モンスターハンター~剛腕巨躯の狩人令嬢~ (ゲオザーグ)
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()雪原の怪飛竜討伐

ま~た新作です
これで何作目だよ……とか、他の作品どうしたとか、スルーしていただくと幸いです(そっちも徐々に進めてはいますんで)
しばらくは「特別編 追憶の百竜夜行」シリーズにおける装備の素材集めなど、同作の前日談になりそうです


 頂上付近が雪に覆われ、銀景色の広がるフラヒヤ山脈。その内部に広がる洞窟を、頂上に向けて歩みを進める人影があった。汚れたような青紫の皮と、金属でできた『ゲリョスシリーズ』と呼ばれる防具に身を包み、背中にはその長身に迫る大剣――刃のない先端は悪魔の頭骨を思わせる装飾に覆われ、一見すると紅い刀身と相まって芸工品のようだが、その両側面に並ぶ刃が、実用に値すると主張する『バルバロイブレイド』。

 やがて出口を前にして1度足を止めると、腰のポーチから赤い液体で満たされた瓶を取り出し、その中身を一口飲んでしまう。寒冷地において体温低下を和らげる『ホットドリンク』のおかげで、幾分寒さが和らいだのを確認したその人物は、改めて銀世界へと歩みを進め、周囲を見渡す。

 

「洞窟内にはいなかった。だとすればこの山頂付近にいるはず……」

 

 身の丈に反し、発された声はまだ年若い女性のもの。しかし豪雪の中で明らかに目立つ自身の色合いを理解し、すぐに余計な相手に見つからない様進むその動きは、周囲の環境や、そこに住む生物――とりわけ『モンスター』と呼ばれるような一際危険な存在から身を守る術を熟知したような、どこかアンバランスなものだった。

 そうして今出た洞窟の右隣にある段差を、装備の重さなど感じさせない軽い動作で登った直後、重い羽搏き音を耳にし、空を見上げる。徐々に大きくなる音と共に現れ、降り立ったのは、雪原を思わせる白い体表の生物。しかし鱗や体毛のない(シワ)だらけの体皮は、美しさや神秘性とは程遠く、爪のない吸盤状の指先、横一文字に大きく避けた口だけの眼がない顔と、むしろ不気味さしか感じられない容姿。

 「フゴフゴ」と鼻を鳴らしながら歩くその怪物(モンスター)――『フルフル』の姿を目にした彼女は、ゆっくりと足を忍ばせながら進み、タイミングを見計らって「シッ」と短い掛け声と共に背のバルバロイブレイドを頭に叩き込む。大剣の重く鋭利な刃と、込められた熱気の組み合わさった一撃を浴びてその存在に気づいたフルフルは、その場に伏せて全身を青白く発光させると共に、周囲に放電し、反撃する。しかしすでに相手は既に続く攻撃の準備をしており、放電を浴びない程度に距離を開けて真正面に陣取ると、立ち上がる寸前まで溜め込んだ力を開放し、武器を振り下ろす。

 「ブガァ!」と呻きながら後方によろめくフルフル。何とか踏み止まると頭を持ち上げ、

 

「ヌ゛ェエアァーーーーーーー!!」

 

と不快感を煽るような甲高い大音量の咆哮を放つが、これも相手は大剣を盾に防ぎ、続けて騒音で動ぎを封じたと判断して放った飛び掛かりも、横転して回避する。

 有効打が決まらないフルフルは、振り向きざまに体を沈め、再度頭を持ち上げる。ただし放つのは先程の咆哮ではなく、放電を口元に溜めて放つ電気ブレス。球状の電撃となって3方向に放たれるそれは、当たれば非常に強力だが、相手は分散した隙間に身を滑り込ませ、横薙ぎからの斬り上げを頭に叩き込む。

 自身の攻撃が当たらないことよりも、相手の執拗な攻撃に苛立ったフルフルは、「ヴォアァ!」と一際声を荒げると、「ブガブガブガ」と鼻を荒く鳴らし、口から電気が混ざり青白く発光する吐息を放ち出す。

 

「怒り状態になりましたね……こうなった時は、暫く回避を重点に……」

 

 動きにキレが増し、見るからに危険性が上がった状態においても、冷静に状況を判断して攻撃の手を休め、周囲を回りながらポーチから取り出した『ペイントボール』を投げつける。放電しながら見当違いな方向に歩みを進めるフルフルに当たったそれは、途端付近の白い体表をピンクに染め、周囲に独特の臭いを放ち、存在を周囲に知らしめる。これで万が一この場を離れられても、追跡できる。そう安堵した直後、こちらに向き直ったフルフルの巨体は、体表に電気を纏いながら宙を舞った。

 

「しまった!?」

 

 すぐさま武器を抜いて防ごうとするが、その前に飛び掛かりを浴びてしまい、大きく突き飛ばされてしまう。

 

「ぐっ……うぅ……ゲリョスシリーズの耐電性のおかげで、放電のダメージは軽減はされたはずなのに……」

 

 フルフルはようやっと当たったことを歓喜するかのように

 

「ア゛ーーーーーー!」

 

 と咆哮を挙げ、続く攻撃に警戒しながら起き上がる彼女の前で、皺だらけの皮膚が(たる)んだ首を伸ばして噛みつくが、立ち上がる前に当たる直前でコケる様に転身し回避すると、飛び掛かりを防ぎ損ねた際に跳ね飛ばされた武器を手にし、背中に収める。直後邪魔者にこれ以上付き合ってられんとばかりに飛んで行くフルフルを追おうとするが、いったん足を止め、防具に着いた雪を払うと、ポーチから2つの瓶――効果の切れたホットドリンクと、緑色の液体――『回復薬グレート』を取り出し、順に中身を飲んでからそれぞれの効果が発されるのを待ちながら、斬りつけるうちに付着したフルフルの血肉や皮で汚れた得物を雪で洗い、鈍った切れ味を整えるために砥石をかける。

 

「ペイントボールの匂いは向こうから……そこまで遠くには行ってないようですね」

 

 やがて飲んだ液体が発揮した効果を感じると、同じく調子を取り戻した得物を背負い、フルフルが去った先へと向かう。途中そちらから逃げてきただろう大きな角が特徴の獣――普段は温厚だが、襲われれば反撃してくるくらいには危険な『ガウシカ』とすれ違い、強くなるペイントボールの匂いと共に存在を確信したフルフルは、先程同様「ブゴブゴ」と鼻を鳴らして獲物を探していたが、すでに逃げられたところに、再度あの鬱陶しい相手の匂いがしたとあって、早々に

 

「ブェエウゥアァーーーーー!」

 

 と咆哮で威嚇する。

 

「警戒するほどには臭いを覚えられましたか。ですがこちらこそ逃がしません!」

 

 再度刀身を盾にガードしてやり過ごすと、放電ブレスのために頭を持ち上げた隙に懐へと潜り込み、放出してから無防備な頭に溜め斬りを叩き込む。すでにあちこち傷だらけのフルフルだが、中でも頭から首にかけては集中攻撃されたとあってか、それまで邪魔者程度だった彼女を脅威と認識したように、青白い吐息を放ちながらにじり寄る様に襲い掛かる。それを当たる前に前転ですれ違うように回避し、背後から攻撃を仕掛けようとするが、大きく体を振り回し、短い尻尾での薙ぎ払いを放ってきたためにいったん距離を置くと、続けてその場に伏せ、放電が終わったところを見計らい、改めて得物を振り下ろす。大きく仰け反って後退りしたところに、頭目がけて再度振り下ろされると、雪原に叩き付けられた頭を持ち上げ、

 

「ネ゛ェーーーーー!」

 

 と吼えるフルフル。タイミングを見切って防いだ彼女は、次の行動を探るべく目を向けるが、意外にもフルフルは、それまでの攻勢が嘘のように動きを止め、その場で佇みながら鼻を鳴らす。

 

「動きが止まった……!ここまで行けばっ……!」

 

 フルフルは瀕死になると、それまでどれほど激しく戦闘を行っていても、突如動きを止めて周囲の匂いを嗅ぎ、逃走先を探し出す。かつてそう教わった通りの行動に、足目がけて横薙ぎを繰り出し、横転させる。ジタバタ藻掻くところになお追い打ちの溜め斬りを叩き込むが、瀕死と言えども仕留めるにはまだほど遠いようで、起き上がると同時に青白い吐息を撒き散らすが、すぐさま一転して再度硬直し、やがて目的地を探りだしたのか、バサバサと羽搏き上昇し、移動する。

 

「くっ!流石に仕留めきれませんでしたか……ですが、寝込みを襲うのはトドメを刺すには絶好のチャンス。ここで焦ってはなりませんね」

 

 羽搏きの風圧で舞い上がる粉雪に、思わず腕で顔を守ってしまったのもあって、逃したフルフルを見送る。しかし逃走先には目星を付けてあり、事前に周囲の小型モンスターは掃討を済ませて間がないので、少なくとも邪魔をされることはないだろう。むしろここで慌てて追ってしまえば、恐らく寝る前に気づかれて戦闘になる。ならば多少回復させても寝付くのを待った方が安全かつ確実だろうと、気を落ち着かせるために周囲を漁って採取に精を出す。やがて幾らか植物や鉱物を採取し時間を潰し、そろそろいいかと先程の洞窟を逆走し、大きく開けたところに着けば、白い鱗の肉食竜『ギアノス』の巣の近くで熟睡するフルフルの姿が。

 付近にまだ小型モンスターがいないのを確認し忍び寄ると、彼女自身もどうやって収まってるのか不明だが、身の丈ほどある巨大な樽をポーチから取り出し、フルフルの周囲に並べ、ペイントボールを投げる。直後樽の爆発に呑まれ、

 

「ヴェーーア゛ァーーー!!」

 

 と断末魔の叫びをあげて倒れ、フルフルは動かなくなった。油断せず念のため手にした武器を構えたまま数秒待ち、動く様子がないフルフルの絶命を確信すると、地面に得物を突き刺し、歓喜に体を震わせ、両手を天に掲げた。

 

「……やり遂げました皆様!不肖、クリスティアーネ・ゼークト……フルフル討伐成功です……!」

 

 そのまましばしかつての思い出と感慨に浸っていたが、ハッと気づくと慌てて腰に挿したナイフを引き抜き、フルフルの遺体に突き立てて、その身から素材を剥ぎ取っていく。最後に地面から引き抜いたバルバロイブレイドを振り下ろし、討伐の証として斬り落とした首を手に、洞窟から去る。残ったフルフルの肉や内臓は、暫らくすれば匂いを嗅ぎつけたギアノス達が集まり、跡形もなく片付けるだろう。

 

 後に28人の同期達と共に『伝説世代』と讃えられ、『剛腕巨躯の狩人(かりびと)令嬢』の通り名と共に称賛された『クリスティアーネ・ゼークト』のハンター人生は、まさに今ここから幕を開けたのだった。




名前:クリスティアーネ・ゼークト
年齢(現時点):13歳
性別:女性
武器(現時点):バルバロイブレイド(大剣)
防具(現時点):ゲリョスシリーズ

フラヒヤ山脈の近くに領土を持つ大貴族、ゼークト家の令嬢。幼くして既に170を超える長身に、大剣を振り回せる膂力を宿した少女。普段は防具に収めているが、腰まで伸びた艶のある黒髪は、当時からトレードマークと化している。
前当主だった祖父の語る曽祖父の武勇に憧れ、領民を守る「力」を求めてハンターになった。家族は他にインドア系で内政の手腕は優秀だが、父の話を「野蛮」と切り捨て「つまらない奴」と称された当主の父とその母、1人娘を心配しつつも夢を後押しする母とその両親、兄とは対照的に同じく憧れてハンターになり、妻子を連れて新大陸に渡った叔父一家がいる。
フルフル討伐は父に課されたハンター活動認可の条件で、当初は家を出て2年で果たすよう言われたが、訓練期間を考慮した祖父に「訓練所を出てから3年以内」に変更されるも、同期達と共に僅か1年で訓練所を卒業し、それから3ヶ月足らずで装備を揃え、間もなく達して見せたことでハンター活動と実力を認めさせた。
グラビモス、クシャルダオラ、ラオシャンロンの様なゴツく重厚な風貌のモンスターが好きだが、武器や防具の好みはデザイン重視で、そうしたモンスターの素材を使ったからと直結で気に入る訳ではない。

特にナンバリングしてませんが、登場した順に通ったエリアは5、6、7、3です
ついでに言うとやけにバリエーション豊富なフルフルの咆哮は親近感抱いて気に入ってた某絶叫まな板が元ですww
次回は更に遡って、彼女や他の投稿キャラ達の訓練生時代に場面が移ります。
何が大変だったかって、他の投稿者さんそれぞれに連絡とること自体でしたね(さすがに全員は無理だったし、一括でやろうとしたらスパム扱いされたのか自動ロックされたし・・・)


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追憶の日々―1

前話の後書き通り、正直流石に個人嗜好や、応募投稿時の情報の少なさから29人全員は無理だなとは最初から思ってましたが、それでも自キャラのクリスティアーネと公式キャラのウツシを除いた27人中、15人て半分以上やんと……
まぁ一通り無事連絡ついて摺り合わせも済みましたので、こうして投稿できるまで至りましたが、連絡させていただいた投稿者様各員には感謝してもし足りませんわ



 西シュレイド地方南部きっての大都市、『ミナガルデ』。この年、数あるハンター養成施設――通称『訓練所』は、その1つの話題に盛り上がっていた。

 人間を圧倒する体躯はもちろん、容易く引き裂く爪や牙、更には当たれば吹き飛ぶどころか貫通や燃焼など、種類ごとに効果も多種多様の強力なブレス攻撃と、ハンター達が対峙するモンスター達は、些細な判断のミスや遅れが命に関わる様な存在である。そうしたモンスター相手に余計な犠牲を出さない様、富や名声を求め、ハンターを目指す老若男女が集う訓練所で課される試験は、どれも大変厳しく、屈強な成人男性でも大抵は早くても2、3年は暮らすことになり、酷いと4、5年かかっても卒業まで届かずに去る者も多い。そうした落伍者が無資格のまま勝手にハンターを名乗る件は各所で問題になっており、身の程を誤って勝手に自滅する分にはともかく、勝手に滞在したり、不相応な報酬を求めたりと、正規のハンターまで迷惑を被る様な騒動も、多々起こっている。

 話を渦中の第88訓練所に戻すと、今回新規に全課題を果たした者達――それも多くはまだ10代で、半ばにも達していない者までいたにも関わらず、揃いも揃って僅か1年でそれを成しえてしまっていた。普通なら、1つの訓練所で年に1人いれば十分「天才」と持て囃されるところを、あろうことかそれが30人もいたとあっては、当人達はともかく、周囲はその才を妬む者から(あやか)らんと擦り寄る者まで、あちこちが声をかけている。

 

「はぁ~、やっと戻ってこれた……」

 

 そのうちの1人――訓練生達に餞別として支給される初心者用の片手剣『ハンターナイフ』に、同じく初心者用の防具『ハンターシリーズ』を身に着けた『アダイト・クロスター』が、溜息と共に長くも短い濃厚な1年を過ごした合宿所の広間に戻り、大きな机を囲う様に並ぶ丸太椅子に腰を下ろす。

 

「おぉ、お帰り。また妙な連中に絡まれたか?」

 

 そこに現れ声をかけたのは、同じく渦中の30人が1人で、『鉄製試作剣斧I』を背負い、金属主体の『レザーライトシリーズ』を身に着けた、『ディード・クリント』。付近を縄張りにしたモンスターの襲撃を受け、飢饉に苦しむ中報酬を用意できなかったがために、ハンターを呼ぶことも叶わななかった故郷の村を滅ぼされた、なかなかに重い過去を持つ青年だ。

 

「ああ、ディード。いや、夕飯の買い出しで、いつもの肉屋行ってきたとこだったんだけど、『お代なら出世払いでいい』なんてこれ寄越されてさ……まだデビューどころか、卒業試験も受けてねぇってのに、気が早すぎるっての……」

 

 ディードに気付いたアダイトが、苦笑と共に机に置いたモンスターの革でできた手提げ袋から取り出し、包装紙を剥がして見せたのは、『蛇竜』の異名通り翼と足を持つ、蛇のような風貌の小型モンスター『ガブラス』の肉、『ガブリブロース』。ある程度の実績を積んできたベテランのハンターならともかく、少なくともデビュー前の訓練生がおいそれと手を出せる様な食材ではない。

 デビュー前の訓練生でも、課題の一環として、現地での採取、納品や、小型モンスターの討伐で現地に赴くことは多々あり、その際目的外の鉱石や虫、魚などの採取も認められている。訓練所を卒業し、正規のハンターとしてデビューを迎えて間もなく、収入の乏しい新人時代では、それ等を調合アイテムや装備のために貯蓄するより、売却して日銭を得る方が多い。

 ディードやアダイト達も、現在の注目に反し、普段はそうした少ない儲けを皆で折半しては、安物の『くず肉』や『堅肉(かたじし)』、たまの贅沢でも、少しだけランクが上の『サイコロミート』や『ワイルドベーコン』程度の購入に留めて生活しており、買い出しの際は「まずしばらくは手が出ないだろう」と苦笑しながら通り過ぎてきたとあって、色々と予想外な状況で手にしたこの肉にどうするか悩み、乾いた笑いや、呻き声しか出なかった。

 

「おやアダイト、その様子じゃ、あんたの方も『先行投資』されちまったのかい?」

 

 そこに新しく現れたのは、同じく時の人と化した話題の同期。固焼きの『頑固パン』が口から覗くほど詰まった麻袋を抱えた方は、ディード同様『ハンターシリーズ』だが、バイザー部分を下げてフルフェイス状にし、背には身の丈ほどある両刃の大剣、『バスターソードI』を背負っている。その隣にいる少女も、同じく防具は『ハンターシリーズ』だが、腰に収めているのは防御を捨て、手数に特化した双剣、『ツインダガー』だ。

 

「お帰り。ってことはイスミやカエデも?」

 

 アダイトの問いかけに、「あぁ」と短く返し、袋から取り出したパンを籠にしまう『イスミ』は、あまり顔や肌を露出したがらず、女性ながらあえて男性用デザインの防具を身に着けている。対する『カエデ』は一見手ぶらだが、再度外に行くと、ガラガラと音を立てて荷車を引いてきた。そこには先程、イスミが抱えていたのと同じようなサイズの麻袋に並んで、彼女が背負うバスターソードに匹敵しそうな何かが、モンスターの革に包まれ、横たわっていた。

 

「な、何だこりゃ?随分デカいな……」

 

「偶々迎えに行ったら、こいつ魚屋の親父にカジキマグロ貰ってやがったんだよ。思わず『こんなの買えない』って割り込んで断ったんだけど、言われるままにとんとん拍子で持ち帰る準備までしててさ……」

 

「折角気前よくくれた……なら素直にもらっておくべき……」

 

「いや、その気構えはともかく、こんなの食いきれるのか……?」

 

「問題ない……余った分は責任取って、私が全部もらう」

 

 包まれたものが武器の素材にもされる巨大な魚、『カジキマグロ』と知って頬を引きつらせるアダイトに対し、胸を張って言い切るカエデだが、イスミから「最初からそれが目的だったろ」と呆れながら手刀を後頭部に叩き込まれ、「あでっ」と軽く前にのめり込む。

 

「しっかしこの調子じゃあ、残りの奴等も色々凄いモン寄越されてそうだな……」

 

「そうだろうね。あたしもいつも通り頑固パンを買いに行ったら、女将さんにマスターベーグル薦められたけど、『まだ早い』って無理矢理断ったら、ご覧の通りたんまりオマケされちまってさ。こりゃ来週分どころか、卒業試験後も余るんじゃないか?」

 

 質の代わりに量でサービスされたイスミが、呆れた様子で残りの麻袋を持ち上げ、広間の隅へと寄せようとしたところに、「うお!何じゃこりゃ!」と新たな声が響く。イスミと同じ『ハンターシリーズ』に、『バスターソードI』を背負った一際(ひときわ)大柄な彼は、『シン・オーマ』。大家族の長男で、両親に代わってまだ幼い9人の弟妹を養う為、父から武器を継いでハンターになるべく第88訓練所の門を叩いた、ディードとは違う意味での苦労人で、現在も少ない儲けから、必死に家族への仕送りを捻出している。

 

「カエデがもらってきたカジキマグロだってさ。当人は追加分を期待してるようだけど、さすがに29人もいたらほとんど残らないんじゃないか?」

 

「え、このデカいのがまんま1匹なん!?はぁ~……こんだけデカけりゃ、ワイの家族でも2……いや、上手く()たせりゃ、4日は何とかなりそうやな……」

 

 ディードが説明がてら包んでいた皮をはがして中身を見せるが、どうやらシンは初めてカジキマグロを見たようで、呆然としながらも、この1匹でどれだけ家族の腹を満たせるか計算している。一方それを見たカエデは、表情こそ変わらずに見えるものの、どことなく不機嫌そうな様子で「私のだよ……?」とシンの前に割り込み、牽制する様に荷車を引いて運んでいく。

 

「そういや他の奴等は、まだ訓練中か?」

 

「そうやな。確かまだドラコとディノ、それからヤツマとカツユキに、レノとナディア……」

 

 ふと思い出したようにアダイトがシンに尋ねると、律儀に全員の名を挙げていこうとしたため、「つまり皆いるってことか」と遮り止めてやる。

 直後背中に折り畳み式の弓『ハンターボウⅠ』を背負い、モンスターの毛皮を主体にした『バトルシリーズ』を纏った『ベレッタ・ナインツ』が買い出しから戻り、到底手が届かない最高級品、『シモフリトマト』が顔を出す包みを弓の上に背負い、(こぼ)さない様バランスを取りながら戻ってきた。

 

「お、ベレッタ、大丈夫か?」

 

「大丈夫です……けど、降ろすのは……手伝ってください……下に砲丸レタスと、ドテカボチャがあって、置き方間違えると……潰しそうなので」

 

「お、おぉ、お疲れさん」

 

 不安を感じたディードが手を貸そうとすると、当のベレッタは何とか机まで向かったところで、包みを載せるために持ち上げるのを協力してもらい、シモフリトマトとその下にあった、幾らかランクは下がるが、それでも十分高価な『砲丸レタス』、さらにその下に置かれていた、普段口にしている最下級の野菜代表、『ドテカボチャ』を広げる。大きく価格の異なる野菜が、隣接して並ぶ珍妙な絵面に、アダイトとシンだけでなく、パンの収納を終えて戻ってきたイスミや、同じくカジキマグロをフラヒヤ山脈で採れた『氷結晶』を使って製造された、生モノ用の冷蔵庫に入れてきたカエデも合わせて眺める。

 

「これも後でしまっておくか……それにしても、すっかりオレ達も有名人だな。さっきディードにも話したが、まだ訓練生だってのに、こんな豪華な餞別貰うなんてさ」

 

「それだけミナガルデの人達が、俺達の将来に期待してるってことだよ。俺を送り出した、カムラの里の皆の様にね」

 

 トマトを1つ手に取り、ここ最近各地で受けるようになった「サービス」に苦笑するアダイト。そんな彼のぼやきに答えた突然の声に、驚いた一同が振り返った先にいたのは、骨でできた双剣『ボーンシックル』を腰に差し、『バトルシリーズ』を装備した少年、『ウツシ』。彼の故郷――ミナガルデの遥か東にある『カムラの里』は、住処も種類も違うモンスターが、一同に雪崩れ込むかの如く襲い来る災害、『百竜夜行』に度々見舞われており、特に40年ほど前には、里の存続さえもが危ぶまれるまでに壊滅的な被害を受けたらしい。それに対抗するための人脈や技術を得るために、遠路遥々西の大都市、ミナガルデまで来た彼は、一刻も早く戦力足りうるハンターとなって故郷に戻るべく、鬼気迫るほどの気概を発し、同期の面々も、それに影響される形で追いつき追い越さんと取り組むうち、見事たった1年で訓練所の課題を全てこなし、早くも卒業試験に挑めるまでに至ったのが、彼等が持て囃される様になった真相でもある。

 

「脅かすんじゃないよウツシ。ま、期待されるのは嫌じゃないけど、だからってこんな餞別寄越されるってのは、大分キツいとこがあるね……」

 

「その期待に応えるためにも、卒業試験は失敗できないよな。俺みたいな犠牲を、少しでも減らすためにも……」

 

 いきなり聞こえた声の正体に安堵するも、期待の表れにプレッシャーを感じるイスミに対し、ディードは自身の様な被害を出すまいとやる気を燃やし、ハンターだった姉を喪ったベレッタも、同意する様に頷く。

 

「ところで今日も色々もらってきたようだけど、買い出し担当は皆帰ってきたのかい?」

 

「ん?いや、確かクリスティアーネが乳製品の店に行ってたはずだけど、この様子じゃ何か押し付けられて、必死に断ってを繰り返してるんだろうな……」

 

 ふとウツシが思い出したように尋ねると、それぞれの担当を思い出したアダイトがクリスティアーネの行き先と、帰りの遅い理由を察してため息をつく。コネ認識されるのを嫌って当人は隠しているつもりだが、登録の際律儀に苗字まで記載してしまったことを始め、言動や身の振り方から「いいとこのお嬢様」なのはある種ワケありなアダイトを始めとした同期達にも気付かれており、ハンターとしての素質だけでなく、そっちの方でも擦り寄る者が多いことに辟易していると、漏らしたこともある。そうした点を考えると、彼女を買い出しに行かせたのは失敗としか言えないが、当人にとっては「皆のために何かしたいし、将来的に1人でやっていかねばならないから」と積極的にこなすことの1つに過ぎないため、そうした自覚がないのが厄介な点でもあった。

 

「とりあえず彼女のことはともかく、まだ訓練してるメンツが戻るまでに、夕飯の支度しちまおうぜ。折角だし、今日はこのガブリブロース使おうか?」

 

「お、そりゃええな!卒業の前祝いって訳やないけど、同期全員で試験に挑むまでに至った祝いには、ちょうどええんちゃうか?」

 

「まあ、しょうがないね。クリスティアーネは様子見がてらあたしが迎えに行ってくるが、とりあえずその前に、使わない分の()()は片付けとこうか」

 

 彼女のことはともかく、帰りを待ちがてら自身がもらったガブリブロースをメインとした食事の準備にとりかかることを提案するアダイトに対し、シンが乗る形で賛同。呆れた様に溜息を吐くイスミも、うんうんと頷くカエデの様に余計なものを貰ってこない様見に行くことは告げるも、彼女と苦笑いするディードに手伝うよう声をかけるだけに留め、水を差すような真似は控える。

 補足としてついでに説明すると、ハンター間では食事と言えば、専らクエストの受注を担う集会所に併設された酒場か、ネコに似た風貌の小型獣人種モンスター、『アイルー』のうち、炊事業を担う『キッチンアイルー』の雇用が主だが――後者に関してはお抱えの専任を雇っている訓練所もあるとはいえ、第88訓練所にはいないので――当然財も実績もない新人どころか訓練生の彼等にはどちらも手が届かないため、こうした自炊も自然と習得するようになっていった。

 

 

 

 

 

 

「いい加減にしてください!こんな高価なもの、受け取れません!」

 

「いいんだって!お仲間さん達にも声かけて、デビューしてからも贔屓してくれればさ!お代だって、懐に余裕出来るくらい活躍してからでいいんだから!」

 

 一方残る買い出し担当、『バトルシリーズ』にイスミやシンと異なるデザイン――片刃で刃先に返し、刃元に丸い穴の付いた『バスターソード』を背負ったクリスティアーネは、アダイトの予想通り、かつてよく口にしていた最高級品の『ロイヤルチーズ』を差し出そうとする乳製品店の店主に対し、受け取れないと拒んで返そうとする押し問答を繰り返していた。彼女としては、訓練生生活の一環たる自炊で食べ慣れていった最安物の『粉吹きチーズ』を買いに来たつもりだったが、何故か久々に見た高級品を差し出され、困惑のまま拒んだはいいものの、そのせいで「受け取るまで帰さん」とばかりに長々と引き留められてしまい、この1年世話になった馴染みの店なのもあって、強く断り切れずにいる。

 

「ですから、今の私達にはこちらで十分です!ハンターとして大成した際必要になれば買いに来ますが、まだ正規デビューもしてない身には不相応過ぎます!」

 

「1年でその寸前まできたアンタ達なら、すぐできるさ!だからコイツはその先行投資だよ、多いってんなら半分でも4分割でもいいから受け取ってくれって!」

 

 そう言って手にした粉吹きチーズの瓶詰を突き出すが、店主も譲らずに、布袋に包まれたロイヤルチーズを押し付ける。道行く人達も、すでに今日だけで何度か起きた光景に見慣れた様子で、それぞれの名前や特徴、謙虚さも知れ渡ったとあって、便乗犯も容易く追い返されるくらいミナガルデの日常に馴染みつつある。

 

「やっぱりあんたも捕まってたね。そうだろうと思って、迎えに来て正解だったよ」

 

「い、イスミ様!遅くなって申し訳ありません。店主様が放してくれなくて……」

 

 そうして長らく続く問答に割り込んだイスミに、待たせてしまったと謝罪するが、「気にするな」とだけ返した彼女は、粉吹きチーズの代金をカウンターにおいて、クリスティアーネの手を取って店を出る。

 

「お、おぉい待ってくれ!これ――」

 

「悪いねおっちゃん。さっきからこいつが断ってるみたいに、今のあたし等にゃ粉吹()きチ()ーズ()で十分だよ。ロイヤル()チーズ()は他の訓練所にいるキッチンアイルーにでも売ってやってくれ」

 

 そのまましつこくロイヤルチーズを渡そうとする店主を無視して訓練所まで歩いていく途中、申し訳なさに落ち込んだままのクリスティアーネに対し、イスミは手を離し向き合う。

 

「あんまりつまらないことでいつまでもイジけるんじゃないよ。あんたの謙虚さは美点ではあるけど、ハンターやってくなら、もっと雑なくらいでいいんだからさ。今のままじゃあんた、将来後輩にも嘗められるからね?」

 

「も、申し訳ありません……」

 

「だぁから……もういいよ。他の連中も待ってるだろうし、とっとと帰って飯にしよう。アダイトがガブリブロース寄越されて、それで卒業試験に向けて英気を養うってことになってたし、食ってりゃ幾らか気分も晴れるさ」

 

 出会った当初、同じくらいと思いきや大分年下だったことに驚いた過去を思い出し、思わず「図体ばかりデカいんだから」と悪態をつきかけたのを止め、代わりに訓練を終えたり、支度を済ませているだろう面々のことを切り出し、帰りを促す。そのまま進みだすイスミを、「あ、ま、待ってください!」と慌てて追いかける前に、手に持ったままだった粉吹きチーズの瓶をポーチにしまうクリスティアーネの顔は、まだ完全ではないものの、それでもつい先程までよりはマシになっていた。




()書いてるうちにどんどん長くなってたなぁ(当初は訓練場面も書くつもりだったがどんどん進むうちにそんな余裕なくなった)・・・
装備に関してですが、(お下がり系はともかく)流石にデビュー前からいきなり皆それぞれ揃えてる、ってのも時系列や設定的に大分おかしいと思いましたし、かと言って(店売りされてる奴でも)最初から自前で全部用意するって誰でもできるん?とも思ったんで、所謂ゲームにおける初期装備的なものは訓練所に入る際支給される設定にしました
以下登場した順にゲストキャラの紹介(他作品についてもコメントしてるためネタバレ&個人感想注意。名前だけだった面々は次回出番があった時に)。年齢に関しては逆算的に『特別編 追憶の百竜夜行』時点から2歳引いてます








名前:アダイト・クロスター
年齢(現時点):12歳
性別:男性
武器(現時点):ハンターナイフ(片手剣)
防具(現時点):ハンターシリーズ
原作者オリーブドラブさん作の『モンスターハンター 〜故郷なきクルセイダー〜』の登場人物で、『特別編 追憶の百竜夜行』における主人公。とある公国に仕える騎士の家出身だが、許嫁の姫と旅行中乗っていた馬車がドスファンゴに襲われ、その拍子に転落。付近の村のハンターズギルドのマスターに拾われ、過去との決別のため名を変えたが、後に復讐のためハンターとなった姫と再会し、更にギルドマスターが彼の正体こそ隠せど生存を伝えたため、そのまま成り行きで共に過ごすうちにバレた。

名前:ディード・クリント
年齢(現時点):18歳
性別:男性
武器(現時点):鉄製試作剣斧I(スラッシュアックス)
防具(現時点):レザーライトシリーズ
踊り虫さん作の投稿キャラで、『モンスターハンター~我が往くは終わり無き滅びとの闘争なりて 』における主人公(こちらでのゲスト出演に関する伺いが来たのがきっかけで腹括った)。飢饉で報酬を用意できず、ハンターを呼べない状態で付近を縄張りにしたリオ夫婦に襲われ、壊滅した村の生き残りで、元新大陸古龍調査団のハンターに師事を受けた。「自身の様な犠牲を出すまい」と奮起した結果、金銭感覚がバグっただけでなく、「報酬を用意できない」と泣きつかれギルドを介さず格安で依頼を受ける中(さながら逆「だまして悪いが」状態)で半ば犯罪の片棒を担がされる事態にも見舞われてしまう。

名前:イスミ
年齢(現時点):20歳
性別:女性
武器(現時点):バスターソード(大剣)
防具(現時点):ハンターシリーズ(男性用でバイザー部分を下げている)
平均以下のクソザコ野郎さん作の投稿キャラで、『モンスターハンター 〜全身鎧の女狩人〜』における主人公。幼少期に迫害されて以来、自身の顔にコンプレックスを覚えており(実際にはキツいものの十分美人)、顔を隠せる男性用装備を纏っている。蛇足だがこの縛りのため地味に防具をどうするか悩み、インナー部分にマスクやフードを着ける妥協案も浮かんだが、ふと見たデザインから強引にこれで通すことにした。

名前:カエデ
年齢(現時点):16歳
性別:女性
武器(現時点):ツインダガー(双剣)
防具(現時点):ハンターシリーズ
団子狐さん作の投稿キャラで、『モンスターハンター 〜狩場に駆け出す一人の双剣使い〜』における主人公。寡黙な健啖家で、食べて狩るを繰り返すハンター活動で食費稼ぎだけでなくスタイル維持も出来ている。具体的な食べっぷりは書かれてないが、イメージ的にはP2時代のキッチンアイルー5匹時のメニューやワールドで料理長が焼いてるステーキ1枚くらいなら余裕で平らげそう。投稿作にて「それまで小型モンスター専門に狩ってきた」と語られ、とあるプロットとの矛盾が生じてしまったものの、「ソロ活動だった」とも語られていたことから「1人で」としてくれたことには感謝。

名前:シン・オーマ
年齢(現時点):15歳
性別:男性
武器(現時点):バスターソード(大剣)
防具(現時点):ハンターシリーズ
カイン大佐さん作の投稿キャラ。10人兄妹の長男で、家族を養う為にハンターになった。関西弁と同世代より頭1つ大きな身体が特徴。ちなみにバスターソードはハンターだった父親が昔使っていたもの。余談だが個人的イメージCVは過去にプレイ動画を使った某公式寸劇で肉焼き馬鹿をやっていた故・田中一成氏。

名前:ベレッタ・ナインツ
年齢(現時点):12歳
性別:女性
武器(現時点):ハンターボウⅠ(弓)
防具(現時点):バトルシリーズ
ピノンMk-2さん作の投稿キャラ。ハンターだった姉がモンスターの討伐失敗で亡くなり、この一件から現在の寡黙な性格になった。『特別編 追憶の百竜夜行』でのやりとりから登場させたいと思い連絡したところ、許可をもらったものの、装備に関してはまさかの「おまかせします」とのことだったので、どうするか悩んで結局手元のP2攻略本からスキルや派生表を見て選んだ。

名前:ウツシ
性別:男性
武器(現時点):ボーンシックル(双剣)
防具(現時点):バトルシリーズ
『モンスターハンターライズ』の登場人物。ゲーム本編での役職は教官だが、『特別編 追憶の百竜夜行』ではデビュー間もないハンターで、百竜夜行を前に同期達を頼り声をかけている。特注の双剣を持っているらしいため、装備はそれに合わせたものに。同様に彼の郷土愛が影響を発して、同期達も1年で訓練所を出てハンターになれたことにしている。

名前:クリスティアーネ・ゼークト
年齢(現時点):12歳
性別:女性
武器(現時点):バスターソード(大剣)
防具(現時点):バトルシリーズ
ハンターデビュー目前ながら、まだまだ世間知らずな部分も多いお嬢様。訓練所に登録する際もフルネームで、早い段階から「貴族のお嬢様が来た」と好奇の目を向けられるも、日々の訓練でハンターとしての素質を発揮し、いたずらに擦り寄る者を恵まれた体躯で蹴散らしてきたが、反面善意からくるサービスには弱く、ミナガルデの商店では断ろうとしても最終的には押し切られてしまう姿がよく見られた。


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追憶の日々―2

さてこれでどこまで進めるかねぇ・・・


 期待を背負った訓練生達が、間近に迫った卒業試験に向け、英気を養った翌日。気持ち新たに挑んだ訓練は、普段通り厳しいものだった。

 

「ヤツマ!演奏効果が切れてるぞ!攻撃も重要だが、特にパーティー活動の際、狩猟笛使いは隙を見て効果維持のために演奏の重ね掛けを忘れるな!」

 

「は、はい!」

 

 時に興行や訓練の一環で捕獲された大型モンスターを放ち、相手をする訓練所内のフィールド――通称『闘技場』にて、慌てて骨でできた巨大な笛――『ボーンホルン』を奏で始める『レザーライトシリーズ』に身を包んだ少年――期待を背負った訓練生の1人、『ヤツマ』に檄を飛ばしたのは、彼と同じ『レザーライトシリーズ』や『ハンターシリーズ』、『バトルシリーズ』等の初心者用防具を装備した訓練生達とは異なる、朱鎌蟹(あかかまがに)の名前通り通常の蒼とは違う『ショウグンギザミ亜種』の朱い甲殻を使った『ギザミZシリーズ』に、同じ素材の双剣、『カーマインエッジ』を腰に挿した教官、『イボンコ・カーチス』。

 装備の通り、『G級』と称される最高難易度クラスの依頼もこなせる現役ハンターでもある彼は、数十人にも及ぶ訓練生全てに目を光らせており、現に名指しされたヤツマに邪な目線を向け、クスクスと嗤う先輩訓練生達に対し、「そこ!人を見て嗤ってる余裕があったら真面目にやれ!」と装備で守りが固められた部分目がけて投擲(とうてき)用の投げナイフを放ち、「グアッ!」と怯んだ者や、「ヒッ!」と情けない声をあげてバランスを崩した者を順に掴み上げ、両手で数人を引きずっていく。

 

「何度も言っているが、フィールド上ではこうした僅かなスキが命取りになる!しっかり意識しておけ!お前等は外周5回と、卒業試験の参加取り消しだ!」

 

「そ、そんなぁ!」

 

「ふざけるな!いくら教官だからって、そんな横暴うちのパパが許さないぞ!」

 

「ほう、だったらそのまま迎えに来てもらって帰ればいいさ。ハンターってのは実力主義な部分が強いからな、お前みたいな家の権威しかない、箔付け程度の認識な奴には土台無理な業界なんだよ。むしろギルドの方でも、いくら金を積まれたところで願い下げだろうな。残りの者は自主練!休息は許すが、いつ私が戻ってもいいように意識はしておけよ?」

 

 そうして捕まった内の1人が、実家のコネを振るって(わめ)き立てるが、イボンコに動じた様子はなく、受け流して去っていく。途端緊張の解けた訓練生達は、言われた通りに引き続き武器を振るったり、座って一息ついたり、用を足しに去ったりと、各自自由に過ごす。

 

「何と無様な。ああはなりたくありませんね……」

 

 クリスティアーネも、ウツシが持ってきた設計図を基に製造された、カムラの里で使われるトレーニングダミー、『からくり蛙』に向けて振るっていた『バスターソード』を地面に突き刺し、寄りかかって一休みしながら、先程惨めに父親任せな脅しをして流された者に、(さげす)みの念を向ける。

 体格ゆえ曽祖父(己が父)と同じ道に歩めず、憧憬を募らせていた祖父は、その分恥じぬ人間にならんと領民のために多くの事業を成しては成功させ、(息子)に継がせた。彼は憧れ同じ道を進み、妻子を連れて新大陸に向かった叔父()と違い曽祖父(祖父)の武勇を「野蛮」と嫌ってこそいたが、祖父()の人となりには敬意を示し、利益をしっかり領民たちへと還元し、善政を敷いていると評が高い。彼女が「ハンターになりたい」と懇願した時にはいい顔こそしなかったが、それも曽祖父(祖父)叔父()と同じ道を進むこと以上に、後を継ぐだろう1人娘が、危険に身を投じるのをよしとしなかったのが本音と、夫の手前表立っては応援できなかった母に聞いている。

