桐山君は清滝家の長男坊?【本編完結済】 (紫電海勝巳)
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盤外秘話
盤外編①桐山一門インタビュー


本年も宜しくお願い致します。
ってもう10日以上
過ぎた訳ですが…

そんな事は兎も角、この正月休みの中、どうにも次のネタが思い浮かばず、こうなったら…って事で一門インタビューをぶち込む事にした次第です。

って訳で番外編スタート!!


2020年3月某日・神戸市にて…

 

『本邦初の将棋界最強の一門全員集合インタビューが今此処に実現!!』 

 

ってなんか煽るだけ煽るヤバ過ぎる前文付きの取材が舞い込んだんだけど…

 

 

これは師匠としての僕の鼎の軽重を問う話なんですかね?

そこは別に僕自身への批判程度なら程度に拠るけど静観する事も可能だけど…、

然し、可愛く且つ、これからの未来が拓けてる幼若の弟子達への誹謗中傷となれば彼らに対する責任者・庇護者として何としても阻止しなくてはならないので、そこは特に細心の注意を払い、結果、信頼に足り且つ僕との信頼関係がかなり濃い(って言っても建設的意見の交換が凄まじいレベルだけど)敏腕記者の人物がインタビューアーとしてこの取材に臨む事となった。

 

 

記者(以後、質問者として『』で表示)

『本日は皆様ご多忙の処、此処にお集まり戴き誠に有り難く存じ上げます。今回は将棋界最強にして、最も勢いの強い一門として、皆様方桐山一門の知られざる内面を一部でも御披露して戴こうと、卒爾ながらお集まり戴いた次第で御座います。』

って紋切り型のマニュアルご挨拶から始まり、

『それでは紹介致します。まずは、一門の総帥・十九世名人にして、史上初の小学生棋士、史上初の小学生タイトルホルダーでもある桐山零名人!!、続きまして、桐山名人の1番弟子にして史上初の女子小学生棋士となった夜叉神天衣新五段、…3人目は、師匠の桐山名人を凌ぐ小学2年・僅か8歳にしてプロ棋士に名乗りを挙げた宗谷冬司七段、最後の3番弟子は…、人と酷似していながらも独自の生態として認識されている『ウマ娘』の血筋にして且つ、桐山名人とは血筋上の縁者でもある桐山カタリーナ山城桜花!!以上の4名様に此処から色々とお答え致します。』

 

…って事で、なんとも面倒にしてどうにも都合の悪いインタビューになりそうだ…

 

只、救いは僕の奨励会時代からその歴史を追い続けた話の分かる記者が担当である事と思っていたのだが…

 

容赦無かったです。

 

 

 

以降、インタビューの一部始終…

 

 

『本日は一門の皆様方にお集まり戴き、誠に恐縮至極に存じ上げます。此方は桐山名人の大スポンサーにして地元の名士であられる夜叉神弘天氏所有の結婚式場の一角で御座います。此処にて将来のプランを立てるも良し、自身を見直す機会にしても良し、…ありとあらゆる可能性が混在しておられる方々なのですから一度立ち止まり、改めて将来のプランを練り直すのもアリ…っと、長々と申し訳御座いません。では、名人から簡単に自己紹介をお願い致します。』

 

 

桐山零名人(以後、桐)

「桐山零です。プロ歴13年目で今年24歳、現在は妻・娘2人・内弟子1人の5人家族です。それ以外はインタビューの中でおいおいと」

 

夜叉神天衣五段(以後、夜)

「夜叉神天衣です。去年プロに足を踏み入れたばかりの12歳・この春、中学生となりました。他は師匠同様、インタビューでおいおいと」

 

宗谷冬司七段(以後、宗)

「宗谷冬司、プロ2年目、そろそろ10歳です。零く…(夜叉神五段に睨まれ…)桐山師匠と知り合ってからは3年です。他はインタビューで」

 

桐山カタリーナ山城桜花(以後、カ)

「桐山カタリーナです。去年女流資格を得ると同時に桐山師匠に弟子入りした一門の末妹です。2006年5月生まれですので現在は中学2年、間もなく14歳となります。それ以外の経歴その他についてはインタビューでおいおいと」

 

 

 

なんか皆覚悟を決めてるのか、余計な事質問するな的なオーラ・プレッシャームンムンなんだけど…

 

 

 

 

『それではまず、お弟子さん御三方の名人への弟子入りの経緯からお伺い致したく…』

 

夜「私は師匠の最初の弟子ですが、元々今は亡き父がアマチュア名人の身分で挑んだ際、本戦入りの懸った盤王戦予選決勝で師匠と戦い、健闘したものの最終的にはぐぅの音も出せない程の完敗だったとずっと教えられ、此処から本来プロでも通用していた父に白旗上げさせる師匠の下で思う存分研鑽したいと思ったのが私の将棋人生の原点です。その後は両親が亡くなり、父ではなく祖父のルートから師匠を紹介して貰い、師匠に認められ、今現在に至ります」

 

宗「僕は生まれる前から(夜叉神五段に小突かれる)…、というのは置いといて、師匠とは初めて会った気がしない程に運命的なモノを感じたのは誰にも否定させません(夜叉神五段を睨みながら)。実際に初めて顔を合わせたのは3年前の小学生名人戦決勝大会での公共放送施設内の特設スタジオでしたが、その時は若くて強いとしか感じられ無かったのですが、帰路の京都までの新幹線で同乗した際、偶然席が隣り合わせだったので思い切って声を掛け、東京から京都までひたすら指し続け、決着が着かないまま京都の自宅に戻ったのは今でも…否、生涯最大の思い出です。その頃の僕は姉…供御飯万智さんとの繋がりから加悦奥先生(大成八段)の道場に出入りしていましたが、桐山師匠と邂逅したのを機に僕の方から破門を申し入れ、先生もより波長の合う相手と巡り会えたならその方がいいと言うスタンスだったので僕の懸念とは異なり、案外スムーズに桐山門下に移籍出来ました。ですから師匠は桐山名人ですが、加悦奥先生からの恩義も生涯背負う覚悟で今後も生涯将棋にのめり込む次第です」

 

カ「私は元々出自自体が人間ではなくウマ娘ですので、普通にいけば今頃は東京のトレセン学園に入学してジュニア級でのデビューに備え、レースに勝つべく鍛錬していた筈でした。ですが、母がG1で勝負出来るレベルでありながら結局重賞1つも取れずに引退した現実を知り、私のフィールドは此処じゃないと思い、この頃興味を抱いた将棋にのめり込んだのが始まりです。母及び母のトレーナーを長く務めた父からもずっと考え直せとウザいくらいに説得されましたが私にとって今や将棋はレースの上位互換にまで昇華していたので勘当でも何でも好きにしてくれレベルで盛大に反抗期の親不孝を重ねに重ねるウマ娘失格な不孝娘やっていました。その後小学6年になり、親に反抗できるのも今年1年限りと思い定めた女王戦(マイナビ女子オープン)でこれまで突破すら夢だったチャレンジマッチを全勝突破、続く一斉予選も勝ち上がり、参加3年目にして初の本戦進出を果たし、あれよあれよっていう間に決勝進出して、その頃に師匠が従兄であるのを聞かされて、ここで勝って師匠に弟子入り…ってプラン考えてたんですが、よりによって決勝五番勝負の相手が天衣さんでしたからね…、で、何とか戦えたけど結局女王を取れず、泣きながらフラフラ自室に戻ろうとしたとこで師匠に呼び止められてスカウトされて弟子入り…それも内弟子って事で現在に至っています」

 

 

 

『それでは好みの戦型、スタイルを差し支えない程度で紹介いただければ…、では、師匠たる名人からどうぞ!』

 

桐「僕は特に絶対コレってのはありませんので相手次第、気持ちのノリ次第で色々試しつつ戦っています。人によっては変態扱いされる事もありますが面白ければのめり込む方なので、そこは仕方無いかなぁとは思っています」

 

夜「私は師匠の将棋をずっと浚い続けて今に至っていますので、どちらかと言えば自在型オールラウンダーを目指し、少し近付いては又遠ざかるを繰り返して藻掻いている処です」

 

宗「僕は常に先のまた先を見たいスタンスですので決まった戦型は特に持ってはいません。敢えて言うなら、先程天衣ちゃんが話していた自在型オールラウンダーが近いのかな?という感じかと…」

 

カ「私はアマチュア時代では振り飛車主体で指していましたが、女王戦で天衣さんにコテンパンに伸されて以降、師匠に弟子入りしてからは居飛車を本格的に学び始め、天衣さんにも冬司君にもまだまだ及びませんが、奨励会ではそれなりの武器にはなっているようです…。現在は奨励会2級ですが、まだまだ修行途上ですのでこれからも更に精進しようと思っています」

 

 

 

『では、次は少々脱線致しまして、御自身のお相手としてどのようなタイプが望ましいのか…お願い致します。あ、桐山名人は御遠慮願います。貴方は既に一家の主ですので』

 

夜「私はまず将棋の強い人が最低条件です。その上で、1人にして置けない孤独な人…ですか…。そうなるとかなり限定されるのですが、師匠にもその様な空気がありますので、私がもう少し成長していれば使えるモノ使いまくってでも…とは思ってます。現実現状では望めませんが」

 

『って!!早速危険な告白ですか?!』

 

夜(一瞬で気付いて焦り気味に)「って、こんなの載せる気?!一寸待って!今の消して!は?このまま掲載するっ??待・ち・な・さ・い!!!せめて柔軟に編集するって手もあるでしょ?アンタ頭硬すぎよ!そこは乙女心ってのを理解しなさい!!!」

 

『はぁ…名人、どうしましょう?これは名人でなければ…』

 

桐「なんで僕が…。天衣が僕に対して師匠以外でも人として慕って貰えているのは人として冥利に尽きると思います。けど、それ以上の事については僕からはなんとも言えないでしょう…難し過ぎます…」

 

宗「別にいいでしょ、天衣ちゃんの本音告白って事で。実際僕も性別違えば零君に全てをぶつけてたし。あ、盤上では何もかもぶつけにぶつけてるけど。って訳で僕のタイプは零君。以上」

 

カ「って冬司君、全くどさくさ紛れにシレッと…。って、私ですか?う〜ん、強い人多いですから…ですが取り敢えず九頭竜竜王はありません。あの人、金髪幼女がお好みのようですし。神鍋帝位?あのノリは理解不能です…。ニ海堂棋帝?尊敬する先生ですが、己の命を軽視しがちな姿勢はどうかと…。神宮寺先生?あまりに豪快・豪傑過ぎて私では…。あの人は桂香さんで無ければ夫婦やっていけないと思います…。なら?…ん〜、そうなると師匠ですかね。なんかしっくり来るんですよ。なんですけど、万智義姉さんの存在が大き過ぎて…という事でこれはここまでって事にしましょう」

 

桐「あの〜皆さん、何故僕に行き着くんですかね?取り敢えず皆さんどう思おうが僕は既に所帯持ちですから…。現実言うならせめて僕以外から探して欲しい処なんだけど…」

 

『推測するに、名人程の実力・カリスマ性・面倒見の良さ…、こんな人そうそう見付けられませんね。『名人』だと、最後の所が弱いですし、他の現役の強豪の先生方にしても互する程には…となりますからね…』

 

夜「師匠以外で上げろ?って言われても…そんな人ゴロゴロ転がっている訳ないじゃない!!……けど、ムリヤリ強引に近いのを敢えて拾うなら…冬司?強さと伸び代は誰もが認めるレベルだけど、一方では将棋以外はどうにも無頓着で生活力皆無なのがどうにも気に障るけど」

 

カ「私ですか?冬司君はありません。まず危う過ぎます。だったら師匠の1番下の弟弟子に当たる健司君(土橋健司奨励会員)の方がまだ安心出来ます。」

 

宗「え?リーナって土橋君に気があったの?土橋君からは何も聞いてないけど」

 

カ「言う訳ないでしょ。彼まだ小4よ。って言うか、気がある云々じゃないんだけど。冬司君が危う過ぎる対比で喩えただけだし」

 

桐「この手の話はキリが無いからもうこの辺で」

 

 

『ですね…。それでは次に前期限りで現役を退いた御三方…、月光聖市十七世名人、十八世名人たる『名人』、柳原朔太郎永世棋帝の各先生方についてお伺いたいのですが…、名人、宜しくお願い致します』

 

桐「そうですね…、まずは月光先生からですが、兎も角も師匠同様に永らくお世話になっているので或る意味師匠に近い存在かも知れません。…これは話すべきか肚に呑み込んだままにすべきか今でも迷っていますが、先生からのお叱りを承知の上で話す事とします。そもそも先生が連盟会長に就任したのは、僕や後に続く若い芽を存分に伸ばし、無用な圧力や既得権益の生贄から守る為でした。これは当時の理事達が全て引退・隠居した今だから話せる事です。当時の連盟は『名人』が君臨する状況の中、一部からは「斜陽産業」と揶揄される程に経営状態が芳しく無かった事実があります。そんな中で小学5年の僕が常識破りのプロ入りを果たした事で既得権益維持に汲々とする理事達が僕を生贄にして甘い汁を吸わんと色々と画策し、僕も将棋界の為になるなら…とあちこちに露出して回っていたのですが、流石に疲労が出始めた頃に月光先生が状況把握の為に僕を尋ね、把握するや、水面下で極秘裏にクーデターの準備に取り掛かり、清滝師匠も全面協力して各所に根回しを行った上で臨時総会の開催を要求、その総会で当時の執行部解任を絶対多数で可決し、新執行部の象徴として会長に就任した経緯があります。ですので、今でもって言うか、一生頭が上がらない存在である事は間違いありません。」

 

『はぁ…、のっけからとんでもない暴露話が出ましたか…。それにしても差し支え無ければ、その根回しの内情の一部だけでも何とか話して戴きたいと…』

 

桐「う〜ん…、これもお叱り前提で申し上げますが、その根回しの中で、関東の有力棋士の先生方からも賛同戴いた事で圧倒的絶対多数を以って体制刷新に至ったのは事実です。実際、名前は申し上げられませんが、とある実力者の先生からは直に当時の体制への不満をブチ撒けられましたし…」

 

『えぇ〜っ?!小学生当時の桐山名人にそこまでぶつけるって何とも大人げないと云うかそれだけフラストレーションが溜まりに溜まっていたか…何にせよ、当時の体制では先細りまっしぐらの危惧が棋士大半にあったと云うのは間違い無いようですね…』

 

桐「そうですね…。当時は法人資格の変換問題も有りましたし、そんな中で時代の転換と言う名の気流に如何に乗り切るのか、そこが最大の課題でもありましたからね」

 

『何か月光十七世名人のお話ばかりになってしまいましたが、『名人』と柳原永世棋帝については?』

 

宗「僕に答えさせて。『名人』は僕と零君と同類の将棋でしか生きられない人種だね。あの一見真剣な表情の皮の下は当に将棋ジャンキー以外の何者でも無い」

 

夜「ジャンキーって…、『名人』もアンタにだけは言われたくは無いって思っているわよ」

 

カ「あの〜…、天衣さん、プロにせよ女流にせよ、将棋を生業としているならば、そう言った「ジャンキー」な部分は誰しも持ち合わせていなくてはならないと思うけど…」

 

夜「それはそうに決まってるじゃない!!そんな呑み込まれた奴等じゃなきゃこんな過酷な世界で生き延びられる訳無いわ!」

 

桐「『名人』を語るには『名人』と対峙しなきゃその本質が見えないと思うんだけど、まずリーナは無いよね?そもそもプロ棋戦に出場してないし。で、天衣は…、賢王戦本戦トーナメント2回戦で当たったのが唯一…勝つには勝ったけど、語るにはまだ足りないかな?後、冬司は竜王戦本戦トーナメント3回戦で勝って、他は大河戦ブロック戦決勝で負け、公共放送杯3回戦で勝って、玉将戦2次予選決勝も取って3勝1敗…さて冬司、さっき以外で『名人』に何を感じた?」

 

宗「本人は、盤上真理の追求なんて勿体ぶった物言いで話してるけど、結局殻を破った先を見たいだけでしょ。そんなの僕も零君も同じ方向向いてる訳だし。『名人』のオリジナルって訳ないよね」

 

桐「全く冬司らしいな(苦笑)、ま、僕にしても『名人』みたいな小難しい解釈よりも如何に楽しい領域で指し続けるか、その手の次にはどんな新手が待っているのか?のワクワク感満載の対局の方が面白くなるって持論がありますし」

 

『柳原永世棋帝については?』

 

桐「これは僕しか答えられませんよね…。まず一言で申し上げますと、盤上の妖怪、ですかね。誰がどう考えても古希レベルでA級在位だったり、竜王戦でも常に1組か2組しか居ないし、…そんなの空前絶後って言いたい位に常識破りの大御所ですからそうも言いたくなりますね」

 

宗「柳原さん…、盤王戦本戦で当たって勝ったけど、あれで引退はまだ5〜6年早いと思った…」

 

 

『この質問はこれ迄にし、最後に今後の目標と、荒唐無稽で構いませんので「夢」も交えて語って戴ければ…と』

 

 

桐「僕は、これから僕や同世代を目標に虎視眈々と首取りを狙う若い魂の勢いを受け止めつつ、更なる先を目指したいと思っています」

 

夜「私は、まずはどれでも構わないから師匠の持つタイトルに挑み、『恩返し』を果たしたく思います」

 

宗「僕は、いずれ零君を独り占めしたい!!」

 

夜「は?アンタ正気で言ってる?あの女狐に勝てる訳ないっての解ってる?」

 

宗「僕が万智ちゃんに負ける?無いしwww」

 

リ「冬司君が万智義姉さんに勝てる未来は見えないね。…って事で私の今後については、次期奪還に挑む万智義姉さん相手の山城桜花戦がこれからの私の将棋人生を左右するのは間違い無いとして、後は、現在あいちゃん(雛鶴あい女流名跡)の持っている女流名跡にも手を伸ばしたいって思惑も少なからずあります。それと、今は奨励会にも在籍していますので、プロ棋士への夢も背負いつつ、更に精進したいと思っています」

 

『皆さん、それぞれ個性的な目標を挙げて戴きましたが、小誌もその目標を最大限応援させて戴きます(一部除き)』

 

 

と云う訳で今回のインタビューはお開きとさせて戴きます!!

 

 

 

 



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盤外編②リーナちゃんとシンボリルドルフ

最終決戦編の案件がなかなか纏まらない状態なんで、ガス抜き替わりにリーナちゃんの女流入りからプロ入りした現在迄の間に起こった、とある出来事を書いてみようかと執筆した次第で…

尚、今回は基本的にリーナちゃん視線で綴る事となります。

って訳で本編スタート!!




あれはロr九頭竜竜王が空先生に貫禄勝ちして即席婚約発表を終えて京都に戻って少し経った年末…

 

世間では年越しの空気が充満していたが、この時の私にはそんなゆとりなんか欠片も無かった…

 

何故なら女流名跡リーグ戦の最終戦で7勝1敗が4人並んで全部直接対決となっていたからだ。

その4人とは…

 

夜叉神天衣五段(清華・女王・女流玉座)、私(山城桜花)、岳滅鬼翼女流帝位、鹿路庭珠代女流三段であり、何れも一筋縄では通用しない面々である。

 

 

で、その最終戦直接対局の組み合わせは…、

 

 

夜叉神五段vs岳滅鬼女流帝位

 

私(桐山山城桜花)vs鹿路庭女流三段

 

となり、この勝者がプレーオフを戦い、その勝者が雛鶴あい女流名跡とのタイトル戦五番勝負に臨む図式となった。

 

 

 

そして天衣さんと私が勝ち上がり、年明け早々にプレーオフが行われ、その後に女流名跡戦五番勝負が行われる流れとなっていた。

 

 

 

 

そんな中年末も年末、30日にもなって突然東京から態々来訪して来た珍客が現れた…

 

日本トレセン学園生徒会長にして七冠ウマ娘の『皇帝』シンボリルドルフさんと、その盟友にして『スーパーカー』の二つ名を持つマルゼンスキーさんであった。

 

取り敢えず住んでいるマンションの向かいにある喫茶店で会う事となった。

師匠も同席する事となり、奥にルドルフさんとマルゼンさん、向かい側に師匠と私がそれぞれ座った。

 

 

 

 

 

 

お互い軽く自己紹介した後、暫く沈黙が続いたが…、やがて口を開いたのはルドルフさんだった。

曰く、

「桐山カタリーナ君、私が君に大いなる興味を示し、この年の瀬に態々京都くんだりまで訪れたのは他でもない、G1週の土曜日に行われるアマチュア招待レースでブッちぎりの圧勝を繰り返し見せてくれたからだ。4月仁川・桜花賞での1600、5月府中・日本ダービーでの2000、10月淀・菊花賞での2000、この3レースで何れもトゥインクルレース…それもクラシック級レベルを超えるタイムと上がりタイム、今年のマイルカップとダービーを連覇したディープスカイ君ですら仰け反るレベルの圧巻ぶり…、否、もっと極端に云えば、先頃の府中・天皇賞(秋)での勝者ウオッカ君と大僅差で敗れながらも負けて尚勝者に等しい評価を勝ち得た上、つい先日の有マ記念で爆走逃げ切りをやってのけたダイワスカーレット君さえも届かない…

日本ウマ娘の中でも極上の資質持ちにして、世界ウマ娘レースでも十二分に通用する逸材をむざむざ見逃す手なんて私でなくとも考えられん。」

と一見クールに見えながらもその実、迸る熱情を隠す事無く私に来い来いアピールをドン引きレベルで繰り広げていたのには何とも閉口したが…。

 

 

で、ルドルフさんが熱弁している中で師匠と云えば…

 

 

「日本トレセン学園については僕なりに調査を行い、その優位性や待遇、反面的な諸般のデメリットなんかの最低限の知識・認識は少なからず考慮した上で答えさせて頂きますが、少なくとも僕がリーナを手放す選択肢は微塵も御座いません。」

 

 

と、私の盾になる事を高らかに宣言。

 

 

然し私を世界レベルの逸材と見做したルドルフさんもそう容易く退く訳もなく、

「彼女の生涯を思うのならそんな頭でっかちなゲームに縛らず、是が非にでもウマ娘としての本質・原点に送り出すのが筋と思うのだが如何か?」

って更に押し込んで来た。

 

が、そのルドルフさんの反論が師匠の琴線を最大限に揺さぶり、その逆鱗を甚く刺激する事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ?お前程度の小娘が俺の人生そのものの将棋に何をしたり顔で物申す?確かにお前がトゥインクルレースに絶大なプライドを持ち、それだけの実績を挙げたのは誰もが認めるさ。けどな、そんな稀有な実績に甘えて他の逸材ウマ娘とそのサポートメンバーの未来を狂わせたのもお前の独り善がりのエゴの結果だった事実に何故気付かない?否、お前はその事実から目を背けていたんだよな、己が強者である事を維持する為に…」

 

 

 

 

 

ルドルフさんのある種のコンプレックスを甚く刺激する激烈な反発ではあったがそれにしても私の知る限り、師匠が自身の一人称に「俺」を使ったり、彼処まで荒っぽい言葉遣いになったり…と云うのは悪い意味で物騒過ぎてルドルフさん以上に私の方が魂を抜かれ兼ねない勢いだったのはどう考えようが仕方無かった。

 

因みにその逸材ウマ娘とは、『芦毛の怪物』オグリキャップさんで、カサマツ時代のトレーナーと同僚の親友と別れざるを得なくなったエピソードを師匠は知っていたのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな師匠とルドルフさんの激論を仲裁したのは、それまで黙ってお互いの意見の聞き手に徹していたマルゼンさんだった。

 

 

曰く、

「全くルドルフも桐山名人も頑固に頑固を重ねた頭でっかちなんだから…。

だったらルドルフとリーナちゃんで勝った方が負けた相手に要求を呑ませるって事で模擬レースすればいいんじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

は?ウマ娘レーサーとしての鍛錬なんて私なんかまるで実践してなかったし…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

って…、何で師匠まで乗る訳…

 

 

 

 

 

 

「マルゼンさんがどう宥めようがルドルフさんが聞く見持たずじゃ現状避けられないよな…」

 

 

 

 

って、師匠、一体全体どうするつもりなの?

 

 

 

 

 

 

 

……って思ったら、狭い喫茶店に何人ものウマ娘が何故か集結していた…。

 

 

 

 

話合いのテーブルには師匠は別として私とルドルフさんとマルゼンさんの3人。

 

 

 

 

 

隣のテーブルには3人が座っていたが、そのうちの1人が伝説のウマ娘の一角であり、先程師匠が例に上げていた

 

『芦毛の怪物』

 

オグリキャップさんだった。

 

他の2人はと言うと、その2人もトゥインクルレースを席巻したスーパースターウマ娘の

 

『白い稲妻』タマモクロスさんと、『高速ステイヤー』&『若き天才トレーナーの恋人』の二つ名をもつスーパークリークさんであった…。

 

 

更には去年のダービーウマ娘の『日本総大将』スペシャルウィークさんに『怪鳥』エルコンドルパサーさん、『不死鳥』グラスワンダーさんに加え、『トリックスター』『クラシック二冠ウマ娘』のセイウンスカイさんと、『不屈のキング』キングヘイローさんも近くのテーブルに陣取っており、私達の話を興味深く聞いていたようで…

 

 

 

 

 

 

 

だけじゃなく、スペシャルウィークさんを「スペ先輩」と慕う後輩世代(私よりは先輩であるが)の『府中の女帝』ウオッカさんと『クリムゾンカラーの一族』の最強の結晶の呼び声高い『緋色の女王』ダイワスカーレットさんも近くのテーブルに陣取り、私についての知識を吸収していたのには…

 

 

 

それでも師匠は

「絶対拒絶」

との姿勢を崩さず、ルドルフさんに

 

 

「貴方はジャイアンですか?じゃなければ鷹村守ですか?」

 

 

と、何が何でも私を守り通す姿勢を貫き通し、流石のルドルフさんもどうにか妥協点を導き出す他無かった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして導き出したのが大晦日京都2000の特別レースであり、メンバーの殆どがG1級の準G1レースってな面子ではあった。

 

 

 

 

 

 

◎出走ウマ娘

 

① 1番  セイウンスカイ

② 2番  スーパークリーク

③ 3番  グラスワンダー

④ 4番  タマモクロス

④ 5番  ウオッカ 

⑤ 6番  ヤエノムテキ

⑤ 7番  ダイワスカーレット

⑥ 8番  桐山カタリーナ

⑥ 9番  シンボリルドルフ

⑦10番  スペシャルウィーク

⑦11番  オグリキャップ

⑧12番  エルコンドルパサー

⑧13番  キングヘイロー

 

 

……私以外でG1タイトル未経験者って誰もいないじゃん!!

マジで囲い込みに掛かって来たか…

 

 

 

 

あ〜、今トレセンで活躍してつい先日阪神JFで初G1取った親友のブエナビスタちゃんから聞いた通りだった…

ルドルフさんの執着心の凄まじさと来たら聞いた以上だよ…

けどこうなったら何としても勝って諦めて貰うしかないんだよな…

 

それじゃ準備運動に入りますか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日午後3時…京都レース場・通称『淀』のターフに全13人のウマ娘が発走準備に取り掛かっていた。

 

 

前日に決めた枠組の順にゲートに入り、師匠とマルゼンさん、話を聞いた師匠一家と冬司君、そして何故か現地で待ち構えていたゴールドシップさんの7名のみの観客が見守る中ゲートが開き、レースがスタートした。

 

 

先ず先陣を切りハナに立ったのはセイウンスカイさんで、直ぐ後ろの2番手にはダイワスカーレットさん、以下の先行勢はスーパークリークさんにルドルフさん、エルコンドルパサーさん、ヤエノムテキさんとなり、中段にはスペシャルウィークさんにオグリキャップさんと私が位置し、後方はグラスワンダーさんとウオッカさん、キングヘイローさんで最後方はタマモクロスさんの順で前半1000を通過した。タイムは57秒7と速いペースだった。

 

 

そして淀の坂に入り、慎重に心臓破りの坂を通過…下り切った処でスパートを…って!うわッ!ルドルフさんに先んじられた…って、え?今度は横から白い稲妻…タマモクロスさんがすり抜けて行ったよ…

 

って呆然としてる場合か!切り替えてスパートだ!

 

 

ってモタついている間にも全てのウマ娘がスパートに入り、完全に遅れてしまったか…

けど淀の直線はそこそこあるし、何よりも平坦だから巻き返しは可能だ…

 

が、(私以外)全メンバーがG1ウマ娘のハイレベルな上、逃げてもバテず、差し脚も鋭く、ハイペースなのに更に絞り尽くす激走…

 

けど私は私の道を突き進む為にもこんな処で心身圧し折られてたまるかッ!!

 

渾身のスパート、末脚を繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果…1着のタイムは1分55秒8、上がり最速は31秒6とマジでG1優勝レベルのハイレベル決着となった…。

 

 

1着→スペシャルウィーク

2着→シンボリルドルフ

3着→ダイワスカーレット

4着→オグリキャップ

5着→タマモクロス

6着→スーパークリーク

7着→グラスワンダー

8着→ウオッカ

9着→エルコンドルパサー

10着→桐山カタリーナ

11着→ヤエノムテキ

12着→キングヘイロー

13着→セイウンスカイ

 

 

但し、1着と最下位の着差は僅かに1バ身であり、セイウンスカイさんもタイムは1分56秒0と普通なら十分逃げ切ったレベルの結果ではあった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レース後、改めて話し合いとなり、レースそのものは完敗だったもののルドルフさん、どうやら私の将棋への情熱・熱量を理解してくれたようで、結局トレセン行きの話はナシとなった。

 

 

別れ際、ルドルフさんから、

 

「その頃に私が在籍しているかは分からないが、将来君が名人となったなら是非にもトレセン学園に講義に訪れて貰いたい」

 

と、最大限のエールを頂いた。

 

 

マルゼンさんからも、

 

「あのメンバー相手にあれだけやればバッチグーよ(はーと)!これからの活躍期待してるわよ。」

 

との激励を頂き、改めて将棋への覚悟を誓ったのだった…

 

 

後日談…

 

その後、年明けに行われた天衣さんとのプレーオフをどうにか勝ち上がり、あいちゃんの持つ女流名跡に挑戦、交互に勝敗を繰り返した結果…

 

 

○●○●○…全て後手番勝利の珍しいケースで私があいちゃんから女流名跡を奪い、山城桜花との女流二冠に輝いた。

又、山城桜花も万智義姉さん相手に東京での第1局は落としたものの、京都での連戦を連勝、初防衛すると共に女流タイトル通算3期獲得により、女流四段に上がる事となった。

 




何気に書いてみたのですが、全員G1メンバーでキング以外は悉く複数回勝ってる怪物揃いとか、普通ならブッちぎりの最下位でもおかしくないメンツでタイム差コンマ1とか年齢的にジュニアなのにシニア世代相手にあれだけやれたら確かに『皇帝』様もスカウトの手を伸ばしたくなるよな…って程にはリーナちゃんチート過ぎます…


以上、リーナちゃん視点でのお話はこれにて完了!!


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第1章 パラレル転生の天才少年降臨
逆行?と思ったら混沌なパラレルワールドに転生してました


僕の名は桐山零…

 

第◯◯期名人戦最終第9局…

 

 

 

将棋界絶対王者宗谷冬司名人相手に3勝3敗2持将棋2千日

手の果て無き死闘の末、最後も300手超えの闘いを

宗谷名人の投了宣言で遂に名人位の系譜に僕…桐山零の

名が新たに刻まれた…。

 

その日の感想戦から打ち上げからお互いの性格が

将棋以外比較的淡白な性分なせいか兎に角淡々と過ぎて

早朝会場を発って近場の駅にタクシーで向かったのだが

 

え? トレーラーが直撃?…

 

衝突の衝撃で僕は全身感覚が無くなり、生涯の

思い残しを懸命に辿った…

 

僕が生涯共に歩もうと望んでた、ひなちゃん…

 

ひなちゃんと一緒に僕を支えてくれた、あかりさん…

 

厄介な敵でありながらも相互の上達上昇に努めてくれた

島田さん始め諸先輩の方々…

 

でも何よりも宗谷さんとまだまだ指したかった…

 

そこで僕の意識は一旦途切れた…

 

 

 

 

ふと意識が朧気に覚めた…

なんか覚えがある光景だった…

 

葬式…?

 

って事は父さん、母さん、ちひろ全員…

となると…

 

祖父は父を失い茫然自失…

父の妹の叔母は周囲の迷惑を余所に我が物顔…

 

まぁこれ自体は前回も経験してたから動揺はしないけど

問題は僕のこれからなんだよな…

 

とりあえず前回みたいに幸田家行きは避けるしかない

のは確定だけど

後は東京都内の施設行き位だろうな… と思ったが…

いきなり前回の僕には記憶の無い青壮年風の2人の人物

と、もう1人はなんとなく、あかりさん的雰囲気持った

女性が突然現れ、

一見迫力ある眼鏡とヒゲの壮年的人物が

「お前ら何手前勝手に零の人生弄ぶねん(怒)」

と、のっけから強烈な一撃

 

続いて盲目の青年風の貫禄十分な人物も

「我々は零君の亡き父君と修行時代を共にしたかけがい

のない大切な仲間です。よって、唯一の忘れ形見である

零君が、ここまでぞんざいに扱われる事は我々としては

絶対に許される事ではない」

 

そして、叔母側にいた親族の1人が盲目の青年風の人物

を見て、

「月光(十七世資格者)名人?!」

と叫んだ事で僕の身柄は悪い方へは行かなさそうなのは

確定したようだ。

 

しかし、前回では関西の知人や有力棋士となると、

宗谷さんと藤本雷堂さん以外はそこまで親しい人なんて

そうそう居なかったからな…

 

となると、これは単純な逆行じゃなくて

パラレルワールドへの転生って事になるのかな…?

後、何気に妙齢のお嬢さんが少し怖い…

 

結局、それからの話し合いで、僕は亡き父の兄弟子でも

あり、亡き母の兄でもあったヒゲとメガネの迫力満点な

清滝鋼介九段が引き取る事になった…

 

その中で、僕に何気に構うお嬢さんが清滝九段の一人娘

の桂香さんで、これは後々危ういと思ったから、

清滝先生に「僕よりもお嬢さんを優先するべきです」と

話したものの、「桂香がお前を嫌う事はないわ」って

なんともな一言であっさり片付けられてしまった…

 

 

 

 

そして、懐かしくも忌まわしい長野を離れ、母方親族の

清滝家へ、そして前回では拠点ではなかった大阪にて

僕の新たな将棋人生が始まろうとしていた…

 




桐山零と九頭竜八一に空銀子、あいや天衣を絡めたら、
一体全体どうなるやら…と思ってテキトーに書いて見ま
した(笑)


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清滝家での日常

おはよーございます。
前回初投稿だったものだから、文字のズレが
あまりに酷くて申し訳ない…

後、前回後書きで八銀やWあいとの絡みも
書くつもりって言ってたけど、
ライオンからも宗谷さん他何名か
投入しようかと企んでますが、
本当にテキトーなんで
そこはご容赦を(笑)


さて、大阪は野田にある清滝家で新たな生活に

入った訳だが、

早速、清滝先生から

「将棋に興味あるか?」と聞かれ、

「父とは幾分か指した事はあります。」

と答え、葬式での事もあり、僕の方から

「先生、是非一局お願いします。」

と頼み、指す事となったが、

先生からは当然の如く、

「何枚落とす?」

と聞かれたので、僕は、

「平手でお願いします。」

と答えた。当然清滝先生は穿しがったが、

僕の目を見て、何かを感じ取ったか、

「分かった」と一言だけ口にして

早速駒を並べ始めた。

 

そして対局開始 先手は当然ながら僕だ。

清滝先生は本格的な居飛車党らしく

堅実に駒を動かしてくるが、

僕も居飛車を選択し、相居飛車となった。

 

お互い居飛車穴熊で守りを固め、戦闘開始。

流石に現役A級の清滝先生、

攻めの手も半端ない。 が、僕も防戦一方

ではなく、捌きを使い、駒を奪い、

先生の攻めが途切れた所で逆襲に転じた。

 

攻守交替が何度か続いた所で

僕の頭金で先生が感心したように

「儂の負けや」

と投了宣言。続いて

「お前、一揮と平手でどれだけ指した?」

と問われたので、

「小学校に入ってからです。」と

一応答えておいた。

 

「あいつは三段リーグでも上位の常連で

プロも射程圏内だった男やで。そんな男に

小学生で平手とは…」

 

そこから暫く先生は無言で思考に沈んでいたが

やがて、おもむろに口を開き、

 

「儂の1番弟子にならんか?」

と一言告げた。

 

僕も将棋以外の人生は例え状況が異なろうが

まず有り得なかったので、

 

「僕こそお願いします。」

 

と答え、この瞬間から清滝門下第1号となった

 

 

 

一方、普段の生活は、小学校が急な転校だった

から、周りからやや不審がられたが、

それでも新たなクラスメートはなんとなくでも

受け入れてくれる雰囲気ではあった。

 

幸い、勉強はそこそこ覚えてたので、

さほど苦にはならず、何とかなった。

 

 

家でも、出来る事は手伝い、桂香さんに

誉められたりした…

 

前回でも出来る事は自分でやってきたから

僕としては普通なんだけど…

けど困った事が1つ…

 

桂香さん、余程年下好きなのか、

何故か僕と一緒に風呂に入ろうとする…

いやいや、幼稚園児ならまだしも

僕は小学校3年ですから1人で大丈夫です。

 

部屋も子ども1人部屋なんだけど、

しきりに「一緒に寝よ」とか…

僕、身体は小学生だけど中身は20代ですから…

とりあえず、幸田家での香子姉さんとの

軋轢みたいにはならなそうなのが救いか…

と思うしかないな。

 

ただ、驚いたのは桂香さん、

僕より5歳だけ上だったって…

 

 

 

そして清滝家に入り、初めての正月が過ぎ、

先生から

「小学生名人戦出んか?」

と勧められた。

 

当然僕は二つ返事で「勝ってきます。」

と答え、出場が決まった。

 

その小学生名人戦は大阪予選から始まり、

西日本予選を勝ち上がって

ベスト4からは全国放送で行われる

大規模な大会だ。

 

当然前回からの棋力も維持向上只中だから

西日本までは指導将棋さながらに勝ち進んだ

 

 

そして、全国放送のベスト4に進出

準決勝はこれまで通りに勝った

 

決勝…相手と顔を合わせた途端、

内心驚愕した。

 

そりゃそうだろう、

相手は二海堂晴信…って

あいつも転生したのか?

 

僕が前回死んだ時、あいつはA級になってたが

その後は分からないので一旦忘れよう。

 

決勝は二海堂はやはり居飛車明示となった

一方僕はあえて振り飛車を選択

早くからお互い激しい攻防を繰り返し

これで僕のみならず、あいつも確実に

転生してきたんだな…と知った。

 

あいつの棋力も完全に小学生じゃないし、

タイトルホルダーレベルの小学生って

殆ど放送事故じゃないの?

 

僕らが言えた台詞じゃないけど

で、その激しい攻防の果て、11手詰みを

見つけた僕が何とか勝利した。

 

 

 

表彰式の後、二海堂に誘われ、彼の邸宅に

お邪魔した。

 

そこで二海堂から

「俺はお前が消えてから7年、お前のいない

世界に焦燥しながらもタイトルは取った、

が、やはりお前という心友が存在しないのは

どこか虚しかった。で、俺も病が悪化して

死んだのだが… 神に1つ望んだのがもう1度

お前のいる世界で同等に戦いたいという事

だった。神は本当に叶えてくれた。よって

心友よ、今度こそ心置きなく存分に生涯を

かけて戦おうぞ!」

どうやら二海堂も見抜いてたようだ…

 

となると僕も

「今回こそ一生かけて決着つけような!」

とだけ返すしかなかった。

 

そしてお互い奨励会での健闘と早期プロ昇格へ

新たなライバル関係を誓い合った。

 

 

 

 

大阪に帰ると早速奨励会入会試験に取り組み、

8月の試験は小学生名人なので1次試験は免除、

2次試験で奨励会員に3連勝で無事に合格した。

 

尚、受験は6級からだが、僕は清滝先生門下

としての受験だったから先生にお願いして

1級受験を認めてもらった。

 

正直、プロまでは二海堂以外は普通に

突破出来るレベルなので特に問題ないだろう。

 

 

 

 

そんな中、奨励会受験直前辺りから僕よりも

更に発育不良気味な白髪or銀髪の幼女が

ほぼ毎日

「ヒゲオヤジ、今日こそぶちころす」

とかなんとも物騒な台詞を吐いて

家に乗り込んできては先生に対局を挑み、

負けては翌日も乗り込むループで

先生が不在な時は僕しか相手に出来ないので

最初はあからさまに不満顔だったが

一応指導がてら半ば本気で叩きのめすと

今度は僕をターゲットに毎日

「ぶちころす」

と言っては挑み続ける日々となった

そして、僕の奨励会生活がスタートする頃

その幼女、「空銀子」ちゃんが

正式に二番目の内弟子として入門した。

 

 

 

と思ったのも束の間、今度はその2週間後、

福井からスカウトしたという6歳の幼児、

「九頭竜八一」君が三番目の内弟子として

入門し、清滝家はたちまち賑やかになった。

 

 

 

 

しかし、ちひろよりも更に離れた妹弟…

なんとかならなくもないとは思うが

皆大変な日々になりそうな予感がする…

 




さて、ここで八銀登場。
桐山君がいる以外は2人の入門経緯は基本的に
原作に準えてるつもりです…

後の展開は未だ絶賛考慮中ですので
ノンビリ書かせて貰います…


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小学生プロ棋士爆誕!

今回はプロ昇格に向け、桐山君全開ですwww
ま、ここからの桐山君と八銀やWあいと、
宗谷さんや二海堂君達の絡みをどうするか
試行錯誤しながら書き進めようかと
思う次第で、とりあえずready go!


さて、奨励会1級で入会したが、

正直、級位者とではレベルが違いすぎて

あっさり8連勝で通過しておいた。

 

そのまま初段・二段も無敗で通過し、

5年進級前には三段となっていた。

 

そして5年進級と同時に三段リーグに突入し、

順調に勝ちを重ねていった。

その中に二海堂がいないのは少し残念だが、

前回ほど重篤ではないものの、

やはり持病の影響があるようで、

あいつは6級から地道に進むつもりの様だ。

 

そして最終日

 

ここまで16連勝の僕は後1勝か、

2人の2敗の1人でも敗れれば晴れて

プロ四段が決まる事になっていた。

 

その第17局 相手は関西奨励会でも

「心優しき天才」と謳われていた

鏡洲飛馬三段で、2敗組の1人だった。

彼は振り飛車党の本格派だが、敢えてこちらも

相振り飛車で臨む事にした。

お互い陣を固めに固め、先に攻めに入ったのは

ゴキゲン中飛車の鏡洲さんだった

が、こちらも全開の捌きで対応し、防ぎ切った

二海堂以外で、ここまでやり合えたのは

奨励会では初めてだったが、本当に

本気モードに入るほどとは…

しかし捌きからの僕の逆襲には

駒が不足してたようで、結局200手オーバーの

戦いは僕が制した。

 

そして最後も危なげなく勝ち、史上初の全勝で

三段リーグ突破となった。

尚、鏡洲さんは僕との対局で力を使い切った

ようで、最終戦も連敗し、次点も逃し

4位だった。

 

そして一息ついてからの新四段記念会見…

 

 

予定調和な質疑応答に始まり、

今後の目標や心意気と、淡々と応答してたが

最後の「ご家族へは?」となって、

2位通過の天城新四段はごく普通に

「有り難うとしか言えません」と

コメントしたが、僕は只思ったまま

「これからも僕の人生見守って下さい」

とだけコメントした。

 

一部の記者はなんか食い下がろうとしたが

僕の事情を知ってる別の記者が

抑えてくれて本当に助かった。

あの人にはギブアンドテイクで何らかの

お礼をしなきゃってのを多少考えなきゃな…

 

 

 

こうして小学5年10月1日付けで11歳5ヶ月で

史上最年少のみならず

史上初の小学生プロ棋士誕生となった。

 

 

 

 

 

その報告を手土産に清滝家に帰ると

師匠や桂香さんよりも真っ先に

銀子ちゃんと八一君が抱きついてきた。

そして改めてプロ入りを報告。

師匠は「早くもプロの弟子が…」と感激の模様

桂香さんは「今日は豪勢にいきましょ」って

フルコースの勢いなんですが…

 

一方、銀子ちゃんと八一君は素直に

「お兄ちゃん、おめでとう!」

と祝ってくれて思わず2人にハグしたのは

兄弟愛の一種という事で…

 

その晩は凄い料理が並んで、師匠は

一升瓶呑み尽くす勢いで呑みまくり、

八一君は途中何度かトイレに駆け込みつつも

食べに食べたようだ。

銀子ちゃんは大好物の肉料理を満喫しつつ、

他の料理にはソース浸しにして食べては

桂香さんに叱られ…

 

豪勢な料理と師匠の過度な飲酒以外は

日常となんら変わらない食卓だった…

 

 

 

 

 

で、少し余談になるけど、

銀子ちゃんと八一君の日常は

普段は2人でのVSがメインで

時折外に出ては場末の道場で

真剣師相手に2人で挑みかかり

殆ど勝っては小遣い稼ぎしてるらしい…

 

因みに師匠は「それでこそ我が弟子や!」

と賞賛してるんだが、いいのか?

 

一方桂香さんは師匠を窘めつつも、

一度辞めた将棋に再び向かい合おうと考えてる

雰囲気が感じられる…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕のプロデビュー戦が決まった。

竜王戦6組ランキング戦1回戦

相手はベテランの出島八段だ。

過去にA級1期竜王戦1組5期の強者であり、

順位戦は70歳にしてC級1組を維持してる

油断ならない相手だ。

当日顔を合わすと柔らかな笑みを浮かべてきたが

盤上で向かい合うと、たちまち棋士の顔になった

 

対局開始

 

典型的なカウンタータイプの振り飛車党らしく

早くも三間飛車を構築し出した。

ならばと僕はゴキゲン中飛車を選択。

序盤から中盤は完全な我慢合戦。

相手があまりにも露骨なカウンター作戦だから

故意に僕から攻めにかかった。

出島八段、こことばかりに捌きからの

カウンターを目論見、漸く動き出したが、

残念、全ては僕の手の内だ。

カウンター不発からの僕の逆襲に出島八段、

遂に音を上げ、投了した。

 

 

 

幸先よいデビュー初勝利。

だが、ここからが本格的なスタートだ。

今度こそは将棋に持てる全て…否、

命の限り全てを出し尽くし、燃やし尽くしても

究極を目指そうと思う

 

 




ここまでの主な登場キャラ既要と改変

桐山零→主人公。 家族を一気に失い、
桐山一族から排除されかかり、家族の遺産も
横領されかかったが、母方伯父の清滝先生と
亡き父の兄弟子だった月光先生の尽力で
遺産相続は無事に行われ、これを機に桐山一族とは
一切縁切りし、清滝一門親族として新たに
活動する事となった。



清滝鋼介→プロ八段(後九段) 妹が零の母
なので、実の伯父に当たる人物。
プロ棋士としてはA級棋士だが、タイトルは
未経験。それでも硬く粘り強い棋風を以て
「鋼鉄流」の異名を付けられる。



清滝桂香→清滝鋼介の一人娘であり、零とは
従姉になる。原作でも見られるように、
「ショタコン」癖が垣間見られ、年齢的に
やや発育不良気味な少年零になにかと
アプローチをかけ、零を困惑させている。




空銀子→原作通り負けた復讐の為に清滝家へ
日参しては勝負を挑み、零に惨敗…
を繰り返しの末に内弟子となり、零の妹弟子
となった。
零のプロ入り後は「将棋星人」零に追い付こうと
もがき続ける毎日を送ってる





九頭竜八一→銀子の入門直後に内弟子となった
いわゆる「一門の末っ子」
4歳年長の兄弟子の最強振りに震撼するわ
兎に角自己チューな年下の姉弟子に振り回されるわ
なんとも難儀な立場に甘んじてるのだが、
原作では最年少竜王となってるから、
素質才能実力は間違いなく最強レベルじゃねーの?


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二足のわらじ

プロ棋士として幸先よくスタートした桐山君
ですが現在のところ、「ライオン」の世界からは
二海堂君だけの登場なんですな…
宗谷さんはまだ暫く予定してませんし
(そのうち登場は確定事項ですが)

ライオンキャラで誰を絡ませるか
絶賛お悩み中…ってもそろそろ1~2人位は
出そうかなと思いつつ、本編スタート!


竜王戦6組ランキング戦を幸先よく勝ち上がった

僕は、続けて玉座戦1次予選1回戦に臨んだ。

相手は松永七段…って、あの松永さん?

う~ん、前回のなんともはた迷惑な記憶が

ぐるぐると渦巻くのだが、対局は待っては

くれない。

 

で、対局開始となったが、

やはり松永さんは自由というか、奔放というか

思いのままに駒を動かす棋風だった。

となると、僕も遠慮会釈なしで存分に

指し回し、昼食休憩の時点で既に勝勢に

入った。

 

で、3時のおやつタイムに入る前に呆気なく

松永さんが投了。

が、当然ここで解放される訳はなく、

「飯喰いにいくぞ!」

と感想戦もそこそこに外へ連れ出された。

 

 

 

 

 

行き先は松永さん馴染みの鰻屋さんだった。

松永さんは手早く鰻重と酒、つまみを注文、

しかも僕に「奢れ!」って、

相変わらずのムチャ振り…

前回は軽い奢り位の経済的基盤はあったけど、

今回は新人で、まだプロ2戦目なのに一体全体

どういう思考回路してるんだか…

ただ、プロ入り時に師匠や月光先生の

支援者から頂いた祝儀も少し財布に入ってたし

それで賄う事にした。

だから僕も思い切って特上を注文し、

僕としては珍しく大食散財に踏み切った。

けど、特上はやはり特別美味しかった(笑)

 

 

その後は松永さん馴染みの蕎麦屋に行き、

今度は松永さんの奢りとなったが、

金額がな…

それは兎も角、酒が入った松永さんは

将棋以上に話が奔放過ぎた…

会津だの、子供孫だの、僕としてはなんとも

回答に難儀するしかない話ばかりで

どうにも困惑だらけだったのだが、

ふと、松永さんが真顔で僕を見つめ、

「お前さん、生き急いでないか?」と一言。

「どういう事ですか?」と返すと松永さんは

「お前さんは将棋に愛された男だ。そのうち

タイトルも名人も存分に手にするだろうな。

けど、学生としての僅か数年ってのは

お前さんが考える以上に大切で貴重な物なんだ。

人生は長い。一度立ち止まって考えてみろ。」

 

正直僕は将棋で生きる事しか考えてなかったから

この言葉にはハッキリ驚いた。

ただ、僕はまだ小学生だし、今は措き、

中学生になったら改めて考えて見ようと思った。

 

 

 

 

 

 

正月が過ぎ、今度は玉将戦1次予選と

盤王戦予選に加え、公共放送杯予選も

スケジュールに入り、少し忙しなくなってきた。

 

 

 

 

 

結局年度末の3月一杯までの対局は

兎も角全勝ターン。

竜王戦は6組準決勝進出、

玉座戦も2次予選進出、

玉将戦は1次予選決勝進出、

盤王戦も予選決勝進出、

公共放送杯は予選通過で本戦進出、

若手対象の新人戦はベスト16進出、

大河戦は予選通過し、ブロック戦進出…

 

と、デビュー半年の段階では全勝を

果たしていた。

 

 

 

 

 

春休み、二海堂から招待され、上京した。

今回は銀子ちゃんと八一君を連れての旅だ。

 

 

僕は新6年、銀子ちゃんは幼稚園年長さん、

八一君は新2年と、それぞれ節目の学年だ。

 

 

 

新大阪を発ち、マグネット盤での対局や

目隠し将棋を行いながら3時間そこらで

東京駅に到着。

迎えはわざわざ二海堂本人と、

二海堂家執事の花岡さんが案内してくれて、

特注ロールスロイスで二海堂家に向かった。

 

 

 

二海堂家邸宅に入ると、応接間にいたのは

二海堂の師匠の鬼首九段と、

兄弟子の山刀伐六段だった。

 

 

 

お互い挨拶を済ますと、軽い自己紹介が

あったが、

名目上、鬼首九段が師匠ではあるが、

実質的には保証人的立場であり、

実質的な師匠は山刀伐六段という話だった。

話を聞いた限りでは取り巻く環境は

異なるものの、彼もまた

師匠や兄弟子に恵まれた立ち位置なんだなと

思った。

 

前回も長老クラスの大内先生を師匠に、

師匠に近い年の離れた兄弟子に島田さんと

素晴らしい環境で存分に将棋に取り組めた

歴然とした事実があるだけに

今回も素晴らしき良きライバルとなる

確かな確信が胸に響いた。

 

 

 

 

なんだけど、銀子ちゃんはまだしも、

八一君が何故か山刀伐さんを必要以上に

警戒というか怯えてるというか

何故なのか僕には理解不能だった…

 

 

 

 

 

 

プロ入り以降の小学校生活については

地元の公立小学校に変わらず通っていたが、

幸い校長教頭とも将棋愛好家で

アマチュア大会にも参加するレベルだった

ので対局での欠席とかにも柔軟に対応

してくれて大いに助かった。

 

ただ、担任の不惑位の堅物の先生だけは

どうにも閉口した。

理屈自体は解らなくもないのだけど、

僕は小学生である以上に将棋連盟所属の

プロ将棋棋士という絶対的義務がある

というのを何をしてでも否定し、

小学生という枠内に固定する使命のみに

捉われているとしか言えない程

固定観念があまりに超絶レベルだった。

校長や教頭が幾ら説明し理解を求めても

己の価値観を絶対視し過ぎるので、

本来5年に引き続き6年でも担任に内定

してたものの、校長教頭が根回しして

その担任は担任どころか学校からも

出されて廃校寸前の僻地の学校に転任した。

 

 

 

相当強行手段に及んだと、少しあの担任には

同情心も湧いたが、八一君は

「将棋自体認めない石頭なんて消えて良かった」

なんて公言する始末で

結局堅物石頭先生が去った事で

学校の平穏が確保される結果に繋がったようだ

 

 

 

 

6年に進級し、新たな担任には

アマチュア六段で、元研修会員の

新任の先生が赴任してきた。

この先生は、師匠が蔵王先生で、

僕の師匠、清滝先生や同門の月光先生とは

縁続きに当たり、僕にも何かと好意的だった。

これで、学業を疎かにしない範囲で

将棋に傾注出来る環境が整った!

 




二海堂君のお師匠さんや同門の先輩には
「ライオン」からそのまま持ち込む選択肢は
考えてなかったので、
この構成がいいかな?と思い、
作って見ました。

ライオン繋がりなら後藤さんを当てようかなと
思ってましたが、二海堂君にも
「りゅうおう」絡みで師弟関係構築という事に
しました。

尚、八一君と山刀伐さんの関わりは原則的に
原作を準用という事で…


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快進撃!!

やっと第2話の修正出来ました…
って訳で、最強小学生棋士の桐山君が
絶賛爆進ぶちかましますwww

今度は誰が出て来て何かと絡むのやら…
って事で本編スタート!


6年に進級し、いよいよ将棋人生も本格化だ。

6月に入ると順位戦も始まるが、まずは現在

勝ち上がってる各棋戦からだ。

 

 

 

前回の人生では獅子王戦だった棋戦は

ここでは竜王戦となっているが、システム

そのものは全く同一なので名前以外は

特に違和感なく普通に勝ち進んでた。

 

準決勝は、同じ関西所属の先輩で…

何と山崎順慶五段が相手だった。

 

 

 

山崎五段と言うと、前回は新人王戦ばかり

勝ち進んで他がサッパリな印象で、二海堂

とは姑息な戦略を用いて勝ちを盗んだような

ダークイメージが浮かぶんだな…

 

だからって3年も4年も続けて宗谷さんとの

新人王記念対局出来る実力も確かにある訳で

この対局、珍しく僕の方から話を振ってみた

 

 

 

山崎さん、この世界では僕より12歳年長で

6年前にプロ昇格し、7年目で未だに

C級2組在籍中という。とはいえ、過去6年は

オール勝ち越しではあるが。

 

一方で、新人王戦は現在3連覇中と前回並みに

「永世新人王」路線突入状態とか、

幾ら何でも前回踏襲し過ぎじゃないの?

 

 

 

そんな訳ではあるが、兎に角対局スタート

 

 

 

お互い角道を開けて角交換から始動

ここからは相矢倉で陣を築き、いざ開戦

 

まずは山崎さんから攻めかかって来たけど、

捌きを駆使して十分に防ぎ切る。

攻めが切れたところで、こちらの反撃だ。

捌きにより手にした駒を総動員し、

一斉に襲いかかった。

たちまち山崎さんの矢倉を侵食すると、

13手詰めに仕留め、準決勝を突破した。

 

 

 

決勝進出により、次期5組昇級も決まった。

 

 

 

玉座戦も2次予選を通過し、本戦に駒を進めた

 

 

玉将戦も盤王戦も順調に勝ち進み、

「負け知らずの最強小学生棋士快進撃」

っていつの間にか世間的話題となったいた。

 

 

 

当然ファンやマスコミが押し寄せるハメとなり

僕らの拠点の関西将棋会館も人だらけ。

遂には清滝家及び隣接してる道場・通称

「野田将棋センター」にも人の波が…

 

 

 

そうなると師匠と僕が矢面に立って希望者に

多面指しの指導対局したりとか、

忙しく動き回ったりしていたが、そのうち

「零くぅん、僕と指してみなぃい?」

って言ってきた髭面のオ●マっぽい人が

僕の前に座ろうとしてきたその時、

 

 

 

バチィィーン!!!!

 

 

 

 

駒を置く音が派手に響いた。

 

 

 

 

その音の主は銀子ちゃんだった。

そして冷徹に一言

 

 

「お兄ちゃんと指したいなら私と指しなさい」

 

 

 

これに髭面さんは怒り満面で

「少し可愛いからって図に乗り過ぎね、

いいわ、身の程知らずなお子ちゃまには

たっぷりお仕置きしてあげるわ!」

 

でも銀子ちゃんである、平然と

「口では何とでも言える。腕で見せなさい」

と返し、対局開始。

 

 

 

 

先に攻めたのは髭面さんだけど、

銀子ちゃんは軽くいなし続け、相手の攻めを

あっさり断ち切った。

 

 

ここで銀子ちゃんのターンになると、

一見何の関係もなさそうな駒を奪いに掛かったので

誰もが一瞬目を疑った、が、この真の目論見が

次の瞬間明白に示された。

 

 

「全駒」

 

 

文字通り全ての駒を相手から奪い、自駒にする

虐殺そのものである。

髭面さん、必死に阻止せんと足掻くが、

本気の銀子ちゃんには通用しない。

 

 

 

因みに本気の銀子ちゃんは、瞳が普段は

灰色掛かっているけど、本気モードに入ると

瞳が蒼くなる特徴がある。

 

 

そして、駒という駒を全て奪われた髭面さん、

「…ぁ…り…ま…せ…ん……」

と、か細く一言だけ告げ、惨敗した。

 

 

 

 

「ちょっとやり過ぎじゃないの?」

と銀子ちゃんに質したが、銀子ちゃんは

「悪い虫は駆除以外ないから」ってなんとも

恐ろしい一発回答してくれた。

 

 

 

でも銀子ちゃんが好きなのは八一君の筈

だと思ってたのだけどな…

 

 

 

 

 

さて、6月に入り、いよいよ順位戦も

スタートする事となった。

 

 

 

第1局、相手は加悦奥七段。

京都在住で、師匠とも旧知のベテランである。

 

 

 

先後は予め決まっており、僕は後手番だった。

 

 

 

角交換からの相居飛車となるが、

今回は僕から攻めにかかった。

相手の穴熊に僅かな穴が見えたので、

罠を警戒しつつもあえて攻勢に出てみた。

 

 

 

やはりそこが急所だったようで、

金銀を剥がすと一気に僕が優勢模様となった。

結局、夕食休憩を待たずに投了となり、

幸先よく順位戦初勝利を挙げた。

 

 

 

そして竜王戦も決勝を勝ち、優勝。

本戦トーナメントに駒を進めた。

 

 

 

 

 

1回戦は5組優勝者との対局だが、相手は

静狩六段である。

 

プロフィールを見ると、今年34歳で、

プロ12年の実力者である。

現在C級1組だが、他棋戦では本戦トーナメント

出場経験を持つなど、歴戦の1人であるのは

言うを待たない。

 

 

 

そして対局開始したが、持ち味の変則将棋を

活かす戦いに持ち込もうとする意図が

丸わかりで、でも面白そうなので、

あえて乗って見る事にした。

 

 

 

何しろ両端とも歩を突いた両端歩って、

松永さんに負けず劣らず自由過ぎだろ。

 

 

 

けど、静狩さんはその変則攻めで撹乱して

相手の混乱を突いて仕留めるスタイルなので、

油断は禁物だ。

 

 

 

やがて静狩さんの攻めが切れた。

ここからは僕のターンだ。

 

 

 

持ち駒の金銀角を総動員し、相手の守りを

剥がしにかかり、着実に剥がし取った。

 

 

 

更にほぼ無限の王手ラッシュ

遂に音を上げた静狩さんが投了。

竜王戦も順調に勝ち進んだ。

 

 

 




最後の静狩六段は完全なオリキャラです。
因みにモデルらしき人は棋士ではなく、
あの三兄弟の一家を敵に回した
「国民の期待に応えたチャンピオン」
をイメージし、書いて見ました。

あの人も変則タイプな選手でしたから(笑)


で、次はどうしよ…


ここから先はなかなか筆が進まなそう…
本当にノンビリ書き進めようとしか…


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熱い夏!充実と課題の夏!

漸く棋士となって1年近く…
プロの水にも再び馴染んで快進撃も続き、
絶好調に見える桐山君ですが、
さて、今回は如何に?!

って訳で本編スタート!!


さて、棋士となってから間もなく1年が

経とうとしていたが、成績は未だ黒星知らず

で、デビュー以来どころか、史上最多の

連勝記録をとっくに更新していた。

今は只、プロで再び戦う充実感に浸りながら

一心に指し続けているだけなので

あまり実感はなかったのだが、これで

取材やらトーク番組のゲストに呼ばれるやら

夏休み近くになったところで急激に忙しく

なってしまった。

それでも、まだ義務教育の小学生だったから

幾分抑え目にしてくれていたが、

僕の見た限り、今の連盟会長を筆頭に

理事の大半の姿勢を見る限り、

既得権益の保持保身に血眼になってる印象が

なんとなく強いように思う。

 

前回だと、トップは神宮寺会長だったけど、

あの人は新規開拓に動き回りながらも

宗谷さん始め棋士たちの環境にもきちんと

目を配ってくれていたから、たまに辟易する

事はあっても、現役からの支持は高かった

よな。

弟子でもない僕の新居の保証人も引き受けて

くれた程だし。

 

 

 

 

それを思うと、今の会長理事たちは、なんか

僕を便利道具として酷使しようという意図が

言葉や態度の端々に見受けられるんだよな

体力や学校に影響しない限りでなら出来る

協力はするつもりではあるが…

 

 

そんな僕の漠然とした不安を感じ取った人が

夏休み前日となる終業式の夜、不意に清滝家を

訪問してきた。

 

 

師匠の兄弟子で、十七世名人資格者の月光先生

である。

 

僕ら子どもと桂香さんは驚いてたが、師匠は

「月光さん、こんな遅くにご足労済まんな」

と、平然と居間へ通した。

 

 

で、銀子ちゃんと八一君は2階の子ども部屋へ

行かせ、師匠と月光先生だけの話と思いきや、

僕と桂香さんにも参加するよう師匠から

言われ、その場に座った。

 

 

口火は月光先生からで、

「零君、近頃盤外の仕事が嵩みがちと聞いて

いるが、体調は大丈夫なのかな?」

と聞かれたので、現状そこまで負担には

まだなっていなかったので、

「今のところは支障のない範囲で引き受けて

いますので、まだ変調はありません。」

と答えた。

 

 

月光先生は、「ふむ…」と呟いた後、暫く

無言で考え込む様子だったが、やがて

師匠に目を向け、

「清滝さん、是非ともご協力願いたいのですが

、貴方は全国津々浦々で普及に励んで

いらっしゃる。その人脈を私、否、我々

全ての現役棋士・特に零君のような将来性

高い若手を守る為に使って貰いたいのです。」

 

 

これに師匠はこれまた暫く沈黙していたが、

やがて、「ええやろ。零ばかりやない、

銀子も八一もやがては将棋界を背負わなくては

ならん才能や。この子たちを守り育てるのは

儂ら先達の使命でもあるからな。その話、

確かに引き受けた。」

 

 

どうやら師匠も月光先生と意思は同じだった

らしい。只、この時の僕は2人の意図の

心底を掴み切れていなかった。

尤も、半年後には全貌を知らされるのだが

 

 

 

 

 

 

 

そして夏休みに入った。

これまでの戦績は序列順に…、

 

 

竜王戦は本戦2回戦となる4組優勝者との対局

だったが、無難に勝ち進み、3回戦に進んだ。

 

3回戦は1組5位の生石八段と対局となった。

生石八段はA級3期目の若手強豪で、なにより

「捌きのマエストロ(巨匠)」の異名で知られ

、「振り飛車党総帥」の二つ名でも有名だ。

 

順位戦はC級2組で開幕2連勝を記録。

 

帝位戦はこれから予選トーナメントに突入。

 

玉座戦は2次予選も突破し、本戦進出。

1回戦は前回挑戦者決定戦に進んだ

於鬼頭七段と対局し、その人間離れした

指し回しに難儀したが、僅かな一穴を突破口に

して、その守りを崩して辛勝した。

2回戦は…は?滑川七段!?

実家が葬儀社の暗黒ワールドなあの人?

パラレル転生は認識してたつもりでも、

流石にあの人は想定外だった…

でも対局はしっかり務めなくてはならない。

兎に角粘っこい棋風は変わらず、悪戦苦闘

となったが、どうにか詰ませて準決勝進出。

これで最低玉座戦は来期本戦シードは確定。

 

準決勝は…師匠・清滝八段との初手合が決定した。

 

 

盤王戦は本戦進出し、初戦突破。次は

ベスト16で、相手は田中太一郎七段。

同門関係ではないが、亡き父とは修行仲間で、

僕にとっては奨励会時代の父を知る数少ない

貴重な先輩である。

色々な意味で次の対局が楽しみだ。

 

 

玉将戦は2次予選に進出。3勝を挙げると

挑戦者決定リーグ戦に進出する。

 

 

棋帝戦は1次予選がスタート。

順調に勝ち進んでいる。

 

 

公共放送杯は本戦2回戦進出となった。

 

 

大河戦はブロックトーナメントを全勝。

ブロック決勝ではA級の大ベテランであの

柳原さん…って、神宮寺会長と同世代の

タイトルホルダーで名人経験者なんだけど、

軽くひらひらとかわす棋風が持ち味だ。

本局でもその棋風を全面に活かした指し回し

を披露したが、こちらから攻めかかり、

一筋縄ではいかないながらも何とか陣を

崩し、どうにか押しきった。

ここからは決勝トーナメントである。

 

 

毎朝杯将棋トーナメントは、これから

1次予選がスタートするが、

持ち時間の短い対局なので、1日2局となる。

何しろ持ち時間40分である。

 

 

年齢及び段位制限のある新人戦は

(年齢は開始時満26歳以下、

段位は開始時六段以下)

順調に準決勝に勝ち上がった。

準決勝は竜王戦でも当たった山崎五段である。

 

 

それにしても、段々多忙になりだし、

体力大丈夫かな?とは思い始めていた。

だからって、小学生の基礎体力で急に

体力トレーニングって言ってもなかなか

身になるにはかなり時間が掛かりそうだし

暫くは体調をコントロールしながら

指すしかないのかな…

前回でも色々指摘されたが、食と体力は

宿命的課題と化してるな、僕は。




って訳で、またまたライオンキャラ
ぶち込みました。

私としても完全に事前想定外だった
まさかの柳原朔太郎先生でしたが…
会話シーンは特には入れませんでしたが
入れると必ず神宮寺会長絡みが確定するので
あえて入れませんでした。


さて、月光先生と清滝師匠のお話は、
少し経過してからのお話になります。

今回はこの辺で


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タイトル挑戦

さて、ラノベを超えた現実主人公の藤井二冠
ですが、魔王(魔太郎)渡辺名人相手にまたも
2戦連取し、早くも棋聖防衛リーチとは…
続く王位戦も、「序盤中盤終盤隙がない」
豊島(きゅん)竜王を迎え、最高峰の戦いが
まさに始まろうとして、世間的には、
「藤井君の凄まじくも熱い夏」って雰囲気
ありありな風情ですな…



さあ、我らが主人公、桐山君もいよいよ
栄光への第一歩を刻まんと、大勝負に突入です


って訳で本編スタート!


8月に入った。夏休み真っ最中、上位に残った

棋戦はいよいよ大詰めだ。

 

 

 

竜王戦、3回戦は1組5位の生石充八段に挑む。

相手は「振り飛車党総帥」「捌きの巨匠(

マエストロ)」の異名を持つ振り飛車党の

カリスマ。

振り駒で先手となった生石さん、当然の如く

エース戦法のゴキゲン中飛車で攻めかかる。

これに対し、僕は生石さんのお株を奪う彼の

もう1つの武器にして代名詞でもある

『捌き』

を存分に活用し、彼の攻めを抑え切った。

ここからは僕のターンだ。

攻めが切れたところを今度は巧みにカウンターで

攻めかかり、次第に相手陣を侵食し、

崩し切ったところで生石さんが投了。

A級棋士に連勝となり、また周りが騒がしく

なってきたようだ。

 

 

 

 

生石さんとの感想戦中、何故か生石さんから

「今度家に遊びに来い、それと、娘に

会わせてやる。」って、いきなり何を…

生石さん、まだ30前後ですよね…

お嬢さん、少なくとも僕より幼いでしょう…

 

それは兎も角、竜王戦は4回戦に進んだ。

 

 

一方、玉座戦は準決勝。

相手は師匠、清滝八段。現役A級棋士である。

早くも恩返しの機会が巡ってきたが、

「儂は今が盛りや、明日が最盛期なんじゃ!」

と早速吠え、勝ち取るオーラ全開にしてた。

勿論、全開はこちらこそ望むところ。

まずはお互い矢倉で守りを構築し、今回は

僕から開戦。桂馬を巧みに活用し、師匠の

矢倉の陣を丁寧に崩していく。

だが、「鋼鉄流」の異名は伊達じゃなく、

崩壊に瀕しながらも、なかなか崩し切れない。

そんな状態で師匠は反転、攻めにかかった。

が、僕も最大限の想定内だったので、

半ば崩されつつも最後の一線は防ぎ通した。

師匠の攻めが切れたところで今度は再び僕が

攻めを再開。崩れかけたところを更に崩し、

結局119手で師匠が投了。

 

 

 

感想戦になると、中盤頃までは極普通に

振り返っていたが、弟子(甥)に負けた悔しさ

からか、段々顔色も表情も険しくなり、

次の瞬間、奇声を上げたかと思うと、

「弟子に負けたぁ~!!」

って叫ぶや、スーツからシャツ、ズボンから

下着まで脱ぎ散らかして全裸で対局室を

飛び出そうと走り出した。

が、そこは記録係だった鏡洲さんが全力で

師匠を抑え付け、周りもすぐ気付いて確保

してくれたので、大事にはならずに済んだ。

 

 

 

その夜は桂香さんに事情を告げた上で、

師匠は拉致状態の格好で家に送り、

僕は鏡洲さんと関係職員の方々に夕食を

御馳走した。

地域の焼肉の評判店で、少し物入りだったが

アレが表面化する位なら安い出費と自分に

言い聞かせ、僕も美味しく味わった。

 

けど、翌朝起きたら、銀子ちゃんが絶賛不機嫌。

どうやら桂香さんから僕が夜遅くなるって聞いて

不満全開だったらしい。

しかも焼肉の匂いが充満してれば、怒りたくなる

のもムリないかも…

勿論八一君も激おこ状態で、

「お兄ちゃんズルい!」と不満たらたら。

けど、元は師匠の不始末の尻拭いでこうなった

のだから、それに免じて…と言いたかったが、

2人とも納まらないな…。仕方ない。

「今度ケーキ食べ放題のお店行こうか!」

と言うと、銀子ちゃん、スイーツ大好きだから

「うん、今度の土日で」と、何とか収まった。

八一君も納得してくれて、どうにか収拾ついた…

 

 

その玉座戦の挑戦者決定戦は、山刀伐六段と対局

となった。

 

 

お互い勝った方がタイトル初挑戦となる大一番。

 

 

 

山刀伐さんは僕に戦型を委ねてきた。

僕はあえて守りの弱めな雁木を選択。

当然山刀伐さんは崩し易いと攻めかかるが、

最後の一線は守り切る自信があったから

守りつつ、攻めへの準備に取りかかった。

一転、今度は僕が攻めに入ると、たちまち

山刀伐さんの陣が崩れてきた。

が、詰める段階までは行かず、山刀伐さんは

入玉目指し、王を前進させてきた。

が、万一に備え、入玉対策も組み入れた僕の

陣に入る事は叶わず、僕に詰まされた。

 

 

 

これで、玉座戦トーナメントを勝ち切り、

小学6年でタイトル初挑戦となった。

 

 

 

 

感想戦は極淡々と行われたが、最後に

「名人も君を注視している。期待してるよ。」

に加え、もう一言、

「晴信も秋から三段リーグ入りになって、

君を目標に気合いが充満してるから、

君にはそれだけの責任がある。重いかも

知れないが、桐山零という存在はもう、

それだけ将棋界の顔という認識がある事を

自覚はしてほしい。」

なんとも小学生には重すぎる評判を

ぶつけてきたもんだ。

 

 

 

続く竜王戦本戦4回戦は、1組4位の佐伯宗光

九段だ。

バリバリのA級棋士ながら、名人にだけは

1度も届かず、それでもタイトル通算11期を

記録した紛れもない大棋士である。

 

 

 

 

この人は、1990年代から現在に至るまで

月光先生、氷室十六世名人、現名人と並ぶ

「史上最強4強世代」と評される程の歴史的

強豪棋士として名実共に評価が高い。

 

 

対局開始すると、静かに、しかし己の意思を

明確に盤上に示し、

「君が何者であるか、確かめよう。」

と、早速戦闘態勢に入った。

ここで応えなきゃ僕は男失格だし、そもそも

棋士な資格すらない。

喜んで戦いに応じ、激しい駒のやり取りに

応じた。

 

 

 

無限の地獄と可能性を満喫した戦いは、

最後は連続限定合駒で辛うじて僕が制した。

「10年前に君がいれば、もっと充実したかも」

と言われたが、僕は、

「今からでも楽しめます、充実出来ます。」

と返し、

「次、楽しみにしてる。」

と言われた。

 

 

 

新人戦は準決勝、山崎五段に完勝。

決勝は関崎五段とだったが、彼は感覚主義で、

兎に角定跡軽視な棋風だったので、

その変則気味な将棋にやや戸惑いながらも

隙を突けばあっという間に詰ませて

新人戦優勝となった。

 

 

 

竜王戦本戦準決勝、相手は後藤正宗九段。

おいおい、後藤さんまで乱入?

念のため、プロフィールを検討すると、

現在での僕より15歳程年長で、生石さんより

2~3歳下らしい。

で、得意戦法は「居飛車穴熊」と、前回と

変わらず重厚な棋風なのは面白い。

 

それで、家庭環境も調べると、前回でも

奥さんだった美砂子さんと変わらず結ばれ、

今回は前回恵まれなかったお子さんにも

1人だけだが恵まれて、公私とも充実著しい

状態に突入してる伸び盛りって、これは

只全開を解き放てる絶好の機会だろ。

 

 

対局開始するや、早速居飛車穴熊に構えた

後藤さん、これに対し僕は後々警戒されようが

承知の上で藤井システムをぶつけた。

 

後藤さん、守りの構築中にいきなり居玉のまま

相手が攻めかかるとは予想外だったようで、

慌てて防ぎに転じようとしても、攻めが

鋭敏で、たちまち穴熊崩壊、僅か47手で投了。

 

後藤さん、感想戦で、

「お前、どこからそんな発想したんだ?」

と問うたので、

「十五世名人の棋譜を浚い尽くした結果です」

とだけ答えた。

「全く空恐ろしいクソチビだな…」

と呟いたが、

少なくとも前回みたいな確執には至らない

予感だけは感じ取った。

 

 

続く竜王戦本戦挑戦者決定戦3番勝負は

月光先生との大一番だった。

第1局は先手月光先生で、169手で僕が投了

続く第2局は逆に121手で僕が制し、最終戦へ…

先手は幸いにも僕が掴み、思うがままに挑んだ。

のっけから乱戦模様となったが、

中盤、月光先生の攻めの手が一段と激しくなって

きたので、カウンターのチャンスもあると考え、

耐え凌ぎながら逆襲の一手を考え続けた。

ここで月光先生の攻めが切れた。

これが唯一最大のワンチャンスと気を入れ、

逆襲に転じ、只ひたすらに攻め続け、

結果、143手で、月光先生が投了。

これで玉座戦に続き、竜王戦も挑戦者となった。

 

 

 

 

 

 

 

玉座戦のタイトルホルダーは、「名人」

 

 

竜王戦のタイトルホルダーは「首藤竜王」

 

 

新たな戦いも目前だ。




ライオンどころか、「月下の棋士」まで投入
しちゃいました。
もう将棋マンガ絶賛投入だらけで、私も
収拾つかなくなってますが、
「りゅうおう」、「ライオン」、「月下」
の3作混入で通したいと思ってます。

桐山君のタイトル戦は次回って事で
お待ち頂ければ…


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玉座戦

さて、いよいよ我らが桐山君が「名人」の持つ
「玉座」に挑戦となりました。
今回は番勝負主体に書こうと思っているので、
あまり見栄えしないかと思いますが、
兎に角書き進めようと思っています。

では本編スタート!


玉座戦…

 

現在の七大タイトル戦でも最新のタイトル戦だ

 

 

 

 

それでも昭和後期に始まり、早や四半世紀に

到達した歴史を誇るタイトルだ

 

この棋戦の特徴としては、B級在籍棋士は、

1次予選パスで2次予選スタートな事と、

タイトルホルダーは無条件に本戦シードという

特典がある事だ。

 

よって、新人棋士の僕が挑んだのは、1次予選

からで。勝って勝って勝ち抜いて、1次通過し、

2次も勝ち上がって本戦に進み、幾多の強者を

打ち破り、実質1年目で早くもタイトル挑戦権を

掴み取る事となった。

 

 

 

 

相手は現在、将棋界に君臨する「名人」

彼にも本名が存在するのだが、彼だけは、

皆、口々に「名人」の尊称で統一されている。

それだけ空前絶後な実績を積み上げたのだが、

やはり、どこか違和感があるよな…

 

 

 

僕の前回での将棋界でも絶対的王者として、

宗谷さんが君臨してたけど、本人の姿勢は

兎も角、彼の周囲には神宮寺会長から、

土橋さん、隈倉さん、島田さん…と言った

ともあれ近しい先輩方が何かとフォロー

していたし、少なくとも、「名人」みたいに

誰も近付けないとまでは隔絶してなかった

気もするんだが…

 

 

 

 

 

あ、「名人」にも例外があった…。

山刀伐さんだ。 彼は、プロ入り間もない頃から

どんな経緯かは不明だが、「名人」から

気に入られ、研究会に招かれて兎に角研究を

極め続ける事で、「振り飛車党総帥」生石さん

からは、「同期で1番才能なし」と評価され

ながら、逸材豊富な「生石世代」に於いて、

今や生石さんに次ぐ次世代のトップ候補に

名乗りを上げる程に急上昇している。

勿論、難病と日々格闘しながら、それでも

頂点を目指し続ける二海堂からの影響もまた

無視出来ないだろうけど。

 

 

 

 

 

そして、その山刀伐さんを破って手にした

玉座戦五番勝負。

 

 

 

 

 

第1局は、神奈川県鶴巻温泉の名門旅館で開催

される。

 

 

 

 

 

この旅館は、過去に時の名人との駒落ち対局を

時の玉将が拒んだっていう曰く付きの場所で、

現在に至るまで、将棋界・将棋ファンに馴染みの

場所でもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第1局前日、検分と前夜祭の為に新大阪から

小田原を経て、鶴巻の旅館へ到着。

早速自室に荷物を入れて、直ぐに対局の間に

移動。

 

そこには既に「名人」と、立会人の

刈田「実力制四代名人」が待ちわびていて、

僕は「遅れて申し訳ありません。」

とまずは詫びた。

 

けど、刈田先生は、事も無げに

「問題ない。場所を把握しない氷室よりは余程

しっかりしてるからな。」

と、何故か氷室十六世名人を槍玉に上げ、

「名人」も同意し、僕の遅刻は不問となった。

(実際は遅刻ではないのだが)

 

 

 

 

 

 

検分作業は、それほど問題にもならず、

滞りなく済んだ。

 

 

 

 

 

そして前夜祭の時刻となった。

 

 

対局者挨拶として、まず僕が挨拶をした。

「新参者ですが、この度玉座戦に挑みます

桐山零と申します。今回は将棋界をリードする

「名人」に挑ませて頂くチャンスを存分に

活かし、僕の全身全霊を尽くし、恥ずかしくない

対局にしたいと思います。若輩者ですが、宜しく

お願い致します。」

と挨拶すると、会場全体から割れんばかりの

拍手が響いた。

 

 

 

 

 

 

続く「名人」の挨拶が始まった。

「この度は、20連覇のかかった戦いですが、

盤前に座るのが、僕の娘とさほど変わらない

年若い少年である事を不思議に思いつつも、

新たな時代の息吹も確実に感じられ、挑戦者

決定時から非常に楽しみでなりません。

ですが、僕も負ける訳にはいかない。明日

からの戦い、お互い最高の棋譜を築き上げ

ましょう。」

 

 

 

「名人」にも多大な拍手が会場中に響いた。

 

 

 

 

その後は、関係者へ挨拶回りを一通り済ませ、

間もなく会場を引き取って旅館内の自室に

戻った。

 

明日は朝9時対局開始なので、あまり遅くまでは

起きられない。

そんな訳で、ルームサービスで軽く夕食を摂ると

直ぐに布団を敷いて貰い、床に就いた。

 

 

 

 

 

翌朝5時30分位に目覚め、顔を洗い、シャッキリ

すると、6時30分頃にルームサービスでの軽い

朝食が運ばれ、一通り頂いた。

 

 

 

朝食が済むと、今度は和服に着替える為、

着付けに取り掛かった。

前回でも何度となく着こなしていたので

本質的には苦にはならないのだが、流石に

小学生の身体では厳しいところもあり、

部屋を訪れた担当の仲居さんに手伝って貰い、

何とか完了した。

 

 

午前8時40分、幾分早目に対局場に到着。

下座に座り、「名人」を待ち、瞑目に入った。

 

 

 

午前8時55分、「名人」が満を持して入場。

上座に座り、「待たせたようだね、悪かった。」

と一言。

 

そして記録係の坂梨澄人三段が歩を5枚持ち、

振り駒を行った。結果、先手は僕だった。

よって、奇数局(1・3局)は僕が先手、

偶数局(2・4局)は「名人」が先手と決まった。

尚、最終第5局に突入すると、改めて振り駒

を行い、先手を決める事となっている。

 

 

そしてこの玉座戦、持ち時間は各5時間で、

1日制タイトル戦としては唯一、夕食休憩が

入る戦いで、時間配分始め、戦略性が試される

事にもなる。

 

 

先手なので、僕からオーソドックスに角交換を

仕掛け、「名人」もそれに応じ、そこから

暫くは守りの陣を築きにかかった。

 

 

 

午前中は守備固めに終始し、12時30分になり、

昼食休憩(1時間)に入った。

 

 

昼食メニューは、

 

僕は旅館名物の「特製カレー」(ご飯少なめ)

 

「名人」は「旅館特製御膳」を注文。

 

因みにタイトル戦番勝負では、食事代は

主催者(玉座戦だと主催新聞社)の負担となり、

頼む気になれば、お高い豪勢料理でも頼める

ので、過去の番勝負挑戦者の中には、朝から

「てっちり」を頼む強者もいたとか何とか…

 

 

 

流石に僕は少食気味なので、あまり多くは

頼めないが。

 

 

 

午後、対局再開。

 

「名人」の手番だが、ここから3時のおやつ

の時間まで一切駒に触れず、長考に沈み、

その間、僕もありとあらゆる戦いを想定し、

沈黙の戦いに突入していた。

 

 

 

3時のおやつメニューは、

 

 

僕は地元の「温泉饅頭」と、アイスティー。

 

「名人」は、旅館特製ロールケーキと、

 

アイスコーヒー・シロップ3個付き。

 

 

 

 

 

そして、おやつの後、2時間近くの沈黙から

「名人」が動き出した。

 

攻勢に入り、暫くは僕が受けに回り、

猛烈な攻撃を耐えに耐え、少しずつ相手駒を

奪い、漸く攻めが切れたので、今度は僕が

反撃に取り掛かった。

 

 

「名人」もさるもの、攻勢に晒されながらも

最後の一線突破は許さず、お互い攻防膠着

状態のまま、夕食休憩に入った。

 

 

 

 

メニューは、

 

 

僕は「特製サンドイッチ」にホットコーヒー。

 

 

「名人」は、「特製カレー」(ご飯少なめ)を

注文。

 

 

暫しの休息から、戦闘再開。

 

 

 

お互い攻めも守りも決め手を欠いたまま、

膠着状態か続いてたが、ここで故意に隙を

作り、相手に攻めさせる賭けを敢行した。

勿論見破られたら、たちまち僕の陣が崩壊し、

あっという間に惨敗となるが、狙いを

見抜けなければ、逆に僕には千載一遇・

乾坤一擲・唯一無二のビッグチャンスとなり、

一気に決着に持ち込める、まさに「賭け」だ。

 

 

「名人」も、膠着状態打開を目指し、兎も角

誘いに乗って攻勢に出て来た。

 

 

 

一進一退、攻めを防いでも更に攻めを継続、

「名人」も、この攻めが結実しなければ「負け」

となるのは認識してたようで、凄まじい。

 

 

 

だが、やがて「名人」も、攻め駒ばかりか、

補充駒も使い果たし、やっと攻めが切れた。

 

 

後はこっちが詰むか詰まざるかの勝負となった。

 

 

そして、攻め駒・持ち駒総動員で最後の攻撃を

敢行。

 

 

兎に角も相手陣から金銀の守り駒を剥がしに

剥がし、必至に至ったところで、「名人」が

静かにお茶を一口啜り、やがて、

 

 

「負けました」

 

 

と、一言。

 

 

これで、僕は幸先よく1勝目を飾った。

 

 

 

感想戦に入ると、お互い、「名人」の

長考後から検証し直したり、そこからの

展開の違いを楽しんだり、なんか、

宗谷さんと際限なく指してる感覚に再び

捉らわれたような気がした。

 

 

 

これで、この人も

「将棋以外生きる術のない人なんだな。」

と改めて認識した。

 

 

けど、立会人の刈田先生が唐突に突入し、

「お前ら、そこまでだ。いい加減戻って休め。」

との一言で、強制終了となったのは

残念の一言に尽きる…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、以降の対局は、

 

第2局は京都のホテルで惜敗

 

第3局は神戸のホテルで辛勝

 

第4局は白浜温泉で敗北

 

 

 

最終第5局は甲府の旅館で開催

先手は振り駒で僕が握った。

一進一退の攻防が続く中、こっちから

攻勢に出て、一気に決着を着け、

夕食休憩前の午後6時頃、「名人」が、

 

「負けました」

 

と告げ、番勝負に決着。

 

 

 

 

僕が「玉座」を獲得し、

史上初の小学生タイトルホルダー、

史上最年少・12歳6ヶ月での獲得記録を

構築した。

 

 

 

 

 

そして打ち上げ会場に移動。

早速、新玉座としての挨拶に立たされた。

 

 

「この度は、五番勝負を戦い切り、幸いにも

玉座のビッグタイトルを獲得する事が

出来ました。ですが、見ての通り、僕はまだ

小学生の若輩者です。タイトルは獲得出来ました

が、タイトルホルダーとしての立ち居振舞いは

まだまだ未熟ですので、今後とも皆様からの

御指導御鞭撻をお願い致したい次第です。

月並みな挨拶となってしまいましたが、

今後ともどうぞ宜しくお願い致します。」

 

 

 

 

なんか、凄い割れんばかりの拍手が鳴り響いた

んだけど、僕としては普通のつもりなんだがな

 

 

 

 

 

で、検討に顔を見せてた師匠や、休日だったので

一緒に来ていた桂香さんに銀子ちゃん、八一君も

一様に祝ってくれて、これで再びタイトルを

手にしたって実感がひしひしと湧いてきた。

 

 

 

 

で、済めば良かったのだが、ここから「祝杯や!

」ってガバガバ呑み始めた師匠、呑むわ呑むわ

って盃を重ねてるうちに、またも、

「祝杯じゃあ~!皆も呑まんか~い!!」

って会場から飛び出し、

他の宴会場に乱入しては酒を勧める恥態を晒す

有り様となっていた。

 

 

まぁ、会館での破廉恥未遂を考えたら、まだ

マシな部類なのかも知れないが、それでも

こっちは超恥ずかしいんだが…

 

実際桂香さんや職員の方々は必死に止めに

入るし、銀子ちゃんは「アレが師匠って…」

と呆れと不機嫌ゴッチャ混ぜ状態だし、

八一君も「あんな大人にだけは御免だな。」

と呆れと嘆息してた…

 

 

 

 

 

でも、戦いはまだこれからだ。

 

 

 

今度は「竜王戦」七番勝負に挑む。

 

相手は「首藤崇竜王」である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どういう展開にするか、色々悩みましたが、
現実のあの鬼●眼鏡先生も20連覇逃してた
ので、20連覇阻止の流れにしちゃいました。
でも、更に竜王挑戦って、規格外も大概だと
しか言えない超絶最強って、作者の私が
言うのも何ですが、チート過ぎるわ…





あ、本編でまだ書かれてない段位昇段ですが、

五段昇段→タイトル挑戦
六段昇段→なし
七段昇段→竜王挑戦


って訳で、近年の現実の棋士ではまず
有り得ない飛び級昇段(五段→七段)
って流れになってます。悪しからず。


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竜王戦

原作では八一君が16歳で挑んだ竜王戦、
今回は更に最年少化し、桐山君を小学生挑戦者
として戦わせようと書いて見ました。
第1局開始時点で、12歳6ヶ月は流石に
ぶっ飛び過ぎとは私自身も思っていますが、
どうせ創作な上に桐山君からして人生
2回目なんだから、こんな展開もアリかと
気ままに書いて見ました。

そんな訳で本編スタート!


竜王戦…

 

 

 

過去には1950年代から80年代後半まで

「十段戦」として名人戦に次ぐ2つ目にして

序列2位のタイトル戦だった歴史ある棋戦

であった。

 

 

 

しかし、当時の将棋界は、囲碁界に比べ、

一段軽く扱われる風土があり、それを

打破する為、最高賞金棋戦の創設を考えた結果、

名人の権威が揺らぐとの反対意見を抑え、

名目上序列1位の最高賞金棋戦となる

「竜王戦」が、「十段戦」に替わるタイトル戦

として昭和末期に新たに誕生した。

 

尚、「名人」の権威を重んじる意見を汲み、

賞金順では「名人戦」は序列2位だが、

実際には「同格」として、所謂「大二冠」的

立ち位置に落ち着いた。

 

 

 

 

今期、その「竜王」に挑む訳だが、

その「竜王」は、首藤崇竜王であり、

現役A級棋士としても活躍している今が当に

脂が乗った盛りの強豪である。

 

 

 

そして今回の第1局は海外開催となり、

ドイツ・ベルリンでの開催となった。

 

 

 

前回の人生でも、同一システムだった

「獅子王戦」で、海外渡航と対局は

経験済みだが、あの時はロンドンとか、

パリ、ハワイ、サンフランシスコであり、

ドイツは過去現在通じて初体験となる。

 

 

 

で、渡航メンバーであるが、

首藤竜王は奥方帯同(子供はいないらしい)で、

僕は1人で行くつもりだったのだが、

「小学生1人じゃ危険過ぎだから」って理由で

師匠、桂香さん、まではいいのだが、何故か

「幼児2人残せない」って事で銀子ちゃんと

八一君も同行する事となった。これは最早

家族旅行状態としか言えないんだけど…

 

 

 

後は連盟会長と、立会人の虎丸竹千代九段に、

副立会人の山刀伐六段、記録係として今回は

二海堂が一緒に渡航し、臨む事となった。

 

 

 

ドイツ・ベルリンとなると、やはり見るべきは

「ベルリンの壁」跡地であり、大使館への挨拶

を済ますと、現地でその息吹を体感し、

そこから対局場所兼宿泊施設(ホテル)に入った。

 

 

 

前夜祭、僕も竜王も月並みながらもお互い

気合い満々のコメントを発し、激しい対局を

予感させた。

 

 

 

竜王戦は、2日制持ち時間8時間の長期戦であり、

これまで以上に戦略や時間配分と、何より

体力にも気を配らねばならない難解な戦いと

予め考えていた。

 

が、最大の課題である体力問題がここで

一気に浮き彫りになるとは、この時点では

考えが及ばなかった。

 

 

 

初日、首藤竜王の先手でスタートした竜王戦、

角交換から始まり、守りの陣を築く事に終始し、

お互い持ち時間の半分近くを使い、2日目に

移る事となった。

 

封じ手は後手の僕で初体験(今回の人生では)

ではあったが、普通に時間を掛けず、淡々と

書き記した。

 

 

2日目、昼食休憩後から激しく動き出した。

開戦は首藤竜王からで、僕も直ちに応じ、

激しい駒のやり取り・取り合いとなり、

3時のおやつ直後までは互角と言えた。

しかし、午後5時を過ぎたところで突然

倦怠感に襲われ、あろう事か10手余り先に

指す筈の手をうっかり指してしまい、

たちまち首藤竜王優勢になってしまった。

この失着を取り返さんと必死に動いたが、

結局、161手で僕の投了となった。

 

 

 

感想戦でも、やはり失着場面を質され、

正直に答えるしかなかった。

 

 

 

竜王は「いい戦いだったが、あの場面だけは

悔やまれるとしかね…」と総括していた。

 

 

 

幾ら一朝一夕にクリア出来ないとは云え、

体力問題はどうにかしないと最高の将棋が

出来ない現実に焦燥感が募った。

 

 

 

その後は、

 

 

第2局、京都・仁和寺で初勝利。

 

第3局、鹿児島・指宿温泉で敗北。

 

第4局、石川・和倉温泉で2勝目。

 

第5局、愛媛・道後温泉で敗北。

 

第6局、愛知・熱田神宮で3勝目。

 

最終第7局、山形・天童で、千日手指し直しの末

、敗北し、史上最年少二冠を逃す。

 

 

 

 

結局、最後まで体力面での課題を克服し切れず

弱味を晒す事となってしまった。

 

 

 

しかし、この敗北も己の血肉とし、財産に

きっとして見せる。

このまま終わる訳じゃないのだから。

 

 

 

◎竜王戦終了時点での各棋戦実績

 

 

・竜王戦→首藤竜王に挑戦、敗退

 

・順位戦→開幕7連勝

 

・帝位戦→予選決勝進出

 

・玉座戦→「名人」に挑戦、獲得

 

・盤王戦→挑戦者決定変則2番勝負進出

 

・玉将戦→挑戦者決定リーグ戦進出、

6戦4勝2敗で3位となり、リーグ残留。

 

・棋帝戦→2次予選進出

 

・公共放送杯→本戦3回戦敗退

 

・大河戦→決勝トーナメント2回戦敗退

 

・毎朝杯→決勝トーナメント進出

 

・新人戦→優勝・段位制限を超えた為、

次回以降の参加不能により、「卒業」

 

 

 

なんか、労働基準法違反になりかねない

レベルの超過密日程な対局数になりそうな

感じが…

 

 

 

因みに連勝は、「55」に至り、初敗北は、

大河戦決勝トーナメント2回戦で、相手は

師匠・清滝八段で、玉座戦のリベンジを

果たされた格好となった。

 

 

 

けど、幾らリベンジ果たした喜びの余りとは

云え、僕までおかしな踊りに巻き込もうって

のは流石に不味いでしょ。




そういえば、連勝も気が付けば止まって
いましたが、誰をストッパーにしようか
考えた結果、師匠に担って貰う事にしました。

ま、八一君なら破廉恥騒動発展必至でしたが、
桐山君なので、幾分抑え目に暴れさせた次第で


当然の如く、帰宅後には桂香さんからのヤキが
入った師匠でありました(後日談)。

って訳で、また次回(笑)


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クーデター

タイトル戦も玉座戦を獲得、竜王戦は
惜敗と明暗分かれたが、タイトルホルダー
として多忙な日々を過ごす事となった
桐山君。ですが、小学生の身体にかかる
負担は半端なく…

って事で本編スタート!!


プロ入り2回目の正月を迎えた。

 

年末の大掃除、年越しそば、正月の神社参り、

お雑煮と、表面的には変わらぬ年越し正月

なのだが、去年秋に玉座を獲得した為、

各種インタビュー始め、盤外の仕事が盛り沢山

で、正月早々疲労を覚え始めた。

 

 

 

 

勿論、将棋界の発展を考えるならば、その手の

仕事もある程度はこなさなきゃならないのだが

、それにしても小学生にこれだけの仕事量は

流石にやり過ぎじゃないの?

 

 

 

その後は、恒例の指し初め式をこなし、

盤王戦挑戦者決定変則2番勝負に臨み、

敗者復活から勝ち上がった佐伯九段と対局。

1勝分のアドバンテージを活かし、初戦は

負けたが、2戦目を勝ち取り、今年度3度目の

タイトル挑戦を決めた。

 

 

 

 

そんな中、再び月光先生が訪問してきた。

 

 

夏の話にメドが付いたとの事で…

 

 

僕が「どういう事ですか?」と尋ねると、

「何の事はない、執行部を総入れ替えする

準備が完了したまでです。」

とだけ月光先生が答えた。

 

一方、ここまで一言も発しなかった師匠も、

やがて、

「こっちも準備万端、根回し完了したわ。」

と一言だけ告げた。

 

 

「少し詳しくお願い出来ますか?」

と尋ねると、

 

月光先生が、

「今の体制では、将棋界も組織も腐り行くだけ

です。依って、根本から建て直さなければ

何れ立ち行かなくなるのは必定。だからこそ、

今、動かなくてはならないのです。」

これで僕にも全貌が見えた。

 

しかし、総会まではまだ数ヶ月あるのに

ここで全容披露していいのか?

と思っので、そこを問うと、

「一定数の要求で臨時総会開催が出来るので、

それを活用させて貰う。」と、

今度は師匠が説明した。

 

 

 

 

 

そして2月に入り、急遽臨時総会が開催された。

当然現執行部の不明朗な連盟運営の責任追及

から始まり、執行部も懸命に反論に出るが、

次から次へ不明朗の証拠が明るみに出るにつけ、

執行部の皆さん顔面蒼白が手に取るように

分かった。

 

 

これで、出席者の殆どが執行部解任動議に

賛成し、新執行部刷新が決まった。

 

 

新会長は、月光先生が就任。

師匠は理事に推されたが、固辞し、

普及担当理事補佐に就任。

 

後で聞いた話だが、関東の根回しには、

普段は運営に関わらない「名人」までも

巻き込んでクーデターを果たしたって…

如何に月光先生の影響力が絶大か思い知らされた

 

 

 

 

さて、盤王戦はまたも

「名人」との戦いとなり、一進一退の

激闘の末、3勝2敗で盤王も獲得し、

史上初の小学生二冠となった。

 

 

 

順位戦もC級2組を全勝し、C級1組に

昇級した。

 

 

 

 

 

なんか、いい方向に歯車が回り始めている

感じがするが、油断は禁物、戦いは

これからだ。

 

そして、4月からは中学生となる。

 

 

学校は、対局関連の融通が利く私立中学に

進学する事となった。




原作では、月光先生の会長就任時期は不明ですが
今作では、感覚上、前倒しにしてみました。

何しろ桐山君の小学生プロが超スピードで
早いのですから已む無しって事で。



しかし、早くも二冠とは、空恐ろしや…
って事でまた次回(笑)!!


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第2章 神の子とロリ王と白雪姫
悩める竜王


さて、今回からは、「りゅうおう」原作本編
時期に突入致します。

桐山君の小学校卒業目前の衝撃のクーデター
事件から早や8年経過した将棋界新時代に
彼らがどう活躍し、苦悩し、成長するか、
書いてる私自身もなんか楽しみで
しょうがありません(笑)。

って事で本編スタート!!


2017年3月…

 

~side八一〜

 

 

 

俺は去年暮れ、七番勝負のフルセットの末、

棋界最高峰のタイトル、「竜王」を手にした。

 

 

が、タイトルホルダーとしてのプライドと

プレッシャーに苛まれ、以降の対局は、

我ながらどうかと思う位何も出来ず、あっと

いう間に11連敗に至ってしまった。

 

 

 

そんな中行われた記念対局。

相手は師匠・清滝鋼介九段。

非公式戦ではあるが、恩返しのチャンスにして、

不調脱出のまたとない機会でもある。

 

 

 

 

さて、対局開始。

序盤は定跡に沿って手早く進んだ。

そして中盤、開戦模様となるや、師匠から

攻めに入った。

それに対し、俺も薄い守りでギリギリ防ぎ、

攻めが切れると反撃開始。

そこからは、蹂躙しまくって結局、108手で

師匠の投了で決着。

 

 

感想戦の最中、一瞬師匠の雰囲気がなんか

異様におかしくなったと感じるや、

「オ●ッコ~!!」と叫び出し、窓に向かって

走り出した?!

