仮面ライダーACT [アクト] (ヨッツ)
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本編
第1章 ~私は仮面ライダー~


──まるで物語のようだった。
平和な日常だったはずの時間に突如現れた
人ならざる怪物、迫りくる死。
現実離れした多くの光景の最後に俺は──。
ヒーロー(仮面ライダー)を、見たんだ。

『仮面ライダー アクト』



古ぼけたアパートの1室で眠る青年が一人。

ベッドの周りには

『五色戦隊 ゴニンジャー オーディション開催』

と書かれた書類と

書き損じた履歴書の用紙が散らばっている。

 

『都市伝説「仮面ライダー」。

 この名前は古くは50年以上前から

 民間で語り継がれてきました。

 それは、人々にあだなす悪の組織と戦った

 虫の力を宿した戦士達。

 ──というどこから聞いても

 唯の作り話のようなお話です。

 しかし、かつて日本で1年という期間に渡って

 連続的に起こった猟奇的な殺人事件の数々、

 その裏で事件に巻き込まれながら

 生還した人々の話の中には

 必ずこのような言葉が残っています。

 「仮面ライダーが助けてくれた。」

 今日は、そんな現実離れしたにも関わらず、

 存在が信じ続けられている

 そんなヒーロー達の姿を迫ってみましょう──。』

 

つけっぱなしになっていたテレビから

そんなテレビ番組の音声が聞こえる。

 

「・・・やっぱりこの先は見れないんだな。」

 

夢から覚めた青年はそう言うと体を起こした。

 

「でも・・・仮面ライダーの夢が見れたから

 きっと今日はいい日になりそうだ!」

「さて──今日は大事なオーディションの日だし、

 遅刻しないように・・・。」

 

時計を見れば時刻は午前9時過ぎ。

 

「ね」

 

10時からのオーディション開始には

既に1時間を切っていた。

 

「寝過ごしたーーーー!?」

 

ベッドから飛び出した青年は

すぐさま身支度を整えバイクを発進させた。

青年の名前は彩羽雄飛(いろはゆうひ)(22) 

俳優志願のどこにでもいる青年である。

 

──会場までは精々30分だ

全力で走らせればまだ間に合う。

 

「 ぇぇん」

 

そう思いながら道を曲がった青年の耳に

ある声が聞こえた。

 

「うぇぇぇぇん」

 

─泣き声だ。

ふと目を向けると3歳くらいだろうか

小さな女の子が泣いているのが見えた。

近くに親らしき姿はない

迷子だろうか、

それともどこかケガでもしたのだろうか

なんにせよ、その子は声を上げて泣いていた。

 

「うぇぇぇぇん」

 

そんな少女の姿を見て雄飛は──

急いでいたことも忘れて少女に駆け寄っていた

 

「大丈夫?どうかしたの?」

 

「おかーさん・・・・どこぉ?…ヒック」

「お母さんとはぐれちゃったんだ?」

 

少女はコクリと頷く

 

「そっか、でも大丈夫。

 お兄ちゃんに任せなさい!」

 

そういって雄飛は少女の手を引く。

なんてことはない、目指すは交番である。

 

「本当にありがとうございました!

 ──ほら、あんたもお礼言いなさい。」

「ありがとー」

「いえいえ、よかったです。」

 

少女はこの付近に住んでいる子らしく

交番からすぐに親へ連絡がついた。

すぐに母親がやってきて

今は少女の手をしっかりと握っている。

 

「それじゃ、俺はこれで。

 もう一人で勝手に遊びに行っちゃ駄目だよ?」

「はーい」

 

手を振る少女と

もう一度礼をする母親に見送られながら

雄飛はその場を後にした。

 

バイクを停めた場所にまで戻ってから、

ある違和感に気づく

──何かを忘れている気がする。

 

「・・・オーディション!?」

 

急いで時計を確認。

時刻は午前10時15分、

今からバイクを走らせても

10時30分は過ぎるだろう。

つまり30分もの遅刻であり、

どこからどう考えても自分は選考対象外である。

 

「やらかしたぁ・・・。」

 

ガックシとうなだれながら呟く。

 

この男、こんなことばかりである。

前回のオーディションの日には

足を悪くした老人を担ぎ、

そしてそのまた前には

産気づいた妊婦のために救急車を呼んだ。

そんな人助けばかりして

毎度毎度遅刻を繰り返していた。

 

「まぁ仕方ない。人助けはいいことだし!」

「次のチャンスがあるさ!」

 

強がりである。

そういって前を向いた目線の隅に何かが映った

 

「ん?」

 

地面に落ちていたそれを手に取る

 

「なんだこれ?・・・カード?

 いやチケットか・・・?」

 

手に取ったそれは

手のひらサイズの薄い長方形型の道具だった。

表面にはタイトルらしきある言葉が記されている。

 

「・・・・・MASKED(マスクド)REIDER(ライダー)?」

 

「MASKED RIDERって

 ──仮面ライダー題材の作品の小道具か!?

 俺の知らない作品が!?

 いやでもそんな情報何も聞いてないし・・・・」

 

雄飛は興奮して拾い上げたものを隅々まで眺める。

 

「ファンメイドのグッズにしては

 出来が良すぎるし・・・

 まさか情報解禁前の超レアものとか!?」

 

実はこの男、重度のヒーローオタクである。

それが5人組のカラフルな集団でも、

光と共に現れる巨人でも

ヒーロー番組となればグッズは集める、

新商品の情報はすぐに耳に入れる。

そんなことに思いを燃やし続ける、

そんな男だった。

俳優志願もヒーロー役をやりたいがためである。

 

「いやしかし、これは落とし物。

 それを持ち帰るなんてことはしてはいけない。

 ・・・でも気になる・・・。すごく気になる!」

 

悪心と良心がせめぎあう。

 

「──よし!落とし主を見つけて詳細を聞こう!

 それぐらいならOK・・・のはず」

 

そういって一旦自分のポケットに

チケットをしまい込んでバイクにまたがる。

どちらにせよここまで出来のいいものだ、

ファンメイド(偽物)でも情報解禁前の小道具(本物)でも

きっと探し回っているはずである。

そう思って雄飛はバイクを走らせ始めた。

 

その背後に彼がポケットにチケットを詰め込む所を

見ていた何者かがいたことに気づかずに──。

 

「見つからないなあ」

 

もうすぐ日が沈む程度には時間がたっていた。

近くの公園に立ち寄り、独り言ちる。

一日中聞き回ったが落とし主は見つからなかった。

 

さすがに持ったまま家に帰るのはまずい、

それをしてしまうと行き着く先は窃盗である。

仕方がない、大変、・・・大変!惜しいが

このチケットとは縁がなかったということにして

交番にでも預けよう。

そう考えた雄飛は、朝に少女を届けた

交番へ向かうためバイクに跨ろうとしたその時

 

「やっと見つけた!泥棒男!」

「え?」

 

背後からそんな声が聞こえてきた。

振り返ってみると自分より少し年下くらいだろうか、

綺麗な女の子が自分を指さしていた。

 

「泥棒って・・・えぇ?」

「とぼけないで!盗んだチケットを早く出しなさい!」

「ちょっと待ってくれ!チケットって、・・・これ?」

 

ポケットから拾ったチケットを取り出す。

 

「やっぱり持ってた!早く返しなさいこの泥棒!」

「泥棒って・・・誤解だ!俺はこれを拾っただけd」

「問答無用!」

 

そういうと女の子は掴みかかってきた。

ぎりぎりで回避する

 

「待って!話を聞いてくれって!

 俺は拾っただけなの!届けようとしたの!」

「ならなんで朝から今まで持ってんのよ!

 届け出もせずに持ち逃げする気満々じゃない!」

「うっ・・・それは」

 

言い淀む、下心がなかったのは嘘になる。

 

「そらみろ!やっぱりどろb・・・・危ない!」

「え?」

 

そんな口論をしていると突如女の子が

自分の腕を掴んで引っ張った。

突然腕を引かれて女の子ごと倒れる。

 

その瞬間、先程まで自分達が立っていた場所にゴウと

かまいたちのような何かが飛んできた。

 

ズバンと俺のバイクが切断される。

 

その轟音も、綺麗すぎる切断面も

とても現実の物には思えなかった。

飛んできたその先を見ると──

 

テレビで見たような、あの日見たような、

人間じゃあ断じてない怪物が立っていた。

まるでそれは童話から出てきたみたいな

二足歩行で歩く、黒い体毛に

白く大きな爪を輝かせた狼のような化け物だった。

 

『獲物みーっけ。』

 

そういってこちらに近づいてくる狼

余りの出来事に

ただ茫然としていた俺の手がまた引っ張られる。

 

気づけば女の子は切羽詰まった顔をして

俺の手を引いていた。

 

「何ボーとしてるの!逃げるわよ!」

「えっ」

「早く!」

『逃げる気かぁ?無駄だぜぇ!』

 

女の子に手を引かれ訳も分からず走る。

そして近くにあった建物の物陰に隠れた。

 

『どこいったぁ?』

 

狼は見失ったようだが、

見つかるのは時間の問題だろう。

 

「な、なんだよあれ!」

 

半ばパニックになりかけた頭を落ち着かせながら、

それでもこんな言葉が出てしまう。

 

「静かに!・・・あの怪人の名前はテラーよ。

 人間の敵。見ての通り怪人。」

 

女の子は冷静にそう言い放つ。

そうだ、怪物なのは見るからに明らかだ。

でもそれがここ(現実)にいることがおかしいことだった。

怪人、怪物。それが馴染み深いのは──

あくまでもフィクションの中のはずだ。

 

「怪人って・・・現実だぞ!?」

「じゃあこれが幻だと思う!?

 現実逃避は逃げ切ってからにして!

 ・・・それよりも、早くチケット出して!」

「チケットって・・・これがどうしたんだよ。」

 

頭を冷静にしようと努めながら、

恐る恐るポケットから

MASKED RIDERと書かれたチケットを引っ張り出す。

女の子は引っ手繰るようにチケットを奪いながら、

自分のカバンから何かを取り出した。

それは、前面に四角い機械部分があり

その左側から長い帯が伸びている、

まるでヒーローがつける

ベルトのような見た目をしていた。

 

「・・・何・・・それ・・・?」

「見たことない?変身ベルト。これでイチかバチか・・・」

 

そういって女の子は立ち上がり自分の腰にベルトを巻いた。

 

あの日見たヒーローのように

 

そして叫ぶ

 

あの日見たヒーローのように

 

「変身!」

 

そしてベルトめがけて

チケットを差し込もうとしたところで──

 

「・・・違う。」

 

バチィッ!

ベルトからチケットが弾かれた

入れる場所の目測を誤って手をぶつけた

・・・というわけではない。

何か超常的な力で弾かれたようだった。

 

「いったぁ・・・」

 

女の子が手を抑えながら苦悶の表情を見せる

 

『そこかぁ!』

 

そしてその音で狼怪人に気づかれてしまった。

 

そんな光景を傍目に見ながら俺は、こう叫んでいた

 

「違う!」

「えっ?」

 

「“チケットを入れる時のポーズはそうじゃない!!!”」

 

・・・・・・・・・・。

 

「・・・はぁ?」

 

自分でも厄介ないちゃもんだと思う。

それでも今のは耐えられない

──まるでファンでもなんでもない奴が

見様見真似でやってるみたいじゃないか!

無手で見様見真似のポージングなら許せた・・・、

だがこんな小道具(ベルトや小物)まで用意して

そのクオリティは見過ごせなかった!

 

「左手と右手の動作はバラバラ!

 腰も全然入ってない!

 そんなんで変身できるか!」

「な、なにいきなり!?」

 

気が付けば、狼のことなど頭になく

女の子からベルトとチケットを引っ手繰っていた

 

「ああもう貸せ!手本見せてやる」

「ちょ、・・・ああもう!こうなりゃヤケよ!

 いい?あんたはライダー!

 仮面ライダーなの!そのつもりで変身して!」

「いわれるまでもない!これ(ライダーの演技)に関しちゃ俺は、

 私は(・・)いつでも真剣だ!」

 

『見つけたぜぇ!もう逃がさねぇからなぁ!』

 

そういってベルトを巻く、気持ちが締まる。

チケットを持ち、側面に備え付けられたボタンを押す

 

『MASKED RIDER』

 

チケットからそんな音声が発され、

横に開くように展開される。

 

「起動した!?」

『死ねやぁ!』

 

女の子が驚愕する。

狼がとびかかってくる。

しかしそれを気にも留めずに構え、こう叫んだ

あの日見たヒーローが叫んでいたように

 

「変身!!」

 

展開したチケットをベルトに差し込む

あの日見たヒーローがやっていたように

ガシャリと

女の子がやった時と同じものと思えないほどすんなりと

ベルトにチケットが挿入された。

 

『Start』

風は、戦士を呼んだ(Wind called the Warrior)

 

『MASKED RIDER!!』

 

瞬間、変化が起こる。

 

『ガァ!?』

 

とびかかってきた狼が拳を叩き込まれ吹き飛んだ

 

『なんだぁ・・・?てめえ・・・?』

 

起き上がった狼怪人がそう叫ぶ

 

そこに先ほどまでたっていた男の姿はなかった。

そこに立っていたのは──

 

「私は・・・・・」

 

第1章[ 私は仮面ライダー ]

 

続く

 




次回 仮面ライダーアクト

「なにこれ!?
 なんで俺こんなことになってんの!?」

「もうあなたを巻き込むつもりはないわ。」

「やらせてくれ!
 ・・・今度は最後までやりきって見せる!」

第2章[ 仮面ライダー・オーディション ]


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第2章 ~仮面ライダー・オーディション~

前回までのあらすじ

主人公、彩羽雄飛はある日不思議なチケットを拾う
しかし、そのチケット持ち主らしき少女に
自身が盗んだと誤解され、
口論となった所に謎の怪人が現れた。
逃げ惑う道中でチケットと対となる
ベルトを少女から受け取った雄飛が
変身のポーズを取ったその時、
雄飛の体に異変が起こる──。


怪人の目の前に謎の男が立っていた。

緑を基調とした肉体、

バッタのような意匠をした顔を持つ

何者かが立っていた。

 

「私は・・・・、仮面ライダーだ。」

 

相対する敵、狼怪人-ウルフテラーに対して

雄飛、いや、仮面ライダーはそう言い放つ。

 

「へ、変身した・・・・。」

 

ベルトの持ち主であった女の子は

目の前の光景に言葉を失い。

 

『・・・。』

 

ウルフテラーは、目の前の男を静かに見据える。

仮面ライダーと怪人 2つの力が今、激突──

 

「どうだ!変身はこうするんだ!

 ──て、ええ!?」

「なにこれ!?

 なんで俺こんなことになってんの!?」

 

しなかった。

渾身の変身を決めた雄飛は、

この空気を盛大にぶち壊していた。

 

「バカッ!前!!」

 

女の子が叫ぶ

 

『隙あり!』

「前?・・・うわぁ!?」

 

この隙をウルフテラーは見逃さなかった。

アクトに目掛けその爪を振り下ろす

不意を突かれたアクトは盛大に吹き飛ばされた

 

「いってぇ!」

『チッ! かてぇな。』

 

痛みに耐えながら立ち上がる

背後から怒気を含む声が投げられた

 

「何してんの!戦って!」

「戦えって・・・・。えぇッと

 ・・・・こんのぉ!」

 

雄飛が殴り掛かる。

しかしそれは最初の1撃には

遠く及ばない鋭さだった

 

『なんだぁ?さっきのはまぐれかぁ?』

 

ヒラリと躱したウルフテラーは二撃、

三撃目とアクトに爪を叩き込む

 

「がっ、ぐっ、がぁっ!」

 

意識が朦朧とする。目がかすみ始めたその時──

 

「何してんの!ライダーパンチとかあるでしょ!」

 

そんな女の子の

どうしようもないアドバイスが聞こえた。

脳裏に浮かぶのはテレビで何度も見たパンチ。

 

「・・・ライッダァァア・・・パンチッ!」

 

瞬間、拳に力がこもる。

先程のパンチとは比べ物にならない1撃が、ズドォと

ウルフテラーに音を立てて突き刺さった。

 

『ガルァ!?』

 

またも1撃を食らい、ウルフテラーはたじろぐ。

 

『(まぐれじゃあない・・・?)』

 

──ウルフテラーは思案する。

自身にダメージを与え、

そして自身の一撃で死ななかった男の存在を。

そしてどう対処すべきかを・・・・。

 

『・・・面倒だな。手間に釣り合わねぇ』

 

そして──撤退を選択した。

こんな殺しづらい奴1人を殺す間に10人は殺せる。それが彼の出した答えだった。

 

ウルフテラーが去ったことを確認した女の子は

雄飛に駆け寄る。

 

「ちょっと!大丈夫!?」

「う、うん。何とか」

 

女の子がベルトに手をかけ、

チケットを抜き取った。

光を放ち、仮面ライダーは

元の彩羽雄飛へと戻る

 

「・・・何だったんだ。今の」

 

そんな疑問を雄飛が聞こうと

女の子の方を向いた瞬間

ガクリと体が崩れ落ちた、

どうやら体力の限界だったらしい

 

「え!?ちょっと!・・・・ねぇ

 

女の子の心配する声が聞こえる・・・・、

けれど眠くなって──雄飛は意識を手放した。

 

 

目を覚ますと知らない場所の

知らないベッドの上だった。

 

「目が覚めたかい」

 

声の方を向くと見知らぬ、

白衣を着た初老の男性と目が合う

 

「・・・誰?」

三浦浩司(みうらこうじ)、科学者だよ」

 

男性はそう名乗りこちらに向き直る

 

「君が、アクトドライバーで変身した青年。

 ということで間違いないんだね?」

「アクト・・・ドライバー?」

「これのことさ」

 

ひょいと何かを持ち上げる。

それは確かにあの時自分が巻いたベルトだった。

そして、自分に起こったことも思い出していく

 

「・・・そうだあの子は!?

 ていうかあれは一体何!?

 ていうかここどこ!?あの狼は!?」

 

混乱が質問となり山のように投げかけられる。

 

「まぁ落ち着いて、ちゃんと説明する」

 

浩司がそう言って落ち着かせようとしたその時、

部屋に誰か入ってくる

それは間違いなくあの時の女の子だった。

 

杏奈(・・)、戻ったのか」

「うん、おじさん。・・・・目が覚めたんだ。」

 

女の子、

杏奈(あんな)と呼ばれたその子は

こちらを見てそう言う

 

「えーっと。運んでくれてありがとう?」

「ええ、泥棒さん。とっても重かった。」

 

まだ、泥棒呼ばわりである。

 

「だから違うって、

 持ち主を探して返すつもりだったんだって!?」

 

慌てて手を振りながら訂正する

 

「どうだか」

 

・・・信用はされていないようだ。

 

「さて、なにから話そうか」

「まず、君は仮面ライダーを知っているかい?」

「大好きです」

 

即答する。

それは言うまでもなく最も好きなものだ。

 

「そうか、では仮面ライダーが現実の話であり、

 実在するとは?」

「・・・思えません。でも・・・」

 

あの怪物は確かに存在していた。

 

「あれが幻だったとも思えません」

「そうだ、あれは幻でも着ぐるみでもなく、

 実在する怪人だ。

 名前はテラー。

 人間の肉体を奪い、その過去を改変し、

 その人間が怪物として存在していた

 ということにしてこの時代に現れる

 そんな存在だ」

 

過去。一気にスケールが大きくなった。

 

「じゃあ・・・あれが元は普通の人間と?」

「そうだ、そしてそれを倒すために

 僕が完成させたのがこのアクトドライバー。

 そしてMASKED RIDERチケットだ」

 

なるほど、

ではこれは小道具でもコスプレでもなんでもなく、

正真正銘本物の変身アイテムだったわけだ・・・。

で、それで自分は変身してしまったと。

・・・とんでもない体験をしてしまった。

 

「とは言っても。 これはまともに

 変身ができる代物ではないんだけどね。」

 

・・・?

それはおかしい、自分は確かに変身した。

いや、してしまったのだ。

 

「ならなんで・・・俺は変身を?」

「君が心から仮面ライダーを演じれたからさ」

 

意味が分からない。

 

「このドライバーは、いわば現実に

 仮面ライダーって偶像を投影するための装置だ。

 ・・・しかし、投影するには映すものが必要だ。

 映画を映すスクリーンのようなね。

 仮面ライダーを現実に投影するためには、

 その仮面ライダーを演じる役者が必要なのさ。」

 

つまり、自分は仮面ライダーの演技を

心から演じていたから変身できたと。

なんとも光栄な話である。

 

「逆に、変身できても。

 仮面ライダー役から意識がずれると

 ライダーとしての力が出なくなる。

 ただ演技が上手いだけでなく、

 自身が仮面ライダーだと思い込み、

 戦闘中ずっと

 没入できるような人間が必要なんだ。」

 

そういえばと思い出す。

1発目と最後のパンチは怪人に効いて、

それ以外は当たりすらしなかったことを。

なるほど、攻撃が弱くなってしまったのは、

自分が仮面ライダーとして

攻撃していなかったからか。

原理などよくわからないがとりあえず納得する。

思えば最後のパンチも

明確にライダーをイメージして放っていた。

・・・話を聞く限り、

無茶苦茶扱いにくいぞこのベルト!?

 

「・・・テラーへの対抗策は、

 現状このアクトドライバーだけだ。

 だからこそ、変身できる誰かが必要だった。」

 

浩司さんがこちらを見る、目はとても真剣だった。

 

「どうだろうか、彩羽雄飛君、

 君を“仮面ライダー役”として

 雇わせてはくれないだろうか。」

 

・・・そのスカウトに俺は

 

「やr「駄目よ!」」

 

答える前に、杏奈さんが口をはさんだ。

 

「おじさん、なにを考えてるの!?

 関係のない一般人なんかに

 任せていいわけないでしょ!」

 

そういって怒っていた。そしてこちらを向いて一言

 

「もう、あなたを巻き込む気はないわ。

 説明を聞いたらさっさと帰って。

 そしてこの問題に二度と関わらないで。」

 

そういって、俺が持っていた

ドライバーを引っ手繰って出て行ってしまった。

取り付く島もないようだ。

 

「・・・・悪気はないんだよ。

 ただ、部外者である君を

 この戦いに巻き込みたくないだけさ。」

 

──それはわかる。

自分に向けられていた視線は嫌悪や邪険ではなく

どこか心配したような視線だった。

それもそのはずだ、自分は巻き込まれただけだ。

そして、殺されていてもおかしくはなかった。

 

「ただ、僕も早計だった。

 君にも自分の生活がある。

 ・・・この話は忘れてくれ。」

 

そういって話を切り上げようとした時──

ビーッ!ビーッ!とサイレンがけたたましく鳴る。

 

「テラーだ!」

 

浩司さんはそう言うと

備え付けられていたコンピュータに向き合う。

 

「場所は・・・・商店街!?まずいな。市民避難が」

 

どうやら狼は市街地を襲うらしい、

関わるなと言われた俺はどうすべきなのだろうか。

 

「・・・アクトドライバーが近づいて行ってる?

 まさか・・・杏奈!?

 なんで向かっているんだ!?戦う気か!?」

 

それを聞いて俺は──

つい部屋を飛び出した。

 

『グァッハッハッハ!』

 

商店街は突然現れた怪物に騒然としていた。

逃げ惑う人々、

破壊される街並み。

地獄であった。

そして逃げ遅れた人が一人、

親と離れ泣き叫ぶ女の子が・・・・

ウルフテラーの目に映ってしまった。

獲物に目掛け突撃し、

その爪が女の子を切り裂く・・・前に

飛び込んだ杏奈によって助けられた。

 

「逃げて!」

 

女の子を逃がしウルフテラーと相対する。

 

『この前の女じゃねえか。

 ──あの緑色の男はいねぇのか?

 そりゃあいい、心置きなく殺せるぜ』

 

そういい笑うテラーをしり目に杏奈はベルトを巻く

そしてチケットのボタンを押した。

 

「変身!」

 

しかし、チケットは何も反応はしなかった。

 

「なんで!」

『ガルルァ!!』

 

叫ぶ杏奈目掛け、テラーはとびかかる。

その爪は杏奈を切り裂く・・・ことはなかった。

 

「危ない!」

 

今度は飛び込んだ雄飛によって助けられていた。

 

「あんた・・・・なんで!」

「いいから走って!」

 

手を引き物陰に隠れる。

一息ついた雄飛の、その胸倉を杏奈が掴んでいた。

 

「関わるなって言ったでしょ!」

 

吠えるように怒鳴られる

これは自分たちの問題だと

いわんばかりに拒絶されていた

 

「あんなの見てほっとけるわけないだろ!」

 

危機的な状況でそんな語気の強い言葉を浴びせられ、

反射的に雄飛も語気を強めて言い放つ

 

「アニメやマンガじゃないのよ!

 下手したら死ぬ!殺されるわよ!」

「わかってるよ!・・・それでも助けたい!」

 

言い合いは過熱する。

 

「なんでそこまでしたいの?

 あなたは何でそこまで戦おうとするの!?」

「あなたは何にも・・・関係ない人なのよ!?」

 

そうだ、自分は部外者であり、

前回も巻き込まれた結果に過ぎない。

今、ここであの怪人に立ち向かう義理なんて何一つない。

それでも、見過ごせないものがあった。

 

きっと、彼女は困っているのだ。

 

「・・・助けがいるなら助けたい!

 そうじゃなきゃ俺が満足できない。

 俺が幸せになれない!」

「幸せ・・・?」

「そうだ!誰かが困っているのを見過ごしたら、

 その後絶対後悔すると思うから助けるんだ!」

 

それが自分の理由だと、

いたって自分勝手な理由を雄飛は言い放つ

 

「だからやらせてくれ!

 ・・・今度は最後までやりきって見せる!」

 

そう言って、まっすぐ見据える。目は真剣だった。

その目を見て杏奈は──。

悟ってしまった。

言葉で言っても止まらないと。

目の前のお人好しは、も

はやベルトが無くても向かって行ってしまうだろう。

それは駄目だ。勝てるわけがない。

戦う力が、彼には必要だった。

 

「・・・後悔しないでよ」

 

『ガルァァ!』

ウルフテラーは破壊の限りを尽くす。

本能のまま暴れまわっていた。

──何者かがこちらに走ってくるまでは。

 

『ああ・・?』

 

見覚えがあった男が、ウルフテラーの前に立っていた。

 

『チッ面倒なのが来たな』

 

ガシャリと重い音を立ててアクトドライバーを腰に巻く、

そしてチケットを取り出し、それを起動した。

 

『MASKED RIDER』

 

チケットを携えたまま構え、そして叫ぶ。

 

「変身!!」

 

ベルトにチケットがはめ込まれる。

──どこからか、風が吹いた。

 

『Start』

風は、戦士を呼んだ(Wind called the warrior)

『MASKED RIDER!!』

 

雄飛の目の前に

緑色をした戦士のシルエットが現れ、

同じポーズを取る。

二つの影が重なり、一つとなった。

 

体が変わる。そこにいるのはもう彩羽雄飛ではない。

 

「こい!狼怪人!」

 

目の前の怪人を見据え、威勢よく啖呵を切る。

 

「・・・(・・)が相手だ。」

 

男はこの瞬間、身も心も仮面ライダーとなっていた。

 

『・・・・。やなこった!』

 

振り返り跳躍する。

楽しい破壊は十分やれた。

殺しはできなかったがまぁ次でいい。

こいつに関わるのは面倒だ。

そう結論付け、ウルフテラーは逃走を図る。

逃げ切れる自信があった。

男がどれだけ力強くても

自分(オオカミ怪人)の素早さには勝てないと思っていた。

唯一の誤算は、

跳躍は仮面ライダー(バッタ男)の十八番だったことだ。

 

グッと足に力を込め、解き放つ。

次の瞬間には仮面ライダーは、飛び行くウルフテラーの背後に迫っていた。

 

『何!?』

「ハァ!」

 

一撃。驚いて振り向いたその顔面に拳を叩き込む。

次の瞬間には、ウルフテラーは地面に叩き落されていた。

 

『グブァ』

 

墜落し苦悶の声を上げる。

ウルフテラーは過去の自分の選択を後悔していた。

──最初に見逃したのは間違いだった。

・・・面倒くさがらず殺しておくべきだった!

起き上がったウルフテラーは、

面倒などとの考えは捨てた。

明確に、目の前の存在に殺意を向ける。

──ここで殺す。殺さなければならない。

 

両者は睨みあう。

怪人と仮面ライダーの間に一瞬の静寂、

・・・先に動いたのは怪人だった。

 

『死ねヤァ!』

 

ウルフテラーは爪を振り上げ飛び掛かる。

その攻撃を、仮面ライダーは

 

「フッ!」

 

右手で器用に捌く、

そしてがら空きになった背中に──

 

「ラァ!」

 

蹴りを叩き込んだ。

 

ひるんだ相手にさらに追撃を加えていく。

一撃。二撃。三撃。

軽い攻撃は一度もなかった。

今戦っている男の中に、

彩羽雄飛は存在していない。

その全てが、仮面ライダーの一撃であった。

 

『グゥゥゥ・・・』

 

幾度となく殴られ、

ウルフテラーは頭に血が上っていた。

今までこんなことはなかった、

どんな奴も自分に怯え逃げ惑っていたはずだ。

 

──こいつはなんだ?なぜ自分に向かってくる。

なぜ、こいつは俺に痛みを与えている?

 

『調子に、乗るなぁ!』

 

怒りに任せ、爪を振り回す。

だが、そんな大振りの攻撃では、

仮面ライダーは捉えられない。

ヒラリと後ろにジャンプして、軽々と避ける。

 

『ァァァアアアア!』

 

ならばとウルフテラーは腕に力を溜めて、降り抜く。

爪から3本の斬撃が放たれる。

バイクを真っ二つにしたあの斬撃だ。

仮面ライダーはそれに対し、

──斬撃に向かって前進する。

 

無理やり突破する気かと、

ウルフテラーはほくそ笑む。

 

『(バカめ、バラバラに引き裂かれやがれ!)』

 

しかしそうはならなかった、3本の斬撃、

そのわずかな隙間を縫うように回避したのだ。

そしてそのまま接敵し、

ウルフテラーの無防備になった腹部に

強烈な拳を叩き込んだ。

 

『ギャァ!?』

 

油断していたウルフテラーは

踏ん張りも効かずに吹き飛ばされる。

よろつきながらなんとか立ち上がるが

 

『なんだよテメェ・・・。お、俺が!人間ごときに!』

 

ウルフテラーがふらつく、もはや立っているのがやっとだった

 

それを見て仮面ライダーは、ドライバーを強く押し込む

 

『 RIDER 』

BEST ACTION(ベスト アクション)!!』

 

必殺技を告げる音声が、放たれた。

 

足に力を入れ、飛び上がる。

風が舞い上がり、

仮面ライダーのその足に集まっていく。

吹き荒れる風を纏った足を、

相手に目掛け突き出した。

 

「ライダァアアアアア・・・・キィイイイイイック!!!」

 

必殺の1撃が叩き込まれる。

決着は着いた。

仮面ライダーと怪人の戦いは──、

爆発の音と共に仮面ライダーの勝利で幕を閉じたのだ。

 

 

「まさか勝ってしまうとはね。

 ・・・・大丈夫かい?」

 

浩司さんが苦笑しながら尋ねる。

 

「いででっ」

 

考えれば最初にボコられた時の

その傷が全く治っていなかった。

雄飛は体中にできた青あざに軟膏を塗られ、

沁みる痛みに耐えていた。

 

「はい完了」

 

バシィと杏奈が薬を塗り終わった背中を叩く

 

「いっだぃ!?・・・もうちょっと優しくさぁ」

「塗ってあげる優しさで十分よ」

「酷い!?」

 

ハハハと苦笑しながら

浩司さんがこちらに向き直る。

その顔はまたも真剣なものに切り替わっていた。

 

「・・・・彩羽雄飛君。

 君の力は証明された。

 君は仮面ライダーとして戦うことができる。

 一度なかったことにした話を

 掘り返して悪いがもう一度、言わせてほしい」

 

「──君を“仮面ライダー役”として

 雇わせてはくれないだろうか。」

 

それは運命の分岐点

いいえ、といえば自分はこれまで通り

平和に暮らしていくことになるのだろう。

 

はい、といえばそれは自分の命すら危険な

戦いに身を置くことになってしまうのだろう。

──それでも、答えはとっくに決まっていた。

 

杏奈さんを見る、

好きにすればいい。呆れた風にそう言われた。

 

そのスカウトに対して俺は答える

 

「やります!やらせてください!」

 

こうして俺は仮面ライダーアクトとして

戦いの舞台に上がることを選んだのだった。

 

続く

 




次回 仮面ライダーアクト

次なる怪人の襲来
『競争勝負だぁ!追いついてみな!』

「ライダーなんだから、
 必要なものがあるだろう?」

「走り抜く!仮面ライダーならやれる!」

第3章[ 鋼の愛馬 ]


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第3章 ~鋼の愛馬~

前回までのあらすじ
謎の怪人の襲撃に巻き込まれた主人公、彩羽雄飛は
何の因果か仮面ライダーへと変身してしまう。
この世界が怪人、テラーの魔の手が
迫っていることを知った雄飛は
困っている人のため、
そしてそれを見過ごせない自身のために
仮面ライダーとして舞台に上がるのだった。



「ハッ・・・・ハッ・・・!」

 

早朝の歩道、

日も上り切らないような時間に少年は走っていた。

 

既に長時間走っていたのだろう、

次第に少しずつ減速し・・・やがて足が止まる。

 

「・・・・もっと速くならなきゃ、

 ・・・・駄目だ」

 

肩で息をしながら呟く。

 

「もっと速く走らないと・・・」

 

少年は焦る、

自分より足が速い人間がいくらでもいる環境に。

陸上名門校のレギュラー、

その狭き門に自分が力不足だということを

少年は認められなかった

そして、その不安を振り払うように

また駆けだそうとしたその時。

 

「なら僕が手助けしてあげようじゃないか」

 

背後から突然声が聞こえた。

 

「え?」

 

少年が背後に振り返ったその瞬間、

ドスリと何かが自分に突き立てられた。

目の前には、高校生くらいの男性。

随分と奇抜な格好だった。

古い西洋のような服。

縦に長い帽子。

黒く、長いブーツ。

そんな男の腕が、

あろうことか自分の胸に突き刺さっていた

 

「うっ!?」

 

そして少年に変化が起こる。

少年の姿に重なるように異形の姿が現れる。

少年の存在が書き換えられていく。

最初からヒトではないものとして。

生きてきたこれまでの人生が、

別の存在として過ごしてきた時間に。

全てが終わったその時に、少年の姿はなかった。

そこにいたのは、人ではない何か、

すなわち怪人であった。

 

『ウォオオオオオオ!!!!』

 

怪人は走り出す。

 

「さて、どうなるか見ものだね~♬」

 

その姿を見送りながら、男は楽しそうにそう言い、

やがて揺らめくように消えた。

 

 

第3章「鋼の愛馬」

 

「・・・平和だぁ」

 

快晴の空の下、竹箒を抱えながら雄飛はそう呟く。

時刻は昼下がり、

今日も何事もない穏やかな一日を謳歌する。

その脳天に

 

「何やってんの?」

 

ガンッと金属トレイが叩きつけられるまでは

 

「痛ぁ!?」

 

突然の痛みに涙目になりながら振り返る。

目の前には腕を組んでこちらを睨む少女

 

「サボってないでさっさと掃除しなさい!」

 

エプロンを付けた少女、

杏奈はそう怒鳴ると

ズンズンと店内に戻っていった。

 

「はーい。・・・って言ってもなぁ」

 

そういうと雄飛は目の前の建物を見る。

 

純喫茶「テアトロ」

 

そんな名前の看板を掲げた店が建っていた。

店の中を覗き見る。

先程戻った杏奈さんが床をモップで拭いていて、

ずっと店の中にいた浩司さんは

使ってもいないカップを磨いている。

・・・それ以外は誰もいない。

平日どころか休日に至っても、

閑古鳥が鳴き続けているこの喫茶店こそが

現在の自分が過ごしている場所、

すなわち仮面ライダーの活動拠点であった。

 

「日曜の真昼間にさえ客が一人も入らない

 店の掃除をしてもなぁ・・・」

 

愚痴が漏れる。

せめて大盛況とまではいかずとも知る人ぞ知る

隠れスポット的な店ならなぁ・・・。

とはいえやることもない

ため息をひとつついた後、

掃除の続きをやり始めた。

 

掃除も終わり、いよいよもってすることもなくなる

誰も座っていないテーブル席の椅子に腰を掛けて

休憩でも取ろうかと思ったその時

 

カラン とドアを開く音が聞こえた

 

「やってるか?」

 

振り返ると、

スーツに茶色っぽい

ロングコートを着た男性が立っている。

見るからに・・・刑事?

 

「いらっしゃい太田・・・出たのか?」

「おそらくな、座るぞ」

 

太田と呼ばれた男はそういうと

カウンター席に腰を掛ける。

雄飛は杏奈に小声で問いかけていた。

 

「・・・誰?」

太田誠司(おおたせいじ)さん。

 警察で不審な情報とか回して

 私たちに協力してくれてるの」

 

なるほど。

警察なら不審死や事故などの情報を

いち早く手に入れられる。

テラーの早期発見にはこれ以上ない協力者だ。

・・・・?

 

「テラーって

 こっちで感知できてるんじゃないの?」

 

狼怪人の時は

なんか警報とか探知機とか鳴ってたよね?

 

「あれはドライバーの機能よ、

 一度接触したテラーをベルト周辺の

 ある程度の範囲なら探知できるの」

「初見のテラーには効かないから

 まずはこっちから探さないとだめなのよ」

 

と杏奈さんが補足する

なるほど

そんな話をしているうちに椅子に座った

太田さんと浩司さんが

何か資料を取り出して話し始めていた

 

「こっちが、最近乗用車のクラッシュが

 多発している道路の情報。

 そしてこっちが、

 一昨日から行方不明届が出されている

 高校生男子の情報だ」

 

そういうと2つのファイルを提示する。

 

「・・・共通点は?」

「行方不明の少年だが、

 陸上部で主にこの道路を

 ランニングコースとして走っていたらしい」

「なるほど、可能性は高いな。・・・雄飛君!」

 

2人の会話から察するに、

行方不明の少年がテラーになって

襲っている可能性が高いようだ。

つまり、自分(仮面ライダー)の出番だ

 

雄飛と杏奈の2人は

情報にあった道路に赴いていた。

車通りは少ないながら、

直線的には数10km以上の距離がある

なるほど、ただ走るだけの

トレーニングにはなかなかいい場所だろう

 

「でもそれらしい姿はない・・・・か」

「そうね、とにかく探すわよ」

 

2人であたりを見回していると、

遠くから車が走ってくる。

普通の車のようだが随分と飛ばしているようだ。

・・・というかすごいスピードだ、

100km/h 以上出てないか!?

 

「あぶね!」「キャァ!」

 

猛スピードで走る車は2人の横を通り過ぎる。

なんて危険な、と怒りそうになったが

・・・どこか様子がおかしい。

 

まるで、何かから逃げるみたいな・・・

そんなこと思っていると、2人の横を

何か円盤のようなものが通り過ぎて行った。

先程の車以上の速さのそれは、

どんどん車に追いつき、やがて・・・追突する。

車がコントロールを失い派手にスピンし、

そして轟音を立てて近くの壁に激突した。

 

ぶつかった何かがゆっくりと地面に降りていく

形状が変わっていく・・・

円盤のように見えていた何かから手足と頭が生える。

 

『ふぇっへっへ・・・・』

 

それは亀の怪物だった。

亀が甲羅の状態で飛び、

車にぶつかって事故を起こす。

これが今回の事件の真相だったらしい。

 

「杏奈さん!車の人を!」

「わかった!」

 

雄飛はドライバーをセットし叫ぶ。

 

「変身!!」

 

『MASKED RIDER!』

 

仮面ライダーに変身し、

亀の怪人=タートルテラーと対峙する。

 

『んー?

 あぁ。お前が仮面ライダーってやつかぁ?』

 

テラーは間延びした口調で話す。

こちらのことは知られているようだ、

なら話は早い。

 

「そうだ!亀怪人!私が相手だ!」

 

啖呵を切って構える。

 

『いいぜぇ』

 

愉快そうな声色でそういうと

タートルテラーは空中に浮かびだす。

そして、手足と頭を詰め込んだ状態になる。

あのスピードでの体当たりか!?

仮面ライダーが身構えると

タートルテラーは手足をひっこめた穴から

ジェット噴射のように火を噴かせ、

横向きに高速で回転しながら・・・

こちらとは真逆の方向(・・・・・)に飛び出した。

 

『競争勝負だぁ!追いついてみな!』

 

・・・。

それは突然のレースの申し出だった。

当然そんなこと予想も全くしておらず、面喰ってしまう。

 

「なっ・・・ま、待てい!」

 

数秒後再起動した仮面ライダーが走り出す。

仮面ライダーに変身している雄飛は、

常人では不可能なスピードで走ることができる。

その速さは、

時速にすると240km/hは超える速さである。

 

「・・・・!?」

 

しかし、仮面ライダーの走力をもってしても

タートルテラーには追いつけない。

それどころかどんどん引き離されていく。

そして──、

ついにはその姿も見えなくなってしまった。

足を止め、飛んで行った方向を見ながら身構える。

どうやら見失わせて不意を突いてくる。

というわけでもないようだ。

つまりは・・・逃がしてしまったということだ。

 

「えぇー・・・・」

 

戦いもせずに行ってしまった亀怪人に

ついつい演技も忘れてしまって

気の抜けた声が漏れ出てしまっても

さすがにしょうがないだろう。

 

「何逃がしてんのよ」

 

呆れたように杏奈さんがこちらを非難してくる。

しかし待ってほしい、

怪人が、仮面ライダーを見て

突然レースを仕掛けてくるとか

想定できるはずがない。

さらに言えばカメである。

そこは防御力とかそういった方面で

特徴があってしかるべきだろう。

なんで飛んでしかも速いんだよ。

 

「競争か、

 しかも普通に走ってるだけじゃ追いつけない

 ・・・厄介だね。」

 

とりあえず作戦会議をしよう、

そんな浩司さんの提案を受けて

4人でテーブルを囲んで意見を出し合う。

なんとかして

奴とまともに戦う作戦を見つけなくては。

 

「追いつけないなら、

 待ち伏せして飛んできたところを

 叩くしかないんじゃないか」

 

太田さんが提案、なるほどそれなら・・・

 

「でもそれ避けられたらそのまま逃げられますよ。

 しかも失敗したら

 その回数だけ犠牲者が増えますし」

 

杏奈さんが待ったを掛ける。

確かにこの場合、どうしても一発勝負になり、

空振り=失敗で

また奴が飛んでくるのを待つ必要がある。

しかも、奴が飛んでいるということは、

それは攻撃対象を追っかけてる最中ということだ。

 

失敗したらまた

車をクラッシュさせるまで追っかけていくだろう。

幸い、まだ死者は出ていないがクラッシュの時に

怪我を負う人もいて、被害は多いらしい。

そんな状態で当たるまで

何度もリトライはさすがにできない。

 

「なら・・・罠を仕掛けるとか」

 

網とかなら、広範囲に広げれるし、

向こうが勝手に引っかかってくれるのでは

そんな俺の提案だったが。

 

「あの速さよ、どんな頑丈なのが必要になるのよ」

「前走ってる車ごと引っ掛ける気か?」

 

2名の指摘より却下。

他にも考え着いたのはいくつかあったが、

どれもこれもいまいちで・・・

 

「・・・仕方ないか。」

 

3人が声の方を一斉に向く

今まで口を噤んでいた浩司さんが呟いていた。

 

「雄飛君、ついてきてくれ」

 

浩司は席から立ちあがると

そういってどこかに誘導しようとしている。

 

「・・・おじさん?何か思いついたの?」

 

杏奈さんがそう尋ねる

すると浩司は振り返り

 

「仮面ライダーなら、

 まだ足りないものがあるだろう?」

 

そんなことを言っていた。

 

連れてこられたのは店の裏手、居住部の片隅

壁には工具、散らばっている機械部品

そして前方にはシャッター

すなわちガレージである

そして、その中央に“それ”は鎮座していた

 

「”アクティベンダー” 

 仮面ライダーアクト用に設定されたマシンさ」

 

そこにあったのはオフロードバイク。

ただ市販の物とはデザインが大きく異なる。

なんていうか

・・・とても奇抜だ、仮面ライダーっぽい。

 

「お、おおおお!バイク!

 専用バイクあったんですね!

 それでこそ仮面ライダー!」

 

テンションが上がる。

そりゃあライダーだしな!

乗り物の1つや2つ乗らないと!

しかし──

現代科学で仮面ライダーみたいな

化け物マシン作れるのだろうか?

 

「あぁ、中身は普通のバイクさ。奇抜なのはガワだけ」

 

ずっこける。

まさかの見掛け倒しである。

 

「・・・じゃあなんの解決策にもならないですよ!?」

 

普通のバイクの速度じゃあ、カメには追いつけない

まだ仮面ライダーで走った方が速い

 

「まぁまぁ最後まで聞いて、

 ・・・これにはアクトドライバーと

 同じ機能が備え付けられている」

 

同じ機能?

つまり演じたら

それと同じ力が得られるってことだろうか

 

「そう、このバイクには

 仮面ライダーのバイクとしての

 設定が付与されている。

 つまり仮面ライダーが乗って、

 走らせると普通じゃあ出せないような

 速度だって出すことができるようになるんだ。」

 

つまり、仮面ライダーが操縦することで

このマシンは設定上の力を出せるようになるということか。

 

「設定上の最高時速はMAX500km/h 

 敵がどれだけ速くてもきっと追いつける」

 

なるほど、確かにこれならいけそうだ。

こんな奥の手を隠し持っていたなんて、

浩司さんも人が悪い

そんなことを思っていたのだが、

浩司さんの顔を曇らせる。

 

「ただ──これはもう少し調整と、

 乗る練習が必要だと思っていたんだ。

 下手をすれば怪人どころか」

 

「このバイクに君が殺されかねないからね」

 

そしてなんとも不吉そうなことを言い出した。

 

雄飛は再度あの道路に訪れていた。

その傍らには件のバイク、

今こそリベンジの時だ。

 

「太田さんが来たわよ!」

 

遠くからサイレンを鳴らしながら

車がこちらに走ってくる。

サイレンを鳴らしながら走ってもらうことで

怪人の呼び寄せをしてもらっていたのだが、

どうやらうまくいったようだ。

太田さんは凄いスピードで車を走らせ、

自分たちの立つ場所の前で見事に停車する。

 

「急げ、すぐ来るぞ!」

 

降車した太田さんがそう叫ぶと、

遠くから轟音を立てて何かが近づいて来る。

チケットを構え、叫ぶ。

 

「変身!!」

 

『Start』

風は、戦士を呼んだ(Wind called the warrior)

『MASKED RIDER!!』

 

変身した仮面ライダーはバイクに跨り、

挑発するように大きくエンジンを吹かす。

そんな音を聞いて飛行してきた

タートルテラーは一度停止する。

そして値踏みするようにこちらを一瞥し、一言。

 

「へー、速そうなの持ってきたじゃん。

 ──そんじゃあ、追いついてみな!」

 

タートルテラーが再度飛行を開始する。

それを追うようにして

仮面ライダーもバイクを発進させたのだった。

 

バイクが轟音を立てて走る。

前方には飛行するタートルテラー、

距離は縮まらないが

何とか引き放されずに追跡ができていた。

 

チラリとバイクに備え付けられた

スピードメーターを見る、

表示された速度は300㎞/h

この時点で相当なスピードだが、

追いつくにはここからさらに

加速しなければならない。

そう──仮面ライダーのような

超人でなければ走れないようなスピードに。

 

 

「バイクに殺されるって

 ・・・どういう意味です?」

 

まさか、

走らせすぎるとバイクがもたずに爆発!──とか

 

「そういう意味じゃない。いいかい?

 このバイクが500㎞/hの速度を出せるとして・・・」

「──君、乗れるかい?」

 

500km/h確かにすさまじいスピードだ、

でも、仮面ライダーなら

その程度の速度は平気で乗りこなすだろう。

 

「仮面ライダーじゃない、

 彩羽雄飛君は乗れるのかい?」

「何言ってるんですか、

 乗ってる時は俺じゃなくて・・・・あっ」

 

それはつまり・・・・

 

「そう、仮面ライダーなら500km/h出せても

 その状態で演技が止まってしまえば、

 その瞬間状況は

 ”普通の人間が500km/hの速度のバイクに乗っている。”

 というものになってしまうんだ」

 

ハンドルを持つ手に力が入る、

・・・加速すれば何とか追いつける。

そして、スピードを上げようとしたその時。

 

『中々やるなぁ!なら・・・・これはどうだぁ!』

 

タートルテラーがそう言うと

火を噴いている穴からこちらに向かって

野球ボール位の炎弾をばらまいてきた。

 

「何!?」

 

とっさにハンドルを切る、

ぎりぎり避けるが少し距離を離されてしまう。

妨害は完全に想定外だった。

炎弾を避けながら距離を離されないように速度を上げる。

避けながらなんとか距離を離されない速度に到達する。

 

しかし、引き離されないだけでは意味がない。

奴の飛行を止め、

攻撃を与えねば勝利にはならないのだ。

 

自分に飛び道具はない、

奴を止めるには追い越して前から叩くか

並走して横から叩くしかない。

 

しかし──スピードメーターを見る、

表示されている速度は350km/h

既に少しでも気を抜けば風圧で

ハンドルから手が引きはがされそうになる。

これ以上速度を上げるのは危険だと

自分(彩羽雄飛)の理性が訴えかける。

そうだ、今でも炎弾を避けるたびに

ハンドルを取られスピンしかけそうになる。

 

──無理なのか?

そんな考えを振り払う。

違う、このベルトは、

このバイクはそれができる力を持っている。

できないのは自分が恐怖に負けているからだ。

思い出せ、仮面ライダーは恐怖に負けていたか?

いいや違う。

恐怖することはあった、

それでも最後には打ち勝っていたはずだ。

彼らなら死の恐怖にだって

打ち勝って立ち向かっていけるはずだ

 

「──走り切る!仮面ライダーならやれる!」

 

恐れるな、怖いなら

もっと深く仮面ライダーに演じろ。

自分は、仮面ライダーだ。

人間の平和を、

自由を奪う悪に立ち向かう仮面ライダーだ!

そうだ(・・・)は仮面ライダーアクトだ!

 

──走る速さでまともに視認できていなかった

周りの風景が鮮明になっていく。

一瞬のうちに過ぎ去るはずの景色が、

緩やかに流れるように見える。

視力が、そしてそれを認識してからの

思考能力が引き上げられる、

ぎりぎり避けていた

炎弾が余裕を持って避けることができるほどに。

 

そして、タートルテラーが

炎弾を出し終えた一瞬の隙を見計らって、

一息に、一気にハンドルを回す。

400km/h・・・450km/h・・・500km/h

最高速度に達したアクティベーターは

一瞬でタートルテラーに並び、追い越した。

 

『!?』

 

突然の出来事に驚愕するタートルテラー、

回転が少し緩んだ。

 

「っらぁ!!」

 

そしてそれを見逃さずにバイクの後輪を持ち上げ、

タートルテラーを殴り飛ばした。

バランスを崩したタートルテラーは

盛大にバウンドしながら道に壁に打ち付けられる。

 

バイクを降りる、さぁ第2ラウンドだ

 

「もう逃がさん!行くぞ亀怪人!」

 

一気に距離を詰める

 

「はっ!」

 

そしてがら空きの腹を殴りつける。

 

『ヒッ』

 

攻撃されることなど考えていなかったのだろう

タートルテラーは怯みながらパンチを受ける。

 

あまり手ごたえがない。

どうやら背以外の部分も固いようだ。

しかし──

 

「フン!」

 

左、右、再度右・・・

関係ないとばかりに殴りつける、

壊れないのなら、壊れるまで殴ればいい。

 

どうやら飛行以外の挙動は鈍いらしく

碌に抵抗できぬまま殴られていく。

そしてとどめと言わんばかりに右足で蹴り飛ばす。

同じ個所を何度も叩かれた甲羅に

少しずつヒビができ始めていた。

 

『いでえっ!・・・ヤッやめろぉ!!』

 

吹き飛ばされたタートルテラーは

再度甲羅の中に手足と首を引っ込めた。

回転し、浮かび上がる。

しかし、今度は移動せずに──

 

『食らえェ!!』

 

炎弾をこちらに向けて放つ。

しかし、一度見られた技である。

仮面ライダーは右へ左へ

スライドするように小さく跳躍し炎弾を回避する。

そして最後の一発に対して足を止め──。

 

「ハァ!!」

 

思いっきり蹴り返した。

それに面を食らった

タートルテラーは避ける間もなく被弾。

またも地面に叩きつけらる。

その衝撃で

バキリと身に着けた甲羅全体に亀裂が走り始める。

ここまですればもはや防御力など有りはしない

止めを刺そうとベルトに手を伸ばしたその時

 

『ヒッヒイイイィ!?』

 

タートルテラーはまたも飛行し、

そして仮面ライダーとは逆方向に飛び立った。

完全に怯えてしまった怪人は逃走を選択したのだ。

 

「・・・逃がさん!」

 

だが、仮面ライダーに焦りはない。

再度バイクに跨り、

そして一気にアクセルを吹かす。

一気に最高速にまで達した

バイクは容易くタートルテラーを捉えた。

そして仮面ライダーは自分のベルトに手を付ける。

 

『 RIDER 』『 BEST ACTION!』

 

決着をつける時だ。

仮面ライダーがハンドルのブレーキに手をかけ、

そして一気に握り込む。

突然の前輪の停止に

後輪部分が大きくかち上がる。

仮面ライダーは座席部分に足をかけ

そして後輪の反動を利用して

前方に向け大きく跳躍した。

 

猛スピードで仮面ライダーが飛んでいく。

そして飛行するタートルテラーに

いとも容易く迫っていた。

 

『ヒッ!?』

「ライダー!キック!!!」

 

避ける暇などない一瞬の交錯。

風を纏った蹴りが固い甲羅ごと怪人を貫き、

怪人は叫ぶ間もなく爆発して消し飛んでいた──。

 

キックを決めたライダーが、

ガリガリガリと地面を削るように着地する。

背後を見る。

すると、爆発跡の場所には

中学生程度の少年が横たわっていた。

駆け寄って少年の安否を確認する。

 

「・・・・zzz。」

 

どうやら気絶しているだけのようだ。

 

「・・・良かったぁ。」

 

それを見てようやく仮面ライダーから

彩羽雄飛へと意識が戻ってくる。

今回も、自分は何とか勝てたようだ。

ホッと胸をなでおろしていると足音が聞こえてくる。

こちらに駆けてくる2人に、

雄飛は変身を解除して手を振るのだった。

 

 

 

仮面ライダーが勝利した。

つまり自分が作った怪人は負けてしまったわけだ。

 

「いいねぇ!そう来なくっちゃ!」

 

勝利した仮面ライダーを遠くから眺める男が一人。

中学生をタートルテラーに変えた青年がそこにいた。

 

「次はどんな奴を見繕うかな~♬」

 

次なる怪人に思いを馳せる青年の

その背後にさらなる人影が現れる。

 

「随分と楽しそうだな、ペロー(・・・)

 

それは壮年の男性だった。

よく晴れて暑さも残る気候にも関わらず

薄暗い色をしたコートを羽織っている。

 

「やぁサン(・・)。楽しくもなるよ。」

 

ペローと呼ばれた青年は陽気に笑う。

 

「強敵がいるほど、

 強い怪人が生まれるってものだからね!」

「強いテラーが生まれるほどに、僕らの目的に近づく」

 

ただ、その目はどこまでも冷たかった。

 

「そう、神の誕生のね」

 

そういうと、二人の男は闇の中に消えていく。

──物語は、まだ始まったばかりだ。

 

 

続く

 




次回 仮面ライダーアクト

少年たちを襲う、謎の襲撃事件
「犠牲者は皆、
 僕の友達をいじめてたやつらなんだ」

『私は、悪逆を絶対に許さない!』

雄飛は復讐を止められるのか
「悪いことをただ暴力だけで
 叩き潰すなんてやり方、間違っている!」

『侍丸!』

「いざ参る!!」

第4章[正義の騎士、悪人(あくと)の侍]


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第4章~正義の騎士と悪人(あくと)の侍~

喫茶「テアトル」──

 

「パトロールがしたい?」

 

「そう、パトロール!」

 

そんな提案をするのは、

仮面ライダーに変身する青年

彩羽雄飛である。

バイクという明確な移動手段を手に入れた彼は

浮かれたように話していた。

そんな彼の頭の中にはバイクを駆り、

人々が襲われる現場に颯爽と現れる

ライダーの姿というロマン溢れる風景が

 

「せっかくバイクなんて

 移動手段ができたんだからさ。

 ここはヒーローらしくあっちこっちを散策して、

 怪人が出ても素早く──。」

「駄目よ。」

 

しかし、そんな妄想は

杏奈の冷ややかな目とたった一言で

粉砕されるのであった。

 

「なんで!?」

「あのねぇ・・・

 テラーがどこに現れるかなんて

 見当もつかないのよ?」

「日がな一日中バイク走らせても

 この町一帯を回り切れるわけもないでしょ!?」

 

呆れたようにそう言い放たれる。

 

「いやでもさぁ」

「大体、一日中バイクを走りまわすなんて、

 燃料代がいくらかかると思ってるの!」

 

み、身も蓋もない。

バイクの燃料代に悩む仮面ライダーなんて

いるのという声が聞こえる。

───そりゃアクティベンダーは

中身ただのバイクだからね!

普通にガソリンで動きますとも。

 

「そんなことより買い出し行ってきなさい!

 これメモね!」

 

杏奈さんはメモを押し付けると

話は終わりだといわんばかりに

店の奥に引っ込んでしまった。

そして俺はがっかりしながら

バイクに跨りメモに書かれた

品物を買いに向かうのでした・・。

 

 

第4章「正義の騎士と悪人(あくと)の侍」

 

「これで・・・全部っと。」

 

メモには聞いたこともない

電気部品の名称が何点か書かれていて

結局いろいろと

電気量販店をめぐることになってしまった。

・・・もしかしてバイクの燃料代って

喫茶店バイトの給料から天引きなのかなぁ。

 

「世知辛いなぁ・・・。」

 

そんな風にため息をついていると

何やら騒ぎ声が聞こえてくる。

複数人の男性の声、

・・・いや、

騒ぎ声なんかじゃあない、これは悲鳴だ!?

 

「まさか!」

 

荷物とバイクを置いて声の聞こえた方に走る

向かった先には、男子高校生くらいのグループが

バラバラに逃げ惑っているその背後には

 

『・・・。』

 

西洋風の鎧で身を包んだ

騎士の風貌の怪人が佇んでいた。

左手には円形の盾、

そして右手には身の丈ほどの突撃槍を携えている。

そしてその前方には逃げ遅れた少年が一人

 

「・・・・!!!」

 

恐怖で声すら上がらないその身に

今にも槍が振り下ろされそうになっていた。

 

「変身!!!」

 

『MASKED RIDER!!』

 

仮面ライダーはそこに割り込み

振り下ろされた槍を何とか蹴り飛ばす。

 

「逃げて!!」

 

背後の少年に怒鳴りつける。

少年は目を白黒させながらも

何とか立って足をもつらせながら

その場を離れていった

 

『・・・邪魔を・・・するな!!!』

 

騎士怪人=ナイトテラーは

怒ったように槍を振り上げる。

振り下ろし、払い、突き。

流れるように繰り出される攻撃を

すんでのところで回避する。

武器の扱いが大分達者な

タイプのようで、隙が無い。

仕方がないため、仮面ライダーは

突き出された槍を左腕で抱え込み、

無理やり動きを停止させる。

 

そして空いた右腕で反撃を撃つも。

ガッと鈍い音と共に拳に痛みが走る。

テラーの手にもつ大盾に

仮面ライダーの拳は阻まれていた

 

『・・・フン!』

 

そして、ナイトテラーは

仮面ライダーが抱え込んだままの槍を

強引に横に振り払う。

 

「ぐぉ!?」

 

一瞬の浮遊感、仮面ライダーは

振りほどかれ地面に転がされていた。

 

『貴様に興味はない。

 私は先を急いでいるのだ。』

 

そう吐き捨てると、

逃げていった少年たちを追おうとしている。

どうやらなぜかわからないが、

あの少年達を明確に標的と定めているようだ。

 

「くっ・・・はぁ!」

 

行かせまいと仮面ライダーが殴り掛かる。

しかし、こちらは徒手空拳で

相手は盾と巨大な突撃槍。

盾でしっかりとガードされてから、

見事にカウンターを決められてしまった。

 

「ッ!・・・なら!」

 

先程と同様に突撃

 

『無駄だ』

 

何度やっても同じことだと

ナイトテラーが槍を構える。

 

「いまだ!」

 

ナイトテラーの眼前から

仮面ライダーが消えさる。

 

突撃をフェイントに

上方に跳躍していた仮面ライダーは

ナイトテラーが気づいた時には

その背面に着地していた。

 

『何!?』

 

背後を取られたことに気づいた

ナイトテラーは振り返る

その隙を逃すことなく仮面ライダーは

ナイトテラーの手から盾を蹴り飛ばした。

 

──これで防御手段はない。

 

飛んで行った盾を拾われる前に仮面ライダーは攻勢に出る。

 

『 RIDER 』『 BEST ACTION!』

 

攻撃に合わせて槍が振るわれるのであれば、

その槍ごとへし折って押し通ればいい!

仮面ライダーが大きく跳躍し、

ナイトテラーへ向けて必殺技を放つ。

 

「ライダーッキック!!!」

 

仮面ライダーの必殺キックが放たれ、

怪人に直撃し勝負が決まる──かに思われた。

 

しかし、盾を失ったナイトテラーは

槍を仮面ライダーではなく地面に突きつけたのだ。

そして地面を大きく引っ掻く、

まるで工業用のドリルで砕かれるように

アスファルトが粉々に割れ砕け

砂煙となって巻き上がった。

大きく舞い上がった砂煙に

キックの目測が定まらない。

ドゴンッ!とライダーキックが

激突した音が鳴り響く。

──しかし、手ごたえは感じられない。

やがて煙が晴れた場所には

地面にライダーキックを放った仮面ライダーが

一人残されていただけであった。

 

辺りを見回すも怪人の姿はない。

どうやら煙に乗じて逃げられてしまったようだ。

 

「・・・・クソッ!」

 

焦る、怪人は自分ではなく、

最初の少年たちを狙っていた。

つまり自分が逃がしてしまうと

また彼らに危険が及ぶ可能性がある。

 

走り出そうとしたところで。

「(ドライバーの機能よ、

 一度接触したテラーを探知できるの)」

この前、杏奈さんとの会話で出た

ベルトの機能を思い出す。

 

急いで、自身の感知機能を起動。

 

・・・・。

周りの建物に4つくらいの反応

──これはさっきの少年達だろう。

 

そしてこちらからすごい速さで

遠ざかる反応・・・こちらがテラーか。

どうやら少年達は見失い、撤退しているようだ。

逃がすまいとバイクに跨ろうとしたその時

 

「待って!!」

 

背後から声が聞こえる。

見ると先程の少年たちとはまた別の少年が一人。

 

その少年は仮面ライダーの前方に陣取り

 

「あいつを殺さないでください!」

 

必死な顔で縋り付かれてしまった。

 

「ちょっ離して!?逃げちゃうから!?

 怪人逃がしちゃうから!?」

 

「ころさないでぇぇぇ!!!」

 

むやみに振りほどくこともできず

足止めを食らってしまう。

そうしたうちにテラーの反応が

探知範囲から外れてしまった。

 

喫茶「テアトロ」──

 

テラーを逃がしてしまった雄飛は

仕方なくテアトルに帰還しテーブルに座る

その目の前には───。

 

「えーっと。お名前は?」

「か、加藤です」

 

「お待たせいたしましたブレンドコーヒーです。」

「あっ、ありがとうございます」

 

逃がす原因となってしまった少年が腰かけてる

彼は、間違いなくあの怪人について

何か知っているはずだ

それをどうにかして聞き出さなければ

──なのだが。

 

「で、なんでテラーを助けたの?」

「え、えーっと・・・・それはその・・・・」

 

──少し威圧的すぎるのでは?

ほら、明らかに怯えちゃってるじゃないか。

仕方がないので助け船を──。

 

「──あの怪人、知り合いなんだろう?」

 

背後から聞こえた声は、浩司さんの物だった。

買い出ししてきたものを

もって奥に引っ込んだと思ったら

いつの間に戻ってきていたのだろうか

 

そんな浩司さんの言葉を受けた少年は

 

「──。」

 

押し黙ってしまった。

──どうやら、図星のようだ

 

なるほど、人がテラーになるなら

その人の知り合いもそりゃいるわけで。

と、なると彼が言った

「殺さないで」という言葉は・・・

 

「加藤君、俺たちは決して、

 君の知り合いを殺す気はないんだ。」

「!?」

 

加藤君がかすかに反応する

やはりそういった部分か

 

「あの怪人を倒せば、

 君の知り合いはちゃんと元に戻る」

「だから、そういったことの心配はしなくていい」

 

──これで安心してもらえるだろうか?

 

「──。」

 

しかし加藤君の表情はすぐれない、

 

「教えてくれないか、その知り合いのこと」

 

その人となりがわかれば、

テラーの行動とかいろいろと分かるかもしれない。

そんなつもりで朗らかに語りかけてみたのだが──

 

「・・・言えない。」

「えっ?」

「すみません!!」

 

突然立ち上がり、店から逃げて行ってしまった。

 

「・・・なんで!?」

「知らないわよ!

 あんたの顔が胡散臭かったんじゃないの!?」

「それを言うなら

 杏奈さんの威圧もまずかったって!!」

 

おかしい、今のは安心して

こちらに協力してくれる流れではないのか

 

「・・・・追いかけなくていいの?」

 

口論を続けていると浩司さんから的を得た指摘が

その通りだ、

口論してる暇があったら彼を追いかけないと

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

慌てて俺は店を後にして、彼を追いかけるのでした。

 

 

ある河川敷の川の下に、

橋と岩場に隠れたスペースに

数人の少年たちが身を隠していた。

怪人に付け狙われていた少年たちだ

 

「くそ!なんなんだよあの化け物・・・」

 

イラつきながらリーダー格の少年が悪態をつく

お世辞にも素行が良いグループではなさそうだ

 

「なぁ・・・リョーちゃん。

 ここも危なくないか?」

「バーカ、

 ここがそう簡単に見つかってたまるかよ。」

 

「そうそう、

 こんな場所知ってるのは俺らとあいつくらいだよ」

「あいつ?・・・ああ田口か」

「そうそう」

 

緊張がほぐれたのか話込み始める少年たち

 

そんな少年を林の陰から見やる人影があった

加藤少年である

 

「・・・。」

 

彼は悲しそうな顔をしつつもそれを見る

 

そんな少年の背後に近づくものがいた

 

「・・・見つけた」

 

加藤少年が驚いて振り向くと

立っていたのは、

先ほど喫茶店で自分が話していた青年

すなわち雄飛であった。

 

すぐさま走り去ろうとするも

手を掴まれてしまう

 

「待って!」

「放せ!」

「話しを聞かせてくれないか?

 ・・・庇うのも逃げるのも、

 何か理由があるんだよね?」

「・・・。」

 

またも押し黙ってしまう加藤少年

しかし、その顔には迷いがあった

言うべきか、言わざるべきかという迷った顔だ

──そしてぽつりぽつりと喋り始める

 

「・・・あいつ、田口っていうんです」

「クラスでは内気で、

 でもいい奴で。俺の友達で。」

「でも、内気だったから虐められてて・・・」

「襲われてたやつら

 ・・・全員あいつを虐めてたやつらなんです」

「評判も悪い癖に腕っぷしだけはあって、

 誰も注意できなくて・・・。」

 

なるほど、あの怪人がこちらではなく

彼らを執拗に狙ったのはそういうわけだったのか

 

「・・・あいつ、

 ようやくやり返すチャンスを得たんだ」

「ここで、止められちゃったら、

 また弱いあいつに戻っちゃう」

「そう思うと・・・。」

 

そこで、押し黙ってしまう。

 

そんな彼に雄飛が声を掛けようとしたその時

 

ガァアアアアアン!

 

大きな物音が響いた、そしてその後に

 

「うわぁああああ!」

「な、なんでここにいるんだよぉ!!!!」

 

悲鳴を上げながら逃げ惑う少年たち

そして

 

『──見つけたぞ、罪人共。』

『罪への罰を受けろぉ!!』

 

騎士の姿をした怪人がそこにいた

 

「テラー!?」

「・・・田口。」

 

慌てて飛び出そうとする雄飛の前に

 

「待って!!」

 

またしても加藤少年はその前を立ち塞いでいた

・・・彼は、田口君を虐めから助けたいのだろう

しかし・・・・

 

雄飛は、加藤少年の肩に手を置き

諭すように話しかける

 

「──君が、彼の味方でありたいのはよくわかる」

「虐めが許されないことも事実だ」

 

「なら!」

「・・・でも!!」

 

「復讐に取りつかれたまま

 力を振るう彼を見過ごすことが、

 本当に彼を救うことか!?」

「君が助けたいのは、

 化け物になってしまった彼か?

 それとも、優しいと言っていた人間の彼か?」

「・・・本当の友達なら、

 どんな時に彼の味方でいてやるべきか

 わかるはずだろ?」

 

「・・・。」

 

加藤少年はハッとした表情で黙り込んだ

そして振り返って走り出し

少年たちとナイトテラーの間に割って入った

 

「田口!!」

『!?』

 

足を止めるナイトテラー

 

「も、もう気もすんだろ?

 こいつらとっくに怯え切ってるよ?」

 

背後を見る、

少年たちはすでに恐怖で泡を吹いて倒れている

 

「な?もうここいらでやめてさ!普通n『黙れ』

「・・・え?」

『我の怒りはこの程度では断じて収まらぬ』

『そしてこの怒りを妨げる貴様もまた、

 罪人である』

「・・・田口・・・?」

 

ゆっくりと、

手に持つ槍を構えながらナイトテラーは告げる

そこにもう加藤少年のよく知る友達はいない

そこにいるのは

 

『罪人は、疾く』

 

凶暴な怪人だった

 

『死ねぇ!!!』

 

『MASKED RIDER!!』

「おらぁああああ!!」

 

変身した仮面ライダーが

怪人に向けてタックルをかます

何とか加藤少年に

槍が振るわれるのを防ぐことができた

 

『ぐぅ・・・また貴様かぁ!!!』

『邪魔するのであれば貴様もまた罪人!!

 成敗してくれる!!!』

 

二度も邪魔をされ、さすがに気に障ったのか

目標をこちらにしてくれたようだ

加藤少年達が狙われる心配が減ったので都合がいい

 

しかし

 

『ハァッ!!!!』

 

「うぉっ!?」

 

1戦目よりもはるかに

力と速さのこもった槍が振るわれる

荒々しくも鋭い突き、払いの乱舞に

仮面ライダーは避けるので

手一杯となってしまう

 

元々リーチ差から不利だった仮面ライダーにとって

カウンターをする暇もない乱撃では手も足も出ない

 

そして避け続けるのにも限度がある

このままいけばいつか

避けきれなくて捕まってしまうだろう

 

「(・・・どうすればいい!?どうすれば!)」

 

仮面ライダーが対処策を考えているその時

 

「・・・ぃ!」

 

・・・?

何か聞こえた?

 

「・・・雄飛!!」

 

 

「えっ!?ぐわっ」

 

突然の呼びかけについ反応してしまう

そこに槍を食らい

仮面ライダーは地面に転がってしまう。

 

声の方を見ると自分を呼びかけたのは

 

「何やってんの!」

 

「杏奈さん!?なんでいるんだよ!」

 

杏奈さんがなにやら変なものを抱えて

そこに立っていた

 

「叔父さんから届けるよう頼まれたのよ、

 「素手じゃ不利だから」ってこれを!」

 

そういって手渡されたのは

 

「チケット!?・・・・と剣?」

 

『どこを見ている!!!』

 

「うわっ!?」

 

ナイトテラーが追撃を振るってくるの

をすんでのところで避ける

 

「アクトブレイガン!!

 それと、 剣で戦う劇のチケット!

 演じ方は自分で考えなさい!!」

「えぇ!?・・・「侍丸」・・・時代劇!?」

 

突然のアドリブ要求である

時代劇、侍・・・

 

"『貴様もまた罪人だ!』"

 

 

「・・・オーソドックスに行こう」

 

それは、江戸末期

法では裁けぬ、用人達を

信じる信念の下に、罪を承知で悪を切る

一人の侍の物語

 

意識を切り替える、

仮面ライダーという孤高のヒーローから

一人の気高きサムライの姿へ

 

「・・・いざ。」

 

チケットを掲げ、展開する

 

『侍丸』

 

MASKEDRIDERチケットを引き抜き

ドライバーに挿入する

 

『Start』

無頼剣豪(ぶらいけんごう)!いざ(まい)る!!!』

『侍丸!!!』

 

姿が変わる、緑のバッタを模したヒーローから

青を基調とした侍の意匠を施された姿へと

 

「・・・。」

 

『姿が変わったところで・・・何ができる!!』

 

ナイトテラーは怯むことなく槍を振るう

しかし、

それが仮面ライダーを引き裂くことはなかった

振るわれた槍は、アクトブレイガンで

真正面から受け止められていた

 

『な、なに!』

 

「はぁ!」

 

受け止めた槍をかち上げ、そのまま剣を振り下ろす

続けて、横薙ぎ、切り上げと続けて剣を振るう

剣がぶれることなく軌跡を描く

熟練の侍の一刀がナイトテラーを引き裂いていた

 

『ぐ、ぐぅう・・・』

 

ナイトテラーが初めて怯む

 

『なぜ邪魔をする・・・

 我の怒りが悪とでもいうつもりかぁ!!』

 

怒りのままに槍を振るうナイトテラー

対峙する仮面ライダーは

その乱撃を受け、捌き、避けながら

隙に一撃を振るう

 

『ぐぉぉぉお!?』

 

初めてナイトテラーが地に体を付ける

 

「貴様の怒りは正統なものだ」

 

『・・・』

 

「でも、悪いことをただ暴力だけで

 叩き潰すなんてやり方、絶対に間違っている!」

 

チケットを引き抜き

アクトブレイガンに装填する

 

『サムライ!』

BEST CUT(ベストカット)!!』

 

剣を構え腰を下ろす

 

 

『う、うわぁあああああ!!!!』

 

ナイトテラーが槍を構え仮面ライダーに向かい走る

対して仮面ライダーは臆することなく迎え撃つ

 

そして──

二つの影が交錯する

 

決着は一瞬

ボトリと槍の穂先が落ちる

走り抜けたナイトテラーの胴に

一太刀の剣閃が叩き込まれていた

 

「・・・一文字切り」

 

『・・・ぐあぁあああああ!!!!』

 

ナイトテラーが爆発を起こす

 

一人の少年の復讐劇が終わった瞬間だった

 

 

喫茶「テアトロ」──

 

「じゃあ、いじめ問題は解決したんだ」

 

「うん、あの後加藤君が

 証拠集めと証言集めをして

 虐めてた側も、ひどい目にあったせいで

 碌に反論もせずに認めたそうだよ」

 

よかったよかったと話をまとめると

カランカランと入口の開く音

 

「・・・お邪魔しまーす。」

 

やってきたのは噂をすれば加藤君

奥には友達らしき少年の姿

 

「おお!加藤君いらっしゃい!!

 奥にいるのって・・・」

 

「・・・初めまして、田口です」

 

「おおーいらっしゃい!!ささ!座って座って!」

「杏奈さん何してんの準備準備」

 

「何仕切ってんのよ」

 

珍しいお客さんの到来に

今日のテアトロは賑やかだった。

 

 

続く

 




次回 仮面ライダーアクト

現れる、謎の人間
『僕はペロー、人の手助けが大好きなのさ!』
甘言に誘惑され、また怪人が生まれる
『君も力が欲しくない?』
どうなる雄飛!?
「お前の好きにはさせない!」

第5章[手助け猫の襲来]


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第5章~手助け猫の襲来~

夜も更けた頃、

一人の男が人気もない路地裏を歩いていた

 

「ちっくしょー・・・・ヒック」

 

顔を赤くし、足元もおぼつかない

随分と酒に酔った様子のようだ

 

「どいつもこいつも・・・

 けっこんとか、こいびととかよぉ・・ヒック」

「おれだって・・・

 おれだってほんきだせばなぁ!!・・・」

「・・・・あー・・・もててぇ・・・・グスッ」

 

男はそんな妬みを愚痴りながら歩いていく

普段であれば、

そのまま恨み言を吐きながらも帰路につき

1日を終えてまた明日を過ごすのだろう

だが、その日は違っていた。

 

『願い事があるのかい?』

 

「あぁ?」

 

そういって声の方を見てみれば、

奇抜な格好をした青年が一人

人懐っこそうな顔を抜けて

こちらに話かけてきていた。

 

「なんだぁ・・・・あんた・・・?ヒック」

『僕はペロー、人の手助けが大好きなのさ!』

 

『君が何かを求めているのか見てね』

『ぜひ力になりたいんだ!!』

 

「・・・・?」

 

何を言っているのだろうか、この男は

訝し気に見つめる男に青年は近づいていく

なぜだろうか、どこから見ても怪しい男なのに

 

『さぁ』

 

なぜだろうか、その目から目を離せないのは

 

『君も力が欲しくない?』

 

 

喫茶「テアトロ」──

 

「女性の襲撃事件・・・?」

 

「ああ・・・

 夜間に一人で出歩いていた女性が

 意識を失った状態で発見される事件

 が多発していてな」

 

昼も過ぎた頃に、

そんな話をもって太田さんはやってきた

女性ばかりを狙うとは何たる下劣な

 

「ただ・・・おかしな点が二点あってな」

「被害者は全員、外傷らしい傷が見られず、

 また持ち物も持ち去られた跡がない

 また、意識を失ってから数日たってもまだ、

 目を覚まさないらしい」

 

つまり、窃盗や暴行が目的でなく、

また、意識を失わせる方法も不明とのことだ

 

なるほど、普通の人間の犯行にしては

不自然な事件だろう

 

「テラーの仕業の可能性が高いと」

 

コクリと太田さんは頷いた

 

「現在、警察は夜間警備の強化や

 張り紙での周知などをしている」

「女性を襲っているのがテラーだとした場合、

 標的の女性ではない 警官の男達と

 鉢合わせた時に

 どんな行動を起こすかわからない」

「できれば、

 速いうちに見つけて何とかしたいんだ」

 

「・・・まかせてください!」

 

さて、そうなるとその謎の怪人を

どうやって探すかの話になる

 

「一番手っ取り早いのは・・・囮?」

 

女性を用意して、それを見張るのが一番だろう

となると、身近な女性に頼むのが必要になるわけで

 

「杏奈さん、頼めないかな?」

 

と、店を見渡しながら話すが・・・

杏奈さんが見当たらない

店のフロアにも、

奥のスペースにいる気配もない

 

「・・・あれ?」

 

・・・そういえば、朝から見てないような?

 

「ああ、杏奈なら今日から明後日まで不在だよ」

「えぇ!?」

 

困った、まさか事情を知らない人に

協力させる訳にもいくまい

 

「他の方法かぁ・・・」

 

「いや・・・・」

 

浩司さんが何か思いついたように呟く

・・・何か、目がキラリと光った気がした

 

「僕にいい考えがある。」

 

その顔は少し、楽しそうな様子さえ見て取れて

俺は・・・・

──とても嫌な予感がした。

 

日が落ち、夜も更けていった時間帯に

蠢く影が一つ

 

体表はボコボコと隆起しており

湿った皮膚が歩くたびに

ピチャリピチャリと音を立てていた

 

彼こそが連日の事件の犯人

カエル怪人-フロッグテラーである

 

彼は道行く女性から生気を奪い

満たされることに快楽を得ていた

 

今日の獲物を探していた彼は

暗闇を一人歩く女性らしき人影を見つける

 

今日の獲物は、あの女だ

そう決めたフロッグテラーは

ヒタヒタと音を立てながら近づいていく

 

しかし、近づいてくるのに気付いたのか

女性は突然駆けだした

逃がすまいと追いかける

 

走って市街地を抜け

人通りも少なく、広い港周りにたどり着く

そこまで来ると、走り疲れたのか

女性の足が止まった

チャンスとばかりに

フロッグテラーが近づき声をかける

 

『お嬢さん、僕と遊ばないかぁい?』

 

下卑た声で背後から声を掛ける

そうすれば振り向いた女性が、悲鳴を上げる

それもまた、

これまでの経験からの怪人の楽しみだった

 

「嬉しいなぁ・・・・」

 

しかし、聞こえてきたのは落ち着いた声色

そして女性にしては、やけに野太い(・・・・・・)声だった

 

人影が振り返る

 

「この女装(かっこう)が無駄にならなくて!!!」

 

『な、なんだとぉ!!??』

 

その顔は恐怖に怯えた女性でも

麗しい女性の物でもなく

怒りに満ちた青年(雄飛)の物であった

 

『お、女じゃなかったのか・・・』

 

がっくりとうなだれる

 

彩羽雄飛は元役者志願の青年である

女性の歩き方や姿勢の取り方など

教えられればそつなくこなせる程度には

才能と技術があった

そんな男の全力の女装に、

この怪人はまんまと引っかかったのだった

 

「こんな作戦に一発で引っ掛かりやがって

 ・・・じゃなかった」

「女性のみを狙う狼藉者、許さん!!!」

 

ドライバーを装着し、チケットを起動する

手に持っていたのは、侍のチケットであった

 

『Start』

無頼剣豪(ぶらいけんごう)!いざ(まい)る!!!』

『侍丸!!!』

 

「覚悟ぉ!!」

 

サムライフォームに変身した

仮面ライダーが剣を手に切りかかる

 

フロッグテラーは突然の出来事に

即座には対応できない

振るわれる斬撃をその身に受け

吹き飛ばされてしまった

 

『おのれぇ・・・これでもくらえぇ!!』

 

反撃とばかりにフロッグテラーが両手を振るう

その湿った両腕から、謎の粘液が射出された

 

仮面ライダーは咄嗟にそれを回避する

地面に落ちたそれは、

小規模な爆発を起こし火を立てて燃え出した

 

「・・!?爆発する液体?」

『その通りだ、おまけに引っ付いたら

 中々とれねぇんだ・・・ぜっ!!!』

 

そしてフロッグテラーは次々に液体を飛ばしだした

飛び散った液体が地面に落下し爆発を起こす

ひとたび体に当たれば

炎に巻かれやけどでは済まないだろう

 

しかし──

 

『あれっ?・・・あれっ!!!?』

 

最初の不意の一発以外は当たることはない

決して早くもないそれを

仮面ライダーは悠々と避けて近づいていく

 

「面妖な、物を、飛ばすな!!!」

 

そして肉薄したところで斬撃を叩き込んだ

フロッグテラーは避けることもできず転がっていく

 

言っては何だが、

このカエル戦闘能力は思ったほどではない

なんならこの前の騎士の方がよっぽど強いだろう

 

「覚悟!!」

 

決着をつけるべく

アクトブレイガンにチケットを装填──

 

『ちょっと待ちなよ』

「!?」

 

しかしそれは妨害される

横から謎の衝撃が仮面ライダーを襲ったのだ

 

「何者!?」

 

衝撃を受けた方に顔を向ける

するとそこには、謎の青年が立っていた

どこか奇抜な格好をしていて

 

『初めまして、仮面ライダー』

『僕の名前はペロー。以後、お見知りおきを』

 

そういって、

謎の青年は朗らかにペコリと挨拶してくる

一見すると、人懐っこい顔だが

仮面ライダーは、

その青年からどこか異質な雰囲気を感じ取っていた

 

『いやーさすが強いねぇ仮面ライダーってやつは』

『こいつくらいじゃ歯が立たない』

 

「何を・・・?」

 

言っているんだこの男は

まるで今起こっている光景を

全て理解しているように話している

 

『でも、困るんだよねぇ』

『これだけ無作為で意欲的に

 人を襲ってくれるやつって貴重でさぁ』

 

『そんなすぐに失うには惜しいんだよねぇ』

『・・・・だからさぁ』

 

自分の協力者・・・ではない

この人物は知らないし、

店の皆の知り合いでもないと何故か確信する

 

『僕と少し遊んでよ』

 

そういうと、青年は懐から何かを取り出す

それは──

 

「──チケット?」

 

それは──

意匠こそ禍々しく、異なるものであったが

自分がいま使用している

チケットとよく似たものであった

 

長靴とネコ(Cat and Boots)

 

『──怪演(かいえん)。』

 

チケットを起動し、青年が自分の体に差し込む

その瞬間、青年の姿が変わる

人間らしい体は、毛におおわれた獣のそれに

帽子のような意匠の頭部に

脚部には黒いブーツが施されている

 

それは、猫の怪人であった

 

『さぁ!いくよ仮面ライダー!!』

 

ペローと名乗った怪人が右手を虚空にかざす

すると右手に細身の刺突剣が現れた

 

繰り出される刺突をすんでのところで受け止める

 

「貴様・・・何者だ!?」

 

演じながらも突然の乱入者に

つい疑問を投げかけてしまう

すると、ペローは少し楽しそうにしながら

なんでもなさそうに自身を

このように形容するのであった

 

『うーん・・一言でいえばそこの怪人とかの元締めかな?』

 

「なんだと!?」

 

一度刺突剣を強引に押し返し距離を取る

今、この男は何と言った

元締め・・・?ボスという意味だろうか

どちらにせよ、その言動から

 

「これまでの怪人騒ぎ、全部貴様の仕業か!」

 

怒りを滲ませながら言いつける

しかし、言われた方はヘラヘラとしながら

 

『ああ、狼と亀と騎士(前の3体)もせっかく作ったのに

 君にどんどん倒されちゃうんだもん』

『さすが仮面ライダー!僕も危機感持っちゃうよねぇ』

 

なんでもなさそうにそう答える

──確定だ。

この男は、怪人を作り、

人々を襲うよう差し向けている

 

止めねばならぬ巨悪だった

 

「一体何が目的だ!!」

 

仮面ライダーが切りかかる

しかし、ペローは

アクトブレイガンに比べ明らかに細い剣で

容易く仮面ライダーの一太刀を受け止めていた

 

『理想の世界を作るのさ!』

『僕たちが望む、僕たちの世界を!』

『そのためには、人が邪魔でさぁ!減らさないと』

 

なんと自分勝手な言い草だろうか

それは、仮面ライダーとしても一人の人間としても

決して許容できない言い分であった

 

「──お前の好きには、絶対にさせない!!」

 

両者の剣がぶつかり合う

ペローの素早い剣閃を

仮面ライダーはギリギリのところで回避し続け

仮面ライダーの重い剣戟をペローは受け流していた

 

互角のように見えた戦いだったがここで勝負が動く

 

仮面ライダーの剣が徐々に重くなり、

ペローを押していく

そして、そしてつばぜり合いになった所を

 

「だぁあああ!!」

 

無理やり圧し切るように振り下ろす

ようやく、一撃がペローに届いた

攻撃を食らいペローが後ずさる

 

『ぐっ・・・やるねぇ、さすが仮面ライダー』

 

チャンスとばかりに仮面ライダーが

切り掛かろうと踏み込む

しかし──

 

『でもねぇ』

『君、なにか忘れてない?』

 

突然仮面ライダーの背に衝撃が走る

まるで背中で爆発が起きたようだ

 

『ゲッゲッようやく当たったぜぇ・・・』

 

それまで静観を決め込んでいた

フロッグテラーがここぞとばかりに

仮面ライダーの不意打ちを食らわせてきたのだ

 

「うぁ・・・」

 

突然の激痛と熱さにふらつく仮面ライダー

そしてその隙に目掛けて

 

『ハァ!』

 

ペローが刺突剣を深く構え、突き出す

込められた力が衝撃はとなり

仮面ライダーに叩き込まれた

 

「ぐぁああああああ!!」

 

装甲に叩き込まれた衝撃に耐えきれず

吹き飛ばされる仮面ライダー

 

堤防を越え、空中に投げ出された仮面ライダーは

水面にぶつかる感触と共に

その意識を手放すのであった

 

続く




次回 仮面ライダーアクト

初めての敗戦に雄飛は
「・・・あいつを止めないと!!」

次の演目は西部劇!?
「剣で戦う劇があるなら銃で戦う劇も必要だからね」

リベンジなるか
「邪魔する奴は、一人残らずぶっ潰す!!」

『WILD WESTERN!』

第6章[リベンジャー・アウトロー]


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第6章~リベンジャー・アウトロー~

前回までのあらすじ
次なる事件を解決するべく
怪人を追う仮面ライダーの前に現れたのは
怪人に変身する謎の男
男と怪人の前に雄飛は破れ、
海に投げ飛ばされてしまう


目が覚めると、

そこには見知った店の天井があった

自分は、なぜここで寝ているのだろうか

確か・・・怪人を罠にはめて、戦って・・・

謎の猫怪人が乱入──

 

「!?」

 

そこで、記憶が鮮明になる

そうだ、自分は──

敵に負け、海に放り出されたのだ

そしてその後・・どうなったのだ?

 

体を起こす、

少々痛みがあるが動けないほどではない

体に鞭を入れつつ立ち上がろうとしたところで

 

「雄飛君!起きたのか」

 

浩司さんが部屋に入ってくる

どうやら介抱をしてくれていたようだ

 

「浩司さんが俺を?」

 

「いや、太田の奴が巡回中に

 海岸に打ち上げられた雄飛君を見つけてね」

 

そうか、太田さんが・・

今度会ったときにお礼を言うことを誓おう

そう心に決めたところで

 

「しかし、雄飛君一体何があったんだ?」

「敵はそこまで強敵だったのかい?」

 

浩司さんが心配そうな顔をして聞いてくる

 

俺は、あの夜の戦いのことを話した

誘き出しが成功したこと

怪人と戦ったこと

そして──ペローと名乗った謎の怪人のこと

 

「・・・怪人の元締め。か」

 

「あいつは、

 自分が怪人を作ってるように発言してました」

「しかも、人間の姿と

 怪人の姿を切り替えてるみたいで。

 ・・・これまでの怪人たちとは、

 まるで違う雰囲気をしていました」

 

浩司さんは腕を組み何かを考えるようにしていた

そして、考え終わるとこういった

 

「・・・まず、人間の姿をしているテラー」

「これは、元となった人間の歴史を全て奪い取って

 その姿を自由に使えるということだろう」

 

その人間の歴史を完全に掌握しているのであれば、

その姿形を引っ張り出して

自分に張り付けることもできる

そう、浩司さんは結論付けた

 

「それじゃあ、元の人は・・・」

 

「・・・残念だが、

 もう完全にその人の歴史は世界から消えている」

「たとえ倒しても元には戻らないだろう」

 

「そんな・・・」

 

歯噛みする、全てを助けることができるなんて

甘い考えだとは思っていたが

それでも避けたいことであった

 

「・・・今は、カエル怪人についてだ」

「昨夜、・・・・君が戦った後の話だけれど

 その日は、巡回や避難が間に合って

 直接的な被害は出なかった」

「君の頑張りのおかげだよ」

 

精一杯の励ましなのだろう、浩司さんは

 

「問題は、今日の話だ」

「太田が言うには、今夜は女性警官などを使用した

 おとり捜査が敢行されるらしい」

 

──それは、危険だ!

あのカエル怪人は、強くはなかったが

決して常人で敵う相手ではない

 

「ああ、だがターゲットが明確で、

 犯行犯行現場も似通っている

 以上止める理由がなくてね」

「何とか、太田が取り押さえ組に編入してもらい

 見つかって危なくなったらすぐに

 退却できるようにする手はずだが・・・」

 

時計を見る

時刻は21:00を過ぎていた

なんてこった、自分は1日も寝てたのか

すぐさま荷物を持って立とうとする

 

「ちょ、どこに行くんだい!?」

 

「・・・あいつを止めないと!!」

 

太田さんをはじめとする警察の人を

危険な目に合わせるわけにはいかない

そういうのは自分の仕事である

 

「無茶だ!怪我も痛むんだろう!?」

 

確かに、痛むが動けないわけじゃない

そう言い聞かせて上着を左手で掴んだ

その時

 

「・・・!?・・・ッ」

 

左手首に激痛が走る

どうやら先程の戦いで痛めてしまっているようだ

これでは、サムライで剣を握るのも

ライダーで殴るのもきついかもしれない

 

「そら見ろ!無茶だ!」

 

太田さんが止めてくる

どこまでも俺のことを案じてくれる

その姿には感謝する

──だが

 

「それでも行かなきゃ・・・」

「俺・・・ライダーですから」

 

ニヤリと無理やり笑顔を作る

そうだ、怪我だけで休んでなんていられない

自分の知っている仮面ライダーを思い出せ

怪我程度で立ち止まったか?

痛み程度で諦めたか?

 

──違うはずだ

 

「・・・・」

 

太田さんはその姿を見て何か言いそうになって

それでも飲み込んでくれた

そして頭をガシガシと掻きながら

奥の部屋に入っていく

そして──

 

「これを持っていきなさい」

 

戻ってきた手には1つのチケットが握られていた

それを受け取り、表面のタイトルを読み上げる

 

「・・・・WILD WESTERN(ワイルド ウエスタン)?」

 

ウエスタン・・・西部劇だろうか

 

「アクトブレイガンは剣と銃を切り替える武器だ」

「剣で戦う劇があるなら

 銃で戦う劇も必要だからね」

 

ニヤリとニヒルな笑いを見せる浩司さん

そんな姿に俺は

 

「ありがとうございます!

 これさえあれば勝てます!!」

 

勝利への道筋を見据え、店を飛び出した

 

 

夜のとばりも落ちてきた頃に

 

道を歩く一人の女性

彼女は、今回の女性暴行事件犯の逮捕のために

囮捜査として抜擢された警官である

 

そんな女性警官は、背後に迫る何者かに気づく

(こいつだ・・・!)

足を止め、振り向いて

いつでも暴漢と組み合えるように心構えをする

 

気配はやがてヒタヒタとよく聞こえるほどに近づき

やがて自分の真後ろで止まった

そして──

 

『お嬢さん』

 

声をかけてきた

 

振り返り拘束しようと手を伸ばす

たとえ屈強な男でも怯むつもりはなかった

他の警官たちが控えてはいるが

そんな助けも借りずに済ませる位の気持ちがあった

 

しかし

 

『僕と遊ばないかぁい?』

 

そこにいたのは、屈強な男でもなければ

貧弱なものでもない

醜く、見るもおぞましい怪物であった

 

「キャアアアアアアアア!!!?」

 

劈くような悲鳴が響く

その声を聴いて、

周りに配置されていた警官が集まってくる

 

「動くな!!」

「な、なんだ・・・?被り物か?」

 

太田を含む3~4人の警官が

フロッグテラーを囲み静止を呼びかける

 

『あぁ~?邪魔くせぇなぁ!!』

 

しかしフロッグテラーはそれに取り合うことはなく

警官の一人に向かって腕を振るう

腕から放たれた液体があわや

警官に浴びようとしたときに

 

「あぶねぇ!!」

 

太田が警官の一人をひっつかんで伏せて見せた

液体は二人の頭上を飛び越えて

背後に停車していたパトカーに付着した

 

轟音と共にひしゃげた車両から火が上がる

 

「な、なんだあ!?」

「バ、バケモノ!!」

 

残った警官が銃の引き金を引く

しかし、発射されたそれは、

フロッグテラーの体に当たるが

体表を貫くことはなく地面に落ちる

 

『いってぇなぁ!!』

 

「「ひ、ヒィイイイ!!」」

 

竦み上がる警官達

それに襲い掛かるフロッグテラー

その大腕が警官達に振るわれようとしたその瞬間

 

ヴォンッ!!と轟音を立てて仮面ライダーの乗った

バイクがフロッグテラーに猛スピードで撥ねた

 

突然の衝撃に吹き飛ばされるフロッグテラー

 

「彩羽君!!」

 

「早く退避を、・・・頼んだ!!」

 

バイクから降りた仮面ライダーは

立ち上がったフロッグテラーを引っ掴んで

その場から離れるように引きずっていく

 

『またテメェかぁ!』

 

「今度は負けん!覚悟しろカエル男!!」

 

振るわれる体液を細かいステップで

避けながら肉薄する仮面ライダー

そして右手で2度3度と、拳を叩き込んでいく

このまま一気に決める!

と拳を握りこんだところで

──背後から悪寒を感じた

とっさに転がりその場から立ち退く

 

そして次の瞬間

自分が立っていた場所に

上空から降ってきた

何者かが剣を突き立てていた

 

「・・・ペロー!」

 

それは前回も邪魔をしてきた猫の怪人

怪人の親玉、ペローであった

 

『やぁ仮面ライダー、あれで生きてるなんて、

 なかなか悪運が強いね!!』

『でも、次はない・・よっと!!』

 

振るわれる剣閃を避け、右手で捌き、

何とか対応していく

しかし、右手だけでは捌ききれず

仮面ライダーは攻撃を食らい吹き飛ばされてしまう

 

『左手をかばってるねぇ・・・怪我したの?』

『そんな状態でまだ、戦うんだ?』

『一度負けちゃったんだから、

 諦めちゃえばよかったのに』

 

そんな軽口を使って挑発してくる

 

 

「痛いけどさ・・・・守るって決めたからさ」

「仮面ライダーをやるからには、

 そんな簡単に投げ出してちゃいけないだろ?」

 

ニヤリと笑ってそんな風に答えを返してやる

そして──

 

チケットを取り出す

 

『・・・・?』

 

不思議そうな顔をするペローを横目に

雄飛は意識を切り替える

イメージを作り上げ、役になり切る

 

それは、自由を胸に荒野に立つ

悪名高きも誇り高きアウトローの冒険譚

 

『WILD WESTERN』

 

「守るって決めたんだ」

「それを邪魔する奴は、一人残らずぶっ潰す!!」

 

口悪くそう宣言し、

ドライバーにチケットを差し込んだ

 

『Start』

Stand in the Wilderness With Frontier Spirits.(自由を胸に、男は荒野に立つ)

WILD WESTERN(ワイルド ウエスタン)!!!』

 

姿が変わる、頭上には帽子のような意匠

装甲には、茶を基調にした

カジュアルな意匠が施されていく

そして、手にしたアクトブレイガンを変形させ、

ガンモードに

 

その姿は、西部劇のガンマンのような佇まいであった

 

『へぇ、新しい姿?』

『それで何か変わるといいねぇ!!』

 

ペローが切り掛かる

仮面ライダーはその攻撃を

ヒラリと躱し、その銃口を

ペローの後方(・・)へと差し向けた

 

『何!?』

「・・・Fire!」

 

ズガンと音を立てて放たれた弾丸は

ペローの背後に立つ

フロッグテラーを打ち抜いていた

 

突然の銃撃に苦悶の声を漏らすフロッグテラー

 

『お前・・・!』

「ハッ!2対1なんだから

 どっちから狙うのかなんて俺の勝手だ!」

 

そういって仮面ライダーは

再度フロッグテラーに引き金を引く

 

『ぐ、グギャアアア!!?』

 

5発、6発と銃弾を叩き込まれ

転がされるフロッグテラー

 

『おのれぇ!!!』

 

フロッグテラーがお返しとばかりに

いくつもの液体を仮面ライダー目掛けて投げつける

──しかし

 

『な、そんなぁ!?』

 

それらが仮面ライダーに届くことはなかった

腰だめに銃を構え、何度も引き金を引く

次の瞬間には放たれた弾丸達が

迫りくる液体を全て空中で叩き落していた

 

『僕を、無視するなよ!!』

「やなこった!!!」

 

振るわれるペローの剣をさらに躱しながら

隙を見てさらにフロッグテラーに銃を向ける

 

『くっさせるか!』

 

させまいと射線上に剣を構えるペロー

しかし、それは仮面ライダーの策略であった

フロッグテラーを庇ったペローを見て

仮面ライダーは銃口をずらし引き金を引く

 

『何!?グァ!?』

 

照準をずらし放たれた弾丸は

ペローの構えた剣を避け、

ペローの体に向かい飛んでいく

そして、不意を突かれたペローはまんまと銃弾を

その身で受けてしまったのであった

 

『・・・・仮面ライダーァアアアアア!!!』

 

ペローが激高する、言葉を取り繕うこともなく暴言を放ち

その剣を深く構えた

昨夜の衝撃波の構えである

 

それを見た仮面ライダーは

 

「・・・一発勝負だ」

 

ベルトからチケットを引き抜き

ブレイガンに装填する

 

『WESTERN!』

 

ブレイガンから機械音声が鳴り響き

その銃口にエネルギーが集まっていく

 

『ハァッ!!!』

 

ペローが剣を突き出す

放たれた衝撃波は仮面ライダー目掛けてまっすぐに飛んでいく

その攻撃にライダーは

 

「フッ!」

 

斜め上方に跳躍しすれすれのところで衝撃波を回避する

そして、そのまま空中で不安定な体制のまま

必殺技の引き金を引いた

 

『WESTERN!』

BEST SHOT(ベスト ショット)!!!』

 

放たれた弾丸は

ペローの顔面すぐ横を通り過ぎ

その背後に構えていた

フロッグテラーに突き刺さった

 

『グエ!?グエエエエエエ!!?』

 

断末魔を上げながら爆発を上げるフロッグテラー

 

しかし、仮面ライダーは気を緩めない

ようやくこれで1対1での戦いである

銃を構えなおし、ペローと対峙する

 

『・・・』

 

背後で起こった爆発をじっと見つめるペロー

そして

 

『・・・アッハハハハハハ!!!』

 

突然大きな声で笑い出した

・・・狂ったか?

 

そして、笑い終わるとこちらに向き直り

 

『いいねぇ!!

 やっぱ仮面ライダーはこうでなくっちゃ!!!』

 

満足したかのような様子でそんなことを言い出した

 

『もうちょっと遊びたいけど、

 守るものもいなくなっちゃったし』

『今日のところは帰るよ!』

 

そんなことを言い出した剣を降ろすペロー

 

「!?逃がすか」

 

逃がすまいと銃撃を放つ

しかし

 

『じゃあね』

 

フッとその姿が消える

そして銃撃はその場所で

何に当たることもなく通り過ぎて行った

 

『また会おう、仮面ライダー!!』

『精々あがいてくれ!!僕たち(・・・・)

 "ストーリーテラー"は君の頑張りを応援するよ!!!』

 

その言葉を最後に

辺りからペローの気配が感じられなくなった

 

「ストーリーテラー・・?」

「何なんだ、一体?」

 

そんな雄飛の疑問は、

唯々深い暗闇に飲まれて消えていくのだった

 

 

廃れて瓦礫まみれになった建物があった

その一室にある一人の人影が帰ってくる

先程まで仮面ライダーと相争っていた

ペローその人である

彼は鼻歌を歌い出しそうなほど

機嫌よさそうにその一室に帰ってきた

 

『あら、ペローおかえりなさい』

『どうだったのかしら?新しい仮面ライダーは?』

 

そんなペローに話しかける声が一つ

それはこの場に似合わない

やけに小綺麗な格好をした女性だった

赤を基調とした鮮やかなドレスに身を包んでいる

 

『やぁクイーン(・・・・)、うん、とても面白い奴だったよ』

『君もきっと気に入ったおもちゃになると思うよ』

 

『まぁ、それは楽しみね』

 

仲良さそうに談笑をする2人

そんな2人のいる部屋にさらに人影が入ってきた

 

『あらサン、それにブルー(・・・)も、

 一体どこに行っていたのかしら?』

 

一人は薄暗い色をしたコートを羽織ったさんと呼ばれた男

 

『えぇ、あれの調整がようやく終わりそうでしたので』

 

そして、ブルーと呼ばれた初老の青年である

こちらは薄い青を基調にした衣装に身を包んでいた

 

『計画はすべて順調です』

『このまま、我らストーリーテラーは

 成すべきことをしていきましょう』

『そう、全ては神を作るために(・・・・・・・)

 

続く

 

 

 




次回 仮面ライダーアクト

謎の誘拐事件
「ここいらの人間が
 老若男女問わず行方不明になっている」
謎の怪人
『私の歌を聞きなさい!!』
演奏で舞台に上がる、謎の新ヒーロー!?
「俺は、仮面ライダー・・・サウンドだ!!」
「さぁ!盛り上がっていこうぜ!!!」

第7章[シンガー・ソング・ライダー]


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第7章~シンガー・ソング・ライダー~

そこは、町からも少し離れた森の中

貸出されているレジャースポットで

キャンプをする家族の姿があった

 

子供の兄弟が川で遊び

両親がそれを眺めている

何とも平和な光景だ

 

耳を澄ませば

川のせせらぎ、森林の揺れる音

自然の音が心地よく聞こえてくる

 

"~~~~♪"

 

しかし、そこに聞こえてくる異質な音

何か笛の音だろうか

自然音ではないが、とても心地の良い音であった

 

キャンプ中の家族が一様に手を止め

音のする方向を見る

・・・何か様子がおかしい

 

やがて、子供たちが音のする方向

深い森の中に向けてユラユラと足を進める

森の奥に行くのは危険な行為である

両親が見張っていれば、

それは引き留められたはずであった

だが──

 

立ち上がった両親も子供たちの後を追うように

ふらふらとした足取りで森の方に向かう

 

引き寄せられるように進むその目は

どこを見ているわけではなく、

暗く虚ろな目であった

 

やがて家族は暗い森の中に姿を消す

 

『キッヒッヒッヒ・・・』

 

やがて誰もいなくなってしまったその場所で

何者かが不気味に笑う声だけが木霊していた──

 

 

「──集団失踪事件?」

「そ、ここいらの人間が老若男女問わず

 行方不明になっている・・・ですって」

 

町を進む二人の男女がいた

仮面ライダーこと彩羽雄飛と

その協力者風間杏奈である

手にはビニール袋、買い出しの帰り道だ

二人して歩いているそんな中

杏奈がネットから引っ張り上げてきた

あるニュースのことが話題になった

 

「この前も、

 森でキャンプしてた家族連れが用具も何もかも、

 全部残して消えちゃったんですって」

 

杏奈さんがそう伝えながら画面を見せる

見れば、他にも類似事件が複数

どれも、まるで今までしていたことをほっぽりだして

どこかに消えてしまったらしい

 

「・・・怪しい」

「でしょ?」

 

顔を見合わせて頷きあう

1件ならまだしも、

こうまで続くのはさすがに異常としか思えない

 

「帰ったら太田さんに事件のことを聞いてみよう」

「そうね」

 

そういって二人で帰路につく

その時──

 

「――♪」

 

ふと近くから心地いい音が聞こえてくる。

音からしてギターだろうか

音のする方を見やると

謎の人だかりができていた

 

興味本位で近づいてみる

すると

 

「――――♪」

 

路上ライブだ

 

派手な形をしたギターを抱えた青年が

路上ライブを開いていた

なるほど、この心地よい音楽は

この青年の物だったのか

 

「上手いなぁ・・・」

 

ついつい立ち止まり聞き惚れてしまう

やがて1曲弾き終えてギターの音が鳴りやむ

 

青年が顔を観客の方に向け

 

「センキュー!!」

 

楽しそうな大きな声で一言

観客は一様に拍手を彼に送っていた

 

こういった雰囲気ってやっぱ大事だよね

ぜひとも大成してほしい人だなぁ

 

「次の曲は、歌も合わせていくぜー!!」

 

気分が乗ったのかノリ良く青年は

次の曲に取り掛かりだした

歌か、これだけ曲が達者なら歌声もさぞかし──

 

♬~~♬

 

──まるで脳が揺さぶられるかの如く

醜悪な音が俺の耳を襲った

 

それは、例えば黒板を爪で引っ搔いたように

心地悪さが近いだろうか

聞いているだけで体調に

異常をきたすかのようであった

 

隣を見れば、青ざめた顔をした杏奈さんが見える

まさか、テラーの敵襲であろうか

周りを見るもそれらしきものは見えない

 

信じたくないという気持ちで前を見る

そこには──

 

♪~~♬

 

すさまじく上手なギターの演奏を

全てかき消すが如き歌声を

披露する青年の姿があった

 

周りを囲っていた観客たちも一様に

その異常な歌声を認識し

顔色を悪くしてそそくさとその場から離れていく

 

自分もそうしようと思ったが──

 

「杏奈さん、行こう・・・杏奈さん?」

「・・・・。」

 

杏奈さんがその場から一歩も動てくれない

まさか──

 

「・・・。()」

 

──完全に気絶していらっしゃる!?

 

~~♪

 

そうこうしている間も歌は鳴り響く

杏奈さんを放っておくわけにもいかず

俺は耳を塞ぎ何とか耐える

 

そうしているうちに音が鳴りやむ

た、耐えきった・・・!

 

安堵しているのも束の間

 

「さぁ!次の曲もいくぜー!!」

 

歌でテンションが上がったのだろうか

青年は目をキラキラさせながら

ギターを構えなおす

 

・・・やばい!!

 

「杏奈さん、杏奈さん!!

 起きて!!起きてって!!」

 

全力で揺さぶる、ここから離れなければ!!

 

「・・・・・ハッ!ここは・・?」

「よっしゃ起きた!

 ・・・早く行きますよ!!」

 

意識を取り戻した杏奈さんを押して

足早に離脱するその後方には

また歌いだされた、

音響兵器の音が微かに響いていた

 

 

「まさか、演奏は達者の音痴とは・・・」

「あれは歌じゃない・・・

 あれを歌と自信を持って言い張るのは

 音楽への侮辱だわ・・・」

 

二人してまだ痛む頭を抱えながら歩く

まさかあんな落とし穴を用意しているとは

 

「ギターは良かった・・・

 いや本当に良かったのに・・・」

「うう・・・まだ耳に焼き付いてる・・・」

 

いそいそと杏奈さんはイヤホンを備え

何か聞き出した

よっぽど先程の歌を忘れてしまいたのだろう

 

そんな様子を見ながら歩いていると

 

"~~~~♪"

 

またもや遠くから音が聞こえてきた

 

「!?」

 

とっさに身構える

先程の青年がこちらに移動してきた・・・

というわけではないようだ

 

"~♬~~♬"

 

どうやら今度聞こえてくるのは笛の音

そして、なんとも心地の良い音であった

──ああ、なんていい音だろうか

 

ふらりと、

無意識のうちに足が音の方向に向いてしまう

ああ・・・何かおかしい・・・

でも抗えない・・・足が勝手に・・

 

「雄飛!?何やってんの!?」

「いったぁ!?」

 

バシリと頭に衝撃が走った

痛みで我に返る

 

「!?・・・・!?」

 

今、何があった!?

 

「な、何が・・・」

 

"~~~~♪"

 

また、音が聞こえてくる

 

とっさに手で耳を塞ぐ

周りを見ていると

 

「・・・。」

 

フラリフラリとおぼつかない足取りで、

周りの歩行者が音の方向に歩いている

まるで、おびき寄せられているようだ

 

「これって・・・例の失踪事件!?」

「音の方に行くわよ!」

 

音のする方に駆ける

しばらく行くと──

 

『~~~~♪』

 

いた

そこには、笛を携え音を奏でる

怪人=パイパーテラーが佇んでいた

周りにはおびき寄せられた人々

 

「テラー!!」

 

『ん?おお!仮面ライダーまでおびき寄せるとは!

 さすが私の笛だ!』

 

「連れ去った人々を解放しろ!!」

『や~~なこった♪』

 

「だったら・・・」

 

 

アクトドライバーを構える

 

『MASKED RIDER!』

「変身!!」

 

『Start』

風は、戦士を呼んだ(Wind called the Warrior)

『MASKED RIDER!!』

 

「いくぞぉ!!」

 

仮面ライダーが先手必勝とばかりに殴り掛かる

拳がパイパーテラーの胴に叩き込まれる

パイパーテラーは吹き飛ぶも──

 

『ぐおっ!?・・・おお、怖い怖い』

 

まるで堪えてないといわんばかりに立ち上がる

そして、懐から何かを取り出した

 

『では、ブルー(・・・)様の言うとおりに試してみるとしよう』

 

それは、何かの紙の切れ端のようだった

それを手からこぼれるほど握って

 

『ハ!』

 

それを仮面ライダーではなく

集められた人々に対して放り投げる

 

「何!?」

 

とっさに手を伸ばすも間に合わない

切れ端が集められた人々の中に

スルリと入り込んでいった

次の瞬間──

 

『『『アァアアアア・・・・』』』

 

先程までいた人々の姿が変わっていく

簡素な肉体にのっぺらぼうな顔面

まるで、簡略化された端役のような──

 

『いけぃ!エキストラ(・・・・・)達よ!』

 

「!?」

 

号令がかかった瞬間、

エキストラと呼ばれた怪人もどきが

遅いかかってくる

 

「何だと!?」

 

突然の敵に追加に動揺を隠せない

しかし──

 

「ハァ!」

 

パンチを一発放つ

群がってくる怪人の一体に命中する

 

『』

 

エキストラと呼ばれた怪人は

その一撃でダウンしてしまった

なるほど、

戦闘力はそこまで無いが数でかかってくる

所詮、戦闘員というやつか

 

ならば問題は──

 

"~~~~♪"

 

その瞬間、頭が割れるような痛みに襲われる

 

『さぁ!私の歌を聞きなさい!!』

 

パイパーテラーが、その笛を奏で

破壊的な音色を差し向けてきたのだ

握っていた拳がほどけ、

つい頭に手を置いてしまう

 

『アァアアア!!!』

 

その隙に、エキストラ達が群がってくる

 

「く、そぉ!!」

 

何とか、拳を振るい、蹴りを放つ

エキストラたちはそれだけで倒れていくが──

 

『『『アァ・・・』』』

 

何分数が多い、頭も割れそうだ

このままでは、ジリ貧だろう

 

"~~~~♪"

 

さらに、笛の音が大きくなる

ついに、仮面ライダーは

膝をつき動けなくなってしまう

飛び掛かるエキストラ達

絶体絶命と思われたその瞬間

 

"♬―――♪"

 

笛の音とは異なる大きな音が鳴り響いた

笛の音がかき消され、自由になった

仮面ライダーは飛び掛かってくるエキストラたちを

間一髪で回避する

 

『・・・誰だ?!』

 

パイパーテラーが音のした方を見やる

そこには──

 

「俺だ!!」

 

青年が立っていた

雄飛や杏奈には見覚えのあった青年だ

何せそれは

 

「「さっきの・・・!?」」

 

そう、先ほど路上ライブをし

二人に多大なダメージを与えていた青年であった

 

「あなた!危ないから逃げて!」

 

杏奈さんが怒鳴り込む

そうだ、結果的に助かったが

こんな場所にいるもんじゃない!

 

「危ない・・・?それはこっちのセリフだぜ!」

「下がってな!!」

 

そういいだすと青年は何かを取り出した

前面に四角い機械部分があり

その左側から長い帯が伸びている

それは、彩羽雄飛としても慣れ親しんだ

 

「ドライバー・・・?」

 

『サウンドライバー!!!』

 

さらに何かを取り出す、

自分のチケットとはいささか意匠が異なる、

それは、四角というよりは円形で

さらに中央に空洞があって

まるで、CDのディスクのようであった

 

POP UP SOUND(ポップ アップ サウンド)!!!』

 

ドライバーにディスクが装填され

青年が構えた

 

「変・・身!!!」

 

『PLAY!!』

『ON STAGE!!!』

POP UP SOUND IS(ポップ アップ サウンド イズ)

SINGER SONG RIDER(シンガー・ソング・ライダー)!!! 』

 

青年の姿が変わる、黄色やオレンジを主体とした体に

音符などの音楽的な意匠が散りばめられた

その姿は、まぎれもなく──

 

『何者だ!!!貴様は!!!』

 

パイパーテラーが突然の出来事に

狼狽えながら問いかける

そんな問いに青年は、

自信たっぷりに踏ん反り返りながらこう答えた

 

「俺は、仮面ライダー・・・サウンドだ!!」

 

サウンド、それはこのテラーとの闘いに突如として現れた

新しい、仮面ライダーの名前だった

 

「仮面ライダー・・サウンド・・・」

 

雄飛もまた、自分ではない仮面ライダーの登場に戸惑いを隠せない

 

「・・!雄飛!!前!!」

「・・・?・・・うおっアブね!?」

 

だが、エキストラ達は待ってくれない

あっけにとられた自分の

背後を取った攻撃をギリギリ避ける

テラーの音攻撃がやんだ、体も楽になった

今なら、戦える!!

 

「ハァ!!」

 

数十体といるテラーを片っ端から薙ぎ払う

元々、そこまで強くない相手、万全ならなおさらだ

 

「おー、・・・あんた!雑魚は任せるぜー!!」

「えっ!?・・・わ、分かった」

 

突然話しかけられた、随分と馴れ馴れしい

しかし、邪魔にならないように

テラーを相手取ってくれるならそれは好都合だった

目の前のエキストラ達と対峙する

 

「いくぞぉ!!!」

 

「さぁて、俺も頑張るとするかぁ!!!」

『貴様ぁ、私の演奏の邪魔して

 ただで済むと思うなよぉ!!』

 

随分とマイペースなサウンドに対し

怒りを向けるパイパーテラー

笛を構え、先ほど

仮面ライダーに食らわせた音色を放った

 

「・・・!?うわ、ひっでぇ音!!?」

 

サウンドも同様に頭を抱え蹲る

その隙を狙って、

笛でその体を串刺しにしてやろうと飛び掛かる

 

『死ねぇ!!!』

 

しかし、

 

"♬―――♪"

 

『な、何ィ!!?』

 

巨大なギターの音がその音をかき消した

気が付けば、サウンドの手元には

先程から彼が背負っていたギターが握られている

一見ただの奇抜なギターであるだけのようなそれは

仮面ライダーサウンドが使う、

れっきとした武器であった

 

『ギターランス!!』

 

サウンドがギターを握り槍のように構える

 

「さぁ!盛り上がっていこうぜ!!!」

 

サウンドが駆け出し、

テラーに向けてランスを突き出した

穂先がテラーの体に突き刺さり、

勢いそのままに吹き飛ばす

 

『ぐ、おお・・・なんのぉ』

 

まだだと言わんばかりに

パイパーテラーが起き上がる

 

『ならばぁ!!』

 

再度笛を吹く、しかし今度は

先ほどまでの広範囲への音攻撃ではなく

可視化された音色がエネルギー弾となり

サウンドに襲い掛かった

しかし、サウンドは

それをひらりひらりと避けていく

 

「・・・っと。やるねぇ、だったら・・・!!!」

 

サウンドがさらに何かを取り出す

それは変身に使用したものとは

また異なるディスクであった

 

『BURNING ROCK!!』

 

ベルトに装填し、起動する

 

『燃えるように!!ロックンロール!!!』

BURNING ROCK(バーニング ロック)!!!』

 

サウンドの右肩の意匠が変わり、

炎のような意匠に変わる

そして、ギターから炎が迸り始めた

 

「オラァ!!!」

 

炎を纏ったランスを振るう、

テラーが放った弾を叩き落し

槍の刺突と火のダブルパンチが

容赦なくテラーを襲った

 

『熱っ!熱!!?』

 

火に巻かれたテラーが転がりまわる

何とか消化を終え、

立ち上がったテラーが見たのは──

 

『BURNING ROCK!!』

 

ディスクを装填し終えた自らの武器を構え、必殺技を放とうとするサウンドの姿であった

 

「止めだ!!」

 

『ROCK!』

BEST HIT(ベスト ヒット)!!!』

 

炎を纏った槍での猛スピードでの突撃(チャージ)

パイパーテラーはその攻撃を避ける間もなく

真正面から受けるのであった

 

『ぐ、ぐあああああ!!!!?』

 

爆発するテラーを背に

ギターを掻き鳴らすサウンド

勝利の音色が、戦場に響き渡っていた

 

 

『サムライ!!』

『BEST CUT!!!』

 

「はぁあああ!!」

 

数十にもわたるエキストラを

ようやく倒しきった仮面ライダー

その時、向こうから大きな爆発音が聞こえる

どうやら、向こうも終わったようだ

 

「おーい!!」

 

サウンドと名乗った

仮面ライダーがこちらに駆けよってくる

聞きたいことは多くあるがまずは

 

「手を貸してくれてありがとう」

「いいってことよ!!」

 

にこやかに礼を返してくれるサウンド

随分さわやかなタイプだ

ぜひとも今後ともよい関係を結んでいきたい

 

それならまずは──

 

「私は、仮面ライダー。よろしく」

 

友好の証に握手を・・・

 

仮面ライダー(・・・・・・・)?」

 

・・・?

サウンドが何か悩んでいるようだ

何か思うところがあるのだろうか

 

槍を構えて──

 

「悪い!あんた敵みたいだわ!!!」

 

──襲い掛かってきた

 

・・・え?

 

 

続く

 

 

 




次回 仮面ライダーアクト

突如襲い掛かってくるサウンド
「仮面ライダーは迷わず敵と思えってな!!」
40人の怪人が発生!?
『総員、散れぇ!!』
雄飛は怪人を倒しきれるか
「俺は、人を助けたい!本当だ!!」

第8章[仮面ライダーと40人の逃亡者達]


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第8章~仮面ライダーと40人の逃亡者達~

前回までのあらすじ
謎の失踪事件を追う中
現れた新たな仮面ライダー:サウンド
彼は怪人の撃破後、仮面ライダーアクトが
仮面ライダーだということを知ると
突如襲い掛かってくるのであった


「悪い!あんた敵みたいだわ!!!」

 

目の前の男、

仮面ライダーサウンドが手に持った

ギター型のランスを振りかぶる

雄飛-仮面ライダーは咄嗟にアクトブレイガンで

振り下ろされた刃を受け止めた

剣と槍が火花を上げて鍔迫り合う

体重を乗った重い槍が自分の剣を押し込んでくる

 

「え?は?はぁっ!?」

 

背後から杏奈さんの

驚愕と困惑の入り混じった声が聞こえてくる

 

「杏奈さん、下がっといて!!」

 

──冗談などではない、

この男は本気で自分に切り掛かってきている!