 

「そうだな。ハンターに身分は関係ないってのに、何やってんだか……」

 

 その呟きを耳にしたアダイトの返事に顔を向けると、普段薬品を入れる瓶に水を詰め、同期達に配っていたようで、何人かが早速封を外して口をつけている。クリスティアーネも「ほれ」と差し出されたそれを、「ありがとうございます」と礼を言って受け取ると飲み始め、空にすると、封を戻して自身のポーチにしまう。

 

「あの者に関してのことならば、左様であると同意させてもらおう。親と家に頼りきりで、その功名をさも己がものの様に振りかざす様は、愚かとしか言えまい」

 

「全くだ。あんな奴、たとえハンターになれても、ゴシャハギどころかアオアシラにも会わずに消えてるだろ」

 

 同じく水を受け取り、嫌悪を露にするのは、ウツシと同郷で、『ハンターシリーズ』に巨大な盾と槍がセットの『アイアンランス』を背負う『カツユキ・ヒラガ』と、近隣出身で、『バトルシリーズ』に『ツインダガー』の『ドラコ・ラスター』。自身がライバル視する『雪鬼獣』の異名を持つモンスター、『ゴシャハギ』を挙げるも、それに比べて大分弱いクマに似たモンスター、『青熊獣(せいゆうじゅう)』こと『アオアシラ』でさえ到底届くまいと呆れた様子のドラコは、アダイトからもう1つ水入りの瓶を受け取り、先の檄に従い未だボーンホルンを奏でては振るいを繰り返していたヤツマの元に向かう。

 

「あいつ去年、他の試験参加者から枠奪って参加しときながら、勝手なことばかりして当然不合格になったらパーティーメンバーにケチ付けて責任転嫁してたらしいからな。ヤツマはしばらく、ドラコやイスミに周囲を固めといてもらうか」

 

「そうですね。ヤツマ様は気弱なところがありますし、あれからすれば格好の標的にされかねませんので」

 

 まさか基本人を呼ぶ時は、名前に「様」を付ける丁寧な言葉遣いの彼女が、嫌な奴といえ他人を「あれ」呼ばわりしたことに「あ、あれって……」と顔を引きつらせるアダイト。そこに、不釣り合いなほど大きなヘビィボウガン『アイアンアサルトⅠ』を背負った『ハンターシリーズ』の少女――同期最年少の『エルネア・フェルドー』が来る。

 

「私も、ヤツマを守る。彼は戦友だから」

 

「ありがとな、エル。ヤツマには俺からも、しばらく誰かと一緒にいるよう言っとくよ」

 

「私も意識しておきますが、至らぬ場合もあると思いますので、その時はお願いしますね、エル様」

 

「うむ、頼んだぞ」

 

 元よりそのつもりだったエルネアは、3人からの頼みに「了解」と返し、ドラコの後を追う様にカツユキと共にヤツマの元へと向かっていく。

 

「彼も彼で人望がありますから、頼まなくてもああして勝手に名乗り出てくれる訳ですが、それに比べても、先程のは酷いものでしたね。目も当てられませんでした」

 

「そうだな。それに皆、ヤクライさんには世話になった」

 

 入れ替わりにやってきたのは、カツユキ同様『アイアンランス』を背負い、『レザーライトシリーズ』を纏った『ナディア・ゴーシュ』と、腕を組んで頷き、彼女に同意を示す、『ハンターシリーズ』に名前通り巨大な骨そのままな太刀『骨』を背負った『レノ・フロイト』。後者が挙げた『ヤクライ』はヤツマの兄で、かつてG級同然のハンターと有名だったが、『黒炎王』の二つ名を持つリオレウスの襲撃を受けて負傷し、引退している。それでもハンターだった頃の知識と技術は健在で、ヤツマからの縁で過去に世話になったこともあった。

 

 

 

 

 

 

 あれは訓練所生活に慣れ始めた頃。顔合わせの際に、ウツシが持参した故郷(カムラ)の味、『うさ団子』を「お近づきのしるしに」と皆に振舞ったところ、ヤツマがえらく気に入ったとあって、それを聞いたヤクライが、お礼と称して差し入れを持って訪ねてきた。

 

「すっげぇ!ドドブラリンゴのパイだ!」

 

「ウツシだけじゃなくて俺ら全員の分まで用意してくれてるなんて、ありがとうございます!ヤクライさん!」

 

 豪雪地帯で稀に収穫される希少な純白の果実、『ドドブラリンゴ』をふんだんに使った、一目で高級品とわかるそれを、30人分も用意してくれたとあって、興奮しながら礼を言うディードやドラコに対し、ヤクライは笑顔で手をヒラヒラと振る。

 

「いやあ、いいっていいって。気が弱いから少し心配だったけど、同期に恵まれたようで何よりだよ」

 

「に、兄さんったら……」

 

 言い返せずに照れ臭そうとも居心地が悪そうとも言える様な状態のヤツマを、気にした様子のないヤクライに対し、自然と過去の活躍――それこそ実質的なハンターデビューたる卒業試験のことからの話を聞く流れとなり、彼を合わせた31人が、少々ギュウギュウになりながらも巨大なテーブルを囲う。

 

「まず卒業試験の成功条件は、ランダムで組まれたパーティーでの中型モンスター以上の狩猟。と言っても、捕獲用の麻酔は支給されないし、自前で用意するのも駆け出しには結構大変だから、実質討伐になると思うよ。対象のモンスターは数も種類も具体的に指定されてないし、時間切れになるか証拠として入手したモンスターの素材を提出するまでは自由に行動できるから、余裕があれば複数体のモンスターを相手することも可能だね。実際できるかどうかはともかく、極端な話いきなりリオレウス100頭なんてぶっ飛んだことも理屈では認められるかな」

 

 「まあ大概は堅実にドスランポス辺りを狙うのが御の字だろうね」といったん区切るヤクライに、「さすが元G級同然は言うことも違うな」と気押される中、クリスティアーネがソロソロと手を挙げ、質問する。

 

「あの、ヤクライ様。その卒業試験では、フルフルも狩れますか?」

 

「フルフル?まあリオレウスに比べれば一応は堅実な部類だし、近場のジャングルなら出現報告もあるモンスターだけど、それでも卒業試験で狩猟するには、随分跳躍した相手だね。どうして急にフルフルを?」

 

 破壊力のある大剣使いと言え、やはりデビュー寸前の新人には荷が重過ぎるフルフルを、いきなり狩猟対象に挙げた真意を尋ねられ、「実は……」と語り始める。

 彼女曰く、ハンター活動に否定的な父が、それを認める条件としてフルフルの狩猟を提示した。しかも当初期限は家を出てから1年だったのを、祖父のおかげで訓練所卒業から3年まで伸ばしてはもらったものの、無理矢理期限を短縮されかねないとあって、早急に達さなければと少々焦っているようだった。

 

「……事情は分かったけど、だからこそいったん落ち着くべきだ。そもそもフルフルは、素人がたった1年で相手できるようなモンスターではないし、そんな精神状態じゃ、どんなモンスター相手でも危険すぎる。一応アドバイスはするから、まずは焦りと緊張を排除しよう」

 

「す、すいません、ヤクライ様……」

 

 宥められたクリスティアーネが、深呼吸をして幾らか鎮静したのを確認したヤクライは、早速アドバイスに入る。

 

「まずフルフルの危険な攻撃は、口からの電撃ブレスと、体表からの放電だ。どちらも浴びれば、最悪身動きが取れないまま丸呑みにされてしまう。特に大音量の咆哮で、足止めされてしまったところに食らいやすいから、大剣の様に防御可能な武器なら、常にガードできるよう意識をして、攻撃はそれ等が終わった隙を突くくらいがいいだろう。そしてまず何より装備だ」

 

 そう言ってヤクライが広げて見せたのは、本棚から出したモンスター図鑑。ただしそのページに載っていたのは、フルフルではない別のモンスターだった。

 

「このゲリョスは皮膚がゴムの様に伸縮し、高い耐電性を持つ。まずはゲリョスの皮で防具を作り、さっき挙げた電撃から身を守るのが1番だ。そして武器の方だけど、フルフルもゲリョスも、炎に弱い。そうした意味では手間がかからないから、まずは炎属性の武器――大剣なら、最も早く作れるのはバルバロイブレイドかな?それを目指すといい。幸い材料となる火炎袋は、イャンクックから入手できる。さっき言ったジャングルや、森丘、それから少し離れるけど、最近試験場として追加された別の密林のどこにでも出るから、メンバーに余裕や自信があれば、狙って挑んでみるといい」

 

「イャンクックなら、それこそゲリョスやフルフルに限らず、他の飛竜の相手をする際の練習にもなるな。そうした意味でも、相手する価値はありそうだ」

 

 そのモンスター――銃の撃鉄を思わせる独特なトサカに、それとうまく組み合う返しのように先端が膨れた嘴、くすんだ藍色の皮膚とピンクのまっすぐ伸びた尻尾が特徴の、歪な風貌をした『毒怪鳥』と呼ばれる『ゲリョス』。まさに対フルフルに有効な性質を持った皮を使った防具と、ハンターの間で登竜門的な存在と『怪鳥』の別名で親しまれる、大きな耳と(くちばし)が特徴の、剽軽(ひょうきん)な顔をした『イャンクック』の体組織を使った武器。まずはそれを揃えるのが第1段階と聞いて、真っ先に同意した『ハンターシリーズ』の少年は、骨製の大剣『ボーンスラッシャー』を使う、『ディノ・クリード』。あまりヤツマとの仲は良くなく、むしろドラコとしょっちゅう衝突するくらいキツくあたることもあるが、それは「気弱なヤツマがハンターとしてやっていくのは難しい」と判断して、あえて憎まれ役を買って出ている、彼なりの歪な気遣いからくるものだった。

 

「なるほど、有効な装備を教えていただき、ありがとうございます。まずは試験を達成せねばなりませんね」

 

「そうだね、まずはハンターとしてデビューしないと話にならないから。さっきも話したように、試験では身の丈や状況に合ったモンスターを仕留めて、クリアすればいい。最悪敵わないと判断したら、大人しく逃げて違うモンスターを探しに行っても大丈夫なんだから」

 

 「実際僕もドスランポスを探してたらイビルジョーに乱入されて、逃げた先で見つけたイャンガルルガを倒して達成したけど」と締めるヤクライに、一同揃って硬直する。『恐暴竜』の異名を持つ『イビルジョー』は、周囲の生物を手当たり次第に食らい尽くす異常な食欲を誇り、実際ヤクライが狩猟後ベースキャンプに戻ると、慌てて撤収が下され、未達成者に対しては後日改めて試験が再開されることになったらしい。一方で彼が仕留めた『黒狼鳥』こと『イャンガルルガ』も、イャンクックを凶暴化させたような風貌通り、異常なまでに暴れまわる好戦的なモンスターとして知られており、気丈なドラコやディノも息をのんでいたのは、今でも印象的だった。その後も――ヤクライがゴシャハギを知らなかったことにドラコがショックを受けるなど、地域差で生じたカルチャーショックもいくつか起きたが――各員が好きなモンスターや、その対策の話で大いに盛り上がった。

 

 

 

 

 

 

 時は戻り、卒業試験の前夜。訓練を終え、集会所の酒場で飲んでいたイボンコの元に、鎧武者を思わせる『暁丸・極シリーズ』に『炎斬【灼】』を背負ったハンターが訪れる。確認なく笑顔で正面に座ったのは、イボンコの同期にあたる『シゲマサ・スターチ』。G級でも最上級の実力者だが、同時にノリの軽いコミカルさも併せ持った人物で、ちょくちょく後輩たちを飲みに誘うなど気遣う傍らで、揶揄って遊んでいることから、扱いに困ると困惑されたり、苦手意識を持たれたりしている。

 

「そんな飲んで、明日大丈夫?卒業試験の監督でしょ?」

 

「気にするな、これくらいなら寝て抜ける酔いだ。お前も飲み過ぎるなよ?」

 

 不愛想なイボンコの返答に、「そゆことなら」と自分もビールを注文するシゲマサ。彼は試験後に行方不明者やその遺品の捜索を担当しているのだが、かつて前日に飲み過ぎてしまい、到着した途端限界を迎え、姿を晦まして自分が探される事態になったことがある。

 

「いやもうアレは忘れて……と、ところでさぁ、最近噂の面々、実際のところどうなの?」

 

 過去の失態をほじくり返され、言葉を濁して無理矢理話題を変えるシゲマサに、ジョッキを空にして、付近を通りかかったウェイターにお代わりを注文したイボンコは、向き直ると同時に顔をしかめながら伏せる。

 

「簡単に言えば、どいつもこいつも化け物だな。1人が異様に張り切っていて、それに牽引される形で、才能を発揮させている。このまま行けば上位どころかG級まで最速で到達するぞ」

 

「ほほぉ~、『秘めたる力を今解き放て!』みたいな?」

 

 「何だそれ」と相変わらずノリの悪いイボンコだが、顔を上げると、誤魔化すように届いたビールを口にしていたシゲマサに目を向ける。

 

「普段は不確定だし、当人達の前ではやる気を削ぐから言わんが、今回ばかりは断言しよう。明日の試験、参加者60人のうち合格するのは、30人だ」

 

 急に予言の如き宣告を言い放ち、「この意味、わかるな?」と椅子の背もたれに寄りかかって尋ねるイボンコを見て、シゲマサもジョッキを置き、つまみに頼んでいたサシミウオの刺身に手を伸ばしながら答える。

 

「30……オタクの年齢に合わせて……って訳じゃないよね?」

 

「……さっき言った噂の奴等の人数だバカ!」




()もうちょい早く書き上げたかったが間に合わなんだった
以下登場した順にゲストキャラの紹介(前回同様他作品についてもコメントしてるためネタバレ&個人感想注意)
オリキャラ2人はまとめて最下部に




名前:ヤツマ
年齢(現時点):14歳
性別:男性
武器(現時点):ボーンホルン(狩猟笛)
防具(現時点):レザーライトシリーズ
VerT-EXさん作の投稿キャラで、『山をも掴むは鮮烈な青』における主人公。うさ団子が好物の様だが、双方の作中でどちらもいつ食べたのかやカムラの里への滞在具合が分からなかったため、きっかけを捏造した。

名前:カツユキ・ヒラガ
年齢(現時点):21歳
性別:男性
武器(現時点):アイアンランス(ランス)
防具(現時点):ハンターシリーズ
⚫︎物干竿⚫︎さん作の投稿キャラ。カムラの里出身だが、彼と違い卒業後は修行の旅に赴いていた。『特別編 追憶の百竜夜行』では、その途中に百竜夜行が故郷を襲うかもしれないと報せを受けて帰還した。

名前:ドラコ・ラスター
年齢(現時点):15歳
性別:男性
武器(現時点):ツインダガー(双剣)
防具(現時点):バトルシリーズ
たつのこブラスターさん作の投稿キャラで、『モンスターハンター ~寒冷群島の紅き鬼狩り~ 』における主人公。寒冷群島に近い「ワーニェの村」出身。明るく真っ直ぐな性格だが、幼少期から故郷で伝わる「悪い子の元に来る"寒冷群島にいる雪の鬼"」の伝承を他の子に「作り話」と馬鹿にされ、証明のため群島に向かったところゴシャハギに襲われるが、常駐のハンターに左腕を失いながらも助けられ、その後悔もあってハンターの道を進んだ。訓練生時代からヤツマと仲が良く、気が弱いためにガラの悪い先輩達から目を付けられやすい彼のことを庇っている。

名前:エルネア・フェルドー
年齢(現時点):10歳
性別:女性
武器(現時点):アイアンアサルトⅠ(ヘビィボウガン)
防具(現時点):ハンターシリーズ
妄想のKiokuさん作の投稿キャラ。まさかの年齢1桁寸前。「〜全身鎧の女狩人〜」では「イスミが初めて見た際、教官の連れ子か何かかと思ったそう」と書かれていた。

名前:ナディア・ゴーシュ
年齢(現時点):14歳
性別:女性
武器(現時点):アイアンランス(ランス)
防具(現時点):レザーライトシリーズ
エイゼさん作の投稿キャラ。少々モブ気味な扱いになってしまったが、後々挽回していきたい。

名前:レノ・フロイト
年齢(現時点):15歳
性別:男性
武器(現時点):骨(太刀)
防具(現時点):ハンターシリーズ
シズマさん作の投稿キャラ。ナディア同様次回で出番を増やしたい。

名前:ディノ・クリード
年齢(現時点):14歳
性別:男性
武器(現時点):ボーンスラッシャー(大剣)
防具(現時点):ハンターシリーズ
mikagamiさん作の投稿キャラ。『〜故郷なきクルセイダー〜』ではクリスティアーネとの縁が書かれていたが、まさかの展開に思わず「何だこれ」と笑ってしまいながらも楽しませていただいた。許可をいただく際詳細な装備の変化や新たな設定も頂いたので、可能な限り活かしていきたいところ。

名前:イボンコ・カーチス
年齢(現時点):30歳
性別:男性
武器(現時点):カーマインエッジ(双剣)
防具(現時点):ギザミZシリーズ
ミナガルデ第88訓練所の教官を勤める現役ハンター。双剣捌きは強烈だが、攻撃に専念するあまりモンスターの攻撃(特に突進系)を回避し損ねて轢かれ、地面に埋もれる姿が度々見られる。そのため同期以上からは「ペタンコ・カーチス」や「イボンコ・ペタンコ」とネタ呼びされ、その都度「バカー!」とキレている。モチーフと名前の由来はイボンコこと子安武人氏とその持ちキャラからで、年齢は後述のシゲマサ共々『ビーストウォーズ』シリーズ初参加時に合わせた物。P2時代の雑誌ではプレイ中他の武器を勧められるも「武器屋で双剣しか扱ってない」「訓練所しまってる」「双剣以外使ったら負けだと思ってる」とバッサリ断っていた旨を同業者が語っている。

名前:シゲマサ・スターチ
年齢(現時点):31歳
性別:男性
武器(現時点):炎斬【灼】(太刀)、夜行弩【梟ノ目】(ライトボウガン)
防具(現時点):暁丸・極シリーズ、コンガZシリーズ
イボンコの同期で、ユクモ村出身。装備相応に実力も備えているが、「調子の良さもG級」と言われるくらいノリも軽い剽軽な人物で、度々新人に声をかけて飲みに誘い、驚かれることもしばしば。普段は『暁丸・極シリーズ』に『炎斬【灼】』の剣士だが、時折『コンガZシリーズ』に『夜行弩【梟ノ目】』を携えたガンナーとしても活動しており、その際初めて組んだ相手には打って変わって黙して変わらず、と見せかけて同一人物と思わなかった相手にいきなり「俺の名を言ってみろ!」と突っかかったかと思いきや、いつもの様に笑いながらキャップを外して正体をバラして驚かすのが鉄板となっており、他に今回は使わなかったが語尾に付ける「じゃん」やボウガン射撃時の「撃つべし!」が口癖。モチーフと名前の由来は同じく高木渉氏から。「こんばんは、豊臣秀吉です」と悪ふざけをやらかしたら後年まさかの大河ドラマに顔出し出演したばかりか、最近に至っては便乗して続けた「こんばんは、徳川家康です」をそっちに取られている。


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()追憶の日々―3

人数調整の都合で更にゲスト増やすことになって余計首絞めることに・・・


 卒業試験当日。訓練生達は船に乗り、ミナガルデから遠く離れた大陸最東部にある『テロス密林』に向かっていた。

 

「うぅ……気持ち悪い……」

 

「船旅は気分が悪いし、プケプケさんはいないしで、最悪ですぅ……」

 

 得物の『ボーンホルン』を横になったベッドの横にたてかけ、うめき声をあげていたヤツマを、エルネアがゆっくり起こして水を飲ませてやる。その横では同じく『ハンターボウⅠ』を横に置いたベッドの上で『ハンターシリーズ』を脱ぎ、身軽な状態の『フィオドーラ』がヤツマ同様横になり、悪態をつく。彼女はウツシが持ってきたカムラの里の周辺に住むモンスターの情報から、『毒妖鳥』と呼ばれる鳥竜種のモンスター、『プケプケ』に興味を抱いていて、是非とも会ってみたいと思っていたが、今回試験会場となる密林には生息していないと聞いて、落ち込んでいたところに船酔いの追い打ちで大分参っているらしい。

 波は小さく落ち着いているものの、両者に限らず、慣れない船の揺れに早々ダウンして、同様に体を横たえたり、窓や甲板の縁から胃の中身を放出する者は後を絶えない。

 

「ふ、船旅とは、こうも大変なものなのですね……」

 

「ってより、単純にあたし達がまだ慣れてないだけじゃないっスか?さっき甲板で教官が余裕で仁王立ちしてたの見たし、船員の人達なんて、全然揺れを感じさせないってくらいスタスタ歩きまわってたっスからね」

 

 ヤツマ達ほど酷くはないものの、椅子に座ってテーブルに突っ伏すクリスティアーネの弱音に、『レザーライトシリーズ』を纏い、大型モンスターをも殴り殺せる腰の巨大な戦槌(ハンマー)『ウォーハンマーI』を壁に押し当てバランスを保つ『レマ・トール』が返す。彼女も当初は揺れる船内に「うぉーー!足元がグラグラするっスーー!」と大騒ぎしていたが、暫くしてこの体勢に辿り着いてからは、一転して落ち着いていた。

 

「まぁ船にしろ車にしろ好き嫌いは分かれるだろうが、あまり移動手段に贅沢言ってらんないだろ。観測所の気球も一気に山を飛び越えるといえ、天候次第じゃ満足に上昇も出来んらしいしな」

 

「ふむ、(それがし)も旅の中で村や街への移動は、基本乗合の車か、己が脚での歩きだったからな。慣れぬ移動も、また修行のうちよ」

 

 少し離れたところで椅子に座っていたディードが動けない面々を見て心配しつつも、拠点となる村や街から狩場への移動手段はどれも一長一短と苦笑すれば、ベッドに座るカツユキもそれに同意する。

 後者が語る様に、この世界における長距離の移動手段は、現在彼等が利用している様な船を使った海路もあるが、陸路に関しては専ら温厚な草食モンスター――中でも生息域が広く、トサカが特徴の大型種、『アプトノス』が一般的だが、寒冷地では同じくらいの体躯で、全身を覆う長い体毛と、2本の長い牙が特徴の『ポポ』が使われる他、ドッシリした風貌に反して臆病な鳥竜種、『ガーグァ』を動力に使う地域もある――に曳かせた車か、徒歩が一般とされている。

 

「とりあえず今は、この船旅が最初で最後の一方通行にならないことを、祈るばかりですね……」

 

 ヤツマやフィオドーラに比べればまだ余裕はありそうだが、同じくベッドで俯せだったナディアが顔を上げて話すように、ハンター自体がそうした業種とあって、この卒業試験は受験者の死亡率がかなり高い。特に自分の実力や撤退のタイミングを見誤り、到底敵わないモンスターに挑んで散る事例は後を絶たず、そうした犠牲を目の当たりにして、デビューを前に折れる訓練生も少なくない。

 

「そうだな。尤も、そうした軟弱者はそもそもハンターになろうとすること自体が間違いだろうが……」

 

「せやけどとりあえず、今ははよう着くのを待つしかないわな……」

 

 まだ余裕とあって、ボーンスラッシャーの点検をしていたディノの苛立ち籠った発言に、反応した同期達は一様に例の先輩訓練生を思い浮かべる。結局彼はイボンコの取り消しを無視し、別の訓練生から参加権を奪って乗り込んできた訳だが、船出間もなく「生意気な後輩」「自分に媚びなければ家の権力でハンターとして活動できなくする」と取り巻きを連れて別室にいたアダイト達に突っかかり、血の気が多いドラコが食って掛かろうとするのを、彼やディードが必死に食い止める様に慌てて逃げ帰り、その後揃って船酔いでダウンしたらしい。その一方シンの言う通り、参っているのは彼等に限ったことではないし、到着するまでできることと言えば、ディノの様な装備の手入れくらいか、外の景観を眺めるくらいしかないのも事実であり、そうした意味でも密林への到着を望んでいた。

 

「ところで、皆は何を狩るつもり?アタシはやっぱり、無理しない程度の大物ってことで、イャンクックかな」

 

 そこに視線を窓の外から仲間達に移して割り込むのは、『ボーンスラッシャー』に『レザーライトシリーズ』を装備した『カグヤ』。かつて故郷ユクモ村の付近に現れた古龍、『アマツマガツチ』を倒した先輩ハンターに憧れており、それを目標に追い付き追い越さんとしてる彼女は、自身の装備の貧弱さや、経験の乏しさを自覚しながらも、新人が頑張れば何とかできそうな相手と判断して、標的にイャンクックを挙げる。

 

「イャンクックですか。確か、ヤクライ様に薦められたバルバロイブレイドは、イャンクックから採れる素材を使いますし、私も狙ってはいますが、運が良ければ、程度の認識ですね」

 

「プケプケさんがいないなら、何か適当にぃ~……」

 

 それを聞いて、かつてヤクライにアドバイスがてら挙げられた対フルフル用武器、バルバロイブレイド製作のために必要な火炎袋(素材)が入手できることを思い出したクリスティアーネが願望感覚で賛同し、目標(プケプケ)のいないことに投げやりなフィオドーラは、未だ回復しないとあって雑に返答する。

 

「何を、っても、別に選んだからって相手できる訳でもねぇからなぁ……」

 

「ですが、やはり力量以前に装備や経験を考慮するなら、ドスファンゴやドスランポスが無難なところでしょうね。逆にガノトトスやラギアクルスのいる危険性がある水辺での戦闘や採取は、途中で襲われない様注意が必要かと」

 

 一方彼女の問いに、正論を交えつつ律儀に答えるのは、レノ同様太刀の『骨』を背負い、『レザーライトシリーズ』を纏った『アカシ・カイト』と、金属製の太刀『鉄刀』を背負い、同じく『レザーライトシリーズ』を纏った『水蓧(ミナシノ)八雲(ヤクモ)』。そこにヤクモ同様『鉄刀』を背負った『バトルシリーズ』の『テリル』と、『ハンターシリーズ』の腰に『アイアンハンマー』を携えた『ビオ』も参加する。

 

「確かここ最近あの付近で目撃されてるのは、ドスランポス、ドスファンゴ、ババコンガ、アオアシラ、ダイミョウザザミ、イャンクック、ゲリョス、イャンガルルガ、ガノトトス、リオレイアだったっけ?」

 

「そうだな。さすがにナルガクルガやジンオウガみたいな、試験どころじゃないようなモンスターは出ないだろ」

 

「むしろ事前にそうしたモンスターが発見されれば、試験開始まで間に合わせるよう他のハンターに狩猟依頼が通達されるはずだ。今からその1歩を踏み出さんとする我々が、その相手をする先輩等のことを気にしたところで、どうこう決まるようなことではなかろう」

 

 それを強引に締めたのは、威力を重視したヘビィボウガンとは逆に、取り回しを重視したライトボウガンの『ハンターライフルI』を背負った『ハンターシリーズ』の『レイン・ファインドール』。彼女が言う様に、テリルが挙げたモンスターのうち、受験者が相手することを想定されているのは専ら『ドスランポス』か『ドスファンゴ』で、辛うじて無茶をしてもイャンクックがギリギリと認識されている。残り――特に『水竜』の異名を持ち、水中を主な生息地とする『ガノトトス』や、『雌火竜』の通称で広く知られ、同種の雄に当たる『火竜』こと『リオレウス』共々飛竜の代表格とされる『リオレイア』、出現が珍しく、あまり遭遇しないイャンガルルガは、あくまで『自身が叶わない存在を見極め、どう対処するか』を判断するための存在とされており、とるべき選択肢としては逃げ一択だけ。むしろかつてイャンガルルガを仕留めたヤクライは、判断と能力が異常だったから為し得たのであって、並の受験者では対峙した瞬間(脱落)は免れないだろう。

 そしてビオが挙げた『迅竜(じんりゅう)』の異名通り機敏な動きを武器とする、体表を黒い鱗と毛に覆われた『ナルガクルガ』や、強靭な四肢を振るい、体毛の摩擦と周囲から集めた『雷光虫』の放電を使って電撃を放つ『雷狼竜(らいろうりゅう)』こと『ジンオウガ』、そしてヤクライが遭遇したイビルジョーが現れたとあっては、碌に強化もされてない貧相な装備の受験生ではどうしようもなく、到底試験どころではない。ヤクライの場合は試験中現れたとあって対処が遅れたが、事前準備の段階でそうした受験生に対処不能なモンスターが現れた場合は、彼等の安全確保のため、先輩たるハンター達に依頼が出され、最悪逃げればなんとかなる様なモンスターだけ残される。

 

「まぁまぁ。何を狩るにしても、まずは合格を目指しながら、警戒を怠らないようにしましょう。複数のモンスターと同時に対峙する可能性だってありますし。それよりそろそろ着きそうですよ」

 

 そこに全身を覆う金属鎧の『アロイシリーズ』を纏い、『アイアンソード』を背負った『ゴウ』が宥めに入る。彼の言う通り、繁殖期の現在は縄張りや繁殖相手を巡ったり、普段以上に食う食われるの様なモンスター同士の争いが各地で多発しており、まだ率いる群れや縄張りを持たなず、戦闘経験も少ない若いモンスターや、争いに敗れた老齢のモンスターのように、遭遇したモンスターが相手しやすい場合もある一方、それに巻き込まれる危険も大きく上がる。そして窓の外に目を向ければ、白い砂浜と、その先に鬱蒼と広がる密林が見えてきた。

 

 

 

 

 

 

「全員船酔いは落ち着いたな?それではルールを説明する!」

 

 ようやく上陸できた面々が調子を取り戻したのを確認したイボンコは、ベースキャンプの設営された海岸部分に、今回の卒業試験に参加する60人を並べ、その前に陣取ると、木製の小箱と布袋を用意し、袋から赤い魚の柄が描かれたプレートを取り出す。

 

「今回のパーティーは、このプレートで決める。それぞれ赤、黄、青の3色で、虫、魚、草、キノコ、鉱石の描かれたプレートが、各色各柄4枚ずつの計60枚ある。1人ずつプレートを引き、同じ色と柄の訓練生でパーティーを組む様に。では、登録番号順に1人ずつ引いていけ!」

 

 説明を終えると共に、残る袋の中身と共に取り出したプレートを小箱に投じ、軽く回してよくかき混ぜてから引かせ、パーティーを決めていく。引いたプレートとメンバーは、以下の通り。

 

・青い虫

ナディア

イスミ

ディード

フィオドーラ

 

「よろしくお願いしますね、皆さん」

 

「大剣が2人に、ランスと弓ねぇ。ま、バランスとしてはいいんじゃないかい?」

 

「そうだな。まぁ、男女比は大分偏ったが……」

 

「そこは気にしない方がいいんじゃないですか?」

 

・赤の鉱石

カツユキ

アダイト

ディノ

レノ

 

「この組み合わせなら、防御は某に任せてもらおう」

 

「頼むぜカツユキ。俺もサポートする」

 

「ならば攻撃は、俺達が主体だな」

 

「恥ずかしながら、この中では俺だけガードができん武器だが、その分奮闘しよう」

 

・黄色の魚

ヤツマ

ベレッタ

エルネア

カエデ

 

「よ、よろしくね……」

 

「大丈夫。攻撃される前に仕留める」

 

「誰も脱落することなく、合格しましょう……」

 

「私がモンスターの注意を引く。その隙に皆で攻撃を」

 

・青い鉱石

ウツシ

アカシ

ゴウ

八雲

 

「太刀が2人に大剣と双剣……随分攻撃的な組み合わせになったな。とりあえずリーチの長い皆には、モンスターの注意を引いてほしい。懐に潜り込めれば、手数で活躍して見せよう」

 

「っし!任せな!」

 

大剣(こちら)のメインに当たる一撃離脱のヒット&アフェイなら、その隙を上手いこと埋めてもらえそうですね。できる限りやってみましょう」

 

「サポートはしますが、あまり無理だけはしないでくださいね?」

 

・赤い草

カグヤ

ビオ

テリル

レイン

 

「なかなかバランス取れてるんじゃない?」

 

「そうだな、盾役がカグヤだけってのは少し不安だが」

 

「そこはもう、火力で押し切っちゃおうよ」

 

「支援は任せろ。事前に弾は揃えておいたからな」

 

 そして

 

「よりによってコイツとかいな……」

 

「完全にハズレ引いたっスね……」

 

「他が気心知れてる分、逆に完全アウェーどころか敵地なドラコ様に比べれば私達はまだマシかと……」

 

「コソコソしゃべるな!全く、何でコイツ等と組む羽目に……」

 

 他の同期達が上手いこと内輪で決まる中、シン、レマ、クリスティアーネの3人は、例の絡んできた先輩――黄色のキノコを引いてその取り巻きと組む羽目になったドラコ曰く、「コネ野郎」と合わせて赤い虫のプレートを引いてしまい、お荷物を背負わされる羽目になってしまう。

 

「目標は当然リオレイアだ!お前等後輩なんだから僕に従って動け!」

 

「とりあえず道中採取しながら、出会った小型モンスターを掃討して、大型モンスターに関しては様子見してから、の流れでいいでしょうか?」

 

「それでええで。さっきも話しとったが、ドスファンゴとかドスランポスでも片付けて、さっさと終わらせよか」

 

「それがいいっスね。試験中のお守りはゴメンっス」

 

「おい無視するな!」




()
他パーティーに関しては抽選ソフトで決めましたが、1度メモ代わりでここに載せてたらパソコンがイカレて消し飛んでやり直しました(ただやり直す前からイスミ&ディードは一緒だった辺り、両者の仲はまさかここから?とか思ってしまったり)
当然メインはクリスティアーネ達のパーティーですが、例え首絞めることになっても他のパーティーにも視点向けていきます。

名前:フィオドーラ
年齢(現時点):11歳
性別:女性
武器(現時点):ハンターボウⅠ(弓)
防具(現時点):ハンターシリーズ
ひがつちさん作の投稿キャラ。地主の貴族の家に生まれた世間知らずで純朴なお嬢様だったが、プケプケに遭遇してからその狩猟に没頭し、「プケプケ来るよ」の一言だけでカムラの里に駆け付けるほど“キモ可愛さ”に魅了された(ただし各所にゲスト出演した際は訓練所時代から没頭してるように書かれているため、本作ではまたもウツシのせい状態になってしまった)。出身地や家系に共通点があった以上にゾラ・マグダラオスの件で将来的にクリスティアーネを新大陸に送りたいと思ったのがきっかけで出番を願った。ネタバレをすると終結後に宴の席でゾラ・マグダラオスの話を聞いて、彼女が帰還する際同行を懇願し、捕獲作戦に参加する流れ。

名前:レマ・トール
年齢(現時点):15歳
性別:女性
武器(現時点):ウォーハンマーI(ハンマー)
防具(現時点):レザーライトシリーズ
Megaponさん作の投稿キャラ。砕けた敬語が特徴で、可憐な容姿に反した怪力の持ち主。実はシン共々割と早い段階から今回のパーティー編成とそこからの展開を考えていて、是非とも登場させたかった。

名前:カグヤ
年齢(現時点):17歳
性別:女性
武器(現時点):ボーンスラッシャー(大剣)
防具(現時点):レザーライトシリーズ
未確認蛇行物体さん作の投稿キャラ。ユクモ村出身で、アマツマガツチを討伐した伝説の先輩を目標にしている。パーティー編成記入の際ウツシが余ってしまい、使い捨てでモブ先輩と組ませるのもどうかと思い追加したメンバーの1人。『特別編 追憶の百竜夜行』本編では翔蟲を使いこなして見せたが、今回は未登場なのでスタイリッシュアタックは自力でやってもらうことになってもうまくこなして見せそう。

名前:アカシ・カイト
年齢(現時点):16歳
性別:男性
武器(現時点):骨(太刀)
防具(現時点):レザーライトシリーズ
魚介(改)さん作の投稿キャラ。『特別編 追憶の百竜夜行』本編では資金難で狩猟笛の『禍つ琵琶』(貰い物)を使用していたが、本来は太刀使いなため、今回は骨を装備している。そのためか演奏よりも打撃を重視するあまり、旋律を切らすこともままある今後出番がある時は太刀で活躍させたいところ。

名前:水蓧八雲(みなしのやくも)
年齢(現時点):16歳
性別:女性
武器(現時点):鉄刀(太刀)
防具(現時点):レザーライトシリーズ
奇稲田姫さん作の投稿キャラ。気刃斬りにの高火力斬撃を最大の武器とする礼儀正しいハンター。時には前線でメイン火力、時には1歩引いて閃光玉や罠で援護もしくは広域化を使用したバフや回復でサポートヒーラー的な立ち位置等パーティに合わせて色々な役回りをこなせる。『特別編 追憶の百竜夜行』本編ではレマとアカシの仲を茶化す軽い様子がメインだったが、今回は両者の仲がそこまで発展してないことや、そうしたことを揶揄うまでの仲でないということで、少し硬めのキャラにした。

名前:テリル
性別:女性
武器(現時点):鉄刀(太刀)
防具(現時点):バトルシリーズ
X2愛好家さん作の投稿キャラ。『特別編 追憶の百竜夜行』本編ではすでに故人だが、別作品では逆に後述のビオが犠牲になった世界の彼女が投稿されている。恥ずかしながら当初彼女の存在を忘れており、『特別編 追憶の百竜夜行』本編に合わせて29人としてしまっていた。

名前:ビオ
年齢(現時点):20歳
性別:男性
武器(現時点):アイアンハンマー(ハンマー)
防具(現時点):ハンターシリーズ
X2愛好家さん作の投稿キャラで、『恐れよ、暴れる竜を。狩れ、友の為に。』の主人公。テリルを食い殺したイビルジョーへの復讐に駆られてこそいるが、『特別編 追憶の百竜夜行』本編で駆け付けた様に、それ以外を捨てるまでは捕らわれていない様子。


名前:レイン・ファインドール
年齢(現時点):22歳
性別:女性
武器(現時点):ハンターライフルI(ライトボウガン)
防具(現時点):ハンターシリーズ
ヒロアキ141さん作の投稿キャラ。キャラは某オペレーターをイメージしているが、未プレイのため再現できているかと聞かれるとぶっちゃけ自信はない。

名前:ゴウ
年齢(現時点):18歳
性別:男性
武器(現時点):アイアンソード(大剣)
防具(現時点):アロイシリーズ
Kio∞さん作の投稿キャラ。大剣を軽々と振り回す剛腕の持ち主ながら、礼儀正しい好青年でもある新人ハンター。応募時点では最低限のテンプレしか記載されておらず、『特別編 追憶の百竜夜行』本編で肉付けされた感じだが、出演許可をもらった際に追加情報ももらったので、それを活かしたい。


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連なる試練ー1

実はここから先が最初に浮かんでたとこでした
メンバーが大分増えた結果、大分肉が付きそうになりましたが


「編成は決まったな?それでは試験を開始する!各パーティー、散開!」

 

 全員がプレートを引き、パーティーが決まったのを確認したイボンコ。回収したプレートを袋に戻すと、彼の号令と共に、受験生達はそれぞれベースキャンプから各地に分散していく。

 あるパーティーは岸沿いに西へ、別のパーティーは聳え立つ崖を登って北上する中、クリスティアーネ達のパーティーは、砂浜が広がる西とは逆に、森へと入っていく東へと踏み入る。

 

「お、モスや。まだ気づかれとらんが、向こうにはブルファンゴもおるな」

 

 入って早々シンが見つけたのは、暢気に鼻を鳴らして地面の匂いを嗅ぎ、好物のキノコを探すブタに似た風貌の小型モンスター、『モス』。苔を意味する名前の通り、体表を覆う苔に紛れて仲間の身体に生えたキノコも食べる食欲旺盛だが、1度攻撃されると執拗に突進し続けてくるため、次のエリアへの上り坂付近で同じ様に地面の匂いを嗅ぐ、似たような性質ながらより大型で攻撃的故危険性も桁違いな『ブルファンゴ』程ではないものの疎まれ、大型モンスター狩猟の際には、揃って戦闘前に掃討される傾向にある。

 

「何かヤバいのばっかっスけど、モスと言えば確かここ、キノコが採れたっスよね。調合用にアオキノコとか欲しかったし、アレ片付けたらついでに薬草とか色々集めとかないっスか?」

 

「おい、それより狩猟を――」

 

「お、そらええな。ほな見つけたついでに、ワイがブルファンゴ片付けてくるわ」

 

「そうですね。では奥の鉱脈で採掘してきますね」

 

