魔術も呪術も一緒でしょ! 仲良くしてえええ(吐血) (かりん2022)
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入学

 ママンは言った。

 

「いい? 魔法のことは、絶対にパパに教えちゃ駄目よ」

 

 パパンは言った。

 

「いいかい? 術式の事は絶対にママに言っては駄目だよ」

 

 いい子だった僕はそれを忠実に守り、途方に暮れていた。

 

 魔法使いは、専門の小中高大一貫教育を受けるらしい。

 術式使いは、専門の呪専という学校に通うらしい。

 

 ようは、バッティングしてしまったのだ。

 両方の学校が、絶対に絶対に通わないといけないらしい。

 でないと将来に関わるということだ。

 

 問題なのは、両親の見据えている将来が違うということ。

 

「この子は絶対に名門校に通わせるんだから!」

「小学校と中学校はそこに通わせればいい。でも高校は駄目だ!」

 

 揉めに揉めて、離婚の話まで出た。

 当然だが、親権を手放そうとせず、激しい争いになり、僕は泣くしか出来ない。

 

 ついに、ママが杖を取り出した。

 

「オブリビエイト(忘れよ)!!」

 

 そうして、僕はママの子になった。ママ怖い。

 

 パパは僕達の事を忘れてしまった。

 

 そして入学式の日が来た。

 

「魔法処です。花柳 兼道(かねみち)くんを迎えに来ました」

 

 どうみても巨大な鳥さんである。鳥さんの上に、キョトンとした子供達が乗っている。

 ピンクのワンピースの制服が嫌で嫌で泣いていた僕は、思わず泣き止んでキョトンとしてしまった。魔法処しゅごい。

 

「ああっ ようこそいらっしゃいました! 兼道、乗りなさい!」

「ピンクのワンピース嫌だああああああああああああ」

「我儘言わないの!! 伝統的なお洋服なんだから!」

 

 ママンには逆らえない。グスグスと泣きながら、それでも僕は鳥さんの上に乗った。

 

 魔法処につくと、僕が見える人はこちら、と看板を持った化け物がいた。

 恐る恐る皆と離れて進むと、ガランとした教室の教卓で眠っている人がいた。

 地味そうな男の人だ。

 

「あの」

「ああ! 君は迷子かな? それとも、看板を見てきたのかな?」

「看板を見てきました」

「魔力と呪力、両方を持っているのだね、君のような子をダブルと言うんだよ。私と同じさ。私の名前は、前田 利彦。君の担任だ。先生をつける必要はないよ。外で間違えて先生と呼ばれたら困るからね」

 

 その言葉に、僕はホッとした。どうやら、呪力についてもちゃんと教えてもらえそうだ。

 

「君のお母さんは知ってるかな?」

「僕のお父さんは呪術師で、お母さんは魔女で、お互いに内緒だよって」

「それは……大変だっただろうね。でも大丈夫。私は両方知っているのだからね。いや、君が入ってきてくれて本当に良かったよ! 両方一人前になるのは大変だけど、一緒に頑張ろう!」

「やっぱり、どっちもしないと駄目なんですか?」

「魔法界にも呪霊は出る。供給に比べて需要があまりに大きいのもあるけど、魔法も呪力も生まれつき持っている武器だからね。しっかり使い方を学ばないと、困ったことになる」

「そうですか」

 

 話していると、少年が2人、入ってきた。

 

「あの、ごめんなさい。外にいた呪霊、便利そうだったから取り込んじゃいました」

 

 僕が最後だから良いよね? そうとんでもないことを言って小首を傾げたのは、真面目そうな男の子だった。

 

「ええ!? いや、珍しいな3人も来るなんて。いつもいないのが当たり前なのに。私の名前は前田 利彦だ。前田さんと呼んでくれ。外では無関係ということになっているから、とっさに先生が出ると困るからね。それと呪霊についてだけど、それが君の術式かな? 詳しいことは後で聞くとして、私の呪霊を勝手に取り込むのはもうしちゃだめだよ」

「わかりました、前田さんと呼びます」

 

 あ、これ呪霊を取り込まないのは納得してないな。

 

「ふん! 百合家と花柳家の穢れた血と一緒とはな! なんで僕が!」

「えーっと、揃ったことだし、自己紹介してもらおうか」

「夏油 傑です」

「花柳 兼道です」

「ふん、自己紹介は正直にするのだな! 魔力も呪力も血が重要なのに関わらず、突然変異で魔力を持ち、突然変異で両方を得た一般オブ一般の前田 利彦! 百合家を飛び出してマグルの家に嫁入りした、名門百合家直系でありながらスクイブの腹から産まれた夏油 傑! そして、名門魔女でありながらマグルに惚れてマグルの中で暮らしている変わり者の息子の花柳 兼道! そして真の名門で純血の血である、マグルの血の混ざっていない、この僕、黒薔薇 輪! 自己紹介とはこうするのだ!」

 

「マグルって何?」

「スクイブって何?」

「あ”ー! この無知どもめ!」

 

こんな個性豊かな中でやっていけるんだろうか? 不安だ。



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初授業

 

「じゃあまず、前提条件から話そう。魔力を持っているのは魔法使い。魔力を持っていないのはマグル、もしくは非魔法族。呪力を持っているのは呪術師。呪力を持っていないのは非術師と呼ばれている。両方持っていない事を、ゼロ、異能なし、無能力者、一般人。両方持っていることをダブルと呼ぶこともある。だが、大抵はマグルと言えば両方持っていない人だな。スクイブとは、魔法使いの生まれでありながら魔力を持たないものを言う。マグルもスクイブも一般に使われてしまっているが、汚い言葉遣いだから、公式の場では気をつけような」

「なるほど」

「授業はもう始まっているぞ。席について、ノートを取って」

 

 先生は黒板に、言葉を書いていく。

 

「それぞれの業界を、呪術界、魔法界、マグル界と呼ぶ。魔法界は社会、もしくは魔法使いの生活する空間を言うが、呪術界は社会そのものを指し、生活圏はマグル界にある。マグル界は、わかるな。非魔法族が暮らす、表の世界のことだ。といっても、呪術界も異空間を作る能力はあるんだがな」

 

 僕達は、慌てて席について黒板の文字を書き写した。

 

「呪術界について詳しく話そう。呪術界といえば、一般的にその業界を示す。一般の法律とは全く別体系のルールで持って活動している。マグルの一般人は呪術師を知らないが、公的機関や政治家などには知っているものも多い。呪術師の仕事は、呪霊を退治すること。呪霊はわかるな? 看板を持っていた化け物で、負の念と呪力が混じって出来たもの、と言われている。これはマグル界にも魔法界にも平等に出現して、呪術師以外には見えない。その為、マグル界の呪霊は呪術師が、魔法界の呪霊は我々が退治する。この業界は人手不足も人手不足だから、残念ながら選択の余地はない。呪術師かどうかは大体五年くらいでわかる。犯罪を犯した呪術師を呪詛師という。間違えるとガチ切れされるから注意するように。基本呪詛師は殺される。非術師を呪力で傷つけたら一発呪詛師認定だから、気をつけるように。ここ、テストに出すぞ」

 

 うう、漢字が難しくてうまく書けない。よみがなも振ってくれるけれど、難しいよう。

 

「魔法使いは世界中にいるが、呪術師も呪霊も日本に集中している。それは、呪術界の天元様という人が、日本全体に結界を張っているからだ。その結界から呪力は出られず、どんどん蓄積されてぐるぐる回って、濃縮されている。魔法界はマグルの世界、ひいては呪術界に干渉できないので、困っている。天元様の功罪については、後で詳しく授業をしよう」

 

 そこでチャイムが鳴った。

 休憩時間だ!

 

「十分後に教室に戻るように」

 

 前田先生が言って、輪は飛び出していった。

 そして、授業開始ギリギリに戻ってきて、高々と手を上げた。

 

「他の皆はひらがなの書き取りをしていたぞ! どういうことだ、先生!!」

「呪術師は統計的に頭が良い事が証明されている。それに、ダブルは人の三倍学ばなければならない。授業が難しいのは当たり前だろう」

「へ?」

「そうなのですか?」

「ダブルは、呪術師の学校へも通わなければならない。呪術師は皆マグルだから、当然マグルのことは知っている。むしろ、普通の学校を出たことになっている私達を一般情勢を知るための指針にすることがある。マグルである彼ら以上にマグルのことを知る必要があるんだ。ちなみに、それが出来なければスパイとして殺される」

「はあ!?」「なんでこの僕がマグルなんか!!」「ええー!」

「魔法使いは呪術師を知っているが、呪術師は魔法使いを知らず、これからも絶対にバレてはならない。つまり、呪術界に潜入して勉強しなくてはならないんだ。呪術界は怖いところだから、できれば魔法界だけで教育ができれば良いんだが……いかんせん、ダブルの数があまりにも少なく、途切れることもあって教育体制を整えるのが大変なんだ」

 

 僕らは絶句した。なんて事だ。

 

「あと、君等は全員別の学校に行って初めて呪専で出会った設定となる。偽の記録は作っておく。これは芋づる式に殺されないための処置だ」

 

 た、大変だ……。

 

「それに、大変残念なことだが……」

「まだあるんですか!?」

「ダブルのローブはどれだけ学問を修めても、2年時から真っ黒になる。成績トップになるのは勉強量から言って難しいし、色とりどりのローブともピンクのローブとも黄金のローブともお別れだ」

 

「「やった――!!」」

「そんな――!!」

 

 マグル育ちと魔法使い育ちは、相反する反応を見せたのだった。

 

 



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後輩が出来た

 

 授業を終えて、ヘロヘロになった僕だったけど、帰ってから笑顔のママに迎え入れられてホッとした。

 

「ああ! 私の誇らしいナイトちゃん! 手紙を頂いたわ、ダブルだったんですって? もう巣立ちなんて寂しいけれど、私がわがままを言って勉強時間を減らしたらいけないわね。なにせ、ダブルはエリート中のエリートなんですもの!」

 

 ギュッと抱きしめてくるママ。嬉しいけど、巣立ちって嫌な予感がする。

 

「ダブルはみんなに先駆けて、寮生活になるのよ。マグル学と魔法使いの常識をみっちり学ぶの。呪霊退治をしながらね。頑張らないとね。明日はお休みを頂いたから、早速お買い物に行きましょう」

「僕、もうお家に帰れないの!?」

「ええ!」

「びえええええええええええええええ」

「泣かないの。今日はごちそうよ―」

 

 次の日。

 午前中はデパートに言って色々買い込んだ。

 午後は、魔法使いの商店街へと向かった。

 

 色とりどりのローブの者達が楽しげに行き交うのを見ていると、こちらも楽しくなる。

 魔法のお菓子や魔法の道具、動物たちなどお店を巡るだけで楽しかった。

 

「魔法界では、電子製品は使えないの」

「じゃあ、大変なんじゃない?」

「その代わり魔法が使えるから、便利さは同じくらいかしら?」

 

 メインは口座を作ること。

 それから、僕は自分で自分のお金を管理しないといけないらしい。

 ダブルは、魔法使いのお金と日本のお金の両方が支給されるらしい。

 生活費兼勉強費である。その代わり、一定年数魔法界に尽くすことが義務付けられる。

 

 奨学金ってやつかな。なんだか大変そうだ。

 

 その日はママといっぱい話し、そして次の日、泣きながら登校した。

 傑くんと輪くんも泣いたあとがあった。

 しょうがないよね。パパにも会いたかったな。

 今日から、僕達は寮生活だ。

 

 マグル界に用意されたマンションと、魔法界の学校の寮と、学校を行き来するようになる。呪霊退治もする事になった。

 

 傑くんの術式は、呪霊操術というらしい。呪霊を食べて使役し、操る能力だ。凄い。

 僕の術式は、血液を操るものだ。呪術師の名家の術式らしく、前田先生……おっと、前田さんがお茶吹いていた。

 

 傑くんと僕の術式はとても規格外らしい。でも問題もあるのだそうだ。

 術式はできるだけ隠したほうが良いと言われた。

 

 輪くんの術式は、反射らしい。でも、呪力が少ないからあまり反射出来ないそうだ。

 前田さんの術式は、硬化。呪力を流したものをちょっとだけ硬くするらしい。

 

 前田さんが教えてくれたのだけれど、一般家庭での魔法族は始祖でもあるわけで、強い魔法使いも結構いるらしい。しかし、呪術師で一般家庭出で強い人というのは、ありえないと言っていい。傑くんは例外中の例外で、基本、呪力の強い人の血を濃く継ぐ人ほど強い。これは絶対の原則で、だから一般出の輪くんと前田さんは弱くて当たり前なんだそうだ。

 

 呪力としては、傑くん>僕>前田さん>輪くんらしい。

 魔力としては、前田さん>輪くん>僕>傑くんだから、ほぼ逆になるみたいだ。

 成長も加味すると、大人になればちょうど逆になるだろうとのことだった。

 でも、それでも魔力は名家の血の濃さ故か、新鮮な血が混じったためか、平均より上だから安心していいとのことだった。

 

 それから、共同生活を始め、6年。

 その間、後輩が入ってくることは皆無だった。

 なるほど、僕達は希少なんだ。

 

 僕らが8年生になった時、ぼろぼろになった前田さんが、涙をにじませた少し幼い少年を紹介した。

 

「彼は中学1年生の直哉くん。遅咲きの始祖で、魔法処に通うことになった。お家は呪術師の名家でどうにもごまかせる未来が見えなかったから、神隠しにあってもらった」

「要するに脅迫と誘拐やろ! なんや魔力の暴発て! 当主になれなかったら責任どうとってくれるんや!」

「うん、急ピッチで魔力の制御を学んでもらわないといけない。この年になっちゃうと発音がね……。皆、助けてあげてね」

「はーい」

「うーん、地獄の呪専生活になりそうだね。禅院家の当主と同じ術式と加茂家の相伝術式……。加えて六眼の入学。ごまかせる未来が見えない……一芝居打つしかないかな。呪詛師を捕まえて……忘却呪文を使って……」

「嫌な予感しかしない」

 

 あっ でも、マグルのこと教えてもらえるかも! 仲良くなれたらいいなぁ、直哉くん。

 後二年で呪専に潜入だから、不安しかないよ。

 あっ 直哉くんは呪力も魔力も強いんだよ! 凄いなぁ。

 でも発音がダメダメだから、呪文は苦手。もったいないなぁ。

 



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潜入開始!

