俺の妹が最高のオカズだった (風見 源一郎)
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妹がオカズになった日

 

「お兄ちゃんなら、いいよ」

 

 月明かりが差し込む真夜中のベッドの上。

 彼女は自ら股に手を添わせ、その秘部を広げた。

 

 銀色の髪が枕に枝垂れ、潤んだ瞳が俺を見つめる。

 

「美宇……美宇っ……!!」

 

 熱を持ち、膨張する俺の肉棒は、右手によるポンプアップで更にその硬度を高めていた。

 

 耳に直に触れる四千ヘルツの音波と、四百万ピクセルの集合体が、器官を経由して性器を刺激する。

 

 俺をいじらしく誘惑するこの美少女が、俺の大切な恋人だ。

 

「お兄ちゃん……んっ……ああっ……!」

 

 膣壁をこじ開けられて身悶える美宇の体は、まだ男を知らない。

 決して裏切ることのない唯一無二の天使。

 

「はぁ……気持ちいいよ……美宇……」

「お兄ちゃんダメぇ……そんなに激しくしちゃ……あんっ……!」

「美宇……好きだっ……もう……ッ!」

「おにいちゃーん? いるのー?」

「ああっ……み……う……?」

「お兄ちゃん?」

 

 その声は背後から届いた。

 

 部屋のドアがあるその方向。

 

 俺に無関心な家族は、決して開けることがないだろうと思っていた。

 

「ぬぉぁぉあああ!? み、美優!?」

 

 ディスプレイに映る彼女(いもうと)とは違う、俺の実の妹が立っていた。

 惨めに下半身を丸出しにしている俺のすぐ横に。

 

「ち、ちち違うんだ! これは決してそういうのじゃ……!!」

 

 妹とセックスの真っ最中の画面と、それに興奮して勃起している陰部と、どちらを隠すべきか迷って、俺はどっちつかずの手をバタつかせた。

 

「どう見てもそういうのにしか見えないけど」

 

 美優が俺の剛直を真顔で見下ろす。

 先走りでテカった亀頭がパンパンに膨らんで、発射までもう間がなかったことを主張していた。

 

「邪魔してごめんね。背中で隠れてたから気付かなくて」

「そ、そうか」

「可愛い女の子だね」

「そう、だな」

 

 ヘッドホンから漏れ出る切羽詰まった美宇の喘ぎ声が、余計に空気を気まずくする。

 テキストとは無関係に流れる音声は、オート機能を停止しても永遠に流れ続けるのだ。

 

「もう出そうだったの?」

「ち、違っ……く、はないが……」

「ふーん。そうなんだ」

 

 妹は落ち着いた声音で、また俺のペニスに目を落とす。

 

 充血した男性器をモロに見ても、動じることのない大きな瞳。

 血の繋がりを無視して俺を誘惑してくる艶やかな肌、黒い髪。

 その手のひらに余るほど肉づいた胸と、引き締まった体は、いったい誰のためにこしらえたのか。

 いつ男のオナニーなんて知ったのか。

 

 美優とはとりわけ仲が良いわけでもなくて、引きこもり体質の俺は美優とほとんど会話をしたことがなかった。

 だから、美優がどんな青春を送っているのかなど、俺は知らない。

 

 それでも、いつも仏頂面の妹だし。

 今まで男っ気がなかったから、ずっと無垢なままだと思っていた。

 

 そんな妹が、いつの間にか男を知っていたなんて。

 

「お詫びに手伝ってあげようか?」

「ああ、うん。……うん??」

 

 こいつは今、なんと言ったんだ。

 

「じゃあちょっと失礼するね」

 

 美優は俺の前を横切ると、立ったままマウスを手に取って前屈みになった。

 パソコンからヘッドホンジャックを抜いて、準備はいいかと俺に振り向く。

 キュロットパンツから覗く真っ白な脚が、なんとも艶かしい。

 

 って、待て待て。

 何を俺は三次元の女に、ひいては実の妹に欲情しているんだ。

 

「はぁうぅん……おにぃ……ちゃん……! 激しい……っ……ああっ……!!」

 

 カチ、カチ、と美優がゲームを進めていく。

 きっちりと全文字が表示され、美宇の声が流れきるのを待ってから、1ページずつ丁寧にクリックをしてテキストを送った。

 

 ……え?

 

 手伝うってそれだけ?

 

「手は動かさなくていいの?」

 

 美優はさも当然のように訊いてくる。

 

 疑問が湧きすぎて整理がつかない。

 

 この妹は実兄のオナニーを見てなんとも思わないのだろうか。

 

「もうちょっと待ってからの方がいい?」

「ああ…………うん」

 

 催促されているような気がして、俺は思わずペニスに右手を添えた。

 実の妹の、色艶かしいふとももを見つめながら。

 

 いいのだろうか。

 二次元の恋人である妹の目の前で、実の妹をオカズにシゴくなんて。

 

 二重の罪悪感が、横隔膜の辺りからぞわぞわと迫って来る。

 

「っ……」

 

 知らずのうちに呼吸を抑えていた。

 

 右手がゆっくりと動き出して、また精液を汲み上げていく。

 

「ぁ……くぅ……」

 

 中途半端に小さく呼吸をしているせいで、吐息に声が混じる。

 美優が丁寧にテキストを送ってくれていることなんてお構いなしに、俺の目は実妹の脚に釘付けになっていた。

 

 こんな近くで女の子を観察したことなんて、一度もなかった。

 二次元に勝る興奮なんて、リアルの世界には存在しないと思っていたのに。

 

 ヤバい。

 いつもより勃起が痛い。

 もっと激しく扱きたい。

 

「あっ……美優……その……」

「ん? 出そう?」

「ああ……ただ……出す場所が……」

 

 ふとももにぶっかけたい。

 この空気のままティッシュなんて取りたくもないし、床にぶちまけるのも気が進まない。

 

「手伝いついでに……」

 

 お詫びの気持ちがあるというのなら。

 

 一度だけでいい。

 

 女の子に、精液を掛けてみたい。

 

「美優のふとももに出させてくれ……!」

 

 言ってしまった。

 

 妹のキョトンとする顔も、もう性欲を滾らせる燃料になっている。

 

 認めるしかない。

 俺は妹に興奮している。

 血の繋がった実の妹をオカズに、オナニーをしている。

 

「え、それはヤダ」

 

 妹は真顔で断った。

 

「えっ……」

「『えっ』じゃないでしょ。妹に精液かけるなんて普通に気持ち悪いよ」

 

 こ、こいつの基準がわからん……。

 

「ティッシュに出すんでしょ? ほら」

 

 美優が机の横に常備されているティッシュ箱を手渡してきた。

 

 ああそうか、これが現実というものか。

 

「いつもはどうやって出してるの?」

 

 妹は『男が精液をティッシュに出す』ことは知っているくせに、具体的にどうしているかは知らないらしい。

 

 なんとも偏った知識だ。

 

 これを利用しない手はない。

 

「普段は引き出しに引っ掛けて、それに出してる」

 

 一度もやったことはないけど。

 

「そっか。クリックで手がふさがっちゃうもんね」

 

 美優は納得した。

 オート機能があるんだけど、黙っておこう。

 

「だから、もし手伝ってくれるって言うなら、ティッシュを構えてくれると助かる」

「そうなの? こうやって前に座ってればいい?」

 

 美優は床にぺたん座りして、ティッシュを一枚両手の指でつかみ、それを俺のペニスの前に広げた。

 

 明らかに貫通する薄さだが、この際だ。

 怒られるのを覚悟で出してしまえ。

 

 こんなチャンス、もう二度とは来ないだろうから。

 

「じゃあ、イクよ」

「うん」

 

 俺は右手でマウスをクリックし、左手でオナニーを再開する。

 扱く手が変わることに、美優は疑問を抱くこともなく、再び硬度を取り戻していくペニスを見つめている。

 

 お店でお金を出しても、そう簡単にはこんな光景にありつけない。

 年下の可愛い女の子が、目の前で俺のオナニーを観察している。

 

 俺は確信していた。

 いつもの倍は出る。

 それを妹にぶっかけて、身体中を俺の精液でベトベトにするんだ。

 

「あぁ……み……みゅ……」

 

 美宇と美優の名前が似ていたのをいいことに、俺は実の妹の名前を声に出しながら竿を擦り上げる。

 

 美優に気付かれていようがもうどうでも良かった。

 ゲームの音声なんてとっくに耳には入っていない。

 

 美優がペニスを眺めている。

 

 美優が瞬きをするたびに、そのリアルさが下腹部に響いて、肉棒をより大きくする。

 

 美優が見つめる、俺のペニスの、その亀頭の先から。

 いやらしい液体が飛び出して、絶頂する姿を知られてしまう。

 

「ぁ……くぅ……美優…………もう……!」

 

 射精はもう止まらないところまで迫ってきていた。

 手を離そうが、根元を掴もうが、妹の眼前で射精する未来は変えられない。

 

「美優……出……出る……ああぁっ……!!」

 

 すぐさま右手に切り替えて全力でペニスに刺激を与えた。

 

 より大量の精液が吐き出されるように。

 勢いよく精液が発射されるように。

 

 尿道をドロっと熱いものが通り抜ける感覚がはっきりとわかった。

 

 飛び出した精液は予想通りにティッシュを突き破って、妹の体中にその遺伝子を染みつけていく。

 

「まだ、出るッ……!」

 

 一回の発射で収まるはずもなく。

 びゅるっ、びゅるっ、と尿道から振動が響いてきて、痙攣の収まった先っぽからは精液が流れていく。

 

「あっ……もー。出しすぎ。服についちゃったじゃん」

 

 美優の至る所に白濁色の粘液が飛び散っていた。

 美優は頬っぺたにかかった精子を摘み上げて、上目遣いに俺を睨む。

 

 普通に怒られた。

 ポイントが若干ズレていたような気もしたが。

 

 心地の良い脱力感に包まれて、俺は話の半分も聞いてはいなかった。

 

 

 

 

 

 それから、しばらく気まずい距離感が続いて──実のところ前からそうだったから変わってはいないんだが──数日が経ったある日のこと。

 

 俺の身にのっぴきならない事態が差し迫っていた。

 

「はぁ……美宇……美宇っ……!」

 

 学校から帰ってきてすぐに妹が帰ってきていないことを確認し、エロゲで抜き始めた俺だったが。

 

「くっ……はぁ……クソッ……なんでだ……!」

 

 いくらペニスを擦っても、射精感が湧いてこない。

 イチモツはこれでもかというほどいきり立っているというのに。

 

 お気に入りのエロシーンでもダメ。

 ローションを使ってもダメ。

 終いには長らく封印していたオナホまで取り出して刺激の限りを与えたが、逆に疲れが溜まって硬さを失っていくばかりだった。

 

 原因は、わかっている。

 

 美優だ。

 

 美優にぶっかけをしてから、この数日間で一度だけ抜いた。

 

 実妹をオカズにして。

 

 白状するが、擦り始めてすぐからイクのを我慢しないと、1分も保たないぐらいだった。

 それほどまでに美優をオカズにしてのオナニーは気持ち良かった。

 出る精液の量が多すぎて、ティッシュで受け止めきれなかったほどだ。

 

「何やってんだ俺は……」

 

 焦りと虚しさで、俺はついに手の動きを止めた。

 抜かずに中止するのは体に悪いらしいが、こんな状態では仕方ない。

 

 俺はローションを洗面台で流し、風呂にでも入ろうと一階に降りた。

 

「あれ。お兄ちゃんいたんだ」

 

 リビングのソファーで美優が仰向けに寝ていた。

 漫画を片手に持って、帰宅してからしばらくの間、ソファーで読んでいたらしい。

 

 抜くのに必死で帰ってきたことに気付かなかった。

 

 危なかった。

 また見られるようなことになったら……。

 

 次は、どんなことをして貰えたんだろうか。

 

「ああ」

 

 俺はいつも通りのコミュ障を発揮して返事をする。

 

 あんなことがあっても普通に声を掛けてくれるもんなんだな。

 避けられてると勝手に思い込んでいたが、そういえば別に中傷されたことも嫌味を言われたこともなかった。

 

「……なんの、漫画読んでるの」

 

 勇気を出して話しかけてみた。

 

 冷蔵庫から缶ジュースを取り出して、ソファーの足に背中を預ける。

 

「『ハーフゲーム』っていう超能力推理モノ」

「へぇ」

 

 知らない漫画だったから話を続けられなかった。

 漫画はこれまでたくさん読んできたから、話題に尽きない自信があったのに。

 人との会話に必要なのはネタの豊富さだけではないらしい。

 

 そのまま沈黙が続いて、手慰みに缶ジュースを飲む。

 

 缶をテーブルに置いて、またソファーの足にもたれると、それはつい、目に入ってしまった。

 

(制服スカートと生足……えっろいなぁ)

 

 三次元なんてクソだと思っていた。

 それでも、道行く女子学生のことは目で追っていた。

 どれだけ二次元にハマっても体は正直だ。

 

 その証拠に、すっかり元気を無くしていたはずの股間が立派なテントを張っていた。

 

(ヤバい……見られたらバレる……)

 

 立ち上がって移動することもできないし、体勢を変えて股間を隠すのも不自然だ。

 

 なにより、俺の中に芽生えた良からぬ感情が、この場から逃げることを許さなかった。

 

(シゴきたい……)

 

 疲弊して萎んでいたはずの肉棒が、また痛いくらいに勃起していた。

 はち切れんばかりとはこういうことを言うんだろう。

 

 血管が破裂してもおかしくない。

 平均的なサイズしかないはずなのに、今は自分のイチモツが立派に感じられる。

 

 妹のふとももの隙間から見えるパンツが、やたらとエロかった。

 下着なんて毎日のように洗濯物で見ているはずなのに。

 

「美優」

 

 このときの俺は、どうかしていたんだと思う。

 

「なにー?」

 

 漫画を読みながら声を返す美優。

 直接的な接触がなかったとはいえ、兄のオナニーを手伝える妹だ。

 

 それには、半ば確信的なものがあった。

 

「このまま抜いてもいい?」

 

 その言葉に、美優はようやく俺の方に視線を向けた。

 俺の、膨張したペニスが支える、テントの頂きを。

 

「別にいいけど」

 

 素っ気ない返事で、オーケーされた。

 美優はまた漫画を読み始める。

 

 許可は貰ったものの、パンツを脱ぐ段階で躊躇いが生じた。

 最初から秘部を露出させていた前回とは違い、今回は自分で曝け出さなければならない。

 

 そしてそれは同時に、妹を性的対象として公的に認める行為だった。

 

 今まで二次元信仰者だった俺が。

 

 たった一度オナニーを見られただけで、こうも簡単に堕ちてしまうなんて。

 

「じゃあ、するぞ」

 

 まずはズボンを脱ぐ。

 一息に脱いでしまったほうが楽だったかもしれないが、勃起越しのパンツも中々にエグいものだ。

 

 美優は俺の動きを感じ取って股間を一瞥してきたが、態度を変える様子はない。

 完全なる合意だ。

 

 ならばもう迷うことはない。

 俺はパンツも脱ぎ去って、情欲に塗れた愚息を晒した。

 妹の目の前で陰部を出すだけで、心臓まで痛いくらいに跳ね上がった。

 

 直立した肉棒を握って、美優の脚を凝視する。

 

 手が動くまではすぐだった。

 

「はぁ……はぁ……っ……」

 

 声なんて、一人でしているときは出ないはずなのに。

 どうしてか美優が相手になると吐息を抑えきれない。

 

「なあ、美優」

 

 気持ち良くなりすぎて、頭が変になって、更に快感が増していく。

 

「脚、触っていい……?」

 

 女体に触れる。

 それは俺が今まで経験してこなかったことだ。

 三次元を否定してきた俺が、ずっと禁忌としてきた行い。

 

「それはダメ」

 

 きっぱりと断られた。

 

 そうか。

 ならば思う存分視姦してやる。

 

 俺はもう妹をオカズと認めて自慰に浸っている。

 しかも、本人を目の前にして。

 

 ヤバい。

 さっきまではあれだけシゴいても出なかったのに。

 もう射精したくてたまらない。

 

「ふぅ……ぅ……はぁ……」

 

 血液を絞り上げて、真っ赤になった亀頭が、早く出せとシグナルを送ってくる。

 脚の匂いも遠慮せずに嗅いで、もうわけがわからないくらいに興奮していた。

 

「ぁ……美優……ティッシュが……」

 

 出す場所がない。

 ふとももに出すことは断られたし、服にかかるのも嫌がられた。

 そのままリビングに放てば精液がカーペットに染み付いてしまう。

 

「美優……もう……出そう……」

 

 それは半ば強引なおねだりだった。

 ティッシュを用意しろ、という意味ではなく。

 どうにかして美優に対処してもらえないかと願いを込めて、その言葉を放った。

 

「ん? 出るの? どうしようね。漫画は借り物だから汚したら弁償だよ」

 

 美優はまるで他人事。

 自分がオカズにされているというのに。

 

 右手の指が強くカリ裏を擦り始め、いよいよ我慢も利かなくなる。

 

 このままティッシュを探してきて処理するのは嫌だ。

 

 美優に処理して欲しい。

 

 あのときのように。

 

 美優が見ているところで射精したい。

 

「美優。ごめん、漫画を置いて受け止めてくれ」

 

 俺は立ち上がり、ソファーに寝そべる美優の眼前でペニスを勢いよく扱いた。

 

 射精まで猶予がないことを、美優も感じ取ったらしい。

 

 だが、その対応は俺の予想を軽々と超えるものだった。

 

「ん……」

 

 鼻にかかった声で、美優が「どうぞ出してください」という意思を俺に告げる。

 手を皿にして受け止めて欲しいという俺の願いを、美優は勘違いして受け取ったらしい。

 

 美優の口が開かれて、俺が射精するのを待っていた。

 

 唾液に濡れた赤い舌が、下唇に覆いかぶさって、もう精液を飲む準備ができている。

 

「はぁ……ぐっ……美優……! 出る…………出るっ……!!」

 

 妹の口の中に射精する。

 

 射精感がもう制御できないくらいに湧き上がってきたときの罪悪感は、前回の比にならなかった。

 

 またドロドロとしたものが流れる感覚が尿道を駆け抜けていき、美優の口の中に白濁した粘液が注がれていく。

 

「ぁ……んんっ……」

 

 さすがに美優もびっくりしたのか、わずかに目元を強張らせた。

 リビングの照明に当てられ、血管の筋まで見えるピンク色の口内に、俺の精液がべったりと塗られて垂れていく。

 

「あと少しだけ…………出る……っ……!」

 

 最後の一滴まで絞り尽くす。

 舌の奥で塞いだ喉に、精液が溜まっていた。

 

 美優は俺の射精が止まったのを確認すると、顔を顰めながらも俺の精液を喉に流していく。

 

「うー……苦い……。こんなに出るものなの。精液って」

 

 美優が不満を言いながら俺を睨む。

 

 精液の味は知らなかったのか。

 

 口内射精が嫌いな子はたくさんいる。

 けど、この対応を見る限りじゃ、美優は飲めないタイプではないんだよな。

 だとしたら、そもそもこういう経験がなかったことになる。

 こいつは本当は、知識があるだけで男を知らないのか?

 

 そもそも彼氏とかいるんだろうか。

 

「あの、美優」

「んー?」

 

 俺はベタベタになった指で亀頭を撫でる。

 

「先っぽだけでいいから、キレイにしてくれない……?」

 

 ちょっとでもあの口に触れてみたい。

 あわよくば、お掃除ついでにフェラまで──

 

「それはヤダ」

 

 美優はまた漫画を手にとって反対側を向いてしまった。

 機嫌を損ねたわけではないようだが。

 

 基準はよくわからないけど、はっきり断って貰えるのはありがたい。

 知らずに嫌われる方がよっぽど困る。

 

「……そうか。えっと、一つ聞いてもいい?」

「なに?」

 

 美優は漫画を眺めながら答える。

 

「精液を飲むのは、嫌じゃないの?」

「別に」

 

 美優はなおも澄まし顔。

 

 なんだろう。

 余計に興奮する。

 

「まだ収まりそうにないんだけど。もう一回出るってなったら、飲んでもらえたりする……?」

 

 しつこい男は嫌われる。

 わかってはいても、飲むことが本当に嫌じゃなければ、頼めるはずだと思った。

 

「うーん」

 

 美優は漫画のページをめくり、硬いままの俺のペニスをチラと見やる。

 

「ママたちが帰って来るまでならいいよ」

 

 妹は素っ気なく、そう返事をした。

 

 



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身持ちの固さと義理堅さ

 

 目が覚めると、朝だった。

 

 辺りはまだ薄暗がりの中だが、うっすらと部屋に入ってくる光の柔らかさが、それを朝日だと分からせた。

 いつも登校のために起きている時間よりも、だいぶ早い朝だろう。

 二度寝を決め込むに相応しい時間だが、二度寝をするには勿体無いくらいに意識は冴えていた。

 

「抜くか」

 

 不意に思った。

 ムラムラしているわけではないが、気持ちとは無関係に立ち上がっている俺の愚息を、なんとなく慰めてやりたくなった。

 

 俺は硬く膨張した肉棒をおもむろに握る。

 朝だからか力が入らない。

 それでも、抜くと決めた瞬間から、睾丸の内側からじわじわと刺激されているような快感が湧き上がっていた。

 

 これはすぐ出るかもなーなんて思いながら。

 まあ早く済んだら済んだで二度寝しようと肉棒を扱き続ける。

 

 過去にプレイしたエロゲを思い出して、自分の好きなように妄想する。

 それだけでAVなんて見なくても抜くことはできる。

 

 ──はずだった。

 

 エロCGを思い出すのが面倒だ。

 

 美優の姿を、あのムスッとした仏頂面を思い浮かべるだけで、途端に射精感がこみ上げてくる。

 俺の体が本能的に美優を射精する対象として認識してしまっているらしい。

 もしかしたら血が繋がっていないのでは、なんて、それこそエロゲらしいご都合展開を妄想しながら、オートマチックに動く右手に身を委ねる。

 

「あー……出そう」

 

 キュッと玉がせり上がってくるのを感じながら、俺はティッシュの用意もせずにオナニーを続ける。

 

「んー? もう出そうなの?」

 

 最近ようやく聞き慣れてきた、ほのぼのとした高音が俺の耳に届いた。

 気づけば、隣にある椅子に美優が座っていた。

 

 間違えて妹の部屋で寝てたのか俺は。

 そんなこと、一度もなかったんだけどな。

 

「美優に出していい?」

 

 椅子に座り、行儀よく膝に手を置いて俺のオナニーを眺める妹に、射精を受け止めて欲しいとお願いをする。

 

「別にいいけど」

 

 躊躇いもなく美優はそう返してきた。

 

 どういう感性をしているのかはわからないが、この妹は兄のオナニーを見るのにも精液を飲むのにも抵抗がない。

 決して進んでやってくれるわけではないし、たまに断られることはあるが、大抵の場合はすんなりとオーケーしてくれる。

 

 俺は布団をどかして、すっかり芯の入った剛直を上向きにする。

 

 美優はベッドに近づいて来ると、パンツを脱いで制服のスカートをたくし上げた。

 そのまま俺の股間部にまたがって、亀頭を自分の割れ目にあてがう。

 

 艶黒な髪が枝垂れる主張の激しい胸には、俺も通った公立中学校のエンブレムが押し上げられていた。

 真っ白なブラウスとプリーツスカートというのは、どうしてこうもオスの情欲を刺激するのか。

 幼いながらも熟れたこの体は学校でもさぞ注目されているに違いない。

 関わりの少ない妹だが、兄としてはやはり誇らしいものだ。

 

「じゃあ挿れるね」

 

 俺はまだあどけなさの残る秘部に肉棒が挿入される様を見つめていた。

 美優は苦しそうにも気持ち良さそうにもせずに腰を動かし始める。

 肉壁はぐちょぐちょだった。

 ぬるぬるに濡れた肉ヒダでカリを擦って、すぐに射精を煽ってくる。

 

「あ、やばい。出る、けど、これ、マズくないか」

 

 ゴムもつけてないし。

 妹だし。

 

 あれ。

 俺、何やってんだ。

 

「何が?」

 

 美優はじっと俺を見つめながら尋ねる。

 

「いや、なんだろう。よくわかんないけど、胸がざわざわする」

「ふーん」

 

 ギィ、ギィ、と安物のベッドフレームが、美優の腰の動きに合わせて軋む。

 

「ごめん。出る」

「うん。出たら言って。射精されたのってよくわからないから」

 

 俺は腰を激しく動かすこともせず。

 

 美優の中に射精をするその時を、ただ漫然と迎えようとしていた。

 

「って!! ちょっ、待った!! 中出しはマズい……!!」

 

 瞬間、今度こそはっきりと俺の意識が覚醒する。

 

 心臓がバクバクと高鳴って、必死に妹の腰を持ち上げようとするが、まるで動かない。

 

「ダメだ! 美優、あぁっ……くっ……!」

 

 射精を我慢することはできなかった。

 

 ドクドクと脈打って、ぬるい粘液を吐き出した俺の生殖器が、美優の膣内に入れられたままだったのか、外に脱出できたのか。

 

 それは、わからなかった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 激しく息を乱して、ぐっしょりと濡れたシャツとパンツに不快感を覚えながら、俺は今日という日の本当の朝を迎えた。

 

 俺の股の上に妹が乗っかっているはずもなく。

 そこには意外なほどに整ったままの布団が覆いかぶさっているだけ。

 

「マジ……かよ……」

 

 呟かずにはいられなかった。

 

 妹をオカズにした時点で手遅れだったのかもしれないけど。

 まさか美優と生セックスして中出しする夢まで見るなんて。

 兄として、いや、人としてどうなのだろう。

 同級生とセックスする妄想すら一度もしたことがなかったのに。

 

 布団を退けると、パジャマにくっきりと染みができているのがわかった。

 まるでおねしょしたみたいな濡れ方だ。

 二回分どころの精液の量じゃない。

 

 この分じゃパンツなんて相当ドロドロになってるだろうな。

 美優の中にどんだけ射精したかったんだ俺は。

 

 はあ。

 

「なんかうなされてたみたいだったけど。どうしたの?」

「うおぉ!? み、美優!! ちが、これは、その……!!」

 

 ガチャっと音がしたときには、すでに手遅れだった。

 

 ドアからすぐ見える位置にベッドがあるせいで、美優の視線は当然、びしょ濡れになった俺のズボンに向けられていた。

 エロゲでオナってたのを見られたときより何千倍も恥ずかしい。

 

 あ、ダメだ。

 さすがに今回は心が折れた。

 

「あっ、ごめん。学習しないね、私」

 

 俺の傷心をつぶさに感じ取ってか、美優の方も心から申し訳なさそうに謝罪してきた。

 こんな惨めな姿を見せてしまって、本来は俺のほうが謝るべきなんだが。

 

 とはいえ、オナニーライフを安全に謳歌したい兄としては、ノックして貰えないのは由々しき問題なので訂正はしなかった。

 

「……シャワー浴びてくる」

 

 俺は下腹部にぬめりを感じながらも体を起こす。

 

「よくわかんないけど、結構出ちゃったんでしょ? そんなに状態で歩いたら床に精液が落ちない?」

 

 美優はドアを解放して部屋に入ってきた。

 

 よくわかんないのによくわかったな。

 本当は全部わかってるんじゃないのかこの妹は。

 

「どういう状態なのかは俺にもわからないんだけど。精液まみれのパンツの中に手を突っ込むのも嫌だから、できれば履いたままシャワー浴びたい」

「それもそれで排水口に精液が溜まるんだけど」

 

 妹はブツブツ不満げに言いながら、ベッドに横たわったままの俺に近づいてくる。

 

「とりあえずズボンだけなら脱いでも大丈夫だよね」

「うん、まあ、多分」

 

 俺は妹におねしょ状態のズボンを脱がされる。

 

 なんだこれ。

 介護されてる気分だ。

 

「まだ残ってるね。ほとんど透明だけど」

 

 美優は俺からズボンを取り上げて、内腿をしげしげと眺めていた。

 

 体を起こすだけで残った精液が流れ落ちそうで、妙な緊張感に筋肉が疲れる。

 

「見た感じパンツから垂れてくることはなさそうだよ」

「はあ。そうか」

 

 これがどういう状況なのか考える気にもならなかった。

 夢精したパンツの状態を他人に確認されるのは、射精するのを見られるのより遥かに恥ずかしい。

 

 本当、この妹でよかったと思う。

 他の家の妹だったら家族会議ものだ。

 

「脱がせてみるね」

 

 美優は俺のパンツのゴム紐に指をかける。

 じっと顔を見つめられて、それが腰を上げろという意味であることに10秒ほどして気づく。

 

 慎重に下ろされたパンツの中からは、淫欲を吐き出してすっかり縮こまった半包茎が横たわっていた。

 

 精神ダメージが上乗せされて、防衛本能により脳が思考をシャットダウンした。

 美優には勃起した状態しか晒していなかったから、こんな情けない状態の局部は知られずにいたのに。

 

 俺は天井を無心で眺めて、夢に対する罪悪感と介護をさせている惨めさから、懸命に逃れていた。

 

「うーんと……。まあ、生理現象だし。仕方ないと思うよ。見ちゃったのは、ほんとごめんだけど」

 

 美優の声にも元気はなかった。

 美優は夢の内容を知らないから、俺がただ夢精の痕跡を見られただけでここまで落ち込んでいると思っているのだろう。

 

 違うよと言ってやりたいところだが、慰められているこの境遇が、今の俺には心地良かった。

 元凶が俺にあるとはいえ、美優に見られなければこんな惨めな気持ちにならなかったと考えれば、多少の情けを頂いてもいいはずだ。

 

「とりあえず落ちそうなとこだけキレイにしちゃうね」

 

 俺がまた美優に視線を移すと、美優は精液まみれになったパンツの置き場所を探すのを諦めたところだった。

 パンツの濡れていない部分を指の先で摘みながら、上手に肘でバランスを取って、俺の股間に顔を近づけてくる。

 

「あぁっ……おっ……」

 

 変な声が出た。

 

 再び俺の局部に伝わってくる、温かい粘質。

 それが美優の舌によるものだと、悟った瞬間に俺の頭はパニックになった。

 

「み、みみみ美優!? ちょっ、おま、汚い……って……」

 

 股関節と、膀胱の上のあたりの、ちょうどパンツが触れない位置に残った精液を美優が舐め取っている。

 

「んー? ……そうかな」

 

 美優は一度顔を上げて、俺の股間を見つめたままひと呼吸つく。

 その表情といつもと変わらない無愛想なものだった。

 

 そりゃ、昨日は風呂に入ったし、パジャマとパンツは洗いたてだし。

 汗をかいてるから雑菌がないとはいえないけど。

 

 ……平然と精液を飲んでしまうこの妹に、汚い理由を説明するのは困難だな。

 

「毛についてるのは取れないから、自分で頑張って落としてね。パンツは私が洗っとくから」

 

 美優は再び俺の股間に口をつけると、唇を滑らせるように残った精液を吸い取っていく。

 

「くっ……はぁ…………美優……それッ……」

 

 舌を這わされるたびに、体の芯から快感に震えた。

 体を舐められるのって、こんなに気持ち良いものなのか。

 

「まあ、ちょっと申し訳ない気持ちなのは認めるけど。勘違いしないでね、お兄ちゃん」

 

 美優は大きくなり始めた俺のイチモツを横目に見て、冷たい声を掛ける。

 

「落ちないようにするのだけ、お詫びね」

 

 ちゅぶっ、と最後に白いのを吸い上げて、美優は体を起こした。

 

 どうやら終わってしまったらしいが、こんなシチュエーションで、ただ汚れを舐め取ってもらうだけなんて、エロゲのシナリオならバッシングものだ。

 

 物足りなさに、飢えた頭は二つの選択肢が浮かべていた。

 

 責め立てて妹に更に詫びさせるか。

 このまま無言で行かせてしまうか。

 

 前者だ、前者。

 どうやら美優は借りや遺恨をそのままにしておくのを極端に嫌うらしい。

 俺がダメだと言えば、美優も無下にはしないだろう。

 

 どう考えたって、できないことはないんだ。

 目の前で堂々と出された精液を飲んで、夢精したあとの股間を舐められる女が、フェラチオ程度に抵抗する理由がない。

 

 言え。

 言うんだ。

 

 咥えろって。

 

 本気で申し訳なく思ってるなら、一番大事な部分を舐めずに帰れるわけがないだろ。

 

「その、今度からは、ちゃんとノックするようにするから。……ごめんなさい」

 

 美優は伏し目でそう言った。

 

 それに対して俺は、

 

「そう、だな」

 

 としか答えられなかった。

 

 ベッドから足を降ろして部屋を後にする妹の背中をぼんやりと眺めながら、俺はすーっと息を吸い込む。

 

 一拍だけ肺にとどめて、風船の気を抜くように吐き出した。

 

「あー。ダメだ。美優で抜こう」

 

 あれだけ大量に夢精したのが嘘かのように、最硬度まで昂ぶった肉棒を、俺は握った。

 

 2分でガス抜きを済ませた俺は、下半身にタオルだけ巻いて風呂場に向かう。

 脱衣所の洗面台でパンツを洗う美優に、背中を向けて服を脱いでいる間。

 

 頭では何も考えていなかったのに、心臓は俺を責め立てるように高鳴っていた。

 



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妹のルール

 

 完全に妹でしか抜けなくなった。

 

 オナニーの現場を見られて以来、妹をオカズにし続けているのは、当初より変わりないのだが……。

 以前と違うのは、他の女とセックスするのを考えるだけで苦痛を感じ始めたというところだ。

 

 エロゲなんて立ち上げる気にもならず、システムファイルから削除してしまおうかなんて物騒なことを考えてしまうくらいには、俺は妹しかオカズにできなくなっていた。

 

 世間的に見てそれが異常であることは、俺も自覚している。

 だが、これは本当に俺の責任だろうか?

 

 たしかに、美優に愛嬌はないし、射精を受け止めてくれとお願いしたのは俺の方だ。

 

 それでも、俺としてはこの主張を変えるつもりはない。

 

 妹は、俺のことを誘っている。

 

「美優。ちょっといいか」

 

 ノックをして、ドアを半開きにし、部屋の中にいる妹に俺は話しかける。

 

 放課後の妹の行動パターンは大体決まっていて、買い物に寄って帰ってくるか、直帰して部屋で勉強するかのどちらかだ。

 

 男はおろか、女友達ともそれほど遊ぶ方ではないのだろう。

 兄のオナニーに遭遇して動じなかった妹には驚いたが、こんな出不精な女に彼氏がいるはずがないのだ。

 

 あるいは──これは本当に気持ち悪い仮定かもしれないが──場合によっては、実は美優は俺のことが好き、ということも考えられなくはない。

 

 だってそうだろう。

 少なくとも、嫌いな男の精液を飲む女なんているはずがないんだ。

 

「どうしたの?」

 

 美優の間延びした返事を聞いて、俺はゆっくりとドアを開ける。

 

 予想通り、美優は机に向かってテキストを開いていた。

 女の子らしいと言うべきか、白基調の部屋にほんのり赤みが掛かっていて、ベッドには触り心地のよさそうなポリエステル生地のクッションが置いてある。

 

「溜まってきたから抜きに来た」

 

 思いのほか淀みなく口から出てきた言葉に、美優は俺の股間の膨らみを認めると、予想外に美優は怪訝な顔をした。

 

「お兄ちゃんさ」

 

 椅子をくるっと回して、美優は俺の正面を向く。

 

 トーンの低い声音。

 これはお説教モードの妹だ。

 

「お風呂入ってるときに、ゴミ出し行ってきてって言われたらどう思う?」

 

 真顔で、至極真っ当な正論を、突きつけられる。

 

「それは、まあ……困るな」

 

 俺は部屋に入ってきたときの勢いを完全に逸し、局部も一緒にシュンとしてしまう。

 

 やってしまった。

 勘違いしたとはいえ、やりすぎたか。

 もしこれで嫌われるようなことにでもなったら、最悪だ。

 

「すぐ出せるようにしてくれるなら、21時きっかりにお兄ちゃんの部屋に行くけど」

 

 真顔で見つめてくる美優と、目が合う。

 こいつは堂々と精液を飲みに来ると宣言してるわけだが、どうしてそんな無感情でいられるんだ。

 

「わかった。よろしく」

 

 俺は素直に提案に乗って美優の部屋を出た。

 

 21時ってなると、だいたい後30分か。

 今まで美優が精液の受け止めをオーケーしてくれたのは、ベッドやソファーで暇そうにしているときだけだった。

 俺から頼みにいったとはいえ、わざわざ部屋に来てくれるなんて初めてだな。

 

 ……本当に、来るんだよな。

 

 来なかったとしても恨むことはできないけど。

 とりあえず、部屋に戻ってシコっておくか。

 

「はぁ」 

 

 パンツを脱いで、自分の部屋のベッドの縁に座る。

 むくむくと育ち始めた肉棒の素直さを恨めしく思いながら、包むようにして右手を添えた。

 

 これから妹がこの部屋にきて、尿道の先に口を開けて構えて、精液を飲みに来てくれる。

 なんてエロいシチュエーションだと思う一方、やはり別の欲望が芽生えるのを抑えられない。

 

(フェラ、してもらえないかなぁ)

 

 AVでしか見たことないけど、めっちゃ気持ち良さそうだし。

 出る直前の一瞬とか、出た後のお掃除くらいなら、美優にとっても負担にならないと思うけど。

 排泄器官に直接触れるのには抵抗があるんだろうか。

 俺は別に、美優に舐めろって言われたら喜んで舐めるけどな。

 

「…………」

 

 実の妹のあそこを舐めたいって、どんな欲望だ。

 

 情けない。

 情けないのに、想像すると焼けるくらいに勃起する。

 

 美優のアソコってどんな色してるのかな。

 漠然とセックスしてる妄想はしたことあったけど、割れ目がどんな風になってるのか考えたことはなかった。

 

 見るくらいなら、させてもらえないかな。

 

 オナニーをしていると、願いは欲深くなっていった。

 あんな思わせぶりな態度を取るからいけないんだ。

 最初から拒絶してくれていれば、こんなことにはならなかったのに。

 

「こんこーん。お兄ちゃん、入るよ」

 

 ノックの擬音を口にする妹の声が聞こえてきた。

 

 もう時間になっていたのか。

 ちょうどいい。

 そろそろ出したかったところだ。

 

「どうかな? 出そう?」

 

 ドアから顔だけを出して尋ねてくる妹。

 もはや俺のオナニーを見ても特別な反応など何もない。

 

「うん。もう出るよ」

 

 俺は右手を扱くスピードを速めながら、美優に入室を促した。

 美優は音がしないように丁寧にドアを開け閉めをして、俺の前までやってくる。

 

 そして、美優は床にぺたんと座って、俺のペニスの前にして口を広げた。

 

 美優は長い髪を肩の後ろにのけて、念のためにもみあげも耳に掛ける。

 ボタンパジャマの胸元は、第一ボタンを除いてしっかりと美優の豊かな胸の肌をガードしていたが、その膨らみをこうして直に拝めるというだけで俺にとっては十分な燃料になった。

 

 若干の唾液を含んだ口内。

 挿れたら絶対に気持ちいいのに、と考える頭を振り切って、即座に射精に必要な刺激を与えた。

 

「うっ……はぁ、イク……!」

 

 溢れないよう、前のめりに差し出してきた美優の唇の間あたりで、びゅく、びゅく、と収縮を繰り返す肉棒から、白濁液が放たれる。

 5回ほど吐き出してから、まだ出せる精液が残ってるような気がして、続けざまに擦り、すぐさまやってきた射精感に身を委ねて、更に射精をした。

 

 やはり、ティッシュで処理しているときと美優に出しているときでは、射精量の差が歴然だ。

 美優の口内に溜まった淫らな液体を見ていると、もっと量を増やして飲ませたくなる。

 

 そんな、エスプレッソカップくらいなら一杯にしてしまいそうな量の精液を、美優はゴクリと喉に流し込んだ。

 最初は苦さを隠しきれていなかった美優だが、今では味にも慣れてしまったのか、眉のひとつも動かさずに飲み込んでしまう。

 

「ん。じゃあおやすみ」 

 

 美優は処理を終えると、余韻を楽しむこともなく部屋を出ていった。

 

 感謝を言う暇もなかった。

 あいつが何を思って、俺が射精するのを受け止めてくれているのかはわからない。

 

 静寂に包まれた室内に取り残された俺は、まだカウパーの滴る先端にティッシュをあてがって、ずいぶんとエコになったゴミ箱に投げ込んだ。

 

 

 

 

 

 妹にオナニーの処理をしてもらえる条件として、時間と手間を掛けさせないこと、というものがあることがわかった。

 本人に直接言われたわけではないのだが、暇そうな時間を狙ってお願いをするようにしてから、ほとんど断られることがなくなったのだ。

 

 同時に、悲しくもわかってしまうことがあった。

 結論から言ってしまえば美優は「部屋を汚さずに処理できる場所を提供している」だけだったのだ。

 何かの想いがあって、俺の気持ちを受け止めてくれているわけではなかった。

 

 美優には頼んでから出すまでの時間を限りなく短くするように言われている。

 要は、出る瞬間以外はノータッチでいたいということ。

 

 美優にとって俺の射精を受け止めることは、食卓を囲んでいるときに醤油差しを取ってと頼まれるようなもので、手間でなければ全く抵抗はないというだけの話だった。

 

 ショックを受けるべきことでもない。

 これだけでも十分に感謝すべきだし、傍から見れば俺たち兄妹はどこを取っても異常だ。

 

「──で、一つ思ったんだけど」

 

 刻は例によって放課後、帰宅した直後のリビングにて、俺は美優に問いかける。

 

「俺がふとももに掛けようとしたとき、気持ち悪いって言ってたよな。口で受け止めるのとどう違うの?」

 

 ずっと引っかかっていた。

 そりゃ、気分や慣れもあるんだろうが。

 妹は妹で、変なこだわりがあるみたいだし。

 

「……なんで?」

 

 ソファーに寝転ぶ美優に、逆に質問を返された。

 なんでと聞かれると、正直に答えるしかないだろうか。

 

「いや、ほら。口に出していいなら、別に他の場所に出してもいいんじゃないかって、思うんだけど」

 

 処理の便利さでいえば、口内が圧倒的だろう。

 拭く必要も洗う必要もなく、飲み込んでしまえばいい。

 それだけで口を使う理由には足りる。

 

 しかし、美優ははっきりと言ったのだ。

 

 ──妹に精液かけるなんて普通に気持ち悪いよ、と。

 

「口じゃ不満なの?」

 

 答えを先延ばしにして、美優は更に質問を返す。

 聞き違いでなければ、ほんのりと感情的な音調だったような気がする。

 

「不満じゃなくて、疑問。口の中に出すほうが気持ち悪くない?」

 

 普通はそうだ。

 誰だって、そう言うはず。

 

「うー……」

 

 美優は漫画で顔を隠してうずくまった。

 

 なんだ。

 なんだその反応は。

 

「だって、ほら」

 

 美優は目だけを出して俺を見つめてくる。

 

「体って、服が触れる場所じゃない?」

 

 美優はそう言った。

 その言葉を、何度か脳内で反芻してみたが、ダメだ。

 

 ごめんよ。

 

 お兄ちゃんは妹の言っている意味がよくわからない。

 

 服?

 服がそんなに重要なのか。

 

「あっ」

 

 そこまで考えた至ったところで、思い出した。

 

 一番最初、美優に向かって射精した時、かなりの量が服にかかった。

 あのときは、頭が真っ白だったからなんとも思わなかったけど、結構怒られたんだよな。

 

「そっか、服か」

 

 一応、気持ちはわかったけど。

 どうしてあんなに答えるのに恥ずかしがったんだろう。

 

「精液がかかったところがベタつくから、そこに服が触れるのが嫌ってことでいい?」

「そんな感じ」

 

 どうやら体より服が大事らしい。

 まだまだ不思議の多い妹だ。

 

「なら、風呂に入る直前とかなら、口以外に出してもいいの?」

「別にいいけど」

 

 美優はまた無愛想モードに戻って淡々と答える。

 

「え!? いいの!?」

「うん」

 

 漫画を読みながら、空返事をする美優。

 

 ヤバい、嬉しさと驚きで上手く頭が回らない。

 

「そしたら、えっと、お風呂に入る時間とか、教えてもらえる?」

 

 鉄は熱い内に打て、だ。

 気分が変わってやっぱりヤダと言われる前に、出したい。

 

「今日も出すの?」

「お、おう」

 

 不意の質問に、罪悪感が再燃する。

 

 悪かったな、こんなオナニーしてばかりの兄で。

 

「でもママたちが帰ってきたら、さすがにお風呂場でするのは嫌かな……」

 

 渋る妹。

 

「今なら?」

 

 食い下がる。

 諦めるわけにはいかない。

 

「今?」

 

 美優は漫画を横に置いて、体を起こす。

 

「出したいの?」

 

 ビクッ、と俺の肉棒が反応するのがわかった。

 あんなぱっちりな目で見つめられて、子供をあやすように「出したいの?」なんて聞かれたら、そりゃ出るに決まってる。

 

「うん」

 

 理由はともかく、出したいと強く思う気持ちがあった。

 それだけで、わがままを通すには十分だった。

 

「うーん」

 

 頭を悩ませる美優。

 

 これは難しいところだ。

 美優は手間を掛けさせられるのを嫌う。

 わざわざ俺の要望に応えるために早めに風呂に入るというのは、気が進まないんだろう。

 

「あのね。確認させて欲しいことがあるんだけど」

 

 美優は髪の毛の先をくるくるして、いじらしく訊いてくる。

 今までになかった雰囲気だった。

 

 首元がゾワッとして、急に口が乾き出す。

 

 なんだろう、この感じ。

 空気がピリピリして、ざらつく。

 

 覚えのある感覚だった。

 あれは、中学生くらいだったか。

 なんとなく好きとも好きじゃないとも言えないクラスメイトに、それとなく告白して、それとなくフラれたあのときのような。

 

 嫌な空気だった。

 

「お兄ちゃんさ、もしかして、私のことオカズにしようとしてない?」

 

 神妙な面持ちで、尋ねられた。

 

 俺は咄嗟に首を振って、焦りをグッと抑え込む。

 

「そんなことない」

 

 口が乾いていたせいで掠れ気味になってしまったが、それはきちんと美優の耳に届いたようで、「ならいいけど」といつも通りの妥協を引き出すことに成功する。

 

 待て、妹よ。

 お前は俺が妹をオカズにすることを認めたんじゃなかったのか。

 

「ならいいけど。私はシャワー浴びてくるから。すぐ出せる状態になったら声かけてね」

 

 美優はソファーから立ち上がってお風呂場に向かう。

 

 リビングのドアを開けて、廊下に出ようとしたところで、返事のない俺に振り返った。

 

「さっきの、わかってる?」

 

 妹が目を細めて睨んでくる。

 さっきのとは、オカズの件だろうか。

 

 わかってはいる。

 わかってるけど、本当にオカズにしちゃいけないのか……?

 

「服の匂い嗅いだりしたら、怒るからね」

 

 強めの口調で放たれたその言葉に、俺は思わず背筋を伸ばす。

 

「し、しません」

 

 ロボットみたいに体を硬くして、カタコトで答える。

 そんな返事でも、ひとまず納得してくれた美優は、脱衣所へ入っていった。

 

「はぁー。そっちかぁー」

 

 俺は大きく息を吐いて脱力する。

 服に対して並々ならぬ思い入れがあるらしいが、服とか体に不用意に触りさえしなければ問題ないようだ。

 

 とはいえ。

 嗅いじゃいけないのか。

 安堵した心で考え直してみると、ものすごく残念なことを言われてしまった。

 女の子の匂いこそ、エロゲでは体感できない重要ファクターだったのに。

 

「……抜きに行くか」

 

 俺は力なく立ち上がると、シャワー音の響く脱衣所へと、足を進めた。

 



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清楚な女の子はエロ可愛い

 

 妹をオカズにしてから、俺の女性に対する考えが変わった。

 

 というのも、単純に妹に欲望をぶちまけているおかげで、他の子に欲情せずに済んでいるってだけなんだが。

 態度には出しているつもりはなくても、どうやらそういった機微は女子には伝わるらしい。

 

 これが中々に良い傾向だった。

 俺みたいな非モテなオタクが相手だと特にそうだが、女の子は好きになれそうもない男から好意を感じるだけで不快になるようで。

 そんな男は、学校で女子に話しかけるだけで気まずい空気を作り出してしまうものだ。

 

「はい、ソトミチくんは社会のプリントを配ってね」

 

 俺の両腕にドサッと紙の束が乗せられる。

 

 ニヘッ、と真っ白な歯を見せて笑う、学校で一番人気のたわわで可憐なこの少女が、今日の日直当番である俺の相方だ。

 彼女は自分の可愛さをしっかりとわかっていて、頼める仕事はだいたい他人に任せてしまう。

 可愛いのでわがままを言われても怒りがこみ上げてこない辺り、現実の非情さを身を持って感じる。

 きっと彼女はこの先もみんなから愛されていくんだろう。

 

 山本奏。

 絵に描いたような美少女だが、今では彼女も普通の女の子に見える。

 造形の美しさでいえば圧倒的に山本さんが勝るのだが、それでも今の俺にははっきりと言えてしまう。

 

 やっぱり美優って、可愛かったんだなって。

 

「20枚も配って対策プリントって言えんのかな」

 

 帰りのホームルーム前のグダグダとした時間に、クラスメイトが机に座りながら駄弁り続ける中、俺たち日直は担任から「差し入れだ」と渡された大量の中間試験対策プリントを配っている。

 

 社会は特に暗記項目が多くて嫌になる。

 やりさえすればできる、できないのはやる気の問題だと担当教諭は言いたいのだろうが、人間には限界があることを理解してほしい。

 

「まあまあ。ほとんどプリントからしか問題がでないんだから、かなり良心的な方だと思うよ?」

 

 山本さんは手を後ろで組んで俺について回った。

 先ほど数学の公式集を一枚ずつ配っただけで彼女の仕事は終了である。

 

 いいご身分だ。

 自分が仕事をしないと、無駄に時間がかかって俺とのお喋りの時間が増えてしまうことがわからないのだろうか。

 

「山本さんは勉強できるからそうやって簡単に言えるんだよ」

 

 勉強は努力の量。

 それを否定するつもりはないが、地頭を鍛えてきた人間に対する羨望は捨てきれない。

 

「気持ちだよ気持ち。満点取ったらおっぱい触らせてあげるって言ったら20枚くらい覚えるでしょ?」

「すげー余裕な気がしてきた」

 

 おっぱいか……満点の答案用紙を持って行ったら、美優もおっぱいくらい触らせてくれるかもしれない。

 

 俺はちまちまとプリントを分けながら、ぼんやりとありもしない妄想を膨らませる。

 

 っと、いかんいかん。

 余計なとこまで膨らんでしまう。

 山本さんの前でさすがにそれはマズい。

 

「ソトミチくんさ」

 

 急に山本さんの声が近くなった。

 猫撫で声というほどではないが、甘ったるい喋り方の山本さんに近くに寄られると、反射的にドキッとしてしまう。

 こんなんされたら女性経験のない男はすぐに落ちるだろうな。

 俺も妹がいなかったらどうなっていたことか。

 

「ひょっとしてゲイ?」

「なんっ!?」

 

 完全に予想外だったその言葉に、変な声が出た俺を見つめる視線がいくつかあった。

 俺への疑惑に驚いているのか、山本さんとの距離が近かかったことを咎めているのかはわからない。

 

「俺は女のが好きだよ」

 

 俺が断言すると、山本さんは頬に手のひらを添えて首を傾げた。

 

 あざとい女め。

 あの無愛想で辛辣な妹を見てみろ。

 動かすのは瞼くらいだぞ。

 

 爪の垢を煎じて飲ませたいのでひと欠片だけでもいいから分けてください山本さん。

 

「そうなの? そのわりには、私のことあんまり見ないよね。恥ずかしがってるような感じでもないし」

 

 世の男の全てが自分を意識しているとでも思っているのかこの女は。

 

 一瞬、なんでそんなに自己評価が高いのかと考えたが、そうか山本さんみたいにおっぱいの大きい人は周囲の視線とかに敏感だもんな。

 これだけ可愛ければ街中どこを歩いても視線を感じるんだろう。

 

 よくよく考えてみると、山本さんにおっぱいの話題を出されておきながら、胸元を見ずに妹のことを考えてる俺って……。

 

 そりゃ女に興味が無いと思われても仕方ないか。

 

「本当に山本さんのおっぱいを触らせてくれるなら、テストも頑張ってみようかな」

 

 ──なんてキモい言葉を、以前までの俺なら返していたかもしれない。

 

 だが、俺は妹の教育によって『女の子にキモいことを言ったらキモがられる』ということを学んでいるのだ。

 

 今更そんなヘマはしない。

 

「女の子が教室でおっぱいって言葉を使うのはどうかと思うよ」

 

 ……やらかした。

 

 つい『おっぱい』という単語を女の子との会話で使いたい欲望に負けてしまった。

 

 いやしかし、これならだいぶマイルドな方か。

 

「はーい。気をつけます」

 

 山本さんはお口チャックをしてふふっと笑う。

 

 いいからプリントを配るのを手伝え。

 

 

 

 

 

 

 

「喋りすぎだろ!」

 

 放課後の閑散とした教室で叫んだのは、友人の高波だ。

 陸上部でエロゲが趣味。

 俺と同じ童貞のオタク。

 

「ほんとだよ。距離も近すぎなんだよな」

 

 メガネをクイッと上げながら同調したのが、もう一人の友人である鈴原。

 帰宅部でエロゲ好きのガリオタク。

 俺と同じ童貞で女性経験が全くない。

 

 趣味で繋がった俺たち3人は、中学来の仲だ。

 三人だとペアを作るときに色々と面倒なのだが、高波のやつがそれなりにコミュ力が高いのでなんだかんだでこのグループでやっていけている。

 

「俺は何もしてないだろ」

 

 多少の優越感があったことは否定できないが、本当に俺からは何もしていない。

 こうして悪目立ちするのがわかっていたから、極力話しかけないようにもしていたし。

 山本さんが人懐っこいからこういうことになる。

 

 鈴原のやつは一日中ずっとご機嫌斜めだった。

 俺が山本さんとペアになったことがそんなに不満か。

 

「しかも今日に限って日直で居残りなんて。どういうことだよ。ソトミチは二次元にしか興味がなかったんじゃないのか? ニヤニヤしやがってよ」

 

 鈴原が鼻筋にシワを作りながら悪態をつく。

 それに関しては色々と否定したい部分はあるが、妹のせいで二次元の道から足を踏み外してしまったので反論ができない。

 

 今は山本さんが職員室から帰ってくるのを待っている最中だ。

 

 担任から命令が下り、多目的ルームで開かれる小学生向けの朗読会のために、俺と山本さんは机の整備などの雑用をすることになった。

 

「そこまで怒るこたねーんじゃねえの?」

 

 高波が頭に両手を回したポーズで鈴原をたしなめる。

 全くそのとおりだ。

 お前は部活に行け。

 

「はあ? お前だってぶん殴りてぇとか言ってただろ。殴れよ」

「おいおい」

 

 山本さんと一緒にいられることが羨ましいのはわかるが、そこまで敵意を剥き出しにしなくてもいいんじゃないかと思いつつ。

 

 俺も妹がいなくて鈴原が山本さんと仲良くしてたらムカついてただろうなとも思うので、やれやれくらいで許してやることにした。

 

「ごめんね。おーまたせ」

 

 元気よく教室のドアのサッシを跨いでやってきた事の元凶。

 両足で着地するとぷるんと胸が弾む。

 

 あの眩しい笑顔も、今だけは俺に向けられているのだと思うと、さすがに嬉しい気持ちを隠しきれない。

 

「で、多目的ルームの整備なんだけど。有志の人が時間に間に合うから私たちは帰っていいって」

 

 そして、突然やってきた日直終了のお知らせ。

 別段悲しくもないが、鈴原のやつが露骨に鼻孔を広げて喜んでいるのが苛立たしい。

 

 こちとら帰りが遅くなるからって妹に飯当番を任せてきてるんだぞ。

 

「じゃ、じゃあ、かな……山本さん、帰ろうか」

 

 鈴原がカバンを持ってドアに歩き出し、帰宅を促す。

 元々どう考えても生徒がやる仕事じゃなかったしな。

 

 あのアホな担任も他の教師から色々言われたんだろう。

 山本さんと2人きりの帰り道じゃない悲しみは、帰って妹にでもぶつけてやるか。

 

「よし、じゃあ四人で帰宅だな」

 

 いち早く鈴原に続いたのは高波だった。

 県大会で優勝できるくらいには実力があるのに、やる気がないせいで台無しな奴だ。

 そんなところも俺は嫌いではないが。

 

「えっ、みんなで帰ってくれるの? やった! 行こ行こ」

 

 山本さんが小さくスキップしながら廊下に向かう。

 鈴原が何か言い出そうとしたが、山本さんの気分を害したくない思いが上回ったようで、舌打ちだけを残して追いかけていった。

 

 本日の収穫として、山本さんは典型的なサークルクラッシャーであることがわかった。

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

 帰宅して、終始山本さんとベタベタしたがっていた鈴原の対応に疲れた俺は、ぼんやりとした頭で玄関に置いてある靴を眺めていた。

 

 なんだかいつもと景色が違うようだが、何が違うのかははっきりとわからない。

 一つ確実に言えることは、家の鍵が開いていたので美優が帰ってきているということだ。

 

 しばらくリビングでお茶を一服して、さて部屋に戻るかと階段を登る。

 

 すると上のドアが開く音が聞こえて、それから足音が近づいてきた。

 

「ただいま、美優。今日の予定はなくなった」

 

 俺も立派に帰宅の挨拶ができるようになったんだな、なんて自画自賛をしながら、階段を登り切る。

 

「あ、どうも、おかえりなさい。お邪魔してます」

 

 そこにいたのは、美優とは違う女の子だった。

 ぺこりと頭を下げてくれた少女は、美優とは違ってほんわかした雰囲気をしていた。

 

「お、お、おう。ど、どうも」

 

 ヤブヘビに知らない女の子と遭遇し、俺は吃りを抑えきれなかった。

 

 なんだこの美人さんは。

 体格からしても美優と同じ年齢のはずなのに、色気がとんでもない。

 唇と涙袋の厚さが絶妙にくっきりしていて、生きた人形なんて陳腐な表現がこれほどまでに似合う人間がいるとは、世界観が変わりそうなほどの衝撃だった。

 

 何よりすごいのが、あの山本さんと長時間過ごしてきたばかりの俺にそう思わせたことだ。

 

 心臓がバクバクして痛い。

 一目惚れってこういうものか。

 

「えーっと、その……奥に通していただいてもよろしいですか……?」

 

 少女はモジモジしながら、俺の背後にあるトイレに目線を配っていた。

 

「これは、失礼しました!」

 

 俺は一歩横に移動して、目の前を通り過ぎていく天使を目で追った。

 

 あんなに可愛い子でもトイレに行くのか。

 

 アホなことを考えてるな俺は。

 

 早く部屋に戻ろう。

 

「ふぅ……」

 

 俺は自室のベッドで仰向けになった。

 

 長く息を吐いて、心を落ち着ける。

 

 ロリコン、というわけではないと思う。

 あの子は小柄で、いかにもなゴリゴリのロリータファッションが似合いそうな風体をしていたが、それが好きで見惚れたわけではない。

 

 頭を下げて挨拶をしてくれたときの所作。

 さり気なく長い髪を梳いて後ろに流し、目を見つめるでも逸らすでもなく保ってくれた心の距離感。

 そういったものが、俺の感性にどジャストに合致していた。

 

 純情可憐。

 天使とまで評してしまった俺だが。

 

「抜くか……」

 

 俺の手は迷わずズボンを下ろしていた。

 

 あまつさえ妹の友人であるあの子を、オカズにしてオナニーすることが許されるのかはわからない。

 しかし、とにかくムラムラする。

 帰りも山本さんのおっぱいがずっと視界に入っていたせいで妙に興奮してしまっているしな。

 

 パンツを脱いで、局部を露出させる。

 隣の部屋に妹とその友人がいると思うと、それだけで凄まじい背徳感が俺を襲う。

 

 むくりと首を起こした肉棒に、俺は指を絡ませ、ストロークさせる。

 

「っ……はぁ……」

 

 先ほどの女の子は、姿を見る限りでは完璧で汚しようのない子だったが。

 

 あんな美しい子でも、トイレでおしっこをするのだと。

 

 考え始めると、途端に俺の脳内で天使の表情が蕩けていった。

 

 パンツを脱いで。

 人には見せられない部分を露出して。

 そこから、レモン色の液体が放出される。

 

 ウォシュレットで洗浄したら、その場所を手で拭くのだろう。

 女の子の性の目覚めには詳しくないが、あの年齢でも感じたりするんだろうか。

 

 拭いている最中にたまたま敏感なところに手が当たってしまって、そこから淫奔に耽けて深みへと堕ちていく……なんてことを、もしあの子が経験していたら。

 

「くっ……ふぅ……あぁっ……」

 

 亀頭がぬるぬるしてシゴく手が止まらない。

 妹以外で興奮したのは久しぶりだった。

 

 美優以外でイケるかもしれない。

 

 俺は睾丸の奥から熱く昇ってくるものを感じながら、上下に動かす手を速めた。

 

 その瞬間。

 

 ガチャッ。

 

 っと俺の部屋のドアが開かれた。

 

「な──ッ!?」

 

 妹の友人が部屋を間違えて入ってきてしまったのかと、俺は咄嗟に布団で下半身を隠した。

 

「お兄ちゃん……」

 

 オナニーの介入者、それは不機嫌そうな顔の美優だった。

 ドアを閉めて、どう考えても状況を隠しきれていない俺の前で仁王立ちする。

 

 凛とした釣り上がりな目に見下されて、俺の下腹部はピンチとは裏腹に更に盛り上がってしまった。

 

「の、ノックはどうしたノックは! 気をつけるって言っただろ!」

「お兄ちゃんも今日は帰らないって言ったでしょ」

 

 美優はベッドの前に膝を下ろす。

 仏頂面だが、怒っているわけじゃないみたいだった。

 

「予定が急にキャンセルになったんだよ。友達が来るなら、言ってくれればどこかに寄ってきたのに」

「それは、そうなんだろうけど。どうしても知られたくない事情があったから」

 

 美優は申し訳なさそうに俯いた。

 

 おおよその察しはつく。

 

「あの子か」

「うん。遥って言うんだけど。トイレに出てったとき、会ったんだよね」

 

 会ってしまったとも。

 それがまずかったのか。

 まさか俺が妹の友達に惚れるとでも思ったのか。

 

「そしたら邪悪な気配を感じたから、ここに来ました」

 

 事実その通りになってしまって大変申し訳ない。

 

「で、不躾に来たのには不躾に来たなりの理由がありまして」

 

 妙に畏まって、美優は俺を上目遣いで見つめる。

 まず目を見つめて、それから布団の中心部に視線を移して、また目を合わせた。

 

「立って」

 

 美優に要求されて、俺は素直に従う。

 下半身丸出しの状態だが、妹に見られることに関しては慣れている。

 友達が隣の部屋にいるという追加要素を除いて。

 

 緊張で中途半端な固さに落ち着き、ブラブラする俺の肉棒を前に、美優は俺の腰を両手で掴んで、顔を上げた。

 

「出して」

 

 本気のトーンで伝わってきた美優の声が、俺の鼓膜を揺らして、愚息が首をもたげる。

 

 あろうことか妹は、友人がいる部屋の隣で、俺に性欲を吐き出せと命令したのだった。

 



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妹の友達をオカズにした ①

 

「出して」

 

 俺の肉棒を目の前にして、美優はそう言い放った。

 両膝をつき、俺の腰を掴んだその体勢は、今にもフェラが始まりそうで反り返りが更に上向く。

 

「出してって言うなら、出すけど」

 

 おねだりをされたのは初めてだった。

 嬉しい気持ちもある一方、戸惑いもある。

 

 美優には怒られることも気持ち悪がられることもあるが、嫌悪感を示されたことは一度もない。

 

 しかし、その分というか、美優から好意を感じたこともなかった。

 

 遥という女の子に会って、その子をオカズにオナニーをしようとしていたら、美優が邪魔してきてすぐさま射精をねだってきた。

 

 これをどう解釈したらいいだろう。

 

「遥のこと考えたら許さないからね」

 

 美優は鋭い視線を突き刺してくる。

 珍しいくらいに感情が滲んでいた。

 

「わかったよ」

 

 俺が了承すると、美優は床に正座した膝の上に手を置く。

 

「よろしい」

 

 美優はそれだけ言って、黙り込んだ。

 

 正座をして亀頭を見つめる妹を前に、握り込んだ手の動きが鈍る。

 そこまでして真剣にオナニーを観察されると、さすがの俺でも集中できないのだが。

 

 勢い任せに手を滑らせてみたが、これで気持ちよくなるのは至難の業だった。

 

 何か刺激がほしい。

 美優の方からねだってきたのだから。

 

 おっぱいを見せてくれとは言わない。

 せめて女の子座りでもして、ふとももをチラリとでもしてくれれば興奮するのに。

 

 美優はなおもダンマリを決め込んだまま。

 パチパチと瞬きを繰り返すだけ。

 

 無音になった俺の部屋には、鳥のさえずりさえ届きそうなくらいだった。

 

 じりっと垂れる汗の音すら、耳の突くほどの静寂。

 

「──遥ってば、美優のやつ勝手に使ったら怒られるよ」

「使わないよ。見てるだけ」

「えーどうだか。後で美優に言いつけちゃお」

「美優は私が何しても怒らないし。今日は由佳に説教をするための勉強会なの、忘れないでね」

 

 壁越しに、少女達の戯れが聞こえてきた。

 俺が知る限りでは美優と遥という子しかいないはずだが、隣から聞こえてくる声は明らかに二人の会話だった。

 

「他にも来てたのか?」

「遥と、もう一人だけ。由佳って子。……出なさそう?」

 

 美優の問いかけに、俺は首を縦に振る。

 

 友達を待たせてることもあって、時間をかけたくないのだろう。

 普段なら数分で出すことなど造作もないが、新しい刺激が多すぎて逆に頭が取っ散らかっている。

 

「すぐには難しいかも」

「そっか。うーん」

 

 美優は口元に手を当てて、数瞬だけ思考を巡らせる。

 

「ちょっと待ってて」

 

 おもむろに立ち上がると、美優は俺の部屋から出ていった。

 

 下半身裸で突っ立ったままの俺。

 虚しさが全身を包む。

 

 ベッドに腰掛けるくらいならいいか。

 と考えていた俺の耳に、また隣の部屋からの声が届いた。

 

「あっ、美優! 聞いて! 遥が美優のやつ勝手に使ってたよ!」

 

 元気そうな声だった。

 きっと由佳って子は明るくて愛らしい子なんだろう。

 遥の容姿を知ってしまった影響もあり、美優の友達なのだから可愛いはずだと脳が決めつけている。

 

「使ってたわけじゃないよ。触ってただけ」

「同じでしょー。ねーねーいいの? 遥のこと叱らなくて」

 

 何の話をしているのだろうか。

 壁に耳を当てると、下のほうがつっかえた。

 とりわけエロい会話でもないのだが、本能は思考とは全く別のところにあるらしい。

 

 美優が俺以外とどんな風に話しているのか、非常に気になる。

 あんな仏頂面の美優でも、やっぱり家の外では笑顔たっぷりなんだろうか。

 

「もうさ、勉強会なんてやめて…………って、ひゃっ、美優!? 何するの!?」

 

 ゴトゴト、と床に何かが落ちる音がして、壁の近くに誰かが倒れ込んだ。

 

「いいから。大人しくして」

「ば、バカッ! 服を脱がされて大人しくなんてできないって! ボタン、壊れちゃう……!」

 

 ザザッ、と布団が壁に擦れる雑音が走った。

 

「ここまでするなんて聞いてない! ブラはダメ! ブラは取らないで!」

「美優、私もそんなことするなんて聞いてないよ」

 

 美優以外の2人の声は知らないが、喋り方と雰囲気で察しはつく。

 美優が由佳に対してよろしくないことをしているみたいだ。

 

 俺を待たせて、友達のブラを取って……。

 

 どういうことだ。

 それを俺にくれるということだろうか。

 

 いやいやいや。

 ついさっき友人をオカズにするのを怒られたばかりだし。

 

 でも、ごめんな美優。

 勃起が痛い。

 

「キャミは自分でたくし上げて。じっとしててね」

「うぅ……こんなお仕置き、ヒドすぎる……」

 

 カシャ、カシャ、とシャッター音が聞こえる。

 写真を撮っているみたいだ。

 

 由佳って子がどんな悪いことをしたのかわからないが、友人に対してそこまで冷酷になれるものなのか。

 それとも、こんな程度では許されないぐらいに、美優に迷惑をかけたのだろうか。

 

「それ、どうするの」

「うーんと。個人的に使う」

「私のは?」

「要らない」

 

 その会話の後は、しばらく静かになった。

 

 美優がドアを開ける音が聞こえる。

 壁越しのベッドでは、小声での言い争いが続いているようだった。

 

「おまたせしました」

 

 美優は何事もなかったかのように俺の部屋に戻ってきた。

 

 スマホを片手に。

 

 とんでもないものを持ってきたぞこの妹は。

 

「聞いてた?」

 

 壁際の俺を見て美優は訊く。

 

「すまん」

「いいよ、今回は。写真を送るね」

「くれるの!?」

「いっぱい使っていいよ」

 

 美優がスマホを操作すると、俺の机の上でブーブーとスマホのバイブレーションが鳴った。

 

 画面を覗いてみると、たしかに写真が1件送られていた。

 

 簡易ロックを外して、添付された画像を開く。

 

 薄暗い画面に、乱れた制服を着た少女の姿が映し出され、俺の心臓がドキリと跳ね上がる。

 ダウンロード中を表す渦巻きが回転し、下部の進捗バーが進むたびに、ピクピクと尿道が引き締まった。

 

「うわっ……」

 

 手が震えた。

 

 俺の視界をジャックしたのは、すぐ隣の部屋にいる女子中学生の生写真。

 頬を赤らめ、目を逸らしながらも、自らキャミソールの裾を掴んで胸部を露出させている。

 茶髪のツインテールがしおらしく肩から垂れ下がって、美優とは対極にまだ未発達な膨らみから、ピンク色の芽がぴょこんと顔を覗かせていた。

 

 由佳は低身長ながらも目鼻立ちがスッとしたスタイルの良い女の子だった。

 美優と同じ釣り上がりな目で、気が強そうな顔が羞恥に歪んでいる。

 

 無理やり撮ったせいで全身がうまく写ってないところが、返って生々しさを強調している。

 

「どう?」

 

 美優は平坦な声で尋ねる。

 

「これ、本当にいいのか」

「うん」

「友達をオカズにされるのは嫌なんじゃないのか?」

「……色々と事情があるの」

 

 美優は目を伏せる。

 追求するなのポーズだ。

 

「なら遠慮なく……」

 

 俺は画面に集中して右手を動かし始める。

 写真自体もエロいが、隣の部屋にこの裸の子がいるのだと思うと、背徳感に玉袋がキュッとなる。

 

 制服を中途半端にはだけさせた、女子学生のおっぱい。

 二次元でしかお目にかかれないと思っていたものが、今はこの手の中に収まっている。

 

「いや……これは……さすがに……っ」

 

 美優から送られてきたものとはいえ、友人をエロ写真をオカズにオナニーをしている姿を、実の妹に見られている。

 

 倫理観なんでどうでもよくなるくらい不純と背徳のオンパレードだった。

 

 この小さな膨らみでも、触ったら柔らかいんだろう。

 恥ずかしさに顔を背けるこの子の胸を触り、舐ったら、どんな声を出すんだろうか。

 

 それだけじゃない。

 その白い肌にペニスを擦り付けて、先っぽから溢れる先走りを塗りたくってやりたい。

 

 由佳のスカートは、無理やり押し倒されたせいでプリーツが乱れていた。

 

 犯したら凄い声で喘ぎそうだ。

 あの勝気な目で俺を睨みつけて、下半身は快楽に負けてズブズブと俺の肉棒を求める。

 そんな光景が目に浮かぶ。

 

「いっ……あぁ……ウッ……!」

 

 出したい。

 この少女を脳内で犯したまま。

 中出しして精液をぶちまけたい。

 

「溢れないように飲んどいてあげるから。そのまま出して」

 

 美優の声に、前立腺を刺激されたかのような快感が押し寄せてきた。

 

「はぁ……出る……出るッ…………!」

 

 目がチカチカして、ドロドロっと尿道を精液が流れていく。

 硬い肉棒をさらに絞るように筋肉がぎゅっと引き締り、勢いよく精液が飛んだ瞬間の快感に、意識が遠のいた。

 

「あぁ……美優…………出た……よ……」

 

 右手に根元を引きつけられて、上向きにピクピクと震える肉棒に、押さえつけられたような感覚はない。

 かなり派手に発射した気がするけど、飛び散らかさずに飲めただろうか。

 服にかかったらまた怒られるかもしれない。

 

 画面から目を離して美優の顔を確認する。

 

「ん……おわっは……?」

 

 美優は口を開いたまま、上目で俺と視線を交える。

 

 肉棒を半分ほど咥え込んでいた。

 無論、舌や唇など触れさせてもらえるわけもなかったが。

 妄想の邪魔をしたくなかったせいか、腰を掴むことはしなかったようだった。

 だから、亀頭を丸々と口に含んでしまうくらいに近づかないと、上手く精液を受け止められないと判断したらしい。

 

「美優、あの、このまま……」

「ん……ごっくっ……はぁ、ダメだよ、お兄ちゃん」

 

 美優は俺の精液を飲み込んで、即座に言葉を封じてきた。

 

 ここまでしておいて、精液を舐め取るのと放置するのとで、いったいなんの違いがあるというのか。

 

 俺はただ、最後に自分でイチモツを拭うその虚しさから、解放させてもらえればいいだけなのに。

 

「スッキリしたんでしょ? じゃあお兄ちゃんは妹に感謝しないと」

「それは、そうだな」

 

 生のオカズをもらって。

 精液の処理までしてもらえたわけだし。

 

「では、妹からの命令です。これから先はヘッドホン着用のこと。聞き耳を立てたら怒るからね」

 

 美優は俺がエロゲをやらなくなってしばらく放置していたヘッドホンを指差した。

 

「わかったよ。でも、一階のリビングにいるくらいならいいだろ」

「速やかに移動するなら許可します」

 

 美優はピシッと言い放って、俺の部屋を後にした。

 

 今更、あんなヘッドホンなんて、つける気分にはならなかった。

 



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妹の友達をオカズにした ②

 

 美優に盗み聞き禁止と言われて、俺は一階のリビングに降りてきた。

 上階の音を聞きたいわけではないのだが、テレビも付けずにソファーに座ってジッとしている。

 

 いや、ぼーっとしていると言った方が正しいか。

 そろそろエアコンの冷気も回ってきて、頭も冴えてきた。

 

 両親の帰りが遅いため、夜までリビングを放置しておくことも多い。

 帰ってきてから俺と美優は部屋に直行したため、リビングはまだ高い日の暑さをたっぷりと吸収していた。

 朝にはシャッターを上げる決まりがあり、出かけるときに閉める習慣もないため、この部屋は毎日無駄に温められている。

 

「ふぅ……」

 

 ソファーに寝転んで、大きく息を吐く。

 妹の友達である由佳のエロ画像を貰ってから、どうにも心が落ち着かない。

 

 乱れた制服をたくし上げておっぱいを晒す女子中学の生写真。

 スマホのボタンをカチカチと押して何度も見たり閉じたりを繰り返す。

 性欲は蓄積されていく一方だが、パンツを脱げるほどの割り切りはまだできていなかった。

 

 美優と違って、由佳は全くの他人だ。

 妹より他人の方が抜きづらいなんておかしな話だとわかってはいるが、俺にとってはこれが本能的な価値基準だからどうにもならない。

 

 妹の友達で抜くのなんて、きっとAVを見て抜くのとそう変わらないのだろう。

 それでも、友達の兄が勝手に自分をオカズに使っていると知ったら、対価を貰っているわけでもない彼女は憤るはずだ。

 

「はぁ」

 

 止まらないため息に、鼓動は早くなっていく。

 何も考えないようにしても、あの写真を使って抜いてしまった事実が、罪悪感として体に刻み込まれていた。

 

 無理やり心を鎮めようとして、寝てしまおうと努めてから、どれだけの時間が経ったのか。

 わからないが、結局寝ることはできず、胸のざわめきからくるストレスに我慢ならなくなって俺はキッチンに移動した。

 

 コーヒーでも飲めば少しは落ち着くはず。

 そう思ってコーヒーメーカーをセットしてから、俺はキッチンを背もたれにして座り込んだ。

 

 ポコポコとコーヒーを煮出す不規則な音だけがリビングに響いている。

 目を閉じればその小気味良い音だけが聴力を占有して、それだけでも緊張は和らいだ。

 

 しかし、そんな心地良さに包まれていられるのも数分の間だけのことだった。

 

 完全に油断しきっていた俺の耳が、リビングのドアを開く音を拾って、心臓はまた休みなく大きな拍動を強いられることになった。

 

「んーもー! つかれたー!」

 

 聞き慣れない声だったが、その活気のある響きから由佳がリビングに来たことはすぐにわかった。

 それからドアが閉まる音だけが続いて、どうやら一人で一階まで降りてきたらしい。

 

 美優にはリビングにいることを伝えてある。

 俺と鉢合わせになることは美優も避けるはずだし、おそらくトイレに行くとでも言って抜け出してきたのだろう。

 由佳はお勉強兼お仕置会のことを面倒に思っていたようだし、しばらくは戻ってくれそうにない。

 

 厄介なことになった。

 ただでさえ妹の友人なんて気まずいのに。

 無断でオナニーのオカズにしてしまった女の子が、キッチンの向こう側で寝転んでいる。

 

 立ち上がるのも億劫だけど、どうせコーヒーメーカーの音で気づかれるか。

 相手に不審がられるくらいなら、先に挨拶をしてしまおう。

 

 俺は立ち上がって、キッチン越しの中学生を視界に収める。

 

 制服を着ていた由佳は、足をこちらに向けていた。

 膝を曲げて、スカートの中まで丸見えになっている。

 

 そして、その中には。

 

「──ッ?!」

 

 俺は天敵を見つけたプレーリードッグのごとく素早く身を隠した。

 

 マズい。

 またしてもマズいものを見てしまった。

 

 いや、しかし。

 なんで、どうして。

 

 ──なぜパンツをはいていないんだ!?

 

 照明が上手く当たって割れ目までくっきり見えてしまった。

 うっすら毛の生え始めたアレは、間違いなく女性の大事な部分だろう。

 美優の裸も見たことはあるが、下からの景色をあれほどはっきりと目撃したことはなかった。

 

 どうしよう。

 ここで声を掛けたら、俺が大切な部分を見てしまったことがバレてしまう。

 幸いにもコーヒーメーカーの音は気にしていなかったようだが。

 

 もし気まぐれでキッチンの方まで来てしまったら。

 隠れていた理由を問い詰められてしまう。

 

 いっそ、もっとわかりやすい物音を立てて気づいてもらうか。

 今までは偶然意識の入らないところにいただけですよと、自然な流れでアピールできれば、由佳の方が勝手に察知して足を閉じてくれるかもしれない。

 

 何も気にせずにコーヒーを注いでしまった方が無難か。

 俺がドアの音に気づかなかったと主張するのは無理があるが、知らない間柄だし、声をかけずにいること自体はなんらおかしくはない。

 

 大丈夫。

 ここは平常運転。

 俺以外に誰もいないと思って、リビングで日常を過ごすんだ──

 

「由佳、やっぱりここにいた」

 

 ガラガラとドアの開ける音に続いて、聴き馴染んだ声が入ってきた。

 部屋に入るなり、すぐにソファーのところまで足音が移動する。

 

 美優が来てくれた。

 ナイスなタイミングだ。

 

「サボっていられる身分じゃないでしょ」

「もー! あんなことされたらサボりたくもなるって!」

 

 バタバタとソファーを叩く音が聞こえる。

 あんなことっていうのは、美優が由佳のおっぱいを撮ったことだろうか。

 

「由佳が全然反省しないのがいけないんだよ」

「だって何が悪いのかわかんないし。思い出せって言われても困るもん。お仕置きが勉強ってのも意味不明だし」

「本当にわからないの? 認めたくないだけじゃない?」

「ぬぅー!」

 

 由佳は力んだような声を出して、息を抜くと共に脱力する。

 

「そりゃ、思い当たるフシがないわけでもないけどさ。美優に謝れって言われるだけなら、私だって素直に言うこと聞くよ? でもさすがに遥のはないじゃん」

 

 不満げな声だった。

 仲良く楽しい雰囲気だったのが、一変してちょっと嫌な感じだ。

 えもいわれぬ不安がもやもやと胸の内に広がっていく。

 

「ねえ。美優もさ。もう遥の言うこと聞くのやめない? 恩があるのはわかるけどさ。どう考えても美優には合わないよ」

 

 由佳は強めの口調で美優に忠告した。

 

 ついに聞くことになってしまったか。

 やっぱり、どの女の子にもあるんだな。

 表面上は仲良くしてるけど、実は裏ではってやつ。

 

 元気で明るくて、腹黒い部分なんてないと思っていたのに。

 現実はこんなものなのか。

 

 あんなに礼儀正しくて可愛い子に、敵意を向ける理由が見当たらない。

 嫉妬したくなるくらい恵まれた容姿なのは理解できるが。

 

 でも、君たちは友達なんだろう。

 あの子がいったい、どんな悪いことをしたっていうんだ。

 

「だって試験中にローター入れてるような子だよ!? どう考えたってヤバいじゃん!」

 

 ごめん由佳。

 それはさすがにヤバすぎる。

 

 待ってくれ。

 さすがに信じられない。

 

 あんな清純な子が、学校でテストを受けてる最中にローターを隠し入れてパンツの中を濡らしているのか?

 人形みたいに涼しい顔をして、クラスメイトに混じって、先生に見守られながら、膣内だけは別の感情に支配されている……。

 

 想像してみると、とんでもない変態行為だ。

 真面目そうな顔をして、大胆すぎる。

 

 試験中ってかなり静かだよな。

 バレないんだろうか。

 

「由佳。余計なこと言わない」

 

 美優の声が途端に冷淡になった。

 遥の悪口を言われたからだろうか。

 それとも……。

 

「台所にお兄ちゃんがいるんだから」

「え!? 嘘ッ!?」

 

 やっぱり美優は気づいていたか。

 というか由佳は本当に気づいてなかったのか。

 

「ど、どうも」

 

 申し訳ございません、と心の中でつぶやきながら、俺は立ち上がって由佳と視線を合わせた。

 

「あははー。ど、どうもー」

 

 由佳は手をひらひらさせて硬い笑顔を作る。

 そりゃ俺に遥のとんでもない秘密を暴露してしまったわけだからな。

 きっとお仕置き追加だろう。

 

「し、失礼しましたーッ!!」

 

 由佳は美優の突き刺すような視線から逃れるようにして二階に走って行ってしまった。

 そっちに逃げたところで状況はなにも変わらないと思うが。

 

 取り残されて、また美優と2人きり。

 今日は気まずい空気になってばかりだ。

 

 1分ほど空間が停止して、美優が台所まで回ってくる。

 

 不機嫌に不機嫌を上乗せした顔で。

 美優は俺の膨れ上がった股間を睨みつけた。

 

「これは、その、だな」

 

 興奮するなという方が無理がある。

 あの遥が、人形みたいにキレイで真面目そうなあの女の子が、三十数人の只中で淫奔に耽っているなんて。

 

 机に突っ伏して、声を抑えて悶える遥の姿が脳裏に浮かぶ。

 我慢ならなくなって、触りたくなるときもあるだろう。

 立ち上がるときはティッシュで椅子を拭くんだろうか。

 

 ダメだ。

 妄想が止まらない。

 

「お兄ちゃん」

 

 俺の妄想を美優の低い声が遮った。

 遥だけはオカズにするなと言われて、その代わりに由佳のエロ画像をもらったわけだし。

 

 俺も我慢してやりたいが、すまん。

 今は無理だ。

 

「……そんな子だったのか」

 

 咎める妹を無視して、俺は訊いた。

 

 批難したいわけじゃない。

 きちんとした事情を説明してもらえれば、身勝手な妄想も止まると思ったんだ。

 

 美優は俺の前まで来て、真っ直ぐに瞳を合わせて口を開く。

 

「勘違いしないで。遥はそれが一番集中できるからしてるの。小学生の頃から、学校でも塾でも学年で一番なんだよ」

 

 それはすごい。

 なんかもう、色々とすごすぎる。

 天才と変態はやはり表裏一体だったか。

 

「さすがにリモコンを渡された時は引いたけど」

 

 美優は目を逸らして呟いた。

 

 余計なことを口走ったな妹よ。

 よっぽどドン引きしたんだな。

 

「その、邪推して申し訳ないんだが。二階でもそういうことしてるのか」

 

 俺は恐る恐る尋ねる。

 口が乾燥して、唾を飲み込んだ。

 噛まずに喋れたつもりだが、美優はただ俺を睨むばかりで返答しない。

 

 沈黙は肯定、でいいんだよな。

 それなら由佳がパンツをはいていなかったことも納得できる。

 となると、それなりに濃厚なスキンシップがあってもおかしくないわけだよな。

 平然とブラジャーを外せるような間柄なわけだし。

 

「もしかして、美優は女の子の方が好きなのか?」

 

 美優だって、クラスの男子が放っておかないくらいの容姿はしている。

 それなのにここまで男っ気がないのは、つまりそういうことなんじゃないか。

 

 重ねられた質問に、美優はやりづらそうに口を窄めて。

 しかし、今度はちゃんと返答してくれた。

 

「私にそういう感情はないよ。遥はレズだけど」

 

 ため息混じりの声に、本心が見え隠れする。

 少なからず性的な好意はないみたいだ。

 

「そうだったのか。やたらと庇うから、てっきり」

「そっちの理由を話すつもりはありません。いいから遥のことは何もかも忘れてください」

 

 美優はまた俺の目前で膝をついて、本日二度目の光景を迎える。

 

「今日はもうエッチな気分でいるの禁止。全部処理してあげるから、溜まったらすぐ出して」

 

 美優に急かされて、ズボンを脱いだ方がいいのか迷うが、興奮はしていても抜ける気分じゃない。

 もう少し雰囲気があればいいが、美優のご機嫌がよろしくないのでむしろ萎んでしまいそうだ。

 

「今すぐは、難しそう」

「こんなに大きくなってるのに?」

「すまん」

 

 その言葉だけは若干股間に刺さった。

 

「由佳の写真があるでしょ。それ使って」

 

 美優に命令されて、俺はまた由佳のエロ画像を見るが。

 それだけで射精に至れるほど、男も単純な構造はしていない。

 

「むー……」

 

 そんな膨れっ面をされても出るものじゃない。

 さっきの怖い顔よりはよっぽどいいが。

 

 俺はズボンのチャックも下ろさないまま、立ち尽くす。

 その間、美優はずっと頭を悩ませて、数分が経つ。

 

 美優は最後に一度項垂れると、覚悟を決めた顔で立ち上がった。

 

「準備してくるから、待ってて」

 

 美優はリビングに戻ると、引き出しを漁ってなにやらゴソゴソと探し始める。

 たしかあの辺りは、裁縫道具とかを入れてた場所だよな。

 

「準備って、何の?」

 

 尋ねてみたが、当然教えてもらえるわけもなく。

 

「用意ができたら呼びに来るから。それまではエッチなこと考えたらダメだからね」

 

 美優はそうやって、俺に釘を刺して。

 

 白い布とナイロンテープを手に、二階へと上がっていった。

 



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妹の友達をオカズにした ③

 

 美優が二階に物騒なものを持ち去ってから、20分ほどが経った。

 

 俺はソファーに座って、手持ち無沙汰にボーッと真っ黒なテレビ画面を眺めている。

 遥をオカズにすることが禁止されているため、無心になるように努めた俺の肉棒はすっかり柔らかくなっていた。

 

 抜けそうにないと言った俺に対して、美優が準備を待てと指示したのだから、また新しいオカズを用意していることは間違いない。

 

 ナイロンテープに長めの布切れか。

 どう考えても、拘束の道具だよな。

 想像に難くはないが、本当にそれを兄のためにやる奴がいるなんて。

 

 いや、俺じゃなくて遥のためか。

 あの二人の間にどんな事情があるのかは知らないが、どうにも美優は遥に頭が上がらないらしい。

 

 にしてもあの遥がなぁ……勉強中にローターを入れてるなんて……その上、女の子にご執心とは。

 せっかくあんなに可愛いのにもったいない。

 性愛の対象が男なら、コンビニで買い物をする感覚でどんな男も手に入れられただろうに。

 

 っと、これを考えるのもよくないか。

 美優には遥のことを完全に忘れるように命令されているからな。

 勉強は繰り返してもてんで頭に入らないのに、たった一瞬話しただけの女の子が、どうしてこれほどまでに忘れられないものか。

 

「お兄ちゃん。お待たせしました」

 

 ドアからそろっと顔を覗かせてきた妹が、まず俺の股間を凝視してから目を合わせてくる。

 

「してないよ」

「よろしい」

 

 美優が首を引っ込めると、艶黒な髪がスルリとドアの奥へ溶けていった。

 シャンプーやトリートメントは家族と共用にしているものを俺も使っているわけだが、美優だけなんであんなに髪の毛がキレイなのか。

 やっぱり人間の美しさなんてほとんどが遺伝なんだろうな。

 俺も美優と同じ血を引いているわけだし、素養はあるはずなのだが、どの遺伝子配列で差が出たのだろうか。

 

「二階に行くんだよな?」

「うん」

 

 俺がリビングを出ると、そこには神妙な面持ちの美優が待っていた。

 唇の前に人差し指を立てて、抜き足差し足で階段を上って行く。

 

 出来るだけ音を立てないよう、慎重に足を運びながら辿りついた俺の部屋の前で、美優は手に持っていた粘着テープを引っ張った。

 両手で広げられたテープを俺の口の前まで持ってきて、そっと頬につけながら美優が囁く。

 

「声を出したらダメだからね。喘ぐのも禁止だよ」

 

 美優の小声が耳元に吹きかけられる。

 初めての経験に、ゾクッと下腹部が震えた。

 

 テープが俺の口の両端までペッタリと貼り付けられると、美優はまた『静かに』のサインをしながら俺の部屋のドアを開ける。

 

 中は薄暗かった。

 日光はカーテンに遮られて、隙間から漏れる光だけが室内のわずかな輪郭を作っていた。

 

 俺は美優の後ろを歩き、ドアを閉める。

 カチャッとドアノブが戻ると、数秒の静寂の後に、空気が漏れるような音が聞こえてきた。

 

 耳を澄ましてみると、どうやらそれは人間の呼吸音のようで、ふー、ふー、と苦しそうなか細い息遣いをしている。

 

「むんっ────ッ!?」

 

 驚きに漏れ出た声に、美優は俺の服を引っ張って警告をした。

 

 俺は後ずさって、眼前に広がる光景に瞠目する。

 

 少女が仰向けにされていた。

 ブラウスがはだけて首下の肌が露わになり、腰にはかろうじてスカートが巻きついている。

 恥部だけが露出するように無理やり脱がせて拘束したら、きっとこんな体勢になるのだろう。

 

 両腕は、上部でまとめ上げられて拘束されているため、僅かばかりの抵抗も許されない状態だった。

 

「お兄ちゃん。ここ来て」

 

 美優が俺の耳元で、聞くことのできるギリギリの声量で指示をしてくる。

 

 移動しろと言われたのは、寝かされている少女の下半身の真ん前。

 柔らかそうなふとももが蝶のように開かれて、ナイロン製のテープで固定されている。

 その中心には花びらが息づいていた。

 同じ幅で開かれたお尻の割れ目を、一筋の粘性がトロトロと溢れて濡らしている。

 

「う……ふぅ……んっ────」

 

 少女は人が入ってきた気配を感じ取って、乾いた口で精一杯に舌を動かしながら、ギャグボールをモゴモゴさせた。

 茶色がかった艶の良いツインテールが力なく揺れて、助けを求めるように呻き声を響かせる。

 

 細長く切り取った布で目元を覆われているため、彼女──由佳は、俺がすぐ近くにいることに気がついていない。

 おそらくここが俺の部屋であることすら知らないのだろう。

 強引に脚の拘束から逃れようとして、余計に広げられた秘裂からまた愛液が漏れ出していく。

 

「それじゃ、まずは脱いじゃおっか」

 

 いちいち耳の後ろが美優の声にくすぐられて、そのたびに精巣が疼く。

 先走りはパンツの湿り気を感じさせるくらいに滲んでいた。

 

 ズボンごとパンツを脱ぐと、美優に引っ張られて足元を抜けていく。

 取り去られたズボンたちはベッドへと投げ込まれた。

 シャツと靴下だけを身に着けて、妹の友達を前にしてギンギンにイチモツを勃起させている。

 

 死ぬほど惨めだった。

 俺は別に妹にイジメられているわけでもないのに、情けない気持ちと性欲が一緒くたになって脳を支配している。

 

「これなら出せるよね」

 

 美優は由佳の恥部を目の前に晒して、オナニーをするように命令してくる。

 

 出せるには出せる。

 このまま少し擦るだけで、大量の精液を射出できてしまう。

 

 だが、出せるわけがない。

 

 そんなことをしたら──下手をすれば妊娠する可能性すらある場所に、俺の精液を撒き散らすことになる。

 

「お兄ちゃん」

 

 なかなか右手を動かそうとしない俺に、美優が催促をしてくる。

 

 逆らえなかった。

 

 俺は由佳の蜜壺から愛液が流れ出るのを眺めながら、懸命に肉棒を扱き上げる。

 

「んっ、ふっ────ッ!」

 

 思わず漏れ出そうになる声は、口を密閉するテープにより封じられた。

 それでも喉の振動から伝わる音は、美優に突きつけられている金属製の切っ先によって、最小限に抑えられている。

 

 刺す目的で刃物を当てているわけではない。

 俺が興奮しすぎて低いうめき声を出しすぎないよう、外部から制御してくれているのだ。

 おかげで声を抑えることはできた。

 だが、すっかり蕩けきった脳は、そんな状況すら興奮材料として、俺の肉棒に血液を送り込んでいた。

 

「むぐっ、ん……んー……」

 

 由佳と、俺と、互いに言動を制限されて、呻くことしかできない。

 

 視界だけは、俺に優先されていた。

 目隠しされている自分の目の前で、局部を凝視されながらオナニーをされているなど、由佳は考えもしないだろう。

 

 勝手にオカズにされて、勝手に扱かれて、そして、勝手に射精される。

 

 ダメだ。

 それだけは人としてやってはいけない。

 いくら興奮に身を任せることになったとしても。

 

 見ず知らずの女の子の性器に射精するなんて。

 許されるわけがない。

 

「そろそろ出るかな?」

 

 美優の声。

 

 美優の声だ。

 こいつが悪い。

 

 右手のストロークは臨界に向かって一気に加速状態に入っている。

 それを見て、美優も悟ったのだろう。

 

 もう射精を我慢できる状態にない。

 このまま動かし続けたら、ものの数秒で射精する。

 

 俺は首を横に振った。

 必死に、何度も、悪魔の囁きを振り払うように。

 

「いいよ」

「んっ────!?」

 

 俺の目に柔らかい感触が当たったかと思ったら、いきなり視界を奪われた。

 根元から亀頭へとまんべんなく与えられる刺激に、由佳の裸という材料は奪われて。

 

「このままいっぱい出しちゃおっか」

 

 代わりに、鼓膜から流れ込むような美優の声が、俺の脳を支配した。

 

 いつもよりも甘めのその声が、聴覚の100%に浸透する。

 美優に手でしてもらっているわけでもない。

 自分の意思で動かしているはずなのに、射精への歩みは止められなくなっている。

 

 もうダメだ。

 人として終わる。

 

 射精する。

 

 我慢できない。

 

 美優に出してと言われて、すぐさま精液は発射台まで運ばれてしまった。

 微かに残った理性が、ダムみたいにギリギリまでそれが吐き出されるのを堰き止める。

 

「んっ…………んんっ────!!」

 

 暗闇の中、溜まりに溜まった精液は、尿道を押し広げるようにして飛び出した。

 びゅくびゅくびゅく、と排尿に近い感覚の連続射精に、陶酔するほどの快感が全身に広がる。

 

 あー、やってしまった。

 俺はもう、二度と立派な男として自分を語ることはできない。

 

 認める。

 この際だ、認めよう。

 

 俺は由佳の秘部を見ていたときの距離感をイメージに保っておきながら、尿道の先っぽが由佳のアソコに向くよう、意図的に射精の方向をコントロールした。

 俺自身が欲望に耐えきれずに、自分の精液を由佳の蜜部にかけたのだ。

 

 出す場所なんていくらでも変えられたのに。

 今頃は由佳の愛液と俺の精液が混ざりあって、ぽたぽたとアヌスを辿って落ちているだろう。

 

 最低だ。

 

 最低なくらい、死ぬほど気持ちが良かった。

 

「……由佳。そろそろ反省した?」

 

 美優が俺の目から手を離した。

 元から薄暗かった部屋だけに眩しい痛みはないが、取り戻したその光景は、以前までと全く変わっていなくて。

 

 由佳の体に、俺の精液はかかっていなかった。

 

 そうか。

 美優が上手く処理したのか。

 

 そうだよな。

 さすがに友達相手にそこまでやるわけがない。

 

 俺の根性のなさだけは、立派に証明されてしまったわけだが。

 

「むぐっ……、ぷ、はぁ……み、みゅ……うぅ……ごめんなさい…………」

 

 ギャグボールを外されて、由佳が一心不乱に謝罪をする。

 陰部が丸見えになるように拘束されて、目隠しをされたまま喋る少女の姿は、射精したばかりの俺にも十分すぎるほどに扇情的な光景だった。

 

「何がごめんなさいなの?」

「はぁ、ふぅ、美優の教科書、勝手に使ったり、筆箱、漁ったり。宿題、無断で写したり、とか。その、ごめんなさい」

 

 由佳は肩で息をしながら懺悔する。

 

「それだけ?」

「うぅ…………えぇと……、答案の名前、書き換えたり。あと、んと、体力測定の結果、ごまかしたりとか、はぁ、へと、美優のお弁当、いつも許可、取らないで食べたりとか、スマホのパスワード、盗み見して、いっぱいいたずらしたりとか……」

 

 由佳の口から白い歯が覗いている。

 動きの悪い舌が潤いを求めて、口周りの唾液を舐め取った。

 ギャグボールをハメられるだけでもかなり辛いみたいだったが、それに相応しいだけの悪いことをしていたのか。

 

「それだけ?」

 

 美優は平坦に同じ質問を繰り返す。

 まだ美優の望んだ答えは得られていないらしい。

 

「うぅ……由佳、バカだからわかんないよぉ……美優、ごめんなさい。許してください。本当に、反省してます」

 

 由佳の声は震えていて、謝罪に合わせて由佳の肉壷のヒダがピクピクと動く。

 

「そっか。ダメな子なんだね。由佳は」

「うぅ……ごめんなさい。由佳はダメな子です。だから、いっぱい謝って、いっぱい反省するから、だから、許して」

「反省には結果が伴わないと。だから、由佳には頭がよくなるおクスリをあげるね」

「へ? そうなの? ほ、ほひぃです」

 

 「あーん」と口を開けた、由佳の眼前に。

 美優が取り出したのは、一つのマグカップだった。

 

 それを見た瞬間、ドッと背中に大量の冷や汗が出たのがわかった。

 

 傾けられたそのカップから、流れて来たのは粘性の高い白い液体。

 

 間違えようもない。

 美優が由佳に飲ませようとしているのは、俺がさっき出したばかりの精液だった。

 

「あー…………んっ!? んぐっ!! んー!! んがぁんぐぐっ────!!」

 

 由佳の体が跳ねて、口を閉じたところに、精液特有の苦味と生臭さが広がって、由佳の顔を酷く歪ませた。

 

「ダメだよ由佳。そんなに動いたら飲ませてあげられないよ」

 

 口を開けば精液を流し込まれる。

 かと言って、閉じたままでは永劫に吐き出せない。

 

 無理やり飲ませようとして、由佳が口を閉じたことで弾かれた精液は、口元と頬にベッタリと垂れている。

 その生温かさも不快に感じているようで、由佳は力の限りに顔を動かしていた。

 

「飲まないと許さない」

 

 美優はそれを、舐め取って口に含んだ。

 そして、由佳の口に指をねじ込んで、強引に唇を開かせると、そこに自らの唾液と一緒に残りの精液を流し込む。

 

「んんー!! ん────ッ!!」

 

 美優は吐き出そうとした由佳の口を、今度は手のひらで強引に押さえ込む。

 一分ほど、美優と由佳の格闘が続いて、暴れる力もなくなった由佳は、何度も横隔膜を引きつらせながらなんとか精液を飲み込んでいった。

 

「うっ……ぐぅ……なにこれ…………こんなの……ひどいよぉ……」

 

 目隠し布が濡れていた。

 二つの水源からくっきりとシミができて、そしてその分だけ、また由佳の秘裂からこぽんこぽんと蜜が溢れ出していた。

 

「頭が良くなるおクスリだよ。他に何か思い出した?」

「うぐ……あ、あの、掃除の時間、ふざけて、バケツの水掛けたのは、すごく反省してます。あと、水泳のとき、パンツ隠して困らせたり、あれも全部、私で、その、本当にごめんなさいでした」

 

 掘れば掘るだけ、由佳の悪事が明らかになる。

 拷問とも思えるこの仕打ちに見合うだけの罪だったのかはわからないが、由佳はとにかく白状した。

 

「それだけ?」

 

 美優はなおも追求した。

 号泣する友人を前に、全く声音を変えることなく問いかける。

 

「もう、もうそれだけです! 本当です! ごめんなさいごめんなさい! もうしませんから許してください! おクスリ以外なら言うこと聞くから……!」

「でも、思い出せないんだよね? ならおクスリしかないかな」

「あっ、あっ、あぁっ、ああぁぁ……」

 

 精神崩壊寸前の由佳を前にして、さすがに止めるべきなのか迷っていると、また由佳がゆったりと口を動かし始めた。

 

「美優、の……」

 

 由佳の呼吸が落ち着き始めた。

 意を決しての懺悔のようだった。

 

「荷物、預かってたの。先週の、体育の日…………美優が先生に、コンクールの相談で呼び出されてて」

 

 由佳の呼吸が浅くなっていく。

 まるで死を迎える直前の人のようだった。

 

「それで……あのっ……あのっ、く、クラスの、男の子に。体操着、貸してって、頼まれて、だから」

 

 不穏に紡がれる言葉。

 

 再び由佳の声が揺れていく。

 

「美優の体操着、クラスの男の子に、貸しちゃいました」

 

 言い切ってから、しばらくは呼吸音だけだった。

 美優も黙って由佳を見つめている。

 どうやら、それが答えだったらしい。

 

「どうして?」

 

 美優の質問が変わる。

 由佳はこっそり貸しただけのつもりだったのだろう。

 それが、どういう経緯か美優にバレてしまった。

 

「だって、あのとき、美優も、遥も……」

 

 由佳は声が上ずっていく。

 それは明らかに、開き直った態度のものだった。

 

「宿題のプリント、見せてくれなかったから。美優の体操着、貸したら答え写させてくれるって。みんな言ってくれたの。体操着も、汚したりしないって、言われて。実際、返して貰ったときは、何も変なとこなかったし。美優だって、わかんなかったでしょ?」

 

 由佳と美優がどれだけ深い仲なのかは知らない。

 

 だが、これだけは断言できる。

 男に服を触らせ、おそらくは使わせたのだから、もう人を人と思わないぐらいに美優の中では怒りが炸裂していたはずだ。

 

「女子の使用済みの体操着を借りるような男子が何もしないわけないでしょ」

 

 美優は一部の隙もないくらいの正論を浴びせた。

 

「まあ、反省はしてるみたいだから。過去のことは水に流してあげる。由佳は由佳で、学年のまとめ役をしてくれたりとか、修学旅行の無理な計画をゴリ押ししてくれたりとか。感謝してる部分もたくさんあるし」

 

 美優が、由佳と友達として付き合う理由。

 それもまた、大切な気持ちとして明確に存在している。

 

 良い関係なんだと思う。

 お互いに酷いことをし合ったが、その根底には友情と言って差し支えないだけの想いがあるみたいだった。

 

「でもね、私、思うんだ。由佳が今までやってきた悪いことはさ。全部、由佳がお勉強できないのが問題だよね?」

 

 そこまで言って、美優は、俺の方を向いた。

 

「だから、いっぱいおクスリ飲もうね」

 

 “おクスリ”という単語に、由佳は目一杯にツインテールを振り乱して拒絶をアピールする。

 

「あぁぁぁああ、あっ、ぁうぅぅぃゃあぁあああ!」

「はいはい。そろそろ遥の耳も戻っちゃうから。静かにしようね」

 

 美優は再び由佳にギャグボールをかませると、俺を直接、由佳の顔の前まで来るように手招きした。

 

「それじゃ、反省会、始めようか」

 

 俺に膝立ちをさせると、美優はまた俺の耳のすぐ後ろまで顔を近づけて、小さな声で、こう続けたのだった。

 

「──ね、お兄ちゃん」

 



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妹でしか抜けないのは男として問題がある

 

 学校の椅子に座って、1人。

 教室移動のない休み時間に、俺は誰と話すこともなくぼーっとしていた。

 

 なんだかんだで短い休み時間でも高波や鈴原と下らないやりとりをするのが常なのだが、今日1日は全くと言っていいほど話していない。

 

 悩みがもう一つできた。

 

 クラスメイト相手に全く勃たない。

 うちのクラスは比較的容姿に恵まれた女の子が多かったはずなのだが、エロいシチュエーションを考えようとしてもすぐに疲れて飽きてしまう。

 

 健全な男子高校生とはいえど、クラスの女の子でエロい妄想をするなんて気持ち悪いと思うだろう。

 これにはのっぴきならない事情があるのであって、普段から俺がそうしているわけではない。

 そもそも、俺は二次元信仰者だったわけで。

 

 エロゲで抜けなくなってからというもの、抜きネタのほとんどは妹の美優になった。

 それでも、他の女の子に興奮しなくなったわけではないはずだった。

 18禁の美少女画像や催淫音声を使って自慰に浸るのは気持ちがいいし、オナホの快感も薄れてはいない。

 単に射精に向かうあのスイッチが入らないだけ。

 そのはずだった。

 

 だが先日の美優の友達──由佳をオカズにしたオナニーを通して、俺の中にある疑念が浮かび上がったのだ。

 

 俺は本当は、美優の命令に興奮していただけなのではないのか? と。

 

 由佳の裸を見て、その裸が弄ばれているの姿に興奮して、俺は射精したはずだった。

 美優からもらった由佳のエロ画像──結局あの下半身おっぴろげの拘束状態の写真も貰った──を見ると、ムラムラもするし勃起もする。

 

 それでも、アレがなければ射精には至れない。

 

 美優の声だ。

 

 上目遣いでねだられる、耳の裏から囁かれる、あの「出して」という声を思い出さないと、絶頂までのスイッチが入らない。

 

 そんな不出来なムスコに、俺は調子はどうだと伺うため、クラスメイトをオカズにして抜こうと画策しているのだが。

 

 クラスメイトでは勃つことすら難しかった。

 興奮材料に使えるのも由佳か美優だけ。

 

 まずいよな、これは。

 本格的に俺はロリコンになってしまったのかもしれない。

 

 しかもシスコンのロリコンだ。

 完全にアウトだよ。

 全く脱却する気分にもならないけど。

 

「ソトミチくん。今日もぼーっとしてるね」

 

 不思議な現象はもう一つ起こっていた。

 

 黒髪清楚で巨乳の美少女、山本さんが俺に話しかけてくるのである。

 

 手を後ろに組んで、前屈みになる山本さん。

 胸部が強調されてボタンがはち切れそうだ。

 

「色々あって」

「悩み事?」

「そんなとこ」

 

 話しかけて貰えて嬉しいはずなのに、つい素っ気なくなってしまう。

 高波とかにイジられるのが嫌だからってのもあるけど。

 コミュ障は引きずってるよな。

 

 なんにしても人には言えない悩みだ。

 

「山本さんはどうしたの?」

「んー? 何もないけど? 私が話しかけちゃいけない?」

 

 いけなきゃないけど、おかしいだろ。

 接点なんて何もないし。

 初めてまともに話したのなんて先週の日直だからな。

 

 山本さんは変なグループに加わってるとかも聞かないし。

 いたずらってこともないだろうけど。

 理由がないと不審で仕方がない。

 

「鈴原がさっきからネットリした目で俺を睨んでてな。正直なところ、話しづらい」

 

 鈴原のやつもどうしてああなのか。

 俺に妹がいなかったとしてもそこまで敵意を剥き出しにはしなかったぞ。

 

「あぁ……鈴原くんか……」

 

 山本さんは声のトーンを落として、長い髪の先を弄り始める。

 女性経験の少ない俺でも、ここまではっきり態度に出されれば察しはつく。

 

「もしかして、あいつ関係の悩みか? しつこくされてるなら注意してやってもいいけど」

「あはは。ありがとう。んーと、じゃあ、ひとつお願いしてもいい?」

 

 ついでに、というよりは、満を持してってところだな。

 お願いでもなければ山本さんが俺に話かけるわけがない。

 

「えっとね」

 

 山本さんは周囲に聞こえないように顔を近づけて尋ねてきた。

 

「鈴原くんって昔好きだった子とかいないかな? うちの学校じゃなくてもいいから、いたら教えて欲しいんだけど」

 

 耳元に、山本さんの息が吹きかかる。

 耳の奥で色っぽい声が反響して、ズンズン股間にくる。

 

 ピクつくだけで大きくはならなかったが。

 本当に、俺のムスコは選ぶ相手を間違えている。

 

「聞いたことないな。俺たちは元々アニメとかゲームばっかりやってたから、リアルな恋愛とかには疎くて」

 

 鈴原の山本さんへの態度を見る限り、リアルにも気になっていた子ぐらいはいたんだろうなとは思う。

 だが俺たちがそれを口にすることはなかった。

 二次元の女の子にしか興味がない。

 それが共通の安心材料になっていたからだ。

 

「聞こうか?」

「いや、そこまではいいよ。ごめんね。あの、むしろ秘密にしてもらえると嬉しいな」

「そうか。わかった」

 

 なんだろうかこのやりとりは。

 女心に聡い奴なら何か気づくのかな。

 鈴原が好きなのか、鈴原のことを好きなやつがいるのか、過去の因縁でもあるのか。

 

「ありがと。もしものときは、協力よろしくね」

 

 山本さんはウインクを飛ばして颯爽と去っていく。

 キュッとしまった腰からプリーツスカートを揺らして歩く姿は、まさしく絵になる女子高生そのものだ。

 

 可愛いんだよなー、山本さん。

 

 あれで勃たない俺って、これは相当に危機感を持った方がいい気がする。

 

 

 

 

 

 

 ──ということで。

 

「由々しき事態になった」

 

 家に帰って、美優と2人。

 リビングのテーブルに向かい合って、俺は神妙な面持ちで口を開いた。

 

 いつも無表情、髪も服もピシッとしていて、姿勢には微塵の隙もない我が妹。

 そんな美優が、なぜこんなにエロいんだろう。

 

 おっぱいが大きいせいだろうか。

 いや、それなら山本さんに敵うはずもない。

 

「この際だから、腹を割って話そうと思う」

「はい」

「かなり踏み込んだ内容になるけど、いいだろうか」

「どうぞ、ご用件を」

 

 膝に手を置いて、聴く姿勢。

 そこまで堅くされるとやりづらい。

 

「下ネタで申し訳ないけど。抜きネタについて、問題が発生していて」

 

 黙りこくる美優。

 

 言うぞ。

 言うしかない。

 ここまで口に出してしまったんだ。

 

 ……美優の口にも、いっぱい出してきたし。

 

 ほんと、信じられないくらい飲んでもらった。

 

 きっとそれが原因だ。

 最初に美優が俺の精液を飲もうとしたのがいけないんだ。

 俺はそこまでしてもらう気は無かったのに。

 

 俺は悪くない。

 俺は悪くないぞ。

 

「端的に言うと、美優でしか抜けなくなった」

 

 はっきりと言葉にしたのは、これが初めてだった。

 前に自分をオカズにするなと言われたのもあって、美優をオカズにしていると直接は言ってこなかった。

 

 美優は露骨に瞬きの頻度が増えて、硬直していた。

 

「お兄ちゃん」

 

 そして、美優は両手をついて身を乗り出す。

 

「それは由々しき事態だよ」

 

 重苦しい言葉で告げられた。

 

 どうしてだかわからないが、美優としては意外な事実だったらしい。

 

「由佳の写真は飽きちゃったの?」

「いや、そういうわけじゃないんだが」

 

 俺は詳しい状況を伝えた。

 由佳をオカズにすることはできるが、美優の声を思い出さないと射精のスイッチが入らないこと。

 クラスの女の子ではそもそも勃たないこと。

 

「私のせいか……」

 

 口元に手を添えて考えに耽る美優。

 

 その通りだ妹よ。

 お前が可愛くなければこんなことにはならなかった。

 

「あの、そもそもなんだが。なんで美優は俺の」

「治す方法が一つだけあるかも」

 

 美優は俺の話を遮ってスマホをイジり始める。

 人の話を無視するとは珍しい。

 たまたまなのか、聞かれたくなかったのか。

 

「どんな?」

「単純な話。要は、女性経験がないから妹が好きになっちゃったんでしょ?」

「お、おぅ……」

 

 的確だけどよ。

 言いにくいことをズバズバと。

 

「なら、彼女を作ればいいんだよ」

 

 美優は女の子のリストを俺の目の前に突き出す。

 

 とても単純な答えだった。

 美優やその友達のように、容姿も頭も優れていればの話だが。

 

「単純と簡単は違うんだぞ。お前らにはわからないだろうけど」

「わかってないのはお兄ちゃんの方。自分の思い込みで人生に蓋してるだけでしょ」

 

 それは紛れもなく言葉の暴力だった。

 

 心臓が釘バットで殴られたみたいにズキズキする。

 

 ヤバい。

 ふつうに泣きそうだ。

 

 なんでだろう。

 納得したつもりはないのに。

 美優の言葉がこんなに悲しいのは。

 

「……俺と付き合ってなんのメリットがあるんだよ」

「そういうのは付き合ってみると考えなくなるから安心して」

「ほう」

 

 俺は敢えて無関心を装って美優を見つめる。

 

「友達が言ってた」

「そりゃ説得力のある話だな」

 

 こいつなぁ。

 絶対恋愛経験ないよなぁ。

 

 偉そうにしやがって。

 純潔宣言しておきながら恋の歌を歌いまくるアイドルみたいなやつだ。

 

「私は付き合えるけど付き合わないだけ。お兄ちゃんは告白されたこともデートに誘われたこともないでしょ」

 

 グサグサグサグサ。

 

 美優は抜き身の刃で容赦なく滅多刺しにしてくる。

 

 もう妹には逆らわない。

 

「まあ、メリットとは言えないけど。お兄ちゃんは私の友達から見て、少なくとも2つのステータスを持っている」

「なんだそれ」

 

 俺が怪訝な顔をすると、美優は手のひらを広げて、親指から指折り数える。

 

「歳上であること。そして何より、私の兄であること」

 

 美優は力強く断言した。

 

 そんな美優の言葉を聞いていると、俺も急に勝てる気がしてきた。

 

 ありがたすぎて拝み倒したい。

 頼もしいよお前はほんと。

 

「とりあえずお兄ちゃんとセックスしてくれそうな子に声かけるね」

「いきなり!?」

 

 最近の子はそういうとこ奔放だな。

 日本の性教育は大丈夫なのか。

 

「写真も撮りたいから、もっとまともな格好して」

「げっ。写真か。印象悪くなんないかな」

 

 俺だって極端に顔が悪いと思っているわけではないが。

 自分の写真をカッコいいと思ったことないんだよな。

 

 せめて加工アプリでも使ってくれれば、人に見せる勇気も出るけど。

 

「髪型と服次第かな。肌はキレイだし」

 

 まあ私の兄だし、と美優は付け加える。

 少なくともそこはお前のおかげではないが。

 

「ワックスは持ってる?」

「ない」

「服はいつ買った?」

「二年前とか……」

 

 美優が可哀想な目で俺を見つめてくる。

 

 いやだってほら外出する機会なかったし。

 お金はゲームとパソコンに使いたかったし。

 服なんて自分で買わなくてもたまに親が買ってくるし。

 

「お兄ちゃんはさ、目先のメリットなんてものばかり追ってるけど。見栄を張らなきゃ人生は変わらないよ」

 

 なんだなんだ。

 これは自己啓発セミナーか何かか。

 どうして今日はそんなに言葉が重いんだ。

 お前はどんな人生を過ごしてきたんだ。

 

「要らないゲームを売って服を買う。毎日欠かさず筋トレをする。学校では最低でも一日一回は女の子と……できればその山本さんとやらとお話をする。これが守れたら、ひと月の間に絶対にセックスができると妹が保証しましょう」

 

 腰に手を当てて、美優は制服の上からでも形がわかるくらいの胸を張った。

 

 こんなことを妹に言わせてしまって本当に申し訳ないと思っている。

 

「全員断ったらどうするんだ」

「その際はやむを得ん。私が相手だ」

 

 本末転倒ですよ妹さん。

 

「服か。俺、よくわかんないんだよな」

「なら今度の休みにショッピングモールに行こうか。ちょっと遠いけど」

「そこまでする必要あるか? 最寄駅にも服屋くらいあるだろ」

「雰囲気の問題だよ。お兄ちゃんには縁がなさそうだし。色々体験してみるだけで人は変わるものです」

 

 そういうものかね。

 なんだ、優しい妹だな。

 いつか恩返しをしなくては。

 

「じゃあ、行くか」

「はい」

 

 突然だが、妹とのデートが決定した。

 



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とある兄妹の登校前の数分間

 

 洗面台で、自分の顔と真剣に向き合ったのは、何年振りになるだろう。

 

 鏡に映る自分が別人のようだった。

 少し髪が短くなっただけで、ここまで変わるものなのか。

 格安カットでも十分だと思っていた俺は、美優に紹介してもらった美容師に長さを整えてもらって、慣れない髪型を他人のようにジロジロと眺めている。

 

 こんなんで学校に行ってみんなに笑われないか。

 不安だけがもやもやと募っていく。

 散髪のために高い金を払ったという事実だけで、前の俺からしたら笑いのネタになるくらいだった。

 

「うーん……」

 

 しきりにブレザーの襟やネクタイを弄って、一向にキマらない格好に、ついには後悔が生まれ始めた。

 妹の口車に乗せられてしまったが、やはり女の趣味に合わせるのは間違いだったか。

 

 美容師に教わった通りにドライヤーをかけて、ワックスまで使ってセットした髪型が、どうにも以前より悪く見える。

 昨日髪を切ってもらった直後は良く見えたのだが、髪の整え方からして素人とは違うらしい。

 

 そろそろ登校する時間が迫ってきて、学校を休みたい気持ちまで起き上がってきた。

 

 ダメだ。

 どうしても恥ずかしい。

 こんな姿を見られるくらいなら、今までのモテない人生の方がマシだったような気もする。

 

「……おにぃ」

 

 洗面所のドアから声が聞こえて、俺は髪を触っていた手を急いで引っ込めた。

 

 ドアから体の半分を出して美優が俺を監視している。

 

「どうしたんだよ。そんな隠れるみたいに」

「別に。いい傾向じゃないかと思って」

 

 支度を終えたはずの美優が、わざわざ洗面所にまでやってきて言うのだから、本心には違いなかろうが。

 

 外見を気にするようになったことがそんなに偉いだろうか。

 世の中は顔より性格で人を判断するべきだなんて言っておきながら、結局は見てくれに拘らなければ爪弾きにするのだ。

 

「鏡の前で髪の毛をいじるとかナルシストっぽくないか……?」

「もちろん、人前でやったらダメだよ。最低限は陰で整えて、外に出たら気にしない。お手洗いでも人目のあるところでは避けること」

 

 妹は講釈を垂れながら洗面所に入ってくる。

 

 俺と真正面に向かい合って、踵から頭の先までサッと目を通した。

 

「うん。全然ダメ」

 

 妹は書類の体裁に厳しい上司みたいにバッサリ否定した。

 

 全然ダメと言われても髪型以外はいつも通りなんだが。

 まあ、それがダメというのも、美優が相手なら納得はできる。

 

 美優の姿を改めて見てみると、キレイだ。

 口説くつもりがなくてもそんな言葉が口を突いて出るくらいには整っている。

 長い髪は埃ひとつなく手入れされていて、スカートやブラウスにヨレはなく、服のサイズはきっと下着のフィット感までピッタリに合わせているのだろう。

 

 立ち姿も実に見事だ。

 背筋、手の位置、足の向き。

 礼儀や作法が形になって、先人たちがそれを花に喩えた気持ちがよくわかる。

 

 制服という、ある種で属性そのものを身に纏った美優の姿は、決して服に着られているわけではないのに、服に人を当てがったと表現する方がしっくりくるぐらいに似合っていた。

 

「このブレザー、しばらくクリーニングに出してないね。シワもつけ過ぎ。どうせ丸めて鞄に入れてるんでしょ」

 

 美優は袖から背部まで俺の服を引っ張って伸ばしていく。

 珍しく感情的な口調だが、乱暴に扱っているようではなかった。

 

「今日は冷え込んでるからジャケットを着てるだけだって。もう衣替えの日は過ぎてるから、来週にはクリーニングに出すよ」

 

 クリーニングなんて母親に言われなきゃ気にもしない。

 そもそもどうやって出すのかも知らないし。

 

「シャツの裾寄りすぎ。腰の位置もおかしい。はい、ズボン脱ぐ」

 

 有無を言わせず美優はベルトを外した。

 今更パンツを見られるくらいワケはないが、脱がされるのは初めてだったので妙に恥ずかしい。

 

 ズボンを下ろされて、シャツを整えられて、ズボンは上げてもらえない。

 

 美優は俺のベルトをしげしげと眺めると、腰に回してその余りの長さに眉根を寄せた。

 

「なにこれ」

「ごめんなさい」

 

 パンツ丸出しの状態で、俺は平謝り。

 美優はウエストに対して長すぎるベルトの金具を外し、その先端を見て溜息をついた。

 

「調節ができるの知らないの?」

「知ってるけど。やり方は、知らない」

「もー!」

 

 妹はぷんすこぷんすこ怒っている。

 ここまで表情豊かな美優を見たのは初めてだ。

 

「ハサミを取ってくるから待ってなさい」

「えっ、いいって。もう出ないと遅刻する…………んだけどなぁ」

 

 美優は俺を無視して部屋へ行ってしまった。

 

 学校までは自転車通学。

 飛ばせば朝礼までには間に合うかな。

 

「──いいですか、お兄ちゃん」

 

 戻ってきて、美優はいい感じにサイズを測ってベルトを切ってくれた。

 元がそれほど長くないベルトだったから、一番奥の穴に留め具を通せば、ギリギリ腹に留まるくらいではあったんだが。

 渡されて、ズボンに通してみると、たしかに下半身のダボつきは無くなったように思う。

 

「ホコリも目立つから取っちゃうね」

 

 美優はついでに持ってきた粘着テープで俺の制服をペタペタする。

 

 まずい。

 本格的に時間がない。

 

 これが終わったらダッシュだ。

 

 行くぞ。

 美優がなんて言っても行くぞ。

 

「うーむ……」

 

 美優が制服のホコリを取りながら唸っている。

 嫌な予感がする。

 

「ネクタイの長さが合ってない」

「わかったわかった! 直すから! 着いたら直す!」

 

 俺は精一杯のジェスチャーで急いでいることをアピールする。

 

 ただでさえうちの担任は口も性格も悪いんだ。

 成績優秀者なら多少の言い訳くらいは聞いてもらえるだろうが、俺みたいな一般人はせめて機嫌を損ねないようにするくらいしか生きる道がない。

 

「いいから」

 

 美優は俺の反発を、穏やかな口調で制した。

 首元に手を伸ばされて、ネクタイやら襟やらを弄られ始めると、俺もすっかり降参モードになる。

 

 互いに無言になって、ひたすらくすぐったい接触だけが続く。

 キュッとネクタイを締められると、自然と背筋が伸びた。

 

「せっかく格好良くなったんだから。遅刻するくらいでちょうどいいよ」

 

 美優は最後にブレザーの前ボタンを閉じる。

 背中を叩かれて、再び鏡に顔を向けさせられた。

 

「おぅ……」

 

 その感嘆の言葉は、決して美優の意見に同意したものではなかった。

 

 サマになっているのである。

 自分ではいくら着方を変えてもダサかったその姿が、特段何が変わったわけでもないはずなのに、ずいぶんと立派に見えた。

 

「ジャケットのボタンは立つときは留める。座るときはボタンを外す」

「ふむふむ」

 

 俺は美優の指示通りにジャケットの2つ目のボタンに手をかけた。

 

 すると、ペシッと、強めにその手を叩かれる。

 

「そっちは留めない」

「はい」

 

 なかなか厳しい妹である。

 

「マナーなんて時代とか地域で変わるものだし。そんなしゃかりきに守らなくもいいんだけど。制服はきちっと着るのが一番見栄え良く作られてるんだから、意識くらいはしといたほうがいいよ」

「りょーかい」

 

 美優はたしかに可愛いし、エロにも寛容で、それだけでも十分な魅力ではある。

 でも、どうしてこんなに美優に惹かれるのかはわからなかった。

 

 その理由が今日、ようやく判明した。

 俺も気づかないところでそんな努力をしてたんだな。

 こりゃ男女構わずモテるわけだ。

 

 俺はやっと洗面所から開放されて、いつのまにか玄関に移動していたカバンを横目に靴を履く。

 

 とても気分が軽い。

 普段はボロボロな革靴が、なんだか輝いて見えた。

 

「……ん?」

 

 これは気分のせいじゃない。

 本当に革靴がピカピカになっている。

 

「今日だけね。イメチェンは初日が肝心だから」

 

 横に並んで美優も靴を履く。

 

 さすがに尽くされ過ぎじゃなかろうか。

 どういう心境なんだ。

 俺はこれから別の女の子を好きならないといけないんだが。

 わかっているのだろうかこの出来過ぎた妹は。

 

「まあ、なんだ。ありがとう」

「どういたしまして」

 

 美優はまたいつもの澄まし顔。

 鞄を前に携えて、本物のお嬢様学校にでも通ってそうな出で立ちなのに、中学が俺と同じなんて違和感が酷い。

 

「そんじゃ学校行くか」

 

 信号の繋ぎがよければ、ギリギリ本令で滑り込みできるかもしれない。

 玄関のドアに手をかけて、どうにか遅刻しないように対策を考えながら、俺は立ち止まった。

 

 よくわからない不安に襲われたのだ。

 頭の中が、背後に人がいるという不協和に怯えている。

 

 そうだ。

 

 俺が美優と一緒に家を出たことは、今まで一度もなかった。

 

「美優も時間だいぶやばくないか?」

 

 つか、確実に遅刻コースだよな。

 

 中学校までは男の俺でも歩いて15分はかかってたし。

 チャリ通学10分の俺が遅刻なんだから、美優も共倒れのはず。

 

「服もまともに着られないお兄ちゃんに付き合っていたら、とても遅れてしまいました」

 

 美優はまるで急ぐ様子もなく、俺を見つめる。

 

 直立不動で。

 何かを待つように。

 

 チャリの鍵を手に持った、この俺に視線を仰いでいる。

 

「あー……」

 

 ワンチャンス。

 滑り込みにかけた希望は、俺の口から紡がれることはなく。

 

「遅刻は、困るよな」

「はい」

「俺は一応、間に合わないこともないんだけど」

「みたいですね」

 

 なおも動かない妹。

 

 ここまで計算済みとは、恐れ入る。

 

「あー! わかったよ! 送ってきゃいいんだろ!」

 

 両手を上げて降参のポーズに、美優はようやくその重たい足を上げる。

 

 誠に遺憾ではあるが、どうあがいても遅刻する運命が確定した。

 



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人が変わるのは周りから

 

 現実は想像よりも無味であった。

 

 遅刻はしたものの、担任は寝坊かと聞いてきただけで。

 教室に入るときには視線こそ集まったが、授業までに誰かがからかってくることもなかった。

 

 俺も学校じゃそこまで社交的な方ではないが、ここまで反応がないのも寂しい。

 せっかく美優があれこれ頑張ってくれたのに。

 他人への関心なんてそんなものかな。

 

 自意識過剰だったか。

 よくよく考えてみれば、女の子が髪を切っても俺は気づかないし、鈴原が髪型をセットしてきたところでからかうのかと聞かれると、至極どうでもいい。

 

 帰ってからの美優への報告が心苦しいが、そんなことを気にしてられる余裕もなかった。

 俺には果たさなければならない義務がある。

 

 女の子に話しかけるのだ。

 学校に来たときには、最低一回は会話を成立させる。

 それが美優と結んだ約束の一つだ。

 

 昨日と一昨日は、クラスの中でも比較的話しやすい小野崎に、授業に関する質問をした。

 隣の席だからな。

 

 他の女の子に話しかけるのはハードルが高すぎてまだ踏み出せない。

 できれば山本さんと話をするように美優には言われているが、山本さんは単に高嶺の花というだけでなく、人気者であるがゆえにそもそも会話する隙がないのだ。

 話しかけてもらうというのは美優との約束ではカウントされないし。

 

 とはいえ、ずっと小野崎との会話で条件をクリアし続けるというのも、なんか違う。

 美優には俺が女の子と会話してるかなんて確かめようがないのだが、だからこそ逆に、その意図を汲み取って忠実に従わなければならないと感じてしまう。

 

 結果的には俺のためになるわけだし。

 今朝美優が尽くしてくれたことも含めて、俺は報いなければならない。

 

「──小野崎って、よく鞄にストラップをつけてるよな」

 

 休み時間の終わり際、生徒が着席してから担当教諭がやってくるまでの数分間。

 

 結局、話す相手は小野崎だったが、今回は授業に関係ない話題を振ってみた。

 これは大いなる進歩と言える。

 

「ん? これ?」

 

 小野崎は鞄に付いていたものと同じストラップを、筆箱の端にぶら下げて見せる。

 

 ゆるい顔をした眼鏡動物シリーズだ。

 小野崎も眼鏡をかけているから、きっとシンパシーを感じるのだろう。

 

「そうそう。最近コンビニでよく見るようになったなって」

「食玩が発売されるようになったからね。元々はインスタントコーヒーのイメージキャラクターなんだけど、まったりカフェシリーズがずいぶん売れたみたい」

 

 小野崎はストラップをつんつんしながら詳細を教えてくれた。

 

 元は地味な販売戦略だったらしいが、いわゆる女子高生効果というやつで爆発的に人気が出たらしい。

 

「ソトミチくんさ」

 

 今度は小野崎から話を切り出してきた。

 さり気なく俺を一瞥して、肩を寄せながら声を小さくする。

 

「彼女できた?」

 

 おおっ、と心の中でついガッツポーズが出る。

 

 聞かれたくないと思いつつ、どこかで期待していたその言葉を、ようやく聞くことができた。

 気づかれてなかったわけではないんだな。

 

「まだいないけど」

 

 “まだ”なんて言ってしまった。

 俺らしくもない。

 俺の彼女は、とっくの昔からPCの中にいるはずだったのに。

 

 ともかくこれは喜ばしいことだ。

 彼女ができたのかと聞かれたのだから、俺の男らしさが上がったのだと考えてよい。

 筋トレの効果はまだまだ自分でもわからないくらいだが、最近はやや猫背気味になりかけていた姿勢を変える意識が芽生えたのも、おそらく無関係ではないはずだ。

 

「そうなんだ。ふふっ。いい感じだね」

 

 小野崎は耳に髪をかけながら視線だけを送ってくる。

 

 おう、おう、待て、どうした。

 

 モテすぎ、とか考えてる自分がキモい。

 

 これは普通なんだ。

 別段変わったことではない。

 

 つけ上がるなよ俺。

 この程度で、もしかしたら小野崎が俺のことを気にし始めるかも、とか思うなよ。

 

 絶対にだぞ。

 

「あ、ありがと」

 

 胸が高鳴った。

 こんなに嬉しいことが起こるなんて。

 

 逆に俺が小野崎のこと意識してしまうじゃないか。

 チョロい、チョロいぞ俺。

 妹以外を愛せない心配はどこへ行ったんだ。

 

「……ん?」

 

 小野崎との会話が終わり、俺は一人で疑問に向き合う。

 

 妹が好きになったうんぬんは美優に言われただけであって──まあ好きであることは事実なのだが──俺が美優を恋愛対象にしているだとか、まだその段階まで辿り着いたわけではない。

 

 妹でしか抜けないだけ。

 それだけでも大問題ではあるけど。

 他の女の子が好きになれないってのは単なる思い込みだ。

 妹以外で勃たなくなっているのは、自分がそう思わせているに過ぎないんじゃないか。

 

 小野崎か。

 胸はないが、こう、そういう空気になったら意外と積極的だった、みたいになりそうなタイプだよな。

 眼鏡を外したら、視力が低いから目つきが悪くなって、睨まれながらのエッチになりそうだ。

 

 男っ気とか全然ないけど。

 経験豊富って線もあり得るか。

 騎乗位になったら自分から腰を振ってくれて。

 

 ああ、想像すると興奮する。

 

「…………」

 

 くそう、勃たん。

 なぜだ。

 ピクリとは反応するのに。

 横にいるから緊張してるのか。

 

「はーい静かに。授業を始めるよ。日直、号令」

 

 妄想している内に先生が来てしまった。

 

 これから五十分、数学の授業。

 なら、ワークを先回りして終わらせてしまえば残りの時間もまだ妄想に費やせる。

 速攻でケリをつけて、エロ世界に再入場しよう。

 

 この興奮が冷める前に、どうにかして美優以外の女の子で勃起するんだ!

 

 

 

 

 

「──くそっ……!!」

 

 ダメだ。

 結局、最後の授業まで勃ち切らずに終わってしまった。

 まあ最後の授業は音楽だったから若干無理があったが。

 

 でも、完全に負けたわけじゃない。

 半勃ちくらいまではいったんだ。

 

 いける。

 この調子なら、数日後にはクラスメイトでもMAXまで硬くできる。

 だからといって美優に女の子を紹介してもらうのをやめたりはしないが。

 

 今日の俺はどこを見ても進歩が目覚ましい。

 

 一日中、見た目のことにもエロいことにも気を使って、すごく疲れた。

 なんだかんだ鈴原にも、「女でもできたのかよ」って突っ込まれたしな。

 俺が山本さんと日直をやっていたときみたいに激昂したりはしてなかったけど。

 

 あいつは山本さんと他の男が仲良くさえしていなければなんでもいいらしい。

 いつからそんなに山本さんのファンになったんだ。

 鈴原も二次元信者のはずなんだが。

 

 どうでもいいか。

 もう考えるのはやめよう。

 

 体育の授業があったわけでもないのに、俺は音楽室から戻るまでの廊下でヘロヘロになっていた。

 朝と昼で摂取したブドウ糖はとっくに消化されて底をついたようだ。

 

 いやしかし、クラスメイトをオカズにひと通り妄想してきたが、美優ならどうなのか。

 

 美優に打ち明けたあの会話の流れ的に、美優をオカズにしてはいけないことは明白だ。

 それでも、美優から直々に禁止を言い渡されたわけではない。

 

 最近は美優もよく俺と話してくれるしな。

 洋服関係の話ともなるとむしろ積極的なくらいだし。

 理由はわからないが、仲良くはなれているはず。

 

 それを考えると、やっぱり、あれだろう。

 次に美優の口に出させてもらうときには、してもらえるかもしれない。

 

 お掃除を。

 

 たとえば、何かを頑張ったご褒美としてお願いをしてみるとか。

 アレは間違いなく対価を払わずにはいられない人間だ。

 最初にオナニーを覗かれたときも、夢精を処理してもらったときも、美優は貸し借りや平等にこだわった。

 

 理由さえあれば、美優の行動には反映されるのだ。

 

 どうせまた無表情で受け止めて。

 なんの気なしに舌を出して、ペロッとやるくらいだろうが。

 可能性としてはあるよな。

 

 あるいは、元より無理ではなかったのかもしれない。

 最初に美優の口に出したとき、俺は勢い余って何も考えずにお願いをしたんだ。

 だったら、有無を言わせず唇に触れるくらい差し込んでしまえば、そのまま喉の奥まで許可してくれるのではないか。

 

 美優のことだから、喉の奥でそのまま出しても、黙って飲んでくれそうだよな。

 思いっきりドロドロした精液を流し込んでやりたい。

 

 オナ禁して溜めてみようかな。

 ああやって黙って受け止められると、どれくらい濃いのを飲ませられるか試したくなる。

 

「…………」

 

 まずい。

 完全に勃った。

 

 授業終わりの廊下で、生徒が溢れてるのに。

 さすがにこんなにガチガチだと教科書くらいじゃ隠しきれない。

 

 トイレはさっき知り合いが入っていったし、距離もある。

 なにより個室が空いてなかった場合が最悪だ。

 

 幸いにもここは一階。

 階段の裏に回れば、非常口が使われない限り誰にも見つからない死角がある。

 股間の膨らみを鎮めるくらいならそこがベストなはずだ。

 

 俺は前後のすぐ近くに人影がないことを確認してから、階段まで小走りした。

 階段の一部でも見えない部分があれば、俺はそこから急いで二階に上がっていったように見えるだろう。

 

 階段裏に潜伏するのには、その過程を見られてはいけないという厳しい条件があったが、今回はなんとかクリアできた。

 

「ふぅ……」

 

 ひとまずは深呼吸。

 誰にも見られないことを確認すると、肉欲が荒ぶってさらに剛直の角度が深くなった。

 

 美優のせいでエラいことになった。

 まさかこんなあっさり完全状態になってしまうとは。

 恐ろしい妹だ。

 

 マズいな、めっちゃフェラしてもらいたい。

 美優のあのムスッとした顔で咥えられたいんだ俺は。

 

 AVみたいな淫語まみれのうるさいセックスじゃなくて。

 まだ出ないの? みたいな顔で呆れられながら淡々とセックスがしたい。

 

 どうしてだろう。

 そんな趣味じゃなかったはずだ。

 イチャイチャラブラブして、互いに愛を囁きながら体を重ねるのが理想だったはず。

 五年以上、エロゲに情熱を入れ込んで、そういう関係に憧れてきた。

 なのに今は美優に怒られることすら興奮する。

 

 ダメだ、いけない。

 これ以上エロいことは考えるな。

 夕礼前の休み時間は比較的長いとはいえ、この調子じゃ射精でもしない限り収まりがつかなくなる。

 

 他の子で勃たせようとして、知らずのうちに性欲を蓄積していたのがよくなかった。

 

 ムラムラが爆発している。

 こんなときに美優がいたら、すぐ出してそれで終わりだったのにな。

 

「悪い子みーつけた」

 

 ゾクッ、と背筋に悪寒が走って、慌てふためく俺の背中に、柔らかい体温が当たる。

 その妙に甘ったるい声音は、最近になって聞き慣れたものだった。

 

「や、山本さん……!?」

 

 長い髪から女の子の香りが広がって、俺の鼻孔にフェロモンを塗りたくる。

 背中の弾力といい、この匂いの色気といい、間違いない。

 一番見つかっちゃいけない人に見つかった。

 

「何をしてるのかな?」

 

 山本さんは耳たぶに噛み付くぐらいの距離で訊いてきた。

 

 今の俺には刺激が強すぎる。

 股間の膨らみは小さくなるどころか、更にもう一段階ポンプアップしてしまった。

 背後からではあるけど、この雰囲気じゃ、絶対にバレてるよな。

 

「その、男の子特有のアレが……」

 

 事実、エロい気分じゃなくてもアソコが大きくなることはある。

 山本さんがそれを知っているかはわからないが、これぐらいは事故として十分にありうるのだ。

 

「ん? アレってなに? 男の子にも生理がくるのかな?」

 

 山本さんの手が、腰から前に伸びてくる。

 

 おっ、おっ、おっ、これ、は、何が、起こってるんだ。

 

 あの山本さんに、俺の股間が触れられている。

 服越しに、わずかに接触しているのがわかるくらいに、擦られている……!

 

「ソトミチくんさ、今日はなんだかずいぶんと女の子たちに色気を振りまいてたよね。みんな雰囲気が違うって言ってたよ? 例の悩みってやつがうまくいったのかな」

 

 指先で、盛り上がったイチモツの裏筋をなぞられる。

 

 なんで山本さんが俺にこんなことを。

 これもイメチェンのおかげだっていうのか。

 いやいくらなんでも効果が出すぎだろう。

 

「ねぇ、ソトミチくん。誰のこと考えてこんなに大きくしてるの?」

 

 本当に耳朶を甘噛みされたんじゃないかってくらい、唇を近づけて山本さんが声を響かせてくる。

 

 いつもの山本さんじゃない。

 膀胱のあたりがざわついて、お腹が引き攣るみたいにビクビクする。

 

「それは、言えない……」

 

 言えるわけがない。

 実の妹のことを考えてたら勃起が収まらなくなって避難してるなんて。

 

「私じゃないんだよね。ソトミチくん、私のことあんまり意識してないみたいだし。同じクラスの子? もしかして、他の学年かな? へー。私を外目にして、こんなになっちゃうような子がいるんだ」

 

 山本さんはもぞもぞと俺のズボンをまさぐると、チャックに手をかけてゆっくりと下ろしていく。

 それから張り詰めたトランクスの前開きのボタンに指をかけるまではすぐだった。

 

「なに、して……!」

 

 待て、待て、待て待て待て。

 

 どうしてこうなっている。

 なんで俺は下半身を脱がされているんだ。

 

「誰なの?」

 

 トランクスの布を捲り、両手の指で器用にボタンを外すと、山本さんは俺の肉棒を外部に露出させた。

 反り上がったモノが外気に晒されて、羞恥心と一緒に浮遊感にも似た快感が体を包んだ。

 

「だから、言えないんだって……」

「ふーん」

 

 山本さんは露出部に直接手を触れることはなく、局部を脱がせてからは内ももをさすってきた。

 こんな風にべったり女の子とスキンシップを取ったのは人生で初めてだ。

 

 こんなに暖かくて柔らかいのか。

 自分以外の手が触れるのって、こんなにも気持ちいいものなのか。

 直接性器を触られているわけでもないのにむくむくと性欲が湧き上がってくる。

 

「そっか。ならしょうがないな」

 

 山本さんはまた俺のズボンのチャックに手をかけた。

 そして、引き出を摘むと、肉棒をパンツにしまわずにチャックを上にあげてしまう。

 

「えっ」

 

 なに?

 終わったのか……?

 

「ふふっ。期待した?」

 

 山本さんの体が離れて、俺は過剰な体の熱から解放される。

 

「えっと、山本さん……?」

 

 一体何がしたかったのだろうか。

 

 その答えが聞けることもなく。

 山本さんは俺と距離を取る。

 

「ちょっとからかってみただけ。ソトミチくんはお腹が痛くて夕礼に出られないって言っておくから、安心して」

 

 それだけ言うと、山本さんは笑顔をひとつ残して去って行った。

 

 学校一の美少女が、さして仲良くもない男子の肉棒をからかいで摘み出すか?

 

 今日一日、何が起こっているのかさっぱりわからない。

 

「はぁ」

 

 脱力しつつ、意識とは無関係に負荷がかけられている陰部に辟易しながら、俺は心を落ち着けるように努めた。

 

「いつかは教えてね!」

「ぬぉぁ!?」

 

 最後に山本さんが不意打ちで俺の背中に抱きついてきて、またすぐさま走り去ってしまった。

 

「なんなんだよ、全く」

 

 俺に対する変態行為もそうだが。

 

 なんで山本さんが俺の好きな人のことなんて気にするのか。

 

 今日の午後はずっとそのことで頭がいっぱいだった。

 



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誰にでも知られたくないことはある

 

 土曜日、快晴である。

 

 今日この日、俺は人生最大の初めてを迎える。

 

 女の子と二人で外を歩くという、大イベントだ。

 

 相手は実の妹だが。

 出かける前から緊張している。

 二人でいることにはもう慣れ切っているはずなのに、外出するというだけでこれほどまでに違うものか。

 

「まともな服がない」

 

 美優が俺の部屋のクローゼットを漁っている。

 

 無難にシンプルなモノトーンの服を集めたつもりなのだが、美優からはどれもボツを食らった。

 休日に高波たちと遊ぶのによく着ていた服も「ダメ」の一言で床に放り投げられてしまう。

 

「これならまだマシかな」

 

 美優が取り出したのはグレーのTシャツ。

 無地のVネックで、スカしてる感じが嫌だったのでしばらく封印していたものだ。

 

 それがいいというのなら、まあわからないでもないんだが。

 それまでに美優がボツにしてきたものとさして変わらない気がするのは、俺がまだ未熟だからだろうか。

 

 最後に服を買ったのは二年前ぐらい。

 とはいったものの、新しい服が全くないわけでもなく。

 いわゆる親がセールで気まぐれに買ってくる服を、俺はありがたく頂戴していたわけだ。

 

「それしかないのか」

「ない。他のは古い。サイズが合わない。生地が悪い」

「生地なんて見た目じゃわからないだろ」

「着てるとわかるの。いいから着て」

 

 美優の顔つきは真剣である。

 元々やや吊り目気味なので力強い視線が、また一段と凄んでいる。

 

 続いて選ばれたのはハーフパンツだった。

 それは俺もいつも履いているもので、ひざ下まで丈があるタイトシルエットなので脚が長く見えるステキアイテムである。

 

 せっかく胸元がスッキリしているので、ネックレスでもつければ映えそうなものだが。

 

「暑いからどうせすぐ取りたくなっちゃうでしょ」

「そりゃな。でも、オシャレって言ったらやっぱりアクセサリーかなって思って」

「ホストでもやるつもり? 短パンTシャツで十分。後は筋肉でカバーすべし」

 

 どうやら妹は、細身の雰囲気イケメンよりも、男らしい男が好きらしい。

 

 そういう美優も夏らしい格好だった。

 

 6月の快晴ということもあって、外の気温は相当なもの。

 インナーの肩紐まで丸見えなトップスからは、主張の激しい胸部の溝が露わになっている。

 換気をしないとどうにも蒸してしまうらしい。

 色白なふとももをきらめかせるショートパンツはもはや凶器だ。

 

 ひとことで言うなれば、今日の妹は、エロい。

 

「美優はずいぶんと服にこだわるんだな」

「お兄ちゃんがだらしなさすぎるだけでしょ」

 

 美優は今日俺が着る服を見繕った後も、クローゼットを物色し続ける。

 そのほとんどを捨てて、新しいものを買うべきと判断された。

 

「私も友達に紹介するからには、不良品みたいなお兄ちゃんを出すわけにはいかないんだから」

 

 引き出しの奥まで、手を伸ばす美優。

 お尻がグイッと突き出されて、屈んで覗けば隙間からパンツが拝めそうだ。

 

 妹の下着くらい洗濯物で見慣れているはずなんだが。

 どうしてだか履いてるパンツはいくらでも見たくなるんだよな。

 

 腰にくびれがあるせいなのか、美優のお尻の膨らみはおっぱいと同じくらいに女性的な魅力を感じる。

 なんと言ってもこの適度に肉を残された脚だ。

 ショートパンツから伸びる膝の白さが艶めかしい。

 

 今にして思えば、俺が最初に美優に欲情したのもふとももだった。

 

 エロい。

 一度でいいから触ってみたい。

 

「お兄ちゃん」

 

 気づけば美優が俺の方を向いていた。

 

 そうして下腹部を睨んでから、顔を睨んでくる。

 

 知らぬ間に勃起していたらしい。

 これから出かけるというのに。

 情けない限りだ。

 

「これ、私だよね」

 

 テントを指差して美優は呆れる。

 

 「私だよね」と言ったのはつまり、「この勃起は妹である私でエッチなことを妄想した結果なんだよね」という意味である。

 

「油断しただけだって。出かけるまでには鎮まるから、気にせず気にせず」

「そう? ならいいけど」

 

 美優はまた俺の服の選別を始めた。

 抜かせてくれと頼みたいところだが、美優をオカズにしたとなったら口では受け止めてくれない。

 

「女の子ってたくさん服を持ってるって聞くけど。美優もそうなのか?」

「まあね」

「やっぱりか。クローゼットの中とか、すごいことになってそうだな」

 

 これだけこだわりがあるくらいだからな。

 雑誌とかも大量に買ってそうだ。

 Tシャツ一枚取っても同じ柄を着ていた記憶がないし。

 

 なにより、どんな風に服を整理しているのかが気になる。

 クローゼットのサイズは美優と同じで、服の数は圧倒的に美優の方が多いはずなのに、俺はやり場のないズボンやら室内着やらを投げっぱなしにしていて、美優の部屋には制服の脱ぎ痕すら確認したことがない。

 

「んー? ダメだよ、見たら」

 

 美優はひと通りの物色を終え、積み上がった服を有無を言わせずゴミ袋に詰めていく。

 中学生のときからサイズが合わなくなった服もあるが、ここまで断捨離されるともったいないような気もしてくる。

 

 きっとそのなんとなくの不安が贅肉なんだろう。

 美優が気に掛けなくなったら、俺はまた外見に無頓着な生活に逆戻りだ。

 

「だいたい必要なものはわかった。何万円か使うけど、持ち合わせはある?」

「それくらいなら、問題なく。意外とかからないんだな。ちゃんとしたやつを買うんだろ?」

「なんでも高いものを買えばいいってわけじゃないの。物をきちんと見定めて、安いやつを買う。特にお兄ちゃんなんて短期のバイトしかしてないんだから」

 

 汗水垂らして稼ぐより、生活を切り詰めて小遣いを貯めるほうが楽だからな。

 美優だってバイトはしていないはずなんだが、どっから服の費用を捻出してるんだか。

 

「もう出かけるか?」

「うん。ただ、その前に」

 

 美優は残しておく服をきれいに畳んで仕舞うと、カーペットに正座をして俺にも居住まいを正すように指示した。

 

「出かける前に、真面目な話をしようか」

 

 その表情にも、声音にも、いつもの美優らしい余裕はなかった。

 

「言うと逆に意識しちゃうだろうから、言いたくなかったんだけど。話題に出ちゃったから、きちんと忠告しておくね」

 

 美優の視線が、俺を圧迫してきた。

 

 美優に真剣な顔をされるのは初めてではない。

 だが、美優の顔を怖いと思ったのは、今日が初めてだった。

 

 怒っているのとは違う。

 不機嫌なのとも違う。

 

 それはいつものように、俺が美優に投げかけた言葉のレスポンスではなく。

 美優の意思で、美優自らが作り出した、想いの限りを俺に伝えようとしていたからだった。

 

「私の部屋のクローゼットの中だけど。覗いたら、縁を切るからね。本気で」

 

 美優は酷く冷淡な声で言った。

 それはもはや、その秘密を守るためなら殺人すら厭わないと感じさせるほどの圧力があった。

 

「わ、わかった」

 

 たしかに、するなと言われたらしたくなるのが人のサガではあるが。

 そこまではっきり禁止をされたのなら、俺にだって分別がある。

 

「本当に?」

「本当だよ。絶対にクローゼットは開けない。約束する」

 

 その約束をすることは、俺にとっては疑問でも負担でもなかった。

 

 幸いなことに、俺にはおそらく美優の秘密に理解があるのだ。

 

 クローゼットの中身を見られたくない、服に関する秘密。

 

 となったら、それはもう、一つしかない。

 

「何を知られたくないのかはわからないけど。俺は応援してるぞ」

 

 そうか、美優にも、そういう趣味があったのか。

 

 通りで俺がエロゲをやっていても何もツッコミを入れなかったわけだ。

 

 納得がいった。

 だが、同時にそれを見てみたくもある。

 

 決して秘密を覗きたいというわけではない。

 

 ひと目でいいから拝んでみたいのだ。

 

 あの美優が、コスプレをしている姿を。

 

 

 

 

 ショッピングモールは広かった。

 建物がデカい、というのもあったが、何よりも上の階層まで吹き抜けになっている構造が、建物全体を一体感のあるお店として演出している。

 

「すげえ高そう」

 

 軒を連ねる店の展示物からして、学生である俺の場違い感が浮き彫りになる。

 

 “俺”であって“俺たち”でないところがポイントだ。

 俺の横にはまさに、俺よりもずっとあどけなくて小柄な女の子が歩いているというのに。

 

「メンズのお店で安いところも調べておいたから。ピンポイントでそこだけ狙ってさっさと買っちゃおうか」

 

 美優は俺を先導して歩いていく。

 本来のデートであれば男が引っ張っていくべきなのだろうが、これだけ頼もしい妹がいて口を挟む気にはならない。

 

「何を買うんだ」

「夏物をひとしきり。今日みたいに二枚セットで出かけられるやつをいくつかね。あとは靴と部屋着くらいかな」

 

 美優はTシャツコーナーで足を止める。

 いくつか柄違いの服をめくって、またすぐにボトムスのコーナーに移動した。

 

「Tシャツと短パンくらいなら俺でも買えそうだけど」

「ほんと? じゃあ選んでみる?」

 

 無駄口を叩いたら、急に手を放された。

 とはいえ、無難な柄と色を選べばいいだけだろ。

 後はサイズ感と、美優が言うには生地が大事なのか。

 

 ふむ。

 

「ごめん。やっぱ選んで」

「はいはい」

 

 選ぶ断面に立って、ようやく思い出した。

 Tシャツなどの簡単な作りの服の場合、どれも正解に思えてしまってどれも選べなくなってしまう、という事象が度々発生する。

 目につくものすべてが悪くなさそうに見えるのだが、実際に買ってみると想像以上に不格好で腐らせてしまうことが多いのだ。

 

「自分の身長と肉の付きやすさに向き合わないから、基準がわからないんだよ。最初は私が選んであげるけど、試着のときに何が重要なのか、ちゃんと鏡を見て考えてね」

 

 美優は店を一周してから、改めていくつかの商品を手にとって、俺に渡す。

 

 美優に選んでもらったからなのか、美優の審美眼が確かなのか。

 よくわからないが、渡された服はたしかに俺によく似合いそうな気がした。

 

 さすが、と俺は心の中で称賛の言葉を掛ける。

 美優が服にこだわる理由が判明してからは、こうして話を聞いてるだけでも楽しくなってきた。

 無感情で無表情で、俺が料理当番のときに家族で食卓を囲んでいても美味いとも不味いとも言わず、口すら利かないようなこの妹が、ひとつの趣味を持ってそれに没頭している。

 

 微笑ましいと言うとおかしいかもしれないが、そんな美優の内面を知れたことが嬉しかった。

 兄としては、もっと妹の趣味に付き合ってやりたい気持ちになる。

 

「えっと、だな。全部良さそうに思えるんだが。これ考えて選ばないとダメか?」

「別にいいんじゃない? 私が選んでるんだから。あとはお兄ちゃんの好み次第」

 

 試着をして、なんかしっくり来たので、それらを購入。

 次のお店に向かい、そこからも似たような流れだった。

 購入した服は小物を合わせると相当な量になった。

 

 両手いっぱいに袋を携えて、そろそろ歩くのにも邪魔になってきた。

 

「だいぶ歩いたな。疲れたからちょっと休憩でもしてくか」

「そうだね」

「腹は減ってる?」

「お兄ちゃんの奢りなら食べる」

「へいへい」

 

 ま、今日一日を俺のために使ってくれたわけだし。

 これから先のことも含めて礼をしないわけにはいかないよな。

 

「最後にあのお店だけ入ってもいい?」

 

 レストランフロアに向かう途中、美優が気になるお店を見つけたようで。

 急ぎの用もなかった俺は素直に頷いた。

 

 レディース専門店だし、荷物も多いしで、店先に展示されてるものだけ眺めて後はベンチで座っていようと、考えていた矢先のこと。

 

「あっ……!」

 

 近くで誰かが驚きの声を上げたのを聞いた。

 

 覚えのあるその声の主は、俺の視界の端で後ずさりしていたようだが。

 俺がそちらを向くよりも先に、その場を離れることはできなかった。

 

「あっ」

 

 俺も同じ反応になった。

 

 なんという、偶然だろうか。

 

「そ、ソトミチくん。奇遇だね」

「山本さんこそ。こんな遠くまで」

 

 美優とは反対に、露出の少ない服で身を固めた山本さんが立っていた。

 肩前に下ろされた黒髪がたわわな胸部を強調して、むしろ服で隠れているからこそのエロスを醸し出している。

 

 なんで山本さんがここに居るんだ。

 俺は美優に誘われてこのショッピングモールまで来たわけだけど。

 女の子が一人で来るような場所ではないよな。

 

「ご、ごめん! 私、急いでるから!」

 

 山本さんはしきりに周囲を気にして、お店の中に未練がましく視線を送ってから、その場を離れようとする。

 そんな山本さんの背後から、眼鏡を掛けた一人の男の姿が近づいてきた。

 

「あっ!!」

 

 そして、三度目の「あっ」を聞くことに。

 

「ソトミチ!? なんで、お前がこんなところに……!」

「鈴原!? お前こそ」

 

 俺以上にショッピングモールが似合わない男が、レディース専門店から姿を現した。

 

 信じられないことの連続だが、これが、ある一人の存在によって、整合が取れてしまう。

 

「え、なに、お前ら。まさか……」

 

 うつむいて気まずそうにする山本さんと、困惑しつつもどこか誇らしげな鈴原。

 

 その答えを聞くより先に、鈴原が山本さんの手を握って、状況を教えてくれた。

 

「まあ、そういうことだ」

 

 鈴原はしたり顔で眼鏡を掛け直す。

 

 山本さんと鈴原が、付き合っていた?

 学校一の美少女と、冴えないオタクだぞ?

 

 マジかよ……ショックが凄まじい……。

 

「う、うん。そ、そうなの。ごめんね、ソトミチくん」

 

 山本さんはなぜか俺に謝罪をした。

 鈴原と黙って交際していたことに、俺が傷つくと思ったんだろうか。

 

 それは、正解だ。

 かつての俺なら、条件反射で鈴原を殴っていた。

 美優に友達を紹介してもらう約束がなければ、それこそ鈴原と縁を切っていたかも知れない。

 

 どちらにしても、羨ましくはある。

 ただ、なぜだろう。

 秘密がバレたこと以上に、山本さんがあまり嬉しくなさそうなのは。

 

 っていうか、待てよ。

 山本さん、彼氏がいたのに、昨日は俺にあんなことをしてきたのか?

 

「二人は、いつからそういう関係に?」

 

 聞いて、山本さんは益々顔を青くした。

 俺の質問の真意に気づいたようだ。

 

 もしちょうど今日付き合い始めたのなら、なんら問題はないのだが。

 

「ひと月前だよ。お前ら、俺の奏とベタベタしやがって」

 

 鈴原の苛立ちの理由は、他でもなく彼女が他の男といちゃついてるのが許せないというものだった。

 だとしたら、アレはマズいだろう。

 山本さんは彼氏でもない男に、してはならないくらい過剰なスキンシップをしたのだから。

 

「何してるの?」

 

 美優がお店から出てきて、鈴原と山本さんの視線はそちらに吸い込まれた。

 すぐさま俺に色の変わった目が向けられて、今度は俺が身構える。

 

「ソトミチくんの彼女さん? クラスの子にはいないって言ってなかった?」

「嘘はついてないよ。こいつは妹だから」

 

 彼女だったら良かったのだが。

 見栄は張らずに正直に答える。

 これで学校に変な噂が流されたらたまったもんじゃないからな。

 

「妹!? お前、くっそこんな……聞いてないぞ……」

 

 なぜ鈴原が羨ましがるんだ。

 お前は一億人が羨む美貌を彼女にしてるんだぞ。

 

「妹です」

 

 美優は端的に自己紹介をした。

 お辞儀をして、美優はその麗しいお姉さんを見上げる。

 正しいが、おかしい。

 

「この人が山本さん?」

 

 会話を聞いていたのか、情報から推察したのか。

 美優は俺に尋ねてすぐ山本さんの特徴的な部位に目を留めて、「でかい……」と呟いた。

 

「あ、はい、山本です。初めまして」

 

 山本さんは一転して顔を綻ばせて「可愛い……」と呟いて返す。

 

「お兄ちゃん、と、そこの眼鏡の人」

「鈴原だ」

 

 鈴原は態度は苛立たしげに、声は嬉しそうに名前を述べた。

 

「鈴原さん、悪いんですけど、30分ほど山本さんをお借りしてもいいですか?」

「はぁ? まあ、うーん。嫌とは言わないが。なんで?」

「お話がしたいので」

 

 美優がそこまで言うと、山本さんも弾かれたように「私も妹さんとお話したい!」とお願いを畳み掛けてきて、鈴原は腰を低くしてそれを了承した。

 

「飯は?」

「山本さんと食べる」

「なら俺たちも一緒でいいだろ」

「聞かれたくない話をしたいからに決まってるでしょ。察しなさい」

「す、すまん」

 

 そんな俺と美優のやりとりに、山本さんは微笑ましげに口角を緩めて、美優と手を繋いでレストランへ消えてしまった。

 

 取り残されてしまった、俺と鈴原。

 

「こうなったら、話してもらうぞ」

「わかってるって」

 

 山本さんと鈴原がどうして付き合うことになったのか。

 

 袋を開けたばかりのミステリー小説を前にしたような気分だった。



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試着室はエッチなことをするところじゃありません

 

「結論を言うと、なぜ山本さんと付き合うことになったのかはわからない、と」

 

 俺は鈴原と和食屋に入って事の成り行きを聞いていた。

 鈴原は進級した直後に山本さんと話す機会があり、そこで思い切って二次元の魅力を語ったところ、山本さんが興味を持ってくれたのだという。

 それから二人はこっそりと話す機会が増え、デートをするようになると、気づけば交際に発展していたのだとか。

 

「にしても、山本さんはお前のことあんまり好きじゃなさそうだな」

「そ、そんなことあるか! 妬みでいい加減なこと言うなよな」

 

 鈴原は怒った。

 たが、威勢が良かったのは最初だけで。

 あとは水を飲んでから、口を噤んでしまう。

 

「妬んでるわけじゃなくてさ。この前、高波と四人で帰った時とか、何も感じなかったのか?」

 

 少なくとも俺には、山本さんから鈴原への好意は感じられない。

 鈴原の昔の好きな人を聞いたり、俺の今の好きな人を聞いたり、物理的に避けようとしたり、顔をひきつらせたり。

 どう考えたって、別れたがっている証拠だろ。

 

「……たしかに、最近は少し、話す機会が減ってきたけど。でも、俺は奏のために時間も金も全部使ってるし、他の女の子との連絡も一切取るつもりはないし、勉強だって奏に追いつけるように頑張ってるし。デートの時だって、荷物も持つし、疲れないように気は使ってるし、ご飯代全部払ってるし、絆創膏とか日焼け止めとか色々持ち歩いてるし。なんなら、これからバイトの掛け持ちも増やしてもっと楽をさせてやりたい」

「怖えわ」

 

 大切にしたいってのはわかるけど。

 さすがにそれがやりすぎなことくらい俺にだってわかる。

 

「なんだよ。俺が奏と上手くいってないこと前提で話しやがって。言っておくけどな、俺たちにはしっかりとした愛の営みだってあるんだぜ」

「おまっ。そういう、生々しい話はな……」

「お? 童貞のお前には刺激が強すぎるか? 奏のためにかなりマイルドに表現したつもりなんだけど。今のうちに慣れといた方がいいぜ。女とのセックスなんて、下ネタから始まるからな」

 

 ニヤニヤと箸でカツの衣を突く鈴原。

 さすがにこいつに卒業の遅れを取った上に、相手があの山本さんとなると悔しさもひとしおだ。

 

「お前がやってんのか……」

「ああ、やってる。ま、奏の体が気持ちよすぎて、今でもほとんど保たないのがツラいとこだが」

「ふーん。そうなのか」

「って言っても、別に俺が早漏ってわけじゃないからな。奏が付き合ってきた男もみんなそうだったって言ってたし。奏がすごすぎるんだよ」

 

 下ネタを語り始めてから、鈴原のやつは饒舌だった。

 俺に対する優越感に浸りたかったというのもあっただろうが、散々否定された分の不安を拭い去りたくて口にしてる感じだった。

 

「とにかく、俺は人生を奏に捧げるって決めてるから。どんなこと言われたって奏の願いなら叶えてみせる。そういう男になるんだ」

 

 気がないのはわかってても諦められないと。

 初めての恋人で、なおかつそれが美少女ともなれば、誰でもそうなるか。

 

 なんにしても食欲の失せる話だ。

 俺はさっさと生姜焼き定食を平らげて、鈴原に早く店を出るよう催促した。

 

 俺は本来なら、今頃美優と二人でご飯を食べていたはずなんだ。

 山本さんに用があるならしかたないと、以前までは思えていたけど。

 鈴原のものになってるって考えるとやっぱり寛容にはなれないよな。

 この恨みは忘れてやらん。

 

「山本さんから連絡とか来てるか?」

 

 俺は自分のスマホに美優からのメッセージがないことを確認していた。

 これから合流しなければならないのだが、どこで待っていればいいかわからない。

 

 そんな折。

 

「あ、お二人さん。ご飯は終わった?」

 

 にょきっと生えるように、山本さんが顔を出してきた。

 

「おお、戻るの早かったな。妹さんは?」

「それがね」

 

 山本さんはだいぶ後方で待機していた美優を指さした。

 

「今度は、鈴原くんに用があるって。美優ちゃんが」

「ソトミチ妹が? なんだそりゃ」

 

 なんだそれは。

 鈴原の野郎も満更でもない顔しやがって。

 

「ま、何がしたいのかわからねえけど。可愛い妹さんだしな。仕方ねえから付き合ってやるか」

「手を出したら吹き抜けの階段から突き落とすからな」

「そ、そんなマジになんなよ!」

 

 美優のことだから、自衛はしっかりしてるだろうが。

 指一本でも触れようものならニッパーであらゆる突起を切り取ってやる。

 

「ソトミチくんは、本当に美優ちゃんが大切なんだね」

 

 鈴原が美優のところへ行って、今度は山本さんと二人きり。

 余計なことを聞いたせいで、前と同じように話せる自信がない。

 

 ジトッと俺がマイナスの感情を向けていると、山本さんもしおらしくなって手を前に重ねた。

 

「改めて、だけど。ごめんね」

 

 いじらしく体をくねくねさせる山本さん。

 どこもかしこも女性としての美が詰まっていて、今にして思えば山本さんに彼氏がいないなんて思うほうが間違っていたのだと気づく。

 

「謝ることはないよ。ただ、何がしたいのかわからないっていうか。俺と話すようになったのは、鈴原と別れたかったからだと思ってたんだけど」

 

 投げやり気味に、問いかけた。

 山本さんはやりづらそうに髪の毛の先をくるくるといじると、上目遣いを仰ぎながら僅かに頷いた。

 

「別れたいのは、その通りで。ソトミチくんと話すようになったのは、それを手伝って貰うつもりだったってのも、事実です。だから、本当にごめんなさい」

 

 山本さんは深々と頭を下げた。

 

 悪女、ここに極まれりってところか。

 告白したのは鈴原の方だったらしいが、それを受け入れたんだったら責任というか、もう少し義理を持ったほうがいいんじゃないのか。

 

「でも、そっちの方は解決しそうだから。ソトミチくんとは、改めて仲良くしていきたいなって思ってるんだけど」

「解決? 別れるってこと?」

「うん」

「いやぁ……」

 

 あの鈴原の様子を見る限りだと、とても簡単に別れられるとは思わないけどな。

 解決しそうっていうのは、なんだ。

 美優が何か手を回してるってことなのか。

 

「正直なところ、複雑ではある。鈴原だって、あれはあれでいいヤツなんだよ。やりすぎでも頑張ってるわけだし、もっと大切にしてやってもいいと思うが」

 

 付き合ってまだひと月だろ。

 判断を下すには、あまりにも短すぎる。

 

「……あんまり、詳しいことは言えないけど」

 

 山本さんは唾を飲み込んでから再び口を開く。

 

「付き合うために、条件があったの」

「ほう」

 

 それは知らなかった。

 

「その約束は、とっくに破られてて」

「えっ」

「でも、別れたら、私の悩みとか、全部回りに話すって。鈴原くんが」

「おいおいおいおい」

 

 鈴原のやつ愛だどうだ言っておきながら。

 帰ったら覚えてろよ。

 

「私も、もう少し上手く話せればよかったんだけど。正直に言うとね。もう、疲れちゃって」

 

 山本さんの顔は、言葉通りに疲労が滲んでいた。

 曰く、俺と戯れたアレも自暴自棄だったそうで。

 

「ちなみに、その条件とは?」

「うーんとね。ソトミチくんになら、教えてもいいんだけど」

 

 なぜ俺にならいいんだ。

 

「美優ちゃん、だいぶ時間がかかるって言ってたから。お店を回っていかない?」

 

 山本さんは無理やり笑顔を作って俺を誘ってくる。

 両手に抱えた荷物を上げて、俺もだいぶ疲れているとアピールしてみるが、やはり山本さんは俺を連れて行きたがった。

 

「むぅ。そこまで嫌がらなくても」

「嫌がってるわけじゃなくて。脈絡がなさすぎて困惑してるだけだよ」

「そ、そんなに変だった?」

 

 山本さんはキョロキョロ辺りを見回す。

 

 山本さん側の事情はわかった。

 俺だって別に、山本さんを嫌いになったわけじゃない。

 だけど、さっきから手を指でなじったり、何度もため息をついたり、俺を誘う山本さんの挙動があからさまに不審だったのだ。

 

「何か隠してるだろ」

「……べ、べつにぃ」

「嘘下手か」

 

 何かを隠しているのが明白な以上、それを聞くまでは従う気にはならない。

 山本さんもそんな俺に意思を感じ取ったのか、深呼吸をひとつ挟んでから肩を落とした。

 

「わかりました」

 

 睨み続けたのが効いたようだ。

 美優の無言の圧力を体験するようになってから、その使い方が少しずつわかってきた。

 

「私も、美優ちゃんにお願いされてるの。ソトミチくんと一緒にレディースのショップを回ってって」

「えぇ……。なんで?」

「わからないけど。女の子の服も少しは知っておいたほうがいいって。今日も美優ちゃんに色々と教えてもらってたんでしょ? 通りで、雰囲気が変わったわけだね」

 

 山本さんは俺の顔を覗き込んでくる。

 そういう仕草は、さすがというか、グッときてしまう。

 

 ほんとよくできた造形だ。

 ぷっくり涙袋から二重まで人手で作ったみいに整っている。

 これと付き合ってたら別れたくもなくなるよな。

 

「どう……でしょうか……?」

「わかったよ。行くよ」

 

 美優の命令だからな。

 どうやら二人でいるときにアドレスを交換したようで、美優からのお願い(というより半ば命令)によって俺を連れ回そうとしていたのは事実だったと確認できだ。

 

「あっ、うん、そっか。来てくれるんだ。そっかぁ……」

 

 山本さんが急にそわそわしだした。

 合意してやったのになんでそんな反応だ。

 

「じゃ、じゃあ、気合いれていくね」

「おう」

 

 そこから、山本さんは急に喋らなくなった。

 動きもぎこちなくて、お店に入っても服を手に取ることもなく。

 ぐるっと一周したその足で店の外に出てしまう。

 

「上の階に、広いお店があったよね。そこ行こうか」

「あの安いとこか? もう行ったけど……あ、でもレディースって意味では行ってないか」

 

 そこはこのショッピングモールで一番大きな服屋だった。

 全国にチェーン店を持っていて、日本人ならもはや知らない者はいない。

 

「最大5点まで試着可……足りるかな……」

 

 お店に入って早々、山本さんが確認したのは試着室の制限だった。

 服を見る前からそんなところをチェックするのか。

 

 ふむふむ。

 勉強になる。

 

「ボタンが多いやつ……ボタンが多いやつ……下着も持っていこうかな……」

 

 ぶつくさつぶやきながら店内を進んでいく山本さん。

 ちょっとどころではなく不気味である。

 

 もっと優雅に買い物をするものだと思っていたから意外だ。

 

「よし、これでいいよね」

 

 山本さんはひと通りの服を選んでから、試着室に向かった。

 俺の役割は、終わりかな?

 

 何を学べばよかったのか。

 思ったよりたくさんお店を変えるとか?