 それを見たレマの提案で、例の先輩を無視して掃討がてら周囲での採取をすることに決まると、シンは邪魔されぬようにとブルファンゴに向かい、クリスティアーネもピッケルを取り出し、ベースキャンプからだと死角になっていた北側の崖に回ると、その下にある裂け目へと突き刺し、鉱石を掘り出す。

 

「お、生肉採れた。あとで焼いて食うか」

 

「こっちも特産キノコ採れたっス。いったん納品してくるっスね~」

 

「了解しました。もう少し採取したら東に向かおうと思いますが、如何(いかが)しましょうか?」

 

「せやな、待っとる間の暇潰しくらいにはなろうし、道順としてもそれが順当やろ」

 

「ミナガルデに帰ったら覚えてろよ……」

 

 突進を待ち構える様に溜め斬りを叩き込み、ブルファンゴの頭を真っ二つにして仕留めたシンが、剥ぎ取り用のナイフで解体したブルファンゴの遺体から取り出した生肉と、毛皮をポーチにしまっていると、食用需要の高い『特産キノコ』を入手したレマが納品のため一時撤退し、クリスティアーネの提案で、彼女の前にそびえる崖を登らず、このまま道沿いに進むことに決まる。一方唯一の先輩は、昨年組んだ訓練生と違い、幾ら高圧的に振舞っても一切動じる様子を見せない後輩達に対し、最早口を出すだけ無駄と判断したのか、ボソリと呟いたきり黙り込む。

 しばらくさらに坂を上った先に広がる見晴らしのいい広場の様なエリアにも、特に大型モンスターはおらず、小型の草食モンスター、『ケルビ』が数匹ばらけて思い思いに草を食んでいる。

 

「ここもハズレのようですね」

 

「いや、そうでもなさそうやで……」

 

 仕方ないと諦めつつも、気持ちを採取に切り替えたクリスティアーネを、シンが引き留めた。その理由をレマが尋ねるよりも先に、ケルビ達が一斉に顔を上げ、何かを察したように逃げ去って行き、それから間もなく上空から風切り音が響き渡り、やがてバサッ、バサッ、と羽搏き音に変わる。やがて地響きと共に降り立ったのは、ピンクの口角に折り畳んだ大きな耳、同じく目立つしゃくれ上がった大きな嘴。カグヤが目標に掲げ、クリスティアーネも「運が良ければ」程度に賛同したイャンクックだった。

 『クォゴゴゴゴ……』と軽く喉を鳴らしたイャンクックは、降り立った際クリスティアーネ達に背を向けた状態だったためか彼女達に気づかず、前方だけを見渡して安全と判断したのか、地面を嘴で掘り起こし、土中の虫達を平らげていく。

 

「まさかこうも早々にイャンクックと会えるなんて……」

 

「ちょうどええっちゃええんやろうな……このまま行くか?」

 

「まだこっちに気付いてないみたいっスし、不意討ちするなら……」

 

 余りに都合がいい展開とあって、思わずイャンクックに聞こえない様小声で話し合ってしまう3人。しかしそのチャンスは早々台無しにされる。

 

「ちょうどいい!お前程度この鉄刀の錆にしてやる!」

 

「あ!あのバカ!」

 

 思わずシンが毒づいたように、『鉄刀』を構え勢いよく突撃していく先輩の声に振り返ったイャンクックは、一瞬『キョワアァ!』と驚いたように跳ね上がるも、直後そのまま後方へと羽搏きながら下がり、その風圧で先輩の足を止める。

 

「うわぁ!」

 

「已むを得ません!このまま相手します!」

 

「しゃあないか、行くで!」

 

「やってやるっスよぉ!」

 

 そのままなし崩しではあったものの、イャンクックとの戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 クリスティアーネ達が採取に精を出している頃、他のパーティーも大型モンスター狩猟の準備も兼ねた小型モンスターの掃討や、アイテムの採取をしていた。

 

「おや、今日はようハンターさんを見かけるの。そうかまたこの季節が来たか……」

 

 そんな中、崖を登ったナディア、イスミ、ディード、フィオドーラは、偶々見つけたハチの巣から採取をしようとした矢先、そこにいた竜人族の老人――通称『山菜爺さん』に話しかけられた。

 

「珍しいね、山菜爺さんの方から話しかけてくるなんて」

 

 普段はハンターが近くにいても、話しかけられない限り一切反応しない。それが逆に話しかけてきたとあって、どんな風の吹き回しかと訝しむイスミに対し、当の山菜爺さんは特に動じた様子もない。

 

「まぁそう邪険にしなさんな。毎年この時期になると、今日の様に普段より見る顔が増えての。じゃが一期一会とはよく言うたもんで、その多くはそれっきりになりがちでなぁ……それを思い出すと、つい年寄り心が湧いてしまうわい」

 

「何か意外だな、山菜爺さんもそんな風に感慨深くなる時があるのか」

 

 これまで特に気にかけなかった山菜爺さんの胸の内を聞いて、何とも言えない気持ちのパーティーを代表する様にボソリと漏らすディード。そんな彼を気にせず、山菜爺さんは「そうじゃ、ここで会うたも何かの縁。別に記念と言った訳でもないが、話のついでにこれをやろう」と赤い液体――身体能力向上効果のある『鬼人薬』の詰まった瓶を4人に渡す。

 

「あ、ありがとう、ございます?」

 

「なぁに、おぬし等より先に来たのは皆通り過ぎてったから、手持ちの品も余って追ってな。余り物ですまんが、上手く使ってくれい」

 

 駆け出しには手が届かないアイテムを気前よく渡され、困惑気味に礼を言うナディアを、一切気にした様子もなく「達者での~」と見送る山菜爺さんを背に、「また今度~」と暢気に手を振る最後尾のフィオドーラを待ちながら細道を抜けて、次のエリアへと向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 一方岸沿いに進んだカグヤ、ビオ、テリル、レインは、そのまま外周部分の半分に当たる北部分に到着し、そこで早速初心者の相手として定番な『ドスランポス』と遭遇する。

 

「こっちにはまだ気づいてないようだが、周囲にランポスはいない……まだ群れを持たない個体か?」

 

「ちょっと物足りないけど、対象ではあるし、いかない?」

 

 単体での行動に、産まれた群れを抜けて間もない、放浪個体と推測するレインに対し、カグヤは早くも挑みたいとばかりにソワソワしながら、得物(ボーンスラッシャー)に手を伸ばしながら飛び出そうとする。

 

「おいおい幾らドスランポスだからって逸りすぎだろ。も少し周囲に警戒を――」

 

 そんな彼女をビオが宥めようとした矢先、ドスランポスとは異なる咆哮が響く。咄嗟に目を向けると、対峙していたのはブルファンゴの親玉、『ドスファンゴ』。経緯は不明だが、種は異なれど、同様に率いる群れを持たない者同士でぶつかり合い始めたらしい。

 

「あらら、争い出しちゃった」

 

「ちょうどいい、アタシも混ぜてもらうよ!」

 

 呆けたテリルを横目に、ついに我慢できなくなって飛び出すカグヤ。慌ててレインが呼び止めるもその耳には届かず、已む無く変則的な三つ巴の戦闘を開始する。

 

「おい勝手に飛び出すな!あぁもう、私がアイツを援護する。お前達は隙を見て、分断された方の相手をしてくれ!」

 

「わかった!あんま無理するなよ!」




()他のパーティーの視点も追加で、どこをどうするか結構大変でした
流石にそこで尻切れ蜻蛉にするのもどうかってことで、予定より早いイャンクックの登場にもなりましたが


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連なる試練ー2

特に意味ないけど、密林戦闘BGM『密林の無法者』の30分ループDLしてたんで、時折作業BGMにかけながら書いてみました
あとP2当時の攻略本見て採取ポイント調べてましたが、意外と虫網ポイントが少なかった・・・


 クリスティアーネ達と同じく東に回ったカツユキ、アダイト、ディノ、レノの4人は、坂ではなく崖を横の段差から登り、北上して早々に眼前の光景に足を止める。彼等の前に立ち塞がる様に居座りながら、のんびり体を揺らしているのは、『一角竜』と呼ばれる飛竜、『モノブロス』の頭蓋骨を宿にする生態で知られる、『盾蟹』の異名通りの白い縞の入った赤く大きな鋏が特徴の甲殻種モンスター、『ダイミョウザザミ』。リズミカルにドスドスと地面に突き立てる鋏の先を見ると、褐色の大きな後脚と羽、角の生えた暗緑色の頭と体が特徴の甲虫種モンスター、『カンタロス』を仕留めていたようで、器用に各所を解体しては、口へと運んでいく。

 更にその後ろでは、青い背殻や体毛のアオアシラが、手にしたハチの巣に頭を突っ込んでは、中のハチミツやハチノコを貪っている。

 

「なんか、すげぇ現場に迷い込んじまったな」

 

「うむ、まさか縄張り争いが過熱するこの時期に、種の異なる2体のモンスターが互いを気にせず、1つのエリアで背を向けあって食事を共にするとは……いや、種が違うからこそ、か……」

 

 カツユキの語る通り、2体の大型モンスターが、互いを気にすることなく背を預けて食事をする、ある種異様な光景に圧され、思わず引きも進みも出来ずにいた。この1年で実力をつけたと自負すれど、さすがに今の装備で両者を、それも1度に相手して勝てると思い上がるほど己惚れてはおらず、撤退なり素通りなりしたいところだが、獲物に体を揺らすほどご機嫌なダイミョウザザミも、息継ぎのため顔を出したかと思えば、また頭をハチの巣に潜り込ませるアオアシラも、気付いているかのように時折彼等へと目を向けてくる。

 それを抜きにしても両者共にかなり大柄で、歴戦の猛者と思わせる様なオーラは、明らかにまず自分たち新人が目にするような存在ではないことを、圧で分からせてくるような錯覚さえ感じさせる。

 

「ギルドめ、種類だけで判断したな?こんな奴等、ヒッカケでも試験にいていいモンスターじゃないだろ……」

 

「幸いなのは、どちらも己が腹を満たすことに夢中なことか……」

 

 本来なら一定の成果に裏打ちされた実力者――通称『上位ハンター』でなければ相手にならないモンスターが2体もいるとあって、それを「ダイミョウザザミとアオアシラだから」と見逃したギルドの観測員の不手際に思わず顔を歪めるディノだが、レノが言う通り、どちらも彼等を意識こそすれど、自分達との実力差を認識しているかの様に動じない。おそらく余計な手出しをしなければ、わざわざ食事を止めてまで襲う必要もないと判断しているのだろう。

 

「正直言うと屈辱的だが、その気になりゃ、どっちも容易く俺達をあのカンタロスと同じ状態にできるコイツ等に敵意がないってのは、救いだろうな」

 

「珍しく同感だ。次の獲物にならないうちに、さっさと逃げよう」

 

 普段は他者――主にドラコとぶつかることも多いディノとそれを宥めるアダイトだが、今回ばかりはどちらも彼等の機嫌がいい内にお暇させていただく方にまとまった。それを見計らい、このパーティーにおいて守りの要を担うカツユキが話しかける。

 

「話は決まったな。問題は、このまま引き返すか、横を通るか……」

 

「安全を優先するなら前者だが、後者の方が、他のパーティーと鉢合わせしにくいだろう。2人共、どうする?」

 

 レノの懸念通り、15パーティーがベースキャンプを除く10ヶ所のエリアを巡ってモンスターを探す現状、ここが無理となれば、このままベースキャンプの隣に戻るよりは、北上して海岸に出るか、その手前で洞窟に潜った方が他のパーティーと遭遇し、獲物を奪い合う可能性は低い。

 

「ここは素直に下がって、教官に報告がてら、ベースキャンプ経由で沿岸側に出よう。幾らダイミョウザザミやアオアシラでも、こんなのが居座ってたら危険すぎるし、放置する訳にもいかないだろ……」

 

「うむ、やはりそれが1番であろうな。事情を知らぬ他のパーティーが手を出して自滅する分には仕方ないかもしれぬが、このままでは、余計に被害を拡大させかねぬ。最低でも追い払うか、このエリアを封鎖してもらうかしてもらわねば」

 

「当然だ。ヤクライさんも言ってたが、わざわざ試験(ここ)で目立とうとかあの人を真似ようとかして、余計なリスク負う必要はないからな」

 

 アダイトの決断を聞いてカツユキとディノも賛同し、無言で同意したレノも合わせてそのまま食事を続ける2体から眼を離さずに後退。合否判断のためベースキャンプで待機していたイボンコに事情を伝えると、落第者の救出や遺品の回収のため待機していたシゲマサ達へと伝えられるも、彼等が駆け付けた時には、すでにどちらも食事を終えており、姿を見ると同時に撤収していった。

 

「え、出番これだけ?」

 

「出番はともかく、エリア外に行ってくれたならこっちとしては大助かりだ。一応引き続き警戒しておけ?また変なモンスターが入ってきたり、犠牲が出るかもしれんからな」

 

 

 

 

 

 

 一方ヤツマ、ベレッタ、エルネア、カエデの4人は、北の沿岸部の向かいにある小島で採取に勤しんでいた。それぞれ後方支援が主な狩猟笛、飛び道具の弓とヘビィボウガン、手数重視の双剣と防衛役(タンク)を担当できる者がいないとあって、モンスターの攻撃を妨害し、足止めする必要が生じた。そのため投げることでモンスターの目を晦ませる『閃光玉』を用意してきたが、念のため追加分の材料を集めるべく、衝撃を感じると強烈な閃光を放つ『光蟲』と、それを閉じ込める投擲系アイテムの素となる『素材玉』の材料となる葉が粘液に覆われた『ネンチャク草』と、核になる『石ころ』を集めていた。

 

「うーん、色々捕まえたけど、光蟲は採れないなぁ……」

 

「どうですか?こっちは石ころ、集めましたけど、ネンチャク草は見つかりません……」

 

 光蟲を求めて虫網を振るうヤツマだが、薬剤の原料となる『にが虫』や、名前通り釣り餌に使われる『釣りバッタ』、美しい甲殻から収集家に人気な『ロイヤルカブト』は採れるものの、肝心の光蟲は思う様に見つからない。

 同様にベレッタも素材玉の材料を集めていたが、ネンチャク草が足りず、石ころばかりが余っていた。

 ちなみにエルネアは採取を邪魔する小型モンスター――ダイミョウザザミの幼体『ヤオザミ』や桃色の体毛と色とりどりの頭頂部の毛が特徴な牙獣種『コンガ』をアイアンアサルトⅠで撃ち抜いたり、周囲を飛び交う巨大な虫『ランゴスタ』に毒弾で肉体を飛散させないようにして始末しており、カエデもツインダガーを振るいそれに協力する傍らキノコを採取していたが、双剣は激しい動きでスタミナを消耗しやすいためか早くも空腹を感じてきたようで、火元の折りたたみコンロと、そこから伸びる2本の支柱が一体化した『肉焼きセット』を取り出すと、シン同様道中でブルファンゴから剥ぎ取った生肉をセットし、ハンドルでゆっくりと回しながら焼いている。

 

「よしっ!上手に焼けました……!」

 

 そして焼き上がった『こんがり肉』を勢いよく立ち上がりながら掲げると、そのまま白い目で見てくるエルネアやベレッタを気にすることなくガツガツと(むさぼ)り、腹を満たす。一応穀物粉を溶いて練り固めた、一口サイズで気軽に食せる『携帯食料』が開始時に支給されており、彼女の手元にもまだ支給された分が残ってはいたが、こちらは名前通りの携帯性や保存性を優先した結果、食料として肝心の味に関してはあまり好評とは言えないため、彼女もあまり手を着けたがらずにいる。

 なお2人の視線がキツいのは、単純にいつ大型モンスターが現れ戦闘になるかわからない中、悠長に肉を焼いていたことに関してであり、決して肉を独占していたことでない。

 

 

 

 

 

 

 場面をクリスティアーネ達に戻すと、先手を仕掛けたのはイャンクック。慣性に引っ張られ、土煙と共に多少後退しながら着地すると、身体を縦に伸ばしながら前に傾け、口から鳴き声と共に火炎液と呼ばれる発火性の液体を吐き捨てる様に放つ。

 

「ぐおっ!あっつ!」

 

「シン様!お気をつけて!側面に回って翼膜を狙いましょう!レマ様も火炎液に注意して、足を狙って動きを止めてください!」

 

「了解っス!っても動き止めるんだったら、爆弾でも爆発させればいいんじゃないっスか!?小タル爆弾だったら持ってるっスよ!」

 

「それはまた後でお願いします!今はまだ隙を狙って攻撃していきましょう!」

 

「わ、わかったっス!」

 

 着弾と共に火柱が上がり、咄嗟にバスターソードを盾に防ぐシンにクリスティアーネが指示を飛ばすと、それを聞いたレマが持ち込んでいた『小タル爆弾』の使用を提案する。イャンクックは耳が大きい分音に敏感で、爆発等の大きな音を聞くと暫く失神して、動きを止めてしまう。そこだけ見ると十分攻撃チャンスのようにも思えるが、意識が戻ると興奮して一際暴れ出すため、一歩間違えると却って危険を招く。

 不確定要素――正直に言ってしまえば足手纏い(先輩)がいる状態では危険すぎると判断したクリスティアーネはそれを制止し、体を捻って尻尾を振るった拍子に晒された翼膜にバスターソードを振り下ろし、切り裂く。続けて痛みに怯み、動きを止めた隙を突いたレマがウォーハンマーIを頭に振り下ろし、シンも合わせてイャンクックの右耳を切り裂く。

 

「よくもやってくれたな……食らえ!」

 

 そこに風圧から解放された先輩も参加し、鱗の少ない喉に突き刺した鉄刀を腹にかけて走らせる。傷自体は浅かったものの、踏んだり蹴ったりとばかりに集中攻撃を浴びたイャンクックは、その都度『ギュワァア!』や『クェウゥ!』と悲鳴のように鳴き声を挙げていたが、鉄刀の傷で遂に大きく翼を広げて『ギュワアァ!ゴッファゴッファ!』と吼えだし、その場で足踏みするように跳ねる。

 

「やっべ!怒り出したっス!」

 

「突進に轢かれない様、正面から離れてください!引き続き警戒を!」

 

「言われんでも、ってこっちくんな!」

 

 警告直後自身に向かってきたイャンクックの突進を、右に逃げて回避するシン。そのまま通り過ぎて滑り込んだイャンクックは立ち上がると、頭を振り回しながら火炎液を乱れ撃ちし、更に今度はレマ目掛けて走り寄ると、体を捻らせ噛みつこうとするが、「させないっス!」と反撃の振り上げを喉元に食らい、『キュオワァ!』と叫んで大きく仰け反る。

 

「くそぉ、イャンクック風情がしぶとく暴れやがって……!」

 

「偉そうなこと言うとる場合か!口より手ぇ動かせ!」

 

 再度火炎液の乱れ撃ちで牽制するイャンクックに近づけず、悪態をつく先輩に我慢が限界を超えたシンが怒声を浴びせ、自らそれを体現せんとばかりに落ち着いたイャンクックが次の行動に移る前に懐へと潜り込むと、得物の形状を活かし、翼目掛けて刃先を突き立て、翼膜に穴を開ける。

 痛みに悲鳴のような鳴き声を挙げるイャンクックは最早満身創痍で飛ぶこともままならなず、彼等に背を向けて足を引き摺る様に逃げて行こうとするが、そうは許さんとばかりに彼等の猛攻が襲う。

 

「今ですレマ様!小タル爆弾で動きを封じてください!」

 

「任せるっス!」

 

 クリスティアーネの合図に合わせ、レマが用意していた小タル爆弾を投げつける。イャンクックの背中に当たった小タル爆弾の爆発は、ダメージこそ僅かだが、炸裂音に驚いたイャンクックは『キュオーー!』と甲高い声を挙げながら背筋を伸ばすように動きを止め、失神しクラクラと頭を揺らす。そしてそこに最後のチャンスとばかりにクリスティアーネとシンの溜め斬りに、レマの溜め攻撃に先輩の振り下ろしが決まり、『クェアー……』と弱々しい断末魔の咆哮と共に地に伏せ、動かなくなる。

 

「や、やったっスね……」

 

「ほんまやな。どっかの誰かさんのせいで早々エラい目に()うたが……」

 

「な、なんだよ、勝てたんだからいいだろ!?」

 

 初の大型モンスター討伐を成し遂げ、緊張感が解けて思わずその場でへたり込むレマに、戦犯とでもいうべき先輩を睨み、抗議の声を無視するシン。そして付着した血を払い落とし、バスターソードを背負って早くも腰から剥ぎ取り用のナイフを抜き、イャンクックの死体に突き立てたクリスティアーネが両者に声をかける。

 

「とりあえずは剥ぎ取ってしまいましょう。口論はその後でもできますから」

 

「おっと、それもそうやな。早よ剥ぎ取らんと」

 

「あっぶね、呆けて忘れかけてたっス」

 

 そうしてイャンクックの死体を解体し、ある程度落ち着きを取り戻しかけた矢先、地響きと共に新たなモンスターが現れた。4人が振り向いた先にいたのは、コンガ達の親玉で、特徴的な色とりどりの頭頂部の毛を角の様に固め、長い爪と一際大きな体躯をした『ババコンガ』。大きく両手を上げ、突き出た腹を揺らしながら放屁して威嚇する。




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連なる試練ー3

他のも更新しなきゃとは思うんですが、どうもここ最近これ以外筆が乗らないんですよねぇ・・・


 イャンクックを討伐した達成感に浸る間もなく現れたババコンガ。クリスティアーネ達は咄嗟にいつでも構えれるよう武器に手を伸ばすが、1度前足を地に着けたババコンガは再度立ち上がり、何かの匂いを嗅ぐかのようにしばらく鼻を鳴らしていたが、狙いが決まったのか4足歩行に戻ると鈍重そうな風貌に反し軽々と宙に飛び上がり、シン目掛けて落下する。

 

「うぅおぉ!?」

 

「危ない!」

 

 慌ててダイブするように回避したシンが武器を構えるより早く、クリスティアーネが腕目掛けてバスターソードを振り下ろす。皮膚まで届かず幾らか毛を刈る程度で、大したダメージはなかったようだが、ババコンガは存在を思い出したかのように彼女に向き直り、爪を振り下ろす。即座に構え直したバスターソードの剣身で受け止めることには成功するが、勢いを殺し切れず後退するクリスティアーネ。そこに隙を突いたレマが、横からババコンガの頭目掛けてウォーハンマーIを振り下ろす。

 

「うぉりゃーー!」

 

 しかし体を仰け反らせ避けたババコンガは、2人が相手をしてる間に態勢を整えようと、慌ててバスターソードに砥石をかけるシンを再度狙おうと向き直り、飛び上がる。

 

「ぬおぉお~~!?何でワイばっか狙うんねーん!」

 

 已む無く得物を背負い直し、再度飛び込み回避で避けるが、その後ろで3人に戦線を任せ、逃走しようとした先輩が着地後バウンドしたババコンガに跳ね飛ばされ、断崖から突き落とされる。

 

「う、うわああああああああああああああ……」

 

「あ、アイツ落ちてった……」

 

「ま、まぁお荷物はいなくなったってことで……」

 

 大方3人がババコンガの相手で手が離せないうちに彼等を死んだことにでもして、自分だけ合格するつもりだったのだろうが、皮肉にも逆に自分が脱落することになった。

 そんな間の抜けた末路に呆然としていたシンとレマだったが、「お2人とも、気を付けてください!」とクリスティアーネが放った警告に意識をババコンガに戻すと、今まさに放ち始めた地面を引っ掻く様なラリアットを避け、繰り返すうちにバランスを崩して倒れた隙に合流する。

 

「とりあえず、コイツどないする?このままじゃ引くに引けんで……」

 

「できればやり過ごして逃げたいところですが、この状況では難しそうですね……」

 

「それもそうッスけど、さっきから何でシンさんばっか狙ってるんスかね?」

 

 何とかいったん集まりどうするか相談するが、レマの指摘通り、先程からババコンガは執拗にシンばかり狙い、彼女とクリスティアーネに対しては、最低限の反撃くらいしか反応せず、突き落とした先輩に至っては、一切眼中にない様子だった。現に3人目がけて猛進するダッシュを散開して回避されると、ババコンガは真っ先にシンへと向き直り、再度ダッシュで彼を追いかける。

 

「えぇいこっちくんなーー!」

 

「またシンさん襲われてるッスねぇ……あの人何かババコンガに襲われるような物持ってたッスか?」

 

「確かシン様は先程、ブルファンゴを討伐した際に生肉を得ていたはずですが、まさかそれが……?だとしたらレマ様もキノコを採っていたはずですのに、なぜ襲われないのでしょうか?」

 

 なぜ彼ばかり襲われるのかとババコンガの習性を思い出していた所、「戦闘中でも囮用に設置された生肉に食いつくほど食欲旺盛」とかつて座学で説明されていたことから、おそらく彼が先程ブルファンゴを仕留めて得た生肉目当てに狙っているのでは、と推測するも、同じく主食と聞いていたはずのキノコを採集していたはずのレマが、逆にノーマークなことにクリスティアーネが疑問を抱くと、「あー……」と気まずそうにレマがアイテム事情を説明する。

 

「実は特産キノコを納品した後、一緒に採ってたアオキノコは調合に使っちゃったンスよ……だから今も生肉持ったままのシンさんに比べて、あたしは狙わないんじゃないッスか?もしくは単純に、あのババコンガがキノコより肉が好きだと思うッス……」

 

 果たしてババコンガが先程の嗅ぎ分けでそこまで理解できたのか、あるいはレマの憶測通り単に食性の嗜好かは不明だが、実際彼女の手元には先程採取したキノコがなく、クリスティアーネも鉱石しか採取していないことを考慮すると、未だ逃げ続けるシンの持つ生肉が狙いなのは確定だろう。とりあえず追いつかれる前にとクリスティアーネが得物でダッシュを受け止め、レマが前足目掛けてウォーハンマーIを振り下ろす。毛に阻まれあまりダメージは通らなかったものの、続けて構え直したバスターソードを頭へと振り下ろすクリスティアーネと共に、このままゼエゼエと息切れするシンが落ち着くまでは、足止めに持ち込めるだろう。

 

「シン様!おそらくこのババコンガは先程の生肉を狙っているようです!それをどうにかすれば、一点集中は何とかなるかと!」

 

「ほんまか!?そーいやイャンクックの剥ぎ取りに夢中で、さっきブルファンゴから剥ぎ取っとったの忘れとった……」

 

 息が落ち着いた途端伝えられた自分の失点に思わず驚いたシンは、元凶となった生肉をその場に捨てようとするが、ポーチの中身を確認していったん思い留まる。

 

「すまん2人とも!ちと思いついたことあるから、もう少し足止め頼むわ!」

 

「わかりました!ただなるべく早めにお願いします!このままでは私のバスターソードも、限界を超えそうです!」

 

「頼むッスよー!」

 

 妨害に苛立たし気な咆哮、もとい腹の音で抵抗するババコンガに耐えつつ、引き続き足止めする2人に急かされながらもシンは生肉と共に何かを取り出し、ナイフで刺した肉の裂け目にそれを押し込む。

 

「よし、できた!ほぉれお目当てのモンや!遠慮なく食えい!」

 

 そしてその肉を、崖際に生えた大木の根元目掛けて投げ飛ばす。木にぶつかった肉が地面に落ちた音に振り返ったババコンガは、そこに有った目的の物目掛けて一転してまっすぐダッシュで向かい、上機嫌で平らげると、直前までの暴れぶりが嘘の様にその場で仰向けになって眠ってしまう。

 

「ありゃ、食べたと思ったら急に寝ちゃったッスね」

 

「さっきポーチ見たら、以前拾っとったネムリ草見つけたんねん。せやから眠り生肉作ってみたんやけど、うまくいったみたいやな」

 

 先程シンがポーチから見つけ、生肉に投入したのは、催眠成分を含んだ『ネムリ草』。ミナガルデに近い『森丘』で訓練中に見つけ、採取したものがポーチの中に残っていて、それを使い作った『眠り生肉』を食べたためにババコンガは睡魔に誘われ、熟睡してしまったのだ。

 

「いやー、一時はどうなるかと思ったけど、何とかなったッスね」

 

「そうですね。あの様子ならしばらくは起きないでしょうから、今のうちに……」

 

「うぉ、イャンクック!誰かここで戦ってたのか?」

 

 目を覚まさない様子に安堵し、早速その場を後にしようとした3人だったが、直後来た道の隣からドラコが現れる。

 

「ど、ドラコ様!?なぜこちらに?」

 

「っちゅうか、一緒におったアイツの取り巻きはどないしたん?」

 

「それなんだが、そういや今気づいたが、あのコネ野郎いねぇな」

 

「それなんスけどね……」

 

 彼1人だけのことを尋ねると、逆に件の先輩がいないことに気づかれ、レマが経緯を説明する。それを聞いて「なるほどな。まぁ安否はともかく、アイツにはお似合いの末路かね……」と未だ目覚めず腹を掻くババコンガに呆れた目線を向けていたドラコは、自分の経緯を話し始める。

 彼の班はイスミやディード達同様崖を登って北上後、洞窟内を回って戻ったところにいたドスランポスを相手していた。しかし件の先輩は自分1人が注目を浴びたいがために華のある太刀を選び、自身を持ち上げる彼等には支援も兼ねたガンナーをやらせていた。そのため代わりに組むこととなったドラコに対し、生意気にも自分達に歯向かい、加えてその躍進を期待され注目を浴びる目障りな後輩を気にする必要などないとばかりに、ボウガンの拡散弾や散弾で彼ごとドスランポス目掛けて攻撃を仕掛けていた。

 当然ドラコもやられてばかりではなく、ドスランポスの飛び掛かりを彼等に向かうよう誘導したり、弾が届かない場所に誘導してタイマンを張ったりと抵抗していたのだが、しばらく戦っていた所、突如彼等のいたところから爆発音が響く。てっきり誰かが弾の装填をしくじって落とし、暴発でもさせたのかと思って振り向くと、その先にいたのはリオレイア。そして彼等のいた地点は黒く焼け焦げ、ボウガンや防具の残骸らしき金属や骨の欠片(かけら)が散らばっていた。

 何故ここにリオレイアが来たのかは不明だが、彼等が気付かず火炎ブレスの犠牲になったことを即座に理解したドラコは、思わず自分もその後を追うことを覚悟したが、幸いにもリオレイアは洞窟へと逃げて行ったドスランポスを追って走り出し、慌てて反対側に転がり逃げることに成功。

 しばらく運良く生き延びれたことに実感が湧かず、呆然としていたが、奇遇にも同様に助かっていた弓使いの先輩が恐怖に動けなくなっているのを見つけ、ベースキャンプへの帰還を促し、慌てて逃げて行くのを見送ってからどうするか考えたところ、やはり単身(ソロ)では続行できないと判断し、次回に備えて貯蓄がてら多少寄り道しながら自身もベースキャンプに戻ろうとした矢先、幸か不幸かこうして3人に遭遇したのだ。

 

「そっちもそっちでエラい目に遭うたな……折角やし、残り(モン)でもよけりゃ、あのイャンクックから剥いどくか?」

 

「いや、気持ちはありがたいが、流石にそれはな……そんなセコい真似でお前らと肩を並べて合格なんて、到底胸張ってゴシャハギに挑めねぇよ……」

 

 事情を聞いて憐れんだシンが、特徴的な嘴を始め甲殻や翼膜を剥ぎ取られ、大分無惨な姿になったイャンクックの亡骸を指さし提案するが、パーティー変更の条件としては問題なく、多少状況を前後させて誤魔化すことも可能といえ、ドラコとしてはお情けでもそうした他者の尻馬に便乗する形で成果を詐称する様な真似はできないと、彼の気持ちに感謝しながらもやんわりと断る。しかしこのまままた次回ではあまりにも運がなさ過ぎると、何とか力になりたいクリスティアーネが新たに提案する。

 

「それでしたら、いっそこの4人であのババコンガを狩るのはいかがですか?」

 

「ババコンガ?あぁ、確かにまだそこで、『どうぞ仕留めてください』って言わんばかりに寝てるな。けどお前らはイャンクック狩って、後は戻るだけだったってのに、わざわざ俺に合わせていいのか?」

 

 言われて再度ババコンガに目線を向けたドラコは、自身も戦いしっかり実力を示せるとあって先程より乗り気ではあったが、それでも申し訳なさが強く、シンとレマに尋ねてしまう。

 

「まぁこれがアイツみたいな無縁の奴やったらこのまま無視して帰るとこやけど、同期の(よしみ)ってもんやね。それにイャンクックの素材に加えて、ババコンガの素材も手に入ったんなら、実家(ウチ)への仕送りも箔つくしな。ちと準備に待ってほしいが、ワイはその流れでも構わへんで」

 

「あたしもそれでいいッスよ。ランダムでパーティー組んだからって、あの人と一緒ってのは何かしっくりこなかったッスけど、この4人なら何も問題ないッス!折角だし同期で一緒に合格狙いましょうよ!」

 

 しかし事情を汲んでくれたのもあって、むしろ2人も乗り気でクリスティアーネの提案を推して、すでにシンはバスターソードに砥石をかけている。

 

「……ハァ、わかったよ。それじゃ、改めて頼むぜ。で、まずアイツどう起こすよ?」

 

「できれば爆弾で大ダメージを与えておきたいところですが、今は手持ちに有りませんので、代わりに私達各員のため攻撃を叩き込もうかと。配置と致しましては、レマ様は頭、シン様は私と反対の腕で、ドラコ様には起きてからの攪乱をお願いします」

 

 さすがにここまでお膳立てされて好意を無碍にはできず、苦笑しながらも乗ることを決めたドラコが戦法を尋ねると、同じく砥石をかけていた提案者のクリスティアーネが攻め方を決める。

 

「ええで。ほな起きる前に配置着こか」

 

「っし!1発叩っ込んでやるッス!」

 

「意気込むのもいいが、反撃に注意しろよ。コイツ糞投げてくるからな」

 

 そしてババコンガの前に立つレマの左にクリスティアーネ、右にシンが並んで武器を構え、一斉にため攻撃を叩き込む。

 

『~~~~~!!』

 

 突如叩き起こされたババコンガは、あまりの痛みに顔を真っ赤にしながらもバタバタと顔の前で両手を振り回し、声にならない悲鳴を上げる。そしてパニックのまま両手を腰に回し、腹を突き出す仁王立ちの防御体勢で構えるが、痛みのせいか長続きせず、加えて怒りで消化器官が活性化したのか、放屁と共に4つ足体勢に戻り、眼前の犯人達と向き合うと、再度立ち上がり怒りの咆哮と共に放屁で威嚇し、更にその場で蹲り、3度目の放屁をする。

 

「オイオイ、どんだけ屁ぇこくんだよコイツ……まぁいいか、踊ろうぜ!ツインダガー!」

 

「ここからが正念場です!汚物攻撃には警戒してください!」

 

「アカンアカン、危うく奴の臭い屁ぇ浴びるとこやったわ……さぁて、このままワイの剣のサビと、仕送りの1部になってもらおか!」

 

「そのトサカ、次はぶっ潰すッス!」




()(10.13)ちょっと見直してみたら表記とか展開とかでおかしいとこ(説明の一環でババコンガに気づいたはずのドラコが提案されてからまた気づいたような反応をしてた等)あったんで調整しときました


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連なる試練ー4

無謀ってか欲をかき過ぎかもしれんけど、「立ち絵ほしいな」とか思ってきた
ただこの場合費用全持ちは当然としても他投稿者さんの嗜好やイメージをどう折衷するかってのが難しそうなんだよなぁ・・・
関係ないけど、何故かネルギガンテが周囲をドロドロに溶かすほど発熱しながら迫ってきたり、スラムの横丁みたいなところでヴォルガノスやグラビモスから身を隠したりって、何か色々間違えてね?って夢見ました

何がしたいんだ俺?