「今日は自画像を絵を描いてもらうよ」

「絵を、ですか?」

「そう。呪霊が現れた時に警告してもらう、とても大事な絵だ」

「警告ぅ?」

「魔法使いの絵は喋るのさ。ダブルが呪力を込めた書いた自画像は、呪霊を見ることが出来る。流石に撃退は無理だけど、警告は出来る。他にも、ダブルの血を使った魔法具とか色々あるよ。ダブルは少ないから、色々工夫するんだ。歴代のダブルの絵を見るかい?」

 

 ということで、今日は歴代のダブルとおしゃべりしながら絵を描くこととなった。

 御三家の血が入るのは、というか一般出以外のダブルが出るのは初めてらしい。

 魔法界にダブルの家系が出来るかもしれないと大盛りあがりだった。

 少ない人数と呪力を補うため、血を使ったり生きた魔法具にしたり大変だったらしい。

 

「なんや、血を抜くとか魔法具の材料にするとか、僕そういうのごめんやからな! 魔法力さえ暴走せんようになったら帰るし!!」

「一度魔法が発現したら、君の子は魔法使いになる可能性が高い。魔法界でダブルの家を建てたほうがいいと思うがね。援助もあるし」

「うええ」

「でも、直哉はマグル出だからね。魔法界の事を黙っているという縛りをしての帰還は可能だろう」

「なら帰るわ!!」

 

 そうだよね。おうちに帰りたいよね。

 直哉くんの話を聞いていると、呪術界って全然いいように思えないけど、それでも産まれた家だもんね。

 でも、最初はツンツンしてた直哉くんもだんだん馴染むようになってよかった。

 

 直哉くんが大蜘蛛に襲われた時、前田さんが助けたのが良かったんだと思う。

 前田さんを教師として認めたみたいだった。

 前田さんは呪術師としては弱くても、魔法使いとしてはとっても有能だしね。

 

 ちなみに、呪専を卒業したら、ペーパーカンパニーに就職してフリーの呪術師としてたまに繁忙期に仕事をする、みたいな感じになるらしい。

 

 

 

 

 

 

 夏油達は高校生の年齢に到達した。作戦開始である。

 入学は東京校。これは、六眼を避けるためだ。

 夏油と黒薔薇は前田の紹介で入ることとなり。

 花柳と禪院 直哉は、記憶を奪われてとある呪詛師と生活していて、呪詛師が他界する時に呪専に託した設定となった。

 呪詛師に誘拐・術師に救出される案もあったのだが、借りを作るのはやばそうだということと、僕が呪詛師でも冤罪で処刑されちゃうのは嫌だと言ったことで、方針を変更した。

 記憶を記憶箱という記憶を移す箱に移して、いざ実行。

 

「すみません。僕ら兄弟は、記憶を奪われて奪った人と家族をやってましたが、その家族が死んだので遺言で学校に来ました」

 

 そう、兄設定の花柳 兼道はインターホンに告げて待った。

 

 応対したのは一年担任の夜蛾教諭。被害者相手ということで、優しく応対して、引っ込み思案の弟も一緒に住めるよう申請をした。

 

 そして、入学初日。

 一応、直哉も顔合わせをしておきなさいということで、一年生の教室に座っていた。

 

「家入 硝子。誘拐されてて記憶もないんだって?」

「よろしく。外怖いんだろう? 買い物とか代わりに行くよ」

「僕を頼ってくれていいのですよ!」

「先輩たち、ありがとうな」

「皆ありがとう。頼らせてもらうよ」

 

 交友を温めていると、ガラッと扉が空いた。

 魔法使いたちは驚愕を隠せない。そこにいるのは。

 

「は? なんで加茂家と禪院の相伝がこんなとこにいるわけ?」

 

――こっちのセリフだ――!! 

 みんなの心が一つになった瞬間である。かといって流石に京都に行けば六眼がなくともバレていただろうが。

 

「なんだと? 彼らは誘拐されていて記憶がないそうなんだが」

「ウケる。加茂家相伝奪われてたのかよ。禪院家も、なにが神隠しだよ。お前直哉だろ? で、お前は兼道、だっけ?」

「確かに自分は直哉やけど……」

「五条 悟」

「すぐに禪院家と加茂家に連絡をしよう」

「あのっ……!! 黙ってるわけにはいきませんか? 記憶もないし、例え誘拐犯でも、僕達の父は1人だけなので」

「がっつり洗脳されてるじゃん。誘拐犯は?」

「亡くなったそうだ」

「死に逃げかよ」

「後は……へぇ、面白い術式ばっか。よろしくな」

 

 その日の午後には、禪院家と加茂家が迎えに来ていた。

 引っ込み思案設定の直哉は兼道の後ろに隠れる。

 

「直哉!」

「誰やおっさん」

「パパだ!」

「僕のパパは死んでるし。火葬して骨を海に撒いたから間違いないわ」

「証拠は隠滅済みか……。とにかく帰るぞ」

「嫌や! 東京校を卒業するいう約束をパパとしたんや!」

「まさか縛りか?」

「そうや。立派に卒業して、天国のパパを安心させるんや」

「お前のパパは儂だと言っているだろう!」

 

 

「貴方が、僕の本当の父……」

「そうだ、兼道。呪詛師のせいで私も君を覚えていないが、新たに家族となりたい」

「今はまだ混乱していて。東京校を卒業したら考えさせてください」

 

 ちなみに、記憶がないのを良いことに加茂家は兼道の父ではなく当主が父を名乗って出てきていた。

 

 縛りをしたなら仕方ないということで、東京校に通うことは許されたが、隙きあらば全力で連れ戻されそうだ。

 いや、この場合正義は呪術師側にあるのだが、それでは困るのだ。

 

 後、男同士で部屋に行って話そうぜ、という計画はポシャった。

 だって、初対面の男子生徒が集まるのにまさか五条をはぶれない。

 記憶は本当に操作してあるとは言え、根掘り葉掘り聞かれて戸惑う兼通と直哉を呆然と見つめるしかない傑と輪なのだった。

 

 なお、真面目ぶっているが短気すぎて煽るとすぐ突っかかってくる夏油と弱いのに五条以上に浮世離れして一般知識を自慢気に振りかざし、いかにも箱入りの貴族然として態度がでかい輪は、自制をした状態でもあっという間に仲良くなってしまい、気がつけば自然といつでも一緒状態になり、なおさら魔法使い勢だけでの接触が難しくなる事を魔法使いたちはまだ知らない。

 

 魔法使いたちの潜入入学は、波乱の幕開けを迎えた。

 

 



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初授業

 

「直哉、入学までの1年間はどうするのだ」

「兼道の部屋で大人しゅういい子にしとるよ」

「ほほう。加茂家の。 禪院の次期当主を囲うつもりか?」

「これはこれは、良い弟殿で! 弟ならば仕方ないのでは?」

 

 空気がピリッとする。

 

「やめて俺たちの為に争わないで! ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

「一年だけでいい。家にもどれ」

「嫌や!」

「弟は引っ込み思案ですし、知らない人たちの中に放り込むのは……」

 

 実際は魔法の特訓が必要なのだ。

 部屋で引きこもって特訓三昧させたい。

 だが、魔法使いたちの願いはかなわない。

 

「授業の時に一緒にいられるようにしましょうか」

「留年みたいになるから嫌や」

「逆に飛び級しますか?」

「いーや―や! 勉強とアニメで結構時間潰せるんやで」

 

 次期当主にそんな生活はさせられないのである。

 

「ならば、宿題を課そう。それが出来ねば連れ戻す」

「ああ、それは良いですね。教師を加茂から派遣しましょう」

「あの、困ります。本当に」

「別に良いんじゃねーの。攫われてたんだから、実家が心配して援助すんのは当たり前だろ。術式の知識とかためになるぜ?」

 

 五条の言葉に、ぐっと黙る。確かに、独学はきつい。それは重々承知している。

 

「しかし、本当に覚えていないのか?」

 

 直毘人が携帯で写真を見せていく。

 

「とーじくんや!!」

 

 直哉は目を輝かせた。なお、記憶は封印してあるので、素の反応である。

 

「は?」

「ウケる。パパ負けてんじゃん」

「この男を知っているのか」

「とーじ君強いんやで! 僕が連れてかれるときも、最後まで……???」

「……なるほど」

「もっと思い出せるか、禪院 直哉。誰に連れて行かれたんだ」

「よう思い出されへん……でもとーじ君は格好良かったんや!!」

「ならばこれを教師につける。この男からなら学ぶな?」

「ええの? 僕、頑張る! この人あれやろ、僕の本物のお兄ちゃんなんやろ! あんな必死に助けようとしてくれたんやし」

「ほ、本物のお兄ちゃん!?」

 

 ショックを受けて兼道が蹲る。

 

「甚爾お兄ちゃんをあまり悲しませるなよ。お兄ちゃんの所に帰るか?」

「捨てないで直哉!!」

 

 明らかに迷い始めた直哉に縋る兼道だった。

 なお、記憶を封印されているので直哉の反応は素である。

 

 そういうわけで、東京校は特別教師を迎え入れることとなった。

 

 

 

 

 翌日。

 

「あー。甚爾お兄ちゃんだ。とっとと禪院家に帰れ。あと俺は独り立ちしてるから」

「とーじ君! 僕も大人になったらとーじくんみたいにひとりだちするんや!」

「ざけんな、ぶん殴るぞ」

「手合わせしてくれるんか!?」

 

 死んだ目をした甚爾と裏腹に、直哉が好き好きオーラを出している。記憶を封じられている分、素直である。

 好意の矢印はどこまでも一方通行だが。

 

 直哉が戦闘訓練に勤しんでいる間、兼道は兼道で薬の山や弓の特訓に閉口していた。

 言うまでもないが、単純に弓は練度の必要な道具である。後、血を出すのしんどい。

 家系図とか含むいろんな勉強も入ってきて、ホント勘弁して。

 

「それで、はがきは50円切手、封筒は80円切手なのだぞ! この僕は前田さんに手紙を出したこともあるんだ! ちゃんと届くんだぞ、凄いんだぞ」

「輪はちょっと不思議ちゃんだねえ」

「お前も誘拐されてたんじゃねーの?」

 

 夏油、精一杯のフォローを硝子は切って捨てていた。

 

「俺だって手紙出したことあるぜ! ポストに自分で入れた!」

「なん……だと……」

「そこは同レベルで争うな、悟」

「冗談だよ。お前、面白いな。輪。雑魚なんて嫌いだったけど、お前は守ってやるよ」

「はぁ!? この僕が雑魚だと!?」

「(ちょっ 魔法を使っちゃ駄目だよ!)」

「ついでに傑も守ってやるぜ」

「は? この私が雑魚だって?」

 

 呪霊を出す夏油。お前輪を止めていたんじゃなかったのか。警報がけたたましく鳴る。

 

「騒がしいクラスだな、おい」

 

 タバコに火を付ける硝子。当然未成年である。

 

 夜蛾は胃を抑えてうずくまった。

 

 




あれ、主人公がもしかしてボッチ……?(焦り)

直哉と仲いい設定だったのですが……。


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1年生の夏

 夏! 繁忙期である!!