 これをどうにかデートに活かさないといけないのか……難しいな。

 

「ソトミチくんも、ついてきてもらっていい?」

「俺も? 試着室に?」

「うん。似合ってるか見てもらいたくて」

「そういうことなら、まあ。いいけど」

 

 そういうのって、男に決めてもらうのが一般的なんだろうか。

 だとしたら、レディースの知識がないのも考えものだよな。

 でも女の服に詳しい男なんて変じゃないか。

 

「私が入ってきてって言ったら、なるべくカーテンを開けないですぐに入ってきてね」

 

 山本さんは試着室の中にカゴを下ろし、後ろを向いて、俺が理解したことをしっかりと確かめる。

 

「了解した」

 

 俺は荷物を試着室の前に置いた。

 通る人の邪魔にならず、かつカーテンの開閉に支障のない場所に。

 

「はぁ。ふぅ……」

 

 山本さんはなかなか個室に入ろうとしない。

 過呼吸になるんじゃないかってほどに深い息を繰り返して、何かのタイミングを伺っていた。

 

「よし」

 

 意を決して、個室の中へ。

 カーテンを閉めると、中でまた山本さんは深呼吸をしているようだった。

 

 新しい服をお披露目するのがそんなに恥ずかしいものか。

 カーテンもできるだけ開けるなってのもな。

 試着室を管理しているスタッフはみんな女性なのに。

 チラ見されるだけで嫌なのか。

 

 複雑なものだな。

 女の子は。

 難しい。

 

 カーテン越しでも、衣擦れの音は聞こえてくる。

 こうして間仕切りがある状態だと、たしかに妙な雰囲気にはなるな。

 俺も緊張してきた。

 

 ん。

 音が止まった。

 

「……どうぞ。入ってきて、いいよ」

「おう」

 

 山本さんの緊張が伝わってきて、カーテンを掴む俺の手も震える。

 女の子とのデートって、こんなに心臓に負担のかかるものなのか。

 

 指示されたとおり、俺は最低限自分が通れるだけの隙間を開けて、個室の中に入った。

 

「おじゃましま────っ?!」

 

 そして、絶句した。

 

「早く、閉めて」

 

 山本さんは自らの体を抱きながら俺を急かす。

 

 混乱した頭の中、俺はカーテンに隙間がないことをしつこく確認した。

 そして、目の前にある理解しがたい光景に、ついには頭が回り始める。

 

「山本さん、服……」

 

 全身肌色。

 それはファッションと呼ぶにはあまりにも大胆で。

 

 っていうか、完全に露出していた。

 山本さんは、下着の一切すら身に着けていなかった。

 

「状況が、よくわからないんだけど」

 

 困惑の最中で、山本さんはジリジリと間を詰めてくる。

 といっても最初から1メートルもなかった幅だ。

 山本さんが数歩踏み出すだけで、俺は簡単に壁に追い詰められてしまった。

 

「何も考えないで。感じて」

「うっ……ちょっ……」

 

 山本さんはそのまま俺に抱きついてくる。

 ズボンに手を回して、股間を押し付けるように力を入れた。

 

 学校で感じ取ったものはまるで違う。

 生の肉体に抱きしめられている感覚は、服の上からでもありありと伝わってくる。

 

「なんで……こんなこと……」

 

 薄いTシャツに、胸を押し付けられて。

 腕に手を添えられてからは、その初めての快感に抗えなかった。

 

「ごめんなさいソトミチくん。私は悪魔に魂を売ってしまったの。だからもう、こうするしかなくて」

「悪魔?! ってなに!?」

「美優ちゃんです……」

 

 山本さんは涙いっぱいの目で俺を見つめる。

 

 そういうことか。

 妹の目的はこっちが本線だったのか。

 

 俺がこんな服屋に来ているのも、元々は美優以外の女の子で勃たなくなったのが原因。

 山本さんが頼まれたのは、俺にファッションを教えることではなく、俺にエロいことをして勃たせることだったわけだ。

 

「どこまでしろって言われてるんだ」

「ソトミチくんの、おっきくなってるのを、写真で送ればいいって」

 

 写真って。

 俺の心理的ハードルもだいぶ高いんだが。

 だけど、やらないと収まらないよな。

 

「とにかく、ソトミチくんも脱いで」

 

 ズボンから、チャックを下ろして。

 そのままパンツごと山本さんに下ろされる。

 手慣れてるなと思う辺り、俺の心も汚れているんだろうか。

 

「うぅ……なんで大きくなってないの……」

「いや、これは、緊張のせいだと思う」

 

 山本さんは俺の固さ半分の肉棒に一層涙目になる。

 写真をさっさと撮って終わりにするつもりだったんだろうが、俺もここまで唐突だと空気に慣れるまでに時間がかかってしまう。

 さすがにここまでされて勃たないってほど完全にダメになってるわけじゃないはずだ。

 そうであって欲しい。

 

「こうなったら。やっぱり、男の子はおっぱいだよね」

 

 膝を突いた姿勢で、最も肉棒に近い位置にあるそれを、山本さんは持ち上げる。

 山本さんも手が小さくないはずなのに、指先から溢れるくらいにたわわなその膨らみを俺の肉棒にギュッと押し当ててくる。

 

 大きくなっていないせいか、思いの外弾力を感じられなかったそれは、しかし。

 谷間に溜め込まれた高い体温と、おっぱいに挟まれているその絵面だけで、脳の性的興奮領域に神経パルスをこれでもかと叩き込んできた。

 

 体全身、シミひとつないきれいな肌。

 胸の先っぽも、数々の男たちに使われてきたのかと思えないくらいに淡い色が残っている。

 外側だけを見れば、誰も山本さんがこんなエロい女だとは考えないはずだ。

 でもこれはある意味で、エロいことをするために生まれた体であるとも、失礼ながらに思ってしまう。

 

「どう、かな。舐めたりしたほうがいい?」

 

 そんな言葉が、平然と出てくる。

 

 女の子に自分のモノを咥えられる。

 誰だって一度は望んだはず。

 

 フェラチオを。

 もししてもらえるなら。

 

 もちろん、して欲しい。

 

「あ、でも、おっきくなったね」

 

 山本さんに言われて、俺はようやく気づいた。

 おっぱいの温かさに惑わされていたが、ふにゃふにゃに柔らかかった肉棒が、立派な剛直に変わっていた。

 

「あっ……そう、だな。撮ったほうが、いいよな」

「んー。ふふっ。どうかな。撮る前に、する?」

 

 改めて尋ねられて、心が揺れる。

 迷っているのはきっと、鈴原との色々があったからで。

 相手があの山本さんともなれば、断る理由もない。

 

「──お客さま。サイズの方はいかがでしょうか?」

 

 店員に声をかけられて、俺たちは飛び上がった。

 

 そうだ。

 ここは試着室だった。

 あんまり長く使っていると不審がられる。

 

「ごめんなさい、遅くて。色々組み合わせしてるので、もう少し待ってください」

「ああ、いえ、いいですよ。合わなければこちらでお持ちしますとお伝えしに来ただけなので。ごゆっくりお過ごしください」

 

 カーテン越しの会話。

 着替え途中で全裸だった山本さんと、服も持ち込まずに下半身を露出させていた俺。

 中を見られたとしたら、ヤバかったのは俺の方だったな。

 

「えっと、どうしよっか」

 

 山本さんは、まだ元気な状態の俺のムスコに訊いてくる。

 

「いや、まあ。撮っちまった方がいいんじゃないかな」

「そうだよね。わかった」

 

 ポーチからスマホを取り出して、俺の股間部にカメラを向けられる。

 死ぬほど恥ずかしいが、妹の命令ということはすなわち、俺も従わなければならない勅命だ。

 

「送信っと……。あ、オッケーもらえた。やった」

 

 山本さんは小さくガッツポーズをする。

 

「美優ちゃん来るみたいだから。私は帰るね」

「あっ、はい。どうぞ」

 

 山本さんはスッキリした顔で服を着始める。

 

 もう流れじゃないもんな。

 仕方ないか。

 俺も一応、ズボンは穿いておこう。

 

「カゴにある服は置いてくね。美優ちゃんもここに直接来るって言うから」

「わかった」

 

 山本さんはブラジャーに腕を通し、器用に胸を抑えながら片手でホックを引っ掛ける。

 素早い動きだが、相当な握力がないとできないだろうな。

 

 俺はもうなされるがまま。

 股間の膨らみだけが虚しく存在を主張している。

 

 山本さんは立ち上がって、パンツをはいて、ゴムがぱつっと締まる音。

 下着姿の山本さんが俺と目を合わせてきて、恥ずかしそうにはにかんだ。

 

 俺はガン見しちゃってるけど。

 いいんだよな、これ。

 

 エロい体だな。

 美優は雰囲気全体でエロいけど。

 山本さんは形そのものがエロい。

 

「鈴原くんについては、美優ちゃんが上手いことやってくれたみたいだから。私はこれから、フラれに行ってきます」

 

 着衣を終えて、カーテンに手を掛ける。

 ニコッと笑って、山本さんは試着室を出ていった。

 

 それから、数分経って。

 女性ものの下着と、硬くなったまま収まらない肉棒を残し、このまま店員に中を見られたら社会的に終わる危機感を覚え始めたところで、ようやく救世主がお出ましになった。

 

「お兄ちゃん」

 

 カーテンから、顔をひょっこり。

 声を掛ける前に開けてくるものだから、つい身構えてしまったが。

 すっかり見慣れた安心する顔がそこにはあった。

 

「山本さんはどうだった?」

 

 美優は靴を脱いで、中に入ってくる。

 

「実に、この通りで」

 

 俺が店員だった場合のため引いていた腰を突き出す。

 それに対する美優の反応は、瞬き一つだった。

 

「私じゃないよね?」

「これは違う」

 

 疑いたくなる気持ちもわかるが。

 これは間違いなく山本さんに興奮して出来上がったものだ。

 

「というか、その」

「ん?」

「このまま山本さんのこと考えてイけるかも」

「ふーん」

 

 美優は山本さんが持ってきたカゴを物色しながらおざなりな返事をする。

 

「頼んでもいいか?」

 

 それは、この場で出させてくれというお願い。

 

 美優はカゴの中のブラジャーを手にとって、カップの大きさをたしかめてから、「はいはい」と俺の前にやってきて正座をした。

 

「どうぞ」

 

 先程まで山本さんがいた場所に、美優がいる。

 長い黒髪、ぱっちりした目、豊かな胸までは一緒。

 違うのは、体格と愛嬌の良さだ。

 

 他のやつらはどれも山本さんが上だと言うんだろうが。

 俺からすれば全てにおいて美優のほうが勝っている。

 愛嬌に関しては、悪いほうが勝者という天の邪鬼ぶりだが。

 

「ひとつ、お願いしてもいいだろうか」

「なんでしょうか」

 

 事務対応の美優に、俺は一つの要求をする。

 

 さきほど山本さんにやられたように。

 

 美優の手で、パンツを脱がせて欲しいと。

 

「自分でやりなさい」

「はい」

 

 即刻却下された。

 なんだか最近は無愛想にプラスして高圧的になっている気がする。

 

 俺は渋々自らズボンを脱いで、パンツを下ろす。

 はずみで飛び出た俺の屹立は、つい数分前よりも元気なくらいだった。

 

 下半身裸の俺と、それを口で受け止めようとする美優。

 隣に鏡があるせいで、変態行為をしている興奮が倍増する。

 

 もしかしたら俺は着衣のほうが燃えるのかもしれない。

 山本さんのたわわで挟まれたときも最高に昂ぶったが、しっかりブラで形作られている胸の谷間を見ている今のほうが、興奮する。

 

「お兄ちゃん」

 

 警告の声音。

 俺がジロジロと美優の体を見ていることを咎められた。

 

「あ、いや、これはだな。ついさっきも、山本さんと全く同じ構図になったものだから」

「そうなの?」

「うん」

「ならいいけど」

 

 直感は鋭いけど、それを信じないタイプなのか。

 俺だってもちろん山本さんをオカズにして抜くつもりだ。

 

 だけどなぁ。

 美優がエロすぎてどうにもならない。

 目をつむったほうがいいんだろうか。

 

 ひとまず肉棒を掴んでみる。

 さきほどまで山本さんのおっぱいで挟まれていた場所だ。

 俺ぐらいのサイズじゃ、すっぽりだったな。

 あのまま扱かれていたら、気持ちよかったかな。

 なによりフェラをしてもらいたかった。

 

「んっ……あぁ……本当にイけるかも」

 

 男性器は同時に排泄をする場所でもある。

 そこを女の子に舐めてもらうって、とてつもなく気分がいいだろうな。

 正直、童貞を捨てることよりフェラのほうに興味があるくらいだ。

 

 無理にでも舐めてもらえばよかった。

 山本さんめちゃくちゃ上手そうだし。

 そのまま口に出しても飲んでくれた気がする。

 

 美優は原則としておさわりNGだからな。

 そんな身持ちが堅いところも嫌いじゃないが。

 

 パンパンに張った肉棒を、俺は懸命に扱いて。

 それを、美優はジッと眺めている。

 

 そんなことができるくらいなら、もっと先までできても不思議じゃない。

 一般のカップルだってオナニーの見せ合いなんかしないだろう。

 しかも口に出した精液を飲んでもらえるなんて、踏み込みすぎなくらいだ。

 

 Tシャツをくっきり形作る美優のおっぱいは、ブラジャーによってみっちり固められている。

 体は小柄な分パイズリには向かないけど、一番深いところなら、美優でも俺の肉棒を包み込むくらいできるよな。

 

 美優ならパイズリでもいい。

 というか、美優の体で何かしらのご奉仕をしてもらえたら、死ぬまで射精できる気がする。

 

 俺のオナニーを観察するあの冷たい目。

 そのままこの右手の代わりに手コキしてくれたら今までの三倍は出る。

 

 激しくでもねっとりでもなく。

 ただ性欲を処理してくれるなら、俺は。

 

「────っ! ……やっ、ばい…………!!」

 

 美優の事を考えてる最中なのに。

 射精のスイッチがもう入りそうだ。

 

 ダメだ。

 これじゃあ美優をオカズにして抜いてることになる。

 

「出そう? んっ」

 

 美優が口を開いて近づけてくる。

 もう、ダメだ。

 

 出したい。

 

 ここに出したい。

 

 今の射精感のまま、ドバドバ精液を出して美優に飲ませたい。

 

「美優……!」

「──あのぉ。お客様? 大丈夫でしょうか?」

 

 再び店員から声をかけられて、美優の方も焦って、俺のペニスの根元をギュッと締めてきた。

 

 だが、もう射精のスイッチは入ってしまった後。

 もう出るのを止められないと、俺は首を横に振って美優に伝える。

 

 不意に、カーテンの端っこがゆらりと動いた。

 

 よもや店員が無断で中を覗こうとはしないだろうが。

 長期利用に加えて、俺が荷物を外側に置きっぱなしにしていることもある。

 居るかいないかの確認くらいはされるかもしれない。

 

 そんな恐れから、美優は咄嗟にカーテンの端を押さえた。

 

 早く返事をしないと、余計に店員が不審がる。

 かと言って男の俺が返事をするわけにもいかず。

 

 その声かけには、美優が答えるしかなかった。

 

「すみません。服を着るのに時間がかかってて。もう出ますから」

 

 俺の精液を受け止めるはずだった口は、店員との対応に持っていかれて。

 代わりに、カーテンを押さえているのとは別の腕で抱えられた美優の胸が、亀頭を丸々と挟み込んでいた。

 

「ぁっ──!!」

 

 グピュビュルルル、ビュッ、ビュッ、と射精よりも排尿に近い感覚で、精液が美優の胸元に注がれていく。

 最初は肉厚な胸で見えなかった白い液体が、谷間に押し出されて湧き出し、溝に溜まっていく。

 

「何度もごめんなさいね。確認するのが決まりで」

「こちらこそ、心配おかけして申し訳ないです」

 

 そんな中でも、美優は平静を装って店員と応対していた。

 俺はその間、ずっと美優の胸の中に射精をし続けていた。

 

 ドクドクと脈打ちが終わり、落ち着く頃には、美優の谷間に卑猥な湖が出来上がっていた。

 美優の店員との会話も終わり、美優がカーテンから手を離すと、にゅぽっとペニスが谷間を離れる。

 

 ついに出してしまった。

 服を着たままの美優の体に。

 こんなにたっぷりと、濃い精液を。

 

 その光景が、鮮烈に俺の脳裏に焼き付いていく。

 出してもなお、射精したい欲望が収まらない。

 

 それから、しばらくは、無言。

 美優は目を閉じて、呼吸を緩やかに落ち着けていた。

 腕で胸を強く抱きしめたまま。

 力を緩めたら、きっとお腹まで精液が垂れてしまうんだろう。

 

「えっ、と。ティッシュ取る?」

 

 俺は美優のバッグに目をやりながら尋ねる。

 

 美優は何も答えなかった。

 

 答える余裕がなかったのかもしれない。

 

 服を汚されるのを極端に嫌っていた美優だ。

 着衣状態で胸に出されたとなったら、心も穏やかではないだろう。

 

 俺は心の中で何度も謝罪を繰り返しながら、美優のバッグを漁った。

 

 そこにあったのは、ハンドタオル一枚だった。

 

「あぁ……」

 

 美優は、こういう状況なのをわかっていたのだ。

 俺の射精量が多すぎて、タオル一枚じゃ拭ききれない。

 

「ま、待ってろ! こっそりトイレから紙を取ってくるから!」

 

 俺はパンツに精液がつくのも気にせず、トイレットペーパーをまるごと拝借しに駆け出した。

 

 店員に不審がられたが、そんなことを気にしていられる余裕もない。

 

 一刻も早く紙を取ってこないと。

 

 取り返しのつかないことになる気がする

 

「────美優!」

 

 俺は慣れない全力ダッシュで息を切らしながら、服の内側に忍ばせてきたトイレットペーパーを取り出した。

 試着室で待っていた美優は、俺が飛び出したときと全く同じ姿勢で、目をつむっている。

 

「持っ……てきたけど」

 

 急いで拭いてやりたい。

 でも、なおも美優の体に触れていいのか迷う。

 

 ひとまずトイレットペーパーを広げて、いくつかの束にまとめた。

 

 そうしてるうちに、美優は特大のため息をついて、ようやく顔を上げる。

 

「とりあえず、上の方、取って」

 

 美優が口を開いて、同時に目も開いた。

 

 ほのかに目と頬が赤くなっている。

 

 俺は焦燥感を隠しきれずも、急いで紙をあてがった。

 

 一回、二回と、ロールを転がして。

 溜まった精液を拭き取っていく。

 

「上はもういいから。下の方にも入れて」

 

 美優は平坦な声で指示をする。

 下ってことは、お腹の方からってことだよな。

 

 いいのか。

 って迷ってる場合でもない。

 これで縁を切られることになろうとも、俺は最善を尽くすまでだ。

 

「い、入れるぞ」

 

 俺は美優の下乳にペーパーを挟み込んでいく。

 幸いにも、お腹の方には垂れていなかったようで。

 服にも精液がかかっている様子はなかった。

 

「うん。ありがと」

 

 美優はトイレットペーパーが下乳に挟まっていることを確認すると、強く押さえつけていた胸を開放した。

 

 どうして感謝の言葉が出てきたんだろうか。

 お別れの挨拶の暗喩かもしれない。

 

「怒って、ないのか?」

 

 自分で体を拭き始める美優は、いつも通りとは言えないが、平静を保っていた。

 

「お兄ちゃんの想像の五百倍くらいは怒ってる」

 

 めっちゃ怒ってた。

 ああ、これは。

 どうするべきかな。

 俺みたいなやすい人間の土下座くらいじゃ、精算できないよな。

 

「でも、お兄ちゃんが悪いとも言い切れないから。怒らないように頑張ってる」

 

 美優は事実、敵意というものをまったく感じさせなかった。

 そこまでしなくても、素直に感情をむき出しにしてくれればいいのに。

 

「私も出すのには同意したし。直接の原因は店員さんが来たことによる事故だから。胸で受け止める判断をしたのも私。だから、別にお兄ちゃんが悪いわけじゃない」

 

 美優は体を拭き終わると、俺の精液が大量に付いたトイレットペーパーをまとめて、服を買ったときに貰った袋を詰め直して余りに入れた。

 

「いやぁ、その、理屈ではそうかもしれないけど。でも、俺自身、悪いのは俺だと思うし。たぶん、誰がどう考えても、俺は怒られるべきだと思う」

「そうなのかもね」

「美優の本音は?」

「殺したい」

「だよな」

 

 それが正しい。

 それが正しい感情なんだよ、妹よ。

 

「だから、お互いのためにも、ここは俺に罰を与えてもらいたい」

「わかった」

 

 判断が早い。

 

「ということで、脱いで」

 

 そんな命令も、だいぶ聞き慣れたような気がする。

 パンツのことであっているかと指差しで聞くと、美優は強く首を縦に振る。

 

 そうして、俺は本日三度目となる、人前での下半身脱衣を行った。

 

 そこには、まだ硬さが残ったままのペニスがぶら下がっていた。

 

「口塞いで。思いっきり。絶対に声が出ないように」

「うぇっ……お……おぅ……」

 

 とてつもなく怖ろしいことが起こる予感がする。

 

 だが、逆らったらいけない。

 躊躇ってもいけない。

 

 何を言われても素直に従え。

 

 美優に言われたとおり、両手で口を塞いで。

 さあ、覚悟はできたぞ。

 

「思いっきりやるからね」

 

 美優は膝立ちになって俺の腰を掴む。

 

 恐怖で、俺の肉棒は、再び硬さを取り戻していた。

 

 どうなってるんだ、俺の脳は。

 

「よくもこの私の体を……」

 

 美優は大きく口を開く。

 

 その口を、俺の硬直したペニスの亀頭の後ろぐらいまで覆いかぶせる。

 

 直後。

 

「──ッんんんうぅぅぅぅぅぅぅううう!?!?!?!?!?!?!」

 

 ペニスの半分が焼かれたようだった。

 ブチブチと繊維がちぎれる音すら聞こえてくる。

 グッチュッと尿道が潰れるような感覚まで響いてきて、それはもはやイメージを超越して痛みだけが現実まで伝わってきた。

 

「んぐ~~~!!」

 

 美優が思い切り俺のペニスを噛んでいた。

 凄まじいほどの憎悪を込めて。

 

 やばい、やばい、やばい、死ぬ。

 膝がガクガク震えてきた。

 目がチカチカする。

 

 これはもう、逝った……。

 

「ふん!」

 

 美優の口、正確には歯から開放されたはずの肉棒は、ピクつくたびに噛み痕を広げて、俺に激痛を与え続けてくる。

 

「ぁぁぁぁぁ……くぅ……っ」

 

 俺は両手を突いてくずおれた。

 

 人生で二度と味わうことのないであろう痛みに、俺は涙と笑いを一緒に出していた。

 

 それは悲鳴であり、喜びでもあった。

 

 決して俺が、ドエムというわけではない。

 

 美優にこれほどの怒りをぶつけてもらえたということは、まだ関係を修復する余地があるということにほかならないからだ。

 

 それが、どうしようもなく、嬉しかった。

 

「じゃ。私はこのカゴを持って先に帰るから。買ったやつ忘れないでね」

 

 美優はそそくさとカーテンを半分ほど開けて、靴を履き始める。

 俺は引きつる横隔膜と格闘していた。

 

「い、一応、聞いておくけど。大丈夫?」

 

 美優は後ろめたそうに声をかけてくる。

 

 声で応える余裕のなかった俺は、サムズアップだけ返すと、美優はザッとカーテンを閉めて行ってしまった。

 

「あー……」

 

 人目がなくなって、余力も尽きた俺は、そのまま床に倒れ込む。

 

 今日一日のショックが全てどうでもよくなるくらい痛かった。

 



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都合のいい思い込み

 

 妹がエロすぎる。

 

 ショッピングモールの騒動から一夜明け、ベッドに横たわる俺は、ギンギンに勃起したペニスを持て余していた。

 

 あれから美優には「山本さんがエロかった」「山本さんのおっぱいが最高だった」と言いまくって、いかにも俺の精神が健全になったようにアピールをした。

 その実態は、悪徳弁護士もびっくりな虚偽宣伝である。

 

 俺のイチモツを硬くさせているのは、美優のおっぱいだ。

 事故とはいえ、あの美優のおっぱいに精液をぶっかけてしまった。

 しかも外で。

 

 あの暑い中、美優は俺にかけられた精液のニオイを気にしながら電車で帰ったのだろう。

 あるいは、事前にお手洗いで入念に拭いていたということも考えられるが。

 そんなところまで含めて俺の精液を処理している美優のことを考えると、睾丸が緊急増産を始めたようにすぐ射精をしたくなるのだ。

 

 オナニーをしたい。

 だが、美優以外をオカズにして抜ける気がしない。

 山本さんにあれだけのことをしてもらったのに、最後の最後で美優とあんなことになったせいで、また妹でしか抜けない体になってしまった。

 

「お兄ちゃん。起きてる?」

 

 コンコン、としっかりノックの音が転がり込んでくる。

 俺はすでにパンツまで下ろして完全に肉棒を露出させている状態。

 ドアを開けられたらオナニーをしようとしていたことがバレてしまう。

 

「起きてる。けど、寝てる」

 

 的確な状況説明をすると、美優がそろっとドアを開けて中を検めてきた。

 

「おはよう?」

 

 美優は小首をかしげながら挨拶をしてくる。

 たぶん俺の肉棒が勃起していることに対するおはようなんだろう。

 

「おはよう、だな」

 

 そういう意味を込めて返事をする。

 美優は気にせず中に入ってきた。

 

 今更どうこう言うことでもないのだが。

 兄がオナニーをしていても部屋に入ることを躊躇しない妹ってどうなんだろう。

 

「写真を撮って彼女募集したいんだけど」

 

 美優は当然のようにデジタル一眼レフカメラを首から下げてやってきた。

 

 わかってるぞ妹よ。

 俺は驚かない。

 

「どんな風に撮ればいいんだ?」

「とりあえず、それ一枚撮る?」

「いやいやいや」

 

 こう平然と話をしているが、もちろん俺は下半身裸で勃起している。

 そのうち美優と日常会話をしているだけでムラムラしてしまいそうだ。

 

「まず抜きたい」

「はーい」

 

 美優は俺のベッドの前に座ってカメラをイジり始める。

 

 普通なら兄がオナニーをすると言ったら部屋を出ていくものだろ。

 いや、本当に普通の兄妹ならオナニー宣言なんてそもそもしないけど。

 

 美優は俺がこの右手で扱くネタを山本さんだと思っている。

 俺もできればそうしたかった。

 でも、できない。

 

 どんなエロいことを考えようとしても、あの美優のおっぱいに妄想を支配されてしまう。

 俺が美優をオカズにしないために彼女になってくれそうな友達を紹介してもらうつもりだが、はっきり言って童貞を卒業したくらいで美優を忘れられる気がしない。

 

 俺は肉棒を擦りながら、チラと美優を横目にやる。

 やや大きめのブラウスを着た美優は、昨日ほど胸の形がくっきりしていない。

 だがその分、隙間から覗ける肌色の面積が増していた。

 

 小さな体に、歳不相応に艶やかな柔らかい肉。

 それは力んでいないだけの筋肉だったり、あえて残した贅肉だったりする。

 

 美優はどんな体が理想的に見えるのかをよくわかっている。

 まるで自分を投影したアバターを俯瞰して作っているかのように。

 洗練されたスタイルを保ち続けていた。

 

 そんな女の子に、俺はいつでも精液を飲んでもらうことができる。

 

 今みたいに肉棒を表立って扱いて。

 興奮に喘いでも、この妹は気にしない。

 出ると告げれば飲みに来るし、出しに行けば受け止めてくれる。

 そんなもの、それそのものがオカズとして足りるに決まっている。

 

「……あっ…………美優……っ……!」

 

 動かす手を速くする。

 肉棒はより硬くなって、睾丸がせり上がってきた。

 カタパルトを固めて弾丸を装填するように、射精感がじわじわと広がって、発射の準備は着実に進んでいく。

 

「ん? 出そう?」

 

 カメラのメモリを眺めていた美優が手を止めた。

 

 しまった。

 つい美優の名前を出してしまった。

 あくまでも山本さんをオカズにして、美優には精液を処理してもらうだけってことになっているのに。

 

「んっ……はぁ……いや……どうやって……出したらいいかなって……っ……」

 

 俺はベッドで仰向きになっているから、必然ペニスも上を向いている。

 亀頭をパクっと咥え込んでくれれば何も問題はないのだが、そうしてくれない美優には上手く口に入るように出さなければならない。

 だから、重力の方向的に仰向けのまま射精するわけにはないのだ。

 

「出すときにこっち向いてくれたらいいんじゃない?」

 

 美優はスマホに手を持ち替えながら答えた。

 

 寝返りを打って肉棒も横にしろと。

 美優が言うならそうさせてもらうが。

 

 この体勢、なんかエロい。

 

 無言で性器を刺激し続ける。

 寝たまま飲んでもらうのは初めてだ。

 夢精したときは、舐め取ってもらっただけだし。

 肉棒以外の部分だけど。

 

 それでもあれは死ぬほど気持ちよかった。

 思えば美優との接触らしい接触ってあれだけだよな。

 もっと触って欲しい。

 触らせて欲しい。

 

 美優の体温を、もっと感じたい。

 

「うっ……くぅ……美優…………出る……」

 

 更にストロークを加速させる。

 美優は、返事もそこそこに、スマホを片手に持ちながらベッドまで乗り出してきた。

 

 横向きの俺のペニスの前で美優は口を広げる。

 前後感覚がわからないが、位置調節は美優が上手くやってくれているはずだ。

 

 一人でするときも、ティッシュの構える位置などに気苦労するのに。

 それを相手に任せられるのも興奮材料の一つだった。

 俺からすれば好きにぶっかけているだけ。

 それを、美優が上手に飲んでくれる。

 

 美優の横顔が遠くにあって。

 精液を飲むのに邪魔にならないよう、長い髪を耳に掛ける。

 

 その仕草を見た瞬間、射精欲が爆発した。

 

「美優ッ…………ああっ……出ッ──!」

 

 ビュク、ビュク、と精液が吐き出される。

 俺もどこに飛ぶかわからない場所に。

 

 その瞬間、美優は俺の亀頭が口に入るくらいに顔を近づけて来る。

 ずっとそうしてもらってきたことだが、横から眺めていると口の状態がわからない分、フェラチオをしてもらっているような錯覚があった。

 

 美優の頬の内側に、俺は精液を出している。

 回を増すごとに確実に精液の量は増えていて、それでも美優は、何も言わずに飲み込んでくれる。

 

 全てを吐ききると、美優は口を離した。

 先っぽから垂れそうになっている分は自分で拭かないといけない。

 この点に関する不満は未だ無くなりそうにはないが。

 今回も気持ちのいい射精だった。

 

「……なあ。一つ、聞いてみてもいいか?」

 

 俺はパンツをズリズリと上げながら、とある疑問を美優にぶつけてみる。

 

「なに?」

「その、だからどうってわけじゃないんだけど。精液、不味くないの?」

「不味いよ」

 

 美優は即答して、口の中でしきりに舌を動かす。

 

 まあ、そうだよな。

 苦いし生臭いしで。

 本来は飲むものではないし。

 

「でも、嫌ではないんだよね」

「うん」

「なんで?」

「さあ?」

 

 美優はこっくり首をかしげる。

 自分でもわかっていないのか。

 色々と聞きたいことはあるけど。

 それが原因で飲んでもらえなくなるのも嫌だからな。

 

 でも、もうひとつだけ。

 

「一番最初から疑問に思ってることがあるんだけど」

「はい」

「他の人のを飲もうとは思ったことはないの?」

 

 これを男性経験と呼んでいのかわからないけど。

 要するに、実の兄の精液を平然と飲めてしまうくらいなんだから、クラスの男子の手伝いとかしてても不思議ではないよなということ。

 極めて失礼なのはわかっているのだが、これだけ可愛い妹が、男から全く言い寄られないわけがない。

 

「むっ。すごく答えづらいことを聞かれてる」

 

 美優は眉根を寄せて考え込んだ。

 

 あれ、待てよ。

 そこは「ない」って即答してくれるものだと思っていたけど。

 

「お兄ちゃんが聞きたいのは、要するに。お兄ちゃん以外の人に対して、私に精液を飲ませることを許せるのかってことだよね?」

 

 うん?

 若干ニュアンスが違うだけで、意味は同じだよな。

 なぜそう言い換えた?

 

「黙秘します」

「なんで!?」

「黙秘します」

 

 ツーンと目を閉じてそっぽを向く。

 この態度、どこかで見たことあるぞ。

 

 そうだ。

 ツンデレ系ヒロインが勘違い系主人公に見当違いなことを言われた時の対応だ。

 

 こいつはデレないけど。

 

「そうか。まあ、変なことを聞いて悪かったな」

「いいから写真撮るよ。ほら、着替えて着替えて」

 

 俺は美優に言われるがままに服を着替え、髪を整える。

 せっかくだからと化粧水やら乳液やらで肌をキレイにしてもらって、お姫様にでもなった気分……にはならなかったが。

 

 俺は玄関の全身鏡と向かい合う。

 美優はいつのまにかメガネと指示棒を身につけて横に立っていた。

 

 ペシペシと指示棒で手のひらを叩く美優。

 

 大丈夫だ妹よ。

 俺には何一つ疑問に思うことなどない。

 

「感想は?」

「チャラい」

「はい。では勉強机に向かって真面目な顔をしましょう」

「ギャップ狙いか」

「ハナマルです」

 

 どことなく大きく腰を振りながら階段を登っていく美優。

 

 小柄なのに巨乳。

 歳下なのに先生。

 俺はすでに猛烈にギャップにやられている。

 

「はい。撮りますよ」

 

 俺は美優の演習ノートを前にして椅子に座った。

 決して対価として宿題を手伝わされているわけではなく、「こんなん余裕だろ」みたいな顔をさせるための工夫らしい。

 

 パシャパシャとシャッター音だけが溢れる室内。

 俺も俺でカメラマンの経験がないわけではないからな。

 自分が撮られるより美優の姿を撮りたい。

 

 そして待ち受けにしたい。

 

「こんなものかな。そしたら次は朝食にしましょう」

 

 美優はメガネと指示棒を机に置いて、カメラは首に下げたまま。

 ドアを開けて俺を先導する。

 

「そういや俺の当番だったか。悪いな」

「エッチなことより妹の腹事情を考えてください」

「すんません」

 

 俺ばっかりオカズをいただいて申し訳ない。

 なんてしょうもないことを考えながら、リビングに下りて冷蔵庫の中身を確かめる。

 

「食材は……玉ねぎだけ大量に余ってんな」

「私とパパとママが同じ日に特売を買ってきたからね」

「連絡くらい取れよ……」

 

 両親は家の事情をあまり知らない。

 放任主義というか、昔からあまり家にいることはなく。

 かといって仲が悪いわけでもなくて、思春期のこの年頃からしたらむしろ良い方だ。

 

「しょうがない。てきとーに卵と肉を混ぜて消化するか」

 

 親子丼もどき。

 朝から重たいけど。

 

 カウンター形式になっている我が家のキッチン。

 その対面から、ひょっこり美優が顔を出した。

 

「みりん切らしてるよ」

「そこは買えよ!」

 

 ええいままよ。

 すき焼きのタレで誤魔化してやる。

 

 俺が怒りに任せて計量をしていると、また外側からパシャパシャと。

 美優は正面に回ったり後ろ姿を撮ったり忙しい。

 

「そういや、親父たちは?」

「仕事に行ってるよ」

「ついに休みの日まで働くようになったか……。ご苦労なこった」

「パパが長期休暇を取れることになったから、旅行のために資金を貯めてるんだって」

 

 美優の情報では、ちょうど夏休み期間に入ったぐらいに、夫婦で海外へ行くらしい。

 両親がいきなりどこかに行くなんてうちじゃ珍しくないことだが、海外とはまた大規模だな。

 

 しばらくしてシャッター音が止んだ。

 美優がカメラとスマホを無線通信してデータを送っている。

 

「写真はもういいのか?」

「うん。良さそうなの選んでおくからご飯よろしくね」

「はいよ」

 

 俺は冷凍庫にラップしておいた米をレンチンして、多すぎる分量の玉ねぎを角切りし、ご飯のお供になるくらいの肉を転がして卵を混ぜた。

 

 味付けは完全に俺の好みに整える。

 驚くべきことに、俺が美味いと思った料理には一度も文句を言われたことがない。

 美優が作る料理もいつも美味しいし、うちの家族はみんな味覚が似通っているので楽だ。

 

 皿に盛ってテーブルに並べる。

 美優はカメラを背後の棚に置き、差し出された箸を取って手を合わせる。

 俺は美優の対面に座った。

 

「いただきます」

 

 もぐもぐと。

 食べ始めると、誰も喋らなくなる。

 俺と美優は、家族とどの組み合わせで卓を囲んでいても、食事の時は気まずいくらいに無言だ。

 

 日常的に美優と会話をするようになったのは、おはようとただいまを言うようになってから。

 会話のきっかけというか、やっぱり挨拶は大切なんだと思い知らされる。

 

 それでもなお会話がないのが食事の時間だった。

 別に食事中にお喋りをするなと言い聞かされてきたわけじゃない。

 むしろ両親から率先して話題を振ってくる。

 そうしないと、まだ美優以外と話し慣れていない俺と、必要な時しか喋らない美優が口を開かないからだ。

 

 食事を開始して五分ほど経っても、やはり会話はない。

 通例なので実際に気まずさはないのだが、美優とも常々一緒にいられるわけでもないので、話せるうちに話しておきたい。

 

「美優は、さ」

 

 発声してしまった。

 美優と目が合って、もう続けるしかない。

 

「夏休みはどうするんだ?」

 

 俺は短期バイトをしているとき以外は、ほとんどの時間をゲームやイベントなどで潰していた。

 両親が出かけるたびに家事の代行をさせられて。

 仕事があることに対する謎の充実感はあって。

 

 そこで気づくのが、毎年毎年美優はある一定期間だけ家からいなくなるということ。

 逆にそれらの外出を除くと、ほとんど家にいる。

 こうして二人分のご飯を作ることが多くて、美優は食事が終わると俺と同じように部屋に引きこもるのだ。

 

「いつも通りだけど」

 

 ぽつんと、答える。

 

 またしばらく静かになった。

 

 いかん。

 どうやって話を続けよう。

 

「たまに、旅行に行ってるよな。荷造りしてるの見たことないけど」

 

 美優の不思議の一つ。

 旅行に出かけるときの装備が異様に軽い。

 

「今年も誘われてるよ。着替えは遥が用意してくれてるから持っていかないの」

 

 遥ってあの目玉が飛び出るほどの美少女か。

 美優に忘れろと言われてから本当に忘れていた。

 他人の服まで全部用意するって、あの子はどこぞのお嬢様か何かなのだろうか。

 あんな普通の学校に通ってるけど。

 

「どこ行ってんの?」

「色々」

「たとえば?」

「離島とか」

「なにしてんだそんなとこで……」

「それは言えない」

 

 美優は中々にガードが固い。

 わかったのは遥がやはり金持ちだったということだけ。

 もし二人きりで旅行をしているのだとしたら、言えない理由に察しがつかないでもないけど。

 

 美優と遥ってどんな関係なんだ。

 

「お兄ちゃんはまたイベントスタッフのバイトするの?」

「その予定。新しいとこ面接しに行くのも面倒だし。優待チケット貰えるし」

「時給もいいよね。拘束時間でお金が出るのは羨ましいよ」

「しかも有名アーティストのライブを覗けるときもあるしな。正直他のバイトはやる気もしない」

「それで立派なニートの出来上がりに……」

「ちょっと人より長く家にいるだけだろ!」

 

 そもそも学生が働かなきゃいけないって考えが間違いなんだ。

 俺は悪くない。

 

「エッチなゲームしてる暇があったら働けばよかったのに」

「生きがいより金を優先したら何も残らないだろ」

 

 今じゃその生きがいも変わってしまったけどな。

 

 うん。

 

 何に変わったんだっけ。

 

「生きがい、ね」

 

 美優は玉ねぎとたまごを箸で器用に掴んでご飯に乗せる。

 

 こいつは人生楽しそうでいいよな。

 顔も良いわ器量もあるわ友達も多いわで。

 

 そんな妹に世話をしてもらって。

 俺も少しはマシになっただろうか。

 イメチェンしてまだ一週間も経ってないけど。

 

 何よりも、大きな進歩があったよな。

 

「美優とこうして仲良く話せる日が来るとは思わなかったよ。話してみると、なんだ。楽しいもんだな」

 

 喉の奥のむず痒さに耐えつつ、なんとか思ったことを言葉にしてみる。

 

「そう?」

 

 と美優は素っ気ない態度。

 平常運転ではあるけど、頑張った分少し寂しい。

 

「いや、なんつーか。どん底にダメな男ではなくなったかなと。だいぶ、変わったような気がする」

 

 ひと月前まではオナって寝るだけの生活だった。

 オナりまくってる日々は現在進行形だけど。

 コミュ力がついたことは間違いない。

 学校でも、小野崎とか山本さんと問題なく話せてるし。

 

「ふーん」

 

 美優は俺の話を聞くより、切り損ねた胸肉を箸で引き剥がすのに夢中になっていた。

 この妹は服と彼女の話以外はほんとに興味を示さないな。

 

「まだまだつまらない男というわけか」

 

 さっきは「仲良く話せる日が来るとは思わなかった」なんて言ったけど。

 美優としてはそうでもなかったのかな。

 

「前も言ったけどさ。お兄ちゃんって思い込み激しいよね」

 

 ザクッ、と。

 心に突き刺さる氷の言葉。

 この妹はデリカシーというものを知らない。

 立場が逆なら世間様から非難囂々だ。

 

「コミュ障のキモオタで悪かったな」

 

 ネットで叩かれているような勘違い系男子にはなりたくなかった。

 俺も叩く側だったし、そこまで空気の読めない男には絶対にならないと思っていた。

 

 それこそ、浅はかな思い込みだったわけだ。

 

「お兄ちゃんは世間の言う悪いオタクに自分が当てはまってるって思ってるみたいだけど。自信がないからその悪い風評に自分を当てはめてるだけでしょ。自虐するのは勝手だけど、それで人に当たるのはどうかと思う」

 

 メンタル致命傷レベルの一太刀だった。

 本命の刃を隠し持っているとはやるな妹よ。

 

 言っていることは尤もだが、モテない男の視点で物を考えたことがあるのかお前は。

 

「事実、美優は俺のこと良く思ってなかっただろ。俺には何年も女の子に声もかけられなかった否定しようのない過去があるんだ。妹にすらな」

 

 そんなに俺に魅力があるというのなら。

 もっとお兄ちゃん好き好き言ってみろってんだ。

 

「私? 別にお兄ちゃんのこと嫌いじゃないよ?」

 

 美優はまたご飯を一口パクりとする。

 

「え、マジで」

「うん。今も昔も、私はそんなに変わらないつもり」

 

 いや、変わってるだろ。

 明らかに接し方が今までと違うって。

 

 おかしなことを言うなよな。

 

 いいか。

 俺は決して、妹の意外な返答にドキッとなんてしてないからな。

 

「今はどうか知らないけど。昔は嫌いだったんじゃないのか」

「どうして?」

「全然話かけてくれかったし」

「それはお兄ちゃんも同じだと思うけど」

 

 うっ。

 言われてみれば、その通り。

 話しかけようとしなかったのは俺も同じだ。

 

 美優のことは、嫌いじゃなかったのに。

 

「でもほら。俺と違って美優には友達がたくさんいるだろ。俺は単にコミュ障だけど。美優は喋れないわけじゃないし」

 

 半ば混乱しつつ、思ったことをとりあえず口にした。

 

 美優は首をひねって悩んでしまう。

 

「私は学校でもこんな感じだよ?」

「でも話しかけられたらよく喋るだろ?」

 

 俺は得意げに質問を返した。

 

 そのつもりが、自分で発した言葉に、酷く違和感を覚えてしまう。

 

 話しかけられたら喋るって。

 

 それ、俺のことか。

 

「お兄ちゃんだって私が話しかけたらよく喋るし。山本さんとも普通に会話できてるよね?」

 

 美優に改めて気づかされて、俺は返す言葉を失った。

 

 なんだったんだろう。

 この頭の悪い思い込みは。

 

 見た目は美優のおかげでだいぶマシに変わったけど。

 中身の方は、そんな簡単に変わるはずもなかったんだな。

 

「そっか。悪いな、なんか。俺、ずっと美優に嫌われてると思ってた」

「嫌いかぁ。うーん……」

 

 美優は食事をする手を止めて考え込んでしまう。

 正直な気持ちとはいえ、伝えるべきじゃなかったかな。

 

「うちはさ。親の帰りが昔から遅かったじゃない?」

 

 おもむろに口を開いた美優。

 俺は瞬きと頷きで同意する。

 

「それでお兄ちゃんには、ご飯を買ってきてもらったり、本棚を組み立ててもらったりして。まあ、パパとママに言われたからやってたんだろうけど」

 

 小学生のときの話だ。

 美優の言う通り、両親はよく俺を使い走りに出した。

 

 娘可愛さもあり。

 お前は男なんだからと、あれこれやらされた。

 

「今もこうして、ご飯とか作ってもらってるし」

 

 美優は皿に残ったたまごを箸でちょこちょこと集める。

 

「妹は結構、感謝しているのですが」

 

 美優はたまごをひとまとめに掴むと、一拍置いてから口に含んだ。

 

「おっ、おまっ──!」

 

 ガタン、と、椅子を蹴飛ばしてしまったことも気にせず、俺はうろたえながら美優を指差す。

 

「お前な、こんな時にやめろよな、そういうこと言うの……!」

 

 過剰反応であることはわかっている。

 それでも、俺はどうにかして、その事実を頭から振り払いたかった。

 

 美優の感謝の言葉を聞いた瞬間。

 心臓を直に握られたように、ドクンとただならぬ脈動が起こってしまった。

 そこから生まれたわけのわからない恐怖感から、俺はなんとか逃れたかった。

 

「はっ。しまった。お兄ちゃんがまた妹に惚れてしまう」

 

 美優は片手で顔を隠す。

 

「否定できないところがほんとに腹立たしい」

 

 いっそのこと惚れさせてくれ。

 

「まあまあ。日照りすぎて妹なんかに欲情しちゃうお兄ちゃんにも、ちゃんと彼女はできますから」

 

 美優はまたスマホを取り出して、女友達のリストを見せつけてくる。

 

 この中の誰かが、俺の彼女になってくれるわけだが。

 

 前に見たときほど心が昂らなくなっているあたり、もう手遅れなんじゃないかと思う。

 



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無知な女の子と強制セックス

 

 俺が食器を洗っている間に妹が彼女を探している。

 どんな風に写っているのか俺も知らないその写真を使って、学校の友人たちに俺の彼女になってもらえないかと頼んでいるわけだ。

 

 俺の人生、それでいいのだろうか。

 

「どうやって募集するんだ?」

「セックスを前提にお付き合いしてくださる方を募集と……」

「わかった俺が考える」

「もう送った」

「おい!」

 

 急いで手を拭いて美優のもとに駆け寄ると、メッセージアプリのグループに全く同じ文言が投げられていた。

 そのグループ参加人数、40である。

 

「これ、美優の立場的にもマズいんじゃ」

 

 女の子が公にセックスなんて単語を使ってよいものか。

 女子校でワイワイやってる垢抜けた子たちならいざ知らず。

 美優って学校でも大人しいキャラなんだよな。

 

「ここのグループは、大丈夫な集まり」

 

 どこが大丈夫なんだと。

 思っている俺に対し、美優はそのグループに投稿されている写真を見せてくれた。

 その大部分が誰かを脱がせたり縛ったりしている画像で、ここのグループの子たちの将来が心配になってくる。

 参加してるの全員同い年の女の子だよな。

 

 一応、彼氏ができた報告とかもしてるみたいだ。

 人数が多いからか、女の子特有の毒の強い会話はされていなくて心に優しい。

 

 そんなグループに俺の写真と彼女募集の文言が貼られている。

 死ぬほど気まずい。

 

 そして一斉にカウントが増えていく既読の数字。

 俺の心拍数が数えられてるみたいだ。

 牽制しあっているのか、その数字の多さに反して返信はない。

 

「セックスを前提ってさすがにやりすぎだったんじゃないか」

「でもお兄ちゃんの性欲処理してくれる子じゃないと困るし」

 

 そんなに性欲強いと思われてるのか。

 俺がオナニーしまくってるのは美優のせいであって……。

 

 いやエロゲやってる頃からほぼ毎日出してるか。

 

 彼女ができたら毎日セックスするのかな。

 いまだに付き合うって感覚がよくわからない。

 

「あ、返事が来たよ」

 

 ピコンという通知音に、俺は息を呑む。

 最初にメッセージが来てからの後続のレスポンスは早かった。

 

「お兄さんとデートするごとに美優とエッチ一晩でいい?」

「美優と三人でセックスなら考える」

「そのセックスだけしてれば美優からご褒美がもらえるのかな」

「お兄さんと結婚したら美優と一緒に暮らせるの?」

「美優エッチしよ」

 

 次々と送られてくる美優宛のコメント。

 画面を前に俺は凍りついていた。

 

「みんな私のこと好きすぎるんだよね」

 

 これは好きとかどうとかのレベルじゃないと思うんだが。

 美優が周りから好かれるのはわかる。

 でもどうしてみんな性的なんだ。

 

「一応聞いておくが、どういう集まりなんだこれ」

「簡単に言うと女同士でセクハラする会。元は遥のファンクラブ」

 

 簡単に言ってもらって申し訳ないがさっぱり理解できない。

 

「遥ってあの遥だよな? 美優もファンの一人なのか?」

「私は監視役。たまに良からぬ輩が隠し撮りとかするから制裁を加えてた。そしたら気づいたら私のファンクラブになってた」

「ごめんやっぱりわからん」

 

 こいつらまとめて生徒指導した方がいいんじゃないか。

 いくらなんでも不健全すぎる。

 俺が通ってた頃は至って普通の学校だったが。

 そういう世代なのか。

 

 それにしても、美優に対する要望ばっかりだな。

 本当にこのグループで俺の彼女になりたがる子がいるんだろうか。

 

「何人か個別チャットに来てるね」

「おぉぅ……」

 

 今度こそ本格的に心臓がバクバクしてきた。

 さあ、どんな反応をされているんだ。

 

 美優が個別チャットの一覧を表示する。

 3件ほど新規のメッセージ通知が来ていた。

 美優はその子たちのルームを一つずつ選んで、そして、削除した。

 

「えぇ!? 何やってんだよおまっ……!」

「この子たちは可愛くない」

 

 美優は新規の個別メッセージが来ても次々と削除してしまう。

 

 もちろん、付き合うなら可愛い子がいいに決まっている。

 だが最初からレベルの高い女の子に相手をしてもらうなんて、釣り合うだけの扱いをしてあげられる自信がない。

 

「最初は無難な子で慣れておいた方がいいんじゃないか?」

「無難な子じゃ無難な子の扱いしか学べないよ。それにこの年頃の女の子なんて、変わったお店に連れてってあげるだけでデートは満足するから。大事なのはセックスしてお兄ちゃんが満足するかどうかなの」

 

 目的を見失わないその姿勢は偉い。

 でもそんな条件に叶う女の子がいるのか。

 

「うーむ……」

 

 削除を続けてきた美優の手が止まる。

 

 まさか現れたのか。

 俺とセックスしてもいいっていう可愛い女の子が。

 

「佐知子かー。この子は保健体育も理解してないからなぁ」

「そんなに純粋なのか」

「うん。セクハラ組と遊んでることも多いし、全く何も知らないわけじゃないと思うけど。お兄ちゃんを満足させてくれるかは微妙なところ。下手したらマグロ」

 

 さっきから過激な発言がバンバン飛び出してきて耳が辛い。

 セクハラ組がどんなものなのかについては、この際突っ込まないことにしよう。

 

「でも、可愛いんだよな」

「そうだね。だからまずこの子にしよう」

 

 いいのかそれで。

 性的な知識が少ないってのは、つまり。

 処女、なんだよな。

 それを俺が奪っていいのか。

 

「なんて言ってきてるんだ?」

「セックスはよくわからないけどお付き合いには興味あるって」

「ものすごくダメな感じがするんだが」

 

 あんまり無知だと罪悪感がな。

 無理やりしてるのと変わらない気がするし。

 後々どんな行為だったか知ったときに訴えられないだろうか。

 

「事情は私から説明するから。お兄ちゃんは流れを壊さないようにだけしてくれればいいよ」

 

 お膳立ては全部美優がしてくれるということか。

 いざやるってなるとやはり情けない気持ちで一杯になる。

 彼女作りから童貞卒業まで妹のおかげでしたって。

 男としての人生をすべて妹に管理される兄とか両親にも未来の嫁にも顔向けできない。

 

「──あ、佐知子? 今どこにいるの?」

 

 うだうだ考えていたら美優が佐知子なる女の子と電話を始めてしまった。

 この行動力は見習いたいものだ。

 俺も、腹を括った方がいいのかもな。

 

「これから塾? なら休みの連絡入れてこっちに来てもらってもいい? 募集殺到してるから来ないなら別の人に当たるけど」

 

 美優のこの節々に垣間見える悪どさが怖い。

 しっかり者といえば聞こえはいいが、これほど淀みなく嘘を吐ける人間とか、やっぱり怖い。

 

「佐知子来るって」

 

 美優は通話を切って俺に告げる。

 

 本当に塾の予定をキャンセルさせたのか。

 俺はこれからその子と、するってことでいいんだよな。

 まだ心の準備ができてないのに。

 実感が追いつかなくて体がふわふわする。

 

「あ、あとどれくらいだ」

「5分くらい?」

「早いな!?」

 

 美優に写真を撮ってもらったときに身なりは整えたけど。

 ベッドメイクとか必要じゃないのか。

 掃除もしてないし、片付けもしてない。

 美優との約束でエロゲとか処分しておいたのはせめてもの救いだった。

 

「しまった! シャワーを浴びてる暇がない!」

「いいよ浴びなくて」

「でもせめていい匂いくらいさせておいた方が……」

「むこうはこの暑い中に汗かいて来るんだよ? 佐知子が浴びたいって言ってからにしたら?」

 

 くそう。

 言われてみればその通りだ。

 気遣いに対する認識が違い過ぎる。

 

 大人しくしていよう。

 長い物にはやはり巻かれるべきだ。

 

「でも最初からばったりは気まずいかも。私が出迎えるからリビングで座ってて貰っていい?」

「あ、ああ。わかった」

 

 美優はリビングを出てドアを閉めた。

 

 それから待つこと5分。

 外から玄関に向かって足音が近づいてきた。

 

 カーテンが閉まってるのでこの時点で顔は確認できない。

 美優が言う限りでは可愛いらしいので、期待して良いとは思うが。

 あんまり可愛すぎても困る。

 会話すら成立しなかったらセックスはおろかその場でごめんなさいになりかねない。

 

 ってか本来は彼女を作る過程ってそういうものだよな。

 まずお互いのことを知って、仲良くなって、それから恋の駆け引きが始まって、恋人になってから夜の流れに持っていくのであって。

 俺みたいに出会う過程すらショートカットしてしまっているのは異端だ。

 

 だから余計にどう接するべきなのかがわからない。

 

「おじゃましまーす……」

 

 美優がすぐに出迎えたため、インターホンは鳴らなかった。

 声の感じからするに、真面目な子というよりは控えめな子だ。

 トーンの低さのせいなのか、美優と声が似ている。

 気弱さと客としての話し方がなければどっちが喋ってるのか区別がつかない。

 

 玄関で美優と話している。

 遥や由佳たちほどではないにしても付き合いはそれなりにあったようで、親しげな雰囲気だった。

 親しげ、というのも、美優が談笑しているのではなく、互いに遠慮せずに会話のキャッチボールができているという程度の基準ではあるが。

 

「お兄ちゃんは中にいるから。挨拶して、それから始めよっか」

 

 もう始める段階まで話が進んでるんだが。

 性急じゃなかろうか。

 どうやって始めればいいのか何も知らないんだぞ。

 初めて同士のセックスほど悲惨な思い出になるなんて童貞でも知ってる常識だ。

 それなのに、こんなインスタントに始められるなんて。

 

「お兄ちゃん。紹介するね」

 

 心が落ち着かないうちに美優がドアを開けて戻ってきた。

 

 その背後には確かに人影がある。

 

 いよいよ対面か。

 緊張する。

 

「こんにちは……。近衛……佐知子です。よろしく、お願いします」

 

 お辞儀をして、合わせて揺れるサイドテール。

 さくらんぼのヘアアクセから肩下まで垂れる髪が歳不相応に色っぽい。

 控えめというから美優と同じくらい小柄な子を想像してたんだが、むしろ平均より背は高いくらいだよな。

 

「ど、あっ、どうも。よろしく」

 

 どうもじゃないだろ!

 こんにちは初めましてって言うつもりだったんだよ俺は!

 

 こんなところすら歳下の女の子たちに負けるのか……輪を掛けて情けない。

 いい加減男になれ……!

 

「じゃあとりあえずお兄ちゃんの横に座って」

 

 美優に促されて佐知子ちゃんがやってくる。

 「失礼します」と一つ挟んでから、拳一つ分くらいの間を空けて座った。

 

 これは、どうだ。

 近い距離だよな。

 俺の第一印象はそれほど悪くなかったか。

 

 佐知子ちゃんは足を揃えてスッと背を伸ばす。

 俺と横に並んで、美優がインタビューする形式。

 カップルでナンパされるAVみたいだ。

 俺の心の汚さが伺える。

 やめろ、落ち着け、まずこの子を一人の女の子として見るんだ。

 

「え、えと。近衛さん、は変かな? 佐知子ちゃん……は馴れ馴れしいか?」

「佐知子でいいですよ。友達も先生もみんな下の名前で呼ぶので」

「わかった。佐知子だな。よろしく」

 

 美優が言っていた。

 俺のアドバンテージは歳上であること。

 それはすなわち、年齢相応の落ち着きを求められているということだ。

 

 ビビったら負け。

 強気に行け。

 

「佐知子は、その、塾はよかったのか?」

「あー……うーん……」

 

 初手からして失着だった。

 余計なことを掘り起こすべきじゃなかったのに。

 美優からの視線が痛い。

 

「遅れた分はお兄ちゃんが教えればいいの」

「ああ、そうでした。お兄さんはお勉強も得意なんですよね。頼もしいです」

「いや、あの写真はだな」

 

 美優が真面目さをアピールするために撮ったものだ。

 そういう印象になってしまうのは仕方ないけど、過度な期待をされるのも困る。

 

「私ほど頭は良くないけど、努力家だから一緒に勉強してくれるよ。今はバイトもしてないし、いつでも相手してくれるんじゃないかな」

 

 美優からのナイスなフォロー。

 助かった。

 

 この女、やはりデキるぞ。

 

「ってことで、どう? お兄ちゃんと付き合えそう? お兄ちゃんはもちろん文句はないよね?」

 

 と思ったら急に畳み掛けてきた。

 流れがどうとか言いながら何のつもりだ。

 

「私は、いいですけど。お兄さんはいいんですか?」

「ええっ!? あ、ああ。もちろん……」

 

 少なくとも第一印象に不足はない。

 

「はい、カップル成立です。おめでとー」

「わーい」

 

 パチパチ手を叩いて喜ぶ美優と佐知子。

 

 は?

 え?

 んんん?

 

 なに俺。

 彼女できたの?

 この一瞬で?

 告白もないのに?

 

「そしたらセックスしようか」

「あ、うん。えと、よくわからないけど、教えてもらえるんだよね?」

「お任せあれ。お兄ちゃんのPCデータを集約して全て予習済みです」

 

 再び眼鏡をシャキッと掛けて先生モードになる美優。

 もうどこからツッコミを入れたらいいのかわからない。

 

「佐知子が知ってる“イケナイこと”の延長になるけど、いいよね」

「ふぇっ!? わた、私はそんな、イケナイことなんて……」

 

 佐知子は顔を真っ赤にしてモジモジし始める。

 俺は完全に置いてけぼりにされていた。

 

 イケナイことって、女の子が一人でするアレのことか。

 無知が故なんだろうが、セックスって言葉には平然としているくせに、オナニーを指摘されただけであんなに恥ずかしがるなんて。

 

 でもあの反応……してるんだよな。

 

「んー? これからその先までするのに、そんなこと隠してていいの?」

「隠して、なんて。私はそんな、イケナイ子じゃ……」

 

 美優が佐知子の背中から覆いかぶさる。

 とても悪い顔をしている。

 

「お友達から聞いたよ。気持ちよくなる場所を教えてもらったんだよね」

「それ、は、その……」

「他の人に触ってもらわなきゃダメって言われたんだよね。それなのに、自分でしたりしてない?」

「ううぅ……」

「さーちーこー」

「はうぅごめんなさい……イケナイことって聞いてたのに……どうしても欲しくなって自分でしちゃいました……」

 

 美優は佐知子の髪を梳きながら囁き続ける。

 美優の唇が動くたびに佐知子はビクビクと身体を震わせて、もう体がその快感を覚えているようだった。

 

 佐知子は即席で呼ばれたはずなのに。

 まさかこの短時間で情報収集を済ませたというのか。

 お友達の吹き込み方もエゲツないし。

 無垢な佐知子はすっかり信じ込んでしまっている。

 

「今日は、佐知子が気持ちよくなれるやつを、お兄ちゃんにしてもらうから。それがセックスだよ。わかった?」

「そう、なの? じゃあ、セックスならイケナイことじゃない?」

「ほんとはイケナイことだけど」

 

 ビクンと跳ねる佐知子の体。

 涙目になるほど上気させた顔が上向いている。

 美優の吐息には媚薬成分でも含まれているのだろうか。

 

「そんな……これ以上悪い子になっちゃうなんて……」

「だからみんなこっそりやってるんだよ。気持ちいいのは誰だって好きなの。もちろん、無理強いはしないから、今のを聞いてやめたくなったら断ってもいいよ」

 

 そう言って、美優はギュッと佐知子を抱きすくめる。

 絶対に逃す気がない。

 

「セックスする?」

「……うん」

 

 ものの数分で出来上がってしまった佐知子。

 あのドSな責めっぷり。

 天性のものなのか、あるいは経験によるものなのか。

 そっちの方面に関しては、おそらく後者だろうな。

 

 本当はこれは俺がやらなければならなかったことだ。

 わかっている。

 わかってはいるが、無理だ。

 まるでできる気がしない。

 

「じゃあお兄ちゃん。佐知子がセックスするって言うから」

 

 美優は指示棒を伸ばして、俺の盛り上がった股間部をつつく。

 

「脱いで」

 

 その日、もう何度目かわからない命令を、俺は聞いた。

 



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美優先生と保健の授業

 

 リビングのソファーに腰を据え、ガチガチに固まった体と思考をどうにか動かそうと、俺は必死になっていた。

 

「お兄ちゃん。脱いで」

 

 美優は指示棒を使って、ズボンの上からぎゅうぎゅうと俺のペニスをつついてくる。

 間接的とはいえ美優から刺激を与えてもらったのは初めてだった。

 これを続けられただけで射精できる自信がある。

 パンツの先っぽがぬっとりと湿っているのが自覚できるくらいだ。

 

「すごく、膨らんでますね」

「佐知子も触ってみたら?」

 

 隣には二人の少女がいた。

 実の妹である美優と、その友達の佐知子だ。

 

「触っていいの? ここって、男の子の気持ちいいところ……だよね?」

「そうだよ。佐知子のここと一緒」

 

 美優は背後から佐知子の股ぐらに腕を忍ばせると、パンツの中に手を入れて指を動かす。

 

「ふあぁっ……んくっ……美優ちゃ……ダメ……」

 

 佐知子もオナニーに慣れているせいか、感度は良いようだった。

 さっきから二人で勝手に盛り上がりやがって。

 

 くそう。

 見てるだけで射精しそうだ。

 

「お兄ちゃん。いいから早く脱いで」

「……お、おう」

 

 彼女たちが求めているのは、俺の脱衣。

 もっと言えば、肉棒を露出させることを期待されている。

 この状況は本来であればおかしい。

 女の子とのセックスは俺が望んでいるのだから。

 

 なのに気付けば俺は命令される側。

 罪悪感と興奮で膨らんだパンツの中身を、この少女たちの前にさらけ出せと言われている。

 

 発端は、妹でしか抜けなくなったと、当の妹である美優に告げたことだ。

 女性経験の少なさを指摘され、それを補うために彼女を作ればいいと、言い出したのは美優だが。

 

 二次元に入り浸りながらも『童貞を卒業したい』『女の子とエッチがしたい』と強く願ってきた。

 そんな俺が、セックスをするから脱いでと命令されて躊躇している。

 誰もが羨む状況のはずなのに。

 

「ぬ、脱ぐぞ……」

 

 体中にむずがゆさが走り抜ける。

 

 美優の前では散々脱いできたが、他の人の前では男が相手ですら経験がない。

 山本さんには脱がせてもらったし、美優にだって最初はパンツを下ろした状態を見られただけだった。

 

 他人の前で、意図的にパンツを脱ぎ、秘部を晒す。

 しかも最大限に勃起したモノをだ。

 

 佐知子は無知なようだから、それが大きくなってても何も思わないのかもしれない。

 でも、その背後には美優がいる。

 妹の友人を前にして、万全に準備ができていることを知られてしまう。

 

「遅い。佐知子に脱がせるよ」

「ふぇ!? わ、私……?」

 

 チャックをどうにか下ろすところまでいった俺は、腰を浮かす直前でまたソファーに沈めた。

 

 ひけらかすように脱ぐのも興奮する。

 無知な女の子にたどたどしく脱がせてもらうのも興奮する。

 

 どっちでもよかった。

 

 佐知子は恐る恐る俺の腰に手を伸ばしてくる。

 

 やってもらうべきか。

 

「代わりにお兄ちゃんは佐知子のパンツを脱がせてね」

「私も!? 脱ぐの!?」

「うん」

「うぅ……なら自分で脱ぎます……」

 

 佐知子がソファーから足を下ろして立ち上がる。

 俺は自分で脱がざるを得なくなった。

 

「佐知子はパンツ脱ぐの恥ずかしいの?」

 

 美優も佐知子に合わせて立ち上がり、背中に回り込む。

 後ろから抱きつくのが好きなんだな。

 

「だって、その、えっとね」

 

 佐知子が顔を後ろに向けて美優に耳打ちする。

 スカートをギュッと握って、ほんのり顔を赤らめさせた。

 

「ふーん。それがそんなに恥ずかしいんだ」

「うん。だって、変だし……」

 

 佐知子はサイドテールの髪の先を指でくるくるさせる。

 それ山本さんもやってたな。

 

「でも外側からじゃわからないから平気だよ」

「そ、そうかな……?」

 

 佐知子が美優に何かを諭されて自らのパンツに手をかける。

 両手でゴム紐を引っ張ると、いままでのためらいがなんだったのかと思うくらいあっさりとパンツを下ろした。

 

 スカートのせいで大事な部分が隠れた秘境。

 そこからは、一筋の愛液が垂れていた。

 

 トロッと指先に自分の愛液がかかり、小さく息を吸う佐知子。

 固まって、口を真一文字に結んでから、何事もなかったかのようにまたパンツを上げた。

 

「美優ちゃん、やっぱりダメだった……」

「うん。やめとこっか」

 

 美優は佐知子の頭をよしよしと撫でる。

 なんだったんだろうこのやりとりは。

 

 佐知子は思いのほか傷心したようで。

 腕の中、もとい胸の中に抱え込んで佐知子を慰める美優。

 まだ脱ぎかけの俺を鋭く睨んできた。

 

 歳下の女の子に先に脱いで貰ってしまった。

 スカートで隠していたとはいえ、女の子にリードさせるのはまずい。

 

 俺はチャックを下ろして腰を浮かせると、パンツごとズルっと足まで下ろした。

 

 その瞬間は、まだ前かがみ。

 Tシャツに隠れて肉棒は半分ほど隠れている。

 

 佐知子は慰み止んで、俺に意識を回してきた。

 

 まだそれを何に使うのかすら知らない少女。

 そんな子の前で、俺はガチガチに硬くなった肉棒を突き立てた。

 

「うわぁ……女の子と全然違うんですね」

 

 それが佐知子のコメントだった。

 今の子たちが保健体育でどこまで習っているのかは知らないが。

 さすがにこの反応でいいのだろうかと心配になってくる。

 

「はい。じゃあ佐知子はお兄ちゃんの前に座って」

 

 美優に促されて、佐知子は俺の股の間で座り込んだ。

 

 美優の無関心顔とは違い、熱心な真顔で佐知子は俺の肉棒を見つめる。

 ピクつくたびに瞬きが多くなった。

 

「私のと違い過ぎてよくわかんないんだけど。触ったら気持ちいいの?」

 

 親密度の差もあってか、佐知子は美優に尋ねる。

 美優はそれに答えず、俺に視線を送ってパスしてきた。

 

「触ってもらったら、気持ちよくなると思う」

 

 俺も他人に触って貰ったことはない。

 触れたことがあるのは二人分のおっぱいだけ。

 

 それはそれでおかしな遍歴だが。

 手で触ってもらったことがないから、他人に触られるのが気持ちいいのかは知らないんだ。

 手コキなんてものがあるくらいだし、俺自身もオナニーでシゴいてるから、気持ちよくないことはないと思うけど。

 

「そう、なんですね。触ってみてもいいですか?」

「ああ。触ってもらえるなら。嬉しい」

 

 美優には散々拒まれてきた。

 手で男性器を刺激するという行為。

 

 佐知子は両手を近づけると、手のひらでペタペタと触り始めた。

 

「うっ……ぁ……」

 

 自分の体とは違う体温。

 自分の手とは違う柔らかさが触れて、息が漏れた。

 

「アツくて、硬い、です」

 

 佐知子は両手で俺の肉棒をすっぽりと包むと、指先で亀頭の柔らかさを確かめたり、裏筋をなぞったりする。

 

「あっ……き……もちいぃ」

「いい、ですか?」

「うん。かなり」

 

 佐知子はきっと、手コキなんてものを知らない。

 だから握ったり小突いたりするだけ。

 

 そんな佐知子の後ろから手を回してきた美優が、今度はスマホの画面を佐知子に向ける。

 

「その柔らかいところが亀頭、傘になってるところがカリっていうんだって。一番敏感らしいよ」

「ふむふむ」

 

 佐知子は美優に示された場所を丁寧に撫でる。

 無知でも触り方が優しいあたり、自分の秘部の敏感さをよく知ってるんだろう。

 思っていた以上に触り方が上手くて、説明が終わるまでに射精が耐えられるかわからない。

 

「先っぽの穴がおしっこと精液が出るところで、裏っかわのちょっと色が違う線も感度が違うんだって。根元に付いてる袋のやつが睾丸……陰嚢? よくわからないけど、精子が溜まってるみたい」

「覚えるのたくさんあるね。この袋のやつは、自分の体と比べてもイメージがつかないや」

 

 佐知子の指がフグリの方まで伸びてくる。

 肌を掠るように撫でられた瞬間、ゾクッと膝が震えるほどの快感が突き抜けた。

 

「あ、そこ、すっごい……」

 

 いい。

 良すぎる。

 他人に触ってもらう極楽が。

 

 これのためだっていうなら、大人が金を払ってまでお願いする訳がわかる。

 

「亀頭と同じくらい敏感で、刺激には一番弱い場所だから、触るときは気をつけてあげてね」

「わかった」

「あとね、手を上下に動かして擦ってあげるのが一般的みたい。このお兄ちゃんお気に入りのエッチなビデオを参考にやってみようか」

「はい。了解です」

 

 知らぬ間にスマホに移し替えられていたエロアニメビデオが、容赦なく再生される。

 それは参考にしたらいけないビデオなんだが。

 食い入るようにエロアニメを視聴する二人の少女を前に、俺は黙っていることしかできなかった。

 

「ポイントは上目遣い、言葉責め、メスの顔です」

「う、上目遣い、言葉責め…………メスの顔……?」

「とろーんとした表情で物欲しげな顔をするの」

 

 漏れ出る音声から、美優がどの作品を選んだのかはわかる。

 帰宅部だった主人公がヒロインに家庭科部に誘われて、幸せな家庭生活を築く練習と称してたくさんの後輩からエッチなプレイをお願いされるアニメだ。

 

 妹モノじゃなくてよかった。

 あるいは避けたのかもしれないが。

 

 とにかく一つ言わせて欲しいことがある。

 

 普通のカップルはメスの顔で言葉責めなんてしない。

 

「お、お兄さんは、え、エッチだから。こういうのが……どうせ、好き、なんでしょ……!」

 

 ぐい、ぐい、とそれなりの握力で扱かれる。

 佐知子は本当に頑張って真似をしてくれているみたいだ。

 

「後輩にいいようにされて……は、恥ずかしくないんですか……!?」

「ぐっ……!」

 

 シチュエーションに合わせてくるのはズルい。

 

 やばっ。

 一瞬射精しそうだった。

 

 ストップストップ。

 

「あ、い、痛かったですか? ごめんなさい。私、下手っぴで」

 

 俺が急に止めたせいで、佐知子に勘違いさせてしまった。

 せっかくあんなに頑張ってくれてたのに。

 

「違うんだ。そうじゃなくて。なんというか……」

「お兄ちゃんは気持ちよすぎてびっくりしちゃったんだって」

「そうだったんですか。よかったです。私、ちゃんとできてたんですね」

 

 射精しそうだった、とは素直に言えず。

 困ってるところに美優からの助け舟。

 佐知子は朗らかに笑って、安心してくれている。

 

 俺は心を撫で下ろす一方で「しっかり覚えました」と腕を引く佐知子に不安を覚えた。

 こんなことを教え込んでしまってよかったんだろうか。

 

「それとね、舐めるのが気持ちいいみたい」

 

 サラッと美優に発言されて、俺の精神は一気に高揚する。

 

 舐める。

 つまりフェラだ。

 

 触れることぐらいは医療関係者ならやる。

 でも舐めるなんてことは通常の関係では絶対にやらない。

 

 だからそれは特別なことだ。

 人によってはフェラをアブノーマルと認定する者もいる。

 それほどまでの禁忌。

 侵してもらえるのか。

 

「これ? この硬いのを舐めればいいの?」

「うん。そうみたい。お兄ちゃんそれがすごくすごくして欲しいみたいで」

 

 説明しながら、美優は俺を軽く横目で睨んでくる。

 

 わかってるから許してくれ。

 

 美優には何回も無理にお願いをしてしまったからな。

 本人にしてもらうことはできなかったけど、こういう結果でも、まあ、よかったよな。

 

「ふーん。こうやって棒になってるのは、舐めるためなのかな?」

「そうなのかも」

「ヒクヒクして硬さが変わったりして。なんだか不思議な感じだね」

「たしかに。よく見てみると、なんでこんな形なんだろ」

 

 まさか妹。

 それは保健体育の範疇だぞ。

 

 ……もしかして、美優の言ってる“形”ってのは、そういう意味なのか?

 

「ちょっと可愛いかも」

 

 佐知子は園児を相手にするような瞳で俺の肉棒を眺める。

 

「えっ……。そうかな?」

 

 美優が引いている。

 俺もちょっとどうかとは思う。

 

「さっきみたいのを、ベロですればいいんだよね」

 

 佐知子はおにぎりを持つように両手の指先で俺の肉棒を支える。

 その先端に、顔を近づけた。

 

 いいのか。

 そこはさっき美優が尿と精液が出る場所だって説明した場所だぞ。

 精液はわからなくても、排尿器官がどういうものかくらいわかるだろ。

 

「あの……舐めてもいいですか?」

 

 佐知子は亀頭に唇が触れるか触れないかのところで止まって訊いてくる。

 

 舐めてもいいですか、だって?

 俺の肉棒の手に取って、そんなことを聞かれる日が来るなんて。

 

「舐めてもらえるなら、嬉しい」

「わかりました」

 

 フェラ童貞、とでも言うべきか。

 本番よりも興味の対象であったそれを、佐知子はあっさりと叶えてしまった。

 

 まずはペロッと裏筋をひと舐め。

 それから美優に敏感と教わっていたカリの部分まで入念に舌を這わせて、亀頭の先まで丹念に舐りあげてくる。

 

「ああっ……あっ……それ……ほんとすごくいい……!」

 

 力が抜けて声が震えた。

 口内のトロけるような熱が肉棒を滑っていく。

 一生懸命にしてくれる佐知子の顔も、堪らないほどにエロい。

 

 根元から尿道の割れ目まで、しっとりと舌が回ってくる。

 得もいわれぬ快楽。

 しかしそれも、期待したほどには続かなかった。

 

 思っていた以上に慣れが早かった。

 もっともどかしいほど、どうにもならないくらいに気持ちいいものだと思っていたのに。

 

「ちゃんとした舐め方もあるみたいだよ。袋の表面も舐めるといいんだって。それと、舌をいっぱい出して接触面積を増やしたりとか。唾液はたっぷりつけるのが一番大事なんだって」

「ふぇ。ひょうなんだ」

 

 佐知子は舌を口の中に戻してもごもごさせてから、裏筋にキスするくらいに唇を近づけて、そこに唾液でダラダラにした舌を擦り付けてきた。

 

「あッ────!!」

 

 あまりの気持ちよさのあまり仰け反ってしまった。

 

 まるで違う。

 這い上がってくる快感のレベルが別物だった。

 

 心なしか佐知子の舐め方もだいぶサマになってきて、ちゅぱちゅぱと時折キスを交えながら肉棒を舐めてくる。

 

 天国だ。

 こんなに気持ちのいい世界があったなんて。

 一生これだけをされながら生きていたい。

 

「きもひぃ……れふか……?」

「あぁ、もう、なんつぅか、幸せなくらいで……」

「えへへ。……んちゅ。よかったです」

 

 佐知子は照れくさそうにほっぺをかく。

 もう照れるポイントが違うとかどうでもいい。

 ただ舐められていたい。

 

「次の参考資料がこれね」

 

 美優はなるべく邪魔にならないようにひっそりとスマホを呈示する。

 そこに映っているのはもちろんエロアニメ。

 そのフェラシーンだ。

 

「な、なんか、すごい。口いっぱいまで含んじゃうんだね」

「こっちがメインみたいだよ。口の中でぐちゅぐちゅやって、そのときも舌を使って刺激してあげて……」

「うんうん」

 

 本物のペニスを前に、エロアニメ鑑賞する二人。

 お勉強熱心なのはいいことだ。

 そのために俺の財産が使われるなら本望だ。

 

「他にも色々と観たけど。お兄ちゃんの好みはね、さっきみたいに手で支えないで……手は腰辺りを掴んでおいて、口だけでするのがいいみたい。あとメス顔は基本」

「はい。メス顔は基本、ですね。美優先生」

 

 佐知子がだんだんとピンク色に染まっていく。

 どこまでも純粋で淡いピンク色に。

 

「えっと、こんな、感じかな」

 

 佐知子は心なしか息を荒くして頬を上気させると、自らすぼめた口と舌に肉棒をねじ込んだ。

 

 口内の肉感と粘液を存分に使って。

 アニメの影響か、一度に根元まで咥えこんで、溢れそうになる唾液を吸い上げながらねっぷり舌を動かしてくる。

 

「あぁ、あっ、あっ……待って、で、出る…………ッ!!」

 

 あまりに突然のことだった。

 蕩け顔で、にゅる、ジュポッと口を動かされて、耐えられたのはわずか数秒。

 突然やってきた肉棒を包み込む温度に、瞬殺だった。

 

「ん? んん……?」

「いいから佐知子。飲んで」

「んぐっ……うん……」

 

 美優に命令されて、根元まで咥えた状態で固まる佐知子。

 

 そのまま出すのはマズい。

 いきなり喉奥に射精することになる。

 

「でも……もう……ぐ、ああっ──!!」

 

 どぴゅ、ドピュ、ドビュ、と等間隔に、精液を押し付けるように射精する。

 

「んんっ!? んん!! ん~!!」

 

 佐知子は驚いて首を引いた。

 それを、美優がガッチリとホールドして抑え込んだ。

 

「飲んで」

「んーん!! ンー!! ンンーーーッ!!」

 

 佐知子は力いっぱいに首を振って抵抗する。

 その間にも俺の精液は佐知子の口に吐き出されていて、そのときには可哀想なんて感情は吹き飛んでいた。

 

 口の中に射精するのが、ただひたすらに気持ちいい。

 

「んー。ダメそう?」

 

 俺の射精が収まり、キュポっと口を離した佐知子の、その口を美優が手で塞いでいた。

 吐き出させないために。

 俺の好みに合わせてか、どうしても飲ませたかったらしい。

 

「ん……うぅ……」

 

 佐知子の目が真っ赤だった。

 涙をいっぱいに溜めて、今度はゆっくり首を横に振って美優に懇願する。

 

「そっかぁ」

 

 美優も手を放した。

 佐知子は息もろくにできずに横隔膜を引きつらせている。

 

「うぅ……みゅ……ゆるひへ……」

 

 唾液の分もあってか、口の半分は精液で満たされていた。

 佐知子は今にも吐きそうで、手を受け皿にして顔を下に向ける。

 

「しょうがない」

 

 美優は両手で佐知子の頬を挟む。

 

 そして、涙を流して震える佐知子の唇に、そっと自らの唇をあてがった。

 

 舌をねじ込んで、佐知子の口の中のものを奪いにいく。

 

「んっ……」

 

 佐知子の顔は苦痛から悦楽へと変わっていた。

 口づけが始まってしばらくした後、もう精液の口移しが済んだだろうと思われたその後も、佐知子はしばらく美優に口内を舐られていた。

 

「ん……むちゅ……はぁ。ごめんね。無理に飲ませようとして」

「ふぇ……ぃ……いぃよぉ……らいひょうふ……」

 

 くたっと佐知子は床に倒れる。

 どっちが原因なのかは明白だった。

 

「お兄ちゃんは出しすぎだし精子も濃すぎ。最初はこんなじゃなかったよね。もっと佐知子のこと考えて」

「無理言うなって」

 

 射精量がコントロールできるなら、そもそもさっきみたいな暴発はしてない。

 フェラがあれほど気持ちいいものだとは思わなかった。

 

 これは……ハマってしまいそうだ。

 

「佐知子も起きて。続きするよ」

 

 美優は天国に旅立っていた佐知子をビンタして体を引っ張った。

 

「続き……?」

 

 俺が尋ねると、美優は仁王立ちして眼鏡をキリッとかけ直す。

 

「セックス」

 

 ビシッと指示棒が俺のペニスまで伸びてくる。

 さっき射精したばかりの、硬さ半分の肉棒に。

 

「まだ出るよね?」

 

 美優に訊かれて、俺はドサッとやってきた疲労感に焦り始める。

 昨日は美優のおっぱいに大量射精して、今朝も美優の口に出させて貰っている。

 その上でさっきのフェラに、出せるものは出し尽くした。

 

 たしかに今日の目標はセックスだったが。

 限界というものはどうしたってある。

 

「美優、悪いけど……」

 

 もう出ない。

 

 そう口にしようとした俺に、美優は近づいてきて。

 

 まだ肉棒を露出したままの俺の下半身にまたがった。

 

 浅めに座っているとはいえ、擬似的に対面座位の体勢になった俺と美優。

 半勃ちだった俺の肉棒がまた硬さを宿し始めた。

 

「お兄ちゃん」

 

 今度は手が伸びてくる。

 俺の肩の後ろ。

 ソファーの背もたれに手をついて、美優が俺の耳に顔を近づける。

 

「せーえき、まだ出せるよね?」

 

 それはある種の魔法のように。

 一瞬で俺に射精感を取り戻させた。

 

 悪魔的だった。

 いったいどこに射精するだけの精液が残っているのか、自分でもありえないと思うくらいなのに、もうイチモツは次の射精の準備を始めている。

 

 ソファーから降りて、佐知子の頭を撫でる美優。

 

 俺と佐知子の二人に対して、美優ははっきりと、その言葉を口にした。

 

「セックス、してもらうからね」

 

 俺はもう、美優に命令されたら射精すら止められないのかもしれない。

 



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童貞卒業おめでとう、お兄ちゃん

 

 妹の命令によって硬さを取り戻した俺の肉棒が、閑散とした日中の居間にドクドクと拍動を響かせている。

 心臓と呼応してピクつくその相棒の様子を、まだ幼い彼女たちは無垢な瞳で見つめていた。

 

 美優は無垢と言っていいのかわからないけど。

 

「またおっきくなった……」

 

 佐知子は俺の勃起を不思議そうに観察していた。

 男である俺自身、興奮すると大きくなる体の部位なんて謎でしょうがない。

 保健体育すらロクに理解していない佐知子からすれば尚更だろう。

 

「お兄ちゃんが佐知子とセックスするために頑張ってくれてるんだよ。偉いねって褒めてあげないと」

「そうだったんだ。なんだか大変そうだもんね」

 

 佐知子は四つ足歩きで俺の膝に近づいてくる。

 

 充血に赤くなった亀頭は再び感度を増して、射精による落ち着きで性感を失くし、ただ過敏なだけのはずだった。

 

「よしよし。偉い偉い」

 

 佐知子の手が俺の肉棒を撫でた。

 ただ純粋な心で。

 それを慈しむように。

 

「あっ……ぐぅ……!」

 

 ビクッと俺の腰が跳ねた。

 そんな優しさが伝わってか、射精した直後の亀頭を直に手のひらで擦られているのに、再び悦楽の境地へと舞い戻っていた。

 

「握るよりさする方がいいですか?」

 

 佐知子は先の方だけでなく、竿からタマの方まで、フェザータッチで撫で回してくる。

 知識が無いせいで抵抗も少なく、佐知子の性技術は美優から与えられる情報をスポンジのように吸収していく。

 

 肉棒への撫で回しから、タマ舐め、キス、手コキまでをスムーズに行う佐知子。

 参考にしているものが男向けのエロビデオなだけあって、男が喜ぶ前戯をそのまま再現してくれる。

 しかもその表情はほんのり赤らんだ惚け顔だ。

 美優から仕込まれたメス顔で美味しそうに俺のペニスを咥えてくれる。

 

「ふむっ……むちゅ…………きもひぃれふか……?」

「ああ……もう……一生されてたいくらい……」

「んふふ。んぐ……ぐちゅ……んくっ……」

 

 咥えこんだら奥まで。

 唾液たっぷりの口内に、亀頭から根元まですっぽりと含んでしまう。

 

 これがセックスがどんなものかも知らない女の子のテクとは思えない。

 驚異的な上達ぶりだった。

 

「ああっ……佐知子……また……口に……!」

「んっ……!」

 

 セックスする目的も忘れて、佐知子の口の中に射精したいと、ついお願いしてしまったところで佐知子が動きを止めた。

 顔を強ばらせて、先ほど口に出された精液がよっぽどトラウマになっているらしい。

 

 口内射精を続けたらフェラが嫌いになってしまう。

 そんな心配を感じ取って、美優が佐知子の背後から近づき、パンツを下ろして割れ目へと手を忍ばせた。

 

「佐知子もそろそろ準備しないとね」

「ふぇ……んきゅ……!?」

 

 美優の腕がゆっくりと前後し始めると、佐知子はビクッと身を縮こまらせた。

 

「あっ……はぅっ……ああんっん……あっ…………!」

「お口を離したらダメだよ。咥えてて」

「ふー……んぐっ……! んー! はふっ……んちゅ…………!」

 

 美優の手で秘部を弄られて、佐知子のフェラは激しさを増した。

 一心不乱に俺の肉棒を咥えて、美優から与えられる快感をどうにか思考の外に追いやろうとしている。

 

 そこにあったのは演技のメス顔などではない。

 美優の指に翻弄されて、顔の筋肉の一切に力が入らないくらいにトロけた表情で俺の肉棒を咥えていた。

 

「佐知子……っ……そんなに激しくされると……保たないって……!」

「はぁ……むぐっ…………んんっ……ん……んン~~ぁぁあああ! 美優、ちゃ……んぁあっらめぁぅ……んんー……ッ!」

 

 佐知子の秘所はクチュクチュと音を立てるほどに溢れていた。

 あるいはそれは美優が俺たちを興奮させるためにわざとやっていたのかもしれない。

 佐知子の嬌声と吐息は理性を感じさせないほどに乱れて、もう俺の声も聞こえていないようだ。

 

 その様子からして、それはもう明らかだった。

 佐知子はすでに、美優に膣内までイジられている。

 

「美優……しゃ……美優ぅぅ……あっ…………いっ……イイっ……いぃ……はぁんむ……ぐちゅぶちゅ…………んく……んん……ッ!」

 

 佐知子は俺の肉棒を咥えては、美優から与えられる秘部への快感によがり苦しむ。

 

 セックスの準備といったのだから、美優は強めに佐知子の膣をほぐしているのだろう。

 佐知子はオナニーの経験もあるみたいだし、それなりの感度があるのもわかる。

 

 疑問なのは、美優の指さばきがあまりにも上手すぎることだ。

 女体をよっぽどイジり慣れていない限り、ここまでの快楽地獄に導くことは不可能なはず。

 

 美優もやっぱり、オナニーをするのだろうか。

 いつもムスッとしてるだけのこの娘が、若い体を持て余して悩み耽ることがあるなんて考えにくいけど。

 

 佐知子のように喘ぎ乱れて、撒き散らすように性欲を発散する。

 そんな美優がいるなら、見てみたい。

 

 いったいどんな体勢でオナニーをするのか。

 どんな声を出して乱れるのか。

 

「みゆひゃん……らめっ……もうっ……!!」

「イッちゃう? いいよ。女の子は何度イッてもいいんだから」

「ああっ、美優の指ぃ、ぃきもひぃ……んッ……ああっ……あひゃぁ、ああんっ! ら、めにゃ、のぉおっ、ひああっ──!!」

 

 佐知子はガクガクと体を跳ねさせた。

 俺の腰を掴む手にありったけの握力を込めて、制御の利かない体を必死に抑え込もうとしている。

 

「初めてだからもうちょっとグチュグチュしようか」

「もう、いひゃらのぉ、あっ、あっ、イッたあとはらめぇ、ん、んん、んンあっ! あひゃま、おかひくなりゅ……ッ!」

「まだ奥の気持ちいいとこ触ってないよ。ほら、ここ」

「あっ、ああっ、ひょこおっ、しゅごひぃい! んっ、ああっ、ぁあああっ!!」

 

 それはもはや悲鳴に等しかった。

 俺の肉棒の相手なんてそっちのけで、快楽の限りを喉の奥から表現している。

 美優の指はスカートに隠れて見えないが、完全に佐知子のスイートスポットを捉えているようだった。

 

「うん。いい感じだね」

「ぁ……ぁぁ……もぅ、りゃめ、ひゃ……みゆひゃまの、どれいでいいれしゅ……」

「そんなにぐったりしないの。次が本番だよ」

 

 佐知子の意識は朦朧としていた。

 脱力しきった顔は半分ほど白目で、これが二次元的な表現になるなら間違いなくアヘ顔として描かれている。

 

「お兄ちゃんも準備はいいよね」

 

 美優は息も絶え絶えになっている佐知子など意に介していない。

 ただ俺にセックスさせるという使命を全うするために、するべきことをしているという感じだ。

 

 準備ならとうにできている。

 むしろ準備ができ過ぎて挿れた瞬間に射精しそうで心配だ。

 佐知子にこれから挿入すると考えると緊張は抜け切らないが、ここまできたら、やるしかない。

 

「か、覚悟は、決めた」

 

 ここで引いたら失礼というもの。

 俺は佐知子が欲しい。

 佐知子で童貞を卒業したい。

 

「ゴムを持ってきてあげるから、どこにあるか教えて」

 

 美優にそう言われて、俺の頭が瞬間的に冷える。

 

「あっ……ごめん。用意、してない」

 

 セックスする名目で今日まで美優に頑張ってもらってはきたが、こんなに早く実現するとは思っていなかった。

 

「持ってないの? 一人でするとき使わない?」

「使ってない」

 

 今まで美優の前でオナニーしてたとき、一度も使った記憶がないんだが。

 むしろどうして童貞の俺が持ってると思ったんだ。

 

「あのふにふにの穴のやつ使うときってゴムを着けるんじゃないの?」

 

 ふにふにの穴って、オナホのことだよな。

 なんで俺がオナホを持っていることを美優に知られてるのはこの際置いておくとして。

 美優にもそういう知識があったのか。

 

「俺は、使わない派だから」

「むー……どうしよう……私もどこで売ってるか知らないからな……」

 

 美優は彼氏もできたことないもんな。

 コンドームなんて知ってるだけでも驚きだ。

 

 ……そこは保健体育の範疇か。

 

「俺が今から買ってくるか?」

 

 見たことないけど、コンビニで売ってるらしいし。

 

「そんな状態で?」

 

 美優は俺のペニスをビシビシ指示棒で叩いてくる。

 マゾに目覚めそうだからやめてほしい。

 

「すまん……」

「はぁ~。しょうがないな」

 

 美優は大きなため息をつくと、二階へ行ってしまった。

 

 その頃には佐知子も落ち着いていて、ここでようやく目が合う。

 

「えーっと……これから挿れることになるんだけど。ほんとにいいの?」

「いいですよ? お兄さんのほうこそいいんですか?」

「俺はまあ。願ったり叶ったりだし」

 

 可愛い歳下の女の子に筆下ろしをしてもらう。

 男としてこれほど恵まれた話もない。

 

「でしたら、深く考えずにしちゃいましょうか。……美優が来るまで、舐めます?」

「お、おぅ」

 

 積極的な佐知子になされるがままに、俺はまた肉棒を舐めてもらう。

 自分からじゃお願いできなかった。

 助けられてばっかりで申し訳ない。

 

「あんまりしちゃうと、出ちゃいますよね」

「あっ……くっ……はぁ、あぁ、そう、だね」

 

 佐知子も素直に俺の反応を汲んでくれていた。

 基本は舐めるだけにして、余裕がありそうなら先っぽをパクっと咥えてくれる。

 

 なんというか、もう、天使だ。

 

「ふむっ……ちゅ……むりゅ……はぁ…………あー……はんっ……」

「佐知子……すごく……気持ちいい……」

「んふっ……よかったです……あーむっ……ちゅるっ……」

 

 何度も休んでは舐めてを繰り返してくれる佐知子。

 そうこうしているうちに、美優が階段を降りてきた。

 

「はい。これ使って」

 

 美優が俺に手渡したもの。

 四角いビニールに包装された円形の物体。

 

 それは間違いなく、コンドームだった。

 

 なんで美優がこんなものを持っているのか。

 困惑する俺の手から、佐知子がコンドームを取り去った。

 

「あっ。これ知ってる」

 

 天井にかざして裏表を確かめる佐知子。

 

 まてまて。

 お前らは処女だろ。

 なんで俺も触ったことのないコンドームを知ってるんだ。

 

「これ、遥ちゃんの部屋に遊びに行ったときに同じのが────ふぐっ!?」

「佐知子、余計なこと言わない」

 

 美優が佐知子の口を塞いだ。

 

 遥って、たしかレズの子だよな。

 どうしてレズにコンドームが必要なんだ。

 

 もう何がなんだかさっぱりわからない。

 

「お兄ちゃんは早くそれ付けて」

「お、おう」

 

 四角いビニールパッケージは、簡単に指で裂いて開けることができた。

 中からはぬるぬるとローションに浸されたゴムが取り出せる。

 

 根元からくるくると丸まっていて、先端の膨らみが精液溜めというやつなんだろう。

 これを、硬くなってる俺のモノに、装着すればいいんだよな。

 

「お兄ちゃん、それだと裏表逆だよ。丸まってるのを引っ張って下ろせる向きじゃないと」

「そ、そうか。悪い」

 

 処女の妹にコンドームの付け方をレクチャーされる兄なんて、この世にいるんだろうか。

 佐知子もまじまじとゴムをつける様子を見てくるし、恥ずかしいからさっさとつけてしまおう。

 

「っ……!」

 

 ゴムには特有の締め付けがあった。

 口でしてもらうのとは違う、竿の全体が圧迫される感覚。

 

 これはこれで、もどかしい刺激だ。

 佐知子のフェラ責めを体験してなかったら、このゴムの締め付けだけでイッてたかもしれない。

 

「佐知子、お兄ちゃんの膝に跨って」

「は、はい……わかりました……」

 

 佐知子も、さすがに抵抗なくとはいかなかった。

 恥ずかしさからなのか、処女を失うことへの恐怖なのか、俺のイチモツの上で濡れた肉穴を構える佐知子の顔は、緊張で固まっていた。

 

「い、いいか?」

「ううっ……だ……大丈夫……です……」

 

 互いにしどろもどろになりながら。

 佐知子がゆっくり腰を下ろして来る。

 

 俺はそれを両手で掴んで、まずは先端を割れ目に当てた。

 そこから少し押し込んでみるが、どうにもそこに穴があるようには感じられない。

 

 待て、待てよ。

 どこにあるんだ?

 穴の位置がわからない。

 

 もっとスムーズに挿れてあげたいのに。

 本当に穴なんてあるのか?

 

「も、もっと、後ろです……」

「ああ、わ、悪い!」

 

 言わせてしまった。

 

 焦る姿なんて見せたくないが、頭が混乱してくる。

 

 どうにかしないと。

 手間取っていたら佐知子が乾いてしまう。

 

 後ろ、後ろ……。

 ない、ないんだが。

 

 ただぬるぬるした肉感が当たるだけ。

 これはこれで気持ちいいけど。

 佐知子への申し訳なさでそれどころじゃない。

 

「あの、もっと、後ろで……」

「え? こ、これ……?」

 

 くぼみらしき場所に亀頭が沈んだ。

 押し込めば挿れられそうだ。

 

 だけど。

 

「これって、お尻の穴じゃなくてか?」

「ち、違います。そこで合ってます」

「マジか。え、じゃあ、挿れるよ」

「う……んっ……あっ…………!」

 

 にゅぷっと、カリの辺りまで捉えられてからは、挿入するまではすぐだった。

 

 皮膚表面で感じるよりずっと熱い体温に包まれて、俺の肉棒は佐知子の膣内でビクビクと震える。

 

「やっ……ばぃ……佐知子、すごいアツくて……!」

「ん、あっ、入って、る……!」

 

 気づけば、俺は童貞を卒業していた。

 こんなものかと、感慨に浸る余裕もなく。

 

 ついには根元まで佐知子の膣内に入った俺の肉棒。

 その一部始終は、美優に見られている。

 

「痛く……ないか……?」

「えっ、と、ですね。痛く……なくはないです、けど、それほどでは……」

「そ、そうか。それはよかった」

 

 美優がかなりほぐしてくれたからな。

 普通は初めて同士じゃこんなすんなりは挿れられないんだろう。

 

 佐知子が俺の体に覆い被さって、体格差でちょうど胸が目の前にくる。

 恋人ならおっぱいを舐めても怒られないんだろうけど。

 佐知子とはイレギュラーな付き合い方をしてるし、ここで脱がせるのは避けるべきかな。

 

 結合部はスカートで見えない。

 女の体がどんなものかも知らずに挿入してしまった。

 見たいけど、佐知子は恥ずかしがるかな。

 初めてだから、繋がってるのをこの目で確かめたかった。

 

「んっ……!」

 

 俺がゆっくり腰を動かすと、佐知子は軽く腰を浮かせた。

 それからまた、深く腰を落として俺のペニスを膣内の奥へと迎えてくれる。

 

「佐知子は、気持ちいいか……?」

 

 尋ねた俺と、佐知子は目を合わせず。

 俯くと、サイドテールが申し訳なさそうに平謝りしてきた。

 

「い、異物感がすごいです……」

 

 それは決して、前向きな感想ではなかった。

 

 初めてってこんなものなのか。

 痛がられなければ御の字ってことで、いいんだよな。

 

「動かして平気そう?」

「はい。あの、ゆっくりなら、ちょっとは、キュンキュンきます……」

「……わかった」

 

 女の子特有の表現がよくわからなかったけど。

 それは快感がゼロではないってことなんだよな。

 

 よかった。

 ここまでは美優のおかげ。

 

 ここからは、俺の肉棒で気持ちよくしてやる。

 

「んー……はぁ…………うぅ……」

 

 ゆっくりと、硬くなった肉棒の形を確かめるように。擦り付けるように動かしていくと、少しずつだが佐知子の反応は良くなってきた。

 

 俺もこれはかなり気持ちいい。

 もしかしたら、激しく出し入れするより、スローテンポのほうが快感は大きいのかもしれない。

 

「あぐっ……うううっ……! か……たい……あぁっ……」

「佐知子……きも……ちいい……!」

 

 それでも、腰の動きは次第に速くなっていった。

 

 もっと欲しい。

 もっとこの肉感に浸りたい。

 まさしく肉壺と表すべきこの穴に、ずっと性器を擦り付けていたい。

 

 スローセックスなんてしてられなかった。

 

「佐知子……佐知子……ッ!」

「あんっ……おにい、さん……は、はげし……っ!」

「やっ……ばぃ……! もう、そんなに保たないかも……!」

「い、いいです、よ……イッて、ください……!」

 

 俺の動きに合わせて、佐知子も腰をストロークさせてきた。

 膣内で果てろと、その体で言っている。

 

 いいのか、この子の膣内で出して。

 

 美優が見てるのに。

 妹が目の前にいるのに。

 その友達の体を使って、射精する姿を見せてもいいのか。

 

「アッ……だ、めだ……もうっ……ああっ……佐知子……ッ!!」

「イッ、て、あっ、お兄さん、イッてください……!」

「はぁ……あっ……で、出る……佐知子……出る……!!」

 

 パン、パン、パンと最後は思い切り腰を突き上げた。

 妹が見てるとか、相手が初めてだとか、そんなもの関係なく、俺の欲望の限りをその膣内に吐き出した。

 

「おにいさん……!」

「佐知子…………ッ!」

 

 びゅっ、びゅるるぅ、びゅくっ、びゅるっ──!

 俺の肉棒は佐知子の肉壁を懸命に押し退けて、力の限りに精子の発射運動を続けた。

 

「はぁ……はぁ……で、出たよ……」

「はひぃ、ふぁ、きちんと、できて、よかったです」

 

 お互いに息を切らして。

 最後は佐知子が俺に抱きついてきた。

 

 ああ、これだ。

 恋人っぽい。

 

 途方も無い幸せに包まれている。

 俺は、ついに、童貞を卒業したんだ。

 こんな可愛い女の子で。

 

 しばらく、俺と佐知子は抱き合っていた。

 

 美優の姿はどこにもなくなっている。

 知らぬ間に部屋を出ていたらしい。

 

 呼吸が落ち着いてから、佐知子は体を起こした。

 ブルブル震える膝で腰を上げると、ニュルッと硬いままの肉棒が抜ける。

 

 先端は白い液体でパンパンになっていた。

 俺、これで今日三度目なんだよな。

 美優にも言われたけど、俺って精液出しすぎだよな。

 

「えへへ。なんだか、気恥ずかしいですね」

 

 佐知子は美優に脱がされたパンツをはきながらはにかむ。

 

「そう、だな」

 

 セックスが終わった後は微妙な気まずさがあった。

 決して不快ではないけど、もどかしくて歯がゆい感じ。

 

 佐知子は服をピシッと着直すと、片方の手を腰の後ろにやって、自分自身を指差した。

 

「私、お兄さんの彼女……ってことで、いいんですよね?」

 

 聞かれて、ドキッとする。

 

 そうだ。

 俺は、佐知子の彼氏なんだ。

 

「もちろん。これから、デートとか、しようか」

「はい!」

 

 こうして、俺には無事に彼女ができた。

 

 佐知子とはそれから長々と駄弁っていたが、美優が降りてくる様子はなく。

 

 日が傾く前に、俺たちは解散した。

 

 玄関から、佐知子を見送って、家に戻り。

 スマホを手にしてから、連絡先を交換すればよかったと後悔した。

 

 美優から教えて貰えばいいかなんて考えながらスイッチをオンにしたら、美優からひとこと、メッセージが届いていた。

 

 ──童貞卒業おめでとう、お兄ちゃん。

 

 その言葉に、俺はギュッと手を握る。

 

「ああ。ありがとうな」

 

 俺はまだ佐知子の温もりが残ったままの体を感じながら。

 

 二人分の体温で熱くなったソファーに、沈むように横になった。

 



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妹が変えたもの

 

 月曜日。

 それは休みが終わって憂鬱な時間が始まる万人の峠。

 彼女ができたからといって登校する景色が変わるわけでもなく、俺は落ち着かない心臓を足を速めることで誤魔化していた。

 

 ショッピングモールの一件から、初めて鈴原と山本さんに顔を合わせる。

 どんなトーンで声をかけたらいいのかなんてわからない。

 あの山本さんと別れたのだから、鈴原はもう現実なんて認識できないくらいに落ち込んでいてもおかしくはないはずだ。

 俺も山本さんとは中途半端にエッチなことをしてしまったせいで気まずいし。

 

 妹離れのために支払った代償は、思っていた以上に大きかったのかもしれない。

 

「あっ。ソトミチくんだ」

 

 駐輪場を出て、中庭から昇降口に向かおうとしたそのとき。

 青々とした広葉樹より先に俺を迎えたのは、山本さんだった。

 

 俺に気づいて軽やかに90度ターン。

 ふっくらたわわな胸に指先を置いて、プリーツを広げながら俺に振り向く。

 

「おはよ、ソトミチくん」

 

 にっこり笑顔で手を振ってくる山本さん。

 元々明るかったその表情が澄み切っている。

 喩えるならそれは、女神の微笑みというやつだった。

 

「お、おはよう」

 

 普通に話しかけてきた。

 山本さんからすればあれくらいは特別なことでもなかったのかな。

 

「もー。硬いよ、もっとフランクにフランクに」

「そう言われてもな。元々そこまで話す方じゃなかったし、急に仲良くなったら変に勘ぐられるかもしれないぞ」

「私はみんなと仲良くしてるから大丈夫だよ」

 

 山本さんは俺の真横に並んで歩き始める。

 たしかに山本さんは誰にでもにこやかに接する聖女のような存在だ。

 運動部のイケメンだろうが帰宅部のオタクだろうが分け隔てなく接してくれる。

 

 だが、だからといって周囲からの刺すような視線がなくなるわけでもないし。

 俺には鈴原のこともあるから、どうしてもギクシャクしてしまう。

 

「鈴原くんなら大丈夫だよ。会えばわかるって」

 

 そんな俺の胸中を悟ってか、山本さんはすかさずフォローを入れてきた。

 山本さんを見る限りでも円満解決したのはわかるけど。

 山本さんを相手に鈴原が最後まで見栄を張った可能性もなくはないし、油断はできないよな。

 

「みんなおはよー!」

 

 教室に入って、山本さんは元気に挨拶。

 山本さんの声に振り向かない者がいるはずもなく。

 クラス中の視線はすぐさま隣の俺に向けられることになった。

 

 先に足を踏み出したのは山本さんで、そのまま友達の中に溶けていく。

 何事もなかったかのように、というか事実何もないんだけど。

 俺も自然にしてた方がいいか。

 

 山本さんのことは一旦忘れて、自分の席に座ると、通りがかりにガタイのいいオタクが話しかけてきた。

 

「よう、ソトミチ。楽しそうな朝で羨ましいな」

 

 高波は朝練終わりのさっぱりした顔をしている。

 外が暑いと毎回頭から水を被ってくるので、黒い髪がやたらと艶やかだった。

 

「一昨日たまたま外で出くわしたからな。そのことについて話してただけだよ」

「うおっ、マジで!? どんな服着てた!? エロかったか!?」

「デカい声でそんなこと聞くな」

 

 机に両手をついて高波は興奮気味。

 また周囲から目を向けられる。

 クラスメイトの疑念が深まるからやめてほしい。

 エロかったけど。

 

「いいなぁ私服山本さん! 俺も一度でいいから拝んでみてぇ……!」

 

 高波の昂りが収まらぬ中、俺は心のざわつきとは裏腹に、クラスメイトの視線が消えていることに気づく。

 単に興味がないだけと考えるのが普通だが、それはどうやら違っていたようだった。

 クラスの生徒たち視線は、俺とは違う別の一点に集められていたからだ。

 

「おはよう」

 

 聴き馴染んだ声に俺の脳天の髪がピクリと跳ねる。

 その気怠げで染み付くような声は、間違いなく鈴原のものである、はずだった。

 

「は……?」

 

 俺と高波のもとに歩いてきたのは、長ったらしかった髪をバリッと上げた、眼鏡の無い誰かだった。

 

 え、誰?

 

「鈴原! 似合ってんじゃーん!」

 

 高波は照れ臭そうにする鈴原の肩を小突く。

 

 繰り返すけど、あの、どなたですか。

 

「なんだよソトミチ。その目は」

「いや、本体がいないなと……」

「本体は置いてきた。もはや現実にはついてこれない。そして別世界線の俺がこうしてやってきたわけだ」

 

 鈴原はグッと親指で自分の胸を指す。

 

 よかった。

 頭がおかしいのはそのままなんだな。

 

 ともかく元気そうなのは安心できる。

 鈴原が変わったのは山本さんと別れたのがきっかけに違いないけど。

 空元気ってわけでもなさそうだ。

 

 ホームルームが始まって、担任が来て、担任に軽く鈴原がイジられて、ちょっとした笑いが起きて、学校での一日が始まる。

 

 その昼休み、俺は高波に邪魔されないタイミングを計って鈴原に声をかけた。

 

「元気にしてる、ってことでいいんだよな」

 

 様変わりした鈴原は、それでも元がよかったわけでは無いのでイケメンな雰囲気にまではなっていなかったが。

 素直にかっこいいと思えるくらいには、表情が整っていた。

 

「まあな。美優さんのおかげだよ」

「みゆさ……え? は?」

 

 美優さん!?

 美優さんってなに!?

 

「あの人のおかげで、俺は男としての一歩をようやく踏み出すことができたんだ。感謝してる。ソトミチ、お前にもな」

 

 仏にでもなったかのように穏やかな口調で鈴原はそう言葉を紡いだ。

 

「美優のやつ、いったい何をしたんだ?」

「口にするのも恥ずかしいことだが。お前になら話してもいいかもな」

 

 手を組んで肘をつき、鈴原は過去の自分を嘲笑するように軽く息を吐く。

 

「あれは、まだ暑い夏のことだった」

 

 つい一昨日のことだろ、ってツッコミを入れたい気持ちを我慢して。

 俺は鈴原の語りを聞いた。

 

 

 

 

 

 ショッピングモールで山本さんの次に美優に連れ去られた鈴原は、あてもなく歩き続ける美優の斜め後ろをトボトボと歩いていた。

 山本さんとのデートを邪魔されたことへの落ち込みもそうだが、それ以上に山本さんが美優と積極的に二人きりになろうとしたことに傷ついていたのだ。

 

 山本さんがもう自分に気がないことを、鈴原はすでに知っている。

 付き合うために最初に提示された条件も守ることができていない。

 それでもどうしても山本さんと別れたくなくて、鈴原は自分への呵責とせめぎ合いながらも、とある秘密を脅しの道具にすることによってどうにか関係を保っていた。

 

「鈴原さん、ずいぶんと奏さんに嫌われてるんですね」

 

 そこに畳み掛けるように、美優からとんでもない爆弾発言を投げつけられた。

 

「嫌われてるわけじゃねえって! ただ、今はすれ違いがあるっていうか……奏にまだ俺の愛が伝わってないだけで……!」

 

 鈴原は口にするほどに虚しくなる言葉で、美優に反発した。

 

 事実として、鈴原は心から山本さんを愛していた。

 考え付く限りに尽くして、しかし、それでも喜んでくれない山本さんに対して、いつしか山本さんの方を悪者にするようになっていた。

 

「それは本気で言ってるんでしょうか」

 

 美優は鈴原を責め立てるでもなく。

 ただ凛として、事実確認を進めていく。

 

「な、なんだよ。奏に何か言われたのか」

 

 鈴原も内心ではかなり気になっていた。

 

 男を締め出しての女子トーク。

 耳を塞ぎたくなるような本音が飛び交っていたに違いないと。

 心中穏やかではいられなかった。

 

「何かと言われると、一口で言うのは難しいです」

「そんなにか!? あの奏が俺の愚痴を……!?」

「危うく閉店時間まで続きそうだったので、途中で切り上げたくらいです。ほんとに自覚がないんですか?」

 

 サラッと残酷な事実を突きつけられて、鈴原は一片も口を動かせずにいた。

 グツグツと胃液が煮え立って、あらゆる臓器が悲鳴を上げるほどのストレスが鈴原を苛んでいた。

 

 想像の範疇で、いくら自分が嫌われているかもしれないと評価を下げてみても、それは結局は自分が許せる範囲で自虐をしているだけ。

 真実として告げられたその現実を受け止めるのは、どれだけ心の準備をしても耐え難いほどの衝撃があった。

 

「な……なんでだよ! 俺はいつだって奏のことを考えてる! 奏のためならどんな手間暇も惜しくない、どんな苦痛だって肩代わりできる! 時間も金も全部捧げるんだって、決めて……俺は……」

 

 それはきっと、自分のレベルが足りないのだと。

 見てくれの悪さや稼ぎの少なさ、運動能力の低さについては諦めて、そこでのビハインドは甘んじて受け入れる。

 

 それでも、それを補って余りあるほどの愛があれば、人を満たすことはできるのだと。

 

 信じていたのに、現実の女は、なんて冷たいんだろう。

 

「知りたいですか? なんで嫌われてるか」

「ああ! もちろん! 悪い部分があるならなんだって改善するから!」

 

 美優は鈴原の勢いに、大きなため息をついて、またお店の前を歩き始めた。

 

「では、今から私を奏さんだと思ってください。鈴原さんのいう愛とやらで、私が楽しいと思えば、復縁に協力します」

「よ……よっし……! まかせろ!」

 

 鈴原はデートのもてなしには自信があった。

 気遣いをするのは苦ではないし、こと尽くすという行為に対して疲れを感じることはなかったからだ。

 

 美優は口を閉じて歩くだけになった。

 数秒して、もうテストが始まっているのだと鈴原は気づく。

 

 上手くエスコートしなくては。

 喜ばせ、楽しませなくてはならない。

 復縁協力のためだけではなく、男としての矜持を見せつけるために、実力の全てを出し切っていかに尽くせる男かを思い知らせてやる。

 

 そう意気込んで、歩きながら話題を見つけ出そうとした鈴原の目に、とあるジュエリーショップが目に入った。

 

「あそこの店、大手ジュエルブランドの系列店だな。そこそこ良い宝石を使ってるわりには安くて評判らしいけど。美優ちゃんに似合うのもあるかもな。入ってみるか?」

 

 鈴原が得意げに語るその知識は、山本さんとのデートのためにネットでかき集めたものだった。

 

 ショッピングはデートの基本。

 レディース用品であっても知識がある方が女の子を楽しませてあげられる。

 

「いいです」

「そ、そうか? 奏は『ありがとー!』って飛んでってくれるけどな。遠慮することはないんだぜ? 俺もケチじゃないからな。なんならネックレスの一つでも選んでくれればそれを……」

 

 喋っているうちに、美優は店を通り過ぎてしまった。

 趣味に合わなかったのかもしれないと、鈴原は即座に気持ちを切り替える。

 

「あ、すみません。ちょっとお手洗いに行ってきてもいいですか?」

 

 美優がトイレマークを指差して鈴原に許可を仰ぐ。

 そんな美優に、鈴原が満面の笑みで頷いて、美優の近くまで歩み寄った。

 

「なら荷物を持ってやるよ。いくらでも待ってるからゆっくりしてきな」

 

 そう言いながら、鈴原は美優の持っていたポーチに手を伸ばす。

 

 直後、美優は即座に身を翻して鈴原から距離を取った。

 

「はい、失格です。私なら今ので別れを切り出して帰ります」

 

 美優の無慈悲なその判定に、さすがの鈴原もゲンナリする。

 

「いや違うんだって。美優ちゃんは本当の恋人じゃないからそんな反応になるんだよ。今のは体に触ろうとしたわけじゃなくて、トイレの邪魔にならないようにポーチを持ってあげようと思っただけなんだよなぁ」

 

 鈴原も苛立ちを露わにしてつま先で床を踏み始めた。

 

「そうやって女の子の気持ちを決めつけるから嫌われるんですよ」

 

 美優はあくまでも平坦に。

 鈴原に真実だけを告げる。

 

 鈴原は口を噤んだ。

 優しくしてあげようと思ったのは鈴原の本心だが、荷物を預かるたびに山本さんのテンションが下がっていたことを、どこか肌で感じていたからだ。

 

「私はリップを塗り直したかったのに、ポーチを取り上げられたら困ります。それに恋人が相手でもスマホも財布も全部預けたくはありません。そもそもお気に入りのポーチを触られるのも嫌です」

 

 美優はポーチを腕に抱えて身を引いた。

 

「なら、そう言えばいいだろ。女っていつもそうやって……実はどうだったとか……」

「女の子には口にしたくない事情もあるんです。お化粧を直したり、月のモノをケアしたり、それも全部教えろというのは、鈴原さんが相手に我慢を強いてることに気づきませんか?」

「なっ……そ……それは……!」

 

 感情ではなく、理性的に答えを返すことができない。

 

 鈴原は認めたくないだけだった。

 良い事をしたつもりが、相手にとっては迷惑なだけだったということを。

 

 単純な間違いならすぐに謝ることができた。

 だが、尽くした結果にケチをつけられるのは、善意を踏みにじられたようで受け入れられなかったのだ。

 

「それと先ほどのジュエリーショップについてですが。あそこは高齢層向けで、口悪く言えばおばさんのお店です。値段を下げてるのは庶民向けにデチューンした結果であって、決して若者向けのアクセサリーではないんですよ。私ってそんなに安物が似合いますか? 奏さんにも同じことを言ったんですか?」

「そんなこと……俺は……知らなくて……」

 

 無理をして、無理を押し付ける。

 嫌なら素直にそう言ってくれると信じて、相手の笑顔にただ安心していた。

 

 恋人になったら気遣いは一切無用。

 そんなこと、自分でもできていないのに。

 それがさも当たり前のように振舞っていた。

 

「故に0点です。0点どころかマイナス100万点です。僅か数分でこれだけ不快にさせられたわけですから、ずっと一緒にいた奏さんはさぞ辛かったでしょうね」

 

 美優に容赦はなかった。

 半端な伝え方では、都合よく解釈されてしまうことを美優はよくわかっていた。

 

「俺……」

 

 美優の評価が明らかに厳しすぎるものだった。

 だが、それは鈴原にとって、思い当たる節がようやく繋がる瞬間だった。

 

「ついでに奏さんから聞いた話からも忠告させてもらいます。さして高くもないヒールを神経質に気にするのはやめてください。余計に疲れます。積極的にランジェリーショップに入ろうとするのもやめてください。周りに迷惑です。それに知った顔で手に取った服にケチをつけるのはやめてください。好みが尊重できないなら付いてこないでください」

 

 ザク、ザク、ザク、と。

 美優お得意の心臓直刺し。

 オブラートのオの字もない冷酷な言葉で、鈴原の心を破壊していく。

 

 美優の口から淀みなく吐き出された鈴原に対するクレームは、優に50を超え。

 鈴原が積み上げた自信とプライドなど、最初からそこになかったかのように散っていった。

 

「で、でもよ……」

 

 すっかり意気消沈した鈴原は、それでも納得がいかないことが一つだけあった。

 

「嫌なことがあるなら、今みたいに言ってくれればいいだろ。なんで黙ってるんだよ。俺は奏のためなら変われるのに」

 

 察してくれなんて無理な話だ。

 言葉にしてくれればすぐに分かる。

 お互いに気になるところを指摘して、改善していって、そうやって男女の仲は深まっていくのではないか。

 

 鈴原は、山本さんが最初からそうしなかったのが不満だった。

 

「だって鈴原さん、落ち込んでるじゃないですか」

 

 それはお前が歯に衣着せぬ物言いで指摘したからだろうと。

 思ったところで、鈴原は自らの過ちに気づく。

 

「鈴原さんは、どうして奏さんのことがそんなに好きなんですか? 可愛いからですか? おっぱいが大きいからですか?」

 

 外見が問題じゃない、なんて言えるレベルでは、山本さんの可愛さは収まらない。

 学校どころか国内をくまなく探しても、あれ程の美貌に出会うことはないだろう。

 

 ただ、それでも、鈴原には確実に言えることが一つだけあった。

 

「……奏は、優しいんだよ」

 

 いわゆるキモオタに分類される存在だった自分。

 そんなダメな男と話すときでも、山本さんは笑顔を絶やすことはなかった。

 

 ドジをやらかして迷惑をかけても、欠片も怒らず、そんなこともあると慰めてくれた。

 嫌なことがあってモヤモヤしていると、持ち前の元気で吹き飛ばしてくれて。

 たまたまテストの点が良かったと報告した次の日に、可愛いボックスに詰め込まれたチョコをプレゼントされたときは、目眩がするほどに嬉しかった。

 

「だからこそ、俺も同じだけ尽くしたくて……! 嫌なとこがあるなら、打ち明けてくれればよかっただろ……!」

 

 嬉しかった記憶は、慣れによって風化して。

 あれだけ素敵だった彼女に、いつしか敵意さえ抱いた。

 

 愚かだったその男には。

 知らずのうちに相応の評価がつけられていた。

 

「優しいから、奏さんは素直に言えなかったのに。それを鈴原さんは責めるんですか?」

 

 言われて、それが、決定打だった。

 

 男だからと無駄な意地を張って、誰にも一度も見せることのなかった涙が、知らずに熱く目頭から溢れ出していた。

 

「鈴原さんは、奏さんの優しさに付け込んで、好き勝手やってるだけです。詳しいことは聞いてないですけど、何か脅してるらしいですよね? 正気ですか? あんなに素敵な人なのに」

 

 それでも追撃を止めない美優の言葉に、ついには鈴原の手が震えた。

 膝をつき、くずおれて、背中を丸める。

 

「最低だ……俺は……なんてことを……」

 

 そこまできて、ようやくの自覚だった。

 思い返せば否定のしようがない。

 

 正真正銘のクズ。

 男として、人として最低の行いだった。

 

「安心してください。鈴原さん」

 

 ようやく差し伸べられた手。

 顔を上げた鈴原の前にいたのは、一人の天使だった。

 

「実は山本さんにはちょっとしたお使いを頼んでいて、それが終わるまで時間が余ってるんです。ですから」

 

 美優が更生の道を示してくれる。

 この小さな先生が、正しい男のあり方を教えてくれるのだと。

 鈴原は、美優の背後から光が差し込むのを見た。

 

「あなたのデートがいかに不快でつまらないかを、私が教えて差し上げます」

「えっ」

「まず鈴原さんの格好からして、私からすれば即帰宅するレベルですが。今回はそのダサいのでも許して差し上げます」

「アッ……」

「あえて明言しておきますが、山本さんはもう可哀想で見ていられないので別れてくださいね。多少常識を弁えたところで鈴原さんが釣り合う相手ではありませんので」

「…………」

 

 もう洗われたはずの鈴原のハート。

 それにとって、美優の毒舌は消毒液を通り越し、硫酸を塗りたくられるようなキツい痛みがあった。

 

 

 

 

 

 

「──そうして、今に至るわけだ」

「いや更生する要素どこにあったよ!?」

 

 美優らしいやり口ではあった。

 鈴原が反省したのもわかる。

 

 でもそれがどうしてこうも良いベクトルに進んだのかはさっぱりわからなかった。

 

「まあ落ち着け。この話にはエピローグがあってな」

 

 鈴原は喋り通して疲れた喉を揉んで、一つ深呼吸をする。

 

「最後にな、言われたんだよ。美優さんに」

 

 窓の外を眺めて、鈴原は本当に遠い昔の記憶であるかのように感慨に浸っていた。

 

「あなたはどうしようもないくらい人の心がわかっていないけど。その心に持っている情熱は、間違いなくあなたの魅力だって。欠点と同じ数の分、裏返しの美点があるんだよって。俺は、もうな……」

 

 鈴原の目が真っ赤になっていた。

 

 おいおい。

 大丈夫かこいつは。

 

「だから、俺は本当に変わるんだ。奏とは、仲のいい友達くらいになれるように、頑張るよ。そんでいつか、心から愛し合える子を探して、ちゃんと幸せにしてやるんだ」

 

 鈴原は自分の手を見つめて、グッと強く握る。

 そこには言葉通りのアツい想いが込められていた。

 

「だからよ、ソトミチも奏と付き合うつもりなら、そこんとこ気をつけといた方がいいぜ。応援はするけど、どっちにしろお前にもあの約束は守れねえよ」

 

 俺は彼女がいるからもう山本さんと付き合う気はないんだが。

 それを言われてしまうと、聞かざるを得ないな。

 

「約束って、例の付き合う条件ってやつか? なんなんだよそれ」

「俺からは教えられない。お前には一昨日ある程度話しちまったから言える範囲で忠告しとくけどな。俺が弱みとして握れるくらいの秘密なんだよ。かなり深刻な悩みだから、本音を言えばソトミチにもそっとしてやって欲しいくらいだ」

 

 そこまで言われると益々気になる。

 でも、悩みが原因なら掘り返すべきではないか。

 

「わかったよ。俺は鈴原が元気ならそれでいいんだ。昼休み終わるから戻る。じゃあな」

 

 鈴原も山本さんも、変わりはしたけど、良い変化で安心した。

 美優のやつには称賛を通り越して恐怖を覚えたけど。

 なんだかんだで、あいつも世話焼きなのかもな。

 

 放課後は佐知子とデートの約束がある。

 とりあえず俺も、鈴原の二の舞にならないように気をつけよう。

 

 そうしてやってきた、初めての彼女との、初めてのデート。

 美優によって本当に変えられていたのは、俺自身だったのだと。

 

 このときの俺には、知る由もなかった。

 



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女の子の秘密

 

 放課後を迎えて、俺はチャリを飛ばしていた。

 美優も通う学校近くのカフェで佐知子と合流する約束をしている。

 現実の女の子と連絡を取ってデートの約束をするなんて、そんな日が来るなんて思いもしなかった。

 

 出会い方はお世辞にも綺麗とは言えなかったが、そんなものは個人のこだわりだ。

 これからお互いのことを知って仲良くなっていけばいい。

 スタートラインに立つことすら分からなかった俺が、ようやく進むべき道を見つけられたんだから。

 

「お兄さん。お疲れ様です」

 

 さくらんぼの付いたヘアゴムと、片方に纏めたサイドテールは、人を探すにはちょうどよいトレードマークだった。

 俺はチャリを停めて、店の前で手を振る佐知子に手を振って返す。

 

「お疲れ様。悪いな、もう試験期間なのに」

「気にしないでください。塾は行かないとですが、学校のテストは難しくないので」

 

 佐知子のニコッとした笑顔に、俺は店のドアを開けながら、今度は笑顔を返すことができなかった。

 

「あれ? でもこの前、勉強を教えてほしいって言ってなかったか?」

「定期試験は余裕なので大丈夫なんです。教えてほしいのは受験勉強の話で」

 

 店員に案内され、ソファー席に通された俺は、背後の佐知子に気取られないように顔を引きつらせていた。

 

 受験勉強を俺が教えるなんて無理に決まっている。

 いま通ってる学校だって運良く入学できただけなのに。

 

「一応聞いておくけど。どこを受験するつもりなんだ?」

「制服が可愛いので西校を考えてます。ちょっぴり偏差値高めですけど」

 

 うん、無理だ。

 うちと西校じゃ10は偏差値が違う。

 俺からすれば宇宙人の領域だ。

 それをちょっぴりで済ますあたり、佐知子も頭は良いんだろうな。

 保健体育は赤点レベルだけど。

 

「そっか。美優はどこらへんを受けるんだろ」

「多分ですけど、お兄さんのとこだと思いますよ。遠くに行くの嫌みたいですし」

「そんな理由で高校を選んでいいのか……」

「いいんじゃないですかね。美優は自分で勉強できますし。どこに行っても大学は選べると思います」

 

 佐知子はメニュー表を俺との間で開く。

 ソファーに深々と腰を下ろし、前と同じく拳一つ分くらいの隙間を置いて俺たちは横に並んでいた。

 

 チョコとかクリームとか乗ってるカフェラテはやたらと高いな。

 場所代も込みなんだろうけど。

 デートのたびにカフェなんて入ってたらすぐに破産だ。

 どうにか金を使わない遊びを考えなくては。

 

「中学生ってどうやって金を作ってるんだ? 親から小遣いをもらってるだけとは思えないくらいの買い物してる子もいるよな」

 

 主に美優のことなんだけど。

 

「お小遣いですよ、みんな。何万って単位でお金貰ってる子もいるみたいで、羨ましいです……」

 

 佐知子は頬をぷっくりと膨らませる。

 反応見る限りでは佐知子の小遣いは多くはないようだが。

 

 小遣いが数万とか嘘だろ。

 信じられない。

 こちとら昼飯代をケチってせっせと貯めてるぐらいだってのに。

 

「中学生はバイトできないから仕方ないんだろうけどさ。あげ過ぎもどうなんだろ……。遥とか、六桁くらいいってんのかな」

 

 離島までバカンスしに行くくらいだし。

 数万程度じゃ足りないよな。

 

「遥ちゃんですか? あの子はむしろお小遣いはもらってないって聞きましたよ」

 

 佐知子はやってきた店員に注文を指差し説明しながら、俺の顔を覗き込む。

 俺も同じものを注文した。

 

「貰ってない? 美優と二人でよく旅行してるって聞いたけど」

「お金はありますよ。モデルさんなので。かなり稼いでるみたいです」

 

 ああ、モデルか。

 そうかその手があったか。

 

 美優も同じことをしてるのかな。

 そんな気配は全くしなかったけど。

 ファッションモデルなら、コネとかで服を貰えたりしていても不思議ではないか。

 

「モデルって雑誌のモデルとかだよな。そんなに儲かるのか?」

「遥ちゃんがやってるのはかなりニッチな分野らしくて。高額でも売れるから実入りも良いみたいです」

 

 ニッチな分野。

 それを聞いて、俺の頭の中であの日の美優とのやりとりが再生される。

 

 ──クローゼットの中を見たら、縁を切るからね。

 

 脅しにも近い口調で美優に禁止されたこと。

 人に見られたくない服と聞いて、俺はすぐさまコスプレを連想した。

 あるいは、そういうジャンルの稼ぎ口なら、かなりの購買力があるのは頷ける。

 

「……写真とか、持ってたりする?」

 

 遥とツーショットで美優が写ってるかもしれない。

 そんな邪な考えが含まれた発言であったことは認める。

 

 人の秘密を詮索するなんて最低な発想であることはわかってるんだ。

 だがあれ以来、ずっと心のどこかで気になっていた。

 あの生真面目で無愛想な美優が、ゴテゴテの装備とか、露出のキワドイ衣装を身にまとって、カメラを相手にポーズやウインクを決めているなんて。

 

 想像もつかないけど、もしかしたら美優は、ごくごく一部の人の前では馬鹿騒ぎをしたり色香を滲ませたりするのかもしれない。

 

「私は持ってないですね。ネットにも上がってないみたいですし。由佳って知ってますか? 遥ちゃんと美優と三人でいつも仲良くしてるんですけど。その子ならもっと詳しいかもしれません」

 

 佐知子は店員が運んできたカフェモカに口をつけて、熱さに顔を顰めてから息を吹きかける。

 

 由佳か。

 あのイタズラ好きで美優に制裁されてた子だよな。

 

 ってか俺のスマホにはまだその由佳の裸の写真が残ってるわけだけど。

 彼女もできたわけだし、消しておくか。

 

 思えば犯罪的にヤバいことをしていた。

 妹に誘われるがままに中学生の裸をオカズにして抜いてしまったんだ。

 

 そんな男と付き合ってるってことを、佐知子は知らないんだよな。

 なんだか申し訳なくなってきた。

 

 俺はなんとなく自分を罰したくなって、アツアツのままのカフェモカを一気に口に流し込む。

 

「熱ッ──っっつ!!」

「なにやってるんですかもう。私もふーふーしてるじゃないですか」

「す、すまん」

 

 こんな程度で由佳を忘れられるわけもなく。

 俺はこっそり写真を消してしまおうとスマホを取り出す。

 

 そういえば、あのとき由佳が言ってたな。

 美優のスマホのロックを解除して勝手に中身を見たって。

 

 それにあの美優の怒り様。

 

 もしかして、由佳は美優のとんでもない秘密を握っているんじゃないだろうか。

 

「あ、そっか。お兄さんって由佳ちゃんと知り合いなんですよね」

 

 佐知子はパチンと手を叩いて納得顔。

 待て、なぜ君がそれを知っている。

 知り合いといっても顔を合わせた程度だけど。

 

「今日ですね、学校で由佳ちゃんに言われたんですよ。お兄さんに話があるから、いつか会わせてほしいって」

「俺に? なんで?」

「理由は私も聞いたんですけど、教えてくれなくて。お兄さんと会うことは美優にも秘密にしてって言われたので、ロクなことではないと思うんですけど……」

 

 由佳がロクでもない奴だってのは共通認識なんだな。

 あれだけ酷いことをやってれば当然か。

 

「その話が出たのって、やっぱり昨日の彼女募集がきっかけで?」

 

 あれだけ盛大に募集をしたんだ。

 話題になっていないわけがない。

 

「えへへ。その通りです。美優ちゃんが解決しましたって連絡をしてから、否定しなかったのが私だけだったので消去法的にバレてしまって。学校でちょっぴり話題の人になってしまいました」

 

 やっぱりそうだよな。

 それでも、単に彼氏ができたってだけなら、別にバレても問題ないけど。

 

「募集条件って、アレだっただろ? 変なこと言われなかったか?」

 

 セックスを前提に付き合えるのが募集の条件だ。

 美優への性欲で溢れたあのグループは、かなり性に対して奔放な印象だったけど、潜在的にレズの子ばっかりだったし、経験者はむしろ少なかったはずだ。

 そんな彼女たちがセックスありきのお付き合いが成立したと聞けば、パパラッチ化は免れない。

 

「そこは、聞かれちゃいましたけど。さすがに恥ずかしいので、近いうちにと答えました。そうしておけば、いざしたよって白状しても、みんな驚かないかなって」

 

 賢い判断だ。

 第一印象は天然系だったんだけど、こうして話してみるとしっかりしている。

 

「気を遣わせて悪いな」

「謝るようなことじゃないですよ。私もドキドキして楽しいですし」

 

 学校のみんなにバレるかバレないかのヒヤヒヤ感。

 たしかに、青春らしいスリルではあるが……中身が不純だ。

 

「ところで、あのぉ……」

 

 佐知子がスマホを取り出して、そこで固まった。

 どうやらメッセージアプリの俺のアカウントを見ているようだが。

 

「どうかしたのか?」

「あ、いえ! なんでもないです。えへへ」

 

 佐知子はさっとカップを持ち直して顔を隠す。

 小動物っぽいってのはこういうのを指すんだろうな。

 

「ところでのところでなのですが」

 

 佐知子はカップを口につけたままサッと目だけをこちらに向けてくる。

 

「どうした?」

「なんといいますか、アッチの方、といいますか……エッチの方といいますか…………どうするのかなと……」

「あ、ああ! それだよな! うん、えっと……!」

 

 女の子に言わせてどうする。

 今からでも遅くない。

 俺が主導で動かないと。

 

 まずは、ゴムだよな。

 コンビニに売ってるらしいから、それを買うとして。

 

 問題は場所だ。

 こんなおおっぴらなところでやるわけにもいかないし、お互いに自家住まいだから部屋でするわけにもいかないし。

 

 他のやつらはどこでやってるんだ?

 ホテルは使えないし、いや、ビジネスホテルなら……ってどっちにしても高すぎる。

 

「ネットで調べてみるか」

 

 スマホで検索をしてみると、意外にも実家で済ませているカップルも多かった。

 家に彼氏彼女を連れ込むのに抵抗がない人は家でするみたいだな。

 次点でカラオケ、ネットカフェか。

 

 うちは両親は夜まで帰ってこないけど、大抵は美優がいる。

 外出する日を聞けば空き時間に済ませられないこともないか。

 でも、そんな露骨なことしたら絶対に怪しまれる。

 

 いくら目の前でセックスをしたことがあるからって、それが隣の部屋で常態化したら美優も気分はよくないだろう。

 第一に、妹がいる部屋の隣でセックスなんて、俺が嫌だ。

 

「ネットといえば、ネットカフェなら、塾の近くで見た気がします」

「それだと佐知子が知り合いと遭遇する危険があるんじゃ……?」

「塾の裏側の閑静な通りにあるので、大丈夫だと思います。お金もかかりますし、学校でも禁止されてますし……。私たちみたいに、イケナイことする悪い子以外は使いませんよ?」

 

 佐知子は挑発するようにクスクスと笑う。

 

 こんなに小悪魔的な子だったかな。

 きっと本来的な恥じらいを知らない分、一度経験してしまえば抵抗がないんだろう。

 あとは美優に悪いものを吹き込まれたせいでもあるな。

 叱ってやりたい。

 

「じゃあ、そうするか」

 

 俺は佐知子とカフェを出た。

 一度家に帰って着替えてから、バス停で合流してネットカフェへ。

 

 次に行くところも名義上はカフェって、なんだかな。

 誰にも邪魔されない個室があればそれでいいのに。

 世間からしたらエロいことをしてる輩は全員悪なんだろう。

 ラブホだって歓迎されているものじゃないしな。

 

「ただいま」

 

 俺は小声で帰宅を告げながら玄関のドアを開けた。

 家の鍵が開いていたので美優が帰っている。

 これからお友達とエッチなことをしにでかけますっていうのに、美優と鉢合わせるわけにはいかないからな。

 

 と思っていたら、洗面所の扉がガラガラと開かれた。

 

「あっ、お兄ちゃんだ。おかえり」

 

 洗顔直後でお肌のケアをしていた美優は、前髪をカチューシャで留めていた。

 おでこが丸見えでちょっぴり抜けた顔がまた愛くるしい。

 

「早かったね。デートはしなかったの?」

「してたけど。一旦着替えてからにしようってことになって」

「ふーん」

 

 美優は立ち止まってジッと俺を見つめてくる。

 

 なんだろうこの圧は。

 蛇に睨まれたみたいに動けない。

 

「うちですればいいんじゃない?」

「何を!?」

 

 俺は靴を脱ぎながら、つい過剰な反応をしてコケそうになってしまった。

 

「何って。セックス?」

「恥らいもなく言うな……」

 

 今更ではあるけど、仮にも花も恥じらう思春期の女の子だからな。

 もし過去に戻ってやり直せるなら、佐知子と同じくらいの性知識にまで無駄なものを封印してやりたい。

 

「なんでわかるんだよ」

「制服で行けないような場所なら、ネカフェかなって。そんなとこ、カップルはエッチなこと以外の目的で使わないでしょ?」

「偏見が酷すぎる」

 

 もういい。

 こいつはエスパーなんだな。

 もうそれだけが答えでいい。

 

「お兄ちゃんさ、お互いに家に居る日と居ない日を決めない?」

 

 それは美優からの、部屋を使っていいという積極的な提案だった。

 美優からしても、俺には早く佐知子と親密になって妹離れしてほしいもんな。

 

「部活してないから18時まででいいよね。事前の取り決めで、絶対に家に帰らない日を決めるの。予定がなければ普段通りに過ごす。お兄ちゃんは家を使いたければ、別の日に私に家を明け渡す。それだけ」

 

 つまり俺の都合で家を使わせてもらって、それと同じ分だけ美優に家を使わせるってことか。

 美優も前みたいに友達を呼んであれこれやりたいだろうし。

 悪い提案ではない。

 

「でも、昨日は隣の部屋で兄がしてたんだって思うの、嫌じゃないか?」

「私はこれから部屋に戻って、今ごろお兄ちゃんは佐知子とネカフェでセックスしてるんだろうなって思うわけだけど」

「わかったわかった。その取り決めにしよう。ありがたく受けさせてもらう」

 

 今日はもう美優も家に帰って来てるし、佐知子にはネカフェに行くと伝えてある。

 どんなところなのかラブホ以上に想像できないところだから、心配は拭いきれないけど、こんな流れになってしまったからにはやるしかない。

 

 個室って書いてあったし、多分、大丈夫だよな。

 



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それはもはや呪いに近いもの

 

「二名様のご利用ですね。では、代表者様のお名前とご住所の記入をお願いいたします」

 

 ネットカフェの受付で、カップルシートの利用を希望した俺と佐知子。

 

 入り口だけは良い雰囲気の作りになっていて、ホテルのフロントをカジュアルにしたような、白黒が基調の落ち着いた空間になっている。

 

 俺は学生証を取り出し、備え付けのペンを取って受付用紙に指定の情報を記入する。

 個人情報をこんな簡単に書いてしまっていいものか。

 

 みんなが使っているという以外の理由を見つけられないまま、俺は不安を押し殺してペンを走らせた。

 

 30分の利用料金が一人あたり210円。

 漫画が読み放題でドリンクバー付きと聞けば、安いようにも感じるけど。

 繰り返し気軽に使えるほどではないよな。

 

 あんまり来すぎると店員に顔を覚えられそうだし、美優に部屋を使っていいと言ってもらえてよかった。

 

 今日は社会見学と割り切ろう。

 

 やることは、不純異性交友だけど。

 

「ありがとうございます。では、当店のご利用方法について説明させていただきます」

 

 エプロン姿の店員が、ポートフォリオを捲りながら設備の使い方と利用規約を説明する。

 その中には当然のように淫らな行為を禁止する文言が書かれていた。

 

 見つかったら即退室、あるいは罰金から通報まであるのか。

 

 やはりというか厳しいな。

 

 佐知子は終始無言のまま。

 

 利用中を示す札を渡されて、店員に部屋の場所を地図で案内される。

 

 なぜ鍵ではなく札だったのか。

 

 それを理解する頃には、俺は自らの過ちに多大なる後悔をしていた。

 

「これって……」

 

 佐知子が小さく声を漏らす。

 

 そこにあったのは、隣と板一枚だけで区切られた簡素な部屋だけだった。

 扉の下部には外から内部を確認するための小さな隙間があり、屈めば中で何をしているのかを覗けてしまう。

 

 なにより、壁が薄かった。

 

 鼻をかむ音も、ヘッドホンを置く音も、すぐ隣の部屋のものなら簡単に聞こえてしまう。

 

 不用意に動くとすぐに音が出てしまうがために、全員が努めて静かにしている。

 

 カップルシートは一帯でまとまっているものの、一組の男女がたまにおしゃべりするくらいで他は無人と変わらないように静まり返っていた。

 

「画像では完全に個室っぽかったんだけどな」

「もしかして、お店を間違えてました?」

 

 靴を脱いで個室に上がると、俺はスマホを取り出して店の名前をネット検索した。

 その結果わかったのは、似たような名前のお店に誤って来てしまったこと。

 

 佐知子が自分が通っている塾の近くだと発言したことから、そこが当初予定していた場所だと思い込んでいたが、実のところ完全個室のネットカフェは駅の反対側にあったらしい。

 

「すみません、私のせいで……」

「いや、普通に気づけるミスだったし。俺が注意してればよかった。ごめんな」

 

 さすがにこんな場所でエロいことはできないか。

 初めて来た場所ってだけでもテンションは上がるし、漫画もドリンクバーも揃ってるから一時間くらいはゆっくりしていこう。

 

 部屋はビニール製のシートで黒に統一されている。

 雑魚寝するにはちょうどいい場所で、パソコンのある足場だけが床を取り外せるようになっている。

 防音効果があればもっとくつろげるんだけどな。

 だから完全防音の個室は需要が高いのか。

 

 せっかくのカップルシートなんだし、おしゃべりくらいは気兼ねなくできるような場所であってほしかったな。

 小声でしか話せないのは、それだけで悪いことをしているようで気が咎める。

 

 佐知子は部屋に入ってすぐに横になって、隅っこに畳まれていたブランケットを手に取った。

 

 せっかく漫画もドリンクもあるのに寝てしまうのか。

 

「カップルシートですから、カップルらしいことしませんか?」

 

 佐知子は声を抑えて、寝転んだ体のすぐ横をぽんぽんする。

 

 一緒に寝ようってことか。

 

 それもいいかもな。

 

 佐知子には家が使えることはまだ言ってない。

 せっかく二人で寝られる場所を使いたいんだろう。

 

 俺も荷物を端に置いて、佐知子と同じ向きで横になった。

 

「違います違います。座ってください、ここに」

 

 俺が寝てすぐ、佐知子は俺に起きるように促してきた。

 

 添い寝ではなく膝枕がご所望か。

 

「こういうのは男が女にしてもらうものじゃないのか?」

「お兄さんが何も言わないのがいけないんですよ」

 

 佐知子は髪留めを取って俺の膝に頭を乗せる。

 

 そして、腰に手を回して、ギュッと顔を押し付けてきた。

 

 まだ恋人らしい関係とは言えない俺たちだが、佐知子の方にはそれなりに恋人らしさに対する憧れがあったようだ。

 

 俺は佐知子の髪を撫でてやった。

 

 佐知子が恋人らしい触れ合いに憧れるのも当然だ。

 彼氏が欲しいという理由で俺に応募をかけてきたわけだし。

 

 お腹にグリグリと頭を擦りつけてくる佐知子に、俺は片方の手は撫で続けたまま、空いた腕でギュッと抱きしめた。

 

 昨今の女の子は、条件さえ合えば惚れ込まなくても男と付き合うのか、佐知子からすれば俺はいい男なのか、それはわからない。

 でもこれだけ好意的に接してもらえるのは、悪い気はしないよな。

 

 膝もとに触れる人間の温もり。

 

 一人の少女の温度。

 

 心地いい。

 

 というよりも、気持ちいい。

 

「むっ。お兄さん。これはなんですか」

 

 ツンツンと指先でなじられる、テントの張った俺の股間部の先。

 

 いや、これはしかたない。

 もとより女体に触れることに慣れていない俺だ。

 そんなに柔らかほっぺをスリスリされたら勃ってしまう。

 

「すまん」

「もう。こういうことだったんですね」

 

 佐知子は何かを悟ってブランケットを引き上げる。

 

 こういうことっていうのは、美優がお付き合いにセックスを前提にしたことについてだろうか。

 俺が他の人より性欲が強いのは認めるけど、これで毎日やりたくてしょうがない人みたいに思われるのは心外だ。

 

「声を出しちゃダメですよ」

 

 佐知子はブランケットを被り、俺の下半身ごと頭を覆った。

 暗闇となったその中で、もぞもぞとズボンに触れる佐知子の指。

 間違いなくのチャックを開けられている。

 

 まさか、ここでするのか。

 たしかに、ブランケットを被ってればもしものときに備えられるし、咥える音も抑えられるけど。

 壁は天井まで伸び切っていないし、店員が巡回してないとも限らない。

 そんな状態なのに、俺の肉棒は硬くなっている。

 

 チャックを下ろされて、パンツの前ボタンを開けられるまではすぐだった。

 中からガチガチになった勃起が取り出されて、すぐにニュルリとしたぬめりが亀頭を包む。

 佐知子にとってこれは処理でしかないんだろう。

 そういう行為としてしか佐知子は知識を持っていない。

 

 夏を迎えて蒸し暑くなってきたこの時期に、パンツの中はそれなりのニオイがするはず。

 それも気にせずに佐知子は舐めてくれている。

 

 フェラをされてるんだ、俺は。

 こんな公共の場と言って差し支えない場所で。

 一種の露出プレイにも等しい。

 そんな状況で興奮できるなんて、特殊性癖はシスコンだけじゃなかったってことか。

 

 ブランケットのおかげで、佐知子がどんな顔で俺の肉棒を咥えているのかはわからない。

 音も遮断されて聞こえない。

 

 静けさの中で俺の秘部だけが快感に浸っている。

 

 女の子に舐められているんだ。

 

 心臓がバクバク鳴って、緊張を通り越してハイになってきた。

 

 だが、それでも、なにか物足りなかった。

 昨日フェラをしてもらったときにはすぐ射精してしまったのに。

 慣れ、とは違うようだった。

 俺が我慢強くなったというよりも、射精に至るための何かが欠けている感じ。

 

 今の俺に足りないもの。

 それは視覚情報だ。

 あのときは、美優にメス顔を教え込まれた佐知子が、懸命に俺の肉棒を舐める姿を眺めることができた。

 だが、いまは温かい粘性が亀頭部を刺激しているだけ。

 

 俺はブランケットを刷り上げることにより露わになった、佐知子のふとももに手を乗せる。

 恋人同士なんだから、生足に触っても犯罪にはならないよな。

 触れた瞬間に佐知子がビクついた気がしたが、黙ってフェラを続けているあたり、合意してくれたとみていいだろう。

 

 俺は内腿のスカートに覆われていた部分にまで手を忍びこませる。

 ふともも、女子の生足、すべすべで白く輝く肌。

 ふにふにのこの肉感、堪らない。

 

 スカートの中を検める興奮は、すぐに股間へと伝わっていった。

 自分の拍動が聞こえるくらいに血脈が膨らんでいる。

 

 もっと視覚情報が欲しいけど、俺の秘部だけブランケットで隠しておいて、佐知子の大事な部分を晒すわけにはいかない。

 

 俺はスカートが捲れないように、佐知子の股間部へと触れる。

 指先が感じ取る刺繍つきのパンツの形。

 チラと見ると、水色が可愛らしい爽やかな下着を履いていた。

 

 下着売り場や妹の洗濯物で散々見てきた女の子の下着だが、履いてる状態ってのは別格だ。

 やはりパンツは穿かれなければ意味がない。

 

 そこから、両脚に挟まれてシワになっている真ん中の部分へと指を運ぶ。

 また佐知子はビクッと反応して、しかし、そこでも佐知子は何も言ってこなかった。

 

 その代わりにというか、ジュブジュブと肉棒にむしゃぶりつく勢いが激しくなる。

 

 佐知子も興奮しているのか。

 

 それを確かめるべく、俺は外側からパンツのクロッチに触れた。

 濡れて、いる、ような気もする。

 だがこれでは汗と判断がつかない。

 

 愛液らしいぬるぬるは感じないし、直接触れてみるしかない。

 ここまで手を侵入させてるんだ。

 佐知子も直に刺激されることくらい理解しているだろう。

 

 パンツをよけて指を忍ばせる。

 

 まだ毛も生え揃っていないその割れ目に、触れた瞬間は、肌の摩擦を感じただけで、佐知子は全くその気になっていないのかと不安になった。

 

 だが、その割れ目に指を沈めてみると。

 

「うわっ……まじ……か……」

 

 薄膜を破られた卵黄のように、指に絡みついてくる佐知子の愛液。

 興奮と同時に、そこには感動があった。

 

 本当に、濡れるんだ。

 

 女の子の膣内がぐちょぐちょになるなんて、言葉責めのための口上でしかないと思っていたのに。

 それはファンタジーなんかじゃなくて、確かにそこに存在した。

 男の、俺の、この硬くなった肉棒を受け入れるために、佐知子の秘裂は粘性をまとっていた。

 

 この指よりも先に、俺のペニスを貫通させた佐知子の肉壷。

 初めて触れるその場所が、佐知子にとっての性感帯にきちんとなっているのか。

 美優がイジっていたときには、気が変になったくらい激しく乱れていたけど、どこをどう触ればアレほど女を狂わせられるんだ。

 

 美優はすごかったんだと改めて思い知らされる。

 肉壁をグリグリとイジって、肉棒を咥える佐知子をいたずらにイジメてみるが、ストロークが変わることもなくフィードバックが得られない。

 

 あんまり強くすると痛いらしいけど。

 逆に弱すぎるのか。

 刺激する場所が悪いのか。

 

 懸命になって、その集中力に自分で気づいたところで、ふと我に返る。

 俺は今、ブランケットに隠れたところで佐知子にフェラチオをしてもらってるんだ。

 なのにどうしてこうも平然としていられる?

 

 つい数日前まであれほど憧れていた性行為を、俺は何事もなく受け流してしまっていた。

 射精感も湧いてこない。

 

 早漏じゃなかったのは喜ばしいことだが、これだと一生懸命にやってもらっている佐知子に失礼だ。

 

 俺は佐知子の肉壁をいじるのをやめて、口による奉仕を受けることに集中した。

 竿の裏側から、玉も舐められるだけ舌を入れて、そのたびに、声を上げたくなるほど快感が走る。

 女の子の口への射精は、美優に何度も相手をしてもらって、それをはっきりと好きなものだと俺は自覚している。

 

 だからフェラチオからの口内射精は、俺にとって最大の快楽であるはず。

 

 なのにどうして、こうも発射のスイッチが入らないのか。

 

 佐知子が下手だなんてことは考えにくい。

 第一に、これまでにないほど、俺の肉棒は佐知子の奉仕に歓喜している。

 

 問題があるとすれば、俺の方か。

 

「んっ……ちゅぶっ……ふあぁ……お兄さん、どう、ですか?」

「気持ちいいよ。すごく。ただ、なんというか、出すのはまだ難しそうで」

「うぅ……そうですか……」

 

 案の定佐知子を落ち込ませてしまった。

 女の子の自信を失わせるのは男として最悪のこと。

 どうにか射精して、佐知子を安心させてあげたい。

 

「場所が悪いのかも」

「緊張、ですか?」

「たぶん」

 

 要因としてなくはない。

 

 でも、佐知子のおかげでエロい気分にはなっている。

 

 理性は徐々に崩れかけているんだ。

 それでも射精できないのは、別にもっと大きな問題がある。

 

「口じゃないほうが、いいかも」

「わかりました。でしたら、仰向けに寝てもらってもいいですか?」

 

 俺が佐知子の指示通りに仰向けになると、佐知子は俺に覆いかぶさって、ブランケットをお尻から被せる。

 

 やや変則的な騎乗位だった。

 

 俺は鞄からコンビニで買ってきたコンドームを取り出して、肉棒へと被せる。

 

 それと並行して佐知子がパンツを脱ぐと、ブランケットの中から、先ほどチラ見した水色のパンツが床に投げられた。

 

 これは傍からみたら、どうなんだろう。

 ただカップルが寝ているだけに見えるんだろうか。

 やや言い訳が苦しい気がするが、もうこうなったら止められない。

 

 結局こんな壁の薄いところでセックスすることになってしまったけど、今はそんな背徳感すら興奮材料にしてしまいたい。

 

「んっ……!」

 

 隠されたお互いの秘部が連結され、わずかに佐知子の声が漏れる。

 

 人生で二度目の挿入。

 

 対面座位で挿れていたときより、安定して根元まで包み込んでもらえる。

 

「はぁ……くっ……!」

 

 まずい。

 

 声を出しちゃいけないとわかっているのに、どうしても漏れる。

 

 男である俺は、女の佐知子よりも快感は薄いはずなのに。

 

「あぁ……さち、こ……きもちいい……」

「んあっ……んんっ…………私も、です……」

 

 きっとすぐ傍にいないと聞こえない音量だ。

 同じ個室にいても、近づかなければわからないぐらいの声。

 ましてや壁一枚の先まで届くはずがない。

 

 そう思うと、もう止められなかった。

 

 子宮に届くくらい、佐知子の奥まで思い切り肉棒を突き立てる。

 佐知子の腰を両手で掴んで、亀頭で子宮口をこじ開けるようにぐりぐり当てていく。

 

「あんっ……!」

 

 驚きと快感で佐知子の喘ぎ声が漏れる。

 

 やや通る声を発してしまった佐知子は、羞恥と恐怖心から俺と密着して、俺の首を音を防ぐ壁代わりにする。

 

 長い黒髪が広がって、顔がすぐ横で交差した。

 小さかった喘ぎ声も、この体勢だとはっきりと聞こえる。

 顔が見えず、佐知子の色っぽい声だけが、俺の耳に届く状況。

 

「はぁ……おにぃ……さん……!」

「────っ!?」

 

 ドクン、と俺の心臓が跳ね上がった。

 

 耳元で漏れた、その佐知子の嬌声に。

 

 途端にこみ上げてくる射精感。

 

 抑えなければと思うその一方で、佐知子は自ら腰を動かし、呼吸と共に抜ける嬌声を俺の耳に響かせてくる。

 

 それはまずい。

 

 やめてくれ。

 

 そんな状態で肉棒を擦り上げられたら。

 

 俺はまた、美優をオカズにして射精してしまう。

 

「佐知子……ごめん……もう…………!」

「イッて、ください……お兄さん……イッて……!!」

 

 迸るものを、俺はついに止めることはできなかった。

 長い黒髪の少女の、美優にそっくりの喘ぎ声を聞いて。

 俺は脳裏に美優の裸を浮かべながら射精をしてしまったのだ。

 

 最高の射精感の後に、最悪の罪悪感が俺を苛んだ。

 

 あれだけ懸命に奉仕してもらって、こんな誰が聞いてるともわからない場所で挿入までさせてもらって。

 最後の最後に、考えていたのは実の妹のこと。

 

 あれだけオカズにするなと言われたのに。

 

 そのために、彼女となる友達まで紹介してもらったのに。

 

 こんな体たらくでは、美優に対しても申し訳が立たない。

 

「できましたね、お兄さん」

 

 そんな事情を知らない佐知子は、眩しい笑顔を俺に向けていた。

 

 俺は軽く「ありがとう」とだけ返して、ゴムを取り出して口を結んだ。

 

 たっぷりと白い液体が包まれている。

 

 これは誰の、何のために出された精子なんだろうか。

 

 考えるのが嫌になって、俺は大量のティッシュでくるんでそれをゴミ箱に捨てた。

 

 お掃除フェラは、ゴム臭いのと、佐知子が精液の味が好きじゃないことから控えてもらった。

 お手拭きを開けて、数枚を使って肉棒を拭く。

 

 それもまた大量のティッシュで覆い隠して、もうそんなティッシュの山自体が不自然なのだが、店員も客のゴミ箱なんて掘り返したくないだろうと思って押し込んでやった。

 

 それから、ただ添い寝するだけの静かな時間を過ごして、俺たちは個室を出た。

 

 靴を履いて、レジへ向かう。

 

「おっ、美優のお兄さんだ」

 

 店を出る途中、出会ったのは佐知子と同じくらいの歳の少女だった。

 

 その茶髪の二つ結びは、間違いない。

 

 俺がスマホにエロ画像を入れていた、その本人だ。

 

「由佳……ちゃんか。奇遇だな、こんなところで」

「ほんと、奇遇ですねぇ、お兄さん。むふふ」

 

 由佳はむっちりと頬を膨らませて目を弓なりにする。

 

 エロとは違う意味で、ここまでイヤラシイ顔を俺は見たことがない。

 

 佐知子のやつは、先に行ったきり、戻ってこないな。

 

 由佳のことは気づいているのかもしれないが、だからこそ気まずくならないために遠ざかっているのか。

 

「ところでお兄さん、ちょっと私のお願い、聞いてもらえませんか?」

 

 由佳は手の甲を壁にしてヒソヒソと話しかけてくる。

 

「なんだよ急に」

 

 俺は由佳のことを何度か話題に上げてもらったから、親しみがないわけでもないけど。

 実際にはリビングで数秒顔を合わせた程度だし。

 そんな相手にお願いなんて、するか普通。

 

「ダメ、ですか?」

「まず要件を言ってくれ。それから判断する」

 

 断るだろうけど。

 

「言ってもいいですけどー。どうせオーケーすることになるんですから、空気を読んで合わせてくださいよ」

「そういう面倒なのが一番嫌なんだよ。延長になると金かかるから。からかってるだけならもう行くぞ」

「えー。話くらい、聞いておいた方がいいと思いますけど?」

 

 急に現れてなんのつもりかは知らないが、なんとなく美優と佐知子がロクでもないと言った理由がわかった。

 

 こいつはロクでもない女だ。

 

「いいんですか? お兄さん…………こんな人の溜まり場で、中学生とエッチなことしていた、やらしいやらしいお、に、い、さ、ん」

 

 ゾクッと俺の背筋に冷たいものが走る。

 

 まさか、こいつ。

 

 今までのことを。

 

「こんなところで、偶然バッタリだなんて本気で思ってたんですか? むふふ。そんなわけないじゃないですか」

 

 スマホを片手に体を揺らしながら嘲笑う由佳。

 

 そいつは脅しの道具か。

 

 はたまたブラフか。

 

 最悪、動画を撮られていたとしても、決定的な何かは映っていないはず。

 事の直後は周囲にも気を配っていた。

 ブランケットをかけてもぞもぞやっていたのが怪しかろうが、激しい動きはしていなかったんだ。

 恋人同士の軽いイチャつきで誤魔化せる。

 

「なに言ってんだか。もう帰らせてもらうからな」

「ふーん。そういう態度なんですか」

 

 由佳は大股歩きで、一歩、二歩と進み、俺と佐知子が使っていた個室の前まで移動した。

 

 やや広く開いた距離に、由佳は手をメガホン代わりに添えて、小声ながらもはっきりとした口を動かす。

 

「受付で名前と住所、書きましたよね? それと、学生証もコピーされてるし。悪いことはできませんよ?」

「……動画を撮ったんなら、見せて脅したほうが早いぞ」

 

 どうせ撮っていやしない。

 

 こいつの根拠はそこじゃない。

 

『セックスを前提として付き合う』という条件を呑んだ佐知子が一緒にいたから、していたのだろうと決めてかかっているだけだ。

 

「動画は、ないですけど……」

 

 それみたことか。

 

 俺は弾丸の入っていない銃口なんかに惑わされたりしない。

 

「店員さんに、ゴミ箱の中身を確認させちゃいますよ? 帰った後ならお店も気にしないでしょうけど、実質的に現場が押さえられたら話は別ですよね。淫らな行為は禁止って規約も説明されているはずですし、学校に連絡がいって二人とも停学なんてことも……ねぇ?」

 

 クソッ……こいつ、バカのくせに悪巧みにだけ頭が働くタイプか。

 

 どうする。

 

 ここまでするくらいだ。

 

 言いなりになったら余計に立場は悪くなるはず。

 

 どうすればいい。

 

 考えるんだ、俺。

 

「……なーんて、しませんけど。ほんとにちょっとお話したいだけなんですよ。もっと気楽にいきません?」

 

 由佳はへにゃっとした笑顔で場を和ませてくる。

 

 ここまで含めて作戦とも考えられるが。

 

 よくよく考えれば、お願い聞いてくださいって言われただけだし。

 

 前情報だけで決めつけて争っても不毛なだけか。

 

「話を聞くだけだからな」

「やりぃ! お兄さん、話わかるネ! じゃ、連絡先は佐知子から聞いとくから、詳細は明日送るね、ばいばーい!」

 

 それだけ言って、由佳は自分の部屋に帰ってしまった。

 

 はあ。

 

 これは。

 

 きっとロクでもないことに巻き込まれたな。

 



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向日葵よりも眩しい笑顔

 

「お兄さーん! こっちこっち!」

 

 ファミレスで手を振って俺を招く、茶髪ツインテの女子学生が一人。

 

 あの遠慮の無さは天性のものか。

 

 周囲の客もほとんど気を向けることもなく、日本人の自意識過剰を見事に削ぎ落とした図太い精神がそこにはあった。

 

 見習いたい部分でもあるが、俺には到底辿り着けそうもない境地だ。

 

「話だけな、聞きに来たぞ」

 

 俺は佐知子に断りを入れて由佳に会いに来ていた。

 火曜日は佐知子も塾があるから、どちらにしてもデートはできなかったし。

 

 店員が水を置きに来てから俺はフライドポテト一つだけを頼んでソファーに腰掛けた。

 

「ケチですね」

「奢らないからな」

「ケチな上にケチ……」

 

 歳上としてのプライドなんて、あいにく俺は持ち合わせていない。

 

 美優が居たら少しは見栄を張れと叱られるかもしれないけど。

 

 彼女でもない相手に金を出してやる方が俺には不誠実に思えるね。

 

「それで、話ってなんだよ」

「簡単なことですよ。美優の弱点を教えてください」

「帰るぞ」

 

 こいつ、反省したんじゃなかったのか。

 

 あれだけこっぴどくやられて折れない心は見上げたもんだが、美優も迷惑してるだろうし。

 相手が嫌がるいたずらはイジメと同じだ。

 思春期のこの子らに理解しろというのは難しいかもしれないけど。

 相手のことを想えば自然とやらなくなるもんだろ。

 

「そんなにツンケンしなくてもいいじゃないですか」

「大切な妹に悪さするやつに協力なんてできるかよ」

「ぐぅ……こっちにだって事情があるんですよ……」

 

 由佳は悔しさを滲ませてグイッと水を飲む。

 

「どんな事情だ」

 

 後に続いて俺も水を飲む。

 人間は人と相対すると、相手と同じ行動をついしてしまうのだとか。

 

 由佳はコップを置いて黙りこくる。

 

 俺も似たような体勢で口を噤んでいた。

 

 それから店員がフライドポテトを持ってきて、喧嘩中のカップルだと思われたのか、早足で去っていくその後ろ姿を眺めていると、由佳がようやく口を開いた。

 

「……お兄さんは、美優が笑ったところ、見たことありますか?」

 

 そのときの由佳の顔は、どこか桜の散るような儚い表情をしていた。

 

 今までのカラッとした明るい笑顔とは違う。

 どこか湿っぽく、後ろ暗さすら感じさせるような哀愁が漂っている。

 

「なんだよ急に」

 

 由佳の質問に対する返答に、俺は迷っていた。

 

 そういえば美優が笑ったのを最後に見たのって、いつだったか。

 俺も美優と話すようになったのは最近のことだからな。

 生まれてからずっと気まずい関係が続いてたわけだし。

 

 ……なんで俺は、美優と距離を置いてたんだっけ。

 

 俺がリアルの女に嫌気が差してエロゲにハマり込んだのは、中学のときにクラスの女子に弄ばれたのが原因だけど。

 

 その前から、美優との会話はなかったように思う。

 お互いに自分のことを話さない性格だから自然とそうなった。

 生まれつき感情が薄いから。

 

 ……本当にそうか?