 ババコンガが放屁を繰り返していた頃、北の沿岸で、ドスランポスとドスファンゴの争いに割り込む形で両者を相手してたカグヤ達も、両者を相手に立ち回っていた。

どちらも巨体相応の威力はあれど、ドスランポスは噛みつきや飛び掛かり、ドスファンゴに至っては突進以外は密着した相手に対する振り払い位と、イャンクックの様な飛び道具は持ち合わせてない上、それなりに隙も多い。故に洞窟の入り口前にある段差で陣取り、ハンターライフルIで両者と直接対峙する仲間達の援護をしていたレインは、ドスランポスの飛び掛かりを警戒していた余り、攻撃は届かないと思っていたドスファンゴの突進で段差を揺らされ、思わずバランスを崩して後ずさる。

 

「くっ!油断していたか……」

 

「レイン!大丈夫か!」

 

「気にするな!そのままそいつのケツに一撃かましてやれ!」

 

 ドスファンゴを追ってきたビオの心配に大丈夫と返したレインは、装填(リロード)した『Lv2通常弾』でドスファンゴに反撃を放つ。直後「おうよ!」と勢いよく返答したビオが言われた通り真後ろから叩くと、それに怒ったのか勢いよく振り返り、『ブガァーーッ!』と吼えながら突進し、大きく離れる。

 

「うわ、勢いに任せてずいぶん遠くまで走ってったな……」

 

「眺めてる場合か!追いかけるのが無理でも、カグヤとテリルの援護くらい行け!」

 

 浜辺の東部を塞ぐようにそびえる岩場まで走って行ったドスファンゴを、呆れた様に眺めるビオをレインが叱りつける通り、残る2人は反対側の穴が2つ並ぶアーチ状の岩付近でドスランポスと対峙している。主にカグヤが攻撃をボーンスラッシャーの剣身で受け流しつつ、細身で防御出来ない鉄刀のテリルと共に攻撃し、ダメージを与えていたが、一方で2人も時折回避や防御が間に合わずダメージを受けており、防具の各所には、ドスランポスの牙や爪が当たってできた傷が、回避した際付着した泥や草に隠れて見える。

 

「フゥ~、単体といえ、流石に群れを率いる長の資格を持つだけあるね。油断したつもりはないけど、ここまで長引くとは思わなかったよ」

 

「そうだね。それより武器大丈夫?そろそろ大分切れ味も落ちてきたみたいだけど……」

 

「それはお互い様でしょ?まぁ、確かにそろそろ一旦砥いでおきたくなってきたかな」

 

 既に何度もドスランポスを切り付け、攻撃を防いできたカグヤのボーンスラッシャーは刃のダメージが深刻で、最早ドスランポスの鱗に通らず、攻撃しても跳ね返され、却って隙を見せる有様となってしまっていた。テリルの鉄刀も同様に、攻撃の様子は切るより叩くと表現するのが適切な状態で、このままではどちらも(いたずら)に手数や隙を増やすばかりとなり、決定打となり得ない。

 やはり中型といえども、装備もまともに整っていない自分達の様な新人に2体同時は無謀だったかと歯噛みするレインだったが、しかし意外なところから好機が訪れる。対岸の小島で閃光玉の素材を探していたヤツマ達が、採取を切り上げて移動した矢先、この場に遭遇した。

 

「うわ、ドスファンゴにドスランポス!?と、誰か戦ってる?」

 

「ヤツマか!ちょうどいいんだか悪いんだか分からんタイミングだが、見ての通り乱戦状態でな。結構マズいんだわ!ちょっと手伝ってくれんか?」

 

 中型モンスター2体とハンター4人が入り乱れ戦う様子に、思わず驚き固まってしまったヤツマに、武器がボロボロの2人に代わってドスランポスに挑んでいたビオが声をかける。理想としては2体をそれぞれのパーティーで分断し、そのまま相手し仕留めて共に試験合格と行きたいところだが、果たして乗ってくれるかと不安視していた所、続いていたエルネアが前に出てアイアンアサルトⅠを構え、見失っていた彼めがけて突進しようと地面を蹴っていたドスファンゴに『Lv2通常弾』を放つ。

 

「え、エルネア!?」

 

「ヤツマ、早く演奏で援護を。ドスランポスはビオ達に任せて、このままドスファンゴを仕留める……」

 

「援護します……!ヤツマさん、早く演奏を」

 

「閃光玉を使う……!今のうちに、体勢を整えて!」

 

 ヤツマが迷う横で早くも援護を決めた彼女は、そのまま段取りを決めると、弾を装填(リロード)する。残るベレッタとカエデもそれに応じ、前者は同様にドスファンゴを狙い矢を放ち、後者はドスランポス共々こちらを向いたところを狙い、持っていた閃光玉を投げて動きを封じる。

 

「ありがとー!これで安心して砥石が使えるよ」

 

「いやー油断してたね。閃光玉持ってこなかったのは失敗だった」

 

「今のうちに少しでも叩いとくか、レイン!援護頼む!」

 

「言われずとも!ドスファンゴは向こうに任せて、このままソイツを仕留めるぞ!」

 

 ビオが気を引いてくれたと言え、いつ襲われるかとヒヤヒヤしながら武器を研ぐつもりだったところに閃光玉の支援を貰い、笑いながらそれを持参しなかったことを反省するカグヤと、礼を言うテリル。対峙していたビオも、ドスランポスをアイアンハンマーで殴りつけ続け、レインも引き続きハンターライフルIで援護射撃を続ける。

 

「こ、これはもう腹をくくるしかないか……!ええいままよ……!」

 

 遅れてヤツマも覚悟を決めると、ボーンホルンを構えて奏で始め、訓練所での教え通り演奏で仲間達を支援しながら、自身もドスファンゴに攻撃する。

 

「……!体に力が(みなぎ)る……!」

 

 演奏の効果で(たかぶ)ると共に疲れを感じなくなったカエデは、その勢いで双剣最大の武器である手数を生かした攻撃、『鬼人乱舞』を決める。

 

「よし、切れ味回復!」

 

「後はこのまま攻め切る!」

 

 そして得物を研ぎ終えたカグヤとテリルも戦線に復帰し、カグヤがボーンスラッシャーでドスランポスの首を撥ね、遂に戦いが終わる。同時にドスファンゴも鬼人乱舞で脚をやられたところに、ヤツマが眉間にボーンホルンを振り下ろして仕留め、横転して動かなくなる。

 

「何とかなったか、礼を言う。おかげで助かった」

 

「お、お礼なんて……手を貸すかどうか、迷っちゃったし……」

 

 それぞれ倒したモンスターから剥ぎ取りを終え、パーティーを代表してレインが協力への感謝を告げるが、それに対しヤツマは、躊躇してしまった自分が素直に受け取っていいものかと尻込みしてしまう。

 

「とりあえずキャンプに戻って、さっさと合格判定貰おうぜ。あんまりモタモタしてたら、死体の匂い嗅ぎ付けて他のモンスターが来ちまうよ」

 

「その方がよさそうね。あ~あ、狩りたかったなぁイャンクック」

 

「気持ちは分からなくもないが、せめてもう少し装備を整えてからにしろ」

 

 そこに割り込んだビオに急かされ、ベースキャンプに向かう道中、狙っていたイャンクックに会えなかったことを残念がるカグヤをレインが窘める。

 

 

 

 

 

 

 そしてクリスティアーネ達だけでなく、ウツシ、アカシ、ゴウ、八雲も、ドラコの対峙していたドスランポスが逃げ込み、それを追ってリオレイアが入って行った先に広がっていた洞窟の広間で、ババコンガを相手していた。

 

「クソッ!俺の骨じゃ全然斬れん!やっぱ少しは強化しとくんだった!」

 

「無理に攻撃しようとするなアカシ!倒れた時だけ狙うんだ!」

 

 元々切れ味の劣る骨が得物とあって、先程のテリル同様の状態に歯噛みしながらも、必死にババコンガを攻撃しようとするアカシに対し、司令塔ポジションのウツシはそれを認識して宥め、下がらせる。

 1度は探索中ランポスとの乱戦に巻き込まれ、攻撃してきたモスから剥ぎ取った生肉と、麻痺毒を含んだキノコ『マヒダケ』を組み合わせた『痺れ生肉』で動きを封じ、袋叩きにしてみせたものの、仕留めるには至らず、休息のためここに逃げ込んだところを追って寝込みを襲い、追い込んだが、武器が初心者用の低品質で、防具も性能が心許ないとあってか、それでもなお決定打を与えきれず、満身創痍に近い有様のババコンガを前に、じり貧で拮抗していた。

 

「む、皆気を付けてください!糞を投げてきそうです!」

 

 ふとババコンガが尾を丸め、後方を確認する仕草に気づいたゴウが注意を呼び掛ける。直後彼の予感通り、尾を前方に伸ばして糞を投げるババコンガだが、皆事前に警戒していたとあって、投げた先にいたアカシも大きく距離を取って逃げていたために当たらずに済んだ。

 

「ふぅ、相変わらず不衛生で嫌になる攻撃ですね……」

 

「だが逃走しここへ休息に向かった以上、もう少しで終わるはずだ!奴の攻撃に当たらないよう回避を優先して、チャンスを逃さん様に攻め立てよう!」

 

 ババコンガ特有の汚物攻撃に当たりたくないと嫌悪と不快を露にする八雲に、すでにここまで追い込んだ以上、討伐まであと僅かと激励するウツシ。直後自身目掛けて飛び掛かり、プレス攻撃を仕掛けてきたババコンガを横に避け、大きく拡げた左腕に潜り込み脇部分を切りつけていくと、起き上がろうとした直後バランスを崩し、その場で再度起き上がろうとジタバタもがく。

 

「今だ皆!ここで仕留めるぞ!」

 

「了解しました!このまま決めます!」

 

「行きますよ、この溜め斬りで終わらせます!」

 

「骨だって少しは戦えるんじゃー!うりゃー!」

 

 チャンスを逃さんと鬼人乱舞を発動させたウツシに続く形で、八雲が『練気』と呼ばれるオーラを纏わせた『気刃斬り』、ゴウが限界まで力を溜めた溜め斬りをババコンガの右側に回り込んで決め、残るアカシもひたすらに顔を切りつけ、少しでもダメージを稼ぐ。

 そうして袋叩きにしていくうち、遂に限界を迎えたババコンガは、『ゴアァ~~……』と弱々しく吠えると同時に最期に一際大きく悶えて動かなくなる。

 

「ふぅ……何とか皆無事に討伐できましたね。消臭玉は用意してませんでしたが、誰も必要な事態にならなったのは幸いでしたかと」

 

「今回は皆のおかげで何とかなったな。協力してくれて感謝する」

 

「全くですね。そう言えば、かつて人面のババコンガ……と言うより、ババコンガの着ぐるみを着て暴れていた人の話がありましたっけ。何でもドンドルマにいる大長老に並ぶような物凄い巨人だったそうで、戦いの前後に一礼したり、攻撃で紙吹雪を散らしたりしてたそうですが」

 

「とりあえずさっさと剥ぎ取っちまおうぜ。戻ったら早速()(ぱら)って、強化の足しにしねぇとな……」

 

 やっとの思いでババコンガを仕留め、疲れの余りその場に座り込みながら談話し始めてしまっていたところを、アカシの一声で思わず剥ぎ取りを忘れかけていたことにはたと気付いた面々は、それぞれが遺体から素材兼討伐の証明として毛や牙、骨を剥ぎ取ると、そのままベースキャンプへと帰還する。

 

 

 

 

 

 

 一方クリスティアーネ達の方はと言えば、手数やタイミングがシビアな双剣や太刀がメインのウツシ達に比べ、単発の火力に優れた大剣とハンマーがメインのダメージソースとあって、早くもババコンガの身体に傷を刻み、爪を折るだけでなく、角状のトサカも宣言通りレマに潰された末ドラコに斬り落とされ、通常のコンガ同様のざんばら頭にされている。それでも闘志は衰えず、再び腹を膨らませ仁王立ちの姿勢で構えたかと思えば、解除して倒れ込むと共に口臭ブレスを放つ。

 

「チィ!当たらないからよかったものの、漂ってくる匂いだけでも臭ぇな……」

 

 ガードを崩したところをチャンスと懐に潜り込むも、ほぼ真反対に放出されながらも周囲に広がる異臭に思わず攻撃どころではないと腕を鼻に当てて防ぐドラコ。続けて放たれるラリアットに距離を取って避けると、倒れたところ目掛けてレマが横回転の末ウォーハンマーIを振り上げるコンボを決め、脳震盪で身動きできなくなったところに右後脚へとも割り込み、鬼人乱舞を発動させる。

 

「ここまで攻めれば満身創痍のはず……!このまま逃がさず仕留めましょう!」

 

「よっしゃあ!これでお陀仏と逝けやぁ!」

 

 ジタバタと藻掻くばかりで起き上がれないところに、シンが先程イャンクックの翼にしたようにバスターソードの突きを放ち、喉笛を刺されたババコンガは余計苦しげに藻掻く。そこに続くクリスティアーネも振り下ろしで横腹を切り裂かれ、流血の絶えない大きく裂けた傷に鬼人化の切れたドラコが更に切りつけて拡げられ、最期にレマの力を込めた振り下ろしを眉間に叩き込まれ、遂にこと切れる。

 

「フゥ~ッフゥ~ッ……!や、やっと終わったッス~……!」

 

「レマ様、シン様、改めてお疲れ様です。そしてドラコ様、おめでとうございます。これで劣等感や後ろめたさを感じることなく、堂々合格を誇れますね」

 

「あぁ、わざわざ付き合ってくれて礼を言うよ。さ!とっととコイツの毛なり牙なり剥ぎ取って、俺達がコイツを討ち取ったって証明しようぜ!」

 

「せやな!ええ加減ワイもバスターソードも限界や。清算済ませて仕送り出したら、次の儲けの前に、早よ帰って休みたいわ……」

 

 もはやベースキャンプに戻るまで息つく間も惜しいとばかりに、早々と剥ぎ取りを済ませた4人は、軽口を叩く間もなく先程ドラコ以外が採取していたエリアへと向かう。

 しかしそこには、先程通り過ぎた時にはいなかった大型モンスターが佇んでいた。鱗や甲殻がなく、森の中では目立たないくすんだ藍色の皮膚とは対照的に、目立つ鮮やかなピンク色の、ピンと後方に伸びた尾。先端が歪に膨らみ、噛み合わせの悪そうな乱杭歯が覗く嘴に、頭頂部で時折不安定にグラつくこげ茶のトサカ。

 毒怪鳥ゲリョスが、そこにいた。




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連なる試練ー5

特に意味はないけど、ゾロ目にちなんで急遽投稿(折角だし11:22に投稿したかったけど、流石に間に合わんかった)
着手自体は突貫で、細部も変わった部分多いですが、大まかには以前から考えた通りの内容です


「いや~、まさかデビュー戦でイャンクックとババコンガを連続で狩猟することになるとは思わんかったわ~♪」

 

「ほんとッスね~♪この調子で活躍してきたいっすよ~♪」

 

 まだ換算してないが、予想外の獲物から得た素材で仕送りに箔を付けられ、上手くいけば防具もいくつか新調できるとあってか、言葉とは裏腹にほくほく顔のシン。同意するレマも、目立った負傷なく両者の討伐を成し得たとあってか、同じく上機嫌な様子が見て取れる。

 

「お2人共気持ちは分かりますが、だからこそあまり調子に乗ってはいけませんよ?戻るまでどこにどんなモンスターがいるか分かりませんから」

 

 そんな2人を宥めるクリスティアーネも、試験合格と、それに重なる形で目当ての素材――イャンクックに限らず高熱のブレスや液を放つモンスターが有する、可燃性の粉塵が大量に溜まった内臓器官、『火炎袋』を得ることができたとあって、早くもそれを使って作られるバルバロイブレイドに思いを馳せ、坂を下る足取りを軽くしている。

 

「そういやハンターデビューが認可されたら、俺はいったん故郷に戻ろうと思ってるんだが、皆はとかあるか?」

 

 そこに支給品の携帯食料をかじっていたドラコが尋ねる。彼の故郷『ワーニェ村』は、ウツシの産まれたカムラに程近い寒冷地に位置し、かつて村付きのハンターだった村長は、他の子どもの挑発に乗って狩場に赴いた幼いドラコを助けた際に片腕を失い、引退した。以来度々ハンターが赴任するも、そうした土地柄やそのせいで物流の維持が大変なことからなかなか定着せず、希望者もいないとあって、その隙を突いて潜り込むハンターのなり損ないや、左遷宜しく押し付けられる様に送り込まれる素行不良なハンター達に迷惑を被ることも多々あった。

それを見てきたドラコは、百竜夜行の危機に対する技術や人脈を求めてきたウツシ同様故郷のために、そして自分を助けてくれたせいで、ハンターを引退せざるを得なかった村長に代わって、村付きのハンターとなるべくミナガルデを訪れていた。

 

「ふふっ、ドラコ様も郷土愛が強いのですね。私もお父様に認めてもらってからは、そのまま領内を中心に活動していくつもりですよ」

 

「ほぉ~希望赴任先かぁ。あんま考えたことはないが、もうしばらくはミナガルデで活動しよかな」

 

「あたしも特にどこか行きたいってのはないッスねぇ。ただ、カエデさんはベルナ村を希望してたッスよ。確かあそこ、チーズフォンデュが名物らしいッスけど……」

 

 そうして談話しながらエリアに入ると、ドスドスと響き渡る大型モンスターの足音が耳に入り、意識を切り替える4人。

 

「チッ、何かデカイのがいるな。見つからないよう注意しろよ」

 

「おいおい、また大型モンスターかいな。さすがにもう勘弁頼むわ……」

 

 真っ先に気づいたドラコの警告に、シンが疲れた様に返すが、実際軽快な振る舞いに対し、装備のダメージも大きく、支給された『応急薬』なども戦闘の合間で消耗しており、これ以上の戦闘は厳しいと判断せざるを得ない状態にあることは4人とも自覚している。しかしクリスティアーネは相手の姿を見た途端、思わず目を見開き動きを止めてしまう。つい先程自分がピッケルを振るっていた鉱脈を、嘴でほじくるモンスターは、ヤクライが薦めた防具の素材に名前を挙げていたゲリョス。

 ここで仕留めることができれば、バルバロイブレイドに続きフルフルの狩猟に必要な装備を揃えることができる。しかし同伴する仲間達は疲弊し、持ち物もほぼ使い果たしてており、幾ら隣がベースキャンプでも、強行するにはあまりにも不安極まりない。

 思わず「どうしたッスか?」と尋ねてくるレマにも気づかぬほどどうすべきか悩んでしまうが、そうしている間に振り返ったゲリョスが気付き、『ギョワァ~~ッ!!』と悲鳴のような咆哮と共に大きく飛び上がる。

 

「マズい気付かれた!皆逃げろ!」

 

 咄嗟にドラコの放った撤収の掛け声で慌てて引き返し、已む無く先程までいたエリアまで戻る。こうなるとベースキャンプへ戻るには、ドラコの来た洞窟前のエリアから崖を飛び降りるか、そこやエリア北からヤツマやカグヤ達が戦っていた沿岸部を通り、反時計回りに向かうしかない。

 

「まさか今度はゲリョスまで出るとか……いくらモンスターが活発な繁殖期に、存在する大型モンスターを相手してもいいハンター試験だからって、ここまでラッシュで複数種の大型モンスターに襲われるなんて、そうそうないッスよ……」

 

「全くだ。それも対策が容易なイャンクックやババコンガみたいに相手しやすいわけでもないからな……」

 

 遭遇前から一転して、疲れ果てた様子で座り込むレマに同意するドラコが語る様に、ゲリョスは大型モンスターの中では非常に厄介な存在として知られ、単純な力押しでの狩猟は非常に難しい。ヤクライが薦めた通り、絶縁性に優れたゴム質の伸縮自在な皮膚のおかげで踏んだモンスターをマヒさせる『シビレ罠』が効かず、自らも閃光を発するためか閃光玉も効果がない。更に『狂走エキス』と呼ばれる体液のおかげで無尽蔵のスタミナを誇り、毒液を吐き散らしながら縦横無尽に暴れまわるため、近接武器では足を止めるタイミングを掴めず、非常に狙いづらい。

 

「とりあえずゲリョス(アイツ)は無視して、ベースキャンプにはこのまま岸沿いに戻ろう。それでいいな?」

 

「ええで。いくらベースキャンプの隣やからって、強行突破にはキツ過ぎるわ……」

 

「それがいいッスね。このまま相手していいモンスターじゃないッス」

 

「…………」

 

「クリスティアーネさん……?さっきからどうしたッスか?」

 

 ドラコの代案に即答する2人に対し、バスターソードの持ち手を掴み、黙り込んだままゲリョスが居座るエリアの方を眺めるクリスティアーネ。しかしレマが再度尋ねると、悔し気に首を横に振り、手を降ろす。

 

「いえ、確かに今の私達には、無謀極まりない相手ですね。わかりました、撤収しましょう。ゲリョスにはいつか挑まねばなりませんが、都合が合いましたら、その時はお願いいたします」

 

「よかったわぁ。今さっきのアンタ、諦め切れんくてそのまま挑みにいきそうな様相やったで……」

 

 事情は知っていると言え、この流れで挑むべきではないと皆が判断する中、最後までどうするか悩んでいたが、折角達成した合格を賭けてまでは危険すぎると判断し、遂にクリスティアーネは諦める決心を着けた。




()ちょっと前にたつのこブラスターさんがロックされて、『モンスターハンター ~寒冷群島の紅き鬼狩り~ 』が読めなくなってた・・・
折角もらってた感想も表示されなくなっちゃったし・・・


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試練の傍ら

恥ずかしながら世代的に触ったことすらないスラッシュアックスの立ち回りが分からんせいで、全然ディードを動かせないまま今まで放置しておりました
流石にあのままじゃいかんだろってことで、いい加減今回書くに当たり、簡単に動画で確認しましたが、果たしてうまくできてるか・・・
後表現的に段々苦しくなってきたんで、今回からエリア番号載せます


 ドスランポスとドスファンゴを分担して仕留めたカグヤ達とヤツマ達が、ベースキャンプに帰還する際に通ってから少しして、西沿岸部――エリア4にて、ナディア達が対峙しているのは、イャンクック。

 ただしクリスティアーネ達が相手したイャンクックと違い、体を覆う甲殻は桃色ではなく、うっすら緑がかった青色をしている。『青怪鳥』とも呼ばれるそのイャンクックは、極稀にみられる『亜種』と呼ばれる特殊な個体で、通常の個体に比べ、高い身体能力を誇る。そんな強敵に早くも遭ってしまった4人だが、それでも彼等の闘志は衰えなかった。

 

「うぉおりゃー!」

 

 雄叫びと共にディードが放った鉄製試作剣斧Iの斬り上げを喉元付近に叩き込まれたイャンクック亜種は、『グォウ!』とむせ返る様に呻きながらよろめき、数歩後退する。そこに間髪入れず追い打ちをかけるべく、イスミがバスターソードIの横薙ぎを右足に放ち、転倒させる。

 

「っし、コケた!このまま追い込むよ!」

 

「了解しました!フィオドーラさんも引き続きそのまま援護してください!」

 

「言われなくても!このまま決めますよ!」

 

 そこに彼女の作ったチャンスを逃さず続くべく、後方に陣取りアイアンランスで防御を固めていたナディアも攻めに転じ、その後方にて彼女に守られる形で援護射撃をしていたフィオドーラも、それまで気を曳いて隙を作る程度に留めていた攻撃の手を、ここぞとばかりに激化させる。しかし1番激しいのは、頭目がけて斧状態の鉄製試作剣斧Iを一心不乱に連続で振り回して攻撃するディードだろう。

 

「でりゃりゃりゃりゃりゃー!」

 

「気合十分なのはいいけど、逃げるタイミングも見計らっときな!そのまま下半身だけになったあんたの姿なんざ見せるんじゃないよ!」

 

「わかってるさ!っと、そろそろいったん失礼しとくか……」

 

 やがて頃合いを見計らったディードが退くとほぼ同時に、未だ痛むのか、斬られた右足を庇うように立ち上がったイャンクック亜種は、クリスティアーネ達と戦っていた個体同様大きく翼を広げ、『ギュワアァ!ゴッファゴッファ!』とその場で跳ねながら吼え、首を大きく振り回しながら火炎液を周囲に撒き散らす。それを回避や防御でしのぐと、羽搏きと共に大きく後退してから突進してきたところに再度攻めに転じ、着々とダメージを与えていき、甲殻や鱗を破壊し、肉を裂いていく。

 

「さすが亜種、と言ったところでしょうか。まだ逃げて休む様子はないですね」

 

「ま、逃げないってことは逆に、まだ攻撃のチャンスがある、ってことさ。むしろ逃げる間もなくここで仕留めるくらいのつもりじゃなきゃ、他の連中やモンスターに獲られちまうよ」

 

「そうだな。何としてもこのまま討伐しないと、合格できんからな」

 

「そうですよ!さっさとハンターデビューして、プケプケ狩りに行きますよー!」

 

 瀕死の有様でも、なお怒りのまま暴れまわるイャンクック亜種。それに対し4人はそこに抱く思いは各々異なれど、この場で倒す意思を同じくして、なお攻め続ける。やがてイスミのバスターソードIに嘴を砕かれ、フィオドーラのハンターボウⅠの乱射で翼を穴だらけにされ、飛んで逃げることも出来なくなったイャンクック亜種に、ディードの属性解放突きとナディアの突き上げがそれぞれ顔と胸部に刺さり、それがトドメとなり、遂に『クェアー……』と弱々しい咆哮と共に倒れる。

 

「はっはっは!まさか試験で亜種を仕留めちまうとはな。こりゃ結構な大手柄だろ」

 

「ま、自慢するにゃ十分だろうね。カグヤ辺りは突っかかってきそうだけど……」

 

「何はともあれ、早速剥ぎ取りましょう。売るなり装備に使うなりにしても、優秀な素材ですよ」




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試練の終結

場面的にも区切りがつくし、年を締めるんならこっちのがいいと思い、間に合いませんでしたが即行ながら書き上げました
来年こそもう少しましな生活ができるようにしたい・・・


 エリア1に現れたゲリョスから逃げてエリア2に戻ったクリスティアーネ達は、そこから隣接した往復路を通ってエリア5にまわり、そこからベースキャンプ前に聳え立つ崖の上に着く。

 

「何とかここまで来れたッスけど、やっぱここから降りるって考えるのは、思わず肝が冷えてくるッスねぇ~……」

 

「まあ、まだいるよその班がどれだけいるかはわからんが、ソイツ等や他のモンスターとかち合うよりは、こっから下の砂浜に飛び降りた方が、ずっと安全だろ。俺がさっき会ったリオレイアや、あそこにいたゲリョスが、先回りや移動先に来てるかもって考えりゃ、さっさと帰れるに越したことはねぇよ」

 

 この先で広がる絶景についつい怯えるレマに対し、まさに回り道で通ったエリア5でリオレイアに襲われかけたドラコ。シンとクリスティアーネも口にこそ出さないが、後者に同意して飛び降りる準備をしていると、先程ナディア達に鬼人薬を贈ってからも地面を漁り続けていた山菜爺さんが4人に気付く。

 

「おや、ハンターさん達か。こっちに来たということは、試験は終わったのかね?」

 

「おぉ、せやで爺さん。自慢やないけど、イャンクックにババコンガと、結構な戦果やねん」

 

 言葉に反し、誇らしげなシンが、イャンクックから剥ぎ取った『巨大なクチバシ』をポーチから取り出し、山菜爺さんに見せる。

 

「ははぁ、そりゃあすごいのぉ。試験で早々に2体のモンスターと対峙するとは、さぞ大変じゃったろうに……そうじゃ、(ねぎら)いっちゅう訳でもないが、これを持ってきなされ」

 

 モンスターのこない安全地帯と言え、常にフィールドで活動している分その脅威は充分認識しているようで、思わず遠い目をしていた山菜爺さんだったが、ふと正気に戻ったように意識を切り替えると、籠から回復薬を取り出し、配っていく。

 

「ちと質は低いが、すぐ飲むなら、あそこのハチの巣からハチミツを採りゃ、調合で質を上げれようて。戦闘後に手間をかけさすのは申し訳ないが、そこは勘弁しとくれ」

 

「お、すまんの」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「まぁ、手持ちの応急薬や回復薬も使い切っちゃったし、貰えるだけ感謝ッスよ」

 

「だな。リオレイアやゲリョスにだって遭ったんだ、それを考えりゃ毒を浴びずに逃げきれただけ、運がいいってもんだ」

 

 それぞれ礼と共に別れを告げ、折角なのでと言われた通り、付近のハチの巣からハチミツを採取してから、崖を飛び降りる形でベースキャンプに帰還した。

 

「うぉ!まさかこっち戻るのにあの崖飛び降りる奴がいるとは思わなかったぞ」

 

 その着地音に驚き、駆け付けたのは、ババコンガを仕留めて戻り、同じく帰還していた同期達と談話をしていたアカシ。彼に続き他の面々も何事かと見にくる中、イボンコが最前に立って迎える。

 

「よく戻った……と言いたいところだが、メンバーが開始前の班分けと変わっていることについて説明貰おうか」

 

 既にドラコが元居た班はリオレイアに襲われ、半分が犠牲になったことを唯一生き残って逃げかえった先輩から聞いていたイボンコは、まず彼が他の面々を率いていた例の先輩の代わりにいる件を問い詰める。

 

「それに関しては、私から説明を。彼はエリア2でイャンクックを共に倒した後、偶々襲ってきたババコンガの攻撃に巻き込まれ、エリア外に転落しました。その後眠り生肉で眠らせ、撤退しようとしたところにこちらを訪れたドラコ様と合流し、そのまま倒しました。証拠たる素材は、こちらに」

 

 それに対し1歩前に出て事情を説明したクリスティアーネは、イャンクックから剥ぎ取った『怪鳥の甲殻』や火炎袋と共に、同じくババコンガから剥ぎ取った『桃毛獣の毛』や『桃毛獣の牙』を取り出し、残りの面々も、それぞれが剥ぎ取った鱗や毛、骨等の素材を見せる。

 

「……なるほど、奴の安否は警備、救助担当のハンターに任せるとして、戦果に嘘がないのは確かの様だな。よかろう、お前達4人も合格だ」

 

「っしゃあ!やったで!」

 

「無事ハンターデビューッスー!」

 

 イボンコの合格判定に歓喜するシンとレマ。そんな2人を見て「やれやれ」と首を振るドラコも、安堵したような笑みを浮かべながらクリスティアーネに感謝を伝える。

 

「ハハ、相変わらず賑やかだなアイツ等。ま、おかげで俺も達成できたぜ。ありがとよ」

 

「いえ、お互い無事合格できて何よりです。ところで、他の皆様はもう皆戻られましたか?」

 

 そして先に戻っていた仲間達に目を向けると、代表してウツシが報告を入れる。

 

「いや、君達であと1班だ。まだアダイト達だけ戻ってない」




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狩人としての幕開け

結局筆が進まなくなったんで、一旦投稿しときました
今度こそ試験編完結にしたい・・・


 同期の中では唯一帰還していないアダイト達の班は、そうとは知らず、洞窟内のエリア7にて、ランポスの巣が広がる南側で今まさにとあるモンスターと対峙していた。

 

「まさかコイツがいたとはな……」

 

「すまぬ、こやつの機動力が相手では、鈍重な某は少々足手纏いになるやもしれぬ」

 

「気にするな、その前に閃光玉で落として封じるさ」

 

「来るぞ!皆気を付けろ……!」

 

 直後散開する4人の間を風と共に通り抜けるのは、発達した前足の爪と頭上の巨大な角が目を引く、一際巨大な甲虫種のモンスター、『アルセルタス』。『徹甲虫(てっこうちゅう)』の異名を持ち、さすがにランゴスタ程ではないものの巨体ながら自在に空を舞い、角や爪で相手を仕留める。しかしある意味その機動力以上に厄介かつ危険なのは、同族のメス、『ゲネル・セルタス』の存在だろう。『重甲虫(じゅうこうちゅう)』の異名通り、アルセルタスとは対照的に羽を持たず、先に鋏を備えた尾を振りながら陸を闊歩する巨躯は、到底同族の雌雄とは思えないが、アルセルタスを特殊なフェロモンガスで呼び寄せ、自身の機動力を補助させると共に、空腹時の非常食にする恐ろしい性質を持っており、ただでさえ高い単体での戦闘力に加えて、危険度を上げる厄介な要素となっている。

 幸い先に来ていた他の班が狩り尽くして間もないためか、付近にランポスはおらず、同時にゲネル・セルタスも姿が確認されていないが、アルセルタスがいる以上いつ現れてもおかしくなく、逆にこのアルセルタスが誘引されて向かう可能性を考慮すると、早急に仕留めるに越したことはないだろう。

 

「今だ!取り囲め!」

 

 角を突き出すように構え、4人の間を通り過ぎたアルセルタスが戻り、誰を狙おうかと吟味していたところに、ディノが号令をかけると同時に閃光玉を投げる。直後発される強烈な光に目を晦ませたアルセルタスは仰向けで墜落し、身動きが取れずにいるところを事前に構えていた4人が集中攻撃を叩き込んでいく。カツユキは飛翔を封じるべく羽の付け根をアイアンランスで突き刺し、アダイトは角に跨り顔をハンターナイフで切りつけ、ディノは爪を叩き潰す様にボーンスラッシャーを振り下ろし、レノも残りの足を斬り落とさんと骨を振るうが、アルセルタスは目を覚ますと同時に飛び起き、引き下がった4人に前足と頭を振り上げで威嚇する。

 

「たかが虫けらと侮れぬとは覚悟していたが、さすがにデカいだけあって、そうやすやすとは仕留められんか……」

 

「だな、ランゴスタみたいにアッサリバラバラにできたら苦労しねぇよ」

 

 骨を構え警戒するレノに、同じくハンターナイフを手にしたままアルセルタスを睨み続けるアダイトが、軽口を叩きながらも攻撃する隙を窺っていると、足の間から腹部を突き出し、4人目掛けて先端から腐食液の球弾を連射して攻撃する。

 

「これは分が悪い!しばし失礼させてもらう!」

 

「こればっかりは仕方ないさ!ランスは格段に相性悪いからな……」

 

 どっしりと構え、仲間の盾となる普段とは打って変わって逃げに徹するカツユキだが、ランスや片手剣のような敵の攻撃を受け止め、隙を見つけて反撃する戦闘スタイルの武器を使うハンターにとって、アルセルタスに限らず装備を溶かしてくる腐食液系の攻撃は、ディノがフォローする通り受け止めてはならない厄介な物と言える。

 実際アルセルタスが振り下ろした爪を左腕の盾で受け止め、大きく後退したアダイトも、続けて先程同様腹部を突き出し、今度は腐食液を霧状にして周囲へと噴出するのを見るや、「やっべ!」と慌てて剣をしまい、走って距離を取る。その隙を突いて飛び上がったアルセルタスは、彼等が近接攻撃しかできないのをいいこととばかりに、上空から腐食液の球弾を撒き散らす。

 

「クソ!いやらしい真似してきやがる」

 

「もう1回くらい撃ち落としたいが、誰か閃光玉残ってるか!?」

 

「ならば某にお任せを!先の醜態、これで返上する!」

 

 南北に一直線で、壁がない側面には底の見えない暗闇が広がる一本橋状の地形と相まって、大きく動きを制限される4人を挑発する様に上空を飛び回るアルセルタス。その足止めにとカツユキが投げた閃光玉で再度墜落したところを攻撃していくうちに、ディノが溜め斬りで角をへし折り、続いてレノとアダイトが2人がかりで右の爪を斬り落とすことに成功した。

 

「大分ダメージを与えられたようだな。後はこのまま仕留められれば……!」

 

 地面に落ちた爪を見てレノが呟くと共に、起き上がったアルセルタスが怒りを表すかの如く残った左の爪を振り上げながら吼える。それをアダイト目掛けて振り下ろす前に、「させぬ!」とカツユキが割り込み、アイアンランスの盾で防ぐと共に、カウンターの突きを放ち、左の爪を腕の途中から砕いてみせる。

 

「助かったぜカツユキ!」

 

「礼には及ばぬ!これもまた、先の醜態を払拭する一環よ」

 

 既に相手は武器をほぼ失ったとあって余裕を見せてやり取りをする眼前の両者に対し、こうなれば当然それしか攻撃手段がないのもあってか、アルセルタスは残る武器たる腐食液を放つべく腹部を突き出すも、それも彼等が対応する前にレノが脚を1本切り捨てたことでバランスを崩し、横転して失敗する。

 

「これで、トドメだ!」

 

 そして顔面目掛けてディノが横薙ぎを叩き込むと、ボーンスラッシャーで喉まで縦に割かれ、真っ二つとなった顔が左右に分かれたアルセルタスはこと切れる。

 

「終わったか……」

 

「やっとだな。まあこれで満足してる場合でもないだろうけど」

 

「当然だ。むしろやっとスタートラインに立った証だぞ」

 

「左様。まずはその証明のために、こ奴の素材を剥ぎ取り、持ち帰らねばなるまいな」

 

 既に命尽きながらも、未だ残った脚や左右の顎がピクピクと痙攣するように動き続けるアルセルタスの骸を前にした4人は、感慨に耽り、労う様に一撫ですると、軽口を叩きつつも甲殻や羽を剥ぎ取っていく。

 

 

 

 

 

 

 一方ベースキャンプでは、既に合格判定を貰った面々が4人の帰還を待っていた。

 

「アダイト様達、ご無事でしょうか……」

 

「大丈夫ッスよ。こうして皆で待ってるってことは、ちゃんと生きてるってことッスから」

 

 心配を声に出すクリスティアーネに対するレマの返答は、一見雑に見えるが、彼女なりの信頼であり、実際お目付け役のハンター達がリタイアした訓練生や、犠牲となった訓練生の遺体や遺品を回収してきたが、そこに彼等の姿や装備はなく、回収不能の報告も入ってない以上、逆説的に彼等の生存、かつ未だ試験に挑み続けていることを証明している。

 

「にしてもイャンクックにババコンガなんて、初っ端から結構な大金星じゃないの。こっちなんてドスファンゴをヤツマ達に任せて、それでもドスランポスに大苦戦したからね~」

 

「あれはお前が無計画のまま戦闘中の両者に喜々(きき)と突っ込んでいったせいだろうが。運よく順番に来たのを相手したコイツ等と一緒にするな」

 

 そこにそれぞれ対峙したモンスターの話で盛り上がっていたところで、シンから戦果を聞いていたカグヤが絡んでくるのを、レインが止める。

 

「そ、そうですね。ただやはり惜しむべくは、相手をするには装備やアイテムが足りなかったと言え、ゲリョスを前に逃げの一手を取らざるを得なかったことでしょうか……」

 

「そこはしょうがないッスよ。解毒薬すら持ってなかったんスから、遭遇自体想定してなかったアクシデントだった以上、あの場じゃむしろ逃げの一手が正解ッス」

 

「そうだな、『帰ろう、帰ればまた来られるから』だっだか?そんな感じで、今度はしっかり準備してきゃいいんだよ」

 

 自分も戦いたかったイャンクックに加え、おまけでババコンガまで倒してみせたことを羨むカグヤに苦笑しながらも、クリスティアーネはその帰り道で最後に遭遇したゲリョスに対し、事実上姿を見ただけで撤収したことを悔やむも、レマとドラコは無理に相手しようと突っ走らず、未練を断ち切り帰還した決断を称賛する。

 

「レマ様、ドラコ様……ありがとうございます」

 

「気にするなよ。事情や種類は違えど、俺もお前も相手したいモンスターがいるんだ。声かけてくれりゃ協力するぜ」

 

「お、いいねえ!その時はアタシも混ぜてよ!」

 

「お前はまず装備を整えるところからだろうが」

 

「そ、それもそうですね。私も装備やアイテムを揃えたいですし、ついでと言うわけではありませんが、しばらく一緒に素材集めしませんか?」

 

 己が好敵手と認識したゴシャハギに挑みたいドラコと、仕留め父に実力を示すべくフルフルを、そしてそのための装備を揃えるにあたりゲリョスを狩りたいクリスティアーネ。前者の言う通り目的も標的(ターゲット)も異なるが、特定のモンスターを狙う者同士の親近感に、割り込むカグヤも込みで今後の予定を話していたところに、突如周りがざわめきだしたのに気づいたレインがディードに尋ねる。

 

「急にどうした?」

 

「ああ、ようやくアダイト達が戻ってきたんだ!どうやらアルセルタスと戦ってきたそうだ」

 

「アルセルタス!?それもそれで結構なおお手柄じゃん!」

 

「お前何が相手でも首突っ込んでくな……」

 

 他人の成果を聞いてはそれに興奮するカグヤに呆れながらも、ドラコに並んでレマとクリスティアーネも戻ってきたアダイト達の元に向かう。既にそれぞれアルセルタスから剥ぎ取った羽や甲殻をイボンコに見せた4人が無事合格判定を貰ったことで、見事同期全員が合格する形で試験も終了する。

 

「見事だお前達!今回の参加者60人中、合格したのはお前達30人だけだ。だがこれで終わりではない、むしろ始まりだということをしっかり頭に叩き込んでおけ!そしてこれからのハンターとしての活躍、期待しているぞ」

 

「っしゃあ!やったで!こりゃあめでたいわ!」

 

「俺達30人全員が無事デビューか、感慨深いもんだぜ」

 

「そうだな、早速故郷(カムラ)の皆に吉報を伝えがてら、顔を出しに行くか……」

 

 各員がハンターデビューに歓喜する中、当然クリスティアーネも静かに噛み締めていた。同時にゲリョス、更にはフルフル狩猟を目指し、改めて気を引き締める。




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旅立つ狩人

これにて訓練所編はようやく完結です



「それじゃ、俺達全員のハンターデビューを祝って――」

 

「「「「「「「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」」」」」」」

 

 密林での卒業試験を無事同期全員が合格で終え、ミナガルデ第88訓練所に戻ったクリスティアーネ達は、在庫処分も兼ねて、残っていた食材を使い、豪華な料理で祝賀会を開いていた。各員シモフリトマトと砲丸レタスをあえたサラダや、カジキマグロの半身を豪快に炙ったタタキに舌鼓を打ち、年長者達はクリスティアーネの故郷、ゼークト領に近い『フラヒヤ山脈』一帯の雪解け水で作られる『フラヒヤビール』に酔いしれる中、音頭を取ったアダイトがクリスティアーネに話しかける。

 

「よ、お疲れさん。イャンクックにババコンガと、結構な連戦だったらしいな」

 

「アダイト様こそ、アルセルタスを相手にお疲れ様でした。あとはこの剣でゲリョスを仕留め、防具も揃えれば、フルフルに挑む準備は万全です……!」

 

 そう語る彼女が手を伸ばした背中には、戻る道中でハンターが入手したモンスターの素材や、採取した鉱石等を使って装備を作成、強化する加工屋に立ち寄り、製作してもらったバルバロイブレイドが真新しさを語る様に輝いている。とはいえ彼女も、この武器1つだけで容易にゲリョスを狩れるとは思っていない。

 イャンクックの吐く火炎液や、ババコンガの放屁、投糞などの汚物攻撃の様に、モンスターごとに警戒すべき攻撃が多くあるが、中でもゲリョスは単純な強さや危険性こそ先の両者に並ぶ程度と決して高くはなく、むしろ低い方に位置しながらもそれが多く、単純に警戒が難しいがために受けるダメージも高い死に真似から放つ騙し討ちを始め、口から吐く毒液に、トサカとくちばしを打ち合わせて放つ強烈な閃光、そしてアイテムを盗み取るついばみ攻撃と、手数の多さだけならフルフルなどのより生態的地位の高いモンスター以上に相手が難しいとされている。

 幸い騙し討ちは警戒を怠らず、毒液なら解毒作用のある『げどく草』と、薬効を持つ『アオキノコ』を混ぜ合わせた『解毒薬』を準備、閃光は武器での防御に、盗み共々防具の持つ特殊効果の1つとして発動する『スキル』などそれぞれ対策方法はあるものの、厄介なことにスキルを含め、どれ1つとしてまとめて対処可能とはいかない。加えてスキルを追加するのに必要な装飾品は、それぞれベースとなる『原珠』を始め、様々な素材を要するとあって、駆け出しの彼等彼女等には、スキル1つ分でも手が出にくい。

 

「防具といやぁ、何か希望はあるのか?」

 

 そこに割り込んできたのは、『北風みかん』のジュースが入ったジョッキを手にしたアカシ。防具は装飾品と比べても高価かつ必要素材が多く、中には身軽さを重視してインナーのみで活動するハンターもいるものの、身を守ることを考えるならむしろそれを揃えなければ、ハンターとしてやっていけないとさえ言えるくらい重要な物であり、武器共々ハンターの実力を示すとあって、愛着を持って長いこと同じ防具を身に着けるハンターもいれば、対峙するモンスターや赴くフィールドごとに切り替えるハンターもいる。

 

「盗みに関しては現状対処は難しいですが、閃光は防御出来ますので、候補としては毒への耐性を高めるイーオスシリーズを考えてますね。少々準備は大変ですけど、同じ毒を使うモンスターなので、多少は予習にもなるかと」

 

「なるほどな。俺は閃光対策優先でランポスシリーズにするつもりだったが、ある程度バラけてた方がそれぞれ対処しあえるだろ」

 