 前田さんこと前田 利彦はこの時ばかりは依頼を受ける。

 ちょうどスカウトされていた縁もあり、ちょうどよかろうということで、輪、前田、傑は同じ依頼に派遣されていた。

 ぶっちゃけまれによくある暗殺依頼である。等級違いです。呪霊が成長したんですというオーソドックスなあれだ。

 理由? 若様が夏油と輪にデレててイラッとした。それだけである。

 前田を巻き込んだ理由? 夏油と輪に会いに来た前田に兼道と直哉がデレてて某家と某家がイラッとした。それだけである。御三家全てを敵に回したのだ、当然の帰結だった 

 

 2級ということで向かった所にいたのは、ぱんぱかぱーん、念を入れて特級だった。

 ただ、悲しいかな。前田はあまり呪術界に深入りしていないので、わざとだと気づけなかった。もっと言えば、特級になっていることを上層部は気づいていないだろうと判断した。

 そして、前田は禪院家に殴り込みをかけて次期当主を攫ってきた男である。

 

「ステューピファイ(麻痺せよ)!! はい、夏油君取り込んで」

 

 傑は味を変える薬を飲んで、呪霊を取り込む。

 

「ふぅ。毎回こうだったら良いんですけどね」

「私は夏しか働かないしな」

「前田さん、僕ちょっと練習したい」

「いいよ。フォローする」

 

 そういうことで、何事もなく戻ってきた一行。

 ごまかせると思っているが、そんなはずがない。だって罠依頼だったんだから。

 

 上層部は賢いので、何度も同じ罠を仕掛けて怪しまれるような真似はしない。

 なので今度は前田と傑&輪ペアに分けて罠依頼を出した。

 流石に一年生単独依頼は怪しまれるので、出来ないが。

 

 結果はまさかの双方生還。

 今度は、他のメンバーと組み合わせて依頼を受けさせ、報告書を精査。

 

 結果。輪は弱い。若様への寄生虫。死ね。

 呪霊に襲わせた所、前田に助けを求めて、瞬時に現れた前田が呪霊を討伐。

 

 夏油。報告してない特級呪霊を取り込んでいる事が判明。恐らく前田経由。

 

 そういえば、前田は3級で夏しか働かず、ソロでの任務が多い。隠し事をしていると言っているようなものではないか。

 

 ついでに五条に確認。呪力術式共に雑魚。

 

 こうして、前田にお手紙が来たのである。

 

『この前の依頼は間違いで特級でした。ごめんね。でもお前も強さ偽ってたよな? 後ろ暗いところでもあるのか? 黙ってて欲しけりゃ傘下に入れ。それか昇級試験受けて高専に勤めろ。もし呪具のおかげだったら売れ。いい値で買うぞ。両方断れば査問に掛ける』

 

 前田は、ため息を付いた。

 魔法使い組に相談したところ、輪はストレートに五条に手紙を見せた。

 上層部には名家である。さすが輪、頼りになる。

 

「前田さんがこんな手紙もらって困ってるんだ。なんとかならない?」

「ウケる。めちゃくちゃだな。あれ、でも前田雑魚じゃん?」

「前田さんは雑魚じゃない。私が持ってる特級、全部前田さんが取り込ませてくれたものだし」

「マジ? あんな屑術式と屑呪力でどうやってんの?」

「あっ……」

「切り札見せたくないし弱い者いじめ大好きだから、昇級試験嫌なんだってさ、前田さん」

「なんだよそれ。俺も見たい。上層部魔窟だしさ、一度絡まれたらしつこいぜ」

 

 五条の様子に、輪はため息を付いた。どうやら、五条はまだ権力の行使は出来ないようだ。既に会議で決まったことなら、特定の人間を魔法で誤魔化してという方法も通じない。

 

「自分、パパに頼んだろか?」

「俺も赤井さん(加茂家の教師)に聞いてみる」

「……俺も実家に声かけてもいいけどさ、実家に借り作るの嫌なんだよな」

「ちょっと待ってて」

 

 輪は前田に電話をしてこそこそと話をする。

 

「前田さん、3人のこと描いてくれるって。三人揃ったのを三セット。前田さん絵が凄く上手いからさ」

「ほんまに? ええの? 嬉しいわ!」

「いいな! それぞれに着せたい服持ち寄ろうぜ!」

「はぁ……下手に描いたら承知しね―からな」

 

 ということで、まずは兼道の分を描くことになった。

 兼道が選んだ服は、魔女っぽい服である。

 直哉は着物。

 悟は制服を選んだ。別にケチったわけではなく、特別な学生時代を残したかったのである。

 

 当日、前田は大量の額縁を持ち込んだ。

 

「なんだよ、ここから選べってか?」

「いや、全部使うよ。これでも最低限に絞ったんだ。じゃあ、着替えてそこに座って」

 

 それから一日つきあわされた。五条はヘトヘトで、不機嫌である。

 しかし、見ている傑と輪はひたすら羨ましがり、硝子も興味深そうに見ている。

 直哉と兼道に至っては有頂天ではしゃいでいる。

 

「よし、描けた。どうかな」

 

 そこで、悟は唐突に気づいた。へばっているのはモデルが疲れたからじゃない。

 絵に呪力を取られていたからだ。

 絵の中では、イライラしている悟を直哉と兼道が宥めていた。

 絵が! 動いて! 喋っていた!!

 

「はあ!??」

 

 同じセットの絵は移動できるらしく、絵の中の悟はリビングや森を見て回り、ソファーに身を落ち着けた。

 

「時折、呪力を補充する必要があるのだけれど。御三家の友情の品ということで、そこもまた良いんじゃないかな」

「すご……」

「次は自分やで! この服着てやぁ!」

「私も疲れたから、明日ね」

「まえ……利彦」

「なんだい?」

「俺と傑と輪で描いて」

「「えええええええええええ!!」御三家の友情は!?」

「それも描いてもらうけど! お金出すからさ、同級生皆と、親友二人の二枚欲しい!」

「オレたちとの絵はいらないの!? 義務なの!?」

「悟くん、酷いわぁ! 自分は甚爾くんと描いて!」

「俺だって、俺だって、うわあああああああああああああ!!」

「泣くな兼道、兼道の金で私とツーショットで描いてもらおう? 私がもらうけどな」

 

 阿鼻叫喚である。

 

「一応、絵の具とかも特殊だしほいほい描けるものではないんだが……。そうだな。今回のお礼とは別に一年生と直哉、1人1セット描こうか。出世払いでいいよ」

 

 前田はもみくちゃにされた。

 そして、結果が以下である。

 

 悟……悟、傑、輪の三人。

 輪……悟、傑、輪の三人。

 傑……悟、傑。

 硝子……同級生皆。

直哉……甚爾、直哉、悟。

 兼道……同級生皆+前田+夜蛾。

 夜峨……同級生皆+夜蛾。

 

 人間関係が透けて見える事態となってしまった。

 結局前田は10セット描くことになってしまったのだが、次世代御三家の庇護を得られるのならプラマイプラスだろう。御三家の絵はそれぞれ実家へとお礼に贈られ、残りは部屋に飾ると手狭になるので学校に飾ることとなる。

 

 以降、校舎半壊事件がピタッと無くなり(絵が傷つくから)、夜蛾は胸をなでおろすのだった。

 

 罠依頼? 輝ける才能の前田様に仕掛けるわけがないでしょ!

 もっと若様描いてくださいお願いしますな〇〇家と〇〇家と〇〇家のおかげでむしろ前田の依頼は減った。

 代わりに絵を書いてほしいという依頼が殺到して、また前田は頭を痛めるのだが、それはまあ既定路線である。

 

 呪力が充填される限り、呪霊や侵入者を知らせてくれたり定時に起こしてくれたりする仕様が発見され更に大騒ぎになるのだが、その時には前田は雲隠れしていたのだった。

 夏が終わったからね。仕方ないね。

 そうして、罠依頼と絵のモデルで夏は過ぎていったのだった。

 



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1年生の冬

 五条と硝子は気づいた。気づいてしまった。

 

 前田 利彦。黒薔薇 輪。夏油 傑。花柳 兼道。禪院 直哉。伏黒 甚爾。甚爾の子供の恵と津美紀と前田の同級生の山田 健と上田 美穂。

 以上の10人で、冬に旅行に行くらしいと。

 

 仲間はずれに気づいた二人はSANチェックです。

 

「どういうことだよ! 傑!! 輪!! 俺も思い出作りしたい!」

「どこ行くんだよ、お前ら!」

「思い出作りじゃないよ? それに悟、硝子。私はちゃんと誘ったよ?」

「え」

「そーだっけ?」

「前田さんが個人的に受けた依頼のお手伝いで、依頼の後に縛りで忘れるのが大前提」

「ああ、あの怪しげなやつ? お前ら受けんの?」

「そうだよ。ほかだったら絶対受けないけど、前田さんの場合特別だし、縛りはよく練って結ぶし」

「口外禁止じゃ駄目なの?」

「前田さんの呪具お目見えするから駄目だって。まあ悟はこういうの関わらなくて良いんじゃない? 硝子だって警戒感持つのは大事だし」

「悟と硝子もいたら楽しいなとは思うけど、後から絶対何があったんだろうって疑うと思うし、それがきっかけで気まずくなると嫌だしね。今回はスルーしたら? 僕達は毎年行くし、そもそも僕は記憶を消さないけど」

「は? ずるい!」

「輪は前田さんの呪具知ってるからね」

 

 五条と硝子は、少し考えたあとに言った。

 

「俺も行く!」

「私も行く!」

 

 こうして、旅行に行くことになったのである。

 

 集合場所は人気のない公園である。

 もちろん、マグルよけの魔法をした上で、魔法使い組が導いている。

 縛りを結んだ後、姿現しの魔法で前田さんの家まで移動である。

 甚爾がついてきた理由? 直哉が言う事聞かないとお正月に実家帰らないって言うからである。

 

「ここ、もしかして利彦の家?」

「洋風なんだな」

「ちょっと待っててくれないか」

 

 そうこうしている間に前田は山田と上田に箱を出してくる。

 

「じゃあ、箱開けて」

 

 山田と上田は、箱を開けると脱力した。

 

「もうっ いい加減記憶抜くの止めない?」

「今更話さないって。縛りも結ぶからさ」

「そうだ、な。そろそろ、縛りを切り替えようか」

 

 気安い様子に空気が緩む。

 

「今回は初めての子がいるから、クィディッチ見学に行こうと思う」

「えー! 私、ショッピング行きたい!」

「美穂は私の金で持ち帰れもしないものを買い漁るのやめてくれないか」

「じゃあ、ちょっとでいいから持って帰らせてよ!」

「そうだぞ、聞いたぞ絵を描いたの! 俺たちの絵も持って帰っていいだろ?」

「それは……仕方ないか。後輩もできたし、少しなら持ち帰り許可できると思う」

「「やったー!」」

「じゃあ、着替えとお小遣いを入れた財布用意したから、男はここ、女の子はあっちの部屋で着替えて着替えて」

 

 はてなマークをつけた悟と硝子、甚爾と津美紀を導き、手早く着替えて姿現し。

 クィディッチの会場についた。

 

「何あれ何あれ何あれ! 魔法使いみたいなの呪術師があんなに!?」

「それが呪術じゃないんだなぁ。前田、魔法使いなんだよ」

「そうなの! 私達の自慢の同級生!」

 

 山田と上田は楽しそうに魔法界について解説する。

 

 へーほーダブルねぇ。

 輪も? なるほど、輪は魔法界の御三家かぁ。

 貰ったお小遣い、どれがいくら?

 

 そこに、会場での販売員が訪れる。

 

「魔法界のお菓子は美味しいんだ。バタービールはアルコールなくて甘くておすすめ。温まるよ」

 

 ということで、皆でバタービールやお菓子を買い込み、見学である。

 

「おおー! ゴールした!」

「これ、前田先生の写真じゃん。お菓子の写真に付くほど有名なの? すっげ」

「ダブルのシールは魔除けとして人気なんだ。絵と違って喋れないけど、呪霊が近づくと嫌がるからね」

「これ持ち帰れないの?」

「絵を書いただろ」

「持ち運べるじゃん」

「輪の写真もあるの?」

「卒業したら撮るよ」

「ちょこうごいたー!」

「マグルの世界のお菓子は動かないよね」

 

 きゃっきゃとはしゃぐ生徒達を尻目に、上田と山田はいい具合にアルコールで出来上がっていた。

 クィディッチを楽しんだ後は、お菓子屋、悪戯用品店を巡り、一晩パジャマパーティーをして記憶をそれぞれの記憶箱に封印、もしくは縛りをして解散である。

 子供向けコースにブーイングの山田と上田は無視です。

 

 普段ネグレクトされている津美紀と恵だがこの日ばかりは構い倒されて至福のときを過ごした。なお、記憶箱はお高いので、赤子の恵の分はない。

 

 さて、同級生のマグルを一年に一度だけ魔法界にご招待するのはダブルの特権である。

 ちょっとは旨味や思い出がないと、きつい仕事は出来ない。

 

 でも、ここで注釈が付く。

 

 今までは、一般出の呪術師たちばかりだから、問題は出なかったのである。

 

 五条と甚爾の表情の強張りに、情報収集されていることに、魔法使いたちは気づかない。

 バレたとしても輪だけ? いやいや、魔法使いのお菓子への反応で魔法使い組はバレバレですとも。

 呪術師のターン。今回は、情報収集で終わり。二人はおとなしく記憶を奪われた。

 




ココスキ、お気に入り、感想、誤字報告、評価ありがとうございます。

この話からpixiv版と分岐です。

魔法界にご招待してたルートと魔法界にご招待なしルートです。
https://www.pixiv.net/novel/series/7587762

分岐話
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15689353


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一年生のお正月

クリスマス。五条悟は、へばって机に突っ伏していた。

 それは硝子も同じである。

 