 

「私が美優と出会ったのは、小学四年生のときです。その頃から、美優はとても真面目で……。笑わないっていうより、心を開かないんです! もう何年も友達なんですよ!? ヒドくないですか!?」

「前科がありすぎてなんとも」

 

 とはいえ、言い分が全くわからないでもない。

 長年付き合いのある友人がいつまでも無関心そうにしていたら、良い気はしないものだ。

 

 俺は外での美優を知らないけど。

 本当に家にいる時と変わらないんだな。

 

 でも、なんだろう。

 それは違うと、俺の頭の中にあるもう一つの意識が叫んでいる。

 

 俺は目を瞑って、記憶を奥へ奥へと探ってみる。

 

 昔のことを考えるのは久しぶりだった。

 あまり良い思い出が無いと決め込んでいたからだ。

 俺には中学より前の記憶はほとんどない。

 別段障害があるわけでもなく、事故で頭を打ったわけでもなく、ただ何もなかったからこそ記憶に残らなかった。

 

 昔の美優を思い出そうとしても、今の無表情な印象が強すぎて、遡るのが難しい。

 

 空箱に手を突っ込んでいるかのようで埒があかず、俺は昔の美優を思い出す代わりに、小さい頃の俺がどんな風に過ごしていたのかを考え始めた。

 

 その瞬間。

 

 脳の中枢まで伸ばしていた意識が目の奥で引っかかって、それはいきなり瞼の裏に映し出された。

 

 ドレスワンピースを揺らし、満面の笑みを向けてくる少女が一人。

 

 まだ幼かった頃の影が機嫌よく踊っている。

 

 いた。

 

 いたんだ。

 

 明るく元気だった美優は、確かに記憶の彼方に存在した。

 

 そうか。

 

 あのときだ。

 

 美優が母親と一緒に学校から帰ってきた、あの日から。

 

 美優は笑顔を見せることがなくなったんだ。

 

 

 

 

 

 美優が小学校に入学する数日前のことだ。

 

 美優の新しい門出の記念にと、家族でプレゼントを買いに、デパートへ出かけたことがあった。

 

 幼稚園でお遊戯会をやっていたときから、自分でビニール袋などを工作して衣装を作るくらい、美優には服へのこだわりがあって。

 

 散々悩んでお店を連れまわされた挙句、美優が選んだのはショーウィンドウに飾ってあるお高めのドレスワンピースだった。

 

 向日葵色が眩しく輝いて、控えめに刺繍された花の模様とフリルが、美優の心を掴んで離さなかったらしい。

 

「ママ! これがいい!」

「あら~ステキなワンピースねぇ。でも、ちょっと高すぎるかな。さっきのお店で見た同じ色のスカートじゃダメかな?」

「やだ! これがいい!」

 

 この頃の美優は活きがよかった。

 

 歳相応にワガママを言って、願いが叶わなければ地団駄を踏む。

 

 ブーっと頬を膨らませる娘の愛らしさに、両親もタジタジだった。

 

「そうね、これ可愛いもんね」

「うん。可愛い」

「でもこーちゃんも五千円のゲームだったんだよ。だから、二万円はちょっと、ね?」

 

 母親は俺のことをこーちゃんと呼んだ。

 それは昔も今も変わらない。

 

 俺の入学祝いはゲームソフト。

 

 父親が家で据え置きタイプのテレビゲームをやっていたため、俺は小学生のときからゲームに慣れ親しんでいた。

 

「……むぅ。これがいい」

「あっ、ほらみーちゃん。あっちにも綺麗なワンピースがあるよ」

「ヤダァァァアアアアア!!」

 

 人目も憚らずに叫ぶ。

 

 そういう時期が美優にもあった。

 

「誕生日なくてもいいから買って!!」

「そう? でもどうせ誕生日になったら欲しくなっちゃうでしょ?」

「ならない!! ゼッタイにならないの!!」

「うーん……それでも二万円は……」

「じゃあおにーちゃんの誕生日も無くていいからぁ!!」

 

 そう、美優はとんでもない妹だった。

 

 我が家の小さな暴君である。

 

 もちろん、俺もまだ幼かったから、これには大いに反発した。

 

「えー! やだよ! なんでオレが!」

「おにーちゃんゲームやるとゲームしかしないじゃん!」

「悪いかよ!」

「バーカ!!」

 

 当時はゲーム脳という言葉が流行していて、ゲームを忌避する風潮がテレビ番組でも作られていた。

 

 そんな時期だったから、美優は俺がゲームをやることをことあるごとに否定してきた。

 

 そんなとき、決まって両親は美優の味方をした。

 

 とりわけ親父の可愛がりは理不尽だった。

 

「お前もお兄ちゃんなんだから。こんなときこそ男を見せてやると、カッコいいぞ」

「こんなやつにカッコいいとかどうでもいい……」

「まあそう言うな。このワンピースを着せてやったら、美優はお前に感謝する。可愛い姿をいっぱい見せてくれるんだ」

「だからなに!」

 

 娘の可愛い姿を見たいのは親の方だろうと、俺は幼心に毒づいていた。

 

 子供に物を与え過ぎないように母親から注意されていたため、体の良い弁明に俺を利用したいだけなのだと、当時の俺はあまり父親を信用していなかった。

 

「ゲームならお友達もたくさん持ってるだろ? でもこんなに可愛い女の子に喜ばれるなんて、滅多にないことだ」

「友達の方が大事だもん」

 

 美優の容姿が優れていることは、この頃の俺にもわかっていた。

 親戚にもご近所にも、幼稚園の友達からも、美優はいつだって甘やかされて。

 俺が優しくしたところで、数ある中のたった一人だ。

 

 プレゼントだって結局は親が金を出す。

 どうせ美優もすぐに俺への感謝なんて忘れてしまうだろう。

 美優は頭も顔も良く生まれた、ズルい女なんだから。

 

 むしろ俺が優しくされるべきなんじゃないかと。

 憎しみすら覚えていた俺は、美優を喜ばせようなんて気にはならなかった。

 

 ガラス越しに飾られた、金色にすら見紛うほど綺麗なドレスワンピース。

 

 それを映す美優の瞳もまた、星をまぶしたように煌めいていた。

 

「おにーちゃん」

 

 しょんぼりした顔で、美優は俺の服を引っ張って。

 

「あの服着たいなぁ……」

 

 子供ながらに、長く麗しいまつ毛に色気を乗せて、俺の哀れみを仰いできた。

 

 ドキドキという言葉が表す感覚を、俺はこのとき初めて知った。

 

 走ってもいないのに勝手に鼓動が早くなって。

 

 その違和感は、子供だった俺には恐怖でしなかった。

 

「な、なんだよ。バカって言ったくせに」

 

 そのドキドキは、恋の兆しなんかではなかった。

 女の子が男に抱かせる、庇護欲からくるもの。

 ここで譲ってやらないと可哀想だ。

 

 兄なら妹に優しくしなければ。

 そんな内なる自分が気に入らなくて、俺は精一杯に否定した。

 

「他のやつ、買えよ」

 

 俺が冷たく突き放すと、美優は真一門に口を結んで。

 

 それからは、一度もワンピースを視界に入れることもなく、母親の元へ戻っていった。

 

「いいの?」

「うん。他のにする」

 

 母親に手を引かれて、美優の背中が遠ざかっていく。

 

 俺は親父と二人で取り残されて、ただただムシャクシャしていた。

 そもそも、人をダシにしたり悪口を言うようなやつに、優しくしてやれる訳がない。

 それくらい、美優だってわかっていたはずなのに。

 

 どうしてあんなわがままを言ったのか。

 

 どうせ欲から出た身勝手だ。

 少しは反省すればいい。

 そうやって美優を責めて押さえつけておかないと、溢れてしまいそうな感情が、俺の中で湧き上がっていた。

 

「やれやれ、頑固だな。まあそういうのも勇気だ。母さんに似てて俺は嫌いじゃない。なんてな、ははっ」

 

 親父は美優たちとは合流しようとはせず、入学祝いが決まるまではそれぞれデパートを歩き回ることにした。

 

 振り返った先で、別のお店に入っていく美優。

 

 下を向いて歩くその姿は、いつもよりずっとずっと小さいものだった。

 

 

 

 

 

 翌日の朝、俺は部屋でネットサーフィンをしていた。

 

 親父がパソコンを買い換えたときに古い方を与えられたのだ。

 

 小学生にパソコンを使わせるのがいいことだったのかはわからないが、そのとき俺に渡されたパソコンには有害サイトへのブロックもされていなくて、今にしてみればとんでもないリテラシーの低さだったように思う。

 

「こーんこん! おーにーいちゃん!」

 

 上機嫌なノックが聞こえて、俺はドアに振り返った。

 

 母親が俺を身籠ってすぐに家を買ったため、俺と美優には最初からそれぞれの部屋が与えられていた。

 

「えへへー。入るよー」

 

 ひょこっと顔を出した美優は、長い髪を編み込んだハーフアップにしていた。

 

 いじらしく両手を後ろに組んで、体を揺らしながら部屋に入ってくる。

 

「むふふふ。どう? おにーちゃん」

 

 手を広げて、一回転。

 

 フリルがいっぱいに広がり、その向日葵色のドレスワンピースは美優に着られることを喜んでいるかのように活き活きとしていた。

 

「買ってくれてありがとっ! 大切にするからね!」

 

 目尻と頬をいっぱいに緩めて、太陽にも負けないくらい眩しく笑う。

 

 見ているこっちまで幸せになるほどの笑顔だった。

 

「あ、あぁ、うん」

 

 うまく言葉が出なくて、ようやく捻り出した声がそれだった。

 

 俺はあれから、父親に誕生日プレゼントを返上すると言って、美優にワンピースを買ってやるよう頼んでいた。

 

 母親は呆れていたが、俺に考え直せとは言ってこなかった。

 

「これね、自分でやったの! まだパパとママにも見せてないんだよー。ねーねーどうかなー?」

 

 顔を左右に振って、自分でヘアメイクしたらしい頭を見せつけてくる。

 髪が揺れるたびにチラりと露わになる首元の白さが色っぽかった。

 

 俺は呆気にとられて、鯉みたいに情けなく口をパクパクさせていることしかできなかった。

 

「むぅ。かわいいならかわいいって言いなさいよ」

 

 そうしているうちに、あまりに反応の薄い俺に美優が怒り始めた。

 

「え、あ、おぉ」

「ふーんだ! おにーちゃんなんてどうせ一生ドーテーなんだから!」

 

 結局、最後は暴言を吐いて美優は部屋を飛び出していって。

 

「……なんだよドーテーって」

 

 俺は甲斐性なしなのを自覚できないまま、開きっぱなしのドアを見つめて呆然とするだけだった。

 

 それからの美優は、毎日様々に可愛い服をコーデして登校した。

 

 二年生になってからは、記念日に服をねだる代わりに裁縫セットや布や小道具をせがんだ。

 服を何着も買うと親が抵抗を示すが、自分で作るとなるとどんな量の素材をお願いしても聞いてもらえることに気づいたからだ。

 

 そうして美優が小学三年生になった、ある日のこと。

 

 夜遅くに母親と一緒に帰ってきた美優が、目を真っ赤に腫らして自分の部屋に駆け込んでいったことがあった。

 

 美優の変わり始めたのはその日からだ。

 

 今までこだわってきたフリルやリボンを封印して、美優は仏頂面をシンプルなTシャツに通して毎朝部屋を出てくるようになった。

 

 

 

 

 

 どうしてそんなことになったのかはわからない。

 

 俺はあえて聞かないようにしていた。

 

 同級生にも俺に妹がいることは話していなかったし、わざわざ下の学年のフロアに行って様子を伺ったこともなかった。

 

「ああ、それってもしかして、アレのことですかね」

 

 由佳が俺のフライドポテトを無断で手に取り、ケチャップをたっぷり付けて口に放る。

 

 美味そうに食いやがって。

 それは情報料だからな。

 

「アレって?」

「前に噂で聞いたことがあるんですよ。昔、美優が学校の男子を……五、六人くらいかな? ボコボコにしたって」

「えっ……」

 

 美優も怒るときは怒るけど。

 そこまで気性が荒いなんて信じがたいな。

 それとも、その男子たちがよっぽどのことをしたのか。

 

「小五のときも美優は男子ボコッてましたし。似たようなことが過去にもあったのかもしれません」

「マジで!?」

 

 女の子一人で男子数人とやりあうことなんてできるのか。

 

 美優は頭はいいけど、身体能力はそんなに高くなかったはずなんだがな。

 

「小五のときのやつは、由佳ちゃんは知ってるのか?」

「由佳でいいですよ。呼び捨てで。私が知ってるのは、そんなに大事にはならなかったんですけど。あれを境にして、美優に惚れる子と怖がる子が極端に増えた気がしますねぇ。知りたいですか?」

 

 迷った挙げ句、俺はゆっくりと首を縦に振った。

 過去を掘り返すのは好きじゃないけど、このまま聞かずに帰っても美優への不信感が募るだけだし。

 

 由佳の話しぶりからして、一方的に美優が悪い話ではないはず。

 

 聞いておきたい。

 

 あの謎だらけの妹を、兄として少しでも理解してやりたい。

 

「いいですけど。お兄さんも美優の弱点を教えてくださいね?」

「それは無理っていうか、知らないんだよ。俺も教えて欲しいぐらいだって」

「えー! 無能!」

「無能って言うな……。遥との間に秘密はあるらしいけど、それだって俺より由佳の方が詳しいだろ」

「秘密? あの二人がレズってるのはもう疑いようがないしなぁ……ふむ」

 

 やっぱりあの二人はそういう認識なのか。

 それを周囲の奴らはなんとも思わないんだろうか。

 

「でも、美優の方はそんなに乗り気じゃなさそうなんですよね……そのくせなんやら恩義は感じてるようですし……遥の言うことには大抵逆らわないし……」

 

 由佳は何度も顎をさすって考え込む。

 

「ハッ……そうか! これなら……うん、うんうん!」

 

 一人で勝手に納得して、パッと顔を明るくさせた。

 

「いいでしょう。私にナイスアイディアを授けてくれたお礼に、昔の美優について教えてあげます」

 

 俺は何かとんでもないことをやらかしてしまったのだろうか。

 

 家に帰ったらまず由佳がロクでもないことを考えてるって教えてやらねば。

 

「小学五年の十月くらいの頃です。それは、とある一人の女の子がきっかけでした」

 

 由佳は指をピンと立てて語り始める。

 

 小学五年生の秋。

 

 それはすでに、美優が誰に対しても厳しくなっていたときの話だった。

 



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やる覚悟もないくせに

 

 教室の隅にある一席で、一人の少女が注目を集めていた。

 

 彼女がその日着てきた服が話題の中心だった。

 胸元にリボンの付いたワインレッドのワンピースで、各所にあしらわれた装飾でゴテゴテしたその衣服は、いわばロリータ系に類するものだった。

 当時はキッズファッション誌が作り出した流行によって、学年全体でデニムや革系のジャケットなどを着てくる子供たちが多く、そんなハードな潮流に逆行するような格好を選んできたことがより彼女を目立たせていた。

 

 クラスの女子たちは少女を可愛がった。

 流行に乗っている自分たちの服の方が優れていると思ったからだ。

 突如現れたアイドル性に悪感情を抱かない者がいなかったわけでもないが、子供っぽい服を見下げることで得られる優越感がそれを抑え込んでいた。

 

「優花里ちゃんの服キレイな色だね!」

「何かの記念なの? たかそー」

「うちにも似たようなのあるけど、優花里ちゃんのがいい布ね」

 

 一躍時の人となった優花里という名の少女は、それまでは目立つことのない地味な女の子だった。

 友達も固定の数人がいる程度で、成績は良くも悪くもなく、クラブ活動にも参加していない。

 そんな人生だったから、優花里は褒められることを嬉しく思いながらも、予想外の好評さにたじたじだった。

 

 優花里の格好は男子からもウケが良かった。

 背伸びをして大人っぽい服に身を包んだ女子たちよりも、なんだかんだで女の子らしい姿が好ましかったのだ。

 知らずのうちに優花里は男子たちの話題の中心になり、当初から面識のあった男子たちは「お前もしかして優花里こと好きなんじゃねーのー?」などとからかわれることも多くあった。

 

 そんな些細なことが火種となった。

 

 思春期の子供たちは残酷なもので、まだ知性も理性も未熟な彼らは、得体の知れない感情に振り回されると信じられないほど加虐的になる。

 とりわけ、「女の子を好きになるなんて恥ずかしい」という想いは、それを払拭するためなら相手を貶める手段すら取らせてしまうものだ。

 

「あいつ派手な服着てるよな。女の趣味ってよくわかんねえ」

「でもお前はああいうのが好きなんだろ? 授業中もずっと見てたもんな」

「はぁ? 見てねえし! あのヒラヒラしてんのがうざいんだよ!」

 

 男子同士の茶化し合い。

 イジる立場といじられる立場とで分かれて、周囲の友人たちもそれに同調した。

 

「やっぱ見てんじゃん! うわーお前やっぱ好きなんだ!」

「ちげーよふざけんな!」

 

 イジられる側の男子は顔を真っ赤にして否定した。

 図星だったわけではない。

 自分が女の子に興味があると、噂されるのを想像するだけで顔から火が出るほどだったのだ。

 

「声でけー。聞こえてんじゃね? あれ、なんか噂してる……もしかして私のこと好きなのかな、キュン! とか思ってたりして」

 

 手を組んで女の子ポーズをする友人。

 それを真似る取り巻きたち。

 

「キモい! やめろ! あいつに好かれるとかマジでキモいし!」

「ムキになんなよ。優花里とか男友達いないから告ったらそっこーオーケーするって」

「はぁ? 告るとか意味わかんねえ。死んだほうがマシ」

 

 やがて自分がからかわれるのは、優花里のせいだと思うようになった。

 

 あいつがいるから。

 あんな服を着てくるから。

 

「なんだよこの服。変なの付いてんじゃん」

 

 好意がないことを周りに示せればそれでよかった。

 

 優花里の着ている服か引っ張りやすかったから。

 フリルやリボンが掴みやすくて、力を加えれば取れるように思えて。

 冗談半分に、優花里を茶化して、服に文句をつけた。

 

「やめて……! 触らないで……!」

「うわ、怒った。お前って怒るんだ。こんなんでムキになんなよ! ほら、ほら!」

「やめてってば! いい加減にしてよ!」

 

 からかい半分で始まったいざこざが、引っ込みがつかなくなったなんてことはよくある話。

 

 優花里のときもそうだった。

 喧嘩する二人を囲み、野次馬を始めた友人たちに良い格好をしようと、少年もヒートアップしてつい力が入った。

 

 それがすべての始まりだった。

 脆いところに力を加えられて、付け根の糸がほつれたフリルに、優花里は泣き始め、少年はそんなつもりはなかったと言いたくても、タイミングはすでに逸していた。

 

 非を認めれば周囲から責められる。

 だから少年はその気持ちとは裏腹に、こんなもので騒ぐなと、強気をアピールして更に服を引っ張った。

 

「ブスがこんな服! 似合ってねえんだから感謝しろよ!」

 

 放課後を迎える掃除終わりの一室が、怒りと悲しみの声で溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

「図書館の掃除って地味に広いからたいへーん」

「由佳はサボってるんだから大変も何もないでしょ」

「遥は真面目すぎ。あと私は美優の図書カードにエロ本借りましたって書くので忙しかったから」

「ほんと死んで」

 

 クラスで六等分された六人の班。

 男女混合で組み合わされたその半分に、由佳と遥、そして美優の姿があった。

 

 この班は何をするにしても男女で分かれている。

 美優と遥が寡黙でコミュニケーションを取ろうとしないからだ。

 いつもは由佳が男子との窓口になって、課外授業やグループワークを進めている。

 とりわけ美優は遥以外と関わろうとはしなかった。

 

「美優、男子の方も掃除終わったって」

「そっか。じゃあ教室に戻るね。由佳は遥がシメといて」

「わかった」

 

 遥と分かれ、美優は一人で教室に向かう。

 

 今日は掃除が終わればそのまま帰りのホームルーム。

 早く家に帰りたい想いを足に乗せて、たどり着いた教室は、すでに不自然なほどの静寂に変わり果てていた。

 

 誰も口を開かない。

 空気に棘が立っている。

 ドアに茨が巻かれているようで、中を見ることすら躊躇ってしまうほどの光景の痛さ。

 

「うぅっ……うぐっ……」

 

 床に座り込んで優花里が泣いていた。

 

 その周りには三人の男子がいる。

 野次馬と優花里の友人たちとの言い争いが一段落したようで、誰にも収拾がつけられなくなったこの事態に、関わろうとする者はいなかった。

 

「何してるの」

 

 ただ一人を除いて。

 

「あ? こいつ、自分が着てる服が変だってわからねえから、教えてやったんだよ」

 

 堂々と足を踏み入れた美優に、答えたのは優花里を挑発し始めた張本人。

 無理やり千切ったリボンを床に投げ捨てて、美優を睨みつける。

 

 掃除用具の片付けも中途半端にされたまま。

 押し退けられた机に囲まれて、黒板の前で立ちふさがる三人の男子に、美優が一人で対峙する。

 

「それでどうしてイジメを正当化できるのか、私にはわからないんだけど」

 

 美優は無表情に男子生徒を見つめたまま、ゆっくりと近づいていく。

 

 誰もがその異様さを悟っていた。

 自ら人と関わろうとしない美優が、率先して面倒ごとに首を突っ込み、ピリピリとヒリつくような雰囲気を纏っている。

 

「なんだ文句あんのかよ! お前だって何度も男に当たり散らしてるくせに!」

 

 男子生徒は教壇机に落し物としてしまわれていたコンパスを取り出し、針を先にして美優に向ける。

 

「生意気なんだよ!」

 

 それを思い切り、振りかぶって美優に投げつけた。

 コンパスは真っ直ぐに美優の顔のすぐ横を通り抜けて壁にぶつかる。

 ゴンッ、と音を立てて落ちた凶器に、野次馬の中から小さな悲鳴が上がった。

 

 美優は直立不動。

 瞬きすら止めている。

 

 それを見て、取り巻きの生徒たちが嘲り笑った。

 

「ハッ。ビビッてんよ。かんけーねぇやつが首突っ込んでくんなよな」

 

 美優は何も言い返さない。

 その代わりに、傍らに落ちていた箒を手に取った。

 両手で根元と柄の中心を持って、今度は美優がその先端を男子生徒に向ける。

 

「なんだよ。やる気かよ」

「バカは体で教えないとわからないんでしょ」

 

 終始真面目な美優に、男子生徒たちはゲラゲラ笑った。

 

 どうせ形ばかりの脅し。

 優等生の良い子ちゃんである美優が喧嘩などするわけがない。

 

 そう決め込んでいた。

 

「やれるもんならやっ──」

 

 男子生徒が挑発するその最中。

 認識の切り替わりを縫って攻め入った美優。

 中心線を保ったまま、潜り込むようにして一気に間合いを詰める。

 

 偏差を考慮するまでもなく、最短距離をなぞって繰り出された美優の箒の一突きが、空を裂き、男子生徒の額を捉えた。

 鈍い音を立てて仰け反り、男子生徒は真後ろに倒れ込む。

 

 痛々しい絶叫が廊下まで響いた。

 

 今まで経験したことのない痛みに、男子生徒は人目も憚らずに泣き出す。

 その光景を目にして、取り巻きの一人が弾かれたように教員用の三角定規を取って構えた。

 

「てめぇ!! 何すんだよ!! 目に入ったらどうするつもりだったんだ!?」

「軽く小突いただけで騒ぎ過ぎよ」

「ふざけんなよ……調子に乗りやがって! ぶっ殺してやる!!」

 

 男子生徒の友人は、三角定規の最も鋭い部分を美優に突きつける。

 

 それはもはや刃物にも等しい物。

 叩いたり突き飛ばしたりするのとは違う。

 振り抜けばほぼ確実に出血を伴う傷を相手に与えることになる。

 

 脅しているだけだった。

 自分の方が体格に優れ、危険な武器を持っているのだから、女子が怖がらないわけがないと。

 武器を振りかざしているだけで立ち去ると信じて、男子生徒は美優に暴言を浴びせた。

 

「お、おい…………ほ、ほんとにやるぞ!! 本当に殺すからな!!」

 

 一切の表情を変えずに間合いを詰めてくる美優に、怯えているのは男子生徒の方だった。

 

 美優は自らの武器である箒のリーチを捨て、手を伸ばせば触れられる距離まで詰め寄ると、男子生徒が手に持っている三角定規の先を右手で握り込んだ。

 

 徐々に力を加えられて、その切っ先は美優の目玉の直前まで引っ張られる。

 瞳の表面の、その面膜にまで達してしまいそうな位置で、定規は力の拮抗により静止した。

 

「なに、やってんだよ……! やめろ! バカッ!! あぶねえって!!」

 

 力を緩めることはできない。

 目をえぐってしまうことになる。

 

 引っ張ることもできなかった。

 引いたところで美優の握力から逃れることができず、引けば引くほどに均衡を保つのが困難になる。

 

 ギリ、ギリ、と互いに力を加え合い、文字通り美優の目の前で崩壊の時を待つ定規の先端。

 汗ばむ手に、もう男子生徒の恐怖心は耐えることはできなかった。

 

「おい……もうやめろよ……! わかったから……!!」

 

 懇願する男子生徒に、美優はパッと手を放した。

 引く力だけが残された男子生徒は勢いのままに壁に激突して頭を打つ。

 

 体を丸めて縮こまってからは、後はもう最初に泣かされた生徒と一緒に喚くばかりだった。

 

「抵抗しない女の子を虐めて何を偉そうに。やり返されないからって威張り腐って。いざやられるとなればやる覚悟すらない。迷惑かけたわけでもないのに攻撃する理由がどこにあるの。ほんと、反吐が出る」

 

 地に響く美優の声は、男子生徒たちの戦意を根こそぎ奪い去った。

 

 残った一人が泣きじゃくる二人抱え上げて肩を貸す。

 

「行こうぜ。頭おかしいよこいつ……」

 

 捨て台詞と共に廊下へ逃げていった3人。

 それと入れ替わりに由佳と遥が教室に入ってきた。

 

「ありゃ、なにこれ。散らかってんじゃん。もう先生くるよ?」

 

 由佳はズカズカと教室に入ってきて、優花里の前にしゃがみ込む。

 遥はドアに張り付いたままその様子を眺めていた。

 

「はいこれ、リボン落ちてたよ。あららー泣いちゃって。男子にイジメられて美優に助けてもらったの? だったらほら、ありがとーって言わないと」

 

 声を掛けられても優花里は俯いたまま。

 涙を流すだけで、もう呼吸を荒らげることもなく、糸の切れた人形のように一点を見つめている。

 

「もしもーし。聞いてる?」

 

 由佳は猫じゃらしのように結んだ髪を優花里の前でフリフリする。

 

 美優は由佳と優花里のやりとりなど眼中になく、自分の席に戻っていった。

 

 それを目で追っていた由佳が、深い角度まで体を捻ったところで顔を顰めた。

 

「──ッ痛たたた……遥のやつにキメられた関節が悲鳴をあげてやがる……」

 

 由佳のいたずら癖は生まれつきのもの。

 去年美優と出会うまでは、こっそり男子の筆箱にハート型のチョコレートを忍ばせる程度の微笑ましいものだったが。

 

「なにを慣れ慣れしくしてるの」

 

 見かねた遥が由佳の頭頂を人差し指でツンツンする。

 

「ほら、由佳と優花里で、ゆかゆかっしょ? なんか親近感湧くじゃん?」

「そういう問題じゃなくて……」

 

 遥は腰に手を当ててゲンナリと肩を落とす。

 何か諦めを感じさせるような大きなため息だった。

 

「由佳のそういう空気読めないとこ嫌い」

「なに言ってんのよ。誰も声かけてあげないからあたしが相手してるんでしょうが」

「そっとしておいて欲しいって気持ちがわからないの」

「ほっといて欲しいわけないでしょ、こんな酷いことされて。放置される方が惨めに決まってんのよ」

 

 由佳はクルッと振り向いて、まだ座り尽くしたままの優花里に手を差し伸べる。

 

「ほれほれ。もう先生が来ちゃうから早くお立ちよ。涙を拭くのにこのハンカチ使っていいからさ。美優のだけど。ぷぷぷ」

「由佳……」

 

 そこは遥も冗談で許せないところ。

 両親指が由佳のこめかみを万力の如く挟み込み、絶叫と共に由佳は教室の反対側へと消えていった。

 

 それから担任が三人の男子生徒と共に教室にやってきた。

 ホームルームは通常通りに行われたが、美優は放課後に職員室に呼び出されることになった。

 遥が担任を説得しようと試みたものの、肝心の優花里が物言わぬ貝になってしまい、美優が事情聴取のために連れて行かれるのは変えられなかった。

 

 放課後、生徒たちの帰宅が一段落したところで、教室に残っていたのは微動だにしない優花里と、その対面に座る由佳だけだった。

 

「あんたいつまでそうしてんのよ。恩人の美優が呼び出し食らってんのよー」

 

 椅子の背もたれを股に挟んで、かれこれ三十分ほど、由佳は優花里に一方的に話し続けていた。

 そんな声かけが功を奏したのか、優花里はようやく曇った顔を上げる。

 

「ごめんね。全部、私のせいだもんね。こんな服着て……。由佳ちゃんも、付き合わせちゃって、ごめん。ありがと。元気出たよ」

 

 優花里は目頭に涙を溜め、スカートをギュッと握り込む。

 由佳はその様子をしばらく眺めてから立ち上がった。

 

「あーあ。美優は帰ってくるの遅いし。体操着もリコーダーも置いてないし。かーえろっと」

 

 反応がもらえてそれで満足だったのか、由佳はいそいそと帰り支度をすると、別れの挨拶もせずに教室を出ていってしまった。

 

 優花里だけが取り残された教室で、不意に訪れた静寂に、優花里の心は途端に不安と恐怖に満たされた。

 恐怖が混乱を呼んで、まともな思考ができなくなって。

 

 気づけば、ゴミ箱の前に立っていた。

 

 由佳に拾ってもらった胸のリボン。

 全て無かったことにしてしまいたかった。

 

 地味な服を選んで買っていた。

 自分には可愛い服は似合わないと思っていたから。

 親戚の家に行ったときに、もういい歳の女の子なのに飾り気がないと、いとこのお姉さんに指摘されて。

 勇気を出して可愛い服が着たいと母親に相談したら、飛び跳ねるくらいに喜んで、その日のうちに買ってくれた。

 

 すぐには着る勇気が出なくて、申し訳ないと思いながらも普段の格好を続けて。

 今日、この服を着て玄関を出たときは、姿が見えなくなるまで母親が見送ってくれた。

 

 優花里が手にしているのは、そんな母との想いが詰まった、二人の記念。

 

「こんなんじゃ……もう家に帰れないよ…………」

 

 投げ捨てようとすると、嗚咽が止まらなくなった。

 視界が暗くなって、空気が薄く感じて。

 呼吸の制御すらできなくなる。

 

 そんな優花里を気付けしたのは、教室のドアを開ける開閉音だった。

 

「み……美優……ちゃん……」

 

 優花里は瞠目して後ずさった。

 すぐに謝罪の言葉を続けたかったのに、声を出そうとすると、胸の上あたりがつっかかって空気が通らなかった。

 

 美優は優花里の顔とリボンをそれぞれ一瞥して、呼び出されたときには持っていなかった手提げ鞄を机に置くと、ドアを閉めてから優花里に一つ袋を手渡す。

 

「ふぇ……こ……れは……?」

「体操着。服、直してあげるから、これに着替えて」

 

 優花里がその言葉を理解するのに数分を要した。

 その間に、美優は手提げ鞄から裁縫セットを取り出して、針と布の準備をする。

 

「直す、の? 美優ちゃんが?」

「趣味でやってた程度だけどね。リボンを付けてほつれを直すくらいならできるから、安心して。後ろから布を当てて付けてるタイプだから、有り合わせで手直ししても見た目は変わらないと思うの」

 

 準備ができると、美優は膝に手を置いて待機状態になった。

 優花里は慌てて体操着に着替え、服とリボンを美優に渡す。

 

 美優はワンピースの裏と表を何度も見返して、縫い目の形を確かめると、早速針山から針を抜いて作業に取り掛かった。

 

「この服を着たの、今日が初めてでしょ。捨てたら勿体無いよ。こんな可愛いのに」

 

 意外な言葉だった。

 初めて着た服だと言い当てられたことではない。

 優花里が驚いたのは、あの硬派な美優がフェミニンな服に理解があることだった。

 

「あの、美優ちゃん」

 

 美優が服を直してくれるとわかると、呼吸が落ち着いた。

 優花里はさきほどまでの薄暗い表情を拭い去って美優に顔を向ける。

 

「ごめんね、私のせいで先生に怒られちゃって。先生、まだ怒ってるなら、私が話すから」

「それは大丈夫。呼び出されたのは、今回のだけが原因じゃないから。気にしないで」

「え? そう、なんだ」

 

 美優は真面目で優秀な生徒だ。

 職員室への呼び出しなど無縁のはず。

 

「美優ちゃんは、優しいんだね」

 

 美優に助けて貰った今では、優花里にとってはそう意外なことでもなかった。

 人付き合いが悪いのようで、美優は困っている生徒がいれば世話をしていることも多いし、それができるだけの器量と思慮深さを持っている。

 

「……まあね」

 

 美優のその言葉を聞いて、その顔を見て、優花里はドキッとした。

 素っ気なく「そんなことないよ」と謙遜されるかと思っていた、美優の口元が、楽しそうに緩んでいて。

 いつもの真面目な表情より、微笑みながら糸を縫うその姿の方が、よっぽど似合っていたのだ。

 

「お裁縫、好きなの?」

「好きだよ。小学二年生のころからずっとやってる。こんな具合だけど、どう?」

 

 美優はほつれていたフリルの根元を優花里に確かめさせる。

 

「へ? うぇえ!? なにこれ!! 元に戻ってる!」

 

 優花里の服のワインレッドは学校で常備されている糸では再現できない色のはず。

 それが布を丸々と張り替えたように修復されていた。

 美優が服に糸を通すその手際も滑らかで、繰り返し針を抜き差しする作業だけでも、ずっと眺めていたくなるほど。

 リボンを付け終わるまでもあっという間だった。

 

「はい、終わり。着心地を確認してもらってもいい? 硬かったらできるだけ調整するから」

「わかった」

 

 優花里はすぐさま体操着を脱いでワンピースに腕を通す。

 

 買ってもらったときとまるで変わらない。

 新品のままの服がそこにはあった。

 

「すっごい……朝着てたときと全く変わらない……」

「そっか。ならよかった」

 

 裁縫セットを片付けて、美優は脱ぎ散らかされた体操着を畳む。

 優花里が慌てて自分がやろうとしたときには、もう体操着は袋の中に収まっていた。

 美優は手提げ鞄にその2つをしまってから、優花里の全身をその視界に捉えた。

 

「うん。よく似合ってるよ」

「えへへ。そう、かな?」

 

 照れ臭そうに頬をかく優花里。

 その頭を、美優は軽くポンポンした。

 

「女の子だもん。可愛い服を着ないとね」

「美優ちゃん……!」

 

 頬を伝う一筋の雫。

 さきほどまでのどん底に冷え切ったものとは違う。

 優花里の人生で、一番温かい涙だった。

 

「ありがとう!! 美優ちゃん!!」

 

 美優に飛びつく優花里。

 それを抱きとめて、頭を撫でる美優。

 

 それからも優花里は華やかな服を着て登校を続け、この美優の一件から、からかう男子は一人も現れなかったという。

 

 

 

 

 

 

 

「──ってなことがあったと優花里に聞きました」

「無茶苦茶過ぎる……」

 

 俺はすっかり冷え切ったフライドポテトを口に運んだ。

 

 不味い。

 

「可愛い服が好きってのはよくわかんないですけどね。美優は普段から無難なシャツばっか着てますし」

「まあ、そうだよな。俺もあれから美優が凝った服を着てるのなんて見たこと無い」

 

 マナーや着こなしはかなりうるさく言われたけど、可愛い服が好きなんて聞いたとはなかった。

 それこそ、過去のあの一件以来、もう卒業して大人になったものだとばかり思っていた。

 

「やっぱり、美優も学校でイジメられてたのかな」

「美優がですか? まさか」

「でも、小三のとき、美優が泣いて帰ってきた理由がイジメだとすると、辻褄が合うんだよ」

「五、六人ボコった噂のやつですよね。それなら、理由は見当つきますよ」

「理由?」

「男嫌い」

 

 んんん。

 それはまた新情報だ。

 美優は誰に対してもドライなんじゃないのか。

 

「美優、もっっすごい男子から告白されるんですよ。回数を数えるだけで吐き気がするくらい。で、ものの見事に全員失敗してるわけなんですが。その振り方が酷いっていうか。さすがの私も気の毒になるくらいで」

「そんな極端なのか?」

「生理的嫌悪というか、人間性を否定する勢いでして……。それで、一部の男子がキレちゃったんですよ。そんで情けないことに返り討ちと。これに関しても似たような事例を知ってるので、きっと噂の通りだと思います」

 

 うぇぇ。

 ゾッとする話だ。

 俺も男なんだけど。

 参ったな。

 あいつ、俺のことどう思ってるんだろう。

 

 実はコトの後にこっそり吐いてたりして……。

 いや、そもそも嫌いなら精液を飲んだりはしないか。

 ってか最初にオナニーを目撃された時点でぶっ飛ばされてるはずだよな。

 

「しつこくされてストレスが溜まってたんだろうけど。そんな態度じゃいずれ逆ギレされるなんてわかりきってただろ。そこまで攻撃的に拒絶することないんじゃないか?」

「本人もどうしてそんな風に振るのかわからないんですって。性的な感情を向けられると、気持ち悪すぎて自制が利かなくなるらしくて」

 

 待て待て待て待て。

 俺、アウトだよな。

 完全にアウトのハズだよな。

 

 やばい早く美優に会って反応を見直したくなってきた。

 

「やはりレズなのでは」

「それは本人が強く否定しています。私も何度か告白したんですけど、なんか男に対するのとは違いましたね。酷い振られ方しましたけど」

 

 それはお前がやるからなんじゃないのか。

 嫌がるから告白するとか人としてのあり方が間違っている。

 

「話は戻るけどな。どうして由佳はそんなに美優にいたずらをするんだ?」

 

 俺が尋ねると、由佳はまた神妙な面持ちになった。

 由佳としては真剣に考えてやっていることらしい。

 

「クラスメイトの中には、美優には感情が無いなんて言う子もいます。いつも冷静で、頭も良くて、気が利いて。自分にも他人にも厳しい美優は、遥に引けを取らないくらい、学校中の憧れです。でも、高嶺の花過ぎて、みんな美優が一人の女の子だってことを忘れてるんですよ」

 

 そこに滲んでいたのは、呆れと悔しさだった。

 怒りは感じられない。

 ただやるせないんだろう。

 

 俺だって美優を遠い他人と思ったことがないでもない。

 実の兄妹であるにもかかわらずにだ。

 それくらい、美優は何でも卒なくこなして、苦労なんて無いように感じてしまう。

 

 そういった評価が疎ましいのはわかる。

 でも。

 

「だからって美優にいたずらする理由にはならないだろ」

「それは、結果的にそうなってるだけであって、ですね。私としては、美優を笑わせたくて色々やってたんですよ。それが、上手く行かなくて、今では、だいぶこじれてて」

 

 由佳は指を詰り、窓越しに歩く人々を目で追いかける。

 

 美優を困らせて周りに助けさせたいのか。

 怒らせて感情を揺さぶれば、笑顔も見せやすくなると信じているのか。

 気遣ってくれる気持ちは嬉しいけど、子供っぽいやり方じゃ美優は心を開かないだろう。

 

「で、笑顔もそうなんですけど……」

 

 俺が真面目に由佳を再評価している真向かいで、由佳は顔を上気させて声を淀ませた。

 

「今ではこう、なんといいますか。美優が泣いてる顔も見たいなぁって……あの美優が泣きじゃくる姿を想像すると……私……なんだか胸がキュンキュンしてきて……」

 

 由佳は尊いモノを見るように手を組んで、呼吸を荒くする。

 

 おい美優。

 お前の友達はヤバいやつばかりだぞ。

 こじれすぎて由佳の方が歪んでしまっている。

 

「と、とにかくだ! 美優へのいたずらはやめること! いいな!」

「……はーい」

 

 俺は急いで財布を取り出し、机にお札を叩きつけて店を出る。

 彼女以外に奢らない宣言は、一時間もせずに撤廃されることになった。

 



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妹とトイレ

 

 お家デートというものに憧れていた。

 ゲームやアニメの主人公たちは、学生の身分にもかかわらず誰も彼も一人暮らしの条件が整っていて、そりゃエッチなハプニングの一つでも起こるだろうと、現実を顧みずに俺は一人憤慨していた。

 

「悪いな、毎度見慣れた光景で」

「いいですよ。この時期だと外に出るのも億劫ですから」

 

 部屋の中、佐知子と二人でベッドに腰を掛ける。

 サイドテールを下ろした佐知子に、俺は複雑な胸中を吐露できないまま、もう二週間以上が過ぎていた。

 

 7月も後半に入り、いよいよ夏を本格的に感じ始めたこの頃、部屋で遊ぶときにエアコンを欠かすことはできず、佐知子は涼しくなると髪の毛を解いてしまう。

 髪を結い上げたままにするのは口を使うときくらいで、要するに食事かフェラのとき以外は、佐知子は室内ではストレートヘアにしていることが多い。

 しばらくだべって、たまに料理を作り合ったり、勉強を教え合ったりして、結局行き着くのは男女の交わり。

 

 義務感があるわけじゃない。

 男である俺は数日もしないうちに否が応でも性欲は溜まるし、佐知子もなんとなく気持ちいいから嫌いではないと誘いを拒むことはなかった。

 

 しばらく一緒にいると、俺もムラムラしてつい体の距離が近くなる。

 肩が触れ合うくらいに接近すると、腕や太ももでスキンシップを取って、最後にはお決まりの言葉をかけるのだ。

 

「……そろそろ、するか」

「はい」

 

 順序や誘い文句なんてなんでもよかった。

 セックスを前提として付き合っているのだから、男女が同じ部屋にいればセックスの流れになるのは当然のこと。

 それは佐知子もわかっていて、なんとなく雰囲気を察すると視線を送ってくる回数が多くなる。

 

 セックスの順序もおおよそ決まっていた。

 考えるのが面倒なのもあるが、それが最も妥当で効率的だったからだ。

 

 最初に俺が佐知子の服を脱がして、胸を中心とした体の各所を触る。

 女性器が濡れたのを確認すると指でイジって膣内をほぐす。

 ここまでが俺側の前戯。

 

 クンニをすることもたまにはあるが、やっていてそれなりに辛いところがあるのと、佐知子もあまり好まないのとで、もうやらないことがほとんどだ。

 挿入前に何度かイかせてやるのがベストなんだろうが、俺には女の子をイかせられるだけの技量はないので諦めた。

 

 佐知子の準備ができたら、次はフェラをしてもらう。

 フェラが佐知子への前戯の後なのは、一方的に脱がされるのに抵抗があるから。

 美優みたいに有無を言わせず命令してくれれば事情は違うけど、佐知子は基本的に受け身なのでそういった状況になることはない。

 

 フェラはやはり期待していたほどは気持ちよくなかった。

 射精に向けて感情が昂ぶっても、フィニッシュまでいくにはどうしても物理的な刺激が足りない。

 口に含まれているあの唾液の粘性と温かさで勃起はするが、舌の力では普段手でシゴいている刺激を補えず、裏筋などの性感帯をピンポイントで舐められていないとふとした瞬間に射精感が消えてしまう。

 

 そこまでの技量を佐知子に求めるのは難しかった。

 美優に仕込まれた分の基本はきっちりと押さえてくれているが、美優だってフェラの経験があったわけではないし、具体的にどこをどう刺激すればいいのかまでは教えられていない。

 

 だから最後は挿入に移る。

 セックスなのだから当然の流れなのかもしれないが、俺としてはたまには口の中に出したい欲求もあった。

 

「佐知子。挿れるぞ」

「はい」

 

 ベッドの上で仰向けになる佐知子の割れ目に、俺は固くなったペニスを押し付ける。

 膣穴は上から入り口が見えるようにはなっていないため、最初はお尻の穴と間違えることも何度かあった。

 それが童貞ネタとして使われていたときはそんな間違いするはずないとバカにしていたが、実際に手探りで穴の位置を探っていると焦るくらいにわからないときがある。

 

「……痛くないか?」

「平気、です。気持ちいいですよ」

 

 もう何度もセックスしているのに、俺は佐知子に毎回それを確かめた。

 佐知子の反応が、想像していたよりも薄いのだ。

 いつも気持ちいいと言ってくれるので心配はいらないみたいだけど。

 身悶えさせながら嬌声を上げるなんて、AVやエロゲの見すぎなんだと思い知った。

 

 腰を前後に振って、肉と肉をぐちゅぐちゅを合わせる。

 ゴム越しでなければもっと肉襞を感じられるんだろうか。

 亀頭のカリの裏側で、膣肉を擦るように角度を変えてのストローク。

 より良い場所に当たるように動いているつもりでも、互いに膣内の状態なんてそんな細かくはわかっていない。

 

 そこには肉感と温度があるだけ。

 興奮はするし、射精したい気分にはなるけど。

 

「佐知子……激しくするぞ……!」

「来て……ください……!」

 

 ギシギシと音を立てるベッドに、焦りだけが募っていく。

 

 ──今日もまた、射精ができなのではないか、と。

 

 佐知子とセックスをするのは、もう5日連続になる。

 塾が夏期講習のための日程調整として一週間の休みを作り、俺はその期間の放課後に家を貸してもらえるよう美優に頼み込んだ。

 

 セックスにハマったわけではなく、それどころか、俺は童貞を捨てたあの日以来、一度もまともにセックスはできていなかった。

 あるいは、その最初のセックスですら、美優の力で射精をさせてもらっていただけで、俺と佐知子の間にはまだ恋人としての正しいセックスは一度もなかったのかもしれない。

 

 腰を振り続けて、筋肉と時間だけが消費されていく。

 射精感が湧き上がってこない。

 肉棒はガチガチに固まって、射精の準備はできているはずなのに。

 

「はぁ……あんっ……ぁっ……おにぃ……さん……!」

 

 雰囲気だけは高まってきて、動きも激しくなって、もうそろそろイカなければならない流れになってくると、俺の中で葛藤が生まれる。

 

 このままスムーズに終わらせて満足したことを伝えるべきか。

 このセックスでは射精できないことを素直に告白するべきか。

 

「佐知子……出っ……出る……ッ!!」

 

 俺は佐知子を強く抱きしめて、その喘ぎ声を聞きながら腰を強く打ち付ける。

 美優に近い声質の佐知子の喘ぎを聞くことだけが、俺の唯一の射精手段だった。

 

 それはもはや佐知子とセックスしているとはいえなかった。

 俺は恋人と体を重ねていてもなお、実の妹をオカズにしている。

 そんなことをセックスの真っ最中である相手に打ち明けられるわけもなく、俺は数瞬だけ結びついた佐知子の声と美優の姿に、ようやく射精にまで至った。

 

「はぁ……はぁ……」 

「お兄さん……もう……すごいです……」

 

 肉体関係なんていうけど、大切なのは精神的な繋がりだ。

 テクニックなんてなくたって、想いの限りに激しくしていれば雰囲気はでるし気持ちよくなってくれる。

 

 俺が射精するために全力になっていることが佐知子の快感につながっているようだった。

 だから佐知子には不満を抱かれたこともない。

 

 ベッドの上で、裸になって息を乱しながら寝転ぶ俺と佐知子。

 本当は佐知子のことだけを考えて射精したいのに。

 それができる気がしない。

 そんな風になってからもう二週間が経って、俺の中のわだかまりも無視できないほどに大きくなっていた。

 

「明日は塾がありますけど。明後日はどうしますか? またエッチします?」

「そう、だな。明日考えてから連絡するよ」

「わかりました」

 

 この一週間で、佐知子だけを相手に射精する方法を探り続けてきた。

 だが一度として、妹をオカズにしないで射精することができないまま、俺はその日の夜も終えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 金曜日、晴れない気分で学校を過ごした。

 鈴原と高波にも「ボケッとしてんなぁ。何かあったのか?」と気遣われたし、山本さんからは「大丈夫? おっぱい揉む?」とかリアルに揉ませてくれそうな口調で心配されて、無意識に断ってしまった。

 

 まあ、それは彼女がいるから当然なんだけど。

 いまだに佐知子と恋人同士という実感が湧いてこない。

 イチャイチャもそれなりにしてるし嫌いな部分もないのに。

 

 妹の影響力が強すぎて恋愛に集中できない。

 乙女チックな表現をするなら、トキメキが足りていなかった。

 そんなものがなくても仲良くしているのが正しいカップルのありかただとはわかっている。

 でも俺にはそういう、佐知子を女として意識するためのきっかけが必要だった。

 

 佐知子は無垢が故に否定も抵抗もしてこない。

 お願いをすれば大体のことは聞いてくれる。

 本来はありがたいはずのそれも、俺にとっては悩みのタネだった。

 変わるためのきっかけを、全て自分で用意しなければならないから。

 

 贅沢な悩みだ。

 あれだけ可愛い子と好きなだけセックスができるのに。

 

 恵まれていると言う他ない。

 過去の俺がこんなふざけた悩みを抱えている男と出会ったら、迷わず殴りかかってくるだろう。

 それほどに、俺は佐知子にも自分にもわがままな要求をしている。

 

「ただいま」

 

 浮かない気分で家の戸を開いた。

 

 鍵がかかっていない。

 美優が帰ってきている。

 

 キッチンから水を流す音が聞こえてきて、リビングのドアを開けると、そこには髪を結い上げて洗い物をする美優の姿があった。

 

 トクン、と心臓が一つ大きな音を上げる。

 

 スポンジを片手に真剣な眼差しで食器をこする美優の姿に、俺は見惚れていた。

 

 遥や山本さんの顔の整い具合からすれば、佐知子も美優も容姿の良さはそれほどかわらないはず。

 それなのに、どの瞬間を見ても美優が可愛い。

 

 制服から室内用のTシャツとスカートに着替えたラフな格好。

 白い首筋と血色の良いリップに、早鐘が鳴るこの体。

 彼女持ちの、ましてや実の兄が抱いていい感情ではない。

 理性ではそれを忌むべきものだとわかっていても、美優が特別であることは変えられなかった。

 

「ただいま」

 

 俺が改めて声をかけても、美優は「うん」と淡白に返すだけだった。

 たかが食器洗いなのに、一心不乱に手を動かしている。

 何か別の思考から逃れようとしているような、そんな集中力だ。

 

 美優にだって美優の生活がある。

 学校で何かあったのかもしれない。

 

 俺は鍋に煮込まれた夏野菜を横目に、冷蔵庫を開けてペットボトルを取り出す。

 フタを緩めると、プシュッと小気味良い音が鳴った。

 炭酸飲料の甘い匂いの後、俺の鼻腔をくすぐったのは、美優の髪から香るフローラルだった。

 

 女の子の匂いはシャンプーや香水の残り香だなんて言われているけど、俺はこれが女の子特有の匂いであると信じている。

 温度があって、フェロモンが含まれていて、男性の本能を焚きつけてくる。そんな香りに、俺の性欲はたやすく屈服した。

 

 勃っていた。

 もはや申し訳なさすら感じないくらい、俺は美優の背後でガチガチにペニスを勃起させていた。

 

 美優に男としてまともにしてもらって。

 可愛い彼女を紹介してもらって。

 セックスのために家まで空けてもらった。

 

 至れり尽せりの妹に、必ず報いなければならないのに。

 失敗など許されるわけがなく、俺は童貞と一緒にシスコンを卒業して、妹に欲情しない体にならないといけなかったのに、と。

 

 もしかしたら、そんなプレッシャーが俺の精神をおかしくしていたのかもしれない。

 ストレスをかけられると絶頂できなくなるのは男も同じこと。

 佐知子とのセックスが上手くいかないのはきっとそのせいだ。

 

 だからあまり気負わず「知らないうちに恋人一筋になっていた」となればよいのではないだろうか。

 

 そう考えると、胸の奥に詰まっていたモヤモヤが、スッと消えていく気がした。

 

「ごはん、どれくらいでできるんだ?」

「一時間」

 

 食い気味の返事。

 よほど虫の居所が悪いらしい。

 

 鍋の火は止められていて、中から微かにスパイスの香りがする。

 炊飯器のディスプレイを覗き込むと、ちょうどタイマーが作動した。

 電子音に脅かされた俺は、無心で食器を洗い続ける美優を背に、リビングを飛び出した。

 

「はぁ……抜くか」

 

 俺は制服のスラックスを洗面所に放り投げて、シャツとパンツだけのちょっと情けない姿でトイレに入った。

 

 亀頭の先が湿ってパンツを尖らせている。

 便座に腰掛けて、肉棒を開放すると、久々のオナニーに気分が高揚した。

 今日は、もう美優をオカズにしてしまおう。

 

 美優のあの、残念なものを見る目で射精を観察される状況を想像すると、ふとももの内側がこそばゆくなってくる。

 

 脳が喜びに満ちていた。

 アドレナリンだかドーパミンだか知らないが、とにかくなにかヤバいものがドバドバと分泌されている。

 これはさすがにマズいかと迷いが生じながらも、ここまできての中止は脳に異常すらきたしそうだったので続行を決意した。

 

「ふぅ……ん……くっ……」

 

 肉棒を包む手の感覚が懐かしい。

 本音を言えば美優に見ていて欲しいし、受け止めて欲しいけど、彼女がいる今はそれを望むことはできない。

 そもそも、そういうのをしなくて済むように彼女を作ったんだから、当然なんだけど。

 

 何をするにしても唐突すぎた。

 もっとゆっくり妹離れをするべきだった。

 

「はぁ……うっ……やばい……気持ちいい……!」

 

 女の子とセックスをするよりオナニーが気持ちいいなんてよくある話。

 噂に聞いているだけのときは信じられなかったけど、今ならわかる。

 彼女がいてもオナニーの時間は必要だ。

 

 美優が目の前にきて、スカートを押さえながら正座をして、姿勢良く俺の肉棒を見つめる。

 ムチムチに張り上がったそれが、だらしなくカウパーを垂れ流すのを見て、美優は口を開いて舌を出す。

 口内の湿り気、唾液の残り具合、その吐息の温度まで、俺の脳ははっきりと記憶していた。

 

「美優……はぁ……美優…………!」

 

 オナニーから数分もしないうちに尿道口はぬちゃぬちゃと音を立てていた。

 飲み込むのは美優の口なのに、そのときを待って涎を垂らしているのは俺の肉棒の方。

 

 出したい。

 もう出してしまいたい。

 睾丸がせり上がって、精子の緊急製造が開始される。

 

 膣内に出すわけでもないのに。

 美優の口内に射精することを想像するだけで、俺の脳は精液の増量命令を出していた。

 

「あぁ……美優……もう……出るッ……!」

 

 ラストスパートに右手を激しく上下させた。

 

 その瞬間のこと。

 

 ガチャ、とドアノブを捻る音に、俺は鍵を閉め忘れていたことに気付いた。

 

 慌てて手を伸ばすも、ときはすでに遅く、開かれたドアの向こうにいる美優と目が合う。

 

 その視線は、照明を反射してテカりつく俺の亀頭へと移された。

 

「お……お兄ちゃん、そんなとこで何してるの!」

 

 予想だにしなかった剣幕で怒られて、俺の思考は興奮と驚きに混濁した。

 いくらご機嫌斜めでも、こんな当たり散らすように怒鳴られることは今まで一度もなかったのに。

 

「お兄ちゃんの……馬鹿……ッ!」

 

 美優がスカートの真ん中をギュッと押さえ込んで涙目になる。

 内股気味に息を荒らげるその姿に、俺は事の重大さをようやく理解した。

 

「わ、悪い! すぐに退くから!」

 

 美優は機嫌が悪いわけではなかった。

 

 おしっこを我慢していたのだ。

 きっと料理をしているときから尿意を感じていて、手の油を拭うのが手間で限界まで我慢してしまったのだろう。

 食器洗いが終わって駆け込んできたトイレの鍵が開いていて、ひと安心した美優の目に飛び込んできたのは、用を足しているわけでもない俺が便器を占有している姿。

 美優が感じた絶望と憎悪は計り知れない。

 

 俺が立ち上がるよりも先に、美優はパンツを脱ぎ始めた。

 風呂上がりでも滅多に裸で出て来ない美優が、人前でパンツを下ろすなんてよほどのことだ。

 一刻も早く便器を空けてやらないと。

 

 そんなお互いの焦りが、絶妙な歯車の不一致を生んだ。

 

 俺は前かがみの状態から腰を上げようと、前後のバランスを取るために足を踏み出す。

 その先にあったのは、片足首に掛かかったままの美優のパンツだった。

 

 それを踏んだ瞬間、脳裏によぎる最悪の展開。

 美優が自らのパンツに足を引っかけてバランスを崩したときには、もうその結末は変えようのないものになっていた。

 

「うわっ……ちょっ……!」

 

 俺は美優に押し倒されて便座へと腰を打つ。

 痛みを感じる間も無く美優が倒れこんできて、俺たちは向かい合わせに便座に跨った。

 

 お互いに性器を露出したまま。

 先走りに濡れたガチガチの肉棒がそそり立って、下手をすればそのまま事故挿入すら起こり得た状況。

 肉棒は美優のTシャツの中に入り込んで、先走り汁をお腹に塗りつけている。

 

 俺は謝罪するより先に美優の肩を掴んで押した。

 元よりスキンシップを好まない美優だ。

 こんなデリケートな場所が触れ合っている状態に耐えられるわけがない。

 

 だが、美優は動かなかった。

 それどころか股をぐいぐい押し込んできて、力の限り俺を抱きしめてきた。

 

「み、美優……!?」

 

 驚きの連続で、俺は完全に固まった。

 

 美優は片膝を俺の太腿に乗せた状態でぴったりと体を密着させ、

 

「ふぅ……はぁ……ううっ…………うぐッ……」

 

 痕がつくほど俺の腕を握りしめて、真っ赤な顔を肩に埋めていた。

 

「おにぃ……ちゃん…………ばか……」

 

 美優が膀胱の決壊を懸命に押さえ込みながら、最悪の事態に備えておしっこをするスペースを確保しようと体を押し込んでくる。

 俺も腰を引くが、中途半端な体勢で足が絡まっているせいで身動きが取れなかった。

 

 美優のお腹が俺の肉棒を圧迫し、先走りの滑りで絶妙に裏筋をマッサージする。

 公開排尿という羞恥プレイに晒されている美優に少しでも気を遣ってあげたいのに。

 

「美優……それ以上は……もう────ッ!」

 

 オナニーによって散々煽られた俺の肉棒は、もう射精の暴発に歯止めが掛からなくなっていた。

 



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妹とお風呂

 

 トイレの便座に2人で跨り、体を押し付け合う俺と美優。

 俺の肉棒は美優のお腹に圧迫されて、ビクンビクンと跳ねるその動きも、美優には生々しく伝わっていた。

 

「お兄ちゃん……だめ……出しちゃ…………だめ……」

 

 切羽詰まった声で、上目遣いに湿った視線を仰がれて、俺の射精欲はさらに膨れ上がった。

 

 肉棒の筋収縮が、射精に続くものであることを、美優はもう知っている。

 このまま出せば、美優のTシャツとスカートを精液でドロドロにすることになる。

 体にかけられることより服を汚されることを嫌う美優だ。

 着衣状態でぶっかけなんてしたらただでは済まない。

 

 だがもう射精の命令は取り消せないところまできてしまっている。

 表面張力いっぱいに水を溜めたコップを片手で持ち続けているようなもの。

 しばらくの間は堰き止めることはできても、溢さずにいることなんてできない。

 

 美優は俺の体を力いっぱいに抱きしめてくる。

 そのたわわな双丘がつぶれて、ブラ越しにも柔らかさが伝わってきた。

 胸が大きすぎて、軽く身を寄せるだけでは、体のスペースを確保することができないのだ。

 

 俺の腕を掴んで、息を荒らげる美優。

 もうこの場でおしっこをするしかないのに、自分の意思で止められなくなるまで我慢するつもりのようだった。

 

「ピクピクさせないで……うぅぅ……」

 

 出してしまえば楽になるのに。

 最後まで抵抗をやめない美優は、俺がペニスをピクつかせるのに苦しんでいた。

 ちょうど膀胱のあたりを刺激するのだろう。

 

 わざとやっているわけではない。

 しゃっくりと同じで、ある程度止めているとピクつかせずにはいられなくなってしまうだけだ。

 それなのに。

 

「ぁうっ……や……やめて……」

 

 これではまるで俺が無理やり美優にお漏らしをさせているみたいだった。

 

 尿意の限界に苦しむ妹。

 誰にも見られたくない屈辱的な姿。

 俺はその膀胱を刺激して排尿を促している。

 

 ああ、やばい。

 死ぬほど興奮する。

 

「あっ……ぁ…………」

 

 やがて俺の腕を掴む美優の力が弱くなっていく。

 美優の必死の願いを聞き続けてきた横紋筋も、ついにはその役目を放棄したようだった。

 

 顔の筋肉の強張りも解け、はーっと息を吐く美優の瞳は、どこか焦点が合っていない。

 最後に美優は上を向くと、俺の後ろのどこかを見つめながら両手を伸ばしてきた。

 

「せーしは、出しちゃダメ、だからね。お兄ちゃん」

 

 美優は力の抜けた顔でそう言ってから、俺の両耳を指で塞いだ。

 

 耳の内側で空気の閉じられる音が籠る。

 俯いて、頬を上気させる美優の表情に、俺は自らの我慢の限界を悟りながら、その瞬間を目撃していた。

 

 懸命に勢いを殺しながらも、それが水面をたたく音は、耳を塞いでいる指越しにも聞こえてくる。

 鼻を通るほのかな酸の香りが、その事実を否応なしに俺に伝えてきた。

 

 美優がおしっこをしている。

 

 俺の目の前で。

 体を密着させながら。

 片足を上げて、無表情の奥に、どれだけの羞恥を感じているんだろう。

 

 その姿を見て、俺は射精した。

 

 美優のTシャツの中に、何度も、何度も精液を射出した。

 

 謝罪の言葉は、出せなかった。

 気持ちよすぎて、女の子みたいな喘ぎ声が出そうだったから。

 

 美優の表情は放心状態のまま変わらなかった。

 服の中は大変なことになっているはずなのに。

 発射口が見えなくても、尿道を通る精液と肉棒の力み具合で、過去最大の射精量であったことは間違いない。

 

 俺の射精が終わった後も、美優の放尿は続いていた。

 耳は塞がれたままで、美優の手から熱い体温が伝わってくる。

 

 排出する勢いを抑えていたせいで、美優は1分近くおしっこを出し続けた。

 その長さ、量、ニオイの全てが、美優を羞恥に苦しめる。

 お腹には俺に直接かけられた精液がべったりと垂れて、もはや陵辱と言っていい惨状だった。

 

 お互いに出すものを出し終わった後も、二人は無言だった。

 身じろぎ一つせず、体感で五分ほど固まっていた。

 

 やがて俺の耳が美優の指から開放される。

 

 俺の肉棒はまだ固いままだった。

 

「お兄ちゃん」

 

 ドスの利いた声。

 

 美優は服の中に手を入れて、わずかに眉を顰める。

 服から出した手には、全体に白濁が目視できるほどの精液がついていた。

 

「美優……ごめん……俺……」

 

 我慢できなかった。

 尿意とは違って、射精はコントロールが利くもの。

 少なくとも美優はそう思っているし、それは間違いではない。

 

 オナニーのためにトイレを占拠して。

 パンツを踏んで転ばせて。

 排尿観察という屈辱を味わっている妹に、射精をした。

 美優が一番に大切にしている服まで、俺は精液で汚してしまった。

 

 言い訳のしようもない。

 謝罪をしたくても、なんて謝ればいいのかわからなかった。

 

「いっぱい出てるんだけど」

 

 美優は手をぐーぱーして付着した精液をぐちょぐちょとこねる。

 瞳は虹彩を失ったままだった。

 

「どうして我慢できないのかな」

 

 美優は服についたシミを確認すると、Tシャツを脱ぎ、捨て物のようにゴムウエストを目一杯に引っ張って、頭からスカートを脱ぎ去った。

 

「そんなに好きなら、出せばいいよ」

 

 ブラジャーを身に付けるだけになった美優。

 その精液塗れの手は、勃興の収まらない俺の肉棒を握ってきた。

 

「み……美優……!?」

 

 美優の手が俺の肉棒を扱いている。

 ぬちゃぬちゃと精液を絡ませながら。

 その小さな手で、根元から亀頭の先まで滑らせるように全体を刺激してくる。

 

「アッ……ぐっ……美優ッ……あぁぁぁっ…………!!」

 

 手のひら全体は俺の肉棒に体温を与えながら、指先は確実に快楽のスポットを突いてくる。

 

 さっき出したばかりなのに、もう射精を我慢できそうになかった。

 俺が美優に興奮する体質だからこれほどまでに射精感が高まるのか。

 美優は俺のどころか男のモノに触れるのも初めてなはずなのに。

 もはやその手捌きは俺が自分でするよりも気持ちいいものになっていた。

 

「はぁ……あっ……俺……あぁ……また…………出る……ッ!」

 

 刺激して欲しいと思う性感帯を、ピンポイントで責めてくる。

 そのテクニックに、俺は呆気なく二回目の射精をした。

 

 火山噴火のようにドロドロと精液が湧き出てきて、肉棒の濡らす粘液の量は更に増していく。

 

「あ、あぁっ!! 美優! もう、もうイッた……!!」

 

 俺が射精しても美優は手を止めなかった。

 それどころか、今度は両手で俺の肉棒を包み込んでくる。

 

「あぁぁ、あっぐ……ぅぅ……イッ……ああぁぁうぁぁきも、ちいい……ッ!!」

 

 左右の手でそれぞれ、亀頭と裏筋とを弄り、ときに竿の根元から玉袋の表面まで擦って、睾丸をマッサージしてくる。

 

 痛みが走ったのは最初だけだった。

 快楽物質のみが脳に溢れている。

 三回目の射精すら、もうすぐそこまで迫っていた。

 

「なんで、こんな……はぁ…………あぁぁぁっ……きもち……い……ぃ……!!」

 

 涎が出そうなくらい頭がボーッとしていた。

 肉棒はただ美優に弄ばれることを悦んで、快楽に溺れている。

 

「何回お兄ちゃんが自分でしてるの見たと思ってるの」

 

 肉棒を擦る握力が強くなっていく。

 怒りを込めて締め上げてくるその力は、男の俺が握る力とちょうど釣り合った。

 

「気持ちいいよね。まだ、出せるよね」

 

 虚ろな目で脅されて、俺はわずかな我慢もさせてもらえずに、三度目の射精をした。

 一回目の射精で相当量を出したにもかかわらず、連続で出されたものとは思えない量が飛びだしている。

 

 美優の手は、まだ止まらない。

 

「ァ……ぁぁアッ……はぁうぅぅ……もう、美優……ダメだ……!」

 

 懇願しても、美優が手淫を止める気配はない。

 力で強引に押し退けてしまえばそれで終わるのに。

 

 動けなかった。

 美優への罪悪感と、止めどなく与えられる快感に、脳が支配されていた。

 

「こんなに出してるのに、まだ硬いね」

 

 滑りを更に増した手淫は、徐々に先頭へと偏っていった。

 

「お兄ちゃんは射精するの好きだね」

 

 射精に次ぐ射精からの亀頭責め。

 美優は俺に潮を吹かせるまで止める気がないようだった。

 

「アァァァ!! い、イィぃいっ、アガッ……あぁぁああああああッ!!」

 

 尿道からカリ首まで、そこにあったのは苦痛だけだった。

 悶絶し、泣き叫ぶほどの痛み。

 快感はないのに、そこには、確かに快楽があった。

 

「あぁ、はぁ……しぬ……じぬぅっぐっ…………!!」

 

 痛みが気持ちがよかった。

 

 苦痛が快感に変換されているのではない。

 痛めつけられることそのものを脳が喜んでいる。

 

 完全に入ってはならない境地に到達していた。

 体を仰け反って、多分このときの俺は、白目すら向いていたと思う。

 

「うぁぁ、ふぅぁぁあああ、で、出るッ! ヤ、バッ、くぅぁあ、死ぬッ……出るッ…………あぁぁあぁああああっ!!」

 

 潮吹きなんて未経験だったのに。

 俺はエロゲの世界みたいな射精を連発した。

 

 痙攣するペニスの筋収縮が止まらなくなって、その度に精液が、ビュッ、ビュッ、と飛んでいく。

 勢いよく吐き出すその最中も、美優は手を止めない。

 それどころか、ストロークはいっそう激しさを増して射精を促してくる。

 

「ぁぁぁ……あぁ……っ!!」

 

 そこら中に精液が飛び散っていた。

 美優のブラや頬にも掛かっている。

 それでも、美優は手を止めない。

 

 射精して、射精して、10回分の射精を終えたところで、ようやく潮吹きが止まった。

 俺はゾンビのようにぐったりして、トイレの蛇口に頭をぶつけながらも脱力する。

 

 ペニスは死後硬直状態だった。

 弾倉はもう空っぽなのに、発射口をしっかり固定したままそそり勃っている。

 

 そんな俺の肉棒を。

 

 美優は、両手で擦り始めた。

 

「アアァァッ!! い、痛イッ!! 痛い痛い痛いッ!! もう、美優、ヤメ、やめて、くれ……ッ!!」

 

 皮膚が爛れて血が出そうなほど。

 刺すような熱い痛みは、肉棒をライターで炙られている感覚だった。

 

「気持ち良かったらお仕置きにならないんだよ。お兄ちゃん」

 

 美優は手を止めない。

 

 快楽責めの後、始まったのは拷問だった。

 

「美優、美優ぅぅ……ぁぁぁ、頼む、許して、くれ……アッ、アッアッアッ……」

 

 美優はどれだけ懇願しても手を止めない。

 

 先程までは脳だけが引き受けていた痛みは、全身に分散された。

 筋肉は力み、歯はガタガタと音を立て、内蔵が絞り上げられる。

 やがて体が浮遊感を得て、まるで別世界にいるようだった。

 

 このまま射精まで至ったら冗談ではなく腹上死する。

 

 殺される。

 

 俺は妹を怒らせ、ペニスを扱き上げられて、非業の死を遂げるのだ。

 

「妹に射精させてもらえて。お兄ちゃんは幸せだね」

 

 美優はぐったりと倒れ込む俺を肩で受け止める。

 もう声も出なくなった。

 

 ぐちゃ、ぐちゃ、と美優の手淫が立てる音だけが、トイレの静けさに溶けていた。

 

 いつしか痛みは飛んでいた。

 

 首から神経が断絶されたように、何も感じない。

 あるいは、俺はもう死んでいるのかもしれない。

 

「お兄ちゃん。出して」

 

 美優に命令されて、下腹部にだけ実感が戻る。

 繰り返しの射精に疲弊した竿にはヒビが入ったような痛みが走り、尿道はすり減ってもう快楽を感じない。

 

 そんな中で、俺は美優の声にだけ反応して、精液を発射した。

 

 一回の射精に見合うだけの、十分な量が美優の手にかかった。

 

「……熱い」

 

 美優のその一言で、拷問は終わりを告げた。

 

 俺は全身の脱力に、ようやく勃起が収まっていくのを感じた。

 

 亀頭がヒリヒリする。

 敏感になりすぎて、今日はもうパンツをはけないかもしれない。

 

 手淫による徹底的な責めが終わると、不思議と意識は通常通りに戻った。

 

 酷い有様だった。

 俺が一人で出したとは思えないくらい、美優の体は精液でドロドロになっている。

 

 今日一日に出した精液を集めたら、どれくらいになるんだろうか。

 

「……って、み、美優! その、アソコのとこ……」

 

 美優の体を眺めていたら、重大な危機を発見した。

 

 俺の精液が美優の股の間にまで垂れ下がっていた。

 表面に付いているだけとはいえ、妊娠のリスクがゼロとは言えない。

 

 俺は慌ててトイレットペーパーを丸めて、美優に差し出す。 

 

「ああ、これ……。別に、どうでもいいよ」

 

 美優は受け取ろうとしなかった。

 ただ呆然と割れ目に垂れてくる精液を眺めているだけ。

 どうでもいいはずがないのに。

 どれだけのショックを与えてしまったんだろうか。

 

「ふ、拭くから。ほんと、拭くだけ、だからな」

 

 俺は美優の股下に手を差し入れた。

 できるだけ指が触れないようにしたいが、粘性の高い精液が紙を当てるだけで取れるはずもなく。

 決して興奮しないように、頭を事務的に切り替えて、俺は美優にかかった精液を拭き取った。

 

 美優が自分から動こうとしないため、お腹に付いた精液も俺が拭いた。

 何度もトイレットペーパーを取り直して、その度に自分が出した精液の量に辟易する。

 

 拭き終わると、美優はようやく立ち上がった。

 変な体勢を続けていたせいで痺れた足を伸ばして、ひと呼吸。

 そんな美優の胸の間から、とろっと精液が滴り落ちる。

 

 まさか胸の中にまで精液が飛んでいるとは思わなかった。

 美優もそれが自分の胸から垂れているものだと気づいて、ブラジャーのホックに手を伸ばす。

 放心状態で羞恥心まで吹き飛んでしまったのか、美優は躊躇なく生まれたままの姿を俺の前で晒したのだった。

 

 色白の大きな膨らみ。

 弾力に丸みが形作られて、乳首はやや上向き。

 山本さんのパーフェクトプロポーションとは違い、美優は小柄に巨乳というアンバランス。

 それが二次元趣味の俺にとっては最高の興奮材料だった。

 

 美優は俺からトイレットペーパーを受け取って、その場で胸の間を丹念に拭く。

 それを便器の中に放ってから、床に脱ぎ捨てたTシャツとスカートを拾った。

 前かがみに谷間が強調されて、揺れる豊かな胸に、俺は、俺の下半身は、信じられないことに再び硬さを取り戻していた。

 

 服を拾い上げるその最中に、目の前で大きくなっていく俺の肉棒を見て、美優は立ち上がると同時に憐憫の眼差しを向けてきた。

 きっとゴミを見るような目とはああいうものを指すんだろう。

 

 美優は服を腕に抱えると、これまでで一番大きなため息をついた。

 

「もういいや」

 

 トイレのドアを開けて出ていく。

 その後ろ姿を見て、俺は胸騒ぎに駆られた。

 

 捨てられる。

 それこそゴミのように。

 オカズにしないと誓った、彼女持ちの兄がいつまでも欲情したままでは、無理もないことだとは理解している。

 

 言い訳の言葉も浮かんでこない。

 それでも、美優に見捨てられることだけは耐えられなかった。

 

 俺は自分の体に付いた精液を雑に拭うと、トイレに流して洗面所に駆け込んだ。

 美優は裸のまま風呂掃除をしている。

 

「美優!!」

 

 声をかけると、棒付スポンジでゴシゴシする手を止めないまま、美優がこちらに顔を向ける。

 

「どうしたの?」

 

 小首をかしげる美優。

 いつもと変わらない。

 ただ愛らしいだけの顔だった。

 

 平常通りの雰囲気に感じるけど。

 それは多分、怒りとかを通り越してしまっただけなんだ。

 

「いや、その、だな。俺はどうしようもない兄だけど。本当に、美優に迷惑をかけたいわけじゃなし、えと、だから、あと一度でいいから、チャンスが欲しい、っていうか、だな……」 

 

 言葉がまとまらない。

 見捨てられた相手をどう説得すれば、また期待してもらえるかなんてわからない。

 

「あと一度……チャンス? それも出して欲しいの?」

 

 美優はキョトンとした顔で、俺の下腹部を注視しながらそう返す。

 

「い、いや!! そんなんじゃない! してもらえたら嬉しいけど…………じゃなくて! いや、全然嬉しくないっていうか! 嬉しいけど、その、だから……!」

 

 わかってて誤魔化されているのか。

 そんな風には感じないけど。

 

 あの諦めを含んだため息。

 俺を見限ったようにしか考えられない。

 

 ただ、それを素直に言葉にして聞けなくて。

 まごついているうちに、美優は風呂掃除を終えて風呂場から出てきた。

 

「なんだか慌ててるみたいだけど。私、別に怒ってないよ?」

 

 美優は俺の胸中を察して、先に答えをくれた。

 

 今怒っていないのは、俺にもわかる。

 問題なのは、それがいつも通りに戻ったのか、呆れ果てた先に何も感じなくなったのかだ。

 

「だって、ほら。出てくときも、もういいやって……」

 

 美優と心が離れるのが怖い。

 こんな感情は今まで人と接してきて初めて抱いた。

 前に試着室で問題を起こしたときにも見放される恐怖はあったけど。

 あのときは、明確に怒ってくれたし。

 

 こんなに平静としている美優が、逆に怖い。

 

「もういいやっていうのは、そういう意味じゃなくて……」

 

 美優は答えづらそうに口ごもる。

 

「服を汚したのは、許せないけどね? その分のお仕置きはもう済んだし。お兄ちゃんのそのどうしようもない硬いのは、まあ、どうしようもないし」

 

 美優は俺のどうしようもない部分に目を落とす。

 美優の裸が視界に入っているからか、こんな状況でも俺の勃起は収まらないままだった。

 

 ここまで堪え性がないことがわかっていて、本当に美優は俺を受け入れているんだろうか。

 

「そんなに信じられない?」

 

 どんな質問をしたら真意が判明するのかがわからず、黙ったままの俺に、美優は近づいてきた。

 全裸の美優と、下半身裸の俺と、ちょうど反り立ったペニスの長さ分の間を空けて、美優が俺の顔を覗き込む。

 

「お風呂、一緒に入る?」

 

 美優に尋ねられて、俺の頭は完全にパンク状態だった。

 俺は美優に見捨てられたんじゃないかと心配していたのに、逆に過去になかったほど美優が心を許してくれている。

 

「それは、もしかして、入るって答えたら、ゲームオーバーなやつ?」

「ううん。それで信用してもらえるなら、お兄ちゃんと一緒に入るよ?」

 

 高校生の俺が、2つ下の妹と一緒にお風呂に入る。

 それはたしかに、仲が良くないとできないことだけど。

 

「……じゃあ、入る」

「うん。わかった」

 

 内心では肝を冷やしながら、決死の覚悟で答えた「入る」は、すんなりと受け入れられた。

 

 美優はお風呂のお湯を止めて、二人分のバスタオルを用意する。

 

「先にシャワーを浴びてるけど。好きなタイミングで入ってきていいよ」

 

 そう言って、美優は風呂場のドアを閉めた。

 

 わからない。

 失態を犯した俺の評価が上がっているなんて。

 どうやってこの状況を整理すればいい。

 

 美優は確かに怒った。

 だがそれは、服を汚したことについてだけ。

 その分の罰を俺は受けて、それでも怒張の引かない俺に、美優は何かを諦めた。

 

 その後に待っていたのは、かつてないほどに優しい妹だ。

 

 今までも何を考えてるかわからないやつだったけど。

 ここまでくるともう何がなんだか。

 

 飛び込むしかないのか。

 美優を理解するためには。

 互いに脱げるものを脱ぎ去って、裸で語るしかないのか。

 

「……入るぞ」

 

 俺は服を脱いで、風呂場のドアを開けた。

 シャワーは止んでいて、美優が湯船の蓋の上に座って髪を洗っている。

 

「シャワー使っていいよ。終わったら髪を流すから、交代で使おうね」

「お、おう」

 

 美優が髪を洗っている間に、俺はシャワーで体を濡らす。

 俺がシャンプーを始めると、美優が頭を洗い流して体を洗い始める。

 

 泡に隠れきらないサイズの美優のおっぱいが、ボディソープを滑らせる度にぷるんと揺れた。

 俺は股間の痛みがいつまでも引かず、最後に美優が全身を流し終わって、俺が自分の体を洗っているのを美優に見られているときは、最高に恥ずかしかった。

 

 それから俺が先に湯船に入って、前方に空いたスペースに美優が座る。

 美優の髪はヘアクリップで結い上げられて、背中も首筋も、近くで見るとその肌のきめ細かさが際立った。

 

 まさか美優と一緒にお風呂に入る日が来るなんて。

 定かな記憶ではないが、子供の頃もこうして二人で入浴したことはなかった気がする。

 

「少しは信用した?」

 

 美優が首だけ半分こちらに回して訊いてくる。

 ここまでされたら、信じないのは失礼だ。

 

「まあな。なんか、悪かったな」

 

 あんな態度を取られたら誰だって不安になると思うけど。

 疑われて気分のいい人間はいないよな。

 

 信じよう。

 これで見放されているなら、どっちにしろ復帰する道はないんだし。

 

「ふぅ」

 

 美優は膝を抱えて水面に映った自分の顔を覗く。

 息を抜く美優の表情は穏やかだった。

 

 二人分でかさを増したお湯が、肩までせり上がっている。

 普段はシャワーで済ませてしまうことも多いけど、夏場の方が汗や冷房で体が冷えるんだよな。

 

 たまにはこうしてゆっくり風呂を入るのもいいかもしれない。

 お湯に入った瞬間の亀頭の痛みは尋常ではなかったけど、しばらくしたらそれも静まってきた。

 

「それにしても。すごい出たね」

「おま、そ、それは、だな」

 

 場を和ませようという気遣いだったのか。

 話題にするには億劫な内容だと思うけど。

 

「勢いとはいえ、手でしちゃったね」

「ああ。してもらっちゃったな」

「気持ちよかった?」

「そりゃ、あんだけ出てるからな」

 

 頭が変になるくらいの快楽地獄だった。

 最後の拷問は勘弁願いたいが、もし許されるなら、また手でしてもらいたい。

 

「もうしないからね」

「えっ……」

 

 この脳を透かして読むような先回り。

 残念ではあるけど、俺には彼女もいるからな。

 

 あれは、そう。

 何かの事故だ。

 というより事故以外の何ものでもない。

 

 だから、こうしてお風呂に入っているのも事故。

 しかも相手は血の繋がった妹だし、なんら問題はない。

 だから、後ろから見える美優のおっぱいを、鷲掴みにして弄り倒したいなんて思ってしまっても、それも事故の範疇なんだ。

 

「あの、美優。背中、当たっちゃってるけど、いいのか」

 

 俺の剛直が美優の背中にピッタリと張り付いていた。

 それほど湯船に余裕がないのもあるが、美優がそれを気にせず背中を寄せてきたのだ。

 

「うん。いいよ別に。今日だけはね」

 

 美優はスキンシップを好まないはず。

 どういう心境の変化なんだろうな。

 

「なら、ついでに、もしもの話で聞いて欲しいんだけど」

「うん」

「おっぱいを揉ま」

「それはダメ」

 

 だ、だよな。

 わかってた。

 わかってたよ。

 美優は特におっぱい触られるの嫌いだもんな。

 

「お兄ちゃん」

 

 美優は背中に体重を預けてくる。

 美優が顎を少し上げると、横顔が見えた。

 

「脈すごいよ」

 

 指摘されて、それが肉棒の怒張によるものだと気づいたとき、急に羞恥が湧き上がってきて全身が熱くなった。

 

「す、すまん! えっと、だから、これは」

 

 美優のおっぱいを触りたい想いで気が昂ぶっていた。

 これだけ体が密着していたら、俺の心理状態は丸わかりだった。

 

「トイレのときからずっと硬いままだね」

「うん……そう、だな……」

 

 申し開きのしようもない。

 もう射出できるだけの精液は残っていないはずなのに。

 どうしてここまで硬くなるのか。

 

「いつもそんなに元気なの?」

「いや、これは」

 

 正直に、言ったほうがいいんだよな。

 

「美優といるときだけ、かな」

 

 性欲は多い方ではある。

 でも、射精した直後にまだ硬いままでいるのは、美優が刺激になっているときだけだ。

 

「あのさ、ちょっと踏み込んだ質問をしていい?」

「……な、なんだ」

 

 美優は大きな目をぱちくりさせて、視線を逸らすと、少し考える。

 いつもの癖だが、そこに何の意味があるのかはわからない。

 数秒の間が空いて、いったい何を聞かれるのか、ドクン、ドクンと、俺の拍動は大太鼓を打つように強くなっていった。

 

「お兄ちゃん、私のこと妊娠させたいの?」

 

 その踏み込みすぎた質問に、俺は当然、

 

「ち、違う! そんなことを思ったことはない!」

 

 即座に否定した。

 俺にはまだそんな責任を取れるだけの能力はないし、それを願ったこともない。

 

 だが、あれだけの射精量。

 体の方はどう思っているかはわからない。

 

 それに。

 

 もし、美優にセックスをしてもいいと言われたら。

 

 俺はきっと、欲望のままに、妹に手を出してしまうだろう。

 

「ふーん。まあ、どっちでもいいんだけど」

 

 美優はまた前を向いて膝を抱える。

 

 どっちでもいいならなんで聞いたんだ。

 わからないけど、なんだろう。

 この気持ち。

 

 美優をこうして後ろから眺める姿も、すごく、キレイだ。

 女の子を可愛いと思ったことは何度もあるけど、こんなに感情の底から湧き上がるくらいに可愛いと思ったことはない。

 

 可愛い。

 美優が、世界で誰よりも可愛い。

 

 美優と一緒にいると気が落ち着く。

 肌が触れ合うと胸が高鳴る。

 今までは慣れない女体に興奮しているだけだと思っていたけど。

 

 ──いや、待て、ダメだ。

 これ以上は考えるな。

 俺たちは兄妹だ。

 それ以上なんかには、絶対にならない。

 

「心拍数あがりすぎ」

「あ、ああ」

「可愛い妹の裸がそんなに興奮しますか」

「やめてくれ」

 

 否定ができない。

 

「……そろそろ本当にお兄ちゃんが死んじゃいそうだから、私は先に上がるね」

 

 美優は浴槽をまたいで、軽くシャワーで体を流してから脱衣所に出た。

 

 ああ、そうだ、これは何かの間違いだ。

 

 俺は決して、妹に恋心なんて抱いてはいない。

 

「ご飯、着替えてるうちにできるから。食べに来てね」

 

 美優はタオルを巻いた頭をひょっこりと出してきて、最後にそう言い残してから二階に上がっていった。

 

 どうしようもなく可愛い。

 無心を努めてもそう思ってしまうこの心を、今のうちに矯正してしまわないと。

 

 これ以上妹に気を許したら、俺は取り返しのつかないところまでいってしまいそうだった。

 



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妹に恋をするなんて間違っている

 

 学生の夏休みとは不思議なもので、8月が迫ると教師たちが次々と出し始める理不尽な課題の数に、開放感が逆に削がれていく。

 教室に置いていた教科書の重さも合わさって、持ち帰りの鞄は憂鬱感がどっさりとのしかかっていた。

 

 高校二年生である俺は、来年に受験を控えている。

 実質的に高校最後の長期休暇を満喫しようと、課題と旅行の計画を各所で耳にするようになった。

 

 そんな日々の中で。

 

 俺は連日のように、佐知子とセックスをしていた。

 

「あっ……ああんっ……おにぃ、さんっ……んんっぁぁああっ!」

「佐知子……あぁっ……イィ……ッ!!」

 

 ベッドの軋みも気にせず、俺は取り憑かれたように乱れていた。

 

 愛の言葉も技巧も無い。

 ただ欲望をぶつけるだけのセックスに明け暮れている。

 

 佐知子の長い髪が汗で肌に張り付き、焦点の合わない瞳で俺を見つめる。

 布団はとっくに足元に落として、シーツの皺が行為の激しさを物語っている。

 

「んふぅぁあ……あっ、はげし……い、ぃぃいいぁ!! あっん……!」

「佐知子……はぁ……出る……出るぞ……佐知子…………ッ!」

 

 俺は佐知子を抱きしめ、その体温と匂いを体いっぱいに感じて膣内で射精する。

 

 美優のことは考えないように。

 チラつくその影を頭から追い出すようにして、俺は佐知子の体で絶頂を迎えた。

 

 床には、ティッシュに包まれた使用済みのコンドームが二つ転がっている。

 

「もう三回もしちゃいましたね。昨日も何回もしたのに。……そんなに性欲が溜まっているんですか?」

 

 男に欲望をぶつけられる喜びを滲ませつつも、佐知子は恨めしそうに口を窄ませる。

 

「んーまあ、そんなとこ」

 

 燃え上がるような激しいセックスとは対極に、俺の心は冷え切っていた。

 

 セックスをするたびに、俺の感情を支配するのは自分への失望と諦めだった。

 

 俺にはもうわかっていたのだ。

 美優のことを考えずに射精できるようになったわけじゃない。

 結局この体は、妹を好きになったという背徳感を燃料にして性欲を燃やしているだけ。

 必死に逃げようとすればするほど、それは頭からこびりついて離れなくなった。

 

「夏休みはいつからだっけ」

「来週ですよ。すぐ夏期講習が始まっちゃいますけどね」

 

 お互いに三学期制の学校であるため、終業式の日にズレはない。

 夏休みにはまたイベントスタッフの仕事をやるつもりではあるが、果たして彼女がいる今、金が足りるものか。

 長期バイトも始めないとな。

 

「下に降りるか」

「はい!」

 

 佐知子はベッドから飛び出すと急いで着替えをする。

 

 これから二人で料理を作るのだ。

 

 アミューズメント施設やちょっとした観光地なんかにも行ったが、結局は自宅で勉強と料理をしている時間が一番楽しいことがわかった。

 ああいったものは、たまの休日にドカッと遊ぶくらいがちょうどいい。

 

「今日は何を作るんですか?」

「片栗粉が中途半端に余ってるから、あんかけでも作るかな」

 

 キッチンに具材と調理器具を並べる。

 佐知子と一緒に作る料理は、俺の家事担当分。

 つまりは美優にも食べさせるものだ。

 男らしく肉をドカドカ焼くだけで許されるものではない。

 白菜と人参があるから、適当に豚肉と合わせよう。

 

「……やっぱりお兄さん手際いいですよね。普段から作ってる人でも、そんなにズバズバ切れませんよ?」

 

 まな板で野菜を切っていると、佐知子がジッと観察してきた。

 

「美優のおかげかな。小さい頃に母親の手伝いをしてたときは、美優にやたらと姿勢やらなんやら注意されてたんだよ」

 

 美優が大人しくなる前は、事あるごとにああしろこうしろと口を挟んできた。

 当時はわがままでうるさい妹としか思わなかったが、思えば第二の母親のような存在だった。

 

 ……今でもそうか。

 

「美優ちゃんが人に注文つけることなんてあったんですね」

 

 美優の昔を知っているのは、今のところ俺だけみたいだ。

 とはいっても、記憶のほとんどは厳しくわがままだった美優ばかりだけど。

 前は明るく社交的なはずだったんだが、美優には小学三年生以前の友達はいないんだろうか。

 

「米が炊けるからよそるぞ」

 

 二人で作業分担をして豚肉のあんかけを作る。

 できたてを二人で食べたら解散だ。

 美優は帰りが遅くなることがほとんどないから、料理も温かいうちに食べさせてきた。

 それはこれからも変えたくない。

 

 料理を並べて、佐知子と二人で卓を挟む。

 片方にまとめたサイドテールのほうがやはり佐知子らしい。

 

 二人の間に出てくる話題は学校でのできごと。

 それだけならまだ健全だったのだが、美優がセックスの参考資料にと、俺の持っているエロゲを佐知子に教えてしまったため、二次元方面に関する質問も多くあった。

 佐知子は大体のことは抵抗を示さないので、趣味をおおっぴろげにできるのはありがたいけど。

 恋人が相手でも、俺は趣味を秘めておきたいタイプだな。

 

「いつからエッチなゲームをやってたんですか?」

「中学に入ってしばらくしてからだな。ちょっとしたゴタゴタがあって落ち込んでて、そのときに悪い友達に唆されたんだよ」

「中学生なのに……その人は何をきっかけに始めたんでしょうね……」

「歳の離れた兄が出てくときに置いてったんだと」

「ロクでもない人はどこにでもいるんですね」

「まったくだ」

 

 佐知子と話しているのは楽しい。

 何より気が楽だ。

 

 でも、何か違う。

 もう何日も一緒にいるのに、付き合っている実感が湧いてこない。

 

 出会い方が悪かっただけだと思っていたけど、こうして食事をしているとよくわかる。

 

 佐知子は彼女というより、妹だ。

 セックスができる二人目の妹みたいな感じ。

 近くにいて気楽に過ごせるけど、それ以上に踏み込んだ感情は湧き出てこない。

 

 おかしな話だ。

 俺は実の妹には明確な好意を抱いているのに、血の繋がりのない女の子には親のような気持ちになっている。

 

 普通なら、逆のはず。

 

 美優が俺をそうさせたのか。

 あるいは、生まれつきそういう体質だったのか。

 

 そんなはずはないよな。

 常識的に考えて、兄妹を好きになることなんてない。

 なぜなら人間は、より強い子孫を残すために、自分から遠い遺伝子ほど好きになるようにできているのだから。

 

 俺は妹物のエロゲーをやりすぎて、妹にあれやこれやと世話を焼かれて。

 そうしているうちに、感性が狂ってしまったんだ。

 

 俺は妹のことなんて好きにならない。

 血の繋がった妹をオカズになんかしない。

 フェラを要求したりもしないし、セックスなんてもってのほか。

 おっぱいだって揉みたくない。

 あんなものは脂肪の塊に過ぎないのだから。

 

 そうだ。

 美優の魅力は気遣いが上手いところ。

 それだけだ。

 

 俺は中学のときに女子に酷いからかいを受けて女性不信になった。

 そんな俺が女に優しくされたら、実の妹であろうと慕ってしまうのは当然のこと。

 女性に対するイメージとのギャップに、脳が麻痺しているだけ。

 

 美優は特別なんかじゃない。

 どの家庭にもいるような、ごく普通の妹なんだ。

 

「お兄さん? どうかしました?」

 

 佐知子に心配されて、ハッとする。

 箸が止まっていた。

 

 二人でお風呂に入ってからというもの、考えるのは美優のことばかり。

 無視をしようとしても、悪い方に考えようとしても、美優が頭から離れない。

 恋人が目の前にいるのに。

 

 付き合っている、彼女が。

 

 今、この場にいるというのに。

 

「……佐知子」

 

 弾みで、という表現が適切かはわからない。

 でも、このタイミングしか無いと思った。

 

「話しておきたいことがある」

 

 俺は佐知子と何度も体を重ねてきた。

 でも、そこに恋人としてのセックスは存在しなかった。

 

「なんでしょうか」

「実は、だな」

 

 理解できないかもしれないけど、と前置きしてから、俺は深く息を吸う。

 

 まだ誰にも教えたことがないその秘密。

 美優に迷惑がかからないよう、俺についてだけの悩みを、佐知子に打ち明ける。

 

「佐知子とセックスをしてるとき。いつも、美優のことを考えてた」

 

 端的に説明するには、そう言うしかなかった。

 

「ほえ……」

 

 ポカンと口を開けて固まる佐知子。

 何を言っているかわからないだろう。

 でも、これが事実なんだ。

 

「そもそも、美優が俺の彼女を募集した理由がな。俺が美優以外をオカズに、その、射精ができないからで」

 

 話を聞いている佐知子の目線が、段々と下がっていく。

 

 俺が勝手に負い目を感じていただけなのだから、話さないほうがよかったのかもしれない。

 でも、まだ若い佐知子を相手に、裏切り続ける関係ではいたくなかった。

 

 佐知子のことを考えてセックスをしようとは頑張った。

 でも、結局は最後まで美優のことを考えずに射精できなかった。

 

 体しか使ってやれなかった。

 それは女性からすれば、最大級の屈辱だろう。

 

「わかってたこととはいえ。いざ言われてしまうとちょっぴりショックですね」

「すまん……」

 

 謝罪の直後、俺の頭のなかで佐知子の言葉がリフレインする。

 

「え?」

 

 待て。

 わかってた、ってどういうことだ。

 

「わかってたというより、ありえるかもなーってぐらいだったんですけど」

 

 たしかに俺が想像していたよりは佐知子に落ち込みが感じられない。

 

 本心を隠しているとも考えられるけど。

 それにしたって、兄が実の妹をオカズにする可能性なんて考えるか?

 

「実はですね、私にも秘密にしていたことがありまして」

 

 二人の立場が入れ替わる。

 この間際に暴露される秘密って、まさか。

 

「同じなんです。私も」

 

 佐知子が照れくさそうに頬をかく。

 

「美優ちゃんに初めて指でしてもらったときの快感が忘れられなくて……お兄さんとエッチしてるとき、悶々としちゃってました……」

 

 今度は俺が口をポカンとさせる番だった。

 

 美優の幻影を追い払おうと、テクもなにもないセックスをしていたことは自覚している。

 それでも、佐知子の乱れる姿を見て、俺は自分のセックスが気持ちいいものだと思い込んでいた。

 

「マジで……」

「マジです」

 

 どういうことなんだこれは。

 俺たちは恋人という立場にありながら、互いに別の人を考えてセックスしていたというのか。

 しかもその相手が、片や実の妹、片や同性の友人だったなんて。

 

 いったい俺たちは、どこで何を間違えたんだろう。

 

「俺たち、付き合ってたんだよな」

 

 再燃する疑問。

 元々薄かった実感が、更に希薄になっていく。

 

「一応、彼女のつもりではいますけど。お兄さんはやっぱり、美優ちゃんのことが好きなんですよね?」

「好きじゃない……ことは、ないというか。まあ。好きだけど」

 

 認めたくはないけど、こうなったら認めざるを得ない。

 

「うーん。私は彼氏がいたらどうなるか知りたかっただけですし。どっちでもいいですけど」

 

 どちらでも良い。

 その二つの選択肢は当然、このまま恋人の関係を続けるか否か。

 

 美優のためを思うのなら、別れるべきではない。

 せっかく彼女を紹介してくれたのだし、佐知子と別れたら俺には美優しかいなくなる。

 改善の余地がゼロになってしまうわけだ。

 

 でも、これが果たして自然な恋人関係かと聞かれれば、決してそんなことはない。

 そんな関係を続けていたところで、俺がこれ以上に好きになることはないだろう。

 互いに貴重な青春を棒に振って、それこそ今よりこじれることになったら大変だ。

 

「友達でいたほうがいいんだろうか」

「そうかもしれませんね」

 

 決着は早かった。

 こんな歪な関係は、続けるべきではない。

 

 客観的に振り返ってみれば、それ以外にない選択肢だった。

 

 俺たちは今日の食事を最後に、ただの知り合いへと戻る。

 いや、出会ったときから恋人になることが決まってたわけだし。

 ここでようやく、俺たちはあるべき関係を始められるんだよな。

 

 最後に仲良く食器を洗って、俺たちの間にある空気は、変わらなかった。

 

 お別れは玄関先で。

 手を振って、遠のいていく姿に、虚無感が訪れる。

 

 短い青春を見届けた夏の午後。

 

 俺の中には美優への申し訳無さが残るだけだった。

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

 18時きっかりに、美優は帰ってきた。

 

 鞄は両手で前に持つ。

 ピシッとした姿勢で、まず一度立ち止まり、ひと呼吸。

 ローファーを脱いでから振り返り、スカートを撫でながら軽くしゃがみ込む。

 顔の横に掛かる髪をかき分けるように押さえながら、靴の向きを外へと変える。

 

 これが美優の帰宅時の一連の動き。

 息を呑むほどに洗練された所作。

 どこでこんなものを覚えてきたんだろう。

 

「おかえり」

 

 出迎えに声をかけると、美優は「どうも」と軽く会釈をしてくる。

 ドライモードの美優はどこか他所他所しいけど、このたおやかな様は好きだ。

 

 リビングには一人分の食事。

 それを目の端で確認すると、美優は手を洗ってからすぐに食卓についた。

 

 俺はいつ佐知子と別れたことを言うべきか迷っていた。

 

 美優は黙々と食事を続ける。

 最近は話すことが多かったから、会話がない時間に空気が張り詰めていた。

 

 ソファーでだらだらとやり過ごしていても落ち着かない。

 棚に置かれた雑誌でも読んでいたいが、美優が買ったファッション誌ばかりが並んでいるので手を出しづらい。

 

 横になることもなく、俺はソファーに座ってジッとしていた。

 静止しているのに、不審な動き。

 喉が渇いてきた。

 

 なんと言って謝ればいいんだろう。

 別れればスッキリすると思っていたのに。

 ずっと近くにあったものが突然なくなった寂しさと、美優に対する罪悪感に、俺の心はざわついていた。

 

 身動きが取れない。

 迷っているうちに美優は食事を終えてしまった。

 食器をシンクに運んだら、部屋に戻ってしまう。

 

 時間の猶予はない。

 俺よりも先に佐知子が別れたことを美優に報告したら、なぜ黙っていたのかと美優は憤るだろう。

 ただでさえ頭の上がらない立場だ。

 俺が言うしかないんだ。

 

「み、美優……!」

 

 立ち上がろうとして、自分の声の通らなさに驚く。

 

 相談もしないで勝手やって、美優は怒らないだろうか。

 そんな不安がよぎって、俺は強く頭を振った。

 

 美優はキッチンからなかなか出て来ない。

 やはり声は聞こえなかったのか、カップを取り出して、ポットでお湯を作っていた。

 

 それを放置したまま、美優はリビングを出ていく。

 呼び止めようと思ったが、お湯が沸くまでに部屋でやりたいことがあるのかもしれないと見送ってしまった。

 

 それから5分ほどが経って、美優がリビングに戻ってきた。

 見たことのない箱を携えて、再びキッチンに立つ。

 

 ここがタイミングだ。

 美優がカップに注いだものをリビングで飲んでいくとも限らない。

 

「美優、ちょっといいか」 

 

 なんとか声を捻り出して、俺は美優の前に立った。

 

 美優は歩くのを止めて、その場でカップをふーふーする。

 

 そして、それを俺に差し出してきた。

 

「はい」

 

 いきなりパスされたカップを、俺も両手で丁寧に受け取る。

 

 突っ立っていると、美優がこちらを見つめてきた。

 飲めということだろうか。

 

「俺の?」

「うん」

 

 カップから立ち込めるほのかな甘い香り。

 色の良い紅茶だった。

 

「これは……?」

「フレーバーティー。なんだか落ち込んでたみたいだから」

 

 美優は俺の緊張を感じ取って、落ち着かせようとしてくれていたらしい。

 フレーバーティーなんて見かけたことなかったけど、部屋から持ってきたのはこれだったのか。

 

「悪いな」

「いえいえ」

 

 美優は紅茶を俺に渡すと、手を前に揃えて首を上げた。

 

「で、何か用?」

 

 二重の輪郭が俺を捉える。

 どのパーツも形が良くて作り物みたいだ。

 

「実は、今日な」

 

 俺は紅茶の表面に映る自分を見つめて、グッと熱いものを喉に流し込む。

 

「佐知子と別れた」

 

 告げる口から、香ばしい葉の匂いとほのかなピーチの甘さが立ち登った。

 

「そっか」

 

 美優は怒りも驚きもしなかった。

 いろいろあって美優の表情が変わるところをたくさん見てきたけど、そういえば元々はこういうやつだったな。

 

「頑張ってくれたのに、ごめんな」

 

 後悔があるとしたら、それだけだ。

 美優の尽力を無駄にしてしまったことが情けない。

 

「いいよ。お兄ちゃんもだいぶ重症だもんね」

 

 トイレの一件から、美優の態度は軟化している。

 あのときの美優のため息は、やっぱり俺の更生を諦めたものだったか。

 

「ところでお兄ちゃん」

 

 美優は神妙な面持ちで、俺を睨むように視線を送ってくる。

 俺の破局報告なんて美優にとっては些事だったらしい。

 

「あんまりこういうのは好きじゃないんだけど、一つお願いがあって」

「おお、なんでも言ってくれ。美優には助けてもらってばかりだからな。できる限り力になりたい」

 

 美優からの頼み事なんて、俺からすれば嬉しいくらいだ。

 恩を返す機会を逃がすわけにはいかない。

 

「私、明日はすごく不機嫌かもしれないから。……どう言えばいいのかわからないけど。とにかく、気をつけてもらえると嬉しいかな」

「はあ。別にいいけど」

 

 明日って普通に平日だよな。

 学校で特別なイベントでもあるのか。

 

「よろしくね」

 

 リビングを出て部屋に戻っていく美優。

 

 階段を登っていくその背中は、いつもと変わりない、筋の通った美しい後ろ姿だった。

 



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誰にだって人に言えないことはある

 

 恋人がいなくなっても、登校する景色は変わらない。

 一緒に学校に行っていたわけでもないし、クラスの誰かに教えていたわけでもないし。

 教室に入れば見知った顔だけが並んでいて、毎週繰り返される同じ流れの授業が、今日も始まるだけだ。

 

「よお、ソトミチ。夏休み前なのに冴えない顔してんな」

 

 教室で最初に話しかけてくるのは、大抵は朝練上がりの高波だ。

 こいつの見慣れたアホ顔は俺にとっての精神安定剤になっている。

 そして、その背後から出てきたのが、すっかり上げた前髪が定着した鈴原だった。

 

「ソトミチ、お前もいつまでしょぼくれてるつもりだ。夏といえば、海だろ、海!」

 

 こっちはもはやお前誰だよ状態になっているが、急速に変わっていくサマが面白いのでよしとする。

 夏明けには日焼けして全身真っ黒になってそうだな。

 

「別にしょぼくれてないって」

 

 悩みは尽きないけど、俺は俺で楽しい人生を送っている。

 家に帰れば妹がご飯を作って待ってくれているんだぞ。

 お前らの暑苦しい青春なんぞちっとも羨ましくはない。

 

「ほんとに出かける予定とかねえの?」

 

 部活をやっている高波のような連中は、それだけ夏休みの予定が埋まる。

 運動部だけではなく、有志の合唱やバンド、ダンスの活動などで大会がある生徒も多い。

 何のグループにも参加をしていない俺が旅行の一つもしないというのが理解できないんだろう。

 バイトか勉強に勤しんでいるならいざしらず、俺はそのどちらでもないからな。

 

「考えてはいるけど。今のとこはなんもないな」

 

 美優も家に引きこもる日が多いとはいえ、あいつは遥と旅行をすることが決まっている。

 それも飛行機や船を使っての豪華な旅だ。

 休みの充実度が違いすぎる。

 

「なら、ソトミチもオフ会とか来いよ。ネトゲで知り合ったやつがイベント企画してるみたいでさ、暇なら夏休み中にPCゲーム一本とアプリ二本くらい平行して進められるだろ」

 

 オフ会か。

 あえて陽気な奴らがいるグループに無理して所属せず、自分の得意分野で勝負するのは賢いな。

 

 オンラインゲームを再開するのは構わない。

 でも、オフ会が生産的なものだとはどうしても思えないんだよな。

 

「考えとくよ。内容だけ後で連絡してくれ」

「オッケー。……お前もさ、ひと夏だけでも彼女を作ってみろって」

 

 鈴原は俺の背中を叩いて自席に戻る。

 すっかり人生の先輩になっちまいやがって。

 一度女ができるとあれほど変わるものなのか。

 

 その元カノさんはといえば、こちらもすっかり元気になった。

 

「ねえねえ奏さぁ、数学の宿題の範囲知ってるってほんと?」

「うん。今回はプリントはなしで全部ワークから出るんだって。ページ番号も先生に教えてもらってるから、後でまとめて流すね」

「やぁりぃ! さっすが奏! 頼りになるわ!」

「ふへへ。褒め給え褒め給えよ」

 

 近頃の山本さんはまた一段と明るくなって、学校中からの人気が再燃している。

 ここ数日で告白の回数は30を超えたのだとか。

 下駄箱にもラブレターが詰め込まれていて、さぞ迷惑しているだろう。

 

 誰とでも仲良く話す山本さん。

 気があると勘違いしてしまうのも無理からぬ事だ。

 

 今でもほら、こんな遠くから眺めているだけの俺と目が合う。

 

 山本さんは不要な悪感情を抱かれないため。

 美優は一人の時間を確保するため。

 常に周囲に気を配り続けている。

 卒がない奴らってのは、そういうものだ。

 

 この日の授業もつつがなく終わった。

 

 帰りの支度をしながら、俺は昨晩気になるセリフを残していった美優のことを思い出す。

 

 ──私、明日はすごく不機嫌かもしれないから。

 

 いわゆる女の子の日でもそんなことを言わなかった美優が、あえて俺に言ってくるほどの事情だ。

 しかも事前に言ってくるということは、頑張っても制御できないということ。

 今朝も平常通りに登校していったからやはり学校で何かあるんだろう。

 

 変に刺激したくないし、佐知子か由佳と連絡を取って事前に聞いておくかな。

 

「そーとみーちくん」

「うぉっ!? なっ、山本さん!?」

 

 背後から急に声を掛けられたからびっくりした。

 

「誰とメッセしてるの? 彼女さん?」

「いや、なんというか」

 

 由佳はたまにメッセージを寄越してくるだけのただの知人だ。

 そして、もう片方は元カノ。

 

 説明する方が面倒だな。

 

「何か用でもあるのか?」

「先生が呼んでる。職員室に来いって」

 

 なぜ。

 こんな唐突に。

 清く正しく生きてきた俺に職員室に呼び出される理由なんかないんだが。

 

「私たちが日直だったとき、朗読会の準備をお願いされてたじゃない? あのとき任命された理由がね、私がパンフ作りに協力してたり、朗読のサポートをやる予定があったからなんだけど」

 

 それってつまり当日も俺は巻き込まれただけだったんだよな。

 まあ山本さんと一緒に仕事するのを嫌がる男子は稀だろうが。

 

「その後始末がちょっと残ってるので、まとめてやることにしました」

 

 そして俺もまとめて巻き込まれることになったわけだな。

 

 仕方ない。

 日直のよしみで助けてやろう。

 

「──そいつでいいのか?」

 

 職員室に着いて、担任の第一声がそれだった。

 そりゃクラスでも“そいつ”程度の名もなき存在ではあるけど、手伝いに来たのだからいくらかの敬意は払っていただきたい。

 

「はい。日直を一緒にやったこともありますし」

「なるほどな。世間体としては悪くないか」

 

 山本さんと一緒にいる男子は妬みの対象になりやすい。

 それを考えれば、地味で目立たない俺を選んだのもわからないでもない。

 

 ん、待てよ。

 俺は日直の都合でここに連行されたわけであって、山本さんが選んだわけではないんだよな。

 そいつでいいのかってどういう意味だ。

 

「じゃ、これが資料室と多目的ルームの鍵だ。シュレッダーの使い方はわかるな? 落としものはまあ、10分くらい探して見つからなかったらもう無いでいいだろ。掃除もされてずいぶん経ってるわけだし」

 

 担任が指示した、俺たちがやるべきことは3つ。

 一つは朗読会にやってきた子供が失くしたキーホルダーを探すこと。

 もう一つは資料室に放置されたままのパンフレットの残りを捨てること。

 そしてそのついでに明日配布するプリントを教室に運んでおくことだ。

 

 俺と山本さんは落とし物ボックスを確認してから、多目的ルームの掃除当番を持っているクラスにキーホルダーを見かけなかったか聞き込みをした。

 そのどちらも無駄足で、多目的ルームに行って数分間、掃除と無関係そうな場所を探し回った。

 

「ないねー」

「あるはずないって。何週間も前のことだし」

 

 むしろどうしてこのタイミングで捜索依頼がきたのか疑問だ。

 失くしたことに気づかなかったのか、失くして探していたけれどこの学校にある可能性に至っていなかったのか。

 なんにしても遅すぎる。

 

「……あのさ、ソトミチくんって、何か悩みとかない?」

 

 俺と同じく諦めムードの山本さんは、どっしりと椅子に座り込みを決めていた。

 

「どうしたんだよいきなり。悩みなんて別に……」

 

 なくはない。

 妹をオカズにしなければ射精ができないという由々しき悩みが。

 

 だが、こんな深刻な悩みをおおっぴらにできるわけがないし、そもそも信じてもらえないだろう。

 

「前に悩みがあるって言ってなかったっけ?」

「あっても言えない悩みだってある。山本さんだってそうだろ」

 

 結局、鈴原と付き合う理由になった山本さんの悩みとやらは、聞けずじまいだ。

 ならば俺の悩みだけを打ち明けるのはアンフェア。

 俺の悩みはそこいらの人が抱えている悩みなんかより深刻なんだ。

 山本さんに嫌われるのは御免被る。

 

「私のは……話せっていうなら話すけど……。悩みじゃなくても、何か頼みたいこととかあったりしない?」

「無いと困るのか?」

「い、いや、そういう、わけじゃないけど……」

 

 露骨に顔をそむけてみせる山本さん。

 つまり困る事情があるんだな。

 

「ならやはり山本さんの悩みとやらを聞かせてもらうか」

「うっ」

 

 とても話したくなさそうだ。

 小さなことでもいいから何か頼んであげるのがいいんだろうか。

 目的はわからないけど。

 

 そんなことを考えていると、吹奏楽部の部員たちが練習のために多目的ルームに入ってきた。

 俺たちはそこで捜索を断念し、何人かに遺失物を拾わなかったかを聞いて回って、結果を担任に報告した。

 

 それから資料室に入って、不要なパンフレットと、それを作るために山本さんが使用した書類をシュレッダーにかける。

 

「あの、ソトミチくん? 私の悩みを聞く以外に、して欲しいことありませんか?」

 

 山本さんは長い髪を左右で分けて首にかけると、胸の前でばってんを作りながらいじける。

 

 どうしてそこまでこだわるのか。

 あんまりこだわられると、こちらもこだわり返したくなる。

 

「俺が望んでることができないなら、そこまで無理に聞く必要はなくないか?」

「だって……私の悩みは……その……」

 

 山本さんはやりづらそうに一呼吸溜める。

 

「エッチな話になっちゃうし。それに、みんなからしたらしょうもない悩みだから、多分、話したところで理解されないと思う」

 

 性関係の悩みか。

 しかも話したところで他人に理解されない内容。

 

 ふむ。

 

「俺の悩みも同じなんだが」

 

 俺にとっては深刻なことでも、周囲からすれば『シスコンを拗らせただけのただのアホ』にしか映らない。

 理解もされなければ共感もされないだろう。

 

「そ、それ! じゃあ、私の悩みと交換で! 教えてくれたら、解決するから!」

「いやいやいや」

 

 俺にだって、吐露したい気持ちはある。

 できるだけ多くの人に打ち明けて、理解されずとも真剣に受け止めてもらって、楽になりたい。

 

 でもこれは人間としてアウトなレベルの悩みなんだ。

 言ってみれば、「人を殺してしまったがどうすればいいかわからない」と相談するようなもの。

 人間は痛みまでは同情できても、歪んだ人間性までは受容できない。

 

「とにかく、本当に話せる内容じゃないから。頼み事をしてほしいって言うなら、考えとくから。とりあえずはそれで、な?」

「うぅ……。できるだけ、早めにお願いね?」

 

 弱りながらウィンクをする山本さん。

 何が彼女をここまでさせるのか。

 

 ただひとつわかったことと言えば。

 

 俺が今日、山本さんに指名されたのは、偶然ではなかったということだけだった。

 



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妹の深刻な悩み

 

 山本さんに変なお願いをされて、頭がぐるぐるしたままの俺は、予想外に遅くなった帰宅にドアの前で立ち呆けていた。

 最近やたらと目が合うようになったと思ってはいたが、俺と二人きりになるタイミングを見計らっていたとは。

 

 しかもその話の内容も謎だし。

 どうして俺が山本さんに頼み事をしなければならない?

 そもそもなぜ相手が俺なのか。

 

 わからない。

 考えたってしょうがないことだけど。

 ミステリアスなのは妹だけにしてもらいたいものだ。

 

「ただいま」

 

 すっかり板についた帰宅の言葉に、返事はなかった。

 鍵が開いていたのだから美優が帰ってきているはずだが、部屋に籠もっているんだろうか。

 

 リビングに近づくと微かに鼻腔を突く香ばしい匂い。

 魚を焼いたものだ。

 香りの強さからして、作った直後か、作っている最中だな。

 

 タイミングが悪く声が届かなかったんだろう。

 俺はリビングのドアを開けて、再び帰宅の挨拶をする。

 

 つもりだった、俺の行動は、そのあまりに衝撃的な光景にキャンセルされた。

 

「み、美優……!?」

 

 救急車を呼ぶべきか、本気で迷った。

 

 美優が倒れているのだ。

 ソファーの上で、うつ伏せに。

 

 しかも、ブラウスのボタンが中途半端に開けられて、潰れた谷間が覗いている。

 腰からはブラウスどころかキャミソールの裾まではみ出ていて、こんなだらしない格好で美優が寝るなんて考えられなかった。

 

「美優!! 大丈夫か!?」

 

 俺は急いで美優に駆け寄り、体を揺すった。

 背中は上下に動いていて、口からは呼吸音が聞こえる。

 

「うぅ……」

 

 意識不明というわけでは無いみたいだ。

 

 過労か、熱中症の可能性もありうる。

 俺は冷蔵庫から水を取り出し、コップに注ぐと、美優の足を下ろしてから体を起こした。

 

「ぐぅ……うにゃむにゃ……」

 

 美優は薄目を開けてぐったりしている。

 背後から上体を支えてやるが、それでも首が据わっておらず不安定だ。

 発熱、発汗はなく、ひとことで表すなら、寝ぼけている状態なのだが。

 

「美優、どうした。水を持ってきたけど、いるか?」

 

 俺が尋ねると、美優はなんとかわかるくらいに首を横に振った。

 

 このときの俺の脳を支配しているのは不安と恐怖だった。

 そのせいで、普段は考えないようなことばかりが浮かんできた。

 

 暴漢に襲われたのではないか。

 学校でイジメにあったのではないか。

 果てには、海外からやってきた虫に刺されて病気になっているのではないかなどとも考えた。

 

 だから俺は、意識が薄い美優に断りを入れる前に、体に異変が無いかを確かめた。

 傷はないか、痣はないか、炎症はないかと。

 

 スカートをめくることもためらわなかった。

 焦りすぎて乳首が見えても気に留めなかった。

 ブラウスの裾を上げて背中まで確認して、やがてどこを探しても見つからない異常に、俺の頭は冷静になっていった。

 

「うむぅ……んぁ……ふぅ……」

 

 美優は寝言とも取れない声を出して、全身から力を抜く。

 検査のために掴みの甘くなっていた俺の手を、美優の体がすり抜けて倒れそうになった。

 

 それを俺は、抱きとめた。

 

 両手で、がっしりと。

 

 不意のことだった。

 そのままゆっくり横にしてやればよかったのに。

 頭から床に落ちたら大変だと、無理をして美優の体を支えてしまった。

 

「おわっ、や、やば……」

 

 俺の手が美優の胸を掴んでいた。

 

 大きくて柔らかい、そのたわわを。

 

 何度も触れたいと思って、一度も確かめることができなかった美優の感触。

 予想通りの弾力に、想像以上の柔らかさがある。

 少し力を加えれば、それは変形して、指の間から溢れてくる。

 

 そこでやってきた第二の混乱。

 

 俺はブラウスの上から美優の胸を鷲掴みにしているのに、なんでこんなにも柔らかいのか。

 

 間違いなく巨乳に分類される美優の胸を触っているのだから、柔らかいのは当然のはずだった。

 なのに、ひっかかる、その違和感。

 そうだ。

 

 俺は美優の裸を抱いているわけじゃない。

 服の上から胸を掴んでいるのだから、それは硬くなくてはならない。

 

 なぜなら、このサイズを持つ女の子がブラジャーをつけないはずがないからだ。

 

「つけて、ない……」

 

 無意識のうちに揉んでいた。

 その吸い付くような柔らかさに、本能が我慢をすることを許さなかったのだ。

 

 美優のおっぱいを堪能しながら、俺はそれを確かに見た。

 テーブルの下に投げ捨てられた大きなブラジャー。

 焦るあまり埒外になっていたが、さっき胸に異常がないか確かめたときに気づくべきだった。

 

 ああ、やばい。

 柔らかい。

 気持ちいい。

 これでガチガチに勃ったモノを挟んでもらったら、どれだけの快感が生まれるんだろう。

 

 してもらいたい。

 パイズリを。

 美優に。

 

 死ぬまでには。

 一度くらい。

 

「ふぁ……んー…………わたし……なんでこんなとこに……」

「み、美優!! 起きたのか!! よかった!!」

 

 俺は慌てて手を離し、美優を開放してソファーを降りた。

 そこにはきちんと背を伸ばし、瞼を擦る美優がいる。

 

「あ、お兄ちゃんだ。おはよう」

「お、おはよう、美優。どうしたんだ? そんな格好で寝るなんてらしくない」

 

 美優は帰宅してから今までのことを覚えていないようだった。

 

 今日は何かあるかもとは聞いていたが。

 寝込むほどショッキングなことだったのか。

 

「ああ、そっか。うん。ダメだったみたい」

「ダメだった? なにがだ?」

「ダメだったの。私、やっぱりダメだった」

 

 美優はいそいそと服を直していく。

 俺がブラジャーを拾って渡してやると、美優は受け取る前に自分の胸を何度か触って、首を傾げてからそれを身に着けた。

 

 違和感を残してしまったか。

 今更ながらなんともリスキーなことをしてしまった。

 俺の目の前でブラジャーを着ける辺り、まだ頭は冴えていないみたいだけど。

 

 マズイことをしてしまっただろうか。

 いや、だが、最初に掴んだのは事故なんだ。

 それは間違いない。

 揉んだのは、申し訳ないけど、不可抗力ということで。

 

「お兄ちゃん、今何時?」

「もうすぐ18時になるとこ」

「そっかぁ。じゃあご飯食べよっか」

「そうだな」

 

 美優がトボトボとキッチンに向かうと、テーブルに運んできたのは鯛のムニエルととろろの定食だった。

 

 これを作るだけの気力はあったのか。

 美優のことだからこれくらい無意識でも作りそうだけど。

 

 こんな立派な料理を用意してもらって、兄である俺は無断でおっぱいを揉んでいるなんて。

 

 最低だ。

 これはさすがに懺悔しなければならない。

 

「お兄ちゃん、遅かったね」

「ああ。急用ができて」

 

 俺は炊飯器から米をよそって着席する。

 美優の分も取ってやった。

 

「ごめんね、心配かけて」

「いいんだよ。病気とかじゃないんだろ?」

「うん」

 

 美優はとろろに醤油を垂らして力なくかき混ぜる。

 

「あの、ひとつ、謝罪しなきゃならないことがあるんだけど」

「ん? どうしたの?」

 

 俺は美優の置いた醤油を取り、とろろに掛けながら、ごく自然な流れになるようにその言葉を口にした。

 

「さっき美優が寝てるとき、ちょっと胸を揉んでしまったんだが……」

 

 それを言い切ったか、言い切らなかったかのところで、『ダンッ!!』と強い打撃音が俺の真向かいのテーブルで鳴った。

 

 俺は飛び跳ねるように驚いて、その後に手に持っていたとろろが器ごとなくなっていたことに気づく。

 

 美優が俺から奪っていた。

 とろろだけではない。

 ムニエルから味噌汁、漬物に至るまで。

 

 米以外の全てが、いつの間にか美優のテーブルに並べられていた。

 

「と……とろろ……」

 

 おかずになりそうなものが醤油だけになった俺が、ポツリと呟いた。

 

 その言葉に、殺意を眉間に寄せた美優が俺を睨んできた。

 

「知らない。自分の精液でもかけて食べれば」

 

 美優は俺の分のムニエルをバクッと大口で早食いすると、とろろを二人分かき混ぜて自分のご飯茶碗に流し込んだ。

 

「わ、悪かったとは思ってる! でも、美優の体を支えてたら、タイミング悪く、その、あくまでも事故であって……!」

 

 言い訳をする俺に対し、美優は冷徹な表情の奥にある怒りを収める様子がない。

 

「いい機会だから、お兄ちゃんの精液がどれくらい不味いか知るといいよ」

 

 やばい、めっちゃ怒ってる。

 そういや今日は不機嫌って言ってたよな。

 どうしてそんな日に限ってこんなことをしてしまったんだ。

 

「そ、そんなに、不味いのか」

 

 気まずい雰囲気だけにはなりたくなくて、どうにか会話を繋ぐ。

 

「とろろの5倍は粘つくし、イカ刺しの3倍は生臭い」

「そ、そんなにか……」

「そもそも、お兄ちゃんは量が多すぎ。男優さんだってそんなに出さないよ」

 

 そうか、美優は佐知子にセックスを教えるためにAVで勉強をしたんだ。

 せっかく他の男を知らなかったのに、比較対象ができてしまったんだな。

 

「精液が濃すぎるの。お兄ちゃんは私のことを考えないと射精できないんだよね? なんでそんなに精子を出してるの?」

「す、すまん」

「私は妹だよ? 血の繋がった実の妹。毎日何回も抜いてるくせに、どこにそんな量の精液を溜め込んでるのかな。まったく」

「俺も不思議なくらいです」

「私があんまりスキンシップを取らないの知ってるよね。お兄ちゃん、最近は女の子にモテるとか勘違いしてるんじゃないかな。私が方々に手を回してあげなきゃ、お兄ちゃんなんて女の子とロクにお喋りもできないのに。家事ができることを抜いたらお兄ちゃんに残るのは性欲だけでしょ」

 

 ああ、ダメだ。

 もう手のつけようがない。

 何一つして俺に非が無い立場が無い。

 

「孕ませたがり」

「申し訳ない」

「変態」

「ごめん」

「ばか」

「ほんと悪かった……」

 

 美優の声がだんだんと小さくなっていく。

 怒気が収まってきたのか、ゆっくりと食事の手を進め始めた。

 

 さすがに自分の精液を掛けて食べる気にはならないし。

 冷蔵庫から新しい食材を取ってくるのも気が引けるからな。

 醤油だけで食べるか。

 こんな程度で誠意になるとは思わんが。

 

 お互いに何も言わなくなって、静かになって、美優が茶碗をテーブルに置く。

 

「ごめん。ちょっと言い過ぎた、かも」

 

 美優は気まずそうに伏し目で謝ってきた。

 

「いやいや。完全に俺に問題があるから。美優は何も悪くないよ」

 

 恩を仇で返すつもりなんて毛頭ない。

 むしろ美優から受けた恩は二倍にも三倍にもして返してやりたい。

 でも俺にはそれだけの能力が追いついていなかった。

 

 たとえば、いますぐ俺にできる恩返しにどんなものがあるのか。

 わからない。

 だからいつも後手後手だ。

 

「はぁ……」

 

 美優はため息をつくと泣きそうな顔になった。

 

「わ、悪かったって! お詫びは何でもするから!」

「うん。まあお詫びはしてもらうつもりだけど。そうじゃなくてね」

 

 美優は茶碗に移したとろろを、また元の容器に入れ直して俺のテーブルに戻す。

 

「今日、何かあったのか?」

「まあ、うん」

 

 それから、美優は言葉を続けなかった。

 俺も追及する気にはなれなくて、お互いに黙ったまま食事を終えた。

 

 食器をキッチンに運んで、洗い物をしようとした、その手が止まった。

 

 美優がソファーで膝を抱えていた。

 

「なにか、買ってきて欲しいものとかあるか? それとも……なんだ……紅茶でも飲むか……?」

 

 俺は美優の悩みを深掘りしないように尽くせることを探した。

 

 どんなことでもいい。

 美優の気が楽になることなら。

 

「ありがと。別に何もいらないよ」

 

 美優は顔を膝に埋めて丸くなる。

 こんなに弱った美優の姿は初めて見た。

 

 一人にしてやったほうがいいのかもしれない。

 でも、それなら自分の部屋に戻るような気もするし。

 

 俺は何をするのがベストなんだろう。

 

「今日ね、健康診断があったの」

 

 顔を俯かせたまま美優は口を開く。

 

「健康診断? こんな時期に?」

「先月は学校全体で変な風邪が流行って。夏なのにインフルの子もいたんだって。それで中間試験もあったから、この時期に延期になったの」

「そうだったのか。んで、健康診断がどうかしたのか?」

 

 学校の健康診断なんて、目と歯を診る以外は身体測定しかないよな。

 難病を宣告されるようなことなんてないと思うけど。

 

「身長」

 

 美優がボソッと溢す。

 

「去年から1センチしか伸びてなかった」

 

 なるほど、そうだったのか。

 でも1センチも伸びたんだったら、元々小柄な美優からしたら悲劇的な数値でもない気がするけど。

 女の子だし。

 

「それは、残念だったな。身長は、努力じゃどうにもならないもんな」

「それなのに」

 

 美優は俺の言葉を遮るように続けた。

 

「おっぱいが4センチも大きくなってた」

 

 鼻水を啜る音が聞こえた。

 美優が泣いている。

 

「そ、それはまた……」

 

 おっぱいって、胸囲が去年より4センチ増えてたってことだよな。

 

「4センチも変わったなら、ブラのサイズが合わなくなるんじゃないか?」

「だから先月買い替えたんだよ。そのときは、まだ去年と比べても2センチのプラスで収まってたのに」

 

 胸囲が直接カップサイズに効いてくるとは限らない。

 でも、美優を見る限り、胸だけが成長していることは明らか。

 プラス4センチがそのままトップとアンダーの差に響いてくる。

 

「この一ヶ月半で2センチも増えたのか……」

 

 ありえる話なのかはわからないが、これが本当だとしたら、下手をすれば更にブラの替え時が来ていることになる。

 

「最近は多少痩せ型になってもご飯の量を抑えてたのに。もうイヤ……可愛い服無い……形も維持できない……」

 

 美優は体を抱えたままソファーに横たわる。

 もとより自分の見栄えにこだわる美優だ。

 ダメージは深刻なようだった。

 

「実際……その……どれくらい……なんだろうな……」

 

 気になることを聞こうとして、さすがにデリカシーがなさすぎたかと小声になる。

 

「Gカップ……」

 

 美優は生気の抜けた声で答えた。

 

「が、少しキツい。ホックの外側を使ってなんとか入ってる。これ以上大きくなったら、また買い直し。お金かかる。肩凝る。周りの目が気持ち悪い。もう家から出たくない」

 

 憂鬱な胸を抱いて呪詛のように呟いた。

 

 ここ一ヶ月半で急激に成長した美優の胸。

 俺との関係が変わったのもその辺りからだ。

 自意識過剰かもしれないけど、たぶん、美優が俺に胸を触られて怒ったのは、そういう背景があったからだと思う。

 

「その、悪かったな」

 

 自然と謝罪の言葉が出た。

 

「ん? ああ、触ったこと?」

「それもあるけど。色々と。飲ませてたのとか」

 

 あんだけ不味いって言われちゃうとな。

 美優は感情を面に出さないから、てっきり精液の味が気にならないタイプなのかと思ってた。

 

「うーん……それが原因じゃないと言い切れないところはあるけど……。飲んでたのは私の意思だから、謝られるのも違う気がする」

 

 美優に言われると、その通りではある。

 俺は手で受け止めてもらうつもりだったのが、口を開けられて、思わず出してしまって。

 それからも、美優は口に出されることを拒まなかった。

 

 そんなことをされたら、誰だって出したくなるに決まっている。

 自分の意思だとは言うが、美優は何を考えて俺の精液を飲んでいたんだろう。

 

「でも、これからは、控えたほうがいいよな」

「まだ彼女を作るの諦めてないなら控えたほうがいいかもね」

「諦めたわけではないけど。じゃあ、その、したいって言ったら?」

「今? 別にいいけど」

「えっ」

 

 まじで。

 いいの。

 

「不味いんじゃなかったのか」

「不味いよ。何度も言ってる通り。すごく不味い」

 

 だよな。

 

「でも、不味いのと嫌いなのは、別だから」

 

 美優は自分の胸で顔を隠す。

 

 不味くても好きになるものなんて青汁とプロテインぐらいだと思うけど。

 美優にとってこれはそういう類のものなんだろうか。

 

「出すの?」

 

 美優にそう言われて、俺のペニスが欲望と共に膨れ上がってくる。

 

 今まで美優と体験したエロいシチュエーション。

 そして、先ほど触れた美優の胸。

 

 鼓動が大きくなる。

 こんな落ち込んでいる妹に、射精をするなんて。

 そんなこと、考えられるわけが──

 

「……だ、出したい」

 

 下半身は本心を隠さなかった。

 スラックスの上からでもはっきりとわかる膨張。

 昨日佐知子とあれほどセックスをしたにもかかわらず、俺は落ち込む妹を相手に欲情している。

 

 美優が相手だと理性が利かない。

 歯止めが掛からない。

 常人の思考ならありえないはずの状況でも、性欲を第一に優先してしまう。

 

「ママが帰ってくるまでに出してね。我慢禁止」

 

 夕方の食事後。

 我が家の両親からしたらまだ早いくらいの時間だが、帰ってくる可能性がないでもない。

 自分の部屋に移動するのが最も安全だが、そんな流れでするものではないことをお互いにわかっている。

 

 どんな体勢で扱けばいいだろう。

 俺はパンツに手を掛けながら、そそり勃った肉棒をどう露出させるべきかに迷っていた。

 散々美優の目の前でオナニーをしてきたとはいえ、羞恥心はなくならない。

 

 でも、結局出すときは美優の顔の前にさらけ出すことになるんだよな。

 

 ならば考えるべきはどう扱くかじゃない。

 美優のどこをオカズにしてオナニーをするかだ。

 

「体を触るのは、ダメなんだよな」

「絶対にダメ」

 

 これだけは譲らないよな。

 さっきも直に触ってたら殺されていたかもしれない。

 

「匂いを嗅ぐのは?」

「場所による」

「スカートの」

「ダメ」

 

 くっ、許容範囲が広いんだか狭いんだかわからない妹だ。

 

「そういや、服の匂いを嗅ぐのも禁止だったよな」

「それはまあ、事情が変わったのでよしとします」

 

 いつの間にどんな事情が変わったんだ。

 この前も手でしてもらったり、美優の中で線引きが変わってきてるのは俺にもわかるけど。

 

「でもお風呂場で私が脱いだのを嗅いでたら握りつぶすかも」

「絶対にしない誓って約束する」

 

 男の急所は冗談ではなく死ぬ。

 

「しょうがない」

 

 美優は自分の鳩尾のあたり、ブラウスがおっぱいに押し上げられてできる布の浮き際を、トントンと手で叩く。

 

「ほら」

 

 美優の目が俺を呼んでいるように感じて、俺は導かれるままに美優のすぐ横に座った。

 

 美優はまだ胸の下のあたりを手で示している。

 まだ近づけということか。

 それは、つまり、まさか。

 

「えっ……い、いいのか」

 

 俺の問いかけに、美優は頷いてから手をどける。

 そこなら、匂いを嗅いでもいいということか。

 

 そんな母性に溢れたエロスを。

 男として至高の喜びを。

 俺に与えてくれるというのか。

 

 もう俺を更生させるつもりなんてないんだろう。

 いやもう何がなんだかわからんが最高だからどうでもいい。

 俺はソファーの前で膝をつき、パンツを脱ぐと、美優の胸とお腹の間に鼻を近づけた。

 

「はぁ……ぐっ……!」

 

 鼻腔いっぱいに空気を吸い込むと、麻薬のように脳に痺れが広がった。

 

 あまりにも濃すぎる、美優の匂い。

 女の子特有の甘さ。

 柔軟剤のフレーバーに、汗の混じった陽だまりのようなフレグランス。

 

「あぁ……すぅ……はぁ……ああぁっ…………脳が……溶ける…………!」

 

 部位特有の薫り、特に美優が最も汗をかきやすいである谷間の、雫が滴り落ちて吸収される極致点。

 

 肉棒を握るその手が、浮き出す血管を捉えていた。

 心臓が供給してくる血液の量に、海綿体のキャパシティが追いついていない。

 

 鉄心のように硬くなった内側が痛い。

 それでも容赦なく送りつけられる血液に、ビクンビクンとペニスが跳ね上がる。

 吹き出す先走りのカウパーが、悲鳴に喘いで涎を垂らしているようだった。

 

「うぅぅ……美優……ぁ……あぁぁ……」

 

 ぼやけた頭が、麻酔を掛けられたようにふわふわする。

 その頭頂に、人肌が乗っていたことを、俺が気づいたのは1分ほどしてからだった。

 

 美優に頭を撫でられている。

 それを認識した瞬間から、髪の毛の一本一本が美優の体温を感じ始めた。

 

「あぁっ……ッぐ……うぅぁぁはぁ……!」

 

 それはもはや性感帯への愛撫と等しかった。

 美優の手が俺の頭をひと撫でするごとに、快楽のパルスが雪崩のように押し寄せてくる。

 

「そんなに気持ちいいなら、さっさと出そうね、お兄ちゃん」

 

 美優なりの手伝いだったのか。

 冷淡なそのセリフすら、俺の射精を煽る攻め句となっていた。

 

「美優……はぁぁ……ぁああっ……美優ッ……!」

 

 速まるストロークに、美優も射精まで間もないことを感じ取っていたはず。

 

「お兄ちゃん、息止めて」

 

 それなのに、この最大のご褒美に対して、美優はあまりに残酷な命令を俺に下してきた。

 

 思わず赤ん坊のように喚き散らしたくなった。

 それでも、美優の命令に逆らう権利など無い俺は、素直に息を止めた。

 

 薄くなっていく血中の酸素濃度に、意識が遠のいていく。

 美優という脳内麻薬がどうにかごまかしていた苦しさが、危険信号を発していた。

 オナニーの快感まで薄くなって、手が止まりかけた、そのとき。

 

「はい、深呼吸」

 

 美優は俺の頭を撫でていた手を、左右で重ねて。

 

 ギュッと、自らのお腹に俺の顔を押し付けた。

 

「んっ……んんんっ……!!」

 

 息を吸い込んだ瞬間、酸素の吸収を求めたヘモグロビンは美優のフェロモンに支配された。

 全身に美優の匂いが駆け巡って、ほとんど暴発してしまっているペニスの根元を強く握り、俺は立ち上がって美優の口に精液を全てぶちまけた。

 

 発射したというより、注いだと表現した方が正しいほど、ドロドロと精液が流れ出てくる。

 それが全部美優の口の中に溢されて、美優の口は舌の根元が白濁液で見えないくらいに満たされていた。

 

「あ……んむっ……」

 

 美優はそれを飲み込んで、またソファーに体重を預ける。

 

 俺は一瞬、どうしてそこに立っていたのかわからなくなるくらい、頭の中が煙でいっぱいになっていた。

 

「不味い」

 

 眉の一つも動かさず、美優はそれだけ言って、瞼を閉じる。

 

 どうして、こうなったのか。

 

 俺は情けなく下半身を露出させたまま棒立ちし、その日はもう考えることをやめた。

 



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悩む妹、悩まない兄

 

 テーブルの上に4つのランチョンマットが並べられている。

 皿が置かれているのはそのうちの3つで、俺と、母親と、父親の分。

 

 今日の朝食は、パンに各々が好きなものを乗せるものだ。

 

 両親はケチャップやチーズを乗せるピザスタイル。

 俺はオーソドックスにマーガリンとジャム、もしくは砂糖。

 美優はサラダや目玉焼きを乗せて食べることが多い。

 

「こーちゃん、私たち、明日からもう旅行に出ちゃうから。美優の世話はよろしくね」

「ん、ああ」

 

 俺はパンを頬張って、リビングの外にある階段に意識を向ける。

 まだ登校日は残っているはずなのに、美優が朝食を食べに来ていない。

 

「あの子は普段はしっかりしてるけど、ちょっとしたきっかけで気が抜けちゃうときがあるから。事故だけは起こさないように注意してあげるのよ」

 

 母親の言うとおり、美優にも危なっかしいところはある。

 美優は普通の女の子に完璧の皮を被せたタイプだ。

 生まれつき天才だったわけではなく、努力の積み重ねで今に至っている。

 美優の淡白さはその努力の過程で身に染み付いた緊張感からくるもので、その糸さえキレてしまえばむしろか弱いくらいの女の子に戻ってしまう。

 

 美優がご飯を食べに来ない理由は、どう考えても昨日の健康診断の影響だ。

 胸の大きさにコンプレックスを抱いていた美優は、ついに90の大台に乗ってしまったバストサイズに頭を悩ませている。

 そのショックがまだ抜けきっていないのだろう。

 美優のことだから数日休んだところで出席日数が足りなくなることはないはずだが、起こさなかったら無視をしてしまったみたいで後味が悪い。

 

 食事を手早く終えて美優の部屋に行くことにした。

 妹とはいえ女の子の部屋なのでズカズカと入っていくわけにもいかず、ノックをしてみるも反応がない。

 

 わずかにドアを開けて中を覗くと、布団が盛り上がっている。

 起きて登校の準備もしていないようだ。

 

「美優、朝だぞ」

 

 声を掛けても返事はない。

 昨日の事件からわかったことだが、美優は疲れて寝ているときは極端に起きにくいみたいだ。

 

 部屋に入り、ドアを閉める。

 内装は以前と変わりはなく、淡白ながらも女の子らしい赤みのある配色。

 やはりというかいくつかの服が脱ぎ散らかされていた。

 

「起きろ、美優。学校に遅れるぞ」

 

 俺は頭のてっぺんだけを出して寝ている美優の肩を揺さぶった。

 

「ん……んにゅ……」

 

 美優は布団の中から第二関節までをニョキッと生やして、目の下まで布団を下ろす。

 眩しそうに目を細める顔が不機嫌だった。

 

「そろそろご飯を食べないと間に合わなそうだから起こしにきた。休むなら休むでいいけど、どうする?」

「……行く」

 

 言葉とは正反対に布団をかぶり直す美優。

 

 重症だ。

 いつもは必要以上にきっちりしているだけに、その落差からどれほどのショックを受けているかがわかる。

 

「今朝はパンだから、部屋に持ってきた方がいいならなんか作ってくるぞ」

 

 床が汚れたりニオイがつくからと、部屋で食事をするのを好まない美優だが、こぼれにくいように作ってくればパンくらいは食べるだろう。

 勉強のときはココアとか持ち込んでるみたいだし。

 

 美優はまた顔を出した。

 いつもの愛らしい眼に戻っている。

 

「それは嬉しいけど、食欲がないんだよね」

 

 美優がギリギリまで寝ていた理由はそれだったか。

 ご飯を食べないなら、なるほどたしかにまだ寝ていても余裕がある。

 

 食器は片付けておこう。

 両親ももうすぐ出かける時間だし、余った時間で食器でも洗っておくか。

 

 部屋を出ようとして、ふと美優のベッドの足元に違和感を覚えた。

 背後で美優が起き上がる音がして、布団が退けられると、その全容が露わになる。

 

 淡い柑橘色のパンツが一つ転がっていた。

 セットのブラジャーと思われる肩紐まで布団からはみ出ていて、その更に奥にはパジャマの裾らしき部分が見えている。

 

 頭をよぎる予感。

 いや、すでに確信となっていたそれは、俺の好奇心から我慢の二文字を奪い去っていた。

 

「あっ……」

 

 美優がそれを自覚したのと、俺が振り返ったのがほぼ同時だった。

 

 起き上がった美優の体が、朝日を浴びて白く輝いている。

 上半身には美優の悩みの種が成熟していた。

 

 その先端には、白桃を連想させるほんのりとしたピンク色が。

 

「うっ……そうだった……」

 

 美優はゆっくりと布団を被り直した。

 

 「そうだった」というのがどのような意味を持つのか、さすがの俺でも想像がついていた。

 そんな邪推などするべきではないのだろうが、これはどう考えたってそうだったとしか考えられない。

 

 止まない想像が俺の下半身に熱を集めていく。

 布団の中で脱がれた服……最初から着ていなかったのならそれだけのことだったが、美優はわざわざ着ていたものを脱いで裸になった。

 

 俺だってまさかとは思うが、これが指し示すものは一つしかない。

 

「お兄ちゃん……」

 

 美優の恨みと羞恥の込められた声が俺の耳に届く。

 それが更に下腹部に硬さを与えていく。

 

「これは、ですね、寝ているときに、サイズの合わないブラが苦しくなって。それで、脱いだだけでして……」

 

 美優の苦しい言い訳が俺の確信をより強固なものにしていく。

 ブラジャーを脱いだ理由としては適切でも、パンツまで脱いだ理由にならない。

 

 沈黙が俺の返答だった。

 美優は必死に体のいい釈明を探しているようだが、この状況がひっくり返るはずもなく。

 

「わ、私だって、若い体を持て余すことくらいあります」

 

 ついに美優が認めた。

 

 昨晩、一人でその体を慰めていたことを。

 

 声は全く聞こえなかった。

 バレないように声を押し殺して、この布団の中で美優は身悶えしていたんだ。

 考えれば考えるほど、危険な脳内物質が分泌されていく。

 生地の柔らかいスウェットが勃起に押し上げられて、いつもよりもペニスのサイズが誇張されていた。

 

「ばか……」

 

 美優の目も俺の膨らみを睨んでいた。

 朝勃ちでも体感したことがないくらいの膨張感がある。

 

 興奮は収まりそうになかった。

 美優から目を反らしても、あらぬ妄想が睾丸を疼かせて止まない。

 このままだと俺が学校に行けなくなる。

 抜かなくては。

 ここで出しておかないと、どうにか誤魔化して学校に行ったとしても、授業中は妹のエロシーンしか頭に浮かばなくなる。

 

「そんなもの見せられてしまうと、さすがにな」

「そんなものってなに。妹だよ。実の妹の見慣れた裸でしょ。どうしてそんなに元気になっちゃうの」

「裸を見ただけならまだ平気だったんだけど」

「ぐぬ……妹の一人エッチがそんなに興奮するんですか」

 

 するに決まっている。

 というか正直にいうと、エッチをしていなかったとしても、この状況で裸を見たら勃起する。

 

「美優はやっぱり、そういう気分じゃない、かな」

「いつものですか」

「うん」

「別にいいけど」

 

 いいのか。

 いいんだな。

 なら遠慮はしない。

 

 俺はパンツを脱いで美優のベッドの横に立った。

 

「す、するぞ」

「はい。どうぞ」

 

 美優は布団で体を隠し、俺が肉棒を扱くのを眺める。

 何度もしてきたことだが、恥ずかしさが消えることはこの先もないだろう。

 妹にオナニーを見られる羞恥心が興奮材料になっている。

 

「まさか朝食がお兄ちゃんの精液になるとは」

 

 美優の恨み節に、俺の頭の回転が速まる。

 

 射精した精液を口で受け止めてもらうことは、ただの処理だと考えてきた。

 だがここにきて、この行為がもう一つの側面を持つ。

 

 ──餌付け。

 

 エロ本ではミルクだなんて呼ばれることもある精液。

 不調の妹のため、兄の栄養たっぷりのミルクを、その口に注ぐと考えれば。

 

 これは飲食としての口内射精。

 俺は性欲を処理するためではなく、食事を望む美優に精液を飲ませるために射精をするんだ。

 ならいつも以上にたっぷりと出してあげないと。

 その腹が精液で膨れるくらい。

 美優の口に、出して、飲ませて。

 

「美優……出すよ…………飲んで……!」

 

 今日一番の美優の食事が俺の精液になる。

 尿の排泄器官である、その先端から射出されるどろどろとした白い液体が、美優の朝食になるんだ。

 

 本来なら汚らわしいと、誰も進んでは飲まないはずの精液。

 それを、美優なら飲んでくれる。

 

「美優……あぁ……美優……ッ!!」

 

 ペニスに与える快感が最高潮に達して、腰をぐいっと前に突き出すが、それでも美優の口までは届かない。

 

 美優もそれはわかっていて、俺の限界に合わせて顔を近づけてきた。

 ベッドの脇に立つ俺の腰の高さまで顔を上げれば、必然、上半身が起き上がる。

 

 予想以上に早かった俺の射精に、油断もあったんだろう。

 ベッドを汚されることだけはどうしても避けたかった美優は、両手をベッドについて亀頭を覆い隠すくらいに口を近づけてきた。

 

 はらりと美優の体を滑り落ちる布団。

 隠されていた裸体が露わになる。

 

 風呂に入る前なら体に掛けてもいいと言われて、ぶっかけをしたのは結局あのときの一回きり。

 しかも、風呂場で裸になっているのとベッドの上で裸になっているのでは、その景色が与えてくるインパクトに隔絶した差がある。

 

 射精の直前にペニスが二回りほど大きくなるのを感じた。

 美優の生のおっぱいだけではない。

 まだ毛も生えていない幼い下半身まで視界に飛び込んできた。

 

 美優の裸を見てから射精をするまで、わずかコンマ数秒。

 その間に、俺の脳は5年間で溜め込んできた二次元のエロシーンと美優の裸をリンクさせた。

 線香花火より儚い一瞬に、永遠とも思える時間旅行の中で、幾千もの美優のエロい姿が浮かんでくる。

 

 時間とともに濃縮された精液が、美優の口内にぶちまけられた。

 昨日射精をしてから半日も経っていないのに、繰り返す日々の中で、俺の体は急速に精液を溜め込む術を覚えたようだった。

 

「あー……んむっ…………いっぱい出た」

 

 美優が精液を飲み込む。

 先っぽに残った精液だけは相変わらず処理してもらえない。

 ティッシュを手渡されて、俺は自分でそれを拭う。

 

「す、すげー気持ちよかった」

 

 その感想は、美優への敬意も含んでいたつもりだった。

 

 美優は布団から服を引っ張りだすと、訝しげに目線だけを向ける。

 

「お兄ちゃんはさ。実の妹に興奮して、何の罪悪感もないの?」

「え……?」

 

 今更すぎる質問だった。

 

 もちろん、罪悪感はある。

 やってはいけないことをしている背徳感も。

 

 だが、美優が許してくれているから、問題ないものだと思っていた。

 

「美優の方はどうなんだ。一番最初のときもそうだけどさ。兄が一人でしてるのを見て、気持ち悪いとか思わないのか?」

「うーん。別に、何も」

 

 ならば俺と同じではないか。

 

「……いや、正確にはちょっと違うかな」

 

 美優はパンツをはき、ブラジャーの紐に腕を通していく。

 

「思うところは色々あるけど、何も感じない」

「なるほど?」

「なので気持ち悪いとは思います。とても」

「マジか……」

 

 前者と後者に何の違いがあったのかはわからないが、そうか、やっぱり気持ち悪かったんだな。

 

「お兄ちゃん、いいですか」

 

 美優はパジャマを着ると、すくっと俺の前に立ちはだかる。

 

「妹に欲情して射精してたら、誰だって気持ち悪いです」

 

 先生が生徒を諭すような口調だった。

 当たり前のこと、なんだよな。

 どうして俺にはその感覚がないんだろう。

 

「お兄ちゃんは妹の裸で興奮することに何の抵抗もないよね」

「はい。すみません」

「少しはお兄ちゃんも悩んだらどうですか」

「留意しておきます……」

 

 下げた頭を上げられない。

 結論として俺は何を改めればよかったのか、全然わかっていないのだが、肉親に欲情してしまうことについてはもっと悩んで反省するべきだということはわかった。

 

 そんだけ怒るくせにどうして精液は飲んでくれるのか。

 今はもう聞かないほうがいいだろう。

 きっと義理堅い妹が情けをかけてくれているだけなのだ。

 

 まだ時間は早いけど、おとなしく学校に行ってしまおう。

 

 俺はドアノブに、美優はクローゼットに手をかける。

 ドアを開けて、視界の端に映る美優が微動だにしないのを感じ取って、なんとなくそちらに目をやった。

 

「ん?」

 

 美優が首をかしげる。

 

「ああ、いや、なんでもないんだけど」

 

 俺は呆然と突っ立つ。

 

「むっ」

 

 美優が顔をしかめる。

 

「着替えるんだから出てってください」

「あ、はい」

 

 俺は急いで美優の部屋を出た。

 

 そういえば、美優にはクローゼットの中を見たら絶縁するとまで言われてたんだった。

 俺の予想ではコスプレ衣装が大量に詰め込まれているわけだが。

 これだけ仲良くなったわけだし、その片鱗くらいは覗かせてくれても良い気がする。

 

「待ってるぞ、美優」

 

 いつか「めちゃくちゃ可愛いレイヤーと仲良くなった!」って鈴原たちにツーショット写真でも送りつけてやりたい。

 

 美優自身のためにも、もう大人になったとは言わずにこれからも趣味を続けて欲しい。

 でも本格的にやるとなったらかなり金がかかるんだよな。

 俺が美優の趣味を支えてやるためには、やはり収入が必要。

 そのためにはそれなりの大学を出て稼げる会社に入らなくては。

 

「……勉強、頑張るか」

 

 夏休みを目前にして、ものすごく不純なやる気が湧き上がってきた。

 



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妹のエッチな誘惑 地獄の射精管理 ~射精禁止だよ、お兄ちゃん~ その1

 

 金曜日、夏休み前の最後の授業……の一つ前。

 最終日が月曜日であることに不満を漏らす者も多かったが、それでも変わらない日々が今日も続いていく──はずだったのだが、変調の兆しはたしかにこのときに表れていた。

 

 高波が声を掛けてこない。

 それどころか、どこかクラス中の男子の態度がよそよそしい感じがする。

 女子はむしろ普段より優しいくらいで、いつもとは世界が反転していた。

 

「なあ、夏休みの宿題の範囲なんだけどさ」

 

 休み時間になり、窓を向いたままの高波に声をかける。

 

「なんだよ」

 

 高波は机に肘を突いて俺を睨んだ。

 まるで俺を咎めるような態度で低い声を唸らせる。

 

「前にノートを貸したとこと被ってるから、返して貰おうと思っただけだよ」

「あ? そんなことか。……それより、先に言うことがあるんじゃねえの?」

 

 どういうことだろうか。

 なにやら俺に非があると言いたいらしいが。

 

「何も思い当たらないけど。どうしたんだよ急に」

 

 隠し事なんて、あるとしたら妹のことくらいだ。

 でもあれは誰かに話したわけでもないし、そんな噂が広まったら嫌われるのは男子からではなく女子からの方になるだろう。

 

 俺が本心からわからないという顔をすると、高波はがっくりと肩を落としてため息をついた。

 

「ったく、なんでそうかね。俺たち友達だろ?」

「まあ、俺もそう思ってるけど」

「ならほら、ほら!」

 

 高波は両手を仰いで「カモン! カモン!」と催促してくるが、無いものを出すことはできない。

 近くにいる鈴原にも助けを頼んでみたが、「これはお前が悪い」の一点張りで、俺自身が告白するまで高波の糾弾を支持し続けるようだった。

 

 鈴原はどちらにも興味がなさそうで、会話の切れ目に話を挟んでくる。

 

「それよりソトミチさ、この前オフ会用のゲームがあるって言っただろ。アカウントを作ったら、手っ取り早くレベル上げてやるから、オフ会までにさっさと始めろよな」

 

 鈴原だけは態度が変わらなかった。

 夏休みの計画の方がよっぽど大事らしい。

 

「ゲームはやるけど。オフ会に行くとはまだ言ってないからな」

 

 行く気がまるでない俺に、それでもゲームを勧めてくる鈴原から、まずはスマホのアプリを入れてもらった。

 キャラの絵柄が可愛い横スクロールゲーム『マジョマル』。

 魔法少女モノと動物のコンセプトを合わせたRPGで、性的な萌えが強くないところに女性人気があるそうだ。

 

 序盤の効率的な進め方を教えてもらって、1時間ほどで鈴原チュートリアルが終わる。

 その後は、同時並行するネットゲームの攻略サイトを要点を絞ってまとめてもらった。

 ビックリするくらいにわかりやすくて、その情熱を勉強にも活かせないものかと、俺たちオタクが一番無意味だとわかっている言葉を投げかけそうになった。

 

 その合間に、俺の何が悪かったのかを聞いてみたが、鈴原は答えない。

 俺になにか問題があって、一方的にいじめられているのなら、まだわかる。

 だが、なぜ俺が悪者扱いになっているのか。

 そこが解せない。

 

 この日の高波は俺が正直に言うまで待ってるからなと告げて帰ってしまった。

 こんな雲を掴むような話をさして仲良くもない誰かに相談する気にもならず、鈴原の話が終わった後は、俺もわだかまりを抱えたまま帰宅することにした。

 

 

 

 

 

 

「おかえり、お兄ちゃん」

 

 家に帰ると、美優が玄関で出迎えてくれた。

 すれ違えば挨拶する程度でしかなかったのに、わざわざリビングから出てくるなんてどういう風の吹き回しだ。

 

 殊勝な対応のわりに、どこか声が冷淡だったように感じたけど。

 気のせいだよな。

 

「ただいま」

 

 学校で溜まった妙な疲れがあって、俺は部屋に直行せずにリビングのソファーに座る。

 美優は夕飯の下ごしらえをしていた。

 制服を着たまま料理するのは珍しいな。

 

 毎日丁寧にケアをされた黒い髪が、耳にかかってまっすぐに伸びている。

 手元を見つめる、澄んだ瞳、長いまつげ。

 家の中でも不必要に曲げることのないその姿勢が美しい。

 

 日に日に可愛さが増している。

 今朝は妹に欲情するなんて気持ち悪いとは言われたが、もう美優を女として以外に見ることはできないんじゃなかろうか。

 何より、美優は言うほどにそれを気にする気配がない。 

 

 どうしたら美優のことをただの妹として見ることができるだろう。

 やはり彼女を作るしかないのか。

 

 俺はスマホを取り出して、ゲームを起動する。

 鈴原から教えられたRPGの『マジョマル』。

 乗り気じゃなかったけど、考えてみるとオフ会に出るのも悪くないのかもな。

 

「何をやってるの?」

 

 準備を終えた美優が俺の横に座る。

 夕刻なのにまだ髪から漂うフローラルの香りと、指先についた洗剤の匂いに、女の子特有のフェロモンが混じっている。

 

「ゲームアプリ。友達から勧められて」

 

 横にいるだけでドキドキしてくる。

 しかも画面を覗き込んでいるから距離が近い。

 まずいな。

 彼女を作らなきゃとか考えてた矢先に、もう美優の匂いで勃ってしまいそうだ。

 

「ふーん」

 

 興味がなさそうな反応をして、それでも美優は俺から離れようとしない。

 ディスプレイを凝視したまま俺と肩を触れ合わせてくる。

 

 ゲームはやりにくいが、ここで中断すると美優も離れてしまいそうだし。

 俺は無心でストーリーモードを進めていった。

 

 アプリゲームの開始直後は、レベルアップが早くてスタミナが尽きない。

 物語もしっかり追わなければならなかったため、それなりの時間がかかった。

 

「楽しい?」

 

 画面をイジる俺の指を眺めながら美優が訊いてくる。

 

「まあ、思ったよりは」

 

 女性人気が高いだけあって、ストーリーとキャラの作り込みに余念がない。

 オフ会に人が集まるほどの人気作なだけある。

 

「美優はこういうのやらないのか」

 

 美優がゲームをやっているところを見たことはないけど。

 アプリくらいなら入っているかもしれない。

 

「やったことないけど。面白そう」

「やってみるか?」

「うん」

 

 美優は俺からスマホを受け取ると、ソファーに座る俺の膝の上に、更にお尻をドスッと乗せて座ってきた。

 

 え、なんで。

 

「やりかた教えて」

 

 美優は待機画面をぽちぽち触る。

 いくら小柄な美優とはいえ、膝の上に座られると目線が隠れてしまうので、俺は横に顔を出した。

 なかなかにツラい体勢だ。

 

「えっとだな……」

 

 俺の膝の上には美優の体温がある。

 しかも制服スカートだから生足だ。

 俺はスラックスをはいているので肌が触れ合うことはないが、それでも生々しい温かさが伝わってくる。

 

 目の前には、Gカップとの噂の胸の膨らみが。

 第一ボタンだけを外している美優の胸は、この距離であれば最上部に谷間が見える。

 

 え、エロすぎる。

 俺には刺激が強すぎだ。

 それに、ソファーに深く腰を掛けていたところに美優が跨ったせいで、股間部が美優のお尻、いや、下手をしたらもっと下の方にまで当たっているかもしれない。

 これ、勃ったら絶対に怒られるよな。

 

 やばい。

 そんなスリルにすら興奮してしまう。

 

「しゅ、出撃したキャラの、体力管理をするのがポイントでな。こう、フリックするとキャラが戻る」

「ふむふむ」

「それで……」

 

 どうにか理性を保ちながらゲーム操作を説明する。

 

 思ったより腹筋がきつい。

 足を押さえつけられているとはいえ、美優になるべく触れないように体を倒すと、どうしても負荷がかかる。

 

 だが、これはこれでいい。

 筋肉にエネルギーが集中していることで、美優への興奮が抑えられている。

 

「別に手を回してもいいよ?」

 

 俺の無理な体勢を知って、美優がとんでもないことをぶっこんでくる。

 

 そんなことをしたら思わず抱きしめてしまうかもしれない。

 いや、間違いなくする。

 

「スキンシップは苦手なんじゃなかったのか」

「苦手だけど。今はいいよ」 

 

 また美優の気まぐれか。

 ゲームに集中しているせいか、声はどこまでも平坦だけど。

 

 いいのか。

 いいんだな。

 やるぞ。

 

「な、なら、遠慮なく……」

 

 美優のお腹に手を回し、今度は全身に伝わってきた、その体温に、俺の心の奥底に打たれていた楔がガタツキ始める。

 

 髪の毛だけではない。

 制服から香る柔軟剤の香り。

 美優が二年半、何度も何度も着た服の匂いだ。

 

 首筋に残る、かすかな汗の跡。

 帰宅後にすぐに洗顔に向かう美優から、汗の匂いを感じたことはなかった。

 

 でも、今ならわかる。

 この夏の暑さで染み込んだ美優のニオイが、濃縮された芳醇な香りが、俺の鼻の奥に入り込んでくる。

 

「あぁ……美優……やっぱり……これ……」

 

 俺の理性は美優の匂いにあっさりと屈服した。

 美優のスカートの中で、俺の亀頭がゆっくりと首をもたげる。

 半勃ちの状態で、それを押さえつけたのは、スラックスの容量の限界か、あるいは、美優のお尻なのか。

 

「なんかボスが出てきたけど。同じやり方でいいの?」

 

 美優は俺の興奮状態を無視してゲームを進めている。

 よもや気づいていないとは思えないが。

 

「それは、その、強い攻撃が来るから。演出に合わせて、キャラを待機状態にすれば……」

 

 美優を抱きしめる力がだんだんと強くなる。

 まさかこんな風に美優と密着できる日が来るなんて。

 お風呂に入ったときには肌と肌だったけど、なぜだろう。

 今、こうして着衣状態で抱きついている方が興奮する。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 声なんて、我慢すればいいのに。

 息が荒くなって仕方ない。

 興奮すればするほどに美優の匂いが強くなって、どんどん下腹部に熱が集中する。

 

 また気持ち悪いと言われてしまうだろうか。

 さっきまで彼女を作らなきゃなんて思っていた俺はどこにいったんだ。

 

 腰が動く。

 互いの陰部の間には、パンツと、スラックスとが挟まって、いま俺の先端に与えられている“柔らかいものを押す”感覚は、それらの服がよれているだけのはずなのに。

 

「すぅー……はぁ……美優……」 

 

 腰を押し付けるのを止められない。

 無機質な布の感覚のその先には、確かに柔らかさがあるんだ。

 それが美優のお尻のお肉だったとしても、俺には、もうなんでもいい。

 

「お兄ちゃん」

 

 さすがに暴走しすぎた俺の行動に、美優はボスとの戦いを中断せずに忠告してくる。

 

「当たってるからやめて」

 

 美優の対応は、それだけだった。

 

 当たってる、とはどういうことなのか。

 俺は意図的に腰を押し付けているわけだし、肉棒の硬さが当たってることなんて百も承知している。

 そのうえで俺は美優を抱きしめて肉欲を擦りつけているんだ。

 

 つまり、こういうことなんだろうか。

 俺のペニスが当たっているからやめて、という意味ではなく。

 

 美優の大事な部分に当たってしまっているからやめて、という意味なのか。

 

「うっ……あっ……美優……ッ!」

 

 一気に血液が沸騰して、俺は服を突き破りそうなくらいに勃起した。

 

 美優のアソコに当たっている。

 美優の割れ目に、俺のペニスが触れている。

 さきっぽが、女の子としての大切なところに、挿入っている。

 

 もう耐えられない。

 このまま射精したい。

 

 パンツを汚すことになってもいい。

 俺は美優とセックスをしているんだ。

 ゴムの代わりに服を着て。

 

 この先端を覆う体温、肉感。

 美優の蜜壺の口に性器をねじ込んでいる。

 美優がそれを感じている。

 アソコで、俺のペニスの硬さを感じている。

 

 ああ、もうだめだ。

 

 出る、出る……!

 

「はぁ。もう、バカ兄」

 

 美優は俺の手を解いて立ち上がってしまう。

 くっ、射精まであと少しだったのに。

 

 美優はスマホをソファーに置いてキッチンへ。

 俺の屹立を打ち見したときに何か言いたげにしていたが、特に怒った様子もなく黙って夕飯の準備を始める。

 

 俺は興奮を収めるためにトイレへ向かった。

 ズボンを脱ごうとして、チャックを開ける。

 

「なんだ、これ」

 

 ぬるっと指を滑る粘り気。

 まさか気づかないうちに射精してしまったのかと、パンツを確認するがその様子はない。

 尿道口が当たるところはやはりというか先走りでぐちょぐちょになっていたが、それがズボンの、ましてやチャックの付いている厚い部分を貫通するとは思えなかった。

 

「まさか……!?」

 

 それに気づいた瞬間の心臓の飛び跳ね方は、それこそ破裂してしまいそうなほど激しかった。

 ベッドから落ちる直前に目を覚ましたような、走馬灯のように思考が駆け巡る強烈な衝撃。

 

 ズボンについたこの染み。

 ちょうど美優の股に当たっていた範囲に一致する。

 これほどの粘性、汗では到底説明はできない。

 

 間違いない。

 これは。

 

「美優の……」

 

 愛液だ。

 しかもパンツ越しにこれほど濡れる量。

 

 感じていたのか。

 俺のペニスに股下から突き上げられて。

 蜜壺から淫液を溢れさせていたというのか。

 

 手が言うことを聞かない。

 体が、この美優の体液を求めている。

 

 その匂いを。

 その味を。

 

「うっ……ぐぁっ……!!」

 

 俺はトイレで一人、悶え苦しんでいた。

 

 このまま美優の恥部に溺れて快楽の底に沈んでしまいたい。

 ズボンに鼻を埋めて、肺いっぱいに息を吸って、舐めて。

 この先で一生ないかもしれない美優の味を知るチャンスだ。

 絶滅危惧種の最後の肉が、今まさに調理された状態で目の前にサーブされているようなもの。

 

 それを喰らうことは、背徳的というより、もはや冒涜的な行為。

 神代から築き上げてきた、人間の根源にある何かを失うことになる。

 これは美優の、血の繋がった妹の、女性器の一部だ。

 その味を兄である俺が知ってしまっていいのか。

 神すら立ち入ることの許されない領域を、侵してしまっていいのか。

 

「ッ──!」

 

 気づいたらズボンを咥えていた。

 美優の性欲を吸収した濡れ布を。

 

 垣根に植えてある花の蜜を吸うように。

 その耽美を前に、俺の理性はあまりにも脆かった。

 

 瞼の裏に楽園が広がっていた。

 目が浮いて、止めどなく思考が流れ続けているのに、何を考えているのか自分でもわからない。

 パンツを脱いでイチモツを擦り上げていることにも何も疑問に思わなかった。

 自分が自分ではないようだった。

 

「ぁ……ぁっ……」

 

 血に飢えた吸血鬼、いや、これではまるで人肉を喰らうゾンビだ。

 

 俺は飲んだ。

 口にしたんだ。

 美優の愛液を。

 

 射精する。

 トイレが汚れるとかどうでもいい。

 このどろどろの欲望を思い切りぶちまけたい。

 

「はっ──!?」

 

 射精の直前、俺は手を止めていた。

 

 気づいてしまったのだ。

 ある事実に。

 

 美優の口内に射精する度に、その濃さと量を増してく俺の精液。

 興奮と比例していくそれは、ただ尿道への刺激が強くなるだけではなく、美優にたくさん飲ませるということそのものを快感として俺に与えた。

 

 では、いまこの状態の射精はどうだ。

 間違いなく、また俺は精液の最大量を更新する。

 これまでも美優が文句を言うくらいに多かったのに、それを遥かに凌駕するほどの射精になることは明らかだった。

 

 なら、このまま出していいわけがない。

 これ以上にないほど昂ぶっているこの性欲を、美優にぶつけずに済ませることなんて許されない。

 

 俺は急いでズボンをはいてリビングに入った。

 股間部が唾液で湿っていることなんてお構いなしに、クリームシチューをかき混ぜる美優の前に立つ。

 

 美優だって、自分の淫らな蜜で俺のズボンを汚したことはわかっている。

 ならこのズボンの状態を自分のせいだと思うだろう。

 だから隠す必要はない。

 

「美優、また、飲んでほしいんだけど」

 

 臆面もなく俺はそれを口にした。

 

 美優はクリームシチューを小皿に取って味を確かめると、引き出しからコショウを取り出して加え入れる。

 

「今日は飲まないよー」

 

 美優はまた、お玉でクリームシチューをかき混ぜた。

 

 何を言われたのかわからなかった。

 想定していた返事と違う。

 美優ならいつもの妥協的承諾で引き受けてくれると思ったのに。

 

「今日はもう精液の処理はしません」

「それって、どういう……」

「どういうも何も。妹はお兄ちゃんの精液なんて飲まないのが普通でしょ」

 

 それはそうだが、なぜ、今更。

 普通はしないなんて理由で断るなら、最初から断ってくれればいいのに。

 

「マジで、ダメ?」

「マジでダメです。今日は気分じゃありませんので」

「まさか、その、明日以降は……?」

「うーん。お兄ちゃん次第かな」

 

 美優はまたお皿にシチューを取って味見をする。

 今度は納得の顔だった。

 

「俺次第か」

「そ、お兄ちゃん次第」

 

 美優は腰に手を当てて俺と向かい合う。

 

 よりにもよって今日がダメとは。

 それに明日以降は俺次第って。

 どういう意味なんだろう。

 

 どうする。

 部屋に戻って自分で処理するか。

 明日まで我慢したところで飲んでもらえるかわからないし。

 

 でも、射精はしたい。

 美優の愛液を堪能できる日なんてもうないかもしれないんだ。

 飲んでもらえなくても、せめて最高の射精感だけでも味わっておきたい。

 

「わかったよ」

 

 俺は力ない足取りでリビングを出た。

 これから部屋に籠もって、ズボンを脱いで、また美優を味わいながらオナニーをする。

 

 ……いや、このズボン、まだ美優の味がするのか?

 もう俺の唾液しか感じられないんじゃないだろうか。

 そもそも量も少なかったんだ。

 もうすべて舐め取ってしまっている。

 

「くそっ」

 

 なぜあのとき、あのまま射精しておかなかったんだ。

 人生最高の射精を体験できたのに。

 

 俺はバカだ。

 もう美優の愛液は残っていない。

 かけらも、その残り香すらも。

 

「──あ、あぁ……ある……! あるぞ、まだ、あるじゃないか!!」

 

 俺は踵を返して再びキッチンに駆け込んだ。

 

 そうだ、美優のアソコから俺のズボンに染み込むまで。

 その間には、もう一枚の布が噛んでいるんだ。

 

「美優! パンツを! パンツをくれ!! 今、履いてるやつ!!」

 

 狂っていると、自分ながらに思った。

 

 それが、美優という妹が持つ魔力だったのだ。

 

「え、パンツ?」

 

 美優はスカートの端をつまんでちょいと持ち上げる。

 

「そう、そのパンツだ! あと、できればやっぱり精液を飲んでほしいけど……!」

 

 傲慢が過ぎるというのもわかっている。

 それでも、これが人生最後のチャンスだと思うと、なりふり構ってはいられなかった。

 

 死に際になって、初恋の人に想いを告げるようなもの。

 どんな結果になろうと遂げたい。

 ただ一言、本心なんて関係なく、慈悲の心で「いいよ」と言ってくれれば、俺は救われるんだ。

 

「飲むのはイヤだけど。パンツならいいよ」

「そこをなんとか、頼っ……!! ん? ん!? い、今なんて言った!?」

「だから、パンツが欲しいならあげるよって。精液は飲まないけど」

 

 お、俺の願いは、天界へと届き得た……。

 

「その、パンツ、あの、洗濯したやつとかじゃなくて……」

「うん。これでしょ?」

 

 美優は「はいはいわかってます」と言いたげな顔で、スカートの中に両手を入れ、それを脱いだ。

 

「あ……あっ……あぁ……」

 

 自分で頼んでおいて困惑した。

 

 なんでパンツをくれるんだ。

 どうかしているんじゃないのか、この妹は。

 

 俺はズボンの上からはっきりわかるくらいに勃起をしているんだぞ。

 精液だって飲んでほしいと公言している。

 そのパンツをオカズにしてオナニーするのは明白じゃないか。

 

「あげるって言っても、お兄ちゃんのものにしていいわけじゃないからね。済んだら返して」

 

 美優は俺に、その生暖かいパンツを手渡した。

 

 広げて確認するまでもない。

 割れ目に沿って染みができている。

 それだけじゃない。

 脱いだときに垂れた液が、まだうっすらと溶け込めずにいる。

 濃厚な、濃密な、美優の体液だ。

 

「ああぁ、あぁぁ……あぁぁぁあああ!!」

 

 その場で膝をついてむしゃぶりついた。

 

 美優が目の前にいるのに。

 三日間断食でもしていたのかと思うくらいに勢いよく、妹のパンツを食らった。

 

 股下を口に含み、その真上に鼻を当てて、残りの布で顔面を覆う。

 あらゆる感覚器官が美優一色に染まっていた。

 

 美優が見える。

 美優の秘部が見える。

 こんないやらしい味のする蜜を出す、その割れ目が鮮明に浮かんでくる。

 

 今朝、美優がオナニーをしていたときもこれくらい濡れていたんだろう。

 俺に聞こえないように声を殺して、音が漏れないように布団のなかで腟内をぐちょぐちょにして。

 

 今なら聞こえる。

 美優の嬌声と淫液のこすれる音が。

 

 もうダメだ、射精する。

 美優のパンツで絶頂する。

 妹の下着に顔を埋めるだけで、金玉にある全部の精液が絞り出される。

 

「ふぐっ、むうぅぐっ……うっ……!!」

 

 脳が蕩けて、ペニスが激しく筋収縮を始めた。

 

 その瞬間。

 

「お兄ちゃん。こんなところでしちゃいけません」

「あ、ああっ、待ってくれ!! あとちょっとだから!!」

 

 美優にパンツを取り上げられた。

 

 人類史上最高の幸福が、指の先を掠めて、遠くへいってしまう。

 

「あとちょっとって何? 匂いを嗅いだだけで出ちゃいそうだったの?」

「うぐっ……それは……」

 

 当たり前だろう。

 妹のパンツの匂いを嗅いで射精しない兄がいるわけがない。

 

「まったくもう。……もうそろそろシチューができるから、パンツをはいてくるね」

 

 美優は俺の膝の上にパンツを置くと、鍋に火をつけたままキッチンを出ていく。

 廊下に出ると、ひょこっと顔だけ戻して俺を見た。

 

「シチュー、焦げないように混ぜておいてね」

 

 俺は放心状態だった。

 射精がしたい。

 とにかく射精をしたい。

 この興奮状態じゃ、ご飯なんて気分にならない。

 

「お兄ちゃん」

 

 美優が鋭い声で釘を刺してくる。

 

 くそう。

 もういっそ、美優が二階に行っている間にちゃちゃっと射精だけでも済ませてしまうか。

 美優の味はしなくなってしまったが、俺にはまだこのパンツの中に射精するという第二の楽しみが残っている。

 

「そこ、キッチンなんだからね。不衛生なことしたら、鍋の予熱で焼くからね」

「わ、わわっ、わかった!! わかったから!!」

 

 ええい、ならさっさと済ませるべきはご飯だ。

 早食いして、部屋に戻ってじっくりとオナニーを堪能しよう。

 

「あー……射精したい……」

 

 俺は鍋の前で呆然として、その後のことだけを考えていた。

 

 美優のパンツに思い切り俺の精液を染み込ませて。

 それを返したら、美優は捨てずに履いてくれるのだろうか。

 もし履いてくれるのだとしたら、もはや、それは中出しに等しい行為なのではないかと。

 

 考えるほどに、また興奮が湧き上がってきて。

 

 湯気の立ち昇る鍋。

 そこから、焼けたニオイが漂っていることに気づいたのは、美優がリビングのドアを開けた音を知覚した直後だった。

 



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妹のエッチな誘惑 地獄の射精管理 ~射精禁止だよ、お兄ちゃん~ その2

 

 焼けた臭いの立ち込めるキッチンには、うな垂れる俺と、憤慨する妹がいる。

 鍋の番を任されていたはずの俺は、射精への欲求に思考を支配されて、10分以上もボーッと突っ立っているだけだった。

 

「お兄ちゃん。私、言ったよね。焦がさないでって」

 

 美優が鍋の上の方からクリームシチューを掬い、皿に取り分ける。

 皿に乗せられた分のシチューは白色のままだったが、口に含んだときの風味は台無しになっているだろう。

 

「すまん、つい油断して……」

 

 美優にも予想のつく範疇だろうが、エロいことを考えていて鍋を焦がしてしまったと、素直に弁明することはできなかった。

 

 言葉ほどに怒ってはいない様子の美優は、それでも眉を顰めて俺に近づいてくる。

 

「やっぱりお仕置きが必要かな」

 

 お仕置き。

 そのワードを聞いた瞬間、俺が感じたのは恐怖ではなく興奮だった。

 

 美優のお仕置きは、耐え忍ぶにはツラいものではある。

 だがそれらがどれも性的な拷問ばかりだったせいで、今ではお仕置きの記憶はオカズに変わってしまった。

 

 美優を困らせて悪いとは思っている。

 でもこの高揚感は、抑えようとするほどに湧き上がってしまうものだった。

 

「むっ」

 

 俺の目の前まで来ると、美優の顔が一層険しくなった。

 

 美優はシンクの横に設置されている水切りカゴに手を伸ばす。

 箸などの長細い食器が入れっぱなしになっているポケットから、美優は金属製のスプーンを取り出すと、コンロに移動して着火し、その先端を直火で炙っていった。

 

「お、おおおおい……!」

 

 その行動の意味はすぐにわかった。

 エッチなお仕置きを期待していた脳内が、ようやく恐怖の色で染まる。

 

「待て!! 待てッ!! それだけはシャレにならないから!!」

 

 熱した金属スプーンを、美優は真顔で俺に向ける。

 それから俺が床に顔を叩きつけて土下座するまで、わずかコンマ数秒のことだった。

 

「ごめんなさい!! 本当に申し訳ありませんでした!! お願いします、ゆ、許して、ください……!!」

 

 美優なら本気でやりかねない。

 いや絶対にやる。

 

 焼かれる。

 俺の体の最も大切なパーツが。

 二度とマスをかくことなどできないように。

 

「本当に反省してるのかな」

「してます!! してますから!! どうかその慈悲の心を以て我が愚息をお許しください……!!」

 

 床に頭をぶつけすぎて額が凹んでしまいそうだった。

 めり込むほどの土下座とは、きっとこういうことを言うのだろう。

 本能的な危機を感じると、人間は痛みに対する枷が外れてしまうらしい。

 

「お兄ちゃん、そんな謝罪の形はいいから、立って顔を向けて」

「は、はい……」

 

 俺は土下座をやめて美優と向かい合う。

 

 美優はスプーンを水切りカゴに戻した。

 やはりというか、その表情には口にするほどの怒りは感じられない。

 

「別に鍋を焦がしたのはいいんだけどさ。食べてもらえれば」

「はい。残らず食べます」

「問題なのは叱っても効果が出てないところだよ。お兄ちゃんはもしかして痛いのが好きなの?」

「いえ、決してそんなことは……」

 

 美優にお仕置きされるのは好きだが、俺はドMではない。

 それは必ずしもイコールにはならないはずだ。

 

「お兄ちゃん」

 

 美優の声に微かに濁る。

 その目が俺を責め立ててくる。

 

「さっき私がお仕置きするって言ったとき、またエッチなことしてもらえると思ったでしょ」

「お、思って、ないよ。そんなことは。うん。全然」

「本当に? なんだか邪悪な気配を感じたから、浄化しようと思ったんだけど」

「いやいやいやいや勘弁してくれ!! ほ、本当だ! エッチなことは考えてない! ないぞ絶対に!!」

 

 肉棒を加熱消毒なんて人間のやることじゃない。

 お仕置きをされるならエッチなお仕置きがいいに決っている。

 痛いだけなんて絶対に嫌だ。

 

 なんて言い訳をすればいいんだ。

 どうやって取り繕えば、また射精地獄という最幸のお仕置きを受けられるのか……。

 

「へえ」

 

 美優の声から起伏が消える。

 

 やばい、悟られた。

 

「いま正直に言えば、痛いのは一瞬だけ。でも嘘をつくなら、この先はずっと厳しくなるだけだよ」

 

 美優は再び、金属スプーンを手に取った。

 

 俺のズボンに指を突っ込んで、チャックを下ろす。

 

 パンツのボタンに指をかける。

 その布に付着した粘つく湿り気に、美優は不快感を露わにすることもなく。

 前開きのボタンを手際よく外した。

 

 その隙間からは、これから焼かれるとも知らない元気なムスコが飛び出した。

 

 美優は目線を俺に配り、白状するタイミングを与えながら、スプーンを近づけてくる。

 

 やばい、やばいやばいやばい。

 

 興奮してきた。

 

 バカなのか俺は。

 男の最も弱い部分が火傷することになるんだぞ。

 

 どうかしてる。

 

 ああ、もう直前まで迫ってきた。

 

 早く白状しないと。

 

 美優のことだから、逃げることなんて許さないはずだ。

 熱したスプーンを押し付けて、俺が叫びながら倒れて、腰を打っても、すべてを焼き尽くすまで追撃の手を休めない。

 

 焼かれる。

 最悪病院行きだ。

 

 美優ならやる。

 

 やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ!

 

 早く謝罪をしないと!

 

 こんなときに、先走り汁なんて垂らしてる場合じゃないんだ……!

 

「ごごごごめんなさいエロいこと考えてました本当にすみませんでしたぁああ!!」

 

 泣き叫ぶように謝罪する。

 

 俺の肉棒に、美優は、容赦なくスプーンを触れさせた。

 

「ああァァあぁああっッ──!?」

 

 息が止まった。

 

 酸素の供給が止まって、混乱する頭に、痛覚信号は流れてこなかった。

 

「はぁ、はぁ、はっ、はあぁっ……あれ……つ、つめ、たい……?」

 

 スプーンとの接触部からは、金属独特のひんやりした低温が伝わってくる。

 衝撃のあまり脳が誤認しているのかと思ったが、数秒待っても痛みを感じることはなかった。

 

「同じ種類の別のスプーンだから。熱くないよ」

 

 美優の言葉に、ようやく安堵した肺から一気に空気が抜ける。

 

 美優なら熱した方でやると本気で思っていたから、スプーンを押し付けられた瞬間、美優という人間に、底の見えない絶望を覗いてしまった。

 

「正直に答えてくれたのはいいんだけどさ。お兄ちゃん」

 

 呆れた声が俺の意識を覚醒させる。

 美優はスプーンの縁で裏筋をなぞり、すくい取るように俺の前に持ち上げた。

 

「なんでちょっと出たの」

 

 美優は害虫を見るような目で俺を哀れんでくる。

 信じられないことに、スプーンには白い液体が溜まっていた。

 

「み、美優の、パンツとかで、性欲が、限界で……」

「そっか……」

 

 かつてないほど痛々しい空気だった。

 

 俺も美優も、目を合わせられない。

 

 心が死にそうだ。

 

「ご飯、食べよっか」

「そうだな」

 

 気まずい雰囲気の中、スプーンの処理に困っている美優に、覚える違和感。

 美優が不衛生なことをするなというから、俺はオナニーを我慢していたんだ。

 もし事前に抜いてさえいれば、こんな結果にはならなかったかもしれないのに。

 

「スプーンを、その、そういうのに使うのは……不衛生じゃないのか?」

 

 不満があるわけではなかった。

 ただ、今日の美優は言動がチグハグで、その引っ掛かりを解消したいだけだった。

 

「うっ……こ、これは……」

 

 美優はやりずらそうに目を泳がせる。

 美優のそんな反応が、より疑念を深めて、観察する俺の目を鋭くさせる。

 そんな俺の態度を、美優は責められているものだと勘違いしたのだろう。

 

 思考がまとまらないまま、美優はそのスプーンを、パクっと口にしてしまった。

 

「はむっ……んっ……これは、食べられるので、良いのです」

 

 美優はきれいに精液を舐め取ったスプーンを、そっとシンクに置く。

 

「だったら俺がオナニーした手で料理をしてもよかっただろ!」とツッコミを入れたくなったが、俺の立場があまりに弱すぎたのでやめておいた。

 

 バケットを温めて、シチューと合わせてテーブルに並べる。

 対面に座って「いただきます」と小さな声を揃えて食事を始める俺と美優。

 色々あったが、そこには日常が戻っていた。

 

 互いに口数は少ない。

 それはいつものことだが。

 俺はまだムラムラしている。

 早く部屋に戻りたくて、食事を進めることに集中していた。

 

「……あーあ。お兄ちゃんが鍋を焦がしたから、洗うのが大変だなぁ」

 

 わざとらしい口調で美優が愚痴を溢す。

 

「悪かったって。食器は俺が洗うから」

 

 オナニーは早くしたいけど、少しでも罪滅ぼしはしておかないとな。

 

「体もなんだか焦げ臭い。髪にもニオイが付いちゃったし……ゆっくりお風呂でも入りたいな……」

「わかったわかった。俺が用意するから。な?」

「そう? お兄ちゃんがそう言うなら任せよっかな」

 

 なんでそんなに白々しいんだかわからないけど。

 とにかく美優の要望には全面的に答えよう。

 今までの負債もあるし。

 

「あっ、そういえば、今日のとは無関係の話なんだけど」

 

 美優はわざわざ仕切り直して話題を切り替える。

 ということは、さっきのはやっぱり今日の失態への罰だったんだな。

 よし、風呂も鍋も丹念に洗っておこう。

 

「先週まで、お兄ちゃんが佐知子とエッチするために家を使ってたじゃない?」

 

 そんなにズケズケと言わないでほしいんだけど。

 

「ああ、あれか。交代制だったのに、結局ほとんど俺は家を空けてなかったな」

「そうそう。だから、そのひとまとめってことでいいので、明日からの二日間、丸々家を空けてもらえないかな?」

「丸々って……夜も?」

「うん。土曜日の夜はネカフェかホテルに泊まってもらうことになるけど」

 

 土日を丸々か。

 引きこもり体質の俺にはかなり厳しいが、他でもない美優の頼みだからな。

 

「わかった。日曜日は何時まで外にいればいい?」

「夕方の六時。きっかりに帰ってきてもらえれば」

「きっかり?」

「そう。許容誤差一分で。よろしくね」

「は、はぁ」

 

 遅くなるのも許されないのか。

 なんでって聞きたいけど、答えてはくれないよな。

 

 俺はそのすべてに了承した。

 食事を終えると、まずお風呂を洗ってお湯を入れる。

 その間に食器を洗っていると、洗い終わったあたりでちょうど満水を知らせる音が鳴った。

 

「美優、お風呂ができたみたいだぞ」

「お兄ちゃん先入っていいよ」

「えっ……」

 

 美優が風呂に入りたいっていうから作ったんだぞ。

 

 俺はそれよりも先にオナニーをしたい。

 そろそろ射精しないと理性が暴走しそうだ。

 

「……俺が先でいいのか」

「せっかくだしゆっくりお湯に浸かってて」

 

 相変わらずワケのわからん妹め。

 まあ、風呂場でもオナニーはできるし。

 むしろ邪魔が入らないからやりやすいかもな。

 

「わかったよ」

 

 俺は素直に脱衣所に入った。

 これからようやく射精できると思うだけで、ペニスが鋭く天を衝く。

 

 性欲だって一週間オナ禁したくらいに溜まってる。

 そろそろはち切れそうだ。

 

 今夜はオカズには困ることはないし、飲んでもらえないのは残念だけど、限界まで絞りきってしまおう。

 

 逸る気持ちを抑えきれずにズボンを脱いだ。

 そこで気づく、不自然なポケットの膨らみ。

 中身を取り出すと、決して男が持っていていい物ではない、可愛らしい下着が出てきた。

 

「はっ……!」

 

 失態に気づき、計画がすべて白紙に戻る。

 

 お風呂でオナニーをしたら美優のパンツを使えない。

 美優のパンツを返すのは精液漬けにしてからにしたいが、土日は外に出ることを約束してしまったし、チャンスは今夜しかない。

 

 いや、落ち着け。

 いいんだ、慌てることはない。

 

 お風呂を上がってからじっくりとオナニーをすればいいだけだ。

 射精欲に負けて雑に出してしまったら、残るのは後悔だけ。

 これほどのレアアイテムを手に入れられる機会が二度あるとは思えない。

 興奮は一旦封印して、体を清めよう。

 美優のパンツに失礼のないように。

 

 ペニスの重さを感じながら、俺はじっくりと体を洗った。

 美優が愛用しているコンディショナーも指先で摘むくらいに使わせてもらって、匂いを感じやすい前髪とこめかみにつけて流した。

 

 湯船に浸かり、お湯の温かさに包まれていると、毛先に付けたコンディショナーの匂いが早速嗅覚を刺激してくる。

 

 思えば俺は、美優とこうして裸で使うものを共有しているんだ。

 十数年という月日で、美優の体から出た汗が、この湯船に染み込んでいる。

 ある意味では、美優と裸で抱き合っているのと、そう変わりない状況なのかもしれない。

 

 うん。

 

「変態か俺は!!」

 

 自分へのツッコミが閉鎖空間に反響する。

 いくら溜まっているからって、こんな妄想をしていいはずがない。

 

 もう美優のパンツをオカズにして抜くとか拘っている場合じゃないんだ。

 とにかくこの欲望を開放しないと。

 取り返しのつかないことになる。

 

「……よし」

 

 俺は湯船の縁に座り、諸悪の根源を右手で握った。

 

 ここで出し切ってしまおう。

 パンツも美優に返して、今夜はもう大人しく寝るんだ。

 

 美優をオカズにするのは、そうしないと抜けないから仕方がない。

 ただし、ネタは妄想ではなく記憶にあるものだけ。

 我慢も一切なしだ。

 

「はぁっ……くっ……」

 

 今日の肉棒はまた一段と太くて硬い。

 射精すれば向かいの壁を精液まみれにするくらいには飛ぶだろう。

 いつもは自分がティッシュで受け止めるか美優の口の中に出すかしかしていないからな。

 どれだけの飛距離があるのかは未確認。

 たまには思い切り発射するのも悪くはない。

 

「美優……あぁ……あぁぁっ……美優……!」

 

 肉棒を激しくシゴいて発射のエネルギーを溜める俺には、精液の飛ぶその先に、裸の美優がおっぱいを両手で支えて待っている姿が見えていた。

 

 ああ、もう来る。

 散々我慢させられたんだ。

 

 射精したい。

 

 もう耐えられない。

 

 思い切りぶっかけて、美優の全身をドロドロにして、俺のニオイを染み付けるんだ。

 

 美優、受け止めてくれ。

 俺の精液を、全部。

 

 美優、イク、イクっ……!

 

「お兄ちゃん」

 

 ガラッと開いた風呂場のドア。

 俺は驚きのあまりお湯の中にひっくり返った。

 

 頭を打って、溺れそうになりながらもどうにか顔を出す。

 

「お、おまっ……! 何して……んだ……よ……」

 

 絶頂を阻まれて、再び思考力を奪われた俺は、そのありえない光景を素直に受け入れることができなかった。

 

 白く輝く透明な肌。

 ほんのりと赤みを帯びた肢体。

 タオルでその身を隠すこともなく、ヘアクリップだけを携えた裸の妹が、豊かな胸を張り上げて立っていた。

 

「何って。お風呂に入る以外にないでしょ」

 

 俺の問いにさも当たり前のように答えた美優は、躊躇いなく浴室に踏み込んでくる。

 ついさっきまで兄が妹をオカズにしてオナニーをしていたというのに。

 

 美優は両手を使って丁寧にドアを閉めると、足元の鍵をロックして、椅子に座った。

 真隣に、性器をガチガチに勃起させた男を残して。

 

 髪の毛から垂れる雫が、ちょぽんと水面に溶け込む。

 

 兄と妹、裸の二人。

 

 あろうことか美優は、性欲の限界を迎えた俺を、密室空間へと閉じ込めたのだった。

 



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妹のエッチな誘惑 地獄の射精管理 ~射精禁止だよ、お兄ちゃん~ その3

 

 最も落ち着ける場所のはずだった。

 紀元前より続くその歴史の中で、人類の平穏を一身に引き受けてきた、この風呂だけは安息の地であると信じていたのに。

 

「美優……」

 

 椅子に座り、シャンプーした髪を洗い流す美優。

 長い髪を胸の前にまとめて、コンディショナーを軽く付けてから流す姿が艶っぽい。

 年下どころか血の繋がった家族であることを忘れるくらいに。

 

 少なくとも、俺の体の方はすでに美優が妹だということを忘れている。

 今にも美優を押し倒して膣内に精子を射出しそうなこの生殖器官を見れば明らかだ。

 

 いつか美優には「私のことを妊娠させたいの?」と聞かれて俺は否定した。

 事実、俺は妹を恋人や嫁にしたいと思ったことはない。

 ゲームの中では別だけど。

 

 今日まで何回も美優をオカズにして抜いてきたが、俺の倫理は今でも近親相姦を忌避している。

 思考の上では、妹とのセックスを否定している。

 

 それでも、そんな理性をものともしないくらいに、本能が肉体を支配していた。

 

「お、俺……!」

 

 湯船の縁に手をかけて上半身を出した。

 

 茹だった頭を冷やさなければ。

 妹とセックスをしようだなんて考えを否定すべきなのは、倫理じゃない。

 本能であるべきなんだ。

 

 この葛藤そのものが、兄として、ひいては人としてあってはならないもの。

 こんな俺が傍に居たとなっては美優の身が危ない。

 

 風呂場は危険な場所だ。

 ここでは誰もが裸になる。

 生物としてありのままの姿。

 本能はもはや水を得た魚だ。

 理性で抑え込むことなんてできるはずがない。

 

「もう、出るから──」

 

 そう言いかけた俺を前に、発言の機会を制したのは美優の方だった。

 

「どうしたの?」

 

 スポンジにボディソープを染み込ませながら小首をかしげる美優。

 

「体でも洗ってくれるのかな」

 

 グシュ、グシュ、とスポンジに泡を立てる。

 

 悪魔の囁きだった。

 俺の内にいる邪悪に代わって、美優が性欲に塗れた本能を煽ってくる。

 

「あっ、えっ」

 

 疑念、混乱、不審感。

 それらあらゆる要素を、美優の魅惑の体が吹き飛ばす。

 

「そ、そうだな。背中でも……」

 

 俺はそそり勃ったイチモツを隠すこともせず、湯船から上がると、美優の背後に回った。

 

 水を弾くキメの細かい肌が俺の視線を釘付けにする。

 毎日のケアももちろんだが、美優のこの美しい白色を作り出しているのは、ただの引きこもり体質だ。

 夏でも日焼けした姿は見たことがない。

 

 身長の低さに比べて、しっかりと作られた筋肉と、生まれ持った足の長さ。

 俺に「彼女が欲しければ筋トレをしなさい」と言ったくらいだ。

 美優もそれなりに鍛えてはいる。

 豊かに育った二つの果実を、果実として形作っているのは若さだけではない。

 椅子に座る美優の姿勢の良さは、後ろから眺めているだけではっきりとわかる。

 

「はい、スポンジ。全身よろしくね。手で触ったら怒るから」

 

 美優は顔だけで振り向き、俺にスポンジを渡して、鋭い視線を刺す。

 

 水の滴る黒髪。

 生唾を呑む。

 

 一緒にお湯に浸っているときは感じなかった色めきがあった。

 それを失ってしまわないよう、慎重に泡で汚れを落としていく。

 

 なんで俺はこんなことをしているんだろう。

 頭の中ではそう思っていた。

 

 逃げ出すつもりだったのに。

 気づけば命令に従っている。

 恩があるとか負い目があるとか関係ない。

 俺はどうあがいても美優には逆らえない。

 

 そしてこの性欲にも。

 

 頭が変になりそうだ。

 手を伸ばせば触れてしまえるのに。

 その温かさ、柔らかさ、抱きしめたら、きっとそれだけで射精する。

 

 スポンジを腕に滑らせ、次に背中を洗い、腰からお腹、ふとももへ。

 

「む、胸は、どうするんだ」

「同じようにやってくれればいいよ」

「同じようにって言っても、ほら。谷間のとことか、先っぽのとことか。あるだろ?」

 

 胸で一番汗の溜まる場所は、その大きな肉の塊を退けなければ洗うことはできない。

 手で触れるなと忠告されている俺にはどうしようもない場所だった。

 

「これならできる?」

 

 美優は自らの手で、左右それぞれのおっぱいを広げ、スポンジが入るぐらいの隙間を空けた。

 

 ぴくん、ぴくん、と反応する俺の肉棒。

 アレに挟まれたい気持ちは痛いくらいにわかるが、今は落ち着け俺の愚息よ。

 そんな妄想に浸っていられるだけの余裕はない。

 

「先のとこは、スポンジ当てないでね」

 

 美優から告げられた追加条件。

 たとえスポンジを使っていても、乳首は刺激しないでくれと、美優は俺に注文したのだ。

 

 貧乳は敏感、巨乳は鈍感というのが二次元での定説。

 スポンジが掠ったくらいではものともしないはずだが。

 こんなに慎重になっている俺に、わざわざスポンジを当てるなと命令したのは、触れるだけで感じてしまうおそれがあったということ。

 

 まさか、そこは開発されているのか。

 こんなにおっきく育てておいて、性感にも過敏になっているのか。

 

「わ、わかった……」

 

 これはもはや修行。 

 心を空にする禅の道。

 さすがに無心でいるのは不可能だが、自分の思考を理解しないように脳に働きかけておく。

 

 やや右に回り込み、肩の横から手を伸ばして、胸を洗う。

 丁寧に、泡だけで擦るように、しかしおっぱいを凝視しないように、息を荒らげないように。

 

「次、足やって」

 

 美優は膝を伸ばし、椅子を引いて俺に前に回るように指示する。

 俺のお腹までくっつきそうなくらいの反り返りが、視界に入っても美優は気に留めない。

 

 俺は美優の膝からふくらはぎに泡を塗る。

 バレリーナのように伸ばした足先にも。

 

 奴隷になった気分だ。

 女王様に言われるがままに従う下僕。

 舐めろと命令されれば喜んで舐める。

 それこそ犬のように。

 

 っていうか、舐めたい。

 指の間も、胸の先も、そして、まだ洗っていない、パンツにシミを作るくらいに濡れていた大切な部分も。

 

「うぐっ……、み、美優! もう、終わった……!」

 

 俺は強く頭を振って穢れた思考を追い払う。

 

 美優の体は泡まみれだ。

 全身どこもヌルヌル。

 腰を押し付けるだけでどの部位でも射精できる。

 

 ああ、もう、ダメだ。

 美優とセックスすることしか考えられない。

 

「終わり? お兄ちゃんはいつも、お尻とふとももの内側は洗ってないの?」

「洗ってるけど……」

「ならまだ終わりじゃないよね」

 

 美優は椅子から腰を上げると、床に膝をついた。

 

 脚を広げて、軽く前かがみ。

 四つん這いから上体を起こした格好になる。

 

 艶めかしい背中の曲線美。

 ほどよく肉のついた尻と脚。

 再び俺に背後に回るように指示をして、早くしろと俺を睨む。

 

 この体勢なら、俺も膝をつけばバックが入る。

 

 美優の腰を両手でがっしりと掴んで、この血管まで浮き出たペニスをねじ込めば、三擦りする前に射精する。

 

「っ……ぁ……はぁ……」

 

 動悸が収まらない。

 頭が真っ白になる。

 

「美優……い……挿れても……いいか……?」

 

 鏡に映る俺の目が血走っていた。

 

 こんなに俺を誘惑して。

 そんなに兄とセックスがしたいのか。

 

 俺はいい、どんなにしても構わない。

 これから夏休みだ。

 両親もいない。

 毎日朝から晩までセックスしていられる。

 

 美優とセックスがしたい。

 この妹に中出しをしたい。

 

「いいわけないでしょうが」

 

 美優は低い声でそう返す。

 

 ならせめてオナニーをさせて欲しい。

 この体勢に後ろから精液をぶっかけるだけで意識が飛ぶくらいに気持ちいいはずだ。

 

「早く」

 

 美優にせっつかれて、まとまらない思考のまま、体だけが命令を聞いて美優の体を洗っていく。

 内ももから、お尻、そしてその間にある、大切な部分へ。

 

 股下に腕を忍ばせて。

 泡で触れるだけだ。

 女性器を強く刺激してはいけない。

 お湯で流すときにさっぱりしているくらいでいい。

 

 お尻の穴、そこも、朦朧とする意識のなかで泡をつけて。

 

 洗ってしまった。

 あそこには美優の蜜がたっぷりと残っていたのに。

 美優はシャワーで流してしまう。

 

 肢体を流れ落ちていく、お湯と泡。

 美優のエキスをたっぷり含んだ溶液。

 排水口に流れる前の今なら、美優の体をすすいだ直後のお湯なら。

 まだ美優の成分がたっぷり含まれている。

 それを飲めば、マカだの亜鉛だのなんかよりよっぽど俺の精液を増やしてくれるはずだ。

 

 くそっ、なんでこんなバカなことばっかり考えるんだ。

 そんなことはもう人間のやることじゃない。

 

「あぁ……」

 

 俺は無情にも流されていく泡を眺めることしかできなかった。

 性欲と理性が殴り合って、もうそれだけで精一杯だった。

 

「ありがと」

 

 美優は俺に礼を言って風呂に入る。

 

 もういい。

 出よう。

 部屋に戻ってオナニーをしよう。

 

「お兄ちゃん、もう出ちゃうの?」

 

 風呂場のドアの鍵を開けた俺に、美優から投げかけられた理解不能なクエスチョン。

 勝手にズカズカ入り込んできて、人の入浴、ひいてはオナニーを邪魔してきたくせに。

 

「先に出て部屋でゆっくりしてるよ」

 

 これ以上、オナニーの邪魔をされてたまるか。

 

 体を拭いて、髪を乾かして、ベッドに寝転んで、好きなだけこの肉棒を可愛がるんだ。

 

 早くオナニーがしたい。

 早く射精したい。

 

 俺は風呂のドアを閉めて、タオルに手を伸ばした。

 

 訪れる安堵。

 思考力が蘇る。

 

 ──本当に、これでいいのか?

 

 美優が俺を風呂に呼んでいる。

 あれはそういう意味の質問だった。

 

 美優が一緒に風呂に入ってくれる。

 裸で俺と同じ空間を過ごしてくれるんだ。

 こんなご褒美が目の前にぶら下げられているのに、なぜそれを取らない?

 

 たしかに、これは罠かもしれない。

 もしここでお風呂に戻ったら、きっとまた射精はさせてもらえない。

 

 でも、だからどうした。

 射精をしてしまえばそこで終わりだ。

 ただスッキリして、それだけ。

 なにも残らない。

 

 それは美優とのお風呂を差し置いて優先するべきことか?