 それに対しクリスティアーネが挙げたのは、生息地や毒を武器にする点などが類似する、赤い体躯と膨らんだ鼻先が特徴の小型鳥竜種、『イーオス』の素材を使った防具、『イーオスシリーズ』。彼女の言う通り、大剣なら剣身で閃光を防げるため、残る盗みと毒のうち、後者を無効化できるスキルを有するため、ゲリョスに限らず毒を使うモンスターには有効とされているだけでなく、同じ小型鳥竜種の素材を使う防具でも頭1つ性能が高いこともあって、そうした意味ではイャンクックの素材を使った『クックシリーズ』と並んで駆け出し向けの防具と言える。

 一方割り込んできたドラコが挙げた『ランポスシリーズ』は、閃光の目晦ましを無効化できるため、防御できない双剣を使う彼には適切と言えるだろう。

 

「へぇ~、結構考えてるんだねぇ……アタシはどうしよ。装備的にはクリスティアーネに合わせた方がよさそうだけど……」

 

 続けて帰還前に宣言した通り同行するつもりのカグヤが、防具をどうするか悩みだしたところに、「あの、1つよろしいでしょうか……?」とクリスティアーネがそろそろと手を上げる。

 

「ん?何かあったか?」

 

「いえ、今更ではありますが、自分の名前ながら、少々長くて呼びにくいのではと思いまして……皆様、よろしければ、クリスと略してお呼びいただいてもよろしいでしょうか?」

 

 彼女が切り出したのは、自身の呼ばれ方について。決して嫌いではないが、他の面々と比べても自身の名前が長いことは自覚しており、そのせいで多少呼びにくそうにしていることが時折あったことから、家族から呼ばれている愛称を提案してみたところ、「え、いいのか?」と逆にアダイトが尋ねる。

 

「はい。むしろそれくらい気軽に読んでいただける方が、同期の好とも言いましょうか。ある種の親しさを感じれるような……そんな気がするんです」

 

「オッケー!そういうことならこれからもよろしくね、クリス!」

 

 了承を貰うや否や、早速呼びながら肩を強く叩くカグヤ。それまでは予想できず、思わず驚いた拍子に「ひゃっ!」と叫んでしまったクリスティアーネを見て、「ちょ、それはいきなりすぎだろ!」とアダイトが注意する声に、それぞれで飲食や会話をしていた他の面々も「どうした?」と顔を向ける。

 

「あぁ~、いや……クリスティアーネが名前長いからって呼び方提案してくれたんだけど、早々カグヤが調子乗ってやらかしてさ……」

 

「え、アタシのせいなの!?」

 

「実際そうだろ。あんな叩かれ方したら呼び方問わずビビるわ……」

 

「まぁ、あんま気にしなくていいぜ。お、カジキマグロまだ残ってたか。俺にもくれ」

 

 彼の事情説明で不服そうにカグヤが声を挙げるも、ドラコはそれを当然と聞き流しながらジョッキに口をつけ、アカシも軽く流すと、カエデに食べ尽くされぬうちにと、残っていた料理に手を付ける。




()書いてる途中で結構飲み物に関する資料がなかったのがネックに・・・
食材と料理の関連も確認しきれてなかった・・・


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雨曝しの肉食竜狩り

ようやっと駆け出し編スタートです
追憶の百竜夜行までは長い・・・


 昼は雨が降り続け、降り止む夜には泥中で腐敗した植物からにじみ出た毒が、洗い流されることなく各所に湧き上がる『クルプティオス湿地帯』。クリスティアーネ達はその1角、地図で言えばベースキャンプを北上してすぐのエリア5で、複数の小型モンスターと対峙していた。

 

「さすがに都合よくイーオスだけとは思わなかったが、まさかゲネポスと縄張り争い中だったとはな……」

 

「ですが、どちらが勝とうとこのままでは付近の交通が危険なのは変わりません。申し訳ありませんが、双方まとめて殲滅しなくてはならなそうですね……」

 

 対峙している2種の肉食竜は、どちらもランポスの近縁種で、緑とオレンジ色の縞模様に、それぞれ1対の口外にまで伸びている牙、眉の様なトサカが特徴の『ゲネポス』と、毒々しい赤の体色に、瘤のように膨らんだ鼻先の『イーオス』。

 先日の試験でハンターとして正式なデビューを迎え、それを機に強化した『ツインダガー改』を構え、両者に睨みを利かせるドラコに対し、応じるクリスティアーネも手にバルバロイブレイドを掲げ、隙を窺う彼等を威圧する。

 

「元よりそのつもりさ!でなきゃミナガルデはもちろん、そこから各地の村への通商網が破綻しちまうからな」

 

「アンタは相変わらずお人よしだね。ま、今回はそうした事情とあってか、なかなかに支払いもいいみたいだけ、マシではあるけどさ」

 

 双方の群れに囲まれながらも、怯えるどころか依頼を紹介されてから義憤に駆られ、意気揚々と強化して間もない『鉄製試作剣斧Ⅱ』を構えるディードに対し、相変わらずだと呆れるイスミも、周囲を取り巻く彼等にバスターソードIを向ける。

 牙や爪から分泌される麻痺性の毒で獲物の身体の自由を奪い、生かしたままの相手を苦しめながら貪るゲネポスに、ランゴスタやカンタロスなどの甲虫種なら容易く仕留める毒を喉付近で生成し、吐瀉(としゃ)や噛みつきで獲物に浴びせるイーオス。2種の肉食竜と1度に対峙することになった発端は、集会所での依頼受注までさかのぼる。

 本来はクリスティアーネの希望で、協力がてら帰省の旅費稼ぎも兼ねて同伴していたドラコと共に、クエストと称した自由散策のような形式の『素材ツアー』でイーオスを狩猟するつもりでいたが、その際受付嬢から、付近を通る行商隊(キャラバン)が「交易ルートの付近でゲネポスとイーオスの群れが衝突して少々危険な状態らしいので、確認して事実だった場合どちらも駆除して周囲の安全を確保してほしい」と依頼を出していた件を紹介され、無碍にはできまいと言え駆け出しの身には荷が重過ぎやしまいかと、それを受けるかどうか少々相談することにした。

 しかし飲食や、同じく依頼を受注しに集会所を訪れていた、アダイトや八雲等手の空いていた同期達に協力を求めるより早く、日銭を稼ぎに同じく素材ツアーを受けるつもりだったディードが、偶然流れで説明を耳にした途端、「それは一大事だ!」と真っ先に名乗りを上げ、同伴していたイスミも彼の目付を口実に参加を申し出たため、この顔触れとなった。

 そして各員がベースキャンプで支給品を受け取り、発って早々にゲネポスとイーオスの縄張り争いを見つけ、そこに割り込んで三つ巴となり、今に至る。

 

「これ以上睨み合っても埒が明きませんね……仕掛けます!皆様もお気をつけて!」

 

「いいぜ、攪乱とトドメは任せろ!」

 

「悪いな、恨みはないが、流通のために犠牲となってくれ!」

 

「さあ、一気に決めようかね!」

 

 それまでどちらも威嚇するように吼えるだけとあって様子見に徹していたが、流石にこのまま時間が過ぎるままとはいかないとあって、遂にクリスティアーネの号令で攻勢に転じる。彼女が1歩踏み出しながら放った横薙ぎで、前方にいたゲネポス達を突き飛ばすように払い除けると共に、起き上がる前にドラコが潜り込んで首を斬ったり、喉に剣を突き立てたりとトドメを刺していく。

 反対側では、ディードとイスミの斬り上げに運悪く巻き込まれたイーオス達が宙を舞い、当たらなかったイーオス達は、跳躍で後退すると共に頭を下げ、喉に溜め込んだ毒液を吐きつける。しかし切り下がりで何体か犠牲を増やしながらディードが後退すると共に、入れ替わりで前に出たイスミが剣身で防ぎ、更に突進斬りで前に出たディードが迎撃する。

 

「ドラコ様!危ない!」

 

「うぉ!ありがとな!」

 

「決め時だよディード!」

 

「あいよ!コイツで最後!」

 

 そしてドラコの後ろから飛び掛かってきたゲネポスをクリスティアーネが斬り上げでかち上げると共に脚を刎ね、距離を取って毒を吐こうとしたイーオスをイスミの号令に応えるディードが二連斬りで払い除けてそれぞれ仕留め、全滅させ一息つく。

 

「ふぅ、結構思ったより多いな。何体仕留めた?」

 

「数えちゃいないけど、どっちも大体十何体かってところかい?まぁ、剥ぎ取りながら数えりゃいいか……」

 

 額の汗を拭い、死屍累々な周囲を見渡すドラコに、イスミも砥石で得物を研ぎながらある意味尤もな方法を投げ槍に放ち、今まさにそれを実践しているクリスティアーネやディードに続くべく、砥ぎ終えた得物を背負って手近な遺体に歩み寄る。

 

 

 

 

 

 

「ゲネポスが13体にイーオスが10体……結構大規模な群れだな」

 

「だがこれで終わり、って訳じゃないんだろ?コイツ等の親玉も残ってるみたいだしよ……」

 

 それぞれの遺体から鱗や皮、牙を剥ぎ取ったディードがその数に内心驚いたように漏らすと、即座にドラコが返すが、彼の言う様に、それぞれの群れを率いるボスたる『ドスゲネポス』や『ドスイーオス』を始め、まだ討伐対象は残っている。

 

「その親玉なんだが、どっちも厄介そうだよ。ドスゲネポスははぐれ連中の軍団が周囲の群れを手当たり次第に従えみたいで、大分規模がデカいそうだ。一方のドスイーオスなんだけど、こっちはソイツ自身が結構デカいらしくて、単体(サシ)でイャンクックとやりあって仕留めたとか、ファンゴやコンガの群れを襲って、全滅させた下っ端を手下連中が貪る中、自分はハンティングトロフィーよろしく親玉の骸に食らい付いてたのを観測所の気球が確認してるってさ……」

 

 そこに荷物整理のため1度キャンプに戻っていたイスミが、追加で送られたらしい依頼書を持って現れる。彼女がそれに記載されていた双方の群れの長の特徴を読み上げると、それを聞いたドラコは、「安請け合いにも程があるだろ……」と非難の目をディードに向ける。

 

「しょうがないだろ、万が一行商隊(キャラバン)がコイツ等に襲われてたら、それだけで各地の通商に大打撃が入るんだから」

 

「ま、確かに(やっこ)さん方も片付くまで不安で出発できないってたからね。ただこの依頼、1週間近く前に出たらしいんだけど……」

 

「やはり別個ならまだしも、大量のゲネポスとイーオスに、それぞれの長も込みとあっては、幾ら通商に滞りが生じてもさすがに割に合わない依頼と敬遠されていたのでしょうね。一応その素材が欲しかった私としては、幸か不幸か渡りに船とも言えたところでしたが」

 

 ディードの危惧も尤もだが、発注からそこそこ長いこと放置されていたことを告げるイスミとは逆に、剥ぎ取り後付近で採取をしていたクリスティアーネが答える様に、依頼人(クライアント)行商隊(キャラバン)はそこまで大きくはなかったとはいえ、その片方だけでもピンポイントで素材を狙っていた駆け出しな彼等にはともかく、ある程度蓄えと実績を積み、依頼を選り好みできるようになったハンターからすれば、彼等なりに奮発したつもりでも、不釣り合いと判断されてしまったのだろう。

 とはいえ受けてしまったものはしょうがないとばかりに、依頼書を畳んでポーチにしまったイスミが軽く伸びをするとともに切り上げる。

 

「とにかく愚痴ってても仕方ないさ。イーオスシリーズ作りたいってんなら、早いところ連中仕留めて、たんと素材持って帰りな」




()ドスゲネポスの群れは参考にしたwikiにも載ってた話なんですが、ドスイーオスに関してはイャンクックより金冠サイズが上って部分から大分盛った感が・・・


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冷狡(れいこう)蛮猛(ばんもう)

ネコで盛り上がる投稿日に反してアイルーガン無視
でもって意外に登場人数が少ないと少ないなりにセリフの配分が難しかったり・・・


 湿地帯北部に広がる草原区域、エリア8。そこを覆う丈の高い草の中で、横たわるイャンクックの遺体を(むさぼ)っていたほぼ同じサイズのドスイーオスが、同胞(イーオス)の血や、それに混ざった様々な金属や獣の匂いに気付き、遺体の腹に開いた大きな穴から顔を上げる。

 潰れた左目や、先端の欠けた下顎、ディードが振るうスラッシュアックスを思わせるトサカを始め、身体の各所に多数浮かぶ傷が、潜り抜けた修羅場を示すかの如く目立つ巨体に反し、僅かな差異も見逃さない、高い危機察知能力で群れとその身を守ってきたドスイーオスは、まさにそれの告げる迫り来る危機が「ハンター」と呼ばれていることは知らずとも、他の生物の鱗や甲殻、金属でできた()()に、同じ材質の外殻(防具)を纏った彼等の脅威は、身をもって知っている。

 

『ギュゴァアアッ!ギュゴァアアッ!』

 

 即座に周囲で同じく草に紛れ、ブルファンゴやコンガ、ランゴスタにアプトノスと、多様な獲物を口にしていたイーオス達に呼びかけると、顔を上げた彼等を連れ、東西の2か所ある出入り口のうち東側を通り、中心部にあたるエリア4に向けて移動。そこから低い段差を飛び越えて、北東へと走り去っていく。

 彼等が選んだのは、撤退。これ以上に犠牲を出してでも縄張りを守るより、一縷の望みを抱いて新天地を目指し、そこでの再起を狙うつもりの様だ。

 

 

 

 

 

 

 一方そうとは知らないクリスティアーネ達は、ぬかるんだ泥地のエリア5から足元が幾分しっかりした森林地帯のエリア6に北上し、そこでモスを襲っていたイーオスと対峙していたが、突如何かを感じとったように視線を逸らし、エリア8へと走り去っていく姿を見送る。

 

「なんだ?連中急に逃げてったぞ?」

 

「大方、向こうにいた親玉に呼ばれでもしたんだろうねぇ。ドスゲネポスとでもかち合ったんじゃないかい?」

 

「何にしても、この先は確かめなきゃならんだろうな。一応閃光玉は、調合分も込みで可能な限り持ってきたが、足りることやら……」

 

 それまでの攻撃態勢から一転して、敵前逃亡ともとれるイーオスの行動に疑問を抱いたドラコに、他の敵と遭遇した群れへの加勢と見立てたイスミが答え、ディードも念のためといつでも投げれる様に閃光玉を手に、先頭を進んでいく。

 しかし踏み入れた先には一面に草が広がるばかりで、時折その合間から見つかるのも食い荒らされた死体のみと拍子抜け状態のまま横断した4人は、ドスイーオスどころかイーオスさえも一切目にせぬままエリア4に着き、一体何ごとかと困惑してしまう。

 

「っかしいなぁ……イーオス共どこ行ったんだ?」

 

「仕方ありませんね。見つからないのでしたら、ドスゲネポスから先に探して撃破しましょうか」

 

 思わずガシガシと装備越しに頭を掻くディードに、クリスティアーネは已む無く次の目標たるドスゲネポスに狙いを移すことにし、南東にある段差に飛び移り、そこから移動する。

 

 

 

 

 

 

 南部に広がる森林地帯の一角。腹どころか手足も骨だけになる程食い荒らされ、バラバラに分散したアプトノスの死体が複数横たわるエリア2では、その周辺で屯するゲネポス達に混じって、2~3回りほど大きな体躯をしたドスゲネポスも2体眠っていた。

 残りの仲間と結託して、他の群れを統率するドスゲネポスを仕留めて乗っ取りを続けてきた彼等は、足を踏み入れたハンター達に対しても最早敵なしと慢心を示すかの如く動じなかったが、周囲で威嚇する配下のゲネポス達の声を聞き、仕方なさそうな様子で大あくびと共に起き上がると、大きく身をかがめ、早々に意識を臨戦態勢へと切り替える。

 

取り巻き(ゲネポス)も多数いますが、まずは2体……」

 

「結構な数だこと……早速コイツの出番かね」

 

 武器を構えて前に出るクリスティアーネに続き、再度取り出した閃光玉を握り、投げる準備をするディード。

 

「ちょいと周りの奴等は不安要素だが、ここは4人でまとめて相手するより、2対1のフォーメーションで行こうか」

 

「そうだな。どうにもできねぇ以上、ひとまず奴等の牙には引き続き警戒しねぇと……」

 

 それに続く形でイスミも閃光玉を取り出して2人の横に並び、そしてドラコが攪乱に駆け出さんと最前に立つ。

 

「悪く思うな。テメェ等にゃ俺達がゴシャハギやゲリョスに挑むための犠牲になってもらうぜ……行くぞおおぉぁあ!!




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()削り合う麻痺牙と鉄牙

艦これのイベントに夢中ですっかり更新できてませんでした・・・
終ったら終わったでモチベーション湧かないし・・・


 火蓋を切ったのは、ディードとイスミが投擲した閃光玉だった。ドスゲネポス達は、光蟲の放った強烈な光を直視してしまい、運よくディードが投げた初弾を免れた者も、時間差で続いたイスミの次弾を浴び、朦朧とした彼等はその場で情けない声を上げながらフラフラと前後に揺れるか、その拍子に足を踏み外して倒れ、起き上がることも出来ずにいる。

 

「っし!まずは周囲のゲネポスから仕留めて、少しでも横槍を防いどくか!」

 

 下手に乱戦となれば、圧倒的少数の自陣が不利になるのは明確。加えて彼等の爪や牙に仕込まれた麻痺毒は、掠っただけでも動きを封じられるとあって、真っ先に切り込んだドラコは、闇雲に周囲を攻撃することも出来ず、悶えるだけのゲネポス達の喉笛を切り裂いて、次々と仕留めていく。続けてクリスティアーネやイスミ、ディードも、他のゲネポス達の首を狙って仕留めたり、足を攻撃して動きを封じたりと掃討していくが、2体いるうちの片方--気持ち体が大きく、目の上にあるトサカのうち、左側の先端が欠けたドスゲネポスが、視界を取り戻したように首を左右に揺らすと、援軍を呼ぶように『ギュオア!ギュオア!』と天高くに向けて咆哮を挙げる。

 

「ちっ!他の連中まで来たか!すまんが、誰か追撃の閃光玉頼む!」

 

「分かりました!今投げますのでご注意ください!」

 

 何とか周囲のゲネポス達を全滅させ、ようやっとドスゲネポスに挑もうとした矢先、洞窟から新手のゲネポスを連れて駆け付けたドスゲネポスの姿に、思わず悪態をつくドラコ。その要請を耳にしたクリスティアーネが、まだ視界を取り戻していない、少々小柄で鼻先に傷のあるドスゲネポスを斬り上げで大きく仰け反らせたところに片手をポーチへと伸ばし、取り出した閃光玉を投げつける。

 直後輝く3度目の閃光は、洞窟から出たばかりで、まだ視界が暗闇に馴染んでいた援軍には一際効果的だったようで、『ギュオワァ!』と一際悲痛な悲鳴染みた声と共に、何体かは踵を返して洞窟に戻ろうとするも、見当違いな方向に走り出しては、あちこちで躓いて横転する。

 

「まさかこうも早く他のドスゲネポスが来るとはね……とにかく今は、先にいた奴からだ!」

 

 急速な群れの肥大化に慢心していると思いきや、意外と用意周到な援軍の配備に悪態を吐くイスミ。それでも手にしたバスターソードIを振るい、先に視界を取り戻したトサカの欠けたドスゲネポスの噛みつきにカウンターの横薙ぎで押し返す。彼女を見下ろせる体躯のまま、力任せに上から()し掛かる要領で押さえつけて突き立てようとした麻痺牙を片方()し折った一撃は大分効いた様で、『ギュオォオ!ゲギャア!』と大きく仰け反りながら数歩後退するドスゲネポスの悲鳴は、一際大きく聞こえた。

 

「っし!何とか片方折ったよ!そっちは!?」

 

「やるじゃないか!こっちは……お?逃げ出したぞ!?」

 

 その報告を聞いて真っ先に称賛を返すディードが、対峙していた鼻先に傷のあるドスゲネポスに視線を戻すと、クリスティアーネが振り下ろしたバルバロイブレイドを横腹に受け、彼等に背を向けエリア4へと逃げ出すところだった。

 

「ってことは瀕死みたいだな、ならこっちに加勢してくれ!折角多対1に持ち込めたんだ、今のうちに数の有利活かさねぇとな……」

 

「わかりました!今参ります!」

 

 既に周囲のゲネポスは掃討し、残るドスゲネポス2体の片割れが去ったとあって、好機とみなしたドラコは遊撃や挑発から集中攻撃に切り替え、逃げた方と対峙していたクリスティアーネとディードにも参戦を要請する。そして即答と共にクリスティアーネのバルバロイブレイドを背に叩き込まれたドスゲネポスは、『ゲギョ……ガァ……!』と弱々しい呻き声をあげ、先程イスミに対したのとは逆に、押し潰される様に膝をつき、息絶える。

 

「よし、まずは1体……とりあえずコイツ等から剥ぎ取って、さっさと逃げたドスゲネポス追うよ」

 

「そうだな。これだけ仕留めりゃ、素材の方もたんまり集まるだろ。まぁ、余ったら売っ払って、旅費の足しにでもするか……」

 

「先に追うなら、一旦ベースキャンプに戻ってから湿地に逃げた方を優先すべきかと。洞窟の方はそちらが済んでから探索して、まだ残っているようでしたら、挟撃と行きましょう」

 

「事前に封鎖できれば楽だろうが、今のとこそっちのが堅実そうだな。さすがに依頼が依頼だから、追加の支給品も欲しいとこだが……」

 

 普通ならこれで終わりとなるところだが、仕留めるべきドスゲネポスはまだ複数体残っている。時間も物資も余り悠長に過ごせる程ないとは言え、下手に急いては却って危機を招きうるため、軽い談話も交えながら鱗や牙、皮を剥ぎ取っていき、その合間に応急薬や携帯食料を口にする。




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()黄泉路の洞窟

放置してる間にまた艦これのイベント始まったけど、捜索共々全然手が出ねぇ・・・


 ベースキャンプに戻った一行は、ポーチの整理と消耗品の補充を済ませ、再度エリア5に着くと、そこからエリア4へ向かおうとしたところで、逃走したドスゲネポスと遭遇する。

 

「タイミングよく鉢合わせたな。今度は取り巻き連中もいないから、楽に片付きそうだぜ!」

 

 早速ツインダガー改を構え、懐に潜り込んだドラコに対し、抱えるにも噛みつくにも無理があると判断したドスゲネポスは、咄嗟に後方に跳躍して距離を取ろうとするが、そうはさせぬと回り込んだディードの突きで上空へと大きく払い上げられ、『ガギャアァッ!』と悲鳴の様な咆哮を発する。

 間もなくドサリと音を立てて落下したドスゲネポスは、最早起き上がる余力もない様で、地に伏したまま口と瞳孔を大きく開き、激しく胸を上下させていた。

 

「は、ハンターでも攻撃次第では、モンスターを吹き飛ばせるんですね……」

 

「やっといてなんだが、随分哀れな姿にしちまったな……」

 

「この様がかわいそうってんなら、アンタが責任取ってさっさと楽にしてやりな」

 

「分かってるよ。すまんな、最後にとんでもない一撃決めちまって」

 

 弱り果てたドスゲネポスを思わず憐れんでしまうディードにかける言葉が浮かばず、見たまま漏らすクリスティアーネに対し、容赦なく介錯を促すイスミだが、それが彼女なりに見せたドスゲネポスへの慈悲と敬意と理解し、謝罪と共に剣モードに変形させた鉄製試作剣斧Ⅱを振り下ろし、ドスゲネポスの首を撥ねる。

 

「何か後味悪くなっちまったな……悪いな、嫌な役させちまって」

 

「気にするな、自分の不手際を片付けただけだ。さあ、コイツも剥ぎ取りを済ませて、残りを相手しに行こうぜ」

 

 切り込んだ自分が生んだ流れと謝罪するドラコを宥めるディード。思いがけぬモンスターの姿に沸いた罪悪感を、『ハンターなら今後も、何ならもっと早く目にすることもあった光景』と押し殺した一行は、改めて残るドスゲネポス達を仕留めるべくエリア4へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 エリア4の東に開いた洞窟の入り口から僅かながら漏れ出す中の冷気は、外の雨と湿気に負け、すぐに打ち消される。それでも前に立てば十分体に当たり、不快な温度差を生むため、一行はそれへの対策として持参したホットドリンクを口にする。

 

「それでは私とドラコ様はこちらから中に入りますので、イスミ様とディード様は、先程のエリア2側からお願いします」

 

「で、エリア9の方に逃げる奴がいたら、今度は俺とドラコがここから出て、互いにエリア6へ、だな。任せな」

 

「そんじゃ、いったん失礼するよ」

 

 事前に決めていた割り当て通り、クリスティアーネとドラコはそのままエリア3へと入って行き、残ったイスミとディードは横にある段差を登り、先程ドスゲネポス達が出入りしたエリア2にある洞窟へと向かう。

 雨風が入らず、毒沼も発生しない洞窟内は、昼夜ともに環境が変化壁面から生えた巨大な水晶が光源となっているため、薄暗いながら視界も確保できているとあって、一見不安定な外と比べ格段に暮らしやすそうだが、足元は壁や天井からも滲み出た水でぬかるみ、行き場のない湿気が充満するせいで不快な熱気がこもる一方、それに僅かな熱を奪われ、気温もぐんと下がるとあって、好き好んで長居する生物は少ない。

 増してや――今回は不在だが――この環境に適応したフルフルにとっては絶好の狩場とあって、基本見かけるのはそうした不快感を気にしないランゴスタやカンタロスなどの甲虫種か、雨脚や外敵から逃れるための一時しのぎに来たアプトノスやケルビ、或いはそのついでに湿気で育ったキノコや土中の虫を探すモスやブルファンゴくらいのものだろう。現にドスゲネポス達は、危険な相手が現れたとあって引き上げたようで、二手に分かれて突入した4人が合流した先には、運悪くドスゲネポス達と鉢合わせた拍子にそのまま犠牲となったであろう、無惨な姿となった先の面々しか残っていなかった。

 

「傷や血の様子から見るに、やられてから結構経ってるみたいだが、洞窟の冷気が天然の保冷庫状態になってたみたいだな。ついでにいい狩場になってたからって、大分仕留めてたようだし……」

 

 主にエリア2から付近の水場に来る獲物に気付かれないようにするためか、奥にある水晶の付近や、その向かいに無造作に集められた複数の亡骸。特にサイズは考えず、仕留めた順に寄せ集めていったようで、地面から水を吸って不気味に見膨れ上がった、こちらを虚ろな目で見るモスの顔がケルビらしき細い背骨を被り、その上に他の骸が積もって、1番上には腹の大きな穴が目立つ、四肢のないアプトノスがもたれかかっている。

 

「器用な真似をするもんだ。だが死体の重なりっぷりを見るに、さっきの奴等よりデカいドスゲネポスがいてもおかしくないだろうねぇ……」

 

「となるとまた分かれて挟撃を狙うより、素直にこのまま4人の方が安全そうだな……」

 

 そうした死体(獲物)の山を眺めていたドラコに、これだけ高く積み重ねられるに相応な体躯のドスゲネポスがいるだろうとイスミが語る推測を聞き、ディードは作戦の見直しを提案する。

 

「その方がよさそうですね。逃げられ続けた場合探す時間はかかりますが、別行動中にそのサイズのドスゲネポス達と戦闘になる可能性を考慮すれば、万全を期すべきかと」

 

 そして眼前の骸に仲間入りする危険性を理解したクリスティアーネも同意したことで、再度2人組で捜索の予定を変更し、全員で先へと進んでいく。



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()果てる麻痺牙

いつも通りぞろ目投稿狙ってたら、結構ギリギリになった


 4人が踏み入った洞窟の中心部、エリア9。そこには先程逃げ込んだドスゲネポスの他に、これまで相手した同族より1周り大きなドスゲネポスが、残る戦力を掻き集めたかのような数のゲネポスと共に待ち構えていた。

 

「あの一際デカいドスゲネポスが群れの親玉みたいだな。なかなか強力そうじゃねぇか……」

 

「ソイツももちろんだけど、数が揃った分、取り巻きのゲネポス共も侮れないよ」

 

「マズいな、閃光玉足りるか?とにかくコイツ等を殲滅すれば、ドスイーオスの方が空振りでも、ギルドに示しがつくだろ」

 

「そうですね。今はまず、彼等を仕留めなくては……!」

 

 絶望的な状況ではあるが、折角ハンターとして1歩を踏み出した矢先、ここで果てるつもりはないとばかりに武器を構えた4人は、大きなドスゲネポスの咆哮に合わせて襲い来るゲネポス達を真正面から迎え撃っていく。

 イスミとクリスティアーネのバスターソードI()バルバロイブレイド()と、ディードの鉄製試作剣斧Ⅱ(スラッシュアックス)がゲネポスを次々と吹き飛していき、起き上がって反撃に移ろうとする者や、隙を見て飛び掛かろうとした者は、気付いたドラコが脚や喉をツイン()ダガー改()で切り裂き、封じていく。

 そうした乱戦のなかでドスゲネポス達も呆然と眺めるだけでなく暴れており、大きい方のドスゲネポスが側面から振り下ろしたクリスティアーネの剣を反対側に跳んで避けると、その場で体を捻り、泥濘(ぬかるみ)に足と刃を取られて身動きできない彼女に尾を鞭の如く振るい叩き付ける。

 

「ぐぅっ!」

 

「大丈夫かクリス!」

 

「えぇ、何とか!」

 

 その威力に突き飛ばされ、宙を舞った後尻餅を着くが、幸い得物を手放さなかったため、直後追い打ちを仕掛けてきたゲネポス達を剣身で受け止めることに成功し、咄嗟にディードが投げた閃光玉で目を晦ませたところに、反撃の薙ぎ払いで吹き飛ばす。

 

「さすがに連中も必死ってとこか……まだ何とかなりそうかい?」

 

「当然だ、俺のライバルはゴシャハギだぜ?どれだけ数で攻められようと、ドスゲネポス程度で止まれるかよ!」

 

 その場にボスがいるとあってか、視界が塞がっても破れかぶれに襲い掛かるゲネポス達に圧され、思わず攻撃の手を止めて守りの姿勢に入ってしまうイスミに対し、鬼人状態の勢いを保ちながら的確にゲネポスを仕留め続けていたドラコは、空元気ながらも余裕を見せ、彼女を襲っていたゲネポス達も蹴散らして見せる。

 そして遂に戦えるゲネポスは指で数えられる程度までに減り、ドスゲネポスも揃って満身創痍にまで追い込んだ4人だが、一方で彼等も長引いた戦いにホットドリンクを口にする間もなく、疲労と寒さで息が切れ、細かいダメージの蓄積で防具は各所に傷が目立ち、得物も満足に砥ぐ隙がなかったとあって、大分切れ味が鈍っていた。

 

「ここまで接戦になるとはね……誰か閃光玉残ってる奴いないかい?」

 

「悪い、最後の1個だ。だがそれで隙を突ければ勝てるんだろ?喜んでくれてやらぁ!」

 

 イスミの問いにディードがポーチから引き抜いた片手を突き出し、閃光玉を投げる。警戒こそしていたが、疲弊していたのはドスゲネポス達も同じだったようで、不意に投げられた閃光玉に気付くも対処が間に合わず、何体かのゲネポスは、仲間の死体やその血でできた泥濘に足を取られ、動きを封じられる。

 

「っし!今のうちに!」

 

 そしてゲネポス達が体勢を立て直す前に急いでホットドリンクを飲み干し、警戒し合いながら武器を研いで調子を取り戻すと、そのまま残るゲネポス達を仕留めて行き、最後は2体のドスゲネポスにそれぞれ最大威力の攻撃を叩き込んで仕留める。余りの威力に大きく吹き飛ばされたドスゲネポスが、洞窟の壁面に跳ね返り、『ケアァァ……』と力のない声を挙げて動かなくなったのを確認した4人は、ようやっと戦いが終わったことで緊張が緩み、膝をつく。

 

 

「っしゃあ!俺達の勝ちだ!」

 

「うるさいよ!叫びたくなる気持ちは分かるが、場所考えな!」

 

「ハハハ、このやり取り見てると、不思議と安心してくるな」

 

「フフフ、そうですね。お2人は訓練所の頃からこうしたやり取りを繰り返してましたし……では、ゲネポス達から剥ぎ取って、キャンプに戻りましょうか!」

 

 思わず洞窟内の反響を考えずに勝利の雄叫びを挙げるディードを、イスミが怒鳴りながら突き飛ばす。そんな2人のやり取りを見て、ドラコとクリスティアーネはまだ終えて日が浅い訓練生時代を思い出して笑いながらも意識を切り替え、ドスゲネポス達の遺体から牙や鱗、皮などの素材となり得る部位を剥ぎ取って行き、洞窟を後にする。

 

 

 

 

 

 

「そういやクリスは、好きなモンスターっているのか?」

 

 多少不完全ではあれども無事依頼を終え、ミナガルデの集会所に戻った4人は、そのまま達成の祝杯を兼ねて食事をとることにしたのだが、頼んだ品が来るまでまっていたところ、突如ドラコが切り出した。

 

「なんだいドラコ、急に聞き出したじゃないか」

 

「いや、親父さんにハンター活動を認めさせるのにフルフルを狩らなくちゃいけなくて、そのための装備を揃えるのにゲリョスを狩るから、その準備にイーオスの装備が要る、ってのが今回の成り行きだったろ?けど、俺みたいに好きなモンスターがいるかどうかってのは聞いたことなかったからさ……」

 

 唐突な質問に思わず割り込んだイスミに対し説明する様に、度々ゴシャハギをライバルとも好きなモンスターとも公言していたドラコ以外にも、ヤツマは『電竜』と称される『ライゼクス』、ウツシは自身が物真似を得意とする『雷狼竜』の異名を持つ『ジンオウガ』を挙げている。

 しかしクリスティアーネが度々名を挙げていたフルフルやゲリョスは、あくまで責務的な意味合いでの狩猟対象に過ぎず、彼女の嗜好とは異なっているように感じていた。だからこそ難しいことを抜きにした、単純な好き嫌いでの答えを求めての質問と言われ、多少悩むように間を置いたクリスティアーネは、おずおずと口を開く。

 

「その、ご存知の通り貴族令嬢たる身としては異質の様に言われてましたが……私、グラビモスの重厚な巨躯に親近感を抱いてまして……」

 

「グラビモスかぁ……まあ、確かに若い女性が好みそうな華は感じられないよな……」

 

「おいディード、恥を忍んでわざわざ明かしたってのに、そのいい様はないだろ?」

 

「わ、悪いって。てっきり出身地的に、ポポでも出てくるかと思ったら、全然違ってたからさ……」

 

 まさかのモンスターが挙がったことに呆けるディードに、イスミが注意する。『グラビモス』はハンターに限らず一般的な女性が好みそうな愛くるしい見た目のアイルーとは違い、『鎧竜』の異名通り全身を強固な外殻で覆った強力かつ巨大な飛竜で、どちらかと言えばむしろ武骨な風貌をしており、尚且つ過酷な火山を主な生息地として鉱石を食し、体内の熱を口から一直線に発射する生態から、「狩り応えのある相手」と熟練の屈強な男性ハンターが相手をするイメージが強い。 にも関わらず、――背丈こそ並の男性も上回っていると言え――まさか若い女性、それも貴族令嬢たるクリスティアーネが好きなモンスターにその名を挙げるとは思ってもいなかったために、ディードも驚いてしまっていたようだ。

 一方ドラコは、純粋にそれまで知らなかった同期の好きなモンスターを聞けたとあって、上機嫌となっている。

 

「へ~、グラビモスか!確か火山に住んでるでっかい飛竜なんだろ?いつか挑めるといいな!応援してるぜ!」

 

「あ、ありがとうございますドラコ様。実は私、他にも自分の様に大きな体躯のモンスターが好きでして、例えば故郷にいるガムートは先程ディード様が挙げたポポと共生関係にありまして……」

 

「何だ、思ったよりいい方向に進んだみたいじゃないか」

 

 その後も思わぬ話に頼んでいた料理が来ても盛り上がり続け、4人は改めてハンターとしての向上を誓い合った。



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()棚ぼた狙いの炭鉱潜り

筆が乗らなかったんで、徹夜明けに冷蔵庫で1年近く眠ってたエナドリ連続で2本空けましたww
結局ゲリョスを狩るのはまだ先になりそうだ・・・


「おっ、クリスか。久しぶりだな」

 

「あ、アカシ様。ご無沙汰しております」

 

 ドスゲネポス掃討戦から数日後、受付嬢から借りた依頼書の束をペラペラとめくり、ドスイーオスの狩猟依頼を探していたクリスティアーネに声をかけたのは、それまでの骨から甲虫種モンスターの素材で大幅に強化、洗練された『黒刀【零の型】』を背にしたアカシだった。

 すでにベルナ村へと向かったカエデや、故郷カムラの里へと戻ったウツシ。修行の旅へと赴いたカツユキの様に、早くもミナガルデを後にした同期もいるが、2人に限らず残った者達は、駆け出しハンター用の集合住宅にて部屋を貰い、こうして集会所を訪れては飲食や依頼の確認をして、ハンター活動に励んでいる。

 

「先日の活躍、早速あちこちで話題になってるぜ。ッても、その様子じゃ成果は不満だったか?」

 

「ええ、ドスイーオスの素材が足りないと断られて……」

 

 同期の中でも試験で中、大型モンスターを相手してから早々新たに挑む者はそうおらず、現にアカシも日々の稼ぎを優先し、試験の時にレマも採取していた『特産キノコ』を集める(かたわ)ら、ついでに入手した有毒の『毒テングダケ』で作った『毒けむり玉』を使い、攻撃で飛散してしまう程に脆いランゴスタやカンタロスの体躯を散らさないように仕留めては、その素材を地道に剥ぎ取り、ようやっと戦力となり得る武器へと昇華させることができた。

 一方試験の時点で複数のモンスターを相手したとあって、同期の中では1歩進んだ位置にいるクリスティアーネだが、依頼を終え、ギルドからの金銭と共に報酬としてイーオスやゲネポスの素材を追加で受け取った翌日。早速加工屋に駆け込み、イーオスシリーズの作成を注文するも、持ち込んだ素材を確認した職人から、「ドスイーオスの素材が足りないので、この素材量では一式を揃えきれない」と難色を示されてしまう。

 依頼人の行商隊(キャラバン)としては充分大助かりな成果で、中でも率先して参加したディードやその引率として同行したイスミは報酬を受け取る際彼等からオーバーなくらい感謝され、ドラコもゲネポスの皮や鱗を売却した際の額に、「故郷の親族や知人にいい土産を買って帰れそうだ」と喜んでいたが、当のクリスティアーネとしては、目的の防具作成に届かなかったとあって、どうしても不完全燃焼気味になってしまっていた。

 

「なぁるほど。だから早くもそうやって、新しいドスイーオス関連の依頼を探してた、って訳か……」

 

「ですが、あの時仕留め損ねたドスイーオスは群れの残りを連れてそのまま行方を(くら)ませた様で、他の群れやはぐれ者に関しても、今のところ依頼を出される程の被害報告は確認されてなくて……」

 

 事情を察したアカシに、クリスティアーネはため息を交えながら空振りに終わった依頼書の束を閉じ、呼びつけた給仕担当のアイルーに――「報酬とゲネポスの素材で懐に余裕はあるので」とアカシの分も愚痴を聞いてくれた礼代わりに――『厚切りワイルドベーコンとヤングポテトのジャーマンポテト』を注文がてら、受付に返却するよう頼んで、チップ代わりのマタタビと共に渡す。

 

「おや?クリスにアカシではありませんか。珍しい組み合わせですが、お2人共どうされたので?」

 

 そこにアイルーとすれ違うようなタイミングで現れ、声をかけたのは、それまで背負ってきたアイアンランスを改装し、新たに砲撃機能を追加した『アイアンガンランス』を背にしたナディア。

 

「よおナディア。いや、コイツこの前早速ドラコ達と活躍したろ?だがどうにもその時の報酬の素材に、不満があったらしくてな」

 

「つい先程アカシ様にも語りましたが、早い話、そこで一気にイーオスシリーズ一式を揃えたかったものの、全部作るにはドスイーオスの素材が足りなかったんです。なのでその補充をできそうな依頼を探していましたが、どうにも見つからず……」

 

 ザックリと事情を説明するアカシに補足したクリスティアーネは、(かんば)しくない成果に再度溜息をつくが、そこに見慣れないハンターが無遠慮に混ざる。

 

「よぉ、嬢ちゃん方。何かお困りかい?良ければいい仲介屋を紹介するぜ」

 

「何ですかあなたは?見るからに『怪しんでくれ』と言わんばかりの胡散臭さを隠したいなら、せめて装備を整えてから出直してくださいな」

 

「何だぁ?持て囃されてるからって、先輩に生意気な口きくほど調子に乗りやがってるのか?」

 