「なんかすげー疲れてんだけど」

「同じく」

「あれだけはしゃげばね」

 

 クスクスと夏油傑は笑う。

 

「なんで傑達は記憶消さないわけ? ずるい。俺全然覚えてないんですけど?」

「あはは。その内、口外禁止の縛りに切り替えてくれるよ、前田さんも」

「それっていつだよ」

「そうだね。卒業した頃にはお願いしておくよ」

「来年からにして!」

「一応、前田さんには言っておくけど、厳しいと思うよ?」

 

 そんなこんなで、魔法使いは気を緩めていた。

 

「クリスマスパーティーだけど、やっぱりクリスマスはケーキだよね!」

 

 ガラガラガラと音を立てて兼道に運ばれてきたのは。

 

「ケーキが動いてるー!?」

「なにそのクソ立派なケーキ! ウェディングケーキかよ!」

「前田さんからのプレゼントだよー♡ ケーキ入刀する人!」

「僕はやり慣れてるから、悟と硝子する?」

「ハイハイハイ! 俺が傑と入刀する!」

「私かい? じゃあプロポーズして」

 

 悟は流れるように跪いた。

 

「俺と最強になってください!」

「喜んで」

 

 俺達は大盛り上がりで、ケーキの入刀を囃し立てて、ケーキを切り分けて食べた。

 夜蛾は頭を抑えている。

 

「悟。ケーキはどんな理屈で動いているんだ。前田の術式か?」

「んー? 呪力ぜーんぜん感じない。なんか不思議な力だな!」

「不思議な力って……」

「前田面白い奴みたいじゃん? 上層部はどうするのかなっと」

 

 

 とことん他人事な五条悟だった。

 

 

 

さて、お正月である。

 

直哉と兼道は里帰りである。

格式のいい家のお正月行事に突撃。控えめに言って地獄だった。

直哉は甚爾にベッタリひっついて凌いでいた(凌げていない)が、兼道はそれすらできない。

終始隅っこで震えているだけで終わった。

 

 

冬休みが終わって、五条達に泣きついたのは言うまでもない。

 

「ウケる。実家なんだから、慣れろよ」

「簡単に言うけどさぁ」

 

 夏油と輪も魔法使いの家柄は良いので、ちょっとげっそりしてたりする。

 年始は散々なスタートとなったのだった。

 

 さて、一月も過ぎ、2月となった。

 バレンタインデーである。

 バレンタインデーである。

 

「夜蛾先生。私達、ちょっとバレンタインデーはいません。ホワイトデーもいません」

「なんでだ」

「前田さんと、チョコを作らねばならないので」

「チョコ。まさか生きたチョコか。何に使うんだ」

「よく分かりましたね。前田さんのご友人に配ると言うことで」

「また俺と硝子仲間はずれ!?」

「別に一緒にしてもいいけど、記憶の封印か他言無用の縛りが必要だよ」

「他言無用の縛りする!」

「はぁ。仕方あるまい。俺も一枚噛ませろ」

 

 そして、来たる2月14日。

 歌姫、冥冥も巻き込んで、バレンタイン騒乱が起こる事になるのだった。

 



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バレンタインデー

「みんなー! 恋人が欲しいかー!」

「おおー!」

「チョコが食べたいかー!」

「おおー!」

「素敵な恋人をゲッチュー できる、美味しいチョコを作るぞー!」

「おおおー!」

 

 

 と言うわけで、まずは記憶の返却である。

 

「思い出した! クィディッチ! お菓子!」

「そうだよ悟。今日は魔法薬学のレッスンだよ」

 

 傑はニコニコしてチョコを用意する。

 

「ちょっと待て、どういうことだ」

「えっと、前田さん達が魔法使いだったんです。魔法使いは魔法使いの学校に行くんですけど、呪術の才能を持ってる人は、呪専にも通う義務があるそうです」

 

 硝子が説明する。

 

「なるほど。そうなると、直哉くんを攫ったのは、直哉くんに魔法の才能があるから?」

「そうや。なんや、魔法使いが教育受けないでいると、呪霊みたいな存在になる危険があるんやて。それに、魔法使いの子供は魔法使いになる率が高いらしいんや。せやから、自分、もう戻れへんのや」

「いや、それは言うべきでしょ」

「魔法使いにも秘密規定あるしね」

「とんでもないことを知ってしまったわ」

 

冥冥の指摘に直哉が頷き、歌姫の指摘に輪が一言。

 

夜蛾先生は胃が痛そうだ。

 

一方、前田の同期の山田と上田は前田とはしゃいでチョコレートを作っていた。

 

魔法の鍋で煮るのと魔法を使うのは魔法使い組が。

材料を切るのは呪術師組が。甚爾大活躍である。

 

そんなこんなで、出来ました。

 

みんな大好き、蛙チョコ!

みんなドキドキ、愛の妙薬入りチョコ!

 

「できたぞー!」

「わあー!」

「試食するかー」

「いえー!」

「えっ ちょっと待て。これを配るのか!? そして食べるのか?」

 

 躊躇している内に、魔法使い組はきゃっきゃと言いながらチョコを食べる。

 そしてイチャイチャしだす。

 

「ねえ悟。大好きだよ♡」

「解毒剤だせ前田っ 」

「大丈夫だよ、魔法で解けるから。ほい」

「ふわ?」

 

 夢から覚めたように、ふるふると首を振る傑。そして、次のチョコに手を出そうとして悟に拳骨を落とされる。

 

「乗るしかない、このビックウェーブに!」

「女の子はやめときなさい」

 

 硝子が食べようとするのを歌姫は止めた。

 試食でキャアキャア騒いで、しばし。

 前田はラッピングを始めた。

 

「蛙チョコ一人10個、愛の妙薬入りチョコは一人一個ね」

「悟、いるかい? 私はいつでも手に入るからね」

「んー。両親にプレゼントするわ」

「弟か妹ができるかもね」

「やめて」

「直哉、お前の分は俺がもらうな」

「ええよー」

 

 そうして、ホワイトデーも同じようにはしゃいで。

 

 春休み、少し大きな会議が行われたのだった。

 

 縛りの扱いは、御三家ならお手のものである。



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番外編企画

主人公の秘密がテーマの作品は、ばれないのが一番いいとわかっているのですが、
ばれる瞬間が好きすぎてどうしても書いてしまいます。
10年間秘密を守るのを描写するとか絶対無理。

ということで、IFルートの番外編企画です。

希望者が多いようでしたら書こうかと思います。(期限明日の朝10時)
嘘です。多分誰も感想書かなくても書いちゃう。ただし一話で終わらせます。

ガッツリ書いてほしい方は感想ください。(感想乞食)
10以上の感想&コメ&マシュマロで「ハリポタ魔法使いが呪術師に正体バレしちゃったシチュ」でリク受け付けます。リクはマシュマロからどうぞ。
書けなかったらごめんなさい。(期限明日7/28AM10時)


お手数ですが、マシュマロの場合、番外編企画の一文をお書きください。
番外編企画の一文だけのマシュマロはご遠慮ください。
リクは公表するのでご注意ください。

匿名感想(マシュマロ)はこちら
https://marshmallow-qa.com/lucaluca


 交流会後。虎杖、釘崎、吉野は食堂で談笑をしていた。

 先輩のパンダ、乙骨、狗巻、真希に五条や灰原もいる。京都校メンバーも。手伝いの前田や七海もおり、歌姫、冥冥と人数は多く、それぞれのグループで固まりながら和気あいあいと話していた。

 

 五条は目元を緩ませる。

 5人もいて黄金世代だった五条の同級生は、2人死に1人離反し、今はもう硝子と思い出を語るのみだ。願わくばこの子達には少しでも長い青春と幸福を。

 

 そんな時、緊急ニュースがテレビで流れた。

 

『イギリスで魔女の存在が確認されました! 彼らは世界各国で独自のコミュニティを築いており、政府は苦汁を飲んで従っておりました。ですが、アンチマジックの技術が完成し、一斉蜂起となりました。その本拠地は……』

 

 全員の目が西宮 桃に向き、桃は慌てて首を振った。私しらない。

 しかしニュースに釘付けだ。

 

「ちょっとトイレ」

「凄いね、魔女だって。順平、何で震えてんの?」

「えっと、僕もお腹痛くてトイレ」

「ちょっと大丈夫? 腹痛の薬あるわよ。飲んでから行きなさい」

『既に多くの魔法使いを保護しておりますが、行き違いにより立てこもっている魔法使い、行方不明の魔法使いもおり』

「えっ 本当なの?」

「桃、なにか知ってる?」

「知らないよ! そもそも、これ、魔法? 目に映ってるじゃない、呪術じゃない」

「これも凄いけど、絶対魔法使い系の呪霊出るだろ」

「凄いね七海!」

「これは……凄いですね」

「こういうの好きそうじゃん。ニュース見てから行けよ。西宮にもさんざん絡んでたじゃん」

「ちょっと手を離してくれないかな、虎杖君」

「そうよ漏らしたらどうするのよ」

『立てこもっている魔法使いは夏油 傑、黒薔薇 輪、花柳 兼道、禪院 直哉と見られています。彼らはダブルという魔法使いのエリート中のエリートで、女性や子供を庇って警察を威嚇しており、政府は行き違いを是正すべく、粘り強い説得をしています』

 

 ぶーっ

 

「傑!? 輪!? 輪は死んだはずじゃ!!!」

「えっ 先生知り合い!?」

「同級生で親友!!!」

 

『魔法使いの1人が、前田さん早く来てと叫んでいるのが聞こえます』

 

 バッと見ると、前田が箒に乗って空へと逃亡していた。

 順平はと言うと、漏れちゃう離してと騒いでいるのを虎杖がオロオロしながら確保している。

 

 呪詛師、夏油 傑。再調査の結果わかった無罪。

 死亡したと思われていた禪院 直哉、花柳 兼道、黒薔薇 輪の生存。

 吉野 順平の部屋から得体のしれない未知の道具の発見と政府への引き渡し要求。

 

 控えめに言って大変な大騒ぎとなった。

 

 そして、魔法を無効化されて帳で守っているという村に、呪術高専一行が派遣されたのである。任務は平和的な説得である。

 



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番外編企画

とりあえずアンケ結果をサイレントマジョリティの意思を汲みつつ。

リクの方も書きますよ―! リク、及び感想ありがとうございます!


 様子がおかしかった順平を確保すると、上からの通達。

 政府から引き渡し要求があったけど、本人が抵抗したことにして事情聴取を。

 部屋を捜索して見つかったのは、妙な箱と動く写真のアルバム、あやしげな呪符だった。

 夏油達が随分楽しそうにしていますね。とりあえずこのアルバム没収ね。

 

「どういうことかな、順平」

「何も知らないです、信じてください!」

「何も知らないってことはないでしょう。じゃあ、どうして動揺していたのかな?」

「五条先生、これ多分記憶を封印している箱です。小さい時に直哉さんが使っているのを見たことあります」

「ふぅん? 順平、開けてみて」

 

 箱を開けると、戸惑って泣きそうだった順平の表情が変わった。

 

「うああ……」

 

 頭を抱えて、ちろりとこちらを見る順平である。

 なんでこんな事になったのかと言いたげだ。

 

「あの、その。ですね……クレイジーフォックス!!」

 

 叫ぶと、箒が飛んできて体当たりをしてくる。

 当然、そんな箒の体当たりでどうこうされる五条ではない。

 

 だが、順平もそんなのは知っている。

 杖を取り出し、口早に唱える。

 

「グレイシアス(氷河となれ)!!」

 

 氷が広がっていく。そして、出されていたいかにもな呪符に触れようとする。

 七海が咄嗟に政府から送られたアンチマジックを使うと、氷河は消え去り、順平は片膝をついた。

 

「嘘だろ、マグルめ……!」

「順平、どういうことなんだ?」

 

 虎杖は不安そうに順平を見る。

 

「どういう事も何も。僕らは、カッコウの卵ってことだよ。はっ 僕のマグルの演技は上手かっただろ?」

「マグルって呪術師ってことかな?」

「非魔法族って事さ、呪術師最強!」

 

 順平は式神を出してアンチマジックの機械を壊そうとする。もちろん、それを許す五条たちではなかった。

 

「うーん。あんまり生徒に手荒な真似はしたくないなぁ」

「順平。話してくれないか? 一体、何が起こってるんだよ」

 

 とりあえず縛り上げて五条が言って、虎杖が聞く。

 

「マグルなんかに話すことなんてない。いつか、こんな日が来るって覚悟もしてた」

 

 震えながらも、気丈にいう順平。追加の資料が来て、それを見ながら五条は言う。

 

「ま、大体の情報は政府から回ってきてるんだけどね。ダブルっていうんだっけ?」

「!」

「魔女狩りを恐れてるんだろ? ダブルの血肉はそれだけで有用って書かれてる。絶対に生きたまま捕らえろってね」

 

 順平の顔色が悪くなる。

 

「ぼ、僕は……」

「先生! 順平、助けてくれるよな!? お願いだ!」

 

 虎杖が庇う。

 