 

 

 

 

一瞬固まってしまった俺だが、すぐに、

「師匠、トイレは外じゃねぇ!!、

中の便器で用を足せ!!」

と叫び返したが、

「クズ竜王は黙っとれ!!」

とまたも返され、

「上位者には従えよ!!」

に対しては、

「儂は名人挑戦者じゃ!!お前みたいな

C級竜王とは格が違うんじゃ~!!」

との不毛なやり取りを繰り返し、

その間も職員のタックルを巧妙にすり抜け、

一気に窓に到着。

 

窓から堂々と放尿し、

「若々しさ解き放つ!!」とか

放言した日には…

 

折角超優秀な兄弟子が作った一門の評価を

よりによって肝心の師匠自らが

見事なまでに失墜させるとはな…

 

ホントこの場に兄弟子が居なくて良かった…

 

 

 

 

 

 

 

そして、後始末にお詫び行脚を済ませ、

お詫び行脚だけ手伝ってくれた姉弟子…空銀子

奨励会二段(女王・女流玉座)と途中まで

帰り道を歩いていた。

 

「なんで今日みたいな将棋指せないの!」

 

やっぱり厳しい批評からですか…

 

「竜王としてどうあるべきか、少なくとも

無様な棋譜は残せないって意識はどうしても

頭にあるんですよね…」

 

けど姉弟子は、

 

「お兄ちゃ…兄弟子とアンタは違う。兄弟子は

実力も棋譜も段違いに美しい人だけど、

アンタは勝ちへの飽くなき執念が最大の武器

じゃない!アンタは兄弟子にならなくてもいい、

アンタはアンタとして最強を目指しなさい!」

 

 

 

へ?姉弟子、俺を認めてる?

まぁ、普段から下僕扱いだの、パシりだの、

散々だけど、プロとしては一応認めてるんだ…

 

 

 

 

で、途中で姉弟子とは別れ、会館にほど近い

アパートに戻った。

 

「ただいま~」

 

誰もいない筈の玄関…しかし、

 

「お帰りなさいませ、お師匠さま!!」

 

 

 

 

 

は?

 

 

 

 

 

 

そこには、どう考えても小学生幼女1人が

お出迎えしてるんですが…

 

 

 

 

 

「あの~、君は?どうやって入ったの?」

 

 

 

 

徐に聞くと、

 

 

「住所は近所の交番に伺いました。家ですが、

鍵が開いていましたので、勝手ながら

入らせてお待ちしていました。」

 

 

 

 

おいおい、俺が人害無蓄な未成年だからまだ

いいけど、怪しげな大人に捕まったら一体

どうするつもりだったんだ?

 

 

 

 

だが、その幼女は構わず、

 

「私、最強の竜王の弟子になります!!」

 

時間も遅いし、仕方ない。

取り敢えず家に上げて、対局する事とした。

 

 

 

 

序盤中盤は致命的に下手だ。しかし、

読みと時間が重要になる終盤は一転、

鬼か魔王か位のレベルで、俺も油断ならない

戦いとなったが、それでも経験値の差で

何とか勝った。

 

 

 

 

「親御さんとかから許可は?」

 

と聞くと、「今、春休みですから」

とだけ返されたので怪しいとは思ったが、

取り敢えず今夜は泊まらせた。

 

こりゃ、明日は師匠の所に行かなきゃな…

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

翌日…

 

 

 

 

 

 

昨日は八一君と師匠の記念対局だったけど、

生憎僕は盤王戦最終戦だったから、2人の

対局にやきもきしながらも、今期挑戦者の

櫻井岳人八段を辛くも退け、盤王9連覇を

飾る事が出来た。

 

 

そして、記念対局の結末が心配になり、

打ち上げの後、夜行バスで大阪に戻り、

八一君のアパートに向かった。

 

 

 

あれ?いつもなら無施錠なんだけど、

珍しく鍵がかかってる?

取り敢えずブザーを押した。

八一君「誰ですか?」

僕「僕、零です。」

八一君「え?!兄弟子?!」

八一君「ちょっと待って下さい!」

 

なんか慌ただしいんだけど…

まさかのまさかで警察出動?!

 

なんかヤバそうだったから有無を言わさず

鍵を開けたが、八一君も抵抗してなかなか

開けられない。こんな時には僕の非力が

恨めしい…

けど、八一君も集中し切れないのか、少し

力が緩んだ所を一気に引き開けた。

 

 

 

 

 

 

………………………

 

 

 

 

 

八一君、うつ伏せ…

そして、うつ伏せの下の幼女は誰?

 

 

 

 

 

仕方ない、通報するか。

幾ら可愛い弟でも、これは流石に見過ごせない…

 

 

 

次の瞬間、

 

「兄弟子、やめてぇ~!!」

 

八一君が叫び出す。

 

「いやいや、これ、見過ごせないでしょ。」

 

 

「誘拐とか犯罪違いますから、兎に角話を

聞いて下さい!!」

 

 

 

なんか可哀想になってきたんで、取り敢えず

言い訳だけは聞く事にした。

 

 

聞くと、八一君もそれなりに不審がってたが、

才能はやたら高いらしいので、昼にでも

師匠に相談するつもりだったようだ。

 

 

 

 

「才能」と聞き、僕もついつい興味を持った

のは、本能だね、と、一応言い訳しておく。

 

実際、八一君の要望で平手で指したが、

あまりに突出した終盤力には感嘆するしか

なかった。

 

 

 

けど、この場に銀子ちゃんが居なくて

不幸中の幸いだったな…

 

 

 

僕ですら通報と身構えた位だし、銀子ちゃん

だと、八一君の命日になったかも…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

昼過ぎ、予め師匠と桂香さんには連絡入れて、

夕方には、野田の師匠宅に到着した。

 

 

 

 

どうやら桂香さんから連絡受けたようで、

銀子ちゃんも到着済みだった。

早速不機嫌オーラ全開だな…

 

 

 

そして、居間に招かれるなり、幼女が、

「九頭竜竜王の弟子入りに来ました

雛鶴あいと申します。」

と早速挨拶。

 

それに対し、師匠は、

「気持ちは分かるが家出はあかんで?」

と、即座に返した。

 

 

僕は「あぁ、やはりな…」と思い、

八一君も合点がいった顔だった。

 

 

 

けど、一番毒を吐いたのは、銀子ちゃんだった。

 

 

 

「小娘、ここはアンタが夢想するような甘い

世界じゃないのよ。親の言う事聞いて今すぐ

実家に帰りなさい!」

 

 

けど、あいちゃんも引かない。

「貴女は師匠より強いんですか?」

「強くもないのに偉そうに言わないで下さい」

 

 

メッチャ気が強いな…

 

 

で引き取るように師匠が、

「金沢の道場でも指せるんやがな…」

と言うや否や、あいちゃんは、

「いやです!師匠に教わりたいんです!」

 

 

 

どれだけ惚れ込んだの…

 

 

 

 

 

けど、師匠もあいちゃんを気に入ったらしく、

「よし、八一、責任持って預かれ!

研修会合格に向けて鍛え上げぇ!」

 

 

 

 

なんか一気に解決方向に…

 

 

 

 

でも、肝心要のとこはどうするのかな?…

 

 

 

 

 

 

けど、師匠は上機嫌で、桂香さんに、

「祝いや!赤飯や!」と叫ぶが、

桂香さんは冷静に、

「今夜はお好み焼きよ」

と一言。

 

 

 

 

 

 

で、6人でテーブル囲んでお好み焼きを

頂いたのだが、そこで桂香さんの

半爆弾発言が炸裂…

 

 

 

「あ~、これで私達もおばさんかぁ~」

 

 

 

 

 

即座に反応したのは、あいちゃん。

銀子ちゃんに、

「おばさん」

と一言。

 

銀子ちゃんも即座に

「は?誰がおばさんだ?小童!!」

と返し、八一君完全に全身蒼白…

 

 

 

 

その後も波乱含みながらも話が弾み、

結局全員お泊まりとなった。




あいちゃん、ここで遂に登場。
銀子ちゃんとの関係は基本的には原作と
一緒という事で…

あと、桐山君や他の主要人物の現状は
次回以降に書きたいと…

って事でまた次回!!


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ゴッドコルドレン

いや~、清滝家での一夜はやはりというか、
銀子ちゃんとあいちゃんのガチバトル模様に
雷雲立ち込めるお約束な展開となった感じで…

そんな中でも、対局は流れるように進んで
行きます。

今回は、八一の宿命のライバルにして、
将棋界のMr.ファンタジックでもある
「ゴッドコルドレン」が初見参!!

って事で本編スタート!!


~side八一~

 

あの押し掛け突撃から2日…

俺はあいを連れて関西将棋会館に向かった。

 

 

 

目的は勿論、俺の対局である。

今日の対局は、七大タイトル戦の1つである

「帝位戦」挑戦者決定リーグ戦である。

 

 

 

…とは言っても、俺は竜王戦後の不振にモロに

ぶつかっていたので、ここまで未だ勝ちなしの

3連敗で、既にリーグ陥落は決定していた。

 

 

 

今回含む残り2戦は謂わば消化試合なのだが、

それでも負けたくない・負けられない理由が

あり、又、出来た。

 

負けたくないのは、今回の相手が小学生名人戦

以来の生涯のライバルと位置付けている

「神鍋歩夢」であり、彼は俺より2歳年長だが、

小学生名人戦で激闘を繰り広げた宿敵・戦友でも

あり、プロ四段は半年先輩でもあるので、益々

気合いと気負いが混在する程意識しなくては

ならない存在だからだ。

 

 

そして負けられない理由は勿論、俺を慕って

態々石川県から家出してまで弟子入りを願った

「雛鶴あい」に「俺の将棋」を見せなくては

ならないからだ。

 

 

関西将棋会館に到着した。

 

まず、お土産コーナーを案内した。

扇子やら駒ストラップやら諸般の会館名物に

目を輝かせながら見入っていたあい。

 

ふと、とある扇子を目敏く見つけたようで、

「これ、ししょーのですよね?」

って、何故か俺の不恰好な文字入りの扇子を

指差し、嬉しそうに見つめていた…

 

こうなると分かってたら、兄弟子の書道指導を

もう少し真摯に取り組むべきだと軽く後悔した…

 

 

 

 

そして、お土産コーナーから少し移動した所で

あの男が見てくれからコレと解るド派手な格好で

待ち構えていた。

 

「フハハハ、我が宿命のライバル、ドラゲキンよ

、久方振りだな。して、その幼女は貴様の妹か?

にしても似てはおらぬな…」

 

おいおい、のっけから兄妹扱いかよ!

って、お前もあいと同年代の歳の離れた妹が

現実にいるだろーが!!

 

ま、それはひとまず置いといて、

 

「あぁ、この子は石川から弟子入り志願に

やって来た雛鶴あいちゃん。正直な話、

掛け値なしで素質才能すげーあるから。

お前んとこの妹ちゃんよりも上かも知れん

かな…」

 

と、ひとまず返してやった。

けど、やはり大仰なファンタジック、

 

「幼くも我が愚妹もなかなかの素養があると

感じるところだが、それ以上とはすこぶる

楽しみ!期待しておるぞ!」

 

でも、歩夢きゅんの演説は止まらない。

 

「それはそれとして、我が宿敵ドラゲキンよ、

今宵こそ真に決着を付けようぞ!!」

 

はぁ~、止まった。…ってあれ?歩夢きゅん、

俺たちの向こうに目を向けてんだけど…

 

 

 

…って兄弟子~?アンタ今日対局予定じゃない

でしょ?!

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

あの通報未遂の翌日、僕は対局予定はないものの

、軽い防衛挨拶&差し入れに関西将棋会館へ足を

運んだ。

 

 

月光会長は東京出張で、秘書役の職員である

元女流棋士(正確には引退女流棋士)の

男鹿ささり女流初段をお供に出掛けていたので

生憎不在だった。

 

けど、常勤の職員さんはそれなりに忙しく

働いていたので、取り敢えず「現地土産」と、

簡単な盤王防衛報告は済ませておいた。

 

 

 

そして事務室を出るや、見覚えのあるド派手な

格好の青年が八一君たちと向き合ってた。

 

 

 

自称「ゴッドコルドレン」こと、

僕以来史上2人目のデビュー以来2期連続順位戦

全勝を果たした「神鍋歩夢」君だ。

 

あ、どうやら僕に気付いたか…

 

「キングゼロ、ご無沙汰しております。

我は我が宿敵ドラゲキン共々キングゼロの領域に

近付かんと日々精進している次第でございます。

今宵は是非にも我が聖戦を御照覧あれ!!」

 

 

相も変わらず仰々しい挨拶だが、それでいて

実力は掛け値なしの本物なんだから

始末に悪い(勿論肯定的評価としてだ)

 

 

 

さて、2人は対局が間もなく始まるので、

あいちゃんはひとまず僕が預り、取り敢えず

会館内の道場に案内した。

そして担当の職員さんに

 

「今度八一君の弟子見習いになった

雛鶴あいちゃんです。今日は時間の許す限り

どんどん対局させて下さい。」

 

と告げ、規定の料金を支払った。

当分は道場で後見みたいに座りながら

脳内将棋でも軽くこなしとくか…

 

 

 

 

 

 

帝位戦挑戦者決定リーグ戦第4局

 

九頭竜八一竜王(0勝3敗)

vs

神鍋歩夢六段(3勝0敗)

 

 

 

 

 

 

 

 

お互いに序盤は研究範囲だからか、サクサクと

進み、昼食休憩。

 

八一君は、あいちゃん自作弁当を2人で食べ、

歩夢君は、出前の親子丼を注文。

 

 

僕は会館1階のレストラン「トゥエルブ」で

サービスランチで済ませた。

 

 

 

その後は歩夢君の1五香からの攻勢に八一君が

苦しみ、投了必至と思われたが、ここで

八一君は、関西特有の勝ちに拘る異常なまでの

クソ粘りコースに動いた。

歩夢君も「受けて立とうぞ!」

って真っ向から泥試合模様に立ち向かい、

結局、日が変わって午前3時、歩夢君が投了。

不格好ながらも兎に角八一君は泥沼の11連敗

を漸く脱出。

 

あいちゃんは、時間になったらアパートに

戻るよう八一君から指示されてたけど、

あまりに食い入るように盤面を見つめていた

から、僕の責任で最後まで僕と一緒に

観戦・検討する事とした。

 

 

 

終局後、八一君が降りてくると、

僕と僕に背負われたあいちゃんが目の前に

現れたので、八一君、

 

「兄弟子、あいの事、面倒かけました。」

 

と詫びてきたので、

 

「君の奮闘で将棋に夢を求めてやって来る

少年少女が増えれば、この位はね。」

 

と軽くかわしといた。

 

 

 

 

因みに僕は帝位戦は八一君、歩夢君とは

別リーグに入っており、既に4戦終え、全勝を

キープ。リーグ残留は決定しており、最終戦

で僕が勝てば挑戦者決定戦進出、負ければ

1敗同士の最終戦勝者とのプレーオフとなり、

挑決進出を賭ける事となる。




ゴッドコルドレン降臨!!

今回は基本的に原作準拠な内容になりましたが、
原作じゃゴッドコルドレン君、直接対局では
あまりパッとしないので、
今作では、タイトル戦に巧く絡ませられたらな
…と思い、続きを書こうかと思ってます。

そうじゃなきゃ、宿命のライバル足り得ない
でしょ。

宗谷さんに対する土橋さんや島田さんとか、
追っかける側でしかないのも味がないとは
言えないけど、存在感がね…


って訳で、今作はゴッドコルドレンの
強化進化に取り組みます。

って訳で、又次回!!


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夜叉神天衣

将棋界の現実文庫見ると、竜王戦本戦トーナメントがいよいよ開幕しましたね。1組優勝の永瀬軍曹(中尉?)始め、1組4位のレジェンド羽生から、2組優勝の藤井二冠から、屈指の実力者が揃った見応えある戦いが期待されるところでしょう。


一方、今期から方式が様変わりした叡王戦も、いよいよ挑戦者決定戦進出者が決定し、一方は先の名人戦では魔王の悪魔力に屈したものの、この叡王戦はしっかりリベンジを果たした上で挑戦目前まで駒を進めた斎藤慎太郎八段が勝ち上がり、もう一方は史上初の十代三冠にまた一歩接近してきた藤井聡太二冠が進んで来ました。

現実文庫でも今年は特に熱い夏の激闘が予感されそうで目が離せなさそうです…


って訳で本編スタート!!


帝位戦での八一君の吹っ切れたような関西風泥まみれ全開の粘り勝ちから2日…

 

 

僕は対局日でないにもかかわらずも関西将棋会館に足を運んでいた…

 

理由は、昨日出張から戻って来た月光会長からの呼び出しである。

 

 

昨日夕方に急に「明日会館で君に考えて貰いたい話があるのです。時間は取らせませんので、昼過ぎにでもどうですか?」との柔らかい口調ではあるが、実質命令なお話を僕が拒否できる選択肢は無かった。本当は4月から始まる名人戦への対策研究に傾注したかったけど、会長の真綿を締めるような拘束力って、どっか気ままなところのある生石さん以外基本的に逃れられないからな…

 

 

 

 

そして会館に入り、「トゥエルブ」で軽くランチを済ませると、真っ直ぐに会長室に向かった。

 

ドアの前で「失礼します、桐山です。」と声を掛けると「お入り下さい。」と会長…ではなく、秘書役の男鹿さんが声を返した。勧められるままに入室し、会長から「まず、お座り下さい。」と勧められたので、それに従い、来客用ソファーに座った。

 

早速会長から、「貴方ももう21歳になりますね。」と、

何故か年齢確認?確かに僕は4月生まれなので、1ヶ月以内に21歳になるのは決まっているのだが、まさか酒とかじゃないよな…前回でもあまり呑めなかったのに、今回は今回でアルコールにはあまり強靭な体質じゃないので酒席に帯同ならハッキリ断ろうと決めた。

 

けど、話は全く異なり、会長から聞かされた話は僕には意外な事だった。

 

「実は、将棋連盟に多額の寄付をしていただいてる、とある実業家のお孫さんから師匠の依頼をされているのです。そして、その師匠の条件が、現役のA級棋士か現役のタイトルホルダーでなければ…という事なのです。」

 

 

なにそれ、幾らなんでもムチャクチャじゃないの?

 

実際、現在の関西でのタイトルホルダーは、竜王の八一君と、玉将の生石さん、他は玉座と盤王の二冠を保持してる僕の3人しかいない。更にA級だと、八一君を抜き、替わって月光会長が加わるだけなので最大でも4人しかいない。随分贅沢な要求するお坊ちゃんorお嬢ちゃんだな…とその時はやや不快に思った。

 

で、僕の方から「会長は多忙ですし、目の問題もありますから難しい事は承知しております。生石玉将も弟子を取るスタンスをお持ちでないのは伺っております。ならば、竜王でも宜しいかと思いますが、何故僕なのですか?」と問うた。

 

「二冠には現在お弟子さんが存在しておりません。そして、その依頼者との相性を鑑みるに、最も最適と考えた次第です。」との会長の回答。

 

名人戦と並行するけど仕方ないな。実際会長には色々とスケジュールとか盤外での所謂「芸能活動」なんかで最大限の配慮を行って貰ってるから素質才能が十分にあるかないかだけ確認し、足りなきゃ断ればいいか…と、その時点ではあまり深刻に考えていなかった。

 

 

 

それから3日後、その実業家の屋敷を訪問した。

豪壮さだけなら二海堂の邸宅を知ってるので、広さでの驚きは無かったが、門前門内に所謂「どう考えても堅気じゃない」その筋で人生送ってる方々がド派手に出迎えの陣太鼓に行列とか、僕は貴方方の担当弁●士じゃありませんから。

 

そして長身のその筋と見られる女性の案内で、その依頼者が待っている部屋に到着した。

 

気配で振り返ったその依頼者は、おおよそ小学生中高学年位の美しいが気の強そうな女の子だった。

 

早速「お祖父様から聞いたわ。私は貴方を師匠とは認めない。私を甘く見ないで!!」と、のっけから僕な存在から否定してくれた。

 

いやいや、依頼したのは君でしょ。って台詞は何とか抑えたが、一方で他者との実戦対局は致命的に不足してるな…とも直感した。

 

故に、「まず一局指そう。駒は幾つ落とそうか?」と、提案したが、本人は「平手以外ないわ」と、なんとも自信過剰な台詞を頂いた。

 

対して僕も「君が思う程将棋は甘い物じゃない。君にはそれをこれから嫌という程体感して貰うからそのつもりで」とだけ答え、対局を開始した。

 

 

 

…最早いじめを軽く超えた虐殺模様となり、何時でも投了宣言でもおかしくない圧倒的盤面の地獄絵図と化していたが、彼女はまだ降参する気配も無く、必死に回避筋を探っていた。が、ここからは詰みが確定してたので、彼女が「ま…」と呟くや、「お疲れ様」と言い掛けたが、次に出た言葉が「まだ負けてない!!」で、そこから防御の陣形を築き、彼女の本質が「受け将棋」であるのを直感的に感じ取った。

 

けど、劣勢を挽回は出来ず、結局守りの穴を崩し、頭金を打ったところで決着。

 

 

彼女がそのまま立ち去ろうとしたので、「礼!!」と僕には珍しく声を荒げ、止めようとしたが、「天衣!」と叱るお祖父さんの叱咤にまで耳を貸さなかった天衣ちゃんは「お祖父様の馬鹿ぁ!!」と叫ぶなり、即刻部屋から逃げ去った。

 

 

直ぐに実業家の夜叉神弘天さんからは、「我が儘な孫で申し訳ありません。あの子は数年前、事故で両親を失っており、以来、私が引き取って生活してますが、不憫な娘と思い、少々甘やかし過ぎたとは今にして思っております。ですから貴方のような若いながらも、栄光と痛みの両面を熟知した方に指導を頂ければあの子の成長に繋がるのではないかと考えた次第です。」と告白された。

 

 

そして、弘天さんに「今、彼女はどちらに向かいましたか?」と伺い、仏間に案内された。そこには彼女が1人で仏壇の前に座っていた。

 

「天衣ちゃん、君の名前を聞いた時、君のお父さんの夜叉神天祐さんの事を回想したよ。天祐さんとは僕がプロ入りして間もなく盤王戦予選決勝で当たり、辛うじて勝ったけど、感想戦ではどちらにも勝ち筋が残っていたって、色々評判が立っていたからね。」と話すと、天衣ちゃんは、

 

「幼い頃からお父様からは、『桐山零君は間違いなく将棋界の天下を取る男だ。天衣は是非にも桐山君の弟子になって貰いたいものだ。』って事ある毎に話していたわ。」と答えてくれた。

 

 

僕も、「僕は正直人に教える事や、盤面状況を言語化する事が極めて不得手なんだけど、君の哀しみについては、ある意味で君以上に熟知し、理解している自負はある。」と話し、

 

「人生及び将棋界での先達としてはまだまだ修行が必要な身だけど、それでも望むのなら、僕が責任を持って君を強くしよう。そしてはいずれ、最高の舞台で戦おう」

と告げると、彼女は、

 

「師匠を喰らい尽くしても最強になって見せる。」と告げ、その場で師弟関係が確定した。

 

 

しかし天衣ちゃんって、少し大人びているように見えるけど、あいちゃんと同学年なんだな…

 

さて、気持ちも新たに名人戦に集中しよう。去年失った名人の奪還は喫緊の命題だからな。




天衣ちゃん登場。桐山君同様、事故で両親一気に失った喪失感と深い傷は原作と変わらず。

しかし、同じ深い傷を背負う桐山君とこれからどう関わるのか、また、桐山君への思慕が覚醒するのか単に師弟関係から動かないのか…これは思案中…



因みに桐山君のこれまでのタイトル履歴は、


名人3期(2013~15)
竜王1期(2013)
帝位6期(2010~15) 永世帝位資格取得
玉座9期(2008~現在)名誉玉座資格取得
盤王9期(2009~現在)永世盤王資格取得
玉将5期(2010~14)
棋帝7期(2009~15) 永世棋帝資格取得
タイトル合計40期(歴代4位)

公共放送杯優勝4回
毎朝杯優勝4回
大河戦優勝3回
賞金王シリーズ優勝6回
新人戦優勝1回
一般棋戦優勝18回

デビュー10年での成績としては当に怪物級。


順位戦も全て1期抜けを記録し、現実文庫でも及ばないA級昇格即名人挑戦→史上最短名人獲得の超絶記録を達成。しかも、順位戦はA級も含め、無敗記録を継続中。
(C2~B1まで42連勝+A級2期18連勝の順位戦60連勝を達成)

鬼●眼鏡やら魔王やらきゅんも軍曹も脱帽レベルの最強に仕立てました(笑)


って訳で次回!!


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宗谷冬司

ここ暫く絶賛社畜状態で更新できなかったのですが、ここから先は時間が出来たらって事で不定期投稿になるかと思います。

それにしても、あの魔王がスイープで挑戦失敗=藤井棋聖の圧巻初防衛って何なのこの子…みたいな(今更ですが)感想しか出来ないのが何とも…

しかし一方で豊島竜王には終始主導権を握られての敗戦と、王位戦は難関真っ只中の様子で…

竜王戦も本戦間近で熱く多忙な夏ですが、藤井二冠には何とか頑張ってほしいと思ってます。

って事で本編スタート!!


今、僕は名人戦番勝負の最中で2局を終え、1勝1敗のイーブンだ。

 

そんな中、月光会長から緊急の話があると関西将棋会館に呼び出された。

 

用件は、小学生名人戦決勝大会(準決勝・決勝)でのゲスト解説の依頼だった。

 

いやいや、僕は名人戦真っ只中でゲスト解説なら他にも相応しい先輩とか八一君とか注目株なら結構いるとは思うのですが、何故僕に?

 

この疑問に会長は、「今回の4人の内の1人が、どことなく桐山二冠に通ずる所が感じられましてね。それと、元々担当する予定だった篠窪棋帝がどうしても都合が付かなく彼に匹敵する解説が二冠しか思い浮かばなかったもので。因みに九頭竜竜王は時期尚早と思いましたので今回は見送らせて戴きました。」

 

まぁ第3局の後だし、第4局までは少し間があるから必ずしも出来なくはないけど、本当に急だな。ってか、会長、こっちが断り難いタイミングちゃっかり狙ってたとしか…

 

まぁ引き受けたからには行くしかないな。

 

 

 

5月某日、僕は東京・国営公共放送特設スタジオに到着していた。

 

前日に東京入りして、vsを条件に二海堂の屋敷に泊まらせて貰い、そこから現地入りした。因みに二海堂は、僕のプロ入りから1年半後にプロ入りし、体調に気を使いながらもA級に2期在籍し、今期はB級1組で出直しとなっている。タイトル戦は去年の玉座戦で僕に挑戦し、フルセットで辛うじて僕の防衛となった。名人たちとの戦いとはまた異なり、心身ともハイテンションで臨んだ事で関西の面々からは「桐山がここまで感情剥き出しとは…」って驚愕されたけど。

 

 

そしてスタジオでの準決勝、関東A代表の子と関西B代表の子の対局となったが、関西の子を見て僕は内心驚愕した。何故ならその子は銀子ちゃんに近い白髪or銀髪で、表情はなんとなく乏しい感じで、イメージとしては大きな白い鳥…あの人だよ。で、プロフィールを確認すると、やはり彼は「宗谷冬司」だった。前回同様、今回も京都在住らしい。

 

そして4人の今大会での棋譜を確認すると宗谷さん、いかにも物足りなさそうな圧勝を繰り返しており、宗谷さんも転生してきたってのが確信出来た。

 

 

準決勝は勿論宗谷さんが不機嫌全開で通過、そしてもう1つの準決勝は関西Aの子と関東Bの子がぶつかり、関東Bの子が勝ち上がった。

 

 

決勝戦、関西Bの宗谷さんと関東Bの小池岬さんという女子がぶつかった。なるほど、小池さんもこのクラスでは十分な実力者で、奨励会でもある程度は通用するとは見込めるけど、今回は流石に相手が悪すぎた。宗谷さんもそこそこ楽しめた様子だったが、全般的には宗谷さん優勢は動かず、きっちり詰め切った。

 

 

そして表彰式とゲストとしての僕の論評が行われたが、やはり宗谷さんが圧倒的なのは触れない訳にはいかず、一方で小池さんにも、課題をしらみ潰しに潰して行けば将来的にはプロも視野に入る可能性はあるとコメントしておいた。

 

そして大会を終え、新幹線を待っていたら宗谷さんも同じ便に乗るようで僕の知り合いでもある女性と一緒に僕に近付いてきた。

 

その女性は「供御飯万智」さんで、彼女は僕より2歳下だが、小学生名人戦では八一君たちと戦い、その後は研修会を経て女流棋士となり、現在は女流タイトルの1つである「山城桜花」を4連覇し、クイーン資格獲得まであと1期と迫る女流の実力者である。そんな供御飯さんが僕に

 

「桐山先生、お久しぶりどすなぁ。」

 

と挨拶してきたので僕も

 

「供御飯さん、こちらこそお久しぶりです。ところで彼、宗谷君とはどのような繋がりなんですか?」

 

と問うと、供御飯さんは

 

「この子、こなたの弟なんどす。お父はんが世話しとった女子はんに産ませた子ぉで、その女子はんが亡くならはったから5年程前に引き取ったんどす。」

と事も無げに答えてくれた。

 

 

そして新幹線に乗り込むと、席が隣合っていたのでまた供御飯さんと少し話していた。

 

ここまで一切無言だった宗谷さんだったが、突然

「今日はつまらなかった。万智ちゃんより弱すぎだし。桐山さん、1局頼めますか?」

 

と言ってきたので、僕も彼の現在の力を試して見たく

 

「先に言われたか、僕の方から頼もうと思ってたんだけど。」

 

と答え、車内で指し始めた。

 

 

実際に指してみると以前の感覚が甦るようで兎に角楽しい。宗谷さんも楽しそうでどんどん手が進んだが、いよいよ終盤という所で供御飯さんが

「もうお仕舞いどす、そろそろ京都や。」と声をかけ、強制終了となった。

 

久しぶりにとことん指したかったのだが、仕方なかった。因みに年齢を聞くと宗谷さん、ついこの間小学校に入学したばかりの新1年だそうだ。って事は僕の14歳下って事か…こりゃ暫くは指し続けはムリそうだな…。また供御飯さん同様、加悦奥先生の門下という事だが、あの先生ならスタイルを弄るタイプではないから宗谷さんにとってもやり易い人とは思う。

 

さて、名人戦もここからが正念場だし、棋帝戦も名人との挑決が待っている。帝位戦も挑決進出が決まり、竜王戦でも1組3位で本戦に駒を進めた。多忙極まりないが、充実した夏になりそうだ。

 




宗谷さん登場。ライオン原作とは年齢差逆転させ、しかも供御飯さんの弟設定はやり過ぎかとも思いましたが、京都在住設定を変える気が無かった以上、思い切ってぶっ込んだ次第です。

ま、こーなると宗谷さんと天衣ちゃんの関係や暗闘なんかも徐々に触れなきゃなと考える次第です…

って訳でまた次回!!


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棋帝戦

なんとなく書いて見たかったんで、とりあえず書いて見ました。

ぶっつけ本番状態なので、色んな乱れとかも出てくるかも知れませんが、そこはご容赦を。

って訳で本編スタート!!


棋帝戦…

 

50年以上の歴史を誇る将棋史上初の1日制タイトル戦である。

 

スタートから30年余りの間は年2回開催の戦いであり、「名人」が七冠独占する直前から年1回開催に変更された経緯がある。

 

そんな歴史からか、初タイトルが「棋帝」の棋士が10人に及ぶ程、棋帝位はタイトル常連への登竜門というイメージが付くようになった。

 

 

そして今期の棋帝戦は、去年タイトル初獲得を果たした篠窪棋帝に、去年このタイトルを奪われた僕がリベンジに挑む戦いとなった。

 

 

その前に行われていた名人戦で、「名人」からフルセットで名人を奪還し、勢いを加速させたい僕を何とか止めたい篠窪棋帝だったが、開幕から僕の2連勝となり、次は淡路島の名門ホテルの「ホテルアワジ新館」で第3局が行われる事となった。

 

そんな中、マイナビ女子オープンに出場する事となった天衣ちゃんだが、その予備予選的位置付けのチャレンジマッチの日程が僕の淡路島での第3局にぶつかったので、天衣ちゃんの付き人の長身美女の池田晶さんに保護者役を頼み、桂香さんにあいちゃんたちと同行して貰う事にした。

 

天衣ちゃんは「馴れ合いする気はない」と渋ったが、僕は「利用出来る所は利用し、価値がないと思えば放置する位な考えで動けばいいと思う。」と諭し、何とか承知して貰った。

 

そして「ホテルアワジ新館」での棋帝戦第3局、天衣ちゃんのチャレンジマッチの結果はまだ聞いてはいなかったが、特には心配してなかった。

 

そして、勝負どころの第3局が始まった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~side天衣~

 

 

 

私は桐山師匠の弟子になって以来、師匠の方針で新世界の古びた将棋センターで所謂「真剣」将棋を戦い、最初はその異質な棋風に面食らって連敗したけど、直ぐに吸収すると後は連勝して10日でクリアした。その後は研修会試験を受け、最後の相手となったのはクズ竜王こと、九頭竜竜王の内弟子で将棋歴4ヶ月に過ぎない雛鶴あいという私と同い年の少女だった。序盤中盤は完全に私が一方的にリードしていたが、終盤に差し掛かると彼女の読みにリードが削られ、呑まれてはならないと思いながらも呑まれかけ、それでも何とか詰め切って勝った。

 

 

しかし感想戦の中で、幹事の久留野先生からあいに詰み筋があったと聞かされ、私は冷や汗をかいた。一方あいは、半ば呆然としながら悔し涙に暮れ、「勝てたのに勝てなかった…」とポツリと一言。

 

そんなあいに私は「負けた人間は認めない。」と言い放ちはしたが、一方で「敵としてなら認めてあげる」とも言ってしまった事で彼女やその仲間たちとは奇妙な縁が出来上がってしまった。因みに師匠は「天衣ちゃんにはそういうライバルが不可欠だからね。」と、あいとの関係を肯定されてしまった。

 

 

 

そして迎えたマイナビ女子オープンチャレンジマッチ。これは4連勝か、敗者復活戦を勝ち上がるかで次のステージとなる一斉予選への進出となる。

 

ここはアマチュアか底辺レベルの女流しかいないので、全勝が最低限の義務となる。まずは無難に一斉予選へ駒を進めた。

 

一緒に上京したメンバーでは、クズ竜王の内弟子な雛鶴あいも全勝で通過し、年齢制限スレスレの年増な清滝桂香は敗者復活戦で辛くも通過となっていた。

 

翌日、師匠が王手をかけた棋帝戦第3局が行われていた。

 

団体行動が基本的に苦手な私も、師匠の言い付けには背けず、仕方なしに年増やあいと一緒に行動していた。その日のニコ生中継は解説がクズ竜王で、聞き手は実力の割に人気だけは異常に高い鹿路庭珠代女流二段だった。それにしてもあのムダなまでの胸の突出ってなんかアピール方法勘違いしてない?

 

戦いそのものはお互い様子を見ながら守りを固めつつ、虎視眈々と隙を狙う目の離せない熱戦模様となっていたが、おやつタイムでの動きが思わぬ事件の始まりとなってしまった。

 

そのおやつタイムで注文したのが、師匠はモンブランとアイスコーヒーシロップ3個付きだけど、篠窪棋帝の注文がプリンとアイスティーで、そのプリンが導火線となった。

 

解説席でもプリンが出されてクズ竜王に鹿路庭が「あ~ん」ってやってくれたのが決定打となり、あいがキレた。たちまち解説席に乗り込んで「竜王の内弟子です」って強引に割って入って、後を追ったあいの仲間のJS集団もスタジオ投入。そこで更に金髪幼女が「しゃう、ちちょのお嫁たんだよー。」って決定的な燃料投下に至り、完全に収拾不能と化した。

 

と思っていたら何故か私も強引にスタジオ投入されてしまい、鹿路庭に「貴女も竜王のお弟子さんですか?」とふざけた質問されたので、ついムカつき気味に「私の師匠はそこで対局してるわ」と答えたら、何を勘違いしたのか「篠窪棋帝ですか?」と再度聞かれたので「関西の人間がなんで関東のヤツの弟子にならなきゃならないの」と答えたところでやっと気付いたらしく、「え、まさか桐山名人がお師匠様なんですか?」となんとも間抜けな答えが返ってきた。

 

そんなスタジオの混乱をよそに熱戦は続き、最後は師匠が篠窪棋帝を王手ラッシュで詰め切って四冠に復帰した。

 

まだまだ道程は遥か長いけど、師匠を超える事が私の明確な目標であるのを実感した戦いであった。

 

 

 

 

 

 

但し、鹿路庭が読み切れて無かった詰み手順を私とあいがそれぞれ読み切った事に普通なら不快な雰囲気出すだろう筈があの女、逆に私達に関心を寄せ、放送終了後、色々質問攻めにした挙句に

 

「今度時間あれば大阪でも神戸でも顔出すから是非研究会しましょう。」

 

と言われ、ムダに胸がデカいだけじゃなく、向上心・探究心もそんな胸以上に旺盛な女流とは云え、本物の棋士だと彼女への認識を改めざるを得なかった……

 

 

 

 

 

 

 

一方のクズ竜王は……、そんな生放送の終盤、師匠の詰みが決まり、四冠復帰を飾ったのを見て、

 

「………、兄弟子、化物…?」

 

って一言呟いたきり、暗い沈黙に陥っていたから流石に我慢出来ず、一発蹴り飛ばそうと動こうとしたら、誰かが先んじて動いてた。

「あい?」と思ったら、あいも師匠の凄味を画面越しながら感じ取っていたらしく、身動き取れずにいたので、一体誰かとその動きの主を見ると、舌足らずな金髪ロリの……、確か、シャウだかシャルロットだかってフランス生まれの京都住まいの6才児だった……

 

で、そんな金髪ロリが無邪気にクズ竜王の隣に立ったと思ったら、

 

「ちちょ、どちたの?」

 

と聞いてきてクズ竜王が、

 

「兄弟子の凄味を感じて……」

 

と返したと思ったら、

 

「じゃ、しゃうがとくべつなおまじないしてあげる❤」

 

と言うや否や、クズ竜王の頬にキスするって爆弾級の暴挙してくれた……

 

 

当然その次の瞬間からのあいの暗い怨念オーラが現場の空気を覆い、ショートカットの澪もメガネの綾乃も固まってしまい、私もこんなのフォローの仕様も無く沈黙するしか無かった処、結局最後は鹿路庭が巧く纏めてどうにか放送終了に持って行けた。

 

 

 

その後…放送を見直すと、その悍しい瞬間から画面が字幕で埋まりまくる完全無欠の放送事故と化しており、後日、この放送事故を見直した師匠も、

 

「これじゃ主役は八一君とシャルロットちゃんだろ(苦笑)、僕も篠窪さんも影すら見当たらない……(再度苦笑)」

 

って苦笑以外どうにも表現しようの無い顔だった……

 




棋帝戦と言いつつ、実際は天衣ちゃんの独白中心になってしまいましたが、天衣ちゃんの今後に繋がればなぁと思い、書いてみました。

しかしクズ竜八一は相も変わらず女にはだらしないようで…www

って訳でまた次回!!


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奨励会入会試験

棋聖戦も終わり、ここからは王位戦と叡王戦が本格化する季節となりました。
一方の王座戦はまさかの会長の挑決進出とか3トップが早々に姿を消した結果、波瀾含みな展開になった模様で、もうこうなったら挑戦者会長で宜しいのではないかと軍曹(中尉)vs会長の王座戦番勝負の実現を心待ちにしてる次第で御座います。

竜王戦も、去年ドリーム突っ走りかけた梶浦七段がまたも本戦連勝で今年も前回止め男となったレジェンド羽生九段と激突と、なかなか面白い展開になってる模様で。

色々と目が離せない現実文庫ですが、こちらも負けじと突き進むつもりです。

って訳で本編スタート!!


8月下旬、今年も恒例の奨励会入会試験が始まった。

 

今年も関西将棋会館には多くの未来の名人を夢見、目標としている小学生から高校生までの少年少女、若者たちがまだかまだかと腕を撫していた。

 

その中に僕の2人の弟子も入っており、腕が鳴るのを必死に耐えていた。

 

弟子の1人は勿論、現在小学4年・9歳(12月生まれ)の1番弟子である夜叉神天衣ちゃんである。彼女は1級受験を望んでいたが、才能実力は兎も角、体力面では中高生にはまだ及ばないので、ある意味では入会後最初の壁と云える3級受験を勧め、「案外意地悪なのね」と言われたけど、取り敢えずは受け入れてくれた。

 

さて今1人の2番弟子だが、その子は宗谷冬司君。現世では供御飯万智さんの異母弟となっている小学1年・7歳(4月生まれ)である。

 

彼とは小学生名人戦の後、京都の供御飯邸を訪ねた際、2人だけで語らう機会を作り、色々話したのだが、やはり前回の名人戦の後の僕の事故死を知っており、その後は暫くは淡々とタイトル戦をこなしてはいたのだけど、僕というどことなく波長の合う相手が消えた事で段々対局も無気力のまま、50歳までに全てのタイトルを失い、島田さんや隈倉さんには叱咤激励され、土橋さんからもvsで刺激を与えようと色々尽くしてくれたのだが、もう無理だったようで、結局無冠から1年後に現役引退し、間もなく京都の自宅で孤独死に至ったらしい。

 

 

そしてふと目を覚ませば、覚えのある宗谷邸と将棋盤が目の前にあったと言っていた。けど、前回は親が育児放棄の末、祖母に押し付けて決まってしまった自身の人生に対し、今回は母親が出産即死亡とか、これまた過酷なスタートだったのだが、幸か不幸か父親が責任感の強い人で、父親が家付き娘である奥様に頭を下げて(父親は入り婿である)、奥様も度量の広い方だったので何とか家を継がない事を条件に供御飯家での養育が認められた経緯があったそうだ。そして、そこで供御飯さんとも邂逅したそうだ。

 

そして今回の受験の前に加悦奥先生から態々道場に呼ばれ、宗谷君を破門にした上で僕に身柄を預けるって話になり、先生とは色々話し合った上で、宗谷君の希望を汲む形で正式に僕の弟子に直った。

 

只、申し込みギリギリだったので、受験当日まで天衣ちゃんには話せず仕舞いだったのは申し訳ないと思った。

 

 

そして奨励会試験開始。

 

まずは1次試験で、2日間行われ計6局を受験者同士で争い、4勝以上で2次試験に駒を進める事となる。

 

天衣ちゃんは3級受験なので、駒落ちのハンデなんかにも漏れ無く対応しなくちゃならず、幾分苦戦はしたが、それでも5勝1敗で難なくクリアした。1敗も相手が2~3級クラスの実力者が6級受験だった影響なので許容範囲ではあった。

 

そして試験3日目、2次試験が始まった。

 

2次試験は、1次試験通過者が現役の奨励会員と3局指し、2勝以上で合格、1勝でも内容を精査の上で大半は合格となる今後に直結する正念場である。

 

天衣ちゃんは1級から4級の会員と当たる見込みだが、一方の宗谷君は小学生名人戦優勝の特権で1次試験は免除となり、2次試験が最初で最後の試験となる。

 

そして宗谷君は1級受験を選択し、1~3級クラスの若手を激昂させていた。そりゃそうだろう、まだ年端もいかぬ小学1年が「お前らは敵の資格すらない」って言外に宣言したようなものだからな。

 

しかし、小学4年のお嬢様だの、小学1年の身の程知らずのチビだのと、激昂してかかった会員の方が逆にたちまち劣勢に陥り、あっという間に投了に追い込まれる有様は圧巻だった。

 

こうして、天衣ちゃんと宗谷君は奨励会同期となった。

 

 

因みにこの時期の僕の成績は、棋帝戦はタイトル獲得したが、帝位戦は挑決で佐伯九段に敗れタイトル戦進出ならず、竜王戦は本戦初戦で2組優勝の二海堂と当たり、千日手指し直しを経て辛うじて勝ったが、準決勝では「名人」(1組2位)に疑問手を咎められ、敗退。これで年内は玉座戦防衛戦だけとなった。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

竜王戦挑戦者決定戦

 

一方は僕を打ち破り、タイトル通算100期と永世七冠(竜王だけ永世資格未取得)に大きく前進した「名人」

 

もう一方は6組優勝から一気に挑決に勝ち上がった「ゴッドコルドレン」こと「神鍋歩夢」六段の組み合わせとなった。

 

この挑決第1局の解説は僕で聞き手の女流棋士は鹿路庭女流二段だった。




なんともあれよあれよ、って言ってる間に宗谷君、桐山君の正式な弟子になってしまいました。

本編では触れてませんでしたが、天衣ちゃんと宗谷君の関係は姉弟弟子ではありますが、当人同士の印象としては、

天衣ちゃん→宗谷君「強さは人間飛び越えているけど、将棋以外は師匠を除いてまるで興味を示さない純粋将棋特化生物ね。」との事らしい…

宗谷君→天衣ちゃん「見かけは定跡通りだけど、定跡を外れてからの受けと攻めのバランスが面白い。」との事で、それなりに認めているらしい…

そして玉座戦の挑戦者と、竜王戦挑戦者は一体誰?って事でまた次回!!


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マイナビ一斉予選

竜王戦本戦トーナメントも佳境に入りつつあるこの頃ですが、レジェンド羽生九段が梶浦七段にリベンジを許し、年内の100期挑戦が無くなってしまいました。
で、逆ブロックでは山崎八段vs藤井二冠と、久保九段vs八代七段の準々決勝が間もなく行われます。永瀬王座vs梶浦七段の準決勝も加え、残り6人に絞られた挑戦権争いですが、誰が豊島竜王の前に座っても注目度の高い番勝負になるかと思ってます。

って訳で本編スタート!!


奨励会試験から遡ること3週間…

 

8月1日、マイナビ女子オープン一斉予選が東京で行われた。

 

我々清滝一門関係からは、

 

清滝桂香さん、雛鶴あいちゃん、夜叉神天衣ちゃんの3名がこの予選に臨んだ。

 

 

今回は現地解説に八一君、聞き手はマイナビの頂点たる「女王」の銀子ちゃんがそれぞれ担当する事となり、僕も帝位戦番勝負に進出出来ず、少しスケジュールが空いたので彼らに同行して東京入りした。

 

前日に東京入りし、僕は「名人」邸を訪れ、山刀伐八段に二海堂と4人で研究会に勤しんだ。

一方の銀子ちゃんと八一君は原宿の釈迦堂里奈女流名跡が経営するショップに行き、銀子ちゃんは釈迦堂さんと、八一君は歩夢君とそれぞれ研究会を行ったようだ。

因みに今回は天衣ちゃんはマイナビに専念させる為、『名人』邸には連れて行かなかった。

 

 

当日、銀子ちゃんと八一君は早速係員に案内されて所定の控え室に入った。

僕はのんびり観客に混じって観戦するつもりだったのだが係員の1人が僕に気付いて急いで銀子ちゃんたちの控え室に案内されてしまった。あの2人、2人だけにしないと進展が期待出来ないんだけど…

 

ともあれ僕も控え室に入り、予選展望を予想し合った。

いよいよ予選開始。

 

3人とも予選決勝に勝ち上がった。

 

決勝の組み合わせは、

 

桂香さんvs香酔千女流3級

 

あいちゃんvs祭神雷女流帝位

 

天衣ちゃんvs鹿路庭珠代女流二段

 

となった。

 

 

桂香さんは、研修会時代からの親友との鬼勝負をお互い涙で盤面を濡らす中、最後まで優位に指し続けて勝ち切り、本戦トーナメントで1勝すれば女流3級資格を獲得まで持ち込んだ。

 

一方、あいちゃんは祭神女流帝位に対し、中盤までは相変わらずリードを許していたが、得意の終盤に入るや驚異の読みが冴えに冴え、一気に逆転。最後は祭神女流帝位が駒をぶちまけ、礼もせずに即座に席を立った為、そのままあいちゃんの勝利となった。

 

そして天衣ちゃんは鹿路庭女流二段を最初から最後まで圧倒し、終局後の感想戦でも次々とダメ出しを行い、鹿路庭さんも悔しさがあからさまだったけど、別れ際になると鹿路庭さん、却ってスッキリした顔つきになって一皮剥けた感じになってたのは驚いた。

 

そして…直後に行われた本戦トーナメント抽選。

 

1回戦の組み合わせは、

 

桂香さんvs釈迦堂里奈女流名跡

 

あいちゃんvs月夜見坂燎女流玉将

 

天衣ちゃんvs登龍花蓮奨励会1級

 

となった。

 

全員初戦から難儀な相手と対峙したものだが、ここをクリア出来なきゃ棋士として生き抜くには足りな過ぎるとしか言えないので、どうにか頑張って欲しいものだ。

 

 

奨励会の天衣ちゃんは兎も角、桂香さんとあいちゃんは女流棋士入りが懸かっているのだからここを正念場と捉えなくてはならない。これはあいちゃんは八一君がいるからまだしも、桂香さんのサポートも考えなきゃならないかもな…天衣ちゃんと冬司君には不満たらたら言われるかも知れないけど。




マイナビ一斉予選と本戦1回戦の相手ですが、改編も考えたけど、結局原作踏襲に落ち着いた次第です。
変に変えるとこの後の展開が書きにくくなりそうだったんでそこは悪しからず。

って訳でまた次回!!


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竜王戦挑戦者決定戦

竜王戦本戦トーナメントもいよいよ佳境に入りましたけど、藤井二冠強い!あの変態染みた狂乱の指し回しが持ち味な山崎八段を打ち破るとは…
次は捌きのアーティスト久保九段vs2組決勝で藤井二冠に屈した八代七段の勝者との準決勝となりますが、いや~、楽しみです。

って訳で本編スタート!!


竜王戦挑戦者決定戦…

 

僕は以前2度挑戦し、幸いにも2度とも決定戦を勝ち上がり、挑戦者に名乗りを挙げた戦いだ。

尤も、肝心のタイトル戦では最初は当時喫緊の課題だった体力面でどうしても追い付かず敗退してしまった苦い思い出がある。

2回目は1回目から5年後に後藤九段を2連勝で破り、佐伯宗光竜王と戦い、僕の3連勝の後、佐伯竜王が3連勝を返し最終局まで縺れた激戦を辛くも制し、僕自身現在まで唯一の竜王制覇となった思い出深い戦いとなった。

余談だが、この竜王制覇で『名人』以来史上2人目の『七冠独占』を達成し、『国民栄誉賞』に何故か推薦されたのだが、流石におこがましいと思ったので、「身に余る評価は光栄ですが、僕の人生が終焉してから改めて検討して頂ければと思っています。」って辞退した。

これは月光会長から問い質されたけど、流石に『名人』を差し置いて僕が1番ってのは僕自身しっくり来なかったからそのまま正直に話すと何とか納得して貰った。

 

 

そして今回の挑戦者決定戦3番勝負の出場者は、

 

一方は永世竜王+永世七冠+タイトル通算100期が懸かった『名人』

今一方は前年の八一君に続く6組優勝からの挑戦者決定戦に名乗りを挙げた「ゴッドコルドレン」こと神鍋歩夢六段

 

新旧実力者の激突となった。

 

立会人は土居学九段、記録係は坂梨澄人三段となり、坂梨三段の振り駒で先手は神鍋六段となった。

 

 

序盤中盤はお互い守りを固め、大きな動きは特に見られなかった。

 

そしてこの決戦の現地解説は僕、聞き手は鹿路庭女流二段の組み合わせとなり、鹿路庭さんのプチアプローチにややタジタジになりつつも、どうにか解説をこなしていた。

 

夕食休憩後、いよいよ激しい駒のぶつかり合いが始まると、ここから先は未知の世界に突入した。

 

そしてそんな場面で何故か冬司君がスタジオに投入され、鹿路庭さんそっちのけで僕と冬司君との検討会状態にシフトした。

 

盤面は一見神鍋君が優位っぽいけど、『名人』がそのまま済ます筈は無かった。

 

そして僕らが『名人』の次の一手クイズを出題し、ファンの興味をそちらに移す事になんとか成功した。

 

そして『名人』の放った次の一手は…

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

~side関西将棋会館~

 

 

八一「歩夢、強い…。あの『名人』にここまで優勢に進めるとは…」

生石「なるほどこりゃあ『名人』も苦しくなったな。」

銀子「歩夢君、貴方も将棋星人…?」

あい「ふぇ?冬司君乱入しましたよ。ししょー、いいんですか?」

八一「棋帝戦での大混乱の導火線になったあいがそんな事言っていいのか?」

銀子「ホント小童ね。自分の恥を棚上げって…」

鏡洲「あ、『名人』動きました」

生石「何指すんだ?…っ……△6六銀??!」

八一「マジ?『名人』勝負捨てたのか?……ん?……あれ?…あ!これは『名人』の起死回生の一手だ…」

生石「どういう事だ?しかしそうなると、後の動きは…ん?ってまさか…『名人』め、千日手狙いって事か…」

清滝「なんちゅう抜け目のない奴や!これは神鍋君だけやない、八一への痛烈な挑戦状としか言えんわ!」

生石「その辺りの駆け引きは流石だな。山刀伐みたいな『名人』の劣化コピーじゃ到底及ばねぇ」

 

その一手以降、関西将棋会館の面々は蒼白になりながら最後まで観戦検討に努めた…

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

冬司君が突然生中継に乱入、説教しようにも生中継だから躊躇してると、いつの間にやら僕と冬司君との検討会と化していた。

鹿路庭さんには申し訳なかったけど、やっぱり冬司君との検討の方が楽しかった。

 

そして『名人』の放った運命の「△6六銀」が流れを『名人』に大きく呼び寄せた。

 

そして千日手指し直しとなり、先手は『名人』が奪い、両者1時間の持ち時間の短期決戦となった。

こうなると、劣勢から逆襲した『名人』に分があり、結局午前3時に歩夢君の投了で終わった。

 

そして続く第2局も『名人』が歩夢君を連破、結果、今期の八一君への挑戦者は最強『名人』が掴み取った。




八一と『名人』の竜王戦、一体どうなるのやら?
そして桐山君と天衣ちゃん、冬司君との関係にもどんな影響をもたらすのやら…

って訳でまた次回!!


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ハワイ

さて、王位戦第2局が北海道で始まりました。
初日は長考だらけであまり手が進まなかったようですが、2日目の動きが楽しみでなりません。

って訳で本編スタート!!


今年の第30期竜王戦第1局は通常の東京の協賛企業所有の施設ではなく、1年に1回もない海外開催で、場所はハワイである。

今回のハワイ行きの面々はまず両対局者の竜王・八一君と挑戦者・『名人』に、連盟代表の月光会長、正立会人の山内和馬九段、副立会人の久留野義経七段、記録係の鏡洲飛馬新四段、現地大盤解説の僕と聞き手の鹿路庭珠代女流二段等となっている。

他に観戦記者として鵠さん(正体は供御飯万智山城桜花)も同行し、更に観戦と観光を兼ねて清滝師匠に桂香さん、銀子ちゃん、あいちゃんの清滝御一行と天衣に冬司も一緒に渡航する事となった。

 

あ、これまでは僕は2人の事を「ちゃん・君」で話してたけど、奨励会合格後に天衣の方から「もう記録上の師弟になったんだから呼び捨てにして。」って申し出されたので、冬司にも確かめた上でそれから呼び捨てで呼ぶようになった。

 

で、観戦観光組はと言うと、師匠御一行は羽伸ばしと気分転換を主目的でハワイ同行を決め、冬司は僕への弟子入りから供御飯家を出て福島の僕の一軒家で同居してるので、僕の不在時に1人にしておけないので一緒に渡航する手筈となった。一方天衣は元々は渡航予定はなく、神戸で中継を観戦する筈だったのだが、冬司が行くと聞き、「あの子1人で放置したら国際問題になりかねないわよ!」って事で姉弟子として冬司を管理監護する気になったらしい。冬司は「将棋以外はウザい」って毒づいてたようだけど。

 

関西国際空港からの直行便でハワイに向かい、座席は竜王・挑戦者・会長等の主役級はビジネスクラス、他の同行者はエコノミーとなっていたけど、僕と天衣、冬司はアップグレードを使い、ビジネスを利用した。何しろ天衣がファーストかビジネスしか知らないのだから仕方なかった。

で、天衣と冬司相手に目隠し2面将棋を指してると、何時の間にやら供御飯さんが僕の膝に乗っかってきており、「零はん、こなたの相手もしとくれやすぅ」って何考えてるの?僕は貴女とそういう許し合った関係じゃないんですけど…

案の定、天衣も冬司もあからさまに不機嫌と怒りが明白に出てるし、天衣は「山城桜花、あんた師匠の旧知以上でもないのに随分馴れ馴れしいわね。」って警戒心満々のセリフ吐いて、冬司も「万智ちゃんみたいな弱い人に零さんは相応しくないから」って突き付ける始末でどうしようかと考えたけど、供御飯さんが「天衣ちゃんも冬司も夜叉の顔やわぁ、おお怖わ」ってややおどけるように一言発すると直ぐに膝から降りて自分の席に戻っていった。

ってか、2人とも僕に師匠以上の何らかの感情持っているの?それはそれで話が小難しくなりそうなんだけど…

 

そんなこんなでハワイ到着。

 

早速師匠と桂香さんが一悶着。

師匠「●田ちゃんのプレミアムカード取らなあかんのや~!!」

桂香さん「そのカードなら無料ガチャでゲットしたわよ。って事で今回は娘たちに投資しなさいね。」

師匠「うおぉ~!!儂は今絶好調じゃあ~!!」

って師匠、アロハシャツに短パン、サンダル履きと日本なら如何にも怪しいオヤジ満載な格好で通りを爆走するって完全に壊れたキャラでしょ…

一方、師匠のクレジットカードを取り上げた桂香さんと銀子ちゃんは、あいちゃんも預かって買い物土産探しに熱中…

それを生暖かい目で見ていた会長に男鹿さん、僕に天衣と冬司だったが、会長がサングラスをかけてるのを不思議に思い尋ねると、会長は「盲目でも光の具合ははっきり感じますからね。用心に越した事は無いですから。」

確かに事前準備は重要ではあるが、会長の格好、これ、まんま男鹿さんと一緒…ペアルックだろ…これは完全に男鹿さんあからさまに狙ってたな…

確かに元から男鹿さんの会長LOVEは将棋界では周知ではあるけど、海外くんだりまでそれでいいのか?

 

で、僕は天衣と冬司を連れてまずは土産探しにショッピングモールに行き、一通り買い込むと次はワイキキビーチに行き、桂香さんたちと合流し、海辺で遊びに興じた。っても普通の遊びに大して興味のない冬司はあいちゃんに引き摺られて不機嫌MAXだったし、基本的に馴れ合いが嫌いな天衣も桂香さんたちのはしゃぎ振りに呆れてテンション低下しまくってた。

 

そして夕方近くに指定のホテルにチェックインし、今回は天衣の付き人の晶さんが不在なので部屋は僕と天衣と冬司の3人部屋となった。

そこで荷物を置き、着替えて前夜祭会場に赴いた。

 

会場はハワイ在住の日本人客や日系人が大勢集まり、大盛り上がりの雰囲気になっていた。

 

そして壇上での両対局者挨拶。

八一君も『名人』も差し障りなく、そして闘志も露に気の籠った挨拶で周りのテンションも盛り上がっていった。

そして対局者挨拶に次ぐイベントのトークショーとなったのだが、対談相手が僕と供御飯さんってナニコレ?会長どういう事ですか?

 

始まるや否や早速供御飯さんから「竜王はんのお兄はんとして今回はどう思ってはります?」ときたので無難に「兎も角厳しい戦いになるのは自明の理とは思いますけど、それを突破できる潜在力が竜王にはあると思っています。只、『名人』もこれだけのシチュエーションで臨む戦いは最初で最後でしょうからこれまでの力以上に力を引き出し、発揮するものと思っています。よって、将棋史最大最高の番勝負になるものと考えております。」と回答しておいた…のだが供御飯さん、今度は唐突に天衣と冬司について聞いてきた。

「名人は今、奨励会に2人のお弟子はんを持ってはるのですけど、お弟子はんについてはどう考え、どう育てようと思ってはるのですか?」

これは「現在、天衣も冬司も小学生で、中学高校生に比べ、才能は兎も角体力面では格段に見劣りするのは明白ですから体調管理とか体力面でのコントロールとかに格別に注意させながら戦わせているところです。」と回答した。

そうしたら供御飯さん、今度は八一君のエピソードに手を突っ込んで来たから矢継ぎ早にして藤本さん顔負けのマシンガントークに根負けした僕があの破廉恥エピソードをぶっ込まざるを得なくなってしまった。

「八一君、あいちゃんにアパートに乗り込まれて…僕が訪ねた時、なんでか八一君があいちゃんを…流石に110番に通報しようかと…」

あ、八一君脱け殻状態だ…でも嘘ではないから仕方無い。

でもなんか怪しげな雰囲気になりつつあったから何とか供御飯さんのツッコミ質問を言葉巧みに止めてトークショー終了に持ち込んだ。

 

終了後、部屋に戻ると早速天衣から「はぁ、師匠、なんで通報しなかったの?あんな恥ずかしいのが将棋界の代表たる竜王って棋士でもない私たちですら赤面ものよ」

って苦言を頂きました…

冬司はあまり興味なさそうに聞いてたようだけど、「竜王以上に恥ずかしい人間は居ないって事だよね」と一言だけ呟いてた。

 

なんのかんのと一騒動となったハワイの前夜祭だった…




ホントは第1局も書く予定だったけど、ハワイ行きから前夜祭が長くなったもんだから第1局はこの次って事で

って事でまた次回!!


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竜王戦第1局・inハワイ

なんかマジ驚いたんですが、藤井王位が天敵豊島竜王に劣勢からの逆転で王位戦タイに持ち込みましたね。
いやはや令和の天才だの異次元超特急だのって異名は伊達じゃないって改めて感じた次第です…

って訳で本編スタート!!


さて、波瀾の前夜祭を終え、弟子2人は先に部屋に戻らせ、僕は今回記録係を担当する鏡洲新四段と少し話し込んだ。

 

先頃まで行われていた三段リーグ戦を16勝2敗の2位で通過し、同成績で順位が鏡洲さんより上位だった坂梨澄人新四段(今期順位は坂梨さんが3位で鏡洲さんは5位)と共に年齢制限が迫る中、漸くプロの入り口に到達した。因みに鏡洲さんは本来の年齢制限の26歳を超えていた為、勝ち越し延長を続けた末、28歳で辿り着いた悲願である。一方坂梨さんは年齢制限まで2年を切った中、24歳で到達した事となった。

 

そんな昇段の祝いを交わしたり僕の玉座戦10連覇の祝いを交わされたりしつつ、取り敢えず無難に第1局の展望を予想し合ってみた。

 

鏡洲さん「どっちが先手になろうと慎重に様子見に行くんじゃないか?」

僕「「名人」の大舞台慣れに対して八一君がどこまで平常心で戦えるかが問題と思っています。」

鏡洲さん「となると、八一次第で一方的になるか激戦模様になるかって事か…」

色々検討したけど結局八一君次第って事で落ち着いた。

 

そして部屋に戻り、そろそろ2人がベッドに入る頃合いだったので僕も一緒に就寝し、翌日に備える事とした。

 

あ、先程話題に上った玉座戦だけど、挑戦者は前棋帝の篠窪七段で3勝1敗(●○○○)で一週間前に何とか防衛出来ました。これで年内四冠は維持って事で…

 

さて日が昇り、いよいよ竜王戦第1局が始まる。

8時44分、まずは竜王の八一君が颯爽と登場。本来、タイトルホルダーが先に入る事はまず無いのだが、気合いが入っているのか、はたまた「名人」に対するプレッシャーからなのか、傍目からは僕でも窺い知れない。

そして8時50分、今度は「名人」が入場。何時ものように淡々と下座に座り、対局を待つ風情だ。

そして八一君が駒袋から駒を取り出し、その内の歩を5枚、記録係の鏡洲さんが取り、振り駒を行った。

結果、「歩」が4枚出たので八一君が先手となった。

 

そして始まった竜王戦。

八一君から指し始め、続けて「名人」の手番、何と「名人」が選んだのは、八一君の代名詞とも言える「一手損角換わり」だった。

これは僕も意表を突かれた心情だったので、これが主武器と云える八一君だと、これだけでかなりのダメージになりそうな気がした。

 

それでも初日は何とか喰らい付いてほぼ互角に持って行き、「名人」の封じ手で初日が終了した。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

~side八一~

 

マジか…、第1局初日から「名人」め、俺の十八番の「一手損角換わり」を持ち出すって…流石に予想の外だったからそりゃ戸惑うぜ。けど、そこからはどうにか五分の形勢に持っていったとは思うんだが、な~んかモヤっとした気持ちが晴れないのは何故なんだか…

ってフラっと夜のワイキキを歩いてると後ろから拳骨が飛んで来た。

感触で誰かは直ぐに判った。

「姉弟子、いいんですか?年頃の女の子が1人で夜の外歩きなんて」

「前も周りもお構い無しでフラフラ歩いてるバカ八一の方が余程心配の種よ」

「そんなもんですかね」

「どうせ「名人」の奇襲に悩みっ放しなんでしょ」

「それは否定しませんが、あまり遅くなるとみんな心配するでしょうからボチボチ戻りましょう。」

 

根本的な解決とは程遠いが、姉弟子の激で少しは気が楽になったと肯定的に捉えようと思う事にした。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

2日目、封じ手の手が発表されると、現地の誰もが驚愕した。

そしてそこからは「名人」の攻勢が炸裂し、八一君も懸命に防戦からの逆襲を目論んで戦うも結局夕方になり、八一君は持ち時間1時間を残して投了した。

 

この奇襲と完敗は八一君、かなり引き摺りそうな悪い予感がする…

 

案の定、2局目・3局目とも悪手の「名人」圧巻の…で、あっという間に「名人」が永世七冠・通算100期にリーチをかけた。

八一君はもう後がない崖っぷちに追い込まれた。

 

そして事態は最悪の方向へ動こうとしていた…




そういえば竜王戦開始時点での現タイトルホルダーを出してなかったので、取り敢えず出しときます。

竜王→九頭竜八一(1期)前期獲得
名人→桐山零(4期)今期獲得
帝位→於鬼頭曜(2期)今期連覇
玉座→桐山零(10期)今期10連覇
盤王→桐山零(9期)前期9連覇
玉将→生石充(4期)前期3連覇
棋帝→桐山零(8期)今期獲得

って訳でまた次回!!


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怒号

さてさて、そろそろ本格的に夏真っ盛りに突入ってところで王位戦はタイから3局目以降どうなるか、竜王戦挑戦者争いも残り5人に絞られ、誰が抜け出しても竜王挑戦は初めての面子って事で色々楽しみな戦いが期待されそうで注目です。

って訳で本編スタート!!


大阪市福島にあるこぢんまりとした2階建ての一軒家…

そこが中学卒業以来、5年余りに渡って拠点としている僕のささやかな城である。

小中学生時代はどれだけ稼ごうが忙しかろうが師匠と桂香さんの方針で清滝邸住まいだったので、師匠と桂香さん、特に桂香さんの猛反対を押し切り将棋・一人暮らし・高校生活の両立をキッチリこなすって条件ながら独立を許された時の一種の解放感はこれからの未来が光輝いて見えた気がした。

 

そして竜王戦第4局が迫った、とある雨が降りしきる夕食時に突然来客のブザーが響いた。

丁度冬司と和食メニューの夕飯を食べていた所だったのだが、兎も角玄関に向かうとそこには全身びしょ濡れのセーラー服の少女…銀子ちゃんが涙を止めず全身震えていた…。

 

「お兄ちゃん…、八一が、八一がぁ…私を邪魔だ腕が腐るだって…お願い、八一にヤキ入れてよぉ…」

 

どうやら八一君はこっちの予想以上に重症なようだ。

けど、それだけ苦しみ追い込まれているのは理解出来るが、それにしても八一君、絶対言ってはならない事・特に銀子ちゃんには絶対禁句な言葉を勢い任せとは言えぶちまけるって、本格的におかしくなっているんじゃないか?

それでなくとも第3局が終わった直後にあいちゃんをアパートから追い出して師匠と桂香さんに押し付け独りで研究に没頭してるところに更に銀子ちゃんまで邪険に扱って追い返すって…

完全に何もかも見えなくなっているな…

 

「銀子ちゃん、兎も角まずは風呂に入って体暖めよう。今日のところはこのまま僕の家でゆっくり休んで。後は…八一君への活入れは僕に任せて。」

 

「…ぅん、分かったお兄ちゃん。お腹空いたから冷蔵庫から適当に取り出して御飯食べてるから。」

 

「後、冬司、お互い気の済むまで銀子ちゃんとvsしといてね。」

 

「…銀子ちゃん、まだ僕には喰い足りないんだけど…」

 

「僕は今日はもう冬司とは指さないから我慢してくれ。」

 

「…お兄ちゃん、私と冬司ってそれだけの埋められない差があるの?」

 

「正直に言って今現在ででも冬司はB級クラスなら十分に通用するレベルだからね。」

 

「じゃあ、とことん胸を借りる構えで臨むわね。」

 

「うん、それでいいと思う。それじゃ出るから。」

 

こうして僕は単身八一君のアパートに向かった。

 

 

 

 

僕の一軒家と八一君のアパートは歩きで片道10分程度の距離にある。

そして間もなくアパートに到着すると、まず来客ブザーを鳴らしたけど一切反応なし。

あ、これは無視ってよりも最悪レベルの集中モードに入ってるな…

そうと解れば後は本人の意向無視で勝手に合鍵でドアを開けてパソコン研究に没頭してる八一君本人に直接声をかけた。

 

「八一君、何やってるの?」

 

「…?…?!あ…に弟子?何でここに?」

 

「銀子ちゃんからあらましは聞いた。ムダに没頭し過ぎて人として大事な事まで削ぎ落として何になるの?」

 

「あの「名人」に勝つには勝ちに繋がる物以外何もかも削ぎ落とさなきゃ何も出来ないでしょう。兄弟子には分かりませんよ、「名人」と対をなす…否、「名人」さえも遥かに超えた『将棋を終わらせようとしている神をも超越した絶対神』のアンタには!!」

 

「はぁ…、八一、お前本当にそう考えてるのか?俺は「神」なんて超えちゃいないしそもそもそんな領域に足を踏み入れた事すらないぞ。と言うよりお前は削いで削いで削ぎ落とす事が最強に繋がるって腹の底から信じてるのか?そんなもの甘ったるい夢物語なんかよりも遥かに有り得ない妄想でしかないのは俺が一番誰よりも熟知してるからな。」

 

「は?じゃああの「名人」に他にどうやって勝つって言うんですか?」

 

「じゃあ聞くがお前、竜王を失陥して何もかも失うとでも思っているのか?竜王失陥なんか大した話じゃないだろ。それともたかが1度の失態で棋士生命すら風前の灯なんて誇大妄想もいいところだ。」

 

「類い稀な絶対的才能を誇り、将棋じゃ右に出る者のない新世紀絶対王者とまで謳われてるアンタには失う事への恐怖なんててんで分かりっこないでしょうがね。」

 

ここまでやり取りしながらも最後の一線は守ってきたけど、「失う事」…これだけは八一君と言えども否、例え師匠に桂香さんでも絶対に侵してはならない琴線だ。

そして今、八一はその絶対不可侵な領域に土足を突っ込んだ。

 

「失う?何も分かっちゃいないのはお前だろうが!!お前なんざ竜王の衣を剥がされたって一般の棋士として幾らでも再起が利くだろうが、俺は絶対守らねばならない掛け替えのない家族、実家何もかも俺の預かり知らない中で全て一瞬で消え失せたんだ!!今、どれだけ持て囃されようと栄光を掴もうと、失った俺の根本は永久に戻りはしないんだ!!甘ったれるのも大概にしとけや!!」

 

(あ…そういえば兄弟子は俺達が内弟子になる前に既に師匠と桂香さん以外は事実上身内が存在しないのも同然な親戚環境だったか…って事はそれだけ孤独孤立のデメリットも熟知してるし、あの気難しそうな天衣ちゃんをも絆の強い師弟関係・信頼関係を築き上げてるってのは俺にはまだまだ出来ない深層心理まで踏み込んだからなんだろうな…)

 

「少しは落ち着いたか?じゃ早速指すぞ。」

 

「は?vsしに来たんですか?兄弟子?」

 

「そりゃそうだろ。銀子が三段ですらない一介の奨励会員だからお前は拒絶したんだろ?ならば、名人を預かってる俺なら最低限不足はないだろ。」

 

「それはそうですがね…「名人」と兄弟子じゃ棋風が異なるじゃないですか?いいんですか?」

 

「負け犬寸前のクズ竜王否、ロリコン竜王なんざ俺どころか坂梨さん相手でも惨敗必至コースだから安心して玉砕するんだな。」

 

「ってか兄弟子~!俺はロリコンじゃねぇ~!!」

 

「そんなにロリロリ言われるのが嫌だったら銀子を大事にして一刻も早くあいつの人生安心させてやれ。」

 

「姉弟子関係あります?」

 

「俺も桂香さんも鏡洲さん始め関西奨励会の若手連中もな、み~んなお前らの行く先を生暖かく見守ってんだ。

あの他人への興味薄そうな創多ですら気にしてる位だからな。少しは自覚しろ。」

 

「兄弟子、何気なく巧妙に外堀埋めてますね…」

 

「そりゃ仕方無い、八一と銀子は最早夫婦扱いになってるからな(笑)」

 

「しかしこれ、あいの実家との折衝が地獄確定なんですけど…」

 

「あ~、ひな鶴の女将さん相手じゃ短期決戦じゃ確実に負け確定だから中長期戦覚悟で長い目で折衝に当たるしかないだろうな(笑)」

 

「兄弟子、他人事ですか…」

 

「僕だって供御飯さんのアプローチ翻わすのに手一杯なんだから…。というか、供御飯さんは超名門公家の家系にして皇居に住まうやんごとなき御一族の末裔の1人なのになんで将棋以外何も持たない僕にここまで関わろうとしてるんだろうって不思議に思ってるんだよね…」

 

「もう兄弟子はとっとと供御飯さんと結ばれて下さい!!」

 

…なんか最後は恋愛模様でグダグダになったけど、ともあれ八一君も何とか正気を取り戻したようで改めて第4局に臨めそうだ。




あ~あ、八一どころか零までも恋愛関係外堀かなり埋められてる風情になってきてるこの頃ですな…
っても恋愛模様は今暫くってとこで今は戦いが最優先なもので…

因みに♀→♂への心情は…

銀子→八一「好きで好きでしょうがないけど、八一が超鈍感過ぎ」
あい→八一「ししょーに嫁ぐのはあいで決まりです。」
万智→零「弟を預かった以上、こなたと一緒になるのは既定路線どすwww」
天衣→零「お父様は私の未来を師匠に託したから、私は師匠と共に生涯を歩むのが筋よ。」
シャルロット→八一「しゃうはちちょのおよめたんだよー(はーと)」
桂香→零「数少ない親族で年下の従弟だけど、頼り甲斐があって尚且つ可愛い(はーと)、零君となら結婚しても楽しく面白い人生歩めそう(はーと)」

彼女達以外の女性はとりあえず不明ってとこで

また次回!!


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マイナビ本戦1回戦

さてさて竜王戦第1局の回ですが、所々不備を指摘されまして見直した結果、修正した次第です。
また、前回の桐山君の一人称と態度の変わり様ですが、
普段は「僕」で穏やかに、感情が激した時は「俺」で激情に任せて…って具合に区分けしてみました。
原作とはかなり乖離してるかも知れませんがそこはオリジナルって事でご勘弁願います…

って訳で本編スタート!!


八一君への少々激情に任せた説教から遡る事数日前…

 

マイナビ本戦1回戦が東京で行われていた。

その対局には天衣とあいちゃんが出場していた。

 

天衣は登龍花蓮奨励会1級と、あいちゃんは月夜見坂燎女流玉将とそれぞれ対局する事となっていた。

 

その日は僕も対局及び前泊予定が無かったので、冬司を連れて天衣と共に上京していた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

~side天衣~

 

間もなくマイナビ1回戦が始まる。

今日の私の相手は登龍花蓮奨励会1級だ。高校2年で1級だからプロ棋士を狙うには少々微妙な年頃だろうが、弱い訳ではないのは確かだ。だから少し挑発してみる事にしてみた。

先に対局室に入ると直ぐ様上座に座り、余裕綽々に相手を待った。やや遅れて登龍1級が入ると、あからさまに不服な態度を見せ、「ボクの席が無いけど、どういう事?」と抗議した。

確かに立場上で言えば私が格下だから譲らなきゃならないのは明白だけど、そこはそれで更に一押し重ねてみた。

「そんなもの早い者勝ちよ。遅れた貴女が悪い。」

あ、完全に乗ったわね。もう一押しね。

「でも顔を立てなきゃ悪いから譲ってあげてもいいわ。」

「施しを受けるほどボクは落ちぶれちゃいない。力でキミに吠え面かかせてあげる(怒)」

これで下準備はOK。後は私次第ね。

 

開始前からの挑発成功で肝心要の対局は終始私がコントロールし切り、圧勝した。女王挑戦まであと3勝、誰が相手でも勝ちに邁進するだけよ。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

~sideあい~

 

マイナビ1回戦…、私は月夜見坂燎女流玉将に挑む事となった。

彼女は女流玉将3連覇中で過去には女流帝位も保持していた女流屈指の実力者だ。

しかし私もここを突破すれば仮免ながらも晴れて女流棋士となる。但し3級なので正式な棋士になるには2年しか猶予が無いのだが。

でも今気合いよりも不安の方が心身共に支配されている…理由は、ししょーがあいを家から出しておじいちゃん先生の家に住まわせ、ししょー本人は「名人」との戦いに集中し、あいを顧みてないからだ。

そんなところへ私より少し後に対局室に入場した女流玉将は、「ハッ、クズの愛弟子って言うからどんなヤツかと思ったが何の事はねェ、只のチビガキじゃねぇか。格の違いキッチリ見せてやるから覚悟しとけ!」

入場早々からあからさまに苛立ちを隠さずにヤンキー気質全開で上座に座った。

 

ししょーや零おじさんから聞いてはいたけど、この人は兎に角徹頭徹尾万事に攻撃一辺倒な激しい棋風なのを実感せざるを得なかった。

その激しい攻めを切らなきゃとゴキゲンの湯で習った捌きを使って見るもあっさり喰い破られ、たちまち陣がボロボロに崩れ去り、読みを使う間もなく無惨に投了に追い込まれた。

終局後、女流玉将は追い討ちをかけるように

「ハッ、こんなだらしねーのがクズの弟子ってクズも大概見る目ねーな。こんなだからクズも「名人」にいいようにサンドバッグにされてんだよ!師匠が師匠なら弟子も弟子、腐れクズ同士底辺で仲良く乳繰り合ってろ!」

…返す言葉が見つからなかった…それだけの格差を徹底的に見せつけられたんだ…私は只茫然と女流玉将が去るのを見ているしかなかった…

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

天衣は何を仕掛けたか、相手の登龍奨励会1級が焦って繰り出す緩手を次から次に咎め続け、終わって見ればどっちが格上かって位の圧勝だった。

 

一方、あいちゃんは八一君に突き放されたダメージを引き摺ったまま臨んだのがそのまま盤面にも現れたような惨敗となった。

 

そのあいちゃんを惨殺した月夜見坂さんの態度がどうにも気になって先回りして彼女のバイクのある駐車場で待ち構えた。

そこに現れた月夜見坂さんは、僕の顔を見て開口一番「あ?なんでテメーが此処にいる?テメー大阪だろーが!」

「生憎今日は予定が空いててね、弟子の対局を観戦してたんだ。」

「で、オレを待ち構えて何の用だ?」

「八一君に追い付けない焦りと苛立ちのコンプレックスをあいちゃんにぶつけるのは少々筋違いじゃないかと思ってね。」

「何言ってやがる!格の違い見せただけだろーが!ってかテメー、あのチビと関わりあるのか?」

「そりゃあるさ。八一君の弟子である以上、僕には可愛い姪だからね。」

「ハッ、随分過保護な伯父なんだな。」

って月夜見坂さんとやり取りしてると、いつの間にか僕の隣に来ていた冬司が、

「あいちゃんもまだまだ弱いけど、君も脆いほど弱いよ。」

って月夜見坂さんに燃料投下かました。

「あ?この白髪幼稚園チビが何様だ!」

「髪は白いけど僕は小学生だから。」

「チビはチビだろーが!!」

「銀子叔母さんより弱いんだから僕には勝てる訳ない」

「あ?テメー、ゼロの弟子か?」

「うん、零君最愛の弟子」

「ゼロ、テメーもクズレベルのロリショタかwww」

「ロリショタじゃないけど2人の棋士としての成長は楽しんでるよ。」

「そーか、なら準決でテメーんとこのチビと当たるからオレの実力遺憾なく出してやる!!」

「楽しみにしてるよ。天衣にとっても君相手は更なる成長の大チャンスだからね。」

「その言葉忘れんな!!」

その捨て台詞を言うや直ぐ様バイクに跨がって月夜見坂さんは去って行った。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

八一君を説教し、明日の対局をモニター観戦するよう兄弟子命令を下すと僕は一旦家に帰り一眠りした後、清滝邸に行き、あいちゃんを僕の家に連れ出した。1人で見るより何人かでいた方が安心感があると思っての事だ。

 

その日は桂香さんが釈迦堂里奈女流名跡に挑む一世一代の人生を懸けた戦いだった。

 

釈迦堂さん、序盤から堅実にしかし華麗に指して来たが、桂香さんも「エターナルクイーン」の圧力に呑まれず必死に指し続ける。

1度は釈迦堂さんの華麗なる「受け潰し」餌食になりかけたが、そこからの桂香さんの粘りと逆襲はまさに関西棋士特有の泥臭くも勝ちへの執念に特化した指し回しだった。

終盤、その「受け潰し」の守りを遂に喰い破り、一気呵成に駒台にある駒という駒を総動員し、釈迦堂さんを詰め切った。

そして釈迦堂さんの投了宣言を以ち、桂香さんは晴れて2年の時限付きではあるが女流3級となった。

 

僕の家のリビングでも、一番桂香さんを慕ってる銀子ちゃんからマイナビのダメージが癒え切ってないあいちゃんも止めどなく溢れる涙を流し続けた。

冬司は「棋譜は大した事ないけど、勝ちへの思いが詰まっているのは否定しない」って言外に桂香さんを冬司なりに認めていた。

そして僕も崩壊しないまでも涙腺が緩みかけたのは此処だけの話と言う事で…

 

そんな中、僕のスマホに着信が…

誰かは直ぐに分かった。出ると、

「兄弟子、八一です。急で悪いんですが今すぐあいを連れて来て下さい!!」

 

それを待っていた。

直ぐ様あいちゃんを連れ、八一君のアパートに直行した。来客ブザーを鳴らすと転げるように八一君が駆け付け、あいちゃんの姿を確認するや、辺り憚らずに一心に抱き寄せていた。

「あい、ごめんな。俺は何も見えていなかった。俺は1人じゃない、多くの支えあってこその俺だってのを兄弟子に突き付けられ、桂香さんにも気付かされた。もう離さない、お前は永遠に俺の大事な弟子だ!!」

「ししょー…、これ見て下さい。前回の研修会の例会で女流3級資格を勝ち取りました。これでずっと弟子になりますけど本当にあいが弟子でいいんですか?」

「何言ってる、あいは俺の自慢の1番弟子だ!!」

 

そんなシーンを見ながら僕は静かにアパートを後にしたが、降りた所には銀子ちゃんと冬司、更に予想外な事に天衣まで待っていた。

「はぁ、ホント世話の焼けるバカ八一と小童ね。」

「零君お人好し過ぎでしょ」

「全く師匠の世話焼きも大概名人芸の域に至っているんじゃない?」

なんか3人から生暖かい目でジトっと見られてるんだけど僕なんか余計な事したかな?

 

そう思ってたら今度は師匠から着信。

「桂香がやりおった!里奈ちゃんに勝ち切って女流の仲間入り果たしおった!今夜は祝杯じゃ~!零も儂の行き付けに集合じゃ~!」

「蔵王先生も月光さんも生石君も久留野君も鏡洲君も関西勢大集合じゃあ~!!今夜は貸し切りやから存分に呑めるでぇ~!!」

マジ本気?一晩呑み明かし?僕持たない…

 

そんな僕を見て冬司が一言

「僕を理由に断ればいい」

天衣も

「今から神戸に来れば断れる」

銀子ちゃんは

「私には師匠も気を使うから私の事を理由にすればいい」

皆僕を離したくないんだ…まぁ僕も酒席はあまり得意じゃないから断りのメールを送ろうとしたら…

 

背後から突然スマホが取り上げられ、勝手に参加OKの返信を送られていた。

 

こんな人、1人しかいないよ…

振り向くと、その豊かな胸部に頭を押し付けられて一言

 

「こなたが一緒や、存分に楽しもうな~、れ・い・は・ん(はーと)」

ロックオン、逃走不能…でも3人どうしよう…

「冬司は天ちゃんと神戸でお泊まりでええやろ。銀子ちゃんはこなた達と付き合って貰うどす。お燎も駆け付けるゆうメール貰ったどすし」

「は?何で好き好んでアンタ達と一晩付き合わなきゃいけない訳?いい加減ぶちころすぞわれ!」

「おー、銀子相変わらず不機嫌MAXじゃねーかwww、っても桂香さんの女流入り嬉しいんだろ?嬉しくないならこのまま帰ってもいいけど嬉しいなら一軒だけでも付き合え!安心しろ、酒は呑ませねーから。ってかキレさせちゃいけねー兄貴いるから本気でオメーは日付変わらない内に帰すからそれで妥協してくれ」

「お兄ちゃんが隣なら一軒だけ夕食として付き合ってもいい…」

「よし、決まりだなwww、ゼロ、銀子、行くぜ!!」

「ごめん天衣、今晩だけ冬司を預かってくれ。もうこうなったら断れない…」

「しょうがないわね、冬司、行くわよ。晶、出して」

「僕賛成してない…」

「もう覆せないわ、諦めなさい。」

冬司はまだ不満たらたらだったけど、なんとか天衣に預けられた。

 

で、師匠の行き付けの酒場は…って、大阪でも名うての名門料亭?

どうやらここは師匠の行き付けの酒場の元締め的な大店らしい…

 

そしてメール通り関西の主だった面々が一堂に集っていた。

師匠から蔵王先生、月光会長、生石さん、久留野さん、鏡洲さん、そして僕に銀子ちゃん、供御飯さん、月夜見坂さん(彼女は関東だけど)、あれ?なんで八一君までいるの?あいちゃんは?

「あ、兄弟子、ここ、あいの親父さんの修行先の店なんですよ。で、先程親父さんから、関西棋士一堂が貸し切りで一晩集うから俺とあいにも来ないか?ってメール来たんです。因みにあいは厨房を手伝うそうで」

「って、あいちゃんのお父さん、「ひな鶴」の仕事離れていいの?」

「聞くと、女将さんから年2回・トータル2ヶ月までは古巣での助っ人勤務を許可されてるそうで…で、今週が年内最後だから腕によりを奮ってって事らしくて…」

「ふふ、これで零はんとこなたの婚約行事も心配あらへんなぁ(はーと)」

「もうリア充関西公認カップルいい加減全国発表してください!!」

「はぁ、…僕よりも銀子ちゃんと八一君の結婚発表が何より最優先でしょ…」

「いやいや、兄弟子を差し置いて…って痛ぇ!!」

「頓死しろ、ロリコン!!」

「おう、来たか零!まずは駆け付け3杯や!」

「うゎ…、蔵王先生、僕そんなイケる口じゃないんですが…」

「構わん、ビール3杯なら問題ないわいwww」

「それでは頂きます。」

…………

ふぅ、やっぱり酒は回りが早い…

……あ~あ、師匠早速真っ赤っ赤だよ…

久留野さんも一旦休憩モードに入ってるし…

自由気ままな生石さんも蔵王先生相手じゃ流石に逃げ切れないか…

鏡洲さんは呑んではいるけど奨励会員時代の癖が抜けてないのか、しきりに周りに気を回す動きが目立つ…

鏡洲さん、今少し自分本位にシフトしなきゃこれからの棋士人生、苦労しますよ…

一方で月夜見坂さんは人の奢りって事で自由気ままに注文繰り返してご満悦状態だし、銀子ちゃんは高くて美味しいメニューに特化して食べ尽くし、9時過ぎにはもう1人で店を後にした。

残った面々は変わらず呑み呑み、たまに喰いってペースで延々と長時間宴会になっていった…

 

結局途中離脱したのは銀子ちゃんと月光会長だけで、師匠たちはもとより、自由人な生石さんですらも今回は最後まで付き合っていた…

 

なんとも凄い破壊的な大宴会になってしまったがともあれ、

 

「桂香さん、女流入りおめでとう!!」

 




すげー長くなりました…

天衣ちゃんとあいちゃんのパートと桂香さんのパートを分けた方がいいかな?とも思いましたが分け過ぎてもどうかって思ったんで一緒にしときました。

これで運命の竜王戦第4局書けそうだ…
ある程度時間要るかも知れないけど。

って事でまた次回!!


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旅館ひな鶴

さてさて王位戦も3局終わり、藤井王位がこれまでの苦手振りが何だったのかって具合で豊島竜王に連勝し、2勝1敗としましたね。
竜王戦もベスト4が決まり、藤井二冠は八代七段との2組決勝に続く再戦となりました。
後、叡王戦も間もなく開幕するし、藤井・豊島両棋士は大変とは思いますが、是非にも素晴らしい対局を期待してます。

って事で本編スタート!!


マイナビ本戦1回戦を終え、次は竜王戦第4局が間もなく始まる。

今回僕は解説の仕事は入っていないけど、スケジュールは空いていたので現地で観戦検討する事にした。

開催場所は石川県和倉温泉の旅館「ひな鶴」である。

ここは去年竜王戦最終局の開催場所でもあり、八一君が竜王獲得を決めた記念の場所である。そして何よりあいちゃんの実家で、2人のファーストコンタクトもここだったと聞いていた。

 

大阪から特急で現地に向かい、最寄りの駅に到着すると、なんだか凄い垂れ幕やら大勢の人だかりやらが所狭しと待ち受けている凄まじいフィーバー振りには流石に仰天した。

しかもこれが「竜王戦」関連じゃなく、最早地元のアイドルみたいな感じで「あいちゃんお帰りなさい」みたいな歓迎なのだから僕ら清滝一行は駅から旅館まで通常10分そこらの道程なのに結局1時間程掛かってしまった。因みに『名人』一行はすんなり通されて…ってか半ばスルー気味にされていたのは…これはここまでにしておこう。

 

で、今回の御一行は竜王の八一君、地元凱旋待遇のあいちゃん、師匠、桂香さん、銀子ちゃん、僕、天衣、冬司、天衣付きの晶さんの面々である。

 

やっとの思いで旅館に着くや、女将さんであいちゃんの母親の亜希奈さんが態々出迎えてくれ、あいちゃんとの半年振りの再会に厳しい言葉を口にしながらも娘の成長と元気な姿に感無量って本音も垣間見た感じがした。

 

で、一旦宿泊部屋に案内され、何故か僕は4人部屋になっていた。冬司はいい。けど天衣と晶さんまで一緒って誰ですか?この部屋割りにしたの?

 

とは言え、僕は対局当事者じゃないから受け入れるしかなかった。幸い、和室スペースと洋室スペースが併設されている高グレードの部屋だから男子組と女子組に分けられるのは助かる…

 

そして直ぐに対局場所に向かったが一足早く旅館入りしていた「名人」と如何にも今着いたって雰囲気の八一君が既に検分を始めており、今回の立会人である柳原九段が両対局者に色々と要望を聞き、副立会人の関崎八段及び、記録係の椚創多奨励会三段が見守っている風景だった。

 

検分が恙無く終わると、何故か僕だけが女将さん直々に案内され、入った部屋は…福井にいる筈の八一君の実家の家族が揃っていた。僕も以前、玉座戦の防衛戦や師匠の挑戦を受けた名人戦で福井を訪れた事があり、その際にご両親、お兄さん、弟さんとは面識があり、又、玉座戦の時はまだご健在だったお祖父さんとも会っていたから(お祖父さんはその翌年に物故した。)それなりに知り合いではあるのだが、それにしても何故ここで?って疑問は頭に?マークと共に浮かんだ。

すると、お父さんが「桐山名人、いつも不肖の息子が世話になっています。未熟で不甲斐ない八一ですが、これからも御指導御鞭撻の程、伏して御願い申し上げます。」ってまだ20過ぎたばかりの人として途上の僕に深々と頭を下げてきて、僕も思わず「あの、お父さん、お顔をお上げ下さい。」って返してた。

で、事情を伺うと、お父さんは早期退職制度により(つまり体のいいリストラ)50代で退職、お兄さんは大学卒業後の就職活動が上手くいかず困っていた所、北陸最大にして評判日本一の名門旅館・「ひな鶴」から誘いがあり、働き口を得たとの事で…。

あぁ、これ完全に女将さんの囲い込み作戦だな…まぁあいちゃんが1人娘で旅館継がせるには入り婿必要だし、これは八一君、説得本気で根気いるぞ…しかも話振りから八一君とまだ中学生の弟さん以外はほぼ完全に女将さん信者に染まってる感触がありありなんだな…殊にお兄さんは何故か僕にも女将さんが刊行した経営本を薦めるレベルだし…まぁ僕は将棋しか出来ないしそれ以外の才覚は不足してると自認してるから何とか理由をつけて断っておいた。

 

そして前夜祭…

 

なんか会場入り口から異様なんだけど…

そこには、「雛鶴家・九頭竜家披露宴」…って何ですか?こんなの僕じゃなくても一瞬固まるお話なんですが…そしたら左右から両脇腹を突かれ、見たら右に冬司、左には天衣がそれぞれ呆れながら僕を見つめていた。

「どうやらその顔だとこんな悪趣味な催し知らなかったようね。」って天衣に言われ、

冬司にも「こんな茶番見ても意味ない」と言われたけど、既に僕らの席も用意されてたから取り敢えず席に着いた。因みに僕らのテーブルは師匠達と一緒だった。

で、僕の両隣は左に天衣、右に冬司だったが、冬司の隣は銀子ちゃんで、この子やっぱりあからさまに不機嫌MAXだった。そりゃそうだろう、単なる前夜祭の筈が銀子ちゃんからすればある意味最も敵視してるあいちゃんに八一君を横取り…みたいな流れに行っちゃってるからな。

しかも会長は何のコスプレ?神父さんの格好になっており、補助役の男鹿さんはシスター姿って、あ~あ銀子ちゃん、ますます不機嫌溜めまくりだよ…

 

で、「披露宴」ってお題だったけど結局の所は研修会例会で女流3級となったあいちゃんと師匠の八一君が正式に師弟になるっていう儀式を大袈裟にしただけだったので僕は「何もそこまで派手にしなくても…」と思ったが、それは八一君も同じだったようで、会場に入るなり実家の家族を見つけるや、お父さんお兄さんと口論になっていた。

しかしこれはあくまでも「竜王戦前夜祭」なので、1番迷惑を被ったのは間違いなく『名人』なんだけど、イベントが面白かったのか、終始大人の態度を崩さず静かに過ごしていたのが救いと云えば救いか…

 

あ、銀子ちゃんの不機嫌MAXは流石の冬司もげんなりしてたので、銀子ちゃんには大阪に戻ったら高級焼肉食べ放題を誘うと少しは雰囲気が和らいだけど僕が出来るのはここまでだ。後は八一君次第だ…

勿論、冬司と天衣にも何か招待しないとな…完全に銀子ちゃんの不機嫌MAXに当てられて終始どんよりげんなりしてたし。

 




ひな鶴での勝負処の第4局、本来はスタートのさわり位は書こうかなと思ってましたが前夜祭までが長過ぎたんで、次回以降にしときます。

って事でまた次回!!


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最後の審判と新たなる伝説

まずは東京五輪ですが、開催が危ぶまれたものの、いざ始まると「アンタら現実文庫ですか?」レベルの金メダルラッシュとかマジすか…
で、将棋界に目を向けると、叡王戦は豊島叡王が巻き返し1勝1敗のイーブンとなり、本人達は大変でしょうが我々ファンからすると、益々目が離せない熱戦を期待してしまいます…

って訳で本編スタート!!


竜王戦第4局

 

場所は石川県和倉温泉「ひな鶴」

旅館内の一室「臥竜鳳凰の間」を対局場とし、「名人」の先手で対局開始となった。

 

一方僕ら将棋関係者や観戦記者等は旅館内の大広間に詰め、観戦及び検討を行っていた。

 

この日、僕と検討したのはニ海堂だった。

彼は今期B級1組で好調をキープし、竜王戦でも本戦では初戦で僕に惜敗したが2組優勝していたので次期は1組復帰が決まっていた。

他の棋戦も玉座戦は篠窪さんと挑戦者決定戦で戦い、玉将戦も生石玉将に挑む本戦リーグ戦を戦い、僕、歩夢君と並び5勝1敗でプレーオフに臨んだ。

本来は玉将戦ルールでプレーオフは2人だけなのだが、例外として同一成績3人が並んだ場合は、内、順位下位2人の順位が同一だった場合に限り、その2人でプレーオフ1回戦を行い、その勝者が順位上位のプレーオフシード者とプレーオフ決勝を戦う事になっていた。

そして今回はまさにそのルールが適用されたプレーオフだったのだ。

リーグ戦開始時点の順位は1位(前期挑戦者)に山刀伐さん、2位には前期プレーオフで山刀伐さんに敗れた僕、3位は月光会長で、残留最下位の4位には於鬼頭さんの順となり、2次予選勝ち上がりの同一5位3人が、ニ海堂、歩夢君、関崎八段となっていた。

リーグ戦の結果は5勝1敗が前述の3人で並び、4位には2勝4敗で3人が並んだ中で順位上位の山刀伐さんが残留、同成績ながら順位下位の月光会長と於鬼頭さんは無念のリーグ陥落となってしまった。で、関崎八段はリーグ戦6連敗でこれも陥落と厳しい結果となった。

尚、プレーオフはこの後行われる手筈となっており、1回戦はニ海堂vs歩夢君で、その勝者が僕と決勝戦を戦い、生石玉将への挑戦者が決定する。

 

 

閑話休題…

 

 

「名人」の先手で始まった第4局初日は「名人」も八一君もお互い定跡を辿り極力消費時間を抑えながら早くも70手に到達していた。

そして午後6時30分に「名人」が封じ手を行い、初日は終了した。

 

 

僕は外出する気がなかったので、旅館内の料亭(あいちゃんのお父さんの修行先の大阪の名門料亭の支店)で4人で軽く夕食を摂り、部屋に戻ると、晶さん以外の3人で検討と明日の予想を考えてみた。

そして早目に寝床に就いたのだが…

 

目が覚めると、僕の布団に誰かが1人他に入っていた。恐る恐る布団をめくると、居たのは供御飯さんだった。しかも何故かパジャマ姿でして…その上、両腕を僕の腰にロックしていて引き剝がせない…

更に僕の胸元にはキ●マークが3箇所も付いており、これどうやって説明すればいいのやら…と途方に暮れていると、冬司が起きてきて供御飯さんの頭をぺしぺし叩いて起こしてた。

で、更に天衣もトイレに起きたタイミングでこの異様な状況に直面し、供御飯さんのお尻を蹴飛ばして「起きなさい、何師匠を誑してるの!この女狐桜花!!」と喚く始末で…

 

そして2日目…

 

「名人」の封じ手開封からいよいよ開戦となった。

 

お互い最善手を繰り出す激闘模様となり、一瞬も目を離せない展開となっていた。

 

そしてお互い持ち時間を使い切り、1分将棋となった中で、まさかの場面に至った。

 

八一君…「連続王手の千日手」

「名人」…「打ち歩詰め」

 

両者に反則が同時に適用される有り得ない場面…

 

 

 

「最後の審判」

 

 

 

まさに誰もが回答不能な究極の状況に突入した。

 

 

 

 

そして会長判断で両者には暫しの休憩を命じ、会長と正副立会の協議の結果、この対局は千日手扱いの引き分けとし、指し直しとした。

但し、本来は先後交替で八一君が先手に転じる所、状況が状況な為、例外的に「名人」が再び先手を握った。

 

 

両者持ち時間1時間で臨んだ指し直し局、切り替えの巧拙が影響し、八一君はたちまち時間を消費し尽くした。

一方「名人」は、まだ10分以上残しており、このアドバンテージをどう活かすかが大きなポイントになっていた。

 

ここからは両者ノータイム、お互い無呼吸での先の見えない凄惨な殴り合いを繰り広げ、やや「名人」優勢に見えたその時…

 

 

 

「名人」がグラスを持ち、ポットから水を注ぎ、一息に飲み込むと、残り時間を使い、最後の読みに入った。

 

八一君もこの時間消費をラストチャンスと捉え、唯一心に最後の読みを入れていた。

 

そして「名人」が動いた。

一気呵成の詰めに挑み、八一君は防戦しつつも「名人」の攻めが切れた所から逆転一気の詰めの準備に取り掛かっていた。

 

そこから1時間、「名人」の詰めは途切れ、八一君の逆襲が始まり、更に30分後、「名人」が茶碗のお茶を啜り、静かに「負けました。」と告げ、やっと八一君が一矢報いた。

 

 

 

 

これで流れが大きく転換し、以後、第5局第6局と八一君が連勝し、イーブンに追いついた所で最終第7局が八一君の地元・福井県一乗谷で行われ、将棋界史上初の3連敗4連勝という大逆転で八一君が竜王防衛、2期獲得となり、竜王戦規定により、九段昇段となった。

 

これが以後も将棋史に残る伝説の竜王戦である。

 

「名人」の永世七冠と永世竜王を阻んだ八一君は改めてその実力を世に示し、次代のエース候補の地位と評判を揺るぎ無い物にした。

 

 

 

一方玉将戦プレーオフは、1回戦は歩夢君がニ海堂に競り勝ち、決勝は僕と戦ったが、歩夢君の代名詞である1五香からの猛攻を捌き切れなかった事で結果、歩夢君が生石玉将に挑戦する事となった。

まあ負けたのは悔しく、また新たな課題も浮き彫りになったのだが、それとは別に、歩夢君がタイトル戦でどんなパフォーマンスを見せるのかはなかなか楽しみではある。

 




五輪と番勝負がガチで被ってやたら大変ですが、兎に角チェックしてますわ…

竜王戦も軍曹か二冠か誰が挑戦者になるのか目が離せませんが…


って事でまた次回!!