 

「待て!私は怪人などでは・・・」

「言い繕ったって無駄だぜ!!」

 

サウンドがさらにランスを押し込む

このままでは押し切られてしまう

 

なんとか滑らせるようにしてその穂先を受け流す

滑らせた刃が音を立てて地面に激突する

地面には大きな傷が残り、

彼の本気さを物語っていた

 

「こちとら博士から言われてんだ!

仮面ライダーに会ったら、

迷わず敵と思えってな!」

 

「「何で!?」」

 

つい素が出てしまう、

なぜ仮面ライダーと名乗っただけで

敵判定されなきゃならんのだ

だがどうも向こうは聞く耳持ってはくれないらしい

 

「いくぜ!」

 

炎を巻き上げるランスを手にサウンドが迫ってくる

 

──話すためにもまずは、

サウンドを落ち着かせなければ

剣を持つ手に力を込め、

仮面ライダーもまた向かい来る男に向け走り出した

 

交錯の瞬間、剣と槍が轟音を立てぶつかり合う

そのまま2度、3度と切り結ぶ

パワーなどは互角のようだが──

 

サムライを演じていたことが功を奏したのか

こと切り結びにおいては、

こちらがテクニックで優っていた

 

「ハァッ!!」

 

先程のように槍を上手く受け流し

隙を見せたサウンドに対し攻撃を放つ

突然のことに居を突かれたサウンドは

その攻撃を避けれず吹き飛んだ

 

「ッ!・・・いってて・・やるな!」

 

しかし、その攻撃は致命傷には至らず

吹き飛んだサウンドは体制を立て直すと

そんな軽口を言ってのけた

そして──

 

「・・・だったらっ!」

 

サウンドがまた何かを取り出す、

それは、先ほど取り出したのとはまた違う

青色のディスク

 

『COOL SO RAP!!!』

 

起動したそれをサウンドはドライバーに差し込んだ

 

『刻む Groove(グルーブ)!!』

COOL SO RAP(クール ソー ラップ)!!!』

 

炎の意匠が施された右腕がもとに戻り

今度はサウンドの左腕の意匠が、

青を基調とした物に切り替わった

 

「COOLにキメるぜ!!」

 

姿が変わったサウンドは、

突然ギターをいくつかのパーツに分解し始めた

そして、分解されたパーツをまた組み上げていく

 

「!?・・・武器が!?」

 

やがて、ギターの形をしていたそれは

全く別の形状に切り替わる

それは、引き金を備えたグリップに

弓なりのパーツを組み合わせたような──

そう、クロスボウへと姿を変えていた

 

そして、その武器をこちらに向けるサウンド

 

──撃たれる!

 

そして、サウンドが引き金を引いた

武器から放たれる弾丸

やはり、あの武器は遠距離攻撃用の物!!

 

咄嗟に剣を体を庇うように防御態勢を取る

しかし──

 

「・・・?」

 

放たれた弾丸はこちらの予想を外れ、

体には届かず足元に激突する

外した・・・?あの距離で?

外すことへの違和感があったがとにかくチャンスだ、

次弾が放たれる前に距離を詰め・・・

 

走ろうとした瞬間、仮面ライダーが異変に気付く

──足が動かない

 

「!?──氷!?」

 

そう、氷だ

足元に着弾した地点が大きく凍り付き

仮面ライダーの足をその場に繋ぎとめていた

 

「なんでラップで氷が・・・」

 

COOL(冷たい/カッコイイ)だろ?」

 

律儀に答えてくれるサウンド

洒落かよ!と突っ込みそうになるが

 

『RAP』

 

サウンドが、ディスクをクロスボウへと装填する

クロスボウには、先ほどの一発とは

比べ物にならないほどの

エネルギーが収束されようとしていた

つまりは──

 

「!──不味いっ」

 

「止めだ!」

BEST HIT(ベスト ヒット)!!!』

 

極寒の冷気を纏った弾丸が放たれる

回避しようにも、足が凍らされていては──

 

そして、弾丸の着弾点が巨大な爆発を起こす

 

「やったか!?」

 

やがて立ち上った砂煙が晴れていく

後に残った場所には、何も残っていなかった

 

「・・よっしゃー!」

 

サウンドが喜びの声を上げる

 

 

喫茶「テアトロ」──

 

「何なのよ!!あいつ!!」

 

杏奈さんの怒号が店内を響き渡る

 

「仮面ライダーサウンド・・・

 確かに仮面ライダーと名乗ったのかい?」

 

浩司さんが報告を聞いて、

新しい仮面ライダーの登場について

驚きながらも冷静に聞き返す

そんな風景を見ながら

 

「はい、確かにそう言ってました」

 

彩羽雄飛は、仮面ライダーに変身した状態で(・・・・・・・・・・・・・)

足に付着した氷を自慢の拳で

割り砕きながらそう答えていた

 

なぜ、彩羽雄飛が無事なのか?

それは──

 

BEST HIT(ベスト ヒット)!!!』

 

『MASKED REIDER!!!』

 

サウンドの必殺技が放たれた瞬間、

雄飛はライダーフォームへと姿を変えた

そして、

強力な脚力を備えたライダーフォームを使って

強引に地面を蹴り上げたのだ

そうすることで自身を縛り付けてた

氷と地面の接合部分を引きちぎるように割り砕いた

 

もちろん無傷とはいかない、

無理やりなその跳躍は仮面ライダーの足を傷つける

しかし、

何とか自由を手に入れた仮面ライダーは

地面から跳ねるように攻撃を回避していたのだ

 

そして、爆発に乗じ、杏奈さんを抱えたまま離脱

テアトロに何とか戻って現状に至るというわけである

 

「いや、驚きましたよ

 テラーと戦う人がほかにもいたなんて」

 

氷を砕き終わり、

ようやく変身を解除した雄飛は

呑気にそんなことを言っていた

 

「あなたねぇ、襲われておいてそんな呑気な・・」

 

確かに、いきなり襲われたことには恐怖がある

だが、うれしいこともまた事実だ

 

「でも、俺には敵対の理由なんてないんだから、

 向こうの理由さえ解消しちゃえばいいんだろ?

 そうなれば、ダブルライダー揃い踏み!!」

 

そう、彼はこちらの味方になってくれる

可能性があるのだ。

このテラーとの戦い、

自分一人で孤軍奮闘だって覚悟していた

けれどそんな中に現れた、音楽を操って戦う戦士

それは、とても心強い存在だった

 

「・・・・」

 

浩司さんが難しい顔をしながら考え事をしている

そして

 

「すまない、少し確認したいことがあるから奥に引っ込むよ」

 

そういって、店の奥に入っていった

何か、あのライダーのことで

思うところがあるのだろうか

 

「じゃあ俺は、もう一回外走り回ってみる。

 あの人に会って話を聞かなきゃ」

「はぁ!?あんた、さっきの今でよく・・・

 ・・・あーもう!私も行く!!」

 

杏奈さんが荷物をまとめだす

怒りっぽいのにどこか付き合いがいい人だ

 

 

探せば、どこかでまた路上ライブでも

やっているのではないのだろうか

そう思って町を散策していったが、

どうも見当たらない

まぁ、

今日はもう一度ライブをし終わった後だから

可能性は低いのかもしれない

 

──まぁ、

今日がだめでも明日以降また散策していけば

きっとどこかで

あの路上ライブを見つけられるだろう

 

そんなことを考えながら歩いていると

 

『・・・グヒッ』

 

「・・・?」

 

ふと、今何かが視線の通り過ぎてかなかったか?

何というか・・・・

こうアラビアンな盗賊風というか・・・

でもコスプレというよりは異形っぽくて・・・

 

「雄飛!!テラー!テラーがいま通ったわよ!!」

「えぇ!?」

 

サウンドの探索に思考を取られすぎたのか、

反応が遅れてしまった

本日二回目のテラーとの遭遇である

 

「ま、待て!変身!!」

 

『MASKED REIDER!!』

 

仮面ライダーが走っていったテラーを追いかける

幸い敵はすぐに見つかった

 

『グヒヒ・・・ここでいいか・・・』

「待てぃ!!!」

『グヒ!?』

 

突然の声に驚愕しながらこちらを向く

盗賊怪人=シーフテラー

──先手必勝!

 

「ライダー!パンチ!」

『グギャア!?』

 

飛び掛かり、パンチを食らわす

それだけで、

シーフテラーは大きく吹き飛び、爆発した

 

「・・・え?弱い?」

 

さすがに拍子抜けである

もしかして、個性がある

エキストラだったりしたのだろうか

そんなことを考えていると

 

『隙あり!!』

「ぐぁ!?」

 

背後から謎の斬撃

見ると、そこには

 

『よくもオレ(・・)をやりやがったなぁ!』

 

先程倒したものと瓜二つな怪人が立っていた

 

「ふ、双子?」

 

驚愕する、テラーに兄弟とかいるの!?

 

『いや、違うぜぇ』

 

背後からさらに声、見れば

 

「三つ子かぁ!?」

 

同じ顔がもう一人、つい聞き覚えがあるセリフを言ってしまった

しかし、現れたのは一人どころではなかった

 

『オレ様たちは、複数で1体なんだよ!一人倒したところでむだだぜぇ』

『その数、40!!』

 

現れたのは最初の一帯を除いた39体の同じ顔した怪人たち

40体!?なんて数だ・・・でも

 

「一体一体はそこまでの脅威じゃないなら、

 何も恐れることはない!」

 

どれだけ多くても、この弱さなら・・・・

 

『どうかなぁ?』

 

そういってテラーがヒラヒラと何かを見せてくる

 

『この爆弾を持った俺たちが

 あちこちに散らばってたら

 起爆までに倒すのが間に合うかなぁ?

 仮面ライダー?』

「何だと!?」

 

爆弾、爆弾だと!?

つまり、40体のテラーがそれぞれ

爆弾を抱えているってことか?

 

『起爆は今日の日暮れだぜ?』

『総員、散れぇ!!』

 

そういって各々が逃走しようとする

日暮れ!?現在が午後3時程度のことを考えて

あと3時間程度しかないじゃないか

 

「ま、待t」『おっと』

 

一体のシーフテラーが立ちはだかる

 

「邪魔だ!」

 

攻撃を叩き込む

地面に倒れ、シーフテラーが爆発した

逃げた奴らは・・・爆発に乗じて逃げきられた

 

「クソ!・・・杏奈さん避難指示頼む!!」

「わ、わかった!!」

 

あと38体の怪人を見つけて倒す

──間に合うか?

 

「・・・間に合わせる!!」

 

仮面ライダーはバイクに跨り敵の探索を開始した

 

 

──1時間後

「らぁ!!」

『ギャア!』

 

また一体を殴り倒す

・・・これで14体

時間がない、このままでは

そんなことを考えていると

 

BEST HIT(ベスト ヒット)!!!』

『ギャア!!!』

 

突然シーフテラーが吹き飛んで来た

そして、それに続いて現れたのは

 

「よし!楽勝!・・・いや、マジでこれで終わり?」

 

自分を敵といって襲い掛かってきた

仮面ライダーサウンドである

 

「・・・あ!あんた!やっぱり逃げてやがったんだな!!」

 

補足され、そしてこちらに向かってくる

──不味い

再開を望んでいた相手だが、今はまずい

おそらくだが

・・・彼はこの怪人について把握していない

・・・説得できるか?

 

「待て、いまは不味い!」

「問答無用!!」

 

振り下ろされたランスを腕で受け止める

鈍い痛みが走る腕に耐えながら、必死に説得を試みる

 

「待ってくれ!あの怪人はまだ生きてる!

 急いで倒さないと不味いんだ!!協力してくれ!」

「そんな方便!」

 

聞く耳がない

こっちは急いでいるのに

 

「クッ!!」

 

ブレイガンを取り出し応戦──

・・・いや。

彼に信頼してもらわなければ、もはや間に合わない

なら──

 

ダラリと仮面ライダーが防御を解く

サウンドの一撃は、

何にも阻まれず仮面ライダーに叩き込まれた

 

「グッ・・・信じてくれ!」

「!?・・・騙そうったって!」

 

サウンドがさらに追撃を行ってくる

その攻撃を避けることなく仮面ライダーは受け入れた

 

「・・・なんのつもりだよ!」

 

サウンドが疑問をぶつけてくる

──自分ができるのは誠意を見せることだ

彼に信頼してもらうには、争ってはいけない

元より、自分には彼と戦う理由などないのだ

 

「・・・俺は、人を助けたい!本当だ!!」

「時間が足りないんだ!頼む!協力してくれ!!」

 

もはや演技も忘れて懇願する

時間が刻一刻と迫る中

 

「・・・。」

『POP!』『BEST HIT(ベスト ヒット)!!!』

 

サウンドは、必殺技を構え、そして──

 

 

『あと1時間で残り25体・・・勝ったな』

 

高層タワービルの屋上で、シーフテラー、

その主人格の一体がほくそ笑んでいた

1人では時間的にバラバラに散った

自分の分身達全てを倒すのは不可能だろう

やがて、日が落ちれば

自分達の体に仕込まれた爆弾が起動し

付近一帯を大きく吹き飛ばしていくだろう

多くの人間に危険が及ぶ

その瞬間を今か今かと待ち望んでいた

しかし──

 

『・・・!?』

 

今、一体が消滅した

──まぁいい、まだ23体・・

さらにもう一体が先程の一体とは

遠い別の場所(・・・・・・)で倒された

 

『何ィ!?』

 

ありえない、あの時間的に、

この距離の2体が連続で倒されていくなど不可能だ

そんな驚愕をしていると、

さらに2体、今度は別の場所で同時に消滅した

バカな!?なんで同時に倒される!

 

その後も、シーフテラーが混乱している間に

また2体・・・4体と倒されていく

 

やがて──

 

日暮れまであと5分を切ろうとしていた

『バカな・・・あと2体・・・?』

 

シーフテラーはおっかなびっくり残った

もう二体を屋上から確認する

そこには

 

「ライダーパンチ!!」

『ギャアッ!?!』

 

 

「うらぁ!!」

『グェ!!?』

 

二人の仮面ライダー(・・・・・・・・・)

打倒される自分の分身が映っていた

 

『なんだ?・・・あの仮面ライダー!?』

 

2人ずつ削られていった理由がようやくわかった

二人の仮面ライダーが別々に自分を打倒していた

 

そして、片方の仮面ライダーが自分の方を見た

──居場所がバレた

・・・だが

 

『あと1分だ、間に合わない!』

 

ここで自分の勝ちを確信する

自分が知っている仮面ライダーアクトの

バイクの速度と跳躍高度のデータを知っている

どうあがいても、ここまでバイクを走らせ、

跳躍で上ってきたとしても間に合わない

 

二人の仮面ライダーが合流する

 

そして、自分が知らない方(仮面ライダーサウンド)

クロスボウをこちらに向けてきた

 

『狙撃か!?』

 

その場を離れる

次の瞬間、

自分が立っていた場所に氷の弾丸が飛んでくる

ものすごい冷気だ、

|弾が通った場所の大気が凍り、氷の道ができている

 

しかしそれは、自分を貫けなかった

 

『俺たちの勝ちだ!!グヒヒヒ!!』

 

勝利を確信したテラーは、ほくそ笑み、

気づくことができなかった

けたたましく唸るエンジンの音を

 

次の瞬間

 

『え!?』

 

現れたのはバイクに跨った一人の男

驚くことに、サウンドが作った氷の道を

仮面ライダーは最高速で砕け散る前に渡り切っていた

 

『 RIDER 』『 BEST ACTION!』

 

「ライダァアアアアア・・・・キィイイイイイック!!!」

 

断末魔を上げる暇もなく、シーフテラー、

その最後の一体は仮面ライダーに貫かれていた

巻き起こる爆発、その直後、夕日が沈み夜が訪れる

間一髪、2人の仮面ライダーのおかげで、

爆破事件は未然に防がれたのだった

 

 

「いやー!よかったよかった!やるなーあんた!」

 

ビルから飛び降りるとサウンドが合流する

 

「ああ、協力ありがとう。

 君のおかげで守り抜くことができた」

「いいってことよ!」

 

にこやかに礼を返してくれるサウンド

やはり、さわやかな青年なのでは?

 

「雄飛!・・・ってさっきの仮面ライダー!?」

 

そこに杏奈さんが合流する

 

「よ、こんにちは!」

「あ、どうも・・・じゃなくって!

 何!?まだ雄飛と戦うつもり!?」

 

杏奈さんが威嚇するように突っかかる

しかし──

 

「うーん。それなぁ・・・」

「悪い人じゃないっぽいってのは

 わかったんだけどなぁ・・・

 でも博士が言ってたしなぁ」

 

それを聞いて少しホッとする

少なくとも、自分が悪人でない

という部分に関しては信用してくれたようだ

しかし、

その博士からのお達しはどういうことなのだろうか

 

「その博士、名前なんだけど

 "音石幹也"って名前じゃないかい?」

 

突然の第3者の言葉に一様に声の方へ視線が向く

そこには、

我らが喫茶店の店長、三浦浩司さんが立っていた

 

「そうそう!・・・えっ博士の知り合い?」

「「えっ!?」」

 

俺と杏奈さんが驚愕する

件の博士の名前を浩司さんはなぜ知っている?

 

「知り合い・・・うん、知り合いなんだ。

 悪いけど博士と連絡とれるかい?

 君が敵と思えって言われた仮面ライダー、

 ほんとに雄飛君であってるのかってこと」

「OK!」

 

そんな軽いノリでサウンドは

スマホ片手に電話をし始める

 

「あ、もしもし博士?

 オレオレ・・・詐欺じゃないって翔ですって」

 

「それでさー、仮面ライダーとあったんだけどさー

 ほんとに敵なの?

 俺、・・・えーと、名前何だっけ?」

 

「えっ・・・彩羽雄飛です。」

 

「雄飛がさー悪いやつとは思えないんだけど

 ・・・えっ?誰だそれ(・・・・・)?」

 

「「え?」」

 

会話内容はわからないが、

突然聞き逃せない単語が出てきたぞ

 

「いやいや!博士が言ったんじゃん

 仮面ライダーは敵って!」

「・・・うん・・・うん、・・・分かった。」

 

サウンドが電話を切る

そしてこちらに向かって一言

 

「悪い!人違いだったらしい」

 

「「はぁ!?」」

 

こうして、俺、彩羽雄飛は

サウンドと和解と相成ったのだった

 

 

翌日

喫茶「テアトロ」──

 

「全く、人騒がせなこともあったもんね!」

「まぁまぁ・・・解決したことだし」

「そうそう!悪かったって!」

 

杏奈さんが、

恨み節を吐くのをなだめながら掃除をしていく

いろいろとあったがこれで

仮面ライダーアクトとサウンドは

無事共闘関係を築くことができた

一件落着といったところだ

 

・・・ところで

 

「サウンド君?なんでいるの?」

「俺、新田翔ね。翔でいいぞ!」

 

ここで、名前が発覚、

仮面ライダーサウンド:新田翔が仲間に加わった

──いやそうじゃなくって

 

「いやー!この町に来たのはいいけど宿なしでさー

 で、聞いたら住み込みで

 雇ってくれるって店長さんが!」

 

「まぁ、住居が同じ方が連携取りやすいからね」

 

頭を掻きながらそんな風に言う浩司さん

なるほど、客もいないのに

バイト増やして大丈夫なのだろうか

主に給料的な意味で

 

「な、なるほどー・・・」

「そうそう!・・・そんじゃあ!

 俺の歓迎に一曲歌でも・・・」

 

そういってギターを取り出す翔

自分で歌うのか

歌か、この店にあったジャジーなのを一曲

・・・・歌?

 

「待ちなさい!!あんた歌はやめなさい歌は!!」

「そ、そうそう!!この店クラシカルだから!

 演奏のみの方がいいと思うな!」

 

必死に止める、あの歌はまずい

このままではより一層客が寄り付かなくなる!

 

「いいじゃないか、歌!僕聞いてみたいよ」

「叔父さんだまって!」

 

「店長もああいってるし・・・一曲!」

「待って!早まらないで!」

 

こうして、

我らがベースキャンプは新たな仲間を加え

より一層賑やかになったのでした。

 

続く

 




次回 仮面ライダーアクト

現れたのは、人の人格を持った怪人
『目が覚めたら、こんな姿になっていたのさ!』
そのまま倒すと危険!?
『そのまま倒して、
 その人格が無事な保証はないよ?』
元に戻せるのか
「絶対もとに戻して見せます!」

第9章[怪人になった男]


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第9章~怪人になった男~

喫茶「テアトロ」の店長、三浦浩司は友人、

太田誠司との会合を終え帰路についていた

 

既に空は暗くなりはじめ、人通りも少ない

少し速足気味になる足を、

それでも止めることなく進めていたのだが

 

ザッ・・・ザッ・・・

 

「・・・?」

 

気のせいか、自分の速度に合わせて

何か足音がするような・・・

 

・・・仮面ライダーという存在と

関わってしまっているが故に

このような状況はつい、

敏感になってしまっているのだろうか

足を止める

 

ザッ・・ザッ・・ザッ・・

 

いや、確かに何かがいる。

杞憂ならばいいのだが、浩司は速足で駆けだす

・・・背後の足音も駆け出し気味になっている

明確に、自分を追っている。

 

ポケットに手を突っ込み電話に手を付ける

振り返って確認後、

すぐに逃走と雄飛君にヘルプを掛ける

逸る心音を抑えながら、気を引き締め・・

振り返る

 

そして目に映ったのは──

 

『申し訳ない、私はこういうものなのだが

 少しお話よろしいでしょうか』

 

確かにそこにいたのは

自分が危惧した通り、テラーだった

しかしその体制がおかしい、

ピシリと姿勢よくし、両手持った何かを

こちらに突き出している

その手には、自分の所属情報が明記された

小さな紙のカード、すなわち名刺(・・)であった

 

テラーが、自分に襲いかかるわけでもなく、

名刺を持って挨拶をしてきたのだ

 

「・・・えぇ?」

 

 

 

町の郊外──

 

雄飛,杏奈そして翔の3名は

浩司からのテラーと遭遇したという

連絡を受け現場に急行した

浩司の無事を祈りながら──

 

そしてたどり着いた

その先で浩司を発見する

 

浩司は、テラーと遭遇するという

アクシデントを受けながらも無地に生還を果たしていた

 

『いやー、コーヒーがおいしい!

 いい腕ですねマスター』

 

その遭遇したテラーに

コーヒーをふるまいながら──

 

 

「・・・というわけなんだが・・・」

 

「「「人間だったころの

   意識を持ったままのテラー!?」」」

 

浩司から話された情報に3名は驚愕する

それは、これまでではありえない現象であった

ちらりと背後でコーヒーを嗜んでいるものを見る

その姿は普通の人間とは大きく異なっている

ゴツゴツとしているようで

その表面はツルリとして光沢を放つ外殻が

体を覆った怪人

まるでガラスで出来た歪な彫刻

言うならグラステラーといったところか

 

「いや、僕もほんとはすぐに雄飛君達に

 来てもらうべきだと思ったんだけれどね」

「話を聞いてみたら、どうも本当みたいでね」

 

浩司さんがそう言って、テラーに目配せする

すると

 

『あぁ、私も何が何だかわからなくてね!

 目が覚めたら、こんな姿になっていてね!』

『明日も仕事があるのに一体どうしようかと

 途方に暮れていたら、彼が通ってくれたのさ!』

『まさか、怪人と対をなすように

 仮面ライダーが実在していたとは!』

『いやー!捨てる神あれば拾う神ありというやつだね!』

 

なんて自分の身の上をペラペラと話し始めた

随分とおしゃべりなテラーだ

 

『あぁ、すまない

 僕はこういうもの何だが』

 

といって渡されるは薄い紙きれ

杏奈さんが受け取り、書かれた情報を読み上げる

 

「脚本家 大木 康緒(おおき やすお)・・・?」

 

それは、彼の名前と役職

つまりは名刺だろう

 

テラーが人間の名刺を渡してきて挨拶する

普通ならそのことに驚くのだろう

だが、俺は別のことに驚愕していた

 

「大木康夫!!!?」

「うわビックリしたっ」

 

その名は、その名は──

 

「ね、熱血戦隊 ガンバルンジャーや

 絆戦隊 ツナグンジャーの脚本を執筆した・・・あの・・・?」

 

俺も毎週視聴していたあのヒーロー番組の脚本家じゃないか!

 

『おお、知っているのかい?うれしいなぁ』

 

「知ってますとも!どちらも名作中の名作!」

「あの主人公チームを取り巻く数々の試練!

 それを乗り越えて成長していくドラマ!

 王道の良さをそのままに

 新しいことへのチャレンジも忘れない姿勢があった!」

 

『ああ、作品に込めた情熱がそこまで

 伝わってくれているのなら製作者としても

 鼻が高いよ』

 

「その話を生んだ人に会えるなんて・・・感激だ!

 サインください!」

 

『いいとも』

 

なんていうことだ、こんなところで

こんな人と出会えるなんて

──仮面ライダーやっててよかった!

 

「いや、ちょっと待って」

 

杏奈さんからストップが入る

いかん、少しはしゃぎすぎたか

 

「えっと、あなた本当にその大木さん・・・なの?」

「言っちゃあなんだけど、

 テラーがそのふりしてるだけなんじゃないの?」

 

『ううん・・・

 それに関しては僕は証拠を出せないんだ』

『ただ、

 僕が人を襲う気がないというのは信じてほしい』

 

『何故なら──

 僕は君たちに倒してほしくてここにいるんだ』

『頼む、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

──?急いでとはどういう

 

その時だ

 

『!?』

 

大木さん?の様子が急変した

まるで何かをこらえるように蹲る

 

『いけない!・・・もうその時間なのか!』

『仮面ライダー君!速く変身しろ!

 怪人が来る!』

 

「!?怪人って・・・どこに」

 

辺りを見回す、それらしき気配はない

しかし──

『目の前だ!!()()()()()()()()()()!』

 

そういった直後、大木さんは力が抜けたように

ダラリと首を落とす

次の瞬間──

 

「危ない!」

 

咄嗟に大木さんの隣にいた浩司さんを突き飛ばす

ズンと鈍い音が響く

大木さん?が浩司さんの座っていた場所にその

強靭な腕が振り下ろされていた

容易く凹んだ地面

まともに食らっていたら浩司さんは

ひとたまりもなかったろう

 

「雄飛!」「・・・っああ!」

 

2人がベルトを装着し、構えた

 

「「変身!!」」

 

『MASKED RIDER!!』

 

『POP UP SOUND IS SINGER SONG RIDER!!! 』

 

2人の仮面ライダーが怪人と対峙する

グラステラーは2人を視認した瞬間

その腕を振り上げて打ちかかってきた

 

振り下ろされる腕を避ける

地面は容易く凹む

地面にめり込んだ腕を乱暴に引き抜く

それに巻き込まれた木が幹から容易くへし折れた

 

「やっぱ本人のふりだったのか!?」

「・・・いや」

 

それは違う、明らかに大木さんは

()()()()()()()()()()()()()()()

つまり──

 

()()()()()()()()

「あの体に()()()()()()()()()()()()

 一緒に存在しているんだ!」

「何だって!?」

 

言うなら2重人格だろう

特定の時にのみテラーが表に出ているのだ

 

「とにかく、やるぞぉッ!!」

「おお!」

 

2人のライダーがグラステラーに突撃する

 

「らぁ!」

 

アクトの拳、サウンドの槍

それぞれがテラーの体に突き刺さる

しかし──

 

「・・・。」

「!?」「なに!?」

 

テラーはそれを食らって

吹き飛ぶでも、たじろぐでもなく

ただ佇む、透明な外装は想像よりも固いらしい

テラーの片腕がアクトの腕を掴む

 

「おぉ!?」

 

軽々しく放り投げられた

受け身も取れずに地面と激突する

成人男性一人を容易くとは

なんという怪力だ

 

今度はテラーが拳を振るう

それはサウンドの腹に叩き込まれ

サウンドは容易く吹き飛ばされた

 

追撃のために前進するテラー

 

『WILD WESTERN!!』

「こっちだ!」

 

振り向くテラーに弾丸をお見舞いする

突然の6度の衝撃にテラーが少したじろぐ

しかし、致命打にはならない

 

テラーが腕を()()()()()()()()()

掬いあげるように振り上げた

石、土それらが混ざり合った塊が

こちらに突っ込んでくる

 

弾丸を放ち塊を粉々に砕く

砂埃を払いのける──

その先にはグラステラーが眼前に迫っていた

 

「なに!?ぐっ!!」

 

咄嗟に腕で前面をガード

両腕に重い衝撃が走る

テラーの拳を抑えきれずに

アクトもまた吹き飛ばされた

 

「雄飛!!」

 

駆け寄るサウンド

迫りくるテラー相手に万事休すかと

思われたその時

テラーの異変に目が付いた

体の前方、自分の拳と弾丸が突き刺さった箇所

その箇所にほんの少しの()()()()

 

「ショウ・・・」

 

アクトがそれを指差す

サウンドもまたそれに気づき頷いた

 

「一点突破だ・・・!」

「──OK!!!」

 

サウンドが槍にディスクを装填する

『POP!!』

()()()()()()()

『ROCK!!』

 

槍が一枚の時よりもさらに猛々しく唸る

 

炎と音を掛け合わせたように纏わせた槍を手に

サウンドがテラーに突撃する

 

『POP!!ROCK!!』

HIT MEDLEY(ヒット メドレー) !!!』

 

槍が協力なエネルギーを持ってテラーに直撃する

だが、それもまた受けきられて弾き飛ばされた

しかし、ピシリと音を立て

欠けた個所にヒビが生まれる

 

『WESTERN!』

アクトが銃を構える

狙いは一点──

BEST SHOT(ベスト ショット)!!!』

 

放たれた弾丸は一寸の狂いなく

目標に突き進む

そして見事にヒビに直撃した

 

ヒビが全身に広がっていく

そして粉々に砕け散った

 

「よっしゃ!」

 

サウンドが喜びの声を上げている

しかし──

何かがおかしい

・・・大木さんは一体どこにいった!?

 

辺りを見回す、周囲には

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

一体どこに──?

 

突如異変が起こる

バラバラになったガラス片

それが──

宙に浮き始めた

 

「!?」

 

咄嗟に構えるも遅い

大量のガラス片がアクトに向かい襲い掛かる

アクトはガラス片に飲み込まれた

 

「ぐ・・ぁああ!!」

 

ガラス片がアクトの体を切り裂きながら通り過ぎる

──油断した!

この怪人は、砕け散っても生きている!!

 

「雄飛!・・うぉ!」

 

サウンドもまたガラス片の流れに飲み込まれる

全身を切り裂かれる痛みに

2人のライダーは地に伏せてしまった

 

空中を漂うガラス片がユラユラとこちらに目標を合わせる

もう一度あれに巻き込まれればただでは済まない

──立たなければ

しかし、痛みで体がなかなか動かない

 

ガラス片がまたこちらに突っ込んでくる

 

「(やられる──!)」

 

もうだめだと思いかけたその時

 

「・・・?」

 

()()()()()()()()()()()

暴れるのを抑えるように、ぐらぐら揺れながら

やがてガラス片たちに変化が訪れる

飛んでいたガラス片達が集まっていく

そして、集まったその場所には

最初にみた、怪人の状態に戻っていた

 

そして──

 

「・・・やぁ・・・無事かい・・・?」

 

とにかく、疲れたような声色で

こちらを心配してくれる言葉を放つ

大木さんに戻っていた

 

「人の意識と怪人の意識が

 どちらも存在しているなんてね」

 

戦いを中断し、再度話し合う5人

翔と俺は切り傷だらけになった

体を擦りながら会話に交わる

──危ないところだった

あそこで大木さんの状態に戻らなければ

確実に2人ともやられていただろう

 

『あぁ・・・僕も最初の夜に

 意識が飛んだと思えば、地面は抉れているわ

 木はへし折れてるわで大変だった』

『人目を避けて、

 森奥に避難してたのが功を奏したよ』

『どうも、

 一定周期で意識を奪おうと攻勢に出るらしい』

 

ハッハッハと笑いながらそう話す大木さん

しかし、先ほどよりも勢いがない

やはり、こちらを傷つけてしまったことに

引け目でもあるのだろう

 

「なるほど、それで倒してもらおうと」

 

合点がいく、これではいつ人を襲ってしまうかも

想像がつかない

そういった意味では、最初に会えたのが浩司さん

だったのは最良だっただろう

 

「なら、今のうちにさっさと倒して

 元に戻しちゃおうぜ」

 

翔がそう提案する

その通りだろう、

抵抗の心配がない今の内に速いところ──

 

『──それはお勧めできないなぁ』

 

「!?」

 

突如の6人目の声

声の主を確認する

そこに立っていたのは──

 

「ペロー!!」

 

現れたのは、以前自分の前に現れた

テラーの元締めを名乗る青年

ペローである

 

立ち上がる

自分の様子から何かを察したのだろう

彼の存在を知らない翔もまた

2人してドライバーを構えた

 

・・・が

 

『ああ、今日は君遊びに来たんじゃないんだ』

 

ペローはそういって、大木さんを眺める

 

『いやぁ、ただ普通のテラーを

 作ったつもりだったのに

 飛んだ掘り出し物を引いたよ』

 

そう言うと嬉しそうに手を広げ

芝居がかったようにこういった

 

『僕たちの同志が生まれるかもしれないなんて!』

『怪人という力を得てなお、

 自意識を失わない自我の強さ!』

 

『おめでとう!君は

 ストーリーテラーになる権利を得た!』

 

・・・一体何を言っているんだ?

とにかく、この男は何をしでかすかわからない

チケットを構え

大木さんとペローの間に割って入る

 

『おお、随分邪険にされているね・・・

 まぁ、いいや今日は挨拶のつもりさ』

『じゃあね、頑張ってそのまま

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

ペローの姿が透けていく

とりあえず、今はダメージもある

戦う気がないのなら、

ここはそのまま消えてもらおう

 

『ああ、そうそう』

 

消える寸前、思い出したようにペローが言い放つ

 

『彼の意識は今、

 テラーの状態と深く結びついている』

『そのまま倒して、

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

「何だと!!?」

 

それは、自分たちが今

行おうとしていたことに対しての静止の言葉

 

ブラフか──?

そうかもしれない

奴がテラーを消されないための虚言かも

しかし、それが本当のことであれば──

本当がどちらにせよ

自分たちは、そうやすやすと

大木さんを倒せなくなってしまった

 

 

喫茶「テアトロ」店内

 

5人は本拠地である店に帰還していた

もちろん、大木さんは怪人体のままでだ

 

「・・・・」

 

重苦しい空気が流れる

皆、ペローが言っていた言葉が

気になっているのだろう

 

「──駄目だ」

 

店の奥から浩司さんと大木さんが出てきた

何とか、倒す以外の方法で

元に戻せないかを探ってもらったが

その結果は残念なものであった

 

「外的な要因で、テラーからチケットを

 引き抜く方法が分からない」

「体内に残っているわけでもない

 ・・・完全に手詰まりだ」

 

さらに重苦しくなる空気

 

「大丈夫ですって!絶対に戻して見せます!」

 

空元気のようにそう大木さんを励ますが

その顔は優れない

やはり、ペローが言っていた言葉が

どうしても気がかりなのだろう

 

「しっかし、あいつが

 言っていたことは何なんだろうな」

「ストーリーテラーになれる・・・って」

 

確かにそちらも気になる部分だ

奴の言うストーリーテラーとは、

一体どういうことなのだろうか

 

「浩司さんはどう思います」

 

こういうのは、

やはり浩司さんの予想を聞くべきだろうか

 

「・・・ん?・・・あぁすまない、

 僕にもよくわかっていないんだ」

 

歯切れ悪くそう言った

やはり、情報が少なすぎるし

そうやすやすと予想は立たないのだろう

 

無言の状況が続く・・・

そして──

 

『やはり、僕は倒されるべきだ・・』

 

大木さんがとんでもないことを言い出す

 

「待ってください!早まらないで!

 ・・・あいつが言ったことが

 嘘と決まったわけじゃないんです」

「そうだ!もしほんとならあんたが!」

『しかし、このままでは

 僕は人殺しの怪物だろう!』

 

大木さんも追い詰められているのだろう

声を荒げている

無理もない、

自分が元に戻るかどうかが不明なのだ

 

「ですが!」

『なら、一抹の望みにかけてでも

 倒されるべきだ!僕が僕であるうちに!』

 

『方法が見つからないのなら、僕はせめて

 巻き込まれた一般人として終わりたい・・・』

『君たちが気に病まなくていい』

『人間の僕を助けるために・・・頼む・・・!』

「大木さん・・・」

 

彼は、恐れている

死に・・・だけではない

彼は自分が人殺しの怪人になってしまうのを

何より恐れている

こんな状況で、人を傷つけたくないと

心から願っている

 

そんな男を

放っておけるわけがなかった

 

「大木さん・・・必ず助かります」

「あなただって知っているはずだ

 どんなに困難な道でも、

 必ず方法があって見つけられるって」

「そんな夢のある話を、

 あなたは何度も書いてきたはずだ」

 

精一杯の励ましを掛ける

そうだ、彼はどんな困難にも決して諦めない

そんな物語を書いてきたはずだ

 

『そんなの脚本の中だけの話さ・・実際なんて』

「いいや、そんなはずはない

 だってこれは・・"仮面ライダー"の物語ですよ」

 

大木さんが、言葉を失う

そうだ──

 

「"仮面ライダー"がそんな

 後味が悪いだけの物語にするわけないでしょ?」

「現実に、脚本なんかないけれど

 だからこそ、登場人物たちが描いていかなきゃ」

 

そうだろ?と周りを見回す

3人とも、笑顔で頷いていた

 

大木さんは──

 

『・・・ああ、そうだ

 死にたがることなんてない・・・』

『こんな面白い体験をしたんだ

 生きて、仕事について書き下ろさなきゃ勿体ない』

 

顔を上げる

怪人の顔で表情なんてわからないけれど

目に生の光が灯ったように見えた

そして、何か決心したように頷いた

 

夜が明ける

雄飛はフロアの固いテーブルの上で目が覚めた

結局あの後は5人でどうにかして方法を

探していたが、結局解決策は見つからず

そのまま寝落ちしてしまったのだろう

 

他の3()()も目を覚ます

・・・?

あれ──

 

「大木さん・・・?」

 

周りを見渡す、大木さんの姿がない

一体どこにいった・・?

まさか──

 

 

大木もまた意識を戻す

しかし、その場所は雄飛達の喫茶ではなく

最初の森奥でだ

 

『・・・ふぅ危なかった』

 

周囲には抉れた地面

つまり、彼はまた暴れていたのだ

皆が寝静まった後、前兆を感じた彼は

大急ぎで森奥に退避

そして大暴れして現在に至るというわけだ

 

『さて、もうずいぶん明るい

 どうやって喫茶に戻ろうか』

 

『その必要はないんじゃない?』

 

背後から声、昨夜聞いた声だ

振り返ると

 

『こんにちは』

 

そこには昨日自身を勧誘したペローという青年

大木は、後ずさりながらなんとか平静を保つ

──どうしよう

 

『その様子だとまだ駄目みたいだねー

 駄目だよ、もっとうまく抑え込まなきゃ』

『乗っ取りに来たら

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『しょうがない』

 

ペローが手を向ける

その瞬間──

 

『・・!?』

 

()()

先程暴れまわったばかりだというのに

こうも早く怪人が乗っ取りに来た

 

『早くなれるには、回数をこなすことだよね』

 

この男のせいか──!

抑えるがそれでも湧き出てくるように

怪人の意識が体に押し寄せる

 

『さぁ!怪人の意識を抑え込んで!

 そう!その力だけを奪い取るように!』

『怪人の力だけを我が物にして、

 余計な意識だけを握りつぶす!』

『そうすれば!君は人を超える

 物語を進行させる側に回れるんだ!』

 

ペローは愉快そうに言葉を弾ませる

そこに──

 

「やぁめろぉおお!!!」

「おっと」

 

仮面ライダーアクトがバイクでその現場に突っ込む

大木がいないと知った雄飛は

彼が暴れるために森に戻ったと推察し

猛スピードで急行したのだ

 

『いきなりだね仮面ライダー!

 でも、少し遅かったかな』

 

「なに!?」

 

『グ、グォオオオオ!』

 

大木は必死に意識を抑える

苦しそうなうめき声が漏れ出ている

 

「大木さん!」

 

『邪魔はさせないよ』

 

ペローが手をかざすと

突如空間が揺らぎ、どこかとつながる

そして現れたのは──

エキストラと呼ばれた、いつぞや戦った

戦闘員たちだ

 

自分を大木さんによらせないようにと押し寄せる

相変わらず数が多い・・大木さんに近づけない!

 

『そこで見てなよ!彼はこちら側になる!』

 

『う、うぅぅう!!』

 

大木は堪える

怪人の意識が奪おうとしているのを必死に抑える

しかし、もう無理だ

また、怪人になって暴れ出す

そう思ったとき

 

「大木さん!しっかりしてくれ!」

 

"仮面ライダー"の声が聞こえる

そうだ、これは仮面ライダーの話だ

このまま、なんの進展も起きないままに

させるわけにはいかない

 

『ぐ、・・・』

 

様子が変わる、大木がその意識を抑え込み始める

 

『いいぞ!そのまま怪人の力だけを頂くんだ!』

 

ペローが上機嫌に語り掛ける

彼は、これで人の意識を持ったまま

完全に怪人の力を手に入れる

彼はそうなると確信していた

 

しかし──

 

『私の・・・』

 

『ん?』

 

『私の・・・中から・・・消えてくれたまえ!!』

 

大木が、抑え込んだ力を

()()()()()()()()()()

 

『なんだって!?』

 

やがて大木に変化が起こる

体が徐々に縮んでいく、

体も普通に──人間の肉体に戻っていく

 

そして放り投げられた力は

やがてその姿をチケットに変えた

 

 

「や、やった!!」

 

大木は、自力で怪人化するトリガーである

チケットを自分の体からはじき出したのである

 

「やったぞ!雄飛君!!」

 

大木さんの喜ぶ声が良く聞こえる

 

しかしその背後に

 

『なんだよ・・・それ・・・

 そういうのは、いらないんだけど』

 

さっきまでの喜びようが嘘みたいに

冷めた声で告げるペロー

 

『じゃあ死ねよ』

 

戻ったチケットを拾い上げ、

そばにいたエキストラに突き立てた

 

『ウォオオオオ!!』

『じゃあね』

 

ペローが興味を失ったと言わんばかりに消える

 

そしてエキストラがグラステラーに姿を変え

大木さんに襲い掛かった

 

「マズい!!」

 

駆け付けようにもエキストラがまとわりつく

 

「逃げて!!!」

「おおおおお!!?」

 

あわやと思ったその時

 

『POP!!ROCK!!』

HIT MEDLEY(ヒット メドレー) !!!』

「おおらぁあああああ!!!!」

 

間に割り込んだサウンドが

カウンターで必殺技を叩き込む

翔もまた、大木がいないと知り

ダッシュで駆け付けた次第である

 

「あっぶねー・・・間に合った!」

「いいぞ!翔!」

 

アクトもまとわりつく

エキストラを全滅させ合流する

 

強烈なカウンターが決まったことで

グラステラーはまた、ひび割れて砕け散り

ガラス片へと姿を変える

 

「雄飛君!!」

「ん?」

 

「粉々でも死なないのなら、どこかに本体があるのさ

 ()()()()()()()!!」

 

大木さんがそう言い残し、退避する

 

「・・・なるほど」

 

アクトがチケットを取り出し

サムライフォームへ姿を変える

 

無頼剣豪(ぶらいけんごう)!いざ(まい)る!!!』

『侍丸!!!』

 

アクトブレイガンにチケットを装填し

腰を落として構える

 

空中を漂う無数のガラス片をじっと見る

無数のそれに惑わされず

こちらに向かい来るものの中から本体を見つけ出す

──あれだ

ひと際大きいガラス片

あれから、怪人の気配を感じる

 

ガラス片の大群が襲い掛かる

 

『サムライ!』

BEST CUT(ベストカット)!!』

 

交錯するその瞬間、剣を振り抜く

剣は、先ほど見つけたガラス片を一刀のもと

両断していた

 

『──。』

 

グラステラーが声にならない叫びを放ち地に落ちる

浮いていたガラス片もまた

司令塔を失って粉々に砕け散っていく

 

こうして、戦いは終わりを告げた

 

 

「いやー!一時はどうなるかと思ったよ」

「でもさすがは仮面ライダー!

 全員救ってエンディングとは素晴らしいね」

 

テアトロで上機嫌でコーヒーを啜る大木さん

・・・だが

 

「あの・・・大木さん?

 まだ開店前なんですけど・・・」

 

そう、開店前から勝手に席に座り

コーヒーを頼んでいた

 

「まぁ細かいことは気にしないでくれたまえ」

「いや、細かいっていうか営業準備中ですから」

「・・・っていうかなんで毎日来てるんですか」

 

そう、あの怪人騒ぎから3日が経過した

その後から、この男はほぼ毎日ここに来ては

コーヒーを啜っているのである

 

「そりゃあ、ここにいれば創作意欲がモリモリとね

 湧いてくるから、やっぱり実体験があると違うね」

 

「ああ、もちろん事件解決には全力で協力するよ!!」

「何でも言ってくれたまえ!!」

「・・・はぁ」

 

こうして、また賑やかな協力者が増える

ただ、喫茶店としては迷惑極まりない男であった

 




次回 仮面ライダーアクト

怪人が残した謎の糸
「どうやら、人の生命力を糸にしたものみたいだ」
容疑者はアイドル
「星野聖、今話題沸騰のアイドルよ」
現れたのは鶴の怪人
『私に恩返しをさせてくれぇ!!』

第10章[恩返しをもう一度]


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第10章~恩返しをもう一度~

──少し昔話をしよう

 

俺、彩羽雄飛は8年前

大きな事故に巻き込まれたことがある

 

あれはそう、野鳥を見に山奥に一人で入ったんだ

──その後、自分は行方不明となってしまった

 

ただ、そう大事にはならず翌日には発見されたんだ

崩れた岩、砂利に塗れて気絶している状態でね

 

その時自分は、ある凄いものを見たんだ

()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()

 

まぁ、そんなのものは

ただの気絶中に見た夢だと判断されたんだ

自分の記憶も漠然としていたからさ

 

結局土砂崩れに巻き込まれたということで

その事件は終わった

 

ただ、その記憶が随分と印象に残っているのか

たまにその夢を見るんだ

 

──で、ここからが問題なんだ

仮面ライダーって存在を知ったからか

昔から見たその夢に変化が現れた

 

──登場人物の姿が随分鮮明になったんだ

 

怪人の方は自分も戦ったことがないような

青い鳥の意匠をした怪人に

そしてヒーローの方は

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

喫茶「テアトロ」

 

「へぇー、そんな夢がなー」

 

今日も今日とて暇な喫茶店内

彩羽雄飛と新田翔は店内を雑談を交わしていた

 

「うん、変な話だろ?見たこともない怪人なんてさ」

「自分の想像力・・・

 にしてはできすぎてるんだよなぁ」

 

確かに自分は特撮のファンではあるが

だからと言って想像だけで

怪人のデザインまで作れるわけではない

かといって、その怪人が今までで創作で見た

別の怪人と混同しているのではないかといえば

これまた、そんな気もしない

不思議な感覚である

 

「──じゃあ、本当に見たんじゃないの?」

「・・・え?」

 

首をかしげる自分に翔はそう言い放つ

・・・いやそれは

 

「・・・うーん?」

 

・・・ないとは言い切れないのだろうか

しかし、8年である

そうなれば、

テラーは8年前から存在していることになる

8年間・・・何してたんだ?

 

「どうしたんだい?」

 

そういって会話に加わってきたのは

店の奥から出てきた浩司さんと杏奈さん

 

・・・浩司さんなら何か知っているのだろうか

 

「浩司さん」

「ん?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

・・・・・。

 

「・・・・・。」

 

こういった時は割とすっぱり答えてくれる人だったはずだが

随分と考え込んでいるようだ

 

「あの・・・?」

「・・・あ、ああ、それは」

 

歯切れ悪そうに答えてくれようとしたその時

 

「邪魔するぞ、事件だ」

 

カランと店の扉が開き

太田さんが入ってくる

どうやら、何か事件らしい

まだ会話の途中だったが、切り上げて話を聞こう

 

「昏倒事件?」

 

話を聞くと

最近、複数人の人間が

昏倒した状態で発見される事件が多発しているらしい

そして──

 

「昨日発見された現場でこんなものが発見されたんだ」

「・・・糸?」

 

そういって渡されたのは煌びやかな一本の糸

だが普通の物ではない、

目に見えるほどの輝きを放ち

見るだけで目を奪われる程に美しさを感じる

明らかに異常だ

 

「ただの糸だと物証としてはスルーされたのだが

 どうも普通だとは思えなくてな

 持ってきたんだが・・・どうだ?」

 

「うん、調べてみよう」

 

そう言うと浩司さんは糸を持って引っ込んでしまった

 

 

「それと、もう一つ情報何だが」

「被害者たちの共通点なんだ」

 

共通点、それがあるなら心強い

次の狙いがすぐにわかればそれだけ先手が打てる

 

「共通点って?」

「ああ、どうやら被害者は

 "星野聖"のファンのようなんだ」

 

・・・?

誰?

 

「星野聖!!?」

「うわびっくりした」

 

食いついたのは杏奈さん

えっと・・・一体どちらさんなのだろうか

 

「あんたら知らないの!?」

「星野聖、今話題沸騰のアイドルよ」

「あの歌聞いてないなんて勿体ないわよ!!」

 

どうやら身近な人にファンがいたらしい

 

「そして、これがこの前の

 そのアイドルのライブ時の写真だ」

 

ぴらりと一枚の写真を取り出す太田さん

その写真には

 

「!?」

目を奪われるよう衣装を着たアイドルの姿

この衣装は・・・

 

「同じ糸だ・・・」

 

この衣装をみた時の異質さ

間違いない

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「とりあえず調べて分かったよ」

「どうやら、人の生命力を糸にしたものみたいだ」

 

そういって浩司さんが戻ってくる

人の生命力なんて、なんと物騒な

というよりも、こんな現実離れした行為

テラー以外にはありえないだろう

 

なら・・・

 

「とりあえず、

 そのアイドルのところに乗り込んで・・・」

「無理ね、ガードマンに捕まって

 最悪こっちが浩司さんのお世話になるわよ」

 

・・・今回の事件も一筋縄ではいかないようだ

 

 

とはいえ、できることも限られている

まずは、

そのアイドルが所属している事務所の前に来た

・・・が

 

「君たち、何してるの?」

「あんまり怪しいことしていると警察呼ぶよ」

 

人気アイドルの事務所というのは

やはりガードも固い

張り込みなどしようものなら

一気にガードが走ってくる

 

とりあえず、逃げるように建物の角を曲がる

・・・参った

 

「どうするかなぁ」

「いっそ、無理やり乗り込むか?」

 

翔が危ない提案をするが却下

さすがにそれをやれば社会的に死亡する

・・・変装とかして入り込めば・・・いける?

 

いやいや、さすがに無理だろう

うーんうーんと頭をかしげながら歩いていると

 

『うぉ!』

「うわ!・・・すみません!」

 

前から歩行してくる人物に気づけなかった

正面から衝突してしまう

 

『ああ・・・こちらこそ済まない』

 

ころりと相手の被っていた目深な帽子が転げ落ちる

衝突した相手は尻もちをついてしまったが

怪我はしていないようだ

 

「いえいえ、こちらの不注意・・・」

 

帽子が落ちて、相手の顔が目に映る

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「テラー!!?」」

『え!?・・・あ!ああ!!?』

 

顔に手を当てて、鶴怪人=クレーンテラーが

そのことに気づく

 

「「へ、変身!!」」

『MASKED RIDER!!』

『POP UP SOUND IS SINGER SONG RIDER!!! 』

 

『な!か、仮面ライダー!!?』

 

こちらも相手も驚愕を抱えたまま

戦闘を開始した

 

アクトがクレーンテラーに殴り掛かる

テラーは身を包んでいた変装用の外装をはぎ取り

こちらに投げつけた

 

「わっ」

 

布地が顔面に掛かり、足が止まる

その隙をついて、クレーンテラーが翼を広げ

 

『ハァ!』

 

羽を一枚一枚弾丸のように射出してきた

サウンドが前に出てそれを叩き落としていく

 

『何!?』

 

「ふん!!・・・なんてことねぇな!!

 今度はこっちの番だ!!」

 

槍を構えてそう言い放つサウンド

それを見たクレーンテラーは

 

『・・・撤退!』

 

翼をはためかせ、一目散に逃げだした

 

「待て!」

 

サウンドが追いかける

自分もまた布を地面に叩きつけ

その2人を追いかけた

 

「・・・アトリエ?」

 

逃げたクレーンテラーを追いかけて

たどり着いたのは一件のアトリエ

 

間違いなくクレーンテラーはここに逃げ込んだ

待ち伏せをしているのだろうか

アクトとサウンドは警戒をしながら扉を開く

 

「・・・罠は・・・ない?」

「そのようだ、警戒を解かずに行くぞ」

 

ゆっくりと奥に進んでいく

やがて、ひと際大きな部屋にたどり着く

そこには・・・

 

「!?・・・あの衣装だ!」

 

写真で見た衣装が飾られている

そして、それと同じ雰囲気を感じる衣装が十数着

飾られていた

 

「・・・・!」

 

背後に気配!

拳を握りこみ二人して振り返る

そこには──

 

『頼む!!見逃してくれぇ!!』

()()()()()()()()()姿()()()()()

 

「「・・・は?」」

 

『私は、このアトリエの服職人の存在を奪い現れた』

『そして、この力で人の生命力から糸を作り

 服を仕立て、他者に渡していたのだ』

 

テラーが自身の身の上を話すのを

警戒は解かずに二人の仮面ライダーは聞く

 

『それが、このアトリエに

 依頼をしていた一人のアイドルだ』

『私の服は、他者の目を引く

 見る見るうちにアイドルは人気になっていった』

『私は、そんなアイドルに最高のタイミングで

 この真相を話し、決して自分の実力ではないという

 絶望した顔を見るのを楽しみにしていた』

 

「こいつ・・・・」

「待って」

 

悪趣味な趣向を語るテラーに対して

待つことはないかと拳を握るサウンド

しかし自分はそれを止める

土下座までした命乞いの

その理由がどうしても気になった

 

『だが──

 ある日、こんなものが届いた』

 

そういって見せたのは一通の手紙であった

送り主は星野聖

アイドル本人からの手紙であった

 

『書いてあったのは

 ──ただひたすらに感謝の気持であった

 この服のおかげで力が湧く

 最高のパフォーマンスを送れる

 あなたに頼んでよかったと』

 

『それを読んだ時

 私の中に何かが浮かんだ

 ──喜びだ』

 

「・・・続けろ」

 

『おかしな話だ、人に害成すように努めるべき

 私が、人によって喜ばされるなど』

『だが、その気持ちを

 私はどうしようもなく好いてしまった

 喜ばれる服を作ることに喜びを持ってしまった!』

 

『私は、この気持ちをくれた彼女に

 どうしてもしたいことがある』

 

そういって、怪人が見せたのは一着の服

アイドル衣装だ

ただこれは、写真で見たものとは違う

"なんの異常性も感じない、

 普通の美しい衣装であった"

 

『私は、彼女に恩を返したい!』

『なんの力も持たない、私の全力の作品で

 彼女に最高のショーをしてもらう』

『服の力など無しに、

 彼女を本物のスターにする!』

 

もう一度、テラーが頭を下げる

 

『頼む!』

『私に恩返しをさせてくれぇ!!』

 

・・・・。

言葉をなくしてしまう

まさか、テラーに

こんな個体が存在するとは思ってもいなかった

 

「・・・いい話じゃねぇか・・・」

 

サウンドが顔をごしごしと拭っている

涙はたぶん拭えていない

 

だが自分は──

 

「信じることはできない」

 

『!?』

 

確かに、この話は感動的だ

怪人が優しさを持ち、

一人の人に何かをしたいと願う

とても素晴らしいことだろう

 

だがそれを、演技ではないと断じれない限り

それは受け入れられなかった

 

『なら・・・』

「!?」

 

クレーンテラーが翼を広げる

交渉が失敗したから襲い掛かってくる!?

 

そう思い身構えたが

テラーはこちらではなく、

()()()()()()()()()()()

 

打ち抜かれていく、例のアイドル衣装

それはほどけるように複数の糸に還り

やがてどこかに飛んでいく

 

『奪った生命力を解放した

 ・・・時期に被害者も目を覚ますだろう』

「!?」

 

犠牲者を0の状態に戻した

それは、

ある意味怪人の役割を放棄したと言える

 

「・・・分かった。それが仕上がるまで待つよ」

「・・・ただし、終わったら抵抗せずに倒されてもらう」

 

『ああ、これが終われば未練はない

 必ず、持ち主に返そう』

 

太田さんから、被害者の意識が

全て戻ったことを確認し

杏奈さんと浩司さんに事情を説明する

 

もちろん反対もあったが、

自分たち2人で一時も目を離さずに監視する

という条件を付けてようやく

許可を取った

 

そして、クレーンテラーが

衣装作成の作業をするのを見守る

衣装が完成したのは

二日後の朝であった

 

『完成だ・・・』

「おお・・・」

 

出来上がった衣装は見事なものであった

送付用に詰めて荷物を持つテラー

 

『早く、届けなければ!』

「あ、おい!」

 

感極まったのか

変装もせず、翼を広げ飛び立ってしまった

 

「いやーよかったよかった」

「ああ・・無事に完成して本当に・・・」

 

・・・。

 

「「やべぇ、追いかけなきゃ!」」

 

2人のライダーは、

急いでそれを追いかけた

 

クレーンテラーは一直線に事務所に飛んでいく

これで自分は終わりだという

一抹の寂しさがあった

だがそれを超えた歓喜があった

満足があったのだ

 

しかし──

謎の衝撃が突然自分を襲う

 

『うわぁぁ!?』

 

衣装は傷つけまいと庇いながら墜落する

痛みをこらえながら顔を上げると

そこには

 

『あのさぁ・・・君、何やってんの?』

 

細身の剣を携えた、猫の怪人が佇んでいた

 

 

テラーを追いかけるアクトとサウンド

その道中に

 

「!?・・エキストラ!?」

 

戦闘員たちが現れた

まさか・・・

 

「やっぱあいつ、はめて逃げる気だったのか!?」

「雄飛先いけ!!」

 

「頼む!」

 

戦闘員をサウンドに任せ

必死に追いかけるアクト

そして、道中の工場跡に立ち寄ったその時

 

『ぐあぁあああ!!』

「!?」

 

先行していたクレーンテラーが

吹き飛んできた

 

しかし、その様子が異常だ

吹き飛んできたテラーは

()()()()()()()()()()()

 

『!?・・・仮面ライダー!』

 

クレーンテラーがこちらを認識すると詰め寄ってくる

 

『これを・・・!』

 

そういって衣装をこちらに手渡す

 

「一体何が・・・」

『・・・頼んだ!!』

 

そういってこちらを掴んで押し飛ばす

次の瞬間

協力な衝撃がクレーンテラー目掛けて飛んできた

避けることもできずそれはテラーに直撃する

 

『──。』

 

まるで服に当たらなくって良かったと言わんばかりに

ホッとした様子を顔にして

叫ぶ間もなく、クレーンテラーは爆散し消滅した

 

「・・・。」

 

突然の出来事に脳の処理が追いつかない

 

『あれ?仮面ライダー?』

「!?・・・ペロー!!」

 

現れたのは、猫の怪人:ペロー

先程の攻撃は、奴の物であった

 

「テラーを、なんで・・・?」

『ああ・・・あの失敗作ね』

 

爆散したクレーンテラーを失敗作と言い放つペロー

心底見下した様子で

 

『人に絆されて、あげく襲った人間も元に戻して

 ・・・一体何がしたかったんだろうね

 さすがに不快でしかないし、いても意味ないし 

 とっととこっちで消しといたよ』

『ほんと、人の感謝で喜びとか

 何言ってるんだろうね

 テラーなんて、人を苦しめてなんぼってつもりで

 作ってるのにねー』

『まぁいいや、次を作るよ』

 

あっけらかんとペローはそんな風に話す

奴は人間に害もなさないのは

必要もないと、切り捨てたのだ

 

「・・・お前!」

 

『何その顔?・・・怒ってるの?

 結局そっちも倒すんだからさぁ

 手間が省けてよかったでしょー』

 

・・・別に同情するつもりはなかった

それでも、自分の味方側であるものを

容赦なく切り捨てるその感じに

どこかひどくむかついた

 

「ペロー!!」

『侍丸』

 

『Start』

無頼剣豪(ぶらいけんごう)!いざ(まい)る!!!』

『侍丸!!!』

 

ブレイガンを持って、ペローに肉薄をする

細身の剣で受け止められるが

力任せに強引に振り切った

 

『うわ!・・・やる気だねぇ!』

 

ペローも面白いと言わんばかりに応戦する

高速の連続突きがアクトに襲い掛かった

避ける受け流す

突きを何度も捌いていく

そして──

突き出されたその直剣を思いっきり掴みこんだ

 

『!?』

 

引き抜こうとするペロー

しかし剣はびくともしない

その隙に

連続で斬撃をその体に叩き込んだ

 

『ガァぁ!!?』

 

剣から手を放し、ペローが転がっていく

掴んでいた直剣を投げ捨て

 

腰を落としてしっかりと剣を構えた

いい加減、こいつの相手をするのも疲れた

ここで終わらせる・・・!

 

『・・・うぁ・・!?』

 

『サムライ!』

BEST CUT(ベストカット)!!』

 

ブレイガンにチケットを装填し

必殺技を放つ

巨大な飛ぶ斬撃がペロー目掛けて襲い掛かった

 

しかし──

 

()()()()()()()()()()()()

 

斬撃はペローに到達する直前に

彼方に弾き飛ばされた

 

「・・・誰だ!?」

 

ペロー本人の仕業ではない

誰かが間に入って弾き飛ばしたのだ

 

斬撃によって立ち上った砂煙が晴れる

そこには、初老の男性が立っていた

 

『随分な有様だな、ペロー』

『ブルー・・・何の用だよ・・』

 

息絶え絶えといった様子で

ペローが立ち上がると

不貞腐れたように問いかける

 

ブルーと呼ばれた男は

物腰柔らかにほほ笑むと

 

『何、君のピンチに駆け付けたのと』

『そろそろ、これも調整が完了してね』

『試してみようかと思ったんだ』

 

そういうとブルーと呼ばれた青年は手をかざす

その場所に何者かが転送された

 

「・・・!?」

 

現れたのは一人の戦士であった

色が抜け落ちたかのような

白と黒のカラーリングの装甲

バッタのような意匠をした顔

腰には、大き目なバックルをしたベルトをしたそれは

 

「・・・嘘だろ?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()

そこに立っていた

 




次回 仮面ライダーアクト

現れた謎の仮面ライダー
「誰なんだあんた一体!!」
その答えは8年前に
「全ては8年前、
 一人の科学者に起こった悲劇から始まったんだ」
「テラーは、僕たちが生み出してしまったものなんだ」

第11章[8年前のプロローグ]


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第11章~8年前のプロローグ~

前回までのあらすじ
人を襲わなくなった怪人
クレーンテラーに出会った雄飛達
彼の願いを叶え、穏便に済むかと思ったのも束の間
クレーンテラーは不要な怪人だと
ストーリーテラー:ペローに消されてしまう
得も言われぬ怒りを感じつつ
アクトはペローに必殺技を放つも
それは、突如現れた謎の男に消し飛ばされてしまう
そしてブルート名乗る男に連れられ
アクトそっくりの何者かが姿を現すのであった


BEST HIT(ベスト ヒット)!!!』

「らぁあああ!!!!」

 

サウンドがエネルギーを帯びた槍を振るう

十数体の戦闘員(エキストラ)が薙ぎ払われ爆発する

 

「よし!すぐ追わねぇと・・・」

 

ようやく囲ってきていた集団の処理が完了し

先行したアクトを追おうとしたサウンド

そこに

 

「新田さん!」

「おお、風間ちゃん」

 

騒ぎを聞きつけた杏奈が合流する

 

「テラーは!?」

「服が完成したら飛んでっちまった!

 雄飛が追っかけてる!

 急ぐぞ!!」

 

2人は雄飛を追いかけて走り出す

たどり着いたその先には

 

「「!?」」

 

思わぬ光景が広がってした

 

「仮面・・・ライダー?なんで・・?」

 

突然現れた謎の男

そして、連れられるように現れた

自身とよく似た姿をした何者かの出現に

仮面ライダーアクトは驚愕を隠せなかった

つい、演技も忘れて素で疑問を漏らす

 

『こんにちは、()()()仮面ライダー』

『私はブルー、ペローの同類だ』

 

ブルーと名乗る男はそう丁寧な挨拶をすると

 

『せっかくだが、彼の相手になってもらいたくてね』

『さぁ、()()()()()()、彼が敵だ』

「・・・。」

 

それまで、俯いた状態で身じろぎ一つしなかった

仮面ライダー?の顔が上がる

そして、アクトを視認すると

その複眼がひと際赤く光って見えた

 

次の瞬間

──その姿が消える

そして自分の目の前に現れた

 

「!?」

 

振るわれる右腕

それをギリギリ剣で受ける

しかし、その凄まじき剛腕の一撃を

受けきれずに吹き飛ばされる

 

「がっ・・・!?」

 

残された工事廃材に激突し呻き声が漏れる

顔を上げると

 

眼前に持ち上げられた右足が映った

咄嗟に身を翻す、

振り下ろされた右足のストンピングが

先程までに自分の居た場所に

コンクリートを割る抜くほどに突き刺さる

 

体制を立て直すも

すぐさま次の攻撃が迫りくる拳

今度はしっかりと踏ん張って受け止める

ズンと凄まじい衝撃が身を襲う

 

「ッ・・・誰なんだあんた一体!!」

「・・・。」

 

何とか拳を逸らす

質問の答えは返ってこず

すぐさま次の攻撃が繰り出される

 

──とにかく、戦うしかない!

アクトが反撃を繰り出す

 

「・・・!」

 

しかし、振るわれた斬撃は

いとも容易く回避されてしまう

凄まじいスピード、そして反射速度だ

 

「らぁ!!」

 

上段からの振り下ろしを繰り出す

しかし、それが激突するよりも先に

相手の拳が自身の体に突き刺さった

 

「っうぁ・・・!」

 

衝撃に後ずさる

そして、

プロトアクトと呼ばれた者がベルトに手を掛けた

ベルトがひと際強く駆動し始める

 

「!?(マズい!)」

 

『サムライ!』『Best Action!!』

 

咄嗟に自身もベルトを押し込み

剣にエネルギーを集約させる

 

「・・・・!!」

 

プロトアクトが高く跳躍し、必殺キックを繰り出す

アクトはそれを剣にて迎撃しようとするも

 

「ぐっ!・・・ぐぁああ!!」

 

剣と足がぶつかった瞬間に剣は弾かれ

キックがその体に直撃し

その衝撃で吹き飛ばされた

 

壁に激突する

変身が解け、崩れ落ちる

 

ゆっくりと、プロトアクトがこちらに近づく

不味い、立たなくては

しかし、痛みで体は満足に動かない

 

『さすがだね、やはり年期が違うということかい?』

 

ブルーと名乗った男が、

満足げにプロトアクトに語り掛ける

返事は返らないが

それでもお構いなしにしゃべり続ける

 

『なぁ、()()大吾』

 

・・・?

変身者の名前だろうか、プロトアクト(先程の名前)ではなく

そう話し掛けたブルー

 

・・・風間・・?

 

『ROCK!!RAP!!』

HIT MEDLEY(ヒット メドレー) !!!』

 

迫りくるプロトアクト

その間に仮面ライダーサウンドが躍り出た

 

炎と冷気が入り混じった槍を地面に突き立てる

その瞬間

混ざり合った熱気と冷気が強烈な

水蒸気(スチーム)を焚きあたりを覆い隠した

 

プロトアクトは風を巻き起こし

蒸気を払う

晴れた先には、誰も残っていなかった

 

「あれは・・!?」

 

仮面ライダーサウンドと杏奈は

巨大な爆発音がした場所にたどりつく

そしてそこで見たものは

 

"『サムライ!』『Best Action!!』"

 

"「ぐっ!・・・ぐぁああ!!」 "

 

必殺技の打ち合いに敗れ

ぼろぼろになった雄飛と

そしてそれに迫りくるモノクロのアクトであった

 

「アクト・・・?どういうことだ?」

「噓でしょ・・・?」

 

杏奈の顔が信じられないというような

驚愕の顔に染まる

そして──

 

「新田さん!雄飛を連れて逃げるわよ!」

「えっ・・・」

 

突然の撤退命令に面を食らう

 

「速く!!!」

 

しかし、杏奈の顔は

とんでもなく、鬼気迫るほどであった

何か、相当やばいものを見たかのような・・

 

「・・・あぁ!!」

 

サウンドは、その意図は分からなかった

しかし、彼女は意味もなく

そんなことは言わないだろう

 

ディスクを2枚取り出し

雄飛の下に走り出した

 

──蒸気で目を晦まし

その隙に雄飛を回収したサウンドは

さらに杏奈を小脇に抱えこの場から撤退する

 

抱えられた杏奈は

遠く離れていくその場所から目を離せなかった

正確には、遠く見えるプロトアクトを見続けていた

 

 

喫茶「テアトロ」──

 

「いやぁ、人を襲わない怪人!

 私もぜひ会ってみたかったんだけどなぁ!」

「ハハハ・・・」

 

客である脚本家、大木と

店主である三浦浩司は

他の客もいない店内で談笑する

そこに──

 

「雄飛!!しっかり!」

 

ドアが乱暴に開かれ、ボロボロになった

雄飛を抱えて翔と杏奈が入ってくる

 

「!?一体どうしたんだい!」

「大木さん、運ぶの手伝って!

 叔父さん!救急箱!!」

「分かった!」

 

突然の怪我人の来店に先程までの

穏やかな空気は吹き飛ばされた

 

包帯まみれになった雄飛は

ベッドで目を覚ます

 

「テアトロ・・・?」

 

起き上がり、店のフロアに顔を出す

フロア内の4人は上がってきた雄飛を見て

安堵した様子を見せる

 

「雄飛君!・・・よかった!」

 

浩司さんが声をかけてくれる

 

「浩司さん・・・」

「ん?」

 

しかし、それどころではない

聞くことがあった

 

「風間大吾って誰なんですか」

「!?」

 

驚愕に染まる浩司さんと杏奈さん

やはり、何か知っている

自分によく似た仮面ライダー

そして、杏奈さんと同じ苗字の男性名

無関係なわけがない

 

「プロトアクトって何なんですか」

「それは・・・」

 

言い淀む浩司さん

事態が呑み込めない翔と大木さんは

おかしな雰囲気に困惑している

置いていきぼりだが、仕方ない

 

「言ってもいいだろう、浩司」

「!?」

 

──突然知らない人の声

店のドアが開く

入ってきたのは白衣を着た老人

 

「音石・・・!」

()()!!」

 

博士、その人をそう呼んだのは翔

ということは、この人が

 

「こんにちは、私は音石幹也(おといしみきや)

 サウンドライバーの開発者で浩司の元同僚だ」

 

やはりか

 

「博士!いつ来たんだよ!

 俺だけ先行させるって言ってたじゃんか!」

「浩司から連絡を受けてすっとんで来たんだ

 ・・・大吾が見つかったと聞いたらな」

 

まただ、その名前は一体

すると、浩司さんは俯いた顔を上げ

一呼吸を置き放し始めた

 

「杏奈から聞いた、君が会ったあのライダー」

 

「あのライダーの変身者は、風間大吾(かざまだいご)

 ・・・杏奈の実の父親であり、僕の弟だ」

「「「!?」」」

 

・・・やはり親族だったのか

杏奈さんを見る

 

「・・・。」

 

俯いて、無言を貫いている

 

「全部話そう、テラーの正体

 僕らが生み出すのを止められなかった

 化け物が生まれた時のことを」

 

「・・・当事者じゃない僕は席を外した方が?」

 

大木さんがそんなことを言って席を立とうとする

 

「いや、構わない」

 

「・・・全ては8年前、

 一人の科学者に起こった悲劇から始まったんだ」

 

ぽつりぽつりと話始める

その顔は、思い出したものに対しての

悲痛に満ちていた

 

「あるところに、心理学の研究を専門にした

 科学者がいた

 名前は、青山秀幸(あおやまひでゆき)

「彼は、犯罪者のカウンセリングについて

 心理学的に良心を呼び起こすことによる

 更生の手助けを目指していた」

 

「そんな研究に感化され、

 彼には3人の助手がいたんだ」

「それが、僕、そこにいる音石、そして大吾だ」

 

「研究は難航したが、様々な方法を試して

 少しずつ、少しずつ進めていった・・・」

「あの頃は楽しかったよ・・・」

 

懐かしむように目を細める浩司さん

話を続ける

 

「だが、事件が起こった」

「彼の家族・・・

 妻とその息子が、殺害されたんだ」

「!?・・・まさか、テラーが?」

 

テラー事件の最初の犠牲者がその人達

そう考えたが、

浩司さんは首を横に振る

 

「強盗さ」

「・・・え?」

 

「青山博士の家族は、怪人も何も関係ない

 強盗殺人に巻き込まれたんだ」

 

「そして・・・」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

返ってきたのは、

もっと悲しい答えであった

それはつまり・・・

 

「そう、青山博士は家族を失い

 そして、その復讐先までも失くしたんだ」

 

「博士は、悲しみ・・・研究に没頭した 

 そこからだ、博士の進む方向が狂い始めたのは」

「博士は、良心を取り戻す研究から

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「人が生む悪心そのものに

 憎悪を剥けるようになったんだ」

 

「研究の幅もどんどん増やしていった

 心理学だけではない、機械工学、電脳技術

 果ては黒魔術や降霊術などのオカルトにまでね」

 

「僕らは、その暴走を止めることができなかった」

「傷ついた博士にかける言葉も分からず

 鬼気迫るほどに研究に没頭した博士に

 恐怖していたんだ」

 

悔やむように拳を握る浩司さん

音石さんもまた同じような顔をしている

話は続く

 

「・・・研究の果てに、あるものが生まれた

 "人の精神を奪い、その過去にすら影響を与え

 その姿を変異させる人工精神体"」

 

"人口精神体"?

 

「・・・まさか!」

「そう、それが今僕らが戦っているテラー

 その第1号だ」

「テラーは、

 元は僕たちが生み出してしまったものなんだ」

 

テラーの生まれた理由

その根幹に驚愕する

まさか、浩司さん達がその

 

「しかし、それは博士の望むものではなかった」

「いくら精神を入れ替えたところで

 その精神に悪心があっては意味がないからね」

「博士が、破棄しようとしたその時」

「その人工精神体は

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

つまり、テラーの第1号は作成した博士本人・・?

 

「しかし、

 ここで精神体側に思わぬことが起こった」

「博士の執着が、その精神体を

 遥かに凌駕していたんだろう

 博士の自我が消えず、

 肉体の変異のみが起こった」

 

それは奇しくもこの場に居合わせた

大木さんと似たような症状だった

いや、完全に意識が残っている分より

大木さんよりもすごいだろう

それだけの怒り、憎しみを

研究にぶつけていたのか

 

「意図せず

 人ならざる力を手に入れた博士は

 その後、別の研究書を持って

 姿を消した」

「そして、()()()()()()()()()()()()()()

 

「そう、テラーを作り、人を襲い始めた」

「それが、単なる人間への復讐心か

 それともまた別の狙いがあったのか

 今となってはもう分からない」

 

そこまで話して、浩司さんが一息つく

いきなりの話に頭の中の整理がつかない

謎の仮面ライダーの話を聞くはずが

テラーの誕生の話を知ることになるとは

思ってもいなかった

 

しかし、話はここからだ

結局、風間大吾さんの話を

ほとんど聞いていない

 

浩司さんがまた、話始める

 

「博士の暴走に僕達3人はそれぞれ行動に移った」

「僕は、それまでの博士の発明品であった中で

 最もあの怪人化に近い効果を持つ

 "アクトドライバー"、その未完成品の完成を」

 

「音石は、未完成品の

 アクトドライバーをベースとして、

 全く新しい力を持ったベルトの開発を」

 

「そして、最後の一人

 大吾は、未完成品の"アクトドライバー"

 を使って、テラーたちと戦う道を選んだ」

 

「そう、8年前大吾は

 最初の仮面ライダーとして戦ったんだ」

 

つまり、大吾さんは自分の前任者であったのか

しかし

 

「それが、なんでテラーと・・・?

 裏切ったのか!?」

 

翔が自分も疑問に思った点を問う

そうだ、8年前に戦っていた人が

何故今頃、

そしてテラー達と一緒に行動しているのか

それだけでは理解ができなかった

 

「裏切りは、不可能だ」

「何せ、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

答えたのは音石さん方だった

・・・?

意識がない?

 

「どういうことですか?」

 

「言っただろう、未完成品だと?」

「そもそも、

 アクトドライバーの最初の構想は

 "悪人を無理やり正義の味方に変えてやろう"

 というものだ」

「君が使っているドライバーにある

 セーフティがないのさ」

 

・・・?

セーフティ?

そんなものがこのドライバー?にとまで考えて、

一番最初に変身した時のことを思い出す

 

「"演じれないと変身できない"・・・?」

「そうだ、だがプロトタイプにはその機能が無い」

「そして、大吾は世辞にも演技はできなかった」

 

それでは、変身できないはずでは?

 

()()()()()()()()()()()()

 使()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

・・・。

それ・・・は・・・つまり・・・

 

「無理やり、変身させる・・・?」

「そうだ、プロトアクトは変身中

 自意識を仮面ライダーに置き換え戦う

 そして、戦い終わった後には元に戻す」

 

何ということだろう

そんなの

 

「危険すぎる・・・!」

「そうだ、そしてあいつが()()()()()()()()()()

 戦い始めてから半年までだ」

 

そして、またも不穏な言葉が

そして、分かってしまうその言葉の意味が

なんて、ことだろうか

 

「!?それって・・・」

「ああ、続く戦い、そのたびに

 自分ではない意識と自分の意識が入れ替わる

 そんな状態が続けば

 誰だって自分を見失う」

「半年後、大吾は我々の下に戻らなくなった」

「大吾は、自意識を見失い

 元に戻れず

 仮面ライダーとして、怪人を倒し続けるだけの

 存在になってしまった」

 

なんで・・・・なんで!

 

「何で止めなかった!!」

 

声を荒げて音石さんに詰め寄る

 

「止めたさ!でもあいつはやめなかった・・・

 怪人を倒す方法も!それ以外になかった・・・」

 

「・・・すまない」

 

音石さんと浩司さんの手から血が滴り落ちる

握る拳に力が入りすぎている

・・・この人達も必死だったのだ

 

「そして、発生から1年経った時に

 ひと際大きな戦闘が起こった」

「大吾と、青山博士のテラーのが激突したんだ」

 

「2人はぶつかり合った末、観測できなくなった

 それ以降、テラーの事件は見られなくなった」

 

「私達は2人が相打ったと想定した」

「しかし、その8年後──」

 

8年後、すなわち今この時代である

 

「・・・また、テラーが現れた」

「そう、青山博士が生きていたのか

 はたまた彼の意志を誰かが継いだか

 テラーがまた現れ始めた」

 

「大吾が自意識から裏切る可能性は低い」

「プロトアクトのシステムを書き換えたんだろう」

 

そして自分が仮面ライダーとなった

ここまで来て、また一息ついた

・・・5人とも無言だ

無理もない、風間大吾さん

その実態はとても悲しいものだったのだ

 

「このことは、

 もっと速く話さなければならなかった」

「僕は、・・・君を騙していた」

()()()使()()()()()()

 君が知って去るのを恐れたんだ」

 

浩司さんが弱弱しく話す

とても後ろめたそうに

それもそうだろう、これを聞かされれば

自分のベルトにも

自分の知らない何かがあるのではと

疑いたくなる気持ちもよくわかる

 

「君は、

 アクトに変身できるだけの演技力と

 確かな善性を持っていた」

「僕は、その善性にとことん甘えていた」

「君が去れば、

 変身者に困ると分かっていたから」

「・・・・すまない」

 

そう言って浩司さんが頭を下げる

・・・。

 

「・・・顔を上げてください」

「確かに聞かされてなかったことはショックです」

 

・・・けれど、そこまで怒りはない

喋らない理由が理由で

そして負い目もあったのだ

そこまで起こることでもない

それに・・・

 

「でも、関わるって決めたのは俺ですから」

「・・・雄飛君」

 

それよりも

 

「今はもっと別のことがあるでしょ」

「大吾さんを助けなきゃ!」

 

「・・・あぁ!」

 

浩司さんに笑みが戻る

 

「そう、上手くいくかな」

 

しかし、そこに音石さんが水を差す

 

「プロトアクトは、プログラムされた演技だ

 想定上の最良の演技を行える」

「人間ができる限界の細かさでな」

「システム上、どうあがいても

 雄飛君では出力で負けるだろう」

 

そういわれると不安になる

どうすれば・・・

 

「そのための俺・・・だろ?」

 

ポンと方に手が置かれる

振り向くと、翔が自信満々に笑っていた

 

「1人でだめなら2人で・・だろ?」

「・・・うん」

 

そうだ協力すれば・・・

 

「無理だ・・・お父さんはもう無理だよ」

「・・・杏奈さん?」

 

長く開いていなかった杏奈さんは

ようやく口を開いたが弱音を吐いた

 

「8年・・・もう意識も壊れてるのに・・・

 助けようなんて余計な負担増やす意味ないわよ!」

 

杏奈は見た

まるで機械のように無機質に雄飛に詰め寄る

父親の現状を

容易く人の命を奪いかけたあの姿を

 

杏奈さんは完全に諦めてしまっていた

 

「杏奈さん・・・」

 

何とか声を掛けようとしたところで

 

Prrrrr

 

浩司さんの電話が鳴り響く

 

「太田か!

 ・・・仮面ライダーが民間人を襲ってる!!?」

 

その言葉を聞いて

俺と翔は店を飛び出した

 

「・・・。」

 

大木は、これまでの話を聞いて

いたく感動していた

まさに事実は小説より奇なり

 

8年前の惨状から始まり

そして今、諦めず戦おうとする

彼らの闘志に何より感動していた

 

そして──

自分も、また彼らに協力すると誓ったのだ

 

「マスターさん。少しいいかい?」

「・・・?」

 

この戦いで自分ができることを

彼は思いついていた

 

 

町に悲鳴が響き渡る

 

突然現れた、複数ののっぺらぼうの怪人(エキストラ)

そして、モノクロの謎の存在(プロトアクト)

次々に建物をそして人に襲い掛かる

 

逃げ惑う人々

万事休すかと思われたその時

 

「待て!!」

 

2人の青年が立ちふさがった

 

「・・・。」

 

赤い複眼が2人を見据える

 

「絶対・・・戻してみせる!」

「いくぜぇ!」

 

『MASKED RIDER』

『POP UP SOUND!』

 

「「変身!!」」

 

『Start』

風は、戦士を呼んだ(Wind called the Warrior)

『MASKED RIDER!!』

 

『PLAY!!』

『ON STAGE!!!』

POP UP SOUND IS(ポップ アップ サウンド イズ)

SINGER SONG RIDER(シンガー・ソング・ライダー)!!! 』

 

 

「いくぞぉ!!」

「おぉ!!」

 

2人の仮面ライダーは

プロトアクトに向けて突撃していくのであった

 




次回 仮面ライダーアクト

激突!VSプロトアクト
「頼む!元のあなたに戻ってくれ!!」

「諦められるわけない!」

大木の秘策とは
「要は、演じやすくすればいいんだろう?」

雄飛は大吾を救えるのか
「ここからは()()主役だ」

「変身!!」
『Start』『 a Continue!』

第12章[続きから始める]


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第12章~続きから始める~

前回までのあらすじ
突如現れた謎のライダー
その正体は、8年前の初代
風間大吾であった

それを聞いた雄飛と翔は
暴走した大吾を救助すべく
戦いに赴くのであった


「ハァ!!」

「お・・らぁ!!」

 

2人の仮面ライダーが

群れを成す戦闘員達に飛び込んでいく

 

振るわれる拳と槍が戦闘員(エキストラ)達を次々と薙ぎ払う

やがて周りのエキストラが全て倒され

戦場にはアクトとサウンド

そしてプロトアクトのみが残された

プロトアクトがゆっくりとこちらに詰め寄ってくる

 

「──風間大吾さん!!止まってくれ!!」

 

アクトがプロトアクトに呼びかける

変身者の本当の名前で呼びかける

 

しかし──

 

「──。」

 

返プロトアクトはそれに返事を返さず

ただ拳を握るのだった

 

「駄目か・・・!」

「・・・動きを封じて、ベルトを破壊する」

 

覚悟を決めて、拳を握りこむ

──ここで必ず彼を止める!

 

「行くぞぉ!!」

 

アクトがプロトアクトに殴り掛かる

 

「──。」

 

振るわれた右拳をプロトアクトは

片手で軽くいなす

次いで左腕でのパンチを繰り出す

顔面に迫りゆく拳をプロトアクトは

しっかりと受け止めて防御した

 

──次の瞬間、腹部に鈍痛が走る

拳を握りこまれ移動を封じられた状態で

カウンターのパンチが

アクトの腹に突き刺さったのだ

 

後ずさるアクト

その背後から

 

「しゃあ!!」

 

サウンドが槍を上段に構え飛び込んでゆく

振り下ろされる槍を

 

プロトアクトは右にずれて回避する

そして腕を降ろしてがら空きになった

サウンドの体に蹴りを叩き込んだ

 

のけ反るサウンド

アクトとサウンドは並び立ち

カウンターを受けてなお果敢に攻め込んだ

 

 

攻防が続いていく

アクトとサウンドが

休む暇も与えないと言わんばかりに攻撃を放つ

 

されど、そのどれもがプロトアクトには一歩届かない

どの攻撃も避けられ、止められ、いなされていく

 

これだけ攻撃を続けても相手に疲れの様子はない

このままでは、こちらの体力が尽きていくだけだろう

何か、打開をしなければ

 

「(──ならば・・!)」

 

アクトが攻撃を放つ

その攻撃もまた、プロトアクトによって受け流され

返しにパンチが迫りくる

それをアクトは──

体で受け止める

吹き飛ばされそうなほどの衝撃を

踏ん張って何とかこらえる

そして自らの体に突き刺さるその腕を抱え込んだ

 

「──!?」

「おらぁ!!!」

 

腕を捕らえ、身動きが取れないプロトアクトに

サウンドが刺突を繰り出す

逃げ場を無くした体にその攻撃が突き刺さった

プロトアクトが大きく後ずさっていく

 

「当たった!?」

「よし!」

 

糸口が見えた

アクトとサウンドが顔を向けあい頷く

作戦は決まった

 

「──!」

 

次はプロトアクトから攻勢に出る

2人に突撃し、拳が振るわれる

 

それを今度は、

 

「ふん!!」

 

サウンドが槍で受け止めた

そして

 

「ハァ!!」

 

 

アクトがそのタイミングに合わせ

飛び蹴りを放つ

 

「──!!」

 

今度の攻撃は残った方の片腕に防がれたが

それでも衝撃を殺しきれず

プロトアクトがよろめく

 

そして2人のライダーの反撃が始まる

 

プロトアクトが放ってきた攻撃を

片方が全力で防ぎ、もう片方が反撃を放っていく

 

「──ライダーパンチッ!!」

「──ッ!!」

 

そして、固い防御を搔い潜り

ようやく、プロトアクトに

まともな一撃が叩き込まれた

 

後ずさるプロトアクト

確かな手ごたえにアクトは当たった手で

再度固く拳を握った

 

 

いける

このまま二人で押していけば──

 

『させないよ!』

「「!!?」」

 

次の瞬間、斬撃がサウンドに襲い掛かった

何とか受け止めつばぜりあう

 

「・・・ペロー!!」

『君は僕に付き合ってもらうよ』

 

現れたのは、猫の怪人ペローであった

つばぜり合いのままサウンドを押し込み

アクトから引き剝がす

これで戦場は2対1の状況から

2対2の状況となる

 

つまり──

アクトはプロトアクトに

一人で挑まなければならないということだ

 

「──。」

「ッぐぅ!」

 

意識を無効に取られた次の瞬間には

プロトアクトの攻撃が差し迫る

何とか防御し、距離を取る

 

「──くそっ!」

 

悪態をつきながらアクトは

迫りくるプロトアクトと相対した

 

 

喫茶「テアトロ」──

 

アクトとサウンドが

戦いに赴いてから少し経った後

 

音石と杏奈は店内から2人の戦いを

モニターし、戦況を見守っている

 

ゴリゴリゴリ

カタカタカタ

 

2種類の音が店内に響き渡っている

一方は大木が原稿用紙に

わき目も降らずにペンを走らせる音

そしてもう一方は、浩司が必死にキーボードを叩き

何かを組み立てていっている音であった

 

「こんな時に、何をしているんだ?」

 

音石が大木に質問を投げかける

2人が

 

「仕事さ!・・・火急のね!」

 

答えながらもペンは止まらない

ギリギリほかの人が解読できるであろう程度の

文字で書きなぐり、どんどんマスを埋めていく

 

「向こうは完璧に仮面ライダーを

 演じているから強い、

 そして雄飛君の演技がそれに及んでいないから

 負けてしまっている」

「なら・・・

 要は雄飛君が演じやすくすればいいんだろう?」

「雄飛君の演技を底上げしてやればいいんだ」

 

()()()()()()()()を、

 ()()()()()()()()()()()にしてね」

 

そういってまた、執筆作業に戻る大木

 

そして──

 

「不味いな押され始めた・・・」

 

モニター上で、戦況が変化する

突然のペローの乱入で

アクトとプロトアクトの一騎打ちが始まってしまう

 

2対1で戦ってようやく戦いになっていたのだ

それが1対1になってしまえば立ち行かなくなる

 

アクトだけではない、

消耗していたサウンドもまた

乱入してきたペローに押され始めている

 

「どうすれば・・・」

「音石さん!何かないんですか!?」

 

杏奈が声を荒げる

 

「・・・。」

 

音石は少し試案した後に

懐からある装置を取り出した

 

「これがあれば、大吾だけは無力化できる」

「・・・それは?」

 

差し出された装置に手を伸ばす

 

「・・・プロトアクトの

 ()()()()()()()()()()()()()()だ」

「・・・え?」

 

それは思ってもいない言葉であった

 

「大吾がプロトアクトに変身し、

 姿消してから8年が経過しているが

 おそらく1度も変身解除はしていない。

 それでも生きているのは

 ベルトの生命維持装置のおかげだ

 それを止めれば、いずれ体に限界がきて停止する」

「これは、ベルトに取りつけることで

 それを起こす機械だ」

 

それはつまり──

 

「これを使えば、()()()()()()()()()()()

 

 

手が震える

確かに、これがあれば

プロトアクトだけは無力化できる

 

「・・・君にさせるわけにはいかない

 私が行こう」

 

そういって音石が店から出ようとする

 

「待ってください

 ・・・私が行きます。」

「待て!杏奈君!!」

 

杏奈は

そういって装置を引っ手繰るように奪い

店から走り出していく

 

必死に止めようと手を伸ばす

──彼女にこんなことをさせてはいけない

 

「待つんだ、杏奈」

「あぁ・・ちょっと待っておくれ」

 

店の奥から浩司と大木が出てくる

 

「叔父さん・・・」

 

杏奈が振り返り声の主を見る

止めないでほしい、これは自分でさせてほしい

そんな気持ちで彼を見る

けれど──

言い渡されたのは、静止の言葉ではなかった

 

「行くなとは言わない、けれど

 ()()()()()()()()()()

 

そういって、突き出されるものを見る

両者の手にはそれぞれ

束ねられた原稿用紙と

ひとつのチケットが握られていた

 

 

「大吾さん!聞こえないのか!

 頼む!元のあなたに戻ってくれ!!」

 

返事はない

気にする素振りも見せず

プロトアクトは歩を進める

 

「っダァ!!!」

「──。」

 

アクトが攻撃を繰り出す

しかしそれを

プロトアクトはものともせずに殴り返した

お互いに攻撃は当たるのに

アクトのみが吹き飛ばされる

 

やはり1対1では、どうしても

プロトアクトに軍配が上がってしまう

 

「ぐっ・・・・ヤァアア!!」

 

なおも果敢に攻め込むアクト

だが気迫だけでは事態は好転しない

アクトだけが一方的にダメージを受けていく

 

拳を握りこみ右腕を大きく振りかぶる

プロトアクトもまた同じように左腕を振りかぶる

突き出した両者の拳がぶつかり合う

一瞬の拮抗

しかし──

 

プロトアクトの腕に力が入る

どんどんアクトの拳が押し戻されていく

そして──

 

「──!!」

「がぁぁ・・・!」

 

プロトアクトの腕が降り抜かれ

アクトが大きく吹き飛ばされた

 

体が宙に放り出され

やがて瓦礫へと激突する

 

ふらつく足を抑えて何とか立ち上がる

──ならば!

 

『 RIDER 』

BEST ACTION(ベスト アクション)!!』

 

ベルトを押し込み、跳躍の体制に移る

それを見たプロトアクトもまた

ベルトを駆動させ、跳躍体制を取った

 

両者同時に高く飛び上がる

そして

 

「ライダーキック!!」

「──!!」

 

必殺キックが空中でぶつかり合う

激しいエネルギーが衝突し合い

大きなスパークを放つ

 

「だぁあああああ!!」

 

アクトが足に力を込め

蹴り抜こうと藻掻く

 

だが──

 

「──!」

「がぁああああああ!!」

 

競り勝ったのはプロトアクトの方であった

ライダーキックもろとも押し飛ばされ

 

アクトがすさまじい勢いで吹き飛ばされる

壁を何度か突き抜け

崩れた建物の中に突っ込んでいった

 

「あ"・・・ぐぅ"う"・・・」

 

凄まじいダメージに体から力が抜ける

変身も解け、

雄飛は瓦礫の中で倒れこんでしまった

 

コツリコツリと足音が聞こえる

プロトアクトがこちらに迫っている

──不味い、立たなければ

だが、全身の痛みに体が言うことを聞かない

 

その時だ、誰かに腕を引っ張られ

雄飛は建物のさらに奥に押し込まれた

 

プロトアクトが、アクトの落下点に到達する

しかしそこには既に誰もいない

プロトアクトは周囲を確認し、

気配を感じられないとみると

 

ペローとサウンドが戦う場所に戻っていった

 

「杏奈さん・・・ありがとう。」

「・・・。」

 

雄飛を隠れさせたのは、

現場に到達した杏奈であった

 

「雄飛、まだ戦える?」

「ああ・・・もちろん・・だ!」

 

なけなしの体力をふり絞り立ち上がる

こんなとこで終われない

 

「そう・・・じゃあ一瞬でいいから、隙を作って

 ・・・あとは私がお父さんを止める」

「・・・杏奈さん?」

 

そういって杏奈さんが何かの装置を取り出す

・・・違和感があった

杏奈さんの表情は酷く不自然だ

まるで恐怖を押し殺しているような

怪人に立ち向かっていく恐怖じゃない

もっと別のおぞましい物からの恐怖だ

 

「・・・それ、何?」

「いいから!言うことを聞いて!」

 

声を荒げてこちらに

 

「・・・それ、

 唯の動きを止めるようなものじゃないんだろ!?」

「・・・これ以上、

 お父さんの暴走を見ているわけにはいかない!

 ・・殺してでも止めなきゃいけないの!」

 

──。

殺す、殺すといったか

実の父を

自分の手で

 

──そんなの

 

「ふざけるな!!

 そんなの良い訳ないだろ!!」

 

声を荒げてその肩を掴んで

そんなバカげた考えを止める

しかし──

 

「じゃあどうするの!そんなにボロ負けして!」

「勝つさ!!どうやってでも!

 必ず、大吾さんを仮面ライダーから元に戻す!」

 

根拠はない、勝算もない

けれど、諦めるわけにはいけない

こんなバカげた結論に

辿り着かせるわけにはいかないのだ

 

「・・・戻らなかったら?」

「・・・え?」

 

「もし、変身を解除させて、目を覚ましても

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「ずっと、

 生身のまま怪人を探して彷徨うの・・・?」

 

・・・。

そうか、そこか。

彼女は恐れている

 

今、大吾さんの意識は壊れて

穴埋めに仮面ライダーの意識が埋まっている状態だ

そこから人間に戻ったとして、

果たして元の意識が取り戻せるのだろうか

 

もはや、沁みついた仮面ライダーの意識のまま

生身のまま、

機械のように怪人退治に突き進む

変わり果てた父の姿が

待っているのかもしれないことも恐れているのだ

 

「杏奈さん・・・」

「そんなの・・・悲しすぎるじゃない

 せめて・・・人のまま終わらせた方が・・」

 

「そんなことにはならない」

「・・・何を根拠に」

「そう、信じようよ」

 

彼女が言ったのは、最悪の結果だ

確かに、その可能性もある

けれど、()()()()()()()()()()()()

 

「救える可能性があるなら、

 少なくとも信じるべきだ・・・違うか?」

 

初めから、バッドエンド前提で進めるなんて

悲しいじゃないか

 

「それでもし・・・そうなったら?」

「その時は・・・」

 

「皆で考えよう、止める方法じゃなくて

 大吾さんの意識を元に戻す方法をさ」

「・・・皆で?」

 

そうだ

彼女の周りには多くの人がいる

こんなベルトを作るような天才が2人,

頼りになる警官,変人だが良い人な脚本家

音痴な天才演奏家

それに、自分だってそうだ

 

「これだけ人がいるんだ

 きっと簡単に見つかるさ」

「少なくとも、暴走する

 仮面ライダーを止めるなんて無茶より簡単にね」

 

「何それ・・・」

 

杏奈さんの顔が呆れたように緩む

ようやく表情が良くなった

 

「それに・・・

 俺、大吾さんに会わなきゃいけないんだ」

「昔、仮面ライダーに助けられてたからさ」

「・・え?」

 

そうだ、自分は8年前に

仮面ライダーに助けられたのだ

 

「唯の夢だと思ってた、でも夢じゃなかった」

「だから、会いたいんだ」

「俺、・・・まだお礼が言えてないから」

 

杏奈さんが呆然とした顔でこちらを見る

 

「杏奈さんはどうだ?」

「私は・・・」

 

顔を上げて答える

 

「私も、会いたい・・・

 お父さんに・・・もう一度!」

「・・・なら助けなきゃ」

「・・・ええ!」

 

体を起こす、痛みが少しだけ和らいできた

 

「雄飛」

 

杏奈さんが、何かを手渡す

それは──

 

「・・・原稿?」

「すぐ読んで」

 

薄い原稿を読んでいく

そこには──

 

「これって・・・」

「叔父さんと大木さんの合作よ」

 

そこに書いてあったのは

短い脚本だった

 

バイクを駆り、風を率いて

悪から人間の自由を守るために戦った戦士

 

そんな戦士の力と信念を

お調子者だが、心優しい青年が

受け継いで人を助けていく

そんな──()()()()()

 

そんな主人公を演じる道筋を

しっかりと記載していた脚本であった

 

再度、杏奈さんが何かを差し出す

それは、新しいチケットだ

書かれたその題名は──

 

「あなたが、主役よ

 全力で演じ切りなさい!」

「・・・大役だな。

 ・・・あぁ!こんな役をもらったんだ

 手なんか抜けるもんか!」

 

俺はそれを受け取って

戦いの場へ駆けだした

 

 

「だらぁ!!!」

 

サウンドがペローに向けて槍を振るう

ペローはそれを細身の剣でしっかりと防ぎ

滑らせるように受け流した

 

「っ!ちょこまかと!!」

「おっと」

 

サウンドが槍を横薙ぎに振り回すも、

その場から飛びのき回避される

 

距離が離れた、──なら!

 

『POP!!』

BEST HIT(ベスト ヒット)!!!』

 

必殺技を構えるサウンド

そして放とうとした瞬間

 

「──!」

「な!?」

 

横からの突然の衝撃

ペローとサウンドの場にやってきたプロトアクトが

サウンドに飛び蹴りを放ち、邪魔をしたのだ

 

突然のことに踏ん張りがきかず

倒れこむサウンド

 

『おお、プロトアクト

 ・・・どうやらそっちは片付いたみたいだね』

「な、雄飛!?」

 

まさか、雄飛は──!?

 

『それじゃあ、君もすぐに送ってあげよう

 アクトと同じ場所にね』

 

ペローとプロトアクトが並んで迫りくる

万事休すを思われたその時

 

「待て!!」

「──?」

 

プロトアクトが声に反応する

その先には

ボロボロになった彩羽雄飛が立っていた

 

『なんだ、生きてたのか

 ・・・それで、そんなボロボロになった体で

 何しに来たの?』

 

負けた後というのが見て取れる風貌の雄飛に

ペローがバカにするように問いかける

 

「もちろん、お前達を止めにさ」

 

それを雄飛は、恥じることなくそう答えた

 

『勝算もなしによく言うよ』

 

ペローはヤレヤレといった風に

わざとらしく肩を竦める

 

それを気にせず雄飛はプロトアクトと対峙した

 

「風間大吾さん、

 あなたが守ろうとした人も町も全部──

 ここで受け継いで、あなたを止める!!」

 

そして、雄飛は

手に持ったいつもより少し分厚いチケットを起動した

 

『MASKED RIDER The NEXT(ザ・ネクスト)

 

『・・・何?』

 

意識を整える

そこまで、大きく変える必要はない

これは、大木さんと浩司さんが

俺が変身するのに合わせて作ったチケットだ

 

「ここからは()()主役だ!!」

 

ベルトにチケットを差し込み

大きく構え、叫んだ

 

「変身!!」

 

『Start』『 a Continue!』

 

風を受け継いだ新ヒーローは(The New Hero who inherited a Wind)

嵐のようにやって来る(Came Like a Storm )!』

『MASKED RIDER The NEXT(ザ・ネクスト)!!!』

 

その瞬間、雄飛の姿が変わる

普段のライダーフォームとは違う

 

その装甲は、荒れた嵐のように

より鋭く勇ましく形成されていく

風のように鮮やかな緑の

風貌をした戦士がそこには立っていた

 

そして、嵐のように吹き荒れる風が

その首のマフラーをたなびかせる

 

「・・・さぁ!いくぞ!」

 

拳を握りこみアクトがプロトアクトへと突っ込む

プロトアクトはそれを迎え撃たんと構えた

 

アクトが、その足に力を込める

 

「よっと!」

 

次の瞬間、

プロトアクトの視線上から()()()()()()()()

 

「──!?」

 

そして一瞬置いた後に目の前にアクトが現れる

軽い跳躍により、一気に距離を詰めたのだ

 

「ハッ!」

 

そしてそのまま飛び蹴り

プロトアクトは反応できずまともに食らう

プロトアクトが初めて大きくたじろいだ

 

「体が軽い・・・」

 

軽くステップを踏み

軽やかに体を動かすアクト

重厚さのあった、ライダーフォームとは違い

軽いが、それを補って余りある風が

その体を後押ししている

 

「よし・・・ドンドン行くぞ!」

 

『なんだ・・・あの力は!?』

 

ペローは驚愕に飲まれる

あんな力は知らない、一体何が──

 

「お前の相手は俺だろぉが!!」

『グッ!?』

 

そんな足を止めたペローに

サウンドの攻撃が突き刺さる

 

「雄飛に負けてらんないぜ!」

『あー!邪魔だ!!』

 

ペローとサウンドもまた、

戦闘を再開した

 

 

「ハッ!ハッ!!らぁ!!」

 

怯んだプロトアクトにさらに追撃を重ねていく

殴打と蹴撃を織り交ぜ流れるように

ぶつけていく

 

「──!」

 

腕を十字に組み、迫りくる拳を受け止める

防御に拳がぶつかった瞬間

信じられない程の衝撃が走る

 

プロトアクトは、その凄まじい衝撃に防ぎきれず

半ば吹き飛ばされるように

押し込まれていく

 

ただ受け続けている訳ではない

プロトアクトも反撃に出ている

しかし

 

「フッ!」

 

素早く躱され、その隙に攻撃がぶち当たる

先程とは打って変わってアクトのペースで

戦いが進められていった

 

アクトが拳を握りこみ右腕を大きく振りかぶる

プロトアクトもまた同じように左腕を振りかぶる

 

突き出した両者の拳がぶつかり合う

 

先程と同じ状況──

しかし結果は違っていた

 

「はぁああああ!!」

「!?」

 

アクトの右腕から、まるでスラスターのように

風が吹き出していく、

そしてその勢いのまま、

今度はアクトがその拳を振り切った

 

プロトアクトが転がっていく

そして──

 

「決着をつける・・!」

 

アクトがベルトを押し込む

 

『 NEXT 』

BEST ACTION(ベスト アクション)!!』

 

跳躍の構えを取る

足だけでなく、全身に風が吹きこんでいく

 

プロトアクトもまた、跳躍の体制を取った

 

同時に跳躍──

そして互いにその右足を相手に差し向け

必殺キックを放つ

 

「だぁああああ!!!」

「──!!」

 

ぶつかり合うキック

両者一歩も譲らぬぶつかり合いの末

互いのキックが打ち消し合った

 

勢いを失い、落ちていく中で

プロトアクトは、次の行動を固める

先に着地し、空中で身動きのとれない敵を叩く

 

そうして、相手の所在を確認するため目を向ける

そこでプロトアクトは、信じられないものを見た

 

「ハッ!」

 

それは、吹き荒れる風を蹴って

()()()()()()()()()()()()姿()

自分の一撃は、奴の攻撃を相殺したわけではない

奴の攻撃は、まだ終わっていない──

しかし、空中のプロトアクトに回避の術はない

この後の光景は予想できるのに

仮面ライダーは、ただ、その迫りくる光景を

待つことしかできなかった

 

アクトは再度跳躍し、翻る

そして、真下にいるプロトアクトに狙いを定める

 

再度キックの体制を取る

吹き荒れる風が、自分を押し

凄まじい速さで、突き進む

 

狙いは一点、そのベルトだ──!

 

「反転!!」

「ストームライダー!キィィック!!!」

 

嵐が如き風と強力な蹴りが

プロトアクトのそのベルトを貫く

 

そしてプロトアクトを突き抜ける

 

その背後で爆発が起こり

パラパラと機械片が降り落ちてくる

 

アクトは着地する

そしてアクトの肩には

一人の男性が抱えられていた

男性の顔立ちは、どこか知り合いの女の子に似ていて

確かな血の繋がりを感じられる

それは、間違いなく風間大吾であった

 

「・・・よっしゃ」

 

力が抜けたようにこぼす

雄飛は、確かに助け出したのだ

この勝負は、文句のつけようもなく

雄飛の完全勝利で幕を閉じたのだ

 

 

続く




次回 仮面ライダーアクト

新章突入──

「さぁ・・・行きましょう、
 私のかわいい兵士達?」

「町がいきなり、森に・・・?」

「物語の舞台が、現実を侵食している・・・?」

第13章[女王の出陣]


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第13章~女王の出陣~

前回までのあらすじ
仮面ライダーアクト:彩羽雄飛は
プロトアクト:風間大吾を救うべく
戦いを挑む

一度は敗北を喫するも
仲間たちの手によって作られた
新しい力、ネクストフォームの力によって
無事、プロトアクトを撃破
風間大吾の救出に成功する



──爆炎が立ち上った

何者かが炎を突っ切り、

地面に突き刺さるように降り立つ

そこに立っていたのは

 

「・・・よっしゃ」

 

仮面ライダーアクト:彩羽雄飛であった

そしてその肩には、自分達が使役していた

風間大吾のその姿がある

つまり──

自分達の企みは、仮面ライダーの手によって

見事に防がれてしまったということだ

 

『嘘だろ・・・!?』

 

ペローは驚愕する

かつて、多くのテラー達を屠った

風間大吾の仮面ライダー

それを、あのぽっと出の男は破ったのだ

その状況が、どうしても信じられなかったのだ

 

「うぉおお!!」

『!?しまっ

 

『POP!ROCK!RAP!』

BEST HIT MEDLEY(ベスト ヒット メドレー)!!!』

 

エネルギーが槍に集まり、巨大な穂先を形成する

そして、サウンドはペロー目掛け全力で

振り払った

 

『・・ぐっ!・・ぐぁああ!』

 

ペローはそれを手にした刺突剣で受け止めるも

細い刀身でその一撃を受けきれるはずもなく

吹き飛ばされる

 

「・・・くそっ!」

 

地面を叩き、悪態を吐き出す

何もかも思い通りにいかないことに

怒りが吹き出す

そして──

 

『・・風間大吾位で調子に乗るなよ!』

「!?」

 

突然、声を荒げ喚き散らかす

負け惜しみにしか聞こえない

言葉を怒りに任せ、放ち始めた

 

『そいつ程度が消えたところでなんも意味もない

 もう計画が止まることはない!

 ──そうだ、お前らがなにをしようが

 神の降臨は、()()()()()()は──』

『ペロー』

 

次の瞬間、ペローの目の前に

ブルーと呼ばれた、あの男が現れる

 

『喋りすぎだ、帰るぞ』

『・・・くそっ!覚えていろ!!』

「・・・待て!!」

 

サウンドが2人の立っていた場所に

槍を振るうも

2人はどこかに転移してしまい

槍は、唯地面にぶつかるだけであった

 

「・・・神?」

 

突然のペローの絶叫

その中に出てきた神という単語

その意味に頭を悩ませるも

結論は何も出ない

 

「・・・重っ」

「何やってんの!そら、そっちの肩を貸して!」

 

すると遠くに、雄飛と杏奈の声が聞こえる

見やると、ボロボロになりながら

人一人を抱えようとしてふらつく雄飛と

それに手を貸そうとする杏奈が見えた

──とりあえず考えてても仕方がない

翔もまた、手を貸すため

2人に駆け寄っていったのだった

 

 

暗い廃屋に転移したペローとブルー

そしてペローは怪人態から人の姿に戻り

その場に崩れ落ちた

痛む体を押さえながら立ち上がる

 

『見事な様だな、ペロー』

『えぇ、全くね』

 

そんな彼を皮肉るような言葉が投げかけられる

暗がりの奥から、2つの人影が現れた

クイーンと呼ばれていた女と

サンと呼ばれていた男である

2人はさぞ見下したかのような目で

それでいて愉快そうに彼を見ていた

 

『クイーン・・サン・・・なんだよ・・・!!』

 

苦虫を嚙み潰したような顔をして

ペローは2人をにらみつける

彼らがなぜそんな顔をしているのかの

その見当がついているのだ

 

『いや、よくもまぁ帰ってこれたなと思ってな』

『負けてボロボロ、

 しかも風間大吾まで奪われてしまうなんて・・・ねぇ?

 彼が器の候補だってことちゃんとわかってたのかしら』

 

『──僕があんな奴らに負けるわけないだろう!』

 

怒りを滲ませて吠えるペロー

しかしその体は深く傷がつき

お世辞にも説得力がある言葉とは思えない

 

『風間大吾がなんだ!

 器の候補なら僕がいくらでも見つけて──』

『いや、その必要はない』

 

そういったのはブルーだった

彼は部屋の中央に移動する

部屋の中央にはあるものが設置されていた

 

『君は、もうテラーを作る必要はない』

『・・・何?』

 

それは、大きな台座であった

何かをはめ込む薄い窪みがいくつもついた台座

そして、その台座からいくつもの管が伸び

ある一点に繋がっている

その先にはまた、一枚のチケット

まだ未完成であろうそれの表面には

"■ウ■・■■ス・マ■■"

薄っすらと文字が浮かび上がりかけていた

 

()()()()()()()()()()()それを撫でながら

続けてブルーは話していく

 

『──風間大吾によって倒された68体のテラー』

 

ブルーが懐から何かを取り出す。

それは──チケットであった

 

『そして、ペローがこれまでに作った8体のテラー』

 

"狼と子山羊達" , "亀の競争" , "怒れる老騎士(ドン・キホーテ)"

"カエルの王子" , "笛吹き男(ハーメルン)" , "40人の盗賊"

"灰被り(サンドリヨン)" , "鶴の返礼"

 

そう書かれたチケットを一枚ずつ台座に収めていく

 

『──そして、我々4人を引いて

 これで残りは20枚』

 

1()0()0()()()()()()()()()()()()()()()()()

 第1段階の終了までは、もうすぐだ』

 

『残りは、クイーンとサンに任せる』

 

取り出したのは

17枚の真っ白なチケット

 

『ま、待てよ!僕はまだ!』

『十分やっただろう

 チャンスは、平等に・・・だ』

『・・・ぐっ』

 

ペローが悔しそうに押し黙る

 

『そう怖い顔をするな

 お前には、2人のサポートをしてもらう』

『・・・。』

 

納得はできない

しかし、結果は結果だ

文句は言えない

そう、ペローは口を噤んだ

 

『じゃあ、次は私が行くわね?

 ペロー、行きましょう』

 

そう言うと、クイーンは

17枚の内12枚を手に取り

ペローを引き連れて部屋から出ていくのであった

 

『おい、取りすぎだぞ!

 ・・・ッチ』

 

舌打ちをしながら

サンは残りの5枚を手に取り・・・

 

『・・・?おい、数が合わないぞ』

 

残り20枚で、置いてあるのは17枚

3枚足りていない

 

『ああ、そちらは私が使っている』

 

そう答えるのはブルーである

 

『8年前に、既に・・・な』

 

期待を膨らませるように

そう呟いた

 

 

──1週間後

 

喫茶「テアトロ」──

 

「おはようございまーす」

 

早朝にそういいながら店内に

入ってきたのは

仮面ライダー:彩羽雄飛である

彼は誰もいない店内を見回しながら

 

「あれ?・・・留守か?」

 

手荷物を置いて、椅子に腰かける

誰もいないとはさすがに珍しい

等と考えていると

 

「おー、雄飛。おはよう!」

 

店の奥から翔と大木さんが

エプロンとコーヒーミルを装備して

ゴリゴリと豆を挽きながら出てきた

 

「・・・何やってんの?」

「見てわからないかい?店番だよ」

 

挽き終わった豆でコーヒーを注ぐ大木さん

・・・いやいや

 

「勝手に店の備品使わないでくださいよ!!」

「失礼な!・・・ちゃんと

 コーヒー一杯分の金銭を

 払った上でやっているとも!」

 

そういって注ぎ終わったコーヒーを口に運ぶ

・・・あっ、顔が歪んだ

 

「・・・で、浩司さんも杏奈さんもどこに?」

「病院に見合い、博士も付き添ってる」

 

・・・そうか、風間さんのお見舞いか

 

──あの戦いの後、

救出された風間大吾さんの

搬送先を見つけるのに苦労した

何せ、公的には8年間行方不明になっていた人間が

昏睡状態で見つかったのだ

下手な病院には運び込めない

 

そこで手を貸してくれたのが、刑事の太田さんだ

 

彼の伝手で、隣町の大型病院の院長に

協力を漕ぎつけてくれたらしい

・・・もちろん、仮面ライダーの諸々は伏せてだ

 

そして、病院に運ばれてから早一週間

 

──風間さんは一向に目を覚まさない

やはり、一度精神が壊れているという状態では

いつ目が覚めるのかもわからないだろう

 

そういった理由から、杏奈さんや浩司さんは

たびたびお見舞いに向かっているのだ

 

それならどちらも店にいないのは納得だ

──ただし

 

「・・・行く前に、浩司さんはなんて?」

「・・・店は閉めとけって。」

 

──そうか、無断か

 

ならば止めねばなるまいと、

声を上げようとしたその時

 

Prrrrr

 

店の固定電話が鳴る

客からか・・・?

電話に出る

 

「もしもし?」

"・・彩羽君か!?"

 

「・・・太田さん?どうしたんです?」

"××地区だ!急いでくれ、不味いことになってる!"

「!?」

 

突然のSOS

しかし、声の感じからして相当切羽詰まっている

 

「翔!!」

「聞こえてる!!」

 

「大木さん!ちょっと出ます!

 ・・・使ったものはちゃんと

 洗って、掃除しといてくださいよ!!」

「・・・ああ、頑張って」

 

渋い顔をしてコーヒーを啜る大木さんに見送られ

2人して店を飛び出してバイクに跨る

2台のバイクは一気にアクセルを吹かして

聞いた座標に向けて走り出した

 

 

そして、2人は現場にたどり着く

××地区は、多くの高層ビルの立ち上る

都市部・・・のはずだった

 

「これは──」

 

目の前には見渡す限りの緑、緑、緑

 

人工物だらけのビル街の中央に

人の手が何も入っていない

巨大な大森林が形成されていた

 

「町がいきなり、森に・・・?」

「どうなってんだ・・・?」

 

「彩羽君!!」

 

呆気に取られてると

遠くから誰かが近づいてくる

──太田さんだ

 

「見ての通りだ、突然町がいきなり消えて・・・

 この森が出現した」

「元々この場所にいた人たちは?」

「何名かは、すぐに森から出てきたなどの報告もあるが

 ほとんどが不明だ・・・

 しかもすでに警官が何人か突入している」

 

「──何だって!?」

 

 

うっそうとした森の中に

2人の警官がゆっくりと辺りを見回しながら

進んでいく

 

「・・・しっかし、こんなことがあり得るのか?」

「ほんと、信じられませんよねぇ・・・」

 

近頃はどうも、治安も悪く

この前には、他の地区の担当達が口をそろえて

化け物を見たなどと話すところを聞いた

 

聞いた当初は、下手な冗談だと思ったが

ここまで、現実離れした光景を見てしまっては

木も引き締まってしまうというものだ

 

"うわぁああ!!"

 

その時、近くから悲鳴が聞こえてきた

2人の警官は顔を見合わせ、声の方に走った

 

声のした場所には

2人の男性、元は作業服を聞いていることから

道路工事員などが逃げ遅れたのだろうか

 

「どうしました!?」

 

酷く怯え、その体には複数の切り傷が見える

しかも一方は、足に何かが刺さり

酷く、出血を起こしていた

これは・・・

 

「一体何が・・・」

「あ、あんた!!伏せろ!!()()()()()()!!」

 

怯えながら、工事員が叫ぶ

撃つ・・・?

 

そんな疑問が頭に浮かんだ瞬間

ドッと衝撃が足を捉え、倒れこんでしまう

見ると、足に何かが刺さっている

これは・・・矢?

そして、認識した瞬間じんわりと鈍く

痛みが襲ってきた

 

「がぁあああ!!?」

「せ、せんぱ・・!?」

 

自分の隣にいた警官もまた

崩れ落ちた、顔を歪め、手で押さえた肩からは

血がタラリと垂れている

 

そこまで言ってようやく状況がわかる

──狙撃されている

 

そして、それを認識して顔を上げた瞬間

自分の目の前でキラリと何かが見えた気がした

 

警官の眉間目掛けて矢が飛んでいく

それが到達し、警官をあわや絶命させかけたその瞬間

 

『MASKED RIDER!!』

「──オォ!!」

 

矢が警官の目の前で静止した

警官は瞬きを一つして目前の光景を見る

 

緑色をした、謎の人物が

自分へと撃たれた矢を掴み取っていた

 

「立てるか!!」

「えっ、あ、ああ・・・」

「4人とも速くこの森から出るんだ!速く!!」

 

男がおそらく、外に繋がっているであろう

方角を指差し叫ぶ

警官は、自分に起こっていることが

現実なのかどうかも信じられないまま

他の人達に肩を貸しながら

言われるがまま駆けだした

 

 

警官達が離れていくのを確認したアクトは

目の前を見据える

危なかった、あと少し遅れていたら

この矢が警官の命を奪っていただろう

 

キラリと矢尻が光に反射したのが見えた

──来る

その場から飛びのく

次の瞬間、自分の頭があった場所に

寸分狂わず矢が飛来した

 

続けて、2発3発と矢が飛んでくるのを回避する

──不味いな

 

地の利という奴だろうか

薄暗い森の中、相手の姿が全く確認できない

 

一方的に射撃を放たれていては

たまったものではない

とにかく、こちらも応戦しなければ

 

「──ならば!」

『WILD WESTERN』

『Start』

Stand in the Wilderness With Frontier Spirits.(自由を胸に、男は荒野に立つ)

WILD WESTERN(ワイルド ウエスタン)!!!』

 

ウエスタンフォームに変身した次の瞬間

矢が飛来する

 

「そこかぁ!!」

 

矢を転がりながら回避し、

そのまま矢が飛んできた方角に

弾丸を放つ

 

弾丸はガサガサと木の葉を揺らし突き進むが

どうも手ごたえがない

当たらなかったようだ

 

──だったら

 

アクトが走り出す

先程からいた地点から

どんどん離れていく

 

──耳を澄ます

ガサリガサリと木の揺れる音が聞こえた

 

「──!」

 

音の下場所に弾丸を撃ち込む

──外した

また走り出す

 

とにかく、相手を見つけなければ話にならない

音を頼りに見つけ出す!

 

背後から飛んでくる矢を避けながら走り回る

そして、今度は目の前の木が揺れるのを見た

 

「──そこ・・・!?」

 

銃を構え放とうとした瞬間

何かが足に引っかかった

 

足を取られ大きく体制を崩してしまう

足元を見ると

 

「──罠!?」

 

木と木の間に固く繋がれた縄

 

目の前からがさりと音が立つ

「!?」

 

目の前に飛来する矢を顔面ギリギリで避ける

──危なかった・・・!

 

矢が飛来する

避けようと足を踏み込んだ次の瞬間

足が動かない・・・?

見れば、足が何かに挟み込まれていた

──トラバサミ!?

 

──そして、アクトは気づく

 

自分の周りが、先ほどの縄を始めとした

()()()()()()()()()()()()()

 

「──!?」

 

そして罠に気を取られたその体に矢が叩き込まれ

アクトは吹き飛ばされた

 

 

森に入った後、アクトと二手に分かれた

仮面ライダーサウンドは森の中を突き進んでいた

 

そして、進んでいった場所である人物を発見する

 

「──ペロー!!」

『・・・あぁサウンドか』

『あら、彼が仮面ライダー?』

 

そこに立っていたのは、

ストーリーテラー、ペローと

見たことのない女性であった

 

「やっぱり、この森はテラーの仕業か」

『森・・・?あぁ、これね

 緑の狩人(ロビン・フッド)だ、森に入ってこそだろう?