「ダブルは呪術界の管轄に出来るかもしれないし、その他の魔女についても口添えをすることは可能だよ。ダブルが協力してくれるならね」

「……僕は……あの人の所に帰りたい……! ま、魔法族だから迷惑がかかるかもって、天涯孤独って事になって、でも……! うちに帰りたい……!!」

「よしよし。傑たちについて話してくれるかな?」

 

 順平の涙を拭いて、五条は質問を開始した。

 

 

「あはは、呪術師来ちゃったよ」

 

 アンチマジックとやらの装置が、魔法使い達の体調を極端に悪化させていた。

 子供達は耐えられず、泣きつかれて眠っていた。

 正直、バレてしまった以上、大勢は決しているのだ。

 魔女達は迫害されて殺されるだろう。魔女狩りである。実際、他の国では既に掃討が始まっているところがあった。

 

 それでも。それでも、足掻くことを止めることなど出来ない。

 

「傑」

 

 例え、立ちふさがるのが最強の呪術師だとしても。

 かつて最強の名を分かち合った魔法使いは、友の前に立ちふさがる。

 

「やあ、悟。こんな形で会いたくはなかったよ」

「順平に聞いたよ。呪詛師になったのは偽装だったんだって?」

「まあね。そうでもしないと止められなかったから」

「……帰ろう、傑」

「それは出来ないよ。この子達を守らないと。……それに君はマグルだ」

「傑……!」

 

 傑は呪霊を出して攻撃した。

 

「悟……!?」

「これ、で。信じてくれるかな」

「悟、なんで無下限を切って……悟!! ヴァルネラ・サネントゥール! ヴァルネラ・サネントゥール! ヴァルネラ・サネントゥール!(癒えよ! 癒えよ! 癒えよ!) 魔力が乱されて……!」

 

 そして、傑が倒れる。

 

「あー、今降伏すれば、餓鬼共についてはなんとかしてやるよ。それとも、戦うか? 俺は五条の坊みてーに甘くね―ぜ」

「とーじくん……!」

 

 直哉はぐっと唇を噛む。

 

「そんな事言って……!」

「駄目や。とーじくんには勝たれへん。降伏しよ」

「前田先生……!」

 

 前田先生は、一瞬殺気を甚爾に向けると、苦渋の表情でこくりと頷いた。

 

「わかった。降伏する」

「……気が変わった」

「「「!??」」」

「本気で来いよ。俺を楽しませたら、もしくは俺に勝ったら餓鬼共をなんとかしてやるよ。前田。今思い出したわ。禪院家から直哉攫ったのお前だろ」

 

 甚爾の合図で、アンチマジックが止められる。

 

「ヴァルネラ・サネントゥール!(癒えよ!)」

 

 魔法を1つ悟に飛ばすと、前田は前に出る。

 

「エクスペリアームズ!!(武器よ去れ!)」

「直哉! 兼道! お前らも来いよ!」

「とーじ君、それは舐め過ぎちゃう?」

「勝つぞ、直哉!!」

 

 子供達が固唾を飲んで見守る中、激闘が始まった。

 

 



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番外編企画(終)

「ふん。エクスペリアームズは武器なしには無効だろ」

 

 甚爾は自ら武器を捨てた。そして、拳で勝負してくる。

 対して前田も負けてはいない。杖を振り、地獄の火を召喚する。

 

 華麗に避ける甚爾。だが、前田も伊達に直哉誘拐を成功させてない。

 その上、術式を使える直哉、輪、兼道が援護する。

 

 その一方で、傑は悟を抱き上げ、二人は語らっていた。

 

「なあ、傑。どうしても、僕が信じられない?」

「悟。前提が違うんだ。ずっと私は悟達を裏切っていた。これは、カッコウの托卵なんだよ」

「俺はさ。傑を友達だと思ってたけど、傑は違うの? 友達が困ってたら助けたいって、この気持ちも傑は嘘だって否定すんの?」

「悟……!」

「僕を信じてよ、傑」

 

 そんな真剣な説得の合間にも、どんどん戦況が推移していく。

 前田を蹴り上げ、踏みつけて、直哉の首根っこを掴む甚爾。

 Winner 甚爾!

 

「ふん。今度こそ、連れ戻すぜ、直哉」

「とーじくん。もしかして、気にしてくれてたん?」

「負けたのが気に入らなかっただけだ」

「甚爾くん……」

 

 直哉は、ポロポロと涙を溢した。

 

「本当は、自分。帰りたかったんや。魔法界は楽しいけど、それでも、それでも自分の家は禪院やもん。甚爾くん、ありがとう」

「ふん」

 

 そうして、魔法使い達は、無事呪術師に鎮圧・保護されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「私は、輪と生徒達と共に五条家に従うよ」

「自分は家に戻るわ。前田さんもうちで保護することになったわ」

「俺は加茂家かぁ。寂しいよー」

 

 バラバラに御三家に分けられてしまった魔法使いである。

 

 

「魔法凄いじゃん。傑、輪。こんな色々出来るわけ?」

「まあね。今は君の捕虜なんだから、君の望む魔法を何でも使うよ」

「どーしよっかなー。じゃあ、蛙チョコ、一緒に食べてよ」

 

 にこりと笑った悟に、傑も輪もほっとしたように笑う。

 なんとか融和は上手くいきそうである。

 

 

「お前が直哉を攫った男か!」

「はいはい、そうですよ」

 

 当主を前にやや投げやりな前田先生。心配そうな直哉を、真希は小突く。

 

「しっかりしろよ、こいつ誘拐犯なんだろ」

「そうは言っても、自分の恩師なんや……」

「直哉さん、魔法いっぱい見せて」

 

「よく、直哉の性格を矯正した! 礼を言う!」

「そうはならんやろ!?」

 

 禪院家は禪院家で、なんとかなりそうだった。

 

 

 

「次期当主の座は渡しません」

「むしろなんで魔法使いに当主がやれると思った」

「当主の座を狙わないのですか?」

「いや、魔法界で俺、結構家柄良いし。呪術界の地位はいらないかな」

「そうか。それならうまくやっていけそうだな。私の名は……」

 

 加茂家もなんとか問題なし。

 

 そうして、日本はうまく魔法使いを取り込み、躍進の時を迎え……

 

 

「どこに隠れていたかと思ったら、魔法使いなんだぁ、夏油傑♡ いいね、器にしがいがある」

 

 ついでに、動乱の時も迎えようとしていたのだった!



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IF小話離反もの(一話完結)

別の話ですが、オカルト研究部でSAN値を削ったので回復剤を投与します。


 

「傑達が離反した!?」

「俺にも何だなんだかわからんのだ……」

 

 一体、傑に何があったというのか。

 すぐに予告状が届いた。

 

『次の満月の日、隠蔽に優れた目の前の人間の恐怖する姿を取る呪霊を1000体放つ』

 

 傑……! 一体どうして。

 全く状況もわからず、ただ、恐怖する姿を象る化け物が東京中に現れたのは本当で。

 俺達はその処理に追われた。

 化け物は、呪霊じゃなかった。呪力によるものじゃない。本当に、何があったんだ。傑。

 それとは別に、化け物を倒す呪術師以外の者達も現れたようだった。

 

 記憶を消す術などを使ってくるが、監視カメラと逃げ延びた呪術師の証言で判明した。

 

 黒尽くめで顔を隠した彼らは、リディクラス! と唱えて、化け物をコミカルな姿に変える。そして、笑い飛ばすと化け物は消えてしまうのだという。彼らの言葉で、ボガートという名前もわかった。

 

 幸い、普通の攻撃も効くので、俺達は順調に化け物を退治していた。

 そして、俺は顔を隠した傑とかちあった。声は違ったけど、すぐわかった。

 傑は俺には気づいてないみたいだ。

 民間人を庇い、傑がボガードの前に身を躍らせる。

 傑の前に、俺が……俺が現れた。傑が恐れるのは俺?

 

「傑……俺は一人で最強になった。もう、お前なんか親友じゃないよ」

「なっ……! 私は!」

 

 それを見て、俺は胸を打たれた。悟が恐れるものって、俺に置いていかれること?

 

「そもそも、お前、魔法使いじゃん。マグルの俺と一緒にいられると思うの? おっえー! 呪力以外の力を使う生き物なんてキモチワル」

 

 魔法使い? だから俺から離れた?

 

「さ、悟……」

「だいたいさあ、傑、自分が強いなんて言うの、強がりだよね?」

「だ、黙れ! 黙れ黙れ黙れ! 悟がそのつもりなら、私だって……」

 

 俺はそのつもりじゃねーよ! つーか、目の前で変身していたの見てたろ!?

 ていうか、なんだよ! なんだよ!! 俺とは似ても似つかねーし! ……すっげ、美化されててキラキラ輝いてんだよ。お前には俺の事、そういうふうに見えてんのかよ。

 

「本当は、非術師もマグルも恐れているくせに。怖いんだろ。少数派であることが。迫害される対象であることが。そうだよな、バレたら問答無用で魔女狩りだもんなぁ! 魔法使いがこんな問題起こしたんじゃ、呪術師との対立は不可避だ。そもそも、融和とか共存とか、端から無理なんだよ!!」

「そんな事、わかってる!! 消えろ! リディクラス!! リディクラス!!」

 

 全く出来てないのは俺でもわかる。そっか、傑はそんな事をそこまで恐れてたのか。

 

「魔法使いで呪術師だ? エリートだ? ダブルだ? 生贄を綺麗に言い換えただけだろ? そんなに魔具にされて永久に魔法界に奉仕させられるのが誇らしいかよ」

 

 助けを求めてくれよ、傑。俺は最強だから、二人で最強だから、きっと助けてやれたのに。いいや、今からだって間に合うんだ。

 

「黙れ!! リディクラス!!」

「お前は最強なんかじゃない。傑。最強なのは俺だけ。お前は、単なるゴミクズ……」「俺の親友にやめてくれる? 傑は、俺の最強で唯一の親友だよ。魔法使いだ何だって、関係ねーよ」

 

 俺は進み出て、傑の方に手をやる。前には出ない。傑自身に、決着を付けさせてやりたいと思うから。

 

「悟……? ボガートがもう一体いたのか」

「あのな。はあ、もういいわ。傑。あんな偽物より、俺の言葉を聞けよ。何も恐れる必要なんかない。俺がお前を嫌いになることなんてね―よ。喧嘩はしても、たった1人の親友だろ。この手のぬくもりだけを信じろよ。ボガートだってきっと倒せる。お前は、俺の、最強の親友だから」

「悟……!! リディクラス!!」

 

 そして、俺の姿をしたボガートは笑った。

 

「傑、お前は俺の唯一の親友だよ。嫌いになるなんてありえない」

 

 先程まで涙をにじませていた傑は、笑みを浮かべる。

 

「はは……ありがとう、悟」

 

 ぼふっとボガートが消えた。

 

「こっちの悟も、ありがとう」

 

 傑は笑う。

 

「あれ? 消えない。リディクラ」

 

 俺は杖を奪い取った。

 

「事情を教えてもらおうか、傑」

「え? え? まさか、本物?」

「そうだよ。偽物との区別くらいつけてくれよ、傑」

 

 傑の顔が真っ赤になる。

 

「み、見られ……!!」

「とにかく、事態収集に駆けずり回ってるってことは、お前のせいじゃね―んだろ。洗いざらい話せよ」

 

 正直、今捉えても傑を庇いきれるか五分五分だけど、このままでも生贄にされるというのなら、賭けてみるほうが良い。

 

 俺だって、傑とずっと親友でいたいよ。

 

 

 その後、無事魔法使いと呪術師との協定が結ばれることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃の直哉

 

 

「直哉! 落ちつけ、怖いと思えばなおさら怖くなる!! うわああああ!!」

「冷静に考えれば考えるほど怖いわ!! リディクラス! リディクラス!!」

「しっかりしろよ、直哉! 中学二年生の課題だぞ!! え!? げええええ!! パワーアップさせるなああああ!!」

「ごめん、自分その課題落としてうわああああああああああ!」

 

 魔法使い達は名状しがたき化け物に大パニックに陥っていた。

 

 怖い化け物が一度出れば、恐怖が伝染して大変なことになる。

 今まさに、大変なことになっていた。

 全てアニオタで無駄に知識があった直哉のせいである。

 

「的が大きくてやりやすいな」

 

 そこに駆け込んできた甚爾が思い切りぶん殴る。

 

「とーじくん!!」

「なーにベソかいてんだよ、御三家のお坊ちゃんども。っていうか中2の課題かよ」

「とーじくん! とーじくん!!」

「直哉、今のうちに!」

「うん、兼道!」

「「リディクラス! バカバカしい!!」」

 

 コロンと小さくデフォルメされて、二人が笑うとボガートが消えた。

 

「っと、別にこのままでも倒せたんだがな」

「おおきに、とーじくん! 次行くで、兼道!」

「おう!!」

「待てよ、俺も連れて行け。一匹退治するごとに報奨金が出るんだ」

 

 ということで、ボガートの駆除はスムーズに進んだ。

 