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指し初め式

2018年正月明け…

 

 

関西将棋会館にて、恒例の指し初め式が行われた。

 

 

まずはお参りを行い、その後で上位棋士と下位棋士やゲストとの指し初めが行われる手筈となるのが通例だ。

 

が、今年は中央の盤に座る棋士がギリギリまで決まらなかった。

理由は、関西将棋連盟総裁の蔵王達雄九段が今期限りでの引退を決めた事で総裁本人が中央を辞退し、他誰が適任だ?とか揉めに揉めた為、最終的に当日の総裁指名で中央鎮座を決める事になったからである。

 

当日、蔵王総裁から、「八一、お前が座れ」と八一君が指名されたが、八一君は、「四冠の兄弟子が相応しいでしょう。」と辞退し、総裁も清滝師匠も納得したので結局僕が中央に座る事となった。

 

指し初めが始まった。

 

隣の八一君には少年少女…幼年幼女が群がり次から次へと捌き捲っていたが、僕は弟子の天衣と冬司以外は鏡洲さんに創多、八一君が主宰してる「JS研」のメンバーだけが座ってくれた。

 

僕ってそんなに畏怖恐怖の対象だったの?

 

 

 

一方、指し初めを撤退した蔵王総裁は清滝師匠を伴い、早くも酒盛りに興じていた。

師匠もいい加減呑兵衛で無類の酒豪なんだけど、総裁のレベルは銀子ちゃん的な言い回しで言うと、「アルコール星人」クラスの超絶無比の無敵艦隊なんだよな…

 

 

で、指し初めを終えると酒盛り会場に顔を見せ、早速総裁から「駆け付け3杯ビールでええやろ!」とか言われて流し込みましたよ。大瓶2本相当を。

 

前回も今回もそんなにお酒強くないのに…

 

とは云え、呑んでグロッキーからのまた呑んでグロッキーを繰り返す師匠は別として、今回は生石さんや鏡洲さんが出来る限り付き合っていたから酒の騒動はまだ抑えられたかな…と思っていたけど、最悪最凶の外敵が場を弁えず強行突破して会館に乗り込みましたよ…

 

 

その外敵とは、日本囲碁界の至宝にして史上初の女性本因坊となった「本因坊秀埋」であり、「シューマイ先生」の愛称でも有名である。

 

 

 

 

「おち●ぽー!!」とか、「銀子はどこだー?」とか、銀子ちゃんを摑まえると「女が男の世界で突き抜けるのなら、まずは男を己の身体で受け止めなくてはならん」とか、20歳過ぎた僕でも恥ずかし過ぎて二の句が継げないんですが…

 

あ、命知らずが約1名いた。

 

冬司だ。

冬司曰く、

「おばさん、男の味本当は知らないんでしょ。」とか燃料投下したよ…

 

案の定シューマイ先生爆発したよ…

 

「このチビの保護者誰だ?!」

 

ですよね…

 

仕方無いから僕が名乗り出て何とか抑えたが、その替わりに酒宴に付き合わされるハメとなった。

 

しかし供御飯さんが居なかったのが不幸中の幸いではあったな…



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ファン感謝パーティー

さてさて竜王戦挑戦者決定戦のカードが決定しましたが、永瀬王座と対峙するのはやはり藤井二冠となりました。
この組み合わせ、去年から3回目の挑戦者決定戦での激突とあって、どう展開しようが面白い戦いになるのは間違いないと思います。
後は東京五輪もメダルラッシュが続き、アスリートたちの活躍に沸きつつもいよいよ終盤…

って訳で本編スタート!!


関西将棋会館での指し初め式から数日…

今度は大阪市内のとあるホテルで僕ら清滝一門のファン感謝パーティーが行われた。

どれだけ集まるのか若干不安はあったが、完全に杞憂だった。

何しろ入場受付には時間前から多くのファンや関係者達が今か今かと待っており、控室で待機している僕らもその熱気は感じられていた。

 

因みに一門のメンバーは師匠、僕、銀子ちゃん、八一君、桂香さん、あいちゃん、天衣、冬司で、それぞれ

 

師匠→名人挑戦2回、現在竜王戦1組、B級2組在籍の関西の重鎮

僕→名人、玉座、盤王、棋帝の四冠

銀子ちゃん→女王、女流玉座の女流二冠&奨励会三段リーグ入りまでもう一押し

八一君→竜王大逆転防衛で僕に次ぐ史上2人目の10代九段

桂香さん→年齢制限ギリギリで2年期限付ではあるが、女流3級として女流プロ入り

あいちゃん→史上最年少の10歳1ヶ月で女流3級

天衣→マイナビ本戦準決勝進出&奨励会も現在1級

冬司→奨励会無敗でつい先日二段に上がり、小学2年での三段リーグ入りも現実味を帯びてきた

 

って傍目から見ても凄い豪華な面々だそうです…

実際聞かされてみると全七冠の内、最高峰の竜王名人を含む五冠を僕ら2人で独占だったり、対女流不敗記録継続中の銀子ちゃんだったり奨励会も早ければ4月から銀子ちゃんと冬司が三段リーグ入りしそうだったり、今一番勢いが強い一門と言われたら納得するレベルですよ…

 

そしていよいよパーティー開幕。

 

一門関係者として月光会長や蔵王総裁の挨拶に師匠や僕の挨拶が済むと、早速無礼講と化した関西特有のドンチャン騒ぎも爆裂…

で、それぞれ個々に挨拶回りに入り、僕は弟子2人を伴い紹介と挨拶、師匠は八一君とあいちゃんの3人で回り、もう1組は銀子ちゃんと桂香さんがそれぞれ挨拶回りしていた。

 

僕らは恙無く無難に回っていたが、ふと近くを見ると、八一君がボルテージ爆盛のファンに囲まれ、「あの澄ましたクソ眼鏡(「名人」)に引導渡して桐山君と名人戦やってやらんかい!!」とかなんか危うそうな雰囲気に…

で、はぐらかしておけばいいのに八一君も気が大きくなったのか、「出来るだけ早い内にwww」とか言っちゃって、いいのかなと思ってたら、突然師匠が

「八一、たかがC2の分際で何身の程知らずな事言うとんねん!!お前が名人戦?口にするのも烏滸がましいんや!!C級ならC級らしく大人しくしとれ!!」って激怒しだしてその周囲はたちまち凍り付き、八一君も八一君で

「アンタこそ名人戦圏内から脱落してるくせに偉そうに言ってんじゃねぇ!」って完全にケンカ腰になっちゃって益々冷え込む会場内…

 

そんな空気をなんとかほぐしたのは蔵王総裁の明るい酒と八一君に招待されたJS研の最年少のシャルロットちゃんの舌足らずと笑顔だった。

 

けど結局雰囲気が微妙で気まずいまま閉幕になった…

 

 

 

帰り道、天衣から「師匠、あの2人大丈夫なの?どう考えても雰囲気最悪なんだけど」と問われ、

「師匠に取って名人とは格段の重みがある特別なタイトルだからね。それに前回僕に挑戦して敗れた後、A級・B級1組と続けざまに陥落し、去年もB級2組で降級点を取って今年も不調は変わらず残り3局で2つ負けたらまた陥落するし、1つ負けでも組内の成績次第で陥落は有り得るし、いよいよ決断が迫られているのかも知れないな…」僕も幾分考え込みながら答えた。

「たかがC級に落ちただけで引退って弱すぎじゃない?大師匠」それまで黙っていた冬司が一言やや皮肉るように口を開いた。

「だから師匠に取っての名人戦順位戦の重みはそれだけのものがあるんだ。昨今タイトル戦の増えた今の時代にプロになった僕らからは考えられない位にはね。」

勿論冬司も前回の将棋人生で名人の重みは承知してる筈なんだけど、その辺が冬司らしいというか何というか…

 

これは年度末も波瀾が避けられないな…

 

 

この時点での順位戦現状

 

僕→名人なので挑戦者決定待ち

 

師匠→B級2組(降級点1)残り3局で1勝6敗

 

八一君→C級2組 残り3局で6勝1敗

 

 




やれやれ、今回は一門大ピンチな状況になってますが一体全体どうなるのでしょうかね?(他人事)
昇級争いに残留争いと、三段リーグ入りを賭けた戦いもあって、気合いを入れ直さなきゃならないんだけど…

って事でまた次回!!


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清滝道場

さてさて、ようやく東京五輪も終わり、またいつもの日常が戻って来たと思いますが、将棋日程も益々熱くなっていく今日この頃ですな…
豊島竜王叡王vs藤井王位棋聖の十二番勝負もこれからが本番佳境となりますが、一体全体どんな展開になるものやら…

って訳で本編スタート!!



一門感謝パーティーでの師匠と八一君の確執騒動から数日…

 

順位戦8回戦が行われ、C級2組の八一君はAIを上手く活用した指し回しと竜王戦で一皮剥けた感覚で順調に勝ち進み、7勝1敗で昇級まで2勝となった。

一方師匠は未だ不振を抜け出せず、ここまで歩夢君と2人全勝を走る20歳の期待の若手の1人でもある大原鉄太君に手も足も出ない惨敗を喫し、1勝7敗と本気で後が無くなる崖っぷちに立たされた……

 

そんな時、「名人」との盤王戦に備え、研究に取り組んでいた僕の家に師匠が単身訪ねて来た。

取り敢えず居間に通して話を聞こうとしたのだが、座るなり、いきなり土下座して、「零、否、桐山名人、伏して教えを乞いたい。儂はこれまで名人挑戦2回A級在籍14期を誇りとしてきたが、今思えばその誇りに縛られただけで進化を蔑ろにしていたと、この年末年始の連敗で完全に思い知らされた。よって、多忙は承知の上で時間の都合が付く時だけでええ、儂に若い将棋を伝えて欲しい。」と頼んできた。

確かにここ数年の師匠はその誇りに依存していた傾向が強かったのは否めないが、それにしても思い切った話ではある。

けど弟子としてばかりではなく、故郷の「元親族」から切り捨てられ排除された僕を人として棋士として慈しみ育ててくれた本当の意味での唯一の親族の伯父を突き放せる訳が無かった。

しかし、僕だけでは手が足りないのも確かだから、関西所属の若手中堅の面々や、関東の知己にも協力を頼む事とした。

僕の答えを聞き、師匠は「有難い。この尽力に力の及ぶ限り答えて見せなならんわ。」といたく感謝された。

 

そして盤王戦第1局の会場に出発する前日、野田の師匠宅の離れでもある「野田将棋センター」を訪ねると、鏡洲さん始めとする関西若手有志が多数集い、奨励会員からも創多始め何人も集団で自由に指しまくっており、更に関東からも僕の依頼でニ海堂始めとする若手有志も集まっており、鏡洲さんと同期昇段の坂梨さんも勿論いた。

そしてあの騒動以来、師匠宅に寄り付かなかった八一君にも連絡し、来て貰った。

八一君、道場を見るや、「何なんですか?この活気と熱気は?」ってえらく驚いていた。そして、「兄弟子、手が足りないから更にA級も1人2人頼んだって聞きましたけど、まさか会長とか生石さんですか?」と聞いたので、

「否、違う人だけど。1人は今創多と指してる佐伯さんで、もう1人はそろそろ着くと思うけど…」と言うや否や、

「八一くぅん、久しぶりぃ」って声が…

その途端八一君、叫んでた。

「うわぁーーー兄弟子、よりによって何でこの人なんすか?ヤバ過ぎるでしょうーーー!!」

「A級で即座に都合が付いた人が山刀伐さんと佐伯さんだったからね。お願いしたら即興味津々に承知してくれたよ。」

「清滝さん程のベテランがなんとも面白い事を企図してるって聞いて乗らない手は無いよね。しかも仕掛人が零君と来たら乗らなきゃ損だしね。」

 

って訳で「清滝道場」大盛況となり、参加した大勢の棋士や会員がここから更に力を伸ばす事となる「伝説の道場」と後に謳われる話になるのはまた別の機会に…

 

 

その後、順位戦9回戦では師匠が昇級争いにいる若手相手に会心の指し回しで2勝目を挙げ、残留に首の皮一枚残った。

八一君も順調に8勝目を挙げ、昇級に王手となっていた。

 

そして3月、いよいよ1年の総決算となる順位戦最終戦が行われる…




余談…

関西奨励会例会2月後半、ここまでいいとこ取り12勝4敗まで残り1勝の銀子ちゃんと、二段昇段後5連勝中の冬司が初めてぶつかった。
お互い矢倉を組んでからの戦いとなり、先手の銀子ちゃんに攻めさせるだけ攻めさせ、攻めが過剰になった所をカウンターからの一気の逆襲でたちまち相手陣を破壊させた冬司が快勝し、銀子ちゃんの三段昇段はお預けとなった。

その後は3月前半に更に連勝を重ねた冬司が一足先に三段昇段、銀子ちゃんもその次の3月後半の1局目で三段入りを決め、年度明けの4月からの三段リーグに共に参加する事となった。

一方、現在開催されている今年度後期三段リーグは、創多が敵無しの全勝突破を決め、2位昇段は曾ては生石さんや山刀伐さん達と奨励会同期も一度は抜け出せずに退会し、後にアマチュア復帰後にアマチュア棋戦で実績を挙げ、参加したプロ棋戦でも勝つだけ勝って三段受験資格を行使して見事に奨励会復帰を果たし、今回から再び三段リーグに参戦し、今度は一発回答の16勝2敗の好成績で辛香将司さんが悲願達成となった。

正直、才能は兎も角、三段リーグは独特の雰囲気が支配するだけに、特に銀子ちゃんが呑まれないか気掛かりではある。
一方の冬司は才能メンタルは心配いらないけど、唯一気になるのが体力だろう。ここが何とかなれば一発回答出来るとは思うが…


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山城桜花戦

さてさて、竜王戦挑戦者決定戦第1局は目下史上最年少三冠へ後一息の藤井二冠が先取しましたが、あの永瀬中尉(王座)がこのままズルズル連敗するとも思えないので、まだまだ熱気は続くと期待してるこの頃です。
って訳で本編スタート!!


山城桜花戦……

 

 

江戸幕府初代将軍徳川家康により『碁将棋所』から『将棋所』が独立し、その初代将棋所に任ぜられ、『将棋名人』と認定された

一世名人・大橋宗桂を記念し創設された女流棋戦であり、現在は供御飯万智さんが4連覇を記録し、今期防衛すると連続5期獲得でクイーン山城桜花の資格を獲得する事となる。

そして今期挑戦者は、その供御飯さんの親友にして最大のライバルでもある月夜見坂燎女流玉将である。

 

第1局は慣例及び宣伝効果狙いでの東京開催で、防衛側の供御飯さんが先勝し、早くもリーチを掛けていた。

 

続く第2局と第3局は2日連続京都開催で場所は第2局は天龍寺で、最終戦の第3局は四条河原特設ステージとなっていた。

 

そして僕と天衣に冬司の3人は第2局当日、京都入りしていた。というのも、天衣がマイナビ本戦準決勝に進んでおり、準決勝は月夜見坂さんとの対局が決まっており、更に挑戦者決定戦に進むと今度は供御飯さんと当たる可能性が大きい事から敵情視察とタイトル戦の雰囲気を体感する予行演習を兼ねて連れて来たのだ。

 

その第2局は昼頃に到着した段階では供御飯さんやや優勢気味な状勢だったのだが、昼食休憩明けからの対局再開後は月夜見坂さんが一転躍動感溢れる指し回しで見事な逆転勝ちで1勝1敗のタイに持ち込み、明日の四条河原決戦で決着する事となった。

 

因みに山城桜花戦は他のタイトル戦と異なり、プロ・女流全てのタイトル戦では唯一感想戦の前に記者会見を行うスタイルとなっている。

ここで月夜見坂さんがヤバい発言で会場内が凍り付きかけた。

曰く、「昼休憩ん時にクズ連れ込んだら急に調子上がってよwww」って姿見てないけど八一君いるの?

一方の供御飯さんは淡々と「今日は良く無かったですが、明日までには立て直して見せます。」と言葉少なに話していた。

 

そして会場を出ると八一君とあいちゃんを発見、八一君はなんか顔面蒼白で一方のあいちゃんは悋気全開の不満顔と聞かなくともヤキ入れられたのは明白な状態だった。

八一君、僕に助け求める顔してたけど自業自得なんだから自分で解決しようね。

 

さて、僕らは予約していた旅館に入り、風呂・夕食・vsと第2局の感想をして、早目に床に就いた。

 

 

そして四条河原特設ステージでの第3局、現地大盤解説に八一君とあいちゃんが入り、月光会長が立会人として行われたが、佳境に入ったその時、一陣の風が駒を吹き飛ばし、即座の再開が出来ないハプニングが起こった。屋外ステージ故のハプニングであり、更に言えば立会人の月光会長が盲目である事から直ぐに駒を現状の位置に戻せず一瞬どうするのかと思ったが、ここで手番の月夜見坂さんが口頭で指し手を宣言、何とタイトル戦では前代未聞の目隠し将棋を仕掛けて来た。

これに対し供御飯さんも持ち時間が消費される中、目隠し将棋に応じ、ここからはお互い持ち時間が無くなる中での目隠し将棋となり、月光会長も追認した。

そして脳内のみで駒を動かす難解な戦いは、供御飯さんが硬い穴熊を自ら崩し攻めに使うという奇策で月夜見坂さんを受けなしに追い込んで勝ち、5連覇を果たしてクイーン山城桜花の資格を獲得した。

 

会場を後にし、八一君達と合流した帰り道、天衣に

「この2日の対局を見てどう感じた?」と聞くと、

「負けるとは思わないわ。でも、臨機応変だけは少しは参考にはなったわね。」との答えだった。

一方の冬司は「幾ら目隠しと言っても少し不恰好だし、研究が足りない。」といつもの辛口だった。

八一君は……隣のあいちゃんが何気に怖いのだが……

2人に何があったかは知る気もないし聞こうとも思わない……。

 

天衣のマイナビ準決勝は1週間後である。




マイナビ本戦準決勝

月夜見坂燎女流玉将vs夜叉神天衣奨励会1級


まず下座に天衣が座り、少し後に月夜見坂さんが上座に座り、対局開始。
月夜見坂さんは得意戦法の横歩取りから攻勢に入るも、天衣の「横歩取り?全くバカの一つ覚えね。所詮山猿じゃそんなものなのかしら?」との挑発にあっさり乗り、
「あ?ゼロにどんだけ可愛がられてるか知らねーけどよ、調子こき過ぎだクソチビが(怒)」
完全に怒りの針が振り切ってるよ…
けど天衣は落ち着いたもので、
「おばさんに瞬殺されて山城桜花にも目隠し将棋を返り討ちにされる程度の山猿に私が劣るとでも思うの?あんたなんか女流タイトルホルダー中最低ってのを今、私が証明してあげるわ。」
怒らせ方上手いな。僕じゃムリだ。
……そして次から次への挑発に完全に我を失った月夜見坂さんにもう勝機は訪れなかった。
結果、天衣が圧勝し、同日関西将棋会館での準決勝を制した供御飯さんとの決定戦に駒を進めた。


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順位戦最終戦

順位戦最終戦……

 

 

例えば最上位のA級なら、「将棋界で1番長い日」の形容詞が示す通り、名人挑戦権の行方及び、それ以上に注目されるのがA級陥落の2名に誰がなるのか果たして誰が残留するのかと言う事である。

 

そんなA級程の耳目を集めないまでもB級1組だと、A級に上がる2人が誰になるかとか、それなりに注目度は高い。

 

そんな中、我が清滝一門からも2人のプロ棋士が順位戦最終戦に臨む所となった。

 

まずC級2組の八一君、ここまで8勝1敗で勝てば文句なし、一方で負けたら他の結果待ちなので敗戦=昇級赤信号と言う事で勝利が絶対条件となる。相手は今期限りでの引退を明言し、正真正銘最後の対局となる関西将棋連盟総裁・蔵王達雄九段である。因みに蔵王先生はここまで3勝6敗で通常成績では降級点が付かず、来期も戦えるのだが、老齢と体力的問題を考え、早期引退を決めたらしい。そんな老将に八一君がどう戦うのかは個人的には興味深い。

 

一方、師匠はここまでB級2組で降級点1を持った状態で2勝7敗と負け即降級、勝っても当落線上にあるライバル次第では残留・降級ともに有り得る文字通りの綱渡りな戦いとなる。そして最終戦の相手が何とここまで9連勝でデビュー以来、順位戦で29連勝を記録している神鍋歩夢六段では、かなり厳しい戦いになるのは容易に想像出来た。

 

 

先立って行われたC級2組は大阪で八一君が蔵王先生と戦ったが、AIを上手く取り込んだ八一君に対し、蔵王先生はAI将棋の根本的弱点を巧みに突き、僕でも難解な状況に持ち込まれそうな状態に追い込み、八一君は信じられない顔で蒼白になりながら投了した。

気になって跡をそっとつけると、対局がないにも関わらず銀子ちゃんが会館内におり、打ちひしがれて泣いていた八一君をそっと抱き、膝枕してた。

ここは2人だけにするのがベストと思い、そっと踵を返した。

結局C級2組の昇級争いは、最終的に八一君のライバルだった鳩待五段がこれもプレッシャーからか、俄に信じ難い痛恨の二歩による反則負けで脱落し、最後の3枠目を八一君が滑り込みで拾う事となった。

 

 

1週間後に行われたB級2組最終戦は予想に反し、師匠が積極的に躍動感溢れる指し回しで歩夢君を攻め、一方の歩夢君はそんな師匠の攻め方に戸惑いながらも必死に食らいついていた。

全くこんな充実感たっぷりな師匠を見るのはいつ以来だろうか……少なくともA級から陥落して以降では今日が初めてではないだろうか……

 

そんな感慨に浸りながら久留野七段の大盤解説に目を向けると、流石に歩夢君、そうは簡単に主導権を握らせない。

そして佳境に入った所で僕も大盤解説に飛び入り参加をした。

その数分後、記者席にいた鵠さんが東京会場の結果を告げ、

「東京、結果出ました!神鍋昇級、清滝降級となります!」

途端に客席から嘆声が次々に出たが、会場内の対局はまだ終わってない。襖の向こうは他の結果は知らず、唯己の持てる限りの力を全て尽くして最後の踏ん張り所に突入した。

 

それから2時間程で歩夢君が無念の投了を告げ、今日の戦いは全て終わった。

 

観戦記者十数人程が対局室に群がり、歩夢君に昇級祝いの言葉を掛けていたが、神鍋歩夢新七段は半ば茫然とした表情を変えず、「我の指し回しに何の落ち度が……」と、必死に対局を振り返っていた。

 

一方師匠は、勝っても降級が決まった事で少し悔しそうな顔をしていたが、それでも会心の将棋だったからか、かなりスッキリしていた。

 

そして控室に戻った師匠を追うように僕、八一君、銀子ちゃん、桂香さん、あいちゃんも次々と控室に入っていった。

師匠は全員の顔を見て、「結果はこうやったけどな、儂、将棋が面白くなってきたわ!って訳で引退はまだまだ先や!何年かかるか知れんがまた零の名人に挑戦せなならんし、八一の竜王も奪わなならんし、いつまでもへこんでられんわなwww」

師匠、素面で完全復活宣言かましたよ(笑)

でも桂香さんは涙が止まらないし、八一君は気合い入れ直してるし、銀子ちゃんは表面的には表情は変わらないけど、何処か嬉しそうなのは僕には分かる。あいちゃんは「おじいちゃん先生、まだまだ頑張っている所を見たいです。」って激励してるしで、矢張り皆、師匠の現役続行を信じていたようだ。

 

その夜は、あの名門料亭で一門宴会と相成った。

 

名人戦ももうすぐだ…




A級順位戦最終戦…

今期は前例のない超大混戦となった。

1位→「名人」4勝4敗
2位→於鬼頭曜帝位5勝3敗
3位→佐伯宗光九段4勝4敗
4位→月光聖市九段4勝4敗
5位→後藤正宗九段3勝5敗
6位→山刀伐尽八段4勝4敗
7位→生石充玉将5勝3敗
8位→柳原朔太郎九段3勝5敗
9位→関崎勉八段3勝5敗
10位→櫻井岳人八段5勝3敗

最終戦組み合わせ

「名人」vs櫻井八段
於鬼頭帝位vs後藤九段
佐伯九段vs山刀伐八段
月光九段vs柳原九段
生石玉将vs関崎八段

結果

○「名人」(5勝4敗)−櫻井八段(5勝4敗)●
○後藤九段(4勝5敗)−於鬼頭帝位(5勝4敗)●
○山刀伐八段(5勝4敗)−佐伯九段(4勝5敗)●
○月光九段(5勝4敗)−柳原九段(3勝6敗)●
○関崎八段(4勝5敗)−生石玉将(5勝4敗)●

最上位成績5勝4敗が6人

降級者は関崎八段(今期9位4勝5敗)、柳原九段(今期8位3勝6敗)

プレーオフトーナメント

1回戦7位生石玉将vs10位櫻井八段
2回戦6位山刀伐八段vs1回戦勝者
3回戦4位月光九段vs2回戦勝者
準決勝2位於鬼頭帝位vs3回戦勝者
決勝1位「名人」vs準決勝勝者
の組み合わせとなり、

1回戦○櫻井八段−生石玉将●
2回戦○櫻井八段−山刀伐八段●
3回戦○櫻井八段−月光九段●
準決勝○櫻井八段−於鬼頭帝位●
決勝→○「名人」−櫻井八段●

という訳で次期名人戦は4年連続vs「名人」な組み合わせとなった。



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国民栄誉賞

暫く振りです。
色々ゴタゴタがございまして更新遅れました。
ゴタゴタが何かは聞かないで…
さて、桐山君、八一君、銀子ちゃん、それぞれに取っての転機・新たなスタートの年度明けとなりますが、これからどんな茨道を突き進むのやら興味が尽きません。
って訳で本編スタート!!


4月1日…

 

世間的にはエイプリルフールだけど、同時に年度明け初日でもある。

将棋界にとっても新年度に突入すると同時に新年度最初にして前年度最大最後の大イベントとなる「名人戦」が開幕するのが将棋に生きる者のルーティンとなっている。

 

今年、その「名人戦」に臨むのは現名人の僕と、つい先頃世間の注目の的だったタイトル通算100期を達成した「名人」である。

 

これを語るには順位戦最終戦前後のタイトル戦戦線に触れなくてはならないのだが、最終戦については概ね前話を見れば…だけど、盤王戦と玉将戦はここで改めて触れて置く。

 

まず、玉将戦は生石玉将vs神鍋歩夢六段(番勝負中に七段)の勝負となったが、順位戦最終戦での困惑模様は何処へやら、AIが弾き出した最新型の棋風を存分に活用した歩夢君が生石玉将の粘りを振り切り、4勝1敗1持将棋1千日手で自身初タイトルを手にした。因みに歩夢君曰く、タイトル獲得を師匠の釈迦堂先生に報告した際、「ゴッドコルドレンよ、報告は今暫く掛かると考えていたが、こうも早く獲得とは、余の考え以上に成長が早いと見る…」と言われたそうで、釈迦堂先生的には「名人」獲得までは無冠と予想していたのだろう…

が、何にせよ、関東勢では「名人」以来の10代タイトルホルダー誕生となった。ライバルの八一君も油断してると足下掬われるだけの地力があるからな…

 

一方、盤王戦ではタイトルホルダーの僕が挑戦者の「名人」を迎え撃つ図式となったが、フルセットの末、終盤に連勝した「名人」が逆転でタイトル獲得、通算100期達成となった。

僕としては10連覇が潰えた悔やまれる戦いとなったが、それでも50歳近い「名人」がまだまだ地力が落ちていないのを体感出来、これからの「名人戦」への恰好の材料を収集出来たのが自分なりの収穫にはなったと思う。

 

 

 

そしてタイトル100期を機会に「名人」が将棋界史上初の「国民栄誉賞」を受賞する事となった。

実は同時期に囲碁界でも史上初のタイトル七冠独占を2度達成した「井川裕一」名誉名人本因坊資格者にも「国民栄誉賞」の打診があり、精査の結果、日本古来のマインドスポーツの第一人者として、2人同時受賞の運びとなったものである。

 

 

その時の「名人」のスピーチに、

「400年を超える将棋界の歴史に近いうちに新たな足跡が刻まれる予感がする。その新たな足跡に是非触れてみたい…」

と言うのがあった。

これまでの将棋界での未踏とは、女性のプロ棋士と外国出身のプロ棋士が挙げられ、外国出身者は奨励会員自体不在なので現時点では現実味がないが、女性プロ棋士については今回、銀子ちゃんが三段リーグに足を踏み入れたから可能性としては幾分でも望みが出て来たとしても違和感はないと思う。

 

つくづく以前に打診されたのを断っておいて正解だったと思う…

 

そして今回の「名人戦」は僕にとっても非常に重要なポイントになる。何しろ勝てば獲得5期となるので十九世名人の資格を得られ、将棋史に確たる足跡を刻める大チャンスなのだから…

 

 

 




4月前半、今期三段リーグがスタートした。
参加36人で半年にわたり全9節18局が行われる地獄に巣食う鬼達の狂宴である。
今期は史上初の女性三段となった銀子ちゃんと、史上最年少で開幕日8歳の冬司が注目の大目玉である。
三段リーグは開幕2局と最終2局が千駄ヶ谷の東京・将棋会館で行われる他は、公平を期する為、東西行ったり来たりの日程となっている。

銀子ちゃんの初戦の相手は前期年齢制限の中、10勝8敗で勝ち越し延長の恩恵を受け、今期に賭ける宮森三段となった。
その宮森三段曰く、「奨励会員には種類が2つある。サメとイワシだ。獰猛に喰らうのがサメ、見栄えはしても喰われるのがイワシ、俺の目にはお前は見掛け倒しのイワシにしか見えん。早速喰ってやる。」
そんな先制のジャブを受けながらも的確に対応する銀子ちゃん、終盤に入るや、過去に3度自力他力昇段チャンスを潰した宮森三段に無形のプレッシャーが伸し掛り、致命的悪手を指してしまった。
この千載一遇の大チャンスを銀子ちゃんが逃す筈も無く、一気呵成の逆襲攻勢で一発回答で討ち取った。

一方、冬司は前期降段点を喰らった野口三段と当たった。
その野口三段曰く、「三段リーグは長期戦だから今は良くても中盤終盤になると必ずバテるからそこを考えなくちゃいけないよ。果たして君に出来るかな?」と言ってきた。
けど冬司である。「心配無用、目の前の相手を1人1人倒せばいいだけ。それとも口先だけで勝ったつもり?」
開始1時間であっさり決着。

初日2局は銀子ちゃんも冬司も幸先よく連勝スタートとなった。


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女王戦前夜祭

さてさて王位戦ですが、藤井王位が豊島竜王に4勝1敗で見事防衛しましたね。正直ここで決まるとは予想外でした…
一方の叡王戦は豊島叡王と藤井二冠のシーソーゲームで最終戦決着に縺れ込み、期待が高まってますな…

さて、本作の感想覗いて見ましたが、桐山君が主人公って事で川本一家について質問がありましたが、本作では川本一家は登場しない予定です。何しろ主舞台は大阪で「りゅうおう」をベースにしてますので…

って事で本編スタート!!


新年度が始まった。平成も最長で来年の内に終わるから昭和生まれの諸先輩方に古いと言えなくなるな。今度は僕ら平成生まれが時代遅れされる番か…

ま、それは置いといて、この時期の将棋界のイベントと言えばまずは「名人戦」であり、これには今回は名人で通算5期の懸かった僕と前代未聞の6人プレーオフを勝ち上がった「名人」とで争う事となる。

そしてもう1つのイベントが「女王戦」であり、今回は昨年の防衛戦で5連覇を果たし、「永世女王」資格を獲得した女王・銀子ちゃんと、チャレンジマッチ→一斉予選→本戦トーナメントと勝ち上がり、挑戦者決定戦で「クイーン山城桜花」資格保持者の供御飯さんを叩きのめした天衣で争われる事となっていた。

 

 

大阪・通天閣…

ここが今回の女王戦第1局の会場である。

よくもまあ大阪随一の観光名所を確保出来たなと思ったが、ここは銀子ちゃんの地元(通天閣近隣に実家がある)であり、また、今回の立会人である蔵王達雄先生の地元でもある事から先生の口利きにより実現した経緯がある。表面的には。

因みに第2局の会場は天衣の地元・神戸である為、一応の公平性は保たれているのかなとは思う…

しかし、通天閣そのものの貸し出しなんて蔵王先生と連盟だけじゃ流石に無理筋だろうから他にあらゆる手を尽くしたんだろうとは容易に想像はつく。

 

そして前日になり検分が行われたが、当日使われる将棋盤が八寸盤である事から早速銀子ちゃんが挑発してきた。

曰く、「チビなアンタじゃ届かなさそうだからお子様用の椅子使えば?」敵意剥き出しかよ…

けど天衣もしれっと「御配慮痛み入ります。けど、より安心感のある師匠の膝がありますからwww」いやいや、僕を巻き添えするの?ってか、師匠の使い方間違ってるだろ!

 

因みにこの検分の場には蔵王先生は居なかった。と言うのも先生曰く、「零と八一に任せときゃ問題ないわい。」って事でさっさと近くの馴染の居酒屋に清滝師匠を連行して酒盛りに興じていたからだ。

 

一方、波瀾含みながらもどうにか検分を終え、対局者両者の揮毫となったがここでも敵愾心満々の二文字が躍る羽目となった。

 

 

 

女王・銀子ちゃん「駆除」

挑戦者・天衣「略奪」

 

 

 

女の戦いの醜さ忌まわしさの片鱗を見た思いがした…

 

 

 

で、検分終了の報告をしに蔵王先生と師匠のいる居酒屋に行ったが、師匠すでにへべれけで一方の蔵王先生は「鋼介、これで終いか?」…80過ぎの御老体の酒量じゃないんですが…

そしたら蔵王先生、僕に「師匠の尻拭いは弟子がせなならん。零、八一、呑め!」マジですか…

仕方無いから銚子3本呑みましたよ。流石に八一君にはまだ早いから僕が生贄になるしかない…

 

そして始まった前夜祭…

 

どっちも敵愾心隠さず挑発のジャブ連打…

 

銀子ちゃん「これ程若い挑戦者は初めてですので若い力を吸収できれば」

天衣「女流最強の女王に勝てば四段に大きく近付きますので精進できれば」

こんなの誰も止められないな。

 

 

大阪・通天閣 女王戦第1局 

女王・空銀子vs挑戦者・夜叉神天衣

立会人・蔵王達雄九段(関西将棋連盟総裁)

記録係・雛鶴あい女流3級

 




名人戦第1局…東京・旧離宮跡地特設会場

桐山零名人vs挑戦者・「名人」

振り駒の結果、先手は僕となった。

立会人は刈田升三実力制第四代名人(九段)
副立会人は櫻井岳人八段
記録係は坂梨澄人四段

今回は相手に合わせがちな僕としては珍しく自分から戦型を決めた。
ゴキゲン中飛車…
攻撃性の高い振り飛車戦法である。
何故選択したか…それは、AI全盛の昨今に於いて「振り飛車」がAI評価の最低基準に置かれていたからだ。
確かに玉将戦では最新型の棋風を最大限駆使した歩夢君が振り飛車と心中した生石さんを打ち破ったが、一方でAI寄りの戦いにのめり込んだ八一君は戦型は別として最新型に適応不能な蔵王先生にAI将棋の根本的弱点を突かれ敢えなく惨敗する等攻略の余地も残っていたからだ。
しかし流石は「名人」である。振り飛車相手なら居飛車穴熊に行きたくなるだろう動きに行かず、敢えて守りの薄い居玉での防御に持って行った。
一進一退、お互いに持ち時間を消費しながら初日を終えた。

因みに昼食メニューは
僕→「離宮特別会席御膳」+ピンクグレープフルーツジュース
「名人」→「離宮御膳」+江戸前盛蕎麦+ウーロン茶

2日目…僕から動いた。

玉を守る防御の駒を剥ぎ取りにかかり、積極的に動いた。
しかし「名人」もさるもの、幾分駒を失いながらも守りの最後の一線は決して崩れない強固な粘りである。
今度は僕が「名人」の攻勢に晒されるターンになった。
しかし僕も粘る。ってか、何年名人努めたと思ってるんだ?
ここを凌げず名人を名乗れる訳あるか!!
やがて「名人」の攻めが切れた。
後は僕のターンだ。
一気呵成に決めた。幸先良く先勝となった。


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女王戦第1局

さてさて竜王戦挑戦者決定戦ですが、藤井二冠が永瀬王座に連勝で豊島竜王への挑戦を決めてしまいました。
この人、マジで無人の野を行きかねない超人路線突っ走る予感しかしないんですが…
って事で竜王戦も豊島vs藤井になり、魔王も軍曹も水開けられたかなって雰囲気ムンムンな気がしますが一体全体どうなるのやら…

って訳で本編スタート!!


女王戦第1局

大阪・通天閣特設会場

 

女王・空銀子vs挑戦者・夜叉神天衣

 

午前9時開始だが逸る気が抑えられないのか、天衣は30分前に早くも入場し、盤前に座り、早速集中モードに入っていた。

その気持ちはハッキリ理解出来る。

何故なら亡き天佑さんの晩年(天佑さん本人は特段意識してなかったろうが)の口癖が「零君の弟子になって女王となった天衣を見るのがこれからの父さんの励みなんだ」だったらしく、天衣には骨の髄から刻み込まれているのだろう…

この日の天衣の衣装は黒紅の和服に真紅の袴と、集った報道陣から観戦記者から大多数が固まって見惚れた異例の風景と化していた。そりゃそうもなるだろうな、それでなくとも天衣の小学生とは思えない大人びた所作と雰囲気は周囲を圧倒して尚風格さえ感じさせるものなのだから…

 

一方の銀子ちゃんは開始10分前に女王の貫禄を全面に醸し出し、余裕を演出した風情で入場した。

 

振り駒の結果、先手は銀子ちゃんとなった。

 

因みに立会人は地元の名士でもある蔵王先生で記録係はあいちゃんと言うのは前話の通りである。

 

午前中はお互い防御を固め、様子を伺う様相に終始していた。

 

因みに今回の大盤解説は何故か僕で(本来なら同門関係で外される筈なのだが、いつの間にか組入れられていた。)、聞き手の女流棋士は供御飯さんが担当していた。

 

で、供御飯さん、早速「零はん、こなたはクイーン山城桜花を約束通り果たしたどす。今、零はんの答え伺いたいんどすが答えは?」

こんなの即答出来る?そんな意識していた訳じゃないし…

 

けど、考えて見れば山城桜花戦の前に冬司の現状報告に供御飯家を訪れた際、御両親から「万智の事も気に掛けておくれやす。」って言われてたような…

これじゃ八一君の心配してる場合じゃないな。ってか、僕は僕で既に供御飯家からロックオンの既成事実を固められて逃れよう無しってか…

 

ハッキリ言えば現世では結婚なんて予定外だったけど、自分なりのケジメ付けなきゃ納まらないのはもう認識せざるを得ない話だったので、

「今期名人戦を勝ち、十九世名人資格を勝ち取った時に改めて僕からお話させて頂きます。」

って答えるしか無かった。

 

閑話休題…

 

お互い大きな動きが無いまま昼食休憩に入った。

 

昼食メニューは…

 

女王・銀子ちゃん→「ビーフシチューうどん」

 

挑戦者・天衣→「松花堂弁当」

 

と、お互い好みの食事となった。

 

さて、天衣には予め和服対局での注意点を諄い程教え込んだのだが、ここからが重要になる。

 

対局再開。

 

どうやら天衣は僕の忠告をしっかり意識しているようで、和服の袖を盤面に触れない様に最大限の注意を払っており、予想外のトラブルには見舞われ無さそうだ。

 

そして銀子ちゃんから奪った「香」を活用し、後は順調に仕留めた。

 

 

 

そして女流相手ではないものの、女性・それも5歳下の小学生に完敗した銀子ちゃんのショックは尋常でない事は火を見るより明らかだった。

続く第2局もいい所無く天衣に一方的に叩きのめされ、三段リーグでも早くも黒星を喫していた。

 




竜王・九頭竜八一九段の弟子、雛鶴あい女流3級の新たな挑戦が始まった。
「女流名跡戦予選」

この戦いは4ブロックで争われ、その勝者4名が前期残留5名と前期番勝負敗者との合計10名で争われる挑戦者決定リーグ戦に進む事となっている。

あいちゃんは順調に勝ち進み、予選決勝に駒を進めた。これで女流1級に昇級、晴れて女流正棋士となった。

決勝の相手は岳滅鬼翼女流1級…
つい1年程前まで奨励会2級で戦っており、強敵であるのは間違い無い。
因みに彼女、僕とも多少の縁があり、小学生名人戦準決勝で当たり、僕が勝っていた。
そしてその翌年に女子初の小学生名人に輝き、「不滅の翼」なる異名を頂戴しており、あの供御飯さんや月夜見坂さん、鹿路庭さん達も尊敬している程の人である。

対局が始まった。
あいちゃんはいつも通り序盤は振るわない。一方の岳滅鬼さんは奨励会時代の異質な棋風をここでも使い、千日手狙いの混沌した盤面に持ち込んでいた。
実のところ、岳滅鬼さんがこんな棋風になってしまったのは入会直後に負けが込み、早くも折られてしまったからだ。
結局いつまでも通用する筈もなく、奨励会では2級で終わってしまったのだが。
そんなこんなで終盤に入ると、あいちゃんの驚異的な終盤力が如何なく発揮される事となった。
混沌の盤面がいつしかあいちゃん優勢に変わり、やがて勝勢へと進み、最後は快勝な内容であいちゃんがリーグ戦入りを見事に果たした。 


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銀子ちゃん危機一発

ここからの展開一体全体どうするのやら絶賛悩み中…


って訳で本編スタート!!


名人戦を『名人』相手に苦しみながらも2連勝で5月に入ったのだが、供御飯さんからの告白催促があまりに凄まじく、精神的疲労が並大抵じゃなかった1ヶ月だった…

一方、女王戦は天衣の2連勝となり、ここまで女流戦不敗だった銀子ちゃんは早くも崖っぷちに追い込まれていた。

そして三段リーグ戦でも冬司は4連勝と勝ち進んでいたが、銀子ちゃんは4戦3勝1敗と早くも黒星を記録していた。

そんな中、第3局に備え東京のニ海堂邸を訪れ研究会に没頭していた僕のスマホに八一君から緊急連絡が入って来た。

「兄弟子、大変お忙しい中申し訳無いんですが、姉弟子都内で見掛けませんでしたか?実は姉弟子、この数日実家にも戻らず学校(高校)にも一切顔を見せず、桂香さんとも連絡なしで周り皆途方に暮れてんですよ…で、釈迦堂先生にも事情を話して姉弟子の事を伺ったんですが、「余の所にも顔は見せてはおらぬ。」との事でもう兄弟子しか思い当たる人いなかったんで尋ねた次第です…」

八一君、かなり切羽詰まってるか…

けど僕も「銀子ちゃんの動向は僕も把握してないし、東京でも顔は合わせてないな。」としか答えられなかった。

けど、銀子ちゃんは中学時代から研究用のワンルームマンションを借りていたからそこには行ったのかと問うと、八一君、

「行きましたよ。けど本人居ないし、管理人さんに許可貰って開けて見ると、完全に何日か家空けてる状態でしたから…」

うーん、しかしこの事実を知る人間がどれだけなのか改めて聞いて見ると、

「桂香さんと師匠、俺と会長に男鹿さん、釈迦堂先生は間違いなく承知してます。後は…関わらせるつもりは無かったんですが、あいもこの事は知ってます。他は…姉弟子の御両親位ですかね…」

溜息しか出なかった…

急にvs中断して焦りながら電話対応してる僕にやや不審に思っていたニ海堂が電話が終わるのを潮に唐突に聞いてきた。

「なぁ心友よ、困り事があるのなら俺に出来る範囲でなら幾らでも力になるぞ。」

その言葉を聞き、何よりも銀子ちゃんの安全が最優先されるのならと、ニ海堂に全ての事情を話し、出来る限りの協力を頼んだ。

そんなニ海堂曰く、

「俺には家族でも一門でも弟妹って存在が一切存在しなかったから、兄としての気持ちがいまいち理解し切れないんだが、それでもお前のらしくない狼狽を見ると羨ましいとは思うよ。曾ての兄者(島田開)も俺へはそんな心配だらけだったんだろうな…今にしてみれば親不孝師匠不孝兄不孝のオンパレードだよ、俺は」

「お前らしくないな。それこそ周りを冷や冷やさせながらも着実に勝ちをもぎ取って賞賛されてたのは誰だよ」

と返したら少し考え込んでたが、それなりに納得してた。

 

結局銀子ちゃんの失踪騒動は関西の最高幹部と身内、関東でも極近しい人物以外は全く把握しておらず、どうにか解決の運びとなった。

実際、銀子ちゃんを発見したのは八一君で、発見場所は八一君のアパートで包丁持って手首切りかけてたのをどうにか抑え、頭冷やさせる為に福井の実家に暫く逗留する事となったようだ。

 

災い転じて福…となれば良いなぁ…それだけ銀子ちゃんと八一君の絆は誰よりも深いのだから…

 

5月前半、名人戦第3局と女王戦第3局は同日開催である。

 

名人戦第3局 高知・桂浜特設ステージ

 

女王戦第3局 京都・清水寺

 

 




今現在の将棋界、20代前半以下の若手有力棋士達が実力的にリードしている印象が強いが、どっこい、「名人」以外でも月光会長や佐伯九段、生石九段、後藤九段、山刀伐八段等のベテラン勢もまだまだ上位常連として睨みを利かせているのだから現状的には世代間抗争真っ只中と言うのが見方としては適切と思う。

そんな状態の中、とあるアマチュア強豪が棋士編入試験に臨む事となった。
そのアマチュア選手とは「神宮寺崇徳」アマであり、経歴を見ると、御両親が何れも日本人でありながら両親とも極めてアクティブな性質で高校卒業を機に渡米し、アメリカ本国で下積みを重ねてその後、世界的一大チェーンとなる「ワールドヌードルパスタ」を開業し、大成功を収めた筋金入りのアクティブ人間である。それにしてもまさかのまさかであの「神宮寺会長」が転生かは不明だが、兎も角も現世で僕らと同年代としてこの進化した将棋界に乗り込んで来たのは歓迎すべき事ではある。
しかし今回の対局相手は何れも難解な相手ばかりである。
第1局→辛香四段
第2局→椚四段
第3局→鏡洲四段
第4局→坂梨四段
第5局→松本一砂四段
5戦で3勝すればフリークラス四段としてプロ入りとなるが、この人、前年のアマ名人にアマ玉将、つい先頃には毎朝アマ名人にも輝いていたからまかり間違ってプロ棋戦優勝とかタイトル挑戦まで進んだら一気に順位戦デビューになる恐ろしい未来が…


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永世名人

さてさて藤井二冠、今度は王将戦リーグ戦復帰に棋王戦も本戦初戦突破とまだまだ底を見せない活躍ぶりで…
同年代もまだ大きな活躍が出来てないし一体誰が天敵になるのやら…

って訳で本編スタート!!


6月下旬…名人戦第7局

神奈川県・鶴巻温泉の名門旅館で行われる。

ここは将棋に囲碁と数多のタイトル戦で幾多の名勝負に歴史的事件が展開された、或る意味聖地に近い場所でもある。

 

ここまでの結果は3勝3敗(○○●●○●)となっており、文字通りの最終決戦となっていた。

 

今回の立会人には柳原朔太郎九段が担当し、副立会人は田中太一郎八段が就いた。記録係は椚創多四段である。

 

検分を一通り終え、間もなく前夜祭というところで部屋で着替をしていたら、誰かが部屋に入る気配がしたので着流しの状態でドアを開けると供御飯さんだった。

「この間の返事、まだ貰ってないんどすが何時になるんどすか?」

「だ・か・ら・、全てはこの最終戦を終えてからって言った筈ですが…」

「そういえば最近の銀子ちゃんと竜王はん、雰囲気激熱どすけど零はん何か知ってはります?」

「んー、元々銀子ちゃん、八一君の事好きなんだけど、超鈍感な八一君も最近やっと銀子ちゃんの気持ちと自分の気持ちに気付いたんじゃないかな?」

「竜王はんの御実家に婚前旅行を決め込んだって情報もあるんどすが…零はん?」

「んー、その情報は何処から?」

「教える訳ないどす。知りたければこなたへの答えを聞いてからどすな」

「じゃあ、明後日まで忘れておきます。という事で」

「…名人の顔になった以上、これは此処までどすな。」

 

 

そして前夜祭も恙無く終え、いよいよ名人を勝ち切るか失うかの鉄火場に突入した。

 

初日…

 

『名人』はいつも通り落ち着いたもので淡々と、しかし最強のオーラを早くも醸し出していた。

少し遅れて入場した僕は、これもいつも通り平静な心持ちで臨める最高のコンディションを自覚していた。

振り駒の結果、先手は『名人』となった。

 

さて、どうしたものか…

 

第1手、『名人』はオーソドックスに指してきた。

対して僕は「後手番一手損角換わり」を仕掛けた。

しかし『名人』もこれは読んでいたようで、直ぐ様対応手を繰り出し、早くも激戦模様の感触となった。

 

そして昼食休憩…

 

僕→「旅館特製カレー」+オレンジジュース

 

『名人』→「旅館特製カレー」+アイスコーヒー

 

午後からの再開後も駒の動きが激しく、結局初日は両者とも持ち時間9時間中、消費時間は共に4時間に至っていなかった。

 

 

そして最終日、『名人』の封じ手が公開されると報道陣から大きなざわめきが起きた。

 

午前中はまだそれなりに駒が動いていたが、昼食休憩後からは一転、僕も『名人』も中長考で展開を考え、時間を使い始めた。

そんな中、夕食休憩となり、30分と短時間でどれだけ纒められるか食事と共に考える事となった。

 

僕→サンドイッチ+紅茶

 

『名人』→サンドイッチ+コーヒー

 

そして最後の休憩からの再開後、僕から動いた。ここで仕掛けなきゃ『名人』に呑まれる…完全に直感だった。

ここで『名人』もそれに応えるように再び激しい攻め合い捌き合い駒の取り合いと凄まじい戦いに突入した。

 

しかしそんな激戦もいつかは終わりが来る…

 

相手の僅かな瑕疵を突き、僕がその瑕疵を大きな傷跡とし、徐々に優勢→勝勢に持ち込んでいった。

やがて最後の攻撃も駒が尽き、後は僕の最短11手詰めというところで『名人』は徐ろに茶碗にお茶を注ぎ、一口啜ると「負けました」と一言告げ、これで僕が名人防衛・通算5期を記録し、『名人』に続く十九世名人資格を獲得した(現役の永世名人資格者には、十七世の月光会長、十八世は『名人』がいる)。

 

終局後の感想戦もまた検討に次ぐ検討となり、柳原先生が入って来て「これから打ち上げもあるし、あんまり旅館の皆さん困らせちゃいかんよ。」とのお言葉で残念、感想戦は検討半ばで強制終了となった。

 

そして打ち上げでの挨拶にて、

「こんな若輩者が永世名人資格を獲得なんて身に余る光栄です。

先頃、『名人』が国民栄誉賞を授与された際、未踏の戦いをしてみたいという内容のスピーチを行いましたが、僕もその誰もが踏み入れた事のない戦いを是非行いたいと思う次第です。具体的には、現在三段リーグで激戦の只中にいる空銀子さん、或いは僕の弟子で初段入品した夜叉神天衣さんには是非とも未踏の峠を突破し、僕の前に座って欲しい。そしてもう1つの未踏…日本国外出身の人物とも指してみたいです。これも現在、棋士編入試験を受験中の神宮寺アマが該当しますので(神宮寺は日本人ではあるが両親の拠点がNYでしかも帰化していたので国籍は米国である)彼が突破してプロ入りすれば彼とも是非指してみたいです。そして何れは日本人の血が無い国外出身の方が将棋に興味を示し、奨励会からプロを目指す事になれば僕個人のみならず、将棋界全体としても大きな進化に繋がると信じています。」

とスピーチすると、会場が地震じゃないか?って位の割れんばかりの大拍手が起きた。

 

 

が、これでは終わらなかった。

 

 

というのも、壇から降りようとした僕を司会の峰さんが呼び止め、

「桐山名人にはもう1つ目出度い話があるそうで、その事についてのスピーチをお願いします。」

って事で引き続き次のスピーチを行う事となってしまった。

これ、会長が嚙んでるとしか…

 

そしたら矢張りといえば矢張りだが、早速供御飯さんが壇上に上がり、僕からの決定的言葉を待ち侘びていた。

 

これ、公開処刑じゃないですか…

 

けど、僕も八一君達との関わりから10年来の縁であり、一時名人を失陥した時期には何かと世話にもなっていたし、これから一緒に歩むのは供御…万智さんなんだろう…

となると、ケジメはキッチリつけなきゃな。

 

「えー、…供御飯万智さん、単刀直入に申し上げます。今後僕と生涯共に歩きましょう。」

 

これだけ大勢の前じゃこれが限界…

 

けど万智さん、いつの間にやら泣いており、

 

「ずっと待っていました。こなたこそ生涯宜しゅう願います。」

 

名人防衛と事実上の婚約発表…こりゃ暫く喧騒が収まりそうもないな…

 

 

 

 




棋士編入試験第2局
大阪・関西将棋会館

椚創多四段vs神宮寺崇徳アマ

第1局は辛香四段に圧勝した神宮寺アマだが、僕に次ぐ史上2人目の小学生プロとなったAIに深く通じた天才少年相手にどれだけ戦えるのか非常に注目されていた。

この対局の立会人は異例な事に名人他現役タイトルホルダーである僕が何故か務める事になった。記録係はこれまた異例の現役女流タイトルホルダーで奨励会三段でもある銀子ちゃんとなった。
会長、本当に話題作りのネタ幾ら持っているんだか…

そして始まった対局、第1局では神宮寺アマが先手だったので今回は創多が先手を握った。
いつも通りAI流最善手指しで優勢を築こうとしている創多だが、一方の神宮寺アマはそんなもん知った事かって具合に奔放に指し出した。
中盤…創多にいつものキレが無い…って、奔放に指してただけの筈の神宮寺アマがいつの間にか形勢逆転で優位に立っていた。なんだよこの人…
けど、ふと神宮寺アマの表情を見ると、「殺意満々の荒ぶる獅子」の表現がしっくりくるような野性溢れる顔付きになっていた。
こんなにも野性と知性が融合された圧倒的オーラなんて幾ら創多でも未知なんだろう、あの冷静な自信家が顔中汗まみれとなり、必死に獅子のオーラに抵抗している。
けど神宮寺アマの優勢を覆すには至らず、結局88手で創多が無念の投了により神宮寺アマが連勝、残り3局で1勝すればフリークラス四段としてプロ入りする事となる。


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第3章 究極への道
氷室将介十六世名人


さてさて今月は叡王戦最終戦と王座戦しかタイトル戦が無く、なんとなく中休み的な月になりそうですが、何に注目すれば良いのやら迷いに迷ってる現状です…

って訳で本編スタート!!


7月初め、僕は万智さんと東京を訪ねてた。

実力制第四代名人の刈田升三先生が態々招待してくれたのだ。

とは言っても婚約記念とかじゃなく、とある人物に引き会わせる事に主眼が置かれている。

そもそもこの招待自体は名人戦第5局の時に刈田先生から話があり、僕も了承した経緯がある。で、何故万智さんが帯同したのかって言うと、あの壇上での公開プロポーズの後、刈田先生とその話をしていたら万智さん曰く、「こなたを除け者はあんまりどす(怒)」って事で一緒に上京の運びとなった訳である。

 

因みに現在の対局日程は、棋帝戦5番勝負の真っ最中で、今期挑戦者のニ海堂相手に1勝1敗となっている(●○)。それから帝位戦は八一君と生石さんに敗れ、残念ながらリーグ陥落となり、来期は予選からの出直しとなった。一方の竜王戦は1組優勝したので本戦トーナメントは準決勝シードとなっていた。

 

そして東京駅で待機していた刈田先生と合流すると、都内の比較的閑静な住宅街まで刈田先生のベンツで向かった。

 

そして、とある一軒家に到着すると刈田先生がブザーを押し、出て来たのは50代位の奥様的な女性だった。

「奥方、久しぶりだな。ところで氷室は在宅かね?」

「刈田先生、今日は先生に加え、珍しい客人が訪れると聞き、氷室も待ち侘びています。」

どうやら僕に引き会わせたい相手とは、氷室十六世名人だったようだ。そして出迎えた女性は氷室先生の奥様であった。

 

で、そのまま氷室先生のいる和室に案内され部屋に立ち入ると、氷室先生から

「刈田か?此処を死に場所にする覚悟は出来たようだな」

って早速物騒な発言が飛び出した。

しかし刈田先生も平然と

「貴様には悪いが儂はまだまだ死ねんわ。今日は貴様を燃え上がらせる爆弾を連れて来たまでだ。」

と軽妙に返し、僕の僻目ではあるがこの2人、無意識に意思疎通が出来ていると少々羨ましく思った。

そして刈田先生の言葉を聞いて氷室先生が初めて振り返り、僕と万智さんを見つめた。

「刈田、まさかその女じゃねぇよな?奥の眼鏡のガキが本命だろ?」

「そうだ。この男、小学生にしてプロ入りとタイトル獲得を達成し、今期貴様と月光、眼鏡のガキに続く現役4人目の永世名人を成し遂げた桐山零十九世名人だ。」

「お初にお目にかかります。刈田先生からご紹介頂いた桐山零です。氷室先生とお手合わせ出来る事、光栄に思います。」

「御託はいい。桐山って言ったな、刈田が絶賛するガキだ。それだけの宇宙を支配してるようだな。なら、てめぇの宇宙に飛び込んでやるさ。」

「お願いします。」

 

そして氷室先生との非公式対局(持ち時間各3時間)が開始した。

序盤は静かな立ち上がりだったが中盤、氷室先生の「猖獗」と称される異質にして命を削る読みと集中が発揮、たちまち僕が追い込まれる展開に持っていかれた。

しかし、氷室先生の力は特殊ではあるがその一方で最新型のAI将棋には対応し切れていないのも見て取れた。

そこが付け目とばかりに今度は僕が反撃に出て、両者1分将棋になってから漸く詰ませ、僕の勝ちとなった。

 

そして終局後、氷室先生曰く、「てめぇみたいな面白いガキが名人ってならもう1回復帰するか…」

って10年以上のブランクなんのそのみたいな挑戦状叩き付けられたんですが…

一方、万智さんは氷室先生の奥様が結婚前に観戦記者だった事から妙に意気投合し、色々質問責めしていた。

そして氷室邸を辞去すると、刈田先生行きつけの料亭で夕食を取り、そこで思わぬ事実を告げられた。

刈田先生曰く、「公になっておらんし氷室自身、そんな態度見せた事も無いが奴は儂の唯一の実子だ。」

これには僕も万智さんも一瞬固まってしまったが、僕が「何故此処で縁の薄い僕らに態々そんな重大な事実を話すのですか?」

刈田先生の答え曰く、「お前は近い将来、氷室と名人戦で命を削る死闘を繰り広げる光景が見えたのでな。」

万智さんも「こなたにその情報伝える以上、スキャンダルも覚悟の上という事どすな?」と問い質した。

刈田先生曰く、「その覚悟はとうに出来ておる。そもそも儂は奴の母親とは私的にではあるが将来を誓い合った関係だ。が、奴の祖父で儂に取っても恩師に当たる御仁が生木を切り裂き、望まぬ縁談を彼女に押し付け、一旦別れざるを得なかった。しかし、お互い思いを捨てられず人の道に外れ、儲けたのが氷室だ。」

これには僕も万智さんも言葉が出なかった…

普通なら刈田先生と氷室先生のお母様を非難するべきところではあるが、氷室先生の母方祖父の独り善がりな動きが原因だし、それのフォローも一切ないのだから同情とまでは言わずとも少しは情状酌量の余地は…とは思った。

因みにこの事実を知るのは他には氷室先生の奥様と佐伯九段及び月光会長程度らしい…

 

そして京都大阪方面最終の新幹線で大阪に戻ったのだが、結婚確定だからって万智さん、福島の僕の家に普通に泊まってしまったんですが…

翌日、冬司が万智さんと顔を合わせて罵声を浴びせたのはお約束というか何というか…




マイナビ女子オープン女王戦第5局

会場は京都・桂離宮で行われた。

これまでの経過は1・2戦は天衣が連勝したが、続く3・4戦は八一君のフォローもあり己を取り戻した銀子ちゃんが返し、最終決戦へと縺れ込んだ。

こうなるとアドバンテージもビハインドもまるで無しな生のガチンコでの殺し合いって図式しか浮かばない…

最終戦なので先手は改めて振り駒で決められたが、先手は銀子ちゃんだった。
その第1手はオーソドックスだったが、次の天衣の手は何と「後手番一手損角換わり」であった。

八一君のエース戦法を採用する辺り、銀子ちゃんへの挑発・当て付けを意識した一種の陽動作戦と思われる。
こうなると間違いなく冷静さを欠く銀子ちゃんは苦しい戦いを強いられる事になる。

しかし天衣も「女王」へのプレッシャーからか、時折らしくない緩手を咎められ、結局最終戦前に決着を着けられず縺れた焦りも垣間見える。

昼食休憩後も動きは激しく、一手一手が喉元に匕首を突き付けるまさに殺し合いのやり取りとなっていた。
そんな中、僅かに隙を見せたのは…天衣だった。幾ら相手の動揺を誘う為とは云え、付け焼刃の戦法では此処が限界だったようだ。
こうなるとそんな隙を見逃す銀子ちゃんじゃない。間髪入れずに咎め、一気に詰めに入った。
こうなった以上、天衣は万事休す…

結局、2連勝から後半3連敗で「女王」の栄冠を逃す事となった。
一方の銀子ちゃんは崖っぷちから覚醒したかのような見事な大逆転で竜王戦での八一君を彷彿させるような防衛劇となった。


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神宮寺崇徳

…以前、神宮寺崇徳氏について「殺意溢れる荒ぶる獅子」って表現しましたが、「3月のライオン」外伝の「灼熱の時代」での神宮寺氏のイメージがそんな感じでしたので、ここでもそんなイメージを基にして、殺意・野生・知性・理性を混在させた圧倒的包括的オーラを持つ強者キャラにしてみました。


って訳で本編スタート!!


棋士編入試験最終第5局

東京・将棋会館

 

松本一砂四段vs神宮寺崇徳アマ

 

此処まで神宮寺アマは4連勝を果たし、とっくにフリークラスプロ四段の資格は取得していたのだが、本人が「用意してくれた以上、最後まで付き合うのが礼儀ってもんだろ。」とか言い出して結局最後まで戦う事となった。

 

今回の立会人は先日、現役復帰を宣言した氷室将介十六世名人が務め、記録係は刈田升三実力制第四代名人の唯一の弟子で史上最年長の49歳で棋士編入試験を突破した鈴本永吉五段が担当する事となった。

 

先手は松本四段であり、彼の棋風は兎に角攻めに攻める月夜見坂さんに被る程攻め一辺倒なので、勢いに乗れば手が付けられない強さを発揮するのだが、一旦止められ、受けに転ずるとたちまち陣が崩され、ろくに抵抗出来ずに投了を余儀なくされるなんとも危うい棋風ではある。

 

しかし、「殺意溢れる荒ぶる獅子」の神宮寺アマがそんな攻めに怯む筈も無く、逆にあの圧倒的オーラで松本四段を沈黙させた上で終始優勢をキープし、難なく投了させた。

 

これで10月1日付けでフリークラスプロ四段が確定した。

 

 

僕はその日、東京の会館で観戦検討をしていたのだが、同席していたニ海堂と冬司と共に逗留先のニ海堂邸に向かおうとしていたら、車に滑るように転がり込んで来た神宮寺アマが「マスコミから逃げて来たから匿い頼む!!」って、ムチャぶりしてきて結局そのまま神宮寺新四段も乗せてニ海堂邸行きと相成った。

 

 

で、改めて自己紹介しあったが、神宮寺新四段は矢張りあの神宮寺会長だった。

神宮寺新四段曰く、「そういや、俺が死んだの90位だったから桐山、ニ海堂、宗谷の順に見送ったんだよな。ま、桐山は事故で不可抗力だったし、ニ海堂は一生もんの持病でどうにもならんかったからまだしも宗谷、お前だけはホンっト最後まで俺の手を煩わせやがって!あん時暫く引き籠ってたから気になって顔出したらすっかり冷たくなりやがって!!あの後お前の身内誰一人として顔見せなかったから葬式から遺産から何もかも死にかけな俺が全部やる羽目になったんだからな!!」

 

確かに冬司(宗谷さん)に激怒するのは至極当然だし、前回も今回も天然ぶりは健在なわけだからそうなるだろうな。

けど、今回は神宮寺さんが出会う前に既に僕が師匠兼世話役兼そろそろ義兄って立場になっていたから神宮寺さんも今回は幾分楽に将棋と釣りに打ち込めるだろうとは思う…

実際、神宮寺さんは今回は今年で22歳で僕と同年だし、ニ海堂は1歳上の23歳、冬司は8歳なので、この4人での研究会も可能だ。

けど、冬司が現在三段リーグで無人の野を行く無敗街道を独走しているので、このままなら正式にプロ登録される10月1日に神宮寺さんと冬司が同期として入る事となりそうだ。

 

そして夕食後、早速即席の研究会が始まり、冬司は22時に強制終了させ寝かせたが、僕らは日が替わり3時過ぎまでひたすら指していた。

 

翌日、冬司と大阪に帰る新幹線を待っていたら、何故か神宮寺さんも同じ便に乗り込み、「瀬戸内海で目ぼしい物でもあるんですか?」と暗に釣りでの移動か問うと、神宮寺さん曰く、

「何言ってんだ、書類提出時に関西所属にしたからあっちで住処探さなきゃなんねぇんだよ。それに東京じゃニ海堂はまだしも、朔ちゃんとか後藤たちなんか俺の事まるで知らん顔だし、なんなら過去を知ってるお前らの所の方が住み易いかなと思ってなwww」

因みに書類上師匠は何とニ海堂であった…

……結局数日後、神宮寺さんが契約したのは八一君のアパートの隣室だった……。

 




〜side八一〜

兄弟子と生石さんに勝って挑戦者決定戦に進み、挑決では「名人」もなんとか撃破し、帝位戦七番勝負に駒を進めた数日後…、

朝から呼び出しブザーがけたたましく鳴りまくったので、「姉弟子か?」と思いつつドアを開けると、そこにいたのは兄弟子に近い年頃の大柄な男だった……。
で、その男曰く、「引っ越し蕎麦替わりの挨拶だ!新鮮だから早いうちに食っとけな!」って釣果と思しき10尾程の鮮魚を渡された…。けど、少し話を聞きたかったので取り敢えず家に上げた。
その男、この前棋士編入試験で怒涛の全勝突破した「荒ぶる若獅子」こと、今話題の神宮寺崇徳新四段だった。
この人、どうやら兄弟子や宗谷君、ニ海堂さんの事を気にしているようで、俺が弟弟子と知るや色んな情報をメモってた。
そのうちあいも起きてきて、「ししょー、なんで神宮寺新四段が今ここにいるんですか?」と??状態で聞かれたので、俺も早朝突撃なんかを掻い摘んで話すと、取り敢えず納得したようだ。それに鮮魚のお土産も効いたらしい…。
そんなあいを見て神宮寺さん、「お前さん、兄妹暮らしなのか?」と問われたので、彼女は弟子で御両親の許可を貰い、現在内弟子生活を送っている事を話した。
「全く、桐山もだがお前さんも齢の割に肚据わってやがるwww、しかもお前さんは女子小学生と来たもんだ、ひょっとしたら桐山よりも余程据わり方が強いのかもな……」と神宮寺さんに言われてしまった…。
で、アパートのどの部屋か聞くと、なんと隣だった…。そういえば、少し前に転勤で空室になっていたから埋まる自体は普通なのだが、まさか神宮寺さんが入ってくるとは…
それにしても御両親の会社の日本支社が東京だったからてっきり向こうを拠点にすると思っていたんだが…理由は面倒だから聞かない事にした。
しかしこれで関西も騒がしい人材がまた一人増えてしまったな…


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免状署名

神宮寺崇徳新四段22歳・ニ海堂晴信門下・関西所属と、まさかのお話になってしまいましたが、やたらノリのいい神宮寺さんですから関西酒豪軍団にもすんなり馴染めそうとは思いますwww

って訳で本編スタート!!



免状署名……

 

アマチュア段位免状の事であるが、連盟が公式に発行する際には相応の金額がかかり、それに相応しく原則として、連盟会長・時の名人・時の竜王の三者がその免状に署名する事となっている。

そして今回は更に、先頃国民栄誉賞を受賞した「名人」の盤王獲得によるタイトル通算100期での追加署名が期間限定で行われる為発行希望が後を絶たず、先着500枚のプレミア発行と相成った。

 

そしてこの日、僕と八一君は早朝くんだりから連盟職員に確保され、何故か神戸の夜叉神邸に送られた。

連盟曰く理由としては、まず僕は名人戦にかまけてた上、刈田先生のご招待等で署名予定が延び延びになってしまったとかで、一方の八一君は、帝位戦関連でこれまた延び延びって事で両者共通の空き日を狙っての電撃確保だったらしい……

因みに確保の連絡を受けた夜叉神家当主の弘天さんは喜んで屋敷内の一角を用意してくれたらしい……

 

で、夜叉神邸へは僕と八一君だけじゃなく、冬司とあいちゃんも同行してた。そりゃそうだろう、家主が連行された後に小学生1人放置出来ないよな……

で、小学生2人は天衣と一緒に即席研究会を行う事になったようだ…

 

さて署名だが、会長の分は既に完了しており、「名人」の分も終えていたので後は僕と八一君だけだった。

地獄の半日弱だ………

 

署名は1枚1枚毛筆で手書きしなくてはならないのでかなりの手間を要する。

僕は前回の人生で何度か名人や獅子王(今回では竜王)を獲得していたので署名自体は慣れていたが、それでも1日500枚は骨だ…

一方の八一君は只でさえ骨な作業な上に、字があまり上手くない為、1枚1枚ヘロヘロになりながら青息吐息で書き続けていた。

 

そして30分程度の昼食休憩……

 

メニューは、「夜叉神家特製神戸牛ステーキサンド」と紅茶orコーヒー+季節のデザートだった。

これは小学生3人と共に美味しく頂いた(笑)

 

そして午後からも果てのない署名地獄をなんとか書きあげると時刻は18時30分になっていた……

 

そろそろ帰る支度を…と思っていたら、天衣の付人の晶さんから、「先生、御当主から夕食を共にしたいとの仰せだ。お嬢様もお望み故、帰り支度は待って貰いたい。」と言われ、結局夕食に相伴する事となった。

そして夕食の支度が調ったとの事で食堂に入ると、八一君たちはもとより何故かそこには神宮寺さんまでいた……

で、神宮寺さんが来ていた理由を聞くと、半年ほど前に明石近辺での船釣りで弘天さんと知り合い、今日は豊漁だったんで昼頃に弘天さんに連絡し、夜叉神邸に持ち込んで大量にさばいたらしい…

そんな訳で今晩の夕食は明石の魚尽くしの小宴会と相成った。

 

しかし神宮寺さんも変わらず豪快な呑みっぷりだな……。

弘天さんも愉しげにお酒が進んでたしホント強いよこの2人…、因みに僕はビールをチビチビ口に運ぶ程度でとても豪快ってわけにはいかなかった…しかし神宮寺さん、八一君に勧めるのはまだ早いんですが……

 




三段リーグ第6節 大阪・関西将棋会館

午後・第12局

宗谷冬司三段(11勝0敗)vs空銀子三段(10勝1敗)

まさに無人の野を突き進む冬司に対し、序盤での惨敗で一度は心をへし折られ、憔悴を窮めた銀子ちゃんだったが、八一君のフォローとサポート・更にはお互いの本心をぶつけ確かめ合った結果甦り、また一段強靭になり、万全で冬司に挑む。

戦型はお互い居飛車で銀子ちゃんは銀冠を選択し、冬司は棒銀を選択した。
お互い銀を肝にした戦いだったが、前回の人生からの経験が異常に豊富な冬司の方に一日の長があったようで、結局97手で先手の冬司が不敗を通した。
一方の銀子ちゃんはやや厳しい局面となる2敗目を喫したが、それでも「まだ終わった訳じゃない」と更に前を向いていた。


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三段リーグ最終節

三段リーグ……

 

プロを目指す奨励会員にとって最大最悪最凶の関門であり、地獄の入口でもある「鬼たちの集会場」でもある。

 

そして今期、8節16戦を終えた段階で全勝は冬司唯一人で既にプロ四段昇段を決めており、残り1枠を現在14勝2敗の銀子ちゃんと峠なゆた三段に13勝3敗の菅田健太郎三段が争う展開となっている。

因みにそれぞれの状況を見ると、

 

冬司→2敗2人が自分より順位下位なので連敗しても1位確定

 

銀子ちゃん→三段リーグ順位最下位の為、連勝必須。

 

峠三段→三段リーグ順位で銀子ちゃんより1つ上だが、矢張り連勝必須。

 

菅田三段→前期次点で今期次点以上ならプロ四段となるが、連勝必須。

 

最終節組み合わせ

 

冬司=前半後半とも負け越し勢と対局

 

銀子ちゃん=前半→峠三段、後半→菅田三段と対局

 

峠三段=前半→銀子ちゃん、後半→勝ち越し勢と対局

 

菅田三段=前半→負け越し勢、後半→銀子ちゃんと対局

 

なので、完全に残り1枠を3人の直接対決で決める分かり易い展開である。

 

因みにこの日は八一君が於鬼頭帝位に挑んでいる帝位戦第6局の2日目であり、前回までの5戦で八一君が3勝2敗としており、ここを取れば竜王に続く二冠達成となる大一番でもある。

 

そしてこの日、僕も東京入りして会館の棋士室で観戦検討を行っていた。

尚、この時期の僕の対局は竜王戦本戦トーナメント位であり、準決勝で5組優勝の歩夢君に競り勝ち、挑戦者決定戦では1組3位の於鬼頭帝位相手に連勝し、5年振り3度目の竜王挑戦を決め、八一君との初のタイトル戦に臨む事となっていた。

一方、棋帝戦はニ海堂相手に2勝3敗(●○●○●)で失陥し、ニ海堂初タイトルの立役者となってしまった…

 

 

 

 

閑話休題……

 

 

 

最終節前半の第17戦目

 

冬司は速攻で相手をへし折り、開始2時間経たずに圧勝。

菅田三段も格の違いを見せ付け、相手が撃沈。

一方の銀子ちゃんvs峠三段の史上初の女性プロ棋士を賭けた意地と誇りの戦いは、峠三段の限りなき攻勢を耐えに耐えた銀子ちゃんがその攻勢が止まったのを起点に冷徹無比の逆襲を見せ、両者1分将棋の殴り合いを辛うじて制し、最終戦に繋いだ。

 

 

 

 

〜side銀子〜

 

 

さっきまでの対局はアイツが詰め切れなかったから何とか逆転で取ったけど、これだけごっそり体力が持ってかれた状態で実力も運の無さも飛馬お兄ちゃん以上って言われてる菅田さんが最後の相手って不安だらけで気が滅入るけど、泣こうと壊れようとこれが最後なんだから、そして、お兄ちゃん…桐山零名人と何よりも八一…私の一番大事な人が壁の向こうで待ち侘びているんだから絶対に突破してみせる!!

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

最終戦

 

冬司→圧勝で18連勝、文句無しの1位通過

 

峠三段→最後は勝ち切り、15勝3敗で3位決定

 

銀子ちゃんvs菅田三段の2敗3敗の2位決定戦は女性初のプロか、年齢制限一杯の苦労人かの文字通りの死闘・鬼勝負となっていた。

お互い陣を固め、銀子ちゃんは居飛車明示、一方の菅田三段は得意の振り飛車でそれも攻撃的戦法のゴキゲン中飛車を選択、のっけから激しい駒の動きを展開し、駒交換も頻繁になされる激戦となった。

両者持ち時間残り30分を切った頃、銀子ちゃんに異変が起きていた…

それでなくとも白い顔が文字通り蒼白となっており、ふとモニターを見ると銀子ちゃん、自分の胸をこれでもかとばかりに必死の形相で叩き続け、意識を飛ばさないように指し続けていた。

菅田三段もそれを見て、「もう俺には勝てねぇ、死ぬか止めるか2つに1つだ」と棄権を迫ったが、銀子ちゃんの答えは

「私から逃げるのか?いい加減ブチ殺すぞワレ!!」だった。

こうなるともうお互いヒートアップが止まらず誰も彼も只見つめているしか無かった。

他の最終対局は全て終局しており、文字通り今期最終決戦は気が付けば両者1分将棋に突入していた。

 

ここで菅田三段の最後の攻勢が敢行されたが、ここを銀子ちゃんが凌いで菅田三段の勝ちは無くなり、後は銀子ちゃんが詰めば勝ち、ダメなら持将棋指し直しなので、体力・生命的に銀子ちゃんもこれが最後の勝負所となった。

 

………必死に逃げる菅田三段の玉も遂に銀子ちゃんの王手ラッシュに詰め切られ、決着……

 

最終結果

 

1位宗谷冬司 18戦全勝 プロ四段昇段

2位空銀子  16勝2敗 プロ四段昇段

3位峠なゆた 15勝3敗 次点獲得

4位菅田健太郎14勝4敗 今期限りで退会

 

となり、史上最年少及び史上初の1桁年齢棋士と史上初の女性棋士が同時に誕生した。

 

 

 

そこへ帝位戦を戦っていた筈の八一君が突然棋士室に現れ、「兄弟子、姉弟子どうなりました?」って藪から棒に聞いてきたので、「つい今しがた僕らの新たな仲間になったから。」と答えると、「一寸銀子ちゃんの所に行ってきます。」って返すや否や速攻で銀子ちゃんの所へ向かって行った。

 

で、こっそり後をつけると何故か神宮寺さんも同行し、「桐山、お前も案外悪趣味な所あるんだなwww」とか言われてしまった……

で、八一君、銀子ちゃんと顔を合わすと「銀子ちゃん、こんなに血塗れにしてまで……俺、銀子ちゃんと共に生き、これからの人生、共に戦いたい!!だから今の俺は銀子ちゃんにはまだまだ足りないかも知れないけど是非一緒になって下さい!!」うわっ、勢いのプロポーズってか……

神宮寺さんも小声で「いいねぇ、若いってのはそれだけの特権あるからなwww」って感心してた(苦笑)

まぁ銀子ちゃんも幾分ふらつきながらも「八一、私、色々面倒な女だけど、本当に私でいいの?」って返したら八一君、畳み掛けるように、

「俺にとって銀子ちゃん無しの人生は無いから!!」

これで銀子ちゃんも、「私も八一無しなんて考えたくもない!だからそのプロポーズ、受け止める!!」

 

全く12年も見守り続けた「兄」にしても漸く安心できた心持ちだよ…

 

 

因みに帝位戦だが、相も変わらずAIと同化せんと指していた於鬼頭さんに対し、初日終了時に書いた八一君の封じ手が僕もビックリなAI超えの一手で、これを見た於鬼頭さんが午前中に投了し、八一君が見事に帝位を獲得、晴れて二冠の栄誉を勝ち取った。




三段リーグ終了後の恒例である新四段会見…

当日の出席者は1位通過の冬司だけだった。
と言うのも、2位突破した銀子ちゃんは、服も血塗れ・その時の影響で肋骨損傷と、なかなかの重傷を負っていた為、僕と神宮寺さんの報告という名目の告げ口により病院直行となり、後日改めて会見となったからである。

しかし冬司1人の会見となると、それはそれで心配のタネではあった…

何しろ前回の人生程ではないけど、対人スキルが低いのは事実だったからだ。まぁ僕も前回程ではないけどその点については高い訳じゃないからな…

案の定、質問と答えが噛み合ってない場面もチラホラ見受けられたが、それでもなんとか形にはなったようだ…

会見終了後、神宮寺さんから「お前ら、もうちょい人付き合い増やせな。今のままだと周りが困る!!」と僕も込みで苦言を頂きました……


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旅立ち

出会いと別れ…

新たなる出発…

今回は何となく重めなお話になってしまいます…

って事で本編スタート!!


冬司と銀子ちゃんが三段リーグを突破して数日後…

 

僕の家に意外な来客が訪れた。

あいちゃんだった。

 

「零おじさん、突然お邪魔して申し訳ありません。今日はお別れの挨拶に来ました…。」

 

は?お別れってどういう事?

「あいちゃん、いきなりで理解が追い付かないんだけど、八一君とは話が付いてるのかい?でなければ僕も無責任な受け答えは出来ないんだけど。」

と、取り敢えず返すと、あいちゃんは話し辛そうに

「ししょーからは反対されているんですが…」

と、どうやら独断で八一君から離れるつもりのようで、どうしたものかと思いつつ、取り敢えず居間に案内した。

因みに冬司は雑誌の特集記事の目玉として上京しており、その間の面倒は心苦しかったけど、冬司同様プロデビュー前の神宮寺さんにお願いしていた。僕は僕で竜王戦で対八一君に備えなくてはならなかったからだ。

 

 

で、居間で飲み物とお茶請けを出し、改めて話を聞くと、

「私はこれまで研修会試験でおばさん(銀子ちゃん)にコントロールされ通しで負け、天ちゃんにも久留野先生に指摘されるまで勝ち筋が見えなくて、マイナビでは月夜見坂先生に手も足も出ない惨敗したりして、ここという肝心な所で負けてばかり…だから、今のままではお母さんとの約束…中学卒業までに女流タイトル獲得の約束を果たせない…それで思い切って環境を変えてししょーに頼り切らずに戦うべきだと思って東京に行く事にしたんです。」

此処まで黙ってあいちゃんの話を聞いていた僕だが、

「あいちゃんの言いたい事は分かる。確かに環境の変化で状況が好転する人もいるからね。けど、八一君は師匠としての責任感があるし、何よりあいちゃんを手元で育ててこそって思いが強いから賛成しないんじゃないかな?後、師匠や桂香さんとは話し合ったの?」

と聞くと、

「おじいちゃん先生と桂香さんは絶対反対で完全にししょー寄りです…。それでどうしても零おじさんと話さなきゃって訪れたんです…。」

ってか、僕と銀子ちゃん以外は皆知ってたのか…なんか蚊帳の外みたいで嘆息しか出ないよ…

「けど東京行きを決めたって事は、それなりに手配は出来てるって事だよね。それについてはどうなの?」

と改めて聞くと、

「それについては山刀伐先生とニ海堂棋帝が根回ししてくれて、後は私が上京するだけで完了する手筈になってます。」

「……、全部済んでるなら何も僕に話す事も無いと思うんだけど…。でも、八一君と蟠りを残したままで離れるのだけは一門の1人として絶対許容出来ないからね。」

「零おじさん、何か方法ありますか…?」

「……、う〜ん、出発までの間に八一君とあいちゃんに共通の空き日があれば、そこで一度もう1回話し合うべきとしか僕には言えないな…」

 

結局僕も大して解決に繋がる話は出来ず、ややモヤモヤしながらあいちゃんを見送るだけしか出来なかった。

 

その後、数日して八一君からメールで

「昨日、あいと金沢周辺を巡って一応のケジメは付けました。此処まで決意が固ければ俺としても『師匠・親』として子離れしなきゃこれから先、1人の棋士として更なる成長が出来ないんじゃないかって思いましたし…」

って来た。

 

因みに東京でのあいちゃんの住居は「ひな鶴」東京別館の従業員寮ではなく(お母さんの亜希奈さんが反対側で、寮入りを拒否)

何と、ニ海堂邸の一室に居候って事になっていた。

まぁニ海堂だからそこは信頼が置けるのでこれからのあいちゃんの環境としては最高と云えるのかも知れないな…。




あいちゃんの訪問から数日…、

東京での仕事を終え、冬司もデビュー戦の竜王戦6組ランキング戦に向け本格的に動き出した頃、突然神宮寺さんが訪問してきた。しかも1人暮らしでは多めの家財道具を携えてである。
「何ですか?その荷物は?」
「いやな、あのアパート建替決まったんで大半はそのまま退去する事になったんだが、俺と九頭竜は建替後も引き続き住む事になったんで、その間1年お前ん所で居候する事にしたからなwww」
は?聞いてないし?
「で、そのアパートが今度は分譲マンションになって、そのオーナー様が夜叉神の爺さんだから俺と九頭竜については優先的に入れてくれるとさwww」
は?って事は八一君も来るとか?
「あー、九頭竜は心配せんでもいい。奴は清滝の父っつぁんの所に移る事になったからなwww」
はぁ…これからの1年、良くも悪くも魚料理三昧なのは避けられないな…


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土橋健司

此処から先の展開は今の所どうしてやろうか思案中の為、思い切り斜め上に行くかも知れないんで、あまり期待せず…って事で頼んます。

って訳で本編スタート!!


10月1日……

 

今年前期リーグ戦の上位2名と編入試験合格者が正式にプロ四段として晴れて登録される日となる。

 

昇段者……

 

三段リーグ1位→宗谷冬司新四段(桐山零名人門下)

 

三段リーグ2位→空銀子新四段(清滝鋼介九段門下)

 

棋士編入試験合格→神宮寺崇徳新四段(ニ海堂晴信棋帝門下)

 

以上の3名が新たにこの世界に名乗りを挙げた。

 

 

 

その翌日の10月2日、師匠からの呼び出しがあり、野田の師匠宅を訪れた。

 

なんでも家の関係者全部呼んでくれとの事だったので冬司はもとより、現在居候してる神宮寺さんも一緒に連れて来た。後、偶々訪ねて来た天衣も僕らに同行してた。

 

で、居間に上げて貰うと、そこには師匠と桂香さんの他、現在清滝家に臨時居候中の八一君と、つい先頃体調不良から回復し大阪に戻って来ていた銀子ちゃんも同席していた。

けど、その中に冬司と同じ位の小学生男子が約1名師匠と桂香さんの間にちょこんと座っていた。

 

どうやらその小学生が今回の話の中心のようだ。

 

口火を切ったのは師匠からだった。

「今日集まって貰ったのは他でもない、儂に新たな弟子が出来た言う知らせや。早速紹介するで。長野から来た土橋健司君や。齢は冬司君と同じく小学2年で8歳や。元々は長野からの通いで奨励会に参加する予定やったんやが、彼の母親が病気療養に長期間費やす事になったんで急遽引き取って大阪で生活する事となった訳や。因みに先頃の奨励会試験は4級で合格しとる。冬司君ほど早熟って話でもないが先々楽しみな才能なのは違いない。まずはそういう事や!」

土橋健司……、彼は前の人生では宗谷さん(冬司)と同学年にして、奨励会でも同期の最大級の親友だった人じゃないか…

そして僕の前の生前では棋竜・棋神を獲得し、名人戦でも宗谷さんとフルセットの激戦を繰り広げた紛う事無き一流を突き抜けたトップ棋士でもあった。

まさかこの人も転生してるとかか…?

 

そんな奇妙な感慨を抱いてたら、一息ついた師匠がまた話し出した。

「で、本来なら内弟子として家で世話せなならんとこなんやが、今現在、八一が居候しとるもんやから家に空きが無いんや。そこで、八一が仮住居決める迄の間だけでええから一時零に預かって貰いたいんや。急な上に居候増やすって面倒な話なんやけど、1〜2ヶ月でええ、ムリを承知で頼まれてくれんか?」

って頭を下げて頼み込んで来た。

 

僕は即答せず、八一君に目を向けた。

八一君、

「すいません兄弟子、そもそも建替の話自体が急だったものだから、引越しとかの準備やら手配やらろくすっぽ出来なくて一時的に師匠に泣きついたんです。だから1年だけ借りれるアパートを今必死に探してんですけど、会館近場だと高くて狭い・やや離れれば手頃な物件はあれど会館までの距離が長めとか絶賛悩み中なんすよ…」

って半ば半泣きで申し訳なさそうに打ち明けてくれた…。

一方の銀子ちゃんは此処まで終始無言だったけど、この泣き言聞いて突然覚醒したみたいなキツい声で、

「八一、荷物ならレンタル倉庫にでも預ければいいじゃない。それで身体と最低限の物だけ持って私の所に来なさい。」

って言い出した…。

これには僕も、

「お互い好き合ってるのはわかってるけど、いきなり同棲ってどうなの?しかも銀子ちゃん、高校生でしょ。変な誤解招きかねないんだけど…」

ってひとまず意見したけど、

「お兄ちゃんだって居候入れてるじゃない、私が八一1人入れても大して変わらないと思うけど。」

って盛大に返された…。

 

そうなると更に混沌しかねない雰囲気となってしまったけど、纏めたのは桂香さんだった…。

 

桂香さん曰く、

「銀子ちゃんと八一君の同居はOK、但し、銀子ちゃんの食生活があまりに偏っているから八一君はその監視をキッチリ行う事。八一君も集中し出したら周りが見えなくなるから銀子ちゃんはそこをシッカリ見る事。」

が、銀子ちゃんと八一君の同居条件だった…。まぁ僕以上に2人が結ばれるのを心待ちにしていた桂香さんらしい纏め方ではあったな…

 

一方、健司君(土橋さん)については、八一君の手配が完了する迄一時預かる事となった。

 

因みに小学校は僕の家と師匠宅、八一君や神宮寺さんが一時引き払った旧アパート共に同学区なので、転校また転校みたいな心配は無いらしい…。

 

それで健司君を連れ、家に戻り、天衣を入れた5人で軽く自己紹介、また軽く対局をして天衣が帰った後、4人だけになった所で健司君に前回の人生の事とか聞いてみた。

矢張り健司君(土橋さん)も転生してたようで、本人曰く、

「桐山君が名人直後に死んじゃって、皆気落ちしたんだよね。で、1番引き摺ってたのが宗谷君で、あの後、気分が乗り切らないままずっと指し続けて次第に僕や隈さん、島田君にタイトル剥ぎ取られ続けて50目前になると無冠になり果てて、其処からあっさり引退した…と思ったら人知れず遺体になってたとかホンっトに何やってんの!!冗談抜きで宗谷君、自分勝手過ぎ!!」

って僕について聞く以前に宗谷さん(冬司)に激昂していた。

まぁそうなるのも仕方無いよな…って思わず神宮寺さんと顔合わせて苦笑していた。

 

で、この後、僕らもそれぞれの転生後のこれまでを掻い摘んで説明したけど、天然冬司に対し理解力は段違いだったからしっかり理解吸収してくれた。

けど健司君も、ニ海堂まで転生していたって話には流石に驚いてた。

けど、「なら、今度はニ海堂君とも話せばいいか(笑)」

って直ぐ元に戻ってた(苦笑)

 




スミマセン…遂に土橋さんまでも投入と相成りました…。
取り敢えず川本一家と島田さんは投入しないので、それ以外の面白そうなメンツを幾らか投入しようとは考えてたんですが、宗谷冬司にもそれなりのライバルを持ち込む必要アリと思ったものですから土橋さん投入を決断した次第です…

って事でまた次回!!


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三段リーグ開幕

王座戦、軍曹と受け師の激突が注目されてますが、この職人肌の2人の対決、一体全体どうなるのでしょうかね?
現在は1勝1敗と五分の互角ですけど、これからが勝負所としか答えられませんわ…
それと、他から誰投入しようか絶賛お悩み中…


って訳で本編スタート!!


2018年後期三段リーグ…

 

今回は春から夏にかけて初段・二段と圧倒的に通過した天衣が、

そんな地獄に足を踏み入れる……

 

 

 

〜side天衣〜

 

 

弟の冬司には先んじられたけど、半年遅れながら私もこの地獄に人生突っ込む事となった。

 

そして緒戦、2戦目となる東京・将棋会館での対局は、何れも前期成績不振な若年寄が相手だったのもあったから、大きなトラブルも無く、無難に連勝スタートを決めれた。

 

対局終了後、何時もの如く晶を従えて東京駅に向かおうと会館を立ち去ろうとしたのだが、同じ年頃の男子小学生から呼び止められ、少し話相手になってやった。

 

その男子小学生はまず、「夜叉神さん、俺の勝手で呼び止めて誠に申し訳無い。俺は今期から三段リーグに挑んでる隈倉健吾です。師匠は、君の師匠である桐山名人とも浅からぬ縁を持っている山刀伐尽です。今期、俺にとって最大の難局は他ならぬ夜叉神さんと突き付けたのは山刀伐師匠と師匠の弟弟子でもあるニ海堂棋帝ですので、宣戦布告を兼ねて挨拶した次第です。」

って闘志満々に滾った眼光を容赦なく私に向けて来た。

けど、彼は私の大半を知ってるようだけど、私は彼を殆ど知らないから、最低限の情報だけは摑んで置きたいと思い、「アンタは私を研究してるわね。けど、私はアンタの事はまるで知らない。だから差し支えない程度でアンタの人となりを教えなさい」 

って返してやった。

そしたら隈倉三段、案外すんなり答えてくれた。

「俺は現在小学5年で11歳、一昨年に奨励会に入り、今期三段リーグに初参加した新米だ。師匠やニ海堂先生からは桐山名人の底のない強さを頭が壊れる程毎度突き付けられてるが、だからこそ桐山名人の薫陶を染み込ませてる君にだけは負けられない!負けたくない!!」

答えと同時に揺るぎない決意を突き付けてくれた。

 

この開幕節2戦は私も隈倉三段も連勝スタートを切り、一見するとスタートダッシュに成功し、勢いに乗って……って希望的観測を妄想しかねない危険水域に片脚を入れそうだけど、敵は隈倉三段だけじゃない、前期虚弱体質の白雪姫に負けて次点止まりだった峠なゆた三段も虎視眈々と巻き返しを狙ってるし、他にもロリ王こと九頭竜竜王と同学年の幸田柾近三段も関東の次期ホープ候補として評判が高い。

 

それでなくても3歳下の冬司が先んじてプロ四段となり、嫉妬と焦燥が渦巻いているのに、これだけの強敵揃いって完全に地獄よね…

 

でも私は負けない。お父様が私を託した師匠・桐山零名人、弟でありながら私に先んじた宗谷冬司、彼らに追い付き、その鉄壁を踏み越えなくては私には先がないのだから……

 




今期、秋のタイトル戦は僕の将棋人生にとって極めて難解な戦いになるのは間違いない。

玉座戦→挑戦者・生石充九段

竜王戦→竜王・九頭竜八一竜王

何れも関西最上級のトッププロである。

生石さんからは、「お前、いつの間に万智ちゃんとそんな仲になってやがった?お前みたいな女に消極的なタイプだったら飛鳥とは相性最高だと思ったから色々画策してたんだが、ムダ足だったってか…けどよ、親としてアイツを行かず後家にしたくねぇんだよ…今からでもどうにか出来ねぇか?」
って師匠並に潰れながら絡まれたけど、ムリです…
確かに飛鳥ちゃん、僕に対しリスペクトはあるけど、恋愛対象とは違う感じだから…

その玉座戦第1局、北海道・すすきのの温泉ホテルで開催された。
前夜祭では北海道の海の幸やブランド肉がふんだんに盛り込まれ地元の食を彩り、参加者の殆どが蕩ける程舌鼓を打ち、大いに盛り上がってた。
そんな中で対局者挨拶となったが、挑戦者の生石さん、
「桐山玉座とは3年振りのタイトル戦だが正直恨み満載だ。タイトル戦で負けた云々じゃねぇ、万智ちゃんがいい女ってのは異論はねぇ、けど、飛鳥がそんなに劣るってのか?そんな恥ずかしい娘に育てちゃいねぇ!!」
え…、泥酔レベルが師匠並なんだけど…

けど会長も男鹿さんも生暖かく見つめてるだけ…

誰か止めろよ…

結局、大盤解説で参加してた神宮寺さんがどうにか宥め、降壇させてた。

一方の僕のスピーチは「婚約おめでとう」みたいな雰囲気で終始しており、ちょっと困惑しながら話し終えた。

そして当日の対局は、先手を握った僕が両者1分将棋の激戦を制し、どうにか先行に成功した。


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竜王戦第1局・in能楽堂

天衣ちゃんが乗り込んだ三段リーグ、桐山君の秋タイトル2連戦(玉座戦と竜王戦)、冬司君と銀子ちゃんと神宮寺さんの竜王戦6組ランキング戦でのプロデビュー…世間的には収穫の秋とは云うけど彼らにしてみれば試練の秋と感じてるんじゃないでしょうか…

って訳で本編スタート!!


秋に入り、タイトル戦が続けざまに予定を埋め尽くし出した…

9月スタートの玉座戦、10月スタートの竜王戦、相手は何れも関西を代表する強豪の生石充九段と九頭竜八一竜王が僕の前に座る事となった。

玉座戦は生石さんの絡み酒に辟易しながらも3連勝で防衛、11連覇を果たした。

 

で、気分良く迎えた竜王戦…

 

第1局の会場は東京にある協賛企業所有の能楽堂である。

 

 

主な関係者は、

立会人→氷室将介十六世名人

副立会人→大原鉄太七段

記録係→隈倉健吾三段

 

現地大盤解説

解説→山刀伐尽八段

聞き手→鹿路庭珠代女流二段

 

専門チャンネル解説

解説→神鍋歩夢玉将

聞き手→雛鶴あい女流初段

ゲスト解説→宗谷冬司四段

 

なんかとんでもない濃い顔触れだらけなのは僕の気のせいなんだろうか…

 

前夜祭…

 

開始前に隈倉三段が僕に挨拶してきた。

隈倉健吾…と言えば、健司君(土橋さん)と同様、冬司(宗谷さん)の同年代のライバルで甘味と酒が何よりの大好物なのが有名な前世の強豪だった人だよな…

周りに人がいたのでそこには言及出来なかったけど、彼の眼光を見る限り、転生してるのは濃厚だろうな。

プロフィール上、山刀伐八段が師匠なのでニ海堂も多少は交流有りそうだから今度アイツに聞いて見るか…

 

 

そして対局者挨拶となり、まずは挑戦者の僕から壇上に立った。

「この度、竜王戦挑戦者となった桐山零です。過去に1度竜王タイトルを手にしましたが直ぐに失い、この場に立つのは4年振りです。今回は去年、あの「名人」を降し、竜王連覇した九頭竜竜王が相手ですのでこれ迄以上に気が引き締まる思いです。ですが、竜王と云えども僕からすれば可愛い、そして苛つかせる弟でもあります。故に今回は兄として弟に色々な意味で厳しさを教えなくてはならないと決意し、この場に臨んでいる次第であります。」

と軽い挑発も織り込んだ挨拶をするや、会場中に割れんばかりの拍手が響き渡った。

次に八一君の挨拶となったが、

「竜王の九頭竜八一です。今回は悲願叶って兄弟子、桐山零名人とのタイトル戦初手合となりましたが正直な所、私からすれば兄弟子の高みにはまだまだ及んでいない実感しかありません。ですが、竜王である以上、突破しなくてはならない存在であるのは間違いありませんので、全身全霊を賭け、3連覇を勝ち取って見せます。」って決意の籠った目で宣言された。

 

なんか凄い盛り上がりのまま関係者挨拶に回ったけど、皆さん興奮が持続してるらしく、僕も八一君も凄まじい位の激励を受けるハメとなった。

 

そして一通りの挨拶回りを終えると、明日の対局に向け、早々に部屋に戻ったのだが、そこには当たり前のように万智さんが迎えてくれてた。

「あの〜、僕、対局前夜なんだけど、何故貴女が普通に待機してるの?」

「そんなつれない事言わんといておくれやす。妻として主人を迎えるのは至極当然ですやろ(満面の笑み)」

「相手は『西の魔王』、八一君なのにそんな悠長に構えてられないんだけど…」

「『絶対神』が定着しとる零はんがそこまで余裕を無くす…確かに竜王はんは今後の将棋界を担う逸材どすけど、其処まで警戒心MAXとは穏やかではないどすな…」

「僕も万智さんって言う生涯の伴侶を摑まえたけど、八一君も12年越しにやっと自分の本心を自覚して銀子ちゃんに告白して両想いが成就したんだからその愛の力は努々侮れないってのはね…」

「こなたの愛が銀子ちゃんに負けるなんて絶対許容出来へんけど、12年越しじゃあ侮れない言うんは否定出来んどすな…。けど銀子ちゃんの愛よりこなたの愛が遥かに大きいのは誰にも否定させんどす!!」

なんか銀子ちゃんにやたら対抗意識満載なんだけど…

 

 

そんなこんなもありながら翌日、第1局が始まった。

 

振り駒の結果、先手は僕となり、後手の八一君は当然の如くエース戦法の「後手番一手損角換わり」を採用してきた。

午前中はお互い様子見でそこそこ駒を動かすだけに終始した。

 

昼食メニュー

 

八一君→江戸前握りセット、江戸前お造り、ウーロン茶

 

僕→ビーフシチューセット、アイスティー

 

午後からも様子見は変わらず、そこそこ駒を動かすだけで初日は終了した。封じ手は僕が書く事となったが八一君だ、完全な想定外は期待出来ない…

 

2日目…、僕の封じ手を見て八一君、午前中は一度も駒に触らず長考に沈んだ…

 

昼食メニュー

 

八一君→洋食セット、江戸前蕎麦、アイスコーヒー

 

僕→江戸前天ざる蕎麦セット、アイスティー

 

午後に入ると八一君、意を決し攻勢に入った。

此処からは駒の乱舞が繰り広げられ、取ったり取られたり防御も崩されたり持ち直したり…のループで終わりの見えない激戦に突入した。

 

そしてお互い1分将棋に入ると、八一君に疲労が見え出し、此処しか勝機を見い出せないと決意し、僕から最後の攻勢に出た。

八一君も必死に防戦に努めたけど、疲労がピークの状態では僕の攻勢を止めるには至らず、僕が先勝した。




専門チャンネル…

解説の神鍋歩夢玉将と聞き手の雛鶴あい女流初段のハイテンションモードが炸裂した神放送として「伝説の神中継」に選出された第31期竜王戦第1局は、他にゲスト解説として桐山名人の弟子にして史上初の年齢1ケタプロとなった宗谷冬司四段が、両対局者への辛辣なダメ出しを吐き続けた「史上最大の悪魔解説」としても記録と記憶に残る解説映像となったとか…


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女流玉座戦・挑戦者決定戦まで

此処から先はホントにネタが…
15巻出ましたがまだ未読だし、マジどうするか…って事でこれ迄以上に好き勝手書かせて貰います。

って訳で本編スタート!!