 

 否。

 断じて否だ。

 

「……体、冷えてたから。やっぱり入ろうかな」

 

 俺は風呂のドアを開けていた。

 

「そっか」

 

 美優は俺の言葉を聞くと、膝を畳んで前方の空間を空ける。

 

 そこに入れということらしい。

 俺も同じように縮こまって風呂に入った。

 

 ザバザバとお湯の溢れる浴槽。

 さすがに二人で入るには狭い場所だ。

 

「あの、一つ聞いていいか」

 

 なされるがままの俺だったが。

 さすがにもう、これが普通ではないことはわかっている。

 

「なに?」

「今日はやたらと積極的に、感じるんだけど。気のせいでなければ」

 

 美優からのスキンシップがこれほど過剰なのはおかしい。

 昔の美優だってここまで俺にベッタリはしてこなかった。

 

「まあ、気のせいじゃないだろうね」

 

 美優はクリップで結い上げた髪を直しながら答える。

 

「理由とか、あるのか?」

 

 俺がそう尋ねると、美優の表情が露骨に変わった。

 

「ふーん。そう」

 

 美優は目を細めて俺をじーっと見る。

 

「やっぱりそうなんだ」

 

 美優の返答は曖昧だった。

 

 俺が知っていればそれでいい。

 知らなければ教えるつもりはない。

 そんな対応。

 

 膝に乗ってもらって、染み付きパンツをもらって、一緒にお風呂に入って。

 こんなにご褒美がもらえる理由は、いったいどこにあるのか。 

 

「もっと欲しい?」

 

 美優の言葉に、ビクッと反応する、俺の心臓と肉棒。

 心を読まれた、なんてことは、いまさら驚くことでもないけど。

 

 もっと欲しいかって、そんなこと、美優が言うなんて。

 

「お兄ちゃんは、妹に欲情することに何の疑問も抱かないダメ人間だもんね」

 

 水面下で、動く肌色。

 俺の股間に伸びてくる、美優の足。

 

「あっ……!」

 

 男の最も大切な部分が、平然と踏みにじられた。

 グリグリと裏筋を踏まれて、俺は、歓喜に震えていた。

 

「美優、そんな、こと……ああぁっ……!」

 

 すでに爆発寸前だった俺の肉棒が、美優の小さな足にこねくり回される。

 痛いくらいに強く、根元から亀頭まで。

 

 雑な踏み方だった。

 気持ちよくしようだなんて思ってはいない足使い。

 ただ俺を蔑み、貶めるためだけの行為。

 

 快感より、喜びが湧き上がってくる。

 俺はドMなんかじゃないはずなのに。

 もう、美優に虐められることを、喜ばずにはいられない。

 

「ほんと、正直な体だね」

 

 美優の足の動きが変わる。

 

 土踏まずが離れて、代わりに母子球が肉棒を抉ってくる。

 

 その次に触れたのが、美優の足の指。

 上向きの肉棒を、横に倒したり、上から押さえつけたり。

 弄り倒して、最後は、その指の間で、竿を挟んだ。

 

 足の親指と人差し指をグパッと開き、ヒダも愛液もない、ただの一つの溝で、カリ裏をくすぐってくる。

 小柄な美優が、完全に勃起した俺の肉棒を指で挟むのは、半分が限度だったが。

 それで十分だった。

 

 足の指で、裏筋を擦り上げるのには。

 

「あああぁぁ……あぁあっ!!」

 

 美優の足が、俺の肉棒をしごいている。

 手でされるのとは、その快楽の質は明らかに違った。

 物理的な快感に加え、踏みつけによる羞恥が俺の体を熱くしていく。

 やばい、こっちのほうが好きかもしれない。

 

「はぁ、はぁ、あぁぁあああ……美優、気持ちいぃ……あぁああっ……あっ、ああっ!」

「喘ぎすぎ。女の子みたい。こんな響くところでそんな声出して、リビングまで届いてるんじゃない?」

 

 俺を責めながら、美優は足の動きを止めようとはしない。

 もう、なんでもいい。

 誰に聞こえていようが、気持ちよければどうでもよかった。

 

「ママたちがいなくてよかったね」

 

 無表情の奥に潜む、愉悦の微笑み、妖艶に映る美優の顔。

 

 それを見た瞬間、悟った。

 

 俺はもう一生、美優以外で射精することはないんだろう。

 

 このまま出すも出さないも美優の自由にされ続けるんだ。

 

「み、美優、もう、で、出っ……出るっ……!!」

 

 ドクン、ドクン、と脈打つ肉棒の伸縮に、パッと足を放す美優。

 

「ああっ! み、美優、そんな……俺は、もう……!!」

 

 射精を我慢するなんて無理だ。

 出す、美優で出さないと、もう収まらない。

 

「美優……!」

 

 体が勝手に美優に覆いかぶさっていた。

 

 美優の片脚を持って、もう片方を膝で退けて。

 

 無理矢理開いたその秘所に、射精間近の肉棒を突きつける。

 

「お兄ちゃん、ダメ」

 

 美優は冷静に俺を諌めた。

 

 ダメだなんてこと、わかってる。

 あまつさえ、実の妹。

 年下の、まだ男性経験のない、女の子だ。

 中出しなんて、許されるわけがない。

 

「美優……い、挿れる……挿れるからな」

 

 割れ目に、グッと押し込んだ。

 

 パンパンに充血して、敏感になった亀頭が、感じ取ったもの。

 

 ぬるっと触る、それは、疑いようがなかった。

 

「濡れ……てる……!?」

 

 洗った直後なのに。

 美優の膣内は、まだこんなに愛液で溢れている。

 

「挿れたらダメだよ」

「美優、わかった。欲しいのは、美優の方だったんだろ」

「お兄ちゃん、聞いて」

「こんなに濡れてるんだ。俺のモノに触って、美優だって興奮してたんだろ」

 

 でなきゃこの状況は説明できない。

 美優は襲ってほしかったんだ。

 これだけ俺を誘惑して。

 

 口に出せない性分だから。

 俺の理性を限界まで破壊して、自分が犯されるように仕向けたんだ。

 

「お兄ちゃん」

 

 その言葉は、はっきりと俺の耳に届いた。

 

 美優の顔が鮮明に写る。

 泣いても怒ってもいない。

 さっきまでと変わらない表情。

 

 入り口だけが交わった状態で、見つめ合う、俺と美優。

 

「……今日、危険日なの」

 

 美優は俺の肉棒にそっと手を添える。

 

「お兄ちゃんの精液、濃いから。たぶん、受精する」

 

 その手は俺の竿を伝い、美優は自らの下腹部を、そっと撫でた。

 

「……まだ、妊娠はしたくない」

 

 美優は激しく抵抗することはなかった。

 暴れなくても、結局は俺が何もしないことをわかっている。

 

 この裸と裸の重なりに、見えるほど心の距離は縮まっていない。

 

 荒い息遣いだけが響く室内。

 

 俺は、美優の割れ目に肉棒を差し込みかけた腰を、力なく引いた。

 

「ん、ありがと」

 

 美優は俺の暴挙に不釣り合いな言葉をかけて、両膝を抱えて丸くなる。

 

 できなかった。

 挿れることも、それを頼むことも。

 

 今日が危険日だと美優に言われたとき、俺の心に芽生えたのが、中に出したいという衝動だったから。

 

 たとえ相手が恋人だったとしても、妊娠の危険性を示唆されれば普通は挿入をためらうものだ。

 誰かを孕ませたいなんて気持ちは、他の女の子たちには抱くことはなかったのに。

 よりにもよって、なぜ危険日の妹に中出ししたいなんて思ってしまったのか。

 

「そろそろ出よっか」

 

 美優の提案に、俺は残ってガス抜きをしたいと答えたかったが。

 あんなことをした俺に、髪を乾かせだのまだ命令してくる美優に、結局最後まで逆らうことはできなかった。

 

「はぁ……」

 

 ベッドの上で大の字に寝転ぶ。

 天井が遠い。

 

 オナニーがしたい。

 でもオナニーはしたくない。

 そんな矛盾した劣情が渦巻いている。

 

 ついにお腹につくまで反り上がってしまったこのイチモツを、ただのオナニーで鎮めるのは嫌だった。

 

 出しても美優は飲んでくれないし。

 せっかくこんなにたっぷりと精液が溜まっているのに。

 

 飲ませたい。

 欲を言えば咥えてもらいたい。

 フェラをしてもらっている最中に射精したら、美優の口に収まりきらないくらいの精液が出るはず。

 それを無理やり喉の奥にねじ込んで、咽せる美優を眺めていたい。

 

 どんどん欲求が強くなる。

 やはりただのオナニーじゃダメだ。

 せめてオナホくらいは使おう。

 しばらく使ってなかったから、それだけで特別感がある。

 

 引き出しの中に、ワンセット、オナホとローションが残っていていた。

 俺はベッドにタオルを敷いて、その上にオナホを乗せ、ローションを流し込む。

 

 じっくり温めてから楽しむのがベスト、だがもう待てない。

 風呂場で美優の膣口に挿入した記憶が蘇ってくる。

 ビキビキッという漫画の効果音が似合うくらいに、俺のペニスは猛っていた。

 

 ズボンとパンツを脱ぎ捨てて、襲うようにオナホに飛びつく。

 

「はぁ……あっ……ぅっ……み……美優……!」

 

 腰を沈めて、オナホに肉棒を差し込むと、もう性欲を抑えることはできなった。

 

「美優……気持ちいいよ……」

 

 ねじ込むと、蜜を漏らす。

 

 今日の美優と同じように。

 

 ゴム素材がギチギチに膨れ上がっている。

 オナホがいつもよりキツかった。

 

「あ、あぁぁあっ、美優……いい……! すごくいい……っ!」

 

 軋むベッドの音が、本当に美優とセックスしている情景を浮かび上がらせる。

 

 美優とのセックスが気持ちいい。

 このまま一生セックスしていたくなる。

 

「美優、美優っ……!! あぁ、中に、中に出る……!!」

 

 美優への中出し。

 

 俺の叶えた願望が、ようやく叶う。

 

「お兄ちゃん、うるさい!」

 

 バンッ、と開け放たれたドア。

 

 止まる腰の動き。

 

 やばい、声を出しすぎた。

 

 全部、丸聞こえだったよな。

 

「もう。何時だと思ってるの」

 

 腕を組んで怒る美優。

 

 こんな夜中にうるさくしたのは、申し訳ないけど。

 そこなのか。

 

「す、すまん」

「むぅ」

 

 美優はベッドの横まで近寄って、しゃがみこんだ。

 オナホにペニスを挿したまま、正常位の体勢で止まっている俺の、惨めな下半身を観察してくる。

 

「これが私なの?」

 

 美優は人差し指でオナホをツンツンした。

 

「ご、ごめん!! こんなの失礼だよな!! すぐに捨ててくるから!!」

「あっ、いいのに」

 

 俺はベッドから飛び出した。

 引き留めようとしていた美優を置き去りにして。

 

 叩きつけるようにオナホをゴミ箱に投げ捨てた。

 竿の全体にベッタリとついたローションをお湯で洗ってから、自室に戻る。

 

 美優は床にぺたん座りをして待っていた。

 

「本当に申し訳なかった」

 

 俺はただただ平謝りした。

 自分がオナホ扱いされてたら、さすがの美優でも気分は良くないよな。

 

「次からは静かにしてね」

 

 美優はオナホを自身の代わりにしたことを怒らなかった。

 口で精液を処理してもらっていた時点で、オナホに近い扱いをしてきたわけだし、自然な反応と思えばそう思えなくもないけど。

 

「えっと……」

 

 下半身裸で、まだ勃起から開放されない肉棒を前に、美優は動かない。

 

「他にも、何か?」

 

 俺は床に脱ぎ捨てたズボンを拾い、ベッドの縁に座ると、それとなく陰部を隠す。

 

 美優は俺の質問に対し、パジャマの両肩のあたりを摘むと、それを軽く引っ張った。

 

「これ」

「うん?」

「おニューのパジャマ」

「は、はぁ」

 

 え、なに。

 

 それだけ?

 

 それを言いにここに来たのか?

 

「どうでしょうか」

 

 丁寧口調で尋ねてくる。

 美優のパジャマは、シルクに似た薄生地のショートパンツのセットだった。

 ほんのり色づいたパステルピンクが、ナイトブラに支えられる美優の巨大な胸を丸々と形作って、ニットほどではないにしても擬似的な乳袋を生み出している。

 

「かわいいと、思うよ。よく似合ってる」

 

 本心からの感想を言うなら、「エロい」しかないんだけど。

 

「それはよかった」

 

 美優はスクッと立ち上がって部屋を出ていく。

 

 またこのパターン。

 まさか、俺がうるさくしてたからっていうのも、口実にすぎなかったのか。

 

 やはりわざと俺に射精させないようにしている。

 それがなぜかはわからないが。

 ここまでいいようにやられては、俺だって悔しくもなる。

 いっそこのままオナニーして即射精してしまえば、よくわからない美優の目論見を潰せることにはなる。

 

 だが、そんな程度で良いのだろうか。

 ここまで我慢させられて、睾丸も破裂寸前。

「勝手に射精してやった」なんて息巻くだけでは、なんの優越感も得られない。

 

 だったら、ここは、あえての我慢続行。

 美優が寝るまで、俺もオナニーはしない。

 中出しはたしかに許されないことだった。

 女の子を妊娠させて、俺にはまだ責任を取れるだけの能力がない。

 

 しかし、それ以外なら、だいたいのことはやっても許される。

 そう思える。

 

 多少エッチなイタズラをするくらいなら、美優は怒らないのではないかと、謎の確信が俺にはあった。

 

 だから俺はあえて自らオナニーを封じる。

 美優が寝て、無防備になったその口に肉棒をねじ込んで、口内で否応なく射精してやるんだ。

 どっぷりと、美優の口に含みきれないくらいの精液が出る。

 美優はベッドや服が汚れることを嫌うだろうから、飲まざるをえない。

 どんなに大量の射精をされても。

 

 いける。

 なんか、今日はいける気がする。

 

 だってそうだろう。

 美優はレイプしかけた俺にすら、平然と接している。

 

 だから飲ませられる。

 俺の精液を。

 

 想像するだけで先走りが止まらない。

 パンツなんて履いている場合じゃない。

 この脱いだ状態のまま、美優が眠りにつくまで、ベッドで大人しくしていよう。

 オナニーさえしなければ、美優は俺を妨害することなんてできないんだから。

 

「お兄ちゃん」

 

 軽やかにドアを叩く音。

 やはり来たか。

 

 だが残念。

 パンツは脱いでいるが、オナニーはしていない。

 無駄な行動だったな。

 

 勝ったんだ。

 俺はついに美優を上回った。

 

 部屋に入ってきて、何もしていない俺を見た美優がなんて言い訳をするのか。

 楽しみだ。

 

「もう、寝る?」

 

 ドアからひょっこり顔を出してきた。

 美優のやつ、内心では焦っているに違いない。

 

「そうだな。少し早いけど、もう寝るよ。明日は朝から家を空けないといけないし、今のうちに休んでおきたい」

「よかった。ならお邪魔するね」

 

 俺の部屋に足を踏み入れ、ドアを閉めた。

 

 美優はその腕に、普段使いしている枕を大事そうに抱えて、俺の前までやってきた。

 

「────は……?」

 

 枕?

 なんで、そんなもの持ってんだ?

 

「お兄ちゃん、後ろ下がって」

 

 美優は俺に、ベッドに隙間を空けるように要求した。

 自分が寝られるくらいのスペースを。

 このベッドに、作るように。

 

「え? え? え?」

「どいて」

「はい」

 

 美優にせっつかれて、俺はベッドを半分明け渡してしまった。

 美優はそこに枕を置いて、無遠慮に布団の中に入ってくる。

 

「パンツはいてないんだけど……」

「うん。知ってる」

 

 美優はベッドの真ん中まで体を寄せてくる。

 さっきまでオナニーをしていて、まだ射精してないことを美優も知っているのだから、俺のペニスが完全状態であることもわかっているはずなのに。

 

 正気なのかこいつは。

 さっきは風呂で似たようなことをしてレイプされかけたんだぞ。

 

「お兄ちゃん」

「あ、はい。なんでしょうか」

 

 至近距離でその大きな瞳を仰いでくる。

 

 ああ、かわいい。

 俺の妹は最高にかわいい。

 

「わかってるよね」

「えっ?」

 

 困惑する俺に、美優はまた自分のパジャマを引っ張って見せる。

 

「これ、新しい服。お気に入り」

「はい」

「汚したら許さないからね」

 

 美優はジトッとした目で俺を睨む。

 

 だったら一度抜かせてくれればいいじゃないか。

 飲まなくてもいいから、射精するまでのほんの少しの時間だけでも与えて欲しい。

 

 美優はさらに距離を詰めて俺に密着してくる。

 こんな状態じゃ、たとえオナニーを我慢したとしても夢精して悲惨なことになる。

 

 パンツもはいていないんだ。

 一番の被害を受けるのは美優の服。

 朝起きたら、色が変わるくらいに精液でパジャマがぐちょぐちょになっているに決まっている。

 

 せめて反対側を向こう。

 それなら刺激も少ないし、夢精しても美優の服を汚すことはない。

 妙な夢を見て、隣の美優を襲っていなければの話だけど。

 

「あっ」

 

 ベッドの頭にある小棚を見て、思わず声が漏れた。

 俺の視界に入ったそれは、佐知子と使っていた残り物。

 四角く包装されたその小さなアイテムが、俺に狂気的な好奇心を与えてくる。

 

「み、美優」

 

 また反対側に寝返りを打って、美優とご対面。

 愛らしい眼をパチクリさせている。

 

「こんなものがあったんだけど……」

 

 俺は両手の指でそれを持ち、美優に見せた。

 美優は瞬きだけしてしばらく固まると、ひょいとそれを摘んで取り上げる。

 

「コンドームだね」

 

 主に男女がセックスをする際、避妊目的で使用するもの。

 というかそういう用途しかないし、これを渡すということはそういう意図しかない。

 

「お兄ちゃん」

 

 美優はコンドームをしげしげと眺めてから、俺に視線を移す。

 

「これはどういう意味で渡したのかな」

 

 美優の質問。

 答えはわかりきっているはず。

 

「それは、その、だな。し、したい……というか……」

「うん。それはわかるけど。なんで?」

 

 継ぐ問いに、俺は困惑、そして、その質問の意図を理解したとき、ハッとさせられた。

 

 俺がコンドームを渡したのは、美優とセックスがしたいから。

 

 では、なぜ美優とセックスがしたいのか?

 

 もちろん、この溜まりすぎた性欲を、解放したいからだ。

 

 ただそれだけの理由。

 一方的な欲望の押し付けで、俺は妹の体を求めた。

 

 美優のことは好きだし、1人の女性として尊敬している。

 そのつもりだったけど、これじゃあさっきと同じだ。

 オナホを美優に見立てて腰を振っていた、あの身勝手なオナニーと変わりない。

 

「ご、ごめん」

「なんで謝るの? ちゃんと言葉にして言って」

 

 美優の口調に怒りは滲んでいない。

 見えないくらい深くに潜ませているのか、呆れられて怒りも湧いてこないのか。

 どっちにしても、俺がすべきことは一つだった。

 

「美優と、したくて。溜まってたから。美優で出したら、気持ちいいだろうなって。俺……」

 

 どんなに変態的な欲望をぶつけても、傷つけるつもりはなかった。

 風呂場で襲いかけたときもそうだ。

 俺は美優に感謝しなくちゃいけないはずなのに、いつも性欲をぶつけているだけ。

 たとえ射精を禁止されて煽られても、女の子としての尊厳は大切にしてあげないといけなかったのに。

 

「ふむ。まあ、ならいいんだけど」

 

 美優はコンドームを俺の胸に突き返す。

 

「エッチはしません。妹なので」

「えっ? ああ、うん。そうだよな」

 

 あれ?

 俺、なんか許されたのか?

 オナホを美優として使っただけじゃなく、美優をオナホ扱いしたのに?

 

「リモコンは? 電気消して」

 

 美優に促されるまま、俺は部屋の明かりを消す。

 

 暗闇の中、ベッドで妹と二人。

 

 美優は腕を引いて小さくなると、俺の胸にぴったりとくっついてきた。

 

 か、かわいい。

 いい匂いがする。

 けど、なんでこの流れで距離が近くなるんだ。

 

 わからない。

 わからないけど、かわいい。

 

「美優、せめて、パンツくらいは履かせて欲しいんだけど……」

 

 美優の脚が俺の内腿に乗せられていた。

 このままじゃ身動きが取れない。

 下半身を露出したまま寝たら、絶対に夢精してパジャマにぶっかける。

 それもとんでもない量を。

 

「美優?」

 

 すやすやと、気づけば美優の安らかな寝息が聞こえていた。

 

 狸寝入りかと思って、ちょいと胸を突いて脅してみるが、反応がない。

 ボタン留めした隙間から、指を差し込んでみても、眠り姫は目覚めないまま。

 胸を触られるのだけは絶対に嫌なはずなのに、身じろぎひとつすることもない。

 

 美優ってこんなに寝入りがよかったのか。

 知らなかったな。

 まあ、兄妹なんて一緒に寝るものじゃないし、知らないのが当然なんだけど。

 

「んん……なんか……」

 

 美優の頭を腕に抱いていると、すごく心が落ち着く。

 さっきまで性欲が荒波のように押し寄せていたのが嘘のように。

 

 シャンプーしたての髪の毛の匂い。

 いつもなら興奮するのに。

 

 今はただ、心地がいい。

 

 眠くなってきた。

 

 まだ下の方は元気でいっぱいなのに。

 

 瞼が重い。

 

 美優。

 

 すごく、いい匂いだ……。

 

 

 

 

 

 

 

「──ふぁっ……んーっ」

 

 次に目を開けたのは、朝陽に瞼を刺激される頃だった。

 

 あっさりと寝てしまった。

 あんなに興奮してたのに。

 

 俺の腕の中には、まだ美優が寝ている。

 長いまつ毛、スッと通った鼻。

 うん、やっぱりこの造形は、美少女のそれだ。

 

 ……今の俺って、やばいくらいに幸運じゃないか?

 

「んっ……はれ……? お兄ちゃんだ……」

 

 寝ぼけ眼をまだ虚ろにさせて、お姫様がついに目を覚ました。

 

「おはよう」

「おはよ……」

 

 美優は俺の服を掴んで、頬を擦り寄せてくる。

 

 これ、本当に美優なんだろうか。

 中身が別人と入れ替わってるんじゃないか。

 

「うーん……お兄ちゃん……なんで私のベッドにいるの……」

「俺のベッドだよ。ほんと寝起きに弱いんだな、美優は」

「ふぇ?」

 

 美優はむくりと顔を上げて辺りを見渡す。

 そこは美優にとっては見慣れない部屋。

 布団の色も違えばクッションも置いていない。

 

「はっ──しまった!!」

 

 美優はガバッと布団をめくって起き上がる。

 起き抜けに美優が最初に確認したのは俺の肉棒だった。

 女の子としてどうなんだそれは。

 

「……出してない?」

「幸いなことにな。変な夢を見る隙もないくらいに熟睡してたよ。抜きにも行ってない」

「そっか。偉いね。まあ、その程度で許すつもりはないけど」

 

 美優は布団を足元に蹴飛ばすと、まだ露出したままの俺の下半身に馬乗りになった。

 

 細められた目。

 今度こそは怒りを感じる。

 

「えっ、俺、なんかやらかしたか!?」

「そうだろうね。身に覚えがございませんって態度だったもんね。ずっと」

 

 いやいやいや、だったらもっとわかりやすく怒ってくれよ。

 エロい誘惑をして射精を我慢させるなんてお仕置き、俺にとってはご褒美に近いからな?

 

「お兄ちゃんさ」

 

 美優は片手を俺の横につき、もう片方の手で胸をなじってくる。

 重力でさらに強調されたおっぱいが破壊的にエロい。

 

「私のおっぱい揉んだとき、お詫びにどんなことでもするって言ったよね」

 

 一昨日の夜、健康診断の結果に寝込んでいた美優の、寝起きの悪さに乗っかって、俺は胸を揉んでしまった。

 

 胸が大きすぎることにコンプレックスを持つ美優にとって、それは秘部を触られるよりよっぽど許せないことだったんだろう。

 

「それを怒ってるのか?」

「それも怒ってる」

 

 ほかに何かやらかしたのか。

 でも、今回ばかりはどれだけ記憶を掘り起こしても思い当たることがない。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。どんなことでもするって、あの言葉に嘘はないんだよね」

「も、もちろん! 美優の望むことなら、何だってする!」

 

 さすがに死ねなんて命令されたら堪ったもんじゃないが、美優のことだからそんなことは言わないはず。

 

「お兄ちゃんは今まで私に何度も助けられてきました」

「はい、その通りです」

「何度も怒られてきました」

「事実に相違ありません」

「そろそろ恩返しとかお詫びとか、できなくて心苦しくなってるんじゃないですか」

「一切否定しようがないな……」

 

 美優がなんでもやれと言うなら、なんでもやる。

 それくらいのことはしてもらったんだ。

 できないはずがない。

 

「お兄ちゃん、どんなことでもするって言葉の意味、理解してるよね」

 

 美優は顔を近づけて、胸骨の中心部をグッと人差し指で押した。

 

「どんなことでも、だよ? 私が下す、いかなる命令にも。絶対に逆らわない。喜んでそれに従う。口答えは許さない。質問も許さない。ましてや拒否することなんて、一生かけても許さない」

 

 凄みを増していく美優の声。

 

 生物としての本能が、俺に告げていた。

 

 これ、なんかやばいんじゃないかって。

 

 抵抗するべきだ。

 過去どれだけの恩があっても。

 

 これだけは約束してはいけない。

 

 ここが最後の食い下がりどき。

 この場でならまだ、少しは覆せる。

 条件を緩和できる。

 

「ああ……」

 

 何か言い返せ。

 言われたままに引き受けるのだけは絶対にまずい。

 

「お兄ちゃん、最後の確認だよ。今日から二日間、お兄ちゃんには私の命令に従ってもらう。それがどれだけ嫌なことであっても。どれだけ危険なことでも。口無き奴隷、絶対遵守」

 

 ダメだ。

 ノーと言え。

 ノーの上でのイエス、あくまで譲歩、条件付合意。

 

 ここで承諾したら、もう戻れない。

 

 あるいは、人の道にさえ。

 

「もし約束を破るようなら。もう、二度とお兄ちゃんには頼みごとをしないから」

 

 グサリと刺さった。

 

 これから先、一生美優に頼ってもらえない。

 

 そんな人生は地獄だ。

 

 きっと今も、美優は俺が首を縦に振ることを前提に話している。

 だからこそ、昨日までの射精の管理があった。

 

「わかった。約束する」

 

 だから言ってしまった。

 口にしてしまった。

 

 美優の抱える得体の知れない怒りと、そこから生まれた望みに、必ず報いると。

 

「さすがはお兄ちゃん。たいへんよい返事です」

 

 美優は満足げに、僅かばかりの微笑みを浮かべると、ベッドから降りてドアノブへ手をかけた。

 

「最初の命令。二日間、私が出していいと言うまで射精禁止。夢精なんて論外。自己申告制だけど、嘘をついてもわかるからね」

 

 美優はドアを開け、廊下に出てから頭だけを戻す。

 

「明日の18時きっかりに帰ってきてね。それまでは精液さえ出さなければ何しててもいいよ。ではでは」

 

 パタン。

 

 閉じられたドア。

 ベッドに残された俺は、ギンギンに昂ぶったこのイチモツを鎮めることは許されず。

 

「目立たないズボン、はかないとな……」

 

 明日の18時まで、溜めに溜めた精液を何に使うのか。

 

 それ以前に、俺は何をやらかしたのか。

 

 不安だけが心中に漂う夏の朝。

 

 俺は射精の許されない一日を過ごしに、外へと出かけるのだった。

 



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妹のエッチな誘惑 地獄の射精管理 ~射精禁止だよ、お兄ちゃん~ その4

 

 街路樹の等間隔を目で追い、風を切って歩く。

 そんな自分が別人のようだった。

 

 これが数ヶ月前の俺なら、意気がってるだけのキモいオタクだったけど。

 美優に服を選んでもらって、良い美容室を紹介してもらって、筋トレを始めて。

 気づけば世界が変わっていた。

 

 他人の視線も気にならないし、声をかけられても緊張しない。

 自己評価が極端に低かった俺は、人と話しているだけで自分の存在を恥じていた。

 

 どうせキモいし、服はダサいし、話はつまらないし、挙動不審だし。

 それが一つずつ改善されていくと、それまで他人を眺めてすごいなって思っていた日常会話が難なくできるようになって、「なんだ俺って普通の人間だったんだ」って思えるようになった。

 

 ……実の妹に並々ならぬ性的興奮を覚えることさえなければ、本当に普通の人間だったんだけど。

 

 あの妹だからしょうがない。

 

 目的地は最寄駅。

 普段は自転車を使うが、歩いてもそう遠い距離じゃない。

 今夜は外泊をするから、自転車を使うと駐輪場が必要になるのでやめておいた。

 

 慣れた道を外れて、違う経路を歩く。

 どうせ時間はたっぷりあるんだ。

 運動していた方が性欲も早く発散しそうだし。

 

 休日はオタク趣味に時間を使うばかりでゲームやネットで引きこもっていることが多かったから、丸一日外で遊べと言われても困ってしまう。

 

 とはいえ、幸いにもやることがないわけでもない。

 鈴原にオススメされたアプリを進めないといけないし、オンラインゲームのレベル上げもしなくてはいけない。

 

 だから夜はネットカフェで過ごすつもりでいる。

 それまでは、電気屋に行ってPC部品でも眺めているか。

 

 住宅街から駅の間、マンションが増え始める大通り。

 途中で大きな川が流れていて、橋の上でチャリを待機させている学生もちらほら見えた。

 現代に生まれた人間の感覚からすれば田舎と言えるぐらいに自然に囲まれたこの場所には、大きな公園がある。

 

 と言えば聞こえはいいが、それしかない。

 娯楽施設もなければ学校に近いわけでもなく、数駅隣はそこそこ栄えているため、遊びに来る人など稀だ。

 公園でも家族やカップルがベンチでゆったりしているだけだし、縁もゆかりもない俺にとっては地元なのに知らない土地だった。

 

 景色はいい。

 胸がスッとする。

 

 美優に散々性欲を溜められて、半勃ち状態のままの肉棒からは、少しずつ芯の硬さが抜けてきていた。

 

「……でかいマンションだな」

 

 そんな街中の景観にそぐわない、高層マンションが一棟建っていた。

 

 駅からの便はいいとは言えないけど、歩けばスーパーには行ける距離だから、まあアリな物件だ。

 ここ周辺の土地は安いとはいえ、こんなマンションに住んでるのはかなりの富裕層だろうな。

 

 二重ドアで隔離されたオートロックのエントランス。

 そのドアが、建物から出てきた人物によって開かれる。

 

 コツ、コツ、と底の薄いサマーブーツが地面を鳴らした。

 胸の大きい、ポニーテールの女性が一人。

 リッチなおば様かと思ったら、やたらエッチな体つきのお姉さんだった。

 

「──って、山本さん!?」

「あら。ソトミチくんだ。おはよう」

 

 まさかの見知った顔だった。

 

 帰りが同じ方向なのに通学路で会ったことがなかったのは、こんなところに住んでたからだったのか。

 

「お、おはよう」

「ふふふ。なんだかソトミチくん、男の子になっちゃったね」

 

 山本さんは両足を揃えて立ち止まった。

 

「それはどうも」

 

 髪を整えて、体を鍛えてってのもそうだが、姿勢とかは美優の影響で元々悪くない方だったからな。

 ちゃんとした服を着てると、山本さんみたいな美人にこうしてばったり出会った時も抵抗なく話せる。

 

 直しておいてよかった。

 ありがとう美優。

 今は何かやらかして怒らせてるけど。

 

「ソトミチくんはこれからお出かけ?」

「美優に追い出されて放浪中」

「あらあら。喧嘩でもしてるのかな」

「わからんけど怒られてる」

 

 喧嘩とはちょっと違うからな。

 

「山本さんは?」

「弟たちを迎えに行くの。両親がこの土日に旅行で家を空けるから、うちで預かってくれって」

「そっちも放置家庭だったか」

 

 大人に夏休みなんてないはずだけど。

 休みやすい都合でもあるんだろうか。

 

 俺は山本さんと並んで歩いた。

 行き先は同じらしい。

 

「山本さんの弟か。さぞイケメンなんだろうな」

 

 こんな大人びた美貌の遺伝子なんだ。

 長身の美形に違いない。

 

「全然。こんなちんちくりん。女の子みたいなやつだよ」

 

 山本さんは肩掛けしたポーチの紐で見事に作り出した大山の麓に手の甲を添えて空気を撫でる。

 

「だからよく女装させて遊んでる」

「ひでぇ姉だ……」

 

 学校では誰にでも優しい天使のような山本さんだけど。

 家だときっと天下を取ってるんだろうな。

 

 もしこんな優秀で美人の姉と一緒に暮らしていたら、逆らえる気がしない。

 妹が相手でもこのザマだからな。

 

「あれ? 弟さんは一緒に暮らしてないの?」

 

 これから家で預かるために迎えに行くってどういうことだ。

 家族って、一緒に住んでるものだよな。

 ましてや学生だし。

 離婚や別居をしているならいざしらず、両親は旅行に行くぐらいには仲がいいんだよな。

 

「あっ……そ、それは……!」

 

 山本さんのやらかしたという顔。

 公園の入口の前で立ち止まり、髪の毛をくるくるといじりだす。

 

「え、えぇと……弟たちは、親戚の家に、泊まってて……両親の旅行を期に、帰ってくる……ことに……」

「親がいなくなるなら、親戚に預けたままにしたほうが良くないか?」

「はっ──!」

 

 強張っていく山本さんの表情。

 

「あああうん! そう! そうなの! だから、元々はそのつもりで預けてたんだけど、親戚も親戚で都合が悪くなったから、うちで預かることになって!」

「はあ。預かるのか」

「預かるっていうのは! 帰るって意味で! あの、でも親戚に預けてたのは預けるって意味で! だからその、あの、別に一人暮らししてるとかじゃなくてね!?」

 

 首と両手とポニーテールと、振れるものありったけ横に振って否定する山本さん。

 

 山本さんってほんと嘘をつくのが下手なんだよな。

 この素直さがあるから、他の女子に僻まれることがないんだろうけど。

 

「高校生なのに一人暮らしって珍しいな」

「だから、あのぉ……うぅ……」

 

 山本さんは頭を抱えてうずくまる。

 通り過ぎていく人たちの視線が痛い。

 

 俺は何もしてませんよってアピールで作り笑いを振りまいて、数分。

 山本さんは時計を確認すると、俺を公園の中に引き込んだ。

 

「あのね、ソトミチくん」

 

 公園のベンチ、美少女と並んで座る。

 まだ陽の低い時間のベンチは冷たかった。

 

「みんなには内緒にしてくださいっ!」

 

 パチン、と両手を合わせて拝まれる。

 必死に目を瞑る顔も可愛い。

 

「それは構わないけど。どうせ鈴原とかは知ってるんだろ? ……下世話な質問で申し訳ないが」

「あはは。うん、答えづらいところではあるけど。一人暮らししてることは、鈴原くんも知らないの。あの部屋に家族以外を入れたことはなくて」

 

 山本さんは気まずそうに噴水を眺める。

 

 家族以外には一切教えてなかったのか。

 偶然とはいえ、なんだか悪いことをしたな。

 

 山本さんが住んでいる部屋は叔父の持ち物。

 山本さんなら半値で住んでいいと言われ、親の仕送りとバイトでなんとかやりくりしているのだとか。

 

「そうか。まあ、誰にも言わないよ。意味もなくこっちに様子を見に来たりもしない」

「うん、ありがとう」

 

 感謝を述べて、俯いて。

 

 山本さんは大きなため息をついた。

 

「信用できないと思うけど」

 

 所詮は口約束だし、信用されるほどの付き合いもないしな。

 

「あ、ううん! そうじゃなくてね。私がソトミチくんの秘密を教えてもらうつもりだったのに、なんでこうなっちゃったかなぁ……って」

 

 そういや、昨日は山本さんから頼み事はないかとしつこく聞かれたんだった。

 山本さんの秘密とトレードって話が出てたけど、棚ぼたで一つアドバンテージを取ってしまったな。

 他言しない担保として俺の悩みを教えてしまうか?

 美優じゃなきゃ抜けないってとこをぼかせば、話せないことでもないよな。

 

 なんてことを考えていると、山本さんのスマホに着信が。

 ディスプレイには『あーくん♥』と表示されている。

 

 弟さんかな。

 仲が良さそうだ。

 

『おいテメェ! いつまで待たせるつもりだ豚女ァ!』

 

 第一声からこの勢い。

 口調は男らしいが、声はあどけなかった。

 

「はいはい、すぐお姉ちゃんが行きますからね。もうちょっと待っててね」

『牛みてえにたらたら歩いてんとアイス買わすぞコラ!』

「そんなに怒んないの。みーくんの言うこと聞いて大人しくしててね」

『うっせぇ! あと3秒で来なかったらアイス2個だからな! じゃあな!』

 

 ブツッと切れた通話。

 山本さんは頬に手を添えてニヤニヤしている。

 

「聞いてたイメージとだいぶ違うんだけど」

「下の子はわんぱくなの。ほっぺにチューすると殴ってくるし」

「それはきちんと躾した方がいいんじゃないですかね」

 

 こんなキレイな女の子を殴るなんて、ろくな男にならないぞ。

 

「躾けるだなんてそんな……。お姉ちゃんはね、惜しみない愛で弟を抱きしめてあげるものなんだよ」

 

 山本さんは自らのたわわな胸を両腕で抱いた。

 

「そして白目を剥くまでおっぱいで窒息させる」

「またえげつないことを……」

 

 前言撤回。

 わんぱくになったのはどう考えても山本さんのせいだ。

 

「思春期のお年頃だろ。そんなことしたら余計に反発するんじゃないか」

 

 下の弟さんは声からして小学生くらい。

 姉からの過剰なスキンシップは、それがどんなに美人でも嫌がるだろう。

 

 山本さんは少し考え込むと、またうっとりした顔に戻った。

 

「反抗的な方が可愛いじゃない?」

 

 あ、これはダメな姉だ。

 

「しおらしくなった後に女の子の服を着せるとね、お姉ちゃん、言うこと聞くから仲良くしよって擦り寄ってきて……。うふふ。電話ではあんなだったけど、ちゃんと仲良くしてるんだよ」

「そ、そうか」

 

 愛情が歪みすぎている。

 まさか山本さんにこんな一面があったとは。

 でもまあ、学校でもお姉さん気質ではあったか。

 

 それに俺も人のことは言えない。

 実の妹とあんなエロいことして、レイプしかけるくらい興奮して、こんなに性欲を溜めてるしな。

 

「ん? あれ!?」

 

 俺は咄嗟に股間を押さえた。

 あんだけ性欲が高まっていたはずなのに、この山本さんの隣に座っててまるで反応していない。

 

「どうしたの? 無くなっちゃった?」

「そうかも」

 

 俺は後ろを向いてズボンの中を確かめる。

 すっかり小さくなっているが、たしかに男の象徴がそこにはあった。

 

 これはまずい。

 家を出るまでは、抜かずにどうやって過ごせばいいのか悩んでたくらいだったのに。

 前にも勃たなくなったことはあったけど、今日のこれは絶対に勃たせないといけない状況だ。

 

「あの、山本さん。変な頼み事をしてもいいだろうか」

「ふんふん。良いよ。頼み事ね、一つ貸しだね」

 

 山本さんは指を一本立ててノリノリで頷く。

 こんな現金な人だったっけ。

 

「その……髪の匂いとか、嗅がせてもらってもいい……?」

 

 俺が一番女の子のフェロモンを感じる場所。

 ましてや母性の塊である山本さんの匂いを嗅げば、興奮できるに決っている。

 興奮しないはずがない。

 

 その山本さんはというと、わずかに顔を引きつらせて固まっていた。

 

「あのぉ……ソトミチくん? それ、エッチさせてってお願いされるより気持ち悪いのですが……?」

「そ、そうだよな。すまん」

 

 焦ってつい口走ってしまった。

 せっかくいい雰囲気で話してたのに。

 嫌われてなきゃいいが。

 

「うーん……まあでも、それがソトミチくんの頼みなら、聞いてあげないこともないけど」

「え、マジで!? いいの!?」

 

 まさかのオッケーを頂いてしまった。

 俺だけが山本さんにとっての特別、という線はないだろうし。

 そんなに俺に貸しを作りたいのか。

 

「うん。……うん? え?」

 

 承諾のあと、山本さんの頭に浮かぶ疑問符。

 俺があまりに喜ぶので余計な疑念を生んでしまったようだ。

 

「ソトミチくんの頼みって、どっちのこと?」

「どっちって? なにが?」

 

 どっちもなにも、俺は髪の匂いを嗅がせてくれとしか。

 

「えっ!? そういうこと!? そっちでいいの!?」

 

 エッチさせてくれって言われたほうがマシって、そういうことなのか。

 その選択肢がありなのか。

 

「や、やっぱり、あっちのこと!? あの、えと、え、エッチは、ちょっと……ね? 私はてっきり髪の方を許可したつもりで……」

「あっ、うん。だよな」

 

 びっくりした。

 とんだ勘違いだ。

 会っていきなりセックスさせてくれって頼むやつがどこにいるんだ。

 

「まあソトミチくんなら少しは考えてもいいけど」

「なぜそうなる」

 

 どう考えても俺のことが好きなわけではないよな。

 

 俺の周りの女子がエッチに寛容すぎて困る。

 

「どうして髪の匂いが気になったの?」

「ああ、いや、そういうのじゃないんだ。悪いな。気にしないでくれ」

 

 匂いを嗅いで勃つか確かめたかった、なんて言えないしな。

 

「え、なになに。気になるじゃん」

「いやぁ、かなり言いにくい話で……。ほら、前に学校で話した悩みに関係してて」

「あーそう! それ! 教えてよ! 解決してあげるから。貸し二つ目ってことで」

 

 あれ?

 俺、髪の匂いもエッチも体験してないのに、借りを作ったことになってるんだけど。

 

「そうだな……」

 

 言ってみるか。

 

「実は、俺……」

 

 あるいは、この山本さんなら。

 

 悩みの解消には適任。

 しかもエロいお願いも許されそうな雰囲気。

 貸しも作りたがっている。

 

 もし、解決してもらえるとしたら。

 

「EDみたいなんだ」

 

 エッチをしてもらえるかもしれない。

 

「……知ってるよ?」

 

 風が吹いてから、一言。

 

 山本さんは「それだけ?」みたいな顔をしている。

 

「なんで知ってるんだ」

「ほら、私が更衣室で裸になったとき。美優ちゃんになんて頼まれてたか知らない?」

 

 山本さんが更衣室で裸になったのって、俺が美優と服を買いにショッピングモールに行ったときのあれだよな。

 

 鈴原との別れ話とか色々あって頭の整理がついてなかったけど。

 そういえば山本さん、俺の勃起を写真に撮って美優に送ってたんだよな。

 

 あのときか。

 

「美優ちゃんにね、お兄ちゃんがEDみたいだから助けてあげてって、お願いされて。結果的にああすることが、鈴原くんとのお別れを手伝ってもらえる条件だったの」

「そうだったのか。全然知らなかった」

 

 美優のやつ、俺に何も教えないで色々と手を回すからな。

 おかげで美味しい思いができてるわけだけど。

 

「でも、ソトミチくん。あのときはおっきくなったよね?」

「それはそうなんだけど」

 

 どう収拾をつけるべきか。

 さすがに妹とエッチなことをしすぎて、他の人じゃ勃たなくなったなんて言えないしな。

 

「あれから、悪化しちゃって。実際のところ、EDというより射精障害っていうのかな。そっちに近いんだ」

「ふむふむ。つまり、おっきくはなるけど、ピュッピュッ、ってできないわけだ」

 

 経験がある女の子だと話が早くて助かる。

 その射精の表現の仕方はゾワッとくるけど。

 

「うーんと、それはもしかして、結局はエッチなことをしないと悩みが解決できないのでは?」

「そうなるだろうな」

 

 山本さんをオカズにしてオナニーができるようになれば、それも一つの解決ではあるけど。

 それに山本さんが気づくまでは黙っていよう。

 

 これが最後のチャンスかもしれないんだ。

 射精をするのに美優を頼らずに生きていける、そんな人生を取り戻すためには、やはり他の女の子の協力が必要。

 

 容姿に申し分なし。

 なぜか俺に協力的。

 これ以上にない好機だ。

 

 ものにしなくては。

 そうなれば、美優の負担も減らしてやれる。

 

「そうだねぇ。私ならまず間違いなく解決はできるけど……」

 

 山本さんは悩ましい顔をしながら俺をチラチラと見てくる。

 

「もしかしてソトミチくん、私の悩み、鈴原くんから聞いた?」

「山本さんの悩み? って、前に資料室で話したやつ?」

「そうそう」

「聞いてないし、見当もつかない」

「むー……。そっか。ならいいや」

 

 本心から、全く知らないという気持ちが伝わったのか、山本さんは俺の言葉をすんなりと信じた。 

 さっきまでの会話のどこが山本さんの悩みに繋がってたのやら。

 

「要は、出ればいいんだよね?」

「まあ、そうなるな」

「じゃあそこでちゃちゃっと済ませちゃおうか」

 

 山本さんは公衆トイレを指差す。

 発想が完全にビッ○のそれなんですが大丈夫なんですか山本さん。

 

「非常に申し訳ないんだが、今日はダメなんだ」

「そう? なら明日は?」

「それも、できない」

「なんでよー」

 

 妹に射精禁止されてるから……っていうのも、当然、言えるはずがない。

 

「どうしてもダメ? 深夜とか早朝とかでも?」

「あー、うーん……日曜日の深夜なら可能性はあるけど……難しいな……」

「うぐっ……まあ、月曜日が夏休み前の最終日だし、どうにかなる、かなぁ……うぅ……なんで土日じゃダメなの……」

 

 どうしても月曜日までに俺に貸しを作っておきたいらしい。

 そんなキレイな体を投げ売ってでもやっておかなければならないことなのか。

 

 俺にはわからん。

 女の子の気持ちが。

 まったくわからない……。

 

「弟さんも待ってるだろうし。そろそろ行ったほうがいいんじゃないか?」

「なぜ話をはぐらかすのですか」

「こっちにも言えない事情があるんだって」

「またそうやって秘密ばっかり」

 

 山本さんは不満そうな顔をしながらもベンチから腰を上げる。

 

「都合がついたら教えて。連絡先は美優ちゃんに聞いてくれればいいから」

「わかったよ」

 

 俺に背を向けて公園を出ていく山本さん。

 門を曲がってからは駆け足だった。

 

「女の子ってわかんねぇ……」

 

 俺は頭を抱えて、しばらくベンチに座り込んでいた。

 

 

 

 

 

 それから電気屋に寄って、ゲームのためにパソコンのメモリを拡張したいとか、無理な願いを財布に相談しながら街を練り歩いた。

 

 ネットカフェの予約は夕方から。

 それまではもっとオープンなカフェで電源を確保しながら、アプリをやってはゲームセンターに行き、アプリをやっては本屋に行き、アプリをやっては服屋に行きと、ひたすらに時間を潰した。

 

「ナイトプランのご予約ですね。明日正午までのフリータイムパックでよろしかったでしょうか?」

「はい。それでお願いします」

 

 明日も予定があるわけではないので、時間はたっぷり取っておく。

 美優の命令とはいえネットカフェでの宿泊はなかなかの痛手だ。

 夏休み、どれくらいバイトを入れるかな。

 

 カードキーを渡されて、いざ個室へ。

 前に佐知子と来たときよりワンランク上のネットカフェだ。

 

 まずは手始めに漫画を読み漁る。

 読み途中で止まってた作品がいくつかあるからな。

 ここで読んでしまえば、その冊数だけ元は取れたと考えることができる。

 

 本棚にズラッと揃えられた背表紙はいい。

 いつ見ても気分がウキウキする。

 時間が遅くなってきたから、どちらかといえばムラムラし始めてるんだけど。

 

 俺、ちゃんと射精しないで夜を過ごせるよな。

 

「おやおやぁ。こんなところに、美優のお兄さんじゃありませんの」

 

 それは本棚の角から聞こえてきた。

 

 嫌味ったらしいこの声は、間違いない。

 あのロクでもない女のものだ。

 

「由佳か……。お前、ネカフェで待ち伏せするの好きだな」

「雰囲気が好きなんですよ。なんか空気が卑猥じゃないですか」

「どうしてもネカフェをエロいことをする場所にしたいらしいな」

 

 実際にしてしまった俺が言えたことではないが。

 

「むふふ。そんなこと言っちゃって。お兄さんからもエロスが溢れちゃってますよ?」

 

 そう言って、由佳が見つめる先が、俺の盛り上がった股間だった。

 

 これはマズイな。

 由佳の声を聴くと、どうしても美優のお仕置きを思い出してしまう。

 

「これには深い事情があるんだ」

「へぇ。どんな? 実はお兄さんがロリコンだとか? あ、それは周知の事実でしたね。ぷくくっ」

 

 クソ野郎……こいつとだけは絶対に仲良くなれる気がしない。

 

「まっ、いーんですよ? おにーさんのならぁ、由佳ちゃんがスッキリさせてあげないことも、ないですよ?」

 

 ぐいぐいと近づいてきて、由佳は指先で俺のズボンのチャックをなぞる。

 

「お、おい」

 

 なんでお前ら、そんなに俺に積極的なんだ。

 

「私、今、すっごく気分がいいんですよ。それも、お兄さんのお・か・げ。だから少しくらいはお礼をしてあげたい気分なんです」

「あ? 俺のおかげ?」

 

 何を言ってんだこいつ。

 俺は最後にファミレスで会ってから、由佳とはスマホでメッセージのやり取りをしたくらいで、何も感謝されるようなことなんて……。

 

「あっ──!!」

 

 ファミレスの、あのこと。

 美優に伝え忘れていた。

 

 由佳がロクでもないことを考えてるって。

 しかもあれ、俺のおかげって言われてたし。

 

 もしかして、いや、間違いないよな。

 美優が怒ってる理由って。

 

「むっふふ。思い出しました? お兄さんが教えてくれたんですよ。美優の弱点。なーんでこんな簡単なことにも気づかなかったんだろうって」

 

 ニタニタと下卑た笑みを浮かべて、由佳が取り出したのはスマホの写真だった。

 

 そこに写されていたのは、女子生徒の裸。

 この超美麗な少女の姿は見間違えるハズもない。

 

 遥のものだ。

 

「先日、健康診断があったんです。そこでですね、ちょろちょろっと、こんな素敵な写真を撮らせていただきまして。良く撮れてるでしょ? 美優の恩人さんが」

 

 最悪だ。

 軽く考えすぎていた。

 

 これは美優がキレていてもおかしくない。

 そして俺は、この犯行に加担した共犯者だ。

 

「この写真を見せたときの、美優の青ざめた顔。達しちゃうくらい可愛かった……はぁ……」

 

 恍惚とした由佳の表情。

 変質、異常。

 常軌を逸している。

 

「待て、お前、死ぬぞ」

「はぁ? 何言ってんですか。こっちは美優に、逆らったらこの写真をバラ撒くって言ってあるんですよ? もう美優は、私の奴隷なんです。明日は一日、美優にはオモチャになってもらう予定なんですから」

 

 それが美優が俺に一日家を空けろと言った理由だったのか。

 自らを辱められる姿を見られたくなかったから。

 俺を締め出すため、あんなことを。

 

「どうしてこんなことをするんだ。由佳は美優が好きなんじゃないのか?」

「好きでしたよ? 今でも、好きです。でも届かなかった。四年間もずっと、美優は私のことを相手にしなかった。ちょっとくらい優しくしてくれてもよかったのに。一度も笑ってくれなかった。美優が悪いんですよ。全部、何もかも」

 

 めちゃくちゃな言動。

 だが、全てが間違っていると切り捨てることもできない。

 

 由佳が悪であることに変わりはないが。

 そうさせたのは、美優の影響力が大きすぎるせいでもある。

 

「あれ? あれあれ? まさか、気づいてないんですか?」

「な、何がだよ」

 

 目をガッと開いて、由佳は俺の瞳を覗き込んでくる。

 正直、かなり怖い。

 

「明日は私、いっぱい美優に恥ずかしいことをさせるんですよ? その写真を撮ったら、次に奴隷になるのは、誰だと思います?」

 

 スマホを振って俺を煽ってくる。

 美優の恥ずかしい写真を人質にされて困る人間。

 思いつくのは、二人。

 

「遥と、お互いに脅しの道具にするつもりか」

「ノンノン。遥は美優なんて庇いませんよ。あれはラブなドールとして好きなのであって、恋人として惹かれ合ってるわけじゃありませんから。それに、遥はああ見えて性格ちょー悪いですからね。美優なんて比にならないくらいに最低の女ですから、あいつ」

 

 恨みのこもった由佳の声。

 あれだけ拷問まがいなことをされていたら、嫌になる理由もわからないでもないが。

 

 脅しの相手が遥ではないとすると、残るはやはり。

 

「俺か」

「そーです。むっふ。お兄さん、溜まってるみたいですし。その精子、私にくれてもいいんですよ?」

「まさか、俺を巻き込んで家族になるつもりか……?」

「いえーす! 美優の義姉さんになりたい女子はたくさんいますからね。お兄さんの精子、結構需要あるんですよ?」

 

 とても嬉しくない事実が発覚してしまった。

 美優がモテすぎるせいで、俺にまで魔の手が忍び寄っているなんて。

 

「ま、悪いようにはしませんよ。お兄さんは色んな意味で、私の恩人ですからね。まずは美優のエッチな動画が送られてくるのでも楽しみにしていてください。それまで、ネットのエロビデオなんかで済ませないでくださいね?」

 

 由佳は俺のイチモツを、ズボンの上からソフトタッチすると、にっこり微笑んで会計へと向かってしまった。

 

 俺のせいで美優が追い込まれることになった。

 あんなアイディアを与えてしまったんだ。

 美優が怒るのも無理はない。

 

 無理矢理にでも由佳を止めたいが。

 ここでこじれて事態が悪化したら、それこそ取り返しがつかない。

 スマホを破壊したところでデータが消えるわけじゃないし。

 

 俺はなんて言って美優に謝ればいいんだろう。

 

 そもそも、許してもらえるんだろうか。

 

 頭の中は不安でいっぱいだった。

 

 メールや電話で簡単に謝罪を済ませるわけにもいかず。

 

 帰宅が許される日曜日の18時まで。

 

 ゲームや漫画に集中して、ただ時間が過ぎるのを待った。

 

 ネカフェを出てからも気持ちは落ち着かず。

 

 帰宅時間が近づくほどに心拍数が上がっていく。

 

 あれだけ早く過ぎろと思っていた時間が、あと何分しかないと心をあまのじゃくにして。

 

 ようやく訪れたそのとき。

 

 自宅前。

 玄関のドアに手をかけた18時。

 

 鍵は開いていた。

 

 ドアを開くと、そこには。

 

 いつもと変わりない美優が、両手を前に重ねて俺を出迎えて待っていた。

 

「おかえりなさい。お兄ちゃん」

「お、おう……」

 

 普通だ。

 

 普通過ぎる。

 

 これは、異常だ。

 由佳が家に来ているはずなのに。

 怒りも悲しみも感じられない。

 

「えっと……」

「早速だけどお兄ちゃん。命令の二つ目、聞いてもらうね」

 

 美優は俺に、家に上がれと指示をすると、階段を登っていく。

 

「お兄ちゃんさ、オナホ、好きだよね」

「それは、まあ、その、嫌いじゃない、というか、どちらかといえば、好きな方ではあるが……」

「そうだよね、お兄ちゃん」

 

 美優がいきなり立ち止まった。

 ぶつかりそうになって、急いで身を引く。

 

 そこは、俺の部屋の前だった。

 

「そんなお兄ちゃんに、オナホの開発をお願いしたくて」

 

 美優は俺の部屋の前に置いてあった小さな箱を拾って、それを俺に見せる。

 

 0.01ミリの極薄コンドーム。

 5個入りの、高級スキンだった。

 

「命令、聞くよね。お兄ちゃん」

 

 気づけば、美優の目から人らしい輝きが失われていた。

 ドス黒い濁りすら感じるほどの暗い瞳。

 

 美優の手が俺の股座を擦り上げる。

 これまでに溜めた精液の量を、そのまま表すくらいにパンパンに勃起していた。

 

「あ、あぁ……」

 

 俺はそのとき、昨日の朝に脳が発していた危険信号の意味を、ようやく理解した。

 

 美優が俺の部屋のドアを開く。

 

 室内にあったのは、大きなダンボール箱。

 

 その一つの面がくり抜かれて、お尻だけが外に出されていた。

 

 仰向けの状態で、ふとももつき。

 まさしく正常位で挿入する大型オナホのよう。

 

 だが、あのサイズ、あの質感。

 

 どう考えても、本物の人間にしか見えない。

 

「お、おい、美優」

「いまさら嫌とは言わせない。命令、聞くよね?」

 

 美優は俺の胸にコンドームの箱を押し付けて、冷たい目で俺を睨む。

 

「ゴム、5個入ってるから。そのオナホを使って、5個全部を精液でいっぱいにしてくれればいいだけ。それでお兄ちゃんは無罪放免。簡単なお仕事。やったね」 

 

 ひどく冷淡で、あまりにも平坦な声。

 

 俺に拒否する権利などない。

 

 どんな命令にも従う。

 さすがに限度があるだろうと、たかを括っていたが。

 

 この妹はその一線を越えさせた。

 

 今日が俺の、まっとうな人間としての最後。

 

 それは言い訳のしようがない、れっきとしたレイプの命令だった。

 



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妹のエッチな誘惑 地獄の射精管理 ~レイプして、お兄ちゃん~ その1

 

 想像したこともない光景だった。

 

 窓から一切の光が差し込まなくなっている俺の部屋。

 そこに置かれた大きなダンボール箱。

 その箱からは、女性のものと思しきお尻だけが仰向けに露出している。

 

 美優はそれをオナホと呼んだ。

 

 そして、どう考えても本物としか思えないその肉感の女性器を使って、コンドームを精液で一杯にしろと、俺に命令をした。

 

 片や奴隷。

 片や道具。

 

 俺がこれから行うことは、間違いなく由佳のものであるその膣穴に、無許可で肉棒を挿入することだった。

 

「美優……これはさすがに……犯罪だろ……?」

 

 お仕置きの範疇を超えている。

 もし由佳がその気になれば、俺は訴訟を起こされて逮捕されてしまう。

 

「だからなに?」

 

 とぼけるでもなく、美優が述べたのは本心だった。

 

「犯罪だから、どうしたの?」

 

 美優は構わずオナホになった由佳の前に俺を誘導した。

 

 へその下から坐骨まで突き出た体は、股を広げた状態で脚部がダンボールの中に戻り、膝から先は収納されている。

 ダンボールは工作で拡張されているとはいえ、膝を伸ばしたまま縛りでもしなければ収まらないサイズだ。

 かなりキツい体勢を強いられているに違いない。

 

 滑らかな臀部の曲線。

 触れてみると、伝わってくる人らしい温度。

 

 本物だ。

 実物の人間がオナホールに仕立てられている。

 

「これ、由佳だよな」

 

 肉を摘んでみても反応はない。

 眠らされているのだろうか。

 もし睡眠薬でも盛られているなら、寝ている間に終わらせてやったほうが、由佳のためにはなるか。

 

 どっちにしても、普通の神経でやることではない。

 

 狂っている。

 由佳も、美優も、なんでお前らはそんなに歪んでいるんだ。

 

「警察沙汰になったら俺は退学だ。美優だって停学くらいにはなる。由佳もレイプなんてされたら一生トラウマになるだろ。こんなの、誰も幸せにならないよ」

 

 正論を言っているつもりだった。

 

 俺の言葉にはどこにも非がない。

 

 絶対に正しい自信があったのに。

 

「それは通報されたらの話でしょ」

 

 由佳が口外さえしなければ、どんなことをしようと問題ない。

 認知されなければ無いのと同じという美優の理論。

 

「そもそも先に罪を犯したのは由佳の方。それを身内だけで処理してあげる、これは優しさだよね」

 

 美優は顔を近づけて俺を見つめてくる。

 ヤクザに胸ぐらを掴まれているような気分だった。

 

「由佳は反省する、私はイタズラされなくなる、お兄ちゃんは恩を返せる。みんな得する。みんな幸せ」

 

 美優の声が耳に流れてくる。

 その一言ごとに、心の重荷が消え去っていく。

 

 めちゃくちゃな言い分だと頭ではわかっているのに。

 美優の言葉を聞いて、俺はどこか安心していた。

 催眠術にでもかけられているみたいだった。

 

「服、脱いで」

 

 美優の命令は絶対だった。

 

 シャツを脱ぎ、ズボンを脱ぎ、言われるまでもなくパンツまで脱ぎ去る。

 

 妹の前で、全裸に剥かれた兄。

 

 股間にはすでに散々焦らされた肉棒が反り上がっている。

 

 それだけでも滑稽なのに。

 これから俺は、このオナホに向かって一生懸命に腰を振らなければならない。

 

「はい。1個目」

 

 美優はコンドームの箱を開けて、ひとつなぎの包装紙をひとつ千切って俺に渡した。

 

「ギリギリまで我慢して、簡単に出さないでね」

 

 美優は指先で俺の裏筋の反りをなぞった。

 

「ふぁ……あっ……」

 

 痺れるような快感に声が漏れる。

 普段は意地でも触ろうとしない美優の手の感触。

 暴発寸前の俺には刺激が強すぎる。

 

「妹の前で中学生をレイプすることに興奮しすぎて我慢できないって言うなら、許してあげるけど」

 

 美優は由佳の秘裂に人差し指と中指を這わせ、クパッと横に開いた。

 肉々しい穴からねっとりと液が漏れ出して、手を離す美優の指が糸を引く。

 

「俺は、そんなこと。ただ、一昨日からずっと溜まってるから、早くはなるかもしれないけど」

 

 毎日何回も射精してた俺が、いきなりオナ禁をすることになったんだ。

 もう出したくて堪らない。

 

「そんなの、私は納得しない。だってそうだよね。私には早く済ませたくて出してるだけにしか見えないんだもん」

 

 美優の意見は、つまるところこうだ。

 たとえ本心が早く済ませたいと望んでいても、それを悟られないように命令に従え、と。

 

「たとえば、そうだね。お兄ちゃんが気持ちいい気持ちいいって叫びながら女の子をレイプするなら、すぐに射精しちゃっても妹は納得するかも」

 

 悪魔だった。

 

 これは由佳への罰であると同時に、俺へのお仕置きでもある。

 

 この妹にとって、なにより大切なのは誠意。

 心の底から詫びたいのなら、できないことなどないだろうと、暗にそう語りかけている。

 

「そろそろしよっか」

 

 美優は正常位になった俺のペニスの頭を指で押して、由佳の割れ目に沈み込ませる。

 

 挿れるしかなかった。

 せめて由佳が眠っている間に。

 できるだけ刺激せずに済ませてしまうしかない。

 

 ゴクリ、唾を飲む。

 

 半分まで膣内に入り込んだ亀頭が由佳の体温を感じる。

 カリが膣肉を擦れば、疑いようはなくレイプは成立する。

 

 俺は由佳とは数度会っただけ。

 セックスなんてできる仲じゃない。

 美優と家族になるためなら俺の子を孕んでもいいとは言っていたけど。

 その場の勢いで出た言葉なんて真に受ける方がバカだ。

 

 あと少し腰を沈めれば入る。

 

 美優に命令されたからなんて言い訳はできない。

 

 俺は、これから、由佳を。

 

「なっ──!」

 

 ビクッ、と由佳の尻の筋肉が収縮した。

 

 驚きのあまり俺の腰が跳ねる。

 

 その動きが、由佳の膣の手前をグリッと刺激した。

 

「ん……んんっ!! んんぅぅぅぅん!!」

 

 ダンボールの中からくぐもった悲鳴が聞こえる。

 

 由佳が叫んでいるんだ。

 これからレイプされることに気づいて、必死に抵抗をしている。

 

「あらら。せっかく五時間も放置したのに。寝てればいいものを」

 

 美優は由佳の尻を、パシンッ! と強く叩く。

 

 それだけで、ダンボールの中に拘束されている由佳は、まるでナイフで刺されたかのように悲痛な咆哮を上げた。

 

「み、美優! 由佳には、なんて説明してるんだ!?」

 

 再燃する恐怖。

 由佳は俺に犯されることを知っているのか。

 

「お兄ちゃんの知り合いに童貞を捨てたがってる人がいるから、その手伝いをしてねってお願いしてある」

 

 美優は由佳に嘘を吹き込んでいた。

 

 由佳は俺ではなく、見知らぬ男たちに犯されると思っている。

 

 これ以上にない最悪の嘘だ。

 由佳は美優に変えてもらう前の俺の姿も、俺がセックスを目的に彼女を募集していたことも知っている。

 由佳にとっては俺は、冴えないオタクと同じ分類の生き物。

 

 そんなオタク仲間の童貞と聞いて、由佳はどんなイメージを持つか。

 

 考えるまでもない。

 

 コミュ障のキモオタ。

 自己管理のできないデブ。

 あるいは、誰も寄りたがらないようなおっさんか。

 

 オフ会で様々な人に出会える今では、俺の知り合いが学校の友だちとは限らない。

 

 そんな男たちに次々と犯されることを、由佳は想像しているんだ。

 

「んんぇぇえへっ!! んえっ、んんんっええへぇぇ!!」

 

 由佳は口を塞がれているのかまともに喋れていない。

 だが、それでもわかる。

 

『やめてっ!! やめてぇぇええ!!』

 

 抗っているんだ。

 この絶望的な状況で。

 犯さないでくれと懇願している。

 

 ドクン、ドクン、と心臓の音が聞こえる。

 

 こんなに嫌がっている女の子を、俺はこれから、レイプするんだ。

 

「っはぁ……ぐっ……」

 

 呼吸が整わない。

 まだ動いてもいないのに、緊張しすぎて息切れしている。

 

「お兄ちゃん、これ」

 

 なかなか挿れようとしない俺に、しびれを切らした美優がスマホの画面を見せてきた。

 

 そこに映されていたのはSNSのタイムライン。

 匿名で不特定多数の人にメッセージを発信できるサイトだった。

 

「そ、それって……!?」

 

 その画面を見た瞬間、俺は戦慄した。

 

 俺の頭の中で繋がったのは、ネットカフェで由佳に見せられた遥の隠し撮り写真。

 

 匿名サイトには画像も投稿できる。

 それが意味するものは、一つしかなかった。

 

「そう。もう上げられてるの。ネット上に。遥の裸が」

 

 画面を指でスクロールして、次々に表示されていく画像。

 

「なっ──!?」

 

 美優がキレている理由は、遥の隠し撮りだけに留まらなかった。

 

「美優……」

 

 美優の裸までがアップロードされていた。

 

 胸囲測定のために、ブラジャーを脱いでいる途中の姿。

 美優が最もコンプレックスを抱いている部位がはっきりと写り込んだその写真を、由佳はSNSに流していたのだ。

 

「新しく作った非公開アカウントで投稿されてるから、幸いまだ誰にも見られてはいないけど。こんな時代だもん。どんな形でサルベージされるかわからない。この女は私と遥の体に傷をつけたも同然。だから同じものを失ってもらう」

 

 美優が由佳に科した罰。

 

 それは由佳の想像上ではあるが、集団レイプによって処女を喪失させることだった。

 

「由佳、何度も言ってたよ。お兄ちゃんのおかげで私を従わせられるって。ねえお兄ちゃん。まだレイプしてくれないの?」

 

 これは俺と由佳、二人の罪。

 

 精算するしかないんだ。

 二人で一緒に。

 

「由佳、ごめん……!」

「んんんんっ!! んんぅぅぅうっ!!」

 

 抵抗の激しくなる由佳の尻を、がっしりと掴む。

 

 ぬぷ、ぬぷ、と入り込んでいく肉棒。

 

「んんぇぇえぇ!! んんがぎゃぁあっがぁぁああああ!!」

 

 ジタバタと暴れる由佳だが、その勢いほどに動くことができていなかった。

 

 肉棒の侵入を阻むために膣の入り口を狭めようと、蠢く肉壁が絶妙に俺の陰茎を刺激する。

 

「んあぁぁあああっ!! あああぁああ!! んぐんぁぁぁあああ!!」

 

 愛液を押し出しながらズブズブと肉棒が入っていく。

 

 膣内に半分が挿入されて、なおも俺は腰を前へと突き出した。

 

「ああっ……ぁっ……!!」

 

 久しぶりに味わう女性の肉穴は、狭くも柔らかい肉感だった。

 罪悪感と快感が男の性感帯を這い上がってくる。

 

 奥まで達した俺のペニス。

 

 その先端が、由佳の子宮口をゴリッと抉った。

 

「んんんががぁぁっぁぁああああぎぁあぁあああああ!!」

 

 喉がスリ切れるような絶叫だった。

 

 このダンボールの中で、由佳が血を吐いていてもおかしくないほど、力の限りを込めた叫び声。

 いくら密閉された空間から漏れ出た音とはいえ、すぐそばにいる俺にははっきりと聞き取れる音量だった。

 

 レイプに抵抗する悲鳴。

 純潔を汚されたことへの嗚咽。

 犯した罪の重さを知り、止まらなくなった後悔と垂泣。

 

 すべてがリアルに俺の耳に届いていた。

 息が苦しくなるくらい心がどす黒く染まっていく。

 

 それでも俺は腰を止めずに振り続けた。

 

 パンッ、パンッ、パンッ、パンッ。

 

 ジュブ、ジュブ、グチュ、グチュ。

 

 水音が弾けて、腰を打ち付けるたびに、由佳が叫ぶ。

 

 善し悪しの判断もつけられない女の子を、俺は怒るでも叱るでもなく、犯している。

 

 人間としてあるまじき行為。

 由佳は挿入されてからも「やめて! やめて!」と懇願し続けている。 

 

「あああっ……由佳、ごめん……由佳…………あっ……!」

 

 極薄のコンドームが由佳の膣肉を擦る感覚をダイレクトに伝えてくる。

 

 気持ちいい。

 こんなことに快楽を見出していいはずがないのに。

 

「気持ちいぃ……あぁ……気持ちいい……ッ!!」

 

 美優に焦らされ、オナニーを禁止され、ガチガチに膨らんだ肉棒を、この狭い肉穴にねじ込む感覚がたまらない。

 由佳が抵抗したところで締めつけが強くなるだけだった。

 俺の肉棒を擦り上げる圧力が、むしろ丁度良く高まっていく。

 

「んがぁああ!! んぬぬぬぅぅ!! んんっ!! うぐぐぅぅうぅぅぅっ!!」

 

 ドスン、ドスン、と床を叩く音が響く。

 頭を打ち付けて、由佳は自分が中にいることをアピールしていた。

 本物の人間であることなんて、とっくにわかっているのに。

 

 頭にクッションでも敷いてあるのか、由佳が頭を打ち付ける音は激しい打撃音にはならなかったが。

 体をガチガチに拘束されてなお動くその下半身が、抵抗の激しさを物語っていた。

 

 由佳は自分の膣内に挿れられている棒をかなり大きく感じているはず。

 血液をパンパンに充足させて膨張した俺の肉棒は、もう以前までの弱々しい男根とは違った。

 度重なる美優でのオナニーで、確実にサイズアップしている。

 それをこんな小さい女の子の膣内に無理矢理挿入しているんだ。

 

 気持ちよくないはずがない。

 

「ああぁっ……で、出る……出るっ……!!」

 

 激しく前後する腰のストローク。

 

 肉壷から溢れる蜜が弾け飛んだ。

 

「んんんんんっっ!! んんぎゃぁぁがあぁあああ!! ぐゃがぁぁああああああ!!」

「出るっ……うっ……あぁぁああっ!」

 

 ドプッ、ドプッ、と二日間溜めた精液が由佳の膣内で吐き出される。

 

 射精のたびに膨らむペニスが、狭かった由佳の膣穴を更に広げて、由佳もきっとストロークの強さと合わせて膣内で射精されたことを本能的に理解したはずだ。

 

 射精の余韻に浸っている俺に、この無機質な箱から聞こえてきたきたのは、すすり泣く少女の声だった。

 

「あぁ……」

 

 やってしまった。

 

 ついに、俺は犯してしまった。

 

 俺から見てもまだ子供の枠を出ない女の子を。

 決して無視してはならない法律を。

 

「お疲れ様、お兄ちゃん。とりあえず、一回終わったね」

 

 由佳の膣内から引き抜いたペニスには、大量の精液が溜まったコンドームがぶら下がっている。

 

 美優はそれを引っ張って取ると、口を結んで新しいゴムを俺に渡した。

 

「あら」

 

 美優はコンドームを結んだあと、自分の手を裏表にして見返した。

 

 その指先に付いていたのは、赤色。

 うっすらとした赤透明の液体が、美優の指先で粘ついている。

 

「結構オモチャで遊んでたはずなんだけど。残ってたのかな」

 

 由佳の処女膜を破った証が、コンドーム全体にベッタリとついていた。

 注視してみると、由佳の秘裂から赤い汁が垂れている。

 

 処女をレイプしてしまった。

 わかりきっていたことなのに。

 本物の血を見るとゾワッと鳥肌が立ってしまう。

 

「まあいいや。次、やって」

 

 俺が罪の意識を何倍にも膨らませている横で、美優は破瓜の事実を「まあいいや」で済ませてしまう。

 

 由佳が泣いているのに。

 見知らぬ男に処女を奪われて悲しんでいるのに。

 

 その実行犯である俺が言えたことではないが。

 ゴムの精液だまりが膨らむくらいに射精しておいて、まだ硬くなっているこの性欲が憎い。

 

「んぐっ……ううっ……ううぅぅ……」

 

 鼻をすすり、呻く声がダンボール越しに響いてくる。

 

 ズキズキと心臓が軋んだ。

 こんなことをしておいて、罪悪感を覚えている自分は、なんで被害者ヅラをしていられるのか。

 

 美優も由佳も大切なものを失った。

 俺はその両方から、奪った側なんだ。

 

「お兄ちゃん、ちゃんと反省してる?」

「それは、もちろん……」

「なら、いちいち私が指示しなくても、できるよね?」

 

 美優は俺が持て余しているコンドームを、改めて強く握らせる。

 

 わかっている。

 こいつは美優と遥の裸を世間に晒そうとした極悪人。

 裁きを受けて然るべき咎人だ。

 

 俺はいわば下手人。

 誰もやりたがらないその仕事を、罰として引き受けた。

 この先ずっと引きずり続ける罪悪感を抱えて生きていく。

 それが俺が背負わなければならない代償だ。

 

「うっ……うぅ……」

「由佳、ごめん」

「ううぅぅ……ん、んんっ!? ん、んー!! んんんうぅぅぅんぬぬぬぬうううう!! んんあああああぁぁあああ!!」

 

 俺は再びペニスにゴムを装着して、由佳の膣内に挿入した。

 

 極度の興奮で塗れたままの由佳の肉壷には、まだたっぷりと蜜が残っている。

 

 腰を打ち付けるごとに高くなる叫び声。

 激しく動いて抵抗する体。

 そのどちらもが、次第に弱々しくなっていく。

 

 もともと由佳の体は、このダンボールに拘束されるまでにかなりの体力を奪われていた。

 平常の精神状態ならこうして暴れることもできなかったはずだ。

 

「由佳っ、由佳っ……由佳ぁぁっ…………!!」

「うぐっ……うぅぅぅぐっ……うっうっうっうぅぅぅんぬぬぐううぅぅ!!」

 

 力の限り叫んでいた声は、泣き声に変わった。

 歯を食いしばって、それでもこの残酷な運目に抗おうとする姿が目に浮かぶ。

 

 こいつは悪いことをした。

 

 罰を受けて当然の人間。

 

 悪い子だからお仕置きが必要なんだ。

 

 腰を止めて謝りたくなる思考を、何度も何度も由佳への批難で上書きして、俺は由佳への責めを実行した。

 

「うっ……うっ……うぐっ……」

 

 由佳はやがて体を身じろぎさせることもなくなった。

 静まっていく空間で、俺の荒い息だけが虚空を満たす。

 

「はぁ……はぁっ……っあぁ…………ふぅ……」

 

 クチュ、クチュ、クチュ。

 コンドームが由佳の蜜を絡ませて外に掻き出していく。

 お互いどれだけ嫌がっていても、互いにセックスをできる状態だ。

 

 体は正直だなんて二次元の常套句だけど。

 これが本当に感じている女の子の体には到底思えなかった。

 

「あっ……あああっ……!」

 

 それでも、男である俺は感じる。

 

 オスとしての本能。

 相手が俺を受け入れていようがなんだろうが、濡れた肉に性器を擦り付ければ、湧き上がってくる。

 

 射精感。

 種を残すために作られた人体機構。

 

 それが由佳をひたすらにレイプし続けている。

 睾丸がせり上がって、再び精子を膣内に射出する準備が進んでいた。

 

 肉棒を激しく前後させて、子宮口と尿道口が何度もキスをする。

 ヨダレのようにだらしなく愛液を垂らしながら、由佳は絶望がもたらす横隔膜の痙攣と、膣の奥を突かれる刺激を、交互に味わっていた。

 

「由佳、あぁ……由佳っ……由佳、俺、また……!」

「ああぁぁうぅぅう……あっ! うぅうぅっぐっ! ぅ……えぐっ……うぅぅ……あぁぁあっ!」

 

 もう、出る。

 嫌がっている女の子を泣かせて、射精する。

 

 フィニッシュに向けて大きくなるストローク。

 由佳ももう、それが射精をするための動作だとわかっている。

 

「あぁぁっ、由佳、はぁっ、でる、出るっ……!!」

「あぁぁあんんんっ! んががぁぁぁあっつっぐ! うぅぅぐぐぅんうっ!!」 

 

 どぷんどぷんと注がれる精液は一回目と変わらない量だった。

 射精に肉棒が伸縮するたびに、視界が閃光と暗転を繰り返して、俺の脳と心臓はショートしたように熱くなった。

 

「ん。お疲れ様。ゴム外して」

 

 それに対して、美優はどこまでも冷静なままだった。

 兄が友人とセックスをしていることなど、美優にとっては画面の演者がまぐわっているのと変わらないのだろう。

 

 肉棒を引き抜くと、行為中とは比較にならないくらいの淫液がドロドロと流れてきた。

 イッているようには感じなかったが、逆にずっとイキ続けていたからわからなかっただけで、潮吹きをしていたのかもしれない。

 

「すごい量。さすがお兄ちゃんだね」

 

 美優はコンドームの口をまた結んで、俺に3つ目のコンドームを渡す。

 

 俺のペニスは、まだ、硬いままだった。

 

「由佳、どう? 反省した?」

 

 美優はダンボールの頭の部分だけを開け、由佳の口に咥えさせていたパンツと噛ませ布を取り出した。

 

 ダンボールは真横に座る美優以外が見えないように工夫されている。

 由佳の尻を前に全裸で座っている俺の姿は、由佳には確認できない。

 

「うっぐ……えっぐ……ひ……どい……うぅ……初めて……だったのに……」

 

 開口一番、由佳は俺を責めることはしなかった。

 もしレイプ犯を俺だとわかっているなら、相応の声を掛けてきたはず。

 

 ダンボール越しでは、セックスしている最中の声を俺のものだとわからなかったようだ。

 ここで俺が声を掛けてやれば、ある程度は由佳も救われるのかもしれないけど。

 そんなことを美優が許すはずがない。

 

 由佳は美優や遥たちとオモチャで遊んだことはあるようだったが、男性経験は皆無。

 まだ付き合った男すらいなかった。

 

 そんなキレイな体を、見知らぬ男に汚された。

 しかも由佳の想像の上では、キモオタの童貞に、無残にも花を踏みにじられたと思い込んでいる。

 

「はい、これ」

 

 ドサッと美優が床に落としたのは、2つの精液入りコンドーム。

 

 たっぷりと膨らんだ、赤い愛液まみれのそれを、美優は純潔を散らされて泣く由佳の目の前に置いて見せた。

 

「うっ……うぅぅぅうっっ……!!」

 

 鬼畜。

 

 まさに鬼の所業だった。

 

 友人の裸を盗撮し、SNSに晒すと脅した罪と、釣り合うだけの罰なのか。

 俺にはもうわからない。

 

 でも構わなかった。

 俺はもう、どちらの憎しみも引き受けるつもりでいるのだから。

 

「写真を投稿したアカウントのIDとパスワード教えて。あと由佳のスマホのパスワードも」

 

 美優は自分のスマホと由佳のスマホのそれぞれに、SNSのタイムラインとパスワード入力画面を表示して、由佳に催促する。

 

 目的は由佳を拷問してパスワードを吐き出させることだったのか。

 だが、由佳も簡単には口を割らない。

 

 なぜなら、そのSNSアカウントだけが由佳にとっての武器。

 非公開にされたまま、実質的なバックアップとなっているそれを、開放すると脅すことが由佳の持つ唯一の勝ち筋なのだから。

 

「そ、それは……」

 

 教えられない。

 この責め苦を耐えきれば、いずれは自分の手番がやってくる。

 すでに処女は失われた後。

 もう何も怖がることはない。

 

「そっか。言わないんだ」

 

 ただし、それは美優の氷柱のように鋭く冷たい声を聞くまでの話。

 

「ま、待って! 待って、美優!」

「じゃあ三人目、処理してもらうね」

「待ってってば!! ねぇ美優!! 聞いて!! 行かないで!!」

 

 再び閉じられたダンボール箱。

 由佳は口に噛まされていた物がなくなったため、漏れ出る声は先程までより明瞭で大きかった。

 

「美優!! 言う!! 言うからぁ!! もうやめて!! 知らない人の挿れないでぇぇぇええ!!」

「お兄ちゃん、やって」

 

 美優は由佳の声を完全に無視した。

 

 本人の心が折れてもなお、その根本を破壊しにかかっている。

 

「いいのか。由佳、パスワードを教えるって言ってたけど……」

「この程度で済むわけが無いでしょ。あの子、嘘つきだから。他の場所にも写真を隠してるかもしれないし」

 

 美優が徹底的にやるのは、やはり由佳の持つ武器が電子データだからだ。

 どこまでコピーを取っているのか、徹底的に吐かせないと意味がない。

 

 だからタダでは済まさない。

 もう二度と逆らう気が起きなくなるまで、由佳をどん底まで落とすつもりだ。

 

「ヤダやだぁ!! もう嫌なのぉ! やめてよ……もう助けてよ……!!」

 

 箱を開ける前とは違う。

 叫ぶだけだった由佳の声に、様々な感情が上乗せされている。

 

 俺の鼓膜を揺らす絶望の声。

 ビクンッ、ビクンッ、と俺のペニスが血を集めていく。

 

「なんで俺は……こんな状況で……」

 

 いくら美優の命令だからといっても、こんな状態で勃起するなんて異常だ。

 あるいは、女性が興奮するだけで濡れるように、俺もこの異常な緊張状態に脳神経が暴走して、勃起が収まらなくなっているのか。

 でも、この睾丸がぐつぐつ沸き立つような感覚は、間違いなく性欲の高ぶりだ。

 

 目の前には女性器を露わにして拘束されたメス。

 たとえ据え膳だったとしても、オスとして子孫を残す絶好の機会を逃すわけにはいかない。

 そんな本能が、挿れろと俺を奮起させている。

 

「由佳……すぐに済ませるからな……」

 

 コンドームを三度装着し、由佳の割れ目に押し付ける。

 

 ヒクヒクと動く膣肉がイヤラシく俺を誘っていた。

 

「やだやだ! ねえ、お願いします! もうこれ以上しないでください……!」

 

 ダンボールの中で許しを乞い願う由佳。

 

 その一切を、俺は聞き流し、ズブッとペニスを由佳の膣に挿入した。

 

「ぎゃぁぁああああぁあっぁあああ!! もうやだああぁぁああああああ!!」

 

 部屋とダンボールで二段階に反響する絶叫。

 

 美優は興味なさそうに残り2つのコンドームをパタパタと振り、由佳と俺とのセックスを眺める。

 

 この長い夜は、まだ終わりそうになかった。

 



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妹のエッチな誘惑 地獄の射精管理 ~レイプして、お兄ちゃん~ その2

 

 コツ、コツ、コツ。

 

 美優はスマホのディスプレイを指でタップし、パスワードを解除する。

 由佳のスマホのありとあらゆるデータを探し、怪しいメールも片っ端から削除した。

 ネット関係には俺のほうが詳しいこともあり、途中からは俺もデータの削除を手伝ったが、由佳の家にパソコンが置かれていたらすべてに対応することはできない。

 

「うっぐ……えっぐ……うぅ……」

 

 涙でクッションを濡らす由佳の顔の横には、3つの使用済みコンドームが置いてある。

 

 由佳は三回目のレイプが終わり、それからずっと泣いていた。

 由佳に俺の顔が見えないのと同じように、俺からも由佳の顔を伺うことはできないが、きっと頭部に敷いたクッションも涙を吸ってすっかり重くなっているだろう。

 

「ねえ、由佳」

 

 ようやくお仕置きも終わりかと安堵しかけたとき。

 

 美優の口から放たれる、刺々しい声。

 

「写真を投稿したアカウントのパスワード、通らないんだけど」

 

 由佳が遥たちの裸を投稿したSNSアカウントは、ログアウト状態になっていた。

 よしんばログイン情報が内部に記録されていてログインできたとしても、アカウントを削除するためにはやはりIDとパスワードが必要になる。

 

 由佳が利用したSNSは多くの会社がアプリケーションを提供しているほどの超大手。

 投稿メッセージを消しても、その大元がWEBを通っている以上、キャッシュなどで復元される可能性が捨てきれない。

 

 アカウントを削除したところで解決する話でもないが。

 そうすることが、由佳を許すために、美優から提示された最大限の譲歩だった。

 

「パスワード、通らない……!? そ、そんなことないよ! そんなはずないって!!」

 

 恐怖と驚きに満ちた反応。

 由佳もこの期に及んで嘘をつく気はなかったようだ。

 

 本当のことを言ったはずなのに、間違っている。

 つまりはパスワードの覚え違い。

 

 由佳が律儀にパスワードを控えているようにも思えなかった。

 もしこのアカウントを削除することができなければ、由佳への責め苦はこんな程度では済まないことは容易に想像できる。

 

「私が解除するから! 貸して……!」

 

 由佳の提案に、美優はしばらく考え込んでから、ためらいながらもスマホを渡す。

 

「もしアカウントを公開状態にしたら、わかってるよね?」

「わかってる! わかってるってば! そんなこと絶対にしないって!」

 

 由佳は覚束ない手つきで、何度もスマホを落としながらパスワードを入力した。

 

 1分、2分と経っても、それは終わらない。

 

「なんで……なんでよ……!」

 

 思いつくパスワードを全て入力した由佳だったが、どれを使っても認証を弾かれる。

 

「やだやだやだ……うそぉ……なんで……なんでログインできないのッ!!」

 

 美優はその様子を眺めているだけ。

 急かすことも責めることもせず、ただ、由佳に視線を向けている。

 

「あ、あぁ……! 新しく作ったから、パスワードも新しいの作ったんだ……! え、えと、パスワード、新しいやつ、あれ……えーっと!」

 

 由佳は必死にアカウントの削除をしようとしていることをアピールする。

 

 その横で、美優はまた新しいコンドームをビリっと切り取った。

 

「やだ……! やだ!! やだやだ!! 待って美優!! ちゃんと思い出すから!! もうお股使われるのやなの!」

 

 由佳の懇願を無視して、美優は俺に新しいコンドームを渡す。

 

 由佳にとって、今の俺はレイプ犯の四人目。

 無理やり股を広げられて、勝手にペニスを捻じ込まれて、許可もなく射精される。

 そんな苦痛が再び始まる。

 

 声は聞こえない。

 部屋のドアの開閉音もしない。

 そんな不自然にも、由佳は疑問をぶつけてくることもない。

 

 ただパニックになって、疑念は都合の悪い妄想にどんどんと変わっていく。

 もしかしたら由佳は、俺が考えているよりよっぽど酷い状況を想像しているのかもしれない。

 

「挿れて」

 

 美優は俺に言った。

 

 由佳の頭をダンボールから解放させたまま。

 

「やだぁ!! やめてください! がんばって思い出しますからぁ!!」

 

 股を広げられ、俺に何度も挿入され、膣内が広がったままの肉穴が、ヒクヒクと動き出す。

 淫汁が流れていくその様子を眺めているだけで、また俺の肉棒は硬くなっていった。

 

 こんなことで勃起するなんて。

 女の子をレイプすることが俺の潜在的な性癖だったとでもいうのか。

 

 認めたくない。

 これだけ射精していても。

 

 罪悪感を抱えたままのセックスをして、何度も射精したのは佐知子のときも同じだった。

 あの時は妹に恋愛感情に近いものを抱いてしまい、俺はその罪悪感から逃れるために一心不乱に佐知子を抱いて、何度も射精した。

 

 俺にこうしてセックスするように強要しているのは美優だ。

 俺の体は、由佳を犯すことではなく、美優に由佳を犯すように命令されることに快楽を覚えているんだ。

 

 こんな言い訳、何の役にも立たないけど。

 

 レイプじゃない。

 少なくとも、俺は女の子を犯すことに興奮なんて、絶対にしていない。

 

「あっ、ああっ、また硬いの当たってるよぉ……うぅ……やめてください……ちゃんと削除しますから……」

 

 由佳はまだスマホをいじったまま。

 

 俺は美優の視線に急かされて、コンドームを装着する。

 

 ゴム鞠のようにパンパンに膨らんだ亀頭。

 それを、由佳の蜜壺に沈みこませる。

 

「あっ、ああっ……きちゃやぁ……まって……ああんっ!」

 

 ごめん。

 

 俺は今日何度目かの謝罪を心の中で唱えて、ズブッと勢いよく由佳の膣内にペニスを挿し入れた。

 

 お仕置きが続くのは俺が後2回射精をするまで。

 早く終わらせてしまった方が、由佳も楽になれる。

 

「ん、あ、あっ、ダメェ……はぁんっ、これも、通らない……パス、ワード、もうわかんなぃよぉ……ああっ、あん、ああっ!」

 

 わけもわからず犯されていた今までと違う。

 由佳もこの状況に体が順応し始めたのか、そこにははっきりと「感じている」手応えがあった。

 

「う……くっ……!」

 

 膣内はまたビチョビチョに濡れて、肉棒全体をヌルッと包み込んでくる。

 声を出さずにいるのも難しくなってきた。

 

 やばい。

 だんだんと本気で気持ちよくなってきた。

 

「あぐぅあっ、ああんっうそっ、おっ……! 入力、無効にな、てる……あぐぅあっうぅ、しゅぱむじゃ、ないのにぃ……ああううぅ……!」

 

 由佳がパスワードを間違えすぎたことにより、システムから攻撃と認識されてしまった。

 

 5分間のパスワード入力無効。

 美優からすれば、そこがタイムリミットだった。

 

「もういい。返して」

「や、やあんっ! ごふっ、んんっ! だへぇ……まって……あとろひょれ……さくじょでき……るうっ……うぐっきゅっっ!」

 

 突き上げた肉棒がまた由佳の奥を刺激すると、ビクンビクンと体が大きく跳ねた。

 どうやら下から上に向けて腰を動かすようにすると、由佳はすぐにイッてしまうらしい。

 

 美優は由佳からスマホを取り上げる。

 

「あ、あぁぁ……みゆ……まって! まだ頑張るからぁぁ取らないで、やだやだ、あっ、もう、せーえき、出されるのイヤ、あん、ふんっ、あぁぁあっ!」

 

 由佳から失われていく希望。

 怯え震える声が室内に響く。

 

 それでもなお、俺は由佳に挿入するのをやめられない。

 

「うぐっ、ああぁあっ! こんど、は、ほんと、ほんとのほんとに……いぃぃああっ、ごめんなさい、するっ、からっあぁっ!! ゆるぢで……ううぅぅぐっ……!」

「もういいよ。次は次はって。人間、甘くしてるとキリがないんだ」

 

 開放させたダンボールに手をかけ、美優はゆっくりと、由佳から光を奪っていく。

 

「だから今日。今日からずっと。由佳には童貞を捨てるための肉穴になってもらうから」

「ぎゃぁやぁぁあああやだぁぁあああああああ!! 美優ぅぅあああぁやだごめんなさい!! 許してぇぇえええ!!」

 

 パタンと閉じられた

 くぐもっていく由佳の声。

 

 ギュッと締りの強くなる由佳の膣内に、俺の肉棒をぐりぐりと押し付ける。

 

「あっぐ……うぐぅぁ……ああああがっ!!」

 

 由佳の声に悲しみが混じるほどに、膣がペニスをギュンギュンと絞り上げてくる。

 

「あああうぅっ、ああっ!! いひゃぁあああ! あぁあぁあううぅあぁっ!!」

 

 美優に見捨てられたことが致命打だったのか、口は自由に動くはずなのに由佳は叫ぶことしかしなくなった。 

 興奮が増すごとに締め付けの強くなる膣肉と溢れ出る愛液で、俺の竿全体が強烈な性感帯になる。

 

 0.01ミリ、最薄のコンドーム。

 生の挿入に近い快感が俺の神経を責め立てる。

 三度の射精を終えてもペニスは未だ衰えることはなく。

 腰を打ち付けるごとに悲鳴を上げる由佳の声を聞いて更に大きくなっていく。

 

「はぁっ……あっ……由佳っ……由佳ぁっ!!」

 

 竿の最も太い部分、その根元で由佳の膣口を無理やり広げるごとに、頭の中から理性が剥がれ落ちていった。

 

 ジュパンッ、ジュパンッ、と腰を打ちつけ、耳に届く水音が、振り子のように規則正しい周期で俺の脳を刺激する。

 

 由佳の泣き声を聞いて、心は痛んでいる。

 罪の意識を自覚したまま、心臓を締め付けられる感覚を抱いたまま。

 俺の脳は快楽で満たされて、罪と悦を同時に欲していた。

 

 由佳の悲鳴を聞くのが気持ちいい。

 息苦しくなるほどの罪悪感が気持ちいい。

 

 美優の命令に奴隷のように従って、嫌がる女の子とセックスをすることで、俺の性器は血液と精液をかつてない速度で充足していた。

 

 その凶悪な肉棒で、ひたすら由佳の膣肉を抉る。

 子宮にゴリゴリと剛直を押し付け、Gスポットを突き上げる。

 

 パァンッ、パァンッ、と愛液の散る肉を、ひたすらに堀り、叩く作業。

 繰り返し、すっかり柔らかくなった由佳の膣ヒダが、俺のペニスに絡みついてくる。

 

 我慢の限界を迎えて、ありったけの力で腰を前後させると、由佳の下半身がガタガタと震えて跳ね出した。

 

「があぁっ、ぐあっ、いひゃぁああっ! ああんっ!! んやぁあああっ!」

「由佳ッ、で、るっ……出るっ……!!」

 

 びゅっ、どびゅっ、ぐぴゅっ、びゅっ、びゅびゅっ──!

 

「ひゃぁぁあああっ!!」

「ああああっ!!」

 

 四度目の射精も長かった。

 精液がゴムの中に放出されて、減った性欲の代わりに理性が戻ってくる。

 冷静になった分だけ、俺は現状の悲惨さを理解して、更に興奮の湧き上がってくる肉棒が最後の最後まで精液を吐き出していた。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

 行為が終わり、精液で膨らんだコンドームの口を縛ると、美優がダンボールを開放してまた由佳と顔を合わせる。

 

「ぁっ……ぅぅっ……」

 

 由佳は肺を引きつらせて、弱々しく酸素を取り込んでいた。

 

 肉体的にも精神的にも、削れきった状態。

 

「由佳。四人目。終わったよ」

 

 ドサッ。

 

 由佳の目の前に並べられた4つの精液入りコンドーム。

 その全てが、由佳の膣内で放出されたものだった。

 

「初めてのセックスがどうだったかわからないのは可哀想だったから。これ、撮っといたよ」

 

 美優は由佳にスマホの画面を見せつける。

 

 その動画は、俺が由佳をダンボール越しに犯し、射精してゴムを抜き出すまでの一部始終だった。

 

 映されているのは由佳の姿と俺の下半身だけ。

 誰に犯されているのかはわからない。

 

 見知らぬ男と自分がセックスをする映像が流れ続ける。

 初めての体に、無情にも男の屹立した性欲を捻じ込まれて、処女を失う瞬間が由佳の網膜に焼き付けられた。

 

「ぁ……ぁっ……」

 

 その時の由佳の表情が、どんなものだったのかはわからない。

 

 由佳はもう何も言わなかった。

 

 動画の再生が終わると、美優はダンボールを片付けだした。

 

 ガムテープを剥がし、左右に分解すると、そこには体を前に折った状態で簀巻きにされた由佳の姿があった。

 布団で圧力を分散した上で、体が動かせないように各所を拘束している。

 その1つ1つが解除されると、生身の由佳がぐったりと大の字になった。

 

 もはや廃人状態。

 白目を剥いて微かに喉を鳴らすだけ。

 

 光も音も届いていない。

 気絶こそしていないが、意識があると表現することも難しい状態だった。

 

「はぁ……」

 

 終わった。

 

 何もかも。

 

 俺も由佳も、人として大切なものを失った。

 コンドームを外して精液まみれのペニスに、由佳の愛液がまとまりついて、その不快さに俺はもう考えることも嫌になった。

 

 背中に張り付く汗を洗い流したくて、俺は服をまとめて風呂の準備をする。

 

「何してるの?」

「風呂。入ってくる」

「ふーん。まあ、それはいいんだけど」

 

 美優が俺の足を止める。

 

 その手に、包装されたコンドームを1つ持って。

 

「お、おい……まさか……」

「約束は約束だから」

 

 美優は残り1つのコンドームをひらひらさせて、由佳の前に座るよう指示した。

 

「も、もう、いいだろ? 由佳の意識だってほとんどないし……こんな状態じゃ、パスワードも聞き出せないだろ……?」

「SNSの方はメールアカウントからパスワード変更して削除したから大丈夫」

 

 なら最後の拷問はいったい何の意味があったんだ。

 

 由佳は極度の疲労と脳の拒絶反応で、すでに五感を閉ざしている。

 もう俺に犯されたことすらわからない。

 

「さっきと同じ体勢になって。由佳の脚を持ち上げて覆いかぶさるの。それでお兄ちゃんがその気にならなかったら、もう終わりにしてあげる」

 

 美優は憮然と言い放った。

 

 お仕置きを始めたときからそうだが、美優からはどうにもやる気が感じられない。

 金曜日の夜は俺にとってはご褒美状態だったし、土曜の朝も怒ってると言っていたわりに機嫌はそこまで悪くなさそうだったし。

 

 口にしているほど美優が怒っているようには思えなかった。

 

 まあ、元々感情を表に出す方ではなかったけど。

 

「その気にならなかったらって。要は、勃たなきゃいいんだよな」

「そうだね」

 

 もう四回も射精しているんだ。

 気持ちも落ち着いている。

 これ以上、セックスなんてできるはずがない。

 

 床に転がる裸の少女。

 何度も犯されて、視覚も聴覚も閉ざしている。

 絶望の果てに呻くことしかできなくなった体を犯すなんて、寝込みを襲うより悪質だ。

 

 脚を持つと、思った以上の重さが手に乗った。

 腰と尻しか見えていなかった前回とは違い、これから俺が相手にするのは完全に生身の女の子。

 くたびれた長い髪も、横に流れる乳房も、その瑞々しい先端も、全てが丸見えになっている。

 

 刺激を与えられすぎて意識がトんでいるからこそ、多少無理な力を入れても起こしてしまう心配がない。

 相手に自分の行動を見られて、どう思われるか気にする必要もないんだ。

 

「はぁ……っ……」

 

 由佳の足首を持ち、股を広げる。

 弛緩した穴からはまだ愛液が滴っていた。

 

 濡れたままの膣内。

 起きたまま意識をなくした体。

 ここにきて本物の肉オナホが完成していた。

 

 足を前に倒して由佳の膝を丸める。

 腰と腰を近づけて、五度目の正常位。

 脚が伸びてしまわないよう、俺は由佳の膝を曲げさせたまま自分の両腕で挟み、由佳の正面から覆いかぶさった。

 

 だらんとぶら下がった肉棒が割れ目に近づく。

 ゴムを付ける前の下半身が、数センチ先の由佳の体温を感じ取る。

 

 ──ピクン、ピクン。

 

 陰茎体が伸縮して、その感覚が連鎖的にイチモツ全体に刺激を与えていく。

 

 ただ覆いかぶさっているだけなのに。

 

 落ち着け。

 勃つな、勃たせるな。

 

「ふぅ……はぁ……」

 

 深呼吸をして無心に努める。

 こんな状態で勃起したら、当たってしまう。

 生の肉棒が、生の肉穴に。

 

「うっ……くぅ……!」

 

 ゴムを外したばかりのペニスには、まだ精液がついている。

 割れ目に触れさせるだけでも危険だ。

 

 勃起したらダメなんだ。

 生で性器を触れさせるのは許されない。

 絶対に避けないと。

 

 でも、このまま大きくなったら。

 

 間違いなく、亀頭が挿入る。

 

「お兄ちゃん。ゴム要る?」

 

 そんな俺の視界の真横から、新品のコンドームが現れた。

 

 由佳に挿れる体勢の俺の側で、美優は膝をついて前屈みになっていた。

 

「要るって言うなら。着けてあげるよ」

 

 美優はビリっと袋を破いて、ゴムを取り出す。

 

 着けておきたい。

 もし勃起してしまったら、責任の持てないリスクを負うことになる。

 

 だが、それをお願いするのは、勃ってしまいそうなことを認めるのと同じ。

 

 また射精を命じられる。

 

 由佳の膣を使って。

 

 意識の朦朧とした女の子の体を、道具のように使い捨てて。

 

「──い……い、る……」

「ん? どっち?」

 

 美優に催促されて、加速するペニスへの血液の流入。

 半勃ちの状態から、さらに硬くなって頭が上向いていく。

 

 止められない。

 

 もう、勃起する……!

 

「ゴム……ないと、まずい。つけてくれ……!」

「はーい」

 

 美優は俺の後ろに回り込んだ。

 

 腰から手を回されて、美優の小ぶりの手が、精液に塗れた俺のペニスを掴む。

 

「あっ……ああっぐっ……!」

 

 ぬちゅ、ぬちゅ、ぐちゅ。

 

 美優が背後から俺のペニスを手でシゴいてくる。

 根元から絞り上げるように、頭からは包み込むように。

 

「美優っ! はっ……ぅあぁっ! やばい……ああああっ!」

「これでイったりしないでね」

 

 あくまでもゴムをつけるための前準備。

 美優がペニスを引き上げておいてくれたおかげで、勃起しても由佳の膣ヒダに触れることはなかったが。

 

 美優の手はどの皮膚も滑らかで、小さい手が触れる範囲がいつもと違う感覚で、自分ではない人にしてもらってることが指先からじわじわと伝わってくる。

 

 服を脱いで、汗のせいで冷えた体に、美優の体温が触れる。

 

 もう五度目なのに。

 性欲が昂ぶって収まらない。

 

「そろそろいいかな」

 

 美優はゴムの外側に精液が付かないように、器用に被せてコンドームを装着する。

 

「出るよね? お兄ちゃん」

 

 更に囁かれる、悪魔の言葉。

 

 美優に出せと言われたら、この体は否応なく精液を製造してしまう。

 

 睾丸が沸き立って熱い。

 射精したくて堪らない。

 

「挿れて。由佳の膣内で出して」

「はっ……ああっ……」

 

 ジュブッ。

 

 美優の声に導かれるままに、俺は五度目のレイプを開始した。

 

 由佳はもう声を上げることもない。

 

 部屋を満たすのは、ぐちゅぐちゅと膣を擦る音と、俺の吐息、エアコンの振動。

 汗と精液とゴムのニオイが鼻をつく。

 これほどにリアルな淫靡を感じたことはなかった。

 

 由佳の体を強く抱いて、腰をグラインドさせ、硬くなったペニスを出し入れする。

 

 何度も何度も。

 貪りつくように。

 

 俺の肩に髪の毛が触れる感覚があった。

 

「反応もしないのにそんなに激しくして。気持ちいいんだ」

「あっ、ちがっ……ぅああっ……!」

 

 由佳の裸体、その温度、腰を打ち付ける音、充満するニオイ。

 

 足りない。

 五感を全て満たしたい。

 この淫らなオナホールを、隅々まで堪能したい。

 

「好きなように使って。いっぱい出して」

 

 美優から耳元に吹きかけられる息。

 

 俺の理性を繋ぎとめていた何かが、プツッと切れた。

 

「うぐっ……あぁ……はあぁぁっ……!」

 

 肺いっぱいに空気を吸い込んで、俺は虚ろな目をした由佳の裸体に抱きついた。

 

 全身で感じる雌の肉感。

 挿入するたびにプルンと揺れる乳房に、俺は迷いなく吸い付いた。

 

 ちゅぶっ、ちゅぶっ、と口の中で由佳の乳首を吸い、舌で転がす。

 

「はぁ……あぐっ……っは……ああっ!」

 

 一切の抵抗をしない女の子の体を使って、俺はペニスに快感を与え続けた。

 

 硬く、大きく膨らんだ肉棒で、ひたすらに由佳の膣内をかき回す。

 

 愛液と混ざり合ってとろけていく、由佳の膣壁と、俺の陰茎。

 

 もうゴムをつけている感覚もなくなった。

 

 生で出したい。

 

 精液を子宮に注入したい。

 

 狂ったように犯して、膣内が精液で真っ白になるくらい、中出ししたい。

 

「ああっ……出るっ……はぁぁあぁっ! 気持ちいいっ……っああ! 気持ちいいっ! あっ、ぐっ、あああっ! 出るっ……膣内に出るっ……!」

 

 射精の瞬間が近づくほどに、強く、大きくなっていく腰のストローク。

 

 俺は由佳を強く抱きしめて、ペニスを膣の深くまで突き刺す。

 尿道口と子宮口を合わせ、由佳の子宮に精液を注ぐ勢いで俺は射精した。

 

「あっ……あああぅぐっ……!!」

 

 射精するたびに心が満たされた。

 妹の命令で少女を犯し、無許可で子種を植え付ける行為が、身の内側から歓喜を沸き上がらせる。

 

 ゴムがついていなかったら間違いなく妊娠させていた。

 

 そんな予感がする。

 

 疲労感に包まれた、心地よい脱力。

 

 由佳は最後まで、目を浮かせたまま犯されているだけだった。

 

「お疲れさま。最後のやつもゴム縛っておいて」

 

 ペニスを引き抜いたその先端には、五回のうちで最大量の精液が溜まっていた。

 

 美優に出してと言われたという、たったそれだけで、俺は性欲に従順な獣になった。

 

 そうしていることが気持ちよかった。

 

 美優に指示されると、精液の量が急激に増加する。

 射精の快感は、尿道を精液が流れるときの摩擦で生まれるもの。

 

 もう体は学習しているんだ。

 

 美優のために射精をすることが、何よりも気持ちがいいのだと。

 

「俺、もうダメかもしれない……」

「妹のおしっこで射精してた時点でもうダメでしょ。はい、これ」

 

 美優が俺に由佳のスマホを見せてくる。

 なんだかとんでもないことを言われた気がしたが、今は黙っていよう。

 

「美優とのメッセージのやりとりか。由佳のやつ、そんなに酷いこと言ってたのか?」

「そうじゃなくて。ここ。読んで」

 

 美優が俺に読ませたのは、由佳からの一連のメッセージ。

 まだ由佳が、遥と美優の裸を盗撮して脅す前のチャットだった。

 

『佐知子は美優のお兄さんとエッチしたんでしょ? 私もまあ美優のお兄さんならアリってかアリアリ?』

『オタク感無くなってきていい感じじゃん!』

『生で十分だよ~。どっちに転んでもプラスだし』

『あら、美優さんはお嫌? おねーさんって呼んでいいのよ? うぷぷ』

 

 このなんとも人の神経を逆撫でするような発言。

 レイプした後悔も消えていきそうだ。

 

「って! なにこれ!? あいつ、本気でこれを言ってたのか……?」

「うん」

 

 ネカフェでも聞いた話ではあるけど、ただの煽りだと思っていた。

 

「でも、なんでこれを?」

 

 こんなものを読んだら、少なからず心は軽くなってしまう。

 由佳は本当に俺とのセックスを望んでいたのだから。

 お仕置き目的で俺にレイプをさせたのなら、教えるべきではない。

 

「ずいぶん熱心にやってくれたから。ボーナス?」

「あぁ……」

 

 あれは演技じゃなくて本気で盛ってたんだけど。

 

「別に由佳にも秘密にしてるつもりはないし。明日になったら相手がお兄ちゃんだったって言ってもいいよ」

 

 これは美優からの情けだったのか。

 自分がレイプしました、なんて、そう簡単に言えるわけがないだろ……。

 

「まあそういうことなので、お兄ちゃんはもうお風呂に──」

 

 美優から解放の言葉が出ようとした。

 

 その直前。

 

 ピコンとスマホが鳴り、メッセージ受信の通知が表示された。

 

『由佳ちゃん、やっぱりあのこと、美優に謝っておいた方がいいと思うよ?』

 

 チャットアプリからのメッセージだった。

 

 送り主の名前には、佐知子と表示されている。

 

「佐知子からだ。いつの間に由佳とチャットするようになったんだろ」

 

 美優はそう口にしながら、『あのことってなに? 遥のこと?』と、由佳を装って佐知子にメッセージを返す。

 由佳と佐知子が連絡を取るようになったきっかけは、俺とネカフェで最初に出会った時のアレだな。

 

『遥ちゃん? なんのこと? 遥ちゃんにもイタズラしてるの? それだけは絶対にダメだよ。美優がすごく怒るから』

 

 もはや遅すぎた忠告だった。

 現にこうしてお仕置き、もとい拷問されてしまっている。

 

『美優が測定してもらってるとき、こっそり美優のブラジャーをクラスの子に回してたでしょ? ああいうの良くないと思うよ。周りが何も言わないのは、由佳ちゃんから謝るのを待ってるんだからね』

 

 絶句した。

 

 胸の大きさは美優のコンプレックス。

 自制が効かなくなるほど精神的ダメージを負う最大の弱点だ。

 

 美優はどんな顔をしているんだろう。

 怖くて直視できない。

 

『それと、あの写真。さすがに消してるよね?』

 

 ドキリと心臓が跳ねて、呼吸が止まった。

 

 佐知子は由佳が遥の裸を盗撮したことを知らない。

 となれば、“あの写真”が示すものはひとつしかない。

 

『写真って、美優が測定前にTシャツに着替えてたやつ? 佐知子に見せたっけ?』

 

 美優はメッセージの返信を続けた。

 

 由佳が遥と美優の裸を盗撮したことは、当人以外知らないはずだ。

 その情報は佐知子が持っていてはならないもの。

 もし佐知子が写真のことを知っているのだとしたら、由佳はそれを他人に見せていたことになる。

 

『私だって前半組だったもん。待機してた子に見せびらかしてたでしょ。みんな青ざめてたよ? 他の人から伝わる前に美優にごめんなさいしてね』

 

 木曜日の身体測定。

 ターゲットは遥にしたと由佳は言っていたが。

 それが本能的なものだったのか、美優を巻き込まずにはいられなかったようだ。

 

「美優……どうするんだ……?」

 

 恐る恐る美優に目線をやる。

 

「んー」

 

 美優はボーッと眺めているだけだった。

 

「どうってまあ、由佳次第かな」

 

 美優の反応は意外にもあっさりだった。

 

 だが、感情をあまり表に出さない美優のことだ。

 内心は怒りで煮えくり返っているのかもしれない。

 

 美優はスマホを俺のベッドに投げると、由佳の前で膝を折った。

 

 正座をして、由佳の頭を膝に乗せる。

 

「うぅ……」

 

 美優が頭を撫でると、由佳の意識が戻っていく。

 

 和解するつもりか。

 俺の仕事は、もう終わったよな。

 俺ももう風呂に入ろう。

 

「由佳?」

 

 俺が風呂上がり用の服を準備している背後で、美優は由佳に語りかける。

 

 穏やかな声音だ。

 本当に怒っていないのか。

 それとも、美優のブラで遊んでいたことも含めて、今日のお仕置きで許したのか。

 

「美優……あぁ……みゆぅぅ……ごめんなさい……」

 

 由佳は頬を美優の膝に擦り付ける。

 

 あんなことをされてなお美優に執着できるのは驚嘆だな。

 常人には理解できない領域だ。

 

「反省した?」

「うん。うん。反省した、から。もう許して」

 

 由佳は頭を撫でる美優の手を引っ張って、今度はその手に頬を擦り付ける。

 

「由佳は私をそんなに困らせたい?」

「ふぇ……そ、そうじゃないの。最初は、そんなつもりはなくて。美優がいつも不機嫌そうな顔をしてるから。もっと気楽になって欲しかっただけなの」

 

 由佳は言っていた。

 イタズラをするようになったのは、美優を笑わせたかったから。

 そのために、美優の凍りついた感情が、少しでも揺れ動くように。

 様々に手を回しているうちに、気づけば手段が目的になっていた。

 

「私、そんなに不機嫌そう?」

「うん……」

「そっかぁ。最近はそうでもなかったんだけどな」

 

 美優は由佳の額をぽんぽんする。

 

 不機嫌そうに見えるのは、それが美優の癖になっているからだろう。

 由佳との会話で思い出した、美優の小学三年生のときの変貌ぶり。

 毎日アイドルみたいな服を着ていた美優が、突然その手の服に興味を持たなくなった。

 

 どんな事件があったのかは知らないが、当時はたしかに、美優は毎日が退屈そうだった。

 

 俺が美優と距離を置くようになったのもきっとそれが原因だ。

 そうして俺は美優の感情を取り違えた結果、嫌われているものだと思い込んでいた。

 由佳にもそうやって積み重なったものがあったんだろう。

 

「まあ、でも」

 

 美優は由佳の頬に手を添わせる。

 

「こうして今が元気なのは、由佳のおかげで昔のことを思い出さないからなのかもね」

 

 静かに時の流れる夏の小部屋で。

 

 美優はフフッと、小さな微笑みを作った。

 

「は……あぁっ……ああぁっ!! み、美優……!!」

 

 由佳の目に宿る輝き。

 

 これまでの苦痛が全てなくなったかのように、顔が生気を取り戻していた。

 

「みゆぅ……! えへへ。あぁ、美優……私、美優のためならどんなことでもするよ……!」

 

 美優の膝に何度も頬ずりする。

 調子のいいやつだ。

 

 やっぱり、俺には理解のできない世界。

 

 でも、これで一件落着だな。

 

 服をまとめ終わった俺は、音を立てないように、静かに部屋のドアを開けた。

 

「ほんとに? どんなことでも?」

 

 廊下に出て、退場しようとした俺の耳に、届く、不穏な言葉。

 

 チャペルの荘厳な鐘の音が、突然不協和音に変わったような恐怖。

 

「うん、ほんと、なんでもする!」

「でもなぁ。由佳は嘘つきだから、期待半分にしておくね」

「ええー! ほんとにほんと! もう嘘つかないから! ね?」

「そう?」

 

 部屋を出てドアを閉めようとした手が止まった。

 美優と由佳の会話が気になってしかたがない。

 

「なら聞くけど。由佳、あの写真は誰にも見せてない?」

「え? 写真? み、見せてないよ?」

 

 ドアの隙間から見える二人のやり取り。

 目が離せない。

 

「私の写真も?」

「うん! 誰も、見せてないけど……」

 

 由佳と美優の目が合う。

 

 美優は威圧するでも嘲るでもなく、ただ由佳の顔を見ている。

 

「あ、あ! 美優のやつは、ごめん!! クラスの子に……美優より後ろで身体測定やってた子に、ちょっとだけ、見せちゃいました。ああうぅごめんなさい……!」

 

 ついに由佳の口から告げられた真実。

 佐知子の忠告と符合している。

 

「ふーん」

 

 美優は由佳の顔から手を離した。

 

「なんで最初、嘘ついたの?」

「ち、違うの! えと、その、違わないけど、つい、癖で……!」

「そうだよね、癖だもんね。どうせ由佳はまた、同じようにするんだろうね」

 

 明るかった美優の表情が曇っていく。

 

 由佳からすれば、それは処女を失うことなどより遥かに耐え難い喪失感だった。

 

「違うの! ほんと! もう嘘つかない!! 絶対、絶対に!! 一回も嘘つかないからっ!! し、信じて……!」

「なら、さっきのは? どんな言うことでも聞くって言ったよね? あれもどうせ嘘なんでしょ?」

「嘘じゃない!! 美優の言うことならなんだってする!!」

 

 必死、いや決死というべきか。

 美優に信用されるためなら、もうどうとでもなれと覚悟を決めた顔だ。

 

「そっか。それなら」

 

 美優はそれをつまんで、由佳の頭上にぶら下げた。

 

「飲んで」

 

 奴隷契約を結んだ由佳に、美優が命令したこと。

 それは、コンドームに大量に溜められた精液を、一滴残らず飲み干すことだった。

 

「えっ……」

 

 由佳の瞳が再び陰り始める。

 

「それ、知らない男が出した……」

「うん。由佳を犯した人の精液。飲んで」

 

 悪魔、再臨。

 

 地獄の住人ですら引くほどの所業。

 

「い、嫌ッ!! そんなのヤダ!! そんなことしたって、美優のためになんか……!!」

「ためになるならないじゃないの。どんな命令にも従うって言葉が、嘘かどうか確かめたいだけ。これは私からの命令だよ? やるよね? なんでもするって。嘘じゃないんだもんね」

 

 美優の声に乗る重み。

 

 ここからが本番だった。

 

「ねえ、由佳」

 

 美優はコンドームの口を開けながら問いかける。

 

「私が胸の大きさを気にしてるの。由佳は知ってたよね? 身体測定の前だって、すごく気が落ち着かないって相談してたのに。……だからあの日を狙ったの?」

 

 身体測定の前の夜、俺にお願いしたのと同じように、由佳にも相談をしていたようだ。

 

「それは、ちがっ……くは、ないけど……」

「私のブラ、みんなに回したんだってね。私さ、最近はキツめに胸を締めて学校に行ってたんだよ。みんなには80ちょっとしか無いって言ってあって。それでもたまにイジられるのにさ」

 

 美優のバストサイズは90に到達してしまっている。

 いくら周囲に例が少ないとはいえ、思い切ったサバ読みだ。

 

「由佳は胸を触ったりすることだけはなかったから。それだけは信じてたんだよ。コンプレックスは標的にしないって。なのに。写真まで見せびらかして。すごく裏切られた気分」

 

 美優の顔から消える感情。

 由佳に残された道はもう、一つしかなかった。

 

「せめて最後は正直になってくれたらよかったのに。ねえ、由佳。これからは、嘘をつかないんだよね?」

 

 美優の念押し。

 由佳はうさぎみたいに小さくなって、首を引っ込めるように頷く。

 

「なら、飲むよね」

「は……はい……」

 

 由佳は口の開けられたコンドームを、両手で受け取る。

 

 たぷんたぷんと精液で揺れるゴムの底を、つまんで持ち上げた。

 

 自分を犯した、知らない男が出した精液。

 

 コンドームを傾け、それを、口の中へと、注ぎ込んだ。

 

「うっ……うぐぅぅえぇぇぇええっ!!」

 

 由佳は魚のように飛び跳ねて、すぐさま精液を吐き出した。

 

「ううぅ、っん……ぐはっ、ぅえっ、うっ……うぷっ……!」

 

 四つん這いになり、口内のあらゆる液体を床に吐き捨てる。

 

「溢してる場合じゃないでしょ」

 

 美優はそんな由佳の横で、一つずつ、それを紐解いていく。

 

 由佳を犯した残り4回分のコンドーム。

 全てに精液が注がれたそれを、美優は由佳の前に並べた。

 

「まだこんなに残ってるんだから」

 

 充満する生臭い塩素臭。

 レイプ犯の精液。

 それを全て飲めという命令に、由佳の体が震え出す。

 

 これから訪れる、かつて無い苦痛を想像して、過剰に分泌されたアドレナリンが、由佳の足をガクガクと痙攣させていた。

 

「飲まなかったら、二度と口は利かない」

 

 トドメの一言。

 

 由佳は力を失い、ただ痙攣により肉体のコントロールだけができなくなる。

 

 やがてその股の間からは、黄色い液体がジョロジョロと流れ始めた。

 

「あーあ。こんなに汚しちゃって」

 

 美優は由佳の顎を持ち、上を向かせた。

 

 その口の中に指を突っ込み、由佳の舌を引っ張り出す。

 

「ぐえぇっ!」

 

 苦しげに泣く由佳。

 

 美優が手心を加える様子はなかった。

 

「全部、キレイにしてもらうからね」

 

 それからは……。

 

 どうなったのかは、わからない。

 俺はもう見ていられなくなって、部屋を後にした。

 

 風呂を入れて、汗を流して、かなりの長時間、湯船に浸かっていたはず。

 風呂を上がって髪を乾かし、着替えをしてからはずっと、俺はソファーに座ってうつむいていた。

 

 何をすることもなく。

 

 座って時間が過ぎるのを待つだけ。

 

 カチ、カチ、カチ、とアナログ時計の秒針音が聞こえる。

 それが数百回を数えるごとに、たまに二階からどこかを叩く鈍い音が響いた。

 

 悲鳴は聞こえなかった。

 それほど激しく暴れまわっているような音も聞こえなかった。

 

 ひたすらに俺は待ち続けて。

 

 二時間ほど経ってから、ようやく二階のドアが開く音がした。

 

 階段を降りてきたのは、由佳だった。

 寄れもなく服を着て、足取りは不安定だったが、きちんと自分の足で歩いている。

 

「由佳……?」

 

 リビングから顔を出して声を掛けると、玄関で靴を履いた由佳が俺に振り返った。

 

「ああ。美優のお兄さん。お邪魔しました」

 

 礼儀正しく、整った姿勢でお辞儀をする。

 

 顔を上げた由佳と目が合った。

 俺の背中に、ゾッと寒気が走る。

 

 深い黒だった。

 

 まるで瞳をくり抜いたかのように、虹彩が真っ黒に塗りつぶされている。

 

 一筋の光すら届かない。

 深淵まで続く闇。

 

 罪を受け入れるために全ての感情を閉ざした、壊れた少女の目が俺に向いていた。

 



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美少女は告白に悩む

 

 夏休み前、最後の登校日。

 昨日の鬱々とした一日を忘れてしまうくらいの快晴だった。

 

 今朝の美優の様子は普段と変わらず、俺が作った飯を黙々と食べて、時々喋ったり喋らなかったりして、「行ってきます」の声とともに家を出ていった。

 おっぱい以外のことを引きずらないのはあいつの良いところだ。

 

 俺は全身の疲労感と暑さにやられて朝から机でぐったり。

 金曜日に謎の敵意を向けてきた高波はやはりまだ機嫌が悪そうで、教室に入っても挨拶はしてこなかった。

 

 俺がいったい何をしたというのやら。

 高波がへそを曲げているだけならいざしらず、今日に限っては教室中の目が俺に向いている気がする。

 こんなわだかまりを抱えたまま夏休みを楽しめるはずもなく、俺はホームルームが始まる直前、勇気を出して隣の席の小野崎に聞いてみることにした。

 

「小野崎、ちょっといいか?」

 

 小野崎なら何度か話したことはある。

 悪くは思われていないはずだし、知っていれば何かしら教えてくれるはずだと思った。

 

「なに?」

 

 メガネの位置を直しながらこちらに向いてくる小野崎。

 まずは、普通の反応。

 

「なんて言えばわからないんだけど……俺って何か悪い噂が立ってる?」

「えっ!? ああ、うん。なんだろうね。わからないや」

 

 どう考えてもわからない反応じゃなかった。

 

 まさか小野崎にまではぐらかされるとはな。

 このまま掘り下げていいものか。

 

「俺、もしかしてなんだけど。みんなに嫌われてる?」

「う、うーん……」

 

 小野崎は答えづらそうにキョロキョロする。

 

「私は、嫌いではないけど。男の子たちは、ちょっとびっくりしてるかも……?」

 

 びっくりしてるってなんだ。

 俺が人を驚かせられる要素なんて妹くらいしかいないぞ。

 

 まさか、それなのか。

 中学生に手を出していたのが、バレたっていうのか。

 

 いやいや。

 それだけは。

 それだけは絶対にありえない。

 

「俺に直接言えない理由はなんなんだ」

「本人に確認してないから……かな?」

「本人? 本人って俺だろ?」

「それも、そうだね」

 

 奇妙な世界に迷い込んだようだった。

 きちんと会話のキャッチボールはしているはずなのに言葉が通じない。

 

「私から言っていいのかは判断つかないから。やっぱりソトミチくんは高波くんに聞いた方がいいと思う」

 

 小野崎はメガネを拭いて、ドアからやってきた担任に目線をやった。

 

 タイムアップか。

 みんなが黙ってる理由は高波にあるわけだな。

 あいつは俺が自分で気づくまで話してはくれないだろう。

 

 となればやはり、鈴原に聞くしかない。

 

 ホームルームを終え、授業終わりの休み時間が来るたびに、俺は鈴原に話しかけるタイミングを伺った。

 最近の鈴原はクラスの女子と喋ることが多くなって話しづらい。

 イメチェンの勢いのままに一気に振る舞いを変えたのが功を奏したのか、最初は揶揄していたやつらも、いつしか爽やかな鈴原を素のキャラとして認識するようになっていた。

 

「なあ、鈴原」

 

 俺が鈴原に声を掛けることができたのは、最後の授業が終わってからだった。

 移動教室から戻る鈴原に追いついて、俺は隣を歩く。

 

「俺、なんかやらかしたのか?」

 

 全く身に覚えはないけど。

 由佳の件で美優に怒られたときみたいに、遠回しに誰かに迷惑をかけている可能性もある。

 

「なんだよソトミチ。まだ隠し通すつもりなのか?」

 

 鈴原は無いはずのメガネを上げようとして、眉間を指で擦った。

 

「何も隠してないって。どんな疑念が渦巻いてるんだよ……」

「んー。本当に知らないんだとしたら、知らないままの方が良さそうな気もする」

「なんだよそれ」

「俺の口からは言いにくいことなんだよ。ま、今日は最終日だし。放課後になったら教えてやるよ」

 

 鈴原にはそうやってはぐらかされた。

 鈴原が言いにくいことといえば、思いつくのは山本さん関係だが。

 

 そういや最近は山本さんがやたらと俺に貸しを作りたがってたよな。

 

 それに関係してるんだろうか。

 

「おい、そこのお前!!」

 

 そんな俺の背後から、ガラの悪い声が届いた。

 聞き覚えのない声だが、その怒号が俺を呼んでいるような気がして、つい後ろを振り返る。

 

「はい……?」

 

 そこにはツンツン頭の男がいて俺を睨んでいた。

 反射的に返事をしてしまったが、気づかないふりをして無視したほうが良かったとすぐに後悔した。

 鈴原のやつは薄情で、我関せずと足早に階段を登って行ってしまう。

 

「お前がソトミチか!? クラス名簿に名前がなかったから騙されてたのかと思ったが……」

 

 床を踏み鳴らして近づいてくる男が一人いた。

 デカイ体に細身の筋肉。

 運動部から不良になったタイプだな。

 

「目立たないとこに行こうや」

 

 人生初めての危機に、俺は頭が回らなくなって大人しく従うしかできなかった。

 階段の下にあるスペースに連行されて、俺は壁を背に男と対峙する。

 山本さんに初めてエロいことをされたときと同じ場所だった。

 

「俺の名前は園田。細けぇこたあいい。山本奏を知ってるな? あの美の頂点にして地上の女神を」

 

 よく存じている。

 俺も全く同じ印象を抱いていたところだからな。

 

 と、冗談めいたことを心中で呟いて気持ちを落ち着かせていると、園田が急にくしゃっと顔を歪ませて涙目になった。

 

「なんでお前が山本奏と付き合ってるんだよぉ!? なんで俺が……フラれなきゃならねぇんだ……!!」

 

 よくわからないデタラメな発言をされて俺は困惑した。

 どうして俺が山本さんと付き合っていることになっているのかがわからない。

 それはともかくとして、山本さんにフラれた男なんて星の数ほどいるんだから、そこまで気にすることでもあるまいよ。

 

「えっと、よくわからないんですけど」

 

 ここは冷静に。

 相手を刺激しないように。

 穏便に済ませよう。

 

「俺は山本さんの彼氏ではないです」

 

 降参ポーズで事情を説明すると、園田は口をぽかんと開けて固まった。

 

「なので、俺は無関係で……」

「んなわけあるかぁ! 本人が言ってたんだよ! ソトミチってやつと付き合ってるって!」

 

 園田がまた大声で叫ぶ。

 それはさすがに予想外だった。

 

 もし園田の言うことが事実なら、山本さんは嘘をついていることになる。

 近頃また告白の数が異常に増えたらしいからな。

 彼氏がいる噂を流して諦めてもらうつもりだったのかもしれない。

 

 他にも付き合いの長いやつなんていくらでもいるはずなのに。

 どうしてわざわざ俺を選んだんだ。

 

「そ、そうか。本人が……」

「ああそうだよ。お前みたいな冴えないデクに惚れる要素があるとは思えねえんだがな……」

 

 園田は俺の腕の太さを確かめるように手でパンパンと叩いてきた。

 

「俺には学もねえし、見てくれもまあ、こんだけ頑張ってこの通り並の男だ。だが、キックボクシングで全国一位になったことがある。つまりはこの学校で一番強い。女は強い男に惚れる。そういうものだよな?」

 

 そこまで語ると、園田は俺と距離を取って拳を構えた。

 

「まさかお前。実は強えぇのか?」

「いやいやいやいや」

 

 口喧嘩すらしたことはない。

 殴り合いなんてまっぴらごめんだ。

 

 どう説明すればこの男に納得して帰ってもらえるのか。

 

 悩んでいると、廊下の方からバタバタと慌ただしい足音が聞こえてきた。

 

「やっぱり園田くん! 不良が暴れてるってクラスの子が言ってたから来てみたけど……!」

 

 ぷるんと胸を弾ませて急ブレーキ。

 ようやくご本人様が到着した。

 

「山本奏っ……!? おい! こいつのことだよなぁソトミチって! こんなヒョロっちぃ男のどこがいいってんだよ!?」

 

 園田は俺を指さして山本さんに怒鳴った。

 

「もーやっぱりこうなった……。いい? 私はたしかに彼氏がいる……かも……とは言ったけど、ソトミチくんとは言ってないからね?」

「俺がお前に誘いをかけたときはたしかにそうだった。だから気になってお前と同じクラスのやつに聞いたんだよ。彼氏は誰なんだってなぁ!」

 

 絶妙に噛み合わない二人の会話。

 はたしてこの状況を作り出した犯人は誰なのか。

 

「クラスの女子から聞いたぞ! 彼氏はソトミチだと言ってたってな!」

「うぐっ……上手い具合にほのめかしただけのつもりがここまで回ってくるとは……!」

 

 結論としては山本さんが悪かった。

 どうして俺なんかの名前を出してそんな下手な嘘をついた。

 

「なんでだ!? ずっと清純派だったお前がどうして急に彼氏なんか作ったんだよ!? しかも俺の告白はフっておいてこんな存在感の薄い野郎と付き合うなんて!!」

 

 園田から投げかけられた疑問。

 そこには多分な勘違いが含まれていただろうが、陰で山本さんが俺を彼氏だと吹聴していたことに相違はないようだった。

 

 俺も気になる。

 なぜこんなことになったのか。

 

「ぶっちゃけると園田くんみたいな人がめんどくさいから嘘つきました!!」

 

 マジでぶっちゃけやがったこの女。

 

「なっ……! お、俺に何の不足がある!?」

「不足か……そうだね……」

 

 瞬間、山本さんの雰囲気が変わった。

 それを園田も感じ取ったのか、山本さんを相手に腰を下げて構えた。

 

 ゴクリと唾を飲む。

 

 空気が一気に張り詰めた。

 

「園田くんは腕っぷしが一番だから、それで私に釣り合うって話をしてたね」

 

 山本さんは風もないのに髪をなびかせながら歩みを進める。

 その長い髪が、マントのように背中ではためいていた。

 

「だったら──」

 

 山本さんはガクンと上半身を落として園田に突進を仕掛けた。

 まさかの行動に園田は当惑しつつも、持ち前の反射神経で構えを直して、山本さんを上から押さえつけるために両手を広げて覆いかぶさる体勢になった。

 

 その直後の山本さんの行動は、奇襲となる前方へのローリングだった。

 急角度に身を滑り込ませた山本さんは穴に落ちたようにその姿を消し、長い髪を尾に引かせて頭は園田の股下に隠れた。

 この一連の流れを金的攻撃と判断した園田がバックステップしたところに、倒立の反発で床から飛び上がった山本さんの両足が突き上がり、踵が園田の顎にクリーンヒットした。

 

「グホォアァッ?!」

 

 ふらつく園田の頭部に、前転の勢いを乗せた山本さんの回し蹴りが、スパンッと横一閃に振り抜かれた。

 

 まさに首を刈るが如く。

 この二撃で勝負はついた。

 園田は数秒気を失い、意識を取り戻したときには、山本さんが直立不動で園田を見下ろしていた。

 

「園田くんはこの学校で一番ではないから。相手は学校で一番の私じゃなくてもいいよね?」

 

 園田は何も言い返せなかった。

 油断があった、と言えないこともない。

 だが、負けたのは事実でしかなくて、こうして起こってしまったことに対しては、もう身を引く以外に出せる答えはなかったようだ。

 

「……悪かったな」

 

 最後に園田は、俺と、山本さんにそれぞれ謝罪して。

 敗者の背中を見せながら去っていった。

 

 とんだびっくりイベントだったな。

 

「大丈夫だった?」

 

 気づけば山本さんはいつものほんわかした雰囲気になっていた。

 美優もそうだけど、女の子ってふとした瞬間にとんでもなく恐ろしくなる生き物だよな。

 

「俺はなんともない。山本さんは、なんというか、すごかったな」

「えへへ。弟たちを守るために身に着けた護身術が活きました」

 

 二の腕を叩いて朗らかに笑う。

 運動能力も含めて化け物レベルであることがこれで露見してしまったな。

 

「で、説明はしてもらえるんだろうか」

 

 俺がこうして園田に狙われた理由。

 もとい、山本さんが俺を彼氏として噂を流していた訳。

 

「は、はい……」

 

 そして、山本さんは観念して、事の顛末を話してくれた。

 

 山本さんは何度も告白をされるうちに、彼氏がいるという嘘をつくようになった。

 そんな噂が各所で流れ始め、山本さんが友人に真意を問いただされたとき、山本さんは俺が彼氏かと聞かれて否定をしなかった。

 そこから更に外部へ噂が漏れ始め、一周回って俺のクラスメイトも何人かがそれを知るようになった。

 

「高波のやつが急に冷たくなったのもそれを知ったせいか」

「たぶんね。ソトミチくんがいないときに、クラスに残ってた子たちが高波くんに事実確認されたって。でも、私も直接付き合ってるって言ったわけではないから、誰も上手くは答えられなくて。最後は『ソトミチのやつが認めるまで俺は口を利かんー!』って騒いでたみたい」

 

 クラスのやつらが俺に聞いてくれなかったのもそのせいか。

 俺に関しては友達なんて言えるのは学校全体でみても鈴原と高波くらいだからな。

 

 山本さんの彼氏が誰かという話になったとき、俺の名前が真っ先に上がった理由は、やはりここ数ヶ月のやり取りが原因だった。

 

 急に話すようになったこと。

 日直とは関係ないところで俺に仕事を依頼してきたこと。

 そしてなにより、ショッピングモールでの疑似デートを目撃していた生徒がいたことが、俺を山本さんの彼氏として納得させる材料になってしまっていた。

 

 ただ一緒に歩いていただけなら、たまたま遭遇したと考えられないこともないが。

 更衣室にまで付き添って服を選ぶなんてことまでしていたからな。

 さすがに中に入るところまでは見られていないだろうが、疑われるには十分な理由だった。

 

「でも、これって山本さんが否定すればよかっただけの話だろ?」

「私としてもこうして噂が広まるのは予想外だったんだ。でも、ちょうどいいから、いいやって」

「なぜだ……」

 

 園田も言っていた通り、俺は地味で存在感の薄い男だ。

 だが、絶対的純潔美少女という評判を落としてまで設定する彼氏役としては、いささか物足りなさ過ぎる気がする。

 

「だって、ほら。ソトミチくんって、全然私に興味を示さなかったじゃない?」

 

 俺だって、全く興味がなかったわけではない。

 同じクラスになって、お互いの存在を知って、最初は単に遠い存在だと思っていたから、気にかけなかっただけ。

 日直のペアになって、ようやく山本さんと話すようになったときには、俺はもう美優という名の性神経を狂わせる猛毒に侵されていた。

 

「噂の彼氏が本物の彼氏になる心配がなかったから、俺を選んだってことか」

「そんな感じかな」

「今までやたらと俺に貸しを作りたがってたのも?」

「こういうときのために恩を売っておきたくて……」

 

 なるほど。

 上手いこと使われてたわけか。

 

「俺はどうしたらいい?」

「これからもこういうことがないとも限らないし。彼氏じゃなくて好きな人ができたーくらいにしておく。ソトミチくんは聞かれたら付き合ってないって答えていいよ」

 

 ごめんね、と最後に付け加えて、山本さんは教室に戻ろうとする。

 

「あ、そうだ」

 

 もう一度振り返って、俺に訪ねた。

 

「お詫びいる?」

 

 山本さんからのお詫び。

 これまでの会話を考えるに、エッチなことをしてもらえるってことだよな。

 

 そんな気軽にしてしまっていいのだろうか。

 美優以外で抜ける唯一のチャンスかもしれないし、してもらえるならお願いしたいけど。

 

「いいのか?」

「うん」

 

 平然と答える山本さん。

 男性経験はやっぱり豊富なんだろうか。

 鈴原の話では過去にも男はいたみたいだからな。

 

 もしそれが本当なら気兼ねすることはないか。

 園田みたいに、山本さんを処女だと思い込んでいる生徒が大勢いる中、エッチなお詫びをさせるのはそいつらに申し訳なさは感じるけど。

 

「なら、してもらおうかな」

「ふふっ。わかった」

 

 山本さんは楽しそうに笑う。

 セックスって悪いことだと思いがちだけど、それ自体は悪でもなんでもないんだよな。

 

「ソトミチくんなら部屋を教えちゃっても問題ないとは思うんだけど。念の為、放課後どこかの教室で済ませちゃってもいい?」

 

 はたしてどちらの方が危険なのか。

 俺に目隠しでもして部屋に誘導したほうが安全な気もするが。

 

「そっちのほうがドキドキするでしょ?」

 

 確信的な犯行だった。

 俺はその提案を承諾し、合流の方法を打ち合わせしてから、階段を登っていく山本さんを見送った。

 

 実際にしてもらえるのは一発抜くところまで。

 ゴムはないし、本番までには至らない。

 

 でも、とにかく山本さんに射精させてもらうことが大事なんだ。

 これからの人生で、妹以外でもセックスができることを確かめるための、ラストチャンス。

 

 俺は二重の緊張を胸に抱いて、教室へと戻っていくのだった。

 



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山本さんの悩み

 

 かくして、俺が山本さんの彼氏ではないかという噂は、事実誤認ということで訂正されることとなった。

 

 俺は鈴原と高波に事情を説明して誤解を解いた。

 これでようやく安心して夏休みを迎えられる。

 

「さて……」

 

 俺は鈴原のオフ会トークに巻き込まれないよう、そそくさと帰るふりをしてここまでやってきた。

 

 ──お詫びは、例の場所でしよっか。

 

 山本さんに指定されたその場所は、資料室だった。

 俺は山本さんとは二度この部屋を訪れている。

 忘れ物を探すから鍵を貸して欲しいと説明すれば、山本さんは優等生なのですぐに貸してもらえるようだ。

 

 ここならば部活動でやってくる生徒もいないし、邪魔が入る可能性は極めて低い。

 肝心の先生方はというと、実はこちらもほとんど来ない。

 というのも、この資料室は名ばかりで、生徒に配るプリントを一時保管しておくか、古くなったけどなかなか捨てられない紙を溜めておくぐらいにしか使用されないのだ。

 

 夏休みも始まったいま、先生たちの心血は教員研修に注がれている。

 彼らがデータの整理やスケジュール立てに勤しむ中、俺と山本さんはこれからこっそりと風紀を乱す行為に及ぶのだ。

 

 周囲に人がいないことを確認し、ドアに手をかける。

 ガラッと開かれたドアの向こうには、山本さんが待っていた。

 

「お待ちしておりました」

 

 山本さんは笑顔で俺を歓迎してくれた。

 指をクイッと下げて鍵をするようにお願いしてくる。

 

 まだ生ぬるいくらいだが、この部屋にも冷房が効いていた。

 

「えっと、確認なんだけど」

「むふふ。お詫びの内容? 心配しなくても、ちゃんと出してあげるよ」

 

 山本さんは自由奔放だ。

 短い付き合いだが、その明るさに裏がないことは俺にもわかった。

 

 しかし、だからといってエッチに抵抗がないというのは引っかかる。

 山本さんがただの天然なら理解のしようもあるが、山本さんは自分の可愛さをきちんとわかっている人だ。

 そんな人が自分の体を大切にしないわけがない。

 

「すごく今更なんだけど。山本さんって彼氏はいなかったんだね」

 

 それは鈴原と付き合うよりも前の話。

 これだけ頭も性格もいい美少女なら、この学校に限らずとも好きな男を選べたはずだ。

 

「うん」

 

 山本さんはしっとり頷くと、傍らに置いてあった椅子を二脚並べた。

 

「ちょっと、お喋りしようか」

 

 俺は誘われるままに隣に座った。

 なんでこんな美貌が俺の側にあるのか、現実味がない。

 

「ソトミチくんはさ。私の印象、どんな感じ?」

「美人で優秀な完璧超人」

「ふふっ。せーかい」

 

 山本さんは俺の頬を人差し指でプニッと押した。

 

 ん、まずいぞ。

 このイチャましい感じ、ドキドキしてきた。

 恋をしてしまいそうだ。

 

 うん、いや、なにもマズくない。

 これで山本さんを女の子として見られるなら、俺にとってはなによりの僥倖だ。

 

「私はさ。なんでもできるんだよ。なんでも持ってる。この人生は、全てに満たされてた」

 

 座面を両手で掴んで、山本さんは足をフラフラさせる。

 

「私はもうね、受験勉強なんてとっくの昔に終わってるの。大学を卒業しなくたって、雇ってくれるところはたくさんある。運動も得意で、毎日健康。オリンピックを目指してもいい。難しい計算に頭を使わなくたって、モデルとかでお金は稼げるし。お金なんか稼がなくても、私を養ってくれる人なんていくらでもいる」

 

 並べ立てられた傲慢の数々。

 この全てが事実として疑いようのないレベルにあるところが、山本さんの凄さであり、山本奏という人間の等身大だった。

 

「そんな中でね、私が一番好きで得意なのが」

 

 山本さんは俺に体を寄せて、椅子に座るその横から、俺の腕に豊かな膨らみを押し付けてくる。

 潤やかな目で俺の顔を見つめる上目遣い。

 

 フワッと温かい空気に、花の匂いが混じった。

 

「こうして」

 

 山本さんの顔が近づいて、互いの頬を掠める。

 

 その唇が、俺の耳朶をミュッとはんだ。

 

「んあっ……あぁっ!!」

 

 全身に淫楽がほとばしる。

 

 唾液の熱い粘性が俺の耳輪を這って、吹きかけられた吐息に、俺の陰茎はスラックスの中で一気に膨張した。

 

「エッチな体を気持ちよくするの」

 

 山本さんの指が、パンパンに張ったスラックスの股間部を擦り上げた。

 

「うぐっ……あっ……はぁっ……!」

 

 空いた手で俺の首を触り、更に体重を傾けられた俺の半身が、山本さんの柔らかさで包まれる。

 まだ脱いですらいないこの状況で、俺は女の子と裸でまぐわっているかのような錯覚に陥っていた。

 

 これまで体験したものとはまるで質が違う。

 生のエロスが俺の性欲を沸き立たせている。

 

「射精ができないだなんて。じゃあ今日が精通の日かな」

 

 首に濃厚なキスで吸い付いて、手は俺の股下に忍び込ませてくる。

 玉の外側から裏筋の皮膚まで、山本さんが手を滑らせると、俺の肉棒はビクンビクンと激しくのた打ち回った。

 

「ああぁっ……それ、やばっ……うっ……ああっ!!」

 

 服の上から体を重ねられているだけなのに。

 全身が媚薬を塗られたように熱くなる。

 

 山本さんの肉感が服の外から伝わって来るたびに、射精と同じレベルの快感が突き抜けた。

 

「へぇ。ソトミチくん、まだ出してないんだ。えらいね」

「んっ……!」

 

 母親が子供を甘やかすみたいに頭を撫でられて、それすらも性感として俺の神経を刺激する。

 

「まだ、って、はぁ、服の上から、してもらってるだけだし……」

 

 耳を舐められてソフトタッチをされているだけ。

 手コキにすら至っていない。

 

 だが、山本さんの言葉も、意味がわからないわけでもなかった。

 

 耳を甘噛みされたときのあの快感。

 美優の呪縛さえなければ、俺は息を吹きかけられた時点で射精していた。

 

「それがえらいんだよ。みんなこうするだけでズボンまで濡らしちゃうんだもん」

 

 山本さんは俺のズボンのチャックを下ろし、亀頭の先っぽをぐりぐりと攻めてくる。

 

「ふぁっ……いっ……ぎも、ちぃぃっ……!!」

 

 指と亀頭、パンツという薄い布を挟んだだけの状態。

 よりリアルになる山本さんの指の感触に、かつてない悦楽が俺の脳を侵していく。

 

「ぴゅーっぴゅって。出ると気持ちいいもんね」

「あっ、あっ、あっ……!」

 

 山本さんの声が俺の男としての自我を引き剥がしていく。

 

 気持ちいい。

 このまま永遠に快楽に支配されていたい。

 もう射精していても不思議じゃないのに。

 

「しゃせぇしたいの?」

「したいっ! し、したい……ああっ……射精、させてくれっ……!」

 

 気づけばベルトが外されていて、俺は腰を上げていた。

 喘ぎながら天井を向いて、ズボンを下ろされたこの体勢。

 情けないほど気持ちいい。

 

「んふっ。別に我慢させてるわけじゃないのに。ほら、ここにせーえきいっぱいあるよ」

 

 トランクスの下から山本さんの手が入れられた。

 その手が、陰茎の根元から玉袋の全体を、優しく包み込んでいく。

 

「ああああっ! あっ、ああっ!!」

 

 射精した。

 そう思った。

 

 すでに何回も絶頂を迎えているはずなのに。

 ただ射精という現象だけが起こっていない。

 

「ほんとに出ないんだ。ここまで我慢できた人って初めて。私もちょっとドキドキしてきちゃった」

 

 山本さんは早々に、また腰を上げる要求をしてきた。

 

 パンツを脱いで、外気に触れる肉棒。

 美優に一晩中焦らされたときと同じぐらいに反り上がった肉棒に、山本さんは頬を緩める。

 

「でもね、ソトミチくん」 

 

 伸ばされる手。

 更に密着して、俺は山本さんに抱きつかれる形になった。

 

「声出しすぎ」

 

 そう囁いて、山本さんは俺のペニスを一気に扱いてきた。

 

「ああぁっ! あっ! んはぁあ! うっ……あぁああっ……それ、もう、出る、出るッ出るでるっっ!!」

 

 腰が跳ね、体が跳ね上がる。

 学校内ということを忠告されても抑えきれない嬌声。

 

 それでもなお、精液は射出されなかった。

 

「すっごいトロトロ。こんなにヨダレを垂らしてるのに、精子は出してくれないの?」

 

 いやらしい音を立ててペニス全体に先走り汁を塗りたくる。

 山本さんの大きくて柔らかい手。

 美優や佐知子のものとはまったく違った感覚。

 

「ふぁ……あぁ……あっ、あああっ! きもちぃぃい! いや、もう、出る、出る……」

 

 それは快感を伴う潮吹きのよう。

 快楽だけが繰り返される空射精。

 頭がおかしくなりそうだった。

 

「よいしょ。よいしょ。あともうちょっとかな」

「あと、ちょっと……もう…………うっ……!!」

 

 射精できる。

 妹をオカズにすることなく。

 山本さんがくれる快感だけで、俺は子種を出すことができる。

 

「がんばって、ソトミチくん。もうおちんちんは、準備できてるよ」

 

 仰け反る体。

 山本さんが俺のペニスを握り込む。

 

 小指が裏筋をなぞって、それがまた射精と等しい快感を生む。

 薬指にカリをくすぐられて、また射精をしたのかと錯覚した。

 中指が皮の内側を擦り、人差し指が亀頭を撫で、手のひら全体が包み込む圧迫感に、俺は何度も脳の中で射精した。

 

「ああっ……がぁはっ……うっ……んぁぁあああぁっ!!」

 

 終わらない。

 山本さんの手がワンストロークするだけで、俺の下半身に射精数回分の刺激が広がって、それでもなお、フィニッシュを迎えることはない。

 

「があぁっ、はぁ、もう、だめっ、ちょ、すとっぷ、しぬ、あ、ああっ、あんっ、ああっ!」

「あらあら。本当に出ないんだねぇ」

 

 ゆるりと山本さんの手が止まっていく。

 あやうく腹上死するところだった。

 

 山本さんが手を放すと、教室の空気がやたらと冷たく感じた。

 今はそれが心地良い。

 熱くなりすぎて溶けてしまいそうだった。 

 

 まだ剛直を保ったままの陰部。

 山本さんの目はそこに釘付けになっている。

 

「すごい……こんなに硬いの初めて見た……」

 

 山本さんにつつかれて、そのたびにペニスがピクピクと動く。

 山本さんはそれを面白がって、いたずら紛れに俺への快感攻めを少しだけ続けた。

 

「おっ、あっ……! きゅ、休憩、させて……くれ……」

「あ、ごめんごめん」

 

 山本さんは楽しそうな表情はそのままに大人しくなる。

 

「ああ……死ぬほど気持ちよかった……」

「でも出なかったね。本当に射精できないんだ。びっくり」

 

 こんなに硬いのにね、と山本さんは俺のペニスを指で摘んだ。

 

「勃ってるの、そんなに珍しいのか? 結構、経験ありそうだったけど……」

「経験の数え方次第かな」

 

 山本さんは俺の体をベタベタ触りながら話を続ける。

 

「私ね、いろんな人と付き合って、それなりの関係にはなってきたんだけど」

 

 躊躇いから生まれる一拍。

 だが、中断する意味も、もうなくなっていた。

 

「いっぱいエッチはしてきた。でも、私……十秒以上……エッチしたことなくて……」

 

 語られる真相。

 これこそが、山本さんの抱える悩みだった。

 

「だいたいの人は、私からイチャイチャするだけで出ちゃうの。保つ人でも触ったらすぐイッちゃって。……私が心から楽しもうとするとね。それだけで、みんな限界を超えちゃうんだ」

 

 相変わらずの規格外。

 このヴィーナスは美しいだけに留まらない。

 人にとって良薬となるはずの能力が、行き過ぎたことにより毒に変わった事例だった。

 

「それは、ツラいな。俺も、似たような悩みがあるから、わかるよ」

「ん? 似たような悩み? ふふふっ。あはははっ!」

 

 急に笑いだした山本さん。

 とても楽しそうな笑顔だった。

 

「いやいや、ソトミチくんの方が深刻だよ。なんか私、悩んでて馬鹿みたい」

 

 山本さんは目尻に溜まった涙を、指で拭う。

 

 そんなに笑うとこか。

 

「これさ、こんなギチギチにおっきくなってるのに、射精できないんでしょ? ムラムラしたときはどうしてるの?」

「うっ……それはだな……」

 

 妹をオカズにすれば抜ける。

 

 言ってしまうか。

 この雰囲気なら、山本さんも俺の悩みを受け止めてくれるだろう。

 

 ただひとつ問題なのは、山本さんが美優と知り合いだということだ。

 話がめちゃくちゃこじれそうで怖い。

 

「とりあえず……口で……してくれると……」

「お口? そっか、ソトミチくんからしたら焦らされ状態だもんね。よしよし。我慢できたご褒美にお姉さんがフェラしてあげよう」

 

 山本さんは俺の正面に回って膝立ちになる。

 両手でペニスを支えて、まずは内ももから、陰嚢にかけてねっぷりと舐め上げられる。

 

「あぐっ、あっ、舌、舐められるの、めっちゃ気持ちイィ……!」

「喜んでもらえるのは嬉しいんだけどね、ソトミチくん。ここ、学校だから、あんまり喘がないでね?」

「す、すまん」

 

 俺は両手で口を塞いだ。

 声なんて、我慢すればいいだけのはずだが、本当に気持ちいいときはどうにもならなくなる。

 だからこうして押さえつけないと、声を殺すことができない。

 

「んちゅ、むぬゅ、んっ……」

 

 根元からキスするように、山本さんは俺の陰茎全体に唇を這わせる。

 それが先端まで達すると、迷いなく口の中に俺のモノを咥えこんだ。

 

「じゅぶじゅるんちゅっ、ちゅぶぐちゅんんっちゅ……!」

「んんんん!! ん、ああん、んっ……!!」

 

 唾液たっぷりの口内が俺の肉棒を包み込んだ。

 絡みつく舌も、唇も、頬の内側の粘膜さえ、快楽によってペニスを蹂躙してくる。

 

「ぐちゅ……じゅぶっ……んじゅぶぬぷっ、ぬちゅ……」

 

 激しく押し寄せる荒波のような快感。

 口を押さえてなかったら叫び声を上げていた。

 肉棒が山本さんの体温と交わり合って、もうどうなっているのかわからない。

 もう何度も口の中でビクついているのに、これでも射精できないなんて。

 

「ぁ、んんっ、んふっ、ふぅ、あぁ、あぅっ……」

 

 今度は酸欠で意識が飛びそうだった。

 でも、今手を口から離したら、間違いなく学校中に俺の喘ぎ声が響き渡ることになる。

 

 もうダメだ。

 死ぬほど射精したい。

 快楽を生み出すため生まれたようなこの淫らな口の中で、欲望を思い切りぶちまけたい。

 

 美優、許してくれ。 

 山本さんとのエッチで射精することを。

 いますぐこの口の中に精液を出すことを。

 

『──そんなに出したいの? お兄ちゃん』

 

 俺の耳の傍で、そう囁かれた気がした。

 

 連鎖的に湧き上がってくる美優とエッチした思い出の数々。

 

『お兄ちゃん、射精するの好きだもんね』

 

 かつて美優が俺に言ったその言葉が、精液をせき止めていた精管の詰まりを、一気に吹き飛ばした。

 

「あっ──!! 山本さん、ごめん、出るッ、出るっ!!」

「ん!? ん、あっ、ふっ、むちゅ、んぐっ……!」

 

 びゅっ、びゅぐっ、どびゅるっ、びゅるっ──!

 

 限界を超えて溜めた精液が、鉄砲から発射されたみたいに山本さんの口内に吐き出された。

 

「うっ……うぐっ……!」

 

 苦々しい顔で、離れそうになる口を必死で留める山本さん。

 俺の射精が終わると、ゆっくりペニスを引き抜いて、口を手で押さえた。

 

「ううぅ~!!」

 

 目を赤くして泣いていた。

 それから、俺の精液を飲み込もうとして、何度か失敗してえずいて、ようやく喉の奥へと流し込んだ。

 

「ごほっ、げふっ、うっ、うぷっ……うぅぅ……死ぬほど不味い……」

 

 山本さんが子供みたいな泣き顔になった。

 そんなに不味いのか。

 俺の精液は。

 

「わ、悪い」

「私こそ、ごめんなさい……うぷっ……」

 

 本当に気持ち悪そうだった。

 由佳や佐知子にも不味いって言われたけど。

 

「ごめんね、こんな風になったことないんだけど。久しぶりだったからかな。ほんと、気分悪くさせちゃって、ごめん、だけど、水、飲んでくる……!」

「ああ、おう。ゆっくりしてきて」

 

 山本さんはダッシュで部屋を出ていった。

 

 俺は山本さんが精液の味を洗い流している間に服を着て、戻ってくるのを待った。

 

「た、ただいま……」

 

 げっそりとした顔で戻ってきた。

 吐いたりしてなきゃいいけど。

 

「そんなに不味い?」

「ソトミチくんのために、正直に言わせてもらうけどね……これはね……飲める人……ほとんどいないと思う……」

「そ、そうか」

 

 それなりに経験豊富そうな山本さんですらこれだからな。

 

 美優のやつ、実は味覚が死んでたりしないよな。

 あいつにも散々不味いとは言われてきたけど。

 

「で、でも!! 出たよ、ソトミチくん! 射精できたよぉ……よかった……悩み解決してあげられないかと思った……!」

「お、おう。そうだな」

 

 これは、話さないとダメな流れだな。

 

「あれ? そんなに、嬉しそうじゃない?」

 

 残酷なことだ。

 これだけ頑張ってもらって。

 俺はまた人を傷つけることしかできない。

 

「……本当の俺の悩み、聞いてくれるか?」

 

 俺が尋ねると、山本さんは黙って首を縦に振った。

 

「俺、射精できないって、言ったけど。実は、一つだけ出せる条件があって」

「おおっ。ふむふむ」

 

 山本さんは身を乗り出して食いついてくる。

 

 大丈夫。

 山本さんなら嫌いにならずに受け入れてくれる。

 この聖女のような女性なら、理解してくれるはずだ。

 

「妹のことをオカズにしてるときだけ、射精できるんだ」

 

 紡がれた真実。

 

 続いたのは沈黙。

 

 ついに言ってしまった。

 俺の倫理も常識も度外視にした深刻な悩みを。

 

「えっ……」

 

 案の定、山本さんはドン引きしていました。

 

「あの、え? 妹って、美優ちゃんのこと? 義理、なの……?」

「血の繋がった実の妹だけど」

「はぁ……」

 

 山本さんは一時停止を押したみたいに固まった。

 あのクールでエロいことになんかまるで興味のなさそうな妹を知っているからこそ、それをこっそりオカズにしているなんて考えられなかったのだろう。

 

「えーっと。なんというか。切実だね」

 

 そう、切実なのだ。

 だからこうして、妹以外で射精できないかと必死になってきた。

 

「つまりさっきのは、フェラの最中に美優ちゃんのエッチなことを考えてたということでしょうか?」

「すまん」

「おふ……」

 

 自分の力で射精させたと勘違いしていたことと、射精の要因が実の妹であったことが、山本さんの頭を混乱させていた。

 

「美優ちゃんの口に出すつもりでイッたの?」

「そ、そんなところ」

「この精液はね……さすがに……美優ちゃんに出したら怒りそう……」

 

 間違っちゃいないけど。

 誰よりも率先して飲んでくれるのはその妹なんだがな。

 

「ソトミチくんがなかなか言わなかった理由がよくわかりました」

 

 ようやくわかっていただけましたか。

 

「ソトミチくんはどっちを応援して欲しい?」

「どっちって?」

「美優ちゃんとエッチできるようにするのと、美優ちゃんのことを考えずに出せるようにするのと」

 

 山本さんは意外にも前向きだった。

 まあポジティブを固めて作ったような人だしな。

 

「できれば、後者が嬉しいけど。応援してもらえるの?」

「いいよ。聞いてたらだんだん楽しくなってきた」

 

 山本さんはニコッと笑ってくれた。

 ああ、やっぱり話してよかった。

 

「それに、あとはその、私の悩みもですね……」

 

 そういえば、山本さんの悩みって、付き合った人がみんなすぐにイッてしまうから、まともにエッチができないことだったか。

 

「失礼を承知で聞くんだが、鈴原のやつとはしたの?」

「うーん……たぶん……」

 

 たぶんってなんだ。

 

「鈴原くんは私が抱きつくだけでイッてしまいました」

「それはまた」

 

 でも、俺も美優がいなかったら同じだっただろうし、悪くは言えないな。

 

「二次元美少女以外では興奮しないなんて言ったくせに。そんな言葉に期待した私も馬鹿だけどさ。……それくらい、もう色々と投げやりになっているといいますか」

 

 山本さんは不満顔でそう語った。

 他の優秀な男たちを試してダメだったからこそ、鈴原みたいなやつにもチャンスが回ってきたわけか。

 

「付き合う条件って、やっぱり山本さんをエッチで楽しませることだったのか?」

「そんなとこ。今までの人はそれがダメならダメですっぱり諦めてくれてたんだけど。まさかこの悩みをネタに脅されるとは思ってなかったよ」

「それは警戒心が薄すぎるな」

「だねぇ」

 

 山本さんはまた椅子に座り直して俺と並んだ。

 部屋にはまったりした空気が流れている。

 

「俺が鈴原とショッピングモールで話してたときは、ラブラブにセックスしてるって感じだったけど。愛の営みがどうとか言ってたし」

「鈴原くんが? あはは。まあ、男の子だもんね」

 

 あの会話には鈴原の見栄が多分に含まれていた。

 

 よくよく考えてみると、俺が鈴原から話を聞いていた時点で、山本さんとは上手くいってなかったんだよな。

 イチャイチャなんてしているはずもなかった。

 

「私が最初からその気になるとすぐイッちゃうから、とりあえず脱いでベッドに横になってって言われまして」

「おう」

「それからゴソゴソと、一分くらい経って」

「うん」

「出ちゃったって言われて、終わった感じ?」

「あいつ本当に童貞卒業したのか……」

 

 山本さんがたぶんって言ったのはそういう理由か。

 どっちにしても、ひと月は付き合って、エロい体験があったことには変わりないが。

 

 山本さんにとっては、脅される危険を顧みずに賭けるだけの願いだった。

 セックスを楽しめないことがそんなに辛いことだったなんて。

 だから俺とも、こんな簡単にエッチをしてくれたと。

 

 ふむ。

 

 納得できん。

 

「山本さんは、それ以外にも取り柄がたくさんあるだろ? 人の価値観なんて、他人が決められるものじゃないけどさ。俺にはそこまで体の関係に固執する理由がわからないよ」

 

 山本さんはセックスなんかしなくたって楽しい人生を送れるはずだ。 

 誰もが羨む能力をたくさん持っている。

 いや、セックス以外の全てができると言っても過言ではない。

 

「……言ったでしょ。しょーもない悩みだって」

 

 山本さんはかつて俺に言った。

 深刻な悩みではあるが、説明したところでどうせわからないと。 

 

「きっかけは中学生の頃だったの。初めて付き合った男の子とね、まあ、そういう雰囲気になりまして」

 

 それが山本さんにとっての初めて。

 初体験と呼べるほど、確かなものではなかったようだが。

 

「何度やっても上手くいかなかった。そのうち相手が自信を失くしちゃって。最初は、それが原因で別れることになっちゃった」

 

 山本さんという高嶺の花を抱えていたからこそ、その重圧は大きかったのだろう。

 

「次の人も似たような感じ。ただ、二人目は私から別れを切り出したの。初めての失敗が頭にこびりついてて、どうにもギクシャクしちゃって」

 

 中学生の頃から完璧な美少女だった山本さん。

 付き合う男には困らなかったが、その先まで発展することはほとんどなかった。

 

「たったそれだけのことが私にとっては綻びになっちゃったの。付き合う目的と、別れ癖。それに雁字搦めに縛られて、何回も恋人を作っては別れた。みんなひと月も保たずにね。体の関係になる前に別れる人もたくさんいた。もうその頃には、何のために彼氏を作ってたのかもわかんなくなってた」

 

 小さい頃から、それを積み重ねたというだけ。

 些細なこだわりが、やがて山本奏という人格の一部を変質させていった。

 

「不思議でしょ? 私はこんなに可愛くて、こんなに優秀で、家族にも友人にも恵まれて、生きていくのに困ることなんて何もなかったのに」

 

 山本さんは右手を開いて、手のひらをぼーっと見つめる。

 そこには世界の誰もが羨む全てが与えられていた。

 一つの完璧の形が、存在したというのに。

 

「今じゃただの馬鹿な女。もっと上手に生きる方法なんて、いくらでもあったはずなのにね」

 

 理想の男を見つけて、何不自由のない人生を謳歌するはずだった。

 そんな少女が今、こんなちっぽけな公立高校に律儀に通っている。

 

「私はね。ごくごく普通に青春を過ごして、ごくごく普通に就職して、慎ましやかに暮らすんだ」

 

 山本さんは俺の顔を見て、また優しい笑顔になる。

 

「変な女でしょ。嫌いになった?」

「あー……いや、別に」

 

 俺の周りは変な女しかいなさすぎて、もう、逆に普通というか。

 

 なにより、俺自身が異常だし。

 

「なら!!」

 

 椅子を蹴飛ばし気味に立ち上がる山本さん。

 元気が良くて大変好ましい。

 

「あのですね。お願いが、あるのですが」

 

 その勢いの割には、しおらしい態度だった。

 

「ソトミチくんの悩みに便乗するみたいで、悪いんだけど……」

 

 それが、山本さんにとっての望み。

 誰にも希望を見いだせなかった、その唯一がここにある。

 

「もし、よろしければ。私と、セックスしてもらえませんか?」

 

 顔を赤らめてもじもじする。

 まるで生娘のような姿の山本さんが、そこにはいた。

 

「別に、いいけど」

 

 明日の、夏休み初日。

 

 フェラでは破れなかった妹という壁。

 男として、正真正銘最後の希望を賭けて。

 

 俺は山本さんの家に行くことになった。

 



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一緒に寝ると落ち着く

 

 俺は山本さんとセックスをする約束を取り付けて、ふわふわと現実味のない気分のまま家に帰った。

 

 今日は俺の料理当番。

 冷蔵庫の中身が少ないが、あえて買い足すことはしなかった。

 

「お兄ちゃんおかえり」

「ただいま」

 

 キッチンでぼーっと突っ立っていると、玄関近くで荷物をまとめていた美優がやってきた。

 明日から美優は旅行に出かけるのだ。

 

 荷物をまとめるといっても、トートバッグに収まる程度のものだけだが。

 服などは一式宿泊先に用意されているらしい。

 いったいどんな豪勢な旅行をするのやら。

 

「荷造りは終わったのか」

「終わったよー。お腹空いたからご飯が食べたいな」

「今から作るよ」

 

 食材の残りはチーズと玉ねぎと肉がひとしきり。

 美優が親に買わせた高ワット数のオーブンレンジがあるので、炒めるものを炒めてグラタンにしてしまおう。

 

 俺が料理をしている間、美優はソファーでスマホをいじっていた。

 友達との連絡もそれほど頻繁に取らない美優が、画面にかじりついているのは珍しい。

 

「何やってるんだ?」

「マジョマル」

「まじょまる? ……って、それ俺がやってたアプリ?」

「そうそう。なんかレアなやつ当たったから続けてる」

 

 よくあるガチャ系ゲームのハマりパターンだな。

 大手はどうだか知らないが、ユーザーのプレイの癖から性別や年齢を予測して、キャラを当てやすくしているところもあるんだとか。

 

 俺が料理を作り終えるまで美優はずっとゲームをやっていた。

 昔は俺がゲームをやるたびに文句を言うようなやつだったから、ゲームに夢中になっている美優なんて新鮮な絵面だ。

 

 美優は背筋をスッと伸ばしてソファーに座って、両手で丁寧にスマホを持ってゲームをしている。

 リスが餌を食べてるみたいで可愛い。

 

 進み具合はどれくらいだろう。

 とても気になる。

 

 俺は手早く具材を耐熱皿に移してオーブンレンジに放り込むと、それとなくスマホを手にしてソファーに近づいた。

 

 その気配に気づいた美優が、ハッと俺の顔を見上げる。

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん」

 

 美優が俺にスマホの画面を見せてきた。

 そこに表示されていたのは、マジョマルのユーザID。

 

「おトモダチになりましょう」

 

 おトモダチ──美優が言ったそれは、マジョマルのゲームシステムの一つだ。

 このトモダチ機能を使えば、トモダチになったユーザ同士が戦力を共有して助け合うことができる。

 トモダチ申請が承認されるとトモダチになり、自分が育てたキャラを相手にも使ってもらえるようになるのだ。

 

 俺が始めたのも美優より数日早い程度だが、鈴原から攻略法を教わっていたおかげで他のユーザーより進みが早い。

 序盤なら俺のキャラを使うだけで無双状態だ。

 それが美優にとって楽しいのかは、本人に判断してもらうしかないな。

 

 俺が美優のIDを検索すると、『Miyu』という名前のユーザーがヒットした。

 

「レベル25か。意外と進んでるな」

「由佳を縛り上げた後とか、お兄ちゃんが来るまでずっとやってたからね」

 

 あれだけ怒ってたのに当事者がいないときは無心でいられるのか。

 我が妹ながら恐ろしいほどのアイスハートだ。

 

「お兄ちゃんも夜は暇でしょ。ご飯を食べたら一緒にやろ」

「はいよ」

 

 俺は夕飯をテーブルに並べて、美優と向かい合いに座った。

 明日から一週間はこうして二人で食事をすることもなくなる。

 山本さんと会えるのは嬉しいけど、家に誰もいないのは寂しいな。

 

「今年はどこに行くんだ?」

「北海道。お花がキレイみたいだから散歩してくる。あとはひたすら食べる」

「それで一週間も滞在するのか」

「他にも目的は色々とあるからね」

 

 グラタンをふーふーしながらスプーンで頬張る美優。

 淡々と答えているが、要するに丸一週間、遥とレズってくるんだよな。

 

「旅館に泊まるのか?」

「別荘らしいよ」

 

 別荘……金持ちの用語だ。

 俺の知っている旅行と何もかもが違いすぎる。

 

「遥って金持ちなんだな」

「遥のとこは一般家庭だよ。遥が仕事で仲良くなったお姉さまがお金持ちだっただけ。……というかお金を余らせた変な人しか来ないけど。運転手もその女の人がやってくれるみたい」

 

 北海道で方々回るなら車は必須か。

 中学生2人の旅行を支援するお姉さま……いったいどんな変人なんだ……。

 

「遥の仕事ってなんなんだ?」

「うーん……モデル、かな。それ以上は言えない」

 

 なぜだ。

 

「別に調べたりはしないけど」

「そういう問題じゃないの。いいから遥には興味持たないで」

 

 美優は俺が遥のことを知るのを頑なに拒む。

 隠されると暴きたくなるのが人間のサガだ。

 

 とはいえ、美優は恩人でもあるし、そこまで嫌がるなら聞かないでおくか。

 

「お兄ちゃんは夏休みどうするの?」

 

 美優からの質問。

 流れとしては、やっぱりそうなるよな。

 

「バイトは入れたよ。あとは、まあ、明日とかは、山本さんと会ってくる」

「エッチするの?」

 

 ズバッと切り込む美優の言葉。

 かまをかけたつもりなのか、ハナからわかっていたのか。

 

「することには、なると思う」

「そうなんだ。頑張ってるね」

「棚ぼただけどな」

 

 俺が頑張ったことって、何かあったっけ。

 どれも偶然の産物だし、そのチャンスを作ってくれたのは美優なんだよな。

 

「妹離れができるといいね」

 

 美優はグラタンを平らげると、そっとスプーンを置いた。

 

 それから食事を終えて、俺と美優は並んでソファーに座った。

 こうして近くにいると美優の体の小ささがよくわかる。

 抱きしめたら包み込んでしまえる愛らしさ。

 性的な欲求とは無関係に触りたくなる。

 

 俺は背もたれに寄りかかって、姿勢良くゲームをする美優を後ろから眺めていた。

 背中と平行に伸びるキレイな黒髪。

 こういう後ろ姿って街中を歩いているときにふと目で追ってしまうんだよな。

 追い抜いて顔をチラッと覗くと好みじゃないことが多いけど。

 

 目の前にいるこの妹は、顔はもちろんボディの細部に至るまで整っている。

 ここまで自分を大切にしている女の子を、何をしているわけでもない俺が独占できるのは、ただ兄だったからという他に理由がない。

 こうして2人で暮らせるだけでも幸せなことは、忘れないようにしないと。

 

「お兄ちゃん。どれ育てればいい?」

 

 美優が俺に所持キャラクターの一覧を見せてきた。

 たしかにレアなキャラが揃っている。

 

「回復タイプと攻撃タイプをバランスよく育ててればまず負けないよ。アニマル進化が強いキャラばっかりだけど」

「えー。魔女っ子にしたいのに」

 

 美優はぶつくさ文句を垂れながら進化ボタンをタップする。

 進化画面を進んでいくと、分岐先である魔女っ子進化した姿を見ることができるのだ。

 どうやら狐アニマルの『ヨーコ』が美優のお気に入りらしい。

 

 マジョマルには魔法少女への進化と動物の姿のままの進化の二つがある。

 どちらも可愛くデフォルメされていることに違いはないが、やはり女の子には魔女っ子進化が人気だ。

 

 無理をすると続かないし、こうして美優と趣味を喋れる時間がなくなるのは惜しい。

 俺みたいな効率重視じゃなければ好きにやらせるのが一番だな。

 

「ならこのサイトに強いキャラの組み合わせが載ってるから、参考にしてみたらいいんじゃないか。ヨーコをサポートする部隊って決めて攻略を進めてくのも楽しいよ」

「ふむふむ。なるほどなるほど」

 

 美優は頭も良いし要領も良い。

 しかし、ことゲームにおいては、頭の回転だけでは補えない『ゲーム勘』というものが存在する。

 美優もコツは掴みかけているようだが、こればっかりは経験だけがものをいう。

 しばらくは先輩でいられそうだ。

 

 それからゲームを続けて、バッテリーがなくなったら電源コードを持ってきて、更に続けること2時間。

 そろそろ疲れるのではと心配になるも、美優のやる気は衰えない。

 

「お兄ちゃんがいると難しいクエストがクリアできるからレベルがたくさん上がる……」

「序盤はレベルアップでスタミナ回復するから何度でもクエストに挑戦できるもんな」

 

 トモダチ機能には二つの側面があり、登録したユーザーのキャラを一体だけ利用できる機能と、近くにいるユーザーから複数体戦力を借りられる機能がある。

 いわゆるガチャでキャラを獲得するタイプのゲームは、プレイヤースキルでどうとでもなってしまうと一部のキャラしか使われなくなり、ガチャが回らなくなるため、どこかで必ず攻撃が当たるようシステムを組まれている。

 これが回復や防御などのキャラの存在意義を与えていて、たった一体のキャラを借りるくらいでは、このマジョマルでは難易度の高いクエストまではクリアできないのだ。

 

「休憩しなくていいのか?」

「じゃあ一旦お風呂にする。お兄ちゃんもその間に食器とか片付けといて」

「りょーかい」

 

 美優は足早に脱衣所に入っていった。

 小さい頃は俺がゲームをするとあれだけ不機嫌になったのに。

 歳を重ねると人は変わるものだな。

 

 俺は食器を片付けてから、美優の後に続いて風呂に入り、待たせると悪いのでそそくさと上がって髪を乾かしてからパジャマを着た。

 

 美優は部屋にいるようなので、コンコンとノックをしてみる。

 ドアはすぐに開けられた。

 

「歯は磨いた?」

「まだ」

「なら早く磨いてきて」

「はい」

 

 ガチャッ。

 

 無情にも閉じられたドア。

 

 俺は言われるがままに歯を磨いた。

 美優は準備万端で、あとはゲームをする以外に寝るしかない状態だった。

 俺にも同じようにしておけということだな。

 

 俺は寝支度をすべて終えて、再度美優の部屋を訪れた。

 

「歯磨き、終わったよ」

「わかった。部屋に戻ってて」

 

 続きは俺の部屋でやるようだ。

 女の子が男を部屋に入れるのは兄でも抵抗があるよな。

 

 俺がベッドに腰掛けていると、美優は俺の部屋にやってきて、当然のように横に座った。

 

 スマホと、枕を持って。

 

「なんで枕?」

「明日、起きるのが早いから」

 

 うん、それなら起床時間がズレるから、普通は別々に寝るもんだと思うんだけどね。

 

「前にお兄ちゃんと寝たとき、なんだかすごく寝入りが良かったの。だからこっちで寝る」

「そうか」

 

 許可をねだることすらしないあたり、俺が拒むとは思っていないんだろう。

 当然、拒否する理由なんて無い。

 

「お兄ちゃんはマジョマルやってると暇?」

「そんなことないけど。美優ほどスタミナが余るわけじゃないからな。パソコンの方のゲームでも進めようかな」

「エッチなゲーム?」

「それはもう美優が売っただろ」

「そうでした」

 

 我慢ならなくなって新しいのを買うこともありえたかもしれないけど。

 俺の性生活は信じられないくらいに充実している。

 美優以外をオカズにできなくなってからは、ネットでエロ画像を漁ることすらなくなった。

 

「マジョマルを始めたきっかけもそうなんだけどさ。鈴原にな、ゲームオフ会に参加しないかって誘われててるんだ。そんなに乗り気じゃないんだけど、趣味の幅が広がるならいいかと思ってとりあえずゲームは再開したんだよ」

 

 俺は元々、オンラインRPGをメインにやっていた。

 ゲームが公開されたばかりのときは特定のキャラに強さのバランスが偏ることもあり、プレイヤースキルを磨いてランカーと渡り合ったこともあったが。

 

 オンゲなんて結局は課金がモノを言う世界。

 いつしかその溝を埋めるのに疲れてやらなくなった。

 それでもゲームに時間を費やしていた習慣は消えず、鈴原に勧められてからはエロゲばかりをやっていた。

 

「ならパソコンのゲームやってていいよ。そっちも見てみたい」

 

 ゲーム慣れが影響したのか、美優はパソコンにも興味を持ち始めた。

 俺としては語れる分野が一気に広がるから嬉しい限りだ。

 

 美優は俺のスマホと自分の端末の2つを持って1人マルチモード。

 立派なゲーマーの姿だ。

 

 俺もオンラインゲームにログインして野良でパーティに参加する。

 

 会話が発生するわけでもなく、部屋だけを共有してゲームを進める。

 ネットの仲間でゲームオフ会をやったらこんな感じになるんだろうな。

 

 しばらくすると美優が横にやってきた。

 とはいえ、それからはずっとディスプレイを眺めているだけ。

 やるかと聞いても美優は遠慮した。

 

 無機質な視線を背後に感じつつ、ストーリーパートとして用意されているクエストを消化していく。

 それも2時間ほどで片付くと、気付けば美優がベッドに座って枕を抱えていた。

 

「寝るの?」

「寝る。お兄ちゃんもたまには早寝しよ」

 

 美優はベッドをポンポンと叩く。

 時間は夜中の10時を過ぎたところ。

 だいぶ早いけど、俺も明日は疲れそうだし、もう寝てしまうか。

 なによりこの妹に誘われたとあっては断れない。

 

 パソコンをシャットダウンしてから、俺がベッドの奥に入り、その横に美優が寝る。

 部屋を暗くして、目が慣れてくる頃には、一つの布団に二人分の体温があることがはっきりとわかった。

 

 内側を向くと美優と目が合う。

 白い肌が月明かりに照らされて、目鼻立ちの整った顔がより美しく映える。

 

 ……俺、なんでこんな可愛い子と同じベッドに入ってるんだろ。

 

「くっついたら邪魔?」

「え!? い、いや、全然……」

 

 美優は俺と距離を詰めて密着してきた。

 それも、以前のように下腹部に隙間を作った状態ではない。

 足まで絡めての完全密着だった。

 

 じわじわと全身に伝わる美優の体温。

 暖かい、そして、柔らかい。

 

 おかしい。

 なんでこんなに積極的なんだ。

 もしかして、またお仕置きをするつもりか?

 俺はまた何かやらかしたのか?

 

 美優の頭がちょうど俺の鼻下あって、髪の毛の匂いが否応なしに俺の鼻孔を刺激する。

 伸縮性のあるナイトブラに、生地の薄いパジャマ。

 胸の肉が横に流れにくいせいで、よりダイレクトにおっぱいの肉感が伝わってくる。

 

 美優の体は、必要な脂肪分は残しているけど、やはり基本は痩せ型。

 抱きしめると全身の骨格がありありとわかる。

 

 ギュッと抱き寄せると、美優が更に体を寄せてきた。

 これは、合意ってことだよな。

 

 そして当然のように下半身に熱が集中してくる。

 これは美優だって覚悟しているはずだ。

 我慢できるはずなんてない。

 

 お互いのパジャマの柔らかさのおかげで、肌のままの感触がリアルにわかってしまう。

 膨らむ下腹部が、美優の股にちょうどぶつかって。

 その肉棒の固さは、きっと女の子の一番敏感な部分に当たっている。

 

 それでも美優はすやすやと寝息を立てていた。

 よほど俺の胸の中だと落ち着くらしい。

 

 俺も美優と寝たときは不思議なくらいすんなりと寝入ったけど。

 今日は寝る時間が早いせいか、まだ眠る気にならなかった。

 

 下半身を擦り付けて美優の股を圧迫する。

 ギュッと美優を抱きしめながら、俺はお互いの性感帯を無理やり押し付けた。

 

「っ……はぁ……」

 

 下がどうなっているかはわからない。

 美優の胸が大きすぎて、多少の隙間を作ったくらいでは覗き込めないからだ。

 しかしその分、体を押し付けるときに胸の形が変わるのが、ありありとわかる。

 

 俺のパジャマはシャツ一枚とハーフパンツだけ。

 気のせいかもしれないが、美優の、乳首の硬さが感じられる。

 

 上も、下も、美優の敏感な部分を擦っている。

 それでも文句を言わないのだから、美優はもう寝てしまっているのだろう。

 願い出るだけの睡眠導入効果はあるみたいだ。

 

 だが俺の方は、もう我慢出来ない。

 美優の股にペニスを押し付けるのをやめられない。

 

「あぁ……み……ゆ……」

 

 俺は美優の体を堪能して性欲を滾らせる。

 どんなに最低な行いでも、止める気にはならない。

 美優だって俺が我慢できるなんて思っていないはずだ。

 

 こんな風に誘ってきた美優が悪い。

 これがまた何かのお仕置きだったとしても。

 俺に我慢しろなんて無理な話だ。

 

「ふぅ……はぁ……はぁ……」 

 

 服を着たまま、やわい肌と硬い肉を合わせ続ける。

 

 布団と服が擦れる音だけが耳に届いた。

 俺がペニスを擦り付けているのは、美優のあそこ、女の子の性感帯、クリトリスだ。

 美優のクリトリスをぐりぐりしている、その事実が最高に興奮する。

 

 もう、射精しそうだ。

 だがどこに出せばいいのかわからない。

 このままだとパンツがびしょびしょになる。

 

 出しちゃいけない。

 その想いとは反対に、腰の動きは激しくなる。

 

「あぁっ、はぁ……美優っ……美優……あぁぁあっ! き、きもちいぃ……あぅっ……!」

 

 射精の寸前まで気を昂ぶらせる。

 

 まだ、まだいける。

 ギリギリのところで、腰を離すんだ。

 

 後少しだけならできる。

 

 気持ちいい。

 

 ああ、美優、もう、限界だ。

 

「んんっ……おにぃ、ちゃん……? なに、して、あっ……んっ!」

 

 射精の限界で腰を止めようとした直前、美優の意識が戻ってしまった。 

 不意打ちの美優の艶声に、寸でのところでせき止められていた射精欲が一気に吹き出す。

 

「ああぁっ、ま、まずっ、美優! ご、ごめん! あっ……!」

「ふえっ!? どうしたの!? お、お兄ちゃん!?」

 

 俺は咄嗟に仰向けになって、パンツとシャツにそれぞれ手を入れて服を浮かした。

 反り立った肉棒から射出された精液は、ちょうどその服の中に飛び散り、俺のお腹をべっとりと濡らす。

 

 どうにか服を汚さずに済んだが、美優は驚いてすっかり目を覚ましてしまった。

 あたりをキョロキョロして、身動きが取れなくなった俺の顔を覗き込む。

 

「えっと……お兄ちゃん……? もしかして、出ちゃった?」

「う、うん……」

 

 どうやら最後の最後に自分の股を使われていたことを自覚していたらしい。

 一瞬とはいえ喘ぎ声が漏れるくらいではあったからな。

 

「もう。ばかじゃないのお兄ちゃん」

 

 美優は事態がただの俺の暴走だとわかると、また布団をかぶって横になった。

 

「あ、あの、美優さん」

 

 俺は精液がつかないように服を浮かせるので手が埋まってしまっている。

 このままだと服がベトベトになるのを諦めない限り、身動きを取ることができない。

 

「もし、よければ、拭き取っていただきたいのですが」

「やだ。自業自得でしょ」

 

 美優はムスッとして、仰向けになった俺の腕にしがみつく。

 そして目をつむって、すやすやと寝息を立て始めた。

 

 まさかこのまま一晩を過ごせと言うつもりか。

 そりゃ勝手に射精した俺が悪かったけど。

 せめて腕を封印するのだけでもやめて欲しい。

 

 美優が寝入ってから、五分近くが経過した。

 俺は本当に身じろぎ一つできずに固まっていた。

 

 どうしよう。

 布団さえかぶっていなければ、シャツだけめくりあげてササッと精液を拭けるのに。

 

「んん……うーん……」

 

 美優は何度も唸りながら抱きつき方を変えた。

 どうやら熟睡まで至っていないらしい。

 

 それからまた、しばらくして。

 

 美優はパチっと目を開けてから、俺を睨んだ。

 

「お兄ちゃんのせいで眠れなくなったじゃん」

「わ、悪い」

 

 どうやら俺が硬いものを押し付けすぎたせいで下半身に違和感があるらしく、内ももをくねくねさせて不機嫌そうに美優は口をすぼめた。

 

 また怒らせてしまったかな、と思っていたら、美優は起き上がって布団をめくってくれた。

 

 俺が服を支えて隙間を作っているうちに、敷布団と背中に挟まっている服をズラしてくれる。

 

「もー。こんなに出して。奏さんの分が無くなっちゃうよ」

「す、すみません」

 

 美優に謝ってもしかたないことだけど。

 射精のし過ぎでエッチできませんなんて、山本さんに言ったらさすがに怒られるよな。

 

 今日はもう我慢しないと。

 

「ばかおにぃ」

 

 そう言って、美優はご飯を食べるときみたいに髪の毛を片方にまとめると、俺の腹部に顔を近づけて、じゅぶっと精液を舐め取り始めた。

 

「あっ、ああっ、ああああっ!!」

 

 美優の唾液の熱さが、精液の生ぬるさを上書きする。

 唾液で湿った舌が、普段他の人に触れられることのない体の部位を這って、敏感な神経が膨大な快楽を享受していく。

 

「ああぁっ、み、美優! それ、まずいって、あぁ、っがぁ……きもち……い……よすぎる……!」

「いいから。暴れないの。脇腹から垂れちゃうでしょ」

 

 美優は俺の脇の方から優先的に精液を舐め取っていく。

 そこは中心部より更に敏感な範囲。

 ザラザラした舌の細部まで感じてしまう。

 

「はっ、ん、んんっ! ダメだ、美優、また、俺……!」

 

 こんなことをされて、俺の肉欲が平静を保っていられるはずもなく。

 また射精直前と変わらないくらいに、ペニスはパンパンに勃起していた。

 

「んちゅ、むにゅ……んっ……じゅぶっ。……はい。いっぱい出しすぎ」

 

 美優は俺のお腹にぶちまけられた精液を全て飲み込むと、軽く口を押さえて息を吐いた。

 

「はぁ……はぁ……み、美優、あの、こんなことされると、また出したくなっちゃうんだけど」

「そんなに出して明日エッチできなかったらどう言い訳するつもりなの?」

「それは、だな……」

 

 射精をしたのは俺のせいだけど。

 まさか外に出した精液まで舐めてくれると思わなかったし。

 夢精した姿を見られたときのお詫びでも、ここまでガッツリ舌を使ってキレイにはしてくれなかったからな。

 

 いままで体感したことが無いくらいの快感だった。

 こんな状態で、寝られるわけがない。

 

「も、もう一回出したいって言ったら、怒る……?」

「むぅ」

 

 美優は俺に服を着させないまま、俺の横に寝転んで鋭い視線を向けてくる。

 

「実はもうすでに怒ってるんですけど」

「そ、そうか! そうだよな! それは、悪かったよ。ほんと、ごめん」

 

 無断で体を使ってエロいことをしてたんだもんな。

 怒ってて当然か。

 

「お兄ちゃんはいつもそうやって好き勝手に射精して」

「すまん」

「イキたいイキたいって。性欲に素直でいられていいよね。相手は血の繋がった妹なのにさ」

「本当に、申し訳ございません」

 

 今夜の添い寝だって、美優も俺と仲良くしてみたかっただけかもしれないのに。

 性欲に任せてまたひどい事をしてしまった。

 どうして俺はこう反省がないんだ。

 

「むー……」

 

 美優は不満顔で、それでも俺の腕にしがみついてくる。

 そしてまた、太ももを内股気味にスリスリして、体を押し付けてきた。

 

「美優?」

 

 美優が俺と一緒に寝ようと言ってきたのは、その方が落ち着いてすぐに眠れるからだ。

 ならこんな状態になってしまった今、美優が俺と寝ることに固執する理由はない。

 

 もちろん、俺としては美優にはいなくなって欲しくないけど。

 ここまでされて、美優はどうしてまだ俺の側にいるんだろう。

 

「うぅー……」

 

 美優は指を俺の服の中に入れて、強く胸を詰ってきた。

 痛いけど、それ以上に美優の様子が気になる。

 

「だい、じょうぶか?」

 

 怒り方がおかしい。

 しきりにもぞもぞと体を動かして、落ち着きがない。

 

「なんでよりにもよってお股を使ったの……」

 

 美優の体がさらに密着してくる。

 

 もし、勘違いでないのなら。

 これは怒っているというより。

 

 発情、している……?