「とーじくんはやっぱり最強やなぁ。さすが自分のお兄ちゃんや」

「は? その設定まだ信じてたのか。で、お前ら連行させてもらうぞ。夏油も捕まった」

「意外やな」

「悟に変わったボガートにベソ欠かされたらしい」

「ああ、悟くんと喧嘩しとったから……」

「中学生の時、闇の魔法に対する防衛術の期末試験トップだったのに」

「言うても偽物やろ?」

「輪だってボガートに落第だって言われて泣いてたじゃん」

「ふーん……。お前ら、助けてやったんだから、学生生活喋れよ」

「聞いてくれるんか!? あ、でも話したら駄目やって……」

「お前らは尋問されて仕方無く吐かされるんだよ。つーか夏油が吐いてるから同じことだ」

「そうやな。そうやな! 初めて箒を乗ったときな……」

「失敗談を中心で頼む」

「露骨に弱みを握りに来たな……」

 




魔法使いって結構単純ですよね。
ボガートだってわかってるのに、ハーマイオニーが成績について言われて
大ショック受けたりとか。


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何番煎じネタ【妹が】猿だと思っていた妹に猿と呼ばれた件【魔法使い】

こんな話があったら読みたいのでどなたかご紹介願います。
多分誰かはきっと書いてると思うんだ。


一つの村を皆殺しにし、私は非術師の皆殺しを決意した。

まず初めに、枷となる両親と妹を殺しに行こう。そう決めて、妹に電話を掛けようと携帯を取り出した。

まさに電話を掛けようと思っていた時、電話が鳴る。妹だ。

 

『お兄ちゃん! 今夜、一緒に家族でご飯食べない?』

「いいね。ちょうど私もそう思っていたんだよ」

 

 妹は何も知らずに声を弾ませていた。ちょうどいい。

 

 非術師は猿。猿は駆除せねばならない。

 

 私は、美々子と奈々子と共に、実家へと急行し、家に入った。

 間抜けにも、両親はご馳走を用意して待っていてくれた。

 最後の晩餐なんてするつもりはない。

 家族が揃い次第、消す。

 ニコニコと表情を取り繕って、非術師への嫌悪感を押し隠して。

 ようやく、妹が来た。

 

「お兄ちゃん!」

「優!」

 

 揃った。見知らぬ幼児の非術師2人を引き連れているようだが、どうでも良い。私は笑った。優も、笑った。

 

「「死ぬがいい、猿め!!」アバダ・ケダブラ!」

 

 全く同じセリフで。

 全く同じ感情……殺意がぶつかりあう。

 

 私が出した呪霊は、妹が杖から出した緑の光で消し飛んだ。

 

 妹は眉を顰める。

 

「何故当たらないの? これは最強の死の呪文だというのに」

 

 そうして、もう一度杖を振る。

 

「アバダ•ケダブラ!」

 

 私は呪霊を盾にすることでそれを防いだ。

 私は妹を信じがたい目で見る。

 妹は私を信じがたい目で見る。

 

そして、言葉が重なった。

 

「「……何者?」」

 

 慌てた両親を私は、呪霊で父を、妹は杖からの光で母を殺す。

 

「お兄ちゃんも魔法使いなの?」

「私は呪術師だ」

 

「「……」」

 

 

「呪術師って何?」

「魔法使いってなんだい?」

 

 

 言葉が重なる。

 

 私と妹は同時に首を振った。

 

「どうだっていいのよ、そんなこと」

「ああ、確かにどうだっていい。そんな事」

 

「お兄ちゃん。私ね。村一つ皆殺しにしてきたの」

「えっ 優もか。私もだ」

「えっ お兄ちゃんも?」

 

「……」

「……」

 

「まさか、迫害された子を救う為か」

「そうよ。まさか、お兄ちゃんも?」

 

「……」

「……」

 

 

 

「「キッショ!!」」

 

 

 え? 嘘? そんな偶然あるのか!?

 

 まるで鏡写のように状況が一緒とか!!

 

 純粋に気持ち悪い。

 

 私は、焦ったように妹と情報交換をする。

 

 

 あまりに状況がそっくりすぎて運命がバグっているとしか思えない。

 

 

 双子でもないのに!?

 双子でもないのに!!

 

「あー。とりあえず、お兄ちゃん。色々漁って家こない? それとも潜伏先用意してあんの?」

「ああ、目星はついているけど、直近の宿泊先は決めてないかな」

「行き当たりばったりがすぎるでしょ。説明ついでに泊めてやるから、洗いざらい話しなさいよ」

「こっちのセリフだよ」

 

 

 

 

 

この後、2人でめちゃくちゃ悪役した。




夏油 傑
非術師大嫌い。
でも自分も別の業界では非術師な事を知った。
女の子を2人保護している。
マグルを支配できると思っている妹は馬鹿だと思っている。
あと、魔術師も文明遅れの馬鹿だと思ってる。
何故か妹と一緒に行動している。
思うところはあるが、一つの村を皆殺しにしていて後戻りできない。
最強の呪術師の親友がいる。

夏油 優
マグル大嫌い。
でも自分も別の業界ではマグルである事を知った。
男の子を2人保護している。
非術師を皆殺しにできると思っている兄は馬鹿だと思っている。
あと、呪術師も望んで奴隷になるマゾやろうだと思っている。
何故か兄と一緒に行動している。
思うところはあるが、一つの村を皆殺しにしていて後戻りできない。
最強の魔術師の親友がいる。

両親
2人の争いの余波で死んだ。


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【ネタ2】親友が並行世界で魔法使いしてた件

廃墟で、呪霊と戦っていた時。

扉が現れて、そこから箒に乗った大きなトランクを抱えた白いワンピースのガタイのいい人が現れた。

その人を追って、黒いローブの変なのが複数現れて、追いかけてくる。

幸せな気持ちが蝕まれていく感覚。

 

「釘崎! 伏黒! 近づくな、ちょっと変だ! 俺はあの人を助けに行く!」

「虎杖!」

「無茶すんな!」

 

その時、襲われていた人が杖を振った。

 

「エクスペトパトローナム!」

 

 白く輝く狐が現れると、黒いローブの化け物を追い払う。

 呪霊が近づいて襲ってくるのに気づいてない! 見えてないのか?

 釘崎が釘で攻撃して、呪霊が消える。問題ないな、よし。

 俺が黒いローブのふよふよに駆け寄って殴りかかると、「ばかっ」と声がして、俺は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 口の中で何かが暴れる。

 噛み砕いて食べた。チョコだ。「げっ」と声がする。

 

「もっと、チョコ食べて。危なかったんだよ。危うく幸せな記憶を全て吸われて廃人になる所だった」

 

 目を開けると、綺麗な男の人がいた。白いワンピースだ。女装かな?

 

「あの敵は……」

「なんとか扉の外に押し返したよ。巻き込んでごめんね」

「チョコってそれがですか」

 

 伏黒が指差すのは、ゲコゲコと鳴く茶色のカエルだ。

 えっ まさかさっきのあれって!

 

 吐き出そうとする前に、その茶色のカエルを口に捩じ込まれる。甘い。美味しいけど!

 それでも口に入れた以上は、噛み砕いて食べてしまう。

 

「ホットチョコがあるといいのだけれど。ディメンターに襲われたら、ホットチョコを飲んで温まって、遊びに行くのが一番だよ」

 

 そう言いながらも、パキンと蛙チョコを割って自分の口に含む男の人。顔色が真っ青で、俺もなのかな。

 

「遊びに行く?」

「幸せな記憶が吸われてしまうから、廃人化を防ぐ為に幸せな記憶の補充の必要があるんだよ」

「それより、チョコってなんでもいいわけ? だったら得体の知れないチョコじゃなくて、ちゃんとしたチョコ買ってくるわよ」

「頼む、釘崎」

 

 動くチョコはご遠慮願います。

 

「えっと、君達は、魔法使い……ではないよね」

「違うけど」

「私は、記憶を消す魔法が下手で、下手したら君達の全ての記憶を吹き飛ばしてしまうかも知れないんだ。だから、私の事を黙っているって約束をしてほしい」

「その前に、あなた夏油傑じゃないんですか」

「私は夏油 傑だよ。でもなんで知ってるんだい? もしかして、悟の知り合い?」

「術式は呪霊操術って話でしたけど」

「何それ? 術式? 私の得意魔法はエクスペリアームズだけど?」

 

 本気で戸惑った様子を見せる。

 

「貴方の知ってる悟と俺の知ってる悟が同一人物か知りたいんで、五条 悟について聞かせてくれますか?」

「魔法貴族の御三家が1人、五条家の御曹司で、最強の魔法使いだけど? あっ 写真あるよ」

 

 そして、写真を見せてくれたので俺と伏黒は顔を寄せた。

 ピンクの可愛いワンピースを着た3人の子供がいた。

 間違いない。五条先生と目の前の人の子供の頃だ。

 ぴ、ピンクのワンピース……!

 

「何これ、先生めっちゃ可愛い」

「パラレルワールドってやつかな……。とりあえず、先生に連絡する」

「あの、君ら魔法使いではないんだろう? なのになんで悟を?」

「ここは異世界だ。多分、こっちの世界に魔法使いはいねーよ。その代わりに呪術師がいて、俺らはその呪術師」

「そう、なのかい? マグルは頭が良くてすぐ騙してくるって聞いたよ」

「マグルって何?」

「非魔法使いってこと」

「俺は五条先生の知り合いを騙さねーよ。先生がなんとかしてくれるって」

「君ら、悟の教え子なの?」

「そう!」

「……私も悟に連絡してもいいかな」

「出来るんですか?」

「魔法の手鏡を持ってる」

「一応、先生が来てからにしてください」

 

 伏黒が携帯を取り出す。伏黒が並行世界の夏油さんって言った瞬間、先生が「飛んで」きた。

 

「それ、マグル学で習った! 携帯っていうんだろ」

「今はスマホっていうんですよ」

「傑、何女装してんの?」

「??? 別に女装なんてしてないけど? 悟こそ、何? その服。マグルみたいだよ」

「並行世界だとこの服装が男女ともにスタンダードみたいです。マグルが非術師の別名で、これ写真」

 

 写真を覗き込んで、先生は笑った。

 

「ウケる。みんなピンクのワンピースじゃん。すげー可愛い♡」

「へ、変かな? マグル出身の魔法使い達は皆ピンクのローブ嫌がるんだよね」

「「「変」」」

「チョコ買い占めてきたわよ!」

「チョコ?」

「虎杖が変なのに襲われて。そいつはもう追い払ったんですけど、夏油さんと虎杖が顔色悪くて。治療法が、チョコを食べることと、温まることと、幸せな思い出を作る事だそうです。なんか、幸せな記憶を吸うディメンターって化け物だそうで」

「わかった。呪専に戻って休もうか。傑もおいで。帰る方法は調べてあげるから、色々聞かせてよ」

 

 それから、俺は釘崎が買ってきてくれたチョコを食べて、暖かくして寝た後、皆でゲーム大会をした。

 楽しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これがマグルの学校……。動く絵とかはないんだね。セキュリティ大丈夫?」

「しっかりしてるから大丈夫だよ」

 

 チョコと毛布を与えると、傑は大人しく毛布に包まってチョコを食べる。

 

「荷物はひとまず預かるよ。杖もね」

「杖は駄目だ! 私は悟と違って杖なしの呪文が苦手なんだよ」

「だから預かるんでしょ」

 

 杖を預かると、お風呂に入れて着替えを渡して着替えさせる。

 荷物は服も含めて全て没収である。

 ただし、鏡は残した。通信用と聞いていたからね。

 

 傑は鏡を受け取って呼びかける。

 本当に僕が現れたよ。しかも金のローブとか趣味悪www

 

『傑!! 良かった、無事か』

「悟! こっちはこちらの世界の君に保護されたから大丈夫だよ。そっちは大丈夫かい?」

『かなり荒れてる。そっちが大丈夫そうなら、落ち着いてから迎えを寄越す』

「わ、私だって戦えるよ!」

『あの時、庇って代わりに罪人になった。それで十分だ。それにお前、怖いって言ってたろ。半端な気持ちじゃ帰って足手まといだ』

「戦うのは怖くない!!」

『でもマグルは怖いんだろ』

「そ、れは……」

『お前のエクスペトパトローナムってイマイチ弱いし』

「ううっ」

『自信がないからそうなんだよ。魔法力は俺より強いんだから……時間がない。しばらく通信できない』

 

 そして、鏡は沈黙する。

 

「傑、非術師怖いの?」

「悟は、魔法界を公開するために動いてるんだ。もう、隠すのは不可能だって。だから、少しでもいいタイミングで公開するんだって。私は……今の毎日が続けばいいのにって。でも悟はそれは無理だって。それで魔法会でも意見が割れて、どんどん政情不安定になって……」

「ふぅん。怖いのは、理解できないからじゃない? 良かったら、マグルについて教えようか?」

「いいのかい?」

「どうせ監視は外せないしね。僕の世界では、君は犯罪を起こしてる。君と違って冤罪じゃない」

「わかった……。でも。杖は返してもらえないかな?」

「だから、駄目だって」

「でも……その……私、杖がないと、その……さ、悟には言ってないけど、私、その……わかるだろ?」

「わからないね。僕マグルだし。はっきり言えよ。僕も忙しいんだ」

「も、漏らしちゃうんだよ」

 