女流玉座戦…

 

女王戦(マイナビ女子オープン)以外で唯一、女流棋士以外も出場出来る女流タイトル戦である。

 

現在このタイトルを保持しているのは、空銀子四段である。

 

予選方式としては、アマチュア予選から始まり、続いての1次予選はシード者以外の全女流棋士と女性奨励会員+アマチュア予選通過者で争われ、次の2次予選は前期本戦ベスト8の4人+1次予選通過者が戦う事となる。そして、予選通過枠は期毎に変動する。

その2次予選を通過すると本戦は全16名で争われるが、内訳は前期ベスト4+タイトルホルダーがシードとなり、残りが2次予選通過者となる。

 

今期は女王戦で惜敗した天衣が銀子ちゃんへの雪辱を誓い、この戦いに臨んでいた。奨励会でも三段リーグに突入しており、スケジュールがタイトになりつつあるけど、本人的には寧ろ経験値を上げるのにプラスとして捉えているようだ。

 

で、1次予選と2次予選は順調に通過し、本戦トーナメントでは1回戦は前期挑戦者で「茨姫」の異名で知られる花立薊女流五段とぶつかり、刺々しい「茨姫」と結婚・出産後の精神的ゆとりが上手く混在した強さにかなり苦しんだが、それでもどうにか受けなしに追い込み、辛くも勝ちをもぎ取った。

続く2回戦はあいちゃんとの公式戦初対局だったが、現時点での棋力差がそのまま出、終盤こそ手こずったが詰みを無くした所であいちゃんが投了し、ベスト4進出。

準決勝はこれも公式戦初対局の釈迦堂里奈女流名跡が相手で、釈迦堂さん得意の華麗な「受け潰し」を受けながらも一度守勢に回りながら虎視眈々と再攻撃を狙い、「ゴキゲンの湯」仕込みの捌きを存分に活用し、攻めが止まると今度は逆襲の猛攻で逆転勝ちを収め、挑戦者決定戦に進んだ。

 

挑戦者決定戦で対峙したのは、才能だけなら銀子ちゃん以上とも云われる祭神雷女流帝位となった。

 

「あんたぁ〜、れいの弟子ってかい?それ、私と替わんなよぉ〜」

「師匠からマトモじゃないって聞いてたけど、話以上に狂ってるわね。」

「ま〜ったく、なんで私を見ないでアンタみたいな小生意気なだけのチビとか白髪ブスに肩入れしてんだかイミフなんだけどぉ〜!」

「御託はそれだけ?さっさと始めるわよ。」

 

お互い挑発合戦から始まる不穏なスタートとなった。

 

先手は天衣で、早々から守りを薄めに攻撃重視の態勢を敷いたが、祭神さん、何も警戒してないような動きを見せたと思ったら突然目をギラつかせ、

「ご対めぇ〜ん!!」

と、いつの間にか迎撃態勢を完了させていた。

 

此処からは攻撃の天衣と捌きの祭神さんの気の抜けない攻防戦に突入した。

 

一旦は捌き切ったと思われた祭神さんの捌きだったが、天衣の攻勢は切れておらず、更に攻め入った。

 

「アンタさぁ〜、持ち駒どっちが多いと思ってんのさぁ〜、アンタもう終わりさぁ〜!」

 

祭神さんの言う通り、持ち駒は祭神さんが多い。が、天衣は平然と、

「幾ら持ち駒が多くても使えなきゃ無意味よ。これから私が証明するわ。三段リーグと一介の女流との決定的違いを」

 

全く底なしの度胸だ。

でも定期的に僕だの冬司だの、最近は神宮寺さんともvsや研究会を行い、着実に三段リーグを勝ち上がる力を着けており、この言葉は嘘やハッタリではない。

 

此処から祭神さんが持ち駒を投入し、攻めに入ったが綱渡りギリギリの天衣の守りを崩せず、そうこうしてる内に駒台上の駒が空となってしまい、今度は天衣が再度攻めに攻め、受けなしに追い込むと祭神さん、駒をぶち撒けるや無言で対局場を去り、結局祭神さんの持ち時間が切れた事で時間切れで天衣が勝ち、女流玉座戦も天衣が銀子ちゃんに挑む事となった。




去る8月、マイナビ女子オープン予選決勝…

前年の本戦ベスト8に続く2年連続の本戦出場が懸かった桂香さんだが、今回の相手は鹿路庭珠代女流二段だった。
鹿路庭さんは基本的に振り飛車で戦うが、桂香さんは僕ら清滝一門のベースとなっている居飛車党である。
となると振り飛車がやや不利そうではあるが、女流としてのキャリアが違う為、一概にも決めつけられない。

まぁ想定通り居飛車の桂香さんに振り飛車の鹿路庭さんの対抗形の図式となったが、それでも現役A級の山刀伐さんの薫陶を受けてる鹿路庭さんはスイスイと指し回している。
一方の桂香さんは序盤から難しい顔で相手の一手一手を確かめながら徐々に持ち時間を消費しながら指していた。
そして先に時間を使い切り、秒読みに入ったのは矢張り桂香さんだった。
此処からはまだ10分近く残している鹿路庭さんが優位と思われたがいざ盤面を見ると、いつの間にか桂香さんのやや優勢に傾いていた。どうやら時間を犠牲にしてでも「知らぬ内に形勢逆転」に持っいくのが最初からの桂香さんの狙いだったようだ。
どうやら鹿路庭さんも気付いたようで途端に時間を使い始め、あっという間に鹿路庭さんも秒読みに追い込まれた。
そうなると後は無呼吸での殴り合いにどちらが先に音を上げるかの気力勝負である。
となれば、関西特有の泥臭い異常なクソ粘りも大きな武器に持っている桂香さんにアドバンテージがあり、結局殴り合いも30分程で鹿路庭さんが投了、見事桂香さんは2年続けて本戦出場を決めた。

が、そればかりではないもう一つのメモリアルも同時に成し遂げた。
それは「女流棋士昇段・昇級規定」の内の一つである「マイナビ女子オープン本戦出場で女流3級→女流2級への昇級」を満たした事で、2年限定の仮免状態である女流3級から女流正棋士の女流2級への昇級を決めた事である。

小学生時代に一度辞めた将棋に高校生になってから再び向き合い、僕ら3人の妹弟子として改めて父親でもある師匠の下、女流棋士を目指して10年…年齢的に崖っぷちの所から去年は仮免ながら資格取得、今年は漸く女流正棋士となった安堵からか、子どもみたいに泣きじゃくっている桂香さん…
そんな桂香さんに敗れた悔しさを腹の底に入れた鹿路庭さんが、
「今日は貴女の勝ちです。でも、次は私が勝ちますからその時はまた宜しくお願いします。」
と声を掛けると、桂香さんも涙声のまま、
「はい、私も負けないつもりですが、今度戦う時も宜しくお願いします…」
と返していた。

因みに僕はこの日大盤解説を担当しており、聞き手は天衣だったが、桂香さんの一件で僕も柄にもなく涙腺が弱まってしまい、天衣に「此処は公共の場ですから感動は終わってからにして下さい。」と窘められてしまったのは少し反省する所ではあったか…


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女流玉座戦・最終第5局

王座戦では軍曹が受け師を破り先にリーチかけたようで、苦労人のベテランもなんとも苦しくなったようで…

一方の棋王戦では最年少三冠がベスト4にも進めず敗退と、覇権確立にはまだまだ幾多の壁が立ちはだかる…

混戦が続くか、瀬戸の逸材が抜け出すか、まだまだ予断を許さない将棋界であります…

って訳で本編スタート!!


女流玉座戦第5局

 

女流玉座→空銀子四段(2勝2敗)

挑戦者→夜叉神天衣奨励会三段(2勝2敗)

 

 

開催場所→神奈川県・鶴巻温泉

 

立会人→ニ海堂晴信棋帝

副立会人→滑川臨也八段

記録係→雛鶴あい女流初段

 

現地大盤解説

解説→山刀伐尽八段

聞き手→鹿路庭珠代女流二段

 

専門チャンネル解説

解説→神宮寺崇徳四段

聞き手→清滝桂香女流2級

 

 

なんか地味に凄まじい面々が固めているんだが…

 

ってか、記録係が一門筋のあいちゃんってどうなの?

専門チャンネルも聞き手が桂香さんってアリなのか?

 

 

って訳で検分は無難に終わらせたが、揮毫は相変わらず挑発だらけで、

 

銀子ちゃん→「蹂躪」

天衣→「収奪」

 

と、最早挑発でしかコミュニケーション取れない位に拗れてるんだけど……

 

 

 

そして当日…

 

最終戦の為、改めて振り駒で決められた先手は銀子ちゃんだった。

 

開始するや、即座に居飛車明示した銀子ちゃん…

対する天衣は、女王戦での失敗に懲りずにまたしても「後手番一手損角換わり」を選択、徹底的に想い人のエース戦法を駆使し、最強女性棋士を葬らんと云う姿勢に出た。

 

午前中は一進一退の攻防に終始したが昼食休憩後になるや、銀子ちゃんから積極的な攻勢に出、動かせるだけ駒を動かせ、一気に詰めに掛かったが、それでも天衣の守りは容易には崩せず、暫くすると攻撃の手が止まってしまっていた。

 

此処からは天衣のターンに転じ、この最大の好機は絶対逃さんとばかりに持てるだけの力を全て注ぎ込み、自分の詰みを消した上で着実に銀子ちゃんに受けなしの投了に持ち込んだ。

 

 

新女流玉座誕生である。

 

遂に「浪速の白雪姫」が女流タイトルを失冠したのだ。

 

一方の天衣にとってはタイトル獲得と共に今現在戦っている三段リーグに弾みが付く意義ある勝利となった。

 

で、天衣の打ち上げでの挨拶は、

「この度、女流玉座を預かる事となった夜叉神天衣です。以前の女王戦では空先生に及びませんでしたが、今回は何とか食らいつき、自分らしくない将棋だったかも知れませんが、それでも結果に繋げる事が出来ました。これも数多くの指導で導いて頂いた師匠の桐山先生始め、私に関わる多くの方々による指導、叱咤激励の賜物と考えております。まだ修行中の身ではありますが、この事を忘れず、今後も御指導御鞭撻の程宜しくお願い致します。」

と、普段の口利きと異なり、しおらしく感謝に満ちた挨拶であった。

 

これで銀子ちゃんに一矢報いたとは云えるのかも知れないが、天衣にとっては「女王」を奪ってこそ本懐の気持ちが強いから、喜び半分気の引き締め半分と言った所か…




天衣の女流玉座獲得の翌日…

健司君を暫定的に預かる話以来、久しぶりに師匠宅を訪れた。

「ただいま〜」

と一声掛け、家に上がるとそこには……

二日酔い状態が終わらない師匠と、対照的に一晩呑み明かしたにも関わらずテンション激高が続いてる神宮寺さんが居間で一升瓶を何本も横倒しにしてる凄惨な風景が……
よく桂香さんが怒らないもんだな…と思ってたら、その桂香さんが2階から降りて来た。
居間の惨状を見るや、
「お父さん、神宮寺君、幾ら何でも散らかし過ぎよ!!責任取って2人でキッチリ片付けなさいね。」と、非常に厳しい鬼のような笑顔で言い放った。
「儂、まだ動けんわ…」と情けない声を出す師匠…
「あちゃー、桂香ちゃんガチ切れさせちまったか…」とボヤきつつも僕を引き込んで片付けに入った神宮寺さん…

今回は酒瓶が転がり、つまみの欠片が多少散らばっていただけだったので、存外早くに片付いた。

その間、桂香さんは台所に入り、4人分の昼食を作っていた。

唯一ぐったりしたまま動いていなかった師匠もやがてゴソゴソ動き出し、洗顔して戻ったところで昼食となった。
メニューは肉うどんだった。
胃に負担がある時には丁度いいメニューである。
…神宮寺さん、食べるの早…
僕と桂香さんは普通のペースで食べ終えたけど、師匠は徐々に酔いを醒ますかのようにやや緩慢に食べ、結局最後に食べ終えた。

その後は3人で軽く研究会を行い、健司君が学校から戻ったのを潮に僕らは家に帰宅した。


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竜王戦第6局・in善光寺(前編)

清滝家に引き取られて以来、大なり小なり色々な騒動に巻き込まれたり、その渦の中心になったりしながらも概ね順調に過ごした13年…
しかし、彼を排除したあの一族が形振り構わず彼を地獄に引き込もうと企んで…
転生以来最大のピンチが事もあろうに竜王戦ド真ん中で噴き出すとは…

って訳で本編スタート!!


竜王戦第6局…

 

今回は長野県・善光寺で開催される。

 

 

これ迄僕が戦ったタイトル戦で長野県開催はついぞ訪れてなかったが、遂にその時がやって来たようだ…

 

何時ものように大阪から特急で現地に向かい、昼過ぎには到着していた。

尚、此処までの結果は3勝2敗(○●○●○)で僕が先にリーチを掛けていた。

 

会場入りしてからの検分も立会人の刈田升三実力制第四代名人立会の下、恙無く無事に終えた。

 

そして前夜祭に備え着替の準備に掛かろうとしたら、会場前でやたら騒がしい一団が「桐山零を出せー!!」とか、「我々は桐山名人の身内だから直ぐに会わせろー!!」だのと警備の方々と大揉めに揉めていた。

 

で、警備の責任者の方が僕に「桐山先生、あの不躾な一団に何らかの見覚えがありませんでしたか?」

と聞かれ、遠目から彼らを見るや、途端に思い出したくも無い封じに封じ込んでた孤独・ゴミでも見てるような侮蔑の目が吐き気を催すと同時に覚醒してしまった。

まさに悪夢のトラウマの襲来と言うしかなかった。

 

それでもこの騒ぎに無縁とも出来なかったので、代表者4人だけを会場内の別室に入れ、立会を入れた上で僕と面会する事となった。

 

別室に入るとそこに集まっていたのは…

 

叔母→亡き父の妹で兄(僕の父)へのコンプレックスが拗れる程酷く、父親(僕の祖父)のツテで東京の三流私大に入り、三流私大医学部の学生と結婚し、地元に戻って病院の経営権を我が物にせんと暗躍するも、祖父の威光・カリスマ性には敵わず、更に将棋棋士の夢を断念し地元に戻った父の多大な人望にも圧倒され、ますます意固地がエスカレートする有様だったのは未熟な子どもだった僕でもハッキリ理解出来た程だ。

で、あの事故で家族を全て失った僕の排除を主導した最悪の忌わしき存在である。

義叔父→叔母の夫で入婿である。

三流私大医学部出身で叔母に唆され、婿入して桐山病院の経営権を手にしようとしたが、祖父が死ぬまで経営権を手放さなかった為、父の死後に院長に就任したものの、雇われ…以前のお飾り院長でしかなかったある意味滑稽な存在である。

従兄→叔母の長男で僕の1歳上である。

勉強そのものは優秀だったのは事実で僕も及ばなかったが、性格は傲慢でいつも他人を上から見下ろす姿勢しかしなかったので、積極的に関わろうとは思えなかった。ここ10年余りの動向は知らなかったが本人曰く、「上京したかったけど爺さんの死後、病院経営が悪化した煽りで県内の田舎国立大学の医学部に行くしか無くて侮蔑に晒されながら生活してる…」

大叔父→祖父の弟

病院敷地内の薬局責任者である。

曽祖父の次男だが祖父と異なり、医師免許取得には至らず薬剤師に転じ、長年薬局を仕切っていた。

祖父と父には敵わないが叔母夫婦なら裏からコントロール出来ると考え、僕の排除に賛成していた。

 

で、相手4人に対し僕1人では捌くのも難儀だったから、中立的な立会を1人加えて貰った。

 

立会→刈田升三実力制第四代名人にお願いした。

 

叔母「今日面会したのは病院の今後について零と徹底的に話し合いたかったからよ!今や零は業界最強で経済的にも余裕十分、親族なんだから病院に尽くす義務を果たして貰うわ!!」

従兄「なぁ、昔面倒見てやったろ?恩返しとして助けてやってくれよ。」

大叔父「本来頼めた筋じゃないのは承知している。が、今度だけは何とか手を貸して貰いたい。頼む、親父と兄貴で作り上げた病院を此処で潰す訳にはいかんのだ。」

 

何とも身勝手な囀りだ…

譲りに譲っても大叔父1人だけならまだ話し合う余地もゼロでは無かったけど、僕に何をしたか分かった上で臆面もなく命令口調で囀る母子には本来言いたくもないけど反吐が出るとしか言いようがない。

 

暫く耳障りな囀りを聞いていたが、もういい加減ウンザリしたので、「もうこれ以上喋らないで下さい。これ以上ピーチクパーチク囀るなら不法侵入及び迷惑行為云々で直ちに通報しますので。」とだけ返してやった。

 

そこからは罵詈雑言の雨霰。一体何を言っているのか理解不能な混乱であまりの醜態に僕も呆れて通報しようとしたら先に刈田先生が警備と連絡を取っており、直ぐに警備の方々が数名室内に突入して暴れる4人を確保し、外で待機していた他の一族メンバー共々数台の護送車に押し込まれ、県警本部にドナドナされていった。

 

誰だよ、長野を会場にしたの…




竜王戦第3局で2勝目を挙げた2日後、神宮寺さんから気分転換を兼ねた船釣りの誘いを受けた。

京都・舞鶴の船場に着くと、待っていたのは神宮寺さんだけじゃなく、弘天さんに天衣、桂香さんに万智さんも一緒だった。
僕も冬司を連れており、結局7人での船釣りとなった。

沖に入ると早速弘天さんに神宮寺さんが幸先良く釣り上げ、続いて桂香さんと天衣にも当たりが掛かり、無事に釣り上げていた。
一方の僕ら3人は直ぐにはヒットしなかったがそれでも少し経つと万智さんにも当たりが出て、どうにか釣り上げた。
冬司は30分程で釣竿を仕舞い、後は単独研究に終始していた。
結局一番当たりが遅かったのは僕で、魚の抵抗にやや手間取ったが、それでもどうにか釣果は挙げられた。

5時間程の日程だったが身体があちこち痛むものの、いいリフレッシュにはなったとは思いたい…


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竜王戦第6局・in善光寺(後編)

『13年前に断ち切った筈の忌わしき縁…

よりによって竜王戦も佳境のこの時に亡霊の如く現れ…

取り敢えず追い払いはしたけど、僕としては本来使いたくはない「人脈」を駆使しなきゃならなそうなのは間違いないか…』


以上、桐山君の心境を踏まえた上で本編スタート!!


連中を県警に引き渡した後、予定通りに前夜祭が行われた。

 

此処では通常通りに挨拶を行い、僕の心中の闇と泥は大方には気付かれなかったようだ…。

 

そして早目に切り上げ部屋に戻ると、そこには万智さんが待っていた。顔を見た瞬間、僕の心中を気付かれたと悟った。

それはそうだろう、いつもの何か目論んでいるような顔と目付きじゃないのは誰が見ても明白だったからだ。

取り敢えず部屋に上げると、将棋人生において前回今回通じ初めてタイトル戦での対局前の飲酒を行う事にした。

で、冷蔵庫を開けるや、「珍しいどすな、零はんが進んでお酒出すなんて」と言われたので、僕も「なら万智さんも少し飲みます?」と返したら「それなら少し飲ませて貰いますわぁ」と答えたので一緒に飲む事にした。

 

「零はん、あのキ●ガイども一体なんなんどすか?よりにもよって対局目前の大事な時に大勢発狂して押し入るなんて常識も何もあったもんじゃないやろ!!(激怒)」

いつになく万智さんエキサイトしてるよ…

「向こうから切り捨てて縁切りした筈なんだけど、今になって何故僕に集ろうとするのか僕も理解不能なんだよね…」

僕も彼らの先程の態度に心底ウンザリしながら渋々答えた。

「道理で零はんが生まれ故郷なのに語りたがらないのが嫌でも理解出来たわぁ…」

「流石に祖父の通夜だけは線香を上げに行ったけど、あの時は一門家族(師匠、桂香さん、銀子ちゃん、八一君)が一緒で香典渡して線香上げただけで早々に引き上げたし…それも5年前の話だからね…。基本的にあっちの情報とか事情なんかは師匠や会長がストッパーになってくれて僕まで伝わる事は殆ど無かったから…」

「それはそうなるやろな…けど、こなたは零はんの妻となる女子どす。なんなら家の人脈総動員してでも零はんを守りますぇ!」

「ありがとう。でも僕の事だからまずは僕自身の繋がりで火の粉は払って見せる。でも、必要となったらまずは万智さんの力を借りるつもりだからその時は宜しく。」

「必要なら今すぐにも力にはなれますぇ…まずはこなたの膝に頭を置いとくれやす。」

「え?それはまだ早…」

「1人で何もかも抱えんでもええんどす。明日の為にも心身休ませなならんのやろ?体調不備では竜王はんの前には座れまへんやないの!そやから黙ってこなたに預けておくれやす。」

「分かりました、お言葉に甘えて少しばかり預けます。」

結局万智さんの膝枕で直ぐに眠りに落ちた…

 

 

翌日、目が覚めるといつの間にか布団に入っており、一つの布団に万智さんと一緒に眠っていたようだ…

まぁお互い浴衣に大きな乱れは無かったから男女の云々は無かったものとは思われる…

取り敢えず万智さんを起こすと、「零はん感じながら寝るん幸せやわぁ〜」って起きて早々テンション上がってたよ(笑)

 

 

そして第6局が行われた。

 

僕は前夜祭前の騒動の疲れが無かったかのように心身充実し、縦横無尽と言える程に自在に指し回していった。

一方の八一君はもう落とせない崖っぷちからの巻き返しを図り、気合い充満を前面に出してこれも存分に指し回していた。

 

初日から激しい攻防で封じ手の頃には早くも終盤戦の様相を呈していた。

 

2日目…

 

僕の封じ手が開示されると、報道陣や観戦記者たちから「おっ?この手読めた奴いるか?」って一斉にざわめきが起こった。

けど肝心の八一君は平然としており、「想定内か…」と認めざるを得なかった。

 

後はお互い残った持ち時間を駆使し、詰むや詰まざるやの激闘に突入し、結果、封じ手で動揺を与えられなかった僕が投了に追い込まれ、お互い3勝3敗となり、決着戦は最後の第7局・旅館ひな鶴での戦いに持ち込まれた。




僕と八一君が竜王戦を戦っている最中、次期竜王戦各ランキング戦の組み合わせが発表された。

或る意味最注目の6組は…
参加64人
今期竜王戦デビュー組の1回戦は…

椚創多四段→赤山正市九段(A級4期)
辛香将司四段→前尾哲也六段
宗谷冬司四段→二ツ塚未来四段
空銀子四段→祭神雷女流帝位
神宮寺崇徳四段→加悦奥大成八段
……
と決まり、創多と辛香さん、アマチュア枠で既に中堅プロまでを圧倒していた神宮寺さんは兎も角、銀子ちゃんと冬司はこれが正式なプロデビュー戦となる。

で、銀子ちゃんと冬司以外の3名の戦績は、

創多→棋帝戦1次予選・帝位戦予選・毎朝杯2次予選・玉座戦1次予選・新人戦・神戸新鋭戦・越後田中杯に出場し、現在デビュー以来無敗中。
辛香さん→棋帝戦1次予選3回戦敗退、帝位戦予選2回戦敗退、毎朝杯1次予選決勝敗退、玉座戦1次予選出場、新人戦出場で現在8勝3敗である。
神宮寺さん→アマチュア名人資格での盤王戦は本戦出場でベスト4進出(予選と本戦3回戦=ベスト16まではアマチュア扱い)、アマチュア玉将資格での大河戦はブロック戦怒涛の11連勝で決勝トーナメント進出(ブロック優勝まではアマチュア扱い)、毎朝アマチュア名人資格での毎朝杯は1次予選決勝で辛香さんを破り2次予選進出(1次予選まではアマチュア扱い)プロ編入後の戦績は盤王戦準々決勝が記録上のデビュー戦で、現在1勝0敗である。

なんか皆さん面白い向きだったり難儀な相手だったりと嫌でも注目浴びるでしょうね…


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竜王戦第7局・inひな鶴(前編)

さてさて、思わぬ所から思い出したくもない古傷を抉られた桐山君、最終戦まで縺れ込んでしまいましたが最後の戦いの舞台は最早クズ竜王(ロリ王)のホームと云うべき日本一の名門旅館「ひな鶴」でありまして、不安材料てんこ盛りな中でどう戦うか注目の大一番…

って訳で本編スタート!!


竜王戦第7局

開催地 石川県・旅館「ひな鶴」

 

立会人→清滝鋼介九段

副立会人→峠はじめ七段

記録係→辛香将司四段

 

現地大盤解説

解説→ニ海堂晴信棋帝・神鍋歩夢玉将(W解説)

聞き手→月夜見坂燎女流玉将

 

専門チャンネル解説

解説→神宮寺崇徳四段・宗谷冬司四段(W解説)

聞き手→雛鶴あい女流初段

 

……師匠立ち会いでの決着戦、僕らのクライマックスには最高じゃないか!!

八一君、持てる物全て出し尽くし、更にその上の領域で戦う環境と条件が揃う舞台なんてもう極限だろう!!

そして僕が竜王になる!!

 

 

〜〜side八一〜〜

 

先の第6局、俺が辛うじて勝ちタイに追い付き最終戦へ縺れ込んだけどアレはどう考えても戦前のトラブルが兄弟子に悪影響与えたのは間違いなく、だからこそ今度の最終戦で捩じ伏せなきゃ本当の意味で兄弟子に追い付いたとは言えないのは腹の底から実感してる。

後、今此処で「ひな鶴」ってのも地味にデカいプレッシャーなんだよな…

それというのも先頃の三段リーグ最終戦で満身創痍の中で四段昇段を決めた銀子ちゃんにプロポーズして付き合う流れになったから、あいのお母さん(ひな鶴の女将さん)に顔合せ辛いんだよな…

しかも今のあいは関東で山刀伐さんとニ海堂さんの保護下で世話になってるし…

まぁ、あいについては終わってからでも話し合いは出来るんだけど…

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

対局前日…

 

 

何時もの通り大阪から特急で現地に向かい、到着すると去年とは違い、人は疎らであった。

どうやらあいちゃんが八一君の下を離れ、関東移籍してるのを地元の方々は先刻承知してたようだ…。

そんな訳で平穏に旅館に到着し、早速検分に入った。

 

 

検分では立会人の師匠が僕らに色々注文が有るかとか不備不明な点が無いかとかあらゆる確認を取った後、無事に検分終了。

 

一旦部屋に戻り、前夜祭への着替を行い、予定通りの時刻に前夜祭の会場に向かった。

 

 

到着すると既に大半の参加者が待機していたが、八一君だけはまだ準備中らしかった。

そして程なく八一君も到着したけど、顔色が妙に蒼白なんだけど…

 

そんな中始まった前夜祭…

 

まず挑戦者の僕から挨拶を行い、

「関係者の皆様には申し訳無いのですが、此処、ひな鶴では竜王獲得報告に伺うものと考えておりました。まずはその事伏してお詫び申し上げます。」と軽く前フリをし、続いて

「ですが僕の不甲斐なさは別にして、竜王戦最終戦の舞台に「ひな鶴」が選ばれ、此処で最終決戦が行われる事、誠に光栄に思う次第です。故に、この日本一の名門旅館に恥じない戦いをこの2日披露致す所存であります。」

と挨拶すると、大きな歓声と拍手が響いた。

 

続く八一君の挨拶は、

「この「ひな鶴」で最終決戦が行われる事、私には感慨深い物があります。一昨年の最終戦では竜王を手にし、昨年はあの「名人」を相手に1勝を返し、そこから逆転で防衛を果たす原動力となり、私にとり「ひな鶴」は極めて重要な場と考えております。依って今回もここで勝ち切り、3連覇を果たして見せます。」

であり、堂々たる宣戦布告であった。

 

そこからは関係者への挨拶もそこそこにお互い早めに部屋に戻り、明日への戦いに備え、早めに床に就いた。




今期三段リーグ…

年末迄5節10戦を経過した処で

10戦全勝
峠なゆた三段
隈倉健吾三段
夜叉神天衣三段

9勝1敗
幸田柾近三段
鈴本永介三段

と幾分昇段候補が絞られつつあり、今期参加36名の中でも一定以上の実力者だけが生き残っている印象である。

残り4節8戦…此処からが真の地獄の始まりである。


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竜王戦第7局・inひな鶴(後編)

桐山君5年振りの復帰か九頭竜3連覇か…
第31期竜王戦もいよいよ最終決戦!

二冠に後退した桐山名人と二冠に躍進した九頭竜竜王…
初の兄弟対決もこれで決着!

って訳で本編スタート!!


旅館ひな鶴・「臥竜鳳凰の間」

 

…竜王戦最終決戦の場である。

 

竜王vs名人の最高峰対決として話題度の高かった(去年程沸騰しては無かったが)七番勝負もこれが否応なしに最後となる。

 

午前8時45分、まずは僕が対局場に入り下座に座り、瞑目して待機した。

それから程なく八一君が8時50分頃に入場し、タイトルホルダーとして上座に座り、僕に一言声掛けした。

「兄弟子、今日明日の2日、全力で勝たせて貰います。」

と、多少の緊張感を帯びた力強い言葉で。

となると僕も応える義務があるだろう。

「此処まで来たら僕も竜王が欲しい。だから今日明日2日で八一君には泣きを見て貰うから。」

と笑って返した。

 

最終戦なので改めて振り駒を行い、先手は八一君だった。

 

一手目はオーソドックスに指した八一君…

 

次の二手目‥‥

僕が指したのは「後手番一手損角換わり」である。

最後に来て態々挑発的一手に及んだのは、以前「名人」に同じ手を喰らい、そこから大きく崩れた八一君だからこそで、それから1年‥、どれだけ進化成長したか確かめたい思いが多分にあったのは否定しない。

 

流石にこれには一瞬面食らった顔を見せた八一君だったが、それでも10分程考慮しただけで次の一手を力強く指してきた。

 

ここからは角交換を経てお互い防御の陣を構築に入り、途中で昼食休憩となった。

 

八一君→のどぐろのお造り御膳+ウーロン茶・ホットコーヒー

 

僕→ひな鶴特製豊漁お造り御膳+ホットレモンティー

 

をそれぞれ注文し、食事と体力回復に休憩を費やした。

 

 

午後からも陣の構築を続け、お互い完遂したのは3時のおやつタイムが間近になった頃である。

おやつタイムの後はそれぞれ慎重に駒を動かし、開戦前の下準備に専念し18時30分が近づくと、少し時間が早かったが現在の手番である僕が封じ手の作成を行う事にした。

結局初日は水面下での駆け引きが主体で開戦は明日となった。

 

 

 

翌日…

 

この日も昨日と同時刻に僕が先に対局場に入り、八一君も昨日同様の時刻に入場、9時になると昨日一日の棋譜をなぞり暫く機械的に指し、いよいよ封じ手開封となった…

 

この一手、明確に開戦の手であり、観戦記者や報道陣は驚きの声を上げ、一方の立会人である師匠は肚を括った顔で、(零、八一、お前らの戦い、儂がしかと見届けるで!)と僕らにだけ解る雰囲気を放っていた。

 

八一君はと言えばこちらは覚悟を決めた顔をしており、改めてお互い後戻りの出来ない戦闘となるのを実感せざるを得なかった。

 

早速八一君から動き、此処からは激しい駒の動きと駒交換が続き、昼食・おやつ休憩を経てもまだお互い決定的チャンスが見い出せない激戦が継続していた。

 

この竜王戦、持ち時間がお互い8時間なので夕食休憩は無く、午後のおやつタイムの後は最後までノンストップで決着が着くまで指し続けなくてはならない。故に体力も重要なファクターとなるのは自明だ。

元々同世代でも体力にはやや自信のない僕だったが、それでも長年タイトル戦を戦うと加減とかコントロールというのがそれなりに身についていた。

一方の八一君もタイトル戦は2日制しか経験がない分(竜王戦も帝位戦も2日制持ち時間8時間対局である)、この戦いには長じており、お互いの有利不利はまずない。

 

19時20分、まずは八一君が時間を使い切り、1分将棋に突入。

しかしこの時点で僕も残り時間は僅かに9分であり、出来るだけ消費を避けたいので、此処からはお互い1分以内の早指しで先の見えない殴り合いに足を踏み入れた。

 

それから1時間…終わりの見えないまま更に63手を費やし、まだ行く手の先が見えず、しかし、もう体力も極限に迫っていたので遂に残り時間を使い、最後の読みを行った。

当然八一君もこの時間を利用して読み返すのは承知していたが、それでも此処が勝負所と踏んで懸命に詰み手順を探った…

 

いよいよ僕も1分将棋に突入し、後はどっちの読みが上回るかで勝負が分かれる事となった。

 

 

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〜side八一〜

 

去年の「名人」もだけど今年も兄弟子じゃあ、毎年地獄の竜王戦だろ!

っても竜王戦に出て来るのは毎年年間最強の棋士だから宿命っちゃあ宿命なんだよな…

そもそも一昨年俺が勝った当時の後藤竜王(現九段)にせよ、元々は兄弟子から竜王を奪って2連覇してたし…

 

で、今年も変わらず時間の使い方が「名人」や兄弟子程巧みじゃない…マジでこの2人のタイムマネジメントってかタイムコントロールってのが傑出してるわ…月光会長やニ海堂さんでも届いてなさそうなレベルなんだよな…

 

けど此処で…それも俺の考えよりも早く最後の考慮に入ったとなれば俺も全力で手順を探らなきゃいけない。残り10分弱…

 

 

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さあ、最後の戦いだ!

 

僕はありったけの駒を総動員し、総攻めを敢行。

八一君はというと、生石さん仕込みの捌きをフル活用し、僕の攻めを防ぎいなし、そこから1時間…遂に僕の攻めが切れてしまった。

此処からは八一君のカウンターが襲いかかり、懸命に防戦するもいよいよ追い込まれた…

そしていよいよ覚悟を決めるとポットからお茶を注ぎ、一口飲んで喉を潤すと一言、

「負けました」

と告げ、この瞬間、僕の今期竜王復位は成らなかった。

 

一方の八一君はこれで竜王3連覇を達成。銀子ちゃんという生涯のパートナーと結ばれた強さをまざまざと見せられた竜王戦だったと言うのが僕の実感したところである。

 

けど、年明けにも玉将戦と盤王戦に挑戦するからまだまだ落ち込んではいられないな。




今期玉将戦本戦リーグ戦出場者

1位(前玉将)生石充九段
2位→    桐山零名人 
3位→    ニ海堂晴信棋帝
4位→    山刀伐尽八段
5位(予選通過者)九頭竜八一竜王
5位(同)  後藤正宗九段
5位(同)  鏡洲飛馬四段

と、東西均等の顔触れであり、又、若手新人からは八一君と鏡洲さんが初の本戦進出となった。それにしても今年もやたら濃く強いメンバーが揃ったものだ。実際、玉将の歩夢君も警戒心隠してなかったし。

結果…

1位→桐山零名人 6勝0敗
2位→九頭竜八一竜王 5勝1敗
3位→ニ海堂晴信棋帝 4勝2敗
4位→山刀伐尽八段 3勝3敗
5位→後藤正宗九段 2勝4敗
6位→鏡洲飛馬四段 1勝5敗
7位→生石充九段 0勝6敗

で、僕が歩夢君に挑戦する事となり、残留は八一君・ニ海堂・山刀伐さんとなった。一方で生石さんはタイトル失陥から1年でリーグからも陥落と厳しい結果となった。

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今期盤王戦本戦トーナメントベスト4

桐山零名人
佐伯宗光九段
篠窪太志八段
神宮寺崇徳四段

と、ベテランは佐伯九段だけで後は僕、篠窪さん、神宮寺さんと20代前半の若手が集う新旧交替がイメージされた陣容となった。

準決勝
○桐山名人−佐伯九段●
○篠窪八段−神宮寺四段●
決勝
○桐山名人−篠窪八段●
敗者復活1回戦
○神宮寺四段−佐伯九段●
敗者復活2回戦
○神宮寺四段−篠窪八段●
挑戦者決定変則二番勝負(勝者側は1勝、敗者復活側は2連勝でタイトル挑戦)
第1局
○神宮寺四段−桐山名人●
第2局
○桐山名人−神宮寺四段●

で、最終的に僕が挑戦権を摑んだ。


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秋に決勝トーナメントが行われた大河戦

準決勝
○桐山名人−山刀伐八段●
○神宮寺四段−ニ海堂棋帝●
決勝
○桐山名人−神宮寺四段●

で、何とか神宮寺さんを破り、2年振りに優勝した。


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毎朝杯将棋オープン戦

本戦トーナメント出場者
◎本戦シード
前回優勝→ニ海堂晴信棋帝
準優勝→篠窪太志八段
ベスト4→桐山零名人
ベスト4→神鍋歩夢玉将
◯タイトルホルダー&A級上位
九頭竜八一竜王
於鬼頭曜九段(前帝位)
「名人」盤王
月光聖市九段
以上8名
◎予選勝ち上がり
清滝鋼介九段
関崎勉八段
櫻井岳人八段
滑川臨也八段
久留野義経七段
鏡洲飛馬四段
椚創多四段
神宮寺崇徳四段以上8名
計16名で争われる。

1回戦組み合わせ
(Aブロック)
篠窪八段−久留野七段
月光九段−清滝九段
(Bブロック)
桐山名人−櫻井八段
於鬼頭九段−椚四段
(Cブロック)
神鍋玉将−滑川八段
九頭竜竜王−神宮寺四段
(Dブロック)
ニ海堂棋帝−関崎八段
「名人」−鏡洲四段
と決まり、年明けから2月にかけてトーナメントが行われる事となる。
   


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竜王戦6組ランキング戦1回戦

桐山君、残念ながら目覚めしロリ王の防御壁を突き崩せず竜王奪還成らず、しかしそれでも限界を超えた指し回しを体感・実現出来て充実感はいつになく満たされた至高の兄弟決戦を堪能したのは誰が見ても明らかであった。
一方のロリ王も最大の目標である兄弟子の領域に兎も角も足を踏み入れたのは言葉にし難い貴重な経験だった事であったのを後年明かす程「絶対神」の存在が超絶究極であったのは、その晩年のインタビューでも明白に認めるところである。

氷室・『名人』世代、生石世代、数多の才能を輩出した時代を代表する連中が跋扈する中、この10年に於いては十九世名人・桐山名人を軸とする「桐山世代」が棋界を蹂躪する勢いでその勢力を大きく拡げているのは最早誰にも否定出来ない厳然たる事実である。

そんな新世代・未来世代の先鞭たらんと今、竜王戦6組ランキング戦に乗り込む新世代の若人達…

って訳で本編スタート!!


竜王戦…

 

将棋界最高賞金を誇る連盟最大規模の公式棋戦である。

 

最大の特徴としては、下位カテゴリーからでも勝つだけ勝ち抜けばタイトルホルダーたる竜王に挑み、それも勝ち抜けばプロ最高峰のタイトル・「竜王」をアマチュア身分でも手に出来る事であるだろう。

因みにプロ以外の参加資格としては、アマチュア竜王戦優勝者を含むアマ竜王戦ベスト4とアマチュア支部名人戦優勝者のアマチュア5名と、奨励会三段リーグ前半期次点1名(その次点者が退会若しくは次点ポイント累積によりフリークラスプロ四段昇段を選択した場合は前半期4位が繰り上がりで出場する)、女流からの推薦若しくは出場決定戦勝者の1名が該当し、全て6組ランキング戦からの出場となる。

因みにプロ以外の今期出場者は、

 

アマチュア竜王→小池飛鳥(奨励会員・小池岬の実父)

アマ準竜王→小清水捻通(柳原朔太郎九段の甥)

アマ竜王ベスト4→小関東治(小関十三世名人の実孫)

アマ竜王ベスト4→花田貴信(夜叉神グループ総帥・夜叉神弘天の甥)

と、歴代の将棋関係者の係累が並び、

支部名人→桐山カタリーナ(桐山零名人の父方従妹)

奨励会三段リーグ前期次点→峠なゆた三段

女流代表→祭神雷女流帝位

の計7名となった。

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

1回戦…

 

創多は赤山九段に圧勝。

 

辛香四段は前尾六段に勝利。

 

冬司は二ツ塚五段を相手にせず快勝。

 

神宮寺さんも加悦奥八段を完封。

 

そんな中、銀子ちゃんと祭神さんの一戦が行われた。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

それはお互いへの口汚い挑発と八一君への執念深き思いから既に誰も止められない極限のカオスであった…

 

 

そんなカオスの中で対局が始まり、

先手は銀子ちゃんとなった。

 

銀子ちゃんは慎重に守りを固めるが、一方の祭神さんはそんなのお構いなしな指し回しに終始し、先が読み難い展開に突入してしまった。 

 

昼食休憩…

 

銀子ちゃん→タンシチュー+サンドイッチ

 

祭神さん→タンシチュー&サービスランチ

 

…食欲旺盛だな2人とも……

 

対局中、時間消費が早いのは銀子ちゃんではあったが、それでも先の展開を考えれば妥当とは思った。

 

 

午後に入ってからも慎重に指し回す銀子ちゃんと挑発を繰り返す祭神さん…

図式が変わらないまま夕食休憩に入った。

 

双方とも注文はサンドイッチだった。

 

その後の終盤戦…

 

痺れを切らせた祭神さんから激烈な攻めに突っ込んだ。

「白髪ブスッ、テメェなんざれぇいの所のチビにも及ばねぇんだからいい加減降参しろよぉ〜!」

と、挑発込みで。

 

けど銀子ちゃんも負けじと

「兄弟子には敵わないって自覚はあるのね。ならば、兄弟子を超えようと足掻き続けてる私と八一には未来永劫勝てはしないわ。」

と、覚悟と心構えの違いを突き付けてた。

 

 

結局銀子ちゃんが初戦を突破したものの、そこでのダメージが予想外に大きく、以降の次年度を休場せざるを得ない状況に追い込まれてしまった。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

竜王戦6組ランキング戦1回戦

 

私、桐山カタリーナは年の始めに支部名人を勝ち取ったけど、プロに挑む竜王戦6組ランキング戦を勝ち進む自信はまるでなかった。

 

因みに桐山姓は私が最も尊敬する桐山零名人と同一なのだが、親からはそんなウマ娘じゃ到底届かないからアンタはウマ娘としての競走ウマ娘の宿命に殉じなさいっ!と私の将棋道を全面否定された事で、益々将棋にドブ漬けにのめり込んだのは事実だ。

 

1回戦…相手は花田貴信アマで、プロ棋戦での緒戦としては史上初のアマチュア同士の戦いとなった。

 

お互いゴキゲン中飛車を最大の武器とする攻め将棋が信条だった事から最初から守り無視の攻め一辺倒で戦い抜いた。

 

結局、花田アマの失着から私が咎め、私が勝ち上がった。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

桐山アマ…、プロでも可笑しくない位の風格ある指し回しはどう考えてもプロとしか表現出来ない…

 

で、データを探ると彼女、何と僕の父方の従妹って…

亡き両親からも何も話を聞いて無かったので、仮に接触したところでそんな実感は難しいとしか言えないよな…      




正月・指し初め式での一コマ…

不法突撃したシューマイ先生
vs
或る意味無敵の神宮寺四段


シ「お前、若作りしてるようだがその実萎びた爺だろう!!」
神「あ?俺は正真正銘の22歳だ!、アンタこそムリに若作りして実体は男に相手にされない年増じゃねーのか?」
シ「女を知らない童●が知った口利けるとでも思っているのか?」
神「生憎俺は女知らない訳ではねぇ。ってかアンタ、なんかコンプレックスあるのか?」
シューマイ先生、無言で日本刀振り回す…
神宮寺さん、いなしながらもスキを見て職員を呼び出す。
で、更にシューマイ先生が暴れかけたとこで職員総動員でシューマイ先生確保。
結局シューマイ先生はめでたく無期限出入り禁止に処された。 




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毎朝杯将棋オープン戦

さてさて、気が付けば王座戦も終わり、軍曹永瀬王座が千駄ヶ谷の受け師・木村九段を退け見事に防衛、3連覇となりました。
これで年内のタイトル戦は竜王戦での豊島竜王vs藤井三冠を残すのみで、この対決も竜王が意地を見せるか三冠が四冠になるか難解な展開になりそうとしか見えない戦いですな…

って訳で本編スタート!!


毎朝杯将棋オープン戦…

 

年明けの1月〜2月にかけて本戦トーナメントが行われるが、持ち時間40分の早指し勝負である事から1日2局での開催となっている。

 

今回の出場者16人は1月開催で1・2回戦を行い、その勝者4名で2月の準決勝・決勝を戦うシステムとなっている。

 

1回戦のカードは、

(Aブロック)

篠窪八段vs久留野七段

月光九段vs清滝九段

(Bブロック)

桐山名人vs櫻井八段

於鬼頭九段vs椚四段

(Cブロック)

神鍋玉将vs滑川八段

九頭竜竜王vs神宮寺四段

(Dブロック)

ニ海堂棋帝vs関崎八段

「名人」盤王vs鏡洲四段

の組み合わせとなり、A・Bブロックは名古屋会場での開催で、C・Dブロックは横浜会場での開催となった。

 

結果…

○篠窪八段−久留野七段●

○清滝九段−月光九段●

○桐山名人−櫻井八段●

○椚四段−於鬼頭九段●

○神鍋玉将−滑川八段●

○神宮寺四段−九頭竜竜王●

○ニ海堂棋帝−関崎八段●

○「名人」−鏡洲四段●

となり、続く2回戦も午後から行われた結果、

 

○篠窪八段−清滝九段●

○桐山名人−椚四段●

○神宮寺四段−神鍋玉将●

○ニ海堂棋帝−「名人」●

が2月の準決勝に駒を進めた。

 

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毎朝杯将棋オープン戦準決勝…

 

桐山名人vs篠窪八段

ニ海堂棋帝vs神宮寺四段

 

……全員25歳以下の若手で、神宮寺さん以外は全てA級且つタイトルホルダー若しくはタイトル経験者の新世代の若き実力者揃いのメンツである。

 

そしてまず僕が篠窪さんを破り決勝に進み、もう一つの準決勝…

 

お互い早々に時間を使い切り、秒読み上等の殴り合いの結果…、

勝ち上がったのは神宮寺さんだった…

 

 

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〜side神宮寺〜

 

大河戦・盤王戦に続き、この半年足らずで桐山とは3度目・4局目の対局となる。

大河戦は終盤、僅かに逸った一手が命取り…、盤王戦は最初に負け、敗者復活から勝ち上がった挑戦者決定戦でも1局目こそどうにか取ったけど、2局目は立ち直った桐山にぐぅの音も出せない完敗を喰らい、順位戦昇級は又してもお預けとなってしまった。

それにしても俺の前回の人生と比較してもこの世界軸の棋士どもは時代が違えばA級・タイトル戦の常連でも可笑しくない程に全体のレベルが高く、それだけ気合いが違い、こっちも葬り甲斐があろうってもんだ!!

 

 

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(第三者視点)

 

毎朝杯将棋オープン戦決勝…

 

 

桐山名人vs神宮寺四段

 

「絶対神」vs「荒ぶる若獅子」の時代を代表する激戦の見届け人は、

 

立会人→柳原朔太郎九段 

記録係→隈倉健吾奨励会三段

 

現地大盤解説

解説→後藤正宗九段

聞き手→雛鶴あい女流初段

 

専門チャンネル解説

解説→「名人」

聞き手→清滝桂香女流2級

 

のラインナップとなっていた。

 

 

いよいよ対局開始、先手は神宮寺四段が握った。

一方の桐山名人は早くも飛車を振り、振り飛車を明示してきた。

それに対する神宮寺四段は得意戦法の一つでもある居飛車穴熊に構えて来た。

桐山名人、早指しを意識して早くも攻勢に入り、懸命に相手陣を崩しに掛かるが、神宮寺四段もそれは想定済らしく防御が薄めながらもその激しい攻勢を防ぎ切り、今度は持ち駒を駆使して逆襲に転じた。

ここからは神宮寺四段のターンとなり、桐山名人も何とか防ごうとするも、若獅子(荒獅子)の暴風雨を彷彿とさせる攻めに最早為す術を失い、敗北を認めざるを得なかった…

 

これで神宮寺四段は全棋士参加棋戦にて優勝したことで、昇段規定により、五段昇段となった。又、フリークラス規定により、順位戦についても晴れて4月からC級2組に昇級する事となった。

フリークラス四段編入者としては勿論最短(プロ登録から半年)での順位戦昇級である。

 

 

 

 

 




毎朝杯終了後…

この夜はニ海堂邸に招かれ、優勝&五段昇段&順位戦C級2組昇級のトリプル祝いの主役である神宮寺さんはもとより、何故か決勝で負けた僕もその場に押し込まれ、更には現在ニ海堂家の居候でもあるあいちゃんに、今日の専門チャンネルで聞き手を担当していた桂香さんまでもがこの小祝宴に参加していた。
で、どういう訳か後藤さんもこの宴に参加していた…
後藤さんに経緯を聞くと、どうやらニ海堂が僕らとは別に個人的に不定期に後藤さんと研究会を行っていたらしく、その繋がりと今日の解説でのあいちゃんとのコンビプレーがお気に召したようで、あいちゃんから「後藤先生、お時間にゆとりがあれば是非にも神宮寺先生の祝宴にご参加お願い致したいのですが。」との申し出に快く応じたとの事だった。あいちゃん後藤さん口説けるって流石「ひな鶴」の跡取り娘だけあるな…
一方の桂香さんの参加は、大阪移住後の神宮寺さんが頻繁に清滝家を訪問し、師匠としょっちゅう呑み明かしたりしてるうちに親交が深まった結果らしい…。
けど、実際にはそんな交流を重ねてる内に桂香さんも神宮寺さんに何か親しい以上の感情を持ち始めたのではないかと僕は個人的に勝手な解釈をしている…
これが正解なら嬉しいにも程があるってとこなんだけど…

そんな状態で始まった祝宴…
矢張り神宮寺さんがガバガバ呑み出し、先輩としての矜持が頭を擡げた後藤さんも対抗するように呑み比べに応じ、そこでそんなに強くない僕までも巻き込まれる形で否応なく呑み比べに参加させられ、当然の如く最初に潰されたのは僕だった…
一方の主催者であるニ海堂は元々持病の影響もあり、乾杯の一杯以外は一切酒を口にしないスタンスだったから(前回の人生では酒は一切口にしてなかったので、これでも持病は軽症化しているようだ)、そんな男たちの呑みっぷりに感心しきりでそんな様子を楽しんでる風情だった。
と思ったら、いつの間にか桂香さんも呑み比べに参加しており、僕がダウンしてるのを尻目に、酒豪2人を相手に引けを取らない呑みっぷりを披露していた。流石に師匠の娘だけあってアルコール耐性ハンパないな…


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地獄の三段リーグ最終節

さてさていよいよ竜王戦七番勝負が始まり、早速藤井三冠が豊島竜王に先勝し、年内四冠へ出だし良くスタートを切りましたね。
ですが最大7戦・12月下旬まで行われる長丁場、更に今年は棋聖戦に始まり、王位戦・叡王戦と続き、4連続タイトル戦と緊張が解けない激戦だらけですので何処まで持ち堪えられるのか、これからの将棋人生に於いても非常に重要なポイントになるかと個人的には思ってます。更に王将戦でもリーグ戦を順調に連勝スタートを決めているので、此処でも挑戦権を勝ち取るとタイトル5連戦…コレって鬼畜眼鏡以来?それとも変態会長以来?

…って訳で本編スタート!!


三段リーグ最終節…

 

今期も激戦に次ぐ激戦で残すは後2戦…

 

この時点で全勝は無く、昇段争いは1敗1人・2敗2人・3敗2人の計5人に絞られた。

 

1敗→隈倉健吾(今期34位)

 

2敗→峠なゆた(今期1位=前期次点)

  夜叉神天衣(今期35位)

 

3敗→幸田柾近(今期3位)

  鈴本永介(今期5位)

 

それぞれの対局

 

隈倉 →午前・vs夜叉神、午後・vs鈴本

峠  →午前・vs幸田、午後・vs夜叉神

夜叉神→午前・vs隈倉、午後・vs峠

幸田 →午前・vs峠、午後・vsその他

鈴本 →午前・vsその他、午後・vs隈倉

 

の組み合わせで行われる。

 

一番過酷な組み合わせは多分天衣じゃないかと個人的には思う程心身ごっそり持って行かれかねない戦いじゃないか…

 

 

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〜side天衣〜

 

此処まで14勝2敗…、遥か高みに君臨する師匠の一番弟子として恥ずかしくないかと言われるとなかなか胸は張れない…

…冬司は別よ、アイツは或る意味師匠以上の将棋の化け物っていうか、純粋将棋特化生物だからっ!!

けど残すは2つ、まずは連勝が突破への絶対条件だから厳しい相手が続くけど、兎に角勝ち切るわ。

 

 

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〜某観戦記者目線(別名・山し…)〜

 

 

さて自力他力混在ではあるが、昇段条件としては暫定トップの隈倉だけが残り2局中1勝で確定、他の4人については現在2敗同士の峠・夜叉神はそれぞれ前半で勝てば後半での直接対決が昇段決定戦となり、此処までが自力の範囲内となる。

残る幸田・鈴本は連勝しても他の結果次第なので他力条件となる。

一方で期待されるのは、桐山・椚・宗谷以来の小学生プロに近付いた隈倉と、空に続く女性プロが射程圏内の峠、又、史上初の女子小学生プロを目指す夜叉神がその悲願を果たせるか…である。

 

何にせよ残すは2局、注目のその日は間もなく…

 

(鵠)

 

 

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さて三段リーグ最終節当日、東京・将棋会館

 

午前の対局

 

隈倉健吾(15勝1敗)−夜叉神天衣(14勝2敗)

峠なゆた(14勝2敗)−幸田柾近(13勝3敗)

鈴本永介(13勝3敗)−植村正晴(8勝8敗)

 

まずは鈴本さんが圧勝、14勝目を挙げ、この時点では圏内に残った。

ただ、相手の植村さんは僕が三段リーグにいた頃にも在籍してたベテランで、今期は勝ち越さなきゃ次がない勝ち越し延長組だったので、昇段争いとは別の意味で勝負所だった現実…

 

峠さんvs幸田さんは峠さんが勝ち、これで幸田さんは今期の昇段が消えた。 

 

午前の対局で最後まで続いたのは、隈倉君vs天衣であった。

両者居飛車穴熊とガチガチに守りを固めた上での攻略戦となり、お互いに仕掛けては退き、…の繰り返しで持ち時間を使い切っても尚攻略の糸口が摑めずに延々と我慢比べが続き、痺れを切らしたのは隈倉君だった。

この展開なら千日手を選ぶ選択肢もあっただろうけど、敢えて自ら仕掛ける事で打開を図ってきた。

結果的にこの仕掛けで我慢比べを制した天衣がその後は優位に進め、三段リーグでは異例の5時間対局を勝ち抜いた。

 

 

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17局終了時点での成績

 

暫定1位峠なゆた(1位・15勝2敗)

暫定2位隈倉健吾(34位・15勝2敗)

暫定3位夜叉神天衣(35位・15勝2敗)

暫定4位鈴本永介(5位・14勝3敗)

暫定5位幸田柾近(3位・13勝4敗)

 

で、幸田さんは脱落、自力は2敗3人で3敗の鈴本さんは自身が勝った上で峠さんが勝った場合に限り2位で昇段となる。

 

 

最終戦…

 

峠なゆたvs夜叉神天衣(15勝2敗同士)

隈倉健吾vs鈴本永介(隈倉2敗vs鈴本3敗)

 

まずは隈倉君の重厚な棋風と鈴本さんの粘り強い棋風が絡み合う極めて重い戦いは、鈴本さんの父親譲りの粘りを撥ね退けた隈倉君が自身への詰みを消した事で決着、これで隈倉君が史上4人目の小学生プロ棋士に名乗りを上げた。

 

一方の天衣は峠さん相手に苦しい展開に陥っていた。

というのも後手番一手損角換わりを仕掛けたのだが、峠さんに完全に読まれていて、その後は峠さん優勢に持っていかれ、薄めの守備も風前の灯…

だが、蟻の一穴を絶望から探り出した事で逆襲に転じた。

その一穴は土壁を水が徐々に溶かすように地味ながらもジワジワと峠さんの囲いを溶解していった。

そしてその囲いを溶かし切ると後は最後の仕上げとばかりに持ち駒総投入で総攻めに掛かり、一気に決着。

 

天佑さんに誓った目標の1つであるプロ棋士に到達した。

 

 

 

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結果…

 

1位→隈倉健吾・16勝2敗

2位→夜叉神天衣・16勝2敗

3位→峠なゆた・15勝3敗

 

で、1・2位は通常の昇段、3位の峠さんは連続次点でフリークラス四段に昇段となった。

 

これで僕の門下2人が共にプロ四段棋士となり、そんな評判を聞いてか、弟子入り希望が殺到するのはまだ暫く先である…

けど僕に師事出来、結果を出せる人って冬司とか天衣みたいな資質が突出し且つ僕への全面的信頼を置かなければ極めて難しいと思うんだけど…

 

 

ん〜、けど小学生棋士も増えた事だし会長に頼んで僕vs新鋭棋士達との非公式対局でも計画しようかな…




玉将戦七番勝負…

神鍋歩夢玉将vs桐山零名人

勝者罰ゲームとも称される対局勝者によるパフォーマンスが勝負とは別ベクトルでの注目が毎度話題になる名物棋戦である。

第1局→先手・神鍋玉将
○神鍋玉将−桐山名人●
地元名物の超激辛ラーメンを食す

第2局→先手・桐山名人
○桐山名人−神鍋玉将●
地元伝統の泥鰌掬いを踊る

第3局→先手・神鍋玉将
○桐山名人−神鍋玉将●
海岸で唯一人将棋を指すシュールな絵図

第4局→先手・桐山名人
○桐山名人−神鍋玉将●
地元名産の鰻取りに挑む光景

第5局→先手・神鍋玉将
○桐山名人−神鍋玉将●
砂蒸風呂に埋まる勝者・新玉将


…という訳で緒戦こそ遅れを取ったけど、その後は4連勝と巻き返し、玉将獲得。三冠に復帰した。


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盤王戦

今期挑む盤王は、あの「名人」。

そんな「名人」もタイトル100期を達成し、国民栄誉賞を受賞してからはそこそこのトップ棋士レベルの成績止まりで流石に衰えが垣間見られるようになってきたようだ。

第1局→先手・「名人」
○桐山名人−「名人」●

第2局→先手・桐山名人
○桐山名人−「名人」●

第3局→先手・「名人」
○桐山名人−「名人」●

と、対「名人」戦としては初のストレートでタイトル獲得となり、今年度終了時点で四冠に復帰した。



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順位戦A級最終戦…

今期も挑戦争いと残留争いが最後まで目が離せない熾烈な戦いが展開された。

1位→「名人」 4勝4敗
2位→於鬼頭九段3勝5敗
3位→月光九段 4勝4敗
4位→山刀伐八段5勝3敗
5位→生石九段 3勝5敗
6位→櫻井八段 2勝6敗
7位→佐伯九段 3勝5敗
8位→後藤九段 4勝4敗
9位→ニ海堂棋帝6勝2敗
10位→篠窪八段6勝2敗


で、降級は櫻井さんが決定、ほかは5敗勢と後藤さんが残留争いとなる。
挑戦権争いは2敗のニ海堂と篠窪さん、3敗の山刀伐さんに絞られ、これも最終戦決着となる。


最終戦結果…

○「名人」(5勝4敗)−篠窪八段(6勝3敗)●
○於鬼頭九段(4勝5敗)−櫻井八段(2勝7敗)●
○月光九段(5勝4敗)−佐伯九段(3勝6敗)●
○後藤九段(5勝4敗)−山刀伐八段(5勝4敗)●
○ニ海堂棋帝(7勝2敗)−生石九段(3勝6敗)●

名人挑戦権はニ海堂が摑み、4月から僕との名人戦が始まる…

一方の降級争いでは櫻井八段に続き、佐伯九段がA級を去る事となった。


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新女王決定戦

さて、前回の地獄の三段リーグを突破した天衣ちゃんですが、次はプロ棋士デビュー…の前に、「女王」への再挑戦が控えております。
ですが、肝心の「浪速の白雪姫」こと空銀子四段が竜王戦での心身著しいダメージの影響で休場&女王返上の異常事態になったものですから結局、本来なら挑戦者決定戦の対局が新女王決定五番勝負となってしまいました…

一方の進出者は天衣ちゃん、もう一方の進出者は…アマチュアから勝ち抜いた桐山カタリーナさん…

兎に角吹っ飛んだ展開となりましたが…

って訳で本編スタート!!


マイナビ女子オープン本戦トーナメント…

 

前期ベスト4シード

・前期挑戦者→夜叉神天衣四段・女流玉座

・同準優勝→供御飯万智山城桜花

・同ベスト4→月夜見坂燎女流玉将

・同ベスト4→花立薊女流五段・初代女王

の他に、

 

一斉予選通過者

・釈迦堂里奈女流名跡

・祭神雷女流帝位

・清滝桂香女流2級

・桐山カタリーナアマ

 

の8名がベスト8に残った。

 

組み合わせ

 

・夜叉神天衣vs釈迦堂里奈

・供御飯万智vs祭神雷

・月夜見坂燎vs清滝桂香

・花立薊vs桐山カタリーナ

 

となり、ベスト4には、

 

夜叉神天衣

祭神雷

清滝桂香

桐山カタリーナ

 

が勝ち抜いた。

 

 

準決勝…

 

・夜叉神天衣vs祭神雷

・清滝桂香vs桐山カタリーナ

 

勝者は…

 

夜叉神天衣

桐山カタリーナ

 

の2名となり、この2人で新女王決定戦五番勝負を戦う運びとなった。

 

 

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〜side桐山カタリーナ〜

 

えぇ〜っ?!私がマイナビ女王戦の五番勝負に挑むって、念願ではあっても現実になるとマジかって心境なんだけど…

しかも対局するのが女流飛び越えて数多の男性トッププロを相手にするプロ棋士になった夜叉神先生ってこんなの反則超えて地獄じゃないの?

でも私も夜叉神先生を越えなきゃ従兄のお兄さん…桐山名人に弟子入りの願いなんか夢の又夢でしかないから何としても夜叉神先生を踏み越えなくては先がないのは承知してる…

ウマ娘初のプロ将棋棋士になるにはマジで正念場だ!!

 

 

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〜side天衣〜

 

新女王決定五番勝負…

 

私に相対するのは桐山カタリーナアマ…

 

聞いた限りでは師匠の従妹らしいけど、師匠に聞くと存在も面識も全くないそうで自称なのか一族から存在自体隠されていたのかは不明だそうだ。

ハッキリ言ってそんな紛い物な親族モドキなんて師匠の人生の汚点でしかないから師匠の一番弟子として私が名実ともに引導渡さなきゃならないわね。

でも、あの茨姫を降した実力だけは紛い物ではなさそうだから本気で尚その全てを磨り潰して二度と師匠の近親者なんて名乗らせないから!!

 

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女王戦第5局・最終戦

 

もう生涯二度と訪れる事も無いと思っていた故郷・長野に再び足を運ぶ事になった僕である…

 

今回の帰郷は女王戦最終戦の特別PR担当として各方面だけじゃなく、月光会長からも「君の苦渋は理解していますが、それでも今回だけは将棋普及の為に、そしてカタリーナ君への誹謗中傷から守って貰いたいのです。」って頼まれた事で実現したものだ。

 

で、改めてカタリーナさんの経歴を探ると…、

 

「祖父(父方=桐山病院二代院長)が再起不能が濃厚だったウマ娘を完治させ、再起したそのウマ娘が八大競走を勝ち取り晴れて栄光を摑んで引退したら直ちに長野の病院に押しかけ、祖父と男女関係を結んでウマ娘の末娘を儲けた…」

は?それだけで何なのソレ…って話なんだが…

 

けど当然それだけじゃ片付かず、当時大学生兼奨励会員だった父も、

「父さん、腹違いの妹はいいけど、そのウマ娘の方と子どものウマ娘の今後についてキチンと考えてるんでしょうね?」

と問い質す程一族関係が大混乱したのは言うを待たない。

 

只、父はその異母妹を正式に妹として対応していたらしいけど、祖父が憚り、表向きでは遠縁の扱いに留まっていたらしい…

特にあの人間性すら問われる叔母らしき父の妹を名乗る人間離れした化物が発狂全開で

「あんなウマ娘が身内なんて長野の名士である桐山家の恥じゃない!!お父さん、一刻も早く縁切りしなきゃ桐山家が崩壊するわよ!!」

とか周辺の一族筋とか祖父及び父の交遊関係の諸方面に垂れ流したものだから、祖父も父も対応に四苦八苦し、それでも一方で祖父は既に祖母が物故していたので、祖父をよく理解して頂いた周辺の方々からは、

「桐山さんの人望の賜物だろ。寧ろ好い歳したオッサンがこんな若く尽くしてくれる恋女房なんて男冥利に尽きるさな。ま、批判は誹謗中傷って軽くいなせばいいだろ。それにキーキー喚いてんのは桐山さんと亡くなった奥さんの教えをまるまる無視した娘モドキだけだしな。」

って事実上の後妻として認識されてたらしい…

 

で、そのウマ娘の叔母だが、ウマ娘としての宿命を背負い、東京のトレセン学園に入学してトゥインクルレースで戦ったのだが、何せ日本中の優秀なウマ娘たちが集う環境なだけに、結局G1は愚か重賞も勝ち取れず、通算10勝を記録したもののG1では結局2着を3回、他の重賞でも2着5回止まりで「善戦ウマ娘」の評価に過ぎなかったようだ。

 

そんな母親の挫折を少なからず知るカタリーナさんが競走ウマ娘としての生活に疑問を持ってもそこは不思議じゃないだろう事はウマ娘の世界を知らない僕でもどうにか理解できる。

 

そしてカタリーナさんが興味を持ったのが将棋である。

以後、現在に至るまでウマ娘の母親と母親のトレーナーだった父親の猛反対を撥ね退けて今尚将棋に全力傾注しているのは見ての通りだ。

 

となると、カタリーナさんのこれまでが完全に僕以上の苦難と無理解相手に戦い続けた半生だって言うのは自明の理だよな…

 

何にせよ、僕が最後まで見届けなくてはならないのは確かだ…

 

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先手は…カタリーナさんだ。

 

序盤はお互いセオリー通りの守備固めから始まり、開戦しないまま昼食休憩に入った…

 

天衣→信州そば御膳+リンゴジュース

 

カタリーナさん→信州牛肉フルコース&信州そば5枚&リンゴジュース3杯

 

カタリーナさん、食欲メチャ旺盛だろ…

 

 

そして午後からは天衣から開戦となった。

 

此処からは両者とも後先なしの大乱戦に突入し、王手に入ろうが回避した次には逆に攻勢に入って王手を返すとか、最早女の意地としか表現出来ない程に激闘を繰り広げていた。

 

しかし、そんな激闘も終わりは来る…

 

何度とない攻防に痺れを切らしたのは…、カタリーナさんだった。そして遮二無二攻め続け、遂に攻めを切らせた所でこれ迄耐えていた天衣が最大最後の大チャンスに臨み、たちまちカタリーナさんを詰め切った。

これでカタリーナさんが投了、結果…、天衣が銀子ちゃんを叩きのめしてでは無かったが、それでも天佑さんに捧げる「女王」の勲章を勝ち取った。

 

一方のカタリーナさんは己の敗北を認めた瞬間、誰からの言葉にも一切反応せず、只々滂沱の涙を流すのみで一言も発言しなかった…

 

で、自室に戻ろうとしたカタリーナさんに思い切って声を掛けた。

カタリーナさん、ビックリしたようで、ドモリ気味に

「き、桐山先生、負け犬の私に何用なのですか?!、負けた者には…何の価値も無いのに…」

って自己否定したものだからつい僕も不満気味に

「君が無価値?少なくとも僕からは君は育て甲斐のある人材と思っているけど。それに僕自身これ迄知らなかったけど、君が僕の従妹ってのは事実だからそれも踏まえてこれから君の将棋人生を預かりたいって僕の方が考えてる。もし、君が良ければ是非とも僕の門下になって貰いたい。」

って結局熱心に勧誘していた。

で、僕からのカタリーナさんの答えは、

「桐山先生、本当にいいんですか?私なんかまだまだ未熟者ですし、先生の栄誉を貶しかねない位ですけど、それでも受け入れて貰えるならば、是非にお願い致します。」

って承諾を貰った…

 

けど、その途端にカタリーナさんからの激しいハグ(愛情付きタックル?)を貰って肺が潰れかけたのはここだけって事で…

 

 

一方で、あの忌わしき「元・親族」が一切雪崩込まなかったのは正直助かった。

 

で、打ち上げでは天衣が額面通りの優等生的な獲得の感謝コメントを披露し、立会人の生石九段も酒が入ったからか、陽気に祝いのコメントを披露していて帯同していた一人娘の飛鳥ちゃんが必死に抑えていた。飛鳥ちゃん、お疲れ様です…

一方、敗者であるカタリーナさんも本人の希望で敗者の弁を述べたいって事で壇上に立ち、

「本来なら敗者の私が壇上に立つ事は許される事ではありませんが、それでも立たせて頂いた事、厚く御礼申し上げます。この五番勝負にて夜叉神先生の力を嫌と言う程見事に思い知りましたが、それでも将棋界で戦える事を実感したのは大いなる財産になりました。これからは桐山名人の門下として更に精進致す所存でありますので、皆々様方には尚一層御指導御鞭撻の程宜しくお願い致します。」

って何気に僕の三番弟子をアピールしちゃったよ…

 

 

 

 

 

 

 




女王戦終了後、カタリーナさんは女流棋士の手続きを行い、正式に女流二段と僕への門下入りが決まった…


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名人戦第1局・in旧公爵邸別邸(前編)

ライオン本編では現在に至る迄ついぞ実現してない桐山君vsニ海堂君のタイトル戦…
此処ではifだの改変だの何でもありな展開ですんで、遂に桐山君vsニ海堂君による名人戦に突入致しましたwww

前世からの終生のライバル同士による念願の最高峰決戦…
書いてる私自身もどうしようかな?って悩みに悩むお話ですが…

って訳で本編スタート!!


名人戦…

 

江戸幕府創設者の征夷大将軍・徳川家康から将棋所の責任者を任された初代・大橋宗桂を以て『名人』が成立したと云うのが通説である…

その後は大橋宗家や大橋分家、伊藤家が世襲した後、幕府崩壊と世襲各家の後継者不足等の諸事情により、世襲外から小野田六平が十二代名人を継ぎ、長命を保った後、小野田名人を実力で凌駕していた関谷金四郎が十三代名人を継いだ…

しかし小野田もだが、関谷にしても名人就位時には既に全盛・ピークは過ぎており、半ば過去の最強棋士への名誉職と化していた『終生名人』に本格的に危機感を持つようになっていた。

実際この時期の最強棋士は、関谷の弟子であった土井一太郎と見做されており(とは言え、関谷と土井の関係は険悪であったが)、人生も晩年に入っていた関谷は思い切って『名人』を返上し、その時の実力者が『名人』を名乗れるように世襲・終身制から実力制への転換に動いた。

そして昭和10年代に始まったのが実力制による『名人戦』である。

ここから十四世、十五世、氷室将介十六世、月光聖市十七世、「名人」十八世、そして現名人でもある十九世名人・桐山零と歴史を重ね、現在に至る…

 

 

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〜sideニ海堂〜

 

前回の人生ではタイトルは取ったが、名人戦にはついぞ届かないまま命が尽きてしまったが、転生した今回、いよいよ名人戦に臨む…しかも挑む相手が終生のライバルにして心友でもある桐山とは運命であり、神に感謝しかない。

この大舞台、存分に堪能しなくては勿体なく失礼だろう。

 

 

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第1局…旧公爵邸別邸にて開催…

 

立会人→後藤正宗九段

副立会人→久留野義経八段

記録係→辛香将司四段

 

現地大盤解説

解説→「名人」

聞き手→鹿路庭珠代女流二段

 

専門チャンネル

解説→山刀伐尽八段・九頭竜八一竜王(W解説)

聞き手→花立薊女流五段

 

の陣容となった…

しかし育児で多忙な筈の花立さんが聞き手で出て来るとは余程僕らの対局に興味津々なのか…

 

〜前夜祭〜

 

まずは形通りの進行から僕の挨拶になった。

「本日は御多忙の所、この場に集まって戴き、誠に有難う御座います。さて、僕も勝ち負けは兎も角、名人戦への出場は7年続けてとなりますが、同年代を迎えるのは今回が初めてであり、しかも相手が長年のライバル・ニ海堂棋帝であるので尚一層気が引き締まる思いであります。ですが、特に彼には遅れを取りたくはない思いも強いですので、彼との戦いを楽しみ、勝ち上がりたいと存じます…(以後は略)」

って挨拶すると、大きな歓声と拍手が渦巻いた。

 

一方のニ海堂の挨拶は、

「この度初の名人戦に臨む事となったニ海堂晴信です。この23年の人生で最高の舞台に立てる事、心より感謝申し上げます。しかし何よりも挑む名人が生涯のライバル・桐山名人である事が私にとり、本望であります。彼とは13年前の小学生名人戦で戦い、力及ばず敗れて以来、常に意識し、彼の存在を指針として将棋道に精進した次第です。ですので、今回の名人戦は私にとり、これ迄の集大成として不退転の決意で臨む次第であります。明日からの戦い、私の全てを投入し、燃え尽きる迄戦う所存です…(以後は略)」であった…

 

 

お互い不退転の決意を表明した前夜祭…

いよいよ明日からは最高にして最凶の名人戦七番勝負がスタートする…

 

 




さて女王戦が終わり、従妹のカタリーナさんを新たに門下に加えたのだが、彼女と悶着が続いている御両親との話し合いをしなくてはならなかった。
と言うのも彼女、この春から中学生になるので、それに関する事も踏まえた話し合いが必要だったからだ。
で、東京のカタリーナさんの実家を訪れたのだが…
一応歓迎はされた…のだが、将棋界入りには矢張り難渋しており、兎も角色々と話し合った。
けど、僕が本家の次期院長予定だった父の長男でありながらあの「元・親族」の邪な思惑で事実上の排除・追放に至った話になると、叔母も御自身が実父の祖父と異母兄である父以外からは邪険・疎外の目に遭っていた過去を振り返ってか、僕への目が疑いから信頼に変わっていったのがハッキリ感じられた。
で、叔母からは、
「本来ならウマ娘として私が叶わなかったG1・重賞制覇を果たして欲しかったけど、この子のウマ娘生を親のエゴで縛っても良くはないかも知れない…、だから零君、これからは貴方がカタリーナを導き、この子を一人前の棋士にして下さい。」
と、兎も角許しを得た。
そして改めて師弟の誓いを立て、僕からはカタリーナの名前は少し長いので「リーナ」と呼ぶ事にし、彼女も了承してくれた。
で、リーナの学校については僕のいる大阪に移り、そこの中学に通う事で決着した。
これで僕の家の住人も4人となり、益々騒がしくなる事必定である…


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名人戦第1局・in旧公爵邸別邸(中編)

いよいよ始まりました、桐山君vsニ海堂君の前世から巡りに巡り、両者転生・生まれ変わりからの紆余曲折を辿り、遂に現実とした『名人戦』!!
「りゅうおう」本編では「名人」が、「ライオン」本編では宗谷さんが雲の上・天上の最強として君臨している至高の座ですが、此処は「りゅうおう」をベースにしつつ、「ライオン」の主要人物から数人抜擢して転生戴いた混成作品なので、遮二無二実現しましたとさwww

って訳で本編スタート!!


名人戦第1局初日朝…

 

いよいよ念願の対局を思い、4時30分?…予定より幾分早く目覚めたようだ…。

 

しかし目が覚めてしまうと少し駒を動かしたくなってしまうが、何時もの調子でやってしまうと必ず遅刻してしまうから此処は耐え、やや長めにシャワーを浴び、心身スッキリした状態で部屋食の朝食が来る迄に和服に着替える事にした。

 

7時…仲居さんが朝食を運んで来て、部屋に居るまま朝食を摂った。

 

そして8時30分頃には全ての準備を整え、短時間の瞑想に入った…

 

 

 

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〜sideニ海堂〜

 

 

早朝4時30分…、何時もより結構早くに目が覚めた。

矢張り名人戦、それも挑む相手が桐山では無理も無かろうとは自覚はしている。

体調は…まずまず良く、体調減退の兆しも無い。

どうやら俺の目覚めに気付いたか、執事の花岡がドアをノックし、呼び掛けた。

「晴信様、お目覚めでしょうか?」

「花岡、カギは開いてるから入っていいぞ。」

と答えると、直ちに部屋に入って来た。

そして何時もの目覚めの検診として主治医も入り、朝の検診が行われた。

主治医曰く、

「若様、本日は近頃では最高の体調と存じ上げます。名人戦、現状では御身体に差し障り無く戦えるものと…」

とお墨付きを頂いたので、

「先生、その言葉、有難く戴こう。」

と答え、退らせた。

 

そして6時頃になると、屋敷の専属シェフが作った俺専用の特別メニューの朝食(持病の影響で制限が多い)を食した。

食事後は少し時間を掛け、対局用の和服に着替え、その時を待った…

そして少し早いとは思ったが8時30分過ぎになると、逸る気を抑え切れずに部屋を出、対局室に向かった…

 

 

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〜side後藤正宗〜

 

全く月光会長も一体全体何考えていやがる?

俺は現役のA級でまだ不惑にも行ってねーんだぜ?

そんな盛りの青年摑まえていきなり

「今度の第1局、貴方に立会人をお願いしたいのですが…」

って藪から棒に何なんだ?

ってもカードが桐山vsニ海堂だから面白ぇって思ってたのを見透かしてたらしく、

「この特等席、不要なら…」

って思わせ振りな反応しやがったから、そうなると俺も断われねぇよな…

結局なし崩しに担当決まっちまった…

アイツらが見応えある将棋見せてくれれば問題ねぇがな。

 

 

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〜某観戦記者目線〜

 

 

 

 

8時35分…

早くも挑戦者・ニ海堂晴信棋帝が対局室に登場…

直ちに下座に座り、名人の登場を静かに待った…

 

8時40分…

予定よりも早く、今度は桐山零名人が静かに対局室に入場…

一旦深呼吸をすると、ゆっくりと上座に座った…

 

少し遅れ、8時45分に今局立会人の後藤正宗九段と副立会人の久留野義経八段も入場した。

 

「2人とも済まん、少し遅れてしまった。」

と後藤九段が軽く詫びると、

「いえ、大丈夫です。それよりも今局は宜しくお願いします。」

と両対局者から異口同音に返され、特には問題視されなかったようだ。

 

その後、振り駒が今局記録係の辛香将司四段の手で行われ、結果、先手は桐山名人が握った。

その為、第6局迄奇数局は桐山名人、偶数局はニ海堂棋帝がそれぞれ先手を担う事となった。

 

20代前半同士の若さ溢れる名人戦…どんな展開となるか観戦記者の身ではあるが心躍る心持ちである。

 

(鵠)

 

 




リーナが新たに同居して1ヶ月…

部屋割は、
1階の和室は僕と冬司の寝室で、洋室は神宮寺さんに使って貰っている。
で、リーナには空いてる2階の洋室を使って貰った。

食事は冬司と2人だけの時は基本的に僕が作っていたが、神宮寺さんが同居すると数日に1回は神宮寺さんにも負担して貰う事に変えていた。
で、更にリーナも同居…となると、週1回、土日の何れかでリーナにも簡単なメニューを作って貰う事にした。
因みに冬司は将棋以外は基本的に危うい性質な人間なのでやらせる気はない。これは神宮寺さんも諸手を挙げて賛同している。
で、ゴールデンウィーク初日の夕食をリーナに作って貰ったのだが、神宮寺さんの釣果の魚を使い、刺身盛り合わせと焼き魚、煮魚に野菜炒めと豊富なメニューを取り揃え、中学生とは思えない手際で見事に仕上げてた。
味も上々、あれだけの量を4人で呆気なく平らげた…
それで食事中にリーナに聞くと、小学生時代から母親の料理を手伝っていたから一定レベルのものはお手のものなんだとか…
このウマ娘、主婦としても一流かも知れない…


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名人戦第1局・in旧公爵邸別邸(後編)

さてさて今期竜王戦、挑戦者の藤井三冠が連勝し、遂に天敵・豊島竜王相手に対戦成績を逆転…
マジか…
けど『序盤中盤終盤隙が無い』豊島竜王がこのままズルズル沈むとも思えないので、反撃に期待。
一方の王将戦はリーグ戦も中盤…
レジェンド羽生九段が暫定トップで藤井三冠が連勝スタートとこちらも目を離せない展開で…

って訳で本編スタート!!


名人戦第1局…

 

振り駒の結果、先手は僕が握った。

 

立会人の後藤さん始め、初手を見守る観戦記者たち各関係者の前で僕が指した注目の一手は…

 

オーソドックスに角道を開ける手だった。

 

一方のニ海堂と云えば…

 

第2手として指したのは、こちらも角道を開ける角交換の要求だった。

 

これで角交換を成立させ、以降はどっちも守りの薄目な雁木を選択し、開戦の下準備に取り掛かった。

 

その最中に昼食休憩…

 

僕→別邸特製御膳+アイスレモンティー

 

ニ海堂→別邸松花堂弁当(特定疾患患者専用メニュー)+アイスウーロン茶

 

1時間の休憩後、対局再開。

 

お互い少しずつ持ち時間を消費しながら開戦のタイミングを測る状況で、結局初日は大きな動きは見せず、封じ手はニ海堂が行なった。

 

2日目…

 

ニ海堂の渾身の封じ手が開封された。

いよいよ開戦である。

 

そんなニ海堂の激しい攻めをまずは捌きで防戦し、幾らか駒を奪い、その攻防が続いた状況で昼食休憩…

 

僕→別邸特製御膳+オレンジジュース

 

ニ海堂→別邸特製御膳(特定疾患患者専用メニュー)+アイスティー

 

そして1時間後の対局再開後もその攻防は続き、やがてニ海堂の攻めが切れるや今度は僕の攻撃が開始された。

先程の捌きで得た駒を使いニ海堂の陣を崩しに掛かり、次はニ海堂が耐える番だ。だが流石にニ海堂である、ギリギリのラインで薄い守りを維持し、核心までは届きそうで届かない展開に持ち込まれた…

そんな攻防が続く中、夕食休憩に入る…

 

僕→別邸特製サンドイッチ+アップルジュース

 

ニ海堂→別邸特製サンドイッチ+アイスウーロン茶

 

30分の休憩後、此処からは終局までノンストップの激戦となる。

残り持ち時間…

僕→1時間5分

ニ海堂→50分

 

僕の方がやや多く残っているが、何処で使うか…によって展開が変わるのは十分有り得るので其処にも気を付けなくてはならない。現在、攻撃は僕の方だがまだ核心には届いておらず、切れたらニ海堂の逆襲が待ち構えている状態だ。

そしてニ海堂の手番から再開し、此処で長考に入った…

 

たっぷり1時間を使い、5分残しで次の手を指す…

 

どうやらこの手はニ海堂にとり意外だったようで、今度はニ海堂が長考に突入…

 

…そして記録係から

「ニ海堂先生、持ち時間を使い切りましたので此処からは1分でお願いします。」

と告げられ、更に秒読みに入った所で漸く次の手を指した。

 

後は無呼吸での攻防否殴り合いで決着だが、思いの他崩し切れない…

已む無く最後の5分を使い、今度は僕が持ち時間を切らし、後は秒読みの綱渡りでの殴り合いに突入した。

 

この攻防…攻めに入ってから一度も攻撃を切らさなかった僕が攻めきり、最後の最後で遂にニ海堂の薄い守りを突破、其処で詰みが入った事でニ海堂が投了、どうにか勝ちをもぎ取った。




名人戦と同時期…とある女流タイトル戦も開催されていた。

それは、女流最古の歴史を持つ伝統の棋戦である『女流名跡戦』である。

その最終戦となる第5局…

女流名跡 釈迦堂里奈(○○●●)

挑戦者  雛鶴あい(●●○○)

女流史上最高年齢差のタイトル戦の決着戦である。


八一君から離れて半年、山刀伐さんとニ海堂の保護下で心新たに培った力を発揮し、リーグ戦では月夜見坂さんには再び敗れたものの後は全て勝ち、殊に最後の2戦で鹿路庭さんと万智さんを連破したのは掛け値無しで圧巻だった。
それでも初のタイトル戦のプレッシャーからか、最初の2戦を連敗してしまったが、瞬く間に立ち直ると第3局・第4局を連勝し、最終戦決着に持ち込んだ。

開催場所→広島県・尾道市

立会人→佐伯宗光九段
副立会人→鏡洲飛馬五段
記録係→隈倉健吾四段

現地大盤解説
解説→神鍋歩夢八段
聞き手→鹿路庭珠代女流二段

専門チャンネル解説
解説→神宮寺崇徳四段・宗谷冬司四段(W解説)
聞き手→月夜見坂燎女流玉将

の陣容で当日の対局が行われた。

先手は改めて振り駒により、あいちゃんが先手を握る事となった。
序盤は少しは進歩したようだけどあいちゃん、変わらず苦手にしてるようだ。
で、釈迦堂さんやや優勢から中盤に入り、この辺りからあいちゃんの挽回が始まり、これ迄の極端な迄の超終盤特化型からの進化が垣間見られた。
けど、以前八一君が話してた「あいの特性はそのえげつないまでの終盤力だからそれを最大限活かしたい」って方針からはだいぶ外れるんだけど、あいちゃんの独断?それとも八一君も追認してのものなのか?
まぁそれは今度八一君に聞くとして、此処からがあいちゃんにも釈迦堂さんにも正念場なのは確かだ。

そして異常に速い流れの中で昼食休憩…

釈迦堂さん→地元名物・尾道ラーメンセット+紅茶

あいちゃん→瀬戸内海鮮御膳+レモネード

午後からもその激流は止まらず、それでも序盤が苦手なあいちゃんが先に持ち時間を使い切り、早くも秒読みに追い込まれた。
只、持ち時間は釈迦堂さんがまだ30分程残しているが盤面上に於いてはあいちゃんが優勢に変わっていた。
そしてそんな難しい盤上を眺めた釈迦堂さん、此処で残り全ての持ち時間を費し、最後の考慮に入った。
その間あいちゃんはと言うと…
「こう、こう、こう…、違う。これでこう、こう、こう、こう、こう…、これじゃない。なら、こう、こう、こう…これかな?、否、こう、こう、こう、こう…う〜ん、こう、こう、こう、こう、………」
あらゆる角度からの詰み手順を探っていたが、容易に答えは出てなさそうだ…

そして釈迦堂さんも秒読みに突入すると益々激しい終盤戦に入った…

しかし終盤戦でのあいちゃんの実力はプロ棋士の渦に放り込んでも十分通用するものであり、其処から1時間弱で投了を告げたのは…
釈迦堂さんだった。

これであいちゃん初タイトルを獲得。
それもクイーン名跡始め、クイーン玉将、クイーン帝位、クイーン山城桜花のクイーン四冠を取得した女流レジェンドを無冠に追い込んでの獲得だけに話題満載になりそうだ。

そして会場内の一室で僕と一緒にモニターを凝視していた八一君もこの決着を見るや、入門したての幼稚園児に戻ったかのように激しく泣き出した…
これ迄の指導が身になった結果とは僕も認めるしかないよな。
更に隣にいたニ海堂も
「あい君が是程早くに結果を出すとは…」
ってガチで驚いてた。
だろうな、今回連れて来たリーナも「あいさん、序盤と終盤の落差が段違いなのになんで釈迦堂先生を此処まで潰し切れるの?!」って声震えてたからな。
けど、こうなるとまたニ海堂邸にお呼ばれされて祝宴の流れになるんだろうな…

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その数日後…

予想通りニ海堂邸にお呼ばれされ、ささやかな祝宴が行われた。

出席者…

主役→雛鶴あい新女流名跡

主催者→ニ海堂晴信棋帝

招待者
桐山零名人
九頭竜八一竜王
後藤正宗九段
山刀伐尽八段
鏡洲飛馬五段
神宮寺崇徳四段
宗谷冬司四段
隈倉健吾四段
夜叉神天衣四段
桐山カタリーナ女流二段
清滝桂香女流初段
の主役・開催者+招待者11人で祝宴が行われた。

まぁ何時もの如く後藤さんと神宮寺さんは鯨飲呑み比べ、山刀伐さんと鏡洲さんはそこそこ、僕は潰れない程度に嗜み、ニ海堂は乾杯だけシャンパンを口にし、後はウーロン茶で楽しみながら過ごしてた。
で、未成年組はコーラ・ジュース・ウーロン茶を飲みながら料理を摘み、マジックやアクロバットの演物を楽しんでた。
その内鯨飲組に桂香さんが加わり、ウイスキー・ブランデーのボトルが次々に空けられ、最終的に3人だけで10本飲み切っていた。
結局この夜だけでブランデー7本、ウイスキー5本、ビールサーバー樽2樽を呑み切る酔いどれ祭りと化してしまった…



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非公式戦・フィッシャー団体トーナメント

さてさて暫く空きましたが、マジでこれから先のネタ探しに難儀状態です…
って事であの団体戦をベースにした非公式戦を採用する事に…

って訳で本編スタート!!


それは順位戦A級最終戦直前に突如公表された…

 

その名も『フィッシャー団体トーナメント』と云う将棋界では前例の無い団体戦である。

そしてこの大会は単に将棋界ばかりか、芸能界までも巻き込む一大イベントに大規模化するプランだそうだ。

よって、公表の記者会見では月光会長に加え、芸能界の大手プロダクションの代表取締役にして『歌謡界のドン』とも囁かれている、とある超大物演歌歌手も共同参加していた。

因みにその『歌謡界のドン』は、ウマ娘競走競技の主催者である『URA』の常任理事でもあり、競走ウマ娘としての資質を見込んでたリーナの将棋界入りを惜しんでた1人でもある。職業柄、あらゆる業界のトップや幹部クラスへの指導将棋やらその他諸々の付き合い・交流のある僕も『ドン』からはぶっちゃけ奨励会の頃から何かと贔屓にされ、10年来の付き合いであり、リーナの件でも「桐山名人なら安心して彼女を任せられる」って認められた訳で…

 

閑話休題…

 

 

で、このトーナメントの特徴と目玉は業界初の団体戦ばかりじゃなく、賞金額・対局料も段違いに手厚くなっている事である。

優勝賞金→6000万円

準優勝→2000万円

チーム戦対局料→1戦50万円

(全てチームとして)

と、個人割としては優勝賞金だと竜王戦・名人戦に次ぐ高額賞金になるし、対局料も1戦当たり17万円弱と各棋戦本戦クラスかそれに近いレベルである。

 

それでチーム選抜であるが、まず7大タイトルホルダーとA級棋士から11人がチームリーダーとして予め選出され、最後の12番目のチームリーダーは残りのメンバーを決める選抜ドラフト会議当日にシークレットゲスト待遇でサプライズ登場する運びらしい…

 

そしてそのチームリーダーには当然の如く僕が筆頭格で入っていた。

 

各チームリーダー一覧(19年4月1日付)

 

桐山零→名人・玉座・盤王・玉将

九頭竜八一→竜王・帝位

ニ海堂晴信→棋帝

篠窪太志→A級

「名人」→A級

月光聖市→A級

山刀伐尽→A級

後藤正宗→A級

於鬼頭曜→A級

生石充→A級

神鍋歩夢→新A級

の11人がまず選出され、選抜ドラフト会議で各チーム残り2人を選出する事となった。

因みにドラフト会議は指名棋士が被った場合には抽選が行われ、当たればそのまま、外れたら新たに指名し直すシステムである。

で、ドラフト対象は全現役棋士と4月1日付新四段となるので、会議は3月末期に行われ、囲碁・将棋専門チャンネルにて生中継で行われる。

 

 

…そんな中、専門チャンネルのスタッフからとある依頼が来た。

何かと言うと、「桐山名人に於いては今回、宗谷四段と夜叉神新四段を御指名願います。他のメンバーには御遠慮頂いていますし、何より今大会の目玉チームですので…」って事である。

これには僕も「それって談合・八百長の類じゃないですか、飽くまで公正に決めるのがドラフトでしょう?流石に拙いじゃないですか!」と抗議したのだがスタッフも退かず、「桐山名人ばかりではなく、他の一部のチームリーダーにも一部棋士指定は依頼していますので」と来たもんだ。

何を言おうが引きそうに無かったから仕方無く了承するけど交換条件として指定棋士のいるチームリーダーと、指名NG棋士を教えて貰った。

その答えは…

ニ海堂→神宮寺四段

山刀伐さん→隈倉新四段

生石さん→辛香四段

他のNG棋士は特に指定されなかったが、この時点で女流が来る頭はまるで無かった…

 

 

 

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選抜ドラフト会議当日…

 

司会進行は、

柑橘宏七段(蔵王九段唯一のプロの弟子)・将棋界最強のエンターテイナー

鹿路庭珠代女流二段

が担当となり、まずは予め選出されたチームリーダーがハデなスモーク演出からの登場、それぞれ指定の席に座り、最後のチームリーダーの登場を待った…

 

そしてシークレットゲストとしての最後のチームリーダーは…何と女流レジェンドの釈迦堂里奈女流名跡(当時)であった。

これには会長以外の全員が一瞬呆気に取られた程で「名人」ですらも「本気か?」みたいに目を丸くしていたのはなんか妙に新鮮だったw

 

それで本番の棋士指名だけど、僕は予め指定されてたので1回目は冬司、2回目は天衣をそれぞれ単独指名で無事チーム成立。

他は…

 

八一君→椚四段、清滝九段

ニ海堂→神宮寺四段、坂梨四段

篠窪さん→関崎八段、峠四段

「名人」→久留野八段、波関五段

月光会長→佐伯九段、氷室十六世名人

山刀伐さん→隈倉四段、滑川八段

後藤さん→櫻井八段、山崎六段

於鬼頭さん→二ツ塚五段、鳩待六段

生石さん→辛香四段、辻井九段

歩夢君→鏡洲五段、大原八段

釈迦堂さん→祭神雷女流帝位、雛鶴あい女流二段

 

のメンバーで決定した。

 

 

そして大会方式は、12チームを2つのリーグに分け、各6チームで戦い、それぞれ上位3チームが決勝トーナメントに進出。

2位vs3位が決勝トーナメント1回戦を戦い、準決勝ではその勝者と1位が戦い、勝者が決勝進出となる。

 

そしてリーグ戦方式だが、これがまたなんとも変則的でチーム勝敗と個人勝敗を混成したポイントシステムとなっている。

まず個人勝利は1点加算、敗北は1点減算となり、チーム勝利ならチームに1点加算される事になっている。

そして3対3の戦いではあるが、チームの勝敗が決まろうがリーグ戦に於いては全局完遂のルールとなっている。

つまり、3対局それぞれが先後1局ずつ全6局を戦わなくてはならないので少なくともリーグ戦ではチーム勝敗そのものは消化試合にしてもリーグ戦突破には直結となるので最後まで気が抜けない戦いになる。

 

で、リーグ戦名称は、

『宗桂リーグ』と、『宗歩リーグ』に決まった。

 

組み合わせ…

『宗桂リーグ』

ニ海堂→「チーム・コンツェルン」

「名人」→「チーム・匠」

後藤→「チーム・フィットネス」

於鬼頭→「チーム・AI」

神鍋→「チーム・ネオユニヴァース」

釈迦堂→「チーム・天空撃墜」

『宗歩リーグ』

桐山→「チーム・サタンファミリー」

九頭竜→「チーム・昇竜波」

篠窪→「チーム・巌流」

月光→「チーム・リアルレジェンド」

山刀伐→「チーム・下克上」

生石→「チーム・マエストロ」

と決定された。

 

後、フィッシャールールによる対局なんだけど、1局の持ち時間は5分で、1手指す毎に持ち時間が5秒加算される超早指しの変則システムとなっている。

こんな戦い誰もした試しが無いし、そもそもが会長にこの斬新な棋戦を提案したのが他ならぬ「名人」ってのがまた凄まじい…

元々「名人」は長年の趣味としてチェスを嗜んでいたけど(完全に趣味を超えて世界上位ランク常連だったが)、その魅力と特殊的ルールに着目してそれを将棋に導入出来ないかと試行錯誤した末に会長に直訴し、実現した経緯がある。

っても、「名人」も月光会長もいい加減ベテランだし大局観は優れても早指し適性は幾分でも全盛からは落ちているだろうからこっちとしても対応できなくもない。

矢張り同年代の若手リーダーが対抗相手となるとは思う…




棋士編入試験…

過去にはアマチュア復帰した元奨励会員(元奨)がアマ棋戦での実績によるプロ棋戦出場で現役プロ相手に驚異的な勝率を上げたのが切っ掛けでその30代半ばの男にネクストチャンスとして特例的に行われ、見事合格してフリークラス編入の四段となったのが実質的な始まりである。
その後も2例しか無く、1つは最初の男同様元奨のアマチュア復帰者で合格、残りの1人は言わずもがな神宮寺さんである。

そんな中、この編入試験がアマチュアだけじゃなく、女流にも門戸を開く事となり、早速手続きを取った女流棋士が現れた。

祭神雷…才能だけなら銀子ちゃん以上とも言われている狂気の天才棋士だ。
然し才能については文句無しではあるのだが、それ以外がなんとも破天荒というか、破滅的というか、何れにせよ狂気が服を着て人生送ってるみたいな人型危険物扱いされてる超危険人物である。
で、その手続きにおいて大問題が起きた。
何か?って言うと、連盟正会員(プロ棋士及び一部女流棋士=女流タイトル経験者)からの推薦が空欄になっているのである。
彼女、女流棋士になった際に師匠が存在していたのだが、とある刑事事件を引き起こした事により、その師匠が将棋界追放(正式には除名)になってしまい、しかもその共同共謀正犯として彼女の実母までもがお縄となる一大ニュースになってしまったからだ。
推薦欄が空白のままだと受験資格が無くなるのは明白なのだが、彼女自身のこれ迄の奇行蛮行の数々により、推薦者探しにも難航しており、「弱い女流とはこれ以上御免、強い棋士たちとガンガン指し合いたい」って言う彼女の念願も打ち砕かれかねない状況に陥っていた。
そこで弟子を持っていない上位棋士に話を持ち込んでも、「名人」は弟子を持つ気の無い人だし、生石さんもそこは同様、かと言って僕、ニ海堂、八一君も既に弟子がいるし(ニ海堂は神宮寺さんなので書類上だけだが)、篠窪さんも「僕にはまだ時期尚早」との事で断られ、巡り巡って行き着いたのが意外にも後藤さんだった。ってか、後藤さん、よく引き受けたな…
で、後日後藤さんに話を聞くと、
「俺も元々は弟子なんざ持つ気なんて一生無かったんだが、お前や九頭竜、山刀伐の兄貴に当てられてボチボチ1人ならいいかと考えてたとこに会長から依頼があってな。それでアイツのこれ迄の環境も掻い摘んで聞いてたし、取り敢えず嫁と娘と4人面談したんだわ。そしたらこっちが即座に性犯罪野郎(祭神さんの元師匠)と母親騙るアバズレブチ殺しに突撃決意する程斜め上のクズ環境だと知って嫁は俺が話す前に直ぐ様引き取る決意するわ、娘も嫁に賛成するわで女3人たちまち意気投合しちまってな。結局アイツも同意して引き受ける事にしたって事だ。」との事だった。
それにしても女流棋士になる前はかなり過酷な環境とは聞いていたけど、予想の斜め上過ぎるし、それじゃあ彼女も性格歪みがちにはなるよな…こうなると両親を一度に喪った僕や天衣はよく無事に曲がらず成長出来たものだとその後を支えてくれた今の家族や周囲の人達に感謝しなくてはならない。
尤も八一君だけは変わらず苦手にしそうだが。


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賢王戦

さてさて、これ迄この世界の時間軸では長らく7大タイトル時代が続いてましたが、この度8つ目のタイトル戦を放り込む事になりましたwww
んで、現実の8番目のタイトル戦をベースにしたシステムにしてます。
この新タイトル戦、一体全体どんな展開になるやら…

って訳で本編スタート!!