 

「やっぱりお仕置きしてやる」

 

 美優の腕が俺の下半身に伸びてくる。

 

 その手は、躊躇なく俺の肉棒を掴んだ。

 

「あっ、美優、何を……!」

 

 美優が俺の肉棒をシゴき始めた。

 

 美優の細い指が、繊細な動きで俺の陰茎のツボを押してくる。

 

「んあっ、ああっ、美優っ、そんなことしたら、うああっ……!」

 

 途端にこみ上げてくる射精欲。

 お仕置きとは言っているが、これはただのプレイだ。

 

 美優に手コキされている。

 あの美優が、俺のペニスをイジっている。

 

「あぐっ、あ、ああっ、あぁあっ……!」

 

 美優の手はなぜか俺の快感のツボを完璧に把握している。

 肉感とテクニックは山本さんの方が上だが。

 

 が、断言できる。

 

 美優の手でされる方が、圧倒的に気持ちいい。

 

 興奮の質がまるで違う。

 この妹にエロいことをされている事実が、何よりも俺に性的興奮を与えてくる。

 

「はぁ、はぁ、美優、もう、で、出るっ……!」

 

 美優の手が俺の反応に合わせて早くなる。

 

 口にしなくてもわかる。

 出して、と美優は言っているんだ。

 

 俺に、精液を、出して欲しいと。

 

「美優、ああぁつぅっ! 出る、出るっ、あっ、あっ、あああっ!」

 

 どっぷ、どっぷと、明日のことを考えない量の精液が、また俺のお腹に吐き出された。

 あまりの飛びっぷりに、俺の胸のところまで精液がつくほどだった。

 

「美優……?」

「なに」

 

 美優はぼーっと俺が射精するところを眺めているだけだった。

 反応は冷たいけど、それでも俺は、美優の手で射精させてもらったんだよな。

 

「そういえば、お兄ちゃんが出してるとこちゃんと見たの、一番最初のとき以来かも」

「え、ああ、そうか」

 

 美優には飲んでもらうかぶっかけるかのどちらかだったからな。

 こうして観察されるのは久しぶりだった。

 

 美優はまた起き上がって、髪を耳にかける。

 

 また精液を舐め取るつもりだ。

 

 どうしよう。

 せっかく射精させてもらったけど。

 またムラムラしちゃわないかな。

 

「はむっ……にゅむちゅ……」

「あぐっ……んん……っ!」

 

 予想は裏切られることなく、美優は俺の体を舐め始めた。

 精液を飲んでもらえるだけでも興奮するのに。

 こんな形でお掃除してもらっていたら、いつまでも性欲が収まらない。

 

「あ、あああっ! あっ、そ、そこ! そこは、だめだっ、あうっ!!」

 

 美優の口が、あろうことか乳首を吸ってきた。

 そこにも精液がかかっていたのなら仕方ないが、そんなところまで舐めて、俺の性欲を静める気なんてこれっぽっちも無いみたいだ。

 

「そんなに敏感なの?」

「……どうやら、そう、らしい」

 

 誰かに舐められたことはなかったし、自分でいじったこともなかった。

 開発されていなければ、乳首なんて絶対に感じないと思っていたのに。

 下手したら、フェラされるより気持ちよかったかも。

 

「ふーん」

 

 美優は俺の全身の精液を舐め取った。

 とはいえ、やはり亀頭の先っぽについた精液までは舐めてもらえなかったが。

 

 処理が終わると、美優は、また俺の胸に顔を近づけて、ちゅるちゅるっと俺の乳首を舐め始めた。

 

「あうっ、あんっ、あ、ああっ、あっ……!」

「喘ぎすぎ。お兄ちゃんは奏さんとエッチするときもそんな声出すつもり?」

「いや、それはっ……んっ……はぁんっ……!」

 

 美優が女とエッチをし慣れているせいなのか、手コキより数倍乳首への責めのほうが上手かった。

 俺はそれこそまな板の上に置かれた魚みたいに、ただ美優の舐りに翻弄されて、快感責めを続けられた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……っぐっ……あぁ……しぬ……ほど、きもちぃ……」

「はいはい。よかったね」

 

 美優はひとしきり舐めて満足すると、また俺の横に寝転んだ。

 

 その顔は、人を弄んだ後とは思えないくらい、ブスッとした不満顔だった。

 

「え、えっと……」

 

 こんだけされておいて、もう勘違いかもとか思っている場合じゃないよな。

 

「俺も、美優に、したほうがいい……?」

「知らない」

 

 美優は俺のTシャツを下ろして、ただコアラみたいに抱きつくだけになった。

 俺もズボンをはいて、ひとまずは、美優の体勢に合わせる。

 

「寝る」

 

 美優はそう言い放つと、目を瞑った。

 

 さすがに、美優も俺に体を触られたいとまでは思わないのかもしれない。

 

 だが、それでも、誠に申し訳ないことに。

 

 俺の肉棒は、まだガチガチに勃起したままだった。

 

 それもそのはずだ。

 あれだけ乳首で快感を与えられて、まともでいられるわけがない。

 まだ美優に舐めたり吸われたりした感覚が残っている。

 

 まだ出したい。

 あと一回だけでいいから、射精したい。

 

 明日は山本さんとエッチすることにはなってるけど。

 きっと一晩寝れば回復するはず。

 昨晩だって俺は、五回も射精した上で、今日もこんなに出しているんだ。

 

 今になってようやく自覚した。

 俺は人より、数倍性欲が強く、同じだけ回復力も高いらしい。

 

「美優……」

 

 俺は美優を抱きしめて、またその体温を全身に感じる。

 最初に抱きしめたときより、ずっと熱い。

 

 美優の体が火照っている。

 本人の意思がどうかはわからないが、間違いなく、美優の体は発情しているんだ。

 

「美優、あと、一回だけ……」

 

 俺はまた、美優の股にペニスを押し付けた。

 男が興奮するのは、なにもしてもらっているときだけじゃない。

 オスとしての本能は、むしろメスを快楽で溺れさせることを求めている。

 

 美優はまだ起きているはず。

 もうあとでどれだけ怒られてもいい。

 美優の体を、俺のペニスを使って気持ちよくさせたい。

 

「んあっ、おにぃちゃ……んんっ……」

 

 美優の股間に肉棒を押し付けると、美優の口からも嬌声が漏れた。

 暴れて俺を振りほどこうともしない。

 俺がどれだけ下半身を押し付けても、美優はただ喘ぎ声を抑えようとするだけで、体を離そうとしない。

 

「あぁ、美優、みゆっ……きもちいぃ……」

「ぅっ……ふぅ……んっ……ぁ……」

 

 美優の局部に当たっている。

 俺の硬い肉棒が。

 美優がそれで感じているんだ。

 

 気が変になりそうだ。

 快感と幸福感が津波のように押し寄せてきて、頭の中が蒸発したみたいに漠然としてくる。

 

 俺が腰を押し付けると、美優はそれに合わせて足を上げて、俺を強く抱きしめてくる。

 下半身は快楽を求めながら、その腕は喘ぎ声を漏らさないよう、全身に力を入れるのに必死になっている。

 

 そんな健気な様が可愛い。

 なによりも愛おしい。

 

「あっ、美優、もう、ダメだ、あっ、出る……!!」

「ふぇ、あぅ、待って……あと、もう、ちょっと……だけ……! んんっ……まっ、ひぇ……!」

 

 美優が足を片脚を上げて、上向きになった美優の秘部。

 血液が限界以上に充満した海綿体が、美優のクリトリスの下の溝にフィットして、素股とほぼ等しい行為を続けることに、俺の射精欲が耐えられるはずもなかった。

 

 パンツをはいたままの交わり。

 このまま擦り続けたら、パンツの中がぐちょぐちょになってしまう。

 

「美優、ごめん、俺は、もう……!!」

「お兄ちゃん、だして、いいからっ、あと、ひょっと、あんっ、ん……つづ、けて……あっ、んっ……!!」

「美優っ……あっ……はぁぁっ、うっ、あっ、美優、出るっ、出るっ……!!」

 

 びゅっ、びるゅっ、びゅっ、と射精しながらも、美優の望み通り、俺は腰を激しく動かし続けた。

 やがて俺を抱きしめる美優の腕の強さが最大にまで高まって、それから、ふっと全身を脱力するように、美優は力みを開放した。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 荒い息を吐き出すのは、俺だけ。

 美優は乱れた息を聞かせることすら我慢していた。

 

「み、美優は、その、い、イッた……のか?」

 

 俺が訊くと、美優は口を押さえて、首を横に振った。

 

「そ、それは悪かった! えっと、も、もう一回、するか?」

 

 その問いに対しても、やはり美優は首を振る。

 

「いいのか?」

「いい。別に女の子はいかなくても満足できるから」

 

 美優は俺から布団を奪うと、それを抱き枕代わりにして体を隠した。

 

「今日のは忘れてね」

 

 美優は今までで一番無理な注文をしてきた。

 こんな出来事を忘れられるなら、俺の人生に悩みなんてなくなるだろう。

 

「お兄ちゃんがばかみたいに精液たくさん出すから。また歯磨き直しだよ。まったく」

「すまん……」

 

 美優はベッドから出ると、乱れた服を引っ張って直した。

 

 そして。

 

「お兄ちゃん……」

 

 テントを張ったままの俺の下半身に、呆れた声を漏らす。

 

「いやぁ、これは、あの、美優が可愛すぎて、もうどうにもならないというか」

「むぐぅー!」

 

 美優はティッシュ箱をベッドに叩きつけて、ドアを乱暴に開くと、振り向いて俺を指差した。

 

「私が戻ってくるまでに小さくなってなかったら、出すからね!」

 

 美優は床を踏みならしながら廊下に出て行く。

 

 結局このあと、妹に二回射精させられた。

 

 



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妹がいると射精し過ぎて困る

 

 朝、太陽の光に瞼を刺激されて、俺は目を覚ました。

 美優がアラームをセットしたちょうど1分前だ。

 

 昨日も美優に何度も射精させられて、ダルさが尋常ではないが、俺も山本さんとの予定があるので寝たままでいるわけにもいかない。

 

「美優、起きろ。もう時間だ」

 

 俺はアラームを解除してから美優を起こす。

 美優は俺に抱きついたままぐっすりと寝ていた。

 そんなに俺と寝るのが落ち着くのか。

 

「うぅ……あと……いっぷん…………と5時間くらい……」

「欲張り過ぎだって」

 

 二度寝しようとする美優を引き剥がしても、美優はすぐ俺との間にできた隙間を詰めてくる。

 最高に幸せなこの時間を終わらせたくはないが、起こさなかったら美優が怒るからな。

 

「美優、そんなに寝てると遅刻するぞ」

 

 俺が強めに力を入れて起こそうとしても、美優は頑として離れようとしない。

 ということで、押してダメなら、引いてみる。

 

 俺は美優を思い切り抱きしめた。

 美優は嫌がって、俺を突き飛ばすかと思ったが。

 更に眠りを深くするだけだった。

 

 なんだこの可愛い生き物は。

 

 まずい。

 朝特有のアレが、余計に……。

 

「むっ」

 

 さすがに肉棒の固さにはまだ不快感を覚えるのか、美優は絡めていた足をすぐに解放した。

 美優が密着すると、どうしても勃起が美優の股に当たってしまう。

 

 美優は瞼を擦ってから、口を押さえて小さくあくびをした。

 

「おはよう、お兄ちゃん。今までの人生で一番ひどい目覚めだよ」

「悪かったな」

 

 男と一緒に寝ているなら、これはもう避けては通れない道。

 昨晩のエッチは俺が暴走した結果だったが、朝勃ちだけは許容してもらわないとどうにもならない。

 

「朝ごはん作らなきゃ」

「あっ……悪い。朝食のことすっかり忘れてた」

「ん? 別にお兄ちゃんが作らなくてもいいよ?」

「いや、そうじゃなくて……」

 

 何を勘違いしたのか食材を使い切ってしまった。

 朝には美優がいないものだと思い込んでいたんだ。

 一人分だけ作るのも面倒で、山本さんの家に行く前に外食で済ませるつもりだった。

 俺も次の日はバイトがあるわけだし、朝食用のパンとかヨーグルトくらいは買ってくるべきだったな。

 

「食べるものないの?」

「すまん……」

「じゃあお兄ちゃんでいいや」

「……えっ?」

 

 美優は俺にお尻を向けて布団に潜り込んだ。

 

 まさか「お兄ちゃんでいいや」って、また精液を朝ごはん代わりにするつもりか。

 と、疑問に思う暇すらなく、美優は布団に潜ったまま俺のパンツを脱がせてきた。

 

「美優……今日は……あっ、うっ……!」

 

 小さな手が俺の肉棒を握った。

 美優だって俺がこれから山本さんとエッチすることを知っているはずなのに、容赦なく手を上下に動かしてくる。

 

 美優が俺の精液を求めて男性器を刺激している。

 俺を興奮させて、その精液を飲むために、射精させようとしている。

 そんなことをされたら、出してあげたくなってしまう。

 

 昨日も俺は山本さんの口に出したのを含めて6回射精した。

 その上、朝からまた絞られるなんて。

 睡眠を挟んだ今ならまだ平気だけど。

 さすがに山本さんと会う直前に射精させられたら、本当に精液が足りなくなる。

 

「美優……あぐっ……ああっ……それ……ダメだっ……て……はああ……あっ……!」

 

 頭ではこれ以上出したらいけないと思っていても、体が拒否することを許さない。

 俺に見えないところで、美優の手が俺のペニスをシゴいている。

 その感覚が伝わるだけで、睾丸がキュッとせり上がってきた。

 

 美優が俺の胸を跨いで、頭を布団に突っ込み、俺の肉棒をイジっている。

 艶かしい太ももの付け根が、捲れたショートパンツのパジャマから覗いていた。

 手で裾を広げればVラインまで見えてしまいそうで、それが俺に更なる燃料を投下していた。

 

「美優、エロ過ぎ……る……う、あ、はぁ……うくぅ……っ!」

 

 美優のアソコ

がすぐそばにある。

 指を突っ込んだら割れ目に触れてしまえるんだ。

 美優は濡れやすい体質みたいだし。

 もしかしたら、蜜の滴るその中にまで指を入れられるかもしれない。

 

 美優の膣内はどれだけ気持ちいいんだろう。

 遥にはもうとっくの昔から使われてるんだろうが、そこに男が触れたことは一度もない。

 このギチギチのペニスを挿し込んだら、この小柄な美優とどれだけの一体感が生まれるんだろう。

 

 美優とのセックス。

 相手は実の妹なのに、俺は──。

 

「あっ、うあっ……み、ゆ、そんな、激しく……したらっ……!」

 

 美優がシゴくスピードを上げた。

 これはもう射精しろという命令。

 従う以外に道はない。

 

「はぁ、あぁ、あっ……美優……美優……っ!!」

 

 美優の手に肉棒を締め上げられて、射精に向かう脳が沸騰する。

 

 美優を感じたい。

 もっと美優に触れたい。

 

 その想いに体が答えるように、俺はほとんど無意識に美優のふとももを掴んでいた。

 

「美優……っ!」

 

 その滑らかな肉質に、欲望はさらに膨れ上がって。

 射精の寸前、俺は美優のふとももを手で撫でた。

 

「あぐっ、ああんっ、お兄ちゃん……! そこ、ひゃっ、ダメ……!」

 

 布団の中から聞こえる美優の色声。

 俺は美優の言葉に逆らって、ふとももの内側にまで手を入れて、欲望のままに弄った。

 

「おにいちゃ、だめ、だってばぁ……!」

「美優! もうごめん、出るっ、出るうぅあぁっ! 飲んでくれ、美優……!」

「ひょんな、んんっ、あ、ぐっ……もう……おばかっ……んくっ……ごきゅっ……!」

 

 美優は一瞬だけ抵抗しようとしたが、俺が射精を迎えたことで、飲む体勢を維持せざるを得なくなった。

 精液を吐き出している間、俺は美優のふとももの感触を堪能して、その分だけ美優は体をビクつかせた。

 

「はぁ……あうっ……うぅ……けほっ、けほっ」

 

 やがて射精が終わり、俺の手も止まると、美優は布団を床に落として体の向きを反転させた。

 

「お兄ちゃん……」

 

 恨みを視線に込める美優。

 だが、いつものようにドスの利いた声ではなかった。

 

「触っちゃダメでしょ」

 

 美優はふとももを自分でスリスリして、俺が触った感覚を上書きする。

 

「ごめん。エロかったから、つい」

 

 あんな体勢で手コキをされて、まともでいられるわけがない。

 

「いいですかお兄ちゃん。変な妄想されたくなかったから黙ってたけど、これだけは覚えておいて」

 

 美優は自分の首を指差すと、俺にそれを認識しているか確認して、俺は小さく頷いた。

 

「首と、ふともも。それと胸。ここだけは、努めて触らないこと」

 

 美優は一言一句を強調して、俺に言い聞かせた。

 

 よほど触られたくないところらしい。

 それほど敏感なのか。

 あのエロい声、もう耳から離れそうにない。

 

「もし断りなく触ったら、お仕置きとかじゃなくて、普通にビンタするからね」

「触りません! 頑張ります!」

「うむ。ならよいですが。努力賞だけで終わらないように」

「がんばります……」

 

 美優は俺から降りると、自分の部屋に戻った。

 

 そして数分後、また俺の部屋のドアが開かれた。

 

「お兄ちゃんには、これからは『あえて』を言うようにしますが。お兄ちゃんのせいで余計な洗濯物が増えてしまったので、私が出かけた後に使ったりしないように」

「え……ああ、はい」

 

 ごめんな、濡れやすいのにあんなことばっかりして。

 ヨレヨレになったらお兄ちゃんが買ってやるからな。

 

「上下セットで8000円くらいするよ」

「嘘ぉっ!?」

 

 反省します。

 できるだけ、できるだけ欲望は抑えます。

 

 パンツはともかく、ブラのサイズが無いんだよな。

 美優は上下セットじゃないと嫌だろうし。

 こんな理解の足らない兄を許しておくれ。

 

「……ん? あれ。美優のやつ、枕を忘れてる」

 

 美優がドアを閉めた後、射精の疲れでぼんやりしていた俺は、ベッドにまだ枕が二つあることに気づいた。

 

「なんか……めっちゃいい匂い……」

 

 鼻を埋めているわけでもないのに、風呂上がりの匂いが届くほど。

 俺も同じシャンプーを使っているのに、香りの強さがまるで違う。

 やっぱり、女の子だからか?

 

 どうしよう。

 少しだけなら……。

 

 いや、冷静になれ。

 こんなレアアイテム、少しだけで満足できるわけがないだろ。

 一度嗅いでしまったらまた抜くまで離れられなくなるに決まっている。

 

 何日分もの美優の匂いが染み込んでいるんだ。

 そんなもの、俺が耐えられるわけがない。

 

「はぁ……はぁ……くそっ……こんな……!」

 

 匂いを嗅ぐより先に勃起していた。

 勃起して、俺は美優の枕に顔を埋めた。

 

「すぅ……はぁぁ……ああっ……美優……ダメだっ……こんな……」

 

 美優の匂いがする。

 美優の寝汗と、お気に入りのシャンプーの匂いだ。

 

 肉棒が痛い。

 筋肉痛なのか、勃起しているだけで竿全体から痛みが走る。

 

 もう射精しちゃいけないんだ。

 俺はこれから山本さんとセックスするんだから。

 まさかセックスすることをわかってて「勃たなくなるまで射精してしまいました」なんて弁明が理解されるはずもないし。

 

 馬鹿だ俺は。

 すでに今ですら限界なのに。

 

 相手はあの山本さん。

 一回のセックスで満足させられるとは考えにくい。

 少なく見積もって後二回、いや三回は射精すると思っておかなければ。

 

 たしかに山本さんの願望は、セックスの相手が射精しないこと。

 だが、あんな快楽を与えるために生まれたような女の子と、射精をせずにセックスし続けて、神経が保つはずがない。

 

 山本さんはきっと性欲も体力も無尽蔵だ。

 俺が射精しなかったら、あるいは何時間も逆レイプされるかもしれない。

 あのエロボディに絞り続けられる快楽責め……確実に死に至る。

 

 フィニッシュは必須。

 スイッチが入った山本さんがどんな暴走をするかわからない以上、言葉ではなく体で止めなければならない。

 

 ……無理だ!

 もうそんな精液は残ってない。

 美優があんなに出すから。

 

 くそっ、俺は山本さんに、なんて言い訳すればいいんだ。

 

「はぁ……あぁ……すうぅ……はぁぁ……美優……すごくいい匂いだ……あああっ……」

 

 美優の匂い。

 最高だ。

 

 竿だけじゃなくて、玉の奥までズキズキしている。

 

 射精のしすぎで病院行きになるかもしれない。

 

「美優ぅ……美優……っ!」

 

 精液がグツグツと煮えたぎってくる。

 

 これだ、この感じ。

 生物としての適応能力。

 美優のために出す精子が足りないと判断すると、体がその場で精子を作り始める。

 いや、実際にはそんなことありえないだろうが、俺にはそう感じるんだ。

 

 だから美優が相手だといつまでも性欲が尽きない。

 美優をオカズにすると異常に精液が濃くなるのは、この体が美優を孕ませたがって、溜まった分をありったけ出そうとするからだ。

 

 ならばここはあえて踏み込むのが正着。

 精液をチャージして、射精するその直前まで興奮を高めれば、俺はまた精力を取り戻せる。

 

 理性的、かつ合理的な判断。

 美優が俺を射精させまくったことが原因でこうなったんだ。

 これはそれに対する純然たる対処。

 俺が性欲に負けているわけじゃない。

 

「はぁぁああっ! 美優っ……くはぁ……すうぅ……はぁ……すうぅぅ……うっ……うぅぅ……美優……!」

 

 美優の匂いが鼻から口いっぱいにまで広がって、脳内に幸福感が走り抜ける。

 

 体が宙を浮いた。

 夢見心地だ。

 まるで寝たまま温水にでも浸かっているよう。

 

「あっ……あっ……みゆ……」

 

 身体がトロける。

 意識までこの世の元素と混じり合って消えてしまう……。

 

 ──ガチャン。

 

 ドアが閉められる音に、俺は驚いて枕から飛び上がった。

 

 そのすぐ後に、物音が聞こえてきたのは美優の部屋からだった。

 どうやら美優が洗面所での準備を済ませて自分の部屋に戻ったらしい。

 

 危なかった。

 あのまま続けていたら、俺はもうこちら側の世界に戻って来れなかったかもしれない。

 

 もうこんな危険なものは返却してしまおう。

 英気は十分に養えた。

 下半身は滾ったままだから、小さくなるまで待ちたいけど。

 放置してるとまた誘惑に負けそうだし、枕だけ返してサッと戻ろう。

 

 俺は美優の部屋の前まで移動して、ドアをノックした。

 

「美優。枕を忘れてたから、返しに来た」

「いま手が離せないから入っていいよー」

 

 まさかの美優からの返答。

 部屋に入る気はなかったのに。

 手が埋まってるなんて間が悪い。

 この下半身を見せたら美優もゲンナリするだろうし、できればこの場で渡したい。

 

 俺はドアを少し開けて、頭だけを入れて美優の部屋の中を覗いた。

 

「手が離せないって、何して──」

 

 惚れた。

 

 美優は外行きの格好になって、コテで髪を巻いていた。

 

 ゆるりとカーブした髪がかかった、制服モチーフの襟付きワンピース。

 そして、そんな清楚な雰囲気をぶち壊す、大ボリュームの胸部が、絞られたウエストとのコントラストを強調している。

 

「手を放すと巻き加減がわからなくなるから。枕はベッドに投げてくれればいいよ」

 

 いつもより紅いリップで紡ぐ言葉。

 目だけを動かして俺の姿を確認し、ぱっちりとまつげの潤う瞼で瞬きをする。

 

「おっ……おぁ……」

 

 俺の妹って、こんなに可愛かったっけ。

 

「何してるの?」

 

 美優はフリーズした俺を見て怪訝な顔をする。

 

「ああ、いや、なんか。大人っぽい格好だなって……」

「大人っぽいかな? うーん……ちょっとお化粧してるからかな……?」

 

 美優からすれば、これは幼めの服装らしい。

 言われてみるとたしかに、ロリータファッションに類する服とも思える。

 

「珍しいな。そういう服を着るの」

「遥が甘めの服を着てくるからね。少しは合わせてあげないと」

 

 こんな可愛い格好の女の子2人で遊んでくるのか。

 写真の一枚でも取って額縁に飾りたい。

 

「で、お兄ちゃんはいつまでそうしてるの?」

 

 俺が部屋に入らないから美優が不審に思っている。

 下半身が鎮まるまで会話を長引かせたかったが、そろそろ潮時か。

 

 俺は変に思われるのを承知で、美優の視線の切れ目を狙って素早くドアを開け、大股を開いて枕をベッドに置いた。

 背中で勃起を隠し、美優の視界に入らないように部屋を出てドアを閉める。

 美優は何も言わなかった。

 

 ミッションコンプリート。

 もう美優が家を出るまで部屋にこもっていよう。

 

 あと数分もすれば美優が旅行に出かける。

 それからは、一週間は戻らない。

 

「はぁ……」

 

 俺は部屋に戻り、ベッドの縁にうつ伏せて項垂れた。

 

「あぁ……美優の匂い……まだ残ってる……」

 

 美優が寝ていたシーツに、枕ほどでは無いが甘い匂いが残っていた。

 

 あと少ししたらこの残り香も消えてしまう。

 あの仏頂面も拝めなくなるし、何より美優の声が聞けないのは気が滅入る。

 

「だから……しょうがないよな……」

 

 俺は自分に言い訳して、せっかく小さくなりかけていたペニスをギンギンに直立させながら、美優が寝ていたベッドに頬を擦りつけた。

 

 夢中になって、肉棒をビクビク動かしながら頬ずりする。

 

 そうして、どれくらいが経っただろう。

 

 ふと目を開けたとき。

 俺の部屋のドアをわずかに開けて、中を覗いている美優と目が合った。

 

「あっ……いや……これは……」

 

 言葉に詰まっていた俺を、美優は責めるでも怒るでもなく。

 

 そっと、何事も無かったかのようにドアを閉めた。

 

「おぉぉおおお! 待てっ! 待て待て待て待てっ! 違うんだ! 美優!」

 

 俺は無表情で階段を降りていく美優を必死に追いかけ、転びそうになりながら玄関に追いついた。

 

「美優、聞いてくれ。さっきのは、その……」

 

 美優は靴を履いてトートバッグを腕に掛ける。

 そして、緩くふんわりとした髪を揺らしながら、振り返る、その姿が実に可憐だった。

 

「お兄ちゃん……元気でね……」

 

 その言葉を残し、美優は家を出た。

 

 まさか最後の最後がこんなザマとは。

 旅行中も俺は、ずっと残念で変態な兄として思われ続けるんだろうか。

 

「はぁ……俺も支度しよう……」

 

 俺は着替えを持って脱衣所に入った。

 

 山本さんのマンションまでは自転車を飛ばせばすぐだが、外は暑いから汗かくだろうし、制汗剤はしっかり使っておかないとな。

 部屋に入った瞬間に汗臭いと思われたくはない。

 

 パジャマは端に避けて、シャツを脱ぐ。

 パンツは昨日の夜に、中で射精してから変えたばかりだが、いっそもう一度シャワーを浴びてしまうか。

 今朝美優に抜いてもらったときの精液のニオイが残ってるかもしれないし。

 股間の部分って、射精した後は全く精液が掛かって無くても、汗をかくだけで精液臭がするんだよな。

 

「美優みたいに良い匂いさせてたほうが山本さんも喜ぶだろうしな」

 

 俺はパンツとシャツを洗濯機に入れた。

 

 そのとき、ふと見えてしまった3セット分の美優の下着。

 昨日学校から帰った後が1セット目、寝る前にエロいことをした後が2セット目、今朝ふとももを触ってしまった後が3セット目か。

 ずいぶん使わせてしまったな。

 

 上にあるのが今朝の分だな。

 まだ美優の温もりが残っているだろうか。

 あるいは、クロッチはまだしっとりとしているかもしれない。

 

 俺は、美優のパンツを手に取った右手を、ガシッと左手で掴んだ。

 

 待て、それだけはやめろ。

 使うなって注意されただろ。

 そうでなくても、妹のパンツを無断で使うなんて許されないんだから。

 

 右手には妹の愛液で濡れたパンツ。

 股間にはギンギンに屹立したイチモツ。

 被せたら死ぬほど気持ち良さそうだ。

 

 だが、俺はやらない。

 これはネットに入れて洗濯機に戻す。

 

 少なくとも、妹のいないところでこっそり、なんてことはしない。

 妹がいない寂しさが、俺の体をわがままにしていようとだ。

 

「ん……?」

 

 そんな寂しさが俺をおかしくしたのか、ふと視線を感じた俺は脱衣所のドアを振り返った。

 

 そこには、美優が立っていた。

 

 家を出た姿そのままの美優が、俺と目を合わせるでもなくこちらを見ている。

 

 おかしい。

 俺は幻覚でも見ているのか?

 

 美優の格好は、出かける前と同じワンピース。

 実に清楚で可愛い。

 

 そんな美優の瞳に映るのは、全裸で、妹のパンツを片手に、勃起する兄の姿だった。

 

「そっかぁ……」

 

 美優は意味深な言葉を呟いて、ドアを閉めた。

 

「ま、まっ……」

 

 幻覚なんかじゃない。

 正真正銘の大ピンチだ。

 

「待てっ!! 美優!!」

 

 俺は大急ぎで外出用に持ってきていた服を着て、リビングに駆け込んだ。

 

 美優はスッと背を伸ばしてソファーに座っていた。

 

「美優、勘違いだ。俺は美優の下着を使おうとしていたわけじゃない。たしかに、全裸は怪しいし、今も痛いくらい勃起してるし、それまでにもたくさん前科があるのは認める。だけど、これだけは本当なんだ。俺は素直に、あの下着をネットに入れて洗濯するつもりだったんだ」

 

 母親に「今勉強するところだった」論を語っているような気分だが、こればっかりは信じてもらわないと、さすがに関係性にヒビが入る。

 

「お兄ちゃん」

 

 美優はソファーの隣を空けて、そこに座るように指示した。

 

 言いたいことは言ったし、後は美優が信じてくれことを祈るしかない。

 

「妹はお兄ちゃんが心配です」

 

 それはそうだろうな。

 

「私がいないとそんなに寂しい?」

「寂しいことには、寂しいけど。でも、下着を持ってたのは、ただの偶然で」

 

 ほんの一瞬だけ、邪心が芽生えたことは事実だが。

 美優のパンツでオナニーをする気なんて欠片もなかった。

 

「これは?」

 

 美優は不自然に股間部が盛り上がったズボンを指差す。

 

「これは、あれだ。枕と、シーツがな。やたらと甘い匂いがして、それでこう……なった」

 

 たしかに、美優の枕の匂いを嗅ぎまくったことだけは、否定ができない。

 

「トリートメント、洗い流さないやつ付けてたからかな。ごめんね。匂い移っちゃってた?」

「へ、へーきへーき。むしろ平気というか」

 

 言い訳ができなさすぎて言葉が上手く選べない。

 

 謝られることなんてないのに。

 むしろ全身の匂いをベッド中にマーキングして欲しいくらいだ。

 

「……というか。なんで美優は家にいるんだ?」

 

 美優が俺を責める気がないようなので、話題をそらしてみる。

 

「遥がね、急に、車で迎えに行くって言うから。30分くらい暇になっちゃった」

 

 そうだったのか。

 美優が長く居てくれるのは嬉しいけど、こういう事故だけは勘弁願いたい。

 

「お兄ちゃんは何時に出かけるの?」

「10時に山本さんの家に行くことになったよ」

 

 時刻は朝の7時を回ったところ。

 いつもの俺ならまだ2時間はぐだぐだ寝ているけど、美優との夜を思い出すだけでまた変なことをしでかしてしまいそうだからな。

 

 さっきもかなり危なかったし。

 

「……怒ってないのか?」

「怒ってないよ。叱りたい気持ちはないでもないけど」

「そうなのか」

 

 怒っては、いないのか。

 たしかにそんな雰囲気ではないけど。

 いつもなら目くじら立ててお仕置きコースなのに。

 

「もちろん、こっそり下着を使うのはダメだよ? でもほら。勝手に部屋を覗いたのは、私が悪いわけだし。むしろ、私の方こそ、お兄ちゃんのプライバシーを侵害してしまって、申し訳ないです」

「そんな律儀にならなくても。美優はもっと怒っていいと思うぞ?」

 

 あんなに不審な行動を取られたら、誰だって心配になるだろうし。

 もしこれが俺を監視するための罠だったとしても、俺は自分の行動を素直に省みていただろう。

 

「そう? ならお詫びは無しでいいのかな?」

「えっ、お詫び? それって、その、エッチな、方のやつ……?」

「お兄ちゃんが望むならそうなるだろうけど。まだしたいの?」

 

 この勃起は、山本さんのために精力を蓄えたものだ。

 美優に抜いてもらったりなんかしたら本末転倒。

 

 でも、しばらくは、してもらえないしな……。

 

「して欲しいって言ったら、引く?」

「引くけど。するのはいいよ」

 

 そうか、そうだよな、うん。

 

「お、お願い、します……」

「はいはい」

 

 美優は承諾すると、まずはトイレに入って、一分もしないうちにすぐに戻ってきた。

 

「トイレ、しなくていいのか?」

「ナプキンを敷いてきただけ」

「あっ……はい」

 

 美優は俺のズボンに手をかけてチャックを下ろす。

 俺もそれに合わせて腰を上げると、一気にパンツまで降ろされた。

 

 ブルンと勢いよく立ち上がる肉棒。

 それを真顔で見つめる美優。

 

 この恥ずかしさは、いつになったら慣れるんだろう。

 

「奏さんへの言い訳は自分で考えてね」

 

 美優は両手で俺のペニスを包み込むと、上下に擦り始めた。

 

「おっ、あああぁ……温かい……はぁ……」

 

 やっぱり、良い。

 最高だ。

 美優の手、ちっちゃくて。

 握る姿が一生懸命で、可愛い。

 

「うぐっ……あぁ、やばい、幸せすぎる……」

 

 見慣れた制服や室内着とは違う。

 可愛く仕上げられた服装と髪型。

 

 俺の肉棒に絡む指は、その一本一本まで毎日ハンドクリームで保湿されて、白く輝くような美しさを保っている。

 そして、ネイルは艶々に磨かれて、先端の丸みまでヤスリを使って丁寧に整えられていた。

 そのうちの一つ、右手の薬指だけに、施されたピンク色のコーティングとデコレーション。

 

 女の子らしさがこれでもかと詰め込まれている。

 そんな手で、俺のペニスは極楽マッサージをしてもらっているんだ。

 

「んっ、うっ……はぁ、美優、いい、マジで……あぐっ……んん、んんっ……!」

 

 今日までの射精がなかったかのように、海綿体一杯に元気を行き渡らせたペニスが喜んでいる。

 お仕置き手コキも十分に気持ちよかったが、ご奉仕になるだけでここまで性感が突き抜けるなんて。

 

 肉棒と同じように俺の背中まで反り上がってしまう。

 やや顎を引いて、目線を落とすと、美優がなんともいえない表情で裏筋を眺めていた。

 

「み、美優、どう、したんだ……?」

 

 俺が尋ねると、美優は小さくため息をついた。

 

「ついにお兄ちゃんの性欲を処理するようになってしまったなぁと」

 

 美優は俺の肉棒をシゴきながら、そんなことを言う。

 

「ああっ、ふぅ、うっ、その、今までも、してもらったような、気が、するんだけど……」

 

 こうして兄妹でエロいことするのを慣れちゃいけないんだろうけど。

 もう二ヶ月も前からしていることだし。

 

「お兄ちゃんからしたらどうか知らないけど。私は精液の処理をしてただけで、性欲の処理をしてたつもりはないので」

 

 美優は語りながら淡々と手淫を続ける。

 

 精液の処理と、性欲の処理か。

 

「な、なにが、違うんでしょうか」

 

 俺が尋ねると、美優は俺を睨みつけて、ペニスを握る力を強くした。

 その圧力で、グイグイと俺の肉棒を絞り上げてくる。

 

「これが同じだと思うの」

「あ、ああっ、ぐぅ、ち、違います! おおっ、ぉう、あっ、今のほうが、断然、いいです、あああっ!」

 

 そうか、今までは、出したものを飲んでもらってただけだし。

 俺は美優を勝手にオカズにしてたけど、美優からしたら関わってたのは最後だけだもんな。

 お仕置きだって、俺がマゾみたいに興奮していたに過ぎない。

 

「もう。こんなに大きくして。そんなに寂しいの?」

 

 この2日の暴走気味。

 山本さんとのセックスを目前に控えての射精のおねだり。

 寂しさからくるものであることは、間違いない。

 

 ただ一週間いなくなるだけ、と考えればなんてことない話だが。

 コミュ障だった俺が、この二ヶ月くらいで美優との生活が急に濃くなって、会えなくなるのも急となると、また話が違う。

 

 毎日当然のように顔を合わせていた関係だ。

 美優の言う通り、ただ一週間旅行に行ってくるだけだが、大切なものは居なくなってわかるってのは、こういうことなんだな。

 

「美優、あの、ひとつ、お願いが……」

 

 そろそろ射精の限界も近い。

 フィニッシュする前に、一つだけ、美優にしてもらいたいことがあった。

 

 美優は手をストロークさせる速度を緩やかに落として、俺の言葉の続きを待った。

 

「あの、だな。もし、よければ、その……胸を、昨日みたいに、舐めてくれると……」

 

 昨晩の美優の乳首舐め。

 もうクセになってしまった。

 もしかしたら、美優がフェラをしてくれるのなら、それが最上の快感になるんだろうけど。

 フェラだけは今までもだいぶ強く断られてきたし、だからこそ、乳首だけでも舐めて欲しい。

 

「むー……」

 

 美優の不満顔。

 これは、不味い方向だ。

 

 美優は返事をする代わりに、俺のペニスを激しく扱いてきた。

 

「あ、あっ、わ、悪かった! うそうそうそ! あっ、いい、から! 頼む! 雑にだけは出さないでくれ……!」

 

 美優としばらく会えなくなる前の、本当に最後の射精なんだ。

 こんな中途半端には終わらせたくない。

 

「はぁ、もう。お兄ちゃんはすぐそうやって調子に乗るんだから」

 

 もう射精するかと思った直前、美優は手の動きを止めた。

 

「ほら。Tシャツ。自分でめくって」

 

 美優は腰を浮かせて、体を寄せてくる。

 ペニスを握ったまま、スカートが触れないように、ソファーに片膝をつき、体を斜めにして。

 

「えっ、あ、あの。それは、どういう……」

 

 俺が疑問に固まっていたが、それから状況は動かない。

 美優は何も言わずに、力を弱めた手で俺にペニスをさすっている。

 

 これは、待ってるんだよな。

 舐めてくれるってことで、いいんだよな。

 

「お願い、します」

 

 俺は恐る恐るTシャツを自分でめくりあげる。

 裾を首まで上げて、さらに垂れ下がった布を指で拾い上げると、その露出した胸の先に、美優の唇が近づいてきた。

 

「あああっ! はぅ、うぅううああっ! あんっ、んあぁああいいぃぃいっ!」

 

 美優が俺のペニスを扱きながら乳首を舐めている。

 クーラーで乾いた空気の中に、晒されたその敏感な部分を、温かい粘性が包み込む。

 

「んんぐっ、うんっ、んんっ……!」

 

 美優は胸に軽くキスして、少し強めに吸って、乾いたところにまた舌で唾液を塗ってくる。

 チロチロと見える美優の舌、その先端がぐにゅっと触手みたいに這いずってくる。

 その美麗な口から、淫靡な消化器官が俺を責め立ててくる。

 

「あ、あぐ、あぁぎもぢぃ、あ、あっ! 美優、手、もう、ちょっと、ふぅ、ああっ、ゆっくり、してっ、おっ、んあっ!」

 

 乳首とペニスを同時に刺激されて、臨界点を突破しかけた俺に、美優は合わせてくれた。

 握っていた手から力を抜き、触れるだけぐらいにまで刺激を弱めて、しかしその手淫は続行してくれる。

 

 いままでは、こんなことあり得なかった。

 なぜなら、美優とのエッチは我慢禁止。

 俺はただ射精をして、美優は精液を処理するだけ。

 

 それなのに、こんな優しく手コキと乳首フェラをしてもらったら、愛を感じてしまう。

 

「ああっ、美優、もうダメだ、あぅ、ぐぁはあ、出る、出るっ!!」

 

 最大まで膨張したペニス。

 そこをまた、美優の小さな手が握って。

 乳首を舌で転がしてくる、美優と目が合った。

 

 美優は俺を見つめたまま、ちゅぶっ、と音を立てて乳首を吸った。

 

「あっ、イクッ、イッ……ぅ、あぁは、はぁああぁあうぅ! イク、イクッ、あぁあああっッ!!」

 

 どぷっ、びゅるっ、びゅるるっ、びゅぶっ、どぷんっ、ぴゅっ、びゅるっ──!!

 

 信じられないくらいの精液が飛び出して、俺の腹部をドロドロにした。

 美優は俺の射精が終わったことを確認すると、しばらくそれを眺めてから、自分の髪を押さえた。

 

「呆れた」

 

 美優が俺の精液を舐め取っている。

 俺は爆弾を投げられたみたいにキーンと耳鳴りする世界の中で、ただ射精した事実だけを認識していた。

 

 まるで睾丸を割って、そのままぶちまけたような量。

 腹部にかかった感触だけで、今までで一番濃いものが出たことがわかる。

 

「お兄ちゃんは頭だけじゃなくて、おちんちんまでばかになっちゃったんだね」

 

 美優は死後硬直みたいに硬くなったままのペニスを持ち上げて、出した精液を全部舐め取ってくれた。

 射精した瞬間に神経がバグったのか、美優に舐め回されている間も、ただ温かいだけとしか感じなかった。

 

 それから、美優が洗面所に行って。

 しばらくして、リビングに戻ってきた。

 その間も、俺はずっと茫然としていた。

 

「お兄ちゃん、私、もう行くからね」

 

 玄関から聞こえてくるエンジン音。

 遥が迎えに来たようだ。

 

 元気よく見送ってあげたいが、体が言うことを聞かない。

 

「聞いてる? 奏さんとエッチする前に、シャワーを浴びておくんだよ? じゃないと、バレるからね」

 

 美優は去り際に俺に忠告した。

 それに対して俺は、頷くだけして返した。

 

「じゃあ行って来るから。奏さんと仲良くね」

 

 俺は薄目で美優の後ろ姿を目で追って、車の音が遠くなるまでは、気持ちだけで見送っていた。

 

 すっかり静まり返った、一人きりの家。

 

 俺は暗闇に吸い込まれるように、深い眠りへと落ちていった。

 

 



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嘘下手の攻防戦

 

 ソファーで俺が目覚めると、蚊が飛ぶような音が鳴っていた。

 不快さに手を振ってみるが、張り付いた振動音がいつまでも俺を苛む。

 体を起こすと、頭がクラっとして、ふとももの内側から膀胱までがギュッと痛くなった。

 

「痛っ……!」

 

 射精をしすぎた。

 これはもう泌尿器科に行った方がいいかもな。

 

「あれ……」

 

 起きたら音が止んだ。

 虫がどこかに行ったのか。

 

 ぼんやりした意識の中で、俺は手元に硬い物が当たっていることに気づいた。

 

「スマホか」

 

 さきほどの振動音の音源はこれか。

 アラームでもセットしてたかな、とスイッチを入れてみると、そのディスプレイには3件の着信履歴が残っていた。

 

 着信はメッセージアプリを介して掛けられてきたもので、その差出人は山本さん。

 それとは別に5件ほどメッセージが溜まっている。

 

「……えっ」

 

 俺は10時に山本さんの家に行く約束をしていた。

 

 俺は、どれだけ寝ていたんだろう。

 感覚としては、一瞬うとうとしていたくらいだが。

 

 俺は無意識に視界から外していた時間の表示部に目をやった。

 爆音を鳴らし始める心臓。

 

 時刻はすでに、13時を回るところだった。

 

「やばっ──!!」

 

 俺はソファーから飛び跳ねて、急いで山本さんに電話をかけた。

 張り上げる心臓の音が、耳に押し当てたスマホから跳ね返って、緊張が増幅する。

 

 服を整え、寝癖を直しながら、待つこと10コール。

 嫌われたかと恐怖に怯えながら慌ただしく出かける支度をしていると、山本さんが応答してくれた。

 

「ごめん!!」

 

 開口一番。

 山本さんが何を言う前に謝罪した。

 

『あっ、うん。大丈夫?』

 

 山本さんは意外にもケロッとしていた。

 普段の性格を考えれば当然なのか。

 

「今すぐ行くから! 10分だけ待ってて!」

『ソトミチくんは平気なの? 他に用があるなら日を改めても……』

「大丈夫!」

『そうなんだ。じゃあ、待ってるね』

 

 俺は家の鍵を掛けて飛び出した。

 山本さんの部屋番号は事前に教えてもらっているから、エントランスに着いたら山本さんが対応してくれる。

 

 ジリジリと太陽の照りつける中、それでも自転車が作る風のおかげで歩いているよりは涼しかった。

 マンションについて自転車を置き、エントランスに駆け込む。

 それなりにお高いマンションだからか、この時点ですでに冷房が十分に効いていて、息を切らしているほどには汗は湧き出てこなかった。

 

 俺は山本さんに自動ドアを開けてもらって、エレベーターに乗り込んだ。

 山本さんの部屋は十階。

 ドアの前に立って、俺は見苦しくないくらいに息を整えてから、インターホンを押す。

 山本さんはすぐに出迎えてくれた。

 

「いらっしゃいませ。暑いから入って入って」

「お、お邪魔します」

 

 部屋はよくある縦長のタイプ。

 全体の樹脂感やキッチンの広さが、一人用の住居としての高級感を醸し出してる。

 

 俺は玄関に入って、ドアを閉める。

 

 その直後、振り返った山本さんが、おっぱいで俺をドアに押し付けてきた。

 

 山本さんはTシャツ一枚。

 豊満な弾力が俺を圧迫してくる。

 

「さて、どういうことか説明してもらえるかな」

 

 独身部屋の玄関に、靴を脱がずに二人で立つ。

 山本さんのおっぱいが大きいせいで、とても狭い。

 

「申し訳ない! 寝坊しちゃって……!」

 

 こんな昼間まで寝ていたのは不自然かもしれないけど。

 嘘はついてないわけだし、ボロが出ることはないはず。

 

「さっきまで寝てたの?」

「ああ、疲れが溜まってて、ついな。ほんと、申し訳ない」

 

 これも事実だ。

 美優があんなに俺を射精させてこなければ、俺だって元気いっぱいにスキップでもしながら時間通りにここまで来れたんだ。

 

 ……いや、わかっている。

 射精の半分は俺から始めたことだし、美優は悪くない。

 責めるつもりはないんだ。

 だが、あの妹に一緒に寝ようなんて言われたら、変な気を起こしてしまうのも無理からぬ事。

 俺だけが一方的に悪いわけではないと信じたい。

 

「ソトミチくんって私にとことん興味が薄いよね。ここまで蔑ろにされたのって人生で初めて」

 

 山本さんは俺と目線の高さを合わせて、ぐいんぐいんと更におっぱいを押し上げてくる。

 

「そんなつもりはないんだ! めちゃくちゃ楽しみにしてたけど、色々あって!」

「色々って?」

 

 あ、やばい。

 早速ボロを出してしまった。

 くそう、どうすれば。

 

「いやぁ、その、言いにくいことで……」

「言いにくいことって。今まで以上のものがあるの?」

 

 そりゃあもう、とんでもない爆弾を抱えている。

 実の妹と、すでにエッチなことをしているなんて、言えるわけがないし。

 

「楽しみすぎて、夜中は興奮しちゃって……」

「寝れなかったの?」

「そういうこと」

 

 セックスの約束に興奮して寝れなかったなんて、わざわざ口にしたら、普通はドン引きされるだろうけど。

 

「もー。しょうがないなぁ」

 

 山本さんはニヤニヤして俺を開放した。

 

 そう、彼女はそういう性格なのだ。

 簡単に怒ったりしないし、人の感情は好意的に取ってくれる。

 山本さんくらいの美人なら、男の性欲なんて街を歩くだけで浴びるほど感じてきただろうが、褒められることに対して斜に構えて反発することはしない。

 

 しかし、その純心を裏切っていると思うと、罪悪感で息苦しくなる。

 美優に迷惑が掛かりさえしなければ、腹を割って全部話すのに。

 

「なら、ソトミチくんも、準備ができてるってことでいいんだよね」

 

 山本さんはさりげなく俺の腰に手を回して、その意思をアピールしてくる。 

 

「あ、ああ」

 

 ここで始まるのか。

 こんなところで、即フェラ?

 男として理想のシチュエーションではあるけど。

 どうしよう、心の準備が。

 

 自分で言うのもなんだが、山本さんも俺とのセックスを楽しみにしてくれてたみたいだし。

 山本さんは相手が早くイキ過ぎるせいで上手くエッチができなくて、言ってみれば中学生の頃からずっと欲求不満なんだよな。

 そんな中、ようやくまともにセックスできる希望を持った俺が、約束の時間に遅れてきて。

 相当溜まっているはずだ。

 

 山本さんは俺のズボンのチャックを下げる。

 ボタンを外されて、ズボンの腰に指を入れてくる。

 そして、パンツごとずり下ろされそうになったとき、俺は美優が出かける前に言った忠告を思い出した。

 

 ──山本さんとエッチする前に、シャワーを浴びておくんだよ? じゃないと、バレるからね。

 

「あっ!! ちょ、ストップ!!」

 

 俺は山本さんの手を押さえて脱がせるのを止めた。

 

 急いで飛び出してきたからシャワーを浴び忘れていた。

 俺の体には、今日2回出してきた精液の残り香と、俺の精液を舐め取った美優の唾液、そして香りの強いトリートメントのニオイがついている。

 これら全てに気付かれたとして、俺が美優とエッチしたことを指し示す決定的な証拠にはならないが、詰問されたら上手く対処できる自信がない。

 

「どうしたの?」

「シャワー、浴びたいんだけど。汗かいたし」

 

 男としては、そのまましゃぶって貰う方が気持ちいい。

 だが、今回だけはダメだ。

 美優とのエッチがバレる可能性は流してしまわないと。

 

「そんなに? シャツもパンツも濡れてないみたいだけど。ちょっと汗臭いぐらいなら私は気にしないよ?」

 

 山本さんはズボンの腰辺りが湿っていないことを確かめて、首をかしげる。

 

 誤算だった。

 山本さんに格好つけるためにできるだけ汗をかかないようにしてたけど、逆効果だった。

 もっと汗だくになってから家にくれば、山本さんもシャワーを勧めてくれていたはずだ。

 

「お、俺、昨日から風呂入っていなくて! たぶん、かなり臭いと思う」

 

 自分でもこんなこと言いたくはないが、背に腹は変えられない。

 

「うーん……」

 

 俺をジロジロと見上げる山本さん。

 疑いの眼差しだった。

 

「なんか、うそっぽい」

 

 さすがに雑に嘘を重ねすぎたか。

 慌てて何も考えずに飛び出してきてしまったからな。

 電話を掛ける前に思いとどまっておけば、シャワーくらいは浴びてこれたのに。

 

「いつもはちゃんとお風呂に入ってるんだよね? 臭いのは美優ちゃんが許さなそうだし」

「うん、まあ、そうだけど」

「今日は私とエッチするのわかってたはずでしょ? それでも、あえてお風呂に入ってないのを咥えさせたいならわかるけど。今になってシャワーを浴びたいってどういうことなのかな?」

 

 ドキッとする質問。

 言い逃れする道を塞がれている。

 「エッチするのわかってたはずでしょ?」と聞かれることは予測していたのに、どうしてここまで説明しづらい嘘にしてしまったんだ。

 

 もはや今までの発言は修正できない。

 ならば、新情報で対抗するしかない。

 

「お、オフ会! に、参加しようとしてて。徹夜でどうしてもやらなきゃならないゲームがあったから、つい夢中になって……」

「じゃあ私とするのが楽しみで寝れなかったっていうのは嘘?」

 

 うぐっ、こ、心が、痛い。

 山本さんを傷つけたくはないけど。

 いまさらひっくり返すわけにもいかない。

 

「ごめん! 本当にごめんっ!! こっちの方が先約だったんだ! 少しでも体力回復させようと思って寝てたら、昼過ぎになってて。風呂は入るつもりだったけど、その余裕もなくて」

 

 上手く繋がった。

 これなら前後の文脈に不自然さもない。

 

「嘘だよね」

「え、あ、いや……」

 

 一瞬で看破された。

 山本さんの眼がどんどん鋭くなっていく。

 昨日の学校で山本さんがエッチを始めたときも、こんな風に雰囲気が変わった。

 これが山本さんの本気モードなのか。

 

「これだけ男をとっかえひっかえしてるとね。その人のひととなりっていうのが、嫌でもわかるようになるものなんだよ」

 

 山本さんは俺なんかよりよっぽどコミュ力がある。

 男性経験も豊富で交友関係も広く、おまけに頭も良い。

 俺みたいに鈍い男が敵う相手ではなかった。

 

「ソトミチくん、私に悩みを打ち明けたときと同じ喋り方してる。それにいくら先約があるからって、私との約束を放り投げてゲームする人じゃないよね」

 

 まさに核心を衝くひとことだった。

 悩みが美優に関係することだから、隠し方も同じになってしまう。

 

 緊張で埋められた、俺と山本さんの距離。

 冷や汗を流す俺に、山本さんは、その表情をカラッと明るくさせた。

 

「さて。それでは、嘘を吐き通せない小心者で優しい優しいソトミチくんに、一番効果的なお願いをしてみましょう」

 

 俺の腰を押さえてしゃがんだまま、山本さんは誘うように目元をなだらかにした。

 

「どれが本当か教えて」

 

 無邪気に本音を求めてくる山本さん。

 たしかに、こう言われると、嘘はつけない。

 

「疲れて寝坊したのと、今日を楽しみにしてたのは、本当で」

「ふむふむ」

「オフ会があるのは事実だけど、ゲームはしてなくて、本件とは無関係です」

「やっぱり」

「昨日の夜は風呂に入って……でもシャワーを浴びたいのも本音で……」

 

 全部言ってしまった。

 これだけ情報を開示しても、美優にはたどり着かないだろうけど。

 

「じゃあここには疲れた理由と洗い流したいニオイがあるわけだね。脱がしたら困る?」

「困る、といえば、困るけど……」

 

 そもそもが深く考えすぎだったか。

 美優に忠告されたから慌てて嘘をついちゃったけど、ニオイを嗅がれたくらいではバレるはずがないし。

 

「まあ、あの……ちょっと……精液臭いかもしれないんだが……」

「あのぉ、ソトミチくん?」

 

 山本さんの呆れ顔。

 ああ、この表情、美優にもよくされたな。

 

「もしかして、あれから自分でも出しちゃったの?」

「はい……」

 

 出しちゃったとかではないレベルで射精してしまいました。

 出したのは、妹だけど。

 

「たしかにね、昨日、ソトミチくんの精液を飲んだとき、すごく性欲が強そうだなとは思ったよ」

 

 子供を諭すような声。

 男に対しての憐れみを感じる。

 

 ここまで性欲が強くなったのは、美優とエロいことをするようになってからだ。

 ペニスだって前はもっと小さかったし。

 いったい、どこからが俺の責任なんだろう。

 

「疲れて昼まで寝てたのって、もしかして朝してたの?」

「……はい」

「もー。どうしてここに来るまで我慢できなかったの。これはお仕置き案件じゃないかな」

「その通りだと思います……」

 

 まずい、これだけ出した状態で山本さんからのお仕置きとか。

 いよいよ腹上死も覚悟しなければならない。

 

「いくら私がお願いしてる立場とはいえ、限度があるんだからね。今日は美優ちゃんのこと考えるの禁止です」

「そ、それは死ぬ!!」

「だーめ。ソトミチくんのこと玩具みたいに扱ってやるんだから」

 

 山本さんは問答無用で俺のパンツを脱がせる。

 そこにはまだ柔らかいままのペニスが垂れ下がっていた。

 

 山本さんはそれを手で掴んでふにふにすると、鼻を近づけてニオイを嗅いだ。

 

「ほんとに精液のニオイがする。ソトミチくんは美優ちゃんをオカズにしないと射精できないんだよね? 私とするより先に美優ちゃんで抜いちゃったの? 妹離れする気はあるのかな?」

「すみません……」

 

 俺だって今朝は射精なんてしたくなかった。

 

 寝坊したのは二回目の射精のせいで。

 それは、自分からお願いしたんだけど。

 

 やっぱり、俺が悪いのか。

 

「でも、なんか、いい匂いもするね」

「いい匂い? なんでだろ」

 

 昨日はパンツの中に射精してしまったせいで、二回もシャワーを浴びたからな。

 ボディーソープの匂いでも残ってるんだろうか。

 

「この匂い、知ってるかも……はむっ」

「おっ、ああっ……!」

 

 パクっとまだ小さいままの肉棒がまるごと山本さんの口に含まれた。

 不意打ちの快感に、ビクッと腰が引けてドアにぶつかる。

 

「んぐっ……むちゅ…………うむにゅ……ふあぁ」

 

 山本さんはしばらく舌で俺のペニスを舐め回すと、すぐに口を開放した。

 

「んー……」

 

 そしてまた、俺を睨む山本さん。

 

「やっぱりシャワーを浴びてもらおうかな」

「うえっ!? そんなに臭かったか!? ごめん……普段はそんなことないと思うんだけど……!」

「いいのいいの。さ、上がって」

 

 俺はズボンを履き直して、部屋に上がった。

 山本さんからはすぐに浴室を案内されて、服の置き場所などを指示される。

 

「化粧水とか乳液は塗る?」

「いいや、大丈夫」

 

 たまに美優から、試してみて調子悪かったものを譲ってもらうこともあるが、自分から進んでつけることはしない。

 

「ハンドクリームとかは?」

「それもいいよ。つけたことほとんどないし」

 

 手がベタベタするのは好かない。

 スマホをいじるときに気になるからな。

 美優は洗い物のたびに塗っているけど、俺はキーボードとかすぐに触るし、汚れやすくなりそうだからつけたくない。

 

「タオルは置いておくから、お湯もボディーソープも好きなだけ使っていいよ。それと……これ」

 

 山本さんは端に設置された洗濯かごを指さした。

 蓋がされていて、中身が見えないようになっている。

 

「脱いだ服は、洗濯カゴの蓋の上に置いてね。下着を漁ったら私も怒るから」

「わかってるって……!」

 

 俺ってそんなに下着関係に信用がないのか。

 男のひととなりがわかるって言ってたけど、まさか今朝みたいなことまで見透かされてないよな。

 あれは事故であって、邪な気持ちがあったわけじゃないんだ。

 万が一のときのために強く念じておこう。

 

 山本さんが脱衣所を出てから、俺は服を脱いだ。

 人の家で裸になるのって初めてだ。

 外で露出してるみたいでそわそわする。

 

 浴室もモダンでキレイなところだった。

 この建物も建てられてから日が浅いんだろう。

 クレンジングオイルやヘアバンドなどがケースの中に設置されていて、いよいよ女の子の家にやってきたという実感が湧いてきた。

 

 体はしつこいくらいに洗っておく。

 首元とかは美優の匂いがまだ残ってそうだし。

 

 なんとか、乗り切ったんだよな。

 あそこで質問を追加されてたら、もう白状するしかなかった。

 

 あとは山本さんとのエッチを無事に完遂するだけ。

 下半身はかなりしんどいけど、今日を乗り切れば次からは楽しいエッチができる。

 

 俺は浴室から出て体を拭き、要所を手で擦って、ニオイが残っていないかを確かめた。

 

「よし。問題ないな」

 

 服を着て、居室に入る。

 

 山本さんの部屋は、物は少なめ、色はカラフル、かといって統一感がないわけでもなく、その白基調の部屋を家具の配置でうまい具合にセパレートしていた。

 テーブルの前にクッションが2つ置いてあり、山本さんはその1つに座って体育座りしている。

 

 なんとも嫌な予感がするな。

 あれは美優が胸のサイズに悩んでいた時と同じ姿勢だ。

 

「シャワー、ありがとう。さっぱりしたよ」

「いえいえ。さ、ここに座って」

 

 隣のクッションに誘導されて、俺はそこに腰を落とした。

 椅子に慣れているせいでやや関節が疲れる。

 

「あのね、ソトミチくん」

 

 改めまして、という切り出し。

 これは何か言われるな。

 

「誘惑した私も、悪かったんだけどさ」

 

 早速不穏な言葉が飛び出した。

 

 お叱りを受けるのか。

 いったい、何について叱られるんだろう。

 

「ソトミチくん、浮気してるでしょ」

 

 まさかの一言だった。

 

「えっ。いや、えっと……」

 

 どうしてそこで浮気という単語が出てくる。

 浮気というのはパートナーがいないと成り立たないわけで。

 俺には彼女なんていないのだが。

 

「あれ……? 俺と、山本さんって、その……」

 

 もしかして、これって恋人関係なのか。

 

 俺と山本さんはこれからセックスをする。

 これが恋人じゃないのだとしたら、山本さんとはいわゆるセフレになるわけだ。

 たしかに山本さんをセフレとして扱うのは抵抗があるけど。

 昨日承諾した時点で恋人になっていたのなら、それなりにわかりやすい雰囲気を出してほしかった。

 

「そうじゃなくて。ソトミチくん、彼女いるでしょ。今朝はその子とエッチしてきたんだよね? それで遅れたんだよね?」

 

 山本さんは確信めいた語調で俺を問い詰めた。

 

 俺に彼女がいると誤解されている。

 玄関でのやりとりで、山本さんは女のニオイに勘付いたが、その相手が美優だとは思っていない。

 それはそうだよな。

 普通はエッチの相手が実の妹だなんて考えないし。

 

「私はね、この体質にずっと悩んできて……。だから、ソトミチくんとエッチはしたいよ? そうでなくても、この前は楽しかったし」

 

 山本さんは怒りきれず喜びきれずの表情で、さりげなく照れ顔を覗かせる。

 嬉しいお言葉をいただいてしまった。

 

「でもね。私は誰かを不幸にしてまで、自分が幸せになろうとは思わないの。私は、私の魅力を自覚してるつもりだし、最初にソトミチくんを誘惑したのは私だから、別に怒ってるわけじゃなくて。今日までのことも含めて、私も一緒に謝りに行くから。正直に話してほしいな」

 

 山本さんは真剣な眼差しで俺に語りかけた。

 

 これは参った。

 山本さんの誤解を解くには美優のことを話さなければならない。

 美優に確認を取れば、あるいは許してもらえるかもしれないけど。

 遥との楽しい旅行を邪魔して、話していいはずがないと断ぜられてしまったら、俺はただ二人を不快にさせただけになる。

 

 そもそも、こんな状況になって、相手が妹でしたと暴露して、山本さんがそれを信じてくれるのか?

 余計に議論がややこしくなるだけじゃないのか。

 

 どうすればいい。

 どうすれば二人とも傷つけずにこの窮地を乗り越えられる。

 

「しゃ、シャワー浴びてるうちに、なんかあったのか!? 玄関でのことは、抜いてきたのがバレたくなくて、ニオイを嗅がれたくなかったって言ったつもりだけど……!」

 

 俺に彼女がいるという勘違い。

 とにかくそれを正すしかない。

 山本さんはただ、家に来たときの俺の態度が不審で、違和感を抱いているに過ぎないんだ。

 

「あの段階ではね。さっきも言った通り、男の人のことはわかるつもりだから。ソトミチくん、彼女もいなさそうで、浮気もしなそうだなって、思ってた。だから、昨日も迷わなかったし」

「でもほら、浮気の根拠って、俺がニオイを嗅がれるを拒んだってだけだろ? たまには、山本さんの予想だって外れるよ」

 

 実際は半分くらい当たってるけど。

 というより、恋人でもないのにあんなエロいことをしてるってほうがおかしいわけで、山本さんの推測はほぼ正解と言っていい。

 

「だとしても、反応が怪しすぎるもん。私、嫌だよ。私のせいで誰かが不幸になるなんて」

 

 俺がもっと上手く嘘をついていれば、理論的には説き伏せられたはず。

 だが俺のこの慌てっぷりが、それを嘘だと山本さんに教えてしまっている。

 

「怒ってないし、怒らないよ? ソトミチくんは素敵な人だと思うし、それはこれからも変わらない」

 

 山本さんは俺の手を両手で包んで、目を見つめてくる。

 星空を眺めているような澄んだ瞳だった。

 

「いいんだよ。自然なことだもん。彼女さんとのエッチが上手くいかないから、それを解消したくて私の誘いを受けてくれたんだよね? それまで、ずっとずっとしないようにしてくれてたの、私は知ってるから。だから、お願い、ソトミチくん。ちゃんとここにあるものを教えて」

 

 山本さんは俺の胸に手を当てて、ゆっくりと唇を動かす。

 

 色の良い艶肌。

 凛々しさと愛らしさを兼ね備えた目。

 およそ敵う者のない才知の結晶。

 この女神に、俺はどう立ち向かえばいい。

 

「た、たとえばだ」

 

 目を合わせたまま口を開く。

 胸に置かれた手には、俺の心音まで伝わっているはずだ。

 もう一度動揺したら、それ以上は取り繕えない。

 

「俺に彼女がいないことが事実だとしたら。俺はその“無いこと”をどう証明すればいい?」

 

 いわゆる、悪魔の証明。

 無いものを在ると断じられては、その空想そのものが可能性の拠り所になってしまう。

 

 山本さんは、俺に彼女がいて、妹をオカズにしなければ射精できない悩みを解決するために、やむなく山本さんとセックスをする決断をしたと思い込んでいる。

 しかし、そこに確たる証拠は無い。

 だとしたら、やはりつけ入るべきはその論拠だ。

 

「じゃあ、逆に聞くけどさ」

 

 山本さんの目が鋭くなる。

 観察されている。

 

 来る。

 俺の嘘に大打撃を与えるひとことが。

 

 予測しろ。

 あらゆる質問を。

 決して動揺するな。

 

「さっき、口でしてたとき」

 

 山本さんは、俺の手に添わせていた自分の手を離す。

 

 そして、さきほど数秒だけ咥えた、俺のペニスを、ズボンの上から指で押し込んできた。

 

「ここにハンドクリームが付いてたのはなんで?」

 

 問われたとき、俺は意外にも冷静だった。

 

 俺の肉棒にハンドクリームが付いていたなんて。

 そんなこと、俺も知らなかったからだ。

 

 山本さんは俺のペニスの精液臭さを指摘した後に、いい匂いがするとも言っていた。

 ハンドクリームが付いていたのなら、いい匂いがするのも肯ける。

 

 でも、俺はハンドクリームなんて使ったことがない。

 

「はっ──!!」

 

 答えに至った瞬間、思い切り息を呑んでしまった。

 心臓が早鐘を打って、絶望が胃の底から這い上がってくる。

 

 導き出された3つの答え。

 それがリンクしたときの、三重の納得。

 かつてない閃きの、その衝撃が、俺に気付きの反応をさせた。

 

 詰んでいたんだ。

 最初から。

 

 俺はシャワーを浴びる前に、山本さんからハンドクリームを使うかと聞かれて、使ったことがないとまで言ってしまった。

 あの質問は、ここに来る前に俺が自分の手でしていなかったことを確認するのが目的だったんだ。

 

 俺のペニスに付いていたハンドクリームは、美優が出かける直前に使っていたもの。

 まだ乾燥しきっていなかったハンドクリームが、俺に肉棒の熱で溶け出して、擦り込まれた。

 

 だから美優は俺にシャワーを浴びるよう忠告したんだ。

 他でもない、この山本さんなら、自分以外の女の子に手淫をさせていたことに気付いてしまうから。

 

「そそそ、それが、ハンドクリームだっていう確証は!?」

「はい、もう無駄。わかってるよね? 覆らないって」

 

 山本さんは人差し指で俺の唇を封じた。

 

 ハンドクリームの匂いが問題なんじゃない。

 俺がここまで動揺してしまったことが、最大の敗因だった。

 

「どうしてそこまでして隠すの?」

 

 山本さんは純粋に不思議がった。

 ここまで追い詰められたら、誰だって白状する。

 

 山本さんは全てを許して、最善の形で終わらせてくれることを約束している。

 この状況になったら、どれだけ意固地になったところで、浮気を疑っている山本さんがセックスをしてくれるわけがないんだし。

 そもそも、今日のセックスを提案したのは山本さんだ。

 俺が躍起になってセックスをすることに固執する理由は、山本さんからすれば何一つとして無い。

 

「いやぁ、だから、ほら。言えないことも、あるだろ……?」

 

 俺だって本当は話したいんだ。

 部分的に真実を教えるんじゃなくて、もうありのままの俺を知っていてほしい。

 

「言えないことって? たとえば、昨日みたいな……」

 

 そこまで言った時点で、山本さんが固まった。

 

 ああ、もう、隠せない。

 ついに山本さんもその結論に至ってしまった。

 

 いや、本当は、最初からわかっていたんだ。

 あらゆるヒントがその答えに向かっている中で、それでも絶対にありえないと思っていたからこそ、その一番尤もらしい答えを候補から除外していた。

 

「えっ……!?」

 

 瞠目し、体を引く山本さん。

 今頃山本さんの脳内では、何度も繰り返し論理が構築され、倫理という障害にぶつかっていることだろう。

 

「えぇぇぇぇええっ!?」

 

 ついには壁際まで後ずさってしまった。

 

 驚くのも無理はない。

 実の妹が、俺の性欲を処理していたなんて。

 

「えっ、えっ? ええっ? うーんと、んと、んん? そうなの? そういう、ことなの?」

 

 誰に尋ねるでもなく混乱する山本さん。

 ここまで慌てている山本さんを見たのは俺が初めてだろうな。

 

「事情があるんだ。あと、言っておくが、セックスはしていない。セックスはしてないし、山本さんが思ってるほどの深い関係では、決して無い」

「ああ、うん。うん……」

 

 そして山本さんは、自分の常識で作り上げていた論理を放棄した。

 

 消去法というシラミ潰しの戦略。

 あらゆる想像を否定しなければ導けなかった答え。

 

「美優ちゃん、なんだ……」

 

 そう、それしか無い。

 

 俺の挙動不審な言動と、これまでのやりとりを符合させるものは、美優しかいないんだ。

 

「ごめん」

 

 秘密がバレて、最初に出た言葉がそれだった。

 誰に対して謝りたかったのかは、わからない。

 

「それは私に嘘をついたことへのごめん?」

「そういう意味もあるけど。現実にそういうことしてる兄妹がいるって、山本さんにとっては気分のいい話じゃなかったかなって」

 

 男なら羨ましがるやつもいるかもしれないが。

 近親者との性行為なんて、誰だって軽蔑する。

 

「別に美優ちゃんとしてること自体は、私はいいんだけど……」

 

 山本さんはもじもじしながら続ける。

 

「結局のところ、浮気なのでは……?」

 

 ああ、そこか。

 山本さんが気にしてたのは。

 

「浮気ではないよ。美優とは、付き合ってるわけじゃないし」

「でも、美優ちゃんとソトミチくんは、ラブなんでしょ?」

「俺はともかく、美優は好きでは無いと思う」

「なんで!?」

 

 なんで?

 

 なんでだろう。

 

 言われてみれば、一回目のときから謎のままなんだ。

 

「俺にもわからないんだよ」

「ううーん。ソトミチくんが鈍感なだけで、実はお兄ちゃん大好きだったりして」

「だと嬉しいけど。他に彼女作れって言われてたし」

 

 美優が俺を好きなら、苦労することなんて無かった。

 毎日いちゃいちゃして、間違いなく、本番行為までしていたはずだ。

 

「ショッピングモールでのことも、そういうこと?」

「そういうこと。あのときは、美優以外で抜けなくなったって相談してて」

 

 美優が山本さんに更衣室で俺を勃起させるように命令したのは、俺が美優以外で興奮することで、その性欲から恋心が芽生えて、真人間に戻るのではないかと期待したからだ。

 俺に彼女を紹介してくれたのだって、妹を好きになるのは由々しき事態だと判断されたからだしな。

 

「美優ちゃんは知ってたんだね。おかしいと思ってたんだよ。美優ちゃんをオカズにしてるのは秘密で、でもソトミチくんがEDなのは知ってるって。だいたい、実の兄がEDだからって、同級生にあんなお願いをするのも変だし」

 

 美優のやることがいつも過激なせいで感覚が麻痺していたが、更衣室での命令もやりすぎだった。

 相手が山本さんでなければ、もっと前から破綻していただろう。

 美優のことだから、山本さんの内情を掌握した上で、踏み切ったのかもしれないけど。

 

「あのさ、ソトミチくん」

 

 一旦会話が落ち着いて、山本さんは、また俺の隣に座ってくれた。

 

「美優ちゃんとエッチしてたら、いつまでも美優ちゃん以外で射精できるようにはならないんだよ?」

 

 あまりの正論に目眩がしそうだった。

 

「というより、美優ちゃんはソトミチくんのことが好きじゃなくて、ソトミチくんは美優ちゃん以外とエッチできるようにしたくて、どうして二人でエッチなことしてるの?」

 

 それがわからないんだ。

 俺でも答えられない。

 半分は俺の性欲が原因だろうけど。

 美優にはその性欲に付き合う理由がない。

 

 美優の態度が軟化したのは、トイレでお仕置きをされてから。

 あのとき、美優は何かを諦めて、最近では段々とスキンシップを許すようになってきた。

 俺にとっては好ましい変化だが、美優は怒っていたはずなのに、どうして俺が喜ぶ方向に転んでいるんだろう。

 

 山本さんの言う通り、実は俺のことが好きなのか?

 エッチなことをしているうちに好きになってしまったとか?

 いままでのは全部、照れ隠しだったのか?

 

 だいたい、どうして俺の精液をあれほど平然と飲めるのか、まだ答えてもらっていない。

 精液が美味しすぎてハマってしまったなら理解のしようもあるが、死ぬほど不味いと扱き下ろされたほどだ。

 

 美優にも性欲はあるようだし、それを満たしたいだけなら、遥という最高のパートナーがいる。

 レズなのを認めたくないから俺と関係を持つようになったのだとしたら、それは俺じゃなくてもいい。

 美優はモテる女だ。

 俺なんかよりいい男はいくらでもいる。

 

 その男たちも、美優はこっぴどく振った。

 美優が極端な男嫌いなのは由佳から聞いた情報だが、あの可愛さにしてあの男っ気の無さは、事実として男嫌いなんだろう。

 俺と性的な行為には及んでいるが、そこには別の目的があって、本当に俺を含めた男そのものが好きでないのだとしたら、レズであることを否定する理由がない。

 

 仮に俺だけが好きだったとして、俺の想いにも応えず、成功率100%の告白もしないのは、兄妹の恋愛を禁断のものとして忌避しているからになる。

 これは何度も美優が口にしていること。

 俺のことが好きだという時点でだいぶありえない仮定だけど、これが最も美優の言動に説明がつく。

 

 でも、だとしたら、問題なのは一番最初だ。

 どうして美優は俺のオナニーを手伝うことにしたんだ。

 せっかく全く喋らない距離感を保てていたのに、兄妹の恋は許されないと口にしながら、美優は俺が美優を好きになるように仕向けてきた。

 俺にとっては0から1が生まれたようなもの。

 きっかけが存在しない。

 

 全部が噛み合わないんだ。

 当事者の俺が何一つ整理できていないんだから、誰かに真実を教えられるわけがない。

 

「俺と美優の関係については、本当にどうしてこうなってるのかわからないんだ。俺も知りたいくらいで。美優は何も教えてくれないし」

 

 どうにもならない状況に、誰が悪いわけでもなく嘆きの声音が混じった。

 嘘をつかずにいられるなら、この優しい女神を騙すことなんてしなかったのに。

 

「ソトミチくんの事情も複雑なんだね」

 

 山本さんは、何かを悟ったのか、疑問を重ねることをやめてくれた。

 その代わりに、山本さんの手が俺の頭に置かれて、髪を梳くように撫でられる。

 

 山本さんは手も大きくて体温も高くて。

 美優とは違った意味で落ち着く。

 

「一つ言えるのは、選択肢は増えた方がいいんだ。美優が妹離れさせようとしてるのは間違いない。場合によっては、美優が実は聖人並みに優しくて、美優でしか抜けなくなった俺と心中するつもりでエッチなことをするようになったのかもしれないし」

「それはまた豪気だね」

 

 山本さんは顔を綻ばせながら撫で続けてくれる。

 幼い頃、母親にあやされてたときって、こんな感じだったんだろうな。

 

「とにかく俺は美優にとっての最善を選んでやりたいんだ。もし、妹離れするのがベストなら、美優が何の気兼ねなく離れられるように、他の子と問題なくセックスできる体にしておきたい」

 

 俺は、美優が好きだ。

 美優が俺を好きでいてくれるなら嬉しい。

 でも、俺の性欲に付き合わせるだけにはしたくない。

 

「だから、あの、こんな雰囲気にはなっちゃったけど……」

 

 山本さんとできるなら、したい。

 

「ふふっ。そうだなぁ。じゃあ、最後に一つ、正直に答えてもらっていい?」

「俺にわかることなら、なんでも」

 

 山本さんは正座して居住まいを正し、俺もそれに合わせて正面を向く。

 

 真面目な表情。

 

 それが一転、ニッコリと笑みをこぼす。

 

「私としたあと、何回美優ちゃんとエッチしたの?」

 

 まさかの質問に、俺は思わず咳き込んだ。

 俺が腹筋を引きつらせて苦しそうにしている間も、山本さんはずっとニコニコしていた。

 

「それは、あの、出した回数で、いいんでしょうか」

「そうだね。お昼まで寝過ごすくらいなんだから、きっと相当な量なんだろうなって、思うわけですよ」

 

 くそう、楽しそうにしやがって。

 こっちは深刻だっていうのに。

 

「多くても、引かない?」

「今更何を聞くんですか」

「まあそうか。じゃあ、言うけど……えっと……夜で……ご……朝が……あれだから……」

 

 数えてみると、自分でも酷い回数だった。

 

「7回かな」

「おお。……らぶらぶだね?」

 

 半分は美優に嫌な顔をされながら無理やり射精させられたんだけどな。

 

「ソトミチくんは、まだ余裕なの?」

「いや、正直、かなりキツい。というか、7回の時点で、だいぶ無理がある」

 

 山本さんに出してもらったのを含めて8回。

 その前日には5回の大量射精があった。

 俺の体、大丈夫なんだろうか。

 

「そっか。なら、お昼食べて寝よっか」

「俺はありがたいけど。山本さんはいいの?」

「私だけが楽しくてもしょうがないでしょ。ちゃちゃっと料理してくるから、待っててね」

 

 山本さんはそう言ってキッチンに立った。

 

 ラップしてあった食材を冷蔵庫から取り出して、フライパンを温め始める。

 お昼、用意してくれてたのか。

 

 寝過ごした罪悪感が更に重くのしかかってくる。

 男とのきちんとしたセックスは山本さんのかねてよりの願い。

 そっちで頑張って挽回するしかないな。

 

「精のつくものを食べないとね」

 

 ほどなくして、山本さんがテーブルに料理を持ってきた。

 

 鶏肉とナッツの炒めもの。

 トマトとモッツァレラのカプレーゼ。

 ホタテとアボガドのチーズ焼き。

 鰻入り炊き込みご飯。

 おまけにスイカのデザート付き。

 

 食べ合わせとか度外視にして完全に殺しに来ている。

 そしてそれは同時に、山本さんの俺へのセックスの期待値を表すものでもある。

 

「いただきます」

 

 食べるごとに元気が全身に行き渡った。

 この丁寧に切り整えられた具材と火加減、愛が伝わってくる。

 俺個人ではなく、普遍的な人間に対する愛ではあるが。

 これが山本さんの優しさなんだな。

 

「んふふ。お夕飯にも元気になるものたくさん用意してあるから、いっぱい食べてね」

 

 今夜は絞れるだけ絞り取られるんだろうけど……。

 

 これからはバイトと睡眠とセックスのローテーションか。

 夏休みの宿題、どうしようかな。

 山本さんが一緒にやってくれるなら楽なんだけど。

 

「寝間着は持ってきてないけど、どうやって寝ればいい?」

「Tシャツなら私のでも着れるんじゃない? 胸のサイズ的に。運動用のハーフパンツも余ってるから貸すよ」

 

 山本さんと背丈が同じくらいでよかった。

 男としては、もう少し身長が欲しいんだけどな。

 

 山本さんの美味しい料理をたらふくご馳走になって、もうそのまんまいけちゃいそうな気分の中、俺は寝間着を受け取った。

 レディースだけあって部分的な違和感はあるが、山本さんも自分が持っている中で一番大きいやつを貸してくれたから伸びるようなことはなさそうだ。

 

 ベッドはやや大きめだった。

 一般的なものより数センチ幅広のセミダブル。

 家族以外を入れたことは無いって言ってたけど、寝るのが好きなのかな。

 

 山本さんが先にベッドに入って、手を広げて俺を呼び込む。

 俺が布団の中に入ると、山本さんはおっぱいを俺の顔に押し付けて、そのまま抱きしめてきた。

 凄まじい今夜への熱意を感じる。

 

「ムラムラしてもちゃんと寝るんだよ」

 

 山本さんは、早速大きくなり始めた俺の肉棒に苦笑しながら、また頭を撫でてくる。

 

「起きたらいっぱいエッチしようね」

 

 その母性に抱かれたまま、俺は今日までの疲れを吐き出すように、昼間とは思えないくらいに深く安らかな眠りへとついたのだった。

 



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幸せで優しい時間

 

 目が覚めると、俺はまだおっぱいの中だった。

 

 山本さんの腕に抱かれたまま、顔をいっぱいに圧迫してくるその豊かな実りを堪能して、よく窒息死しなかったものだと振り返る。

 あるいは幸福死というものがあったら、俺は死亡寸前の致命傷を負っていたかもしれない。

 

 美優のおっぱいを堪能するまでは死ねないけど。

 

「んっ……ソトミチくん……起きたんだね」

 

 俺の呼吸と体温の変化を感じたのか、山本さんも一緒に目を覚ました。

 

 山本さんはうっとりした顔で、俺をおっぱいの深くへと埋めてくる。

 

 さすがに呼吸ができなくなって、俺がモゴモゴ言っていると「うんうん、私も良く眠れたよ」とよくわからない答えが返ってきた。

 

「むぐっ……ぉっ……しぬっ……」

「あ、ごめんね。この前弟が来たものだから、つい」

 

 そこでどうして「つい」になるのかはわからないが、どうにも弟たちは毎度このおっぱいプレスを受けているらしい。

 

 小さいうちからこんなことをされていたら、将来苦労するだろうな。

 

「五時間くらいは寝たかな。調子はどう?」

 

 山本さんは片腕で俺の頭を抱えたまま時計を確認する。

 苦しくないぐらいには力を抜いてくれたが、なかなかおっぱいから俺を放そうとしない。

 なんだか子供扱いされているみたいで……悪くない。

 

「元気にはなったよ」

 

 俺は平静を装って、寝起きからギンギンに勃起している愚息を山本さんから遠ざける。

 

 しかし、そんなわずかな腰の動きも山本さんが見逃してくれるはずもなく、布団の中ですぐさま山本さんの手が追いついてきた。

 

「元気いっぱいだね」

 

 山本さんが俺のペニスの形を確かめるようにズボンの上からさすってくる。

 

「あんなことをされると仕方ないというか」

 

 起き抜けにおっぱいがあったら勃起するしかない。

 昨日も今日も、寝て起きたら隣に美少女がいるなんて、俺の人生はいつの間にこんな恵まれてたんだ。

 

「おっぱい好きなの?」

 

 山本さんは横向きでも形のいい胸を両肘で挟んで強調する。

 

 あそこにこの勃起を挟んだら、俺はその快楽に意識を保っていられるだろうか。

 

「おっぱいは……」

 

 好きじゃない男なんていない。

 だが俺のおっぱいへの「好き」は、そこら辺の「好き」とは少しばかり事情が違う。

 なにせあの妹に、あの胸の膨らみを見せつけられながら、これまで毎日暮らしてきたんだ。

 しかも、最近はお風呂やベッドにまで入ってくるし。

 

 それでも胸だけは触るなと禁欲を強いられてきた。

 

 山本さんがセックスができなくて悩んでいたように、俺にも長年溜まったフラストレーションがある。

 

 佐知子もある方だったけど、まだ年相応だったというか、とにかく美優と山本さんのおっぱいは次元が違う。

 心ゆくまで味わわせてくれるなら、俺は寿命が縮んだっていい。

 

「おっぱいは……その……かなり……好きな方……ではある……」

 

 嘘はつけない。

 

 どんなに卑しいと蔑まれようとだ。

 

「そっか」

 

 山本さんは俺のパンツの中に手を入れてくる。

 いつも握っている自分の手とは違う肌感が、竿全体を包んできた。

 他人の手にペニスを掴まれる感覚はいつもゾクゾクする。

 

 俺のペニスはすでにフル稼働していた。

 美優のことを考えていたことも手伝ってか、完全に発情してしまっている。

 

 兄として申し開きのしようがないけど、これは山本さんのおっぱい効果もあるんだ。

 美少女二人分のエロスに、男が我慢できるわけがない。

 

「そんなに好きなんだ」

 

 山本さんは俺のペニスを掴んで、今度は直に形を確かめてくる。

 

 ただの手コキだというのに、山本さんの肌は相変わらず凄まじい肉感だ。

 

 それからすぐにパンツを脱ぐように催促されて、俺は山本さんの手の動きに合わせて腰を上げると、俺はあっけなく下半身を裸にされてしまった。

 

「っ……あぁ……気持ちいい……」

「ねえ、ソトミチくん」

 

 山本さんは俺の肉棒を扱きながら、自分のTシャツを鳩尾近くまでめくり上げた。

 

「おっぱい好き?」

 

 白桃のように輝く下乳がたゆんと揺れる。

 

「あっ……おっ……ぁぁあ……す、好き……!」

 

 見た瞬間に体の熱が跳ね上がった。

 山本さんも俺の肉棒を握る力を強めてきて、いよいよ本格的にエッチな雰囲気になってくる。

 

 女の子にリードしてもらってばかりで情けなくは思う。

 でも、俺なんかがこの美貌に好き勝手触れていいものか、迷ってしまう。

 

 山本さんは何をしても許してくれるだろうけど、ずっと美優にあれこれ制限されてエッチをしてきたせいか、踏み込む勇気を出せなかった。

 

「ソトミチくんは正直でいい子だね」

 

 山本さんが亀頭を撫でてくる。

 

 褒められた経験が少ないせいで、心臓がくすぐられるみたいに嬉しい。

 

「あっ……あの……」

 

 やっぱり俺ばっかりが気持ちよくなってちゃダメだ。

 俺だってもう童貞ではないんだし。

 いつまでも山本さんの手淫に身を任せていられない。

 前戯をしてあげないと。

 

「お……おっぱい……触ってもいい……?」

 

 口にしてみると、欲望を吐き出しただけみたいになった。

 

 前戯で乳首責めして気持ちよくするのは定石だけど、山本さんにはどう思われただろう。

 

「んー……そうだなぁ……」

 

 山本さんは数巡悩んでから、下乳をチラ見せしていたTシャツを下ろした。

 

 切り出し方に失敗したか、と気落ちしていると、山本さんが俺の手を引っ張ってくる。

 

「入れていいよ」

 

 山本さんはわざわざ下ろしたTシャツの裾をパタパタさせる。

 

 そこから手を入れろということか。

 

「はぁ……山本さんの……おっぱい……」

 

 俺はときおり手を迷子にしながらも、山本さんの腹部からTシャツに手を差し入れた。

 

 俺と山本さんは、もうとっくにエロいことをしてる間柄なのに、こうして服の中に手を忍び込ませると、いけないことをしているみたいで興奮する。

 

 その間にも、山本さんは俺の肉棒に刺激を与えてきた。

 

「あっ……すごっ……あぁっ……」

 

 薄いTシャツに、山本さんのおっぱいの形と、それを掴む俺の手の形だけが浮かび上がる。

 鷲掴みにした山本さんのおっぱいは柔らかかった。

 

 切りたてのメロンみたいなハリツヤがあるにも関わらず、マシュマロのような感触をしている。

 弾力を残したままだった美優のおっぱいよりも、指の溝にまで肉が絡みついてくる。

 

 挟んでみたい。

 このガチガチになった肉棒を。

 山本さんにパイズリしてもらったら、もう一生オナホなんて使えなくなりそうだ。

 

「はぁ……はぁ……山本さん……あの……」

 

 もっと先までいかないと。

 

 胸を揉んでいるだけでは、山本さんが気持ちよくならない。

 

「さ、先っぽの方も、触っていい……?」

 

 性感帯は、普段は決して触れることの許されない、デリケートな部分。

 だがセックスとなれば、その性感帯を触らなければ始まらない。

 いけないことをするから、それが許されるから、セックスは気持ちいいんだ。

 

 この零か十かこそが、性交渉の難しいところ。

 とはいえ、美優の繊細さに比べれば、山本さんは真逆の温厚さを持った仏のような存在。

 

 怖がることなんてないんだ。

 

 なにせ俺は、あの美優を相手に、あれだけのことをしているんだから。

 

「先っぽの方も触りたいの?」

 

 山本さんの問い返しに、俺は小さく頷く。

 

 山本さんの手は、俺の肉棒を擦り続けている。

 その快感に喘ぎながら、俺が山本さんの肉厚な乳房だけを堪能していると、山本さんはクスッと笑って顔を近づけてきた。

 

「気持ち良くしてね」

 

 山本さんの息にゾワッとすると同時に、やる気がふつふつと湧いてきた。

 

 山本さんにお願いをしてもらえた。

 身体を触って、快楽を与えて欲しいと頼まれたんだ。

 男としてこれ以上の喜びはない。

 

「んっ……」

 

 乳首に触れると、山本さんがわずかに体を強張らせた。

 年の差の影響か、美優のおっぱいに比べて乳首がやや大きいように感じる。

 摘めば指の腹でしっかり摘めるくらいのサイズだ。

 この硬さ、山本さんも興奮してるのかな。

 

「どんな感じに触ったらいい……?」

 

 前戯に関しては、俺はほとんど童貞みたいなものだ。

 

 佐知子とのセックスは、美優をオカズにしないで射精することばかりに夢中になっていたし、労りも思い遣りも足りなかったように思う。

 

 たまたまあの激しいセックスを佐知子が気に入ってくれていたから良かったけど。

 男として、女の子にきちんとしたプレイをしてあげた経験はまだない。

 

 それに比べて山本さんは真逆。

 経験豊富な床上手だ。

 この経験の差を埋めるだけの器用さは、俺にはない。

 

 鈍いと思われようが、どうして欲しいのか教えてもらうしかなかった。

 

 美優に何度も情けない姿を晒してきたせいか、今になって男としての意地なんてものはなくなっていた。

 

「ソフトタッチが嬉しいかな」

「……わかった」

 

 俺は乳首を指でコリコリするのをやめ、柔肌をさするように優しく転がした。

 

「ふっ……んんっ……はぁ……いい感じ、だよ、ソトミチくん……」

 

 乳房への愛撫も忘れず、ときには乳首の周りを指先で擦って焦らす。

 

 美優に舐められてたとき、たしかこんな感じにされると気持ちよかった。

 

「ふぁっ……んっ……きもちぃ……あっ……」

 

 山本さんが喘いでいる。

 

 俺の指で、俺が山本さんを感じさせている。

 

「山本さん……あっ……うっ……こっちも……気持ちいい……」

 

 山本さんも手の動きを激しくして俺の性感を煽ってくる。

 

 二人で感じさせあって、挿入しているわけでもないのに、最高に気分が高まってくる。

 

「んあっ……あ……ソトミチくん……すごい……ぬるぬる……」

 

 山本さんは俺の先走りを掬ってペニスに塗りたくる。

 

 シゴいていただけの手淫が、ぬちゃぬちゃといやらしい音を立て始めた。

 

「ああぁっ……山本さん……それ……気持ちいい……!」

「んふっ……あっ……はぁっ……ソトミチくんの……硬くてステキ……」

 

 山本さんは根元から先端までを丁寧に擦ってくれる。

 飽きることもなく、何度もその硬さを確かめるように。

 

 山本さんにとっても、こんなに長く前戯を続けたことは初めてなんだ。

 俺以外の人は、山本さんの色気に当てられるとすぐに射精してしまう。

 山本さんにとっては、俺が勃起していること自体が悦びなんだ。

 

「はぁ……あの……こ、これ……」

 

 俺は山本さんの乳首を軽く引っ張って、そこに意識を向けさせる。

 

「す……すっ……吸っても……いい……?」

 

 言ってしまった。

 

 山本さんのおっぱい。

 

 触るだけじゃなくて、むしゃぶりつきたい。

 

 こんな手を伸ばす距離なんかじゃなく、密着して山本さんを感じたい。

 

「んっ……どうしよう、かな……」

 

 山本さんは微笑みながらも迷っていた。

 

 もう空気も熟成されて、いい感じに脳内がピンク色になる頃合いだとは思うけど。

 美優もそうだったように、おっぱいが大きい子は触られるのが好きではないのかな。

 

 なんとなくの怖さがあって、俺は山本さんの胸から手を放し、Tシャツから腕を抜いた。

 おっぱい以外を触って気持ちよくさせられるのは、もうアソコしかないけど。

 乳首よりデリケートな部分を、俺が上手く触れるだろうか。

 

 そんなことを考えていると、山本さんも手コキを止めた。

 

「うーん……まあ……ソトミチくんなら……」

 

 山本さんは片手でTシャツをめくり上げると、片乳だけを俺の前に露出させた。

 

「ほら、ここだよ」

 

 山本さんは恥ずかしそうにはにかんで、それでもTシャツの裾を握った。

 

 いいのか。

 

 俺がこの魅惑の果実を、口にしてしまっても。

 

 いや、拒むなんて無理だ。

 

 こんな子供をあやすみたいに誘われたら、逆らえるわけがない。

 

「あぁ……山本さん……はむっ……」

 

 俺は本能のままに山本さんのおっぱいに吸い付いた。

 

 舌に乗る確かな硬さ。

 

 突起部を口に含むと、母乳が出ているわけでもないのに、喉元から何かが満たされていく。

 

「あっ……んっ……!」

 

 山本さんの艶声に一層ツヤが掛かる。

 

 山本さんの要求はソフトタッチ。

 

 舌を脱力させたままで、乳首を舐めて転がす。

 

「はぁ……あんんっ……気持ちいい……」

 

 山本さんは体をビクつかせながらもおっぱいを口に押し付けてくる。

 

 演技なんかじゃなくて、本気で感じてくれているんだ。

 山本さんに気持ちよくなってもらえるのは嬉しい。

 気に入ってくれるなら何時間でもこうしていたい。

 

 でも、そんな気持ちとは裏腹に、俺の中では別の欲望も生まれてきていた。

 

 思い切り、乳首に吸い付きたい。

 

 甘噛みしたり、舌を尖らせてグリグリしたり、乳輪ごと食べてしまいたい。

 

 そんな、欲望のままにおっぱいを貪りたい欲求と、山本さんを気持ちよくしたい想いが、俺の中でせめぎ合っていた。

 

「んっ……もう……ソトミチくんたら……そんなに夢中になって…………こっちは……どうなってるかな……」

 

 山本さんは俺の肉棒を根元から絞り上げると、鈴口に指を滑らせて先走りを掬い取る。

 

「んっふ……んあ……私の母乳の代わりに……ソトミチくんのエッチなお汁が……たくさんでてる……」

 

 山本さんが再開した手コキは、まるでローションを付けているように滑らかだった。

 

 カリに引っかかる山本さんの指が肉ひだのようで、オナホにペニスを突っ込んでいるような錯覚さえ覚える。

 

「あぁ……はぁ……山本さん……下の……気持ちいい……!」

 

 腰を動かして剛直を突き立てると、山本さんの手の中でニュルッと快感が生まれる。

 

 オナホどころの気持ちよさじゃない。

 

 由佳と極薄のコンドームでセックスしていたときより、ずっと生々しい快感がある。

 

「あっ……ああっ……んはぁ……山本……さん……あぁぁああっ……」

 

 俺はおっぱいに吸い付きながら腰を動かした。

 

 山本さんのおっぱいと手が、俺を同時に満たしてくれる。

 

「ふあ……あっ、んんっ……なんだか……手にズボズボされてるの……私も気持ちよくなってきちゃった……」

 

 山本さんは手を固定して、俺の挿入を歓迎した。

 

 それどころか、俺の頭にもう片方の手を置いて、おっぱいを寄せてくる。

 

「よしよし。ソトミチくんは、おちんちんをおっきくするのが上手だね」

 

 山本さんは俺の頭を撫でてくれる。

 

 手のひら全体を使って、頭の先から後頭部まで、じんわりと手の体温を伝えながら。

 

「んあぁ……ああ……やまもと……さん……」

 

 思考力が徐々に失われていって、おっぱいを吸うことと腰を動かすことしか考えられなくなってくる。

 

 山本さんの手は、どんなに激しくペニスを擦りつけても穴の形を保ってくれた。

 

 俺は亀頭をグリグリしたり、根元まで一気に突き刺したりして、ひたすら性欲を剥き出しにしていた。

 

「ふふっ。ソトミチくん、一生懸命でかわいい」

 

 頭を撫でられて、おっぱいの柔らかさを堪能して。

 

 そこに山本さんの優しい声が届くと、脳がじんわり溶けるみたいに麻痺してくる。

 

「あっ……ふぅ……んんっ……ソトミチくん……おっぱい吸うのも上手……」

 

 おっぱいを舐めて、勃起すると、山本さんが喜んでくれる。

 

 うれしい。

 

「んんんぅ……んー……んふぅ……」

 

 何を喋っているのか自分でもわからない。

 

 それでも何かを山本さんに伝えたくて声が出る。

 

「いいんだよ。ソトミチくんの好きなようにして。思いっきり吸って、腰もいっぱい動かして」

 

 山本さんの許しを聞いて、俺は母乳を求める赤ん坊みたいに乳首を強く吸った。

 

 果肉も潰れるくらいにいっぱい揉んだ。

 

 脚を広げて、山本さんが手で作ってくれた肉穴に、ペニスの全部が貫通するように腰を振った。

 

「ああっ……んああっ……ソトミチくん……またおっきくなった……」

 

 それでも山本さんは俺の頭を撫でてくれた。

 

 俺のペニスが膨張した分だけ慈しみが伝わってくる。

 

「これから、たくさんエッチするからね。いっぱい練習しないとね」

 

 山本さんは布団をベッドから落として、俺が欲望に溺れるサマを見てくれた。

 

 俺は山本さんのおっぱいに甘えて、精子を出しても孕ませられないその穴に、性器を擦りつける。

 

「んー……んん……むにゅ……ふんぅ……」

「ほら、おちんちん前と後ろに動かして」

「うん……うん……んんっ……」

「いち、に。いち、に。ふふふっ。上手上手」

 

 美優としたときとも、由佳を犯したときとも違う、成長の過程で築き上げてきた大事な何かが、急速に失われていく。

 

「本当に赤ちゃんみたいになっちゃったね」

 

 何をしても褒めてもらえる。

 

 ちょっとしたことで褒めてもらえる。

 

 その安心感に、俺は心をとろかされた。

 

「妹とのエッチのあとは、ママとのエッチがしたいのかな」

 

 実の妹に射精させられて。

 同級生に赤ん坊のように甘えて。

 俺はシスコンでマザコンのどうしようもない男だ。

 

 でも、仕方ないんだ。

 そんな残念な俺を二人は受け入れてくれる。

 どんなに無様でも、エッチをしてくれる。

 痛いぐらい射精させられることになっても、この幸せから離れられない。

 

 もしかしたら、俺はこれから、美優とも、こうしておっぱいを……。

 

「あっ、んんっ、ああぁっ、や、ばい、あ、出ちゃう……!!」

 

 おっぱいの感触と手淫の快楽を、美優の想像と錯覚して、急速に射精欲が膨らんでいく。

 

「あら、どうしよう…………えいっ」

 

 山本さんは俺に密着すると、肉棒をふとももで挟み込んだ。

 

 まだ味わったことのない肉感に性器を刺激されて、俺の射精への抵抗は瞬殺された。

 

「あうっ、ぐはぁ、あっ、出る、出るっ──!」

 

 びゅっ、びゅく、びゅるるっ、どぷっ──!

 

 山本さんのふとももの間に、俺は大量の精液を吐き出した。

 

 口の中に出したとき以上に、女の子を汚してしまった感覚が強くて、その罪悪感が更に射精を後押しする。

 

「や、やばい、めっちゃ出た、どうしよう」

「大丈夫じゃないかな。多分ベッドは汚れてないと思う」

 

 山本さんは仰向けになって体を畳んだ。

 

 Tシャツは首元まで上げて、肌が露わになったお腹の上空で、ふとももを開く。

 

 ぬちゃっと糸を引いて、おびただしい量の精液が、山本さんのおへそに落ちていった。

 

「この調子だと、私のパンツには掛かってるかも」

「うっ……ごめん……」

「いいのいいの。気にしないで」

 

 山本さんはベッドに備え付けていたティッシュで精液を拭く。

 

 一五枚ほどのティッシュを使って、ようやく全ての精液が取り去られた。

 

「そっか。美優ちゃんを思い出すようなことを言ったら出ちゃうんだもんね」

「なんとか抵抗はしてみたんだけど、このザマで……」

「うふふ。わかりやすくて面白い」

 

 山本さんは硬いまま抜け殻になった俺のペニスを小突く。

 

 そして、しばらくそうやって遊んでから、顔を上げてニコッとした。

 

「お夕飯にしよっか」

「いいのか? 俺は、その、挿れるくらいなら、どうにかできると思うし。暴発しっぱなしで悪いから、頑張る、けど……」

 

 下手をしたら、今日はこのまま本番をせずにお開きということもありえる。

 

 山本さんはセックスをしたくて俺を呼んだのに、これでは俺ばっかりが得しただけだ。

 

「むー」

 

 山本さんは不満顔で俺を睨んでくる。

 

 なんだろう。

 

 ものすごいデジャブ。

 

「さっきまでのかわいいソトミチくんはどこに行ったのかな」

 

 山本さんはいきなり俺を抱きしめてきて、引きずり込むようにベッドに倒れ込んだ。

 

「うぉあ!?」

 

 そして、起き抜けのときみたいに、おっぱいで俺を窒息させてくる。

 

「うぐっ……うっ……うううっ……!」

「こーらー。そーとーみーちーくーん」

 

 山本さんのマシュマロおっぱいが、ぴったりと俺の口と鼻を塞いで、呼吸を許してくれない。

 

「う……うぅ……」

 

「ん。反省したかな」

 

 山本さんは俺を解放してベッドに転がした。

 

 死ぬかと思った。

 

「ゲホッ、ぐふっ……わ、悪かったって。でも、いい加減、山本さんもできないと、不満かなって」

「そう? 私、そんなにつまんなそうだった?」

「そんなことはないけど」

 

 ものすごく楽しそうではあった。

 でも、セックスはまた別だろうし。

 

 いや、でも、そういえば美優も、女の子はイクことだけが満足じゃないって言ってたな。

 

 もしかして、山本さんは本当にあれで精神的に満たされてしまったんだろうか。

 

「まあ、そういうことなら、飯にするか」

「そうそう。それで良いのです。精をつければまたエッチはできるし。さっきのエッチも楽しかったし」

 

 山本さんは服を整えると、俺を跨いで先にベッドから降りた。

 

「ソトミチくんは楽しかった?」

 

 山本さんは、どこか照れ隠しをするように髪を梳いて、横目で俺に訊く。

 

「そうだな……」

 

 まさか、現実であんなことをしてもらえるとは思わなかったし。

 

「人生で、一番楽しかったかも」

 

 かも、は余計だった。

 

 絶対にあれより楽しかったことなんてない。

 

「えへへ。良いお言葉をいただきました」

 

 山本さんはスキップをするようにまたキッチンに向かった。

 

 あれだけ気分が良さそうなんだから、俺の選択に間違いはなかったんだよな。

 

「料理、なんか手伝うか?」

 

 俺も服を着てから、エプロンを着けている山本さんに声を掛ける。

 

「二人で立つと狭いからいいよ。ありがと」

 

 山本さんの料理の手際の良さは、美優と同じくらい。

 どちらを上とするかは難しいところだ。

 断っておくが、俺と美優を比べると、美優のほうが圧倒的に料理は上手い。

 

「あのさ、ご飯の後だけど」

 

 俺には山本さんに聞かなければならないことがあった。

 俺と山本さんの目的は、セックスをすることだけ。

 なら、夕飯を食べた後も、エロ方向に進んでいくんだろうけど。

 

「今日は、どこまでする?」

 

 セックスのタイミングを女の子に尋ねるなんて、男にあるまじき行為だが、ここまで延びてしまったからには山本さんの気分を最大限に尊重したい。

 

「エッチはしたいけど。そんなに焦ることはないかなって」

 

 山本さんは野菜の皮を剥きながら答えた。

 

 エッチはしたいけど焦ることはない、とはまた難解だ。

 じっくり落ち着いた状態でしたいから、俺の精力が衰えている今はエッチは保留するということなのか。

 それとも、夕食の後にエッチはするが、本番はしなくても構わないということなのか。

 

 山本さんはずっとセックスをしたくて溜め込んでいたはずなのに、そこまで本番への熱意を感じない。

 

 昼間もあっさり寝ちゃったしな。

 深く考えずに流れに乗ればいいのか。

 エッチをする空気にはなるんだろうけど。

 それを楽しめるだけの体力は確保しておかないと。

 

 だとすると、俺は中途半端に手伝いをするより、休憩をしていたほうが良いことになる。

 

 これだけ積極的にお世話しますって意気込んでいる人は、往々にして自分の尽くしたい限りを目一杯することが喜びだったりするからな。

 

「俺、寝てたほうがいい?」

 

 場合によっては、俺は身の回りの一切を山本さんに任せてしまったほうが、喜ばれるのかもしれない。

 

「ほう」

 

 山本さんは手を止めて、ニヤリと口元を緩める。

 

「ソトミチくん、わかってきたね」

 

 ああ、やっぱりそういうタイプか。

 

 なら俺がすべきことは、山本さんの献身に全力で受けることだな。

 

 頑張ろう。

 

 頑張って、楽しもう。

 

「あ、でも、ソトミチくん。一応、聞いておくんだけどさ」

 

 今度は、やや緊張した声音。

 俺の耳もピンと鋭くなる。

 

「ソトミチくんは、早く本番エッチしたい?」

 

 どうやら、俺が本番をしないのかと聞きすぎたせいで、俺がセックスを熱望しているのかもしれないと心配されているらしい。

 

「俺は、早くしたいとかは、全く無いよ」

 

 妹離れのためにセックスがしたいのは変わらないが、セックスそのものに興味があるわけではない。

 

 セックスの経験自体はあるし、普段から美優に「イヤ」と言われまくっている俺にとっては、エッチに本番がないのが当たり前みたいになっている。

 

「ならよかった。……私も私で、ソトミチくんに喜んでもらえるように、考えてるから」

 

 再開された料理の下処理。

 その鮮やかな手捌きに、鼻歌が混じっていた。

 

「楽しい夜にしようね」

 

 山本さんの言葉に、俺は「うん」と簡単な返事だけをして。

 

 ベッドで横になり、エッチの余韻に浸りながら、食事が出てくるまで寝ているという極めて贅沢な時間を過ごすことにした。

 



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パイズリ強制射精

 

 夕食の後、食器洗いの申し出すら断られた俺は、スマホを手にベッドで寝転び、鈴原とメッセージアプリでオフ会について話していた。

 着々と準備が進んでいるらしく、夏休みの中頃には開催できるよう、具体的なスケジュール立てが行われている。

 

 主催者として鈴原の友人が幹事となり、鈴原と女の子1人が副幹事をやるようだ。

 友人といっても全員ネットで知り合った仲で、俺はまだオンラインゲーム上でも挨拶をしたことがない。

 

「何してるの?」

 

 洗い物が終わって山本さんがベッドまで戻ってきた。

 俺も体を起こして、二人並んでベッドの縁に座る。

 

「オフ会が本格的に始まりそうだから、バイトの調整しようって相談されてる」

「オフ会ってどんなことするの?」

「カラオケルームに集まって談笑したりゲームしたりじゃないかな。で、ご飯を食べて解散……とかが一般的だと思う」

 

 SNSのゲームオフ会の報告などを聞いていると、ほとんど喋らずにゲームだけやって解散になることも多いらしいけど。

 

「ネットだけでお喋りしてる人と会うって、なんだか新鮮な感じだね」

「ゲームとかアニメ関係でSNSをやってる人は、現実の人格と全く違うキャラの人もいるからな。俺はどちらかといえば怖いよ」

 

 山本さんみたいにコミュ力があれば誰と話しても楽しいんだろうけど。

 俺は相手が話し上手じゃないと会話が続かない。

 

「考え方の問題だよ。ソトミチくんは失敗したらどうしようとか、相手が変な人しかいなさそうとかばっかり考えてるでしょ」

 

 山本さんは指で俺の肩をグイッと押す。

 俺の顔を覗き込むように首を下げる山本さんが可愛い。

 

「目標でも立ててみたら? その一つが成功したら、他が上手くいかなくても、その日が無駄だったとは思わなくなるよ」

 

 オフ会の目標か。

 彼女ができたらいいなとは思っていたけど。

 山本さんを相手に妹離れが上手くいかなかったら、もう彼女を作っても意味がない気がする。

 熱血化した鈴原の誘いにダラダラと付き合ってたせいで、もう引くことができなくなったが。

 

 ともすれば、もう女の子に固執する理由もない。

 ゲーム自体は好きだし、これからそういう趣味のツテで知り合いが増えていくことを考えると、オフ会はその入り口でもある。

 

「友達を1人作るとか?」

 

 口にしてみて、若干の後悔。

 友達がたくさんいる山本さんの前で、安易にダサいことを言ってしまった。

 

「いいねそれ! 同じ趣味の人で集まるんでしょ? 何かの良いきっかけになるよ!」

 

 山本さんは俺の手を取って微笑んでくれる。

 恥ずかしいけど、心底嬉しい。

 

 そうだよな。

 山本さんはこういう人だ。

 美優の場合だったら、「バカじゃないのお兄ちゃん」とか言って、説教を垂れながら俺に正解を教えてくれたのかもな。

 

 どっちもタイプが違うだけで、世話焼きなんだ。

 優しさが身に染みる。

 

「友達って定義が難しいところだから、連絡先が交換できたら成功だーって感じで決めとこうよ」

「連絡先は鈴原のやつが全員交換のタイミングとか作りそうだけど」

「それでいーの。絶対に成功するオフ会だよ? 楽しくない?」

 

 なんという話の丸め方か。

 たしかに、連絡先を交換するって目標があって、残りはお喋りしながらゲームをするだけって考えると、気楽なもんだな。

 

「ありがとう。なんか、行く気になってきた」

「いえいえ。せっかくの機会なんだから、話題作りとでも思ってドンと構えとけばいいんだよ」

 

 成功も失敗も人生の糧ってことか。

 考え方次第ってのは、こういう意味なんだな。 

 

「そういえば、プリント配ってる時も似たような話をされた気がする」

「あれからちょっとずつ喋るようになったよね」

「まさか本当におっぱいが揉めるとは思ってなかったよ」

「んふふ。もう一度お触りになりますか?」

 

 山本さんは先端がぷくっと浮いたTシャツの胸部を引っ張る。

 シャワーを浴びてからはブラジャーを付けていない。

 触ればまた、生の感触を味わえる。

 

「いいの?」

「いいよ」

 

 さりげなく、卒なく。

 耳元で息を吐くように、山本さんは許容の言葉を口にする。

 

 ゴクリ、唾を飲む、緊張感。

 エッチの勢いで触ったときよりドキドキする。

 

「ふぅ……っ」

 

 俺は息を押し殺して、Tシャツの上から山本さんの胸を鷲掴みにする。

 

 何度触っても、本当に柔らかい。

 美優も山本さんも、この大きさでどうやってこのハリを維持しているんだろう。

 

「手、入れてもいい?」

「うん…………うっふふ。うん、いいよ」

 

 山本さんは急に吹き出して、口角を上げっぱなしにしながら髪を耳に掛ける。

 

「えっ、なんか、変なこと言った?」

「そうじゃなくて。最初から直に触られると思ってたから」

 

 なるほどそういうことか。

 Tシャツの上から触るのも、また違った味わいがあって良いものではある。

 ただ、やはりというか、肌の感触には何度も触りたくなる魔力のようなものが宿っているんだ。

 

「ソトミチくんさ、さっきエッチしてるときも思ったんだけど」

 

 山本さんは喋りながら、両手でTシャツの裾をつまんで隙間を開ける。

 まずはどうぞということらしいので、俺は遠慮なく手を入れて山本さんのおっぱいを揉んだ。

 温かくて指先から癒やしが伝わってくる。

 

「んっ……触るときに、毎回許可を取ろうとするのは、美優ちゃんの影響?」

 

 指摘をされて、俺は思わず硬直する。

 

「そうかもしれない。そんなに気になったか?」

 

 美優にどこまで触っていいのかの基準がわからなすぎて、すっかり許可を貰うことが癖になっていた。

 まさかのタイミングでの「それはイヤ」と「別にいいけど」の繰り返しが、俺の記憶の中で蓄積されていたようだ。

 

「だって。おっぱい触っていいよって言ってるのに、乳首を触るときも許可取る人なんて、初めて見た」

 

 山本さんはまた思い出したように笑う。

 

「ああ……なるほど……」

 

 乳首を触るときに、山本さんがクスッとしていた理由はそれか。

 舐めるのはともかく、いちいち乳房と乳首で許容範囲を分ける人はいないよな。

 

「美優は基本的にお触り禁止だから。判断基準もわけわかんないんだよ」

「お触り禁止なの? おっぱいも?」

「首とふとももと胸は絶対不可侵領域らしい」

「へぇ。まあ敏感になりやすいところだもんね」

 

 美優が接触を禁止したその三ヶ所は、軽く刺激するだけで喘ぎ声が漏れるほど感じるらしい。

 男性経験皆無の美優がそこまで開発されているとなると、遥とそれはもうすごいことをやっているんだろうが。

 今頃も、旅行先で乳繰り合ってるのかな。

 

 ……女の子のおっぱいを揉みながらする想像として低俗過ぎる。

 

 兄としてはほんと、最低レベルの人間だよな俺は。

 いつになったら反省できるのやら。

 

「いつもは手でしてもらってるだけ?」

「まあ……うん」

 

 手でしてもらうようになったのは最近で、それまでは俺が一方的に美優の口に射精してただけなんだよな。

 

「あんまり聞かないほうがいいかな」

「俺も隠したくはないんだけど。美優の尊厳にも関わってくることだから、全部を教えるのは難しいかな」

 

 あれだけ不味いと言われた精液を、美優が平然と、むしろ率先して飲んでいると聞いたら、山本さんはどんな反応をするだろうか。

 俺だってそういうところが気になったりはする。

 山本さんが別の誰かに話したりすることは無いと信じているけど。

 それと美優の尊厳を無視するのとはまた別の話だ。

 

「りょーかいしました。さっきの話も合わせてだけどさ、ソトミチくんのそういうところ、良いと思うよ」

「許可取ること?」

「そう。大事にされてる感じがして、嬉しい」

 

 山本さんは俺の手を両手で握って、俺の手の平の上から、おっぱいを揉ませてくる。

 

「だからうちにいるときは、いつでもおっぱい触っていいよ」

「いつでも……エッチが終わった後とか、お喋りしてるときでも……?」

「うん。寝てるときでも、お風呂に入ってるときでも、料理をしてるときでも、テレビを観てるときでも、好きにしていいから。ブラ着けてるときは外していいよ」

「そんなに!? まあ、そういう、ことなら、覚えてはおくよ」

「別におっぱい以外も好きにしていいけどね」

 

 山本さんは俺の空いている手を取って、ふとももの、鼠径部の近くまで誘導する。

 山本さんの家にいるときはこの体の隅々まで好き勝手にしていいということか。

 

 山本さんなら本当に怒らないんだろうな。

 美優が相手なら絶対に考えられない。

 

「そういえばテレビとソファーもあるんだね」

「あるよー。一緒に観よっか」

 

 俺と山本さんはソファーに並んで座った。

 といっても、うちにあるような立派なものではなく、脚付きで簡単に運べる小型のソファーだ。

 

 夕方過ぎのこの時間帯は、バラエティ番組がたくさんやっている。

 俺はゲームとアニメばっかりで、芸能人の名前がわからないから、話題についていけるか心配だ。

 

「山本さんはテレビはよく観るの?」

「うん。休みのときにテレビを観ながらダラダラしてることも多いよ」

 

 マジか。

 もっと毎日がキャピキャピしてるものだと思っていたけど。

 こうして二人で過ごしてみると、山本さんも家でゆっくりしている方が好きなのかもしれない。

 

「旅行は行かないのか?」

「旅行は考えてないかな。友達とお祭りに行くくらい? それと、バイト先の人たちと釣りに行ったり……あ、キャンプの予定があったや」

 

 結構あるんだな。

 とはいえ、これも想像とはだいぶ異なる。

 海外のでっかい塔をバックにして写真を撮ってるイメージなのに。

 

「山本さんのバイトっていうと、モデルとか……?」

「ふふっ。なあに、それ。居酒屋だよ。時給820円」

「居酒屋か」

 

 山本さんのハツラツさならピッタリの職業ではあるけど。

 家庭教師とか旅館の手伝いとか、もっと割の良い仕事がありそうなのに。

 なんでそんなに普通のバイトをしているんだ。

 

 でも、あんまりこういう先入観もよくないよな。

 

「時給820円だと稼ぎ少なくない?」

「そう? ソトミチくんのイベントスタッフはどれくらい?」

「事務系なら時給1000円。設営で1150円。拘束時間で計算されるから、長い日は日当で10000円近く出るよ」

「いっぱい出るんだねぇ」

 

 山本さんはさして興味もなさそうに、俺の腕に体を寄せてぼーっとテレビを眺める。

 ソファーには二人でどっしり構えても余裕で座れるだけのスペースはあるのに、スキンシップが好きな人と一緒にいるとこんな感じになるのか。

 

「ソトミチくんのバイトの予定は?」 

「今のところは明日と四日後かな」

「そかそか。私は明日と明後日のお昼だから、明後日の夜にはまた会えるかな」

 

 また会える、か。

 山本さんと俺って、ただのセフレなんだよな。

 こんな恋人みたいな時間を過ごしていていいんだろうか。

 

 しかも、家にいる間は好きなタイミングで体のどんな場所にも触っていいサービス付き。

 たとえば、こうしてテレビに意識を向けている山本さんのふとももを、スリスリしても……。

 

「お、おぉ……」

 

 たまらない肉感だ。

 美優も必要な脂肪は残していたとはいえ、この体格差とムチムチ具合には破壊的な違いがある。

 甚だ失礼な形容をするなれば、これはもはやセックスをするために生まれたような肉体。

 下手をしたら、山本さんの体を触っているだけで射精してしまうんじゃないか。

 

「気持ちいい?」

 

 山本さんはまるで嫌がる素振りも見せず、俺の体に密着してくる。

 運動用のハーフパンツをはいているのに、股間が窮屈になってきた。

 

「ねえ、ソトミチくん」

 

 山本さんが、なにか思いついたように俺に耳打ちする。

 

「な、なに?」

「んふふ」

 

 チラと目をやれば、そこには山本さんの蠱惑的な顔がある。

 山本さんの清楚なイメージから繰り出されるこのイヤラシイ顔は、男の生殖器に与えるインパクトが強すぎる。

 

「おちんちん、咥えてもいいですか……?」

 

 まさかの山本さんからのフェラ伺いだった。 

 山本さんは髪を片方にまとめて、目尻を煌めかせながら見つめてくる。

 

「あ、ああ、う、うん」

 

 これが意趣返しというやつなのか。

 山本さんは許可を取った後も、ジレジレと俺の膝を擦ってくるだけで、直に触れようとはしてこない。

 

「こ、ここ、これを、舐めてもらえると……」

 

 俺は恐る恐るパンツごとズボンを脱ぎ、山本さんが咥えやすいように軽く脚を広げる。

 

「わあ……」

 

 山本さんは指で俺の肉棒をスススッとなぞる。

 

「ソトミチくんのエッチ」

 

 山本さんはちょっぴり理不尽なセリフを吐いてから、手すりまで腰を引いて俺の肉棒を舐め始めた。

 カリから亀頭までを舐めて、パクっと唇と舌で挟むと、奥までは咥え込まずに先端だけを舐め続ける。

 

「あああっ……んんっ……はぁ……!」

 

 口内の濡れ方、唾液の粘り気、そして舌の感触までが完成されている。

 これ以上のフェラなんて、この世の中には存在しないと断言できる。

 

「はむっ……むにゅ……ソトミチくん……はぁ……これでもう……10回目だひょね……ぐちゅ……むちゅ……」

「ぐっ……ん、はぁ……ああぁ……そ、そう、だけど……」

 

 これを出せば、昨日と今日を合わせて、もう10回目の射精になる。

 相手が美優と山本さんじゃなかったら、きっとここまで性欲旺盛にはならなかっただろう。

 女の子の力は凄まじいものだ。

 

「ぷはぁ……。ソトミチくん、エッチ好きすぎ」

「え、いやぁ……男なら普通じゃないかなぁ……」

「10回も出すのが普通なわけ無いでしょー」

 

 山本さんは、俺の肉棒を手でいじって、反り返りによってお腹の方に戻ろうとする動きを楽しんでいる。

 

「あっ。マリーヤが歌番に出てる」

「最近よくSNSで動画が流れてる人?」

「そうそう。ミュージックビデオが面白いんだ。生歌を聞くの初めて」

 

 山本さんはテレビのリモコンで音量を上げる。

 そして、俺のお腹を枕みたいにして、ペニスを咥えながらテレビに顔を向けた。

 

「見づらくない?」

「咥えてたい」

「そっか」

 

 山本さんからしたら、数分咥えるだけでも長時間のフェラだもんな。

 女の子はイキッぱなしでもある程度はセックスできるけど、男は射精したらほとんどの人がそこで終わりだし、触っただけで相手がイッちゃう体質って本当に不便だ。

 

 山本さんはフェラをしながら、俺が広げた脚を手で詰って、ときおり睾丸をマッサージしてくる。

 その快感に、俺は呼吸を止めて喘ぐのを耐えた。

 俺が声を出したら、山本さんが歌を聴けなくなってしまう。

 

「んふふ」

 

 山本さんはニヤニヤするだけで手の動きを止めない。

 俺が声を抑えているのを楽しんでいる。

 山本さんは優しい人だけど、たまにこうして小悪魔的なところが出てくるのがまた、らしいというか。

 学校で愛嬌を振りまいてるあの山本さんも、本性の一部なんだよな。

 

「はむっ……んぐ、むちゅ……じゅぶっ……ずじゅっ……じゅぶぶっ……!」

「っ……んふ……ぐっ……んん……!」

 

 次第に激しくなっていく山本さんのフェラ。

 明らかに視線が画面に向いてないけど、歌を聴いてるんだろうか。

 

「ぐちゅ、むちゅ……ぷは。えへへ」

「はぁ、はぁ、ほんと、山本さんのフェラ、すごすぎ」

「そりゃあ私がしてるんだもん」

 

 数々の男を秒でイカセてきた山本さん。

 そもそも、フェラまでたどり着いた人って、何人いるんだ。

 山本さんがその気にならなければ、行為自体は長くできるとは言ってたけど。

 よくよく考えてみると、男がすぐイッちゃうのに経験豊富って、変な話だよな。

 

「ソトミチくんのおちんちんも美味しいよ。チュッ」

「おっ、ああ。そ、それは、よかった」

 

 山本さんは亀頭を吸うように口づけした。

 俺はまだ、キスしたこと無いのに。

 息子が先にキスされるなんて。

 

「味って人によって変わるものなのか」

「どうだろ。中学生の頃にしてそれっきりだから、記憶ないや」

「なるほど」

「ソトミチくんの精液はめっちゃ不味いけど」

「それはもう全員に言われております……」

 

 俺の精液ってなんでそんなに不味いんだろう。

 こんなにたくさん出るんだから、美味しければそれだけ喜んで貰えたのに。

 精液が美味しいっていうのも怖い話だけど。

 

「ソトミチくんって彼女いたことあるの?」

「え? ああ……」

 

 うっかり全員と口走ってしまったせいで山本さんが興味を持ってしまった。

 山本さんが認識してる登場人物は美優と山本さん自身しかいないからな。

 全員って表現は三人以上じゃないと使わない。

 

「夏前に、少しだけ。数週間で別れちゃったけど」

「例の妹依存症ですか」

「まさしくそれです」

 

 佐知子もすごくいい子だったんだけどな。

 あっちもあっちで美優の指でしてもらった快感が忘れられずにずっと悶々としていたらしいし、美優の周りの人間は誰も彼も影響されすぎだ。

 あのロクでなしも然り……。

 

「美優ちゃんにも不味いって言われてるんだ?」

「ああーううーん……そう、だな。イカ刺しの何倍も生臭くて粘っこいとかなんとか」

「ほう……それはそれは」

 

 山本さんはなぜだかシタリ顔。

 

 そしてまた、何の気なしにフェラを再開する。

 

「もし出そうになったら、お口に出していいからね」

「わ、わかった」

 

 山本さんも俺の精液はかなり苦手だったはずだけど。

 飲んでいるうちに慣れてきたんだろうか。

 美優も今となっては平然と飲んでいるし。

 もしかしたら、飲み続けるとクセになる味なのかな。

 

 俺はパンツを脱いで、足を広げて、ソファーにどっしり。

 そこに女の子が横から覆いかぶさって、ペニスを咥えている。

 数ヶ月前の俺に、こんな光景が考えられただろうか。

 

「はむっ……むにゅっ…………この芸人さん、CDも出したんだ……じゅぶ、にゅぷっ」

「この人は……知らないな……んっ……」

「ぐちゅ……むっ、ふぁ。えーっとね、ムキムキで、高学歴で、歌が上手くて、運動音痴で有名になったモンちゃんって人」

 

 山本さんはスマホで人気動画を見せてくれた。

 漫才をやっているシーンだが、申し訳ないことに欠片も面白いとは思わない。

 

「この人が、人気なんだ」

「トークが上手いのにお笑いのネタはつまらないのをずっとイジられてた人で、その元々の知名度と歌ウマ筋肉との二重ギャップで一気に話題になったの。知識人だから色んな番組で長続きしてるんだよ」

「頭がいいってやっぱ大事なんだな」

 

 女の子はこういうところ詳しいよな。

 美優も芸能人とかは把握しているんだろうか。

 あいつもあいつで引きこもり体質なところがあるし、人に話題を合わせるための知識は持っていなくてもおかしくはないな。

 

「というわけでそろそろテレビを消しますか」

 

 山本さんはテレビを消して、そして、Tシャツを脱いでまた同じ姿勢になった。

 俺は下半身裸、山本さんは上半身裸で、ソファーの上で重なる。

 

「おぉ……」

 

 ふっくらした丸みが、重力によってその迫力を増す。

 まさか、これって。

 

「どうしたの。そんなにジロジロ見て」

 

 山本さんはおっぱいで俺の肉棒を挟むと、先端だけが露わになった俺の肉棒を、ペロペロと舐め始めた。

 

「おっ、おっ、ああぁ……」

 

 しかし、あくまでも舐めるだけ。

 ときおり唇を使って軽いフェラをしてくれるが、肝心のおっぱいは全く動かしてくれない。

 

「ん……あぁ……きも、ちぃ……」

 

 気持ちいいけど、足りない。

 おっぱいの柔らかさは感じても、俺の肉棒が熱すぎるせいで、山本さんの体温までは感じられなかった。

 ただそこに、景色としておっぱいがあるだけ。

 これじゃ生殺しだ。

 

「むちゅ……ちゅっ……ちゅぶ……んっ……」

 

 山本さんは俺の肉棒に何度もキスをしてくる。

 亀頭の先には何度も山本さんの愛を込められて。

 俺は、山本さんのおっぱいを堪能できずに悶えている。

 

 エッチをしてもらっているのは他でもない俺なのに、目の前で別の男に寝取られているような悔しさがあった。

 あんなに愛おしそうにたくさんキスをしてもらえて羨ましい。

 まさか自分の肉棒に嫉妬する日が来るなんて。

 

 腰を動かして、乳房の肉肌を堪能したい。

 でも、俺が腰を動かすと、俺の肉棒とのベロチューを楽しんでいる山本さんを邪魔することになる。

 

「んはっ……うぐっ……あぁ……」

 

 気持ちいい。

 気持ちいいのに、もどかしい。

 

「んふ。ソトミチくん、舐めても舐めてもお汁が出てくるよ。口の中がぐちょぐちょになっちゃった」

 

 山本さんは唾液を垂らして、谷間にたっぷりと粘性を貯め込む。

 今度こそ、今度こそ、パイズリを、してもらえる──。

 

 そう思っても、山本さんはフェラを続けるばかりで、いつまでも焦らしてくる。

 

「あ、あっぐ……うぅ……や、山本さん……!」

 

 もう、我慢できない。

 こんなにお預けをされて、耐えられるわけがない。

 

「お、おっぱい、で、挟んで欲しいんだけど……」

「んー? もう挟んでるでしょ?」

 

 山本さんはニヤニヤしながら、おっぱいでギュッと肉棒に圧をかける。

 それでも、動かすことはしてくれなかった。

 もはや疑いようもなく、わざと焦らしている。

 

「そうじゃなくて、その、上下に、動かして……あの……パイ……ズリを……」

「へー。パイズリしてほしいんだ」

 

 山本さんは「パイズリ」をイヤラシく強調して繰り返す。

 

「そ、そう! パイズリ……お願いします、パイズリ、してください!」

「そんなに必死になっちゃって。まあ、ソトミチくん、おっぱい好きだもんね」

「好き! ものすごく、おっぱい好きだから! お願い、パイズリを……!」

「もー。そんなにパイズリパイズリって。下品な言葉を使われると恥ずかしいんだから。おっぱい使わせる立場も考えてよね」

「うぐっ……ご、ごめん……」

 

 たしかに、パイズリってセンズリこくみたいで品がない。

 フェラやセックスより、卑猥な言葉だ。

 

「じゃあ……はい。好きに使っていいよ」

 

 山本さんはソファーから降りると、俺の股の間に座っておっぱいを正面に向けた。

 

「好きにって……?」

「だから、このおっぱいを使って、好きなだけゴシゴシしていいよって」

 

 山本さんは、俺の肉棒の両脇におっぱいを置くだけして、一切の奉仕を止めた。

 おっぱいだけ用意しておくから、扱くのは自分でしろということか。

 

「こ、こう……か……」

 

 俺は山本さんのおっぱいを持ち上げて、ペニスを包み込む。

 そして、それを上下に、ゆっくりと動かした。

 

「おおっ……すっご……」

 

 想像していた以上に絡みつく。

 この肉の柔らかさ、反則的だ。

 やばい、手が止まらない。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、あぁっ……きもちぃ……うっ……はぁ……」

 

 山本さんのおっぱいで、パイズリしている。

 いや、これは、オナニーになるんだろうか。

 山本さんはうっとりした顔で俺のことを見てるし。

 こうやって1人でしているところを観察される感じ、最初に、美優としたときみたいだ。

 

「あぅ……あああっ……や、ばい……」

 

 イッてしまうかもしれない。

 前とは違う、リアルな射精感がこみ上げてきている。

 女の子を目の前にして、結局は自分でしているという、この惨めさ。

 

 なんでだ。

 いつもいつも、俺はマゾなんかじゃないはずなのに。

 可哀想なものを見つめるその瞳が、たまらなく興奮する。

 

「うっ……こ、これ……強くしたら……痛い……?」

「ううん。そこで上下させる分には靭帯は傷まないから。激しくしてもいいよ」

 

 山本さんは事務的に俺の質問に答えるだけ。

 俺が勝手に盛っておっぱいを好き放題していることには、何も言及してこない。

 

「ああああっ……ああっ、はぁ……うぐあぁぁっ……ダメだ……うっ……気持ちよすぎる……うっぐ……!!」

 

 裏筋からカリ裏にかけてを強くおっぱいで擦ると、あまりの快感に膀胱の奥がジンジンしてくる。

 

 射精したい。

 このまま、山本さんのおっぱいを、俺の精液で汚したい。

 あと一瞬、美優とのエッチを思い出せば、出してしまえる。

 

 いいのか。

 口に出していいとは言われてるけど。

 山本さんの体に無断で精液を掛けて、許されるんだろうか。

 

「ああ、もう、出したい……山本さん……出したい……!」

「出したいの?」

「出したい! 射精したい……射精させてくれ……!」

 

 肉棒の硬さを乳房で圧迫する、その行為が、山本さんにイチモツを擦りつけてマーキングしているみたいで、ひどく卑猥だった。

 上下するごとに、肉棒の頭が出たり隠れたりして、俺の劣情が山本さんの目に晒されるたびに、興奮が高ぶっていく。

 

「んふふふっ。ソトミチくん、もしかしてさ。私が出しちゃダメって言ったら、ずっとそうして我慢してるの?」

 

 山本さんがイタズラな笑みを浮かべて、楽しそうに訊いてくる。

 

「あぐっ、あ……でも……だ、出したい、けど……山本さんの……きれいな、体……はぁ……あぁ……精液をかけるのは……その……」

 

 いけないことだと思うから、興奮する。

 いけないことだと思うから、許可無く精液をかけることができない。

 そんなどうしようもない自己制約が、性感とジレンマの両方を生んでいる。

 

「ソトミチくんのそういうところ可愛い」

 

 山本さんは俺の股に体を寄せて、両手で腰を抱いてきた。

 

「いっぱい中に出して」

 

 山本さんのその言葉に、ついに限界を迎えた性欲だったが、今度はその優しさが美優らしさを失わせてしまって、射精をすることができない。

 

「はぁ、んんっ……うあっうぅぐっ……ん……こんなに、はぁ、はぁ……気持ちいいのに……!」

 

 射精したい。

 山本さんのおっぱいの中に、子種をたくさん撃ち出したい。

 

「いいんだよ。美優ちゃんのおっぱいだと思って。精子が出ないとツラいでしょ。妹とエッチなことばかりしてる、いけないお兄ちゃん」

「あ、あっ、あああっ、うぐっ……あぁあっ!!」

 

 生の肉棒が、ぐちょぐちょになったおっぱいの圧に包まれたまま弾けた。

 びゅっ、びゅっ、と二回目までは、おっぱいの中で射精の感覚だけが生まれて、三度目を超えたあたりから白濁液が谷間に滲み出してきた。

 

「すっごい量。明らかにここの体積を超えてるよね。どうやって出してるの?」

 

 山本さんは縮こまった玉袋をさすって、その小ささと射精の量とのギャップに驚いていた。

 

「わ、わかんない……」

 

 これで、本日4回目の射精。

 3日前から数えると、射精の回数は15回にも及ぶ。

 もう空イキになっていてもおかしくないのに、俺のペニスからはまだ大さじ一杯以上の精液が飛び出していた。

 

「ソトミチくんのいっぱい精液が出るところもステキだよ」

 

 山本さんはおっぱいをクパッと開けたり閉じたりして、俺の精液でどろどろになった感触を楽しんでいた。

 そして、まだ芯が残ったままの俺の肉棒は、そんな山本さんの遊びに煽られてまた性感を取り戻していく。

 

「おっ、あ、あぁ……」

 

 山本さんの、パイズリだ。

 さっきのはただのおっぱいを使ったオナニーだったけど。

 山本さんが、おっぱいで、俺の肉棒を刺激してくれている。

 

「ソトミチくん、もっと激しく使っても良かったのに」

「えっ。でも、あんまりやると、山本さんも痛いだろうし」

「平気だって言ったじゃないですか。挟むときも、こうやって……」

 

 山本さんは俺の肉棒をおっぱいの谷の深いところに入れると、自らのおっぱいを思い切り抱きしめて圧迫してきた。

 

「おっ、うっ、あぁっ……ヤバイ、それ……!」

 

 元々力の強かった山本さんが、全力でおっぱいを圧縮している。

 万力みたいに挟まれて、それを上下されると、手で扱くのと同じくらいの圧力が肉棒を包んだ。

 

「あっ、あっ……! 俺、さっき出したばっかり……!!」

 

 これ以上射精したら、気絶すらしかねない。

 いくらご飯と睡眠で休憩を取ったとはいえ、一日もしないうちに回復しきるはずもないんだ。

 もう心臓が射精に耐えられそうにない。

 

「ソトミチくんはここに来るまでに7回も美優ちゃんに出してもらったんだよね?」

「あ、あぐ、それは、そうだけど……!」

 

 寝る直前、勃たなくなるまで強制的に射精をさせられた最後の二回。

 アレは地獄だった。

 美優が相手となると、他の人とは違って抗いよう無く精液を搾り取られる。

 妹に勃たせろと言われれば大きくなり、出せと命ぜられれば射精する。

 そんなどうしようもない体を蹂躙されているときが、最高に幸せだった。

 

「ソトミチくんは美優ちゃんにエッチでイジメられるのが好きなの?」

「え、あ、ああっ……いや、そ、そんなこと……!!」

 

 たぷん、たぷん、とおっぱいを大きく揺らして、俺の肉棒を扱いてくる。

 俺がさきほど出した精液がローション代わりになって、ぬっちゃぬっちゃといやらしい音を立てていた。

 

「も、もう無理! 無理だから、射精、で、できないって……!」

 

 俺がいくら言葉にしても、山本さんはパイズリを止めない。

 それどころか、パイズリでの俺の肉棒のツボを把握して、力を込める箇所を少しずつ最適化してくる。

 

「あああっ、がぁ、はぁ、はあぁぅ……しぬ、しぬぅ……!」

 

 本気になった山本さんのパイズリが、気持ちよすぎて、もうやめて欲しくない。

 次に射精したら死ぬかもしれないのに、もうこの快楽から離れたくなくなってしまった。

 

「はぁぁぅ……そんあ……あ、やば、い、これ、出そう、出そう……!!」

 

 さっき射精したときは、結局は美優のことをオカズにしないと射精できなかったのに。

 このおかわりは射精を我慢できそうになかった。

 

「ほら。またビクンビクンってしてきたよ。出したいの?」

「あう、うぅ、あぁあ……出したい……でももう、うっ、ぁあ、むり、死ぬっ、あっ……!!」

 

 これ、もうだめだ。

 本当に我慢できない。

 

 射精する。

 美優のこと、考えてもいないのに。

 精子が出てしまう。

 

「ああっ、あぁああっ……!!」

 

 びぐっ、びゅっ、どびゅっ──。

 射精をして、さらに白濁していく山本さんのおっぱいは、それでもまだ止まらなかった。

 

「あああああっ!! ああっ、ぐっあぁあ! 死ぬ死ぬ死ぬ!! 死ぬうぁああうっ、もう、射精は、ダメ、ダメだっ……!」

「んー? 射精したくないなら、美優ちゃんのこと考えなければいいんじゃないのかな?」

「はあ、あぐっ、あ、我慢、できない、できなくて、あうぅっ!」

 

 だぶん、だぶん、とおっぱいを股に叩きつけられて、そのたびに精液が弾けて、俺の性感帯を攻め上げていく。

 

 次第に視界が白んで、山本さんの声が、少しずつ遠くなっていった。

 

 どうして射精が止まらないんだ。

 このままパイズリされていたら、俺は精液どころか生気そのものを奪い取られてしまう。

 

「あっぐ、あ、また……出……そう……もう、むり……アッ、アッ、あアァアッ!!」

「あらあら。精液いっぱい溢れちゃってる。おっぱいに射精しても、赤ちゃんはできないんだよ?」

 

 脚がガクガクと震え出して、いよいよ生命の危機を感じ始めた。

 

 俺は、今日、山本さんのパイズリで死ぬんだ。

 

「そろそろ死んじゃいそう?」

「あふ……う……もう……死んでる……」

 

 山本さんは緩やかにパイズリの速度を落としていった。

 おびただしい量の精液が山本さんの体に掛かっている。

 俺のオスのニオイまみれになった、山本さん。

 

 幸せだ。

 最高の死に様になった。

 

「ソトミチくん、美優ちゃんともこういうエッチしてるでしょ」

 

 山本さんはパイズリを止めて、俺の肉棒を解放する。

 俺の精液が床にベトベトと落ちていった。

 

「体が覚えちゃうくらい好きなんだね」

「え……ああ……」

 

 そうか、この限界まで絞られるプレイそのものが、美優にイジメられているみたいで。

 俺は、それに興奮していたのか……。

 

「山本さんの言う通り、何度か経験はある……」

 

 俺と美優のヤバイ関係が、また一つ暴かれてしまった。

 

「こういうエッチをしてるっていうのは、山本さんは気になったりするの?」

 

 美優のことは踏み込まないと言っていたのに、あえてその事実確認をしたのには、なにか意味があるんだろうか。

 

「……まあ、ちょっとね」

 

 山本さんは、必要以上に精液が垂れないように、体についた精液をすくい上げると、浴室へと歩いていく。

 

「ソトミチくんも、軽く流して行ったら?」

「ああ、そうするよ」

 

 ソファーにも精液が掛かっちゃったな。

 新品みたいにキレイだったのに、シミにならなければいいけど。

 

「じゃあ一緒に入ろ」

「お、おう」

 

 俺たちは浴室に入ってから、互いに服を脱いで、裸になる。

 エッチをした後に初めて両方が裸になるって、普通ではまず無い状況だよな。

 

「お疲れ様。ちょっと、辛かったかな?」

 

 山本さんは精液を流してから、ボディソープをスポンジで泡にして俺の体を洗ってくれる。

 

「まあ、その、ああいうのは嫌いでは、ないので。ただ幸せだったけど」

「ならよかった」

 

 山本さんは俺の全身を泡で洗うと、ごくごく弱い力で股関節と睾丸をマッサージしてくれた。

 

「ああ……気持ちいい……」

「本当にお疲れ様。楽しかったよ」

 

 マッサージを終えると、山本さんは俺を浴室から先に出して、自分の体を洗い始めた。

 俺は先に出て体を洗い、迷った末に服を着た。

 

 結局、セックスまではしなかったけど。

 これでよかったんだよな。

 二日後の夜にはまた会う約束になってるし。

 

「ふぅ。さっぱりした。ソトミチくん、体は大丈夫?」

「アソコはもうずっと悲鳴を上げっぱなしだけど。なんとか家には帰れそう」

 

 明日はバイトだ。

 早朝組ではないが、起きれるか心配だな。

 

「掃除は……しなくていいのか?」

「言うと思った。へーきだよ。二人で分担するような量でもないし」

 

 山本さんは「気にしない気にしない」と俺の背中を押して玄関へと向かわせる。

 そして、俺が自転車の鍵を確認している最中に、コップに水を入れて運んできた。

 

「えっと……。今日は、すごく楽しかったです」

 

 山本さんが述べてくれた感想に、俺は気恥ずかしさを感じながらもコップを受け取る。

 喉を通る水分のおかげで意識がはっきりした。

 

「俺も楽しかったよ」

 

 俺がコップを返すと、山本さんはそれを流しに置いて、また戻ってくる。

 

「また、会えるよね」

 

 山本さんははにかんで俺を見つめる。

 

「二日後の夜で、いいんだよな」

「そうだね。当日の夕方に、準備ができ次第連絡するから、それまでお家で休んでて」

「わかった」

 

 明日からようやく、休精日とでも呼ぶべき時間だ。

 山本さんのためにも、今度こそきちんと精液を溜めてこよう。

 

 二日間オナニー禁止。

 する気も起きないけど。

 

「じゃあ、またね」

「ああ。また」

 

 俺は山本さんの部屋を出て、駐輪場に向かった。

 夏の夜の湿った空気が、今日は冷たく感じる。

 

 自転車に跨ったところで、山本さんからメッセージが届いた。

 

『今日は夜遅くまでありがとう。明後日は、最後までエッチしようね』

 

 ちょっぴりドキドキする文面に、俺は返信ボタンを押して、どんなメッセージを返そうかと迷っていると、再びメッセージ受信のポップアップが表示された。

 

『ソトミチくんとセックスがしたいです』

 

 畳み掛けるようにやってきた追い打ちに、ドキリと心臓をやられて。

 

 思考回路がパンクした俺は、スマホをカゴに投げ込むと、流れ星のように移動する衛星を眺めながら自転車を漕いでいった。

 



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女の子だってエッチが好き

 

 コンサートホールには五百人近い観客が行列を作っていた。

 

 俺はアリーナに区画整理用の柵を設置してから、チラシ折りを済ませ、今度はエントランスで物販列の整理に回る。

 設営有りなので時給が高いのは嬉しいが、昨日の山本さんとのエッチに引き続いての労働はさすがに堪える。

 

 外は快晴。

 球形の屋根が陽を反射して煌めいている。

 俺は屋外に溢れてしまった客に、一本ずつミネラルウォーターとうちわを配布して回った。

 

「あちぃ……」

 

 このクソ暑い中で、俺たちイベントスタッフはスーツ姿で仕事をしている。

 これをやってるだけで将来は営業に就職したくないと強く思う。

 

 熱中症対策の後はエントランスに戻り、物販列を数十人単位で区切る仕事を手伝った。

 人数をカウントして、「ここの人まで先に進んでください」とお願いをし、先頭のロープを開放して物販に流す作業を繰り返す。

 そこからは別のスタッフが客を誘導してショップにまで流していった。

 

 俺の対応列には、去年も一緒に仕事をした知り合いが付いていた。

 大学生の先輩が男女で1人ずつ。

 高校生のうちからイベントスタッフをやっているのは珍しく、俺はこの2人に顔を覚えられていた。

 

「ソトっち。これが掃けたらそろそろ本番中の配置説明だよ。西口Aドアに集合」

 

 大学生にしてはちんまい背丈の女性、阿形さんが声をかけてきた。

 もうお酒も飲める歳なのに、美優とさして身長が変わらないくらいだ。

 

「喫煙所前に集合じゃなかったですか?」

「列整備してる人はドア番に変更だって言われて、呼びかけしてるの。啓太郎も一緒だよ」

 

 ドア番か。

 ライブ中に人の出入りを監視するだけの役だからかなり楽だ。

 今回はスタンディングの男性アイドルライブだし、暴れる女性客たちの足元で柵を押さえる役にならなくてよかった。

 

「チーフ、全員集まりました」

 

 俺は阿形さんと一緒に集合場所にやってきた。

 

 バイトのまとめ役であるチーフの説明を聞いて、各自の配置を確認する。

 20人ほどが密集したその中で、金髪の男が控えめに手を振っていた。

 

「よう阿形。そいつはソトミチ……だよな?」

 

 説明が終わり、金髪頭の啓太郎さんが声を掛けてきた。

 俺たちはまとまって近い場所に配置されることとなり、三人で移動している。

 

「ソトっちだよ。なんか様変わりしたけど」

「高校生デビューってやつ? ちょい遅くね?」

「啓太郎だって染めたの2年からでしょ」

 

 阿形さんと啓太郎さんは同じ大学でバンドをやっているらしい。

 当時声を掛けられたときは疎外感が凄まじかったが、いまは不思議と緊張せずにいられる。

 

「あの筋肉バカはもう来ないのか?」

 

 啓太郎さんが俺に尋ねたのは、高波のことだ。

 あいつは去年、一度だけイベントスタッフのバイトに来たことがあったが、肌に合わなかったのか辞めてしまった。

 

「高波は部活が忙しいみたいなので」

 

 サボり魔ではあるが、実力はあるやつだし、2年と3年の夏は忙しくしているはずだ。

 

 俺たちは所定の場所に着くと、ライブ開始までは休憩時間となった。

 客が入る前の会場は静かだ。

 俺たち三人は、通路に設置されたベンチに並んで座った。

 

「で、ソトっちは彼女できたの?」

 

 阿形さんから唐突な切り出し。

 女の子の考えることってみんな同じなのだろうか。

 

「今はいないですね」

「ほほう。今はってことは、前はいたんだ?」

「短い期間でしたけど」

「えー。いいじゃんいいじゃん。どんな子だったの?」

 

 阿形さんは楽しげに身を乗り出してくる。

 以前も積極的に話してはくれたけど、女の子は恋バナとなると勢いが違うな。

 

「フラれてんだからあんまり探ってやんなよ」

 

 啓太郎さんが満足げな顔で俺の肩に手を乗せる。

 この人は彼女がいてもおかしくない顔をしてるけど、女っ気ゼロなんだよな。

 

「悪い別れ方とは限んないじゃん? こんなにいい感じに変わったんだし」

「んー、たしかにな。前に会ったときはもっと根暗なやつかと思ってたよ」

「はっきり言い過ぎ。私もびっくりしたけど」

 

 何を隠そう俺が一番驚いている。

 二次元を相手に一生を過ごすのだと思っていた俺が、すでに4人もの女性と性的な関係を持ってしまったなんて。

 

 女なんて信用できない、どうせどいつもこいつもロクなやつじゃないんだって、そう決め込んでいたのに。

 今となっては、こうして年に数回しか会わないような人ともきちんと話せる。

 

「詳しく話すのは難しいですが、ツラい別れではなかったですよ」

「うんうん。いい女の子に出会ったんだね。しっかり前進してるのは良いことだ」

「あー俺も阿形がいい女の子だったら良かったのになー」

「うっさい」

 

 阿形さんから啓太郎に容赦なく見舞われる腹パン。

 

「痛って! お前、暴力を振るう女はモテないぞ!」

「やられたらやり返せがうちの家訓なので」

「阿形のこの姿を見てなぜその教育方針が失敗だとわからなかったのか……」

「あんたはそれ、殴られたくて言ってるのよね」

 

 そこから阿形さんと啓太郎さんの喧嘩(阿形さんの一方的なバイオレンスだけど)が始まり、俺はその慣れたやり取りをぼんやりと眺めていた。

 

 心が落ち着いている。

 前までは、こんな男女のやり取りを見ると、羨ましくて仕方なかったのに。

 

「おいお前ら、もう客が入る時間だ! 静かにしてろ!」

 

 見回りに来たチーフに怒られて、俺たちはようやく仕事に戻った。

 

 それから、バイトが終わったのは、夏の陽が傾く前ぐらいの頃だった。

 規模がデカイだけあって片付け作業も長引き、俺は初日から設営込みのバイトにしたことに若干の後悔を覚える。

 とはいえ、稼がないと遊ぶこともできないし、PCのパーツも買えないからな。

 

 働かざるもの食うべからず。

 何も苦労しない人間に、楽しく自由な人生を謳歌できるわけがないんだ。

 

「ソトっち、おつかれー!」

「お疲れ様です」

 

 帰り際、俺は阿形さんに呼び止められた。

 啓太郎さんも後ろからやってきている。

 

「ねえねえソトっち。飲みに行こうよ」

「え? 俺、未成年ですよ?」

「もちろんソトっちはソフドリね。いやー私さ、この歳になって飲み始めたらハマっちゃって。普段は友達と飲みに行ってるんだけど、せっかくだし、今回はソトっちと行こうかなって」

「ああ、なるほど」

 

 これは迷うな。

 自分でも不思議なことに、行きたくないわけではない。

 今日はもう疲れてるから早く寝たいし、そもそも俺はバイト終わりに残ってまで人と話したいとは思わないタイプだったから、直感的にはお断りしたい気持ちがあるけど。

 

「持ち合わせが、あんまり無くて」

 

 失礼な断り方ではあるが、お金を無駄遣いしたくないのが本音だ。

 だが、意外なことに、ご飯を一緒にするのは構わないとは思える。

 これはきっと、美優以外の女の子と付き合わなければという想いで、色んな人と関わろうとし続けてきたからなんだろうな。

 

「ダイジョーブだって! 飲めない後輩からお金は取らないよ」

 

 そこまでして誘ってくれるのか。

 夕食費分の小遣いを使わなくて済むと考えれば、むしろお得だし、悪くないかな。

 

「そういうことなら、ほどほどにご馳走になります」

 

 昔の俺からしたら信じられないような返事をして、俺は阿形さんたちと飲み屋に行くことになった。

 

 

 

 

 

 

「うーむ……このお酒は微妙だなぁ。甘いばかりでこう、噛み締められるものがない」

 

 阿形さんは日本酒とカクテルとウィスキーを順に注文し、つまみは枝豆だけという謎のテイスティングを続けていた。

 

「お前な、こんな安居酒屋で味比べしてもしょうがないだろ」

 

 啓太郎さんはずっとビールを飲んでいた。

 不味い不味いと言いながら、サークルでしこたま飲まされているうちに慣れてしまったのだとか。

 

「安くないよー! グラスで800円もするんだよ? それなのにドリンクを持ってくるのは遅いし年齢確認はされるし」

 

 阿形さんは啓太郎さんの背中をバシバシ叩きながらボヤいていた。

 いい具合に酔いが回っている。

 人間ってお酒を飲むとこんなに変わるものなんだな。

 今のうちに学んでおこう。

 

「でソトっちはさ、新しい恋は始めないわけ?」

 

 そして俺にキラーパスがやってきた。

 酒のつまみである枝豆がなくなってきて、次は俺ということか。

 

「頑張ってはいるんですけど、色々と苦労があって」

 

 今の俺の状況を、どう説明するべきか。

 美優のこともそうだが、山本さんとの関係もそう簡単に話せるものじゃないし。

 

 でも、そうだな。

 俺は美優以外の女の子とエッチができるようになるために、健全な恋をしたいと思ってここまでやってきたんだ。

 だとすると、山本さんとの関係の終着点はつまり、付き合うことになるけど。

 

 どうして今まで考えてこなかったんだろう。

 

「苦労って? ソトっちの好きな人が別の誰かに恋をしてるとか?」

「ソトミチが好きでもない女にアプローチをかけられてるとかじゃね」

「複数の女の子を好きになっちゃって選べないとか」

「元カノにフラれた影響でEDになってるとかな」

 

 阿形さんと啓太郎さんが交互に喋る。

 

「啓太郎はマイナス思考過ぎ。啓太郎こそもっとアプローチかけなよ」

「あ? 男が女を追いかけるとかダサいだろ?」

「その考え方がダサいっての!」

 

 また阿形さんが啓太郎さんの膝をバシッと叩いて、啓太郎さんが暴力反対アピールをする。

 

「で、ソトっち、どうなの」

 

 阿形さんがふくれっ面で訊いてくる。

 啓太郎さんもジョッキをドンとテーブルに置いて、追加で注文を取った。

 

「ずっと片思いしてる人がいて、その人が考えてることがよくわからないので、足踏みしてる……って感じですかね」

 

 これはあくまでも、たとえ話。

 俺の美優に対するこの想いを恋と呼ぶのは、少なからず問題があるのはわかっている。

 

 俺が美優に一方的に欲情して、それがたまたま受け入れられてエロい関係が続いているだけであって、男として美優に何かをしてやれたことはない。

 とはいえ、美優の女の子としての一挙手一投足に心を奪われてしまっているのも事実で、これを恋心以外で表現することもまた難しい。

 

 美優のあべこべな態度は、結局なんなんだろうな。

 男として迫れば気持ち悪いと言われ、オナホのような扱いをすれば「別にいいのに」と呟かれる。

 エッチそのものが好きで、恋はしたくないという可能性は、ないよな。

 だとしたら俺なんて選ばないだろうし。

 

「へー。ま、お前がフラれるまでの経緯をまず話せよ」

 

 それからはニタニタと楽しそうな啓太郎さんに促され、阿形さんが啓太郎さんの失言を物理的に反省させながら、俺はどうにかうまい具合に話をつなげていった。

 

 

 

 

 ちょっとした事件が起こったのは居酒屋の帰りだった。

 まだ社会人が帰るには早く、学生が残るには遅いくらいの時間帯。

 

 居酒屋を出て駅に向かっていると、啓太郎さんがツンツンと俺の肩を突いて、とある居酒屋の脇道に注意を引いた。

 

「おい、あの子、めっちゃ可愛いくない?」

 

 ワンテンポ遅れて俺が目をやったその場所では、居酒屋の店員さんがお店の裏にビール瓶の運搬をしていた。

 

 ポニーテールで長身の女性。

 そのお店の制服であるTシャツが、遠目から見ても豊かな双丘に押し上げられている。

 

「俺、アドレス聞いちゃおっかな~」

 

 酔った勢いなのか、いきなりナンパ宣言をする啓太郎さん。

 お酒の力は本当にすごいな。

 

「あんた、さっきは女を追いかけるなんてダサいって言ってなかったっけ?」

「あれだけの上玉ともなれば話は別だって」

「ふーん。なら、話しかけてみたら?」

 

 足取りのおぼつかない阿形さんは、不機嫌そうに啓太郎さんを睨む。

 

「声はかけたいけど、相手も仕事中みたいだし」

「うっわ。ヘタレ過ぎ。ダサっ」

「んだよ。業務中に声かけて成功するかっての。迷惑になるだけだろ」

 

 二人がまた喧嘩をおっぱじめると、店員さんもその声が自分に向いていることに気付いたのか、こちらに視線を移した。

 

 そしてあろうことかその店員さんは、店の奥からこちらに歩いてくる。

 客だと勘違いされたのかもしれないと思い、どう説明するか迷っているうちに、その女性店員は脇道の暗がりから出てきた。

 店員さんの顔が街の明かりに照らされると、俺はまさかの見知った顔に声を漏らす。

 

「や、山本さん!?」

「やっぱりソトミチくんだ。お仕事は終わったの?」

「ああ……うん……」

 

 心臓が一気に冷えた。

 この状況、啓太郎さんの見ている前で、かなり気まずい。

 

「え? なに? ソトっち、この子の知り合い?」

「は……? おい、ソトミチ。どういうことだこれは」

 

 二人がぐいぐい迫ってくる。

 さっき居酒屋でボカしながら喋ってた子がこの山本さんとバレたら、次に会う時が非常に面倒だ。

 

「えっと、友達、です」

 

 ひとまず無難な回答で切り抜ける。

 山本さんも仕事中だ。

 どうせ長くは喋っていられないだろう。

 

 ……俺と山本さんって、友達関係でいいんだよな。

 

「マジかよソトミチ! お前、ちょっと俺と学校とっかえろ!」

「無理を言わないでくださいよ」

「無理って言うから無理になるんだ! てか、本当に友達? この子と普段から遊んでるの? 山本さんだっけ? マジなの?」

 

 『友達』の定義が遊ぶ相手を指すものかはさておくとして。

 啓太郎さんがあまりのショックに発狂しそうになってるから、早くこの場から離れたい。

 

「はい、ソトミチくんとは友達です」

 

 山本さんは俺に目配せして、軽くウインクする。

 

「と言っても、“セ”のつく関係ですが」

 

 そして、とんでもない爆弾を置いて、山本さんは「ふふふ」と口元を手で押さえながら店の中に消えてしまった。

 

 阿形さんは口をあんぐりと開けてフリーズ中。

 啓太郎さんは真顔で突っ立っていた。

 

「おい」

 

 俺はガシッと啓太郎さんに肩を掴まれる。

 正確にはまだセのつく行為はしていないが、まあそんなことを言っても収まりはつかないだろうな。

 

「二次会、行くよな!?」

 

 般若を泣かせたような顔でせがまれて、俺は再び居酒屋に連行されることとなった。

 

 

 

 

 それからガチ泣きが終わらない啓太郎さんがテキーラをショットで入れまくり、完全に潰れたところで二次会はお開きになった。

 阿形さんの家が近いらしいので、二人が一緒に帰ることになり、啓太郎さんは肩を担がれてタクシーに運び込まれた。

 車内がゲロまみれにならなければいいけど。

 

 駅に向かうと、そのあまりの人の多さに驚いた。

 時刻は21時になろうかという頃。

 停車する電車が混みすぎて、ホームにいる人が乗り切れずにいるのが問題のようだ。

 

 車内を覗いてみると、浴衣姿の女性がちらほらと見えた。

 どうやら近くで花火大会があったらしく、ちょうどその帰りのラッシュに巻き込まれてしまったようだ。

 

 地元まではそう遠くないのに、電車自体が遅延してしまっているせいで帰宅時間は予想もつかない。

 加えて、急行を使えばすぐのところを、本日のみ各駅停車で運行されている。

 花火大会の混雑くらいではこれほど大掛かりな対応にはならないはずだが、どうやら別件での遅延が要因として重なっているらしい。

 

 俺はただでさえ汗まみれのスーツがもみくちゃになることも覚悟して、電車の混雑に突っ込んだ。

 ギュウギュウに押し込まれて、手すりにつかまることもできず、俺は周囲からの圧力で突っ立っている。

 荷物は前に、痴漢に間違えられないように手を揃えて、できるだけドア側に移動した。

 

 しかし、これだけの満員電車になると、ドア際に来たのが正解だったのかは疑問だ。

 2駅を過ぎて壁際にやってきたが、壁の硬さに挟まれるのは人間に挟まれるよりも痛い。

 気合で空間をあけてみても、ベルトなどの硬いものが当たる痛みが和らぐだけで、肩から腕にかけては動かせそうになかった。

 

 蒸し暑いし、痛いし、おまけに電車が急停車を繰り返すせいで、足が疲れてしまう。

 周囲の人々も同じく疲弊しているようで、音楽を聴いてストレスを和らげようとする人や、手すりに挟まってぐったりしている人がちらほらと見えた。

 

「ん……?」

 

 そんな中、思いもよらぬ出来事が俺を襲った。

 

 背後からもぞもぞと、尻を触られるような感覚。

 俺は男だし、まあ荷物でも持ち上げたくて無理やり手を突っ込んでるのかなと思っていたら、あろうことかそいつは両手を使って俺の尻を撫で回してきた。

 

 これは、痴漢だよな。

 どうしよう。

 なにかの勘違いであって欲しい。

 俺、男だし。

 でも、こんなにあからさまに触られると、もう痴漢としか思えない。

 

 しかし、どう対処したものか。

 遅延している電車が俺のせいで余計に遅れると考えると、乗客からの文句が怖くて、自分が犠牲になっていればいいとさえ思えてしまう。

 

 あと数駅我慢すれば降りられるんだ。

 ケツを触られるぐらいは我慢しないと。

 

「っ──!?」

 

 せっかくそう覚悟した直後に、痴漢は俺の腰に手を回してきた。

 俺の両腕の分だけ空いたギリギリのスペースに手を忍び込ませ、今度はズボンのチャックの上に手を重ねてくる。

 

 スリスリと指先で俺の肉棒の位置を探して、その形を確かめているようだった。

 

 その感触に、嫌悪感が沸き上がる。

 

 ──と、思っていたのに。

 あろうことか、俺はこの事態を、不快に感じてはいなかった。

 それどころか、優しく撫でてくるその手を、気持ちいいとさえ思ってしまう。

 

 ダメだ、こんなプレイに呑まれては。

 いくら俺の性癖が歪んでいても、見ず知らずの──男かもしれない相手に痴漢されて興奮するなんて、あってはならない。

 

 そう思うのに、俺の体は窮屈なのとは無関係に動かなかった。

 

 恐怖の中にほのかに混じる好奇心。

 今まで知り合った誰でも無い人間に秘部をイジられたら、どれくらい気持ちいいのか。

 そんな考えが、「怖くて動けない」と言い訳する自分を本当に動けなくしている。

 

 痴漢の手は止まらなかった。

 俺のズボンのチャックを下ろし、トランクスのボタンまで開けて、完全にモノを狙いに来ている。

 

 周囲に悟られないように、指と手首の可動域だけを使って、その手が俺の肉棒に触れてきた。

 

「ぅっ……ふぅ……」

 

 生のペニスに触られている。

 片方の指で竿を摘んで、もう片方の指で亀頭を擦ってくる。

 

 これは本当にマズい。

 勃起しかけている。

 肉棒を撫でるその手が、その体温が、その柔らかさが、俺に抗いようの無い快楽を与えてくる。

 

 痴漢は俺のパンツの奥に手を入れてきた。

 俺のイチモツの全体を確かめている。

 手のひら全体で、指の一本一本を使って、玉の下から亀頭の先まで、すべてを撫で回してくる。

 

「……ぅっ……!」

 

 気持ち良すぎて、声が漏れそうだ。

 これが男なら、俺はもう今まで知らなかった世界の扉を開いてしまったことになる。

 でも、俺の少ない経験から考えても、このスラリと伸びた手の形、肌の柔らかさ、肌そのものの感触、男には思えない。

 なんとなくだが、背中に柔らかい感触が当たっているような気もするし。

 これって、女の人のおっぱいなんじゃないか。

 

 てか、冷静に考えろ。

 ありえないだろ、ここまでする痴漢なんて。

 

 この混雑の中、わざわざ俺の背後に張り付いて、躊躇なく肉棒を触ってきた。

 しかもその手は、すでに上下に動いて俺の愚息をシゴき始めている。

 

「ぁぐっ……ぃ……!」

 

 き、気持ちいい。

 周囲にバレない程度の、わずかな手首の動きで、俺は感じてしまっている。

 

 これが男の所業のはずがない。

 

 というか、こんなことをする人は、あの人以外に考えられない。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 ──山本さんだ。

 

 山本さんが見知らぬ痴漢を装っているんだ。

 

 高校生に深夜バイトはできないし、ランチの仕込みから入った山本さんが、最後の最後まで店で働いているとも考えにくい。

 だとしたら、この時間がちょうど帰宅に被る可能性はある。

 

 思えば俺が山本さんにエッチなイタズラをされたときも、学校でいきなり背後からだったし。

 二度目はショッピングモールの更衣室で、フェラをしてもらったのは資料室だ。

 

 山本さん、こういう外でのプレイ、好きすぎないか?