 他のハンターからくすねたのか、腰に挿した金属製の片手剣、『ハンターカリンガ』は素人でも一目見て満足に砥いでないと分かる程ボロボロに刃こぼれが激しく、身に纏った金属製の軽装防具『チェーンシリーズ』も明らかに体格とあっておらず、整備も碌にされてないと一目で分かる程薄汚れたその男を見た途端、クリスティアーネに門前払いされたとあってあからさまな愛想笑いから一転して威圧的に詰め寄ろうとしたが、その肩に伸ばされた手が阻止する。

 

生憎(あいにく)アンタのことなんざ微塵も知らんが、俺達と違って正規のハンターじゃないってのは、その装備で丸分かりなんだよ。しょっぴかれたくなきゃ、わざわざ相手するほどでもないと思われてスルーされてるうちに、とっとと出ていきな」

 

 引き留めた手の主――ディノに気付いた男は、一瞬怯えたように身を竦ませ目を開いたが、すぐにブツブツと小声で悪態をつきながら集会所を後にした。

 

「すまんなディノ、助かった」

 

「気にするな。ああも他人の褌だと宣伝してるみたいに丸分かりじゃ、例の噂に恐れをなしたのを抜きにしても、遅かれ早かれお縄につくだろ。しかし聞き耳立ててたわけじゃないが、ドスイーオスに逃げられたせいで素材が足りなかったとは、災難だったな」

 

「そうですね。まさか対峙するどころか、姿も見ずにアッサリと縄張りを捨て、撤収を選ぶとは思いもよりませんでした……」

 

 抑止力になり得なかったと暗に詫びも込めて礼を言うアカシに対し、ディノが不快な様子で挙げた噂。それは試験の時、アルセルタスに放ったトドメの横薙ぎで顔を真っ二つにした件に長い尾鰭が着き、いつしか「出合い頭にすれ違いざまアルセルタスを一刀両断してみせた」と誇大的に広まった一方、組んでいたアダイト達に関しては、対照的に「何もせぬまま体よく彼の戦果に便乗した恥知らず」とある意味試験でドラコが合流直前にクリスティアーネ達が仕留めたイャンクックの死体からの剥ぎ取りを勧められ、断る際に懸念していた様な風評被害を被ってしまったことを指していた。

 もちろんそうした噂を「くだらない」と一蹴する擁護の声も多く挙がってはいるが、既にミナガルデを去ったせいで知らぬ間に「臆病風に吹かれて逃げ出した」と卑怯者扱いされ続けてしまったカツユキはともかく、流石に鬱陶しく感じたアダイトとレノは、それを払拭すべく可能な限りの準備を整え、噂を気にせず「1枚かませろ」と便乗したカグヤと共にイャンクックを狩りに行っている。

 結果事情が事情なため仕方ないとは言え、1人置き去りとなってしまったディノは、何か手頃な採取依頼でもないかと訪れた様だが、クリスティアーネの事情を知ると、「ちょっと待ってろ」と受付嬢の元に向かい、少々話した後受注した依頼書を手に戻ってきた。

 

「火山で燃石炭を集める依頼があったから、受けてきた。集めた鉱石でスペアの装備を準備するなり、今後のために売って懐を潤すなりすればいいし、運が良ければ、ドスイーオスが来るかもしれないぞ?」

 

 差し出した依頼書に記載されていたのは、産み出す高熱が数々の鉱石を加工可能とする技術革新を齎した、名前通り可燃性の岩石、『燃石炭』の収集。ミナガルデに限らず、各地の加工屋や防衛施設で熱源として重宝されるため、常設的に採取依頼が掲示されている。

 

「確かにドスイーオスは湿地帯にも現れますが、イーオス共々主な生息域は火山地帯でしたわね。では、僭越ながらお誘いに乗らさせていただきます」

 

「おっ、いいねえ!最近黒刀【零の型】(コイツ)の準備でキノコ狩りばっかだったから、試し切りがてら付き合わせてくれよ」

 

 言外の同伴の誘いをディノなりの気遣いと理解したナディアと、ちょうどよく新たな得物を振るえる機会を得たことに喜ぶアカシ、そして誘った張本人たるディノの3人に「どうする?」と覗き込まれるクリスティアーネ。ワンテンポ遅れて自身の返答を待たれていたことに気付き、慌てて反応する。

 

「……!あ、で、では、私も同行させていただきますね!ただその前に、折角ですからお2方の分も追加注文致しますので、まずはお腹を満たしてからにしましょう!」

 

 そうして取繕う様に再度給仕のアイルーを呼んで注文を伝えると、待っている間に必要そうなアイテムを集会所内に併設されたアイテムショップで揃え、届いた料理を味わった後、目的地たる『ラティオ活火山』へ向かう船へと乗り込んだ。




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()掘り傍ら狩り

珍しく前話投稿後もモチベが燻ぶった状態で残っていたので、消えないうちに続きを・・・と思った矢先突如ブツッと切れながらも、強引に2視点展開で進めてきます


 麓の一部を除き、ほぼ全域が溶岩に覆われた焦熱地帯となっているラティオ活火山。その各所を流れる溶岩が高熱を放つと共に湿気を奪う、生物を拒むような過酷な環境だが、それに守られるかの如く眠っている多数の良質な鉱石を目当てに、同じく過酷な環境に打ち勝ち適応したモンスターにも屈することなく、多くのハンターが訪れている。

 そんな火山の麓に位置する小さな砂浜に、今日も今日とてベースキャンプとなる筏を乗り上げさせ、背負った得物の代わりにピッケルを手にしたハンター達が上陸する。

 

「ッし!到着!しかし噂には聞いていたが、溶岩がないここまで押し寄せてくるみたいな、ムワッとした熱さを感じるぜ……」

 

 降りるなり向かって左に伸びる道の先にある洞窟から漂う熱気を感じ、噂に違わぬ暑さを実感したアカシが、それを茶化すかのように「フゥ~」と息を吹きながら手で顔を扇ぐ。

 手にしたピッケルの柄を、肩と水平に担ぐ彼のレザーライトシリーズ姿は、背中の黒刀【零の型】がなければ、こうした鉱石採掘を主な生業とするハンターの俗称でもある『炭鉱夫』が、良くも悪くもより似合う様となっている。

 

「とりあえず、今回の主目的は燃石炭ですが、方針としては、どの様なルートや行動をお考えで?」

 

「う゛……」

 

 その横では胸の前でピッケルを横持ちしたナディアが、依頼書にはあくまで「それらしき目撃情報もあるので注意」程度に記載されていたと言え、ドスイーオスがいるかもしれないとあって早くもそちらに意識が向き、唯一ピッケルを構えずソワソワした様子のクリスティアーネを注意すると共に、受注者たるディノに意向を訊ねると、トントンと担いだピッケルの柄で肩を叩きながら、返答される。

 

「まぁ、今回は目的が目的だから、やることは素材ツアーみたいなものとは言え、どこでモンスターと出くわすか分からんから、4人で1か所ずつ巡ろう。まずはエリア4を通って、一通り全体を周ってはみるつもりだ。ヴォルガノスの出現も報告にないから、9と10も覘くだけ覘いて、問題なければそのまま採掘してもいいだろうしな」

 

 高熱の溶岩の中を自由に泳ぎ回れる驚異的な耐熱性と機動力から、『溶岩竜』の異名を持つ魚竜種、『ヴォルガノス』。その体に纏う冷えた溶岩の鎧を抜きにしても、現状4人の装備ではその餌食となって無駄に散るのが目に見えているほど強力なモンスターのため、出現が確認されれば狩猟達成の報告があるまで、その依頼を受注していないハンターが接触しうるエリアが封鎖される事態にまで達するが、現在は姿がないため開放されており、ちょうどそこでも燃石炭を採掘できるため、問題がなければ立ち寄るつもりの様だ。

 

「ってことは、もう飲んどいちまった方がいいかい?」

 

 それを聞いたアカシがポーチから取り出したのは、寒冷環境での保温効果があるホットドリンクとは逆に、灼熱環境で体を冷却する『クーラードリンク』。今回の様な火山や砂漠での活動には必須の品だが、意識しないと忘れることが多い上、ホットドリンク以上に命の危機に至る状況になりやすいことから、嘘か真か「最もハンターが持参を忘れる物」と冗談交じりに言われてしまったり、その流れで「リタイア最多の理由はクーラードリンクの持ち忘れ」だの「持っていくのを忘れるのが効果」などとネタにされてしまったりする不遇なアイテムでもある。

 

「そうだな、ついでに魚も食っとくか」

 

 聞かれたディノは、答えながら率先してクーラードリンクを飲むと、続けてポーチから取り出した、自然回復速度を上げる『こんがり魚』を口にする。これならクーラードリンクの効果が切れても、先日クリスティアーネが体験したような乱戦にでもならない限り、再度口にするまで多少余裕を持てる。

 

「さて、幾ら時間や精神に余裕はあると言え、ベース()キャンプ()で無為に過ごすのはここまでだ。さっさと燃石炭堀りに行くぜ」

 

 

 

 

 

 一方ミナガルデに程近い森丘地帯では、イャンクックを狩りに来たアダイトとレノ、そして便乗したカグヤと、彼女に少々強引に呼び込まれて同伴したエルネアが、ベースキャンプで装備や備品の点検をしていた。

 

「うん、問題なし。レノもそうだが、悪いなエル。こんな厄介払いに付き合わせちまって」

 

「気にするな。俺も耳障りな雑音を、払いたいと思っていたところだった」

 

「同じく。私としても、何も知らない外野に戦友が悪く言われるのは不愉快」

 

「ちょっとー、アタシはスルーなのぉ?」

 

 足止め用の閃光玉や小タル爆弾、そして手数重視な分不足気味な片手剣の破壊力を補うための『大タル爆弾』がポーチ入っていることをしっかり確認したアダイトが、顔を上げてレノとエルネアに声をかけると、相手されなかったカグヤがぶうたれるが、呆れ顔でツッコミを返す。

 

「そりゃお前、頼んでないのに勝手についてきたんだろ。しかも近くにいたからってエルにも声かけて、予定がなかったのをいいことに返事待たずにパーティー組み込むし……」

 

「しょうがないじゃん、こっちがまだ装備の準備してるってのに、クリスやディードはこの前も活躍して、いいとこ見せてきたんだから。アタシだってそろそろ大物仕留めたいの!」

 

 元々ディノが話していた通り2人だけで行くつもりだったアダイトとレノだったが、カグヤはそこに割り込むと共に、偶々集会所に居合わせたエルネアも「人数に空きがあり、ガンナーがいなかったから」と呼び寄せ、事前に事情はある程度耳にしていたと言え、了承を得る前にパーティーへと入れてしまった。

 とはいえ彼女もモンスターを足止めするための『シビレ罠』を始めとした各種アイテムはしっかり準備してきたし、評としては2人ほどではないにしても、『ドスランポスに苦戦した』と同期内では少々下に見られがちなことに、焦りよりも鬱憤が溜まっていたようで、それを発散するいい機会に感じたらしい。

 

「カグヤの振る舞いに不満はあるだろうけど、戦力としては問題ない。むしろヘイト稼ぎや防壁役(タンク)としては優秀」

 

「そーそー!ちゃんと活躍するんだからね!」

 

「わかったわかった。期待はしとくよ」

 

「そろそろ出発してもいいか?今回の相手はイャンクック2体だからな。戦力は多いに越したことはない」

 

 都合のいい部分だけエルネアの発言をフォローとして引き出す彼女を呆れたまま流すアダイトを、レノが促す。まさかの2体同時狩猟となってしまったが、下手に合流されると却って結託される危険もある分、各個撃破するにしても味方が多いのは有利に働く以上、口では雑に扱いながらも、協力に名乗り出てくれたとこには素直に感謝している。

 だからこそ改めて実力を誇示するためにも、誰1人欠けることなく達成せねばと気を引き締めたアダイトは、腰のハンターナイフを一撫でし、先陣を切ってベースキャンプの設置エリアから踏み出していく。




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()求めれど得れるとは限らず

基本武器の強化派生は持ってるP2時代の攻略本基準でしたが、別に最初の武器1つで生涯戦い続ける訳でもないし、他作であったりなかったりってのを考えて、今後はある程度wikiを参考にしつつ結構雑に前後や脱線させてください


 カンッ!カンッ!と岩肌の各所から覗く鉱脈に、ピッケルが突き立てられる度に音が響き渡る。頭上高くまで空間が広がり、各所を流れる溶岩が真っ赤に輝くエリア4では、イーオスやブルファンゴ以外にも、乾燥地帯に生息し、鎧の様な皮膚と攻撃的な性格をした大型の草食種、『アプケロス』や、ショウグンギザミの幼体、『ガミザミ』の様な採取を邪魔するモンスターが珍しく姿を消していたとあって、武器に持ち替え掃討する手間が省けた4人は、分散して順調に採掘に勤しんでいた。

 

「こんなところでしょうかね。掘り終わりましたよ」

 

「こっちも終わったぞ。そろそろ次のエリアに移るか」

 

 やがて非常に高い硬度と耐熱性を誇り、そのせいでまさに今集めている燃石炭が発見されるまで、加工が不可能だった『マカライト鉱石』を始めとした目ぼしい鉱石を掘り尽くした者から順に、北西に当たるエリア5へと通じる通路へと集結していき、最後にナディアが合流したのを確認したディノの号令で移動すると、何匹かのガミザミが、食物を探し地面を突く姿を目にする。

 

「さすがにそう何度も都合よく、とはいかねぇか」

 

「むしろ変に何もいない方が、古龍でも来たんじゃないかと却って不安になるものですよ。そうした意味では、多少不便なくらいに邪魔な小型モンスターを見かける方が安心できます」

 

 ガミザミは小柄故の素早さと、それでいて意外に耐久力があるとあって、特にレインやエルネアの様なガンナーからは厄介視される。当然採掘においても、下手に放置すれば、それをいいことに延々ど突き回されて全く進まなくなるため、ある意味ついで程度だったとは言え、目的だった黒刀【零の型】の試し切りには丁度いいと、ピッケルの代わりに抜刀し、斬りかかるアカシ。

 同様にナディアもアイアンガンランスを構えると共に、向かってくるガミザミに向けて、ガンランスの主武装たる砲撃を撃ち込み、ディノやクリスティアーネが手を出す前に容赦なく仕留めていく。

 彼女が言う様に、小型モンスターが一切姿を見せなくなる様な事態はそうそうなく、災害が生物の姿を取ったような『古龍種』と称されるモンスターが現れた時か、それこそ災害そのものに見舞われた時くらいしかない。

 

「よし!これで大丈夫だろ。さ、早くコイツ等から剥ぎ取って、採掘しようぜ」

 

「悪いな、それじゃあお言葉に甘えさせてもらうか。代わりに次のエリアじゃ、掃討は任せてくれ」

 

 そうして最後の1匹を切り上げで仕留めたアカシが、刃を研いで剥ぎ取りナイフに持ち替え、促しながら遺体に突き立てるのにあわせ、残る3人も剥ぎ取っていき、採掘を再開していく。

 

 

 

 

 

 

 ディノ達が採掘をしていた頃、森丘のアダイト達は、南北の広場を中央の細道がつなぐエリア3に来ていた。これが少し前のアカシの様に、キノコ等の採取が目的なら、道中でついでに虫や薬草を集めたり、効率重視で分岐した先に個別で向かったりできるところだが、今回の目的はイャンクック、それも2体を相手するとあって、4人でここまで直行した。

 

「ここまで姿がなかったってことは、この先か、もっと奥の森の方にいるんだろうな。いつでも相手できる様に、構えとこうぜ」

 

「オッケー、こっちはいつでも準備万全よ!」

 

 中央にそびえ立つ岩山、その手前に広がるエリア4につながる道の前で号令をかけたアダイトにカグヤが元気よく返答し、寡黙なレノとエルネアも頷き、突入しようとした矢先、上空に何かが現れ、一足先にとエリア4に向かっていく。

 

「今のはイャンクック……!まさにドンピシャってとこだったか……」

 

「もう1体がいるかどうかわからんが、いないなら今のうちに仕留めておけば有利になるな」

 

「よぉ~し、俄然やる気出てきたぁっ!さ、早く行きましょ!」

 

「言われなくても今行くところ。気付かれないよう静かにしてて」

 

 かかる影に気付き、見上げた先を通り過ぎたのは、今まさに狩らんとしていたイャンクック。それを目にするや興奮するカグヤをエルネアが黙らせ、アダイトとレノも気を引き締めるとともに己が得物を握る手に力を籠め、数瞬遅れて続くと、今まさに降り立ったイャンクックは、岩山の方を眺め、『クォオゴゴゴゴゴ……』とうなり声をあげていた。依頼書には『営巣地を巡って縄張り争いをしている様子』と書かれていたことから、おそらく既に決着は着いたが、まだ諦めていないらしい。

 

「奴が気を背けてるうちに……行くぞ!」

 

 その隙を逃すまいと、中央付近に鎮座する見通しの良い広場に不相応な大岩の陰にエルネアを残し、飛び出した3人は、アダイトが股下に潜り込み、新たに強化した『ハンターナイフ改』で腹を切りつけ、レノが同じく強化した『骨刀【狼牙】』を右の翼に、カグヤが左の翼にボーンスラッシャーを振り下ろし、皮膜を切り裂く。

 そこにエルネアが『アイアンアサルトⅡ』を構え、こちらに気付いたイャンクックが振り向き、戦闘態勢を整える前にと毒弾を撃ち込み、ダメージと共に毒を与えていく。

 

「先手は打った!今のうちに少しでもダメージを稼ぐぞ!」

 

 足踏みに巻き込まれない様腹の下から転がり出たアダイトの掛け声に合わせ、敵を見定め『キョワァーッ!』と威嚇するイャンクックと対峙する3人が武器を振り上げ、突撃していく。

 

 

 

 

 

 

 一方エリア5で採掘を終え、火口付近のエリア6に登ってきたクリスティアーネ達。そこから溢れ出る熱気が火柱となって激しく燃え上がる様に目を惹かれ、呆然となるも、その熱気でクーラードリンクの効果が切れたことに気付き、慌てて口にする。

 

「ッハァ!あっぶね、危うく燃える前に干乾びてミイラになるとこだったわ」

 

「この温度では、あまり長居できませんね。ここと奥のエリアで掘れば、燃石炭も十分集まるはずですし、さっさと採掘を終えて戻りましょう」

 

「そうですね。グラビモスならまだしも、私達にはキツ過ぎますから……」

 

「そうと決まれば、さすがにモンスターもこの熱気は辛いみたいだし、姿がないうちにさっさと掘るか。終わって降りれば、少しはマシになるはずだ」

 

 幸いにも採掘を邪魔するモンスターがいないとあって、即座に分散して各々鉱脈を見つけては、ピッケルを突き立て鉱石を集めていく。それが終わればエリア中央辺りにある小さな石柱に集結していき、最深部たるエリア8へと向かう。

 

「ウゲ、ガブラスが(たむろ)してら……」

 

 入って早々右には先程見えた火口が広がり、岸壁の先から、黙々と噴煙が空へと昇っている。その底で滾る溶岩を照明に、黒い体表を赤く光らせながら飛び交うガブラスの姿を見たアカシが、顔を苦々しく歪める。

 かつてアダイトが気の早い前祝いで貰い、彼等がハンターデビューに向けて食したガブリブロースはガブラスの肉だが、『強者を利用すれば、楽におこぼれをありつける』と古龍を始めとした大型モンスターに便乗する狡猾な習性から、「災厄の使者」と忌避される一方で、それを逆手にとって厄除けにもされたりと、意外に複雑な認識をされると共に、狩場では高所からイーオスの様に毒を吐き付けてきたり、長い尾で払ってきたりと、4人の様にリーチの長い武器を使うハンターにはそこまで脅威でないとはいえ、小型モンスターでは厄介な部類に位置する。

 それが複数滞空しているとあっては採掘に支障が生じそうだが、先程とは逆にディノが前に出ると共に、続いてクリスティアーネも踏み出す。

 

「さっきのガミザミは率先して駆除してくれたからな、奴等の相手は俺がする。アカシはそのうちに、燃石炭を採掘してくれ」

 

「私もお手伝いしますね、ナディア様。アカシ様のお手伝いをお願いします」

 

「おぉ、悪いな。そんじゃさっさと済ましてくるぜ」

 

「無理はしないでくださいね、クリス」

 

 そうして火口とは逆の壁面へと2人が駆け出すのに気づいたガブラス達が、そちらへと向かおうとした矢先、立ち塞がった残る2人の大剣が振り上げられ、ザックリと切り裂かれたガブラスが次々と地に落ちては、それを目当てに集まり降りた同族が、仲間の骸に口をつける前に、振り下ろしや薙ぎ払いで後を追う様に仕留められていく。

 

「ついさっきまで隣にいた仲間の死骸でも躊躇なく食いに来るのは、仕留める側としちゃ楽でいいが、あんまり見てていい気分じゃないな……」

 

「同感ですね。尤も彼等にしてみればそれが自然でしょうし、そうした貪欲のまま死肉を片付ける存在は、私達が身勝手に嫌悪しようとも、なくてはならない存在ですから……」

 

 ガブラスの毒液や尾、そして足元と移動先に注意しながらも駆除を進めていくうち、いつの間にかガブラスは全滅し、足元にその死骸が累々と転がる様を見て両者が複雑な思いに浸っていると、採掘をしていたアカシが、「おぉ~い、終わったぞぉ~」と声をかけながら歩み寄る。

 

「うわ、結構な量倒したなぁ。お疲れさん」

 

「このまま放置しても乾くだけですし、まだ素材や食材として活用できる状態のうちに、とりあえず剥ぎ取ってしまいましょうか……」

 

「そうだな。後はあっちから降りれば、気持ちマシになる中腹まで一気に着くはずだ」

 

「と、なればそこからは、そのまま帰るだけ、ですね……」

 

 討伐されたガブラスの数に圧倒される彼を横目に、言うな否や剥ぎ取りナイフを手に、てきぱきと皮や肉を剥いでいくナディアにディノが続き、クリスティアーネも依頼は達成したものの、個人的な目的だったドスイーオスは現れずじまいとあって、複雑な胸の内を漏らしながら手を動かす。




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()招かれざる客

 アダイト達が戦い始めて十数分。早くも特徴的な耳や翼幕をズタズタに切り裂かれたイャンクックは、既に縄張り争いで消耗していたこともあってか、必死の様相で逃走しようと、彼等に背を向け、足を引きずりながら進む。

 

「ここまで来て、逃がさない……!」

 

 そこにエルネアが放ったのは、着弾から間を置いて爆発する『徹甲榴弾』。腰付近に刺さってからの爆発は、威力こそ多少甲殻に罅を入れた程度に過ぎなかったが、直後炸裂した爆音は、逃げるイャンクックを足止めするには十分で、甲高い鳴き声を上げたイャンクックは、最早踏ん張る気力もないのか、直立できず前のめりに倒れる。

 

「ナイスタイミングだエル!このまま決めるぞ!」

 

「任せなさいな!」

 

 イャンクックが倒れ込んだ隙を逃さず、追い付いたアダイト達が次々と切りつけていくうち、遂にイャンクックは『キュ、キュオオォ……』と弱々しい声を挙げ、こと切れた。

 

「まずは1体か。援護感謝する」

 

「ハンターとして、これくらいは当然のこと。それより今は剥ぎ取りを済ませて、もう1体を相手しないと」

 

「っと、それもそうだな。すぐそこにいるかもしれないし……」

 

「よぉし、これが終わったら、早速新しい装備作ってもらおっと♪」

 

 レノの言葉にそっけなく返し、淡白な程手早く剥ぎ取りナイフをイャンクックの骸に突き刺すエルネアの姿は、一見すると不愛想極まりないが、いつもう1体のイャンクックが姿を見せるか分からない以上、まだ悠長に談話している場合ではないとの彼女なりの判断で、察した3人もそれぞれ剥ぎ取りを済ませ、エリア5へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 突入したエリア5では、気持ち今しがた仕留めた個体より大きなイャンクックが、何者かと戦闘していた。他の飛竜が食した残骸らしき骨を踏み砕きながら大立ち回りを繰り広げる相手は、薄暗い洞窟の中なのもあって視認し辛いが、時折羽搏く音や、イャンクックとは異なる鳴き声がすることから、同じ飛竜系統の別種モンスターなのは認識できた。

 

「何だ?イャンクックが、何かと戦ってる……?」

 

「もう、折角汚名払拭できるって時に……」

 

 幸い入り口付近は湾曲している部分が死角となり、戦闘中の2体は互いに相手でいっぱいなこともあって、4人の姿には気づいてないようだが、いつ何かの拍子に見つかるとも限らないため、可能な限り息を潜めて覗いていると、多くの飛竜が巣を作る高台に火球状のブレスが当たり、一瞬だがその射手の姿を照らす。

 イャンクックに比べ鋭利で黒ずんだ嘴と、喉元を覆う白色の鬣に、小ぶりな紫の耳。そして同じく紫の全身を覆う刺々しい甲殻に、一際大きな三叉槍状の棘が伸びる尾端。それを見たアダイト達は、該当するモンスターを思い出し、顔をこわばらせる。

 

「アイツは、イャンガルルガ……!」

 

「イャンガルルガって、ヤクライさんが卒業試験で倒したって話してた奴よね?」

 

「くっ、まさかこんなところで会うとは……」

 

「アイテムに余裕はあると言え、私達には荷が重過ぎる。悔しいけどここは撤収を」

 

 黒狼鳥(こくろうちょう)イャンガルルガ。風貌こそイャンクックに類似した部分もあれど、エルネアが撤収を推奨する様にその危険性は比べ物にならない程に高く、現に甲殻や嘴の各所に罅や欠落が見られるイャンクックが必死に逃げようと飛び上がったところに、ブレスを放って撃ち落とすと、その首を踏み潰して仕留め、歓喜の咆哮を挙げるや否や、早くも次の獲物を探しに行くかの如く飛び去って行く。

 

「行ったか。気付かれなくてよかった……」

 

「しかし酷い有様だな。奴が満足してくれたおかげで、俺達もこうなることは(まぬがれ)れたが」

 

 幸いにも、こちらが逃げる前に自ら移動したイャンガルルガを見送り、しばらく経って戻ってくる様子がないことを確認した4人が入って行くと、内部は両者の放った炎で所々が煤け、足元に散らばる骨も、燻ぶって煙をあげている。そして敗れ果てたイャンクックは、特徴的な耳を引き裂かれ、うつ伏せに近い体勢で地に伏せ息絶えていた。どうやら最後の踏み付けが、そのままトドメとなったようだ。

 

「とりあえず結果的に目標は達成できたし、このイャンクックも剥ぎ取って、帰ったら報告しとかないとな」

 

「同感。いつイャンガルルガが戻ってくるか分からないし、道中で遭遇する危険もあるから、手早く済ませて戻らないと」

 

 イャンガルルガの出現こそあれど、狩猟対象のイャンクック2体は討伐されたことに変わりはないため、依頼としては成功と言える。なので手早く剥ぎ取るべくイャンクックの元に向かう中、唯一カグヤのみその場に佇んで動かないことに気付いたエルネアが振り向く。

 

「カグヤ……?」

 

「……納得いかなぁ~~い!!

 

 よく見ると俯いたまま体を震わせており、英雄を目指す彼女でも、イャンガルルガを前に恐怖したのかと思いきや、ドン!と脚を鳴らすと共に上を向き、不満を爆発させた。

 

「ちょ、おいカグヤ!急にデカい声出すなよ!」

 

「愚痴は後にしろ。イャンガルルガを呼び戻す気か!」

 

「気持ちは理解できる。でも、今はまだ安全じゃない。ベースキャンプに戻るまで抑えて」

 

 イャンガルルガの脅威がまだ完全に去った訳ではないからか、普段は冷静沈着なレノも珍しく声を荒げて咎めるが、カグヤは3人の忠告を気にも留めず、地団太を踏み続けながら怒りを発散し続ける。

 

「だぁって勝手に期待しといて落胆した連中をイャンクック2体討伐で黙らせるつもりだったのに、片っぽとは言え獲物奪われたんだよ!?また碌でもないこと言ってくるに決まってるよ!もぉこうなったらこのイャンクックから得た素材で装備作って、クリスとゲリョス仕留めてやるんだからぁ!」

 

「そういやそんな話してたなお前……完全に決定事項かよ……」

 

 そのままズカズカとイャンクックの遺体に歩み寄るや、腹いせとばかりに剥ぎ取りナイフを突き立て解体していく姿に、思わず押し負けて固まったままの3人も我に返ると共に続き、無事素材を入手した後は慎重に確認しながら帰路に付いた結果、幸いにもイャンガルルガと遭遇することなくベースキャンプまでの道中をやり過ごすことができた。

 

 

 

 

 

 

 一方火山のクリスティアーネ達も、予期せぬモンスターに遭遇してしまい、ベースキャンプへの帰還を阻まれていた。

 

「まさかここでショウグンギザミに足止めされるなんて……」

 

「幸いクーラードリンクは余裕あるが、とっととどっか行ってくれねぇと通れねぇよ……」

 

 洞窟帯の中腹に広がる平地のエリア7。その北部にある、エリア8から下った崖の上に留まる4人の前で悠長に地面をつつき、食料を探すのは、青い甲殻に身を包み、背中に大きな巻貝の殻を背負ったショウグンギザミ。

 現状彼等の武器ではその甲殻を破れず、逆に『鎌蟹』の異名を冠す由来となった、普段は折り畳まれ、怒りと共に解放される鋭利な爪に防具ごと体を引き裂かれ、腹に収められるのが目に見えており、それ故下手に刺激することなくやり過ごしたいがために、段差から降りれずにいる。

 

「帰りがてらエリア3でも採掘するつもりだったが、この調子じゃ、これ以上長居するのは危険そうだな。下手すればエリア9や10の方にヴォルガノスも来てるかもしれないし、奴が立ち去ったら、一気に駆け抜けた方がよさそうだ」

 

 事前に目撃情報のあったドスイーオスならまだしも、確認されていないショウグンギザミが現れたとあっては、今までの様な素材ツアー感覚とはいかないため、警戒を高めるディノ。しかし事態はその横――エリア6と繋がる道から来た、新たな存在のせいで、更に混乱を極めることとなる。

 

「……なぁ、何か聞こえねぇか?」

 

「確かに、何かが転がる様な……しかも大きくなってる?こっちに来ます!」

 

 アカシが気付き、ナディアが驚いた音の主。それは体を丸め転がってきたモンスター――大きく発達した、特徴的な顎を鈍器の如く振るい戦う生態から、『爆鎚竜(ばくついりゅう)』の異名を持つ獣竜種(じゅうりゅうしゅ)のモンスター、『ウラガンキン』だった。

 

「ウラガンキンまで……!?さっきまでエリア6に大型モンスターはいなかったはずだが、どこから来たんだ……」

 

「このまま両者が戦わずに済むか、早めに決着がつけばいいですが、下手に長引けば、余計通れなくなりますよ」

 

 4人が見守る中、先に相手を見据えたのはウラガンキン。つながった左右の道に区切られた溶岩溜りを挟んで、対岸にいるショウグンギザミに向けて咆哮をあげながら、大きく突き出た下顎を地面に叩き付けて威嚇する。対するショウグンギザミも、最大の武器たる爪こそしまったままだが、両腕を大きく持ち上げてウラガンキンに威嚇し返す。直後ウラガンキンが溶岩溜りを飛び越え、大きく突き出したショウグンギザミの角部分に食らい付き、力任せに噛み砕いて圧し折ったばかりか、ダメージに悶えた拍子にショウグンギザミが後ろを向いたところを突いて、背負った巻貝の殻目掛けて顎を振り下ろし、先端部分を砕いて見せる。

 命の危機により苛烈な攻撃を仕掛けてくることもあると言え、ここまで畳みかけられてはたまらんと判断したのか、ショウグンギザミはすぐさま地面に潜って姿を消すが、残されたウラガンキンは勝ち誇るように吼えると、そのまま縄張りと誇示するかのように、各所を顎で押し潰していく。

 

「幸か不幸か対峙は早々に終わったが、あの野郎まだ居座るつもりかよ」

 

「そろそろいったんクーラードリンクを飲み直した方がよさそうですが、一体いつまで居座るつもりでしょうか……?」

 

 クーラードリンクの効果が切れ、焼けるような熱気もあって、なかなか立ち去らないウラガンキンへの苛立ちと緊張から、汗にまみれたアカシの顔を目にしたクリスティアーネは、クーラードリンクを口にしながら観察し続けるも、ウラガンキンは一向に立ち去る気配を見せず、引き続き顎の地均しや、身体に付着した火薬岩を振り落としてから顎の叩き付けで爆破し、アピールし続ける。そしてそこに4人の頭上を飛び越え、新たな乱入者が現れる。

 ウラガンキンを輪と表現するなら、さながら球とでも言うべき赤い甲殻の主は、半分に割れた球から手足と頭を出し直立すると、大きく口を開き、長い舌を伸ばしながら吼える。

 

「ラングロトラまで……一体何が起きてるんだ……」

 

 直後『赤甲獣(せきこうじゅう)』こと『ラングロトラ』とウラガンキンの縦横無尽な回転対決が始まると思いきや、溶岩の中から放たれた熱線が両者を分断する。振り返った先にいたのは、今まさに顔を出したとばかりに体から溶岩を滴らせながら上陸する白い甲殻の巨体。

 

「あれは、グラビモス……!こうも早く目にできるなんて……!」

 

 眼前で頭を伏せ、唸り声を上げるラングロトラもウラガンキンも気にすることなく、「我こそがこの火山の主なり」とばかりに悠長なあくびを晒す飛竜。それこそまさに、目を輝かせるクリスティアーネが、先日ドラコ達に明かした好きなモンスター。 鎧竜(よろいりゅう)ことグラビモスだった。




ギリギリぞろ目投稿に間に合ったが、他に全然着手しないまままた年取っちまったなぁ・・・


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鎧の覇者

パソコンがおとといの夜に再起動してからブルスクで再起動繰り返すバッカで満足に起動しなくなった・・・
色々データも残ってるから破棄する前に吸い出しときたいけど、後回しでいいやといい機会だったんでとりあえず新しいの買い替えてきました
しっかしWindows11・・・クッソ使い辛(多少割高だったが法人用10Pro用意してもらった)・・・
何が大幅アップグレードじゃ!Chromeもそうだがなんで今までボタン1つでできたことを無駄に複雑化させんねん!スクショもコピペもボタン1つでやらせろや!


 先手を打ったのは、顎を地面に叩きつけた反動で跳躍し、そのまま体を丸めて転がりだしたウラガンキン。器用にグラビモスを囲う様に弧を描き、ボロボロと体に付着した鉱石を散布しながらエリアの半周を移動して、ラングロトラの元まで行くと、大きく頭を振りかぶり、再度顎を地面に叩きつける。

 直後飛散していた鉱石のうち、爆発しやすい『火薬岩』を含んだものが次々と連動して爆発するが、ラングロトラはとっさに体を丸めて身を守り、グラビモスに至っては動じないどころか、爆発が止んでから不発の鉱石を見つけると、それを目掛けて巨体を揺らして歩み寄り、ボリボリと(むさぼ)る余裕まで見せる。

 

「あれほどの爆発を浴びて、身動(みじろ)ぎ1つしないどころか、残った鉱石を食する余裕があるなんて……」

 

「さすがはグラビモス……溶岩の中を渡れる鎧の体躯は、伊達ではないのですね……!」

 

 仮にハンターがあれほどの爆発に巻き込まれようなら、余程性能のいい防具に身を固めなければ耐え凌げず、それこそ今の彼等程度では、骨も残らず消し飛びそうな規模にも関わらず、一切反応することなく、完全にノーガードで浴びたとは思えない様子を見せるグラビモスに驚愕するナディアの横で、クリスティアーネは対照的に圧倒的な強者間を漂わせるその風貌に歓喜している。

 

「いや、喜んでる場合じゃねぇだろ。アイツ等が離れてくんねぇと俺等降りれねぇよ……」

 

「これがグラビモスだけだったら、明後日の方向を向いている隙に、後ろをくぐって通り過ぎれたが、ラングロトラとウラガンキンはそうもいかなそうだ。鈍重そうな見てくれに反して先程見せたような機動力を有し、特にウラガンキンはあの火薬岩だ。回避重視でも振り切れるかどうか……」

 

 対する男性陣は、目を輝かせてグラビモスを眺めるクリスティアーネにアカシが呆れ果てる横で、ディノは3者にどう対処するか悩ませていると、ラングロトラがウォーミングアップ代わりとばかりに体から悪臭ガスを放出し、臨戦態勢を高める。

 

「っ……!しまった、奴の悪臭ガスがこっちにまで……!」

 

「うぅ……消臭程ではないといえないといえ、キツい……!」

 

 風に乗って流れてきたガスの臭いに、思わず4人が悶えたくなるのを必死にこらえる傍ら、爆発に動じぬ鎧に身を包んだグラビモスでも、さすがに嗅覚は彼等と類しているようで、異臭の主たるラングロトラに吼え、大きく広げた翼と頭を下げ、突進の態勢をとって走り出す。

 それに対し勢いよく転がっていくラングロトラだったが、さすがに相手が悪かったというべきか、地に足着けて走るグラビモスとぶつかった瞬間、あっさりと跳ね飛ばされて4人の下にある岸壁に衝突し、四肢と頭をダランと仰け反らせ、ダウンしてしまった。

 続くウラガンキンはそれを見て学んだようで、逆に転がることなくグラビモスが突っ込んでくるのを待ち構え、ぶつかった拍子に背負われたのをいいことに、顎を振ってグラビモスの背中を攻撃する。

 しかし当然グラビモスもやられっぱなしを許さず、眼前に垂れていたウラガンキンの尻尾に噛みつくと、首を振って払うように自身の背から引き摺り下ろす。

 

「ラングロトラはアッサリやられたが、ウラガンキンは意外と粘るな」

 

「グラビモスの重量と甲殻に、ラングロトラの跳躍から放たれる突撃は相性が悪すぎたのでしょうね」

 

「しかしあまり粘られると、時間切れでクエスト失敗扱いにされかねんぞ。早く決着をつけてほしいが……」

 

「見てください、ウラガンキンが離れそうです」

 

 戦局を見守る4人の意に反し、ここで意外にも、ウラガンキンが再度身を丸めたと思いきや、大きく後退していく。一見このまま逃走するのかと思われたが、なんと助走を稼いで、先ほどとは逆にグラビモスへ轢き潰さんと突進する。

 その場に踏みとどまり、それを受け止めるかと思われたグラビモスだが、のどと口元を赤くたぎらせ、大きく体を後方に仰け反らせると、大きく開いた口から、先ほどとは比べ物にならない熱線を放ち、迫りくるウラガンキンの勢いを大きく殺ぎ、遂には逆に転がした末、耐え切れずに体を伸ばしたウラガンキンをひっくり返す。実力の差を痛感したウラガンキンは、仰向け状態から横に体を捻って起き上がると、先程とは逆にエリア6へと走り去っていき、見送ったグラビモスも、そそくさと反対側の溶岩溜りへと潜っていく。残されたのは、息はあれどまだ伸びたままのラングロトラと、終始圧倒されたままだった4人の若きハンターのみ。



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()毒狗竜狩り

「はぁ……」

 

 既に早くも慣れ親しみだした集会所の酒場にて、クリスティアーネは頭を押さえ、ガックリと疲れ果てた様に落ち込んでいた。

 グラビモスとウラガンキンが立ち去った後、残されたラングロトラの意識が戻る前に高台から降りた4人は、幸いにも、先に撤収したショウグンギザミも含めた他の大型モンスターと遭遇することなく、ベースキャンプへと帰還できた。

 多少のトラブルこそあれど依頼自体は達成でき、さらに福産的に入手できた鉱石を使って、火属性に耐性があるモンスター対策として新たなバスターソードも生産できたのだが、元々望み薄だったとはいえ、狙っていたドスイーオスは、大型モンスターに圧倒されたためか、影さえ見ることもなかった。

 それから数日、こうして集会所に顔を出しては、その都度ドスイーオスに関する依頼を探すも、ドスランポスやドスゲネポスはちょくちょく目にするも、対照的に全くと言っていいほどドスイーオスは見かけなかった。

このままイーオスシリーズを作成できないとあっては、それに応じてゲリョス、ひいてはフルフルに挑むのが遅れ、それを理由にせっかく始まったハンター活動を、父から妨害されかねない。

 ヤクライのアドバイスを思い出して焦りと緊張はないが、どうしても不安で思考がマイナス方面に働いてしまうあまり食欲もわかず、依頼の確認も込みできたはいいものの、席に座ったまま動けずにいた。

 

「おぉクリス、久しぶ……あんま、調子ようなさそうやな。何があったん?」

 