今年、いよいよ新たなタイトル戦がスタートする。

 

『賢王戦』

 

6年前に現役棋士とスーパーコンピューターが戦う『電覇戦』にて、当時A級棋士だった於鬼頭さんがトップ棋士として初めて参加したものの、見事に惨敗してトップ棋士ですらコンピューターに凌駕される現実をまざまざと見せ付けられた…

それがその後の於鬼頭さんの将棋人生を大きく転換させたのは勿論、他の現役棋士達にしてもAI・コンピューターによる研究にシフトする大きな転換点になったのは否めない事実である。

 

そして4年前にエントリー制一般棋戦として行われたのが『賢王戦』の始まりである。

この時期の『賢王戦』は、優勝者が国際コンピューター将棋選手権優勝ソフトと持ち時間6時間の3番勝負を行うシステムで、或る意味で「勝者罰ゲーム」みたいな側面もあった。

只、そんなリスクを負う分賞金額は高く、非公表ではあるが優勝賞金は推定2000万円クラスと考えられていた。

 

これ迄の結果とvs優勝ソフト戦

 

第1期(2015〜16)

優勝→山刀伐尽、準優勝→神鍋歩夢

vs優勝ソフト「ツツガナキヤ」

山刀伐(●●)ツツガナキヤ

 

第2期(2016〜17)

優勝→桐山零、準優勝→山刀伐尽

vs優勝ソフト「ベジータ」

桐山(●○○)ベジータ

 

第3期(2017〜18)

優勝→神鍋歩夢、準優勝→桐山零

vs優勝ソフト「エクスプレス」

神鍋(○●●)エクスプレス

 

となり、僕だけ辛うじて勝ち越しとなったが後手番では終始不利から抜け出せないまま完敗…

歩夢君も同じで先手番こそ勝ったものの、最終戦では先手番を取られたのが響き、終始相手優勢に苦しみ投了。

もう人間では殆ど及ばないと認識せざるを得ない結果となった。

 

そしてこの第3期を以てvs優勝ソフト戦は終了。

次の第4期からは一般棋戦からタイトル戦に昇格し、全棋士強制参加となった。

 

参加棋士→現役全棋士、女流代表1名、アマチュア代表1名

 

棋戦方式

 

予選→段位別で開催、前期ベスト4と現役タイトルホルダーはシードとして予選免除、女流とアマチュアは四段予選に出場

 

本戦トーナメント→前期ベスト4と現役タイトルホルダー、段位別予選通過者の合計24名で争われる。

2回戦シードは8名だが、内訳は前期ベスト4と名人・竜王の6名が固定で、残り2名は組み合わせ抽選で決定される。

 

第4期(2018〜19)

本戦シード

◎前期ベスト4以上

前期優勝→神鍋歩夢八段(開始時は玉将・七段)

同準優勝→桐山零名人

同ベスト4→二ツ塚未来五段(開始時は四段)

同ベスト4→九頭竜八一竜王

◎タイトルホルダー(開始時)

帝位・於鬼頭曜(当時)

盤王・「名人」(当時)

の以上6名となる。

 

他は全員段位別予選に出場となり、予選通過枠は合計18となる。

 

内訳

四段→1名

五段→2名

六段→2名

七段→3名

八段→4名

九段→6名

となる。

 

依って五段はAB、六段もAB、七段はABC、八段はABCD、九段はABCDEFの各ブロックに分けられ、予選が行われる事となる。

 

持ち時間は予選は一律で各1時間となり、基本的に1日2局行われるシステムである。

本戦になると1・2回戦は各2時間で、これも1日で消化する事となり、3回戦からは各3時間に延びる事になっている。

挑戦者決定戦は3番勝負で2勝先行で決着、此処も持ち時間は各3時間となる。

但し、第4期のみは準決勝で3番勝負を行い、決勝戦が4勝先行の7番勝負となり、この決勝勝者がタイトルホルダーとしての初代賢王となる。

 

その7番勝負は持ち時間変動制で、1・2局、3・4局、5・6局でそれぞれ各1・3・5時間の何れかを選択し、第7局に縺れ込んだ場合は各6時間となる。

因みに持ち時間の決定は第1局前日の検分時に振り駒で選択権者を決め、その選択権者が先に1・2局の持ち時間を決め、他方が3・4局の持ち時間を決定。残った持ち時間は5・6局に振り分けられる。

 

そして予選→本戦トーナメントとなり、ベスト4が決定。

残ったのは…

 

桐山零名人

神鍋歩夢八段

九頭竜八一竜王

椚創多四段

 

となり、準決勝組み合わせは…

 

桐山名人vs神鍋歩夢八段

九頭竜八一竜王vs椚創多四段

 

となった。

 

結果は…

 

桐山(●○○)神鍋

椚(○●○)九頭竜

 

となり、決勝7番勝負に進んだのは僕と創多という事になった。

これで創多は順位戦最終戦での10連勝でC1昇級による五段昇段に続き、この決勝進出がタイトル挑戦扱いと認定された事で準決勝通過日付けで六段昇段となった。

五段から六段への昇段期間は僅か5日であり、飛び付きを除けば(飛び付きは近年では八一君位である)勿論最短となる。

それにしても10歳下の創多とタイトル戦なんて予想以上に早いよな…なんて思ったものだが、考えてみれば僕のタイトル初挑戦は小6の時だったからあまり変わらないって事か…

 

何にせよ、また新鮮な気持ちで戦いに臨めるのは確かだ。




フィッシャー団体トーナメント『宗歩リーグ』緒戦

チーム・サタンファミリー
(桐山・宗谷・夜叉神)
     vs
チーム・リアルレジェンド
(月光・佐伯・氷室)

まず先陣は僕が出る事にし、相手は佐伯さんとなった。
短期間ではあるが一応それなりに練習はしたものの、矢張り本番にならないと見えて来ないのも確かだ。

「まさかこんな発想するとは、「名人」ならではという事か…」と、早速佐伯さんが幾分感嘆しながら口を開いた。
僕も「しかもチームを組んで団体戦とは、「名人」の発想ばかりじゃなく、会長の目論見も多分に入っていると思いますがね…」と返し、そのまま振り駒となった。
結果、1局目は僕が、2局目は佐伯さんがそれぞれ先手という事になった。

序盤はお互いスイスイ指して持ち時間を蓄積させるのがセオリーとなるが、40手程で僕も佐伯さんも6分強に伸ばしていた。
さて、この中盤からが考え処となる…

此処からはお互い徐々に時間を削りつつ攻防に勤しむ事になり、超早指しなだけあって駒の動きも速く激しい。
しかも今局がトーナメント開幕戦でもあるからこの1局が今後のトーナメント全体の1つの指針となるのは間違いない。
将棋界全てから試され真価を問われるこの戦い、非公式戦と云えども負けられない。

これは佐伯さんも同じ気持ちのようで、完全にヒートアップモードに入っているのが肌で感じる…

此処は捌きで防戦しつつ、駒を奪ってからの逆襲しかなさそうだが、佐伯さんも簡単に攻めを切らさない…
しかし、100手を過ぎるとやっと攻めが切れた。此処からは僕の番だ。持ち駒を全て投入し、敵陣に侵入した駒と連動させ、たちまち相手陣を破壊。どうにか投了させ、まずは1勝を挙げた。

続く第2局も連勝し、幸先良くスタートを飾れた。

2番手は…こちらは天衣を投入し、あちらは月光会長が登場。

結果…月光会長の連勝で五分に戻された。実質デビュー戦と永世名人じゃ仕方無いけど、それでも新人が現役A級の実力を体感出来たのはこれからの財産になるのは間違いない。

最後、3番手は冬司vs氷室先生となり、こちらは早指し自体あまり得意としてなさそうな氷室先生が冬司に連敗、結局トータル4勝2敗で勝敗ポイント+2点と勝利ポイント+1点の計+3点がチームポイントとして記録された。

これ(予選)を2ヶ月掛けて行い、3ヶ月目に決勝トーナメントを行うのだから随分慌ただしい日程になるのは目に見えてるよ…


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賢王戦第1局・in台湾台北

いゃあ〜一体全体なんなんでしょ?あまりに異次元過ぎて最早…みたいなマンガもラノベも二次創作もビックリな四冠達成とか…こうなると年度五冠も現実味帯びて来てるんだが…

まぁそんな現実文庫になろうともこの物語はまだまだ終わらせる気はないので長い目で…

って訳で本編スタート!!


賢王戦第1局

 

台湾・台北市 「鄭成功記念飯店」

 

立会人・辻井武史九段

副立会人・関崎勉八段

記録係・坂梨澄人四段

 

現地大盤解説

解説・ニ海堂晴信棋帝

聞き手・鹿路庭珠代女流二段

 

 

第1局2日前に関空発・台北行きの便で対局関係メンバーが揃って空路台湾入りした。

タイトル戦番勝負での海外開催は、あの竜王戦以来1年半振りとなる。

しかも今回は僕と創多でお互い小学生棋士の履歴を持っている事から「新旧天才少年対決」とか、なんだか煽り立てる空気がのっけから満載な感じで、外野だけが異様に盛り上がっているのがホント違和感だらけなんだけど…

 

 

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〜side椚〜

 

プロ2年目…、予定よりも少し早く訪れたタイトル初挑戦。

タイトル戦昇格初年度の賢王戦決勝七番勝負で、相手は現役最強の『絶対神』・桐山零名人…零さんが僕の前に立ちはだかる。

…思えば4年前、小学3年になりたての頃に偶々将棋ファンだった従兄に引き摺られるように連れて行かれた関西将棋会館で初めて出会った棋士が高校卒業したばかりの現役名人だった零さんと、その当時は奨励会三段で悪戦苦闘を重ねていた鏡洲さんだったのは今でも鮮明に記憶している。って言うか、生涯忘れようの無いレベルで頭にも身体にも染み着いている自覚があるから忘れる自体が有り得ない。

そしてその直後に顔を合わせた八一さんにも強烈なインパクトを受けたのは、その当時にはあまり知られてなかったと思っていたんだけど、実際には零さんにも鏡洲さんにも八一さんにも…どころか、その現場に立ち合って無かった月光会長にすらも知られていたのは今でも少し恥ずかしく思う…

 

けど、小学生のうちにプロ棋士となり、零さん・八一さん・鏡洲さんを追いかける立場になると、皆が皆踏み越えなきゃならない強敵だと言うのが嫌でも実感せざるを得なかった。

 

そして始まった第4期賢王戦四段予選決勝…相手は鏡洲さんだった。

奨励会時代では若干僕が優位ではあったけど、プロの水の染み具合では到底及ばないのでどうなるものかと幾分神経質になりながら臨んだのだが、両者秒読みの激戦をどうにか制し、本戦に駒を進められた。

 

本戦も厳しい組み合わせとなり、1回戦は一般棋戦時代の第1期優勝者の山刀伐八段と組まれ、その膨大な研究量に裏打ちされた縦横無尽なスタイルに絶望的に苦しみながらも唯一の勝機を逃さず摑み取り、どうにか打ち破る事が出来た。

続く2回戦も初代永世竜王資格者の佐伯九段が相手で、その完璧な指し回しになかなか打開策が打ち出せずにいたけど、こっちも決定的な隙を与えなかった結果、千日手指し直しに導き先手を奪うと、このアドバンテージを活かし切り、兎も角も押し切った。

3回戦・準々決勝で当たったのは「立てば不吉、座れば不気味、歩く姿は疫病神」ってなんとも暗いイメージだらけの滑川臨也八段だった…

大概の事には動揺しない自信があった僕にしても流石に滑川さんの異様さには思わず仰け反ってしまう程に驚愕してしまったのは例え言い訳と非難されようがあの時はどうにもなりはしなかったとしか今でも言いようがない。

何しろ風貌からして根暗イメージそのままだったし、更に服装も喪服そのものでしか無かったものだから一瞬仰け反るのは仕方無いのは認めて貰いたいと今でも思う…

対局そのものは終始僕が優勢で勝ち上がったけど、感想戦でも全開なあの不気味ワールドは正直勘弁して欲しい…

 

で、挑戦目前の準決勝は八一さんが立ちはだかった。

流石に現役竜王、あのコンピューター依存棋士の於鬼頭先生を叩きのめして帝位を強奪しただけの力量は十分感じられる。

けど此処まで来て、はい負けましたなんて到底許される訳ないのは如何に名誉に無頓着な僕でも流石に理解出来る訳で。

 

その準決勝は関西将棋会館で行われたが、夕食休憩がまた凄かった。

八一さんは会館1階のレストラン『トゥエルブ』にサービスランチとタンシチューを注文したけど、一方の僕は近場のミートバルの『ない藤』から、「和牛ハンバーグランチ」だった。それにしても八一さん、よく食べるな…

 

その後の展開は一進一退…

2人ともAI活用度がかなり高いのでどうにも似たりよったりな状態となり、そのうち秒読みに入った。

そこで八一さんが珍しくらしくないミスを犯し、そこを逃さなかった僕が辛うじて勝ち、番勝負に進出となった。

 

もう一方の準決勝は零さんが歩夢さんを破り番勝負に駒を進め、台湾での開幕戦に臨む事となった。

 

 

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検分…

 

照明やら窓の戸締りやら細かい注文はあったにしろ、大体通常運転みたいな感じで特に大きな問題は無かった。

が、この後が大事でこの場で振り駒が行われる。

 

振り駒の結果、先手と第1・2局の持ち時間の選択権は僕が摑んだ。

そして勝った際に既に決めていた持ち時間を指定した。

 

『持ち時間・1時間』

 

いきなりの番勝負史上初の1日2局対局をぶつける奇襲を敢行したのだ。

これには創多も「本気ですか?」みたいに目を丸くして驚愕の色が垣間見えた。

折角新方式が御目見得となったんだから陽の目を見せなきゃね(笑)

とは言え、創多からしたら順位戦並みの長時間対局の方が地力を発揮し易いのでいきなり不利に立たされた感覚なんだろう、少し難しい顔になっていた。

まぁこれも盤外戦術とまでは言わないけど一種の駆け引きであり、天才的頭脳に依存しがちな創多にはいい勉強になり、将来の糧になると僕は信じてる。

 

 

 

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翌日…

 

本来なら朝の9時開始のところだが、今回は1時間を2局行うので午前中は準備だけで第1局開始は午後2時からとなる。

そして第1局終了後、夕食を経て第2局は午後7時からとなる。

 

そして自室での軽い昼食後、心身を対局に馴染ませる為に対局30分前に対局場に入った。

そこには記録係の坂梨さんだけが準備と確認の為に既におり、その動きを尻目に早速瞑想に入る事にした…

 

10分後…ここで創多入場。

僕がとっくに入場したと知り、急いで支度を整えて来たのが傍目にも分かる慌て振りであった。

まぁ今回限りではあるが(次以降は確実に対策立てられるだろうから)、何時も冷静で相手を下に見る癖のある創多を振り回すのは大人気ないとは思いながらも何時もとは違う創多が見れたのはなかなか新鮮ではあった(笑)

我ながら結構鬼畜な一面もあるもんだと改めて感じた次第だ。

 

そして午後2時…僕の先手で賢王戦七番勝負が開幕した。

 

尚、創多が選択した第3・4局の持ち時間は5時間である。よって、残る第5・6局は3時間となった。

 

そして只でさえ早指しに近い短時間勝負の上に番勝負初のチェスクロックでの対局だから秒単位で正確に持ち時間が削られるのがなんとも難しいところだ…

これまではストップウォッチだったから1分を超えなきゃノータイム指しとなり、時間消費を節約出来たのだがこれではそうは行かない。

タイトル戦でこんな事になるとはつい2〜3年前までは到底考えられなかった事だ。だからこそ将棋の進化と世代交代もまた実感させられる事でもあるのだが。

 

けど、タイトル戦でも早指しの一般棋戦でも一通りの結果を出した自負はある。その上、1時間対局は僕が指定したのだから尚更に負けられない思いが強くある。

なるほど創多は天才にしてAIを自分の中に見事なまでに吸収してる絶妙な指し回しだ。けど、考慮時間が長く取れる順位戦のようには行かず、この短時間ではやや端折って指さざるを得ないのは盤面を見ても明らかだ。

こうなると若いのは若いけどプロ歴13年目で更に云えば前回の人生での記憶も鮮明な実質30年近いキャリアを持つ僕が優位に立ったのは必然である。何しろ大局観と云うキャリアに裏打ちされた武器は今の創多には未だ持ち得ない物だからだ。

 

そしてやがてお互い秒読みに入り僕が詰みを無くすと間もなく創多が投了、幸先良く開幕戦を飾った。

 

で、夕食後の第2局も続けざまに勝ち、台湾対局は僕の2連勝で幕となった。




フィッシャー団体トーナメントが開幕し、2ヶ月に及ぶリーグ戦の結果…

『宗桂リーグ』
1位→チーム・コンツェルン(リーダー・ニ海堂)+16
2位→チーム・ネオユニヴァース(同・神鍋)+15
3位→チーム・フィットネス(同・後藤)+7
4位→チーム・匠(同・「名人」)−1
5位→チーム・AI(同・於鬼頭)−7
6位→チーム・天空撃墜(同・釈迦堂)−18

『宗歩リーグ』
1位→チーム・サタンファミリー(リーダー・桐山)+14
2位→チーム・リアルレジェンド(同・月光)+9
3位タイ→チーム・昇竜波(同・九頭竜)+7
3位タイ→チーム・下克上(同・山刀伐)+7
5位→チーム・巌流(同・篠窪)−7
6位→チーム・マエストロ(同・生石)−16

3位決定プレーオフ
昇竜波(九頭竜)vs下克上(山刀伐)のリーダー同士の一発勝負の一騎打ち!

勝者は…山刀伐八段、よって決勝トーナメント進出はチーム・下克上となった。

◎決勝トーナメント組み合わせ

1回戦
宗桂2位・ネオユニヴァース(神鍋)vs宗歩3位・下克上(山刀伐)

宗歩2位・リアルレジェンド(月光)vs宗桂3位・フィットネス(後藤)

準決勝
宗歩1位・サタンファミリー(桐山)vs神鍋・山刀伐の勝者

宗桂1位・コンツェルン(ニ海堂)vs月光・後藤の勝者

と決まった。

決勝トーナメントでは対局方式が変わり、最大9局を戦い、5勝先行決着となる。
また出場棋士も1局毎に自由選択となるが、5局目迄に3人全員が最低1局こなさなくてはならないルールが決められた。

これは実力だけじゃなく、戦略も重要となる戦いって事か…


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フィッシャー団体トーナメント決勝

さてさて王将戦も最終戦待たずに挑戦者決まりましたが五冠挑戦ですか……はぁ、お好きになさいな…ってなとこで…
後は最短再来年の名人戦と地球代表にコテンパンに殺られた王座戦、んで現・西の王子に叩きのめされた棋王戦を残すのみですか…

って訳で本編スタート!!



さて、3ヶ月に及ぶトーナメントもいよいよ決勝を迎えた…

 

僕らチーム・サタンファミリーは無事決勝進出となり、相手はチーム・リアルレジェンド…

開幕戦と同一カード…つまり、再戦にして向こうからすると雪辱戦となる。

 

で、対局方式は予選リーグとは異なり、全9局で5勝先行決着となり、更に束縛ルールとして前半5局迄でチーム3人全員が最低1局対局しなくてはならない。

よって、誰が誰とぶつかるか戦略・駆け引きも重要となる。

 

で、迎えた当日…

 

専門チャンネル特設スタジオにスタンバイし、いよいよ生中継での決勝対局…

 

司会兼解説の柑橘七段の『レディース&ジェントルメンッ!!おとっつぁんおっかさん(コケッ)、全国の将棋ファンの皆々様っ!!遂に訪れました第1回フィッシャー団体トーナメント決勝戦っっ!!この晴れの舞台に勝ち残ったのはっ…!!この2チームだあ〜っっ!!名人・桐山零率いるチーム・サタンファミリーとっっ!月光の寄せ、月光流創始者にして十七世名人っっ!月光聖市率いるチーム・リアルレジェンドッッッ!!開幕戦の再来がっっ!今まさに爆裂だぁ〜ッッッ!!!!』の大演説からのド派手なスモーク演出で僕ら2チームが登場。

流石に四強世代の内3人が揃ったチーム・リアルレジェンドは飄々と落ち着いたもので、氷室先生だけが幾分つまらなそうにしてただけなのが少し目立った程度である(演出よりも早く対局したいだけだろうが)。

一方の僕らは…、冬司は変わらず無表情…、天衣は若干緊張が見え、僕はと言うと…、演出の盛り上がりを他所に対局順のシミュレーションを脳内で組み立てる作業に没頭していた。

 

で、前フリの演出も終わり、控室に入るといよいよ決勝開始となった。

 

まずは1番手だが、僕らは冬司を投入、一方の会長サイドは氷室先生を出して来た。

ここは冬司が万能性を如何なく発揮し、先勝。

続く2戦目は僕が出て、会長サイドは引き続き氷室先生となり、此処も連勝、で、3局目も向こうは氷室先生3連投となり、こっちは天衣を投入、そして辛くも勝利し3連勝。此処で氷室先生の出番は終了。どうやら会長は先に氷室先生を出して後半に残さない作戦を選択したって事か…まぁ長期ブランク明けの氷室先生じゃあ後半に残すと致命傷になりかねないと考えたのだろう。よって、この3連敗は想定内と見受けられる。

となると、此処からが本当の勝負となる。

 

続いての4局目は天衣vs佐伯さんで佐伯さんの勝ち。

5局目は天衣vs会長で会長の勝ち。これで天衣の出番も終了。

 

此処迄で僕らの3勝、会長サイドは2勝。

 

後は僕&冬司vs会長&佐伯さんとなり…

 

6局目は僕vs会長で会長に敗れ、追い付かれた。

7局目は冬司vs佐伯さんで冬司の勝ち。

8局目は冬司連投、相手は会長でなんと1回目は持将棋で2回目は千日手となり、3回目…会長が投了、最終局を待たずに僕らの優勝が決まった。

 

表彰式…

 

チームリーダーの僕が優勝トロフィーと賞金目録を受け取り、それを高々と掲げるところで中継終了となった。

 

 




棋士編入試験…

今期受験するのは祭神雷女流帝位である。

通常の試験官(対局相手)は棋士番号の大きい順で決まるが、今回だと峠さん、天衣、隈倉君、銀子ちゃん(休場中により対局せず)、冬司、神宮寺さんとなり、このメンバーじゃあ流石に祭神さんに不利過ぎるので会長判断で新方式の採用が決まった。

その方式とは、四段〜八段までの各段代表1人ずつが低段位から順に対局し、その各段代表の選定は前期(前年度)勝率5割超…つまり前期勝ち越しの棋士達からランダムで決定される事になる。

これで選ばれた代表棋士(試験官=対局相手)は…、

四段→坂梨澄人四段
五段→二ツ塚未来五段
六段→山崎順慶六段
七段→幸田真澄七段
八段→関崎勉八段
となり、5月〜9月まで月1局・最大5局を戦う事になった。

その後の展開…
vs坂梨さん→○
vs二ツ塚君→●
vs山崎さん→○
vs幸田七段→○

となり、最終局を待たずに10月1日付けでのフリークラスプロ四段への編入が決まった。


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去る者と新たな芽吹き

う〜ん、なかなか次のネタが思い付かない…
番外編でも書こうかと思いつつもそのネタすら簡単に思い付かん始末で…

って訳で本編スタート!!


2019年度も早くも3ヶ月が過ぎ、7月に入った。

 

これ迄の主な棋戦結果は…

 

名人戦→僕がフルセットの激戦を制し、名人3連覇を果たす(○○●○●●○)

賢王戦→ここも僕がフルセットでタイトル戦としての初代賢王に輝く(○○●●●○持千○)

棋帝戦→今回は挑決で山刀伐さんに敗れ挑戦ならず

タイトル戦はニ海堂がフルセットで防衛(○●○●○)

非公式戦・フィッシャー団体トーナメントは先回の通り優勝

帝位戦→一度陥落したリーグ戦に即復帰し、リーグ全勝で挑決に進むも歩夢君に敗れ挑戦権獲得ならず。タイトル戦は八一君vs歩夢君の顔合せとなった

 

順位戦はと言うと…

 

前期(第77期)の結果…

 

A級昇級は歩夢君と大原鉄太君

他は…

 

B級2組昇級がC1唯一全勝の八一君と1敗勢最上位の師匠で順位戦でも非常に珍しい師弟同時昇級となった

 

C級1組昇級組は二ツ塚君に鏡洲さん、それと創多がそれぞれ全勝で二ツ塚君以外の2人は1期抜けの快挙となった。尤も二ツ塚君も在籍2期での昇級なので決して遅い訳でもない。

 

一方で平成の時代も4月一杯で終わり、5月1日から新元号『令和』の時代がスタートした。

 

この時代の転換に歩を合わせるかのように現役引退を表明した棋士も…

 

 

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柳原朔太郎九段…

 

名人1期、棋帝7期他タイトル通算13期を誇る大ベテランでA級も通算35期勤めた歴戦の名棋士である。

御年69歳

現在もB級1組に在籍しているけど御本人曰く、

「70過ぎて上で戦う自信もない」

との事でA級再昇級出来なければ今期限りでの引退を明言した。

曾ては十五世名人と鎬を削った往年の名棋士も時の流れには抗えず…か…

 

僕が言えた話では無いのだが老いとは残酷なんだな…

 

 

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全日本将棋連盟会長

十七世名人

月光聖市九段…

 

言わずと知れた『月光流』の異名を持つ大棋士であり、名人9期を始め竜王4期他タイトル通算37期を記録し、永世資格も名人の他に帝位・棋帝を持つ永世三冠と昭和末期から現在に至る迄第一線で活躍し続けた紛う事無き『生ける伝説』である。

更には実績そのものは「名人」には大きく水を開けられているものの、現代将棋の体系をたった1人で創り上げたその比類無き功績はまさに『絶対的オンリーワン』としか表現出来ない戦後最大の伝説に相応しい存在である。

 

しかも20代初期に初めて名人を獲得した直後から原因不明の視力低下に襲われ、やがて30にならずしてその視界は闇に支配され、その暗闇を唯一人20年の余を走り抜けたその不屈の精神こそが彼を彼たらしめる証明そのものである。

 

そんな彼も世代交代の荒波にはこれ以上抗えず、結果不問で今期限りでの引退と会長職専念を発表した。

 

 

 

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女流のレジェンド

『エターナルクイーン』

釈迦堂里奈女流七段

 

女流名跡24連覇始め女流玉将11連覇女流帝位10連覇山城桜花10連覇等女流タイトル通算71期を記録したまさに『永遠』に相応しい『伝説の女王』である。

 

生まれつき先天的疾病により足が不自由であり、そんな中で出逢った将棋に夢中となり、やがて女性の身ながら奨励会入会…しかし奨励会の壁は厚く、程無く退会し女流棋士に転向。

その伝説的大活躍はそこから始まった。

平成初期から「茨姫」・花立薊の台頭までタイトル戦の片側には必ず「釈迦堂里奈」の名が刻まれていた程に「女流と書いて釈迦堂里奈と読む」が合言葉となった程である。

 

一方で指導者としても類稀な才覚を発揮し、女流ながらも例外的に奨励会に弟子を持つ事を認められ、その門下から『ゴッドコルドレン』こと神鍋歩夢八段を送り出し、『不滅の翼』こと岳滅鬼翼女流初段も直弟子である。

 

そんな『エターナルクイーン』も今年初めにあいちゃんに虎の子の女流名跡を奪われた事で遂に第一線から身を退く事を決めたようだ…

 

 

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一方で今期竜王戦6組ランキング戦は例年に無い程若き才能が跋扈しまくり、決勝は神宮寺さんvs冬司となった。

尚、準決勝は神宮寺さんは坂梨さんを破り、冬司は創多に競り勝っての進出だった。

 

その戦型は居飛車穴熊の神宮寺さんに対し、藤井システムで壊しに掛かった冬司の図式であるが、あの『荒獅子』が簡単に『神の子』に主導権を渡す訳もなく暫くは膠着状態が続いたが、両者秒読みに突入したところで神宮寺さんがまさかの選択ミスを犯し、これを見逃さなかった冬司が即詰みに討ち取り、結局6組優勝は冬司となり、本戦トーナメントへ進出した。

 

今期竜王戦ランキング戦優勝者と本戦トーナメント進出者

 

 

◎1組

優勝→後藤正宗九段

2位→桐山零名人

3位→山刀伐尽八段

4位→佐伯宗光九段

5位→「名人」

◎2組

優勝→櫻井岳人八段

2位→清滝鋼介九段

◎3組

優勝→山崎順慶六段

◎4組

優勝→神鍋歩夢八段

◎5組

優勝→鏡洲飛馬六段(五段昇段後、竜王戦ランキング戦連続昇級により六段昇段)

◎6組

優勝→宗谷冬司四段

 

となり、7月始めに鏡洲さんvs冬司の1回戦から本戦がスタートする事となった。

 

 

又、テレビ棋戦の国営公共放送杯では2月の予選で冬司と神宮寺さんは難なく通過、創多も順調に突破し、年間成績で予選免除の鏡洲さんを加え、関西若手(名人・竜王の僕と八一君を除く)が4人本戦進出となった。

 

 

 

そして女性プロ棋士がこの1年で一気に4人も誕生した事から女性棋士限定の非公式戦創設も検討される等将棋界も世代交代と共に大きな地殻変動も予想される…

 

そして僕個人も人として大きな責任を背負う事に予想よりも早くなってしまった…

 




4月…名人戦第1局終了後、京都の供御飯家から話があるとの事で出向いたのだが…

昼過ぎに訪れるとまず風呂を勧められ、入浴後、何故か同行した冬司及び神宮寺さんと一緒にvsしながら少し時間を潰してその後夕餉の席に案内された。

そこには御両親と万智さんが既に鎮座しており、ここで僕も肚を括るしかないと覚悟を決めた。

そして御母様から出た言葉は予想通り
「この度、万智に新たな命が宿りましたぇ。零はん、卒業まで待てなかったのどすか?」
だった…

確かに覚えはある。
竜王戦最終戦で八一君に敗れた後、お互い年内は対局が無かったので四国・九州を10日に渡り「婚前旅行」をして、その中で所謂男女関係を結んだのは事実だ。

だからその事ですべき事を怠ったのは責任を問われても仕方無い。実際その時点ではそうなるとは思わず、その為の準備を丸々しなかったのは完全に僕の落度でしかないからだ。

そしてまず万智さんに聞いた。
「今後、大学はどうするつもりですか?」
と。

答えは
「大学より子どもが優先どす。よって中退という事になるどす。」
だった。

とは云え、万智さんの答えに関わらず僕の回答は決まっていた。

「未だ未熟な若造ですが、人生を共に歩む者として生涯万智さんと子どもを愛し、守っていきます。」

他に何を言えって言うんだ…

けど、僕の懸念は杞憂だったようで、
御母様からは
「零はん、これからも万智を頼みますぇ」
とあっさり許され、
御父様からも
「零君、万智は君に任せた」
と全面的に認められた感じだ。


で、そこからは饗宴となり、将棋界でも指折りの酒豪な神宮寺さんが本領発揮。
供御飯家の使用人達も巻き込んでの大掛かりな酒宴と化し、大半を酔い潰す蛮行に至った…


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黒田工務店盃清華戦

あ〜、もうネタ探しも何もねぇ!!
女流新タイトルぶち込んでやるぅ〜!!
将棋界地殻変動第1歩じゃあ〜!!

って事でこれ迄の女流トップだった銀子ちゃんや祭神さん、天衣ちゃん達が次々とプロ四段棋士になってしまったものだから、女流本体がやや地盤沈下の傾向に陥り、挽回・巻き返しの必要上から新棋戦を創設しましたとさ。

って訳で本編スタート!!


黒田工務店盃清華戦…

 

元々日本最大のゼネコン企業として長きに渡り君臨した黒田工務店…

その二十二代当主にして第十二代社長の黒田如兵衛氏が幼少期からの大の将棋フリークで名門企業の後継者となる立場ながら小学生名人戦に出場して決勝大会のベスト4に進み、奨励会入会する程にのめり込み、中学生にして三段リーグに進む程に将棋漬けとなったのは一族はおろか業界でも今に至る迄語り草となっている程である。

 

そんな黒田社長が月光会長に打診して快諾を得た新棋戦…

 

それが報道・メディア企業以外が主催者・メインスポンサーとなる初の事例となる清華戦である。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

その開催方式は…

 

全ての現役女流棋士と出場申請を行った女性奨励会員に出場権が与えられ、女性プロ棋士は出場不能となる。又、アマチュアでも過去2年以内で女王戦と女流玉座戦で本戦トーナメント進出経験した者にも出場権が与えられる。

よって、組み合わせ抽選当日に既にプロ四段となっていた銀子ちゃんは出場資格が無かった。

 

で、奨励会員からは峠さんに天衣、奨励会二段の登龍花蓮さんと奨励会入会間も無い神鍋馬莉愛ちゃんが申請し、問題なく出場する事となった。

 

 

その対局方式はと言うと、女流タイトルホルダー&奨励会三段は本戦リーグ戦にシードとなり、残りの全参加者が2勝抜け・2敗脱落の勝ち残りでリーグ戦進出となるシステムである。但し、第1期の今回だけはさらに敗者復活トーナメントも行われ、その勝ち残り者もリーグ戦に進出する事となる。

 

これでシード&勝ち残りが8ブロックに分かれリーグ戦を行い、その上位3名・計24名が本戦トーナメントに進む事になる。

 

トーナメントは各ブロック1位が2回戦シードとなり、各ブロック2・3位が1回戦からの出場となる。尚、1回戦は2位同士・3位同士の組み合わせとはならない。

 

で、リーグ戦シードは女流タイトルホルダーからは女流名跡(当時)の釈迦堂さんに女流玉将の月夜見坂さん、山城桜花の万智さんに女流帝位の祭神さんとなり、奨励会三段からは天衣と峠さんが入った。

 

そんな訳で予選通過枠は42となった。

 

 

で、リーグ戦の結果は…

 

Aブロック1位→釈迦堂女流名跡(当時)

Bブロック1位→峠なゆた四段

Cブロック1位→月夜見坂燎女流玉将

Dブロック1位→桐山カタリーナ女流二段

Eブロック1位→供御飯万智山城桜花

Fブロック1位→岳滅鬼翼女流初段

Gブロック1位→夜叉神天衣四段・女流玉座

Hブロック1位→祭神雷女流帝位

 

となり、2・3位通過者も花立さんにあいちゃん、登龍さんから鹿路庭さんと更には歩夢君の妹にして弟子でもある馬莉愛ちゃんと多士済々の顔触れとなった。




さて7月に入り、万智さんの妊娠と僕との入籍が発表され、またまた一騒動となった将棋界…

そんな中、今度は清滝家が大騒動の震源地と化していた。

と言うのも、そこで知らされたのは桂香さん妊娠…
相手は僕の予想に違わず神宮寺さんだったのだが、それを知った師匠の荒れっぷりが予想の遥か斜め上を行ってしまったものだから僕も八一君も師匠を宥めるのにてんやわんやになってしまった訳で…

とは云え、どこぞの馬の骨なんかじゃなく親しい後輩にして愉快な呑み仲間である神宮寺さんだったから大荒れが治まると普通に結婚を認めてたwww

その一方で八一君は銀子ちゃんのマンションに居候していたけど、当の銀子ちゃんが休場するや実家に帰ってしまい、現在は八一君の1人暮らし状態になってしまっている。

かと思えば以前からも関西将棋会館に入り浸っていた月夜見坂さんがいつの間にやら鏡洲さんと付き合い始める等、色々と若手達にも春が訪れてるとか…

そう言えば最近じゃ将棋以外無趣味な冬司ですら週末は神戸に入り浸るとか、天衣に対し思うところがある感じが見受けられるのだがこれはこれで喜ばしい傾向だと思う。

となると、心配なのはニ海堂だ。
アイツは前回でも持病を気にしての事なんだろうが、恋愛の類に一切興味を示していなかった。
今回も今のところそんな傾向が見られないけど、そうなると鍵になるのはあいちゃんか鹿路庭さんか…
本気でアイツにも生涯共に歩む伴侶を見付けて欲しいものだ…


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帝位戦第1局・in札幌(前編)

「りゅうおう」本編じゃ未だ実現してない八一君vs歩夢君のタイトル戦ですが、この作品では何でもありな展開だらけなので、ここで遂にブチ込む事と致しましたwww

って訳で本編スタート!!


梅雨もそろそろ明ける7月上旬、今年も夏の風物詩となる帝位戦が開幕した。

 

今年の七番勝負は帝位の八一君に対し、この半年で玉将失冠とA級昇級と言う地獄と天国の双方を体験した歩夢君が挑む図式となった。

 

で、今回の会場は…

 

北海道・札幌の超名門ホテルで開催される事となり、空路北海道に向かう事となった。

関空発新千歳行きの便に乗り、2時間程度の空の旅を満喫し、新千歳到着は丁度昼時となった。

そして両対局者と立会・副立会、記録係と会長一行はそれぞれハイヤーに分乗して高速に乗って札幌に向かった。

 

一方で観戦と観光目的の僕ら(他に神宮寺さん、ニ海堂、鏡洲さん、月夜見坂さん)は、JRの空港発札幌行きの快速に乗って平日昼の旅路を楽しみ、1時間足らずでホテルに到着。

 

そこからは前夜祭まで時間を持て余すので駅前から大通近辺をグルグル回り、早速北海道土産を買い込んだ。

特に今回は普段なら観戦記者・鵠として一行に同行する万智さんが産休の為、京都から動けないのでお土産には尚更気を遣わなくてはならない。

これは神宮寺さんも似たようなもので、こちらも桂香さんが産休中により、大阪から身動きが取れないので機嫌取りに頭を悩ませていた。

一方の鏡洲さんと月夜見坂さんは早々から北海道の名物グルメに舌鼓を打っており、早速北海道旅行を満喫していたwww

 

さて、残ったニ海堂はと言えば…

札幌に本社を持つ財閥の子会社に出向き、そこの役員(非常勤監査役)としての仕事を行っていた。

前回の人生ではあまりに持病が重篤に近かったから将棋以外はまずそんな類の仕事なんて出来よう筈が無かったのだが、今回は幾分体調も安定気味だったので、非常勤役員レベルの負担が軽めな仕事も兼任出来る様になったらしい。

 

で、今回の立会メンバーは…

 

立会人→生石充九段

副立会人→幸田真澄七段

記録係→登龍花蓮奨励会三段

 

であり、立会人が副立会人より若い異例のメンバーとなっていた。

 

さて、そんな中でも検分は滞りなく完了し、いよいよ前夜祭…

 

会場入りした際に生石さんと軽く会話したのだが生石さん曰く、

「会長め、幾ら俺が連盟の仕事渋ってるからって何だって態々北海道くんだりまで立会やらせやがる!ここ何年か順位戦も綱渡りだっつーのによくもまぁ仕事押し込みやがるもんだ!」

って散々文句垂れてたけど、そんな生石さんの背後に音無く会長と男鹿さんが現れ、

「貴方の立場ならそろそろ或る程度の仕事は担当して貰わなくてはならないのですがね。目の前の桐山名人を御覧なさい、大卒相当の若年で早くも3名もの御弟子さんを手掛け、内2人は既にプロ四段に育て上げているではないですか。本来ならその中で誰か1人は貴方に委ねたいと思っていたのですがね…」

って会長のお小言が始まった…

 

何だかんだ言って生石さんも会長を尊敬してるし、同時にその底知れなさに畏怖もしているから多少バツの悪い顔をしながらも取り敢えずは神妙にお説教を聴いていた。

 

さて、壇上での挨拶であるが、まずは歩夢君…

「明日からの帝位戦、いよいよ我が終生のライバルたるドラゲキンに一撃くれてやらんと武者震いが止まらぬ我が心・我が細胞…、これ迄の我の全てをドラゲキンにぶつけ、勝利の凱歌を勝ち取って見せよう!!」

早くもヒートアップしてるな…

 

一方の八一君は…

「歩…神鍋八段とのタイトル戦番勝負はあの頃…小学生名人戦での激戦から10年…、ずっと思い描いて来た…そして今回、この歴史深い帝位戦で相見える事、光栄に思う所存です。ですので、この帝位戦、全身全霊を尽くし挑戦者をぶちのめし、僕の力を示す所存であります!!」

と、全身全霊の勝利宣言をぶちかましてくれた。

 

これは最初から目の離せない激戦になる事必至だな…

 

 




さて、このところオメデタ話が続出してるけど、僕と万智さんに神宮寺さんと桂香さん、何れも入籍前の妊娠発覚ってお話だったので何やかやと祝われたりお小言を頂いたりとてんやわんやの状況が暫く続いてた。
因みに僕らは万智さんが跡取り娘なので僕が婿入りして戸籍上、「供御飯零」となった。但し、棋士としては変わらず「桐山零」のまま活動している。
一方の神宮寺さんペアは桂香さんが「神宮寺桂香」として嫁入りする事となった。師匠曰く、清滝家の存続は特段気にしていないらしい。桂香さんが不幸にならなければノープロブレムって事の様だ。
で、オメデタではないけど、鏡洲さんも月夜見坂さんと年内には入籍する予定らしい。どうやら坂梨さんの仲介があった模様…

そんな中、誰もが驚愕・ひっくり返るまさかの結婚が発表された。
誰か…と言うと、

なんと、師匠が再婚!!!!
で、お相手は…まさかの釈迦堂さんだった…

これには桂香さんも「本気なの?って言うかそんな気配すら感じてなかったし」と啞然としてたし、釈迦堂さんを尊敬して止まない歩夢君は歩夢君で「マスター、貴女にそのような想いがあったとは…我も修行不足です…」って正気を維持するのに手一杯だったようだ。
そんな近しいだけ近しい2人がこんなだから他は推して知るべし…
僕も八一君も完全に寝水に耳だったし、関西・関東関係なく粗方驚愕を持ってそのニュースを受け止めた…

実のところ、あの会長ですら完全に予想外だったようで、「あの2人が空四段の事でかなり深い親交があったのは承知していましたが、それにしても結婚とは…私もまだまだ足りないようですね…」と感嘆していたそうな…

僕も師匠はもう再婚なんて考えて無かったと思っていたのであの時は咄嗟に言葉が出なかった…
八一君は文字通りひっくり返ってたし、鏡洲さんも最初はガセネタと思ってたようだ。
そんな関西将棋界で唯一泰然としていたのが誰あろう、蔵王先生だった。
「鋼介も一端の男や、娘が女流として独り立ちして今や伴侶も得た以上、今度は己の人生に向き合っても何の不思議もないわい!」
流石だなと改めて思ったものだ…
因みにその席に同席していたのは僕と八一君、鏡洲さん、創多と神宮寺さんだったが早速酒盛りにお付き合い・ご相伴となり、創多だけはウーロン茶で許されたけど(当然だ)、八一君は逃げられず速攻大ジョッキ3杯呑まされて頭クラクラ状態と化し、僕も結婚祝いじゃあ〜って灘の高級酒4合瓶1本丸々呑まされて正気保つので手一杯…
鏡洲さんも用意されてた国産高級ブランデー1本ロックで呑むハメになって顔真っ赤…
神宮寺さんだけは元々やたら内臓が強靱だからか、蔵王先生の煽り挑発にも何処吹く風でガパガパ呑み続け、結局2人だけで1升瓶10本・ウイスキー&ブランデーボトル6本呑み尽くす狂宴となってしまった…


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帝位戦第1局・in札幌(後編)

さてさて年末に入り、今月はあの異次元の天才様のせいでタイトル戦なしの月になってしまったもんで1ファンとしてはどっか中弛みな感じが…

しかし年明けの王将戦は久しぶりに「勝者罰ゲーム」が見られるかも知れないし、楽しみはこれからで…

って訳で本編スタート!!


さて、帝位戦第1局初日当日…

 

直接対局する訳でもないのだが、対局日のルーティンの如くに朝の5時頃に目が覚めた。

 

今回はお1人様なので狭めなシングルルームを宛てがわれていたのだが、矢張り超名門ホテルだけに色々充実していた。

 

そして目覚めのシャワーを浴びた後、6時30分頃に部屋を出て朝食会場に向かい、隣の部屋にいた神宮寺さんと同席して北海道の旬の味覚を存分に味わった。

 

朝から鮭やら帆立等の新鮮な刺身とかイカの塩辛、大量のイクラに石狩鍋等々…腹一杯って程に食べに食べたwww

 

そして9時頃になると検討部屋に入り、八一君と歩夢君の対局を見守る事となった。

 

 

記録係の登龍さんの手で振り駒が行われ、この局の先手は歩夢君に決まり、奇数局は歩夢君、偶数局は八一君となった。

 

さて対局が始まったが、午前中はあまり大きな動きは無く、定跡に沿った指し回しで早くも50手に到達していた。

 

昼食休憩…

 

 

八一君→焼尻島サフォーク羊のジンギスカン鍋御膳+アイスコーヒー

 

歩夢君→伊達鶏の特製親子丼御膳+ホットレモンティー

 

 

をそれぞれ堪能し、一方の僕らはと言えば…

ホテル特製弁当(湧水豚の酢豚に伊達鶏のザンギ、鰊の甘露煮等)を美味しく頂いていた。

 

午後…

 

此処からは少しずつ時間消費を伴いつつ、1手1手慎重な指し回しに終始し、結局初日は91手で終了、封じ手は後手の八一君が書いた。

 

 

その後は対局者はそれぞれルームサービスで夕食を摂り、他方で観戦検討の僕らは、一部はススキノに出向いて夜の遊びを楽しんだようだが僕はそんな気も起きず、ホテル内のレストランで十勝牛ステーキを食べると(万智さんからインスタグラムの依頼があった為)早々に部屋に戻り、翌日の動きを予想しながら1人駒を動かし続けてた…

 

 

そして第1局2日目…

 

朝食を終え、検討部屋に入ると既にニ海堂が座っていた。

因みにニ海堂は昨日は1日中会社の業務に追われ、封じ手近くになってから漸く会場入りしていたので今日は最初から検討する気満々のオーラが早くも醸し出されていた。

 

対局再開…

 

八一君の封じ手は大方の予想通りに開戦の1手で、画面越しからでも早くも熱気ムンムンな雰囲気が伝わっていた。

 

因みに昨日の消費時間は…

 

八一君→3時間39分

 

歩夢君→3時間33分

 

 

この帝位戦は2日制持ち時間8時間なので、お互いまだ半分強程持ち時間が残っていた。

 

が、此処からが真の勝負所となる。

 

そして再開から早くも激しい駒のやり取りが始まり、昼食休憩・2度のおやつの時間を経てもその勢いは衰え知らずのまま、一直線に終盤へ突入した。

 

午後7時30分、まず八一君が秒読みに突入。

しかし其処から僅か10分で歩夢君も秒読みに入り、先の見えない殴り合いに突入した…

 

午後8時20分…八一君の手順に誤りがあり、其処を見逃さなかった歩夢君が詰めて八一君投了…

 

この札幌での緒戦は歩夢君が勝ち取った。

 




黒田工務店盃清華戦本戦トーナメント

ベスト8進出者は…

夜叉神天衣四段・女王・女流玉座
峠なゆた四段
祭神雷四段
神鍋馬莉愛奨励会2級
雛鶴あい女流名跡・女流玉将・女流帝位
花立薊女流五段
岳滅鬼翼女流二段
桐山カタリーナ女流二段

が勝ち進み、
ベスト8以降は1戦毎に組合せ抽選が行われる所謂夏の甲子園方式が将棋界の歴史上初めて採用された。

組合せ…

夜叉神天衣vs岳滅鬼翼
雛鶴あいvs花立薊
祭神雷vs桐山カタリーナ
峠なゆたvs神鍋馬莉愛

と決まり、慣例上、天衣の対局だけは大阪で他は東京での開催となった。

因みに万智さんと桂香さんは産休となった為、桂香さんはリーグ戦3位通過したものの、本戦初戦を不戦敗、万智さんも同じくリーグ戦をトップ通過したけど初戦の2回戦を不戦敗となっていた。

で、準々決勝…ベスト4進出者は…

夜叉神天衣
雛鶴あい
桐山カタリーナ
神鍋馬莉愛

の4名となり、全員未成年どころか義務教育ド真ん中の最年少陣容と相成った(リーナは中1、他3名は小6)。

準決勝組合せは…

夜叉神天衣vs神鍋馬莉愛
雛鶴あいvs桐山カタリーナ

となり、勝ち上がったのは…天衣とあいちゃんだった。


決勝戦五番勝負

第1局…神戸市・神戸異人館ホテル
第2局…石川県・和倉温泉・旅館「ひな鶴」
第3局…北海道・湯の川温泉・箱館グランドホテル
第4局…大分県・別府温泉・旅館「豊後別邸」
第5局…横浜市・中華街・「白楽天」

が会場となり、1日制持ち時間5時間での戦いとなった。

第1局の先手は天衣が握り、あいちゃんの終盤力を封じる形で快勝。
続く第2局では地元開催のあいちゃんが巻き返しタイに持ち込むが、その後の第3局・第4局を天衣が連勝した事で結局天衣が3勝1敗で初代清華に輝いた。



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秋に向けて

ん〜、中々次のネタが出て来ない…
どーしましょ〜…って感じで…

って訳で本編スタート!!


平成が終わり、令和となって早5ヶ月…

今年も年度半分が過ぎようとしていた。

 

恒例の三段リーグも前期が終わり、今回は幸田柾近さん含む2名が新四段に昇段し、新たにプロの仲間入りをした。

幸田さん…前回では僕を引き取った義父にして師匠でもあった人なんだけど、どうやら前回の記憶は保存されない状態でこの世界に転生したようだ…

そもそもが僕より若いって凄い変化なんだけど…

まぁ冬司に健司君、隈倉君からして前回と年齢が僕と逆転してるからあるっちゃあるって話なんだけどそれにしてもな…

で、幸田さんと同門には後藤さんが居るのだが、こちらも前回とは逆に今度は後藤さんの方が兄弟子となっていた。

ってか、幸田さんのプロフィール見ると双子の妹弟が居り、その姉弟が香子・歩って…

完全にあの姉弟だろ…以前の僕に何かと突っ掛って来た香子義姉さんと義姉さん同様義父に奨励会辞めさせられて引篭になった義弟の歩…

今回も奨励会にいるが香子さんは初段、歩も1級で幸田さんより4歳下の中学3年なので前回よりはまだ希望があるようだ。とは云え、此処からが大変なのだが…

 

そんな中、珍しく後藤さんから誘いがあり、東京の後藤さん宅で研究会を行う運びとなった。

そう言えば後藤さんも前回の記憶が保存されない状態での転生と思われるが、これはこのままでもいいと思う…

何せ前回の因縁があまりにも…だからな…

 

で、土日なので僕も弟子3人連れて上京、後藤さん宅に着くと出迎えたのは後藤さん本人に奥さん、お嬢さんに今や後藤家の家族になってた祭神さんばかりじゃなく、幸田さん兄弟までも加わっていた。

 

となると、総勢9人と幾分多めの研究会となるが、そこはプロと奨励会員、女流で駒落ち・二面指しも織り込んでの2日間の長丁場の熱気溢れる有意義な研究会となった。

 

因みにこのメンバーで唯一の女流だったリーナも夏に奨励会入会試験を受け、この秋から晴れて奨励会5級として正式にプロを狙う事となった。

 

又、冬司の活躍も止まる事を知らずやたらと勝ち進み、新人戦では決勝三番勝負で神宮寺さんとの対局が決まっており、更に竜王戦では本戦トーナメントで限度知らずの大暴れを見せ、1回戦鏡洲さん、2回戦歩夢君、3回戦「名人」、4回戦佐伯さんと次々と若手強豪からベテランのA級タイトルホルダークラスすらも難なく突破とかあの時の僕でも…あ、僕も一発回答で挑戦まで行ってたな…

それはそれとして、準決勝で当たったのが1組優勝の後藤さんであり、その対局もまた午後のおやつタイムが過ぎた頃から後藤さんの顔が段々険しくなり、傍目からも「このクソガキがなんて手指しやがる…桐山なんてもんじゃねぇだろ…」って表情になっていたな…

で、此処も勝ち上がり、挑決は僕との師弟対局となり、見事に恩返しされ、竜王挑戦者は冬司に決定した(冬司の●○○)。

 

まぁ冬司の実力が完全に解放されていれば何の不思議もない結果ではあるがまだ9歳、幾ら記憶を保持して転生したとは云え、未だ実力の蓋が解放し切れていないのは明らかな中でのこの結果は驚異としか言えない。

 

又、天衣はと云うと、今年の棋士総会で決まった「女性奨励会員がプロ四段に昇段した際、同時に女流棋士資格も付与する」新規定を行使し、プロと女流を兼任する事となった。

一方で銀子ちゃんと峠さんは行使せず、プロ一本を選択。祭神さんは元々女流に飽きてたからプロ入りと同時に女流資格とタイトル(女流帝位)を返上、こちらもプロ一本で戦う事となった。

 

他のタイトル戦線はと言うと、帝位戦では八一君がライバルの歩夢君に敗れ、また竜王1つに逆戻り…(●●○○●○●)

これで関東もニ海堂と歩夢君の2人が現役タイトルホルダーとなり、人数では東西並列となった。数は僕が取りまくってるせいで6vs2と関西優勢だけど…

 

で、僕の持つタイトルの中で初参戦以来唯一保持を続けてる玉座戦(現在11連覇中)の今期挑戦者は…まさかの師匠・清滝鋼介九段となり、5年振りの師弟タイトル戦(名人戦以来)と相成った。

それにしても『清滝道場』開設以来の師匠の充実振りは並大抵ではない。この直後こそそれ迄の負けが嵩んだ影響でC1に陥落したけど、そこから1期でB2に即復帰、今期も八一君と共に開幕4連勝と、とても50過ぎとは思えない活躍振りだ。

竜王戦でも暫く2組に滞在してたけど、今期は2組準優勝で本戦進出、本戦でも1勝し、4回戦で僕と当たり、千日手指し直しの末、日付が変わった午前1時30分頃にやっと終局となる激闘を繰り広げ、来期は1組復帰となっていた。

玉座戦でも1次予選からの出場で本戦進出、1回戦は前期挑戦者で苦手な生石さんと早速当たったが、生石さん得意の捌きの発動さえ巧く利用して攻略、苦虫噛み潰して投了した生石さんの表情が印象的に映った程だ。

2回戦は於鬼頭さんを完封、準決勝でも鏡洲さんをぶちのめし、挑決の相手は…何と八一君で、普通なら八一君優勢と考えられるのだが此処も大局観を巧みに使い、結局夕食休憩直後に八一君が投了、見事に挑戦権を摑み取った。

 

兎も角もどうにも刺激的な秋になりそうだ。




今期も半年が過ぎ、折り返しとなる10月1日…

新たな命がこの世に現れた…

僕と万智さんの子供…それも双子の女の子…

で、早速抱き上げるとかの父親としての最初の行動をしたりとなんだかんだとてんやわんやしながらもこなしていたが、命名をどうするか…となり、これは事前に既に絞ってあったのでそこから選んだ名前となった。
姉は「万央」、妹は「万実」と何れも万智さんから1字を取った名前となった。


そして同日、桂香さんも神宮寺さんとの子供を出産、こちらは男の子で命名も桂香さんの名が将棋に因んでいるのでそれを踏襲した名前となり、「将馬」と名付けられた。これは祖父となった師匠も喜んでおり、「将来の将馬は儂の弟子にして名人にしたるわぁ〜っ!!」と吠えて「待てぇ〜っ!!俺の息子なんだから師匠は俺しかねぇだろうが!!」と神宮寺さんに吠え返され、結局2人して病室から看護師さんにつまみ出される始末となったようだ…
勿論この顚末を聞いた桂香さんから揃ってヤキが入ったのは言うまでもない…
どうやら神宮寺家はどこぞのオレ流三冠王夫婦みたいなカカア天下の流れらしい…
因みに桂香さんがガチ怒りになると普段は出ない関西弁になるのだがここでも炸裂し、
「このヒゲ親父に馬鹿獅子が(怒)!病院じゃお静かにって意味理解しとらんやろ(怒)!お前らこれから酒禁止や!異論は許さんで!!」とまくし立てたようだ。
それでも酒禁止は堪えるのでそれだけはどうにか撤回して貰えたようだが少なくとも神宮寺さんの立場が幾らか弱まったのは確実だ。

まぁ僕も婿養子の立場だからあまり強くはないのだが…

一方で、これ迄浮いた話がまるで無かった(前回でも無かった)ニ海堂にもどうやら遅めの春が訪れたようで、お相手は…鹿路庭さんだった。
元々山刀伐さんとの関わりで交流自体はあったのだが、鹿路庭さんは女流棋士としての力よりもそのルックスと万智さんを超え、桂香さんと対になるレベルの豊満な胸…だけが話題となる本人的には甚だ不本意な評価が罷り通っていたのだが、その将棋に対する真摯な姿勢はニ海堂曰くその出会いの当初から認められる物だったと言う。
なので、この交際が明るみとなると一部のアンチとかからは、
「財閥御曹司を色仕掛で引っ掛けた」とか、「財力で女を引き込んだ」等の誹謗中傷がネットやら2ちゃん等で流されまくってたけど(僕も万智さんとの交際の際には似たような事になっていた)これに対し、毅然と法に訴え、裁判を起こしたのは凄いと思う。
僕と万智さんの場合は事実無根を書いたゴシップ誌だけに留まったから一般人相手にまで責任を問うのは余程の証拠と覚悟が必要なのは言うまでもない。
結局殆どが和解金支払いで決着となったようだが、このペアも大概ヤバいと思う…


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竜王戦第1局・inパリ

さてさて、この世界の竜王戦も最早常識外れが罷り通る様相となりましたが、齢9歳の挑戦者…
如何にロリショタに弱い八一君でも冬司君は別の生き物に感じられるようで…

って訳で本編スタート!!


今年も秋の一大イベント・竜王戦の季節が来た。

 

今期の七番勝負は…

 

竜王・九頭竜八一竜王(九段・3連覇中)

    vs

挑戦者・宗谷冬司七段(竜王挑戦により昇段)

 

となり、史上初の年齢1桁の挑戦者にタイトルホルダーも10代だから合計でも30歳以下となる前代未聞の番勝負となった。

 

で、第1局は通常の能楽堂ではなく、何とフランス・パリでの開催となった。

 

今回の主な渡航者は…

 

竜王・八一君

挑戦者・冬司

 

立会人→「名人」

副立会人→鏡洲飛馬六段

記録係→坂梨澄人四段

 

現地大盤解説

解説→神鍋歩夢帝位

聞き手→月夜見坂燎女流四段

 

他関係者

月光聖市連盟会長

男鹿ささり連盟職員(女流初段)

桐山零名人

ニ海堂晴信棋帝

空銀子四段

等…

 

となり、関西チームは新大阪から東京、その後成田行きに乗り換え、成田空港で現地集合の関東チームと合流。

そこからパリ直行便に乗り、半日近い旅路で現地入りとなった。

 

これ迄海外開催では何度か対局したり観戦したりしていたのだがパリもまた異なる趣があり、感動ものだった。

 

そしてシャンゼリゼ通りだの凱旋門だのと名所を歩き回っていたのだが、そこで耳にしたのは何故か「ウマ娘レース」の最高峰の1つである『凱旋門賞』での日本のウマ娘の活躍だったのは流石に驚いた。

なんでも「ディープインパクト」さんって日本どころか世界でも規格外のウマ娘がその世界の度肝を抜く圧巻の爆発を見せ付けたとか…

僕の存在が無かったら間違い無く東京のトレセン学園に行っていた筈のリーナがどう思ったのか帰国したら聞いてみようと思った。

 

閑話休題…

 

さて、前夜祭も恙無く終わり、いよいよ明日から第1局の開幕となる。

 

その第1局初日…

 

振り駒で先手は冬司と決まった。

 

1手目はオーソドックスに指した冬司、続く八一君の2手目は得意の「後手番一手損角換わり」を選択。

初日はやや守りに手数を割き、静かに推移した。

封じ手は八一君となり、初日を終えた。

 

そして2日目…

 

その封じ手からが開戦となり、たちまち激しい駒のやり取りが始まった。

次第に熱を帯びる八一君…

それに対し淡々と指し続ける冬司…

 

さながら炎と氷の対比であり、それでもお互い中々均衡を破れず我慢の時が続いた…

 

そして夕刻に入る頃、冬司の1手が失着となった。

これは観戦していた僕もそれが指された瞬間、不快な痺れが身体を走った感覚に襲われ、「疲労が来たか…」と思わざるを得なかった。

以前の竜王初挑戦での僕の失着と極めて近かったからだ。

以降は八一君が着実にリードを広げ、結局110手を以て冬司が投了、緒戦は八一君が取った。

 

その後は第2局と第4局で2勝を返したものの、結局第6局・4勝2敗で八一君が4連覇、冬司は初挑戦初タイトルは成らなかった。

 

 

 




竜王戦第1局から数日前に遡る玉座戦第3局前々日の事…

此処まで僕が連勝し早くもリーチを掛けていたのだが、対局前にも関わらず師匠が僕を呼び出して自然と酒盛りとなっていた。

「零、対局直前のこんな時に態々呼び出して済まんが何としても此処で一杯傾けたくてな…」
って師匠から切り出した…
僕も
「まぁ時が時だから勘弁してくれって言いたいですけど、此処だからこそ話したい事もあるんですよね。」
って軽く応対した。
「ああ、幾つか話さなならんのがあるんやが、1つ目が里奈ちゃんとの結婚や。元々女房が死んで儂が男手1つで桂香を育てたんは零も知っとるな。で、その桂香が高校の時分にお前を引き取り、その後も銀子、八一と続け様に入門させて桂香にはさせんでもいい面倒を掛けまくった訳やが…、ってお前を引き取ったんは桂香も同意の上や。あんな獣どもの玩具なんざ一揮も妹も望む訳あらへんからな。けど桂香からすれば遊びたい年頃で子ども達の親代りになっとった訳で色々思う所もあった筈や。そこは儂も申し訳無いと今でも思っとる。そこで里奈ちゃんや。元々銀子が病弱なんはお前も熟知しとるな。で、銀子に何かあると儂は桂香より先に里奈ちゃんに相談したもんや。彼女に結婚歴も無くましてや子どもも居ない中でな…。」
って一息に話すと感情を抑え切れ無かったのか、一呼吸置いてからグラス一杯なみなみの日本酒を一気にあおり、溜息をついた。

その相談の電話・ケータイは僕もそれなりに目にしていたのでそれ自体はそこ迄奇異には感じていなかったし、桂香さんも理解していたようなのでそこ迄桂香さんに気後れする必要はないとは思ったのだが…

「で、お前がプロ・タイトルホルダー・名人と駆け上がり、八一もプロ1年で竜王、銀子は銀子で女王やら女子初の三段になったりで益々里奈ちゃんへの相談頻度が増えた訳や。尤も儂も里奈ちゃんから神鍋君での相談事や岳滅鬼君についての今後なんかの相談も受けた訳やが。で、お前は万智ちゃんと一緒になり、銀子も今は療養中やが八一と一緒は確定しとる。桂香も既に崇徳君と一緒になって皆纏った訳や。それで何とはなしに里奈ちゃんに今後どうする気や?と問うたんやが、向こうも神鍋君が既にA級タイトルホルダーになっとって十分に一人前になっとるし、岳滅鬼君も女流からプロへの再起を図って新たな充実期に入っとる。そんなこんなで里奈ちゃんもデザイナー以外じゃなんのかんのと手が空いてるんで逆に相談持ち掛けられたんや。」

成程…

「子どもが巣立った親がその穴をどうにかして埋めるみたいな心境からですか。」

と、僕もグラスなみなみの日本酒をあおり、師匠に返した。

「ま、それは否定出来んな。実際零も八一も儂を遥かに超えて複数のタイトルを取って零に至っては十九世名人や。それに病弱な銀子も八一との結婚が確定しとるし、その八一も3〜4年後にはお前の名人に挑む未来が見えとる。ま、儂もまだまだ名人を諦めた訳やないが現実を無視する訳にもいかん。まだ健司もおるが儂も里奈ちゃんも取り敢えず一区切りついたようなもんや。それで別居婚で差し支えないならって事でお互い納得尽くで籍入れた訳や。」

あれだけ若作りな釈迦堂さんも歩夢君の成長には思う所があったって事か…
子どもが手を離れた親…20年先には僕も同じ立場になると思うと聞き流せない話ではあるな…

そして会場入り前日にも関わらず僕らは閉店間際までひたすら酒を酌み交わしていた。

肝心の対局はと言うと、結論・僕の3連勝で玉座12連覇となった。


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玉将戦本戦リーグ戦

今期出場者

1位→神鍋歩夢帝位(前玉将)
2位→九頭竜八一竜王
3位→ニ海堂晴信棋帝
4位→山刀伐尽八段
5位(予選通過者)椚創多六段
5位(同)神宮寺崇徳五段
5位(同)宗谷冬司七段

の組合せとなり、山刀伐さん以外全員20代以下の若手だらけの新世代リーグ戦となった。

結果…

挑戦者→神宮寺崇徳六段(タイトル挑戦により昇段)
2位→宗谷冬司七段
3位→九頭竜八一竜王
4位→ニ海堂晴信棋帝
5位→神鍋歩夢帝位(陥落)
6位→椚創多六段(陥落)
7位→山刀伐尽八段(陥落)

となり、僕に挑むのは神宮寺さんとなった。


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盤王戦ベスト4…


九頭竜八一竜王
山刀伐尽八段
神宮寺崇徳六段
宗谷冬司七段

準決勝
○山刀伐−九頭竜●
○宗谷−神宮寺●
決勝
○宗谷−山刀伐●
敗者復活1回戦
○神宮寺−九頭竜●
敗者復活2回戦
○神宮寺−山刀伐●

挑戦者決定戦
第1局
○神宮寺−宗谷●
第2局
○宗谷−神宮寺●

結果…

冬司が竜王戦に続き、2度目のタイトル挑戦を決めた。
今回の人生では初の顔合せとなる。

前回では名人戦、獅子王戦等10回以上も戦ったが、今回は年齢立場から逆転しての戦いとなり、どうなるものやら皆目不明である…



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年の瀬・正月

う〜ん…ネタが枯渇しつつあるこの頃…
何処まで暴走していいものやら絶賛迷走中…

って訳で本編スタート!!


大晦日…

 

福島の一軒家での最後の年越しを迎えた…

 

と言うのも万智さんと結婚し、子どもも儲けた事で次の春から京都の供御飯家近隣の高層マンションに移る事となったからだ。

これには紆余曲折あり、殊に冬司が最後まで猛烈に抵抗したのだが何とか説得し、合鍵を渡して出入り自由とする事でどうにか決着を着けた。

一方でリーナは追い出されるかと不安に思ってたようだけど、万智さんと話し合った上でマンション同居で話がついた。

供御飯家の部屋住み逆戻りの冬司は兎に角不満タラタラだったけど、生活そのものは寧ろ安定するのだからそこまで心配する事は無かろうとは思うが…

 

で、もう1人の居候だった神宮寺さんはと言うと、あのアパートが夜叉神グループ傘下の不動産屋によって分譲マンションに生まれ変わり、その優先購入権を持っていたので早速買い取って桂香さんとの新居として移り住んだ。

尚、八一君もそれに合わせ、銀子ちゃんのワンルームマンションから同時期に移り住む事となった。

 

で、暫く休場・療養中だった銀子ちゃんだけど状況は良好らしく、次の竜王戦6組ランキング戦からの戦線復帰が決まっていた。

なので銀子ちゃんもワンルームマンションは引き払い、今後は分譲マンションで八一君と正式に同棲の運びとなった。

 

 

 

そして福島での最後の年越し蕎麦を夕刻に早速頂き、その後は除夜の鐘をBGMに冬司、神宮寺さん、リーナ、八一君、銀子ちゃんと相手を変えながらひたすらvsで指し続けた…

その中で僕、神宮寺さん、八一君は酒を入れながらではあったけど…

 

 

 

そして元旦…、最後の片付けを済ませ、引き渡しの準備を終え、一度鍵を掛けて8年弱住み慣れた家を去る事となった。

 

 

銀子ちゃん八一君ペアと神宮寺さんは真っ直ぐにマンションに向かい、僕らは迎えの車に乗り、京都に出発した。

 

 

で、昼過ぎに供御飯邸に到着し、まずは御両親に挨拶。

そこから僕は単独で万智さんの私室に案内され、万智さんと生後3ヶ月の双子の娘、万央・万実と水入らずの家族対面となった。

 

一方で冬司とリーナは冬司の私室で暫く同居となり、3月末になってからリーナが僕らと同居の流れとなり、冬司はそのまま供御飯家に居付く事になった。

 

 

 

そして正月3日、福島のマンションを訪れ神宮寺さんの家にお邪魔し、桂香さんとの子どもの将馬君と初対面した。

なんとなく神宮寺さんとソックリな気がし、親子だなぁと思ったものだ。

 

続いて八一君の家に行くと出迎えは兎も角、お茶を淹れたのが銀子ちゃんだったのには流石に面食らった。

僕の知る銀子ちゃんって元々世話を焼かれる方であり、自分からそそくさと世話をするイメージが無かったからな。

これは休場中に自覚が湧いたか、親御さんから教えられたか、何にせよ妻となる心得を叩き込んだのは確実だ。

 

そこに正月挨拶に万智さんの妹弟子の貞任綾乃ちゃんと八一君の「およめたん」のシャルロット・イゾアールちゃんが訪れ、八一君たちまちメロメロ…

あ〜あ、正月早々から銀子ちゃんの頭に鬼の角が生えちゃったよ…

僕は責任持てません。

八一君、自分で何とかしなよ。

 

シャルロットちゃんも無意識に銀子ちゃんを煽らないように…っても本人無自覚だから言うだけムリか…

 




正月と云えば…

恒例の指し初め式があるのだが今回は東西とも小学生棋士が存在する為、まずは彼らがクローズアップされる流れとなっていた。
僕ら関西は昇段順から冬司・天衣となり、一方の関東では隈倉君が該当する。

その盤前には多数の奨励会員と研修会員に数多の招待客が今か今かと待ち構えていたけど、一方で一定の実績を持つ僕らにはそこまで集まらなかったように思う…
それでも振り飛車党のカリスマ・生石さんやロr少年少女から妙な人気がある八一君にはそこそこ集まったのだが、僕はと云うと何故だか妙に遠巻きにされてる感じでそこは少し不満はあった…

そして指し初めが終わるとこれも恒例の酒盛りとなるのだが、引退してもまだまだ壮健な蔵王先生を筆頭に師匠から生石さんから久留野さん、鏡洲さん、僕に神宮寺さんと更に今回は八一君も強制参加させられていた。
勿論尋常に進む筈は無く、早速師匠がヘロヘロになって盛大に戻して若手会員のお世話になるのはお決まりのパターンで、更には生石さんも正体不明レベルの脳内遊泳状態と化し、平然と付き合っているのは最早神宮寺さんだけの黄金の酔い潰し祭りになってしまっていた…
僕も鏡洲さんも久留野さんも一旦トイレに駆け込んで出す物出して辛うじて戦列復帰の有様だし、本格デビューの八一君だとトイレに駆け込んで出した後はお茶類で何とか生きてる感じで…

それでもどうにか終わりそうだと思ったのだが…、懲りずに今年も来たよ、あの銃●法違反の痴女が…
御存知シューマイ先生である。
恒例の一升瓶を片手に、もう一方の手には日本刀を持って振り回す正月荒しは健在で…
そして銀子ちゃんを見つけるや、
「銀子、お前今年こそ八一と●●●したのか?」とか剥きつけに露骨な台詞吐いてるよ…
けど今回は銀子ちゃん沈黙…
それを肯定と取ったシューマイ先生、
「そうか、お前も遂に女になったのだなwww」
って何故か御満悦…

そんな訳でこの後は珍しくシューマイ先生、日本刀を鞘に収め、休憩中の八一君を引き摺って酒盛りに嬉々として参加していた。

それでもあのシューマイ先生だから何とも油断禁物ではあったが。


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銀子の意外なルーツ(前編)

原作でのとある謎…

於鬼頭曜が八一君に語った自身の実子のお話…

今回はこの事について、原作無視って言うか、最早崩壊覚悟の超絶解釈で展開致します。

尚、原作の今後の展開が異なってもこの物語ではこれで押し通しますので悪しからず。

って訳で本編スタート!!


2020年3月末…

 

今年度も第78期順位戦が無事終わり、それぞれの結果が出た。

 

まずはA級…

名人たる僕への挑戦者は…、

 

8勝1敗同士でのプレーオフの結果、ニ海堂を破った歩夢君がプロ入りからストレートで名人初挑戦を決めた。

デビュー時期の関係上、僕より半年早い名人挑戦となる最短記録を叩き出した訳で、この名人戦の注目度もハンパない事になるのは異論を待たない。

 

で、一方で、今期限りでの現役引退を公表していた月光会長はと言うと…、

今期は苦戦一方で結果、2勝7敗となり、A級陥落が決まるや否や正式に引退を発表し、消化すべき残りの対局も3月一杯で終了とし、4月からは会長専任になる事を改めて伝えた。

 

かと思ったら何を思ったか、その3月中旬に今度は『名人』が2年続けて名人挑戦権を逃した事と、更には去年「盤王」を失冠し無冠が続いた事で変に達観したらしく、こちらもA級残留しながら迷い無く引退を発表していた。

 

そんな訳で今期はA級からの陥落者は居らず、B級1組からの昇級者2名が新たにA級に参戦する事となった。

 

1位(次期A級9位)櫻井岳人八段

2位(次期A級10位)久留野義経八段

が次期からA級で戦う事となった。

 

 

以下は…、

 

B級1組昇級

九頭竜八一竜王(九段・初昇級)

清滝鋼介九段(復帰昇級)

 

B級2組昇級

鏡洲飛馬六段(初昇級)

椚創多六段(初昇級)

 

C級1組昇級

神宮寺崇徳六段(初昇級)

宗谷冬司七段(初昇級)

隈倉健吾新五段(初昇級)

夜叉神天衣新五段(初昇級)

 

が4月から昇級となった。

 

今期は昇級組全員(B級2組以下)が全て10戦全勝で突破しており、特にC級2組では通常の3枠無視の4人全勝を記録した事で、前代未聞の4人昇級と相成った。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

一方で、年度末のタイトル戦線はと言うと…

 

 

・玉将戦

僕vs神宮寺さん

 

結果は…

 

僕(○○●●●○○)神宮寺さん

となり、辛くも僕の防衛となった。

 

 

・盤王戦

僕vs冬司

 

結果は…

 

僕(●●○○○)冬司

のフルセットで辛うじて防衛に成功…

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

そんな3月の終わり…

 

突如師匠から呼び出しがあり、野田の師匠宅を訪れた。

 

 

関係者も招集するように言われたので万智に冬司、天衣とリーナを連れて来たのだが、来るや即道場で待機するよう指示された。

八一君も東京からあいちゃんを呼んでおり既に待機していて、更に神宮寺さんも桂香さんの旦那さんの立場で待機していた。健司君も座っていた。

 

そして師匠が現れると同時に桂香さんと更に誰もが想定外だった於鬼頭さんまでもが道場に顔を見せた。

 

 

…、この中で唯一顔を見せてない人物がいるのだが…

 

 

 

銀子ちゃん…何故居ない?

 

 

 

 

 

 

そんな不可思議な沈黙の中、まず師匠が口を開いた。

「皆不審に思っとるやろが銀子がこの場に居らんのは今あいつを呼んではアカンかったからや。後は於鬼頭君が話してくれる。」

 

何か嫌な、若しくは危うい話になる予感しかなかった…

 

 

そして口を開いた於鬼頭さん…

 

「結論から先に申し上げるが、空銀子は私の実の娘だ。以前からこの事実を承知していたのは清滝さんと月光会長、他は釈迦堂クイーン四冠だけで、私の口から公表するのは君たちが初めてだ。但し私自身、この事実を知ったのはある挫折から低迷していた時期であり、その時は既に銀子は空家に養子縁組された後な上、清滝一門の家族となっていたので外から眺めるしかなかった。そもそもが当時交際していた女性が私に妊娠の事実を告げずに一方的に別れ、出産していたので私にはどうにもならなかった。」

 

と一息に告げ、桂香さんから水を受け取り一気に飲み干した。

 

そして僕から師匠に問うた。

「師匠は何故於鬼頭さんから告げられたんですか?」

 

これに師匠は、

「そうやな。まずその前提として、於鬼頭君がAI相手に初めて負けたA級棋士だったいう事や。その後の何年かは文字通り不振低迷に喘いでおった。で、ある時、そんな何もかもに絶望して自らその命脈を断ち切らんとした。幸い発見が早かったから後遺症も無く棋士復帰が出来た訳やがこれ以降の於鬼頭君の棋風が激変したのは誰もが知る所や。」

と答えた。

 

一旦水を飲んだ師匠…

 

そこから先の話は更に超絶過激な代物だった…

 

 

 




このお話は2回に分けます…。

1回で書き切るにはなかなか疲れるので…


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銀子の意外なルーツ(中編)

銀子ちゃんのお父さんが於鬼頭さん?!

…ってお話からして既にブッ飛んでる展開なんですが、更にヤバい話にも踏み込む流れで…

って訳で本編スタート!!


師匠の話が続く…

 

「それで於鬼頭君の元彼女の事やがあの女、銀子を産むや即座に放棄して暫く病院で面倒見とったんやけど、偶々双方不妊体質の夫婦がそこの院長と知り合いで話を聞くや即養子縁組を決めて空家に入った訳や。

で、銀子を内弟子に引き取る際に空の御両親から実父は不明・実母は連絡取れずで等の事情も伝えられたから実父が於鬼頭君である以外はこの時点で儂はほぼ知っとった」

 

ここで一旦言葉を切った師匠…

 

「私もある程度の事情は父から聞かされていたけど、於鬼頭先生との関係までは今初めて知ったわ…」

と桂香さん。

 

「僕も銀子ちゃんの病気・虚弱体質は予め聞かされていたけど、それ以外は初耳ですね…」

と僕…

 

「え?予め何も知らなかったの俺だけ?!」

と若干テンパり気味な八一君…

けど、その八一君が於鬼頭さんに、

 

「於鬼頭さん、一昨年の帝位戦後の子供の話ってそれだったんですか!ならもう少し踏み込んで欲しかったですよ!」

と、やや責めるかのように話していた。

 

どうやら別方面で何らかの話を聞かされていたようだ…

 

 

「か〜っ、とっつぁんに呼ばれたから何の話かと思ったら、中々にヘビーみてぇな話だな。けど、これでお終いじゃねぇんだろ?」

と神宮寺さん。

 

「銀子ちゃんがやたら強いんは清滝一門の影響力が大やと思っとったけど、血筋の影響も入っとったとは…これはこれで驚きやわ」

とは万智。

 

一方で直弟子最年少の健司君は、

 

「こんな重い話、僕ら子どもが聞いていいものなんですか?」

と師匠と於鬼頭さんに問うた。

 

「銀子の事だけなら桂香、零、八一だけで済ませた所やが、もう1つの問題…、銀子の実の母親の事や。これがまた中々に厄介なもんでな。於鬼頭君に来て貰ったのもその事があったからや」

と答えたのは師匠だった。

 

 

その銀子ちゃんの実の母親と言うのが…

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

〜回想・by於鬼頭曜〜

 

私が奨励会に入ったのは中学1年、生石・山刀伐達の1年後だった…

山刀伐とは同い年で生石は1歳下だが、将棋界では奨励会入会時期での先輩後輩関係が優先されるので当時は同年代の彼らにも敬語で話さなくてはならなかった。

まぁそれは些細な事で、逆に私よりも年長の後輩も存在していたから特段気にする程でも無かった…

 

 

肝心の例会での成績はと言うと…

 

近年の桐山君・宗谷君のような化け物クラスは別だが、それでも人並みよりかは幾分早めのペースで昇級昇段を重ね、中学卒業目前で早くも三段に昇り、予想よりも早くに三段リーグに参加する事となった。

 

そしてその頃に世話になっていた風張先生…

師匠でもなく同門でもなかったのだが何故か気に入られ、時折研究会に誘われて参加させて貰っていた良き先輩だった。

現在は坂梨君、月夜見坂君達の師匠としての顔を持ちながらも未だに現役として奮闘している尊敬すべき人だ…

 

 

 

 

その風張先生の研究会に私と共に参加していたのがその人物…

 

 

 

三瀬法子女流二冠(女流玉将・女流帝位)だった。

 

 

 

初めて顔を合わせた印象は、情熱的…な感じを遥かに越えた執心・執着の塊としか映らなかった。

 

 

以降、時折開かれる研究会で顔を合わせては只ひたすらに指しまくる日々を過ごし、いつしか彼女に惹かれていった…

 

どうやら彼女も私に対し何処と無く興味を示したようで、そのうち2人だけでのvsを彼女の住んでたアパートで行ったり、流石にお泊りはしなかったが夕食を一緒に摂る等次第に関係が深まっていった…

 

そして三段リーグ2年目・3期目で15勝を挙げ、高校2年の半ばで堂々の1位でプロ入りを決めた。尚、プロ入り同期は生石で彼の成績は14勝…、結局直接対決での勝敗が順位を左右する結末となった。

 

そして、その頃から彼女の私への態度が急に余所余所しくなり、話しかけようとしても巧妙に逃げられる日々が暫く続いた。

そんなこんなで1年以上まともに会話の機会すら掴めなかったのだが、高校卒業式の日の午後に漸く彼女と話し合える機会が出来た…

 

彼女曰く、私が早くにプロ四段を決めた事でこれ迄の姉貴面先輩面が何もかも壊れるのを恐れた結果が素っ気なく相手にしない方向に走るという物だったようだ…

 

私が、

「別にそんなネガティブに思わなくても問題ありませんし、そもそも私が貴女にどれだけ助けられたか、救われたか、私には貴女への感謝の方が強いと言うのだけは認識して下さい」

とこれ迄の感謝を話すと、彼女は、

「そっか…、アンタみたいな優秀で将来性も高い男が女流トップで燻ってるアタシなんかにここ迄敬意をぶつけてくれるんだ…」

と、何処か感慨深そうに答えてくれた。

 

もう此処しかチャンスが無いと直感した私が、

「三…法子さん、私は風張研究会で初めて会った時から貴女に惹かれていました。年齢も実績も未だ途上ですが、貴女さえ異存が無ければ末永くお付き合い致したく存じます。」

と一気呵成に告白すると…

 

 

 

「ホントアタシみたいな偏狂的・偏執的将棋狂なんかでいいの?なんなら一寸変わり者でも釈迦堂の方がまだ取っ付き易いし、見掛けが映える女流なんかそこらにゾロゾロ…アンタなら女流じゃなくても選り取り見取りでしょ?それでもアタシに告るってアンタも大概ネジ飛んでるわね(微笑)」

と微笑しながら私の告白を受け入れてくれた。

 

 

只、彼女は釈迦堂里奈女流二冠(女流名跡・山城桜花)と並ぶ女流二強の一角を占めており、一方の私は順位戦で生石と共にC級2組を1期抜け(共に全勝)したばかりのソコソコの期待株の立場だったので公にする訳にもいかず、極秘交際する事となった。

 

 

 

そんな将棋もプライベートでも充実していたとある春の日…

何故かこれ迄交流の無かった釈迦堂さんから突如連絡が入った。

 

 

何かと思い電話に出ると、

 

「於鬼頭五段か。余は釈迦堂里奈、女流名跡及び山城桜花を預かっている者だ。然るに於鬼頭五段、足下は現在三瀬法子女流二冠と交際しているようだな。余にもその辺り是非とも御高説を伺いたい」

と、いきなり交際の事実を暴露され、私がたじろぐと、

「何、この事実、他には漏れてはおらん。故に気兼ねなく余の店を訪ねるが良い」

と事も無げに一方的に告げ、なし崩しに釈迦堂さんの店舗に赴く事となった。

 

 

 

「で、何故我々の交際を知る事となったのですか?」

と問うと、

 

「何、あの者の近頃の充実振り、只ならぬと思ってな。昔から尖っておって男の影すら無いのがここ最近の変わり様…、探ると君が風張九段の研究会に顔を出し始めた頃からそんな傾向が見え出したように思えるのだ…、よってその変化は君による物と断じた次第だ」

成程…、所謂オンナの感か…

 

「そこ迄見抜いておられるのならば、私がどう抗弁しようが無意味ですね…。仰せの通り、我々は確かに交際しております。が、何らかの目論見無しで呼び出した訳では有りませんよね…」

と返すと、

 

「ふ…、流石だな。その事実を黙認する代わりに君と三瀬が余のブランド・シュネーヴィットヒェンのモデルとして活動して貰いたいのだ」

 

…本気か?

将棋以外世間に誇れる物の無い我々にモデルが務まるとでも?

そんな不安を一蹴したのは他ならぬ釈迦堂さんだった。

 

「何、専門に行えと言う訳では無い。PRが必要な時だけ臨時で務めれば良い」

との話で結局、三瀬さんと話し合った上で已む無く引き受ける運びとなった…

 

 

その後はモデルの件は別れる直前迄ゲスト的に参加していたが、別れた後は自然消滅的に参加しなくなった…

 

 

 

閑話休題…

 

 

 

以後、釈迦堂さん以外からは未だ漏れない中、極秘交際は水面下で継続していたのだが、暫くして私が公共放送杯で優勝し、世間的知名度が上がると、その頃から再び彼女が私を遠ざけるようになった…

 

 

それでも彼女が居てこそと思い、必死に対局を勝ち抜き、彼女と一緒に過ごそうと思ったのだが成績が上がるにつれ、却って関係が希薄になってゆく有様だった…

 

 

そんな中、対局から戻った私を突如彼女が訪れて来た。

 

部屋に入るなり、

「私、女流辞める事にしたから。あ、釈迦堂は知らないわ。話すのはアンタが初めて。で、何で辞めるか?って?そんなものアンタ達男にまるで歯が立たないんじゃ如何に私でも折れるわよ…」

と早口で捲し立てた。

 

「否、総体的には負け越しているけどプロ相手に勝利ばかりか、複数回勝っているのも貴女だけでしょう」

と私が返すと、

 

「そんじょそこらの新人とか枯れた老体ならそれなりに自信はあるけど、AB級とか本戦で戦うレベルじゃ格が違い過ぎなの!あんな宇宙人レベルをこれ以上どうしろと?」

と間髪入れずに返し返され、これには私も更に返す事が出来なかった…

 

「で、将棋辞める以上、もうアンタとも付き合えない。でも今夜だけ、最後にアタシの身体にアンタの全てを刻み、叩き付けて頂戴!」

とまた何とも一方的に私に突き付けてくれたもので…

 

…結局その夜は我々の最後の濃密な刻となった…

 

 

 

その後の彼女については私もつい先頃迄はまるで知らなかったのだが、その間一度だけ顔を合わせていた…

 

 




申し訳ない…

回想で長引き過ぎたんで、更に延長…


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銀子の意外なルーツ(後編)

東西対抗戦、西が鎧袖一触の圧勝…今の棋界は西高東低?
まぁ魔王が居なけりゃこんなもんですか…

これは王将戦も強奪間近か…

って訳で本編スタート!!


〜回想・於鬼頭曜(続)〜

 

一方的に別れを告げられてから思わぬ再会を果たす迄費やす事13年…

 

 

その再会も尋常な状況下に非ず…

 

 

 

 

 

その後の13年で私はタイトルにこそ手は届いて無かったが、地道にクラスを上げ、順位戦A級・竜王戦1組に到達していた。

然し、そんな私の前途を阻み且つこれ迄の道程を全否定する無機質な悪魔が目の前に現れた…

 

それこそがAI=人工知能だった。

 

将棋に特化したAIとの対局は、兎に角最短で最善手の連続で、少しでも考慮に時間を取られると、たちまち詰みまで持っていかれる…まさに悪魔兵器としか言えない凄惨の極地だった…

 

 

 

将棋棋士でA級と云えば永きに渡り、「神」に近い存在と認識されていたのだが、私の惨敗により、地に堕ちる結果を導いてしまった事で業界内外の多数から責めに責められ、過激な守旧派の三流棋士でしかないとある老体からは「除名」すら主張される有様だった…

 

そして、そんな絶望の日々に嫌気が差し、ある日、私は「こんな命など不要」とばかりに当時住んでいたマンションからダイブを決行…

 

然し周辺が木に囲まれた環境であった為、そのうちの大木の枝葉に引っ掛かり、どうにか一命は取り留めた。

 

が、この事で直後の対局相手だった清滝さんに長年に渡りダメージを与え続けたのは申し訳無かったとしか言えない…

 

 

 

彼女と再会したのは、その影響による入院中の事だった…

 

 

 

彼女は顔を合わすなり、

「機械に負けて死に損なった?馬鹿過ぎて罵る気も失せたわwww」

と、相も変わらずネジを何本か締め忘れた口調で飄々とツッコまれた…

「まぁ私もアンタを笑っちゃいられないけどね」

と続けると、その後の消息の一部だけ聞かせてくれた。

 

 

結論…

 

三瀬法子は、私との子供を別れた後に産み、然し、引退後から今に至るまで生活がままならなかったので、身分を隠し、夜の仕事を中心に仕事を行って、どうにか生活出来る状態だった。

その為か、産まれて間も無い赤ん坊を病院に置き去りにして1人再び消息不明となっていた…

その後は…、一時は東アジアに事業を拡げた実業家の愛人に納まったりもしたが、リーマンショックの煽りでその実業家が失脚・自裁に至ると、又も流浪の日々に明け暮れた…

 

だが、ひょんな事から産み捨てた娘が難病を抱えながらも将棋界の強豪の1人に事実上養育されているのを知った…

 

が、彼女はその強豪棋士即ち清滝鋼介九段に娘の全てを委ね、自ら真実を明かす事は無かった…

 

そして、私が自裁未遂で入院中、彼女も同じ病院で重度の肝硬変の治療の為、入院していた。

 

 

結局、私も彼女も死に損ないと死にかけの人生の落伍者でしかなかったのがなんとも…

 

 

以後の私は何としてもコンピューターの思考回路に人間を捨てて近付かんとし、所謂「コンピューター棋士」と云う新たな二つ名を頂戴する話となり、密かに釈迦堂さんを通じて娘・銀子の行く末も見守る事となった…

 

勿論、釈迦堂さんからは、

「お主は表立ってはならん。飽くまで影で見守り、必要な場合のみ、余か、鋼介さんに相談するスタンスを貫け」

と、必要最低限且つ銀子本人には知られない姿勢を通す役回りに徹するよう厳命された。

故に、清滝さんにはこの前後辺りで私が銀子の実父である事が知られてしまった訳だ…

 

 

そして銀子の意中の人が九頭竜君である事は、他ならぬ釈迦堂さんが嬉々として伝えてくれた。

故に帝位戦の後、九頭竜君と2人だけで話す機会を態々設けたのだ。

が、肝心要の九頭竜君が矢鱈鈍過ぎたせいで今回、清滝一門関係者多数を集めて改めて説明しなくてはならなかった訳だ…  

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

「於鬼頭さんの過去と今現在に至るまではそれでいいとは思いますが、その元彼女さんの危険性と懸念についてはまだ説明が不十分と思います。更なる話がまだあるのではないのですか?」

と、僕が問うと、

 

「その事だ。彼女は女流を引退し、元女流の身分だったのだが、連盟自体を退会した為、連盟から掣肘を受けない存在となっている。例えばプロだと、引退して仮に連盟から離れてもプロ棋士の経歴は残る為、アマチュア大会で復帰参加は不可能だ。が、女流は元来プロから軽んじられている身分である為、引退・退会後の規定が明文化されておらず、退会女流がアマチュア復帰するのを阻止出来る方法が無い…。故に先頃、アマチュア復帰を水面下で認定され、アマチュア支部名人を獲得し、毎朝アマ名人戦を勝ち抜き、毎朝アマ名人を獲得した三瀬法子のプロ棋戦挑戦となるアマチュアの出場が認められる竜王戦、毎朝杯将棋オープン戦は確定、更にアマチュア出場可能な女流棋戦の女王戦(マイナビ女子オープン)、女流玉座戦、清華戦、今期からアマチュアにも開放された女流玉将戦も彼女の参加を阻止出来ない…。依って、彼女の魔性の暴走を止めるか餌食になるか、その最前線にいるのが君達少年少女である以上、君達に将棋界の未来が委ねられている事を承知して貰いたくて今回の会合を清滝さんと話し合ったのだ。」

 

 

十人十色…

 

万智、桂香さん、あいちゃん、リーナは女流戦で激突する可能性が高いから警戒心露わとなり…、

 

天衣も前期毎朝杯では1次予選敗退だったので、次の1次予選でいきなり当たる可能性がある事から、知らず知らずのうちに顔がやや固まっていた…

 

一方で、まだ奨励会員の健司君はまだしも、毎朝杯前期優勝者の神宮寺さんと、前期竜王挑戦者の冬司は平然としたもので、

 

「於鬼頭のダンナ、そのオンナ、誰に勝ったんだ?」

と神宮寺さんが言い放てば冬司は、

 

「どうせ未熟者か負け老人でしょ」

と火に油を注ぐ爆弾発言…

 

 

 

 

 

そして一言抗議しただけで後は沈黙一方だった八一君が、

 

「ここまで来れば何も銀子ちゃんに隠す必要も無いと思いますが…」

と暗に於鬼頭さんに覚悟を突き付けたのだが、

 

於鬼頭さん曰く、

「名乗る時は盤上でだ」

と答えると、八一君沈黙…

 

 

結局、現時点では銀子ちゃんには一切内密にする事だけが決定・確認される事となった。

 

 

 

尚、三瀬さんに敗れたプロ棋士とは…都合4人で不名誉な第1号は何と山刀伐さんで、その後の餌食となったのは関西初の犠牲者として蔵王先生、更には松永さんに関崎さん、特に松永さんは3戦3敗と、いいカモにされる始末で…成程、これは於鬼頭さんからの警告も肯ける…

 

 




大阪・福島に突如建った高層高級マンション…

そこに住まうトップ&ホープ将棋棋士…

一方は竜王4連覇、タイトル通算5期にして順位戦でも「鬼の棲家」と称されるB級1組に在籍している九頭竜八一竜王。

更なる一方は…

アメリカ国籍の日本人で、幼児から将棋に目覚めた結果…、飛び級に次ぐ飛び級の結果、18歳でハーバード大学卒業、その年に来日し、アマチュア棋士として己の将棋人生のデビューを果たした。
主だったアマチュアタイトルの大半を独占、然し、相手に飽き足らなかったからか、次第にプロ棋戦に軸足を移すようになる。
そこでアマチュア竜王、アマチュア玉将、毎朝アマ名人等アマチュア至高のタイトルホルダーとして各棋戦に参加、そこでも目覚ましい記録の数々を披露し、トッププロからも畏怖の目で見られるようになった。

そして親同士が極めて親しかった縁で、昔からの知り合いだったニ海堂晴信八段(現・棋帝)に師匠となって貰い、プロ編入試験では3勝合格の規定を無視し、最後まで戦うと主張。結果、相手棋士の承諾、連盟の追認により、最終戦まで戦うことになった。
結局、3連勝から更に上乗せし、最終的に5連勝で堂々たるプロ入りとなった。

その男は…神宮寺崇徳六段である。





そして現在…、

新築高層マンションの44階に神宮寺家と九頭竜家が居住している。神宮寺家は神宮寺さん・桂香さん・将馬君、九頭竜家は八一君と銀子ちゃんで暮らしている。

日常は凄まじいようだ…

神宮寺家の場合…

神宮寺さん、釣りと酒が生き甲斐みたいな人だから、桂香さんの「酒禁止令」には最大限抵抗したようだ…
が、本気で厳禁にしたら周囲への被害が増幅するだけなのでそこは桂香さんも心得ており、「節酒」で妥協したようだ。


八一君は…

晴れて銀子ちゃんと同棲し、相も変わらず銀子ちゃんからムチャ振りされつつも、何だかんだとそんな状況を楽しんでいるようだ。

今だけかも知れないけど、この一刻を大事にして欲しい…


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名人戦第1局・inNYカーネギーホール

将棋国際化に向けた月光体制の世界戦略に於ける最大のターゲット・マーケットが米国であるのは周知ではあったが、これまで門外不出と云えた『名人戦』までも海外進出を決行するとは大半の棋士他将棋関係者でも予想だにしなかった…

そんな中、『名人戦』に出場する「名人」の僕と、僕以来のストレートで名人挑戦に至った歩夢君…神鍋歩夢帝位(八段)は、そんな混沌たる空気を他所に念願のタイトル戦での激突に改めて思いを新たにしたのだった…

って訳で本編スタート!!


名人戦…

 

これまで国内の名刹、名門旅館、名門ホテル等でしか行われなかった伝統の対局…

 

今回は国際化に向けた世界戦略の一環として、通常の公爵邸別邸ではなく、態々NY・カーネギーホールを借り切っての対局となった。

 

 

今局に関わる主な関係者…

 

 

立会人→後藤正宗九段

副立会人→ニ海堂晴信棋帝

記録係→幸田柾近四段

 

 

現地大盤解説

解説→九頭竜八一竜王・空銀子四段(W解説)

聞き手→岳滅鬼翼女流二段

 

 

連盟会長・月光聖市十七世名人

会長付職員・男鹿ささり女流初段

 

 

現役兼任観戦記者

鵠(供御飯万智クイーン山城桜花)

雛鶴あい女流名跡

桐山カタリーナ山城桜花

等…

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

〜Side神鍋歩夢〜

 

 

将棋に目覚めて早くも14年…

 

小学2年になって間もないゴールデンウィーク…

その日の昼から放映された小学生名人戦決勝…

 

対峙していたのはキングゼロ(桐山零)と風林火山(ニ海堂晴信)であり、その初手からして未知にして魅力溢れる一手で以降、風林火山が投了する迄の2時間余りの間、只ひたすらに二人の棋譜を追い続ける程に周りが見えなくなっていた…

 

 

そこから本格的に将棋に打ち込み、一定の自信が付いた事からキングゼロから3年遅れながらも小学5年にして小学生名人戦に参加を果たした…

 

が、東日本大会迄は我に充足感を与える相手が存在せず、何とも消化不良のまま決勝大会に進んだ…

 

その決勝大会準決勝…

 

我に立ち塞がったのは、この後生涯のライバルと見定めたドラゲキン…九頭竜八一であった。

 

キングゼロの弟と知ったのは当のキングゼロがプロ四段昇段のインタビューにて、「素質は僕以上」と指名したのがドラゲキンとシュネーヴィットヒェン(空銀子)だったからだが、実際に対局するとその資質に加え、キングゼロとはまた一味異なるアプローチの多彩さが嫌にも目を引いたのが切っ掛けだ。

 

そうなると、早くにキングゼロに追い付き追い越せの異様な空気が我の内面に襲い掛かって来た…

 

入品迄はソコソコのペースで初段入りしたのだが、以後の初段・二段時代は苦しみに苦しみ、結局三段リーグに足を踏み入れたのは高校に入ると同時だった…

 

その時点でキングゼロは既に現役名人であり、焦燥が増幅されたのは言うを待たない…

 

そしてデビュー期に於いてはプロ目前の猛者相手に勝ち越したものの、11勝止まりで先行き不透明な感覚に陥ったものであった…

 

 

そして2期目…、終生のライバル・ドラゲキンが追い付いてきた。

そこでは1期目の経験を最大限に活かし、16勝2敗の成績で晴れてプロ四段になったものの、結果として14勝4敗に落ち着いて次点止まりだったドラゲキンとの同時昇段とは成らなかった…

 

 

その後は…順位戦では概ね順調に昇級を重ね、B級2組最終局のみキングゼロやドラゲキンのマスターでもある清滝九段にいいようにしてやられたが、A級昇級迄の順位戦での黒星はそれが唯一となった…

 

A級では、事前研究・気迫・指し回し・終盤…と、何もかもこれまでとは段違いで、幾度メンタルが折れかけたか…

だが、『名人』たるを望むのは我とて同様。

キングゼロの待ち構える舞台に乗り込む為の最後の関門と定め、兎に角も勝ち切り続け、結果…8勝1敗で前期挑戦者・風林火山とのプレーオフとなった…

 

リーグ戦で唯一敗れたのがその風林火山なのだが、研究で得た幾筋もの変化を巧みに活用出来れば光明はあると信じ、プレーオフに臨んだ…

 

そのプレーオフ…、

お互い研究の成果をぶつけ合う定跡外しの力戦となり、共に持ち時間を殆ど消化し尽くした末に千日手指し直しになった。

その後の指し直し局は、元々体力に不安のある風林火山と夜戦を不得手とする我…

若い我らでは信じ難いレベルの消耗戦となり、再開から3時間後…名人挑戦を掴んだのは、我であった。

 

この消耗戦をキングゼロはどう見たか…

 

経過はどうあれ、名人挑戦者として我のこれまでの全てをぶつけ、『名人』を勝ち取るのみだ。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

そして始まった第1局初日…

 

初日の対局は『名人戦』では史上初の公開対局となり、僕らはステージに用意された対局場に向かった…

 

先手は振り駒により歩夢君となり、いよいよ対局開始。

 

初日は静かな立ち上がりに終始し、細切れに時間を使い、お互い持ち時間9時間中、4時間程度の消化となって封じ手の時間に…

その封じ手は僕が書き、結局51手で翌日に持ち越された。

 

2日目…僕の封じ手が開封されると周りからどよめきが起こり、激戦、波瀾が予感された雰囲気となった…

 

その予感に違わず午前中から激しい駒の動きに交換、展開に依ってはノータイムで次の手を指し、益々どちらが優勢か全く見えなくなって来た…

 

夕食休憩後、最後の踏ん張り処に突入し、残す持ち時間は両者1時間を切っていた…

 

攻勢は歩夢君…

僕は守りつつ逆襲の準備を整えて歩夢君の攻めが切れるのを待ち、耐え続けた…

やがて歩夢君の攻めが切れ、此処から僕の最後の攻めが始まった。もうこれで攻め切れなかったら僕の負けが確定なので、ありったけの駒を投入、敵陣にある駒も総動員し、詰めに掛かった。

 

最後の攻めを懸命に歩夢君も凌ぐが、陣を崩す事に成功した事で結局午後9時過ぎに歩夢君が投了、カーネギー対局は僕が制した。

 

 

 

 




今年最後の投稿…

これからの展開がどうなるか…私自身も現在の処、未定状態ですので更なる変化もあるかも知れません。


って訳で閲覧者の皆様、来年も宜しく!!


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マイナビ女子オープンチャレンジマッチ

さてさて順位戦も佳境に入り、鬼畜眼鏡さん大ピンチの巻となっている模様で、一方でB1では瀬戸の天才児が捏造棋士2号にまさかの敗北で昇級争いが混沌…
で、名人僭称してる捏造棋士1号は恒例の冬期タイトル戦に臨み…

年度末、どんな結末が待ち構えてるのやら…

って訳で本編スタート!!