 

 清純派のように見えて、経験豊富、かと思えば純情な面もあって、でも、プレイは変態的。

 山本さんの性指向が全くわからない。

 

 ただ、言えることは。

 

「ぁ……ぃぃ……」

 

 とにかく股間が快楽に満たされている。

 山本さんの手が、鈴口からあふれる先走り汁を全体に塗りたくり、カリから裏筋までを丁寧にマッサージしてくる。

 すぐにでも射精してしまいそうだった。

 

 この快感こそが、山本さんである証だ。

 

『えーお待たせいたしました。間もなく──』

 

 ようやく次の停車駅。

 この次が俺の降りる駅だ。

 

 痴漢はひとまず俺の肉棒を引っ込めて、それでも離れようとはしなかった。

 

 反対側のドアから乗客がぞろぞろと降り始めて、超満員だった電車が満員電車くらいにまで緩和される。

 それでも、幸か不幸か、車内に入ってきて奥に進まない連中のせいで、ドア付近だけは人口密度が高いままだった。

 

 もちろん、痴漢、もとい山本さんからの快楽責めは続いた。

 ドアに擦り付ける勢いで俺の肉棒をズボンから外へと引きずりだして、刺激を与え続けてくる。

 

 下手をすれば俺たちは、公然わいせつで御用になる。

 そのあたりはさすがに山本さんだから、きちんと周囲の状況を把握した上でやっているのだろうが、満足に首を動かすこともできない俺にはただただ恐怖だった。

 

 そして、その恐怖感と罪悪感が、俺の性的興奮を高めてくる。

 こんな人の多い中で、堂々と手コキをされてるなんて。

 

 俺が射精できないってわかってるから、ここまでしてるんだろうけど。

 もしこの場で俺が我慢できなくなって、精液を壁にぶっかけてしまったら、山本さんはどうするつもりなんだ。

 

「ぁぅっ……はぁ……!」

 

 山本さんが肉棒を握る力を強くしてきた。

 手首とのスナップと合わせて、手コキを激しくしてくる。

 

「ふぅっ……ぅぅぐっ……!!」

 

 声が、出てしまう。

 気持ちよすぎて、頭が変になりそうだ。

 

『間もなく──』

 

 車掌からのアナウンスが流れる。

 ガチガチに勃起して、電車の中で蹂躙されていた肉棒は、その瞬間にようやく解放された。

 

 電車が緩やかにスピードを落としていって、そろそろ駅のホームに入ろうかという頃。

 気付いてしまった第二の問題。

 

 こんな最大まで勃起した状態で駅に降りたら、股間が目立つ。

 下手をしたら、その時点で別の痴漢容疑で捕まるかもしれない。

 

 俺は乗客の流れに合わせて降り、改札を目指す人々に股間が見えないように柱の陰に立って、ホームから人が捌けるまで待った。

 

「あら、ソトミチくんだ。奇遇だね、こんなところで」

 

 俺の背後からぴょんと姿を現した女性が1人。

 本日二度目の出会いである。

 

「奇遇ってなぁ……もうほんと、びっくりしたよ」

 

 これで相手が山本さんじゃなかったら、俺はもうなんというか、人生の半分を投げ出していた気がする。

 

「凄いことになってるね」

 

 山本さんはパンパンに張ったスラックスを見て、クスリと笑う。

 

「誰かさんが変態プレイをするから」

「えー。ソトミチくんだって喜んでたじゃん。お汁いっぱい垂らしてたし」

「うっ……」

 

 そこを突かれると反論できない。

 まあ、俺も楽しんでいた部分はあるし、お互い様か。

 

「ソトミチくんは帰りは自転車?」

「今日はバスだよ。スーツだと運動するのも汗をかくのもなるべく控えたいし」

「なら一緒に帰れるね」

 

 山本さんは俺の横に並んで歩いた。

 あの、隣を歩いている男は、勃起を隠すためにカバンを前に抱えているような人間なんですが、大丈夫なんでしょうか。

 

「山本さんは、その、ああいうの、好きなの?」

 

 バス停に向かう道すがら、俺は山本さんに聞いてみることにした。

 

 これから性的な関係がもっと深まるのであれば、互いの性指向を理解しておくのは重要だ。

 決して、過去のことを探りたいわけではない。

 

「ああいうのって?」

「だから、ほら。外でするのとか。学校とかでも、色々あったし」

「あー……」

 

 山本さんは真剣な顔で考え込む。

 自覚はあったのだろうか。

 

「言っておくけど、お家以外でエッチなことをしたのは、ソトミチくんだけだからね?」

「え、マジで」

 

 あれだけのことをされると、その発言はにわかに信じがたい。

 もちろん、俺に対するイタズラは、山本さんが抱える悩みを解決するためだったのは理解している。

 でもそれにしたって、一番最初のエッチなイタズラは、どう考えてもそういうプレイが好きな人間のやることとしか思えないんだが。

 

「まあ、そのですね。しようと思ったことが、ないわけではなくて。実際、お外なのに出ちゃった人はいるし」

 

 そうか。

 結果論ではあるが、しようとしても、プレイに至る前にみんな射精してしまうから、できなかったのか。

 

「なので、一応答えておくと、好きです」

「そっか。まあ、俺も、好きだけど」

「だと思った」

 

 山本さんは楽しげに笑う。

 この笑顔にはいつも癒やされる。

 

「バス、並んでるな」

 

 バス停までたどり着いたはいいものの、少なくない人数が行列を作っていた。

 俺の肉棒の硬さも抜けていないのに、この集団に混じって移動するのは怖いものがあるな。

 

「でもこのバス停を利用する人って、大抵は薬師前行きに乗るでしょ? うちの近くなら、もっと手前終点のやつがあるよ」

「そうなんだ」

 

 バイトのときくらいしかバスを使わないからな。

 いつも同じ行き先のやつしか使っていなかった。

 

「ほら、あのバス。あんまり人が乗ってないけど、ちゃんと家につくから安心して」

 

 俺は山本さんと二人でバスに乗り込んだ。

 乗客は先頭側の椅子に座っている人が何人かいるだけ。

 股間の盛り上がりをバックで隠しているようなこの状況では、人はいないに越したことはない。

 

 俺たちは一番後ろの座席に並んだ。

 バスから家までは、交通状況にもよるが15分程度で着くことができる。

 

「それにしても、あんなメッセージを送った後にこうしてばったり会っちゃうのは、ちょっぴり恥ずかしいね」

 

 そういや、次に会うのは二日後って言ってたもんな。

 恥ずかしがるポイントが若干ズレているような気もするが、まあいいか。

 

「俺としては、会えるのは嬉しいよ」

「お、照れることを言う」

 

 山本さんはポニーテールを口元まで引っ張って横顔を半分隠す。

 こういうわざとらしい仕草も山本さんの可愛いところだよな。

 

 定刻になってバスは出発したが、俺たちの後から人は入ってこなかった。

 

 人寂しいバスの中は、夜らしい静かさに包まれていて、私語をするのがためらわれる。

 

「ところで、ソトミチくんはいつまでそうしてるのかな」

 

 山本さんはヒソヒソ声で話しかけてきて、俺の張りっぱなしのテントを突いた。

 

「これは……自然には、収まりがつかないというか……」

 

 あんなことをされた後だし、かなりムラムラしてしまっている。

 バスに乗っている間に少しは縮まるだろうが、完全にガス抜きするためには射精するしかない。

 

「出したい?」

 

 山本さんは顔を隠したまま、小さな声で訊いてくる。

 

「えっ、ど、どう、やって……?」

「知らない。でも、もしするなら、ソトミチくんのしたいようにするしかないと思う」

 

 俺のしたいようにか。

 それはどこまでが許される範囲なんだ。

 

「それって……その……今……してもらえるとか……?」

「ソトミチくんが今って言うなら、今じゃないかな」

 

 山本さんは俺を煽るように見つめてくる。

 しかし、体は動かさない。

 俺の命令を待っている。

 

「なら、口でって言ったら、してもらえる……?」

「んー? ここでフェラしてほしいの?」

「そ、そういう、ことになる、かな」

 

 言ってしまった。

 一般のお客さんも乗っているのに。

 

「いいよ」

 

 山本さんは両手を座面について俺に身を寄せてくる。

 腕を曲げて身を伏せれば俺の股に口をつけられる状態で、山本さんはまた動きを止めた。

 

 これは俺が脱ぐのを待ってるんだよな。

 公共の場で、また秘部を露出することになるなんて。

 

「こ、これで……」

 

 俺はチャックを下げ、開けっ放しだったトランクスのスリットから亀頭を覗かせた。

 バスの冷房で股間がスースーする。

 

「これを咥えればいいの?」

 

 山本さんが息を抜くだけのような微かな声で尋ねてくる。

 

「うん。あっ……ただ、今日はすごく汗かいたから、あんまりキレイじゃない、けど……」

 

 今の俺の体は、お世辞にも清潔とは言えない。

 長時間の労働で汗まみれになり、さきほど電車で手コキをされて先走りが塗りたくられたこの陰部には、汗と精液のニオイが充満している。

 

「ふーん」

 

 山本さんはやや口をすぼめて不満顔を作る。

 

「でもソトミチくんは、それを私に咥えさせたいんでしょ?」

 

 心がズキッとすると同時に、ペニスがビクンと跳ねた。

 別に汗で汚れた肉棒を咥えさせることが好きなわけではないが、改めて言葉にされると、また体が興奮に目覚めてしまう。

 

「えっ、あの。山本さんとしては、いいの?」

「ソトミチくんがやれって言うならする」

 

 山本さんはあくまでも受け身の姿勢だった。

 誘ってきたのは山本さんなのに、これでは俺が悪いことをしているみたいだ。

 

 でも、ここまできてやっぱり止めるなんて、空気が台無しになる。

 山本さんだってきっとそんなことは望んでいない。

 

「じゃあ、これ、咥えて」

「わかりました」

 

 山本さんはまるで従順な下僕のように俺の命令に従った。

 首を下げ、バスの中で露出させた性器に、唇を近づける。

 

「っ──!」

 

 その湿った粘性が、外に開放された俺のイチモツを包み込んでいく。

 

 バスのエンジン音と、隣を走る車の騒音だけが不規則に流れ込む車内で、山本さんは俺のペニスをその口に咥え込んだ。

 口を大きめに開けて、わざと舌を長く出し、陰茎を舐るサマをまざまざと見せつけてくる。

 

 あまりにも卑猥なフェラに、俺の目は山本さんに釘付けになっていた。

 山本さんは唇を軽く窄めて、口でコンドームをつけるように、俺のペニスの表皮についた汚れを舐め取っていく。

 

 山本さんもまた、俺を見ていた。

 横目で俺を睨むようにして、どこまでも俺を悪者に仕立ててくる。

 無理やりフェラをさせているつもりはないけど。

 ゾクゾクして堪らない。

 

「んっ……ちゅぷっ」

 

 バスの停車に合わせて、山本さんは顔を上げた。

 バス停に立っていた人が車内に乗り込んでくる。

 

 山本さんは目を細めて、俺を睨む視線を強くしていた。

 

「酷い精液のニオイ」

「うっ……ご、ごめん……」

 

 男はどれだけVラインを丹念に洗っていても、特に連日射精している男の場合、汗をかくと謎の精液臭がするようになる。

 射精の習慣が汗腺に影響を及ぼしているのかは定かではないが、この暑い時期に蒸れた陰部は、かなりのオス臭さになっているはずだ。

 

 それでも。

 

「また、咥えてって言ったら、してもらえる?」

 

 乗車してきた老婆は前方の優先席に座った。

 後部座席が視界に入るような位置には、まだ誰もいない。

 

「して欲しいの?」

「うん」

「んふ。しょうがないなぁ」

 

 山本さんは、おそらく意味のなかった問答を挟んで、また俺の肉棒への奉仕を再開した。

 

 俺のズボンを根元に押さえつけて、ペニスの竿全体を完全に外に出してしまう。

 そして、それを口には含まずに、舌で撫で回してきた。

 

「はぁ……ぁっ……うっ……!」

 

 刺激は減ったが、露出感が高まったことで、快感はむしろ増していた。

 3席前の二人がけの椅子では、新社会人らしき若いスーツの男がゲームをしている。

 イヤホンをつけているから、多少声が漏れてしまっても聞こえることは無いだろうが、油断したら大声で喘いでしまいそうで背中がヒリつく。

 

「んっ……んくっ……ちゅっ……じゅぶっ……」

 

 山本さんはたまに、バスのエンジンがかかった瞬間に合わせて、あえて空気を含ませてペニスを吸った。

 じゅぼじゅぼと音が耳に響いて、集中によって大きく感じるその音に、心拍数が一気に上昇していく。

 

「うぁ……んっ……山本……さん……!」

 

 俺はついに我慢しきれなくなって、山本さんのおっぱいに手を触れた。

 あろうことかTシャツの下にはブラジャーしか身に着けていない山本さん。

 手を入れたら、生で触れてしまえる。

 

「ん……。スケベ」

 

 山本さんは頬を緩めながら俺を睨んでくる。

 

「そんなに触りたいなら外したら?」

 

 悪魔的な誘惑だった。

 駅前の短い渋滞を抜けてスピードを上げるバスは、もう5分もしないうちに最寄りのバス停まで着いてしまうだろう。

 謎の焦りに背中を押された俺は、山本さんのブラのホックをすぐに外した。

 そしてそれに合わせるように、山本さんは器用にTシャツの中で腕を回して、ブラジャーだけを取り出した。

 

 二つに折り畳まれたブラジャーが、手持ち無沙汰な左手に預けられた。

 

 デカい。

 美優のブラを見慣れた俺でも、このサイズ感には驚愕する。

 だがもっと驚くべきはそのカップが支える中身の方だ。

 Tシャツがおっぱいの重みでたわみ、乳首の在り処を指し示すように先っぽだけがぷっくりと膨らんでいた。

 

 エロ過ぎる。

 もう我慢なんてできない。

 俺は山本さんが半裸になるのも厭わず、Tシャツの裾から手を入れておっぱいを揉みしだいた。

 

 山本さんは文句も言わず、身じろぎもせず、ただ、俺を蔑むような目だけを向けてペニスを舐め続けている。

 傍からみたら、俺が下着を取り上げて、山本さんにフェラを強要しているようだ。

 服を乱され、汚らしい棒を咥えさせられ、公共の場で辱められる山本さんの姿に、俺の興奮が最高潮に達していく。

 

「っ……ぁっ……!」

 

 性欲を煽られて、エロいことをしてしまい、恨みの籠もった視線を送られながらも、相手はそれを受け入れてくれている。

 

 その状況が、まるで、美優とエッチをしているようで。

 

 それを自覚した瞬間、俺の射精欲が一気に弾けた。

 

「うっ──!」

 

 それが、次のバス停に着く直前のことだった。

 

 喋ろうとすると喘ぎ声が出てしまいそうで、俺は山本さんに射精する宣言もできず、無断で精液を山本さんの口腔内に射出した。

 

「んっ……!?」

 

 ドクッ、ドクッ、と、何度も濃い精液を、山本さんの口の中に送り込んだ。

 山本さんは驚いて顔をしかめるが、口を離せば座席を汚すことになってしまうため、乗客が入り込んでいるその最中でもずっと俺のペニスを咥えているしかなかった。

 

 俺の射精が終わるまで、ブラジャーをつけ直すことも許されず、後部座席に歩いてくる乗客の足音に怯えながらその時を待つ。

 やがて俺の肉棒が筋肉の収縮を止めると、山本さんは急いで体を起こした。

 

 乗り込んできたカップルは、最後部のひとつ前の席に座り、仲良く並んでいる。

 俺は前の座席の背もたれに上手く隠れながら、ズボンのチャックを上げ、ブラジャーを背後に隠した。

 

「むぅぅ……うっ……!」

 

 山本さんは俺の精液を口に含んだまま、泣きそうな顔になっていた。

 ただでさえ吐き捨てたくなるほど不味い俺の精液を、あろうことか一日溜めてから大量射精させられたのだ。

 さすがの山本さんでも、それを無表情で飲み込むのは無理だったらしい。

 

 しかし、だからといって怒っている様子もなく。

 背後でイチャつき始めたカップルたちをよそに、山本さんは口を開けて俺にどれだけの精液を出されたのかをアピールしてくる。

 

 ぬちゃっと口蓋から滴り落ちる白い液体。

 喉の奥まで白濁液が満たされている。

 

「ご、ごめん。なにか、吐き出すものを……」

 

 俺が急いでカバンの中をガサゴソと漁っていると、山本さんは俺の手を止めて、ごきゅっと喉を鳴らしてそれを飲み込んだ。

 

「うっ……ふぅ……はぁ…………の……飲んだ」

 

 山本さんはなぜか得意げな顔をして、今度は空っぽになった口内を見せてくる。

 

「えっと……水いる……?」

 

 俺はカバンから出しかけていたペットボトルをチラと見せる。

 

「いる」

 

 即答だった。

 

 渡して数秒もしないうちに、半分以上水があったペットボトルがすっからかんになって戻ってきた。

 やはり俺の精液を飲み慣れることはないらしい。

 

「えっと、なんというか、ありがとう。気持ちよかった」

「いえいえ。どういたしまして」

 

 山本さんはお辞儀をしてニッコリと笑う。

 

 気づけばいつもの山本さんに戻っていた。

 

「ソトミチくんが美優ちゃんとどういうエッチをしてるのか、だんだんわかってきた」

 

 そしてヤブからぶち込まれる衝撃発言。

 今日の俺の様子からいったい何を探っていたんだ。

 

「あ、もう次だ」

 

 山本さんは俺の前で腕を伸ばして、降車ボタンを押す。

 Tシャツの胸元から、ブラジャーをつけていない山本さんの谷間が見えて、俺は思わず視線を奪われた。

 

「ソトミチくんのえっち」

 

 山本さんは片腕で胸を抱いておっぱいを隠す。

 もっと近くにボタンがあったはずだけど、エッチなのは否定できないので謝っておこう。

 

「すまん」

 

 そんなやり取りを経て、俺たちは山本さんの住むマンションまでやってきた。

 自動ドアが感知するギリギリ手前で、俺はカバンにしまっていた山本さんのブラジャーを取り出す。

 

 電車で痴漢プレイをした上に、カバンに女性モノの下着を入れているなんて、俺はいつの間にこれほどの変態になったのだろう。

 

 悪いのは、全部山本さんだけど。

 

「これ、返すよ」

「ありがと。持って帰られたら、美優ちゃんのと間違えられてどっかいっちゃいそう」

「さすがに山本さんほどではないよ」

 

 あの小さな体とのギャップで考えれば、山本さん以上ではあるんだけど。

 

「じゃあ、また明日な」

「うん。次こそは、しようね」

 

 山本さんは両手で小さくガッツポーズを決めてから、手を振って俺を見送ってくれた。

 

 明日がついに本番か。

 そういえば俺、手持ちのゴムってほとんどなかったよな。

 前回もするつもりだったのに、忘れてたし。

 今のうちに買っておかないと。

 

「あれ? ソトミチくんの帰り道、そっちだったっけ?」

 

 俺が近くのコンビニに寄ろうと、普段とは違う道に進んでしまったため、山本さんに不審がられた。

 

「ああ、それはだな……」

 

 どうしよう。

 前回もゴムを持参していなかったことを、正直に言うべきかな。

 生を強要するつもりなんて毛頭なかったけど、印象は良くないだろうし。

 

 とはいえ、上手く凌げるだけの言い訳も思い浮かばない。

 

「ゴム、買っておこうと思って。前回はその、持って行ってなくて、申し訳ない。また忘れそうだから、今のうちに買っておくよ」

「おー……なるほど……」

 

 山本さんは俺の言葉を聞いて、しばらく考え込んだ。

 

「実は私、自分で買ったことって無いんだよね」

 

 マジで、とまた疑いの言葉が口をついて出そうになった。

 山本さんはこれだけエッチが好きなわけだし、常備していたとしても俺は驚かないが、山本さんは今まで本当に、したくてもできなかっただけなのだろうか。

 

「……売り場、見てみる?」

 

 とはいっても、コンビニの日用品棚に陳列されているものだし、珍しいものでもなんでもないとは思うが。

 さすがに見たことぐらいはあるよな。

 

「うん、そうだね」

 

 山本さんはポーチにブラジャーを詰め込むと、俺の隣まで近寄ってきて、そして、手を繋いできた。

 

「それじゃあ、一緒にゴム、買いに行こっか」

 

 それから俺たちは、手を繋いだままコンビニに行き。

 

 買い物袋を下げて店を出てくるまで、放すことはなかった。

 

 



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処女みたいなセックス

 

 夏休み真っ只中の午後。

 俺はコンドームの箱を眺めながらベッドで横になっていた。

 

 学校の宿題をやったり、オフ会の話題作りにクエスト消化なども行っていたが、どれも手につくことはなく。

 休んでおくことが山本さんのためだと自分に言い聞かせて、呼び出しを貰うまで寝ていることにした。

 

 箱に書かれている数字は『0.01』。

 美優が以前、俺に使わせた、最もリアルな挿入感を得られるという最薄のコンドームと同じだ。

 しかし、これは俺が選んだわけではない。

 

 昨晩、山本さんと手を繋いだままコンドームを買いに行った俺は、背後からどのゴムを選ぶのかを山本さんに見られていた。

 もちろん、俺だって最初からこの一番薄いやつを選びたかったが、それだと変な期待をしていると思われそうで、俺はもう一段階厚いコンドームを選んでレジまで持っていくことにした。

 

 しかし、会計が始まる直前、山本さんが俺の背中をつついて待ったをかけた。

 そして、「これにしよ」と、頬を赤らめながら、この最薄のコンドームを提案してきたのだ。

 

 あのときの山本さんの少女的な可愛らしさと、店員の殺意に満ちた視線は今でも忘れられない。

 

『ソトミチくん、準備できたからおいで』

 

 外が暗くなり始める前に山本さんから連絡がきた。

 どうやら今日はランチの片づけまででバイトが終わったようだ。

 

 俺は支度を済ませて家を出た。

 バッグにスーツを詰め込んでいるせいで、想定以上の大荷物になった。

 「せっかくの夏休みだから泊まりに来なよ」と誘ってもらって、俺は次のバイトも山本さんの家から行くことにしたのだ。

 

 俺は自転車をフラつかせながら山本さんのマンションに向かった。

 まだ数回しか通っていないのに、すっかりこの道にも慣れてしまった気がする。

 

 今日はいよいよ、山本さんとセックスをする日だ。

 なんでもできる山本さんが、長年叶えられなかった唯一の望み──山本さんも満足できるセックスを、実現してあげたい。

 

 マンションにたどり着いた俺は、山本さんの部屋番号を入力して、エントランスからインターホンを押した。

 

 夏の暑さとは関係なく喉が渇く。

 脈も心なしか速いように感じる。

 

『ドア開けるねー。部屋の鍵も開けておくから、着いたら入ってきていいよ』

 

 自動ドアを開けてもらい、エレベーターに乗り込んで、山本さんの部屋を目指す。

 

 ボーッと空調の音だけが響く密室で、俺は一つずつ増加していく階数表示を眺めていた。

 

 ──俺は体を捧げているだけでいいんだろうか。

 

 ふと、そんなことを考える。

 山本さんが一番に求めていることは、自分の体でもすぐに射精をしない男と挿入行為に至り、短くない時間のセックスで気持ちよくなること。

 

 そのはずなのに、何かが引っかかる。

 山本さんの「セックスがしたい」を、「気持ちよくなりたい」と解釈するのは、どうにもしっくりこない。

 

 もちろん、俺は山本さんに満足してもらえるよう、丁寧に時間をかけてセックスをするつもりだ。

 あるいは山本さんのことだから、何十分も腰を激しく振り続けることを求められるかもしれないけど。

 今日のために筋トレは控えておいたから、最初くらいはそうした望みにも応えてあげられるはず。

 

 しかし、そこまでしても、山本さんが満足する姿が思い描けない。

 

 長時間の挿入だけではダメなんだ。

 美優はイかなくても満足できると言っていたけど、やっぱり女の子だって、セックスをしたらイきたいに決まっている。

 

 山本さんは、イッた経験があるのだろうか。

 よくよく考えてみると、俺って女の子をイかせたことはないんだよな。

 佐知子をイかせていたのは、結局は美優の記憶だったわけだし。

 由佳としたときも──あいつはイってたみたいだけど、あれは状況が特殊だし、何より美優が無理やりさせた影響の方が強かった。

 

 そんなことをうだうだと考えているうちに、山本さんの部屋の前にたどり着いた。

 鍵は開けていると告げられているので、俺がこのドアを開ければ、山本さんとの時間がスタートする。

 

 こうなったら、なるようになれだ。

 

「お邪魔します」

 

 ドアを開けてすぐ、縦長な廊下の左側に、キッチンが見える。

 玄関に入ると、香ばしいスパイスの匂いが俺の嗅覚を刺激した。

 

「いらっしゃいませ、ソトミチくん」

 

 山本さんが鍋をかき混ぜながら俺を出迎えた。

 サマーニットにエプロン姿で、胸の膨らみがくっきりと出ている。

 その所帯感のある姿がエロすぎて、さっきまで考えていたことを忘れてしまいそうだった。

 

「この匂いは……ビーフシチュー?」

 

 俺が尋ねると、山本さんはニッコリしてOKマークを作った。

 

「がっつりと固形のご飯にすると、エッチのときにお腹がツラいからね。冷めてもパンと一緒に温めるだけですぐに食べられるし、今から用意してるの」

 

 ビーフシチューか。

 数日前に美優から焦らしプレイを受けたときもシチューだったな。

 

 美優はいつもドライで、山本さんと違って直接的なエッチはしてこないけど、不意にパーソナルスペースに踏み込ませてくれるから、ドキッとして思考がおかしなことになってしまうんだよな。

 

 ……っと、いまは美優のことを考えてる場合じゃない。

 

 俺はこれから、こんなにエロくて可愛い女の子と、思う存分セックスができるんだ。

 まずはそれを喜ばなくてどうする。

 

「お腹が空いてるなら、いま食べちゃってもいいけどね」

 

 山本さんは鍋の火を止めて、俺の手を塞いでいる荷物を受け取った。

 重い物を持たせるのは申し訳ないけど、靴が脱ぎやすくて助かる。

 

「ご飯にしてもいいし、お風呂にしてもいいし」

 

 俺の荷物を手近な床に置いて、至近距離まで近づいてくる山本さん。

 

 しなやかな指が俺の体をなぞり、その指先は、ズボンのチャックに止まった。

 

「それとも、フェラする?」

 

 いきなりのエッチの提案に、俺の股間が、むくむくと盛り上がる。

 

 もはや恒例となりつつある即フェラ。

 期待を裏切らない山本さんの快楽責めを、もう体が覚えてしまっているからこそ、抗えない。

 

「フェラが、いいかも」

「んふふー。かしこまりました」

 

 山本さんは窮屈になったズボンから、俺の肉棒を外へと解放した。

 

 今度は自分で出せとは言わない。

 完全にご奉仕モードの山本さんだ。

 

 玄関でまだ靴を履いたままの俺からペニスを引っ張り出して、膝立ちになる山本さん。

 下から仰がれる目線と、ニットに表れている胸のラインが、俺の劣情をこれでもかと刺激してくる。

 

「はーむっ」

 

 山本さんは迷うことなく俺のペニスを咥え込んだ。

 じゅぶっ、じゅぶっ、と音を立てて、美味しそうに根元まで舐めてくれる。

 

「あっ……うっ……山本さん……すごいっ……!」

 

 フェラをしてくれる山本さんの口はいつも温かくて、唾液に溢れている。

 俺がまだエロゲで抜いていた頃、オナホを温めてローションをたっぷりに満たせば、最高の肉穴になると聞いて試したことがあったけど。

 山本さんのフェラは、そんな道具なんて子供のオモチャだと思わせるぐらいの肉感をしていた。

 

「ああっ……ほんと……すごいよ山本さん……」

「んふ。きもひぃ?」

 

 山本さんはフェラをするときに全く嫌な顔をしない。

 それどころか、美味しそうに味わいながら隅々まで舐めてくれる。

 

「気持ちいいよ……フェラだけで満足できちゃいそう……」

 

 山本さんに初めて口でしてもらったのは学校の資料室、その次がソファーでのパイズリフェラで、昨日はバスの車中。

 

 そして、来宅からの即フェラであるこれが4度目。

 

「あっ……あの……山本さんって……洗う前の方が好きなの……?」

 

 山本さんは準備万端の状態でフェラをするより、屋外でフェラをしている時の方が楽しそうにしている。

 精液や汗のニオイはもちろん、おしっこの味までしているかもしれないのに、山本さんは率先してそれらを舐め取ってくれる。

 

「んー、ちゅっ……別に汚いのを舐めるのが……好きなわけじゃないけど……んぢゅっ、ちゅる……」

 

 山本さんはペニスを咥えたまま、舌を竿全体にべろべろと擦り付けて、ズズッと唾液を吸い取った。

 

「そのままのやつ舐めると、ソトミチくんが喜んでくれるから好き」

 

 山本さんは微笑んで、またフェラを再開した。

 

 俺が喜ぶからって、そんな。

 

 嬉しすぎる。

 

 その幸福感だけで射精してしまいそうだ。

 

「んむ……ちゅぶっ……んちゅ……あっ……。でも、この荷物にスーツも入ってるんだっけ。シワになっちゃうかな」

 

 山本さんは俺の肉棒から口を離して、床に置いた俺の荷物に意識をやった。

 そのバッグの中にはバイトに使うスーツと泊まり用の服が一式入っている。

 リュックを使えば自転車を漕ぐのが楽だったのだが、手頃な物がなくて親の小旅行用のバッグを引っ張り出してきてしまった。

 

「そんなに気にしなくてもいいよ。イベントスタッフはスーツが制服だけど、ほとんど肉体労働だから、使い潰すつもりで着てるし」

「それでも。女が男の子をみっともない姿でお仕事には送れません」

 

 山本さんは俺のペニスをパンツに押し込んで、「お預けです」と言ってチャックを閉じた。

 

 それから俺は風呂場に送られて、山本さんがバッグの中身を整理している間に、シャワーを浴びる。

 

「はぁ」

 

 また快楽に負けて、エロいことしか考えられなくなってしまった。

 山本さんのフェラが気持ちよすぎるのもそうだけど、あんだけ楽しそうにされると、もうそれだけでいいんじゃないかなって思ってしまうんだよな。

 

 俺が汗をシャワーで流している間も、股間には硬さの変わらない屹立が存在を主張している。

 セックスをしにきたのだから、こんな状態でもなんら不誠実ではないのだが、四六時中セックスをすることしか考えていないと思われるのも、それはそれで問題だ。

 

 美優も山本さんも、求めても嫌がらないという点では共通している。

 そこに甘えっぱなしにならないようにしないと。

 

 俺は浴室から出て、体を拭く。

 服が湿っているとベッドを使わせてもらう山本さんに失礼なので、着る前にドライヤーで髪を乾した。

 美容院できちんと切ってもらっているからなのか、ワックスをつけなくても風呂上がりの髪はそれなりにまとまった。

 

 鏡に映る自分の姿は、数ヶ月前からすると信じられないくらいに、まともだ。

 筋肉もついて、姿勢も良くなって、妹の美優があの可愛さである通り、俺の顔のパーツだってそれほど悪くはない。

 

 ……とは思うのだが。

 それでも地味で根暗に見えるのは、やはりこの野暮ったい一重が原因か。

 いっそ目の余分な肉と皮をごっそり削いでしまえば、そこそこ良い顔になるのかもしれない。

 

 なんてことを素っ裸のまま考えていたら、あろうことか、山本さんがドアを開けてこちらを覗いていた。

 

「や、山本さん……何を……」

「鏡で自分の顔を見つめながらギンギンにしてる全裸のお兄さんを眺めてる」

 

 やばい。

 死にたいほど恥ずかしい。

 

「心配しなくても、ソトミチくんはかっこいいよ」

 

 山本さんは脱衣所に入ってきて、俺の背後に回った。

 そして、裸体の俺に背後から手を回して、ギュッと抱きしめてくる。

 もこもこしたニットの温かさと、山本さん自身の柔らかさが心地良い。

 

「ここ、元気なままだね。エッチなこと考えながらシャワーを浴びてたの?」

 

 山本さんは俺の上向きの剛直を優しく撫でてくる。

 

「あっ……そんな、ことないけど……。最近は、一度硬くなると……んっ……なかなか……萎えなくて……」

「ふーん」

 

 山本さんは左右の手を使って、俺の下半身の肌を撫で回す。

 指の腹がギリギリ浮かないぐらいの弱い力で、太ももから陰嚢、陰茎の先まで触られて、そこからざわざわとした快感が這い上がってくる。

 

「んっ、ふっ、ぁぐっ、ちょっ、それ、あっ……」

 

 快感に体が反り上がりそうだった。

 睾丸も上下にビクビクと反応して、他の男たちならきっとこの時点で出てしまうのだろうとわかるくらい、強烈な射精感が尿道を突き抜けていく。

 

「最近って? 美優ちゃんとエッチするようになってから?」

「それは、あぅっ……はぁ、そ、そう、です……」

「あらあら。いけないお兄ちゃんだ」

 

 山本さんは手の動きを愛撫から手コキへと切り替える。

 右手で竿を握り、左手は陰嚢の下側に添えられて、上と下から同時に快感がやってきた。

 

「あぁぁあっ!」

 

 享楽に喜ぶ体が、電気信号のパルスを受けて、ビクン、ビクン、と跳ね上がる。

 

 その様子が、俺の目の前の鏡に映されていた。

 

 山本さんはそれをわかっていて手淫を始めたようだった。

 

 1人裸になり、女の子に快楽責めをされて喘ぐ、情けない男の姿。

 それを俺に見せようと、山本さんは両腕で俺をガッチリとホールドして逃さない。

 

「さっきはソトミチくんのこと、かっこいいって言ったけど」

 

 山本さんの手を上下にする動きが激しくなる。

 ストロークするごとに指を波打たせるように動かして、俺が一番に感じるところをピンポイントで刺激してくる。

 

「あっぐ、あ、ああぁっ!」

 

 俺が腰を引いて快感を受け流そうとしても、山本さんはそれに合わせて腕を深くまで突っ込んでくる。

 股下から玉袋の表面への刺激も、寸分狂わず俺に快楽のパルスを送ってきた。

 

「私は情けない声で喘ぐソトミチくんの方が好き」

 

 ズチュ、ズチュ、と知らずのうちに先走りでグチョグチョになっていた亀頭に、集中して刺激が与えられる。

 俺は足も腰もガクつかせて、山本さんの手淫に耐えることしかできなかった。

 

「電車の中でもこんな感じにイジられてたんだよ? 気持ちよかった?」

 

 耳の裏から山本さんの淫靡な声が伝わってくる。

 鼓膜を揺らし、蝸牛から伝わる信号が、性的な刺激として脳にインプットされていく。

 

「はぁ、あぅっ、ぎも、ちぃ……はぁ、あぁぁっ……!」

 

 山本さんが頬と頬を擦るように顔を近づけてきて、俺は思わず正面を向いた。

 そこには女の子の手でトロトロの陶酔状態にされた情けない男の姿が映っている。

 美優も山本さんも、どうして俺のことをこんなにイジメてくるんだ。

 

「せっかくだからフェラされてるところも見る?」

 

 そう尋ねてから、山本さんは俺の返事も待たずに、体を横向きにして膝をついた。

 

 激しい手コキで鈴口に気泡が残った俺の肉棒に、山本さんがむしゃぶりつく。

 硬く反り上がった肉棒が、山本さんの唇から口の中に消えて、喉近くまで突き刺さった。

 フェラの音が立てられるたびに、山本さんの頬が膨らんだり凹んだりして、俺の肉棒が口内の深くにまで達すると、山本さんがゴクリと嚥下する動きで喉を絞めて、先端まで絞り尽くしているのがはっきりと見えた。

 

「ああぁっぐ……ぅぅああぁ、うっ、あぁ、あぁあああっ!!」

 

 声を出すのを抑えられない。

 ただでさえ山本さんの口は瑞々しいほどの肉感をしているのに、そのすべてを使ってのフェラをされて、平静を保っていられるはずがなかった。

 

「んふふ。私も脱いじゃお」

 

 山本さんはフェラチオのストロークを大きくしてリズムを緩やかにし、快感が途切れないように服を脱いだ。

 着衣状態でのフェラも十分にエロかったが、やはり山本さんの肉々しい体を見ると興奮の猛り方が違う。

 横から見える山本さんのおっぱいは、重力などものともせず、俺の肉棒を咥え込むたびにぷるんと揺れる。

 肌の色白さが、膨張色として肉体の柔らかさを強調して、口元が見えるように髪を耳にかける姿もまた艶かしく鏡に映っている。

 

「ああ、うっ……山本さん……出したい……!」

 

 こうして山本さんの顔を俯瞰で眺めている状態で、山本さんの口に精液が注がれる瞬間まで見ていたい。

 

「んー……ちゅぶっ。それは、また今度ね」

 

 残念ながら口内に射精をさせてはもらえなかった。

 勝手に出していいと言われているのだから、出したら出したで受け入れてくれたんだろうけど、今日はセックスが主目的だし、ここで射精するわけにはいかないか。

 

「だいぶ唾液でべちゃべちゃにしちゃったから、軽く流してからベッドに来て。服は、着なくていいよね」

「ああ……そう、だな……」

 

 山本さんは自分が脱いだ服と、俺がシャワーを浴びた後に着るつもりだった服を持って、居室へと向かった。

 

 裸のままベッドに行くってことは、そのままセックスになるってことだよな。

 シャワーを浴びているうちに心の準備をしないと。

 

 俺はシャワーで下半身を洗い直し、山本さんのいるベッドへと向かった。

 

 ドアを開けると、10畳ほどの部屋の右手にベッドがある。

 そこでは布団を被った山本さんが横向きに寝ていた。

 

「お疲れさま」

「山本さんも、バイトお疲れさま。ご飯とか、スーツとか、ありがとうな」

「ううん……いいんだよ……」

 

 山本さんの視線が、勃起したままの俺の肉棒に集中している。

 内心では「やっぱりまだ硬いんだ」とか思われていそうだ。

 恥ずかしいけど、これが収まるまで待っていたら気分が冷めてしまうし、覚悟を決めるしかない。

 

「ふぅ……んっ……」

 

 裸で布団に入っている山本さんは、体をモゾモゾさせて、顔を赤くしていた。

 呼吸もいつもより深くて、吐き出す息が熱そうだった。

 

「山本さん……なに……してるの……?」

 

 山本さんが何をしているのか。

 聞いてはみたものの、それが何かは俺にもわかっていた。

 

 女の子がしてる姿なんてネット上でしか見たことがないが、これは間違いなく、オナニーをしてるんだよな。

 どうして、このタイミングで。

 

「ん、とね……ふぅ……エッチの……準備してる……」

 

 俺が目の前に現れてなお、オナニーを続ける山本さん。

 その姿に股間のイチモツが、ピク、ピク、と反応してしまって、なんだかこっちが恥ずかしくなってきた。

 

 俺は前戯ってものをほとんどしたことがないから、自分でしてくれるのは助かるけど。

 雰囲気的にそれはどうなんだろう。

 

「あっ……んんっ……ソトミチくんがしてるのも……見たいな……」

 

 山本さんは控えめな口調で、しかし、目では強くおねだりをしてきた。

 じーっと俺のことを見つめて、俺がオナニーをするのを待っている。

 

 それが山本さんの目的なのか。

 こう誘われちゃ、断れないけど。

 山本さんは布団を被ってるのに、俺だけ全裸で立ったままなんてアンフェアだ。

 

「それなら、俺も山本さんがしてるとこ、ちゃんと見たい」

 

 女の子の生オナニーなんて、彼女がいる男でも見られる機会は少ない。

 山本さんがお互いにしてるところを見せ合おうと言うのなら、俺だってオナニーをしている山本さんの全身を見たいんだ。

 

「……わかった。してるから、布団取って」

 

 山本さんはオナニーを止めずに、俺にお願いをした。

 布団に隠れて秘部を弄っているその姿を、俺に暴けというのか。

 いけないことをしている気分になるけど、これも山本さんのしたいことの一環なんだよな。

 ならば俺が期待を裏切るわけにはいかない。

 

 ベッドに近づき、布団に手をかける。

 ギンギンに勃起したままのペニスが山本さんの顔に近づいて、申し訳ない気分になりつつも、俺は山本さんのオナニー姿を隠している布団を取り去った。

 

「うぅ……はぁ……恥ずかしい……」

 

 山本さんは自分から布団を取れと言ったにもかかわらず、秘所をイジることもやめないで羞恥にその身を縮こまらせた。

 清楚なのか淫らなのかわからないその反応に、得も言われぬ興奮がふつふつと湧いてくる。

 

「あんっ……うぅ……ソトミチくんも……早くして……」

 

 山本さんは切羽詰まった声で俺にオナニーを懇願する。

 

 俺は山本さんのことを、攻めるのが好きなサディストだと思っていたけど、やはり女の子としては、どこかに辱められたい願望があるんだろうか。

 

 くちゅ、くちゅ、と音を立てて、山本さんは秘所の湿りを強調する。

 こうして勃起している俺と、興奮しているのは同じなのだと、心の内を伝えてくれている。

 

「はぁ……山本……さん……」

 

 俺も自らのイチモツを握ってオナニーを始めた。

 

 一擦り、二擦りと、シゴく度に血液が送り込まれていく肉棒。

 突っ立ったまま惨めに自分のモノをシゴいている俺の姿を、山本さんは瞬きも惜しんで熟視している。

 

 そんなに俺の情けない姿を見ると興奮するのか。

 特殊性癖っていうのとは少し違うんだろうけど。

 きっと今まで付き合ってきた男たちも知らない山本さんの一面なんだよな。

 

「はぁ、ああっ……山本さん……気持ちいい……!」

 

 山本さんに見られているだけで、オナニーの感度は段違いに上がった。

 

 しかし、これが、まずかった。

 

 一分も経たないうちに、俺は我慢できないほどの射精欲に襲われたのだ。

 

「うっ──!」

 

 俺は慌てて手を止め、根元をギュッと握った。

 肉棒がカライキしたみたいに尿道の収縮だけを繰り返し、ようやく射精欲が収まる。

 

「ん……? ソトミチくん、どうしたの……?」

 

 イチモツをいじり始めてすぐに手を止めた俺を、山本さんが不審そうに眺めていた。

 

 どうしよう。

 オナニーは、できそうにない。

 

 それもそのはずだ。

 女の子の目の前でのオナニーなんて、俺が美優と一番多くしてきたエッチなんだから。

 

 限界まで肥大化したこの怒張の前には、山本さんの顔がある。

 このまま射精をしたら、きっと山本さんは精液を飲んでくれる。

 それは俺と美優がずっと続けてきた行為と同じ。

 この体が射精するのを躊躇するわけがない。

 

「あ、いや、やっぱりちょっと、恥ずかしいかなって」

 

 俺は苦し紛れに言い訳をした。

 雰囲気を台無しにしてしまうけど、見られながらのオナニーだけは、どんなに頑張っても射精を我慢できないんだ。

 

「そうなの? まあ、恥ずかしいって言うのは、わからなくはないんだけどさ」

 

 山本さんもオナニーを止めて、自らの愛液で濡れた指で、そっと俺の肉棒をつまんできた。

 

「その割には、血管が浮くぐらいバキバキになってるけど……?」

「うっ……これは……!」

 

 もう限界だと思っていた勃起が、無理やり血液をねじ込まれてまたひと回り肥大化していた。

 明らかに今まで山本さんとエッチしてきたものを超える膨張。

 自分でも「熱い」と感じるほどの熱を宿している。

 

「ふーん。そうなんだ」

 

 山本さんが目を細めて俺を観察してくる。

 ほんわかモードの山本さんなら騙せたかもしれないけど、こうなったらもう難しい。

 

「美優ちゃんとこういうエッチしてるんだ」

 

 山本さんはご満悦の表情でその答えを導く。

 

 ついに言われてしまった。

 もう、取り繕えない。

 

「これは……あっ……その……」

 

 俺がまごついているうちに、山本さんは俺の肉棒を優しく握って、表面を軽く擦ってきた。

 まだオナニーの反動が残っていて、その刺激だけでも射精してしまいそうになる。

 

「ソトミチくんは、妹の目の前でオナニーばっかりしてる変態さんだ」

 

 山本さんがイヤラシイ目で俺を責めるように見つめてくる。

 その言葉の通りでしかない俺は、なんの反論もできない。

 

「フェラもセックスもしてないっていうから、どんな状況でエッチしてるのか疑問だったんだけど。ソトミチくん、美優ちゃんに見られながらオナニーするのが好きなんだね」

 

 俺の性癖が次々と暴かれていく。

 山本さんには、いまさら知られて困ることではないけど、改めて口にされると羞恥と罪悪感で心臓がズキズキしてくる。

 

「い、色々あって……」

「ふふっ。まあ、そんなに詮索するつもりはないけど」

 

 山本さんは楽しそうに、俺の肉棒を射精しない程度にシゴいてくる。

 

 印象は悪くなってないのか。

 山本さんは俺がどれくらい変態だったら嫌いになるんだろう。

 

「出したくなっちゃう?」

「それはまあ……出したくはなるけど……」

 

 昨日は山本さんにバスで精液を飲んでもらったけど、俺が口内に射精した後は、山本さんはすぐに水を飲み干すぐらい苦そうにしていた。

 いつも美優としてるようなオナニーで出た精液なんかを飲ませたら、その濃さに今度こそ吐いてしまうかもしれない。

 

「でも、山本さんは、本番したいよね?」

 

 俺も今では複数回の射精をできるようにはなっている。

 でも、出した後すぐに勃起させるにはそれなりの興奮が必要で、山本さんからまた奉仕的なエッチをしてもらわなければいけなくなる。

 本番を急かすつもりはないけど、確実にできるときにしておきたい。

 

「うーん……私は、どっちでもいいけど」

 

 山本さんはそう呟いて、俺の肉棒から手を放した。

 

 どっちでもいいのか。

 でも、流れ的には今しかないよな。

 次に本番をしないとなったら、俺はさすがにどこかで射精したくなっちゃうし。

 

「え、あの、これから……する……?」

「うん。そうだね。しよっか」

 

 山本さんはベッドに仰向けになった。

 

 俺はクローゼットの近くに置かれていたバッグからコンドームの箱を取り出す。

 箱を開けると、斜めになった底に三つのコンドームが並べられていた。

 それを見て、足りないかも、と思ってしまった自分を叱りたい。

 

 一回一回のセックスを丁寧にしていれば、この数量で十分だ。

 俺はベッドの縁に箱を置いて、コンドームを一つ持ってベッドに上がる。

 

「えっと、じゃあ、つけるね」

「うん」

 

 俺はゴムが傷つかないように包装を破いて、上下が反対になっていないかを確かめる。

 ぷっくりと膨らんだ精液溜めを上にして、ペニスが根元までしっかりとゴムに覆われるように、くるくると巻き付けを解いていった。

 

 山本さんは秘部が見えないように脚を畳んで膝を立てている。

 俺がその前で腰を落として、山本さんの膝に手を置くと、山本さんもセックスを受け入れるように脚を開いた。

 

 先程までの和気あいあいとした空気から一転、静まり返った室内。

 

「挿れて、いい?」

「……いいよ」

 

 山本さんは返事だけをして、顔は横向き。

 壁をジッと見つめている。

 

 俺は山本さんの脚を持ち上げて、腰を近づけた。

 たっぷりと淫汁が溜まっている山本さんの蜜壺。

 あと数センチ動けば、山本さんに挿入できる。

 

「えっ……と……」

 

 何かが、おかしい。

 

 山本さんの口数が少なすぎる。

 俺はそんなに雰囲気を壊すようなことを言っただろうか。

 あのタイミングでセックスを提案したのがマズかったのか?

 

 いや、待て、そもそも、「どっちでもいい」ってどういう意味だ。

 

 俺だって山本さんとのエッチを楽しんでいるとはいえ、元々この関係は、山本さんが俺にセックスをしたいと頼んだから始まったものだ。

 昨日までだって、次こそはしようねって、あれだけ意気込んでいたのに。

 

 前回この部屋に来たときも、本当はセックスをするはずだった。

 それなのに山本さんにはまったくその気配がなくて、俺が手コキとパイズリだけで精液を出し切った後は、それで十分だってくらいに満足げだった。

 

 このよくわからない、不思議な感じ。

 身に覚えがある。

 

 それこそ美優を相手にしているような感覚だ。

 女の子特有の難しさと割り切ってしまえばそれまでだけど、山本さんだって人間なわけだし、こうして黙っている間も何かを考えているはず。

 

 この状況は、美優が風呂場に押しかけてきたときと少し似ている。

 あのときの美優の理不尽な言動にも、お仕置きをする目的があった。

 

 なら、この山本さんの静かさは、いったい何だろう。

 

「ソトミチくん……? どうしたの?」

 

 なかなか挿入しない俺に、山本さんが首をかしげた。

 

 山本さんが黙ってるから挿れられない、なんて言ったら、それはそれで山本さんが気を利かせてしまうかもしれないし。

 どうやって俺の混乱を伝えるのがいいのかな。

 

「あー……その……、何か雰囲気の出ることを、言ったほうがいいのかなって……」

 

 俺は考えがまとまりきらなくて、それこそ雰囲気の無い発言をしてしまった。

 

「んー? ふふっ。何か言ってくれるの?」

 

 山本さんは微かに笑ってくれた。

 少しは表情の固さが無くなったような気がする。

 

「その……なんというか……だな……」

 

 考えなしだったから、いざ求められると言葉に詰まる。

 とにかくこの妙な空気が和らげばなんでもいいんだけど。

 

「……うん。そっか」

 

 山本さんは俺が答える前に何かを納得して、おもむろに腕を伸ばしてきた。

 その手が俺の後頭部に回されて、山本さんはそっと、自らの胸に俺の顔を抱き寄せた。

 

 すっごい柔らかい。

 

 そして、熱い。

 

 耳を当てるまでもなく、ドクンドクンと激しい鼓動が響いてくる。

 山本さんの脈が異常に早くて、運動の後みたいに体が火照っていた。

 

 まさか、これって。

 

「山本さん……緊張してる……?」

 

 急に口数が減ったのも、今まで本番を先延ばしにしていたのも、単に緊張して上手く始められなかっただけだったのか。

 

「お恥ずかしながら……」

 

 山本さんは俺の顔を胸に押し付けて、自分の顔が見えないようにしている。

 

 考えてみれば、緊張するのも当然なのか。

 今日まで何度もセックスに失敗してきたのは、山本さんからしたら深刻な悩みなんだし、絶対に俺が射精しないとわかっていても心配になるよな。

 

 俺もひとまずはセックスを中断して、体を抱き寄せてくる山本さんに身を預けることにした。

 足の付根同士が重なりあって、挿入はせず、秘部と秘部が当たるだけの状態。

 山本さんのアソコが思っているより濡れていて、ペニスがクリトリスに触れるだけでも気持ちいい。

 

「ソトミチくんの、ほんと、硬いね。体温は同じくらいのはずなのに、熱も感じるし。なんか……すごい……」

 

 平均と比べれば、俺の男性器はそれほどすごいものではないはずだけど。

 美優や山本さんが魅力的過ぎるせいで、俺のオスとしての本能が覚醒している。

 

「んっ……あの、あんまり、ビクつかされると……ふぅ……んんっ……なんか、気持ちよくなっちゃう……」

 

 俺の肉棒が山本さんのエロスに影響されて、節操なくセックスの準備を始めている。

 このイチモツのビクつきは、男の意思では制御しきれない。

 

 っていうか、どうしよう。

 体が疼いてきた。 

 

「山本さん……俺……セックス、したくなってきた……」

 

 山本さんの裸体に包まれているだけで気分が昂ぶってくる。

 抱きついた直後はそれほどでもなかったのに。

 さっきからリビドーが溢れて止まらない。

 

「ソトミチくん」

 

 山本さんは、一瞬だけギュッと強く俺を抱きしめて、すぐに腕から解放した。

 

「私も、挿れて欲しい」

 

 山本さんの潤んだ瞳。

 

 ようやく、その言葉が聞けた。

 

「山本さん……いくよ……」

 

 俺は亀頭を山本さんの膣口にあてがい、ゆっくりとペニスを挿入した。

 

「んっ……ああっ……ソトミチくん……!!」

 

 ズブズブと肉壁を押しのけてペニスが侵入していく。

 山本さんの膣内は想像していたよりもずっと狭くて、でもまったく抵抗感がないくらいに柔らかい。

 

「うぐっ……はぁ、山本さん……! あぁ、これ、気持ちよすぎる……!!」

 

 ペニスが最奥まで到達した瞬間、俺の体がガクッと震えた。

 引き抜こうとするカリ首に山本さんの膣壁が絡みついて、俺の肉棒を絞り上げてくる。

 腰を動かすほどに山本さんの膣内が柔らかくなって、挿しても抜いても、あらゆる箇所に淫肉が絡みついてきた。

 

「ああぐっ……や、やばい、出そう……!!」

 

 まさかの事態だった。

 美優以外は絶対に射精できないと思っていたのに、本当に出てしまいそうなぐらいにギリギリまで精液がせり上がってきている。

 

「ん……いいよ……出して……」

 

 山本さんは俺を抱きしめて、射精を迎えてくれた。

 俺が出してしまったら、その他の男たちと同じになってしまうはずなのに。

 

「あああっ……山本さん……山本さん……ッ!」

 

 俺は一心不乱に腰を動かした。

 

 卑猥な音を立てて蜜をかき乱していく俺の肉棒。

 鉄のような硬さが山本さんの体内に入っていることを感じるたびに、脳内が歓喜に満ち溢れていく。

 そして、10秒ほどの後、俺は緩やかに腰の速度を落としていった。

 

「はぁ……はぁ……で、出なかった……」

「ふぅ……そっか……それは残念」

 

 山本さんも息を乱していて、俺はまた山本さんの胸に抱きつく体勢になった。

 

 絶対にイクと思っていたのに、やはりこの体は、そう簡単に美優以外には出させてくれないらしい。

 

「でも、これでまだ続けられるから」

 

 俺は徐々にピストン運動を再開した。

 さっきは美優以外で射精できるかもしれないと思っていきなり激しくしてしまったが、挿入の時間では一般的な女の子よりずっと経験の少ない山本さんに、あんな乱暴なセックスをするべきではなかった。

 

「痛くなかった?」

「平気だよ。でも、そうやってゆっくりしてくれる方が、嬉しいかも」

 

 山本さんは全身から力を抜いて、俺の肉棒を受け入れた。

 

「んっ……あっ……」

 

 心なしか、この速さの方が山本さんの感度が良いようだ。

 俺としても、激しくしない方が、山本さんの膣内を深くまで感じられて気持ちいい。

 

「山本さん……いつまで……ゆっくりにしてたほうが良い……?」

「うっ、あ、はんっ……そ、ソトミチくんが、よければ……あっ、あんっ、はぁ……ずっとこれがいい……」

 

 山本さんの嬌声が次第に上擦っていく。

 リズムも変えずに腰を動かしているだけなのに。

 

「ああんっ、あっ、そこっ……きもちいとこ……あたってる……っっ……ふぅ……んんっ……!!」 

 

 ペニスで突く深さによって、山本さんのビクつきと声の艶やかさが変わる。

 山本さんが感じるほど膣の具合も良くなった。

 俺はピストンの速度は一定に保ったまま、肉棒の先端を押し付ける位置だけを微調整していく。

 

「はぅっ、んあぁっ、しゅご……あああんっ……! ソトミチくんの、硬いの、しゅごぃ……あぐっ……あぅ……んっ、んんっ、んんぅぅんっ!」

 

 こんなに緩慢な動きなのに、山本さんの反応はどんどん良くなっていった。

 山本さんは肉棒が気持ちいいところに当たるとわかりやすく喘いでくれて、俺はそこを刺激し続けられるように、より動きを単純化していった。

 

「はぁ……山本さん……! さっきより、もっと気持ちよくなってる……!」

 

 自分が気持ちよくなるように動くより、相手を気持ちよくさせた方が、結果的に得られる快感が大きかった。

 それを知ってから、俺は山本さんをひたすら感じさせることだけに集中した。

 

 山本さんは俺にしがみついてきて放そうとしてくれない。

 それだけ俺のこのセックスが求められているんだ。

 

 その男としての精神的な悦びが、物理的な快楽として上乗せされていく。

 

「あうっ……あっ……ソトミチ……くん……」

 

 やがて山本さんの嬌声が小さくなっていった。

 だがそれに反比例するように、俺に抱きつく力は強くなっていく。

 

 肉棒が子宮の近くを突くたびに、山本さんの体が跳ねて、その力みを俺への抱擁で吸収する。

 その山本さんの動きから、感じることによる体の跳ね上がりも無くなって、しばらく俺に抱きつくだけになったと思ったら、それまでの力みを一気に開放するように、山本さんの体全体が、ビクン、ビクン、と大きく痙攣した。

 

「あっ……ふぅ…………うぅ……ごめん……」

 

 山本さんの異変を察して、俺は動きを止める。

 

 山本さんは気まずそうに目を伏せて、小さく声をこぼした。

 

「勝手に、イッちゃった」

 

 それから山本さんは、傍らの布団を引っ張ってきて、顔を隠した。

 

「うぅ……すごく恥ずかしい……」

 

 とても悶々としている。

 俺にエロいことをしてくるときはあんなに余裕綽々としているのに、いざ自分がイクとなるとここまでウブになるのか。

 

「全然開発されてなかったのに……こんなあっさりイッちゃって……はしたないよぉ……」

 

 これまでしてきたエッチのほうが大分だいぶんはしたなかった気がするが、それほどまでに自分が感じている姿を見られるのは羞恥に耐えかねるのだろう。

 

 俺は山本さんの気が落ち着くのを待った。

 山本さんは顔を隠したまま、体をくねくねさせて、いつまでも恥ずかしそうにしている。

 

 それが収まったのが、5分ほどしてから。

 山本さんは布団から目だけを出して、睨むように俺と目を合わせた。

 

 そして、すぐに目をそらした。

 

「ソトミチくんのセックス、気持ちよすぎ」

 

 まさか、女の子からそんな言葉をいただけるなんて。

 山本さんって、男とまともにセックスができたのは、これが初めてなんだよな。

 だとすると……。

 

「イッたの、初めてだったりする?」

「うん」

 

 山本さんとセックスをした誰もが数秒と保たなかったんだ。

 初めてなのが、当然なんだよな。

 

 俺は山本さんをイかせることができた。

 これだけは、上手にできたって、自信を持っていいはずだ。

 

「ソトミチくんの、これさ」

 

 山本さんはまだ連結されたままの俺のペニスに手を触れた。

 

「立派だね」

 

 はちきれんばかりに勃起した俺のペニス。

 この硬さだけは、他の男のと比べても立派と言えるだろうけど。

 

「そう……かな? サイズも、そんなにないし。美優とする前は……こんなに勃たなかったし……精液の量も……ずっと少なかったし……」

 

 ここ数ヶ月で変わったんだ。

 エロゲでオナニーばかりをしていたころは、酷いときなんて勃ちきらずに射精してしまったこともあるくらいだったし。

 

「やっぱりそうなんだ。じゃあこの立派なのは、美優ちゃんに育ててもらったんだね」

 

 山本さんは俺のペニスの根元をさすって、慈しむような目でその連結部に視線を落とす。

 

「美優ちゃん、旅行してるんだよね。いつ帰ってくるんだっけ?」

 

 まったりとした空気の中、始まったのは世間話。

 山本さんもイッたことだし、一旦休憩にするか。

 

「一週間って言ってたから、4日後の夜には帰ってくると思う」

 

 俺は山本さんの膣からペニスを引き抜いて、体勢は四つ足立ちを維持した。

 

「ふあっ……んっ……明後日がソトミチくん、バイトなんだよね? その後は?」

「5日後にもう1件入ってる」

「じゃあ美優ちゃんが帰ってくるまでは、明後日のバイトだけなんだね」

「そうなるな」

 

 もっと入れてもよかったんだけど、初っ端から飛ばすと体力的にキツイからな。

 夏休みの前半はバイトを詰め込まないようにしていた。

 

「あのさ、ソトミチくん」

 

 山本さんが話を仕切り直して、俺の目を見つめてくる。

 

「美優ちゃん以外でエッチできるようにする必要、無いと思う」

 

 山本さんが、そう言って。

 俺がその意味を理解できたのは、その数秒後だった。

 

「えっ。な、なんで?」

 

 俺は上手くセックスができたはずなのに。

 美優以外で抜けるようにするのを諦めるってことは、俺はこれからも美優とエッチをし続けたほうがいいってことだよな。

 

「なんとなく、今日までしてて思ったんだ。ソトミチくんの中にさ、いつも美優ちゃんを感じるんだよ」

 

 山本さんは穏やかな口調で話を続けた。

 

「ソトミチくんは、美優ちゃんはソトミチくんのことを好きじゃないって言うけど。……今は、そうなのかもしれないけど。でも、こうやってソトミチくんが変わってきたのは、愛がないと無理だったと思う」

 

 俺と美優の間にある、愛か。

 たしかに、いくら俺が美優のことを好きだったとはいえ、そもそも美優が俺のことを受け入れてくれてなかったら、何も始まらなかったんだよな。

 

 そしたら俺はきっと、根暗な童貞のままだった。

 鈴原や高波たちに嫉妬ばかりして、いつかは孤独になっていたかもしれない。

 

「ただの勘ではあるんだけどさ。ソトミチくんに挿れてもらって、確信した。ソトミチくんはこれからも、美優ちゃんを大切にしてあげた方がいいよ」

 

 最後は悪戯っぽく、山本さんは微笑んだ。

 

「それで、いいのかな」

「大丈夫だよ。こんなに立派になったんだし。もっと自信を持って」

 

 山本さんはまだ硬いままの俺の肉棒を撫でる。

 

 結局、山本さんを以ってしても、俺は射精をすることができなかった。

 でも、問題なのは、たぶんそこじゃないんだよな。

 

 昨日の阿形さんたちとの飲み会でも疑問に思ったこと。

 山本さんとこんなに楽しいエッチをして、俺がまだ恋心を抱かないのは、きっと美優以上に相性の良い人はいないと、本能的に悟っているからだ。

 

「というわけで、私は残りの四日間、ソトミチくんとのエッチを楽しむことにします」

 

 山本さんの表情がカラッと明るくなった。

 美優の帰ってくる日を聞いたのはこういうことか。

 

「山本さんは、それでいいの?」

 

 俺の都合でいえば、もう美優しかないと決めてしまったのでそれでいいのだが、山本さんは俺以外とはまともにエッチができないわけだし、これで終わってしまったらその後がツラい気がする。

 

「へーきへーき。これもさっき気づいたんだけどさ、ソトミチくん、勘違いしてる」

「勘違い?」

 

 俺が、山本さんの悩みについて、何か思い違いをしているということか。

 

「たしかに私はずっと、セックスしたいって言ってきたけど。別に、セックスそのものに憧れてたわけではないから」

 

 男と付き合って、健全な関係が育まれて、セックスという深い関係に至る。

 その周囲にとっての当たり前ができなかったからこそ、山本さんは苦悩していたはず。

 ならそれは、セックスへの憧れと言えるんじゃないのか。

 

「今の私が、ソトミチくんとセックスしたいって言ってるのは、ソトミチくんとのエッチが楽しいから、セックスもしたいなって思ってるからだよ」

 

 山本さんは、ハニカミながらそれを口にする。

 

「そう言ってもらえるのは、嬉しいけど……」

 

 するのが楽しいからセックスを望まれるなんて、男としてはこれ以上ないほどに喜ばしいことだ。

 でも、セックスができなくて悩んでたんじゃないとしたら、いままでの山本さんのお願いはなんだったのかな。

 

「まあまあ、ちゃんとお話しますから。まずは、その……もう一回、しません?」

 

 山本さんは宙にぶら下がった俺の勃起を軽く引っ張って、続きを要求してくる。

 

「今度はソトミチくんに下になって欲しいな」

 

 山本さんは体を起こすと女豹のようなポーズになって、俺に寝るように指示した。

 

 こんなに楽しそうにしてるなら、山本さんが俺に美優を選べって言ったのも、良い方向に転んだ結果なんだよな。

 

 なら、もうそれでいい。

 

「寝てるだけでいいの?」

「できればマグロになって欲しい」

「マジか……」

 

 まさか女の子にマグロになれと言われる日が来るとは思わなかったが、相手が山本さんならそれもアリか。

 

 俺はベッドで仰向けになって、全身の力を抜いた。

 

 山本さんは俺の腰の上に跨って、自ら肉棒を膣口へと誘う。

 そして、間を置くことなく、ズブッと腰を下ろして根元まで体内にしまい込んだ。

 

「あぐっ……ううっ……これ……あんっ、あっ……好きっ……!」

 

 山本さんは体を大きく動かすことはせず、腰を前後させて肉筒の奥にグリグリと俺のペニスを押し当てた。

 

「ああっ……山本さん……! そんな……されたら……っあぁぁっ!」

 

 俺の肉棒の硬さを存分に使って、山本さんは自らの快感スポットにひたすら俺のペニスをこすりつけた。

 グジュグジュと山本さんの膣内がかき乱されて、そのたびに熱い液が溢れてくる。

 

 竿全体から伝わる山本さんの悦び。

 それが俺の脳にも伝播して、2人の快楽が共鳴していく。

 

「ソトミチくん……うぅ……これ……頭白くなっちゃう……」

「俺も……気持ちいい……はぁ……山本さん……ああっ……!」

 

 思わず腰を動かしたくなるのをグッと堪えて、俺は山本さんが自らの膣で扱き上げてくれる快感に身を委ねた。

 

 女の子が自分の体を精一杯に使って気持ちよくしてくれているんだ。

 ここで動くのは、それにケチをつけるようなもの。

 俺は山本さんの想いのままに気持ちよくされていたい。

 

「はぁ……はぁ……ソトミチくんの……ほんと硬くてステキ……」

 

 山本さんは俺の肉棒の硬さをとても気に入ってくれているようだった。

 いままでは挿入されてもすぐに出されてしまって、みんなそこで萎えてしまっていたんだろうな。

 

 山本さんに好きなように動いてもらって、二人の間には快楽による共通意識だけが満ちて、この瞬間だけは、俺と山本さんは完全に感情を一つにしていた。

 

「ふぅ……んっ……こんなにイイなんて知らなかった……。やっぱり、ギリギリまでソトミチくんと一緒にいようかな」

 

 山本さんは動きを止めて、ベッドの近くに置いてあった自分のスマホを手に取った。

 

「やまもと……さん……?」

 

 コツ、コツ、コツ、と画面を数回タップして、山本さんは、スマホのスピーカーを耳に当てた。

 

 それは疑いようもない。

 山本さんは、俺の肉棒を膣内に入れた状態で、誰かに電話をかけている。

 

「──こんばんは、お世話になっております。山本です。今週のシフトについて相談をさせていただきたいのですが」

 

 山本さんが電話を掛けたのはバイト先のようだった。

 今日から4日後、つまり、俺とセックスを続けようと約束した最終日に、バイトのシフトが入っていたらしい。

 

「はい、申し訳ございません。とても大切な予定が、入ってしまいまして……」

 

 山本さんはお腹をさすり、恍惚とした表情で連結部に目を落とす。

 そして、人差し指を唇に当てると、グジュッと音が出るように腰を深く沈めた。

 

「っ……!」

 

 緊張感のせいか、感度が高まっていた。

 山本さんの膣壁の蠢動だけで声が出てしまいそうだった。

 

「えぇ……そうですね……来週は、出られると思います。ふぅ……んっ……はい、ありがとう、ございます。よろしくお願いします」

 

 山本さんは電話を切ると、ソファーにスマホを放り投げて、その勢いのままに俺の正面から覆いかぶさってくる。

 

「よかったの?」

「よくないよ」

「えっ」

 

 なにしてるんですか山本さん。

 

「だっていきなりの電話でシフトに穴を空けちゃったし。フルタイムで入ってたから、ヘルプを探すのも大変かも。この時期は人が減ったら大忙しだよ」

 

 山本さんは他人事みたいに自分の悪事を口にした。

 そして、頬を緩めて、スケべな顔で俺を見下ろしてくる。

 

「どうしよう。ソトミチくんとのエッチが気持ちよすぎて、悪い子になっちゃった」

 

 その山本さんの表情は、困ったようでもあり、喜んでいるようでもあり、とにかく今は、山本さんにとってエッチをする以外に優先することはないようだった。

 

「んっ……ああっ……ソトミチくん……!」

 

 山本さんがまた動き始めて、セックスが再開される。

 

「山本さん……うぐっ…………膣内がトロトロして……わけわからないくらい気持ちいいよ……!」

 

 名器と言うほかないぐらいに仕上がった山本さんの体内で、俺は射精をせずに肉棒の硬さを維持し続けている。

 これは我慢強いとか早漏とか関係なく、俺にしかできないことなんだ。

 山本さんのために、この体が役に立てている。

 俺が男として山本さんの助けになっているんだ。

 

「んふふ。もっと気持ちよくしてあげる」

 

 山本さんは少しだけ体を丸めると、舌を出して俺の胸の周りを舐め始めた。

 

「あっ……そ、それは、マズい! んっ、んあぁっ、それだけは、ダメ……だ……ッ!」

 

 山本さんの行動の意味はわかっていた。

 乳首を舐めて俺の性感を更に高めようとする気だ。

 

「ここ? そんなに弱いの?」

 

 先端部分に舌が触れるのを避け、焦らすように乳輪の外側を舐めてくる山本さん。

 俺が「ダメ」と言った言葉の意味が、山本さんの脳内で「射精しそう」という解釈になるまでに、そう時間はかからなかった。

 

「んふふ。ここも美優ちゃんにイジってもらったんだ。仲のいい兄妹だね」

 

 山本さんは、俺が美優とエッチなことをしていることに、もう驚くこともない。

 仮に俺のアナルが開発されていたとしても、山本さんはそれを愛情の証としか考えないだろう。

 

「へー。そうかぁ。ここがソトミチくんの射精スイッチなんだ」

 

 山本さんは上機嫌に、俺の胸の周りだけを舐めてくる。

 

「う、ぐはぁ……あああっ……それは……あっ、でも、も、もう、イキたい……!」

 

 俺もずっと山本さんに責められ続けて、我慢も限界だった。

 

「イキたい? じゃあ、『イカせてください、お願いします』って言えたら、出させてあげる」

「はぁ、あぁっ……い、イカせて……くださ……あぐっ、むっ……!?」

 

 俺が言い切る直前、山本さんはおっぱいで口を塞いできた。

 マシュマロのように柔らかいその肉質に、口全体が覆われて、息をすることも苦しくなる。

 

「ん、うぐ……ぅぅうっ……!」

「はぁ、んんっ……あっ、あんっ、ああぁっ……ソトミチくんの、気持ちいい……ふんっ、んぁ、あぁぁっ……!」

「んんんっ! んんっ! んあぁ、あっ、ん、ふぁあっ、あぁああっ!」

 

 ようやくイケると思ったその寸前でお預けを食らって、その間にも、俺の肉棒は山本さんの肉壁に何度も擦られる。

 イカせてくださいとおっぱいの中で懇願しても、山本さんはいつまでもセックスを止めてくれない。

 快楽と呼吸困難で意識が希薄になって、俺はその両方を悦びに感じながら、必死に射精させてくださいと許しを乞うた。

 

「あんっ、はぁ……ふふっ。ソトミチくん、涙出てるよ。そんなにおっぱい好きなんだ……はぁ、あぁ……んんっ、ぁあぁっ、ん、んんっ……い、イッ、あ、私、また、イッちゃいそう……!」

 

 山本さんは俺とのセックスで見つけた快感スポットに、肉棒を深くまで挿し込んで、一心不乱に腰を振った。

 

 その分だけ俺に伝わる性感も増大して、もう射精以外の何も考えられなくなる。

 

「あぁぁんはぁ……んぁっ、あぁっ、あっ……ん、んんんっ!」

「うん、うん……ソトミチくんも、一緒に、イこ……あっ、んあぁぁあっ、あんっ、ンんっ、アッ……んぐ、じゅぶっ、ちゅぶっ……!」

 

 山本さんのおっぱいが口から離れたと思うと、山本さんは俺の懇願を聞くまでもなく俺の乳首に吸い付いた。

 胸の小さな突起が山本さんの舌に蹂躙されて、下半身は絶頂に向かう山本さんの腰の動きにシゴき上げられて、肢体のすべてに快感が走り抜ける。

 

「んちゅ、ソトミチくん、んんっ! いひょ、イこ、ん、んんンンっ──!!」

「山本さん……あぅぁあっ、あっ、山本さん……! あああっ、あっ、ううっ、あぁぁあああっ!!」

 

 どびゅ、どくっ、どぶっ、どびゅるっ──!!

 

 絶頂する山本さんの膣の収縮に絞られて、俺は一気に精液を吐き出した。

 

 いままで快楽にごまかされて張り切っていた体が、射精が終わると倦怠感に包まれる。

 膣内から引き抜かれた肉棒には、パンパンに精液を詰め込まれて逆流寸前のコンドームが付いていた。

 

 山本さんはそれを外して口を結ぶと、近くのゴミ箱に投げて、ぐったりと俺に体重を預けてきた。

 体力を消耗しきったわけではないだろうけど、オーガズムという初めての体験に、精神的な疲れもあったみたいだ。

 高身長で肉付きのいい山本さんには相応の重さがあって、その感覚が山本さんとセックスをしたのだという実感を俺に与えてくれる。

 

「はぁ……ふぅ……なんというか……イッたらスッキリするものかと思ってたけど……ぼーっとするね……」

 

 息を乱して、上に重なったまま動かない山本さん。

 額に薄っすらと汗が滲んでいて、張り付く髪が色っぽい。

 

「あのさ、ソトミチくん」

 

 山本さんは俺の頭の後ろに腕を回して、ギュッと抱きつく。

 

「一瞬だけ、重たい女になってもいい?」

 

 山本さんは小さな声で呟いた。

 重たいって、悩みについての話だよな。

 

「いいよ。聞いてるから」

 

 すでに解決していることなら、俺が身構えることはない。

 話す気になってくれたってことは、それだけ山本さんの心に整理がついたってことだ。

 

「私ね、エッチが好きなの。2人きりでエッチなことをしてると、普段は表に出さない、性格の根っこの部分に触れ合えるでしょ? そういうのが、楽しくて」

 

 それはいままでも感じていたことだ。

 山本さんはご奉仕精神で相手の懐に入り込んで、本性を探りながら、好みに合う言葉やプレイを選んでくれる。

 

「ご飯を作ったり、ハグしたり、膝枕をしたり。その人が望むことを私がして、相手がそれを喜んでくれて。私はただ、その笑顔を見てるだけで幸せだった」

 

 まるで聖女のような台詞。

 でも、この山本さんになら、素直に似合うと思える言葉だ。

 

「でもね、いつもいつも、楽しいのは最初だけだった」

 

 声のトーンが下がり、山本さんの呼吸にもため息が混じる。

 

「服を着たまま、ソファーでベタベタしたり、お互いの脚を触りあったり、くすぐりをしたり。そうやって、ゆっくり、ゆっくりエッチして、それで相手が我慢できなくなって、出してあげて……。そういう流れの時は、みんな喜んでくれて、私も楽しかった」

 

 ──「でも」と山本さんは続ける。

 

「もっと直接的な、手でするのとか、口でするのとか、求められるようになると、みんな余裕がなくなっていって。エッチもすぐに終わっちゃって、だんだん気まずくなるし、でもみんな、私とエッチするのは気持ちいいから……」

 

 息苦しそうに語る山本さんが、俺を抱きしめる力を強くして、ひと呼吸置いた。

 

「早くヤらせてって、最後はみんなそう言うんだ。前戯も無しに、酷いときは襲われるみたいに体を求められた。……どうしてだろうね。それまでずっと楽しくエッチしてたのに。すぐにイッちゃうから、本番が上手にできなくて、私にフラれるとでも思ったのかな」

 

 山本さんの瞳が、潤んでいる。

 きっと言葉で聞いている以上に、山本さんにとっては辛い過去だったんだろう。

 俺は何も言えなくて、それでも、聞いていることは伝えたくて、俺からも山本さんを、そっと抱き寄せた。

 

「私はセックスできないのなんてどうでもよかったのに。ただ、気持ちよくなってもらって、喜んでもらって。それで、ちょっとだけ褒めてもらえたら、私は幸せだったの」

 

 そっか。

 それが俺の勘違いだったんだ。

 

 山本さんの悩みは、たしかにセックスができないことではあった。

 でも、それは山本さんが気持ちよくなりたいからじゃなくて。

 

 山本さんは気も利くし、器量もあるし、どんなことをしても相手を喜ばせることができた。

 そんな中で、自分の好きなエッチという行為だけは、恋人を喜ばせることができなかった。

 それが山本さんにとっては、なによりもツラかったんだ。

 

「だからね、私の気持ちが落ち着くまでソトミチくんが待ってくれたときは、すごく嬉しかった」

 

 山本さんが緊張で黙り込んだあのとき、立ち止まったのは正解だったんだな。

 本当に良かった。

 

「資料室でお願いした時は、まだトラウマみたいなものがあって、少し焦ってたんだけど。ソトミチくんとエッチしてる間になくなっちゃった」

 

 山本さんと最初にエッチをしたときには、たしかにセックスに対する必死さがまだあった。

 それが、知らずのうちに、同じ言葉でも違う意味になっていたらしい。

 『悪いイメージを払拭するためにセックスがしたい』から、『エッチが楽しいからセックスもしたい』へと。

 

「ソトミチくん、ありがとう」

 

 チュッ、と、山本さんの唇が触れたのは、俺の左の頬だった。

 

「お、おう。どう、いたしまして」

 

 動揺が隠しきれず、せっかく褒めてもらえたのにキマらない。

 このあたりはもう、経験を積まないとどうにもならないよな。

 これほど明確な好意を感じたのは、人生で初めてかもしれない。

 

「な、なんというか、自信が持てないだけで山本さんに酷いことをするなんて、俺には考えられないな」

 

 山本さんは、優しくて、献身的で、思いやりのある女性だ。

 こんな素敵な人に危害を加えるなんて、まともな精神状況じゃないと思うけど。

 

「ふふっ。まあ、ソトミチくんは、今の私しか知らないからね」

 

 山本さんも色んな困難を乗り越えて、ここまで魅力的な女性に変わってきたのか。

 数年前までは中学生だったわけだし、難しい時期もあったんだろうな。

 

「それに、ソトミチくんは大事なことを忘れています」

「え? なんか、約束でもしてたっけ?」

 

 俺と山本さんとの約束なんて、これから美優が帰ってくるまでエッチしようってことくらいだと思ってたけど。

 

「そうじゃなくて。やっぱりソトミチくんってそういう人だ。勘違いとか思い込みとか激しいでしょ」

「それは美優にも言われたけど……」

 

 女の子2人から同じ注意をされるなんて。

 よっぽど気をつけた方がいいことなんだろうな。

 

「なら自分で気付きなさい」

 

 山本さんは指でコツンと俺の額を小突いた。

 

「はい……」

 

 叱られてしまった。

 でも、山本さんはどうしてだかニヤケ顔を表情の奥に隠しているし、人に迷惑をかけるほど悪いことじゃないんだよな。

 

「それじゃあこの話は終わりっ! ソトミチくん、セックスしよ、セックス」

 

 山本さんは弾み良い声で鼻唄を歌いながら、新品のコンドームを箱から取り出す。

 

「あの……ついさっき、終わったばかりなんですけど……?」

 

 ボソッと俺がそう溢すと、山本さんは俺の上に跨ったまま指を咥えてモジモジとする。

 

 山本さんは『セックスで気持ちよくなることなんてどうでもいい、相手が喜ぶのが最優先だ』って言っていたはずじゃなかったかな。

 

「それはそうなのですが……その……もっと欲しくなってしまいました……」

 

 声だけは申し訳なさそうに、山本さんは容赦なくコンドームの包装を破いて、俺の肉棒を指で詰ってきた。

 

「お相手していただけますでしょうか……」

 

 山本さんは俺ではなく、俺のペニスにそう尋ねた。

 

 視線がどう考えても真下を向いていた。

 

 そして俺のペニスはむくむくと大きくなり、こちらも俺の都合など伺わずに勝手に「イエス」の返事をする。

 

「うふふ。そういうところ、ステキですよ」

 

 偉そうにふんぞり返るペニスと山本さんがしばらくイチャイチャして、ついには竿にコンドームが被せられる。

 山本さんは再び俺のペニスを手で支えると、すっかり出来上がった状態の膣内に、ズブッと根元までペニスを挿入した。

 

「うぐっ……ああっ……!」

「はうぅあっ……ふぅ……いい…………これ……好き……」

 

 山本さんはしばらく肉棒を膣内で堪能して、気持ちが落ち着いたところで、ようやく俺と顔を合わせた。

 

「ねえ、ソトミチくん」

 

 山本さんは俺の胸板をイジイジしながら語りかけてくる。

 

「せっかくだから、美優ちゃんが絶対にしてくれないような、下品なセックスをしてみませんか……?」

 

 控えめな口調から、とんでもない発言が飛び出してきた。

 

「げ、下品って……?」

「恋人みたいに、相手を思いやるセックスじゃなくて」

 

 トン、と肋の中心に置かれた山本さんの指が、首元にまで迫ってくる。

 

「お互いの本能をぶつけるだけの、すごいやつ」

 

 頚動脈に手を添えながら「うふっ」と妖しく微笑む山本さん。

 

 その緋色に滲み始めた瞳に、俺は死の運命を垣間見た。

 



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スケベなエッチと乙女の心

 

 チュッ、チュッ、とキスの雨が降り注いでいた。

 薄暗い部屋の中、ベッドに仰向けになった俺の片脚を抱えるようにして、山本さんは俺の太ももを舐っていく。

 

「っ……はぁ……!」

 

 ひと舐めされるごとに、内腿の筋がギュッと縮こまった。

 山本さんはそのたわわで俺の肢体を挟み込んで、その肉厚な舌、唇を、俺の肌に這わせてくる。

 

「んふっ」

 

 涎みたいに我慢汁を垂らす肉棒越しに、山本さんが見上げてくる。

 

 こうして全身に愛撫を受けて、かれこれ一時間。

 陰部には直接刺激を与えてもらえず、俺はずっと生殺しの状態だった。

 

「山本さん……俺……もう……!」

 

 ペニスに刺激がほしい。

 腕から始まった、このおっぱいを挟んでの全身愛撫は、俺の性感をひたすらに高めていって、今では舌先が触れるだけで喘ぎ声が出てしまうほどだった。

 

「またセックスできるようになった?」

 

 山本さんは俺の肉棒を弄って、その硬さを確かめる。 

 指で確認してからは、パクッと口で咥えて、口内全体で勃起の具合を感じていった。

 

「あああっ……ぐっ……、く、口……キモチぃい……!」

 

 いつもより口の湿りや舌のザラつきがリアルに感じられた。

 しばらく放心して天井を見上げていた俺は、ついに生で山本さんとセックスをしてしまったのかと錯覚してしまうほどの質感があった。

 

「ふふっ。ソトミチくんって全身が敏感だから、どこをイジってても楽しい」

 

 元々敏感だった俺の体は、山本さんの愛撫によって更に性感に弱くなっている。

 山本さんは俺のペニスを咥えながら、二の腕や内ももなどの敏感なところを手で撫でてきて、俺が快感に悶えるサマを楽しんでいた。

 

「山本さん……もう、セックス……したい……!」

「んー? したいのー? さっきは私がしよって言ってもしてくれなかったのに」

 

 山本さんは意地悪に笑って、俺の頬を指でグイグイと押し上げてくる。

 

 こんなことになっているのも、全ては俺の体質が原因だった。

 

 昨晩、山本さんとの“初めて”を終えてから、次の日の夜である今に至るまで、俺はすでに山本さんと四回のセックスをこなしていた。

 その間にも何度か仮眠や食事を挟んで、追加のコンドームは、俺が眠っている間に山本さんが買ってきていた。

 そして、1時間前に夕食を済ませて、さてもう一回戦となったところで、俺のペニスはふにゃっとしたまま勃たなくなったのだ。

 それからは、俺は精力回復のため、ずっと山本さんからこの焦らしプレイを受けている。

 

 ここで問題なのは、一日に複数回できないことではなく──

 

「美優ちゃんとのエッチでは夜と朝だけで7回出してたよね? しかも私とエッチした後に」

 

 という山本さんの謎の対抗意識だった。

 

 俺があれだけの回復力を保っていたのは、この体が美優に対して無意識に生殖本能を高ぶらせて、通常では考えられない速度で精液と精力を生み出していたからだ。

 どれだけ山本さんが体も性格もプレイも魅力的であっても、この根本的な体質だけはどうにもならない。

 山本さんはこの差異を料理やマッサージなどで埋めようとしてくれているが、やはりどうあってもこの体は妹のためにあるようである。

 

「ここさ、タマタマのところ舐めると、精液が増えるらしいよ」

 

 山本さんは体勢を変えて、俺の股間が頭に来るように方向転換した。

 その代わりに山本さんのおしりが俺のすぐ前に来て、その卑猥さに思わず見惚れてしまう。

 しかし、そうして鼻の穴を広げて興奮していられるのも、短い間のことだった。

 

「んっ……山本さん……それ……アアッ……!」

 

 山本さんは俺の玉袋にベタッと舌を這わせながら、おっぱいで肉棒を挟んできた。

 男の最も弱い部位である睾丸、その表面を舐め回されて、ときには口に含むだけして温めてきて、丁寧なマッサージを受ける。

 おっぱいはその柔らかさで亀頭から根元までをすっぽりと覆い尽くし、睾丸を揉む舌の動きに合わせて、ゆっさゆっさと俺の肉棒を扱いてきた。

 どちらの動きも緩慢で、俺の感覚が一切ごまかされないように、それこそ俺の肉棒が山本さんの肌のキメ細やかさを感じるくらいに、マッサージによる刺激を与えてくれる。

 

「うっっぐっ……それ、ほんと、やばい……ああ、あぁあぁっ……きもちぃ……はぁ……ぁぁあぁぁあ…………!!」

 

 こんなにわずかな動きなのに、膣肉で絞り上げられるよりも大きな刺激が体を駆け巡っていた。

 自分でもわかるくらいに先走りが溢れて、もはやそれは微細な射精を繰り返しているようなものだった。

 

「はぁ、はぁ……山本さん……出したい……あぁっッ……出したい……!」

「へろっ……むちゅっ……んっ。……出したいなら、私の体を自由に使っていいんだよ」

 

 山本さんは枕横に置かれたコンドームを一瞥して、また玉舐めを再開する。

 山本さんとは、互いの体は好きにしていいということを事前に決めてある。

 結局は、山本さんが攻め好きで、俺が受けに回ることが多いのだが。

 

「うっ……こうなったら……はぁ……山本さん……!」

 

 俺は自分で腰を動かして、山本さんのおっぱいで肉棒の硬さを感じながら、コンドームの包装をビッと破いた。

 そして、下半身をおっぱいで押しつぶしている山本さんから体を引き抜いて、そのまるっとしたお尻を鷲掴みにする。

 

「あんっ……ソトミチくん……乱暴さん」

 

 山本さんはうっとりとした表情でおしりを突き出してきた。

 こうして女の子の上に立つのは初めてで、戸惑うけど。

 まごついていたらせっかくの空気が台無しになる。

 

 俺は膝立ちでコンドームを付けると、すぐにペニスを山本さんの膣内に挿入した。 

 

「んっ……ああんっ……硬いの……はいってくる……!」

 

 バックからの挿入は、根元までずっぷり体内に入る騎乗位より刺激は少なかった。

 だが上から女の子の裸体が見下ろせるのは、実に壮観だ。

 俺が腰を前後させるごとに山本さんのおっぱいが揺れて、四つん這いの山本さんが挿入の刺激に喘ぎながら、徐々に腕の力を失っていく。

 そうして屈服していく格好は、オスとしては最高の興奮材料だった。

 

 山本さんの膣内にペニスを挿入するという行為そのものに悦を感じた。

 入り口がはっきりと見えるこの体勢は、俺のカリまで引き抜くと山本さんの膣壁が引っ張られてきて、その淫靡な光景が相乗的に興奮を高めてくる。

 突けば女の子を蹂躙している感覚が湧いてきて、おしりの肉を揉みしだいているだけで俺は全能感を味わうことができた。

 

「んあぁっ……ソト、ミチ、くん……あっ、ああんっ……奥、き、きへりゅ……あっ……ンんっ……ああああっ……!」

「山本さん……はぁ……ほんと最高……山本さんの体……気持ちいい……!」

「うん、うんっ……ん、はぁ……あぁあっ、んあっ、もっと、もっと使って……!」

 

 俺はひたすらに腰を動かし続けた。

 激しく、とにかく激しく、今は山本さんを俺が好きにしているのだと、そう示すために。

 

 こんな力任せのセックスが、山本さんにとって本当に気持ちいいのかはわからない。

 でもその表情を見ると、演技とも思えなかった。

 むしろ乱暴にすればするほど、山本さんの表情は蕩けていくようにさえ見える。

 

 俺は両手を山本さんのおっぱいに回して、犬の交尾のような体勢になった。

 弾力のあるおしりとは対極に柔らかいおっぱいを揉みしだいて、盛り狂ったように山本さんを背後から犯した。

 

「ああっ、あああっ、山本さん、山本さん……!」

「んんっ、ひゃぁんっ、ああっ……! あっ、ああッ……ひょと、みち、くん……ひゅご……これぇ……すきぃ……!」

 

 ジュパッ、ジュパンッ、と水音を弾かせて、互いの肉欲を貪っていく。

 

 セックスというより、肉穴を犯しているようなものだ。

 犬みたいな恥ずかしい格好をして、それを山本さんが喜んでくれるのが嬉しい。 

 

 そうしてずっと激しく腰を動かし続けて、やがて俺の体力が尽きかけた頃。

 動きを止めた俺に対して、山本さんが体を起こして襲いかかってきた。

 

「止めちゃ、イヤ」

 

 山本さんは可愛らしくそう言うと、体を反転させて、俺を仰向けにベッドに倒し、今度は騎乗位の体勢になる。

 そして山本さんは、俺の腰に手を回すと、それを持ち上げるようにして自分の体内にペニスを迎え入れる。

 

「んぐっ……んんっ……あぁ……ソトミチくん……!」

「うがぁっ……山本さん……ああっ……!」

 

 山本さんはひと休みも許さずに、俺のペニスを膣肉で咥えこんでいく。

 山本さんも、さっき俺が犬みたいになっていたときと同じくらいに恥ずかしい体勢になって、しかしその淫猥さすら、山本さんの前では美しく映えてしまう。

 しばらく俺のペニスを貪ったあとは、山本さんは俺をベッドにのしかかってきて、腰を大きく振り上げて、パンッ、パンッ、と下品な音を何度も立てた。

 

 山本さんの膣の蠢動に吸い上げられて、何分も止まらないスタンピングに、散々焦らされ続けてきた俺は射精への欲望が耐えられなくなっていた。

 

 もうイキたい。

 それと一緒に山本さんもイカせたい。

 そうした想いが俺の体を動かして、二人の共同作業で腰を打ち付け合う。

 何度も本能をぶつけ合って、そして、やがてお互いの肉欲が弾けた。

 

「あんっ、んんぐぅぁあっ……あ、ああっ、ソトミチ、くん……いひゃ……うっ……!!」

「山本さん……山本さん……俺も、もう……!!」

 

 最大まで高ぶった興奮を、二人で同時にイクことで開放した。

 山本さんが俺の胸にむしゃぶりついてきて、俺は山本さんの膣内に精液を放出する。

 

「はぁ……はぁ……山本さん……良かった……」

「ふぅ……えへへ……やっぱり気持ちいい」

 

 二人で息を乱して、ベッドに横たわる。

 

「乱暴過ぎた?」

「ううん。もっとあんな感じに使って欲しい」

「使うって、なんか道具みたいだけど……いいの? 山本さんは無理やりされるのは嫌いだったような気がするけど」

 

 あまり強引にしていると、トラウマを掘り返してしまいそうで心配だ。

 

「大丈夫だよ。前までの人たちとは違うし」

「違う?」

「うん、全然違う。使って欲しいなーって思ってるときに使ってもらえるのと、そうでないときじゃ、全然違うんだよ」

「ああ、なるほど」

「だから、いっぱい使ってください……」

「は、はい」

 

 山本さんのこういうところ、エロいんだよな。

 ドキッとしてしまう。

 

 山本さんはピロートークが終わると、俺を抱き寄せて来て、眠りへと誘ってくる。

 風呂に入る必要があれば入り、ご飯の時間になれば食べ、それ以外は休憩とセックスを繰り返す。

 

 俺と山本さんの生活は、そうやって日々が過ぎていった。

 

 バイトの日には山本さんにスーツを用意してもらい、何から何まで至れり尽くせりで俺は家を出た。

 山本さんは実家にいるときにも、当たり前のようにこの水準で父親や弟たちの世話をしているらしく、あれこれやらないでくれとお願いされる方がむしろストレスになるらしい。

 俺は俺で美優と家事分担をする生活を続けてきたため、されっぱなしだと落ち着かないのだが、ここは山本さんのためだと割り切ることにした。

 

 バイトのリマインドメールをチェックして、俺は電車で移動をする。

 バイトの前日には、最終確認も兼ねて、会社から詳細連絡がやってくるのだ。

 俺もこのメールのおかげで忘れずにいられた仕事があってとても助かっている。

 

 夏休み二回目のバイトは、吹奏楽団のためのセレモニーホール整備。

 アリーナと違って立ち席が無いために、設営が行われることはない。

 

 アイドルライブと違って物販列に長蛇の列ができることもないし。

 かなり楽な仕事だが、俺にはもうこれが限界だった。

 山本さんとエッチを繰り返ししているときは、山本さんが主体になってくれていることと、なんだかんだ食事やマッサージで英気を養えているので良いのだが、家から出てみると精力関係の疲れがドサッとやってきて目眩がした。

 

 例によって、俺のライブ中の仕事は、ドア近くに立ってトイレや喫煙室を使う人たちを誘導するというものだった。

 

 空調の効いた、だだっ広い廊下で1人。

 俺は手を後ろに組んで、魂が抜けたように突っ立っていた。

 

 そうやってボーッとしていると、浮かんでくる、山本さんの微笑みと優しい声。

 何をしても褒めてくれて、よしよしと頭を撫でてくれて。

 あの甘やかしだけは、中毒になってしまいそうだ。

 

 セレモニーホールは市営の施設だが、楽団が公演をやるときはこうして夜遅くまで開場している。

 

 俺の仕事が終わるのも夜が更けてからだった。

 今日は山本さんもバイトみたいだけど、俺より先に帰っているようで、家に直接おいでとメッセージが来ていた。

 

 全ての公演が終わってからは、矢印マークが描かれた下敷きとテプラで作成された標識案内板を回収する作業をやって、今日のバイトも終わりだと思ったその矢先のこと。

 さすがに今回は違う現場だろうと思っていた阿形さんと、ばったり鉢合わせたのである。

 

「ソトっち、いたんだ。全然気付かなかったよー」

「阿形さんこそ」

 

 このイベントスタッフの作業の割り当ては、その場で決められることが多く、近くに固まっているだけで同じ仕事が割り振られることがほとんどだ。

 逆に言えば、最初から互いの存在を認知していないと、最後まで知り合いに気付かずに仕事を終えてしまうこともある。

 

「啓太郎さんはいないんですね」

「あいつは今日はいないよ。別に、いつも一緒ってわけじゃないし」

 

 阿形さんは話しづらそうに顔を反らした。

 その耳元に、微かに煌めく一粒の金属。

 髪の毛に隠されていはいるが、間違いない。

 ピアスを付けている。

 

「阿形さん、ピアスとかするタイプでしたっけ?」

 

 無論、イベントスタッフのバイトはアクセサリー禁止である。

 とはいえ、このルールは形骸化されている部分もあって、さり気なくアクセサリーを付けてきているバイトはそこそこいるわけだが。

 少なくとも阿形さんがバイトにピアスを付けてきたことはなかった。

 

「うえっ!? ば、バレちゃった!? あはは」

 

 阿形さんはどうしてだか嬉しそうにしながらも、恥ずかしがって耳を隠す。

 

 阿形さんがどうしてこういう反応をしたのか。

 それがわかったのは、バイトが終わった帰りのことだった。

 

「──啓太郎さんからのプレゼントなんですか?」

 

 簡単に言ってしまえば、阿形さんと啓太郎さんは付き合うことになったのだとか。

 二人は元々惹かれ合う部分があって、それがあの山本さんから与えられた刺激によって表面化したらしい。

 

「そ、そう。付き合った記念としてね。まあ、あいつも初めての彼女らしいし? 浮かれてるんじゃないかな」

 

 言われてみれば少し大人っぽくなった。

 そして、比較的真面目だった阿形さんが、アクセサリー禁止のバイトにまで身につけてくるなんて。

 人間はちょっとしたきっかけで変わるものなんだな。

 

 まあ、俺としても阿形さんと啓太郎さんの関係には不思議に思うことはないけど。

 あの泥酔事件の後に付き合うことになったってことは、邪推はしたくはないけれど、つまりそういうことなんだよな。

 

「ま、まあ、そういうこと、なくはなかったよ!? でも、あくまでも啓太郎とは健全な関係であって、そりゃ、その、お互いにそういうのに興味がないでもなかったし、昨日と今日と、ちょっぴりペースが早かったりはしてるけど……」

 

 否定をしながらもちゃっかりと現状を暴露する阿形さん。

 大学だと相談できる相手もいないだろうし、こういう身の上話は、俺みたいな付き合いの少ない人間のほうが話しやすいよな。

 

 俺は今日も居酒屋に誘われたが、山本さんを待たせるわけにはいかないので断った。

 外食するより山本さんの料理のほうが美味いのもあるし。

 その代わりとして、帰り道は途中まで同行することに。

 

 そこで切り出されたのは、やはりというか性の悩みであった。

 

「ソトっちは、ほら、そういう……経験、豊富でしょ?」

 

 俺が性経験がいかほどかと聞かれると、時間的に考えれば豊富とは言えない。

 しかし、山本さんがあんなに堂々とセフレ関係を暴露してしまったせいで、俺は阿形さんにそういう人間だと思い込まれている。

 まさかあの爆弾発言がセックスの相談という形で波及してくるとは。

 

「へ、変な話をするつもりはなくて! ただ、女の子としては、男の子の記憶に残るような……のを、したいじゃない?」

 

 まったくそんな話は聞いたことがないが。

 

「女の子ってそもそも、そこまでエッチに積極的にはならないものだと思いますけど」

「え、そう!? 私、変かな!?」

「いえ、変ではないですし、素晴らしい心がけだとは思いますが。記憶に残るっていうのは……どうなんだろう。別れることを前提にして、付き合っているわけではないんですよね?」

 

 記憶に残すって、傷跡をつけるみたいな言い草だ。

 そんなことを意識しなくたって、長く付き合ってそれなりの関係を持てば、記憶に残らないはずがないのに。

 

「それはそうだけど。だって、ほら。男の子って、よく、1人でするんでしょ……? 彼女がいてもするって聞くし。そのときに、できれば……ね? そういうこと!!」

 

 ああ、なるほど、そういうことだったか。

 オナニーするときのオカズを、他のAV女優ではなく自分にして欲しいから、記憶に残るエッチがしたいと。

 それなら納得ができる。

 とはいえ、個人の好みだし、難しいよな。

 

「一応、男として言わせてもらうと、同じオカズで抜き続けるのは、多分無理です」

 

 多分、と付け加えたのは、当の俺本人が妹しかオカズにできないからである。

 

「その上で言わせてもらうと、AVを観て勉強をするのが一番じゃないですかね」

「AVで勉強しちゃいけないってネットに書いてあったけど?」

「それは男側の話であって、要するに、男が現実のセックスの参考にしちゃいけないくらいの理想が詰め込まれているので、女の子が男の性欲を知るには良い資料になるんですよ」

「ふむふむ。でも、あのグロいのを何度も見るのはなぁ……うぅ……でも頑張らないと……」

 

 こんなに健気な彼女さんができて、啓太郎さんは幸せものだな。

 きっと啓太郎さん本人が気づくことはないだろうけど。

 この関係が上手くいくかは、阿形さんが啓太郎さんの自由をどこまで認められるかがポイントになるだろう。

 お互いに経験は少ないみたいだし、折衷案は女の子から出したほうが、上手くいきそうな気がする。

 

 と、ろくに恋愛経験もない俺は1人でぐるぐると無駄なことを考えながら、阿形さんへのアドバイスを終えて帰宅したのだった。

 

「おかえりなさい、ソトミチくん」

 

 帰宅、といっても山本さんの部屋だけど。

 語尾にハートマークでも付きそうな甘ったるい声で、山本さんは俺を出迎えてくれた。

 

 相変わらずのエプロン姿。

 この人妻っぽいエロスは反則だよなぁ。

 体は疲れてるのに、睾丸としては休憩時間だったため、股間がもりもりと元気になってくる。

 

「ソトミチくん、私のエプロン姿、好きすぎ」

 

 山本さんは楽しげに俺の股間に目を落として、クスクスと笑う。

 

「その反応を見るためだけに毎日お出迎えするのもアリかもしれない」

 

 男の勃起を見るために夕食を用意する女の子なんて聞いたことない。

 でも山本さんが相手なら俺もそれはアリだと思う。

 

 山本さんのこの癒やしパワーは堪らないな。

 こうして股間が膨らんでくるのも、山本さんが与えてくれるリラックスがあってのことだ。

 

 山本さんは俺からポーチとジャケットを受け取って、居室へと姿を消す。

 こんな暑いときにわざわざ大きな革のカバンなんて持ち歩く必要は無いだろうと、山本さんが軽登山者やライダーも使うような便利ポーチを貸してくれたのだ。

 実際、バイト先の若者はリュックやビニール製のカバンで来ることがほとんどで、堅苦しいカバンを持っていると却って浮いてしまう。

 

 俺は靴を脱いで脱衣所へ移動する。

 そこに山本さんがスラックスを取りに来て、俺はシャワーを浴びに浴室に入る。

 もはや恒例となったこの流れに迷いはない。

 

 シャワー中に考えることがあるとすれば、出た後に服が用意されているかどうかだ。

 非常に良いご身分で申し訳ないのだが、山本さんは俺がシャワーを浴びると必ず着替えを用意してくれる。

 ここには『必要があれば』という注釈が付いていて、着替えがないときは、そのまま裸で寝ましょうという山本さんからの意思表示になる。

 これで山本さんの準備状況を計り知ることができるのだ。

 

 今回は山本さんは服を用意してくれていた。

 まずはお夕飯にしましょうということらしい。

 

 俺が脱衣所を出ると、山本さんがご飯をテーブルに並べて待っててくれていた。

 山本さんと結婚する人は、毎日こんな生活を送ることになるんだろうか。

 自律ができなかったらダメ男一直線になりそうだ。

 

 俺は山本さんと、横に並んでご飯を食べる。

 美優のときとは違い、きっちり姿勢良く、行儀よく食べるご飯ではない。

 二人で肩を並べて、お椀を持って、同じ皿のオカズをつつく。

 山本さんはベッドの縁を背に膝を立てて、俺はあぐらをかいて、和気藹々と食事をするのだ。

 

「ソトミチくんは、薄味が好きでしょ。苦手な食べ物は特に無いけど、苦味のある食べ物は好きじゃない」

 

 山本さんは今日までの食卓で、俺から割り出した好みについてまとめる。

 

「でも精液はとても苦い」

 

 申し訳ございませんでした。

 

「ていうか、あれは苦いって言うのかな? なんて表現をすればいいんだろう。あの生温かいドロッとしたものを口の中に出されると、反射的にえづいちゃうんだよね。ソトミチくんのは、それが我慢できないくらいにネバっこくて生っぽいというか」

「う、うーん……。俺は精液を飲んだことはないからな」

「飲んでみる?」

「心から遠慮しておく」

 

 山本さんだけならまだしも、由佳も佐知子もあんだけ不味いって言ってたし、美優だって味は最悪っぽいようなことを言っていたしな。

 それを自分で飲む勇気は俺には無い。

 

「まあ、いつかは一度くらい味わっておくと良いよ」

 

 山本さんはニヤニヤして食べ終わった食器をテーブルに置く。

 美優にも似たようなことは言われたけど、どうなんだろうな。

 女の子に飲ませるからには、自分でもその不味さを知っておくべきなんだろうか。

 

 いや、知ってしまったら今以上に気が引けてもう頼めなくなってしまう気がする。

 

「山本さんって嫌いな食べ物とかあるの?」

「ポテトサラダとか、コールスローとか、マヨネーズ系の和え物かな」

「理由は」

「弟たちがめちゃくちゃに入れまくるから」

「それはなんとも……風評被害のような」

「まあね。ふふっ」

 

 そんな感じに他愛のない話を交えて、食事を片付ける。

 山本さんが洗い物をしているので俺は運ぶだけだが。

 

 何往復かしているうちに、見慣れないスマホが充電されているのを見つけた。

 普段山本さんが使っているものとは違うタイプだ。

 

「山本さん、スマホ二個持ちしてるの?」

 

 俺が尋ねると、山本さんは水道の水を止めて、スポンジを泡立てながらこちらを向いた。

 

「ああ、それね。下取りしても大したお金にならなかったから、データを残してあるの。前に使ってたアプリとか、写真とか。今までは引き継ぎをしてたんだけど、面倒になっちゃって」

 

 機種を変更する前に使っていたものか。

 最近ではクラウドでデータが保存されるようになったとはいえ、移行作業は面倒だよな。

 

「気になる?」

 

 山本さんが食器を洗い終えて、居室に戻ってきた。

 スマホの充電を外して、写真アプリを起動する。

 

「お父さんがね、小学生ぐらいからの写真を全部パソコンに入れてくれたから、送ってもらったのが結構あるよ?」

「えっ、なにそれ。めっちゃ見たい」

 

 山本さんの小さい頃の写真か。

 さぞ可愛いんだろうな。

 これだけのプロポーションになる前は、どんな姿をしていたんだろう。

 

「これが小学生の私」

「こ、これは。なんというか、やんちゃだね」

「でしょー」

 

 小学生の山本さんは、髪の毛を派手にアレンジして、ちょっぴりヤンキーっぽい面持ちだった。

 前髪を上げてちょんまげ型に髪を結って、俺が普段かかわらなそうな陽キャの同級生と机を囲んでいる。

 いくつか写真を見せてもらったが、服装はスニーカーとジャージのような簡素な場合と、化粧をバリバリにキメてブーツに足を通しているときとで二極化していた。

 

「この頃が一番気合いれてたんだけどね。全っぜんモテなかった!」

「それは意外だな」

 

 いやでも、この山本さん、かなり強そうだしな。

 小学六年生って言ったら、ギリギリ女の子のほうが体格がデカいくらいの時期だし、この山本さんにガン飛ばされたら俺もビビって動けなくなるだろう。

 

「奥の方で手を振ってる子いるでしょ? この子がほとんど全部の男をガメててね。でもミニバスのキャプテンもやってた肉体派だったから、誰も逆らえなかったんだよ」

 

 子供ってイジメの対象にするのはわかりやすく特徴のあるやつだからな。

 でもなんとなくだけど、この友達がイジメられずにいたのは山本さんの影響があったからだと思う。

 

「そして私は、ここから清楚系へと転向するのでした」

 

 それから見せてもらったのは、中学2年生の山本さん。

 このあたりから黒髪ストレートになって、これと同一人物が机にしゃがみこんでいたとは思えないくらいに清楚になっている。

 

 そして、かなりタイプだった。

 死ぬほど可愛い。

 

「ソトミチくん、この頃の私好きそう」

「ドンピシャです……」

「どことなく美優ちゃんっぽい雰囲気ある?」

「かなり、似てるな」

 

 そう、美優に似ているのである。

 中学2年生の山本さんは、まだ美優より少し背が高いくらいだった。

 女の子は早熟らしいので、ある程度の歳で身長が決まると聞いていたが、どうやら山本さんは中学二年生になってもまだまだ伸びしろを持っていたらしい。

 

 胸の大きさは今の美優の方があるくらい。

 とはいえ、美優も山本さんぐらいのグラマーになる可能性があるんだな。

 

「ずいぶんとお気に召したようで」

 

 山本さんに股間をツンツンされて、俺はようやくテントを張っていたことに気付いた。

 昔の写真を楽しんでいたはずなのに、この体は美優のことになると本当に堪え性がない。

 

「も、申し訳ない……」

「エッチなお兄ちゃんだねぇ。美優ちゃん本人の写真を見ても、おんなじ反応になるのかな」

「その可能性は大いにある……かな……」

 

 悲しい性だ。

 俺だってせっかくこれほど心躍るような時間を、無下にはしたくなかったのに。

 

「まあまあ、そんなに落ち込まないで。ソトミチくんが美優ちゃんのことになるとすぐ発情しちゃうダメお兄ちゃんなのは、今にわかったことじゃないでしょ?」

 

 山本さんは精一杯のフォローのつもりなのか、俺の股間をポンポンしながらそんなことを言ってくれる。

 

 その罵倒がとても心地良かった。

 マゾとしてではなく、山本さんが俺の必要としている叱咤をくれることが嬉しかった。

 

 そうだよな。

 ここで俺が落ち込んでしまったら、それこそ空気が悪くなる。

 

「なんならその画像フォルダ、好きに見てていいよ」

 

 見られて困るものは無いし、と続けて、山本さんはズボンを引っ張ってくる。

 

 どうやら脱げということらしい。

 それはつまり、抜いてくれるってことなんだよな。

 しかもこの写真は見続けたままでいいと。

 

 もう山本さんに秘部を晒すことには慣れていた。

 だが、そこに羞恥がないかと聞かれれば、そんなことはない。

 女の子の前にペニスを晒すのは、いつだって緊張するものだ。

 

 俺は山本さんのスマホを持ったまま、パンツを脱ぐ。

 ぶるんっと肉棒が上向いて、山本さんがそこに口をつける。

 チュルチュルと美味しそうに、唇で亀頭をしゃぶってくれる。

 

「あっ……口……あったかくて……気持ちいい……!」

 

 山本さんのフェラはいつも温かく湿っている。

 キスのときでも、口内が冷たいと相手が不快に感じると聞いたことがあったけど、山本さんとしたらそんなことは絶対にないんだろうな。

 山本さんからは、キスされる素振りはないし、俺もしようとはしてないけど。

 山本さんに舌を入れられたら、気持ちいいだろうな。

 

「んむっ……むちゅっ……ぶっちゅるっ……んくっ……」

「あああっ……ほんと……いつされても……いぃ……!」

 

 俺は股間に快感を覚えながら、写真に視線を戻す。

 

 美優とそっくりの、山本さんの昔の姿。

 

 このオカズは、マズいかもしれない。

 かなり濃いのが出てしまいそうだ。

 俺の精液は、さきほど山本さんにも不味いと言われたばかりだし、それを口に出すのもな。

 

 でも、出したい。

 最近はゴムに射精してばっかりだったから、たまには口の中に射精したい。

 

「山本さん……あぁっ……もう……出そう……!」

 

 俺の手元にはオカズがある。

 美優そっくりのその姿を見ていれば、自分の意思で射精することができる。

 

「んふ。むぶっ……ちゅるっ……んっ。ソトミチくん、口でしてるとすぐ出したがるんだから。はーむっ……ちゅぶっ……」

 

 山本さんに指摘されて、少しヒヤッとする。

 たしかに、フェラされてるときとか、すぐに射精したいって言ってたかも。

 美優とのエッチが基本的に口内射精だったから、どうしてもこのシチュエーションには興奮してしまうんだよな。

 

 変に、思われるかもしれないけど。

 今回だけは、我慢できない。

 

「んっ……んんっ……ちゅぷっ……」

「ああぁっ、ああっ……! 山本さん、ごめん……! もう出る、出る……ッ!!」

「ん!? ん、んんっ……! んーむぅ……!」

 

 びゅっ、どびゅっ、びゅる──!

 

 山本さんの口内に、俺は勢いよく射精した。

 この、尿道をドロッとしたものが駆け抜ける感じ、久々にかなり濃いのが出た気がする。

 

「うっ……うぐっ…………うぅ……!」

 

 案の定、山本さんは涙目でえづいていた。

 わかっていたことだけど、罪悪感は拭えない。

 

「ご、ごめん! さすがに、今回のは、吐き出してもらっても……!」

「ん、うっ……んくっ…………はぁ。うぅ、の、飲んだ……」

 

 山本さんは鼻をズビズビさせて、目尻に涙を溜めてそう報告してくれた。

 精液を飲ませるのはオスとしての支配欲が最高に昂ぶるから、好きではあるけど。

 そこまで無理することないのに。

 

「あ、ありがとう。でも、無理はしなくても、いいからね?」

「うーむ……ソトミチくんは、飲んだ方が喜んでくれるかなって……思ってるから……飲んでるんだけど。もしかして、意外とそうでもない?」

 

 山本さんの表情が、明るくなったり陰ったりを繰り返す。

 

「い、いや、すっごい嬉しいよ!? 俺、飲んでもらえるのめちゃめちゃ好きだし。でも、苦しい顔をされてまでってのは、ちょっと違うというか……」

「ううっ、ごめんなさい。私ももっと美味しそうに飲んであげたいんだけど」

 

 その時の山本さんの表情は印象的で、言葉以上に申し訳なさそうにしていた。

 精液なんてそもそも飲めない女の子の方が多いんだから、ただでさえ不味い俺の精液が飲めなくたって悪く思うことなんてないのに。

 

「俺の精液、すっごい苦いらしいから。仕方ないよ」

「うんうん。だから、せめて私くらいは飲んであげようかなって」

「……えっ?」

 

 言われた瞬間、ポカンとした。

 

 その反応に、山本さんも目を丸くする。

 

「だってほら。美優ちゃんは、飲んでくれないでしょ?」

「あ……ああ……! そう、だな」

 

 なるほどぉ、そういうことだったか。

 山本さんが吐きそうになるのを必死に堪えてまで精液を飲んでくれていたのは、他の誰も飲むことができないと思っていたからなのか。

 

 俺としかまともにセックスできない山本さんを、俺がどうにかして気持ちよくしてあげたいと思ったように。

 山本さんも、あまりの不味さにこの先誰にもしてもらえないであろう飲精を、自分がやってあげようと身を捧げてくれていたのか。

 

 どうしよう、なんか。

 涙が出そうだ。

 

「なので……してみたのですが。ソトミチくん……?」

「うん……あ……あの……。ごめん!」

 

 山本さんと、美優に対して。

 俺は必要以上に謝罪の言葉を繰り返しながら、本当のことを山本さんに告げた。

 これまで美優とエッチをしてきた経緯や、もちろん、飲んでもらっていることまで。

 

「つまり、美優ちゃんは平然とこの精液を飲んでいると。むしろ、率先して」

「はい」

 

 最初はただ、口で受け止めてくれていただけだったけど。

 山本さんの家にくる直前なんかは、自分の手で絞って飲んだりしていたしな。

 あれだけ不味いとは言われているものの、実は飲むのが好きなんじゃないかとすら思えてくる。

 

「つまり……美優ちゃんはもっと、ソトミチくんの精液を美味しそうに飲んでいると……!」

「は、はい、はい」

 

 山本さんは強い語調でそう言った。

 そして、しゅんと小さく身を丸めた。

 

「それはそれで……なんだか凄まじい敗北感が……」

「た、体質の問題だと思うから、気にすることないと思うぞ」

 

 別に美味しく飲めることが偉いわけじゃないし、由佳や佐知子の反応を見る限りでは、美優がああして飲める方が異常なんだ。

 

「でも、なんか悔しい」

 

 山本さんは膨れっ面になって、年相応の不満顔をする。

 なかなかお目にかかれないレアな表情だ。

 

「残り3日あるんだし、私だって一つくらい……」

 

 山本さんがそんなことブツブツ言い出してから、俺たちは──。

 

 とにかく、ダラダラした。

 それはもうダラけた。

 

 正確に言えば、俺はセックスと食事とゲームしかすることはなくなった。

 

 最初は、たまにはこんな日があってもいいかな、ぐらいの気持ちで怠けていただけだったのに。

 

「ソトミチくん、そのゲームはオンラインでバトルするの?」

「うん。不特定の人とマッチングすることもあれば、ギルドの人とクエストに行くこともあって」

「オフ会で集まるのもこの人たち?」

「そうそう」

 

 ソファーで横になってイチャついたり、カーペットで前後に重なって、おっぱいまくらをしてもらいながらゲームをしたり。

 

「はい、これ新しい味のやつ。食べて食べて」

「ん、ありがとう」

 

 いつも傍に山本さんがいて、お菓子などは適宜山本さんが食べさせてくれた。

 

「ああっ、あっ、山本さん……!」

「んふふー。ソトミチくん、クエスト中だよ」

 

 アプリをやっている最中に、山本さんが俺の肉棒をいじってくることもあった。

 しばらくイチャイチャしているうちに、溜まった性欲を山本さんがつぶさに察知してくれて、仲間たちが戦闘に勤しんでいるのに、俺はエッチの気持ちよさに浸りながらプレイを続けていた。

 

「ゲームも長く続けてたら疲れちゃうよね。じゃあそろそろ寝よっか」

「ああ……」

 

 俺は山本さんのおっぱいを堪能しながら、眠りについた。

 食欲も性欲も満たされて、アプリゲームの行動ゲージを気にすることもない。

 バイトの疲れもあって、俺はぐっすりと深い眠りについた。

 

 それから、目が覚めたときには、なんだか視界がぼやけるような気がした。

 それでも確かに山本さんは隣にいて、俺と一緒に寝てくれている。

 

「んー? 起きたの?」

「うん、起きたよ。おはよう」

「はい、おはよう。今日もゆっくりしようね」

 

 山本さんに頭をナデナデされて、まだ意識がはっきりしないところで、山本さんは廊下に出た。

 それから、料理を作ってくれて、それと共に持ってきたのは洗面器と歯ブラシだった。

 

「先にお口をキレイにしましょうか」

 

 山本さんから水入りのコップを渡されて、口をゆすいで、歯を磨いてもらう。

 シュコシュコと優しく口内が清掃されると、それだけでもムズムズと性欲が湧き上がってくる。

 

 それから食事を終えて、山本さんが食器を片付け終わって、ベッドに戻ってきた。

 

「もう元気になっちゃったの?」

 

 山本さんは俺の肉棒を当たり前のようにシゴいてくれた。

 

「あ、ああっ……!」

 

 俺は山本さんと向かい合わせになって、山本さんにペニスを擦ってもらいながら、シャツをめくりあげて露出してくれたおっぱいにしゃぶりついた。

 

「んー……んんっー……!」

「遠慮しないでいいんだよ。いっぱい吸って」

「うん……んむ……」

 

 俺は山本さんに下半身をいっぱいに気持ちよくしてもらった。

 そして、また射精スイッチを刺激してもらって、精液を出して、再び眠気がやってくる。

 

 山本さんの胸に抱かれて、俺はまた深い眠りについた。

 

「──ソトミチくん、またゲームができるようになってるよ。クエスト進めよっか」

「ん、ああ、うん……」

 

 俺は山本さんに、何時間寝たかわからないけど、起こされて、それからしばらくゲームをやっていた。

 さっきまで朝だった気もするけれど、周囲は暗くなっているし、まだ何度も寝ていないはずなのに、もう数日くらいこうして横になっていたような気さえする。

 

 そうやって俺が思考をまとめられずにいる間に、山本さんがまたご飯を作ってくれて、それを食べて、トイレなどを済ませて、マッサージついでのお風呂に入って、それから、またベッドで横になった。

 

 今が何時なのか、正確な感覚がわからなかった。

 スマホにはデジタルで時計が表示されているのに、それをぼんやりと眺めていても、何時なのかがなぜかわからない。

 しかし、必要だとも思わなかったので、俺は気にしなかった。

 

 次にベッドで横になるときはお互い裸になっていた。

 生肌で抱き合っていると、性欲にまた肉棒が硬くなり始める。

 

「ソトミチくん、運動の時間だよ」

 

 山本さんがそう言って、コンドームを付けてくれる。

 すぐ横のテーブルには、8個ぐらい使用済みのコンドームが並べられていて、あれがいつどのようにして使われたものなのか、俺にはわからなかった。

 

 ただ、このセックスという行為は、とにかく気持ちいいことを俺は知っていた。

 そして、セックスをすると、山本さんが俺をいっぱいに幸せにしてくれることも覚えていた。

 

 仰向けになっている山本さんに、俺が覆いかぶさって、コンドームを付けてもらったペニスを膣内に挿入する。

 

「山本さん……ふむっ……んっ……山本さん……あ、ああっ……!」

「ああんっ……ふぁっ……ソトミチ……くん……!」

 

 俺は山本さんのおっぱいに吸い付き、空いた手でその豊満を揉みしだいて、懸命に腰を振った。

 山本さんの膣肉にペニスをいっぱい擦りつけて、俺は腰が動く限りピストンに没頭した。

 

「ああっ……ああぁぅぅああっ……! 山本さん……はぁ……あぁああぁっ……きもぎぃ……山本さん……ああ……あぁぅああぁっ!!」

 

 セックスをするごとに山本さんの体は気持ちよくなっていった。

 ひと突きするだけで、射精と同等の快感が脳に流れていく。

 

「んふっ、ああんっ! はぁ、ふぃ、うぅ。……よしよし。そろそろ頃合いかな」

 

 山本さんは俺を仰向けに倒して馬乗りになった。

 

「今日こそスイッチなしで出しちゃうからね」

 

 ズブッ、ズブッ、ズブッ、ズブッ──。

 

 山本さんに挿入されていく、俺の肉棒。

 

「ふふっ」

 

 山本さんが、妖しく微笑んだ。

 それは今までのエッチな表情とは、少し違うものだった。

 

「──っ……ぐあぁっ……あっ……あああっ……!!」

 

 山本さんがペニスの根元まで腰を落としたところで、俺の体が跳ね上がった。

 

「ああっ……あああアアッ……!!」

 

 今までの比にならないくらいの快感が押し寄せてくる。

 山本さんの膣内のひだの一つ一つが、濃厚なフェラをしてくるようで、ひとつストロークさせて絞り上げられるたびに、俺は悲鳴にも似た喘ぎ声を上げた。

 

 山本さんは、そのサマを楽しそうに眺めている。

 グネグネと腰を器用に動かして、俺が気持ちいい以外の何も考えられないくらいに快感を与え続けてきた。

 

「はぁ……いぃ……山本さん……イィッ……あアアッ……アッ……うぐぁがぁああッ……!!」

「あんっ、はんっ、ん……。ふふっ。そんなにいいなら、そのまま出しちゃえ」

 

 ジュブジュブと山本さんの愛液と淫肉が溶け合って、俺のペニスも一体になって吸い込まれていく。

 もうこのままずっと一つになっていたいと、そんな感情が俺の心を支配していた。

 

「出してくれたら、もっとイイこと、してあげる」

「アッ、アッ、イイ、こと……はあぁああうぅぅ……アッああああっアアッ……!!」

 

 ビク、ビク、と睾丸がビクついて、精液がせり上がってくる。

 

 出したい。

 射精してしまいたい。

 今なら出せると、そういう確信がどこかにあった。

 

 ただ、心の奥底で何かが引っかかって、それだけが邪魔している状態。

 俺は射精できるんだ。

 射精をしたら、もっと山本さんと幸せな時間を過ごしていられる──。

 

 ヴヴヴ、とスマホのバイブレーションが鳴ったのが、ちょうどその瞬間だった。

 

 ベッドの頭に置いてあった俺のスマホを、山本さんが手に取る。

 

「んふふっ。あらあら。どうしようかな」

 

 山本さんはディスプレイを見て、ニンマリと顔を緩めた。

 そして、画面を数回タップすると、それを俺の頭の横に置いた。

 

 それが何を意味しているのか。

 その声を聞くまで、俺には考えを巡らせている余裕もなかった。

 

『──お兄ちゃん? 今どこにいるの?』

 

 久しぶりに聞く、その声。

 

 間違えようもない、美優のものだった。

 

「っ……っっ……あっ……うっ……!!」

 

 山本さんは容赦なく腰をストロークさせて、俺の性感を煽ってくる。

 声を出してはいけないという考えが唯一の防衛線となってくれて、しかし、それ以上に俺の頭は回らなかった。

 山本さんのセックスに翻弄されて、頭が変になりそうになりながら、どうにか声だけを抑える。

 

 だが、黙り続けているわけにもいかなかった。

 返事をしなければ。

 あくまでも自然に。

 こんなセックスに溺れている姿を知られることだけは、あってはならないと強く心で念じていた。

 

『もしもーし。美優だけど。聞こえてる?』

 

 美優が俺を呼んでくれている。

 でもそれに答えることができない。

 

「あっ……みっ……んんんっ……!」

 

 だが、そんな我慢も、何の意味も無いことだった。

 よく考えれば、すぐにわかったことなのに。

 

「うふふ。頑張るね、ソトミチくん」

 

 山本さんは、パンッ、パンッ、と腰を打ち付けて、声と一緒に、明らかにスマホの向こうで聞いている美優に届くぐらいの音を、室内に響かせた。

 

「んっ、あっ……。もしもし、美優ちゃん? ソトミチくん借りてるよ」

『あ、奏さん。こんばんは。お取り込み中でした?』

「ううん。へーきへーき。で、ソトミチくんに急ぎの用なんでしょ?」

『そうですね。……お兄ちゃーん。聞こえてるー?』

 

 山本さんと美優は、スピーカーモードのスマホで至って普通の会話をして、俺に話を渡してきた。

 こんな状況で、この二人はどういう神経をしているんだろう。

 

「はあっ、あ、み、美優……うっ……ごめん……いまは……!」

『うん。いますぐじゃなくていいんだけどさ。今夜中にメッセージ返してもらっていい? 明日のバイトの予定を聞きたいんだけど』

 

 美優からの連絡は、まさかのバイトの日程伺いだった。

 たったそれだけのために電話をしてくるなんて。

 あの口ぶりだと、俺が知らずのうちに美優からのメッセージを無視していたみたいだけど、それにしたっってこんなタイミングで電話してくるようなものか。

 

「わ、わかった、はあっ、うっ、わかったから……!」

 

 今日が何日かわからないせいで、明日の予定もわからない。

 最終日だとしたら次の日がバイトだけど、そんなに日が経っている感覚はないし、でも美優が電話をしてくるってことはもうそれぐらい時間が経っているのかもしれない。

 

『よろしくね、お兄ちゃん』

 

 そうして、美優との通話が終わりかけたところで、山本さんがぐっと顔を近づけてきた。

 

「んふふ。ねえ、ソトミチくん」

 

 山本さんの含みのある声。

 それを感じ取ってか、美優も通話を切らない。

 

「美優ちゃんとのエッチと、私とのエッチ、どっちが気持ちいい?」

 

 とんでもない質問だった。

 本人が聞いている前で、どっちのエッチが気持ちいいかなんて、答えられるわけがない。

 

「それは……ああっ……!」

 

 山本さんの快楽責めはなおも続き、そして、顔のすぐ横に置かれたスマホからは、思いがけない言葉が飛んでくる。

 

『──どっちが気持ちいいの? お兄ちゃん』

 

 それは素朴に尋ねるように、美優の口から発せられた。

 山本さんからのトンデモ質問の催促。

 もはやなあなあにして誤魔化すこともできない。

 

 答えなんてものは単純だ。

 答えることそのものは難しいことではなかった。

 

 だって、そうだ。

 俺は今日まで山本さんにたくさん尽くしてもらって、たくさんセックスをして、褒めてもらって、気持ちよくしてもらって。

 今日だって、ご飯もお風呂も歯磨きも、全部山本さんがやってくれた。

 そしてこの、愛液で水音が弾けるほどの激しいセックス。

 

 美優が相手では絶対にありえないこと。

 おっぱいを好きなときに吸わせてもらえて、性欲が溜まればいつでもフェラをしてもらえて、その全部を頭をナデナデして受け入れてもらえるんだ。

 

「ねえ、ソトミチくん」

 

 山本さんの膣肉が俺のペニスを締め上げる。

 愉しそうに笑う山本さんのその表情が、艶めかしくて美しい。

 

「エッチが気持ちいいのは、私と、美優ちゃんと、どっちかな」

 

 パンッ、パンッ、パンッ、と一定のリズムで腰を上下させて、俺は触手のように絡みつく山本さんの膣肉に、神経の全てを持っていかれていた。

 

「あっ……あああっ……アアアッ……!」

 

 今までの、献身を想えば。

 

 その思い出を遡れば、考えるまでもない。

 

 俺が、誰よりも、エッチをするのが好きなのは、

 

「ああっ、はぁ、美優、美優……っ! 美優とする方が、気持ちいい……!」

「んあっ、ふぇ!? そんな……んっ……!」

 

 山本さんは腰の動きを更に激しくしてきた。

 だが、それ以上に、美優の声が聞けたという事実が、俺の脳の快楽物質を支配し始めていた。

 

「うっ……してるのは私なのに……目の前で寝取られた気分……」

『まあ、お兄ちゃんはダメなシスコンなので、仕方ないですよ』

 

 スピーカーから届く美優の声。

 やはり美優も最後まで聞いていたのか。

 

『ということで、お兄ちゃん、何か難儀してるみたいだけど。奏さんのことイカせてあげた後は、お兄ちゃんも好きに出せばいいんじゃないかな』

「あ、はぁ……ああ、美優……ああ…………!」

 

 美優のその一言で、俺の怒張は最大以上に膨れ上がった。

 ただでさえ鉄のように硬化していた肉棒に、限界を超えて血液が溜められていく。

 その肉棒で、俺は山本さんの膣内をグチョグチョにかき混ぜるように突きまくった。

 膣壁全体に俺のペニスをマーキングするように、肥大化しきった勃起をズボズボと挿入する。

 

「ん、ひょな、アッ、ああアンっ、あんっ、アッ、しゅご、あああっ! ひょとみひ、くん、の、しゅごいこと、なっへぇ……あああんっ……ああっ……あひょな、らめえぇ……!!」

 

 山本さんの反応が露骨に変わって、全身の痙攣も始まった。

 

 山本さんをイカせられる。

 俺のこのペニスで、山本さんをイキまくらせてやる。

 

「山本さん……あああっ……山本さん……!!」

「はふっ、ふにゅ、うぅぅあぁあっ、あっ、あんっ、らめぇ、はぅ……そと、みひ、くん……もう、あっ、い、いひゃ、イッヒャう……んんッッ……!!」

 

 山本さんがイッてもなお、俺は腰を振り続けた。

 何度も、何度も、山本さんの声が掠れるまで、力の限りに山本さんを突き犯した。

 

 山本さんの意識がトびそうになって、俺もピストンの速度を最大にまで高めたところで、グッと膣内の奥深く、子宮に刺さるぐらいの勢いで俺はペニスを押し付け、そこで、十秒以上もずっと射精をし続けた。

 

「あぐっ……あっ……あぁ……」

 

 やがてお互いが力尽きて、ばったり横に倒れる。

 あまりに精液が溜まり過ぎて、山本さんの膣に入ったままゴムが抜けてしまいそうだった。

 

「うぅ……完全敗北してしまった……」

 

 山本さんはため息をひとつ溢す。

 だがそこには、言葉ほどの悔しさは滲んでいなかった。

 

「なんか……悪いな」

「えへへ。いいのいいの。美優ちゃんに敵わないのは、最初からわかってたことだし」

 

 その顔はまたいつもの明るさを取り戻して。

 俺の知っている山本さんの姿が、そこにはあった。

 

「それと、最後、思い切り激しくしちゃって、ごめんな」

「それも大丈夫だよ。この先もう無いってくらい気持ちよく犯されちゃった」

 

 山本さんの危ないワードチョイスにドキッとしながら、俺は最後まで抱擁を求めてくる山本さんに答えるように、距離を詰めた。

 ゴムを取り外して、ティッシュで精液を拭ってからは、互いにギュッと抱きしめ合って密着した。

 

「楽しい一週間でした」

「あ、もう、一週間経ってたんだ」

「そうだよ。私がソトミチくんをダメ男状態にしてたから気付かなかっただろうけど」

「なぜそんなことを……」

 

 いやしかし、ああして怠惰を貪るだけの生活は至福だったな。

 家に帰ったら、美優には厳しくされそうだし。

 まだ終わってもいないのに、もう山本さんの甘やかしが恋しくなってしまっている。

 

「まあほら、ソトミチくんと、ご飯を食べたりゲームしてるだけでも、楽しかったし」

 

 俺にとっては、この3日間はあっという間に過ぎてしまったけど。

 なんというか、ほとんど毎秒ずっと一緒にいたって思うと、嬉しくもあり、切なくもあるな。

 

 残りの時間は、せめて、すこしでも多く山本さんとの思い出にしておきたい。

 そう思いながらも、俺の意識は、山本さんの胸の中で、眠りの深層へと誘われ始めていた。

 

 抗えない眠気と、起きていたい気持ちの、二つの想いが相反して、ギリギリの状態で意識を保って。

 何分かが過ぎた、その微睡みの中で。

 

 山本さんが、ごくごく小さな声で、その言葉を呟いた。

 

 俺には、その声が届いていたけれど。

 

 指をピクリとも、反応させることもできずに。

 

 そっと、その言葉を胸に抱いたまま、深い眠りの底へと落ちていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当はちょっとだけ、悔しかったけどね」

 

 



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クローゼットの秘密

 

「それじゃあ、ソトミチくん。美優ちゃんと仲良くね」

 

 玄関に立つ山本さんが、パジャマ姿で太陽に照らされる。

 満面の笑顔で小さく手を振ってくれて、この女神はどんな格好をしていても美しい。

 

「ありがとう。なんというか、山本さんも……お幸せに」

「んふふ。はい、了解です」

 

 山本さんは最後まで優しい声で見送ってくれた。

 

 俺は一週間の幸せな時間を過ごした部屋に別れを告げる。

 もっとくつろいでいたかったが、残念ながらスマホのスケジュールアプリからは今日がバイトだと告げられている。

 

 しかし、気が重いということはない。

 むしろスッキリさえしている。

 山本さんにスーツもビシッとキメてもらって、心まで背筋が伸びるようだ。

 

 俺はこのまま仕事場へ。

 といきたいところだが、宿泊用の荷物があるので一旦は家に帰らなければならない。

 

 自転車に跨って、また重たい荷物にフラつきながら家に帰ると、玄関には鍵が掛かっていた。

 美優は帰ってきているはずだし、旅行から帰ってきてしばらくは出かけないはずだから、家にいないということはないよな。

 となると、まだ部屋で休んでいるのか。

 

 俺は開けて玄関に入り、荷物を置いてから、財布など貴重品などを小さなカバンに移し替える。

 すると階段の上の方から、顔だけが見えるように美優が出迎えてくれた。

 

「あれ……おかえり? お兄ちゃん、今日は夕方までバイトじゃなかったの?」

「山本さんの家に泊まってたから、その荷物を置きにきたんだよ。時間もないしこのまますぐ出ちゃうけど」

「そっか。行ってらっしゃい」

 

 美優はそれだけ言って、自室へと戻ってしまった。

 一週間ぶりなわけだし、出迎えと共に北海道土産でも渡してくれるかと思ったが、予想以上にドライだった。

 

 俺は一抹の寂しさを背中に負いながらも、バス停に向かう。

 よくよく考えてみれば、あの美優の態度が普通なんだよな。

 今日まで山本さんに甘やかされてきたせいで、笑顔でお出迎えしてもらえるのが当たり前みたいになってしまった。

 

 これではダメだ。

 俺だってまともな男になってきたんだし、また美優にガッカリされないように、これからはできるお兄ちゃんになるんだ。

 

 乗り込んだバスに揺られながら、俺は美優とこれからどうやって付き合っていくかを考えた。

 これまで俺は性欲を最優先にして、その性欲を──美優が言うには精液の処理を、してもらってきた。

 美優は全く嫌がらなかったし、なにより俺も理性を抑えきれなかったから、流れのままにしてもらってたけど。

 

 わからないものをわからないままにして、ズルズルと半端な関係を続けていくのは良くないよな。

 いくら美優が秘密主義とはいえ、まずは兄妹としての接し方と、男女としての接し方を、どう割り切っていくかを話し合わないと。

 

 バスが最寄り駅に着いて、俺は電子カードを手に持ったまま駅に向かう。

 

 バイトが始まるのは11時から。

 今日はパンフレットの詰め込みなどの簡単な作業を済ませてから、昼過ぎに支給の弁当を食べて、ライブ会場の整備を行うことになる。

 

 ……で、合ってるんだよな。

 

 俺は不安に駆られてスマホを取り出した。

 そういえば、前日に送信されてくるはずのリマインドメールがまだ来ていない。

 スケジュールアプリには確かに今日がバイトだと記入してあるが、これはあくまで俺が入力したものだし、合っているか自信がなくなってきた。

 

 ピコン──とメールの受信通知が来たのが、ちょうどそのタイミングだった。

 どうやらリマインドの配信遅れだったらしい。

 俺はそう納得して、悠長にしていると電車を逃してしまうこともあり、そそくさと電車に乗り込んだ。

 

(当日にリマインドメールが送られてくることなんて、本当にあり得るか……?)

 

 電車が発進してから、俺は再び不安になってメールを見返した。

 会場名も合っているし、開始時間も合っている。

 

 それを見て、俺はなぜか安堵していた。

 どう考えても、一番大事な項目を見落としていたのに。

 

 思い込みというのは厄介なもので、今日のバイトの内容が想定していたものと合っているかどうか、俺はそのことばかりに意識を囚われていた。

 詳細連絡に書かれている、肝心の日付の部分が一日ズレていることに気づいたのは最後だったのだ。

 

 それを見つけた瞬間、ドッと嫌な汗が出た。

 何度見返してもスケジュールアプリには今日がバイトだと書かれているし、リマインドメールには明日がバイトだと書いてある。

 当然、このバイトを応募したのは俺自身なわけだから、このスマホには人材派遣会社宛に送ったメールがあるはずで。

 それを探して確認した結果、どうやら俺はスケジュールアプリに一日早くバイトの日を設定していたようだった。

 

 このときの俺の頭は混乱していて、もしかしたら二日間バイトを入れたのではという謎の恐怖に襲われていた。

 そのせいですぐに電車を降りることもできず、ライブ会場の最寄り駅に着いてから、俺はようやく派遣会社に電話をしたのだった。

 

「──はい、スタッフIDの確認が終わりました。ご登録されているお仕事は、明日11時からのものになります。詳細のメールを再送いたしますか?」

「あ、いいえ……! 大丈夫です。ありがとうございました。失礼します」

 

 切れた通話に、大きなため息。

 やはり俺のスケジュール入力ミスだった。

 リマインドメールも来てなかったわけだし、こんな間違いは昨日の時点で気づいておくべきだったんだけど。

 さすがに、昨日は無理だったよな。

 

 山本さんと一分一秒でもあの幸せな時間を共有していたかったんだ。

 そのせいで、美優に今日の予定を連絡するときも「明日夕方までバイト」なんて簡素なメッセージで済ませてしまったくらいだし。

 

「はぁ……」

 

 俺はまだ降り口の改札を通ってない。

 駅員に事情を説明すれば配慮してもらえるかもしれないけど、バスの交通費は無駄にしてしまった。

 そして、ここに来るまでの時間も。

 

 しかし、考えようによっては、救われたよな。

 バイトをすっぽかしたわけじゃないんだ。

 一日後で気づくより、一日前に気づく方がよっぽどいい。

 

 それに、俺なんて家に居たらどうせゲームしかしていなかったんだ。

 気分転換のために外に出てきたと考えれば、健康的な一日といえる。

 バイトの時間に迫られていなければ、山本さんの家を出るタイミングもわからなかったしな。

 

 うん、思ったより、悪くないか。

 

 俺は反対側のホームに移動して、実家の最寄り駅までとんぼ返りした。

 目的地が遠かったこともあり、さすがに無料で改札を通してもらうことはできなかったが、支払いを要求されたのは入場料だけだった。

 

 無駄足だったけど、気分はいい。 

 しかし、それとは関係なく、家を出てからこんなにすぐ家に帰ってしまうと、美優と顔を合わせるのが気まずいので、俺はお昼を外食してから帰ることにした。

 

 せっかくだから普段は行かないようなところにしようかなと思いつつ、一人飯にお金を使うのも勿体無くも感じて、俺はファミレスの近くをうろうろする。

 

 すると、後方から聞き覚えのある声がした。

 

「でさー。優花里のやつが夏休みに遊ぼって言ってて。夏休み後半しか空いてないらしいけど、遥もそれくらいになったら暇でしょ? どう?」

「いいけど」

「じゃあグループに招待するね。優花里はカラオケに行きたいって言ってたけど、まあ私はさして興味ないし、1時間くらいでちゃちゃっと済ませて服屋を回ろっか」

「そこは優花里に合わせなさいよ」

 

 その声に、俺は振り返った。

 

 そこにいたのは、人形のように恐ろしく容姿の整った少女と、宙に踊る茶髪ツインテールが元気印の女の子だった。

 

「あっ……」

「げっ」

 

 俺の姿を認めた瞬間、ツインテールの少女が隣を歩いていた少女の背中に隠れる。

 

 そこにいたのは、美優の友人である遥と由佳だった。

 

「……レイプ魔」

 

 由佳は遥の背後から俺を睨んでくる。

 

 美優のやつ、もう由佳に話してたのか。

 たしかに秘密にするつもりはないと言っていたけど。

 

「あの件は……なんだ、悪かった」

「悪かったじゃないでしょーが」

 

 由佳の不満顔が険しくなる。

 

 そうだよな。

 俺は無理やり由佳の処女を奪ったわけだし。

 謝って済む話でもない。

 

 しかし、俺の言葉にそれほどの謝意が含まれていないのも事実だった。

 由佳には大量の前科があって、そのほとんどが美優にとんでもない迷惑をかけるものだったからだ。

 

「どうしたの」

 

 遥は服を引っ張る由佳の様子を、鬱陶しそうに伺った。

 

「前に話したでしょ。こいつ、私のことレイプしたの」

「ああ、美優が言ってた。お兄さんだったんだっけ」

「そう。サイテーの男よ」

 

 由佳も遥も、俺と面識はある。

 俺が美優の兄だということは知っているのだ。

 

 由佳は遥の背中にギュッと抱きついて、俺に恨みのこもった目を向ける。

 

 そして、遥はその由佳の頭を、鷲掴みにして親指でこめかみを強く押した。

 

「痛づづづづづ!!」

「私もあんたの嫌がらせの被害者なんだけど」

 

 由佳が迷惑をかけたのは、美優だけじゃない。

 そもそもあの出来事は、由佳が遥の裸を盗撮したのが発端だったんだ。

 

「それは謝ったでしょうが! それとこれとは、別の話よ」

 

 由佳は頭を押さえながら、なおも俺を睨んでくる。

 

 そんな由佳をよそに、遥が俺に話かけてきた。

 

「お兄さんは何をされてるんですか?」

「え、俺? 今?」

「はい」

 

 周囲の往来を気にして、遥が俺に一歩近づいてくる。

 完璧に近い造形ながらも、まだあどけなさの残る丸っとしたパーツが、ドキッとするほど愛らしい。

 

「ああ、えーっとな……」

 

 バイトの日を間違えたなんて言うのは恥ずかしい。

 とはいえ、こんなスーツを着て、街をふらついてただけなんて言い訳もできない。

 

「これから仕事だから、腹ごしらえをしようと思ってな」

「ここでお昼を食べるんですか?」

 

 遥は隣にあるファミレスを指差す。

 

「そういうことだ」

 

 俺が答えると、遥に叱られて頭を抱えていた由佳が口を開いた。

 

「あらそうなの。私たちも今からご飯なの。詫びとして奢りなさいよ」

 

 由佳は威勢よく俺に怒気を飛ばす。

 

 その頭を、遥はポンポンと撫でた。

 

「ファミレスでレイプが許されるなんて安い体ね」

「う、うるさい! サーロインステーキを頼んでやるんだから……!」

 

 こうして俺は由佳にお昼を奢ることになった。

 

 店に入ると、俺たちは店の奥に案内され、対面に由佳と遥が並ぶ。

 

「サーロインステーキ200g! ドリンクバー付きで! あと食後にパフェも!」

「全部食べなさいよ」

「トーゼンでしょ! おかわりしてやるわ!」

 

 由佳は憂さ晴らしをするように豪快に注文した。

 それだけ食べても五千円にもならないが、レイプの代価がそれでいいんだろうか。

 

「本当に、悪かったな」

 

 ひとまず、きちんと謝っておく。

 互いに様々な都合があったとはいえ、酷いことをしたのには変わりないし。

 

「ほんとよ。あんなバカみたいに出して」

 

 由佳は眉間にシワを寄せて、頬杖を付きながら窓の外を眺める。

 

 コンドーム5つ分、一杯になるまで出してしまったからな。

 しかも、最後に由佳はそれを全て飲まされた。

 あのときは完全に心が壊れてしまったと思ったが、意外と元気にしているな。

 

「だいたい、お兄さんが相手なら、なんでゴムなんて付けたのよ」

 

 由佳は苛立たしげに俺に視線を向けた。

 横には遥がいるんだが、まあ事情は知っているからいいのか。

 

「生でしてくれてたら、今頃、私のお腹には美優の赤ちゃんが……」

 

 由佳は慈しむように自分のお腹を撫でた。

 

「いやそれできたとしても俺の子なんだが」

 

 そうか、壊れるも何も最初からこいつは狂っていたんだな。

 今にして思えば、あのときの美優とのやり取りからしてそれは明らかだった。

 もうこいつをまともな神経で理解しようとはすまい。

 

「えっと、遥ちゃんは、昨日まで美優と旅行してたんだよな?」

「呼び捨てでいいですよ。北海道に行ってました。聞いてません?」

「ああ、そう聞いてる。二人は、一週間、滞在してたんだよな?」

「そうですけど」

「いやぁ、旅行はさ、どんな感じだったのかな、と」

 

 二人で何をしていたのか、大体の予想はつくけれど、直接美優の口からは聞いていない。

 

「どうせエロいことしてたんでしょ。まったく、私を除け者にして」

 

 由佳がぶつくさと横槍を入れる。

 そういえば、普段は三人で仲良くしているはずなのに、旅行は遥と二人だけなんだよな。

 エロいことをするだけなら、三人のままでもいいような気もするけど。

 

「エロいことだけじゃないの。少なくとも、表面上の主目的は」

 

 遥はツンとした表情で水を口にする。

 

 美優と遥は、やはりエッチはしていたようだが。

 それが主目的ではないのか。

 表面上ってところに含みを感じるけど。

 

「またまた、そんなこと言って。スケベ心満載のクセに」

 

 由佳はイヤラシイ顔つきで遥に寄り掛かり、あろうことか俺の目の前で遥のスカートをめくって、その露わになった太ももをさすった。

 純白のパンティが一瞬、俺の視界をかすめて、俺は思わず目を逸す。

 

「今日はローターは仕込んでいませんの? お嬢様」

 

 楽しげにすり寄る由佳だったが、遥はまるで相手をしない。

 そして、おもむろにポーチを手に取ると、その中でカチャカチャと何かをやり始めた。

 

 由佳が不思議そうにそれを眺めていると、遥はテーブルの下でそのポーチの中の“何か”を取り出し、ガバッと由佳に覆いかぶさった。

 

「ちょっ、遥! バカッ、こんなところで、なにしてっ……んっ……あっ……!」

 

 由佳の口から漏れる、色っぽい声。

 この二人、こんな公の場でいったい何をやってるんだ。

 

「やめなさいよ、こら、ふんっ、んあっ……ダメ、そんなとこ……んんっ……はぁ、ああっ……こ、こらぁ……」

 

 ファミレスの奥の、その端っこで、嬌声を上げながら組み合う少女たち。

 これはこれで俺には刺激が強すぎるんだが、俺はどうしていればいいんだろう。

 

「えっ、な、なに……んはっ……ひょっ……な、なんか、当たってる……! ダメッ……そんなの……挿れたら……アッ……!」

 

 遥はポーチから取り出した何かを由佳のスカートの中に入れた。

 

 俺は横にある手洗い場に客が通らないことを祈りながら、無心で二人のやり取りを目端で見守っていた。

 

「んっ、んんっ……! ひゃっ、は、はいって……きちゃ……ひゃんっ……! あっ……奥……きひゃ……あっ、ああっ……!」

 

 遥は由佳に何かを挿れているようだ。

 状況からして、遥が由佳の膣内に大人のオモチャを挿入しているとしか考えられないけど。

 

 遥は普段からそんなものを持ち歩いているのか。

 こんなに可愛いのに、学校のテスト中にローターを仕込んでるっていうのは、事実なんだろうな。

 

「うぅっ……これ……なに……」

 

 二人のイチャイチャが終わると、最後に『カチッ』と音がして、遥は何事もなかったかのように正面を向いた。

 

「はっ……ふぅ……うぅ……抜けない……」

 

 由佳は自分のスカートの中に手を入れて、何かを引き抜こうとしているが、どうやら自分では取れないらしい。

 

「無理やり引き抜くと、死ぬほど痛いからね」

 

 再びポーチを手にした遥。

 その人差し指と中指の間には、小さな鍵が挟まっていた。

 どうやらその鍵によって、おそらく由佳に挿し込んだディルドのようなものに細工をし、抜けなくしているようだ。

 

「あんた、その鍵、寄越しなさっ……んっ……んぐっ……ンンんッ……!!」

 

 由佳が遥から鍵を強奪しようと腕を伸ばした直後、ごく小さな振動音が低く響いて、由佳は悶え苦しみながら背中を丸くした。

 声が漏れないように必死に口を押さえて、ビクビクと震えている。

 

「はんっ……やっ……んんんんっ……! ん、だめ……止めて……お願い……!」

 

 掠れ声で息を荒らげ、そう懇願する由佳を、遥は冷たい目で見下ろす。

 

 明らかにリモコンバイブが挿入されてるよなこれ。

 

 どうしよう。

 そろそろ店員が料理を持ってきそうなんだけど。

 トイレにでも逃げておこうかな。

 

「はぁ……はひゅ……ふぃ……あうぅ……お願いひまひゅ……遥ひゃま……うっ……ぐぅ……!」

「もう外でセクハラするのはやめてね」

「はひぃ……はひぃ……もうひまひぇん……」

 

 遥からお情けをもらってバイブを止めてもらった由佳は、テーブルにぐったりと突っ伏した。

 

 俺はこの子たちの将来が心配でならない。

 

「お見苦しいものを、すみません」

「お、おう。ほどほどにな」

 

 俺は大きくなりかけていたイチモツを、精神集中してどうにか抑えつけた。

 

 女子中学生二人を相手にフル勃起している男なんて、どう考えても補導案件だからな。

 今はスーツ姿だし、下手をしたら留置所に送られるかもしれない。

 

 それから静かになったテーブルに、店員が料理を持ってきて、俺はらしくもなく足を組んで股間の盛り上がりをごまかし、店員が去ったのを見計らって食事を始めた。

 せっかく肉厚なサーロインステーキが目の前にサーブされたというのに、由佳の表情は浮かない。

 

「遥、これ、抜いてくれない? お腹が、苦しくて……」

「イタズラ防止のために今日はそのまま挿しとくわ」

「ふぇ!? こんなの挿れてたら、歩いているだけで、変になっちゃうよぉ」

「自業自得。言っておくけど、ご飯を残したりなんかしたら、それを挿れたまま近くのコンビニでエロ本を買わせるから。逃げたら鍵は渡さない」

 

 うら若き少女たちの間で交わされる言葉がこれである。

 まったく股間によろしくないのでそろそろやめて欲しい。

 

「私、まだエッチな本とか買えないから。歳を考えなさいよ」

「なんでもするから買わせてくださいってお願いすればいいでしょ」

「こ、こんなの挿れたままそんなお願いしたら、それこそレイプされちゃうってば……!」

「そしたらまたファミレスのランチでも奢ってもらいなさいよ」

 

 噂に違わぬ鬼畜っぷりだった。

 こんなことを素知らぬ顔で口にできるのだから、美優に負けず劣らずの氷の女王様だ。

 

「そんな……遥ぁ……」

「いいから黙って食べてなさい」

 

 遥がまたポーチに手を入れると、由佳の体がビクンと跳ね上がった。

 

「うっ……! は、はい……!」

 

 それから、由佳はようやく大人しくなった。

 果たしてこのやりとりはどちらが悪者だったのか。

 いや、そんな次元で考えるようなことではないか。

 

「いつも、こんな感じなのか?」

「いえ、たぶん、お兄さんの手前、由佳もはしゃいでしまったのだと思います」

 

 その発言に、由佳はステーキをナイフで切り分けながら何か言いたげな顔をしていたが、声には出さなかった。

 

 俺と遥が注文したのは和風パスタ。

 遥が音も立てずにキレイにフォークで巻き取って食べる姿を見て、俺も負けじと行儀よくパスタをいただく。

 俺も長いこと美優と食事を共にして、それを真似てきたから、食べ方はキレイなはずだ。

 

「えーっと、どういう言い方をすれば適切なのかわからないんだけど。旅行は、エロ方面……っていうのかな。そっちがメインじゃないんだとしたら、他に何をしてたんだ?」

「残念ですが、むしろそちらの方が言えない範囲なんです」

「肉体関係より知られたくないものなのか……」

「それはもう。美優の一番の秘密ですからね」

 

 遥が得意げに語るその横で、由佳も興味津々に話を聞いている。

 が、由佳は頻繁に内ももをスリスリしたり、息を荒らげたりして、どうにも膣内の異物に気を取られて集中できないらしい。

 

 女の子二人でエッチしてるのより教えられない秘密って、なんなんだ。

 いやまあ、この子たちの間では、むしろ女の子同士のスキンシップは隠すべくもないありふれたものなのかもしれないけど。

 現にいま目の前で似たようなことをやってたし。

 

「でも、お兄さんになら、美優もいずれ話すんじゃないですか?」

「俺になら、話す……?」

「最近はずいぶんと仲良くなってるみたいですし」

 

 遥は含みのある笑みを俺に向けた。

 

 この様子だと、俺が美優としてることは知ってるんだよな。

 

 改めて考えると、いいんだろうか。

 美優は遥にとっても大切なパートナーだ。

 以前、由佳は「遥と美優はラブな関係ではない」とは言っていたけど、遥から美優への固執がないとはとても思えない。

 

「遥は、俺が美優と仲良くしてても、気にしないのか?」

「気にしませんよ。その方が、美優にとっても幸せですから。もちろん、最近のを聞いた時は少しびっくりしましたけどね。でも、いずれこうなるとは思っていたので、納得感はありました」

 

 この子が何を言っているのか、おそらく意図的に隠しているせいで、その真意はわからなかった。

 

 それでも、遥の声に陰りはない。

 俺と美優が仲良くすることを、本心から幸せだと思っている感じだ。

 

「遥はそれでいいんだな」

「ええ。美優が特別なのは変わりありませんが、私は他にもお相手がいますので」

 

 遥は紙ナプキンで口を押さえながらほくそ笑む。

 

 そういえばこっちはガチなレズっ娘だったな。

 おそらくは、美優と遥の旅行を援助している謎のお姉さまたちも、そのお相手に含まれているのだろう。

 

「ということで、どうかご遠慮なく。美優もそれを望んでいるはずなので」

 

 遥は得意げにそう語った。

 

 美優が俺と仲良くなることを望んでるなんて。 

 そんな情報、信じていいのだろうか。

 

「正確には、いずれ望むようになる、ですけどね。あくまでもお兄さんの配慮があってのことなので、いきなりはダメですよ?」

「な、なるほど」

 

 この遥の言葉は、無視してはいけない気がする。

 

 この話の流れからすると、仲良くするってのは、性的な意味だよな。

 それをいずれ望むようになるってことは、美優は、もしかして、本当に俺のことを……?

 

「あ、あの。さっきから、何の話してるの」

 

 さすがに孤独感に耐えきれなくなってか、由佳は遥の服の裾を引っ張って詳細をねだった。

 さきほどのお仕置きが効いたのか、かなり控えめな口調だ。

 

「由佳も早く新しい相手を見つけないとねって話」

「が、頑張ってるっての」

「まるでその気配はないけど?」

「中学の間くらいはいいって言われてるもん」

 

 由佳は少しだけ寂しそうに口を窄ませる。

 なるほど、そういう話になっているのか。

 なんだかんだあったけど、この三人には仲良くしていてもらいたいんだがな。

 

「そ、それで。頑張って食べたので、そろそろ鍵をお渡しいただけないでしょうか……」

 

 気づけば由佳がステーキを食べ終わっていた。

 一物を腹に抱えた状態でよく頑張ったものだ。

 

 その由佳の申し出に、遥も反省の色を感じ取ったのか、素直に鍵を渡した。

 

 そして、その場で抜こうとする由佳に、遥は待ったをかけ、トイレで抜いて洗ってくるよう命令する。

 由佳はそれに従い、覚束ない足取りでお手洗いに入っていった。

 

「今のうちに確かめておきたいんだけど、さっきの話は、性的な意味でいいんだよな……?」

「そうですね。言ってしまうとですね、お兄さんと美優がエッチなことをしているのはもう知っているので、私には隠さなくても大丈夫です」

「お、おう。そうか」

 

 この澄ました態度、見栄を張ってるわけではないよな。

 パートナーが他の男とエロいことをしていても気にならないっていうのは、俺にはわからない感覚だけど。

 

「そもそも、私のお相手は人妻さんも多いので、そういうのは気にならないんです。ノープロブレムですよ」

「なるほど」

 

 遥はそれでいいんだろうけど、既婚者の側からしたら未成年との淫行は犯罪なわけだし、問題はありまくりなんだけどな。

 

「で、由佳が戻ってくる前に、私から一つだけ。お兄さんに教えておきたいことがあります」

 

 遥は話を仕切り直して、ピンを人差し指を立てる。

 

「美優には私から聞いたって言わないでくださいね? これは個人的なプレゼントなので」

「わかった。絶対に言わない……と約束するのは、難しいけど。肝に銘じておく」 

 

 あの美優が相手じゃ嘘はつけないからな。

 ふとした会話の拍子にバレてしまうかもしれない。

 

「それくらいで構いません。いいですか、一度しか言いませんよ?」

「おう」

 

 遥はテーブルに身を乗り出して顔を近づけてくる。

 それに合わせて、俺もテーブルに腕をついて前のめりになった。

 

 真剣な眼差しで俺を見つめてくる遥。

 

 その表情が一転、ニッコリと朗らかなものになった。

 

「旅行中の美優は、笑顔がいっぱいで、とっても可愛かったです」

 

 それを聞いて、俺は、しばしの沈黙。

 

「そ、そうか」

 

 ただの惚気じゃねえか。

 

 くそう。

 由佳じゃないが、さすがの俺もそんな話を聞かされると悔しくなってくる。

 

「それだけ?」

「はい」

 

 遥はスッキリした顔で、背もたれに寄りかかった。

 

 それから由佳が戻ってきて、やはりというか卑猥な形状をしたオモチャと、なぜかビロンビロンに伸びたコンドームをセットにしてそれを遥に渡した。

 

「なんでゴムまで洗ってきたの」

「う、うんと、何かに使うかなって」

「使いません。なんのために被せるものだと思ってるの」

 

 遥は渋々とディルドと使用済みコンドームをポーチにしまった。

 

 なるほど。

 オモチャを共有するためにゴムを使っていたのか。

 美優が部屋にコンドームを常備させていた理由がようやくわかった。

 きっと俺の部屋の隣でも、今日みたいなやり取りが日常的に行われていたんだろうな。

 

 そうして、遥から謎ヒントを得た俺は、最後にやってきたパフェを女の子二人が食べ終わるのを見守り、会計を済ませて解散した。

 

 二人はこれからまた街中に繰り出すようで、俺は仕事だと嘘をついた手前、バス停に戻るのを見られないようにこっそりと帰路についた。

 

 そうして到着した玄関前。

 まだ太陽は高い位置にある。

 

 夏の暑さが最高潮に達する時間に家に帰れたのは幸いだったが、こんな早く家に戻ってきて「バイトの日を間違えた」なんて言ったら美優はどんな反応をするかな。

 

 呆れ顔で「バカじゃないの」と叱られるか、「そっか」だけで済まされるのか、どっちにしても淡白な対応になりそうだ。

 

 俺はそんな埒の明かない思考を脳内に垂れ流して、ドアノブを引っ張った。

 

「あれ」

 

 鍵が掛かっていた。

 俺が朝に家に寄ったときは、美優が起きていたこともあって鍵を閉めずに出てきたのに。

 

 鍵を掛け直したってことは、美優は出かけたのか。

 

 こんな暑い時間に、珍しいこともあるものだな、と、鍵を挿した瞬間に、なぜか俺の手は止まった。

 

 俺はさっき、由佳と遥の二人に会って、こうして家に戻ってきている。

 ならば少なくとも、美優が出かけているのだとしたら、その理由はその二人と遊ぶためではない。

 

 それこそ埒の明かない想像だったのだが、俺はふと思ってしまったのだ。

 

 旅行の直後だし、美優は鍵を掛け直して、自室で寝ているのでは? と。

 

 なので俺は、そっと鍵を開けて玄関に入った。

 

 家が涼しい。

 冷房が効いている。

 というか、汗に湿った体には寒いくらいだった。

 

 どうやらリビングのエアコンがつけっぱなしになっているようだ。

 

 しかし、リビングに美優の姿はない。

 

 俺としてはすぐに涼むことができてありがたい限りだったが、使いもしない部屋の冷房を美優が入れたままにするなんて珍しいな。

 

 しかも設定温度22度って、さすがに低すぎるだろ。

 何を考えてるんだ。

 

 ひとまず俺は冷蔵庫のお茶で喉を潤して、体の熱を落ち着かせる。

 

(美優のやつ、二階に居るのかな……?)

 

 浮かんできた疑問はそれだった。

 

 出かけるときにリビングの冷房を消し忘れただけだと、そう考えるのが最も自然。

 でもそう思わなかったのは、リビングも脱衣所も、ドアが開けっ放しになっていたからだった。

 それに加えて、夏場は止めない決まりになっている浴室の換気扇が止まっていて、美優がわざとこの状況を作ったとしか思えない。

 

 昨日今日と、俺も両親も家にいなかったのだから、エアコンも換気扇も操作できるのは美優しかいないんだ。

 そんな状況で、あの美優がここまで冷え切った部屋のエアコンを消し忘れることなんてあるだろうか。

 

 だいたい、玄関には靴が一足揃えてあった。

 見慣れない靴ではあったが、あれはきっと美優のものだ。

 だから、むしろ、美優は家にいる可能性の方が高い。

 

 こんなことを考えてなんの意味があるのかと問われれば、何も意味なんてないけど。

 

 俺の頭は嫌でも回ってしまった。

 

 原因は、昨晩美優が俺に掛けてきた電話。

 わざわざ俺を催促してまでスケジュールを聞いておきたかった訳はなんだったのか。

 そしてなぜ、家の鍵が掛け直されていたのか。

 それがまるで、俺を避けているみたいで。

 

 そんなワケのわからない不安感に煽られて、俺は忍び足で階段を上がる。

 

 遥たちと遊ぶために俺を締め出したのだとしたら納得できるが、あの二人は電車に乗ってどこかへ行ってしまったし、もはやその線もない。

 

 だとしたら──と、美優に失礼だと思いながらも、俺は胸騒ぎに駆られる。

 

 無関係だと信じたいが、こうして考えてみると、今朝のあの反応も怪しかった。

 階段まで出てきておきながら、姿は見せず、まずなにより俺のバイトの予定を聞くことを優先した。

 

 それは、つまり。

 

 ……っと、い、いけない。

 疑心暗鬼だ。

 

 それだけは考えちゃダメだ。

 まさか、まさかではあるが、俺が出かけているうちに、由佳でも遥でもない他の誰かを呼び込んで、いかがわしいことを──なんて。

 

 ありえない。

 もっと美優を信じるべきだ。

 大きな声で「ただいま」って言って、それで、何も返事がなければ、出かけたのだと判断すればいい。

 

 何を不安になっているんだ。

 馬鹿なのか俺は。

 

「──んっ……はぁ……はんっ……!」

 

 先上段の階段に足をついた、そのとき。

 

 俺の耳に嬌声が届いた。

 

 ドクン、と心臓が大きく跳ねて、息が苦しくなる。

 

 鋭くなった聴覚は、心の内で叫ぶ「聞くな」の声を無視して、その遠くから聞こえてくる音に集中した。

 

 だが、しかし、それだけだった。

 

 声は続かなかった。

 俺はまるで階段を駆け上がってきたみたいに息を乱して、深呼吸を繰り返す。

 

 俺は疑心暗鬼の末に幻聴を聞いてしまったのか。

 あるいは、俺が帰ってきたことに気づいて、美優が行為を止めたのか。

 

 まだ拍動は収まらない。

 

 気が抜けない。

 

 もう声は聞こえないのに、俺は固まったまま動けずにいた。

 

(ふぅ……。何やってんだ俺は。落ち着け、落ち着くんだ)

 

 これで美優が家にすらいなかったら、俺はただの阿呆だ。

 

 少なくとも、美優が男を連れ込むことなんてありえないが、遥以外の女を呼び込んでいるなんて、それも同じくらいない話。

 美優が遥と肉体的関係にある理由は、何かの恩義があるというただそれだけ。

 美優本人もレズであることを否定している。

 

 ……となれば、美優は、一人でするためだけに、これだけのことを?

 

 って、いやいやいや。

 もうやめよう。

 こんなことを考えて何になるんだ。

 

 美優は冷房を消し忘れて出かけただけだし、家にいたとしても寝ているか宿題をやっているかぐらいでしかない。

 

 さっきの嬌声はただの幻聴。

 

 俺の馬鹿な脳が作り出した存在しない声なんだ。

 

「よしっ」

 

 俺は何食わぬ顔を作って、階段を上がりきった。

 そして、自分の部屋に入るべく、ドアノブに手をかける。

 

 ガチャッ。

 

 と、隣の部屋のドアが開いたのが、それとほぼ同時だった。

 

「っ──!!」

 

 俺は爆発しそうな心臓をどうにか押さえつけて、ゆっくりと美優の部屋に視線を移した。

 

 そこにあったのは、美優の──いや、美優なのかすらわからないくらい、信じられない姿をした女の子の姿だった。

 

 首元に装着された、十字シルバーつきのチョーカー。

 ウエストをキツく締め上げるジャンパースカート。

 手首にフリルをあしらったシャツを着て、あのレースをヒラヒラさせた薄い生地のニーハイは、きっとガーターベルトだろう。

 唇は紅く、長い黒髪にはふわっとパーマが掛けられている。

 

 まるで絵本から飛び出してきたかのような、可憐な少女。

 その手には毛並みの良いテディベアが抱えられていた。

 

 そう。

 

 それは。

 

 完全な。

 

 完璧に作り込まれた。

 

 ゴリゴリのロリータファッションだった。

 

「み……ゆ……?」

 

 俺は絞り出した声で、どうにかその言葉を口にする。

 

 顔立ちからして、この女の子が美優であることは間違いなかった。

 

「お兄ちゃん。帰ってたんだ」

 

 美優は意外にも、普段どおりの反応だった。

 

「あ、ああ。ただいま」

 

 お互いに、特別なことを言うでもなく、俺は廊下を歩いてくる美優に道を譲る。

 ふんわりと甘い香水の付けられた美優の、その芳しい匂いが俺の鼻腔をくすぐった。

 

 その直後。

 

 俺の腹部に、内臓が破裂したかのような激痛が走った。

 

「がはっ──!!」

 

 その衝撃に引き伸ばされた意識の中で、俺は事の一部始終を脳内で整理していた。

 

 俺の鳩尾に、真っ直ぐに伸びた美優の右ストレートが見舞われている。

 それも、寸分違わずに俺のストマックを叩く、見事な一撃だった。

 俺の意識を数瞬切断するには十分なほど。

 

 美優は軽量で、かつ筋力は少ない。

 ならばあの一瞬で、このゼロ距離で、俺にこれほどの打撃を与えるのは不可能──と、思われた。

 

 だが、引き伸ばされた意識が、更に事細かく、視界の端で捉えていた映像を再生する。

 

 一見すると、ニュートラルな歩行から放たれたように思えるこのパンチ。

 だがその実、そこには十分な加速が存在していた。

 

 かぼちゃのように膨らむスカートに誤魔化されていたが、美優は俺の横を通った時点で腰を捻っていたのだ。

 紐で編み込まれたハイウエストが先に回転を始め、歩行の慣性でワンテンポ遅れたスカートが翻っている。

 この溜めを作った形こそが、美優の拳の発射地点。

 

 だとすれは、その打撃はゼロからの一撃ではない。

 少なくともスカートの中で、一歩踏み出す分に相当するだけのエネルギーが溜められていた。

 

 美優はその渾身の一撃を、完全に油断しきった俺の鳩尾に放ったのだった。

 

 俺は後頭部がドアにぶつかったことを最後に認識して、暫く昏睡していた。

 

 そして俺の体は、肩を揺らす刺激に気付けされる。

 まるで今までの出来事が夢だったのだと錯覚するような目覚めだった。

 

「痛ッ──!!」

 

 頭部と腹部から激しい痛みが突き抜けた。

 

 夢ではなかった。

 ダメージは確かにそこにあったのだ。

 

 そして、スイートなロリータ服に身を包んだ、美優の姿も。

 

「ご、ごめん。なんか、完璧に入っちゃった」

 

 美優は俺のお腹を擦って、申し訳なさそうに呻く。

 

「痛かったよね……。頭は、大丈夫? コブとかできてない? ほんとに、ゴメンね」

 

 俺を心配する美優の声は、やがて泣きそうな音色を含んで、俺の意識を覚醒させる。

 

「だ、大丈夫だから。死ぬほど痛いけど、そんなに騒ぐような怪我ではないから」

「ほんと? なら、いいんだけど……」

 

 俺の言葉を聞いて、美優はシュンと大人しくなった。

 

「あぅ……お、お詫びは、ちゃんとしますので。どうか許してください……」

「ああ、うん。ほんと、元気だから。美優の方こそ、大丈夫か?」

「大丈夫です。ごめんなさい」

 

 美優は何度も謝罪しながら、口を真一文に結んで、何かを堪えている。

 

「言いたいことがあるなら、教えてくれないかな」

 

 美優が我慢しているのは羞恥だけではない。

 いくら秘密を隠すためとはいえ、むやみに人を殴るようなやつじゃないんだ。

 俺を殴ったとき、そこには恥ずかしさとは別の、もっと衝動的な、殺意に近いものがあった。

 

「では、言わせていただきますが」

 

 美優のしょんぼりしていた顔が、俺を睨みつけながら強張っていく。

 

「い、いくらなんでも、妹の……オナ……ひ、一人でしてるのを、盗み聞きするのは、どうかと思うのですが」

 

 美優の頭頂に達した怒りは、爆発することなく、シュルシュルと空気のように抜けていった。

 

 その感情をなんともやりきれない表情に変えて、美優は目を伏せる。

 両手の人差し指を合わせて、いじらしくモジモジしていた。

 

「あー……えーっと……」

 

 あの声は、幻聴じゃなかったのか。

 

「俺は、バイト先の近くで、スケジュールのミスに気づいて……。帰ってきたの、ついさっきだから。美優が一人でしてたのは…………知らなかったんだけど」

 

 これはイジワルな答えだったかもしれないし、男として配慮に欠けていたかもしれない。

 だが、勘違いで美優を怒らせるのは、お互いのためにならない気がした。

 

「は……はわ……」

「あ、いや、でも、なんか静かに帰ってきちゃったのは事実だし! そこは俺が悪かったというか……!」

 

 長い睫毛が小刻みに震えて、美優の瞳が揺れ始める。

 

 と思ったのも束の間。

 

 美優は大粒の涙を流して、俺の膝に泣きついてきた。

 

「ごめんなざい……うぐっ……お、おぉ……本件は、誠心誠意お詫びいだじます……!」

「い、いいいいって! そんな無理するな! 美優はいつもそういう割り切りに細かすぎなんだって! こんなの俺が悪いに決まってるんだから、もっと怒っていいんだぞ? むしろ、その、記憶をなくすために階段から突き落とされても、俺は納得できるし!」

「うぐぅ……ヒクッ……ううっ……」

 

 俺が必死に励まそうとしても、美優は聞く耳を持ってくれない。

 

 本気で美優を泣かせてしまった。

 

 ああ、これはやばい。

 本格的に兄としての威厳が試されようとしている。

 

「聞いてくれ! 俺は、いいと思うぞ! そういうの、めちゃくちゃ好きだし、そういうのを着てエッチな気分になっちゃうのも、すっげーわかるから! なにより、美優はほんとにそういう服が似合ってるよ! ぜっっったいに似合うと思ってた! だから、その……オールオッケーだ!!」

 

 俺は美優の肩を掴んで、必死に語りかけた。

 美優は特に反応を示してくれなかったが、それでも声は届いたようで。

 

「ふぅ……うぅ……お兄ちゃんのばか……」

 

 少しずつ調子が戻っていく美優。

 いや、どういうのが正しい状態なのかはわからないが、自分への呵責に追い詰められているよりは、よっぽど健康的なはずだ。

 

「俺は馬鹿で変態の兄だからな。なんならその格好を見てだいぶ興奮してる」

「そういうのは別にいい」

「あ、はい」

「でもありがとう」

「おう」

 

 ちょっと気恥ずかしくなって、一拍の間が空く。

 

「とりあえず、部屋かリビングに行って、落ち着こう」

「うん」

 

 美優は床に転がっていたテディベアを拾って、ちょこんと立ち上がる。

 

 眩しいくらいにロリータファッションが似合う妹だが、さすがに絞られたウエストに強調された乳袋は凶悪だった。

 冗談ではなく興奮してしまう。

 

「もしかして、クローゼットの中って、そういう服でいっぱいだったりするのか?」

 

 美優が隠していたクローゼットの秘密。

 

 その質問に、美優はコクリと頷いて答える。

 

「す、すげーな! 見せてもらっても、いいか?」

 

 さすがに5年近くも守ってきた秘密なだけあってか、その問いには美優は素直に頷かない。

 

「それでほら、お詫び、ということで」

 

 美優は何かをやらかしたとき、貸し借りというものに異常にこだわる。

 だからむしろ、こちらから条件を提示して、きちんと清算してやったほうが、気が楽になるはずだ。

 本当は今までの恩義を考えればお詫びなんて必要はないのだが、これはあくまでも美優の価値観のお話なので、俺の本意などどうでもよいのである。

 

「うーん……。服なら別に見せてもいいんだけど」

 

 美優は意味深な発言をして考え込む。

 

「服だけだよ?」

「ああ。それでいいよ」

 

 服以外に俺の興味を惹くものなんてないだろうし。

 

 しかし、俺の予想はだいぶ当たってたんだな。

 こんなにふわふわであまあまのロリータファッションというのはびっくりしたが、コスプレに近いものに変わりはない。

 

 他にどんな服を持っているのか、楽しみだ。

 

 美優は自分の部屋のドアを開けて、俺もそれに続く。

 そして、美優が部屋に入ろうとしたその直前、美優は家中に音が響くほどの勢いでドアを閉めた。

 

「……見た?」

 

 美優が振り返って俺に尋ねてくる。

 

 あまりにも早すぎて何も見えなかった。

 

 と、言ってやりたいところだったが。

 

「あー……うん……」

 

 残念ながら俺には見えてしまっていた。

 美優の部屋に放置されていた、脱ぎたてのパンツ、全身鏡、そして、先ほどまで使用していたと思われる小型ローターが。

 

「パンツと、ちっちゃいオモチャが」

 

 嘘をついてあげたかった。

 いわゆる、優しい嘘というやつを。

 でも、俺にはそれだけの能力がなかった。

 

「それだけ?」

 

 と、美優は意外な質問を重ねてくる。

 ローター以外に、美優が見られて困りそうなものなんてなかった気がするけど。

 

「ほ、ほんとにそれだけだ。それ以外は、何も見てない」

「そう。ならいいけど。片付けしてくるから、ちょっと待ってて」

 

 美優はゆるふわなロングヘアを揺らしながら部屋へと入っていった。

 

 さっきの質問には何の意味があったんだろう。

 ローターを見られることは、美優にとってはどうでもよかったのか。

 そりゃ、オナニーしていたこと自体はバレているわけだし、実際のところ俺もそこまでの衝撃は受けなかったけど。

 

「どうぞ」

 

 10分ほど待たされて、俺は美優の部屋に入った。

 目の毒だったオモチャなどは撤去されていて、俺としても安心できる空間になっている。

 

 しかし、たしかに妙な感じはした。

 美優の言っていた、本当に見られたくなかったものが、どこかにあったような気がする。

 

 まあ、考えてもわからないし。

 それよりも優先すべきはクローゼットだ。

 開けたら絶縁するとまで言われていたその秘密をようやく拝むことができる。

 

 美優はクローゼットの扉に手を掛け、俺はその背後で息を呑んでいた。

 

「……やっぱりやめよう」

「えっ!?」

「うん。これはさすがにダメ。なんかもういいやって、投げやりに見せちゃうつもりだったけど、これを開けたら私の人生が死ぬ。そして死にたくなって死にます」

「えぇ……」

 

 ここまで来てまさかのお預けだと。

 もう秘密なんて全部バレてるようなものなんだし、今更隠すようなことでもないだろうに。

 

「お詫びってことでも、ダメなのか?」

 

 こんな脅すようなことはしたくないが、それでも、どうしても中が気になる。

 

 今着ているジャンパースカートの他に、どんなロリータ服を持っているのか。

 それを美優が着て、エッチな気分になっていたのか。

 知らずには終われない。

 

「お、お詫びは、します、けど」

 

 美優は俺に振り返って、歯切れ悪く答える。

 

 いつもより白い肌、長いまつ毛、フリフリの衣装。

 卒倒しそうなくらい可愛い。

 

「ほ、他のことなら、なんでも頑張るから……! ね? お兄ちゃん」

 

 美優は胸を押し付けるように距離を詰めてきて、上目遣いで懇願する。

 そこまでされると、さすがにクラッとくるな。

 

「他のお詫びなら、なんでもいいのか?」

「うん、いいよ。どうせ、エッチなこと、お願いするでしょ? お兄ちゃんのことなので、理解していますから、大丈夫です」

 

 美優はグイグイと身を寄せて迫ってくる。

 そこまでしてクローゼットは秘密にしたいのか。

 

「お兄ちゃんはきっと、舐めて欲しい、とか言うんだよね」

「ああ……まあ……」

 

 美優にフェラをしてもらえるなら、それはもう、心よりお願いしたい。

 

 しかし、こんな流れだし、普段は無理かもなってお願いも、してみたくなる。

 

「じゃあ、舐めて欲しいっていうより……」

 

 それが、クローゼットの秘密を守る代わりというのなら。

 

「俺が、美優の……アソコを、舐めるとか……」

 

 俺はそう、ちょっぴり高すぎる望みを、口にした。

 

 それに対して、美優は、顔を青ざめさせて、身を引いて。

 

「い、嫌!! 絶対にイヤッ!!」

 

 ものすごい勢いで拒否してきた。

 まるでゴキブリにでも遭遇したかのような嫌悪を露わにして。

 

 なんでもするとはなんだったのだろう。

 

「そんなに嫌か?」

「い、イヤです。死んでもお断りします」

「そこまで言わなくても……」

 

 美優ってするのには抵抗がないくせに、されるとなると過敏に拒絶反応を示すんだよな。

 それはそれで、お詫びとしての価値が上がるわけだけど。

 

「お、お願いだから、他のにしてください……。ほら、ふ……ふぇ……フェラ、とかなら、なんとか、頑張れるし。お兄ちゃん、ずっとしてもらいたがってたでしょ?」

「それはそうなんだが……。美優だって、遥には、させたりしてるんだろ? そんなに舐められるのが嫌なのか?」

 

 遥とのエッチがどんなものかは知らないが、美優の体の開発され具合からして、美優が攻め一方ということはないだろう。

 

「遥はいいの。あれはビジネスだし。何より、あの子は特別だから」

「特別? なにかあるのか?」

「むっ。見ればわかるでしょうが」

 

 俺の返答に、美優の声に不機嫌な音色が混じる。

 

「遥はね。すっごく可愛いの」

 

 おお、それは大いに納得だ。

 

「あの子が可愛い服を着ると、もう世界が変わるっていうか。とにかく、憧れる気が起きなくなるぐらい、完璧で。なにより、胸のあたりに無駄な贅肉がないし」

 

 美優は恨めしそうに自分の豊乳に視線を落とす。

 

 俺は美優のおっぱいの方が断然好きだけどな。

 

「というわけで、遥はパーフェクトな天使なの。この服を貸してくれるビジネスパートナーでもあるし」

「そういう関係だったのか……」

 

 遥のやってるモデルって、ロリータファッション専門の高級被写体だったのか。

 

 そして、美優はあくまでもビジネスとして遥と関係を持ち、小遣いでは買えないような服を手に入れてると。

 

 それって、つまり。

 

「美優はその服を借りるために、遥に体を差し出していると……?」

「平たく言えばそうなります」

 

 ダメだよ、美優。

 そこは平たく言っちゃ。

 

 女子中学生同士で売春をしてるなんて、そんなの認めちゃダメじゃないか。

 

「マジなの」

「うん。まあ。一ヶ月レンタルで、エッチ三回とか。そんな感じ」

「おふ……」

 

 もういい。

 この話題はここまでにしよう。

 

 あれだけ美優がこだわっていた可愛い服への執着が、どこへ行ったのかずっと疑問だったけど。

 それは墓に入るまで、知らないほうがよかったみたいだな。

 

「よ、要するにだ。クローゼットには、そういう、ロリータ系の服が大量に詰まってるってことだろ? すでにこうして、着てるのを見ちゃってるわけだし。そんなに隠さなくてもいいんじゃないか?」

「だから言ったでしょ。服ならいいって」

 

 美優は複雑な表情でそう答えた。

 

 たしかに、美優は服なら見ても構わないと、そう言った。

 だとしたら、クローゼットに隠しておきたかった秘密は、別にあるということか。

 

「……そんなに気になるの」

 

 美優は弱々しく俺に尋ねる。

 

「かなり気になる」

 

 こればかりは嘘はつけない。

 ここまで隠されたら、しばらくは頭を離れなさそうだ。

 

「んー。なら、お兄ちゃんはここに立ってて」

 

 美優は俺をクローゼットの前まで誘導した。

 それも、扉を開けたらぶつかりそうなくらいの前位置だ。

 

「動かないでね」

 

 美優は俺に忠告して、あれだけ嫌がっていたクローゼットをひょいと開けてしまった。

 

「おぉっ……」

 

 実に壮観だった。

 明らかに格安店で買ったパチモノではないことがわかる質感のロリータ服が、ズラリと並んでいる。

 モデルをやっている遥から回してもらった都合なのか、メイドっぽい服や、小悪魔的な羽根の生えた服など、コンセプト物の衣装が多くあった。

 

「す、すっげぇ……」

 

 クローゼットにかけられたロリータ服、その数およそ20。

 これだけで小規模なショップを開けるんじゃないか。

 

 どれもクオリティが高い。

 一つ一つ、こだわって作られている物ではあるけれど。

 

 やっぱり、一番目を引くのは、アレだ。

 

「このゴシックドレス、かなり可愛いな……ってか、その奥のやつ、結婚式でもやるのかってぐらいの作り込みしてるし。こんなの、いくらするんだよ……」

 

 黒基調で重ねられた幾何文様の透けるレース。

 控えめなパニエを合わせた上でモリモリに膨らんだスカート。

 襟はネクタイで締められて、頭に付けるものであろう黒バラモチーフの花がリボンと一緒に垂れ下がっている。

 

 文句なく上等なゴスロリ服だ。

 

「これは私が作ったものだけど……」

 

 美優は気恥ずかしそうに、しかしどこか誇らしげにもしながらそう口にした。

 

「嘘!? いやいや、こんなの一人で作れるクオリティじゃないだろ」

「それはまあ、デザインだけ考えて、基礎は業者にお願いしたけど。飾りとか付けたのは、私だし……」

「その技術で金を稼げば身を売る必要はないんじゃないか……」

 

 外で働くのはまだしも、内職とか、遥の事務所の手伝いとか、そういうのでお金を貰うこともできたはずだ。

 

「そういうお金は私服とか普段の生活に使ってるから。それに、遥には服以外も恵んでもらってるし」

 

 そういや旅行の準備も全部遥がやってるんだっけか。

 正確には、遥と、それを援助してくれるお姉様だけど。

 

「はい。もう終わり。満足したでしょ」

「ああ、そうだな」

 

 びっくりはしたけど、そこまで躍起になって隠さなきゃいけない秘密だったのかな。

 やはり、本命は服ではなく別にあるのだろうか。

 

 美優はクローゼットを閉めて、ひとつ息を抜く。

 美優としてもこのやり取りは無難に終わった結果らしい。

 

「もう一つのクローゼットは私服が入ってるんだよな?」

「そうだよ。別にこっちは見ても問題ないけど」

 

 クローゼットは左右でセパレートされている。

 手前側の空間には、見慣れたアウターやスカートが掛かっていて、その下にはインナーを収納しているのであろうプラスチックのボックスがある。

 

 その端っこに、ひとつだけ。

 腕に抱えられるくらいの大きさの木箱が、その空間に溶け込めずに目立っていた。

 

「その木箱は何なんだ?」

「ん? ああ、これか。お兄ちゃん覚えてるかな」

 

 美優はその木箱を取り出して、中身を見せてくれた。

 

 両手に広げられたのは、一着の子供服。

 向日葵のように明るい色に染まった、ドレスワンピースだった。

 

「あっ……それ、美優の小学校の入学祝い!」

 

 美優の暴君時代に、俺が誕生日を返上して母親に頼んだやつだ。

 まだ残ってたんだな。

 

「色が好きだから、加工して何かに使おうと思ってたんだけど。なかなか踏ん切りがつかなくて」

 

 もう十年になるのに、服の状態は良かった。

 虫にも喰われてないようだし、何度かキレイにしてくれてたのかな。

 

「思えばあの頃は、今みたいな可愛い服を毎日着てたのにな。なんか、気付かないうちに着なくなったよな」

「学校の先生に着るなって言われたから。ママもそうさせますって言ったし」

「小学三年生の、あのときか?」

「よく覚えてるね」

 

 そうか。

 こんだけ派手な服を着て目立って、学校の先生に注意されてたのに、よりにもよって男子生徒複数人をボコったわけだからな。

 何人もの大人に圧力を掛けられたりなんかしたら、10歳にも満たない子供が耐えられるはずがない。

 

「私のクローゼットの中身はこんな感じだよ。満足した?」

「欲を言えば他の服を着てる美優も見たい」

「むぅ……。い、いつか、ね」

 

 美優は満更でもない顔でそう言って、私服に着替えるからと俺を部屋から締め出した。

 

 俺はニヤケ顔を隠しきれないままに、自室の冷房を付けて、部屋が冷えるまでリビングで待機することに。

 

 今でもああいう服、好きだったんだな。

 なんだかホッとした。

 あの格好で一人エッチをしてたのにはびっくりしたけど、それでも、可愛い物好きの美優を見ていると、心がほっこりする。

 

 俺はソファーで横になって、さすがにスーツで寝るのはマズイかと体を起こそうとすると、再び腹部から激痛が走った。

 まだダメージは回復しきっていないらしい。

 思いっきり殴られたからな。

 

 あの美優が、あそこまで取り乱すなんて珍しいよな。

 大好きな服を着てテンションが上がってたんだろうか。

 きっとそうに違いない。

 

 俺はそんなことを考えて、一人でニヤニヤしながら、さすがに部屋が寒すぎるのでエアコンのリモコンを探した。

 

 そういや美優のやつ、どうしてここまで部屋を冷やしてたんだ。

 あの服ってそんなに暑いのかな。

 

 さっき二階で美優と鉢合わせしたときは、ロリータ姿のままのだったわけだし、リビングに降りてくる用があったんだろうけど。

 でも、私服に着替えるって言ってたし、別に温度を上げても怒られないよな。

 

「あれ?」

 

 いつもの場所にリモコンがない。

 美優のやつ、今日に限っては本当にらしくないな。

 雑に放置しておくと普段は美優の方が怒るのに。

 

 キッチンなどを探し回って、結局見つかったのは、ソファーの傍に設置された雑誌の収納棚だった。

 

 灯台下暗しだな、なんて思いながらリモコンを手にすると、ソファーの陰に隠れていた四角い箱が目に入る。

 中指の第一関節分くらいの厚みをした、平べったい直方体。

 

 その中に入っていたのは、一冊のアルバムだった。

 

 表紙にも背表紙にも、タイトルが存在しない。

 全体にツタの模様が描かれた白いアルバム。

 唯一、右下に年月日だけが書いてある。

 

 その日付が示すのは、今年の8月2日。

 つまるところ、美優が遥と旅行をしていた日である。

 

 中身がとても気になる。

 

 だが開けることは出来なかった。

 このアルバムの中身を覗いてしまったら、美優を悲しませてしまう気がする。

 

 そんな迷いが俺の頭を巡っていると、バンッ! と二階で大きな音がした。

 聞く限り、また美優が思い切りドアを閉めたようだ。

 

 そして、ドスン、ドスン、と階段を踏み飛ばしていることがわかるくらいに激しく床を鳴らして、美優がリビングへと駆け込んできた。

 

「お兄ちゃん──ッ!!」

 

 美優はすぐさま、ソファーに座る俺にダイブして、アルバムをその腹に抱え込んだ。

 

 Tシャツ一枚にパンツ丸見えの妹にタックルされ、ただでさえ損傷していた腹部に悪魔の追撃が重ねられる。

 

「うぐっ……み……みゆ……!」

「ああっ、ご、ごめん! ごめんなさい!」

 

 美優からはまた謝罪の嵐だった。

 事情は汲み取ってやりたいが、さすがにこれはお詫び案件にしても良い気がする。

 

「あの……み、見た?」

 

 美優が怯えた顔で訊いてくる。

 

「見てないよ。箱からは出したけど、開いてない。誓って言う」

 

 美優にはどうせ嘘はつけない。

 逆に言えば、真実を語れば美優にはわかる。

 無論、動揺している美優が適切に俺の心を読めるとは限らないが。

 

「ほんと……?」

 

 美優はジッと俺の目を見つめてくる。

 瞳の動きの細部までを探るように。

 

「本当に見てない。中身は気になったけど、見たら美優に嫌な思いをさせると思ったから、見なかった」

 

 俺も美優の目を見つめ続けた。

 真っ直ぐに、この事実がきちんと伝わるように。

 

「ふぅ……そっかぁ……」

 

 美優は脱力して、ふにゃんと俺の体に倒れかかった。

 

「うぅ……良かった……ありがとうお兄ちゃん……」

 

 俺のお腹に頭を擦りつけて、繰り返されていた謝罪は、いつしか感謝に変わった。

 

 正直なことを言うと、頭頂部が肋に当たるたびに痛むのだが、こんなに愛らしい妹を引き剥がすなんてできなかった。

 

 美優はしばらく俺の腰に抱きついて、そして、大きく深呼吸をすると、アルバムを抱えて元気に立ち上がる。

 その表情は明るかった。

 

「本当にありがとうね、お兄ちゃん」

「いえいえ」

 

 美優の暴走で俺も疲れたけど、そもそも俺がバイトの日を間違えなければこんなことは起こらなかったんだ。

 だから、美優に対して一方的に責任を押し付けることなんてできない。

 

「誤解を生むといけないから、あえて聞いておくんだが。その中身って、旅行中に撮った写真だったりするのか? 遥と、今日みたいな格好して」

 

 アルバムの中身は、俺でも予測できてしまうものだった。

 

 表紙に刻まれた日付に、遥と共有していたクローゼットの秘密。

 そして、美優がロリータファッションを楽しんでいた事実。

 

 こんな証拠を揃えられたら、誰だって考える。

 

 美優が遥と旅行していた『主目的』とやらは、撮影会だったんじゃないかと。

 

 それが正解だったとしたら、たとえ俺の推測が当たっただけだったとしても、美優は俺がアルバムの中身を見ていたのではないかと疑いを持ってしまう。

 だからこの場で、俺が中身を知らないと美優が確信しているうちに、あえての質問をする必要があった。

 

「なんのこと?」

 

 美優は素知らぬ顔をして足を止める。

 

「え、だから、そのアルバム……」

「アルバムなんて無いよ」

 

 食い気味に放たれた美優の言葉。

 

 その大判のアルバムを腕で抱えて、なおも美優は主張する。

 

「お兄ちゃん」

 

 語気を強めて、美優は口を開いた。

 

「リビングにアルバムは無かった。いいね?」

「あっ……はい」

 

 どうやら言及してはいけないことだったらしい。

 

 俺と美優とのやりとりはそこまでで、美優はパンツまでしか履いていなかった脚を寒そうに震わせながら、二階へと戻っていった。

 

「はぁ……」

 

 俺は改めてソファーに横になる。

 もうスーツにシワがつくとかはどうでもいい。

 

 美優が隠したかったのは、あのアルバムの方だったのか。

 おそらくだが、あのロリータ服が大量に詰め込まれていたクローゼットの足元に、今まで撮影してきた写真がアルバムの形で残されているのだろう。

 美優はそれを見せたくなくて、俺にギリギリまでクローゼットに近寄るように指示したんだ。

 

 それにしたって、あんなに取り乱して隠すほどのものかな。

 本人じゃなきゃその恥ずかしさはわからないんだろうけど、コスプレぐらい俺に見せてくれてもいいのに。

 俺がオタク趣味なのは美優もわかってるわけだから、頭から否定されるなんて思わないはずだ。

 

 見たかったな、あのアルバム。

 きっと可愛い服を着た美優が、眩しいくらいの笑顔で映っているんだろう。

 だから遥もあんなヒントを俺に告げたんだ。

 

 それこそ昔の美優みたいに。

 明るいままの、少女として等身大の美優がそこにいるんだ。

 

 まあ、今ではイケナイことも覚えてしまったようだけどな。

 あんな甘々な服を着て、淫らな行為に耽る。

 俺が背徳感に昂ぶるような興奮を、美優も感じているのだろうか。

 

 遥とのエッチも、ああいう服を着たまましてるのかな。

 なくはない、っていうか、絶対にしてるよな。

 

 旅行の目的は、撮影半分、エッチ半分。

 それが故の、『表面上』という表現。

 

 あるいは、その両方?

 

 だとしたら、あのアルバムの本当の中身は……。

 

「はっ──!?」

 

 違う。

 

 違った。

 

 何もかもが勘違いだった。

 

 ロリータ服を着てのエッチ。

 それを撮影してのアルバム。

 あの美優があれだけ取り乱しさえした、「知られた」と思い込んだ部屋の中での行為。

 

 パンツとローターとひとセットにされていた、全身鏡。

 

 美優がクローゼットに秘密にしていたのは、服でもアルバムでもない。

 

 美優が、本当に、隠したかったのは──

 

 



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大切なお話をしてもいいですか

 

 美優は自分の姿を見てオナニーをしている。

 

 そんな馬鹿みたいな結論に至ってしまったこの頭は、否定すればするほどに思考を加速させていた。

 

 おそらくは美優の人生で最大の事故であったであろう、クローゼットの秘密がバレたあの日。

 最初に目撃した美優の部屋の様子からするに、美優は鏡の前でパンツを脱ぎ、ローターを使ってオナニーをするその自分を見ながらオナニーをしていたのだ。

 

 美優が隠したがったアルバムの中にあるのは、遥とエロいことをしている最中の写真。

 それを見て楽しんでいる事実を知られたくなかったが故に、美優はアルバムの存在をなかったことにした。

 

 電子画像ではなく写真で所持していた理由は、きっと美優がロリータファッションを楽しんでいたのと同じだ。

 もちろん、最初に遥が用意したのがアルバムの形だったからというのもあるだろうが、わざわざリビングにアルバムを持ち込んで楽しんでいたことと、わざわざ写真にして楽しんでいたことは、同じ気持ちから生まれた行動なのだと思う。

 

「はぁー……」

 

 こんなことを考えて何になるのか、わからなくても考えてしまう。

 結局は美優の秘密への好奇心は薄まっていないのだ。

 俺がこうして考えを巡らせるほどに、美優には嫌な思いをさせるというのに。

 

(いけない、集中しないと)

 

 俺は机に置かれたテキストに意識を移動した。

 

 来年受験を控えている俺たち高校生の宿題は問題集ばかりだ。

 昨日から始めた宿題の消化作業は、想定していた倍以上の速度で進んでいた。

 

 美優にあれこれ世話を焼いてもらってからというもの、勉強への苦手意識がなくなっていた。

 とりわけ山本さんとエッチをするようになってからは頭の冴えが著しかった。

 

 まさか、童貞を卒業したから頭が良くなったのか?