 だからわざわざ、現実に侵食させてまで

 物語に沿った舞台を用意してるって訳』

 

そう言うと、ペローは自身の傍に設置された

森の中心に打ち据えられた何かを撫でた

あれは・・・楔?

 

「・・・物語の舞台が、現実を侵食している・・・?」

 

──どんな原理かは、分からないが

どうやら、あの楔を起点に

ビル街を森に変えているらしい

なら・・・

 

「どうやらそれぶちこわしゃあ、元通りみてぇだな」

『──あら、駄目よ?』

 

そういったのは、ペローの横に立っていた女性だった

──彼女は一体?

 

「──誰だ?」

『あら、失礼ね!私はクイーン。

 駄目よ、今いいところなんだから』

 

そう言うと、女性は懐から何かを取り出す

それは──チケットだった

 

「まさか!」

不思議の国の女王(クイーン・イン・ワンダーランド)

『──怪演』

 

クイーンの中にチケットが取り込まれる

その姿が変わる

人間の姿をした女性は

次の瞬間には、ハートの意匠を付けた

女王のような怪人に姿を変えていた

 

『──さぁ』

 

クイーンが手を上げる

木の裏から、多数の戦闘員(エキストラ)が顔を出した

どうやら、森に巻き込まれた

辺りの歩行者達のほとんどが

彼女によって変えられていたようだ

 

『行きましょう?私のかわいい兵隊達?』

 

サウンドは武器を構え、それに立ち向かった

 

 

飛来した矢がアクトの体に突き刺さり

吹き飛ばされる

 

「──痛ぅ・・・」

 

矢が飛んできた方を撃つ

しかし、当たった感覚はない

 

「──くそぉ」

 

まずい、このままでは罠と矢で

押し込まれてしまう

 

場所を変えようにも、

テラーはここから逃がす気はないらしい

動くのを抑制するように

息つく暇もなく矢が撃ち込まれてくる

 

猛攻を避けようと木の陰に隠れても、

すぐに射線が通る位置に移動し

こちらを狙ってくる

 

そして、こちらはその姿をまだ確認できない

よほど、この森に合った保護色をしているのだろう

 

多数の木に埋め尽くされたこの森は

生い茂った葉で、太陽の光すらも

僅かにしか通していない

それほどまでに生い茂っていた

 

──せめて、この葉っぱさえなければ

 

「・・・!!」

 

そうして、あることを思い出す

この森は、元はビル街であるということだ

それなら──

 

チケットを取り出す

 

『MASKED RIDER The NEXT(ザ・ネクスト)

 

チケットをアクトブレイガンに装填し

すぐそばの木に足を掛ける

 

「──ハッ」

 

そして次の瞬間

足に力を込め、木を駆け上り跳躍した

 

『──何!?』

 

ここで初めてテラーが声を漏らす

意表を突かれ、矢が止む

 

すかさずに

アクトは森へ目掛けてその引き金を引いた

 

『NEXT』

BEST SHOT(ベスト ショット)!!!』

 

次の瞬間、ブレイガンから

巨大な竜巻のような旋風が放たれた

 

竜巻のような一撃は、そのまま森に突撃する

 

『──どこ狙っている!』

 

空中のアクトに矢が飛んでくる

どうやら、テラーには当たらなかったようだ

ブレイガンを盾のように使い

矢を弾きながら着地する

 

そして最後に矢が飛んできた方を見る

 

──見つけた

 

ブレイガンを構え、弾丸を放つ

 

『グワ!?』

 

弾丸が音を立てて当たり

木から何かが転げ落ちた

 

『な、なぜ!?』

 

それは、緑の色をして

弓を携えた、狩人の様な

いで立ちをしたテラー:アローテラーであった

 

「はっ、上を見るんだな!」

『!?・・・森が!?』

 

周りを見れば、アクト達が立っている

周囲の森の様相が一変していた

 

多くの葉がうっそうと生い茂ったその森で

その場所だけが、

まるで、冬のように全ての木から葉が抜け落ちていた

 

『──まさか!さっきの風で!?』

「そのまさかだ!!」

 

そう、先ほどの森への一撃は

テラーを撃つためで放ったのではない

突風で木から葉を吹き飛ばすためのものだ

 

『──くっ!』

 

アローテラーが矢をつがえ放つ

しかし、弾道さえはっきり見えていれば──

 

「甘ぇ!!」

『ぐわぁあぁ!?』

 

アクトが腰だめに弾丸を連射する

一発は、矢を叩き落とし

残りの全てが

アローテラーに叩き込まれた

 

『WESTERN!』

 

アクトブレイガンにチケットを装填する

 

「次は外さねぇからな!!」

『──不味い!』

 

アローテラーが、森の中に逃げ込もうとする

 

「逃がすかぁ!!」

 

『WESTERN!』

BEST SHOT(ベスト ショット)!!!』

 

『ウワァアアア!?』

 

アクトブレイガンからの強力な一発が

アローテラーを正確に捉え

着弾する

 

アローテラーは痛みを叫びながら

森の奥に吹き飛んでいくのだった

 

 

「ハッ!ソラァ!!」

 

サウンドが槍を振るい

戦闘員を次々になぎ倒していく

 

『あら、やるわね!』

 

それをクイーンは楽しそうに見る

 

そんなクイーンにサウンドは切り掛かった

 

「そぉら!!」

『あら、怖い怖い』

 

クイーンは手に持つ杖を掲げ

その攻撃を受け止める

 

「・・・どけ!」

『あら?』

 

押しのけるように杖を弾く

そして、がら空きの体に槍を突き出す

しかし、その攻撃は、

ひらりと避けられてしまう

 

『フフッ』

「・・・クッ」

 

どうにも、攻めずらさを感じる

相手は、まともに戦う気さえなさそうだ

 

その時──

 

『ウワァアアア!?』

 

突然、サウンドが戦っていた場所に

何者かが飛んできた

──それは、アローテラーであった

 

「逃がすか!」

 

そして、その後に続きアクトが現れた

──どうやら優勢のようだ

 

「雄飛!」

「翔!──ストーリーテラー!?」

 

2人の仮面ライダーは合流し

怪人達に対峙する

 

対してテラー側は

 

『あら、負けちゃったのね?』

『ぐ、ぐぅ・・・』

 

痛みに悶えるアローテラーを

クイーンは見下ろしていた

そして──

 

『でも、もう少し頑張れるわよね?』

 

クイーンが手を開く

次の瞬間、何かがその手に現れた

 

それは、四角いカードに

赤いハートのマークが3つ刻まれている

つまるところ、

ハートの3のトランプだった

 

トランプがひらりと落とされる

それが倒れているアローテラーの体に落ちた

その時、変化が起こった

 

『う、ぉぉお!?』

 

アローテラーが立ち上がる

そして、その体に変化が起こり始めた

 

緑色の唯の狩人のような意匠のその姿に

金属のような光沢をもつ銀色が加わっていく

木製のような質素な弓も

金属でできた重厚なものに

 

やがて変化が終わったその姿は

まるで、狩人と西洋の兵隊が入り混じったような

姿に変わっていた

 

「な、なんだ!?」

「──変わった!?」

 

『それじゃあ、よろしくね?

 私の兵隊さん?』

 

『──。』

 

姿だけではない

先程までにはなかった、確かな威圧感すら感じる

 

そのテラーは、既に先ほどまでのそれではなく

クイーンの手によって

強力な、別の何かに生まれ変わっていた

 

 

続く

 




次回 仮面ライダーアクト

強化された、テラーとの対決
「っ!さっきまでのテラーと違う!」

『私の兵はすごいでしょう?
 私が直々に力を与えてるんだもの』

ライダー達は町を取り戻せるか?
「どうにかして、あの楔を壊さないと
 ──町がどんどん森になってくぞ!」


第14章[不思議な森]


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第14章~不思議な森~

前回までのあらすじ
突然、町が森に変わるという事件が発生
調査に入った雄飛は森の中で
弓を操る怪人アローテラーと対峙する

これを撃破したその先には
2人目のストーリーテラー:クイーンが待っていた
クイーンの手によって、復活・強化をされた
アローテラーは今一度雄飛に襲い掛かる


『それじゃあよろしくね?

 私の兵隊さん?』

 

『ハッ!ウォオオオ!!』

 

クイーンの呼びかけに応じるが様に

雄たけびを上げ、変化したアローテラーが

ライダー達に突撃する

 

金属製の刃が備え付けられた弓を振りかぶり

アクトに切り掛かる

 

アクトは、その攻撃を

咄嗟にガンモードのブレイガンで受け止める

 

「(──重い!?)」

 

想像以上の筋力で弓が押し込まれる

先程までのテラーでは、どう見ても

ここまでの近接能力があるとは思えない

明確に、その力が上昇していた

 

「──ぐっ!」

 

何とか受け止めていたブレイガンを

斜めにずらしその弓を受け流す

アローテラーは勢いあまって

そのまま前のめりに体制を崩した

 

その背中に、弾丸を数発撃ち込む

先程までのテラーなら、

この攻撃もすんなりと通っていただろう

しかし──

 

『オォ!!』

 

テラーは弾丸が放たれたと見るや

すぐさま振り向き、そして弓で

弾丸を全て切って叩き落した

 

「何!?」

 

「おりゃぁ!!」

 

サウンドがその背後からテラー目掛け

槍を振り下ろす

──しかし、それもまた

アローテラーは容易く受け止めた

 

「──な!?」

『甘い!!』

 

受け止めた槍ごとサウンドを

アクトの立つ場所に弾き飛ばす

そうして距離が離れた2人のライダーに対し

アローテラーは矢を弾き絞った

 

ギリギリと弦が悲鳴を上げるほどに

力強く引き絞られた矢は

二人並んだライダーに対し放たれた

 

アクトが弾丸を放つ

狙いはもちろん、放たれた矢

先程と同様に撃ち落とそうと試みた

 

しかし、放たれた矢と弾丸が激突した瞬間

弾丸は──弾け飛んだ

 

「何だと!?」

 

矢は勢いが衰えることなく飛び行く

そして、アクトとサウンドが立つ地点に着弾し──

 

「「ぐわぁあああああっ!」」

 

強力な衝撃を持って炸裂した

 

抉り取られた地面

立ち込める砂煙を前に

アローテラーは勝ち誇る

 

そして、その場から背を向けようとした次の瞬間

砂煙が急激に巻き上げられる

 

『!?』

 

『MASKED RIDER The NEXT(ザ・ネクスト)!!!』

「ハァ!!」

 

突風を巻き上げ

ネクストフォームに変身したアクトが

砂煙を晴らしながら現れた

 

着弾の瞬間、咄嗟に変身したアクトは

強烈な風を巻き起こし

2人から衝撃を逸らしていたのだ

 

「あっぶねー・・・」

「・・・っ!さっきまでのテラーと違う!」

 

拳を構えなおし、目の前の怪人に備える

先程までの怪人と同じ存在とは思えないほどに

その力は上昇していた

 

力を隠していた・・・?

いや違う、そんな必要はどこにもないはずだ

となると考えられるのは──

 

『私の兵はすごいでしょう?』

「!?」

 

『だって、私が直々に力を与えてるんだもの』

 

話しかけてきたのは、件の女怪人

彼女は仮面ライダー達の慌てようを

さぞ愉快というように声を弾ませていた

 

「お前は・・・!」

『はぁい、仮面ライダー

 私は、クイーン

 お察しの通り、ストーリーテラーの一員よ?』

 

「──!このテラーはお前の仕業か」

『ええ、すごいでしょう?

 私の力を得て、この子は

 より強い、私の自慢の兵隊になるの!』

 

どうやら、予想通り

先程の女怪人の行動

あれが、このパワーアップの原因のようだ

 

──とにかく、このテラーを倒して

この事件を解決しなければ

・・・そう覚悟し直したが

 

"うわぁ!ば、化け物・・・!?"

"な、なんなんだよ!?森!?"

 

「!?」

『あら』

 

周りから騒ぎ声がする

目をやると、戦闘員(エキストラ)化から元に戻り

倒れていた人々が目を覚まし始めていた

 

そこに

 

『ハァ!!』

 

アローテラーが民間人に向けて矢を放った

 

「しまった!」

 

矢が猛スピードで飛んでいく

それを避けれるはずもなく

民間人は身動き一つとれない

最悪の光景が脳裏をよぎる

 

「おおらぁああああ!!」

 

しかし、その間にサウンドが割って入る

手にした槍を強引に振り切り

矢を何とか別の方向に弾き飛ばした

矢は着弾と同時に爆発に似た炸裂を起こす

 

"うわぁあああ!!?"

 

それを見て、民間人達は

さらに驚き慄く

 

「・・・関係ない人狙ってんじゃあねえよ!」

 

サウンドが怒りを滲ませながら

取っかかろうとする

 

・・・不味い、このままでは巻き込んでしまう

それだけでなく、パニックになって

森奥に進まれたりしたらさらに厄介だ

ここは──

 

「──翔!」

「・・・!・・・分かった!」

 

目配せをし、考えを伝える

サウンドが頷くのを確認したところで

アクトがその腕を大きく振るった

 

次の瞬間──

大きな旋風がアクトとサウンド

そして周りの民間人達を包み込む

 

そして、風が過ぎ去った後には

 

『!?』

 

誰の姿も残ってはいない

仮面ライダーは民間人を守るためにも

一時撤退を選択したのであった

 

 

「・・・。」

 

森と化す街並みの外から

太田は、現場を見守っていた

 

そこへ──

 

「太田さん!!」

「!?・・・あぁ、風間君、三浦もか」

 

杏奈と浩司が現場に現れた

 

病院からこの現象を

聞きつけて駆け付けたのであろう

 

「これ、どういうこと!?」

「分からん、

 彩羽君達が入って調べてくれてるんだが」

 

そんな会話を交わした次の瞬間

自身たちの立つ足元に変化が訪れ始める

アスファルトの舗装された道路が

草の生い茂る地面に変わっていく

 

「!?」

「いかん!走れ!!

 距離によっては迷って出られなくなるぞ!」

 

咄嗟にまだ無事な道路の方に駆ける

幸いなことに、変化はそう長くはならず

距離にして30~40メートル程度の範囲が

森と化した後に停止した

 

しかし──

 

「これで5回目──

 さっきから少しずつ広がっていってる」

「嘘でしょ・・・」

 

現実離れした光景に言葉を失う

さっきまでその場所にあったビル一棟が

巻き込まれ、その場所には10m程度の

木が生い茂っている

ビルの姿は見る影もない

 

そこへ──

強い突風が吹きつける

 

「うわっ」「きゃっ」

 

そして、風が吹き終わったその場所には

 

「太田さん・・・って杏奈さんと浩司さんも?」

「彩羽君、新田君!」

 

戦闘から一時離脱したアクト、サウンド

そして、逃げ遅れた多数の民間人達が佇んでいた

 

「おいおい、さっきより広がってないか・・・?」

「マジかよ・・・」

 

「──ああ、ある地点を中心に円形に

 どんどん侵食が広がってるらしい」

 

大木さんの補足にさらに辟易としながら

民間人達を引き渡す

 

「一体何が原因なんだ・・・」

「・・・それなら」

 

・・・。

 

──なるほど

奴らは怪しい装置を使っていたらしい

でペローは明らかにそれを庇っていたと・・・

 

「その楔っぽい装置みたいなのが原因ってこと?」

「いや、断言はできないんだけど

 どーも、守ってるように見えたし・・・」

「・・・証拠としては微妙だが・・・」

 

それをどうこうすれば戻るといった確証はない

とはいえ、他に思い当たるものも見つからない

 

そうこうしているうちに侵食が広がってしまう

迷っている暇はない

 

「とにかく、その楔を調べるしかない・・・か」

 

浩司さんがそう結論付ける

とりあえずの目的は決まった

 

後は、あの3人を相手にどうやって

楔に近づくかだけだ

 

しかし──

テラーはなぜいきなりこんなことを始めたのだろか

森と化した街並みを眺めながら

雄飛はそんなことを考えていた

 

 

森の中心で、楔をにもたれながら

ペローはつまらなさそうにあくびをした

 

『退屈そうね?』

『あぁ・・・そうだね』

 

『しかし・・・なんでこんなことしてるんだ?』

 

町を森に変えて、迷い込んだ住人を襲って

そんなことをしなくても、テラーを町に放てば

逃げる間もなく、人を殺せるだろう

二度手間この上ない行為だ──と

ペローは吐き捨てる

しかし

 

『あら、知らないの?()()()()2()()()()()()()?』

『・・・なに?』

 

初耳だというペロー

それに対し、クイーンは

 

『信頼されてないんじゃあない?』

 

愉快そうにクスクスと笑いながら言い放った

 

『何だと・・・!』

 

怒気を放ちながら声を上げるが

既にクイーンはこちらを見ていない

起こるだけ無駄だとペローは諦めた

 

『仮面ライダーも帰っちゃったし

 このまますんじゃえばいいのだけれど』

『──そんな訳ないだろう』

 

ペローは即答する

今まで何度彼らが向かってきたと思っている

 

その時茂みが揺れる音が聞こえてくる

そら来た──

 

 

雄飛は、森を突き進み

その中心地へとたどり着いた

 

見れば、楔の傍にはストーリーテラー

ペローとクイーンが

 

そしてその前に番人のように

アローテラーが佇んでいた

最初のこそこそと隠れていたのが嘘のように

堂々と立っていた

もはや隠れる必要などないと言わんばかりだ

 

『あら、また来てくれたのね』

 

「あぁ、こっちも守らなきゃいけないんでね」

 

チケットを取り出し構える

 

「変身!!」

 

『Start』『 a Continue!』

風を受け継いだ新ヒーローは(The New Hero who inherited a Wind)

嵐のようにやって来る(Came Like a Storm )!』

『MASKED RIDER The NEXT(ザ・ネクスト)!!!』

 

風を巻き上げ、アクトが戦場に降り立った

 

「はぁ!!」

『ヌ!?』

 

先手必勝とばかりに飛び掛かり蹴りを放つ

その攻撃は防御されるが

風に押され威力を増した攻撃が

アローテラーの防御を超えて

体制を大きくのけ反らせていた

 

続けるように攻撃を加えていく

相手が弓兵であるというのなら

わざわざ離れてやる必要はない

アクトはインファイトで攻め立てた

 

アローテラーも反撃とばかりに

弓を振るうが、それも大振りである

アクトは素早く体を逸らし、回避

そしてがら空きになった腹部を殴りつけた

 

『グオッ!?』

 

大きく後ずさるアローテラー

──通じている

相手が強化されていようと

ネクストフォームの攻撃は有効だ!

アクトがそのまま攻勢に出ていった

 

『・・・あら、大変ね

 ペロー、手伝ってあげなさい』

『・・・分かったよ』

 

ここで、クイーンが助け船を出す

ペローは渋々前に出た

 

『怪演』

『ハァ!』

 

「!?」

 

アローテラーとアクトの間に

ペローが割って入っていく

これで2体1の状況になる

 

──なら

剣を突き出してきたペローの腕を掴み

そのままアクトは駆けだした

 

『──!逃がすか!』

 

アクトとペローがその場から離れていく

アローテラーも相手を逃がすまいと

その2人を追いかけていった

 

『・・・あら』

 

一人残されたクイーン

そこに──

 

「よう」

 

それまで、姿を隠していたのであろう

翔が姿を現した

 

『うまく分断されたって訳ね』

「そうゆうこと」

 

そう、これがライダー側の作戦である

アクトでアローテラーを倒す

もしくは、ペロー、クイーンのどちらかを連れて

この場から離脱することで

サウンドは1対1戦うという作戦である

 

見事にペローが釣れ

この場には、クイーンと翔だけが残されていた

 

「それだけ動かないってことは、

 やっぱり(それ)がこれの原因ってとこでいいんだよな」

POP UP SOUND(ポップ アップ サウンド)!!』

 

『・・・どうかしらねぇ?』

 

余裕を含ませたようにそう言い放つと

クイーンが前に出る

 

「変身」

POP UP SOUND(ポップ アップ サウンド)!!』

 

翔もまた、サウンドに変身し

武器を構え走り出す

 

サウンドの槍とクイーンの杖がぶつかり合う

もう一つの戦いが始まった

 

 

森の中に金属が打ち付け合う音が響き渡る

サウンドがギターランスを振り回す

そして、クイーンはそれを軽く受け止めていた

 

どう見ても細く、頑丈そうな杖

しかし、その見た目からは信じられないほどに

頑丈で重い攻撃が飛んでくる

 

さすがに強い

これまで戦ってきたテラーとは違う

ペローにも言えることだが

伊達にストーリーテラーなどという

幹部まがいの肩書を名乗っていないということか

 

「だったら!!」

『BURNING ROCK!!』

 

槍に炎が纏う

腕に力をいれより勢いを持たせて

槍をスイングさせる

 

『・・・!あら、熱いわ!』

 

そのかいもあり、ようやくクイーンに押し勝つ

しかし、それに堪えた様子もなく

クイーンは距離を取って

サウンドに目掛け手をかざした

 

瞬間その手から何かが放たれる

祖俺は大量のトランプ上の弾幕であった

 

「ぐおぉおお!?」

 

突然の弾幕、咄嗟に槍を構え防御するも

押さえきれず、サウンドは吹き飛ばされた

 

「・・・まだまだぁ!」

 

しかし、痛んだ体を押して立ち上がる

 

『ROCK』

『RAP』

 

HIT MEDLEY(ヒット メドレー) !!!』

 

ディスクを2枚装填し、槍を構え、突き出す

熱気と冷気が入り混じり

槍の先端から、大量の蒸気が放たれた

 

目の前が蒸気で阻まれ

サウンドが視認できなくなる

しかし、

 

『後ろね』

「くっ!」

 

蒸気での目を晦ましての不意打ちも

クイーンには防がれる

2者は蒸気の中で再度切り結ぶ

 

『はぁ!!』

「ぐぁああ!」

 

クイーンが槍ごとサウンドの腕をかち上げる

そしてがら空きになった腹を杖が突き飛ばした

 

「まだ・・まだぁ!!」

 

転がりながらもまだ立つサウンド

 

──おかしい、()()()()()

 

有効打もなしにひたすら立ち上がり

向かってきているサウンドにクイーンは

疑問を抱かずにはいられなかった

 

まるで、時間を稼がれているよう──!?

 

耳を澄ませる

 

"やはり、この装置は──"

"なら──引き抜──ば元通──な!"

 

──やられた!

 

辺りの蒸気を杖で振り払う

蒸気が晴れ見通しの良くなった視界で

楔を見る

 

楔の前には、戦闘前にはなかった3つの人影

 

「やばいバレた、太田さん急いで!」

「くそ、固いなこれ!!」

 

杏奈、浩司、太田の3人である

そう、これもまた作戦だった

1人になった敵をサウンドで引き離し

その間に、この装置について調べたのだ

 

その甲斐もあり、見事に装置は解析されたのだ

 

『おのれ・・・!』

 

クイーンは手をかざし、弾幕を放とうとするも

思いとどまる、・・・このまま打てば楔に当たる

 

「はぁ!!」

『──なっ!?』

 

そしてその迷った隙にサウンドが攻撃を放つ

槍の突きを真正面から受けたかクイーン

さすがに不意を突かれては

踏ん張りもできず吹き飛ばされた

 

「どいたどいた!!」

 

その隙にサウンドが楔の前に躍り出る

そして槍を楔に引っ掛け

 

「おりゃあ!」

 

思い切り引き抜いた

 

楔が抜け落ちる

──その瞬間、変化が訪れた

周囲にあった森が、地面が歪みを持つ

そして、揺らぎが収まった後には

アスファルトとビルだらけの

元の街並みに戻っていた

 

「やった!」「「よぉし!」」

 

サウンドが構えなおす

ようやく町が元に戻った

これで心置きなく戦える!

 

 

 

ペローとアローテラーを引き付けたアクトは

元の場所から離れた場所に移動して

戦闘を再開した

 

しかし──

『そらそらそらぁ!』

 

「っく!」

 

予想以上に苦戦を強いられていた

 

ペローの刺突が繰り出されるのを

捌き、反撃に出ようとすると

 

『ハッ!』

 

強力な矢が飛んでくる

そう、このテラー

前衛と組むことで真価を発揮していた

反撃に出ようとすれば

そこを狙い正確に狙撃してくる

おかげで、アクトは酷く攻めあぐねていた

 

「この森は何が目的だ!」

『さぁ知らないね!!』

 

目的を聞き出そうとするも

当然答えなど返ってこない

 

このままでは埒が明かない

この援護射撃をどうにかしなければ・・・

 

その時、周囲に変化が起こる

森だった風景が突如揺らぎ

次の瞬間には元の町に戻ったのだ

 

──やったのか!

事件を解決した仲間たちに心の中で賞賛を送る

 

『!?』

『何!?』

 

敵の2人も突然の変化に動揺する

射撃が止まった

 

「──今だ!」

『ぐぉ!?』

 

ペローの突き出された腕を払いのけ

一発殴りつけ、距離を離す

 

そして、アクトはアローテラー目掛け走り出した

 

『!?・・・させん!』

 

アローテラーが接近に気づき矢をつがえる

しかし──遅かった

 

最早それほど遠くない2者間で矢が放たれる

近距離で放たれた矢に対し、アクトは

その矢の下に滑り込むようにスライディングした

 

『!?』

 

滑りながらアローテラーの目前に迫る

そして

 

「はぁあああ!!」

 

下から打ち上げるようにアッパーカットを

アローテラーに対して繰り出した

 

『グォオオ!?』

 

アローテラーの巨躯が弾き飛ぶように持ち上がり

空中に打ち上げられる

 

「いくぞぉ!!」

『 NEXT 』

BEST ACTION(ベスト アクション)!!』

 

アクトが暴風を纏い跳躍する

それに対し、アローテラーは

抵抗し、跳んだアクトに矢を放つ

 

上に向けられた足先と矢がぶつかる

その瞬間矢が風に削り取られ弾け飛んだ

 

『何ィ!?』

「おぉおお!!」

 

アクトの背に風が吹き込む

さらに勢いを増して上昇していくその足先に

大量の風が纏われていく

 

「ストームライダー!キック!!!」

 

必殺キックが、繰り出される

空中で為す術のないテラーは

身動き一つとれずにその攻撃に貫かれた

 

 

サウンドが再度槍を構えクイーンを睨む

クイーンもまた、

一杯食わされたことを屈辱に感じたのだろう

先程とは打って変わった雰囲気を醸し出す

 

そして二人がぶつかろうとしたその時

遠くで大きな爆発が起こる

 

『──。』

 

そしてクイーンはそれが何か察し手を止めた

 

『そう・・・負けたのね』

 

詰まらなさそうにそう呟くと

 

『なら今日はもういいわね』

 

そう結論付けて、怪人態から人間の姿へ戻った

 

「な!?」

『今日は、ここまでにしておくわ

 ・・・また会いましょう』

「待て!」

 

サウンドの静止も聞かず

クイーンはその場から消え去った

 

「・・・まった逃がした!!」

 

悔しそうに頭を掻きながら翔は変身を解く

 

「まぁ、今回はこちらの勝ちでいいんじゃないか」

「とりあえず町が戻ってよかったじゃない」

 

そんな二人を励ます裏で

太田は目を細めていた

 

「(あの顔、どこかで・・・?)」

 

 

アローテラーを打倒し、アクトが着地する

そして、次はお前だと言わんばかりに

ペローに向けて構えを作った

 

『くっ・・・。・・・?』

 

形勢が逆転され焦るペローだったが

突如その姿が揺らぎだした

 

「なに!?」

『あぁ・・・撤退ね』

 

ペローがつまらなそうにそう言うと

さらにペローの姿が薄くなりだした

 

「待て!」『じゃあね』

 

サウンド同様、こちらも

止める間もなく消え去ってしまったのだった

 

 

『・・・っと』

 

転移した場所にペローが着地する

その隣には先に戻ったクイーンが佇んでいた

 

その姿に、ペローはニヤつきながら話しかけた

 

『なんだよ、大口叩いた割に失敗じゃないか』

 

散々嫌味を言った仕返しのつもりだったのだろう

しかし、それに対しクイーンは

 

『あら?まだまだこれからよ』

 

全く余裕そうに切り返す

たったの一回程度では気にしないと

言わんばかり態度に、ペローは苛立つ

 

『それに、私の本命は別にあるもの』

『・・・何?』

 

そう言うと、クイーンは部屋を後にした

 

『本命・・・?』

 

 

クイーンが一室に入る

この部屋こそ、テラー達の拠点の中で

クイーンが受け持つ区域であった

 

機械だらけの一室の中央には

異質な大きな水槽があった

水槽だけなら、どこにでもあるだろう

しかし、その中身が普通ではなかった

 

"・・・・・・。"

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

もう青年とまで呼べる程度に成長した

人間の男が水槽の中に収められていた

 

うっとりとした様子でその水槽に抱き着き

優しく撫でていく

 

『もうすぐよ・・・。

 あぁ・・・早く目覚めて頂戴?

 私の愛しい息子・・・。』

 

そうして、クイーンが抱き着く水槽

その目の前の機械にはある物が繋がれていた

 

そこに鎮座された

()()()()()()()()()()()()()()()()()

主の目覚めを待つかのように

鈍く光りを放っていた

 

 

続く




次回 仮面ライダーアクト

次の事件が現実を襲う
「今度は、海に!?」

「ゆ、雄飛が呑まれちまった・・・」

突如現れた謎の男の正体とは
「私は・・・お前達の"おしまい"だ。」

第15章[終わりが突然に]


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第15章~終わりが突然に~

暗い室内、満たされた謎の液体の中で男は目覚めた

身を覆う液体をかき分けながら手を伸ばす

 

すると、すぐに男を取り囲んでいた水槽の

そのガラスに手が触れる

次の瞬間には、ガラスにヒビが入り、砕ける

男は流されるように外に放り出された

 

男が立つ、まるで先程まで水に浮かんでいたことなど

微塵も思わせない程、力強く男は立っていた

 

『おはよう。』

 

──声

顔を上げる、その正面には大層嬉しそうな顔をした

綺麗な身なりの女がいた

 

『おめでとう、()()()

 ──私のかわいい息子。』

『さぁ、顔を見せて?

 私の理想を叶えてくれる、

 素敵な顔を、その力を私に見せて頂戴?』

 

女がほほ笑みながら自分に語り掛けてくる

 

男はその瞬間悟った

この人物こそが自分の全て

 

自分に理由をあらゆるものを

与えてくれる存在なのだと理解した

 

「あぁ・・・任せてくれ。()()()

 

男が伸ばされた手を取り

恍惚としてその顔を母に見せていた

 

『・・・。』

 

そんな様子をブルーと呼ばれた男は

離れた場所から見つめニヤリと笑う

 

──さぁ、登場人物を追加しよう

 

 

喫茶「テアトロ」──

 

相も変わらず、客もいない店内

そんな中で、テーブルを囲っての会話が弾む

 

「クイーン・・・これでストーリーテラーも3体か」

 

会話の内容は、現れた3人目のストーリーテラーについてだ

 

これまで何度も相対してきたペロー

プロトアクトを差し向けてきたブルー

そして、今回のクイーン

 

どうやら敵は、それなりに人員が豊富なようだ

 

「テラーの強化・・・、

 これまで以上に厳しくなってくるわね」

「戦闘もそうだけど、あの森林化みたいなのもやばいだろ

 森なら迷うだけだけど、もっと危険な場所に変えられたら

 怪我人が余計に増えちまう」

 

杏奈さんと翔がそんな話を交わしているのを横目に、

俺は一つの疑問について考えていた

 

そもそも、()()()()()()()()()()()()()

ペロー一体の頃は、怪人を生み

人を襲わせる、そこまででもおかしくはなかった

 

だが、複数人で共謀していることや、

また、青山博士の話などを聞いているうちに

それだけが目的ではないことは軽く想像できる

 

気になる点は、翔が聞いたという

プロトアクトの撃破時にペローが吐いた捨て台詞

 

"神"

 

そう、神という単語だ

彼らのいう神というのが何なのか

そして、それを呼び出すのが目的なのか

 

そういった部分を思案して・・・

 

・・・何の結論も出せなかった

 

こういったのは、詳しい事情を知る

浩司さんや音石さんの方だろうが

 

浩司さんは、風間大吾さんの容体の確認

音石さんも、作るものがあると研究に戻り

不在の状態だ

 

そんな中で、自分が無い知恵をふり絞った所で

たかが知れているのだろう

とにかく、自分のやることは変わらない

テラーから、人の平和を守るのだ

 

そんな決意を新たにした瞬間

ケータイが着信を告げる

相手は、太田さんであった

 

「──はぁ!?今度は海に!?」

 

 

平和な街中の少々大き目な公園

天気がいいこともあるのだろう

複数人の子供、休憩中のカップル

多種多様な人間たちが思い思いに過ごしている

 

ドスリ

そんな音を立て、何かがその敷地に突き立てられる

それは、楔であった

 

次の瞬間、風景が一変する

ゴツゴツとした岩場

目の前には一面の水面

打ち寄せる水が、岩にぶつかり跳ね返る

詰まるところ、それは磯であり

先程までに存在していた公園

その周囲一帯が海と化していた

 

現実離れした光景に皆思考が追いつかない

しかし、次に現れたものはその思考を一気に現実に引き戻した

 

海面に影が浮かび上がったと思えば

何かが這い出てきた

 

黒い表皮に丸まった頭部

2本足とは別に尾ひれを垂らしたそれは──

 

おぞましさを備えたクジラの怪人であった

 

誰かがそれを目にし悲鳴を上げる

それは、呆けていた人々を伝播する

 

人々は現れた怪人から難を逃れようと

各々必死に足を走らせる

まだ、町の様相を保っている場所

公園の外へと逃げ惑う

 

そんな中で、逃げ遅れる者もいる

遊んでいた少年の一人

少年は、突然の現象、謎の怪人

それらを目にし頭の中は完全にパニックとなっていた

ごつごつとした足場も相まって

完全に足が竦んでしまった少年は

クジラの怪人:ホエールテラーから逃げられない

 

テラーはそんな少年を発見し、行動を開始する

頭部がを少年の方に向ける

次の瞬間、口を開ける

いや、もはや口どころか腹付近に至るまでが

避けるかのように大きく開いた

 

見るだけで忌避感を抱くような形相

突然空気が大きく流れ始める

 

風が吹いている?

──いや違う、()()()()()()()()()()

少年の体が浮き始める

 

少年が、そのことに気づいたときはもう遅い

必死に岩にしがみ付こうと手を伸ばす

しかし、届かない

嫌だ嫌だと声を上げながら体が引かれていく

 

もうだめだと諦めかけた

その時──

 

「ッセーフ!!」

 

手が掴まれる

少年が恐怖に閉じた目を開ける

そこには、

 

「ふ、踏ん張れ!!翔!!」

「ふっぐおおお!!」

 

岩を掴んで必死に踏ん張る青年と

その青年に支えられて自分の手を掴む青年

2人の青年によって少年は助けられていた

 

 

少年を抱き込むように引き寄せる

必死に踏ん張り、耐える──やがて、吸引が止んだ

 

「逃げて!」

 

少年を促し、直ちに下がらせる

 

『オォオオオ・・・?』

 

テラーが首を傾げながらこちらを見る

どうやら、今こちらに気づいたようだ

 

「いくぞ」「おぉ!」

 

2人はドライバーを装着する

 

「「変身!!」」

 

『MASKED RIDER!!』

『POP UP SOUND!!』

 

アクトとサウンドがテラーに掛かっていく

アクトの拳が、テラーの体に叩き込まれる

 

ブヨンとした感触、どうやら体表はかなり分厚いようだ

テラーがアクトに向け手をかざす

次の瞬間

 

「うわっぷ!?」

 

テラーの手から大量の水が放流される

アクトはそれを真正面からかぶり

余りの勢いに押し流されていった

 

「おらぁ!」

 

サウンドがギターランスを振りかざす

振り下ろされる刃

その鋭さならば、この体表も容易く通るだろう

しかし──

 

槍が空を切る

テラーは、その攻撃をひらりひらりと躱している

見た目よりも素早いらしい

そして、その身を振り回す

 

太く、重そうな尾ひれがサウンドの体を叩いた

よほど重量のある尾なのだろう

その衝撃は重く、強い

 

「・・・なろぉ!」

 

ならばと、アクトは別のチケットを取り出す

──打撃が駄目なら斬撃だ!

 

『侍丸!!!』

 

アクトブレイガンを構え突撃する

 

「セイ!!」

 

テラーに剣を振り下ろす

しかし、それはサウンドと同様に避けられる

再度テラーが体を翻す

 

──同じ轍は踏まない

尾の攻撃をかわし、腕を取る

次の瞬間には、剣を使い上手く使い

テラーを締め上げ拘束した

 

「もらったぁ!」

『オォオ!?』

 

そこにサウンドが追撃を放つ

槍での連撃が避けられぬテラーに叩き込まれる

連撃の最後が叩き込まれ

テラーが大きく転がっていく

 

明確にダメージが入った、このまま一気に決める!

 

『サムライ!』

 

チケットを装填したブレイガンを手に

テラーに飛び掛かる

──このまま必殺技を叩き込んでトドメだ!

 

アクトがテラーに激突する

その直前、テラーが動いた

 

『グォオオ・・・!!』

「──な!?」

 

また大口を開く

そして、吸引を開始した

 

「うおわぁ!?」

 

空中のアクトは踏ん張りもできずに

その口に吸い込まれていく

そして、口の中に飲み込まれたと同時に

テラーはその口を閉じるのだった

 

「・・・ゆ、雄飛が呑まれちまった」

 

唖然とするサウンド

そんなサウンドを見てテラーはにやりと笑い

 

再度、その口を開くのであった

 

 

「うわぁあああ!?」

 

呑まれたアクトは謎の暗闇を飛んでいく

やがて勢いを失ったその体は

高度を下げゆっくりと着地した

 

周りを見る、薄暗い謎の空間

床からは、ほのかに振動を感じる

 

「・・・食われた・・・?」

 

ゆっくりと、現状を理解する

これまでの経緯を顧みて、そうとしか考えれない

 

「ど、どうしよう!?」

 

演技も忘れ、頭を抱える

何だこれ!?どんな状況だ!?

 

「いや、待て待て・・・

 飛んできた方向は分かってるんだ、戻ればいい」

 

──落ち着け

そうだ、来た方向が分かっているのだ

ならばそれを逆走すれば

入り口、すなわち、奴の口にたどり着くはずだ

 

そうして、そちらに進もうとした瞬間

──風が吹いた

 

「・・・?」

 

空気の流れ?

呼吸の流れだろうか

そんなことを思った次の瞬間

 

何かがこちらに向かってくる

 

 

つまり、大量の岩の塊がこちらに向けて飛び込んできた

 

「な、何だと!?」

 

咄嗟に気合を入れなおし、切り払う

しかし、数が数

とても全ては捌ききれず

大量の破片がアクトを襲う

 

「いた、いって!?」

 

大したダメージではない

しかし、何分数が多い

全ての岩が通り過ぎるころには

大量の岩で打撲したアクトがそこにいた

 

「・・・何なんだよここは!?」

 

驚愕と怒りをはらんだ声が

ただ広さだけがある空間に鳴り響いていた

 

 

テラーがサウンドに向けて口を開く

 

「!?──やられるか!」

 

槍を地面に突き立て、足に力を入れる

雄飛は無事だと信じたいが

自分まで呑まれる訳にはいかない

 

吸引が開始される

引き込まれそうなところを必死に留まる

 

・・・このままなら何とか耐えられる

しかし、どうしようか

あちらも吸引の際は手を出せないが

こちらもこうして動けないのでは手が出せない

何か手を──

 

コツン

──?

何かがサウンドの頭にぶつかる

それは、岩の破片だった

 

──!?

背後を見る

次の瞬間、自分の眼前に拳大ほどの岩が迫った

 

「うわ!?」

 

咄嗟に避ける

しかし──

一つまた一つと岩のかけらが飛んでくる

見れば、磯の岩場がどんどん削られ

吸い込まれている

その間に立っているサウンドは

大量の岩を真正面から受けることになってしまう

 

ただでさえ、踏ん張っていて避けようもないのだ

サウンドは大量の岩をその身で受けた

 

──不味い

このままでは、踏ん張れない

いずれ手が離れ、自分も奴の腹の中だろう

ど、どうにかしなければ

 

しかし、吸引は収まらず

自分も身動きが取れない

万事休すかと思ったその時

 

『──!?』

 

テラーが突然口を塞いだ

──なぜ止まった?

 

するとテラーは両手で()()()()()()()()

次の瞬間──

 

ズンと音を立てそうなほど

その腹が膨れ上がる

はちきれそうになったそれを

強引に押し込めていくテラー

やがて、テラーが押し込み切り膨れが収まった

 

一体何が、と考えたその時

ふとある考えが脳裏をよぎる

 

「──なるほど」

 

・・・()()()()()()()()()()

なら、自分もそれに合わせるだけだ

 

テラーが再度吸引を始めた

同じように踏ん張りながら

 

サウンドは声を張り上げた

 

「──雄飛!」

 

 

アクトは飛んでくる岩を切り払いながら

飛んできた道をひたすら戻る

 

進むにつれて、強いどんどん向かい風が流れ

そのたびに岩が飛んでくる

 

大体分かってきた

この風は、テラーが吸引をしているのだろう

そして、ライダーと関係のない

岩もお構いなく飲み込んでいるのだ

 

このことで一つ安心なのは

翔の存在だろう、

彼が飛んできていないということは

まだ吞み込まれていないということだ

 

向かい風に押し戻されないよう

地面にブレイガンを突き立てながら

せっせと進んでいく

 

──やがて突き当りに到達した

空間はここまでのようだ

しかし、出口が見つからない

 

「どっからでればいいんだ・・・?」

 

そう思い悩んでいると

風が吹き始めるどうやら吸引を始めたようだ

 

・・・?

ふと風の出どころを見ると

先程までに見られなかったものがある

──光だ

そして、ちらりと外の風景も見える

 

「あそこか!」

 

そうか、口を開けた時のみ外が開くのか

──そうと決まれば

 

『MASKED RIDER The NEXT(ザ・ネクスト)!!!』

 

「変身!」

 

アクトがネクストフォームへと姿を変える

外から吹き込んでくる風、その真正面へと立つ

 

──風には風だ、無理やりにでも突破する!

 

『 NEXT 』

BEST ACTION(ベスト アクション)!!』

 

自身の背後から吹き込んでくる風に負けない勢いの風が吹き荒れる

暴風に後押しされながら

アクトは光に向け飛び上がる

 

「はぁああああ!!」

 

キックを放つ、背後の風のおかげで

威力は出ないものの前に進む

──これなら!

 

そして、光に到達しかかったその時

()()()()()()()

 

「何!?」

 

キックが壁に激突する

壁に大きくめり込んでいくが

それを突破するまでにはいかず

 

最後には、弾き飛ばされてしまった

 

「おわっ!?」

 

まるで狙いすまされたかのように閉じられてしまった

どうやら、テラーにはこちらの動きが把握されているようだ

 

まいった、このままでは脱出ができない

どうすれば──

 

吸引が再開される

 

風を吹かせて踏ん張りながら

どうするか思案する

 

すると──

 

"──雄飛!"

 

外から翔の声が聞こえる

・・・自分を読んでいる?

 

"1()0()()()()!もう一回頼む!!"

 

──はい?

 

突然の申し出に呆気にとられる

10秒後・・・?

一体どういうことだ?

 

しかし、考える暇もない既に10秒が迫っている

 

「──えぇい、ままよ!」

 

『 NEXT 』

BEST ACTION(ベスト アクション)!!』

 

再度、風が自分の周りに吹き荒れる

アクトは、仲間の声を信じ

再度必殺キックを放つために飛び上がった

 

 

「10秒後だ!もう一回頼む!!」

『──?』

 

10,9・・・

 

テラーが何を言っていると言わんばかりの顔をする

しかし、そんなのに構っている暇もない

自分も準備に取り掛かった

 

突き立てたギターランスにディスクを装填する

 

『POP!ROCK!RAP!』

BEST HIT MEDLEY(ベスト ヒット メドレー) !!!』

 

8,7,6,5・・・

 

そして、タイミングを合わせて

槍を引っこ抜いた

当然支えもない体は引き込まれる

 

しかし、サウンドは足で踏ん張るでもなく

逆にテラー目掛けて槍を構えて駆けだした

 

4,3・・・

 

『オオォ?』

 

テラーが理解できぬように呻く

しかし、焦るまでもなく

このまま吸い込んでやると言わんばかりに

さらに力を込めて吸い込んでいく

 

2,1・・・

 

両者が激突するその時

 

・・・0

 

テラーの口から、

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『オォオオオォ!?』

 

それを読んでいたと言わんばかりに

サウンドが体を滑り込ませるように

下に倒させ、アクトとすれ違う

 

テラーが驚愕と同時に不覚を悟る

そして、ショックのあまりつい、吸引が緩んだ

 

「今だ!!」

BEST HIT MEDLEY(ベスト ヒット メドレー) !!!』

 

その一瞬をついて、サウンドがテラーの隣を

通り抜けざまに必殺の一撃をその腹に叩き込んだ

 

吹き飛んでいくテラー

強力な攻撃をまともに食らった彼は

一歩も動けずに倒れ伏した

 

「よっしゃ!」

「おぉお・・・?で、出れた?」

 

アクトは状況が呑み込めない

また弾かれるのかと思っていたら

今度は普通に出れてしまった

 

そして後ろを見るとテラーが倒れている

・・・一体何が起こった?

 

「ナイス雄飛!タイミングばっちりだな!」

「あ、ああ・・・」

 

しかし、とりあえず何とかなったようなので

ひとまずは良いのだろう

 

「よしこれで、あとはこの場所を元に戻すだけ」

 

"その必要はない"

 

「「!?」」

 

ひとまずこれで解決だと

安心していたその時

 

──乱入者の声が現れた

 

 

それは、青年であった

およそ一般人には見えない身なりをした

男は、いきなり現れたのだ

 

「何者だ・・・!」

 

気を引き締めなおし、構える

どう見ても、唯の通りすがりではない

自分達とも、

また、テラー達ともどこか違う異質さを感じていた

 

「私は・・・お前達の"おしまい"だ。」

 

そう言うと、男は何かを取り出す

それは──

 

「!?・・・ドライバー!?」

 

そう、自分の物とも翔の物とも異なる

しかし、自分達の物によく似たベルトであった

 

四角い形状にベルト左側には

ナックルダスター*1のような大き目のグリップを備えている

 

そして、それを装着した男は

さらにもう一つの物を取り出す

それは、禍々しさを備えた一枚のチケットであった

 

BUBBLE MERMAID(バブル・マーメイド)

「・・・人魚(マーメイド)?」

 

そして、ベルトにチケットを装填し

グリップを握り、()()()()()

 

「・・・変身」

 

Last UP(ラスト アップ)

『Love Disappears as Bubbles』

BUBBLE MERMAID(バブル・マーメイド)

 

瞬間、男に変化が起こる

その身を泡が包むように取り囲む

 

そしてそれがはじけ飛んだ後には

白のアンダーウェアに深い青のアーマー

右肩には、魚の鱗のような文様の

青いマントがひらりとはためいている

 

「名はラスト。仮面ライダー・・・ラスト」

 

仮面ライダーが

そこには立っていた

 

*1
メリケンサック等の総称




次回 仮面ライダーアクト

突如現れた謎の仮面ライダー
ラストの目的とは
「お前・・・何が目的だ!?」
「決まっている、貴様たちの終わりだ」

始まる海中戦、勝つのは誰だ
「水の中でも、やりようはあるんだよ!」

第16章[海と泡と人魚の男]


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第16章~海と泡と人魚の男~

「名はラスト。仮面ライダー・・・ラスト」

 

突如現れた青年は、その姿を変えた

──変身したのだ

 

ラストと名乗ったそのライダーは

ベルトから引き抜いたグリップを構える

 

『Blade』

 

次の瞬間、グリップの頂点から

魚の尾ひれを模したかのような形状の刀身が現れた

 

「・・・ハァ!」

「!?──ッ」

 

剣を生やしたグリップを握り駆けだすラスト

 

アクトに向けて剣を振りかぶり

そしてそのまま叩きつけるかの如く振り下ろした

 

突然の強襲

振り下ろされる剣を腕を交差させて掲げ受け止める

骨まで響くような衝撃

力を抜けばそのまま押しつぶされてしまいそうな

一太刀にアクトは戦慄する

 

──こいつは一体!?

 

初撃を防御したのも束の間

腕に触れてた剣の感触は消え、次の攻撃が放たれる

 

──痺れる腕で再度防御を試みる

しかし先程よりもさらに鋭い一撃に

防御ごと吹き飛ばされた

 

一瞬の攻防の末、吹き飛ばされたアクトを見て

サウンドは武器を構えた

 

敵の素性は分からないが、とにかく自分達に

明確に敵意を向けている

それならば、容赦はできない

 

サウンドが突然現れた敵に対してギターランスを突き出す

その刃先がラストに迫りゆく

 

それに対し、ラストは

防ぐでもなく避けるでもなく

ただそれを()()()()()

 

バシャリ

 

槍がラストの体を貫通した

本来ならば大きなダメージを相手に与えていただろう

しかし、それは何の決定打にもなりはしなかった

 

そう、槍が貫いた箇所がまるで液体のように泡立ち

槍の攻撃はただその場所を突き抜けていたのだ

 

──俗にいう、液状化と呼ばれる能力である

 

「なっ!?」

 

槍を引き抜き、2度3度と攻撃を叩き込む

しかし、何度やっても

水を切るような手ごたえのなさ

サウンドの攻撃は完全に無効化されていた

 

されるがままであったラストが動く

4度目の攻撃を打って変わって受け止める

そして、槍をかち上げたと思えば

無防備になったその腹を切り捨てた

 

「ぐぁッ!」

「翔!」

 

斬撃を喰らい転がったサウンドを

駆け寄ったアクトが立ち上がらせる

2人は眼前の仮面ライダーを見る

 

「何なんだよ、こいつ・・・!」

「分からない・・・だが」

 

どこから来たのか

あのベルトはどこで手に入れたのか

彼が何者なのか

何一つわからない

 

ただ言えることは・・・

 

「どうやら、敵だ」

「みたいだな・・・」

 

アクトとサウンドが構えなおす

目の前の男は、

 

それを見て、ラストは

 

「この程度か・・・?」

 

と勝ち誇ったように堂々と立ち塞ぐ

その後ろには、倒れ伏したままの

ホエールテラー・・・

 

「・・・翔、先にテラーを頼む」

「!・・・分かった」

 

まずは、テラーにトドメを

そう小さく作戦を離したアクトは

ラストに向けて突貫する

 

風を纏った拳がラストに向けて放たれる

しかし、ラストはそれを避けようともしない

拳が液体と化したラストの体を通り抜ける

それをお構いなしというかのようにラストが剣を振るう

急いで腕を引き抜き、振り下ろされた剣を回避

そして、再度アクトが攻撃を放つ

しかし、それもまたすり抜ける

 

「(──やりづらい!)」

 

こちらの攻撃になんのモーションも起こさず

押し付けるかのように敵は攻撃のみを放つ

今までの戦い方とまるでセオリーの異なる攻防

非常に苦しい戦いである

 

「お前・・・何が目的だ!?」

 

風を纏った蹴りを放つ

これもまた、攻撃がそのまま通り抜けてしまう

 

「・・・決まっている、貴様たちの終わりだ」

 

それを構いなしに、物騒なことを言いながら

攻撃を続ける、その手に迷いはなく

やはり、明確にこちらを攻撃してきていた

 

「ッグ・・・オラァ!」

 

迫りくる剣を右腕で受け止め

そのまま抱き込むように掴み取る

 

──これなら、武器を使わずに攻撃するしかない

その攻撃に対し、カウンターで仕掛ける

そう画策したアクトであったが

 

「甘い」

「なっ!?」

 

想像通り、ラストは武器を手放した

しかし、その先は想定外であった

突如、ラストの肉体が()()()()()()()

眼前から消える敵

 

「──どこに!?」

 

辺りを見回すもその姿は視認できない

今の消え方・・・

まさか地中を──

 

「フッ!!」

「──!?ぐぁぁあああああ!」

 

気づいたのが一手遅かった

想像通り地面を水のように潜り込んだラストは

アクトの背後の地面から飛び上がり

不意を突く形で協力な攻撃をアクトに食らわせたのだ

 

その一撃に、武器も手放し吹き飛ばされるアクト

転がって倒れた末に

変身が解除されてしまう

 

「っぐ」

「どうした・・・もう終わりか」

 

剣を拾いゆっくりと雄飛に近づいていくラスト

しかし、その背後に動くある物に気が付いた

 

『RAP!』

 

ボウガンに組み替えたギターランスを構え

必殺技を放つ直前のサウンドである

その銃口の先には倒れ伏したテラー

 

「──何!?」

 

「いけ!」

「おらぁあ!!」

 

BEST HIT(ベスト ヒット)!』

 

ボウガンから冷気を纏った弾丸が放たれる

弾は寸分狂わず飛んでいき

そのままテラーに命中する

──かに思われた

 

ラストの肉体が溶けるように崩れる

全身を液状化させたラストは

そのまま飛んでいくように移動し

テラーと弾丸の間に躍り出た

 

「おおおっ!!」

「な!?」

 

弾丸は、テラーには届かなかった

ラストが腕を振るい、弾丸を叩き落としたのだ

 

そして、今度はそのままラストがサウンドに突貫する

 

サウンドの眼前に迫るラストは

サウンドがボウガンから槍に武器を組み替える暇も与えないまま

連撃で斬撃を浴びせていく

 

「あっ・・・ぐぅ・・・」

 

サウンドもまた攻撃に耐えきれずに

吹き飛ばされ、変身が解けてしまう

 

「終わりだ・・・!」

 

そうして翔に迫るラスト

絶体絶命と思われたその時──

 

パキパキと、何か異質な音が響く

「──何・・・?」

 

ラストが自身の右腕を見る

先程、サウンドの攻撃を弾いた腕である

その腕が、どんどん()()()()()()()()()

 

「な、何だ?」

「・・・そうか、冷気か」

 

液状化という無敵ような能力の弊害か

水のようなその肉体は

サウンドが放った冷気の弾丸を受け

凍り付いていたのだ

 

腕から肩へ、氷結は止まらず広がる

 

「っく!」

 

次の瞬間ラストに変化が起こった

想像以上に冷気に弱いのか

はたまた変身に時間制限でも存在しているのか

ラストが変身を解除されたのだ

 

「チッ・・・」

 

思ったようにいかなかったことに舌打ちをしたラストは

懐から何かを取り出す

それは、以前クイーンが見せたものと同一の

ハートの4のトランプであった

 

トランプをホエールテラーに投げつける

それがホエールテラーの体に触れた瞬間変化が起こる

以前のアローテラーと同じだ

 

体のいたるところに、銀に光る鎧のような意匠が加わり

そして、右手には新たに斧槍(ハルバード)のような武器が現れた

 

「・・・行け!」

「御意」

 

起き上がったホエールテラーはラストの呼びかけに答えると

踵を返し、海の中に潜っていく

舌打ちを一つ打ちそう言うと

ラストもまた雄飛と翔に背を向ける

 

「待て・・・!」

 

呼び止めるのに答えるはずもなく

ラストはその姿を消すのであった

 

 

喫茶「テアトロ」──

 

「いってて・・・、風間ちゃん、沁みる、沁みるって」

「我慢しなさい!もっと擦り込むわよ!」

 

思ってもみない邪魔によって

テラーを取り逃がしてしまった

 

「・・・。」

 

幸い、前回のようにどんどんと侵食が広がっている様子はないらしく

体制を立て直すためにも、一度帰還を選択したのだ

 

一息ついて、考えることは

乱入をしてきたあの男のことだ

 

「まさか、敵側が仮面ライダーを用意してくるとは」

 

元から仮面ライダーであった大吾さんを操ったのとは異なり

全く新しい仮面ライダーを用意してきたのだ

 

新しい脅威の登場に辟易とした気分になる

分かっていたことではあるが

この戦いは、やはり一筋縄などではいかないのだ

 

「しかし・・・なんで仮面ライダーなんだ?」

 

翔がそんな疑問を呈する

 

「なんでって?」

「いや・・・テラーなら、怪人になりゃいいじゃん

 なんで、仮面ライダーなんてわざわざ用意するんだ?」

 

なんで・・・か

確かに、怪人の姿あるのならそれで戦えばいい

事実、クイーンやペローは怪人の姿で戦闘を行っていた

そうなってくると考えられるのは3つだろう

 

1つは当てつけ

自分達が変身するライダーよりも強力なライダーを用意して

こちらの戦意を削ぐ効果を期待している場合

2つ目は戦闘力の底上げ

怪人態を持っているが、それが戦闘に適さない場合だ

個人的にはそれであって欲しい

 

そして最後は・・・

 

「テラーではなく、()()()()()()()()()()()か」

 

「・・・協力者ってことか?」

「信じたくはないけどな」

 

自ら進んで、テラーに協力している人がいる

そんなことは信じたくはないが

可能性としては十分あり得るのだろう

 

どちらにしても・・・

 

「考えても仕方ないよ」

 

そう言って席を立つ

手当はした、休憩は十分だ

それならばもう一度行かなければならない

──まだ、今回の事件は終わっていないのだから

 

「でも、もう一度邪魔されてきたらどうするの?」

 

液状化して攻撃が通らない仮面ライダーと

強化を許してしまったクジラの怪人

そんな相手とどう戦うのかというのだろうか

 

「それなんだけど、作戦があるんだ」

「マジか、どんな!?」

 

「──まず、俺一人で行く」

 

 

『MASKED RIDER The NEXT(ザ・ネクスト)!』

 

付近一帯が、海と化した公園に仮面ライダーアクトは今一度立っていた

変身した視界で、波立つ海を探る

 

「(──見つけた)」

 

深い海底に、森の時と同じ楔を発見する

まずは、この状況を元に戻すべく

アクトは臆することもなくその海中に飛び込んだ

 

足底からスクリューのように風が噴出し

それに押されるように海中を進んでいく

程なくして、海底の楔に手が届く

そう思っって次の瞬間

 

『そうはさせん!!』

「!?」

 

身を翻す、海中でもその抵抗を感じさせないような一撃が、

先ほどまでアクトが泳いでいたその場所を通過した

 

「っく、あと少しのところを・・・」

『ファファファ・・・』

 

アクトが海中で構えを作る

その目の前には、楔とアクトの間に立ちふさがるように

強化を施されたホエールテラーが陣取っていた

 

『ファー!!』

 

テラーは猛スピードでこちらに突っ込んでくる

そして手にもつハルバードでアクトに襲い掛かっていた

 

「くっ、まるで戦い方が違う!?」

 

最初に戦った時は、能力にかまけたように

吸い込みばかリしてきたが、今度は打って変わって

正面からの肉弾戦を仕掛けてきたのだ

 

『水中では、こちらが有利ぃ!』

 

テラーが流れるように泳ぎ、その通り際に

攻撃を浴びせ続ける

 

地上程思うように身動きが取れないアクトは

その攻撃を必死に凌いでいく

 

「(──速い!・・・でも)」

 

対処できない訳ではない

──このテラーは本来ならこのような戦い方は相性が悪いのであろう

攻撃は直線的で、防御はしやすい

何より、力に酔っている

四方八方様々な角度から攻撃を放ってきてはいるが

まるで、同じような軌道でばかりで仕掛けている

 

「──ならば!」

 

そしてまた、テラーの攻撃がアクトの脳天目掛け振り下ろされた

そんな攻撃をアクトは、

 

『オォ!?』

 

しっかりとその手で掴み取っていた

 

拳を握りこむ

 

「ハァ!!」

 

水中を滑るように移動してアクトを狙い迫るテラーに対し

風を纏った拳が、水をかき分けながら叩き込まれる

自身から吹き出す強力な風は水の抵抗などお構いなしといわんばかりに

そのままの威力でテラーに叩き込まれた

 

『おぉおお・・』

 

ホエールテラーが怯み、その動きを止めた

 

掴んだハルバードの柄を引き込みさらに距離を詰める

その顔面に2度3度と追撃を食らわせた

おまけといわんばかりに最後に一発殴り飛ばし

テラーとの距離を取る

 

──今なら

テラーに背を向け、水をかき分けて楔に手を伸ばす

そして、手が触れようとしたその直前

 

Last UP(ラスト アップ)

『Love Disappears as Bubbles』

BUBBLE MERMAID(バブル・マーメイド)

 

聞きたくない音声が、アクトの耳に響き渡った

 

「何!?・・・ぐぁ!?」

 

背後から切り付けられたかの様な鋭い痛みが走る

背後を見るも、そこには誰もいない

さらに四方八方よりテラーの物よりも遥かに素早い攻撃が

何度もアクトに叩きつけられた

 

水中でサンドバッグのように何度も弾かれ

楔から距離を離される

必死に目を凝らし、水を見る

 

──居た

 

そうして見えたのは、体を液状化させ海中と一体化して

こちらに迫りくる仮面ライダーラストの姿であった

 

「──今度こそ、貴様を終わらせてやる」

 

冷淡にそれだけ伝えてくると

ラストは再度こちらに凄まじい速度で突撃してくる

姿が見えたことでなんとか防御するがそれもギリギリである

 

防ぎきれずに生傷が段々と増えていく

さらに

 

『ファー!!』

「ぐぁ!?」

 

前方からのラストの攻撃に気を取られすぎたのであろう

背後から近づくホエールテラーに気づくことができなかった

 

不意打ちの一撃を食らってしまう

さらにそれによって崩れた防御から

ラストの攻撃までまともに食らってしまう

 

どんどん傷ついていくアクト

このままでは、非常に危険である

少なくとも、このまま海中で戦っていては

勝つことなど不可能であろう

 

「(──でも、この速度では、水上までは逃げれない!)」

 

水中での速度は、ラストに負けている

このまま背を向けて海面に向かったところで

途中でやられてしまうだけだろう

 

「(どうする?水と一体化して襲ってくるような奴からどうやって?

  ──()()()()()()()()()?)」

「(──いける!水の中でもやりようはある!!)」

 

次の瞬間、何かを決断したアクトは2体に背を向け泳ぎ出す

海面へ──ではなく()()()()()()()()()()()

 

「何・・・?」

『逃がさん!』

 

水底しかない方への逃走に虚を突かれるが

2体はすぐさまアクトを追いかけた

 

追撃をかわすために進んだところで

すぐさま行き止まりである海底にたどり着く

 

もう、先には進めない

アクトは追い詰められてしまったのだ

 

しかし、()()()()()

逃げる先がなくなったと確信した2体は

アクト目掛けて、真正面からこちらに迫り来ていた

2体が、重なって襲い掛かってきていたのだ

 

「──今だ!!」

 

アクトブレイガンを取り出す

 

『WESTERN』

BEST SHOT(ベスト ショット)!!!』

『NEXT』

BEST ACTION(ベスト アクション)!!』

 

ブレイガンとベルトの必殺技を同時に起動する

ネクストフォームから吹き荒れる風が

ブレイガンに収束し、刹那

弾丸が放たれた

 

『オォ!?』

「何!?」

 

竜巻のような風を纏った弾丸が放たれる

唯の弾丸であれば、その一発程度

液状化したラストは、すんなりと避けていただろう

 

しかし、それが仇となった

竜巻のような風は、すぐさま水を巻き上げ海面へと突き進んでいく

そう、水をその螺旋にどんどんと巻き上げてだ

 

ラストの体がどんどん引っ張られていく

水と一体化したラストをその竜巻は完全に掌握し、運んでいったのだ

テラーもまた水に乗って体が流されていく

 

みるみる内に海底から海面へ、2体は運ばれていってしまった

 

 

海面に巨大な水の柱が立ち上る

アクトが放った巨大な竜巻が海面を超えて上空にまで飛んでいったのだ

 

ラストはその竜巻の中で、液状化を解き、実体を取り戻す

しかし、時すでに遅くそこは海中ではなく空中であった

 

「バカなことを、この程度で私を倒せるとでも」

 

ラストは、突然のことに驚愕したものの

その意味のなさに呆れていた

自分を吹き飛ばせようともその程度ではダメージにもならない

 

逆に、海底から脱出してきたところを狙い打つつもりであった

 

『POP!RAP!』

HIT MEDLEY(ヒット メドレー) !!!』

 

軽快な音を立てて槍を構える

仮面ライダーサウンドの姿が突然現れるまでは

 

 

"奴には冷気が効いていたように見えた"

 

"冷気って、サウンドの?"

 

"うん、でも一度食らってしまっているから

 警戒はされていると思うんだ"

 

"だから、不意を突く"

 

"俺が隙を作れるように先に行くから動くからさ

 翔には一撃で当ててもらいたいんだ"

 

 

「な!?」

「らぁあああ!!!」

 

HIT MEDLEY(ヒット メドレー) !!!』

 

冷気を纏ったギターランスを構えサウンドが突撃する

空中に跳ね上げられた上に突然の伏兵に虚を突かれた

ラスト、そしてテラーに対し

回避も許さずにその一撃を叩きこんだ

 

「ぐあぁああ!!」

『オォオオオオ!?』

 

攻撃を叩き込まれ、吹き飛ばされたラストとテラーが地面に激突した

 

テラーが立ち上がる

そして、近づいてくるサウンドを見て

 

『──不味い!』

 

再度、海中に逃げ込もうと走り出した

 

しかし──

次の瞬間、眼前に広がっていた海が消失した

 

『な!?』

 

元に戻った公園の見渡す

先程までにあった水が完全に消え失せている

そして、眼前に何者かが現れる

 

「よくやってくれたな・・・

 今度はこっちの番だ」

 

楔を引き抜き、握り潰したアクトがそこにいた

アクトを視認したテラーがハルバードを振りかぶる

しかし、その攻撃はアクトに当たることは無く空を切った

 

海中で避けきれなかった攻撃も、陸上ならその限りではない

攻撃を回避し、鬱憤を晴らすがのごとくその腹部にカウンターの一撃を食らわせた

 

「らぁ!!」

 

テラーが怯んだかのように後ずさる

もう、逃げ場はない

──決着の時だ

 

『NEXT』

BEST ACTION(ベスト アクション)!!』

 

テラーが再度ハルバードを振りかぶる

アクトはそれに立ち向かうかのように

拳を握りしめ、腕を振りかぶった

 

「ストームライダー!!!パンチ!!」

 

ハルバードと拳が激突する

しかし、その均衡も一瞬で終わり

砕けたハルバードごとライダーパンチがテラーの体を貫いていた

 

『ぐぁあああああ!?』

 

爆炎の中を突っ切りサウンドと合流する

 

そこにはギターランスを構えたサウンドと

凍えた腕を庇い立つラストがそこにはいた

 

「形勢逆転だな・・・!」

「チッ・・・」

 

また逃がすわけにはいかない

ここで倒して──

 

『そこまでよ』

 

瞬間、クイーンが突如として現れる

 

「か、母さん」

 

「「母さん!?」」

 

現れたクイーンとラストの関係が明らかとなる

思いもよらぬ親子関係にアクトとサウンドは驚愕していた

 

「母さん、すみません。こいつらはすぐに・・・」

『あら、いいのよラスト

 ()()()()戦いですもの、上手くいかなくて普通よ』

 

『ほら、帰りましょう?』

「・・・はい」

 

ラストが構えを解き、クイーンと並ぶ

 

「待て!!」

『──。』

 

こちらの言葉など意に介さず

というよりも見向きもせずにクイーン達は転移していった

 

後に残されたのはアクトとサウンドのみ

今回も、怪人を倒すことには成功したが──

 

「親子・・・?どういうことだ・・・?」

 

ラストという突然現れた謎の存在

疑問ばかりが深く積み重なっていくのであった

 

 

続く

 




次回 仮面ライダーアクト

突然の火事災害が市民を襲う
「燃えろ燃えろぉ!!」

怒りに震えるサウンド
「何やってんだあああ!!てめぇええ!!」
「落ち着けって!!翔!!──翔!!」

そしてラストの目的とは
「私はもっと強くなる・・・
 そう望まれている!!」

第17章[燃える日、怒りの火]


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第17章~燃える日、怒りの火~

所在地も分からぬ暗がりにラスト

そしてクイーンは戻ってきていた

 

「・・・クソッ!!」

 

足元に転がるガラクタを足蹴にし、苛立ちを募らせる

取るに足らない人間相手に思うようにされたことに

ラストは怒りを抑えることができなかった

 

『まぁっ!・・・怒っているのね、ラスト?

 初めてだったんだもの、仕方がないわ!そうでしょう?』

「母さん・・・でも!」

 

『大丈夫、私は知っているわ・・・

 あなたは強くなるもの!

 ・・・今までの何よりも!・・・ね?』

 

「母さん・・・」

『疲れたでしょう?少し休んでて?』

 

そう告げるとクイーンはその場を後にする

その姿にラストはさらに焦りを募らせる

 

──失望させるわけにはいかない

 

「強く・・・」

 

そうだ、より強くならなければ

母を、喜ばせるのだ

 

──でも、どうすれば?

 

『次は・・・これで行こうかしら?』

 

チケットとトランプを一枚ずつ手に歩いていくクイーン

 

息子と呼んだ存在が自身の思うように

成っていくということを何一つ疑ってすらいない母と

それに違わないように努めようとする子

 

そんな二人の様子を、一人の男が眺めていた

 

『なるほどな・・・だが、それでは行き詰るだろう』

 

薄暗い色をしたコートを羽織った男の名は"サン"

仮面ライダー達の前に現れている

ストーリーテラー、その最後の一人である

 

彼は、一人残されたラストを見てそう呟くと

その目の前に躍り出た

 

『・・・強くなりたいか?』

「・・・何?」

 

──少し、ヒントをやろう

 

 

ぼんやりと自分が何をしているのかを認識する

──()()()()()

 

・・・どこに?何か目的あったっけ?

 

──あぁでも、この道は知っている

 

そうだ、よく歩いた道だ

この角を曲がってまっすぐ

その後、・・・そう、左に曲がってすぐそこに

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

待ち合わせ時間はもう過ぎて・・・皆先に入っているかな?

寝坊してしまうなんて、ファン失格だな

──自分の好きな曲は何曲目だったか

 

小遣い貯めて、ギター買って

ようやくバンド組めるとこまで来て

景気祝いに、推しのライブ見に行こうなんて

言い出しっぺが、遅れちゃ世話が無いよな

 

左に曲がった、するとすぐに到着

 

・・・。

 

──そこはライブハウスだったはずだ

外からでも賑やかなくらいの喧騒が漏れていて

外観のネオンが煩わしいほどに眩しい

そんな場所だったはずだ

 

──なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

悲鳴のような喧騒と人だかりをかき分けて目の前に躍り出る

窓という窓から、立ち上る火はなんだ・・・?

 

崩れ落ちる建物の隙間が目に入る

"その中に見えた、まるで炎がそのまま張り付いたかのような怪物はなんだ・・・?"

 

──今、もがきながらでてきた、ひとがたはなんだ・・・?

じぶんにてをのばして、とどかずにたおれたのはなんだ・・・?

やけこげたふくが、みおぼえのあるふくなのは──

 

 

「うわぁっ!!!

 ・・・ハッ・・・ハッ・・・」

 

大粒の汗を垂らしながら新田翔は目を覚ましていた

辺りを見渡す、・・・与えられた自室は真っ暗で

まだまだ夜のとばりを感じさせていた

 

時刻はまだAM3:00を回った程度だ

でも──今日はもう眠れそうもなかった

 

 

「えーっと、これで買い出しは全部だっけ?」

「確かそうだったはず、あとは帰るだけね」

 

街に買い出しに来ていた雄飛一行

今回は、音石さんに頼まれて、機械部品やらなにやら

よく分からないが3人で大量に運ばされていた

 

「しっかし、これ・・・何に使うんだ?

 ・・・あっまた俺たちの強化アイテムだったり!?」

「どうかしらね、音石博士だから少なくともあんたのじゃないでしょ」

 

「・・・。」

 

雑談をしながら帰路につくが

いつもならもっと賑やかな人間が

やけに静かなのが気になった

 

「・・・翔?」「どうかしたの?」

 

「・・・えっ、あぁ!悪い、寝不足でさ」

 

そういって、わざとらしく大きなあくびをして

気丈に振舞おうとしている

 

「・・・なんかあったの?」「知らないわよ」

 

雄飛と杏奈は互いに理由を探るも思い当たる節はない

故に、深い追及などできるはずもなく

 

再び帰路につこうと振り返ったその時

 

ドォオオオオン!

「「「!?」」」

 

背後から巨大な爆発音が立ち上がった

遅れて複数の悲鳴が耳に届き始める

 

「な、なんだ!?」

「あ、杏奈さん!荷物頼む!」

「わ、分かった!」

 

雄飛と翔が音の場所に駆ける

そしてたどり着いた場所には

 

『ハハハハハ!!燃えろ燃えろォ!!』

 

マッチのような木材に火を灯したような意匠をした怪人が

火をまき散らしながら暴れ回っていた

その姿はその前のクジラ怪人のように

ところどころに鎧の意匠も見える

 

「(──すでに強化個体!)」

 

近くには爆発したかのような屋台の残骸

先程の爆発は、ここのガスへの引火か

 

「熱っ・・・熱いい!!」

「!?」

 

そしてその付近には蹲っ足り転がり回る人々が数人

その衣服には、炎が燃え移っていた

 

「不味い!!変身!!」

『MASKED RIDER The NEXT(ザ・ネクスト)!!』

「ハァ!!」

 

突風を吹かす、強烈な風はすぐさま民間人達から

燃え盛る炎を剝ぎ取って鎮火していく

 

「大丈夫ですか!?・・・翔!救急車を!

 ・・・翔?」

 

「・・・。」

 

燃える建物、火に巻かれる人

 

似たような風景に

昨夜見たものがフラッシュバックする

 

「何を・・・」

 

「何やってんだあああ!!てめぇええ!!」

 

POP UP SOUND(ポップ アップ サウンド)!!!』

 

『PLAY!!』

『ON STAGE!!!』

POP UP SOUND IS(ポップ アップ サウンド イズ)

SINGER SONG RIDER(シンガー・ソング・ライダー)!!! 』

 

「うおあああああああぁぁぁ!!」

「──翔!?」

 

サウンドが、怒りのままに突貫する

そしてそのままマッチ怪人:トーチテラーに

不意打ち同然に殴りつけた

 

『ぐお!?なんだ!?』

「おぉおお!!」

 

倒れ込んだ相手に馬乗りになり

その顔面に拳を叩き込む

叩き込む!叩き込む!

 

『がっ、ぐぉ・・・放せぇ!!』

 

さすがにテラーの方もそのままでは終わらない

体をねじらせ、サウンドを振りほどく

 

『ハァ!!』

 

トーチテラーが手を翳す

サウンドの頭上、空中に炎が現れた

 

テラーが手を振り下ろす

炎は大量の針の形を取りサウンドへと降り注いだ

 

「ぐぁ!?」

 

頭上からの火の雨に降られたサウンド

地面に落ちた火は爆発し、サウンドを吹き飛ばした

 

「──翔!大丈夫か?」

 

吹き飛んだサウンドに対しアクトが駆け寄り

その肩に手を置く

しかし──

 

「うるさい!!」

「うわっ」

 

「おおぉぉおお!!」

 

サウンドはそんなアクトの手を振り払い

ギターランスを構え、再度突貫していく

 

こちらの話を聞いていない、

完全に頭に血が昇っている!

 

「──雄飛!」

「!?杏奈さん!この人達を頼む」

 

「え!?ちょっと!」

 

やけどを負った人たちを後から追いついてきた杏奈さんに任せ

アクトもテラーに向かっていくのであった

 

「おぉお!!」

 

サウンドがテラーに飛び掛かる

乱雑に槍を振るい、怒りのままに攻撃を叩きつける

その有無を言わさぬ勢いに気圧され

テラーも攻撃を食らっていく

しかし──

 

「はぁ・・・はぁ・・・!」

 

どんどんサウンドの息が切れる

明らかにペースを考えていない

 

攻撃の手が緩んだ

テラーはその隙を逃さず反撃に移る

 

『ぐぅ・・・!ぬぁ!』

 

左手に炎が集まる球状になったそれを

カウンター気味にサウンドに叩きつけた

 

周りも見えていないサウンドはそれをまともに受け吹き飛ぶ

二者間の距離が開いたことをいいことに

さらにテラーが手を翳す

前方に大き目な炎の槍が形成される

 

吹き飛ばされ体制を崩されたサウンドに

固定された槍が解き放たれた

 

サウンドに向かい行く槍

このまま突き刺さるのかと思われたその時

 

「はぁ!」

 

その横から割り込むように参戦したアクトが

その攻撃を蹴り飛ばした

 

『何!?』

「行くぞぉ!!」

 

今度はアクトがテラーに向かいゆく

 

テラーの手に再度炎が集まり、

突っ込んできたアクトにそれをぶつけようと振るう

 

振るわれる腕を掻い潜る

おそらくだが、能力的に遠距離の方が得意なのだろう

その近距離戦闘能力はそこまで高くはなく感じた

 

攻撃を掻い潜り、その体を殴りつける

一発、二発と攻撃を与え、怯んだところに

手に力を込める、風が集った手で

強力な一撃を叩きつけた

 

「邪魔だ!!」

「うわっ」

 

さらに追撃と行こうとしたところに

サウンドが復帰する

アクトを前に立っていたアクトを押しのけ

テラーに向かっていった

 

アクトの一撃で怯んだテラー

そこにサウンドがさらに切り付ける

叩きつけるような重い連撃がさらにテラーを痛めつける

 

「らぁ!!!」

『ぐっお!?』

 

全力の横薙ぎがテラーを捉え、その体を大きく吹き飛ばす

その隙が、命取りとなる

 

POP UP SOUND(ポップ アップ サウンド)!!!』

BURNING ROCK(バーニング ロック)!!!』

COOL SO RAP(クール ソー ラップ)!!!』

『POP!ROCK!RAP!』

BEST HIT MEDLEY(ベスト ヒット メドレー) !!!』

 

「うぉおおおおおおおお!!!!!」

 

『させるかぁ!』

 

テラーが巨大な炎の塊を作り出す

 

「らぁああ!!」

 

ギターランスから放たれた一撃と

巨大な炎がぶつかり合い、大爆発を起こす

 

爆炎が収まる

──まだ倒せていない

サウンドは止めを刺すべくテラーのいた地点に駆ける

 

しかしそこには既に何もいない

爆炎に乗じてテラーはすでに撤退していたのだ

 

「・・・どこいった!!出てこい!!

 逃げんな!!・・・おい!!」

「落ち着けって!!翔!!」

 

怒りが収まらないと言わんばかりに

槍を振るい荒れるサウンド

 

アクトはそれを取り押さえようとするも

 

「うるせぇ!!

 ・・・あっちかぁ!!」

 

サウンドはそれを振り払い

テラーの逃げたと思わしき方角へ走り去ってしまった

 

「──翔、どうしたんだ・・・一体」

 

「──雄飛!」

 

途方に暮れるアクト

そこに聞こえてくる声、声の主は杏奈であった

 

「杏奈さん!けが人は!?」

「全員運んだ!・・・そっちは?」

 

「・・・逃がした、それより翔がやばそうだ

 僕も行くね!」

 

「あ、ちょっと!」

 

そう言うとアクトもまた翔を追いかけて走り出す

よく分からないが、今の翔を一人にさせるのは

非常に危険だと感じたのだった

 

「行っちゃった・・・

 追いかけるこっちの気も知らないで!」

 

一人取り残された杏奈、

一息つく暇もなくまた追いかけさせれられるのかと辟易していると

 

『なら、私と話でもどうかな?』

 

その背後に、何者かが姿を現した

 

 

『はぁ・・・!はぁ・・・!

 何なんだあいつは・・・!』

 

トーチテラーは、仮面ライダーに付けられた傷を庇いながら

物陰を走り逃げていた

 

アクトに殴られた箇所もそうだが

何よりサウンドが怒り任せに叩きつけてきた傷だ

 

深い切り傷を受けた体を、とにかく休ませねば

幸い、爆炎に乗じて逃げられたのだ

このまま身を隠して・・・

 

『来たか』

『!?』

 

いきなり声が聞こえて、身構える

まさかもう追いついてきたのか!?

 

しかし、視線の先にいたのは仮面ライダーではなかった

 

『なんだ・・・ストーリーテラー様でしたか』

 

視線の先にいたのは、サンそして連れられたラストであった

追手が来たのではないことにテラーは安堵する

 

『さぁ、やってみると良い』

『しかし・・・こいつは母さんが作ったものだ・・・

 勝手なことは・・・』

 

『構いはしない、お前はクイーンのお気に入りだろう?

 お前のためになることをあいつが否定するか・・・?』

『・・・いや、そんなはずはない』

 

何の会話をしているのか、トーチテラーには見当もつかない

しかし、今このタイミングで出会えたのは運が良かった

 

『助かりました、私は少し休ませて・・・』

 

そういって振り返り、逃亡を続けようとしたその時

ドスリと何かが音を立てた

 

『・・・は?』

 

──腕だ、自分の体から腕が伸びている

一体・・・何故?

 

『あっ!?・・・ガァ・・・!?』

 

逃亡しようとしたトーチテラー

ラストはその背後に自らの腕を突き立てていた

何かを探るようにテラーの体内をこねくり回す

 

「私はもっと強くなる・・・そう望まれている!!」

「故に・・・お前の力を貰う!!」

 

『何を・・・!?』

 

ラストが腕を引き抜く

その手には、一枚のチケット

怪人の体から、その核であるチケットを強引に引き抜いたのである

 

「これが・・・力・・・!」

 

『あっ・・・・グァォ・・!』

 

核となるチケットを引き抜かれたテラーが存在できる道理はない

ボロボロとその体が崩れ落ちていく

 

そして、テラーが消え去ったその場所には

テラーにされていた一人の男が残っただけであった

 

「・・・う・・・ん・・?

 ここは・・・?

 ・・・!?誰だ!君たちは!?」

 

男が目を覚まし、二人の姿を認識する

突然目が覚めたら暗がりにいて、その場所に怪しい二人

見るからに不審だったのだろう

誘拐犯とでも思ったのか二人を口うるさく非難し始めた

 

「わ、私に何をしようというのかね!

 こんなことしてどうなるか分かっt」

『うるさい』

 

サンが男に手を翳す

 

次の瞬間、男の体が燃え上がった

 

「・・・!?・・・!・・・!!」

 

男は声も発せずに藻掻く

しかし、もはやそんなことで消える火ではなく

やがて燃えカスとなり動かなくなった

 

『・・・あぁ・・・良い』

 

サンという男はその様子を見て

恍惚とした表情を浮かべるのであった

 

 

「そこかぁ!!」

 

そして、そんな場にサウンドが乗り込む

しかし、目当ての怪人はもういない

 

その場にいたのは

 

『ん?・・・仮面ライダーの片割れか?』

「・・・ちょうどいい、新たな力を試してやる」

 

サウンドの前にラストが躍り出る

そして、先ほどテラーから引き抜いたチケットを起動した

 

MIRAGE TORCH(ミラージュトーチ)

「!?」

 

敵が取り出した新たなチケットにサウンドが身構える

ラストは起動したチケットを

ドライバーに差し込み

 

グリップを握った所で

「!?」

 

──全身が痺れるような痛みを感じる

思わずグリップから手を離し膝をついた

 

『無理をするな』

「何・・・?」

 

そんなラストを見かねて、サンが前に出る

 

『そのチケットはお前が使っているのとは違い

 調整されていないからな』

『ここは、俺が手を貸そう』

 

そう言うと、サンが懐からチケットを取り出した

 

太陽と風(サン・アンド・ウインド)

 

『・・・怪演』

 

サンが自身の体にチケットを突きさす

チケットが肉体に取り込まれていき

 

そして、体が突然燃えだしたのだ

炎に飲み込まれた中で、その姿が変わっていく

 

『ハァァァァ・・・』

 

そして、炎が収まったその場所には

初見の、新たな怪人が姿を現していた

そう、

まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「・・・。」

 

サウンドはその光景に目を疑う

──いや、新たな怪人ではなかった

なぜなら、その姿は

 

つい昨夜見た、ナニかのその姿に

 

そっくりそのまま合致したのだから

 

「あ・・・ああああああ!!!」

 

サウンドが駆けだす

既にラストのことなど目に入らなかった

 

現れた怪人のその眉間に向け

全力で、槍を振り下ろした

 

「お前か!!・・・お前かあああああああ!!!」

『・・・ん?』

 

サンがその槍を受け止める

しかし、相手の反応に面を食らう

ここまでの怒り狂う様子は、想像ができなかった

 

「お前が!!!焼いたのか!!

 皆を!!皆を!!」

 

『ん?・・・今日はまだ一人のはずだが・・・?』

 

思い当たる節は今日はない

しかし──

 

『・・・いつか殺しそこねたか?』

 

その一言で十分であった

 

「──!!ぶっ潰す!!」

 

攻撃を弾かれる

それでも食らいつくように

サウンドはまた、であったサンに切り掛かっていくのであった

 

そんなところに、また何者かが走り込んでくる

それは──

 

「──ここか!?」

 

サウンドを追いかけてきたアクトであった

戦闘中のサウンドを発見したアクトは

見たこともない怪人と戦うサウンドに面を食らう

 

「──翔!?・・・何だあの怪人?」

 

とにかく加勢しなければ

アクトもまた怪人の方に向かおうとしたその時

 

アクトの目の前にラストが立ちふさがった

 

「──ラスト!」

「お前の相手は・・・私だ・・・」

 

ラストが痺れる体を無理やり押さえつけ

ドライバーから、グリップを引き抜いた

 

「変身」

 

Last UP(ラスト アップ)

『What The Fire Showed Was All Illusions』

MIRAGE TORCH(ミラージュトーチ)

 

ラストの体が変わる

最初の姿と変わり、今度は頭にかぶさるほどの

赤いフードと肩マントが装着され

アーマーはまるで木製にでもなったかのような

文様と色にその姿を変えたのだ

 

『Fist』

 

グリップから炎が漏れだす

それを握りしめ、ラストはアクトに突っ込んだ

 

炎を纏った拳がアクトに振るわれる

それを腕でガードするも、その腕を高熱が襲った

 

「っ・・・炎!?」

 

ラストが腕を広げる

その背後に、炎で出来た剣が複数本現れた

 

「ハッ」

 

アクトに向け手を突き出す

次の瞬間、炎の剣がアクトに襲い掛かった

 

「うわっ!・・・これってさっきの!?」

 

間違いない、この技はさっきのテラーの物だ

一体なぜ彼が!?

 

しかし、そんなことを考える暇はない

ラストが襲い掛かってくる

 

攻撃を捌きながら対策を考える

翔は──

 

「おらぁ!!」

『おおぉ!!』

 

相変わらず荒々しい戦い方を続けている

いや・・・むしろさらに酷くなっている!?

 

このままでは、不味い気がしてならない

 

何とか翔を止めなければ・・・

 

 

その時──

 

()()()()と何か異音が聞こえ始めた

 

「──今度はなんだ!?」

 

そうしてアクトは周りを見て、絶句した

辺りの風景が一変していたのだ

 

先程まで、晴れていた快晴だったはずの風景が

荒れ狂う猛吹雪に変わっていたのだ

 

そして、パキリパキリと

何かがこちらに近づいてくる

 

それは、まるで氷の結晶を散りばめたかのような

女性の姿をした怪人であった

怪人が歩を進めるごとに

大地が凍てつき、吹雪が強くなる

 

仮面ライダーでも凍えてしまいそうだ

 

『あ・・・・あああ・・・・!!』

 

氷の怪人:スノーテラーはまるで苦しむかのように体を丸め込む

しかし、そんな仕草とは対照的に

その氷結は、近くにいたアクトとラストにまで押し寄せる

 

「うわっ・・・」

 

何とかラストを押し返し、氷結も回避する

 

ラストの相手だけではなく

このテラーまでも同時に相手をしないとならないのか

 

そうしてテラーに対し、構えるアクト

 

それに対し、テラーが口を開く

その言葉は──

 

『ゆ・・・・うひ・・・逃げ・・・!』

「!?」

 

思いもよらぬ言葉であった

 

「まさか、──杏奈さん!!?」

 

 

[続く]

 

 




次回 仮面ライダーアクト

杏奈の身に何が
「ふざけるな!あんたと取引することなんてない!!」

翔の怒りとは
「あいつの戦う理由は、偏に・・・復讐だ」

「世のため人のためで戦ってるお前とは違うんだよ!!」
「・・・お前は、なんも分かっちゃいない!」

サウンドよ、なんのために戦う?
「今の俺は・・・とんでもなく!腹が立ってる!」
『Heat Up』『GIGA SOUND!!!』

第18章[Fortissimo(フォルティシモ)<より強く>]


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第18章~Fortissimo(フォルティシモ)<より強く>~

時は少し遡る──

 

「・・・逃がした、それより翔がやばそうだ

 僕も行くね!」

 

「あ、ちょっと!」

 

「行っちゃった・・・

 追いかけるこっちの気も知らないで!」

 

追いかけて、ようやく追いついたと思ったら

雄飛はまたこちらを放って走り去ってしまったのだ

切れ切れになった息もまだ整っていないのに

また走らせるのかと恨み節が漏れる

 

『なら、私と話でもどうかな?』

「!?」

 

その時だ──

背後から、突然声が聞こえたのは

 

「あんたは──!?」

「こんにちは──風間杏奈さん」

 

プロトアクトを、父を連れて現れた

ストーリーテラー、その一人であった

 

「ブルー!」

「おっと、知っていたか

 そう、私はブルーと名乗っている」

 

後ずさる、雄飛はすでに行ってしまった

自分に戦う力はない

この場で自分にできることは逃走だけ

 

すぐにでも走り出そうと足に力を込める

しかし──

 

「だが──」

『かつては、()()()()()()()()()()()()

 

「!?」

 

その言葉は、杏奈の足を止めるには十分な言葉であった

 

「青・・・山・・・博士・・・?」

『そう呼ばれるのも、懐かしいね』

 

その名前は、叔父から何度も聞いた名だ

かつて、父と叔父が敬っていた科学者

テラーを生み出した、研究者

 

この戦いを生み出した、最初の怪人の名前

 

「あなたが──!」

『そう、僕が青山秀幸だ』

 

全ての元凶ともいえる男が

杏奈の目の前に立っていた

 

『今日は、君と話をしたくてね』

「何を──」

 

彼が、仮面ライダーではなく自分を訪ねてきた

一体何のつもりなのか、見当はつかない

──いや、一つだけ思い当たる物があった

 

『・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「──。」

 

父の、風間大吾の容体

それは自分にも彼にも密接に関係している

 

「っ誰のせいで──!」

『おっと、そう怒らないでくれ』

 

そして、父の容体は悲しくも彼の言った通りだ

病院の治療、叔父の研究も虚しく

その意識はまだ戻っていない

 

当たり前だ、その精神は一度仮面ライダーで塗りつぶされている

現代医術でも、眠った人間の心まではそう易々と修復できない

 

『そのことで話しに来たんだ

 ──取引をしないか?』

「!?」

 

そういって、青山は懐から何かを取り出す

それは、少し煤けてはいるが

何かの機械部品のようであった

 

『プロトアクトのベルトに搭載されていた

 ()()()()()()()()()()()()()()()

「な──!?」

 

それは、思ってもいない言葉であった

 

『現代技術で、外からの施術だけで

 その精神を直すのは困難を極めるだろう』

『・・・だが、人間が内側から自己で修復する分には未知数だ』

「何を──」

 

つらつらと青山は言葉を連ねていく

突然の話に杏奈の脳は処理しきれずに聞きっぱなしになる

しかし──

 

『今の大吾は、本来の精神が壊れ

 付け加えていた仮面ライダーの精神が消え、空のような状態だ』

『そこに、このデータを信号として脳に送る

 本来の精神、そのパーツが大吾の中に入る』

『それをつなぎ合わせて、修復も可能かもしれない』

『──目を、覚ますかもしれないな』

 

目を覚ます

その言葉だけは、深く耳に焼き付いた

 

「何が・・・目的なの・・・?」

 

混乱している頭で声を絞り出す

彼の目的が分からない

何の得があって

 

『言っただろう?取引したいって』

「──何をさせる気・・・?」

 

『・・・気にすることは無い、まずはこれを受け取ればいい』

 

そういって、部品を持った手をこちらに差し向ける

罠かもしれない、それでも彼の言葉には甘美さがあった

 

杏奈はそれに引き寄せられるように手を伸ばす

そして、その手が部品に触れそうな距離

杏奈はその手を

 

「・・・!ふざけるな!あんたと取引することなんてない!!」

 

()()()()()()()()()()()

そうだ、彼は既に怪人であり酷いことを多くやってきた

どれだけ、甘美な言葉を並べても

絶対にその誘い乗ることは杏奈の心が許さなかった

 

振り返り駆けだす

交渉は蹴った、このまま彼と相対しているのは危険だ

とにかく、離れる必要があった

 

『・・・やれやれ、()()()()()()()()()()

 

走り、目の前の建物の影に隠れるように角を曲がる

雄飛達の元に急がないと

そう急ぐ杏奈はさらに角を曲がった

しかし、その思いも虚しく潰える

 

「っう!?」

 

曲がった瞬間、自分の体に衝撃が走る

その目の前には

 

『残念♪』

 

ストーリーテラー、クイーンが自分に腕を突き立てていた

そして腕は引き抜かれる、次の瞬間

杏奈の体に収められたチケットが

その体を変異させていった

 

人間的な肉体が、青く透き通る氷のように

どこか、女王を思わせるフォルムの怪人に姿を変えていた

 

『よくやってくれた、クイーン』

『あら、いいのよ・・・でも、この子でよかったの?』

 

杏奈が氷のテラー:アイステラーに姿を変えた後

ブルーがその場に現れる

彼からしたら、ここまで予想通りだったのだろう

 

しかし、クイーンは解せない

どうせテラーにするなら、

こちらではなく仮面ライダー達でもよかっただろう

 

『いや、こちらの方が都合がいいんだ』

 

そういって、テラーにブルーが手を伸ばす

しかし、その手がテラーを触れることは無かった

 

『・・・っ!!』

『──あら』

『おっと』

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

体がうまく動かないのだろう、すぐに振りほどかれたが

 

振り放されたテラーがブルーをにらみつける

その目には、敵意が光っている

 

『・・・ガラスの怪人(サンドリヨン)の時と同じか』

『意外と自我が強いのねぇ』

 

そう、大木の際と同じである

杏奈もまた、テラーに変異しようとも

その精神を奪い取られることは無かったのだ

 

『ッハ・・・ッハ・・・()()()

 

テラーが振りほどかれた手を見る

その手には、先ほど見せつけられた部品が握られていた

 

『何!?』

 

転んでも唯ではというやつだろう

テラー化してしまったことを逆手に取り

杏奈はそれを奪い取っていた

 

再度振り返り、よろけながら駆けだす

また、逃げるつもりなのだろう

 

しかし、慣れない体では速度が出ない

 

『クイーン』

『はーい』

 

そこに、クイーンは取り出したトランプを投げつけた

 

『っが・・・ぐぁ・・・!?』

 

トランプが突き刺さり、再度杏奈の体に変化だ起こる

銀の鎧のような装飾がつけられていく

 

そして、何より

彼女の足元が、周りの建物が

凍り付き始めたのだ

 

『あら、大分暴走してるわね』

『ふむ・・・まぁいい、受け取ったからには

 取引ということで・・・働いてもらうぞ』

 

 

『ゆ・・・・うひ・・・逃げ・・・!』

「!?」

 

 

「まさか、──杏奈さん!!?」

 

あの少しの時間で、一体何が

そう考えたのも束の間

 

急激な冷気と氷結が再度

 

「うわ!?」

「っく!」

 

アクトとラスト

 

さらには

 

「──!?」

『氷だと!?』

 

離れていたサウンドとサンにまで襲い掛かった

 

「杏奈さん!杏奈さんなんだろ!!やめてくれ!」

 

氷を回避し、何とか止まるように呼び掛ける

しかし、返ってくるのは苦しむような呻き声だけ

 

大木さんの時のように

怪人化していても、意識は保っているにも関わらず

体が勝手に動いている、つまりは暴走状態であった

 

『この出力、暴走か?

 ──このまま長引けば、命も危ういぞ』

「!?」

 

その様子を見て、サンが言葉を漏らす

その言葉は、アクトにとっても聞き捨てならないことであった

 

「くそぅ!!」

 

何とか止めようとそちらに駆けだそうとする

 

「どこを見ている!」

「うわっ!?」

 

しかし、そうして背を向けた次の瞬間

ラストはその拳をアクトに振るう

不意打ちを回避するも、またもラストとの組合になってしまう

 

ラストが邪魔で、アイステラーに接触できない

 

チラリと離れたサウンドを見る

しかし、サウンドの方もやはりもう一人の怪人の方にしか目が向いていない

 

このままでは、不味い

あの状況の杏奈さんがどれだけ危険なのかはわからないが

それでも、あの状態が続くのはいけないだろう

 

早急に手を打たなければ

しかし、手が足りない

 

『ぐ・・うぁああああ!!!』

「!?」

 

そうしているうちに、再度アイステラーが広範囲の氷結を発動する

組み合っていたラストを引き剥がし回避する

 

「ッチ・・・邪魔をするな!!」

 

すると、2度も邪魔をされたラストの矛先が

アイステラーへと向く

 

二本の炎の剣が生み出され、その氷の体に向けて射出される

 

その時、アクトの脳裏に浮かんだのは

かつて、大木さんの時に出てきた情報

"そのまま倒して、()()()()()()()()()()()()()()()"

 

「不味い!」

 

急いで体を飛ばし、テラーと炎の間に躍り出る

大木さんと同じ状況なら、そのまま倒しでもしたら

杏奈さんの精神が危険だった

 

二本の内一本を叩き落とす

しかし、咄嗟のことだったのもありもう一本は間に合わない

結果、炎がアクトの体に直撃した

 

仕方がないとはいえ、痛い物には変わりない

衝撃に吹き飛ばされる

 

「余計な邪魔を──」

 

ラストが再度構えようとしたその時

 

『!?──うぁ・・・あああ!!』

 

目の前の光景のショックで押さえが効かなくなったのか

またもテラーが広範囲の氷結が起こす

しかも、先ほどまでとは比べ物にならないスピードで、だ

 

「──!?」

 

氷が敵味方関係なく、付近で戦う4人を纏めて氷の中に閉じ込める

そして、固まり切った瞬間に

氷がはじけ飛ぶように、内から炸裂した

 

巻き込まれていた4人が、氷が砕けると共に

その衝撃に吹き飛ばされ、一様にダメージを受ける

 

凄まじい範囲と、威力の攻撃である

一体どんな、チケットを差し込まれたのだろうか

 

そんな中、一足早くラストが立ち上がる

 

「また、邪魔を・・・」

 

完全に、テラーに対し標的を定める

そして、腕を振るおうとしたその時

 

「!?・・・ぐっ!?」

 

ラストの体から、火花が走る

まるで、機械がショートしたかのように

その体にスパークが走り始めた

 

「何が・・・ぐっ!?」

『無茶をしすぎたな』

 

サンが、ラストの体を担ぎ上げる

 

「放せ・・・まだ」

『一度引くぞ・・・その体で何ができる』

『そのテラーも回収しておく』

 

 

「待て、てめぇ・・・!」

 

サウンドが恨みがましく吠える

しかし、そんなことには意を返さず

ラストとサン、そしてアイステラーはその姿を消してしまった

 

「待てって言ってんだろ・・・!」

 

変身を解いた翔が、体を引きずりながら歩きだす

 

「待て翔!・・・お前も待てって」

 

同じく、変身の解けた雄飛は

もはやそれを追いかける気力もなく

その場で意識を手放した

 

 

目を覚ますと見覚えのある天井が広がっていた

 

「テアトロ・・・?」

 

「おお!雄飛君目が覚めたかい!」

 

そういって部屋の外から顔を覗かせたのは

大木さんであった

彼がここまで運んでくれたのだろうか

 

「いやぁ、いろいろと物音が響いてたから覗いたら

 君一人でぶっ倒れてるんだもの、驚いたよ」

 

どうやらそうらしい

 

「大木君、彩羽君は起きたか?」

「──音石さん?」

 

話し声に反応して、音石博士が顔を出す

いるのは、珍しいがなんの用だろうか

 

「翔の奴に渡すものがあってな

 ・・・それで、あいつはどこに」

 

「・・・あー、それが」

 

頭を抱える、一体どこから説明したものか

しかし、離さない訳にもいかない

これまでの経緯を含め話していく

 

翔が突然怒りだし、周りが見えなくなったこと

杏奈さんが、テラーにされてしまったこと

翔が、消えたテラーを追いかけてどこかに行ってしまったこと

 

「まさか、風間さんが・・・」

 

「怒り出す?・・・周りも見えなくなるほど?」

 

2者の反応はそれぞれであった

しかし、その中で音石はある仮定に行きついていた

 

「まさかあいつ、当たりを引いたのか!」

 

──当たり・・・?

音石さんが反応を示した言葉について

聞き出さないとならない

 

どう見ても、あの時の翔の様子はおかしかった

 

「そうだな・・・しかし・・・」

「いや、話そう。あいつに一緒に戦うのなら知っておくべきだ」

 

そうして、音石博士は話し始める

 

「翔が、仮面ライダーになった理由についてだ」

 

「8年前に、ある地方で連続の放火魔事件があったことを知っているか?」

 

「あぁ・・・一時期話題になっていたね

 確か、常人では不可能な範囲での連続だったせいで

 複数犯が疑われてたとかなんとか」

 

放火魔事件・・・

そういえば、あの時の翔は火にやけに怒っていた

・・・まさか

 

「あいつは、というよりはあいつの友人達はその被害者だ」

「「!?」」

 

「その時の私は、その犯行の特異性もあって

 テラーの犯行を疑って、独自調査をしていたんだがな」

「あいつは、そんな私をどこからか知って訪ねてきたんだ」

 

「"火の怪人"を知っているかってね」

 

火の怪人・・・?

 

「火事に襲われた日に、あいつが崩れる現場でその姿を見たってね」

「私も、それを聞いて確信したんだ」

 

「犯人はまだ捕まっていない

 当たり前だ、何せ怪人なのだから」

「あいつの戦う理由は、偏に・・・復讐だ

 その怪人へのな」

 

火の怪人──

先程の戦いを思いだす

 

ラストと共にいたあの怪人

その姿を

──まるで、炎を纏ったような風貌をしていなかったか

 

「!?それはほんとか!」

 

おそらく、翔は見つけたのだ

その放火事件の犯人を

復讐対象を

 

「・・・あいつは、戦う力を求めた

 私にとって、彼は自分の作るベルトに丁度良い素養を持っていた」

 

「そうして、あいつは仮面ライダーサウンドになったんだ」

 

「なんてことだ・・・新田君にそんな過去が」

 

大木さんが信じられないと驚いている

自分もそうだ、彼のあの明るい性格から

そんな暗い理由が出てくるとは思ってなどいなかった

 

「あいつも、この話はしたがらないだろうしな」

「復讐目的なんて、まぁあまりいい物ではないと思っているんだろう」

 

音石さんがこちらに向き直る

 

「それで、これを聞いて君はどうする?」

 

──そんなの決まっている

 

「とにかく、話してきます

 杏奈さんを助けるためにも、あいつの協力が必要だ」

 

そういって、店を飛び出す

とにかく、会って話だ

それで、そうだな──

 

一発、殴ろう

 

 

「・・・どこに行った、あの怪人・・・!」

 

翔は、町を駆けずり回りながら

サンを探していた

 

しかし、成果は出ない

せっかく、(かたき)が見つかったというのに

これでは、苛立ちが募るばかりだ

 

「見つけた」

「何!?──どこだ、どこにいる!」

 

辺りを見回す、しかしそこに姿はない

・・・今のは誰の声だ?

 

「見つけたのは、こっちだよ」

「──雄飛」

 

さすがに少し頭も冷えた

しかし、だからこそ

今、あまり会いたくなかった人物が目の前に立っていた

 

 

走り回ってようやく見つけた翔は

どこか嫌な顔をしながらこちらを見ていた

 

「杏奈さんが怪人になってしまった

 ・・・手を貸してくれ」

「!?」

 

・・・やはり気づいてなかったか

どれだけ前が見えてなかったのだ

 

「・・・!!」

 

押し黙って、頭を抱えている

どうすればいいのかを悩んでいるのだろう

杏奈さんを助けるのが先か、

それとも・・・自分の復讐を優先するのか

 

そうして、少し言い淀んだ後に

 

「・・・今、忙しいんだ

 そっちでやってくれ」

 

そういって、立ち去ろうとする翔

 

しかし、そうはいかない

こちらの話は、何一つ終わっていない

 

「分かってるのか!助けないと

 また、友人を無くすんだぞ!!」

 

「!?・・・聞いたのか?」

 

翔が足を止めて、こちらを睨む

 

「あぁ、聞いたよ・・・なんで言わなかった?

 言ってくれればいくらでも」

「手伝ったって・・・?・・・ふざけんな!!」

 

怒り込み上げたかのように声を荒げ

こちらを見る

 

「俺はこれが目的なんだよ!!最初っから!!」

「あいつを倒すのが目的で戦ってきたんだ!」

 

「あの犯人がのうのうと生きてるのが辛抱ならねぇ!」

「ぶちのめして、償わせねぇと満足できねぇ!」

 

「そう思って!仮面ライダーになったんだよ!!」

 

詰め寄って、こちらに掴みかかる

その言葉には、悲しみも怒りも

いろんなものが混ざり合って聞こえた

 

「世のため人のためで戦ってるお前とは違うんだよ!!」

 

「俺にとっちゃあ、人助けよりも先に

 あいつを倒す方が先なんだ!!」

 

「・・・。」

 

荒れた息で肩を上下させながら

翔がそこまで言い切る

 

そうか、よくわかった

お前がどれだけ相手を許せないのかも

どれだけこの機会を待ち望んだのかも

 

自分に掴みかかった翔の腕を掴み返す

そして──

 

「フン!!」「ぐぉ!?」

 

思いっきりぶん殴った

 

「何すんだ!」

「・・・お前は、なんも分かっちゃいない!」

 

言い分は分かった

その上で、こちらとしても言いたいことを言わせてもらう

まずは──

 

「お前は、俺を聖人君主かなんかだと思っているのか!?」

「あんな話を聞いて・・・俺が怒ってないと思ってるのか!!」

「・・・?」

 

そうだ、罪のない人々をいたずらに殺して

今も何か企んで悪さしている

そんな奴を自分が許すと思っているのか

 

「俺もどうにかしたいに決まっているだろうが!!」

「・・・なら、なんで!」

 

自分を止めるのかって・・?

そんなの決まっている

 

「お前が杏奈さんの方を諦めてるからだ!」

「なんで、復讐を優先して

 後から後悔しそうな方を選ぶんだ!!!」

 

「だから、俺は復讐の方が先で・・・」

 

()()()()()()()()()()()()()()!!」

「──!」

 

そうだ

自分一人で好き勝手戦って

片方しかやろうとしてない所が問題なのだ

 

「個人的な復讐なんかに巻き込めないとでも思ってるのか!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 どっちもやれるかもしれないだろ!!」

「──。」

 

何のために2人の仮面ライダーがいると思うのだ

協力し合うためだろう

 

1人で戦って逃がす可能性があるなら

もう一人が逃がさないようにすればいい

1人で助けて取りこぼす可能性があるなら

もう1人がそれを助ければいい

 

復讐が暗い理由だから

人助けが明るい理由だからとかで

それをやろうとしないのが問題なのだ

 

「俺は、助けるのに手が足らない!」

「そっちはどうだ!倒すのに手が足らないんじゃないのか!」

 

「なら協力すれば足りるかもしれんだろう!」

「・・・。」

 

そこまで言った、その時

遠くの風景が突然変わる

遠くに見える高層ビル

その一角が、突然高い雪山に早変わりしたのだ

 

「「!?」」

 

その光景に雄飛は確信する

──テラーが、また現れたのだ

 

「──俺は行くよ」

 

こっちも言いたいことは言った

後は、翔次第だ

 

駆けだす、こちらとしてはまずはテラーだ

おそらく、大木さんの時のようなことはできないだろう

それでも、何とかしなければなかった

 

雄飛が走り去る

 

「・・・杏奈君を助けに行かないのか?」

「!?──博士」

 

いつの間にかやってきていた音石は

翔に話しかけていた

 

「俺は・・・」

「──復讐を捨てろとは言わない

 ・・・見つけ出したのはお前だが

 こちらに引き込んだのは私だ」

 

音石は翔にそう語りかけていく

 

 

「だが・・・だからこそ使える物は使うべきじゃないか?」

「・・・え?」

 

「人間誰もが誰かを利用するものだ

 私も・・・彼もな」

 

「目的があるなら、手段を選ぶな。

 だが・・・なにしも非情だけが最短じゃあない」

 

そういって、音石は懐は何かを取り出す

それは、まるで小型のスピーカーのような

分厚く、角ばった何かのツールだった

 

「助けて、勝て。私も、そのために作ったつもりだ」

 

まぎれもない、サウンドのためのアイテムであった

 

 

程よい暖かさを含んだ穏やかな気候

何もない平和な一日であった街中に

突如として強烈な冷気が流れ出した

 

道が建物がどんどん温度を奪われ

凍り付いていく

 

『これは・・・予想以上だな』

 

サンはこの場に連れてきた

アイステラーを見てその力に驚いていた

 

下手に理性的に使ってもここまで強力にはなかなかならない

暴走という例外的な条件だからこそ

ここまでの力をこれほどまでの出力で行えているのだろう

 

人々が悲鳴を上げながら逃げ惑う

しかし、その背後から氷が伸びてくる

 

そして、逃げ遅れた人の足にまでそれが伸びようとしたその時

 

「でぁあああああ!!」

 

強烈な風を巻き上げながら放たれるキックが

波のように押し寄せる氷に叩きつけられた

めくれ上がるように吹き飛ぶ氷片

 

市民にまで及びかけたその氷を

アクトは吹き飛ばして守っていた

 

『来たか、仮面ライダー』

「いくぞぉ!!」

 

市民が逃げ切るのを見届け

アクトがサンに突撃する

 

暴風と火炎がぶつかりあい

膨大な熱波を発生させ

凍り付いた周囲がその地点だけ一気に溶け上がった

 

『あっ・・あうううぅう・・・!!』

 

それに反応してしまったのか

スノーテラーがそれを超える冷気を放つ

溶けて地表を露わにしていた大地が

一瞬の内に凍り付いていく

猛烈な吹雪が、戦う2人の元に吹きすさぶ

 

そして、サンは行動に移る

アクトを自分とスノーテラーの間に立つように立ち回る

 

『ハァアアア・・・ハァ!』

 

そして、組み合っていたアクトを引き剥がしたと思えば

その手から、すさまじく猛る火炎を放つ

 

火炎を風で防ぐ

しかし、背後に凄まじい冷気がぶつかる

 

背後からの吹雪と前方からの火炎の挟み撃ち

暴走とはいえ、あくまでテラーとライダーの2対1である

サンは暴走するスノーテラーを上手く使って

戦況を優位に立ち回る

 

体が凍える衝撃に手が緩む

防ぎ漏らした火炎もまた

アクトへと襲い掛かった

 

「うあぁあああ!!」

 

冷気と熱気の両方をその身に食らい

アクトがその膝をついた

 

サンがその手を掲げる

その手に火が集まり

バスケットボール大の巨大な火球を作り出す

 

あんなものを喰らえば一たまりもない

しかし、膝をついた体は動かない

凄まじいダメージが彼の体を動かすことを阻害する

 

火球がアクトに振り下ろされようとしたその時──

ゴウと音を立て、サンの立場所に何かが飛来した

 

『!?』

 

火球を消し、その場を離れる

次の瞬間には、その場に轟音を立て

ギターのような形をした、槍が突き立っていた

 

「・・・はぁ・・・はぁ・・・!」

 

サンとアクトが槍が飛来した方を見る

そこには、駆け付けて肩で息をする

新田翔の姿があった

 

「・・・!」

 

サンを見据え、ギリィと歯噛みする

自分の友人たちのその命を奪った相手がそこにいる

怒りに震える体が、今すぐにでも相手に飛び掛かろうとする

しかし、翔はそんな体を押さえつけて

 

「──雄飛ぃ!!」

「!?」

 

アクトの、彩羽雄飛の名前を呼んだ

そう、サン以外の名前を呼んだのだ

 

()()()()()()()()()()()

 逃がしたら承知しねぇからな!!」

『・・・何?』

 

サンがいきなりの言動に驚いていると

突然横から衝撃が走る

立ち上がったアクトが、目の前に突き立つ

ギターランスを抜き去り、サンの体に切り付けたのだ

 

『ぐお!?』

「──ああ!!」

 

アクトがギターランスを翔に投げ返す

翔はそれを掴むと地面に突き立て

──スノーテラーの方に向き直った

 

「風間ちゃん・・・勘弁な」

 

そして、何かを取り出す

それは、音石が翔に託した

新たな力の起動キーであった

 

「今の俺は・・・とんでもなく!腹が立ってる!」

「・・・だから、八つ当たりだ!!」

 

Heat Up(ヒートアップ)! GIGA SOUND(ギガサウンド)!!』

 

分厚い、角ばった箱のようなアイテムを起動する

その側面から、半身のディスクのようなコネクタが現れた

サウンドライバーに、コネクタを突きさす

刺さり切らない、四角の装飾は

まるで、音を増幅し鳴らしだすスピーカーの様だった

 

Caldissimo(カルディッシモ)<より熱く>!』

Grandissimo(グランディッシモ)<より大きく>!!』

Fortissimo(フォルティッシモ)<より強く>!!!』

Heat Up(ヒートアップ)! GIGA SOUND(ギガサウンド)!!』

 

瞬間、翔の体が仮面ライダーサウンドへと切り替わる

しかし、その姿は今までの物とはまるで違っていた

右肩には、正方形の角ばったまるでスピーカのようなアーマーが付与され

全身のアーマーにはまるで、楽譜に刻まれるような4本ラインが走る

そして、まるで彼の熱気を現すかのように

全身のアーマーが赤混じりの橙に色を変えていた

 

「い・・・くぞ!おらぁ!!」

 

ギターランスを引き抜き、スノーテラーに突貫する

足を踏み出す傍から、足元の氷が水に溶けていく

そして、スノーテラーのその肩にギターランスの刃をぶつけた

 

次の瞬間、槍の刃が凍り付く

そして、それを伝い、一瞬の内にサウンドの全身を氷で包んだ

 

体表から漏れ出る冷気だけで、周りを凍らせるのだ

体表はさらにすさまじい冷気が漂っているのだろう

 

しかし──

 

「それが・・・!」

『!?』

 

ドウンと、まるで脈打つような音が立ったかと思った後

サウンドを包む氷全体に、ヒビが走る

それだけではない、そのヒビから湯気を吐きながら

水が、漏れ出していた

 

「どおしたああああ!!」

 

ドンとさらに強い音を立てた次の瞬間

氷が跡形もなく、砕け跳んだ

いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

止まっていた、ギターランスも動き出す

サウンドは、スノーテラーの肩に置いた

ギターランスでそのまま力任せに押し切った

 

『ぐぅうう!!・・・あ、熱い!!・・・え?』

 

攻撃を喰らったスノーテラーが吹きとぶ

その攻撃のあまりの熱気の痛みに

うめき声ではなく、熱いと反応していた

 

その反応に、テラー自体が困惑する

・・・今の反応、自分で自由に動けなかったか?

 

 

こいつ(ギガサウンド)には、大木君の時のような場合に有効な機能を付けてある”

”──すなわち、通常の方法で倒すのが危険な場合だ”

”大木君の際は、彼自身がその状況を打破したが他はそうはいかない”

 

”──問題は、テラーとの意識の主導権の取り合いに負けることがあることだ

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

”つまりは、常に本人側が、主導権を握り続けることが大事なんだ”

”本人の意識を、テラーの体に引っ張り出す”

”意識に直接干渉する必要があるんだ”

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

”音、振動、熱気で・・・意識を・・・心を揺さぶれ”

”熱狂で、意識を引っ張り出せ!”

 

サウンドが、スノーテラーに再度突撃する

まだ、テラーの意識が体を反射的に動かしているのだろう

吹雪がサウンドに繰り出される

 

しかし──そんなものでは止まらない

サウンドの体から熱気が放たれる

冷気が、雪が一瞬で溶けて水に落ちていく

 

ならばと氷が地面を伝い、サウンドのその体を差し穿たんと迫る

 

それに対しサウンドは

ギターランスをギターのように構え、掻き鳴らした

肩のスピーカから、轟音が鳴り響く

その振動の前に、もろい氷は跡形もなく砕け散った

 

そして、もはや棒立ちで冷気を放つだけの

隙だらけなテラーの体に槍を突き出す

 

先端がその体を捉え、大きく吹き飛ばした

大きく吹き飛ぶテラー

 

そして、大きな変化が現れる

先程までに、轟轟と彼女の周りに吹雪いていた冷気が

突如として、止まったのだ

 

──いや、テラーが吹雪かせるのを続けなかったのだ

なにせ彼女は、最初からずっとこんな吹雪を吹かせるつもりはないのだから

 

『何!?』

 

吹雪が止んだことに、驚いたのは

アクトと殴り合っていたサンだ

──バカな、なぜ暴走が止まった

テラーを見る、そこに怪人らしき気配などなかった

 

『──ッチィ!』

 

目論見が外れ、作戦の失敗を悟るサン

それならばここにもう用はない

さっさと──

 

「に、がすかあああ!!」

『ぐぅ!?・・・邪魔を!』

 

逃げるつもりだったサンに

アクトが猛攻を仕掛ける

──このまま逃がしてなる物か、翔の頼みを無下にしてなる物か!

 

『邪魔だぁ!!』

 

燃え盛る拳で、アクトを腹部を叩く

このまま吹き飛ばして、さっさとずらかる

そのつもりであったが──

 

『何!?』

「ぐぅ・・・!!行くぞぉ!!翔!!」

 

アクトは、吹き飛ばなかった

いや、攻撃は当たった

しかしサンの、その腕をシッカリと掴み込み

距離を取らせまいと凌いだのだ

 

『 NEXT 』

BEST ACTION(ベスト アクション)!!』

 

「だぁあああ!!」

『ぐぉおお!!?』

 

風を纏った拳が、サンの体に叩き込まれる

掴んだ腕は既に離され、サンの体を支える物はない

その体は、大きく吹き飛んでいく

 

倒れたスノーテラーの目の前にサウンドが立つ

止んだ吹雪に、もう問題はないと悟ったサウンドは

ギターランスを握りこみ、構えた

 

『痛ぁ・・・』

 

ベルトからディスクを引き抜き

ギターランスに刺し込む

 

巨大なディスクはそれ一つで3つ全てのスロットを覆いこんだ

 

『GIGA!!』

BEST HIT MEDLEY(ベスト ヒット メドレー) !!!』

 

けたたましい音が唸りを上げる

槍に穂先に高温の熱を含んだエネルギーが集っていく

 

「風間ちゃん!腹ぁ括れよぉ!!!」

 

そして、アクトに吹き飛ばされたサンは

スノーテラーの目の前に、

サウンドの攻撃の射線上へと飛んでいく

──最早逃げ場などなかった

 

『はぁあああ!!!つぁああ!!』

 

そして、目の前の二人目掛け

ギターランスを思い切り、振り切った

 

強力な、エネルギーが前方を薙ぎ払っていく

2体の怪人は、その攻撃に為すすべなく巻き込まれ

火炎を立ち上げ、燃え尽きるのだった

 

 

「翔!」

「雄飛・・・やったぞ!」

 

アクトが戦いを終えたサウンドに駆け寄る

 

立っていたサウンドはまるで歓喜に震えるように

足元がおぼついていない

 

「やった・・・やったんだ・・・!!

 これで・・・やっと・・・!」

 

ぐっと拳を握り込み喜びを噛みしめるように目を閉じる

長い時を経て、ようやく友たちの敵を討った

その喜びは計り知れない物だろう

 

『ま・・・だだ・・・!』

 

「「!?」」

 

信じたくないものが、聞こえた

まさか──

 

サウンドの必殺技の余波で

今だ炎の上がる地面

その、炎が地面を離れ、宙へと浮かぶ

 

そして、炎が一点に集まっていく

 

「てめぇ──!」

「嘘だろ・・・」

 

そして炎が、人の形を取る

やがて、炎が一体の怪人の姿へと変わる

それは紛れもなく、先ほど倒したサンそのものであった

 

しかし、足は引きずり、体のいたるところに傷が残る

いかにも満身創痍といった風貌だ

 

『はぁー・・・!はぁー・・・!

 今日は、負けだな・・・だが次はないと思え』

「逃がすかよ!!」

 

それを視認した瞬間

アクトとサウンドが駆けだす

しかし、それも一手遅い

繰り出した攻撃は、サンへ当たることなくすり抜けていった

 

「待て!!

 ・・・っくっそ!」

 

またしても逃げられてしまった

何としぶとい奴であろうか

 

サウンドが変身を解き、肩を落とす

アクトもまた、その姿を見て、変身を解くのだった

 

「・・・ごめん、あれだけ啖呵切っておいて

 結局・・・」

 

結局、逃がしてしまった

そう言いかけたが──

 

「まずは一発」

「え?」

 

「まずは一発ぶん殴れた、

 だから次は必ず倒す──ちゃんと、手伝えよな」

 

そういって、翔がこっちを向いて笑い

手を差し伸べる

そうか、次か

次を目指してくれるのか

 

「──あぁ!!」

 

しっかりと、それに応える

差し出された手を握り返す

 

もしかしたら、ようやく彼と仲間になれたのかもしれない

──そう思った

 

 

・・・。

何か忘れているような──

 

「あ ん た ね ぇ」

 

翔の背後に人影が現れる

そして、人影は、後ろから手を伸ばし──

その首にヘッドロックで締め上げた

 

「か、風間ちゃん!?・・・た、タンマ、タンマ!」

「ちょっとは手加減しなさいよ!!」

 

その犯人は、杏奈さんだった

そういえば、そうだった──

 

「いや、助けるためには仕方なかったんだって!!」

「嘘つけ!!八つ当たりがなんだって!?」

 

「あっ!?聞こえてた!?