今期が始まり、早くも3ヶ月が過ぎた…

 

この間の経過としては…

 

 

名人戦…僕が歩夢君を退け、名人4連覇・通算7期獲得となった(○○●○●○)。

 

賢王戦…此処も僕がタイトル初挑戦の鏡洲さんを辛くも降し、防衛成功(3●○1○○5●●6千○)。

 

女流名跡戦…名跡のあいちゃんvs挑戦者の鹿路庭さんの顔合わせとなり、結果、フルセットであいちゃんが防衛した(○●●○○)。

 

女流帝位戦…祭神さんの返上により、今期は紅白リーグ戦各優勝者による女流帝位決定戦となり、その組み合わせは…

 

紅組→岳滅鬼翼女流二段

白組→花立薊女流五段

 

となり、結果…岳滅鬼さんが初のタイトル獲得となった(○○●●○)。

 

 

 

又、番勝負進行中ではあるけど、棋帝戦も開催中である。

 

今期の組み合わせは…

 

ニ海堂晴信棋帝vs挑戦者・隈倉健吾六段(タイトル挑戦により昇段)

 

となり、現在1勝1敗(○●)の五分となっている。

 

 

けど、中学生以下のタイトル戦出場者って史上4人目なのに、僕と冬司のインパクトが余りに強過ぎるせいか、隈倉君の挑戦は世間的にはやや霞んで見えるらしい…

 

けど、隈倉君本人はなんら気にして無いようで、淡々とマイペースでこのタイトル戦に臨んでいた。

 

…なんだけど、この第3局での立会人が何故僕?しかも記録係も冬司って…会長、マジで絵面優先じゃないですか…(嘆息)

 

 

で、解説も…

 

解説→山刀伐尽八段

聞き手→雛鶴あい女流名跡

 

となり、なかなか濃い組み合わせであった。

 

結果…、ニ海堂が勝ち、棋帝3連覇へ後1勝とした。

 

 

 

 

そんな中、今年も女王を狙うマイナビ女子オープンが開幕…、そのスタートとしてチャレンジマッチが開催された。

 

 

僕の周辺では…、天衣は女王なので挑戦者決定待ち、リーナは2期連続天衣に負け挑戦失敗も本戦シードなので出番はまだ先…、他は…、産休から復帰した万智と桂香さんは一斉予選からの出場となる為、今回は出番無し…

後、あいちゃんも前期ベスト4なので本戦シードとなっている。

結局、出場者は加悦奥先生門下で万智の妹弟子でもある貞任綾乃ちゃんと、八一君の二番弟子となったシャルロット・イゾアールちゃんとなった。

 

 

その1回戦…、シャルロットちゃんの相手が何と三瀬さんであり、研修会でソコソコレベルのシャルロットちゃんでは手も足も出ず、見事なまでの惨敗って形で吹っ飛ばされていた。

 

その三瀬さん、予想に違わずアッサリと4連勝で一斉予選に駒を進めていた。

 

一方で綾乃ちゃんはと言うと、3回戦で敗れるも敗者復活で勝ち上がり、一斉予選に駒を進めた。

その敗者復活では、シャルロットちゃんも1勝したものの、一斉予選には届かなかった。

 

 

 

此処からの一斉予選…どんな阿鼻叫喚が待ち受けているのか予測も付かない戦いになりそうだ…




今期順位戦…

最下位リーグのC級2組に新たに参戦したのは…

・前年度前期三段リーグ通過者
幸田柾近四段
村森聖四段
・前年度後期三段リーグ通過者
藤田康誠四段
横山正義四段
・フリークラスからの昇級者
氷室将介十六世名人
峠なゆた四段

の6名である。

特に氷室十六世名人は、「闘りたい奴がいねぇ」との理由にし難い理由で長期間休場しており、復帰の理由も、「桐山のガキなら命張るだけある」と言う話で、10年以上のブランクをそんなモチベーションだけで突き抜けられるのか、色々な意味で要注目であるのは間違い無い。


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帝位戦第1局・in名古屋城

う〜ん、原作で山刀伐さんとたまよん(鹿路庭さん)がカップル成立したんで、色んな意味でこの物語、乖離しまくりとなりまして…
カップル成立物語自体はまだ原作無視で無くはないんで、幾つかは作ろうかなとは思っていますが…

って訳で本編スタート!!



今期帝位戦…

 

本戦リーグ戦結果…

 

紅組優勝者→宗谷冬司七段

同2位→九頭竜八一竜王

 

白組優勝者→神宮寺崇徳六段

同2位→桐山零名人

 

って事で組優勝者同士での挑戦者決定戦は…

冬司vs神宮寺さんの組み合わせとなった。

 

 

関西将棋会館での決定戦は…

 

先手を取った神宮寺さんが攻めに攻め、その隙を突いて冬司が反撃に転じ…の繰り返しの展開で、両者決定的好機を掴めないまま終盤に突入し、最後に制したのは…神宮寺さんだった。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

〜side神宮寺〜

 

 

全く宗谷との対局は前世の昔から厄介にして異常に骨折りなんだよな…

アイツは最早ポーカーフェイスってレベルじゃなく、何考えてんのか、或いは何も考えてないのか、瞬間的には解析不能だからな…

まぁ、俺以上に奴を熟知してる桐山・土橋・隈倉にしても宗谷だけは想定外の処から考えなくちゃやってけないってのも今にして漸く理解出来る有様だからな…

 

今世は兎も角、前世じゃあれ以上宗谷に付き合っていたらまず間違い無く還暦前後で寿命尽きてただろうな…

或る意味、あそこで宗谷に伸された時点でスッパリ未練無く退いたのは俺の人生最大のファインプレーだったのかも知れんな。

 

 

で、今回は、現時点での年齢に依る体力差でどうにか押し切った感じではあるが、それでも勝ち切ったには違い無い。

 

って事で、あのゴッドコルドレンを騙る厨二病退治は俺の仕事となった訳だ…

 

ってもこの前迄、名人戦で桐山に挑んで桐山が頭狂い掛ける程には苦しめた奴だから少なくとも九頭竜程解り易い手合じゃないのは確実だ。

 

まぁ、今回の帝位戦はどっちの脳ミソが破裂するか…って意味で「バーストシリーズ」になりそうではあるなwww

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

名古屋城特設ステージ

 

 

今期帝位戦第1局の舞台である。

 

 

主な関係者…

 

立会人→佐伯宗光九段

副立会人→鳩待覚七段

記録係→夜叉神天衣五段

 

現地大盤解説

解説→九頭竜八一竜王

聞き手→空銀子四段

 

専門チャンネル解説

解説→後藤正宗九段

聞き手→祭神雷四段

 

 

何とも凄まじい組み合わせと思うのは僕だけだろうか…

 

 

って訳で第1局初日…、先手は振り駒の結果、神宮寺さんが握った。

 

 

その初日は…、午前中から兎に角守備固めを主体に様子見の展開に終始していた…。

 

昼食メニューは、

 

歩夢君→名古屋コーチン親子丼御膳+レモンティー

 

神宮寺さん→特製ひつまぶし御膳+アイスコーヒー

 

 

と、それぞれ地元名産メニューを宣伝がてら食し、なかなかの反響を戴いた。

 

 

で、お互い持ち時間の半分弱を使い、封じ手は先手の神宮寺さんが行った…

 

 

 

2日目…、対局室に先んじて入ったのは神宮寺さんだったが、その時刻…午前8時20分だった…

 

これには記録係の天衣も少なからず驚き、神宮寺さんに「まだ準備完了していませんが」と、若干戸惑い気味に告げたのだが、神宮寺さん、構わず「問題ない。神鍋が来る迄に終わればいいだけだろ」と、事も無げに返してくれたもんだ。

 

で、天衣の準備も終えた頃を見計らったタイミングで歩夢君が入場。此処から2日目がスタートした。

 

 

封じ手…報道陣の大半がひっくり返る驚愕の一手であり、歩夢君も緊張で顔が固まり、普段の厨二語すら口から出ない有様であった…

 

其処からの神宮寺さんの攻勢が活火山の如くに火を吹き、歩夢君はどうにも糸口を掴めないまま、必死に耐える時間帯が続いた…

 

 

そんな中での昼食休憩…

 

歩夢君→名古屋コーチン親子丼御膳+レモンティー

 

神宮寺さん→特製味噌カツ御膳赤だし付+特製ジンジャーエール

 

 

をそれぞれ食し、午後の対局に備えた。

 

 

午後からは…

 

神宮寺さんの攻勢は変わらず、歩夢君は忍耐の時間帯を忍びに忍び、最後の休憩…つまり、3時のおやつタイムまで、ひたすら耐え忍んでいた。

 

3時のおやつ…

 

歩夢君→特製シフォンケーキ+レモンティー

 

神宮寺さん→名古屋名物ういろう+アイスアップルティー

 

で一息つき、此処からは終局迄ノンストップの修羅場に突入する事となる。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〜side歩夢〜

 

 

くっ…、このワイルドレオの攻勢…、キングゼロともまた一味違う独特のオーラとスタイル…

ドラゲキンが「あの人を常識的範疇で判断すると必ず壊される」と警告した意味が今更ながらに理解出来ようと云うものだ…

 

だが、我も帝位を手中にするタイトルホルダー…、そう容易くは屈しない!我の逆襲で吠え面かくのはワイルドレオに他ならん!

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

午後7時…

 

残り持ち時間は…、

 

歩夢君→12分

 

神宮寺さん→19分

 

 

既に午後6時過ぎからお互いに秒読み指しを決め込み、読みを入れる事は逆に敗北を招く事を認識したかのような指し回しを続けていた…

 

 

だが、そんな膠着状態を打破するには、どうしても残り時間を費やして考慮するしかない…

 

その考慮時間を使ったのは…

 

歩夢君だった…

 

最後の12分を使い切り、繰り出した一手は…、

 

 

香車の前進と云う強攻策!

 

が、神宮寺さんもそれは予測内だったようで、直ぐに歩と桂馬で対応し、その強攻策を封じてしまった。

 

結果…、手詰まりとなった歩夢君が間もなく投了…、第1局の勝者は神宮寺さんとなった。

 




第33期竜王戦…

今期も1組から6組迄、数々の激戦が繰り広げられたが、その中から11名の本戦出場者が勢揃いした。

◎1組
優勝→於鬼頭曜九段
2位→桐山零名人
3位→山刀伐尽九段(勝数規定=八段昇段後、公式戦250勝到達により、昇段)
4位→後藤正宗九段
5位→清滝鋼介九段
◎2組
優勝→佐伯宗光九段
2位→櫻井岳人八段
◎3組
優勝→神鍋歩夢帝位
◎4組
優勝→鏡洲飛馬六段
◎5組
優勝→神宮寺崇徳七段(竜王戦ランキング戦2期連続昇級により、昇段)
◎6組
優勝→空銀子四段

…竜王戦史上初の女性棋士の本戦トーナメント進出の偉業を療養からの復帰早々の銀子ちゃんが見事にやってのけた!
が、この本戦トーナメントの相手は誰も彼も一筋縄ではいかない猛者だらけなので、僕との挑戦者決定戦に進むには満身創痍の覚悟が、又、其処から八一君の竜王に挑むには命を超えた極限のエネルギーとモチベーションが必須になると思う…


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竜王戦本戦トーナメント準決勝・於鬼頭曜九段vs空銀子四段

マジもマジでネタが枯渇しつつあるんで、こうなったら…って事で、禁断の父娘対決打込みました…

って訳で本編スタート!!


今期竜王戦も本戦トーナメントが進み、準決勝に勝ち上がった4名が出揃った。

 

・1組優勝→於鬼頭曜九段

・6組優勝→空銀子四段

 

・1組2位→桐山零名人

・1組3位→山刀伐尽九段

 

が、それぞれ準決勝で激突する運びとなった…

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〜side於鬼頭曜〜

 

竜王戦準決勝…、この位置で銀子と対峙する事になるとは…

彼女の力とブランクから考える限り、精々が6組突破と云うのが私の見解だったのだが、彼女の力が凌駕したのか、或いは九頭竜君や桐山君の助けが大いに寄与したのか…兎も角、私の予測を覆して今この場に私と対峙しているのは紛れもない事実だ。

 

然し、この場に座った以上、私は1人の棋士として君を喰らい尽くすまでだ…

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

〜side銀子〜

 

竜王戦準決勝…

 

思えば6組ランキング戦からして油断ならない対局が続いたものだが、これが本戦トーナメントに入ると、当に地獄絵図の連続としか表現出来ない程に過酷な組み合わせだらけだったわね…

 

1回戦からして桂香さんの旦那さんの神宮寺七段って…、それでなくとも兄弟子とか八一からも「殺気溢れる荒獅子」って恐れられてる規格外の怪物レベルなのに、コレが緒戦の相手って…

もう最初から命擲つしかないけど、それでも犬死にって結末迎えかねないのは、どうしても許容出来なかった。

 

だから時間は限られていたけど、兎に角徹底的に神宮寺対策に己の持つ力の全てを注入した。

 

結果…、終盤になって、神宮寺七段が痛恨のミスを仕出かし、その僅かな穴を突いた私がどうにか勝ちをもぎ取った。

 

以後、2回戦は奨励会以前から世話になっていた鏡洲六段を破り、3回戦では師匠の清滝九段に恩返しをして、次の4回戦…準々決勝で当たったのは…、兄弟子と親しく且つ、あの金髪ブスの現師匠兼親代りの保護者でもある後藤九段だった。

 

 

その準々決勝…、後藤九段から、

「なぁ空、お前、雷と相容れない間柄って聞いてるが、実際アイツの何もかも否定してるのか?少なくとも棋士としてのアイツの力は俺でも否定しようが無いがな」

って本音なのか、揺さぶりなのか、あの金髪ブスへの評価を私にぶつけてきた。

 

そして私の対応は…、無言で駒を並べる事で、「盤上で語りましょう」と明示した。

 

その対局は…、

 

お互い居飛車からの戦いとなり、後藤九段は得意の居飛車穴熊を選択…、一方の私は、銀冠からの戦いを選択した。

 

戦局はと言うと…、基本的には私が攻勢に入り、後藤九段の穴熊に迫る展開であったのだが、後藤九段の守りを容易に崩せず、一度私の攻めが切れるや、今度は後藤九段の逆襲に晒される話に陥り、何とも難しい展開を余儀なくされていた…

 

が、夕食休憩後の後藤九段の一手が痛恨の一手であり、その隙を確実に突いた私が辛うじて準決勝に駒を進めた。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

〜観戦記・雛鶴あい〜

 

 

 

準決勝…

 

東京・将棋会館

 

同日にもう1つの準決勝(桐山vs山刀伐)も関西将棋会館で行われていたが、矢張り注目は此処、東京での1戦であろう。

 

 

午前9時40分頃にまずは空四段が入場、下座に座り、精神集中の為の瞑目に入った…

 

其処から10分後、今度は於鬼頭九段が入場し、上座に座り、駒箱から袋を取り出し、駒を出した。

お互い主流の並べ方である大橋流で淀みなく並べ、其処から今局記録係の幸田柾近四段が歩を5枚取り、振り駒を行った。

 

結果…、先手は於鬼頭九段となった。

 

 

午前10時、対局開始。

 

午前中は両者主に守りを固め、戦型を整える事に専念している模様であった。

 

 

昼食休憩…

 

於鬼頭九段→鰻重(松)、肝吸い付

 

空四段→握り鮨(松)、味噌汁付

 

 

昼食休憩後の午後になり、戦型を整えていた午前中とは対照的に今度は駒がなかなか動かず、中長考が続いていた。

 

そして動いたのは、3時のおやつタイムが過ぎてからだった…。

 

まず、於鬼頭九段から開戦の一手を繰り出し、其処から空四段が応対…、此処は先仕掛けの於鬼頭九段がやや優勢寄りと感じられたが、空四段も焦る風でも無く、淡々と指し続けていた。

 

午後6時30分、夕食休憩…

 

於鬼頭九段→天ざる蕎麦+おにぎり(梅)

 

空四段→ビーフシチューセット

 

 

そして午後7時対局再開…、

 

此処迄の消費時間(両者持ち時間5時間)

 

於鬼頭九段→3時間45分(残り1時間15分)

 

空四段→3時間40分(残り1時間20分)

 

 

此処からいよいよ終盤に突入し、お互い正念場を迎える事となった。

攻勢は開戦時と変わらず於鬼頭九段が握っていたが、それでもあと一押しを空四段に阻まれ、なかなか最後の一線を越えられず…、そして午後8時、於鬼頭九段が最後の長考に入った…。

 

午後9時、秒読みまで残り1分の処で漸く次の一手を指すと、今度は空四段が30分強の残り持ち時間を使い、秒読みに入った処で次の手を指した。

 

そして30分が経過し、遂に於鬼頭九段の攻めが切れ、空四段のカウンターからの逆襲が始まった…

尤も、この逆襲が失敗したら於鬼頭九段の勝ちが濃厚となる為、空四段としては何としてでも攻めを繋げ、於鬼頭九段の陣を崩さなくてはならない。

 

その最後の攻防は、ありったけの持ち駒をフル稼働させて巧みに陣を突き崩した空四段に軍配が上がり、結果…

 

午後11時過ぎ、遂に於鬼頭九段が投了、竜王戦挑戦者決定戦進出は空四段となった。

 

 

一方、関西将棋会館でのもう1つの準決勝は、桐山名人が山刀伐九段を破り、3年連続の挑戦者決定戦進出を決めた。

 

 

 

 

 




今期玉座戦本戦トーナメントは…、

ベスト4進出者

・宗谷冬司七段
・九頭竜八一竜王
・神宮寺崇徳七段
・後藤正宗九段

で、その準決勝の結果…、

○宗谷七段−九頭竜竜王●
○後藤九段−神宮寺七段●

となり、挑戦者決定戦は、冬司vs後藤さんとなった。


その決定戦…、ガチガチの居飛車穴熊に固める後藤さんに対し、相も変わらず茫洋とした表情で淡々と崩しに掛かる冬司の図式となり、何度か攻防が入れ替わる激戦の末、挑戦者に勝ち上がったのは冬司であった。

これで冬司とは2度目の番勝負となる。そして、冬司の才能の蓋もかなり開いていると見受けられるので、今度の玉座戦は相当厳しい戦いとなりそうだ…


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竜王戦挑戦者決定戦

さてさて今期A級順位戦ですが、来るべき物が来た…って感じであの伝説の鬼畜眼鏡氏が遂にA級陥落決定と相成りましたね…
一方でB級1組はと言えば、最強の瀬戸物がトップキープも、名人挑戦以外はさしたる実績の無い出直し組と捏造棋士2号が1差なので最終戦では勝たなきゃA級行けないみたいなプレッシャーが醸成されてるみたいな空気が…

兎も角、時代の転換点に足を踏み込んだ情勢であるのは明らかな訳で…

って訳で本編スタート!!


竜王戦挑戦者決定戦…

 

今期此処迄勝ち上がったのは僕、桐山零と、妹弟子である空銀子四段だった…

 

 

僕からすれば銀子ちゃんの実力とブランクを鑑みれば、本来6組突破自体奇跡に思えたのだが此処から先が凄まじく、1回戦から神宮寺さん相手にその僅かなミスに付け込んだ展開ではあったが見事に勝ち切り、以後も鏡洲さんに師匠と恩返しを続け、迎えた準々決勝の相手は後藤さんだった…

 

其処で硬い守りからの逆襲カウンターを得意とする後藤さん相手に激しい攻防入れ替わりの末、勝ってしまったって…

銀子ちゃん、大概にも程があるんだけど…

 

 

そんな訳で準決勝は何と銀子ちゃんは知らないだろうけど、銀子ちゃんの実の父親である於鬼頭さんとの顔合せとなった。

結果…、於鬼頭さんまでも破り、僕との挑戦者決定戦に駒を進める事となった。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

〜side銀子〜

 

 

いよいよ今日から挑決に入る…

八一が待つ竜王戦まで残り2勝だけど、その最後の壁として立ちはだかるのは、最強にして神をも超越したとまで評される兄弟子・桐山零名人だ。

 

最後の最後になって心が折れかねない相手って…

けど、何が起ころうが越えなくては八一の前に辿り着けない以上、何を削ってでも勝たなきゃ…

 

そう思い詰め、八一とも兄弟子とも長らく顔を合わせないまま研究に取り組んだけど、暫くすると心身共に限界が訪れてしまった…

そんな中、幼少期から長らく私の主治医として何かと気に掛けてくれていた明石圭先生が、とある棋士を研究相手に紹介してくれた。

 

その相手が、何と準決勝で打ち破った於鬼頭先生とは流石に予測も出来なかったけど…

 

そしてパソコンを使い、最新の研究成果をぶつけるも、コンピューターに精通している於鬼頭先生相手じゃ地の実力差が明るみに出るだけで、参考にはなってもこれだけではどうしても兄弟子に敵うとは思えなかった…

 

その於鬼頭先生とのvs的研究会は1週間行われたが、その最終日…、於鬼頭先生、とある女性を伴ってやって来た。

この研究会、明石先生の厚意で先生の自宅の一室を借りて行っていたのだが、最後の2日は明石先生が重症患者の経過観察の為、病院に泊り込みになるとの事で朝から夕方までは於鬼頭先生と2人きりでのvsと研究、夜は1人で夕食と風呂を済ませ寝るだけの生活だった…

尚、於鬼頭先生は近くのビジネスホテルに泊まり、通いでの研究会であった。

 

そして最終日は3人での研究会となったが、その女性…、実は一昨年の暮れの竜王戦で金髪ブスを破った後に起こった体調不良で暫く入院した際に私と同室だったおばさんだった。

確か三瀬だかって言ったか、そんな名字だったような…

けど、素人とは思えない強さで(とは言え、プロにはやや足りないが)明石先生や看護師さんに止められる迄何度も指し続けていたが、丁度いいリハビリにはなったとは思う…

 

そしてその研究会も終わりを迎え、帰り際になって、於鬼頭先生からとんでもない発言・事実が飛び出した!

 

それは…、

私自身、空家の実子でないのは高校受験の際に既に両親から告げられており、それでも私に愛情を注いでくれた両親には感謝しかないのだが、それでも実の両親については少しばかりは気になってはいた。

其処で飛び出した驚愕の事実…

 

何と於鬼頭先生が私の実父で、私を産んだのが隣のおばさん…三瀬法子と言い、元女流棋士にして、あのエターナルクイーン・釈迦堂先生と並び立つ女流の看板棋士って…

しかもこのおばさん、あろう事かプロ棋士にプロ公式戦で勝利した初の女流でもあり、勝った相手が山刀伐先生やら蔵王先生やらブッ飛び過ぎにも程があるとしか…

 

まぁこれまでがこれまでで、このおばさんは私を産み捨てて放浪の末に肝硬変患っていたり、一方で於鬼頭先生は私という子供がいるのを長らく知らなかったり…って始末な訳で、事実ではあってもそう簡単に受け入られるものでもない。

更に八一から師匠、桂香さん、兄弟子、釈迦堂先生、月光会長も既に知っているとか…本人抜きで知らせるか普通?

もし、この場に八一が居れば間違い無く「ブチ殺すぞわれ!」って叫んでいただろう。

それをしなかっただけでも昔よりは落ち着いたものだと我ながら感心してしまう…

 

何にせよ、そんな話を背負った状態で臨む挑決となった…

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

第1局、関西将棋会館

 

 

振り駒の結果、先手は僕となった。

 

その第一手はオーソドックスに角道を開けてスタートしたのだが、続く銀子ちゃんの第ニ手が何と八一君の十八番の「後手番一手損角換わり」と来た日には流石に仰天した。

 

其処からは少しずつ時間を使いつつ戦型を決め、構築中に昼食休憩…

 

僕→和牛ハンバーグ定食

 

銀子ちゃん→タンシチュー

 

 

…で、午後に入ると、ノータイム指しはほぼ無く、考慮しては指すの繰り返しで、夕食休憩迄に双方とも持ち時間が2時間を切っていた。

 

夕食休憩時の持ち時間(各5時間)

 

僕→残り1時間20分(3時間40分消費)

 

銀子ちゃん→残り1時間1分(3時間59分消費)

 

 

夕食

 

僕→お茶漬けセット

 

銀子ちゃん→タンシチュー

 

 

そして午後7時からの再開後は、此処からが本番と言わんばかりの駒のぶつかり合いが展開される事となった。

 

まず僕が銀子ちゃんを挑発する様に銀を主体にした攻めを繰り広げると、これを恥辱と取ったか銀子ちゃんの顔がまず真っ赤となり、直ぐに収まるや次には瞳が普段の灰色然とした物から本気の全開モードたる蒼い物にスイッチした。

それでも恥辱って点では、僕も相手の彼氏の十八番を繰り出されてる時点でかなり感じてる訳で…

 

その後のぶつかり合いは一進一退…

 

思えば14年前、当時奨励会入会したての僕にどれだけ負けようがオーバーヒートして倒れて病院に担がれようが飽くなき魂で挑み続けた銀子ちゃん…、その真骨頂を感慨深く思いつつ、こっちも決着への追い込みに掛かった…

 

その次の一手…桂馬を進め、不成桂を指した瞬間、その指に不快な電気が走った…

この症状は敗北時、それに通ずる失着を引き起こした際に出る物で、此処から挽回した事は相手の更なる大チョンボで拾った1回しか無い程、負けに直結する最悪の終戦モードなのだ…

 

そしてその直感は敢え無く的中し、以後は銀子ちゃんの攻勢をどうにか躱しつつも徐々に追い込められ、最後は形作りを以って投了、銀子ちゃんの先勝となった。

 

その後は第2局で僕がタイに持ち込むも、最後の第3局で銀子ちゃんの銀冠を攻略し切れずに再び不快な電気が指を走った瞬間、僕の今期の竜王戦は終了と相成った。

 

結果…、銀子ちゃんが女性棋士初のタイトル戦番勝負出場者となり、同時に昇段規定に拠り、四段から七段に一気にジャンプアップする事となった。




挑戦者決定戦終結後…

京都の僕のマンションに不意に来客が訪れた…

その数、5人…
内訳は、銀子ちゃん、八一君、桂香さん一家(桂香さん、神宮寺さん、将馬君)である。

で、案内されるなり、銀子ちゃん、
「お兄ちゃん、私に何か言う事無いの?」
って直球繰り出して来たよ…
だからって僕もそう簡単には答えるって訳にも行かないので、
「八一君や桂香さんから何を聞いたんだい?」
って聞き返したのだが…、銀子ちゃん曰く、
「直接聞いたのは於鬼頭先生からだけど、八一と桂香さん、神宮寺さんからも裏付けは貰ってる」
成程、将馬君以外3人とも固まってるのが…
だから、
「於鬼頭さんの話は事実。で、僕らが銀子ちゃんに先んじて聞いたのも事実。於鬼頭さん曰く盤上で語り、解って貰おうと考えてたらしいけど、盤上だけでは伝え切れなかったって事で口で伝えたんじゃないかな?」
と答えた。
でも銀子ちゃん、
「それで済むと思ってるの?八一と桂香さん、神宮寺さんからは誠意を貰ってるけど、お兄ちゃんからも誠意が欲しいんだけど」って言い募る…
此処で万智が、
「もうその辺でええどすやろ。少し落ち着いてお茶でも…」
と言い掛けると、
「は?そう言えばアンタもお兄ちゃんと一緒で知ってたわね。この際だからアンタにも誠意見せて…」
とか銀子ちゃん言い出す物だから到頭根負けした僕が、
「分かった、近くに供御飯家御用達の焼肉屋があるから、まずは其処で食べながら話そう」
ってどうにか説得し、リーナと冬司も連れて焼肉屋での晩餐となった…
そんな晩餐中、ド天然な冬司が、
「おばさん(銀子)、自分だけ蚊帳の外だったからって何も零君責める必要あった?其処の竜王〆るだけで十分でしょ」
とかまた混乱招きかねない爆弾発言…
で、銀子ちゃん、
「は?黒い小童(夜叉神天衣)とイチャイチャしてるチビガキが何をしたり顔で…」
ってドス黒いオーラ全開してるし…

何ともカオスなオーラが充満しながらも肉と酒はどんどん消費される焼肉晩餐であった…


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竜王戦八銀決戦第1局・in能楽堂

もう此処から先は…ってか、既にではあるけど執筆ペース鈍化しまくりな訳で…
ま、誰をラスボスってかタマ取り役にするか…で絶賛お悩み中でして…
そんなこんなで結末迄はまだ暫く刻を頂こうかと…

って訳で本編スタート!!




竜王戦第1局…

 

今年は通常通り、協賛企業所有の能楽堂での開催となる。

 

組み合わせは…、

 

九頭竜八一竜王(在位4期・4連覇中)

    vs

空銀子七段(タイトル初挑戦)

 

であり、関西棋界処か全国の将棋ファンからも数年前から既に公認カップルだの、夫婦認定だの扱い受けてる『将棋界最強ペア』での竜王戦となった事で、月光会長とかその周辺がホクホク顔なのが僕でも手に取る様に解る図式が…

 

 

で、この対局、立会から解説から矢鱈にヤバ過ぎな位濃度がイカれてるとしか云えない面々とか…これ、良くも悪くも将棋中毒蔓延の流れに行くしか無い話でしょ…

将棋界発展の為と考えれば突っ走るしかないけど…

 

 

って事で、

 

立会人→十八世名人

副立会人→山刀伐尽九段

記録係→幸田柾近四段

 

現地大盤解説

解説→ニ海堂晴信棋帝

ゲスト解説→隈倉健吾五段

聞き手→鹿路庭珠代女流三段

 

専門チャンネル

解説→桐山零名人

ゲスト解説→宗谷冬司七段

  同  →夜叉神天衣五段

聞き手→供御飯万智クイーン山城桜花

 同 →桐山カタリーナ山城桜花

 同 →清滝桂香女流二段

 

…特にチャンネル解説がカオス確定なんですが…

 

 

それでも前夜祭では八一君・銀子ちゃん共に当たり障りなく質問に答え、注目冷めやらないまま初日に突入…

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

〜side銀子〜

 

あの時…私が6歳の誕生日を迎える直前から私はこれ迄実力で抑え付けてた八一にまるで勝てなくなった…

兄弟子や師匠に揉まれた自体は私も八一も一緒なのに、何処でこんな格差が生まれたのか…、八一が男だから?私が女でしか無いから?それとも師匠と八一は病気知らずな程に頑強だから?兄弟子にしても頑強と迄は言えなくとも人並みの健康な身体なのは違い無く、結局私が生まれ付き虚弱体質のせいで八一程の爆発的成長に恵まれなかったのか…

 

そんな実力努力精進以外の生まれ付きとか巫山戯た理由での格差なんてどうしても認める訳には成らなかった。

だから八一が先んじて三段リーグ入りし、義務教育期間中に四段になっても強がって先輩・姉弟子として意地を張り続け、たかが奨励会二段、女流タイトルホルダーの分際でしか無い程度の地べたを這うレベルでも八一にだけはその立場に甘え続け、現実から逃げ続けてた…

 

けど3年前の竜王戦…、八一は十八世名人に心身共に追い詰められ、子飼いの小童を桂香さんと師匠に放り投げて迄対策に没頭し、見かねた私が「私とvsしろ」と告げた次の瞬間、「たかが奨励会員、三段ですら無いお前が俺の調整?ねぇよ!身の程を知れ!姉弟子であろうが奨励会の底辺がプロに物申すな!!」

って、決定的格差を突き付けて来た…

 

勿論ショックも甚大だったし私ですら八一を止められない…ってのが堪えに堪えたけど、どうにか兄弟子の家に行って事の次第を話してこの先を兄弟子に委ねたらたった一晩で兄弟子、あっさり解決しちゃって…

尤も兄弟子ばかりじゃ無く、桂香さんの奮闘が八一の心身に大きく沁み込んだのも確かなんだけど…

この一件で、私は名ばかりで年下に過ぎない名目上の姉弟子でしか無く、零お兄ちゃんや桂香さんと云った単に年上ってばかりじゃ無く、行動・実績で八一ばかりか周辺までも揺り動かす力を発揮する人こそが本当に兄姉に足る存在だと思い知った…

あの女狐にせよ、空威張りヤンキーモドキにせよ、金髪ブスですら兄弟子には一定の敬意を隠して無いし…(女狐はその後、ちゃっかり婿に搦め取ったけど)。

 

ともあれ八一は此処から立ち直り、将棋界初の3連敗4連勝の歴史的大逆転で竜王防衛、翌年も兄弟子に先にリーチかけられながらも兄弟子周辺が騒がしくなった影響を加味しても、これまた逆転で防衛…、実績でその評価を揺らぎ無い物にした…。

 

そんな八一が永世竜王…、それも過去2人の永世資格者が何れも果たせなかった5連覇(1人目の佐伯先生、2人目の後藤先生は通算7期での資格獲得である)に挑む初のケースに臨む…

そしてそれを阻み、初の女性タイトルホルダーにならんと私が八一に挑む…

 

私の18年の人生、何もかもこの番勝負に懸けるしかないのは必然でしか無い…

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

初日…

 

8時45分にまず挑戦者の銀子ちゃんが入場、下座に座り瞑目し、八一君の入場を待った…。

 

5分後、今度は八一君が入場し、上座に座ると無言で駒袋を開け、先に駒を並べ始めた。

 

そして記録係の幸田四段が歩を5枚持って振り駒…

先手は銀子ちゃんとなった。

 

 

その序盤…

銀子ちゃんが角道を開けるや、二手目の八一君が仕掛けたのは、「後手番一手損角換わり」であり、全力で捻じ伏せる確たる意思表示を明確に示した物だった。

 

午前中は防御を固めつつ様子見の様相となり、昼食休憩…

 

八一君→鰻重(松)、肝吸い付き、アイスコーヒー

 

銀子ちゃん→タンシチュー御膳、アイスレモンティー

 

 

で、午後に入り…、

 

両者共に大きな動きは見せず、徐々に時間を削りつつ駒を動かし、開戦準備に費やす形で初日終了…

封じ手を書いたのは後手の八一君であった。

 

 

2日目…、

 

お互い待ち遠しかったのか、銀子ちゃんは8時過ぎに早速入場、八一君もその10分後に入場するとか、記録係の幸田君肩身狭い思いしてるんだけど…

かと思ったら十八世名人と山刀伐さんまでも30分前に入場して準備云々問い掛ける始末で…

これは史上最悪の記録係受難の1局として歴史に残る事請け合いになるのは間違い無いレベルだろうな…

 

 

そして八一君の封じ手が公開されるや、報道陣から凄まじいざわめきが広がった。

「ロリ王、ガチで白雪姫殺し切る構えか!」

とか、

「否、絶対神を討ち取った白雪姫にハンパな対策じゃ己も喰い破られかねん、って危機感からだろ」

って言う様々な反応がそこかしこに散らばったのだが…、

 

少なくとも僕や2人を良く知る面々からは、

「此処からはお互いの高め合い・削り合いに入り、2人の世界を誰にも邪魔させない!」

って意思表示に過ぎないとしか映らなかったのだが…

 

 

そして午前中は開戦に至らずとも準備万端な構えに構築し、昼食休憩…

 

 

八一君→鰻重(松)、肝吸い付き、アイスティー

 

銀子ちゃん→特上寿司、肝吸い付き、アイスレモンティー

 

 

って訳で午後からは…、

先手の銀子ちゃんから仕掛けて来た。

既に敵陣に迫っていた銀と桂馬を駆使し、敵陣に入るや成って荒らし回り、八一君から角を奪い取り、玉周辺の守りを突き崩して追い込んで来た。

が、八一君もギリギリのラインで防ぎ切り、其処からの逆襲には定評があるだけにそう容易くは追い込まれ無い。

この攻防の真っ只中、3時のおやつタイムに入った…

 

八一君→寅屋の一口羊羹2個、ほうじ茶、アイスティー

 

銀子ちゃん→特製ショートケーキ、レモンティー

 

 

その後は終局迄休憩無しのガチンコでの潰し合いとなる。

 

攻めるのは午後から変わらず銀子ちゃん、然し八一君も防ぎながらも次第に逆襲の形を作りつつあり…、その逆襲を封じなくては勝ちを失う銀子ちゃんもそれを認めた上で攻めに次ぐ攻めを敢行し続けてた。

 

が、夜に入り、そんな銀子ちゃんの攻めも遂に途切れ、待ちに待ったと云わんばかりの八一君の逆襲が此処からスタートした。

銀子ちゃん、必死に防ぎ、再逆襲を目論むも、こうなった八一君の攻勢を止められず、午後9時過ぎ…遂に銀子ちゃんが投了し、八一君が先勝となった。

 




この年のタイトル戦線は…

名人戦→桐山名人防衛(4連覇、通算7期)●神鍋歩夢帝位
賢王戦→桐山賢王防衛(2連覇、通算2期)●鏡洲飛馬六段 
棋帝戦→ニ海堂棋帝防衛(3連覇、通算3期)●隈倉健吾六段
帝位戦→神宮寺新帝位(初タイトル)●神鍋歩夢帝位
玉座戦→宗谷冬司新玉座(初タイトル)●桐山零玉座(名人)

って訳で帝位と玉座がタイトルホルダー交替となり、神宮寺さんと冬司がタイトルホルダーに名を連ねる話となり…、

なんか僕が一番恥晒しな目になってしまった感じなんだけど…



一方でマイナビの一斉予選はと言うと…、

万智と桂香さんはどうにか本戦進出、綾乃ちゃんは1回戦は勝ったけど現時点ではそれ以上には届かず、2回戦で終局となった。

で、三瀬さんのブロックに居た一斉予選参加者は…、
1回戦、2回戦の相手は勝負にすらならなかった下位レベルでしか無かったが、決勝の相手は…、幸田四段の妹の幸田香子奨励会二段だった。

その予選決勝…、銀子ちゃんや天衣レベルで無くては女流相手に負けるとも思えない香子さん相手に三瀬さん、圧巻の指し回しを見せつけて…、最後は香子さん、三瀬さんの顔に持ち駒打ち撒けて「私の負けだぁ!!」って捨てゼリフ吐いて会場を立ち去ったって…、余程己の不甲斐無さに腹立ったんだろうな…

けど、これで三瀬さんの本戦出場が決まり、抽選の結果…、1回戦は鹿路庭さん、結果次第ではあるけど2回戦は桂香さんがぶつかる組み合わせとなり、これじゃ僕ら個人の対局のみならず、周辺の対局にも神経尖らせなきゃならないって厄介至極な状況に突入って…


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竜王戦八銀決戦第5局・inひな鶴

はぁ…、王将戦はストレートで決着…。
棋王戦も捏造魔人が10連覇に王手…

A級は既に相対的には興味なし状態…

もう五冠天才瀬戸物でしか話題を作れない将棋界の低迷傾向…

誰か有望な若手棋士の台頭が待たれて早や15年…




って訳で本編スタート…!!


今期・第33期竜王戦第5局

 

開催場所→石川県和倉温泉・旅館「ひな鶴」

 

竜王・九頭竜八一竜王(3勝1敗○○●○)

    vs

挑戦者・空銀子七段(1勝3敗●●○●)

 

 

で行われ、八一君が勝てば竜王防衛で5連覇となり、史上3人目の永世竜王資格を取得する事となり、一方で銀子ちゃんが勝てば決着はまだ先に続くと共に史上初の女性タイトルホルダーへの道を繋ぐ事となる重要な大一番である。

 

 

で、今局の主だった関係者は…

 

 

立会人→山刀伐尽九段

副立会人→神鍋歩夢八段

記録係→峠なゆた四段

 

 

大盤解説→桐山零名人

聞き手→供御飯万智クイーン山城桜花

 

 

専門チャンネル

解説→生石充九段

ゲスト解説→辛香将司五段

聞き手→清滝桂香女流二段

 

 

となり、いいのか?この布陣?

って具合に大概色濃い組み合わせとなった…

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

〜side銀子〜

 

 

兎も角も1勝は返したけど、次の場所はあの目障りな小童の実家の「ひな鶴」…、小童なんてもんじゃない企みの権化みたいな座敷ババァ(ひな鶴女将)の地盤な訳で…

あの座敷ババァの事…、想いが通じ合ってるとは云え、現状では入籍してない事を突いて八一に婚姻関係が無い事を根拠に手段撰ばず小童の公式婚約者に仕立て上げる算段を仕組んでるのは明白…

となると、此処は何としても勝って最低でも次の第6局に進まなければならないのは自明の理な訳だ…

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

〜side八一〜

 

 

3勝1敗の状況で「ひな鶴」…、

どう考えても最悪のシチュエーションだろ…

 

勝ったらその勢いで「ひな鶴」囲い込み包囲網の餌食決定…、

一方で負ければ、それはそれで何だかんだと忖度疑われかねないし…

 

そんな訳で結局どうあろうが此処で銀子ちゃんを打ち破り、永世竜王資格を勝ち取らねば俺に発言権1つ無いのは明白だった。

 

 

 

そして「ひな鶴」に入り、御両親と共に、女流名跡のタイトルを手にしたあいと再会…

その成長と俺への変わらぬ想いをぶつけられ、やっぱりあいはあいなんだなぁ…と、改めて感じた次第であった。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

この第5局…

 

お互いが選択を相掛かりとし、様子を窺いながら初日は無風でまずは終了…

 

そして2日目…

 

封じ手は銀子ちゃんが行っており、初日の進行を全て終えた後の封じ手公開…

 

これは完全に開戦の一手であった。

 

一方の八一君はと言えば…、画面越しから見てもゾクゾクするようなある種八一君らしくないとも言える獰猛な笑顔であり、いよいよに迫った激戦を待ち侘びている風情であった。

 

そして、開戦…

 

 

 

お互い激しい駒の動きを展開し、昼休憩…

 

八一君→能登近海豊漁御造り御膳+レモンティー

 

銀子ちゃん→能登牛ヒレステーキ御膳+能登牛タンシチュー+レモンティー

 

 

 

1時間の休憩を終えると、再び激しい攻め合いを再開…

 

先に敵陣を荒らし回ったのは…銀子ちゃんであり、後先無しで何としてもこの攻めで決着を付けんと八一君の対応手に関わらず次から次へと攻め駒を投入・侵攻させ、元々守りを薄くしていた八一君の陣は金銀だけでどうにか持ち堪えている有様であった。

 

が、其処から最後の一押しになかなか行けず、やがて銀子ちゃんの攻めは途絶えた。

 

この時、午後6時…

 

残り時間は…、

 

八一君→15分

銀子ちゃん→40分

 

であり、遅くとも午後8時迄には決着となる感じであった。

 

 

そして反撃に出た八一君…、守りながら奪った駒を駆使し、一転銀子ちゃんの陣を破壊に掛かった。

さっき迄一方的に攻めていただけに守備が幾分疎かになっていた銀子ちゃんの陣は忽ち破壊し尽くされ、1時間後にはもう投了迄の通過儀礼が待ち構えているだけとなった…

 

銀子ちゃんの玉に突き付けられていたのは「龍王」であり、もう保たないのは明らかであったのだが、それでも銀子ちゃんは投了せず、更に一手進めた…

 

僕には銀子ちゃんが「龍と銀は寄り添う物、だから銀で止めを刺して…」と八一君に盤上で語り掛けてるように見えた…

聞き手の万智もそれは察していたようだが、特段僕に振って来なかった…。

彼女もこの盤上の会話とその意味を十二分に理解していたからだろう。

 

 

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〜side桂香〜

 

 

……、午後7時…、いよいよ今期竜王戦も終焉のカウントダウン…、此処まで奮闘した銀子ちゃんだけど八一君相手で今の力ではこれ以上は力及ばず…となり、後は投了だけとなった筈なのに、まだ次の一手を進めた…

これには解説の生石さんもゲスト解説の辛香さんも啞然としていたが私には一瞬で理解出来た…。尤もこれは遥か昔から銀子ちゃんと八一君の事を誰よりも熟知している私だけ…否もう1人、恐らくは零君と2人だけは銀子ちゃんが「龍と銀を寄り添わせて止めを刺して」と盤上で八一君に訴えているのが手に取るように響いたからだ。

 

八一君、貴方の鈍感は常々承知してはいるけど、この銀子ちゃんの魂の叫びを汲めないようなら力尽くで対局場に乱入してでも貴方に解らせてあげるしかないのかな…?

 

…、八一君に動きが…

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

銀子ちゃんの一手から残りの持ち時間を使い、時を空費し続ける八一君…、まだ決断を下さないのか?

僕なら今後がどうあろうとも一気に決着付ける処でしか無いのだが…

 

……、ひょっとして雛鶴家に囲われたくなくて決着を躊躇してるのか?

それなら銀子ちゃんにも失礼だし、そもそもからして勝負に不向きとしか言えない訳で…

実際それなら対局場に乱入してでも八一君を引き摺り出してその不覚悟を詰問しなくてはならない。

 

あ…、八一君が次を指した。

これは…、

 

 

 

 

龍王の隣に銀を打ち付け、最早銀子ちゃんに逃げ場無しを明確にして即時投了を投げ掛ける意図だ…

 

 

そしてこの一手を以って銀子ちゃんが投了、八一君が竜王戦史上初の5連覇と共に史上3人目の永世竜王資格を勝ち獲った歴史的1日となった。

 

 

 

その夜の打ち上げパーティーの場にて…

 

 

勝者挨拶の壇上に立った八一君…

 

マイクを握るや、

「改めまして竜王5連覇を果たした九頭竜八一で御座います。今夜は私の許嫁・最愛の人を壇上に紹介致したい次第であります。それでは早速紹介致します。空銀子七段であります!!空先生、壇上にお願い致します。」

 

マジか…、ま、僕個人からすれば本来的には幾分遅めではあっても漸く…って心境な訳だけど、なにせ場所が場所であまりにも自分から地獄に突撃したとしか思えない特攻状態としかな…

 

そんな僕の懸念を感じたか、万智が僕の脇腹を軽く突いて、

「心配無用どす。竜王はんに今一番必要なんは銀子ちゃんどすからな」

って、この縁組を最大限歓迎していた。

 

かと思ったら今度は桂香さんが、

「銀子ちゃん、15年来の永きに渡る念願を叶えられて本当に御目出度う!!、八一君、これからの人生で銀子ちゃんを1度でも泣かせたらお父さんと零君が許しても私は輪廻転生しても八一君を赦さないから!!」

って超絶保護者全開のコメントかましてくれました…

 

 

で、壇上に上がった銀子ちゃん…

「竜王…、否、八一、本当に私がアンタの生涯の伴侶でいいの?私はアンタの年下の姉弟子でしかない中途半端で未熟な新米棋士に過ぎないのよ。そんな私じゃアンタの足枷にしかならないのは自明の理…、それでも私を娶るのなら評価も批難も全て呑み込む覚悟を一生涯持ち続けなきゃ到底折れるだけよ。覚悟は?」

 

八一君の返答…

「何もかも承知の上だし、俺に絶対不可欠なパートナーは銀子ちゃん以外いやしない!!、後の責任は全て俺が取る。だから是が非でも銀子ちゃんには俺のプロポーズを受けて欲しい…」

 

 

 

 

 

 

って訳でひな鶴女将さんのドス黒いオーラとあいちゃんのハイライト消失した暗雲漂う仄暗い視線をどうにか回避しながらも銀子ちゃんと八一君の実質結婚セレモニーはどうにか完了の運びとなった…




翌日…、
関西所属の面々は大阪行き特急を、関東所属の面々は東京行き北陸新幹線をそれぞれ利用し、帰路につく事となった。

その待ち時間中に僕は八一君を捕まえて昨日の電撃婚約発表の真意を質してみた。

八一君曰く…、
「兄弟子や桂香さんなら解るでしょ?どっかのタイミングで何れは公表しなくちゃならなかった訳だし…。それに全責任を負うってのも、あいとお母さん(ひな鶴女将)の怒り怨みはどのみち俺が背負わなきゃならない訳で…。あいからの想いには気付いていたけど、俺はその気持ちに応える事は出来なかった…。やっぱり誰を取るかとなると、銀子ちゃん以外無かったから…だからこそ彼処で決着を着けなきゃならなかったんですよ…。」

…八一君、本気で肚を括っていたんだな…

そう言えば僕もあの壇上での万智へのプロポーズの際、天衣が何処か悔しそうに俯いていた記憶がある…!
となると、天衣も本音は洩らさずとも僕に特別な想いが有り、僕は無意識の内に天衣を振っていた訳か…
まぁ天衣の事だ、そんな本音なんて殊更僕には隠し続ける積りだろう。僕も気付かないフリする嫌な大人になるしかないか…

そんな僕の僅かに見えた困惑顔を見抜いたか、桂香さんがやって来てコッソリ耳打ちして来た。
「零君、天衣ちゃんなら想いは持っていても引き摺らないわ。寧ろ今は冬司君の矯正に熱心みたいだし…、今暫くはこのまま様子見で気長に眺めるしか無いんじゃない?」
と言われ、明確な答えは出ては無かったけど、何となくは納得出来たと思う…。

そんなこんなでそろそろ乗車時間となり、僕と万智、冬司、リーナは京都迄、他は大阪迄の旅路についた…


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最終章・決戦の刻
絶対神vs猖獗の大魔神・プロローグ


さてさて、いよいよ最終章に突入致します!!

八銀対決から4年余り…、この間世間も将棋界も色々と地盤変化が噴出しまくりで…

そして今期名人戦は安定の絶対神にして主人公・桐山零名人vs猖獗の大魔神・10年余のブランクなんぞ何のその、現役復帰するやストレートで名人挑戦に至る怪物性を如何なく示した氷室将介十六世名人の組み合わせとなった…。

此処に至る迄の数年間の足跡を辿るのが今話となる…


って訳で本編スタート!!


西暦2025年…、元号だと令和7年であり、その3月1日…

順位戦A級最終戦が静岡県静岡市の名門料亭で開催された。

 

出場者…

 

1位→山刀伐尽九段(4勝4敗)

2位→生石充九段(1勝7敗)

3位→九頭竜八一竜王(6勝2敗)

4位→神鍋歩夢賢王(4勝4敗)

5位→後藤正宗九段(3勝5敗)

6位→宗谷冬司玉座(5勝3敗)

7位→神宮寺崇徳帝位(4勝4敗)

8位→篠窪太志八段(3勝5敗)

9位→夜叉神天衣棋帝(5勝3敗)

10位→氷室将介十六世名人(5勝3敗)

 

最終戦組み合わせ…

 

山刀伐九段vs神宮寺帝位

生石九段vs氷室十六世名人

九頭竜竜王vs宗谷玉座

神鍋賢王vs篠窪八段

後藤九段vs夜叉神棋帝

 

となり、結果…、

 

○神宮寺(5勝4敗)−山刀伐(4勝5敗)●

○氷室(6勝3敗)−生石(1勝8敗)●

○宗谷(6勝3敗)−九頭竜(6勝3敗)●

○神鍋(5勝4敗)−篠窪(3勝6敗)●

○夜叉神(6勝3敗)−後藤(3勝6敗)●

 

の成績となり、6勝3敗の4人が僕への挑戦権を賭けたプレーオフに進む事となった。

 

一方で降級は生石さんと篠窪さんとなり、タイトル戦線常連でも容赦無く引き摺り降ろされる現実を見せ付けられる構図が今回も顕となった訳だ…

 

 

で、プレーオフの組み合わせは…、

 

1回戦は天衣vs氷室先生

2回戦は冬司vs1回戦の勝者

決勝は八一君vs2回戦の勝者

 

で戦う事となり…、

 

1回戦→○氷室−夜叉神●

2回戦→○氷室−宗谷●

決勝→○氷室−九頭竜●

 

と進み、結果…、

 

氷室十六世名人が今期名人戦での僕の挑戦者に決まった。

 

 

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〜side氷室将介〜

 

 

桐山の野郎と邂逅して早7年…

 

漸く奴の待つ名人戦に舞い戻って来た…

 

まずはどんな曲者をも退け続け、名人8連覇なんざ誰でも出来る芸当じゃねぇ!

しかも奴に挑んだのは、単純な将棋狂いを「盤上真理の追求」なんて下らんオブラートに包み隠した寝癖眼鏡に始まり、最大のライバルな国指定の難病持ちチビガキ、厨二病全開なエセジェントルメン、コンピューターを駆使し、その思考に限り無く同化せんとしたAIの敗北者、奴の弟でもあるロリコン竜王、振り飛車のスペシャリストにして1人娘には激甘のマエストロ、寝癖眼鏡の信奉者にして将棋知識への限り無い追求者でもあり、貪欲な迄に新たな定跡を求め続ける寝癖眼鏡以上の求道者…

 

どれもこれも俺の名人時代に対峙したなら並大抵に退けられる手合じゃねぇのは確かな奴等ではある。

 

が、奴には単純に潰すって思考は無く、切磋琢磨した上で更なる高みに自分も認めた敵も上がれば更にレベルアップに至るって考えなのが俺的にはどうにも理解し難い…

 

ま、昔からの…って言うか、俺には将棋界での唯一の友な鈴本…鈴本永吉って奴に言わせると、俺も桐山のガキに負けず劣らずお人好しな一面を持ち合わせてるって評価らしい…

あ?鈴本?俺はそんな単純な単細胞思考ってか?

少なくとも俺はそんなお人好しじゃねーぞ!

 

 

 

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順位戦が終了し、来期の陣容も確定した。

 

A級…

 

篠窪さんと生石さんがB級1組に陥落し、A級に上がったのが二海堂と隈倉君となり、来期は20代以下の若手強豪が7人…僕が負けて陥落すれば8人の究極のサバイバルとなる地獄絵図となる…

 

B級1組…

 

50代半ばにして奇跡的にA級復帰した師匠も世代交代の波には抗えず、遂に再びB級2組に陥落した…

そして来期昇級者の内、2人は…女性棋士であった。

 

峠なゆた七段

祭神雷七段

 

の2人が天衣に続く女性B級棋士へとステップアップを果たし、今後に期待が集まる注目株に名乗りを上げた…

 

 

又、半年前には、三段リーグを16勝2敗で1位突破したリーナが僕の門下3人目のプロ棋士となり、同時にウマ娘初のプロ棋士として歴史に名を刻み、一方では、あいちゃんが奨励会経験無しの女流棋士として対プロ棋士戦績の実績を基に編入試験を受け、見事に突破し、純粋女流からのプロ入りは祭神さんに続く2人目となる等、女性棋士の侵攻も徐々に進みつつあった…

 

 

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〜side月光聖市〜

 

 

プレーオフが終わり、氷室将介十六世名人が今期名人挑戦者に決まったのだが、その氷室氏から即日とんでもない提案を受けた…

 

この提案、過去に1度だけ実施された物であるのだが、そのあまりの過酷さにその1度切りで封印された『パンドラの箱』そのもので、私としては受け入れ難い代物だ…

が、私は彼に隠された物を承知しており、これを桐山名人に提示しなくてはならないのが何とも…

 

後は名人が受けるかだけだが、さてどうなるものやら…

 

 

 




封印された提案…

その過酷な『パンドラの箱』開封を桐山君が受け入れるか否か…

今回は此処まで。

では次回に


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絶対神vs猖獗の大魔神・パンドラの箱

さてさて今回は、前話で月光会長が呟いた『パンドラの箱』の中身ですが、これが桐山君にどう響くのか、又、氷室十六世名人に何があったか、はたまた月光会長始め、この中身を知る面々にどんな影響を及ぼしたか…、今話で書き切る自信は少々怪しいですが…

兎も角本編スタート!!


プレーオフ終了翌日…

 

今日は日曜日、僕も万智も対局は無く、明日のリーナの高校卒業式に備え、卒業&プロへの船出への祝いと激励を兼ねたパーティーの準備に追われていた。

 

因みに僕の家族はこの4年でまた増えた。

6年前の10月に双子の娘の万央・万実が産まれ、現在5歳・4月からは幼稚園3年目となり、来年にはもう小学生となる。

で、3年前の4月に三女の万彩(まや)が産まれ、今や5人家族の大黒柱となっていた僕であった…。

 

娘達にも少しずつ手伝って貰いながら準備を進めていると、昼近くに電話連絡が来た。

 

月光会長からだった…

 

「忙しい処申し訳無いが、急遽相談の必要があり連絡した次第です。急で悪いのですが明日、会館にお越し頂きたい。」

との話だったが、

「申し訳ありません、明日は完全に日程を押さえてあるので会長次第ではありますが、出来れば今日の内にお伺い致したく存じます。」

と答えた。

電話の後ろから男鹿さんが

「幾ら名人といえど会長の指示を…」

と言い掛けて会長に

「名人も突然の話ですから」

と何か宥められていた…

 

で、改めて時間を擦り合わせた結果、夕方6時に「ひな鶴」と深い関係のあの名門料亭で会談する運びとなった。

 

 

本当は僕1人で行く予定でいたのだが何か感じたのか、万智も急遽同行する事となった。

会長の了承を得て4人(会長、男鹿さん、僕、万智)での会談兼夕食となり、僕と万智はそこそこ呑めるのでビールを呑みながら、一方で会長と男鹿さんは下戸なので食事しながらの会談となった。

其処で出た会長の話とは…

 

プレーオフ終了直後の氷室先生の異常な申し出であり、過去に1度だけ行われた

『名人戦・時間無制限一番勝負』

を30年以上の刻を経て再び行おうと言う狂気の沙汰としか言えない申し出を受けるか受けざるかの選択を迫る物であった…

 

そして、この狂気の対局を知る1人としての月光聖市十七世名人の述懐が始まった…

 

ハッキリ酒で喉を湿さねば保ちそうにない狂気・地獄であった…

 

 

 

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〜side月光聖市〜

 

 

 

これは1993年、即ち平成5年に行われた第51期名人戦…

 

この期は上位が混戦気味で、残り1局で7勝1敗が先頃引退を発表した佐伯宗光永世竜王1人で、6勝2敗で追うのが氷室十六世名人と不肖・私であった。

 

すでに直接対決は終えており、全員東京・将棋会館で運命の1日に臨んだ…

 

結果…、佐伯氏と私が敗北、氷室氏のみが勝利し、氷室vs佐伯のプレーオフとなり、氷室氏が制した事で氷室氏が当期挑戦者となった。

 

 

その氷室氏を待ち構えていた当時の名人…

 

『滝川幸次』

 

が、その5連覇即ち永世名人を賭けた戦いに於いて、

 

「運命の一戦、唯一度で全てを尽くして決着したい。」

 

と望み、これを受け、挑戦者の氷室将介も同意し、前代未聞の名人戦一番勝負が開催される事となった。

 

 

場所は氷室指定の旅館で、氷室氏の祖父とも深き因縁ある決戦の場であった…

 

 

対局は1週間を超え、11日目…、氷室渾身の一手が繰り出され、勝利は氷室に大きく引き寄せられた…かと思ったのも束の間、滝川の次の一手は…、氷室瞬殺の再逆転の一手であった。

 

これで滝川十六世名人誕生…の筈だった…

 

 

ところが、首を差し出しつつももう一手を放った氷室氏に止めを刺す事無く、滝川名人は、その目から耳から口からも激しい出血が確認され、病院直行、依って滝川名人の棄権と認定され、氷室新名人の誕生となった…

 

 

以後の氷室十六世名人の活躍と突然の長期休場は多くの知る処であるが…

 

一方の滝川元名人は…

 

病院直行での療養以降はウンともスンとも細かい噂話すら伝わらない『神隠し』状態と化しており、現在の動向は誰も掴んでは居ない模様である…

 

 

 

 

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はぁ…、これは受けるしかないだろうな…

只、場所は全7局の予定場所では到底不可能だろうし…、他は…

 

 

あ、あった!!

只、これは僕個人では到底立ち行かないだろうから、供御飯当主たる義母の力が絶対不可欠となる。

 

早速義母に連絡を取り、京都市内の供御飯家御用達の名門料亭を1ヶ月分押さえて貰った。

 

これで改めて会長に条件了承を告げた上で、対局予定施設は全てキャンセル、一番勝負の会場は、京都有数の大名門料亭を押さえた事も同時に伝えた。

 

 

これは全て通り、4月中旬スタートで決まった。

 

 

 

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さて、名人戦迄まだ少し間があったので、当時を知る面々に話を伺う事にした。

 

 

〜byゴキゲンの湯〜

 

 

着くなりまずは料金を支払い、ひとっ風呂浴びた上で2階のゴキゲン道場に顔を出し、ジャズを弾いてた生石さんの前に顔を突き付けた。

 

生石さん、憮然とした顔で、

「A級滑った負け犬に何の用だ?」

とあからさまに今来られたく無いって態度だった…

 

けど、僕としてもあの狂気の対局の断片でも知りたいから退くに退け無かった。

 

 

お互い暫く無言であったが、やがて生石さんが漸く重い口を開いてくれた…

 

曰く、

「俺は現地に赴いた訳じゃねぇが、少なくとも画面越しから見ただけでも地獄絵図なのは確かだったぜ。ま、あの頃はしがない奨励会員だったから俺自身が何かを出来た訳じゃねぇがな。」

って外からの視線で語ってくれた。

 

この人、放浪癖あったり、酒癖の悪さも師匠並みだったり、何とも困った成分抱えているけど、一方で自前の弟子は居ないにも関わらず(飛鳥ちゃんは例外)、関西有望若手への面倒見とかフォローとかは結構行っており、総体的に言えば、天衣を更に拗らせたツンデレに近いお人なんだよな…

 

まぁ矢張り歴代でも大棋士の1人に数えられるだけはあるな。

 

 

 

〜by佐伯宗光〜

 

 

予定されていた講演の為、上京し、予定を恙無く終えると、打ち上げの宴会に参加し、その後、2次会を経て解散後、佐伯さんを誘って刈田先生御用達の料亭で酒を酌み交わした。

 

で、佐伯さん曰く、

「珍しいね、君が態々僕を誘うなんて。しかも此処は刈田先生行きつけの料亭…、刈田先生から何か示唆された?」

と問われ、

「えぇ、以前、刈田先生の御招待で此処で飲食した事はあります。その後も毎回ではありませんが上京の度に幾度か利用させて貰っています」

と答えた。

 

けど矢張り僕の狙いを見抜いていたようで、

「氷室さんと滝川先生の封印された地獄か…」

と少し間を置いてから徐に告げた。

 

「えぇ、その事で少しでも情報が有れば…と思いまして…」

と答えると、佐伯さん、

「最初に断って置くがあの対局、最も身近に体感したのは他の誰でも無い、君のお師匠にして身近な身内でもある清滝さんだ。経歴と段位だけなら当時でも既に若手でも注目株の1人だったのだが、あの名人戦、誰もが尻込みして記録係を拒絶する中、『なら儂に任せぃ!!』って突然名乗り出て結局10日余りの地獄を乗り切ったのだからあの人に聞いた方が余程早い。」

 

…なんかとんでもない大ヒントを貰った気が…

 

 

 

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〜by清滝鋼介〜

 

 

リーナちゃんの卒業式後、零の動きが何とも忙しない様だ…

 

そんな3月下旬、対局終了後若手を誘い、呑もうかと会館を出ようとした処でその零に出くわし、零が若手連中に断りを入れ、結局その夜は零と差し向かいで酒を酌み交わす事となった。

 

で、零が態々儂を訪ねたのは、あの伝説の地獄の事について少しでも知りたいからだった…ってのはそれなりに予測は出来ていた。

が、アレは体感処やない!

 

 

 

お互い座るなり、早速氷室がその祖父・御神三吉譲りの端歩突きをブチかまして10日余りに及ぶ長く、緊張の解けない地獄が始まった…

 

一方の滝川さんは一見静かな様子ながらも、確実に獰猛に喉笛を掻き切る構えで指していた…

 

 

 

そして1週間…

 

 

 

 

両者全く盤前から離れず、故に儂も限界と格闘しながら記録を取り続けていた。

 

何せ食事は疎か、小用すら1度も無いままなのだからそれも当然やった…

 

 

そんな中、最初に限界が来たのは特別立会人を買って出た刈田先生…刈田升三実力制第四代名人やった…

只、ダウンして退いた訳や無く、この対局では採用されて居なかった副立会人相当の立会人補佐を新たに付ける事で何とか立会を継続出来たって訳や…

因みにその立会人補佐は、柳原朔太郎現永世棋帝(当時九段)が担ってくれた。

 

 

 

この時、当時の連盟会長始めとする理事幹部連中はと言えば、最悪対局中止・連盟預かりとして、対局無効を検討すらする程慌てふためいていた…

 

 

 

 

そして対局開始から11日目…

 

 

 

氷室が決定的一手を放った…と誰もが確信した直後の滝川さんの次の一手は当にこれ迄の全てを読み切った完璧な殺戮の手となった…

これで滝川十六世名人誕生と共に稀代の若き大棋士・滝川幸次の現役クライマックスとなる筈やった…

 

 

 

実はこの地獄の一番勝負を提案したのは誰でも無し…、滝川名人その人やった…

そして、氷室を葬るのを最後に現役に別れを告げる事も同時に公表しとったんや…

 

 

 

が、氷室が負けを認めて指した次の一手…

 

滝川さん…、微動だにせず、無表情のまま、眼から耳から口からさえも血が滴り落ち、最早対局不可能であるのは誰が見ても明らかやった…

 

 

 

 

結局、病院直行となった滝川さんの棄権負けと認定され、転がり込む形で氷室が新名人に就く事となった…

 

 

が、こんな譲られた恰好の名人にあの氷室が承服出来る筈も無く、直ぐ様奴は名人返上と現役引退を連盟に叩き付け、故郷の土佐・高知に隠遁しようとした…

が、それを止め、現役継続させたのは、当時駆け出しの観戦記者だった今の奥方やった…

 

で、月光さん・佐伯・「名人」と10年以上に渡り、『四強時代』を築いた訳やが、他には大して興味をそそられ無かったのか、2000年代に入って間もなく引退宣言をし、引退届は受理されずも文字通りの長期休場に入り、零と出会ってやっと再び火が付いたって訳や…

 

 

 

 

この話を聞いた零…

 

「氷室先生が僕に何を求めているかは未だ僕には答えを導き出せてはいませんが、生死を賭けた戦いになる事だけは改めて認識した次第です。ですが僕も座して死す訳には行きませんので、殺し合い上等、どちらが先に音を上げるか戦い抜くしか無いでしょう…」

 

と事も無げに告げおった…

 

 

これは32年振りに阿鼻叫喚の名人戦となるのは最早疑いないで…

 

 

 

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その後、柳原先生からも話を伺ったのだが、阿鼻叫喚の地獄以外の何物でもなし…としか答えが返って来なかった…

 

 

結論…、本気で遺言書かなきゃならなそうだな…

 

 

 

 

 




こんな地獄の対局、誰も担当したがらないのは目に見えてますがはてさて担当したがる奇特な棋士、三段奨励会員は居るのでしょうか?


下手すると、同門縛りすら…になりかねない勢いですな…



って訳でまた次回!!


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絶対神vs猖獗の大魔神・特別立会人と記録係集団

さてさて、この地獄の一番勝負ですが、誰もが激しい消耗を避けられない為、色々と特別ルールを設定と相成る次第となります。

どんな事になるのやら…

って訳で本編スタート!!


 

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〜side月光聖市〜

 

 

 

 

 

3月29日…

 

 

 

今期名人戦の詳細を発表する連盟記者会見まで残り2日…

 

 

 

立会人、記録係とも未だに確定出来て居なかった…

 

 

 

それもその筈、時間無制限である以上、全ての予定を開け、又は予定キャンセルも視野に入れなくては到底立ち行かないからだ。

 

 

それでも立会人は1人は確保出来てはいたが、その御仁…当年90歳越えの刈田升三実力制第四代名人であり、その意気込みは兎も角、年齢的に長期間勝負での立会は単独では無理が有り過ぎ、複数立会にするか、体力のあるベテラン中堅クラスを複数立会補佐に付けるか未だ決着が付いておらず、悩み処である…

 

 

一方で記録係も大分難航しており、先回ですら四段三段連中の誰もが尻込みし、結局自ら申し出た清滝さんが10日余り座り通して何とか乗り切る有様であり、今回は尚更拒絶反応が激しく、どうしたものか未だ結論が付いて居ない…

 

 

 

そして意を決し男鹿さんにスケジュール調整を行って貰い、急遽上京する事とした…

 

 

 

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3月31日…

 

 

午後1時からの将棋会館(東京)での記者会見生中継が間もなく始まる…

 

 

この日、僕は京都の自宅マンションには居らず、そもそも関西からも離れていた。

と言うのも、リーナだけを連れて故郷・長野に極秘お忍びで訪ねていたからだ。

その第一の目的は祖父の墓参であり、僕らに取って事実上最後の訪問であった。

僕を排除し、リーナもウマ娘の血筋だからって冷遇し続けたあの形だけの親戚モドキなんて今更だが此方から願い下げだ。

そしてもう1つの目的は両親と妹の墓を僕の現在の拠点・京都に移し、長野の桐山一族から完全に割る事であった。

因みに3人の骨壺は20年前の葬儀の後、師匠と月光先生の計らいで大阪・清滝家に預かって貰い、その後、僕の独立に伴い、福島の家→京都のマンションと僕の手元に保管していた。

で、京都の墓地だが、供御飯家の計らいで供御飯家代々の専用墓地敷地の一角に小ぢんまりとしたスペースを用意して貰い、其処に改めて納める事となった。

因みに僕は供御飯家の婿養子であるので死後の墓は供御飯家に納められる事となる。

 

 

そして墓前で祖父に別れを告げ、信州蕎麦の隠れ家的名店を1営業日借り切り、午後から閉店予定時間迄滞在し、ゆっくり昼食を済ませ、テレビで生中継を見る事にした。

 

 

 

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〜side観戦記者・鵠〜

 

 

東京・将棋会館にて行われる生中継での記者会見…

 

午後1時、予定通りに月光会長が男鹿秘書を伴い、会見の席に就いた。

 

 

まずは形通りの挨拶から始まり、直ぐに今期名人戦の詳細を発表…

 

 

内容は、

 

 

◎今期だけの汎ゆる特別ルールでの名人戦開催である事であり、詳細は…、

 

 

・通常の七番勝負ではなく、時間無制限での一番勝負

 

・会場は当初予定された七番勝負での開催場所ではなく、特別に京都の名門料亭を借り切り行う事

 

・立会人は、特別総合立会として刈田升三実力制第四代名人が担当、特別正立会に十八世名人、副立会は置かず、特別立会補佐に佐伯宗光永世竜王と後藤正宗九段がそれぞれ就き、後藤九段だけは現役である為、その間の予定対局は全て延期する配慮が為される

 

・記録係は単独では置かず24時間交替とし、陣容は、初日・神宮寺崇徳帝位、2日目は隈倉健吾新八段、3日目は椚創多八段、4日目は鏡洲飛馬八段、5日目は神鍋歩夢賢王がそれぞれ担当し、其処迄に決着が付かなければ6日目以降は初日からのメンバーで切り回す事とする、又、全員現役である為、その間の予定対局は全て延期する配慮が為される

 

・現地大盤解説は行わず(時間無制限の為)、専門チャンネル解説のみとする

(解説は12時間交替で初日前半は二海堂晴信九段、後半は於鬼頭曜九段、2日目前半は山刀伐尽九段、後半は生石充九段、3日目前半は宗谷冬司玉座、後半は九頭竜八一竜王がそれぞれ担当し、其処迄に決着が付かなければ4日目以降は初日からのメンバーで切り回す事とする、又、全員現役である為、その間の予定対局は全て延期する配慮が為される)

 

 

との事であった。

 

 

 

次に今一つの重大発表として、月光会長が今期限りで8期16年の永きに渡り務めていた連盟会長から退く事が公表された。

後任の新会長は…既に内定しており、十八世名人が引き受ける内意を受けたそうである…

 

水面下であれあからさまであれ、十八世名人であれば誰もが承服以外有り得ないであろう。

そしてその十八世名人新会長体制での新理事は今期名人戦終了後、遅くともGW明け迄には発表される見込みとなる模様となる。

 

この間30分足らずであり、後は質疑応答の時間となり、色々な角度からありとあらゆる質問が為され、それに月光会長が1つ1つ丁寧に答える光景となった。

 

 

結局、会見と質疑応答で2時間半が費やされて会見終了…

 

 

 

 

紆余曲折の果てに『地獄の再現』となる異様な「名人戦」が此処で事実上スタートした…

 

 

 

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ふぅ…、皆さんよくも引き受けて貰えた物で…

 

…けど解説はまだしも、聞き手の陣容が誰1人発表されていないのだが、更に何かあるのか?

 

否、これ以上は問うまい…、後は氷室先生との生死を賭けた宇宙に飛び込む迄だ!!




当に前代未聞としか言えない一番勝負の詳細内容…

けど複数に割り当てなければどうにもならないのは確実であり、月光会長の苦渋の英断であるのは動かし様無し…


って訳でまた次回!!


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絶対神vs猖獗の大魔神・前夜祭

最早全国注目の大一番となった今期名人戦…

誰もが異様な雰囲気である事を自覚しつつ、前夜祭に臨む…



って訳で本編スタート!!


京都市・先斗町に位置するとある名門料亭…

 

 

此処が今回の決戦場となる。

 

 

 

そして会場に着くや早速検分が行われる運びとなる筈が…

相も変わらず氷室先生が恒例の迷子からの遅刻をやらかし、午後1時30分からの予定が1時間ずれ込み、結局終わったのは午後3時30分を過ぎていた…

 

 

そして着替えの後、午後6時から前夜祭が始まった…

 

 

元々一番勝負である為、氷室先生は直接対局を希望していたのだが、僕としては関係者全てに迷惑掛け通しである為、せめてもの慰労・労いの意味も含め、名人の権限で前夜祭を執り行う事を会長経由で承知して貰った経緯があった…

 

 

その対局者挨拶…

 

 

先ずは氷室先生からであったが、

 

「先ずは桐山、俺の申し出を快く受けてくれた事、感謝する。俺の人生最後の対局がお前で掛け値無しで有難い。この命の磨り潰し合い、とことん楽しもうぜ!」

 

ってまたとんでもない発言してくれたもので…

 

 

次に紹介された僕はと言えば…、

 

「伝説の大棋士である氷室先生の挑戦を受ける事、誠に光栄であります。ですが僕も永らく名人を預かっている以上、どれだけ傷付こうが切り刻まれようが貴方に名人を明け渡す事、到底出来よう筈も御座いませんので、その心持ちで臨んで戴きたく存じます。」

 

と一応事も無げに返しておいた。

 

 

実際、確信的直感に過ぎないのだが僕から見た氷室先生は、その人生で残された命の灯火を全て注ぎ込んで『名人』に返り咲く事だけしか考えてない様に見えた…

 

 

 

 

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〜side氷室将介〜

 

 

桐山のガキめ…、俺の状態を余す処無く観察し切り、絶対負けはしない決意表明ってか…

 

全く何処までも面白ぇガキなもんだ。

しかも俺が名人と結婚を続け様にこなした年頃で奴は既に永世名人資格を勝ち取り且つ、結婚・父親になってるってか…

 

こりゃあ、あの世でじっちゃん(御神三吉九段)も仰け反ってるだろうぜ…!!

 

じっちゃんって言えば「負けて得る物等無い」が身体中に浸透してた人生…少なくともその後半生はそれに支配され縛られたのが丸分かりだったが…、

 

一方で刈田の野郎は…

 

奴は俺を産んだ母親と通じて俺の物理的父親になったコレはコレでぶっ壊れた人間性な訳だが…

 

そんな野郎の信条はと言うと…、

 

「負けて得る物も有る」

 

って、じっちゃんとは掛け離れた考えの持ち主だった…

 

 

実際、非公式の野試合で滝川の野郎に砂を喰わされた惨敗の後、俺の心境はと言うと…、

 

「負けて得る物は有った。それは、勝ちへの思いが更に増した事だ」

 

って物だったので、じっちゃんの信条はある意味で負け犬の遠吠えに過ぎない戯れ言であったのが嫌でも俺の身に沁み渡ったのが何ともな…

 

 

が、今度の桐山との命のやり取りは俺自身が望み、桐山も受けて立った誰にも邪魔させない魂の死戦だ。

 

あの世からじっちゃんが迷い込もうが撥ね付けてやるぜ!!逃げた爺ぃなんざ用はねぇ!!

 

 

 

 

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思った程には波瀾も起きず、形上は恙無く前夜祭を終える事が出来た…

 

が、本番は明日からの無限の地獄であり、精神的重みが早速身体を支配しているのだが、それもこれも背負いつつ僕はこの戦いに傾注するだけだ。




専門チャンネル…

解説はどうにか確保出来たのだが…聞き手が確定しておらず、結局4月2日に漸く発表出来た…


メンバー…

初日前半・鹿路庭珠代女流四段
同、後半・登龍花蓮四段
2日目前半・神鍋馬莉愛四段
同、後半・花立薊女流六段
3日目前半・夜叉神天衣棋帝
同、後半・清滝桂香女流玉将

となり、スクランブル体制での解説業務であるのは誰が見ても明らかであった。


それでもどうやら対局が出来る程には人員は整ったようだ…


他にサポート要員として、

記録係要員→坂梨澄人七段
  同  →土橋健司七段

解説要員→関崎勉九段

聞き手要員→祭神雷七段(解説要員も兼務)
  同  →雛鶴あい五段(解説要員も兼務)

が待機する運びとなった。


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絶対神vs猖獗の大魔神・端歩突き

はぁ…、益々展開作るの難儀しまくりで更新もままならない有様で…

さて、これからどう動かすやら…


って訳で本編スタート!!


第83期名人戦時間無制限一番勝負初日…

 

 

会場となる先斗町の名門料亭の一室に前泊し、午前5時過ぎに目を覚ますと部屋に併設されている露天風呂で一汗流し心身スッキリさせると、暫く手慰み程度のシミュレーションで時間を潰し、午前6時30分頃になると朝食の膳が運ばれて来た。

 

・朝食メニュー

 

米飯櫃(茶碗4〜5杯分)、味噌汁鍋(椀4〜5杯分)、玉子焼3切れ、焼鮭1切れ、切り干し大根の小鉢、きんぴらごぼうの小鉢、香の物の小皿、フルーツカクテルの小鉢…

 

 

を食べ(御飯、味噌汁はそれぞれ2杯だけ)、その後に対局用の和服に着替えてまた暫くシミュレーションに没頭した。

 

 

 

そして午前8時30分頃になり、早目に対局場に向かう事にした。

 

 

 

其処には既に初日担当の神宮寺さんがスタンバイし、諸々の準備も終えており、後は氷室先生の到着と対局開始を待つだけとなっていた。

 

 

 

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〜side神宮寺〜

 

 

…、全く転生して若返ったにも関わらず、あの頃の老体会長時代じゃあるまいに、妙に早く目覚めちまったもんだ。

けど対局準備なんざそうも時間掛からず出来るし、手持ち無沙汰だからつい奴等の棋譜を何通りか予測して見た。

 

結論、そんな簡単な奴等じゃねぇ…ってのが見えただけだった…

 

 

で、早目の朝食を食べ、その後に諸々の準備に取り掛かり、8時30分頃にはもう桐山が到着し、早速上座に鎮座して瞑想に入っていた。

 

 

 

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午前8時45分…

 

特別立会人の刈田先生に正立会人の十八世名人、立会補佐の佐伯さんと後藤さんも会場入りしたのだが、肝心要の挑戦者・氷室先生だけが未だ姿を見せて居なかった…

 

 

全く何もたついてやがる…ってオーラを醸し出してた神宮寺さんが席を立とうとした午前8時55分…、漸く氷室先生が現れ、トレードマークの帽子を被った珍妙な和服姿での登場と相成った…

 

 

 

そして神宮寺さんによる振り駒の結果…、先手を握ったのは僕だった。

 

 

 

 

その第1手をオーソドックスに角道を開け、続く氷室先生の第2手は…

 

 

 

 

何と△9四歩であり、所謂端歩突きであった。

 

 

 

これは氷室先生の祖父で古の大棋士の1人にも数えられる御神三吉先生が得意とした初手であり、氷室先生も大事な対局にはほぼ用いる奇手であった。

 

 

 

この時、僕の頭に氷室先生の声無き声が確かに聴こえた…

 

 

「さぁ桐山、殺し合い・死合の始まりだ…」

 

 

と…

 

 

 

 

第3手…、早速僕が長考に突入…

 

 

時間無制限である故、考慮時間は幾らでも消費可能ではあるのだが、無駄に消費は出来ない…。

少なくともこの2手で解ったのは、氷室先生の精神・神経の全てが人間から掛け離れるレベルで極限なまでに研ぎ澄まされていると云う事だ…

 

 

 

4時間程度の長考の末に導き出した第3手は…

 

 

飛車を中央に振り、中飛車を選択する事であった。

 

 

 

 

 

今度は氷室先生が長考…、本気で超長期戦の構えとなった…

 




さて、この時期のタイトル戦線はと云うと…


・名人戦→只今桐山名人(8連覇、通算11期獲得)vs氷室十六世名人が対局中

・竜王戦→九頭竜八一竜王が怒涛の9連覇中でこの秋、10連覇に挑む

・帝位戦→神宮寺崇徳帝位が現在5連覇中、間もなく挑戦者が決定(永世帝位資格取得済)

・玉座戦→宗谷冬司玉座が現在5連覇中、夏に挑戦者が決定(名誉玉座資格取得済)

・盤王戦→桐山名人が保持(3連覇中、通算14期獲得)

・賢王戦→神鍋歩夢賢王が保持(前期初獲得)、現在挑戦者の桐山名人(前々期迄賢王5連覇)と番勝負中

・玉将戦→桐山名人が保持(前期奪還、通算10期獲得で永世資格を取得)

・棋帝戦→夜叉神天衣棋帝が保持(前期初獲得)、挑戦者決定戦の勝者(桐山名人vs宗谷玉座)と今後番勝負となる


って事で桐山一門、4人中3人がタイトルホルダーってチート振り…、しかも過半数の5冠保有とか…、で、天衣ちゃんも高校生になり、小学校の後輩の1人が弟子となり、研修会在籍しているので桐山君、何時の間にやら大師匠となっていましたとさwww

で、今1人のリーナちゃんは…、前期公共放送杯に女流代表として出場し、1回戦で佐伯宗光永世竜王を破ったのを皮切りに2回戦では後藤正宗九段、3回戦でも九頭竜八一竜王を倒し、準々決勝では姉弟子・夜叉神天衣棋帝に競り勝ち、準決勝は兄弟子・宗谷冬司玉座を撃破、最後の決勝では師匠で従兄でもある桐山零名人に千日手指し直しの末にギリギリの勝負を制し、公共放送杯史上初の女性(ウマ娘)覇者となったので、全員何らかの勲章持ちになりましたとさ(リーナちゃんはこの優勝で順位戦参加前にして五段に昇段となった)!!


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絶対神vs猖獗の大魔神・1週間後のそれぞれの感想

さてさて前回から10日以上経過してしまいましたが、ホントにこれからの展開どうしようか状態で…

まぁ纏まり次第好き放題に書くスタンスは何時もの如くですが…

って訳で本編スタート!!


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〜side月光聖市〜

 

 

 

対局開始から早くも1週間が経過し、8日目の朝9時前…

 

当初は記録・解説とも交替制としていたのだが、5日目には殆どの担当がグロッキー状態に陥り、結局6日目からは記録係は神宮寺帝位が専任となり、解説も九頭竜竜王と宗谷玉座のW解説に聞き手は桐山カタリーナ五段が一貫して担当する話となってしまった…。

 

一方で立会人は高齢の刈田先生以外はそれなりに体力を持っていたのでどうにかなってはいた。

 

 

そしてこの7日での手数は…259手であり、現在、後手の氷室十六世名人が4時間に及ぶ超長考中であった。

 

 

 

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〜side夜叉神天衣〜

 

 

名人戦開始から丸1週間…、幾ら集中しようが所詮人間、疲労も出ようと言う物で、気分転換に会場内の庭園を散策していたのだが…、何故かあいも「天ちゃん、外出なら付き合うよ」とか言って一緒に散策する事になった…

で、あいの仲間で女流棋士(JS研)の水越澪(女流1級)、貞任綾乃(女流1級)、シャルロット・イゾアール(女流2級)もつるんで来て5人での散策となったのだが…、

 

ふと池を見ると、そこに佇んでいる見慣れない初老の男性が目に入った…

 

何処と無く危うい強者のオーラを纏い、それでいて虚無感も漂う何とも理解不能な人物であるのは初見の私でも即座に理解出来た。

どうやらあいもこの人物に気付いたようで、早速近付いて声を掛けていた。

「おじさん、この対局の観戦に来たんですか?ならば控室に案内しますけど」

って話していたのだが、当の人物曰く、

「私は将棋名人・滝川幸次。氷室君の挑戦を受けに来た」

と、支離滅裂としか言えない台詞を返していた。

 

これにはあいも戸惑い、私に

「天ちゃん、この人なんかおかしいんだけどどうしよう?」

って相談して来た物だから、直感的に

「はぁ…、それなら私が足止めして置くからアンタは直ぐに会長か立会人の諸先生に連絡しなさい」

って指示すると、直ぐ様会場内に飛び込んで行った。

 

その間、件の『滝川名人』と少しばかり話したのだが、その『滝川名人』の話だと、

「私は名人を超えた神…、氷室君も佐伯君も刈田先生であろうが誰も私の影も踏めない絶対不可侵の存在…」

って、師匠の存在すら頭に入ってない究極の蒙昧仕立ての妄想狂にしか聞こえなかったのは私の間違いでは無いわよね…

 

 

そして、あいが連れて来たのは…、佐伯先生だった…。

その佐伯先生曰く、

「滝川さん、御無沙汰してます。佐伯です。処でこの対局を何処から伺いました?」

って昔馴染満載の台詞だったのだが…、

「君は?氷室君は何処に居る?」

って、さっき口にしながら佐伯先生の事を丸々覚えて無いって…これには佐伯先生も呆れ、

「滝川さん、取り敢えず会長の控室に挨拶に伺いましょう」

と有無を言わさず会場内に引き摺って行った。

 

 

 

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〜side佐伯宗光〜

 

 

 

この日も決着にはまだ掛かると思い、軽い朝食を摂っていた処、突如雛鶴あい五段が転がり込むように控室を訪れ、

「佐伯先生、滝川幸次と名乗る不審者が庭園の池に忍び込んだのですが、この老人のおじさんの事は御存知でしょうか?」

と報告したものだから、思わず腰を浮かせた。

もしその御仁が滝川さんならば、妨害させる訳には行かないから僕迄で止めなくてはいけない。

取り敢えずは夜叉神棋帝が足止めしているとの事で件の池に足を運んだのだが、其処に佇んでいたのは紛れも無く滝川幸次元名人であった…

確かに放置すれば何を仕出かすか危うい状態なのは間違い無かったので、取り敢えず会長の控室に案内する事にした。

 

 

これには会長も少なからず驚いていたのだが、それでも

「先ずは此処までの棋譜を御覧になって下さい」

と、1週間分の棋譜を差し出し、滝川さんに検討させる事でどうにか当面の目処を付けたようだ…

 

 

それにしても滝川さん、どうやって此処を嗅ぎ付けたんだろうか…

 

 

 

 

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〜side生石充〜

 

 

時間無制限一番勝負も早くも1週間経過となった…

全くどっちも殆ど座りっ放しでよくも保つもんだ…

 

俺が一昨年の名人戦で零に挑んだ時も其処まで生死を賭けていたとは流石に断言は出来ねぇな…

 

相手の力を引き出した上で己も更に階段昇るスタンスを通していた零が此処で氷室のオッサン相手に生死を賭けた文字通りの死闘を繰り広げるってのは…、俺達は疎か「名人」ですら其処までの領域には至ってない最大最悪の悪魔の証明じゃねぇのか?

 

けど、そんな将棋と密着している零だからこそ、飛鳥を嫁がせたかったんだがな…、親の僻目にしてもだ、飛鳥が他の女に劣るとは到底思えない訳でな…

けど万智ちゃんか…、結局積極性の差が明暗分けちまったって事なのか…

 

ま、それはそれとして、この先の地獄の行き着く先は一体全体どうなるものか興味が尽きないのは間違い無い。

 




今回は桐山君も氷室さんも一切登場しない話となりましたが、次回からはボチボチ決着に向かおうかと…

って訳でまた次回!!


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絶対神vs猖獗の大魔神・決着の刻(前編)

さてさて、遂に決着の刻…

1週間を超える死線の綱渡りを未だ走り続ける極限の2人…、心身・体力・気力全て注ぎ込み、尚も命すらもブチ込む限界突破も一体全体何巡目に及ぶのか…


って訳で本編スタート!!





〜対局10日目〜

 

 

 

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〜side氷室将介〜

 

さて、記録取ってる神宮寺って野郎が今日も定刻に席を外したんで、これで10日目突入ってか…。

全く、以前の滝川の野郎との無制限の時でも此処まで消耗しなかったがな…、桐山の奴、あの華奢な身体の何処からあれ程迄の体力・気力・オーラを放ち、且つ維持し続けられるんだ?

これじゃ決着前に最悪俺の命が尽きてもおかしくねぇ…

 

否、例えこの命吹っ飛ぼうがこの一戦だけは何が何でも勝ち切ってやる!!

 

 

 

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午前9時前…、今日もこの時間に神宮寺さんが席を外し、いよいよ10日目に突入となった…。

 

 

此処まで345手を指し、今は氷室先生の手番で現在2時間に及ぶ長考中である…

 

 

僕が見るに氷室先生のオーラが衰える気配は未だに見えないけど反面、背後にある命脈は徐々に薄れている感触が感じられる…

となると、この1〜2日が肝、勝負所になるのは最早疑いないだろうな…

 

 

因みにこの9日で食事は考慮中に軽い補給食を何度か摂っただけで、僕も氷室先生もかなり痩せ細っているのは確実だ。

あの体力気力の旺盛な神宮寺さんからして既に過分な減量状態なのは誰が見ても明白なのだから僕らは推して知るべしな訳で…

 

 

間もなく神宮寺さんが席に戻り、対局再開…

 

 

此処で氷室先生が動いた…

 

 

一度下げていた龍王を上げ、僕の玉の喉元に突き付けて決着へ突っ走りに来た…

 

 

 

 

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〜side八一〜

 

 

午前9時…、恒例の小休憩の時間となり、軽食と水分を補給…、現在345手を指し、後手番の氷室十六世名人が346手目を長考中なのだが、映像を見る限り、兄弟子も氷室十六世名人も心身共に幽鬼に塗れてる印象が強烈に映るんだが、…保つのか?

 

少なくとも俺ならギブアップか病院直行でも不思議じゃない消耗度合なのは間違い無いな…

 

 

 

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〜side刈田升三〜

 

 

 

10日目朝…、そろそろ氷室、桐山、どっちかが動く頃合いか…、

 

思えば滝川に事実上敗北した後の氷室は名人にこそ君臨したものの、その時間は針を止めたままで一向に動かず、佐伯、月光、寝癖眼鏡と四強時代を作りながらも尚も満たされないまま長期休場に踏み切る有様…

 

 

そして、その長期休場もいよいよ規定による引退までカウントダウンに入った頃に引き合わせたのが、永世名人資格(十九世名人)を取得したての桐山零だった。

そして氷室邸でのプライベート対局で奴の止まっていた時計が此処から再び動き出した…、が、この時既に奴の身体は病魔に蝕まれており、渋る奴を奥方が強引に引き摺って検査した結果…、肺と膵臓に癌細胞が点在しているのが確認され、この時点で余命1年未満と診断されたのだが…、

 

奴は延命治療を拒否、最低限の投薬だけを選択し、残りの命全てを桐山との名人戦に注ぎ込む姿勢を明言した。

しかし、どう考えようが桐山に挑むより先に奴の命が尽きるのは事情を知る儂や月光には明らかだったので、少し後に検査入院した氷室に儂は敢えて絶望的言葉を告げた。

 

「氷室、今の貴様の実力、体力で桐山に勝つどころか、その争いの位置(A級)にすら持って行けないのは貴様が一番に承知してるだろう。もう諦めて穏やかに最期を迎えろ」

 

だが、対する奴の答えは…、

 

「刈田、何寝呆けてやがる!何の為に順位戦復帰の際に順位戦以外の対局を全部辞退したのか未だ解ってないらしいな。全ては桐山から名人を剥ぎ取り、俺がじっちゃんの人形じゃねぇ、俺が俺自身である証を立てなきゃ死ぬに死ねねぇんだ!!」

 

魂の叫び…祖父・御神三吉の呪縛から解き放たれたい悲痛な想いが渾身の叫びとして儂にも響いた…

何しろ儂も奴の母親もあの御仁には大概振り回されていたからな…

 

そして何を思ったか、氷室がポツリと呟いた…

 

「親父、俺の最期、しかと見届けやがれ」

 

と…

 

 

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その龍王…、完全に僕の喉笛を掻き切る構えに来たか…

 

が、こっちも手順は複雑だが詰ますには既に準備は出来ている。

問題は、氷室先生の龍王からの詰み手順が僕の詰み手順の先か後かなんだが…

 

これは長考不可欠だな…

 

 

 




今回で決着しようかと思いましたが、何か色々膨らんでそれを収縮させて纏めるのが中々難しいので、次で決めたいと思います…

って訳でまた次回!!


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絶対神vs猖獗の大魔神・決着の刻(後編)

さてさて、いよいよ新年度となりましたが、あの永世七冠が順位戦からフェードアウトせずB級1組から再起を期すって事で、竜王他四冠が乗り込むA級ばかりじゃなく、B級1組も混戦の予感がする第81期順位戦…

一方でこの物語も徐々にクライマックスに向け進行したい処ですが中々展開に迷い、筆が鈍りがちで…

って訳で本編スタート!!


10日目午前9時30分過ぎ…

 

 

 

遂に動きが出た!

 

 

一度下げた龍王を再び上げ、僕の玉の喉元に突き付けてきたのだ。

 

 

そして今度は僕の長考が始まった…

 

 

 

 

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〜side後藤正宗〜

 

 

氷室のオッサンめ、此処へ来て再び龍王を上げたとは…、一気に桐山の喉笛掻き切りに動いたな…。

 

検討室のモニターじゃ最早物足りないと思って会長控室に行こうと腰を浮かせた処、雷が全力で腰にしがみ付き、顔を蒼白にして懇願して来た。

 

「正宗ぇ…、アンタ今会長の処行ったら間違い無く壊されるよぉ…」

 

と、何時もの雷らしくなく眼の光が薄れ、何処か覚束無く頼りない風情だったものだから俺も怪訝に思い、何があったか聞いてみた。

 

雷の答えは、

 

「会長の処、ついさっきから会長とか佐伯のジジィの知り合いみたいな薄気味悪いジジィがひたすら今回の棋譜を検討してそれをなぞって駒を動かして不気味な笑い繰り返してるんだよぉ…。そんな処に正宗行かせたら間違い無くあの不気味なジジィに壊されてしまうじゃん…」

 

だった…。

 

けど今回の俺は特別立会補佐の立場にいる以上、最後まで見届けなくてはならず雷の心配は理解出来なくもないがそれ以上に、寧ろその不気味な初老の男に興味を持ち、心がざわめくのが抑えられない自分が自覚出来たのは棋士の性としか言えなかった。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

〜side月光聖市〜

 

 

いよいよ決着へ大きく動き出したようだ…

 

氷室十六世名人…氷室君の命の炎が今、当に最後にして最大に燃え盛っているのが視力を失って久しい私でも即座に感じ取れ、理解出来る程だ…

 

 

ん…?

 

昨日迄の棋譜を読み漁っていた筈の滝川元名人の気配が何時の間にか消えているが…控室から抜け出したか…

 

…抜かった…!あれだけの棋譜を見て平静でいられる筈も無い…このままでは対局室に闖入して決着の場を乱しかねない!

 

今控室に居るのは私以外では秘書役の男鹿さんと、モニターを食い入るように見つめている刈田実力制第四代名人、次期会長内定の十八世名人に引退したばかりの佐伯永世竜王の4人…

となると、男鹿さん以外で最も若い佐伯さんに頼むか…

 

と思っていたら、立会陣で唯一部屋から離れていた後藤九段が丁度戻って来た。

これを幸いに後藤九段に対局室に闖入しようとしている滝川元名人を取り押さえるよう頼み、追い掛けて貰う事にした。

 

 

と思えば後藤九段が立ち去った途端、今度は刈田先生が絞るような声を出していた…

 

「氷室…将介…、貴様の最後の決着…、儂が御神三吉に成り替わりしかと見届ける…!」

 

と…

 

 

あの事実を知る私と佐伯永世竜王は特には動じなかったのだが、承知していない十八世名人と男鹿さんは何事かと目を丸くして刈田先生を見つめていた…

 

そして、男鹿さんが私に

 

「会長…、不肖男鹿は会長の全てを把握し理解した上で働いている事を自認しております。然し今回ばかりは…、刈田実力制第四代名人の態度を見ても何等動じない事だけは男鹿の理解の外です…それが何なのか差し支え無ければ是非とも御教え願います…」

 

と懇願し、口を開いていなかった十八世名人も私にその類稀なるオーラで同歩の意を示していた…

 

 

そして、刈田先生を無視した形で私から2人にその事実を話した…。

 

 

その説明の間、2人とも一切口を差し挟めない程に仰天の顔色になっているのを目に見えずとも感じ取れた…

 

 

そして説明が終わるや、十八世名人が

 

「刈田先生と氷室さんに是程悍ましい歴史が…。然し会長も佐伯さんも何時その事実を?」

 

と問うて来たので

 

「佐伯さんは滝川vs氷室の名人戦前のA級最終戦の際に刈田先生の独白で知り、私は…会長就任の際に刈田先生から呼び出され、万一の時のカードとして貴様に預けるとの言葉と共に告げられました。」

 

と返答した。

 

ともあれ、納得し切ったかは兎も角、符には落ちたようだ…

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

〜side夜叉神天衣〜

 

 

一度検討室に戻っていたのだが何か妙な胸騒ぎがし、元JS研メンバーに頼み、対局室前に検討用の七寸盤を運んで貰った。

 

そして他のメンバーには検討室に戻って貰い、あいだけは昨日迄の棋譜を私と一緒になぞりながら先の展開を自分達なりに予想してみた…

 

 

そしたらさっきの初老の闖入者が対局室に向かい、押し入ろうとして来た!

 

その不穏な気配に私もあいも気付いたが、先に動いたのはあいで、

 

「おじさん、此処から先は誰も立ち入るのを許されない場所です。零おじさんと氷室先生の決着の場、邪魔させません。」

 

と敢然と闖入者に立ち向かっていた。

 

 

そしたらその闖入者を追い掛けて来たと思しき後藤九段もやって来て、その闖入者に

 

「おい、滝川の亡霊ジジィ!此処は過去の遺物に過ぎないアンタの立ち入る場所じゃねぇ!大人しく控室で棋譜を読んでろ!!」

 

と叫びながらとっ捕まえようと身体を乗り出したが、何故か滝川ジジィを捕まえられず、そのまま対局室に乗り込まれかけてしまった…

 

が、対局室に最も近い場所にいた私が滝川ジジィの和服の裾を掴み、転ばせた事でどうにか闖入という最悪の事態だけは一旦は回避出来た…

 

 

で、その滝川ジジィはと言えば…

 

「名人を超えた神たる私にその不遜な行為…、到底許し難き蛮行…、年端の行かない小娘と云えど容赦なく葬る以外無し…」

 

と、何とも厨二病なゴッドコルドレン(神鍋歩夢賢王)やロリコン気質満載なクズ竜王(九頭竜八一竜王)が常識人に思える程には狂いに狂った妄想狂としか私には見えなかった。

ホント、将棋以外じゃ常識の欠片さえも怪しい冬司でもこの初老ジジィに比べたらまだマシな部類ってのがどうにも…

 

 

 

そんな訳で持ち込んだ七寸盤を使い、私が滝川ジジィと昨日までの棋譜の最後から対局する事となった。

 

でもどういう訳か私が氷室十六世名人側で滝川ジジィが師匠側って何で?

 

これには私処かあいも後藤九段も私が師匠の弟子だから私が師匠側になるべきと主張したのだが、ジジィ曰く

 

「私が葬るのは氷室君…、ならば氷室君の敵は私以外無い…」

 

とか、私の立場を丸々無視した一方通行かまして私達の主張を押し退け、結局私が氷室十六世名人側に押し切られてしまった…

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

氷室先生が上げて来た龍王…

 

勿論王手であり且つ、此処から駒補充分を含む都合37手連続王手の絶対絶命に等しい絶対的危急である。

 

当然即座に指せる訳もなく、又もや長考に沈むしか無かった…

 

 

 

穴は…起死回生の一手は…1時間2時間…、まだ答えが出せずに悶々と悩み続けていた…

 

 

 

が、そんな中、とある事実に気付いた…。

それは僕が徹頭徹尾氷室先生のペースに乗り続け、自分のペースに氷室先生を1度たりとも導けなかった事であった…

 

 

故にこの長考中、是迄神宮寺さんの休憩中にのみ行っていた軽食と排便を敢えて実行してみた。

 

排便は元々軽食給水共少なかったから大して出なかったが、食事は休憩スペースに終始控えていた鏡洲さんに頼み、定食メニューを運んで貰い、1時間掛けて食べ切った。

 

 

そして体力気力を十分に回復させた処で長考再開…

 

 

其処で唯一の逆転が見つかった……が、これは氷室先生に悟られるとたちまち封じられ、敗北一直線に導かれる獣道…!

 

 

そしてそんな綱渡り状態のまま対局再開…

 

 

予定通りに王手→回避を辿り、王手が切れた次の76手目の僕の一手が氷室先生必敗の妙手となった…

 

 

 

最短5手最長13手の決着手であり、最早僕が戦闘不能とならない限り、氷室先生の敗退が確定した…!