 俺たちオタクの間じゃ信じられないことだけど。

 なにせ賢者の道から足を踏み外すことになるわけだし、セックスをするのはむしろ力を失う行為とされている。

 

 なんて、久しぶりにオタクらしくアホなことを考えてみたが、どうにも思考に関する何らかのモヤモヤが取り除かれたのは事実のようだった。

 それこそ、俺だって来年は受験生なわけだし、自分で参考書でも探して勉強を進めておこうかな、なんて信じられないことを思ってしまうほどに。

 

 俺は机にかじりついて、短くない時間が経って。

 スマホの通知音に邪魔をされて、すでに二時間も宿題に没頭していたことに気づく。

 

『オフ会の日、決まったぞ』

 

 鈴原からのメッセージだった。

 

 ここまで「お前だけは離すまい」としつこく誘われ続けていたオフ会は、どうやら四日後に開催されるらしい。

 当日の予定は、カラオケに籠もってお喋りとゲームを楽しんだ後、夕食を食べて解散というものだった。

 最高年齢20歳のオフ会だったらそんなもんだろうなと、俺は『了解』の返事を飛ばし、休憩のためにリビングに降りた。

 

 夕食も間近ということもあり、リビングには冷房がついていた。

 冷蔵庫の前に美優が立っていて、何やら考え込んでいる。

 

「どうしたんだ」

 

 俺が声をかけると、美優は数秒の間を開けて俺の存在に気づいた。

 

「食材の余りが偏るから、どうしようかなって」

 

 美優が気にしていたのは、野菜の処理に毎度悩まされるのをどうにかしたいというものだった。

 野菜は必要以上の個数が袋でまとめ売りされていて、これが欲しいという分量ちょうどを調達することが難しい。

 それに加えて、この夏場に何度もスーパーに行くのは億劫なため「なんとなく必要になりそう」という食材を無駄に買い込んでしまうことも多々あり、それらを上手く消化するために料理当番は先のことまで考えて料理を作らなければならないのだ。

 

「いっそ献立表でも作って、それに必要な食材だけ買ってくるか?」

「それいいかもね。献立表はどうやって作ろっか」

 

 美優は冷蔵庫を開けて中をぼーっと眺める。

 パーマをかけた髪がまだ巻き感を残していて、物憂げな目に伸びる長いまつ毛が、美優を色っぽく大人びさせている。

 

「美優は今年受験だろ? 勉強大変だろうし、料理当番はしばらく俺がやってもいいけど」

「うーん。申し出はありがたいけど、前期で東高に行くつもりだし、受験勉強はしないかな」

「マジでうちに来るのか……」

 

 偏差値の高い高校に入れば良い大学に行けるってわけじゃないけど。

 多少はこだわりがあってもいい気がするんだがな。

 

 美優は開けた冷蔵庫を、特に何をいじるわけでもなく閉じる。

 食材の再確認でもしてたんだろうか。

 

「移動で無駄な時間がかかるの嫌だもん。私立はお金が掛かるし拘束時間も長いし」

「にしたって東高でいいのか」

「お兄ちゃんが暇そうにしているのに憧れて入学を決めました」

「面接でそんなこと言ったら即選考外だぞ」

 

 美優の成績ならそれでも歓迎される可能性はあるけど。

 

「西高に行くにしても詰め込みで勉強する必要はないから。献立表は良いアイディアだし、二人で決めよっか」

 

 美優はとぼとぼと居間に歩いて、コピー機にセットされていたA4用紙を手に取った。

 そして、ペンを片手に、ソファー側のテーブルの前で正座をする。

 

 なんとなく、美優が大人しい気がする。

 昔からこんな感じだったっけ。

 最近はクールなときとエモーショナルなときが半々くらいだったから、本来の美優がわからなくなってきた。

 

 二人で献立を考えた後は俺の部屋に移動して、パソコンで必要な食材を整理した。

 美優がジッと俺の作業を凝視してくるから緊張したけど、どうにか手間取らずにまとめられた。

 

「パソコンって便利だね。私も買おうかな」

「いいんじゃないか。今の時代、パソコンを使った経験があったほうが何かと便利だろ。タイピングもできるに越したことはないし」

「それもあるけど。私もゲームしてみたい」

「マジでか!」

 

 興奮のあまりに椅子から飛び上がってしまった。

 いかん落ち着け。

 

「そんなにゲームにハマってたのか。やるっていうなら、店と物は紹介してやれるけど」

「いいの? じゃあお願いしようかな」

「貯金はいくらぐらいあるんだ?」

「そんなにないよ。50万くらい」

 

 50万円がそんなにない額って。

 それは家の外では言っちゃいけないセリフだからな。

 

「そしたら後で予算とやりたいことを教えてくれ。スペックは考えておく」

「ありがと」

 

 美優は平坦に返事をして部屋を出ていった。

 

 美優らしいと言えば美優らしいのだが、兄としてはもうちょっと喜んでくれてもよかったんじゃないかなと儚い期待をしてしまった。

 

 俺はデータを印刷機に飛ばして献立表を作成し、それを冷蔵庫に張り付けた。

 料理のときに何を作るか迷わなくなっていい感じだ。

 

 美優は無言でフライパンを取り出してコンロに置く。

 黙っているというより、気が抜けている感じだが、あんな調子で怪我をしないだろうか。

 

「ナスを炒めるんだろ。切って浸けとくか?」

「ううん。自分でやるからいいよ。ありがとうね」

 

 美優は包丁を持って手際よく食材を捌いていく。

 さすがに体に染み付いた動きは忘れないようだ。

 

 俺はソファーに座って、料理の音だけが響く部屋の空気を堪能する。

 よくよく考えてみれば、美優と喋るようになる前は、ずっとこんな距離感だったんだよな。

 俺が美優でしか抜けなくなって、彼女を作ろうって話が出てからの期間が特殊だっただけなんだ。

 

 濃密に過ぎていったこの二ヶ月半。

 ああしていつもクールにしている美優の、色んなことを知ることができた。

 ときおり感情的になる美優が、まだ明るかった幼少の頃に戻ったみたいで。

 

 楽しい時間だったな。

 美優としては、どうだったんだろう。

 

 俺は美優に何度も助けられて、迷惑を掛けて、怒られて。

 俺はそうやって少しずつまともになってきて、女の子と良好な関係になるという絶対にありえないと思っていたことまでできるようになった。

 ただのコミュ障でキモオタだった俺が、美優のおかげで一人の男になれたんだ。

 

 そんな俺のことを、美優はどう思っていたのかな。

 ミステリアスな言動ばかりで理解はしきれないけど、美優も楽しんでくれていた部分はあったように感じる。

 

 具体的にどの部分がと考えてみると難しいのだが。

 それこそ、三日前に秘密がバレたときの、あのドタバタ騒動。

 殴られたり、泣かれたり、ものすごく嫌な顔をされたり。

 色々あったけど、あのときの美優の方が活き活きしていた気がする。

 

 美優の感情を垣間見ることができたから、というのとは違うんだ。

 同じようにクールなときでも、夏休み前の美優には人らしい生命感があった。

 

 やはり俺が秘密を知ってしまったのが原因なのか。

 美優がロリータコスをして、しかも一人でエッチをしていると俺が知ってしまったからには、落ち着いて趣味に没頭することもできない。

 これまでどうやってあの服を楽しんでいたのかは知らないが、俺がいたら衣装を合わせるのにも気苦労するよな。

 

 なら、俺がいない日を美優に教えてあげるのはどうだろうか。

 もし予定より早く帰ることになった時は、事前に連絡を入れることにする。

 これなら美優も気兼ねなく趣味を楽しめるんじゃないか。

 

 そうともなれば、まずはカレンダーの共有だ。

 俺はペンを持ってキッチン横に移動し、そこに掛けられたカレンダーに今後の予定を書いた。

 主にはバイトとオフ会しかないけど。

 

 こうやって眺めてみると寂しいスケジュールだな。

 去年まではゲームをやっていれば日が過ぎたから気にしなかったけど、実質的に今年が高校最後の夏休みになるわけだし、俺もどこかに出掛けてみようかな。

 

 鈴原や高波なら暇してるだろう。

 高波は部活があるけど、鈴原は最近はアクティブだし、断らないはず。

 

 もしくは、山本さんとか?

 付き合ってくれそうではあるけど、気まずいよな。

 学校で会う分には仲良くできそうだし、山本さんなら友達と男女との関係を割り切って遊んでくれそうではある。

 しかし、美優を選ぶと言った手前、二人で出かけようとは言い出しにくい。

 かと言って別の人を呼んで三人で遊ぶというのは気が進まない。

 

 だとしたら、美優をデートに誘ってみる、とか。

 美優も夏休みの後半は家にいることが多いし、予定は合うはずだ。

 経験的に、やんわり軽いデートをお願いすれば、断われることは無いと思うけど。

 

 せっかく俺が家からいなくなるのに、外出に付き合わせたら可哀想だろうか。

 

「なあにそれ?」

 

 いつの間にか背後まで来ていた美優に、俺は驚きのあまり身を強張らせた。

 

 驚いたのは、声にでは無い。

 美優が俺の腰を掴んで、ピッタリと体をくっつけてきたのだ。

 

「えっ……と……俺が出かける日を書いておけば、美優も過ごしやすいかなって」

 

 カレンダーにはおよその外出時間が書いてある。

 スケジュールアプリに同じものを入力して、俺がそれに従うように習慣付ければ、美優も安心できるはずだ。

 

「ふーん」

 

 美優は俺の腕の横からカレンダーを凝視する。

 それから、ムスっとした不満顔をこちらに向けてきた。

 

「つまりこの時間に一人でエッチをしなさいということですか」

 

 意表を突いた美優の言葉に、俺の頭が一気に混乱する。

 

「い、いや! そういうわけじゃなくて! まあそりゃ、たしかにそういう意味になるといえばなるけど、それはなんというか……!」

 

 そうか、美優にとってはそういう認識になるのか。

 考え足らずだった。

 

「ここのバイトの日とかさ」

 

 美優は指が軽く反るくらいにカレンダーを押す。

 そして、俺のTシャツの中に手を入れて、お腹を撫で回してきた。

 

「お兄ちゃんは、今頃私が家でエッチなことしてるんだろうなぁとか考えながらお仕事するわけですね」

「っ……だから……それは……!」

 

 美優の趣味はロリータ服を愛でること。

 さらには、自分でそれを着て、エッチをすること。

 

 俺が美優の趣味の一部分、つまり可愛い服を愛でていることまでしか知らなかったとしても、この状況は変わらなかった。

 それが嫌で、美優は自分の趣味に関しては徹底的に情報を隠したんだ。

 遥から俺を遠ざけたのも、要はそういうことなんだよな。

 

「ふん」

 

 美優は俺から離れてソファーに移動した。

 俺は慌てて美優を追いかけて、近すぎも遠すぎもしない位置に並んで腰をかける。

 

「ごめんな、悪気はなかったんだ。別に美優にロリコスして欲しいとか、エッチなことをしてて欲しいとか、そういう意図はなくて。その、なんというか……」

 

 この考えをどうまとめればいいだろう。

 言いたいことはわかってるのに、誤解なく美優に伝える方法がわからない。

 

 それから俺は、言葉に詰まって。

 

 まごついているところに、クスッと鼻で息を抜くような音が聞こえた。

 

「冗談だよ」

 

 俺は呆気にとられて美優の方を見る。

 そこには冷たさのない、女の子らしい温度を持った顔があった。

 

「私が大人しくしてるから、気を遣ってくれたんでしょ」

 

 美優は微妙な距離のあった俺との間を詰めてきて、ピトッと横に密着してくる。

 

「ありがと、お兄ちゃん」

 

 えも言われぬむず痒さに、俺は思わず唇をギュッと結んだ。

 

 さきほどまでの冷淡さが嘘だったかのような声色の良さ。

 それとも、今ので美優を元気づけられたのかな。

 

「俺が美優の趣味を知ってることはさ、やっぱり美優には負担になってるのかな。俺としては全力で応援したいんだけど」

 

 できるならこの記憶を消してやりたいが、それは現実的ではない。

 ならいっそのこと、俺も美優の趣味を手伝う道もありなのではないか。

 

 そんな提案に対し、美優はまたからかうような笑みを俺に向ける。

 

「お兄ちゃんが見たいだけじゃないの?」

 

 そう言われると、なんとも返答に困る。

 

「見たいのは、間違いないけど」

 

 美優は可愛い服を着ている自分が好きで、昔の性格を考えれば、そんな自分を見られるのも好きなはずだ。

 そこに趣味を続けてもらうための妥協案があるはず。

 なにせ小さい頃は、美優は可愛い服を作るたびに俺に見せびらかしてきたし。

 俺は見惚れるばかりで何も言ってやれなかったんだけど。

 

「……ねぇ、お兄ちゃん」

 

 美優が俺の腕にしがみ付いてくる。

 リビングには家庭用の広い空間があって、そんな中で不要に密着されてしまうと、変な妄想をしてしまうのだが。

 

 美優はこんなに積極的になって。

 

 俺に、いったい何を……。

 

「ご飯冷めちゃう」

「えっ、あ、ああ! ご飯だな! 冷めたらもったいない。すぐに食べよう」

 

 俺は慌ててシンク横に並べてあったお皿をテーブルに移動させた。

 料理してた美優がキッチンから離れたんだから、ご飯を作り終えたなんてすぐにわかることなのに。

 今夜はナスと肉の炒め物だし、そもそも時間のかかる料理じゃなかった。

 

「いただきます」

 

 美優と卓を挟んでの食事。

 もう10年近く続いてきた当たり前の光景。

 

 いつまで当たり前でいられるんだろうか。

 俺が美優の秘密を知ってしまったからには、どうあってもこれからの付き合い方は変わっていく。

 

 それでも、こうして二人でいる時間だけは、失いたくない。

 

「それで、さっきの話だけど……」

 

 失わないために努力する権利が、俺にもあると信じて。

 

「俺が邪魔にならない方法はないかな?」

 

 三日前の事故について、整理をつけておきたい。

 

「その話に関して、まずお兄ちゃんに言っておきたいことがあるんだけど」

 

 向かいの美優が箸を止めて、俺の顔を見る。

 

「人間の思考がいつも感情と同じベクトルとは限らないわけですよ」

 

 いつ以来かの美優の小難しい講釈だった。

 思考と感情の向きが違うっていうのは、たとえばダイエット中だからご飯を食べたくないけど食欲はあるみたいなものかな。

 

 美優はロリータ姿を見られたとき、衝動的に俺を拒絶した。

 でも、気持ちの上では、そうでも無かったということか。

 

 ダメだ。

 さっぱりわからん。

 

「そもそも俺は、邪魔ではなかった……とか?」

 

 発言の意味は不明だが、流れ的にそういうことだよな。

 美優もうんうんと頷いてくれている。

 

「お兄ちゃんを邪魔だと思ったことは無いよ。でも、見られるのが嫌じゃないかと聞かれると、嫌じゃないこともないわけで」

 

 そういう考え方なら、美優のこれまでの天邪鬼な態度とも一致する、気がする。

 

 いや全然わからないけど。

 

「だから、お兄ちゃんが私の趣味を認めてくれたことは、素直に嬉しいよ? ありがとうって、心の中でいっぱい言ってる。でも、それでもね? 恥ずかしさとか、こっそりしてたい気持ちはなくならないわけですよ」

 

 ふむふむ。

 なるほど。

 

「どうあっても邪魔になってる気が……」

 

 俺に見られるのが恥ずかしくて、俺に知られずこっそりしていたかったのなら、要はその俺がいなければ済むだけの話だろ。

 そうすれば何不自由なく趣味を続けられたのに。

 

「そのうちわかるよ」

 

 美優は優しい声でそれだけ言って、またご飯を黙々と食べ進めていく。

 今の俺にはまだ理解できないということか。

 

 なんにしても、邪魔になっていないのなら喜ばしいことだ。

 それだと元気がなかった理由がつかないけど。

 そんなものはもうどうでもいい。

 

「美優の機嫌を悪くしてないなら、俺は構わないよ」

「機嫌は良好ですよ。心配かけてごめんね」

 

 美優との会話が一区切りして、改めて眺める食卓の雰囲気は和やかだった。

 美優の元気が無さそうに見えたのは、俺の気持ちの問題だったのかな。

 

 時間の大半が静寂になるような言葉数だけど、居心地は悪くない。

 こうして緊張せずに美優と居られるなんて、2ヶ月前に比べたら大した進歩だ。

 元が低すぎたというのもあるけど、他人は他人。

 俺にとってはまともな男への成長が実感できる貴重な証拠なんだ。

 

「食器は俺が洗っておこうか。献立表はできたけど、買い出しのタイミングも決めないといけないし。美優はそっちを考えておいてくれるか? 俺の予定はカレンダーに書いた通りだから、それを元に候補を出してくれればいいよ」

「そう? なら、洗い物はお願いしようかな」

 

 二人ともご飯を食べ終わって、ごちそうさまをして、俺は食器をシンクに運んでスポンジに水と洗剤を溶かす。

 

 俺が個人的に思う一番の変化は、相手のための提案をできるようになったことだ。

 一般レベルのコミュニケーション能力を持つ人には馬鹿にされるかもしれないが、俺のように一度コミュ障になってしまうと、気を利かせて何かをすることすら億劫になってしまうのだ。

 

 頭の中では「こうしておこう」とか「これを教えてあげようと」とか考えてはいる。

 だから、決してコミュ障は、気遣いができないわけではない。

 ただ単に、こんな自分が人のために行動するなんて、また「下心があるのか」と勘ぐられたり「お前にやられなくても」と拒絶されたりしそうで、怖くて行動できなくなるだけだ。

 

 最近では、その恐怖感が全く無くなった。

 美優に外見を良くしてもらったおかげか、山本さんに内面を褒めてもらったおかげか、あるいはその両方か。

 所詮はいつもやっている家事の延長だけど、俺にはどうせ飛び抜けた能力は無いわけだし、こうした日々の細かいところで恩返しをしていけたらと思う。

 

 なんて考え事に耽っていると、背後から柔らかいものがぶつかる感触があった。

 

「み、美優? なにやってんだ……?」

 

 カレンダーを眺めていたときよりも密着した状態だった。

 美優が俺の背中にぴったりと張り付いて、顔を埋めるようにして抱きしめてきている。

 

「んー。ちょっとした確認」

 

 美優はまたわけのわからないことを言って、俺の背後で深呼吸を繰り返す。

 これは何のための行動で、俺はどうして美優に抱きつかれてるのか、わからないがもうなんかとても気分が良いのでどうでもいい。

 

 俺が食器を洗い終わった後も、美優は確認とやらを続けていた。

 匂いを嗅いでいるのかな。

 俺は動かない方がいいだろうか。

 

「お兄ちゃんはさ」

 

 美優は埋めていた顔を離して、代わりに俺を抱きしめる力を強くしてきた。

 

「どうして奏さんと付き合わなかったの」

 

 あまりにも予想外の質問だった。

 

 たしかに、山本さんとは悪くない雰囲気だったし、最後は俺を男として認めてくれていたような発言もあった。

 にもかかわらず、俺は山本さんともっと繋がっていようとは考えなかった。

 

 この質問、どう答えるべきかな。

 ひとことで言えば、美優が好きだからではある。

 とはいえ相手は血の繋がった実の妹なわけだし、一人の女として愛していると言えるだけの覚悟もまだ無い。

 あんまり真面目に考えてこなかったけど、俺が美優を選ぶってそういうことだよな。

 

「どうしてって聞かれると、正直なところ俺にもわからない。山本さんとはいい感じだったし、人としては間違いなく好きなんだけど。単に付き合おうって考えが浮かばなかったんだよ」

 

 俺にとっても疑問だった。

 あれだけ魅力的な女性と一週間もエッチをして、なぜ情が沸かなかったのか。

 だからその答えは、別に選ぶべき人がいたからだと、俺は思うわけで。

 それは要するに、美優が好きだからってことに他ならないんじゃないかな。

 

「甲斐性がないのかね」

 

 この状況でしれっと暴言を吐くんじゃないよ。

 

「まともな恋愛経験が無くて悪かったな」

 

 佐知子も美優にくっつけてもらっただけだったし。

 その前は、中学のときに告白されて、俺が付き合っていたと思っていた女子から酷いことをされたぐらいのもの。

 青春なんて全く似合わない人生だった。

 

「むー。不正解ですよお兄ちゃん。そんな返事、ゲームならもう二度とエッチできなくなっちゃうよ」

「えっなにそれ」

「ほらほら。もっとちゃんと妹を見てください」

 

 どういうことでしょうか。

 

「お兄ちゃんはこの状況に何の疑問も抱かないの?」

 

 美優は俺のお腹に回した腕を強く締め上げてくる。

 

 いやぁ大いに疑問は抱いているけど。

 それこそ思考放棄するくらいにわけがわかりません。

 

「えーっと……だから、まあ、なんだ」

 

 これがゲームだとしたら、ってことは、つまり。

 そういう、ことなのか。

 

「山本さんと付き合わなかったのは、たぶん、美優を選んだからで。それはまあ、要するに、美優のことが、好きだったからではないでしょうか」

 

 口にしてみると、どうにももどかしいものだ。

 

「はあ、そうですか」

 

 くっそう。

 なんだその反応は。

 こっちは持てる勇気を振り絞って答えたんだぞ。

 

「正解は?」

「お兄ちゃんの甲斐性なしが治れば何でも正解です」

「それはどうも。確認したかったのもそれなのか」

「違うけど。終わったからもういいよ」

 

 美優は俺から離れて二階へと上がっていった。

 

 こうやって振り回される感覚、なんだか久しぶりだな。

 秘密を知ったら美優のことが少しはわかるようになるかと思ったけど、何を考えているのかまだまだ見当もつかない。

 

 俺は食器を水切り棚に置いて、さて次は風呂でも入れようかとキッチンを出ようとすると、カレンダーにいつの間にか書かれていた星の印が目についた。

 その横には名前が添えられている。

 この日が買い出しってことか。

 

 俺には書けない形の整った星のマーク。

 その丸みや傾きに、どこか美優らしい可愛らしさを感じる。

 

 ああ、思い出してきた。

 山本さんとの一週間と、クローゼットのことがあって、心の奥にしまわれていたもの。

 美優のことを愛おしいと思うこの気持ちは、たしかにここにあるんだ。

 

「だから美優を選んだんだな」

 

 俺は自分に独り言を言って、それから風呂を作って、アプリで暇つぶしをして、湯船に浸かることにした。

 

「はぁー」

 

 身も心もリラックスしている。

 美優のことで抱えていた不安がなくなって、心が開放された。

 俺は美優に邪魔だと思われていないし、美優の機嫌も悪くない。

 むしろキッチンでのベタベタを考えると、美優にとって俺は好印象な部類なんじゃないか。

 

 また一緒にお風呂に入ってくれないかな。

 今日だって、もし誘っていたら入ってくれたのかもしれない。

 

 美優の裸がまた見たい。

 あのおっぱいを生で。

 できれば、エッチなことも……。

 

 っと、いけないいけない。

 下半身が疼いてきた。

 思えば美優のことを心配するあまりにオナニーまで忘れていたからな。

 そろそろガス抜きしないと、ダメな兄に戻ってしまう。

 

 俺が風呂から上がって美優に声をかけると、美優が入れ替わりで風呂に入った。

 

 ここから数十分は誰にも邪魔されずにオナニーができる。

 美優が戻ってくるまでに済ませてしまおう。

 今日を含めてもう四日も出してないし、そろそろ限界だ。

 

 パジャマを着る前にオナニーを開始する。

 ギンギンにイキり立ったモノが熱い。

 一人きりで射精するのは本当に久しぶりだ。

 

 そういえば、美優とエッチをするようになってからかなり精液が増えたんだよな。

 四日も溜めてからの射精をティッシュで上手く受け止められるだろうか。

 

 ティッシュに出すのなんて、それこそ2ヶ月ぶりくらいだっけ。

 どんだけ贅沢なエロ生活をしてたんだ俺は。

 

 しかし、そうか、そんなに出るのか。

 美優の口に出したら、たくさん飲ませてあげられるな。

 

 以前に焦らしプレイをされたときは、結局は由佳とのセックスで出してしまった。

 だからこんなに溜まった精液を飲ませるのは、きっと初めてになる。

 美優とするのも久しぶりだし、きっとドロドロの精液が口いっぱいになるまで出るんだろう。

 それを美優は、どんな顔で飲むのか。

 

「って! アホ! 何考えてんだ俺は!!」

 

 つい数日前に良いお兄ちゃんになるんだって決めたばかりだろ。

 それをこんな、性欲が溜まったからってすぐ無かったことにするなんて。

 

 男として、それだけは認められない。

 約束は守らないと。

 自分との、約束ぐらいは。

 

 せっかくまともな男になったんだ。

 これ以上、美優を失望させられない。

 

 恩返しだってしなきゃいけないのに。

 目下の問題は美優の趣味をどう続けさせてあげるかだ。

 美優のことに関しては、それ以外を考えるべきじゃない。

 

 美優が心置きなくロリコスを楽しめて、その姿のまま思う存分にオナニーができるような環境を作る。

 それが俺の使命。

 

 これだけ聞くと、なんだか美優の方が変態っぽく感じてしまうけど。

 人の趣味なんて色々あって然るべきだし、ましてや俺に変だなんて思う権利なんてない。

 なにせ俺は、妹に彼女を作ってもらって、童貞を卒業させてもらって、その前にも後にも目の前でオナニーをするとか妹の友人をレイプするとか、もう一生自分を真人間だと誇れないことまでしているんだ。

 

 男として多少まともになったぐらいで、あの気が利いて頭も良くてなにより超可愛い美優を変態だなんて言う権利は、俺には無いんだ。

 

(……しかし、なんだろう)

 

 現状だけを見れば、兄である俺が妹の変態行為を手伝っているようにしか思えないんじゃないか。

 

 だって、事実、そうだろう。

 美優にはロリータ服を着てオナニーをする趣味があって、しかも俺の見立てでは、美優はそんな行為に耽っている自分をオカズにしている。

 俺はそのオナニーをさせてあげるためにあれやこれやと考えて、自分の分は自分で処理……。

 

 ああいや、これからする俺のオナニーは妹をオカズにするものだ。

 決して普通なんかではない。

 

 でもなんでこんなに美優の特異性が目立つんだろう。

 ギャップの問題なのか?

 いや、そもそも美優が精液を飲んでるのも、友人をレイプさせたのも、お風呂でのあれこれも、全て美優から始めたことだろ。

 ってことは、よくよく考えてみれば、最初から異常だったのは美優の方なんじゃないか。

 

 それが、俺がまともになってきたから、美優だけが……。

 

「ああ、そうか! そういうことか!!」

 

 俺はまともになんかなっちゃいけなかったんだ。

 

 俺が美優とのエッチを望まなくなったら、美優だけに変態性を押し付けることになる。

 それこそ酷い扱いじゃないか。

 恩返しなんてのとは真逆の道だ。

 

 だから美優も最近は元気がなかったんだ。

 俺がまともになってきてエッチもスキンシップもしなくなったから、美優はその環境の変化に戸惑っていたに違いない。

 

 そうかそういうことだったのか。

 だったらこんなところでオナニーなんてしてる場合じゃない。

 なにより、俺は美優とエッチなことがしたいんだ。

 

 しかし、だが、いざこうしてプラトニックな関係になってしまうと、今度は唐突なエッチのお願いに美優が困惑しないだろうか。

 それこそ俺が同情してエッチを持ちかけているようだし、美優ならその機微を感じ取ってしまうだろう。

 実態はエッチがしたいだけなんだが、この思考の流れを、美優が全く感知しないはずがない。

 

 何か手があるはずだ。

 考えろ、今の俺ならいける。

 このところ頭は冴えまくってるんだ。

 ここで使えなきゃなんのための脳みそだ。

 

「お兄ちゃん? なんか叫んでた?」

 

 ドア越しに美優の声が聞こえてきた。

 どうやらもう風呂は上がってしまったらしい。

 

「あれは、あれだ。スマホを落としそうになって、ついな。うるさくして悪い」

 

 美優が戻ってきた。

 ドア越しだったけど、美優の声って意識して聞くとめちゃくちゃエロいよな。

 俺はあの声に何度も命令されて射精してきたんだ。

 この体が美優なしでは達せなくなってしまった理由もよくわかる。

 

「……さて、行くか」

 

 美優が歯を磨いてしまったら、もう精液は飲んでもらえない。

 こんな勃起状態で翌朝まで我慢なんて御免だ。

 

 着替えが終わったであろうこの瞬間。

 お風呂前に今日のタスクは終了しているはずだし、さて風呂上がりの一息をつこうと部屋でリラックスをしている、このタイミングがベスト。

 

 流れはもう考えてある。

 美優に絶対に精液を飲んでもらうための必勝法を思いついた。

 いや、思い出したと言うべきか。

 

 そうだ。

 まだ“アレ”を使っていないのだから、この一回に限り必ずそれは成功する。

 

 美優にフェラをしてもらうという、俺のかねてよりの望みは。

 

「美優、ちょっといいか」

 

 俺は美優の部屋のドアをノックして返事を伺う。

 

「どうしたの?」

 

 美優は自分の体分くらいまでドアを開けて俺を迎えた。

 

 予想通りパジャマ姿でゆったりな雰囲気。

 風呂上がりだとパーマのクセが強まってちょっぴり別人みたいだ。

 最初に俺と一緒に寝たときと同じパジャマを着ていて、重たい生地が下乳から沿うように凹んでいい感じに乳袋が作られている。

 

「なんと言うかだな。ほら、まだお詫びをしてもらってないなって」

 

 三日前に美優が俺を思い切り殴って昏睡させたことについて、誠心誠意お詫びをすると誓ってもらったはずだが、クローゼットの流れでうやむやになっていた。

 

 美優は俺の言葉を聞くと、その意味を理解して、ほんのり頬を赤らめる。

 

 そして、何も言わずにドアをパタンと閉めた。

 

「お、おーい。美優」

 

 ちょっと予想外の反応だったが、まさかこのまま無かったことにはすまい。

 そんな俺の見立ては正しかったようで、しばらくドアの前で待っていると、美優がまたドアを開けてくれた。

 

 とても嫌そうな顔をしている。

 

 そして、俺の膨らんだ股間を一瞥してからの、睨みつけ。

 

 この一連の流れに、安堵さえしている自分がいた。

 

「入って」

 

 美優は仏頂面で俺を部屋に招き入れた。

 どうやらお詫びをしなければという使命感はあるらしい。

 

 風呂上がりなのでベッドに腰掛けることを許してもらえた。

 美優はその俺の前に正座している。

 

「なんだかさっきまでの二時間を台無しにされた感じがするのですが」

 

 美優の言うことは否定する余地がないほど尤もだった。

 二時間どころか、この三日間で美優の中でも積み上げられていたであろう『まともな兄』としての像を、俺はこの一瞬で粉々にしたのだ。

 

「俺にも色々と思うところはあったんだが。さすがに四日分も溜まるとな」

 

 美優と兄妹らしくイチャイチャするのは幸せだった。

 だが、俺と美優のあるべき関係は、そうじゃないんだ。

 美優とエッチしてこそ、俺と美優は兄妹でいられるというか、なんかもうめちゃくちゃだけどそういう感じなんだ。

 

 とにかく、エッチがしたい。 

 

「聞かずともわかることですけど。お兄ちゃんの精液を私が出して、それを飲めばお詫びになるという認識でよいですね」

 

 美優はえらく事務的な対応だった。

 落差を考えればそうもなるか。

 

「そうだな。美優とはもう十日もしてないし。そろそろ美優としたくて」

 

 山本さんには一週間かけて何度も射精をさせてもらったけど、それでも美優に出してもらいたい欲求が抑えられるわけではない。

 

 美優とのエッチだけは特別なんだ。

 他の人で代わりにはならない。

 

「ずっと奏さんとしてればよかったのに」

 

 美優はぶつくさと言いながら俺のズボンに手を掛けた。

 どうやら脱がしてくれるようなので、俺は美優に合わせて腰を浮かせる。

 パンツまで一気に下ろされて、そこから反り立った肉棒が飛び出した。

 

「なんか、久しぶりに見ると、本当に気持ち悪い形してるよね」

 

 美優は俺の肉棒をツンツンと突いた。

 そして、鈴口に触れた指先から糸を引いて、美優が顔に嫌悪感を滲ませる。

 

「すっごい精液のニオイがするんだけど……」

 

 風呂上がりにもかかわらず、美優とのエッチを目前にした俺のペニスからは、すでに射精を終えた直後のような雄臭が漂っていた。

 

「悪い。これは、俺としても想定外で」

 

 風呂上がりなら美優も咥えやすいと思ったけど、これじゃあ陰毛に染み込んだ石鹸の匂いも逆効果かな。

 

「はあ、もう」

 

 美優は俺の肉棒を軽く握って、シゴくでもなく上下させる。

 触るのにはもう抵抗がなくなったんだな。

 美優の肌の温度を感じるだけで、かなりの快感がある。

 

「ここまであえて聞かずにいたのですが」

 

 美優は手を止めず、俯いたまま目も合わせない。

 

「もしかして、お詫びというのは、まさかとは思うのですが、その、お口ですることを期待されているのでしょうか」

 

 まさかもなにも、フェラ以外に考えてなかったんだが。

 

「フェラならいいって、言わなかったっけ……?」

「あれはアルバムの存在が知られていなかったからクローゼットを開ける代替案を出しただけで。今となってはフェラまでする意味はないのですが」

 

 なるほど、たしかにその通りだ。

 秘密が知れてしまったからには、美優がそこまで体を犠牲にする必要はない。

 

 だが、それでも、フェラはかねてよりの俺の望みだった。

 だからなんとしてでも口でしてもらいたい。

 そして、その美優の口内に、四日分溜め込んだこの精液を思い切り射精したい。

 

「できないなら無理しなくてもいいよ。殴られたのは俺にも落ち度があったからだと思うし。お詫びとは言っても美優の気持ち次第だから、そこは任せるよ」

 

 こんなことを言っておいてエロいことをしてもらいたい気持ち満々だが。

 あとは美優の責任感の強さに賭けるしかない。

 

「いやあ、まあ、言ったからにはしますけど。お兄ちゃん、さっき四日分も溜まってるって言ったよね」

「言ったな」

「うちに帰ってきてから、一度も一人でしてないの?」

「してない。だから、出るときは結構な量になっちゃうと思うけど」

「ううっ……それはとても……困るのですが……」

 

 美優は俺の肉棒を両手の指で掴んでモジモジする。

 たしかに、今では普通に射精をしても、昔に比べたら考えられないぐらいの量がドロドロと出るけど。

 それが四日分になったからって、何が問題になるというのか。

 

 美優は精液も飲めるし、胸も舐められるし、夢精したときには股の付け根のところまで精液を舐め取ってくれた。

 最初からそのあたりも含めて全部ダメって子なら、フェラができないのも当然だとは思うけど。

 

「美優がフェラをそこまで嫌がる理由って、何かあるのか?」

 

 これまでしてきたエッチだってフェラをするのとそう変わりないものだった。

 どうして美優はフェラだけを特別に嫌がるのか、その訳が知りたい。

 

「だっておしっこ出るところだし。見た目もグロいし。手でするのならまだ医療行為って思い込めるけど、フェラはどう考えても性欲でするものでしょ」

 

 気持ちはわかる。

 言いたいこともわかる。

 しかしなんというか、詭弁だよな。

 

 まさか精液を飲むのも医療行為の一環なんだろうか。

 そんな病院があるなら入院してみたい。

 

「何よりお兄ちゃんのだし。お兄ちゃんこそ妹にフェラさせて何も思わないの?」

「それは……」

 

 思わないわけじゃない。

 実の妹にペニスを咥えさせるという背徳感に、興奮を覚えているのは間違いないんだ。

 でも、大事なのはそこじゃなくて。

 

「妹だからっていうより、美優だからしてもらいたいんだよ」

 

 もしも俺の妹が、美優ほど魅力の無い子だったら。

 あるいは魅力はあっても美優とは全然違うタイプだったら。

 俺はここまで強くフェラをしてもらいたいとは思わなかっただろう。

 

「それがたまたま妹だっただけというか。相手が妹って、そんなに重要かな」

「重要に決まっています。どこの世界に兄のモノを咥える妹がいるんですか」

 

 ゲームの世界ではたくさん見てきました、なんて言ったら美優は怒るかな。

 

「そしたら、今回は兄に無理やりさせられたってことで」

「ぜひそうさせていただきます」

 

 美優はこのやり取りで意を決してくれたようだ。

 

「じゃあ、します」

 

 美優は何度も深呼吸を繰り返して、俺のペニスに顔を近づけていく。

 

 亀頭の近くで、口が開いて、美優の息が敏感な部位に吹きかけられる。

 その吐息の蒸気だけで、軽くイってしまいそうだった。

 

 美優は舌を出したり、引っ込めたり、先に唇を近づけたり、どうやってフェラを始めればいいのか迷っている。

 定められた目標点は、やはり肉棒の先端。

 美優は両手で丁寧に根元を掴んで、鈴口から垂れる先走り汁をしかめ面で見つめている。

 

 そうして近づいた口は、まるで嫌いな野菜を食べようとする子供のように開閉して、ためらいながらも、その瑞々しい肉の感触が、確かに俺の亀頭の神経を刺激した。

 

「うっ……あっ……!」

 

 ついに、あれだけ拒まれていた美優の口が、俺のペニスに触れた。

 美優は鈴口へのキスから始めたフェラを、カリ首が包み込まれるまで咥えこんで、そこで動きを止める。

 

「んちゅ……んっ……」

 

 美優の舌がカリ裏を撫でて、爆発的に増していく射精欲に、睾丸が煮えたぎってくる。

 俺のペニスの一部が美優の唇に隠されて見えなくなっているこの光景が、最高に興奮する。

 

「んんー……! ちゅぶっ……はぁ……」

 

 しかし、まだ亀頭までしか咥えてもらっていないうちに、美優は口を離してしまった。

 

「うっ……」

 

 美優は両手で口を押さえて苦い顔をする。

 美優としても、本当に俺のモノを咥えてしまったという事実はショッキングなのだろう。

 

「うぅー」

 

 しかし、その落ち込みっぷりは俺の予想以上のもので。

 

「ああああぁぁ……」

 

 美優は俺の膝に倒れ込んできて、そのまま動かなくなった。

 

「お、おい。美優、大丈夫か」

 

 ずっとフェラを嫌がってきた美優だったけど、まさかここまでとは。

 色々考えた末にお願いしたこととはいえ、もうちょっと段階を踏んでからしてもらうべきだっただろうか。

 

 それから、美優が俺の膝に倒れたままため息を繰り返して、俺はその頭をなんとなく撫でて。

 数分したところで、美優がムクッと体を起こした。

 

「やっぱりこうなるのか……」

 

 美優は意味深な発言をして、口を一文字に結ぶ。

 

「できそうか?」

「たぶん」

 

 美優は曖昧な返事をして、また俺の肉棒を掴む。

 しかし、それから俺のペニスを咥えるまでにもう躊躇いはなくなっていた。

 

「ああっ……美優っ……!」

 

 美優が俺のペニスを舐めている。

 口に入るギリギリまでを咥えこんで、舌で裏筋を刺激している。

 

「ん……んくっ……ちゅぶっ……ふ……んっ……」

 

 美優は頭を動かすよりも舐めることを優先していた。

 上目で俺と目を合わせたり逸したりして、恥ずかしがる顔がまた愛らしい。

 

 ついに美優がフェラをしてくれたんだ。

 無表情ではなく羞恥や悔しさが表情に出ているからこそ、美優は想像していたよりもずっと美味しそうに俺のペニスを咥えてくれているように見えて。もっと舐めさせてあげたい気持ちが湧いてくるのに、それを追い越すほどの速さで射精欲が迫ってくる。

 

「うあっ……はぁ……美優……すごい気持ちいい……! やばい、出、出そう……!」

 

 溜め込んでいた精液を、美優が咥えたままの口に吐き出したい。

 美優に初めてフェラをしてもらったこの時を思い出に残すように。

 この一回で、ありったけの精液を美優の口にぶちまけたい。

 

「んっ……! ちゅぱっ……はぁ……お兄ちゃん、ごめん」

 

 しかし、美優はそんなタイミングで口を離してしまった。

 慣れないフェラが息苦しかったのか、美優も息切れが酷かった。

 

「はぁ……はぁ……うぅぅ……やっぱり……ちょっとダメかも……」

「み、美優。ごめんな、でも、もうすぐだから。あと少ししてくれたら出すから」

 

 このまま射精せずに終わりなんて絶対にしたくない。

 たとえ美優が動けなくても、せめて口の中に出すくらいは。

 

「うん……。我慢、しないでね?」

「しない。すぐ出すから」

「わかった」

 

 美優は息を整えてから、再び俺の肉棒を咥える。

 小柄な美優の体のパーツが、俺を全体的に大きく見せて、小さい子にエロいことをさせてる感じもまたたまらなく興奮する。

 

「んくっ……ちゅぶっ……んん……。んー……ちゅぱっ……ちゅっ……ちゅっ……」

 

 美優の動きは控えめで、その不慣れな感じも俺の性欲を煽ってくる。

 さすがに佐知子に指導していた知識だけはあって、唾液の含み方や刺激するポイントはきちんと押さえてくれていた。

 そうした想像上の技術を使って一生懸命にペニスを咥える美優が愛おしい。

 

「美優……ほんといい……! もう、出る……!」

 

 俺の肉棒がピクピクと反応して、射精の発射の準備が整った。

 

 その、直後のこと。

 

「ぷはっ……うぅ……! はぁ……はぁ……うぅぅ……ごめん……」

「み、美優……。いいけど、あんまり寸止めされると、出るときが……」

「わかってるけど……」

 

 美優としてもすんなり出してしまったほうが楽なはずなのに。

 何度もフェラを中断して、キュロットパンツをギュッと押さえ込んで、美優は苦しそうというよりもどかしそうに体を縮こまらせていた。

 

「美優? どう、したんだ……?」

 

 美優の火照りと息切れが普通ではない。

 いくらなんでもフェラをしているだけでこんな風にはならないはずだ。

 

 美優は俺の問いには答えず、呼吸が落ち着いてからもフェラを再開しないで体をクネクネさせている。

 こうしてるときの美優は、無理やり聞き出さない方がいいのを俺は経験的にわかっていて。

 

 しばらく待っていると、美優が俺の服をちょんちょんと引っ張ってきた。

 どうやら「お話があります」の合図らしい。

 

 俺が身を屈めて、顔を近づける。

 

 すると美優が頬を紅潮させながら、耳打ちをしてきた。

 

「イッちゃいそう」

 

 言われた直後は、俺はその意味がわからなくて。

 

 考えてみると、とんでもないことを言われたことに気づいた。

 

「それは、その。フェラを、してて。美優が、イキそう……ってことか?」

 

 俺がそう尋ねると、美優は顔を伏せたまま、わずかにわかるくらいに顔を縦に振った。

 

 まさか、そんなことがあるのだろうか。

 フェラをしているだけで、女の子がイッてしまうなんて。

 美優も一緒にオナニーをしているならまだしも、その手で自分の秘部を刺激しているような様子はないし。

 いやそもそも、自分の意思でイキそうになってるなら、それを止めればいいだけ。

 寸止めをするほど射精の勢いが増してしまうことを知っていながら、それでも美優がフェラを続けられないのは、自分ではどうにもならないってことだよな。

 

「そんなに、興奮するのか……?」

 

 俺のペニスを咥えているという、その事実だけに性的興奮が高まって、美優は達してしまいそうになっている。

 そうでなければ、美優がフェラを中断する意味はないわけだが。

 

「……うん」

 

 まさかの肯定の返事だった。

 

「だから、あの。ちゃんと受け止められなくて、溢しちゃう」

 

 俺の射精と同時に美優がイッたら、その衝撃に耐えられなくて美優は精液を吐き出してしまう。

 そんな状態の美優、ぜひとも見てみたいが、美優としてはベッドや服が汚れる可能性があるわけだし、なによりそんな姿は見られたくないよな。

 

「どうしたらいいかな」

 

 最も優しい選択肢は、フェラを中断すること。

 でも、これだけは無い。

 

 もう終わりにしようと切り出すのは、美優のエッチそのものを否定することになる。

 今後一切のエッチをやめるならまだしも、これからの性生活にもうフェラは要らないなんて、そんなことを言っていいはずがない。

 

「ちょっと、手を使っても、いいかな」

 

 そうして美優から提示された妥協案。

 これに乗るのが、美優との関係性を良好に保つためのベストな選択。

 

「いいよ。ありがとう」

「ごめんね。次は頑張るから」

 

 美優ははむっと亀頭にだけ口を被せて、竿は手を使って刺激してくれた。

 

「はぁ……美優……いい……!」

 

 基本的な刺激は手によるものだけ。

 しかし、口に含んでいる亀頭の方も、きちんと舌を使って舐めてくれている。

 口を動かすと美優の性感が刺激されてしまうらしく、顔は動かしてもらえないし、俺が動いて口に入れることもできない。

 

 でも。

 

「ふっ……ちゅっ……ちゅぷっ……」

 

 美優が俺のペニスを咥えて射精を待ってくれている、その事実が俺にとっては何よりも重要だった。

 

「あああっ……もう、出る……! 口に出すから、全部、飲んで……!」

「ん……んっ……!」

 

 どびゅっ、びゅーっ、びゅっ、どぴゅっ、びゅるるっ、どくん、どびゅっ、びゅっ──!!

 

 俺のペニスから美優の口の中に直接精液が飛び出して、射精のたびにビクビクと膨らむ竿が美優の唇を押し広げていた。

 いままでと違って精液が出る瞬間は見えなかったが、美優の口の中で今まさに俺の精液が放出されているのかと思うと、その事実が興奮材料になって、射精している最中にもかかわらず再び射精欲が高まっていく。

 

 俺は射精が終わってから、その数秒後にまたすぐ美優の口に射精をした。

 

「んんんっ……んんー……!!」

 

 美優はもうやめてと言いたげな顔をして、それでもどうにか口から漏れないように、精液を飲み込みながら射精を受け止めてくれている。

 その恍惚とした表情、喉の動き一つ一つに、俺の性本能が刺激されて。

 

「美優……ごめん……まだ……出る……ッ!」

 

 溜め込んだ精液が完全に空になるまで、俺は延々と射精をし続けた。

 

「うっ……うぅ……」

 

 さすがの美優も泣きそうな顔になって、その表情に俺は最後の精液を絞り出して、射精はようやく収まった。

 いったい何十秒、射精を続けていたんだろう。

 

「がはっ、げふっ! はぁ、はぁ、けほっ、ふぅ……!」

 

 美優が喉を擦って苦しそうな顔をする。

 量もそうだったが、尿道を通った感じからして濃さも相当だったからな。

 精液がずっと引っかかったままなのかもしれない。

 

「出しすぎ……もう……」

「ごめん、気持ちよすぎて、つい」

「こんなに溜め込んで。どれだけ飲ませたがりなんですか」

 

 美優はスクッと立ち上がって、足早にドアへと歩いていった。

 

「お茶飲んでくる」

「そ、そうか。ゆっくりしててくれ。ありがとうな」

「どういたしまして」

 

 美優はツンとした顔で部屋を出ていく。

 

 さすがにあれだけ出したら怒るよな。

 いくら四日分が溜まっていたとはいえ、美優も一度にあれだけ出されるとは思っていなかっただろうし。

 

 しかし、そうか。

 俺はついに美優にフェラをしてもらったんだな。

 美優の口に出すのは、想像していたより遥かに気持ちよかった。

 

「ふぅ……それにしても……」

 

 フェラしてる最中にイキそうになったって、あれは事実なんだろうか。

 フェラをすると興奮するっていうのは本人も認めていたし、嘘ではないんだろうけど。

 

 だとしたら、美優はまだ性欲が昂ぶったままなんだよな。

 前に一緒に寝たときのことを思えば、美優だって気持ちよくして欲しいはず。

 だったらここで俺が満足していたらダメだ。

 

 美優はイかなくても平気とは言っているけど、あのもどかしそうにしていた感じは、それこそベッドで美優が悶々としていたときと同じだった。

 美優は自分からして欲しいとは言い出せないし、だったら多少強引にでも俺がしてあげないと。

 

 俺は美優を追いかけて階段を下りた。

 もしかしたら俺の考えなんて全部勘違いで、美優は俺に触って欲しくなんかないかもしれないけど、でもそんなものを恐れていたら一生美優を気持ちよくしてあげられない。

 

 怒られるくらいなんてことはないんだ。

 お仕置きをされるならそれも甘んじて受け入れる。

 そもそも、俺と美優の力関係は美優の方が上なわけだし、あれだけ歯に衣着せぬ物言いできる美優が本気で嫌なことを俺に許すはずがない。

 

 美優はキッチンに立ってお茶を飲んでいた。

 俺の姿を認めるなり「お兄ちゃんもいる?」という言葉の代わりにグラスを上げてくれたが、俺は首を横に振って美優に近づいていく。

 

「さっきは、ありがとうな」

「いえいえ。お兄ちゃんの妹の責務なので」

 

 美優はカウンター形状になっているキッチンからリビングを見つめて、遠回しに俺の性欲を非難してくる。

 この毒気の多さも、今では可愛いと感じる美優の一部だ。

 

「美優はいつも全部飲んでくれるから嬉しいよ」

 

 俺はそれとなく美優の背後に回って、そっと体を密着させてみる。

 

「前にも増して不味くなった気がするのですが。まさか今より濃くなるとかもう無いよね?」

 

 美優はぶつくさと言いながら、俺が腰に添えた手に自分の手を重ねてくる。

 

 美優は俺のスキンシップを拒まなかった。

 後ろから軽く抱きしめてみるが、それでも美優は嫌がる素振りを見せない。

 

「あと少しくらいは、量も濃さも増えるかもしれない」

「うぐっ……もうこれ以上は本当に困るんだけど……」

 

 美優は俺を責めるように指で俺の手の甲をぐりぐりしてくる。

 

「出されると興奮するからか」

 

 これまでも美優とエッチなことをしてきて、疑問だったことがある。

 俺とエッチをするときはいつも、美優の秘部がぐちょぐちょに濡れているのだ。

 

 エッチ自体は俺から頼むことが多かったし、美優もその先を求めることはなかったから、単に濡れやすい体質なのだと思っていたけれど。

 

 そこに難しい話なんかなくて。

 

 美優が俺とのエッチに興奮していただけだったとしたら。

 体は俺を求めていたけど、相手が兄だから、体面上断っていただけだとしたら。

 

 今まで俺を誘ったり拒んだりして微妙な距離感を取っていたのも、それなら理解できる。

 

「……ばか」

 

 美優は口だけを動かして、俺を振りほどこうとしない。

 それどころか、俺の手首を掴んで離れないようにしている。

 

 その言葉を無視すれば、当たり前のように気付けるサインはいくらでもあった。

 美優の行動は常に何かを目的としていると思い込んでいたから、俺はいつもどんな目論見があるのかと勘ぐってばかりいたけど。

 でも、時には本能を抑えきれなくなって、想いのままに行動していた部分があるのなら、少なくともこれだけは確信してあげることができる。

 

 美優は俺とエッチすることを望んでいるんだ。

 

「美優、前より大人っぽくなったな」

 

 俺は美優を一度抱きしめてから、その手を膝の方へと伸ばした。

 胸ばかりが成長していると美優は言っていたけど、決してそんなことはない。

 唇も、太腿も、声も、それと、きっと身長も。

 最近になって、大人のオンナに近づいてきた。

 

「んっ……お兄ちゃん……何してるの……」

 

 俺が体を弄り始めると、さすがの美優も身じろぎをした。

 

 だが、それだけ。

 はっきりと「やめて」と言えば俺が止まることぐらいわかっているはずなのに、羞恥心を隠れ蓑にして美優は本音を隠している。

 

「してもらってばかりだと悪いから」

 

 俺は美優のキュロットパンツに指を入れて、割れ目と太腿の、その間の位置を手で撫で回す。

 

「こら……そこは……ダメって……」

 

 美優は内腿を擦って抵抗する。

 ふとももは無断で触ったらビンタするとまで忠告されていた部位。

 にもかかわらず、美優は吐息を熱くするばかりで怒った様子すらない。

 

「俺もそろそろ、見てるだけじゃ我慢できなくて」

 

 このやりとりが俺の暴走だと片付けられてもいい。

 美優がそれで心に整理をつけられるなら、俺は何度だって怒られたい。

 

「はんっ……!」

 

 パジャマの下から手を入れて、美優のパンツの中を弄る。

 肉ひだとクロッチに指を挟んでいるだけで、膣内に挿入したのかと錯覚するほどに、美優のアソコはぐしょぐしょに濡れていた。

 

「お兄ちゃん……そこは……だめ……」

 

 ついには美優も全身をくねらせて俺を振りほどくような動きを見せるが、俺が美優を腕ごと強く抱えると、もうそれだけで観念したように大人しくなった。

 

 前戯の経験は浅いけど、クリトリスの感触ぐらいならわかる。

 美優は遥とのエッチで慣れているはずだし、触るのがパンツ越しでなくても痛くは無いはずだ。

 

 念の為に包皮の上から美優のクリトリスを刺激した。

 ごくごく弱い力で、ぷくっと膨らんだ豆粒くらいの肉芽を円状に撫でる。

 

「ふわっ……うぅ……お兄ちゃん……恥ずかしいよ……」

 

 美優は腰をビクビクさせて、刺激を逃しているのかと思ったが、どうやらむしろ俺の指にクリトリスを擦り付けようとしているらしい。

 

 刺激が足りないんだろうか。

 力加減がわからない。

 少しだけ指に力を入れてみるが、美優の反応は変わらなかった。

 

「もう……あんまり……じら……さないで」

 

 美優は言葉尻を消えそうなくらい小さくして、俺に刺激をねだってきた。

 

 これくらいでは全然気持ちよくなれないらしい。

 そんなに慣れているなら、思い切って指を押し込んでみるか。

 

「ん、んっ、ああっ! あぐっ……んんっ……はぁ……ああああうぅ……ッ!!」

 

 美優の体がガクガクと震えて、力を失った膝が崩れて美優はぺたんと床に座った。

 それに合わせて俺も膝をつき、美優を抱いたままその様子を確かめる。

 

「ごめん。痛かったか?」

 

 予想以上に激しい反応をされて、俺もビックリしてしまった。

 押し込んだとは言っても、肉芽が潰れたりはしない程度。

 包皮の上からだし大丈夫だと思ったんだが。

 

 痛みだけは与えたくなかった。

 それで美優が怖がってしまったら、もうエッチな気分どころではなくなってしまう。

 

「痛くは、ないけど……は、恥ずか……しい……」

 

 俺の手はまだ美優の秘部に触れていて、美優がそれを嫌がる様子はない。

 さっきのが痛くないのだとしたら、あれは気持ちいいの反応になるわけだけど。

 まさか、もっと強くしたら、もっと激しくなるんだろうか。

 

「あの、あの、お兄ちゃん。痛くは、ならないけど。強いのはまだ、ちょっと、許して欲しくて。そこまでしなくても、イけるから。お願い……します……」

 

 美優のお願いに、俺は「わかった」とだけ答えてクリトリスへの刺激を再開した。

 わざわざ最後までして欲しい本音を暴露してまで条件をつけたのなら、きっとそれは美優にとって本心からのお願いであるはず。

 

「直に触るのは大丈夫?」

「あっ……う……うん……。軽く、ぐりぐりするくらいなら……平気……はふっ……ン……あぁ……。痛かったら……痛いって言うから……」

「なら、直でほんの少しだけ強くしてみる」

「はふぅ……はひぃ……」

 

 俺は指を少しだけ下側にずらし、美優のクリトリスの包皮に指先だけを入れて、パソコンの打鍵がギリギリできる程度の力で圧迫した。

 

「あぐっ……んんんッ……!! はああぁうぅぅうっ……うっぐ……ふあっ……んンッ……!!」

 

 美優が体を跳ねさせて大きな声で喘ぐ。

 激しく息を乱すその顔が、快感に蕩けて力を失っていく。

 

「気持ちいい?」

「はぁ、ふぅぅ……きもひぃ……んっ……ああっ……! うぐぅ……ん、あひゅっ……んん! んんんっ! あうぅあっぁあっ……! うぐぅ……ぎも……ひぃ……ふうぅっ……んッ!!」

 

 美優ももうその欲望を隠そうともせず、俺の指に自分でクリトリスの気持ちいい部分を当ててきて、呼吸と喘ぎ声が更に荒くなっていく。

 やがて美優の体がガクッと震え始めて、いよいよ絶頂のときが近いようだった。

 

「んっ! んんんっ……! あひぃあぁ……ぐぅぅあああっ! ひあぁ、う、うぅうんっ……あうぅぅはずかしぃ……あっ、あっ、あっ、ああああっ……!!」

 

 美優がイクのに合わせて、俺はその全身の痙攣を押さえ込むように美優の体を強く抱きしめた。

 

「あひゅぁうぅ……いひゃ……イッ……あっ……イ……クッ……!! ふひゃぅ……ああっ……ひきゃ……いっひゃう……あっぐあぁ……んっ……イッ……んッッ!!」

 

 切ない声が高まって、美優がビクンビクンと身を震わせると、嬌声が止まった。

 後には息苦しそうな呼吸音だけが残って、美優はもう上体を起こしておく力もなくなり、俺の腕に支えられながらキッチンのドアに体重を預けた。

 まだ震えたままの指で引き出しのくぼみを掴み、余韻でイキ続ける体を必死に抑え込もうとしている。

 

「ひぁ……はぁ……ふぅ……。んっ……、ん、あっ……いや……もう……んんっ……!」

 

 俺がパンツから手を抜いても、しばらく美優の体の痙攣は収まらなかった。

 こんなイキっぱなしになっている美優の姿は、見ないであげたほうがいいんだろうか。

 でも、初めて美優をイカせられた瞬間だし、これだけは怒られても思い出にしていたい。

 

「うー……」

 

 美優が落ち着いたと同時に、俺の中にあった緊張感もなくなって。

 そこで俺は、自分の指が美優の愛液でドロドロになっていたことに気づいた。

 

 美優が精液を飲んでくれているわけだし、俺もこれを舐め取った方がいいのかなと考えていると、美優がすかさず新品のキッチンペーパーを引き出しから取り出して俺に渡した。

 

「拭きなさい」

「あ、ああ。拭くほうがいいのか」

「女の子は男と違って自分のを舐められるのイヤなんです」

「そうだったのか」

 

 男だと出した精液をティッシュで拭われたりすると虚しい気分になるが、女の子は逆なのか。

 これからはちゃんと拭うようにしよう。

 

「まったくもう」

 

 美優が立ち上がろうとして、しかし足に全く力が入らず、俺にもたれかかってくる。

 美優は悔しそうな表情を見せながらも、俺の力を借りてどうにか立ち上がって、どうにもソファーに行きたいらしいので俺は美優を支えながらソファーまで移動した。

 すると、美優が俺を押し倒してきて、俺はちょうどソファーの肘掛けの部分に背中が来るような位置で横になった。

 そこに美優がボディプレスをかましてきて、俺のお腹の上に重なった。

 

「美優、大丈夫か?」

 

 美優は俺の腹部に顔を埋めてきて、そこで息絶えたように静かになった。

 かと思ったら、美優は突然うめきながら足をバタバタさせた。

 

「お、おい。どうしたんだ」

 

 その奇妙な行動は、俺を無視して数分間続けられた。

 そして、美優もさすがに疲れたのか、また死んだようにばったりと動きを止める。

 

「あの、美優さん……?」

 

 俺が心配して三度目の声をかけると、ようやく美優は顔を上げた。

 

 そこにあったのは、これまでに無いほど真っ赤に染まった、今にも泣き出しそうな美優の顔だった。

 

「ううぅぅ恥ずかしいぃぃぃああああああ!!」

 

 美優はまた足をバタつかせて、何度も俺の腹に頭突きをかましてくる。

 

 山本さんのときもそうだったけど、攻めっ気のある女の子って、いざされる側になるとこんなにも弱いものなんだな。

 

「むぅぅ……お兄ちゃんのばかぁ……! なんであんなことしたのもぉぉ!」

 

 美優はなりふり構わず羞恥を暴力に変えて俺にぶつけてきた。

 だがその力も、マジ殴りされたときに比べたら全然大したことはなくて、なんと言うかいい感じに腹筋が鍛えられそうである。

 

「ぐぬっ。おっぱいのせいで上手く頭突きができない」

 

 どうやら力が弱いと思っていたのはおっぱいが緩衝材になっていたからだったらしく、美優としてはもっと俺に痛みを味わって欲しかったようだ。

 

 それから美優が何度か頭突きを試して、足をバタつかせる力もなくなって、暴力装置は完全に沈黙した。

 俺はどう扱っていいやらわからず、美優が落ちないようにジッとしていると、美優はうつ伏せのまま俺の手を取ってそれを自らの頭に置いた。

 どうやら「撫でろ」と命令されたようなので、俺はそのわがままにも付き合ってあげることにした。

 

 すると数分後には、スヤスヤと小気味の良い寝息が聞こえたきた。

 どう考えても寝にくい体勢のはずだが、俺と寝ると落ち着けると言っていたのは本当らしい。

 

 俺も熟睡してしまいたかったが、美優を落としてしまうのが怖いのと、興奮とは別に心が湧き上がって寝られる気がしなかったので、美優が寝入った後も俺は頭を撫で続けてひたすら時計の音だけを聞いていた。

 

 それから、一時間ぐらいが経った頃。

 

「んっ……んん……」

 

 さすがに呼吸が辛かったのか、美優が目を覚ました。

 

「おはよう」

 

 すでに夜も更けて遅い時間だが、これ以外に挨拶が思いつかなかった。

 

「んー……おはょ……」

 

 目を覚ましたとは言っても、美優は寝起きが弱い。

 普段からそうなのか、俺と寝ているときだけがそうなのかは知らないが、この寝ぼすけ姫は素直には起きてくれないのである。

 

 俺もこの体勢が辛くなってきて、二度寝されるとたまらないので美優の肩を掴んで体を起こそうとするが、美優はそれに抵抗するように俺の背中とソファーの間に両手を差し込んで抱きついてきた。

 もはや押しても引いてもビクともしない。

 

「美優。そろそろ、トイレとかも行きたくなってきたんだが」

 

 俺がそう言うと、美優もようやく頭が回り始めたのか、体を起こして俺を解放してくれた。

 まるで泣き明かしたようにヒドく疲れた顔をしている。

 

「はぁ」

 

 美優は正面を向いてソファーに座ると、まずはため息。

 その横に俺が座り直して、美優が俺の肩に頭を乗せてくる。

 

「大丈夫か? 水が欲しければ持ってくるけど」

「後でいいよ。もうちょっとだけこうさせて」

 

 美優は俺の腕を掴んで体重を預けてきた。

 怒られはしたけど、心の距離は縮まっているようだ。

 というより、美優ってなぜか怒った後の方が俺に心を開いてくれるんだよな。

 

 どういう思考回路をしているのか、その頭の中を覗いてみたい。

 

「そろそろお兄ちゃんに話そうかな」

 

 そんな折に、隣の口から飛び出したドキッとする一言。

 

「話すって、何を?」

「だから、お兄ちゃんもずっと疑問に思ってたこと」

 

 俺が美優にぶつけた疑問って、何があったっけ。

 

 どうして精液を飲んでくれるのかは聞いたことがあったな。

 それで、まだ明確な答えは貰っていない。

 遥との関係はもうほとんど教えてを貰ったようなものだし。

 あとは、トイレでのお仕置きの後に急にスキンシップを許すようになった理由は、まだ謎のままだったか。

 

「色々とありすぎる……」

「だろうね。まあ、そういう諸々も含めて」

 

 美優は俺に身を寄せたまま、手を握って見つめてきた。

 

「大切なお話がありますので。聞いてもらえますか?」

 

 それは、美優とこれまで過ごした日々の、全てについての話だった。

 美優と最初にエッチをしたあの日のことと、そのもっと前の、美優に起こった出来事について。

 

 俺が美優を求めて、美優がそれを受け入れるようになった。

 そんな二人の奥に根付いている、とても大切なお話だった。

 

 



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好きだよ

 

 朝になって目が覚めると、隣には当たり前のように美優が寝ていた。

 

 とはいえ昨日の夜に「一緒に寝よ」と言われたから驚いたりはしていないんだが。

 

 ああいや、ここは正確に伝えなければならない。

 なぜなら3度目となるこの共寝も、何やら理由があってしているらしいのだ。

 

 昨晩、「大切なお話があります」と美優に言われてから、俺がどんな話かと尋ねたところ、「その前にしておくことがある」とお預けをくらってしまった。

 そして、その次に出てきた言葉が「今夜は一緒に寝よ」だったのだ。

 なにやら大切な話とやらに関係しているらしいが、俺としては美優と一緒に寝られるだけで嬉しいので断る理由はなかった。

 

 寝起きに女の子といることが多くなった俺の人生。

 昔の俺が見たらなんて言うのか。

 昔っていうか三ヶ月間くらいのことなんだけど。

 

(もう10時か……さすがに寝過ぎたな……)

 

 昨日は美優からカーテンを閉めて寝ようと提案されたため、部屋には日光が入ってこず、時計の示す時間と体感時間がいまいち合わない。

 休みの日になると、美優はいつもこうして日差しを遮断して遅くまで寝ているのかと、ふと疑問に思う。

 でも、土日の朝食の時間を考えると、休みの日もきちんと起きてるはずなんだよな。

 

「美優、もう10時だ。起きないのか」

 

 隣で眠る美優は、俺の右手を胸に抱いて眠っている。

 

 このまま胸を揉んで起こそうかと一瞬血迷い、俺は空いている方の手で美優の肩を揺すった。

 どれだけ美優の仕草が俺への好意に思えても、失礼はいけないのである。

 

「ん……」

 

 美優は重たい瞼を上げて、薄目で部屋の明るさを確認する。

 そして、その暗さに安心したのか、またベッドに体重を預けておやすみモードになった。

 

「まだ夜だよお兄ちゃん……」

「いや美優がカーテン閉めたんだよ。時計を見ろ時計を」

「むーまだ夜だってば」

 

 美優はもぞもぞと動いて、おっぱいが潰れるくらいの至近距離まで俺に近寄ってきた。

 

 よほど起きたくないらしい。

 早くしないと昼飯の時間になってしまう。

 せっかくの献立表がたった一日で破綻するわけだが、この夜はいつまで続くのだろうか。

 ずっとこうしていたい。

 

「あんまり甘えられると、俺もその気になるぞ」

 

 俺は空いていた方の手を、まずは美優の背中にまで回してみる。

 それを美優が嫌がる素振りはなく、俺は腕に少しずつ力を込めて美優を抱きしめてみた。

 その圧迫感の中で、美優は体勢を変えることもせず、代わりにおっぱいに挟まっている俺の手をギュッと握ってきた。

 

 こんなことをされたらもう勘違いがどうとか言っている場合ではないのだが。

 

 しかし、残念なことに、今は朝なのだ。

 

「美優は本当に寝起きが弱いんだな」

 

 美優は熟睡から目覚めた直後は、何故か甘えモードになる。

 もしかしたら、他の子と寝泊まりしているときも同じなのかもしれない。

 だから俺が好きだからこうしているとは限らないわけだ。

 

「むぅ」

 

 そんな美優が、今朝は不満気に顔を上げた。

 目はパッチリと開いていて、表情も引き締まっている。

 

「普通に起きてるよ」

 

 どうやら今朝は寝惚けていたわけではなかったようだ。

 ともなると、この密着具合はもう好きの証としか取れないのだが。

 

「悪い。なんかビックリして」

 

 大切な話があるとか、その前にやることがあるとか、そんなことを言われていなければ素直に喜べるのに。

 

「起きてたらくっついちゃいけないの」

 

 美優は口をへの字に歪めて、少しだけ俺から離れた。

 

「ま、待った! 違うんだ。美優にくっついてもらえるのは死ぬほど嬉しい。ただ、いままで色々あったから……」

 

 昨日からずっとベタベタしてくるし、これは素直に好意と取るべきだとは思う。

 それでも、由佳のときのようなお仕置きがあったせいで、条件反射的に身構えてしまうのだ。

 

「ふむふむ」

 

 美優はまだ両手で掴んだままの俺の手に頬ズリして、目を瞑りながら考え込む。

 ほっぺがふにふにで気持ちいい。

 

「尤もな意見だね」

 

 目が合った美優の表情は穏やかだった。

 

 よかった。

 珍しく俺の意見が認められた。

 

「疑ってると、美優に失礼かな?」

 

 信じていいなら信じたい。

 美優にもっとストレートに好きな気持ちを伝えていいのなら、今すぐにでもそうしたい。

 だけど、俺のこの想いはあくまでも美優のためになっていて欲しくて、その上で俺は美優に尽くしたいんだ。

 

「別にこの距離感でいいよ」

 

 美優は安らかな顔で、微妙に隙間の空いた位置でまた眠りについた。

 

 この距離感でいいというのは、どちらでも構わないという意味なのか。

 それとも、この距離が望ましいという意味なのか。

 

 わからない。

 

 でも、俺と美優の間にあるこの隙間は、すでに埋まっていた距離なわけで。

 

「なら、俺がもっと美優を信用するって言ったら……?」

 

 美優が俺とのスキンシップを望んでいるのだと、そう本気でそう信じるのであれば、俺が触れることを美優が嫌がることはないはず。

 いや、もっと自分に正直に表現するなら、美優は俺が抱きしめることを喜んでくれるはずだ。

 

 俺は美優をそっと抱き寄せて、体を密着させた。

 初めて自分から引き寄せる美優の体温に、告白をした直後のような心音が頭に響いて、期待と不安がジワりと滲んでくる。

 

 そんな俺に対して、美優は体を少しだけ上に移動させて、俺を抱きしめ返してきた。

 美優のおっぱいが俺の口元に当たって、俺が首を下げれば顔を埋められるような位置。

 そこから更に、美優は自身の膝を俺の腰に乗せて、脚を絡めてくる。

 

 考えうる限りで、美優と最大限に密着した状態。

 

 これは、イエスの返事でいいんだよな。

 俺が美優にくっつくことを、美優は認めてくれたんだよな。

 

「美優……」

 

 美優のおっぱいの匂いが俺に和らぎをもたらしてくれる。

 悲しいことに、きっちりと情欲までをセットにして。

 

 いわゆるリラックスをしたままの興奮状態。

 こんな状況で空気を壊すようなことはしたくないが、美優のおっぱいを目の前にして性欲を抑えろという方が無理な話だ。

 

「あの、先に謝っておくんだけど」

 

 俺がそう切り出した後に、言葉を続けたのは美優だった。

 

「別にいいよ。どうせおっきくなっちゃうんでしょ」

 

 美優もさすがに俺のことはよくわかっていて、もう怒ることも無いようだった。

 そんな言葉に安心したのか、俺の愚息はムクムクと成長していき、ものの数秒で最高硬度に達する。

 

「んあっ……お兄ちゃん……そこ……」

 

 硬くなった俺の肉棒に、美優が身じろぎをした。

 

 美優の体の位置は俺より上。

 しかも片脚を俺の腰に乗せて絡みついてきている。

 すると必然、俺の勃起が美優の割れ目に当たってしまうのだ。

 

「悪い」

「謝ることはないけど。私もこんなに見事に当たるとは思ってなかったし」

 

 俺はスウェットをパジャマ代わりにしているため、美優の服よりも生地がだいぶ厚い。

 だから美優も、俺が勃起してもそれほど突起が盛り上がらないだろうと踏んでいたようだ。

 しかし、勃起する前から美優の股が俺のズボンの上部を押さえていたせいで、すんなり上向きに膨張するはずの肉棒が割れ目に引っかかってしまっている。

 

「美優がもうちょっと上に来るとかは?」

「お兄ちゃんがおっぱいで窒息しちゃうよ」

「俺は構わないが」

「私がイヤなの」

 

 くそう、なんてわがままな妹だ。

 だがそんなところも愛らしい。

 

「なら、離れる……とか。俺は嫌だけど」

「私もイヤ」

 

 美優が抗議をするように俺をギュッとする。

 美優のおっぱい嗅ぎ放題が無くなるのは勿体無いし、なによりこの密着状態の収まりが良すぎて体勢を変えたくない。

 

「なのでこのままジッとしていましょう」

「それは俺が我慢できないんだが……」

 

 こんな生殺し、耐えられるはずがない。

 せめて少しずつくらいは性欲を発散しなくては。

 

「押し付けたら怒る?」

「怒る」

 

 美優は素っ気なく、しかし、はっきりと答える。

 予想通りの回答ではあるけど、前はさせてくれたような。

 

「パジャマが汚れるでしょ」

 

 そんな俺の思考の足りなさを美優が補足してくれた。

 

 美優の濡れやすさだと、下着を圧迫すると愛液が染み出してしまう。

 前はスカートだったから汚れるのは美優のパンツだけだった。

 その結果として俺の制服のスラックスまで濡れてしまったわけだが、それと同じことがお気に入りのパジャマでも起きてしまうのは避けたいらしい。

 

「パンツはいいのか」

「さすがに諦めたよ。どうせイジってなくてもお兄ちゃんといると濡れちゃうし」

 

 美優はさらっとそんな発言をしておいて、間を置いてから目を逸らして後悔の表情を伺わせる。

 ここは突っ込んでやらない方が美優のためだろうか。

 

「前みたいにナプキンを敷いておくとかは?」

「お兄ちゃんはあれ敷くとどうなるか知らないでしょ」

「すみません……」

「そもそもそんなのつけてたらお互いに気持ちよくないでしょうが」

 

 はい。なんとなくわかっていました。

 わかっていながら欲望に任せて愚かな発言をしてしまいました。

 

「まったく。お兄ちゃんの妹には添い寝も許されないんですかね」

 

 美優は膝を俺の腰から下ろして、俺のペニスをグリグリと圧迫してきた。

 

「あっ……痛っ、ご、ごめん……!」

 

 美優がこうして乱暴に刺激してくるときは、本当に痛みを感じるくらい強くしてくる。

 快感を与えることなんてまったく考えず、かといって怒りや敵意があるわけでもなく、ただ俺の堪え性の無い性欲を蔑むための行為だ。

 

「あ、あぐっぁ……あっ……!」

 

 それが俺に多幸感と快楽をもたらしてくれる。

 前から何度かSMっぽいプレイを強いられてきたが、その痛みが快楽に変わることはなく、ただただ痛みそのものに俺は歓喜してしまう。

 

「あ、あっ……! ま、待って! それ以上は……!」

「えっ。もう出ちゃいそうなの」

 

 美優はマジで引いたような顔をして、ため息を一つ吐くといつもの表情に戻っていた。

 

「お兄ちゃんってほんとドMだよね」

 

 美優は膝を押し付けるのをやめて、今度はよしよしと肉棒を撫でてくれた。

 下腹部の血流が速まって鋭さを増す勃起。

 このアメとムチに、愚息の方もすっかり調教されているようだった。

 

「出したい?」

「出したい」

「じゃあ脱いで」

 

 こんなに優しく「脱いで」と言われたのは初めてだった。

 

 俺は胸の内にじんわりと暖かいものを感じながら下半身を露出させる。

 ムスコも照れているのか亀頭が真っ赤だった。

 

 美優は俺から離れると、足元に移動し、そして、布団を頭まで被った。

 

「終わるまで覗かないでね」

 

 美優は俺の腰まで布団を上げて、自分の体をすっぽりと覆った。

 

 布団に下半身が隠された、その暗闇の中で、美優の手が俺のペニスに触れる。

 そのいつ何をされるかわからない緊張感に、俺は思わずビクッと身を震わせた。

 

 そんな俺を弄ぶように、美優は下半身へのキスを至るところに繰り返して、そしてついには、ひたっ、と濡れたものが肉棒に当たる感触があった。

 

「あっ……!」

 

 竿の根元から、美優が俺のペニスを舐め上げている。

 美優が俺のペニスの裏筋を舐め、亀頭を唇でシゴき、竿全体に吸い付いてきた。

 俺に見られていないからか、普段よりも激しい愛撫が俺のペニスを責め立てている。

 

「はぁ……ああっ……! 美優……いいっ……!」

 

 ジュポッ、ジュボッ、とひとしきりしゃぶってからは、また舐めフェラに変わり、その舌が玉袋にまで這いずってくる。

 

 その舌が、ぺろりと睾丸を撫でた瞬間。

 

「あああっ! それ、やばいっ……!」

 

 美優に陰嚢を舐められると同時に、尿道口からトロッと先走りが溢れたような感覚があった。

 以前に山本さんが言っていた、玉舐めをすると精液が増えるという現象がもし本当なのだとしたら、たしかに美優に舐められて俺の体が喜ばないわけがなかった。

 

 そんな俺の歓喜が伝わったのか、美優はしばらく玉舐めを続けてくれた。

 俺がイかない程度に竿も擦って、ペロペロと股下のあたりまで全体を舐め回してくれる。

 

 美優もこの目隠し状態だからこそここまでご奉仕をしてくれているんだろうけど、こんなイヤらしい舐め方をする美優の顔を見てみたい。

 こんなに美優がエロいことをしてくれているのに、俺に見ることの景色はこんもりと膨らんだ布団がときおりモゾモゾと動く程度だなんて。

 

 約束だから終わるまで布団は捲れない。

 でも俺のペニスを舐め回している美優は見たい。

 

 そんな葛藤の中で、ついに竿にむしゃぶりついてきた美優のフェラに、俺の射精衝動は一気に高まった。

 もうこうなったら、このもどかしさを射精にぶつけるしかない。

 

 俺はベッドで仰向けに、静かな部屋で天井を見上げる。

 

 布団越しに、ジュブ、ジュブ、と微かなフェラ音が聞こえて、夏休みの閑静な朝の空気に溶けていった。

 

 女の子の裸が見えているわけでもない。

 喘ぎ声が聞こえているわけでもない。

 だが、だからこそ、この布団の中で行われている行為を酷く卑猥に感じる。

 玉舐めで血流を促された睾丸から、ググッと精液がせり上がってきて、もはや耐えられるだけの猶予はなかった。

 

「美優、もう、出るよ……!」

 

 俺は布団越しに声を掛ける。

 俺には見えない空間の中で、俺の射精を待っている美優の口に、俺は思い切り射精をした。

 

「ああっ……美優……出る……出るッ……!」

 

 ドクッ、びゅるっ、びゅるびゅくっ、ビュッ──!!

 

 美優が飲んでくれることを信じて大量の精液を吐き出した。

 ペニスにはしばらく温かい粘性が全体を覆っていて、美優が咥えたまま俺の射精を受け止めてくれたことがわかる。

 

「美優……アッ……ああっ! も、もういいって……!」

 

 ペニスを口に含んだままだった美優は、俺の射精が終わってからすぐにフェラを再開した。

 溜まっていた分の精液は十分に出せたし、今朝はもう終わりでいいんだけど。

 

 美優には俺を無理やりイかせようとする癖がある。

 だが、それは俺を煽ってのことであって、こんな無機質に射精地獄を始めることはないはずだった。

 

「美優、もう、スッキリしたから……!」

 

 射精後もぐちゅぐちゅと吸い付かれる感覚が続いて、俺は声が届いていないのかと思って布団を捲った。

 

「ふっ……んんっ……ふあぁ……ちゅぶっ……んちゅ、じゅる、じゅぶ……! んむっ……はぁ……ちゅぱっ……ちゅっ……むちゅっ……」

 

 美優は俺が布団を上げたことにも気づかず、一心不乱に俺のペニスを咥えていた。

 

 しかも、その右手を自分の股ぐらに突っ込んで、フェラと一緒に動かしている。

 

「み、美優……!?」

 

 俺は思わず布団を被せ直して硬直した。

 

 美優が、俺のペニスを咥えて、俺の声が聞こえないくらいオナニーに没頭していた。

 

「じゅっ……じゅぶっ……くちゅ……んはぁ……んんっ……じゅるじゅぶっ……!」

 

 フェラがどんどん激しくなって、布団越しでもはっきりと唾液を啜る音が聞こえてくる。

 

「美優っ……あああっ……そんなにしたら……あっ……!」

 

 美優が自慰行為に浸りながらフェラをしているという事実。

 それが興奮材料として加わって、俺の射精欲を膨らませた。

 再充填された精液に、それでも俺は、次は美優がイク番だと、必死に自分に言い聞かせたが。

 

「ああっ……ああぐっ……きもち……よすぎる……!」

 

 フェラをすると興奮するとは聞いていたけど、まさかあの美優がここまで乱れるなんて。

 

 まだ俺にその姿を知られていないつもりの美優は、恥じらいを一切持たない淫らなフェラで俺を責め立ててくる。

 同性相手ですらトロかせてしまうほどの器量を持つ美優が、男のツボを把握するのに手間取るはずがなく。羞恥という壁を乗り越えた美優のフェラテクに俺が十秒と耐えられるはずもなかった。

 

「美優、ごめん……! また出る……出る……!!」

 

 俺は美優に聞こえるように、布団を捲って大きな声で警告した。

 

「んんっ……」

 

 どうにか届いた声に、美優はフェラを止めて、俺はそこに二度目の射精をした。

 ドクン、ドクン、と先ほどを上回る量の精液を、唇で竿を絞める美優の口に放出して、それと同時に、美優の体も強張っていく。

 

 美優は急いで自らの股から手を引き抜いて、両手で俺のペニスを支えながら必死にそれを我慢した。

 

 俺に射精されることでやってきた絶頂の兆し。

 怒涛のように押し寄せる衝動に、美優は精液を飲み込むこともできず、そして、そのままビクンビクンと体を跳ねさせてイッた。

 

 目尻に涙を溜めて、それでも精液を吐き出すまいと懸命にペニスを咥えたまま、美優はオーガズムに痙攣する体と懸命に戦っている。

 そんな状態がしばらく続いて、美優は自らの絶頂が収束してから、ゆっくりと精液を飲み込んだのだった。

 

「美優、あの……。あ、ありがとう」

 

 怒らせてしまったかと迷ったが、まず言うべき言葉はそれだと思った。

 美優が俺のためにフェラをしてくれて、何よりも俺は感謝をしている。

 

 そんな俺に、布団から抜け出てきた美優は四つん這いのまま覆いかぶさってきて、俺の両手首を押さえた。

 べったりと愛液のついた美優の手が俺の手首を強く握って、血流が止まりそうなほどに圧迫してくる。

 

 やっぱり怒っているのかと、見上げた美優に怒気は感じられず。

 目はトロンと虚ろになっていて、むしろそこには感情というものが見られなかった。

 窓ガラスを曇らせるように、ハァハァと浅い呼吸だけを繰り返して、焦点の合わない目で俺を見下ろしている。

 

「美優……!?」

 

 俺の肉棒に、粘液が垂れてきた。

 

 美優の秘所から愛液が溢れている。

 それも、ポタポタと雫が落ちるような量ではない。

 まるで蜂蜜を垂らすように、トロトロとアツい体液が、美優の膣内から流れ出ている。

 もうエッチは終わったはずなのに。

 

 この光景が意味するものを、俺は理解してしまった。

 美優はまだ硬さが残ったままの俺のペニスの上にまたがって、その体はセックスのための準備をしている。ゴムを付けることもせずにだ。

 

 つまりこれは、快楽のためのセックスではなくて。

 

 なぜだかはわからないが、美優は俺の腕をベッドに押さえつけて、子作りを始めようとしている。

 

 早い話が、逆レイプという状況だった。

 

「み、美優、ちょっと待ってくれ!」

 

 その気になれば俺の方が力は強い。

 もし美優が本気で暴れるようでも、最悪の場合はベッドから振り落としてしまえばいいだけではあるけど。

 

 美優を相手に、そんな乱暴なことはしたくない。

 

「まだ、子供は、早いんじゃないかな? お金のこともあるし、学校を出てからでも、遅くはないと思うんだが」

 

 どうにかして美優に正気に戻ってほしい。

 俺の心の底に湧いてしまった生殖本能が吹き出す前に、美優の目を覚まさないと。

 

「……ふぅ」

 

 俺の声を聞いて、美優の呼吸が変わった。

 顔にもいつもの色味が戻っていて、しっかりと目も合っている。

 

「見ないでって言ったでしょうが」

「わ、悪い……! 終わるまでって、俺がイクまでかと思ってたから」

「そこは曖昧な表現をした私も悪かったけどさ」

 

 美優はティッシュを何枚か取って、その半分を俺に渡した。

 美優はトイレで用を足し終えた後のように、ティッシュで股を拭こうとして、その不格好さを自覚してから布団で体を隠して愛液を拭った。

 

「はぁ。それじゃあご飯にしましょうか」

 

 美優はさっきまでのことを気にする様子もなく、俺も言及するのもどうかと思ったので、大人しく美優に従って階段を下りた。

 

 今日の朝食はバナナヨーグルト。

 キッチンに置かれたそれぞれの食材に、美優はまた大きなため息をつく。

 

「もうなんか見てるだけでお腹いっぱいだよ」

「それは、その、すまん」

 

 なんともタイミングが悪かった。

 美優はバナナの皮を剥いて、包丁を手に取り、さく、さく、と輪切りにしていく。

 さっきまでしていたことがアレだけに、玉も竿もキュッと縮み込んでしまう。

 

 しかし、混ざってしまえば気にならなくもなるもので、いつものように対面でテーブルに座って俺たちは食事を始めた。

 

「あのさ」

 

 俺の脳内で渦巻いている疑念があった。

 もうここまで来ると、それを晴らさずにはいられない。

 

「美優はフェラをするの……嫌じゃないのか……?」

 

 あれだけ何度も拒まれていたはずのフェラを、美優は当然のようにしてくれた。

 しかも俺からしてほしいと頼んだわけでもなく、今朝は美優が率先してやってくれたのだ。

 

 思えば、こうして美優が許容してくれるようになったものは、フェラだけではない。

 手でしてもらうのも、スキンシップそのものも、美優はずっと嫌がっていたのに、何かのタイミングでその一線を越えてしまってからはすんなりと要望を聞き入れてくれる。

 

 あるいは、食わず嫌いだっただけで、してみたら良かったという可能性もなくはないが。

 だとしたら、美優がずっと言い訳にしていた「兄妹だからしない」とは一体なんだったのか。

 それがわからないことには、俺がこれからも美優にフェラをお願いしていいのかもわからない。

 

 美優の負担じゃないのなら、俺は美優にフェラをしてほしいんだ。

 この世に美優のフェラ以上の官能があるとは俺には思えない。

 美優のフェラは、俺にとって人生なんだ。

 

「お兄ちゃんの言いたいことは大体わかるよ。……あとなんか邪悪な気配もするけど」

 

 スプーンに乗せたバナナヨーグルトを、美優はパクっと口にする。

 

 些か気持ちが乗りすぎた。

 心を鎮めよう。

 

「でも答えとしては、妹としては抵抗があるって言うしかないかな」

「それほど抵抗があるようには見えなかったけど……」

「そこが問題なんだよ」

 

 美優は語気を強めてピシッと言い放った。

 

「世間的な常識だけじゃなくてね? 遺伝子的にというか、まず本能からしてお兄ちゃんを性的に受け入れてしまうのはおかしいわけですよ」

 

 血の繋がった兄妹が性的に惹かれ合うこと。

 それは本来的な生き物のあり方としては、全くの逆だと美優は言う。

 

 それは俺も考えたことがあった。

 佐知子と付き合っているときに覚えた、あの違和感。

 俺は美優を女として意識していて、逆に佐知子を妹のように感じていた。

 

 人間の本能は、ニオイなどの感性からしても、血縁者を好きにならないようにできている。

 遺伝子の似ている者を臭いと感じ、遠く強い遺伝子を持つ者の匂いを嗅げば、落ち着いたり興奮したりするようになっているはずなんだ。

 そうやって生物は自然と親しいものを排除し、様々な遺伝子情報を引き継ぐように設計されている。

 

「でも美優は、俺とのエッチそのものは受け入れてしまえると」

「その通りですね」

 

 そういえばいつだか、俺の精液を飲むことに対して「思うところはあるが何も感じない」って言ってたな。

 

「それは……どこからなんだ……?」

「どこからというのは?」

「だから、飲むのとか、手でするのとか、それ自体を嫌だと思ったことはないの?」

「ないよ?」

「マジで!?」

 

 すごいことをサラッと言われてしまった。

 今まで俺とのエッチを拒んできたのは、すべて世間体の問題だったと、そういうことになってしまうのだが。

 

「そ、その考えに従うならだ。仮に美優が俺と兄妹であることを気にしなくなったとして」

「はい」

「セックスしたいって言ったら、する?」

「するだろうね」

 

 美優はあっけからんとそう言ってみせた。

 

 こいつは正気なんだろうか。

 まさかこのヨーグルトに何か良からぬ成分でも入ってないだろうな。

 もしくはバナナにはエッチに寛容になる効能が……。

 

「最初の話に戻るけどね。お兄ちゃんにフェラするのが嫌だったのは、妹としての立場があったのと。実際にしてみて、一切の嫌悪もなく受け入れられちゃう現実を認めたくなかったからで」

 

 美優が俺にエッチをするかしないか、その基準は自分がすることを許せるかどうかだった。

 だからこそ、俺と美優との初めてはどれも、それを乗り越えるためのきっかけになっていた。

 

「昨日の夜に美優に初めて咥えてもらったとき、デカいため息をついてたけど。あれはフェラができることを認めてしまったからなのか」

「そうだよ。ついでに言うなればトイレのアレもそうです」

 

 おお、そういうことか。

 トイレの一件から美優が俺とのエッチに寛容になったのは、そういう心の整理だったのか。

 

「なるほどな。美優は手でするのも、精液をかけられるのも、全く嫌じゃなかったんだな」

「それだけじゃないよ。あれだけお仕置きをされた後も、お兄ちゃんは私のおっぱいを見ておっきくしてたじゃない? そのとき私、頭の中では、お兄ちゃん気持ち悪いって呆れてたんだけど」

「衝撃発言すぎて泣きたい」

 

 しかし納得しかなくて反論の一つも出ない。

 

「でもなんか、そういうのも、アリかなって思っちゃったんだよね」

「アリってなに」

「もっとシテあげちゃおうかな、とか?」

「踏みとどまってくれて本当によかった……」

 

 あの状態から更に射精をさせられていたら、俺はもうこの世にいなかっただろう。

 もっと若い頃は腹上死で逝けるなら男の本望だと思っていたが、今となってはまだまだ先を楽しむまでは死んでも死にきれない。

 

「……ってなると、だ」

「口でしてほしいならまたしてあげるよ」

「おっ、そ、そうか」

 

 ドキッとくる先読み。

 いや、必然として導かれる結論だったのか。

 

 美優は澄ました顔でバナナヨーグルトを食べ進めていく。

 こういう割り切りに関しては本当にメンタルが強靭だよな。

 いずれにしても、俺の疑問は良い方向に解決したようだ。

 美優はフェラをすることを嫌がってはいないようだし。

 

「でも、本気で怒ってたことも何度かあったような……?」

「それはお兄ちゃんが服を汚そうとするからでしょ」

「すみませんでした」

 

 どうやら譲れないポイントもあるらしい。

 

 朝食を終えた俺たちは、食器をシンクに運び入れ、それを俺が洗った。

 その最中に、また美優が背中から抱きついてきて、ごくごく短いスキンシップタイムが行われた。

 

 最近、妙にひっついてくるんだが、これはどういう意図なんだろうか。

 

 そんなことを考えながら、ぼーっと歯を磨いて、ソファーでゲームでもやるかとくつろいでいると、やはり美優が俺のところにやってきて。ベタベタしながら、二人は同じゲームアプリを開くのである。

 

 仰向けに寝転ぶ俺に、腹ばいに重なる美優。

 

 ここはもう直球で尋ねてみるしかない。

 

「美優は俺にくっついてるの好き?」

「邪魔ですか……?」

「俺は嬉しいけど」

「なら好き」

 

 美優は一瞬だけ不安な顔を覗かせて、俺の返答を聞いてからは、また陽だまりで昼寝をする犬のように俺の上に寝そべった。

 

「美優、ちょっといいか」

 

 俺は起動したアプリを早速落として、スマホを横のテーブルに置いた。

 そして、美優の肩を掴んで体を起こし、同様にスマホを取り上げる。

 

「今朝からずっと考えていたことがあるんだ」

「なんでしょうか」

 

 美優はそう返事をしてから、中途半端に上体を起こした体勢が辛かったのか、一度ソファーを離れた。

 そして、俺をソファーに腰掛けさせて、美優がその向かい側から膝を跨ぐように座ってくる。

 いわゆる対面座位のような体勢である。

 

「なんでしょうか」

「なぜ仕切り直した」

「こっちのほうが喋りやすいから?」

 

 美優は小首をかしげ、それから俺の手を取って自分の腰に回させた。 

 喋る気があるってことでいいんだよな。

 

「結構、真面目な話になるけど、いいかな」

「ちゃんと真剣に聞くよ。私からもお話があるから、しばらくこうさせてね」

 

 そうか、美優からもようやく『大切なお話』をしてもらえるのか。

 だけどその前に、これだけははっきりさせておかないとな。

 

「もうちょっとこっちに寄れるか」

「はいはい」

 

 俺が美優の腰を引き寄せて、その分だけ美優が俺と密着してくる。

 すると、案の定というか、美優は必要以上に俺にべったりとくっついてきて、おっぱいで俺の顔を埋める勢いでギュッと抱きしめてきた。

 

「や、やっぱり少しだけ離れて」

「はーい」

 

 美優は完全な密着はやめて数センチだけ腰の位置を引いた。

 

 い、いかん。

 真面目な話をするつもりが下半身が反応してしまいそうだった。

 

「美優は他の人にはこうやってベタベタしないんだよな?」

「お兄ちゃん以外にはしないよ」

「女の子が相手でも?」

「しませんね」

 

 美優は髪の毛をいじりながら綽々と答える。

 

「じゃあ、聞くけど」

「はい」

 

 もう、聞いてしまうしかない。

 答えを知ってしまう恐怖になんて、怯えている場合じゃない。

 

「美優は……俺のこと、好きなのか?」

 

 ついに口にしてしまったその言葉。

 

 いつの間にかお互いの目線は一直線に結ばれていて。

 

 真剣な眼差しで、俺と美優は見つめ合う。

 

「好きだよ」

 

 その瞳の奥に、はっきりと見える美優の感情。

 これまでの冷淡なものとは明らかに違う、少女としての温度を持った視線。

 

「私はお兄ちゃんがすごく好き」

 

 その言葉の最後を絞り切るまで。

 美優の瞳は微塵も動くことはなく、俺のことを見つめていた。

 

「それは……あ、いや」

 

 美優の「好き」が、男としての好きなのか、家族としての好きなのか。

 それを確かめたい気持ちをグッと押さえつけて、俺は美優と自分を信じて、こう告げる。

 

「俺も、好きだよ。美優のこと」

 

 俺はもう美優を信じると決めた。

 美優を一人の女として、誇って愛していきたい。

 

「んふふ。知ってる」

 

 美優はいたずらな笑みを浮かべて、俺にギュッと抱きついてきた。

 とにかく美優にとっては、こうしてくっつくことが一番の愛情表現らしい。

 

「そっか。そもそも俺が美優を好きになったから色々と始まったわけだし、今更言うことでもないか」

 

 もう2ヶ月以上も前から、美優は俺の気持ちなんて知っていたんだよな。

 

「お兄ちゃんさ、ほんとにちゃんとエッチなゲームやってた?」

「えっ。なぜ今それを」

「お兄ちゃんが乙女心に理解がなさすぎて、妹はとても悲しいです」

 

 美優はわざとらしくしょんぼりとした顔をする。

 残念ながらエロゲは恋愛の教材にはなっていなかったらしい。

 せめて選択肢が頭に浮かんでくれれば……。

 

「私はもうお兄ちゃんが私のことを好きなのはわかってるんだから、お兄ちゃんは安心していくらでも私に好きって言っていいんだよ」

「なるほど。わかったよ」

 

 それだけ言って、美優は黙りこくる。

 

 そして、俺とまた見つめ合う。

 

 訪れた長い静寂。

 

 美優の顔が、次第に険しくなっていった。

 

「はあ……お兄ちゃんが妹心を理解するのはあと100年くらい先かな……」

「わ、悪い! 今のは言うところだったか!? もちろん、俺は──」

「もういいです。雰囲気がなきゃ意味ないでしょうが」

 

 安心していくらでもとはなんだったのか。

 しかしまあ、ここは美優が正しいか。

 

「今思ったんだけどさ。美優が俺のことを好きで、こんなにスキンシップもしてくれるってことは、もう兄妹とかあんまり気にしてないんじゃないのか?」

「正確には雪解けの最中ですね」

 

 美優はなおも俺にベタベタと引っ付いてくる。

 

「だからもっと温めて」

 

 美優はねだるような視線を俺に向けて「もうわかってるよね?」と言いたげな顔をした。

 

 俺は美優をその腕に抱きながら、初めて一緒に寝てからどれだけこうして触れ合ってきただろうと振り返る。

 美優が本格的に俺とのスキンシップを求めるようになったのは、俺が山本さんとエッチをすることになったと言った後からなんだよな。

 

 もしかして、少しぐらい嫉妬していたりしたんだろうか。

 本当にそうだとしたら、かなり嬉しい。

 

「それじゃあ、今度は私の番だね」

 

 ようやく美優の大切な話を聞けるときがきた。

 その前にしておくことって、告白とかだったのかな。

 どちらにしても話してくれるならなんでもいいんだが。

 

「これからする話は、私が三ヶ月間悩んで、ようやく出せた結論だから。お兄ちゃんに今すぐ同じ答えを出してほしいとは思わない。でもね」

 

 先ほどとは一転して変わり、美優は俺の手を握って、切ない声で話を続ける。

 

「どうか、今こうして幸せでいる私を、忘れないでいてね。心の底から、お兄ちゃんと両想いになれたことを、嬉しく思ってるって。それだけは、信じてください」

 

 ──たとえお兄ちゃんが、私のことを嫌いになっても。

 

 美優はそう、前置きを締めた。

 

 どうやらこの大切な話は、美優にとっては深刻な内容らしい。

 

 でも俺は、そんな美優の辛そうな顔を見ても、落ち着いた心のままでいられた。

 

「美優のことを嫌いになんてならないよ。……なんて簡単に言っていい話じゃないのは、なんとなくわかる。でも、それでも言わせてほしい」

 

 ──俺はずっと、美優を好きでいるよ。

 

 たとえ俺が酷く傷つくような真実が明かされたとしても。

 俺はそうあると心に誓った。

 

 だからこの心は、ちっとも揺らぐことはなかった。

 

「そっか。なら、私も信じてるね」

 

 美優は胸のつっかえが取れたように、また優しい声に戻った。

 

「あのね」

 

 大きく息を吸い込んで、美優はようやくその言葉を口にする。

 

「私、男の人が、ものすごく苦手なの」

 

 美優から告げられた真実。

 

「……そう、なのか」

 

 なんということか、それはすでに俺の知っている情報だった。

 

 だが、理解はしていなかった。

 だからこれほど重大な事実を、俺は軽んじた。

 よくよく考えてみれば、これは無視してはならない大切な話だったというのに。

 

 なぜなら。

 

「俺、男なんだけど」

 

 そうだ。

 どうやって理屈を捏ねても、俺が男であることは疑いようがない。

 

 美優は男嫌いで、でも男である俺が好きで。

 もしその両方が真実なのだとしたら、この致命的な矛盾を孕んだ美優の想いは、深刻な悩みに足る何かだったはずなんだ。

 

「そう、お兄ちゃんだけ。お兄ちゃんただ一人が、私にとっての特別。この“特別”が、きっとお兄ちゃんを傷つける」

 

 美優はまだはっきりしない言葉で、その結末を予告した。

 

「この前クローゼットの中を見せたときに、私が可愛い服を着なくなった理由を話したじゃない?」

「ああ、先生と母さんにもう着るなって言われて、泣いて帰ってきたやつか」

「そうそう。実はあれには裏話があって」

 

 美優は昔から優等生だった。

 その美優が親にも先生にも叱られるなんて、よっぽどのことがあったに違いない。

 

「私ね、そのとき男の子と喧嘩してたんだ。それで、何人かが病院で検査を受ける羽目になって」

 

 初っ端から飛ばしてきたな。

 どれだけ過激な戦いを繰り広げてたんだこいつは。

 

 にしても、原因は男子との喧嘩か。

 由佳に教えてもらった噂は本当だったみたいだな。

 

「上級生の男の子が5人。みんなクラブにも通ってる人たちだったから、怪我をさせたことに親から猛抗議が来て。さすがに私もあのときは幼かったからさ、みんなから頭ごなしに怒られるのは耐えられなかったよ」

 

 うんうん、まだ小さい子をそんな風に叱りつけるなんて酷いよな、って相槌を打ってやりたいけど、ちょっと待ってほしい。

 なんで当時小学3年生だった美優が、スポーツマンの上級生を相手に喧嘩で勝てたんだ。

 

「美優って運動はそこまで得意じゃなかっただろ」

「まあね。でも、喧嘩は別。覚悟の差ってやつ?」

「そんな少年漫画みたいな……」

 

 でもなぜだろう。

 この数ヶ月で知った美優なら、たしかにそれもあり得るのかもと思ってしまう。

 

「喧嘩の原因はね、その内の一人の男子からの告白だったの。スポーツもできて、成績も優秀で、顔も整ってて、やんちゃなところもあるかなりの肉食。あの歳でもう、やることやってたんじゃないかな」

 

 当時の美優の上級生って、俺と同じ歳ぐらいだよな。

 場合によっては同級生という可能性すらある。

 世の中には凄い奴がたくさんいるもんだな。

 

「とにかく女の子にはモテモテで、何番目でもいいから付き合いたいって子がたくさんいた。そんな人に告白をされて、私は秒でお断りしました」

「なんで?」

「気持ち悪かったから」

 

 美優はそう答えた後に、その「気持ち悪い」が、告白をした男子の態度や、美優の体調のことについてではなかったことを補足した。

 

「私だって、その人を遠目で見て、人柄を噂で聞いているうちは、別に悪い人じゃないんだろうなって思ってたよ。でも、告白をされた瞬間にね。この人は無理だなって、本能的に察しちゃって」

 

 それが美優の、男嫌いを明確に自覚した原点。

 まだ男に対する先天的な忌避感しかなかった頃の、素直な美優の想いだった。

 

「告白の現場を覗いてた男子が、フラれたことを煽ったせいで、当人もムキになっちゃって。強引に迫ってきたから、私は近くにあった指示棒やら椅子やらで、まずその男子をボコボコにしました」

「えっ」

「そしたら、次はそのお友達に、なぜか私がキレられて。やむなく襲われない程度に無力化しました。なので、正当防衛です」

「まあ、それは信じてるけど」

 

 喧嘩の経緯はわかった。

 でも、先生たちに服のことを叱られた理由がいまいち見えてこない。

 

「服は関係あるのか?」

「単に目立つからだよ。当初から目はつけられてて、私が優等生だったから見過ごされてただけ。それがその事件をきっかけにして、『そんな服で男を誑かすから悪いんだ』って言われるようになったから、人前で着るのはやめたの」

 

 なるほど、そういうレッテル貼りか。

 さすがに十歳にも満たないうちからそんなことを言われたら、誰だって嫌になるよな。

 

 しかしここまでは、ほとんど由佳から得ていた情報通りだったな。

 少なからず驚きはあったが、理解できなくはない。

 

「要点はこの先なのか」

 

 美優はペタン座りで俺の膝を跨いだまま。

 俺の問いに、ゆっくりと頷く。

 

「それからも、数え切れないくらいの男子から告白されたんだ。でも、試しに付き合ってみようかなって思える人すらいなくて。そのうち告白されること自体に嫌気がさして、私はちょっぴり、ドライな女になりました」

 

 それでも告白は増えたんですけどね、と美優は恨めしそうにその胸を押し付けてきて、俺はこの世の男子代表になったような申し訳無さを感じる。

 

「中学生なんて思春期真っ只中だし、美優くらいの大きさだと注目されるもんな」

「そうなんですよ。こんな無駄にデカいもののどこがいいんだか」

 

 すまないがそれだけはどうしても同意してやることができない。

 せめて同情することしか、俺たち男にはできないんだ。

 

「美優が自分のおっぱいを嫌いなのもそれが原因なのか?」

「半分はそう。もう半分は可愛い服が着られないから」

 

 近頃は胸が大きくなったせいで、件のロリータ服に関してはオーダーメイドも増えてしまい、余計に遥に頭が上がらなくなっているのだとか。

 

「それって費用的に大丈夫なのか」

「胸が大きくなったのは遥がイジりすぎたせいだって言いまくってるからプラマイゼロです」

 

 そういうところ、本当にちゃっかりしてるよな。

 

 頼もしい限りだよ。

 

「でね。話は戻るけど。私さ、男の子のことが全然好きになれないから、少し前までは自分のことをレズだと思っていたわけですよ。実際のところ、女の子に触れられるのに抵抗はなかったし」

 

 それでも好きになれる子がいなかったから、レズでもなかったという結論に至ったらしい。

 

「そういう窮屈な日々を過ごしてきてね。私は男の子も好きになれない、女の子も好きになれないんだって、ずっと悩んでいたところにですよ」

 

 美優が急に力強く語り始める。

 

 その目が俺に向いたまま三角に尖っていて、俺はこのときすでに、美優が何を言いたがっていたのか、そのおおよそを理解できてしまっていた。

 

「あろうことか私の部屋の隣で、私とそっくりの名前の女の子を相手に、夢中でオナニーをしているお兄ちゃんを見てしまったわけですよ。それも画面の上のところに『俺と妹の子作り宣言~お兄ちゃんの中出しを義務化します!~』みたいな酷いタイトルが書いてあったし。ヒロイン最後まで妊娠しないのにね。駄作でしょあれ」

 

 「みたいな」とか言いながら完全に内容を把握されているんですけど、あの、そういえばいつだかのお勉強のために調べたんですかね。

 

「今にして思うと、ヒドい状況だったな」

「ヒドいなんてもんじゃないよ。あのときの私の気持ちがお兄ちゃんにわかる?」

「パソコンでぶん殴られても文句は言えなかったな……」

「ほんとにそんなレベルなんだけどさ」

 

 美優は目線を横に流して、また声を落ち着かせる。

 

「でも、本当に驚いたのはその後だよ」

 

 そう。

 

 それが、全ての始まりだった。

 

「私はね、お兄ちゃんが一人でしてるところを見ても、何も感じなかったの」

 

 どう考えても気持ちの悪い兄。

 男嫌いなのに兄の自慰を受け入れてしまった妹。

 

 そんな構図が生まれたこの出来事こそが、今朝の話に繋がるのだった。

 

「それどころか、お兄ちゃんがそれからどうするのか、興味さえ湧いた。他の男の子なんて、裸を見ることも、想像することもできなかったのに」

 

 だから美優は、あんな強行をした。

 俺のオナニーを手伝うなどという、理解不能な言動を。

 

 でも実際には、誰より混乱してたのは美優自身だったんだ。

 

「あの気持ちが何だったのか、私は知りたくて。それで、どこまでなら気持ち悪くならずにいられるんだろうって、ずっとそんなことを考えて過ごしてた」

 

 美優は徐々に俺との距離を縮めてきて、ついにはフェラをするにまで至った。

 そこでついに、美優は俺を男として受け入れられてしまうことを確信したようだった。

 

「俺の精液を飲んでくれたのも、それを確かめるためだったのか?」

「そういうことになるかな。……最初のは、なんというか、衝動的なものだったけど」

 

 これまでの話に加えて、条件反射で引き起こってしまう体の反応も、それそのものとは別の意味で美優を悩ませていた。

 俺とのエッチで異常に濡れてしまう体質も、触れ合っているときに暴走する性衝動も、とある一つの答えを揺るぎないものにしてしまっていたのだ。

 

「つまりね、私は本当に、逆なの」

 

 優秀で男らしい男子からの告白に嫌悪を覚え、男より女の子に触れられることを好み、その果てにただ1人、兄である俺に対してだけ、美優は性的な興味を持つことができた。

 

 一見すればチグハグに思える美優の説明。

 それが唯一、生殖本能という観点に立てば、それらを繋ぐ線が見えてくる。

 

「生物保存の優先順位が、私は他の人とは明らかに違う。本能が示すべきベクトルが、普通とは逆向きになってるの」

 

 美優の本能が交配相手として選ぶのは、遺伝子的に自分と親しい者。

 

 両親が家にいることが少なく、家事などの手伝い全般を俺は任されてきた。

 そんな家庭環境も影響しているのだろうか。

 あるいは、遺伝子の半分を引き継ぐとされているその親と比べてすら、俺の遺伝子構造は美優に近いのかもしれない。

 

「私だってすぐには信じられなかった。だから、どこまでならこの体をお兄ちゃんに許せるんだろうって、ずっと探り探りでここまできて」

 

 そうして美優は、少しずつ俺とエッチをするようになって、今に至る。

 

「結局は嫌になるどころか……私が気づいたのは、知らずにそういう行為を求めてる自分だった」

 

 思考の上ではどれだけ「ダメ」と思っていても、体が欲しがってしまう。

 だからいつかは、一線を越えてしまう。

 

「そう……だったのか……」

 

 疑問を解決することはできた。

 美優の本当の気持ちも、ようやく理解することができた。

 だからこれは、聞けて良かった話なのだと、心の表層では思う。

 

 しかし、本音を言えば、ツラい。

 その事実は、想像だにしなかったほど、残酷な話だった。

 だってそれは、俺にとって最重要な、美優の告白を否定することになる。

 

 美優が俺のことを好きになってくれたというのは、その表現で十全ではなく。

 これまでの話から導かれる真実は「美優は俺を好きにならざるを得なかった」ということに他ならないのだから。

 

 俺は美優の言葉に、どうやって答えてやればいいんだろう。

 

 この『大切な話』を聞いたからといって、俺が美優を嫌いになるのことはない。

 それは今でも誓って言える。

 

 だが、どれだけ自分の思考を否定しても、止めどなくその想いは溢れてしまう。

 

 ──美優はなんて、不幸な女の子なのだろうと。

 

「うんうん。ちゃんと伝わってるね。お兄ちゃんはもう、わかったって顔をしてる」

 

 俺の顔を覗き込む美優は、それでも明るかった。

 空元気とも違う、達観とも違う、素のままの無垢な笑顔を俺に向けている。

 

「さぞ辛かろうさ。いっぱい悩めばいい。お兄ちゃんは私がずっと悩んでる横で、出したい出したいっていつも性欲ばっかり押し付けてきたんだから」

「あ、ああ……! それは、本当に悪かったって。俺としても、色々と抑え切れないところがあって……」

 

 もしかしたら、俺が美優でしか抜けなくなったのも同じなのかもしれない。

 だからその体質だけを切り取れば、俺は美優の一番の理解者になれる。

 

 だが、俺と美優では境遇がまるで違うんだ。

 ただの冴えないオタクだった俺が、美優のような美少女しか好きになれなかった現実と、可愛くて優秀な美優が、俺のような落ちこぼれしか好きになれなかった現実。

 

 どう考えたってバランスが取れていない。

 俺は美優からたくさんのものを与えてもらって、美優は何人もの恵まれていたはずの出会いを失い続けてきたのだから。

 

「不幸なんだろうね。お兄ちゃんの世界の私は」

 

 美優の声はなぜか、弾むような明るさを持っていて。

 屈託のない笑顔のまま、美優は俺の手を両手で握ってきた。

 

「なんか、楽しそうだな」

「もちろん。だって私の世界の私は幸せだし。私はもう、答えを見つけてるから」

 

 両手から伝わる美優の体温。

 こうして握られた手には、つい先ほど俺が誓った、美優への想いが刻まれている。

 

 そうだよな。

 俺がやるべきことは、こうして落ち込んでいることじゃない。

 美優が幸せだと思えるだけの、俺なりの答えを見つけてやらないと。

 

「少しだけ、時間をくれるか」

「いいよ。今日のお夕飯の時間までは待っててあげる」

「短っ!?」

 

 美優ですら三ヶ月かかったんたぞ。

 すでにヒントが提示されているとはいえ、俺にそんなすぐに答えが出せるわけがないだろ。

 

「だって今夜も一緒に寝たいもん」

「それは別に禁止はしてないだろ」

「ただ一緒に寝るだけじゃ意味ないんだってば」

「というと?」

「それも自分で気付きなさい」

 

 美優は俺の額を小突いてから、飛び跳ねるようにソファーから下りた。

 

 なぜかこのやりとりに妙に背筋がゾワッとしたんだが。

 美優に注意されたのとは別の、何かとても恐ろしいことに気付いてしまったような……。

 

「お夕飯は夜の八時まで我慢してあげます。なので、お兄ちゃんは私を幸せにするためには何をしなければならないのか、その答えを私に示してください」

「……もし、できなかったら?」

「別にどうもしないよ。ただ、なるようになるだけ。そもそもとして、答えを探すかどうかも、お兄ちゃんに任せます」

 

 美優は髪を横に流して、「でも」と大人っぽい声で最後の言葉を付け加えた。

 

「私はお兄ちゃんに、幸せにしてほしい。選択をするのはお兄ちゃんの自由ですが。もし、お兄ちゃんに諦められたら。妹は、少しだけ泣きます」

 

 「それだけです」なんて話を締める美優は、ちっとも俺が諦める心配なんてしていなくて。

 

 これまでの美優の言葉を要約すると「答えが出るまで許すつもりはないから死ぬ気で頑張れ」ということだった。

 

「わかった」

 

 そういうことなら、地べたを這いつくばることになろうと、俺は美優が幸せになる方法を見つけてやる。

 

 どんな難しい理屈を並べ立てられようが、これだけは変わらない。

 

 俺は美優が、世界の誰よりも好きなんだ。

 



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お兄さんだから

 

 俺はスマホを握りしめてバスに乗っていた。

 

 何をすれば美優が幸せになるのか。

 しばらく一人で考えていても、残り八時間という短い時間で解決できる兆しが見えず。

 

 どんなに小さなきっかけでもいいと縋ったスマホのディスプレイには、開かれたままのメッセージアプリが映っている。

 

『夏期講習で塾にいるので、駅まで来ていただければコマの間にお話はできますよ』

 

 佐知子から送られてきたメッセージに、俺は何度も感謝をして会いに行くことにした。

 

 自分の頭で捻り出した答えでなければ意味がないことはわかっている。

 しかし、ヒントになるものを求めることは問題ないはずだ。

 その証拠に、俺が家を出るときに美優は「それが正解です」と背中を押すように手を振って俺を見送ってくれた。

 

 駅近くで止まったバスから降りて集合場所のカフェに向かう。

 

 休憩時間は一時間あるらしい。

 佐知子が通っている塾は必須授業の他に選択授業があり、普段はその空きコマで自習している時間を俺のために回してくれた。

 

「お久しぶりです、お兄さん」

 

 店の入り口で合流した佐知子は、前と同じサイドテールを夏でも伸ばして大人びた風貌になっていた。

 

 うっすらと化粧をしているのか血色も良く、もともと身長も高い方だったのでお姉さんらしさが滲み出ている。

 

「久しぶり。元気だったか」

 

 別れてからまだ日が経っていないのに、佐知子と会うのがやけに久しぶりに感じた。

 

「おかげさまで」

 

 佐知子は楽しげにそう返事をした。

 

 店内はシックな色合いのウッド調で、本棚をインテリアとして多く配置したアットホームな場所になっている。

 来店した人がそれぞれのスペースを持てるように、ソファーを主としたゆったりできる装いだ。

 

 佐知子と初めて来たお店もこんな趣の場所だったな。

 美優に彼女を斡旋してもらっていたあの頃が懐かしい。

 

 俺たちは空いていたソファー席に案内され、そこに並んで座った。

 

「なんだか大人っぽくなったな」

 

 真面目な相談の前に、簡単な世間話を挟む。

 

 幸いにも時間は十分に取ってもらえたし、俺のために費やしてもらう時間は新メニューのアイスラテでも奢ってお礼をしよう。

 

「それ、みんなに言われるんです。お姉ちゃんから使ってない化粧品を貰って、やり方も教えてもらったんですよ。そのおかげなのか、何人かの男の子に告白もされちゃって」

 

 佐知子の声音は、嬉しさ半分、戸惑い半分だった。

 

 気恥ずかしさがあるのかわからないけど、複数人から告白されたというのは立派な功績だ。

 

「その男子の気持ちはわかるよ。佐知子は話しやすい雰囲気をしてるし、一緒に居て癒やされるというか。見た目だけじゃなくて、全体的に頼れるお姉さんになった感じがする」

 

 俺みたいに自信の無いタイプの男子でも、そんな空気になればつい告白してしまうかもしれない。

 

 個人的にも佐知子とは波長が合う部分があって、こうしてカフェに呼び出すのにも悩むことはなかった。

 

「そこまで言われると照れちゃいます」

 

 佐知子はメニュー表でサッと顔を隠した。

 

「結果として出てるんだし、告白されたことは自信にしていいと思うよ」

「そうなんでしょうか。そもそも、あまり男の子と話すわけではないのですが」

 

 それでも告白をされるってことは、空気から漂うものがあるんだろう。

 

 俺も小さい頃は課外活動で一緒になっただけの女の子に気を引かれたりもしてたな。

 

「誰かと付き合うことにしたのか?」

 

 知り合いの女の子に男ができるのは複雑な話だ。

 でも、俺の境遇が恵まれているおかげで、それも不快には思わない。

 

 過去の俺なら考えられない感情だった。

 幸せって相対的なものなんだな。

 

「みんな良い人なんですけど、一度にたくさん告白を受けたせいで選べなくて」

 

 佐知子は苦笑いをして、困惑している胸の内をさらけ出す。

 

「デートにも誘われてはいるんですが、それもなかなか引き受けられないんですよ。いざ二人きりで出かけるって考えると緊張しちゃって」

 

 そして、困り顔をして考え込んだ後、佐知子はパッと明るい表情に戻って照れ笑いした。

 

「その点、お兄さんはなんだか安心するというか。私のダメな部分を気にしないでいてくれそうですし、一緒にいて癒やされるのはお兄さんも同じなんです」

 

 つい甘えたくなっちゃいます、と佐知子はひっそり身を寄せてくる。

 

「そう言われると、俺も照れるんだけど」

 

 俺はそれをあえて拒もうとはしなかった。

 

 佐知子みたいな純粋な子の好意を否定する必要は無いと思うし。

 

「それでそれで。お兄さんの相談ってなんですか?」

「ああ、それはだな」

 

 明確な問いを用意している訳ではなかった。

 ただ何か、俺と付き合っている時に佐知子がどう感じていたのか、それを知りたかっただけだ。

 

 俺と美優は兄妹だが、これからの実態としては恋人に近いものになる。

 であれば、数週間だけとはいえ恋仲だった佐知子なら、美優を幸せにするためのヒントを持っているかもしれない。

 

 俺は店員に注文を済ませてから、仮定の形でこれまでの経緯を佐知子に説明した。

 

「ふむふむ。告白をされたけど身分差がありすぎて自信がないから、私に彼女としての感想を聞きたいと」

 

 と、そのつもりだったのだが。

 

「お兄さんは美優ちゃんが相手じゃないとダメなんですよね? そこはもういいんですか?」

 

 佐知子に思いっきり核心的なところを突かれて、俺は仮定の形を保てなくなった。

 

 佐知子には美優が好きなことを伝えてあるし、それが原因で別れたのだから、そこに疑問を持つのは当然のことだった。

 

「あー……それが……その……」

 

 俺はどこまでも嘘をつくのが下手だった。

 こうやって言及されたときに動じなければ、まだ誤魔化すチャンスはあるんだろうけど、罪悪感に苛まれて上手く舌が回らなくなる。

 

 本当のことを言わずに話しているだけならまだいい。

 だが、相手の質問に嘘の回答をしたら、その時点で裏切りになってしまう。

 かと言って、美優が友達の間でどういう立ち位置にいるのか俺はよく知らないし、俺と美優の関係を暴露していいのかはわからない。

 でも、他でもない佐知子が相手だから、それを信用しないというのもまた失礼な話だ。

 

「美優じゃないとダメなのは今も同じで。だから、つまり……な」

 

 俺がそこまで口にした時点で「まあ!」と佐知子は嬉しそうに驚いた。

 

「ついに美優ちゃんと結ばれたんですね。おめでとうございます。お兄さんはとてもステキな人ですし、美優ちゃんが気に入るのもわかります」

 

 佐知子は俺たちの関係を予想以上に歓迎してくれた。

 

「そこが、疑問なんだけどさ」

 

 佐知子も俺に好意的で、男として見られていることもわかる。

 

 でも、その理由が見当たらない。

 

 そこらへんの女の子ならいざ知らず──失礼な言い方ではあるが──美優も佐知子も男を選べる側の人間であるはずだ。

 

 同じ中学にだって俺より顔も頭もいいやつはいるだろう。

 あるいは、いま佐知子が告白されている男子たちもそうなのかもしれない。

 それなのに、なぜ佐知子はそいつらとデートに行かずに、俺とこんなに仲良くしているのか。

 

「佐知子は俺のどこが……その、ステキだと思う?」

 

 俺がそう尋ねると、佐知子はしばらく考え込んで、店員が運んできたアイスラテを両手で持った。

 

「それはですね」

 

 佐知子はニコニコしながら、両手で丁寧に支えていたそれを俺に渡してきた。

 

 ブランデーグラスいっぱいに盛られた泡に黄金色のソースが掛かって、その上に菓子の破片が散りばめられている。

 

「ん? これがどうかしたのか? 混ぜろってことかな。もしくは、先に飲んでいいってこと? 金は出すとは言ったけど、そんなに気を遣わなくてもいいよ」

 

 俺はグラスを持ったまま、ただニコニコするだけの佐知子に困惑する。

 

 そして、また訳のわからないことに、佐知子は俺が注文したキャラメルラテを取って、それとアイスラテを交換してきた。

 

 俺は砕かれたナッツとクリームが浮くカップを手に、頭の中で疑問符を重ねていく。

 

「どっちがいいか好きな方を選べってこと……かな? 俺がすぐに新作メニューをオススメしたから、それが気になってると思って渡してくれた、とか?」

 

 俺が無理矢理な解釈をひねり出すと、佐知子はまたアイスラテを前に差し出してキャラメルラテと交換しようとしてくる。

 

 これは何か試されているな。

 

「よし、わかった。佐知子が先に好きな方を飲んでいいよ。これは感謝の印だし。……まあ、大したものじゃないけどな。この後は塾に戻るんだから、自分の脳に良さそうな方を選ぶのがベストだと思う。なんなら両方飲んでもいい」

 

 俺は思い浮かんだ考えをとにかく言葉にした。

 

 すると佐知子が頬を緩めて、グラスをテーブルに置き直す。

 

「そういうところです」

「難しすぎる……」

 

 今のが俺のステキな部分なのか。

 アホっぽいところが好きとかかな。

 

「優しくて怒らないところがいいんですよ」

「あぁ、そうなのか」

 

 優しいと言われて悪い気分はしないけど、素直には喜べなかった。

 

「優しい」とか「いい人」っていうのはモテない男に使われる言葉で、つまるところ社交辞令以外の何物でもないわけだ。

 

 相手が佐知子じゃなかったら、むしろ落ち込んでいたかもしれない。

 

「優しい人って、良いことなのかな」

 

 とりわけ中学の頃なんかは、ヤンキーくらいの我が強い男がモテるものだ。

 優しい人って言われると、「あなたに興味はありません」って言葉に聞こえてしまう。

 

「優しくて怒らないのが大事なんですよ。やるべきことはやってくれて、多少の不都合には動じないといいますか。お兄さんの優しさは自分の都合を押し付けてこないじゃないですか。でも、相手のことは考えてくれるし。そういう、本当に優しいなって思えるところが好きなんです」

 

 そこまで言ってもらえて、俺はようやくその意味が理解できた。

 

 例に出すのも悪い話だが、たしかに山本さんを脅していた頃の鈴原も、あれはあれで優しさから生まれた行動だったもんな。

 

「それはわかったけど。さっきのグラス交換に意味はあったのか?」

 

 ワケのわからないことをやらされても怒らなかったから、ということなんだろうか。

 

「言葉にするのは難しいのですが、物の考え方というか……。ああやって、相手の基準で真面目に考えてくれるのが、わかっていたので」

 

 なんとも要領の得ない回答だった。

 

 しかし、佐知子にとっては、それこそが大事な俺の美点らしい。

 

「まだありますよ。お兄さんって結構聞き上手なんですよ」

「そうか!? ああいや、否定してばっかりで申し訳ないんだけど、今まで俺が思ってきたのと真逆のことを言われてるから、なんというか……」

 

 俺は最近までほとんど人と話してこなかった、まさにコミュ障そのもの。

 

 優しい人ならまだしも、聞き上手は納得できない。

 

「お兄さんは相槌も打ってくれるし、こっちの話題を一つ一つ無視しないで考えてくれるじゃないですか。それを当たり前のようにやってくれるのは、すごい安心感に繋がるんですよ」

 

 俺がそれを当たり前のようにやっているということ。

 つまり、するのが当然だと思っているから、自分の長所だとわからないのだと佐知子は補足する。

 そう言われれば、いつも人に褒められるときは「それくらいみんなできる」としか思ってなかったな。

 

 美優に影響されて身についた最低限のマナーや気配りも、周りを見れば出来ていない人が多いのも事実だ。

 でもやっぱり、特別な技術や容姿と違って、頑張れば誰にもできることに違いはないように思う。

 早い話が、それは俺でなくてもいい、というか。

 

「家事にしたってそうです。お兄さんは美優とほとんど話さなかったんですよね?」

「そうだな。中学の頃からは特に」

「でも、仕事はきちんとこなしてたわけじゃないですか」

「それはまあ、しないと迷惑がかかるし。人として当然やるんじゃないかな」

 

 それこそ家事なんて、やろうと思えば誰でもできるし。

 

「当たり前にできることが大事なんじゃなくて、それを当たり前だと思ってやってることが大事なんですよ」

「なるほど」

「あと、お兄さんはかなりスキルが高い方ですから、そこは自覚しておいてくださいね?」

「そうか。そう言ってもらえるのは、素直に嬉しいよ」

 

 俺は佐知子の意見をできるだけ否定しないように、言葉を飲み込んだ。

 話を聞くスタンスが悪かった。

 反省しないと。

 

 俺から相談を持ちかけたのに、相手の意見を頭から否定するなんて失礼だ。

 

 佐知子が教えてくれたことを、まずは事実として信じよう。

 

 俺は家事が出来て、話を上手に聞くことができる。

 それはきっと、幼い頃に美優に叩き込まれたものが、成長した今でも俺の根幹を作ってくれているおかげだ。

 

 だが、人として大事なのは、その技術ではない。

 俺がどんな気分でいようがそれを自然体でこなしているということ。

 これが女の子にとってとても頼りになるらしい。

 

 だから、俺は美優にも佐知子にも信頼されている。

 

 それは信じることにする。

 

 となると、やはり問題は最初の疑問に移る。

 美優はいくらでも男を選べる──正確には、あの体質でなければいくらでも良い男を彼氏にできたはずの女だ。

 

 結局は俺の長所が「他にいくらでも代えの利くメリット」でしかないのだから、やはり全体的な偏差値の劣る俺を人生のパートナーとして選ぶしかなかった美優は不幸なのではないだろうか。

 

「なんだか難しい顔をしてますね」

 

 佐知子が心配そうに俺の顔を覗き込んできて、俺は顔を隠すように慌ててドリンクを口にする。

 

「いやぁ、ほら。俺と同じ性格で顔も頭もいい人がいたら、やっぱりそっちのほうがいいのかなって」

「そんな人いませんよ」

 

 佐知子はキッパリとそう答えた。

 

 まさか本気じゃないですよね? とでも言いたげな、驚きと呆れの混じった声だった。

 

「そうかな? 結構、いると思うけど……」

「どこにですか?」

「ほら、さっき注文を取ってくれた店員さんとか、優しそうだし、かなりカッコ良かったし」

「あー。なるほど」

 

 佐知子はぽんと手を叩いて、スッキリした顔をする。

 

「今のでちょっとわかっちゃいました。お兄さんって、女の子に苦手意識があるか、思い込みが激しいか。あるいは、両方でしょうか」

「佐知子までそれを言うのか……」

「ふふっ。やっぱり。誰だって思いますよ」

 

 佐知子はまた苦笑いをした。

 

 ただ、それは先ほどの困った表情ではなくて、「しょうがないなぁ」と嗜めるような、そんな優しい笑みだった。

 

「美優ちゃんと結ばれたっていうから控えてましたけど」

「あっ、ちょ……」

 

 佐知子は俺の腕にしがみついて、ギュッと体を寄せてきた。

 

「私は美優ちゃんのこと、羨ましいなって思ってますよ?」

「恋仲になったことがか?」

「お互いに信じ合える相手を見つけられたことが、ですよ」

 

 俺はそれとなく佐知子に「今は美優がいます」アピールをするのだが、佐知子はそんなことお構いなしに身を寄せてくる。

 

「さっきお兄さんは、告白された事実があるんだから自信を持てって私に言いましたよね? もしお兄さんが信頼できない人だったら、私はこんな風にお喋りなんてしてませんし、美優との関係だって許しませんよ? お兄さんにとって、私の存在は自信にはなりませんか?」

 

 佐知子は席が人目につきにくい位置にあるのをいいことに、ほとんど抱きつくぐらいの勢いで俺に体を預けてくる。

 

「おっ、おっ、わ、わかった……!」

「わかってませんよ。何もわかってないじゃないですか」

 

 佐知子の声音は美優に叱られるときみたいな厳しさを含んでいて、しかしその態度とは裏腹に俺にベタベタしてくる。

 

「いいですか、お兄さん。いくら美優が可愛くて頭が良くても、女の子は女の子です。優秀な女の子としてじゃなくて、美優として接してあげてください」

 

 美優を女の子としてか。

 

 そういや誰だかも似たようなことを言っていたな。

 

「で、これはいつまで続くのかな……」

「もちろん、次の講義の時間までです」

 

 あと30分くらい猶予があるんだけど、まさかその間ずっとこうやってベタベタしてるつもりか。

 

「お兄さんに必要なことなんですよ。口で言ってもわからないみたいですし」

「それは……否定できないな。すまん」

「なので今回の相談の謝礼として私はこれを求めます」

 

 佐知子は俺の腕をその胸に引き込んで、指先で俺のほっぺたを突いてきた。

 

「美優ちゃんへの罪悪感に苛まれながら、私にお喋りを楽しませてください」

「うっ……は……はい……」

 

 誰のせいなのか佐知子が悪い知識を身につけてしまった。

 

 俺も美優の貸し借りのこだわりに影響されてか、佐知子のまるで敵意のないその行動を振りほどくことができず。

 どうせ今日のことは美優に伝えないといけないし、これはもう後で叱られるしかないと諦めた。

 

 それから俺たちは、相談とは関係ないお喋りをして残りの時間を過ごした。

 内容は近況報告みたいなものがほとんどだったけど、本当にその短い時間は楽しかったし、佐知子も心の底から楽しんでくれていたように思う。

 

 俺はカフェから出て佐知子とお別れをしてから、改めてその時間の大切さを噛み締めた。

 ずっと自虐ばかりしてきた人生だったけど、それって単なる逃げでしかなかったんだよな。

 いつだか美優にも似たようなことを言われたっけ。

 

 俺が解決するべき問題は、美優を幸せにするにはどうすればいいかだったけど。

 そもそも美優って俺が思ってる以上に不幸ではなかったのかな。

 

 なんだろう。

 あと少しで解決の糸口が見つけられそうな気がする。

 この先は自分で考えるべきか。

 それとも、他の人からもヒントを貰って一気に片付けるべきか。

 

 最優先するべきは美優の幸福。

 だから俺の格好付けなんかでそれを台無しにしたくはない。

 そう考えると、選ぶべきは後者だ。

 となると相談先は、山本さんかな。

 

『相談したいことがあるんだけど、今日の夕方までに時間を取れるかな』

 

 俺はメッセージを書いて、送信ボタンを押す直前でためらっていた。

 

 相談するのは美優のことについて。

 佐知子が相手でさえ事実を打ち明けてしまったのだから、山本さんにも同じように隠さず相談をすることになるだろう。

 

 最後に美優と山本さんのどちらがいいかと迫られて、俺は美優を選んでしまった男だ。

 そんな男が今になって美優を幸せににするための相談を持ちかけるなんて許されるのか?

 

 これが俺の体面の問題でしかないのなら、土下座でもなんでもして頼み込む。

 

 でも、山本さんの気持ちを考えずに相談をするのは、美優が信じた俺の行動として正しいのかな。

 

 そんなことを、迷っているときのことだった。

 

「ちょっと! あんた何してんのよ!」

 

 俺はケツを強く叩かれて、その衝撃で送信ボタンを押してしまった。

 

「あ、ちょっ、何!?」

 

 振り返った先にいたのは、もはや見慣れた不機嫌ツインテールだった。

 先頭に由佳がいて、その後ろを同じ学年の子と思われる女の子が三人歩いている。

 

「私のことレイプしておいて、何をそんなところに突っ立ってんのかって聞いてんのよ」

「いやその言葉の繋がりが俺にはわからないんだが」

 

 俺は急いでメッセージの訂正をしようとしたが、無情にも既読マークがついてしまい、もう引き返せない状況になってしまった。

 

「由佳っち何してんの? 彼氏? レイプってマ?」

 

 後続集団の一人が、ダボダボのロングTシャツの裾を振りながら、「ヤバいじゃん。ウケる」と八重歯をチラつかせて笑った。

 

「美優の兄よ。グループに写真が流れてたでしょうが。私のことレイプして五回も出したサイテーの男よ」

 

 俺が言葉を挟むこともなく自己紹介が終了する。

 初っ端からとんでもないことを暴露されたんだが、由佳としてもそれでいいのか。

 

「お兄さんダメじゃんレイプしたら」

 

 スマホを気怠げに操作している女の子に、俺は至極真っ当なお叱りを受けた。

 

 ちなみに四人目の女の子は大人しそうに後ろで控えている。

 

「そ、それには色々と事情が……」

「ってか美優の兄ってマジなの? めっちゃ進化してるんですけど」

「JC二人とセックスしてレベル上がったんじゃん?」

 

 俺の話を遮って、八重歯の子とスマホの子が盛り上がり始めた。

 

「うっわマジか。やっぱ童貞はダメだな。あたしも兄貴に女紹介してやろ」

「あんたが相手してやんなよ」

「冗談笑わせて。ヤるならコッチでしょ」

「言えてる。おにーさんもう彼女募集してないの?」

 

 二人が揃って俺に視線を向ける。

 

 ちょっと待って欲しいんだけど君たちは初対面だよね。

 

「もうしてないわよ。今は美優の物なんだから」

 

 そんな二人に、由佳から飛び出したトンデモ発言。

 

「はっ……え!?」

 

 なんで由佳が知ってるんだ。

 

「遥から全部聞いたっつーの」

 

 まさかの遥からのリークだった。

 

 しかし、遥が美優に迷惑をかけるとは思えないし、これも自然な流れだったのか。

 

「なに、美優のやつ見せびらかしといて自分で取ったの? ヒドくない?」

「詫び入れるしかないじゃん。で詫びの品はこのお兄さんってことで」

「それかなりアリ寄り」

 

 いやだいぶナシ側に振れてるからね。

 

「五回もできるってことは、あたしら四人を回しても、後もう一回できるってわけっしょ?」

 

 その「四人」というワードに勝手に自分が含まれていることに気付いた大人しい子が、人知れずにビクついている。

 

「あの、一ついいか? なんだか君たちみんなとする流れになってるような気がするんだけど」

「そりゃそうっしょ。JCと五人プレイとかアツくない?」

「今しか出来ないッスよお兄さん」

 

 ダメだ、美優にメッセージグループを見せてもらったときから思ってたけど、もうこの子たちの性の奔放さは救えないところまできている。

 

「あの……私も……するの……?」

 

 ついに大人しくしていた子がおずおずと声を上げた。

 

 よし、いいぞ。

 この子に乗っかって有耶無耶にしてしまおう。

 

 そもそも俺と美優が結ばれたからって、この子たちに詫びなければならない義理はないんだけど。

 

「みんなも、もう少し自分を大切にしたほうがいいんじゃないかな? 相手も選んだほうがいいと思うし、誰彼構わずってのはちょっと……」

 

 四人の女の子に囲まれている俺を訝しむ通行人に愛想笑いをして、俺はそれとなく人の通らない場所に後ろ歩きする。

 

「いやイケそうな雰囲気持ってるからお兄さん。なんかしたいことさせてくれそうだし。あたし前からずっとお尻に興味があったんだよね」

 

 八重歯の子が目を輝かせながら迫ってくる。

 

 そんな性癖を初対面の男に暴露しないでくれるかな。

 

「美優のお墨付きでしょ? ならフィーリングが合えばよくない? てか誰彼構わずとか失礼じゃん。さすがにヤる男は選ぶっしょ」

 

 スマホの子は滅茶苦茶言ってるのか正論を言っているのか判断に困るからやめて欲しい。

 

 で、肝心の大人しい子だけど。

 

「私は……経験ないし……楽しくできるかわかんない……地味だし……」

「そっかそっか。初めてなら、なおさら大事にしたほうがいいよ。今は地味だとかそういうので自信が持てなくても、ちゃんとした経験があると変われるって、俺は知ってるから。だから、こんな形じゃなくて、きちんと君のことを考えてくれる人としよう。な?」

「は……はい……」

 

 俺が逃げたい一心で力強く説得すると、地味っ子ちゃんは一瞬だけ俺と目を合わせ、すぐに顔を逸した。

 

 そんな友人の反応に気付いたスマホの子が、さり気なく口を挟む。

 

「考えてくれる人としろだって。ならお兄さんで良くない?」

「まあ……そうだね……」

「ほら」

「いやいやいやいや」

 

 こんな簡単に体を許されてしまうとか逆に怖い。

 

 これが場の力というやつなのか。

 

「やっぱセックスするとオスのパワーが上がるんだわ。てゆか美優を入れたらお兄さんの経験人数三人?」

 

 さりげなく俺が美優とセックスをしていることにする八重歯っ子。

 

 いやまあそれに等しいことはもうしてるけど。

 

「もっといるんじゃん?」

「JCとセックスし過ぎじゃね!?」

「それはほんと誤解だからそういう認知を広げるのだけはやめてね」

 

 あとこんな場所でセックス連呼するのはやめてくれ。

 

「あう……私……どうしよう……」

「へーきだってみんなで教えたげるから。お兄さんも意外と質素なのが好きかもよ? ワビサビ男子」

「出たそれ。利休じゃん」

 

 またこの子たちは勝手に盛り上がる。

 

「え、誰リキュウって」

「自分でワビサビとか言っておいて知らないの利休。信長のカシンでしょ」

「あっ信長はこの前やったわ。鳴かぬなら、泣かねばならぬとか」

「泣き寝入りしてんじゃん信長」

 

 もうダメだ、これ以上は収拾がつかなくなる。

 

「あのー。そろそろいいかな? 君たちも、塾とかあるんじゃないの?」

 

 このタイミングで出会ったということは、佐知子と同じ塾に通っている可能性もある。

 

 俺が本気にしていないのもさすがに伝わっていて欲しい。

 

「それに自分で言うのもなんだけど、レイプしたって聞いてなんでそんなに前向きなのかな?」

 

 俺がそう尋ねると、JC組は互いに顔を見合わせた。

 

「だって由佳っちっしょ? あたしでもしかねないわ」

「むしろ加点要素じゃん?」

「うん……しょうがないよね……」

「あんたら私のことなんだと思ってんのよ!」

 

 ここに来てようやく由佳が口を開いた。

 

 由佳の扱いはどこでも変わらないんだな。

 

 美優以外にもイタズラをしてるのか。

 

「あんたらはもう気は済んだでしょ。さっさと塾に戻りなさいよ」

 

 由佳は佐知子が歩いて行った方向を指差す。

 

 事の発端はこいつなわけだが、場を畳んでくれるなら良しとしよう。

 山本さんに送ってしまったメッセージは取り消せないけど。

 

 JC集団は由佳に説得されて、渋々ながらも去っていった。

 

 これでようやく落ち着いて考え事ができると思ったのだが、やはりというか由佳のやつはこの場に留まっている。

 

「なにボサッとしてんのよ。行くわよ」

「どこに? ってか由佳は塾はいいのか?」

「美優のことについて話があるの。塾なんてどうでもいいからツラ貸しなさいよ」

 

 さすがに美優のことだからなのか、由佳は今までに見たことのない真剣な顔で俺の腕を引っ張った。

 その足は由佳のお気に入りのネットカフェに向いている。

 俺も余裕のある身ではないけど、他ならぬ美優のことについてだからな。

 

 山本さんからの返信はまだないし、なにより由佳と美優の付き合いの長さを考えれば、その話とやらも俺にとって無駄なものではないかもしれない。

 

 それに無理やりしてしまったことについてもケリはつけておきたいし、ここは由佳に付き合っておくか。

 

 ……塾を休ませる分は、俺が補習しとくしかないかな。

 

「会員証、出しなさい」

 

 俺は由佳に連れられてネットカフェに入った。

 由佳が率先して二人用の部屋を選択し、俺もそれに従ってチェックインする。

 

 ネットカフェは基本設備としてドリンクバーと本棚が置かれている。

 喉を潤すためにドリンクは必要になるんだが、由佳は当然のように漫画コーナーにまで入っていった。

 

「何してんだ」

「漫画を取りに来たに決まってるでしょうが」

「美優のことについて話すんじゃないのか」

「それはそうだけどさ。せっかくだし気になるものは消化しておきたいじゃない」

 

 由佳はドリンクを片手に漫画の背表紙を眺め歩く。

 

 由佳を急かしたところで答えが出るわけでもないし、山本さんからの返信が来るまではこいつのペースに合わせてやるか。

 

「オススメとかないの」

「俺はバトル系ばっかり読んでるけど。それでいいなら」

 

 俺は自分の好きな作品をいくつか見繕って、由佳がまだ知らない作品をそれぞれ一巻だけ取らせた。

 

 カードキーをドアにかざしてロックを解除し、部屋に入る。

 

 夏休みの混雑のせいで狭い部屋しか空いていなかったが、二人で横たわってもぶつからない程度のスペースは確保されていた。

 

 クッションマットの敷かれた部屋で二人。

 由佳は寝そべって漫画を読んでいる。

 由佳の頭から伸びる二本の触覚は、腰のあたりまでぐるんと伸びていた。

 結んでいるから夏に伸ばしても暑くないんだろうか。

 

「何見てんの」

「いや、由佳の髪さ、だいぶ茶色いけど怒られないのかなって」

「教師を言いくるめるのは得意だから」

 

 由佳はサムズアップして自慢げにそう語る。

 

 おそらく褒められた話では無いんだが。

 

「その漫画、面白いか?」

「読むには値する」

「そうかい」

 

 ずいぶんのんびりした空気になってしまったものだ。

 由佳が話をしないなら、こっちはこっちで考えをまとめているしかない。

 

 あと少しで、美優を幸せにするための答えがわかりそうな気がする。

 

 もう手の届くところまで来ているのに、錠前の付いた箱のような〝何か〟に阻害されている感じだ。

 

 佐知子と話して最も印象的だったのは、佐知子が俺を男として認めてくれていたこと。

 それこそ、兄妹である俺と美優の関係を応援してくれるほどに。

 

 山本さんにしたってそうだ。

 こっそりではあったけど、最後は俺を男として認めてくれていたようではあった。

 あんな可愛い二人が俺を求めてくれて、美優も俺を好きだと言ってくれた。

 この状況だけを見れば、俺は男として好かれるべくして好かれたのだと、そう考えることもできる。

 

 気になるのは、美優の体質と、俺がエッチを経験した四人に通じる共通点だ。

 

 美優は生殖本能が逆になっているせいで、「優秀で男らしい他人」に告白されることを不快に感じている。

 つまるところ、その真逆に位置する俺は「落ちこぼれの近親者」だから好かれたことになる。

 

 俺がダメ男であることを佐知子は否定してくれたわけだけど、俺がこれまで持った肉体関係は、美優のおかげで築けた関係なんだ。

 もし俺が美優の兄でなかったとしたら、この三人は俺とセックスをするどころか見向きすらしてくれなかっただろう。

 

 みんなの俺に対する「好き」は、関係から生まれた感情でしかない。

 その事実があるから、俺はあれだけ佐知子に励ましてもらったのに、まだ確信を持つことができない。

 

「ちょっと」

 

 由佳がなぜか不満げに俺を見ている。

 

「どうした」

「もっと奥に座って。あと膝伸ばして」

「ん? まあいいけど」

 

 俺は由佳に命令されたとおりに移動し、座り直した。

 

 その膝の上に、由佳が無遠慮に頭を乗せて、また読書を再開する。

 

「お前な。そこにクッションと毛布があるだろ」

「こっちのが寝やすいんだからいいでしょ」

 

 由佳はちょこんと首を落ち着けている程度だが、美優以外の人に膝枕をするのは気が進まない。

 

「あーあっつい……。なんか空調弱くない?」

「少し暑いな」

「でしょー」

 

 由佳はシャツのボタンを二つも開けて、パタパタと扇ぎ始める。

 

 美優と違って平坦な胸だが、その無い空間というのも独特のエロスがあるものだ。

 

「でさ」

 

 由佳が漫画を畳んで横に置いた。

 

 ようやく話が始まるのか。

 

「エッチしないの」

 

 豪快な話の切り出しだった。

 

「え? ん? 美優と、ってこと?」

「んなわけないでしょ。美優としてることなんてもう知ってるんだから」

 

 それはまあ、そうだろうな。

 

 遥とファミレスで話してた時点でそういうことになってたし。

 

「とすると、俺が由佳とエッチをするかどうかって聞かれてる?」

 

 由佳はゴロンと転がって肘をつき、顔を上げてうんうんと頷く。

 

 開け放した胸元が、肉が無いせいでガッツリと奥まで見えて妙にエロい。

 

「えーっと……理由は?」

「こんなとこ来たらすることなんて決まってるでしょ」

「んなラブホじゃないんだから」

「個室のネカフェなんてラブホみたいなものよ」

 

 ほんとそういう風評被害は真面目に使ってる人たちのために良くないぞ。

 

「仮にここがラブホでもしないからな。それに、もう美優の子供とかは諦めるんじゃないのか?」

「美優はもう関係ないの。避妊もしていいから」

「ちょっと待て、混乱してきた」

 

 こいつは美優の義姉になるために、その既成事実として俺と子作りがしたいんじゃないのか?

 

 美優が関係なくなったら、単に俺とエッチしたいだけってことになるんだが。

 

 それに俺と美優が両想いになったことを知っていてなぜ迫ってくるんだ。

 

 まるでわからないけど、とにかく乗せられたらいけない気がする。

 

「ゴムなんて持ち合わせてないから無理だよ。由佳だって持ってないだろ」

「そんなの防犯用の窓に布を掛けてるカップルの部屋に行って貰って来ればいいのよ。どうせヤる目的で来てるんだし、持ってるでしょ」

「ほんとそういう逞しいところだけは尊敬するよ」

 

 その行動力をもっと健全な方向に使えなかったものか。

 

「一回したんだからいいじゃん」

「ダメなものはダメだ」

「なんでよ。私のこと別に嫌いじゃないでしょ」

「まあ、それはそうなんだけど」

 

 由佳って無茶苦茶なことやるくせに、どうにも嫌いになれないんだよな。

 

 美優にも迷惑を掛けてきたわけだし、俺が代わりに怒ってもいいくらいなのに。

 

 あれだけされても美優が友達でい続けているのも、由佳に何かしらの魅力があるのかもしれない。

 

「とにかく、今は美優がいるから。それが由佳にとっても一番シンプルな答えだろ」

「でもさ、それだと釣り合いが取れなくない?」

「……というと?」

「だってさ、美優は遥とエッチしてるわけじゃん」

 

 由佳はおもむろに体を起こして居住まいを正す。

 

「これからも美優は遥とするだろうし、お兄さんは美優とだけエッチをするわけでしょ?」

 

 なんとなく言い分はわかるけど、遥に関しては俺もビジネスパートナーで割り切れるからな。

 

 それに、この先もずっと同じ関係でいると美優が明言したわけでもない。

 

「そうなると、この中でエッチをしてないのって私だけじゃない?」

「うん? ……うん」

 

 だからどうしたというのだ。

 

「美優はお兄さん以外ともエッチをしてる。お兄さんは美優としかエッチをしてない。つまり、この関係は私とお兄さんがエッチをして初めて均等になるってわけ」

「ごめん言ってる意味はわかるけど何言ってるのかわからない」

 

 さりげなく筋を通そうとしてくるので一瞬だけ納得してしまった。

 

 なんにしてもそんな超理論が認められるはずがない。

 

「なんでよー。しようよエッチ」

 

「しないって。だいたい、由佳は俺に無理矢理されて怒ってたんじゃないのか?」

 

 本人がこんな質問をするのも変な話だけど。

 

「口にするほど怒ってないのよ。ああいう態度を取ってたからこそ、こうして二人きりになってくれたわけでしょ? そういうこと。だいたいあれやらせたのは美優なわけだし」

「完全にハメられた……」

 

 悪知恵だけはほんとによく働くやつだ。

 

 普段からアホっぽいからどこまで考えて喋ってるのかわからない。

 

「あの件に関しては、お兄さんが相手だったから結果オーライなの。蓋を開けてみたらプレイの一環だったってわけ」

「処女を奪われた挙句に精神ズタボロにされてたと思うんだが」

「いいんだって。私と美優の関係ってそういうものなの」

 

 由佳曰く、美優を含めたセクハラグループの間には、感性の世界でしか語れない暗黙の了解があるらしい。

 

 お互いに「次こそはダメかもしれない」という瀬戸際で、結局は相手が許してしまえる範囲のことしかしないという関係が、美優と由佳の間でも成り立っているのだとか。

 

 俺には理解のできない話だが、こうして平然とお喋りができてしまっているあたり、深層心理では同じようなものを認めてしまっているのかもしれない。

 

「ならその件は置いておくとして。どうして俺にこだわるんだ?」

「どういう意味?」

「美優の兄として求められてたから納得してたけど。一人の男としてセックスがしたいって言われるほどの付き合いは無くないか?」

「それは……あれよ」

 

 由佳はやりにくそうに頬をかく。

 

「これまでの私を知ってて、こうして普通に接してくれるのはお兄さんだけだし」

 

 次第にその声は、微かに上擦っていった。

 

 悪いことをしてた自覚はあったんだな。

 

「そういうのは嬉しいというか。それに、一度したんだから、誘うのも気楽でしょ。お兄さんも見た目は悪くないんだから、しない理由はなくない?」

「んー。そう言われると……」

 

 由佳の立場で考えれば、その言い分はわからないでもない。

 

 でも、それだけで俺をセックスの相手に選んで良いのか。

 

 この子たちのグループがいくら性に対する敷居が低いとはいえ、もっと明白な〝する理由〟が必要だろう。

 

「由佳だってかなり可愛い方なんだし、大人しくしてれば俺より良い男がいくらでも相手をしてくれると思うけど……」

 

 俺がふと思ったことをそのまま口にすると、由佳の眉毛がピクッと吊り上がり、その拳が容赦なく俺の腹部に突き刺さった。

 

「おまっ……えら……なんでそう……暴力的な……」

「あんただからしたいって話してんのになんで他の男の話が出てくんのよ。私が誰とでもヤる女だって言いたいわけ」

 

 由佳は思っていた以上にご立腹だった。

 

 そう言われてしまうと、かなり失礼なことを言ってしまった気がする。

 

「悪い。本当にごめんな。さっきのはたしかにヒドかった」

 

 話の流れからしてムラムラしていただけなのかと思ったが、あくまでも俺とすることが目的でここに呼んだのか。

 しかも、美優と関係なく。

 

 なぜかはわからないが、とにかく失言をしたのは間違いない。

 

 ってかこれ、美優とか山本さんに対しても言えることだよな。

 

 気をつけないと。

 

「本気で言ってる?」

「ああ。本当に悪かった」

「ならエッチする?」

「それはしない」

「なんでだー!」

 

 由佳はそうやってしばらく駄々をこねてから、ようやく静かになった。

 

 その表情には生気が抜けていて、何事もなかったかのようにマットに座り直すと、小さくため息をつく。

 

「まあ、いいけどね。私も今のままで誰かに受け入れてもらえるとは思ってないし。いつか大人になれば、私も丸くなっていくわけですよ」

 

 由佳の雰囲気が急に変わって、謎の不安感に胸がざわついた。

 

 もう少し優しい対応をしてやれたかな。

 

「ただその前に、今の私でちょっと甘えてみたかっただけ。こっちこそ、悪かったわね」

 

 由佳は息苦しそうにしながらそう呟いた。

 美優にお仕置きをされたあの一件から何も変わっていないのかと思ってたけど、そんなことはなかったのか。

 

 こうして成長していくのはいいことだし、俺もそれを望んで接してきたはずなのに。

 なんだか虚しさというか、寂しさを感じてしまった。

 なんか俺、足りてないよな。

 由佳に対して。

 

「で? お兄さんはなんで辛気臭い顔をしてたわけ?」

「ああ、それはだな……」

 

 美優を幸せにする方法がわからない。

 そう思って家を飛び出してきたのに、今では俺が何に悩んでいるのかもわからなくなってきた。

 

 俺と美優は両想いになって、俺は間違いなく幸せな人生を手に入れた。

 

 俺は心から美優が好きだし、たとえこの体が美優以外では抜けない体質であっても、好きになるべくして好きになったのだと自信を持って言える。

 

 だとしたら、俺が美優を幸せだと思えない理由は、美優があの体質とは無関係に俺を好きになる可能性がないと思っていること。

 

 この一点に尽きる。

 

「美優が俺を好きになる要素って何なんだろうなって」

「変なことに悩んでんのね。男を好きになるのに理由が要るの?」

「それは……さすがに要るだろ……?」

「はあ。あんたは女ってものを何もわかってないわ」

 

 なぜこの状況で由佳に呆れられるのか。

 

 人を好きになるのに理由がいるに決まってるだろ。

 

 だから佐知子だって俺の良いところを探してくれたわけだし。

 

「俺が美優の兄じゃなかったらセックスしようとは思わなかっただろ?」

「そりゃそうよ」

 

 即答で肯定された。

 

「でもそんなの、私と美優が同じクラスじゃなかったらって例え話をしてるようなもんでしょ。きっかけと中身は別。私は数ある美優の出会いの中で、努力の末に美優の親友の地位を勝ち取ったんだから。あんたも同じじゃないの?」

「それは……どう、なんだろう」

 

 俺は美優に対して、なにか努力をしてやれたかな。

 

 由佳のように、文字通り地べたを這いずり回ってでもしてやれたことがあるなら、俺も美優の男であることを誇れたのかもしれない。

 

「お兄さんはなんのためにそこまで変わってきたわけ? 最初に会った時よりずいぶん男前になったじゃない。あのままだったら私だってこんなとこまで連れ込んでないんだけど」

 

 そういえば、遥と由佳は俺がダメ男だった頃の姿を知ってるのか。

 

 その上でこんなに信用してもらえてるってのは、少なくとも俺が立派に成長できたことだけは間違いないようだ。

 

 それもぜんぶ、美優にお膳立てしてもらった。

 

 俺はただ、言われたことを守ってただけ。

 

 ──だと、思っていた。

 

 由佳にこうして問いただされるまでは。

 

 思い返してみると、美優があれこれ世話を焼いてくれたのは、最初だけなんだよな。

 

 佐知子と付き合ってからは、別に美優にどうしろと言われて変わってきたわけじゃない。

 

 色々とお説教をされてはきたけど、怒らせるっていうのはそもそも、俺が自発的に動かなければ起こり得なかったわけで。

 

 そして、その美優の怒ったタイミングが、どれも親密度が増すきっかけになった。

 

 そうやって最後の最後で美優に許されて、ここまで好かれてきた俺は、俺以外の何者でもなかったわけだ。

 

 俺もこの三ヶ月の間に、色々とやってきたんだな。

 

「私は美優のことよく知ってるつもりだけど、美優が努力させるのは努力ができるヤツだけよ。美優は基本的に人に無関心だし、無駄に世話焼きなんてしないんだから」

 

 その言葉が、ズシリと胸に響いた。

 

 ああそうだ。

 

 いままでもこうやって気付かされてきた。

 

 美優に初めて「思い込みが激しい」と言われたときも、俺は言葉のナイフを胸に突き立てられたのだと思っていたけど、そうじゃない。

 

 美優はただ、正論を言っていただけ。

 その言葉に俺が傷ついたのは、自分が努力してこなかった事実を、自虐で保身し続けていたからに過ぎないんだ。

 

「なんか、ごめん。それとなんか、ありがとうな」

「なんかなんかって何よ。解決したならちゃんとお礼を言いなさい。あと詫びとしてヤらせなさいよ」

「そこはもうそろそろ譲ってくれ」

 

 せっかくの気分が台無しなんだが。

 

 でもまあ、スッキリした。

 

 結局は、俺の捉え方が悪かっただけなんだ。

 

 美優は優秀で男らしい他人を好きになれず、落ちこぼれの近親者である俺しか好きになれなかったのだから、不幸としか考えようがない──という、この考えの順序が間違っていた。

 

 俺は落ちこぼれなんかじゃなく、立派な男として美優に好かれている。

 しかし、美優の体質からすれば、俺が落ちこぼれであるとしか考えられない。

 なぜなら、美優は優秀で男らしい他人から告白されると、嫌悪感を抱いてしまう「真逆の生殖本能」を持っているから。

 

 だが、ここには矛盾が存在している。

 なぜなら、美優が最も愛している近親者は自分自身であるからだ。

 でなければ、鏡に映る自分を見て、その性的な姿に興奮をしたりなんてしない。

 

 では美優が俺以下の落ちこぼれなのかと言えば、それこそありえない話。

 そもそも、美優が普段から仲良くしている女の子は、山本さんも含めてみんな優秀で可愛い女の子なわけだし、このベクトルだけは生殖本能云々に対して説明がついていない。

 

 美優の体質が持つ指標は、あくまでも遺伝子が遠いか近いかだけ。

 

 すなわち、矛盾なく存在している事実は「美優は遺伝子が近い者に対して極端に強く性的な興奮を覚え、また逆ならば不快に感じる」ということだけだ。

 

 影響されているのは性欲であって、その他の思考や感情にまでは及んでいない。

 

 一般的には、こうした生殖本能が理想的な番を見つけるために、人間はその相手の人柄に関係なく体の匂いやキスの味を良く感じるようにできているとされている。

 

 そうして、あるいは恋心さえ、遺伝子によって操作されているのだと、とある学者は云った。

 

 だから美優もそうなんだと俺は思い込んでいた。

 

 でも、これは絶対に正しいと立証されたわけではないし、仮にこの説が事実であったとしても、美優の体質までもがこの説に沿っているとは限らない。

 

 もし、生殖本能によって美優の恋心までもが操られているならば、俺にすら興味を持たないはず。

 

 そこに物理的な制約があろうとも、心はもう振るわない。

 自分自身という最良のパートナーが最初から存在しているのだから。

 

 だから、逆説的に、美優が人を好きになるのにも嫌いになるのにも、理由が存在するんだ。

 

 美優が優秀で男らしい男に告白されるほど気持ち悪く感じるのは、たしかに事実として存在している。

 だがこれは、生殖本能の逆転には無関係の現象。

 そう捉えれば、なんだ難しいことはない。

 

 美優は告白されるのが鬱陶しいと嘆いていた。

 そのせいでドライな性格になるほどに。

 ドライというか、もはや辛辣とすら言えるレベルだ。

 

 そんな強気な態度を取られたら、俺のような男はまず告白はできない。

 自分を落ちこぼれだと思っているような、能力的な自信もなくて、かつ無鉄砲に飛び込むだけの甲斐性もない男には、不可能な所業。

 であれば、告白に心底ウンザリしている美優にとって、告白される可能性の高い優秀で男らしい男は、もはや敵とすら言っていい。

 

 だから、美優が嫌悪感を抱いたその根源は、むしろ生殖本能より生存本能にある。

 俺は自分に自信がなかったから、このベクトルの違いに気づけなかった。

 

 なんというか、アホだよな、俺って。

 美優は最初から「私は幸せで、その答えを知っている」って言ってたのに。

 美優を不幸にしていたのは、他でもない俺自身だったんだ。

 

「……マシな顔になったわね」

 

 由佳がつまらなそうに俺を眺めていて、しかしその奥には、慈愛にも似た、優しい表情があった。

 

「だとしたら、本当に由佳のおかげだよ。心から感謝してる」

 

 由佳に励まされるとは思ってなかったけど。

 

 そういえば昔の話を聞く限りでも、こいつが一番の世話焼きだったな。

 

「こっちは美優のこと諦めてあげたんだから。ちゃんと幸せにしなさいよ」

「わかってるよ。きちんと幸せにする」

 

 最後まで、一緒に。

 

 辛いことはいくらでもあるだろうけど、二人でなら乗り越えられる。

 

 今ならそう信じられる。

 

「あーあ。美優にもフラれるし、お兄さんにも相手にされないし。かーえろっと」

「そうするか。代金は俺が……」

 

 と、ようやくこの折檻部屋から抜け出せると思った、矢先のこと。

 

 室内に、小さな振動音が響いた。

 

 音源は俺のスマホのバイブレーション。

 

 先ほどメッセージを送った山本さんからの、返信通知だった。

 

『ゴメンね、弟たちのお世話してた! 今なら会えるから、うちにおいでー』

 

 という。

 

 俺のスマホの通知画面を。

 

 由佳がガン見していた。

 

「ちょっと!! 何よコレ!?」

 

 まずい、最悪のタイミングでとんでもない事故が起こってしまった。

 

「待ってくれ!! 違うんだ、これはそういうのじゃなくて……!」

「そういうのじゃなかったら何なのよ!? こんなときに他の女の家に行くとかサイテーどころじゃないんですけど!!」

 

 由佳は鬼のような形相で俺の通知画面を自らのスマホで連写し、それを手早く美優に送ってから電話を掛け始めた。

 

 強引にでも止めにいきたかったが、どうにも暴力的な解決に気が進まず、俺はどうにか説得を試みる。

 

「由佳、落ち着け。これはただの相談相手であって。だから、まさに今この状況と同じなんだ」

「同じなわけないわ美優の知らない女でしょだって私は学校の女子の名前くらい全員把握してるんだから私の知らないところで美優とイチャイチャして勝手に両思いになってそれで私は遥からも美優はすごく幸せそうにしてるって聞いて何度も何度も悩んだ末に諦めてあんたのことを認めてやったのに全く与り知らないところで他の女を作ってたなんてそんな仕打ちたとえこの手を血に染めてでも断罪してやるんだから」

 

 ダメだ、完全に血が昇っている。

 

 言い訳をしても火に油を注ぐだけだ。

 

「美優!! メッセージ見た!? こいつ浮気してる!! あんたのこと裏切っ……えっ!? 知り合い!? 問題ない? 待って待って。美優、ちゃんとメッセージ読んだ? 家に行くって……それも問題ない? 嘘でしょ!? 家に行くってその時点で実質セックスしてることと同じよ? ……ってええッ!? それも問題ない!? ウソッ……ど、どういう、こと……」

 

 由佳の顔が真顔になったり般若面になったりと忙しい。

 会話を聞く限りでは、どうにか丸く収まりそうだ。

 

 それからも由佳の美優に対する忠告はいくら釘を刺しても糠を通り抜け、やがて疲れた表情から怒りの一切もなくなっていった。

 

 そうして最後に、由佳は真顔で美優に尋ねる。

 

「じゃあ、それはいいとして。私もお兄さんとセックスしていい?」

 

 最後の最後まで悪あがきだった。

 

「今日はダメ? 今日はって何? 意味がわからないんですけど? 今したいんだけど、ダメ? うん。うん……。わかった」

 

 由佳はしょんぼりした顔で、通話を切った。

 

 どうやら美優からも禁止宣言が出たようだが、「今日はダメ」ってどういう意味だったのか、俺もめちゃくちゃ気になるんだけど。

 

「はあ。もう。意味わかんない。由佳ちゃんは考えるのをやめます」

「それがいいと思うよ」

 

 この瞬間だけは、由佳が普通の女の子に見えた。

 

「でも、今日の話で一つだけ収穫があったわ」

 

 由佳は思いのほか元気そうだった。

 

 むしろさっきよりツヤのある顔になっている。

 

「よくわかんないけど、美優が今日はお兄さんとエッチしちゃダメって言ってたから、つまり明日以降ならしてもいいってことになるじゃない?」

「残念なことにそうらしいな」

 

 美優はどういう意図でそれを言ったのか。

 

 それくらいは帰ったら教えて貰おう。

 

「でもな、それは正確には、俺と美優の二人が合意した場合であって、俺はまだしていいとは言ってないからな」

「ふん。美優の許可さえ下りればチョロいもんよ」

 

 由佳は生意気な顔で俺を見てニヤニヤする。

 

 こいつにだけは絶対に負けない。

 

「で、大切なのはここからよ」

「なんだ」

 

 俺が由佳とセックスをするという限りなく無駄な仮定に於いてだが、今際の際だし聞いてやろう。

 

「私としては、そろそろ健全なエッチがしたいわけですよ」

「健全っていうのは?」

「命令とかお仕置きとかじゃなくて、もっとこう、お互いの尊厳を大切にできるような、慎ましやかで愛のあるですね……」

「普通のセックスしたことないの?」

「無いわよ!!」

 

 うんまあ、俺が初めてだったわけだし、美優も遥も由佳とラブラブしてたわけじゃないからな。

 

「いい? 次にエッチするときは、優しくしてね? 今度レイプしたら、向かいの店のデラックスジャンボパフェを奢らせるから」

「いくらするんだ?」

「3500円」

「たっか!」

 

 まさかサーロインステーキを軽々と超えてくるとは。

 

「何言ってんの。ドリンクセットにしたら税込み五千円はするんだから」

「飲み物って千円もすんの?」

「うん」

 

 それは手痛い出費だな。

 無い仮定とはいえ気をつけなければ。

 

 ……レイプしないように気をつけるってなんだ。

 

「そんじゃそのよくわかんない女のところに行ってらっしゃい。エロいことしてくるんじゃないわよ」

「しないって」

「まあ、由佳ちゃんと一緒にJC乱交ならセッティングしてあげてもいいけど」

「しないから!!」

 

 この倫理観が滅茶苦茶な少女JCたちが、どうかまともな人生を歩んで健やかな家庭を築いていくように。

 

 心の底から深く深くお祈りをして、俺は山本さんに会いに行くのだった。

 

「ん……?」

 

 あれ?

 

 俺、山本さんに会いに行って。

 

 何を話せばいいんだっけ──。

 



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失恋レターと最後の特訓

 

 冷房の音が低く鳴り響く、静かなバスの中。

 窓の外をぼーっと眺めていると、流れる景色がまるで知らない町のようだった。

 

 数時間前にバスに乗っていたときには不安と焦りしかなかったのに、この心のどっしりとした落ち着きようは別世界の自分にでもなったようで。

 

 俺はもう美優を幸せにすると、そうできると、心が決まった。

 だから、山本さんと会っても相談として話すことは無いと思う。

 

 でも、お礼は言いたい。

 俺が自信を取り戻せたきっかけは間違いなく山本さんにある。

 あれだけ応援してくれた山本さんのことだから、きっと美優と結ばれたことを報告をすれば喜んでくれるはずだ。

 

 ……と、思いはしたのだが。

 

『相談があるって言っておいて悪い。無事に解決したから、ひとまず悩みはなくなったよ』

 

 俺は山本さんにそうメッセージを送って、その返事を待っていた。

 

 理由は、なんてことはない。

 どうするのが誠実なのか判断がつかなかったからだ。

 

 山本さんは俺と美優の関係を応援してくれていた。

 それが嘘だったと疑うつもりはないが、今ではそれと同じくらい「本当は悔しかった」と言った山本さんの言葉も、本音だったと信じている。

 

 だから、もしメッセージの返信が、すべてを察した山本さんからの『お幸せに!』であるなら、俺はこのまま家に帰る。

 

 お礼は言いたいし、結局は俺のどこが好きだったのか聞いてみたいから、山本さんに会いたい気持ちはある。

 でもそれが俺のエゴでしかないのだったら、この好奇心は無かったことにしてもいい。

 

『悩みは無くなったんだね、よかった。私は暇してるけど、ソトミチくんはどう? うちにくる?』

 

 山本さんのメッセージは、まさかの俺にバトンを渡すものだった。

 

 しかし、考えてみればそれも当然だ。

 俺から持ちかけた話だし、その中身を決めるのは俺しかいない。

 

 この山本さんからのメッセージ、どちらかといえば来て欲しいって意味だよな。

 でなきゃ相談が無くなったのに家に来るかなんて聞かないだろうし。

 俺が家に行きたいと思われてる可能性も、なくはないか。

 

 山本さんも俺のためにわざわざ弟たちを早く家に帰したのかもしれないからな。

 それもあって予定がすっぽ抜けるのは避けたいんだろう。

 俺も誘うだけ誘って一方的に断るのは申し訳ない気持ちがある。

 

『どうしようかな。近くのお店で軽く飯でも食べながら話すとかは?』

 

 相談を持ちかけたときは美優を幸せにしたい一心で動いていたから、山本さんの都合も考えずにとにかく会おうとしていた。

 

 でも、悩みが解決した今となっては、その相談もただの幸せアピールになってしまう。

 山本さんのことだから妬みで攻撃的になることはないだろうけど、不快にならないかどうかはまた別の話だ。

 

 それを考慮して、目的をお喋りではなく食事にしておく。

 これならもし美優のことを話す空気じゃなくても、気まずい時間を過ごさずに済むはずだ。

 

『シャワーを浴びちゃったから、外はちょっとな~。暇ならうちにおいでよ! 私からも話したいことがあるから!』

 

 これまた想定外の返答だった。

 

 山本さんから話があるなら行かない理由はないか。

 いや、由佳にも言われた通り、恋人がいて他の女の子の家に行くのは問題なんだけど。

 

 俺にも一応、山本さんに確認したいことはある。

 美優の由佳に対する「山本さんとセックスすることになっても構わない」という発言についてだ。

 これを字面通りに受け取るつもりはないけど、まるで俺が山本さんの家に行くことを、美優は事前に把握していたような口ぶりだった。

 

 あるいは、山本さんもそのあたりを全てわかった上で、俺を待っているのかも?

 

「……なんて、考え過ぎか」

 

 と、独りで呟いた。

 

 そのタイミングと、山本さんから追加のメッセージが来たのが、ほぼ同時だった。

 

『美優ちゃんから全部聞いてるからおいで』

 

 その文面を見た瞬間、背筋が凍った。

 

 ああ、やっぱりそうだったのか。

 2人は最初からこうなることがわかっていたんだ。

 

『もうすぐ着くから待っててくれ。マンションまで着いたら連絡する』

 

 山本さんとはどんな話をすることになるんだろう。

 

 ──美優とは恋仲になったよ。

 ──そうなると思ってた! 末永くお幸せにね!