 ごめん!ごめんなさいって!!

 ちょ、締まってる、ほんとに締まってるって!!」

 

「アッー!!!」

 

「アッハッハッハ!!!」

 

そんな漫才染みた光景に

俺はついつい、笑ってしまうのであった

 

 

続く




次回 仮面ライダーアクト

ペローが再び現れる
「力!これが力か!!」

青山の狙いとは
「やはりそこにあったか、最後の一枚!」

その時、雄飛に異変が──
「う、う”あ”あ”あ”あ”あ”──!!!」


第19章[そして、獣が目覚める]


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第19章~そして、獣が目覚める~

カッカッとタイルを靴が叩く音が響く

暗がりの中、ペローは足早に歩を進めていた

まるで、誰かを探すかのように

 

『何を急いでいる?』

 

そんな彼を呼び止める者がいた

それは、ペローにとっても探していた人物であった

 

『ブルー・・・!』

 

ペローが詰め寄っていく

その顔には、怒りが滲み出ている

 

『あんた・・・僕に何を隠している・・・!』

『あの楔は何だ・・・?』

 

クイーンは知っていて、自分は知らされていない情報があった

それは、ペローにとって許容できぬことであった

──自分に意図的に伏せられた情報のあることが不愉快であった

 

『──その事か』

『一体どういうつもりだ!!』

 

自分を軽んじているのか

ペローの怒りはさらに募っていく

 

『そう怒るな、元々楔はクイーンとサンをメインに進める想定だっただけだ』

『だとしても、俺にだけ内緒で事を進めるなんて許すつもりはないぞ・・・!!』

 

ストーリーテラーにリーダーはない

自分達4人はあくまで対等として、目的に進めていく話のはずだ

 

『・・・言う必要が無かった、とでも言っておくか』

『なんだと・・・!!』

 

ついに怒りは限界を超え、剣に手を掛けようとまでするペロー

しかし──

 

()()

『!?』

 

凄まじい圧力がペローに襲い掛かった

まるで強風が自分にだけ吹き付けるような強烈な威圧が

ペローを身動き一つできなくさせていた

 

『思いあがるなよ』

『何・・・!?』

 

『対等なのは、あくまでチャンスがあるということだけだ

 誰が神を産み出すかのな』

『それ以上の権限までは保証する気はないぞ』

 

『っ・・・!』

 

それは、あくまで自分は下だという宣言であった

ブルーという男、テラーという力を産み出した男

そんな男にいいように使われるために募った内の1人がお前だと

そう、言いつけられているようであった

 

それは──

 

『ふ』

 

『ふざけるなよ・・・!!』

 

酷く癪に障った

体に力を込め、進もうともがく

 

『あ”あ”あ”あ”あ”っ!!』

 

体が引きちぎれるような感覚に陥る

それでも、そんなことに構う暇はなかった

頭の中には、すでに侮辱への怒りしかなかった

 

ピシリと体の中の何かにヒビが入った気がした

それが、骨か何かだったのか

それとも体の内側にあるチケットの物だったのか

考える余裕などは無かった

 

だからだろうか、

自分の中から、何かが湧き出てくることにすら

気が付かなかったのは

 

『か”ぁ”あ”あ”あ”!!!』

『──()()()

 

その時であった

ペローのその身にかかる圧力

それが、突然に消し飛んだ

 

──いや、()()()()()()()()

 

ペローが一歩踏み出す

動ける、これで奴に──

しかし、そこで自分の変化に気が付いた

 

『なんだ・・・これは』

『──おめでとう』

 

パチパチと乾いた拍手で新たなる力の生誕を称える

まるで、先ほどまでの様相等無かったかのように

 

『お前、俺に何を・・・!?』

 

自身の変化に戸惑うペロー

しかし、その様子を見ながら驚くことなくブルーは告げる

 

『何もしていない・・・()()()()()()()()()()()()()()()

『何・・・!?』

 

『お前の中にあった、2枚目がようやく起動したのさ』

『2枚目・・・!?』

 

それは、ペロー自身ですら知らないことであった

自分の中に、2()()()()()()()()があったなど

 

『いつ──』

『最初からだ、それ一枚では心許なかったのでな』

 

まぁ、起動したのは片方だけであったがと

ペローはクツクツ笑いながら話を進める

 

『試すようなことをして悪かった』

『だが、結果は上々──上手くいった

 これなら、他2人よりもさらに上をいく力が出るだろう』

 

『──!?』

 

それは、今の自分からすれば願ってもいない物であった

確かに、体に湧き出る力は収まることを知らない

クイーンどころか、サンにまで優に超える程の力が

自身の体からは感じられた

 

『これなら──』

『そうだ、誰にも負けんさ』

 

もはや、怒り等どうでも良かった

この力を早く振るいたくてどうにかなりそうであった

 

『ハ、ハハハ!!』

 

そして、いてもたってもいられず

ペローはその場を飛び出した

 

 

笑い声と共にペローが拠点から去っていく

それをブルーは見送った

 

『良かったのか?』

『ん?・・・ああ』

 

そのすぐそばに、複数の炎が集まるようにサンは現れた

 

『2枚の起動など、精神の奪い合いは苛烈になるぞ

 ・・・下手すれば廃人化も待ったなしだろう』

『それならば、そこまでの男だったというだけだ』

 

ブルーは冷たく言い放つ

その言葉には、まるで同族への温かさ等存在していない

 

『・・・不満か?』

『いいや?』

 

それに対するサンもまた

何事もないかのように応える

 

『方法なんて、どうでもいい

 ・・・最後には、あんたと勝ち馬にさえ乗れれば、な』

『・・・っふ』

 

 

「っぐぅ・・・はぁ・・・!」

 

全身を蝕むかのような痛みに耐え

ラストはチケットを握りこむ

ようやく、この2枚目にも慣れてきた

もう、問題もなく使っていけるだろう

 

『うぅん・・・』

 

そんなラストの耳にある声が届く

──母の声だ

 

「っ・・・母さん!!」

 

ラストがクイーンへと駆け寄っていく

期待に応えて見せるという意気込みを持って

 

「あら・・・ラスト」

 

しかし──

 

「母さん、聞いてほしい私は・・・」

「・・・うん、はいこれ」

 

母との語らいを、彼にとって至福の一時は

そう長くは続かなかった

多くを語る前に、彼女は彼にあるものを渡した

 

「え?・・・」

「ええ、これで暴れてきてちょうだい。」

 

2枚のチケットと、2枚のカード

そして、数本の楔

 

「あ、ああ!任せてくれ母さん!かなr」

「私は少し探し物をしてくるから・・・じゃあね」

 

返事を聞き終わるのも待たずに

それだけを渡すと、彼女は一瞥もくれずに

その場を去っていった

 

「あ・・・」

 

伸ばした手が虚空に揺れる

ラストは、ただ寂しく渡されたものだけを手

一人茫然と佇んでいた

 

 

喫茶「テアトロ」──

 

食器の鳴る音が店の奥から響いている

もはやある種の日常と化した

この店での食卓

2人がいつの間にやら4人に

場合によっては押し掛けが来て6人に

そんな、一時の平和の一幕は

 

「分かった!・・・分かったぞ、奴の素性が!!」

 

乱雑に扉を開け開きやってきた

太田さんの一言で終わりを告げるのだった

 

 

テーブルの上に広げられたのは一枚の写真

そこに写されていたのは一人の女性

 

それは自分達にも見覚えのある顔をしていた

 

「これって・・・」

姫川愛子(ひめかわあいこ)、8年前に行方知れずとなった犯罪者だ

 ・・・奴は()()()()と名乗っていたがな」

 

そう、その顔は自分達の目の前に現れた

ストーリーテラーの一人“クイーン“そのものであったのだ

 

つまり──

 

「これが、あいつの」

「テラーになる前ってことか?」

 

太田さんはコクリと頷くと話を続けていく

 

「奴の顔を見た時に、どうも既視感を感じてな

 古い刑事記録を引っ張り出し回ってようやく

 この写真が出てきた」

 

「それと──」

 

さらに複数枚の写真を引っ張り出す

どれも人の顔が写ったその写真は

おそらく、同じ──

 

「同時期、同じように数名の犯罪容疑者が行方知れずとなっている

 ・・・この中に、見覚えは?」

「・・・。」

 

受け取った写真を翔と共に見ていく

 

10数枚近くある写真の多くは身に覚えのない顔であった

しかし、その中の2枚

若い男の写った2枚の写真だけは、別だった

 

「!?・・・これは」

「サン!・・・ペローも!」

 

写っていたのは、自身も何度も戦った相手

──ストーリーテラーの2人であった

 

「・・・そうか、こいつらがそうなのか」

 

差し出した写真を手に、太田さんがその人物を特定していく

 

「サンって方が、日暮一樹(ひぐれかずき)。それと、もう一人は金子良哉(かねこりょうや)だな」

 

そして、その二人の捜査情報を確認して一言

 

「罪状から言えば、日暮が最もひどい」

「・・・放火か?」

「・・・よく知ってるな」

 

翔が強く拳を握り込む

彼にとっては、以前から追っていた人物である

言い当てることは、容易であった

 

「そうだ、複数件に渡る放火殺人・・・

 しかも、最初の一件以降、頻度と規模が大きく跳ね上がる

 建物なんて、消化する暇も無いほどの速度で燃え尽きて

 しかも、燃料の類も一切発見されなかったときた

 ・・・警察側も、この男が事件現場に必ずいたという情報を突き止める以外はお手上げだった」

「・・・今思えば、この時期に力を手に入れたんだろうな」

 

「・・・。」

 

重苦しい空気が流れる

守れなかったことを責めるわけにはいかない

怪人など、普通じゃどうこうするのは不可能なのだ

 

「・・・倒そう」

「・・・あぁ」

 

だからこそ、仮面ライダーが奴らの凶行を止めなければならない

そう、心に刻み込んだ

 

「それで、他二人は?」

「あぁ・・・それは──」

 

そこまで言ったその時だ

太田さんのケータイに着信が入る

 

そして受け取った情報は、一言だった

 

"怪人発生、至急現場へ急行されたし"

 

 

先程まで普通の街中であった場所

そんな場所が次の瞬間には大きく変わっていく

 

街は、一瞬で、またも多くの木々の生えた

深い森に変わっていく

 

そして、その中央、大きな湖のほとりで

2体の怪人は逃げ遅れた人々を追い立てる

 

片や鎧と銀の斧を備えた、男の怪人

そしてもう片方は、

これまた鎧と輝く金の斧を備えた、女の怪人

 

それぞれ、ハートの5と6のカードで強化された

2体のアックステラーが、そこに立っていた

 

 

人が悲鳴を上げて逃げようと足を動かす

しかし、すくんだ足で逃げられるようなものではない

 

2体の怪人が振るう斧が今や一般人のその体に振るわれようとしたその時

 

『『!!?』』

 

テラー達の足元に弾丸が炸裂する

立ち止まり、身構える2体のテラー

その隙に、人はこけそうになりなりながら逃げていく

あの速度なら、きっと逃げ切れるだろう

 

弾丸を放った銃を構えながら

雄飛と翔がテラーと相対する

 

『MASKED RIDER |The NEXT』

『Heat Up GIGA SOUND』

 

それぞれ、ドライバーとアイテムを構え

そして──

 

「「変身!!」」

 

『Start』『 a Continue!』

『The New Hero who inherited a Wind』

『Came Like a Storm !』

『MASKED RIDER The NEXT(ザ・ネクスト)!!!』

 

『PLAY!!』

『caldissimo!』

『grandissimo!!』

『Fortissimo!!!』

Heat Up(ヒートアップ)! GIGA SOUND(ギガサウンド)!!』

 

 

仮面ライダーアクトが銀の斧を持ったテラー:シルバーアックステラーに突撃し

サウンドが金の斧を持ったテラー:ゴールドアックステラー突撃する

 

それに対し、2体のテラー達は同じように手にした斧をライダー達に振り下ろす

 

アクトはそれを避けながら、肉薄し

サウンドはギターランスでその攻撃を受け止め、逆に押し込んでいく

 

戦いの火蓋が切って落とされた

 

アクトがテラーの攻撃を避けながら

その体を殴りつけていく

 

鈍く光る銀の斧

破壊力はあるのだろう、しかしその大ぶりな攻撃は

いささかアクトには不利であった

 

振るわれる斧をしのぎながら

着実に風を纏った拳がテラーを削りゆく

 

『オオオオオオ!!』

「なん・・・の!!」

 

ならばとテラーがアクトの足を駆り取ろうと

その足元を大きく斧で薙ぐ

しかし、それに対しアクトは両足で跳躍

そしてそのまま、両足をテラーに向け

 

「ハァ!」

『グァ!!?』

 

強烈なドロップキックで反撃

その衝撃にテラーが大きくのけ反っていく

そして

ピシリとその体を守る鎧にヒビが入る

 

「さっさと終わらせて」

『そうは行かない』

「!?」

 

ベルトを押し込んで必殺技を放とうとした矢先

背後からのいやな気配にアクトはその場を飛びのく

 

次の瞬間、突き出した刺突剣の剣先が

先程までアクトの立っていた場所を貫いていた

 

「・・・ペロー!!」

『やぁ・・・相手してくれよ!』

 

剣を撫でながら、ペローは機嫌よさげにそう言う

そしてそのその横には、体制を立て直したアックステラー

 

勝負はまだ始まったばかりのようだ

 

 

金の斧とギターの形をした槍が火花を散らしてぶつかり合う

 

「ぐ・・・おおおお!!」

『!?』

 

サウンドの両肩のあーまが鳴動するとともに

テラーが手にした斧に大きな衝撃が走る

 

そして、サウンドは強引に斧を押し込みつばぜり合いを制した

 

そして、がら空きになったテラーの懐へ

槍で連続して攻撃を叩き込んでいく

 

『ぐうぅ・・・!!』

 

衝撃にテラーが吹き飛ぶ

しかし、サウンドの攻撃の手は止まらない

武器を組み替え、ボウガンへと変形させ

 

体制を立て直す前のテラーに対し

追撃の弾丸を撃ち込んだ

 

テラーがダメージの大きさに膝をつく

その隙に、サウンドが必殺技を放とうと

ディスクに手を掛けたその時だ

 

Last UP(ラスト アップ)

『Love Disappears as Bubbles』

BUBBLE MERMAID(バブル・マーメイド)

 

「──がっ!?」

 

突然ラストに衝撃が走る

横から、まるで液体のような何かが飛来する

その見た目とは、想像もつかない固さが

凄まじい速度でサウンドにぶつかっていったのだ

 

サウンドを弾いたのち、液体が人を象っていく

そして、液体が集ったその場所に

仮面ライダーラストが立っていた

 

「・・・お前達の最後を、母さんへの手土産としてやる!!」

「てんめぇ・・・」

 

再度、液状化したラストがサウンドへと襲い掛かる

槍を振るう、しかしその攻撃は液体の体には刺さらない

 

「無駄だ!!」

「・・・どうかなぁ!!」

 

ラストが、再度サウンドへと突撃していく

このままでは先程と同様に、吹き飛ばされる

そう思われた

()()()()()()()()()()()()()()

 

「だぁ!!!」

 

サウンドが力を込め

肩のアーマーが大音量で音を打ち鳴らした

まるで、波のように音が液状化したラストへと当たる

 

次の瞬間、ラストの体に衝撃が走った

液体と化したその体が、膨大な音波によって

揺れ、炸裂したのだ

 

「っが!?」

 

宙に浮いていたラストがその衝撃に叩き落される

液状と化していた体も元に戻っていく

 

「良く響くだろう、熱いサウンドは!!」

 

肩を叩きながらそう、勝ち誇る

無敵に思われた液状化は今破られたのだ

 

「ぐ・・・!」

「さぁ、続きだぜ」

 

サウンドが構えなおし、様子をうかがう

それに対しラストは

 

「・・・ならば!!」

 

そういうと、再度液状化し宙へと浮く

懲りずに来るかとサウンドが身構える

 

しかし

ラストは、あらぬ方向に飛んでいった

自分がいる方角とは違う方向

 

その先からは、自分の物ではない戦闘音

つまり──

 

「雄飛!?まずい!!」

 

自分へと見切りをつけ、雄飛の方へ向かおうという魂胆か

そう気づいたサウンドは急いで追おうとする

 

不味い、自分は対処できても

アクトにはまだあれの有効打がないのだ

 

そうして、駆けだすサウンド

しかし、それを阻むように影が行く手を阻む

 

『逃がさぬ!!』

「邪魔だ!!どけ!」

 

アックステラーが再度サウンドへと斧を振り下ろす

サウンドがそれを受け止めながら

どうにか進もうと試みるも

思うようにはいかない

 

結果、ラストは止まることなく進んでいってしまった

 

 

サウンドとテラーの戦いの裏で

アクトもまた、戦闘を続けていた

 

『 NEXT 』

BEST ACTION(ベスト アクション)!!』

 

「ストームライダー!!キック!!!」

 

アクトの必殺キックが、アックステラーのその体を貫かんと放たれる

 

それにアックステラーは真っ向から打ち砕かんと

キックに対し、斧を振るい対抗する

 

脚と斧がぶつかり合う

 

テラーが、そのまま斧を降り抜いて

アクトごと吹き飛ばそうと腕に力を込める

しかし、斧はびくともしない

いや、徐々に押され始めていた

 

『ぐ!ぐぉおおお!!!』

 

それでも、押し込もうと踏ん張る

 

ピシリと音を立てて

斧にヒビが走る

 

『なに!?』

「だぁああああ!!!」

 

アクトのキックが斧ごとへし折りテラーの体を貫いた

滑るように地面に着地する

その背後に大きな爆発が立ち上がった

 

『・・・やるねぇ』

 

その様子を感嘆するように見るペロー

アクトが構えなおす

 

「ペロー・・・いや、金子!あんたを止める!!」

 

この犯罪者を、このまま野放しにできない

そう、相手に対し宣言する

それに対し、ペローは

 

『・・・?・・・()()()()()()

「・・・何だって?」

 

まるで、知らぬ存ぜぬとばかりにおどけて見せるのだった

そしてその代わりに

ペローの体から、謎の圧が立ち始めた

 

『まぁいい・・・お前が強ければいい!!』

「!?何だ・・・?」

 

『そうじゃなきゃ面白くない!!』

 

次の瞬間、ペローの体が変化し始めた

細身であった体が、一回り大きくなる

刺突剣は消え、それを支えていた細腕が

どんどん太くなって、代わりに毛が逆立ち、凶悪そうな爪がその姿を覗かせる

特徴的であった、足の靴ははじけ飛び、代わりに強靭な足が現れる

 

最早、その姿は猫などというものではなく

──獅子のそれであった

 

『シャア!!』

「!?速い」

 

まるで瞬間移動でもしたかのようにペローがアクトの前に突然現れる

そして、その腕をアクトに振るった

咄嗟に腕でガードする

 

次の瞬間、強い衝撃と共にアクトの体が浮かび上がり

近くにあった木へと叩きつけられた

 

「がぁ・・・っ」

 

何という重さだ

咄嗟とはいえ、しっかりと防御したにもかかわらず凄まじい衝撃に

アクトは驚愕と共に畏怖する

 

──先程までのペローではない!

 

『ハハッ・・・ハッハッハッハ!!』

 

叩きつけたアクトを眺め、ペローが高笑う

何とも気持ちよさそうに

 

『力!これが力か!!』

 

アクトが立ち上がり、構えなおす

しっかりとペローを見据え、好機を待つ

 

ペローが再び動く

また、一瞬の内に、アクトのすぐそばまで移動し

その爪をアクトに突き立てんと腕を振るう

 

「──そこだ!!」

 

しかし、同じ手は喰らわない

アクトは、その攻撃をしっかりと見切り

攻撃を間一髪で避ける

そして、カウンター気味にその体に拳を放った

 

『無駄ぁ!!』

「!?」

 

拳は、ペローの体に届いた

しかし、それでも吹き飛ばしたりするまではいかず

少しのけ反る程度、すぐさま反撃に移るのであった

 

反撃を飛びのいて回避する

 

──効いてない!?

通常のライダーフォームでもある程度肉薄していたペロー

それ相手に、ネクストフォームでの攻撃をしたにも関わらず

まるで動じていない

力だけでない、スピードも防御も膨大に上がっていた

 

一体、どこでこんなパワーアップを・・・

 

そんなことを考えた次の瞬間

 

「・・・そこか」

「!?」

 

咄嗟に横に転がって回避する

アクトがいた場所に、水の塊が轢かんとするかの勢いで通り過ぎた

 

「ラスト・・・!」

「お前の最後を貰うぞ・・・」

 

そうやって乱入してきたのは、仮面ライダーラストである

 

──こんな時に!

相性の悪いラストと強力になったペロー

片方だけでも手に余るというのに

それがそろったのはアクトにとって絶望的であった

 

「くそ!」

 

「いくぞ!!!」

『ジャア!!』

 

ラストとペローが襲い掛かる

アクトは、悪態を吐きながらもそれに応戦するのだった

 

ペローの攻撃が迫りくる

それを何とか避ける

 

しかし、その着地を狙って

ラストが攻撃を放つ、片方の回避だけでもギリギリであり

避けるなど間に合わなかった

 

防御するも勢いまでは殺せない

アクトは、そのまま吹き飛ばされる

 

地面に転がりながらも何とか体制を立て直す

直撃こそ避けているが、それもそろそろ限界である

 

疲れ等微塵も感じさせずに、ペローが飛び掛かってくる

それを避けようとするも

ガクリと膝が落ちる

ダメージが、思った以上に足に来ていたのだ

 

「しまった!」

 

『ハァ!!』

 

アクトの体を、爪が引き裂く

アーマーが裂傷こそ避けたものの鋭い痛みと衝撃がアクトに襲い掛かる

 

さらに──

 

「ふっ!!」

 

足が止まったアクトに対し、ラストが追撃に水流を放つ

 

「ぐぁああああああっ」

 

痛みと水圧がアクトを押し流していく

 

水が止んだ後には、倒れ伏すアクトがそこにいた

何とか立ち上がろうと体に力を入れる

しかし、痛みで言うことを聞かない

 

 

『ほぉ・・・これは』

 

その時、ペローでもラストの物でもない

また別の声が、線上に響いた

 

『・・・何だ、いいところに来たな』

「・・・。」

 

ペローとラストが足を止める

 

アクトが、何とか立ち上がり

その場に現れた相手を見た

 

「!・・・青山!」

『君も、その名前で呼ぶか・・・』

 

それは、ストーリーテラーの一人である

ブルー・・・青山秀幸であった

 

『で?何しに?』

『何、面白そうなものがわかってな』

 

そう言うと、青山が懐から何かを取り出す

それは──チケットだった

 

『へぇ・・・珍しいね、あんたのそれは』

『何、必要なことでな』

 

そう言うと、青山はそれを起動する

重く、暗い音が森の中によく響いた

 

青い鳥(ブルーバード)

『──怪演(かいえん)

 

青山が、チケットを自らの体に収める

次の瞬間、変化が訪れた

 

全身から、美しい蒼の羽のような意匠を持った

怪人がそこに姿を現すのであった

 

「──。」

『・・・どうだ?仮面ライダー?』

 

アクトは、それを見ていた

身動きも取れずに

 

『・・・()()()()()()()()()?』

「──っ!?」

 

アクトは、その姿を見て

・・・まるで、呆けたかのように動きを止めていた

 

その脳裏に急速的に何かがフラッシュバックする

──8年前に、自らが見た何かを

──8年前に見た、仮面ライダーの姿を

──8年前に自らを襲った、()()()()()姿()()()()()()()

 

「あん・・・たは・・・!」

『・・・やはりそうか、あの時の少年か』

 

そうだ、なぜ忘れていたのだろうか

自身を襲った怪人の姿を、その声を

あれは、まぎれもない、この男の物であった

 

『なら・・・やはりそこか』

「!?」

 

ブルーが、その手をアクトへとかざす

アクトが何をされるのかを身構える

いつ何が襲ってきてもいいように

 

・・・しかし、それは意味をなさなかった

 

アクトの体に、異変が始まった

動悸のように、体から謎の鳴動が起こる

息があれる、上手く呼吸ができない

 

『!?・・・何だ?』

「何が起こっている・・・?」

 

ペロー、そしてラストにさえも

何が起こっているのか把握はできない

 

『・・・やはりそこにあったか、最後の一枚!』

 

唯一自体を把握しているのは

この場において、ブルーのみであった

 

「一枚・・・?」

 

痛む胸を押さえながら

アクトが、言葉を放つ

一体、自分の身に何が起こっているというのだ

 

『忘れたか?・・・()()()()()()()()()!』

 

再度、フラッシュバック

──野鳥を見に森に入った自分の前に現れた謎の怪人

──近づくその姿、逃げるに逃げられぬ自分

──そして、その手に握る何かが

 

──自分に突き立てられた

 

「がっ!・・・がぁあああああ!!!?」

 

最早、痛みは雄飛から変身すら剥ぎ取った

全身の痺れるような痛みが雄飛をむしばんでいく

 

それをただ眺めるだけのペローとラスト

 

『おいおい・・・僕の獲物だぞ!!』

「最後は、私が貰う・・・!!!」

 

最早、蚊帳の外となってしまったのが気に障ったのだろう

どちらも、雄飛に止めを刺すのは己だと駆けだす

 

それをブルーは

 

()()()()()()()()()()()()

 

そうやんわりと静止だけする

 

ペローとラストが雄飛に迫りゆく

その命をここで絶たんとする

次の瞬間──

 

「ウ”オ”オ”ア”ア”ア”──!!!」

 

まるで、割れるような大きな叫び声が響き渡る

声がまるで、波のように空気を揺らす

獣の如き、その声が起こす衝撃だけで

寄ってきていたラストとペローが弾き飛ばされた

 

「ガッ!?」『何!?』

 

そして吹き飛ばされた彼らは

その現象の発生地に刮目し──その目を疑った

 

そこにいたのは

 

焼け焦げたかのような色をした毛に塗れた

野獣の幻影(ヴィジョン)を重ねて、咆哮を上げる

──雄飛の姿であった

 

 

続く




次回 仮面ライダーアクト

雄飛の中にあったもの、その正体とは──?
『8年も同居していたんだ、器としては奴が一かもしれんぞ?』

焦るラストは、何を目指す
「勝つんだ、母さんが認めてくれるように──!!」

激突する、アクト&サウンドとラスト──


第20章[迷える、子羊のように]


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第20章~迷える、子羊のように~

斧と槍がぶつかり合い火花を散らす

 

金のアックステラーが飛び上がり、

仮面ライダーサウンドの防御ごとその身を引き裂かんと

大きく振りかぶり、そして斧を振りおろす

 

「っ!・・・らぁ!!」

 

それに対し、サウンドが半身をねじり大きく槍を引く

そして、全力を持って突き出した

熱気を持った槍の穂先と金の斧の刃がぶつかりあい、空気を揺らす

余りの重さにサウンドの体ごと押しつぶされそうになる

 

「──っ!!負けるかぁあああ!!」

 

落ちかけた膝を立て直し、腕に力を込めなおす

穂先の熱気が強まっていく

 

『!?』

 

激突し合う武器のその衝突部位から

ポタリと何かが滴り落ちた

 

それは・・・金だった

斧の刃が熱気に敗れ徐々に溶け落ちていく

 

そして──

 

「おらぁあああ!!」

 

サウンドの槍が、斧を突き破り

テラーのその身を突き飛ばした

 

斧を破壊され、無残に転がるアックステラー

ダメージは軽微、まだ──

そう思ったのも束の間、体を焼くような熱により上手く動けない

 

「とど・・・めだあああ!!」

 

『GIGA!!』

BEST HIT MEDLEY(ベスト ヒット メドレー) !!!』

 

より強く昂る槍を構え、突き出す

強力なエネルギーが巨大な穂先を形成し

テラーのその身を一息に貫いた

 

『──!!』

 

言葉を残す暇すらなく、テラーが絶命し爆発する

爆発は、周りの巨木すら巻き込み、なぎ倒し

爆炎の後に残ったのは、地面に刺さる一本の楔のみであった

 

「──これか」

 

楔を引き抜き、握りつぶす

周囲の風景が元に戻っていく

 

「雄飛は──」

 

休んでいる暇はない、テラーに思った以上に時間を取られてしまった

雄飛の方にラストが行ってしまったのだ、

すぐにアシストに──

 

そう、サウンドが足を踏み出そうとしたその瞬間

 

「ウ”オ”オ”ア”ア”ア”──!!!」

 

まるで、猛獣でも出たかのような巨大な咆哮が響き渡った

 

「な、なんだぁ!!?」

 

 

銀のアックステラーは、仮面ライダーアクトの蹴りを受けてなおその姿を保っていた

斧は折れ、鎧は砕け散った

それでも折れた破片をあの男の喉元に突き立てんと立ち上がる

 

その時、獣が如き咆哮が木々を大きく揺らした

声の方を見て、瞠目する

 

そこにいたのは、変身を解いた一人の男だった

唯の人間であろう男が、よほど出せる物ではない声量で吠えていた

 

しかし、そんなことはどうでもよかった

男は、変身を解いている

それならば、自分でも奴を殺せると

 

先の折れた斧の柄を握り、足を踏み出す

咆哮により揺れ落ちた、木の葉を踏み

カサリと、静かながら確かに、音を立てた

 

男の顔が、こちらを向く

最初に相対した時とは異なる紅く光る瞳が

──自身を見た

 

瞬間、男が消える

それを視認し、どこに行ったと頭によぎった

瞬間、自分の視線がなぜか動いていく

おかしい、自分は顔など動かしていないというのに

まるで、前のめりに落ちるように──

 

ドスンと音を立てて、視線の移動が止まる

はて、この目に映っている

脚は、だれのもn──

 

 

爆炎が立ち込める

それは一瞬の出来事であった

咆哮を立ち上げた、彩羽雄飛に手負いのテラーが近づいた

その瞬間──

 

()()()()()()()3()()()()()()()

まるで、引き裂かれたかのように

 

爆炎の中から、雄飛が

・・・いや、その姿はまるで点滅するかのように

瞬間ごとに切り替わっていた

 

唯の人間と、薄黒い毛の野獣の怪人

もはや、現在はどちらの状態になっているのか定かではない

何かが、そこにはいた

 

野獣の足に何か引っかかる、

それは、楔であった

知ってか知らずか、野獣は、それを引き抜く

 

先程まで森だった、辺り一面が、唯の町の端

古ぼけた、廃工場の廃れた倉庫に変わった

 

そして、抜き去った楔を手に野獣は

また、その場から消える

 

「!?」

 

ラストは、驚愕する

野獣が、消えたことにではない

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

握られた楔が乱雑に振り下ろされる

あわや、そのまま自身の体に突き立てられようとしたそれを

ラストは剣で受け止める

 

ただただ凄まじい腕力に、あわやそのまま押しつぶされそうになる

しかし、それは起こらなかった

楔がその圧に耐え兼ね、

剣に打ち付けられたまま粉々に砕け散る

 

持っていたものが消失し、目測を誤ったのだろう

野獣のその腕が、ラストに触れることなく振り下ろされる

しかし、その風圧だけで十分だったのだろう

ラストは容易く、吹き飛ばされていた

 

「おのれ・・・!」

 

ラストがすぐさま体制を立て直し反撃に出る

液状化し、野獣のその身を穿たんと剣を突き出そうとする

 

しかし、それが届くことは無かった

 

「オ”オ”ア”ア”ア”ア”──!!!」

 

再度、野獣が吠える

巨大な咆哮が、空気を揺らす

液状化していたその身に、咆哮が届いた瞬間

まるで、巨大な拳に殴られたかの如き衝撃が叩きつけられた

 

「ぐあああぁぁぁ!!!」

 

身を引きつぶすかの衝撃が、ラストを襲う

最早、漂うこともできずに地面に落ちた

 

声が止むころには、そこにいたのは

荒い息を吐く野獣と

体をボロボロにして、変身も解かれて倒れ伏したラストだけであった

 

「ク”ル”ア”ア”!!!」

「──っ!」

 

野獣が倒れ伏したラストへ止めを刺さんと手を挙げた

 

「カ”ァ”!?」

 

しかし、それが振り下ろされることは無かった

野獣が、突然悶え始めたのだ

 

そして──

 

「──ッア」

 

まるで、糸が切れたかのように野獣が倒れ伏せる

野獣の幻影(ヴィジョン)も消え、そこには唯の人間が倒れ伏せていた

 

『・・・何だったんだ・・?』

『ふむ・・・まだ不完全だったか』

 

それを、眺めていたのは

ペローとブルーである

なんの説明も受けていないペローはただ驚くだけであったが

ブルーは、ただただ納得した様子で佇んでいた

 

『おい、どういうことだ・・・!』

『・・・彼の中にも存在したのさ、チケットがね』

 

『はぁ!?・・・いつ!?』

『8年前さ・・・埋めても変化しないことがそういえば一度あった

 ・・・今になってようやく目覚めるとはね』

 

とんだ寝坊助だ

そんな風に少しおどけて見せる

しかし、その目は興味深く雄飛を見ていた

 

『しかし・・・興味深いな』

『・・・何がだよ?』

 

『8年間も()()()()()()()()()()()()()()()()()少年ということがさ』

『8年も同居していたんだ、器としては奴が一かもしれんぞ?』

 

そういうと、ペローの目の色が変わった

 

『そりゃいいや!邪魔もの減らしと目的の調達が一挙にできる』

 

そういうと、雄飛の元に駆け寄っていく

その目はもはや好敵手を見る目ではない

獲物を狙う目であった

 

その手が雄飛を掴み、連れ去ろうとしたその時だ

 

『!?』

 

ペローが手を引く、次の瞬間

その手があった場所に、弾丸が飛来した

 

「雄飛!!」

 

ボウガンを構え、射出しながらサウンドが駆け付ける

ペローと雄飛の間に割って入り

庇うように武器を構えなおした

 

『・・・チッ、邪魔すんじゃないよ!』

「(──幹部二体、雄飛は気絶・・・ここは)」

 

ペローが払いのけるように手を振りかぶる

しかし、その攻撃が振るわれることは無かった

 

『ROCK!!RAP!!』

HIT MEDLEY(ヒット メドレー) !!!』

 

ボウガンから大量のスチームが放たれる

その熱さに、ペローが一瞬怯む

その隙に、厚い蒸気が煙幕の代わりに2人を飲み込んだ

 

『しゃらくさい!!』

 

両手で蒸気をかき分けて晴らす

しかし、払い去ったその場所に既に2人の姿はなかった

 

ペローが苛立ったように地面を一度蹴る

そしてその後は、興味を無くしたようにその場から立ち去るのだった

 

『・・・ククッ』

 

ブルーもまた、そんな状況を一つ笑うと消えるように立ち去る

 

残ったのは、倒れ伏したラストただ一人であった

 

 

目が覚めると、見知った天井が写った

──何度目だ

 

「あ、起きた」「まじ!?大丈夫!?」

 

部屋の扉から顔を出した杏奈さんの一言から

部屋の外から、いろいろと声が聞こえてきた

 

体に痛みは──ない

自分がなにを持って気絶したのかを覚えても──ない

 

しかし、自分にとって重要な情報だけは覚えていた

とにかく、相談しなければならない

雄飛は、ベットから降りて足早に部屋を出ていくのであった

 

 

「体の中にテラーが!?」

「ちょっとそれ大丈夫なの!?」

「体内にか・・・音石、取り出す方法は?」

「分からん、体内に固形で残る物でもないだろう

 ・・・物理的には不可能だ」

 

ブルーから聞いたこと

自身の肉体のことについてを話した

反応は三者三葉で、店内が騒がしくなる

 

それを何とか抑えて、今後の対応について考える

あの後自分がどうなったのかはわからないが

このままにしておくのはおそらく危険なのだろう

 

しかし、それを取り出す方法は見当もつかない

 

「一度なっちまって、俺がぶったおすってのは?」

「可能性としては・・・アリだな」

「いやまて、ケースがレアすぎる、通常の対処方法でいいのか?」

 

「なんかこう・・・引っ張り出せないの?」

「引っ張るも何も、対象が見えなきゃどうしようもないだろう」

 

あーだこーだと対処法の模索がされるが

結局、翔が自分を倒す位しか対処法が見つからなかった

 

この場合、敵が便乗してきたら

翔一人で戦うことになるという危険性があるのだが・・・

 

 

「・・・そういえば、この場合に詳しいのがいるじゃないか」

「え・・・?」

 

そういわれて、一人思い当たる人物がいた

自力で突っ込まれたチケットを引っ張り出している

 

「大木さんか!」

「今日は、店に来てないな・・・どこに行ってるんだ」

 

必要な時にはいないな、あの人

 

 

「ハッ・・・ハッ・・・」

 

痛む体を支えながら、ラストが廃墟へ戻る

そして、自分達の割り当ての部屋へと入る

 

「母さん・・・母さん・・・」

 

敵に上手くやられてしまったこと

与えられた、テラーを無駄に失ってしまったこと

謝らなければならないことはたくさんあった

それを差し置いても、今はただ母に会いたかった

 

そうして、もはや扉とも呼べないしきいを押して部屋に入る

 

「母さん!!」

 

そうして、母を呼んだラストの目に映ったものは

 

「・・・。」

 

瓦礫の上に置かれた、チケットとトランプが1枚

母の姿は・・・部屋のどこにもありはしなかった

 

「・・・。」

 

チケットとトランプを拾い上げる

 

 

 

──立ち尽くしたまま、何分ほど過ぎたのだろうか

少し体がふらつき、傷口に痛みを覚えたところで我に返る

 

「ッ」

 

ラストはそのまま誰にも見送られることもなく部屋を後にした

 

行く当ても考えずに、唯歩いていく

次の、襲う場所を決めねばならないのに

 

ただ、歩いて・・・適当な公園にたどり着いたところで

痛みがひどくなった

 

思えば、先ほどの戦いから

傷の手当など何もしていなかった

 

足を引きずりながら、公園の中をただ進んでいった

 

「おいおい、君!大丈夫かい?・・・傷だらけじゃあないか!」

 

突然、声が聞こえたと思えば

自分の目の前に、人間が躍り出てくる

見覚えもない、唯の人間であった

 

「・・・なんの・・・ようだ・・・!」

「何って、血だらけじゃないか・・・!」

「寄るな!」

 

男が、近寄って自分の肩に手を掛けようとしたのを払う

そして、近づかないよう威嚇する

一体、何が目的だというのだ

 

「何言ってんの、ほら座って!

 ・・・なんもないな、・・・ちょっと待ってて、あんまり動かさないようにね!!」

「おい、なにを」

 

自分が、言葉を言い終わる前に、男は駆けて行ってしまった

・・・一体何だというのだ

 

男は、息を切らしながら数分で戻ってきた

──なにやら大量の箱を抱えて

 

「いやー近くにドラッグストアがあって助かったよ」

「ほらこっち向いて」

「やめろ!」

 

寄って来る手を払いのける

しかし

 

「いいからいいから」

 

そう言うと、男は箱から取り出したものを

あろうことか、自分の体にペタペタと張り出した

 

「やっぱ包帯とかの方が良かったかな

 ・・・絆創膏だけだと不味かったか?」

 

もがこうにも、傷の痛みで上手くいかない

結局、ラストはされるがまま

傷の手当てを受けるのであった

 

 

「何のつもりだ」

「うん?・・・いやね、こうまでボロボロな人が

 目の前に出てきたらほっとけないじゃないか」

 

全身を絆創膏に塗れさせ、ラストは男に問うた

この男の真意が見えなかった

なぜ、こんなことをしたのか、まるで理解ができなかった

 

「・・・?なぜだ、なんの意味がある」

「いや、まぁ僕もいろいろと助けられた身でね

 ・・・できる限り、人助けを心がけようと思ってね」

 

「・・・そこになんの利がある」

「必ずしも必要なものじゃないさ」

 

男はそう言うと、こちらを向き直った

 

「それに・・・怪我だけじゃなくて

 何か悩みもありそうだったからさ」

「!?」

 

「図星かい?」

「・・・。」

 

ラストは、何も言い返せなくなった

男の、強引さもそうだが

自身もそれを感じていたからだ

 

「ついでに話してみなよ、解決はできないかもだけど

 ・・・楽にはなるかもよ」

 

「・・・。」

 

馬鹿馬鹿しい、そんなことを話す必要などどこにもなかった

・・・だが

 

「・・・私は、母さんの期待に応えなければならない」

「ほお」

 

「だが・・・私はそれをできずにいる

 ・・・私は、それを成し遂げなければならないのに」

 

自分でも、不思議なことにすんなりと口から出ていた

自分の心が、思った以上にやられていたのか

はたまた、この男にそうさせる何かがあったのか

 

それは、ラストにすらわからないことであった

 

「なるほど・・・」

 

男は考え込むようなそぶりをして

 

「うん、分かんないな」

 

結果は、どうしようもない物だった

 

「言うだけ無駄だったか・・・」

「そうでもないさ、・・・言葉にするって大切だろ?」

 

男が大げさに手を広げてそう話す

 

「文字にすれば、対処法も浮かびやすくなる」

「・・・そこから、いろんな方法を試せばいいのさ」

 

「試す・・・」

 

方法、母に認めてもらうための方法

そう考え、・・・思い当たるのは結局一つであった

 

ラストが、立ち上がる

 

「解決になったかな?」

「・・・。」

 

何も言わずに立ち去る

もう、ここに用などなかった

 

「行ってしまったか・・・」

 

大丈夫だろうか、随分と怪我をしていたが

そんなことを、大木は考えていた

 

「しかし・・・」

 

母親に認めてもらうために頑張らなければならない・・・か

見た目に反して、割と子供らしい悩みだったなと

少し微笑ましさを感じるのであった

 

 

ヒントを貰おうと、大木さんの来店を待っていた

しかし、そう待っていたところに

 

「また、テラーが!?」

 

またも、太田さんから連絡が入った

どうやら、あまり休みをくれるつもりはないらしい

 

「しょうがねぇ、いくぞ!」

「待って、私も行く」

 

そういって、席を立つ翔と杏奈さん

 

俺もまた、荷物を手に店を後にした

 

 

現場に急行する

そこには──

 

『──。』

 

まるで、全身が金色の王子のような様相のテラーが人に襲い掛かり

そして、その傍らで佇む、ラストの姿があった

 

「ラスト!」

「懲りないね、お前も・・・!」

 

雄飛と翔が、ベルトを構える

 

「来たか・・・」

 

ラストはその姿を見て、立ち上がると

テラーを自身の傍に呼び寄せた

そのまま2対2の戦いが始まる

 

「ふん!」

『ぐぁ!?』

 

かに、思われた

ラストが、テラーの体に自身の腕を突き入れる

その時までは

 

「な、何!?」

「な、仲間割れか?」

 

『な、何を・・・?』

「お前は下がっていろ」

 

そう言うと、ラストは腕を引き抜く

その腕には、一枚のチケットが握られていた

 

テラーが倒れ伏し、一人の人間に戻る

仮面ライダー達が、戦うこともなく

テラーは対処されたのであった

 

「お前達を倒す・・・私の力で・・・っ!」

 

STATUE OF HAPPINESS(スタチュー・オブ・ハピネス)

 

「変身っ!!」

 

Last UP(ラスト アップ)

『Give Everything ...Lose Everything』

STATUE OF HAPPINESS(スタチュー・オブ・ハピネス)

 

瞬間、ラストがこれまでともまた異なる姿を現す

金のアーマーに、まるで宝石のような装飾が散りばめられる

肩からは、黒の燕尾のようなマントが掛かる

 

そして、グリップからは上部と下部から

まるで、鳥の羽の如きパーツが生え

弓のような形状へと移り変わった

 

「「っ変身!!」」

 

『MASKED RIDER The NEXT(ザ・ネクスト)!!』

Heat Up(ヒートアップ)! GIGA SOUND(ギガサウンド)!!』

 

アクトとサウンド、そしてラストが相対する

先に仕掛けたのは、ラストであった

 

弓とかした、グリップをアクトらに向けトリガーを引く

次の瞬間、矢状の弾丸が2人目掛けて放たれた

 

「くっ!」「あぶね!」

 

2人が左右に避ける

スピードが極端に早いわけでもない

2人は初弾を容易く避けた・・・はずであった

 

2人の間を通り過ぎた矢が、その形を変える

唯の棒状だった形状が、十字状になったかと思えば

燕のような形状へと変化した

 

弾丸が、羽ばたく

ぐるりと旋回し、そのままアクトの背後へ

 

「雄飛!後ろ!!」

「えっ!?」

 

杏奈の言葉が掛かる

しかし、それは一歩遅かった

 

「ぐぁ!?」

「何!?」

 

背後からの奇襲に驚愕する二人

その隙を突いて、ラストはさらにグリップのトリガーを引くのであった

 

次の瞬間、まるで光で出来た鳥の大群が

二人の仮面ライダーへと襲い掛かった

 

 

「っく・・そっ!」

「近寄れねえ!」

 

弾丸を叩き落し、回避しながら戦うアクトとサウンド

避けるだけでは、再度襲い掛かってくる矢は

ただひたすらに厄介な攻撃であった

 

しかし、対応方法が無いわけではなかった

 

「相性悪いな・・・翔!」

「・・・ああ!」

 

『WILD WESTERN』

 

「変身!!」

 

次の瞬間、飛び交う数十体の鳥の内

十体以上が、撃ち落とされる

 

「なに!?」

「早撃ちなら負けねぇなぁ!!」

 

ブレイガンが連射されるたびに

飛び交う燕の数がどんどんと減っていく

 

そして、その隙間を縫うように

サウンドが駆けだした

 

「おらぁ!!」

「ぐっ!」

 

サウンドがラストと肉薄する

振るわれる槍を弓で防ぎながら

つばぜりあっていく

 

「そんだけじゃ勝てないぜ!!」

「・・・うるさい!!」

 

弓を強引に振り切り、距離を離す

そして、再度トリガーを引く

 

矢が一直線にサウンドへと飛来する

しかし、それは容易く叩き落された

 

「くそっ!!」

 

ラストが駆けだす、弓を振るい

備え付けられた刃がサウンドに襲い掛かる

 

二度の切り付け

さらにそれに対するカウンターを回避し

弾丸を撃ち込む

流れるような連撃

 

サウンドも、そんな攻撃をさばききれず

弾丸を槍で防ぐも押し飛ばされた

 

推し飛ばされたサウンドと入れ替わるように

アクトが飛び出す

 

放たれた銃撃が、ラストの体を捉え炸裂する

 

「ぐぁっ」

 

転がっていくラストは体制を立て直し、

すぐさま次の行動へ移る

 

『MIRAGE TORCH!!』

 

このままでは、不利だと判断し

フォームを切り替える

突き出した拳から、火炎が放たれ

アクトに襲い掛かる

 

『侍丸』

「ぜぁ!!!」

 

飛来した火炎を切り裂き

サムライフォームのアクトが飛び出す

 

そのまま、炎を纏った拳と剣がぶつかり合い

火花を散らす

 

「おらぁ!!!」

 

さらにそこにサウンドが飛び込む

 

ラストは

燃える拳と炎で形成された剣で二人に立ち回る

しかし、それでも戦いなれた二人の戦士を相手取るには不十分であった

 

「だぁ!」「はぁ!!」

 

剣と槍が突き出され、ラストの体に叩き込まれる

その衝撃に踏ん張りがきかず、ラストは吹き飛ばされた

 

「ぐぁっ・・・あっ・・!」

 

痛みで視界が揺らぐ、それでもまだラストの戦意は折れていなかった

ふらつきながらもその場に立ち上がる

 

「勝つんだ、・・・母さんが認めてくれるように──!!」

 

『STATUE OF HAPPINESS』

 

グリップをドライバーに収め、再度引き抜く

 

BEST END(ベストエンド)

 

弓を弾き絞り、撃ちだす

 

強力なエネルギーが一本の矢に集約され

アクトとサウンドに向けて放たれた

 

『NEXT』

『BEST CUT!!』

 

『GIGA』

『BEST HIT MEDLEY!!!』

 

アクトが、竜巻を纏った剣を

サウンドが、熱気を持った槍を構える

 

そして、飛来する矢に目掛け

両者は武器を振るう

 

巨大な熱気を備えた竜巻と矢がぶつかり合い

──打ち消し合った

 

「ハァ・・・!ハァ・・・ッ!!」

 

ラストが荒れた息を整える

最早、疲労はピークを迎え

必死の一撃も二人には届かなかった

 

それでも諦めなどつくわけがなかった

 

『MASKED RIDER The NEXT』

 

『NEXT』

『BEST ACTION!!』

『GIGA』

『BEST SOUND!!』

 

二人の仮面ライダーがそろって飛び立つ

 

BEST END(ベストエンド)

「うわああああああ!!!!!」

 

ラストが再度弓を弾き絞る

 

「ストームライダーキック!!」

「どりゃああ!!」

 

二人の仮面ライダーの必殺キックと

放たれた矢がぶつかり合う

 

強力なキックが矢のエネルギーを削り取っていく代わりに

その勢いを削いでいく

 

ラストは、祈るように縋るように

矢を放ち続ける

 

しかし、その拮抗も長くは続かなかった

 

「はぁああああ!!!」

「だぁあああああ!!」

 

「うぁっ・・・あああ!!」

 

矢を突き抜けた、二人のキックがラストの体に叩き込まれた

 

ラストが吹き飛び、地面に叩きつけられる

そして、変身が解け・・・そのまま動かなくなった

 

「ッハァ・・・ハァ・・・」

「い、生きてるよな・・・?」

 

息も絶え絶えといった様相で

アクトとサウンドが、ラストの安否確認をしようとしたその時

 

『隙あり』

 

高速で駆け抜けた何かが

サウンドの体を殴りつけ、吹き飛ばした

 

「翔!?・・・ぐっ」

 

それに気づいたアクトだったが

しかし、遅かった

 

突然現れた、ペローに首を掴まれ

持ち上げられる

締め上げられる首に意識が飛びそうになる

 

「雄飛!」

「来ちゃ・・・だめ・・・だ!」

 

テラーになっていた人を運び終えた杏奈さんが

飛び出してくる

しかし、喜べない、その背後にさらに何か別の何かが見えたからだ

 

「えっ!?きゃあ!」

 

杏奈の立っていた場所に、何かが振り下ろされる

それは、体を青く染めた

まるで、鬼のような意匠をした、怪人であった

 

「させっか!!」

 

復帰したサウンドが、テラー目掛けて駆けだそうとする

 

『邪魔しちゃだめよ?』

 

しかし、その間にさらに怪人が現れる

ストーリーテラーのクイーンである

 

何ということだろうか、この状況で

さらに3体の怪人が現れるとは

 

『さぁ・・・怪人になる時さ、仮面ライダー!!』

 

そう言いながら、ペローが釣り上げた

雄飛に手をかざす

 

その瞬間、自身の体が鳴動するのを感じた

 

「ク”・・・ア”・・・!?」

 

自分の中で何かがうごめくのを感じる

まさか──これがテラーへの変化だというのか

 

必死に抑える

こんな状況で、なるわけにはいかない

 

アクトの変身が解け、雄飛に戻る

しかし、そこからなかなか変化が起こらない

 

それに業を煮やすのがペローであった

 

『耐えるなよ・・・さっさと変われぇ!!』

「断る・・・っ!!」

 

自分の体から何か漏れ出てくるのを感じる

 

「いやっ・・・!」

「!?」

 

自分の状況もそうだが、どうやら向こうもやばいらしい

杏奈さんが、必死に後ずさりながら

テラーから距離を離そうとする

 

しかし、その程度で逃げられる相手ではない

振り下ろされるこん棒が、いつ彼女を押しつぶしておかしくない

 

サウンドは、クイーンに阻まれ

助けに行けない

 

不味い──このままでは杏奈さんが

 

『オワリダ・・・!』

「ヒッ!」

 

ついに追い込まれた杏奈さんに

テラーが狙いを定める

そして、こん棒を振りかぶり

 

──っ!

 

「や”め”ろ”お”お”!!!」

『うわ!?』

 

自分の中の何かへの対処と杏奈さんの救出で思考が混じり合い

最早無我夢中であった

 

感情の高ぶりに呼応したのか

吠えた瞬間に謎の衝撃が放たれ

ペローを吹き飛ばす

 

自由になったその身で駆ける

そして、テラーと杏奈さんとの間に躍り出た

 

既にこん棒は振り下ろされた

回避は不可能、変身をしなければ

 

チケットを取り出せるか──?

 

無理だ、どのポケットに手を突っ込んでも間に合わない

 

その瞬間だ、自分の手に何かが湧き出てくる

自分の中の何か、その一端が

湧き出て、チケットが生み出される

 

──迷っている暇などなかった

 

半ば反射で、手にしたそれを

乱雑に、ドライバーに叩き込んだ

 

夜と野獣(Night Of Beast)

 

──瞬間

──闇が訪れた

 

震える夜が来る(Trembling Night Is Coming)

獣が連れてやってくる(Beast Will Bring It)

あの悲鳴が聞こえるか?(Can You Hear That Shout)

 

夜と野獣(Night Of Beast)

 

...誰も逃れられない(... Not Missed off .)

 

続く




次回 仮面ライダーアクト

第21章[やがて、恐怖の夜が来る]


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第21章~やがて、恐怖の夜が来る~

大振りでただただ武骨な

飾りっ気もない、金属のこん棒は既に振り下ろされていた

 

──迷っている暇などなかった

 

半ば反射で、手にしたそれを

自分からたった今生まれた、何かを

雄飛は乱雑に、ドライバーに叩き込んだ

 

そして、腕を交差させ、振り下ろされるこん棒から頭を咄嗟に守る

反射的に目を閉じて、

数舜後に、自身に襲い掛かる衝撃に備える

 

・・・。

 

──?

しかし、何も起こらない

一体どうしたということだろうか

なぜ、自身に襲い掛かる攻撃が未だ襲い掛からない?

 

恐る恐る、目を開く

「!?」

そこには──()()()()()()

 

「なん・・・だ?」

 

気が付けば、雄飛は何もない暗闇の中

たった一人、立っていた

暗い、本当に暗い

目の前ですら何も見えない程の、闇の中に立っていた

 

「ここは・・・?杏奈さん・・?翔?」

 

後ろに振り返る、そこには誰もいない

遠くを見渡す、一寸先は闇に包まれ、何も見えない

 

──いや

 

「っ──誰だ!?」

 

気配があった、自分以外に誰の姿も見えない

先すら満足に見通せない闇の中

 

うごめく何かの気配が、確かにあった

 

瞳が開く、紅く光る眼が闇の中で自分を見ていた

それを認識した瞬間、はっきりとその姿を捉える

 

逆立つ焼け焦げたかのような黒い毛

曲がった姿勢、膨らんだ手足

指先から覗く、鋭く禍々しい爪

荒い息を吐く口から見える牙

 

禍々しい、野獣がそこに立っていた

 

『■■■──』

「!?」

 

互いが、互いを認識した瞬間

野獣は動き出す

その脚で、すさまじいスピードで雄飛に襲い掛かった

飛び掛かり、鋭い爪を振り下ろす

 

雄飛は、それを横に転がるように何とか避け

そして、野獣が着地した先を見る

しかし、そこに野獣は既にいない

 

一体どこにと、そう考える間もなく

()()()()()()()()()()()()

 

「が・・・ぁ・・っ!?」

 

背後から襲い掛かった

野獣の爪が肉を裂き、雄飛の体を貫いた

 

凄まじい痛みが雄飛を襲う

そして、その衝撃は

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

振り下ろされた、こん棒が途中で停止する

振り下ろすのを止めた?

──いや、止められたのだ

 

青い鬼のような様相のテラー:オーガテラーと

杏奈の間に割って入った、雄飛は

振り下ろされたこん棒を、掴み取っていた

 

震える夜が来る(Trembling Night Is Coming)

獣が連れてやってくる(Beast Will Bring It)

あの悲鳴が聞こえるか?(Can You Hear That Shout)

夜と野獣(Night Of Beast)

...誰も逃れられない(... Not Missed off .)

 

そんなおぞましさすら感じる音が鳴り響いた

雄飛の体が変容していく

 

いつものような、ヒロイックな姿ではない

黒、薄暗さを感じるような黒のアーマー

全体的に尖ったシルエットは、どちらかというと暴力的で

その腕は、獣を思わせる、逆立った毛で覆われた

何よりも、獲物を睨むかのような、鋭く尖った

紅い複眼が、強く、光っていた

 

『!?・・・放せ!』

「──。」

 

テラーがこん棒を引き剥がそうと

手に力を込める

しかし、それが動くことは無い

凄まじい力が、それを押さえつけている

 

ビシリと、鈍い音が静かに響く

アクト?が握りしめた部分から、亀裂が走る

そして、次の瞬間に

まるで、薄い氷を砕くように

こん棒は、バラバラに握りつぶされた

 

『!?──何ィ!?』

 

己の武器を容易く砕かれ、驚愕するテラー

その隙に、アクト?が拳を叩き込んだ

拳がテラーの体に触れた瞬間

テラーの体が宙に浮く

凄まじい力の込められた、その一撃は

しっかりと大地を踏みしめたテラーから

その足を引き剥がすことなど、容易であった

 

テラーが吹き飛び、着地もできずに地面を滑る

そして──

 

「■■■■■■──!!!!」

 

最早、言葉ですらない咆哮が響き渡った

空気を揺らすほどの大声は

その光景を唖然としてみていた

3人をようやく現実に引き戻した

 

「──つぅ!」

 

目の前で鼓膜が破れるかと思うほどの大声が放たれた杏奈は

耳を塞ぎながら、苦悶の声を上げる

 

そんな、ほんの少しの漏れた声を

──アクトは聞き逃さなかった

 

アクトが振り返り、目の前の少女を見据える

紅く鋭い瞳に、庇護の念は感じられず

その腕は、ゆっくりと持ち上げられ──

 

「──っ、不味い!」

 

腕が持ち上げられたのを見て

嫌な予感を感じ取ったのはサウンドであった

 

腕があくまでゆっくりと持ち上げられたのは、ある種の拒絶反応であろうか

必死に駆けたサウンドは、アクトと杏奈の間に

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「・・・うそ」

「な、にやってんだ!雄飛!!」

 

振り下ろされた腕を槍が受け止める

腕と槍が触れ合った瞬間、一瞬火花が散ったかと思えば

凄まじい重さが、サウンドの腕に掛かった

 

まさか、風間ちゃんにこんなのを振るおうとしたのかと

サウンドは驚愕する

と、いうよりも

雄飛が、仲間に攻撃を振るおうとしていることに驚愕した

 

一瞬、認識を誤認させる能力でも、あったのかとも思った

しかし、

 

「■■■──!」

 

その唸り声と、鋭い眼光がその疑念を払う

そして、理解する

そこに、雄飛はいない──!

 

振り下ろされている、手の力が弱まる

しかし、空いたもう一方の手が今度は動いた

かち上げるように、槍を腕が弾く

がら空きになった体に蹴りが叩き込まれる

 

サウンドの体もまたテラーのように宙を舞った

それを見た、アクトの背後に衝撃が走る

 

ゆっくりと振り返る

その眼前には獅子の様相をした怪人が次の手を振るわんとしていた

 

アクトの背後に不意打ちをしたペローは

再度、腕を突き出す

しかし、二度目の攻撃は不発に終わる

突き出された腕はアクトの体に届く前に掴み取られた

 

『!?』

「■■■!!」

 

掴んだ腕を振り上げる

それだけで、重いペローの肉体が空中に放り出される

そして、逃げ場を失った体に

アクトの拳が叩き込まれた

 

『ご・・・ぉっ!?』

 

苦悶の声を上げ、地面をバウンドしていくペロー

 

『貴様・・・!』

『くっ・・・!』

 

入れ替わるように、オーガテラーとクイーンが

新たな脅威を摘み取らんと前に出る

それを見てアクトは

 

さらなる行動に出る

 

──それを直感的に危険に感じ取ったのは

通常の雄飛との違いが色濃く見て取ったサウンドだけであった

 

「やばい!!」

「きゃっ!?」

 

サウンドが反射的に杏奈を抱えて飛びのく

 

次の瞬間──

アクトから、()()()()()()()()()()()()()()()

凄まじいスピードで放出されるそれに

サウンドと杏奈以外の3人が巻き込まれる

 

残された2人の目の前に形成されたのは

まるで、夜のように黒いドーム状の何かだった

 

まるで、夜のような暗闇が3人を包みこむ

目の前すら満足に見通すことのできない暗闇が自身の視界を阻んでいた

 

『これは・・・!?』

 

驚愕だったのだろう、テラーが一歩後ずさる

その足音こそが、致命的な情報であった

 

瞬間、鋭い痛みが走る

まるで何かに切り裂かれたかのような痛みが自身の体を蝕む

それにたまらず、また足を踏み出す

そして、また同じように引き裂かれたかのような攻撃が襲い掛かった

 

『あっ・・・がっ・・!?ぐぅわっ!?』

 

前から後ろから、四方八方からすれ違いざまに引き裂かれていく

けれども攻撃が止むことは無い

最早嬲られるようにテラーが傷ついていく

 

たまらず、膝から崩れ落ちる

その時、攻撃が止んだ

 

『(・・・助かった・・・?)』

 

僅かな希望を感じ、テラーが前を向く

その目の前には──

 

『BEAST』

BAD ACTION(バッドアクション)...』

 

紅い眼光が、怪しく光り輝いていた

その腕に、禍々しさすら感じるほどの

エネルギーが集まり、巨大な爪を携えた腕が形成される

 

『ひっ・・・うわぁああああああ!!!』

 

テラーの声が恐怖に歪む

その機能があれば、涙すら流していたであろう

けれど、そんなことには構いもせず

アクトは、無慈悲に腕を振り下ろした

 

爆炎が立ち上がり闇が晴れる、

視界が元に戻ったペローとクイーンの目に映ったのは

炎を背に立ち、こちらに狙いを定め始めた

アクトの姿だけであった

 

アクトがさらに2人に襲い掛かる

飛び掛かられた二人は、あまりの出来事に防御が間に合わず

その爪を持って引き裂かれ、吹き飛ぶ

 

『グッ!・・・クソ!』

『これは・・・駄目ね』

 

ペローとクイーンがその場から転移するように消える

2人はその脅威的な力のアクトに

たまらず一時撤退を選択したのだった

 

消えた2人を探し、当たりを見回すアクト

そこに──

 

『POP』

『BEST HIT !!!』

「どりゃあああ!!」

「!?」

 

必殺技を備え、サウンドが突撃する

背後から不意を突かれたアクトは

驚愕しながら体をサウンドの方に向けるも一手遅い

 

ギターランスを下段から切り上げるように振るう

真正面から振り上げられたその一撃は

アクトの腰に巻かれたベルトを引っ掛け

引き剥がすようにアクトに叩き込まれた

 

ベルトが無理やり剥がれる

 

「■■■!?」

 

驚愕したかのような声を最後に

アクトは、まるで電池が切れたかのようにその動きを止める

そして、変身が解除され

雄飛は気絶したままその場に倒れ伏すのであった

 

 

『チッ・・・テラーになれとは言ったけど、

 あそこまでじゃじゃ馬だとはね・・・』

 

帰還したペローは苛立つようにそう吐き捨てる

あれほどのパワー、間違いなく素材としては最良だろう

どう捕まえるかが問題だと

そう、思ったところで

隣にいる人物が、随分と上機嫌なのに気が付いた

 

『なんだ、久々に姿を見せたと思ったら随分と機嫌がいいじゃないか』

 

相手であるクイーンは

それを聞くとこう答える

 

『えぇ!・・・()()()()()()()()()()!』

11(ジャック)13(キング)を使ったわ。これで、勝負は頂いたわね!』

 

それを聞いたペローは内心穏やかにはいられなかった

どこで何をしていたのかは知らないが

彼女がここまで言うのだ、生半可なものがお出しされるとは思えなかった

 

『へぇ・・・そりゃあ凄い。でも、僕も負けてられない

 あの力を見たか?僕はあれを手にして勝ちを狙う』

 

焦りがあったのだろう、

負けてられないと、そんなことを口滑らせて

そう言うと、ペローはその場を立ち去った

 

それを聞くと、クイーンは怪しく微笑む

『そう・・・じゃあ?速く潰さなきゃね?』

 

 

雄飛は、またもテアトロのベッドで目を覚ますと

自分に何が起こったのか、そのことの顛末を聞き及んでいた

 

「チケットは・・・また、体の中か」

「しかし、大暴走とは、杏奈にまで襲い掛かったとなっては

 下手すれば民間人まで襲いかねないぞ」

 

一体どうすると、皆して頭を悩ませている

 

自分の不甲斐なさが、この現状を招いていることに罪悪感を覚えながらも

雄飛は、あの時自分が見たあの光景を思い出していた

 

暗闇の中で、自分に襲い掛かったあの野獣

あれこそが、このチケットに収められた

一人の人工精神なのだろう

 

となれば、あの状況はまさに精神の取り合いを行っていたわけだ

あれに抗うには、あの野獣に打ち勝つしかない

しかし・・・どうやって?

 

ヒントになるかと思い経験者(大木と杏奈)に尋ねるも

 

「・・・え?そんなの知らない」

「僕もだ・・・出てくるって言ったってもっとこう

 体から漏れ出るみたいな・・・」

 

そんな返答が返って来る

・・・?自分だけが、あんな状態になっている・・・?

 

これはどうしたと、疑問に思っていると

 

突然、店に異変が起こった

座っていた椅子が消え去る

皆して一斉に、腰から崩れ落ちた

 

ボスリと余り痛くない感触が体に響く

地面を触ると、そこにはサラサラとした砂が敷き詰められていた

 

「・・・砂丘?」「いや、砂漠だ!?」

 

いきなり、店どころか辺り一面が砂漠に早変わりしてしまった

そして、はるか遠くから何かが駆けてくる

 

あれは──

 

「不味い、皆下がってて!」

「待て!雄飛君!・・・やばくなったらすぐにベルトを外せ!」

「分かってます!翔!」

「おうさ!!」

 

杏奈さんや浩司さんが逃げたのを見送り

迫りくるテラーに立ち向かい

二人の青年たちは、構えた

 

「「変身!!」」

 

 

アクトとサウンドが変身をし終えたその瞬間

テラー達は、2人の元に到着した

 

飛ぶ絨毯を踏みしめたアラビアンな意匠をした怪人

 

怪人が仮面ライダー達の横を飛び抜ける

その通り際に、手にした曲刀で仮面ライダー達を切り付けた

 

想像以上のスピードで飛び交うテラー

その速さに翻弄される仮面ライダー

 

飛んでいるのも厄介だが、何より場所が悪かった

一面の砂が踏み込みを抑制し、上手く動けない

その鈍った動きを、テラーは逃すことなく攻撃していく

 

「くっそ!・・・相性悪いな!」

「だったら・・・!」

 

『WILD WESTERN』

 

アクトがブレイガンを構え、弾丸を放つ

しかし、その攻撃も武器に弾かれ、阻まれていく

弾丸も飛ぶテラーへの決定打にはならない

 

──なら!

 

再度、空を飛ぶテラーがアクト目掛けて飛来する

弾丸を放ち迎撃するも、それは武器に阻まれる

 

猛スピードで接近する敵、足場の悪い自分

回避不能な状況

しかし、アクトはこの攻撃を回避する気などなかった

 

通り際に曲刀がアクト目掛けて振るわれる

その一撃をアクトは

自身の左手を持って、受け止めた

鋭い痛みが走る、だが、一瞬相手の動きが止まった

 

『何!?』

「ここだ!!」

 

がら空きの体にブレイガンを構え

何度も引き金を引く

多数の弾丸が、テラーの体に叩き込まれ

その足を空飛ぶ絨毯から引き剥がした

 

砂漠に転がるテラー

 

「飛ぶ前に一気にいくぞ!!」

「おっしゃ!」

 

アクトがブレイガンを構え

サウンドが、槍を持って突撃する

 

『・・・まだだ!』

 

それに対し、テラーは焦らない

その手を、右肩の装飾に近づける

金色のまるで、()()()()()()()()()()()()()テラーはゆっくりとこすった

 

瞬間、その装飾から、煙が上がる

大量の煙はやがて集まり

まるで巨大な腕を作りだした

 

「な!?」

 

サウンドが驚愕に足を止める

そして、腕が仮面ライダー達に対し振り下ろされた

 

アクトとサウンドが回避するも

叩きつけられた巨大な拳が大きく砂埃を立てる

その隙に、絨毯を呼び戻したテラーが

再度、空に飛び立つ

 

そして、空からまるで降り注ぐように

煙の拳が何度も仮面ライダー達に叩きつけられた

 

「くそっ!埒が明かねぇ」

「どうにかして、あいつに近づかねぇと・・・」

 

避けながら、何とかせねばとアクトは思考を走らせる

 

この足場の悪さでは、大きな跳躍は不可能

やはり、遠距離攻撃を叩き込んで撃ち落とすしか・・・

 

そんな考えをしていたその時

自身の体に、また、痺れるような痛みが走る

 

「がっ・・!?」

「雄飛!?」

 

体を押さえこもうとする

しかし、それも耐えきれない

 

気が付けば、またも雄飛の意識は

暗闇の中にいた

 

──背後から悪寒が走る

振り向いて、飛び掛かった野獣のその腕を掴む

 

『■■■──』

「くっ・・・お前・・・!」

 

このままやられてたまるかと

雄飛は、野獣の腕を掴み止める

今にも振り切られようとする腕を何とか持ちこたえる

 

『──ていけ

「・・・?」

 

『──でていけ・・・!!』

「!?」

 

その時だ、

野獣が初めて意味の分かる何かを言ったように聞こえたのは

 

しかし、それを確かめる間はなかった

雄飛の手を外した野獣は、そのままその腕振り切り

雄飛のその体を見るも無残に、引き裂いた

 

 

『Trembling Night Is Coming』

『Beast Will Bring It』

『Can You Hear That Shout』

『Night Of Beast』

『... Not Missed off .』

 

「やべぇ!また!!」

 

再び、野獣のようなアクトが目覚める

煙の大腕が、そのアクトを押しつぶさんと殴り掛かった

 

しかし、それが仇となった

まるで、飛びのくように腕を回避したアクト

そして、さらにアクトは落ちてきた腕を掴むと

 

そのまま、腕を駆け上がるようにテラー目掛けて上り始めた

 

『なんだと!?』

「■■■■■!!!」

 

テラーが煙を装飾に呼び戻すも、時すでに遅し

腕が消え去る前にアクトがテラーの元に到着する

絨毯に降り立ったアクトがテラーに対し殴り掛かる

 

狭い絨毯の上で、爪と曲刀が入り乱れる

唯の獣のようにありながら

こちらの曲刀を理知的に避け

その腕で的確に攻めてきている

近接戦闘能力は、アクトに軍配が上がっていた

 

『くっ落ちろ!』

「!?」

 

テラーがわざと乱雑に絨毯を飛ばす

突如の揺れに、アクトの体制が崩れ振り下ろされた

 

砂の着地するアクト

それに対し、テラーが再度急降下からの攻撃を繰り出さんと絨毯を飛ばす

 

「■■■──■■■■■!!!!」

 

その瞬間、アクトがすさまじいまでの声量で咆哮を放つ

びりびりと空気を揺らすほどの音響が空中のテラーにまで迫った

 

『吠えたところで──!!』

 

そうして、アクトへの落下をテラーが始めたその瞬間

()()()()()()()()()()()()

砂から地面に、砂漠から街に

 

『!?』

 

どういうことだと、テラーが驚愕する

 

アクトの咆哮が砂を振動で揺らす

強大なまでの方向ははるか遠くの砂にまでその力を伝えていた

そう、遠くの先に突き刺さった楔にまでその振動を強く伝えたのだ

その強すぎる振動に、楔は耐えずに砕けたのだ

 

それでも、もはや自分は止まらない

このまま奴の元を突っ切り

通り際にその首を切り落としてやらんと

テラーは速度を上げて、アクトに突っ込む

 

その時だ

アクトの周囲から暗い霧状の何かが湧き出し

アクトが見えなくなるほど、黒く包んだ

 

『何!?』

 

テラーは目標を見失った

しかし、既にもう止まれない

止まるには速度を出しすぎていた

 

テラーが暗闇に突っ込み、アクトがいたであろう場所に曲刀を振るう

──手ごたえはない

そのままテラーは暗闇を突き抜け再び上昇する

 

絶好のチャンスを逃したテラー

しかしまだチャンスはある

もう一度、奴の元に突っ込んで──

 

下を見る、黒い闇が晴れていく

しかし()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()

 

?一体どこに──

 

『BEAST』

BAD ACTION(バッドアクション)...』

 

不吉な音声が、背後から聞こえたのを

テラーは感じ取っていた

 

振り返る、そこには

力を溜め込み、今ここに放たんとする

獣が、そこに立っていた

 

アクトが、その腕でテラーを殴りつけ

絨毯から空中へと放り出す

 

驚愕したまま落下していくテラー

 

アクトもまた、絨毯から飛び降りる

 

テラーがもがく、何とかしなければともがく

しかし、無情にもその身動きのとれなくなった体を

 

「■■■■■───!!!」

 

アクトの、禍々しいエネルギーを集わせた

蹴りが一息に、貫いた

 

空中にて爆散するテラー

爆炎を背に着地するアクト

 

勝ち誇ったかのような咆哮を上げた彼は

残った一人を、見据える

 

「やるしかねぇのか・・・!」

 

その荒々しいを超え、もはや凶悪とも言える

戦いぶりに冷や汗を流しながら

サウンドは武器を構える

どうやって、彼からベルトを引き剥がそうかと思案する

 

『お困りかしら?』

「!?」

 

そんな彼に話しかける声が一つ

その相手は

 

「クイーン!何しに・・・!」

『あら、大丈夫よ、あなたに用はないわ

 ・・・あの子ね』

 

突如現れたクイーンはアクトを見据え

そして、手を広げた

 

『いらない根は、潰さなきゃね?』

「!?」

 

サウンドが、クイーンに槍を構える

冗談ではない、こっちは雄飛の変身解除って大仕事が残っているのに

余計な火種を持ち込むなとそんな心境であった

 

『あら?遊んでくれるの?

 ・・・でも残念、今日は私は戦う予定じゃないもの』

 

そう告げると、クイーンの背後から何かが出てくる

それは、細身の剣を携えた、まるで銃士隊のような意匠をした3体の怪人であった

 

『さぁ・・・()()()()()()

 その力を見せて頂戴!』

 

続く




次回 仮面ライダーアクト

野生VS三人の銃士のコンビネーション
『■■■──!!』

ラストの最後──?
「私は・・・もうおしまいだ・・・。」

彼は何を選ぶ?
「君は、そういう人が──
 いつ、おしまいを使うか知っているかい?」


第22章["おしまい"には"めでたし"を添えて]


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第22章~"おしまい"には"めでたし"を添えて~

3体の銃士隊のような意匠ををした怪人が駆けだす

 

暴走したアクトもまた、未知の自身柄の敵意を敏感に感じとっていた

アクトがもまた、駆け出し3体の内の1体へとその腕を振るう

銃士の怪人:マスケティアテラーの細身の剣と

アクトの爪が打ち合い、火花を散らす

 

獣の如き、しなやかながら身軽な動きが

突き出された剣ごとテラーの頭上を飛び越えその背後を取る

完璧に隙を突いたアクトの攻撃がテラーの背後に迫る

 

しかし、それはテラーに届く直前に止まった

横から伸びた2体目のテラーの剣が、アクトの攻撃をテラーから守る

そして、防いだ次の瞬間、3本目の剣がアクトの頭部目掛けて振るわれた

 

バク転の要領でアクトが飛びのき回避する

飛びのいた先に見えたものは、

隙を見せたテラーの背面を守るように構えたもう2体のテラーであった

 

テラー達が一斉にアクトへと駆けだす

 

「■■■──!!」

 

アクトが咆哮を上げ迎え撃つ

 

テラー達の流れるような連携攻撃が、アクトを少しずつ切り裂いていく

しかし、アクトもまた、それを意に介していないかのように

アクトが強引にその力を振るい、テラーに叩きつけていく

泥沼のような攻防、しかし、それも長くは続かなかった

 

3体のテラーが3方向からアクトを取り囲むよう陣取る

そして

3者一斉に、その手の剣をアクト目掛け突き出した

 

3方向から剣先がアクトに迫る

反射的に両手で左右からの剣先を掴み止める

しかし、残る一本がそれでは止まらない

空いた足で蹴り飛ばす暇は残っていなかった

 

一体のテラーの刺突が、アクトへと突き刺さる

赤い血が地面に滴り落ちる

取った

テラーの1体が手ごたえを確信し、剣を収めようとする

 

『・・・!?』

 

しかし、引き抜こうとした剣先が動かない

突き刺さった、体そのもので掴み止めているかのように

 

アクトのその複眼が、一層紅く光ったように見える

両手で握った剣ごと、2体のテラーを振り飛ばし

そして、正面に構えたテラーに対し

渾身の拳を撃ちだした

 

拳が逃げ遅れたテラーを捉え、吹き飛ぶ

受けた傷からひび割れ、やがて砕け散るように爆散した

 

刺さった剣を自ら引き抜く

血が滴り落ちる傷口が、痛々しく・・・

瞬間、傷口から煙が上がる

ぽっかりと空いたその穴が

みるみる内に塞がっていく

 

『何!?』

 

残ったテラーが驚愕する

凄まじい生命力だと

彼に埋め込まれた怪人の、そのポテンシャルが見て取れた

 

「ハッー・・・ハッ・・・」

 

しかし、かなりの体力を消耗したのだろう

アクトが荒く、肩で息をする

 

残り2体

逃さんとアクトが再度構える

 

「いい加減、落ち着け!!」

「!?」

 

しかし、その眼前に突然乱入者が現れる

仮面ライダーサウンドが、咄嗟のことに動きを止めたアクトの

その腰に備え付けられたドライバーを掴み

 

「っぐ・・・おぉおお!!!」

「■■■──!??」

 

無理やり、引き剥がした

瞬間、野獣の如き様相をしたアクトの変身が解除され

雄飛がその姿を現す

 

「う・・・あ・・・っ」

「雄飛!?」

 

雄飛が腹を押さえ、膝を落とす

傷は塞がっているようだが

腹を突き破ったその痛みが、変身を解いた今顕著に表れ

雄飛の意識を刈り取った

 

「くっ!」

 

『RAP!!ROCK!!』

HIT MEDLEY(ヒット メドレー) !!!』

 

突き立てた槍から蒸気が沸き上がり、2人を包みこむ

テラーが、蒸気ごと2人の立っていた場所を切り払う

しかし、そこに既に仮面ライダー達はいない

蒸気にまぎれ、雄飛とサウンドが戦線から離脱していた

 

『・・・まぁ、いいわ』

 

それを言い放ったのはクイーンであった

 

『十分・・・さぁ、今日は帰りましょう?』

『『ハッ!!』』

 

2体のテラーがクイーンの指示に従い構えを解き威勢よく応える

クイーンとテラーもまた、煙のようにその場から立ち去るのであった

 

 

暗い屋内を、足を引きずりながら歩く影があった

その体には、切れ切れな息でようやくその場所にたどり着いていた

 

「ハッ・・・ハァ・・・」

 

体中に傷をこさえながら、ラストはようやく戻ってきていた

闇雲に駆けまわり、ついぞは仮面ライダー達に敗れ

それを経て、この場に戻ってきていた

 

この結果を見て、母はなんと言葉を漏らすだろうか

怒りだろうか、失望だろうか

それがたまらなく恐怖であった

しかし、戻らないという選択肢は有りはしなかった

その心は、どうしようもなく

その人にすがりたくて、たまらなかったのだ

 

母に割り当てられた部屋の前にたどり着く

ボロボロで歪んだ扉の隙間から

中が少しだけ、見えた

 

2体のテラーと、自身が母と崇める女性

喜びがこぼれる

久しく会えていなかった気がする母が目の前にいる

 

『うぉ・・・あぁああああ!!』

 

2体のテラーの内が突然悶えだす

そして、頭の頂点から、裂けるように千切れていく

完全に2つに分かれた体

その断面から、体が生えてくる

全てが終わった後には

3体に増えた、テラーがそこにいた

 

『凄い!元通りね!』

 

母が手を叩きながら、喜ぶ

暗い感情が湧き出す

つい、扉に手が触れ

軋むような音が、静かな室内に響いた

 

『・・・?』

 

母が、こちらを向いた

認識してくれたことに歓喜があふれる

 

「母さん・・・!」

 

怒りを向けられるか、なんて不安も忘れ

母を呼びかけ、足を踏み出す

 

それを見た、母は・・・

 

 

「雄飛くんは?」

「寝てますよ、もうぐっすり」

 

いつも通り、客もいない店内で

浩司と杏奈、そして雄飛を運んで寝かせた翔が話している

 

そこに、店の外から誰かがやって来る

 

「やってるか?」

「太田」

 

刑事の太田である

一体、何の用だろうか

 

「まさか、またテラーが!?」

 

杏奈が狼狽えながらあまり好ましくない予想を叫ぶ

雄飛が寝てる今、的中してほしくないのだが・・・

 

「いや、そうじゃない

 これ、風間大吾さんの容体の記録だ」

「あぁ、すまない!」

 

浩司が、慌てた様子で受け取り中身を改める

内容に満足したような顔をして、それを戻す

 

「あぁ、最近忙しかったから」

「太田さんが代わりに貰いに行ってたのね」

 

「全く、刑事にパシリをさせるな」

「すまない・・・」

 

太田さんの小言に浩司が頭を掻きながら謝る

少し、空気が和んだ気がした

 

その時、書類を引っ張り出したカバンから

さらに何枚か薄い何かがこぼれだす

 

「あ、落ちましたよ・・・って、これって」

 

杏奈がそれを拾い上げる

それは、数枚の写真

女性の顔が写った写真であった

 

「この前の・・・」

「クイーンの写真じゃん」

 

それは、以前太田が突き止めた

ストーリーテラーの人間時代の素性の写真であった

 

「ああ、すまない」

「そういや、この前は途中までしか聞けなかったっけ」

 

杏奈が、そんなことをいう

以前は、日暮・・・サンについてで頭に血が昇っていた翔も頷く

 

途中で、テラーが発生してしまい

結局、最初に話したサンの罪状しか聞けていなかった

 

「ん?・・・ああ、そういえばそうか」

 

太田が、思い出したかのようにそう言い席に座る

そして、写真を広げて話始めた

 

「残りは、姫川と、金子だったか」

 

そういって、姫川と金子・・・クイーンとペローの写真を指す

翔と杏奈もまた席に着き、完全に聞きいる体制に入る

 

「一体、こいつらなにやらかしたんです?」

「・・・。」

 

浩司が、少し口を噤み

姫川の写真をつまみ上げる

 

「4件の結婚詐欺」

「・・・えっ?」

「結婚・・・詐欺?」

 

太田がそう呟く

しかし、その内容は思ったよりも・・・

比較対象が、連続放火のサンに比べると随分と軽い

 

しかし──

 

「・・・()()()()()()()()()()()()()4()()()()()()()

 

杏奈が息を呑む音が店内に響く

 

罪状はそれだけでは、決してなかった

4名の殺人がさらに付与される

 

「そりゃあ・・・」

 

大変な罪状だ、と翔が言おうと口を開いたが

その口は直ぐに噤むことになった

 

太田が、翔の言葉を遮るようにさらに告げる

 

「・・・そして、その4人との間に生まれた4名の子供」

「その内、生後2か月の第4子を除く、3名の

 育児放棄(ネグレクト)による・・・虐待死だ」

 

 

 

 

 

 

『あら?・・・あなた、()()()()()?』

 

返ってきた反応は、自身の予想とは大きく違っていて

何とも思っていないような

いや・・・興味もないような声色が酷く

ラストの耳に、響き渡った

 

「・・・え?」

 

震える声で、何とか反応を返す

 

「いや・・・母さん、私は・・・失敗して・・・」

『そうなの?』

 

不思議そうな顔をした母に、ラストは狼狽えながら

しどろもどろになりながら

言葉を紡ごうとする

しかし、母はそんなことも意に介そうともせずに

テラーの方へと向き直る

 

『まぁ、いいんじゃないかしら?

 ()()()()()()

「・・・え?」

 

『8年掛けたあなたでも、駄目そうだけど

 私は彼を見つけたわ!』

 

『きっとこの子と彼は上手くやれるもの

 ・・・心配なんてしていないわ?』

 

どういう・・・ことだろうか

なぜ、何も言わないのだろうか

怒りは、失望は、自身に向けられるべきものはどこだろうか?

 

「か、母さん・・・次は、次は上手くやるよ!」

 

取り乱しながら、ラストは母に詰め寄る

 

『・・・?』

 

しかし、クイーンは心底不思議そうな顔をして

次の言葉を紡いだ

 

()()?』

「・・・何・・・って?」

 

ラストには理解ができなかった

彼女が何を言っているのかを

自分は、彼女にとって重要な、大切なもので・・・

 

『頼むようなこと、もう何もないわよ?』

『彼らが全て上手くやるもの、

 あなたは、もういいわよ?』

「」

 

瞬間、頭が真っ白になった

ここまで、言われて

初めて彼女が言いたいことが伝わった

 

自分の役目は、おしまいだ

 

奥から、テラーが顔を覗かせ

それに気づいた、母が

自分から目線を外し、上機嫌で彼らに寄っていく

 

もう、自分に向けた意識は

どこにも残っていなかった

 

「ふ」

 

頭の中がまとまらなかった

不要になった自分は一体、何なのか

彼女の希望ではない自分は何のための存在なのか

なぜ、いらなく、なったのか・・・

 

そんなことが延々と頭を回り続け

 

もうなにも分からなくなって

眼前の、3体の怪人に

自分から、何かを奪い取っていこうとしている奴らに

ただただ、ぶちまけた

 

「ふざけるなあああああ!!!」

 

Last UP(ラスト アップ)

『Love Disappears as Bubbles』

BUBBLE MERMAID(バブル・マーメイド)

 

グリップから生やした剣を持って切り掛かる

それを見た3体の内、1体が細身の剣でそれを受け止める

 

2体目が飛び上がり、自分の背後に着地する

そして、背後から自分を突きさそうと、剣を突き出す

 

剣先が、ラストの体を貫こうとしたその時

剣先が肉ではなく、ただの水を貫いた

 

全身を液状化し、浮かび上がる

そして、1体目の剣を弾き、2体目の背後へ

そのまま背面に切り掛かる

 

しかし、控えていた3体目がその攻撃を受け止めた

再度液状化し、今度は地面へと潜る

 

そして、地面から飛び上がるかのように

1体目の眼前から飛び出した

すれ違いざまの不意打ちが、その体を切り裂く

 

『ぐぅ!?』

 

有効だ

ラストはさらに地面に潜り

2体目3体目の方も撹乱しながら不意を突き

その攻撃を与えていく

 

そうだ、自分は強いのだ

このまま、こいつを倒せば

きっと、母も自分を・・・

 

『何してるの?』

 

母の声が聞こえた

見られている、そうだもっと見てくれ

私が勝つところを──

 

『ジャック、()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

──なんで

 

「──うわああああああ!!!」

 

叫びながら、再び地面に沈んでゆくラスト

それに対し、3体のマスケティアテラー達は

先程までとは、全く異なる行動を起こした

 

3体で集い、細身の剣を重ね合わせ、掲げる

まるで、何かの誓い合うかのような行動をした

その瞬間、3体の様相が変化していく

 

重ねた剣から、まるで溶け合うかのように

3体が中心へと集まっていく

完全に混ざり合い、その姿が形作られていく

 

「消えろおおおお!!」

 

ラストが、再度地面から飛び出し、その剣を振るう

 

鈍い金属音が響いた

そして、下から剣を振り上げるように飛び出したラストは

その音がした瞬間に、上昇することなく停止する

 

「!?」

 

受け止められたことに驚愕し、テラーを視認する

そして、さらに驚愕する

 

そこにいたのは、自分が狙っていたテラーの1体ではなかった

いや、1体ではあった、しかし残りの2体がいなくなっていた

 

銃士の意匠はそこまで変わってはいない

しかし、その体型は全く持って別物である

ひと際巨大化した、肉体の側面

通常ならば、2本のみ生えているはずの腕が、()()()4()()

顔の側面、そこには、()()()()()2()()()()()

 

それは、三面六臂(さんめんろっぴ)の怪人であった

 

常人離れしたその様相に度肝を抜かれるラスト

そのためもあってか、液状化が遅れた

 

2本目の腕が、受け止めた剣を掴み取り固定する

 

「!?」

 

次の瞬間、すさまじい勢いで、残りの4本の腕がラストに襲い掛かった

2本の腕がもった剣と、固く握りしめられた2つの拳が一斉に迫る

 

斬撃と殴打の乱舞がラストを完膚なきまで叩きのめしていく

苦悶の声を上げる暇も無いほどの連続攻撃をラストは為す術もなく食らい続ける

 

そして、トドメといわんばかりに、

拘束を解き自由となった腕も加えた6本すべての腕での強力な攻撃が

ラストを廃墟の壁へと叩き込んだ

 

「ぐぁあああああ!!」

 

脆くなった壁ごと突き抜けて屋外へと吹き飛んでいくラスト

崩れた壁からは、もう誰も出てはこなかった

 

 

『凄い!楽勝ね!!』

 

クイーンが跳ね上がるほどに喜びを露わにする

この前まで、子と呼んでいた存在がああなったというのに

そんなこと微塵も感じさせなかった

 

『容赦ないなぁ・・・』

『!?・・・あら、ペローじゃない』

 

その様子を遠くから見ていたのはペローである

全てが終わってから出てきた彼は、そのままクイーンに突っかかる

 

『大切な駒だったんじゃないのか?

 あんな雑に処理しちゃうなんてさ』

『だって不要になったのだもの』

 

悪びれもなくそう言い放つクイーン

 

『いらないなら、僕にくれてもよかったのに』

『あら、欲しかったの?

 悪いことしちゃったわね』

 

そういうと、クイーンは何か思いついたかのように

何かを探し、引っ張り出す

そして、それをペローに対し乱雑に投げ渡した

 

『じゃあ・・・代わりにこれを差し上げる』

『っと・・・おいおいこれは』

 

押し付けるように渡されたのは

チケットと9のトランプ

 

『情けのつもりか?』

『だってもういらないもの』

 

そうとだけ言うと、クイーンはテラーを引き連れ奥に引っ込んでいく

もう、ラストのことなど覚えてもいなさそうであった

 

『チッ・・・余裕ぶりやがって

 ・・・でも、いいのが手に入った』

 

ペローはその余裕な姿に苛立ちながらも

手に入ったチケットを眺めながら作戦を立て始める

 

『どうにかしてアクトをおびき出したいな・・・』

『呼び出し・・・全員来るか

 人質・・・うん、これで行こう』

 

『だれが良いかな~♬』

 

 

壁を突き抜け、地面を数度跳ね

長く滑ったのち、ラストは停止した

 

変身が解ける

痛む体を押さえながら、何とか立ち上がる

 

「うっ・・・あぁ・・・っ・・・」

 

逃げなければ、殺される前に

最早、あの場所に居場所などなかった

命欲しさにただその場から離れることだけ考えて

ボロボロになった体を引きずって進んでいく

 

擦り傷切り傷から血を滲ませながら

ゆっくりと歩いていく

どれくらい歩いたかもう分からなかった

 

どこを歩いているのかも分からなくなって

歩くのにも疲れてしまった

そして、たどり着いたのは

きっと偶然だったのだろう

いつぞやの公園にたどり着いていた

 

這うように進んで、いつか座ったベンチの目の前で倒れる

痛みに耐えるのも限界で、体力はそこを尽きていた

だが、それよりも、心がもう限界であった

 

・・・もう、おしまいなのだろうか

自分の名の場所が、こんなつまらない場所だったとはと

泣きたくなりながら、瞼を落とそうとした

その時

 

「君は、会うたびにボロボロだねぇ」

 

そんな、間の抜けた声が聞こえた

顔を上げる

 

「意識はありそうだけど、・・・全く持って大丈夫じゃなさそうだね」

 

いつかあった、変な男がそこには立っていた

 

 

「いやーあれから簡単な薬箱を持つようにしたけど

 全く持って足らなかったね!」

 

またもや、走って薬局へ行って

大量の包帯を抱え込んで舞い戻ってきた大木に

ラストは顔までぐるぐる巻きにされながら介抱されていた

 

「うん、とりあえずはこれでいいかな

 イヤー最近の軟膏とかはすごいねぇ」

 

擦り傷切り傷に薬を塗って

包帯をこれでもかというほどまで巻いて

何とか座れるくらいにまでになったラストに並んで座る大木

 

相も変わらず、どこか気楽そうな男だというのがラストの感じたことであった

 

「・・・それで?

 一体何があったんだい?

 その怪我は、ちょっと転んだくらいじゃないと思うけど」

「喧嘩とかなら、加勢は遠慮したいが

 仲裁位なら、力になれるかもよ」

 

こちらが落ち着いたと見たとたんに、切り込んでくる男

手当をして貰ったうちに、ほんの少し冷静にもなれた

なぜ、この男に話さなければならない

そんな風に思っていたのだが

 

「・・・私は」

「うん?」

 

「私は・・・もうおしまいだ・・・。」

「・・・うん」

 

自分でも、驚くほどに

素直にその言葉を口に出していた

 

「望まれたものを成せず、失敗を続け

 後から来た者に成り代わられ

 ・・・母からも見捨てられた」

「そうか・・・」

 

「私には、何もない

 もう、終わるしかない・・・」

「何も為せず、何にもなれず

 ただただ消えるだけの粗末な終わりにするしかない・・・!」

 

一度口にすれば、後から後から湧いてくる

情けなさから涙がこぼれる

そんな姿を、あろうことか何も知らぬ男に

自分はさらけ出していた

 

「そっか・・・大変なんだね」

 

男は、遠くを眺めながら

そう口にすると、ほんの少し考えて

一枚の紙を取り出し

何かをサラサラと書き綴っていく

 

「──これが、今の君なんだね」

 

そして、その紙をこちらに見せる

その中には

 

"少年は、全てを失い

 親からも見捨てられて、

 一人ぼっちになってしまいました。

             おしまい"

 

そんなことが、書いてあった

 

「なんだこれは・・・!」

 

文章を見て、苛立つ

今の自分を端的に再確認させられてバカにされた気分であった

 

そういうと、男はさらに同じ紙に何かを書き綴っていく

そして、再度それを見せる

 

"少年は、全てを失い

 親からも見捨てられて、

 一人ぼっちになってしまいました。

             おしまい

 けれど、少年は新しい仲間を見つけました。

 そして、彼は新しい仲間と笑い合って

 末永く、幸せに暮らしました

             おしまい"

 

見せられたのは、文章の書き加えられたもの

 

「なんだ・・・これは」

()()()()()()、気休めにはなるだろう?」

 

そして、メモをこちらに握らせる

 

「ふざけるな、こんなもので慰めたつもりか」

「そうじゃあない、けど

 ・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

男は、微笑みながらそんなことを口にした

 

「何・・・?」

「うん、おしまいにはまだ早いんじゃないかな」

 

男が席を立つ

日差しが男の顔に照り返し、酷く眩しく見えた

 

「僕は、話を作る仕事をしているんだ」

 

これは自論だけどね、と前置きをして男は話始める

 

「君は、そういう人が──

 いつ、おしまいを使うか知っているかい?」

「・・・?」

 

どういう意味だろうか、

おしまいは、おしまいだろう

話がこれ以上、先がない時に付ける物だろう

 

「うん、それはそうだ

 ・・・でも、それだけじゃないんだ」

 

「おしまいはね、()()()()()()()()()()()()()()()()

「──。」

「伝えたいことは書ききったところで、

 一番ここで終わらせるのが美しいと思ったところでつけるんだ」

 

そうじゃないと、書く意味がないだろう?

そう言うと、男が向き直る

そしてこちらに語り掛けてくる

 

「例えば、僕は"めでたし"が好きだけど、

 君は、そのおしまいで満足できるのかい?」

「・・・できるはずがない」

 

そうだ、何も為していない

何にもなれてもいない

そんな場所でおしまいは、満足からは程遠かった

 

「だが・・・もう、私には何の目的も目指すものも・・・」

「じゃあ、()()()()()()()()()()()

 

「」

 

男が、考えもしなかったことを言いのけた

 

「それは、いいのか・・・?」

「いいも悪いもないさ、だから、満足だよ」

 

そう男が言った

 

「満足・・・」

 

その時だ、ズウンと鈍い音が鳴り響く

目の前にあった木が突如へし折れた

 

「「!?」」

 

突然のことに硬直する2人の目の前に

長い棒を携えた、サルのような怪人が現れた

 

『やぁ、久しぶりだねぇ』

「!?・・・お前は」

 

そして、そのさらに後ろから、ペローが現れる

 

『アクトを呼び寄せたくてさぁ

 少し捕まってもらえるかい?』

「っ狙いは僕か」

 

そう言うと、大木がラストの手を掴み駆けだす

 

「逃げるよ!」

「っ!」

 

公園の木々を茂みを通り抜け

できる限り見失わせるように駆けていく

 

『逃がさないよ・・・追え!』

『オゥ!!』

 

サルの怪人もまた駆けだした

それを眺め、満足そうなペローもまたゆっくりと歩み行く

 

『・・・しかし、あのミイラはなんだ?』

 

 

駆けて、駆けて

既に廃棄されたような工場跡に逃げ込んだ

 

物陰に隠れながら

大木が電話を操作していく

 

「はやく、速く出てくれ~雄飛君・・・翔君でもいい」

 

中々電話に出ないことに焦っている様子をラストは黙ってみていた

 

「・・・ああ、巻き込んでしまってすまないね

 大丈夫、何とかなるから」

 

こちらの視線に気づき、そう言う男

自分の危機なのに、相手を気遣う余裕などないだろうに

 

その時、すさまじい轟音が遠くから聞こえてきた

怪人がどうやら工場内に入ってきたらしい

見つかるのも、時間の問題だろう

 

「・・・追いつかれてきたか」

「おい、ここもまずいぞ」

 

もっと逃げろ、とそう伝える

男は、少し考えて・・・とんでもないことを言い出した

 

「・・・よし、僕が囮になる

 君はその隙に逃げるんだ」

「何・・・?」

 

何を言っているのだろうか

この男は、唯の人のくせして

怪人の前に躍り出ようというのだ

 

隠れ場所から、立ち上がり音のする方へ進もうとする

 

「待て!」

 

咄嗟にその手を掴む

自分とは、なんの関係もない男の命だろうに

何故か、男を止めてしまう自分がいた

 

「・・・無関係の君を巻き込むわけにはいかないんだ。

 大丈夫、捕まえるって言ってたから殺される訳じゃない」

「あれだけ、人生について大口叩いて

 危険にさらすわけにはいかないからね」

 

そう言うと、男はやはり進もうとする

分からなかった

自身の命の危険で

なぜこうも人を優先できるのだろうか

 

「・・・分かった」

「ああ、しっかりと逃げて──」

 

それを見てラストは

 

「だが、逃げるのはお前だ」

「え?」

 

どうしても、放っておけなかった

 

『ラストドライバー!!』

 

ドライバーを巻き、隠れていた場所から躍り出る

 

「待て!君は・・・!」

 

『MIRAGE TORCH』

 

「──変身」

 

Last UP(ラスト アップ)

『What The Fire Showed Was All Illusions』

MIRAGE TORCH(ミラージュ・トーチ)

 

グリップを引き抜いた瞬間

包帯まみれの体が、仮面ライダーへと変わる

大木を一瞥し、仮面ライダーラストは

音が響く場所に駆けだした

 

 

呆然として、それを大木は見送る

電話が鳴る

雄飛と書かれた着信を大急ぎで取り

大木は

 

「雄飛君!!急いでくれ!

 もう戦いが始まってる!!」

 

 

続く




次回 仮面ライダーアクト

ラストの真意とは
『お前、なんのつもりだよ!!』
「──知るか!!」

雄飛達は、彼をどう思う──?
「一緒に・・・」
「そんなつもりはない」

『そう、邪魔をするのね』
「よく見ておけ、()()()()()()()()()()()()・・・!!」


第23章[Stand by Me]


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第23章~Stand by Me~

廃れた工場の壁が吹き飛ぶ

崩れた瓦礫の中から、ヌッと頭に金の輪をはめたサルの怪人が姿を見せる

辺りを見回し、目的が発見できないことを確認し踵を返す

そうして、次の場所への散策へと移る

 

『...?』

 

しかし、その目の前に一つの影が現れる

進もうとするテラーのその道を遮るように

仮面ライダーラストはそこに立っていた

 

『何者だ・・・?』

「・・・。」

 

手にしたグリップを強く握り込み、軋む音が静かに響く

それだけが、返ってきた返答であった

 

ラストが駆け出し、グリップから火を吹き炎を纏った拳を振りかぶる

それに対しテラーが手にした棍でそれをいなし、避ける

 

拳を避けられ、よろけたラストの足をテラーが払う

転倒したラストの脳天を割らんと棍棒が振り下ろされた

 

両腕で頭へと迫るそれをガードし、そのまま競り合いへと移る

テラーの怪腕が腕ごと頭を圧し潰さんと棍棒を押し込む

剛力に腕がどんどん下がっていく

それに対しラストは

 

「ぐ・・・!」

 

拳を握り込む

こちらに夢中のテラーのその顔の隣に

炎が浮かび上がり、拳を形作り始めた

 

「っ・・・らぁ!!」

『ごぉ!?』

 

炎の拳が、油断していたテラーの顔面へと突き刺さった

棍棒の力が抜け、拘束が解ける

そして、今度はラスト本体からの鋭い拳が

ふらついたテラーのその腹部へと鈍い音を立てながら振るわれた

 

後ずさり、足元がふらつくテラー

起き上がったラストはさらに追撃を重ねるべく駆け

 

「!?」

 

何かが高速で目の前を横切り、ラストが撥ね飛ばされる

 

「っく!?」

『おいおい・・・どういうこったよ』

 

ラストを撥ね飛ばした物体が停止しその姿を現す

その戦場に乱入したペローは

獅子の体を翻し、この状況に困惑していた

 

ラストが、ペローに対して殴り掛かる

しかし、その攻撃は通ることなく

迫る拳をペローはしっかりと掴み取った

 

『お前、なんのつもりだよ...!』

 

掴み取った拳が押し込まれるのを押さえながら

ペローが訝し気に問う

それに対しラストの答えは

 

「──知るか!!」

 

そうだ、理由なんて自分でも分からない

けれど、それをなぜかしてしまう自分がただそこにいるだけで

それを言葉にすることがラストにはできなかった

 

掴まれた拳を引き剥がす

次の瞬間、ペローの背後に

2つの炎でできた剣があらわれた

 

背後から剣がペローへと襲い掛かる

 

『フン!!』

「!?」

 

しかし、その剣はペローに触れることなく叩き落される

腹部のダメージから立ち直ったテラーのその棍棒が

迫りゆく炎をかき消していたのだ

 

『・・・まぁいいや。

 ・・・君いらないみたいだしねぇ』

「──っ」

 

それが、ラストの逆鱗に触れる

ラストが駆けだし、殴り掛かる

突き出した拳は空を切り

避けた後の隙目掛け、ペローがラストの背を蹴りつける

バランスを崩した体は、そのまま前のめりに倒れ込んだ

 

「っっ!!」

 

イラつきのままにバンと地面を一度叩き、起き上がる

そんな様を、ペローとテラーは愉快そうに見ていた

 

『ハハッ・・・憂さ晴らしに丁度良いかも』

『フン・・・』

 

2体のテラーがラストへと襲い掛かる

強靭な腕と棍棒の連打

 

息もつかせぬほどのその乱舞をラストは何とか避け続ける

反撃もできぬほどの過密な攻撃

避けるのも限界になり、棍棒の一撃がラストを突き飛ばす

崩れた体制のラストにさらにペローが飛び掛かる

絶対絶命のピンチに

 

ズガンと

銃声が鳴り響いた

 

『ぐぁ!?』

『何!?・・・ぐお!?』

 

銃撃を喰らったペローとテラーが吹き飛ぶ

驚いたラストが攻撃の方を見る

そこには

 

「どうなってんだ・・・これ」

「おい、大丈夫!?」

 

仮面ライダーアクトとサウンドが立っていた

直ぐにアクトとサウンドがラストへと駆け寄る

そうして、肩に置かれようとした手

 

「・・・っ寄るな!!」

 

そんな手をラストは咄嗟に振り払った

そして立ち上がり、テラーに向けて再度駆けだす

 

「あっ・・・おい!」

「仲間割れ・・・なのかな?」

 

そんな姿を見て状況は把握できない2人であったが

それでも、テラーは捨て置けず

ラストに追従する形で駆けだした

 

『ッチ・・・横槍か』

『いや、好都合だ・・・そっちは任せたよ!!』

 

駆けてくるラストを構わず

ペローがアクトに向けて駆けだす

 

ラストがテラーと

そしてアクトとサウンドがペローと組みあい

戦いはさらにヒートアップしていくのであった

 

 

アクトの風を帯びた蹴りとサウンドの槍の振り回しを

ペローは跳ねるように動き回っては避け

そのペローの強靭な爪の引き裂きを

アクトとサウンドはしっかりと防御していく

 

まさに一進一退の攻防が両者の実力の拮抗を示していた

しかし、それも長くは続かなかった

 

「!?・・・また・・・か!」

 

突然アクトの動きが止まり、悶えだすかのように痙攣を始める

 

「っやべぇ!?」

『・・・来たか』

 

それをみてサウンドは危惧を

そしてペローは待ちわびていたかのような歓喜を示す

それは何度も見た、彼の暴走への最初のステップであった

 

サウンドが、暴走する前にベルトを剥ぎ取ろうとアクトへと駆け寄ろうとする

しかし、それはペローの横からの攻撃が邪魔をした

 

「どけ!」『悪いけど、こっちに用があるんだ・・・!』

「あっ・・・ぐぅううう!■■■──!!」

 

夜と野獣(Night Of Beast)

 

瞬間、アクトの姿が荒れ狂う獣の様相の

ビーストフォームに変異する

そして、紅く濁った瞳が最初に見たものは

 

組み合う、ペローとサウンドの姿であった

アクトが2人目掛け駆けだす

 

『ハッ』

「うわっ!?」

 

ペローが迫りくるアクト目掛けサウンドを蹴り飛ばす

蹴り飛ばされたサウンド

次の瞬間には、彼にアクトが飛び掛かっていた

迫りくる腕を槍で受け止める

びりびりと痺れるほどの衝撃が自身の腕を襲った

 

「ぐっ」

「■■──!!」

 

着地したアクトが槍ごとサウンドを抑え込んだまま

もう一方の手を振りかぶる

そして防御ごと全力で殴りつけ、サウンドを吹き飛ばした

 

吹き飛ばされたサウンドが落ちた場所は

そのまま、戦闘を続けていたテラーとラストの真っただ中であった

 

「なに!?」

『ぐぉ!?』

 

サウンドとテラーが衝突し、テラーが吹き飛んでいく

突然の事態にラストが驚愕し

・・・そして荒れ狂い雄たけびを上げこちらに迫りくるアクトを見た

 

振り下ろされたアクトの腕をサウンドを抱えたまま転がるように避ける

 

「邪魔だ!・・・なんだあれは?」

「見てわかんだろ!見境なく暴れてんだよ」

 

ラストは、のしかかるサウンドを蹴り飛ばし

驚愕しながら、そんな感想を漏らす

 

それに律儀に答えながらサウンドが駆けだす

 

「何・・・?」

 

見ればそこにいたのはこれまで自身と戦った際の姿とは

遠くかけ離れた戦い方でペローに襲い掛かるアクト

その姿はまさに暴れているとの形容がぴったりであった

 

「こっちで手いっぱいだ・・・そっちは頼むぞ!」

 

アクトの下へと駆けていく

振るう槍がたやすく受け止められ

引っ張られるように振り回されていた

 

──頼むだと?

勘違いするなと、そう伝える前にやつは駆けてしまった

追いかけて訂正をする──には

 

棍棒が振り下ろされる

それを避けて、再びサルのテラーと相対する

 

どうもこの怪人が邪魔であった

 

 

サウンドとアクトが争い合うのを安全圏から眺めるペロー

その手には一枚のカード

トランプの9のカードであった

 

『さて・・・あれだけ暴れられたら手が付けられないけど

 これを入れれば・・・多少の隷属は付くだろう』

 

クイーンから得た、トランプの最後の一枚

これによってテラーの強化と隷属性の向上

それこそが、アクトをおびき出してペローが取ろうとしたプランであった

多少の想定外があったが、問題はない

 

ペローは、トランプを手にアクトの不意を突くように近づいていくのだった

 

ボウガンを構えたサウンドが弾丸を放つ

高速で飛ぶそれを、アクトは跳ねまわるように次々と回避し

どんどん距離を詰めていく

 

そして、肉薄しアクトがサウンドの武器を叩き落とした

武器を失ったサウンドにアクトが拳を放つ

胸部を穿たんとするそれをサウンドは

 

甘んじて受け入れた

 

「■■!?」

「ゴフッ・・・掴んだぞ・・!」

 

アクトの拳が動かない

胸の手ががっちりと掴みこまれている

そしてその眼前にズイとサウンドの、その肩が寄せられ

 

次の瞬間、肩のスピーカー型のアーマーが轟音を鳴り響かせる

超至近距離でそれを喰らったアクトは、耳が張り裂けそうな痛みに動きが鈍る

 

「(──今だ!)」『よくやった!』

「!?」

 

動きが止まったアクトのベルトを外そうと、サウンドが手を離したその瞬間

ペローがアクトの背後に現れた

 

次の瞬間、アクトにトランプが突き刺さる

それが体に埋まっていき

次第にアクトの体に変化が訪れる

 

まるで、金属製の鎧のようなものが空中に現れ

アクトの体に張り付いていく

 

「■■──!?」

 

アクトが驚愕のような声を漏らしたと思えば悶えだす

その隙に、体にどんどん体に鎧が張り付いていく

 

「何を!?」

『ハハハッ!!作戦通り!

 これでこいつは僕のしもべだ!!』

 

サウンドが目の前の光景に驚愕し

ペローが愉快そうに笑う

 

勝った、とこれで自分も有効打を手に入れたと

奴らを見返す駒を手に入れたと

ペローは楽しそうに笑う

 

──だが、それは一瞬のことだった

 

「■■■──■■!!」

 

既に鎧どころか全身に金属が纏わりつきまともに動けなくなったアクト

阻害され動かない腕を軋ませながら無理やり動かしていく

そして、腕が肩に届いた

 

「■■■──!!!」

 

空気を揺らすほどの大きな咆哮が響く

ブチリと痛い音を立てて

アクトが、まとわりついた鎧を引きちぎった

 

『・・・ハ?』

 

肩、腕、胸・・・次々に鎧を引っぺがす

無理やり剥ぎ取られた鎧がどんどんひび割れていく

 

そして、再度アクトが絶叫したその時

全身の鎧が砕けちった

 

アクトの体から、突き立てられたトランプがスルリと抜け落ちる

そして、それは地面に落ちる前に、燃え尽きた

 

『なんだよ・・・それ・・・!』

 

先程までの高笑いが嘘のように狼狽えるペロー

そして、その声を怒り狂ったかのようなアクトは聞き逃さなかった

 

BAD ACTION(バッドアクション)...』

 

瞬間、アクトが消えるように高速で移動を開始する

そして、一瞬の内にペローの目の前に現れた

 

『!?』

「■”ぁ”■”■”■”あ”──!!!」

 

アクトの足に、エネルギーが集う

輪郭すら分からなくなるほどの薄暗い力に覆われたその脚が

ペローに回避すら許さず、放たれた

 

『ぐぁああああ!!』

 

強烈なキックに吹き飛ばされるペローは

ぶつかった廃材をまき散らし、砂煙を上げながら

吹き飛ばされていた

 

『──ゴホ・・・く”そぉ・・・』

 

息絶え絶えといった様子で何とか体を起こす

憎たらし気に、アクトを見つめ

けれど何もすることはできずに

ペローは消えるように去っていった

 

「──ハーッ・・・ハーッ」

 

大きく肩で息をするアクト

その背後から──

 

GIGA HIT MEDLEY(ギガヒット メドレー) !!!』

『!?』

 

疲労で反応が遅れたその体に

サウンドの必殺技が叩き込まれる

不意打ちは、一撃でアクトの意識を刈り取り

アクトは雄飛へとその姿を変えるのであった

 

「手間かけさせやがって・・・

 あっちは・・・?」

 

サウンドがテラーとラストが争っていた方角を見ると

次の瞬間、建物が巨大な爆発音とともに大きく揺れる

 

・・・どうやら向こうも済んだようだ

 

ラストがグリップを握り込み突貫する

テラーが棍棒を大きく振るう

 

振り回されたそれをくぐるように避け懐に入る

腹部を殴る、殴る、殴

さらに大きく振りかぶり、勢いよく殴りつける

 

連続した腹部への衝撃にテラーが苦悶の声を上げる

その頭上に炎の棘が複数現る

 

「フッ!!」

 

ラストが振りかぶった瞬間、数多の棘が一挙に降り注ぐ

 

『甘い!!』

「!?」

 

棍棒をまるでプロペラのように高速回転させ、棘を弾き飛ばしていく

攻撃が防がれ、驚愕するラストにテラーが棍棒を突きつける

 

次の瞬間、突如棍棒が伸びた

伸びた棍棒のがラストの体を突き刺さり、突き飛ばす

 

「がっ!・・・ぐぅら!!」

 

吹き飛び、地面に叩きつけられながらも

ラストはさらに攻撃を仕掛ける

炎弾が、ラストの拳から放たれテラーに襲い掛かった

 

テラーはそれを跳躍し、回避する

空中でさらに追撃の炎弾が飛んでくる

 

しかし、それが当たることは無かった

テラーの下に煙のような何かが集っていく

それは、雲であった、小さな雲に乗ったテラーが飛行しながら

炎弾を避け、ラストに急速に近づいていく

 

「ぐぁっ!」

 

通り際に棍棒を振り抜かれ、ラストに叩きつけられる

そのまま何度も往復するかのごとく連続でラストの横を通り過ぎていく

 

棍棒の乱打をその身で受けていくラスト

どんどんダメージは積み重なっていく

 

「──。」

 

最早立つこともままならず、膝をつく

 

『止めだ!!』

 

好機と見たテラーが、真正面からラストに突撃する

振りかぶった棍棒を真っすぐ突き出し

ラストのその体を串刺しにして殺そうと向かい来る

 

絶体絶命のピンチ

 

──けれど、彼は負けるわけにはいかなかった

こんなところで、おしまいにしたくないと

そう、思ったばかりなのだ

 

伸ばされた棍棒の先端がラストに突き刺さる

──だが、貫きはしていなかった

ラストのその左手は、体にぶつかったその棍棒を確かに掴み取っていた

 

『なに──!?』

「!──うぉおおお!!」

 

BEST END(ベストエンド)

 

次の瞬間、ラストの隣に炎でできた巨大な腕が現れる

固く握られた炎の拳は、まっすぐ、そしてすさまじい勢いで

棍棒を掴み取られ、逃げるのが遅れたテラーの

その全身を飲み込んで、焼き尽くしながら工場跡の脆くも分厚い壁に叩きつけられた

 

爆風が、廃工場の砂埃を巻き上げていく

手に握った棍棒が砕け散るかのように消え失せる

 

それを見届けて、ラストはただ意識を失った

 

「────い!?」

 

気絶する前に、何か聞いたばかりの騒がしい声が聞こえた気がしたが

きっと何かの勘違いだろう

 

 

「おい!・・・大丈夫かい!?」

 

戦闘が終わった後、力尽きたかのように倒れたラストを

大木は駆け寄って、その安否を確認する

 

あれだけの怪我をしたまま、これだけの戦闘をしたのだ

その疲労はすさまじかったのだろう

──幸い、呼吸はしている

だが、どう見ても元から怪我だらけであった体が

さらにボロボロであった

 

「大木さん!・・・と、そいつは・・・!」

 

変身を解いた翔が、気絶した雄飛を背負って現れる

自身たちを呼び寄せた、大木と

その大木に介抱されている敵の男

 

「新田君!いいところに!──彼も運ぶが良いよな!?」

「えぇ!?」

 

突然の申し出に戸惑う翔

──しかし、大木の必死な顔

そして、まるでボロ雑巾のように傷だらけの男を見て

頭を掻きながら、それを了承するしかなかった

 

 

喫茶テアトロ──

 

「結論から言うと、彼は人間だ」

 

店の奥から、運び込んだラストを調べ終えた浩司と音石はそう言う

いわく──

 

「ただ、肉体的な部分におかしな部分がいくつか見られた」

「おそらく、テラーの怪人化技術の流用だな

 ・・・急速的な成長の痕跡も見られる」

 

とはいっても、あくまで肉体的に頑丈な程度で

変身への負荷軽減のための物だろうと

そう二人は結論付けた

 

そして、急速的な成長という点に関しては

本人の言動や、姫川の罪状から考えられるに一つの結論が予想された

太田さんに目配せしてみる

頷きを返された、どうやら同じ考えのようだ

 

「おそらく、彼が8年前に姫川と連れられ姿を消した赤子だろうな」

「・・・まて、じゃああいつ8歳なのか!?」

「肉体的には、既に成人付近だけどね」

 

翔が驚愕の声を上げる

自分もそうだ、あの男はどう見ても小学生なんて見た目ではない

既に大学生や社会人で十分に通用する程度の見た目であった

 

「精神の育ち切っていない、自分の子供に洗脳じみたことをして

 戦いに駆り立てていたわけか・・・!」

 

翔が怒りに震えている

許せないのは、他の誰もがそうであった

 

「じゃあ、一体何であいつはテラーと戦うなんてことを?」

 

まさか、仲間割れ?

杏奈さんが、そんな疑問を提示する

 

「・・・彼は、母に見捨てられたと言っていたよ」

 

それに答えを示したのは、彼をここに運び込んだ大木さんであった

 

「捨てられた・・・?」

「いらなくなってことか?なんでまた」

「知らないわよ」

 

翔と杏奈さん達があーだこーだと話しているのをしり目に

浩司さん達は、渋い顔をしていた

 

「・・・彼は何か知ってるかもしれないな」

「まだ、目を覚ましてないんです?」

「ああ、よく寝ていた」

 

「・・・尋問まがいのことをしたくはないが

 彼は貴重な情報源になることは間違いない」

 

そういって、音石さんが店の奥に入り彼の様子を見に行く

──確かに、彼の身の上を知った上で無理やり情報を聞き出すのは心が痛む

しかし、やらなければならない

実際のところ、こちらは完全に後手に回り続けているのだ

せめて、テラー側の目的だけでも突き止めておきたかった

 

店の奥から、大きな物音が立つ

廊下の方から、大慌てで、見に行った音石さんが戻ってきた

 

「大変だ!──彼が消えた!!」

 

「「「「「「何ぃ!?」」」」」」

 

 

見知らぬ部屋、覚えたことのない感触に包まれラストは目を覚ました

フカフカとした布団から飛び出し辺りを確認する

 

ここは一体どこなのかと思い出す

あのサルの怪人を倒した後、一体どうなったのかと

 

そんな思考をしていたら

やけに騒がしい声が遠くから響いてくる

何度か聞いた声もある声であった

 

ゆっくりと、声の方へと進む

少し開いた扉から、覗き込むと

騒がしくも、どこか楽しそうに話し合いを行う

見知った集団が、そこには居た

自身を手当てした、お節介な男も混ぜて

 

それを見て、ラストは

どうしてか、そこにいられなくて

逃げるように

静かに、裏口から去っていった

 

──それが自身が目覚めてからの行動である

ラストは、当てもなくさ迷い歩いていた

 

どうすれば満足できるのか

大木から、示された続ける理由

それが分からないまま

 

思い浮かぶものと言えば

──あのテラー

そうだ、自身をコケにした、あのテラーだけは捨て置けない

それを打破する

 

──その後は?

──その後は・・・

 

そこでまた、考えが浮かばなくなる

 

「・・・いた!」

「!?」

 

そんなときである、大きなエンジン音を鳴らしながら

2台のバイクが自身の目の前に現れた

 

「っ探したぞ」

「貴様・・・!・・・っっ!?」

 

ドライバーを構えようとするも、それが手元にないことに気が付く

咄嗟に、逃げるように去ったため

それを置いてきていたことに気が付かなかった

 

咄嗟に逃げるように踵を返す

 

「ああ!待って!・・・これ!!」

 

そういって、アクトと呼んでいた男が何かを突き出す

それは、自分のドライバーであった

 

「・・・。」

 

手渡せられたそれを、普通に受け取ってしまう

 

「・・・何のつもりだ」

「いや、つもりっていうか・・・忘れ物だし?」

 

困ったように男が、頬を掻きながらそういう

──分からない

 

「なぜ、助ける?」

 

そうだ、あそこにいたのは奴らが連れてきたのだろう

それはなぜ?

──普通なら、捕虜だろう

だが、なんの拘束もせずにそれをするのはおかしい

さらに、逃げてから気が付く

包帯はしっかりと巻かれ直し、それ以外も補填されている

つまり、彼らは自身に手当を行った

それだけを、行っていた──

 

「なんでって・・・なぁ?」

「怪我人はほっとけないしな?」

 

そういって、2人の男は顔を合わせて不思議そうにする

その様子が、なぜか無性に苛立った

しかし、何を言うべきなのかが、咄嗟には分からなかった

 

「・・・テラーのところに戻るのか?」

「!?」

 

そこに、アクトが切り込んでくる

 

「──関係ないことだ」

「行く場所、ないんじゃないのか?」

「・・・。」

 

否定の言葉を出そうとして、

母と呼んだ者の顔を、思い出して

それが口から出なかった

 

その様子を見て、アクトは何かを確信したような様子を見せる

 

「俺たちのところに、来ないか?」

「──なに?」

 

そんなことを口走った

 

「テラーと戦うのなら、俺と一緒に──」

「ふざけるな!!

 ・・・そんなつもりはない!!」

 

声を荒げ、それを拒否する

 

「まぁ、そう言うなよ?