 

 

そして次の一手を指す事無く、氷室先生から

 

 

「桐山…、見事に切り返しやがったな!!此処まで追い込んで逆に喉笛喰い破られるとか…、勝者はてめぇだ!!こうまでやられりゃ完全に俺の負けだ!!全く、最後がてめぇで良か…ガフォっ…!!」

 

 

と、敗北宣言が為された次の瞬間、突如氷室先生が口から大量の血を吐き、盤と駒を真紅に染め、その場に倒れ伏した…

 

 

一瞬思考停止に陥りかけたが、直ぐに持ち直して氷室先生を寝かせた。

然し、記録を取っていた神宮寺さんが

 

「応急処置は俺がやる!!お前は救急車の手配頼む!!」

 

と矢継ぎ早に指示を出し、僕はそれに従い、会場近くの救急センターに連絡し、3分後には救急車が現場に到着していた。

 

そこに氷室先生を乗せた後、対局室前を改めて見ると、天衣が初老の男性と対峙しており、然し、その対局は既に終局に至っており、敗者たる男性はどうやら力…否、命そのものが尽きており、力無く座っているだけだった…

 

この男性について天衣に聞こうとしたら、立会っていた後藤さんが代わりに答えてくれた。

曰く、

 

「このジィさん、氷室のオッサンと浅からぬ因縁持ちな滝川幸次元名人だ。で、此処で夜叉神と対峙してたのは、ジィさんの押し入りを夜叉神が阻んだ結果だ。俺も会長指令でジィさんの確保に此処まで追い掛けたが、夜叉神との対局を始めちまったから見守る側に回ったって訳だ」

 

との事でどうやらこの対局、天衣に守って貰っていたらしく、師匠でありながら当分は頭が上がりそうにないか…

 

 

で、事切れている滝川元名人は…、後藤さんが運び、救急センターで後処置をして貰う事になった。

 

 

 

そして会長控室に足を運び、改めて今回の異例尽くしの名人戦開催の尽力の礼に伺うと、此処は此処で特別総合立会を務めた刈田先生が事切れており、急遽呼び出されたと思しき生石さんと山刀伐さんが2人掛かりで担架に乗せ、運び出す騒ぎとなっていた…

 

 

 

一体なんなんだ…?

幾ら異例尽くしの対局とは云え、死亡者2人に救急搬送1人とか、僕も当事者の1人ではあるのだが、将棋史最悪の黒歴史に数えられかねない大惨事模様じゃないか…

 

 

どれだけ譲っても氷室先生だけなら覚悟の上での事だから呑み込めるけど、刈田先生は…そもそも老齢だから無くも無いって事で此方も無理すれば呑み込め無くも無い…けど、天衣やあいちゃん曰く、闖入者の滝川元名人だけはどうにも擁護のしようが無いって言ってたよ…。後藤さんもあのジィさんだけは無理筋もいい所って吐き捨てていたし、会長も十八世名人もアレは守りようが無いって諦めてたし…

 

 

けど滝川元名人、何処から僕らの対局を知って闖入したんだろうか…これは会長や佐伯さんに聞いても明確な答えは出て来なかった。

実際、2人にしても滝川元名人の闖入は完全に想定外だったようだからな…

 

 

 

 

 

ともあれ、これで僕は名人9連覇を果たし、通算でも12期獲得を記録し、また新たなステージに立つ事となった。




そんな訳で桐山君、名人防衛しましたが流石に10日に渡る死闘激戦による心身双方のダメージは大きく、4月中に予定されていた対局は全て延期となり、帰宅後5日間は絶対休養・研究禁止を強制される始末と相成りましたとさ。

一方で救急搬送された氷室十六世名人はと云うと…、救急センター及び搬送先の病院が近隣だった事から迅速に手術が行われ、取り敢えずは一命を取り留め、入院生活決定。
そして文書を出し、正式に現役引退を発表。
前回の長期休場とは異なり、今度は引退届を受理されたとの事。


又、死亡した滝川幸次元名人の闖入はと云うと、滝川元名人が入居していた施設の担当者が元奨励会員であり、この対局を興味深く話していたのが基だったらしい…
にしても、その施設は淡路島にあり、フェリーから新幹線、列車バス等の交通機関を多用しなくてはならず、お金は兎も角、よくも迷わずに現地に来れたな…と言うのが桐山君の感想でした…。




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結婚式

名人戦…、早くも魔王が2勝先行となり興味が削がれる勢いとなり、一方で叡王戦では瀬戸物天才児が先勝と、番狂わせなんてねーじゃんかって勢いで棋界ツートップがその存在感をギラギラに輝かせている現状…
その上棋聖戦も挑戦者が軍曹(中尉)と、他の若手中堅は何やってんだ?(叡王戦挑戦者除く)って具合に下の世代があまりにも不甲斐ないお話で…


我々部外者にしても一介の一般人からしても何とも物足りないタイトル戦線を今度は誰が風穴ブチ抜くのか…しか今後の興味が無いのは将棋界にとっても幸福とは思えないのだが…

野球にしても二刀流大谷から甲子園放棄してまでも守ってくれた監督に報いて今年スペシャルインパクトをぶちかました佐々木朗希から次々とニュースターが誕生する昨今…


一方で本小説での主要キャラについては、主人公の桐山君から原作主人公の八一君から銀子ちゃん、それぞれの原作ではライバルながらも実績では主人公から一歩退いた役回りでしか無かった二海堂君に歩夢君、不運な立ち位置だった鏡洲さん、才能は抜群ながらもやや地味に位置付けられていた椚創多や今現在では本小説では未登場の蜂谷すばるなんかは基本的に本小説では資質力量強化キャラに進化させてるお話な訳で…


そんな原作超絶強化を施した上での本編スタート!!


あの地獄の名人戦から2ヶ月後…、

 

 

大阪・高槻の将棋会館で将棋界始まって以来とも云える大規模にして高槻市としても最大規模な大結婚披露宴が行われた…。

 

 

 

 

主役の2人は…

 

 

 

 

新郎→椚創多八段(A級1期、現在B級1組、竜王戦1組)

 

新婦→桐山カタリーナ五段(現在C級2組、竜王戦5組)

 

 

 

 

であり、両者とも高校卒業し、そのタイミングで正式に結婚する運びとなったのだった。

 

 

 

 

因みに媒酌人は昨今では異例ながらもアリって事で、

 

 

 

新郎側(創多)→鏡洲飛馬&月夜見坂燎夫妻

 

新婦側(リーナ)→神宮寺崇徳帝位&清滝桂香女流名跡夫妻

 

 

 

が担ってくれた。

 

 

 

 

 

 

そしてこの日は高槻・関西将棋会館2日間貸し切りでド派手に食べ呑みし放題の狂宴となり、一応は式次第の建前も有ったのだが、最初の挨拶の時点で見事なまでに木っ端微塵に叩き壊されてしまったのだった…(汗汗冷や汗…)

 

 

 

 

 

 

 

で…、皆さん不思議疑問に思える創多とリーナの邂逅と関係成立の経緯なんだけど…、

 

 

 

 

 

 

 

 

事の始まりはプロ1年で早くもC級2組を全勝で1期抜けした創多がその頃女流入りしたばかりのリーナに直感的に興味を示した事だった…

 

 

 

 

僕がそんな事態を知ったのはリーナが、

 

「師匠、私なんて女流でも木っ端程度の実力実績でしか無いのは師匠も御承知ですよね。なのに何故だか椚六段が私に執着してるって、意味不明なんですけど!何故椚六段が私にストーカー紛いになってまで私に近づきたいのか訳ワカラネーなんですが」

 

って訴えて来たからだった。

 

 

 

 

なので、歩夢君との名人戦でこっちから記録係に創多を指名し(本来なら連盟指定なので不可能ではあったのだが)、僕らの名人戦を否が応にでも体感して貰い、断念させる積もりだったんだけど…

 

 

 

創多って、これ程までに女性に執念深かったか?

 

 

 

まかり間違って八一君なら有り得ないにしてもまだしも納得出来なくもないけど、それにしてもな…

 

 

 

 

 

 

で、僕1人じゃ何とも不安だったから鏡洲さんも誘い、3人での相互激励会って形にしてみた。

 

 

 

 

 

そうしたら早速創多が、

 

「零さん、リーナさんの事はこれから先、僕が全てに責任を負います。ですから将来の結婚もお許し願います。」

 

ってブチかましたよ…

 

 

 

 

で、僕はと云えば…

 

 

 

 

 

「あのさ、僕はリーナの御両親から彼女の今後の人生(ウマ娘生)を預かっているの創多も知らない訳無いよね。憚りながらも親代わりを担ってる僕の見解としては、今の創多にリーナは委ねられない!!」

 

 

 

って叩き付けたんだけど…、

 

 

 

 

「零さんが何言おうが御両親がどう宣おうが僕の気持ちは変わりません。それに実家からは僕も基本勘当扱いですから将棋を失えば僕が野垂れ死ぬのは明らかですので、この大した事の無い命は兎も角、少なくとも僕が健在な間はリーナさんを決して不幸にはさせません。」

 

 

 

との言質を貰い、幾分不安を持ちつつも改めて三者会談を行う事にした。

 

 

 

 

……なんだけど、其処に何故か万智まで参加し、四者会談になってしまったのは今でも何でだろうな…って思ってしまう…

 

 

 

 

「基本創多君って女性への興味が薄い方やと思っとったんどすけど、なんでまたリーナちゃんに其処まで惚れ込んだんどす?」

 

って万智から問われた創多…

 

「はぁ…、リーナさんって元々ウマ娘で本来なら今頃『皇帝』シンボリルドルフさんとか『日本総大将』スペシャルウィークさんとかみたいにトゥインクルレースで活躍すべき人材ですよね。なのに、その道を放棄してまで全身全霊将棋に打ち込む姿勢が僕の心に刺し込まれて…、ですから今直ぐにって訳ではないですけど、何れ僕が相応しい立ち位置に立った時、是非にもリーナさんをお嫁さんに迎えたいと思っています。」

 

ってすかさず答えてたよ…

 

 

一方で鏡洲さんは面白そうに、

 

「ハハっ、なんだかんだで創多も一端の男だってのを知って俺も安心したわ。そもそもお前って女っ気無いわ俺やら零とか八一には懐いても他には儀礼程度にしか関わり持たないわで俺も幾分人間関係に不安持ってたんだが、そんなお前が思春期の男らしく1人の女性に惚れ込んだって聞いて今直ぐにでも祝福したい位だ。」

 

って僕の懸念を他所に創多を後押ししていた。

 

 

で、僕は…、

 

「いやいや鏡洲さん、創多の将来を心配する自体は分かりますけど、僕からすれば創多もリーナもまだ中学生なんだし、今直ぐに結論付けなくてもまだ考える余地はあるんじゃないかと…」

 

って幾分迷い気味に返したのだが…

その返しを聞いた万智が、

 

「なら、一度付き合ってその交際次第で改めて結論付ければ宜しいんやないどすか?」

 

って言い出し、鏡洲さんもそれに乗って、

 

「だな。食わず嫌いのなんとやらってのもあるし。そもそも俺も燎と付き合う前はアイツの事、ムダに吠えるだけの見せ掛けヤンキーにしか思えなかった訳だし…、まぁ実際付き合って結婚して認識完全に覆された訳だけど。だから零も気長に見守るスタンスにしとけばいいんじゃね?」

 

って僕の説得に掛かってた…。

 

こうなったら様子見賛成の万智・鏡洲さんvs反対気味の僕って図式となり、結果…、僕が折れて改めてリーナと話し合い、友人交流からスタートする事となった。

 

 

 

 

それから5年…、結婚衣装の両者を眺める僕の目は感慨深さに誰が見ても丸わかりな程に潤んでいた…。

 

 

 

 

 

そして隠居前最後の仕事と称した月光先生のスピーチが、

 

「新郎椚創多八段、新婦桐山カタリーナ五段、この度新たな門出を迎える事、誠に目出度く存じます。思えば私が椚八段を認識したのは、貴方が桐山名人レベルで最速昇級を重ねていた奨励会時代の事でした。その後も出世を重ね、若手随一の期待株となり、今を迎えた事、感慨深い物が有ります。新婦・桐山五段に於きましては、女王戦トーナメントを勝ち上がり、夜叉神現棋帝との五番勝負で当時アマチュアながらも既にプロとして活動していた夜叉神棋帝相手にあれだけ渡り合えた事で新たな息吹を感じたものです。そんな御二方が今日の日を迎える事、私にしても感慨深い物で有ります。将棋界の未来の為にもこの縁を通じて更なる発展を望む物で有ります。」

 

だった…

 

 

 

其処からは殆ど無礼講の酒盛りとなり、蔵王先生の底なしは相変わらずで、それに付き合う神宮寺さんも大概で周りは潰される面々多数…

 

師匠は元より、生石さんも新会長の十八世名人も山刀伐さんも於鬼頭さんも他ベテラン中堅若手の誰もが終始へべれけ状態と化していた…。

 

当然僕もズダボロに潰されており、そこそこで逃げていた万智に介抱される有様で…

 

更には創多も卒業祝いと称され呑まされる始末…まぁ創多は初飲酒だったから少し呑ませただけで後は鏡洲さんと八一君が引き取ったけど…

 

只、意外だったのは、リーナがやたら酒も強かった事…

って言うのも、ウマ娘は元々食事量がハンパないのは知ってたけど、まさか酒までハンパないのは流石に予想外だった…

 

何せあの蔵王先生に付き合える酒豪って僕の知る限り、神宮寺さんしか居ない訳で…

それが同レベルで呑みまくれるって…、ウマ娘の体質ってどうなってる訳?!

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

連盟新体制が決定…

 

◎会長→十八世名人

 

◎専務理事→佐伯宗光永世竜王

 

◎常務理事→於鬼頭曜九段

  同  →生石充九段

  同  →山刀伐尽九段

  同  →後藤正宗九段

  同  →久留野義経八段

 

の面々となり、それぞれが一時代を築いたりその時代を彩った名棋士であったりと、兎も角も存在感抜群な陣容となった。

 

因みに月光先生からは、将来的には僕に会長を引き継いで貰いたいとの事で、僕的には全く自信ないんだけど…




ウマ娘の酒量については基本原作アニメでは学生であり特には語られてないので、この物語独自の設定解釈って事で…

って事でまた次回!!


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竜王挑戦まで・・・、再度の七冠獲得

さてさて桐山君も娘に等しいリーナちゃんを嫁に送り出し、1つの区切りが付いた事で改めて絶対覇権に向けて動き出したのですが…、

賢王戦→vs神鍋歩夢賢王

棋帝戦→vs夜叉神天衣棋帝

帝位戦→vs神宮寺崇徳帝位

玉座戦→vs宗谷冬司玉座



と、誰も彼もが一筋縄ではいかない猛者揃いであり、天下統一にはまだまだ数多の難局が待ち構えているのは自明…

なんですが、そんなもん織り込み済みって肚で正面突破に挑む桐山君の奮闘がまた凄まじく…




って訳で本編スタート!!


あの地獄の名人戦をどうにか制した後…、

 

 

同時進行していた賢王戦も苦しみながらも決着を迎えた…

 

3勝3敗の最終決着の場で仁和寺で行われた第7局…、

(●○○●●○)

 

先手は歩夢君で、普段あまり用いない銀冠を採用…、

 

一方の僕は、目には目をとばかりにこっちも銀冠で対抗…

 

普通なら先手優位の駒組みなんだけど、僕も何の勝算なく仕掛けた訳じゃない。

 

 

 

午後のおやつタイムの時点では幾分歩夢君が優位気味の見立てではあったものの、必ずしも決着一直線では無かった…

 

本格的に動き出したのは夕食休憩後で、両者残り持ち時間2時間を切った午後7時過ぎの事であった。

 

 

此処で持ち駒の飛車を叩き付け、攻勢に入ったのは……僕だった。

その後も一切手を緩めず一気呵成に仕留め、終局は午後8時30分であった。

 

 

これで再度四冠に復帰し、またしても全タイトル関西独占(残りは竜王・八一君、帝位・神宮寺さん、玉座・冬司、棋帝・天衣)

となり、メディアなんかからは「関東受難」とか「関東厳冬期」なんて言われるんだろうな………

 

とは云え、A級だけなら引退表明した氷室先生を除いた9人中、過半数の5名は関東勢(山刀伐さん、後藤さん、歩夢君、二海堂、健吾君)であり、関西勢は4人(八一君、神宮寺さん、天衣、冬司)なので、一概に関東劣勢とも言えないんだけど……

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

6月開幕の棋帝戦…

 

 

去年の玉将戦・今年の盤王戦以来3度目となる天衣とのタイトル戦…、それも僕が挑戦者として臨む初の番勝負となった。

 

 

此処も接戦が続き、2勝2敗(○●●○)で迎えた最終第5局…

 

 

先手は僕で、無難に1手目を指すと、次の天衣の2手目は……、

 

後手番角頭歩を想定していたのだが………、繰り出したのは「新鬼殺し」であった…!

 

元々僕に弟子入りした当初、天衣には実戦経験とその空気に触れる機会が致命的に不足していた事から、僕も奨励会入会迄の1年間出入りしていた真剣師達の溜り場に放り込み、その戦いをガンガン体感させたものだ…。

 

そんな体験から吸収したのが後手番角頭歩と新鬼殺しであり、その流れから後手番一手損角換わりも自分の物とした経緯がある。

 

 

それにしてもこの勝負所で新鬼殺しとは底なしの度胸だな…

 

 

そうなると僕も間違いは許されない鉄火場に飛び込まなくては勝ちが遠のくのは自明…

 

 

そして昼食休憩から午後のおやつタイムを経て午後5時過ぎに入り、最後の攻防に突入…

 

此処が最後の攻め所と必死に追い込みに掛かる天衣…、だが僕も最後の一線は崩さず、その攻めを堪える…

 

やがて天衣の攻勢も底を尽き、僕の逆襲…

 

両者秒読みの綱渡りの戦いとなっていたが、1つの間違いも許されない中でどうにか詰みに持ち込み、天衣のタイトル防衛と云う名の恩返しはどうにか免れた…

 

これで五冠、まだまだ道半ばではある…

 

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

7月開幕の帝位戦…

 

 

 

相手は神宮寺さんで、これまた難儀なシリーズとなった…

 

 

第6局まで3勝3敗(●●○○○千●)であり、流れがやや神宮寺さんに傾きつつある中での最終局突入であった。

 

 

 

振り駒の結果…先手は神宮寺さんとなり、後手番の僕の選択は後手番一手損角換わりであった。

 

 

これは神宮寺さんも想定内だったようで、初日はお互いサクサクと駒を動かし、守りを固めた上で封じ手の時間となった。

 

封じ手は僕が書き、これで初日終了…

 

 

2日目…、封じ手開封から激戦開始…!

 

 

昼食休憩、午後のおやつタイムと経ても均衡は崩れず…、

 

 

両者持ち時間残り10分を切った午後6時30分…、衝撃の1手を放ったのは僕だった…

この最後の攻撃を注ぎ込めるだけ全て注ぎ込んでどうにか勝つ事が出来た…

 

 

昨年に続き挑戦2年目でやっと神宮寺さんに勝てたよ…

 

冬司とはまた一味違う意味で呑み込まれかねない厄介さではあるけど、苦しくも楽しい相手なのは間違い無いのは確かだ。

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

玉座戦…相手は冬司で、この棋戦では5年振りの番勝負となる。

 

 

 

此処もフルセットとなり、2勝2敗1持将棋1千日手(千●●持○○)の後の最終戦…

 

 

 

 

先手は僕でゴキゲン中飛車を選択…、一方の冬司も耀龍四間飛車を採用し、相振り飛車決戦となった。

 

 

夕食休憩までは大きな動きは無かったものの、夕食後からは激しい終盤戦に突入…

 

僕も冬司もお互い陣の崩し合いとなり、最後の一線をどうにか防いでる文字通りの綱渡りの連続で、それでも次の新手を望み、お互い目をギラギラさせて傍目からは狂人としか見られなかったとは思う…

 

 

それでも決着は訪れ・・・・、

 

 

 

勝ったのは…僕だった。

 

 

これで12年振りの七冠達成…………、残すは竜王のみで今期7期振りに挑戦権を得た事で、いよいよ1つの区切りへ向かう事となる……

 




第38期竜王戦本戦トーナメント


◎出場者

○1組優勝→桐山零名人
○1組2位→神鍋歩夢九段(前賢王)
○1組3位→神宮寺崇徳帝位
○1組4位→宗谷冬司玉座
○1組5位→山刀伐尽九段
○2組優勝→隈倉健吾八段
○2組2位→夜叉神天衣棋帝
○3組優勝→二ツ塚未来七段
○4組優勝→幸田柾近七段
○5組優勝→雛鶴あい五段
○6組優勝→桐山カタリーナ五段

の11名が進み、


1回戦
○雛鶴五段−桐山五段●
2回戦
○雛鶴五段−幸田七段●
3回戦
○雛鶴五段−山刀伐九段●
○夜叉神棋帝−二ツ塚七段●
準々決勝(4回戦)
○雛鶴五段−宗谷玉座●
○夜叉神八段(前棋帝)−神鍋九段(前賢王)●
○隈倉八段−神宮寺帝位●
準決勝
○桐山名人−雛鶴五段●
○夜叉神八段−隈倉八段●

◎挑戦者決定戦三番勝負
桐山零名人vs夜叉神天衣八段

第1局
○夜叉神八段−桐山名人●
第2局
○桐山名人−夜叉神八段●
第3局
○桐山名人−夜叉神八段●

となり、結果、七冠王でもある桐山名人が前棋帝の夜叉神八段を退け、前人未到の八冠独占への最後の扉に手を掛ける事となった。




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〜side八一〜


うわ〜っ!!此処でマジで兄弟子来るかよっ……!!
こりゃ、名人(現会長)相手の竜王戦なんてもんじゃないガチもガチで正念場じゃねーか…!!

これじゃ、またしてもアウェー全開の超絶崖っぷちだろ…

けど俺も17の青臭いガキじゃねー!もう25で兄弟子の領域にも届いてる処には至ってる筈だ…!!

後は対局で証明するだけだ!!



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最後に・・・・、
アンケートですが、今話を以って〆切とさせて頂きます。


って訳で、この物語最後の対局相手は八一君と云う事で御了承願います。

ではまた次回!!


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9月9日(桐山君視点)

さてさて、瀬戸の五冠王がある意味鬼門の王座戦で又も緒戦敗退…、それもカモにしてる魔王の弟に逆にカモ認定される勢いで…

一方で名人戦ではその魔王に新・西の王子が一矢報い、これから先が楽しみな予感が…

で、棋聖戦では五冠王に中尉が挑むある意味ヲタク対決の様相を呈し…

叡王戦?王位戦?前者は新人王戦惨敗経験者で王位戦は白組優勝者が挑戦者となる感じが希薄としか…なんで、あまりジャイアントキリングの期待は出来なさそうな…


ま、そんな訳でまだ決まってない竜王戦挑戦者が誰になるかが今年の焦点みたいなもんで…



って訳で本編スタート!!


9月9日…

 

今年もその日が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

僕にとって転機の日であり又、生涯最悪の忌わしき日でもある。

 

 

 

 

 

 

勿論、両親・妹の身内3人を1度に失った日であり、師匠と月光先生・桂香さんによって保護されなければ、あの父と同じ血を享けたとは到底考えられない叔母と称する畜生道に堕ちた化物に全てを支配され、僕は将棋処か「施設」という名の劣悪な環境に落とされ、先行きの見えない地獄の生を送りかねなかったのだ…。

だが、実の伯父・従姉である師匠、桂香さんに父の兄弟子にして父を最大限に評価してくれ又、その挫折を限りなく惜しんでくれた月光先生によって現在の充実し幸福な人生を歩めたのは僥倖以外の何物でも無い。

 

 

 

 

 

それだけじゃない…、最愛のパートナーである万智との出会いからしても月光先生からの依頼で出掛けた普及活動の一環である「山城小学生竜王戦」であったのだ。

 

それは僕がプロ入りして半年余り過ぎた08年6月の事であり、この大会の優勝者は優勝当年の夏に行われる奨励会入会試験で1次試験免除の特典が得られる事で小学生名人戦と並ぶ人気・評判を勝ち取っていた。

 

その大会、決勝戦は史上初にして現在でも唯一の女性同士の決勝であり、相対したのが万智と珠代さんであった(燎さんは準決勝で万智にひらひら躱され無理攻めして自滅して敗退)。

 

決勝は素質・実力差そのままに万智が無難に優勝したのだが(珠代さん的には当時の時点では不服だったらしい。実際僕に不満タラタラ噛み付いた位に荒れてたし。)、その万智、余りに気を良くし過ぎたのか、この日ゲスト解説で登場していた僕に、

「小学生プロどすか?こなたとて小学生どすが曲がりなりにも日本一を勝ち取った誇りがあるどすぇ。やけど流石に平手は失礼どすから香落ちでお頼み申します。」

と頼み、香落ちでのスペシャル対局を行った。

 

 

 

 

 

 

結果……、58手で僕の圧勝に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして閉会式も恙無く終わり、帰り支度を済ませ、最後に小用を済ませようとトイレに向かった所、トイレ前の階段で人知れず嗚咽していた万智を目撃した。

 

それを見た僕は思わず、

 

「大会優勝者がこんな所で何故打ちひしがれているの?」

 

と問うと、

 

「そらぁ打ちひしがれるどす。平手ならまだしも香落ちでこなたが先手……、それでも紛うこと無き惨敗…、幾ら天賦の才には及ばずと云え、超えられない壁をトラウマレベルで見せ付けられたなら絶望に打ちひしがれるなと言う方が無理押しってもんどす。」

 

としか咄嗟に返せなかった万智に僕はこう返した。

 

「超えられない壁?、少なくとも僕からすれば超えられる壁はまだまだ多数あるし。例えば月光名人も「名人」にしてもまだまだ極限には行き着いては居ない訳で。それだけ将棋には未知の未来が分布点在しているからね。だから君もこんな所で落ち込んでいる場合じゃない。次なるステージに進む為の薄壁と思えばいい。」

 

と。

 

 

 

いつしか嗚咽は止まっていた万智だが、やがてスッキリした顔で

 

「ならばその分厚くも硬く強靭な鋼壁、生涯を賭けて打ち砕く所存どす。」

 

と宣言していた。

 

 

 

尤も、その深淵な意味を当時の僕は何一つ理解していなかったのだが…………

実際、この時点で恋愛云々ってのは幾ら中身が成人でも見てくれは小学生なんだから余りにも無理押しが過ぎるってもので…

 

 

 

 

その後、玉座戦最終戦直前に京都の名門料亭に呼ばれて赴いた先で待ち構えていたのは何と万智であった…。

 

 

曰く、

 

 

「こなたを活かすも殺すも生殺与奪の権は全て零はんに委ねとるどす。拠って、親親族から勘当絶縁喰らおうともこなたの人生の伴侶は零はんしかおらんどす♥」

 

 

って、何でまた至極厄介なタイミングで告白染みた発言カマスんですか……

 

 

この時点では僕もまだ小学生だったから兎に角も時期尚早・肉体的にも成長途上って至極真っ当な理由でひとまず躱したと思っていたのだが…

 

 

それが大きな間違いであった事を間もなく体感する事となった…

 

 

 

 

 

竜王戦第1局…

ドイツ・ベルリンでの対局の前夜祭…

 

 

 

 

 

 

 

 

は?何でこの場に万智がいるんですか…?

 

 

 

 

 

 

で、対局者挨拶の後、部屋に戻ると何故か万智が先回りして待ち構えていた……

 

 

 

 

 

「あの〜、僕が明日明後日2日間の対局なのは供御飯さんも御承知の筈ですが…、何故学校サボってまで此処まで僕を追い掛けてきたんですかね?」

 

 

 

そんな僕の素朴な疑問に対し、

 

 

 

「学校で学べる事なんかたかが知れとるどす。そんな些事よりこなたは零はんの全てを研究し尽くす事こそ大事と思う訳で、こうして罷り越した訳どす♥」

 

 

 

って恋愛感情全開な満面の笑みで返してくれたのは流石に背筋が凍る思いだった…

 

そりゃそうだろう、10歳そこらの少女が幾ら家が資産家だとは云え、ほぼ単独に近い形で海外渡航してまで目当ての人を追い掛け回すシュールな図式…

 

しかもその対象がこれまた初の海外渡航となる小学生の少年な訳で…

 

 

 

「で、1万歩譲って渡航自体は銀子ちゃんも八一君もいるからまぁ呑み込めるけど、此処は君の宿泊部屋じゃないよね。此処はあくまで対局者たる僕の個室だから何故君が居るのか全く以って理解出来ないんですが」

 

 

って問うと、

 

 

「許嫁が将来の伴侶の許を訪ねる事に何の不都合があるんどすか?こなたは零はんを慕い助けたいだけどす♥」

 

 

って後先なしの回答してくれて……

 

 

 

結局、同行してた二海堂に頼んで山刀伐さんを呼んで貰い、別室に万智を引き剥がして貰ったのはなかなかインパクト強い思い出となった…。

まぁこれは今でも万智にはネタじみた軽い恨み言として聞かされる訳だが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、そんな僕の人生最悪の日もあれから20年経ち、数年前から移した京都の一角にある墓に命日のお参りに向かっていた。

 

 

本来なら唯一の遺族たる僕だけが墓参する筈だったのだが、万智も子供を連れて当然のように付いて来た。

うん、妻と子供なら嫁と孫なので別段不思議でもないのだが、面識自体は無いのでそこは素直に有難いと思う。

 

 

が、万智達だけなら兎も角、リーナと創多も参加していて、更には天衣と冬司までもが態々礼装してこの場に居たのは正直驚いた訳で…

挙句には桂香さんと神宮寺さん一家に二海堂一家(二海堂&珠代さんと1人息子の家康君)も親戚・友人として参加してくれていたのも僕からすれば驚きではあった。

 

実際、僕1人で地味に済ます予定だったので、これだけ訪れたのは正直驚きもだが嬉しくもあったのは此処だけって事で…

 

 

 

そして墓参と法要が終わり、会食となった時、更に予想外の人物まで顔を出したのには流石に頭が混乱しかかった。

 

 

 

 

 

で、その予想外の客人は…

 

 

月光先生と男鹿さんだった…。

 

 

 

 

実は月光先生は元々亡き父の兄弟子(師匠もだが)であり、父の退会を惜しみ且つその後を案じてあの事故まで頻繁に連絡を取り合っていた程に父との関係が深かったのだ…

師匠も妹(僕の母)の嫁ぎ先だったので折り毎に連絡は取り合っていたのだが、祖父(父方)の目がやたら厳し過ぎた影響で月光先生程には緊密に交流出来ては居なかったらしい…

 

 

 

で、隠遁生活に入ったばかりの月光先生に何故未だに男鹿さんが一緒に行動してるのか…と聞けば、

 

 

 

男鹿さん、月光先生の会長勇退&隠遁生活を決めるや否や直ちに連盟に退職届を提出し、神戸郊外の旧武家屋敷に独り隠遁を決め込んだ月光先生の許に乗り込んで今迄同様先生の手足になる事を直訴したそうな…

月光先生は男鹿さんの人生を考えて最初は拒絶したのだが(男鹿さんは僕からも僅かしか年長であるに過ぎない)、男鹿さんに取っては先生無しの人生は考えられないと強硬に喰い下がった結果、月光先生の方が根負けし、正式に婚姻はしてないけど、実質的には内縁関係に至っているとの事で…

 

 

 

 

 

その後の会食と懇談はなんだかんだと恙無く過ぎ、午後も日が傾きかけた頃、お開きとなり、それぞれ家路についた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運命の竜王戦まで残り1ヶ月…

 

 

 

 

 




両親・妹の21回忌となった今日…

予定以上に参加者が増えたのだがそれはいい。それだけ悼んでくれる人が居るのは僕も感謝しなくてはならないからだ。

が、幾つかの予想外もあり、1つは月光先生夫妻(実質的)のサプライズ参加であり、もう1つは僕も目が飛び出かねない仰天だったリーナご懐妊の知らせだった…。

まぁ僕からして準備不足の末に万智とデキ婚やらかしたのだからあまりキツくは言えないのだが、それでもリーナと創多はお互いまだ19の未成年な訳で…、つい、

「僕の事例もあるのになんでまた時期尚早な事をやらかした訳?」

と問い詰めてしまったのだが、リーナ曰く、

「私達ウマ娘は人間より身体能力は格段に上廻っているけど、その反動からか、寿命は人間の3分の2程度しか無いのは師匠も承知してますよね。ならば可能な限り早いうちに子供を儲けたいのは理解出来ると思いますが」

と返して来て、これで僕は撃沈…
万智は僕の懸念とは逆に大喜びで、他の参加者はと言えば…



桂香さん→「若夫婦なら周囲の面々が気を付けて目を配ればそんなに目くじら立てなくてもいいんじゃない?」

神宮寺さん→「俺や桐山よりはまだ健全だろ(僕と神宮寺さんはデキ婚である)、ってもお互いプロ棋士だから育児は十二分に話し合わなけりゃならんだろうがな」

二海堂→「フム、お互い若いだけに必要な時には経験者や年長者にアドバイスを頼む事も大事ではあるな。が、そうでもなければ自分たちの考えで育児してもさほど問題は無いとは思うが」

珠代さん→「私もだったけど、まずは自分たちでどれだけやれるか…、その上でキャパオーバーな分はハウスキーパーとか託児所等に一部委ねるとかの柔軟性を持たせる事も考えた方がいい」



と、4人がそれぞれ意見を交わしていたのだが、当の2人に一番響いたのは珠代さんの意見だったようだ。

って訳でリーナと創多の育児は珠代さんをベースに行う流れになりそうだ…




けど、そんな話し合いの中で天衣がボソっと呟いていたのが、

「これじゃ冬司には何の期待も出来ないわね。けど少なくとも私の伴侶たる身ならそれなりに自覚持って貰わなきゃ困るけど…」

だったのは何ともな…
ってか、2人、もう将来誓い合っているの?僕、弘天さんからまだ何も聞いてないんだけど…


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9月9日(八一君視点)

今回は前回と同じ9月9日ですが、八一君の視点で書いて行きたいと思います。


って訳で本編スタート!!


9月9日……

 

 

今年もこの日が訪れた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀子の誕生日にして命日……、そして俺と銀子との間の唯一の子である『銀香』の誕生日でもあり、今日、『銀香』は2歳となる……。

 

 

名前の由来は文字通り、銀子と桂香さんから1字ずつ取った銀子自身による命名だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5年前…、永世竜王資格を取得した打ち上げで簡易公開婚約発表し、翌年4月1日付で入籍…

 

その後は俺は竜王防衛とA級戦線に忙殺され、名人挑戦もしたが、名人戦は兄弟子の底力をまざまざと実感した完敗となり、以後は竜王戦以外タイトル戦への挑戦すら叶わないモヤモヤだらけの4年間だった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で銀子は、竜王戦こそ俺に完敗でタイトル獲得には至らなかったが、その直後の盤王戦であの兄弟子から奇跡的な連敗後の3連勝で女性棋士初(ってか、女性初)のタイトル獲得を果たし、400年超に及ぶ将棋史に革命的な1ページを刻み付けた。

 

そして、その盤王の初防衛戦も因縁の祭神相手に悪戦苦闘しながらもどうにか防衛、まぁ女性同士初のタイトル戦番勝負だったものだから兎に角エラい騒ぎになったりして俺等現役タイトルホルダーが全戦解説に駆り出されたりしてコッチも一苦労だったのだが…(第1局は俺、第2局は兄弟子、第3局は神宮寺さん、第4局は冬司君、最終第5局はまた俺)

 

 

 

 

んで順位戦も本格始動した2年目から順調に勝ち上がり、1期抜けを続けて(1年目は休場したのでC級2組は2期抜けだったが)産休による休場になった頃にはB級1組に上がっていた。

 

 

そんな産休期間も最初は順調に経過していたのだが、臨月近くになると体調に異変が生じ、母体か赤子かを迫られる事態に……

 

 

 

 

 

だが俺にはその片一方を捨てる選択は出来なかった……

銀子も子供も両方いてこそしか考えられないからだった……

 

 

それで銀子の主治医である明石先生にも相談したのだが、難しい顔で先生も容易に答えが出なかったようで、

 

「これは僕が簡単に導き出していい話じゃないな…。君と銀子ちゃんで納得いくまで話し合うしか無いだろう…。」

 

と言われてしまった。

 

 

こうなると最終的には銀子との話し合いとなり、結果、一縷の望みに託し、両方生き残る方法を探る方向で決まった。

 

 

その後、薄氷ながらも臨月が来て、いよいよ出産…、通常よりも時間が掛かったが、どうにか小柄な女の子が誕生した……

 

 

そして3人だけの時間となり、命名をどうするか(男でも女でも今回は銀子が主導権を持っているが)となり、予め考えていたようで銀子曰く、

 

「私と桂香さんの名前を組み合わせて『銀香』にしようと思う」

 

となり、娘は銀香と命名された。

 

 

 

こうして出産そのものはどうにか無事に終われた………と思ったのだが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、銀子の体調が急変………、

 

ついさっき命名した時は少し疲れていたようだったが、それでもそんな異変は感じなかった訳で………

 

俺も万一に備え、当日は病院に詰めており、直ぐにナースコールして総出で診て貰ったのだが、既に手の施しようが無いと診断され、俺は只呆然と突っ立っているしか無かった……

 

 

 

そんな中、既に意識朦朧としていた筈の銀子がフラッと力無く左手を伸ばして来た……

これは間違い無く俺に手を握って欲しい合図だ……!

 

一時の呆然から忽ち覚めた俺は躊躇なく右手を差出し、その手を握った………!

 

その左手は今際の際とは思えない程に力強く、俺も思い残しが無いように力強く握り返していた。

 

 

 

そして日付の変わる9分前、銀子臨終……21歳の誕生日当日でのあまりに早い人生の終焉だった……

 

 

そして気が付けば俺と銀子の繋いだ手は看護師さんに離されており、部屋を出されて休憩スペースのベンチに呆然と座っていた。

 

 

少しして幾分正気を取り戻すと、空の御両親と俺の両親、更には師匠に桂香さん夫妻、兄弟子夫妻も顔を見せており、皆が皆、心配するような、又は困った様子で俺を見つめていた………

 

 

「皆さん、こんな遅くに申し訳ありません。つい先頃銀子は旅立って行きました………、俺は……っ、銀子を守れなかった…!約束を……一生添い遂げる約束を……っ……!」

 

 

懸命に平常心を保とうとして然し、溢れる後悔が噴出し、声が詰まるばかりでまともに挨拶すら出来なかった………

 

 

 

 

 

そして葬儀となり、俺は喪主でありながら碌に動く事も出来ず、殆ど師匠や桂香さん、兄弟子に頼りっ放しでどうにもなりはしなかった。

 

そんな呆けた俺に耳元で声を張り上げたのが……、

 

「ししょーっ!!何時まで呆けてるんですかっ!!ししょーがこんなでは間違い無くおばさんが化けてでますよっっ!!おばさんに心配かけたくないならシャンとして下さいっっ!!」

 

東京にいる筈のあいだった………

 

 

「って……、あい、お前今日学校じゃないのか?」

 

「対局と葬儀で休みを取ったので大丈夫です」

 

「…、全く出席日数大丈夫なのか?ここ暫く対局増えてるだろ?体力も学校もちゃんと考えろよ」

 

「今の腑抜けたししょーに言われたくはありません。おばさんがいなくなったからって言ってもししょーはししょーのおしごとが満載じゃないですか。竜王戦も近いのにこんなではゴッド先生(歩夢)にも失礼です」

 

「あぁ、そうだったな。次は歩夢だったか。確かにこれ以上呆けても居られないな…。あい、有難う。これで漸く目が覚めた」

 

 

と、あいとの会話である程度は戻せたようだ…

 

 

 

 

 

そして物故した銀子には連盟から九段を追贈された。

 

と言うのも、四段から竜王挑戦で七段、その後は盤王連覇でタイトル2期の昇段規定により八段に上がっていたからだ。

 

 

 

 

 

 

その後は1人で銀香を育てるつもりだったのだが、どうしても女手は欠かせないって言ってきたあいが突如大阪に戻り、学校をどうするかやら所属変更の手続きやらでてんやわんやしながらも結局学校は兄弟子の母校に転校、所属も再度関西に変更となり、再び俺のマンションで3人同居と相成った…。

 

 

で、これは雛鶴の御両親にも話を通さなくてはならず、『ひな鶴』での話し合いの結果、あいと婚約、で、あいの高校卒業を潮に結婚、俺が婿入りし、銀香も雛鶴家に籍を移す運びとなった。

又、あいの棋士としての時間も20歳までとなり、その後は棋士を引退、女将修業を再開の話も決まった。

 

 

 

 

 

 

以上の顚末を月光会長に報告したのだが、

 

「ふむ……、実家の事情とは云え残念ですね。ところで竜王は移住するのですか?」

 

と問われ、

 

「当分は大阪ですけど何れは石川に移って会館には通いになると思います。俺の現役については特には言われてないですから」

 

と答えると、

 

「それなら安心しました。竜王には名人共々将棋界を盛り立てて貰わねばなりませんから」

 

と返され、何とか纏まった。

 

 

 

 

そこからは上京し、於鬼頭さんの許を訪ねたのだが、そこには将棋界から完全引退した三瀬さんも同席していた。

 

因みに三瀬さんは数年前の復帰で女王戦番勝負まで駒を進め、天衣ちゃんに挑戦、フルセットの激戦を繰り広げた結果、天衣ちゃんに敗れ完全復活は為らずとなり、その後は竜王戦6組で優勝から本戦トーナメントも2勝、3回戦で1組5位の銀子と戦い、敗北を機に再び引退し、その後の消息は知らなかった……

 

で、於鬼頭さん曰く、引退後はまた入院してリハビリに取り組み、少し前に退院して同棲したとの事…

で、銀子の誕生日に入籍したばかりとか…

 

まぁ葬儀には於鬼頭さんは出席していたのだが、その話は聞いて無かったので俺も目が点になった…

 

 

で、諸々の顚末を話したのだが特にはどうこう言われる事も無く、淡々と会話するだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今日、銀子の3回忌…

 

 

 

俺、銀香、あい、更に師匠と釈迦堂さん、歩夢とその妹で弟子でもある馬莉愛ちゃん、於鬼頭さんに三瀬さんも顔を見せ、しめやかに法要が行われた。

 

で、法要の後の食事前にもう1人顔を見せたのだが……、

 

何と「十八世名人」現会長であった……

 

 

「あの〜会長、御多忙な筈なのでは?勿論時間を割いて駆け付けて頂いたのは有難いのですが」

 

「否、僕も午前だけ近くで予定をこなしてね。午後からはフリーだったのでそういえばと思って急遽駆け付けたんだ。邪魔じゃなければ少し参加したいんだが良いかな?」

 

「そういう事なら大丈夫です。是非お願い致します」

 

って訳で会長も参加し、そこから数時間食べ呑み、語り合った。

 

 

因みに会長、於鬼頭さん夫妻と銀子の関係は引退から暫くして月光先生から知らされたそうな…

どうやら会長引継ぎの一環として教えられたらしい……

 

けど、銀子の血縁は相変わらず公には知られてない訳で、俺達一部の関係者のみ知る秘事となっている。

 

 

 

 

そして、この行事を終えれば次は俺の10連覇か兄弟子の八冠完全制覇かのどっちも大記録の懸かった竜王戦が待ち構えている………!!

 

 




なんとなんと銀子ちゃん天へ旅立ってしまいました(涙)…

で、八一君、今度は事情が事情とは云え、あいちゃんと婚約……

なんか八一君らしいと言うか何と言うか……



ともあれ、次回からはクライマックスの竜王戦です。

後どれだけで完結出来るのやら……
なかなか遅筆もいいところだし……


って訳でまた次回!!


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運命の竜王戦第1局・豪華客船ダイヤモンドエンペラー(前編)

さてさて竜王戦開幕と相成りましたが、今対局に於いては前代未聞のクルーズ豪華客船での国際公開対局となりまして、色々と日本の誉れやら恥部やら全世界に晒すだけ晒しかねない功罪相半ばするハイリスクハイリターンな戦いになりますが、そこはどうか御容赦の程を………

って訳で本編スタート!!


第38期竜王戦第1局…

 

 

 

今回は通常のスポンサー直営の能楽堂ではなく、かと言って海外の名所での対局でもなく、僕ばかりか月光先生ですら想定外だった豪華客船での巡航対局と相成った・・・・

 

 

 

これ自体は本戦トーナメント開始時点で現会長から公表されていたのでまだ覚悟は出来てはいたのだが、挑決終了後に正式に決定すると改めてその規模と影響に怖気を震う程のヤバさを感じざるを得なかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その豪華客船とは…………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界最高の豪華クルーズ客船である

 

『ダイヤモンドエンペラー』

 

 

 

であり、日程としては、

 

 

11時30分入船、13時出航

17時30分前夜祭、19時30分対局者退場、20時前夜祭終了

 

 

2日目→9時振り駒、直後から対局開始

10時午前のおやつタイム、12時30分昼食休憩

13時30分午後の対局スタート

15時午後のおやつタイム

18時30分頃に封じ手で初日終了。

 

 

3日目→9時、前日の棋譜を復唱して封じ手まで詠む。

封じ手開封。

この封じ手から対局再開。

 

 

 

10時午前のおやつタイム、12時30分昼食休憩

13時30分午後の対局スタート

15時午後のおやつタイム

以後は対局終了までノンストップで対局が続く……

 

 

 

 

って訳で兎も角も逃げ場の無い船上対局が緒戦となった訳で……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕ら対局者の宿泊部屋は最上級のスイートであるのだが、会長と立会人の山刀伐さん、副立会人の坂梨さんはプレミアムとなっており、記録係の健司君(現在B級1組七段・竜王戦3組)は特設会場のシアタールームを寝床にし、異例尽くしの対局にそれぞれ具えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初日…………

 

 

 

 

将棋連盟貸し切りに依り、対局関係者だけが乗り込み…、

 

 

 

 

陣容は、

 

 

 

竜王→八一君

 

挑戦者→僕

 

会長→十八世名人

 

立会人→山刀伐尽九段

 

副立会人→坂梨澄人六段

 

記録係→土橋健司七段

 

と、

 

 

現地大盤解説

 

解説→夜叉神天衣八段

 

聞き手→雛鶴あい五段

 

 

 

のメンバーで行われる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 〜by山刀伐尽〜

 

 

今年も紅葉の季節となり恒例の竜王戦に入ったけど、今回は会長(十八世名人)の100期&永世七冠の懸った大一番以来の全国的対局って事で連盟の力の入れようも段違いだね(微笑)。

 

何しろ第1局の会場が長い将棋史の中でも前例の無い豪華客船を借り切る奇想天外なものだから、幾ら会長の顔が広いからとは云え、随分派手に仕掛けたものだなって僕も思わず目が点になったのは此処だけって事で………

 

大体こんな大仕掛を水面下で出来る人なんて僕の知る限り、月光さん位しか考えられないんだけど、盤上真理の追求が最優先な会長がまさかこんな仕掛と根回しを巧妙に熟していたとは………

 

しかもこの大仕掛を僕ら主だった幹部理事に伝えたのが零君と夜叉神君との挑決直前と来たものだから気短なタイプの生石君や正宗なんかは半ば本気で会長に詰め寄りかけた程には頭に血が昇ってしまい、僕や於鬼頭君がどうにか鎮めるのにかなり神経を使ったのがまたなんとも………

 

 

けど八冠時代初のタイトル独占の懸った零君と、一方で史上初の竜王10連覇に手を掛けた八一君…、共に清滝さんの下で幼少年時代からその薫陶を受け、若くして棋界をリードする存在に成長し、今、雌雄を決するにこれ以上の舞台はなかなか見当たらないのも事実なんだよね………

 

 

 

そしてこの対局は主要関係者以外では、乗員スタッフ以外の乗客は、かなり限定されてもいた………。

 

 

 

 

 

連盟棋士及び女流棋士からして10名だけであり、他は観戦記者3名、放送スタッフ6名、他6名の合計25名だけがこの延べ4日間の衝撃の船旅を体験する事となったのだった………

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

さて、乗船した乗客の面々であるが……

 

 

 

棋士は……、

 

於鬼頭曜九段(連盟常務理事)

後藤正宗九段(連盟常務理事)

宗谷冬司玉座

神宮寺崇徳九段(前帝位)

夜叉神天衣八段(前棋帝)

鏡洲飛馬八段

隈倉健吾八段

雛鶴あい五段

花立薊女流五段

月夜見坂燎女流玉将

 

 

以上の10名(解説・聞き手含む)

 

 

 

観戦記者は……、

 

 

売詠新聞嘱託記者

ジャパンTV将棋解説者

 

以上の3名、

 

 

 

放送スタッフは……、

 

 

 

専門チャンネルスタッフ6名

 

 

 

 

 

 

他の人物は……、

 

 

花立女流五段の家族(夫、子供4名)5名

鏡洲角馬(鏡洲・月夜見坂夫妻長男)

 

と、棋士の身内が乗船。

 

 

 

 

 

 

そして始まった前夜祭……

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 〜by前夜祭〜

 

 

 

 

 

人数限定の前夜祭での挨拶にて……

 

 

 

八一君

「竜王10連覇の懸った今回、前例の無い豪華客船対局を迎えた事、誠に光栄至極に存じます。これまでも多数の強敵相手にしんどくも何とか勝ち残り今現在に到った事、皆様の叱咤激励、御助力の賜物と考えております。よって今回の竜王戦、全身全霊を以って勝ち上がる所存であります。相手が兄弟子であるからこそ、尚更にその思いを強く持つ次第です。後は対局で証明して見せます。」

 

 

 

「今期、7年振りに竜王戦番勝負に出場する事、光栄に思います。これまで他のタイトル戦では全て5連覇以上及び永世資格を取得し、それなりには将棋界には貢献出来たのかなとは憚りながらも考えてはいるのですが竜王戦だけはとんと縁が無く、10年以上前に1度だけ獲得したきりで直ぐに失冠し、以後も前回九頭竜竜王に敗れただけの1度きりですので今回は何としても竜王に復帰し、八冠完全制覇のチャンスを物にしたいと存じます。このようなチャンスなどもう二度とは無いと考えておりますので全力で捩じ伏せる次第であります。」

 

 

 

 

 

 

………、どっちも戦闘準備万端の強気挨拶に終始した前夜祭であった………

 

 




第1局、ここで書き切る積もりでしたけど、前夜祭までの前フリが長引いたので、対局は次からって事で……


って訳でまた次回!!


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運命の竜王戦第1局・豪華客船ダイヤモンドエンペラー(後編)

さてさて、名人戦は呆気なく現名人の圧勝で幕……、
王位戦は隙なしがリベンジ挑戦、
棋聖戦はと云うと、軍曹先勝も天才覇王が五分に戻してまだまだ簡単には終わらせはしない図式に持ち込み……
何か今暫くは王者vs3強の図式が続きそうな……


って訳で本編スタート!!


 

 

ダイヤモンドエンペラー対局初日……、

 

 

 

 

 

 

 

 

午前5時30分……、

 

スイートルームの最高級ベッドでの眠りから目覚め、少し身体を馴染ませつつ、備え付けのシャワーで汗を流し、シャッキリした処で朝食が運ばれて来た。

 

 

本来なら船上の朝食は船内レストランでのバイキングで行うのだが、今回はタイトル戦と云う事で僕と八一君については室内に注文した食事が運ばれる特別措置が取られていた。

 

因みに他の乗船者については通常通り、レストランでのバイキングでの朝食となっている。

 

 

 

 

で、食事内容は……、

 

御飯櫃(3合分)、味噌汁鍋(5杯分)、鮭の塩焼き、鯖の塩焼き、卵焼き、きんぴらごぼう、切り干し大根、板わさ、香の物、コーヒーゼリーで、御飯は3杯(1合半程度)、味噌汁は3杯、他はほぼ完食して少し休憩を取ってから着替えに掛かり、開始1時間前には準備万端、後は入場するだけであった……

 

 

 

 

 

 

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 〜side八一〜

 

 

 

 

午前5時……、

 

 

スイートルームのベッドで予想よりも早く目覚めた俺だが、戸惑いよりも一刻でも早く兄弟子ととことんまで殺り合いたい感情に駆られ、全てが整ったと感じていた。

 

やがて朝食が運ばれ、早速頂いた。これから2日間に及ぶ決闘へのエネルギー補給は万全にしなくちゃ到底兄弟子の領域に及ばずにして惨敗するだけだからな。

 

 

朝食の内容は……、

 

御飯櫃(3合分)、味噌汁(5杯分)、肉うどん、きんぴらごぼう、切り干し大根、冷奴、香の物、フルーツ盛合せであり、取り敢えずは完食しておいた。

 

後は着替えて対局に臨むまでだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

午前8時40分……、

 

 

 

先ずは挑戦者たる僕が入場し、下座に陣取り瞑想に入った。

 

 

5分後、満を持して竜王たる八一君が入場、上座に座り、早くも臨戦態勢モードに突入していた。

 

 

 

最愛の銀子ちゃんを失い早2年……、それでもその痛手を抱えながらも竜王9連覇を成し遂げ、10連覇か8冠完全制覇かの究極の番勝負に挑む八一君……、僕ももう2度とは無い最大のチャンスを逃す訳には行かない人生最大級の大勝負な訳で……、

 

 

 

 

 

 

 

 

「「お互い己と愛する人に恥じない戦いにっ……!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

早くも戦闘モード充満となり、その火花をひしひしと感ずる風情を纏いながらやや遅れて入場してきた山刀伐さんと坂梨さん……

 

 

尤も早朝から準備万端な記録係の健司君は平然と僕ら4人を次々と迎え入れ、寧ろこの大勝負を一刻も早く始めて欲しいオーラ満載だったのは流石だな……とは思った。矢張り土橋健司の本領・根本は転生しようが変わりようもないんだなと実感した次第だ。

 

 

 

 

そして役者が揃った処で八一君が駒を取り出し、そこから健司君が歩を5枚取り、早速振り駒を行った結果……、

 

先手は八一君となった。

 

 

 

 

 

 

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 〜side夜叉神天衣〜

 

 

 

……、振り駒の結果が出て、どうやら先手はロリ王と決まったようね……

 

まぁ師匠はどんな戦型でも先後何れでも物ともしないオールマイティ・オールラウンダーだから開始時点での有利不利は特には考える必要性は無いわね。

 

 

……けど、ロリ王の先手獲得に期待の笑みを浮かべるあいに何だか苛つきを感じるのはなんで?

まさかロリ王が師匠の先を行く構想を構築してるとか?

 

……、ロリ王なんか所詮師匠には及ばない、冬司にも先んじられてる程度の分際なのに、この胸騒ぎは??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 〜side雛鶴あい〜

 

 

 

 

 

ししょ……八一さんが開幕局の先手を摑んだ……!!

 

 

 

おじさん…零先生が挑戦者に決まってから丸1ヶ月…、八一さんは先手でも後手に回ろうと取れるだけの研究・対策を練りに練り続け、後手では未だ形の構築が試行錯誤だったけど、先手なら既に10連覇への道筋が出来る程には完成度が高まっているだけに、この開幕局で先手を握ったのは大きなアドバンテージに他ならない……!!

 

 

 

私の……、銀香の……、そして私個人としては複雑な思いでもあるけど誰よりもおばさん・銀子さんに報いる為にもこの竜王戦、八一さんには零先生をぶちのめして貰いたい。

 

もし、此処でも零先生にコテンパンに伸されたなら例え心身瓦解しようが『だらぶち!!』連呼するまでだから!!

 

 

 

 

 

 

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第1局第一手……、

 

 

 

八一君が指したのは、角道を開けるオーソドックスな一手であった……

 

 

 

 

さて、第二手は僕の番だが…、果たして八一君は釣られるか否か……?

 

 

 

 

 

此処で繰り出した一手は……、

 

 

 

 

新鬼殺し……、それも米原誠雄永世十段・棋帝が編み出した基礎レベルなんてものじゃなく、自惚れ覚悟で言わせて貰えば、

 

 

 

『桐山式新鬼殺しマル改』

 

 

 

 

と命名する程には一介のハメ手戦法をタイトル戦仕様にまで昇華させた自信・矜持はある。

 

 

 

 

 

 

 

だが、この段階では通常の新鬼殺しと何ら変化は見られないので八一君はこっちの狙い通りに釣り針の隠れた一見豪華な餌に喰い付いた……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうなると大魚たる八一君を散々に引き摺り回し、後は弱らせるだけ弱らせて疲労困憊に陥った処を仕留める……筈だったのだが、そうは簡単には行かず……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八一君、この新鬼殺しマル改にも僕の考えていた限りのあらゆる対策に沿って対応しており、僕の方が逆に攻め手が限定され、持ち時間を削られる予定外の悪循環……!!

 

 

 

 

 

 

その間の昼食休憩では……

 

 

 

 

八一君→クルーズオリジナルフレンチコースランチ

 

 

僕→クルーズオリジナルイタリアンコースランチ

 

 

 

を選び、午後からの難局に備え、十分に回復に努めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後……、腹の探り合いが続き、お互いに持ち時間を消費しながら鈍重に指し続け、封じ手迄に進んだ手は……、僅かに24手に過ぎなかった……!!

 

 

 

 

 

そして午後6時30分前に山刀伐さんから封じ手に入ると指示が入り、手番の八一君がそれに応じ、別室で封じ手の記入を行った。

 

 

 

 

 

これで初日終了……!!

 

 

 

残り持ち時間は……、

 

 

 

 

 

 

八一君→4時間ジャスト

 

僕→3時間57分

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 〜side八一・夕食、晩酌〜

 

 

 

 

 

ふぅ……、初日はどうにかありとあらゆる対策から範囲外に流れなくて済んだか……!!

 

あの無限の神・帝王たる兄弟子じゃ、どれだけ考え抜こうが悉く読み切られる事必至だけど、それにしても改良版新鬼殺しか……

 

これは明日も時間削らなきゃどうにも防ぎ切れるかだし、何よりも攻め手がな……

 

 

そんな事を考えつつ、運ばれて来た夕食を食べながらビールで晩酌していた。

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 

 

 〜2日目〜

 

 

 

 

 

 

 

八一君の封じ手については夕食後から寝るまでの約5時間(就寝は午後11時過ぎ)色々検討していたけど、結論としては出たとこ勝負しかないかなって事に至ってしまったのは、矢張り如何に八一君の魔王たる程の実力実績が超絶レベルで図抜けているかがどんな角度からでも痛感してしまったのが決定的だったのは今更否定の仕様が無い。

 

 

 

 

 

 

そんな危機感全開の中で2日目開始……

 

 

 

 

 

初日の棋譜を辿り終えた処で九頭竜竜王の封じ手が開封………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一手は敬愛する兄弟子に対する手とは思えない程に挑戦的挑発的な黒い刺客(ライスシャワー)染みた思い切った手に他ならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……、その八一君の封じ手が開封された瞬間、僕は半ばは想定の範囲内ではあったけど、それでも世間的には予想外な超絶的絶妙手と映ったのは僕にも否定の仕様が無い程には素晴らしい一手だったのは間違い無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな絶妙な封じ手開封を喰らわされたせいで僕は午前中の中で結局一手も進められず、残り持ち時間中、更に3時間を削られるハメに陥った………

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 〜2日目昼食〜

 

 

 

九頭竜竜王→太平洋沿岸鮮魚御膳、黒潮寿司御膳

 

 

桐山名人→ステーキ3種(サーロイン、ヒレ、Tボーン)盛り合わせ、太平洋沿岸御造り御膳

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は………、休み明けに僕が一手指すと今度は八一君が即刻長考に入り、おやつの時間まで全く動く気配すら見せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2日目おやつ→

 

 

九頭竜竜王→特製ぜんざい

 

 

桐山名人→フルーツ盛合せ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからは終局までノンストップの激戦が繰り広げられるのだが、少なくとも会長と立会人と解説・聞き手の面子だけは翌日の夕刻までは平然とこなせるだけの体力気力精神力が旺溢しており、精力的に任務をこなしていたようだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、午後からの八一君の長考は3時間半にも及び、次の手を指したのは午後5時を過ぎてからだった。この日3手目……

前日と合わせても都合27手目と、兎に角時間を削っての長考合戦となってしまい、結局中盤をスッ飛ばして異例の短手数での終盤戦に突入する事となった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この段階で残り持ち時間は……

 

 

八一君→30分

 

僕→57分

 

 

 

もうお互い余り時間が残っておらず、2時間程の短期決戦になる流れになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから更に長考し、残り時間を15分になるまで使いに使った僕の次なる一手は……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桂馬を跳ね、不成で王手を掛ける手であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを見た八一君はと云えば……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玉を前進させ、王手を躱す事で一息ついたようだが、此処からがこの後他に正解の無い異常とも言える47手連続王手決着に結び付くとはこの時点ではまるで気付いては無かったようだ。

 

尤も一手でも誤りが起これば忽ち攻守逆転、一転八一君に勝利が転がり込む綱渡りでもあった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして此処から僕のノータイム指し王手ラッシュがスタート、八一君もそれに応じるかのようにノータイムで指し返し、1時間足らずで40手以上使い、僕の王手24手目となる74手目を指すと八一君、残り時間を使い考慮し始めた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして10分………、考慮を終えたかと思えば湯呑みに水を注ぎ、一息に飲み干すや、

 

 

「兄弟子……、これは俺に逃れる術は無いって事ですね。此処から46手後に完全に詰み……、この第1局、俺の負けです」

 

 

と、静かに投了を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして感想戦に入り八一君、

 

「あ〜あ、今回は密かに自信あったんだけどな……」

 

とか負け惜しみなのか、してやられた思いからなのか、時々ウンウン唸りながら場面場面での変化と対策に見入っていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 〜side宗谷冬司〜

 

 

 

……ふ〜ん、ロリ王もなかなか研究練ってたようだけど零君の奇襲には対応しきれ無かったか……

 

まぁあんなの僕でもそうそうは仕掛けられない手ではあるけど……、それでも後手番で先勝したのはかなりのアドバンテージにはなるか……

 

 

後はロリ王がどう立て直すかだけど、逆境からの巻き返しにも定評あるからまだまだ行方は見えないか……

 

 

 

 

 

 

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ともあれ最初に後手番で取ったのは大きな意味を持つ。

けど八一君だからな、まだまだ予断を許さないのは明らかだ。




第1局、結局終盤の王手ラッシュで桐山君の先勝、この後は……




って訳でまた次回!!


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運命の竜王戦第4局・旅館ひな鶴(前編)

ダイヤモンドエンペラーでの第1局で奇襲からの我慢比べの末に勝ちをもぎ取った後、続く第2局・第3局も連勝し、迎えた第4局であるが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開催場所が……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

石川県・和倉温泉………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

って事で、最早将棋界年間行事開催会場として御馴染みの場と化した日本一の名門旅館・『ひな鶴』となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁ有り体に言えば八一君のホームで、僕には完全アウェーな厳しい空気の場となる訳ではあるのだが………

 

 

 

 

 

 

 

な〜んか以前の「名人」(現連盟会長)みたいな絶対最強のラスボス扱いってのは幾らなんでもどうにも馴染めないんですがね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で最寄駅に着き、『ひな鶴』への道中では、矢張りと云えば矢張り八一君とあいちゃんカップルが大歓迎を受け、もみくちゃにされ通しとなり、10分そこらの筈が結局1時間掛かった有様で………

 

一方で僕の方はとなると、曾ての「名人」の時とは異なり、こちらも完全スルーとはならず、歴史的対局の一方の雄と見做されてそれなりには歓迎の意を示され、又、八一君の兄弟子にして、あいちゃんの身内扱いな立場って事もあり、僕の方も到着までそこそこ時間を費やすハメとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

到着後、荷物を宿泊部屋に置くや早速対局場の検分に向かったのだが、その場所は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『臥竜鳳凰の間』

 

であり、既に八一君と関係者各位が到着済であった。

 

 

 

関係者各位………

 

 

 

竜王・八一君

 

挑戦者・僕

 

立会人・佐伯宗光永世竜王

 

副立会人・鏡洲飛馬八段

 

記録係・登龍花蓮四段

 

『ひな鶴ホールディングス』代表取締役会長・

雛鶴亜希奈さん(案内役兼任)

 

他、『旅館ひな鶴』スタッフ、

専門チャンネルスタッフ等……

 

 

 

が注目する中、慎重に検分が行われ、空調や光加減等の細かい注文程度だけで他は恙無く問題無しとなり、対局環境としては最高の状態で臨める事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして着替えた後の前夜祭………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

は???

 

これは竜王戦前夜祭ですよね?

 

なんだか以前見たようなデジャヴが目の前に展開してるんですが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『雛鶴家・九頭竜家披露宴』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁ確かに迎え撃つ竜王は八一君で開催場所はこの『ひな鶴』なんですがね……、

 

そして実際に八一君とあいちゃんが婚約してるのも紛れもない事実な訳ではあるんですけど………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

な〜んか地元の方々が矢鱈多く招かれているのは僕の僻目なんですかね?

 

って程にはあいちゃんと八一君応援団的雰囲気が満載な会場の空気なんですけど………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな空気の中、流石に少し身構えそうになりかけた処で声を掛けて来たのは大盤解説を引き受けてくれた神宮寺さんだった。

 

「なんだなんだ、桐山程の最強絶対神がらしくねぇぞ!!ってか、九頭竜、否、『ひな鶴』のアウェーの空気が其処まで異質過ぎるって事かよ!!けどお前、それでもちと神経過敏なんじゃねぇの?なんなら桂香の胸にでも飛び込んで神経落ち着かせてみろ!!あ、けどそれじゃ万智ちゃん氷の怒りこっちに向けられそうだから抱きつくなら万智ちゃんかwww」

 

 

とか、相も変わらず好き放題奔放に言ってくれるもんだ……

 

 

ってかこれ、桂香さんなり万智なりが聞いてたら確実に僕に何らかの刃が幾筋かは当てられてるのが丸わかりなんですが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、どうやら8年振りの茶番開催のようで………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、今回は神父じゃなくて神主(禰宜?)の衣装を纏った現会長(十八世名人)が立会役となって神式(?)形式の婚約披露となる流れのようで………

 

 

 

 

 

まぁ、前回は銀子ちゃんが超絶不機嫌MAXに至った事から僕が詫びに動き回るわ天衣も冬司も銀子ちゃんのせいでテンションダダ下がりもいいところだったから、こっちのフォローにも気を配らなきゃ到底収まりつかなかったし、対局に集中出来ただけ八一君が僅かにでも妬ましかったのは此処だけって事で………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 〜雛鶴家・九頭竜家婚約披露式〜

 

 

 

 

司会(神鍋歩夢九段)

「それではっ!!新婦・終盤の魔王妃、雛鶴あい五段!!新郎・西の魔王・ドラゲキン、九頭竜八一竜王!!固めの席に就き給え!!!!」

 

 

 

この号令で前回どころじゃない茶番が始まった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

禰宜(十八世名人会長)

「詳細は省きます。新婦・雛鶴あい五段、貴女は今後生涯九頭竜八一竜王を愛し慈しみ貫く所存でありますか?」

 

あいちゃん

「はい!!あいこそが八一さんの全てを愛し慈しむ存在そのものだからです!!!!」

 

禰宜

「新郎・九頭竜八一竜王、貴男は今後生涯雛鶴あいの全てを愛し慈しみ貫く所存でありますか?」

 

八一君

「………、はい、その所存です………」

 

 

 

 

八一君…、対局前から疲労困憊に近い疲れ振りだけど明日からの対局、マトモに出来るんですかね?

 

 

 

 

 

 

 

ん?いい具合に酒の入った地元の顔役と思しき初老の男性がいきなり誰の許可もなく壇上に上がって来たけど、会長気付いてる?

 

 

あ、会長気付いたようで直ぐ様歩夢君からマイクを受け取って顔役に一言……

 

 

 

「和倉温泉自治会長様、御多忙の処態々御足労頂き、誠に恐縮至極で御座います。つきましてはこの婚約披露に地元を代表して祝辞を述べたいとの事で、是非にもお願い致します。」

 

 

 

 

 

あれ?月光先生ならまぁ予想つくけど、「名人」会長がまさかの絶妙な切り返し披露してくれるとは………

 

 

 

 

でそんな訳で自治会長さんからの祝辞………

 

 

「改めまして和倉温泉街自治会長を務めさせて頂いてる奥山と申します。この度、我が街のスーパーアイドル・ヒロインたる雛鶴あい先生がその師匠にして最愛の御仁たる九頭竜八一竜王と婚約披露為さる事、誠に目出度い話であり、我々和倉温泉街自治会としてもこの場での披露、生涯の誉れと心得る次第であります。そして私の私情としては雛鶴先生、否あいちゃん、その小さな身体で家業の修行・手伝いに邁進していた少女時代を熟知しているだけに今こうして婚約披露する事感慨無量であります………。九頭竜竜王、雛鶴の御夫妻からも申し渡されているとは思いますが、改めて我々からも、もしあいちゃんを泣かせたら和倉温泉全体が九頭竜潰しを主導する心構えである事、然と御承知して貰いたい。」

 

 

ってこれまたなんとも不気味な八一君への圧力満載な御挨拶をカマしてくれて………

 

 

 

けど、あの破壊的なファーストコンタクトから8年半余りか……

 

 

 

そりゃ八一君も父親にもなるし、あいちゃんもまた女性として盛りにもなるよな………

 

 

まぁ、あいちゃんの眼には八一君以外は視界の外だったようだけど。

 

 

 

 

 

 

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そんなサプライズな大騒動もなんとか終了………

 

 

 

後は明日明後日で一気に決めたい処ではあるけど、あの『西の魔王』ですからね………

 

それに史上唯一の3連敗4連勝の大逆転劇の主役ですし、勢い主体で臨むと逆に呑まれる危険もあるし………

 

 

 

何にせよ、明日からだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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  〜八一君の竜王戦戦歴〜

 

 

16年→vs後藤正宗竜王 4勝3敗(竜王獲得)

17年→vs「名人」  4勝3敗(3連敗4連勝)

18年→vs桐山零名人 4勝3敗(竜王vs名人)

19年→vs宗谷冬司七段 4勝2敗

20年→vs空銀子七段  4勝1敗(永世竜王資格取得)

21年→vs於鬼頭曜九段 4勝2敗

22年→vs山刀伐尽九段 4勝3敗1持将棋(自身初の持将棋)

23年→vs神宮寺崇徳帝位 4勝3敗

24年→vs神鍋歩夢賢王 4勝3敗  





 〜前夜祭後の神宮寺の部屋side神宮寺〜


さてと………、なんだかクソ面白ぇ前夜祭も終わって俺も幾分いい具合に酒も回って来たから部屋でもう一杯呑んでとっとと寝るか……


あん?鍵開いてんじゃねーか?誰だ開けたの?

一瞬チンプンカンプンになりながらも部屋に入ると………





桂香が仁王立ちしてたんだが………




で、有無を言わさず切り込んできやがった!

「で、崇徳?アンタ嫁を他人の慰み者にしようとかどんな性根しとるんや?これ、相手が零君やなかったら即刻絞め殺す話やで?解っとるんか?」

やべ……、ガチギレしてるぞ……

「いやな、桐山があまりに神経過敏なもんだったから少し緩めさせようと思ってだな……、けど、流石に悪ノリし過ぎた、スマン。けどお前、あの時俺達の近くには居なかったよな?誰から聞いた?」

即座に返って来た。

「万智ちゃんからよ。気付かなかった?まぁ零君もあの後ちょっと説教貰っていたけど。でも崇徳ほどの男ですら万智ちゃんの存在見逃すって相当ね、あの子」


ん〜…供御飯ちゃんか……、

と一瞬考えに浸ってたら桂香め、更にブッ込んで来やがった……



「崇徳、そんな余分な思考、今直ぐウチが精力毎丸々吸い取ったるから覚悟しぃ♥♥」




やれやれ、マジか……

となると、そろそろもう1人作らなきゃならんかね?将馬1人でもなかなかに骨なんだがな……

けど桐山なんてあの齢で娘3人の親父な訳だしな……

桂香も時間的にあまり余裕無くなって来てるし、マジで次作る事になりそうだな……







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運命の竜王戦第4局・旅館ひな鶴(後編)

お久しぶりですwww


夏に入り、棋聖戦は10代最後の対局を制した瀬戸の天才児が軍曹を降し棋聖3連覇となり、王位戦は天才児が隙無し相手にタイとして先の展望が楽しみになった模様で………


一方で竜王戦本戦トーナメントを見ると、天才児のライバル候補は3回戦で現役A級に敗退……、竜王経験者の2組2位も緒戦敗退と、トーナメントに残っている竜王経験者は2組優勝者のみとなり挑戦経験者も他には1組3位だけで、天才児への挑戦者は竜王初挑戦になる可能性がありそうな予感がするような……


って訳で本編スタート!!


 

 

第4局初日、午前4時半過ぎ………

 

 

 

 

思ったよりも早くに目覚めてしまった………

 

 

 

 

只、意識が覚醒した以上、再び眠りに就く事は不可能だ。

 

 

 

 

 

 

第1局での振り駒の結果により、第6局迄の奇数局は八一君、偶数局は僕が先手を摑む事となっていたのだが………

 

この第4局は僕が先手であり、とあるアンケートに於いての結果を閲覧して見ると………、

 

 

僕の優勢に傾いては居たのだがそれでも4対3程度の差であり、8年前の前代未聞の窮地からの大逆転をやってのけた八一君への支持もかなりな物であったのは流石に戦慄を禁じ得なかった………

 

 

 

そして一旦スマホの電源を切り、戦闘モードへのスイッチを押すべくシャワーを浴び、しっかりと戦闘態勢モードが身体中に染み渡ったのを確かめ、フロントに朝食準備を伝えたのだった………

 

 

 

 

 

 

朝食メニューは………、

 

御飯(茶碗5〜6杯分のお櫃)、味噌汁(お椀3〜4杯分の鍋)、鯵の開き、白菜とホウレン草のお浸し、出汁巻玉子、冷奴、板わさ、香の物、能登特産フルーツ盛合せ…の組合せであった。

 

 

 

 

 

そしてしっかりと身支度を整えると少し早目ではあったのだが、午前8時30分頃には………

 

 

 

『臥竜鳳凰の間』

 

 

 

に入場し、戸惑う登龍花蓮四段に、

 

「登龍さん、僕の事は気に掛けなくていいから対局準備に集中する事を優先して下さい。」

 

とだけ告げて対局モードへの沈浸を早速始めた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 〜side八一〜

 

 

 

朝の4時……、目覚し5時セットだったよな……、なんでこうも早くに目が覚めるんだ?!

 

まぁ以前みたいに崖っぷちの3連敗からの正念場って事もあるんだろうけど、今回はあの「名人」…現連盟会長相手のプレッシャーなんてもんじゃない程に強烈過ぎるからか?

 

 

そもそも俺自体が創設以来初の竜王10連覇の懸かった全国注視なシリーズである上に、対局相手が事もあろうにあれだけの棋歴を誇りながらも唯一竜王だけは俺のプロ入り以前に1度だけ獲得したきりで以後は地元の敵対してる親族(本人的には縁切り認識らしいが)の妨害の影響で結局俺の逆転防衛となった回しか番勝負にすら登場出来て居なかった兄弟子な訳で……

 

 

只、今期の竜王戦は残りの3局も長野開催でない為、その点では兄弟子も安堵してるとは思うが……

 

 

 

まぁそれ以前に只今絶賛3連敗中で後の無い俺が心配する余裕ねぇだろ…って言われたら確かにそうなんだよな……

 

 

 

 

兎に角これ以上は寝られないから即刻シャワーを浴びて、少し早目ではあったけど、朝食の準備をお願いした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食メニューは……、

 

 

 

 

御飯(茶碗5〜6杯分のお櫃)、味噌汁(お椀3〜4杯分の鍋)、鰤の煮付け、鯵の開き、白菜とホウレン草のお浸し、出汁巻玉子、冷奴、板わさ、香の物、能登特産フルーツ盛合せ…の組合せであった…。

 

 

 

その後はゆったりと着替え、午前8時40分には会場入りしていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 〜観戦記・対局開始前〜 

 

 

 

 

 

 

 『臥竜鳳凰の間』

 

 

 

 

開始20分前……、10連覇へ後の無い竜王・九頭竜八一が入場した。

 

 

下座には開幕3連勝を果たし、八冠完全制覇に早くも王手を掛けた挑戦者・桐山零名人が既に座り、目を閉じて集中力を高めていた……

 

 

 

やがて今対局立会人の佐伯宗光永世竜王と同副立会人の鏡洲飛馬八段も入場し、対局開始へ待った無し!

 

 

尚、今対局の先手は桐山名人となる。

 

 

2日間の熱戦が……さあ、間もなく火蓋が切られる……!!

 

 

 

 

 

 

  (鵠)

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 

第4局初日……、

 

 

今回の先手は僕であり、先ずは四間飛車から入って八一君の出方を窺うとするか………

 

 

 

一方で後の無い八一君は……と云うと、エース戦法の後手番一手損角換わりから戦闘準備に取り掛かる方針を示して来た……!!

 

 

 

其処からは陣固め迄はサクサクと駒を動かして防御を固め、その先は開戦迄の下準備とそれに伴う考慮に費やされ、初日終了……

 

 

 

封じ手は八一君が64手目を封じ、明日に備える事となった。

 

 

 

 

 

そして夕食後、燗酒1本(2合銚子)と軽い酒肴を頼み、晩酌しながら翌日の展望を汎ゆる角度から検討し続け、23時頃に眠りに就いた……

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 〜side八一〜

 

 

 

64手目を封じて明日の決戦に備え、夕食になったのだが……、

 

 

あい……、幾ら実家でどれだけ融通が利くからって専属仲居ってのは流石にやり過ぎじゃないの??

 

 

まぁ銀香を連れてきて、その無垢無邪気な笑顔に触れると色々と小難しい事なんて後回しでも構わねぇって位には銀香可愛いし、癒される♥

 

 

けど…あい、だからって高校卒業前の段階で既成事実作ろうとするのは流石に勘弁してくれ……

せめて俺の移住後でお願い致します………

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 第4局2日目

 

 

専門チャンネル事前予想スペシャル

 

 

チャンネル解説→神鍋歩夢九段

 

聞き手→岳滅鬼翼五段

 

 

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 〜とある女流棋士の独り言〜

 

 

 

「ゴッドコルドレン」こと神鍋歩夢九段が女流棋士初の棋士・奨励会員を弟子に持った女流レジェンドの釈迦堂里奈クイーン四冠(女流名跡、女流玉将、女流帝位、山城桜花)門下であるのは周知の事実であるのだが、そんな神鍋以前に釈迦堂が初めて弟子に持ったのが『不滅の翼』こと、岳滅鬼翼であるのは世間的には余り知られては居ない……

 

そんな姉弟弟子関係ではあるのだがこの2人、何時の間にか九頭竜・空同様に男女交際に及んでいるのは何故か公にはなっておらず、知るのは師匠の釈迦堂とその夫・清滝、そして彼らとは少なからず関わりの深い桐山、九頭竜、供御飯、月夜見坂、清滝桂香、二海堂、鹿路庭、神宮寺、鏡洲、神鍋馬莉愛程度に限られている。

これは神鍋人気が妙齢の女性に支えられているのが極めて大きな事に依るものであり、公表した際の悪影響がどれほどのものか予測がつき難い故、現在まで公表出来ずにあるものである。

 

 

………、まぁ公表のタイミングなんざ本人次第だけどよ、歩夢も翼さんももういい齢なんだしそろそろいいんじゃねぇかとは思うんだがな……(某大天使)

 

………、一体何を迷っているのか公表に踏み切らないって、いい加減もどかしいんだけど……(某ロリ王)

 

………、確かにこの2人、付き合うイメージが簡単に湧きにくいけど、それにしても未だ公表せずって嗅ぎ付けられた時がかなり面倒になると思うんだけどな……(某絶対神)

 

 

 

 

 

 

 

 

……………、彼等を熟知していると思われるこの3名ですら未だに隠すのは不自然と感じているようで、本当にとっとと公表して貰いたいもんどすなぁ………

(某他称女狐)=独り言の主

 

 

 

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そして2日目………、

 

 

 

八一君の封じ手は………、

 

予想に違わず開戦の1手であった。

 

 

 

 

此処からは午前中から激しい攻防が繰り広げられ、昼食休憩迄に何と昨日と同じ64手も進む乱戦模様に入ってしまった……

 

 

 

〜昼食休憩〜

 

 

八一君→能登近海豊漁御膳、レモンティー、地元特製ソフトクリーム

 

 

僕→能登牛ステーキ3種盛り御膳、ミルクティー、地元特製イタリアンジェラート

 

 

 

を注文、今後の展開を考えつつ、気が付けば30分余りで完食していた………

 

 

 

 

 

そして僕の手番である129手目から午後の対局に突入………、

 

 

 

 

激しい攻防はまだまだ続き、3時のおやつタイムの段階で手番は八一君で実に172手目に入っていた………

 

 

 

 

 

 

〜2日目午後のおやつ〜

 

 

八一君→能登半島特産フルーツ盛合せ、レモンティー(大容量ポット)

 

 

僕→ミルクティー(大容量ポット)、オレンジジュース、アップルジュースと、飲み物だけを注文。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして午後6時過ぎ……、

 

 

 

僕の手番……、239手目にして今局初めての長考に突入……

 

 

 

 

 

 

 

 

この段階での残り持ち時間は……、

 

 

 

八一君→21分

 

 

僕→1時間2分

 

 

 

 

 

 

午後6時50分過ぎ……、

 

記録係の登龍四段から、

 

「桐山先生、持ち時間残り10分ですのでカウントダウンに入ります。」

 

との勧告を頂き、更に己の全てを研ぎ澄ませ、ゾーンに入った。

 

 

 

 

 

 

 

午後7時過ぎ……、

 

「桐山先生、持ち時間を使い切りましたので此処からは秒読みとなります。」

 

と、登龍四段が宣言……

 

 

 

……、僕の読みが完璧ならば後は詰み迄押し通せるが相手は八一君だ、僕の詰み手順も読み切った上で尚上を行く手順を突き詰めている事も頭に入れなくては到底突き抜けられないのは自明の理だ……、

 

 

 

 

此処からは秒読みを意識しながらまずは詰み手順の通りに指し、八一君が外すか異なるアプローチに持ち込むかになれば後は秒読み限度での最善手(勝率98%以上)を続け、我慢勝負に打ち勝つしか無い………

 

 

 

そして30分………、

 

 

今度は八一君の手が止まった………

 

 

 

残り20分……、八一君も限度一杯迄考え、

 

「九頭竜先生、持ち時間を使い切りましたので此処からは秒読みとなります。」

 

との宣言を貰い、午後8時に至り、両者秒読みの地獄の地雷回避の泥仕合に突入する事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

然しその泥仕合も1時間後になると千日手の様相となり結局午後9時30分頃に千日手が成立、30分の休憩後に先後入替での指し直しとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後10時過ぎ………、

 

 

 

今度は先後入替により、八一君の先手で始まった指し直し局………、

 

 

 

 

 

 

僕は早見え早指しの鉄則のままにサクサクと時間を浪費せず陣容を整え、戦闘準備に掛かっていた。

 

 

 

 

一方の八一君はと云えば、こちらもサクサクとマイペースに陣形を作り、攻防万全に持って来た。

 

 

 

 

 

 

30分後、開戦………!!

 

 

 

 

 

 

 

先ずは八一君が歩夢君を準るが如くに香車を前進、此方に楔を打ち込み、巧妙に牽制して来た……

 

 

 

 

ならばと僕は桂馬を跳ね、八一君の玉と大駒狙いを明示すると八一君、守備に戻って来た……

 

 

 

 

此処からは一気呵成に攻勢に出、敵陣を荒らし回って玉を孤立させた処で投了させなきゃ此処は勝ち取れ無い………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……が、どうやら八一君も想定内だったようでギリギリ保ち堪えている薄い守備をどうしても喰い破れず、攻めが切れるや否や今度は八一君の逆襲ターン………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こっちも早期決着へ研究研究更に研究………を重ねてはいたのだが八一君、魔王の二つ名は伊達ではないようで、指し直し局はほぼほぼ八一君の想定内の展開であり、外そうがどうしようが変えようも無い局面に持ち込まれ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後は形作りだけを行い、投了するしか無くなった………

 

 

 

 

 

   

 

 

結局、第4局は本局331手を以て千日手成立………

 

指し直し局は119手にて僕が投了……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやら流れが変わり、八一君に風が吹きつつあるようだ………

 

 

 

 

 

次の第5局は1週間後……、立て直すには時間が足りなく、最終第7局迄の全体的対策で対応するしか無いだろうな………

 




第4局を終えた翌日、真っ直ぐに京都に戻らず神戸に足を運んだ……



で、市内一等地にデンと構えたタワーマンション最上階(地上55階地下2階建、地上高226m)にある天衣の家に入り、天衣・晶さん・冬司の出迎えを受けた。


そこでまず紅茶で一服した後冬司の研究部屋に入り、先の第4局の検討に取り掛かった……


そこから見えたのは………、

本局後半での激戦の中、知らず知らずの内に八一君に千日手模様に誘導されている絵図であった……


前回の将棋人生でもこんな周到な罠に搦め捕られた試しなんて無いに等しかったのに、この大事な局面で見事にしてやられるとはな……












………、この先は400年余りの将棋史でも類を見ない究極至高の死闘激戦に為る事最早疑い無いだろうな……





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神戸の超高層タワーマンションの管理者は夜叉神グループの不動産企業であり、実質のオーナーは夜叉神弘天会長であるのは周知の事実である。
故に健在している唯一の身内(実孫)である天衣の要望に即座に応えたのは必然であった……


そして弘天会長も宗谷冬司少年をつぶさに観察し、その性質人間性を見極めた上で孫婿として認め、同棲(付き人・警護要員込み)も認可したとの事だ……


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そんな訳で冬司の高校卒業(冬司自身は中卒で十分らしいが天衣と弘天さんが高卒資格を望んでいるようだ)のタイミングで入籍する運びとなるようだ……

そういえば冬司も170cm程に身長も伸び、身体自体は僕と殆ど変わらない位になっている……

一方で天衣も高校卒業間近であり、身体つきも大人の女性然となっており、確かに弘天さんが過剰に心配するのも理解出来る。

けど警護のメンバーが一般人どころか一流アスリートすらも漏らさせるレベルなだけに不用意に天衣に近付くなんて土台不可能とは思うけど………


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天衣の誕生日

さてさて、この先の八一君との竜王戦の行方と決着についてなかなか結論が出てこない始末で……



って訳で今回は箸休め的に天衣ちゃんのお誕生日会の開催のお話にしました。


って訳で本編スタート!!


 

 

12月10日……、

 

 

 

この日は僕の最初の弟子にして女性棋士初のA級棋士でもある夜叉神天衣の18歳の誕生日である……

 

 

この日僕は家族(万智と娘3人)を伴い、朝早い便の新幹線で新神戸まで乗り、降りたところで夜叉神家が手配したリンカーン・コンチネンタル(護衛付き)に乗せられて着いた先は……、

 

 

 

天衣の現住居であるタワーマンションではなく、弘天さんの住む夜叉神邸であった。

 

天衣の護衛を束ねる夜叉神家末端幹部でもある灘國雄さん(故・天祐さんの護衛でもあり、晶さんの直属上司でもある)曰く、ここ10日程弘天さんの体調が優れず、今回は天衣宅には行かず天衣の方が夜叉神邸に戻り、誕生日会を行う運びになったそうだ……

 

 

 

 

 

 

で、相も変わらずその筋の方々からの陣太鼓に包まれての歓迎が繰り広げられ僕は……、

 

(初めてとかの人ならお漏らししても仕方無いよな……)

 

とか娘達の反応を気にしてたのだが……、

 

どうやら母親である万智の血が強いからか恐怖感は感じられず、寧ろ興味津々の様子を示す有様で……

 

 

 

 

で…屋敷に入り、弘天さん・天衣・冬司の出迎えを受け、応接間で軽くお茶を頂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今回の誕生日会は昼夜2回のロングランで行われるのをこの場で告げられたので、日帰りの予定でスケジュールを組んでいた僕は思わず抗議の声を上げていた……

 

 

……けどそれは僕だけ知らされて無かったようで万智には予め伝えられてたらしく、娘もそれぞれお泊りの支度を調えての旅程だったようだ……、道理で荷物が余分に多かった筈だ……

 

 

 

 

 

 

 

 

そして誕生日会第一部となる午餐会開催……

 

 

 

此処は弘天さん、天衣、冬司、僕ら一家の8人で内祝い的に祝賀となり、本来なら僕からあるプレゼントを天衣に渡す予定だったのだが、こんな予定外の事態にさせられたお返しに此処では敢えて口にはせず、後のお楽しみに引き延ばす事とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして午餐の後、暫しの自由時間にて天衣・冬司に万智と4人で軽くvsを行い、次の対局に備えていた……

 

(僕は公共放送杯3回戦のvs坂梨さん、天衣は盤王戦挑決のvs健司君、冬司はA級順位戦のvs健吾君、万智は女流名跡戦リーグ戦のvs香子さんが次戦の相手)

 

 

その間、娘達は夜叉神グループ直営幼稚園の保母さんと一緒にお遊戯やら工作やらに熱中し、飽きる事なく遊んでいたとの事で……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて本番の晩餐会が近づき、招待客の面々がチラチラ入場し、その一員の中に師匠、桂香さん、神宮寺さんと将馬君、生石さんと飛鳥ちゃんに健司君、蔵王先生に八一君一家も顔を出していた。

 

更に東京からも二海堂と珠代さん一家と山刀伐さんやら挙げ句には後藤さんと雷さん、健吾君までもがはるばる参加する大規模な宴になるのは確定事項なお話となってしまったようだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

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天衣と冬司の関係は現時点での男女関係は知らずも、少なくとも将来の伴侶に至る流れなのは関西全体と関東の一部は委細承知の事項である。

 

 

最近では先回話題に上げた歩夢君と翼さんもあるけど、それ以外にも業界内では若きカップルのお話も東西少なからずあるようで……

 

 

 

 

 

①→関東では、後藤さんの弟子にして事実上の養女でもある祭神雷さんが最近交際して入籍間近って噂も浮上しているのだが、そのお相手が7歳年下の健吾君との事で実際僕が後藤さんと健吾君に確かめた処、存外すんなり認めていた。

 

で……これとは別に後藤さん、つい最近になって前世の記憶を思い出したらしく、竜王戦第4局終了後に京都に乗り込んで僕を締め上げて来たので僕も頭に血が昇ってその首を締め返す騒ぎとなり結果……、娘3人の悲鳴を聞いた万智によってその持っていたバーナーの炎でお互い締めてた手を放す仕儀となり、改めての話し合いによって何とか和解し、其処からは何故か万智の主導で義兄弟の盃を交すまでに至った……(勿論兄は後藤さん、弟は僕である)

 

 

 

 

 

②→一方で関西では、前世でも男女交際の欠片も見受けられ無かった健司君に驚きの春が……

 

 

お相手は生石さんの一人娘の飛鳥ちゃん……、っても健司君とは10歳離れててしかも飛鳥ちゃんが年長……

 

 

生石さん、よくもこの組み合わせに文句も言わず認めた物で……

 

 

 

 

そんな僕の素朴な感想に生石さんからは……

 

「最初から無条件に認めた訳じゃねぇ、そもそもが健司と結婚しても飛鳥じゃ30いっちまうだろうが。それじゃ飛鳥も健司も幸せにゃ程遠く寧ろ嫌な結末も有り得る訳だしな……、だから健司には同年代の波長の合う女を選べって諦めさせて飛鳥にも健司じゃなくても近い年代に波長の合う男居ない訳でも無いだろってそれぞれに説得してたんだが……、俺の考え以上にアイツらの絆・繋がりが存外強くてな……、結局健司にゃ銭湯経営に必須の資格取る事で結婚認める話に落ち着いたって訳だ」

 

との回答を貰い、生石さんの後ろで桂香さんもにこやかに親指立てており、その事から桂香さんもこの件一枚噛んでるな…と感じた次第だ……

 

 

 

③→鏡洲さん同様遅咲きの苦労人棋士である坂梨さんも最近春が訪れたようで……

 

 

お相手は天衣とプロ同期の峠なゆた七段であり、年齢的にもベストな組み合わせとは個人的には思ってる。

 

で、この2人の切掛については雷さんが一枚噛んでたようで、新人時代の棋帝戦1次予選で雷さんが緒戦で坂梨さん、2回戦で峠さんを打ち破り、「アンタら、まだまだ足りないよぉ〜!せめてれぃのとこのチビどもまでになんなきゃアタシには追い付かないさぁ〜!まぁ喰い応えはあったけどさぁ〜!」って挑発とも激励とも取れる台詞を吐き散らかしたのが始まりらしく……

 

 

この一件については元々雷さん嫌いの燎さんも兄弟子の坂梨さんの春を後押しした事で幾分かは見直した様子でその評価も少しばかり丸くはなっていた……

 

 

 

 

 

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……で、いよいよ本番の晩餐会が始まった………

 

 

 

司会進行は大阪の全国系列の人気女子アナウンサーであり、どうやらルックスばかりかスタイルも視聴者からベタ惚れレベルの物のようで八一君、早速釘付けになっており、あいちゃんに首根っこ引っ張られて会場の隅で速攻ヤキが入ったようだ……

 

 

それから祝辞となったが何故か僕が挨拶する運びとなっており、少々困惑しながらもどうにか全う出来た……

 

 

で、乾杯の音頭はこれも何故か神宮寺さんが指名され、彼も勢いのまま声高に乾杯を発声、一気に祝宴へと雪崩込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな破壊的な酒宴の最中、第一弾のサプライズとして天衣の弟子で先の10月1日付で女流2級として正式に女流棋士となった生野錫さん(中学3年・15歳)から花束とプレゼント目録が天衣に渡された。

 

この祝宴自体に参加はしていたのだが、それにしてもこんなサプライズは天衣も予想していなかったようで……

 

 

 

 

 

……そして続けざまに更なる2つ目のサプライズとして僕から天衣に亡き天祐さんが遺していた将棋関連の遺品をプレゼントした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大分以前、天衣の10歳の誕生日の時に鏡洲さん始め、万智や八一君、月光先生や山刀伐さんに協力を頼み、天祐さんの直筆を集めて貰い、それを起こした駒一式を贈った事があるのだが、その直後に弘天さんから天祐さんが亡くなった際に処分したとされていた将棋遺品の一式を渡され、これまで僕が預かっていた物である。

 

弘天さん曰く、天衣には天祐さんに囚われ過ぎて欲しくないとの思いからだったそうだが天衣の方は逆に将棋にのめり込み続け、結局弘天さんも倉庫の奥に蔵ったまま真実は天衣には告げず、僕が駒を贈ったのを機にその存在を僕にだけ告げ、極秘裏に僕が預かる事となった物である。

 

そして他は兎も角、この一件だけは万智にも誰にも話しておらず、当に究極のサプライズとなった訳であった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この大量の遺品を目にした天衣の顔は驚愕と感激と感涙が綯い交ぜとなっており、この日一番のプレゼントになったのは間違い無かった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、酒宴は長らく続いたのだが、泣いたのを恥ずかしく思ったのか天衣、何故か酒に手を伸ばし、ブランデーをボトル1本空ける呑みっぷりを見せ付けてくれていた………

 

気が付けば中学生の冬司に健司君も何時の間にかビールを呷っていたし、最早カオス状態と化したとんでもない混沌酒宴に陥っていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

潰された面々多数……、最後まで生き延びたのは蔵王先生と神宮寺さん、酒と水分交互に呑み分けていた僕と万智、桂香さん程度なもので後は後藤さんですらグロッキーになって寝室に引き揚げた程には撃沈連発の有様で……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、天衣からは

 

「なんで今まで隠していたのよ?お父様の遺品なら相続権は私なんだから幾らなんでも私に内緒なんて有り得ないでしょ?」

 

と至極真っ当な抗議を頂きました………

 

 

 

 

万智からも

 

「こなたに隠し事とは零はんもなかなかな神経どすなぁ……」

 

と皮肉めいたお説教を貰う始末で………

 




竜王戦も第6局を終え序盤は僕の3連勝で推移したもののその後は八一君が3連勝を返し、結局決着は最終第7局に持ち込まれる運びとなってしまった………



その第7局の会場なのだが………










山形県天童市の「笑顔の宿・龍王の湯」であり、竜王戦恒例の開催施設として世間的にも認知されてる場所である。



米沢牛、山形ラーメン、サクランボ、ササニシキ……他絶品グルメが目白押しのこの会場……、対局もだが食でも注目待ったなしの大一番となるのは完全に疑いない……!!


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運命の竜王戦第7局・龍王の湯(前編)

なんだかんだで王座戦は中尉に隙なしが挑むとなり、王位戦はその隙なしがまさかのコロナで対局延期の騒ぎに……

一方で棋士編入試験は女流二強の一角たる「出雲のイナズマ」が緒戦敗北とやや厳しい船出となり、果たしてどうなるものやら………

って具合に現実路線でも波瀾が波打つ展開な訳ですが………


って訳で本編スタート!!





 

 

12月22日……、

 

最終局の舞台となる『笑顔の宿・龍王の湯』………

 

 

 

 

 

 

僕は前日東京泊まり(二海堂邸宿泊)からの午前の新幹線で天童に向かい、天童駅到着後、軽く昼食を摂ってから『龍王の湯』に足を踏み入れた……。

 

 

 

 

 

 

 

一方の八一君は……、当日朝一番の伊丹発山形行の飛行機で現地に向かい、空港から直接ハイヤーで現地入りした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

到着するなり熱烈な大歓迎を受け、詳細な説明後、それぞれ別個に茶室に案内され、茶の湯のもてなしを受けた……。

 

 

お茶はまぁ普通にほろ苦かったが対比的にお茶請けとして出された羊羹はその甘さが引き立ち、最高の味わいだった……

 

 

 

 

 

 

 

そして検分となり、暖房やら光源の位置取りに明るさ調整等細かい調整を整えた上で準備万端、前夜祭に向かう事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして前夜祭………

 

 

 

 

 

 

 

先ずは挑戦者の僕が挨拶に立った。

 

 

「改めまして、今期竜王挑戦者の桐山零です。正直最初のペースで押し通せれば今回は竜王獲得挨拶となる筈でしたが流石に九頭竜竜王、此処まで粘り通し、竜王最終決戦の場たるこの龍王の湯での決着戦に持ち込んだ事、感服の一言です。

ですが、此処まで持ち込まれたからには何としても勝ちをもぎ取る気持ち・覚悟で臨む所存であります。

御来場の皆々様には最高の2日間をお届けし、私が勝つ姿を是非にお見届け致したく存じ上げます。」

 

 

と、最終戦への意気込みを語ると次に竜王の八一君が挨拶に立った。

 

 

「こんばんわ、第37期竜王の九頭竜八一です。今期竜王戦では手

始めから兄弟子……桐山零名人にペースを握られ続け、此処まで来れないんじゃないかとすら脳裏をよぎった程には追い込まれた次第でしたが、それでもどうにか巻き返した結果、この最終戦の舞台である龍王の湯に辿り着いたのは偏に会場を準備し整えた皆様方の想いを無にしたくないからであり、又、全国の将棋ファンの方々に失望させたくない一心からでもありました。

まぁ大多数の方々は兄弟子の八冠完全制覇に目を向けているとは思っていますが、個人的には私も竜王10連覇への大一番ですので大多数の方々には失望して貰う対局としたいと存じます。

日本全国注目の大一番、最高の棋譜を最高の結果で是非に示して見せます。

この2日間の対局、私のこれまでの棋歴全てを擲ち臨む所存でありますので期待して頂ければ幸いです。」

 

 

との意気込みを語り、この瞬間、会場を揺るがす程の地鳴りの如くに万雷の拍手歓声が鳴り響いた!!

 

 

その後は恒例の挨拶回りを恙無く済ませ、僕も八一君も早目に会場から引き揚げて、それぞれ明日に向け、自室へ引っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

……さて部屋に入ったのはいいのだが、なんで万智が迎えに待機してるの?

 

貴女、今日からの3日間は観戦記者『鵠』としてのお仕事優先でしたよね……

 

「前夜祭から引き揚げた時点でこなたの『鵠』としての今日の仕事はお仕舞どす♥

そんな訳で今夜は零はんの癒しに費やすどすからお覚悟どす♥」

 

 

……とかなんとかで強引に膝枕に寝かせられて翌朝5時前迄眠り込んで起きた時には一つの布団に同衾してたって……

普通に夫婦ですよ?子どもも3人いますよ?ですがね……、

将棋界最大級の大一番を前に緊張感も何も吹っ飛ばすレベルの御乱行…、対局前からなんかドッと疲労が先回りして襲い掛かった気分で……

 

 

 

 

 

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 〜side八一〜

 

 

 

 

はぁ……、何とか決意表明して挨拶回りを済ませて早目に自室に引き揚げたけど…あの〜、なんであいが待ち構えているの?

 

しかも挨拶回りで碌に腹に入ってないのを見越して十分な夕食(酒付き)を用意してるとか……

 

けど食べなきゃ先も何も進まないから兎も角勧められるままに食べ、合間に酒も入れ、気付いたら布団の中……、

 

で、それを漸く自覚するや、布団に同衾してたのは………あい!?

 

なんで?いやいや、流石にこれは………

 

 

 

 

 

………、あいがもぞもぞと動き出した……

 

 

 

「ししょー……ん、厶、ん厶?……!!、八一さん?!あ、あの〜……、私との一夜、迷惑じゃなかったでしょうか?本当なら今の段階で……と云うのは不本意だったとは思いましたが……、ですけどあまりに愛おしくてならなかったものだから………」

 

 

……って、え?!

 

 

まさか俺、婚約者ではあるけど現役JKに手を出した!?