「大方目当てのモンスターか、その素材が手に入ってねぇんだろうよ。確か祝賀会でゲリョス挑むのにイーオスシリーズ用意するってたから、大方ドスイーオス関係か?」

 

 そこに姿を見かけて声をかけたのは、試験で組んだものの、合格の祝賀会以来となったシンと、それ以前の現地訓練で何度かパーティーを組んだビオ。そこに受付の方からゴウとテリルも合流してきたが、防具や装備に付着した、まだ乾いてない泥や草の汁を見るに、どうやら依頼で一戦交えてきたところのようだ。

 

「あ、シン様にビオ様。それにゴウ様とテリル様も……」

 

「随分と疲れたというか、何か悩まれている様ですね。以前話されていた、お父君関連の件ですか?」

 

「そうですね。正確には、先程ビオ様がおっしゃられた様に、ドスイーオスの素材が不足しているせいで、イーオスシリーズの製作が足止めされてる状態でして……」

 

「あー、そのせいで思い悩んでブルーな様子だったんだねぇ……」

 

「なんや、ちょいと前に、ディードやドラコ連れてゲネポスとイーオスまとめてしばいた聞いたが、そん時集まらんかったか」

 

 呼ばれて顔を見た面々に、少し前と同様事情を話すと、揃って察し同情的な目を向けるが、残念なことに、彼らがいくら同情してもドスイーオスは現れないし、ましてや欲しているドスイーオスの素材は手に入らない。とはいえ打開策とまではいかずも代案は浮かんだようで、テリルが1歩前に出る。

 

「じゃあ、気分転換も兼ねて代わりに違うモンスター狩りにいかない?確か毒を使う鳥竜種って、他にもいたよね」

 

「あぁ、いたな。フロギィっつったか?その装備ならイーオスシリーズの代用までいかなくても、最悪同様に毒は防げるだろうな」

 

 ランポスやイーオスとは異なる系統、『狗竜(くりゅう)』と呼ばれる鳥竜種の1種にあたる『フロギィ』。イーオスよりも発達したのどの毒袋が特徴で、特に長たる『ドスフロギィ』は襟飾りのように発達し、毒煙状のブレスを放出してくるため、ドスイーオス以上に危険視されているが、生息環境が異なっているためか、現在のところ衝突は確認されていない。

 

「フロギィですか。私としても、まず毒を防ぐことが最優先事項ですから、この際背に腹は代えられませんね」

 

「決まったか。んじゃあテリルも行くつもりみたいだし、ドスフロギィ関係の依頼探してくるわ。お前らはどうする?」

 

 すでに提案した幼馴染が行くつもりとあって、早くも同行を決めたビオが名乗り出るとともに残る2人に聞くと、どちらも申し訳なさそうに断りを入れる。

 

「あ~すまん、折角なら同行したいとこやけど、うちに仕送り出さんとならんねん。また今度頼むな」

 

「すみませんが、先の依頼で少々疲れましたので、私も今回は遠慮させてください」

 

「そっか、こっちこそすまんな。んじゃあ、残り1枠はこっちで何とかするわ」

 

 とはいえ同期の好というべきか、断られても不満など持たずに切り上げたビオは、早速依頼を確認しに受付へと向かう。




()『恐れよ、暴れる竜を。狩れ、友の為に。』が完結されたのもあって、今回はビオとテリルに組んでもらいました
残り1枠どうするかは次回考えときます


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()毒霧覆う水没林へ

パソコン買い換えを機に他作の更新も考えてたんですが、どうもこれに比べてモチベが上がらんなぁ・・・


「お、あったあった。しかし水没林かぁ、結構遠いな……」

 

 早急性の高い依頼や、真新しい依頼が張り出されていた掲示版を見ていたビオが見つけたのは、付近の村から発された『水没林』でのドスフロギィ狩猟依頼。

 2つの群れが衝突し、周囲の交易や交通に支障をもたらしているため、早急に両者とその傘下を排してほしいとのこと。

 

「水没林って、始めていく狩場だね。確か密林に近い環境だっけ?」

 

「植生や地理的にはそうですが、名前の通りより水場が多く、泳いで渡らなければならない箇所も複数あるとは聞きますね。さすがにドスフロギィ相手に泳いだり潜ったりするような局面はあまりないとは思いますが」

 

「とりあえず素材ほしいってんなら、これでもいいか?文句ないならこのまま受注してくるぞ」

 

 行先について話し合う女性陣を不満はないと判断したビオは、早速掲示版からはがした依頼書を受付に持参し、参加者募集用の掲示版に張り出そうとするが、その前で眺めていた馴染みの顔に気づき、声をかける。

 

「よぉベレッタ、久しぶりだな。そこいるってことは、同伴する依頼探してたってことか?」

 

「っ、お久しぶりです、ビオさん……そうですが、そちらは?」

 

「こっちはちょうど今探そうとしたとこでな。クリス(アイツ)の付き添いで、これ行こうとしてたとこだ」

 

 気づいて振り向いたベレッタにビオが依頼書を見せながら後ろを指さすと、軽くお辞儀をするクリスティアーネと手を振るテリルに気づき、前者に合わせ頭を下げる。

 

 

 

 

 

 

「ドスフロギィとフロギィ……ですか?」

 

「はい。ゲリョスを狩るのに対毒装備を揃えたくて、イーオス装備を狙ってましたが、ドスイーオスの素材が足りずに、依頼も見つからなかったのでその代わりに彼らをと……」

 

 とりあえずベレッタも連れた4人は、クリスティアーネが確保した近くの空いていた席に座り、実力的に無謀とは言わずとも、強力な部類に入るだろう対象に挑むに至った経緯をと合わせて説明する。

 

「この前イャンクック狩りに行ったアダイト達も、似たようなメンバーだったそうだが、やっぱガンナーいた方が安定しそうだと思ってな。それで声掛けさせてもらったんだが、もし狙ってた依頼があったわけじゃなければ、一緒行かねえか?」

 

「……わかりました。こちらも特に目当てはなくて、どこか空いてるパーティーはないかと探していたので、問題ありません」

 

「ありがとうございますベレッタ様!ご協力感謝します!」

 

 ベレッタの参入の意を聞き、協力者の獲得に立ち上がって手を握ってしまうほど歓喜するクリスティアーネだが、ビオが注意の意を込めて咳き込むと共に、「流れでここまで手を貸したが、本来はお前の仕事だからな?」と注意の意を込めた目線を向けると、気まずさを感じ、萎む様に腰を下ろして黙る。

 

「と、とりあえず、まずは解毒薬用意しないとね!取ってくるからちょっと待ってて!行こ、ビオ!」

 

「お、おい引っ張るなよ。言われなくてもわかってるから」

 

「それじゃあ私も、解毒薬持ってきます」

 

「わかりました。私はすでに持参してますので、皆様をお待ちしてますね」

 

 その様子を険悪とまではいかなくとも、どことなく気まずく感じたテリルがビオを引っ張って解毒薬の調達に連れて行き、合わせてベレッタも席を立ったため、唯一日頃からドスイーオス狙いでその対策に持ち歩いていたクリスティアーネは、手元に余計な素材もないため、売店で回復薬の調達程度に荷整理を済ませ、席に戻り皆を待つことにする。

 

 

 

 

 

 

 ベースキャンプのすぐ近くまで流れる川を始め、各所が水脈に分断された水没林。うっそうと茂る草木や、湿気がこもった空気などは、かつて試験で訪れた密林や、それ以前の訓練で通っていた『旧密林』こと『メタペ湿密林』に類似するが、それらと比べても足元がぬかるみ、泥状になっている分、名前の通り水気はこちらの方がおおいようだ。

 

「あまり視界はよくなさそうですね。周囲に警戒して、堅実に行きましょう」

 

「そうだね。さすがに川渡って東まではいかないだろうから、まずはこのままぐるっと半周してみよ」

 

 初めて来たとあってまだ地形を把握していないため、4人で囲うように地図を眺め、どう動くかを談義する。

 クリスティアーネの警告に賛同したテリルが指摘したように、弧を描くように東西で分断された狩場は、ベースキャンプのある西側に陸地の大半が集中し、ドスフロギィ達はこちらで縄張り争いを繰り広げているため、先日のドスイーオスの様に逃亡されない限り、川を渡って東に行くことはそうそうないだろう。

 

「それでは行きましょう。改めて、本日はよろしくお願いしますね」

 

「おう、いい加減ゲリョス狩りに行ける準備整うといいな」

 

「こっちこそよろしく!」

 

「後方支援は任せてください。必ず、成功させましょう」




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相っ変わらず艦これに時間取られてました
いい加減札だの速度だのが邪魔にしかなってないし異常な情報出し渋りが迷惑にしかならないっての受け入れろよ・・・


 ベースキャンプを出てすぐに広がるエリア1。水没林の地名通り、各所を流れる河川と、大きく広がるその沿岸部で構成された狩場(フィールド)を要約したような一帯には、各所でぬかるんだ地面を気にせず水や草を口にするアプトノスやケルビの他、前者の類縁種で、豊富な栄養を蓄えると共に、外敵の攻撃に対する鎧も兼ねた、肉厚の垂れ下がった皮膚から、草食種にしては珍しく『垂皮竜(すいひりゅう)』と異名を与えられた『ズワロポス』が、それぞれ仲間同士で気ままに過ごしていた。

 

「依頼書見た感じだと、結構縄張り争いが激しいみたいだったが、この辺はまだ平和みたいだな。さっさと次行くか?」

 

「そうですね。時間に余裕はあるといえ、2つの群れを相手にするとあっては、あまり悠長なことはできませんから」

 

 多少足場は悪くとも、広大故戦闘となればある程度自由に動き回れるため、比較的優位にたてるが、草食モンスターの様子を見るに、フロギィに限らず肉食モンスターは付近にいないようなので、ビオの提案に従い、4人はモンスターを横目に北上。隣接するエリア10の地下に位置するエリア14を通過し、東西に連なるエリア13~11を目指す。

 

 

 

 

 

 

 地下のエリア14から一転し、エリア10と北部一帯を分断するような岩山に出た4人の眼下では、まさに今エリア13と11をそれぞれ支配したフロギィの群れが、その中間に位置するエリア12で対峙、抗争しているところだった。おそらく袋小路状のエリア13を縄張りとした群れが東へ勢力を拡大しようとするのに対し、エリア11側の群れがそれを阻止し、逆に乗っ取ろうとしているのだろう。

 

「おぉ、まさか今まさに衝突中だったとはね。どうする?このまま高みの見物決める?それともカグヤよろしく割り込んで三つ巴に持ち込む?」

 

「ここは無理して姿を晒さず、素直に様子を伺い続けた方がいいかと思います」

 

「そうですね。今はどちらもフロギィのみですが、対策はしていると言え、片方ずつならまだしも、2つの群れを1度に相手するのは分が悪すぎます。ましてや双方とも、群れの長たるドスフロギィが控える中では危険過ぎますから、せめてどちらかの長を討ってからにしましょう」

 

「その方がよさそうだな。見た感じあまり戦力差もないようだし、下手に飛び込みゃ、どっちの群れとか問わずフロギィの袋叩きに合うだけだ」

 

 高度、距離共に十分で、風向きもフロギィ達に匂いを届けないとあって、まだ感づかれていないためにどうするか提示するテリルに対し、真っ先にベレッタが支持したのは静観。続けてクリスティアーネとビオも賛同したとあって、引き続き両者の抗争を眺めていると、エリア13の方から、一回り大きなフロギィ――大きく膨らんだ首元の毒袋が目立つドスフロギィが、複数のフロギィを引き連れ現れる。

 

「親分のお出ましか。コイツは戦況が動くぞ……」

 

 ビオの予測通り、ドスフロギィ率いる増援が現れたエリア13側の群れが勢い付き、逆にエリア11側の群れは、体格と毒煙の規模が勝るドスフロギィに押されて後退していき、ついに撤収していく。今回はエリア13側の群れが勝ったようだ。

 

「勝負が決まりましたね。少し気は引けますが、攻めるなら今かと」

 

「そうだな。向こうも追撃するつもりはないようだし、代わりに俺達が追い打ちといくか」

 

 ドスフロギィが逃げていく敵を追わず、エリア13へと引き返すと、群れのフロギィ達も長に続き、撤収していく。残されたクリスティアーネ達は、エリア11側の群れに狙いを定め、奇襲を仕掛けるべくそこへと敗れ逃げ去ったフロギィ達を追って岩山を東へと進む。

 エリア11には、こそ先ほど見たエリア11側のドスフロギィと大差なさそうな体格のドスフロギィが寝ていた。どうやら少し前にドスフロギィ同士で戦闘があったのか、喉元にはまだ治りきってない痛々しい傷が残っている。

 

「出てこなかったのは、手負いだったからみたいですね」

 

「ここからなら、狙撃できます……今のうちに、仕留めましょう!」

 

「オッケー、錯乱は任せたから、そこに乗じて突撃しましょ!」

 

「突撃するのはいいが、周囲のフロギィには注意しろよ?解毒薬持ってきたんだから、毒液浴びたらちゃんと飲むようにな」

 

 早くもハンターボウⅠを構えてドスフロギィを狙うベレッタ。テリルも奇襲に乗り気で、ビオの警告に「わ、わかってるよ……」と気まずげに返しながらも、背中の鉄刀から手を放さず、飛び降りる準備をしている。

 

「さあ、行きましょう!」

 

 そして同じくバスターソードに手をかけたクリスティアーネの号令に合わせ3人が岩山を降り、残るベレッタの支援射撃を受けて攻撃を仕掛けにいく。




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毒霧の脅威

前回本文に意識全振りでまさかのタイトル入力忘れてた・・・


「やぁっ!」

 

 先陣を切って崖を降りるクリスティアーネは、迎え撃つべく集まりくるフロギィを前に、高身長とそれに見合った手足の長さを活かし、手にしたバスターソードを振るって射程(リーチ)に入ったところを容赦なく蹴散らしていく。

 

「フゥ~!さすがクリス、一気に吹っ飛ばしてくねぇ。よぉし、私たちも負けてらんないよ!行こうビオ」

 

「意気込むのはいいが、そのまま無策で深入りするなよ!クリス(アイツ)と違って、俺らの武器は防御(ガード)できないんだからな、っと!」

 

 続くテリルとビオも、クリスティアーネの攻撃を搔い潜ったり、側面から回り込んできたフロギィ達に対し、鉄刀での斬りかかりやアイアンハンマーの叩き付けで反撃していくが、複数でのチームワークを活かし、翻弄してくるフロギィ達の中から的確に1体だけを選んで攻撃し、討伐するか逃げられれば、新たに別の1体に狙いを定め、着実に相手の数を減らしていく。そして3人が反応し損ねたフロギィに対しては、崖の上に陣取ったベレッタが、ハンターボウⅠから放つ矢で妨害し、その隙に反撃を決めさせて、撃破に貢献する。

 とはいえフロギィ達も、数に任せ無策に襲い掛かっている訳ではなく、ドスフロギィの咆哮に合わせていったん下がり、揃って大きく喉を膨らませると、紫色の毒霧ブレスを3人めがけて噴射する。

 

「ぐっ、やべぇ毒霧だ!」

 

「ケフッ、ごめん少し吸い込んだみたい!ケフッケフッ!」

 

「已むを得ません、少し下がりましょう!テリル様はケチらず解毒薬で回復を!」

 

 自分達より大柄なアプトノスやズワロポスでも、浴びれば成す術なく倒せるフロギィの毒霧ブレス、それもドスフロギィを含めた一斉噴射とあっては、いかにハンターと言えど、気にせずやり過ごすことはできない。

 現に僅かと言え吸ってしまったテリルは逃走中も咳き込み続け、クリスティアーネが殿を務めて細道を抜けてエリア10へと逃げ込みはしたものの、一息ついたところで足を止め、解毒薬を口にしようとするも、止まらない咳のせいで喉に流し込むのも一苦労な有様になってしまった。

 

「皆さん、ご無事ですか……?」

 

「ふぅ~、やっと落ち着いた……一応怪我とかはないよ」

 

 そこに高台を回り込んで降りてきたベレッタも合流し、解毒薬を飲み終えて咳も落ち着いたテリルの返事に、安堵するようにため息をつく。

 

「手負いとは言え、弱みを見せず群れを率いる様は、さすがドスフロギィというべきところでしょうか」

 

「ですが、感心してもここで退く訳にはいきませんね……」

 

「元よりそのつもりできたんだしな。奴等を狩り尽くすか、俺達が果てるかするまで終わらねえよ」

 

「そうだね、もう浴びないように注意しないと……」

 

 とはいえ今さっきまで苦しんでいたテリルも含め、当然誰も怖気づいた様子はなく、むしろやり返さんとばかりに闘気を燃やした4人は、早くも追ってきたフロギィ達の声を聴き、戦闘態勢を整えるや、先の細道で迎え撃つべく引き返し、向かっていく。




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()毒霧を払う者

 徐々に弱らせる毒を浴びせるスタイルからか、鳥竜種の中ではと但し書きはつけど、攻撃性は消極的な方に位置するフロギィだが、いかんせん毒を浴びせねば話にならないとあってか、クリスティアーネ達を追ってわざわざ狭い細道へと進んだのが運の尽き。

 

「やああぁっ!」

 

 先陣から順に、反転したクリスティアーネが力任せに振るうバスターソードの刃や衝撃に巻き上げられては、周囲の壁や地面に叩き付けられて動かなくなり、運よく立ち上がることができそうな者も、体勢を直す前にテリルとビオが的確に仕留めていく。

 そして不利を悟り、残る周囲のフロギィを連れて引き返そうとするドスフロギィに対し、それまで最後衛から空中のフロギィを落下前に射抜き仕留めていたベレッタが、放物線を計算し放った拡散矢で退路を封じ、逃亡を阻止する。

 

「さすがに分が悪いって察したみたいだが、よくやったぞベレッタ」

 

「これくらいなら、お任せください……それより早く、奴を仕留めましょう!」

 

「了解です!引き続き前衛はお任せを!これ以上、皆様に負傷はさせません……!」

 

 最早破れかぶれとばかりに、残ったフロギィ達を先程同様咆哮で呼び寄せ、一斉噴射の体勢に入ったドスフロギィに対し、あえてその懐に潜り込んだクリスティアーネは、バスターソードの刃を立て、団扇(うちわ)の要領で大きく横なぎに振るう。

 

「これで……終わり、です!」

 

その風圧で毒霧ブレスを散らし、動きを封じたところに、追い打ちとばかりに刃先が地面に着くほど体を反らして溜めた力を解き放ち、地響きと土煙を巻き起こすほどの溜め斬りを浴びたドスフロギィは、左の毒袋がパックリと袈裟懸けに切り裂かれ、血と毒液がダラダラと垂れ流しとなる。

 それでもなお毒霧ブレスを吐かんとするかの如く、ふらつく足で踏ん張りながら口を開けるが、片方だけでも武器たる毒袋の傷は、そのまま致命傷となったようで、喉奥から口先へと流れ出る血液と共に『ゲヒュッゲヒュ……』とかすかにうめき声をあげ、ドサリと倒れ込む。

 

「よっし!ドスフロギィ討伐完了!」

 

「喜んでるとこ悪いが、まだもう1体とその群れが残ってるんだ。コイツらの剥ぎ取りしたら、そっちも行くぞ」

 

「ウゲ、思わず達成感で一瞬忘れてたけど、そうだったっけ……」

 

「……ですが、ひとまずこうして衝突していた群れの片方を討てた訳ですから、今は僅かでも休憩して、彼らの素材を剥ぎ取ると共に、その勝利を喜びましょう」

 

「そうですね。むこうも数は多そうですが、それくらいしてから挑む余裕は、あるはずかと……」

 

「ハァ、わかったよ。今日はこんくらいにしといてやるが、あんま気を抜くなよ……」

 

 直後、討ち漏らしの反撃や他モンスターの襲来を警戒していたところに、一足早く勝利の歓声を上げるテリルがビオに注意されるも、警戒を解くと共にクリスティアーネが同意し、ベレッタもその肩を持ったことで、ビオもそれ以上とやかく口出しするのを控え、剥ぎ取りナイフを手にすると、手近なフロギィの死体に刃を突き立て、鱗や皮、骨や牙を集めていく。

 

 

 

 

 

 

 剥ぎ取りを終えた一同が、荷物整理のためベースキャンプへと戻ったところ、玄関口たるエリア1では、今さっきフロギィ達と繰り広げてきた激闘など、露知らずとばかりに、アプトノスやズワロポスが、相変わらず悠々と過ごしていた。

 

「そういやそろそろ手持ちの肉がなくなりそうだっけな。何体か仕留めて、肉頂いとくか」

 

「だね~。携帯食料も食べ飽きてきたし、そのままキャンプで焼いちゃおうよ」

 

「え?お、お二人とも……?」

 

 そんな草食モンスター達の姿を見て、台所事情を思い出したビオとテリルが、武器を構えて向かう姿に困惑するクリスティアーネ。そして2人が川辺でくつろいでいた1体のズワロポスに狙いを定め、仕留めていく姿に、「あ、ああああぁ……」とかすれた声を上げて呆然とした姿に、ベレッタが尋ねる。

 

「やっぱり、攻撃してこないモンスターを討伐するのは、苦手なままですか?」

 

「そうですね。こんな奇麗事が通らないとは、わかってはいるつもりですが、どうしても罪悪感が……」

 

 フロギィやブルファンゴの様な、こちらの姿を見るなり攻撃して来るモンスターに対しては、自衛も込みで躊躇なく戦闘態勢に入れるクリスティアーネだが、アプトノスのような敵意を向けず、攻撃されても逃げに徹するようなモンスターに対しては、訓練生の頃からどうしても武器を向けることに躊躇してしまっていた。

 

「気持ちはわかりますが、都合よくブルファンゴやリノプロスがいるとも限りませんし、あんな風に、とは言いませんが、ハンターとして、避けては通れないと思いますよ……」

 

「おーい、ボーッとしてないで早く戻ろうよー!」

 

「さ、行きましょ」

 

 そして息絶えたズワロポスから肉や皮、それから抽出される『垂皮油』を集め終わったテリルに呼びかけられ、立ち直りきらないながらも、先を行くベレッタに続いて合流すると、ビオに剥ぎ取りを勧められ、行為を無碍にするわけにもいかないとあって、残った肉や骨をいただき、ベースキャンプへと戻った。




()最後の価値観的な描写に関してですが、決してビオとテリルを蛮族扱いした訳じゃないです(むしろクリスティアーネが「いいこちゃん」過ぎた感じ)


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()毒霧の壁

ここまで書くのに大分かかったけど、次回辺りようやっとゲリョスに挑めそうだ・・・


 ベースキャンプに戻り、クリスティアーネが先に武器の点検や荷物の整備を終えた横で、ビオとテリルは、早速肉焼きセットを取り出し、先程仕留めたばかりのズワロポスの肉を焼いていた。

 

「はい!「上手に焼けました~!」」

 

 揃って見事に焼きあがったこんがり肉を掲げ、ベレッタが拍手を送る姿を微笑ましく眺めながら、手元に残った肉をどうしようか悩むクリスティアーネ。

 まだ支給された携帯食料は手元に残っているし、残るドスフロギィのことを考えると、早々に向かうため悠長に肉を焼いている暇はないだろう。しかし他の3人はすでに休憩に入っており、1人先走って勝てる相手でもない以上、この場は合わせて自身も休息に徹するのが吉。そう判断し、自身も取り出した肉焼きセットに肉を装着し焼き始めるのだが……。

 

「や、やはりどうにもうまくいきませんね……」

 

 彼女が肉を焼きたがらない理由、それは単純に、肉を焼くのが上手くいかないのもあった。どうにも焼きあがるタイミングが掴み切れず、今回の様に早まって生焼けにしてしまったり、逆に焼き過ぎて焦がしてしまったりと失敗を繰り返してしまうため、普段は支給された携帯食料や、ハチミツを使った飲料『元気ドリンコ』で喉を潤しながら空腹を誤魔化している。

 

「あー、クリスってお肉焼くの下手だったっけね。気が利かなくてごめん……」

 

「い、いえ!私が不得手なだけですから、お気になさらないでください!それよりも先程は、ビオ様共々的確に攻撃の手を合わせていただき、ありがとうございました」

 

 そこに声をかけてきたテリルを労いながら、肉に口をつけると、荷物の整備を終えたビオとベレッタも寄ってきた。

 

「防御できないこっちとしちゃ、火力兼前衛担当のアンタがモンスターの真正面で大々的に注意引き付けてくれるから、安心して戦えるぜ」

 

「ありがとうございますビオ様。といっても、今回は私の都合に付き合っていただいた訳ですし、それくらいするのは当然ではあると思いますね。では、そろそろもう1つの群れを相手しに行きましょうか!」

 

 高貴なる者の義務(ノブリスオブリエージュ)とでも言うべきか、クリスティアーネなりの気概もあるからこそ、体格との相性もあって振るう大剣の利点を褒められ、気をよくした彼女は、腹ごしらえも済んだとあって立ち上がり、肉焼きセットを片付け、、残るドスフロギィの討伐に向かう。

 

 

 

 

 

 

 エリア13は周囲を囲まれた袋小路の窪地となっており、出入り口もエリア12との1点に限られているため、守る分には有利に働きそうだが、逆に逃げ道がないため、背水の陣となったフロギィ達の猛攻が予想された。現に立ち向かってきたフロギィの数を見る限り、規模は先程相手にした群れに比べ小さそうだが、早々にドスフロギィが姿を見せ、4人を立ち入らせまいと毒霧ブレスを絶え間なく順々に放つ姿から、その士気と連携具合は上回っていることが見て取れる。

 

「クッソ、随分必死じゃねえかよコイツ等……」

 

「奥側に巣が見えます。おそらく、近々卵を産むつもりだったみたいです。今のうちに、狩り尽くしてしまいましょう……!」

 

 先程同様クリスティアーネが先頭に陣取るも、防衛(ガード)できない毒霧ブレスの煙幕防壁に突撃するわけにもいかず、フロギィ達もそれを理解しているのか、無理にそこから飛び出さず持続に徹しているがために成す術ない有様に毒づくビオ。唯一攻撃できるとあって、近くの高台から矢を撃ち込み続けていたベレッタも、必死な抵抗の理由が、繁殖期を前に産卵の準備をしていたことと知って、これ以上彼らに勝手はさせまいと、攻撃の手を早める。

 しかしこのまま彼女1人に任せじり貧とする訳にも行かないと、意を決したクリスティアーネは前に出る。

 

「おそらくゲリョスの毒液は、この比ではないでしょうが……。とにかくこの場を打開するためには、打って出るしかありません!あまり頼り切りにはなりたくありませんが、閃光玉を使います!目を潰した隙に、1体でも多く仕留めてください!」

 

「任せろ!親玉以外狩り尽くしてやらぁ!」

 

「そういうことだから、クリスはドスフロギィお願いね!」

 

 埒が明かないためにやむを得ぬと判断したクリスティアーネが投げた閃光玉が炸裂し、フロギィ達の毒霧ブレスが止んだ合間を突き、毒霧を払ったバスターソードの横薙ぎに続き、ビオのスタンプで足元がふらついたフロギィ達を、テリルが次々と喉を割いて仕留めていく。そして正面のドスフロギィまでの道中にいたフロギィをさらなる横薙ぎで道端へと押し退ける様に突き飛ばし、切り上げで突き上げ、ドスフロギィへの溜め斬りを叩き込んだ際の衝撃で吹き飛ばし、遂にエリア13内へと叩き込まれたドスフロギィと1対1で対峙する。



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晴らされた毒霧

どうにも「この日この時間までに投稿を」と思ったら、ギリギリにならんと手が付かんのを何とかしたい・・・


 巣の入り口を守っていたフロギィ達は、目を潰される直前まで前線に立ち、一身に攻撃を受け止めていたクリスティアーネがいなくなったとあって、視覚を取り戻したと同時に、残るビオとテリルを大したことなしと判断し襲い掛かる。しかし彼らとて期待された存在。高台から支援射撃を続けるベレッタも含め、同期故に息が合うのもあってのチームワークで立ち回っていたが、そこから1人欠けたところで、フロギィ達にその勢いを止めることはできなかった。

 

「うぉおりゃっとぉ!」

 

 スタンプで眼前のフロギィの頭を叩き潰したビオが、振り上げの遠心力を活かして跳躍し、別のフロギィの腰に、落下の勢いを乗せた一撃を文字通り叩き込む。その様に恐れをなしたフロギィ達が、テリルに狙いを向けるも、数に任せた嚙みつきや尾の一振るいは身軽に避けられ、毒霧ブレスを吐こうとすれば、その隙を突いて喉を裂かれ、と碌にダメージを与えられないまま被害が広がっていく。

 そしてドスフロギィの援護に向かおうとしたフロギィは、ベレッタに足や頭を射抜かれ、叶わぬまま果てていく。

 その間ドスフロギィと1人で対峙したクリスティアーネは、バスターソードで体当たりを防ぎ、続く尾の薙ぎ払いを滑り込むような前転で回避し、懐に潜り込むと、前端部分にある返しをドスフロギィの腹に突き刺し、無理やり押し込んで傷を広げさせる。

 

「ゲギャオオォッ!」

 

「くぅっ!負傷を抜きにしても、先程のドスフロギィ以上の実力……。ですが、協力に名乗り挙げ、今も後ろで抑えてくださっているビオ様達のためにも、ここで果てるわけにはいきません!」

 

 苦痛に悲鳴のような咆哮を挙げたドスフロギィは、腹に刺さったバスターソードの峰を踏みつけ、クリスティアーネの動きを封じたところに強烈な頭突きを放ち、周囲を囲う外壁まで突き飛ばす。しかしクリスティアーネの目に絶望はなく、ドスフロギィが得物を後方へと蹴り飛ばし、毒霧ブレスを放つべく喉を膨らませ、頭を大きく振り上げた隙を突いて一気に駆け出し、バスターソード目掛けて滑り込む様に跳躍。見事に柄を掴み、ゴロゴロと転がった後に起き上がり構えると、避けた毒霧を背後に、口からその残滓を零しながら、喉を膨らませたままのドスフロギィと対峙する。

 

「(先の傷からの出血と、こちらに来ない様子から察するに、あと1撃で決まる!防がれる前に再度懐に潜り込み、そこから攻撃に転じれば……!)」

 

 直後クリスティアーネが駆け出すと同時に、ドスフロギィも軽く後ろに頭を引く程度に隙を押さえ、再度毒霧ブレスを放つが、喉が縦に裂け、倒れ伏す。

賭けに勝ったのは、滑り込みながらすれ違い様の一閃を決め、毒霧に飛び込まず、寸前で起き上がり止まったクリスティアーネだった。

 

「個としての総力、見事でした。あなたの力、私が更なる高みを目指すための糧としてお借り致します……」

 

「おーい!無事かクリスー!」

 

「こっちは片付いたよー!毒霧で見えないけどそっちは大丈夫ー?」

 

 紙一重で決まった決着を噛み締め、もう起きることのないドスフロギィを振り向いて一瞥して間もなく、ビオとテリルの声が聞こえる。

 

「ビオ様!テリル様!ご安心ください!無事とは言い難いですが、ドスフロギィは討伐しました!」

 

「そうか!そいつは大手柄だ!とりあえずこっちは毒霧晴れるまでフロギィの剥ぎ取りしてるから、功労者権限ってことで、お前はその間ドスフロギィから好きなとこ剥ぎ取っとけよ!」

 

「ありがとうございます!ビオ様の方こそ、フロギィ達を引き受けてくださり感謝します!依頼は達成しましたが、お互い最後まで油断せず行きましょう!」

 

 毒霧の壁に遮られ、互いに状況はおろか姿すら確認できないが、戦果の報告と激励をしあい、獲物の遺体に剥ぎ取りナイフを突き立てていく。そして毒霧が晴れ、再会と共に残りの剥ぎ取りを済ませた面々は、ベースキャンプに帰還。依頼達成の報告を様子見に来ていたアイルーに伝え、ミナガルデへと凱旋した。

 

 

 

 

 

 

「こ、これは……少し露出が多すぎではないでしょうか……?」

 

 ドスフロギィ討伐達成から1晩明け、早速クリスティアーネが加工屋に素材を持ち込み、フロギィシリーズの作成を注文したところ、素材は十分と快諾されるも、いざ提示されたデザインを見て、思わず言葉を詰まらせてしまっていた。

 特にマントのないガンナー用に至っては、太股共々露出が目立つ腹回りが背面まで見えてしまっている。

 

「とは言っても、これが正式デザインだからねぇ。一応男性用なら、多少ごたつくけど、その分露出は控えめではあるよ」

 

 そう話す加工屋の受付が示した男性用のフロギィシリーズは、対照的に肌を見せず、しっかりと全身を覆う、元来の役目に準じたデザインとなっていた。

 

「性能が変わらないのでしたら、こちらの方が安心できそうですね……こちらのデザインでお願いしたいのですが」

 

「こっちでかい?理由は違うとはいえ、イスミさんもだけど、変わった趣味だねぇ……」

 

「イスミ様はどうか分かりませんが、私の場合は『女性が無闇に肌を晒すべきではない』と父に言われてきましたので……とにかく、こちらのデザインでお願いします」

 

「わかったわかった。素材は十分だし、ちゃんと料金ももらった以上、そっちの意向に合わせるから、とりあえず奥の採寸室で計測受けてきて」




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()いざ毒怪鳥狩りへ

明けましておめでとうございます
年末年始は祖母と過ごしましたが、ダラダラネット見てるのが好かれないのもあって、更新できなかったまま放置してました
後どうでもいいけど、その間頻繁にテレビでやってたメメントモリのCMを、祖母が気味悪がったせいで、そこだけが強く印象に・・・ww


 フロギィシリーズを注文してから数日。クリスティアーネは、ブルファンゴやコンガの様な小型種の討伐から、ドスランポスやイャンクックの様な中、大型モンスターの狩猟、更には特産キノコや燃石炭などの採取、納品まで、「依頼に貴賤なし」とばかりに――むしろ(フル)(フル)までの道筋に一段落ついたからこそ、内容問わず、様々な依頼をこなしていた。

 そうして待ち望んでいたフロギィシリーズが完成したと報を受け、加工屋で早速着替えると、馴らしも兼ねて、装着したまま集会所を訪れた。

 

初心者装備(バトルシリーズ)でなくなったとあってか、気持ち周囲の目も、変わった気がしますね……」

 

 デザインが異性用なのもあって、伸ばした黒髪をテンガロンハットに収め、バルバロイブレイドを背負った姿が、見慣れぬ美丈夫に見えるのを抜きにしても、それまでの防具が、半ばトレードマークとなっていたのもあってか、早々にゲリョスの狩猟依頼を探し、掲示版を眺めていたクリスティアーネに向く目線は、多くが彼女と気づいてない様な、部外者に対する警戒を含んでいた。

 尤も彼女にとっては、それまでの期待共々、あまり気にするようなものでもないとあって、応える義務はないとばかりに、無視して空いた席に座って、テンガロンハットを脱ぐ。

 

「おわ、誰かと思ったらクリスだったのか。久しぶりだな」

 

 そこで露わとなった顔を見て、ようやっと彼女だと気づいた観衆の中から、イャンクックの鱗や甲殻でできた防具、『クックシリーズ』に身を包み、氷結晶でできた刃と盾から冷気を放つ片手剣、『フロストエッジ』を背負ったアダイトが声をかける。

 

「こちらこそお久しぶりです、アダイト様。先日ビオ様とテリル様、ベレッタ様と共に、ドスフロギィを仕留めて、このフロギィシリーズを作ったんです。ただ、デザインが少々嗜好に合わなかったので、こちらの男性用にしてもらいましたが……」

 

「あー、女性ハンター用は、結構肌見せる防具多いからなぁ……俺も少し前に、レノ達とイャンクックを倒して、この防具作ったんだけど、その様子だと、早速ゲリョス狩りに行くつもりか?」

 

「はい。バルバロイブレイドを手にし、後はゲリョスを狩って防具を揃えれば、遂にフルフルへと挑む準備は完了ですから。万全を期すためにも、やはり同伴者の選別は、慎重にならざるを得ません。その際は、どうかご協力お願いいたします」 

 

 理由はともかく、同じく男性用防具を纏っていたイスミの存在もあって、そこまで意識することでもないと判断し、話題を切り替えたアダイト。彼のフロストエッジが秘める氷属性は、ゲリョスに対してバルバロイブレイドが放つ火属性ほど有効ではないが、それでも少し前まで使っていたハンターナイフに比べれば、段違いに優秀な性能を有している。

 そんなアダイトは、言外にゲリョス狩りに際し、同行を欲するかクリスティアーネに尋ねるが、同期の(よしみ)とでも言うべきか、訓練の中で動きを知っている者同士とあって、パーティーを組む際は、これまでもかつて1つの卓を囲い、共に食事をした仲間達を無意識に優先して選びがちだが、それがただの選り好みや身内贔屓ではなく、むしろしっかりと成果につながっていることは、互いの装備が物語っている。

 クリスティアーネの方も、一際重要な局面とあって、いつも以上に便乗を狙う輩への警戒を厳としており、緊迫した空気に呑まれた周囲のハンター達は、2人に声をかけれずにいた。

 

「あ!クリス!アダイトも久しぶりー!」

 

「結局ドスイーオスは、見つからなかったようだな。だが、そのフロギィシリーズも似合ってるぜ」

 

 そんな空気を破る様に割り込み、両者に声をかけたのは、デザインこそ女性用だが、アダイトと同じクックシリーズに、イャンクックの翼を模したような風貌の大剣、『ザンシュトウ【雛】』を背負ったカグヤと、ランポスの青い鱗が輝くランポスシリーズを纏い、対となった手斧、『デュアルトマホーク』を腰に差したドラコ。

 

「お久しぶりです、カグヤ様、ドラコ様。少々回り道となりましたが、こうして無事、ゲリョスへ挑むに相応の装備を、揃えるに至りました」

 

「やるじゃない!アタシも置いてかれないようにって、イャンクック狩りに精を出したかいがあったってもんよ!」

 

「約束ってほどでもないが、俺も応援するとは言ったしな。装備は里帰り前に、なるべく揃えときたかったのもあったから、予定が合えば程度のつもりでも、用意しといたぜ……お?」

 

 そうして装備を見せ合う4人の後ろを、「すいませーん、通してくださーい!」と依頼書を手にした受付嬢が通り、掲示版にそれを留め、お辞儀と共に去る。間近にいたドラコが、早速貼り出された依頼書の内容を眺めると、噂をすれば、と言うべきか、まさに渡りに船、とばかりのゲリョス――それも、複数体を対象とした狩猟。

 

「こうも都合よくゲリョスの狩猟依頼が来るとはな……複数体相手にするそうだが、どうする?」

 

「装備を作るにあたって、素材を得る機会は多いに越したことはありませんね!危険も承知ですが、無理せぬ程度にお付き合いお願い致します!」

 

「よぉっし!早速この4人で、ゲリョス撃破に出発ー!」

 

「このタイミングで貼り出された辺り、裏で誰かがお膳立てってか、示し合わせた様な気もしてくるが……まぁ、折角巡ってきたチャンスだ。そのフロギィシリーズを作った勢いで、ゲリョスシリーズを作れるよう協力するぜ」

 

 遂にゲリョスと対峙するにあたり、臆するどころか、望むところとばかりの乗り気なクリスティアーネを筆頭に、便乗したカグヤが発破をかけ、残るアダイトも、とんとん拍子ぶりを多少(いぶか)しみながらも、同期(とも)の悲願達成の一助に異論はなく、参加を表明する。



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()霧中の毒怪鳥

タイミングがズレたせいで全然モチベが湧かぬまま放置してしまった・・・


 高く(そび)え立つ木々の生い茂った葉と、その根元を覆い隠す様に立ち込める深い霧に日の光を阻まれた、薄暗い『ジォ・テラード湿地帯』。クルプティオス湿地帯にほど近いとあって、同様にぬかるんだ泥地が広がる区域もあるが、あちらと比べ、足場の安定した区域でも視界の悪さから戦いにくいとあって、様々な狩場を渡り歩いたベテランのハンターでも、好んで訪れるものは少ない。

 そんな僻地だが、依頼を出した付近の領主曰く、領内の寂れた山で少し前に土砂崩れが生じ、埋蔵していた水晶の鉱脈が露呈したらしい。

 早速採掘に、と思った矢先、どこからか嗅ぎ付けたゲリョス達が集まりだし、我が物にせんと縄張り争いを繰り広げたため、このままでは安全に採掘できないとあって、たまらず依頼を出したとのこと。「1体でも多くのゲリョスを仕留めしてほしい」と記された領主の願望は、ゲリョス装備製造のために、少しでも多くの素材を欲するとあって、クリスティアーネとしても、都合がよかった。

 