 仲良くできないか・・・?」

 

サウンドと呼んだ男が、そんなことを言いながら近寄って来る

馴れ馴れしいその顔を見て

自分は、その体に拳を入れる

 

「ぐぉっ」

「しょ、翔!?」

 

腹を押さえ蹲る男にアクトが駆け寄る

 

「──私はもう・・・誰にも(すが)らない・・・!」

 

そうだ、もう自分は誰の指図も受けない

誰の指示も頼りにはしない

踵を返し

足早に立ち去ろうとする

 

「・・・人間は一人じゃ、何もできない。」

 

背中越しに、アクトがそう言い放つのを聞きながらも

足は止めない、止められない

 

「縋るだけが・・・関わり方じゃないよ」

「・・・。」

 

歩くのではなく、駆けるようにその場を後にする

 

その姿を、雄飛はじっと見ていた

 

 

 

息が切れるまで走り抜ける

そうまでして、彼らを見たくなかった

 

息を整えた時に、握ったままのドライバーが目に映る

 

「──。」

 

次の瞬間

自身の立っている場所に変化が訪れる

日本的な街並みが

一気に西洋風の街並みへと変わっていく

 

これは、自分もよく知る現象であった

ラストが駆けだす

 

変化の中心地には

それを守るように鎮座する

6本腕のあの怪人と

 

『あら』

 

母と呼んでいた存在が、そこには居た

 

『ペローから聞いていたけど

 ほんとに生きてたのねぇ』

「──っ、私はあなたを許さない・・!」

 

『STATUE OF HAPPINESS』

 

弓と化したグリップをクイーンに向け引き金を引く

鳥型の弾丸が一直線に飛んでいき

 

間に割って入った、マスケティアテラーに叩き落とされた

 

「──貴様から!!」

 

連続で弾丸を放っていく

飛んでいく弾丸は、曲がりくねりその弾道を変えながら突き進み

前から後ろから襲い掛かる

 

『無駄だ・・・!!』

 

しかしそれを、6本の腕が完全に叩き落しながら

どんどん近づいてくる

そして目の前に到達したテラーは両腕を振り下ろす

 

弓でそれを受け止める細身の剣と金属でできた弓が火花を散らす

次の瞬間、ラストの脇腹に衝撃が走る

 

──防いだのは2本の腕の振り下ろしである

残った腕、握られた拳が、両手で弓を支えるラストの

その腹部へと突き刺さっていた

 

「がっ──」

 

そのまま腕は降り抜かれ、ラストも吹き飛ばされる

 

倒れながらも、弓をテラーに向け引き金を引く

飛んでくる弾をはじかれながら

グリップをドライバーに戻し、引き抜く

 

『BEST END』

 

弓にエネルギーが集まり

三日月状の刃を携え、ラストが駆けだす

そして、テラーに対して、それを振り下ろした

 

「!?」

『・・・!ヌゥン!!』

 

しかし、それが通ることは無く

2本の剣と3本の腕がそれをシッカリと防ぎきっていた

 

そして余った1本の剣は、攻撃に全てを振ったラストに向けられ

力のこもった斬撃が、逆にラストへと叩きつけられた

 

「ぐぁあああっ!」

 

変身が剥がされ、ラストが地面に転がる

ボロボロになった体を起こそうとしたところに

剣が付きつけられた

 

『無様だな

 ──今度は、しっかりとその無駄な命を終わらせてやろう』

「──っ私は」

 

まだ終われない

しかし、体が起こせない

 

逃げる間もなく振り下ろされる剣が、ラスト呑ん命を奪おうとしたその時

 

「「っっだああああ!!」」

 

2人の男が、突如乱入し

テラーに飛び蹴りを食らわせた

 

突然の出来事に、テラーは驚愕と共に

その場から吹き飛ばされた

 

「──大丈夫か!?」

「お前──は」

 

顔を上げたラストのその目の前に

雄飛と翔は、息を切らせながら立っていた

 

「ほら、立って」

 

雄飛が、手をラストに差し出す

手を取って立ち上がれと示す

 

「失せろ・・・!」

 

それを、拒絶し、地面に手を突いて起き上がろうとする

しかし、痛みで手がしびれて上手くいかない

それでも、その手を取れなかった

 

「私はもう・・・!誰にも縋らないといった・・・!」

「・・・。」

 

雄飛はそれを見て、今度は膝を折ってラストを見る

 

「・・・縋るだけが、関わりじゃないって言ったろ?」

 

先程も行った言葉を、口にする

 

「俺が言ってるのは、一緒に戦うんだ。

 誰かに縋って、命じられて戦うんじゃない

 ()()()()()()()()()()()()()

「──?」

 

何かが違う

けれど何が違う?

 

「助け合って、手を取り合って、関わるんだ

 俺たちがすることを、君に助けてほしいから言ったんだ」

「助け合う──?」

 

──少年は、それを知らなかった

 

「その代わりに、そっちのことも手伝うんだ

 ──君は何がしたいんだ?」

「私は・・・」

 

したいこと、やりたいこと

さっきまで、自問しても出なかった答えが

何故かすんなりと言葉にできた

 

「私は・・・まだ、見つけていない」

「生きる意味を・・・終わりまでにやりたいことを・・・!」

「見つけたい・・・まだ終わらせたくない!!」

 

「──じゃあ、まずは勝たなきゃな」

 

そこまで聞いて、雄飛は笑って立ち

再度、こちらに手を差し伸べる

 

その手を、ラストは

しっかりと、掴み取った

 

 

「・・・話し、終わった?」

 

そこまでして、蚊帳の外であった翔が声を上げる

俺もなんかいえばよかったかな?

そんなことを言って頭をかく

 

「お前は」

 

そんな声を聴いて今頃、ラストが翔を認識していた

 

「さっきの腹パンは痛かった」

「近寄ってきて、あれは、煩わしかった」

「じゃあ翔が悪い」

「ひでぇ!」

 

そんなのどかな談笑を少しして

 

『・・・もういいかしら?』

 

クイーンが暇そうにそう語りかける

テラーもまた、控えるように話し終わるのを待っていた

 

『そっちに行くの?

 ・・・まぁ、懸命かしら?』

 

待ったが、興味自体は特になさそうに

クイーンが、そう言うと

ラストは、口を開いた

 

「母さん・・・いや、クイーン

 よく見ておけ、()()()()()()()()()()()()・・・!!」

 

啖呵を切ったその手に、ドライバーが握られる

雄飛と翔もまた、自身のドライバーを手にし一斉に装着する

 

『MASKED RIDER The NEXT(ザ・ネクスト)

GIGA SOUND(ギガサウンド)!!』

BUBBLE MERMAID(バブル・マーメイド)

 

各々のアイテムが起動され、ベルトに装填される

けたたましい音が響き渡る中

3人は構えを取り

そして、叫んだ

 

「「「変身!!」」」

 

『Start』『 a Continue!』

風を受け継いだ新ヒーローは(The New Hero who inherited a Wind)

嵐のようにやって来る(Came Like a Storm )!』

 

『PLAY!!』

『caldissimo!』

『grandissimo!!』

『Fortissimo!!!』

 

Last UP(ラスト アップ)

『Love Disappears as Bubbles』

 

『MASKED RIDER The NEXT(ザ・ネクスト)!!!』

Heat Up(ヒートアップ)! GIGA SOUND(ギガサウンド)!!』

BUBBLE MERMAID(バブル・マーメイド)

 

光の中で、3人のシルエットが変化する

次の瞬間には

そこには、3人の仮面ライダーが立っていた

 

『消して?』

『ハッ!』

 

6本腕の怪人が、駆けだす

それに合わせて、3人のライダーもまた駆けだしていた

 

 

テラーが剣を振り回す

荒れ狂うように繰り出される剣戟を避けアクトが拳を放つ

嵐を纏う拳は、6本腕に阻まれ、いなされる

体制が崩れたアクトに、テラーが剣を振り下ろす

 

それを今度は割って入ったサウンドが受け止め

そして、その後ろから飛び出したラストがその体を切り付けた

 

『ぐっ』

「今だ!」

 

テラーを3方向から囲み

アクトが蹴りを放ち

サウンドが槍を、ラストが剣を振り下ろす

 

3方向からの同時攻撃

普通ならひとたまりもないそれを

 

『・・・オォオ!!』

 

テラーは6本ある腕を器用に2本ずつ使いガードする

そして、さらに回転するように剣を振るい

3人のライダーを一度に薙ぎ払った

 

「くっ」

 

振り払われたアクトが立ち上がる

まだまだ戦える体で攻撃を仕掛けようとしたその時

 

「──がっ!?・・・こんな・・・時に・・!」

 

全身が痺れるような感覚が沸き上がってきた

 

「!?雄飛!」

「何だ!?・・・暴走か!」

 

「そうだよ!・・・やべぇ雄飛!変身解け!!」

 

攻撃を仕掛け、テラーとのつばぜり合いの最中

サウンドは、暴れ出す前にアクトを止めようとする

しかし、ラストは──

 

「いや・・・なれ」

「!?お前何を──うわっ!?」

 

気を取られた隙にサウンドがテラーに切り飛ばされる

ラストは、逆にアクトに暴走することを勧めるのであった

 

「ぐっ・・・うっ・・・いいんだな!?」

「問題はない・・・変われ!」

 

アクトの複眼が紅く染まっていく

そして──

 

『Night Of Beast』

『Trembling Night Is Coming』

『Beast Will Bring It』

『Can You Hear That Shout』

夜と野獣(Night Of Beast)

『... Not Missed off .』

 

「■■■──!!!!」

 

アクトはその姿を獣が如き様相に変え、咆哮を放つ

そして、次の瞬間には

 

辺り一面を、暗闇が覆いつくした

 

アクトが闇の中を突き進み、一番近くにいたテラーに飛び掛かる

爪がテラーに突き立てる──

前に振り回された腕がアクトをはじき返した

 

『甘い・・・この程度の目くらまし・・・!』

「■■──!!」

 

アクトが再び闇の中に溶けて、再度飛び掛かる

それを見切り、テラーが防御していく

 

「やっべぇ・・・見えねえ中でどうすりゃ」

 

テラーどころかサウンドとラストごと覆いつくした闇の外で

サウンドが焦る、このままでは自分までアクトの足を引っ張るだけである

しかし、それに対してラストは

 

「下がっていろ」

 

待っていたと言わんばかりにラストが地面の中に潜り、ドーム状の暗闇に突っ込んでいった

 

潜水した中で、足音を頼りに突き進む

そして、テラーの真下からまた

飛び上がるかのように、手にした剣を切り上げた

 

ガキィッと金属音が響く

ラストの切り上げ攻撃は、前と同じように

テラーに受け止められていた

 

『無駄だといった!!』

 

テラーが前回と同じように6本の腕でラストを滅多打ちにせんと掛かる

 

「掛かったか」

『!?』

 

次の瞬間、信じられないことが起きる

ラストの体から、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

──いや違う、この腕は

 

「■■■──。」

 

液状化したラストの腹を貫いた、アクトの腕だ

自身を囮に気を逸らして

自身ごと、アクトに攻撃をさせたのだ

 

気づいたときには遅かった

ラストが地面に潜り、アクトが闇に溶ける

 

次の瞬間、信じられないような猛攻がテラーを襲う

まさに捨て身と言えるような攻撃でラストが掛かり

そちらを意識した瞬間、アクトがそれごと自分を薙ぎ払っていく

 

一度の驚愕が冷静さを欠き

それを冷ます暇も与えない程に次から次へ攻撃が届く

 

気が付けば、ラストの攻撃すら捌けなくなったテラーが

ラストとアクトの連続攻撃に為す術もなく晒される

 

「はぁ!!」

「■■■──!!」

 

左右からラストが剣を、アクトがその腕を振るう

そして、テラーのその6本の剛腕

その内2本を、刈り取った

 

腕が地に落ち、溶けるように消えていく

 

『ガッ!?・・・おのれえぇ!!!』

 

自慢の腕を刈り取られ、その痛みに逆上する

怒りに満ちたテラーが

最早がむしゃらと言えるほどに腕を振り回し駆けだした

 

ラストとアクトが猛スピードで振り回される腕に近寄れないのをいいことに真っすぐ駆ける

 

そして、息も絶え絶えな所で、ようやく闇の中を抜け出した

──目さえ見えれば、直線的な攻撃など

 

そう、高を括ったテラー

しかし、その体に

 

「だぁぁ!!」

『!?ぐぉっ』

 

飛び掛かったサウンドの突きが叩き込まれ転がっていく

2体の猛攻に気を取られすぎたかが故の隙であった

 

地面に波紋が立つ

サウンドの傍に、ラストが飛び出し、降り立った

 

「うわっ・・・お前どっから」

「決めるぞ」

 

『MERMAID』

BEST END(ベストエンド)

 

「あっおい!・・・まぁいいや!」

 

『GIGA!!』

BEST SOUND(ベストサウンド)!!』

 

ラストとサウンドが同時に飛び上がる

そして、左右から同時にキックを繰り出した

水と泡を纏った脚と

熱気と音が備えた脚がテラーへと突き進む

 

『!・・・オォオオ!!』

 

それに対して、テラーは残った腕を2本ずつ使い受け止める

剣と脚がぶつかり合い、火花を散らす

 

「「だぁああああ!!」」

『オオオォ!!!』

 

──耐える、これを耐えて反撃を

そう作戦を立て、攻撃を受け止めるテラー

4本の腕に掛かる衝撃を必死に耐える

もう少し、もう少しで勢いが落ちる

そこを──

 

そう、考えたテラーの眼前

希望的な作戦を何とか通そうとするテラーを

先程、自分が必死に抜け出した暗闇の中で

 

──紅い光がこちらを見ていた

 

『BEAST』

BAD ACTION(バッドアクション)...』

 

凄まじい勢いの足音が響く

闇を掻き分けて、飛び出したアクトのその脚に

禍々しいエネルギーが集う

 

そして、その凄まじい力の籠った脚を

必死にキックを受け止めて貼り付けになったテラーに向けて

 

一直線に解き放った

 

「■■■──!!!」

『ぐぁ・・・ああああああ!!!!』

 

全ての腕が塞がり無防備になった体に蹴りが叩き込まれる

それによって甘くなった防御を突き抜け

サウンドとラストのキックもまた

テラーのその身に突き刺さった

 

3人のライダーがテラーの体を貫き

地面を削るように滑りながら着地する

 

その背後に佇む3つ分の穴が開いたテラーは

見るも無残に、爆炎をまき散らすのであった

 

 

続く




次回 仮面ライダーアクト

ラストを襲う難題──
「買い出しとはなんだ?」
「えっ」

雄飛は野獣との対話を試みる
「君は・・・話せるんじゃないのか?」
『出ていけ・・・!』

クイーンの奥の手とは──
『ひれ伏せ、王の御前である』
「なんだこいつ!どっから攻撃してんだ!?」

第24章[■■と野獣]


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第24章~■■と野獣~

「ぐっ・・・うっ・・・いいんだな!?」

「問題はない・・・変われ!」

 

耐えるのも限界であった雄飛は

次の瞬間には、目の前が真っ暗に変わっていた

 

目を開く、見渡すばかりの暗闇に身構える

微かに足音が聞こえた

 

『──■■』

 

目を凝らせば、そこにうっすらと何かが見える

地を蹴る音が響く

──くる

 

「・・・っ!」

 

振り下ろされた腕を両腕で受け止める

ずっしりと重い一撃が、わが身を潰さんとする

 

『──出ていけ・・!』

「っ・・・また!」

 

腕を何とか逸らし、攻撃の隙間に飛び込む

無様に転げながも、初撃を対処する

 

「──やめろ!こっちの話を・・!」

 

次々と振り下ろされる凶爪を紙一重で避けながら

半ば無駄と理解しつつも対話を試みる

 

『出ていけぇ!!』

 

しかし、それに獣は応えてくれない

ただただ、自分に出ていけとだけ投げつけてくる

自身を、この体から出て行けと

体を明け渡せと、こちらに襲い掛かってきている

 

ようやく闇に目が慣れてくる

獣のその姿が、うっすらとだが分かるようになった

目を背けたくなるような、醜い獣の姿が

 

「──っ」

 

その異形にほんの少しだけ怯む

 

『!?・・・』

 

それが一体何を意味したのかを獣は理解した

 

『・・・るな

 ・・・私を、見るな!!』

 

それに激情を沸き上がらせた獣は、

さらに勢いを持って雄飛に飛び掛かった

 

「くっ──!」

 

雄飛が避けるために後退をする

その瞬間、足に何かが引っかかった

 

「!?」

 

背中から転倒する雄飛

暗闇に慣れた目が、引っかかったものを見る

それは──地面に飛び出た、木の根であった

 

()()()()()()()()()()!!』

「っ」

 

倒れた雄飛に爪が振り下ろされる

回避はもう間に合わない

腕を上げて防御するもそれも容易く通り抜けられるだろう

 

最早為す術もない雄飛

ゆっくりと迫る爪を眺めるその頭に

 

”あるところに、根は優しくも捻くれた王子がおりました。

 王子はその捻くれた態度が元で怒りを買い、

 魔法で体を醜い獣へと変えられてしまいました。

 ────────。"

 

何かが、流れ込んだ

それの意味を考えることも

それが一体何なのかという反応を取る暇も無く

雄飛に爪が、突き立てられた

 

 

『・・・嘘、ジャックなのよ?』

 

爆炎が立ち込めた中、クイーンが初めてほんの少し狼狽えたような姿を見せる

自分の中でも、自身がある上位の兵士であったそれが敗れた

自身の優位性を大きく揺るがす可能性が出てきたのだ

 

「次は・・・あなただ!!」

 

その隙を逃そうともせず、仮面ライダーラストは剣を構え駆けだす

狼狽えていたクイーンは反応が遅れた

 

『っ』

 

剣が迫る

 

ガキリと、金属がぶつかり合ったかのような音が響いた

しかしラストが振り下ろした剣は、

クイーンの脳天をかち割ることはできていなかった

 

「・・・何・・!?」

 

ラストが驚愕する、攻撃が防がれたことがではない

何もない、空中で剣が停止してそれ以上振り下ろせなかったことに関してだ

 

そして、ラストとクイーンの間に、一つの影が現れる

いきなり現れたそれは、ラストの腹を蹴り飛ばした

 

「ぐぁっ・・・!?」

 

蹴り飛ばしたのは、一体の怪人

おそらくはクイーンの手下なのだろう

しかし、その姿はこれまでのテラー達とは明らかに違っていた

装飾どころか凹凸もない人型に、顔のないのっぺりとした表面

まるで、マネキンのような様相に

取って付けたかのように、頭に王冠が乗っていた

 

なんというか、見るからにショボかった

 

『ああ、()()()!』

 

けれど、クイーンはその姿を見るなり声を弾ませる

まるで、その怪人に絶対の自信を持っているかのように

 

『ええ、大丈夫、だってあなたがいるもの!

 そうね、戻りましょう』

 

そうして、自分の中で勝手に立ち直り

テラーに傍に立つ

 

「待て・・・!」

『それじゃあね、・・・後ろに気をつけなさい』

 

蹴り飛ばされたラストとサウンドが逃がすまいと動こうとする

しかし、

 

「■■──!!」

「な!?」

 

暴走したままのアクトが襲い掛かった

その爪が、2人を切り裂いて吹き飛ばす

 

「っく・・・どう止める!?」

「どうって・・・ドライバーを外すしかねぇよ!?」

「・・・なるほど」

 

それを聞くと、ラストは立ち上がる

アクトがそんなラストに飛び掛かった

 

爪が、ラストのその体を引き裂かんと迫る

そして、体を貫くその瞬間

バシャリと音を立てて、アクトの腕がラストの体をすり抜けた

 

「!?」

 

アクトが驚愕しつつも、さらに2度腕を振るう

しかし、その攻撃もまた、液状化したラストをすり抜ける

 

そして、その隙を突いてラストの手がアクトのドライバーを掴み取った

 

「──。」

 

声を上げる間もなく、ベルトを取り上げられたアクトは

変身が解かれ、膝から崩れ落ちる

 

「っつ!」

 

そして、ラストが振り向いてクイーンの方を見る

しかし、既にそこに怪人達の姿はどこにもなかった

 

混乱に乗じて、逃げられてしまっていたのだ

 

 

喫茶「テアトロ」

 

「えーっと・・・ラスト君でいいのかな?」

「──そうだ」

 

テアトロ内にしては少し異様な空気が漂っていた

その原因は言わずもがな、席に座って固い顔をしたラストである

 

椅子に座ったまま、身じろぎもせずじっとして

こちらを観察し続ける姿に

こちらもみんな緊張を解くことができない

それもそうだ、いくら一緒に戦ったからと言って

この前まで敵と一緒にいた人間である

 

はっきり言って、信用がまだできていなかった

 

「はいはい、暗い暗い!

 新たな仲間の歓迎をしようじゃないか!

 コーヒー飲むかい?」

「?・・・ああ」

「ちょ、大木さん!?」

 

その時である、いつの間にかコーヒー片手に現れた

大木さんが騒がしながら席に戻って来る

この人、また勝手に厨房に──

そして、静止する間もなくコーヒーを差し出し

ラスト側もやけにスムーズにそれを受け取った

 

思えば、なぜか知り合いのような雰囲気を出しているが

一体どんな経緯でこの人達は関係を──?

 

さて、ラストである

目の前に出されたカップを断るでもなく受け取ると

不思議そうな顔をしながらも持ち上げ

 

そして──

グイリと一気に口をつけた

 

「あっ砂糖・・・」

 

そう、淹れたてのブラックコーヒーを

 

「!?」

 

固まったラストは

ゆっくりとカップを降ろし

 

「・・・おい」

 

そして、恐る恐るといった様子でカップを遠ざけながら

大木さんに声をかける

 

「・・・これは、・・・毒か?」

 

どうやら、口に合わなかったご様子だ

苦みに堪えながら話していた

そんな姿を見て俺は──

 

「・・・ップ」

 

おかしくて、少し笑ってしまった

見れば、周りのみんなも見れば笑いをこらえている

・・・毒気が見事に抜かれてしまったようだ

 

 

「えっと色々と聞きたいことがあるんだけれどいいかな?」

「・・・ああ」

 

空気が少し緩んだことでようやく話が進んでいく

彼は、貴重な情報源である

ここで、テラー側の目的を少しでも多く聞き出さないと

 

「・・・テラーの目的は何だい?」

「さあな」

「・・・。」

「・・・。」

 

会話が終わってしまった

──いやいや

 

「何か知らないの!?」

「何でもいいんだけど、・・・何にも?」

「・・ああ」

 

「私は、かあ・・・クイーンといったか

 奴の指示に従って戦っていただけだ」

 

キョトンとした顔をして話すその姿に嘘は感じられなかった

・・・参ったな

 

「ここに来て情報なしなの・・・」

「真相に近づけると思ったのになー・・・」

「まぁ、戦力が増えることはいいことじゃないか」

「確かに、そっち方がありがたいことだ」

 

落胆しつつも、前を見る

そうだ、情報的な進展がなくても──

 

「いや・・・待て」

「クイーンは・・・確か私を”神の器に”、と」

「!?」

 

ラストが、思い出したかの様にそう言う

神・・・?

 

「神って・・・前もペローが言ってた!」

「ああ・・・やっぱりそうなのか?」

 

ペローは、現れるかのようなことを口にし

ラストは、実際にそれのために作られた・・・?

神を生み出す?それが奴らの目的という仮定を立てる

 

「神って、いったい何のことなんだい?」

「さぁな」

 

大木に促されながら、コーヒーに砂糖をつぎ込みながら

ラストはそう答える

──そこは分からずじまいか

 

「・・・だが、そうだ。

 ──確か、100枚」

「100枚?」

 

「100枚のチケットを使ってテラーを作る、とも言っていた」

「「「!?」」」

 

全員が、動揺する

先程の神というのは、随分と漠然としていたが

ここに来て、明確な数値が出てきたのだ

 

「チケットって・・・

 まて、今何枚だ!?」

「音石!雄飛君達の倒した数の計上

 ・・・いや、大吾のもだ!」

「おお!」

 

博士たちが大急ぎで、資料を漁りだす

そして、戻ってきた博士が告げた数は──

 

「・・・86体」

 

それが、今までに仮面ライダーが倒したテラーの数だと浩司さんは言った

 

「それに加えストーリーテラーが4体」

 

杏奈さんが、付け加える

 

「・・・私が3体分」

 

ラストが手に3枚のチケットを持ちながらそう告げる

 

「そして・・・ここに1枚」

 

自分も胸に手を当てながらそう言った

 

「94体・・・あと6体かよ!?」

敵の目的が達成されるまで、少なくともあと6体分

どうやら、時間はそう残っていないようであった

 

「・・・なら、とりあえずの目的はテラーを作る前にチケットを奪うことか?」

「・・・そうなるね」

 

今回の話で、当面の目標が定まる

とにかく、敵の目的が100体のテラーを生み出すことであるのなら

それを阻止しなければなるまい

 

 

「さて、話も纏まったし、一旦お開きにしよう

 音石、雄飛君の暴走への対処何だが・・・」

 

そうして、浩司さんは音石さんを連れて店の奥に引っ込んでいく

僕もちょっと席を外すよ、と大木さんも店を出ていった

 

「・・・。」

 

一息がつけて、ここでようやく

気を失う前のことを思い出した

 

”この森から出ていけ”

 

獣が言った言葉を

そして、やられる前に聞こえた一説の物語を

 

──もしかして

 

雄飛もまた、店の外に出ることにした

 

 

さて、そうして残ったのが

杏奈,翔,そしてラストの3人である

 

「・・・なぁ」

「なんだ」

 

「・・・趣味ってなに?」

「・・・?なんだそれは?」

 

「いやだから、趣味だよ、続けてることとか」

「・・・?」

 

翔が打ち解けようと懸命に話すが

どうもラストが内容を分かっていない

 

「・・・戦いは何度もしている」

「いやそうじゃなくってな

 もっとこう・・・楽しいことないのか!?」

 

「・・・それは必要か?」

「いや必要とかじゃなくって」

 

「あーもううるさい!!」

 

あーだこーだと言い合っていると

厨房で食器を洗っていた杏奈がキレた

 

「することないなら買い出し行ってきなさい!!」

 

メモを渡して翔を店の外に蹴り飛ばす

 

「ほらあんたも!!」

「!?・・・なんだ?」

 

それを見ていたラストもまた

言われるがまま、杏奈に店の外に放り出されるのだった

 

「容赦ねぇなぁ・・・風間ちゃん

 しゃあない、行こうぜ」

 

尻をさすりながら、翔がそうつぶやく

──いや、もしかしたら打ち解けるチャンスをくれたのかもしれない

この買い出しを通じて仲良くなれ、そう言うことか

そうと決まれば話は早い、張り切っていこうとする翔に対してラストは

 

「・・・おい」

「ん?」

 

「買い出しとはなんだ?」

「えっ」

 

先行きが不安になった

 

 

雄飛は、開けた採石場に訪れていた

人の通りはない

誰もここを訪れることは無いだろう

 

──暴走をしても、これならだれかに襲い掛かることは無い

暴走後、獲物を探しだす可能背もある?

・・・何故か、そうは思えなかった

 

『Night Of Beast』

 

・・・暗闇の中に佇んでいる

手探りで、辺りを探る

何かが手にぶつかる、どうやら木のようだ

やはり、ここは暗すぎて気が付かなかったが森だったようだ

 

木にもたれかかりながら、座り込み

()()()()()()()

 

程なくして

何かが近づいてくる気配を感じた

──来たか

 

『出ていけ・・・』

 

獣が、雄飛の下にやってきた

 

「──君は、話せるんじゃないのか?」

『・・・。』

 

襲い掛かる前に、先んじて話しかけてみる

返事はなかったが、確かに反応があった

 

「君は、何がしたいんだ?」

 

自分の体を奪い取る?

──違うのではないのか?

森から出ていけと、俺の体などどうでもよさそうではなかったか?

 

地面を踏み込む音が聞こえる

横に転がるように避ける

自分が立っていた場所を、爪が引き裂いた

 

「──っ君のことを、教えてくれないか!」

『出ていけ──!!』

 

既に会話になっていない

それでも雄飛は避けながら語り掛ける

自分でも、危険な行為をしていることは理解していた

 

それでも、知らなければならないと思ったのだ

 

避けきれなくなる

視界が悪い中で動いて、足を取られまた転倒する

テラーが、自分を馬乗りの状態で追い詰める

 

「なんで!人を遠ざけるんだ?」

 

それでも口を止めずに聞き続ける

──テラーが、一つの精神であることを知ったから

──人を襲うのを辞めた者もいたことを知っているから

 

振りかぶり、降ろされた腕を掴み取る

凄まじい力で、腕が自分の体に押し込まれようとするのを必死に止める

 

凄まじい力が自分に向けられている

敵意を持って、自分に向けられている

それでも──

 

「知りたいんだ・・・()()()()()()()()()()・・!」

 

──分かり合える気が、確かにしたのだ

 

『・・・もう、誰とも会いたくないんだ』

「!?」

 

獣が、初めて理知的に話す

それに驚いて、手が滑ってしまう

 

ゆっくりと、爪が自分の胸に迫っていく

 

“あるところに、根は優しくも捻くれた王子がおりました。

 王子はその捻くれた態度が元で怒りを買い、

 魔法で体を醜い獣へと変えられてしまいました。

 醜い獣は、人々から恐れられ、避けられ、追い立てられてしまいました。

 そうして獣は、悲しみながら走ります。

 そうして離れた城を超え、深い森へと入りました。

 そこに、光は届きはしません。獣はその身を隠して生きています。

 そこに、■■は付いていけません。獣は一人で生きています。

 そこに、■■はたどり着けません。獣はずっと、■を知らずに生きています。”

 

瞬間、そんな一説が、聞こえたと感じた瞬間

胸を貫いた爪が、その意識を刈り取った

 

 

「買い出しどころか、金の使い方も知らんとは・・・」

「・・・おい、ショウ。これはなんだ」

 

買い物袋をひっさげながら、翔は頭を押さえる

買い物一つで随分と時間がかかってしまった

それもこれも、ひとえにラストの常識のなさであった

 

万引き仕掛ける、金を知らない、目に映る物なんでも聞いてくる

どうやってここまで生きてきたのだと言いたくなるが

それは境遇から察する

あの状態で、まともな人生など遅れていたはずがないのだ

 

とはいえ、ある意味では有意義ではあった

随分と打ち解けられたような気もする

 

話せば、なかなか素直ないい子ではないか

 

「おい」

「ん?あーそれはな」

 

そんな会話を話していたその時

 

『ごきげんよう?』

 

「「!?」」

 

背後から、聞きなれた声が聞こえてくる

振り返るとそこにいたのは

 

『はぁい』

 

機嫌よさそうに構えるクイーンである

 

「貴様・・・!」

「出やがったか・・!」

 

翔とラストがドライバーを構える

 

「「変身!!」」

 

『GIGA SOUND!!』

『BUBBLE MERMAID!!』

 

仮面ライダーサウンドが槍を

仮面ライダーラストが剣をそれぞれラストに振り下ろす

 

その時、クイーンの脇から人影が割って入った

またも、剣と槍が空中で静止するかのように受け止められる

 

「「!?」」

 

押し込んでもびくともしない

そして、

 

『フン!!』

「ぐあ!」「うお!?」

 

割って入ったあの王冠を被ったテラーが掛け声を上げた瞬間

空中で止められていた剣と槍ごと

2人の仮面ライダーを弾き飛ばした

 

『反省したの、・・・やっぱり手抜きは駄目ねって

 ・・・だから、しっかりと倒しておかないと・・・ね?』

 

弾かれて吹き飛んだライダー達を見ながら

クイーンは、愉快そうにそう告げた

 

『それじゃあよろしくね?

 ・・・しっかり倒して帰ってきて』

『・・・。』

 

王冠を被ったテラーにそう告げ、姿を消すのだった

 

「待て!」

 

追おうとするラストを、テラーが遮る

 

「どけ!」

 

剣を振り下ろす

マネキンのような、外装も何もない体をに剣が迫る

テラーは防御する素振りもせずに立っていた

 

このまま容易く切り裂く、かと思われたが

またもや、テラーの体に届く寸前

体のほんの数cm前で、刃が停止し、届かない

 

「何!?」

『ハァ!』

 

テラーがラストの腹部を殴りつけ吹き飛ばす

 

「くっ」

「大丈夫か!?」

 

立ち上がったラストとサウンドが並び立ちテラーと相対する

テラーは、構えもするでなく

ただただ立っていた

 

攻撃しようと、2人が武器を構える

その瞬間

 

『ひれ伏せ、王の御前である』

 

テラーがそんなことを言った瞬間

2人の体に、まるで切り付けられたかのような衝撃が走った

 

「うわぁ!?」

「グォ!?」

 

突然の衝撃に転倒する2人を満足そうに眺めながら

テラーは今度は腕を振るう

次の瞬間、立ち上がった2人をすぐさま

また薙ぎ払うかのような斬撃が左右から襲い掛かった

 

まるで、テラーの腕に追従するかのように

次々と、離れた場所の2人に攻撃が殺到する

 

まるで反応できない、というよりも

どこからどうやって攻撃しているのか

全く持って視認ができない

 

「なんだこいつ!どっから攻撃してんだ!?」

「っく!」

 

ラストが地面に潜っていく

そして、テラーの背後から不意を突くように飛び掛かり

その剣を背に振り下ろす

 

しかし、それでも刃が立たない

またもや、数cmの地点で刃が停止する

 

「おりゃ!」

 

サウンドがボウガンを構え、テラーに対して撃ち放つ

弾丸が、その体に当たるも

やはり体に突き刺さる前に止まり、そのまま地に落ちる

 

「なんだ、こいつ!・・まるで見えないバリアみたいに・・・!」

『・・・ふん、バカには見えん!!』

 

そう言いながら、テラーが腕を振るう

咄嗟にその場から飛びのく

 

次の瞬間、内装や柵などごと見えない刃は引き裂いて通った

 

「!?・・・やべぇ、ラスト!ここで戦ったら不味い」

 

建物をこれ以上破壊させるわけにもいかない

こんな場所で戦い続けるわけにはいかなかった

 

「・・・分かった」

 

ラストとサウンドが揃って駆けだす

 

『逃がさん』

 

それを追いかけるように、テラーもまた駆けだした

 

 

ビーストフォームへと姿を変えたアクトは

誰もいない、採石場で佇んでいた

 

紅い複眼はどこを見るわけでもなく

ただただ真っすぐを見て、微動だにしていない

 

──決して、自ら誰かを襲いに探そう等としていなかった

 

ドォン、ガラガラと大きな物音が響いてくる

 

「!?」

 

それに気づいたアクトは、どんどん近づいてくるその音に

少し迷った素振りをしつつも、

やはり、そちらに駆ける行くのであった

 

 

斬撃に晒されながら

2人は駆けていく、人里から遠く離れてきた

このあたりならば十分であろう

 

とはいえ、結局攻撃が通らないままここまで来てしまっている

どうにかして打開せねば

 

「どうにかして、あの見えない壁を突破せねば」

「・・・こうなりゃ1,2,3で同時攻撃大作戦だ」

 

ラストと顔を見合わせ頷きあう

とにかく、攻撃を通さないと意味がない

 

しかし──

 

必殺技を構えようとした瞬間

またも薙ぎ払うかのような斬撃が2人を襲う

 

「ぐぉ!・・・だめか」

「どうにかして、攻撃を止めさせないと・・・!」

 

『逃がさん!!』

 

テラーが腕を振るう、追従するかのような

まるで宙に浮かぶ剣がこっちに飛び掛かってきているかのような

目に見えない斬撃の乱舞が、2人を襲う

避けるのに手いっぱいで、まともに攻撃が振るえなくなる

 

『フン、逃げてるだけでは──!?』

 

テラーが攻撃を振るい続けていた

その時

背後から、アクトが獣が如くテラーへと襲い掛かった

 

「■■──!!」

「何!?」

「雄飛!?」

 

アクトの爪がテラーを引き裂く

・・・いや、テラーが身にまとう透明な何かを引っ掻く

 

『くっ・・・無駄だ!』

「!?」

 

単純に固いそれに阻まれ、驚愕するアクトに

テラーの攻撃が迫る

見えない斬撃が、アクトを切り裂き吹き飛ばした

 

「!?・・・今だ!!」

「くそ!」

 

アクトに気を取られ、攻撃を振るった瞬間

ラストとサウンド側の攻撃の手が緩んだ

 

『BEST END!!』

『BEST HIT MEDLEY!!!』

 

「ハァ!!」

「ダラァ!!」

 

強力な2つの攻撃が

テラーに向け、放たれた

 

『!?──何!?』

 

テラーが背後に迫る攻撃に気づくが一手遅い

強力なエネルギーがテラーへと着弾し

強大な爆発を引き起こした

 

「よっしゃ!」

「やったか・・!」

 

攻撃が当たったことを確信し

2人が油断して構えを解いたその瞬間

 

再度斬撃が2人を襲いかかった

 

「ぐぁ!?」

 

不意打ち気味な攻撃に防御もできずもろに受けてしまう

そして、倒れた2人が目にしたものは

 

「嘘だろ・・・!?」

 

爆炎の中、ものともせず

こちらをみて佇む、テラーの姿であった

 

続く




次回 仮面ライダーアクト

見えない攻撃に苦しむライダー達
『貴様らに勝利などない!!』
「攻撃が通らねぇ!!」

雄飛は、賭けに出る
「無茶だ!・・・あんな凶暴な意思に!」
「押さえつけちゃダメなんだ」
「・・・分かり合えると、思うんです」


「・・・一緒に行こう、大丈夫きっと魔法が助けてくれる」

第25章[そうして、輝ける夜が来る]


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第25章~そうして、輝ける夜が来る~

「嘘だろ・・・?」

 

ラストと自分の攻撃をまともに食らったはずだ

なのに、テラーはそれをものともしないかのように

ゆったりと爆炎の中から歩み出てくる

 

そして、腕を振り上げる

不味い、攻撃が──

 

猛スピードで迫る足音が響き渡る

 

「■■■■!!」

『!?』

 

テラーのその固い体表をアクトの貫手が穿つ

その鋭い爪でさえ貫きこそできないが、

高速で勢いをつけたその衝撃がテラーを大きく吹き飛ばした

 

隙を晒したテラーにアクトがさらに押し迫る

今度は固く握った拳を何度も叩きつけていく

 

「■■!!■■!!■■■■!!!!」

『グッガッ・・・ッ!』

 

テラーが振り払うかのように腕を振るう

目に見えない何かの横からの衝撃がアクトを襲う

ぐらりと、その体がよろけ──

 

ザリッと地面を踏みしめる音が響く

 

『!?』

「■■!!!」

 

無理やり持ちこたえたアクトが再度貫手を放つ

暗いオーラを纏ったその腕が

不意打ちが決まったと油断したテラーのその体を突き飛ばした

 

マネキンのようなその脚の何処から鳴らしているのかも分からないような

地面と金属がこすれるような音を立てながら

テラーが後ずさる

 

攻撃が、深く突き刺さったかのように見えたにも関わらず

その体の表面には、まるで傷ひとつついていない

 

『無駄だ・・・貴様らに勝利はない・・!』

「効いてねぇのか・・・?」

 

その様子を見ながらサウンドが絶望したように呟く

 

しかしその時

 

バキリ

 

『・・・!?』

 

まるで、()()()()()()()()()()()()()()

驚愕したようにその胸に手を置くテラー

信じられないことが起きたかのような

 

「・・・金属音?」

「まさか・・・」

 

 

「ウ”ア”ア”!!」

 

そのことに気づくか気づかないか

アクトはテラーに飛び掛かる

胸に手を置いて、呆気にとられたテラーはそれに反応が遅れたのだった

 

再度、アクトの蹴りがテラーの胸を蹴り飛ばす

そして

 

「グァ・・・グゥゥ・・!」

 

初めて、テラーが苦悶のような声を放つ

その胸元が、初めて傷がついたのだ

 

「傷が・・・やはり()()()()()()

「攻撃も、見えてなかっただけか・・・!」

 

そこまでいって、ようやくサウンド達にも合点がいく

攻撃がくらってなかった訳でもなければ

超能力のような何かで攻撃されていた訳でもない

 

ただ、見えない鎧と剣が、彼らに襲い掛かっていたのだった

そして、それが今一部分だけ剥がれたのだ

 

「だったら・・・」

 

サウンドがボウガンを構え、弾丸を放つ

放たれた弾がテラーの胸部に真っすぐと飛んでいく

それをテラーは先ほどとは違い大げさに回避する

 

「そういうことか・・・!」

 

液状化したラストが飛び出す

そして、テラーの眼前に躍り出て

その剣を胸目掛けて突き出した

今度はそれが、胸を目前に停止する

突き出された切っ先が、まるで金属に阻まれたかのような音を立てる

 

しかし、テラーの手に何か握られた様子はない

つまり

 

「(──浮いている武器か)」

 

こちらもまた、浮かんだ透明な武器が

テラーの腕に追従するように振るわれて

自分達に襲い掛かっていたことが見て取れた

 

──手さえ分かれば

そこまで考えたところで

液体と化した体に、腕が突き立てられる

しかし、それは水の体を突き通り

そのまま正面のテラーの体にぶつかる

 

「おっと」

「■■!?」

『ぐぉ!?』

 

背後からのアクトからの奇襲が

ラストの体を貫いていた

見境のなさは相変わらずのようである

 

しかし、僥倖

自身への攻撃が不意打ちとなってテラーの

体に叩き込まれた

 

突然の衝撃に耐えきれるはずもなく

転がっていくテラー

そして、自身の体を見る

胸の傷に血が濃くにじみ出していた

 

『おのれぇ・・・おおお!!!!!!』

 

傷ついた自身の体を見て震えるテラー

彼が怒りのままに吠えた次の瞬間

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「!?」」

『おおお!!』

 

テラーが右から左へ腕を振るう

ラストが、右からくる攻撃を防ぐために武器を構えた

 

一瞬の間の後に、構えた武器に衝撃が走る

これだけの予兆が見て取れるのなら

対策も可能──

 

次の瞬間、右からの攻撃を防御しているその身に

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ぐぁ!?」

 

切り飛ばされたラストに驚愕を隠せないサウンド

そして、次の瞬間

サウンドも、左右正面からの3本の斬撃が襲い掛かった

 

「な!?──おぁぁ!?」

 

立ち上がったラストとサウンドに次の瞬間

またもや見えない攻撃が、連続で叩き込まれる

凄まじい衝撃に2人の変身が解け倒れ込んでしまう

 

『許さん・・・八つ裂きダァ!!』

 

──増えた

先程まで、1本だった見えない武器が

何本にも増えて、こちらに襲い掛かったのだ

見えない攻撃がの雨あられに晒されたライダー達がそれに気づくのに

多くの時間は必要なかった

 

「■■──!!」

 

アクトもまた、その攻撃の例外ではない

武器の風切り音を拾ってその爪が飛来する攻撃を弾き飛ばす

しかし、1つを弾いたその瞬間

背中に2本の斬撃が叩き込まれる

 

「──!!」

 

何度弾いても、次から次へと武器が飛来してくる

耐えきれずに、アクトがその膝をつく

 

『死ねぇ!!』

「雄飛!」

 

攻撃が放たれる

それがアクトの眉間に迫る

 

「■■■■■■──!!!!!」

 

絶叫

その瞬間、空気を揺らすほどの咆哮が響き渡る

衝撃が、一時的に飛来する武器を一度に弾き飛ばす

 

『な!?』

「ウ”オ”オ”オ”オ”!!!」

 

テラーがほんの一瞬怯む

その一瞬で、アクトは行動を起こした

 

『BEAST』

BAD ACTION(バッドアクション)...』

 

薄暗い力が、アクトを包みこむ

そして、弾かれるかのように駆けだした

 

テラーが阻もうと攻撃を放つ

四方八方からの斬撃を、風切り音だけを頼りに

くぐり抜けるように駆ける

 

そして、テラーの目の前に躍り出た

アクトが跳躍し、その脚に力が集約する

 

『させるものかぁ!!』

 

横から斬撃が突き刺さる

2度も3度もアクトの体に降り注いでいく

 

「キ”エ”ロ”ォ”!!!」

『!?』

 

しかし、それでもアクトは止まらない

無理やり、体を進めていく

テラーがさらに腕を振るうって、見えない攻撃を降らせる

そして

テラーの攻撃が再度アクトの体を刺し貫くと同時に

アクトのキックが、テラーを吹き飛ばした

 

『グォオオオ!!』

 

テラーが吹き飛び

アクトが、崩れ落ちるように倒れる

 

「雄飛!!」

「──!」

 

翔とラストがアクトに駆け寄る

 

しかし、その奥の砂煙の中に

一人の人影が浮かび上がった

 

「っまだ・・・!?」

 

煙の中からテラーが現れる

 

『ぐっうう・・・』

 

しかし、ダメージを負ったように体を引きずる

 

『──覚えておけ、次は殺す・・・!』

 

逃げるようにその場から立ち去るテラー

2人のライダーはそれを追いかけようとしたその瞬間

 

崩れ落ちたアクトの変身が解け

傷だらけの雄飛が現れた

 

「っ──くそ!」

 

それを見てしまえば、置いてはいけずに立ち止まる

結果的に手負いのテラーを逃がしてしまった

 

「ああ、くそ

 雄飛!!・・雄飛!!」

 

変身を解いた翔が雄飛を揺すりながら声をかける

しかし、返事はない

息はあるがやはり怪我が多い

 

「運ぶぞ、手伝え!!」

「ああ。

 ・・・?」

 

そして、アクトを運ぶために手を掛けたラストは

雄飛の傍に転がるある物を見つける

 

それは、禍々しいようにも見える一枚のチケット

『Night Of Beast』のチケットが、雄飛の体から排出されてそこにあった

 

喫茶「テアトロ」

 

「うーん、やっぱりすごい力だ・・・」

 

浩司は、店の裏の研究室で一人唸る

多種多様のケーブルが繋がった先には一枚のチケット

翔とラストが持ち帰ってきた件のもの

雄飛の体の中に眠っていたチケットである

 

これまで、戦ったもの達と比較しても強力なエネルギーを秘めたそれを

浩司はまじまじと見つめていた

 

「どうだ、解析は」

 

そう言いながら部屋を訪れたのは研究者仲間の音石である

手にはいくつかの機械部品

これから何か作りますといった風である

 

「ああ、データは十分に取れた

 ただ、人口精神部分に関しては完全なブラックボックスだね」

 

抜き出すのもこの部分だけ破壊するのもお手上げだ

そう、浩司は告げる

できることなら、精神部分は抜き出せればよかったができないものは仕方ない

その上で、決めなければならないことがあった

 

「それで、破棄するのか

 それとも、制御するのか」

「そうだね・・・」

 

そう、このチケットをどうするのかである

一番の問題であった雄飛からの摘出ができた以上

残った問題はその一点だけであった

 

すなわち、チケットごと破壊するのか

それとも、このまま雄飛用のアイテムとして使うのかである

 

安全面を考慮すれば、破棄一択である

しかし──

 

「正直、このパワーは魅力的ではあるからね」

 

そう、戦闘力だけを鑑みれば

この形態は非常に強力なのである

 

「正直に言うと、アクトシステムの単体のパワーアップはネクストで打ち止めだ」

「ああ。

 ・・・それでこの前、サウンドとのシステムの組み合わせを相談してきたんだったか」

「うん、そっちのシステムでも何か出来ればいいんだが・・・

 それよりも今はこっちだ」

 

元々の力が、演技力という不確定要素で戦闘力が決定するアクトにとって

横軸の強化である、サムライ,ウエスタン等は幅があったとしても

縦軸の純粋なスペック強化という箇所は非常に難しい課題であったのだ

 

大木の助けもあって、雄飛の演じやすさを上げることで

スペックを押し上げたのがネクストだが

アクトにとってこれ以上のスペック強化手段は現状ない

 

そこに現れたのが、協力なスペックを誇るこのチケットだ

ストーリーテラー達の戦いも控えている以上

 

その力を易々捨てるのもまた、選び難い

 

「しかし、制御といってもどうやって」

「それが思いつけば苦労はしないさ・・・」

 

だがしかし、やはり怖いのは暴走である

敵味方関係なく襲い掛かる姿を見ている以上

どうしても避けて通れない課題であった

 

「サウンドの技術にそういうのは?」

「・・・音楽でリラックスなどならあるいは

 いやしかし・・・無理だな」

 

単純なのは、このチケットの中の精神体のみを破棄、抑制することだが

その精神体部分が完全にお手上げなのだ

 

「それなりに、頭はいい方だと自負していたのだがね」

「結局、我々は奴の模倣、改善でしか戦えていないということか・・・」

 

青山博士

狂気に駆られてなお、このようなものを作成し他彼の天才ぶりに

2人そろって脱帽する

 

「やはり・・・危険すぎるか」

 

雄飛君にまた取り付く可能性もある

現状対策が思い浮かばない以上

破壊しておいた方が──

 

「ちょっと待って・・!!」

 

そうして、分解までしようとしたところで

部屋の扉が開かれて

いつの間に目を覚ましたのか

雄飛が部屋に飛び込んできたのだった

後から杏奈や大木も顔を出す

 

「・・・雄飛君?けがは?」

「ああ、大丈夫です

 切り傷と、打撲ばっかだったんで」

 

痛そうに体をこすりながらそういう雄飛は

椅子に腰かけて、話始める

 

「壊すのは、駄目

 ・・・というか止めてほしいんです」

「いやしかし、危険だよ?」

 

「でも、やっぱりあの力は必要だと思うんです

 ・・・正直、ネクストまでじゃギリギリだ」

「と、言うことは

 このチケットを使って戦いたいと」

 

「はい、これからの戦いにも絶対必要だ」

 

雄飛は力強くそう言い放つ

これまで戦ってきた雄飛だからこそ

敵との力量について思うところがあるのだろう

 

「しかし、そうなるとやはり暴走がネックだな」

「どうにかして、外付けで何かを作らないと」

「・・・外付け?」

 

雄飛が首を傾げる

ああ、説明を省いてしまった

 

「暴走せずに戦うためにも、外付けのパーツで制御などが必要だろう?

 幸い、アクトドライバーはそういった拡張性の用意はある」

 

そういいながら、ドライバー上部のアダプタなどの図面を見せる

 

「しかし、外付けで制御するにも方法が・・・」

「・・・。」

 

そこまで言って、雄飛は何か考え込むように押し黙る

 

「?・・・何か考えがあるのかい?」

 

もしかしたら、制御に関して何か考えがあるのか

そんな思いから、浩司は雄飛の考えを問うた

 

「・・・それなら」

 

しかし、その問いに対して雄飛が返したのは

 

「制御じゃなく、もっとパワーアップするための物を作りましょう」

 

暴走への解決法とは、全く異なる物であった

 

 

 

『っく・・・この程度の傷・・!』

 

3人のライダー達との戦闘で手傷を負った

王冠を被ったテラー:キングテラーは

戦場を去り、休んでいた

 

胸がズクズクと痛みを放つ

こんな屈辱は初めてだと、怒りでどうにかなりそうであった

 

『辛そうだな』

『!?』

 

そんな彼の目の前に、一人の声が響く

目を見やると、青い服をした一人の男

 

『貴様か・・・』

『手が必要になった

 ・・・もう一度行ってもらう』

 

ブルーが、手を翳す

何かのエネルギーだろうか緩やかにテラーの下に集う

そうしたうちに、傷が

そして砕けた鎧がどんどん修復されていく

 

『アクトから()()()()()()()()()

 ・・・早急に確保してもらいたい』

『何・・・?』

 

それだけ言い放つと、ブルーはその場を後にする

拒否をする暇も与えないとは、失礼な奴だ

 

『・・・まぁいい、雪辱を晴らす』

 

命令されるのは気に食わないが

助かったのは、事実

奴らに再度挑むべく

テラーはその場を発つのであった

 

 

「・・・それは、どういう意味だ?」

「まさか・・・チケットをそのまま使う気か?」

 

二人の博士は、その意図を読み取ることができない

なぜ、制御の話だったのに

それがなぜさらなる強化の話になるのだ

まさか制御が不要だとでもいうのか?

いや、そんなはずはないだろう

それに対する雄飛の反応は──

 

「はい」

 

その通りであった

この子は、あのチケットを使うのに制御が不要だと

そう言っているのだ

 

「無茶だ!・・・あんな凶暴な意思なんだろう!?」

「そうよ!暴走してまた見境がなくなったらどうするの!?」

 

大木と杏奈が2人して、その間違いを正そうとまくしたてる

しかし──

 

「・・・大丈夫です、きっと」

 

雄飛も譲らない

まるで、制御の必要などないと心からそう思っているように

 

「下手をすれば、君もまたテラーの仲間入りだぞ!」

「・・・押さえつけちゃダメなんだ」

 

雄飛は、静かにそう言い放つ

制御ではダメなんだと、そう彼らに示した

 

「浩司さんは言いましたよね?

 彼らは人口精神体だって」

「?・・・ああ」

 

雄飛は、知っている

それがどういった意味を持つのか

脳裏に浮かぶのは、あまり話せもしなかった一人の怪人であった

 

「前に、一人だけ人を襲うのを辞めたテラーがいたんです」

「・・・ああ、鶴のテラーだね」

 

彼は、人の感謝に感化され

人を襲うのを破棄したテラーだった

()()()()()()()()()()()()()()()

 

「俺、あの野獣の・・・彼の過去をしれた気がするんです」

 

そうして、雄飛は語る

自らの中で会った一人の悲しい獣のお話を

 

「意思があるなら、俺はそれに賭けてみたい」

「・・・きっと、分かり合えると思うんです」

 

「──雄飛君」

 

雄飛はその意思に、一人の心に信じると

そう決めたのであった

 

しかし、それでも不確定要素が大きすぎる

精神論だけでは──

 

その時

 

轟音が、店の外から響き渡った

 

『オオオオオ!!!!』

「「変身!!」」

 

ここまで響くかのような咆哮と

外で掃除をしてたはずの2人の声

 

──まさか

 

「俺、行きます

 ・・・開発頼みます!!」

 

そう言うと雄飛は、ケーブルの繋がる

あのチケットを引きちぎりながら席を立つ

 

「っ雄飛君!まてそれを持って行っては──」

 

そんな静止も聞かずに雄飛は店の外に飛び出していくのであった

 

「っくそ!どうすれば!!」

 

音石が頭を抱えて悩む

このままいけば、また彼は暴走まっしぐらだろう

どうに化しなければ

 

「・・・作ろう」

 

浩司が何かを決心したかのように

立ち上がって作業台へと向かう

 

「だが、制御機能は何のアイデアも──」

「・・・そっちじゃない」

 

「は?」

「パワーアップアイテムの方だ!

 この前相談したよな?」

 

「サウンドのシステムとの組み合わせか!?

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

「ああ、あれを完成させるぞ」

 

「だが、制御は!?」

「不要だって、彼は言ったろう」

 

浩司は、そう言うと作業に取り掛かる

PCのデータを引っ張り出して

馬車馬のごとく手を動かす

 

「もしものことがあるだろう!?」

「・・・だが、彼は言ったんだ」

 

「これまで、何度もやり遂げた子だ

 ・・・そうだろう?杏奈?」

 

そうして、杏奈を見る

暴走した彼に襲い掛かられたこともある彼女は

その時の様相を思い出す

あの身が竦むほどの恐ろしい姿を

──それでも

 

「うん、雄飛が言うのなら・・・大丈夫」

 

信じてみたくなった

あの人の良すぎる男が、あれすらも救って見せる

そんな場面を見たくなった

 

「・・・ああくそ!

 しかたねぇ!!どうなっても知らんぞ!!」

 

音石もまた、頭を掻いては諦めて

デスクへと向かう

自分がもつ知識を総動員して

アクトを強化するための装備を作り始める

 

「大木君!君は・・・」

「ああ、話だろう?

 ・・・今いいところなんだ、話かけないでくれ」

 

そして大木はというと、雄飛から野獣の話を聞いた後からずっと

机で筆を走らせていた

何というか、あんな話を聞いて

インスピレーションがモリモリ湧いたそうな

 

「できた!!」

 

そして、すぐに筆を置いて

用紙をも広げる

 

「新しいチケットだろう?こんなのはどうだろう!!」

 

用紙を広げて見せる

そこにあるのは、一つのお話

 

キラキラと輝くような

不思議できれいな

魔法のお話

 

 

「ショウ、この茶色いのはなんだ?」

「え?・・・ああ松ぼっくりだよ」

 

秋だねぇ

そんなことをいいながら

翔は竹ぼうきを片手に落ち葉を掃いていく

 

その隣で、これまた放棄を持ちながら

落ちた松ぼっくりを不思議そうに眺めるラストであった

 

 

そんなところに

まるでアスファルトを金属が打ち鳴らすかのような音が響き渡る

 

「・・・?・・・!?」

 

その方をラストと翔が見た瞬間

2人揃って倒れ込むように身を躱した

 

瞬間、先ほどまでたっていた場所を何か通過するかのような音が走る

そして、二人の傍に立っていた木が

すっぱりと切れて倒れた

 

「てめぇ・・・!」

「あの傷が、・・・もう?」

 

『見つけたぞ・・・!!』

 

2人がドライバーを掲げて駆けだす

 

『オオオオオ!!!』

「「変身!!」」

 

『GIGA SOUND!!』

『BUBBLE MERMAID!!』

 

2人のライダーがテラー近づき

その武器を振るう

狙いは胸

その攻撃は、吸い込まれるようにテラーの下に向かい

そして、その体に触れる目の前で、何かにぶつかり停止する

 

「っく!」

「やはり修復済みか・・・!」

 

『フン!!残念だったな!!』

 

テラーが腕を振るう

2人のライダーの体に斬撃が走った

 

そして、また目に見えない連撃が2人を襲う

1本でもギリギリであるのに

何本もでは、まるで手が足りなかった

 

ライダー達の体に何度も斬撃が叩き込まれる

そして、テラーがその腕を引いたと思えば

一気に突き出す

その瞬間、2人のライダーに見えない突きが叩き込まれ吹き飛ばされた

 

「っちくしょ・・・見えなきゃどうしようもねぇ!!」

「不味いな・・・」

 

強力な連撃にサウンドとラストが今にも倒れそうになる

そして、テラーが止めを刺そうとした

その時

 

『MASKED RIDER The NEXT!!』

『!?』

 

風を纏った蹴りが、その顔面に叩き込まれる

傷つかずともその衝撃が、2人のライダー達から

テラーを引き剥がした

 

「!?雄飛!」

「けがは・・・?」

 

「問題ない!!」

 

不意打ち後テラーの目の前に降り立ったアクトは

そのまま追撃を重ねていく

風を纏った拳が、テラーの体を捉える

しかし、その拳は体を目前に鎧に阻まれる

 

──殺気!

 

羽飛ぶように跳躍する

次の瞬間、アクトがいた場所を剣が通過する

 

『逃がさん!!』

「がっ!?」

 

しかし、テラーも甘くはない

さらにはなった斬撃が、空中のアクトを断ち切る

回避後の一瞬の安堵の隙に突然の衝撃がアクトに襲い掛かった

 

バランスを崩したままアクトが落下する

そして、立ち上がろうとした瞬間

また、その脚を払うかのような攻撃が

アクトをさらに叩き込まれた

 

「がぁっ!ぐぁあああ!!」

 

連撃が何度もアクトを攻撃し

そして、最後に力を超えた一撃が

アクトを吹き飛ばす

 

吹き飛んでいくアクトを眺めたテラー

その両側面から、駆けこむ影が二つ

 

「らぁ!!」

「はぁ!!」

 

サウンドとラストが斬撃をテラー目掛け放つ

しかし、その攻撃もまた鎧に阻まれる

 

ならば、と2人は何度も攻撃を叩いていく

前回のアクトのように、鎧さえ砕けばあるいは──

 

『っさせん!!』

 

しかし、テラーもそれは既に学習済みである

振り払うかのように2人のライダーを掴み投げ飛ばした

ピシリと鎧にヒビが入ったかのような音がした

 

しかし、明確に砕けた音はまだしていない

 

投げ飛ばされた2人の奥で、アクトが立ち上がる

そして、あるチケットを取り出した

禍々しいそれを眺めてアクトは──

 

「・・・。」

 

決心はついた。

後は──彼が応えてくれるまで!!

 

夜と野獣(Night Of Beast)

 

「「!?」」

 

「雄飛!待て!!」

「・・・変身」

 

意を決して、アクトがドライバーにチケットを叩き込む

薄暗い闇がアクトを包みこんだ

 

次の瞬間、闇が晴れ

中から、獣の様相をしたアクトが現れる

 

「──。」

 

「・・・いけた・・・か?」

「──いや」

 

「■■──」

 

アクトの顔が上がり、テラーを見る

次の瞬間

 

「■■■■!!!」

 

咆哮を上げ、駆けだした

テラーが攻撃を放つ

四方八方からの不可視の攻撃がアクトへと襲い掛かった

 

それを感覚だけを頼りに飛び越えながら駆けていく

避けきれない斬撃がその身を傷つけようとお構いなく

アクトがテラーの目の前に飛び込んだ

 

爪が、鎧を叩く

不可視の鎧がそれを阻む

鎧から散った火花が、アクトのその黒い装甲に照り返った

 

攻防が続く

それは、アクトの外だけの話ではなかった──

 

雄飛が暗闇の中に立つ

 

ザザザと何かが駆ける音がした

咄嗟に身を躱す

 

爪が、自分の首のあった箇所を通過した

 

『・・・出ていけ!!』

「いやな・・・こった!!」

 

野獣が、何度も攻撃を放ち

雄飛がそれをギリギリで躱していく

 

『なんのために来たぁ!!』

「君に・・・助けてもらいに来た!!

 それで、・・・連れ出しに来た!!」

 

『何ィ・・・?』

 

雄飛は避けながらそう語り掛ける

野獣は理解できないように

 

「こんな場所でいても!何にもならない!!」

『・・・黙れ!!

 ここが、私の場所だ!!出ていけ!!』

 

「明るい場所に出てほしい!!

 君の力が必要なんだ!!」

『断る!!』

 

野獣の腕が、木々をなぎ倒しながら雄飛に迫る

それを間一髪で避けながら逃げ続ける

 

これは、骨が折れそうだ

 

 

「できた!!」

 

浩司が、席を立ちあがる

まるで、力を使い果たしたかのようにぐったりしている音石と

待ち望んでいたかのような杏奈が

完成したそれを、

 

まるで、何かのカバーのような形状をした

新しいチケットを見た

 

「杏奈」

「任せて!」

 

それを持って杏奈が駆けだす

目標はもちろん、雄飛の下である

 

 

「■■──!!」

 

不可視の斬撃が、アクトに襲い掛かる

先程と同じように、捌ききれない程のそれが

アクトの体を、切り裂いていく

 

その様子をサウンドとラストは眺めることしかできない

下手に手を出せば、狙いがこちらになるだけである

 

「っくそ、うかつに手を出せねぇ」

 

サウンドとラストが、手をこまねいていると

 

「翔!!ラスト!」

 

「!?・・・風間ちゃん!」

 

アイテムを抱えた杏奈がそこにたどり着く

そして雄飛へとアイテムを手渡そうと──

 

「雄飛は・・・!」

「行くな!まだ暴れてる!!」

 

しかし、アクトは現在進行中で暴走状態である

そんな相手にどうしようもない

そう、サウンドに止められた

──だが、

 

『ハァ!!』

「■■──!!!」

 

運悪く、アクトがテラーの攻撃を喰らい

そしてまさに杏奈の目の前に吹き飛ばされた

 

そして、起き上がったアクトのその目が

──杏奈を捉えた

 

ユラリと立ち上がり

アクトが杏奈の目の前に立つ

 

「やべぇ逃げろ!!」

 

サウンドが、そう呼びかけるが

恐怖で、どうも足が竦んでしまっている

上手く、動かせない

 

そして、アクトが腕を振りかぶり──

 

「っ!」

 

杏奈が、自らに起こるそれを察し

目をつむる

 

サウンドが、駆けだすが、間に合わない

 

アクトの禍々しい爪が

杏奈に突き立てるために振りかぶられ

そして──突き出された

 

 

「がっ」

 

雄飛が、野獣の振るう腕に巻き込まれ

大きく吹き飛ばされる

 

地面を何度か跳ね、ようやく止まる

しかし、その痛みもやまぬまま

 

倒れたその上に、野獣が降り立った

 

『出ていけ・・・出ていけ!!』

「っ・・・ここで居たって!何も変わりはしないだろう!!」

『!?』

 

『・・・ああ、そうだ。

 だから、それがいいのだ・・・!』

 

野獣の腕が振りかぶられ

その爪が雄飛の顔面を捉える

 

「・・・恐れられたままでどうする!!

 どうにかしたくないのか!?」

『・・・っ不要だ!!』

 

「・・・全員から虐げられて、悲しいだろう!!」

『そうだ!!だからここにいるのだ!!』

 

物語から生まれた人口精神

それは、あの一説が、そのまま彼の過去そのものであることを示していた

彼は、醜い野獣として虐げられた物語から生まれた心なのだ

そして、このチケットでは、きっとあの一説が正道なのだ

深い森で、悲しみに包まれたままの獣が

彼の心そのものなのだ

 

──けれど、変えられないことは無いのではないか?

 

「でも!!一歩踏み出せば!・・もしかしたら!変えられるかもしれない!!

 誰かが、受け入れてくれるようになるかもしれない!」

『!?』

 

「変われないでずっとここにいるのか!?」

『っ黙れ・・・!』

 

腕が、振り下ろされる

けれど、それはどうにも先程までの勢いがなかった

 

『!?』

「外に出るんだ!!人は、なんにでもなれる!!」

 

腕を掴み取って、そう告げる

そうだ、この精神が誰かに拒絶されるのを拒んでいるのなら

・・・受け入れてもらえるようにしてやるしかないのだ

 

『黙れええ!!』

 

腕が振り払われた

再度、振りかぶられた腕が今度は素早く振るわれる

爪がこちらに迫る

 

──駄目か?

 

 

アクトの腕が振りかぶられ、振り下ろされる

 

杏奈が、ぎゅっと目をつむって

自身に襲い掛かる防御に備えた

 

・・・?

衝撃がこない?

 

恐る恐る、目を開く

そして眼前に広がる光景に驚愕した

 

「■■──??」

 

振り下ろされた、右腕を

左腕が掴み止めていたのだ

 

「・・・雄飛?」

 

右腕が必死に左腕を振り払おうとする

しかし、左腕も必死にそれを耐える

 

「っ今!!」

 

杏奈がその隙にドライバーに手を伸ばす

そこで、右腕が左腕を引き剥がした

 

「風間ちゃん!!にげろぉ!!」

 

再度右腕が振りかぶられる

けれど、杏奈は怯まない

 

再度、腕が振り下ろされたその瞬間

ドライバーの上部から表面を覆うように

カバー上のアイテムが

しっかりと、装着された

 

『──同時上映!!!』

 

 

野獣が再度、腕を振り下ろす

咄嗟に雄飛は腕で頭をガードする

 

・・・衝撃が来ない?

 

恐る恐る、目を開く

 

そこには、驚愕の景色が広がっていた

 

薄暗い、まるで何も見えない暗闇であった森が

()()()()()()()()()

 

色とりどりの光が浮かび、森を照らす

飛んでいく光が風の流れに乗って

木々の間を尾を引きながらひらひらと流れていく

 

幻想的な、風景がそこにはあった

 

雄飛は、それを眺め息を呑む

 

そして野獣は──

 

『──。』

 

その景色に、あまりの美しさに見惚れていた

 

雄飛の上から立ち上がり

光を追いかけるように手を伸ばす

触れた瞬間、はじけた光が、また小さな光を撒いて飛んでいく

 

雄飛は起き上がり、彼の目の前に立った

 

『これは・・・』

「魔法さ」

 

雄飛はそう答えた

 

ああ、そうだ

こういった物語で困ったときは

いつだってこれなのだ

眩い奇跡が、起こるのだ

 

野獣に向けて手を突き出す

そして、一言呼びかけた

 

「・・・一緒に行こう、大丈夫きっと魔法が助けてくれる」

 

──眩いほどの輝きが、きっとその醜さを晴らしてくれる

──可笑しな奇跡が、きっと怖さを和らげてくれる

──不思議な獣には、きっと誰もが集ってくれる

 

そして、野獣は、出された手を──

 

 

アクトが、腕を振りかぶりそして

振り下ろされそうになった

 

「風間ちゃん!あぶねえ!!」

 

その瞬間──

振りかぶられた腕が、力が抜けるように落ちた

 

「・・・?」

 

アイテムを取り付けた後、逃げられない衝撃に備えた杏奈は

また、ゆっくりと目を開いた

 

「・・・無茶するね、杏奈さん」

「・・・雄飛・・!」

 

アクトから、低い唸り声のような声ではなく

聞きなれた声がした

 

今ここに、アクトは雄飛として立っていた

 

「下がってて」

「ええ!」

 

杏奈さんが遠く離れたのを確認して

 

「雄飛、雄飛なのか!」

「翔

 ああ、もう大丈夫」

 

「下がってて、ラストも」

 

そういって二人を下がらせた

 

そして、テラーと向き直る

 

『落ち着いたところで・・・

 何も変わりはしない・・・!』

 

テラーは、今までの攻撃の通りから

自身の勝を確信したように勝ち誇る

 

「・・・どうかな?」

 

そんなテラーにアクトは不敵にそう言い放つと

ドライバーに手を掛けた

 

「・・・いくよ」

 

ドライバーの表面、新たに装着されたアイテムを

軽く押し込んだ

 

Phantasia(ファンタジア)

 

幻想的な音が鳴り響く

 

そして、パーツを装着したことで

一度抜けた、チケットを再度押し込むように

ドライバーに叩き込んだ

 

Phantasic Night Of Beast(ファンタジックナイトオブビースト)

 

感動で震える夜が来る(Be Moved and Trembling Night Is Coming)

不思議な獣が連れてやってくる(Mysterious Beast Will Bring It)

あの歓声が聞こえるか?(Can You Hear That Shout)

野獣と幻想的な夜(Phantasic Night Of Beast)

誰も目を離せない(Not Missed off)!!.』

 

 

続く




次回 仮面ライダーアクト

第26章[魔法にかけられて]


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第26章~魔法にかけられて~

獣の様相をしたアクトのドライバーにチケットが装填され光を放つ

 

感動で震える夜が来る(Be Moved and Trembling Night Is Coming)

 

ドライバーから何かが飛び出す

胸元のアーマーとひらひらとはためく袖と裾、それはまるでローブのようにも見えた

暗い薄紫のそれがアクトに重なり合うように降り立った

 

不思議な獣が連れてやってくる(Mysterious Beast Will Bring It)

 

布のようにもまるで金属のようにも見えるアーマーが

毛に塗れた腕をそして肉体を包み、その姿を変えていく

 

あの歓声が聞こえるか?(Can You Hear That Shout)

 

ただただ荒々しさを感じさせた醜い獣が

理知的ささえ感じさせる、そんな魔法使いの恰好をした獣へと

 

野獣と幻想的な夜(Phantasic Night Of Beast)

 

暗い紅いだけの複眼が、希望にも似た金に輝く

 

誰も目を離せない(Not Missed off)!!.』

 

そんな、新たな姿をしたアクトが

腰から伸びるマントをはためかせ、そこに立っていた

 

「──成功した・・・!」

 

杏奈が、成功を確信し希望に満ちた声を零す

サウンドとラストがその変化に言葉を失う

 

そして──

 

『変わった所で──!!』

 

テラーがだけがその変化に臆さずその腕を振るう

瞬間、アクトに不可視の剣が飛来する

そんな攻撃を

 

アクトはヒラリと飛び上がり回避する

 

『馬鹿め!!』

 

追撃のように2本目3本目が空中のアクトに飛来する

空中では身動きは取れない

そのまま切り裂かれ無様にアクトは地に落ちた──

──かと思われた

 

アクトの隣にまるで内側に文様を付けた光の円──

そう、まるで魔法陣のようなものが現れる

そして、円は空中のアクトを通過するように動き出す

そして、円がアクトの体を通った瞬間

()()()()姿()()()()()()()()()

『何?!』

 

目標を失い、剣が全て空を切る

そう、空を切ったのだ

アクトは見えなくなったわけではない

その場所から、いなくなったのだ

 

『ど、どこに──?』

 

テラーが辺りを見回す

しかし、周りの何処にもその姿はない

 

次の瞬間

再度、魔法陣がテラーの背後の空中に現れた

そして──

 

「──だぁぁあ!!」

 

アクトが、その円の中から飛び出すように現れた

突然の奇襲にテラーは反応もできずに

その背には、アクトのその腕の

獣のような鋭い爪の一撃が繰り出された

 

『ぐぉあ!?・・・一体何が・・!?』

 

「魔法さ、ちょっとしたね」

 

降り立つアクトは不敵にそう言い放つと

次に虚空に手をかざす

開いた手には、何も握られてはいない

しかし──

 

次の瞬間、その手に何かが現れる

細長い支柱の先には

まるで、獣の顔を模したかのような備品が取りつけられ

逆立つ毛が、まるで刃のように光沢を放つ

それは、まるで手斧のような──短い杖であった

 

『CG(スタッフ)!!』

 

自らの銘を名乗るように音を鳴らし起動する杖

そして、アクトがその杖の叩くように軽く押すと

 

(ファイア)』『Select(セレクト)

 

そのような音声を鳴らし

杖の上部、獣の顔を模した刃の部分が

まるで合成(CG)のように音を立てて火を灯す

 

「ハァ!!」

 

そして、アクトは燃え盛る杖をまるで斧のように振るい

テラーを切り飛ばした

 

『──!!お、のれええええ!!』

 

再度、テラーがその腕を振るう

不可視の武器が次々とアクトへと飛来した

 

「おっと」

 

いくつもの武器が風切り音だけ鳴らして飛んでくる

しかし、アクトは焦ることなく再度アクトが杖を叩いた

 

爪跡(スクラッチ)』『Select(セレクト)

 

杖を手にした方とは逆の手に、力が集い強化されていく

そして、まだその手の届く範囲へと

到達していないにもかかわらず

アクトは、その手を振るった

当然、その手は空を切り、飛来するものを何一つ弾けない

 

しかし、その後に変化が起こる

まるで空間に巨大な3本の引っ搔き傷のようなものが

合成(CG)のように現れる

そして、飛来するすべての武器が

その傷跡に切り飛ばされたかのように弾かれた

 

『なっ──?!』

 

目の前に現れた異様な光景に驚愕を隠せないテラー

それをしり目にアクトは

 

「厄介だな、──けど透明じゃあ地味だな、

 ちょうどいい感じにしてやる!!」

 

再度、杖を叩く

 

(カラー)』『Select(セレクト)

 

杖を、テラーに向け突きつける

次の瞬間、杖から放たれた光がテラーを照らす

 

『!?』

 

眩しさに目を閉じたテラー

そうして、その目を開く

──何も起きていない?

 

唯の目くらましかとそう思った瞬間

自分の目の前に

黒い柄と金の鍔そして白銀を輝かせた美しい剣が

浮遊しているのが目に映った

()()()()()()()()

 

『!?』

 

異変に気が付く

不可視であった宙に浮かぶ武器の数々が

美しい色が付けて宙を漂う

 

そして、自身の姿もだ

まるでマネキンのような簡素にしか見えなかった姿が

今では

黄金に輝く眩い鎧に身を包む

荘厳な王のような姿へと変わっている

 

『こ、これは──!?』

「いい造形じゃないか」

 

アクトは、そう言い放つ

それは、アクトにもその色輝く姿が

視認できていることを物語っていた

 

つまり、不可視という自身の強みが今

取り払われたということであった

 

『貴様──!』

 

激高するテラーにアクトが突貫する

テラーはそれに対して武器を飛来させる

 

不可視の武器での波状攻撃

回避の間に合わない、凄まじい威力を誇った攻撃

しかし、既にその有効性は失われている

 

目視できる次々と回避しながらアクトが駆ける

そして、容易くテラーの目前へとたどり着いた

 

アクトが開いたその手を振るう

固い爪が引き裂くと同時に裂傷のエフェクトが現れ

さらにテラーを傷つけていく

2撃3撃、そして4撃目が決まると共に

テラーがその衝撃に耐えきれずに突き飛んだ

 

『がぁあああ!!』

 

ついに言葉にもならない程の激高と共に

テラーが咆哮を上げる

宙を浮かぶ剣達が一斉にアクト目がけ飛来する

 

10本にもおよび剣が次々とアクトを襲い掛かった

連続で飛来するそれを間一髪で避け続ける

1本避けると次の1本が

それを避けるとまた次が

延々と続くそれを、アクトは臆することなく避けていく

 

『は、無駄だ!!

 いずれ避けきれなくなる!!』

 

テラーはそれを見て勝ち誇る

もう逃がす気はない、逃げ疲れたところを

一斉に襲い、切り刻んでやる

そう強い意志で剣を振り回す

 

「っ・・・どうかな」

 

さすがに逃げ疲れてきたアクト

しかし、それでもそこに焦りはなく

何事もないかのように、杖を叩く

 

──無駄だ!もうそこから逃がす気などない!

 

反撃の隙など与えないように、より一層

剣の速度を上げようと、テラーが意識を集中させた

その時──

 

野獣(ビースト)』『Select(セレクト)

 

そんなテラーの背後に、再び魔法陣が現れる

そして、そんな中から

紅い眼光が、その姿を覗かせた

 

『ぐあ?!』

 

そうして現れた魔法陣から毛に塗れた、一本の腕が伸びて

テラーを背後から引き裂いた

 

突然の奇襲に、剣の勢いが緩む

その隙に、アクトは包囲から抜け出して

そして、怯んだテラーに対して

飛び蹴りを一つ食らわせた

 

『?!・・・何が!?』

「ちょっとした、お手伝いだ!」

 

何が起きたのか把握できないテラーに

アクトが、さらに杖を振りかぶって叩き込む

固い鎧を杖が叩き、甲高い音を鳴らしてテラーが吹き飛ぶ

 

『ぐっ・・・無駄だ・・・その程度では』

 

テラーが自身の鎧を見る

衝撃こそ届くが、目に見えるようになったその鎧には

まだ傷などない

その程度の攻撃で、自身は倒せない

 

「だったら」

 

アクトが、ドライバーからチケットを取りだす

 

「届かせるまで、やるだけだ!!」

 

そして、手にした杖に

そのチケットを差し込んだ

 

『BEAST!!』

 

『っ、うおおおおお!!!』

 

それを見たテラーもまた

力を込めて雄叫びを上げる

剣が、また宙を浮かび立ったアクトへと狙いを定める

 

アクトが、チケットを差した杖を何度も叩く

 

(ファイア)』『追加(プラス)』『転送(ワープ)

 

そして、杖に備えられたトリガーを

今、引き込んだ

 

BEST SELECTION(ベストセレクション)!!』

 

アクトが、力強く飛び上がりその脚を突き出す

差し出した足に火が灯り、そのままテラーに向けて突き進む

 

テラーがそのアクトへ向けて、手をかざす

その瞬間、全ての武器の切っ先が、アクトに向き

一斉に、飛来していく

 

アクトの蹴りがテラーを一直線に向かうのに対し

テラーの攻撃は、そのアクトを横から襲うように

上下左右あらゆる方向から一斉に飛来する

 

こちらに届く前に、叩き落とす

真正面から立ち向かうことなく

テラーの武器はエネルギーの帯びていない体に向け飛ぶ

 

このままでは、アクトの攻撃は撃墜される

──かと思われた

 

アクトのが突き進むその先

空中に、またも魔法陣が現れた

 

『!?』

 

そして、蹴りの体制のままアクトがその陣を突き抜ける

その瞬間、アクトの姿が消えた

 

剣が、対象を失って虚空を切り裂く

 

『──どこn・・・?!』

 

アクトを見失ったテラーが辺りを見回す

しかし、それは思いのほか速く見つかることとなる

 

見回せば、先ほどアクトが通過したあの魔方陣が

自身の周囲を取り囲むかのようにいくつもの数展開されていたのだ

 

そして

 

「はぁ──!!!」

 

そのうちの一つ、自身の目の前の魔法陣からアクトが飛び出す

凄まじいスピードで放たれたそれはテラーの胸に突き刺さる

しかし、その一撃では固い鎧を砕くことはできない

アクトの足が、鎧を砕くことなく弾かれる

 

──耐えた

そのことに勝利を確信したテラーは

けれども凄まじい衝撃にふらつき

体の向きが、別の魔法陣の方へと向いた

 

──そして、信じられないことが起こる

 

「はぁ──!!!」

 

そして、別の、自身がまた正面に立った魔法陣から

アクトがまた、蹴りの姿勢で飛び出してきたのだ

 

そして、またその蹴りが自身の胸に突き刺さる

またふらつき、そして──

 

「はぁ!!」「だぁ!!」「りゃああ!!」

 

連続で、次々と魔法陣から増えたアクトの蹴りが放たれる

何発ものキックが何度も自身に叩き込まれる

ピシリと、鎧が限界を迎える音が響いた

 

『なっばかなああああ!!』

 

そして、最後の一撃が、今放たれた

 

「はぁああああ!!!!」

 

最後の魔法陣から、アクトが蹴りを放ち現れる

それは寸分狂わずテラーの胸に突き刺さり

そして──

 

固い鎧が、今悲鳴を上げるように砕け

防御を失ったテラーのその本体をアクトのキックが貫いた

 

地面を削り、砂煙を上げながらアクトが着地する

そして、その背後には

鮮やかな爆炎が、勝利を告げるかのように大きな音を上げて立ち上がった

 

アクトが立ち上がり、そしてドライバーに手を掛ける

ドライバーに取り付けられたパーツとチケットを手に取り

ゆっくりと取り外す

 

そうして、変身を解いた雄飛は

その手に握られた一枚のチケットを見る

禍々しい様相をした一枚のチケット

けれどそこにはもう、以前のようなおどろおどろしさはなく

穏やかに、雄飛の手に収まっていた

 

「──。」

 

雄飛はそれにはにかんで

背後から聞こえる、仲間たちの声を聴いて

足早にその場を後にするのであった

 

 

『嘘でしょう・・・?何かの間違いよ』

 

暗い廃墟の中、クイーンは自身の兵が消え去ったことを感じ取り

驚愕を隠せないでいた

自分の一番自信のある駒だった

きっと自分の期待に応えきれる駒であると信じていた

──しかし、結果は違っていたようだ

 

『嘘よ、私が間違えたの・・・?』

『ハハッ珍しいじゃないか』

『!?』

 

クイーンが振り向く

その先には、自身もよく見る男

ペローがそこにはいた

 

『ご自慢の奴も無様にやられちゃったみたいじゃないか

 ・・・あれだけ自信満々だったのにさぁ!』

 

他者の、それもクイーンの失態に

ペローは興奮を隠せないといった様子で囃し立てた

 

『なんだ、結局そっちも駄目じゃないか

 天下のクイーン様も形無しかい?』

 

自分のことも棚に上げてただひたすらに貶す

それが気持ちよくって相手など見えていなかった

だからこそ──見誤ったのだろう

 

『そんなんじゃ、僕のことを笑えな──』

()()

 

ペローの首を、クイーンの小さい掌が包み

そして、強く締め上げた

どこにそんな力があるのか

その細腕はペローの首を絞めたまま宙に持ち上げる

 

『──ぐぇ』

()()()()()()()()()()()()

 私のなんの役にも立たない屑が』

 

いつもの言葉遣いがどこに消えた

荒い口調が漏れ出している

 

『──ちょうどいいわね?私、今手が欲しいのよ』

『文字通り、私の願いを叶えてくれるのがね?』

 

『──っっ。』

 

取り繕うように口調を戻し

穏やかにそう告げる、しかしその手の力はより一層強く

ペローの首を絞めつける

 

『無能でも・・・命位かければなんだってできるわよね?』

『──何を』

 

『私のために、死んでくれる?』

 

にっこりと、花の咲くような笑顔で

クイーンは穏やかにそうお願いを言い放つ

口では、そう言うが

ペローにはそれはただただ脅迫にしか聞こえなかった

 

『誰が・・・』

『死んでくれるわよね?』

 

首がより一層締まる

このままでは、どちらにしても死──

 

『そこまでにしておけ』

 

そんな時、助け船はやって来る

その声を聴いて、クイーンはようやく手を放す

崩れ落ちて、むせかえりながらペローがその姿を見る

 

そこにいたのは

 

『あら、サン

 ──もう怪我はいいのかしら?』

『ああ、随分かかったがな』

 

サウンドとの決戦後、まるで音沙汰のなかった

太陽のストーリーテラー、サンである

 

『それで?どうして止めるのかしら?

 ──あなた、別にどうでもいいでしょう?』

『なに、手に困っていると聞こえたのでな』

 

そう言うと、サンは懐に手をいれ

 

『なら、これを分けてもいいと思ったまでだ』

『『!?』』

 

そうして、2枚のチケットを取りだした

 

『どういう風の吹きまわしかしら』

『それは、お前の割り当てだろう?

 ・・・何のメリットがある』

 

クイーンとペローはそれを見て

初めに感じたのは、違和感である

自身の道具である物を、むざむざこちらに分けようなどと

虫が良すぎる話であった

 

『何、条件はある』

『使い先・・・誰に使うかは私に決めてもらいたいだけだ』

 

そんな2人の疑念を晴らすかの如く

サンは条件を突きつける

なるほど、用意はするからそのテラーを好きにしろということか

・・・そういうわけであれば、こちらとしてもそこまで悪い話ではないだろう

 

『・・・それならまぁ』

『いいわ、乗ってあげる』

 

そうして、2人はその誘いに乗ることを選んだ

何しろ、どちらももうテラーを持っていない

手駒は、あるに越したことは無いのだ

 

『そうか、では』

 

その返事に満足そうなサンは

そうして手にしたチケットを

2人に──

 

『よろしく頼む』

 

手渡すのではなく差し込んだ

 

『!?──なっ』

『にぃ──!?』

 

自らの体に取り込まれていくチケットに

驚愕を隠せない2人のストーリーテラー

そして、サンの真意を聞き出そうとしたその時

 

『っぐっ・・・うううううう!?』

『あっ・・・あああああ!!?』

 

2人の中で、まるで何かが暴れ出すかのような

激しい鳴動が起こりだす

 

熱と痛みを伴った

その衝撃に悶えだす

 

『単純な話だ・・・お前たちがどうなるのか

 それが見たい』

 

その様子を、サンは愉快そうに眺める

そう、もはや唯のテラーを増やしたところで意味などない

彼らがさらにチケットを手にしたとき

どのような反応を起こすのか

それが、彼の狙いであった

 

『ぐっうううう!!』

 

2人の姿が変化する

女王と猫のテラー態へと切り替わりる

 

苦しそうにペローがコンクリートの床を引っ掻く

床に鋭いひっかき傷を何本もついていく

そして──

 

『G,GAAAAAA!!!!』

 

さらにその姿が切り替わる

猫から獅子の姿へ

そして、その獅子の手足に

まるで藁束のような枯れた植物が巻き付いた様相が増えていく

まるで、案山子のような藁束と獰猛な獅子が混ざった

キメラのような様相に姿を変える

 

そして、立ち上がったペローは

暴れるようにその腕を振るう

肥大化した腕の、その爪から真空刃が飛び出し

廃墟の壁に容易く穴をあける

 

そして、まるで我を忘れたかのように

その穴から、外へと飛び出していった

 

『っ・・・我を忘れたか』

 

想定外の出来事だと

そうサンは人ごとのように呟いた

しかし──

 

『っふ、まぁ仕方あるまい

 これで3枚目だ』

 

4()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そう、少し楽しそうに呟くと

サンはペローを追いかけるように部屋を後にした

 

『っう・・・ああああああ!!』

 

悶え続ける、クイーンだけを残して

 

 

テラーを撃退して数日

翔とラストは、店の買い出しに出ていた

何度かの買い出しを経て、ラストも慣れてきたのか

 

「それで全部か」

「おお、あとは帰るだけってな」

 

多くの袋を下げて、あとは店に戻るだけ

今回はスムーズに終えられそうだと

そんな安堵をしていたのだが

 

ドゴォンと、爆発音が大きく響き

そして、一泊遅れて、悲鳴が辺りに響き始める

 

「「──!?」」

 

互いに顔を見合わせて、音のする方へ駆けだした

そこには

 

『GARUAAAAAAAA!!!!』

 

まるで獣のような声を上げる獅子のような怪人

──いや、あの姿は見覚えがある

 

「っペロー・・・か?」

「何だあれは、・・・混ざっている?」

 

二人して、その姿の変容に驚愕していると

ペローのその我を忘れたかのような目が

2人を見つけた

 

『AAAAA!!!!』

 

凄まじい速度でこちらに突っ込んでくるその巨躯を

互いに転がるように避ける

 

「っお構いなしか」

 

「「変身!!」」

 

『caldissimo!』

『grandissimo!!』

『Fortissimo!!!』

Heat Up(ヒートアップ)! GIGA SOUND(ギガサウンド)!!』

 

Last UP(ラスト アップ)

『Give Everything ...Lose Everything』

『STATUE OF HAPPINESS』

 

「っはぁ!」

 

仮面ライダーラストが弓と化したグリップを引き

そして矢を放つ

鳥型の矢は崩れ落ちた瓦礫の数々を縫うように駆け

そして、ペローに突き刺さる

──が、それは深々と刺さるどころか

容易く弾き消された

 

「何!?」

 

『AAA!!!』

 

崩れた瓦礫を掴み、放り投げる

凄まじい速度の瓦礫がラストへと飛来し

その体を吹き飛ばした

 

「ぐぁ!?」

「なろぉ!」

 

仮面ライダーサウンドが今度はペローへと肉薄し

ギターランスを振りかざす

そして、槍の穂先がその肉体を切り裂いた

 

「!?──柔い!?」

 

想像以上の手ごたえ

しかし、次の瞬間腹の切り傷の部位に変化が起こる

まるで藁がうごめくように傷元を埋めていく

そして次の瞬間には、元通りになった

 

「なっ!?」

 

ペローの瞳が、サウンドを見据えた

呆気にとられた隙に槍が掴み取られる

 

そして、槍ごとサウンドは容易く空中に放り投げられた

そのまま地面へとサウンドが激突する

 

「っ痛・・・!」

 

一瞬何が起こったのか分からなかったサウンドも

背に走る痛みが理解させる

──なんて怪力だ

 

『GAAAAAA!!!』

 

再度巨大な咆哮を放つペロー

その姿にかつてのヘラヘラとした様子はまるでない

一体何がどうなったらあんな

 

ペローが、再度サウンドの下に突貫する

サウンドが、突貫するペローに合わせ槍を振るう

カウンターが、こちらに突っ込んでくるペローに向かっていく

 

しかし、その素早い一撃をペローは容易く腕を振るって弾く

凄まじい勢いで弾かれた槍はサウンドの手からも外れて宙を舞った

 

そして、がら空きになったサウンドのその体に

ペローが腕を2度叩き込む

ペローの爪がサウンドのアーマーを裂き火花を散らす

そして、さらに固めた拳を叩き込み

サウンドを大きく吹き飛ばした

 

「おっあああ!」

 

転がっていくサウンド

凄まじい勢いが地面を滑りようやく収まる

 

『GAAAA!!!』

 

しかし、休む間もなくペローがサウンドへと駆ける

不味い、ダメージが足に来て上手く立てない

 

「っく」

 

回避ができずに悶えるサウンドに

ペローが止めを刺さんと爪を振り上げる

 

やられる──!!

 

サウンドが腕で頭を庇い、諦めかけてしまう

──しかし

 

『AA!?』

 

爪を振り上げた瞬間、ペローのその動きが止まる

そして、驚くような声を上げた瞬間

頭を抱えて、悶え始めた

 

『AAA・・・僕は・・・!俺は・・・!!?』

 

ここに来てようやく人語らしい言葉が出たと思えば

頭を抱えて苦しむ

 

「な、なんだ・・・!?」

「何が起こった・・?」

 

サウンドとラストがその状況に困惑する中

ペローの苦しみは続く

 

『僕は・・!?・・・いや、私だ──!??』

 

対には、獅子の怪人態から人間の姿へと戻り

それでも悶え続ける

 

『うわあああああ!!!!』

 

そして、ひと際大きな叫び声を放ったと思えば

ようやく悶えるのが収まった

 

「・・・ハァ・・・ハァ」

 

息も絶え絶えといった様子でペローが座り込む

もう、暴れる様子はなさそうであった

 

「ここは・・・?」

()()・・・何をしていた・・・?」

 

いや、どこか様子がおかしいようだ

まるで自分の現状を理解していないかのように

きょろきょろとあたりを見渡して

そして、驚愕していた

 

「なんで・・・こんなところに?」

 

「動くな」

 

そんなペローに対して、ラストがグリップを突きつける

可笑しなことをすれば撃つと言わんがばかリだ

そんなラストの様子にペローは

 

「!?・・・君は・・?」

 

まるで、初めて見たかのような反応を示す

・・・?

 

「何を言っている、下らんだまし討ちは──」

「待て、ラスト

 ・・・なんか様子がおかしい」

 

ラストはそれを騙しだと思ったようだが

サウンドはどうも別の何かを感じた

 

「・・・ペロー、あんたに何が・・・?」

 

サウンドが、そう尋ねかける

しかし、それを尋ねても当のペローは頭を傾げる

 

「・・・ペロー?」

 

どう見ても、なにも分かっていないようで

これではまるで──

 

()()()()()()()()?・・・私は、そう名乗っていたのか?」

 

まるで、今までのことを知らない誰かのようではないか

 

 

『ほぉ・・・懐かしい物を見た』

 

その様子を遠くから眺めてたサンは

その状況を楽しそうに眺めていた

 

『そうか、混ざりすぎて・・・

 お前が出てくる、そんなことがありえたのか』

 

自分だけは理解し、納得し

そして、その上で現状を愉しんでいた

 

『・・・今の状況なら、お前はどんな思いをするかな?』

『──なぁ、金子良哉(かねこりょうや)

 

 

続く




次回 仮面ライダーアクト

金子の記憶とは──
「あ・・・あああああ!私は!!・・・私は!!!」
「おい、落ち着け!!落ち着け!!」

ペローの過去とは──
「おかしな死体だったらしい」
「──まるで、ライオンでも飼ってたのかってな」

"『ほぉ、自力で戻ったか。逸材だな』
「私は・・・・何を・・・したんだ・・・?」
『ペロー・・・うん、いい名前じゃないか!!』"

第27章[猫は、踏んでしまった]


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第27章~猫は、踏んでしまった~

()()()()()()()()?・・・私は、そう名乗っていたのか?」

 

数瞬、時が止まったかのような静寂が満ちた

──この男は、なんと言った?

 

「──どういう・・・ことだ・・・?」

「っ、おい!ふざけんな!!!」

 

サウンドがペローの胸倉をつかみ上げる

 

「っぐ・・・!」

「そんなんでごまかされると・・・」

 

「──何のことなんだ・・・!」

「!?」

 

ペローは本当に分からないとでも言うような声色で

締め上げられながら、そう口にする

 

「私は一体・・・何をしてしまったんだ・・・?」

 

そこまで聞いて、サウンドがペローを降ろす

それが、演技などではないと

そう、理解してしまった

 

「どうなってんだ・・・!?」

「・・・どうするんだ、やるのか」

 

グリップが突きつけられ、弾丸が顔を覗かせる

いつでも撃ち抜く準備はできているとでも言うようだ

 

「ひっ」

「・・・待った・・・いや、無理だ」

 

ガシガシと頭を掻きながらサウンドが変身を解く

怯えるペロー?から銃口を下げさる

どうやら、今の彼は自分達の知っているペローではないらしい

 

「連れて帰ろう、なんもかも聞き出さないと」

「・・・分かった」

 

ラストもまた、変身を解き

そうして二人して座り込んでしまったペロー?を拘束するように担ぎ上げる

 

「な、なんだい?私をどうするつもりなんだ?」

「いいからついてこい・・・」

 

状況を何一つ理解できずにいるペロー?の声だけを響かせて

3人は行くのであった

 

 

喫茶「テアトロ」──

 

「自分が誰かは分かるか」

 

「・・・。」

 

口を押え、考え込むようにするペロー?を

貸し切りにした店のテーブルで皆して取り囲む

 

話を聞いてすっ飛んできた太田さんがペロー?に相対し質問を告げていく

まるで一時的な取調室と化した店内に沈黙が満ちる

 

そして、ペロー?は

 

「・・・私は、金子良哉です」

 

割とすんなりと質問に答え始めた

しかし、それは彼がこれまで名乗っていたものではなく

彼の、本当の・・・()()()()()()()()()()()()()()

質問が続いていく──

 

「年齢は?」「──24」

「職業は?」「教員・・・です」

「今日は何をしていた?」「──彼らと会う以前は・・・わかりません」

「ペローという名に心辺りは?」「・・・ありません」

 

その姿に嘘をつく様子は感じられなかった

告げられた質問に、答えられるもの、答えられないもの

どちらも同じ程度に存在し、それはある事実を明白にしていく

そして、次の質問で今の彼の状況は完全に明らかとなる

 

「──今は、何年だと思う?」

「・・・20XX年です」

 

それを聞いて、皆が皆、頭を抱える

その年数は──

 

「・・・いいか、落ち着いて聞け

 ──それは、8()()()()()()()

「!?」

 

そう、それは8年前の年数

つまり彼は

 

「8年・・・?私は一体何を・・・?」

 

8年前行方不明になってから、今までの記憶が抜け落ちているのだ

 

 

「演技・・・じゃないよな?」

「違うだろうね・・・今までの彼の様子から考えても()()()()()

 

雄飛と大木には、その様子が演技には見えなかった

ある種そういったことに精通している身から言っても

そこに不自然な点は見られなかった

 

「じゃあ一体何で・・・」

「記憶喪失・・・?そんな都合のいいことが?」

 

疑問は後を絶たないが、それにこたえられるものはいない

唯一わかることは、彼がペローという怪人であり

そして、ペローは金子良哉という行方不明者であったことのみである

 

「・・・少し、いいか?」

 

そんな中、太田さんが何かを決心したかのように話し出す

 

「金子、君は8年前ならば記憶が残っているということでいいんだな」

「・・・おそらくは」

 

歯切れの悪い様子で金子はそう答える

 

「君には、ある事件の容疑が掛かっている

 ・・・これに覚えは?」

「!?何だって・・・!?」

 

ガタリと金子は席を立ちあがる

そんなこと、思ってもいなかったのだろう

どうやら8年前と言っても覚えていることといないことがあるようだ

 

「私はこの8年間に何をしてしまったんですか!?」

 

金子は、自身の記憶がない8年間に何があったのだと頭を抱えていた

 

──しかし

 

「この8年間の間じゃない」

「え・・?」

 

太田さんが、聞きたかったのはそうではないのだ

 

「君が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「太田さん?」

「それって」

 

ここまで聞いて、彼の狙いが分かった

彼は、今の事件ではなく、8年前の事件の真相を聞き出そうとしているのだ

 

「それは・・・どういう・・・」

「木内、三島、里田・・・この名前に心当たりはあるか」

「!?・・・それは」

 

告げられたのは3人の苗字

それを聞いた金子は、面食らったかのように狼狽える

 

「そう、お前が請け負っていたクラスの生徒だ」

「──。」

 

金子の様子が変わっていく

その名前を聞いた瞬間、過呼吸気味になり顔面が蒼白になる

 

「この3人が、巻き込まれた事件を、お前は知っているか」

「そ・・・れは・・・」

 

頭を抱えて搔きむしる

何か、湧き出そうになるものを必死に抑えているようであった

 

「・・・()()()()()()()()()()()()

「やめろ・・・・やめてくれ・・・!」

 

「ちょっと太田さん!ストップ!なんか駄目だ!!」

「ちょっと!!あんたも落ち着きなさい!!」

 

まるで懇願するかのように金子が呻く

尋常ではないその様子に雄飛と杏奈がストップをかける

しかし、その様子を見て、事件を確信した太田の心は

随分とヒートアップしてしまったのだろう

静止を振り切るかのように言い放った

 

「彼の・・・清水恭二のための犯行だったのか!」

「あ・・・ああああ!!!」

 

それを聞いた瞬間、金子の変化は劇的であった

頭を抱えながらよろよろと席を立った彼は

 

「私は!!・・・私は!!!」

「おい、落ち着け!!落ち着けって!!」

 

まるで、半狂乱になったかのように叫ぶと

翔の静止も振り切るように

 

「うわああああ!!!」

 

──店の外に駆けだした

 

「な!?」

「不味い!!追いかけろ!!」

 

浩司さんの呼びかけで、雄飛と翔そしてラストが駆けだす

店の外に出た時、遠くに駆ける金子を見つける

 

「いた!・・・待て!!」

 

3人が追いかけようとした瞬間

 

『いや、それはこちらのセリフだ』

「「「!?」」」

 

3人の目の前に、まるで湧き出るかのように

一つの影が現れる

それは──

 

「っブルー!?」

「邪魔だ!!どけ!!」

 

『そういうな・・少し、付き合ってもらおう』

 

ブルーはそう言うと3人の目の前に立ちふさがる

遠くに見えていた金子の姿が彼らの目先から消えた

 

「くそ!!」

 

3人がドライバーを構える

 

『MASKED RIDER!!』

『POP UP SOUND IS SINGER SONG RIDER!!』

『BUBBLE MERMAID』

 

そして変身した3人、仮面ライダー

アクト、サウンド、ラストは

目の前の怪人へと向かっていく

 

「雄飛!!先いけ!!」

 

サウンドが、槍を携えブルーに切り込む

振り下ろした切っ先がは避けるように空を切る

しかし、その回避によって道が開けた

 

「っ分かった!!」

 

アクトが足に力を込めて、解き放つ

まるで転移したかのように跳ね飛んだアクトは

ブルーを通り過ぎ、そして金子を追いかけるべく走り出した

 

『・・・。』

 

それを目に追いながらも何も言わずに

ブルーは、冷静にサウンドの槍を払いのけて

サウンドに掌底を当てて吹き飛ばす

 

そして、アクトは追わずに

残った2人に対して駆けだした

 

『ハッ!!フッ!!』

 

ブルーが手をかざす、その手にまるで羽を模した

青い剣が姿を現す

両手にそれを携え、迫るライダー達に振るう

 

振るわれた斬撃を

ライダー達は各々避けながら反撃を振るう

サウンドの槍が、ラストの剣が

順にブルーへと襲い掛かる

 

それをブルーがいなしながら、再度攻撃を振るう

避けて、避けられの攻防

 

しかし、数の利というものがさすがにきついのか

ブルーの攻撃の回数が徐々に減っていく

ライダー達の激しい攻撃が、徐々に増えていく

 

サウンドが、槍を振るいブルーの手にする剣をかち上げる

そして、ラストの突きががら空きになったブルーのその体に叩き込まれる

 

『っぐ・・・、まぁこんなものだろう』

 

その攻撃にのけ反りながら

ブルーは一人納得し、そして構えを解いた

 

『さらばだ』

 

そして、まるで羽を撒き散らかすかのようにして

その場から消え去るのであった

 

時間にして数分の攻防

本当に時間稼ぎだけして、ブルーは去っていったのであった

 

「カネコは!?」

「見失った・・・雄飛は」

 

翔とラストが変身を解きながら金子を探す

しかし、当たり前のことに既に遠くに消えてしまった金子を

2人は追いかける術を持たなかった

 

「新田君、ラスト君!!」

 

そんなところに近づく影が二つ

 

「風間ちゃん、太田さん!!」

 

「金子は!?」

「邪魔されて見失った!!雄飛が追いかけてる」

 

合流した二人にそう告げると

いきなり太田さんが頭を下げた

 

「すまない・・・私の不覚だ

 奴を必要以上に追い詰めてしまった・・」

 

もっと緩やかに進めるべきだったと

太田さんは反省しながら頭を下げる

 

確かにあの時、随分と語気の強く問い詰めていた

 

「・・・なぜ、あんなに怒り狂っていたんだ?」

 

ラストが、不思議そうにそう呟く

自分も、それは気になっていた

あの時、彼だけが事情を知ってどんどん進んでいって

自分達は、随分と置いてきぼりにされてしまった

 

「・・・そうだな、私も確信に変わった以上教える必要がある」

 

そう言うと、太田さんは金子についての事件を話し始めた

 

「結論から言うと、奴の罪状は──」

 

「未成年者3名の殺害容疑だ」

 

 

「ハッ・・・ハッ・・・」

 

見覚えのある道を、無我夢中に走りゆく

あの取り調べでその名前を聞いた瞬間

蓋をしていた何かが湧き出るように吹き出した

思い出したくない、

いや──思い出であって欲しくないことであった

 

そんなことがあっていいはずがないのだ

考えがまとまらない、いいから頭の中からこれを追い出したい

そんな思いが、どこに向かうのかも分からずに足を動かしている

 

──しかし、体は正直であった

膝が笑い出すほどになるほど走り切り

最早ここがどこかも分かっていない頭が急激に酸素を要求する

 

「ゴホッ・・・オエっ・・・」

 

切れ切れになった息がようやく治り

そうして、顔を上げた瞬間

 

「あっ・・・」

 

目の前には、一つの建物

門をくぐると、大きな校舎がそびえたつ

中から活気ある声が響くそれは

自分、金子にとってのかつての職場であった場所である

 

まるで、光に寄せられる虫のように

ゆっくりと、足がそちらへと向かう

しかし、その途中校門の裏側に目を向けた瞬間

 

それは、金子の目に大きく映った

──花束だ

 

清潔感のある白い花がいくつも包められたそれが

校門の裏側、目立つ場所にいくつも置かれたのが目に映った

 

贈り物?──いや違う

それは・・・献花であった

 

それを知覚した瞬間、喉にむせ返る何かが湧いた

 

「オエッ・・・オエェエエエ!!」

 

膝をついて戻したそれは地面を汚す

 

『おうおう、汚いなぁ』

「ゴホッゲェッホ・・・?」

 

そんな金子に近づき、声をかける男が一人

薄暗い色をしたコートを羽織った男は愉しそうにそこに立っていた

 

「お・・まえ・・・は・・・!」

『お、覚えていたか・・・うれしいじゃないか』

 

『8年ぶりだなぁ・・・金子』

 

サンはそう挨拶して佇んだ

 

「私に・・・何をしたんだ・・・」

『ああ、酷いことをしてしまったなぁ

 ・・・8年間も奪ってしまった』

 

「っ!」

 

『でも、お前の悪いところもあるんだぜ

 ・・・あそこで、耐えれていればな』

 

その男の姿が、声が

そしてその言葉が、金子の記憶をより鮮明に思い出させていった

 

 

「殺人って・・・あんな温和そうなやつが」

 

金子の罪状を知っ3人は、皆一様に驚愕する

その罪が自身の想像以上の物であったためだ

 

「見た目で判断してはいけない・・・

 それに、奴の場合は日暮れのような快楽殺人とは違う」

「どちらかと言うと、正義感の暴走に近い物だ」

 

「正義感の・・?」「暴走・・・?」

 

3人には想像がつかなかった

太田は一つずつ説明を重ねていった

 

「金子は、ある高校のクラス受け持つ教員だった

 ・・・だが、ある日クラスに訃報が入った」

 

「生徒一人が、命を落としたんだ」

「「「っ!?」」」

 

まさか、それが金子の仕業かと

このとき3人はそう思っただろう

 

「自殺だ」

「・・・え?」

 

しかし、現実はもっとひどい物であった

 

「いじめによる、投身自殺が発生したのさ」

 

空気が止まったように鎮まる

その言葉を理解して、恐る恐る翔は口を挟んだ

 

「いじめって・・・まさか被害者は」

 

いじめによる自殺の発生後に、起こった生徒の殺害

その情報によって、嫌な想像がついてしまう

 

「──ああ、被害者はその子を虐めていたメンバーだ」

 

そして嫌な想像ほど、当たってしまうものであった

 

「復讐・・・いや、許せなかったのだろうな」

「奴は、おそらくその3名を殺害後、

 逃亡してストーリーテラーへとなったのだろう」

 

「被害状況的にも、テラーによるものだと丸わかりだった」

 

「おかしな死体だったらしい」

「巨大な爪で、引き裂かれたような遺体」

「──まるで、ライオンでも飼ってたのかってな」

 

 

”なんで!!なんで気づいてやれなかった!!”

”ちくしょう・・・ちくしょう!!”

 

一人の男が、怒り狂っていた

既に取り返しのつかないことへのやるせなさ

自分の不甲斐なさにどうしようもなく怒っていた

 

『辛そうだな』

『いい怒りじゃないか、試してみるか』

 

”だ、誰だ!?うぁ・・・!?”

 

突然現れた3人組に驚愕した男は

為す術もなく、その身にチケットを突き立てられる

そして

 

『ガラァアアアア!!!』

 

その身を、強大な()()へと姿を変容させ

ガラスを突き破り、外に飛び出していった

 

 

『しかし・・・吐くのは感心しない』

「やめろ・・・」

 

話さないでくれ、その顔を見せないでくれ

そんな懇願がにじみ出る声が漏れる

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「やめてくれええええ!!」

 

叫び声が響く、それ以上言わないでくれ

この花が、自分によるものの結果なのだと突きつけないでくれ

 

 

”バ、バケモノ!!!来るな!!来るなあああ!!”

”ヒィイイ!!許して!!許してえええ!!”

”し、清水・・清水なのか!??違うんだ、死なせる気なんてなか”

 

どちゃりと、既に事切れた肉が地面を真っ赤に染め上げる

3人の人間だったものはその名残を残さずにそこに落ちていた

 

体を真っ赤に染め上げて、そんな赤を獅子の怪人は真っすぐ見つめている

 

『派手にやったな』

『酷い惨状ね?あんまり見たくないわ』

 

3人のストーリーテラーがそんな感想を零した

その瞬間、テラーが頭を抱えて苦しみだす

 

『グァアアア!!?』

 

肥大化した手足がしぼみ、どんどんその姿が人へと近づいていく

そして、獅子は一人の人間の形になった

 

『まぁ!戻ったわ!』

『ほぉ、自力で戻ったか。逸材だな』

『歓迎しようじゃないか・・・』

 

『──。」

 

ストーリーテラー達のそんな言葉は何一つ耳に入らず

金子は目の前のその赤を呆然と見つめていた

 

『実に良い殺しっぷりだった』

 

「ああ・・・あああ・・・・」

 

思い出すたびに、その残酷な現実が金子を苦しめていく

そうだ・・・自分はこの手で・・・

 

『その姿、苦しみ方を見ると思い出すな

 ・・・それさえなければ”ペロー”など必要なかったのだがな』

 

「ああ・・・『!?』」

 

サンが、告げる言葉の意味など金子には分からなかった

しかし、・・・金子の中の”それ”は別だった

 

 

目の前に広がる、赤は、謎の塊は一体なんだ?

どうして、自分の目の前に、こんなものが?

どうして、自分の手が、その赤塗れなのだ

 

──どうして、塊の端々に”うちの制服らしき布がついている”?

 

『私・・・私は・・・・何を・・・したんだ・・・?

 う、わあああああああああ!!!!!」

 

『あら』

『・・・耐えきれなかったか』

 

金子が、理解したくないものを理解し

発狂したかのような叫びをあげる

 

声がかれるほど叫び続けた彼は、そのまま膝をついて動かなくなった

 

『壊れちゃった?』

『惜しいな・・・貴重な同類かとおもったのだが』

 

サンとクイーンが、そんな会話をして

仕方ないと金子を始末しようとする

しかし──

 

『待ってくれ』

 

そこにブルーが待ったを掛けた

そして、手に何かを取りだす

 

『・・・?何をする気だ?』

『あら?・・・もしかして』

 

『テラーを乗り越え・・・人も消えた

 空の器なら・・・埋めてしまうのいいだろう』

 

そんなことをいいながら、ブルーはチケットを起動した

 

長靴とネコ(Cat and Boots)

 

放り投げたチケットは寸分狂わず

金子へと到達し、その身に沈み込む

 

次の瞬間──

金子の目に光が宿った

 

『う、ううん・・・ここは?』

 

『お目覚めか』

『・・・?誰だい?・・・僕も誰だ?』

 

金子?は先程とは打って変わった明るい声でそう話す

 

『記憶が消えたか・・・まあいいだろう』

『こんにちは、君は・・・選ばれたものだ』

 

ブルーが手を差し出す

その手を引かれ、金子?が立ち上がる

 

『選ばれた?・・・そりゃあいい!うれしいね!!』

 

陽気そうに、金子?が喜んでいる

その顔に先ほどまでの絶望などなかった

 

『名が必要だな・・・何がいいか』

『それじゃあ、ペローなんてどう?ピッタリじゃない?』

 

クイーンがそう進言し

2人が頷く

 

『ペロー・・・うん、いい名前じゃないか!!』

 

そして、ペローもまたそれを喜んでいた

4人は、そうして闇の中に消えていく

 

 

──通行人に惨状が見つかったのは、たった数分後のことであった

 

 

「あ・・・ああああ・・・」

 

またも自失気味に呆然とした金子

あの時のようだと、サンがおかしそうに笑っていた

その時──

 

「!?う・・・あああ!!」

 

金子が、ビクリと震えた

次の瞬間──

 

ガバリと、先ほどまでとは打って変わって立ち上がる

 

『どういう・・・ことだよ・・・!!』

 

そして、口を開けたその話し方は先ほどとはまた違っていた

 

『なんだ、ペローに戻ったか』

『どういうことだって聞いてんだ!!』

 

金子からまたもや主導権を奪ったペローはサンに詰め寄る

金子が思い出した記憶は、中の自分も見えていた

・・・それはいい

しかし、許容できないものが写っていた

 

『気づいていなかったのか?・・・鈍い精神だ』

『なんだと・・・!』

 

サンが挑発するようにペローを煽る

最早、我を忘れるのも秒読みなペロー

そんなペローに追い打ちをかけるように

 

『おかしいと思わないのか?自分が何も知らされていないことに』

『っ!』

 

『扱いも悪い、力もそこまでじゃない

 ・・・そんな自分に』

『うるさい!!』

 

声を荒げてペローが叫ぶ

そんな様子を、サンはあざ笑うかのようにさらに煽る

 

『単純だ、・・・お前は記憶を無くした人間なんかじゃない』

『フーッ・・・フーッ!!』

 

『お前が駒のように無駄に使いつぶしたテラーと同じ

 ・・・作られただけの精神体だ』

『──ッ!!?』

 

そして、最後に彼自身に突きつけるようにそう告げたのだった

それを聞いたペローが正気を保てるわけがなく

 

『・・・黙れよおお!!』

 

猫の怪人態となったペローが細剣をサンに突く

同じく、怪人となったサンは、それを容易く捌いて

腹を殴って叩き伏せた

 

『がっ・・!?』

『便利ではあったが・・・お前もそろそろ用済みだ』

 

そう、言い付けたその時

 

「ここか!・・・サン!?」

 

戦闘音を聞きつけたアクトが、

ようやく金子を見つけたのであった

──まぁ、既に金子ではなくペローであるのだが

 

『おっと、アクトか・・・』

 

足元に蹲るペローを足蹴にしてアクトの方に蹴り飛ばし

サンが消えるように立ち去っていく

 

転がるペローにアクトが駆け寄っていく

 

「金子!大丈夫ですか・・・!?」

『お前・・・お前ええええ!!』

「ぐぁ!?」

 

駆け寄ったアクトをペローが視認した瞬間に襲い掛かる

不意打ちの細剣がアクトを突き飛ばす

 

「何を・・・?」

『お前も、僕をそんな目で見るんじゃないよ!!』

 

半狂乱になりながらペローがアクトに襲い掛かる

細剣の突きが連続でアクトに迫る

 

「金子・・・じゃない!?ペロー!?」

『うるさいんだよぉ!!死ねぇ!!』

 

突き出された細腕を掴み、アクトが放り投げる

空中に投げ出されたペローは受け身も取らずに地面に打ち付けられた

 

『・・・うわぁああ!!』

 

怒りに満ちたペローが咆哮を上げる

次の瞬間、その体躯が肥大化し、獅子へと姿を変えたのだった

細剣を捨て、爪を伸ばしたペローが飛び掛かった

 

アクトが飛びのく

先程までに居た場所に、ペローの腕が叩きつけられた瞬間

地面がひび割れて沈み込み、小さなクレーターを作り出す

 

「怒りで忘れている・・?」

 

そんな様子を見て、このままではパワー負けだと判断したアクトは

アクトが、腰にてを回して、チケットとパーツを取りだした

 

Phantasia(ファンタジア)』『Night Of Beast』

 

そして、2つをベルトに装填し、ベルトを展開した

 

『Be Moved and Trembling Night Is Coming』

『Mysterious Beast Will Bring It』

『Can You Hear That Shout』

Phantasic Night Of Beast(ファンタジックナイトオブビースト)

『Not Missed off!!.』

 

魔法使いの様相へと姿を変えたアクトが杖を取る

そんな変化にもお構いなしに、ペローは飛び掛かった

 

転送(ワープ)』『Select(セレクト)

 

飛び掛かったペローの腕が、アクトの頭を潰さんと迫ったその時

アクトの体が、足元に広がった魔法陣へと沈みこんだ

 

対象を失った腕は、またも何もいない地面を砕く

 

『なに!?』

 

きょろきょろと辺りを見回すがアクトを見失ったペロー

そんな背後一つの魔法陣が現れる

 

「ハァ!」

『ヌワァ!?』

 

そして、そこから現れたアクトが

杖を振るい、ペローの体を打ち付けた

 

『ぐっ・・おまぁえええええ!!』

 

今度こそ逃がさないと、太い腕が振り絞られる

そんなペローに対抗しアクトもまた、腕を構えた

 

爪跡(スクラッチ)』『Select(セレクト)

 

『ウォオ!!』「だっ!!」

 

アクトが腕を振るう、それになぞるように巨大な爪跡のエフェクトが現れ

ペローが振るった腕とぶつかり合う

 

そして、打ち勝った爪跡がペローを引き裂いた

 

巨大な爪で裂かれたペローの肉体が

火花を散らして吹き飛ぶ

ペローはかろうじて立つもその膝が笑っている

 

「いくぞ!!」

 

アクトがチケットを杖に装填し2度叩く

 

『BEAST!!』

爪跡(スクラッチ)』『追加(プラス)

 

そして、トリガーを引き込んだ

 

BEST SELECTION(ベストセレクション)!!』

 

アクトのその手にエネルギーが満ちていく

そして、目の前には一枚の魔法陣が現れた

 

「ハァ!!」

 

そして、力の満ちた手を振るう

爪跡が、3本の斬撃となって飛んでいく

 

そして、斬撃が魔法陣を通過したその瞬間

3本が数十本の斬撃に増加し

残さずペロー目掛けて飛来した

 

『!?うぉあああああ!!』

 

大量の斬撃がペローを切り裂く

全ての斬撃が通り過ぎたその時

ボロボロになったペローが、膝から崩れ落ちるのであった

 

「よし・・・どうだ!」

 

アクトが、手ごたえありと勝ち誇る

 

しかし──

 

『許さん・・・誰も僕を見下すなあああああ!!!!』

 

怒り狂ったペローが再び方向を上げる

そして、またもやその肉体が変容していく

 

獅子の体に、枯れた藁が巻き付いていく

そして、引き裂かれた体を埋めだしていく

 

案山子のような藁束と獰猛な獅子が混ざった

キメラのような様相に姿を変えていく

 

『コロス・・・ゼッタイダァ!!』

 

「っ来い!!」

 

アクトが、杖を構えなおす

戦いは、まだ終わりそうにない

 

 

続く




次回 仮面ライダーアクト

暴走を続けるペロー
『シネェエエエ!!!』

頼みのカギはサウンドに
「翔、助けるにはお前の力が必要だ」
「頼む、私を・・・消してくれ」
「ふざけんなぁ!!」


「見てろよ金子・・・あんたのためのスペシャルライブだ」
「──イカしたメンバーを紹介するぜ!!」

第28章[百万の、イカす音色(サウンド)]


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第28章~百万の、イカす音色(サウンド)

『コロス・・・ゼッタイダァ!!』

 

獅子の姿をしたペローが、その藁にまみれた腕を突き出す

次の瞬間、大量の藁紐が湧き出すかのように

アクト目掛けて放たれた

 

「!?」

 

猛スピードで迫る藁を転がるように回避する

まるで槍でも飛んできたかのような風切り音を立てながら

藁の束がアクトのすぐ側を通り抜けた

しかし、攻撃はそれだけでは終わらない

 

ペローが藁の巻き付いた腕をスナップする

腕から伸ばされた藁紐が腕の揺れに合わせ、バチンと床を強く叩く

固いアスファルトが、それだけでひび割れた

 

そして、その威力を知らしめた藁の鞭を

ペローは今度はアクト目掛けて、振り抜いた

 

凄まじい勢いの突きを間一髪で避けたかと思った瞬間

藁束が今度は大きくしなりを持って横薙ぎに迫り

アクトを強く打ち付けた

 

「がっ!?」

 

大きく膨らんだ獅子の腕から振るわれた藁束の巨大な鞭

その威力は凄まじく

アーマーが激しく火花を上げ、衝撃と共にアクトが吹き飛ぶ

 

「くっ」

 

だがアクトも負けてはいない

すぐさま立ち上がり、今度は攻勢に出る

 

ペローへ向け、駆けだしたアクト

そんな彼を見たペローは寄らせまいと再度藁をアクト目掛けて放つ

 

迫る藁束に、アクトは今度は物怖じせず

右手に握る、CGスタッフを一度叩き

空いた左手を大きく開いた

 

爪跡(スクラッチ)』『Select(セレクト)

「おおお!!!」

 

左手に力が集まる

その手を迫る藁の激流に向けて振るう

次の瞬間

巨大な爪跡が現れ、藁束を次々と引き裂きペローへの道を開く

 

そして、目前に迫ったペロー目掛け

アクトは飛び掛かり、力の宿ったその左手を突き出す

 

『──!?』

「はぁ!!」

 

鋭利な爪を持ったその腕が、ペローの体を貫く

少々グロテスクな光景だが

体を抉り飛ばした、これなら──

 

『ニィ・・・』

 

そんな傷を、ペローは物ともせずに笑みを浮かべた

──何か、まずい

 

その笑みに、危険を感じたアクトは

腕を引き抜き、ペローから距離を取ろうとする

しかし、その時異変い気が付いた

 

──抜けない!?

