるのよ。」

 

 

 

 

≪星アキラ熱愛でなく共演!?――今秋公開予定の舞台の――≫

 

「星アキラ。星アリサの息子の。」

「コイツの芝居好きじゃないんだよね。」

「ああ分かる小手先というか。」

 

 テレビを囲んで、劇団天球の者たちは数日ぶりに本気で困惑していた。最近俺らこんなんばっかだな。なんでこうなってる?

 

(外部からの役者をこの時期にこんなに……。巌さんらしくない。皆戸惑っている。)

 

 七生が考え込むそばで、明神阿良也もまた彼なりに戸惑っていた。

 

「はぁ……、って気持ち。」

 

 

 

 一方、巌裕次郎と星アリサは、どこか険悪な空気で話していた。否、険悪な眼差しは、星アリサから巌に向けられたものだ。

 

「あなたにとってアキラは重荷にしかならないはずよ。こんなにすんなり話が通るなんて思いもしていなかった。」

「罪滅ぼしだよ。お前への。」

「……せいぜい利用させて貰うわ。」

「夜凪景。あれはお前の若い頃にえらく似てるな。」

「……あれは私より厄介よ。見る目が落ちたわね巌先生。」

「そりゃお前だよ。アリサ。ガキってのは化けるもんだ親の想像を超えて。」

 

 星アキラに対する、アリサの評価、巌の評価。現在は確かに星アリサの方が正しい。彼は果たして化けるのか。

 

 

 

 ぎこちない空気の中、劇団天球と星アキラは顔を合わせて挨拶をしあう。

 

「今日からお世話になります!星アキラといいます。舞台は初めてですが精一杯がんばります!宜しくお願いします!」

 

「……よろしく。」

「テレビで観るより可愛い顔してる。」

「顔だけじゃないといいけどな。」

 

 互いに距離の空いた、すこし嫌な空気の中で、アキラは数少ない顔見知りを見つけた。

 

「ああ夜凪く―」

「私、ウルトラ仮面さんと熱愛なんてした覚えないわ。」




最後、駆け足になっちゃったかな……。

読者さん達に質問します。恋愛要素、欲しいですか?要らないですか?

恋愛いれるとしても、誰かと両想いとか、付き合うみたいなことにはしないと決めています。命ちゃんの年齢の事もありますが、「家族が最重要」という価値観をブレさせたくないなので。
なので恋愛を入れるとしても、原作の景ちゃんの周囲のような、「ん?もしかして?」くらいの感じを何人かから示される、命ちゃんの方は気づかないか、躱すか、家族を優先する、みたいな対応をして貰おうと思っています。

皆さんはどう思うか、教えてください。


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変人の相性、実証

恋愛要素のアンケート結果、過半数が「要らない」、4割が「どちらでもいい」とのことでしたので、とりあえずは無しの方向性で行きたいと思います。

「欲しい」の方もいましたし、感想欄で「百城千世子との百合が見たい」とのご意見もありましたので、番外編かIFルートとしてそちらもいつか書こうかな。


カタタ、カタカタ、

 

 パソコンを打つ音を立てながら、続きの文章を考える。……『天使様』、流石にエタれないよなぁ。千世子さんに刺される。

 

 夜凪命、じゅうごさい。執筆中である。

 

 今日は休日。姉さまは公園で一人でお稽古。レイとルイは雪さんとクロヤマに連れられて、釣り堀に行っている。

 

 そしてわたしは、図書館で創作作業中です。最近いろいろあったので、書くのもちょっと憂鬱。

 ちなみにエタったことは無い。無いったら無い。未完結で(ちょっとだけ)放置している作品()たちはいるけど。

 

 この図書館はご近所で、そこそこ大きく、人の近寄らない自習室がたくさんあるので、わたしにとってはちょっとした秘密基地なのである。

 パーカーを着た座敷童 IN 図書館である。

 

 姉さまもここなら「一人で行っていいよ」って言ってくれますしね!!(ただし年に一、二度例のあの人(父親)と遭遇する)(姉さまには言えてない)

 

 最近は、姉さまが役者さんになったり、何故か南の島に誘拐されたり、大黒天の事務所という夜凪家の新しいたまり場が出来たり、南の島に誘拐されたり、わたしの天使に口説かれたりして、本当に、ほんとうにいろいろあったので、一人でゆっくりできるのは久しぶりな気がしますね。

 いや本当に。しみじみと噛みしめますよ静けさを。

 

 図書館の職員のお姉さんたちは可愛がってくれてるし。ノートパソコンも持ち込みオッケー。自作品のための参考資料を選んで持ち込んで、読み耽りながら書き綴る。

 

 少しの憂鬱さもだんだんと和らいで、二時間、三時間と時が過ぎて、頭は我を忘れるほど作業に集中して行ってしまう。

 だいじょうぶ。水分補給さえ気を付ければ、食事抜きでもなんてことはないのだ。

 

 あらかじめ考えていたノルマは達成した。『天使』のストックも増えた。推敲は明日にまわそう。おけおけ、今日めっちゃ調子がいいですわ。

 

 いま何時?三時、おやつの時間?ちょっと時間あまった、から、新しいネタでもかんがえよ~。

 

 花言葉の本ってパワーワードの宝庫ですよね。すき。でも恋愛系に偏りありよりのありでは?次ラブロマンスにしようかな~?やめとこ。ラブロマンス前提の復讐劇~沈没船を添えて~にしようかな?そうしよう。

 

 ノーパソをわきに除けて、紙のノートにガリガリとメモする。ほわ~今日まじで調子良いですねー!はかどるー!