「ここがジォ・テラードか、大分霧が濃いな……」

 

「無作為に進めば、気づかないままバッタリゲリョスに鉢合わせ……なんてこともありそうだ。一応支給品にもあると言え、ゲリョスの数が多いことを考えると、あまり解毒薬は無駄遣いできるほど余裕はないだろうよ」

 

 周囲を眺め、同じ湿地帯でも近隣のクルプティオス湿地帯と大きく異なる気候を実感するアダイトに対し、故郷の寒村では見られない濃霧に顔をしかめるドラコは、得物のデュアルトマホークを手にし、支給品を取り出す間に、早くもまとわりついた露に気づき、振るい払う。その横ではカグヤが、クリスティアーネの背負うバルバロイブレイドと、自身のザンシュトウ【雛】を見比べている。

 

「イャンクックはこの装備作るのに幾らか狩ってはきたし、必要な素材も残ってたと思うけど、アタシもバルバロイブレイド作っといた方がよかったかなぁ……」

 

「確かに有利に働くとは思いますが、そちらのザンシュトウ【雛】も切れ味が優秀な装備ですから、一概にどちらが有効かは判断しがたいものと思いますよ。最終的には、使い手の腕に委ねられるものですし……」

 

「それもそっか。よし、帰ったらアタシもゲリョスの素材で、新しい装備作ってもらお!」

 

「帰ってからのこと考えるのもいいが、まずはその素材集めるために、ゲリョス狩ることに集中しとけよ。何度か組んだ際に思ったが、お前すぐ熱くなって突っ走るから、余計なダメージ受け過ぎなんだからな。材料集める手間考えりゃ、回復薬だってタダじゃないんだし、少しは攻撃浴びないよう立ち回れって」

 

「そうですね。できる範囲で万全の準備は整えましたが、常に最悪を警戒して、気を張らなくては……」

 

 クリスティアーネの言葉を聞き、早くも達成後に意識を切り替えるカグヤに、ウツシの故郷、カムラの里にある『獲らぬブンブジナの皮算用』の言葉と共に、彼女に度々振り回されてきたことを思い出して呆れながら注意するアダイトが並んだことで、全員の準備が完了したことを確認したドラコが、出陣前の声掛けを担う。

 

「それもそうだな。クリスがフルフルに挑みたい様に、俺もゴシャハギに挑みたいが、そのためにここでくたばる訳にいかんからな。今はゲリョス狩ることだけ考えてこうぜ!」




()


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()霧中の毒怪鳥―1

やってるゲームがメンテで動かない間に・・・と思ったけど天気のせいかからだがダルくて結局なかなか手が着かんかった・・・


 ベースキャンプをたち、霧に覆われた薄暗いエリア2に踏み入れたクリスティアーネ一行。危機感を刺激するような環境とは対照的に、ゆったりと下草を頬張るアプトノスやケルビ達の姿を横目に、隣接する3エリアのどこから巡るかを計画する。

 

「ゲリョスが寄りそうなポイントは、エリア3か4を通って1周できるが、ここは2手にわかれて分担するより、揃って回った方が安全そうだ。俺としては、視界がいいエリア3からがいいと思うが、どうかな?」

 

「それでいいぜ。ここじゃほぼ落とし穴は使えないから、足止めは実質不可能、ってことで持ってきてないし、別に捕獲狙いなわけでもなかったからな」

 

「遭遇した場合、私やカグヤ様が閃光の起点となるトサカを狙い、そちらに気を取られている隙に、アダイト様とドラコ様が尻尾を狙ってダメージを稼いでいきましょう」

 

「囮は任せといて!ゲリョスからすれば、でっかい武器のアタシ達の方が、おっかなく見えるだろうからね!」

 

 地図を広げたアダイトが、北部にある草原地帯のエリア3と、高木と濃霧が広がるエリア4のうち、足元こそ草に覆われているが、日が当たり、濃霧がない分まだ視界がマシな前者に進むよう提案すると、ドラコの賛同を皮切りに、クリスティアーネとカグヤも支持する。

 絶縁性の高い外皮に、『狂走エキス』と呼ばれる体液の効果で麻痺耐性も高いゲリョスは、感電や麻痺毒でかかったモンスターの動きを封じる『シビレ罠』の効果を受け付けず、足止めするには『落とし穴』にはめなければならないのだが、ぬかるんだ湿地が多いジォ・テラードの地質では穴を維持できず、数少ない設置可能なエリアは視界が悪く、誘導が難しいとあって、基本落とし穴は使われない。

 そうした点を考慮した結果、あえて足止め用の罠を用意しない、いわゆるステゴロ形式で挑むことになった以上、足元はともかく、やはり視界がいい方が戦いやすいとあって、早速エリア3へと踏み込んでいくと、遠方からかすかに羽ばたく音が聞こえる。どうやら付近のエリアにゲリョスがいるようだ。

 

「早速お出ましか、気を引き締めてくぞ!」

 

「おうよ、防御は任せな!」

 

「待ってなゲリョス!アタシのザンシュトウで捌いてやるわ!」

 

「お、お待ちください!足取りが乱れます!」

 

 激と共に駆け出すドラコに続き、アダイトとカグヤも先に続くエリア6へと突っ走ってしまい、ワンテンポ遅れたクリスティアーネも慌てて後に続く。幸いすぐ見つかったゲリョスは降りて間もない様子で、周囲を飛び交うランゴスタに毒液を浴びせ、落ちたところをバリバリと貪っている。どうやら縄張り争いの合間に、腹を満たすため訪れたらしい。

 

「あれがゲリョスか。実際見たのは初めてだが、イャンクックに比べて随分歪な風貌してやがる……」

 

「ふざけた見てくれだが、油断するなよ。俺やクリスはシンやレマと卒業試験の時目にしたが、一歩でも逃げるのが遅かったら、突き飛ばされて毒まみれになってたとこだったからな」

 

 足音や防具の衣擦れ音に気づいたのか、食事を止めて周囲を見渡すゲリョスの姿を見て、イャンクックと比較するアダイトに、顔を見た程度と言え、実際に対峙した経験から、注意を促すドラコ。

 太くがっしりした脚を始め、全体的にイャンクックよりも各所に肉が付き、顔は毒液に濡れた嘴が目に見えて小さい一方、頭頂で軽く揺れるトサカが目立つゲリョスだが、体格に反しイャンクック以上に臆病で、『狂走エキス』と呼ばれる特殊な体液の効果もあって、1度驚くと、驚異的なスタミナに任せて縦横無尽に延々走り回る点は、非常に厄介な特徴と知られている。

 ドラコ達も対峙した時は、まだそこまで速度が乗ってなかった走り出しとあって、追いつかれずに逃げ切ることができたが、もし気づくのが遅れ、エリアの出入り口から離れていたり、逆にゲリョスが先に気づいて、反応する前に襲い掛かってきたりした場合、ハンター活動が大きく出遅れたどころか、最悪ババコンガに突き飛ばされた先輩の後を追う羽目になっていたかもしれない。

 

「とりあえず警戒はしてるけど、まだ気づいてないうちに攻め込みたいが……」

 

「ここで新手か!早々鉢合わせるとは、ついてないぜ」

 

 そうして機を計っていたが、直後新たな羽音が聞こえ、そちらに気づいたゲリョスの視線が向いた先には、同様に確認した同じくらいのゲリョスが、着陸を中断して低空飛行に切り替え、そのまま突撃してきた。

 已む無くアダイト達も、両者の様子を見守りながら、臨戦態勢を整える。



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()霧中の毒怪鳥―2

なかなかやる気湧かんわ体調優れんわで手が伸びんまま1月過ぎてもうた・・・


 向き合って早々、血気盛んとばかりに正面から取っ組み合いを始めた2体のゲリョスだが、体格差のほぼない両者の対決は、決定打たりうる一撃がないこともあって、拮抗していた。

 吐き散らし、浴びせあう毒液は、同族故相手も抗体を有しているために効果を発さず、牙や爪も相手のゴム質の皮膚を突き破るに至らない。結果、無尽蔵のスタミナに任せ、毒液を撒き散らしながら延々ど突き合う2体を前に、クリスティアーネ達は割り込むことも、目印とするペイントボールを投げることもできず、身を潜めてどちらかが去ることを願うしかなかった。

 

「うぅ~、ここまで来てこんなとこでお預けなんて……」

 

「早まるなよカグヤ、ここで飛び出してどっちも相手しようなんて考えるのは、後先考えない無謀な3流ハンターだぞ」

 

「わ、わかってるわよ。さすがにそこまで功を焦るつもりはないし……」

 

 試験では対峙するドスランポスとドスファンゴを前に、割り込む様に突撃したカグヤだが、あの時とは相手の大きさも危険度も段違いとあって、同じように飛び出さないようドラコが注意する。

 尤も彼女とて、ユク()モ村()を救ったハンターという明確な目標がある以上、ただ相手を求めて適当に暴れたいだけの戦闘狂ではないのだが、、そう思われたことに対し不満げに言葉を詰まらせながらも、視線をゲリョスに戻し機を窺う様子に焦りはない。

 

「しかし複数体集まって縄張り争いで周囲に被害を出しているとは聞いたが、こうも拮抗してちゃ、手を出すのも難しそうだな。いっそほかのエリアで1体だけいるのを探しに行った方が……!」

 

 その間ゲリョス達も互いに千日手と理解してか、足を止めて頭を下げ、首を上下に振って頭頂部のトサカを揺らし、嘴と打ち付ける音で威嚇しあう様子を見ていたアダイトが移動を提案したところで、突如流れが変わる事態が生じる。

 突如エリア北西部――洞窟部分につながる方から、ババコンガが勢いよく現れた。しかし塗った植物の汁の影響か、蝋燭よろしく先端に火を灯らせた自慢のトサカを始め、ピンクの体毛は所々焼け焦げた様子で、乱入の様子も、自ら飛び込んできたのではなく、何者かに投げ込まれたような横回転で無様に泥濘(ぬかるみ)を滑り、キノコが生える辺りにぶつかって悶える姿は、別の乱入者の存在を示すようでもあったが、その相手は間もなく、ベキベキと周囲の木を巨躯で薙ぎ倒し、圧し折りながら姿を見せた。

 

「ぐ、グラビモス!?なんだってこんなところに……」

 

「いえ、グラビモスは食した鉱石の発する熱で、体内のバクテリアからエネルギーを得ているはず。つまり目的は異なれど、ゲリョス同様に鉱脈を目当てに現れたのかもしれません……」

 

「うそでしょ……ゲリョスだけならまだしも、グラビモスなんてアタシ達の手に余るようなのまで来るなんて……」

 

 4人にとっては、装備も経験も相手取るには不足すぎるグラビモスの出現に絶句している間に、それを少し前まで身をもって体験していたであろうババコンガは、これ以上相手しては身が持たないとばかりに、折れた爪を必死に突き刺し、這う這うの体で外壁を乗り越えて逃亡し、残る2体のゲリョスも、思わぬ相手の出現にしばし呆然としていたものの、どちらがと言わず我に返ったところで揃ってグラビモスに威嚇し、先程とは一転して持ち上げた頭を前後させてトサカと嘴を数度打ち付け、咆哮と共に翼を大きく広げると共に、閃光を放つ。

 

「ぐっ!ここで閃光か……皆無事か?」

 

「大丈夫、アタシとクリスは得物の陰で何とか防いだ……ドラコは?」

 

「俺も無事だ。装備のおかげで救われたな」

 

「ですが、()()を食らったグラビモスが混乱して何をしてくるか分かりません!今のうちに引き返して――」

 

 幸い予備動作の大きさもあって、対象外だった4人のうち、防御ができないために『気絶無効』スキルのついたランポスシリーズを装備していたドラコ以外は、それぞれ大剣の刃や片手剣の盾で顔を隠し防ぐことには成功するも、当然そうした防衛手段のないままもろに浴びたグラビモスは、クリスティアーネが危惧した様に、『ゴハアァーーー!』と咆哮を挙げて、狙いを定めぬまま熱線を放つ。

 

「こっちに撃たれちゃたまんねぇ!いったん引き返すぞ!」

 

 当たりはしなかったものの、うまいこと間を通った熱線の熱量に驚いたゲリョス達が逃げ去るのを見て、いつ流れ弾がこちらに向くかわからない危険から、アダイトが撤収を宣言すると、その恐ろしさを理解し、黙っていた3人も足並みを崩さず続き、エリア3の草原を勢いのまま突き抜けてエリア2まで戻ると、ようやく足を止めて一息つく。

 

「もー!グラビモスまで来るなんて聞いてなーい!」

 

「うるせぇな、叫ばなくたって皆同じだよ。まぁクリスは好きだから、依頼に支障がなければ、姿を見れたのは(ぎょう)(こう)かもしれんが……」

 

 予期せぬモンスターの出現――それも、現状どう転ぼうが敵う訳などなく、「生きて帰れれば御の字」としか言えないグラビモスとあって、あまりの理不尽振りに思わず叫ぶカグヤに対し、つい最近――まさに今自身の防具と、彼女の装備一式の元となったイャンクックを相手にするためレノやエルネアと共に行った森丘で、――片方とは言え自分達が追っていたイャンクックを仕留めたイャンガルルガを思い出したアダイトは、思わずその屈辱に黙るが、ドラコは彼女の喧騒にストレートな苦情をぶつけると、かつてイスミやディードと共にした祝勝の席で、クリスティアーネから聞きだしたことを思い出しながら続け、彼女の様子を伺う。

 

「確かに、ネルスキュラ辺りが同様に集結したゲリョスを狙って来る可能性は考慮してましたが、カグヤ様の様に叫ぶほどでないと言え、まさかここでグラビモスも現れるとは、予想してませんでした……」

 

 クリスティアーネが挙げた、『影蜘蛛(かげぐも)』の異名を持つ『ネルスキュラ』は、ゲリョスを主な獲物としているが、食すだけでなく、ゴム質の体皮を剥いで纏うことで、自身の苦手な電撃への対策をする特異な生態で知られている。幸いこのメンバーなら、万が一遭遇しても抵抗して追い払うくらいはできそうだが、グラビモスはゲリョスどころかネルスキュラ以上に桁違いな存在で、このまま居座られては依頼の続行すら危うくなる。

 しかし間もなく衝突や崩落するような音が聞こえたことから、グラビモスは鉱石を求め、強引に北西の洞窟区に潜り込んでいったらしい。

 

「……とりあえず、今度はエリア5と10の方を見てみよう。それでダメだったら、悪いがリタイアしてグラビモスのことを報告しに戻ろう」

 

「わかりました。ゲリョスどころでない事態に、せっかくのチャンスをふいにされかねない件は悔やむばかりですが、運も実力のうちとも言いますし、私のわがままで、皆様を危険に晒すわけにもいきません」

 

 依頼達成のため残るにしろ、グラビモス出現を報告に戻るにしろ、どの道このままエリア2にいても進まない。とりあえずはグラビモスが洞窟から出てこないことを祈りつつ、まだまわっていない部分の確認を提案したアダイトに、無条件で即刻撤退を進言してもおかしくない状況でも、まだ付き合ってくれることを感謝するクリスティアーネは、改まった気持ちを込める様にバルバロイブレイドの柄を握った。

 

 

 

 

 

 

 エリア5に入ってすぐ、幸いにもゲリョスが見つかった。臆病なゲリョスらしからず、周囲に同族含めて敵はいないと油断しているのか、クリスティアーネ達に背を向ける形で、あくびをしながらキノコを貪っている。

 

「運よくあっさり見つかったな。まずはペイントボールでマーキングだ……」

 

 まずは万が一後程乱戦になり、いったん撤退しても、時間をおいて追跡できるようにと、アダイトがペイントボールを投げる。高く弧を描いたペイントボールは、うまいこと背中の出っ張った部分にヒットし、何かが体に当たったと気づいたゲリョスは、頭を持ち上げきょろきょろと周囲を見渡すが、その間に死角へと潜り込んだカグヤとクリスティアーネは、互いに得物のザンシュトウ【雛】とバルバロイブレイドを抜刀、振り下ろす。

 

「でぇりゃあぁ!」

 

「たあぁ!」

 

 ただでさえ刃物系の武器に弱いゴム質の体皮の中でも、肉がない分一際ダメージが通りやすい尻尾を大剣で叩かれたとあって、突然の痛みに走って逃げることも毒を吐いて反撃することもできないほど混乱したゲリョスは、『ギョワアァァ!』と叫んで大きく体を仰け反らせ、飛び上がる。

 

「よっし!先手必勝!」

 

「振れば遠心力に乗って伸び、鞭の様にしなる優秀な武器ですが、その分柔らかく、攻撃されればダメージが大きい!習った通りです!」

 

「念のためペイントは当てたが、ここから逃がさんくらいのつもりで行くぞ!」

 

「任せな!ズタズタに刻んだらぁ!」

 

 そのまま立て直す前にアダイトとドラコも合流し、4人は怒りに目の周りを光らせたゲリョスと対峙する。



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()霧中の毒怪鳥―3

誕生日だってのに寝違えたのか首が痛くてなかなか進まなかった・・・


 飛行能力を持つ大型の鳥竜種において、ゲリョスは代表種のイャンクックや、より好戦的で戦闘能力も高いイャンガルルガと比べても、骨太で肉付きのいい部類に当たる。

 その体格に反し、臆病な気質なのも有名だが、人間も小さな虫に大騒ぎしながら、必死になって叩き潰そうと躍起になるようなものか、ハンターを見かけても早々逃げ出すのは稀で、大抵は驚きこそすれど、体格差をいいことに襲い掛かってくることが多い。

 ましてや出会い頭に尻尾を切られたとあって、足元のクリスティアーネ達に怒り心頭なゲリョスの頭に、逃走の選択はないようだが、習性に従うかの如く的外れな方向に毒液を吐き散らしながら駆け出したかと思えば、急停止から方向転換しては、再度毒を撒き散らしながらのダッシュを繰り返す。

 

「興奮して暴れ回ってやがる、こりゃ追いついて攻撃するのも一苦労だな……」

 

「ひとまず無理に追う必要もないだろうから、落ち着いてこっちに向かってくるまで、走りたいだけ走らせておこう」

 

 縦横無尽に駆け巡るゲリョスを見て、呆れた様子のドラコに対し、アダイトが腰を落とし、盾を構えて待ちの姿勢をとると、走り続けたゲリョスが落ち着いた様子で足を止め、向き直った。しかし興奮状態は継続しているようで、引き続き目の周りを明滅させながら、翼を広げた不格好な姿で、4人目掛けて駆け寄ってくる。

 

「よし、こっちを認識した!来るんならこれで……!」

 

「カグヤ様!?いったい何を……!」

 

 ドタドタと走ってくるゲリョスを前に、他の3人が左右へと逃げる中、1人その場に残り、ザンシュトウ【雛】を振り掲げるカグヤ。その姿を見たクリスティアーネは驚きの声を挙げるも、まさにゲリョスの武骨な嘴が迫る瞬間、溜めた力を解放して振り下ろし、ゲリョスの頭を泥に沈めると共に、トサカを粉砕する。

 

「す、すげぇ……あいつタイミング見計らって決めやがった……」

 

「アダイト、ボケっとしてる場合じゃねぇぞ!まだゲリョスは生きてるんだ、このまま一気に決める!」

 

「オッケー!まだまだ行くよぉ!」

 

「了解です!」

 

 向かってくるゲリョス(モンスター)を相手に、ベテランハンターでも稀に見るほどの見事なカウンターを決めてみせたカグヤの姿に、思わず足を止め、呆然とした様子で声を漏らすアダイト。そんならしからぬ姿を叱責するドラコは、顔を挙げれずもがくゲリョスの元に駆けつけ、掲げて交差させたデュアルトマホークを力のままに振るい、激しく動き回る尾をズタズタに切り付けていく。

 それに応え、攻撃の手を緩めずザンシュトウ【雛】で無防備な首を斬りつけるカグヤにクリスティアーネも続き、バタバタと激しく上下する右翼にバルバロイブレイドを振るい、切り裂いていく。そして復帰したアダイトも交えゲリョスを攻撃して行くと、泥中から顔を引っ張り出し、再度怒りのまま毒液を吐き散らしていくが、大分ダメージを稼いだためか、先程に比べ動きに勢いがなく、ある程度遠ざけると背を向け、足を引きずって逃げようとする。

 

「足を引きずりだしました!あと少しです!」

 

「あぁそうだな、まずは足を止める!」

 

「トドメは任せた!死にマネに注意しろよ!」

 

 瀕死の合図に逃がすまいとすれ違い様に脚を切りつけ、転倒させたドラコとアダイトに続き、クリスティアーネとカグヤが喉笛に交差する一閃を決め、遂に倒れ伏すゲリョス。擬死かどうかを確認するため、少し間をおいて手近な石などを投げつけてみるが、一切反応がない。

 

「やったー!ゲリョスを仕留めたー!」

 

「ありがとうございます!皆様の協力のおかげです!」

 

「狩猟対象は複数体だが、まずは1体目だな。この調子で……とはいかずとも、もう2、3体は狩っておきたいところだ」

 

「そうだな、それくらい狩れば、俺達も便乗してゲリョスの装備が作れるかもしれないし」

 

「あっ、それもいいね!ならそのためにも、さっさと剥ぎ取りして次の準備しよ!」

 

 ドラコの発言にアダイトとカグヤが便乗する姿に、クリスティアーネは一足早くゲリョスの骸に突き立てていたナイフを止め、微笑ましく見守っていた。

 

 




関係ない私事ですが、今月からバイト始めました
制作意欲は相変わらずですが、今まで無駄にしてきた時間を少しは有意義に過ごせそうです


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()霧中の毒怪鳥―4

 1体目のゲリョスを仕留め、剥ぎ取りを終えた一行は、改めて気を引き締めると共に、隣接するエリア10へと踏み入る。そこには今しがた倒したものより、一回りは大きそうなゲリョスがすでに事切れており、早々と嗅ぎ付けたのか、周囲にはガミザミが何匹か群がり始めている。

 

「うわっ、ゲリョスが死んでる……!?」

 

「どうやら、グラビモスにやられたみたいだな。熱線に驚いて、勢い削がれて逃げたさっきの若手2体と違って、変に粘ったせいで怒りを買ったんだろ」

 

 まさか自分達以外のハンターが来たのかとカグヤは驚くが、ガミザミを避け表皮を眺めていたアダイトは、死因であろう抉る様な焼け跡に貫かれた右の首元と、激しく焼け爛れ、地に付した際に残った熱で乾いた泥が付着した顔の左半分から、グラビモスに敗れ、果てたと推測する。

 

「ってことは、あのグラビモス洞窟から出てきたのか……」

 

「さすがにあの体躯で潜るのは無理があったでしょうから、入りきらずに諦めて出たところに遭遇したようですね。そして、別の鉱脈を探して立ち去った、と……」

 

 戦闘で聞き耳を立てる余裕はなかったと言え、洞窟内の鉱石を貪っていたと思っていたグラビモスが、予想と違う行動をしていたとあって、遭遇を危惧するドラコに対し、泥濘に残る足跡を確認していたクリスティアーネは、進行方向にあるエリア西側の外壁部分が激しく崩落しているのを眺め、幸いにもグラビモスがここを後にしたと考える。

 

「ってことは、後は周りを気にしながら残りのゲリョスを何体か倒して帰ればいいってことだよね?ならとりあえず、この死体からも少しもらって、他のゲリョス探しに行こ」

 

 一応想定外の脅威は去ったとあってか、カグヤは言うが早く比較的損傷が少ない背面や翼膜部分の皮膚や、その奥にある骨を集めていき、アダイトも手柄とは言い難い場面に、どうするか悩むように顔をしかめるも、剥ぎ取りを終え、ナイフを収めたカグヤに続き、ドラコとクリスティアーネも便乗する。

 

「まぁ、さすがにあんまり繰り返すと、ギルドに注意や没収されるだろうけど、今回は棚ぼたってことで失敬してくか」

 

「コイツの討伐はグラビモスのおかげだろうが、依頼受けたのは俺達だしな。カグヤの言う通り、もう何体かゲリョスを狩っとけば、それに免じてお咎めされんだろ」

 

「労せず成果を得ることに後ろめたさはあるかもしれませんが、生物としては間違ってませんし、今の私達は、少しでも成果を示すために装備を強化や新調しなくてはなりませんから、このゲリョスに感謝して、素材をいただきましょう」



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霧中の毒怪鳥―5

HDDがイカれて保存してた動画が見れなくなり、業者に相談したところ10万近くかかるとのこと
収入以上に臨時支出ばっか増えて一体どんだけ稼がにゃならんよ・・・


「今だ!行けクリス!」

 

「お任せを!てやぁあああ!」

 

 天へと高く伸びた木々と、その根元を覆う霧に日光と視界を遮られたエリア4にて、アダイトの号令と共に、クリスティアーネが対峙するゲリョスの喉にバルバロイブレイドを奔らせる。喉笛を割かれたゲリョスは、吐こうとした毒液を傷から漏らしながら地に伏せ、動かなくなる。

 

「ふぅ~、これで5……いや俺達が倒した分は、4体目か。結構倒したな」

 

「そうだねぇ。もう1、2体仕留めたら、ゲリョスシリーズ一式作る分は足りるんじゃない?」

 

 ドラコが数えた通り、グラビモスにやられたゲリョスから剥ぎ取り後、一行は新たに2体のゲリョスを討伐した。そのうち1体目との戦闘で、油断して剥ぎ取りに近寄ったカグヤが騙し討ちを受けて突き飛ばされ、2体目との戦闘で、クリスティアーネが頭からかけられた毒液が、飛散した拍子にかかったアダイトが、回復を優先しようとしたところに啄ばみを浴び、ビンの反射が気を引いたのか、回復薬を盗まれるトラブルこそ発生したが、それ以外は特に問題なく順調に進み、皆一様にゲリョスの素材でポーチを膨らませている。

 

「更に狩るのもいいが、そろそろいったんベースキャンプに戻って、休みがてらポーチの整理しないか?回復薬や解毒薬の補充もしたいし、クリスがくれた元気ドリンコのおかげで疲れはないが、腹減ってきてよ……」

 

 素材の量は十分かもしれないが、「あるに越したことはない」とばかりにまだまだやる気のカグヤに対し、ドラコは休憩のため、ベースキャンプへの帰還を希望する。

 

「そうだな。俺もさっき回復薬盗まれたし、クリスも頭から毒液浴びた訳だし、防具のおかげで効かなくても、洗い流すくらいはしといた方がいいんじゃないか?」

 

「お気遣いありがとうございます。毒液に関しては、戦闘中に幾らか流れたでしょうけど、その際に泥も付着しましたし、少しきれいにしたいのは同意しますね」

 

 いくらフロギィシリーズのスキルで毒にならないと言っても、吐瀉物を頭から浴びていい気分ではないため、アダイトの気配りに感謝する。

 

「ん~、そっかぁ。アタシとしては、このまま勢いに乗じて更に戦果を、って思ったけど、言われてみれば、確かに消耗してきたね。わかった、万全な体制を整えるために、いったん戻ろうか」

 

「決まりだな。それじゃ、キャンプに戻るか」

 

 カグヤも引き留められて冷静になるうちに、少々逸り過ぎたことを自覚したようで、一時撤収を受け入れたため、エリア2を通ってベースキャンプに帰投する。



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() 霧中の毒怪鳥―6

 ベースキャンプに帰還した4人は、入手したゲリョスの素材を、ポーチからベースキャンプに備え付けのアイテムボックスに移し替えると、代わりに回復薬や解毒薬を補充する。

 

「とりあえず、もう何体かゲリョス仕留めるとして、何体いくつもりだ?」

 

「そうですね……さすがにそろそろ皆様も疲れましたでしょうし、後1体捕獲だけしたら、戻ってもよさそうですね」

 

 事前に焼いて、持ち込んでいたこんがり肉に食らいつくドラコの質問に対し、砥石でバルバロイブレイドの刃を手入れしていたクリスティアーネは、すでに十分ゲリョスの素材が集まったとあって、これ以上はいいと判断し、最後に1体だけ捕獲して帰還することを告げる。

 通常の討伐と違い、捕獲は剥ぎ取りこそできないものの、タイミングの見極めや生け捕り自体の難しさの分、ギルドからの報酬に箔がつくため、今回のように、複数の同種モンスターを相手する際は、希少な素材目当てに1体を捕獲する場合も多い。

 

「え~もう帰るのぉ?アタシはもう少し狩っててもいいんだけど……」

 

「そこはしょうがねぇだろ。回復薬なり解毒薬なり結構消耗したし、今回はクリスの手伝いってことで組んだんだからな」

 

「う、それ指摘されると痛いなぁ……」

 

 それに対しカグヤは、まだ狩り足りないと腕を振ってアピールするが、アダイトからアイテムの残りや、今回の目的を指摘される。そこにこんがり肉を食べ終えたドラコも混ざり、クリスティアーネの決定を後押しする。

 

「っても、素材は十分たまったんだし、何かしら装備作ったり、売って生活費の足しにする分には問題ないだろ?」

 

「そうですね。最後の捕獲は自己満足ですので、このまま帰ってもいいですが……」

 

 事実ギルドからの報酬次第な部分もあるが、少なくともイーオスシリーズの時の様に足りなくはならないだろう量は確保できている。

 

「あーわかったわかった。じゃあ、最後の1体仕留めに行こうか」

 

 結局折れたカグヤが急かす形で休息を終えた4人は、荷物の確認だけ済ませ、再度狩場へと進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 しばらくして4人は、再度エリア4で遭遇したゲリョスと対峙する。

 

「ここなら落とし穴も設置できるので、都合がいいですね」

 

「だな。ある程度戦ったら、罠と麻酔玉、準備しとけよ」

 

 シビレ罠が効かないゲリョスは落とし穴にはめなければならないが、設置場所を選ばないシビレ罠と違い、落とし穴はある程度地盤がしっかりしてないと、設置しても発動した拍子に崩れてしまう。そして沼知はそうした設置できないぬかるんだ地面のエリアが多く、ゲリョスが来て落とし穴を設置できるエリアは、ここか隣のエリア9くらいしかない。

 やがてそれまで対峙した同族の様にトサカを砕かれたゲリョスは、怒りに任せ目の周りを光らせながら暴れ回るが、しばらくすると、突如4人に背を向け、足を引きずる様に離れていく。

 

「大分弱ったぞ!今がチャンスだ!」

 

「了解です!準備できました!」

 

 アダイトの発言を聞き、クリスティアーネはとっさに逃げるゲリョス足元を潜り抜けて落とし穴を設置すると、飛んで逃げる余裕のなかったゲリョスは、目の前でできた落とし穴に自ら入る形ではまり、もがく。しかしそれもクリスティアーネが手にした『捕獲用麻酔玉』を顔に当てられると、それまで暴れていたのがウソのように、眠息を立てて動かなくなる。

 

「やったぁ!ゲリョス捕獲!」

 

「これでゲリョス狩猟も完了だな。お疲れ」

 

「はい、皆様もご協力ありがとうございます」

 

 こうして討伐4、死体あさり1に加え、捕獲分も含めると、計6体のゲリョスから素材を得ることができた4人は、その活躍に驚かれながらも称賛され、報酬も十分に得たとあって、クリスティアーネに限らず武器や防具にゲリョスの素材を使い、新たな装備でさらに活躍を広めていくのだった。



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奇怪竜の凶剣(フルミナントソード)

「討伐叶って舞い喜ぶ気持ちは分からなくもありませんが、だからって際限なく剥ぎ過ぎです……」

 

「はい、申し訳ございません……」

 

 念願のフルフル討伐を達成し、意気揚々と帰還したクリスティアーネは、戻って早々自分よりずっと小柄な受付嬢を前に、正座で床に座らされ、巨躯を縮めてその説教を一身に受け続けていた。確認のため、入れ替わりで現地を訪れたギルドの職員たちが目にしたのは、表皮をほぼ剥ぎ取られ、肉や内臓が露わになった、頭部のないフルフルの死体。証明(トロフィー)として頭部を持ち帰ったことは――できればそれも控えてほしかったと言え――父であるゼークト卿に提示する土産として分からなくもないが、歓喜のあまり剥ぎ取り過ぎたとあって、追加報酬を絞る処遇の決定と共に、その惨事が報告され、ハンターとして過ぎた振舞いを叱責されていたのだ。

 

「はぁ……とりあえず、処分としては大型モンスター関係の依頼受注を1週間禁止と共に、解禁後最初の依頼の報酬減額で決定しましたから、一応は謹慎処分みたいなものとして、その間しっかり反省してくださいね?」

 

「それに関しては重重承知しております。私としたことが、ようやっとハンター活動を認められたと浮かれるあまり、その矢先ハンターにあるまじき振舞いをしてしまうなんて……」

 

 幸か不幸か、クリスティアーネが過剰に入手したフルフルの体皮、『ブヨブヨした皮』は、希少性も市場価値もそこまで高くない――むしろフルフルの素材としては、広く流通しているとあって、多少多く剥ぎ取ったところで大した問題でもない。とはいえハンターとして有するべき自制を忘れさせないためにも、何かしら表立った処分を下さねばならないとあって、内容自体は――期待の新人かつ貴族令嬢相手なのを抜きにしても――ごく軽度な行動制限と罰金で済ませ、その分今後のためにも反省を促し、心機を一転させる方針で片付けることになった点から見れば、彼女は既に十分準じたと言える様子でもある。かといって「反省したならヨシ」と撤回する訳にも行かないので、指定期間中はそのまま処分を執行することになる。

 

「まぁ、今回の件は元々それを当初の目標としていたとのことでしたから、処分が明けたら、お祝いがてら手に入った素材で、何か武器でも作ってもらってきたらどうです?」

 

「そ、そうですね。幸いというべきか、素材類は没収されませんでしたから、後日加工屋を訪れてみます」

 

 彼女の手元には、『ブヨブヨした皮』以外にも、発電器官の『電気袋』などフルフルの素材が充実しており、量は絞られたと言え、追加でもらった依頼達成の報酬分も合わせれば、十分装備を用意できるだろう。

 

 

 

 

 

 

 実質的な謹慎に当たる大型モンスター関係の依頼受注禁止が明けたクリスティアーネは、早速フルフルの素材を持ってドンドルマに戻り、古巣たる第88訓練所にほど近い、顔馴染みの加工屋を訪れた。

 

領主(父君)様に実力を認めていただくべく、初討伐されたフルフルの素材、ですか。これはまた記念すべきものを……」

 

 持ち込まれた(素材)が、意外な逸話持ちとあって、閉口する職人だが、それでも長年ドンドルマで腕を磨き、眼前の彼女が背負うバルバロイブレイドを始め、多くのハンターに武器を作ってきただけあり、同様に記念品的な素材を使った経験も多々あって、量や内訳の確認を済ませると、取り出したカタログから、製造可能な武器を示す。

 

「大剣使いのあなたですと、この『フルミナントソード』はいかがでしょうか?強力な雷属性と、重量を活かした攻撃力は、多くのモンスターに効果を発しますよ」

 

 フルフルの横顔を伸ばした様なデザインのフルミナ()ントソード()は、不気味な風貌ながら、素材となったフルフルの能力を存分に発揮するかの如き性能を誇る。さすがに今後をこの1本だけで、とはいかずとも、職人の提案する通り、バルバロイブレイドよりも活躍に付き合える得物となりえそうだ。

 

「では、その通りにお願いします」

 

「承知しました。それでは明日の昼頃には完成いたしますので、そのころにまたお越しくださいませ」

 

 クリスティアーネの了承を得た職人は、丁寧に種類ごとまとめた素材を下働きのアイルー達に渡し、完成の目処を伝えると、自身も続いて奥の工房へと姿を消す。

 

「明日の昼……ですか。となると今晩は、手近なところの素材ツアーで時間を潰しましょうか」

 

 その姿を見送ったクリスティアーネは、完成まで手持無沙汰となった間をどう過ごすか悩むが、まだ日は高いと言え、今から宿をとるより、回復薬の材料となる薬草やアオキノコの収集がてら、日銭程度でも稼いでおこうと考え、集会所に向かうことにした。




()投稿ペースを優先した結果、完成まで届かなかった・・・


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()賊討ちの水没林

今気づいたけど前回ドンドルマとミナガルデがゴッチャになってた・・・
近いうち直しときますが、描写的にミナガルデってことでお願いします・・・
後Riseにドスジャグラス出ませんが、ジャグラスが出てるんだしってことで・・・


 森丘地帯の素材ツアーで1晩を過ごし、そのついでに換金品や、狩猟中使うアイテムの素材となるキノコ類や薬草、鉱石などを採集したクリスティアーネがミナガルデに戻ると、すでにフルミナントソードは完成していた。

 

「お待ちしておりました。よろしければ、早速こちらで振るってみられますか?」

 

「お気遣いありがとうございます。ですが、折角ですし、何か腕試しになりそうな依頼を探してみようかと」

 

 挨拶と共にカウンター越しにフルミナントソードを差し出した職人は、手に取って眺めるクリスティアーネに、中庭のを開放した試供スペースの利用を提案するが、厄払いと腕試しがてら、素材となったフルフルを狩った際の減俸処罰を手早く解消したかったクリスティアーネは、それを丁重に断ると、早速新たな相棒を担ぎ、先程出たばかりの集会所にとんぼ返りする。

 

「クリスティアーネさんの所属ランクですと、水没林のドスジャグラスなんてどうでしょうか?近くの村から、率いている子分のジャグラス共々、被害が出る前に暴れ回っているのを何とかしてほしい、と依頼が来てますよ」

 

 事情を聴いた受付嬢が提示したのは、四足歩行の竜『牙竜種』に属し、『賊竜(ぞくりゅう)』の異名で呼ばれる、『ドスジャグラス』。アプトノスやズワロポスの様な、ある程度大型の獲物をも一呑みにする旺盛な食欲の一方、非常に強力な胃酸で消化されかかったそれを吐き戻し、同族の『ジャグラス』に分け与える面倒見の良さでも知られる。家畜として飼育されているそうした草食種に限らず、住民達さえも腹に収めようと攻め込まれることを警戒するのも、当然だろう。

 

「水没林と言えば、先日ビオ様達とドスフロギィを狩りに行きましたね……然程経ってないはずですが、なんだかもう懐かしくなってきました」

 

 今身に纏うゲリョス装備作成のため、対毒機能を求めてフロギィ装備作成にと水没林に赴いたことを思い出していたクリスティアーネは、早速その依頼を受け、狩猟に赴くことを決める。

 

 

 

 

 

 

「今回はご協力いただき、ありがとうございます。出会いは偶然といえ、本来なら私1人で行くつもりだったところを……」

 

「そこは気にしないでください。同期の好ですよ」

 

「そうだね。それに情けない話、ちょっと依頼が上手くいかなくて、懐が寂しかったのもあったし……」

 

「クリスティアーネ程躍進しろとは言わんまでも、お前ももう少し自信を持て。上下関係は確かに大事だが、それと同じくらいに実力と成果がものを言うのに、委縮して折角の実力を発揮できずにどうする」

 

 水没林に向かう竜車の中でクリスティアーネが話すのは、奇しくも出発の際に再会した、ダイミョウザザミの甲殻でできた『ザザミシリーズ』に、鉄刀を順当に強化した『鉄刀【神楽】』の八雲、引き続きレザーライトシリーズに、ランゴスタやカンタロスの羽を使った狩猟笛『ソニックビードロー』を担いだヤツマ、ジャギィや同族の『ジャギィノス』、親玉に当たる『ドスジャギィ』の皮でできた『ジャギィシリーズ』に、同じくドスジャギィの素材から作られたライトボウガン、『ジャギットファイア』を背負ったレイン。

 故郷のためにと熱意を発揮したウツシ程でないにしろ、訓練所の頃から打倒フルフルを掲げ、デビュー後も多くの中、大型モンスターを仕留め、結果として名を挙げてきたクリスティアーネには及ばないにしても、皆順調に活躍しているようだが、ヤツマだけは生来の気弱な気質から、先輩ハンター達に押し切られ、依頼を奪われがちなため、なかなか苦労しているらしい。そのため、ヤクライへの恩もあって少しでも自信と名に箔がつけば、と依頼を譲るつもりだったが、逆に同伴させてほしいと懇願されたため、残る2人も巻き込む形で一緒に行くこととなった。

 

「ま、まぁまぁ……油断は厳禁ですが、少なくともバランスはいいでしょうから、規模次第とは言え、単身で行くよりはうまくいけるかと。八雲様の剣技もですが、ヤツマ様、レイン様、支援期待してますね」

 

「う、うん!足を引っ張らないように、頑張るよ!」

 

「ドスジャグラスがどれ程のものかはわからんが、戦力と期待される以上、無様は曝さんよ」

 

「防御力はありませんが、その分機動力はありますからね。ジャグラス達を翻弄して見せましょう」




今年はこれが最後の投稿かな・・・


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