そう、ペローを貫いたその腕に

貫いた箇所をすぐさま埋めようと、傷口から次々と湧く

藁にからめとられて固定されてしまっていたのだ

 

『ゼア!!』

 

その隙を見逃さんと、ペローがその腕をアクトの顔面に向け放つ

強大な一撃が、自分の首を吹き飛ばさんと迫っていた

 

「くっ」

 

身動きが取れず、虚を突いた一撃が

アクトの眼前に迫る

その腕が、アクトを触れかけたその瞬間

 

転送(ワープ)』『Select(セレクト)

 

アクト顔面とペローの手との間に小さな魔法陣が現れた

ペローの腕が、その魔法陣を通過する

通過した腕がアクトを触れる前にその場から消えた

 

そして、二人の後方

関係ない空中に対応した魔法陣が現れ

そこからペローの腕が飛び出し

地面を抉り飛ばす

 

『何!?』

「あぶないなぁ!!」

 

手にした杖をペローの顔に叩き込み怯ませる

そしてそのままペローの体に足を掛け、蹴り飛ばすように無理やり腕を引き抜いた

 

着地しながらペローから距離を取る

自分の腕という阻むものがなくなった瞬間

ペローの腹に空いた穴が、埋まるように消えていく

 

『・・・ハハッ』

 

元通りになった腹をさすりながら

ペローは愉快そうに笑う

 

『ソウダァ・・・力だ・・・人であることなんかどうでもいい!!』

『僕は力を手にしているんだ!!!』

 

自身の進化の喜びを嚙みしめるように吠えるペロー

 

(ファイア)』『Select(セレクト)

 

そんなペローにアクトは炎弾を放つ

 

迫りくる炎に向けペローは腕を振るう

瞬間、腕から伸びた藁の鞭が大きくしなり

炎弾をことごとくかき消した

 

「──枯草なら燃える・・・程甘くはないか」

 

相性がいいかと思ったが、当てが外れたようだ

 

その時、アクトの足元から、カサカサと異音が響く

そして、何かがいきなり飛び上がり

アクトの体に巻き付き出した

 

「!?──藁!?どこから!?」

 

巻き付いた藁がアクトの体を拘束する

──さっき切り飛ばしたやつか!?

 

そう、先ほどの突貫の際に切り飛ばした藁のかけらが

ひとりでに動き出してアクトを縛り上げたのだ

 

ペローが腕から藁を伸ばす

そして、アクトに巻き付いた藁がそれと繋がり合った

 

そして──

 

『おらぁ!!』

「うわっ!?」

 

拘束したアクトを捕まえたペローがその腕を高く上げる

アクトに浮遊感を感じた瞬間、その体は空中に放り投げられた

 

ペローが振り上げた腕を今度は思い切り振り下ろす

空中のアクトが、その腕に合わせ急速の降下を始める

 

このまま地面に叩きつけられれば体なんてバラバラ──

 

「っ!」

 

アクトがもがく、しかし固いその拘束はほどけない

 

『砕けろぉ!!』

 

ペローがその腕をさらに力強く引き抜く

降下がさらに加速する

 

その時、アクトがペローに目掛け、杖を突き出す

──攻撃して、緩ませるつもりか

ペローはその手に乗らないとアクトの動向を伺う

 

しかし、よく見たのがまずかった

 

発光(ライト)』『Select(セレクト)

 

杖から辺りに影を落とすほど強力な光が放たれた

 

『ぐぁ!?』

 

そして、その光をまともに見たペローの目は強く眩む

一時的に視力がまともに働かなくなった目で状況が把握できない

だが、手は止めない

ペローはその手を振るい、腕に繋がった藁を思い切り地面へと叩きつけた

 

チカチカと眩んだ目に視力が戻るペローは

目の前の状況を見る

しかし、そこには鞭がぶつかり抉れたアスファルトだけで

潰れたアクトの姿はない

 

『どこに──』

 

その時、ペローの背後から魔法陣が現れ

 

転送(ワープ)』『Select(セレクト)

「はぁ!!」

 

そこから飛び出したアクトが、手にした杖でペローを叩き飛ばした

不意を突かれたペローがその体を転がす

──隙ができた

 

「ッフン!!」

 

『BEAST!!』

(ファイア)』『転送(ワープ)

BEST SELECTION(ベストセレクション)!!』

 

アクトのその脚に炎が纏う

そして、アクトの眼前に魔法陣が現れる

飛び上がり、まるで回し蹴りを放つかのような体制で

アクトはその陣のへ飛び込んだ

 

立ち上がったペロー

しかし、前を見るのが一歩遅かった

その眼前に、魔法陣が現れ──

そして、その中からアクトが飛び出した

 

『!?』

「はぁ!!」

 

炎を纏った回し蹴りが、ペローのその胴元へと叩き込まれた

 

ペローが大きく吹き飛び、その腹が燃えながら抉れる

──やったか?

 

『グ、ウウウ!!』

 

しかし、ペローは起き上がる

乱雑に火を手で払いのければ、その跡はすぐさま埋まっていく

 

『ハハ・・・意味ないんだよォ!』

「──無敵かよ・・・」

 

さすがにうんざりとした気分になりながら

アクトは、再度構えなおす

 

ペローは今度は自分だと足を踏み出す

そうした時に、ペローに異変が起こった

 

『ウッ!?・・・な、にを・・・!?

 ・・・暴れるんじゃ・・・ねぇよ!』

「!?」

 

体を押さえながら、もがき苦しむ

そして、その体が小さくしぼんでいく

 

『ヤメロ!・・・邪魔するなよぉ!・・・・畜生ガァ!』

『グウワァアアアア!!」

 

そして、ついには怪人の体から

人の姿へと戻ってしまった

 

「ぐぅ・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

凄まじくしんどそうに荒い息を吐きながら

ペロー?がそこに立っていた

──いや、違う

 

「やめろ・・・もう、やめろ・・・!」

 

呻きながら、力尽きるように金子は倒れ込んだ

 

「おい!」

 

その光景を見届けたアクトは心配する声を上げながら

それに駆け寄っていくのだった

 

 

喫茶「テアトロ」

 

「そうか、テラーにはまだ変われてしまう状態か・・・」

「早急に、テラーから剥ぎ取らないといけないな」

 

気絶した金子を背負って店にまで戻ってきた雄飛

現在は、金子は休ませ絶賛作戦会議中である

 

「剥ぎ取るって・・・私の時みたいに?」

「ああ、現状の奴の状態がどうなっているのか想定できない」

 

思い出されるのは、以前の杏奈さんのテラーとの戦いである

あの時は、ペローの言葉に従う形で

真正面からの杏奈さんを倒すのは避けた

 

そして今回の金子である

彼はその力から見ても、少なくとも3つのチケットを埋め込まれている

今思えば、あの驚異的な再生能力も

チケットが相互に作用しあった結果なのだろう

杏奈さんの際よりもずっと対処が難しいであろうことは想像に難い

 

しかし、これをやるのは自分の役目ではない

 

「となると、重要なのはサウンドの力だ」

「ああ、翔、助けるにはお前の力が必要だ」

 

音石さんがそう言って翔の方へと語り掛ける

それを聞いたとうの本人はというと・・・

 

「・・・。」イライライライラ

 

イラついた様子を隠そうともせずに

黙って椅子に座っていた

 

「不服かい?」

「・・・あぁ」

 

大木さんが問いかけると

翔は悪びれもせずにそう言う

 

「翔・・・彼が犯罪者なのは私たちも分かっている

 ・・・だが、罰は人の法で受けさせるべきだ・・・違うか?」

 

おそらくだが、彼は金子の罪状に

自身の過去も重ねているのだろう

・・・これまでのような巻き込まれた人とは違う

 

金子は、もう取り返しのつかない男なのである

 

「分かってる・・・これは俺の好みの問題だよ」

 

そんな男を、助けるために動くというのが

翔にとっては許容しきれないのだった

 

 

──アクト、そしてラストにはその力がない

つまり、この作戦は翔の・・・サウンドの力が必須なのだ

 

会議が、手詰まりになり

皆の口が噤まれてしまった

 

そんな時──

 

ガチャリと、部屋の奥から扉の開く音

──現在、いつものメンバーはこの部屋にいる

 

つまり、それ以外でこの部屋に入ってくる者は・・・

 

「金子・・・!?」

 

酷くやつれた顔をした金子がよろよろと部屋に入ってきた

ふらつく足を引きずり

こちらにまでやって来ると

膝から崩れ落ちる

 

「だ、大丈夫ですか──!?」

 

咄嗟に駆け寄り、彼の肩に手を置く

 

「なんて・・・こと・・・」

「・・・え?」

 

「私は・・・なんてことを・・・。」

 

顔を覆い、嘆くように金子が蹲る

まるで、何かに耐えきれずにいるような

苦しそうな嗚咽を吐きながら

 

「頼む・・・」

「──。」

 

「頼む、誰か私を・・・消してくれ・・・」

 

そして、抑えきれないものが漏れ出すように

小さくそう呟いた

 

 

ああ・・・

それを聞いた自分は、分かってしまった

彼も、また自分の過ちを受け止め切れていない

 

テラーになったことで、ほんの少しあった恨みが

本来なら、絶対超えない一線が

超えさせられてしまったことを

 

「っ・・・ふざけんな!!!」

 

それを聞いて、激高したのは翔であった

先程までの静かさとは打って変わり、火が付くほど怒りを放つ

 

「なんで・・・なんで、お前の頼みなんて聞かなきゃならない!!」

「なんで・・・お前なんぞ助けなきゃならない!!」

 

それは、どちらに対しての怒りなのか

頼みを聞くことに(殺すことに)

頼みを聞かないことに(助けることに)

はたまたどちらにもか

 

「なんで・・・お前を逃がさなきゃならない!!」

 

過ちから、償いから逃がさなきゃならないと

翔は、怒っていた

 

そして、金子の胸倉をつかみ上げ

 

「なんで、見殺しにした方も

 殺した方からも逃がさなきゃならない!」

 

それを聞いて、金子はハッとしたような反応を示す

彼は、過ちに耐えきれずにいる

やってしまったことに、耐えきれずにいるのだ

 

「──すまない」

 

震える声で、そう呟く

胸倉を離され、しりもちをついて

そして俯いたまま

 

「すまない・・・すまない・・・っ」

 

誰に詫びているのか、そうだけ呟いていた

 

「・・・外に出るぞ、こいつからテラーを引っぺがす」

「・・・いいのか?」

 

その問いには答えずに、翔が席を立つ

自分もまた、金子を運び出すために立とうとした

 

その時──

 

「!?・・・ぐっ・・うっ」

 

金子が、悶えだした

蹲り、もがく

まるで何かが湧きだしそうな──

 

 

「不味い!!伏せろ!!」

 

近くにいた杏奈さんと浩司さんを庇いながらその場を飛びのく

次の瞬間

ドンと大きな音を立てて、店のテーブルがひっくり返る

中央のテーブルも、椅子も吹き飛ばして

何もないフローリングの上に

 

あの、獅子と藁のキメラのようなテラーがそこには立っていた

 

『ウオオオ!!!』

 

だが、その様子はおかしさを含んでいた

まるで目の照準があっていないかのように

虚空を見つめ、そして壁の方を向いたかと思えば

 

壁に向けて、飛び掛かる

そして、壁を突き破り、店の外に飛びだした

 

 

「一体何が・・・」

 

突然の出来事に皆、度肝を抜かれていた

 

「待って、あれ!!」

 

『オオオオ!!!!!』

 

店の外に出た、金子はきょろきょろとあたりを見回し

そして、どこに向かうか

ある方角に向けて走り出すのであった

 

「・・・あっちは・・・共同墓地?」

「追いかけます!!」

 

俺と翔、そしてラストが

ひっくり返ったテーブルをはねのけて

追いかけようと店を飛び出していく

 

 

「翔!!」

 

しかし、そんな翔を呼び止める者がいた

音石さんだ

彼は何かを取りだすと、翔に投げ渡す

 

「これは・・・」

「・・・彼からテラーを引き剥がすための力だ」

 

手にしたのは、少々大き目な箱型の機械

いや、その側面からは

サウンドのドライバーに装填するための

コネクタが、顔を覗かせていた

 

「・・・それは、助けるためのものだ

 それを理解しておいてくれ」

「・・・」コクリ

 

 

町はずれにとある墓地があった

そんな人もいない墓地の中に、テラーとかした金子が降り立つ

 

そして、ふらふらとあたりを見回しながら

何かを探すように歩き回る

 

──歩き、何かを見つけて立ち止まる

──また歩き、何かを見つけて立ち止まる

──また歩き、何かを見つけて立ち止まる

──もう一度歩き、何かを見つけて立ち止まる

 

そうして、4度墓石の前で立ち止まった彼は

 

『ぐ・・・!?』

 

また、悶えたと思えば

 

『・・・墓?・・・なんだここ?』

 

金子とは違う、軽い口調で言葉を発した

 

「金子ぉ!!」

 

その時だ

3人の男の声が、墓地の外から聞こえた

 

 

墓地の前の空き地までたどり着いた3人は

金子を探し始める

 

しかし、探す必要はなかった

 

次の瞬間、墓地から何かが飛び出してくる

 

そして、ズンと、鈍い音を立てて着地した彼は

 

『おお・・・揃いも揃ってるじゃぁないか・・・!』

 

ニヤリと、愉快そうにしながらそう言った

 

「金子・・!?」

「いや、ペローだ」

 

『いいよ、3体1も望む所さ

 ・・・揃って叩きのめしてやる!!』

 

既に、そこにいるのは金子ではないと理解した3人は

ドライバーを構え

そして、それに対して臆することなくペローは啖呵を切る

 

『威勢がいいなペロー』

 

しかし、そんなところに水を差す声が一つ

何もない場所に、突如火柱が立ったかと思えば

 

次の瞬間には、その中から

火そのもののような姿のテラーが現れた

 

『新しい力が、随分と調子がいいみたいじゃないか』

『サン、ブルー・・・何の用だよ』

 

その声を聞いてうんざりといった風に

ペローがサンの名を呼ぶ

 

自分を愚弄したことを忘れたとは言わせないと

そんな意味が聞いて取れた

 

『なに、邪魔するつもりはない私も勝手にやるだけさ』

『フン!こいつを殺したら次はテメーた・・!』

 

怒りはあるが、冷静になればさすがに3体1は危険と

そう判断したのか、ペローはサンを突き返すことなく並び立った

 

「サン・・・!」

「翔、君はペローを

 ラスト、翔のサポートお願い」

「承知した」

 

飛び出しそうになる翔を抑えて

取りだしたドライバーにチケットを差し込む

 

「「「変身!!」」」

 

『Phantasic Night Of Beast』『Not Missed off!!.』

『MIRAGE TORCH』

『Heat Up GIGA SOUND!!』

 

 

3人の仮面ライダーと2体のテラーの決戦の火蓋が今切られた

 

 

サンに向かってアクトが突貫する

 

爪跡(スクラッチ)』『Select(セレクト)

「はぁ!!」

『フン!!』

 

爪状のエネルギーを帯びた手と

炎を纏った拳を振るい合う

 

格闘術は互角の攻防を極め

どちらも有効打を許さずに拳をぶつけ続ける

 

『ハッハッハ・・・うらぁ!!』

 

サンが愉快そうに笑いながら拳をアクト目掛け突き出す

凄まじい熱量で掠るだけでもやけどは必至の攻撃を

いなし、爪を突きさすようにサンに向けてアクトが手を突く

ヒラリと回避し、またすぐさま攻撃が放たれる

 

転送(ワープ)』』『Select(セレクト)

 

しかし、今度のサンの攻撃は盛大に空ぶる

アクトが目の前から消え去ったのだ

 

『なに!?』

 

そして、サンの隣の空間から飛び出したアクトが

手にしたCGスタッフをサンに叩き込んだ

 

『ぐっ・・・厄介な力を・・・!』

「どんどんいくぞ!!」

 

新たな力を得た、アクトは

その力を持って、サンを翻弄していくのであった

 

 

『呑まれろぉ!!』

 

突き出した腕から大量の藁がサウンド目掛けて放たれる

まるで濁流のように迫りくるそれを

サウンドがギターランスを振るって切り飛ばしていく

 

じりじりと、切り飛ばしながらサウンドが

ペローの下へと近づいていく

 

『フッ甘い!』

 

切り飛ばされた藁が、地に落ちた傍から動き出す

アクトと同じようにサウンドを縛りあげようと

背後から迫りだす

 

「させない・・・!」

 

しかし、その飛来する藁がサウンドを襲うことは無かった

空中の藁が巨大な炎に焼かれて燃え尽きる

 

見やればグリップを突き出したラストが

切り飛ばした先からどんどん藁を燃やしていく

 

本体から切り離された藁は増える様子はなく

焼けばそのまま消え失せていった

 

『チッ余計な真似を!!』

「──貴様が言うな!!」

 

ラストがグリップを振るう

藁を出し続けるペローの頭上に炎の剣が現れ

 

腕と藁の継ぎ目を切り飛ばした

根元が千切れたことで、サウンドに放たれる藁が一瞬停止する

 

「ナイス!」

 

一気に距離を詰めたサウンドが、ペローの目の前に躍り出た

そして、構えた槍でペローのその体を薙ぐ

 

『グッ・・・無駄だ!』

 

薙いで引き裂かれた腹が一瞬で塞がる

そして、傷などもろともせずペローがインファイトを仕掛ける

力強い獅子の腕を遺憾なく振るいサウンドに打ち付ける

 

「ぐっ・・・うおおお!」

 

重い一撃を槍で受け止めながらも

なおもサウンドが槍をペローに向けて振るう

2撃3撃とその体に槍の斬撃が刻み込まれる

 

しかし、その攻撃はすぐさま修復され

ダメージは残らない

 

『無駄だって・・・いってんだろぅ!!』

「ガッ!?」

 

ひと際力を込めた一撃が

サウンドに踏ん張ることを許さず殴り飛ばす

 

次の瞬間、肩に何かが刺さる

炎の剣が、自分の肩を貫きささる

 

『無駄だって・・・』

 

腕から藁を鞭のように伸ばし

離れて炎を放つラストへ向けて振るう

 

よくしなった鞭は、凄まじい威力を持ってラストを吹き飛ばす

 

「グッウッ・・・・」

「ラスト・・!」

 

転がるラストに、サウンドが駆け寄る

2人の攻撃は、当たってもまるで効いていないというように

ペローがほくそ笑む

 

『ハッハッハ・・・無様じゃないか!

 いいようにやられてさぁ!』

 

『そうだ僕は強い!・・・つよ・・!?』

 

そうして勝ち誇ったペロー

しかし、その途中で異変が起こる

 

『ぐっ・・・な、ぐぉ!?』

 

まるでペローから漏れ出すように

一瞬、金子の体が湧き出した

 

『なに・・・!?』

「最初っから、そのまま倒す気はねぇよ」

 

 

サウンドが立ち上がりディスクを取りだす

そして、ギターランスに込めていく

 

「まずは金子をひっぺがえす

 その次は、一枚一枚チケットを引っぺがす」

『まさか、最初から・・・!?』

 

「効かねぇってのも考えもんだな

 ノーガードで当てやすかったぜ」

 

『GIGA !!』

BEST HIT MEDLEY(ベスト ヒット メドレー) !!!』

 

ギターランスに膨大な熱が集まっていく

そして、それを構えて

体の異常で、上手く動けないペロー目掛けて飛び掛かった

 

「まずは金子を出してもらう!!」

『ぐっやめろおお!!!』

 

熱を放つ槍の一撃が、ペローに叩き込まれた

その衝撃に、ペローが吹き飛び転がっていく

 

そして、その時

ペローの体から、まるで零れ落ちるかのように

金子が飛び出した

 

「よし!」

 

ラストが感嘆の声を上げる

着地したサウンドが、金子に駆け寄る

──息はしてる、無事だ

 

『ぐっ・・くそお・・・!?』

『がっ・あああ!!?』

 

金子を失ったペロー

その異常は、すぐさま体に現れる

 

獅子と、藁の様相が消え

元の猫の怪人の姿が現れた

 

『うあ・・・ああ・・・!?』

 

「・・・形勢逆転だな」

 

サウンドが、槍を構える

ここでペローに止めを刺す

そう意気込んで、足を踏み出そうとしたその時

 

「ショウ!後ろだ!!」

 

ラストが背後から突然叫んだ

──後ろ!!?

 

急いで背後に振り向こうとする

しかし、一歩遅かった

 

突如何者かが

背後からサウンドを羽交い締めにして拘束したのだ

 

「なっ!?」

 

見れば、そこにいたのは

一体いつ現れたのか

まるでブリキのロボットの様相をした、新たなテラーであった

 

 

アクトとサンの攻防が続く

魔法による翻弄で、いささかアクトの優勢といったところだろうか

 

BEST HIT MEDLEY(ベスト ヒット メドレー) !!!』

「!?」

 

聞こえたのは、翔の放つ必殺音声

そして、その直後に見えたのは

吹き飛ぶペローと、そこから飛び出す金子の姿

 

「・・・よし!」

『なるほど、そういう策か』

 

作戦の成功を確認し、安堵したのも束の間

サンもまた、こちらの作戦に気が付いたようだ

 

『まんまとやられたわけか』

「ああ、あとはお前たちを倒すだけだ」

 

杖を構えなおす

逃がしはしない、このままサンも打倒す

そう意気込んで、アクトが再び相対する

 

『確かに、ペローはあのままじゃきついな』

「行かせないぞ・・・!」

 

『ああ、向かうのは無理だ

 ・・・だが、一つ』

「・・・?」

 

サンは含みのある言い方をしたかと思えば

懐から、何かを取りだした

あれは・・・チケット!?

 

『金子をすぐにどけないのは悪手だったな』

「!?しまっ」

 

アクトが駆けだす、それはさせまいと

しかし、立ち位置と距離がまずかった

 

自分の位置より、サンの方が金子に近い

 

サンは手にしたチケットを起動したかと思えば

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「こいつ、どこから・・!?」

 

『──。』

「金子がいない・・・まさか!?金子!?」

 

物言わぬブリキロボットのテラーは

がっちりとサウンドをホールドし、びくともしない

 

「ショウ!・・・今助け・・」

『おっと、邪魔はいけない』

 

拘束されたサウンドを助けようと

ラストが駆けだそうとする

 

しかし、その目の前に

突如、青い鳥の姿をしたテラーが現れた

 

「ッブルー!」

『じっと見ていろ』

「邪魔だ!!」

 

ラストがグリップを握り殴り掛かる

ブルーは、その攻撃を手にした羽根型の剣で防ぎつつ

サウンドの下へ向かうのを阻止する

 

遠くの方で、アクトもまた

サンに向かうのを阻まれるように立ちふさがれている

手元には、杖がない。叩き落とされたか

──助けが見込めない

 

 

『・・・ハハッ』

 

その様子を見て、ペローは薄く笑う

そして、

 

『よくもやってくれたねぇ

 ・・・僕をコケにした罪は重い!!』

 

細剣を構え、サウンド目掛けて飛び掛かった

 

「っぐ・・・放せ!!」

『──。』

 

サウンドが拘束から逃れようともがく

しかし、鉄のような体はびくともしない

まるで身じろぎせずに、サウンドを拘束する

 

細剣の切っ先がサウンド目掛け突き出される

狙いは一点、心臓のみ

 

「翔──!!」

「ショウ──!!」

 

遠くで、雄飛とラストが叫ぶ声が聞こえる

──ああ、チクショウ

ここまでなのかよ

 

 

そしてペローの細剣が、突き出された

 

 

 

 

 

「・・・?」

 

サウンドは、迫りくる細剣の衝撃をただ待つことしかできなかった

拘束をほどくことはできず、回避もできない

確実な死が、自分目掛けて迫っていた

 

しかし──その衝撃がいつまでたってもやってこない

一体どうしたのだろうか

()()()()()()()()()()()()()()()、恐る恐る目を開く

 

──手を上げる?

待て、なんで手が動く

なんで、拘束が外れている──!?

 

目を開く、その目には──

 

『なっ!?』

『グッ・・・ガァ・・・ッ」

 

細剣に胸を貫かれて、赤い血を垂らす

一人の人間の姿が写っていた

 

「か・・・ねこ・・?」

「うぉ・・・あ・・・っ」

 

細剣を引き抜かれ、ふらふらと後ずさる

そのまま、後ろにいたサウンドへぶつかる

 

そして、そのまま膝から崩れ落ちた

金子を、咄嗟にサウンドが支える

 

ゴフッとむせたかと思えば口から

泡交じりの血が噴き出す

 

「お・・おい!しっかりしろ!!」

 

サウンドが傷を抑えながら声をかける

 

「しっかりしろ!!おい!!」

「うぁ・・?・・・ああ・・・」

 

金子が目を開く

そして、無事なサウンドの姿を見て──

ほんの少し、安堵したかのような顔をした

 

「──っ!てめぇ!ふざんじゃねぇぞ!!

 俺なんか守った程度で許されると思ってんのか!?」

 

その顔を見て、サウンドが叫ぶ

こんなことで満足するなと

 

「あんたは、罰を受けなきゃなんねえんだろ!

 死んでいいわけじゃねぇぞ!!」

 

「すまない・・・」

 

か細い声で、金子が謝罪を放つ

 

「でも・・・」

 

そして、サウンドを見て

 

「助けられてよかった・・・」

 

もう一度安堵したかのような顔をして

そして、目を閉じた

 

──手が、力抜けたように落ちる

 

・・・そこにはもう、熱はなかった

 

 

『フン!!』

 

その光景に愕然としたサウンド

しかし、そんなこと関係なしとばかりに

ペローは、サウンドの顔面を蹴り飛ばした

 

サウンドが吹き飛ぶ

支えを失った金子が地面に落ちる

 

そんな金子の肉体を、ペローは掴んだ

そして──

 

金子の体が、まるで吸い込まれるかのように

ペローへと入っていく

 

そして、金子を吸収したペローは

その肉体を変異させる

 

またもや獅子と藁の混ざったような姿に

いや、それだけではない

 

ブリキと獅子と案山子が混ざったような姿にその肉体を進化させる

その姿は、まさしく混ざり物(キメラ):キメラペローとでも言うようなものであった

 

『ハハハッ・・元通り、いやもっとすごくなった

 いいねぇ・・・もう邪魔もいないし・・・最高だ!!』

 

『これで、意思も体も!!名実ともに僕の物だ!!』

 

ハッハッハと高笑いをしてご機嫌なキメラペロー

そんな姿に比べ

 

「・・・。」

 

サウンドは、大層静かであった

ゆっくりと立ち上がり、槍を地面に突き立てる

 

『ん?・・・ああ、ちょうどいいや

 君で試させてもらうよぉ!新しい力をさぁ!!』

 

ペローが機嫌よさそうに

サウンドに対し、練習台宣言をかます

それに対してサウンドは──

 

「ああ・・・俺もだ・・・」

 

ただ、そう返して

何かを取りだした

 

『んん?』

 

取りだしたのは、箱型の何か

「見てろよ金子・・・あんたのためのスペシャルライブだ」

 

決して、許されるべき人間ではなかった

罰されるべき人間であり、その先に死もあり得た人間だった

それでも──自分を救った人間でもあった

 

箱型を、静かに掴み

深呼吸するように、呼吸を整えて

ここに、起動する

 

MILLION SOUND(ミリオンサウンド)

 

そして、展開されたディスクを

ドライバーに装填し、今解き放った

 

「変身」

 

GREATEST HITS(グレイテスト・ヒッツ)!!!』

FOREVER(フォーエバー)!!』

MILLION SOUND(ミリオンサウンド)!!!』

 

盛大な音を掻き鳴らしながら

サウンドの姿が変わっていく

 

金のアーマーが光り輝く

眩いその姿が、音のエフェクトの中から現れる

 

派手な中に、確かな荘厳さを兼ね備えた

戦士が、今ここに立っていた

 

突き立てた槍を引き抜く

 

 

『今更ちょっと強くなったところで!!』

 

キメラペローがその姿にひるむことなく飛び掛かる

獅子の鋭利な爪で、その体を引き裂かんと腕を振り下ろす

 

しかし、その爪が力を示すことは無かった

金のアーマーにその爪が触れた瞬間

バキリと音を立てて

その爪がへし折れた

 

『!?なっ──』

「らぁ!!」

 

その光景に驚くこともなく

サウンドが、目の前に立ったペローに

拳を一つ、お見舞いした

 

拳がキメラペローの体を穿つ

次の瞬間、キメラペローが吹き飛び

壁に叩きつけられていた

 

『あっぐぉ!?』

 

突然、壁に叩きつけられたペローは

自分の身に何が起こったのか理解できない

 

壁に手をかけて立ち上がり

ただただ、目の前の男を眺める

 

「いくぞ・・・!」

 

静かな怒りに燃える男の

その新しい力を、ただ眺めることしかできなかった

 

 

『なんだ・・・あの姿は・・・!?』

 

サンが驚愕する

金子が、サウンドを庇ったのも驚いたが

それ以上に、さらに強力になったペローを叩きのめす

サウンドのその姿に驚愕していた

 

だからだろう、目の前に迫る攻撃に反応が遅れたのは

 

『!?ぐぼぉ!?』

 

顔面に拳が突き刺さり

大きく殴り飛ばされる

 

転送(ワープ)』『Select(セレクト)

 

吹き飛んだ先に、魔法陣が現れたかと思いきや

それを通った瞬間、アクトの目の前に自身がいた

 

『!?』

「ハァッ!!!」

 

さらにもう一度大きく殴られる

 

「・・・お前は、許さん!!!」

 

アクトもまた、金子の最後を見て

深い怒りに燃えていた

 

『フッ・・面白い!!』

 

それを愉快そうにサンは対峙する

殴り合いの第2ラウンドが、開幕をするのであった

 

 

「おお!!」

『おっと』

 

グリップを握った拳がブルーに向けて放たれる

その攻撃を剣を盾にして、ブルーはしっかり受け止める

 

「う・・・おおおおお!!!」

『!?』

 

しかし、その防御に対しラストは

強引にグリップから炎を吹き出して

その拳を振り抜いた

 

防御ごと、ブルーの体に攻撃を当て吹き飛ばす

 

「何だこれは・・・!

 あれを見て・・・私の中に沸き起こる何かがある!!」

『・・・ふっ』

 

ラストは、あの金子の最期を見て

自分が感じたことのない感情を得ていた

それが何かは分からなかったが

 

とにかくそれを、目の前の男にぶつけたかった

 

 

『ぐっ調子に乗るなよ!!』

 

キメラペローが立ち上がり、再度サウンドに飛び掛かる

爪で引き裂きではなく

今度はその巨躯を利用した殴打を選択する

 

その太い腕を振るいサウンド目掛け殴り掛かる

 

しかし、そんな攻撃をサウンドは

片腕で、防御して受け止めるのであった

 

『な、なんで!?』

「おらぁ!!」

 

そして、今度は手にした槍でキメラペローの体を引き裂いた

ペローが飛びのき、その傷を見る

先程までよりも深い切り傷

 

しかし、それも次の瞬間には埋まっていく

 

『ハハハッ!!無駄だよ!!

 お前の攻撃なんか効きやしない!!』

 

自分の不死性を再確認し

ペローは再び勝ち誇る

 

「・・・。」

 

しかし、そんなことをものともせずに

サウンドは槍を構えた

 

『ふん!・・・無駄なのに何するつもりだよ』

 

「そうだな・・・一人じゃ、しんどいかもな」

 

あの驚異的な再生力は、先ほどまでもより強くなっている

自分一人で攻撃したところで

切った先から治るだけだろう

 

「だから、手を増やさせてもらう」

『──何?』

 

サウンドが、ドライバーに触れ

その巨大なディスクの部品を叩く

 

次の瞬間──

信じられない光景が、ペローを襲った

 

サウンドの姿がぶれたかと思ったら

そこには──

 

「──イカしたメンバーを紹介するぜ!!」

 

黄色い姿をした、ポップフォーム

赤い右肩をした、ロックフォーム

青い左肩をした、ラップフォーム

 

そんな、サウンドの基本の3つの姿

それが、金色のサウンドと一緒にそこに立っていたのだ

 

BEST MEMBERS(ベストメンバーズ)!! 』

『 1! 2! 3!』

 

4人のサウンドが、並び立つ

 

「全員!!俺だ!!!」

『なっ!?なに!?』

 

4人のサウンドがペロー目掛けて駆けだす

 

黄色いサウンドと、赤いサウンドが驚いて固まったペローに斬撃を叩き込む

青いサウンドが、ボウガンでさらに追撃の弾丸をペローに放っていく

 

『ぐぁ!? ・・・分身じゃない!?』

 

その攻撃全てに、ダメージが存在した

幻影や幻覚などではない

 

こいつらは、遍在している──!!

 

「いったろうが!全部俺だ!!」

 

金色のサウンドがトドメと言わんばかりに

槍でペローを突き飛ばした

 

『ぐっあ!?』

 

ペローが吹き飛ばされて転がる

一度に4人から連続で傷付けられた体は

目に見えて傷が増え、ボロボロだ

 

藁が体を埋めていく・・・が

 

『!?・・・治りが!?』

 

全身傷だらけの体は、一度に修復できず

傷がなかなか塞がらない

 

「やっぱり、リソースは有限か」

『!?お前ぇ!!』

 

ペローが激高し、襲い掛かる

しかし、傷だらけの体は、のろく

サウンド達をとらえきれない

 

『くそ!・・・なんで!!』

 

「過信しすぎたな」

 

『GIGA』

『BEST HIT MEDLEY』

 

4人のサウンドが、自身の槍にディスクを装填し

槍に熱を込める

そして、流れるように連続でペローに撃ち放った

 

『ぐぁ!?』

 

流れるような4連撃がペローの体を切り裂いていく

 

そして、攻撃がペローを触れた瞬間

ペローの体からこぼれ出るかのように、

ブリキのテラーが

獅子のテラーが、

案山子のテラーが、

 

それぞれ飛び出した

 

キメラペローの体が攻勢するものを失ってどんどんしぼんでいく

 

そして、最後には猫のテラーの姿だけが残るのであった

 

『ああ・・・嘘だ!!・・・こんな・・・!』

 

「・・・さぁラストナンバーだ!!

 ──いくぞ金子!!」

 

『POP!!』

『ROCK!!』

『RAP!!』

『BEST HIT!!!』×3

 

3人のサウンドが、それぞれのディスクを装填した槍を構え

ペローから飛び出たテラー達にそれぞれ対峙する

 

それぞれのサウンド達が、一斉にテラーに向けて攻撃を放つ

ブリキは砕かれ、案山子は裂かれ、獅子は撃ち抜かれ

それぞれその最後を迎える

 

そして、黄金のサウンドもまた

ドライバーを押し込んで、必殺の一撃を放つ

 

『MILLION!!』

GREATEST BEST SOUND(グレイテスト・ベスト サウンド)!!!』

 

金色のサウンドが、大地を蹴り飛び上がる

黄金のエネルギーを纏った脚をペローに向ける

 

そして、必殺のキックを今解き放った

 

サウンドの一撃が、ペローのその肉体を貫く

 

『嘘だああああ!!!!』

 

断末魔を上げながら、ペローは

その痕跡を跡形も残さず、爆発を起こす

数多くの戦いを仮面ライダーと繰り広げてきた

怪人ペロー

その男は、今この瞬間

この戦いという、舞台から退場したのであった

 

 

続く




次回 仮面ライダーアクト

眠っていたクイーンが牙をむく
『そう、私だけが持てればいいの』

ストーリーテラーの瓦解!?
『奴は完全に暴走した。
 我々の手にもおえない』

そして──
『これで、最後のピースは揃った──』

第29章[反逆と最後の1枚]


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第29章~反逆と最後の1枚~

『嘘だああああ!!!!』

 

爆炎に包まれて、一つの意志が今燃え尽きる

その跡には、何も残ってはいない

 

怪人、ペローはここに討伐されたのであった

 

『!?』

 

その断末魔を聞き取り、驚愕したかのようにサンとブルーが振り向く

あれほど強化されていたペローが敗北した

 

その事実が、彼らの意識を一瞬とはいえ戦闘から引き剥がす

そして──

 

「「うおおお!!」」

『しまっ・・ぐお!』『っ・・!』

 

その一瞬を、アクトとラストは見逃しはしなかった

 

アクトの握りしめた拳が、サンの顔面を見事に捉え殴り飛ばす

ラストのブルーのその腹を思い切り蹴り飛ばす

 

2人の怪人が、固まるように同じ場所に吹き飛ばされる

 

拡大(ビッグ)』『Select(セレクト)

 

杖を叩き、アクトがその腕を天に向け突き上げる

そして、現れた魔法陣がその手を通過した瞬間

 

まるで巨人のように太く長い腕がそこに現れた

 

『BEST END』

「はああああ!!」

 

ラストがグリップを握った手を引き絞る

その周囲に、炎で出来た刀剣がいくつも回転しながら現れていく

 

「はぁ!!!」

 

ラストが引き絞った腕を突き出す

その瞬間、周りに現れた炎が一斉に2体へ向けて襲い掛かった

 

「おおおおおらぁ!!!」

 

アクトが、巨大化した腕の拳を握り込む

そして、まるで鉄槌が如く

拳を握った腕を2体目掛けて振り下ろした

 

『っちぃ!!』

『引くぞ』

 

炎と腕が2体に襲い掛かる瞬間

ブルーがその手を仰ぐ

瞬間、ブワリといくつも青い羽が2体を包み隠す

 

炎の刀剣が羽を切り裂き

腕がそれを上から叩き潰す

 

大きな砂煙が上がり、巨大化した腕が消えていく

羽が吹き飛び、砂煙が晴れていく

 

しかしそこにあったのは

ひび割れた地面だけであった

──2体が倒された形跡はどこにもありはしなかった

 

「逃がしたか・・・!」

「・・・くそっ。」

 

 

 

『く・・・ああああ・・!!!』

 

焼けるような熱さが体の奥底から湧き上がる

全身にが痺れ、今にも吹き飛びそうな痛みが走り回る

 

暗がりの中、クイーンは悶えていた

2枚目のチケットを無理やり体に施されたことによる

拒絶が彼女の身を傷つけていた

 

全身の痛みは、彼女を殺すまで苦痛を与え続ける

 

・・・かに思われた

 

『ぐ・・・うううう・・・!』

 

痛みに耐えながら、ゆっくりとクイーンがその体を起こす

その瞳には、これまでの彼女には見られなかったような

尋常ではない、怒りを滲ませながら

 

理不尽に、自分を傷つける物

自分の思い通りにならない事象

これまで避け、覆し続けてきたもの

 

それを見に受けたクイーンは

怒りを持って、本来ならば動けない程の苦痛を

 

『うああああああ!!!』

 

今、はねのけて見せた

 

『はぁー・・・はぁー・・・!!』

 

女王の意匠をしたその怪人態が変容していく

肩には、樹木のようなものが生えていき

そして、その枝先には

今にも崩れ落ちそうなほど、腐り濁った

熟れすぎた林檎が一つ、ぶら下がっていた

 

『ふーっ・・・ふっー・・・

・・・ふふふ・・・。』

 

その姿を見て

そして、先ほどまでの痛みが嘘のように消えて

代わりに力が満ちていくような感覚を得て

 

『フフフ・・・アハハハハハ!!!』

 

クイーンは、それまでの抑えめにしていた感情を

嘘のようにさらけ出して笑う

 

『そう!・・・そうよ!!』

(無駄)(無能)も!!いらなかった!!』

 

ああ、いい気分だ

今なら何でもできてしまいそう

 

『私が、私だけが全部持ってればいいの

 そう、私だけが持てればいいの!!!』

 

育てる必要なんてなかった

傍に控える必要なんてなかった

 

『──少し疲れてしまうけど、

 ・・・きっとそれが一番早いわ?』

 

 

ある病室の一室──

 

そこには、一人の眠り続ける人間がいた

病室の入り口に駆けられた名札には

『風間大吾』の文字

 

そう、ここは雄飛達によって助けられ

そして今だに目を覚まさない、男のために設けられた一室であった

 

『・・・。』

 

そんな眠り続ける彼の前に

一つの影が、訪れた

 

初老の男は、大吾の顔を見て

ほんの少し、懐かしむかのような顔を見せた

 

そして、その手を取り──

 

「だれだ!!ここは立ち入り禁止だぞ!!」

 

そんな姿に、大声で怒声を浴びせる声が一つ

振り返れば、男と同じ位の歳をした

白衣を着た男がそこには立っていた

 

「っ!彼をどうする気だ!!」

 

白衣の医者が警報を鳴らさんと手を伸ばす

そんな医者に、男は手をかざす

次の瞬間

 

「!?」

 

医者に向かって軽い衝撃波が繰り出された

医者がは衝撃に飛ばされて、壁に激突する

 

そして、気絶して動かなくなってしまった

 

『・・・。』

 

ブルーは、それを見届けると

再び大吾の体を掴み上げる

 

そして数分後

 

そこには、気絶した医者以外誰の姿もないのであった

 

 

喫茶「テアトロ」──

 

「そうか、金子は・・・」

「・・・はい」

「・・・。」

 

空気が酷く沈む

彼を連れ戻せなかったことはこちらにとっても痛手である

 

結局、彼からは何の情報も聞き出すことができなかった

いや・・・人間として連れ戻せなかった

 

「これでまた振り出しか。」

「・・・だが、これで奴らは手を一つ失った

 考え方によっては、一歩前進じゃないか」

 

浩司さんがそんな励ましをする

 

確かに、ストーリーテラーと呼称していた4人

その内の1人は確かに打倒すことができたのだ

確かに前進ではあった

 

「これで向こうは3人・・・数が並んだじゃないか」

「叔父さん・・・そんな単純な」

 

杏奈さんが呆れかえる

その様子を見て、ほんの少し空気が和らいだ気がした

 

「しかし、そうなると

 奴らの目的は一体なんなんだろうな」

「・・・分かってるのは、神ってキーワードだけかぁ・・・」

 

沈んだ空気が多少晴れたことで

皆また、話し合いに戻る

問題は、ストーリーテラーの狙いについてである

 

「神・・・か」

「?・・・どうしたオオキ?」

 

その言葉を聞いた大木さんは、酷く渋い顔をしていた

 

「いや、神って言うと

 作家としてはあまり好ましい存在じゃない物を思い出してね」

「・・・?」

「へぇ・・・なにそれ?」

 

作家ではないラストは、その言葉を聞いても首を傾げるだけである

そんな言葉を聞いて面白がった翔が問いかける

 

皆もまた、思考を一度取りやめ大木さんの方を向く

そして、大木さんは休憩がてらある話をし始めた

 

「機械仕掛けの神、というものがあってね」

「機械仕掛け・・・?」

 

名前を聞いてもピンとこないみんなは首を傾げる

そんな様子を、少し愉快そうにしながら大木さんは説明に入った

 

「要は、お話の結末に困った時

 強引に結末へと向かわせるための物さ」

 

「例えば、"大岩をどかすために人が知恵を懲らすお話"があったとしよう」

「人数を増やして押しても駄目、道具を使っても駄目」

「万策が尽きてどうしようもなくなった時に」

「そこに神様が現れて、風を一つ吹かすんだ」

「風に揺られ大岩は容易く転がっていってしまいました。めでたしめでたしってね」

 

「・・・それは、なんだ?」

「モヤっとするだろう?」

 

腑に落ちない、といった顔をラストが示す

そんな様子を大木さんは愉快そうにしていた

 

・・・確かに、解決はするがなんというか

いささか唐突すぎる結末であった

 

「つまりは話を畳む要素だけがいきなり飛び込んでくるんだ

 ・・・そこまでのお話なんてお構いなしにね」

 

「大岩に挑む人の滑稽さだけを眺めるのならいいけれど

 どう解決するのかを楽しみにしてたら肩透かしを食らってしまう手法さ」

 

まぁ、今のは極端な話だけれどね

とそう付け加えて、大木さんは話を終えた。

 

なるほどな、と皆して一つの知識をつけたその時だ

 

太田さんの電話がけたたましい音を立てて着信を伝える

それを取った太田さん

そして、話を聞き進めていくたびに

その顔が、険しく歪んでいった

 

「何い!!?人がどんどん眠らされて異形に変えられていく!?」

 

──それは、とてもじゃないが聞き捨てならない話で合った

 

 

休日の町を、人々は思い思いに過ごしていく

 

友人と走り回って遊ぶもの

家族や、恋人と共に過ごすもの

一人の時間を大切にして、趣味に没頭するもの

 

多種多様な姿で、時間を紡いでいく

 

そんなところに

 

まるで薄暗い霧のような何かが漂い始めた

 

「・・・なんだこれ?」

 

通行人の一人は、それに気づき訝し気な様子で眺める

ドサリと、背後から音がした

 

「!?」

 

振り向けば、連れの一人が道に倒れ込んでいた

 

「ど、どうし・・・」

 

そして、心配をして駆け寄って声を掛けようとした瞬間

凄まじい眠気が、彼を襲う

見れば、周りの人々も次々と倒れ込んでいく

 

「な、にが・・・」

 

そして、彼もまたその眠気に抗うこともできずに倒れ込んだ

 

『~♬』

 

鼻歌をしながら、クイーンは倒れ込んだ人々の横を通り抜けていく

見やれば、右肩につるされたリンゴからは

彼らを眠らせた薄暗い煙が漏れ出るように湧いていた

 

クイーンが、通り過ぎた後

眠らされた人々の体に異変が起きる

その体は、まるでマネキンように簡素でつるつるとした姿に

その顔は目も口もない、のっぺらぼうのようになり

顔の中心にハート型のマークが湧き出る

そして、手には、また簡素な長槍が一本握られる

 

そうして、変化した人々は立ち上がり

まるでクイーンの後に続くようにゆっくりと歩んでいく

 

一人・・・また一人と追従するものは増えていく

そうして歩むクイーンの姿はまるで

進みゆく軍隊のようであった

 

「っこれは!?」

「な、なんだこりゃ!?」

「っ!?これを吸うな!!」

 

そうして進みゆくクイーンの目の前に

雄飛と翔、そしてラストが駆け付ける

 

闊歩するクイーンとその後ろに続く

数えきれないほどの数の兵隊

そして、漂う薄暗い煙

 

『あら、遅かったわね』

 

「まさか、これ全部!!?」

『そのまさか・・・ね♪』

 

その時、クイーンのすぐそばに倒れた人が

クイーンの背後に並び立つ兵隊に姿を変える

 

──間違いない

 

「皆を元に戻せ!!」

『いやよ、彼らは私が使うんだもの』

 

その言葉が引き金となり

3人は各々のドライバーを取りだした

 

『・・・さぁ、行きなさい』

 

クイーンが、指示を飛ばす

その瞬間、彼女の後に控えていた大量の兵たちが

3人目掛けて一斉に襲い掛かるのであった

 

「「「変身!!!」」」

 

『MASKED RIDER!!』

『POP UP SOUND IS SINGER SONG RIDER!!』

『BUBBLE MERMAID!!』

 

突撃する兵隊に

変身した3人のライダーもまた、立ち向かうように駆けだした

 

 

「ふっ!!はぁ!!」

 

アクトが襲い掛かる兵隊たちを徒手空拳で捌いていく

兵隊が振るう槍を避けて、その腹を蹴り飛ばす

吹き飛んだ兵隊は地面に伏せる

そして、まるで体がはじけ飛ぶかのように割れたと思えば

そこには、巻き込まれた人々が横たわっていた

 

「(一体一体は弱い)・・・けど数が多い!!」

 

一体一体とまた殴り飛ばして倒していく

しかし、一向にその数は減らない

 

まるで無限にも感じるほどに兵隊は襲い掛かって来る

 

『『『──!!!』』』

「!?」

 

その時、アクトの体を影が覆い隠す

見やれば、上から十数体の兵隊が槍を振りかぶって飛び掛かる

 

『RIDER』『BEST ACTION!!』

「おおお!!!」

 

腕に力を込めてアッパーのように振り上げる

拳と、数十本の槍がぶつかり合う

しかし、一瞬の均衡の上でアクトはその腕を振り切る

兵隊たちは、槍ごと上空に打ち上げられた後、地面に叩き落されて爆散していく

 

『──!』

「っ!」

 

しかし、猛攻はまだまだ終わらない

振り上げた腕を降ろす間もなく兵隊が

がら空きになったアクトの体目掛けて槍を突き出す

 

空いた手で、チケットを取りだす

 

『無頼剣豪!いざ参る!!!』

『侍丸!!!』

 

突き出された槍が、体に触れる前に刃に遮られる

 

「はぁ!」

 

ブレイガンで槍を弾き飛ばし

その体を一刀の元に断つ

 

「いくぞ!!」

『SAMURAI』『BEST CUT!!』

 

剣を構えて兵隊向けて駆けだす

そして、通り際に次々と切り捨てていく

 

アクトが一瞬で通り抜けた瞬間

兵隊たちは次々と倒れ伏せた

 

『Stand in the Wilderness With Frontier Spirits.』

『WILD WESTERN』

 

ブレイガンを銃に切り替え

ガンマンは一息の内に次々と弾丸を放つ

 

兵隊たちは防ぐ暇も無く

次々と撃ち抜かれていく

 

『WESTERN』『BEST SHOT!!』

 

銃口にエネルギーが集約し

ひと際大きな弾丸が放たれた

 

弾丸は兵隊を次々と貫通し

一直線に兵隊たちを打ち抜いた

 

『──!!』

 

銃を上げる

その瞬間、兵たちの声にならない咆哮が

アクトの周りから次々と響く

 

アクトの周りを取り囲むように

兵隊たちが並び立ち

振りかぶった槍を一斉に振り下ろした

 

槍が、円陣の中心の固い物にぶつかる

しかし、槍の穂先はそれ以上進まず

ライダーの肉を引き裂くことは無かった

 

風を受け継いだ新ヒーローは(The New Hero who inherited a Wind)

嵐のようにやって来る(Came Like a Storm )!』

『MASKED RIDER The NEXT(ザ・ネクスト)!!!』

「だあああ!!」

『──!?』

 

次の瞬間、膨大な風が円の中心から吹きだした

嵐のような暴風が、周りの兵隊を吹き飛ばす

 

『NEXT!!』『BEST ACTION!!』

 

アクトが大地を蹴り、その脚を突き出す

凄まじい勢いで突き進む蹴りが進む先の兵隊たちを次々と吹き飛ばした

 

「さぁ!・・・まだまだ行くぞぉ!!」

 

まだまだ減らない兵隊

しかし、アクトはそれに臆することなく駆け出した

 

 

サウンドがギターランスを振るい

兵隊たちを薙ぎ払う

兵隊たちも細い槍で果敢に攻める

しかし、サウンドの勢いある攻撃が

そんな槍を次々とへし折っていく

 

「数だけそろえてもなぁ!!」

 

『POP!!』『BEST HIT!!!』

 

槍を突き出して、サウンドが突撃する

エネルギーを纏った槍に触れた兵隊から次々に吹き飛ばされて爆散していく

 

『燃えるように!!ロックンロール!!!』

『BURNING ROCK!!!』

 

サウンドの右肩が燃えるように赤く染まる

そして握った拳で、迫りくる兵隊の顔面を殴り飛ばした

燃える拳が、兵隊たちを焼き倒す

 

そして、サウンドが大地を蹴り飛び上がる

槍にディスクを装填し、大きく振りかぶった

 

『ROCK!!』『BEST HIT!!!』

 

槍を横薙ぎに振るう

瞬間、穂先から焼けるように赤い斬撃が飛び出し

真下で上空のサウンドを仰ぐことしかできない兵たちを

次々と吹き飛ばした

 

着地と同時に、ディスクを取りだす

 

『刻む Groove!!』『COOL SO RAP!!!』

 

左肩が、冷え込むように青く染まる

 

「おらおらおらぁ!!」

 

槍をボウガンに組み替えて

兵隊たちの足目掛けて次々と弾丸を撃ち込んでいく

足元が固い氷に包まれて、兵隊たちの動きが一気に停止する

 

『──!?』

 

『RAP!!』『BEST SOUND!!!』

 

サウンドが地を蹴り、固定された兵隊目掛け脚を突き出す

逃げる術を失った兵隊たちを

冷気を纏ったキックが、貫いた

 

『caldissimo!』『grandissimo!!』『Fortissimo!!!』

Heat Up(ヒートアップ)! GIGA SOUND(ギガサウンド)!!』

 

周りの温度がグンと上がるかのような熱気が辺りを満たす

兵隊たちが、槍を振りかぶる

しかし──

 

『!?』

 

手にした槍のその刃がドロリと溶け落ちた

獲物を失った兵隊たちが驚愕で硬直する

 

『GIGA!!』

BEST HIT MEDLEY(ベスト ヒット メドレー) !!!』

 

「どおりゃあ!!」

 

サウンドが、エネルギーに満たされた槍を

大地に突き立てた

 

瞬間、まるで大地が震えるように鳴動し

突き立てた槍から、凄まじい熱気を帯びた衝撃が周りに向かって放たれ

周りに立つ兵隊たちを一気に吹き飛ばした

 

 

ラストに向かって

兵隊たちが一挙に押し寄せる

そして、ラストに飛び掛かり、彼の立つ場にその槍を突き立てた

 

しかし、その槍がラストを突き立てることは無かった

ドプンと音を立て、立っていた地面にラストが沈む

誰もいなくなった地面に一様に槍を突き立てる

兵隊たちが消えたラストに首を傾げた

 

「はぁ!!」

 

次の瞬間、剣と化したグリップを振るいながら

水のように地面から飛び出したラストが兵隊を切り捨てる

そして、着地と同時にまた地面に潜った

 

まるで、地面を泳ぎまわるように

潜っては飛び出しを繰り返し、ラストが次々と兵隊を切り捨てていく

 

『BEST END』

 

地面から、そのような異質な音が聞こえたかと思った瞬間

突如として水の斬撃が兵隊たちの足元から次々と現れ切り裂いた

 

ラストが地面から飛び出し、地面に降り立つ

 

『What The Fire Showed Was All Illusions』

『MIRAGE TORCH』

 

グリップから刀身が消え、代わりに炎が噴き出す

握り込んだグリップで、兵隊たちを次々と殴りつける

 

前方の敵を燃える拳で殴り飛ばす

その瞬間、背後から迫った兵隊がラストに飛び掛かった

 

「ハッ!!」

 

しかし、その奇襲が決まることは無かった

突如として現れた、炎で出来た刀剣が

飛び掛かる兵隊を、横から逆に切り捨てる

 

「燃えろぉ!!」

 

『BEST END!!』

 

グリップを握った拳を引き絞る

その瞬間、ラストの隣に炎で出来た巨大な拳が現れる

 

ラストが、引き絞った拳を突き出す

兵隊たちは、その拳に合わせて突き進んだ巨大な炎に

為す術もなく飲み込まれるのであった

 

 

『ふうん・・・なかなか足掻くのね』

 

自身の兵が次々となぎ倒される様を見ても

クイーンは全くと言っていいほどに焦ってはいなかった

 

現状を直視できていないのか

それとも──

 

 

『Give Everything...Lose Everything』

『STATUE OF HAPPINESS』

 

GREATEST HITS(グレイテスト・ヒッツ)!!!』

FOREVER(フォーエバー)!!』

MILLION SOUND(ミリオンサウンド)!!!』

 

『Be Moved and Trembling Night Is Coming』

『Mysterious Beast Will Bring It』

『Can You Hear That Shout』

野獣と幻想的な夜(Phantasic Night Of Beast)

『Not Missed off!!』

 

3人の仮面ライダーが並び立つ

 

BEST MEMBERS(ベストメンバーズ)!! 』

『 1! 2! 3!』

『MILLION!!』

GREATEST HITS MEDLEY(グレイテスト・ヒッツ メドレー)!!!』

 

サウンドのドライバーが輝き

その姿が4つにブレる

そして、4人のサウンドがボウガンに組み替えたギターランスを一斉に構えた

 

『BEST END』

「はぁあああ!!」

 

ラストが弓と化したグリップのその弦を弾き絞る

エネルギーが一点に集い激しくスパークを放つ

 

『BEAST』

(ファイア)』『爪跡(スクラッチ)』『追加(プラス)

BEST SELECTION(ベストセレクション)!!』

 

アクトの右腕に大きな爪状の燃え盛るエネルギーが集う

 

そして、そんな3人の目の前に

巨大な魔法陣が展開された

 

「だぁ!!!」「はぁ!!」「ぜあああ!!」

 

3人が、番えたエネルギーを一斉に解き放つ

4条の弾丸が、輝ける矢が、そして3本の爪跡が一斉に飛び交った

 

そして、それらが魔法陣を通過した瞬間

 

僅か8つであった攻撃が何倍もの数に増加して

一斉に残った兵隊たちに降り注ぎ

すべての兵隊を薙ぎ払ってゆく

 

凄まじい勢いの爆炎と砂煙が立ち上がった

そして、その後に残ったのは

 

3人の仮面ライダーとクイーンただ一人であった

 

「はっ、自慢の兵隊も数だけだったな!!」

 

サウンドが挑発を放つ

何百を超える兵隊も、3人に全滅させられるのでは意味がないと

 

『フフフ・・・』

 

その挑発に対して、クイーンはどこまで行ってもどこ吹く風

まるで、ここまではお遊びだと言わんがばかリの佇まいであった

 

「貴様・・・何がおかしい!!」

 

彼女と因縁浅からぬラストは、その様子に苛立ちを隠せない

そして、矢をつがえようとした時

 

()()()()()()()()()()()()()?』

 

クイーンはそう告げるのであった

 

「なに・・・!?」

 

背後に迫る殺気に、いち早く気が付いたのも

気が立っていたラストであった

 

「ぐっ」

 

振り下ろされた長槍を、矢で受け止めてはじき返す

弾かれ退いた兵隊は、転げながらユラユラと立ち上がる

 

──撃ち漏らした?

先程の攻撃で倒しきれていないものがいたのか

そう思っていた

しかし、現実はそうではない

より目を疑う光景が、3人のライダーを襲う

 

自分達が、倒したことで元の人間の姿に戻った人々

彼らは、倒されたその場に倒れ伏せていた

 

そんな彼らを、薄暗い煙はまた覆いこむ

そして、次の瞬間──

また、兵隊へとその姿を変えたのだ

 

「な!?」

「また!?」

 

復活し、起き上がった兵隊たちは

またも、アクト達に襲い掛かる

 

「はぁ!!」

 

アクトが、手にした杖で兵隊を殴り飛ばす

吹き飛んだ兵隊は、地面を転がり爆散する

そして、その爆散した場所に煙は集い

 

次ぎの瞬間には、また一人の兵隊がそこに立っていた

 

「っ・・!不死身か!?」

 

『そうよ!!』

 

クイーンが、気が付いたライダー達に向かい

勝ち誇るかのように宣言する

 

『尽きることは無い兵隊!私の思い通りに!

 永遠に!!付き従う兵たち!!』

 

『もう、あなたたちも!!

 サンも!!ブルーも私にはかなわない!!』

『そう!!そうよ!!私だけが手に入れるわ!!

 神の権能!!神の使役を!!』

 

訳の分からないことを口走るクイーン

しかし、それを問い詰める暇などなく

ライダー達は襲い掛かる兵たちの相手を余儀なくされた

 

 

『不味いことになったな・・・』

 

彼らの戦いをサンとブルーは遠くから眺めていた

 

『自分でやっておいてなんだが・・・奴は完全に暴走した。

 我々の手にもおえないぞ』

 

最早、あの能力は自分達にも刃が届きうるものへとなった

そのことにサンは危機感を持っていた

 

対処法を考えなければ、このままでは自分達の計画もご破算だ

 

『なに、問題はない』

 

しかし、ブルーはそれに対してあまり危惧をしていない様子であった

 

『?・・・何か手があるとでも』

 

自分いも思いついていないような

何か良い方法でもあるのかと

そう、ブルーに問いかける

 

それに対して、ブルーは簡素に、こう答えた

 

『なに・・・過ぎた力は身を滅ぼす』

『!?』

 

その言葉を聞いて、サンも合点がいったというように

口角を上げて、懐から何かを取りだす

 

それは・・・彼に手渡された、最後のチケット

 

『そう言うことだ』

『なるほど・・・』

 

愉快そうにサンは笑うと

クイーンの方へと飛び立った

 

 

『今日は随分とご機嫌だな、クイーン』

『あら・・・サン・・・良いところね』

 

『さっき、聞き捨てならんことが聞こえた気がしたが?』

 

クイーンの下へと降り立ったサンは

クイーンが告げた、自分も敵わないという言葉を問い詰める

 

『まるで、俺たちにも刃を向けるようじゃないか?』

『あら・・・そう聞こえなかった?』

 

次の瞬間、サンの背後から兵隊が襲い掛かる

 

『フン!!』

 

そんな兵隊を振り向きざまに燃やして吹き飛ばす

焼けた兵隊は、爆散し・・・すぐさま復活する

 

『ね?もうわかるでしょう?

 ・・・もう私の一人勝ちでいいでしょう?』

 

『なるほど・・・確かに厄介だ』

 

だが・・・

そう言いながら、サンがチケットを取りだす

 

『悪いが、これ以上の好き勝手は許すつもりはない

 ・・・止めさせて貰う』

 

サンがチケットを起動し、ゆっくりと自分へ近づけ──

 

『そう、・・・でも無理よ?』

『!?』

 

その手が止まる

いや、止められた

 

猛スピードで突っ込んだ兵隊たちが

サンのチケットを持った腕へと群がる

 

『何!?』

『残念♪』

 

兵隊がチケットをサンの手から弾き飛ばす

そして、そのチケットはクイーンの手の下へと渡る

 

『これで・・・積みね』

 

そして、クイーンは起動したそのチケットを

自らに突き立てた

 

『ぐっ・・・あああああああああ!!!!!!』

 

その瞬間、クイーンが大きく吠える

その姿が変容していく

 

体から、湧くように何かが生えていく

それは、ペローの時と似たひも状の何か

ただ、ペローが枯草の色であったので対し

こちらは青々とした緑をした紐

そして、紐には、見るからに営利で危険そうな棘がいくつも散らばっている

 

──詰まるところ、茨であった

 

クイーンの体中から、茨が生い茂るように生え

そして彼女を包みこんでいく

 

「「「!?」」」

 

3人のライダーも、兵隊の相手をしながらその変化に気が付いていた

 

「なんだ・・・茨!?」

 

『ああああ・・・アハハハハハハ!!!!!』

 

クイーンにも変化が訪れる

人型に収まっていたその姿が

湧き出る茨によって、その原型を無くしていく

 

茨は見る見るうちにクイーンの背丈をも超えるほど生え渡り

巨大な何かを形成していく

 

「あれは・・・!?」

「木・・・?」

 

『アハハ・・・!すごい!最高よ!!!』

 

湧き出る茨がようやく止まる

そして、そこにあったのは

 

数多の茨で構成された巨大な樹木

そして、その中央で包みこまれるかの如く

守られたクイーンの姿であった

 

 

『よくやった・・・サン』

 

『これで、100体

 これで、最後のピースは揃った──』

 

『さぁ・・・始めよう

 この世界に、この舞台にふさわしい神を呼ぼう!!』

 

『なぁ・・・大吾』

 

クイーンのその姿を眺め

ブルーはようやく計画を進めることができることに喜びを隠せなかった

 

そして、そんな彼のひとりごとを

横たわったまま、眠りについた風間大吾だけが聞いていた

 

 

続く




次回 仮面ライダーアクト

決戦、VSクイーン
『もう!!いらない!!いらないわ!!!』

「貴様を倒し、皆を救う!!」

ここに、神が降臨する
『ようやくだ!!これで!!
 機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)は降臨する!!』

第30章[機械仕掛けの神]


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第30章~機械仕掛けの神~

鋭い棘はまるで何者も彼女に届かせんとばかりに

よりいっそうその鋭利さに磨きをかけて

大量の茨がクイーンを包み込んでいく

 

そうして出来上がったそれは

まるで巨大な大樹のようであった

 

『アハハ・・・!すごい!最高よ!!!』

 

大樹に包まれた女王はあざ笑う

それに呼応するかのように

大樹から伸びた茨が強くしなりを上げライダー達目掛けて振り下ろされた

 

「!?」「あぶねぇ!!」

 

轟音を上げて茨がアスファルトを砕く

群がる兵隊ごと、3人のライダー達を大挙する茨が飲み込んだ

 

ズズゥン・・・と鈍い音を立てて茨が敷かれる

立ち上る砂煙が辺りを覆いつくす

 

それを見たクイーンを包む大樹は

その巨大な姿を解いていく

 

『フフフ・・・ハハハ・・・!!』

 

そうして、再び地面に降り立ったクイーンは

大層愉快と言わんばかりに笑いながら

この場を去っていった

 

随分と浮かれていたのだろう

死亡確認どころか、攻撃がちゃんと当たったことすら確認せずにである

 

 

砂煙が晴れていく

叩きつけられた茨が巻き上げたアスファルトの瓦礫が

山のように積みあがったものが姿を現す

 

瓦礫の山の頂点が、がたがたと音を立てる

そして、中から現れた腕が、その瓦礫を押しのける

 

どかした先には、膝をつく3人のライダー達

何度も振り下ろされた茨の大群の中

なんとか生きて3人は生還していた

 

「・・見境なしかよ・・・。」

 

3人の周りはひどいものである

見やれば、攻撃に巻き込まれた兵隊たち

皆、あおむけに倒れては兵隊の姿から人間へと戻っていく

 

仮にも自身の配下である兵隊にも

全く配慮もなしに、ただただその力をふるったのである

 

もはや、兵など取って捨てるもの

暴君はそれを成すことを是とするほどの力を手にしたのである

 

変身を解いた3人は消えたクイーンを追うために駆け出す

しかしその時

 

Prrrrr

 

携帯の鳴り響く音

 

──急いでいるのに!

 

「もしもし!」

 

電話を受け取った雄飛

その相手は、浩司さんであった

 

「雄飛君か!?大変だ!!」

 

急いでいたこっちが気圧されそうになる程に

切羽詰まった声が響く

 

そして、伝えられた言葉は──

 

「──大吾さんが、消えた!?」

 

 

 

町の外れの小高い丘には、廃れた天文台があった

既に利用者も多くはない

老いた館長が、午後の陽気に船を漕いでいたその時・・・

 

ガタリと物音が響く

久々に利用者がきたのかと

席を立ったその時──

 

フワリと風に乗って薄暗い煙が室内を漂い始めた

 

それがなんなのかを理解するよりも前に

館長の意識は闇に落ちた

 

『いい場所ね』

 

倒れた人間など構うことなく

小さな建造物の中を歩くクイーン

 

静かで、周りの自然が美しい

なにより、立地が良い

 

()()が唯の平地では、いけない

 

──ゾワゾワと、クイーンの足元から大量の茨が沸いて出る

 

茨はクイーンだけでなく天文台も包み込み

そして──

 

 

 

「消えたって・・・一体どういう!?」

"分からない、だが病院からは()()()()()()と"

 

「それって・・・」

 

病室で眠る、風間大吾が姿を消した

彼はまだ動くどころか目覚めてすらいない

──つまりは

 

『その通りだ』

「!?」

 

振り返る

この声は──

 

「ブルー!」

『やぁ』

 

振り返ったそこに、ストーリーテラー:ブルーが立つ

 

「風間さんを、どこにやった!」

 

チケットを握りしめて

ブルーを問い詰める

 

『何、危害は加えていない』

「お前・・・!」

 

その言動は、認めたも同然である

ドライバーに手をかけ──

 

『──××××へ向かえ

 ・・・ではな』

「!?」

 

それだけを伝えると

ブルーはその姿を消した

 

「あいつ・・・」

 

止める暇もなく

要件だけを伝えて立ち去った奴に歯噛みをする

 

「××××・・・っ!」

「あっおい!ラスト!」

 

そして、その場から飛び出すかのように駆け出した影がひとつ

──ラストである

 

「必ず倒す・・・絶対に・・・!」

「・・・ったく!雄飛行くぞ!」

 

罠の可能性もある

誘い込まれているのかもしれない

そんな考え全くないのであろう

 

翔はそんな彼を追いかけるように駆け出す

 

そして、そんな2人を見て雄飛は──

 

「・・・」

 

ブルーを闇雲に探すわけにも行かず

その後を追いかけるのであった

 

 

 

「なんだ・・・これ」

 

たどり着いたその場所には目を疑うような光景が広がっていた

 

小高い丘の上に広がるのは

暗い緑色で覆い尽くされたなぞの建築物

 

トゲの生えた茨で作られたそれは

歪なようで、精巧にも見えた

 

「城──?」

 

そう、それは城であった

茨で形作られた、巨大な城砦

 

まるでおとぎ話から引っ張りだしてきたかのその様相は

現実ではかえって異質さを醸し出していた

 

そして、その頂点からは

あの薄暗い煙が立ち、下へ下へと落ち流れていく

 

高い丘の上から放たれた煙は、その下にある

全域に流れていって

自分達の立つ場所にも僅かながらその形跡を感じさせる

 

 

そしてなにより──

 

「さっき以上じゃねぇか・・・!」

 

おびただしい数の兵隊が、フラりフラりと歩き回っていた

最早増えすぎたそれは統率もへったくれも無いほどに

溢れかえり、集っていた

 

視線が、一気に3人へと向かう

 

『──────!!!』

 

瞬間一挙に兵隊が襲い掛かった

 

囲みこまれ、次から次に仕掛けてくる

兵たちを3人は応戦する

 

殴り飛ばした兵が一人の人間へと戻る

──しかしまた一瞬の内に兵隊へと変異する

 

「相手にしててもきりがねぇ!!

 ──雄飛!!ラスト!!先に行け!!」

 

振り上げられた槍を避け

その腹に膝打ちをしながら翔がそう言い放つ

 

「!──任せた!!」

 

それを聞いたラストが、兵隊など相手にしていられないとばかりに

引き剥がして駆けだす

 

「すぐに終わらせるから!!」

 

雄飛もそれに続いて奥の居城へと駆けだした

 

「さ、てと・・・」

 

それを見送った翔は

群がった兵隊たちを振りほどいてディスクを取りだす

 

「変身!!」

 

GREATEST HITS(グレイテスト・ヒッツ)!!!』

FOREVER(フォーエバー)!!』

MILLION SOUND(ミリオンサウンド)!!!』

 

BEST MEMBERS(ベストメンバーズ)!! 』

『 1! 2! 3!』

 

4人の仮面ライダーサウンドが兵隊たちの前にして立つ

 

「千客万来・・・いいねぇ!!

 相手してやる!!」

 

その一言で火蓋を切り

4人のサウンドは多勢に無勢もありすぎる

兵隊たちに突撃した

 

 

 

「クイーン!!どこだ!!」

 

居城の目の前までたどり着いたラストが吠える

 

「これは・・・」

 

雄飛は突入しようと試みてその城を眺め見た

 

城とは言ったがその様相だけで、入口らしき場所も見られない

──立てこもるつもりか

 

「ならば・・・!」

 

火を持ってあぶり出してやろうと

チケットを握る

 

「──変身!!」

 

Last UP(ラスト アップ)

『What The Fire Showed Was All Illusions』

『MIRAGE TORCH』

 

「ラスト!?」

「はぁ!!!」

 

グリップが火を噴き、城丸ごとを焼き尽くそうと試みる

しかし──

 

「!?」

 

たぎる炎は茨で出来た城壁の表面を焦がして消えていく

 

「固い・・・!?」

 

その強固さに驚愕する

 

「くっユウヒ!!手伝え!!」

「──その前に!」

 

雄飛が城のその様相を眺めていく

 

──あった

 

西洋風の城のその塀の上に

一風似合わない物体を見つける

 

それは、一本の木であった

腐れ崩れた林檎のなった一本の木

 

そして、そこからは

おびただしい量の煙が湧き出して

丘の下へ下へと流れ出している

 

「まずは、この兵隊化の被害を止めなきゃ」

 

野獣と幻想的な夜(Phantasic Night Of Beast)

 

変身した仮面ライダーアクトが

ブレイガンを取りだし、その銃口を木に向ける

 

『BEST SHOT!!』

 

弾丸が唸りを上げて、木へと迫る

 

そしてその目標を吹き飛ばす──

 

『邪魔よ』

 

弾丸が弾き飛ばされる

 

「「クイーン!!」」

 

茨を纏った女王の姿をした怪人が

城からその姿を現す

 

 

『仮面ライダー・・・邪魔しないでくれる?』

 

「その悪趣味な煙を止めるなら、話は聞いてやるよ・・・!」

 

見るからに不愉快といった雰囲気のクイーンに

アクトがそう言い放つ

 

『あら、なんで私がそんなことしなくちゃならないの?』

「・・・だったら・・・!」

 

通るはずもない交渉などそうそうに取りやめ

アクトともはや今にも飛び出しそうなラストが

それぞれの武器を構える

 

『フン』

 

その時

 

城から、また巨大な茨の鞭が生えだし

その巨大な鞭を2人に目掛け振り降ろした──

 

「何!?・・・ぐぁああ!!」

「あぶない!!」

 

意表を突くようなその反撃に2人が吹き飛ばされる

それだけでは終わらない

 

一度知覚した、その2人に対して

次から次へと鞭の攻撃が振り下ろされ始める

 

「っく!」

 

そして立て直した2人が

迫りくる連撃を間一髪のところで避けていく

 

『さっさと潰れた方が楽よ?』

 

「誰が・・!」

 

ラストがグリップを振りかぶり

巨大な炎弾を放つ

 

『さっきもやってたでしょ?無駄よ』

 

そんな炎を叩きつぶさんとばかりに

鞭がしなりを上げて振り下ろされる

 

「どうかな・・・!」

 

拡大(ビッグ)』『Select(セレクト)

 

ここで、アクトが動いた

杖を叩いた瞬間に、鞭に迫る炎弾の前に魔法陣が現れる

 

そこを通過した瞬間

炎はさらに巨大になり

茨を一息に飲み込んで、燃やし尽くした

 

「よし!!」

「余計な真似を・・・!」

 

『ふうん・・・』

 

そんな反撃を喰らったクイーンは

 

『・・・良いわ、くつろぐ真似も飽きてきたことだし』

 

ここに、動くことを決めた

 

『私は、もう全部を好きにできる』

 

城の形をしていた茨の全てが

クイーンへと集い始める

 

『一人で何でもできるの』

 

「!?・・・何だ」

「変わって・・・いく・・・?」

 

集いだした茨たちはクイーンを再び集い

何かに姿を変えていく

 

『だから・・・』

 

鋭い爪を備えた巨大な四肢を持つ体

太く長い尾

まるで蝙蝠のような巨大な羽の形

長い首の先に獰猛な顔

 

『自分で、邪魔者を殺すの』

 

茨で形作られた

まるでおとぎ話の中から飛び出したかのような

 

「──(ドラゴン)?」

 

巨大な竜へと、クイーンは姿を変えたのだった

 

 

 

『GOOO!!』

 

その巨大な体が動いたと思った瞬間

既に、目の前にその竜は存在しなかった

 

「ぐぁ──!?」

 

「!?──ラスト!」

 

アクトの隣から大きな風が巻き起こったかと思えば

隣のラストもまた、その姿がなくなる

 

周りを見てもどこにもいない

いや、何かが羽ばたく音だけが響いた

──真上からだ

 

「──上!?」

 

上空を仰ぐ

 

茨で出来た翼などという、冗談のような代物のくせをして

クイーンは、確かに上空を飛行していた

 

「ぐああああ!!」

 

その強靭な顎に、ラストを咥えて

 

顎が、咥えた異物を何度も嚙み込む

ライダーのアーマーを削りきしむ音を響かせて

 

そして、気が済んだと言わんばかりに

咥えたラストを空中へと放り捨てた

 

「!?──不味い!」

 

あのダメージでは受け身など無理だ

 

転送(ワープ)』『Select(セレクト)

 

放り捨てられたラストを受け止めるように魔法陣を展開する

陣を通ったラストは、自由落下を始める前に

地面へと放り出された

 

「ラスト!!」

 

アクトが彼へと駆けだす

変身が解けたその姿は、いたるところから血を流し

見るも痛ましい

 

『フフフ・・・アハハハハ・・・!!』

 

上空から大きな笑い声が聞こえる

 

『これよ!!この力!!

 刃向かう者なんて自分で叩き潰せる力!!』

 

『そうよ!誰の助けももういらない!!もういらないわ!!』

 

自分の力に酔ったようにそう笑いを上げ

嬉しそうに飛び回る

 

「く・・・そぅ・・・」

「ラスト!」

 

そんな笑い声に意識を呼び起こされたのか

ラストが声を震わせながら、嗚咽を漏らす

 

「私が・・・倒さなければ・・・」

「無茶するな!ここで休んで・・・」

 

そして、まだ立ち上がろうとする

体を静止する

 

()()()()()・・・いけないのに・・!」

「!?・・・ラスト」

 

大粒の涙をこぼしながら

ラストは悔しそうに気持ちを吐露する

 

「身内の恥すら、止められない・・・!」

 

それを聞いて、雄飛はどこか安堵していた

 

──彼は、ただ怒り狂ってたわけではないのだ

ただ、自分の雪辱を晴らすためだけに戦っていたのではないのだ

 

兵隊のように、自分よりもひどい傀儡へと変えられた人のために

 

そして、それは

かつてあれを母と呼んだ自分がつけるべきだと

そう思って励んでいたのだ

 

「私には、その力が無い・・・!」

 

それでも、その力が及ばないことに

ラストは涙をしていた

 

「──いや、倒せるよ」

 

それが分かったからこそ、アクトはそう声をかける

任せろ、ではなく

彼は倒せるとそう告げる

一人で届かない時

そのための、仲間である

 

──道は、自分が切り開けばいい

 

「──?」

「ラストは、あいつを倒すよ・・・

 ()()なら助けられるさ!」

 

そういうと、ラストを置いて

アクトが立ち上がる

 

「チャンスなら、俺がいくらでも作ってやる!」

 

杖を叩く

 

飛行(フライ)』『Select(セレクト)

 

体を浮遊感が包みこむ

そして、上空を悠々と泳ぐ

緑色の竜目掛けて飛び出した

 

 

「──私は・・・倒せる」

 

その姿を眺め

言われた言葉を飲み込んでいく

 

自分は、奴に勝てる

 

このボロボロの体を見て、何を根拠に

そんなことを言ったのかは分からなかった

 

──それでも

飛んでいく男の

──仲間の姿を見ると

じっとしてはいられなかった

 

「・・・」

 

傷が痛んで満足に動かない足を引きずり

自分と一緒に転がったグリップへ手を伸ばす

 

「──変身・・!」

 

 

ああ、いい気持ちだ

 

上空を飛び、風を切る感覚を味わいながら

クイーンはとてもいい気分であった

 

 

──世界は、敵が多い

好き勝手出来ない、いろんなものでがんじがらめだった

 

そのくせ、災いだけは向こうから飛び込んでくる

 

だから

──男に媚びた、そうすれば守ってもらえた

よかったけれど

毎回毎回求められて、応えるのが面倒だった

 

──子をおだてた、そうすれば守ってもらえた

よかったけれど

ずうっと付きまとうのが面倒だった

 

結局、他人に頼っても

ずっと好き勝手出来るわけじゃあなかった

 

だから、力を手に入れることにした

 

『ああ、もう全部できる

 私の思うがまま!!力のまま!!』

 

()()は傀儡にして働かせる

()()は力で黙らせる

 

こうすれば、ずっと私は好きに生きられる

 

『さぁ・・・それじゃあもっと増やしましょう』

 

宙のその体に、一本の木が生える

またおぞましい煙が漏れ始める

 

──このまま飛び交って、もっと兵隊を増やしてしまおう

 

そうして飛び立とうとした時

 

「はぁあああ!!」

 

予想外だった

 

杖を振りかぶり

自分へと殴り掛かった害が、飛んできた

 

 

 

『くっ』

 

身を翻し、クイーンがその殴打を避ける

 

『まだ邪魔をするの?』

「当たり前だろ」

 

『だったら・・・!』

 

竜のその口が大きく開く

その喉奥から、湧き立つ何かが見えた瞬間

 

『消えろ!!』

 

緑色したおどろしい炎がアクトへと放たれた

 

「っ火まで吹けんのか!?」

 

迫る炎を避けながら杖を叩く

爪跡(スクラッチ)』『Select(セレクト)

 

火を掻い潜りながらその体に近づき

通り際に引っ掻く

 

ブツリと、一か所の茨が千切れるが

一瞬でまた埋まりゆく

 

「っ固い」

 

『うらぁ!!』

 

クイーンがその身を翻す

瞬間、その太い尾がアクトへ叩き込まれた

 

「がっ」

 

強烈に叩かれたアクトが地面へと一直線に吹き飛ぶ

 

転送(ワープ)』『Select(セレクト)

 

クイーンの背に衝撃が走る

 

吹き飛んだはずのアクトが自分の背後にいきなり現れ

そして杖を叩き込んだのだ

 

『うっとうしい!!』

 

クイーンがその鋭い爪を振るう

しかし、さすがに巨躯が仇となり

大振りの攻撃をアクトは飛び交って避ける

 

『くっ』

「今だ!」

 

発光(ライト)』『Select(セレクト)

 

そうして一瞬の隙を突いて、クイーンの目の前に飛び出したアクトは

手に持つ杖を突き出し

巨大な閃光を放つ

 

『ぐぁ!?』

 

隙ができた

今なら──

 

その時

真下から風を切り何かが飛来する

 

あれは──槍!?

 

「!?」

 

自分目がけて飛来する槍だ

あわや当たるといったところでアクトは大きく体制を崩しながらそれを避ける

 

「っ兵隊!?」

 

下を見やれば、彼女の力で変えられた兵隊が

手にした槍を自分目がけて次々を放り投げていた

 

──サウンドでもカバーしきれていない奴らか

 

次々に繰り出される槍がアクトに飛来する

 

「くっ」

(ファイア)』『Select(セレクト)

 

アクトも負けじと火炎を放ち

地面の兵隊を薙ぎ払う

しかし、倒した次の瞬間また兵隊が湧いてくる

やはり、きりがない

凄まじい量の槍、さすがに回避で手いっぱいになってしまう

 

『これで終わりね』

「!?」

 

そして、それを見てクイーンがほくそ笑む

大きく口を開け、膨大な火炎を口へと溜めていく

 

避ける場所など与えないというのか

 

 

──不味い、避けきれ・・?

 

「──。」

(ファイア)』『Select(セレクト)

 

アクトが再度地面に目掛け火炎を放つ

 

──愚かな、何度やっても無駄だというのに

いいだろう、燃え尽きるが良い

 

『消え』

 

クイーンが火炎を放とうとしたその時

一筋の光が走る

 

それは、矢であった

上空を走る矢は、一直線に飛来し

 

そうして、クイーンの体に生える木

それを一息に、貫き折った

 

『な、に・・・!?』

 

アクトが放った火炎が兵隊を飲み込む

兵隊が人に戻っていき──

 

()()()()()()()()()()()

 

『バカな・・!?』

 

へし折れた木が地に落ちる前にチリとなって消える

辺りを漂っていたおぞましい煙が、どんどん晴れていく

 

彼女の能力の急所、無限の兵隊が今打ち破られていた

 

『誰が・・・!』

 

飛来した矢の方角を見やる

そこには・・・

 

 

 

「────人形遊びは、()()()()()

 

 

弓と化したグリップを握り

ふらつきながらも、しっかりと立ち上がり

弓を引く、仮面ライダーラストの姿があった

 

 

『──愚図がぁ!!』

 

怒りのまま奴の元へ飛来しようと翼を翻す

しかし──

 

拡大(ビッグ)』『Select(セレクト)

 

その、自分の体を同じくらいに巨大な手が掴み込んだ

 

『なっ』

「どこ行く・・・気だぁ!!」

 

普通の茨の棘よりもずっと鋭利な棘が、手に食い込む

そんな痛みなどお構いなしに

アクトは掴んだクイーンを

全力で、地面に向けて放り投げた

 

『ぐあああああ!!!』

 

背中から猛スピードで墜落したクイーンが、地面を滑る

 

『おのれぇ・・!?』

 

すぐさま体制を立て直して飛び立とうとクイーンは顔を上げる

しかし、それは間に合わなかった

見上げた目に、それは写る

 

(ファイア)

追加(プラス)!』

追加(プラス)!!』

追加(プラス)!!!』

 

 

BEST SELECTION(ベストセレクション)!!!!』

 

上空に、数十人のアクトが火を纏った脚を構える

そしてその全員が一斉に地に倒れるクイーンの

その竜の腹目掛けて降り注いだ

 

「だあああああああ!!!!」

『ぐ、ぐああああああ!!!!!』

 

 

まるで銃弾爆撃のような連続の衝撃がクイーンに襲い掛かる

 

10や20では足らない、大量のキックが

竜の腹の茨をどんどん引き裂いていく

再生など間に合わせない、彼女を包む壁を全て破壊していく

 

「だっあああああ!!!」

 

最後の一発が、叩き込まれる

分厚い竜の腹に巨大な穴が開く

 

そしてその中に、女王の姿をした怪人のが現れた

核となる彼女は、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『ハ・・ハハハハ!!一歩足りなかったわねぇ!!』

 

そう、アクトのキックは今の一発で最後である

彼女の再生も、アクトが次の必殺技を放つ前にその防御を元通りにするだろう

 

『無駄よ!私には届かなかったわ!!』

 

そう、彼女は高笑う

見晴らしの良くなった竜の腹の中から

 

そして、見晴らしがよくなったからこそ

彼女はその場所を真っすぐ見据えた

 

そう、自分の真正面、はるか彼方に

 

 

「おしまいだ・・・クイーン・・・!」

 

力強く、こちらに向けて弓を引き絞る

ラストの姿を

 

『あ・・・あああああ!!!』

「貴様を倒し、皆を救う!!」

 

BEST END(ベストエンド)

 

そして、凄まじいスパークを放ち、力を蓄えられた矢は

ラストの元から解き放たれた

 

凄まじい速度で、矢は一直線に飛び行き

そして、避ける間など一切も与えずに

 

 

クイーンのその体を、貫いた

 

 

 

 

『ぐ・・・ああああああ・・・!!!!』

 

茨の竜が苦しそうに悶え、暴れ出す

次の瞬間には、全身から緑色の炎が立ち上がり

たちまち燃え尽きていった

 

そうして、焼け跡には

 

『ぐ、ううう・・・!』

 

ボロボロになった人間の姿をしたクイーンが倒れ込んでいた

 

「終わりだ・・・クイーン」

 

その姿を見て、アクトがそう投げつける

 

『まだよ・・・!』

 

しかし、その言葉を聞いてもクイーンは止まることはない

震える脚で、立ち上がりアクトに相対する

 

『私は──!!!』

 

『ああ、()()()()()()()()()()()

「!?」

 

 

突如として、この別の人物の声が戦場に響く

アクトはその声に振り返る

 

次の瞬間、何かが自分に向けて投げつけられた

 

「ぐぅ・・!」

「ラスト・・・!?っうわ!!?」

 

ボロボロのラストが、目の前に投げつけられ

咄嗟にキャッチする

 

その瞬間、隙を狙って

凄まじい勢いの攻撃がアクトに襲い掛かった

 

為すすべなく、それを喰らったアクトは

ラストもろとも吹き飛ばされ

そして、変身が解除される

 

さらに、その攻撃はドライバーを狙っていたのだろうか

変身解除の表紙に、ドライバーに刺さったチケットが

『Night Of Beast』のチケットが吹き飛んだ

 

チケットは、まるで吸い込まれるかのように

乱入した者へと飛んでいき

そうして、ブルーの手に収まった

 

「ブルー・・・!!」

『これで、94枚』

 

ストーリーテラー、ブルーがチケットを奪い取りそこに立っていた

その背後には、どうやって運んだのか

大量のチケットがはめ込まれた巨大な装置と

その装置に大量のケーブルでつながれた

・・・一枚のチケット?

 

『そして・・・これで97枚だ』

 

そう言うと、彼はさらに3枚のチケットを広げだす

『BUBBLE MERMAID』『STATUE OF HAPPINESS』『MIRAGE TORCH』

ラストのチケットである

 

こちらが保持していた、テラーのチケットが全て奪われた

 

『ブルー・・・何しに・・・!』

『何って・・・君を迎えに来たんだ』

 

そう言うと、クイーンを立ち上がらせる

 

『これで必要数は揃った・・・あとは君の3枚だ

 ・・・・さぁ、渡してくれ』

 

『ふざけるな!!・・・これは、私の力・・・!!』

 

ブルーの手を払いのけ、クイーンが反抗の意志を見せる

 

 

『ああ、・・・そうだろうと思ったよ』

 

しかし、その反抗は予想通りだと言うブルーは

ゆっくりと、手元の4枚のチケットを装置に差し込んでいく

 

『だから・・・』

 

4枚目を装填した

 

『君は外す必要はない、()()()()()()()()()()()()

『え・・・!?』

 

その瞬間、装置に異変が起こる

まるで、ケーブルが意思を持ったのかのように

動き出し、クイーン目掛けて伸びだした

 

『ひっ・・・な、何を!?』

 

伸びたケーブルが、クイーンを縛り上げる

そして・・・ゆっくりと、しかし確かに

クイーンを装置目掛け引きづりだす

 

『や!・・・待って!!』

『止めて!!!止めてよお!!』

 

クイーンが必死に踏ん張るも

ケーブルは彼女をどんどん引っ張っていく

 

『嫌!!いやああああああ!!!!!』

 

 

「・・・。」

「・・・。」

 

雄飛とラストの2人はその様子を唖然としてみることしかできない

 

 

そして、クイーンは

抵抗も虚しく、装置へと引きずり込まれる

まるでケーブルが彼女を飲み込むように包みこんだと思えば

次の瞬間には、そこに彼女の姿は存在していなかった

 

『さようなら、クイーン

 ・・・縁があれば、また。』

 

ブルーは、冷たくそう言い放つと

装置に繋がれた、チケットを取り外す

 

ビリビリとスパークを放ちながら

チケットは姿を変え、

やがて神々しさすら感じる、重厚な意匠へとその姿を変えた

 

『さぁ、これで準備はできた

 チケットと・・・・演者だ』

 

そういうとブルーの手元に一人の人間が現れる

その人物は──

 

「っ大吾さん!!」

 

そう、行方がくらんだ

いや、連れ去られた風間大吾であった

 

手で吊り上げた眠ったままの大吾と

チケットを握ってブルーは話始める

 

『これで、神を呼ぶ準備は整った・・!』

「神・・・・?一体何を・・・!」

 

『──この世に神はいない

 どれだけ神秘的なものが存在しようと、世界中の何処にも存在しない』

 

『だが、物語の中は別だ』

『偶像の中に、神は確かに存在している』

 

『ならばどうする?

 ──簡単だ、()()()()()()()()()()()

 

『広大な、物語の中の風景』

『そして、100体の物語の中の住人(キャラクター)

 

()()()()()()()()この世界は既に

 物語の世界と言っても、過言ではなくなっているのだよ』

 

 

『さぁ、準備は整ったぁ!!』

『ようやくだ!!これで!!

 機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)は降臨する!!』

 

感極まったかのような声を上げ

ブルーはチケットを起動する

 

機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)

 

「っさせるかぁあ!!」

 

『MASKED RIDER』

風は、戦士を呼んだ(Wind called the Warrior)

 

仮面ライダーアクトが、起動したチケットを握るブルー目掛け飛び掛かる

BEST ACTION(ベスト アクション)

 

「大吾さんを!!離せええええ!!!!」

 

ライダーキックがブルー目掛けて放たれた

 

『遅かったな』

 

しかし、そのライダーキックは

ブルーに当たる直前

まるで、バリアのような何かが突然彼を覆い込み

 

それに阻まれて、アクトは弾き飛ばされた

 

「ぐ・・・ああああ!?」

 

変身が解除され、雄飛は地面を転がる

そして、ブルーは

アクトに邪魔されることなく

 

起動したチケットを、大吾へと差し込んだ

 

 

 

大吾の体が光に包まれる

そして、次の瞬間凄まじい衝撃が辺り一面を吹き飛ばした

 

凄まじい風圧が

雄飛とラスト・・・そして、ブルーまでをも

大吾の近くから弾き飛ばす

 

 

機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)

 

 

風圧と光が徐々に収まっていく

そして、全てが収まった場所には

 

一人の人影が立っていた

 

 

それは、神々しい金色の体、天使のような羽の意匠と

まるで時計細工のように数多くの歯車が美しくかみ合ったような意匠を持つ

そんな、謎の怪人であった

 

 

 

続く




次回 仮面ライダーアクト

目覚めてしまった神
『ははは!!素晴らしい!!まさに何でもありだ!!』

大吾を救い出せるか
「二回も奪われて!!たまるもんですか!!」

『これは、混物(キメラ)・・・いや化物(モンステラ)・・・か』

第31章[変わる世界]


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第31章~変わる世界~

「おらあああ!!!」

 

仮面ライダーサウンドの一撃が

群がった兵隊たちを一気に薙ぎ払う

 

立ち上がる爆炎、しかし油断はできない

クイーンが健在の間は、こいつらはいくらでも蘇ってくるのだから

 

「・・・?」

 

爆炎が鎮火していく

横たわった人々が、その姿を現し

そうして、また怪人へと姿を変えることなく倒れている

 

「!・・・・やったか!」

 

残った兵隊たちも一挙に切り払い

その全員を人間の姿へと戻していく

 

そうして、その姿が二度と変わることがないことに

クイーンのその能力が消え去ったことを確信する

 

もう、無限の軍隊に悩まされる心配はない

──ならば

 

「俺も向こうにさっさと・・・!?」

 

敵がいなくなったのであればここに居座る理由はもうない

速いところ、雄飛達に合流を・・・

 

そう思考した瞬間

足元からの凄まじい熱気を感じた

 

咄嗟にその場を飛びのく

先程まで自分が立っていたその地面から

凄まじい勢いの火柱が立ち上がった

 

「!?・・・てめぇ・・!」

『避けたか・・・』

 

そして現れる気配

熱気と共に、まるで炎そのもののような怪人が姿を現す

 

「サン!!」

 

その男を見た瞬間、サウンドは槍を握りしめて切り掛かる

振り下ろされる斬撃を

燃えるその手で受け止めたサンは、不敵に笑う

 

『悪いが、もう少しここにいてもらう

 ・・・チケットに関係のないお前がいると邪魔なんでな・・!』

「なっ・・・!?」

 

そう言って、燃える拳をサウンドの腹に叩き込んだ

 

「──くっ・・・なろぉ!!」

BEST MEMBERS(ベストメンバーズ)!! 』

『 1! 2! 3!』

 

「おらぁ!!」

『!?』

 

サウンドのドライバーが音声を放った瞬間

サンの真横から突然、もう一人がサウンドが槍を振りかぶって現れる

不意を突くその攻撃に驚愕しながらも

振り下ろされた槍を回避してその拳で迎撃する

 

さらに目の前にいたサウンドも加わり

2人がかりでサンを攻め立てる

同じ人間だからこその息の合ったコンビネーションの連撃を

捌きながらサンが迎撃する

 

「後ろだぁ!!」

『ぐぅ!?』

 

2人を迎撃したその瞬間

さらにもう一人のサウンドが、背後から

ボウガンを発射しながら突撃する

 

さすがに3人目のその攻撃に対応しきれず

サンのその背に弾丸が一挙に突き刺さる

 

その衝撃に足元がふらつく

 

「もういっちょぉ!!」

 

さらにそこに畳みかけるが如く

4人目のラストが、さらにサンの横から手にした槍を振るい

サンのその体を一気に突き飛ばした

 

「これで・・・!!」

 

吹き飛ばしたサンにさらなる追撃を与えようと

4人のラストが並び立つ

 

しかし──

 

遠い向こうから

凄まじい地響きの音

そして、凄まじい光が放たれた

 

「!?・・・何だ?」

 

『来たかぁ・・!』

 

待っていたと言わんばかりにサンが勢いよく立ち上がる

そして

 

『ハハ!!』

 

光の方へ向けて、猛スピードで飛び立つのであった

 

「っ!」

 

それを見たサウンド

ただ事ではない──そう感じた彼もまた

サンを追いかける形で

光の下へひた走った

 

 

 

「ぐぁ!」

 

吹き飛ばされたアクトが地面に落ちる

凄まじい光の奔流が収まっていく

 

『おお・・・これが・・・これこそが・・・』

 

機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)

 

立っていたのは金色の体、歯車に天使のような羽の意匠と持った謎の怪人

『神の誕生だ・・・!』

 

ストーリーテラー達が神と呼び、渇望していた存在が

今ここに誕生してしまっていた

 

『・・・。』

 

神と呼ばれた存在は、何もしゃべらず、何もせずただ立っている

まるで何の意思もないのかのように

 

アクトが立ち上がる

 

・・・むざむざと、敵の目的を達成させてしまった

しかし、そのことを悔いている暇はない

 

──今は、神と呼ばれたあれをどうにかして打破しなければ

 

その時だ

 

ザザザと自分達の周りからいくつもの音が響く

 

「!?・・これは」

 

見やれば、ブルーたちも含む自分達の周りを

何者かが取り囲んでいた

 

それは、クイーンの置き土産

兵隊と化して、今だそれが解けていない

大量に残された兵隊たちであった

 

「まだ、こんなに・・!」

 

そして、その目には何も自分達だけが写っていたわけではない

近しい物を優先して、狙っている

そう、ブルーとデウスエクスマキナをもだ

 

統率者を失った彼らは、もはや見境もなく

目の前の誰かに襲い掛かろうとしている

 

『ほぉ・・・良い機会じゃないか』

 

ブルーはそう言うと、デウスエクスマキナへとその手を肩に置く

 

『デウス・・・その力を私に見せてくれ・・!』

 

ブルーの命に従ったのか、

はたまた自分を取り囲む敵意に気が付いたのか

 

デウスエクスマキナのその顔が、今起き上がった

その手を、空中へと向ける

 

次の瞬間、先ほどまで快晴であった空に

無数の分厚い雲が現れていく

 

 

”そんな時、突如凄まじい落雷が降り注ぎ

 あらゆるものを薙ぎ払いました。”

 

そんな、無機質な言葉が聞こえたかと思った瞬間

 

──光が降り注いだ

 

 

雲は雨雲を経て雷雲へと変わり

そうして凄まじい量の雷が降り注ぎ始める

 

膨大は雷光は、彼らの周りに取り囲む

兵隊を一気に飲み込み、焼き尽くしていく

 

そして、その雷撃の標的は兵隊たちだけには収まらない

アクトの頭上の雷雲も、嫌な唸りを上げていく

 

「っ!・・・ラスト!!」

 

自分の背後には動けそうにないラスト

彼を抱えて逃げ出そうとした瞬間

 

雷光が落ちる

 

落ちた雷撃が、彼らの傍の地面をめくりあげて爆発を起こす

直撃こそ避けたものの、2人はその爆風を受けて会えなく吹き飛んだ

 

変身が解除された雄飛とラストが地面に倒れ伏せる

 

「ぐ・・・あっ・・・」

 

落雷が止み、雲が晴れていく

周りには人に戻り、倒れ伏せる人々

終わった後には、デウスと

そのすぐそばにいたブルーだけがそこに立っていた

 

『ははは!!素晴らしい!!まさに何でもありだ!!』

 

その光景を見て、ブルーが歓声を上げる

想像以上のその力を見せたデウスを称える

 

そんな場所に、熱気を放ちながら影が降り立つ

 

『上手くいったようだな』

『ああ、・・・時間稼ぎご苦労』

 

サンが、デウスのその姿を見て作戦の成功を悟る

それならば、ここにもう用はない

 

──いや

 

『これで、もうこいつらも用済みかぁ?』

 

もう一つ、とっておきの物が残っていた

その手に火球を生み出し、雄飛とラストを見やる

 

「!?・・・ぐっ」

『もうお預けはなしでいいんだよなぁ!?』

 

殺意を持って、生身の雄飛とラストに巨大な炎が放たれた

 

──避けられない!

 

ダメージに身動きのとれない二人は

その炎が自分達を焼き尽くすのを待つことしかできない

 

絶体絶命のその時──

 

「ふんぁ!!」

 

割って入ったサウンドが炎を受け止め、吹き飛ばした

 

『なっ』

「やらせっかよ!!」

 

かき消したサウンドの背後から

3つの影が、彼を飛び越えてサンへと飛び掛かる

 

3人のサウンドが、サンに鬼気迫る気迫で槍を振るう

 

雄飛とラストをようやく殺せることに浮かれていたのだろう

虚を突かれた彼はその攻撃を咄嗟に防ぐ

1撃を左腕で、2撃目を右手で

しかし、3撃目には届かなかった

 

槍の穂先が、サンの顔面その左側を切り裂いた

 

『ぐ、うおおおおお!!?』

 

手で左目を抑えながらサンが後ずさる

次の瞬間、傷口から赤黒い煙が立ち始めた

 

炎で出来た体が、傷を火で埋めていく

溢れた血が、火で炙られて煙を吹いていた

 

『ぐおおおお・・・・ふ・・・はははは!!

 やるじゃねぇか!!』

 

けれど、その痛みすら楽しいと言わんばかりに

まるでため込んでいた気持ちを吐き出すように

サンは楽しそうにしていた

 

『サン・・・今日はそこまでにしておけ』

『あん・・・?』

 

その様子を見て、ヒートアップしてきたサンをブルーは静止する

 

『・・・悪いが、時間切れだ

 どうやら、まだ慣れていないらしい』

 

そうして、ブルーが示した先には

 

『・・・・っ。』

 

先程とは違い、体から漏電を始めるデウスの姿があった

どうやら、先ほどの落雷を生んだ負担があったようだ

 

『・・・しかたないか・・・。』

 

そう言い残して、3人の怪人達が姿を消し去った

 

 

「・・・!雄飛、ラスト!!無事か!!?」

 

変身を解いた翔が2人に駆け寄る

 

「・・・っハー・・・なんとかね」

 

そんな彼に雄飛は、一応の無事を伝えながら

しかしその内心は穏やかではなかった

 

「(・・・なんて、力だ)」

 

神と呼ばれた、あの怪人の

その力の片鱗が生み出した惨状が

 

嫌というほど、目に入り込んでいた

 

 

 

喫茶「テアトロ」──

 

「そんな・・・大吾が・・・」

 

帰還して、これまでの経緯を話す

クイーンの撃破

デウスエクスマキナの誕生

そして、大吾さんがその依り代となってしまったことを

 

浩司さんは、ショックを隠せないという様子で座り込んでしまった

仕方がない、ようやく奪い返したというのに

またも、テラーとの戦いに巻き込まれてしまったのだ

 

助けられなかった自分にも責任がある

しかし、浩司さんは気丈にも自分達が頭を下げることを許さなかった

 

「いや、奪われた時点で私たち全員の責任だ

 ・・・君たちだけのせいじゃない」

 

拳を強く握りしめながら、浩司さんはどうすべきか考えだした

 

「・・・。」

 

そして、もう一人、

話を聞いて俯いたままの人が、一人

 

「アンナ・・・」

 

ラストが、その姿に心配そうに杏奈さんに声をかける

 

──彼女にとっては、父親がまたも怪人にされてしまったのだ

不甲斐ない自分に、怒りを感じつつ

杏奈さんが、自分達に怒りを向けることすら覚悟していた

 

「・・・よし!!」

「うわ!」

 

その時、杏奈さんが突然席を勢いよく立ちあがる

そして、入口へとズンズンと歩いていく

 

「あ、杏奈さん・・?」

「どこに・・・?」

 

話の途中で一体どこに行こうというのか

 

「決まってるでしょ!!」

 

振り返りながら、大きな声で力強く言い放つ

 

「お父さんを助けによ!!!」

 

・・・。

 

「お父さんが、その神様にされちゃったんでしょ!

 ・・・相手も状態も分かってる!!」

「だったら助け出すだけじゃない!!」

 

「二回も奪われて!!たまるもんですか!!」

 

──強い人だと思う

彼女は悲しみを乗り越えて既に立ち上がっていた

 

「うん、そうだな・・・その通りだ」

 

自分達も席を立つ

とにかく、まずはデウスを止めて大吾さんを取り戻さなければ

 

ならばやるべきなのはとにかく探し回ることだ

 

「・・・皆」

「大木さん?」

 

そうして店を出る前

大木さんがこちらに一つ忠告を告げる

 

「敵は神をデウス・エクス・マキナと呼んだんだね?」

「え?・・ええはい」

 

「・・・だとするのなら急いだほうがいい」

「僕の予想が、正しければ

 その神が十全に動くようになったら」

「・・・きっと、取り返しがつかなくなる」

 

 

 

薄がりの中、一つの影が佇んでいた

 

『・・・。』

 

デウスと呼ばれた神は、体のところどころから

無理したことを示すかの如く、漏電を放っている

 

『あれ、大丈夫なのか・・・』

『問題ない・・・時期に収まるだろう』

 

ブルーはそう告げた

まぁ、さほど心配などしてはいなかったのだが

 

『しかし・・・』

『なんだ?』

 

『どうして、風間大吾などを?

 ・・・器なら、何ならそのままクイーンを使ってやればよかっただろう』

 

その人選に、サンは疑問を抱いていた

わざわざ奪ってきてまで使う人物だったのかと

 

『・・・()()()()()()()

『?』

 

『強力な意思があれば、

 チケットの意志をはねのけることが可能だということは

 我々が示している』

『神を動かすために、雑念は不要だった』

 

『その点で、現状はほとんど空の器であった

 この男は都合が良かったのだ』

 

代わりに、神自体は目覚めが不完全になってしまったが

とそう結論付けて

ブルーは、デウスへと近づく

 

『・・・。』

 

負荷が解消されたのか、また何もせずただただ楽に立ち尽くしていた

そんなデウスの耳元に、ブルーは近づく

 

『~~~~』

 

そして、何かを伝えたようだ

・・・・。

 

しかし、何も起こらない

 

『・・・やはり、思う通りに動くわけではないか』

 

そうして、デウスを引き連れて

ブルーが外へと向かいだす

 

『?・・・どこへ?』

『慣らしだ・・・神を目覚めさせるためのな』

 

 

 

『さぁ・・・デウス』

 

外に向かったブルーは、デウスに対し語り掛ける

 

『この世界には、命が少ないとは思わないか?』

 

正確には、ブルーは神に対して命令権を持っているわけではない

だが、神の選択を誘導することは可能であった

 

その手に、3枚のチケットを取りだす

既に、神を呼びだし、役目を終えたチケットたちだ

"狼"と"亀"と"カエル"のチケットであった

 

デウスの目が鈍く光る

その瞬間、ブルーの手のチケットが空中へ浮かび上がった

 

チケットに淡く光り

そして、粒上の光りがあふれ出していく

 

3種類のそれは、混ざり合い

そして、人の形を作り上げていった

 

『素晴らしい、人間(素体)すら不要か・・・!』

 

そう、人を使わずに

デウスは、その力のみでそこに個を産み出していた

 

やがて人の形の光が

正確な形を持ち出していく

 

それは、怪人であった

狼のような鋭い爪、牙

亀のような堅い殻を持った腕

蛙のような力強い足

 

それらを混ぜ合わせたかのような

この世には決して存在しない何かであった

 

『これは、混物(キメラ)・・・いや化物(モンステラ)・・・か』

 

産み出されたそれに名前を付ける

そうして、3人になった怪人達は

 

人々を脅かすために

行動を開始した

 

 

悲鳴が響き渡る

 

まるで3つの生物を無理やり混ぜ合わせたかのような化け物が

人に襲い掛かり、物を叩き壊している

 

そして、それを眺めながらブルーは次なる行動に移った

 

『この辺りには、自然足りないと思わないか・・?』

 

次の瞬間、デウスを中心に異変が起こる

その足元からコンクリートで舗装されていた道が

どんどんと自然豊かな草原へと姿を変えていく

 

──そう、楔が行っていたことを

デウスは行っていた

 

周りの人間は、その現実離れした光景に

理解が追いつかない

余りの出来事に、脚すら止めてしまう者もいた

 

そんな者たちは、化物(モンステラ)にとって格好の的であった

 

モンステラが、飛び掛かった

 

ズガガ、と

 

銃声が鳴り響く

飛び掛かったモンステラが銃弾を浴びて吹き飛んだ

 

『!?・・・速いな』

 

「見つけた・・・!」

 

3人の仮面ライダーと杏奈が

騒ぎを聞きつけ、駆け付けたのだ

 

「いくぞ・・・!」

「「あぁ」」

 

3人が一斉にチケットを取りだす

 

「「「変身!!」」」

 

Phantasic Night Of Beast(ファンタジックナイトオブビースト)!!』

MILLION SOUND(ミリオンサウンド)!!!』

BUBBLE MERMAID(バブル・マーメイド)

 

3人の仮面ライダーが、並び立ち

怪人達に立ちふさがった

 

『・・・。』

 

そんな3人の敵意に、気づいたデウスは

ブルーの言葉を待つことなく、手をかざす

 

”そんな時、巨大な竜巻が

 辺り一面を飲み込んでいきました。”

 

次の瞬間、巨大な竜巻が巻き起こります

竜巻は、凄まじいスピードでライダー達目掛け突き進んだ

 

「!・・・下がって!!」

 

その光景に、仮面ライダーアクトが打って出る

 

『MASKED RIDER The NEXT(ザ・ネクスト)

チケットを装填したCGスタッフを構え

そして、何度もそれを叩く

 

拡大(ビッグ)』『追加(プラス)』『追加(プラス)

BEST SELECTION(ベストセレクション)!!』

 

膨大な風が巻き起こり

迫る竜巻と激突する

 

凄まじい重圧が、アクトを襲う

一歩でも力を抜けば、押し負ける

そんな直感がひしひしと伝う

 

「ぐ、ううううう!!!」

 

それでも、踏ん張れども

少しずつ、押されていく

不味い、負け──?

 

その時、重圧が止んでいく

 

これは──?

 

竜巻が、どんどん止んでいき

さらに、森と化していた風景がどんどん元に戻っていく

 

見やれば、デウスの様子がおかしい

 

『・・・まだ、慣れないか』

 

デウスが、前回の雷撃の際と同じように

その負荷に耐えきれずに、体中から火をふいていた

 

『仕方ない、遊んでもらえ』

『!!!!!!』

 

そう、モンステラに告げると

ブルーはデウスを抱え飛び去っていく

 

「っ待て!!」

 

追いかけようとした3人

しかし、その目の前には

 

『!!!!!』

 

──化け物が陣取っていた

 

 

 

 

モンステラが、3人に飛び掛かる

 

鋭い爪の素早い一撃が、サウンドを突き飛ばした

 

アクトが横から杖を叩き込む

しかし、その攻撃は固い左腕に阻まれ通らない

そして、受け流すかのように滑らせて

体制を崩されたところに

爪の引き裂きが襲い掛かった

 

「ぐぁっ!?」

「なろぉ・・・!」

 

ラストが液状化する

そして、モンステラを飛び越え

ブルーを追いかけようと突き進む

 

しかし、モンステラはそれを見るや否や

右手を振るいあげる

 

モンステラのその右手がジンワリと湿っていく

そして、再度振るうと

数滴の雫が飛び散り

ラスト目掛けて飛んでいった

 

液体と化したラストは

それに構いなく進もうとする

 

しかし、その液体がラストの体に触れた瞬間

炸裂音と共に爆発を起こした

 

「な!?」

 

意表を突くその攻撃に

ラストが地を転がる

 

その隙に、ブルーはどんどん距離を引き剥がしていく

 

「くそっ!」

 

「・・・あれ、蛙の?」

「?知ってんのか」

 

「ああ、戦ったやつだよ

 ・・・それだけじゃない、あれは狼と亀だ」

 

それをもって、アクトが敵の正体に気が付く

これは、かつて自分が戦ったテラーの力を持っていると

 

──ならば

 

「特殊な力はない!!

 ・・・押し切れ!!」

「!・・・おう!!」

 

サウンドが突っ込む

振り上げた槍が、モンステラの腕で受け止められる

 

「気をつけろ!甲羅から火を噴くぞ!!」

「!?あぶね!!」

 

アクトの忠告の瞬間、防いだ甲羅から炎が上がる

その攻撃を避けつつ、サウンドはドライバーを叩いた

 

BEST MEMBERS(ベストメンバーズ)!! 』

 

モンステラの背後から

2人のサウンドが現れ、槍でその背を切り払う

 

『!!!?』

 

驚愕したモンステラが、振り返りながら爪を振るう

しかし、そこにはもうだれもいない

 

「こっちだ!」

 

さらにその背後からサウンドがボウガンを放つ

策に乗ってしまったモンステラは無様にも

背に何発も弾丸を受けて吹き飛んだ

 

『!!!』

 

モンステラが怒りの形相を見せ

その手を湿らせる

そして、一気にしぶきを仮面ライダー達にぶちまける

 

『STATUE OF HAPPINESS』

「はぁ!!」

 

しかし、その雫が仮面ライダー達を焼くことは無かった

鳥型の矢が一挙に押し寄せ、

空中を飛ぶしぶきを、全て叩き落した

 

『!!!?』

 

それだけではない、さらに複数の矢が

飛び交い、モンステラの防御を掻い潜りながら

その体を射抜き、吹き飛ばした

 

アクトが走り込む

爪跡(スクラッチ)』『Select(セレクト)

 

モンステラの鋭い爪と

アクトの爪状のエネルギーを纏った腕がぶつかり合う

 

互いに攻撃を振り合い、避ける攻防が続く

その時、一手速くモンステラの攻撃が

アクトのその体を貫かんと差し出される

 

この距離、タイミング、回避は不可能

 

爪が、アクトの体を貫いた

貫通した腕が、アクトの背面からよく見える

──獲った

モンステラが、致命傷の確信を得る

 

そうして、引き抜こうとした時

腕が動かないことに気が付いた

 

『!!!?』

 

動かせない腕をよく見る

アクトの体を貫いて──!?

 

腕は、確かにアクトの腹から背に向かって伸びている

しかし、一つおかしな点があったとすれば

 

その腕が、途中で

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

転送(ワープ)』『Select(セレクト)

 

「はぁ!!」

 

アクトが腹に入口を、背に出口を配置した魔法陣から

モンステラの腕を引き抜く

そして、驚愕したその体に、拳を叩き込んだ

 

 

吹き飛んだモンステラ

仮面ライダー達が、止めを刺さんと行動を起こす

 

『MILLION!!』

GREATEST HITS MEDLEY(グレイテスト・ヒッツ メドレー)!!!』

 

BEST END(ベストエンド)

 

ラストが飛び上がり、その脚をモンステラ目掛けて突き出す

サウンドがその槍にエネルギーを集約させ

一気に解き放つ

 

モンステラが、両腕を組んでその攻撃を防ぐ

 

サウンドが解き放った衝撃波が腕とぶつかり

その甲羅のような堅い腕が阻みきる

ラストのライダーキックが、さらに上から叩き込まれる

モンステラが、必死に踏ん張り

その攻撃を弾き飛ばす

 

Phantasia(ファンタジア)

追加(プラス)』『追加(プラス)』『追加(プラス)

BEST SELECTION(ベストセレクション)!!』

 

アクトが飛び上がる

空中の魔法陣を通過した瞬間

アクトの体が何人にも増えて現れる

 

そして、そのすべてが

モンステラ目掛けて、足を突き出した

 

重力の導くままに、キックがモンステラ目掛けて降り注ぐ

再度腕を組んで、構えるが

 

サウンドとラストの攻撃を防ぎ切ったその防御は

既に限界を迎えていた

 

一発目のキックが、右腕の防御を突き破る

二発目のキックが、左腕の防御を突き破る

 

そこまでであった

 

もはや、防ぐ術を失ったモンステラに対し

キックの雨が降り注いだ

 

『!!!!!』

 

アクトが地面を滑るように着地する

その背後には、爆炎を上げる一つの影だけが残っていた

 

 

 

『・・・さて、あとどれ程で、完成するのか』

 

そんなつぶやきを漏らしながら

ブルーはデウスを担ぎ上げて、拠点へと戻っていく

 

──その背後を、隠れながら必死に追いかける一つの影があった

 

「・・・はっ・・・はっ・・・見つけた・・・!」

 

肩で息をしながら、杏奈はブルーがそこにはいっていくのを見届ける

 

「ここが・・・!」

 

そう、彼女は見つけあてたのだ

彼らが根城とする、その場所を

 

もはや誰も寄り付かない

ボロボロに崩れ始めた、一棟の廃ビルを

 

 

続く




次回 仮面ライダーアクト

敵のアジトに突撃する仮面ライダー達
「行こう、こっちから取り戻しに」

そして、サンとの対決が始まる
『俺の目的は一つ、見たいだけさ』

『人の足掻き・・・燃え尽きるほどのなぁ!!』

第32章[燃えるように、果てるように]


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第32章~燃えるように、果てるように~

「ここが・・・!」

 

物陰に隠れながら見上げた杏奈の

目の前にそびえ立つのは

古ぼけてところどころ崩れかけたところも見える一棟のビル

 

つい先ほど、ストーリーテラー、ブルーが入っていたビルであった

 

「・・・よし」

 

決心がついた

杏奈は物陰から離れ、目の前の廃ビルに侵入していく

いたるところの窓ガラスが割れたそのビルは

侵入には、それほど手間取らなかった

 

電灯などついていないっ暗い通路を進む

 

「・・・すごい」

 

表面上は唯の古ぼけたビルであったはずであるのに

その中はその印象とはかけ離れていた

 

ちらりと扉も外れてむき出しになった一室を覗き見れば

ゴツイパイプがいくつも繋がれた機械,

謎の液体が満たされた水槽

まるで、アニメやゲームの研究施設のようであった

 

ここまでの施設をよく隠し通してきたものだと

変な関心をしていたその時

 

──明かりだ

 

通路の奥、一室から漏れる光と声

 

「っ・・・」

 

そっと息を潜め

建付けの悪いが何とか扉の体をなしているそれに隠れながら

隙間から中を伺う

 

『それで?神様の調子はどうなんだ?』

『まだまだ完全な出力には程遠い

 ・・・だが、それももうすぐ問題なくなる』

 

──いた

初老の男と、若い男がい一人

サンとブルーだ

 

そしてもう一体

物言わぬまま、計器に繋がれてじっとしている

人ならざる存在

 

「(──お父さん)」

 

デウスエクスマキナがそこにいた

 

デウスを計器につないだ状態で

猛スピードで何かを作っていくブルー

 

『それは?』

『────まだ、デウス(こいつ)が万全になったとしても

 上手く扱えるとは限らないからな

 ・・・念には念を入れて、制御するモノだ』

 

そう言いながら、機械を組み立てていくブルー

 

「(・・何、あれ?)」

 

細い隙間からはその小さな手元は上手く見えない

──だからだろうか、深追いが過ぎた

 

それを見ようとするあまり

サンが、その場から消えたことに気が付けなかった

何処でばれたのか

──いや、もしかしたら最初から気が付いていたのかもしれない

 

そんな理解をする間もなく

背後から迫る衝撃が、意識を刈り取った

 

 

 

 

「・・・杏奈さんが!?」

「ああ、まだ戻ってない!」

 

テラーを打倒して、テアトロに帰還した3人

しかし、そこに共に向かった杏奈さんの姿がない

 

「一体何が・・・」

「連絡も、これを最後に途切れたままだ・・・」

 

浩司さんが、携帯を取りだしてこちらに見せる

端末に表示されるのは、一枚の写真と座標データ

そこには、古ぼけたビルが一棟

 

「これって」

「・・・意味もなくこんなことするとは思えない

 ・・おそらくは」

 

テラーの本拠地、またはそれに準ずるものを見つけた

そう、言いたいことが見て取れた

 

「まさか、一人で!?」

「無茶なことを」

 

そして、そこから戻っていないことを考えれば

想像できることは一つ

 

先んじて、乗り込んだのだろう

そして捕まった

──いや、最悪・・・

 

「っ!」

「やべぇな・・・無事な保証はねぇぞ・・!」

 

嫌な予想が立ったのを頭を振り払って追っ払う

 

「だが、どうする?

 ・・・はっきり言って乗り込むには準備不足だろう」

 

 

音石さんが、冷静にそう言う

 

──そうかもしれない

──けれど

 

「ほっとけませんよ!!」

 

3人が立ち上がる

元より、大吾さんの奪還も必要なのだ

敵の居場所が分かっているのなら

それはチャンスでもある

 

「行こう、こっちから取り戻しに」

 

3人頷きながら

店を後にしようとする

 

「皆」

 

「浩司さん?」

 

「──頼む」

 

深々と頭を下げて

こちらに頼み込む

頭で見えないその顔は、見る間でもなく心配で歪んでいた

 

「──はい!必ず」

 

できる限り穏やかに、安心させるように

そう、告げて3人は店を後にするのであった

 

 

『・・・殺さなくていいのか?』

『ああ・・・無駄なことだ』

 

そう告げると気絶させた杏奈を寝かせ

再び機械の前に立つブルー

 

『・・・まぁ、無抵抗なのをやるのは

 俺も興味はないがな』

『・・・何だ、趣味趣向があったのか』

 

殺すこと自体が好きなのかと思ったと

ブルーはサンのその言葉に告げる

 

『当たり前だ・・・

 ただ焼かれていくのを見たところで何にも楽しくはない』

 

──そう

 

『燃えて、どんな風にするのか見るのがいいんだ』

 

手で必死に燃える衣服から火を消そうとするもの

熱さに耐えきれず泣き叫びながら悶えるもの

必至に逃げ延びようと目を剥いて辺りを探るもの

 

そこに、理性的な行いはない

ただただ必死な様相で命をつなごうと藻掻くのだ

取り繕いのない、行いがそこにあるのだ

 

『──悪趣味だな』

 

話は終わりだと、ブルーが機械に向き直る

まだ、語れたがまぁいいだろう

 

その時──

直感的に、何かを感じ取った

 

『──来たかぁ・・!』

 

仮面ライダー達の到来を、感じ取っていた

 

『今日は好きにやっていいんだよな!!』

『あぁ、好きにしろ』

 

その言葉を待っていたと言わんばかりに

勢いよく立ち上がるサン

 

『待て』

『あぁ!?』

 

そして足を踏み出そうとしたところで呼び止められる

・・・一体なんだと、文句を言おうとしたその時

 

”勝負を終えた北風と太陽は、

 互いを称え合い、やがて一つになりました。”

 

そんな、謎の声が聞こえた

その瞬間

 

『ぬぉ!?・・・おおおお!!』

 

サンのその体が変異する

燃え盛る怪人の姿に変わった

──そしてさらに

その肉体が変化していく

 

火だけの意匠だったものが

半身に逆巻く風のような流線型の意匠が追加されていく

 

『プレゼントだ・・・』

『ヘッ・・』

 

気に入ったと言わんばかりに返して

サンが部屋を後にする

 

『・・・さて、私も準備をするか』

 

そう言いながら、作業の手を止めブルーも立つ

 

その手には、先ほどまで開発を進めていた

まるで、四角い長方形の箱のような機械が握られていた

 

 

「ここか・・・」

「見た目はただの廃ビルだが・・・」

 

杏奈が送った座標データを頼りに

件のビルへとたどり着いた3人

 

その様相から、敵の本拠地にはまるで見えない

しかし──

 

突如、入口が火を吹いた

 

「!?」

 

咄嗟に飛びのいて事なきを得た

その光景は、3人の気を一気に戦いへと戻す

 

『会いたかったぞ・・・ライダー!!』

 

焼け焦げた入口から人影が現れる

 

「サン・・?」

「姿が違う・・・?」

 

いつもの燃え盛る炎の怪人

しかし、その姿が以前とは異なる

 

だが、放たれた声は間違いなく奴の物であった

 

『さぁ・・・来いぃ!!』

 

燃えるようなその体をさらに焼きながら

雄叫びを上げて突っ込んでくる

 

突撃から繰り出される燃え盛る拳

 

「くそっ!