 

バタン!

 

「あれ?なんだ人がいるんだ。はあ……って気持ち。」

 

 自習室のドアを開けて、気だるげな黒髪の男が入ってきた。

 

 急な雑音。物理的な意味でも精神的な意味でも。ノイズがはいる。うるさい。

 

「おいコラ、貴方様、集中力泥棒さんが。手前の罪を数えて下さい。さあさあさあ、どうかご理解ください。あなたは酷いことをしました。つぐなえ。」

 

 言い訳しておくと、わたしは何時間も集中して執筆していて、つまりはラリっているのである。

 

 そうじゃなきゃ初対面の殿方にこんな無礼な変人ムーブはしない。

 

 

 

 

 

 

「昼寝にちょうどいいんだよ。この図書館。」

 

 そう言いながらも、彼の手元には一冊の本がある。図書館だろ、読書してください。

 

「自習室を利用するなら、受付に名前と利用時間を書く義務がありますよね?書きましたか?」

「してない。……別に、怒られるわけでも無いんだし、いいじゃん、って気持ち。」

 

 ははぁん?

 こいつか。職員のお姉さま(おばさま)たちが夢中の、色っぽくてかっこいい「アラヤクン」って人は。確かに素敵な殿方、確かに怒られないだろう。

 

 わきに除けていたノートパソコンの画面を見られないように、パタンと閉じて紙のノートも片付ける。さっきは怒り心頭でしたが、頭が冷えました。この人もそんなに悪い事したわけじゃないですし、かえろ。

 

「ルール違反は褒められたことではないですけど……、まあわたしが文句を言うことでも無かったですね。因縁をつけて申し訳ありませんでした。

 わたしはもう帰ります。さようなら。」

「待って。」

 

 ぐいっと手を引かれて、わたしの体がぽふりと彼の胸元に飛び込む。なんというセクハラ。初対面の小さな女の子にしていいことではないでしょう。

 ちっちゃくて悪かったな!!!

 

「ひえ、セクハラ。普通に会話してくるタイプの不審者……!?」

 

 動揺するわたしに構わず、すんすんと匂いを嗅ぐ不審者の男。さてはマイペースか?落ち着け……!もちつけ。森で熊と出会ったら、背中を見せずにゆっくり逃げる……!

 

「やっぱり、臭い。けど、違和感あるよね。」

「……キレたいですけど、わたしは自分のマイナス点を受け入れられる女。改善いたします。続けて、どうぞ。」

「………………。」

 

 聞いてないですね、この変質者……。

 

 クサイ?わたしが?毎日お風呂に入ってるし、服装も清潔にしてるし、まさかそんなはずは……!ヘアワックスの匂いはそんなにキツイものでも無いし、うう、やはり思春期になるならば、制汗剤とか使うべきなのでしょうか……!?

 

「何の匂いもしないな、って思ったんだよね。最初。それって逆に珍しいくらいなんだけど、最近そういう人(星アキラ)と良く会うからさ、またか、って気分になったんだけど、でも違うだろ。

 お前、匂いがしないわけじゃない。俺が匂いに気づかなかっただけだった。」

「うわ、男版座敷童。」

「なんて???」

 

 変な人だぁ。変な人がいるぅ。

 うわぁ、我ながら急激に興味関心が湧いてくるのを感じます。父親に似たのでしょうか、ヤですね。仲良くなって小説のネタにしたくなってしまう。

 ホントにヤです、この衝動。

 

「とりあえず確認しますが、貴方の言う「ニオイ」は物理的な、つまりは「誰にでも嗅げる」匂いの話では無く、他と違う感性を持った一握りの方々にしか理解できない匂い、ということでよろしいですか?」

「うーん、……うん?うん。そうだね。俺と巌さんだけしか「臭う臭わない」って感覚は無いみたい。」

「そうですか。ではもう一つ確認させてください。わたしの匂いについて色々と思うところがあるようですが、良い悪いで言うならどちらですか?」

「え、知らないけど……。でも俺は、……俺も確認したい。知りたいな、って気持ち、です。」

「ええーー……。とりあえず、手、放してくれませんか?」

「嫌だけど。」

「どうしても、です。」

「ええ、しょうがないな……。」

 

 やった、解放されました。いえい!