 

 

 

早速あいに瞬間土下座…………

 

 

 

「申し訳ない……、如何に無意識とは云え、学生に手を出したのは間違い無く俺の過ちだ。出来る限りは償う。本当に申し訳無かった!!」

 

 

 

って全身全霊で詫びたのだが……

 

 

 

あい曰く、

 

「ならば今後一生私と銀香に一心不乱に尽くして下さい。尚、シャルちゃんとは師弟関係以上の関わりは許しません!!勿論、他の女子なんか私が一定レベルで認めた方以外との交流も許しません!!判りましたね、や・い・ち・さん???!!!」

 

 

 

 

って悋気全開(少々余地あり)の答えでもう抗う話じゃないのは明白だったんで大人しく従うしか無かった。

 

 

 

 

 

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12月23日………、

 

 

 

竜王戦第7局初日に入った………

 

 

 

 








 





竜王戦第7局初日……




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〜side桂香〜           
    
 



朝食バイキング会場……



銀香ちゃんを伴ったあいちゃんの姿がどうにも無垢のJKには見えなかった………


これはどう考えても……としか思えず、思わずあいちゃんに問い質しに行きかけてしまったのだが、そんな私の不穏な空気にいち早く気付いた崇徳が私の肩を摑み、宥めて来た。

「問題ねぇ。あの九頭竜がそんな程度で容易く崩れる手合じゃねぇのは長年姉貴分のお前なら十分に承知してるだろ。ってか、桐山にしても供御飯の嬢ちゃんと寝てんの過半数は知ってんだからどの道五分五分だ。心配するまでもねぇ」




崇徳の言葉を聞いてもなんか不安な空気がまだまだ纏い続け、私としてはなんとなくスッキリしないまま運命の対局に突入する事となった………




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運命の竜王戦第7局・龍王の湯(中編)

さてさて今期竜王戦は天才児に挑むのがレジェンドを無冠に追い込んだ元竜王って事でどんな戦いを展開するのやらなかなかに楽しみではあります。

王座戦は中尉にMr隙なしが間もなく開幕って事でこれも注目のシリーズってお話で……

この先の勢力図が一体全体どうなるやら分かりませんけど熱戦を期待って事で……


って訳で本編スタート!!


  

 

………12月23日、竜王戦第7局初日………

 

 

午前8時30分、先に僕が入場し早速下座に腰を下ろした。

 

 

それから僅か5分後にはこちらも予定よりも早く八一君が入場、上座に腰を下ろし、瞑想に入った……

 

 

 

 

 

 

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 〜side清滝桂香〜

 

 

 

開始まで残り20分……

 

 

零君も八一君も完全に戦闘モードに突入したようね……

 

 

八一君の方はあいちゃんの変貌を見るに後々に影響を残さなければ……と老婆心的な心配してたけど、どうやら私が気を揉む必要は無さそうね……。

 

 

零君は……

一見いつも通りに見えるけど、どことなく腰から下がフワっとしている感じで……

 

 

………、万智ちゃん???

 

 

 

チラっと観戦記者ブースを覗くと観戦記者『鵠』モードの万智ちゃんが普段通り平静にノートパソコンに向き合っているけど、僅かに『女』としての充実感が滲み出ているのを『女』としての私は電撃的に感じてしまった……。

 

 

全くあの2人(万智とあい)………、最後の激戦待ったなしの極限の状態の2人によくもそんな暴挙に及んだものよね………

 

 

 

どうやら天衣ちゃんも2人(零君と八一君)の微妙な空気に気付いたらしく、検討室と観戦記者ブースを交互に見て万智ちゃんとあいちゃんに一瞬鋭い目を向けたのは私くらいしか感じては無かった……とは思う……

 

 

 

 

 

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そして開始10分前になった処で今局立会人の月光聖市十七世名人と副立会人の椚創多八段が入場、

月光先生が

 

「少し準備に手間取りまして遅れ申し訳ない」

 

と詫びたのに続いて創多も

 

「お二人には待たせてしまい申し訳ありません」

 

と一言詫びを入れてきた。

 

八一君が

 

「いえ、大丈夫です」

 

と応え、僕も

 

「こちらこそ今局は宜しくお願い致します」

 

と返した。

 

 

 

 

 

 

そして午前9時……、記録係の神鍋馬莉愛六段による振り駒で最終局の先手は………僕となった。

 

 

 

 

 

 

 

第1手は………オーソドックスに角道を開ける事にした。

 

 

 

これを見た八一君はすかさずノータイムでエース戦法の『後手番一手損角換わり』を選択。

 

 

 

 

 

さてそうなると……、

 

 

 

 

 

 

 

実戦例が乏しく研究が進んでいない棒銀にしますかね……

 

 

 

 

 

そんな訳でお互い防御込みの駒組みを進め、午後0時30分からの昼食休憩に入った………

 

 

 

 

◎昼食メニュー

 

 

八一君→特製山形牛ステーキ御膳、レモンティー

 

 

僕→水車生そばの天婦羅蕎麦御膳、レモンティー

 

 

 

 

 

 

その後、午後の対局に入り、お互い牽制し合いながらも黙々と駒組みを進め、午後6時になる頃に手番の僕が封じ手を行った。

 

此処まで50手……、開戦は間近だ………

 

 

 

 

◎残り持ち時間

 

八一君→4時間9分(消費3時間51分)

 

僕→4時間10分(消費3時間50分)

 

 

 

 

 

 

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 〜side八一〜

 

 

 

はぁ……、戦闘準備は整ったけど封じ手は兄弟子か……

 

 

封じ手次第だけど明日は早々から開戦になるのは最早疑いなしってとこか………

 

 

 

さて、あまり遅くなってもなんだからさっさと飯と酒入れて早目に寝るとするか………

 

 

 

 

 

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 〜side神宮寺崇徳〜

 

 

 

ふぅ……、雪の舞う温泉露天風呂に浸かっての一献もなかなか乙なもんだなwww

 

 

まぁ混浴じゃねぇから桂香とは別々になるのがちと物足りねぇがな……

 

 

とは云え普段は俺や将馬、とっつぁんの世話に追われながらも去年今年と女流名跡を連覇して他にも女流帝位も取って女流二冠と通算3期で女流四段って同門の桐山とか九頭竜がチート容量遥かに越えた化物過ぎるから目立たねぇけど25と遅くに女流になった身ならばピークはあまり長続きが期待出来ねぇにも関わらず30半ばで女流二冠とか間違いなくコイツも清滝一門の化物系譜の一員って事なんだよな……

 

ま、奨励会すっ飛ばしてアマチュアから編入試験でプロにねじ込んだ俺が言えた話じゃねぇがな……

 

 

 

 

 

さて、部屋に戻って将馬の相手しながらもう一杯ひっかけて早目に寝るか……

 

 

 

 

お?カギ開いてやがる……、桂香達もう戻って来たらしいな……

 

 

 

「なんだ、早かったじゃねぇか。将馬がグズったか?」

 

と聞くと

 

「将馬はもう少し浸かりたかったみたいだけど私がのぼせかけたから早目に上がっただけよ」

 

との事だった。

 

「成程、じゃあ将馬はもう寝ちまったか…」

 

 

「そうね。って事で仕込むわよ♥」

 

 

「あ?まだ欲しいのか?」

 

 

「そりゃそうでしょ。零君と万智ちゃんはもう3人作ってる訳だし私だって身体が保つうちにもう1人は欲しいから♥」

 

 

「全くお前も此処まで欲求不満とは予想外だったぜwww」

 

 

 

 

 

……って訳で今夜はマトモに睡眠取れねぇ覚悟決めるしかねぇか……

 

 

 

 

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取り敢えず封じ手はこっちで確保したけど明日は早々から開戦間違いなしになるから明日1日は全く気の抜けない展開に為る事請け合いなんだよな……

 

 

 

さて、軽く呑んで早目に寝ますか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




◎現時点(竜王戦第6局終了時)での女流タイトルホルダー


・清華→桐山カタリーナ
・女王→桐山カタリーナ
・女流玉座→岳滅鬼翼(現在番勝負中、挑戦者は供御飯万智山城桜花、第4局終了時点で2勝2敗)
・女流玉将→月夜見坂燎
・女流帝位→清滝桂香
・女流名跡→清滝桂香
・山城桜花→供御飯万智(今期挑戦者は鹿路庭珠代女流四段)


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運命の竜王戦第7局・龍王の湯(後編)

皆さん、御無沙汰致しております。


構想と決着描写に手間取った上、本業のお仕事もなかなか多忙でしたので、なんだかんだと久方振りの投稿と相成りました(汗)。



この間、将棋界でも王座は軍曹防衛、王将戦はレジェンド羽生が五冠王藤井王将への挑戦決定等色々と動きが激しかった模様で………



後、残り数話で完結予定ですので何とか年内完結を目指し、筆を進めようと思っています。




って訳で本編スタート!!


 

12月24日、竜王戦第7局2日目……

 

 

午前5時、いつも通りに目覚め軽く身体を動かしてからシャワーを浴びて心身をスッキリさせ、午前6時に予約していた朝食を摂った。

 

 

・朝食メニュー

 

鰤の焼き魚、山形牛の切り落としすき焼き小鉢、冷奴、山形産野菜サラダ(特製ドレッシング付)、御飯(地元産ササニシキの3合炊き)、味噌汁(5杯分相当)、デザート(季節のフルーツ盛り合わせ)

 

 

 

……、

 

なかなかに食べ応えあり過ぎて下手すれば対局前に脳が鈍りかねない程には満足したよ……

 

 

 

 

 

 

 

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 〜side八一〜

 

 

 

……?何だ?

 

……?あ…、目覚ましか!

 

 

 

…午前5時、随分眠りに落ちたようで目覚まし時計のベルにも半信半疑な感覚のまま漫然と床を出た。

 

冬至直後だから朝とは云え空はまだまだ暗闇のままで直感的に今日の2日目=最終決戦は俺や兄弟子どころか会場に詰めてる主だった面々でもこの暗闇の如くには事前の読みが当てにならなくなる予感がした………

 

 

 

 

下準備を整えた処で朝食タイム……

 

 

 

・朝食メニュー

 

水車生そば天ざる蕎麦(蕎麦2枚盛り)、雑穀米と天童産野菜の雑炊、小鉢3種盛り合わせ、季節のフルーツ盛り合わせ

 

 

を食べ、十分に腹拵えをした上で和服に着替え、幾分早目ではあったけど対局場に向かった……

 

 

 

 

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さて午前8時30分になり、まずは挑戦者の僕が……と思ったら、何と既に竜王たる八一君が先に上座に座り、瞑想に入っていた。

 

 

先回りされたか……と顔には出さずに腹底で密かに唸りながら僕も下座に座り、瞑目してその時を待った……

 

 

午前8時45分、立会人の月光聖市十七世名人と副立会人の椚創多八段の2人が入場、その頃には記録係の神鍋馬莉愛六段も殆どの準備を終えており、後は封じ手の開封を待つばかりとなった……

 

 

 

そして午前9時……

 

 

 

昨日の手順をなぞり、いよいよ封じ手開封………

 

 

 

51手目となるその開封手は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開戦手にして、「とことん殴り合い殺し合う乱戦激闘上等!!」

 

と言う当に激動乱舞の幕開けに相応しい全世界驚愕の1手であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 〜side神宮寺崇徳〜

 

 

 

……全く…、半ば予想内だったが開封即開戦を本気で仕掛けて来るとは桐山め、此処が将棋人生(パラレルワールド転生込みの2回目ではあるが)最大の切所なのは十二分に承知してるってのに何とも落ち着いたもんだぜ……

 

かと言って九頭竜のヤツも完全な戦闘モードに入っている以上、アイツも此処が最大の切所・難所だってのは先刻承知って事か………

 

 

まぁ何にせよ、この半日で全てが決まる訳だな………

 

 

 

 

 

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さて、此処からだが………

 

 

 

息つく暇も無いレベルでの激闘になる事は確定事項として、問題は持ち時間を使い尽くした後の秒読みだよな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 〜side生石充〜

 

 

 

……ったくアイツらめ、元々綱渡りジャンキーな八一はもとより確実に勝ちをもぎ取るタイプの零ですらこの切所で幅も先行きも一寸先から見通せない闇の細道を突っ切る選択しやがるとはな………

 

 

こりゃ最後を見定める立会が月光さん以外有り得ない筈だ……

ま、師匠にして親代わりでもある清滝さんでも基本的には問題無いのかも知れんが、『父親』として最後まで平静を貫けるかが少し気になるからな……

 

 

「なんや、エラい難儀な顔しとるな、充君?」

 

「あ?辛香?テメぇ、昨日竜王戦6組1回戦戦っただろ、大阪から強行軍で天童入りとは態々ご苦労だな」

 

「僕なんかの対局チェックして貰えるとは有難い話や。まぁ緒戦はどうにか勝ち取ったわwww。で、その後東京行き最終便に乗って二海堂君の家に泊まらせて貰って天童行始発に乗ってつい今し方到着って訳や(笑)」

 

「全く、順位戦はC1で踏ん張っておきながら竜王戦は1度は5組に行ったのに直ぐ様6組逆戻りとは少しダレてんじゃねぇのか?何なら年明けにでもウチに来い、揉んでやる。ま、『中年の星』なら俺よりも遥かに執念深い指し口だろうから俺の方がギャフンと言わされるかも知れんがな(笑)」

 

「お誘い有難く受けさせて貰うわ。それと飛鳥ちゃん、漸く婿さん決まったようでまずは御目出度うさん(微笑)。これでやっと充君も肩の荷降ろせるなwww」

 

「あ?辛香?テメぇ何処で聞いた?八一のバカか?それとも酔いどれ神宮寺辺りか?」  

 

「それがソースが鏡洲君夫婦やねん(笑)、鏡洲君は土橋君本人からで月夜見坂君は供御飯君からそれぞれ話を聞いたって事やwww」

 

 

マジか………

 

女どもは兎も角、鏡洲があっさり白状するとはな………

 

 

「けどよ、健司がボイラーその他の業務上必須の資格取り切る迄は仮内定でしか無いからな」

 

 

……取り敢えずはこの説明で辛香も納得したようだ……

 

 

 

 

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さて、午前のうちから激しい指し合いとなり、昼食休憩の12時30分迄に進んだ手数……実に73手を数え、昨日からの通算で早くも123手となり、現在は後手である八一君の手番である。

 

 

 

 

昼食メニュー

 

 

八一君→日本海握り御膳、ほうじ茶

 

 

僕→米沢牛ステーキ御膳、アップルティー

 

 

となった。

 

 

 

 

 

 

 

さて、昼食休憩も終わり、更に激しさを増す午後の対局が幕を開けようとしていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 〜side夜叉神天衣〜

 

 

 

………、全く何処までも好戦的な展開って………

 

 

あの重度の綱渡り中毒なロリ王だけならまだそれなりに理解出来るけど、まさか此処に来て慎重確実に勝ちを掴み取るスタイルの師匠までもが激戦ド真ん中に全身突っ込んで行くとはね………

 

 

…誰よりも師匠を熟知している筈の冬司も健司も完全に唖然としてるし、二海堂先生にしてもあまりに目まぐるし過ぎる展開に必死に付いてなきゃ到底置いていかれる程には熱量上がりっ放しな訳になっていて………

 

 

 

あー……、此処(検討室)に詰めてる大半の棋士達もこの展開にはどうにも対応不能みたいね……

 

辛うじて付いていけてるのが二海堂先生と自称ゴッドコルドレン(神鍋歩夢九段)、唖然呆然から回復した冬司と健司、後は先月師匠と一悶着あったと聞いた後藤先生に私とプロ同期の隈倉健吾と……、他には師匠と腐れ縁にして縁戚でもある神宮寺九段と師匠や私達一門とは浅からぬ縁を持つ山刀伐九段に生石九段、於鬼頭九段位って……、本当に現役トップクラスと下位レベルの格差が浮き彫りになってるとしか言えないわね………

 

 

 

 

 

 

 

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…………午後に入り、対局再開後も激しい指し合いは留まる事を知らず、午後のおやつタイムの時点で175手に至り、現在は後手の八一君が考慮中となっていた。

 

 

 

 

午後のおやつ

 

 

八一君→山形産特製さくらんぼムース、レモンティー

 

 

僕→山形産フルーツ盛合せ、山形産特製さくらんぼジュース

 

 

 

をそれぞれ注文し、決着に向けての最後の補給に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 〜side山刀伐尽〜

 

 

 

………、午後3時の今時点で既に175手に至り、今の段階でもまだ先行きが読めない究極の難解模様とは……、全く零君も八一君も何処まで互いを高め、僕らの遥か先を走っているのか凡人が成り上がっただけに過ぎない僕には何とも理解し難く、その領域に届く自信が無い事だけは嫌でも認識せざるを得ないのはね……

 

只、八一君が零君の背中を追って今に至るのは誰もが理解出来ているだろうが、零君は………?

 

 

 

 

 

……思えば彼の存在がクローズアップされた当初、彼は既に10歳であり、清滝さんの甥御とは云え、突如煌き出した新星と言うイメージだったが……

 

そもそも将棋界に於いて時代を築くレベルの俊才となると、大概小学生になるかどうかの辺りでその才能が煌き出し、周囲の関係者や有力棋士達が放って置かないものだが、今思えば清滝さんに引き取られる迄の零君にそんな話は噂レベルですら聞いた事は無かったね……

 

 

…となると、飽くまで僕の個人的仮定ではあるけど、零君は亡き父親からその才能を封印させられていたか、或いは……これは常識的には荒唐無稽の類なのだろうけど、彼に前世があって、その将棋知識と恐らくは前世で将棋界を制した実力をそのまま清滝さんに引き取られた9歳時の時期に流れ込んだ……以外には僕には考えられないよ………

 

 

…、まぁこれは終わってからでも改めて零君に聞けばいいだろうけど……

 

 

 

 

 

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…さて、おやつを食べ切り、此処から先は終局迄ノンストップの修羅場に入る訳だが……

 

 

お互い退路を断ち、一寸先も見えない闇の細道を走りに走り、罠と云う罠を掻い潜り、断ち切りながら進む地獄をどっちが先に音を上げるか、はたまたどっちが決定的罠を仕掛け仕留めるか……、これまでの将棋人生の全てを投入して尚、体力気力・命すらも削りに削っても行き着く先は今の段階でも全く見えては居なかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 〜side於鬼頭曜〜

 

 

 

 

午後4時………197手迄至り、九頭…八一君の手番だが、未だに決着への手筋が私にも見えず………、

 

 

 

…思えば私が実娘・銀子の存在を知ったのが10年と少し前……、その時、彼女は既に奨励会員でありながら女流二冠のタイトルホルダー(女王・女流玉座)でもあり、その側には大概年長の弟弟子にして長年の想い人でもあった八一君が常に付き添っていた記憶が……

 

そして、そんな2人を盤上では厳しく、盤を離れると優しく見守り、時には2人の関係前進に腐心していた桐山君……

 

そんな長くも濃密な関係を築き上げて来たのも束の間、銀子は八一君との娘……、私の唯一の孫でもある銀香を遺して1人早くに旅立ち、今は最愛の人と最強にして目標の兄貴分が繰り広げる伝説を超える『神話』を文字通り『空』から見守っているだろう事は私のみならず、少なからず銀子を知る面々ならば感じ取っている筈だ………

 

 

………妻、法子ももう永くは保たない身体でありながら娘と最も近しい2人の『神話』を見届ける為だけに特別許可を貰い、一時退院してまで駆け付けた価値は十二分にはあると云うものだ……

 

 

 

 

 

 

 

………そして私も、あの飛び降りのツケがそろそろ回り出したらしく………、何年も保たずに…処ではなく、1年保てば御の字な程には身体のガタがあからさまに来ているとの診断をつい先日に貰ったばかりだ………

 

最良で残りの人生は車椅子生活で、悪化も悪化を辿れば完全介護となり、今度こそ生きる意味が消し飛ぶと思うと………

 

 

 

流石に幼い孫のいる身で再度の自決なんか出来る訳も無いのだが、最愛の妻の命の灯火も燃え尽きかけている今、これから先をどう生きるべきか、脳内で考えられるだけ考え見事に迷走の真っ只中に居た私ではあったのだが………

 

 

 

八一君も桐山君も只盤上で過去を包括し、現在を戦い、未来を見据えて只管に指し続けている姿を見ると………

 

 

 

まだまだ死ぬには足りない要素だらけの身である事が嫌でも実感出来た………

 

 

 

 

 

 

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 〜解説ゾーン〜

 

 

 

竜王戦第7局2日目・現地大盤解説会場

 

 

 

解説→清滝鋼介九段(竜王・挑戦者双方の師匠)

 

聞き手→清滝桂香女流二冠(女流名跡・女流帝位)

 

特別ゲスト→氷室将介十六世名人(前期名人挑戦者)

 

 

 

 

桂香「さて……、お互い相譲らずにいよいよ終盤戦に突入しましたが特別ゲストの氷室先生、此処までの感想とこれから先の展開予想をお伺いしたいのですが」

 

 

氷室「ん?終盤だ?何処見てやがる!まだ中盤に過ぎねぇだろうが!!あの2人が此処で程無く終わる手合に見えるか?テメぇが20年来見守り続けた2人がそんな程度で圧し折れねぇのはテメぇが誰より承知してんじゃねぇのか?」

 

 

鋼介「全く車椅子に成り下がろうが氷室は何処まで行こうが氷室なんやなwww、……確かに儂もこの無限の頂上決戦、この先が肝要とはしかと承知しとるが……今の処、零も八一も決定的な極め手を摑むに至っとらんとは思っとる……」

 

 

氷室「フン、どうやらまだ鋼鉄流は錆び付いて無い様だな。そんなテメぇに敬意を表して置土産に1つ教えてやる。後192手で桐山の勝ちだ。如何に九頭竜が神の領域に肉迫しようが今時点じゃ未だ桐山には及ばねぇ。何より命を削る経験値が決定的に桐山とは比べ物になってねぇからな。……って事で俺は此処で退場させて貰うぜ。で、テメぇの孫……其処の小娘のガキが何とも面白そうだから少し遊んでやる」

 

 

桂香「えっ?将馬まだ6歳ですよ?!あの子殺す気ですか!!幾ら素質の片鱗見せたからって氷室先生に太刀打ち出来るレベルな筈無いでしょう!!あの齢で肉迫出来るなんて冬司君以外考えられないわ!零君もこの時点なら未だに届かなかっただろうし………」

 

 

氷室「御託はいい、兎も角ゲストの仕事は終いだ」

 

 

鋼介「コラぁ!!氷室!!こんだけのお客様の眼の前でよくも臆面なく堂々とほざけたもんやな?儂が替わりに相手したるわ」

 

 

氷室「鋼鉄よりも将来の将器の全てを確かめたいんでな。テメぇの要望は却下だ」

 

 

と言い捨てるなり、氷室十六世名人は大盤解説会場を颯爽と去り、宣言通りに清滝桂香女流二冠の実子を相手にvsを始めていたのだった………

 

 

 

 

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 〜side神宮寺崇徳〜

 

 

 

………、奴らの中終盤の斬り合いが始まる前に一旦将馬と一緒に小用でも足しておくか………

 

 

……で、2人で小用を済ませて廊下に出た処で意外な男と顔を合わせたのだが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はぁ?何で今この場に氷室のダンナが居るんだよ?特別ゲストで桂香達と大盤解説してんじゃなかったのか?

 

 

……ってもガン無視も出来ねぇから一応何で居るか理由だけは聞いてみた。

 

 

氷室「よぉ、テメぇのガキ借りに来たぜ。ちぃっと丸裸にして確かめてみたくてな」

 

「あ?ダンナ、美幼年趣味でもあんのか?どっかの♂アイドル養成所の死んだ元社長じゃあるまいに」

 

氷室「生憎そんな下らん趣味はねぇ。盤上で試したいだけだ」

 

「幾ら将馬でも今のアンタじゃ壊されるだけだ。父親として、師匠として断るしか答えられないがな」

 

氷室「だからだ。俺はもう桐山はもとより、九頭竜ともテメぇとも指すだけの棋力はまだしも体力はもう保たねぇ……、だからこそ、これからの30年40年を担うだろうテメぇのガキに伝え刻み込みたいんだ。それに見かけと違ってテメぇも倅にゃ何とも甘い様だが、少しは野晒ししとかねぇと後々苦労するのは奴だ」

 

「……たっく……、とっつぁんからも月光のダンナからも聞いてたけど、聞きしに勝る悍馬ってのは噂以上だな。……判った。俺が全責任を負う。唯一の条件は俺が立ち会う事だが、これだけは譲らねぇからな」

 

氷室「いいぜ。流石にガキが倒れたら俺1人じゃ面倒見切れねぇしな」

 

将馬「パパ、勝手に決めても困るで。僕がママに怒られるだけやないか。……ってもこのおっちゃんの顔じゃ拒否出来んやろし、生きるか死ぬか全力でぶつからせて貰うわ」

 

 

と、此処まで沈黙していた将馬も俺の回答に応える形でこの対局を承諾してしまったので、直ぐに俺一家の宿泊部屋に移動して氷室のダンナvs将馬の非公式の『平手』での対局が行われる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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……さて、此処から更に手が進み、現在午後7時7分の時点で既に299手に至り、現在は八一君の手番だ。

 

 

残り持ち時間は………、

 

 

 

八一君→2分

 

 

僕→13分

 

 

 

となっており、いよいよ終盤戦も佳境に差し掛かりつつあった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 〜side後藤正宗〜

 

 

 

午後も7時を過ぎて299手……、全くアイツら、何処まで熱量上げ続ける気だ?

 

 

11年前に七冠王としての桐山を撃ち破って史上2人目の永世竜王資格を勝ち獲り、奴の1強を崩した訳だが、翌年も『名人』に珍しく公式戦で勝った山刀伐の兄貴が挑戦者として立ちはだかり、持将棋1回、千日手指し直し1回込みのフルセットで辛くも防衛なんて悪戦苦闘を続けた俺でも今回のシリーズの内容で戦い切れるかはいまいち自信があるとは言い切れねぇ……

 

 

 

そして9年前に俺に挑んだのがプロ実質1年目の飛び付き七段だった九頭竜だった訳だが……

 

 

あの時は第6局迄奇数局は俺、偶数局は九頭竜がそれぞれ取り、最終第7局での決着戦となった訳だが、その場所が今や将棋界の『聖地』の1つに数えられる旅館『ひな鶴』だったのは、偶然か必然かそれとも何かの因果なのか、少なくとも俺の中では今でも答えは出てねぇがな……

 

 

結果……、『ひな鶴』の嬢ちゃんからの水分補給を受けた九頭竜が息を吹き返し、小差でリードしていた俺を逆転、今に至る9連覇の始まりとなった訳で……

 

 

 

 

 

 

八冠完全制覇の懸かる桐山……、

 

竜王10連覇を賭けた九頭竜……、

 

 

 

 

 

 

 

俺達を置いて何処まで異次元を極める気だ?

 

 

 

 

 

 

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 〜side雛鶴あい〜

 

 

 

午後7時を過ぎて299手に至り、残りは八一さんが2分、おじ…桐山先生は13分……

 

 

 

 

 

此処からは単純な棋力だけじゃなく、時間を使う駆け引きも重要になる……

 

こんな繊細な駆け引きは私が最も苦手とする処で、同世代で長じているとなると……、最近では殆ど使わないけど中学時代迄は時折盤外込みで駆使していた天ちゃん、持ち時間が延びれば延びる程その資質を如何無く発揮する創多さん、『神の子』若しくは『白い悪魔』とも称される冬司君、ウマ娘として通常の人間を超越する天性の破壊的な体力を有するリーナちゃん等がおり、現状に於いて私は誰にも勝ち越せて居ない。

 

 

vs天衣→10勝22敗

 

vs創多→3勝6敗

 

vs冬司→2勝5敗

 

vsリーナ→18勝21敗

 

 

 

 

 

 

……、女としての幸せと棋士としての充実、両立は厳しく難しいのかも知れないけど、残り短い現役生活で一定の答えをきっと見つけ出して見せる……、それが私の棋士としての存在意義と信じて………

 

 

 

 

 

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午後7時20分………

 

 

 

 

お互いノータイム指しが14手続き、八一君の手番……

 

此処で残った2分の持ち時間を使い、秒読み宣言からの残り10秒カウントダウンで314手目を指し、いよいよ終盤戦も佳境に突入した。

 

 

 

 

 

……さて、僕は13分残してはいるが、全てを使うと八一君の極限の読みに呑み込まれる可能性が高い……

 

 

 

が、今時点で共に極め手を見出だせない現状では何処かで消費しなくてはならない程には厳しい展開なのも承知してはいる。

 

 

取り敢えずは想定内の外に至る迄は淡白に秒読みを通すしか無さそうだな………

 

 

 

 

 

 

 

そして午後8時10分………、

 

 

 

八一君が366手目を指すと、僕は残り持ち時間を全て投入して最後の読みを入れに掛かった。

 

 

これは反面、残り持ち時間の無い八一君にしても最後のチャンスでもある訳だから、後は完全な読み勝負となる。

 

 

 

 

そして僕にも秒読み宣言が為され、此処で一旦ポットからお茶を注ぎ、そのお茶を飲み干すと、残り10秒のカウントダウンで次の手を指した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以後、お互い秒読みのまま指し続ける事20分………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

389手目の僕の11手詰めの1手が極め手となり、秒読みカウントダウンが続けられる中、残り1秒で遂に八一君が投了し、この瞬間、僕の12期振りの竜王復位と八冠完全制覇(独占)が成った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

29歳8ヶ月での偉業達成となった。

 

 






 〜side神宮寺崇徳〜


午後5時………



俺達家族に宛てがわれた部屋で氷室のダンナと将馬との平手での対局が始まった……


持ち時間は将馬の年齢も考慮して互いに1時間、切れたら1分でダンナには承諾して貰った。


……そんな訳で記録と時計は俺が立会と兼ねる筈だったのだが、始めようとしたら何故か入口から複数の目が……





……で、無言でスパッと襖を開けると、そこに居たのは宗谷と夜叉神ちゃん、雛鶴ちゃんに九頭竜の娘の銀香ちゃんの4人で、ダンナと将馬に「入れていいか?」と聞き、承諾を貰ったので記録は宗谷に押し付け(不満顔してたが狼藉の代償と押切った)、時計は夜叉神ちゃんに引き受けて貰った。




そして始まった老いた鬼才と幼き俊異の戦いは………





互いに持ち時間を使い切った果てに体力は疎か、命火の消費も著しかった氷室のダンナが最後まで抵抗したものの、結局襲い来る眠気にどうにか耐え切った将馬の手が上回り、ダンナが投了。

















けど、この後が大変だった。







と言うのも氷室のダンナは投了するなり、一気に意識を飛ばして重態模様となり、雛鶴ちゃんに頼んで救急車の手配をして貰い、一方で将馬は終わった処で即座に寝入ったもんだから俺が無理矢理起こして小用と風呂を済まさせてからやっと寝かせた始末だった訳で……



やれやれ、これは戻って来た桂香に何言われるか分かったもんじゃねぇな………





(余談)



救急搬送された氷室のダンナだが、即座に命尽きた訳では無く、知らせを受けた奥方が(奥方は通院で在京中だった)急遽現地入りし、翌日、奥方に看取られて闇の向こうに旅立ったとの事だった。




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新人王記念特別対局

さてさて、棋王戦も竜王vs貴族の決着戦となり、挑戦者が竜王なら魔王失墜、貴族の挑戦なら魔王防衛の流れに傾く中、誰か天才竜王を止められる気鋭は居ないのか何とも気にはなりますが……


兎もあれ、本編スタート!!




 

 

 

 

………12月31日………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新人戦優勝者との記念対局当日………

 

 

 

 

 

 

 

今年の新人戦優勝者はあいちゃん……雛鶴あい五段であり、対峙するタイトルホルダーは、竜王戦決着の結果、八冠完全制覇を果たした僕が引き受ける事と相成った。

 

 

 

 

 

 

 

 

本来なら玉座戦完結の時点で決定しなくてはならなかったのだが、今回は僕の八冠完全制覇が懸かっていた事情により、大晦日生中継に落ち着いた訳で………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……で、今回の開催会場は、事前に先代会長の月光先生が4日間(12月30日〜1月2日)借上げた『旅館・ひな鶴』なんだけど………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前日となる12月30日の午後に『ひな鶴』に到着するや、早速アウェー感全開の空気が………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………それもその筈、今回の記念対局は、何時もの東西何れかの将棋会館での持ち時間3時間の所謂『胸を借りる』レベルでは収まらず、1日制ながらも順位戦A級相当の持ち時間6時間・時計も昨今主流になりつつあるチェスクロック方式ではなく、旧来のストップウォッチ方式で、1分以内に指せば消費時間がカウントされないシステム(所謂ノータイム指し)であり、本格的なタイトル戦仕様になっていたからである。

 

 

 

そして現時点でタイトル戦(女流ではない)未経験のあいちゃんにとって事実上初の大舞台となる訳で………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…で、一方の僕はと言えば、ほんの6〜7年前迄の『名人』みたいな『ラスボス』的位置に格付け・鎮座しているような状況に至っており………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして夕方から始まった前夜祭では、通常のタイトル戦仕様で両対局者の決意表明の挨拶も執り行われ、あいちゃんは

 

「師匠か桐山先生か先週迄やきもきしていましたが、結果として桐山先生に挑む事となり、改めて身の引き締まる思いで一杯です。明日は受けて立つ桐山先生に恥じない私目一杯の将棋を全開で指し貫く所存でありますので、皆様どうか応援宜しくお願い致します」

 

と、強い決意表明を明言し、一方の僕は

 

「八冠達成早々にこれほどの大舞台を用意して頂き、誠に有難い事と感じ入っております。今回は形上は私が胸を貸す立場ではありますが、雛鶴五段の力は重々承知致しておりますので、対等の戦いになる事疑い無い事と考えている次第であります。皆様どうか明日の対局を楽しみにして頂ければ幸いと存じ上げます」

 

と、無難というか、期待させるというか、少なくともつまらない挨拶にはならなかったとは思う……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして31日当日………

 

 

 

 

 

 

 

 

立会人は山刀伐九段、副立会人は何故か祭神七段……雷さんが担当しており、何で雷さんが担当する事となったのか本人に聞くと、

 

「正宗さぁ〜、アイツがこんな面白え事体感しねぇと損だって言い出してさぁ〜、健吾と漠然と遊ぶよりかは楽しめるとか追撃貰ったし、新婚旅行代わりに引き受ける事にしたのさぁ〜!」

 

との事で後藤さんが裏で動いたようだった……

 

 

で、記録係は『名人』初の弟子で先の三段リーグを1期抜けした新四段の中静そよさんが担当する事となった。

尚、彼女の同期昇段者には以前銀子ちゃんに敗れて退会した後、アマチュア棋戦で再起し、その後三段編入試験を経て奨励会に復帰し、先の三段リーグを2位抜けした菅田健太郎さんがいる。

因みに菅田さんも師匠は以前のA級経験者の鈴木八段ではなく、どういう経緯を踏んだかは不明だが、こちらも『名人』が新たに師匠となっていた。

 

 

 

 

 

 

さて、午前8時40分になり、新人戦優勝者(挑戦者相当)のあいちゃんが先に入場、それに合わせて5分程遅れて僕も入場し、直後に山刀伐さんと雷さんも会場に入って来た。

 

 

 

 

 

 

そして中静さんによる振り駒の結果、先手はあいちゃんと決まった。

 

 

 

 

 

 

 

まずはあいちゃんがオーソドックスに角道を開け、一方の僕は最初から決めていた通り、後手番一手損角換わりを選択し、長い大晦日対局が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 〜side八一〜

 

 

 

 

さて、あいの最大の挑戦が始まったか……

 

 

検討室を離れて銀香を膝に乗せて画面を見守っている訳ではあるのだが、俺が最後に兄弟子を振り切っていればあいの前に座っていたのは俺だったって思いが未だに抜け切れてはいないのは未練とは思うけど、まぁ結果として出た訳であるからそこは受け入れるしかない。

 

けど、あいにとっては残り2年少しだけの現役生活なだけに越えるべき壁として兄弟子は最適なのかも知れない……

 

 

後はあいの力量と兄弟子の差がどれだけあるかに拠るかだな……

 

 

 

 

 

 

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さて、午前中はサクサクと進み、早くも58手に至り、先手のあいちゃんの手番で昼食休憩となった。

 

 

 

 

 

昼食メニュー

 

 

 

僕→『ひな鶴』特製のどぐろお造り御膳+レモンティー

 

 

あいちゃん→『ひな鶴』名物七尾湾海鮮丼御膳+ほうじ茶

 

 

 

 

 

と、何れも海鮮メニューを選択、十二分にエネルギー補給を済ませて午後からの対局再開に備えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 〜side山刀伐尽〜

 

 

 

 

……ふむ……、これまでの経験上からお互い定跡的にサクサクと手を進めているけど、この戦型は此処から先が難解となるのは互いに理解している事とは思う……

 

 

 

 

 

 

そして先頃の竜王戦で感じた疑問……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

対局2日前の29日、今年最後の上京で連盟事務所を訪れた零君と顔を合わせたのを奇貨として夕方から酒席に誘い、僕が感じた疑問について色々聞いて見たのだが……

 

 

 

 

 

矢張りと云えば矢張り、驚愕と云えば驚愕と言う位には余りに常識外れな告白を受ける事となった……

 

 

 

 

 

半ば感じていたとは云え、本当に前世の記憶持ちでしかも実際に前世で将棋界の天下獲りをも果たしていたのには目を丸くする以外無かった……

 

 

その上、僕の弟弟子の晴信も同様に前世持ちでその前世から零君とは生涯のライバルと聞いた日にはね……

 

それだけじゃ済まず、僕の弟子の健吾も前世からの転生組の1人で零君と晴信の大先輩とか……

 

挙げ句には冬司君も神宮寺君も土橋君も転生組でそれぞれが永世名人だったり永世称号を名乗ったりの大棋士上がりとかもう腹一杯な位には衝撃度が半端無かったな……

 

 

 

けど、これで彼等の異常なまでの出世と躍進をまずは理解出来たのは収穫だった。

 

 

 

只、彼等の前世の定跡と僕等が生きる今の世界では何だかんだと異なる部分も多々あったとの事で、単純に出世した訳では無かったのは理解した。

 

 

 

でも、それで僕等の将棋も更なる進化を遂げたのは紛れもない事実な訳だから其処は感謝するしかない。

 

 

 

 

 

 

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午後もおやつタイム頃迄は進行が早く95手迄進み、僕の手番でおやつが運ばれて来た。

 

 

 

僕→フルーツ盛合せ、レモンティー

 

 

あいちゃん→特製ぜんざい、ほうじ茶

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしておやつを食べ終えた処から一転、僕の長考が始まった。

 

 

 

 

 

 

此処迄の残り持ち時間

 

 

 

僕→3時間45分(消費時間2時間15分)

 

 

あいちゃん→3時間20分(消費時間2時間40分)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 〜side土橋健司〜

 

 

 

 

 

 

 

おやつタイムを終え、零さんがこれ迄の淡々と云うか、サクサクとした流れを一気にぶった切る勢いで長考に突入したのは一体全体どういう事なのか、暫くは検討室に詰めてる殆どがまるで把握出来て居なかったのは常識的に見れば致し方無いのかも知れない……

 

 

 

で、僕は大盤解説の盤面を見ながら隈さんと検討を繰り返している訳なんだけど……、僕も隈さんも零さんの実力も底の無さも知り尽くしている話で……、そして一方の雛鶴さんについては零さんにも認められたレベルでの異様な迄の終盤力が際立っているので、益々終局が図り辛い事になっており……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 〜side夜叉神天衣〜

  

 

 

 

 

 

……年末の大晦日……、

 

 

 

 

 

今日はお祖父様の邸宅(私の実家)を訪れ年末を過ごし、共に新年を祝う為に冬司と共に里帰りしたのだが……

 

 

 

 

 

……なんで神宮寺九段が居る訳?

 

 

 

 

 

 

確かにお祖父様との親密な関わり自体は私も何だかんだと認識している訳ではあるけれど、あの胸だけ破格な年増のオバさん放り出して此処で油売ってていいの?

 

 

 

 

そう聞いて見たら、

 

 

 

「宗谷の暴走ストッパー二段構えの奥の手で俺が不可欠って事なんで爺さんからも桂香からも頼まれて此処に邪魔しに来た訳なんだが」

 

 

 

 

との回答で、じゃあ二段構えの一翼は私なの?と聞くと、若干呆れ気味に

 

 

 

 

 

 

「他に誰がいる?宗谷の暴走止められる奴なんざ早々居ねぇ訳だし、俺・桐山・隈・土橋、辛うじて止められるのが俺の知る限りじゃその程度で後は後藤でも二海堂でも振り切られるのは避けられない話だからな。で、そもそも桐山は対局中、他も悉く『ひな鶴』に詰めている訳で……だから逸った際の宗谷を抑え込めるのは夜叉神ちゃん、宗谷の嫁たるお前さんしか居ねぇ訳よ」

 

 

 

 

 

 

との答えを貰い、私ってもう周りからも冬司の嫁扱いなんだなと嫌でも認識せざるを得ない話になったのはね……

 

 

 

 

 

 

……尤も冬司じゃ男女関係以前に人間関係からしても極限られた関係しか成り立たないのは確実だから寧ろ私の一門とか神宮寺九段に二海堂九段、隈倉や健司と云った近しい年代とも親しく付き合っているのがある種奇跡でもあるけれど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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……おやつタイムの後、一気に2時間を費やして長考し、漸く攻めの手を繰り出した訳だが、その間、あいちゃんも脳内検討を繰り返していたらしく、即座に反撃の手を撃ち返して来た。

 

 

 

 

 

まぁ、八一君と山刀伐さん、二海堂と云った超一流の名棋士の薫陶・試練を長らく経て来た訳だから短時にそんな対応に至るのも当然ではある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして夕食休憩も過ぎ、両者秒読みとなった午後10時30分となった時点で残り持ち時間は…… 

 

 

 

 

僕→5分  

 

 

あいちゃん→3分

 

 

 

であり、後は決着迄指し続けるだけとなった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果………、

 

 

 

 

 

  

 

160手を以って僕の勝利となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の感想戦で検討すると、僕の見落していたあいちゃんの勝ち筋が2つ程浮かんでおり、僕は拾った勝利で、あいちゃんは土壇場で際どく逃した金星なのが改めて明示されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

そして年が明けて2月……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あいちゃんに新たな命が宿ったニュースが全国の将棋ファンに喧伝される事となった……



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新たな息吹

さてさて棋王戦も挑戦者決定戦に至り、貴族vs天才五冠王の決戦となり、乱高下の貴族か安定の五冠王か興味が尽きない処でありますが……



って訳で本編スタート!!


 

 

 

 

2026年9月1日……、

 

 

 

 

 

旅館『ひな鶴』……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『臥竜鳳凰の間』にて、『ひな鶴』の未来を担う新たな命が間もなくこの世に現れる運びとなっていた。

 

 

 

 

 

 

祖母となる雛鶴亜希奈女将(ひな鶴ホールディングス代表取締役会長)、祖父となる雛鶴隆総料理長(ひな鶴ホールディングス取締役総料理長)は当然として、父親となる九頭竜八一九段に加え、その亡き先妻である空銀子九段との唯一の子である銀香ちゃんもその命の誕生を今か今かと待ち構えていた……

 

 

 

 

 

 

 

その中にどういう訳か僕と師匠に山刀伐さんも立ち合う始末に至ったのは殆ど事故みたいなものだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そもそも出産直前の対局が2日前となる8月30日の玉座戦第1局であり、未だに八冠を維持していた僕に八一君が挑む戦いであり、結果は八一君が勝ち、僕には反省多き戦いとなっていた。

 

 

 

 

 

 

で、師匠は立会人の仕事からそのまま訪問の流れで、山刀伐さんは解説から一直線で訪問となり、一方の僕は、本来なら京都に戻って研究に邁進する筈が、万智が「兄として伯父としてこの出産見届ける義務果たさなならんどすやろwww」って主張して僕も八一君とあいちゃんの子どもの誕生を見届けたい思いが強かったからその主張に乗っかる形で『ひな鶴』に赴いた訳である。

 

 

 

 

 

 

 

 

午後1時30分……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやら産気づいた様だ……

 

 

 

 

 

 

 

 

僕ら男には到底想像も付かない痛み苦しみが降り掛かるとは聞くけれど、3児の父となった今でもそんな苦難は体感不可能なだけにあいちゃんには無事に乗り切って欲しいとしか祈れないのが何とももどかしい……

 

 

 

これは八一君も同じ心境と見え、傍から見ても焦り満載な態度が垣間見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、午後2時30分に無事出産、元気な女の子が誕生した。

 

 

 

 

 

 

で、命名は………、

 

 

 

 

『あや』となった。

 

 

 

 

『あ』はあいちゃんから、『や』は八一君から取られた夫婦由来の名前となり、これからどうなるか心配しつつも楽しみな事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で前月の8月15日には桂香さんと神宮寺さんとの間の第2子となる女の子が産まれ、名前は『歩香』(ほのか)と命名された。

 

 

 

 

 

 

 

 

何だかんだと次世代の息吹も知らずしらずの内に芽吹いており、彼ら彼女らの厚い壁としての僕らの役割も自然重要になるのは最早疑い無い訳で……

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてリーナも創多との間に女の子が誕生し、ウマ耳のウマ娘である事からどういう進路を選ぶのか今から夫婦して悩みに悩んでいるようだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな刺激的に次々と次世代の子どもが誕生する中で僕も万智にせっつかれ、4人目を仕込む事になってしまった訳で……

 

 

 

 

 

 

 

 

そして未だにA級を維持している後藤さんの挑戦を受けた竜王戦……、

 

 

 

 

 

 

 

此処でも雷さんが健吾君との間に子どもを宿したとか、天衣が冬司との子どもを宿したとか、遂には健司君と飛鳥ちゃんも無事に結ばれ、生石さん祖父確定に至るとか……

 

 

 

 

 

 

 

ホント冗談抜きで次世代の息吹が粛々と……

 

 

 

 

 

 

 

 

こうなると僕もまだまだ気を抜けないよな………

 




いよいよ完結に向かっている訳で……


先回も触れましたが、兎に角年内完結を目指していく所存です。


って訳でまた次回!!


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大花見

さてさて竜王戦も決着、棋王戦も挑戦者決定まで残り1局……


果たして魔王に挑むのは……?



と言う訳で本編スタート!!


 

 

 

…………、あの八冠達成から早15年………

 

 

 

 

 

 

 

2040年3月末、今年も順位戦を終え、年度明けの名人戦を残すのみとなり、束の間の休息を味わう事となった……。

 

 

 

 

 

 

僕は現在43歳、来月で44歳になる訳ではあるが、前期名人戦で冬司に敗れて冬司の永世名人資格取得を許し、これで僕の後の永世名人資格者は神宮寺さんに続き2人目となった。

 

 

 

 

 

 

そんな訳で僕が十九世、神宮寺さんが二十世、冬司が二十一世の永世名人資格者に列している。

 

 

 

 

 

一方で竜王戦では、去年迄の15年で僕と八一君との番勝負が実に12回を数え、八冠達成以降、僕が後藤さん・3期連続八一君・創多と5連続防衛で6連覇として永世竜王資格を取得すると、翌年には天衣に僕の今世初にして現在迄唯一のストレート負けを喰らって竜王を奪われたのだが、次の年に八一君が天衣からヌケヌケで竜王通算10期を果たすと、以降は去年迄8年連続僕vs八一君の年末恒例行事となる等、八一君が初めて竜王を獲って以来、僕と八一君の両方が欠けるのは24年もの間無かった程である。

 

 

 

因みに僕も八一君も竜王を失冠しても1組では最低本戦トーナメントには進むケースが多く、八一君は本戦進出自体皆勤状態で僕も本戦進出は逃しても1組残留だけは決める等、兎に角竜王戦では一定の戦果は挙げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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  〜2039年度順位戦A級・タイトル戦主要結果〜

 

 

 

 

 

名人戦→○宗谷冬司(4−3・持将棋1)桐山零●

※宗谷挑戦者が獲得、二十一世名人資格取得・通算5期獲得

 

 

賢王戦→○椚創多(4−1)中静そよ●

※椚賢王が防衛、3連覇・通算5期獲得

 

 

棋帝戦→○夜叉神天衣(3−2)土橋健司●

※夜叉神挑戦者が獲得、通算5期獲得で永世棋帝資格取得

 

 

帝位戦→○神鍋歩夢(4−2)九頭竜八一●

※神鍋帝位が防衛、連続5期獲得で永世帝位資格取得、通算では8期獲得

 

 

玉座戦→○神宮寺崇徳(3−1)隈倉健吾●

※神宮寺挑戦者が獲得、初の玉座

 

 

竜王戦→○桐山零(4−3・持将棋2)九頭竜八一●

※桐山竜王が防衛、2連覇・通算12期獲得

 

 

玉将戦→○九頭竜八一(4−3)神宮寺将馬●

※九頭竜挑戦者が獲得、通算2期獲得

 

 

盤王戦→○神宮寺将馬(3−2・持将棋1)神宮寺崇徳●

※神宮寺将馬盤王が防衛、連続5期獲得で永世盤王資格取得

 

 

 

 

 

 

 

……、そんな訳で二冠以上保持者不在で全タイトル分散の戦国時代と化していた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2039年度・第98期順位戦A級

 

 

1位・名人挑戦者→神宮寺将馬盤王(8勝1敗)

 

2位・桐山零竜王(7勝2敗)

 

3位・神宮寺崇徳玉座(5勝4敗)

 

4位・九頭竜八一玉将(5勝4敗)

 

5位・夜叉神天衣棋帝(4勝5敗)

 

6位・隈倉健吾九段(4勝5敗)

 

7位・土橋健司九段(4勝5敗)

 

8位・神鍋歩夢帝位(3勝6敗)

 

9位・椚創多賢王(3勝6敗)=陥落

 

10位・神鍋馬莉愛八段(2勝7敗)=陥落

 

 

 

 

 

 

 

 

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  〜全棋士参加棋戦・上位選抜棋戦〜

 

 

 

 

 

◎賞金王シリーズ(タイトルホルダー及び賞金上位+前年優勝者の12名が出場)

優勝賞金・800万円 準優勝賞金・250万円

 

優勝→隈倉健吾九段

準優勝→土橋健司九段

 

 

 

 

◎大河戦

 

優勝賞金600万円 準優勝賞金200万円

 

優勝→土橋健司九段

準優勝→辛香将司八段

 

 

 

 

◎毎朝杯将棋オープントーナメント

 

優勝賞金1500万円 準優勝賞金600万円 

 

優勝→桐山カタリーナ八段

準優勝→椚創多賢王

 

 

 

 

◎公共放送杯

 

優勝賞金600万円 準優勝賞金200万円  

 

優勝→雛鶴銀香六段

準優勝→神宮寺将馬盤王

 

 

 

 

 

 

 

との結果となり、若手も中堅もベテランも関係無しで実力一本で勝敗・優劣が明るみとなる僕としては望ましい経過となり、僕自身は一般棋戦ではなかなか思った結果を出せなかった訳ではあるのだが、それだけ若手中堅の力が僕らに迫るレベルに至ったのは歓迎すべき事だとは実感している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 〜side祭神雷〜

 

 

 

……、あ〜〜〜っ!!健吾と付き合ってから結婚して15年になるけどさぁ〜、これだけ周りからアタシの未来絵図聞かれるなんてさぁ〜っ、何言えばいいってのさぁ〜〜〜っ!!

 

そりゃあアタシもさぁ〜この15年でA級4期務めたさぁ〜〜!

 

けどさぁ〜、勝ち越した事無くて1回残留が精々の女がさぁ〜、事もあろうに復帰即名人目指せとか流石に無理ゲー過ぎるんだけどぉ〜〜っ!

 

まぁタイトルは帝位取った事はあってもさぁ〜、名人戦は別物ってのは幾らアタシでも重々承知な訳でさぁ〜っ!

 

 

 

 

っても零に鍛えられた黒服のチビ(もうチビじゃないかwww)もA級何期も務めて名人挑戦してるし、先々代会長の『名人』(十八世名人)の弟子に潜り込んだ大喰らいのパッツンパッツン女だって今はB1でてんやわんやしてるけどさぁ〜、アイツだってタイトル取ってA級居た事あるしさぁ〜、ホンっト、アタシに掛かるプレッシャーハンパないんだけどぉ〜!!

 

 

 

けど、半年前に息子の『隈倉雷吾』が健吾同様、小学生(6年)で四段に上がったし、年子の娘の『隈倉吾妻』も同時に小学5年で女流2級になって、冗談抜きでアタシもウカウカ出来なくなっているのは百も承知なんだけどさぁ〜っ!

 

まぁ〜、零とも八一とも健吾達とも思う存分遊び尽くせるのは望むとこだけどぉ〜〜っwwwwww

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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さて、順位戦での他の主な結果はと言えば……、

 

 

 

 

 

 

 

 

◎次期A級昇級者

 

・祭神雷八段(B級1組11勝1敗)

 

・山刀伐尽九段(B級1組9勝3敗)

 

 

となり、祭神さんは4期振りの復帰で、山刀伐さんに至っては史上初の還暦過ぎでのA級復帰の快挙を果たしていた。

 

 

 

 

で、他は……、

 

 

 

 

 

八一君と銀子ちゃんの娘である銀香ちゃんがC級1組で全勝し、B級2組に昇級して七段昇段していた。

(四段→五段はC級1組昇級、五段→六段は最終戦前=9回戦=で無敗キープにより、B級2組昇級確定した為、六段→七段は公共放送杯優勝=六段での全棋士参加一般棋戦優勝=により。)

 

 

 

 

更に言えば、女流でも僕の三女の万彩が女流名跡挑戦が決まって女流二段に昇段、健司君と飛鳥ちゃんの1人娘である飛燕ちゃんが正月付けで女流2級として女流入りする等、色々と地殻変動も盛んになって来ている流れとなっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そしてこの日、桜を愛でながら一献傾けようと大阪・高槻の新・関西将棋会館近くの公園に多数の棋士と関係者が集い、大規模な花見(酒宴)が執り行われたのだが……

 

 

 

 

 

 

お馴染み関西棋士・女流棋士の面々はもとより、遠く関東からも多数の棋士・女流棋士等も参加する大掛かりな花見と化していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、八一君・銀香ちゃんと共に参加していたあいちゃんなのだが、彼女は女将修行再開に伴い、本来なら現役引退する筈だったのだが、女将さんで母親の亜希奈さんの温情で即引退では無く、フリークラス宣言を行う事によって最短での順位戦陥落年数+15年に限り、現役続行となっていた。

但し、出場棋戦は竜王戦限定であり、他棋戦は基本的に棄権する運びではあった。

 

因みに順位戦でもB級2組昇級と同時に即フリークラス宣言となっており、満20歳での宣言と共に異例も異例、前代未聞の騒ぎとなったのは今では何とも懐かしく思うのは僕だけでは無いと思う……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、この15年で表舞台を去った棋士もおり、最後迄名人の夢を諦めず追い続けた師匠・清滝鋼介九段も今期順位戦C級2組で遂に3個目の降級点を付けてしまい、折角公共放送杯の予選を通過しながらも引退が確定、残すは公共放送杯本戦トーナメントと竜王戦4組だけとなってしまった。

 

但し、竜王戦は他棋戦と異なり、4組以上は維持出来ていれば竜王戦限定で現役続行が出来、6組陥落か5組2年残留を以って完全に引退となるシステムである。

 

 

師匠も70を過ぎて何処まで戦い抜けるのか、それとも戦い抜く前に力尽きるのか心配でもあり、楽しみでもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

又、前世からの因縁がありながらも(本人は長らく記憶が封じられていたが)今の世界では東西に分かれながらも親しく交流し、気が付いたら兄弟分となっていた後藤正宗九段も年度明けの4月に正式に永世竜王を名乗る運びとなり、現在はA級からは陥落し、B級1組で今期はどうにか残留と、なかなか厳しくなって来ている模様であるが、本人自身は至って意気軒昂の姿勢は変わっておらず、前世で奥さん(美砂子さん)を喪った時期の荒れっぷりが影も形もないのは本当に良かったと思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で四段昇段でのプロ入りまで長らく苦戦が続いた鏡洲飛馬九段はデビューが28歳とかなり遅くなったにも関わらず、昇級・昇段を重ねて順位戦もA級を3期勤め、竜王戦も1組4期、現在はB級1組・竜王戦も2組で順位戦は指し分けで竜王戦は残留以上を早くも決める等、まだまだ油断出来ない実力者であるのは言うを待たない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、椚創多賢王(九段)とリーナこと桐山カタリーナ八段の夫婦は16年前に移転していた関西将棋会館のあるこの高槻市に結婚するや移住し、今や関西将棋界の新たな顔となっており、地元始め三都地域での将棋行事の大半に参加する程には多忙の日々だそうな………

一方で長女のウマ娘であるクリスティーナちゃん(通称・クリス)はと云えば、彼女は母親がついぞ進まなかった東京の中央トレセン学園に入学し、今年の夏にはデビュー予定で既に指導者(トレーナー)とも契約し、この指導者が率いる『チーム・カノープス』に加入したとか……

その後に生まれた長男の哲君となると、去年夏の奨励会試験に見事合格し6級で入会、順調に歩を進め、現在は3級で戦っている。

尚、姉のクリスちゃんの3歳下である為、この春で小学5年となる10才児なので早くも『関西将棋界の新星候補』とか何とか一部では何かと話題のタネになっているようで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……、で、天衣と冬司はと云えば、13年前に子どもが生まれ、翌年の冬司の18歳の誕生日当日に入籍し、冬司の方が婿入りして夜叉神姓に変わった訳で……

 

2人の間の子どもは2人おり、最初に生まれた子が女の子で名前が『天希』(あき)と名付けられ、次の子は男の子で名前は『天道』(たかみち)と命名されていた。

因みに天希ちゃんはこの春で中学生となり、天道君は4歳下で今度小学3年となるが、天希ちゃんは既に一昨年に母親である天衣の門下で奨励会入りしており、現在は初段として修行中である。

一方の天道君は、将棋の資質については才能不足と自他共に認めている為早々に見切りを付け、未だに健在である弘天さんの下で事業関係の見習いを早速学校の合間に学ぶ等、実業家としての夜叉神家の後継者教育を受け始めているようだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……で、桂香さんと神宮寺さんの一家はと言うと……

 

 

 

 

 

神宮寺さんは現在玉座でA級、竜王戦も1組をキープと紛れもない超一流棋士であり、更に言えば去年の春から42歳の若さで将棋連盟会長を担っている最強のプレイングマネージャーと化していた………

 

 

これは、先々代の『名人』こと十八世名人が就任9年余りで急逝してしまい、急遽次の会長となった先代が一度隠居していた月光聖市十七世名人であり、その月光先生が、

 

「私も心身共にそうは長くは務められませんので、今の内に次代会長候補の育成に取り掛かりますのでそのつもりで」

 

とか言い出して、関西選出理事として指名されたのが神宮寺さんと鏡洲さんであり、別組織である棋士会幹部も関西選出副会長に創多が選ばれる等、関西の実力派の中堅から壮年クラスが連盟運営の中枢に深く首を突っ込まなくてはならない事態となってしまった経緯がある。

 

で、そこから5年行かずに今度は月光先生が不治の病に倒れ、任期満了と共に完全勇退し、その直後の理事会で今や不動の専務理事に鎮座していた山刀伐さんが、

 

「バリバリの現役一流ではあるけど君以上の牽引力を持った逸材なんて早急には見つからないから曲げて次期会長を頼みたい」  

 

と頼み込み、紆余曲折ありながらも結局引き受けたそうだ。

 

 

一方の桂香さんは5年前に『クイーン名跡』資格を取得し、女流での第一人者の1人として多くの後輩達を睥睨しており、更に云えば10年前から女流棋士会の会長職を釈迦堂さんから引き継いでおり、連盟理事会にも非常勤理事に名を連ねる等、新たな女流の顔の1人としてその存在感が大きくなっていた。

 

 

勿論、父親で師匠でもある清滝先生の一人娘であったり、将棋界の顔となっている僕とは従姉弟だったりと良人である神宮寺さんも含め、縁者関係の影響も無きにしもあらずではあるのだが、それでもその実力と山刀伐さんと比肩する程の超絶な研究量は最早女流の域を超え、一部のトップ棋士からも尊敬される程度にはその存在感は圧倒的となっていた。

 

 

長男の将馬君は先述の通り盤王5連覇を果たして永世盤王資格を取得し、順位戦でもA級を制して4月から初の名人戦に挑む事となる。

20歳の若武者が若き歴戦の名人相手にどう戦うか観物ではある。

 

 

長女の歩香ちゃんになると4年前の4月に研修会の成績により、女流2級として話題満載のデビューとなった。

そりゃそうなる訳で、父親が現役名人(当時)で母親も女流名跡(当時)に加え、7歳上の兄が新世代最強ホープの将馬君と来た日には………

 

 

一部の実力も研究も不十分な半端女流からは、

 

「両親と兄の21光?あ、母親の従弟の桐山先生もいるし祖父も清滝先生だから35光かwwwwwwwww」

 

とか当初は散々揶揄されていたようだが、流石はあの一家最強のバイタリティー&メンタルの持ち主である。そんな半端女流なんて強豪アマの足下にも及ばない証明をまざまざと強烈に示し、平然とマイナビ本戦に乗り込んだのは関西では早くも語り草となっている程である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、今回の花見を見られずに物故した人物も当然ながら存在する訳で………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1人は二海堂で、前世よりは長寿だったものの、結局名人は前世同様取れず仕舞いに終わり、それでも棋帝だけは永世資格を取得したので、密かに安堵した矢先に急逝する事態となってしまった。

 

それでも前世では叶わなかった結婚もした上に、3人も子どもを儲ける等、少なくとも僕らの考える以上に火の燃え盛った生涯だったとは信じたい………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更には於鬼頭さんも一昨年に物故していた。

 

 

奥さんの三瀬さんが10年前に物故すると、その後は全国津々浦々を回って指導将棋に専念していたのだが、そんな中で3年前に出会った当時小学3年の少年と対峙した際、定跡も何も蹴り飛ばした指し回しを存分に披露された挙げ句、無秩序な攻めに無造作に崩され、忽ち投了の憂き目に遭った。

 

 

その少年の名は……、

 

『氷室桂介』

 

であり、祖母と2人暮らしとの事であったらしい……

 

 

 

 

で、その地である高知市のとあるマンションを訪ねると、其処に居たのは何と故・氷室将介十六世名人の奥様で、話を聞くと、

 

「氷室とは結婚後、息子1人だけ儲けたが、その子が何故かカツオ漁船の漁師になって、何時の間にか結婚・子どもも生まれた矢先に転覆事故で海中に沈み、しかもそれを知った嫁が精神を病んで彼女の実家に強制送還せざるを得ず、結局私が孫を引き取ってこの高知に移住して今、桂介を育てている」

 

との事であり、ならばと於鬼頭さんが桂介君が望むなら引き取って弟子として育成すると申し出たのだが、当の桂介君が、

 

「アンタ、顔色悪いぜ。そんなじゃ俺の師匠になったとこで何年も保たねぇだろ。そうなったら誰頼りゃいいんだ?」

 

と返した事で流石に於鬼頭さんも考え込み、奥様(御祖母様)と改めて相談した結果、僕に連絡が入り、リーナから暫くは取って居なかった弟子を約20年振りに取る事と相成った訳で……。

 

そしてそれに安堵したのか、暫く小康状態だった於鬼頭さんの体調が急激に悪化し、桂介君との出会いから1年せずに三瀬さんの元に旅立ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で引き受けた4人目の弟子である氷室桂介君だが、当然ながら氷室先生の唯一の孫にして、伝説の棋士の1人でもある御神三吉先生の玄孫な訳で(刈田先生の曾孫でもあるのだが、これは公表不能である)、周りからは、

 

 

「何でまた桐山先生が引き受けたのか何とも解せぬ」

 

 

とか言われたけど、素質・実力・理解力が伴っていれば僕自身は特には気にしてはいないし、冬司程の将棋100%人生でもなければ何とかなるとは思ってる。

 

只、それを言ったら万智に、

 

「それなら零はんも桂介君も冬司となんら変わらんどすなぁ」

 

とか言われて、

 

「僕、そんなに世間的常識から逸脱してる?」

 

と返すと、

 

「冬司や『名人』よりは常識的どすけど、盤面に目を向けると忽ち他に何も見えなくなるのは常識外れの一種どすなぁ」

 

と更に返され、此処で僕の降参となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

等々、15年の間に色々変化・進化・進展を経て、今日の花見となった訳だ………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それにしても東西多数の関係者が参加した事で酒肴の消費量がまたハンパ無く、『名人』や於鬼頭さん、二海堂が物故しているにも関わらず、何故かとうの昔に齢100歳を超えてた蔵王先生がまた変わらずに酒が進んでおり、誰もが「なんだ?なんでまたあれだけ酒が強い?あの人もう100歳過ぎてるだろ?」なんて驚愕の目で見ていた。

 

勿論神宮寺会長も豪快に酒が進み、清滝師匠は……お約束の通り、蔵王先生に潰されていた。とは言え、師匠ももう70過ぎてるんだからもう少し自重するべきかと……

 

 

 

 

 

 

 

 

他も呑むわ指すわと、完全に将棋花見の一日であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして夕方、京都の自宅に戻ると早速桂介君とvsを行い、感想戦も込みで4時間弱相対していた。

 

その桂介君だが、3年前の夏に奨励会入りした後、順調に出世して三段リーグも1期抜けを果たし、去年の4月からプロ入りしていた。

そして順位戦もこの春から小学6年でC級1組に入り、五段として迎える事になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……思えば両親と妹を喪い、孤児状態と化していた僕が師匠と桂香さんに引き取られ、月光先生を実質的な後見人と出来たのは本当に運が良かったとしか言いようが無い。

更に僕同様、前世からの転生組も多かった事、前世では存在しなかったライバル達も僕の棋力を極限まで引き上げてくれ、素晴らしい将棋人生なのは間違い無い。

又、この世界には川本家は存在しては無かったけど、それでも万智と出会い、縁を結べたのは僕の今回の人生では比類ない程大きかったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これから先、何時まで指せるか分からないけど、命ある限り、最後まで僕の将棋・人生を指し貫こうと思う!!

 

 

 




そんな訳で今回を以ちまして本編を完結とさせていただきます。

遅筆だったり、文章がイマイチ拙かったりと色々と御意見を頂戴いたしましたが、何とか年内完結に持ち込めました事、感謝の一言であります。




尚、一応完結ではありますが、何か思い付けば適当に書こうかと思っております。
書けるかどうかは不透明ではありますが……




と云う訳で1年半、有難うございました!!


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番外篇・IFも有り?
番外篇①『名人』vs清滝師匠


さて……、本編はなんか半ば無理矢理強引気味に完結に持って行きましたが、今後は思い付いた毎に短編形式で書こうと思っています。


そんな訳で番外篇スタート!!


 

 

2009年……、この年は僕ら清滝一門に取ってありとあらゆる意味でターニングポイントとなった年度になった……。

 

 

 

 

 

 

 

先ず僕からだが、前年度に玉座と盤王の二冠を小学6年の身で獲得し、更に梅雨時から初夏にかけての棋帝戦を制して史上初の中学生三冠となり(vs月光聖市●○○●○)、順位戦もC級1組で全勝し、順位戦無敗で早くもB級2組に上がっていた。

一般棋戦も賞金王シリーズ・大河戦・毎朝杯・公共放送杯の上位選抜棋戦(賞金王シリーズ)、全棋士参加棋戦(他3棋戦)の参加可能な棋戦全てを制する等(史上初の主要一般棋戦完全制覇)、年間(年度ではない)賞金ランキング2位となり、危うい筋からの危険な誘いなんかも危ぶまれたが、そこは師匠・月光会長・前年の盤王戦で戦い、知己となって以後、友人扱いとして貰った夜叉神天祐さん(天衣の父親)が全面的に守ってくれたお蔭でなんとか回避出来、学校は中学生になっても変わらず出席日数とのにらめっこ状態が続いたが、テストは何とか上位10位内をキープし、レポートやテキスト提出で出席不足をカバー出来るシステムを採用していた私立の中高一貫校だったから紆余曲折ありながらもどうにか学業もやり遂げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

次に八一君だがこの年、一門としては僕以来3年振りに小学生名人戦に登場、大阪・西日本予選を無敗で勝ち上がり、東京での決勝大会での準決勝、お互い生涯のライバルとなる神鍋歩夢君と邂逅し、悪戦苦闘の果てにギリギリの薄氷状態から勝ち切り、決勝では万智を難解な局面から降した燎さんを相手に準決勝での死闘が何だったのかと思う程に自在の棋風を存分に発揮し、圧勝で僕の最年少記録を更新する小学3年での小学生名人に輝いた。

 

但し、表彰式に於いてあまりの完敗に負の感情が爆発した燎さんが優勝した八一君に殴り掛かる暴挙に及び、この年のゲスト解説だった僕も止めに入ったが僕も一発殴られ、結局歩夢君と万智との3人掛かりでどうにか押さえ付ける始末になってしまった。

 

 

で、余談だが燎さんが僕と八一君に顔を見せるなり悪態をついてからかうのが一種の照れ隠しであると教えてくれたのは万智である。

まぁ、僕が知ったのは最初に名人になった頃なのだが……

因みに八一君は未だに知らないらしい……

 

 

 

 

 

 

 

 

銀子ちゃんはと言えば……、

 

この年、生まれながらの持病に苦しみながらもどうにか小康状態の中、無事に小学校に入学した。

 

で、本来なら空の御両親が父兄席なんだけど、その御両親の頼みで何故か僕が親代わりで出席する手筈になってしまった。

 

御両親曰く、

 

「私はリ●マンショ●クの対応で当分帰国不可能であり、妻も病院の看護師不足の煽りで当直勤務連発だからどうしても銀子の晴れ舞台に参加出来ないから、清滝先生と身内の方で何とか替わって貰えれば」

 

って事でまぁあまりに抜き差しならぬ事情故に結局僕と桂香さんが親代わりで父兄席に陣取る事になってしまった。

 

因みに師匠は別に絶対抜けられない大仕事が待っていたのでこの日は土台ムリだった。

 

 

当然高校3年の桂香さんと卒業したての僕が父兄席にいる時点で、

 

「親無しで父兄が姉兄ってどんなガキだ?」

 

って一部からは見られていたのは承知していたが、僕の卒業時の担任教師が銀子ちゃんのクラス担任になっていた事から、先生方からは特には問題視はされなかったのは有難かった。

実際、僕の父兄参観とか進路相談に関しても桂香さんが師匠に代わって参加していた事もあったから、先生方も僕らの事情を汲み取ってくれていたのは本当に感謝しかない。

 

 

 

只、入学早々に銀子ちゃん、早速八一君に群がる女の子達を『掃除』と云う名の所謂『駆除』を実行したのには僕も聞いた瞬間、唖然としてなかなか次の言葉が口から出なかったのはここだけの話と言う事で……

 

 

 

 

 

 

 

 

桂香さんは……、

 

 

 

 

 

これ迄意識して将棋から自らを遠ざけて来たのだが、僕の躍進と銀子ちゃん、八一君の姿勢を見続けるようになると、ずっと避けて来た将棋への思いが再燃したようで、丁度この年から女流育成会が廃止され、研修会に統合されたのも心境的に後押ししたらしく、改めて師匠に弟子入りし、研修会から女流棋士を目指す事となった。

 

とは云え、17歳での再挑戦は難儀も難儀な訳で、もし師匠がどうしても承知しなければ、年齢無視で僕が師匠となって桂香さんを鍛える選択肢も考慮はしていた。

 

尤も師匠曰く、

 

「お前が桂香を娶るなら別やが、そうやなければ桂香の責任は親たる儂が負うのが筋やがな。とは云え、桂香の女流入りにはお前の協力も不可欠やから時間が許す時でええ、桂香を見てやってくれ」

 

と、基本的には全責任を負う事となったので、僕は時折個人的にvsや指導するに留まったのだが、もう少し深入り(恋愛以外)しとけば女流入りも2〜3年早かったかなと軽く後悔はしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして師匠は………、

 

 

 

プロ実質1年目で二冠を手にした僕に触発されたのか、A級にて初戦で兄弟子の月光先生に負けただけで後は白星を重ね、最終戦を待たずに7勝1敗(2番手は5勝3敗が2人)で初の名人挑戦を決め、最終戦も苦手の生石さんに圧勝し、『名人』への挑戦に勢い付く勝利を挙げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そして始まった名人戦……、

 

 

 

 

第1局、東京・一山庵

 

 

 

 

 

立会人→柳原朔太郎九段

 

副立会人→於鬼頭曜八段

 

記録係→菅田健太郎三段

 

 

 

 

大盤解説→後藤正宗九段

 

ゲスト解説→桐山零二冠

 

聞き手→小石久美女流二段

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初日前日、恒例の対局場の検分が行われ、両者共、細部の注文だけで大きな変更点は無かった。

 

 

 

そして前夜祭……、

 

 

挑戦者たる師匠から先に挨拶を行い、

 

「この度、伝統の名人戦に臨む事となりました清滝鋼介で御座います。四段としてデビュー以来、四半世紀に至り、漸くこれ程の大舞台に立つ事、改めて身の引き締まる思いで一杯です。相手の『名人』は将棋界史上群を抜く強者である事は百も千も承知致しておりますが、私の将棋人生全てをぶつけ、最上の将棋を披露致したく思います。明日からの対局、是非に御覧下さい。」

 

と気合十分が見て取れたが、一方の『名人』は…、

 

「先期、月光前名人から名人を奪還し、今期、清滝八段の挑戦を受けるに当たり、先ずは番勝負で鋼鉄流の手堅い棋風と全力でぶつかる事、光栄に思います。これ迄清滝八段とは形上勝ち越してはいますが、毎回対局毎に厳しい局面に持ち込まれ、矢鱈と苦戦に追われる印象が強い為、今回もまた厳しい戦いを強いられると覚悟致しております。ですが私も精一杯戦い、最高の将棋を御覧に入れたいと思っております。明日からの名人戦、全力を尽くし戦う所存であります。」

 

と、こちらも早速戦闘モードに突入しており、いよいよ本番待ったなしを実感せざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  〜第1局・初日〜

 

 

 

 

さて、午前8時30分……、

 

 

 

先ずは師匠が早目に対局室に入り、瞑想を始めた。

 

 

 

 

 

15分程経つと今度は『名人』が登場、上座に座り、立会人の入場を待った。

 

 

 

そして開始5分前に立会人の柳原先生が副立会人の於鬼頭さんを伴い、入場。

 

 

 

役者が揃うや、記録係の菅田さんが振り駒を行い、先手は……、

 

 

師匠だった。

 

 

 

 

 

先ずはオーソドックスに角交換から始まり、其処からはお互い矢倉を組む相矢倉戦となり、守備の構築に傾注して大きな動きが見られない中、『名人』の封じ手(54手目)を以って初日を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜第1局・2日目〜

 

 

 

 

前日の封じ手の後、夕食を挟んで後藤さんと展望と検討を遅くまで行ったが、然し23時になるや桂香さんに止められ、部屋に引き摺られて強制就寝させられた。

 

今回は銀子ちゃんも八一君も検討会に参加していたのだが、まだ小学生の2人では長く持つ訳も無く、21時には就寝していたのだが、僕はタイトルホルダーだからもう少し検討に参加出来るとタカをくくっていたが、やはり桂香さんは甘くは無かった……

 

……ですけど、なんでまた僕の布団に入ろうとするんですかね?

 

そう言えば銀子ちゃんも偶に気付かぬ間に僕の布団に潜り込んでおり、朝起きてみたらガッチリ僕に抱き付いていたってのが何度かあったな……

 

 

一体2人して僕を抱き枕とでも思っているのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で『名人』の封じ手開封から始まった2日目……、

 

 

 

 

 

 

早速開戦となり、『名人』の激しい攻めが炸裂、師匠は耐えて耐えて『鋼鉄流の守り』を遺憾なく見せ付け、15時過ぎまで守り切ると、攻めの切れた『名人』に対し、一気呵成の逆襲に転じた。

 

 

 

その後は一進一退、夕食休憩を経てもまだ決着には至らず、それでも徐々に師匠が『名人』の陣を侵食し、最後は23手詰めを以って『名人』が投了、師匠が幸先良く先勝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は、2〜4局目迄『名人』が3連勝、5局目に師匠が1つ返すも結局6局目を落とし、2勝4敗で悲願の名人獲得は成らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終局後、大阪に戻るや悔しさ毎酒を流し込む師匠の姿が妙に新鮮に思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜は師匠以外の未成年4人一緒に風呂に入り、枕を並べて就寝したのだが、翌朝、なんか重い感触すると思ったら、桂香さんと銀子ちゃんが僕にガッチリ抱き着いていた………

 

 

こんな調子で僕の身体は無事平穏に済むのだろうか?

 

 

 




そんな訳で師匠vs『名人』の番勝負を書いて見ました。

けど桐山君、供御飯さん以前に女難の相が出てるとは……


そんな訳で今回は此処まで!!


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番外篇②『名人』に舌打ちした男

あ〜、なんか唐突に思い付いたんで1曲……じゃなくて1話挿入しますね。

って訳で番外篇スタート!!


    

 

 

 

 

 2020年2月……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜棋帝戦本戦トーナメント1回戦〜

 

 

東京・将棋会館

 

『名人』vs神宮寺崇徳六段

 

記録係→隈倉健吾四段

 

 

 

 

・専門チャンネル中継

 

解説→神鍋歩夢帝位

 

聞き手→雛鶴あい女流名跡

 

 

 

 

 

 

この日、帝位戦本戦リーグ戦白組1回戦を戦う為に東京入りした僕も祭神さん(祭神雷四段)と当たり、同じ対局室で対局する事となっていた。

 

記録係→峠なゆた四段

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……さて、棋帝戦も帝位戦も本戦は持ち時間4時間の中時間対局で、大体夕方から19〜20時程度での決着となる事が多い。

 

で、10時に振り駒から先手を決め、対局が始まった。

(棋帝戦は神宮寺さん、帝位戦は祭神さんがそれぞれ先手)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……で、僕は祭神さんに30分残しで18時30分に86手で勝ち、幸先良く開幕勝利を挙げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、棋帝戦はと云えば………、

 

 

 

 

『名人』も神宮寺さんもお互い穴熊で守りを構築、相居飛穴からの持久戦模様と化していた……

 

 

 

 

 

昼食休憩

 

 

 

『名人』→宮殿ホテル特製デミグラスハンバーグ御膳

 

 

神宮寺さん→うな重(松)、肝吸い

 

 

 

 

 

をそれぞれ食し、午後に備えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は、お互い牽制し合いながら隙を探る展開となり、徐々に時間消費しながら相手の仕掛を待ち、カウンター狙いの様相を見せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……、隣の盤に居た僕らの決着が着いた18時30分過ぎ……、動いたのは後手の『名人』だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で決着した隣の僕らは30分程で感想戦を終え、後は隣の対局の行く末を観戦と洒落込んでいた。

本来なら終了即退場しなくてはならないのだが、こんな特等席用意されて引っ込める選択肢なんてある訳無いですよ。

まぁ理事からは後日説教貰うとして、今は祭神さん共々この対局を楽しみます(笑)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして先に動いた『名人』の猛攻が始まったが、この時点で残されていた持ち時間はと言うと……、

 

 

 

 

 

『名人』→12分

 

 

神宮寺さん→13分

 

 

 

 

であり、後は1時間そこらでの短期決着模様となっていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

然し、お互い決定打が出ず、結局166手で千日手指し直しに持ち込まれた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其処で大きく一息つくと更に鼻で息をついた神宮寺さんが目一杯不満顔を『名人』に見せていた……

 

 

 

そんな神宮寺さんの顔を見た『名人』はと云うと……、一瞬不思議そうな顔で目を見開いていたけど直ぐに表情を戻し、早指しモードに意識を切り替えたようだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜指し直し局〜

 

 

 

 

持ち時間

 

 

『名人』→1時間

 

 

神宮寺さん→1時間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20時20分、指し直し局開始……

 

 

 

先手は『名人』である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お互い早指しモードに切り替えを済ませていたからか、序盤から中盤に於いてはサクサクと展開を進め、1時間で早くも71手に至っていた。

 

 

で、開戦は今回も『名人』からで、流暢にして激烈な猛攻を展開したのだが、一方でこれを受けながら反攻準備を整えつつあった神宮寺さんはと云えば……、

 

 

 

 

 

 

な〜んか軽い失望感を顔から覗かせていたんだが、まぁ心境的には解らなくも無いけどいいのか?

 

 

 

 

 

 

と思ったら祭神さんも、

 

「あ〜、獅子オヤジ〜、『名人』の事つまらなく思っているさぁ〜!」

 

と口にしたので僕も、

 

「あ〜、これはヤバいかもだな……」

 

と、思わず呟いていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして『名人』の攻撃が途絶え、神宮寺さんの反攻となった訳だが……、

 

 

 

 

 

その反攻の1手目の着手に入る際に銀に触れる直前、まさかの行為が神宮寺さんの口から……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マジか………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これ迄『名人』が相手の失着だの頓死レベルの致命的ミスだのに舌打ちする場面があったのは周知の事実ではあったのだが、これは『名人』故に他から咎められる事はあまり無かった(これはこれで問題だと思うが)。

 

然し前世の棋歴は兎も角、今世では実質1年目の新人が事もあろうに『名人』相手に堂々と舌打ちするとか、冬司でもやらかしてない挙動を平然としてのけるとは、これは勝敗は別にしてとんでもない騒動に発展しかねないのは避けられそうもないな……

 

 

 

 

 

 

 

 

そして反攻自体は順調に進み、結局162手で『名人』が投了、神宮寺さんがベスト8に進む事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の感想戦でも神宮寺さんの毒吐きは止まらず、

 

「なぁダンナ、その程度の棋力と存在感で今まで君臨出来たのかよ?抜いたのが桐山じゃなきゃ今頃ダンナなんてとっくの昔に海の藻屑だろうな……」

 

との猛毒に『名人』は……、

 

「……うん、君の見方は正鵠を得ている。実際、時代を転換したのが桐山君だからこそ、今の今まで僕も真理の奥の奥への追求に余念が無かった訳だが……、まぁこうなると、僕の方向性は少し軌道修正しなくてはならないのは確かだろうな……」

 

と答え、終局からの感想戦は結局3時間に及び、終わってみたら日が変わって午前2時30分となっていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日のネットニュースは………、

 

 

 

 

 

 

 

『将棋の神宮寺六段、『名人』に失望!!舌打ち披露する圧勝!!』

 

 

 

 

 

との煽り文句が躍るバズりニュースと化していた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、『名人』がこの年度限りで引退を決めた理由の1つがこの1件なのは本人が語らずとも知る人ぞ知る伝説となったのは言うまでもない………

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『名人』が舌打ちする場面があっても『名人』に舌打ちする棋士なんて原作は疎か、創作諸作品でも知る限り見受けられなかったから、敢えて創作した次第です。

実際、本作品でもやりそうなのは他には氷室さんか冬司君位しか居なさそうですし……




って訳で今回は此処まで!!


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番外篇③前世を知った人・供御飯万智

………、あまりに突き抜けた大天才にして『神』とまで比喩される『名人』をも遥かに凌駕した『絶対神』、又は『神を超えた神』とまで恐れられた桐山君………


そんな桐山君の前世がひょんな所から知られるお話………




って訳で番外篇スタート!!


    

 

 

 

 《愛媛・道後温泉・某旅館》

 

 

 

 

 

………、なんで僕は語らずべき話を此処まで万智さんに話してしまったのだろうか………

僕の出自自体はまだしも、あまりに踏み込み過ぎたのだが…… 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………、それは竜王戦で八一君に敗れた翌日、一旦大阪の自宅に戻り、年末年始の正月休みでの冬司の京都への里帰り準備を済ませて京都の供御飯邸に冬司を送り届けた際に万智さんから、

 

「それじゃ後はこなたと年末西国周遊旅行どすな❤」

 

と言われ、そう言えば氷室先生と邂逅した際に年内に10日程日程が開けば1回旅行でもしようか……って話してたか……

 

 

 

 

……ってか、竜王戦に全傾力向けてたから年明けの指し初め式まで丸々予定が空いてたの完全に忘れてた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……けど、万智さんの予定は?と問えば、女流名跡戦リーグ戦も年内は終了、次は指し初め式の後って事で完全に予定空白丸被りだったから、年末年始じゃあちこち立て込むと思い、急いで旅先を探そうとしたが、

 

 

「もう予約は済んでるどす❤、どうせギリギリまで対局モードから抜けられんと思ったから其処は……どすな❤」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…どうやら僕の身柄はとうの昔にガッチリ確保されていたようだ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…そんな訳で訪れた旅行初日の宿が道後温泉の名門旅館であり、この旅館の温泉にまつわる歴史と云うのが……

 

 

 

 

 

 

かの聖徳太子が船旅を経て訪れた湯治の湯であり、この地で半月だか1月だか過ごして碑文まで残したって超ド級の履歴持ってるって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日……、

 

 

 

 

 

 

 

早朝京都を出て伊丹まで行き、そこから松山行きの飛行機に乗り、午前10時過ぎには四国・松山の地に足を踏み入れていた。

 

 

 

そして現地の郷土料理店で名物の鯛茶漬けランチを食した後、正午からは松山城から正岡子規記念博物館から砥部焼陶芸館etc……と廻りに廻り、予約済の道後温泉の宿に到着したのは結局午後4時を回った頃であった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてチェックインから宿の最上級の部屋に案内され、荷物を置くと、一旦別れて男女別の大浴場でそれぞれ旅塵を洗い流し、サッパリして浴衣に着替えて部屋に戻ると、早くも豪華絢爛な夕食準備が整いつつあった………

 

 

 

 

 

其処で用意されていたのは………

 

 

 

 

 

 

 

瀬戸内や豊後水道で水揚げされた魚介類の舟盛から焼き魚から、肉も伊予牛だのふれ愛・媛ポークだのが並び、陶板焼だったりミニユッケだったりハーフトンカツだったりと食べ切れるか一気に自信無くなるレベルの大容量な膳であり、更には県内の地酒数種類が四合瓶で何本も並べられて………

その上、前菜・オードブルの類も十種以上盛付だったり……、これ2人で完食なんてどう見繕っても困難としか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

けど万智さんは、

 

「膳もお酒もたんとあるどすからじっくり腰を据えて呑み明かせるどすな❤」

 

って事も無げに答えてくれて……

 

 

 

 

それに対し僕が、

 

「多分僕の腹が保たないかもだけど……」

 

と返すと、

 

「その時はその時どすな❤」

 

って……いいのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで午後6時過ぎから2人だけの小宴会が始まり、僕の懸念も何のその、開始1時間が過ぎると料理全体の8割方が消費されており、何本も並べられた四合瓶の地酒も半分以上(8本)が空になっており、後は残った前菜・オードブルに羹の膳や香の物とかを肴に2人で色々語り合いながら更に地酒を3本空けていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして一旦宴をお開きにして、また軽く今度は部屋内の露天風呂で別々に(この段階ではまだ混浴はムリ……)汗を流し、旅館内のラウンジで飲み直す事にした。

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

チョコレートとピーナッツ、アーモンドの軽い菓子類を肴にウイスキー(スコッチ・バーボン・カナディアン問わず)のロック・ハイボール・水割りを交互に呑みながらまた色々と語り合い、午後10時半を回った処で部屋に戻った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋を出ている間に既に2組の布団が敷かれており、後は寝るだけ……と思ったのも束の間、万智さんが、

 

「これからお待ちかねの初夜どすな❤」

 

………、

 

 

 

 

「え?いやいや、それはまだ暫く…」

 

 

と返しかけた次の瞬間、万智さんの唇が僕の唇に重なり、後は流されるまま、自然と………(R18じゃないんでこれ以上は……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………、そんな訳で気付いたら1つの布団に2人が肌を重ねており……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば零はん、無意識にこなた以外の女子の名前呟いてたどすが、だ・れ・ど・す・か??(氷点下の凍った微笑)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………、はぁ……、

 

 

「どう呟いてたの?僕自身覚えてないんだけど……」

 

 

と返すや、

 

 

 

「……、『ひなちゃん……』と寂しそうに呟いていたどすな……』

 

 

 

 

 

 

 

 

との答えで、もうこうなればリスクだらけ覚悟で僕の前世だけは正直に告げなきゃと腹を決めざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして………

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕の人生はこれが2度目で、前世は環境は違えど同じく将棋棋士であり、前世の最後の頃には名人を獲得しており、その時に結婚を約束していたのが君が聞いた『ひなちゃん』であり、けどその直後に僕が交通事故で死んだから結局前世では結婚出来ないままに終わった訳で……。で、転生した今の人生でも中学時代までは上京する度に以前あった筈の下町地域を探し回ったんだけど結局は見つからず、同じ日本で西暦でも似通った時代背景ながらも大きく異なる世界に放り込まれたんだなぁ……って実感したんだ……。…それでも尚異人としか言えない僕に変わらず思慕を向けてくる貴女に応えなきゃ……って事でプロポーズしたんだけど、どうやら前世を忘れ切るってのは僕じゃムリなのか……。否、前世あればこそ今の位置を勝ち取れたのは否定出来ない……、けど、今のままじゃ万智さんと生涯共に歩く資格は僕には………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「資格?十分過ぎる程どす!!前世と今の世とのギャップ、比較に苦しみながら20年の余も戦い続け、永世名人を勝ち取った零はんが賞賛こそされど批判を喰らう謂れは誰が何と言おうがこなたが許さんどす!!それに零はんの孤独感はこなたも桂香さんもお燎ですらも少なからず感じ取っているどすからな❤」

 

 

 

 

 

 

「……え?3人共薄々は感付いてた訳?僕がある意味常識の外からの人間って事……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そりゃそうどす❤、お燎なんかは零はんが上京する度に既成事実作ろうと矢鱈に絡んで来たどすやろ?アレは完全な誘いどしたからな❤、後、零はんが知らない事実を今一つ……、今の世の初めてがこなたと思ってるやろけど、実はそうじゃないんどすな(苦笑)。こなたは零はんが初めてどすが、零はんの初めては桂香さんどす❤。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?いやいや、僕に本気で迫って来た事無い筈だし、そもそもが弟への姉的感情が少々過ぎてるってだけと思ってたし、それに言いたくは無いけど八一君の桂香さんへの思慕を見るとね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……零はん、貴方、八一君を批判する資格ないどすな。桂香さん、本気で零はんのお嫁さん目指していたどすからな……。これはこなたもお燎もばかりやない、銀子ちゃんも『私は八一、お兄ちゃんは桂香さんと結ばれればこれ以上の幸せは無い!!』って偶々3人だけの席で公言してた程どすからな………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え??まぁ確かに従姉弟での結婚自体はねぇ……。けど、僕は感覚的ですら全く覚えが無いんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そりゃそうどす❤、零はん、名人奪って大阪に帰宅した当日の事、覚えてはります?あの時、自宅が丸ごと不夜の宴会場と化していて蔵王先生に殆どが撃沈されて空き部屋全て簡易宿泊所にされて主役でありながら世話役に終始せざるを得ず、いい加減疲れて2階でグッタリしとったどすやろ?で、そんな零はん捕まえて添い寝しようとこなたが引っ張ろうとした処で桂香さんが『万智ちゃん、零君は私が見るから貴女はゆっくりお休みなさい』って強制的にこなたから零はんを引き剥がして零はんの自室に引っ張り込んだどす。で、一旦は引き下がったどすけどやっぱり気になって部屋をこっそり覗くと……、桂香さん、殆ど強制的に行為に及んでたどす……。流石にこなたでも合意せざる合体は憚るどすからな………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ〜っ?!全く記憶どころか異常感覚すら無かったけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、翌日の帰り際に桂香さんに『零はんとの秘密、最高どしたか?』ってボソっと囁いたらもう丸分かりレベルで顔も上半身の大半も真っ赤っ赤で……。けど、これはどうにかこなた以外からは隠し通せた訳やけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………けどそれって、直接だからヘタすれば……、もしそうなったら桂香さん、どう言い訳したんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはこなたにだけ話してくれたどす❤、そうなれば父親不明の子として女流諦めて1人で育て上げるつもりだったそうどす。まぁ、これまでの交流関係もあるからこなたも可能な協力はするつもりどしたがな❤」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

「流石にその行為自体は拙過ぎだけど、そうなれば僕の責任も出ては来るからそこはちゃんと話して欲しかったな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それが出来れば普通に告白して……からの流れに持って行けたどすがな。でも零はんが姉以上の感情を持たなかったから強引に事に及ぶしか無かった……。零はんも恋愛関係での洞察力、もっと磨かなければならんどすな………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「けど、それはそれとして僕、何の準備もしてなかったんだけど、いざ重大な事態になった場合、万智さん、覚悟は出来てるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは無問題(モーマンタイ)どす❤、そうなれば最優先は出産どすからな❤」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ〜っ?!、大学どうするの?辞めるとか言う訳?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その時は状況に合わせて決めるどす❤、何にせよ、こなたの最優先は零はんどすからな❤」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ホント、今2人だけで良かった……。これで冬司だの神宮寺さんやらがいたら尚の事、騒ぎが増幅しかねなかったし……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………、…零はん、冬司と神宮寺はんが云々とは……、あの2人とも前世から何らかの関係あるどすか??(比類無き氷の微笑)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………、やっぱり話すしか無い?……(暫く沈黙)……、じゃ話すけど、腹くくってね。……冬司も神宮寺さんも僕と同じ時代の前世を生きた大棋士で、2人とも僕の遥か先輩であり、宗谷さん(冬司)は15程度年長で、神宮寺さんに至っては宗谷さんの更に30以上年長の大御所であり、僕がプロの入口に突っ込んだ頃には宗谷さんは神とも悪魔とも形容される大名人であり、神宮寺さんは永世名人となりながらも宗谷さんに敗退したのを機に引退してその頃には連盟会長として運営の中心に立っていた訳で……。で、僕が前世の師匠から独立した際に反対する師匠を押し切って身元保証人になってくれたのが神宮寺さん……当時は神宮寺会長だった訳で……。そう云う恩義から転生した今でも基本的に神宮寺さんには頭上がらない訳なんだよね……。一方で宗谷さんはと言うと……、強さもだけど、負けず嫌いものめり込みも群を抜いており、絶対王者たる格を誰もが認めざるを得ない至高の存在だった訳で……。けど反面、その天然具合も超絶で、誰もが彼の一挙手一投足に振り回される有様で……、それでとある機会で邂逅してから彼の世話役として僕が事実上任命される程には親しく付き合う関係になって……。けど、結局2人が健在の内に僕が交通事故で先立ってしまい、転生後は大きく関係性も変わった訳で……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん、冬司が零はん依存症なんは前世からの名残な訳どすか……。けど、そうなると冬司の今後は誰が適任どすやろ?何時までも零はん頼りな訳にもいかんやろし……。神宮寺はんの抑えはここ最近の関係性から桂香さんが最適任やろけど(微笑)。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天衣か夜叉神家自体に頼むか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……天ちゃんどすか?……、意外かもやけど、天ちゃんなら冬司を抑えられる余地は十分どすな❤」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「けどあの子、率直素直に物事表現したがらないからな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは徐々にでええん違いますか?それを見守るのもお師匠の役回りとこなたは考えとるどす❤」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「前世じゃ弟子を取る自体無かったし、今になって師匠としての難しさを体感する事になるとはね……。けど、それを包括した上で僕の存在意義もまた問われるとなると……、益々今の世が面白くなって来たな……(微笑)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そんな訳で思わぬ処から僕の前世を知らせる事となり、更にはまさかの僕自身記憶外の●体関係まで叩き付けられる事態になるとは………

 

 

 

 

 

でも、一番心配しなくてはならないのは素のまま行為した事で後がどういう事になるのかなんだよな………

 

 

 

 





…、因みに二海堂君についての事実を万智さんが知るのは二海堂君が桐山君の名人に挑戦する頃でして……





後、八一君と銀子ちゃん、清滝師匠等は最後まで知らされない設定で今後も通す予定です。





って訳で今回は此処まで!!


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番外篇④とある朝の一刻

大分ご無沙汰しました・・・

が、これと言ってネタらしいネタが浮かばず、更には本業も多忙
だったので半年以上の空白に・・・


さて今回は・・・


って訳で番外篇スタート!!


間もなく21歳を迎える中での名人戦の最中・・・

 

 

 

 

 

 

そんなある日の早朝・・・、

 

 

 

 

 

朝食準備中に突然スマホから着信音が・・・

 

 

 

 

 

 

 

誰かと思い、繋いでみたら・・・

 

  

 

 

 

 

 

 

 

銀子ちゃん?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

取ってみるや、「お早う、お兄ちゃん、今、八一の所にいるんだけど、緊急事態よ!!あの馬鹿、小童に飽き足らず、小学生どもを雑魚寝させて満悦至極な寝面カマして・・・あぁあ〜っ!!兎に角今直ぐこっち来てっ!!」

 

 

 

 

 

 

って、早朝早々から限界突破レベルの怒りようで・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・という訳で一旦朝食準備は切り上げて直ぐ様八一君のアパートに向かい、玄関で銀子ちゃんと合流し、その惨状を目の当たりにする事となった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて僕らの気配と足音に気付いたか、八一君が目覚め、続いてあいちゃんと彼女と同世代位な小学生女子2人もお目覚めしたところで・・・

 

 

 

 

 

八一君「・・・・、はふわぁ〜あ・・って、兄弟子に姉弟子?!なんでこんな朝っぱらから此処に?!」

 

 

 

「それは僕が聞きたいんだけど・・・。先ず、あいちゃんは兎も角、何でこれだけの女子小学生を態々お泊りさせている訳?」

 

 

八一君「あ〜・・・、それは、つい先頃知り合った彼女たちから研究会をする場所をお願いされて、此処ならあいも居るし問題無いかなと・・勿論、親御さんには連絡して許可は取ってありますんで・・・」

 

 

「それにしてもこれはどう考えても尋常じゃないよね・・・。君は童女ハーレムでも作りたい訳?普通に考えてこんな現場目撃したら即通報されても文句言えないんだけど・・・」

 

 

銀子ちゃん「兄弟子、優し過ぎ!この馬鹿は少しお灸を据えなきゃ何も理解しないんだから今から通報するわよ!!」

 

 

八一君「え?って、姉弟子、やめてぇ〜っ!!寝てただけ!!手は出してない!!だから何でもするから通報だけは〜っ!!」

 

 

 

銀子ちゃん「言質取ったわよ!!兄弟子も証人だし、ね。」

 

 

 

 

「うん。さて、銀子ちゃんは何を?」

 

 

 

 

銀子ちゃん「高級焼肉食べ放題かしらね?で、兄弟子は?」

 

 

 

 

「僕か・・・、なら、折角の機会だし、少しは贅沢させて貰おうかな?って訳で僕は回らない寿司屋の食べ放題とお酒の飲み放題で(全力の笑顔で )」

 

 

 

 

八一君「えぇ〜っ?!そんなの金が・」

 

 

 

 

銀子ちゃん「それじゃ通報と、兄弟子は供御飯さんにLINEと証拠画像送って」

 

 

 

 

 

八一君「分っかりましたぁ〜!!従います!!だから通報と供御飯さんへの連絡だけはぁ〜っ!!!!」

 

 

 

 

 

 

「これだけ懇願してるし、後、身内の恥は内々で・・・って事で今回はこれで手打ちでいいんじゃない?銀子ちゃん」

 

 

 

 

 

銀子ちゃん「本っ当に兄弟子は優しいわね。まぁ確かに弟が犯罪者じゃ私たちも日陰歩かなきゃならなくなるし・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・、で、そんなこんなしてたら、あいちゃんと他女子小学生2人が僕らに気付き、

 

 

 

 

「おはよ・・って、長身(僕は170cm程度だが)のお兄さん・・誰っ・・って、桐山二冠?!うわぁ〜っ!!私、水越澪って言いましゅっ!!あいちゃんとは同じクラスの友達でしゅ!!」

 

 

って、先ずはショートカットの元気系な童女こと、水越澪ちゃんに自己紹介され、何故か握手もしたはいいが流石に手を洗わないは拙いでしょ・・・

 

 

「おはようございますです。うちは貞任綾乃と申しますです。桐山先生の事は万智姉さまから事有る毎に伺っていますので、初対面な気がしないのです。」

 

 

 

・・・どうやら背の高めな眼鏡童女こと、貞任綾乃ちゃんは供御飯さんと同門の妹弟子らしく、僕の情報はある程度網羅しているようだ・・・

 

 

 

 

 

「おじさん、おばさん、おはようございます。それにしてもこんな朝早くから態々どうしたんですか?」

 

 

 

 

 

漸くあいちゃんも挨拶出来るまでにはシャッキリしたようだが・・・

 

 

 

 

 

 

・・・そこで最後までお目覚めでは無かった金髪幼女が徐ろに八一君から離れ、寝ぼけ眼のまま、歩いた先には・・・

 

 

 

 

 

 

銀子ちゃんのスカートがあり、そのスカートに全力で掴むや無心に涎拭きにしちゃったよ・・・

 

 

 

 

 

 

 

・・・うん、流石の銀子ちゃんも幼女には手出し不可能だから当然その矛先は・・・・自然、八一君に向けられる訳で・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

銀子ちゃん「ねぇ、兄弟子、条件追加はアリよね?」

 

 

 

 

 

 

 

「うん、この子の失態は八一君の保護者としての責任だしね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀子ちゃん「なら、スイーツ食べ放題も追加で」

 

 

 

 

 

 

 

 

八一君「分かりましたぁ〜っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、件の金髪幼女は、名をシャルロット・イゾアールと言い、京都在住のフランス人なんだけど、偶々迷子になっていた処、偶然綾乃ちゃんに拾われて、以後、老師こと加悦奥先生の道場に出入りするようになったんだとか。

 

 

そう言えば、八一君の両隣にしがみつくように寝ていたのはあいちゃんとシャルロットちゃんだったよな・・・

 

 

 

後、シャルロットちゃんからどうにも聞き捨てならない言葉が銀子ちゃんと僕に直撃したのだが・・・これは幼女の思い込みで済ませられるレベルじゃないような・・・

 

 

 

 

シャルロットちゃん「しゃうはちちょのおよめたんだから♥」

 

 

 

 

 

 

銀子ちゃん、完全に殴りたい衝動抑え込むのに必死だったし、あいちゃんはあいちゃんで八一君をハイライトの消えた仄暗い瞳でジッと見据えていたし・・・

 

 

 

 

 

八一君、地獄に端坐してる思いだろうけど、自業自得だし、僕からは何も言えないからね・・・・・・

 

 

 




なんか久しぶりに書いて見たけど、なかなか表現方法が難しいのは変わらずで・・・




って訳で今回は此処まで!!


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