 ・・・雄飛!!先いけ!!」

「えっ!?ここは!!」

「任せろ!!・・・やるぞ!ラスト!!」

「あぁ・・・!」

 

そんな攻撃を避けながら

そう告げると、2人は雄飛を庇うように前に出て

チケットを掲げる

 

MILLION SOUND(ミリオンサウンド)

BUBBLE MERMAID(バブル・マーメイド)

 

「「変身!!」」

 

Last UP(ラスト アップ)

BUBBLE MERMAID(バブル・マーメイド)・・・!!』

 

GREATEST HITS(グレイテスト・ヒッツ)!!!』『FOREVER(フォーエバー)!!』

MILLION SOUND(ミリオンサウンド)!!!』

 

人魚の意匠の仮面ライダーと

金色の音楽のライダーがサンの目の前に立ちふさがった

 

「──分かった・・!」

 

そんな2人の背中を見て

雄飛は焼け焦げたビルの入り口に駆けこんだ

 

『チッ・・・行っちまったか・・・!』

『あいつが一番やりがいがありそうだってのに・・!』

 

不服そうにするサン

しかし、その余裕も一瞬で掻き消えた

 

鋭い槍の一閃が、自分の眉間目掛けて振り下ろされた

 

『!?・・・っ!!』

 

首を引き、その一撃を咄嗟に避けるが

流れるように、さらに横薙ぎに槍が振るわれる

腕を組んで防御するも、凄まじい腕力がそれごとサンを吹き飛ばすのであった

 

「ッハァ!!」

『グォ!』

 

さらに吹き飛んだ先にラストが切り込む

水を帯びた切っ先が、燃えるようなその体を切り付けた

 

「俺は、テメェの方に用があんだよ・・!」

「貴様は、ここで終わる・・!」

『ッハハ・・・いいねぇ!!面白れぇ!!』

 

仮面ライダーサウンドと仮面ライダーラスト

怒りを滲ませた瞳がにらみつけてくることさえも

心地よさを感じながら

サンは楽しませてもらうことを決めるのであった

 

 

ビルの階段を駆け上がる

 

「どこだ・・!」

 

通路を駆けながら雄飛は杏奈

そして、残りのストーリーテラーである人物を探す

 

そんな時、キイと目の前の扉に光が漏れるのを見る

 

「そこか!!」

 

バンと、建付けの悪かった扉を蹴破り突入する

 

『よく来たな』

「ブルー・・・!」

 

まるで研究室のような

大量の機械に囲まれた部屋

そんな中にブルーはいた

 

そしてその後ろには、これまた大量のケーブルに繋がれた

デウスエクスマキナ

 

そして、部屋の隅に寝かされた──

 

「っ杏奈さん!!」

『おっと・・!』

 

杏奈に駆け寄ろうとしたが

それをブルーは前に立ち塞ぐ

 

『悪いが、簡単に渡すわけにはいかない

 ・・・どちらもな』

 

ちらりと後ろのデウスを見てそういう

 

「・・・!」

 

チケットを取りだす

言葉は、不要だった

 

『悪いが、デウスの調整ももうすぐだ

 ・・・少し、付き合ってもらう』

 

そして、ブルーもまたチケットを取りだした

 

『Night Of Beast』『Phantasia』

 

青い鳥(ブルーバード)

 

「変身!!!」『怪演・・!』

 

『Phantasic Night Of Beast』

『Not Missed off!!.』

 

魔法使いのような様相をした仮面ライダーアクトと

青い鳥のような意匠をした怪人が相対する

 

2人が同時に駆け出す

 

互いに手にした武器を振るい

羽を模した剣とCGスタッフがぶつかり合う

火花を散らしながら弾きあう

 

『・・・場所が悪いな』

 

狭い室内で、大ぶりな剣を振るうブルーがそう呟く

次の瞬間

何か能力でも起こしたのか

 

──2人の立つ床が、くりぬかれたように抜けた

 

「なっ!?」

 

一階層下の部屋に落ちる

突然の落下に、アクトは何とか着地する

 

『ハァ!!』

 

しかし、その一瞬の隙に

ブルーがアクトに突撃し、剣を大きく振るう

まるで、落ちるのが分かっていたかのように

スムーズな動作は、アクトよりワンテンポ速い

 

迎撃がきかず、杖を体の前に構え

迫る剣を耐える

 

凄まじい力の打ち込みがアクトの体を吹き飛ばす

飛んだその先には、窓ガラスもとうに割れて空いた窓

 

勢いのまま外に放り出された

 

ブルーもまた、窓から飛び出す

そして、宙を舞うアクトに

その刃を突きつける

 

『ハァ!!』

「くっ!!」

 

転送(ワープ)』『Select(セレクト)

 

落下するアクトが魔法陣を通り抜ける

次の瞬間、上から自身を狙うブルー

その背後に転移する

 

『ム!?』

「っだぁ!!」

 

その背後に杖を叩き込む

転移を察知したブルーはその攻撃を受け止め

二人で組み合ったまま重力が導くままに落下する

 

墜落し立ち込める砂煙が晴れていく

その中から、つばぜり合う2人の姿が現れた

 

『フッ』

「くっ」

 

 

 

「うおおお!!!!」

 

槍を振るう

2度、3度と攻撃を叩き込んでいく

 

しかし、その攻撃をサンは身軽に避けていく

サウンドが上段から振り下ろす

 

ガキンと固い音が響く

 

「!?」

『どうしたぁ・・!』

 

その音は、攻撃がサンの体を切り裂いた音ではなく

サンの手が、サウンドの槍その穂先を掴み取った音であった

 

『どうしたどうしたぁ!!!』

 

燃える拳の一撃がサウンドの腹に叩き込まれる

再度、叩き込まれる

そして、強烈な膝打ちが追いうちを掛け、サウンドを弾き飛ばす

 

「ハァ!!」

『!』

 

入れ替わるかのようにラストが攻撃を仕掛ける

剣を振るい、突き出す

その攻撃すらもサンは次々と避けて見せる

 

そして、攻撃の隙を突くかのようにラストの体に向け拳を放つ

回避は不可能、そんな攻撃は

 

バシャリと音を立てて、ラストの体を突き抜けた

 

『おぉ!?』

「だぁ!!」

 

意表を突くその感触に怯んだその瞬間、ラストが剣を振り下ろす

 

『なんの!』

 

回避が間に合わないと踏んだか、空いた腕でその刃を受け止める

刃の纏った水が超高温の腕に触れ大きく水蒸気を吹いた

 

『いいぜ・・!もっと暴れろ!!』

「貴様・・・何がしたい!!」

 

まるで自分を焚きつけるかのような言葉に

ラストが理解できないと言わんばかりに言い放つ

 

再度、攻撃を振るう

剣の一撃が避けられ、相手の拳が迫るのを回避する

そんな避けて避けられの攻防の末

再度剣と腕がぶつかり合う

 

『俺の目的は一つ、見たいだけさ・・・!』

 

つばぜり合い、拮抗する両者

その時、またもやサンが口を開く

 

『絶体絶命の時に人が必死に生きようとする様を!!』

『死に近づいた時の人の足掻きを!』

「な・・・に・・!」

 

その時、サンが動く

剣を受け止めていた腕をかち上げる

衝撃で剣を握る腕が上方へと弾かれ

──その体ががら空きとなる

 

瞬間、凄まじい勢いの蹴りがラストに叩き込まれた

 

「がっ・・!」

 

『テメェらが、死にかけて必死に足掻くさまを!!』

『人の足掻き・・・燃え尽きるほどのなぁ!!』

 

「下衆が・・・!」

 

死にかけて、もがくさまを見たい?

そんな自分勝手な行動で──

 

「人は・・・人間は貴様の玩具ではない!!」

 

ラストの体が液体と化す

そして、そのままサンへ向かって一気に突貫する

 

『知らねぇ!!』

 

その時、サンが腕を引き絞る

引いた腕を突き出す

 

これまでであれば

その攻撃は火炎が放出されるようなものであっただろう

しかし、その時は違っていた

 

サンの体に新たに生まれた風のような意匠が唸る

そして、強烈な、熱風の渦がその手から放たれた

 

ラストの液状化したその体が渦に包まれる

 

「ぐぁあああああ!!!」

 

凄まじい熱量を抱えた風がラストの体が一瞬で沸き立たせた

全身が焼けるような熱にラストが苦悶の声を上げる

 

全身から湯気を上げながら地面を転がる

 

「ラスト!!」

「・・まだだ・・・!!」

 

サウンドがラストに駆け寄るも

ラストはまだ立ち上がる

しかし、その足取りは不安定で

凄まじいダメージが見て取れた

 

『なるほど・・・良いもんくれたな・・・!』

 

その威力を確認してサンは上機嫌そうに

ライダー達を眺める

そして・・・

 

『ほらもっと来いよ・・・!!焼き尽くしてやる!!』

「んなろぉ・・・!!」

 

サウンドが再びサンに対して駆けだす

BEST MEMBERS(ベストメンバーズ)!! 』『 1! 2! 3!』

 

サウンドがその瞬間4人に増える

4人のサウンドが一挙にサンに撃って掛かった

 

4人同時に攻撃を畳みかける

しかし、その攻撃をサンは回避しながら

適格にサウンド達に反撃をしていく

 

『おらぁ!!まだ甘えぞぉ!!』

 

いや、先ほどまでよりもさらに攻撃の速さが加速する

まるで流れるように4人のサウンドに攻撃の暇すら与えないかのように

攻撃を叩き込んで吹き飛ばしていく

 

「ぐぁ!!」

「なんつう・・・近接戦闘能力してんだよ・・・」

 

その凄まじい攻撃に、4人のラストが薙ぎ払われていく

そして・・・

 

3人のサウンドが一斉にサンに切り掛かる

完全な同時の攻撃、これなら──

 

『おおお!!』

 

サンが雄叫びを上げた瞬間

その体から凄まじい勢いの風が吹き出す

凄まじい熱量のそれは

彼に肉薄し、切り掛かった3人のサウンドを飲み込んで焼き尽くした

 

3人のラストが吹き飛ばされ

肉薄するのは、残り一人

金色のサウンド

すなわち本体であるサウンドがサンに攻撃を仕掛ける

 

しかし、その攻撃も触れる前に掴み取られる

──だったら!!

 

チケットを取りだす

 

『MILLION!!』

GREATEST HITS MEDLEY(グレイテスト・ヒッツ メドレー)!!!』

 

『!?』

「吹きとびやがれぇ!!」

 

掴み取られたままのギターランスにチケットを装填しそのトリガーを引く

大量のエネルギーが集まっていく槍は

その力をサウンドもろともサンに超至近距離で解き放った

 

2者がその衝撃に共に吹き飛ばされる

 

「ぐ・・・あ・・!」

 

凄まじい痛みに体が悲鳴を上げる

しかし、あれであれば・・・!

 

『・・・うおおおお!!!』

「!?」

 

その瞬間。立ち込めた砂埃を掻き分け

サンがサウンドの目の前に現れる

そして、その首を掴み、吊り上げた

 

「ぐ・・・」

『は・・・はは・・・いいじゃねえか

 ・・こっちもお返ししなきゃあなぁ!!』

 

空いた腕に凄まじい熱量の風が集う

あれを喰らえば一たまりもない、

それが見て取れるようであった

 

『しまいだぁ!!』

 

腕を振り上げる

 

「はぁあああああ!!!」

 

その時だ、ラストが雄叫びを上げてサンに迫る

サンの背後に衝撃が走る

 

『ぐ・・おおおお!!?』

 

サウンドを取り落とし、その体の異常を認識する

見やれば、自分の体から白銀に輝く刃が生える

 

ラストは、痛む体を押してサンのその背を飛び掛かり

自身の剣を突き立てたのだ

 

『く・・・おおお!!!』

「ぐぁ!」

 

腹部の凄まじい痛みに顔を歪ませながら

ラストのその顔面を殴り飛ばす

 

吹き飛んだラスト

そんな彼に対し、サンが腕を引き絞る

 

「やべぇ!!」

 

次の行動を察したサウンド

しかし、体の痛みで上手く動かない

間に合わない

 

『おおおお!!!』

 

凄まじい勢いの火炎がその腕から放たれる

転がったラストは

回避も間に合わず、その中に飲み込まれるのだった

 

炎が通り過ぎる

焼け焦げた地面が黒い煙を上げる

その通り抜けた道には

何一つ、残ったものはなかった

 

『あばよ・・・!』

 

サンが、腹の傷を抑えながらラストの消滅を確信する

──そうなれば、もはや狙いは一つだ

 

『サァ・・次はてめぇだ・・・!』

「くそっ・・・!!」

 

サウンドが、悔しそうに体を藻掻かせる

──そうだ、もっと見せてくれ

 

そうして、足を踏み出したその時

 

ザザザと、音が、聞こえた気がした

 

『?』

 

気のせいかと、また足を踏み出したその瞬間

──地面に、波紋が広がった

 

「だぁああああ!!!」

 

一閃

地面から飛び出したラストは

飛び上がりながら、サンのその体を切り裂いた

 

『ぐお・・おおお!!?』

 

ドシャリと、飛び上がったラストが地面に落ちる

もはや着地の余力もないとばかりにその変身が解ける

 

──潜って、避けてやがった・・・!

 

『ハ・・ハハ・・・!やるじゃねぇか・・!』

 

ここまで足掻いて見せてくれるとは思わなかった

 

カツリと、足音が響く

 

『!?』

「はぁ・・はぁ・・・!」

 

見やれば、こちらも

サウンドが、立ち上がってきていた

 

「いくぜ・・・!」

『!?』

 

サウンドが槍を構えて突貫してくる

サンは、拳を握り先程と同じように応戦する

 

しかし──

 

「おらぁ!!・・・だぁ!!」

『ぐぉ・・?!?』

 

防御が、間に合わない

先程までのダメージが、その体を上手く動かせない

だが、それはサウンドも同じはず──

 

『っおおお!!』

 

サウンドの攻撃に無理やり拳を割り込ませる

とにかく、この攻撃を辞めさせなければ

しかし──

 

「あ、めぇ!!」

『何!?』

 

殴りつけた拳ががっちりと掴み込まれる

そして、そのまま逃がされないように固定されたまま

槍が叩き込まれる

 

『なぜ・・だ・・!!』

「あいつが頑張ってんだ!!

 ・・・俺も負けてらんねえんだよ!!」

 

そう、あれだけ必死に戦い

そしてここまでのチャンスをくれた

その頑張りに応えなければならない

そんな、気持ちだけがサウンドの体を突き動かす

 

サウンドが槍を引き

思い切り突き出す

強烈な刺突が、サンのその体を突き飛ばす

 

『ぐぉ!?』

「はぁ・・はぁ・・」

 

サウンドが、槍を投げ捨てる

そして、自身のドライバーに触れる

 

『MILLION!!』

GREATEST BEST SOUND(グレイテスト・ベスト サウンド)!!!』

 

「ケリを・・・つける!!」

『ぐ・・・おおおお!!!』

 

サウンドが、飛び上がり

凄まじいエネルギーを集わせたキックを放つ

 

それに対し、サンがサウンドに対し腕を突き出す

凄まじい熱風が、サウンド目掛けて放たれる

 

キックが熱風にぶつかり拮抗する

 

──だが

熱風が、どんどん掻き分けられていく

サウンドのキックが、勢いを全く変えずに突き進んでいく

 

「うおおおおおお!!!!」

『ぐ・・・なぜ・・・ぐああああああ!!!』

 

そして、完全に熱風を突き破り

その脚がサンの体に叩き込まれた

 

サンを貫き

地面を削りながらサウンドが着地する

 

その背後には、凄まじい火炎を立ち上げ

爆発する一体の怪人の姿があったのだった

 

 

 

アクトとブルーの攻防は続いていた

 

自力であれば、アクトの方が上なのだろう

しかし、ブルーはこちらをあくまで受け流すように

避けて、捌いて、時間を稼ぐことに全力を注いだ

しかも、何かがおかしい

先程の突然の床の底抜けのように

こちらが攻めようとした瞬間

まるで、ブルーに都合のいいように何かが起こるのだ

 

そのせいで、アクトは攻めあぐねていた

 

しかし、それも突然終わりを告げる

 

『・・・頃合いか

 悪いが、ここまでだ』

「なに!?」

 

ブルーが突然そう言い放つと

アクトを一気に弾き飛ばして距離を稼ぐ

 

「っ逃がすか!!」

『いや、逃げさせてもらう』

 

そう言った瞬間

自分達が飛び降りた、ビルの壁が突然吹き飛んだ

 

「!?」

 

崩れた壁に人影が現れる

デウスだ

大量の計器に繋がれていたデウスが

ひとりでに動き出し、ビルの壁を破壊して顔を出していた

 

そして、その腰には──

 

「っ杏奈さん!!」

 

杏奈が、抱えられていた

 

『悪いが、逃げるために利用させてもらう』

「?」

 

ブルーがそんな言葉を告げた瞬間

凄まじく嫌な予感が走る

 

「──まさか!?」

 

デウスを見る

抱え込んでいた杏奈さんを

宙づりにし始めた

 

「やめ──!」

『やれ』

 

その瞬間、デウスが

杏奈さんを、ビルの壁から空中に放り出した

 

「や、りやがった・・!!」

 

転送(ワープ)』『Select(セレクト)

 

「はぁ!!」

 

杖を突き出す

 

自由落下していく杏奈のその落下先に魔法陣が現れた

通り抜けた瞬間

転送先の魔法陣が自分の頭上に現れる

 

そして降ってきた杏奈さんをしっかりと受け止める

 

──間一髪、間に合った

 

「・・・!ブルー!!」

 

安心したのも束の間

周りを見る

しかし、ブルーの姿はどこにもない

さらに、ビルをみる

 

先程まで、立っていたデウスもまた

その姿を消していたのであった

 

 

 

『ぐ・・おおおお・・・!』

 

先程の戦場からそう遠くない

薄暗いトンネルの中で

謎のうめき声が響いていた

 

暗いトンネルの中に

一点だけ、明るさが生まれる

──火だ

小さな日の玉が、トンネルの中を漂っていた

 

火の玉が、少しずつそのサイズを大きくしていく

そして、広がった火は少しずつ人の形に近づいていく

 

『はああああ・・・はは・・は・・・』

 

そうして、完全な人の姿をした火は

ボロボロになった炎の怪人へと姿を変えるのであった

 

『やってくれる・・・!!』

 

死にかけたが、楽しさもあった

そんな思いが胸をめぐる

 

──次は、こうはいかねぇ

 

『酷くやられたな』

『ん?・・・ああ・・・』

 

そう話しかけてきたのは

どうやって自分を見つけてきたのか、ブルーであった

 

『ちょっと遊びが過ぎたかもしれねぇ

 ・・・そっちの首尾はどうなんだ?』

『問題なく、完了した

 これで、デウスの準備も整った』

 

ほお、それはいい

 

『そうか

 ・・・じゃあ俺は少し休ませてもらうぜ』

『ライダーへのリベンジの為か?』

 

『ああ、今度はきっちりやってやる』

 

そう意気込んで見せる

 

『そうか、分かった休むといい』

 

そう言って、道を開けるブルー

お言葉に甘えて、しっかりと休ませてもらうとしよう

 

『・・・あぁそうだ、()()()()()()()()()

 

だが、自分が横を通り過ぎる直前

そんなことを言って、呼び止めてきた

 

『火?・・・あぁ、ちょっと待ってろ』

 

その程度なら、この傷でもすぐに──

 

『ああ、動かなくていい

 ・・・すぐ終わる』

『あ?そりゃどういう・・・』

 

ドッ、と自分の体に衝撃が走るのが分かった

体に目を落とす

 

そこには──

 

羽型の剣が、自分の体に突き立てられていた

 

『な・・・に・・・!?』

 

剣が引き抜かれる

 

『ぐ・・おおおおお!!?』

 

引き抜かれた体から炎が吹きだす

 

『てめぇ・・・何を・・!』

『ああ、言った通りだ、火が必要でな』

 

そういうと、ブルーはある物を取りだす

それは、自分と会話していた際に組み立てていた機械

 

『な・・んだそりゃあ・・・』

『いった通りだ、デウスを制御するための物さ』

 

そう言うと、ブルーは

その機械をこちらに差し向けた

 

その瞬間

 

『ぐお!?・・おおおおお!?』

 

まるで、吸いだされるかのように

自分の体から炎が吹きあがり

その機械に吸い込まれていく

 

『知っているか?機械っていうのは電気を使うが

 ・・・その中でも、起動に一番多くを使うんだ』

『止めろ・・・てめぇ・・・!』

 

『これも、それの類に漏れずに必要になった

 ・・・膨大な熱量がな』

『てめぇ・・・まさか初めから・・・!』

 

吸い取られる炎が一層激しくなる

それに合わせて、傷口だけでなく

全身から炎が吹きだす

 

『やめろ・・・これは・・・俺のぉ!!!』

 

ブルーに手を伸ばす

その行為をやめさせようと、手を伸ばす

 

しかし、その手は届かない

──彼は、止められない

 

『・・・あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!』

 

最早人の形も留めない程の炎が湧き

その体を包みこむ

 

・・・。

そして、その炎全てが

機械に収まっていく

 

火の塊になっていたサンの火が少しずつ弱まっていく

そして、全ての火を吸い取られた果てには・・・

 

『・・・。』

 

まるで、炭のように真っ黒でひび割れた

人の形をした何かだけが、残されていた

そして、それすらも風にあおられ

ボロボロと崩れ去っていく

 

炎を全て吸い取った機械

モノクロだったそれはまるで起動を告げるかのように

色づいていく

金に染まったそれを、

()()()()()()()()()を持ちながら

 

『さようなら、サン

 ・・・ここだけの話だが

 君は、私からしても忌避する人間だったよ』

 

 

続く




次回 仮面ライダーアクト

デウスが、本領を発揮する
「凄まじい勢いで、世界が塗り替えられている!!」

デウスとの決戦が迫る
『さぁ、ここで、最終決戦だ』

「大吾さんを!!返しやがれ!!!」

『さようなら、仮面ライダー
 ・・・君たちの役割も、もうすぐなくなる』

第33章[英雄(ヒーロー)のオールアップ]


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第33章~英雄(ヒーロー)のオールアップ~

『──さぁ、準備は整った』

 

物を言わぬ神の隣で、ブルーは行動を始めようとしていた

そう、準備は整った

デウスへと告げる

 

『さぁ、世界をあるべき姿に変えていこう。

 ──平和な、世界を』

 

"そうして、世界は自然に満ちた美しさを取り戻します。"

 

デウスがその手をかざす

その瞬間、彼の立つ地が変わっていく

 

コンクリートで舗装された道が

また、穏やかな光で満たされた森へと

壁も、建物も変わっていく──

 

『さぁ、ここで、最終決戦だ』

 

喫茶「テアトロ」──

 

「──これで残りは2人」

「青山め・・・自分以外のストーリーテラーは最初から切り捨てるつもりだったのか」

 

サンを打倒したとは言え、予断は許さない状況は続く、

ブルーの言葉が本当であれば

デウスの、あの理不尽な能力が自由自在に使用できる時が

刻一刻と近づいていることになる

 

「研究所を破棄したということは、考えられる可能性は2つ

 別の場所に拠点があるか、・・・必要なくなったということだ」

「・・恐らく、後者だろうな」

 

ブルーの行動を聞いて、2人の博士はそう結論付ける

 

「それって──」

 

「次で仕掛けてくる可能性が高いということだ」

 

全員に、緊張が走る

──決戦は、近い

 

「・・・じっとしていても仕方がない

 それよりも対処方法に意識を削ぐべきだ」

 

そう言うと音石さんは、作戦会議を開始する

 

「相手がこれまで行ってきたことは統合すると

 恐らく、世界の改変のようなものなのだろうな」

「改変?」

 

「ああ、世界を一つのお話として扱い

 その中に事象を書き込んで引き起こしている

 奴がデウスエクスマキナと呼称されているのなら

 これが正しいと思われる」

 

大木さんの方を向く

その言葉に、彼は頷く

どうやら、彼も同じ考えのようだ

 

「無茶苦茶ね」

 

「・・・ああ、まさに何でもありな力だ」

 

その結論を聞いて、皆こう思っただろう

どうやって勝てばいいのだ、と

 

「だが、性質上は奴もテラーであることは間違いない

 ──勝機はそこにある」

 

そう言うと、音石さんは翔の方へと顔を向ける

 

「テラーならば、()()()()()()()()()()()()()()()

「──そうか!」

 

サウンドの力ならば、テラーにされた人を引き剥がせる

元からデウスにされている大吾さんを取り返す必要もある

 

「・・・俺に掛かってるわけか」

「ああ、とにかく敵の撃破ではなくサウンドで大吾を引き剥がすことを狙う」

 

その言葉に、翔が強く拳を握る

アクトでもラストでもできないことだ

その責任は重大であった

 

「もちろん、サウンド一人で渡り合えるとも思えん

 そこはアクトとラストでカバーをする」

「・・・作戦は決まりだね」

 

そこまで言うと、一旦会議は終了する

 

「よいしょっと・・・」

「オオキ?」

「ちょっと外の空気をね」

 

そう言うと、大木さんは出入口の扉を開け

──そして、ピタリと体を硬直させた

 

「──?大木さん、どうし・・・!?」

 

雄飛が大木の後ろから外をのぞき込む

大木の目線、それを辿り・・・そして絶句した

 

いつもと変わらない風景

周りには住宅が立ち並び

遠くには、都市部の物と見られる高層ビルが何件も立ち並んでいるのが見える

 

その遠くに見える高層ビルの内一棟が、()()()()()()()()()()()

 

それも一度だけでない、2つ、3つ、次々と同じように連なって立つ並ぶ

ビルがどんどん消えていく

 

とてつもない速度で

 

「あれは・・・もう来たのか!」

「速い・・・以前の現象より侵食がずっと速いぞ!?」

 

2人の異常な反応に同じように外を覗き見た博士2人がそう言うと同時に

雄飛達ライダーは一斉に店を飛び出す

 

バイクのエンジンを入れる

そしてアクセルを一気に吹かし、その都市部へ向かって走り出した

 

「!・・・私も!」

 

3人が走り去ったのを見て

杏奈もまた店を飛び出す

駆けだした目線の先、また遠くに見えるビルが一棟、あっけなく消え去った

 

 

「これは・・・!」

 

バイクで一直線に都市部へ走る

彼らとは逆方向に、

悲鳴を上げる人々がどんどん駆けて逃げ去っていくのにすれ違う

 

そして──その先にやつはいた

 

『────異物を確認。』

 

それはまるで境界線のようであった

コンクリートで形作られた都市

それが横一直線の線を引くように途切れている

 

そして、その先には穏やかな自然に囲まれた

青々と豊かな森林が広がっている

 

天気すらも、都市側は曇り空で薄暗いのに対し

森林には暖かな木漏れ日がいくつも見られる

晴天が広がっていた

 

まるで、そこから先は世界が違うかのように

 

そして、その森林を闊歩するかのように

神は、デウスはゆっくりと歩み

そして、雄飛達を見てその脚を止めた

 

『──この風景に、()()()()()()()()。消去する。』

「!?」

 

頭上の曇天が、ゴロゴロと不吉な音を立て始めた

これは──

 

「「「!・・・変身!!」」」

 

それは咄嗟の判断であった

 

3人は一斉にドライバーを起動する

その瞬間

 

凄まじい勢いの稲妻が、3人の立つ場所に降り注いだ

雷電がアスファルトを焼き、煙を立たせる

 

2つの異物を消去、目的を続行す──

 

『──!』

 

デウスが再び世界の侵食を繰り広げようとしたその時

──煙の先に影が現れる

 

『Phantasic Night Of Beast!』

『MILLION SOUND!!』

『STATUE OF HAPPINESS!』

 

「おおお!!!」

 

煙を掻き分け、3人の仮面ライダーが駆ける

 

『──。』

 

デウスの立つ景色が変わる

豊かな森から、これまた自然に由来した

採石場のような切り立った岩場の大地へと

 

そして、デウスはそこに立つ

3人の、仮面ライダーを迎え撃つように

 

 

 

 

“突然、岩が崩れ彼らに降り注ぎ、彼らはぺしゃんこになりました。"

 

駆ける3人の頭上の岩壁が突如崩れさり

多い岩が音を立てて降り注いだ

 

「!?・・・っく!はぁ!!」

 

ラストが落石を避け

弓と化したグリップを引き絞る

鳥の形をした矢がデウス目掛けて放たれた

 

矢が、悠然と立つデウス目掛け向かっていく

そのまま当たるかと思われた

 

”襲い掛かる敵に、剣と盾を持って立ち向かいます。”

 

突如、デウスのその手に

精巧な剣と盾が現れ、そして迫りくる矢を弾き飛ばしていた

 

「はぁ!!」「ぜあああ!!」

 

ラストの攻撃に合わせるように

アクトとサウンドが杖と槍を振るう

 

『──。』

 

杖での殴打が盾に塞がれる

槍の斬撃は、剣によって受け止められた

 

だがそれだけでは終わらない

 

「!!」

 

サウンドが2撃3撃と槍で攻撃を放つ

デウスはそれを軽く受け流していく

 

サウンドの後ろから、アクトが動いた

 

拡大(ビッグ)』『Select(セレクト)

「おおお!!らぁ!!」

 

魔法陣に杖をくぐらせる

アクトの体をも覆いつくすほどの巨大になった杖を振りかぶり

そして、サウンドの攻撃をかわしていくデウス目掛けて

全力で振り下ろした

 

『!?』

 

突如巨大な影が自分を覆う

そして、大質量の物体が自分目掛け迫りくる

大質量が、デウスの体を押し潰す──

 

”それは、まるで風船のように空高くへ飛んでいきます。”

「!?」

 

突如、振り下ろす杖が停止したことを、アクトは感じた

まるで、これ以上下へ下ろすのを否定するような──

いや、杖がどんどん上方へと引っ張られるのを感じた

 

「っ!」

 

──持っていかれる

咄嗟に杖から手を放す

抑えを無くした杖は、ふわふわとしかし早急に上空へと浮かんでいった

 

「くっ!・・・だったら!!」

 

杖を奪われたアクトは、それでも怯むことは無かった

デウス目掛け猛スピードで突撃する

 

”邪魔者は、その剣で真っ二つとなりました。”

『──!』

 

デウスが、突撃するアクトに剣を薙ぐように振るう

 

「ぐおおおあああ!!」

『!?』

 

魔法を奪われた苦し紛れの突貫かと思ったのだろうか

しかしそうではなかった

 

──剣が空を切る

 

魔法の衣を被っても、同時に起動した野獣の力がそこにはあった

振るわれる剣を、飛び越えるように跳ねる

そして、着地したアクトは剣振るったデウスの無防備な背後を取る

鋭い爪を備えた手が、その背中へと振り上げられた

 

「っらぁ!!」

『!?』

 

爪がデウスの背を引き裂き

デウスが初めて苦悶の反応を見せた

 

『──!』

 

デウスが振り返り、反撃のためにアクトへ剣を振り上げる

 

その背を──

 

『!?』

 

今度は、数発の矢が打ち付けた

デウスがその衝撃に軽く吹き飛ぶ

 

デウスが、矢の方向へと向き直る

そこには

 

「はっ!はっ!!」

 

次々と矢を放つラスト

そして、縦横無尽に飛び交い、こちらを狙いつける

何本もの鳥型の矢が迫っていた

 

”突然、嵐が吹き荒れ、全てを吹き飛ばします。”

 

デウスが腕を振るう

デウス目掛け飛び交う矢の正面に

突如、竜巻が発生した

 

風が、矢を飲み込み弾き飛ばす

 

「くっ!」

『──!』

 

そしてそのまま、ラスト目掛け竜巻が突き進んだ

 

「!」

『BUBBLE MERMAID』

 

姿を変えたラストが、液状化した地面へと

その姿を眩ませる

 

竜巻が、何も呑み込まずに通り去った

 

「おおお!!」

 

そして、次の瞬間

デウスの目の前の地面から

ラストが飛び出し、剣を振りかぶる

 

「らぁ!!」

 

それに合わせるように

アクトが爪を立てながら、背後から迫る

 

『──!!』

 

デウスが、回転するように剣を振るう

一回転の内に、飛び掛かるラストとアクトを切り飛ばす

 

果敢に攻めた2人の攻撃は無駄に終わった

──訳ではない

 

『──!?』

 

一回転し、停止するデウスは驚愕する

デウスが切り払った剣が、デウスの手を離れていた

 

それは、アクトの仕業であった

 

回転し、2人を切り払うその時

自身に剣が触れたのとほぼ同時に

アクトは足でその剣を蹴り飛ばしていたのだ

 

『GIGA!!』

BEST HIT MEDLEY(ベスト ヒット メドレー) !!!』

 

『!?』

 

そして、それにデウスが気づいた瞬間

剣を失い、防御が薄くなった右方から

ボウガンによる、弾丸が襲い掛かった

 

弾丸が直撃する

 

『──っ!!』

 

デウスが大きく後ずさる

そして──

 

体に一瞬、大きな痺れが襲ったのを感じ取った

 

”それは、まるで風船のように空高くへ飛んでい    ”

 

その時、上空からある物が落下してくる

 

「!?──落ちてきた・・・効いてる!!」

 

それは、先ほど上空へと打ち上げられてしまった

アクトの武器、CGスタッフであった

 

それは、先ほど掛けられた

敵の能力が、弱まったことを意味していた

 

(ファイア)』『Select(セレクト)

「はぁ!!」

 

アクトが火炎を放つ

 

火炎は、デウスの手にした盾に防がれる

 

『!!』

 

そして、デウスは反撃に盾をまるでブーメランのように放り投げた

拘束で回転する盾が、アクト目掛けて迫りくる

 

転送(ワープ)』『Select(セレクト)

 

しかし、アクトはそれに落ち着いて対処する

襲い掛かる盾の目の前に魔法陣を敷く

 

行先は──

 

デウスの背後に、魔法陣が現れ

そしてそこから猛スピードの盾が通り出る

『──!』

 

デウスが、自らの攻撃を喰らい怯む

そこに──

 

『GIGA!!』

BEST HIT MEDLEY(ベスト ヒット メドレー) !!!』

 

槍を構えたサウンドが、飛び掛かった

強大な熱気を持った槍が、デウスの体を突き飛ばす

 

『──!?』

 

その攻撃を喰らい、さらに痺れが走るデウス

そこにさらに追撃を放つべくラストが迫る

 

BEST END(ベストエンド)

「はあああ!!」

 

地面から飛び上がり

水を帯びた斬撃が、デウス目掛け繰り出される

 

”壁が突如現れ、立ちふさがります。

 

地面が盛り上がるように壁が突如生える

しかし、それは先ほどまで見せていたような強固なものではなく

ラストのその一撃を防ぐので精一杯のようであった

斬撃を受け止め、ボロボロと壁が崩れていく

 

”突如凄まじい落雷が降り注ぎあらゆるものを薙ぎ払いました。

 

ラストの頭上に、雷雲が立ち込めていく

それを見て、ラストが駆けだした

 

落雷が降り注ぐ

しかし、最初に放ったそれに比べ雷の量の保てていない攻撃は

掛けるラストを捉えきれない

 

地面に落ちる剣と盾を拾い上げる

ラストの剣戟を、デウスが盾で受け止める

 

ラストが続けるように構成に出る

最初のようなあしらうような余裕は見られず

 

デウスは、ラストの攻撃を防御していく

 

拡大(ビッグ)』『追加(プラス)

その攻防に合わせるように

アクトは攻撃に打って出た

 

掴んだ杖を魔法陣にくぐらせる

巨大化した杖が5本程度に分身していく

アクトはそれを思い切り振りかぶり

 

BEST SELECTION(ベストセレクション)!!』

 

そして、一斉にデウス目掛けて振り下ろした

 

最後の一撃を放ち、デウスから離れるように地面に潜るラスト

 

それを目に追うデウスの頭上に

いくつもの巨大な質量が襲い掛かった

 

杖がデウスとデウスの周りの地面に激突し炸裂する

 

その衝撃に、デウスが大きく弾き飛ばされる

転がったデウスが立ち上がった瞬間

さらに4つの影が、その体を覆いつくした

 

BEST MEMBERS(ベストメンバーズ)!! 』

『 1! 2! 3!』

 

『!?』

 

4人のサウンドが、デウス目掛けて飛び掛かり

そして、通り際に一撃ずつ槍を叩き込んでいく

 

『!!!』

 

その攻撃が、最後の一押しだった

デウスの体が一瞬、完全に硬直を起こす

 

そして──

 

「!──出た!!」

 

デウスの体から、まるで半透明の人影が漏れ出すかのように現れる

それはふらふらとデウスの体にギリギリつなぎ留められているようだった

 

その人影を、自分達は知っていた

風間大吾が、デウスの体から引き剥がされようとしていたのだ

 

「雄飛!!」

「おお!!!」

 

(ファイア)』『転送(ワープ)』『追加(プラス)

 

杖を叩き込み、そしてさらにベルトを強く押し込む

Phantasia(ファンタジア)

BEST ACTION(ベスト アクション)!!』

 

火を纏う足を抱え、アクトが宙を舞う

そして、浮かぶ魔法陣を通過したその時

 

デウスの周りに、何重もの魔法陣が現れる

 

それを見たデウスは、咄嗟にその手をかざす

 

”彼は、扉を閉めて鍵を掛けました。

 そしてどんなことがあっても、決して扉を開けませんでした。”

 

デウスの周りに、まるで障壁のようにバリアが生み出される

 

それでも、構うことなくアクトは魔法陣から飛び出した

 

「「「はぁ!!!!!」」」

 

いくつもに分身したアクトがバリアにキックを放ち弾き飛ばされていく

──それでも、怯むことは無かった

 

10を超え、20、それさえも超えて次々とバリア目掛けてキックを放つ

 

『──!!!』

 

デウスもまた負けることなくバリアを張り続ける

その力を込めて、耐えきっていく

 

「ぐっ!!」

 

アクトから苦悶の声が漏れる

さすがに体力が尽きるか──

 

その時

 

()()()()!!」

 

先程まで、その戦場にはなかった声が響いた

 

『──!?』

 

デウスは突如現れたその声に反応した

──してしまった

 

「早く!!」

 

杏奈は吠えた、力の限りに

自らの父が、これ以上いいように使われるのを許さないと言わぬばかりに

 

「目を覚ませ!!」

 

自らの父親に、返ってこいと叫んでいた

 

『──「あ」!?』

 

その時だ、ビシリと鈍い音が鳴り響いた

デウスは驚愕した、自身が張るバリアにひびが入ったことに

 

そして、自身の中から、自分ではないものが声を放ったことに

 

「おおおおお!!!」

 

勢いが止まりかけたアクトの攻撃が息を吹き返す

何発ものキックがヒビに目掛けて降り注ぐ

 

一度ついたヒビはもう戻すことを許されずに

どんどん亀裂を広げていく

 

「大吾さんを!!」

 

そして、ついにヒビは大穴となりデウスを攻撃の矢面へと引きずり出した

 

最早、その攻撃を阻むものなど、何もなかった

 

「返しやがれえええ!!!」

 

アクトの必殺キックが、デウスのその体に突き刺さる

デウスを突き破り、地面へとアクトが着地すると同時に

 

その変化は訪れた

 

デウスの体から、何かが飛び出す

それは、人の姿

半透明などではなく、実体を持った人間の体で合った

 

アクトがその腕を掴む

 

「だぁあ!!」

 

そして、全力でそれを引き抜いた

千切れるようにデウスの体から大吾が引きはがされた

 

『──!!』

 

デウスが、苦しむかのように悶えるのをよそに

アクトは大吾を抱えて飛びずさる

 

「雄飛!!」「やったな!」

「お父さん!!」

 

アクトへとサウンドとラスト、そして杏奈が駆け寄る

 

そして、アクトは大吾を杏奈へと預け

デウスへと向き直った

 

「お父さん!!」

 

杏奈が横たわる大吾に声をかける

さっきのあの時、あの声は──

 

「・・・あ・・・」

「!?」

 

それは、奇跡にも近しいことだった

 

「あ・・・んな・・?」

「お父さん!!」

 

ゆっくりと、弱弱しくだが、それでも大吾は目を開いていた

 

「・・・大きく、なったなぁ・・」

「~~!!」

 

涙を流しながら、その体を抱きしめる

久しぶりに、本当に久しぶりに交わした言葉であった

 

 

「──あとは」

 

その姿を、横目に見ながら

仮面ライダー達は、残った問題を見やる

 

目線の先では苦しんでいたデウスが、再起しかかっていた

 

「弱体化したとはいえ、油断は無しだ」

「一気に片を付ける・・・!」

 

このまま押し切ると、そう決めて

3人のライダー達が、デウスへと相対する

 

()()()()()()

「「「!?」」」

 

──この声は

 

現れたのは、青い鳥の怪人

すなわち、ブルーであった

 

『本当に、ご苦労だったな、()()()()()()

「っ!」

 

ブルーがデウスの隣に立つ

──逃げる気か

 

「逃がすわけにはいかない・・!」

「デウスはここで仕留める・・!」

 

逃がす暇など与えないと

ライダー達が各々武器を構える

 

そして、3人が駆けだそうとしたその時

 

『ああ、その心配はない』

 

ブルーは、剣を構えた

このまま、自分達との戦いを選ぶつもりかと思われたが──

 

『はぁ!!』

 

次の瞬間、仮面ライダー達は驚愕した

 

『──!!?』

 

ブルーが手にしたその剣を

有ろうことか、()()()()()()()()()()()

 

『!?──!』

 

理解が追いつかない

ライダー達も、そしてデウスもまた

ブルーの行動の意味が分からない

 

『さらばだ、神よ』

 

しかし、その困惑をよそに

手にしたその剣で、デウスの体を切り裂いた

 

デウスの体が激しくスパークを放つ

人間を失い、脆くなったその体は既に限界を迎えていた

 

そして、最後の一撃が、放たれた

 

爆散するデウス

立ち上がる火にブルーは手を突っ込む

 

『これでいい』

 

そして、引き抜いたその手には

輝くような金色のチケットが一枚

 

『神の目覚めにはテラーとして生み出す必要があった』

『しかし、テラーとして生み出してしまえば

 その意思は、チケット内の精神によるものになってしまう』

 

そして、ブルーは人の姿へと戻る

 

『それでは、この力を完璧にコントロールすることはできない』

 

そして、空いたもう一方の手で何かを取りだす

 

『なればこそ』

 

それは、同じように金色の箱型の機械であった

 

『ここで、()()()()()()

 

ブルーは機械を腰に押し当てる

側面から、帯が飛び出しその腰に巻き付いていく

ブルーが手を離したそこには

荘厳な、ドライバーの姿があった

 

『デウスドライバー・・・!』

Deus Ex Machina(デウス・エクス・マキナ)

 

「!?・・・まさか!」

 

ドライバーとチケット

それは、自分達とってとても身近な組み合わせであった

 

そこから生み出されるものは、たった一つだ

 

『変身』

 

ドライバーにチケットが、はめ込まれた

 

喜び、(Joy) 怒り、(Anger) 哀しみ、(Sorrow)楽しみ(Fun)

全ては終わりを迎える、(All comes to end)

 

Deus Ex Machina(デウス・エクス・マキナ)

『仮面ライダー!・・・デウス!!』

 

何も、問題はない。(It’s All Right .)

 

そこに、先ほどまでの鳥の怪人はいなかった

そこにいたのは

 

それは、神々しい金色の体、天使のような羽の意匠と

まるで時計細工のように数多くの歯車が美しくかみ合ったような意匠を持つ

そんな、()()()()()()の姿であった

 

「仮面・・・ライダー・・・デウス?」

「ばかな・・!」

 

3人のライダーが驚愕する中

 

『これが、私の目的

 物語の神の力を得た、最強の仮面ライダーの降臨だ』

 

ブルーはそう告げる

 

『これで世界は変わる

 ・・・物語のように、終わりを迎える』

 

「!?・・・お前の好きにはさせない!!」

 

3人の仮面ライダーがブルーに向かい立つ

 

『君たちも同じだ、仮面ライダー』

『さようなら、

 ・・・君たちの役割も、もうすぐなくなる』

 

「ふざけるな!!」

 

その言葉に、サウンドが駆けだす

アクト、ラストもまたそれに続くようにブルー目掛けて駆けだした

 

『そうか、でも終わりなんだ』

 

駆けだしたライダー達

しかし、ブルーはそれに臆することも

焦ることもなく、淡々と行動をなす

 

その手が、ドライバーに触れた

 

ALL Write(オール・ライト)

 

“そうして、世界は自然に満ちた美しさを取り戻します。

 花が舞い、蝶が飛び交う平和な未来が、やってきました。

                      おしまい。”

 

ブルーの、仮面ライダーデウスのその体から

──光があふれた

 

その光が触れた瞬間

まるで弾かれるように3人のライダー達は吹き飛ばされて

地面へと激突した

 

その衝撃で、3人共に変身が解ける

 

眩い光が辺りを包み、とてもではないが目を開くことができなかった

 

──光が収まるまで、どれくらいあったろうか

数分?数秒?・・・いや、一瞬だったのかもしれない

 

ようやく眩しさがなくなり目を開いたとき

──世界はまるで変っていた

 

先程まで戦っていた岩場から、さらに変化して

自分達が立っているのは

まさに、お話の中のように綺麗な世界であった

 

明るく、自然にあふれた穏やかな世界

草原の中に、自分達はいた

 

「!?」

 

背後を見る

自分達がやってきた方角

 

境界線を越えてからは、まだまだ都市が続いてた方角

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

都市部どころか、地平線にまで人口物は見当たらない

木々はあった、しかしそれもまた、物語の中のような自然だ

 

自分達が、生きてきた世界の痕跡が

目に映るどこにもなかった

 

侵食どころではない

一瞬で、世界が塗り替えられたのだ

 

『これで・・・()()()()()()()()()()()()

 

「ま、だだ・・!」

 

雄飛が立ち上がる

翔も、ラストもまた立ち上がる

 

たとえ、世界を変えられても

その相手が目の前にいる

 

だったら、戦って倒すまでだ・・・!

 

3人がドライバーを構える

 

『無茶をするな・・・()()()()()()()()

 

「何だとを・・!?」

 

その時だ、翔が膝から崩れ落ちる

 

「な・・・に・・・?」

「──翔?」

 

バランスを崩したのだろうか

しかし、再び立つ気配がない

 

雄飛が翔を向き直った時

──異変が始まった

 

()()()()()()()()()()()

 

「な!?」

 

それだけではない

翔の体がどんどん光りだしていく

 

「・・・嘘だろ。」

 

そして、まるでほどけるように

翔は光の粒となり

消えてしまった

 

手にしていたドライバーが地面に転がる音が響いた

 

「──え?」

 

呆気にとられた声が漏れる

脳の理解が追いつかない

 

一体何が起こった──?

 

「お父さん!?」

「!?」

 

背後からの声に

驚くように振り向く

 

声の先には杏奈さんと──

 

杏奈さんの腕の中で、光となって消えた大吾さんが目に映った

 

『これで、()()()()()()()()()

 

ブルーが告げる

一体どうゆうことだろうか

 

「何しやがった・・!」

 

『──。』

 

「一体何をしやがった!!!!」

 

何も言わないブルーに対し

雄飛は、怒りを抱えて駆けだした

 

 

続く

 




次回 仮面ライダーアクト

消えた人々
「・・・私たちだけが、取り残されたんだ」

失意の中で、雄飛は誰かに出会う
「私たちこそが、諦めてはいけないんだ」

ブルーから、全てを取り戻せるか
『ヒーローの枠はもうない、君が戦う理由はない』

「関係ない・・!」
「・・・私が・・・()()!!」

第34章[アクト(雄飛)のクランクイン]


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第34章~アクト(雄飛)のクランクイン~

 

「一体何をしやがった!!!!」

 

何が起こったのか、まるで分らない

ただ、確かなことは

 

仲間が突然消えたこと

そして、それをしたのは間違いなく

目の前の怪人だということだった

 

それを認識した瞬間

彩羽雄飛は、目の前の怪人に向けて駆けだしていた

 

『Phantasic Night Of Beast!!』

 

一気に距離を詰め拳を振りかぶる

拳が、仮面ライダーデウスとなったブルーに迫った

 

しかし──

 

拳が叩き落とされる

そして次の瞬間、腹に走る衝撃

鋭い膝が、アクトへと突き刺さっていた

 

怯む体、さらに追い打つように

デウスの拳を振り上げる

吸い込まれるかのようにアクトの体を叩き、吹き飛ばす

 

「がっ・・!」

 

『言ったとおりだ、世界は変わり

 ・・・人は消えた。わずかばかりを残してな』

 

「「「!?」」」

 

まさか

そんなことがあり得るわけがと

そう、信じたかった

 

しかし、目の前に広がる平らな世界

そのどこまでを見通しても

人は見えない

 

いや、人のいる気配が感じられないのだ

仮面ライダーとしての能力をフルに活用した

それでも、周囲には逃げ惑う人々も

何も見つけられなかった

 

『人は消えた・・・守る物はもうない

 ・・・仮面ライダー、ヒーローは役を終えたというわけだ』

 

デウスが腕を上げる

その瞬間、自分達の立つ場所に異変が起こる

 

まるで、彼らの立つ場所だけがせり上がっていくように持ち上がっていく

そして、広い平野のような風景であった場所は

 

気が付けば、断崖絶壁の場所に早変わりした

視点が高くなったことで、遠くまで見渡せる

 

それでも、やはり人っ子一人、目視はできない

 

『そして、残った者たちもすぐに消えていく

 ・・・役目のない君たちも、退場の時だ』

 

「っ・・・ふざけんなぁ!!」

 

立ち上がったアクトが再び突貫する

手にはCGスタッフ、デウスに向かって振るっていく

 

デウスは身を翻し、初撃を避ける

しかし、アクトはすぐさま切り返し、2撃目を振るう──

 

『 ALL Write 』

 

ガキンと鈍い金属の音が響く

ぶつかるはずであった杖は

デウスの手に突如として現れた、羽の意匠を持った金の剣を持って受け止められた

 

デウスが軽くアクトを弾き飛ばす

そこまでの力は込められていないであろうに、なんという膂力だ

 

「くっ」

追加(プラス)』『Select(セレクト)

 

魔法陣を通過する

3人に増えたアクトが一斉にデウス目掛けて打って出る

 

しかし

 

『1』

 

一人目が、通り過ぎ様に一刀の元両断される

 

『2』

 

二人目が振るった杖を一瞬で弾かれ、そして切り裂かれる

 

『3』

 

そして、最後のアクトの攻撃も届かず

デウスの刃が、アクトを切り飛ばした

 

「ぐああああ!」

 

まさに一瞬の出来事

数で押す戦法は、一瞬で無に帰した

 

転がるアクト

その拍子に、ホルダーから何かが転げ落ちた

それはアクトの手持ちのチケット

 

『ふむ・・・』

 

落ちた2枚、"ワイルドウエスタン"と"侍丸"を

デウスは拾い上げる

 

そして──

 

『 ALL Write 』

 

ベルトを駆動させた瞬間

手にしたチケットが浮かび上がる

 

チケットを中心に、エネルギー状の何かが組み上がっていく

形はモヤから人型に

そして最後には

 

『WILD WESTERN』『侍丸』

 

「!・・・なに!?」

 

アクトの目の前に、二体の怪人が現れた

片やガンマンのような

そしてもう片やサムライの様ないで立ちをした怪人

 

まさしく、アクトがもつチケットから生まれた怪人であった

 

2体の怪人が襲い掛かる

刀が鋭い軌跡を描き、アクトへ振るわれる

その攻撃を何とか避ける

 

息を突かせぬ連撃、

そして、その背後には──

 

悠然に銃を構え一瞬の隙を伺う姿があった

 

サムライが刀を振り下ろす

勢いあるその振り下ろしをアクトは何とか回避し

刀が、地面にぶつかった

一瞬の隙、ここに──

 

アクトが攻勢に出ようと武器を構える

しかし、それこそがアクトが生んだ、一瞬の隙でもあった

 

体に走る衝撃を感じた後に、遅れるように

連続した銃声が響いた

 

ガガガガンと銃弾がアクトの体に炸裂する

 

「ぐぁ!?」

 

油断大敵、アクトの手が止まる

その瞬間、

 

狙いすましたかのようなサムライの切り上げが

怯んだアクトの体を切り裂いた

 

「ぐぁああああ!!」

 

アクトの体が飛ぶ

その拍子に、さらに数枚のチケットが転がり落ちた

 

まずい──!

 

しかし、その危惧も遅い

 

一瞬の閃光、そしてその後には

 

2体のバッタの姿をした怪人が、アクトの前に現れた

 

「くっ」

 

アクトが杖を叩く──

 

『ALL Write』

 

突如、アクトの頭上で何かが唸りを上げる

これは──!?

 

次の瞬間、アクトの周囲に落雷が降り注いだ

 

「がっ・・・あっ・・!」

 

衝撃に、行動がストップする

体が痺れ、意識が飛びそうになる

 

ふらつくアクト

そんなアクトをしり目に、バッタ怪人達が、飛び上がった

 

『──!!』

 

2本の足が、アクトに迫る

体が痺れたアクトにそれを避ける術は存在せず

 

アクトの体を、怪人のキックが凄まじい勢いで突き飛ばした

 

その衝撃で、ドライバーが過負荷があったのだろう

変身が強制的に剝がされる

 

雄飛の足が地面から離れ、宙を行く

飛ぶ先は、断崖絶壁の先

 

ビルにしてどれほどの高さなのだろうか

それでも2,3Mでは数え足りない程の高さの崖から

 

「うわあああああああ!!!」

 

雄飛は放り出された

 

 

「雄飛!!」

 

アクトがバッタ怪人に蹴り飛ばされ

そのまま崖下へと落下していく

 

杏奈は手を伸ばそうとして

 

「っ・・無理だ・・・!」

 

ボロボロのラストに引き留められる

手を伸ばしても届きなどしなかった

 

しかし、止められてなければ自分も崖から飛び出してでも助けに行きかねなかった

 

そして、ラストは──

 

「・・・ぐっ・・おおお!!」

『MIRAGE TORCH』

 

痛む体を押して、グリップから火を吹く

巨大な火炎が、デウス達目掛けて解き放たれた

 

『・・・ふっ!』

 

無論、その程度の炎ではデウスはびくともしない

一刀の下、炎が切り払われる

 

切り払った炎の先

隠れたその場所が、再び姿を現す

 

しかし、その場所に先程までにいた二人の姿はなかった

 

『逃げたか・・・

 だが、行先などもはやそうないだろう』

 

逃がしたことにデウスは焦りはしない

悠然と、4体の怪人を引き連れて

逃げ去ったであろう場所目掛け歩き出す。

 

 

 

杏奈の手を引きラストは走る

最早見覚えのある風景などどこにもない

何度もたどった道を記憶を頼りに進み行く

 

そして、たどり着いた喫茶テアトロは──

 

「これは...」

 

言わずもがな、その姿を残してはいなかった

建物の痕跡すら残さずに自然豊かな土地となった地で

2人は呆然と立ち尽くす

 

そこへ

 

「・・・ラスト?」

 

一人の男の声がした

すぐさま振り返る、視線の先には

 

「ラスト、風間さん・・!」

 

見知った脚本家が、木の影から姿を現した

 

「オオキ!」「大木さん!」

 

ようやく出会えて見知った顔に

2人に安堵の感情が満ちる

 

──しかしそれも、一瞬のことであった

 

現れた男、大木の腕の中に

2人分の白衣と、茶色いロングコートがあるのが見えるまでは

 

それの持ち主が誰なのかは分かっている

そして、それを大木が抱えていたことの意味を

今更わからないはずもなかった

 

「・・・そんな。」

 

 

・・・・・。

 

 

「一瞬だった」

 

合流した大木の口から、何が起こったのかが伝えられる

 

「突然光が周囲を覆いつくして

 ・・・それが止んだら、この景色だ」

 

「そして、そのあと3人は・・・」

 

光となって消えていった

翔と全く同じ現象が、喫茶に残された4人の内の3人にも起こったのだ

 

つまり──

 

「本当に、人間のほとんどが消されたというのか・・・!」

 

それは、あの場だけに起こった現象ではなく

世界全てが対象であるという裏付けに他ならない

 