 顔を真っ赤にして傑が言う。

 

「はあ?」

「魔法力、漏らしちゃうんだ。物が浮いたり、消えたり、瞬間移動したり。杖で定期的に魔法使わないと」

「術式コントロールしきれてないって事? 10歳くらいで普通暴走は防げるようにならない?」

 

 傑はプルプル震えながら涙を滲ませる。

 

「そ、そうだよ! 普通小さい子だけだよ、そんな事する魔法族は! でも仕方ないだろ、魔法力多いと大変なんだよ! 悟だって魔法力多いんだからわかるだろ!?」

「そっちの僕もお漏らしすんの?」

「しない……するわけないだろ、あんなに魔法力強いのにあんなに精密に魔法使うんだぞ」

「ウケるwww じゃあ、傑頑張んなきゃじゃん。僕教師だしさ、色々力になれると思うよ?」

「魔法使いじゃないんだろ?」

「でも呪術師だし」

「うー。うー。お願い、します……」

 

 翌日、めちゃめちゃ魔法の特訓した。

 

 

 



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親友が平行世界で魔法使いをしていた件2

 

「だからこの傑は呪術師じゃないって言ってるだろ」

 

 俺は腐ったミカン共に苛立ったようにように話す。

 すると腐ったミカンは証明してみせろと言うことで傑と呪霊を戦わせることになってしまった。

 何かあったらすぐフォローできるように側にいるとはいえ心配だ。

 連れてこられた傑は、不安そうにキョロキョロと周囲を見回す。

 

「この人達は、本当にマグルなのかい?」

「厳密に言えば、マグルではないかな。さっきも説明したように、この世界には魔法使いの代わりに呪術師という存在がいる。ゴーストは君の世界にもいるって言ってたよね?」

「居るよ?」

「それらを倒す仕事をしてる」

「可哀想じゃないか! いや、確かに彼らは悪戯好きだけど……! 私もいなくなっちゃえとは思うことはあるけど、死んじゃえなんて思わないよ!?」

「こっちのゴーストは人を殺すんだよ」

「そんな、まさか! もっとも意地悪なゴーストだって、人の生き死には関わらない」

『なんでもいい。見れば分かるだろう』

 

 呪霊が放たれる。それは2級クラスだった。話が違う。傑を庇う。

 

「4級という話でしたが」

『こちらの呪術師に相当する魔法使いなのだろう。身を守る方法もあると聞いたし、武器も持たせてやった』

『庇うには早すぎるのではないか?』

「えっ もう来ているのかい? 誰もいないじゃないか」

 

 傑は僕の視線を追おうとして、目隠しに気付いて困ったように視線を彷徨わせる。

 呪霊が攻撃をしてきて、僕が庇う直前、呪霊は何かに弾かれた。

 

「な、なんだい!? 何かいるのかい?」

 

 不安そうに、傑は杖を振る。

 

「プロテゴ!(守護)」

 

 透明なシールドが現れる。さらに呪霊が攻撃する。

 

「や、やめな! アパレシウム!(姿を表せ!)」

 

 もう一度杖を振る。何も起こらなかったように見えるが……。

 

「わあああああああああああああああ!! エクスペリアームズ!!!!!」

 

 明らかに呪霊に気づいて怯えた傑が、杖を振るった。

 太い光が呪霊を吹き飛ばし、傑は腰を抜かしてほうほうの体で僕の後ろに避難した。

 あーあ。壁が壊れちゃってる。

 

「あ、あの。悟」

「うん」

「私、呪、呪霊さんのこと、殺しちゃったのかい?」

「心配しなくていいよ。説明が悪かったね。害虫みたいなもの……いや、知性すらないものが大半だしそもそも生き物ではないよ。だから殺すじゃなくて祓うっていうの。ちゃんと祓えているよ」

「そ、そう? なら、良かった……のかな」

 

 そうして、腰を抜かして僕の足に隠れながら、そっと杖を振った。

 

「レバロ」

 

 壁が動いて修復されていく。すごいね。

 

「でも、悟。やっぱりマグルの前で魔法使っちゃダメなんじゃあ」

「呪術師は例外って事でいいんじゃないかな。そもそも、あくまで向こうの世界の法律だし。でも、非術師の前では魔法は使わないでくれると助かるかな」

 

 手を貸して立ち上がるのを手伝う。

 しかし、まずいことになったかもしれない。

 

『確かに、夏油特級呪術師ではない事は認める』

『こんな醜態を晒すわけがないからな』

『しかし、呪霊は倒せる』

『魔法とやらを使えば見えるようにもできるらしいな』

『禪院真希が呪術師をやっているのだ。良かろう』

『監視することは絶対として、呪術師として受け入れるのはいいのではないか。ひとまず、一級術師に』

「彼は呪術師ではありません。呪術規定に反します。しかも一級術師? ありえない」

『だが、魔法使いなのだろう』

『何やら、色々できそうではないか。夏油特級術師よりも使えるかもしれん』

「これは僕が監視し、呪術界関係なく、僕個人として保護します」

『それは容認できない』

『そもそも五条 悟の保護下に置くのはどうかと思う。こちらで誰か見繕う』

 

 くっ 

 結局、傑は呪術師としての仕事をする事になってしまった。

 僕の監視下に置くことはなんとか押し切ったけど……。

 

 守り切れなくてごめん。

 

「悟。負担掛けちゃったみたいで、ごめん……」

「いや。僕こそ、守りきれなくてごめんね。となれば、今日にでも戦闘訓練をしないと。武道の経験はある?」

「マグルがする奴だろ?」

「うーん、前途多難……。運動とかはどうしてたの?」

「走ったり、重いものを持ったり、アスレチックをしていたよ。後は悟に言われて、飛んでくる物を躱す練習はしたよ。ドラゴン環境保護区で働きたかったし、それには力や体力がないとできないからね」

「なるほど。戦闘訓練はどんなのを?」

「私はプロテゴを無言呪文で張れるんだ。後は早口言葉とかかな」

「わー……。基礎の基礎からだね。とりあえず、真希に任せようかな。でも今、留守なんだよね」

 

 ということで、改めて一年生と引き合わせる事となったのだった。

 この傑は、僕が守ってあげないとね。



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親友が並行世界で魔法使いをしていた件3

「武術なんてマグルのする事だろう? ずっと昔は魔法使いも剣とか使ってたらしいけど」

「じゃあ、恵。よろしくね」

「はい。夏油さん、よろしくお願いします」

「殴る蹴るなんて、蛮族じゃないか。野蛮だよっ」

 

 杖が没収され、腰が引けている夏油に恵は遠慮なく殴りかかる。

 とはいえ、本当に当てはしない。

 

「避けるのは何とかできますね。でも、基本が全然なってません」

「そ、そんな事言われてもっ」

「そちらからも攻撃してみてください」

「そんな、出来ないよ! 殴ったら痛いじゃないか!」

「はあ……」

 

 恵はついに拳を下ろしてしまう。

 

「まずは出来る事からしましょうか」

「うーん、心配だな。恵、傑のこと見てあげてくれない?」

「ええ。で、何が出来るんですか?」

「アパレシウムが呪霊を見えるようにする呪文で、エクスペリアームズが攻撃呪文だっけ?」

「あれは武装解除呪文。武器を飛ばすだけの呪文だよ」

「どこが? 呪霊吹き飛んでたけど」

「そういうこともある。一応、丸腰だとどうにもならないはずなんだけど」

「じゃあ逆に攻撃する呪文は?」

「一番は、死を与える呪文のアバダ・ケダブラかなぁ。でも! それは絶対に使ってはいけない、許されざる呪文だよ」

「じゃあ、それ呪霊に使ってみようか」

「話聞いてる? それに、さっきはつい攻撃しちゃったけど、でも呪霊さんの言い分を聞かずに攻撃してしまうなんて」

「じゃあ言い分聞いてみる? 杖を返すから、この辺にアパレシウムしてみて」

「アパレシウム! うわっ」

 

 小さな呪霊が現れ、傑は下がった。

 

「■■■■」

「レジリメンス! ……ゲェ」

「今の何したの?」

「心を読んだんだけど……グチャグチャしてる」

「そう。じゃ、わかったね。許されざる呪文行ってみよう」

「許されないから許されざる呪文なんだけど……」

「傑。こっちでは、戦わないと殺されてしまうよ。心苦しいけれど、頑張って。というか君の元いた世界も、傷つけるのが嫌だなんて言えそうにないくらい、大変そうなんだけど。こっちで戦いについて学んで、向こうの僕の助けになってよ」

「悟……」

 

 そして、傑はコクリと頷いた。

 

「アバダ•ケダブラ!」

 

 そして、緑の光に貫かれた呪霊は消滅する。

 

「うん、上出来。頑張ったね。でも、一つ聞きたいんだけど、心を読むのは許されざるじゃないの?」

「なんで?」

 

 キョトンとした顔で聞かれた。うーんカルチャーショック。

 

「うーん。逆に許されざる呪文って何があるの?」

「クルーシオ……拷問呪文と、インペリオ……服従呪文だよ」

「使える?」

「使える。怖いから、あまり使いたくはないけれど」

「そうだね。恵達には許されざる呪文を使わないって縛ってもらおうか」

「縛る?」

「決して破れない約束をするってこと」

「いいよ」

 

 その後、緊急の任務が入った為、傑を一年生に任せて出る事になった。

 スマホを持たせたけど、不安だなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五条先生が仕事に出て割とすぐに、依頼が入った。

 

 不思議そうに車を見ていた為、車について説明する。

 隣にいるのに楽しそうにスマホで会話する夏油さんを見てると、なんだか温かい気持ちになる。

 本当に何もしらねぇんだな、魔法使いって。

 

「悟が言ってたんだけど、監視カメラがあって、その概念を魔法使いが理解できてない時点で魔法なんて隠せるはずがねぇんだよって。何を言っているかはわからなかったけど」

「「「あー確かに」」」

「逆にそっちの世界の五条先生ってすげー博識?」

「そっちの世界が発展してないわけじゃなさそうだものね。逆に魔法使いがなんで適応出来てないのか不思議」

「機械とかって使わないんですか?」

「ん、魔法界では機械は適切な魔法を使わないと動かないんだよ。魔素が邪魔しているせいで、魔法界の技術はなかなか発展出来ないとかなんとか。この辺は悟が詳しい」

「なるほど。夏油さんは何に詳しいんですか?」

「ドラゴンの生体に詳しいよ! 後、魔法薬学や料理、物作りなんかも得意だよ。蛙チョコとか、鼻血ぬるぬるヌガーとか、イギリスの有名なお菓子をことごとく再現したから、これでも尊敬されてるんだ」

「逆になんでチョコをカエルにしようと思ったのよ」

「鼻血ぬるぬるヌガーなんて何に必要なんですか」

「授業をサボるのに必要じゃないか!」

「「「サボらねぇよ」」」

「ま、マグルは、いや、呪術師は悪戯に血道をあげたりはしないのかい? 例えば、喧嘩相手の前歯を伸ばしたり、いたちにしたり、ナメクジがゲップをするごとに出るようにしたり……」

「「「しねぇよ」」」

「物騒なのか呑気なのかわからないな」

「人にそんな呪い掛けちゃダメよ。私たちに掛けたら釘ぶっ刺すからね」

 

 うーん、カルチャーギャップ。

 俺らが色々教えてやんなきゃ駄目だな。だって、向こうの五条先生は、マグルと仲良くしようっていうんだろ? その前にまず、相互理解が重要だよな。

 

 少年院につく。

 少年院に入る前に、バッチを渡された。玉犬の分まである。

 

「それ、気休めかもだけど、着けてて」

「魔法の道具?」

「盾の魔法が封じ込めてあるんだ」

「さんきゅ」

 

 それから中に入り、遺体について言い争っている間に夏油さんが姿変えの呪文で変えて回収してくれた。

 ぱりんと音がして、玉犬が吠える。

 

 現れた!!

 

「エクスペリアームズ!!」

 

 ピャッとばかりに驚いた夏油さんが咄嗟に呪文を放つ。

 指が弾き飛ばされ、呪霊は倒された。

 

「つよ」

「強い(確信)」

「武装解除とは」

 

 それから、いくつか依頼が来たが、夏油さんが強かったので何も問題はなかった。

 

 呪詛師相手の依頼も入ったが、夏油さんが四肢の骨を消去したので問題なかった。

 ま、魔法使いって怖え……。

 その代わり、俺たちも色々とマグルについて教えてあげた。

 

 五条先生に手紙を出すのだと嬉々として切手で葉書の表を埋め尽くす姿が可愛いと思ってしまう。

 

「ドラゴンって見てみたいな」

「いいよ。トランクの中にいるから」

「まじで!?」

「うん」

 

 そうして、トランクを開けると階段が。すっげ。トランクの中に部屋があるんだ!?