 

 選択肢1、逃げる。わたしは姉さまと違って脚力には自信がありません。むり。

 選択肢2、叫ぶ。逮捕されたら変人が惜しい。図書館の評判ももったいないです。却下。

 

 うーん?わたしが考えあぐねている間にも、不審者も匂いを嗅ぎながら何やら考え事をしている。無表情だが視線がゆらゆらしているし、なんとなくそんな気がする。

 

 二人で目を合わせて顎に手を当て、揃って首を傾げる。はてなのポーズ?鏡写しでおんなじ仕草、かわいいですねこの男。

 

「……強すぎる匂いは人に嫌われる、でも、匂いに気づけなかったら、嫌われない、って考えていいのかな。

 巌さんにも聞いてみたいな、って感じ。ねえあんた、ちょっとついて来てくれない?」

「ごめんなさいですが、知らない人について行っちゃいけないよってお約束なので……。」

「誰との約束?」

「家族と雪さんとお世間様のお約束です。」

 

「俺の名前、明神阿良也。これで知らない人じゃないでしょ。来て。」

 

 みょうじん、みょうじん……?明神阿良也!?

 

 コイツ、姉さまにセクハラした男か!!??

 

 舞台役者の明神阿良也、どうりで色男なわけです。そして職員さんたちにモテるわけです。既婚者さんも独身さんも皆できゃあきゃあ言っていたのも、同じ男にお熱なわりにギスギスしてないことも、変だと思っていたんですよね。

 なるほど、芸能人。

 

「行きません。良い子は家に帰る時間なので。」

 

 パソコンとノートを鞄にしまって、早急に帰宅の用意を整える。

 わたしはすべてを理解しました。この男は姉さまの共演者、姉さまにセクハラした男。そして、姉さまは最近お稽古場から鬼ごっこをして帰ってくる。

 つまり、わたしと彼は出会うべきではなかったのです。姉さまがわたしを守ってくださっていた。

 

「もう?まだ昼間じゃん。その年なら朝帰りぐらいはするべきだろ。」

「あなたもしかして、不健全な男ですね?」

 

 そして何才に思われているのでしょう、わたし。通常なら小学生か中学生くらいに勘違いされることも多いのですが。

 

「どうしても、だろ。俺はアンタの手を離した。なら、次はそっちは意見を聞いてくれる番じゃないの?って思うんだけど。」

「レディに無理強いする男性は嫌われますよ。」

「それがそうでもないんだよね、案外。というかレディって名乗れる年齢じゃないでしょ。」

「ではリトル・レディを名乗ります。」

 

 くるりと踵を返して、追ってこないことを祈りながらその場を立ち去る。

 

「待って。……どうしても一つだけ。銀河鉄道の夜、の、理解が深まるやり方って、何かないかな?って疑問を持ってるんだけど、どう?」

「……不思議の国のアリスだと思いますよ。それではごきげんよう。」

 

 銀河鉄道、銀河鉄道の夜、ですか……。

 

 それがあの人と姉さまが創り上げる舞台。小説は読んだことがありますが……。

 

 列車が宇宙を走り、鳥はお菓子で出来ていて、死者が乗り、ジョバンニの切符があればどこへでも行けるはずなのに、「本当の幸せ」を見つけなければ親友の居る場所にもいけやしない。

 

 まるで「不思議の国」だけど、アリスの旅よりもずっと哲学的で、そして悲しい。

 

 アリスが目覚めるとそこにはお姉さまがいる。ジョバンニが目覚めるとそこにカムパネルラはいない。

 

 まあ、あの明神阿良也がアリスを読んでどう理解するか、そして銀河鉄道にどう繋げるかは、神のみぞ知る、といったところでしょうが。

 

 

 はあ、疲れました。驚きの出会いでした。おうちかえりたいな、かえろ。あ、自習室に持ってった本、まだ返してない。

 

「あ、メイちゃんもう帰るの?はやくない?」

「こんにちは、はい、あの、実は知らない男の人が自習室に突然入ってきて、逃げてきちゃったんです。たぶん皆が言ってたアラヤさんだと思うんですけど……。」

「ああー。あの子勝手に入ってって昼寝していくんだよね。ごめん、ちょっと怖かったでしょ?大丈夫?」

「平気です。でも、借りた本をたくさん自習室に残してきてしまって。どうしようかと。」

「うんうん、大丈夫大丈夫。私たちが戻しておくよ。」

「ありがとうございます!!」

 

 おうちかえろ。

 

 

 




明神阿良也
 「顔が似ている」という感覚を持たないタイプの人。命が夜凪景にとても似ていることに気付かなかった。
 不思議の国のアリスを読む前に巌さんに相談する。「やめとけ、余計混乱するぞ」って言われた。


夜凪命
 毎日なにかを書くが、たまに一日中集中してめちゃくちゃ大量に書く。そんな日の後は体調崩しがち。


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