「一体何があったんだ?・・・雄飛君と翔君は?」

「それは・・・」

 

~~~

 

「そんな、翔君が・・・雄飛君まで・・・」

 

伝えられた情報に大木が消沈する

その痛烈な顔に、ラストと杏奈もまた

心が沈みかけていく

 

・・・いや、まだだ

 

「・・・雄飛は死んでない」

「え?」

 

翔が、音石が

そして父親と、叔父さえも消えてしまった

 

しかし、雄飛は違う

彼は消えていない、いないのだ

 

「まだ、全部が消えたわけじゃない

 ・・・まだ、雄飛も、ラストだっている!

 そうでしょ!!」

 

折れるには、まだ早い

雄飛はきっと生きている

まだ、2人も仮面ライダーが残っている

まだ、抗う人間は、残っている

 

そう言って立ち上がる

まだ、負けていないのだ

 

その顔に、2人もまた沈んでいた顔を立ち直す

そうだ、まだまだ戦えるのだ

 

杏奈は、思案する

一体この状況はどういことなのか

その中で、一つの疑問に行きついた

 

「・・・なんで、私たちだけが?」

 

それは、どう考えてもおかしい疑問であった

ブルーは、人間は全て消えた、と言った

 

ならば、対象は全人類であったはずである

とすればなぜ自分達は、消えていないのだ?

 

「・・・恐らく」

「ラスト?」

 

その疑問に、何か気が付いたのか

ラストが口を開いた

 

「これは、テラーにしたのと同じ原理だ」

「?・・・どういうこと」

 

「人が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ」

 

 

「テラーは、人が物語の中の存在に変わった者とも言える」

 

思い出す、チケットを埋め込まれた者たちを

その体は変異していき、まるで現実ではないなにかに変わったことを

 

「あの力も、それを他者に行ったのかもしれない」

 

それってつまり・・・

 

「人間を、人じゃない何かに変えていったってこと?」

「可能性はあると思う」

 

そう、それは何も

怪人のような存在だけにはとどまらない

 

今この世界に飛んでいる

蝶や花、そう言った()()()()()()()

もしかしたら・・・

 

「じゃあ、私たちが無事だったのは・・・」

 

「・・・既に、()()()()()()()()()()()()()()

「そうか・・・だから僕たち4人が残ったのか」

 

大木は、ガラスに

杏奈は、氷の女王

ラストは、3つのチケットの力を持っている

 

そして、雄飛は野獣のテラーとなった

 

変える必要がないと、判定されたからこそ

自分達は、この状況でそのままであったのだ

 

「・・・いや、そうとも言い切れない」

 

「この仮定が正しければ

 残ったのはチケットの枚数

 ・・・つまりは」

 

──100人にも、満たない

 

全人類、何十億と言える数が

たったの100まで減ったということだ

 

「私たちだけが、取り残されたともいえる」

 

ラストは、そう締めくくる

その言葉に、2人は再度意気消沈する

 

──けれど

 

「じゃあ、・・・助けられるってこと?」

 

杏奈の言葉が、他の2人が顔を上げる

──そうか

 

「死んだわけでも、消えたわけでもない

 ・・・ただ、姿を変えられているだけなら・・!」

「ああ、戻せるかもしれない」

 

すなわち、これを起こしたブルーの

その力を解除すれば──

 

それは、一筋の希望だった

 

『無理だな』

 

その声が、聞こえるまでは

 

「「「!?」」」

 

3人が振り返る

その目の前には

 

『その考えは正解だ

 ・・・彼らは、人ではなくなっただけ』

 

ブルーが彼らを消すために

そこに立っていた

 

『だが、彼らを戻すのは

 ・・・私を倒すしかないということだ』

「っ、もうここまで」

「残った人間は、自ら始末すればいい

 ・・・そう言うことかい・・!」

 

杏奈の驚愕、大木の問いかけに

ブルーはチケットを取りだすことで応える

 

逃がしては、くれそうになかった

 

「下がっていろ!」

 

ラストが前に出る

勝機など、見えるはずもない

それでも──

 

「変身!!」

 

仮面ライダーとして、彼は立ち向かうことを選んだのだった

 

『変身』

 

Deus Ex Machina(デウス・エクス・マキナ)

『仮面ライダー!・・・デウス!!』

 

変身したデウスの背後から

2つの影が現れる

 

サムライのテラー、ガンマンのテラー

2体の怪人と、仮面ライダーを前に

 

「うおおお!!」

 

ラストは、それでも果敢に駆けだした

 

 

 

 

 

──激痛の中、目が覚める

 

・・・生きている。

 

雄飛は、周りに転がった岩をどかしながら

何とか体を起こしていく

 

周りには、巨大なクレーターのような落下後

これは・・・

 

「よく生きてたな・・・」

 

あれだけの高所から生身で落下して何故無事なのか

自分の頑丈さに疑問を抱く

 

しかし、その答えは

ドライバーから、鈍い音を立てて

何かが、零れ落ちた

 

「っとと」

 

地面に落ちる前にそれを受け止める

手にあったのは

 

『──。』

 

まるで、無理をしたのかのように

バチバチと音を立てているチケットが一枚

 

「そうか・・」

 

なぜ自分が無事なのか

その答えは、この手にあるチケットのおかげだと悟る

 

このチケットは、自分の危機に

勝手に起動して変身をしたのだ

 

そして、野獣の姿をしたアクトは

そのまま凄まじい落下に何とか耐えきったのだ

 

「すまない、ありがとう。」

 

一言お礼を言い、どうにか落下地点から移動を始める

全身の痛みが、自身の限界を告げている

 

このままでは、まともに戦えるわけもない

 

「っ痛・・」

 

体を引きずりながら

雄飛は、変わってしまった世界を進んでいく

 

そして・・・

 

「本当に、誰も・・・」

 

 

そのあまりの静けさに絶望する

誰もいない、誰の姿も見えない

 

まさに、世界中から

人間の存在が消し去られてしまったかのように

 

目の前で消えた翔が

そして、目の前の何もない状況が

 

デウスの、ブルーの言葉が本当であることを分からせようとしてくる

 

守れなかった・・・!

 

そう、罪の意識が重くのしかかる

誰も彼も、皆消えてしまった

 

「まだだ、ブルーを倒せばきっと・・・」

 

──戻るのか?

 

そんな、疑心が聞こえた

もう、自分は守れなかったのではないのか?

 

ブンブンと頭を振って否定する

そんなことであきらめるわけにはいかない

 

少しでも望みがあるのだ

どんなことがあっても、ブルーを倒さなければならないのだ

 

 

 

 

──倒せるのか?

 

「っ!?」

 

その考えが、雄飛の頭の中を埋め尽くす

自分の一番の戦力をぶつけた

その上で、正面から手も足も出なかったのではないのか?

 

頼れる仲間も消えた

そんな状態で、どうやって勝つのだ?

 

「それは・・・!」

 

──無理ではないか?

 

駄目だった

自分が勝てるビジョンが何一つ見えてこない

これまでとは違う、圧倒的な力の前に

 

彩羽雄飛は、どう戦えばいいのか分からない

 

進んでいた、足が止まる

 

「っ・・・・・・。」

 

何か、何かと考えて考えて考えて

 

──何も、応えは出なかった

 

 

 

”守る物はもうない、・・・ヒーローは役を終えたというわけだ”

 

そうなのだろうか

もう、自分に守れるものは、残ってないのだろうか

 

──諦めるしか、ないのだろうか

 

 

 

ズドンと、鈍い音が雄飛の意識を現実へ呼び戻した

 

すぐ後ろの、巨木がへし折れ

地面に横たわる

 

そして、その陰から

 

『──。』

 

2体のバッタ怪人が、現れた

 

「っ・・!」

 

体を引きずりながら

怪人から逃げる

 

今は、まともに戦える状態ではない

 

追って来る怪人から

必至に逃げる

 

森を抜け

大岩の転がる荒地へ入る

 

そして、手ごろな物陰に隠れる

 

直ぐ近くに、怪人が徘徊するのが分かる

このままでは、見つかるのも時間の問題だろう

 

だが、逃げるのも限界である

 

そして、少しずつ隠れ場所に迫って来る怪人に

もう駄目なのか、と諦めかけた

 

その時──

 

 

「こっちだ!!」

「!?」

 

何者かに手を引かれた

 

バッタ怪人が、岩陰を覗き見る

 

そこには、人っ子一人いない

 

そして、怪人はこの場所にはいないと目星をつけ

跳躍してその場を離れていった

 

 

 

 

「危なかったな・・・」

 

先程の岩陰のさらに奥

 

岩の間に隠れるように設けられた

深い洞窟の中

 

そんな中に、雄飛は手を引かれて招き入れられていた

 

「あ、あなたは・・・」

 

雄飛は、自分の手を引いた人物を見る

 

スーツを着た、初老の男性

真面目そうな顔に、穏やかな目をした彼は

 

「私は・・・」

 

雄飛の問いかけに

その手を離し、

 

そして──

 

「私たちはライダーの同志(ライダーズ・フェロー)!!君たちの同志だ!!」

 

シャキーンと、ビシッとキメポーズを決めながら

雄々しくそう名乗った

 

「え、えぇ・・?」

 

 

 

洞窟の奥に進む

 

そこには

 

「おお、また見つけたのか」

「これで8人目だな」

「探索組はもう戻ったぞ、収穫もあった」

 

複数人の()()()、集まって生存していた

 

「これは・・・」

 

雄飛はその光景に驚愕する

見られるのは、たったの7人程度

しかし、・・・7人も人間がここにはいた

 

「ああ、怪我人でな

 薬箱はまだあったよな」

「ああ、向こうだ」

 

そうして、雄飛は手を引かれながら

洞窟の中に腰かける

 

そして、傷ついた体に

その人はしっかりと手当を施していく

 

「あの・・・あなたたちは・・・」

「うん?」

 

雄飛は、聞かずにはいられなかった

先程の名前の意味を、そして彼らが何者なのかを

 

「ああ、・・・先ほども言った通りさ

 私たちはライダーの同志(ライダーズ・フェロー)

 仮面ライダーを支持するもの達の集いだ」

 

初めて聞く名前だった

自分達の協力者だろうか

いや、そんな話は浩司さんから聞かされていない

 

なら、彼らはなぜ──

 

「君も、そうなのだろう?」

「え?」

 

その問いかけの意味は──?

 

「君も、私たちと同じく

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「──。」

 

──そう言うことか

 

彼らは、まさか

 

「私も、8年前に彼に助けられてね

 ・・・ここにいる皆がそうさ」

 

彼らは、テラーになった人たちだ

そして、彼は自分ではない仮面ライダー

すなわち、大吾さんが、助けた人たちなのだ

 

「最初は、助けられた彼に一目会うために作ったコミュニティだったが

 ・・・まさかこんなことになろうとは」

 

「よく・・・ここまで」

 

感嘆の言葉が漏れる

 

彼らは、この状況で無事に集まり

そして、この洞窟で生存するために必死に足掻いていたんだ

 

「ああ、だがまだまださ

 まだこの状況を打破するための手はずも何もない」

 

そう言いながらも、男は何も不安はないようだった

 

「だけど、それも時間の問題だ

 ──きっと助かる」

 

「なんで──」

 

「仮面ライダーが、いるからさ」

「っ・・・!」

 

その顔に、不安はない

自信いっぱいに、その言葉を言いのけていた

 

周りの7人も、その言葉にうなずいている

そこに、何一つ疑いはないようだった

 

その風景に

雄飛は──

 

「なぜ、そこまで・・・」

「うん?」

 

「なぜ、そこまで信じられるんです?

 ・・・この状況で、どうして」

 

そんな、疑問(弱音)を吐いてしまった

 

なぜそこまで、言い切れるのだろうか

それが、分からなくなってしまった

 

「今度こそ、負けてしまうかもしれない・・・」

 

そんな言葉を聞いて

男は、まるで諭すように雄飛の肩に手を置いた

 

「・・・だからこそさ」

「・・・え?」

 

「そうだ、これまででこんなことは一度もなかった

 ・・・きっと凄まじい何かが起こっている」

「仮面ライダーはそれに立ち向かっている最中だろうな」

 

「だからこそ、私たちが先に諦めるわけにはいかない

 いや、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「・・・。」

 

「彼は今も、私たちのために戦っているのだから」

「っ!?」

 

──ああ、そうか

 

「彼が助けている、私たちが諦めては

 頑張る意味がなくなってしまう」

「だから、私たちは諦めてはいけないんだ」

 

彼らは、仮面ライダー(自分)を助けるために、一緒に戦ってくれているのだ

 

「そうだろう?」

 

「そう、ですね・・・その通り・・だ・・。」

 

ああ、そうだ。

その通りだ、諦めている暇なんてない

 

「よし、これで大丈夫だろう

 ・・・痛くないかい?」

「・・・はい。」

 

ああ、そうだ。

何も痛くはない

 

──戦うには、十分すぎる

 

雄飛は、立ち上がる

もう、迷うことなど何もない

 

「すみません、・・・俺、行きます

 ・・・行かなきゃいけない所があるんです」

「!?・・・なんだ?

 まさか、まだ誰か残っているのか?」

「それなら私たちも・・・」

 

「大丈夫です。・・・ありがとうございました!

 行ってきます!」

 

そう言って、雄飛は洞窟の外へと駆ける

彼らに最大級の感謝を、そして──

 

「・・・分かった!!だけど必ずその人を連れて戻って来るんだぞ!!」

「私たちは、待ってるからな──!!」

 

「・・・はい!!必ず・・・必ず()()()()

 

絶対に負けないことを心に誓って

 

 

 

 

落雷が落ちる

 

「ぐあああああ!!」

「ラストぉ!!」

 

地面に落ちら轟雷が、炸裂し

ラストの体を痛めつける

 

そして、息を突かせぬように

刀の一撃と何発者銃弾が、その身に撃ち込まれる

 

その攻撃を持って──

 

「う・・・あぁ・・・」

 

仮面ライダーラストは敗北に喫してしまった

元々のダメージもある上で

3体1など、無謀もいいところであったのだ

 

『・・・これで終わりだ』

 

倒れ伏したラストに駆け寄る2人

そして、それにゆっくりと近づく仮面ライダーデウス

 

「くそう!!」

 

大木が茶色いロングコートのポケットを漁る

そして取りだしたのは、一丁の拳銃であった

 

銃口をデウスに突きつける

 

『その程度で、刃向かうつもりか?』

「くっ・・!」

 

震える手で2人を庇いながら

銃を構える大木に

 

デウスが悠然と詰め寄り

そして──

 

「よせ!!」

 

その手が、大木を摘み取る前に

一つの声が、彼の行動を止めた

 

それを見た3人は

 

「雄飛君・・!」「雄飛!!」「・・ユー・・ヒ」

 

声の主の男の名を呼ぶ

 

『ほお、生きていたか』

「頼りになる、友人がいてね・・!」

 

夜と野獣(Night Of Beast)

 

「変身!!」

 

『Trembling Night Is Coming』

『Beast Will Bring It』

『Can You Hear That Shout?』

『Night Of Beast』

『... Not Missed off .』

 

野獣の様相へと姿を変えたアクトは

荒々しく、デウス目掛けて駆けだした

 

 

デウスの前に、サムライとガンマンが遮るように立ちふさがる

 

サムライの一刀がアクト目掛けて振り下ろされる

それを素早い動きで回避し、爪をその腹に──

 

銃声がそれを遮る

飛びのくように避けて距離を離す

 

そして飛びのいた瞬間

──上方からの殺気!

 

その場からさらに飛びのく

先程までいた場所に、上空から何かが落下した

 

砂煙を払いのけて、2体のバッタ怪人が姿を現す

 

5対1、それでも逃げる気はない

 

アクトが駆けだす

バッタ怪人とぶつかり合い

 

爪を振るい、蹴りを避けの攻防を繰り広げる

少し距離を離せば、銃弾に晒される

 

ガンマンに気を付けながら

バッタ怪人を攻撃を放つ

 

バッタ怪人がアクトの攻撃を防ぐ

しかし、その防御によって一瞬ぐらついた

 

今──

 

ガンマンからの攻撃もない

この一撃で──

 

そう、力を込めた一撃を放つ

 

その攻撃は、バッタ怪人の防御を潜り抜け──

 

「!?──ぐ・・・あ・・!?」

 

()()()()()()()()()、アクトの腹部へと突き刺さった

 

咄嗟に、デウスの方を見る

そこには・・・

 

デウスの後ろにゆらりと浮かぶ

魔法使いのような様相の怪人の姿があった

 

──いつの間に・・・!

 

気づいたときにはもう遅い

不意の攻撃に、アクトがふらつく

そしてデウスが、腕を振り上げた

 

アクトへと落雷が降り注ぐ

 

「ぐあああ!!」

 

全身の痺れを感じながら

アクトの体から力が抜ける

 

そして、変身が解けていく

 

はじき出されるかのように

ドライバーからチケットが外れた

 

飛んだチケットは

まるで吸い込まれるかのようにデウスの手に渡る

 

まるで暴れるようにチケットが

デウスの手から逃れようと藻掻いた

 

しかし、デウスが手に力を込める

その瞬間、まるで抑え込まれるかのようにチケットがおとなしくなる

 

そして──

 

次の瞬間、

デウスの隣に、暗い赤色の目をした野獣の様相をした怪人が姿を現した

 

『これで、もう変身はできない』

「っ・・まだ・・だ・・!」

 

それでも雄飛は立ち上がる

限界など、とうに迎えた体は、それでもしっかりと立っていた

 

『・・・なぜ、諦めない?』

 

その姿に、デウスは、いやブルーは問いかける

なぜ、そこまで頑張っている

 

『もはや負けは見えているはずだ

 ・・・それでも、なぜそこまで立てる』

 

もはや、あとは殺されるだけ

そんな状況で、それでも力強い目をした雄飛が

心底理解できない

 

『力はもうない』

『仲間の助けも期待できない』

 

そして、世界を見せる

どこまでも平和な世界

何もいない世界を

 

『こんな世界に、ヒーローの枠はもうない、君が戦う理由はない』

 

そう、言い放つ

ヒーロー役は、もはや意味をなさない

助ける物がない、と言い放った

 

「・・・。」

『?・・・なぜ、戦う?』

 

それでも雄飛は、デウスを見据える

諦めることなく、デウスをにらみつける

 

「関係・・・ない・・!」

『なに・・?』

 

「枠があるかなんて・・・関係ないんだ」

「助けたいんだよ・・・!」

 

雄飛は、ブルーの問いに全力で応える

自分の戦う理由なんて、知れたことだ

 

「最初っからそうだった・・・!」

『・・?』

 

「仮面ライダーだから助けたんじゃない

 ・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

そうだ、あの日あの時

自分は、あの困っていた人を助けるために駆けだしたんだ

 

「助けたいのに、理由なんていらない

 ・・・助けたいから助ける!!・・・それだけのことだった!!」

 

「だから、俺は戦う

 助けるための、仮面ライダーだから」

 

 

「この世界に、仮面ライダーって役があるかなんて

 最初の最初から、関係なかった!!」

 

 

「役割が世界にあるかどうかなんて関係ない!!」

 

 

「誰かを助けたいって気持ちがあった

 ・・・その気持ちが心の中にある限り・・・!」

 

 

「私が・・・・っ()()!!!」

 

「彩羽雄飛が!!」

「仮面ライダーアクトなんだ!!!」

 

そう言い切る

それは、雄飛の戦う理由

どれだけの絶望が目の前にあろうと

もう折らせないと決めた、アクトの理由

 

『・・・なら、最後まで力及ばずに・・・!』

『死んで行け!!』

 

デウスの指示に従ってバッタ怪人が跳躍する

そこから繰り出される蹴りは

生身の雄飛の体など粉々に打ち砕くだろう

 

避けることはできない

その力が、もはや雄飛にはない

 

それでも──その心は折れない

さいごまで、立ち向かう瞳が怪人を見る

 

バッタ怪人のキックが繰り出される──

 

 

 

 

──ブルーは言った

この世界は既に物語の世界だと

 

それは、彼の目的のために最大限に利用される世界だ

しかし、そこには一つ、落とし穴があった

 

 

 

──物語の中であるのなら

──奇跡の一つくらい起こりえるのだから

 

 

『!?』

 

その時、雄飛とバッタ怪人の間に

何かが、生まれた

 

バッタ怪人の蹴りが、雄飛に当たる直前に停止する

──いや、止められたのだ

 

バッタ怪人と、雄飛の間に発生した眩い光によって

 

そしてそのまま

 

『──!?』

 

バッタ怪人は、凄まじい力に押し返され

弾き飛ばされる

 

「・・・?」

 

雄飛は、呆然とその光を見る

一体何が起こったのか分からない

 

しかし、光は待ってくれない

光がどんどん形を変えていく

四角い何かに、長方形上の何かに──

 

これは・・・・

 

雄飛は手を伸ばす

光に、今生まれた何かに

 

それを掴み取った瞬間

光は弾けるように解き放たれ

その後には、雄飛の手には──

一枚の、チケットが握られていた

 

「──。」

 

それを見た雄飛は、立ち上がる

 

ドライバーを締め直し

先程のような力のない立ち方ではなく

力を込めて、立つ

 

『チケット・・・だと?』

 

デウスが驚愕する

一体何が起こったというのだ

 

『この期に及んで・・・!』

 

雄飛は、踏みしめた脚を起点に

チケットを目の前にしっかりと構える

 

何一つ不安はない

そのタイトルを見た瞬間

そんなものは、吹き飛んでいた

 

『一体、何になるつもりだ──!!』

 

デウスの怒れる声を前にして

それでも怯むことなく

 

雄飛は、チケットを起動した

 

『仮面ライダー ACT(アクト)!!!』

 

体に力が灯る

そこに、余計な思考など必要ない

演じるべきものは、全て自分の中にある

 

「変身!!!」

 

だから、何も不安などなく

 

雄飛はドライバーにチケットを装填した

 

 

新たな伝説、新たな始まり(A new legend , A new Begging)

舞台へ上がれ(Come on stage)!!』

君は...(You Are the)

 

『仮面ライダー !!!』

ACT(アクト)!!!』

 

雄飛の姿が変わっていく

 

その姿は、ライダーフォームとよく似ていた

バッタのような意匠をした、ライダーの姿

白をベースとしたアンダーアーマーに

深紅のアーマーが装着されていく

 

首から、マフラーをたなびかせ

 

男はそこに立っていた

 

 

絶望的な状況、絶対的な力の前に

男は立っていた

 

彩羽雄飛が、仮面ライダーとして立っていた。

 

 

続く

 




次回 仮面ライダーアクト

第35章[ 始まりのワン・アクション ]


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第35章~始まりのワン・アクション~

『A new legend , A new Begging』

『Come on stage』『You Are the』

『仮面ライダー !!!』

ACT(アクト)!!!』

 

眩いほどの極光が収まった時

一人のライダーがそこにいた

 

絶望的な状況の中、為す術もなくなった果てに

それでも諦めなかった結果がそこにはあった

 

彩羽雄飛は、今一度仮面ライダーになっていた

 

「変身・・・した・・。」

「あんなの見たことない・・・」

 

その姿に、杏奈たちも驚愕する

その姿は一度も見たことがない物だった

一体、雄飛に何が起こったというのだ──

 

 

『──!』

 

その姿を視認したバッタの怪人が駆ける

眼前に現れた敵に、消し去らねばならない相手に殴り掛かった

 

拳が空を切る

身を躱した仮面ライダーが、その手を握りしめ

そして攻撃を避けられ、隙を晒した怪人目掛け叩き込む──

 

ゴオオンと

 

凄まじい勢いで、怪人が壁に叩きつけられたのを

デウス達は、轟音を聞いたときに始めて知覚した

 

 

『・・・なんだ、その姿は・・・?』

 

仮面ライダーデウスもまた、予想外の状況に驚愕が隠せなかった

 

『誰だ・・・貴様は一体──!』

 

一体、奴は一体・・・何になったというのだ

 

「俺は──」

「仮面ライダー・・・」

「仮面ライダーアクトだ!!」

 

雄飛は、力強く名乗る

そう、それが自分

他の誰でもない、一人の戦士

今ここに、仮面ライダーアクトが立っている──!

 

「デウス・・・()()!!

 ・・・あんたを止める!!」

 

『っ・・・行け!!』

 

切った啖呵を火蓋に

立ち上がったバッタ怪人も含めた怪人達が一斉にアクトに襲い掛かる

数は圧倒的に向こうが上

 

それでも──

アクトは、恐れることなど何もなく立ち向かった

 

 

次々に襲い掛かる怪人達

斬撃が、銃撃が魔法が

一挙に襲い掛かる

 

それを避けながら、反撃を放つ

振り下ろされる斬撃を腕の装甲で受けとめ

その顔面を殴りつける

怪人は、その衝撃に後ずさりながらも

恐れを知らずにまた迫る

 

さすがに多勢に無勢か

 

「っく・・!」

 

その時、空が眩く光る

 

「!?」

 

周りに雷光が降り注いだ

煙が晴れる

 

「・・・!」

 

避けきることはできなかった

アクトのアーマーから焦げるような黒煙がほのかに立ち上っている

 

『・・・その程度か』

 

いくら変身できたとしても

この状況をひっくり返すほどではない

そう、デウスは判断する

 

『せっかく立ち上がったが

 ・・・無駄だったようだな』

 

驚きはしたが、それでも自分に勝つことはできない

 

『諦めろ・・・何者もこの状況は覆せない──!!』

 

再び、怪人たちが襲い掛かる

このまま数で押しつぶされてしまうのだろうか

 

「──いや、できる」

 

それでもアクトの・・雄飛の目に絶望はない

何故なら──

 

「俺は・・・そう思って()っているんだからな!!」

 

そうだ、負けることはない

この姿は、このヒーローは

限界なんてないとそう思っているのだから──!

 

ベルトを押し込む

その瞬間、雄飛の中に力がこもった

 

OVER RIDE(オーバー・ライド)!!!』

 

┌────────────────────────

│仮面ライダー アクト

│■身長:190.5cm

│■体重:88.0kg

│■パンチ力:15t

│■キック力:25t

│■ジャンプ力:60.0m

│■走力:4.5秒

└────────────────────────

 

その瞬間、アクトに右手に力がこもる

まるで先程とは違うものになったかのように

 

┌────────────────────────

│仮面ライダー アクト

│■身長:190.5cm

│■体重:88.0kg

│■パンチ力:15t -> 45t

│■キック力:25t

│■ジャンプ力:60.0m

│■走力:4.5秒

└────────────────────────

 

 

「おおおおお!!」

 

ズドンと轟音が鳴り響く

先程までとは比べ物にならない程の高速拳が

飛び掛かったバッタ怪人の、その攻撃が届く前に腹に叩き込まれる

 

『!?・・・!?』

 

バッタ怪人が大きく後ずさる

そして──

 

『ぐ・・・ぉおお!』

 

凄まじい衝撃に膝を折った

 

『──!?』

 

先程まで無かった反応に

怪人達の足が止まる

 

┌────────────────────────

│■キック力:25t -> 60t

└────────────────────────

 

「らぁっ!!」

 

アクトの蹴りがガンマンへと突き刺さる

先程までならば軽くのけ反る程度の攻撃

しかし──

 

『!?』

 

体が浮く感覚

そしてすさまじい勢いで地面を引きづられる

体が削れる痛みに、怪人が苦悶の声を上げる

 

『・・・何だと?』

 

デウスが驚愕する

これは一体──

 

『・・・セイバイ!!』

 

サムライの怪人が刀を構え

アクトの背後から切り掛かる

完全な死角、逃しはしない

 

脳天を叩き割るほどの一刀が振り下ろされる

 

┌────────────────────────

│■専用武器:─

└────────────────────────

 

アクトがその手を振り下ろされる刀に向ける

無手で受ける──ならばそれごと切り落とす

より一層力を入れた一太刀が迫る

 

┌────────────────────────

│■専用武器:アクトブレイガン

└────────────────────────

 

ガキンと、鋼鉄のぶつかる音が響いた

いつの間にか、アクトの手に握られていた武器は

背後からの人達を完全に受け止めていた

 

『!?』

「!」

 

受けた刀を切り飛ばし

振り返ったアクトが剣を振るう

1, 2, 3 撃の斬撃が怪人を切り飛ばした

 

『!・・・オオオ”!!』

 

それでもサムライは耐えきって、撃ってかかる

刀を振るい、アクトの剣とつばぜり合う

力の限り押し込んでくる怪人に、アクトの足も力を入れ持ちこたえる

その背中を

 

『──。』

 

ガチャリと、銃を構えガンマンが狙う

サムライと相対してその背を狙い撃つ──!

 

弾丸が、放たれた

10を超える弾丸は、まっすぐアクトの背に向かう

サムライを前に背後の弾丸を切り落とすことも間にあうまい

 

──その考えは、真っ向から打ち砕かれた

銃声が響く

 

その瞬間、ガンマンが放った弾丸が

一瞬にして、()()()()()()()

 

『!?・・・ナ!?』

 

アクトはいまだ、サムライと剣でつばぜり合う

剣は動いていない、切り落としなどしていない

しかし、もう一方の手

 

そこには──

 

┌────────────────────────

│■専用武器:アクトブレイガン×2

└────────────────────────

 

()()()()()、ブレイガンがしっかりと握り込まれ

その銃口から硝煙を立ち上げていた

 

『!?・・・イツ!?』

 

一体いつの間に武器を──

 

「ぜああ!!」

 

サムライの剣を切り飛ばし

空いたどてっ腹に、銃を突きつける

弾丸が、叩き込まれた

 

『オオ!?』

『グア!?』

 

衝撃に、サムライが吹き飛び

そして、飛んだ先のガンマンとぶつかる

激突しながらも、怪人達は立ち上がる

 

前を見る、

しかしその先にアクトはいない

 

影が2人を覆う

上を見上げた瞬間には

 

武器を振りかぶったアクトが

2人の怪人に飛び掛かっている

 

2本の剣で繰り出された斬撃が

怪人を同時に両断した

 

『』『』

 

怪人が爆散する

2枚のチケットが、爆炎の中から転がり落ちるのだった

 

「・・・ふぅ」

 

一息つく

その瞬間──

 

「!?」

 

業火が、自分目がけて迫った

それを回避して、前を見る

 

『■■■■!!!』

 

野獣の怪人が

凄まじい勢いで突撃して、爪を振るう

顔面に迫る腕を咄嗟に受け止める

 

凄まじい力で押し込まれる腕を

アクトも全力で、受け止める

 

『■■■■・・・■■■!!』

 

野獣が声にもならない声叫びアクトへと爪を押し込む

力づくで押し込まれた爪がどんどんアクトへと向かう

 

「・・・すぐ、戻すからな」

『!?』

 

押し込まれた爪を逆に引きづり込む、

虚を突かれた野獣の爪が、勢い余ってアクトとはあらぬ方向に突っ込んだ

そこへ

 

「っらぁ!!」

 

アクトが真上に蹴りを叩き込む

野獣の体が宙へ浮き、吹き飛んだ

 

「はあああ!!」

 

アクトが構える

落下した野獣へ攻撃を叩き込む──

 

しかし、飛ぶ野獣のその方向に

()()()()()()()

通り抜けた野獣が、上空から消え去る

 

「!?」

 

アクトの目の前に魔法使いの様相をした怪人が立つ

 

「お前か・・・!」

『・・・ハァッ!』

 

魔法使いが手をかざす

 

アクトの周囲に数十を超える魔法陣が

取り囲むように展開される

 

そして──

 

「──!?」

 

魔法陣から次から次へと

野獣が這い出て、アクトへと襲い掛かった

 

四方八方から、爪による引き裂きがアクトへ迫る

 

「クッ・・・」

『ハッハッハ・・・ハァ!!』

 

魔法使いがさらに手を振るう

野獣だけでなく、火炎が飛び交い、アクトへ襲い掛かった

 

高速で迫る爪がアクトの体を引き裂いていく

このままなぶり殺しにされるのか──

 

──いや、まだまだ!

もっとやれる!!

 

OVER RIDE(オーバー・ライド)!!!』

 

「うおおおおおおおお!!!!!」

 

┌────────────────────────

│■特殊能力:──

└────────────────────────

 

もっと!もっと速く!!

 

┌────────────────────────

│■特殊能力:高速戦闘

└────────────────────────

 

背後から野獣が迫る

反応はない、無防備な背に鋭利な爪が迫る──

 

瞬間、アクトの姿が爪先から消え去った

そして、腕を突き出した野獣の顔面に

 

横から衝撃が走る──

 

『■■■──!?』

 

反撃に驚愕する野獣、しかしその脚は止まらない

野獣が魔法陣に消え

また別の魔法陣から飛び出す

別方向からの再度の攻撃

 

しかし、その一撃もアクトは凄まじき速度で身を躱し──

 

「だぁ!!」

 

野獣に攻撃を当てる

 

次々と魔法陣から湧いて出る野獣を

飛び掛かるスピードよりも遥かに速く動き捌いていく

 

『ナンダ・・ドウヤッテソコマデハヤク──』

 

魔法使いが驚愕して呟く

その一瞬、魔法が緩んだ

 

野獣が吹き飛ばされ、魔法陣に()()()()()()()()()

 

「!?──いまだ!!」

 

四方八方からの攻撃が止まった

アクトが足に力を込め、解き放つ

 

まるでワープしたかのような跳躍

魔法使いのすぐ目の前に現れる

 

『!?ウオオオ!!』

 

魔法使いが手を振るう

巨大な業火がアクト目掛けて放たれる

 

しかし、アクトはその業火を押せれることなく

その脚を突き出す

 

繰り出された蹴りは業火の壁を突き破り──

魔法使いをへと一直線に突き刺さる

 

3度目の爆散

その爆炎の中、アクトは目の前を拝む

 

『■■■──』

 

最早、逃げも隠れもしない野獣が目の前に立つ

そして──

 

アクトへ全力で飛び掛かる

その爪を心臓へ穿たんと、突き出す

 

それに合わせ、アクトもまた拳を握り込む

 

「っ・・ちょっと・・・痛いぞ!」

 

貫き手と拳が交錯する

その結末は──

 

『■・・・■■──』

 

拳が、野獣の体に叩き込まれその体が崩れていく

残ったアクトの手には、チケットが一枚

 

「・・・後は、お前達だけだ・・・!」

 

見据える先には、2体のバッタの怪人

そして──

 

『っ・・・!』

 

驚愕を隠せない、デウスの姿がそこにはあった

 

 

「凄い・・・なにあれ・・・」

 

杏奈と大木、そしてラストもまた驚愕を隠せない

6体のテラーにも、ものともしないアクトのその力

いったい彼に何が起こったというのか

 

「いきなり・・・動きが変わった」

「ああ・・・強く、速く・・・」

 

『■■■──!!』

 

野獣が、四方八方からアクトに襲い掛かる

そのスピードに翻弄されながら、アクトが傷ついていく

 

「っヤバイ!」

「このままじゃなぶり殺しに・・・!」

 

このままでは、アクトが敵に良いようにやられてしまう

そうしてどうにか動こうとしたその時──

 

「待て・・・あれは──」

 

アクトが突如として、野獣の攻撃に対応し始めた

いや、野獣よりも素早く動き始めた

 

まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「動きが・・・変わった・・!?」

 

ラストが呟く

どうみても、突然だった

まるで、できなかったことができるようになったかのようだ

 

「まさか──」

 

 

 

 

設定(スペック)を書き換えている──?』

 

そして、デウス・・・いや、研究者としての青山もまた、感づいた

アクトは、チケットに設定された人物の強さを手に入れる装置だ

逆を言えば、()()()()()()()

 

──だが、あのチケットは

一体、()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()

 

「ああ、このアクトは・・・どこまでもやれる!!

 ──俺はそう信じている」

 

あの力はまさか──

 

()()()()()()()()()でも演じているつもりか!!』

 

──自分が信じた仮面ライダーを演じる力だというのか

 

デウスがその力を解き放つ

轟雷が降り注ぎ、嵐が巻き起こり

大地が揺れ動く

 

天変地異が如き力が、一斉にアクトに襲い掛かった

 

「人も世界も・・・!」

 

アクトが駆ける

 

降り下りる落雷をその腕で受け止め

そして負けることなく弾き飛ばす

 

目の前に迫る嵐を

脚に力を込め飛び立ち

その脚で蹴り破る

 

そして、傷つきながら

それでも、デウスの目の前に降り立った

 

『くっ貴様・・・!』

 

「仲間も全部・・・!」

 

デウスがアクトに殴り掛かる

その攻撃を防ぎ

そして──

 

「取ったもん全部──返しやがれ!!!」

 

アクトの拳が、デウスの顔面を捉え

殴り飛ばした

 

『ぐぅおおお!!』

 

顔を殴られたデウスが大きくのけ反る

ダメージは少ない

 

『!?』

 

しかし、その攻撃は大切なものを破壊していた

 

 

“そうして、世界は自然に満ちた美しさを取り戻します。

 花が舞い、蝶が飛び交う平和な未来が、やってきました。

                      おし

 

瞬間、世界が変わっていく

広大な自然が、砕けるようにひび割れていく

 

『まさか・・・!』

 

そして、バキリと大きな音を立てて

世界が崩れ、その裏から何か別の風景が現れる

 

人工物の建物、舗装された道

人が築き上げた、文明が見える

 

世界が、元に戻っていく──

 

そして、世界だけではない

 

 

「世界が・・・戻っていく」

「やった・・・やった!!」

 

杏奈たちが、その変わっていく風景に喜んで言った瞬間

杏奈の目の前に、光のような何かが集まっていく

 

そして、それは人の形を作り上げ

 

「・・・?」

「うわっ!?」

 

──翔の、姿へと変えた

 

「翔!?」「ショウ!?」「戻ったのかい!?」

「・・?えっ?何が・・・!?」

 

そして、もう一人

 

「・・・うう」

「っ!?お父さん!!」

 

光が大吾へと姿を変える

 

歓喜する3人に、ひたすら困惑する翔の姿が遠くに写る

──どうやらうまくいったようだ

 

『私が書き換えた世界を・・?!』

「ああ、ぶっ壊した!!」

 

驚愕するデウスに、自信満々に言い放つ

辺りから、驚く人々の声が届き始める

 

他の人々も、続々と戻ってきている

 

これで、心配事はなくなった

 

「・・・あとは、あんたを止めるだけだ!!」

『くっ・・・うう・・!』

 

苦虫を噛み潰したかのような反応をするデウス

そんな彼を追い詰めるために

アクトは駆けだす

 

しかし──

 

『『──!!』』

「!?」

 

飛びのく

避けた場所に、強烈な2つの蹴りが突き刺さる

 

見やれば、2人のバッタ怪人が

デウスを守るように、立ちふさがる

 

『・・・今は、世界を預けておいてやろう』

 

決心したように、デウスはそう言うと

彼の背後に、謎の裂け目のようなものが開く

あれは・・・

 

「逃げる気か・・・!」

 

アクトが一歩踏み出す

しかし、そこを通さないと言わんばかりにバッタ怪人が立ちふさがる

 

『・・・私は、諦めない』

 

そう言い残すと、デウスはその姿を消すのであった

 

消えた瞬間、バッタ怪人がアクトへ攻撃を仕掛けた

全力を持って、跳躍する

飛び上がった脚へと、力が集っていく

 

「・・・勝負だ」

 

ベルトを押し込む

 

OVER RIDE(オーバー・ライド)!!!』

 

┌────────────────────────

│■必殺技:ベストアクション

└────────────────────────

 

┌────────────────────────

│■必殺技:劇的な一撃(ドラマティック・アクション)

└────────────────────────

 

『アクト!!』

DRAMATIC ACTION(ドラマティック・アクション)!!』

 

アクトが構えを作る

凄まじい熱量を持ったエネルギーが

その脚に集っていく

 

アクトが飛び上がる

2体のバッタ怪人達も、その脚をアクト目掛けて突き出す

 

アクトもまた、バッタ怪人達のいる上方へ

天目掛けて脚を向ける

 

大地へ堕ちるキック

天へと上るキック

 

その二つが、今

ぶつかり合った

 

「はああああ!!!」

『『──!?』』

 

──しかし、そこに拮抗はない

ぶつかった瞬間、バッタ怪人達は

その力に圧倒されていく

 

怪人の足を弾き飛ばし

アクトのキックが、2人の怪人のその体を貫いた──

 

力強く着地したアクトのその背後に

凄まじい勢いの爆発が立ち上がる

 

爆炎が晴れた先を見る

 

その先には──見事な青空が

晴れやかに輝いていた

 

 

 

「・・・一体、何が」

 

喫茶テアトロでは、3人の男たちが困惑していた

浩司も音石も太田も、一体何が起こったのか分からなかった

 

突然世界が変わったのかと思えば

 

飛んだかのように時間が過ぎていて

一緒にいたはずの大木が消えている

 

雄飛君達は一体どうなったのか

まるで分からない

 

カランカランと、扉を開く音が聞こえた

誰かが、返ってきたのだ

 

「ただいまー・・・」

「杏奈!」

 

3人の男たちが、その顔を見て安堵する

杏奈がちゃんと戻ってきたのだ

 

「一体何があったんだ!」

「ほかのみんなは無事なのか!!」

 

次々と質問する3人に杏奈は

 

「ちょっと落ち着いて、ちゃんと説明するから」

「それよりも、叔父さん」

 

杏奈が、こちらに手招きをする

 

「?ああ・・・」

 

一体どうしたというのか

入口まで、歩き杏奈の目の前に立つ

 

「はい」

 

そして、杏奈はその場をどいた

入口を塞いでた杏奈がいなくなったのだから

当然、外の様子が見える

 

そこには・・・

 

「ほら、着きましたよ」

「ああ、すまない」

 

翔君と大木君が、誰かに肩を貸しながら立っていた

──いや、誰かではない

 

その人物がこちらを見る

 

「・・・兄さん」

「──。」

 

大吾が、自分の目の前に立っていた

 

「ただい──」

 

言い終わる前に、抱きしめていた

胸に熱いものがこみ上げる

ああ、年甲斐もない

 

「──すまなかった・・!」

「私のせいで・・・8年も・・!」

 

震える手に、手が添えられる

 

「選んだのは・・・僕だ」

「送り出してくれたのが、兄さんだよ」

「・・・っ」

 

「・・・よく、帰ってきてくれた」

「うん、ただいま」

 

互いに抱き合い、涙を流す

その様子を、杏奈は優しい目をしながら見ていた

 

 

──2人のそんな会話を

ボロボロの雄飛とラストは見ていた

 

「・・・あれが」

「ん?」

 

優しい光景に、穏やかな気持ちになっていた雄飛

そんな隣でラストが何かを呟く

 

「あれが、家族なんだな」

「・・・ああ、そうだね」

 

どこか、羨ましそうに、けれど嬉しそうにそう言うラストに

雄飛もまた、嬉しそうに返事を返すのであった

 

 

 

 

 

『・・・くそ・・・!』

 

どこかに去ったブルーは、屈辱を味わっていた

勝ちを確信していた

 

もはや自分の目的は果たされたと思っていた

──まさか、彼があのような成長を見せるとは

 

対処法を、考える必要がある

 

・・・。

 

"・・・憎い。"

『──。』

 

"人間が憎い・・・全て・・・。"

『・・・黙るんだ。』

 

"全て消えてしまうべきなんだ・・・!"

『黙れと言っている・・・。』

 

──。

 

『・・・ああ、そうだ私は』

 

必ず、全ての人間を消し去るのだ。

 

 

デウスが闇の中に溶けていく

戦いは、ゆっくりと

 

しかし確かに最後へと向かっていっていた。

 

 

続く




次回 仮面ライダーアクト

ブルーは語り掛ける
『君たちは選ばなければならない
 世界とともに消えるか、新たな姿を手に入れるかだ』

人々は──
「自ら怪人になることを望む人々も現れてくるかもしれない」

ライダー達よ、戦え
「世界を、お前の思い通りになんてさせてたまるか!!」

第36章[人間の未来、世界の未来]


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第36章~人間の未来、世界の未来~

「それでは、風間大吾さんの快復を祝いまして~乾杯!!」

「「「かんぱーい!!」」」

 

大木が言った音頭に合わせて皆一様に声を上げた

グラスをぶつけ合う音が小気味よく店内に響く

 

あの一戦から実に3日が経過し

混乱していた町にも、平穏が戻り始めた

 

そんな中で、喫茶テアトロでは

大吾の快復を祝っての祝賀会が開かれていた

 

「あっ!?それ俺が残してたやつなんだけど!?」

「ふん!速い者勝ちよ!!」

 

「・・・!これは・・・!」

「甘いだろう、ケーキは初めてかい?」

 

「呑もう!呑むしかあるまい!!」

「ああ!!」

 

皆、一様に楽しんでいる

そんな中で、雄飛はと言うと・・・

 

「お体はもう・・?」

「ああ、問題ない。ありがとう」

 

隣に座る大吾と、これまでのことを話すのであった

 

「君が、今は仮面ライダーなんだね」

「はい、俺が今は・・アクトをやってます

 

「すまない」

「えっ?」

 

突然の謝罪に困惑した雄飛に

大吾は、悲し気な顔をしながら話す

 

「本当なら、私たちの中だけで終わらせるべきことだったのに

 ・・・関係のなかった君たちまで巻き込んでしまった」

 

「──いえ、自分で選んだことですから」

 

その謝罪は不要だと、雄飛は答える

そう、自ら選んでライダーをした

そこに後悔はない、故にこの人が謝ることなど何もないのだ

 

「そうか、ありがとう」

 

「・・・それにしても驚いたよ」

「?」

 

「目が覚めたら、8年も経っていたなんてね」

「あぁ・・・」

 

そりゃあ混乱もするだろう

 

「町の風景も変わって

 人も変わって・・・」

 

大吾さんが杏奈さんの方をちらりと見る

 

「・・・成長が見られなかったのは、災難でしたね」

「ああ!全くだ!」

 

大吾さんが、悔しそうな素振を見せる

けれど、どこか愉快そうでもあった

 

「でも、これからがある」

「過去は過ぎ去ってしまうけれど

 ・・・未来はまだまだ先がある」

 

そう、穏やかにほほ笑んでいた

 

「──ありがとう」

「君たちが、助け出してくれたおかげだ」

 

こちらに向き直り、頭を下げてきた

いやいや、困る

 

「いやいやいや、やめてください!」

 

頭を上げさせる

そこまでさせるほどのものじゃあない

 

「──助けられたのは、俺も同じですから」

「?」

 

「俺も、仮面ライダーに助けられたたちですから」

「!?・・・そうなのか」

 

「礼を言うならこっちの方で

 ・・・それで、助けられたから自分も助けようって」

「──ほら、感謝の輪ってやつですよ」

「・・・・。」

 

「だから、俺がここにいるのも

 先を辿ればあなたのおかげというか・・・」

「だから、お礼は無しってことで・・・どうでしょう」

 

口早にまくしたててしまったことを感じながら

雄飛は大吾を見る

だが、これは本心だった

礼が欲しかったからではなく、礼を言うために助けに出たようなものだった

 

そんな雄飛に大吾は

 

「──そうか、分かった。」

 

ゆっくりと頷きながら笑って返すのであった

 

 

「──それじゃあやっぱり」

 

話は変わって、大吾の記憶の話である

なにせ、8年間の間意識はなかった

しかし、逆に言えば8年間の間

ブルー、いや青山と行動を共にしていたようなものである

何かヒントでもあればと、そう思ったのだが

 

「ああ、8年間はほとんど記憶がない」

 

結論としては、大吾が持っていた情報は微々たるものであった

8年前の戦闘時に手に入れた程度のもの

意識を失って以降については、何も記憶が残っていない

 

「でも、あの人が何を目指していたのかは

 なんとなくだが分かった気がする」

 

──ただ、大吾は青山という人物についてはよく知っていた

 

「あの人は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「悪人を・・・?」

 

彼は、善良な科学者だった

この世界から、悪人を消すために奔走していた

その果てが、今だと大吾は言った

 

「恨みや憎しみだけじゃないと、僕は思うんだ」

「きっと、あの人は今も何かを追い続けている」

 

根拠はないけれどねと大吾はそう言う

 

「──雄飛君、あの人を止めるんだろう?」

「・・・はい、必ず」

 

止めなければならない

彼にどんな信念があろうとも

誰かを傷つけていい理由になどはなりはしないのだ

 

「そうか、じゃあこれだけは心してほしい」

「・・・はい?」

 

 

 

「あの人に、怒りや恨みを持たないでほしいんだ」

「──きっとあの人は、それを一番拒んでいる」

 

 

 

 

 

”──消してしまおう、汚い人間なんて”

『・・・黙るんだ』

 

”いいだろう?君を傷つけた者たちなんだろう?”

『・・・うるさい、喋らなくていい。』

 

()()()()、僕がやるよ。いいだろう。”

『──不要だ・・・!』

 

暗がりで、ブルーは頭を抑えながら虚空に話していた

痛む頭を抑えながら、ふらつきながら立つ

 

『私で、いい・・・黙っているんだ』

『──そうだ、私がやるのだ』

 

ブルーは、そう呟くとその場を後にする

応える者はいない

彼は一人のまま、人に害することを決めた

 

 

歩き、やがてある場所にたどり着く

それは、ちょうど町の中心部

 

一体、何をしでかそうというのか

 

ドライバーを押し込む

 

ALL Write(オール・ライト)

 

“世界の中心に高い高い塔がありました。

 その頂上で、神様は人々を見守ります。”

 

次の瞬間、ブルーの足元が揺れ動き出した

辺りを歩いていた通行人たちは突然の自身に

周りのものにしがみ付きながら座り込んでいく

 

そんな中、立ったままのブルーの足元が隆起していく

どんどんどんどんせり上がっていく

 

盛り上がっていく大地は

やがてその姿を巨大な建造物へと姿を変えていく

 

突然現れたそれに周りを歩いていた一般人たちは腰を抜かし

それを見上げることしかできない

 

変化にはそう時間はかからなかった

そうしていくうちにやがて建造物はその姿を現し

 

──巨大な塔が、町の中心に誕生した

そして、その頂上で

 

ブルーは、人々を見下ろすように立っていた

 

 

 

 

「!?」

 

祝宴も中ほど

突如として、地震がテアトロを襲った

 

「これは──!?」

 

外の様子を見た全員が硬直する

街の中心方面に、突如として何かが出来上がっていくのが見て取れた

 

「──皆!」

 

杏奈さんのその言葉に雄飛ら3人は頷くと

一斉に店を飛び出していくのであった

 

バイクを走らせ出来上がった塔へと向かう3人

その時、塔の頂上に変化が現れた

 

「!・・・あれは!」

 

塔の頂上よりさらに上

空中に何かが浮かび上がっていく

あれは・・・人の顔?

 

「!・・・ブルー!」

 

そう、空中にまるでホログラフのように巨大なブルーの姿が浮かび上がった

 

「何をする気だ──?」

 

 

自らの姿を大きく映し出し

多くの人々に見られながら、ブルーは口を開いた

 

『──諸君』

『私の名は、ブルー』

『諸君らも何度か目の当たりにしているであろう

 怪人騒ぎのその首謀者である』

 

『私は、多くの怪人を生み

 そして、君たちに害を及ぼしてきた』

 

『そして、今日

 私は君たちに対してある宣言をするためにこうして姿を晒している』

 

『この塔を見るが良い

 突如として、私はこれを産み出した』

『そして見ただろう

 突如世界が変化したことを

 それも、私がしたことだ』

 

『私は、これから世界を変えていく

 新しき世界にだ』

『今ある世界は、消えてなくなるのだよ』

 

 

ブルーは、抑揚なく淡々と告げていく

人々に、容赦はないと

既に確定したことなのだと告げるように

 

『君たちは選ばなければならない

 世界とともに消えるか、新たな姿を手に入れるかだ』

『時間はそう多くはない、

 ()()()()()最後の選択をしっかりと考えることだ』

 

その言葉と共に、空中のホログラフは消えていく

 

そしてその直後、

塔の根本、最下層より

 

まるで湧き出すかのように

大量の、簡素な肉体をしたのっぺらぼうのような怪人達が現れだすのであった

 

 

『──しっかりと、考えることだ』

 

「・・・なんだと」

 

ブルーのその宣言は、雄飛達が去った後のテアトロにまで届いていた

そして、ブルーのその言葉に

渋い顔をするのが浩司であった

 

「不味いな、恐怖を煽ったか」

「ああ、奴め」

 

「?どういうこと」

 

危機感を持ったように話す二人に

杏奈は話についていけていない

 

あの会話に、そこまで深刻な場所があっただろうか

いや、確かに人々を消し去るという物騒なものであったが

 

「ああ、奴は選択を迫った」

「自身の力を見せつけ

 そしてこれまでの危機を顧みて」

 

「その上で、またやるから、消えるか

 変わるかを選べと言ったんだ」

 

それが何を意味するのか

それは──

 

 

「自ら怪人になることを望む人々も現れてくるかもしれないということだ」

 

 

 

「これは──!」

 

到着と同時に、大量の戦闘員たちが

一般人達に襲い掛かるのを目の当たりにする

 

「っ助けないと!」

 

雄飛がドライバーを掴む

そして奴らの前に断とうとしたその時

 

「待て、雄飛」

 

翔とラストが、雄飛の前に立ったのだ

 

「時間がねぇ、先行って奴を止めてこい!」

「民間人の救出は、私たちが受け持つ」

 

「!・・・分かった!」

 

二人にこの場を託し

雄飛は、塔へと駆けだすのであった

 

「・・・とにかく目に映る奴全部薙ぎ払うぞ!」

「承知した」

 

「「変身!!」」

 

それを見送った二人もまた

戦闘員たちに向かっていくのであった

 

 

 

『!・・・来るか』

 

塔の頂上にて、ブルーは

迫りくるものに気が付いていた

 

何者かが、塔の外壁を蹴り昇って来る

──来た

 

「ハァ!!」

 

次の瞬間、アクトが塔の頂上へと現れる

変身を解除した雄飛は飛んだ勢いのまま落ちるように頂上へと着地するのであった

 

『・・・やはり、お前か』

「ああ、・・・あんたを止めに来た」

 

『悪いが、止まるわけにはいかない

 ここで貴様を消し、目的を遂行させてもらう』

「──っ!世界を、あんたの思い通りになんてさせてたまるか!!」

 

互いにドライバーを取りだし構える

 

『Deus Ex Machina』

『仮面ライダー ACT!』

 

『変身』「変身!」

 

『Joy, Anger, Sorrow, Fun』

『All comes to end』

『Deus Ex Machina』

『It’s All Right .』

 

『A new legend , A new Begging』

『Come on stage』『You Are the』

『仮面ライダー !!!』

ACT(アクト)!!!』

 

塔の頂上で、力がぶつかり合う

黄金の機械のような仮面ライダーと

白いヒーローの仮面ライダー

 

両者は向き合い、構え

そして同時に駆けだした

 

凄まじい速度で肉弾戦が繰り広げられていく

アクトの拳がデウスに防がれ

デウスの蹴りがアクトに避けられていく

 

一進一退の攻防が続き

 

「はぁ!!」『フン!』

 

両者の拳が互いの胸に突き刺さった

互いに飛ぶように弾かれる

 

「っく!」『ぐぅ・!』

 

胸を抑えながらも両社は止まらない

 

ALL Write(オール・ライト)

OVER RIDE(オーバー・ライド)!!!』

 

アクトの手に、ブレイガンが握られる

そして、一瞬の内に何発もの弾丸をデウス目掛けて叩き込んだ

 

対してデウスの手にもまた

金の装飾を備えた剣が握られる

 

そして、飛び交う弾丸をものともせずに切り払い

アクトに肉薄していく

 

振り下ろされた一太刀を

アクトもまたブレイガンにて受け止めるのであった

 

『・・フゥン”!!』

「ぐっうう!」

 

デウスが凄まじい力で剣を押し込む

段々と受け止めるアクトの剣が押されていく

 

──このままでは、防御ごと切り捨てられる!

 

OVER RIDE(オーバー・ライド)!!!』

┌────────────────────────

│■専用武器:アクトブレイガン

└────────────────────────

 

┌────────────────────────

│■専用武器:アクトブレイガン, CGスタッフ

└────────────────────────

開いた左手にCGスタッフが現れる

「くっそ!!」

 

そして、空いた手でスタッフを振るい

デウスの剣を弾き脱出する

 

(ファイア)』『Select(セレクト)

「はぁ!!」

 

そのままアクトがスタッフを突き出すと

強大な火炎がデウス目掛け放たれた

 

『っおお!!』

 

デウスが腕を振るう

その場所から強大な竜巻が発生する

 

火炎と竜巻がぶつかり合って

火炎が呑み込まれていく

 

逆巻く炎の竜巻がアクト目掛け突き進む

「!?」

 

アクトが迫りくる竜巻に対し

 

転送(ワープ)』『Select(セレクト)

 

目の前に展開した魔法陣へ飛び込む

無人となった空間を竜巻が突き進み消えていく

 

そして、デウスの背後に

転移したアクトが飛び出した

 

「くらえ!!」

『!?』

 

ブレイガンを振り下ろす

剣がデウスの背を切り付ける

 

「おおお!!」

 

ブレイガンを連続で振るっていく

2撃目、3撃目の斬撃がデウスの体に叩き込まれる

 

『ッぐ・・!』

 

4撃目の斬撃

しかしそれはデウスに届くことなく

ブレイガンの刀身がデウスに掴み取られた

 

「・・!?」

『オオオ!』

 

今度は逆にデウスがアクトへ剣を叩き込む

強烈な斬撃に、一撃でアクトが吹き飛ばされた

 

さらにデウスが追いかけるように詰め寄り

追い打ちに倒れたアクトに剣を振り下ろす

 

「っ!」

転送(ワープ)』『Select(セレクト)

 

地面に魔法陣が現れ、落ちるようにアクトが消える

デウスの剣が誰もいない地面を抉り込んだ

 

『っならばあ!』

 

消えたアクト

それに対しデウスが手を振り上げる

 

デウスを中心に周りに

凄まじい量の雷雨が巻き起こる

 

「!?っぐああ!」

 

魔法陣から飛び出すアクト

しかし、その直後にアクトを落雷が襲った

全身が痺れる感覚

 

『無駄だ・・・逃がしはしない!』

「っ・・・だったら!」

OVER RIDE(オーバー・ライド)!!!』

 

 

┌────────────────────────

│■専用武器:アクトブレイガン×30

│■特殊能力:遠隔操作

└────────────────────────

 

アクトの周りの空間に

次々とガンモードのブレイガンが展開されていく

その数30──

 

「逃げずに正面突破で!」

『ぐう!?』

 

空中のブレイガンが一斉に火を吹く

凄まじい弾幕にデウスが晒される

 

身を裂く弾丸の嵐

しかし──

 

『舐めるなぁ!』

 

瞬間、デウスの周囲に嵐が吹き荒れる

暴風が、弾丸を全て弾き飛ばしていく

 

その時

 

「だあああ!!」

 

 

┌────────────────────────

│■パンチ力:15t -> 65t

│■キック力:25t -> 70t

└────────────────────────

 

風を突き破り、アクトがデウスの目の前に飛び込んできた

──ブラフ!

 

「おおっらあああ!!」

 

流れるような連撃

重い拳と蹴りが

デウスの体に連続で叩き込まれる

 

┌────────────────────────

│■特殊能力:発火能力

└────────────────────────

 

アクトの握りしめた拳が熱く炎を放つ

そして、ひと際重い一撃が

デウスの体を吹き飛ばした

 

『ぐ、おおお!』

 

転がるデウス

そこに必殺技を叩き込もうとベルトをアクトが押──

 

『!』

 

ゴゴゴと大きな音を立てて

突如地面が揺れ出す

 

巨大な地震

その振動に立っていられないアクトが膝を突く

 

その隙に、立ち上がったデウスが剣を拾い上げ

まともに動けないアクトに切り掛かった

 

『消えろぉ!!』

「っ・・・まだまだぁ!!」

 

┌────────────────────────

│■専用武器:アクトブレイガン, CGスタッフ

│■特殊能力:武器合体

└────────────────────────

 

ブレイガンとスタッフ

その二つを握ったアクト

剣モードのブレイガンの柄とスタッフの頂点にジョイントが生まれる

 

そして、まるで連結させるように繋ぎ合わせた

 

『──なに!?』

 

ブレイガンの全身が刀身のような鋭さを放つ

 

『CGブレイカー!!』

 

ひと際巨大な大剣と化した得物を両手に

迫りくる斬撃を受け止める

 

今度は、びくともしない

 

「おおお!!」

 

デウスの剣を弾き飛ばし

そのまま大振りに全力で斬撃を放つ

 

大剣がデウスの体を切り裂いた

 

『っぐうう!!』

 

怯んだデウス

ふらついたその体にさらに斬撃を振るう

 

┌────────────────────────

│■ジャンプ力:60.0m -> 100.0m

└────────────────────────

 

アクトが上空へと跳躍する

凄まじい高度から手にした剣を振り下ろす

振り下ろした斬撃が、デウスの体に叩き込まれた

 

『ぐううう!!』

 

デウスが苦悶の声を上げる

決定的な隙、勝負を決めるにはここしかない──!

 

 

OVER RIDE(オーバー・ライド)!!!』

┌────────────────────────

│■必殺技:ドラマティック・カット

└────────────────────────

 

『アクト!!』

DRAMATIC CUT(ドラマティック・カット)!!』

 

CGブレイカーが、強大なエネルギーを纏っていく

収束しきれないエネルギーがスパークして弾ける

 

『っぐ!』

ALL Write(オール・ライト)

“神に迫る一撃は、険しい壁に阻まれ届くことはありませんでした。”

 

デウスのとアクトの間に

間に地面が盛り上がるようにせり上がり

分厚い壁が出来上がる

 

「おおお!!」

 

アクトが握った大剣を全力で振り切る

凄まじいエネルギーの奔流がデウス目掛け放たれる

 

斬撃は分厚い壁にぶつかる

しかし──

 

壁がその斬撃に削り取られていく

バキリバキリと音を立てて打ち砕かれていく

 

そして、その斬撃の威力の多くを削いだところで力尽き砕け散った

 

『おおおお!!』

 

防ぎきれなかった斬撃がデウスを吹き飛ばした

しかし、壁が阻んだ威力が甚大だったのか

倒しきるまではいかない──

 

『っぐ・・・!』

「はっ・・・・はっ・・・」

 

傷つき何とか立ち上がろうとするデウス

肩で息をしながらも、確かに立っているアクト

 

勝敗は、明らかであった

 

「俺の・・・勝ちだ!ブルー!

 もう諦めるんだ!」

 

アクトがデウスに敗北を認めるよう投げかける

自分の勝利だと宣言する

 

『・・・まだ・・・だ!!!』

 

それでもデウスは認めない

ふらつきながら立ち上がり

アクトをにらみつける

 

この状況で、一辺たりとも変わらぬ気迫でアクトを睨む

 

「っ・・・・なら!」

 

アクトが大剣を掲げる

デウスに止めを刺し、その力を剥ぎ取る──!

 

アクトが駆けだす

それに対して、デウスは動けない

 

『まだだ・・まだ私は諦めない──!』

『私は・・・必ず──!!』

 

アクトが、大剣をデウス目掛け振り下ろす

 

”そうだ、必ず人間を消し去る

 それが我らの望みなのだ”

 

その瞬間、凄まじい光が

二人の間に瞬いた

 

「!?」『!?』

 

突然の逆光にアクトの手が止まる

そして眩んだ目で前が見えなくなった瞬間

 

自身の体が蹴り飛ばされたのを感じた

 

「ぐぁ!?」

 

蹴り飛ばされたアクトは

眩んだ目を覚まし、前を見る

 

デウスもまた、目の前の光を見つめる

 

光が止んでいく──

そして、そこにいたのは──

 

「!?・・・・なんで」

 

()()()()姿()()()()、テラーの姿であった

 

『・・・()()()()

 

『ヒデユキ、下がっているんだ』

 

デウスに対しそう言うと

チルチルと呼ばれたテラーはアクトと向き合う

 

「ブルーの、テラー・・・?なんで・・?」

『デウスであれば、人間を媒体とせず実体を手に入れられる

 そして、”青い鳥”の僕が、この姿をしているのは当然だ

 ・・・人間』

 

「っ!」

「──チケットの中の精神!」

 

アクトがテラーに対し構える

それに気づくのに時間はそう掛からなかった

奴は、ブルーが自身の意識を()()()()()()()、青い鳥のチケットのテラー!

 

『・・理解が速いな

 だが──』

 

テラーは、アクトに構える

このまま一戦交えようというのか

だが、奴の力は通常のテラーのはず

ならば、まだ──

 

『これは、想定できなかったろう』

 

しかし、テラーは自分の想定とは違う行動を起こす

その手には、()()()()()()()()()()()()

 

そして、それを一斉に塔の下へと投げ出した

 

「!?・・・・何を!」

 

『これで、()()()()()()()()()()()

 

 

 

雄飛の戦いが続く中

 

塔の下では

 

「おおお!!」

 

『GREATEST HITS MEDLEY!!!』

 

サウンドが、戦闘員たちを切り裂く

攻撃を叩き込まれた戦闘員は為す術もなく爆散していく

 

しかし──

 

「一向に減らねぇ!!」

「際限なしに生まれだしてきている──!」

 

そう、倒しても倒してもきりがない

倒したと思えば

次の瞬間には、また塔の下から湧き出ている

 

「雄飛はまだかよ!!」

「耐えるしかないか・・・」

 

戦闘員たちを民間人達から引き剥がすことには成功したが

数を減らせないため逃がしきれない

 

守りながら戦うことを、余儀なくされていた

 

その時──

 

「・・・もうだめだぁ!!」

 

サウンドの背後で、そんな声が聞こえた

 

「!?」

 

後ろを見る

凄まじい勢いで震えあがる男性が一人

ヒステリー気味に叫んでいた

 

「ここで死んじまうんだぁ!!」

 

自分はもう助からないと、そう諦めるように叫んでいた

 

次の瞬間──

 

「だめ・・なのか?」

「ここで死ぬしかないの!?」

「いやだ!!嫌だ!!死にたくねぇよ!!」

 

恐怖は伝染する──

 

悲鳴がどんどん増えていく

 

「やべぇ」

 

まずい、このままではパニックが起こる

そうなれば皆散り散りに逃げ回って収集が付かなくなる

 

「どうすりゃ──」

 

 

 

 

その時、上空から何かが降って来るのに気が付いた

 

「?・・・!あれは!!」

 

ラストが、上空かっら降る物に気が付く

あれは・・・チケット!

 

「テラーの!?・・・なんで!」

 

サウンドもまたそれに気が付くが何が起こっているのか理解ができない

 

しかし──その意味は直ぐに分かることになる

 

「死にたくねぇ!!俺は・・・()()()()()()()()()()!!」

 

その時、一般人の一人が

そんな言葉を言った、ブルーの言葉に応えるように

その答えを選んでしまった

 

次の瞬間──

 

降るチケットの内一枚が

急に方向を変化させた

 

まるで、吸いこまれるように

その答えを言った男の方へ

 

そして──

 

チケットが、男の体に突き刺さった

 

「・・・え?」

「うわっうわああああ!!」

 

驚いたような声を上げ

男の体が変異していく

 

 

そして、次の瞬間には

 

『Grrrrr!!!!』

 

一体の狼の怪人がそこに現れていた

 

「!?なっ!」

 

驚愕するサウンドとラスト

しかし、それだけで終わらない

 

チケットがどんどん方向を転換する

 

先程悲鳴を上げていた人々の方角に──

 

そして、一様にチケットが突き刺さっていく

 

『『『ウオオオオオ!!!!』』』

 

 

そうして、またテラーが生まれていく

 

「!・・・・皆!気をしっかり持て!!」

 

気が付いたサウンドが民間人達に発破をかける

 

しかし──そんな言葉も虚しく

 

人々に向かって、チケットが降り注いだ

 

 

続く




次回 仮面ライダーアクト

チルチルはテラーを率いて人々を襲う
『これは反乱だ!!人を全て消し去る!』

仮面ライダー達は食い止められるか
人々を守り切れ!
「諦めるな!!人はまだ終わらない!!」

第37章[幸せを運ぶ、青い鳥]


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第37章~幸せを運ぶ、青い鳥~

「──。」

 

言葉を放つ暇も無かった

恐怖に晒された人々、心が折れた者達

 

そんな彼らの下に、まるで吸い込まれるかのように

天からチケットは次々と降り注いだ

 

『『『オオオオオオ!!!』』』

 

人々がどんどん変容していく

 

「ひ、人が・・・」

「いやあああ!!!」

 

その様子を見てさらに人が悲鳴を上げる

現実ならざる光景を目撃し

さらに恐怖が広まる

 

まるで、それを感知するかのように

チケットは飛んでいく

 

瞬く間に、塔の根本は怪人達であふれ出す

 

「うっそだろ・・・!」

「なんという・・・!」

 

その光景に、サウンド、そしてラストが狼狽えながらも構える

次の瞬間には、怪人達は

二人目掛けて襲い掛かるのであった

 

 

「なにを・・!」

 

『見てみるといい、人は自ら人であることを()()()()()()()

「!?」

 

アクトは塔の上から真下に目を凝らす

高い塔の上からでも、その様子ははっきりと見えた

 

人々が、次々と怪人へと姿を変えていくその光景が

 

「!・・お前!」

『下はいいのか?多勢に無勢だが──』

 

そう言った瞬間

下で戦いが始まる

大量のテラーがサウンドとラスト目掛けて襲い掛かった

 

「っ・・・クソ!!」

 

どう見ても数が多すぎることが見て取れた

歯がゆい思いを振り切って

アクトは塔から飛び降りた

 

『・・・さぁ、立とうヒデユキ』

『人類の消却は、始まったばかりだろう?』

 

『チルチル・・・』

『ああ、また酷い目に合っている』

『・・・っ黙るんだ

 ・・・引っ込んでいろ』

 

心底心配そうなテラーの言葉を

拒絶するかのようにブルーは吐き捨てる

 

『無理だ、・・・私に任せてくれ』

『必ず・・・人々を消し去って見せよう』

 

そう言うと、テラーもまた

塔から落ちていくのだった

 

 

「ぐぉ!?」

 

背に衝撃が走る

 

「くそっ!」

 

続けて攻撃しようとする

背後のテラーを槍で突き飛ばす

しかし、突き飛ばしたテラーとは別のテラーが庇うように前に出ては

次から次へと2人に迫って来る

 

一対一での戦闘力であれば

仮面ライダー達に軍配が上がり

そして、それはテラー側が2,3体程度増えたところで

覆ることは無かったであろう

しかし数十を超えるテラーが一斉に襲い掛かって来る現状は

さすがの2人にも多勢に無勢であった

 

2人の周りをテラー達が取り囲む

 

「手が間に合わんぞ、チクショウめ」

「さすがに多すぎる・・・」

 

その時、2人の前方のテラーが突然吹き飛ぶ

 

「!?」

 

遅れて響く銃声

そして、上空から迫る影がいま、地に降りる

 

「!雄飛」

「さっさと一掃する!!」

 

CGスタッフを取りだすと

何度も杖を叩く

 

追加(プラス)』『追加(プラス)』『追加(プラス)』『Select(セレクト)

 

次の瞬間、複数のアクトがテラー達の目の前に現れ

そして、その一体ずつに攻撃を仕掛け始めた

 

「いくぞ!!」

「!・・・おお!!」

「助かる・・!」

 

そして降り立ったアクトも駆けだす

それに連なるように、サウンドとラストもテラーに駆けだした

 

始まる乱戦

大量の怪人と、ライダーが入り混じるように戦っていく

しかし、数さえ互角となれば──

 

「ふっ、はぁ!!」

『グォ!?』

 

アクトの攻撃が、テラーに突き刺さる

テラー側も反撃を試みようと手を動かすも

その攻撃は、届くことは無い

すぐさま叩き落とされ、さらに追撃を喰らっていく

 

唯のテラー1体で、今のライダー達を止めることは

不可能であった

 

『ッ・・・オオオ!!』

 

まるで自暴自棄になったかのように

テラーが雄叫びを上げながらアクトに突っ込む

 

「っおお!!」

 

そして、そんな攻撃が当たるはずもなく

カウンターで放った蹴り抜きが

テラーの腹を捉え、そして、突き飛ばした

 

テラーが転がり、爆散する

ガチャリと、チケットが転がり

そして、同じようにテラーにされた人間が倒れ込む

 

周りからも、次々と爆発音

次々とテラーが倒されていく

 

「よし、これで・・・」

 

「!?・・・ひっなんだ!?何が!?」

 

これで、この騒ぎも終わり

そう思ったとき、アクトの耳に声が聞こえる

 

「いてぇ・・!なんだよぉ・・!?」

 

あれは・・・テラーにされた人々の声?

どうやら、多少乱暴に倒したせいか

打撲などの軽い傷が──

 

「・・・いやだ!・・・死にたくねぇ!!」

「何なのよぉ!!もういやぁ!!」

 

あちこちから、悲鳴が響き渡る

これは──

 

「落ち着い・・・」

 

突然の出来事が重なってパニックになってしまっている

まずい、このままでは収拾が──

 

そうしてなだめようとしたその時

 

カタリと、無機質な音が響いた

人々が倒れた個所からではない

地面にある何かが、動いてぶつかったみたいな──

 

その時、何かが宙に浮かび上がる

それも、一つや二つではない

大量の、飛び散ったチケットたちが空中に浮かび上がっていた

 

「!?」

「なんだ・・!」

「チケットが・・!?」

 

3人は、その光景に驚愕するも

さらなる驚愕が、すぐさま目に飛び込んだ

 

チケットたちが、まるで目標を定めたかのように

()()()()()()()()()()()()()()()

 

「!・・・まさか!」

 

そのまさかであった

チケットが、人々に再び飛び込んだ

 

「「「!?」」」

 

泣き叫ぶ人々に、チケットが突き刺さり

そして、また苦しみだす

 

体が変容していく──

 

『オオオオ!!!!』

 

そして、倒した怪人達と

同じ怪人達が、またこの世界に現れたのであった

 

「な!?」

「チケットが・・・勝手に!?」

「ありえない・・・!」

 

しかし、現実である

怪人達は、再び仮面ライダー達を補足する

そして、襲い掛かった

 

「っ・・くそっ!!」

 

一体を殴り飛ばす

吹き飛んだ後に再度爆散する

しかし、その後は同じだ

 

一瞬にして、チケットが人に吸い込まれるかのように

再度怪人へと変えてしまう

 

「何故だ、どうしてチケットが勝手に・・・!」

「分かんねぇよ!・・でも、やべぇぞこれ!」

 

サウンド、ラストが焦りを漏らす

それは、アクトも同じことであった

 

これでは、一向に敵を倒すことができない

 

『彼らは今、死か怪人となるを選び

 怪人になることを選んでいるのさ』

「!?・・・お前は!」

 

「ブルー!?」

「いや、違う。あいつは・・・」

 

『私はチルチルと呼ばれている

 ・・・この体の、チケットの中の意志さ』

「「!?」」

 

『・・・さて、彼らは

 死を恐れ、怪人に変異することを選んでいる

 行動に起こさずとも、無意識的にね』

『そして、それがチケットを呼び寄せている』

『何度、倒して人間に戻してもね』

 

「何だと・・!」

 

その言葉が本当だとすれば

ここで倒し続けたとしてもいつまでたっても終わらない

・・・どうする

 

『オオオ!!』

「っ落ち着いてください!!」

 

攻撃を受け止め

言葉を投げかける

どうにかして、彼らを落ち着けなければ

 

『オオオ!!!』

「!?」

 

しかし、そんなライダー達の言葉は届かない

何故なら、そこに()()()()()()()()

 

振りかぶられた腕が

アクトの顔面を叩きつける

 

「っぐ!」

「雄飛!!っ!」

 

ダメージは少ない

しかし、これは・・・

 

『無理さ・・・彼らの意志は怪人の体の奥底

 ・・・戻したら一瞬で怪人化

 彼らはもう、立ち直れない』

 

「まじかよ・・・・」

 

これ以上は為す術がない

しかし・・・どうにかしないと・・・

 

『もう、彼らを人に戻す術はない!

 ・・・いけ!』

 

号令と共に

テラー達が一斉にライダー達に飛び掛かる

凄まじい数は、3人の上方を覆いつぶし

そして各々の武器を振り上げて襲い掛かる

 

「っ!」

「下がれ!!」

「!?・・・ラスト!?」

 

ズズウンと鈍い音を立てて

なだれ込むかのように怪人達が降り落ちる

ライダー達の姿はない

その圧に押しつぶされてしまったのか

 

『・・・!』

 

しかし、テラー達が退き去った地面には

まるで、水面のような波紋が一瞬だけ立ち

すぐさま消えてしまった

 

『・・・逃げたか』

 

ライダー達が、一度退散したことを確認し

チルチルはその脚を進めるテラーの大群を掻き分け

その先へ

 

そして、テラー達もその後をついていく

テラーの大群は

さらに多くの人々が住まう場所へと

歩を進めだしていた

 

 

『やめろ・・・』

 

塔の最上にて、ブルーもまた、立ち上がっていた

傷は癒えた

しかし、彼はどこか苦しそうであった

目を覆い、何かから逃げるように吐き出す

 

『それを・・・私に見せるな』

 

そうして、彼もまた

塔から降りて、テラー達と同じ場所へと向かうのであった

 

 

「チケットが勝手に・・!」

「心が怪人になることを受け入れてしまっているのか

 ・・・不味いな」

 

喫茶テアトロ──

このままでは為す術がなかった3人は

一度、対処法が何かないかと

仲間たちの下へと戻っていた

 

「恐怖で人の心を押さえつけて

 怪人化で、意思を抑え込む

 卑劣な・・・」

「一体どうすりゃ・・」

 

「・・・どうにかして、彼らを安心させるしかない」

 

そう言ったのは、浩司さんだ

いわく、彼らがチケットを呼び寄せて再び怪人になってしまうのは

彼らが"怪人にならなければ死ぬ"と強く意識してしまっているからだという

そこを解消して、()()()()()()()()()()()()思わせなければならない

 

しかし──

 

「でも、テラーの間は、こっちの声は届いてなくて

 倒して人に戻したら一瞬でまた怪人いなってしまうのだろう?」

 

一体どうやってそれをするのか

そこが問題である

 

「どうにかして、時間ができれば・・・」

 

その時──

遠くで轟音が響く

そして、少し遅れて人々の悲鳴も

 

「!?」

「・・・やつら、侵攻し始めたか」

 

どうやら、深く考えている暇はないようだ

 

「・・・行きます。」

「ああ、じっとしてるわけにゃいかねぇ」

 

3人が席を立つ

──方法は見つかっていないが

だからと言って向かわないわけには行かなかった

傷ついている人が、いるのだ

 

3人が飛び出すように店を後にする

 

「・・・どうすれば」

「うむ・・・時間、時間か・・・」

 

残された者たちは

どうすれば、人々を救えるのか

頭を悩ませる

 

「・・・あっ」

 

その時、杏奈が何かに気が付いたかのように

声を上げた

 

そして、大木を見る

「ん?」

 

「時間、稼げるかも」

 

杏奈は、自分の思いついたことに

冷や汗を流しながら、そう呟くのであった

 

 

都市部、平和に過ごしていた人々は

その光景に唖然とするしかなかった

 

まるで、人ならざる異形の化け物が

群れをなして、自分達がいる場所へと進んできていたから

 

先頭を行く

まるで鳥のような青い異形が

こちらに手を指し示す

その瞬間、後ろに引き連れた

怪物たちが、一斉にこちらに駆けだした

 

響き渡る悲鳴

突然の恐怖に誰もが竦み

そして足を動かそうと必死になる

 

『いけぇ!!

 これは反乱だ!!人を全て消し去る!』

 

そんな、おっかない言葉が

青い鳥の怪人から放たれる

 

──消し去る、殺される?

逃げ惑う人々は、それだけが理解できた

自分達は、このままでは殺されてしまう

 

『さぁ、愚かな人間たちよ

 選ぶが良い、人のまま死ぬか

 それとも、変異して生きるか!!』

 

その言葉を聞いたとき

誰もが思うであろう、生きたいと

そして

チケットが浮かび上がり、次々と目の前の人間たちに突き刺さっていく

人は異形に変異する

 

生きたいと、考えられなかった

考える余裕もなかったものは

ただひたすらに駆けまわる

 

しかし、そんな足で怪人から逃げれるはずもない

怪人の凶器が、迫る──

 

「や、めろおお!!」

 

あと少しでと言うところ

ギリギリのところで、誰かが怪人に飛び蹴りをかました

 

青年だ

3人の青年が、自分達の目の前に現れ

そして、怪人から遠ざけようとしたのだ

 

しかし、そのことに感謝する余裕さえない

そうにかして、物陰に隠れることが

人々には精一杯のことであった

 

 

『来たか、仮面ライダー』

 

「・・・人を元に戻せ」

 

『どこにその意味があるんだ、お断りだ』

 

分かり切っていた問答

だが、こちらもそれで引き下がれるわけはない

 

「だったら、力づくで取り戻す」

「ああ、いくぞ!」

 

『ほぉ、どうやるんだ?見せてくれ』

 

ドライバーを装着した3人が

テラーの軍勢を目の前に構える

こちらに迫りくるテラーに

臆することなく彼らは変身した

 

「「「変身!!」」」

 

BUBBLE MERMAID(バブル・マーメイド)

MILLION SOUND(ミリオンサウンド)!!!』

『仮面ライダー !ACT(アクト)!!!』

 

3人の仮面ライダーがテラーに立ち向かう

 

飛び掛かってきたテラーを

アクトがいなし、そしてがら空きの腹に蹴りを入れる

怯んだテラーにさらに殴り込む

 

『OVER RIDE』

 

右手にブレイガンが現れる

目の前には5体ほどのテラー

駆け抜けながら、薙ぐようにその体を切り裂いていく

 

切り裂かれた体の痛みで怯んだテラーを

 

『BEST CUT!!』

「はぁあ!!」

 

強力なエネルギーを持った一刀がまとめて薙ぎ払う

くらったテラーは、為す術もなく爆散する

そして、人が顔を出した

 

「皆さん!落ち着いて!!」

 

限られた時間で、何とか安心させようと

言葉を掛ける

しかし、その最中にもテラーは襲い掛かる

 

「諦めないで!!人はまだ終わっちゃいない!!」

 

攻撃を受け止めながら、言葉を投げかける

 

「・・・え!?なに!?なんなの!?」

「な、なんなんだよ!!これぇえ!!」

 

しかし、返ってくるのは

驚愕と怯え

そこに安堵なんてものはない

 

「(こっちの声が、届いてない・・!)」

 

どれだけ声を掛けようとしても

この非常事態の中で、平常を保つことがどれだけ難しいことか

彼らの心には届かない

 

そして、タイムリミットは訪れる

チケットが、倒した人々を再び怪人に変えてしまう

 

そして、怪人は立ち上がり

再びアクトを襲うのだ

 

「くそっ!聞こえちゃいねぇ!!」

「落ち着け、と言うののが無理があるか・・・!」

 

他の2人も似たようなものの様だ

 

「一体どうすれば・・・!」

『オオオ!!!』

 

テラーがアクトに襲い掛かる

その腕がアクトに届くより前に

その体を切り裂く

 

爆散

そして、また復活を果たしてアクトに襲い掛かる

 

「くっ」

 

振るわれる腕をブレイガンで受け止める

これでは、こちらの体力が──

 

『フゥ・・・フゥ・・・』

 

その時、テラーもまた

荒く息をしているのに気付いた

そして、その動きも遅くなっていることも

 

──まさか

考えてみれば、当たり前のことだ

怪人化して、戻して、すぐにまた怪人化なんて

体にいいはずがない

 

『フゥ・・・オオオ!!』

「くっ」

 

先程よりも緩い一撃

それは、唯戦うだけなら都合が良かっただろう

しかし、今回は

 

「迂闊に・・・倒せない・・!」

 

そう、このまま下手に倒し続けてしまえば

テラーの方が、持たない可能性があった

 

『そうさ、下手に怪人にするなんてことを続けていれば

 ・・・その人間、壊れてしまうよ』

 

「っお前・・!」

 

チルチルが、気づいたアクトに挑発するようにささやく

 

「ふざける・・な!!やめさせろ!」

『君が倒さなければいいだけだ

 ・・・どうする?人を傷つけ続けるのかい?』

 

テラーが拳を振るう

避けながら、攻撃を放とうとして

──放てない

 

「くそっ!」

 

攻撃を避ける

テラー一体だけではない、自分に群がるテラー全員の攻撃に反撃ができなくなった

しかし、避けていなしてがいつまでも可能なわけではない

 

「ぐっ!」

 

避けきれずに攻撃がぶつかる

しかし反撃はできない

一度捉えた攻撃は、何度も当たる物で

連撃が、アクトを吹き飛ばす

 

「ぐぁ!・・・くそ、このままじゃ」

 

手も足も出せない

万事休すかと思われた

その時

 

遠くから駆けてくる人の声が、聞こえた

走って来る人影が2つ

 

「雄飛!!」

「っ!?杏奈さん・・大木さん!?」

 

それは、テアトロに置いてきた

2人であった

 

自分を呼ぶ声が、響くと

テラーがそちらを向く

 

そうすれば、2人を視認するわけで

テラーの内一体が、2人目掛けて駆けだした

 

「っまずい!!」

 

アクトが立ち上がり地面を蹴り飛ばす

一瞬で杏奈とテラーの間に割り込み

そして、その攻撃を受け止める

 

「危険だ!・・離れて!!」

「いや、ここでいい!!」

 

隠れるように言うと

そう、大木が言い放った

 

「雄飛!そいつを倒して!!」

「えっ!・・・いや、むやみに倒すわけには」

「いいから!!」

 

杏奈さんのその言葉に

不安を覚えながらも

 

『ウォオオ!!』

「っ!ぜぁ!!」

 

振るわれるテラーの一撃を避け

そしてカウンターを放つ

 

放たれた拳は、一直線にテラーに突き刺さり

そして、爆散を起こした

 

人が、倒れ込む

そして、はじけ飛んだチケットは・・・

 

再び浮かび上がり

倒れた人目掛け、狙いを定めた

 

チケットが、目を覚ました人目掛けて飛び込む

 

「やっぱり・・!」

 

言葉は間に合わない

これでは──

 

「今!!」

 

その時だ、大木が動く

駆けだしたかと思えば

体を広げ

チケットと、人の()()()()()()()()()()()

 

「なっ!?大木さん!!」

 

そうすれば、突っ込むチケットは当然

その前にいる者にぶつかる訳で

 

チケットが、大木にへと叩き込まれた

 

『ぐ・・・おおお』

 

大木が苦悶の声を上げながら

怪人へと変異していく

 

『ゆ・・うひくん・・・いくぞ・・・!』

「!?」

 

その言葉を聞いて、アクトが

今にも暴れ出しそうな、テラーと対峙した

 

そして──

 

「一体・・なにが・・・」

 

テラーにされていた男が

ようやく周りを認識し始める

 

「よく見て・・!」

 

そんな男を、杏奈が指を差しながら声をかける

指し示された先をなぞられるように

男が、ゆっくりと前を向く

 

そこには──

 

『ぐ・・・ううう!!』

「くっ!」

 

衝動に振り回されるように

腕を振るう怪人と、それを避けながら戦う何かがそこには居た

 

「あ・・・れは・・・!?」

「仮面ライダー」

 

目の前の異様な光景に驚愕する男に

杏奈がその男の名を告げる

 

「仮面・・・ライダー・・・!」

「そう、人々を襲う、怪物と戦う戦士

 そんな彼が、今まさに戦っているの」

 

「皆を、守るためにそこにいるの」

「・・・。」

 

男は、目を離せなかった

まるで物語の中のようなその光景

怪物に、狙われもう駄目だと思っていた時に

ヒーローが、現れたのだ

 

「だから、諦めないで」

「・・・。」

 

「皆もそう!!」

 

立ち上がって、杏奈が大きな声で

周りに見回しながらそう告げる

 

それは、周りに隠れ込んで

逃げ込んだ人々に向けて

 

「まだ、終わりじゃない!!

 彼らは、諦めずに戦っている!!

 だから!諦めちゃダメ!!」

 

それは、絶望から掬いあげる一言であった

逃げることはできない絶望があると

そう思っていた

しかし、今目の前に

そんな自分達のために、戦う戦士達がいるのだと

彼らは、理解したのだ

 

『ぐう・・・うう・・うおおお!!!』

 

テラーと化した大木が

力を振り絞って、手を広げて立つ

まるで、何かを待つように

アクトは、その意味をよく理解していた

 

『アクト!!』

『DRAMATIC ACTION!!』

 

飛び上がり、必殺キックを放つ

テラーはそれを避けることさえせずに見事に受けた

吹き飛び、爆散する

 

「がっ」

 

弾き飛ばされるように、大木が飛び出で

さらに、一枚のチケットが、転げ落ちる

杏奈と共に立つ、男の目の前にだ

 

「仮面・・・ライダー・・・」

「凄い・・・!怪人を倒した!!」

「助かるんだ!!勝てるんだよ!!」

 

そんな声が響く

 

「・・・やった・・!」

 

男もまた感嘆の声を上げた

 

男の目の前で、投げ出されたチケットが、怪しく光る

しかし・・・それだけであった

チケットは、動かない

 

怪人になりたい

男の中から、そんな気持ちはもう消え去っていた

 

『な・・・に・・!』

 

その光景に、チルチルは驚愕する

まさか・・・こんな・・・

 

「・・・誰だって死にたくないさ」

「勝てない相手がいたら、生きることだけ考えても仕方ない」

 

「だから、代わりに戦う人がいるんだ」

「選びたくもない選択をしないために・・・」

「・・・そのための、仮面ライダーなんだ」

 

そう言いながら

アクトが、チルチルの目の前に立つ

 

その背後から、軟体化のテラーが襲い掛かる

 

「おっと!」

 

しかし、その攻撃が届く前に

何者かが割り込む

サウンドと、ラストだ

 

「なるほど・・・こうやって治すのか」

「テラーは任せろ・・・そっちを頼む!」

 

そう言って、テラー達を押し込んでくれる

アクトは、邪魔されることなく

チルチルと、相対する

 

『余計な真似を・・・』

「お前の好き勝手にさせない・・・!

 誰も、テラーになんてさせてたまるか!!」

 

そうして、多くの人の目の前で

青い鳥のテラーは、人々に絶望を振りまくために

仮面ライダーはそれを弾き飛ばすために

ぶつかり合うのであった

 

続く

 

 




次回 仮面ライダーアクト

チルチルとアクトの戦いに終止符が
『憎い・・・醜い人間がぁ!!!』
「どれだけ醜くても、生きてる限り奪い取っていい道理はない!!」

そして、ブルー(青山)は...
『私は・・・人間を滅ぼす!!』


第38章[歯車に巻き込まれた者]


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第38章~歯車に巻き込まれた者~

"おお・・・"

 

目の前には、大量のケーブルに繋がれた

1つの薄い長方形の形をした機械

 

機械とケーブルによって繋がれたモニタには

次々と書き込まれていくコードと

そのプログラムの名前をが1行

 

--人口精神 試験体:A --

 

下地はできた

後は、このプログラムのインストールだけ

それも後、数パーセント程度のものだ

 

そして、それが100パーセントに到達する

 

──自分でも、

もはや危険な領域に達していたことに気づいていた

 

人の、その精神を別の物に書き換えてしまおうなどと

 

それでも、自分の手はそれを作り出してしまった

何が自分をそこまで突き動かしたのか

 

ケーブルに繋がれたままの機械を

・・・チケットを触れようと、手を伸ばす

 

バチリと、大きな放電音が鳴り響いた

 

"!?"

 

チケットにつないだケーブルから、火花が飛び散る

・・・これはいけない!

ここで、壊すわけには──

 

男は、気づけばチケットを掴み取り

そうしてケーブルから引きちぎる

 

バンと火花を散らしながらケーブルが弾け裂ける

 

──危ないところだった

そう、男が安堵したその時

男は、自分の体に起こる異変に、気が付いた

 

体に沸き起こる苦しさ

見やれば、手元から謎の光が漏れる

咄嗟に握ったチケットは、触れどころが悪かったためか

起動を果たしていた

 

自分の中に何かが入り込んでくる感覚

そして──

 

(──初めまして。)

 

声を、感じた。

 

まさか、これは・・・

(あなたは、・・・()()()()()()()()()()()()()()())

 

こうして、青山は

自分の身を以て、人工精神体という存在の

実証実験に、成功を果たしていた

 

 

『・・・ぐっ・・・』

 

頭の痛みが、かつての記憶を呼び戻す

それは、自分にとって痛ましい記憶

 

ブルーは、痛む体を動かし

轟音の鳴る戦場へ向かう

 

それは、一体誰の為なのか

自分の野望の為か

それとも──

 

『やめろ・・・暴れるなぁ!!!』

 

咆哮と共に、大地を蹴る

最早人知を超えた肉体は

それ一つで、距離などものともせずに駆けるのであった

 

 

「お、らぁ!!」

 

アクトが蹴りを放つ

ジャンプなど用いない、

重心を移動させながら足を突き出す普通の蹴りを

しかし、その一撃でもこの姿のアクトは十二分な威力を発揮していた

 

デウスにも通用していた攻撃

ましてや通常のテラーであるのならば

 

『ぐぅあ!?』

 

羽型の2本の剣を交差させて防御態勢をとっても

それごと蹴りで吹き飛ばれる

 

『ぐっ・・・うおおお!!』

 

チルチルが体を起こす

剣を握り込みアクトに向かう

 

斬撃を振るう

1対の羽型の剣は綺麗な流線を描きながらアクトに迫る

 

しかし、その攻撃は

同様にアクトが手にしたブレイガンによって阻まれる

 

上に跳ね上げられ

逆に2度、3度と斬撃がチルチルの体に叩き込まれる

 

転がっていくチルチルに

アクトは止めを──

 

「!?」

 

その場を離れる

次いで、轟音と共に砂煙が立ち上る

 

晴れた先には

 

『はぁ・・・はぁ・・・』

 

息を切らせながら

デウスがアクトの前に立ちふさがっていた

 

「!?・・・ブルー・・!」

 

アクトが構えなおし

そして大地を蹴る

 

同時にデウスもまた向かい打つ

 

拳を放つ

デウスがそれを防御し、返しに殴り掛かる

それを避けると

デウスの足が動くのが見える

 

気づくと同時に蹴りを放つ

互いの脚が、その胸にぶつかり、蹴り飛ばす

 

体制を崩し互いに倒れ込む

 

「く、うう!!」

『ぐ、おお!!』

 

起き上がり、また駆ける

一歩も引かぬ攻防

 

そこに

 

『はぁあ!!』

「!?」

 

割って入るかのようにチルチルが切り掛かる

 

不意を突く一撃に、

咄嗟にアクトがそれを避ける

かすめた斬撃、続けて2撃目が迫る

それと同時に、逃げ場を無くすように

デウスの蹴りが繰り出される

 

デウスの蹴りを手で受け止め

斬撃を身を躱して避ける

 

息の合ったコンビネーションの攻撃が

アクトに連続して襲い掛かる

 

間一髪でそれを避けていく

攻撃は止む気配はない

 

──だったら

 

チルチルの斬撃が目の前に迫る

脚に力を込め、解き放つ

アクトの姿が一瞬で消え

 

斬撃が空を切る

アクトが、チルチルの頭上を越え

その背後へと転がり込む

 

『!?』

「そこだ!!」

 

ブレイガンの銃口を向ける

放たれた弾丸は寸分狂わずに

チルチルの背に着弾し、吹き飛ばす

 

『がぁ!?』

「はああ!!」

 

続けて、デウスに弾丸を放つ

数十発を超える弾丸が、その体に迫る

 

『!・・・はぁ!!』

 

デウスが手をかざす

そうすることで衝撃が、走ったかと思えば──

弾丸が空中で停止する

 

「!」

『おお!!』

 

そして、停止した弾丸は

その向きを変えると、アクト目掛けて

より加速して反射するのであった

 

「くっ!」

 

迫る弾丸を切り飛ばす

攻撃を逆に利用されるとは・・・

そして、その一瞬の隙に──

 

デウスが一瞬で距離を詰め

アクトの腹部に拳を置く

 

「!?」

 

瞬間、衝撃が腹に掛かり

体が空中に浮く

吹き飛ばされて転がされる

 

ずきずきと痛む腹部に悶える

辺りどころが悪かった

 

『おお・・!・・・!?』

 

その隙にデウスが追撃しようとする

しかし、そのために一歩進めたところで

彼もまた、膝から崩れ落ちる

 

もとより、塔の上からの連戦である

そのダメージが抜けきっていない彼にとっても

最早、限界は近かった

 

「く・・うあああ!!」

 

痛みを抑え込み

アクトが起き上がって駆けこむ

 

デウスもまた、それに立ち向かうように立つが

それでも、一手アクトが速かった

 

拳を放つ

鳩尾を捉えた一撃が、デウスの体に叩き込まれる

 

──終わらない

アクトの連撃が、デウスを次々と捉える

 

2撃、3撃、そして

 

「ああああ!!」

 

前に倒れ込むように突き進みながら拳を放つ

顔面を捉えた一撃を喰らい

デウスがふらつきを抑えられない

 

「ここ・・だあああ!!」

 

『アクト!!』

DRAMATIC ACTION(ドラマティック・アクション)!!』

 

飛び上がる

凄まじい力が、アクトの脚へと集まっていく

 

デウスは、そこから動けない

力を振り絞り、避けようと画策するが

体が言うことを聞いてはいない

 

「だあああ!!!」

『・・・!!!』

 

脚が目標を定め、一直線に突き進む

避けようのない一撃に、デウスが言葉を失う

 

そして、凄まじき力が

──その時だ

 

デウスの横から何かが駆ける

そして、その目の前に立ちふさがる

 

『うあああ!!!!』

 

チルチルが、その身を投げ出して

アクトの目の前に、立ちふさがった

 

「『!?』」

 

驚愕する2人をよそに

キックはもはや止まることは無い

 

そうして、必殺の力を持ったキックが

チルチルに叩き込まれた

 

青い羽がまき散らかされる

 

弾かれるように、してアクトが着地する

そして、顔を上げる

その目の前には

 

倒れ込む

チルチルを呆然を受け止めるデウスの姿があった

 

『あ・・・・!?』

『・・・あ・・・ぐぅお・・・!』

 

バチバチと火花を散らしながら

チルチルがその腕の中で悶える

 

しかし、デウスの顔を見た瞬間

 

『・・・ああ、・・・すまない』

『──。』

 

どこか、穏やかな口調を取り戻して、そう言った

 

『すべての人を・・・消せれば・・・よかったんだが』

『許せなかった・・・のになぁ・・・』

 

それだけを残し

体がひび割れていく

 

そして、崩壊は止まることもなく

その体は砕け散った

 

そうして、デウスの手には一枚のチケットだけが残るのだった

 

 

"な・・に・・・"

 

男は、自分の中に入ってきた精神体の挨拶に

反応を返せないままであった

 

(──すべきことは分かります

 あなたの体を奪い取らせていただきます)

(──記憶の読み取りを、開始します。)

 

設計した通りに、その精神体は

自分の体を奪いにかかる

記憶を見て、そうして自分の存在を奪い取ろうとする

 

──待て、止まれ

 

(──なんと)

 

やめろ、私は奪われる訳には・・・

こんなことで、終わるわけには・・・・

 

(──なんと、醜い)

 

・・・え?

 

──この直ぐ後

自分は、この精神体の欠陥を知ることになる

 

自分は、悪人と置き換えるために

彼らを生んだ

・・・しかし、精神体なんて繊細なものは

人が作れば、それはそれは純粋にできてしまうものであった

 

(ああ、酷い、酷すぎる)

(なぜ、こんなことが起きるのだ)

(なぜ、こんな仕打ちを受けなければならないのだ)

 

・・・待て、何を・・・

 

(──許せない)

 

・・・何?

 

(許せない、許せない、許せない)

(こんな仕打ちを平気で起こせるなんて)

(許しておけない)

 

・・・ヤメロ

そんなことを、言うな

 

(消し去らなければ)

 

やめろ、それ以上はやめろ

 

(人間なんて、存在してはいけない──!!)

 

それ以上、私のせいで(ために)、怒るな──!!!!

 

「や、めろおおおおおおお!!!!!』

 

 

これが、人工精神体、テラー

その実験第一号が生んだ、一幕であった

 

 

『・・・あ、ああああ!!!』

 

砕け散ったテラーの残骸を手に

デウスは咆哮する

 

こうして、一つの精神(いのち)が失われた

一体、どうしてこんなことが起こった

 

なぜ、こうなってしまった

 

「・・・。」

 

その光景を、アクトは見る

それは、一体何の感情なのか、読み取れない

 

怒りなのか・・・それとも哀しみなのか

 

『──。』

 

咆哮が止み

そして、ゆっくりとデウスがその脚で立ち上がる

 

アクトが、構える

それを見てか、はたまた独り言か

デウスは、ゆっくりと口を開いた

 

『私は・・・人間を滅ぼす!!』

 

確固たる意志を持って、そう言い切って

 

青い鳥(ブルーバード)

 

手にした、一枚のチケットを起動し

 

『・・・おおおおお!!!』

 

そして、それを自分の体に、突き立てた

 

「!?」

 

チケットが、体に取り込まれていく

そして──

 

『!・・・ぐおおおおお!!!』

 

その体に変化が起こる

 

完成された造形

歯車のような機械の意匠を持った仮面ライダー

その姿が、どんどん崩れていく

 

統率された歯車は

ガタガタと歪み、まともにつなぎ合わず

その顔も、仮面ライダーの整ったものではなく

怪人然としていった

 

そして、さらに

ガタガタに歪んだ歯車

その隙間隙間から、青い羽が飛び出すかの様に現れる

 

『──Blue Deus(ブルーデウス)

 

変わり切ったその姿は

──まるで、鳥を巻き込んで壊れ去ってしまった

機械細工の様であった

 

「・・・。」

 

その代わりように、言葉を失うアクト

そんな彼を見たブルーは

ガタガタに歪んだその腕を天にかざし

 

そうして、その力を行使した

 

突如、頭上が真っ暗に変化する

 

「!?・・・夜?」

 

驚愕し、空を見上げる

空には、満点の星空が広がり

 

そして、その光が、どんどん大きくなって近づいてくるのが見えた

 

「!・・・まさか!?」

 

次の瞬間、アクトの目にも見えるほどに

小ぶりないくつもの隕石が

周囲に降り注いだ

 

 

「だあああ!!」

 

サウンドがテラーを薙ぎ払う

これで、最後の一人

 

そうして飛び出た人は

周りにいる助けられた人々も強力して

ゆっくりとその恐怖感を鎮めさせていく

 

そして──

 

『ぐ・・・うう・・・!』

「はあああ!!」

 

足を止めた奇妙なテラーに

ラストが攻撃を放ち撃破する

 

カラリと転がるチケットは

既に怪人へと変える対象を見失ったかのように

微動だにしなかった

 

「・・・ぐええええ・・・!」

 

酷いうめき声を上げながら

大木が地面に倒れる

 

──全く無茶をする

 

そうねぎらおうとしたその時

 

空が暗くなる

 

そして・・・

 

「な、なんだこりゃあ!!!」

「!・・・危ない!!」

 

いくつもの隕石が自分達にも目掛けて降り注いだ

 

 

「く・・・そおお!!!」

 

手にブレイガンを持ち、アクトが飛び上がる

通り際に1つ2つと降り注ぐそれを切り裂く

 

全部迎撃?

──不可能である

 

圧倒的な量のそれに

押し潰されるかのように地面へと叩きつけられた

 

「ぐあああ!!!」

 

大量の隕石が降り注ぎきる

 

先程までは、唯の街並みだったのが

途端に瓦礫の山であった

 

「くっ・・・!」

 

瓦礫を蹴り飛ばす

そして、立ち上がった先に

 

『・・・。』

 

ブルーは、悠々と立っていた

 

「いきなり・・・力が・・・!」

『ああ、・・・私も想定外だ』

 

この形態は計画には、なかったと

隠すことなく白状しながら、ブルーはベルトに手を掛ける

 

最早、仮面ライダーの機械的なものではない

体と一体化するようにどこか崩れた印象を受けるそれを撫でる

 

『私は、ここに宣言する』

 

ALL Write(オール・ライト)

 

“明日、世界は変わります。

 花が舞い、蝶が飛び交う平和な未来。

 けれど、それはすぐさま終わりを告げます。

 世界は、跡形もなく消え去るのでした。”

 

『世界は、明日

 ──終わりを迎える』

 

その言葉が鳴り響いたとき

遠くに見える塔

ブルーが打ち立てた塔の先にて

変化が起こった

 

塔の上空に

何か黒い球体が生まれる

 

黒い、吸い込まれるような黒だった

まるで、その中には、何もないのかのような

 

「・・・あれは」

 

()()()だ』

 

「!?」

『あそこには、()()()()

『あのひび割れこそが、世界の崩壊そのもの』

 

「世界──!?」

 

見やる、塔の周囲を

後ろの空が、どんどんと

どこか違う風景へと変わっていく

 

「また、世界を・・・!」

『世界が全て切り替われば、あのヒビはどんどんと広がっていく』

『そして、世界の全てを壊し行く』

『・・・それが、私が用意した世界の終焉だ』

 

「・・・」

 

そこに冗談などあるはずがない

この男は、本気で世界全てを壊そうとしていた

 

「そんなの、自分も唯じゃ・・!」

『そうだ、私も消えていく

 ・・・それが良いんだ』

 

「!?・・・なんで、そこまで!」

 

そこまでのことをやろうというのか

 

『・・・人間は、不要だからだ』

「・・・なんだと!」

 

『決着をつけよう・・・仮面ライダー』

『明日までに、私を止められなければ

 ・・・私の勝ちだ』

 

そう言うと、ブルーはこちらに背を向ける

 

「待て・・!」

 

アクトが飛び出し

そして、ブルーに蹴りを放つ

 

しかし、その攻撃は当たることなく空を切る

 

「・・・決着か・・・。」

 

遠くにそびえ立つ塔を見る

最早、探し出すまでもない

 

奴は、あそこで世界の終わりを待つだけだろう

──やることは、一つだった

 

「ああ・・・つけよう

 こんな戦い、終わらせよう」

 

塔を睨みつけながら

そう呟いた

 

 

 

喫茶テアトロ

 

「明日!?」

 

あの後、隕石群でボロボロになっていたサウンド達を救出し

そうして一度拠点に戻っていた雄飛は

 

ブルーが語った、世界の状況を皆に話す

また、世界がどんどん書き換わっていっていること

そして、それが全て終わると世界が崩壊すること

そして、それが完了まで残り1日であるということ

 

「そうか、もう時間は・・・」

「あまり残っていないのか」

「・・・はい」

 

「っ急がなければ・・・!」

 

傷だらけのラストが立ち上がろうとする

 

「おっと!・・無理は駄目だって!」

 

ふらつきながら入口に向かおうとするラストを

ストップする大木

 

「しかし・・・!」

「いや、ラスト今すぐじゃなくていい」

 

それを見て、雄飛もまた静止する

 

「ブルーは・・・明日といった。」

「なら、明日まではセーフだ」

 

今日はしっかり快復に努めようと

雄飛はそう言う

 

「・・・嘘って可能性は?」

 

翔が、もっともなことを言う

そう、こちらを欺くために

今日中に越させないために明日までは無事といったのかもしれない

 

──だが

 

「ないけど・・・」

 

"決着をつけよう"

──そう言った、ブルーの顔を思い出す

あの顔は、そしてあの言葉は

 

「あれは、嘘じゃないと思うんだ」

 

人間を消すといったのも

自分ごと消すといったのも

そのすべてが、本心からの言葉だったと

雄飛は感じたのだ

 

「だから、決戦は明日」

 

きっぱりとそう言うと

雄飛は、疲れたようにソファへ寝っ転がる

 

その様子を見て、皆も仕方がないと

腰を落ち着け直すのであった

 

「・・・なら、今日すべきことは一つかな」

 

口を開いたのは、大吾であった

皆が、なんだなんだと注目する中

 

大吾が語ったのは・・・

 

 

塔の最上で、ブルーは腰を掛けていた

最早、やることは2つである

 

1つは、このまま世界が壊れるまでを待つこと

 

そして、もう1つは

『・・・仮面ライダー・・・か』

 

明日、ここへやって来る者たちの撃退であった

これで、全てが終わる

 

ここをしのぎ切れば、世界は、人間は終わるのだ

 

──そのためには

 

『・・・駒が、必要だな』

 

立ち上がる

そうして、体に力を込める

 

自分の中にある、何かを探していく

──見つけた

 

”消えていった者たちが

 今、ここに復活しました。

 素晴らしき、再開を果たしたのです。”

 

自分の中から、何かが湧き出す

うごめく何かは、強力なエネルギーを秘めた何か

 

そして、2つ地面に撒き散らかされたそれは

やがて起き立つように高く立っていく

 

やがて、その姿はどんどんある形になっていく

人の形

──火のような形

──ドレスのような形

 

『・・・が・・・ぁ・・!?』

『う・・・ぅ・・・!?』

 

そうして、何かは2人の人へと姿を変えた

 

『・・・ここは・・・!?』

『生き・・・てる!?』

 

『久しい気がするよ、()()()()()()

 

姿を現したのは

この戦いの中で、命を落とした2人の怪人

ストーリーテラー、サンとクイーンであった

 

チケット(デウス)を作るのに取り込んだ結果

 ・・・君たちのサルベージが可能だった』

 

『!・・・ブルーぅ!!』

『あんた・・・よくも・・・!』

 

何が起こったのか分からなかった2人

しかし、目の前に座るブルーの姿を見た瞬間

 

彼らは思いだした

──自分の身に何が起こったのかを

 

自分達を捨て石にした本人が目の前にいた

それだけで、2人が怒りを持つのは当たり前であった

 

2人の怪人が、ブルー目掛け襲い掛かろうとする

しかし・・・

 

”消えていった者たちが

 今、ここに復活しました。

 素晴らしき、再開を果たしたのです。”

 

2人が崩れ落ちる

いや、正確には立っていられなくなった

 

『な!?』

『これは・・・!?』

 

2人が、動かなくなった足を見る

──いや、明らかに透明になって消えていっている自分の足を見た

 

『悪いが、君たちに拒否権はない

 ・・・働いてもらうぞ』

 

復活をさせた

・・・なら、消すのも自在だと

言外にそう告げる

 

『なんだと・・!』

『お…んのれぇ!!』

 

それを読み取った2人は

現状を甘んじて受けるしかないのだ

 

動けない2人に

ブルーが現在の状況を説明する

 

あと少しで、世界が終わることを

それを阻むために仮面ライダーがやって来ることを

 

そして、それを阻むためにお前たちを呼び戻したのだと

 

それを聞いた2人は

 

『は・・・ハハハ!!なんだよそれ!!

 最高じゃねぇか!!』

 

サンは楽しそうに

 

『・・・チッ』

 

クイーンはそれでも悔しそうに

 

その役割を甘んじて受けることを決めたのであった

 

 

ジュウジュウと、何かが焼ける音が響く

 

「肉、焼けたよー」

「「おお!!」」

 

群がるように、網に乗せられたそれの争奪戦が始まる

 

”決起会さ!!”

 

大吾のその一言で、

彼らの最後の晩餐になるかもしれない食事は

バーベキューに決まっていた

 

「ちょ、博士!!俺の肉!!」

「悪いが、速い者勝ちだ」

 

「・・・。」

「野菜・・・嫌いかい?」

「・・・いや、・・・いや・・・」

 

みな、思い思いに食事を楽しんでいた

その中で、腹も膨れた雄飛は

遠くに見える、高い塔を眺めていた

 

ゆっくりと、付近の場所が変わっていくのが見える

くっきりと、世界同士の境界線が見て取れた

 

──あれが世界中に到達したら、終わり

 

「もう、食べないの?」

 

不意に、隣からそんな声を掛けられる

見やれば、隣に杏奈さんが座り込んでいた

 

「うん、腹一杯」

「そ」

 

・・・。

・・・。

 

「ねぇ、・・・勝てるの?」

「・・・勝つよ」

 

ちらりと、見た顔には

ほんの少しの不安が見て取れた

 

それを押し返すように、力強く宣言する

 

「──この店にさ」

「?」

 

「ここに来てから、すっごい大変だったけどさ」

「・・・。」

 

「同じくらい、すっごい楽しかったんだ」

「・・・うん」

 

つらい戦いがあった

苦しい戦いがあった

 

それでも、ここで得たものは大きかった

いろんな人に出会って、友達になった

いろんな経験をして、成長できた

 

ここに来ることを選んで、よかったと

胸を張って言い切れる

 

「こんなところで、終わりにさせるもんか」

「──うん」

 

あんな、全てを投げ出すような

そんな終わらせ方をしてたまるか

 

もっと、生きるんだ

だって、もっと楽しみたいんだ

生きるって、素晴らしいんだ

 

そう、思った。

 

 

日が昇る

 

タイムリミットの日が始まる頃に

 

雄飛達は、塔に向かって歩き出していた

 

近づいてくる塔

しかし、そう簡単には近づかせようとはしていなかった

塔は、ゆっくりとその力を解き放ちだしていた

 

塔の根から

また、いくつもの兵士たちが這い出てくる

 

ゆっくりと兵士たちが

まだ侵食していない世界へ向けて

行進を始めていた

 

「・・・!」

「チッ・・・無視したら住人たちを襲いに行くってか」

「・・・ここは私が・・!」

 

ラストがそう言って、前に出ようとした時

 

さらにその前に立つ人影があった

 

「!?みんな!」

 

浩司たちが目の前に立つ

一体いつの間に!

 

「雑魚に構うな!!」

「さっさと進むんだ!!」

 

手には棒やらバットやら

まさか、戦う気だっていうのか

 

「いや、でも!!」

 

いくら兵士たちが弱い存在だと言っても

一般人達が相手できるとは・・!

 

「ここで時間を潰してどうする!!」

「無理はするつもりはない!!

 時間を稼ぐだけだ!!いけ!!」

 

そう言うと、皆兵士に向かっていく

そうして、兵士たちの動きが確かに停滞する

 

──この頑張りを無駄にはできない

 

「行こう!!」

「無茶するなよ!!」

 

3人がその隙を一気に駆け抜ける

そうして、塔へと入り込んだ

 

 

塔には言った瞬間

 

凄まじい熱気が、3人を襲った

 

「!あぶねえ!!」

 

飛びのいた瞬間、前方から火炎弾が飛んで

そうして壁に激突する

焼け焦げた壁に、冷や汗を垂らすと

 

『やるねぇ』

「「「!?」」」

 

声に振り返る

その先には

 

「サン!?・・クイーン!?」

「てめぇ・・・どうやって」

 

そこには、楽しそうにするサンと

無表情を貫く、クイーンの姿があった

 

『地獄の底から、舞い戻ってやったのさ!!』

『・・・あんたたちを止めないと

 消されるっていう条件付きでね』

 

そう言うと、2人がチケットを取りだす

そして、

 

次の瞬間には

燃え盛る太陽のテラーと

女王のテラーがそこに現れる

 

『さぁ、世界の終わりまで楽しもうぜ!!』

『私は、死ぬ気はない

 ・・・だから、あなたらを殺すわ』

 

そうして、臨戦態勢を取る

──これは、相手をせずに突破はできそうにない

 

「・・・雄飛、先いけ」

「え?」

 

「ここは、私たちがやる

 どちらにせよ、ヒビとやらはお前でなければ壊せないだろう」

 

そう言うと、翔とラストは前に立つ

 

──確かに、ここで時間を食っている場合ではない

 

「・・・頼む!!」

 

「おお!」「任せろ」

 

BUBBLE MERMAID(バブル・マーメイド)

POP UP SOUND(ポップ アップ サウンド)!』

 

「「変身!!!」」

 

『PLAY!!』

『ON STAGE!!!』

POP UP SOUND IS(ポップ アップ サウンド イズ)

SINGER SONG RIDER(シンガー・ソング・ライダー)!!! 』

 

Last UP(ラスト アップ)

『Love Disappears as Bubbles』

BUBBLE MERMAID(バブル・マーメイド)

 

2人の仮面ライダーが

前に立ちはだかる怪人へと駆けだす

 

それを見送って雄飛もまた

上階へと走り出すのであった

 

 

続く

 

 




次回 仮面ライダーアクト

始まった最終決戦

サウンドの戦いの行く末は
『みんな終わっちまえば!!全部の最後が見れるんだよ!!』
「てめぇ一人だけ!!いい思い出来ると思うな!!」

ラストの戦いの行く末は
『親の言うことは、聞くもの・・・でしょう?』
「私は──まだ、終われない」


第39章[それぞれの結末]


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第39章~それぞれの結末~

「行くぞおらあああ!!」

「はぁ!!」

 

2人の仮面ライダーが目の前のテラーに目掛け各々の武器を振るう

振り下ろされる槍が、剣がそれぞれのテラーに向けられる

 

しかしそれがたやすく通ることは無い

腕と槍が、剣と杖がそれぞれぶつかり合い火花を散らす

2者同士が武士を押し付け合い拮抗する

 

「てめぇら・・そこどきやがれ!!」

「邪魔をするな・・・このを破壊しなければならんのだ!!」

 

『悪いが・・・こっちにも選択の余地がなくてなぁ!!』

 

サンがそう言いながら槍を弾き、拳に火を灯す

炎を纏った拳がサウンドに放たれた

 

近づくだけでやけどしそうな拳を躱し

再度槍を振るう

槍と拳がかち合い、互いに弾きあう

 

『従わないと、消されちゃうのよねぇ』

 

クイーンが杖を振り払い、ラストを弾き飛ばす

そして、ラスト目掛けてを翳し

 

『ハァッ!!』

 

その手から多数のエネルギー弾が放たれた

迫りくる弾を切り払う

 

『でも、ずっと従うままも悔しいから

 ・・・必ず、殺すわ』

「!?」

 

弾丸を切り払った次の瞬間

いつの間に距離を詰めたのか

目の前にクイーンが現れる

そして、その右手が振るわれ

ラストの顔面をはたいた

 

顔への衝撃に怯むラストに対し

クイーンは穏やかなような口調で語り掛ける

 

『・・・でも、力が足りないの』

『だから──』

 

そうして、優しくラストに手を差し伸べた

 

『あなたの3枚(チケット)、私に渡しなさい?』

「!?」

 

そう、まるで子に嗜めるかのようにそう言った

 

『親の言うことは、聞くもの・・・でしょう?』

「っ!」

 

まるで、親の言い方(こう言って)欲しかったのだろう?

そう、言われているようであった

悪質なことだ

 

そんな気など、最早ないのだろうに

それが理解しているからこそ

悲しかった

 

──そして、それに対して

どこか、反射的に嬉しさを感じた自分も

悲しかった

 

「──断る!!」

 

再び、剣を握り直す

ここにいるのは、貴様の操り人形ではない──!

 

『・・・そう』

 

その返事に、なんの興味もなかったかのように

淡泊にそう返すと

クイーンは

 

『なら、殺して奪い取るしかないわね』

 

ただ、そうとだけ言った

 

同時に、その体に異変が起こる

湧き出るように茨が生え出る

そして、その姿はどんどん膨れ上がり

 

巨大なドラゴンへと、形を変えた

 

茨で出来た足を振り上げ、そして振り下ろす

どれだけ大量のそれを重ねたのだろうか

凄まじい重量の足が、床を叩いた

 

──バキリ

 

鈍い音が響いた

振り下ろした足を中心に、床に巨大な亀裂が走る

 

「!?」

 

そしてそれは、ラストの立つ場所にも及んでいく

次の瞬間

 

クイーンと、ラストが立つ

()()()()()()()()()()()()()

そして、抜けた床の先には

暗く続く、大きな空洞が顔を見せた

──地下空間だ

 

「なに!?・・・うわっ!!」

 

立つ場所を無くしたラストが

重力にひかれるまま、床の下にできた空間へと吸い込まれる

クイーンもまた、その空間へと飛び込んだ

 

闇に溶け、二人の姿が見えなくなっていく

 

「ラスト・・・!」

『おっとぉ!!』

 

追いかけようとしたサウンドを

サンが阻む

炎の拳が、サウンドの顔をかすめる

 

『いいじゃねぇか・・・こっちはこっちで楽しもうぜ!!』

「っ!・・・手前ぇ・・!」

 

ラストの無事を祈りながら

サウンドもまた、自身の宿敵との戦いに身を投じていった

 

 

仮面ライダー達が戦いを始める中

塔の外でも、脅威に抗うもの太刀ん姿があった

 

湧き出てくるように増えて

こちらに向かってくる兵士たち相手に

そこら中にあったものを持って杏奈達は抗っていた

 

頭を叩いても、物を投げつけてもあまり効果はない

それでも、ここで食い止めなければならないのだ

 

彼らが帰ってくるまで

絶対に、誰の下へも向かわせないためにも

 

「・・・ははっ分かってたけどあいてにならないなぁ!!」

「笑ってる場合かぁ!!」

 

「踏ん張れ!!・・・どれも通すんじゃないぞ!!」

 

そう言いながら、効きもしない打撃を与えて

こちらに注意を引かせ続ける

 

しかし、そんなことも限界があるだろう

このままでは、自分達も無残に──

 

「いたぞ!!あそこだ!!」

「!?誰かもういるじゃないか!」

「急げ!!遅れるわけにはいかんぞ!!」

 

──?

 

後ろから、声が?

振り返る

 

──誰かが、こちらに向かって駆けてきていた

それも何十人もの人影が──

 

一体、だれが

 

ライダーの同志(ライダーズ・フェロー) 推参!!!」

「──はい!?」

 

それは、特別な誰かでもなく

救いのヒーローでもなんでもない

どこにでもいる、普通の人々だった

 

「遅れてすまない!!」

「おお!!これはやばい!!多いぞ!!」

「早くバリケードだ!!ここから進ませるな!!」

 

そう言うと、彼らは持ち合わせた

材料で、バンバンバリケードを組み立てていく

あっという間に、防衛線が出来上がっていた

 

「──これは」

「あなた達、一体・・・?」

 

一瞬の出来事に

杏奈達は、目を丸くしてそう呟くしかない

 

「私たちは、ライダーの同志!!助太刀するぞ!!」

「ああ、この前だって何とかなったんだ!!」

「今度だって耐えきるぞ!!」

 

そう言うと、彼らは兵士に果敢に向かっていく

何と命知らずな

 

なぜ、彼らがこんなことをしているのかは分からない

 

──だが

 

「これなら・・・!」

「ああ、守り切るぞ!!」

 

自分達だけでは、絶対に不可能であった

行為に、希望を与えてくれたのは確かであった

 

「──雄飛達が!!帰ってくるまで!!」

 

 

 

『いくぜええええ!!!』

 

サンが体に力を込める

その瞬間、炎の意匠だけであった体が

逆巻く風のような意匠が現れていった

 

「っく!!」

 

Heat Up(ヒートアップ)! GIGA SOUND(ギガサウンド)!!』

 

槍に熱がこもっていく

 

サンが駆けだす

一気にサウンドと距離を詰め

そして、目にも止まらぬような速さで

蹴り掛かった

 

迫る足に体の間に、ギターを挟み込む

凄まじい衝撃が、サウンドの手に掛かる

防御すら飛び越えるほどの攻撃が突き刺さる

 

一撃では終わらない

防御されたと見るや、さらに別方向から続けざまに攻撃が迫る

間一髪のところで、避ける

 

かすめただけで、焦げるような熱さが走る

その痛みに、気を取られた瞬間

腹に衝撃が走った

 

サンの拳が、サウンドの腹に突き刺さる

数歩の後ずさり

その怯み合わせるかのように

 

サンの連撃が、サウンドへと襲い掛かる

左右の拳での攻撃が、サウンドの体を叩く

そして、炎を纏った右拳が

体重を乗せて、サウンドへと叩き込まれた

 

衝撃に吹き飛び、転がっていく

凄まじい衝撃に、息ができない

 

『うおおお・・・!』

 

しかし、敵は待ってなどくれない

サンが拳を引き、力を込める

 

──っ何か飛ばしてくる!

 

「さ・・・せるか!!」

 

一瞬で、槍をボウガンへと組み替える

そして、足を止めたサン目掛け

弾丸を連射した

 

『!?・・・ぐおっ!?』

 

虚を突かれたサンが

数多の弾丸を受け、吹き飛ぶ

 

その隙に、サウンドが立ち上がり

追撃を──

 

『まだまだ!!』

「!?」

 

勢いよく、サンが立ち上がる

そして、間髪入れずに

空中目掛け、アッパーカットを放った

 

一体何を──

 

その瞬間、奴の目の前に

巨大な炎の竜巻が、立ち上った

 

「!?」

『おらぁ!!』

 

そして、竜巻がこちら目掛けて突き進みだした

瓦礫を巻き込みながら、竜巻がサウンド目掛け

猛スピードで突っ込む

 

「くっ!」

 

咄嗟に回避を取る

しかし──

 

「な!?」

『残念だったな』

 

回避した先に、サンの姿が

拳が迫る

 

回避する間などなく

サンの拳がサウンドの体を打ち抜いた

 

「ぐぁあああ!!」

 

焼けるような痛みに声が漏れる

そして、そのまま吹き飛ばされたサウンドは

床を滑るかのように転がっていく

 

そして、積み上がった瓦礫に激突する

砂煙が立ち、その姿が埋もれていく

 

『・・・終わったか・・?』

 

詰まらない、とそう言いたげな声色で

サンが呟いた

 

しかし、それは杞憂であった

 

 

GREATEST HITS(グレイテスト・ヒッツ)!!!』

FOREVER(フォーエバー)!!』

MILLION SOUND(ミリオンサウンド)!!!』

 

BEST MEMBERS(ベストメンバーズ)!! 』

『 1! 2! 3!』

 

「まだ・・だ!!」

 

砂埃を切り裂いて

4人のサウンドが現れる

 

『・・・!』

 

嬉しそうに、サンが顔を上げた

そんな彼目掛け、4人のサウンドが駆けだす

 

4人が一斉に攻撃を放つ

絶え間ない槍の攻撃

 

サンは、その攻撃を捌いていく

しかし、それにも限度がある

 

槍の一撃が、サンの体を切り裂く

その一撃に怯んだ隙にさらに攻撃が加えられていく

 

「はぁ!!」

 

そうして、さらにサウンドが正面から切り掛かった

 

『・・・・いいぞ!!』

 

しかし、確実にダメージを与えられているはずのサンは

それをものともしないかのように

真正面からの一撃を、掴み取る

 

『もっと・・楽しもうぜ!!』

 

まるで今が、とても楽しいとでもいうかのように

 

「っ!・・・何が楽しんだよ!!」

『分かんねぇかよ!!命の取り合い!!

 ・・・良い最後じゃねえか!!』

 

一方的な虐殺を愉しんだ

しかし、それはそれとして

必至に相手の命を取ろうと動く今も

サンにとっては、最高の道楽であった

 

「・・・言ってる場合かよ!!

 このままだと、全部終わんだぞ!!」

『ああ!?』

 

攻撃を互いに弾きあう

 

「このままだと、世界がぶっ壊れて

 俺の命どころか、お前も全世界の命もまとめてお陀仏なんだぞ!!」

『なんだと・・!?』

 

初めて知ったと言わんばかりに

驚愕するサン

 

「分かったらどけよ!!」

 

怒りすら滲ませて、サウンドが槍の一撃を振るう

迫る槍に、サンは

 

『全部かよ・・・!そんなの・・・!』

『なおさら見てぇじゃねぇか!!』

 

弾き、そのまま流れるようにサウンドに殴り飛ばす

 

「・・っ・・!・・・なんだと・・!」

 

攻撃を喰らったことよりも

言った言葉の方が、気になった

 

『世界の終わり!?・・・最高じゃねえか』

『みんな終わっちまえば!!全部の最後が見れる!!』

 

さらに元気になったかのように

サンの動きが良くなる

 

3人のサウンドが一斉に掛かり

攻撃が飛び込んでくる中で

 

『おらぁ!!』

 

的確に、一撃一撃を捌き

そして、そのカウンターに攻撃を浴びせて吹き飛ばした

3体の分身が霧散していく

 

そして、目の前にいる本体にも

一気に距離を詰める

 

「!?」

『おらぁ!!』

 

サウンドを蹴り飛ばす

そして倒れ込んだところに

 

『フン』

「ぐぁっ!」

 

ストンピングをかます

2度、3度と

倒れるサウンドに足を踏み落とす

 

「くそっ!」

 

振り下ろされる足を掴む

しかし、そうした瞬間

 

『ハアアア!!』

 

サンの体が燃え上がった

 

「熱っ・・・!」

 

手から、体中から

焼けるような痛みが走る

 

そして、手を離してしまった瞬間

横から、蹴り飛ばされる

 

地面を転がっていく

焼けるような痛みが、立ち起こす力を削いでいく

 

『どうした・・・終わりかぁ?』

「・・・!」

 

サンが迫りくる

立たなくては、しかし体が言うことを──

 

『なら・・・一足先に送ってやるよ』

 

っくそ・・!

 

『お友達も、待ってるだろうぜ』

「・・!」

 

『同じように、丸焼きでなぁ!!』

 

──そこを突かれれば、黙ってられなかった

 

「っおおおお!!」

BEST HIT(ベスト ヒット)!!!』

 

半ばやけくそに

ベルトを叩き、跳ね上がるように立ち上がる

 

『!?』

「おらぁ!!」

 

怒りに身を任せ

握った拳を、奴の体に叩き込んだ

 

『おおお!』

 

虚を突いたのか、サンの体が後ずさる

 

「はぁ・・・はぁ・・・!!」

 

荒い息をしながら立ち上がる

全身がいたみを放つ

しかし、それを構うことなくサウンドは転がった

ギターランスを掴み取り

サン目掛けて駆けだす

 

『・・・やるなぁ・・!・・・だが・・?!?』

 

攻撃を喰らったサンは

駆けこんでくるサウンドに止めを刺すべく構えようとした

 

しかし、その時

一瞬だけ、力が抜けた

 

『な!?』

 

一瞬の引っ張られるかのような感覚

それは、サウンドの力によるものであった

一瞬だが、サンという人間が、テラーから引き剥がされかけたのだ

 

それは、一瞬の隙であった

しかし、決定的な隙であった

 

「らぁあああああ!!!!」

『しまっ・・・』

 

体に自由が戻った時

サウンドは既に自分の目の前に迫っていた

既に攻撃の体制に入っている

 

サウンドが手にした槍を駆けこんだ勢いをそのまま乗せて突き出す

それに対し、迎撃はおろか防御や回避も行う時間は

サンには残されていなかった

 

槍が、サンの体を・・・貫いた

 

『ぐああああ!!』

 

激痛がサンを襲う

しかし、攻撃はそれだけでは終わらない

 

「うおおおお!!!」

 

貫いた槍を両腕で抱え込み、上方へと差し向ける

突き刺さったサンの体も言わずもがな

どんどん地面から離れ吊り上がっていく

 

「これで、逃がさねぇ・・・!」

『!?』

 

その一言で、何をしようとしているのかを理解した

 

『させるかあああ!!』

 

突き刺さった槍を掴み込み

それをさせまいとサンが抵抗する

 

次の瞬間、サウンドとサンの周りに

円形の炎が現れる

 

次の瞬間、円から炎が立ち上がり

巨大な炎の渦が2人を包みこんだ

 

『焼け死ねぇ!!!』

 

自分の体をも焼き焦がす炎を立たせる

しかし──

 

「うおおおおお!!!!!!」

『MILLION!!』

 

それでも、サウンドが止まるはず等なかった

友を焼いた炎の中

その中で、その敵が目の前にいる

 

死んでも手を離すことなど、するはずがない

 

突き刺さった槍に、膨大な量の力がこもる

 

狙う必要などない

既に敵はそこにいる

後はそれを、ただ

 

『やめ・・・』

「いけえええええ!!!」

GREATEST HITS MEDLEY(グレイテスト・ヒッツ メドレー)!!!』

 

解き放つだけであった

 

膨大なエネルギーが周りの炎すらかき消して

サンに叩き込まれる

 

その瞬間

サンの体に異変が起こる

 

『な・・・ぐうう・・・っがあああああ!!!』

 

突き刺さった体から

まるで何かが剥がれるかのように

その体から飛び出した

 

『ぐあっ・・・ぐうう・・・』

 

それは人間であった

しかし、知った顔であった

それは先ほどまで、自分と顔を合わせていた顔

 

そう、人間 日暮一樹であった

 

『・・・!・・・何!?』

 

サウンドの能力によって無理矢理人間を引っ張り出した

そうなれば、今この槍に刺さっているのはただの抜け殻である

 

「・・・おおらぁ!!」

 

槍を振るい

刺さった怪人を投げ捨てる

 

怪人は、地面に落ちると

ピクリとも動かない

 

そこに、意思は何もない

まぎれもない、唯の抜け殻であった

 

次の瞬間

抜け殻に変化が起こる

 

自身の能力に耐えきれなくなったのか

まるで高温になった鉄のように真っ赤に染まり

そして、膨張していく

 

このままだと、自身の炎に耐えきれずに爆発するであろう

・・・止めを刺す手間が省けたというべきか

 

『・・・・まだ・・だ!』

「!?」

 

しかし、安堵したのも束の間

サウンドの耳に聞こえたのは

男の声であった

 

『奪わせはしない・・・まだ、やり足りねぇ・・!』

 

地面を転がりボロボロになったサン・・いや日暮は

どこにそんな力が残っているのか立ち上がり

 

『俺の・・・俺の力だあああ!!』

 

そう言うと、駆けだした

目指すのは、倒れ込んだ怪人である

 

爆発しかけの、怪人であった

 

「っ止めろ!!」

 

間に合わない、爆発するぞと

仮面ライダーのそんな言葉は届かない

 

日暮は走った

膨張していく怪人へと

 

確信があった

()()()()()()()()()()

 

長く使っていた体が、どれだけの熱量に耐えられるかを

彼は感覚的に理解していた

 

そして、この状況で

彼は間に合うと踏んで、駆けていた

もう一度、怪人の体を取り戻すために

 

日暮は駆けた

絶対に間に合うと

 

しかし、それには一つの間違いがあった

爆発目前の怪人に駆け込む男

 

極悪な殺人鬼が、死に飛び込んでいる

そんな状況で、自分のこと恨んでいる男が

 

 

 

 

自分を助けるはずがないと

高を括っていたことだ

 

BEST MEMBERS(ベストメンバーズ)!! 』

『 1! 2! 3!』

 

日暮の体が止まる

いや、止められたのだ

 

目の前に現れた

仮面ライダーの手によって

 

『な!?』

 

焼け焦げた体を押して

サウンドが立ち上がる

 

()()()()()()()()

「どんだけ好き勝手やってきたと思ってやがる」

 

脳裏に浮かぶのは、猫に踊らされた一人の男

自分を庇って、罪を償わずに勝ち逃げをした男

 

「あんたにゃしっかり罪を償ってもらう」

 

槍を持ち上げ

そして、投げる構えを取る

 

『!?・・・やめろおお!!』

 

分身に掴まれた日暮が、暴れ出す

しかし、唯の人間が

仮面ライダーの拘束を剝げるはずなどなく

 

「てめぇ一人だけ、いい思いができると思うな」

 

そうして、サウンドの手から

倒れ込む怪人に向けて

槍が、放たれた

 

そこに避ける意思など存在しない

槍は一寸狂わずに膨張したその体に

 

命中した

 

巨大な火柱を上げ、爆発を起こす

火が収まった先に残っていたのは

 

焼け焦げた、槍と

それに貫かれて、バラバラに砕け散った

一枚のチケットだけであった

 

『・・俺の・・・力が・・・」

 

日暮が膝をつく

そして、呆然としたまま

倒れるように、気を失った

 

「・・・これでいいんだよな」

 

命は奪わない

これが正しい選択だったのかは

きっと答えは出ないのだろう

 

けれどきっと

あの友人達には、笑って報告できると

翔は、そう信じるのであった

 

 

 

 

 

『・・・それじゃあ、始めましょう』

 

「っく」

 

落下したラストは

大きな地下空洞の中で、巨大なドラゴンと対峙していた

 

『死になさい』

 

クイーンが羽ばたき、その体を空中へと浮かせる

そして、その巨大な口から

おぞましい揺らめきを見せる

 

「!・・・」

 

咄嗟に液状と化し

地面に潜る

 

次の瞬間、巨大な緑色をした火炎が

地面へと降り注いだ

 

『・・・そこね』

 

火を吹き終えたクイーン

そこに目掛け、壁から水が吹き上がる

そして、ラストが飛び出した

 

ラストがすれ違いざまに剣を振るう

しかし、その攻撃は厚い茨の体を貫くことはかなわない

 

『無駄よ』

「くっ」

 

クイーンが、竜の右手をラストへ向ける

次の瞬間、幾重にも重なった茨がほどけ

まるでしなる鞭のように、ラスト目掛け振り下ろされた

 

「!?」

 

液状になりスルスルとその間を避ける

 

しかし──

これでは、手がない

 

やはり、有効打なのは──

 

 

振り下ろされた鞭を掻い潜り

大地に降り立つ

 

『MIRAGE TORCH』

『What The Fire Showed Was All Illusions』

 

グリップに炎を灯す

そして、突き出した瞬間

巨大な炎の拳が、クイーン目掛け突き進む

 

『そうね、それしかないもの』

 

しかし、クイーンはその攻撃を呼んでいたと言わんばかりに

軽い旋回一つで避ける

 

「!?」

『でも、もう避けられないわよね』

 

次の瞬間、巨大な炎が

ラスト目掛け、放たれる

 

「ぐうううあああ!!」

 

炎弾が、周りに降り注ぎ爆発を起こす

その衝撃がラストを吹き飛ばした

 

地面を転がる

──まだだ

 

「まだ、戦え」

『遅いわ』

 

立ち上がった矢先に

茨で出来た、巨大な尾が眼前に迫る

 

巨大な質量が、自分の体を容易く巻き込み

そして、吹き飛ばした

 

「っが・・・」

 

叩きつけられ、一瞬意識が飛んだ気がした

 

『これで終わりね』

 

ドラゴンが降り立ち

その茨がどんどんほどかれていく

 

そして、最終的には

人間サイズの怪人が、姿を現した

 

『さぁ、チケットを出しなさい』

 

「・・・断る・・!」

 

痛みを押して、立ち上がる

負けるわけにはいかない

 

世界のためにも、自分の為にも

「っ!」

 

 

BEST END(ベストエンド)

 

グリップから大量の炎が吹きだす

巨大な拳を形成した火炎が

クイーン目掛け突き出される

 

『!・・・・はぁ!!』

 

クイーンの手に大量の茨が現れる

推し固めたそれを迫りくる火炎にぶつけ

 

そして、別方向へと弾き飛ばした

 

「っああ・・?!」

『・・・さっさと倒れなさい、愚図』

 

そして、翳した手から

大量の弾幕が放たれる

 

迫るそれを、ラストに避ける体力は残されていなかった

 

「ぐあああああ!!」

 

体中に弾丸が突き刺さる

弾幕が、終わるころには

ボロボロになったラストが倒れ込んだ

 

「ぐ・・・あっ・・・」

 

変身が解け、その手からグリップが零れ落ちる

 

『フン・・・邪魔よ』

 

ラストの目の前にクイーンが立つ

しかし、その目にラストに対しての情感などなく

ラストの体を蹴りどける

 

そして転がった拍子に零れ落ちたチケット一枚を拾い上げた

 

『さぁ・・・残りも出しなさい』

「・・・!」

 

ラストがグリップへ伸ばそうとした手を

 

『フッ!』

「うぁ・・!」

 

鋭利なその足で踏みつける

 

そしてさらに

足元に落ちた、グリップを踏み

──そして、踏み砕いた

 

「・・・!」

『ほら、これで満足でしょう?

 ・・・さっさと出しなさい』

 

うんざりだといった口調で

クイーンが言う

 

しかし、最早待つ気も起きないのだろう

また、ラストを蹴り飛ばした

 

「うぁ・・!」

『・・・もういいわ、さっさと死んでちょうだい』

『どこまでも、あなたは愚図だったわ』

 

「!・・・!」

 

拳を握りしめる

悔しさがこみあげてくる

 

どうして、勝てないのか

自分は、ここで終わるしかないのか

 

そんな、怒りとやるせなさがひたすら脳内を駆け巡る

──もう、いやだ

 

そんな思いがこみ上げてくる

もう、こんな気分は嫌だと心底思えてくる

 

──諦めてしまった方がいいのではないだろうか

 

ポケットからチケットを出して

さっさと終わりにしてしまった方が

 

折れかけた心は

思ったことをすぐにしてしまうもので

 

ポケットを探る

──何かが触れた

 

もう確認するのもきつくて

何も考えずに、それを取りだした

 

けれど、それは

チケットなどではなかった

 

それは、一枚の紙切れであった

それは──

 

 

"少年は、全てを失い

 親からも見捨てられて、

 一人ぼっちになってしまいました。

             おしまい

 けれど、少年は新しい仲間を見つけました。

 そして、彼は新しい仲間と笑い合って

 末永く、幸せに暮らしました

             おしまい"

 

「──。」

 

"君は、そのおしまいで満足できるのかい?"

 

それは──

 

「──できるはずが、ない」

『・・・なに?』

 

拳を握る

足に力を込める

──立て、立て、立て!!

 

ふらつきながら、それでも立ち上がる

 

『・・・何のつもり?』

「私は──まだ、終われない」

 

クイーンを見据える

恐ろしい、自分にとって本当に恐ろしい相手を

ボロボロにされて、

あれだけいいように言われて

心を折られそうになった

 

それでも──

 

「終われない・・・私はまだ

 何も見つけていない」

『・・・?』

 

勝たなければならない

そうでなければ、先に進めない

 

「こんな場所で、貴様なんかで終われない!!」

「私は、まだ生きていく!!」

 

「私を、望んでくれた人達がいる!!」

「私に教えてくれた人がいる!!」

 

『それが、なんだというのよ』

 

決まっている

 

「私は、彼らと一緒に生きる!!」

「生きて!!私が望むおしまいを見つける!」

 

『・・・それで?口だけで何ができるの?』

「口だけなんかじゃない・・・

 私は、先に進む!!」

「こんなところで、貴様なんかで終わりにできやしない!!」

 

そう、言い切ったその時

ラストの右手が、光り輝いた

 

『!?──なに!?』

 

ラストはそれを見る

右手の中に納まっている、あの励ましのメモを

光り輝いている、一枚の紙切れを

 

そうして、奇跡は起こった

 

さらに眩しくなった光

眩んで閉じた目を開いたその時

ラストの手には、メモではない何かがあった

 

それは、先ほど踏み砕かれたものと同じ形をした

けれどどこか違う、新しいグリップであった

 

『!?・・・それは、壊したはず』

「──言ったはずだ、終わりになんてできないと」

 

チケットを取りだす

恐れはもう、どこにもありはしなかった

 

BUBBLE MERMAID(バブル・マーメイド)

 

チケットをドライバーに装填し

そして、グリップをドライバーに差し込む

 

Ever Last(エバー・ラスト)!!』

 

「変身!!!」

 

愛を掴み(Get To Love)深海より飛び立った(Rise up From Under The Sea)!!』

BUBBLE MERMAID(バブル・マーメイド)

 

ラストの体が変わっていく

空色のアンダーアーマーに鮮やかな青のアーマーが装着され

両肩に、魚の鱗のような文様が施されたマントが装着される

 

それは、今まで見たこともないような

ラストの姿であった

 

『なによ・・・その姿』

「──。」

 

答えることは無く

ラストはクイーンを見据える

そして

 

クイーンが気づいたときには

一瞬で、ラストが目の前に迫っていた

 

『!?いつの』

「はぁ!」

 

拳が、クイーンの体に叩き込まれる

クイーンが、衝撃に後ずさる

 

『!・・・貴様ぁ!!』

 

傷つけられたことに、怒れるクイーン

その腕から、大量の茨が放たれる

 

何重もの茨の鞭が、ラストに振り下ろされる

 

「無駄だ」

 

ラストが構える

無防備なその姿に茨が降りそそぐ

 

しかし、それ触れた瞬間

ラストの体は、それをすり抜けた

 

『!?・・・なに!?』

 

まるで、姿を変えていないのに

しかし、その攻撃が触れる瞬間

ラストの体は、まるで水のように

その茨を通り抜けさせた

 

ラストが足に込めた力を解き放つ

まるで激流のような勢いで、足元から水が噴き出し

ラストが猛スピードでクイーン目掛け突き進んだ

 

「はぁ!!」

 

そして、クイーンのその横を通り過ぎながら

一撃を食らわす

 

『ぐあっ!?』

 

さらに方向を変え、再度クイーン目掛けて突き進む

さらに通り際に一撃

 

さらに方向を変え

何度もクイーン目掛けて攻撃を放つ

 

そして、トドメにその体を蹴り飛ばした

 

『っああ・・!?』

 

反応もできずに、クイーンが吹き飛び

地面を引きずる

 

『っ・・・愚図がああ!!!』

 

クイーンの体を茨が包み

その体を巨大なドラゴンへと変える

 

『死ねよお!!』

 

そして、巨大なその腕を振りかぶり

ラスト目掛け振り下ろす

 

「その力も・・・・もう負けない」

 

ラストは、ドライバーに収めたグリップを引き抜く

次の瞬間、グリップから魚の尾びれを模した形状の刀身が現れる

 

迫る竜の手に

ラストは、剣を振り抜く

先程までであれば

外側の茨を気づ付ける程度であったあの剣は

 

一息に、振り下ろされたその腕を切り飛ばした

ズンと音を立てて、腕が落ちる

 

『な、なに!?』

 

もはや、その堅牢であった防御は

ラストに対して、意味をなしていない

クイーンの奥の手であった

この形態を、ラストは完全に攻略したのだ

 

『っ・・・・そんな訳が・・・!!

 私が・・・こいつに・・!』

『ある訳がない!!』

 

口に、揺らめく炎を構え

クイーンが叫ぶ

 

ものすごい熱量を持った炎が吐き出されようとしていた

 

「終わりにしよう・・・

 ・・・私と、あなたの因縁を」

 

グリップをドライバーに収める

そして、目の前の今にも吐き出されそうな炎に怯えることなく

ラストは、そのグリップを引き抜いた

 

BEST END(ベストエンド)

 

その刀身に、凄まじい勢いで流れる水流が纏う

そして、ラストは駆けだし

足から水流を放って、飛び立った

 

『消えろ・・・・私の汚点!!』

 

クイーンが炎を吐き出す

緑色の凶暴な火炎がラストを飲み込まんと突き進む

 

しかし、ラストも止まらない

剣を突き出して、炎の先目掛けて突き進む

 

そして、2つが、激突した

 

一瞬の拮抗

しかし、それは

 

「はああああ!!!」

 

火炎を真っ二つに切り裂いたラストの姿で勝敗を決した

 

『そんな・・・!』

「だあああ!!!」

 

火炎を突き抜け

ドラゴンの腹に剣を突き立てる

分厚い茨の壁が、斬撃を阻み押し止めていく

 

「私の・・・・!!」

 

止まりかけた斬撃

しかし、流れ出る水流が、それの後押しをする

そして

 

分厚い茨の壁が

今、切り開かれた

 

「勝ちだ!!クイーン!!!」

 

グリップをドライバーに差し、引き抜く

 

BEST END(ベストエンド)!!』

 

足を突き出す

瞬間、背から凄まじい勢いで水流が放たれ

ラストを一瞬で、加速させる

 

『うあ・・・あああ!!』

「だああああ!!!!」

 

そして、がら空きになった

クイーンの体に目掛けて、放ったそのキックは

 

クイーンの体を容易く、蹴り抜いた

 

地面を滑りながら着地する

その背後には

 

伸びた茨が、静かに

しかし重く音を立てながら崩れ落ちていく

 

そして、最後には

胸にぽっかりと穴の開いた

女王の姿をした怪人が残されていた

 

『・・・ああ、・・・負けちゃった・・・?』

 

女王の姿をした怪人は

緩やかに、しかし確かにそれを感じ取っていた

 

そして、怪人の姿はやがてしぼみ

中から、一人の人間が姿を現す

 

『・・・ああ、負けちゃったわ・・・』

『なんでかしら・・・?女王さま・・・だったのに』

 

「・・・。」

 

全てを無くし、女王は地に落ちた

そして、女が振り向く

 

ラストもまた、変身を解いてそれを見た

 

『・・・あら』

 

もはや、騒ぐ気力すら失った女は

ボロボロとその体を崩れさせていく

 

『あなた・・・』

 

女は最後にラストを見て

一体何を思ったのか

 

『・・・私に似て──』

「っ!?」

 

ラストは反射的に手を伸ばす

しかし、ボロボロと崩れた女にその手は届くことは無い

残ったのは、灰のようなかけらと

砕け散った、一枚のチケットだけであった

 

 

最後に、何を言おうとしたのか

そんなものは分からなかった

 

酷い人間であった

消えてしかるべき人間でもあった

 

けれど、最後のあの顔は

自分を見ていた気がした

どこか・・・親の顔をしていた気がした

 

「さようなら・・・私の母であった人」

 

そう呟いて、ラストはその場所を後にする

どうかこの場所で、消えるしかないこの場所で

自身の母であった者が、安らかであれと思いながら

 

 

続く

 




次回 仮面ライダーアクト 最終回

太陽は燃え尽きた──
女王は堕ちていった──

残ったのは、青い鳥
『どれだけ善意を積もうと、人は必ずそこにたどり着く!!
 ──醜い悪意に!!』

アクトよ、世界よ、どこへ向かう?
「そこで!!立ち止まらなければ!!
 きっとまた、人は変わっていけるんだよ!!」


「いつだって人は!!」


「何にだってなれるんだ!!!」

最終章[誰にでもなれる舞台(せかい)で]


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最終章~誰にでもなれる舞台(せかい)で~

『──。』

 

高い塔の最上

そのさらに上空に浮かぶ黒色を

仰ぎ眺める姿があった

 

このままいけば、世界は滅び去る

全ての人類を消し去ることができると

男は待ち望んでいた

 

 

しかし──

 

それがそう上手くいくことではないことも

男は理解していた

 

『来たか──彩羽雄飛』

 

肩で息をしながら、

この塔の最上まで駆け上がり目の前に立っていた

 

『・・・見事なものだろう?』

『あと少しで、このひずみは現実へと紐づく』

『そうなれば、現実はこの穴を起点に崩壊していくだろう』

 

見上げながら

目の前の男へと言い放つ

 

 

「──なんで」

「なんでそんなことを・・・?」

 

──決まっている

 

『全ての人間を消し去るためだ』

「・・・自分もろともか?

 ・・・自分一人さえ残さずに全部消し去って

 そんなことにどんな意味があるっていうんだよ」

 

そうだ

この状況の果てには、ブルーという存在にも先がない

世界もろとも全て消し去るというのであれば

そこには、彼自身も含まれているはずだ

 

『私は、私自身がどうこうなるつもりは毛頭ない』

「!?」

 

『私の望みは・・・人が残らず消え去ること

 ・・・その先など、考慮する必要はない』

「・・・ふざけんな!!」

 

「あんたの自分勝手な考えに

 世界なんざ巻き込むな!!」

 

雄飛は怒る

その考えの根底が、復讐なのか絶望なのかな関係ない

ただ、そんな自分勝手な考えだけは許すわけはいかなかった

 

しかし、その言葉にもブルーはどこ吹く風と言わんばかりに

上を見上げ、そしてまた雄飛に向き直る

 

そして、2枚のチケットを取りだした

 

『決着をつけよう、彩羽雄飛

 ・・・君を乗り越えて、私はこの全てを終わりにする』

 

『デウス・エクス・マキナ』『青い鳥』

 

ブルーの体が、変わっていく

最早、整合性などどこにもなくなった

不揃いの歯車と青い羽が彼を包みこんでいく

 

『ブルーデウス』

 

「・・・させない

 あなたを止めて、全部守らせてもらう」

 

『仮面ライダー ACT(アクト)

 

「そのための、俺だ」

 

『A new legend , A new Begging』

『Come on stage』『You Are the』

『仮面ライダー !!!』『ACT(アクト)!!!』

 

怪人と仮面ライダーが対峙する

互いに拳を握り

構える

 

そして、同時に駆けだした

塔の最上、その中心で

2つの拳がぶつかり合い

──最後の戦いが、幕を開けた

 

 

 

「うわぁ!?」

「痛ぇ!?」

 

「怪我したやつは下がれ──!!」

 

塔の下、

兵隊たちによる侵攻も佳境に入っていた

 

たくさんの人々が、抗い続けた

しかし、それも限界は迎えてきていた目の前に見えていた

 

「いかん、このままでは押しつぶされる」

 

無限のように増えていく兵隊たち

対して、こちらは力を持たぬ人間たち

どれだけ束になっても、限界がそこにあった

 

このままでは、犠牲を増やすのも時間の問題であった

 

「これは、流石に毛無理じゃないか・・!?」

「おじさん!!何か手は!?」

 

「・・・そうだ、これなら・・!」

 

そう言って、浩司が何かを取りだす

四角い、長方形のような機械を

見慣れたような、しかしどこか違う形をしたそれを

杏奈もよく知っていた

 

「それって・・・ドライバー!?」

「なんで!?」

 

まぎれもない、雄飛達と同じようなドライバーであった

 

「プロトアクトのデータと残骸から作った

 アクトドライバーのスペアだ」

「壊れた時用の急造品だが・・・」

 

確かに、これさえあれば──

 

「誰が変身するんだい!?」

 

大木の一言で、誰もが沈んだ顔をした

そうである、()()()()()()()()なのである

 

「・・・駄目か。」

 

変身できるものが・・・いなかった

そうこう言っている間に、状況は悪化していく

 

木材の砕ける音が響く

 

「いかん!!引け!!」

 

バリケードが破かれて

兵隊たちがなだれ込んでくる

 

もはや人間が何人いても意味などない

これでは──

 

その時、浩司の手からドライバーが抜き取られる

そして、ある男が皆の前に立った

 

「・・・チケットは・・・これか!!」

「大吾!!?」「お父さん!?」

 

それは、これまでの話を黙って聞いていた大吾であった

彼は、まるで思いだすようなぎこちない手つきでドライバーを巻き

そして、備えられていたチケットを起動する

 

「・・・無理だ!大吾!!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

そう、危険すぎる意識の上書きは

そのドライバーには備え付けられていない

それなしで、大吾は──

 

「問題ない」

 

しかし、大吾は臆することなくチケットをドライバーに差し入れる

そう、()()()()()

 

()が、一体どれだけの間・・・仮面ライダーだったと思っている?」

 

兵隊たちが、最前線に立つ大吾に対し

一斉に飛び掛かる

 

『MASKED RIDER Reboot』

 

瞬間、風が吹き荒れた

飛び込んだ兵隊たちが、風に吹き飛んで爆散する

 

その爆炎の向こうに

 

『さぁこい!!怪人ども!!』

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!』

 

仮面ライダーが、立っていた

 

「嘘・・・」

「大吾・・・お前・・!」

 

その光景に、浩司たちは目を丸くするしかなかった

 

「・・・仮面ライダー?」

「か、仮面ライダーだ!!」

「やっぱり来てくれたんだ!!」

「勝てる!!勝てるぞお!!」

 

我に返ったのは、

周りからそんな声が聞こえてきたからだ

 

「負けるな皆ぁ!!仮面ライダーが付いてるぞ!!」

「「「うおおおおお!!!!!!」」」

 

その姿に奮い立った周りの人々が

活気立って、武器を取る

 

「・・!これなら・・・!」

「ああ、守り切れる・・!」

 

『いくぞぉ!!』

 

仮面ライダーが、駆け出し

兵隊の中に、突っ込んでいく

 

これならば、勝てる

残った人々を、守り切れる

 

杏奈は、塔を見やる

3人が乗り込んでいった、あの塔を

 

「こっちは絶対に、守り通す」

 

──だから、勝ちなさい

 

 

ぶつかり合った拳が、両者の拮抗を示す

 

弾きあった拳を互いに振り上げ

攻めかかっていく

 

アクトの拳をブルーが防ぎ、カウンターを放つ

それを避ける

しかし、続けさまに蹴りがアクトの眼前に迫っていた

 

腕を前に回しガード

 

「っ・・!」

『うおおお!!』

 

ガードをも押し込み、怯んだアクトに

ブルーの拳が、叩き込まれた

 

強い衝撃に数歩のけ反る

・・・だが、倒れない

足を前に出す

 

アクトの拳が、勢いよく叩き出される

 

ブルーのか体へと突き刺さる

 

こちらも衝撃に数歩のけ反った

 

「はぁ!」

 

そこへ追い打ちが如く、アクトが駆けこむ

 

『っ!』

 

しかし、ブルーも怯んではいない

こちらも拳を握り込み、応戦に向かう

 

再度、2者が激突し

その拳は、互いの体に突き刺さった

 

「『っぐあ!!』」

 

互いに弾かれるように吹き飛ぶ

 

転がっていく中で

互いに手を開く

 

次の瞬間には、互いの手には剣が握り込まれる

倒れている暇などない

互いにほぼ同時に駆けだしていた

 

ぶつかり合う金属音

ブレイガンと羽状の剣が火花を散らす

 

つばぜり合いの中、アクトが口を開いた

 

「・・・なんで、こんなことをするんだよ!

 自分も世界も何もかも、消し去ろうなんて馬鹿げてる!!」

『──本当に、そう思うか?』

「っ・・・何だと」

 

ブルーが、アクトの一撃を

切り飛ばし、弾く

 

距離を離し、構えながらも口を開く

 

『人間全てに、助ける必要があると

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ブルーが天に手をかざす

その瞬間、上空にいくつもの光が現れる

 

それは、まるで流星のようになって

そのままこちらへと向かいだす

 

『おおお!!』

 

流星が次々へ降り注いだ

 

「っ!」

OVER RIDE(オーバー・ライド)!!!』

┌────────────────────────

│■専用武器:アクトブレイガン,CGスタッフ

└────────────────────────

 

両手に剣と杖を握り

迫りくる小さな星々を砕いていく

 

十数のそれを砕ききり

息を切らせながらも、アクトは両手の武器を連結させた

 

『CGブレイカー!!』

 

大剣を構え、足に力を込める

飛び出し、ブルーの目の前へと迫る

 

「はぁ!!」

『ぬぅ!!』

 

大剣と羽型の剣がぶつかる

アクトが振るう連撃を、ブルーが弾いていく

 

「・・・どういう・・・意味だ・・!!」

『そのままの意味だ・・・!』

 

ブルーが、強引に切り返す

弾かれた大剣を縫うように羽型の剣が迫る

 

そして、アクトの体を突き飛ばした

 

「がっ・・・!」

『・・・全員が、助けるに値すべき人間であるのか?

 ・・・悪人は?嫌悪する人間はいないのか?

 違うはずだ!!』

 

転がるアクトに

ブルーは声を荒げながらいい放つ

 

そして、剣を振り上げる

青黒いエネルギーが、羽型の剣へと集っていく

 

そして、青黒い巨大な斬撃が

アクトへ向けて放たれた

 

斬撃が迫る

 

『アクト!!』

『DRAMATIC CUT!!』

 

立ち上がりながら

大剣へチケットを放り込む

そして、迫る斬撃に

ぶつけるように、剣を振るう

 

青黒い斬撃をと大剣がぶつかり合い

そして、弾き飛ばした

 

「・・・悪人はいるさ

 ・・・でも、だからって見捨てていいわけじゃないだろ!!」

 

アクトが走る

そして、大剣を振り降ろす

再び2つの剣が火花を散らし、拮抗する

 

「良い人だっている!悪人と同じくらいずっと!!

 それも丸ごと消し去ろうっていうのか!!」

『──それが間違いなんだ!!!』

 

ブルーも声を荒げながら

その剣を振るう、武器の重量差など感じさせないように

アクトの攻撃を弾き、そしてその体に斬撃を叩き込む

そして再び切り飛ばした

 

『ふぅー・・・ふっー・・・うおおおおお!!!』

 

猛るようにブルーが雄たけびを上げる

その体が、呼応するように青黒いオーラを吹きだす

その時、突如アクトを地響きが襲った

 

「!?」

 

 

 

「よっと」

 

気絶した日暮れを担ぎ上げ

サウンドは上階を見上げる

 

──こちらの決着は着いた

すぐさま増援に・・・

 

「ショウ!」

「!?・・・ラスト!

 無事だったか!!」

 

その時だ、床に空いた大穴から

ラストが飛び出してくる

 

どうやら、そちらも無事に終わったようだ

 

「そいつは・・・」

「あぁ・・・、悪いこいつを」

 

頼めるか

そう言いかけたその時

2人を突然の地響きを襲った

 

「「!?」」

 

ゴゴゴと不吉な異音が

辺りに走り出す

 

そして、異変は訪れた

2人の周り、塔の内部のような景色が

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ!?」

「これは・・!?」

 

2人の周りの世界が突如として元に戻っていく

 

「・・・雄飛が勝ったのか・・?」

「いや・・・違う!!」

 

雄飛が勝って世界が元通り

そんなサウンドの予想は

ラストの驚愕交じりの声にかき消される

 

ラストが指を差た先

はるか上空に向かって伸びた塔

 

それがどんどんと消えていくと同時に

 

その最上へあったひずみを中心に

暗い巨大な球体の何かが出来上がりつつあった

 

「あれは・・・!」

「集まっていっている・・・?」

 

現実を変える物語の世界が

それを一点に集まっていっていた

 

 

 

「・・!なんだ!?」

 

突如の地響きに驚愕するアクト

しかし、さらなる驚愕は、可視化されて目の前に飛び込んだ

 

周囲の風景がどんどん変わっていった

平和そうな空模様が

どんどん暗く濁ったように歪んでいく

まるでよくある異空間の様に

ねじ曲がった風景が辺りを満たしていく

 

『これが、物語の世界の崩壊だ』

「!?」

 

『このひずみによって穴の開いた世界は

 今まさに崩れ去ろうとしている』

『そして、この世界を現実へと紐づけることで

 ・・・崩壊は、現実へと伝播する!』

 

──これで、世界の崩壊は完遂する

 

ブルーが消え去る

いや、一瞬んでアクトの目の前に現れる

 

「!?」

 

迫る斬撃を

大剣を持ち上げて受け止めた

 

『善人がいたところで・・・

 それが善人であり続けられはしない!!』

 

受け止めたアクトの顔面に衝撃が走る

ブルーの蹴りが、その顔を蹴り飛ばしていた

 

転がるアクトに

さらに追い打ちをかけるように剣が振り下ろされる

転がるようにそれを避け

何とか立ち上がる

 

しかし、その隙にさらに斬撃がアクトへと迫っていた

剣を構え、受け止める

 

猛攻が迫り続けるのを防御していく

 

『誰もが、皆、悪へと落ちる可能性を持っている!!』

 

「っそれは・・・!」

『善き行いをしようと志そうと

 ・・・怒りが!失意が!!絶望がそこに追いやる!!』

 

大剣がアクトの手から弾き飛ばされる

 

()()()()()!!!』

「!?」

 

連続の斬撃が

アクトの体に叩き込まれ、アーマーが火花を散らす

全身の痛みが、ブルーの言葉をより鮮明にしていく

 

"こんな仕打ちを平気で起こせるなんて"

"許しておけない"

 

『怒りのままに進み続け!!

 そして・・・()()()()()()()()()()()()()()()()

 

強く切り飛ばされる

吹き飛ばされて倒れ込むアクトに

ブルーは嘆くように、怒れるように独白を続ける

 

『そうしてまた一人、悪人が生まれ出た』

『・・・どれだけ善意を積もうと、人は必ずそこにたどり着く!!』

 

ブルーがその剣に力を込める

アクトが立ち上がろうとするが

痛みにそれが遅れてしまう

 

『──醜い悪意に!!』

 

そうして放たれた斬撃は

アクトを吹き飛ばし

そして、宙に浮かびながらも形を保っていた

塔の最上、その半分を瓦礫のへと変えていった

 

瓦礫と共にアクトが

いや、雄飛が落ちていく

 

ブルーは、勝ち誇るように

それを見送るのであった

 

 

 

『ハァ・・・ハァ・・』

 

大吾が肩で息をする

眼前には、まだまだ数をなす兵隊たち

 

「大吾・・・大丈夫か!」

 

『・・・っまだまだ・・!』

 

仮面ライダーが構えを取り迫る兵隊たちをなぎ倒していく

しかし──

 

「不味い・・・このままじゃ大吾の体力がもたない」

「病み上がりのくせして無茶しおって・・!」

 

がむしゃらに戦っている仮面ライダーを見ながら

博士二人がそう言う

確かに、辛そうだ

 

このままでは──

 

その時

遥か前方で、兵隊たちが吹き飛んだ

 

「「「!?」」」

 

それと同時に、何かが飛び上がり

こちらに突っ込んでくる

これは──

 

「皆無事か!?」

「間に合ったか・・!」

 

「翔!ラスト!!」

 

2人の仮面ライダーが、この戦場へと飛び込んだことを意味していた

良かった、これなら──

 

いや待て

前方の風景

暗い球体が遠く上空にいまだに浮かんでいた

事態が、解決していないはずだ

どうして、こちらに?

 

さらに──

 

「なんでここに・・・雄飛は!?」

「まだあの中だ!!」

「我々だけ弾き出されてしまった」

 

「えぇ!?」

 

上空を見上げる

暗い球体、今にも消えてしまいそうな不安に駆られるそれの中に

まだいるというのか

 

「雄飛・・・」

 

「信じるしかねぇ・・・あいつだけが頼りだ」

「・・・その代わりに」

 

2人のライダーが前に歩き出す

その先には溢れかえるような兵隊たち

 

そして、膝をつく一人の仮面ライダー

 

「いけるか・・?」

『!・・・ああ、問題ない』

 

立ち上がった仮面ライダーを加え

3人の仮面ライダー達が

その軍勢の前に立ちはだかった

 

「もう一仕事、いくか・・!」

「ああ」

 

未だ戦う仲間を信じ

3人のライダー達は、戦うために駆けだした

 

 

 

 

 

 

砕けた床

瓦礫となって浮かぶ岩々

それと違い支える物を失い、重力に従って落ちる体

 

「っぐ・・」

 

衝撃に変身も解けた

飛び上がることは不可能

 

──それでも、ここで落ちるわけにはいかない

まだ、終わるわけにはいかない

 

しかし、痛みに体は動かない

手を伸ばすんだ

何かを掴むのだ

しかし、体が言うことを聞かない

 

「(諦めて・・・たまるか・・!)」

 

ここで負けるわけにはいかない

体が駄目でも、心だけは折れていない

だが、体が──

 

 

 

──?

その時、浮遊感が消えた

 

 

「あっ・・・」

 

一体何かと思い、体を見渡す

その理由は、すぐに分かった

 

手が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

自分の意志ではない

しかし、雄飛の体が勝手に動いて

そこに、しがみ付いていた

 

伸ばした手を見る

変化は、すぐに現れた

ドライバーが駆動する

 

瞬間、その腕が黒く鋭い爪を備えた姿へと変わっていく

 

「・・・うん、そうだな」

 

全身が、黒いアーマーを纏っていく

 

『Night Of Beast』

 

体に力がこもる

しがみ付いた腕を引き、瓦礫の上に上り立つ

 

「まだ・・・終わってない」

 

足に力を込めて

そして、飛び立つ

 

浮かんだ瓦礫から瓦礫へ飛び移って

どんどん上っていく

 

そして、再び

欠けた塔の最上へと駆け上った

 

『・・・何?』

 

降り立つと同時にその変身が解ける

傷だらけになった雄飛は

それでも、ブルーと再び対峙していた

 

『まだ・・・戦うか?』

「ああ・・・戦う」

 

ドライバーを巻きなおす

再び、チケットを取りだす

 

『──私の考えは変わらない

 ・・・全ての人間は、必ず悪意に落ちていく

 ・・・だからこそ、その全てを消し去る

 もう、誰にも悲劇を起こさせない』

 

「俺は・・・それを認めない」

 

さっきは、そこへの答えを見いだせなかった

けど・・・答えは直ぐに見つかった

 

だから・・・消させない

 

「──変身」

『仮面ライダー !!!』『ACT(アクト)!!!』

 

足へと力を込める

 

解き放った跳躍が

一気にその体をブルーの目の前へと押し込む

 

飛びながら、拳を引き絞り

そして、殴り掛かる

 

放った拳が、ブルーの腕に防がれる

それでもかまわない

続けるように、拳を放つ

蹴りを放つ

 

向こうからの反撃を間一髪

避けながら、攻撃を放っていく

 

「良い人も悪い人もいる

 ・・・良い人が、悪い人になることもある」

 

「・・・当たり前だ、人間はそんなに単純じゃない」

「誰だって、最初っから良い心も悪い心もあるんだ」

「ただ・・・どっちを選ぶかだけだ!」

 

そうしながら、言葉を放っていく

奴のその考えを否定するために

人が、生きていく理由を示すために

 

『そうだ・・・そして人間は

 必ず悪い方へと向かい行く』

 

必ず悪い方に向かう?

──そうかもしれない

良い方だけを選べる人間なんていないのかもしれない

でも──

 

放たれたブルーの拳を

がっしりと掴みとる

 

「・・・()()()()()()()()()()()

『・・・何だと』

 

そう、先だ

どうしてそこで止まってしまうと決めつける

 

「そこで、立ち止まらなければ

 きっとまた、人は変わっていけるんだよ!!」

 

拳を放つ

一直線に突き進んだそれは

ブルーの体に突き刺さり、突き飛ばす

 

『ぐっ・・・』

 

「悪い心を選んでしまっても

 ・・・どこかでまた、良い心を選べるかもしれない」

「先に進めるんだよ!!」

 

『黙れ!!』

『そのために・・・!』

『進む間に・・・犠牲になる物がいる!

 それを無視して、進ませてたまるか!』

 

ブルーの手にエネルギーが集う

そしてこちらに振るった瞬間

 

凄まじい衝撃が、アクト目掛けて放たれた

 

「そのために・・・!!」

 

迫るそれを腕で弾き飛ばす

拳が傷つき、痛むのを無視して吹き飛ばす

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

『!?』

 

「・・・間違えた人に

 "それは間違っている"って言い続けなきゃいけないんじゃないか!!」

「それで変わってくれると信じ続けなきゃいけないんじゃないか!!」

 

「信じきれなくて、全部消しておしまいなんて」

「それじゃあ、諦めてるのと一緒だ」

 

「俺は、良い人を信じたい!」

「悪い人だって信じたい!!」

 

「許すわけじゃない

 ちゃんと償って・・・また進めると信じたい!!」

 

「人が変われるって信じてる!!」

 

「いつだって人は!!」

「何にだってなれるんだ!!!」

 

『──っそんな希望論で!!!』

 

ブルーが、怒りのままに力を解き放つ

青い羽状の弾丸が、その周りにいくつも現れては放たれる

 

迫りくる弾幕の中

アクトは駆けだした

 

「あなただって・・・そうだったはずだ・・・!」

 

弾幕を掻い潜って先に進む

一直線に、目の前に

ブルー目掛け駆けていく

 

「人は変われるって・・・」

『おおおおお!!!』

 

一層激しくなった弾幕に

身を削りながら、それでも足を止めずに

 

「優しさを取り戻すために!!戦ってきたはずだろう!!」

『っあああああ!!!』

 

足に力を込め、飛び立つ

羽の弾幕を飛び越えて

はるか上空へ

 

『アクト!!』

『DRAMATIC ACTION!!』

 

「だああああ!!!!」

『消えろおお!!!!』

 

アクトの足に力が集う

ブルーの腕に力が集う

 

真っ白に輝く力と

青黒く込められた力がぶつかり合う

 

一瞬の拮抗

しかしそれは弾けるような衝突で掻き消えた

 

衝撃に、ブルーの腕が弾かれる

その体にキックは届いていない

 

しかし、ブルーの目にはそれが写っていた

 

 

弾かれるように上空へと飛び上がり

翻っている、真っ白なヒーローの姿が

 

『アクト!!』

『DRAMATIC ACTION!!』

 

┌────────────────────────

│■必殺技:ライダーキック

└────────────────────────

 

「ブルー!!!」

「あんたは・・・!!間違っている!!」

 

アクトが再びキックの体制を取る

何かに押されるかのように、その勢いが一気に上がり

凄まじいスピードで落ちていく

 

『ああ・・・』

「ライダァアアアアア・・!!キィイイイイイック!!!」

 

残された塔の床が砕け跳ぶ

 

そして、その一撃は

悲しみに暮れた、怪人の

その胸を、確かに打ち抜いた

 

 

 

 

 

「・・!?兵隊が・・!」

 

戦っていた3人の仮面ライダー達の目の前で

異変が起こる

 

先程まで襲い掛かってきた兵隊たちの動きが

一斉に停止していく

 

そして・・・音を立てて砕け落ちた

全ての兵隊が崩れていく

 

そして・・・残ったのは

人と、仮面ライダー達だけだった

 

 

「・・・これって」

「ああ・・・雄飛が勝ったんだ・・!」

 

 

瞬間、残された仲間たちは理解したと同時に

歓喜の声を上げるのであった

 

 

 

 

『・・・うっ』

 

ブルーは、痛みの中で目を覚ます

掠れた目に映るのは・・・

これは・・・人の背?

 

「目が、覚めたか」

『き・・・さまは・・・』

 

最早聞きなれた声

先程まで戦っていた男の声

 

人の姿になったブルーは

屈辱にも、敵である雄飛に背負われていた

 

『なぜ・・?』

「いや、見捨てられないでしょ」

 

さも当然というように、雄飛はそう言い放った

 

「あんたには、ちゃんと生きて償ってもらうからな」

『・・・。』

 

唖然とした顔で

ブルーはその姿を見ることしかできなかった

 

「・・・しかし、もうどっちが上か下かもわからんな」

 

目の前には歪んだ模様のような空間が続くだけ

それがどれだけの距離なのかもわからない

 

立っている場所も不安定で

重力さえ、最早信用できない

 

崩壊しかけた物語の世界の中で

雄飛は迷子になっていた

 

 

「・・・一発賭けて、真下に落ちてみるか?」

 

上手くいけば、そのまま突き抜けて現実の世界に・・・

 

そんなことを考えていたその時

 

──ひ

 

何かが、聞こえた

 

耳を澄ます

 

 

”雄飛ーー!!”

 

そんな自分を呼ぶ声が、確かに聞こえた

──みんなの声が

 

「!こっちか・・!」

 

声の方角を探る

耳を澄ませる

 

”雄飛ーー!!雄飛くーん!!”

 

──間違いない、こっちだ

こっちへ進めばいい!

 

「助かった・・!」

 

そうして、進もうとした時

()()()()()()()()()()

 

 

・・・一体何が

 

「!?」

 

そして、見上げた先には

それがあった

 

歪んた空間の中で、くっきりと視認できる

暗い球体のような、そのひずみが

 

「っなんで・・!」

『無駄だ・・・』

「!?」

 

背中から、声がする

 

『あれはもう、私の手を離れている』

「な・・・!!」

 

ひずみを見る

鳴動するように揺れるそれは

見るからに危険を滲ませていた

 

『もはや、現実世界と紐づいて

 砕け散るだけだ・・・!』

 

ブルーは、勝ち誇るというよりは

最早諦めるようにそう言った

 

──どうする

止めなければ、あれが現実と繋がる前に・・・

 

──砕け散るだけ?

 

「・・・。」

 

一つだけ、方法が見つかった

・・・自分なら、いける

 

そう思った雄飛は、ゆっくりと

背から、ブルーを降ろした

 

「・・・歩けるよな」

『?なにを・・・』

 

「自分一人であの声の方へ向かってくれ

 ・・・やることがあるんだ」

 

『・・・何を、する気だ』

 

──決まっている

 

「あれが()()()()()()()()()()()()

『!?』

 

要は、現実にあれが到達するのがまずいのだ

なら・・・その前に破壊する

 

『・・・止めておけ』

『それがどういう意味か、分かっていないだろう』

「ん?」

 

『あれを破壊することは、確かに可能だ』

『だが、壊した後はどうする・・?』

 

──壊した、あと?

 

『破壊した瞬間、この物語の世界は

 完全に崩壊する

 ・・・中の物も全て纏めてな』

「──。」

 

それはつまり・・・

 

『壊した瞬間、お前もろとも消滅するぞ』

 

──。

そうか・・・そうなっちゃうのか

 

──うん

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そう言うと、雄飛はアクトへと変わる

そして、跳躍するために足に力を込めた

 

『!?・・・待て、正気か!?』

『消滅するんだぞ・・!』

 

「何もしなくても、消滅だろ?」

 

『バカを言うな・・・何故貴様はそこまで・・・!』

『どうしてそこまで・・・やるんだ・・?』

 

自分を犠牲にしてでも、世界を救おうとする

ブルーには、理解できなかった

避けられない消滅の前に

進んでいこうとするその青年が

 

「・・・理由はないよ」

「言ったろ?助けたいからやるんだ」

「なら・・・途中で放り出せない」

 

『助けたい・・・から・・・』

 

そう言うと、アクトはしっかりと跳躍する

上っていくアクトを

ブルーは見ることしかできなかった

 

 

アクトは着地する

目の前には、真っ黒は何か

 

まるで洞穴のようにも見えるけれど

穴などどこにもなくて

 

そんな不気味な何かの目の前にいた

 

「・・・アクトなら、やれる」

 

そう、世界を破壊することだってできる

そう思ってやればいい

 

──それだけでいい

 

「・・・いくぞ」

 

拳を握る

力を込めて、その一撃を放とうとする

 

──皆には、悪いことをしてしまったと

そんなことを考えながら()()()()()()

 

しかし──

それは、放てなかった

 

『おおおお!!!』

 

自らの背後にこちらを狙って腕を引き絞る

羽と歯車の怪人の姿を感じ取ったからだ

 

「!?」

 

咄嗟に身を翻す

ブルーの放った攻撃は、アクトのいた場所を通過する

そして──

 

そのまま真っすぐ

()()()()()()()()()()

 

「!?なにを・・!」

 

『ぐ・・・おおおおあああ!!!』

 

ひずみから激しいスパークが巻き起こる

そして、ブルーの腕から、激しい焼ける音が響く

 

「ブルー!!」

 

アクトが・・それを止めようと腕を伸ばす

だが・・・

 

「えっ・・・!」

 

伸ばした手は、届かなかった

アクトの体が、ゆっくりと後ろへ引っ張られたのだ

 

“そうして、風は彼の者を運んでいきます。

 待つ者の下へ、仲間の下へと運びました。”

 

まるで、穏やかな風が

ゆっくりとアクトを引いていく

聞こえた声の方へ、仲間たちの方へ

 

「あんた・・・何を!!」

 

アクトが驚いたようにブルーに叫ぶ

なぜこんなことを──

 

『私に向かう場所はない』

『だが、お前にはあるはずだ』

 

『──なら、これが正しいのさ』

 

「っブルー・・!」

 

手を伸ばす、最早届くはずもない遠くに見える

一人の男に

 

けれど、ブルーはどこか穏やかな顔をして

響く、雄飛への呼び声を聞きながら口を開く

 

「・・・()()()()()()()だ、

 呼ばれているものは、そこに向かいなさい」

 

瞬間、引っ張られる速度が上がる

段々と遠くなる姿

 

「・・・青山!!!」

 

 

 

 

『・・・いったか』

 

見えなくなった雄飛から

目の前のひずみへと視線を移す

 

最早、爆発寸前のそれは

いくつもひび割れを作って崩れ去ろうとしていた

 

そして、そのヒビは自分にも伝わってきている

 

『・・・優しさを取り戻す・・・か』

 

──そういえば、そんな男がいたなぁ

 

 

"お父さんは、何をしているの?"

"そうだな・・・お父さんは、ヒーローをしているんだ"

"嘘だぁ、学者さんでしょ?"

"嘘じゃないさ、学者でもヒーローになれるんだよ"

"お父さんは、悪人を倒すヒーローじゃないんだ"

"悪人を・・・また、良い人に戻すヒーローになろうとしているんだ"

"えー!そんなの無理だよ"

"無理じゃないさ、悪人だってきっといい人に戻れるんだよ"

"悪人がいなくなるんだから、ヒーローだろ?"

"うーん・・・じゃあ、ヒーローになってるとこ、今度ちゃんと見せてね!"

 

"ああ、約束する。お父さんは、誰も傷つけないヒーローだ"

 

 

『──ああ、これで良かったのか』

 

ようやく腑に落ちた

最初の自分は、何も間違っていなかったようだ

 

『随分・・・遠回りをしたなぁ』

 

──けれど

ああ、ああそうだ

 

『──間に合ってよかった。』

 

 

 

そうして、一つの物語が

終わりを迎えた

 

 

歪んた風景が

一瞬で、別の風景へと切り替わった

 

「っ抜けた!?」

 

そこは、青い空に白い雲

見慣れに見慣れた、自分が住む町

 

そんな場所にアクトは戻っていた

 

そして──

 

目の前の暗い球体が瞬間

破裂するように、大爆発を起こした

 

「うわっ!」

 

爆風をもろに食らう

自分を運ぶ風ごとふきとばされる

 

衝撃で、変身が解ける

さらに、自分を運んでいた風の感触が消え失せた

 

雄飛は重力に沿って落下していく

しかし、それどころではない

 

爆発跡を見る

そこには──なんの人影も残っていなかった

 

「・・・っ」

 

やるせない気持ち

彼には、生きて償って

そして、また生きる道もあったのに

 

青山という男は

最後の最後に、優しさを取り戻した

それが、自己犠牲という望まれぬ形であっても

 

どこか悲しい気持ちで落下していく雄飛

しかし──

 

"雄飛ーー!!"

 

──落下の中で、声が聞こえた

 

下を見る

 

そこには──

 

 

嬉しそうにする仲間の姿が

そこにはあった

 

「・・・。」

 

ああ、そうだ

後悔も、やるせなさもある

けれどここは彼に感謝を

 

この素晴らしき仲間たちと

再び合わせてくれた彼に、感謝を

 

そうして、

彩羽雄飛という男は

仲間の下へと帰っていった

 

 

 

3か月後──

 

平和になった町の一角

道端に人だかりができていた

 

その中には・・・

 

ギターをかき鳴らし

とてもいい音色を流す、一人の青年の姿があった

 

聞いていく人の耳を魅了する音色が

通行人の足を止め、大きな人だかりを作る

 

そんな中で、青年は気持ちよさそうにギターを弾く

 

だが、そんな中

彼の目の前に、2人の男の姿があったことで

彼は、一度その路上ライブをお開きにすることを決めた

 

 

「いやー久しぶりだな!太田さん、博士!!」

 

水を飲みながら、楽しそうに話す翔に

太田は、一通の封筒を渡す

 

「裁判結果が出たよ」

「無事、日暮は終身刑だ」

「そっか・・・太田さんも頑張ったもんな」

 

あの戦いの後、捕まった

サン・・・日暮は取り調べの後

しっかりと法の下、裁判にかけられた

 

太田さんの尽力により、過去の放火事件とも無事紐づけられ

結果は有罪、実刑判決を勝ち取った

 

「しかし──見なくて良かったのか?」

 

親友たちの敵の裁判である

彼もその目で見る権利もあったはずだ

 

「良いんです、結果は分かってたし」

 

しかし、翔はそれを辞退した

彼にとって、あの時の敵討ちはしっかりと自分の手で掴み取っていた

 

「それに、そんな暇があったら

 もっとギターの腕磨けって・・・あいつらも起こりますよ」

「そうか・・・これからはどうするんだ?」

 

「勿論!!世界一のシンガーソングライター!!ってね」

 

「・・・ああ・・そうか」

 

ギタリストにしないか

そう、太田と音石にはいうことができなかった

 

 

「はい、大木です」

 

「えっ!?例の脚本・・・?

 ええーまぁー順調ですよーはい。」

「はい、はい・・・えっ3日後にすり合わせ?

 ・・・ああはい、オッケーです。」

「それじゃ」

 

受話器を置いた大木は

のんびりと、窓の外の景色を眺めた

 

「・・・オオキ、書いてないのか?」

 

しかし、話の流れから

そして、目の前にいる男の様子から

それを理解したラストは

それに気づいていた

 

──これは、現実逃避である

 

「うん、忘れてた」

 

涙を流しながら、窓の外を眺める大木

そんな、男にため息を吐きながら

ラストは原稿用紙に何かを書き連ねていく

 

「こうしちゃいられない

 いまから外に飛び出してネタの発掘だ!!」

「ラスト!!ついてきたまえ!!

 ()()としての大仕事だぞう!!」

 

張り切りながら、外に飛び出した大木に

弟子兼助手であるラストは

呆れたように、けれどどこか楽しそうに

 

出かけていくのであった

 

 

喫茶テアトロ──

 

「いやー、この店も寂しくなったねぇ」

 

浩司が間延びした声でそう呟く

3か月前までは席が足らない程の人がいたのも

今ではたったの4人である

 

「まぁ、みんな元気にやってるようだし

 また、いつでも集まれるだろうさ」

 

フロアの掃除をしながら

大吾がそう返す

 

「そういえば、雄飛君は?

 今日非番だっけ?」

 

「ああ、彼なら

 これに──」

 

そう言いながら、浩司が広げたのは

 

"舞台戦隊 アクトファイブ オーディション開催"

 

と書かれた

一枚のプリント

 

「オーディションか・・・これで決まっちゃうと

 また寂しくなるね」

「確かに・・・」

 

ハッハッハ・・・と2人そろって笑い合う

 

その頭に

 

「何言ってんの」

 

バシンと、お盆が突き刺さった

 

「痛い!」「あ、杏奈・・・!」

 

「叔父さんもお父さんも無駄口叩いてないで

 早く開店準備!!」

 

「いやーしかし、雄飛君が抜けることも考えるのは

 必要だと思うけど・・・?」

 

そう言う浩司の言葉に杏奈は

 

「何言ってんの

 ──どうせ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

呆れかえったように

けれど楽しそうにそう言うのであった

 

 

 

 

"うぇぇぇぇん!!"

 

道端で、一つの泣き声が響いていた

放っていたのは小さな子供

迷子だろうか、怪我したのだろうか

 

どちらにしても、その子は

心細いように泣いていた

 

「大丈夫?」

 

そんな子供に、一人駆け寄る影があった

穏やかに、優しく男は語り掛ける

 

どうやら迷子の様だ

 

「そっかそっか」

 

男は、その手を取って

明るく、そして何も心配はいらないと言わんばかりに

胸を張ってこう言った

 

「でも大丈夫

 お兄さんにまっかせなさい!!」

 

心細い、少年にとって

その姿はまるで

 

輝けるような、ヒーローの様だった

 

 

おしまい

 




ご愛読、ありがとうございました。


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