 

「美々子ー。奈々子ー。カタナー」

「えっ 誰かいるの!?」

「うん、私の魔法生物を世話してくれてる子達がいるんだ」

「言えよ!!」

「トランクに閉じ込めっぱなしかよ!」

「だって、学校に行くにはまだ早いよ?」

「未就学児じゃない! 何考えてるのよ!」

 

 とにかく、先生を大至急呼ぶ事になった。

 



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親友が並行世界で魔法使いをしていた件4

呼び出された五条先生は、早速夏油さん……もうスー君でいいや。

スー君にお説教をした。

 

「幼児に仕事任せて放置はダメでしょ」

「??? でもカタナもいるよ?」

「ゴブリンな」

 

そう、ゴブリン! 俺ゴブリン初めてみた。

 

「ゴブリンではないよ。僕妖精っていうんだ」

 

 妖精かぁ。妖精ってイメージじゃないな。

 はぁ、とため息をつく五条先生。

 

「とにかく、美々子と奈々子はちゃんと傑が面倒を見ること。悠仁。恵。野薔薇。お願いね」

 

 つまり、俺たち3人がミミナナの面倒を見る傑の面倒を見るということだ。

 

「おう!」

「依頼手伝ってもらってるしね」

「幼児が二人増えるくらい問題ありません」

「それって私も幼児ってことかい!?」

「マグル一年生でしょ」

「それはそうだね」

 

 納得するスー君が可愛い。

 

 スー君は、緩やかに呪術界で受け入れられているようだ。

 こっちの世界の夏油さんとは全然違うらしい。

 なんでも、すげー呪詛師だったとか。見る影もねぇな。

 魔法使いとしては優秀なのかもしれねーけど。ゆう……しゅう……?

 

 ピッカピカのマグル一年生3人を引率して依頼を片付ける事、二ヶ月。

 美々子と奈々子そっくりの高校生くらいの子が現れた。

 

「夏油様!!」

「もしかして、こっちの世界の美々子と菜々子かい?」

「そうです、夏油様。夏油様、夏油様、夏油様!!」

 

 ぎゅううっとスー君が抱きしめられる。

 

「こっちの美々子と奈々子は少し年下くらいなんだね。恥ずかしいから、女の子が抱きついちゃダメだよ」

「夏油様、夏油様のお話聞かせてください」

 

 優しくいうスー君に、高校生が擦り寄る。

 

「待って下さい、夏油さん。こっちの世界の二人は呪詛師の夏油さんに従って呪詛師になってます」

「呪詛師……こっちの世界での、闇の魔術師?」

「そんな感じです。多分」

 

 その言葉に、スー君は何か決意した表情になった。

 

「美々子、奈々子……。オブビリエイト!!」

「「「何した!?」」」

「記憶を消して赤ちゃんからやり直せば、呪術師になれると思って。彼女達の罪は私が被るよ」

「思ってじゃねーよ! スー君、めっ」

「五条先生呼ぶ! スー君はお座りしてろ!」

「オブビリエイト禁止! 縛りよ縛り!!」

 

 可愛いけどほんっとう油断もすきもねぇな、この力のある幼児!!

 いくら悪いことしてても、記憶を消しとばしちゃダメだろ!

 記憶を消したからってやったことが消えるわけでもねぇし!

 

 またしても五条先生が呼ばれた。

 五条先生にコンコンと説教をされ、スー君はギチギチに縛りをした。

 というか忘却呪文て記憶を元に戻せねぇのかよ。こわ……。

 

 許されざる呪文が拷問と服従と死だけってザルすぎんだろ。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、面倒を見る幼児が5人になった。戦隊モノが結成できるじゃん。

 

 それにしても、五条先生って先生なんだな。

 スー君に対して一生懸命対処して言い聞かせてるの、先生って感じがすげーする。

 

 スー君は反省して。いや、スー君なりに頑張ってはいるんだよな。ただ常識が違うだけで。

 いや、眠ってる時に周りのもんぷかぷか浮かせちゃったりとか、絶対魔法使いとしても劣等生だと思うわ。

 あれがお漏らしならダダ漏れじゃん。

 そりゃ強いけどさ。魔法力? のゴリ押しの強さって感じだし。

 今日も五条先生はそんなスー君の教育を頑張る。

 

「傑。じゃあ、今日こそは魔力のコントロールをしてもらうよ。僕が驚かすから、傑は魔法をコントロールしよう。抑え込まなくてもいいんだよ。ただ、意図した効果を発動できるようにしよう」

「う、うん」

 

 そして、五条先生が殺気を出した。遠くで見てるだけの俺でもゾクっとした。

 

「ピッ」

 

 そして、スー君の悲鳴と共にボフッと先生が猫に変わった。

 

「わあああああああ五条先生っ!!!」

「スー君戻せっ」

「ぜんっぜんダメじゃない!!」

 

 3人で怒ってしまって、ミミナナ達が泣き出して、スー君がオロオロして。慌ててスー君を宥める。

 ただでさえ魔法が下手くそなのに、焦った状態で魔法を使われて戻せなくなってしまったら大変だ。

 

 五条先生は無事戻った。あんな事があったのにコントロールの授業を続行する五条先生凄いと思う。

 

 そして、来てしまった交流会。

 スー君は、普段みんなに迷惑を掛けているから応援をするのだと張り切っていた。

 

「皆。今日は大会なんだろう。私、頑張ってお弁当作るよ」

「「美々子も作る!」」

「「奈々子も作る!」」

 

 うわあ。面白そうだけど、食べるとなると地獄かも。

 

「傑。じゃあマグルの料理頑張って作ろうね。出来る?」

「マグルの料理かい? 魔法界の料理なら得意なのだけれど……」

「そりゃ魔法界の料理なら得意だろうね。でも、マグルのことを勉強するんだろう?」

「うん」

「傑なら出来るよ」

「悟がいうなら、頑張ってみる」

「あら。でも私、魔法界のお弁当も見てみたいな」

 

 釘崎! なんで!? 先生がせっかく安全な食事に誘導してたのに!

 

「そうかい? じゃあ、両方作るよ!」

「ええ、お願いね」

 

 にっこりと笑う釘崎。

 

「な、なんでだよ、釘崎」

「真依に食わす」

「ひっ」

 

 釘崎が怖い顔をして笑っていた。俺が単独任務に出てた間に何があったんだよ。

 

 

 

 

 

 そして、交流会が始まった。

 

「異世界の魔法使いって貴方!? いろいろ教えて!」

「う、うん。わかった」

 

 西宮って子がスー君にワクワクした顔で近づく。魔女っぽいから興味深々なんだろうな。

 

「お昼はみんなで一緒に食べようね♡ これはあくまで交流会だし」

「そうよ♡ っていうことで負けた奴は傑の手料理(魔法界Ver)な」

 

 釘崎……。

 

「げっ」

「なんだと!?」

「ふふ。変なのはないから安心してよ」

「ちなみに何作ったの?」

 

 優しく微笑むスー君に、釘崎がニヤニヤしながら問う。

 

「えっとね。鼻血ぬるぬるヌガーと、」

 

 好きだな鼻血ぬるぬるヌガー。

 

「ちなみにカメラも用意してまーす」

「鬼! 悪魔!」

 

 流石に京都校から抗議が出る。あの、負けたら俺たちが食べるんですけど……?

 負ける気はないけどさあ!

 

「蛙チョコ」

「生きた蛙のチョコな」

 

 また釘崎の補足。あのかじった時の感触が蘇ってきてちょっとオエっとなる。

 伏黒が黙って背を撫でてくれた。

 

「踊り食いはちょっと」

 

 京都校もドン引きじゃんか。

 

「百味ビーンズもどきも用意してみたよ。ゲロ味とかりんご味とかいろいろ作ったよ」

「ゲロとりんごを並べないで」

 

 だよな、なんで並べたし。

 

「血の味のペロペロキャンディと、舌が溶けるぺろぺろ酸飴」

「吸血鬼じゃないし」

 

 シンプルに毒じゃん。

 

「傑、さすがに舌が溶ける飴は没収ね」

 

 五条先生が救いの神のようにみられる。京都校の学長が「こやつがまともなことを言っている……!?」って顔してた。そーだよ、スー君のはガチで舌溶けるって言ったら舌溶けるから。

 呪詛師を生捕にしようとしてついうっかりで四肢の骨を無くしちゃう奴だから。

 

「後はね、愛の妙薬のカップケーキとバタービール! 終わり!」

「終わり!?」

「ビール!?」

 

 ここまで主食も副菜もなしかよ! 流石に俺もびっくりした。おにぎりくらい作ろうぜ?

 マグルの料理の方も心配になる。お菓子ばっかり作ってたりして。そしてビールって俺らまだ学生!

 

「子供も飲めるビールだよー」

「愛の妙薬とはなんだ」

「食べた時目の前にいる人が30分好きになるお菓子だよ」

 

 アウトォォォ!!!

 

「お菓子ばかりじゃないか!」

「突ッ込ム所ソコナノカ?」

「負ければ愛の妙薬のカップケーキ……加茂……この試合、負けるぞ!!」

 

 堂々と宣言する東堂。そして釘崎も悔しそうにしてる。

 いや、まだ負けるの京都校って決まってねーからな?

 

「はいはいはいはい。愛の妙薬のカップケーキも没収!! 傑のお菓子はお土産で欲しい人にあげるから心配しないで。罰ゲームはなし、出前もとるからさ。ちゃんと真面目に試合して」

「ええー! 私は真依の口に蛙チョコを突っ込むのよ!」

「野薔薇。意地悪しない」

「何よ、珍しくちゃんと先生してるじゃない」

 

 歌姫先生が五条先生に言う。五条先生はいつでも先生してるぞ。

 

 開始前からゴタゴタしたが、とにかく交流会が始まった。




pixivで出したら読まれてるのに反応がなくて悲しい……悲しい……。
そんなにつまらなかったかなぁ!? ちょっと加筆してみました。

もしよろしければマシュマロもください
https://marshmallow-qa.com/lucaluca


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親友が並行世界で魔法使いをしていた件5

交流会の最中に、悪い人達が現れたので一掃した。

そんな事より昼食である。

 

「恋の妙薬のカップケーキ!」

 

 興味を持ってカップケーキに群がる生徒から、ケーキの入った籠を取り上げる教師。残念だけど順当である。

 

「没収に決まってるでしょ。禁止されてないのこれ?」

「え? なんで? バレンタインとか、マグルはしないの?」

「魔法使いってさぁ……」

「心を魔法で操るとか、普通に問題だろ」

「そうかな。服従の呪文ではないんだし」

「傑は例えば、自分に使われたらどうなわけ?」

「え? どうって言われても。どうもしないよ? こんなの30分で解けるお遊びじゃないか」

「30分でもやる事はやれるんだよなぁ」

「???」

「魔法使いって邪悪なの、能天気なの、どっち?」

「その2択は嫌だなぁ」

 

 そこで、加茂先輩がふと聞いた。

 

「これ、貧血にならない?」

「魔法で血を複製してるからならないよ」

「こういうのは出来るかな。飴タイプで」

「できるよ」

 

 京都校の人達とも仲良くできそうで良かった。

 そこで、伊地知さんが飛び込んできた。

 

「五条さん!! 並行世界の五条さんが!!」

「悟!??」

 

 スー君が走る。

 テレビでは、暴れるドラゴンに乗った金のローブの五条先生とそれを追いかけるドラゴンに乗った黒いローブの魔法使いが大捕物をしていた。魔法由来はテレビに映るのか。大騒ぎじゃん。先生、怪我してるし。

 

「悟!!」

 

 それから、スー君は消えてしまった。

 と思ったら、テレビに映った。

 三つ巴で大変なことになっている状態で、さらに五条先生が加わって事態収集した。

 テレビにガッツリ映ってるじゃん。やば。

 とにかく、五条先生はスー君と五条さんを無事(?)保護した。

 

 

 家入さんが治療してくれて、五条さんはすぐに目を覚ました。

 でも、いろいろ辛いことがあったみたいで、蹲ってしまった。

 そこにスー君がバタービールとカップケーキを渡した。あれ愛の妙薬入ってるよね?

 

「傑。傑……! ほんっと馬鹿ばっか。全然解ってくれないんだ……! 魔法使いはもう詰んでんだよ!」

「よくわからないけど、悟が頑張ってたのはわかるよ」

 

 ギュウウ、と抱きしめられ、優しく抱きしめ返すスー君。でも今食べさせたケーキ、愛の妙薬入ってるよね?

 

「傑……!」

「悟。私がいるよ。だからもう、頑張るのやめちゃおうよ」

「そういうわけにもいかねーんだよ!!」

「悟。私のこと、キライ……?」

「好きだよ。傑。好き。好き。好きだ」

 

 いいムードだな。でも、愛の妙薬……。

 

 

 結局、五条さんも呪専で保護する事となった。

 そうだろうなと思っていたが、五条さんはなんというか、マグルの常識も大体知ってた。

 流石に完璧ってわけじゃないけど、だいぶ倫理観はマグルに近い。

 

 でも魔法使いのスタンダードはスー君らしい。それで大分苦労したようだ。

 

 あれがスタンダードな中にマグル基準の頭だったらおかしくなると思う。

 五条さんにはいっぱい優しくしてあげよう。

 

 



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