 

 なんて、朗らかに終わるイメージがつかない。

 

 いやいや。

 他ならない山本さんのことだ。

 人の幸せを喜ばないはずはない。

 もっと胸を張って堂々としていよう。

 

 俺は山本さんのマンションに向かい、エントランスのロックを開けてもらって部屋の前までやってきた。

 数日前にも来たこの部屋のドアが、やたらと無機質に感じられる。

 

 インターホンを押すと、通話状態になる前に山本さんがドアを開けて迎えてくれた。

 

「いらっしゃいませ、ソトミチくん」

 

 室内に立ち込める冷気の中に、微かに香る柑橘系の匂い。

 シャワーを浴びた直後の山本さんはTシャツだけのラフな格好で、服も髪もスッキリ洗いたてだった。

 バスの冷房で発汗は落ち着いたとはいえ、俺は外を歩いているだけでもだいぶ汗をかいてきたし、部屋に踏み込むのが億劫だ。

 

「はい、ではこちらにどうぞ」

 

 そんな俺の心を読んだかのようなタイミングで、山本さんが脱衣所のドアを開けた。

 そこには折り畳まれたタオルの他に、俺が山本さんの家に初めて来たときに使わせてもらったTシャツと、おそらく洗濯機にでも忘れていたのであろう俺のトランクスが置かれていた。

 

 なんとも手際の良いことだが、俺はその準備物を見てむしろ安心していた。

 ただの偶然かもしれないが、俺と山本さんが過ごした期間の中では『風呂上がりに服が置いてあったらエッチはしない』という暗黙のルールが出来上がっていたのだ。

 他の人ならいざ知らず、相手はあの山本さんなわけだし、これを山本さんからのさりげない気遣いだと解釈しても間違いはないだろう。

 

「手間かけて悪いな。すぐ行くから」

「いーよ。ゴロゴロしてるだけだから。ゆっくりしといで」

 

 俺はシャワー浴びて、シャンプーボトルの頭を押すのを数瞬だけためらい、頭からつま先までの全身を丹念に洗った。

 そして、脱衣所で着替えてドライヤーで髪を乾かすと、夏の湿気とともに溜まっていた鬱憤が、さっぱり晴れたみたいに爽やかな気分になった。

 

「上がったよ」

 

 居室に入ると、山本さんが宣言通りベッドでスマホをイジりながらゴロゴロしていた。

 仰向けにゆったりしている姿勢が美優と良く似ていて、おっぱいが大きい子は不便さも同じなんだなと不埒なことを考える。

 

「一緒に寝る?」

 

 山本さんはからかうように笑って、両手を広げて俺を歓迎する素振りを見せる。

 

「嬉しいお誘いだけど、今は遠慮しとくよ」

 

 俺はベッドの縁を背もたれにして、カーペットに腰を下ろした。

 美優から話は聞いてるって言ってたし、この対応でいいんだよな。

 

「この数日でまたいい顔になっちゃったね」

 

 山本さんは体を起こしてベッドの縁に座り、俺の頭をポンポンと撫でる。

 

 それから俺の隣に腰を下ろして、2人で並んで座った。

 

 腕を動かせば当たるぐらいの近さ。

 しかし、体温を感じるほど密着はしていない距離。

 それが今の俺と山本さんの関係を表していた。

 

「山本さんのおかげだよ」

 

 俺が美優と結ばれたこと。

 そして、自信を取り戻せたこと。

 

 そのどちらもが、山本さんがこの部屋で俺を励ましてくれたからこそ叶ったことだった。

 

「ありがとうな。本当に、心の底から感謝してる」

 

 あんなにダメで女性不信だった俺の周りには、気付けばたくさんの女の子がいて、恋の相談もされて、果てにはエッチの誘いまで受けるようになった。

 俺という人間の根幹を作ってくれたのは美優だけど、自信を取り戻すために俺を動かしてくれたのは山本さんの言葉だったように思う。

 

「そう? なら、感謝の印を貰ってもいいのかな?」

 

 山本さんは膝を抱えて、また悪戯な微笑みを向けてくる。

 どうして君たちはそんなに現金なのかな。

 

「気持ちとしてはそれなりのものは出したいけど。何か欲しいものとかあるのか?」

 

 さすがに見返りとして物を買ってくれとは言わないだろう。

 思い出の品というのも考えにくい。

 

 俺が持っていて、山本さんが欲しがりそうな物なんて、何かあるかな。

 

「じゃあ……これを」

 

 山本さんが視線を落としたのは、俺の腕だった。

 まさか腕そのものってはずはないし、状況に合わせて連想されるものは、ハグをして欲しいとかになるわけだけど。

 

「えーっと……まず、腕で合ってる?」

 

 俺がそう尋ねると、山本さんは首を横に振った。

 

 どうやらハグを求められているわけではなさそうで、内心ホッとした。

 さすがに山本さんと抱き合うのは俺の理性的にも問題がある。

 

 今まで女の子にモテるような人生なんて考えてこなかった俺には、その手の誘いやおねだりを断る方法がわからないからな。

 由佳みたいにわかりやすくワガママな態度を取ってくれれば断りやすいんだけど、こんなにしんみりした空気で要望を突っぱねるなんて気まずさもひとしおだ。

 

「この……隙間をですね。無くしてもいいって言われたら、すごく嬉しいのですが」

 

 山本さんは、俺との間に空いた隙間に、寂しげな視線を注いだ。

 

 つまるところ、避けられてるみたいで嫌だからくっつきたいとの要望のようだが、果たしてこれをどう飲むべきか。

 

 腕が触れるくらいならいいのかな。

 なにせ、佐知子とはもうベタベタしてしまっているし。

 あれより軽いものを求められているだけだと考えれば、無下にするほどの望みでもないか。

 

 急に冷たくされるのは嫌だって、山本さんはそう言いたいんだよな。

 

「それくらいなら、まあ。いいよ」

 

 俺が許可すると、山本さんは胸のつかえが下りたように息を吐いて、数センチだけ俺との距離を詰めた。

 冷房がやや強めに効いているせいか、山本さんの体温をやたらと高く感じる。

 わずかに重なる肌の感触が生々しい。

 

「少し、寒いな」

 

 心を落ち着ける時間が欲しくて、俺はリモコンを取ってもらうつもりでそう呟いた。

 

 しかし、山本さんは微動だにしないで、真横に体をくっつけたままジッと俺を見つめている。

 

「そうだね。寒いね」

 

 山本さんの目が湿度を帯びて、腕から伝わる体温がぐんと上がっていく。

 それにつられて俺の心拍数が上がって、俺と山本さんの二人を包む空気も粘度を増していった。

 

「山本さん、あの……」

 

 俺が再び体の隙間を開けようとすると、それを制するように、山本さんは俺の左手に自らの右手をそっと重ねてきた。

 

 指と指が絡まって、2人の隙間がほんの少しずつ、限りないゼロに近づいていく。

 

 俺は反射的に手を引いたが、山本さんは俺の手を握ったまま離そうとしなかった。

 それどころか、俺が思わず体を仰け反らせた瞬間、その崩れた体勢を好機に俺を押し倒してきた。

 

「ちょっ、待った! 山本さん、それはさすがに……!」

 

 山本さんは起き上がろうとする俺に、全身で体重をかけて覆い被さってくる。

 

「隙間は無くしていいって言ったよね」

 

 山本さんはその瑞々しい体を全身で俺に貼り付けて、耳元に甘い息を吐いた。

 

 まさかの山本さんの暴走に、俺はやむなく腕力で山本さんを押し退けようとするが、それでも山本さんは俺から離れようとしない。

 

「ま、マズイってほんとに! 俺には美優がいるから……! てか、山本さんもその話は聞いてたんだよな!? とにかく、お、落ち着いて。俺は別に、山本さんのことは嫌いにならないし、だから、まずはお互いのために話し合いを……!」

 

 俺が必死でそう言い聞かせると、山本さんは俺の首に腕を回して、わなわなと肩を震わせた。

 

 あまりのことに動揺した俺だったが、それでも最優先に美優を考えたい気持ちは変わらず。

 山本さんに離れてもらえるよう、俺はその背中を軽くタップした。

 

 山本さんはまだ横隔膜をピクつかせていて、やがてそこからは、小さな笑い声が聞こえてきた。

 

「や……山本さん……?」

 

 俺が困惑していると、山本さんが口を押さえながら顔を上げた。

 そこには山本さんの大きな手でも隠しきれない楽しげな表情があって、堪え切れなくなった笑いを懸命に抑えようとしているのがわかる。

 

「もう。ソトミチくんったら。前と全然反応が違うんだ」

 

 山本さんの声はようやく前と同じようなハツラツさを取り戻した。

 それから山本さんは、軽快な動きで俺の上から退いて、俺の手を引っ張って体を起こしてくれた。

 

「マジで心臓に悪いからやめてくれ……」

 

 どうやら山本さんの悪ふざけだったようだ。

 今でも心臓がバクバクしていて、視界が若干白んでいる。

 

「美優ちゃんと両想いになったんだね。……本当に」

 

 山本さんは感慨深そうに口にした。

 悪ふざけの目的は、美優の話の真偽を確かめるためだったらしい。

 

「俺もまだ現実味がないんだけどな。美優からは、いつ連絡があったんだ?」

 

 美優から全ての話を聞いてるんだから、俺が家を出てからの数時間で通話でもしたんだろう。

 さすがの山本さんでも俺と美優が恋仲になるタイミングまでは予測できないはずだし。

 

「ん? なんのこと?」

 

 しかし、山本さんは唇に指を添えて首をかしげた。

 

「美優から俺のことを聞いたんだろ?」

 

 俺が慌てて山本さんのスキンシップを拒んだとき、山本さんはその反応に納得していたわけだし、事前に美優からの情報があったことは間違いないはず。

 

 この認識の齟齬がどこにあるのか、気付いたのは山本さんだった。

 

 というか、山本さんしか気付きようがなかった。

 

「ああ……そうだね。うん、聞いてたよ。美優ちゃんから」

 

 山本さんはニヤニヤしながら、四足歩きで俺に近づいてきた。

 そして、前と同じように指先で俺の胸をなじって、ゆっくりと唇を動かした。

 

「ソトミチくんがバイトに行ってる間にね」

 

 山本さんの口から紡がれたまさかの答え。

 美優と山本さんの2人は、俺が日付を間違えていた分のバイトに行っている間──つまり、三日も前に直接会って話をしていたらしい。

 

「お互いに全部話したよ。ソトミチくんとどんな会話をしたとか。どんなエッチをしたとか。まだソトミチくんにも話してない、女の子の本音とかも」

 

 山本さんの声は妙に淫靡な響きを含んでいて、二人の話し合いがテラスでお茶をするような華やかなものではなかったことがよくわかる。

 

 俺も知らない美優と山本さんの本音って、いったいどんな話だったんだ。

 美優の方はこの二日間で話してもらった通りの内容だったのかな。

 だとしたら、山本さんがまだ話してない本音って、何なんだろう。

 かなり気になる。

 

「その話し合いで、俺と美優が付き合うのはわかってたんだな。それが今日だったことは、俺からのメッセージで察したのか」

「うんうん。ソトミチくんもだいぶ理解が早くなってきたね」

 

 俺が美優の告白を断るわけがない。

 だから、美優から俺のことが好きだと聞いた段階で、山本さんはいつかこうなることを予見していたのだ。

 

「美優のやつ、山本さんと会ったなんて一言も言わなかったよ。三日前に会おうって持ちかけたのは美優なんだよな?」

「そうだよ。思いっきり『お兄ちゃんは私のもの』宣言されちゃったよ」

 

 それはまた、まさかの事実だな。

 この裏話は聞いてしまってもよいものだろうか。

 

「原因はやっぱり電話のアレなのか」

「うーん……ある意味ではそうとも言えるかな……」

 

 山本さんは言葉を濁しながらも頷いた。

 どうやらそれほど正解に近くはないらしい。

 

「具体的にどんな話だったのか聞いたらマズい?」

「問題があるわけじゃないけど……具体的なのはさすがに勘弁してください……」

 

 山本さんは露骨に顔を逸らして頬を紅くした。

 

 ますます気になる態度だ。

 

「この部屋で根掘り葉掘り聞かれたので……」

「あ、ああ、そういうことか」

 

 ベッドの上でネチネチお説教されたんだろうな。

 もう深く考えることはすまい。

 

「ソトミチくんの昔のこととかも話はしたよ。お料理上手なんだってね」

「山本さんに比べたら大したことはないけど、経験はそこそこあるよ」

「ふむふむ。なら今日のお夕飯を作ってもらおうかな」

 

 時間はまだ6時くらいだし、山本さんの分を作るくらいなら問題ないか。

 さっきのお礼とやらも有耶無耶になっちゃったしな。

 

「いいよ。なにがいい?」

「オムライス!」

「わかった」

 

 と、即承諾してしまったけど、難しいところをぶっ込んできたな。

 フライパンの形が違っても上手く巻けるだろうか。

 

 冷蔵庫の残りは、さすがに作ってくれと言っただけあって揃ってるな。

 しかし、肝心のチキンがない。

 なぜこれでオムライスを選んだのか。

 

 目立った食材は卵と豚肉と野菜類一式。

 牛乳はないからクリームソースは無理。

 となると、エスニック系にするか、あるいはポークシチューでも上からかけるか。

 

 どんな感じがいいか聞いたらセンスに任せるとか言われそうだな。

 

「どんなオムライスがいい?」

「んふふ。ソトミチくんのセンスにお任せします」

 

 やはりそうなるか。

 いや、これはおそらく、俺がそう思うことを想定した上であえて山本さんがそれに合わせた感じだな。

 

「そしたらポークシチュー掛けでいいかな」

「いいねいいね。私はオムライスの形をしてればそれで満足だけど」

 

 地味に妥協になってないラインなんだよな。

 

 まあいいか。

 いつも通りに作るだけだし。

 

 俺がキッチンに立つと、山本さんは後ろで手を組んでニコニコと観察を始めた。

 昔から美優に似たような感じで指導されてたからそんなに緊張はしないけど、俺もこの家で何度も山本さんの料理を食べさせてもらって、腕前のほどは嫌というほど実感してるからな。

 プレッシャーはどうしてもかかる。

 

 たまねぎを微塵切りにして各種ソースと調味料を混ぜ、肉など具材を放り込んで弱火で放置。

 その横で米を炒めながら味付けして卵で巻き、皿に盛ってシチューをドバドバと。

 かけてから、乗せて割るタイプか極薄のオムライスにすればよかったと、見た目の悪さに後悔する。

 

 通常ならここで緑の彩りだけど、この皿にバジルを散らすのも微妙なところ。

 ともなればバルサミコスあたりを使って、シチューより濃い色に煮詰めたソースをケチャップ代わりにサッと掛けるか。

 ちょっと張り切りすぎたけどまあこんなもんだろう。

 

 食器は温度差で傷まないものから順に処理。

 スポンジに付きやすい汚れは一旦洗剤に浸けて放置だな。

 

「できたけど、こんな感じでいいか?」

 

 俺が皿を持って見せると、山本さんはそれを受け取ってすーっと鼻で息を吸った。

 

「んー! いい匂い! ありがと、ソトミチくん。愛がこもってて大満足だよ。ささ、残りの洗い物は置いておいていいから、こっちでゆっくりしよ」

 

 山本さんがテーブルの前に腰を下ろして「おいで」のジェスチャーをするので、俺は迷う暇もなくその横に並んだ。

 

 山本さんはスプーンで楽しげに卵を割って、大きな口で食べ始める。

 

 なんだか山本さんも、雰囲気が変わったかな。

 前の2人と違って年相応の女の子っぽくなった気がする。

 

「ほんとに美味しいね、びっくりしちゃった。これなら先週のお泊まりのときも作ってもらえばよかったよ」

「俺は一応手伝うかとは聞いたからな」

「そうだったねー……不覚……」

 

 山本さんはしょんぼりしながらも、食べるスピードは変わらない。

 味は好みに合っていたらしい。

 

 美優以外に食べさせるのは久しぶりだな。

 こんなに美味しそうに食べてもらえると、作った甲斐があるってものだ。

 

「ソトミチくん、シチューしか味見してないよね?」

「ああ、そうだな。卵とかはどう?」

「自分で確かめた方が早いよ」

 

 山本さんはオムライスをひと掬いして、俺の唇に触れるくらいにスプーンを近づけてきた。

 

 仕方ないので口を開けてそれを食べる。

 慣れないフライパンで作ったにしてはムラなくいい感じに焼けていると思う。

 

「ふふっ。ソトミチくん、食べたね?」

「えっ? ああ、うん。食べた、けど」

 

 山本さんは不気味な笑みを浮かべて、またオムライスをひと掬いする。

 

「はい、あーん」

 

 それを今度は、丁寧に空いた方の手を添えて、俺の前に持ってきた。

 

「いや、あの、そういうのはだな」

「さっきもあーんしたでしょ」

「あれは……なんというか……」

「いいからお口開けて。どうぞ、食べてください」

 

 問答無用でスプーンを近づけられて、またパクッと口にしてしまう。

 山本さんはそれを楽しそうに眺めていた。

 

 何がしたいんだろうか、この人は。

 まさか美優にお説教されたことに対する当て付けだろうか。

 

 それなら……納得できる。

 

「はー美味しかった。ご馳走さま、ソトミチくん」

「お粗末様でした」

 

 山本さんの食事が終わって、数秒だけ静寂が訪れた。

 

「ねえ、ソトミチくん」

 

 山本さんは壁を見つめながらポツリと呟く。

 

「今度は2人でご飯を作りたいな」

 

 山本さんが何気なく溢した言葉。

 

 ありふれた望みなのに、その声は虚空に消えていく。

 

 俺は相槌の一つもしてあげられなかった。

 そうだねって返すだけでよかったはずなのに。

 

「なんてね。食器を洗ってくるね」

 

 山本さんは弾みよく立ち上がって、キッチンで洗い物を始めた。

 

 このやりとりの意味を考えることはしなかった。

 邪推ばかりが頭を支配しそうで、俺は無心でいることに意識を集中する。

 そして、詰まった息を吐き出して、疲れた体を預けるようにベッドにドサッともたれかかった。

 

 そのとき、シャリっと紙が擦れたような音がして、俺は山本さんの書類を踏んでしまったのかと慌てて身を避けた。

 しかし、近くに紙が落ちている様子はなく、気のせいかとまたベッドに体重をかけると、やはり紙の擦れる音がする。

 

 何度かマットレスを押すと、その度に小さな音が聞こえた。

 どうにもフレームとマットレスの頭のところに紙が挟まっているようで、指を差し込んでみると先端にわずかな厚みが当たった。

 

 それを引っ張ってみると、そこからは葉書はがきサイズの洋封筒が出てきた。

 開け口にハート型のシールが貼られていて、俺もそんなものを見るのは人生で初めてだったのだが、それはどう見てもラブレターにしか思えなかった。

 

「ソトミチくん?」

 

 背後からの声に、俺はとっさにその洋封筒を背後に隠した。

 食器を洗い終えた山本さんが部屋に戻ってきて、キョトンとした顔で俺の奇行を眺めている。

 

「あっ……これは、悪気があったわけじゃなくて……!」

 

 さすがにこんなバレバレの状態で隠している意味があるはずもなく、俺は素直にその封筒を見つけてしまったことを懺悔した。

 

「……見つかっちゃったか」

 

 山本さんは意外にも冷静で、二本の指でひょいと俺からその洋封筒を取り上げた。

 

 どう考えてもラブレターにしか見えないその封筒。

 なんで、あんな場所に挟んでたんだろう。

 

 どこまで言及していいのかな。

 見なかったことにするのが一番なんだろうけど、それだとお互いにモヤモヤが残ってしまう。

 

「それって、ラブレターとかなのか」

 

 だから、俺はあえてそれを訊いた。

 たとえ山本さんの口から出る答えが嘘だったとしても、二人の間の認識さえ同じなら変な腹の探り合いは起こらない。

 

「うーん……そうだなぁ……」

 

 山本さんは髪を耳に掛けながら苦笑いする。

 

「どちらかと言えば、失恋レターかな」

 

 山本さんは自嘲気味に、そんな悲しい単語を口にした。

 

 それはつまるところ、失恋することを前提としたラブレター。

 この状況を公平に判断すれば、すでに美優と結ばれた俺に対して山本さんが想いを綴ったもの。

 傲慢に過ぎる仮説ではあるが、今日この部屋に来て過ごしてきた時間を考えれば、そうとしか思えない。

 

 そんなものを相手に、俺はどうすればいい。

 

 山本さんがどう思おうがそれ自体は自由だから、好きにすればいいと。

 そう励ますのは、あまりにも冷酷で無責任だ。

 

 かといって、山本さんの想いを頭から否定できるほど、俺は人間が出来ていない。

 もしくは失恋レターなるものは存在しなかったことにして、山本さんの口から直接想いを聞くだけなら、まだ心の整理はつくだろうか。

 

「それを書いたのは、俺がこの部屋に来た後なんだよな……?」

 

 少なくとも山本さんとエッチをしているときは、このベッドにそんな封筒は挟まっていなかった。

 

 山本さんは2人で過ごした一週間の中で俺に男としての興味を持ってくれて、でも俺が美優と結ばれてしまったために、それを渡せずにいる……とか。

 

「まあ、そう思うよね」

 

 しかし、返ってきた答えは予想外のものだった。

 

「意地悪な答え方をするとね。貰ったんだ。この手紙は」

 

 山本さんは封筒をヒラヒラさせて、飽きたオモチャみたいにスッとテーブルの上に置いた。

 

「あ……そ、そうなのか」

 

 まさかの根底からの勘違いだった。

 死ぬほど恥ずかしい思い違いだが、しかし、事態の本質は変わっていないように思う。

 

 山本さんは受け取ったその手紙を失恋レターと呼んだ。

 それは誰かが恋に失する運命を背負っているということ。

 普通に考えれば、失恋するのは山本さんに手紙を渡した男しかいない。

 

 だが、もしそうなら山本さんがこんなに思い悩んでいるのは変だ。

 これまでだって山本さんは大量のラブレターを貰ってきたわけだし、今になって男をフることに戸惑うことがあるだろうか。

 

 であれば、この手紙だけを特別に保存しているということが、それ自体に特別な意味を含んでいる。

 

 山本さんはそのラブレターを受け取ったときに、すぐに処分することをしなかった。

 それが意味するものは、山本さんはその男の申し出を受けようか迷っているということ。

 

 ならば、迷っている理由はなんなのか。

 それこそが、山本さんがそのラブレターを“失恋レター”と称した所以だ。

 

「山本さん」

 

 俺はもう、腹を決めなくてはならない。

 誰もが幸せになる選択だとか、誰も傷つけない人生だとか。

 そんな甘いことを言っていては、結局は誰も幸せにすることができないんだ。

 

「ん? なあに?」

 

 山本さんの表情にはまだ楽しげな余韻が残っていて、きっとまだ、俺がそれを選択しない可能性を抱え込んでしまっている。

 

「俺は」

 

 声が震える。

 

 喉が締め付けられるように苦しい。

 

 でも、それでも、俺は。

 

「美優が一番で、美優と幸せになっていくって決めたから。だから俺はもう、美優以外は選べないよ」

 

 山本さんと居るこの時間がどんなに心地よくても。

 

 人間には、生まれてから定員の決められた居場所というものがある。

 

「あっ……うん」

 

 山本さんは呼吸を詰まらせて、目を丸くしていた。

 

 俺が出したその答えは、山本さんにとって予想外だったんだろう。

 あるいは、わかっていながらも、それを思考の外に追いやっていたのか。

 

 それから山本さんは、現実がどうなっているのか再認識して、にこやかに笑った。

 

「もちろん、当たり前のことだよ。せっかく美優ちゃんと両想いになったんだから。愛情は全部美優ちゃんに注いであげないと」

 

 山本さんは口角をギュッと上げて、目を弓なりにして、そんな表情が、ほんの少しだけ緩んで。

 

 こんなに悲しい笑顔を、俺は今までに見たことがなかった。

 

 そして、緊張に力んでいた山本さんの体から硬さが抜けたかと思うと、山本さんはその頭をそっと俺の肩に乗せてきた。

 

「ごめん。やっぱり今のは結構来た」

 

 山本さんの口から初めて苦しい声を聞いた。

 

 俺も思わず「ごめん」と返しそうになる。

 でも、美優を選ぶと言ったその覚悟を自分で否定してはならないと、俺は必死で堪えた。

 

「辛い思いをさせたことについては、悪いと思ってる。だから、どこかでケジメはきちんとつけるよ」

 

 もはや謝罪することも逃げでしかない。

 だから俺は、たとえこの魂を悪で穢してでも、残酷な選択をするしかないんだ。

 

「ううん。いいんだよ。そんなこと」

 

 山本さんは気が落ち着いたところで、俺から離れる。

 

「ソトミチくんと美優ちゃんはお互いに愛し合ってるんだから。私なんかがいたって、邪魔なだけだもんね」

 

 山本さんの自嘲的な言葉に、俺の胸は更に締め付けられる。

 

 あれだけ前向きで優しかった山本さんに、自らを卑下させるというその罪の重さ。

 考えれば考えるほど、俺がやってきたことの非道さに、息が苦しくなる。

 

「あっ……ち、違うの!! 私は別に、そんな嫌味とか言うつもりはなくて!」

 

 山本さんは慌てて俺の肩を掴んできた。

 

「美優ちゃんとのことは本当に応援してたし、上手くいって、私も嬉しいって、思ってて」

 

 語気だけが強くなって、しかし、その声は次第に掠れていく。

 

「そう思ってる、はずなのに。私は、応援しなきゃいけないのに。でも、それは嫌……というか……ああ、違う、こんなこと言いたいわけじゃなくて……!」

 

 山本さんは酷く取り乱して、俺の腕を強引に掴んで立ち上がった。

 

「ご、ごめんね! こんなの初めてで、もう、なんかダメみたいだから、今日はこの辺でいいかな?」

「あ、ああ。そうだな。もう、帰るよ」

 

 弁明したいことはたくさんあった。

 それ以上に、山本さんに聞かせたい慰めの言葉もあった。

 

 でも、それはどれも俺の身勝手なものでしかなくて。

 本当に山本さんのためになることを思ったら、黙って部屋を出る以外の選択肢がなかった。

 

 俺は脱衣所に掛けていたTシャツを着替えて、そそくさと玄関に向かう。

 

 靴を履いたところで、山本さんが急いで居室から出てきた。

 

「あのね、ソトミチくん。落ち着いたら、またお話をさせて。こんな形で終わるのだけはどうしても嫌なの。もう意地汚いことはしないから。お願い」

 

 意地汚いなんて、俺は思っていなかったけど。

 山本さんがそう口にしたってことは、やっぱり今日のやりとりは、そういうことだったんだ。

 

「俺も山本さんと気まずいままではいたくないよ。待ってるから、いつでも連絡して」

 

 どんな形であろうと、友達でいたい。

 それは俺のわがままである半分、山本さんの願いでもある。

 

「だから、また、近いうちに」

「うん。ありがとう」

 

 俺はドアを開けて、外に足を踏み出す。

 

 振り返ると、少しだけホッとした顔の山本さんがいて、それが俺にとっても救いになった。

 

 空はほんのりと明るさを残しているけど、きっとあと数分もすれば真っ暗になる。

 夜の8時までに家に帰って、俺は美優を幸せにする覚悟ができたと、そう言ってやらないといけない。

 

 でも、家に向かう足が鉛のように重い。

 こんな状態で幸せにするなんて言って、美優に本当の気持ちが伝わるだろうか。

 そこに嘘はなくとも、美優を納得させられる自信がない。

 

「はぁ……つらい……」

 

 気付いたら、俺は家の近くにある公園のブランコに揺られていた。

 

 ドラマでよくリストラされたサラリーマンが乗っているような絵面だ。

 当事者になってみると、こうしてただ揺られていたいだけの気持ちが痛いほどわかる。

 

 住宅街の各所から夕飯の匂いが漏れてきて、ときおり子供とおしゃべりする家族の声が聞こえてくる。

 

 公園には誰もいない。

 道を通り過ぎていく人もいない。

 

 こんな辛い気持ちは美優に打ち明けてしまいたいのに、今日だけはそれができない。

 俺は美優を幸せにするヒントを探しに家を出てきたんだ。

 女をフッた心が痛いから慰めてくれなんて、そんな気持ちは隠しておかなくては。

 

 いくらダメな俺を知っている美優が相手でも、今日は見栄を張って男らしくしていないと。

 そういう意味のない無理も、ときには必要だって、美優なら言うはずだ。

 

 とはいえ、山本さんの話は高校の奴らにはできないし、佐知子なら優しく励ましてくれそうだが、夜遅くにいきなり電話なんてしたら迷惑だろう。

 そうやって消去法的に考えていくと、メッセージアプリのトークルームは自然と由佳のところになっていた。

 

 いくら由佳だって都合よく使っていいわけじゃないけど、そういうのとは別に、なんかこいつなら平気かなって気になってしまうんだよな。

 あのアホっぽい声を聞けるだけで、だいぶ気も落ち着くかもしれない。

 

『今暇?』

 

 と短いメッセージを、ポンと投げてみた。

 投げてから、「やっぱりよせばよかったかも」と思った、その数秒後。

 由佳からダイレクトに着信が掛かってきた。

 

 俺は応答のボタンをポンと押す。

 

『暇じゃないわよ!』

 

 電話に出ての第一声がそれだった。

 

「ああ、悪い。取り込み中だったか」

『ほんと最悪のタイミングなんだけど。でなんなの?』

「いや、忙しいなら別に……」

『いいから話せっての』

 

 暇なのか暇じゃないのか。

 いやしかし、ほんとこいつの声を聞いてると難しいこと考えてる頭がすっ飛ぶな。

 

「具体的な話があるわけじゃないんだけど。なんというか、少し気分が落ち込んでて」

『はぁ? 何? ちょっと今パンツはいてるから待ってて』

 

 電話越しにスルスルと布の擦れる音がする。

 それからイヤホンマイクがカチャカチャと鳴って、どうにもベッドの上で横になっているようだ。

 

『で、なんか意味わかんない答えが返って来たような気がしたんだけど。話って何?』

「話があるっていうより、気持ちが塞いでるから、声が聞きたかっただけなんだけど」

『あんた……そんなクラスの女子みたいなのやめなさいよ。だいたいさっき会ったばっかでしょうが』

 

 由佳の反応は尤もだ。

 いきなりこんなことを言われたら困るよな。

 申し訳ない。

 

『もしかして、由佳ちゃんのことが好きになっちゃったとか?』

「それはないんだけど」

『じゃあなんなのもー!!』

 

 電話越しにバタバタと音が聞こえる。

 実のところ人としては割と好きにはなっているんだけど。

 

『例の山本とかいう女とセックスして失敗でもしたの?』

「そういうのは、特にしなかったよ」

『あらそうなの。偉いじゃん』

 

 うんまあ、そうだよな。

 あの山本さんの誘惑によく耐えたものだと思う。

 

「……実はだな。詳しく説明するのは難しいんだけど。その山本さんに告白されて、断って、傷つけたみたいな。そんな状況になってて」

『あー、相談されてるうちに好きなっちゃった的な? そんなのその女が悪くない?』

「それは、そうかもしれないけど」

 

 たしかに、美優との関係を応援されていたはずなのに、いざ両想いになったらそれを悲しまれたというのは、俺にとっては如何ともし難い事態だった。

 

「でも、少なからず俺の態度にも問題はあって。もっと早くに、美優と両想いになったからダメだって言ってたら、あそこまで傷つけずに済んだ気がするんだ」

『はいはい私そういうのも聞き飽きちゃってるから。でみんな寝て次の日には元気になってるから。由佳ちゃんよく知ってるから。悩みたいなら明日にしなさい』

「そ、そうか。……そうかもしれないな」

 

 俺がこうしてグチグチしてると、山本さんを突き放してしまったあの言動にすら、責任を持てなくなってしまう。

 

 いい加減に気持ちを切り替えるか。

 

「ありがとう。スッキリしたよ」

『そう。それならいんだけどさ』

 

 由佳は俺の相談事にはまるで興味がなかったかのように話を区切る。

 

『お昼のと違って、これはお兄さんから持ちかけた相談じゃない?』

「まあ、そうだな」

 

 もうこの時点で何を言いたいのかおよそ察してしまった。

 しかし、由佳の意見に筋が通っているのもまた事実。

 

『美優は恩義がある分はきちんと返してくれる人なんだけど。お兄さんはどういう人?』

 

 想像していたよりずっと嫌な聞かれ方だった。

 

「も、もちろん、お礼はするよ」

 

 出来る範囲で。

 

 そう言葉を繋げようとした瞬間、由佳は『わかった期待してるわ。じゃあね』と即行で通話を切ってしまった。

 ほとんどヤクザみたいなやり口だが、しかし、本当にどこかで恩返しはしないといけないな。

 

「帰るか」

 

 結局は夜の8時ギリギリになってしまった。

 たった一日のことだったけど、ずいぶんと濃密な時間を過ごしたように思う。

 

 家のドアの前に立つ頃には、鬱屈した気分はほとんど晴れていた。

 

「ただいま」

 

 ドアを開けると、時間ギリギリだったこともあってか、美優は玄関で待ってくれていた。

 

「おかえり。お兄ちゃん」

 

 艶良くケアされた長い髪に、隙のない美しい所作。

 それに反して生意気なくらいに勝ち気な目元と、凶悪なまでに豊かな胸。

 ときに優しく、ときに厳しく、それでも常に他人を思い遣る気持ちを忘れない。

 この美優という存在の全てが、俺には愛おしくてたまらない。

 

「待っててくれてありがとうな」

 

 俺はドアの鍵を閉めて、美優の正面に立つ。

 すると靴を脱ぐ前に美優が俺に抱きついてきた。

 

 まさかのタイミングに面食らって棒立ちしていると、美優がクンクンと匂いを嗅いでから顔を上げた。

 

「女の匂いがする」

「あ、ああ! いや、コレはその、あれで! 別にやましいことはしてないから!」

 

 結果的には女の子3人とスキンシップを取ってしまったわけだし、そこは言い訳のしようがないので後で謝るとして。

 

 まずは俺がやるべきことを、やらないとな。

 

「お兄ちゃん。お腹空いた」

「えっ、あ、うん。作ろうか」

 

 せっかく覚悟を決めたものの、まずは妹の腹を満たさなくてはならないようだ。

 

 俺は手を洗ってからキッチンに移動し、冷蔵庫の中身を見ながら頭を悩ませる。

 残りの時間からして、美優が待っているはずの俺の答えを示すには、料理を作っている最中に済ませるしかないんだけど。

 

 美優はソファーで姿勢良くアプリゲームに励んでいる。

 今朝は美優の方からベタベタしてきて話しやすい空気を作ってもらえたが、今回は俺が全てをやらなくてはいけない。

 

 ただ、美優だってもうわかっているはず。

 あと数分以内に俺が何かをするのだと、頭の中では待ち構えているんだ。

 流れが多少強引でも、美優は理解してくれるだろう。

 

「美優。ちょっとこっちに来てくれるか」

 

 俺がそう声をかけると、美優はすぐにスマホを置いてキッチンまでやってきた。

 そして、特に返事をすることもなく俺の前に立つ。

 

 この時点で、美優はもう察している。

 あとは俺が美優に答えを示すだけ。

 

 俺は美優に好きだと言われて、胸が湧き上がるとはこういうことなのかと、初めてそう実感できるほどに嬉しかった。

 だが、俺なんかと付き合う美優のことを考えると、その先には不幸な未来しか見えなくて。

 

 本当に美優のことが好きだったから、美優が一番に幸せになる道を選ぶべきだと思った。

 そして、その道の先には、俺という男は存在しないのだと、そう思い込んでいた。

 

 その思い込みこそが、俺にとって最大の枷だった。

 周囲を見渡してみれば、俺はこんなにも恵まれた環境で、立派に育つことができていたのに。

 

 俺は俺という人間を誇って生きていきたい。

 きっとまた自信がふらついて悩むことはあると思うけど。

 

 それでも、俺は美優が好きになってくれた男なんだと。

 それだけは、絶対の自信として生涯を過ごしていくことを誓う。

 

「美優」

 

 目を合わせるのに、少し見下ろすぐらいの小柄な体。

 

 告白をされたあのときと、向けられている視線は変わらない。

 

「はい」

 

 私は、ここにいますと。

 いつも通りの、端的ではっきりした返事。

 

 俺はそんな美優の全てが好きだ。

 

「一生幸せにする」

 

 あのときは素直に言えなかった、心からの想い。

 

 その言葉に、美優は俺を見つめたまま、優しく微笑んだ。

 

「お願いします」

 

 美優が俺と2人で生きていくことを受け入れてくれた。

 それがあまりに嬉しすぎて、俺は思わず美優を抱きしめた。

 

 珍しく美優から汗の匂いがして、シャンプーでも柔軟剤でもないその美優の匂いに、思わず体が昂ぶってしまう。

 

 美優と心が繋がったことへの純粋な喜びと、女を抱きしめていることへの興奮が混じり合って、俺はこの日、初めて女の子にキスをしたいと思った。

 

「み……美優……」

 

 しかし、女の子とのキスなんて、経験したことも、想像したこともなくて。

 どうするのが正解なのかわからず、自分でも聞こえないくらいの声しか出ない。

 

 初めての唇の触れ合いに「キスをしよう」なんて前置きをするのは不恰好だ。

 かと言って、無理やりするのも違う気がする。

 目を閉じて、唇を突き出して……そんなやり方は、俺からしても気持ち悪い。

 

 そうなことをうだうだ考えて、俺は美優をその腕に抱いたまま固まっていた。

 しかし、ずっとそうしているのも不自然に思われそうで。

 勢いに任せてすることもできず、俺は美優の体を解放した。

 

 その直後、美優が俺の襟元を掴んで、強引に顔を引き寄せてきた。

 

「こういう時はこうだよ」

 

 美優は首を上げ、鼻が当たるくらいに顔を近づける。

 

 そして、俺と目を合わせて、その意思を通わせると、迷う隙もなく唇をそっと重ねてきた。

 

 互いの最も温度に敏感な器官が触れ合う。

 

 初恋に味はしなかった。

 

 チュッ、と口内に空気の入る音がして、そこには美優と交わしたごくわずかな唾液と、キスをしたのだという事実だけが残っていた。

 

「あ……おっ……」

 

 あまりにも男前な妹にファーストキスを奪われて、俺の心は処女みたいにうろたえていた。

 

 どうしよう。

 胸がキュンキュンしてツラい。

 今までセクハラグループをバカにしていたけど、この妹ならマジで惚れない女はいないと思う。

 

「わかった?」

「は、はい。とても勉強になりました」

 

 リビングの時計は、もう8時を回っていた。

 美優は今朝のやり取りについてもう言及してくることはなくて、これが正しい答えだったのだと安堵が胸の内に広がっていく。

 

「飯にするか」

「うん」

 

 それから、俺は美優とご飯を済ませて、しばらくはソファーでイチャイチャしていた。

 といっても、ベタベタしながらゲームをしてただけだが。

 

「美優、珍しく汗かいてるんだな。美優も外に出てたのか?」

 

 後ろから俺に抱かれる形でソファーに座っている美優に、ふと浮かんだ疑問をぶつけてみる。

 

「ん……まあ、ちょっとね」

 

 美優は顔を赤らめて口を濁した。

 

「外には出てないけど」

 

 それだけ答えて、美優はゲームに集中し始める。

 というより、それ以外のことに意識を向けないようにしているようだった。

 

 外には出ていない。

 でも汗はかいている。

 この2つの情報から答えを導くのに、それほど時間はかからなかった。

 

 だが、『どうやって』に関してまでは、俺の考えが至らなかった。

 てっきり、またロリコスを楽しんでいたんだと思ったけど。

 

「それに関連してですね。謝罪があるのですが」

「謝罪? 俺に?」

「うん」

 

 ほうほう。

 それはまた珍しい。

 

 美優がやらかしてしまうことなんて、いったいどんなことがあるだろうか。

 

「今日はお兄ちゃんの布団で寝られなくなっちゃったので、私の部屋で寝ましょう。……という謝罪です」

 

 美優はモジモジしながら、どうにも繋がりの悪いその謝罪を述べた。

 

 深く考えないようにはするが、どうやら俺の布団は使い物にならなくなっているらしい。

 深くは考えないが。

 

「それは、まあ、いいよ。まずは、汗を流さないとだな」

「お風呂作ってくる!」

 

 美優は俺の膝から飛び跳ねてお風呂を洗いに行った。

 恥ずかしさを隠すためだったのか、俺と風呂に入れる喜びからだったのか、それはわからない。

 ただ可愛いなぁと思った。

 

「ほらお兄ちゃん。行くよ」

 

 当然のように二人で一緒に浴室に向かい、全身を洗ってからいつもの体勢で湯船に浸かった。

 

 美優の体はとてもエッチだ。

 引きこもり体質のおかげでどのパーツにもくすみがなく、全体的にちっこいのにつくべき肉はきちんとついている。

 

 そして、それらのディティールに抱いた感想が一気に吹っ飛ぶくらいに凶悪なおっぱいが、今日もまた目の前にある。

 

「美優さん」

「ダメです」

 

 両想いになったのだから、そろそろ良い頃合いなのではと思うものの。

 触られるのが嫌な理由が、無駄に大きくなるからというものだから、強引に切り込むこともできない。

 

「でもな、美優。脂肪って揉まれた方が分解されて小さくなるらしいぞ」

「知ってるけどさ。お兄ちゃんに触られたらおっきくなりそうなイメージがあるんだよ。それにお兄ちゃんももっとおっきくなれって思いながら触ってきそうだし」

「それは否定できないな」

 

 それは否定できない。

 おっぱいは大きいと嬉しい。

 

「でも、美優がおっぱいを大切にしすぎたからそんなに大きくなったって可能性は、捨てきれないんじゃないか?」

「うーむ……たぶんお兄ちゃんが触りたいだけなのはともかくとして……たしかになくはないんだよね……」

 

 だいぶ俺の心が見透かされているみたいだけど、これなら押しきれるか。

 

 あ、いや待てよ。

 

「でも遥には揉まれてるのか」

 

 美優の胸が大きくなったのが遥に揉まれたせいなら、俺の説はその時点で破綻している。

 

「遥にはそんなに揉まれないけどね」

「そうなのか? だいぶ開発されてるって前に言ってた気がするけど」

「あの子はひたすら肌が敏感になるようにネチネチ責めてくるタイプだから、激しく揉んだり擦ったりってのはしてこないの」

「なるほど」

 

 それで首とふとももが異常に敏感なのか。

 とすると、胸に関しても敏感なのは表皮と先端だけってことか。

 

「じゃあやっぱり揉まれた経験はほぼゼロなのか」

「そうだね。学校じゃ女子の揉み合いとかよくあるけど、私は参加しないから」

 

 美優にやったら怒られそうだもんな。

 美優の周りの子たちの揉み合いなんて、もはや揉むだけで済んでる気がしないし。

 

「それで、だな」

「むー……。まあいいけどさ」

 

 と、今度は先読みしての、まさかの承諾だった。

 こうなったらもうややこしい問答は無用だ。

 

「わかってると思うけど。さきっぽイジったらビンタするからね」

「ああ、気をつけるよ」

 

 わかっている。

 俺が許可されたのはおっぱいの脂肪部を揉むことだけ。

 それだけで十二分に過ぎるほどだ。

 

 俺は呼吸を止め、美優のお腹の前あたりでふわふわさせていた手を、少しずつ上に移動させた。

 そして、努めて先端に触れないように、まずは下からその乳房を堪能する。

 

 形状からしても最も重みの乗るその部位。

 それがお湯の浮力で軽くなっていることにまず驚き、指を沈み込ませた肉の柔らかさと、内部に凝縮された弾力に更に驚き、持ち上げて浮力のなくなったおっぱいの、そのずっしりと手に乗る重みに俺は心が震えた。

 

「んっ……」

 

 さすがに慣れない接触だったからか、美優の口から小さな艶声が漏れる。

 夏休み前に事故で揉んだときには、緊張と焦りでしっかりと堪能することができていなかった。

 

 美優のおっぱいがこんなにもエロかったなんて。

 俺は知らなかった。

 

「あっ……もう。やっぱりおっきくしてる」

 

 俺は当然のように勃起していて、隆々と猛るその肉棒の硬さが、そのまま美優のおっぱいに対する賛辞であった。

 

 しかし、ここから事態が一気に急転する。

 美優の口から出てきた、その一言によって。

 

「奏さんにたくさんしてもらったんじゃないの?」

 

 美優の言葉にトゲはなかった。

 ただ、俺はその質問にビックリして、手を離してしまった。

 

「山本さんと、エッチを……ってこと?」

「うん。だって帰り遅かったし、シャンプーの匂いもしたし」

「それは、ちょっとワケありで。とにかく、エッチとかそういうのは、一切無かったよ」

「……えっ?」

 

 俺の回答に、振り返った美優はなぜか狼狽えていた。

 

「あれ? 俺ってそんなに信用ない?」

「そうじゃなくて。お兄ちゃんは今日、奏さんの家に行ったんだよね?」

「行ってきたよ。由佳が電話した後に」

「でも、エッチしなかったの? 誘われることもなかった?」

「エッチをしようとか、したいとか、そういうのは無かった……と、思う」

 

 部屋に入ってすぐに山本さんがベタベタしてきたあれが、まさかエッチの誘いだったのだろうか。

 

 それを俺が拒んだから、先まで進展しなかっただけ?

 もしそうだったとして、なぜそれでしなかったことに対して美優が焦ることがある?

 

 俺はずっと、今日一日のことが全て美優の想定の範疇なのだと思っていた。

 でもこの反応を見る限りでは、そういうわけじゃなかったのか。

 

「……約束と違う」

 

 美優は深く考え込みながらそう呟いた。

 

 美優と山本さんの間で、何かが取り交わされていたらしい。

 きっとそれは、三日前に二人で話し合ったときに決められたものだ。

 

「なにかマズかったか?」

 

 仮に何らかの約束が反故にされていたとして、俺が他の女の子と性的な行為に及ばなかったのであれば、それは好ましいことなのではないか。

 

「さっきさ、由佳からメッセージが来て。お兄ちゃんにとても大きな貸しがありますアピールされたんだけど」

「それは申し訳なかった」

 

 あいつはいちいち好印象を台無しにしてくるな。

 

「それ自体はいいんだけどさ。お兄ちゃん、奏さんのことフッたんだよね」

「フッたというか。俺は美優が一番だから、もう山本さんとイチャついたりはできないって」

 

 状況がややこしかったから、由佳には告白されたと言ったけど。

 実際には、山本さんの口から直接好意を聞いたわけではない。

 

「もしかしてさ。お兄ちゃん、思いっきり奏さんのこと拒絶した?」

 

 美優にそう尋ねられて、俺の脈は嫌な跳ね方をした。

 

「俺のことを好きって気持ちは本人のためにもならないから、それなりにはっきりと言ったけど」

 

 山本さんのため、そして、何より俺と美優のために。

 

 で、その結果が、「ああー」という美優の残念そうな顔だった。

 

 なんでですかね。

 

「奏さんが可哀想じゃないですか」

「えっ!? それは、もちろん、円満に解決とはいかなかったけど……」

 

 あれ以外にどういうやり方があったというんだ。

 まさか、由佳に対して言った「山本さんとセックスすることになってもいい」というのはそれ自体が本音で、美優は俺と両想いになってからも、俺が他の女の子とセックスしてもいいと本気で思っていたのか。

 

「でもそっか。そういうことなんだ。ふーん。そっかそっか」

 

 それから美優は、どうにも事態の全容を把握したようで、急に満足げな顔になって正面から俺に抱きついてきた。

 

「お兄ちゃんをちょっといい男にし過ぎたみたい」

「そ、そうか? それは……嬉しい……のかな……?」

「そうだね。嬉しい誤算。面倒なことにはなったけど」

 

 どうにも、美優には美優なりの計画があったらしい。

 

「まあ、似たような仕事が2つに増えただけだから、大した話じゃないよ。今日はお疲れ様だったね、お兄ちゃん」

 

 美優が頭を撫でてくれた。

 こんな裸の天使に抱きしめられて、褒められて。

 それだけでありとあらゆる負の感情が飛んでいく。

 

「山本さんには、なんて謝ったらいいかな」

「それはお兄ちゃんに任せるよ。ただ、協力して欲しいことがあって」

「協力? それは構わないけど」

 

 それで山本さんの心を癒せるなら、是非も無いことだ。

 

「その何やら背後にうごめいていそうな計画については、教えてもらえないんだよな」

「教えると成功率が下がっちゃうから、私に一任して欲しいかな。これもお兄ちゃんと後顧の憂いなくイチャイチャするためなので」

「おおっ。そうなのか」

 

 美優とイチャイチャするためなら何だって協力する。

 今までの恩返しだって、まだ美優にできたとは思っていないからな。

 

「確認なんだけど、美優は俺が他の子とエッチなことをしててもいいの?」

「どちらかと言えば、絶対にノーですね」

「どちらかと言うまでもないな」

 

 さっきの発言と矛盾しているようだけど、つまりその計画とやらのために俺が仕方なく山本さんとセックスをすることになっていて、美優の想定通りならそれで決着が付いていたはずだったってことなんだよな。

 

「ただね、奏さんはもうお兄ちゃんのことが好きになっちゃってるわけでしょ? お兄ちゃんも好意を引くような態度で接してたんだから、私を選んだとはいえ責任の取り方ってものがあるじゃない?」

「それは、その通りだと思う」

 

 美優のためだと思って突き放してしまったけど、あれは男としては最低の切り捨て方だった。

 もう一度きちんと話し合おうとは言ったけど、もしこのまま夏休みが明けてしまったら、教室で山本さんとまともに会話できる気がしない。

 

「だから、私はやむを得ず、お兄ちゃんの体を奏さんに差し出します」

「マジでそうなるのか」

 

 最悪それで丸く収まるのならまだいいが。

 どうして俺が山本さんとセックスすることで事態が収拾するんだ。

 

「あとたぶん由佳ともしてもらうことになると思う」

「なんで!?」

「そっちに関しては、私の失態なので。単なるお願いになるんだけど。こっちもこっちで関係をさっぱりさせるために必要なの。……いい、かな?」

「美優がそう言うなら、その二人が相手ならまだいいけど」

 

 あいつ、最近調子に乗ってるからな。

 でも山本さんとするとになったら気まずさはそっちの方が上だし、どっちもやりづらさがあることに変わりはないか。

 

「それも含めて、理由は教えてもらえないんだよな」

「うん。知らなくても問題ないようにはするから。特に由佳を相手にするのは、お兄ちゃんの自然体のままじゃないと意味がないの」

「……わかった」

 

 なんでもかんでも手放しに美優を信頼するというわけではない。

 だが、この件に関しては、俺はただの協力者でいたほうが良いと判断した。

 そもそも、俺が女の子たちと仲良くなれたきっかけは美優にあるわけだし、俺が下手に掻き回すよりはよっぽど良い結果になるはずだ。

 

「というわけでですね。これからお兄ちゃんにはちょっとした特訓をしてもらいます」

「特訓? それはまた唐突だな」

 

 特訓なんてバトル漫画みたいで、不安な反面わくわくもする。

 女の子の心理を学ぶとか、もっと体を鍛えるとか、重要な情報を暗記するとか。

 どれも自信のある分野ではないが、美優のためならどんなことでも頑張れそうだ。

 

「ってことで、お兄ちゃん、ここに座って」

 

 美優が指し示したのは、湯船の縁だった。

 

 俺は言われた通りに立ち上がり、その縁に腰掛ける。

 その正面に美優が座って、股を広げてくる美優の裸を前に、俺の下半身も穏やかではない。

 これはどう考えても、健全な絵面ではなかった。

 

「なんだか、フェラが始まりそうな体勢なんだけど」

「ん? フェラが良い? おっぱいでしようかと思ってたんだけど」

「是が非でもおっぱいがいい。ってか、両方で……」

「まあどっちにしても濡らすためには咥えるんだけど」

 

 美優は大きくなりかけの俺の肉棒を、すっぽりとその口に咥え込んだ。

 

「おあっ……」

 

 今までは完全に勃起したペニスしかフェラしてもらってなかったけど、半勃ち状態で舐められるのはまた格別に気持ちがいい。

 ただ、そのせいですぐにギンギンになってしまうのだが。

 

「はむっ……じゅぷっ……むちゅ……」

 

 美優はいつもより多めに唾液を含ませてフェラを始めた。

 それが明らかにパイズリをさせるための前準備になっていて、もうその高揚感だけで達してしまいそうになる。

 

 ヤバい。

 我慢しないと。

 こんなご褒美を前に射精するなんて、絶対にあってはならない。

 

「んぐっ……じゅっ……ぷはぁ。お兄ちゃん、もう先走りの味がすごいんだけど」

「ごめん。頑張って耐えてはいるんだけど」

 

 美優は呆れ顔で、俺のペニスを手で扱き、摩擦の具合を確かめる。

 最後に口に残った唾液をたらーっと亀頭に垂らして、それから、少しだけ腰を浮かせて身を乗り出した。

 

「それじゃあするけど。勝手に出さないでね」

「あ、ああ。わかった」

 

 美優はその両手で自らのたわわを持ち上げ、俺の左右から挟み込んできた。

 

「ん、しょっと」

 

 美優が自分のその体の肉を使って、俺のペニスを扱いてくる。

 

「ああっ……はぁ……あっ、気持ちいい……やばッ……!」

 

 胸を上下させるごとに、その重量が腰に響いてくる。

 美優がその釣り上がりな目で俺を見上げてパイズリをしてくれている。

 おっぱいでペニスが扱かれるたびに、美優が垂らした唾液がぬちゃぬちゃとイヤらしい音を立てて、俺の性欲を抑える器官が一気に破壊されていく。

 

「あっ……アッ……! す、ストップ! まずい……イッ……ぁ……!」

 

 美優はゆさゆさと弛ませていた胸の動きを止めた。

 勝手に出すなと忠告されていなかったら、このまま射精していたかもしれない。

 

「お兄ちゃん。気持ちいい?」

 

 美優は楽しげに、おっぱいに挟まれたままのペニスの亀頭をペロペロと舐めてくる。

 

「はぁ……気持ちいいよ……すごくいい……」

「へぇー。ひりゅっ……へろっ……んっ。奏さんのより気持ちいい?」

「えっ……!?」

 

 美優の突然の問いかけに、背中にドッと嫌な汗が出る。

 

「なんで、そんなこと」

「だってお兄ちゃん、奏さんのおっぱいでいっぱいイカせて貰ったんでしょ? 気持ちよかった?」

「ああ……それは……」

 

 そうだった。

 この二人はどんなエッチをしたかまで赤裸々に話をしていたんだった。

 

「どっちもすごくいい具合だけど」

「それじゃダメなんだってば」

 

 美優は不満顔で、またパイズリを再開する。

 左右のおっぱいで俺のペニスをすっぽりを覆って、ジュクジュクといやらしい音を立てて扱き上げてくる。

 

「あっ……ぐっ……!」

 

 本音を言えばもちろん、美優のほうが気持ちいい。

 美優のほうが断然エロいし、美優にしてもらっているほうが圧倒的に嬉しい。

 

「どっちが気持ちいいの」

 

 美優は執拗にその質問を繰り返して、なおもフェラとパイズリを続行した。

 下半身に快楽が過剰に供給されて、答える前に射精してしまいそうだった。

 

「はあ……ああぅっ……ああっ……美優、もう……!!」

 

 射精する。

 

 美優のおっぱいの中に。

 

 種付けするみたいに、大量の精液を吐き出してしまう。

 

「もし答えないまま出したら、もう二度とおっぱいではしないから」

「えっ……!? そ、そんな……ああアッ……!」

 

 美優は俺を睨みつけて、強くペニスを挟んだままパイズリを激しくしてくる。

 

 パンッ、パンッ、パンッ──!

 

 美優のおっぱいに蹂躙され、なす術なく犯されていく俺の肉棒。

 繰り返し水音が弾け、浴室に鳴り響く。

 

 俺の脳は催眠術にかけられたみたいに抵抗を失い、射精を我慢するために筋肉を動かすこともできなくなった。

 

 精液が尿道のすぐ根元にまで達して、それでもなお肉棒全体に絡みつく美優の柔らかい肉に、性感帯が容赦なく攻め立てられていく。

 

 これ以上の快楽が、美優に犯される以上の悦びが、この世にあるわけがない。

 

「あっぐっ……ああぁっ……あっ、気持ちいい……!! 山本さんより、断然イイッ!! ああぁぁうぅ……ああっ……美優ッ……出るッ……出るッッッ!!」

 

 びゅっ、どびゅっ、ぐぴゅっ、びゅっ、びゅびゅっ──!

 

 美優のおっぱいに、夥しい量の精液を中出しした。

 その大きな乳房でも隠しきれないほどの粘液が、後に続く射精の勢いで胸から弾け飛び出してく。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 運動をしていたのは美優のはずなのに、息を上げてるのは俺の方だった。

 心臓がまるで血液などないもののように激しく拍動している。

 

「どうだった?」

 

 美優はおっぱいを左右に開いて、俺が出した精液のネバつきを楽しんでいる。

 

「すごく良かった、けど。同じくらいの罪悪感が……」

 

 小さい頃に親に隠れてこっそり悪いことをして、叱られることなく自らの過ちに気づいてしまったときのような、全身に力が入らなくなる嫌な罪悪感だった。

 

 美優とのエッチが山本さんのより気持ちいい事なんてわかりきっているはずなのに。

 なんでこんなことをさせたのか。

 

「これからエッチするときは、奏さんと私とどっちの方が気持ちいいかちゃんと答えてから出してね」

「明日からもやるの!?」

「しばらくの間だけね。これも奏さんと仲直りするためだから、頑張ってお兄ちゃん」

「お、おう……」

 

 これでどうやって山本さんと仲直りしろっていうんだ。

 まさかとは思うが、いつかすることになる山本さんとのセックスで、前みたいに山本さんと美優のどっちが良いか聞かれたとき用に対策してるんだろうか。

 

「さ、もうお風呂は出るよ」

 

 だいぶ長いこと入っていたせいで、お湯もだいぶ冷めていた。

 追い焚きをすることもできたが、そうするくらいならベッドで温まりたい。

 美優と一緒のベッドの、その体温で。

 

 風呂を上がって部屋に戻ると、俺の部屋の布団とシーツはベランダに干されていた。

 なぜか枕まで犠牲になっている始末。

 まるで俺がおねしょをしたみたいで恥ずかしいのだが、実際にしたのは美優なので俺は無罪である。

 

 着替えて美優の部屋に行き、俺はこの日、初めて美優の布団で寝ることになった。

 

 部屋はエアコンで冷やされていて、その中で俺たちは互いの体温で温め合う。

 実に罪深い共寝だ。

 

「お兄ちゃん」

 

 美優はぐいぐいと体を寄せて抱きついてくる。

 俺はもう美優がこうすることを好きなのがわかっていて、だから美優の抱きつきたい気持ちは一切拒まない。

 

「とても幸せだよ」

 

 美優から改めてそう口にされて、俺は頷きながら抱きしめ返した。

 美優を幸せにできているということが、俺にとって何よりの幸せだ。

 

 美優と俺は両想いになった。

 まだ課題は山積みだけど、何よりも大切な一歩は踏み出せたと思う。

 

 俺たちは兄妹でもあって、恋人でもあって。

 美優はもう、俺が実の兄であることを気にしなくなったのだろうか。

 別に性欲ばかりを主張するつもりはないが、それは二人が健全な関係を築き上げていくために、必要な行為なのだと思う。

 

「美優はさ」

 

 こんなときではあるけど。

 こんなときだからこそ、今が聞くタイミングなんだ。

 

「俺が実の兄ってこと、もう気にしてないのか?」

 

 俺は美優のことを、実の妹だからと気にすることはない。

 というか俺は最初から悩んだことなどなかった。

 

 それはそれで問題なのかもしれないけど。

 今となっては、そういう壁がなかったのは幸運だったと思う。

 

「それはどういう質問なのかな」

 

 美優は俺に体を押し付けてきて、楽しげに微笑する。

 

「だから……その、セックス、とか。美優は、もうしてもいいと、思ってたりする……?」

 

 どんなに人としての好きがあっても、女としての好きの気持ちは隠しきれない。

 美優を自分の女だと思うからこそ、その体の全てを手に入れたい。

 

「私はいつ誘われるのかなって思ってるよ」

 

 美優は楽しげに、しかし気恥ずかしそうにそう答える。

 

「でもね、お兄ちゃん」

 

 美優が言葉を続ける。

 それは、お互いの「好き」だけでは足りない、配慮すべきある一つの事実の確認だった。

 

「私が今朝話したこと、ちゃんと理解した上で誘ってね」

 

 美優はそれだけ言って、目を閉じた。

 

 美優と話した中で気をつけることって、何があったっけ。

 

 朝食のときは、フェラを避けていた理由を教えてもらった。

 それは美優が最初からエッチに抵抗がなかったという話で、セックスをしてもいいという確認もそこでできた。

 

 その次は、俺とベタベタするのが好きって言われて、それから美優に告白されて、最後は今までの美優の態度について聞いたんだよな。

 

 この中で、セックスをするのに気をつけなきゃいけないのは……やはりというか、アレについてか。

 

 美優は俺とエッチをすると、異常なほど性欲が昂ぶってしまう。

 もしそんな美優が、俺と本番行為に及ぶことになったらどうなるのか。

 もし、俺が何も考えず、欲望の限りに美優とセックスをしまくったら。

 

 真面目に考えてみると、簡単な話ではなかった。

 もしそんなことをしたら、美優は性欲のコントロールを失って、毎日俺にセックスをせがむようになるかもしれない。

 そんな状態で同じ高校に通うようなことにでもなれば、俺たちは勉強なんてそっちのけで、四六時中セックスしかしなくなるだろう。

 

「……わかったよ。美優」

 

 美優にだって、したい気持ちはあるはず。

 それを兄として、男として、大切にする。

 

 美優を幸せにできるのは、俺しかいないのだから。



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ロリータ服でエッチはしません

 

 俺と美優が結ばれてから一日。

 オフ会を明日に控え、バイトもなく、美優の予定も無い。

 

 やることと言えば残った学校の宿題くらいだが、恋人が出来た翌日に宿題に耽るのも不誠実な話だろう。

 

 で、誠実な対応とはなんなのかというと。

 

「お兄ちゃんのキャラ、回復役なのに前進しすぎじゃない?」

「序盤は属性相性の関係で実質ダメージ0だからいいんだよ」

 

 ベッドに二人で寝転んでゲームをやっている。

 よく晴れた日の真っ昼間にだ。

 もとより引きこもり体質だった俺たちにとって、夏場の晴れ日に外出するなんてのは自殺行為に他ならず、美優のキレイな白い肌を守るためにも外出しようなどとは考えなかった。

 

 デートは家でゴロゴロするのに飽きたらすればいいんだ。

 どうせ人目のあるところでイチャイチャすることはできないし、デートをしていても二人きりで落ち着ける場所が欲しくなってしまう。

 

「そろそろユニット交代しようかな」

「ハルマキさんの高レベル帯が一通り落ちたら俺と一緒に出すか」

 

 うつ伏せに並んでマジョマルのマルチプレイを楽しむ二人。

 美優はおっぱいが邪魔になるので柔らかいクッションを抱いている。

 

 手動操作するソロプレイと違い、マルチでは育てたユニットの出撃と交代を指示するだけで、ほとんどがオートで進んでいく。

 このシステムはチャットをしながらゲームを楽しむというコンセプトから生まれたもので、ゲーム操作が苦手な人の多い女性ユーザーから人気が高いのも、このマルチの簡易さが一つの要因になっている。

 

「ハルマキさんって重課金者なのにチャットが女の子っぽいよね」

「鈴原の先輩が言うには本当に女の人らしい」

「女子高生がそんなにお金持ってるものなの?」

「大学1年の人なんだと。遥と美優みたいに金になるバイトでもしてるんじゃないかな」

 

 マルチプレイをしているのは、ほとんどが明日のオフ会で会うメンバーだ。

 真偽のほどは明日にならなければわからないが、メンバーの男女比率は1対1になるらしい。

 

「ももちゃんが『みんな恋人いるの?』っ聞いてるよ」

「なぜオフ会の前日にそんな爆弾を……」

「本人は彼氏が居るって言ってるし、当日セクハラされないための予防線を張りたいとみた」

「え、ももちゃんってマジで女なの」

 

 ももちゃんこと『フィリスたんのふとももペロペロ』さんは、不特定の人が集まるルームチャットで変態発言を繰り返しているために、完全にネカマだと思われている残念系プレイヤーだ。

 

 普段の発言が変態っぽいとオフ会でセクハラをされやすいらしいからな。

 そのあたりの情報をどこかで仕入れて、美優の言う通り予防線を張ったんだろう。

 

「みんな話をはぐらかしてるね」

「そりゃ荒れる話題だからな」

 

 俺としては素直に恋人がいるって言いたいところだが、ここでわざわざ燃料を投下するのもな。

 

「こういうときの上手な切り抜け方を教えてあげようか」

「それは助かる。なんて返せばいいんだ」

「『女を作ると妹が怒るから興味ない』って答えればいいんだよ」

「余計ややこしくなるだろ……」

 

 美優との関係を恥ずかしいものだとは思わないが、世間的な風評はまた別の話だ。

 妹が極度のブラコンで一方的に俺を束縛してるって設定ならなくはないが、そうするには鈴原の存在が邪魔になる。

 

「じゃあもう『妹が世界の誰よりも好きだから他の誰とも付き合う気になれません』って正直に言うしかないね」

「お前な。そんなこと言ってると抱きついたりするぞ」

 

 今日はまだエッチはしてないし、ベッドで横並びだからな。

 気を抜いたら性欲が抑えられなくなる。

 

「こんだけ煽ってるんだからそろそろ抱きついてほしいんだけど」

「え、ああ、それ、そういうアピールだったのか」

 

 美優のやつ、恋仲になってもニュートラルなときは無表情だし、誘い方にしても何にしても「察してほしい」が強すぎてしばしば扱いに困る。

 

 俺の真横で、うつ伏せにクッションを抱く美優。

 キャミソールだけのラフな格好から見える白い肩と、そこに掛かるサラッとした黒髪が本当にキレイだ。

 

「お兄ちゃん。マルチ、ボス戦だよ」

 

 俺が美優に手を伸ばすと、自分から誘ったくせに美優は俺の注意をゲームへと向けさせた。

 たしかにマルチのボス戦はスキル発動タイミングを調整するために、ユニットの出撃状態を調整しなければならない。

 しかし、まあそんなもの美優もあんまり興味はなくて。

 

「美優」

 

 俺が美優に抱きつく意思を示すと、美優はすぐに俺の腕の中に入り込んできた。

 小さくリスみたいに丸まって、スマホそっちのけで俺にギュッとされにくる。

 

「お兄ちゃんにくっついてるとほんと安心する……なんでだろ……」

 

 美優が頭をぐりぐりと押し付けてくる。

 こういうときはスキンシップが足りないの合図なので、美優の敏感な部分にだけは触れないよう、俺は全身を包み込むように美優を抱きしめた。

 

 スマホからボス戦開始の警告音が鳴っている。

 チャットにもいくつかコメントが来ているようだが、それよりも今は美優が愛おしい。

 

「お互い生活スタイルが似ててよかったな」

「ほんとだね。いつでもお兄ちゃんにギュッてしてもらえる」

 

 互いに室内に居るのが好きで、暇な時間にダラダラするのにも抵抗がなくて、最近では一緒にゲームをすることもある。

 最初のうちは俺と趣味を合わせるために始めてくれたのかと思っていたが、美優はゲームを積極的に楽しんでいるようで、変に気を遣う必要がないのもありがたいことだ。

 

「丸一日こうしてベッドで寝てるってなったらさ、美優はどう?」

「私は休みの間ずっとでもいいよ?」

 

 そんなにまで外出に興味が無いのか。

 俺としては願ってもないことだけど。

 

「それって、毎日エッチをすることになっても、いいってことかな」

「むしろ、私はしない日をいつにするか決めるぐらいだと思ってたよ」

 

 美優は性関係を男の基準で考えてくれる。

 彼女探しを手伝ってくれていた頃に美優が言っていた、「俺の彼女は旺盛な性欲を処理してくれる子でなくてはならない」という条件を、美優は承知の上で恋仲になってくれたんだ。

 

 でも、俺だって美優に性欲ばかり押し付けたいわけじゃない。

 美優がしたいなら俺もする。

 美優がしてくれるならお願いをする。

 それでいいんだ。

 

 美優はどれくらいエッチが好きなのかな。

 ロリコスしてオナニーをしてしまうくらいにはエッチが好きなんだろうけど、遥とのエッチはあくまでビジネスでしかないと割り切っていたし、それだけ聞くとたまに性欲を発散できるぐらいがちょうどいいのかと思えてしまう。

 

 さすがにエッチが好きかって聞くのは無粋だよな。

 美優は俺と一緒にいるとそれだけで興奮するみたいだし、それをどう処理するべきかって聞き方にしておくか。

 

「美優はこうして抱きついてるだけだと興奮はしない?」

「抱きついてそのまま寝ちゃえば興奮はしないよ。こうしてベタベタしてるとムラムラしてくる。あとはお兄ちゃんの性欲にだいぶ引きずられるかな」

「なるほど」

 

 朝食を済ませてから、俺たちはずっとベッドで横になっている。

 となると、美優はすでにだいぶムラムラしてるのか。

 美優が俺に抱きつかせようと煽ってきたのはそういう意図だったんだ。

 

 またいつもみたいにパンツの中をビショビショにしているのだろうか。

 想像するだけで、俺も下半身が疼いてきてしまう。

 

「戦闘、終わったみたいだね」

 

 美優はボス戦の勝利BGMを聞いて意識をスマホに向ける。

 それに釣られるように俺はスマホを手にとった。

 

「なんとかクリアしたんだな。鈴原と黒い竿さんからどうしたってめっちゃ聞かれてるけど」

「『妹とイチャイチャしててそれどころじゃなかった』って言えばいいと思うよ」

「明日ボコボコにされるって」

 

 まあ妹が相手だって言えば本気にはしないと思うけど。

 

「次のステージにも行くのか。どうしようかな」

「やってあげれば? 私はお兄ちゃんにイタズラしてるから」

 

 美優は俺のTシャツを捲って、胸にチュパチュパとしゃぶりついてきた。

 

「あっ、ああっ……! それ、されると……!」

 

 すでに半勃ち状態だった肉棒が一瞬で最大にまで硬くなる。

 それを美優は手で擦って、満足気にニッコリと笑った。

 

「んふ。ゲームしてていいよ」

 

 美優は俺のズボンを脱がして、手コキと乳首舐めで同時に責めてきた。

 俺も美優を脱がして触りたいけど、「ゲームをしてていい」という美優の言葉は、むしろゲームをしてる俺にイタズラしたいって意味が強いんだろう。

 

 だから、俺はマルチの戦闘開始ボタンを押した。

 美優とハルマキさんの代わりに別のプレイヤーが参加して、マルチ用のチャットルームには明日のオフ会メンバーの男だけになった。

 すると必然、始まるのは他の女の子に共有できない情報交換である。

 

『ちなみに明日のメンバー、写真見せてもらった感じだと中身が可愛い順はハルマキ>彼方>ももちゃんな。PC組の夜空も女らしいけど写真NGだったから知らねえ』

『マジっすか! さすが黒い竿の名前は伊達じゃない……!』

『ハルマキはガチでクソ可愛かったから俺が貰うわ。他はお前らがご自由に。ホテルの用意は各自で頑張れよ』

 

 と、ハナからオフパコ目的の最低な会話が繰り広げられる。

 そんな中、俺はチャットの影に潜んで、世界一可愛い妹とエロいことをしている。

 果たして最低なのはどちらなのか。

 

「んちゅ……んっ……どうしたの?」

「ああ……それが……」

 

 美優は俺のペニスをシゴきながら顔を上げる。

 敏感な部位が美優の手に包まれて心地良い。

 美優は俺のペニスを包皮ごと擦り、鈴口から漏れ出した先走り汁が十分に溜まると、それを亀頭に塗りたくって刺激してくる。

 

「はぁ……っ……オフ会の男側は……んんっ……完全にヤリ目っぽくて……」

「ふーん……へろっ……むちゅ……ん。へー。お兄ちゃんは家に帰ったらエッチできるからどうでもいいね」

 

 カウパー液で粘つくペニスの先端に、美優は指で輪っかを作ってクチュクチュとカリ裏を擦る。

 

「んんっ……! あっ……!」

 

 本当に他のやつらのセックスとかどうでもいい。

 ヤリたければヤッてればいいんだ。

 俺は美優とセックスする。

 

『彼氏がいるのはももちゃんだけっぽいな。まああいつ、前のオフ会でも普通にヤッてたらしいし、ヤリたいだけならむしろ狙い目だぞ。顔はお察しだが』

『まじすかー! でも、俺ちゃんと女見つけたいんすわ! あと、童貞を捨てさせたいやつが居るんですよ!』

 

 鈴原とその先輩の話がなおも続いている。

 童貞を捨てさせたいやつって俺のことだよな。

 こいつにはどうやって真実を伝えてやるべきか。

 

 ああ、やばい。

 それよりも美優の乳首舐めと手コキが気持ちいい。

 もう射精まで保たないかも。

 

「ふふっ。お兄ちゃんのビクンビクンしてる。飲んであげるね」

 

 美優は俺の腕の中から抜けて、下半身側に移動した。

 そして、正面から迷いなく俺のペニスを口に咥える。

 

「あっ……美優……! 美優の口……ほんとに好き……!!」

 

 真相を知った今では当然のようにも思えるけど、美優が何の迷いもなくフェラをしてくれるという事実が、何よりも嬉しかった。

 美優とのエッチは、長いこと自分で扱いて射精した精液を美優に飲ませて、その最中で何度も口でしてほしいとお願いしては美優に断られて、そうやってエッチを繰り返す度に欲望が蓄積してきて。

 

「じゅぶっ……ぐじゅっ……んむっ……はぁ…………チュッ……じゅぷっ……」

「あ、あ、み、美優……もう……出そう……!」

「んむっ……ちゅぱっ。むー。お兄ちゃん、早い」

「あっ……ご、ごめん……」

 

 山本さんにも指摘されたけど、フェラになると射精が我慢できなくなる。

 長いこと美優に焦らされ続けたせいで、この体は口に出すのが好きになり過ぎてしまったみたいだ。

 

「少しは堪えてね」

「が、頑張る」

「出すならアレをちゃんと言ってね」

「わかってる」

 

 美優はできるだけゆっくりと口を動かしてフェラを再開した。

 そして、俺がイキそうになると口を離して、しばらくは玉と竿を舐めるだけになる。

 

 舐められるだけであれば射精はしない。

 それに、外気に触れると射精欲が収まる。

 そうしてまた少し我慢ができるようになると、美優は俺のペニスをパクっと口に含んでフェラを繰り返した。

 

「うっ……ああっぐ……い……イ……きたい……!」

「はむっ……ちゅっ……いいよ、出して……」

「ああ、美優、美優ッ……!!」

 

 俺が射精するのに合わせて、美優はジュブジュブとらしくない下品な音を出した。

 それが俺の耳に届いた瞬間に、俺の精液は一瞬にして尿道を突き抜ける。

 

「はぁ……ああっっ……気持ちいい……! 山本さんのフェラよりいい! ああぐっあぁっ……美優の口が……はぁっ……うっ……一番イイッ……ッッ! アッ、美優ッ……あっ……あぁぁアッ!!」

 

 びゅっ、びゅるっ、ドクッ、ビュ、ビュルッ──!!

 

 俺は美優の口の中に、今日一番の精液をたっぷりと出した。

 筋繊維が何度も収縮して、美優が精液を飲み込んだ後も、おかわりといわんばかりに精液が美優の口に流れていく。

 

「ん……んくっ。ぷはぁ。お兄ちゃん、早すぎて全然咥えた気がしない」

「ご、ごめんて。……てか、美優としては早く済んだほうがいいんじゃないのか……?」

 

 美優にはこれまでは我慢せずに早く出せとばかり言われてきた。

 そのせいもあって、この体はちょっと早漏気味になったんだろう。

 無論、俺の体は美優の命令には逆らえないから、強く命令されれば射精せずにいられるんだろうけど、美優にフェラをされて自分の力だけで射精欲を押さえ込むのは不可能に近い。

 

「そう思ってるならお兄ちゃんとの本番はだいぶ先かな」

「え、あ、ああいや! 例の話についてはきちんと理解してきたから!」

 

 美優が俺に「セックスをするならその意味を理解してから誘ってね」と言ったあの話。

 その意味なら、もうわかっている。

 

 美優は俺に特別な性的興奮を覚えてしまうせいで、ある一線を越えたら理性が保てなくなる。

 セックスは女の子側が攻めるのに積極的でなければ、基本的には男に体を預けるもの。

 どこまでの快楽責めが許されるのか、俺が慎重に判断をしてあげないと、美優は安心してセックスができないんだ。

 

「美優は俺とエッチすると、普通じゃないくらいに興奮するんだよな。だから、俺が何も考えずに美優とセックスしたら、美優はその気持ちよさから抜け出せなくなるかもしれない。それを気をつけろってことだろ?」

 

 俺が正答だと思って口にした答え。

 それに、美優は晴れやかな表情を返さなかった。

 

 俺の肉棒を吸って尿道の精液までを吸い出すと、美優はまた俺と真向かいに並ぶ。

 そのままジッと見つめられて、どうやら何かを探られていたみたいだったけど、そこに美優の満足できる答えはなかったようで。

 

「うーん……30点」

 

 どうにも俺の回答では理解がまるで足りていなかったらしい。

 

「そんなにダメ?」

「間違ってはいないけど、肝心なところがわかってない」

 

 さっきの話より肝心なことか。

 そんなもの、見逃す余地なんてあるのか?

 

 美優の話の一番大事なところって、俺とエッチをすると性欲が暴走することだと思うんだけど。

 

「教えてはもらえないんだよな……?」

「これは気付いてもらわないと困る」

 

 美優は眉を下げて、これまで見たことのない、本当に困ったような表情をして目を逸らす。

 セックスにドハマリしてしまう事以上に重大な問題っていったい何なんだ。

 

「お兄ちゃんはさ、どうして私が悩みを打ち明けられなかったと思う?」

「それは……」

 

 美優は自らの特異体質に悩んでいた。

 より遺伝子の近い者に性的興奮を覚えてしまうという生殖本能の逆転に。

 

 最初の頃は美優は自分でもその体質について理解できていなかった。

 気付いたきっかけはトイレのあの事故のときで、それが確信に変わったのは初めてフェラをしたとき。

 それまで美優は、俺にその異変を隠したまま、ずっと検証するようにエッチを続けていた。 

 

 これは自然な流れだったように思う。

 実の兄にエッチの相談をするのはハードルが高い。

 「私はあなたとエッチをすると異常に興奮してしまいます」なんてことを暴露するのは、エッチな行為そのものよりも恥ずかしいものだ。

 

 もちろん、行為自体も恥ずかしかったから、美優は意味ありげな態度でそれをボカした。

 

 つまり、そういうことなのか。

 

 これは由佳にも佐知子にも注意されたこと。

 

 美優だって、一人の女の子なんだ。

 

「言えないのは、恥ずかしいから?」

「わかってるじゃないですか」

 

 美優はぷーっと頬を膨らませて、俺のほっぺたを抓ってくる。

 痛いけど心地良い。

 

「俺が本番で注意するべきことは、美優にとって何よりも恥ずかしいことだから、俺に自分で気付いてほしいと」

「恥ずかしいどころじゃないので、気付いても口にしてほしくはないレベルです」

 

 そんなとんでもない理由がまだ隠されているのか。

 さっき俺が答えを言ってから美優がしばらく見つめていたのは、口にするのも憚られるそれを俺が察しているのか見極めるためだったのか。

 

「いいですか。お兄ちゃんが本当に気づかなきゃいけないことは、私の口からは絶対に言いません。お兄ちゃんも、わかっていても口にしないこと。私が目を見て判断するので、暗黙の内にしまいこんでいてください。もしそのことで私を煽ったりなんかしたら絶交するからね」

「りょ、了解です」

 

 これはクローゼットの秘密以来の本気の忠告だ。

 そして、あの秘密よりもさらにエグい内容らしい。

 

 いったい何なんだろう。

 そこまでして俺が美優とセックスするときに気をつけなきゃいけないことってあるのか。

 

「そういえば、ゲームの方は完全に放置してるけどいいの?」

「あっ! やっば……!」

 

 気づけばチャットには俺の寝落ち疑惑が紛糾していて、俺はやむなくその話題に乗っかることにした。

 

『ソトミチよー。“本番”は明日なんだから気を抜くなよ』

 

 鈴原があえて強調したその言葉は、どう考えても俺の童貞を捨てさせたいという意思を含んだものだった。

 いまちょうど女の子の口の中に射精したばかりの俺にとって、それは非常にどうでもいい内容だった。

 

 そういえば、美優だってムラムラしてるんだよな。

 指でしてあげたい気持ちはあるけど、なんとなくそんな雰囲気でもない。

 美優はクッションを抱いてぐでんとしていて、背後から股ぐらに手を入れれば行為は始まるんだろうけど、それで美優が喜んでくれるビジョンが見えない。

 

 俺は美優の兄であり、彼氏でもある。

 だから、男らしくて、紳士的な行動が求められているんだと、そう思っていたけど。

 

 美優が好きになってきた俺って、そういう人間ではなかったんだよな。

 大人になるのは大事なんだろうけど、それで人柄まで変わってしまうのは違うんじゃないか。

 俺だって美優が突然しおらしい淑女になったりしたら嫌だ。

 

 皮肉に聞こえるかもしれないが、いつも無表情で何を考えてるかわからなくて、お仕置きをするときには鬼のように容赦がなくて、でも気遣いやマナーについては人一倍に敏感で、それでもなお俺にはわがままだったり暴君らしい一面も見せてくれる。

 俺はそんな美優が好きなんだ。

 

 自分本位な解釈ではあるけど、俺がしたいことが美優のされたいことになるはずなんだ。

 一昨日だって、俺が美優にお詫びとしてフェラを要求したからこそ、ここまで関係が進展した。

 

 では、俺がしたいこととはなんなのか。

 そう考えると、射精をして性欲の落ち着いてきた俺には、エッチよりも優先したいとある望みがあった。

 

「美優。ゲームは一旦中止にしようと思うんだけど」

 

 俺がそう言うと、美優も素直に頷いてスマホのアプリを落とした。

 そして、俺が意味ありげな発言をしたためか、不思議そうに俺を眺めてくる。

 

「で、ちょっと提案があるんだけど」

「はい。なんでしょうか」

 

 美優はクッションを抱いたまま俺と正面に向かい合う。

 

「例の、服をだな。着てるとこ見たいなって」

 

 俺の言葉に、美優は強くクッションを腕に引き込んだ。

 そして、顔の半分を隠して、前髪とクッションの隙間から軽蔑するような眼差しを向けてくる。

 

 たしかに、酷い頼みではある。

 美優はフェラをした直後でかなりエッチな気分になっているはずだし、そんな状態でロリータ服を着たら、性欲に負けて美優が暴走してしまうかもしれない。

 

「まあ、いいけど」

 

 しかし、美優はその提案を素直に受け入れてくれた。

 ベッドから起き上がってサッと服のシワと髪の乱れを直すと、準備が終わるまで俺に待っているように告げて自分の部屋に戻る。

 

 もっと色々と問答をすることになると思ってたけど、不気味なくらいに素直だったな。

 

 準備のために20分ほどがかかって、美優から「部屋に来て」との連絡がきた。

 

 俺も失礼のないように最低限の身なりを整えて、美優の部屋のドアをノックする。

 

「入るぞ」

 

 ドアを開けると、そこに美優はいた。

 

 ブルーの生地を宇宙のように見立て、きらびやかな刺繍を散りばめた、ホワイトリボンのロリータワンピース。

 簡素ながらも品のある純白のブラウスに、ふわっと巻かれた髪が掛かって、まるで異星のお姫様のような風貌でそこに立っている。

 

「おおっ……」

 

 美優のロリータ服は初見ではない。

 

 とはいえ。

 

 これほどのものとは。

 

「ふふっ。どうですか。お兄ちゃん」

 

 美優は勝ち誇ったような顔でスカートを翻す。

 

 天使、いや、女神か。

 この世の語彙では表現しきれない。

 

「か、可愛い! マジでほんとに可愛い!!」

 

 俺は飛びかかる勢いで美優に接近し、しかし決して触れないように踏みとどまった。

 

「すごい可愛いよ。世界で一番可愛い。こんなに可愛い女の子が現実に存在するなんて、いまこうして見てても信じられない……」

 

 軽い気持ちで頼んでみたけど、とんでもなかった。

 これほど凄まじい可愛さの暴力があるなんて。

 遥の撮影会とやらに金持ちお姉さまたちが寄ってくるわけだ。

 この感動を額に収めて永遠にしてしまいたい。

 

「でしょ。可愛いでしょ」

 

 美優はハニカミながらも挑発するような笑顔を俺に向ける。

 

「どうせエッチさせるつもりでお願いしたんだろうけど。私はしないからね」

 

 美優が素直にロリコスを引き受けた理由がこれだった。

 俺がムラムラしている美優にわざとロリコスさせたのはバレていて、しかし、それをあえて引き受けた上でエッチを行わないことで、逆に俺を生殺しにしようという作戦だ。

 しかし、そんな邪心が吹き飛ぶほどに美優が可愛かったので、ひとまずエッチは二の次になった。

 

「邪な気持ちでロリコスしてほしいなんて頼んで悪かった。美優の可愛い姿を見てたら、いかに自分が愚かな人間だったか思い知ったよ」

 

 実のところロリータ姿の美優は完全に欲情対象なのだが、今は感動がそれを凌駕して押さえ込んでいる。

 

「そんなに可愛い?」

「可愛い。本当に可愛い。美優より可愛い人がいるなんてもう絶対に信じられない」

「んふふ。はいはいわかってるからもう」

 

 さすがにここまで言われると美優も照れるのか、巻いた髪を更に巻き巻きして手寂しさを紛らわさせる。

 

 しかし、俺の気持ちはこんなものでは収まらない。

 クローゼットの秘密を暴いてしまった事故の日は、美優を慰めるので精一杯だったからまともに見れていなかったけど。

 

 こうして改めてロリータ服の美優を見ると尊さすら感じる。

 もはや神の域だ。

 

「美優は本当に可愛い服が似合うな」

「遥の方が可愛いけどね。無駄な肉もついてないし」

「いや美優の方が絶対に可愛い」

「見てもないのにそういうこと言わないの」

「見なくてもわかるよ。俺は美優のことが好きなわけだし、むしろ現実がどうであれ美優が一番可愛く見えるのが道理だろ」

「むっ。たしかに」

 

 珍しく美優を納得させられた。

 でもそんなものはどうでもいい。

 今はこの美優を堪能していたい。

 

「美優、よければこう、くるくる回って全身を見せてほしいんだけど」

「ん? こう?」

 

 美優は窓際に寄ると、カーテンの閉め具合で光を調整して、その場で髪を軽く持ち上げたり、スカートをつまんだりして、その細部までを俺に見せてくれた。

 

 部屋に差し込む光に美優の笑顔が照らされて、俺は自分の魂が少しずつ浮いていくのを感じた。

 

 美優が可愛すぎて死にそうだった。

 

「美優……美優が可愛すぎて……俺は一体どうしたらいい……」

「どうしたのお兄ちゃん生きて」

 

 床にくずおれた俺を、美優が慌てて起こしてくれた。

 こういう芯の優しさが垣間見えるせいで、普段のあらゆる仕草が愛おしく思えてしまう。

 

「あの……で、できればいいいんだけど。他の服も、見せてほしいなーって……」

「えー。他の服も見たいの?」

 

 美優は表情だけは面倒くさそうにして、顔を若干赤らめながら満更でもない顔をする。

 

「手間なのはわかってる。でももっと可愛い美優が見たいんだ」

「はいはいわかりました。じゃあ着替えるから廊下に出ててください」

 

 美優は俺の背中を押して部屋の外に追い出した。

 それでも、ドアが閉まるまでの短い時間に、美優がご機嫌に鼻歌を歌っていたのを俺は聞き逃さなかった。

 

 こんなに楽しんでくれるなら、最初から隠すことなんてなかったのに。

 たしかに、実際にはあの服を着てオナニーまでしてしまっているのだから、俺が思っている以上に恥ずかしいことなんだろうけど。

 俺ならそんな美優も含めて愛してしまえるのに。

 

 また20分ほど準備の時間を待って、美優からの連絡が来る。

 俺は一方的に楽しんでいるけど、美優からしたら化粧を直したりして結構大変なことなんだよな。

 本来なら数万って金を払って頼むものだろうけど、あいにくそんな持ち合わせはないし、美優も金なんか貰っても嬉しくないだろう。

 

 ひっそりと胸のうちに『一日なんでも美優の言うこと聞く券』でもしまいこんでおくか。

 普段と何が違うのかは、まあそのときに考えることにしよう。

 

「入るぞ」

 

 美優の部屋をノックして再入場する。

 

 そこにはまた別の天使が存在していた。

 

「どうでしょうか」

 

 お次の衣装は、セーラー服をモチーフにした、チェック柄のクラシカルロリータだった。

 髪は三つ編みに結んで、小ぶりな帽子を頭に乗せている。

 美優が小柄なこともあり、これで革の鞄でも背負わせれば、小学生にさえ見間違えてしまうほど幼な可愛い。

 そんな中でも主張の激しいたわわな胸部は、もはや冒涜的とすら言える。

 

「かぁ……か……わいぃ……ッ!!」

 

 俺は掠れた声で思いの丈を叫び、膝をついた。

 美優の可愛さに目眩を起こしてしまったようだ。

 

「お兄ちゃんいちいち反応が大げさなんだから」

 

 美優は喜んでいるのか怒っているのかわからないような顔でツンとそっぽを向く。

 その仕草に、俺のハートはまた萌え殺されるのだった。

 

「ごめん、美優。どうしたらいいだろう。さっきから可愛いしか言ってないけど、可愛い以外になんて言ったらわかんないや……」

「気持ちは十分伝わってるから大丈夫だよ」

 

 美優は淡々と俺を引っ張り上げる。

 

 下から見上げる美優のおっぱいも良いものだったが、立ち上がってみると髪を結ぶことでスッキリした首周りが良く映えて、その眩しさにまたクラッときた。

 

「美優はどうしてそんなに可愛いんだ」

「知らないよ」

 

 ジト目で呆れる美優も可愛い。

 

 美優の可愛さを以てすれば世界平和すら目指せる気がする。

 でもそんなもののために美優の可愛さが使われるのも遺憾ではある。

 

「美優。ほんと愛してる」

「できれば普段の私に言ってね」

 

 美優は俺とのやりとりで疲れたのか、ベッドに座って足をパタパタさせた。

 

 たしかに、俺はこうして興奮しているときしか美優に素直な気持ちを伝えてあげられていない。

 普段からもっと好きな想いをアピールするべきなのか。

 それはそれで美優がウザがりそうなんだけど。

 

 美優ならウザがりながらも喜んでくれるか。

 よしもっと言おう。

 

「満足した?」

「美優の可愛さには大満足だけど、もう少し見ていたい気分ではある」

 

 せっかくこんなに可愛くセットしてくれたんだし、ただ着替えさせるだけではもったいない。

 

「いつもはどうしてるんだ?」

 

 美優がロリコスをして楽しんでいることと言えば、その自分の姿を見てオナニーをするか、遥とエッチをするかのどちらかだ。

 

 だが、それだけではないはず。

 性的な興奮はあくまでも付随して起こるものであって、美優は可愛い服そのものが好きなはずなんだから、そこには何かしらエッチとは違うこだわりがあってもいい。

 

 例えば、いつだか美優に出してもらったフレーバーティー。

 あれは家にキッチンに常備されているものではなかった。

 美優が個人的に楽しむために買ったものなら、ロリータファッションと一緒に楽しんでいたと考えることもできる。

 

 もしただ飲むだけに買ったのなら、堂々と自分の物だと宣言してキッチンに置けばいいんだ。

 その方が不便がない。

 うちには人の物を勝手に使う人はいないのだから。

 

「まあ、お茶を楽しむくらいはするけどさ」

「ティーポットは?」

「ある」

「ならそれだ!」

 

 俺は一階のリビングで簡単なお茶会をすることにした。

 美優は始めこそ面倒臭そうにしていたが、そそくさと茶器を用意してどの茶葉を使うか悩み始めるなど、結構乗り気なようである。

 

 美優がお茶関係を用意している間、俺は簡単な甘味を作ることにした。

 お菓子作りは経験が少ないが、母親の命によって美優のお菓子作りを手伝わされたこともあり、その後で個人的にこっそり作っていたとあるスイーツがある。

 

 かぼちゃのタルトだ。

 これが下手にスポンジケーキを作ったりするより遥かに簡単にできる。

 俺は美優が下りてくるまでに生地を練り上げて、その他具材の準備に入った。

 

 美優がティーセット一式を持ってきてからはコンロを明け渡し、二人で一緒にお茶会のセッティングをした。

 

 美優にはテーブルにマットを引いてもらい、そこで先にお茶を楽しんで貰う。

 ティーカップに優雅に口をつける美優がキッチンから見えて、最高の眺めだ。

 いつもよりツヤやかな唇で微笑む美優の顔が輝いている。

 

 俺はオーブンから取り出したタルトを食べやすいように切り分けると、それを持って美優の対面に同席した。

 

「ほんとにそこまでするんだ。いい匂いだね」

「美優のためなら俺は何だって全力だからな」

「お兄ちゃんがバカでよかった」

 

 美優はタルトを一口食べると、小さく「美味しい」と呟いてから紅茶を飲んだ。

 俺はそんな美優の姿をただ眺めていて、まるで絵本の中にでも迷い込んだような気分だった。

 

「これってお昼の代わり?」

「そうなるかな。ステーキでも焼く?」

「お願いします」

 

 甘い物ばかりだと食べた気にならないからな。

 メルヘン感はなくなってしまうけど、ステーキだってスイーツビュッフェとかにもよくあるし、テーブルとしての違和感はないはずだ。

 

 美優の大事な服にニオイや油が飛んでしまわないように、俺は全開の換気扇の中で細心の注意を払って昼飯を作った。

 

 それを二人で食べて、済んだ皿も俺が片付ける。

 美優の服を汚すわけにはいかない。

 

「ふー。満腹になりました。お兄ちゃんがお料理できる人でよかったよ」

「数少ない取り柄だからな。いくらでも頼ってくれ」

 

 俺ができる美優への恩返しなんて、たかが知れている。

 だが、美優はそんな俺のことも認めてくれて、ずっと一緒に居てくれると言ってくれた。

 どうせ焦ったところで急に何かの能力に目覚めるわけでもないし、これからの長い人生で、少しずつ美優に尽くしていけたらと思う。

 

「服はもうこれぐらいにする?」

 

 食事を終えて、二階に戻ってきた俺たち。

 目も心も十二分の英気を養ってもらったが、俺にはどうしても着てほしい美優の衣装があった。

 

「一個だけ。最後に気になってる服があって」

 

 それは、クローゼットの中を覗かせてもらったときに見えた、小悪魔コンセプトのゴスロリ衣装だ。

 他の服に比べても露出が多くて、あんな攻撃的な格好の美優を一度でいいから見てみたい。

 

 もちろん、露出が多いということは、生地が少ないということだ。

 しかし、勘違いしないでほしい。

 俺は決してロリータファッションを否定したいわけではない。

 単にエロい格好の美優が見たいだけなんだ。

 

「この服かー。メイクアップにだいぶ時間が掛かるんだよね」

「それは……悪いとは思うんだけど……。どうにか、ダメか?」

「ふん。しょうがない。今は気分が良いので特別に着てあげます」

「よっし!!」

 

 全力を出した甲斐があった。

 たぶん、美優だって、内心では乗り気なんだよな。

 恥ずかしがり屋だから素直じゃないけど。

 

 美優が着替えに入ってから、今度は30分が経っても準備が終わらなかった。

 俺はスマホを握りしめたまま、今か今かとその時を待ち続ける。

 

 しかし、メッセージが送られてくることはなかった。

 その代わりにやってきたのは、俺の部屋のドアをノックする音。

 美優は「準備できたから私の部屋に来て」とだけ言って、自室に戻っていく。

 

 なぜ今回だけ直接俺の部屋まで来たのか。

 

 それが判明したのは、美優の部屋に入って、そのゴテゴテに装飾された姿を見たときだった。

 

「ネイルを付けたらスマホが使えなくなっちゃって」

 

 美優が手をわしわしさせるその指先には、凶器にもなりそうな程の長い爪がつけられていた。

 毒々しい紅黒のネイルと、ぷっくりとわざとらしく強調された涙袋が、ちょっぴり精神を病んでいそうなその風貌。

 しかし、左右に結い上げられたツインテールの可愛さが、そんなネガティブな印象を全て吹っ飛ばす。

 真っ黒なゴシックロリータに、おそらく撮影用のコンセプトとして取り入れられた小悪魔なテイストが、幼なエロいという凶悪なステータスとなってそこに確立されている。

 

「ああ……! やっぱり最高だ……思った通り…………いや想像以上に可愛い……!!」

 

 三度目となる美優のロリ服鑑賞だったが、その感動が薄れることなど一ミリもなかった。

 むしろ美優の可愛い一面や、その可愛さを引き出すために研鑽された技術工夫を見るたびに、美優という人間の底の深いところまでを見れたような気がして歓喜が湧きやまない。

 

「美優、ほんと可愛すぎてやばい。脈が200くらいありそう。死ぬかも」

「お兄ちゃんそろそろほんとに死んじゃうよ」

「俺が死ぬときはその格好で看取ってほしい」

「私より先に死なないでね」

 

 美優は照れたり、呆れたり、笑ったり。

 

 どんな表情をしていても可愛かった。

 

「もう一つお願いがある」

「なんでしょうか」

「い、い……ちまい、だけでいいから……写真をだな……」

 

 あわよくば待ち受けにしたい。

 この可愛い小悪魔をスマホに入れて毎秒ニヤニヤしたい。

 

「むぅ……どうしよう……」

 

 美優は巻いたツインテールの先をビヨンビヨンと引っ張って考え込む。

 

「まあいいけど」

 

 そして、なんということか許可を得ることができた。

 これは美優の写真を手に入れられること以上に嬉しい事実である。

 

 この承諾は間違いなく信頼の表れなんだ。

 そうでなければ、たとえその相手が恋人だったとしても、絶対の秘密が映る写真を渡せるわけがない。

 

「よし、じゃあ早速……」

 

 俺はスマホを取り出して、その世界一美麗な被写体をカメラの中に収める。

 そして、なんともいえないアンニュイな表情の美優を、そのままパシャリと撮った。

 

 可愛い。

 

 可愛いけど、スマイルぐらいはしてもらえばよかったかな。

 

「どんな感じ?」

 

 美優が俺のスマホを覗き込んできて、その写真のデキを確かめる。

 

「やっぱり棒立ちだと写り方が悪いね」

「なら、少し構図に注文つけていいか?」

「いいよ」

 

 俺はカメラを向ける角度や、美優の表情、立ち位置やポーズを、できるだけ楽しそうに、しかし明るすぎないように諸々お願いをして、何枚か写真を撮った。

 しかし、どれも満足のいくデキにはならず、二人で頭を悩ませる。

 

「こうなったらまたアレを使うしかないね」

 

 そう言って美優が取り出したのは、いつぞや使ったデジタル一眼だった。

 

「それ、使っていいのか? いいなら、喜んで使うけど」

「ぜひぜひ。それでちゃんと可愛く撮ってね」

「任せろ」

 

 俺も前にオタク友達の繋がりで、カメラマンの真似事をしたことがある。

 実態としてはほとんど荷物持ちみたいなものだったが、メインのカメラマンが珍しく自分のカメラを使われることを嫌がらない人だったので、ほんとに基礎の基礎ぐらいだが教えてもらうことができた。

 

「美優、いいぞ! ほんとに可愛い! 世界一可愛い!!」

「お兄ちゃんそればっか言い過ぎ」

 

 美優には語彙力のなさを指摘されまくったが、どの写真に映る美優も表情が柔らかくて、それほど悪くない褒め方だったように思う。

 

「美優、そのポーズもいいよ。もう少しだけ手下げて、目を伏しがちに……」

「うん……、こんな、感じかな」

「そう! それ! 良いよ美優!! 滅茶苦茶可愛い!!」

「んふふ。もー。おバカ」

 

 椅子やベッドを使ってもらって、ときには肉食獣っぽい格好もしてもらった。

 

 拘束具に似たコルセットに強調されるたわわな胸。

 薄い蝶の羽を思わせるドレススカートが、ベッドの上をヒラリと滑る。

 

 一般的なゴスロリ衣装に比べても露出が多く、本来は服で隠されているはずの腕部にも肌色が覗いていて、少し色っぽいポーズをさせると途端にドエロイ被写体になる。

 

「お兄ちゃん、凄いことになってるけど」

 

 美優の憐憫が向けられたのは、俺の股間部。

 俺は美優の撮影をしているうちに勃起してしまっていた。

 

「こ、このまま、続けていい……?」

「どうぞ。どうせわかってたし」

 

 そんな流れで、俺は完全勃起状態で撮影をひたすら続けた。

 こんなにたくさん撮っても、写真として貰えるのはどれか一枚だけ。

 でも、何より美優が楽しそうにしてくれているから、そんな物はもうおまけ程度にしか思っていなかった。

 

「美優、今度は、片足かけて、壁にこう……そう! それで……!」

「だんだん要求がエッチになってる気がするけど……まあ……いっか……えへへ」

 

 美優はぶつくさいいながらも、俺の要求を聞いてくれる。

 それどころか、エッチなポーズを取らせられるたびにテンションが上っているようで。

 もうデータには同じ衣装の美優が100枚以上保存されているのに、それでも夢中で撮影を続けた。

 

「み、美優、ごめん」

 

 そして。

 

「めっちゃムラムラしてきた」

 

 撮影への集中力が切れたせいか、俺の下腹部からそれまで堰き止められていた性欲が一気に吹き出してきた。

 ずっと勃起したまま撮影を続けていて、パンツも先走りでだいぶ濡れてしまっているだろう。

 

「どうせそうなると思った」

 

 美優もこうなることはわかっていたようで、俺を咎めることはしなかった。

 それどころか、俺の膝下まで四足歩きして近づいてきて、ガブッとズボンの上から俺の勃起を齧ってくる。

 

「あっ……美優……それされると……してほしくなっちゃうんだけど……」

「エッチはしません」

 

 ぐっ、ここまでされてエッチはできないのか。

 いや、なにか、あるはずだ。

 だってエッチをするつもりがないなら、こんな思わせぶりな態度は取らないはず。

 

「じゃあ……エッチはしなくていいけど……」

 

 俺はたまらずパンツを脱ぎ、ガチガチに反り立った肉棒を露わにした。

 

「こ、こ……今度は、その、これを……咥える……ポーズで……」

 

 美優は撮影をする俺の指示に全て従ってくれている。

 これもその延長線上のものだと言い張れば、美優ならしてくれるんじゃないかと、そう思った。

 

「……変態」

 

 美優は露骨に俺を軽蔑するように睨みつけてくるが、嫌とは言わなかった。

 

 そして、俺の指示通り、美優は俺のペニスをパクッと口に咥える。

 

 その瞬間、パシャッ、と、俺はほとんど無意識のうちにシャッターを押してしまっていた。

 

 美優の表情が更に険しくなって、恨みすら感じるぐらいに俺を睨んでくるが、それでもペニスを咥えた口を離さない。

 

「み、美優。もっと奥まで咥えて」

 

 俺はレンズ越しに映る美優に、フェラと何も変わらない指示を出した。

 ときには口を離させて、舌で舐めるようにお願いして、その度に俺は美優のそのエッチな姿を写真に収める。

 

「美優……ああぁ……気持ちいい……あっ……!!」

 

 美優のエロい顔をキレイに取るための集中力と、その姿に興奮する血液の速さによって、俺の息は高山で走り回った直後のように上がっていた。

 なにより、カメラ越しにフェラをする美優がエロすぎて、射精を我慢するのに尋常ではない体力が持っていかれる。

 

「ん……ふっ……むちゅ……んくっ……くちゅっ……」

 

 気づけば美優の顔が蕩けてしまっていて、俺の指示など無関係にペニスをしゃぶってくる。

 自分で指示を出していたからこそコントロールできていた射精感が、限界を突き破って一気に射精の信号を脳まで伝達させた。

 

「あ、アッ……美優……出るッ……!!」

 

 びゅっ、びゅくっ、ビューッ、ビュルルッ──!!

 

 美優には口を閉じさせたまま、俺はその中に何度も何度も射精をした。

 そして、精液の射出される勢いと、その苦い味に、かすかに強張る美優の表情を、俺はその快感の中で撮影し続けた。

 

「んー……ちゅぷっ」

 

 美優が俺のペニスから精液を吸い出して、口を離した。

 そのまま俺がカメラを向けていると、美優が口を開けて舌を出し、口内にたっぷりと注がれた白濁液を見せてくれた。

 

 最後に、カシャリとその一枚だけを撮って、撮影会は終了した。

 

 途端に静かになった室内。

 やってしまったという気持ちは湧いてくるが、そこに後悔はなかった。

 

「美優、ありがとう。すごく可愛かったよ」

 

 俺がお礼を述べると、美優は精液を飲み込んで、無言のまま俺にカメラを渡すように要求してきた。

 美優はそれを腕の中に大事そうに抱えて隠す。

 

「選んでいいのはエッチじゃないのだけだからね」

「は、はい」

 

 今回のことは、お互いにテンションが上がりすぎてしまったがゆえに起こった、事故みたいなものとして俺たちの間では処理された。

 それでも写真を一枚だけ選ばせてくれる美優の優しさに、俺は涙を禁じ得なかった。

 

 ちなみに、美優は「これはエッチじゃなくて撮影のポーズだから」と頑として主張を変えることはなかったため、やはりというか『ロリコスでエッチは禁止』というのは変わらないようだ。

 

「今度は美優の番だよ。……服は、どうする? そのままする?」

 

 美優だって撮影中はずっとムラムラしていたんだ。

 今朝だって俺は美優に何もしてやれてないし、これだけ尽くしてくれた美優を気持ちよくあげないと、男として立つ瀬がない。

 

「なら、私から一つ、エッチのお願いしていい?」

 

 美優は「服は着替えるけど」と言葉を挟んで、俺の答えを待った。

 

「もちろん。どんなことでも言ってよ」

 

 俺がノーなんて言うわけがない。

 聞かなくたってそれは明白なはず。

 でも、その質問をしたことにも、美優なりの意味はあった。

 

「……その」

 

 美優はモジモジして、目を伏しながら、小さな声でその望みを口にする。

 

「もうちょっと、咥えさせてください」

 

 美優がわざわざ質問をした理由。

 それは「こんなエッチな私でも大丈夫ですか」という確認だった。

 

「美優の気の済むまでしていいよ。俺はいくらでも頑張るから」

 

 一度フェラを経験してから、美優はどうやらそこに何かの魅力を感じてしまったらしい。

 そんな風にエッチになってくれるなんて、俺としては願ってもないことだ。

 

 だから、迷いはなかった。

 迷うはずもなかった。

 

 そして、俺は自分の部屋に戻って美優が着替え終わるのを待った。

 

 その望みを受け入れることが、どれほど大変なことになるのか。

 

 このときの俺には、知る由もなかった。

 



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不味いと嫌いは別の味

 

 ロリータ服での撮影会を終えて、俺は自室のベッドで美優が来るのを待っていた。

 

 さすがに二回も射精しているから完全に元気というわけではないが、美優から直々に俺のモノを咥えたいとお願いされたからにはこの体が奮わないはずがない。

 先ほどからギンギンになったままのペニスが、いつ美優に咥えてもらえるのかとそのときを待ちわびている。

 

「お兄ちゃん、入るね」

 

 美優が俺の部屋に来るまでに、思っていたほどの時間はかからなかった。

 化粧のほとんどをそのままにしてきたようだ。

 

 美優の格好はラフなTシャツ姿で、日常生活ではほとんど化粧をしないせいか、濃い化粧の顔を見ているとなんだか美優が不良少女になったみたいで興奮する。

 

 さっきのフェラでだいぶ出来上がっている様子の美優は、足取りこそしっかりしているがその顔はどこか緩んでいた。

 

「お兄ちゃん、なんでもうおっきくしてるの」

 

 自分から咥えさせてほしいと言ったくせに、美優は呆れていた。

 口の中に射精するのが好きになったのは美優のせいなのだから、責任は取ってもらいたいものだ。

 

「美優にフェラしてもらえると思うと、どうしてもな」

「もう二回も出したでしょ」

「なんだかまた精液が溜まってきた気がする」

「ほんと意味わかんない性欲してるよね」

 

 美優は文句を垂れつつも俺の前に座った。

 そして、間髪入れずにパンツを脱がしてきた。

 

 そこには先ほどと変わらない硬さのイチモツが屹立している。

 

「なんかさ、やっぱり初めて見たときより大きくなってない?」

「そうか? 正直、サイズはよくわからないけど……だいぶずっしり来るようにはなったよ」

 

 少なくとも、そんな何センチも大きくなったわけではない。

 同年代の平均サイズと比べてもようやく並といった具合だ。

 だが、全体の張りや硬さに関しては、かなり立派になったと思う。

 

「美優としては、もっと大きいほうが嬉しい?」

 

 太くて長いペニスは、雄として誇るべき栄誉だ。

 生物として魅力を感じないわけがない。

 

「いや……その……私の体格を考えてほしいんだけど……」

 

 美優は俺のペニスがサイズアップしたことをあまり喜んではいないようだった。

 美優の体格を考えろということは、こんな程度でも大きすぎるということだろうか。

 

 知識が無い女の子なら、俺のペニスを大きいと思うのも理解できる。

 しかし、美優は佐知子の教育のためにAVを見まくったはずだ。

 ペニスの大きさがどんなものかは知っているはず。

 

「大きいと咥えてるのが大変?」

「それもあるけど。将来的にも色々と困るといいますか」

 

 美優は俺の肉棒をツンツンして、ムスッとした表情の奥に照れ臭さを滲ませた。

 

 将来的にっていうのは、挿れるときって意味でいいんだよな。

 やっぱり美優にもセックスしたい気持ちはあるのか。

 

「もっと女の子に思い遣りのあるサイズにしてもらいたいものです」

「そ、そうか。気をつけるよ」

 

 気をつけようがないけど。

 

「今でもフェラしてて苦しい?」

「それは無いから安心して」

「よかった」

 

 美優にフェラが辛いなんて言われたら、俺はこの先どうやって生きていけばいいのかわからない。

 いやもちろん、美優に何かがあってフェラが出来ない体になったとしても、俺の美優への好きな気持ちは絶対に変わらないと断言するが、それでもフェラをしてもらえなくなったら悲しいものだ。

 

「この際だから確認したいんだけど。美優はどれくらいなら苦しくない?」

「どれくらいって? 大きさ?」

「咥えられる範囲というか、深さ、かな」

「あー。なるほど。どれくらいだろ」

 

 美優がフェラに積極的になってきたとはいえ、口に含んでもらえるのはいつも亀頭2つ分くらいまでのものだ。

 根元まで咥えてほしいとまでは言わないが、もう少し美優の口に包まれる感覚を味わってみたい。

 

「じゃあできるだけ根元までしてみるね」

 

 美優は俺の亀頭に口づけをして、そのままズズズッと少しずつ竿を飲み込んでいく。

 

「あっ……美優……そんなに……!」

 

 美優は俺の竿を8割くらいすんなり咥えてしまう。

 それから、ひと呼吸を置いて、今までに味わったことのない快感部へとペニスを咥え込んでいく。

 

「ん……んぐ……ちゅぷっ……」

 

 最初こそ抵抗感があったようだったが、美優は思っていたよりも簡単に根元までペニスを口に入れてしまった。

 竿全体が口内の体温に包まれている感覚と、根元に唇が当たる感触がこれまでにない快楽を俺に与えてくる。

 なにより、美優が俺のペニスを丸呑みしているこの絵面が、最高に興奮する。

 

「その状態で、フェラできる?」

 

 俺が尋ねると、長いまつ毛の奥から俺を見上げていた美優は、瞬きだけで頷いた。

 竿と陰嚢の境目をチロチロと舌で舐めて、緩やかに頭を前後させる。

 

「あっ、あっ……! やっばいこれ……!」

 

 美優の唇が根元を締め付けてきて、もうこれだけで美優とセックスをしているような気分だった。

 ジュブ、ジュブ、と俺の肉棒にしゃぶりつく美優が口内の空気を吸い出すと、ペニス全体に強烈な圧がかかって、腰がガクつくほどの快感が背中を突き抜ける。

 ゴムを付けていないこともあって、美優の頬や舌の肉感がダイレクトに性感帯を刺激してきた。

 

「マジで山本さんとのセックスより気持ちいい……!」

 

 自然と口をついたその言葉に俺はハッとしてしまった。

 セックスを比較するなんて失礼なことなのに、何の抵抗もなく美優のエッチを持ち上げる発言をしてしまった。

 

 自分でも驚きはした。

 だが、反省なんてしている余裕はなかった。

 俺のその言葉を聞いた美優が嬉しそうに目元を緩ませて、フェラの勢いを激しくして俺のペニスを責め立ててきたからだ。

 

「んっく……んっぐ……ぐじゅっ……じゅぽっ……じゅっぷ……!」

「あああっ……ああっ……! 美優……はぁっ……うぅあぁっ……い、イッ……!!」

 

 山本さんとのセックスより気持ちいい。

 そう言えば美優がいっぱいご奉仕をしてくれる。

 猿よりも単純な俺の脳みそは、そんな風にご褒美をぶら下げられるだけで、すぐに体が覚えてしまう。

 

「美優……あぁ……いいよ……!! 美優のフェラ……山本さんのどのエッチより気持ちいい……ずっと美優としてたい……!!」

 

 俺がその言葉を口にするたびに、美優は嬉しそうに俺のペニスをしゃぶって、グジュグジュと口元が卑猥な音を立てても気にせず丸呑みフェラを続けてくれる。

 ときおり、美優が唾を飲み込むために嚥下すると、俺の亀頭がギュッと締め付けられて、そのたびに俺の腰はガクガクと震えた。

 どうやらこのフェラは美優の喉にまで入っているらしい。

 

「あっ……美優……ヤバイ……!」

 

 こみ上げてくる射精欲。

 このまま射精したら、美優の喉に直接精液を流し込むことになる。

 

 してみたい。

 美優の喉に思いっきり。

 挿しっぱなしの射精を。

 

「み、美優……出る……! お、奥で……イクよ……!」

 

 俺が軽く美優の肩を掴むと、美優もその口を離すことはしなかった。

 美優は俺のペニスに吸い付いて、その状態で大きく口をストロークさせる。

 竿全体に滑る美優の口内の肉質が、すでに肉筒に用意されていた倍の量の精液を睾丸から汲み上げてくる。

 

「美優……イクよ…………イッ……クッ……あああっっ!!」

 

 ドクン、ドクン、と美優の喉の中で射精して、それに合わせて美優が何度も精液を飲み込んでくれた。

 精液を飲み込む美優の喉が俺のペニスを締め付けてきて、追撃のように押し寄せる快楽に、俺の精液は何度も放出させられた。

 

「はぁ……はぁ……これ……ハマりそう……」

 

 俺の射精が終わると、美優はビニールの包装を抜き取るようにゆっくりと口を離した。

 

「けほっ、けほっ。最後までしちゃった」

 

 美優は咳き込みこそしていたが、苦しそうではなかった。

 俺のサイズではそんなに奥まで入らなかったのかな。

 

「すごく良かったよ。ありがとう。根元まで入れても喉までは届かなかった?」

「三分の一ぐらいガッツリ喉に入ってたよ?」

 

 美優はサラッと大変な事実を言ってのけた。

 俺の大きさでもそんなに入るのか。

 喉に締められる感触はあったけど、そんなに深くまで飲み込んでフェラをしてくれていたなんて。

 

「苦しそうには見えなかったんだけど。かなり無理させてた?」

「ううん。自分でもビックリだったけど、喉でするのは大丈夫みたい。呼吸が出来なくなるからずっとはできないけど」

 

 普通ならえづいたりするものだが、美優は反射的に吐きそうにはなったりしないようだ。

 俺としてはかなり気持ちよかったし、美優の負担にならないのならこれからも喉でしてほしいんだけど。

 

「次も喉まで入れてほしいって言ったら、美優は嫌かな?」

「うーん……まあ……いいけど……」

 

 承諾してくれたわりには歯切れが良くなかった。

 美優のこんな曖昧な返答は初めてだ。

 

「無理はしなくていいんだからな? 美優が本当に苦しくないならお願いしたいだけで、喉までしなくても全く不満はないから。……というか普通は出来ないことだし」

「嘘はついてないよ。喉までするのは私も嫌いじゃないから」

 

 美優のその答えは嬉しいものだったが、俺は素直に喜べなかった。

 どう考えても美優は何かの不満を隠している。

 

「えっ……と……だな」

 

 どうやって尋ねればいいだろう。

 美優がはっきりしない態度で濁すのはほとんど無いことだから、正しい対応がわからない。

 これまでも謎の多い妹ではあったけど、それは無駄にキッパリしている是非の境界が意味不明だっただけで、イエスノーの判断に困ることはなかった。

 

 ここで思考停止してしまうから良くないんだ。

 美優の男であるならば、この先まで考えないと。

 美優の態度がはっきりしない理由なんて、一つしかないのだから。

 

 これまでの経験からして、この曖昧な態度の要因として最も強く働いているものは羞恥心しかない。

 

 美優は誤魔化すことはあっても嘘をつくことはしないんだ。

 だから、喉まで咥えてフェラをするのが苦しくないのも本当で、するのが嫌ではないのも本心のはず。

 

「喉で出されるのが嫌なのか?」

 

 美優が隠していることを探るには、美優が言及していない事柄を炙り出せばいい。

 消去法こそが正攻法。

 

 その考えは、おそらくは正しかったのだが、美優は「うーん……」と首を傾げながら頷くだけだった。

 

 合っているけど正解ではない。

 さて、本音はどこに隠されているのか。

 

「喉で出されるのが気持ちいいから、恥ずかしいとか?」

 

 自分で言っておいて酷い質問だとは思うが、これ以外に思い浮かばなかった。

 

「そうじゃなくてね」

 

 美優は目を合わせないままに否定する。

 

 そして、まだ硬さの抜けない俺のペニスを弄って無言の時間をやり過ごし、たっぷりと躊躇いを溜めてからその言葉を口にした。

 

「喉に出されると……味がしないから、イヤ」

 

 美優が口をもごもごさせて、目を泳がせる。

 

 この答えは完全に予想外だった。

 

「俺の精液、死ぬほど不味かったんじゃ……?」

 

 今まで飲んでもらった全員から「不味い」と扱き下ろされてきたわけだし、相当な苦味があるのは間違いない。

 

 飲み続けているうちに美味しいと感じるようになってしまったのだろうか。

 美優だけは平然と口で受け止めてくれていたし、あり得ない話ではないけど。

 

「とても不味いです」

 

 美優は胃のあたりをさすりながらボヤいた。

 

 やはり不味いらしい。

 まあそうだろう。

 本来は飲むものではないし。

 

 でも、そうか。

 美優は口に精液を出されるとき、一度として「嫌だ」という顔はしなかった。

 だからこそ俺は、これまで美優に精液を飲んでくれとお願いすることができたんだ。

 

「不味いのと嫌いなのは、別ってやつ?」

 

 俺の問いに、美優はコクコクと頷いた。

 

 それは美優がこれまで繰り返してきた言葉。

 その意味を、ようやく理解することができた。 

 

 あの「嫌ではない」は、言えない「好き」なんだ。

 

 だから美優は、不味いことは素直に答えつつも、その奥に隠された本音については黙り続けていた。

 不味いのに好きなんて矛盾しているようだけど、たしかにそれは同時に成立し得るものだ。

 

 でも、これは答え合わせをしたらダメなやつだよな。

 恥ずかしいことを煽るのは禁止って忠告されてるし。

 

「わかった。頑張ってくれてありがとうな。すごく気持ちよかったよ」

 

 興奮状態になっているとはいえ、こんなに言いづらいことを伝えてくれたんだ。

 これくらいは察してやらないとな。

 

「それじゃあ、そろそろ美優もしようか」

 

 俺は美優の左右の二の腕を掴み、体を持ち上げようとする。

 だが、美優は腰を落としたまま動かなかった。

 

 それどころか、前屈みになった俺の懐に潜り込むようにして、半勃ちのペニスをまたパクッと咥えてきた。

 

「み……美優……?」

 

 亀頭を唇で喰んで、美優は両手で丁寧に竿を支える。

 

「美優はまだ平気なのか?」

 

 もうムラムラも限界にきているはずだ。

 朝からベッドでイチャイチャして、エッチも撮影会もして、それなのに、美優はまだ一度もイッていない。

 

「全然大丈夫じゃない……」

 

 美優はスカートをギュッと押さえつけて内股を擦り合せる。

 

 こんなに舌ったらずな美優の声は初めて聞いた。

 

「ぐちょぐちょにイジりたくて頭変になりそう……」

 

 もう言葉を選んでいられないくらいに脳が蒸発し始めている美優は、会話の隙間にもペロペロと俺のペニスを舐めることをやめられなくなっている。

 

 興奮のしすぎで制御が利いていない。

 ここはまた俺が踏み込んでやらないと。

 美優は素直にしてほしいとは言えない女の子だから。

 

「美優はまだ咥えてたい?」

 

 そう尋ねると、美優はトロンとした目で俺を見上げて小さく頷いた。

 

「なら、二人で横になろう。美優は咥えたままで……いわゆる、シックスナインってやつになるけど」

 

 美優はフェラをしたまま、俺も美優のアソコを舐める。

 一般的にはここから挿入になるんだろうけど、俺はまだ許可されてないからな。

 

「それはヤダ」

 

 美優は頬を赤くしながらも、ムッとした顔で俺の提案を拒否した。

 以前にも、俺がアソコを舐めたいとお願いしたときは、それこそ虫を相手にするように拒絶されはしたけど。

 まさかこんなに脳が蕩けた状態でも強情でいられるとは。

 

「わ、わかった。舐めたりはしないから。お互いに前後になって、俺はイジるだけにするよ」

 

 美優は俺にされることにはまだ不慣れだからな。

 こうやって少しずつ心の壁を乗り越えていくんだ。

 

「見られるの恥ずかしい……」

 

 美優はお風呂のお湯に沈むように、俺のペニスをパクッと咥えて身を縮こまらせる。

 

 される立場になると美優はとことんウブだ。

 そんなところがまた可愛らしいのだが。

 

 しかし、ここまで恥ずかしがられてしまうと、どうしたものかな。

 

「ん……はむっ……ちゅぶっ……」

「あっ……ああっ……美優……!」

 

 悩んでいる間に、また美優はフェラを再開させた。

 

 美優がこんなにフェラ好きだったなんて。

 あんなに口ですることを嫌がっていたはずなのに、そうやって自分を騙し騙ししてきた反動なのか。

 

「んちゅ……ちゅっ…………んっ……はぁ……はぁ……うぅー……」

 

 美優は俺のペニスを咥えながら、もどかしそうに身じろぎする。

 

 ここで引き剥がそうとするのは悪手だ。

 服を脱がせるには暑くしろと、先人の知恵を今こそ借りるとき。

 

「美優……気持ちいいよ……!」

 

 俺は美優の肩を掴み、あえて腰を前へと突き出した。

 

 いわゆるイラマチオと呼ばれる、男が主体の強制フェラ。

 

 エッチがしたいのに恥ずかしくてできないのなら、拒めなくなるくらい興奮させてしまえばいい。

 限界がくれば美優も自然と体を預けてくれるはず。

 

「んっ……んんっ……! んはぁっ……ぐじゅっ……じゅぷっ……んんッ!!」

 

 俺が腰をストロークさせるたびに、美優はビクビクと身を震わせた。

 

 初めてのフェラのときは咥えているだけでイキそうになった美優のことだ。

 口内をペニスで犯されるだけでも耐え難い快感だろう。

 

「うぐっ……がぶっ……んぢゅっ……んぐっ……!! はぅ……ああぅ……おにいひゃ……んぐっ……んッ──!!」

 

 体の痙攣が大きくなり、息苦しそうにする美優の口に、俺はなおもペニスを突っ込んだ。

 

「はぁ……ああっ……美優……美優……!!」

「んっ……んんッ──!」

 

 ビクン、ビクン、と美優の体が跳ね、目が焦点を失う。

 俺が美優の口にペニスを挿入すると、その度に美優は身を弾ませた。

 イキっぱなしになっている美優が愛おしくて、俺は調子に乗って何度もペニスの出し入れを繰り返す。

 

「んじゅぶっ……あぐっ……あっ……あぅ……!」

 

 美優の瞳は潤んで、鮮やかな紅が塗られた唇には、飲み込み切れない唾液が溜まっている。

 そんなだらしのない美優の顔を見て興奮する自分の体を、俺はどうにか自制して腰の動きを止めた。

 

 結局は美優をイかせるところまでしてしまったが、これなら美優の気も少しは落ち着いたはず。

 

 そう思っていたのだが。

 

「あうぅ……おにぃひやぁ……」

 

 美優の表情はトロトロに緩んで、興奮の度合いはむしろ悪化していた。

 さっきより強く内腿を擦り合わせて、スカートの上からグッと指で割れ目を圧迫していた。

 

 こっそりではあるが、美優がオナニーを始めてしまっている。

 

「美優はまだイキ足りない?」

 

 あの体のビクつきは、これまで見てきた絶頂と同等のものだった。

 かなり息も荒くなっているし、体力もだいぶ持っていかれているはずだが。

 

「イッてない……。ぜんぶ寸止めだった……もうあたまのがいっひゃってる……はぅ……あっ、あっ……」

 

 美優は股座に手を突っ込んで、自らの欲望に少しずつ敗北していく。

 

 スカートの上からパンツの上へ、パンツの上から直のクリトリスへと。

 美優の指が秘部の内側に滑り、クチュクチュと卑猥な音を立て始める。

 

 それと同時に美優は俺のペニスを咥え、恥じらいなど欠片もない激しさで吸い付いてくる。

 

「ずぢゅっ……じゅぶっ……!! んっ……んぐじゅ……じゅるじゅぶっ……!!」

 

 美優はもうほとんど欲望に抵抗できなくなっていた。

 しかし、その奥にはまだ捨てきれない自我が残っていて、俺と目が合うと、息を潜めていた自我が刺激されてまた瞳に色が灯る。

 

「はぐじゅ……ズズッ……ずじゅぶっ……!! はあぅぁ……見ないでくらひゃぃ……はむっ……ちゅぶっ……!」

 

 両手で自らのクリと膣内をぐちゃぐちゃにイジる美優。

 ずっと焦らされてようやく解放されたその快楽に、蟻地獄のように沈んでいく。

 

「はぁっ……はぁっ……おにぃひゃん……あぐぅんじゅっ……あぶっ……むぢゅ……ああぁ……あっ……あっ……きもひ……!」

 

 俺のペニスを美味しそうにしゃぶりながらオナニーをする美優に、勃起はみるみると硬度を増し、美優はそれに喜んでしゃぶりつく。

 膝立ちの不安定な状態で一心不乱に俺のペニスを咥え、体を支えることよりオナニーを優先して両手を股に入れるその姿が、最高の興奮材料になって俺の睾丸を刺激する。

 

「あっ……あああっ……み、美優、ごめん……また出る……!!」

 

 びゅく、びゅく、とあっけなく射精させられる俺のペニス。

 美優が一切の猶予もなく吸い付くせいで、射精感が湧いてから精液が放出されるまでは一瞬だった。

 そして、美優は俺が射精しているその最中にも、ディープスロートによる性感責めを休みなく続けてくる。

 

「ああっ……アッ……美優……! もうイッた……! イッたから……!」

 

 美優は俺の声が聞こえてないのか、なおも精液を絞り出そうとフェラに没頭している。

 

「ふんっ……んにゃ……ふっ……ああっ……!! はむっ……あっ……あむっ……おにいひゃ…………おにぃ……ひゃん……んちゅ……ぐじゅっ……んあッッ!!」

「はああっ……ああっ……美優ッ……!!」

 

 美優は何度も絶頂を繰り返した。

 自分の手で卑猥な音を立てながら秘部を弄って。

 

 オーガズムの勢いで口から白い粘液が垂れて、それを美優が勢いよく吸い上げる。

 全ての精液を飲み切れなくなっているのか、あえて飲み切らないようにしているのか、美優の口の中で唾液と精液が混じり合って、ローション塗れでフェラをされているようだった。

 

「あっぐっ……美優……ダメだって……俺……また……!!」

 

 美優の口がわけのわからない快楽道具になって、俺の精という精を絞り尽くしにくる。

 もし美優が小悪魔のコスプレのままだったら、俺は美優をサキュバスと錯覚して、意識が異世界にまで飛んでいたかもしれない。

 

「あっ……あアッ……美優……ッ!」

 

 そうでなくても、俺の脳はもう正常な状態ではなくなっていた。

 

 どんなに性欲が溜まっていても、射精をしつくせば性に無関心になる瞬間が訪れるもの。

 それなのに、その性欲が落ち着く瞬間がまるでやってくる気配がない。

 

「はぅ……ぐじゅっぽっ……ずじゅぶっ……!! ぐぽっ……がふぁ……おに……ひゃ……ああんむちゅ……じずずっぶっ……ずむちゅ……!!」

「あぐっ……あ、い、イク……イク……イク……!!」

「んんっ……んんんッッ!!」

 

 美優がイクのと同時に、俺はびゅるびゅると精液を射出した。

 それでもなおしゃぶりついてくる美優のフェラに、俺の勃起も萎える様子がなかった。

 

 美優が俺のペニスを咥えたがっている。

 ただそれだけで、俺の体にとっては勃起するのに十分な理由だった。

 

 これまでは、美優が俺の性欲に付き合ってエッチをしてくれていただけ。

 そこに美優からの積極性はなかった。

 美優からの指示でエッチをするときも、エッチそのものとは別の目的があった。

 だから、そのときのエッチは、お仕置きが済めば終わるものでしかなかった。

 

 でも、いまは違う。

 美優が自分のしたい気持ちから、俺のペニスにしゃぶりついている。

 更に言えば、美優は明らかに俺の精液を飲みたがっている。

 

 もとより俺の体は、美優に命令されれば射精してしまうような体質だ。

 精液が欲しいとねだられたら射精するしかない。

 そこに生物的な無理があっても、俺は美優に精液を飲ませてしまう。

 

「ぐっぷっ……じゅっぽ……じゅるるっ……じゅぱっ……!!」

「美優ッ……出っ……る……あああッッ!!」

 

 脳がバグった果てに、俺のペニスは潮を吹いた。

 美優が口をストロークさせて吸い上げるたびに、俺は竿から亀頭の先までの全ての刺激を敏感に感じ取って、その一度のフェラで精液を射出する。

 

 頭がおかしくなっているのは美優も同じで、精液の飲み過ぎで気持ち悪そうに目を真っ赤に充血させながら、それでもなお美優はフェラをやめない。

 室内にぐちゃぐちゃと響く淫らな音は、もはや美優がオナニーをしている音なのかフェラをしている音なのか判別がつかなくなっていた。

 

「ああ、あ、あっ、あ、もうむり、死ぬっ……!! もうダメだ……あっああああっぅうぁ……ああ、あ、ああっ、出る、あああっ、もう無理、無理……!! ああ死ぬ……あ、で、出る出るッッッ!!」

 

 視界がチカチカと点滅して、頭痛と痙攣と射精が止まらなくなった俺は、命の危険を感じて美優の体を退かしにかかった。

 しかし、美優はオナニーを中断して俺の腰に手を回して、食らいつくようにペニスに執着する。

 

「美優……ストップ……! もう、ほんと、死んじゃうからちょっとまって! たのむ……!」

 

 俺が必死に懇願すると、美優はどうにかフェラを止めてくれた。

 

 もはや美優は、本能に突き動かされるだけの傀儡となっている。

 

 ……と、思っていたのだが。

 

「んふふ」

 

 精液を飲み込んでペニスを口から放した美優は、むしろ最初のときよりも意識がはっきりしているようだった。

 

 その顔は楽しげに微笑んでいて、いっそ昔の頃の美優が帰ってきたような懐かしさすらあった。

 

「いっぱい出たね」

「あ、ああ」

 

 潮吹きをしたのは、トイレで手コキ地獄を味わったときと、山本さんのおっぱいで搾り取られたとき以来だ。

 手コキよりもパイズリが好きだった俺は、山本さんとのエッチで初の潮吹きを上回る大量の精液を撒き散らした。

 そして、俺はパイズリよりも、フェラが好きな自覚がある。

 その分だけ一回の射精で出る精液も増えていて、この美優のフェラで絞り出された精液は、これまでの比にならない量になっている。

 

 「いっぱい出た」どころではない。

 美優とエッチをしていなかったら、一生をかけてもこれだけの精液を出すことはなかっただろう。

 

「お兄ちゃんはフェラ好き?」

「うん。一番、好きかも」

「へー。そっかぁ」

 

 美優は妙なテンションの高さで俺の亀頭にキスをする。

 俺自身より愚息の方がキスの経験が遥かに多くて、やはりというか嫉妬が拭いきれない。

 

「うー。ほんとに気持ち悪い。お兄ちゃん精液出しすぎ」

「美優が絞り出すからだろ……」

「むふふ。まあそうなんだけどさ」

 

 美優は竿をふにふにしながら持ち上げて、陰嚢の部分をしげしげと眺める。

 そこはどこよりも刺激に弱い場所で、その分触られることにも敏感だ。

 

「あっ……」

「まだ感じるの? なんてえっちな体なんですか」

「それはもう、俺にもよくわかんなくて」

 

 もうまったりモードでエッチは終わったはずなのに、性感帯は触られることを悦んでいる。

 

「ちなみに私の体もまだムラムラ中です」

「マジか」

 

 美優は俺の腰に抱きついたまま、体をくねくねさせてその欲求不満具合を露わにする。

 今の美優になら「実は私はお兄ちゃんの妹じゃなくて異世界から来た淫魔だったのです」と言われても信じてしまえる。

 ていうかそれが事実なんじゃないのか。

 

「皮の中に縮こまってる場合じゃないですよ。可愛くて好きだけど」

 

 美優は愛おしそうに萎んだペニスを撫でて、エッチの続きを要求する。

 それに呼応するようにムクムクと顔をもたげた愚息だったが、さすがにこれ以上の射精は生死にかかわる。

 

「もう空っぽだから、出すのは厳しいというか。ほら、俺がしてあげるから」

「やだやだ。お兄ちゃんに欲情されてないと満足できません」

「とんでもない衝撃発言だけど口にしてよかったのかそれ」

「後悔なら未来の私がする」

「その頼もしさだけはブレないな」

 

 美優は小さくガッツポーズをして、また俺の腰を抱える。

 それから犬が水を飲むみたいに、長く舌を伸ばしてペロペロと俺の肉棒を舐め始めた。

 

「あっ……なんでこんなに……はぅぁ……」

 

 美優に舐められて、俺は勃起した。

 疲弊した血管に無理やり血液がねじ込まれて、ピクつく度に痛みが走る。

 

 自分でもわけがわからない。

 もう出る精液なんて無いのに、なぜこの生殖器は勃起するのか。

 

「もう、ほんと出ないんだけど」

「えー。ほんとにぃ?」

 

 美優はニヤニヤしながら、俺の腰を抱えていた手を、自らのTシャツの中へと入れた。

 そして、下方からおっぱいに手を突っ込むと、Tシャツごとブラジャーをたくし上げた。

 

 ぷるんとたわわな果実が俺の膝に乗って、裸の下半身から柔らかい温もりが伝わってくる。

 

 ペニスはギチギチと音が鳴りそうなほどにいきり立って、射精前と同等以上の大きさを取り戻す。

 

「んふ」

 

 美優はいやらしい目で俺を見上げて、亀頭を唇で咥えながら俺の手を取り、あろうことかその両手を自らの乳房の先端へと導いたのだった。

 

「み、美優……!?」

 

 そこは絶対不可侵の領域。

 美優が感じ過ぎるあまりに触れることの許されなかった聖域だ。

 そんな部位を自ら弄れと要求するなんて。

 

「おにーちゃんの精液なんて、もう出る出ないで語れるレベルの量じゃないでしょ。ていうことはさ、きっとまだ出るんだよ」

「い、言ってる意味が、よく……ああっ……!!」

 

 美優は意味不明な理屈を並べ立てるだけして、その小さな口でガチガチに膨らんだ肉棒を丹念に愛撫する。

 

 その時点でさっきまでのフェラとは趣が異なっていた。

 今の美優は、欲望に突き動かされてのエッチではなく、明らかに俺を気持ちよくさせるためにフェラをしている。

 

 それは本来のエッチとしてあるべき姿。

 だが、俺と美優の関係としては、これほど新鮮な性行為もなかった。

 

「はむっ……ひゅぱっ……ちゅぶっ……おにいひゃん、ここ弱いよね」

 

 美優は鈴口のすぐ下にある裏筋に舌を這わせて唾液を吸い上げる。

 それを俺が気持ちよさそうにするのを見て、美優は念入りにその性感帯を舐ってくる。

 

 これはもう、美優からのご奉仕に他ならなかった。

 あくまでも俺とのエッチは精液の処理だと言い張っていた美優が、俺を性的に満足させるために、その体を駆使してくれている。

 

「ううっ……あっ……美優……そこ……良すぎる……ッ!」

 

 そして、何よりも不思議なことがその直後に起こった。

 

 射精がしたい。

 

 もう睾丸に存在しないはずの精液を、美優の口に思い切りぶちまけたい。

 

 そんな欲望がふつふつと湧き上がってきた。

 

「お、に、い、ちゃん。いつまで手をお留守にしてるのかな」

 

 美優は「はやくはやく」と言わんばかりに、俺の手を誘導した乳房を揺らす。

 

 乳首は美優が遥に開発されまくった場所。

 オナニーを止めた今では、美優にとって満足のいく性感が得られるのはそこしかない。

 

 俺はその神秘の部位に、期待と不安を感じて、指を動かせずにいた。

 美優が気持ちよくなれるその場所は、敏感に痛みを感じやすい部分でもある。

 慎重に、丁寧に、それこそ美優が俺の肉棒を愛撫してくれているように、優しく触れてあげなくては。

 

 まずは乳房に手を添えて、軽く揉む。

 それから、俺は乳輪の外側を指でなぞり、これから先っぽに触れる合図をした。

 

「はぁ……ふぁ……お兄ちゃん……」

 

 美優の焦れったそうにする顔が、またそそる。

 いっそこのまま焦らしプレイをしてやりたいが、これまで散々我慢させられた美優に、その仕打ちは可哀想だと思った。

 

 だから俺は、美優と目が合って、その意思が通じた瞬間に、美優の乳首をごくごく弱い力でコリッと摘んだ。

 

「あひゅっ……んあッ──!!」

 

 美優はたまらず肉棒から口を離して、その嬌声が漏れる穴を塞ぐようにすぐに咥え直した。

 だが、俺が指で挟み込んで乳首をグリグリする度に、美優は堪らず切ない声を上げて身を捩った。

 

「あっ、ふん……んあっ……お兄ちゃ、んっ……ひょっと……ひあぁああっ!!」

 

 美優のエッチな声を聴くたびに、ドクドクと俺のペニスが脈打つ。

 一回り大きくなったイチモツが美優の口を埋めて、美優はそれを咥えたままフェラを続けようとするのだが、乳首から伝わる快楽に耐えきれずに何度も口を離してしまう。

 

「あうぅ……あぁ……お口……んんあッ……できにゃひ……あっ、んんッ!!」

 

 それでも美優が必死にフェラをしようとしているのを見て、俺は乳首を抓る代わりにおっぱいを揉みしだくことにした。

 もはやその乱暴な扱いでも美優は感じてしまうようだが、これならどうにかフェラは続けられる。

 美優は気持ちよくしてもらった分を返そうとして、入念にペニス全体に舌を這わせた。

 

「美優……どうしよう……もう出ちゃうかも……!」

 

 その2つの果実の肉厚さに、指を食い込ませ、外側の柔らかさと内部の弾力を存分に堪能する。

 そうしてしばらくフェラをしてもらってから、今度は美優の硬くなった乳首を指で弾いて気持ちよくしてあげた。

 

 交互に快楽を送り合って、しかし、興奮は互いに高まる一方だった。

 俺は美優の悶える姿を見て興奮し、美優は俺にフェラをすることで興奮する。

 その相互作用で二人が絶頂するまではすぐだった。

 

「はあ……あぅ……あっ……あああッ……お兄ちゃん……!!」

「美優……美優ッ……イクよ……出るッ……あアッ……!!」

 

 ドクッ、びゅるっ、びゅるびゅくっ、ビュッ──!!

 

 美優がイッたその瞬間に合わせて、最後の最後に大量の精液を美優の口に注いだ。

 尿道を通るときの快楽は少しも薄れてはいなくて、それどころか射精する度に陶酔感が突き抜けるほどの快感があった。

 

 二人は息を乱し、しばらくはイッた直後の体勢のままぐったりと静まっていた。

 

「んっ……ちゅっ……ぷは」

 

 美優は最後の一滴まで精液を吸い出してフェラを終えた。

 お掃除も含めて、全てが最高に気持ちいいエッチだった。

 

「やっぱり出たね」

「ああ……出たな……」

 

 なぜ出たのかはわからない。

 あの精液がどうやって作られてどこに溜められていたのかも。

 ただ、このエッチでそれは証明されてしまった。

 

 俺の体は、美優が望んだ分だけ射精する。

 

 もしかしたら、遠い未来の何かを犠牲にして、その奇跡を起こしているのかもしれない。

 

「よいしょよいしょ……」

 

 エッチが終わると、美優はすばやく服を着直した。

 俺にも脱がせたパンツを渡してきて、これでようやくエッチは終わったわけだ。

 

「えいっ」

「うおあっ!?」

 

 俺は美優に押し倒されて、またその上に美優が覆いかぶさってくるこの体勢。

 猫に乗られているみたいで、実は結構好きだったりする。

 

「うふふ」

 

 美優のニマニマした顔は変わっていなかった。

 脳の機能もいつもの状態まで回復するのにだいぶ時間がかかりそうだ。

 

「お腹の中がお兄ちゃんの精液でいっぱいになってる」

 

 美優は俺とのお腹の間に手を挟んで、慈しむようにさすった。

 その言葉の響きが、まるで中出ししまくって孕ませたみたいで、不覚にもまた肉棒がピクリと反応してしまった。

 

「だいぶ、しちゃったな」

「しちゃったね、おにーちゃん」

 

 美優は頭を押し付けてきて、さすがに胸焼けを抑え切れないのか、呻きながらスリスリしてくるその様が本当に猫みたいで愛おしくなってくる。

 

「可愛いな、美優は」

「んー? どうしたの? いきなり」

「普段のツンツンしてるとことのギャップとか。美優が猫みたいで愛らしいというか」

 

 俺がつい本音を口にすると、美優はじーっと俺のことを睨んできた。

 さすがに口が過ぎたかと思いきや、美優は上体を軽く起こして、両手を猫のように丸くしたのだった。

 

「にゃーん。って感じ?」

 

 あまりの可愛さに生きたまま成仏するところだった。

 

「今度それ、猫耳付けたままやって」

「えー。やだ。私はコスプレが好きなわけじゃないし」

 

 美優はぷっくりと頬を膨らませて抗議する。

 たしかに、フリフリしたロリータファッションと、猫耳衣装はまた別の嗜好だ。

 

「でも、猫耳の美優なんて絶対に可愛いよ」

「当たり前でしょ。可愛いからああいう服を着てるんだもん」

 

 自らの可愛さについてはまるで謙遜しないその姿勢。

 実に好ましい。

 

「可愛いことに変わりがないなら、ただのコスプレでもいいんじゃないか」

「そんなに見たいの? しないけど」

 

 しないのになぜ聞くのかな。

 

「見たいよ。してくれたら百回は可愛いって言う」

「百回じゃ足りない」

「これから一生可愛いって言うから」

「はいはい。お兄ちゃんはバカですね」

 

 こういうやり取りをした後の、美優の満更でもない顔を見るのは、俺の人生のささやかな楽しみの一つでもある。

 

「期待はしないでよね」

「気長に待ってるよ」

 

 これからはずっと一緒だもんな。

 もちろん、この関係にあぐらをかいてだらけるつもりはないけど。

 美優と二人で幸せになっていくための努力ができるのは、それだけでもう幸せなことだ。

 

「その、だな。キスとかって、こういうタイミングでするものなのかな」

 

 その幸せの第一歩として、俺には早速悩みがあった。

 キスのしかたが全くわからない。

 どんなときにどうやってすればいいのか、いまだに想像すらできない状況だった。

 

「したいならしてもいいけど。まだ口の中にお兄ちゃんの精液が残ってるよ」

 

 それでもしたいならしてあげよっか、と半ば脅すように美優は顔を近づけてくる。

 

「そ、それじゃあ、また次の機会にしようかな……」

「一回ぐらいは自分の精液の不味さを味わっておいてもいいと思うけどね」

 

 美優はニヤニヤしながら、俺の顔に向かっていたその唇を、首の方へと落とした。

 

「代わりにこっちにしちゃお」

 

 チュッ、と美優に首を吸い付かれて、俺は幸せなくすぐったさに浸っていた。

 しかし、そのキスが思っていた以上に長くて、もしやと美優の顔を上げさせる。

 

「もしかして、キスマーク付けた……? 明日オフ会なんだけど……」

「あ、そうだった。ごめんごめん。虫刺されってことにしといてよ」

 

 「ガッツリやっちゃった」とお茶目な一言が耳に届いて、キスマークを付けたであろう場所を突く美優が、また憎たらしいほど可愛い。

 

「はぁ……。さて、お兄ちゃん。今日はもう寝よっか」

 

 美優は俺にぐったりと体重を預けてきて、まだ夕方にしても早いくらいの時間なのにそんな提案をしてきた。

 俺としては腹が減ったのでご飯を食べたいのだが、一緒に寝てほしいとお願いされたら断れないだろうな。

 

「美優も疲れたか?」

「うーん……それもあるんだけどね……」

 

 美優は口を噤んで目を泳がせる。

 これは、ニュートラル状態の美優の顔だ。

 

「このまま現実に目覚めたら恥ずかしさのあまりそこの窓を突き破って飛び降りるかもしれないので」

 

 そこまでのものか。

 まあ、美優からすれば泥酔してやらかしたようなものだし、忘れられるものなら忘れてしまいたいよな。

 

「夢だったことにしたいと」

「はい」

 

 そういうことなら、協力してあげるか。

 美優は俺がいたほうがぐっすり寝れるみたいだしな。

 エッチで明るい美優も好きだけど、女の子の羞恥心には最大限配慮をしてあげたい。

 

「化粧はそのままでいいのか?」

「コラテラルダメージというものです。いたしかたない犠牲なのです……」

 

 美優はしょんぼりした顔で俺の横に寝転んだ。

 自尊心も美容も、美優にとっては同じくらい大切にしなければならないもの。

 アイデンティティをかけたジレンマとは如何ともしがたいものだな。

 

「一応、言っておくけどな。俺はどんな美優も好きだから。エッチに夢中になってる美優も、いつものサバサバした美優も、どっちでいてくれても俺は幸せだよ」

 

 俺が好きなのは、美優という人間そのもので。

 その根源から生まれる思考の全てが、俺を好きだと思わせてくれる。

 だから、美優がどんな人間であることを選択しても、俺はこの先もずっと好きでいると確信している。

 

「むー……」

 

 美優は俺をジットリとした目で見つめて、大層ご不満の様子だった。

 少なくとも不快にさせるようなことを言ったつもりはないのだが、何を間違えたんだろう。

 

「あ、ご、ごめん。なにか気に障った?」

 

 俺が尋ねると、美優は俺のTシャツを軽く引っ張って、表情を柔らかくしながら俺を睨みつける。

 

「夢にするのが惜しくなった」

 

 とても可愛らしい不満だった。

 

 しかし、まあ悪いことをしたとは思う。

 

「すまん」

「許す」

 

 美優は「詫びにそろそろ私をギュッとしなさい」といわんばかりの面持ちだったので、俺はその意思に従うことにした。

 

 俺が美優を抱きしめて、美優はその中で小動物みたいに丸くなる。

 こういう二人の好みが合うところは、するのが当たり前みたいにしてしまいたいな。

 

「ふぁ……ほんとに寝ちゃいそう。そろそろご飯にしませんか……?」

「それは俺としてもありがたい」

 

 俺はしばらく美優の温もりを堪能してから体を起こした。

 

 すると、膀胱と股下のあたりにピキッとした痛みが走った。

 射精のしすぎで筋肉痛にでもなったかな。

 

 俺は美優の体を起こして、それぞれ飯とお風呂の準備に向かう。

 今日は一緒に入れるかな。

 

 美優のあのデレデレな姿、可愛かったな。

 エッチをするとテンションが上がるのは、前からその傾向があったけど。

 さすがにあそこまで激しいフェラをしてもらえるとは思っていなかった。

 しかも、俺の精液の味が好きだったなんて。

 

 それって、俺の精液を飲むのが好きってことでいいんだよな。

 だから美優はあそこまでフェラを続けたわけだし。

 

 いや、しかし、美優は以前から精液を飲んでいた。

 エッチで暴走するようになったのはフェラをするようになってから、つまりは俺の肉棒を口にするようになってからだ。

 ということは、精液というより性器が好きなのか。

 そもそも、美優は精液そのものが好きなんだろうか。

 

「──はっ!?」

 

 と、その疑問が出た段階で、俺の思考はようやく繋がった。

 

 キッチンで一人呆然と突っ立って、バラバラだった情報を符号させていく。

 

 美優が俺とのエッチでテンションが上ってしまう理由は、もちろん性的興奮が異常に増してしまうからだ。

 それがなぜかといえば、美優は近親者である俺に対して強烈な生殖本能が働いてしまうから。

 

 そう、この生殖本能というのがポイントだったんだ。

 だから、美優は俺とのセックスに対して慎重だった。

 

 美優が俺の精液が好きかどうかなんて、考えるまでもない。

 

 好きに決まっている。

 生殖行為に最も重要な要素なんだから。

 

 だから、美優はどんなに不味くても俺の精液を飲むことができた。

 好ましいものとして体が受け入れるようにできているんだ。

 

 フェラで異常に興奮するようになったのも同じこと。

 生殖行為に必要なペニスも、美優は好きで好きで堪らないんだ。

 それを勃起させることは、美優にとっては至上の喜びに他ならない。

 

 俺はこれまで美優に何度も精液を飲ませて、その度に精液の量は増していった。

 フェラをしてもらうようになってからは更に増えている。

 

 美優にとって口淫は、俺の生殖器を強くして、精液を増やすことのできる行為。

 だから美優は、俺のペニスが好きで、俺の精液を飲むのが好きで、俺にフェラをするのが大好きだったんだ。

 

 こんなに精液が好きな美優が、俺とのセックスにドハマリするようになったらどうなるか。

 場合によっては、ゴムに穴を開けてでも精液を欲しがってしまうかもしれない。

 その証拠に、美優は以前に寝起きフェラをしてくれたとき、生殖本能が暴走して生の状態で俺とセックスをしようとした。

 

 つまり、俺が美優とセックスをするために考えなければならなかったことは、単に美優がセックスにハマらないようにすることだけではなく。

 美優が生殖本能に身を任せて子作りをしないよう、俺が管理してあげることだったんだ。

 そして、この結論に至るために必要な“美優が俺の性器と精液が大好きなこと”は、それが事実かと確認することは許されない。

 

 今日のできごとみたいに、明らかにそうであることがわかったとしても、決してそれを口にはしない。

 それが美優の自尊心を守るために必要なことだったんだ。

 

(もし……それが正解だとしたら……)

 

 美優は子作りをするために興奮するのではなく、子作りをすることに興奮する。

 それが妊娠に結びつけばつくほどに、その昂ぶりは異常なほどに高まっていく。

 

 この考えが、全て正しいのだとしたら。

 

 もし、生セックスで中出しをするようになったら。

 

 美優はいったい、どうなってしまうんだろうか。

 



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オフ会の場外戦

 

 オフ会当日。

 俺は鈴原とファミレスで合流していた。

 注文を終えてセルフサービスの水だけをテーブルに置いた俺の対面には、予想通りにこんがりと日焼けした鈴原が座っている。

 

「お前はほんと会うたびに『誰?』ってなるな」

「会うたびに友人に忘れられる俺の気持ちも少しは考えろ」

 

 鈴原は内側にこっそり入れた刈り込みを指で弄る。

 美優に叱られた影響なのか、服にも髪にもだいぶ金を使っているようだった。

 

「そんなことよりソトミチよ、お前もだいぶいい感じになってるじゃねえか。やっぱり美優さんの影響か!?」

「う、うん、まあ、そうだろうな」

 

 こいつの『美優さん』呼びはいつまで続くのか。

 崇めたくなる気持ちもわからんでもないが。

 

「こりゃアシストのしがいがあるな……!」

 

 鈴原は暑苦しいテンションで拳を握る。

 

 オフ会は各自で昼飯を食べての現地集合だった。

 集合場所だけ指定されて来れる人からバラバラと集まることも、オフ会ではさして珍しくはないらしい。

 とはいえ、先に仲良しグループを作られると辛いので、俺と鈴原は早めに現地近くのファミレスで合流することにしたのだ。

 他のメンバーも似たようなことをしているかもしれないので、会話は慎重にしなければならない。

 

「今日で童貞とはおさらばだ。ソトミチもそろそろ女を知った方がいい」

 

 料理の提供が済んで最初に出てきた言葉がそれだった。

 こいつには事情の一端を話しておかなくては。

 

「鈴原は夏に入って女と遊んだのか?」

 

 俺は水を一口飲んでカランと氷を転がした。

 

「俺は、まあな。収穫はまだだけど、かなり進んでるぜ」

 

 鈴原はメッセージアプリに並ぶ女の子たちの名前を得意げに見せつけてきた。

 この短期間でもう五人もの女の子とメッセージのやり取りをしてるのか。

 かなり頑張ってるみたいだな。

 

「目覚ましい進歩だな。本当に良く変わったと思うよ」

 

 美優の叱咤がここまでの効果を発揮するとは。

 

 驚くと同時に、納得もする。

 

 美優はあれだけダメ人間だった俺をここまでまともにしてくれたんだ。

 この鈴原はいわば俺の写し鏡のようなもの。

 

 美優はとにかく人の心理を読むのが上手い。

 正確には、どこまでなら相手の精神が耐えられるのか、その判断が絶妙なんだ。

 そうやって、美優は人の心を丸裸にしてから、その人に本当に必要な飴玉を一つだけ与える。

 

 この“きっかけ作り”が美優の秀でた最たるもので、それが長所だろうが欲望だろうが、美優は相手に自らそれを引き出させてしまう。

 由佳も鈴原も山本さんも、そしてなにより俺自身も、この美優の手管には抗えなかった。

 

「んなことよりソトミチ。今日はお前に女を経験させるのが目的なんだから、少しは気張れよな」

「俺はオフ会で彼女を作ろうなんて考えてないよ」

「お前はまだそんなこと言ってんのか。彼女ってのは無理にでも作ろうと思わなきゃ一生できないものなんだぞ」

「わかってるよ。そうじゃなくて。俺はいま好きな人がいて。本命はその子に決めてるんだ」

 

 俺は嘘がつけない。

 だから、部分的に本当のことを話す。

 これなら罪悪感はないし、平静を保っていられる。

 

「はあ? おまっ、なんでそんな大事なこと黙ってたんだよ」

「こんなこと、友達相手の方が余計に言いづらいだろ」

 

 普段から恋バナなんてするような間柄じゃないし、切り出すタイミングがない。

 もし恋人が妹じゃなかったとしても、自分から打ち明けることはできなかっただろう。

 

「それなら無理強いはできないけどよ」

 

 鈴原は素直に引いてくれた。

 人の気持ちを理解できるようになったのがこいつの一番の成長だな。

 

「好きな女がいるなら、その子が目標でいい。でもな、ソトミチ。まだ付き合ってるわけじゃないなら、その過程で他の女と遊ぶことは全く不誠実なことなんかじゃないんだぞ?」

 

 鈴原はテーブルに両肘をつき、一度手を組み合わせてから手のひらを俺に向けた。

 

「いや、言いたいことはわかる。初めての彼女だし、その初めてを大切にするためにキレイなままでいたい気持ちも痛いほどわかるんだ。俺だってそうだった。でもな、恋愛って、付き合うことがゴールじゃないだろ?」

 

 鈴原の表情はどこまでも真剣で、いったいどんな経験をすればそんな圧のある語り方ができるのか、この変貌ぶりには素直に感心した。

 

「キレイな初恋のまま付き合えたら100点だ。他の女と遊んだ後なら、80点かもしれない。でも、80点でいいんだよ。恋愛経験は別れるか結婚するかまでのトータルだ。1000点満点なんだよ」

 

 根拠なんてまるでなかったが、鈴原の話には説得力があった。

 

 この感覚、美優と話しているときと同じだ。

 自信のある話は聞き手を惹き付ける。

 そして、やがてそれは、ただの理論を事実へと変えてしまう。

 

「その子が本命なら、付き合った後のことを考えてむしろ別の女で経験を積むべきだと思う。もちろん、これは強制するものじゃないし、どうするかはお前に任せるけど。少しだけでもいい、女の気を引いてみろ。世界が変わるぞ」

 

 どうやら鈴原は、そうした経験をして変わってきたようだ。

 

 男として女の気を引いてみる、か。

 思えば俺は流れで女の子と付き合えていただけで、男らしさをアピールできたことなんてほとんどなかったんだよな。

 美優に対してもまだ足りていない自覚はある。

 

 今日会う子たちに色目を使うつもりなんてないが、頼れる兄としての自分を披露してみるくらいの努力はしてもいいかもしれない。

 

「さて、もう時間か。メッセージも全員分来てるな。今回は遅刻者がいないみたいだから、八人同時に入室になる。ソトミチの初陣にはかなりキツイな。いいか、よく聞けよ」

 

 席を立つ前に、鈴原からいくつかのレクチャーがあった。

 

 まず、トイレは済ませておくこと。

 序盤は一秒でも会話から外れたら、輪の中への復帰が困難になる。

 最初に話しやすい人としての立ち位置を確立するのが肝心。

 

 次に、容姿への言及は避けること。

 これは冗談と称賛のどちらもNG。

 女慣れしている者であっても、初対面の女性を褒めてもまず気持ち悪がられる。

 これが大原則だ。

 

「序盤は間違いなく女子グループと男グループに分かれる。だけど、これをあえて崩す必要はない。それは役目を負ってる幹事に任せるんだ。そうすれば誰も悪感情は抱かないからな」

「鈴原も先輩も幹事だろ? 俺はもう一人の男と話してればいいのか?」

「そうだ。俺と先輩が女子グループを捌くから、その間に田中と仲良くなっておけ」

 

 今日のオフ会は鈴原の先輩である黒い竿さんがメイン幹事で、サブとして鈴原とハルマキさんが副幹事を務めている。

 田中こと田中クラウザー二世さんは年齢が一つ上らしいが、仲良く話せるかな。

 

「それと、ゲーム内でもまだ大っぴらにはしてないから、今回のメンバーには俺とソトミチと先輩は中学の頃からの知り合いとしか説明してない。わかるな?」

「内輪感が強いと周りが話しづらいからだろ。できるだけ鈴原以外と話すようにするから大丈夫だよ」

 

 俺たちの関係性を隠す必要は無いが、オフ会の参加者が萎縮してしまうことのないように配慮はすること。

 それだけは守るように忠告されて、俺と鈴原はカラオケ前へと移動した。

 

 そこにはすでに、ガタイの良い男と日傘を差した可愛らしい服を着た女の子のペアがいた。

 幹事の黒い竿さんとハルマキさんかな。

 

「先輩、お久しぶりっす。そちらはハルマキさんですか?」

 

 鈴原が率先して挨拶に動く。

 黒い竿さんは鈴原と顔見知りだし、さらに言えばハルマキさんを含めたこの三人は幹事グループだし、俺がしゃしゃり出ていく空気でもないな。

 鈴原に紹介してもらえるまで大人しくしていよう。

 

「どうも、ハルマキです。リアルでのアダ名のままなので、ハルマキって呼んでください」

 

 ハルマキさんがお辞儀をすると、編み込まれた髪の残りを二つ結びにしたおさげがスルッと肩から落ちた。

 服装は美優のロリコスをややカジュアル寄りにしたもので、ひとことで表現するなら可愛いオタサーの姫だった。

 

「そうなんですか! そしたらソトミチと同じですよ、こいつもアダ名がハンネで」

 

 鈴原が率先して紹介してくれたので、俺もハルマキさんと同じように会釈して軽い挨拶をした。

 

 そういえばハルマキさんは大学生なんだよな。

 見た目はむしろ年下っぽいけど、きちんと敬わないと。

 

「はじめまして。ソトミチです」

「はい、はじめまして。二人とも、チャットで話してるような感じで大丈夫だよ。オフ会なんだし気楽にいこ」

 

 ハルマキさんは緊張を解すためなのか、俺の腕をツンツンと小突いてきた。

 女性経験が無い頃の俺だったらこれで落ちてたな。

 

「冴えないドーテーくんだって鈴原くんから聞いてたけど、全然そんな風に見えないね?」

 

 ハルマキさんはサラッと過激な発言をぶっこみながら、下から煽るようにクリッとした目で俺の顔を覗き込んできた。

 この角度も美優で慣らされていなかったらドキッとしてしまっていただろうな。

 大人しそうな雰囲気だがかなりのやり手だ。

 もしかしたら本物のオタサークラッシャーなのかもしれない。

 

「そいつ、前まではかなり芋臭かったんですよ。俺も今日会ったときはビックリしちゃって。でも、ドーテーらしいっす!」

 

 鈴原が慌ててフォローをしてくるが、むしろ余計な印象が強くなってしまった。

 この状態で非童貞を主張するのは面倒なのでやめておこう。

 

「まあ、そんなに冴えた方じゃないのは事実ですよ」

 

 自分を卑下しすぎるのは美優に悪い。

 だが、男としてパッとしないのは事実だ。

 改善はしていきたいが、不要な好意を持たれたくない気持ちがまだせめぎ合っている。

 

「黒い竿さんも、お初です」

 

 隣のガタイのいい男にも挨拶をする。

 

 鈴原が言うにはこの人も元オタクらしいけど、そんな空気は微塵も感じさせない。

 これまで柔道一筋に生きてきましたと言われても納得してしまえる風貌だ。

 

「黒澤でいいよ。俺はどうせ連絡先交換するときにバレるからな。本名で呼んでくれ」

 

 黒澤さんは二十歳には見えないほどの貫禄のある濃い顔で笑う。

 ヤンキーっぽい男らしさを煮詰めたような人だ。

 

 それから残りの四人が来て、軽く自己紹介をしてからカラオケに入った。

 

 パーティールームを貸し切りにして、まずは男女に分かれて座る。

 特段指示があったわけではない。

 自然とこの合コン形式に落ち着いたのだ。

 

 今回のメイン幹事は黒澤さん。

 なのだが、仕切り役は鈴原の担当だった。

 

 全員が荷物を置き終えたのを確認してから、鈴原は一人立ち上がる。

 

「よーし! じゃあ全員でアプリを開くぞ! とりあえずスタミナ消費し切るまでは普通にゲームで! 飲み物は言ってくれば取りに行くから駄弁りながらダラダラしてくれ!」

 

 広い部屋だから寝ててもいいけど、と鈴原が言葉を添えると、数人が笑って場が和む。

 こいつ、恐ろしいほどのコミュ力を身につけたな。

 

 俺には真似できそうにないし、とりあえず田中さんと仲良くしとくか。

 

「田中さんは田中さんでいいんですか?」

「いいよ。本名だし」

 

 この人もか。

 最近は個人情報とか隠さないのかな。

 知ったところで何するつもりもないけど。

 

「あと敬語もいいから。その調子だとあの歳下二人にも敬語使うつもりでしょ。癖になるからやめときなよ。慣れだから、慣れ」

「そ、そう……か? なら、そうするよ」

 

 オフ会慣れしてる人ってみんなこんな雰囲気なのかな。

 ももちゃんなんて乗っけからタメ口バリバリどころか、死ぬほど馴れ馴れしかったし。

 でも、ももちゃんはチャットのときから「そういう人だ」っていうイメージが定着してるから、嫌悪感はなかった。

 リアルでも自分のキャラの印象付けってかなり重要なんだな。

 

「オフ会に参加するのは今回が初めてなんだけど。どこまで聞いていいものなのかな。個人的なこととか」

「別に高校とか教えてもいいよ? でも、知って話題に繋がるものじゃないと意味ないからな。やっぱり、ゲームの話とか他の趣味について話すもんなんじゃない?」

 

 曰く、なんだかんだで女子たちの食いつきがいいのは、恋バナだったり異性のタイプについてだったりするそうだ。

 オフ会って非モテの集まりなイメージがあったけど、最近はそうでもないらしい。

 スマホアプリの普及のおかげでオタク以外の人にもリーチすることはできるようになったため、後はどの人を選んで誘うかで会の非モテ度はコントロールできるようだ。

 

 つまるところ、非モテが開催するオフ会は非モテの会になり、陽キャラが開催するオフ会はイケイケの会になる。

 今回は黒澤さんとハルマキさんの影響が大きいのだろう。

 田中さんも含めてまず見た目は全員まともだ。

 そして、ももちゃんには彼氏がいるし、ハルマキさんはむしろモテそうな側だし、夜空ちゃんと彼方ちゃんは最年少ということで控えめにしているが、女子高一年生らしい活きた感じは漂っている。

 

 むしろ恋バナが始まったら最も立場に困るのは俺なくらいだ。

 セフレに近かった関係と実妹との関係。

 さすがにおおっぴらにすることはできない。

 

 そういえば田中さんもあのゲス会話を聞いてたんだよな。

 黒澤さんはハルマキさんをラブホに連れ込むって言ってたけど、どうするつもりなんだろう。

 

「やっぱりみんなハルマキさん推し?」

 

 田中さんは向かい側の女の子に聞こえないように尋ねてくる。

 

 たしかに、見た目の良さで言えばハルマキさんがぶっち切りだ。

 物腰柔らかで、かつ明るく話せる人で、黒澤さんも鈴原もさっそく隣に座ってデレデレしている。

 その横からハイテンションでももちゃんがちょっかいをかけているが、黒澤さんはずっとハルマキさんに夢中だし、空気が悪くならないように鈴原がとりなしているぐらいでしかない。

 

 ちなみに、残りの彼方さんと夜空さんは二人で慎ましやかにゲーム中だ。

 

「俺は付き合おうとかホテルに連れ込もうとかは考えてないから、みんなと少しずつ話せればいいよ。見た目の好みならまあハルマキさんを推すけど」

 

 それこそ美優と山本さんを足して二で割ったような人だからな。

 ハルマキさんの可愛さを10とするなら美優と山本さんの可愛さは100くらいあるんだけど。

 

「そうなんだ? なら僕は彼方ちゃんと仲良くなりたいから、協力してくれるかな?」

「協力? 別にいいけど」

 

 この人にも目標があるのか。

 せっかくの出会いなんだし、普通はこの機会を活かしたいよな。

 

 なんだかこう余裕にしていると、自分が嫌味な人間みたいに思えてしまう。

 もっと謙虚にならないと。

 美優という絶対的な天使が恋人だからって慢心はダメだ。

 

 にしても、田中さんって来年大学生なんだよな。

 高校一年生の彼方ちゃんと付き合っても不都合の方が多い気がするけど。

 

 なんて不埒な思考を巡らせていると、田中さんが早くも彼方ちゃんと夜空ちゃんにチャットを飛ばした。

 女の子が二人組で話し込んでいるところに割って入るのはかなり困難だが、ゲームで繋がっていれば話は別だ。

 これは上手い機転の利かせ方だな。

 

「どうも、お二人とも。向こうは向こうで盛り上がってるから、こっちで改めて自己紹介でもしてようか。店に入る前は名前しか言わなかったしね」

 

 二人ずつL字に席に座って、俺たちはゲーム画面を見せ合いながらお喋りをした。

 夜空ちゃんはPCゲームがメインなのでアプリの進みは遅いが、マルチで一緒にゲームができるだけでもかなり気楽になる。

 おかげで手持ち無沙汰にならないから会話が途切れても気まずくない。

 

 俺はできるだけ夜空ちゃん側と話すようにして、それとなく彼方ちゃんとの会話の優先権を田中さんに渡すようにした。

 途中で四人の間で席替えをして、俺は何の気なしに夜空ちゃんの隣に座って、それぐらいしかアシストはできなかったが、初対面の女の子と緊張せずに話せるようになった自分には、少し自信がついた。

 

 そうやってしばらく話していると、室内に軽快なイントロが流れ始めた。

 

「はーい! せっかくのカラオケだし、みんな歌っちゃいなよー!」

 

 ノリノリのハルマキさんがマイクを持って立ち上がる。

 カラオケなんて始まったらこちらも会話を中断せざるを得ないわけだが、どうやらそれが狙いのようでもあった。

 

 数曲をみんなで回して、知ってるアニメやゲームなどの知識を共有しつつ、ドリンクを取りにいくついでに席替えが行われる。

 

 黒澤さんたちはもっとハルマキさんと話していたかったようだが、コーラを飲みながらぼーっとしている俺の隣に座ってきたのがそのハルマキさんだったわけである。

 

「ソトミチくんって本当に、どうてい?」

 

 開口一番がそれだった。

 

「そんなに気になります?」

「んーん。別に。今ではイケメンの童貞も珍しくはないし。ただのコミュニケーションとしての質問」

 

 ここまで大っぴらにシモネタを言える女の子は珍しいな。

 男としては話しやすくて助かる。

 

「まあ、その。言いにくいんですけど」

 

 どうしても隠していたいような事情ではない。

 鈴原に伝わってしまったときはそれまでだ。

 

「そういうことにしておいてください」

「あーやっぱり。なんか違うなって思った。……実は、もう何人か経験しちゃってるんじゃないの?」

 

 ハルマキさんは顎に指を当てて、横目を細めながら俺を睨んできた。

 

 俺の周りに勘の鋭い女が多すぎる。

 

「ほどほどです」

「まあ、なんてヤツだ。とんでもない狼が紛れ込んでたものだね」

 

 ハルマキさんは声色を変えてわざとらしく怒る。

 

 なるほどこうやって絆されていくわけか。

 なんというか、普通にいい人なんだなって思う。

 話していて楽しい。

 

 毛束の量を揃えて編み込んだ髪や、小柄な体格と可愛い服が好きなところは美優っぽく、仕草や口調はどこか山本さん的。

 俺にはそうした部分に慣れを感じるから、余計に話しやすいんだろうな。

 

「でも、これ秘密なんだよね。二人で内緒にしとこっか」

 

 ハルマキさんは口に指でばってんを作って、こっそりと俺にウインクをする。

 この手練感、さすがとしか言いようがない。

 

「ありがとう。助かるよ」

 

 ちょっと仲良くなった気がして、そこからは敬語は取っ払ってお喋りをした。

 

 それから、またカラオケが始まったり、夜空ちゃんが持ってきたノートパソコンでお絵かき大会をやったりと、諍いもなく仲を深めていった。

 途中で数人が外に出てしばらく戻らなかったりもしたが、トイレが一人用しかないこともあって、タイミング悪く時間がかかっていたんだろう程度にしか思っていなかった。

 

 俺たちが貸し切りにしているようなパーティールームは各階に一つずつあり、今回は三階の部屋を利用している。

 ドリンクバーは一階と三階に設置されていて、取りに行くのにさほど時間はかからない。

 男子トイレが偶数階にしかないのが面倒だ。

 なんとなく部屋は下から埋められる気がするので俺は上の階のトイレを利用している。

 

「夕飯までに腹減らしておくぞお前ら!」

 

 黒澤さんの号令で再びカラオケ大会が始まり、しばらく収まりそうもなかったので俺はドリンクを取りに室外に出ることにした。

 部屋には冷房を効かせているが、女の子に配慮して高めの設定にしてあるので歌で盛り上がると蒸し暑くなるのだ。

 ガタイのいい黒澤さんに隣を長時間確保されているハルマキさんは、服が厚めなこともあって特にツラいだろうな。

 

 俺は田中さんと高1ペアと話すことが多かったため、黒澤さん側がどんな進展をしているのかは把握していない。

 ただ、ももちゃんも鈴原も、黒澤さんの勢いには逆らえないようで、上手く黒澤さんを扱えてはいなさそうだというのが正直な印象だ。

 幹事組と誘われた組でグループはほとんど固定化されてしまっている。

 

 俺が女の子目当てではないからこそできる、あえての「俺もハルマキさんと話したい」アピールをして、何度か席を混ぜようと試みはしたものの。

 やはりというか、黒澤さんとももちゃんがハルマキさん周辺にガッツリ絡んでくるので、十分もしないうちに元のグループに落ち着いてしまった。

 

「はあ……暑い……」

 

 俺はドリンクバーに立って喉を潤していた。

 

 廊下の方が湿度が低いので快適だ。

 汗もかいてしまったし、ワックスを付けた髪もへたってきた。

 彼女作りが目的ではないとはいえ見た目は整えておきたい。

 

「あ、ソトミチくん。やっぱりここにいた」

 

 ぼんやり立ち尽くしているところにやってきたのがハルマキさん。

 俺とは違ってガッチリ固めたヘアアレンジもおさげの色艶も変わらずキレイのままだ。

 女の子ってほとんど汗をかかない印象だけど、どういう構造になっているんだろうか。

 化粧で抑え込めるものなのかな。

 

「部屋が暑くてな」

「あははー。私もー」

 

 ハルマキさんはコップにドリンクを注ぎ直して、両手で丁寧に持つと上目を煽ぎながら小動物のように口を付けた。

 

 このわざとらしい感じ、悔しいことに好きなんだよな。

 オタクの性さがというやつだろうか。

 

「黒澤くんもさ、悪い人じゃないんだけね。あんまりこういうこと言うのは好きじゃないんだけど、もうちょっと距離を空けてほしいかなーって思っちゃうよね」

 

 困り顔で俺の横に立つハルマキさん。

 少し動けば肩が触れ合いそうな距離である。

 この人もこの人でかなりパーソナルスペースに踏み込むタイプみたいだからな。

 相性の良さが裏目に出た感じだろうか。

 

「俺もそれとなくメンバーを混ぜようとはしてるけど。慣れないことだし上手くいかないな」

「そうだよね! ソトミチくんすごく気を遣ってくれてるのほんとに嬉しい! オフ会は初めてなんでしょー? そうやって動いてくれるだけでも助かるよー」

 

 ハルマキさんは腕をグイグイと押し付けてきて、否応なく褒めちぎってくる。

 ただ、それは山本さんの褒めとは方向性が違っていて、ハルマキさんのは褒められると異性として意識してしまうようなくすぐったさがあった。

 

「田中さんは彼方ちゃんと話したがってるし、無理に混ぜないほうがいいのかもしれないけどな」

「あの二人、いい感じだよね。ソトミチくんの方はどう? ヤれそう?」

 

 ド直球の質問に俺は思わず吹き出しそうになる。

 

「ハルマキさんってそういうとこ遠慮なくぶっこんでくるよね」

「オフ会には何回か参加してるからね。現実を知ってるだけ。男女混合のオフ会で下心のない人なんて既婚者ぐらいだよ」

 

 浮気目的の人もいないわけじゃないけど、茶化すように言葉を添えるハルマキさん。

 俺もどちらかといえばその既婚者側の立場にいるわけだが、浮気をしようだなんて露ほども思わない。

 他人の恋愛事情を聞くのが苦ではなくなったから観察してるのは楽しいけど。

 

「俺はするつもりはないから」

「ふーん。そうなんだ」

 

 ハルマキさんは俺の返答を聞いて、しばらく俺を見つめたまま固まった。

 

 なんだろう、この間は。

 

「ハルマキさんのキャラってイベントごとに最強装備になってるよね。マジョマル以外も。羽振りのいいバイトでもしてるの?」

 

 俺が別の話題を切り出すと、ハルマキさんはなぜか瞠目して、慌ててそれを隠すように体裁を取り繕った。

 

「高校時代からバイトの鬼だったからね。青春のすべてをオタク活動とバイトに捧げちゃったくらいで」

 

 「捧げてないものもあるけどねー」なんて、ハルマキさんはまた下ネタを暗喩するようなことを言う。

 まあそれだけの額をつぎ込むには男なんかにかまけていられなかっただろうからな。

 可愛いし、捧げる相手なんて簡単に見つかりそうだけど。

 

「次のイベントのキャラは絵がいいよね。先行ストーリーも評価が高かったし」

「そう! そうなの! もう好みドンピシャな感じで! いつもは澄まし顔の一匹狼なのに、ママ属性のキャラにいいようにされてるときはなんだかんだで無抵抗になるあの隠れ甘え萌えなところがもうトキメキ過ぎて心臓が溶け始めてるんだけど!!」

「お、おう。そうだな」

「だから絶対にパーフェクト状態にしたいんだよね……5枚重ねるのは当然として、専用装備も覚醒させたいんだけどもうアイテム枯渇しちゃってるからその分を補充するために素材ガチャとスタミナ回復の課金石も確保しなきゃだし……!!」

 

 こののめり込みようはもはや病気だな。

 俺の周りでは珍しいことでもないけど、廃人の価値観に追いつくのは難しそうだ。

 

「でもねーもうさすがに資金が底をついちゃってさー。私、大学も奨学金で通ってるし、将来のことを考えると高校時代に貯めたお金はもう1円も使えなくて……」

 

 それは課金をやめればいいだけなのでは、と言いたくなる気持ちを堪えて聞き役に徹する。

 廃人から課金を取り上げるのは断食を強制するのと同義なのだ。

 いつか死んでしまう。

 

「だからさ、私、いっそのこと風俗とかで働いちゃおうかなって思うんだー」

 

 ここにきてまさかのカミングアウトだった。

 恵まれた体を活かしてお金を稼ぐのは結構なことだが、諸手を振って応援することはできない。

 美優のパトロンは同級生の女の子一人だから──それもどうかとは思うけど──病気や事件の危険性が低いのでまだ了承できた。

 それに、美優が遥としてるのは、ロリータ服を着ての撮影会がメインだから、美優自身もそれを楽しんでいるし、表面上は健全な関係だ。

 でも知らない男の裸を相手に稼ぐのは並大抵の覚悟ではできないし、辛いことも多いだろう。

 

「そんなに金回りがいいの?」

「知り合いに月収40万も稼いでる子がいるよ。それを聞いたら、毎日肉体労働して10万ちょっとしか貰えない仕事とか、馬鹿らしくなっちゃって」

 

 差し出しているものがものだけに、相応の対価にはなるんだな。

 お客と風俗嬢と、失うものが等価なのかはわからないが。

 

「俺はハルマキさんとそこまで長い付き合いじゃないからどうこう言えないけど。無理はしないようにな」

 

 俺がそう答えると、ハルマキさんはまた驚いたような顔をして、一瞬だけ声を詰まらせた。

 

「と、止めないの?」

「うん? ああ……わ、悪い」

 

 そういう主旨の話だったか。

 引き止めてほしい女の子の心情とか、俺にはまだわからないんだよな。

 人がどう稼ごうが自由だし、身内ならまだしも俺が口出しをするようなことじゃないとは思ったんだが。

 

「ごめんな、色々と疎くて。童貞じゃないって話はしたけど、女性経験が少ないのは事実なんだよ」

 

 経験人数は少なくない。

 だが、女の子とまともに触れ合ったのは三ヶ月前が初めてだ。

 

 俺が自分の不甲斐なさについて謝罪していると、ハルマキさんは急に笑いだした。

 

「優しいんだね、ソトミチくんは」

「えっ、そうか?」

「だって他の人なら、そんなの良くない! って怒ることしかしないもん。きちんと私のことを考えて話をしてくれたのは、ソトミチくんが初めてだよ」

 

 そういうものなのか。

 俺の場合は優しいというより無関心だっただけなんだが。

 

 女の子には執着しない方が印象が良いのかな。

 山本さんと話をするようになったときの俺も、美優のことで頭が一杯で、自分の好みで山本さんを評価しようとは考えなかった。

 結果的には、そのおかげで山本さんから話しかけてくれるようになったわけだし。

 

「あ、そうだ。連絡先を交換しておこうよ」

「連絡先? 別に構わないけど、後で鈴原とかが全員分を交換するだろ?」

「そうなんだけどさ。一度にごちゃっと交換すると、誰が誰だかわからなくなっちゃうし。それに、こうしてこっそり交換してたほうが、特別感があっていいでしょ?」

 

 俺が非童貞である秘密を知っているという、ただそんな秘密を共有しているだけで、いつの間にかハルマキさんとの距離が縮まっていたようだ。

 俺は何をしたわけでもないんだけど、どうしてこうも女の子が寄り付いてくれるんだろう。

 

「えへへー。ソトミチくんの連絡先ゲットー」

 

 小躍りしながら俺のメッセージIDを登録するハルマキさん。

 こういう明るい人が増えれば世の中平和になるんだけどな。

 

 と、思っていたところに。

 

 まさかの、もう何度目かになる、ため息をつきたくなるような巡り合わせがあった。

 

「何やってんのあんた」

 

 聞き飽きた気怠げな声に、見飽きたツインテール。

 

「お前……どこにでもいるな……」

 

 由佳様のご登場である。

 これはもう普段から盗聴されてる可能性すら考えたほうがいいな。

 

「なんでもかんでも私のせいにするのやめてもらえる? ここを選んだのは美優なんだから私のせいじゃないわよ」

 

 というまさかの一言が返ってきた。

 これは意図的なのか偶然なのか。

 後で美優に確認しといたほうがいいな。

 

「えーっと……ソトミチくんのお知り合い?」

 

 突然の闖入者に控えていたハルマキさんが、俺と由佳を交互に見やって尋ねてくる。

 

「妹の友達なんだ。よく家に遊びに来るんだよ」

「親友よ親友! で、この女は誰? 山本とかいうのがこれなの?」

 

 由佳は不自然なくらいの敵意をハルマキさんに向けて睨みつけた。

 山本さんは俺の浮気相手になったかもしれない人だし、由佳としては要注意人物なんだろう。

 

「山本さんはまた別の人で……この人は、ハルマキさん。本名じゃないけどな。今はオフ会をやってて、今日知り合った人なんだ」

 

 互いの紹介が終わったが、挨拶をしようとはしない。

 ハルマキさんも由佳に対してはあまり良い印象を抱いていないようだった。

 由佳がこの態度だし、仕方ないけど。

 

「ほーん。それでこんなところでイチャついて、あんたはデレデレしてたんだ。まだセフレを増やしたいわけ?」

「違うから。あと頼むからここでその手の話はやめてくれ」

 

 ただでさえハルマキさんには経験人数の多さを疑われているのに、余計に話がややこしくなる。

 

「由佳ちゃんって言ったっけ? 何か気に触ったのなら謝るけど。私はソトミチくんと仲良くしたかっただけで、悪いことするつもりはないよ?」

「ふん。どうだか。この男がどんくさいからって、色気で金を騙し取ろうとしてるんじゃないの」

「っぐ……ちょ、ちょっと? 初対面で歳上の私に失礼すぎない?」

 

 これにはハルマキさんも怒りモード。

 普段から攻撃的なやつではあるが、ここまで礼儀のなってないやつじゃないと思ってたんだが。

 

「さすがに言い過ぎだぞ。他の女の子と仲良くしてるのがマズいなら俺に怒るべきだろ。ハルマキさんは俺に相談をしてくれてただけだ」

「あっそ。ならいいけど。何があってもその女だけは絶対にやめときなさいよ。たとえ美優が許しても私は許さないから」

 

 由佳は最後にハルマキさんを睨みつけて、ドリンクも注がずに踵を返した。

 

「ふん。こんなのと話したせいでせっかくのツキが落ちそうだわ」

 

 意味深な捨て台詞を吐いて去っていく由佳。

 ハルマキさんと二人で取り残されて、非常に気まずい空気になる。

 

「ご、ごめんな! あいつ、そんなに悪いやつじゃないんだけど。どうにも今日は虫の居所が悪かったみたいで……」

「ううん。いいの。あの子、ソトミチくんのこと好きなんでしょ?」

「えっ」

「気持ちはわかるから、私も怒ってるわけじゃないんだ。でも」

 

 ハルマキさんは周囲にオフ会メンバーがいないことを確認してから、俺の腕に抱きついてきた。

 

「何も思わないわけにはいかないな。嫉妬されるなら、それはそれでもっとソトミチくんと仲良くなりたいかも」

 

 また面倒なことに巻き込まれた。

 なんだって俺の周りには対抗意識が強い女の子が多いんだ。

 

「そろそろ戻らないと怪しまれるから、私は行くけど」

 

 ハルマキさんはスキップで俺から離れて振り返った。

 

「もし良かったら、今夜はお相手してね」

 

 否定のしようがないくらいストレートなお誘いだった。

 どうしてこうなるのか。

 

 それからまたしばらくは部屋でゲームをやりながら談笑が続いたが、露骨にハルマキさんが俺に視線を向けてくるようになって気が気じゃなかった。

 

 これはもう恋人がいることを素直に告げるしかないなと、ひとまずは気持ちに整理をつけるためにトイレへ行くことにしたのだが。

 

「お、ソトミチ。どうだよ、夜空ちゃんとは順調か?」

 

 四階のトイレで入れ違いに遭遇したのが鈴原だった。

 やたらと上機嫌だが、ハルマキさんとお喋りができるのがそんなに楽しいのだろうか。

 

「なんで俺が?」

「だって、ももちゃんは彼氏がいるし、彼方ちゃんは田中さんが狙ってるんだろ? お前も夜空ちゃんとずいぶん話し込んでるし、かなりいいとこまで行ってるんじゃないか?」

「仲良くなるって目的なら達成してるよ。ファミレスでも言ったけど、その先は考えてないから」

「そっかぁ。まだ脱童貞までは踏み切れないか。正直なところ、無理にでも体験させたいくらいなんだが、俺は手を出さないって言っちまったからな」

 

 鈴原はいつにも増して余裕そうだった。

 もし俺が本気で夜空ちゃんを狙っていたら、参加者のうち女子三人がすでにマークされていることになるんだが。

 

「お前、もしかしてももちゃんとするのか?」

「あ? んなわけねーだろ。いくら向こうがその気でも彼氏持ちとはヤらないって」

 

 否定はされたが、この質問は鈴原の自己顕示欲を刺激するのには十分だったようだ。

 

「ソトミチだから言うけどな。……実は、ハルマキちゃんとかなりいい感じなんだ」

 

 鈴原は鼻の穴を広げながら得意げに語る。

 

 これはまた雲行きが怪しくなってきたな。

 

「黒澤さんには絶対に言うなよ!? あの人はガチにハルマキちゃんを狙ってるからな。でも、ガッツキ過ぎてむしろマイナス印象みたいで、それで俺にお鉢が回ってきてるっていうか。部屋の外で何度か相談されてるうちに、お互いの相性の良さに気づいちゃった感じでさ」

 

 セクハラの酷い黒澤さんから離れたいと、ハルマキさんにお願いされたのがきっかけだったらしい。

 それから、俺たちの目のつかないところで二人で話し込んで、連絡先も交換して、カラオケ部屋でもこっそりとメッセージのやり取りをしていたようだ。

 

「ハルマキちゃん、お金のことでだいぶ困ってるみたいでな。それで、風俗なんかで働き出すとか言うから、そんなことするぐらいなら俺がいくらか出すって言ったら、それもいいかもねって話になって。めっちゃ感謝されちまってさ。二人きりでお喋りするときなんかも、かなり盛り上がるんだよ!」

 

 それはハルマキさんが俺にしてきたのとほとんど同じような話だった。

 だが、対応は違った。

 

 俺はただの相談役に徹して、その結果として好意を抱かれた。

 鈴原はパトロンの代役を買って出て、その結果に親しい関係を手に入れた。

 

 共通しているのは、どちらも連絡先を交換したことと、夜の関係をほのめかされたこと。

 

 目的は金か。

 あるいは別にあるのか。

 

「端的に忠告しておくぞ。俺も同じことを言われて連絡先を交換した。だから、特別な関係だと思うのは早計だ」

「は!? お前が、なんで!? 彼女とか作らないって言っただろ?」

「だから、その目的で話してない俺にも、ハルマキさんは同じ相談をしてきたんだよ。時系列がわからないから、確実にハルマキさんが悪いとは断定できないけど。変な誘いにだけは乗るなよ」

「そうか……なんでハルマキちゃん……そんなこと……」

 

 鈴原はどうにか状況を飲み込んでくれたようだった。

 陰口を叩いているようで申し訳ないけど、友達として伝えないわけにはいかないからな。

 

「あ、そっか! そういうことか……! わかった、ソトミチ。忠告感謝するよ」

「おうよ」

 

 鈴原はどうやら何かに気づいたらしい。

 俺とは違って幹事内だけで共有されてる情報もあるだろうからな。

 俺はどっちにしてもハルマキさんと寝るつもりとかはないし、適度に距離を取って仲良くしていればそれでいいだろう。

 

「あ……あ、あんた。また居たわね」

 

 鈴原と別れてからすぐ、やってきたのは由佳だった。

 

 四階には女子トイレもドリンクバーもないし、美優たちの部屋はどうやらここにあるようだな。

 

「どうした? 腹なんか押さえて。痛いのか?」

 

 由佳は二人分のコップを両手に持ちながら、うずくまるようにして歩いていた。

 体を支えてやろうと近くに寄ると、聞こえてくる、微弱なモーター音。

 

 こいつまたローターを仕込まれてるな。

 

「お前なぁ……」

「仕方ないでしょうが……! あ、あと少しで美優のやつをひん剥けるとこだったのよ……最後の最後で……しくじらなきゃ……!」

 

 さっきはツキがどうこう言ってたし、賭け事でもして遊んでいるんだろう。

 この由佳の状態を見る限りでは健全な遊びには思えないが。

 

「そ、それより、いいところで会ったわ。悪いけどコーラとアイスティーを注いできて。左右を間違えるんじゃないわよ」

「それが人にものを頼む態度か?」

「い、い、か、ら! やりなさいよ……こっちは……はうっ……! ドリンクを持ってくまで部屋に入れてもらえないんだから……!」

「はあ……はいはい。わかったよ」

 

 俺は由佳にコップを押し付けられて、渋々と階段を降りていく。

 ヤリサーの罰ゲームでもここまではやるまい。

 女子中学生ならもっと微笑ましい遊びをしてもらいたいものだが。

 

「右がコーラで左がアイスティーだったか」

 

 ポチポチとボタンを押して、七分目ほど注いでからコップを下ろす。

 

「ソトミチくんったら、まだ外にいた。みんな心配してたよ? 腹でも壊したのかって」

 

 そこにやってきたハルマキさん。

 俺なんかよりハルマキさんのほうがずっと部屋にいない時間が長いんだが。

 

「人が多いところが得意じゃないんだよ。そういう苦手を克服するために鈴原が強引に誘ってくれたんだけど」

 

 俺は人見知りもしなくなったし、女の子と話せるようにもなった。

 だが、だからといって疲れないわけではない。

 世の中には人と会うことでエネルギーを溜められるタイプと、人と話すためのエネルギーを一人のときに溜めるタイプとがいるらしいが、俺は間違いなく後者だ。

 

「ふーん。なら、私と同じだ」

 

 ハルマキさんは、一歩一歩を踏みしめながら近づいてきて、また肌が触れ合うぐらい近くに並んだ。

 

 例の話を聞いてから、ハルマキさんが妙に色っぽく感じる。

 これはもうわざと作っているとしか思えない。

 山本さんの誘いを断った俺にはさしたる苦難ではないが。

 

「私も大勢といるのが苦手なんだ。だから、二人きりの空間のが、好き。こうして話してるときはね、みんなと居るときよりはだいぶ心が開けてるんだよ?」

 

 誘惑する気まんまんの声音だが、褒められること自体は悪い気分じゃなかった。

 かなり男の扱いに慣れている。

 ゲームとバイトで青春を消化したなんて言っていたけど、下手したら今まで会った誰よりも経験豊富な可能性すらある。

 

「ありがとう。なら、俺ももう少し心を開いて話してもいいかな」

「うん! なになに? どんなお話を聞かせてもらえるのかな?」

 

 ハルマキさんはお姫様然とした首の傾げ方で待ちの姿勢になる。

 罪悪感で胸が苦しいが、ここは毅然とした態度を取らなければならない。

 

「本当は恋人がいるんだ。だから、仲良くはしたいけど、スキンシップとかはできない。後にも先にもその人しかいないって本気で思ってるから、こういうところでも誠実でいたくて」

 

 もうこの情報がオフ会のメンバーに伝わってしまってもいい。

 鈴原に知られても、今のあいつなら悪口を触れて回ることはないはずだ。

 

 俺が真実を告げると、ハルマキさんはわざとらしくしょんぼりして、スッと真顔に戻った。

 

「もしかして、さっきの由佳ちゃん?」

「違う。断じて違う」

「えー……そっか」

 

 ハルマキさんは何を思ったのか、今日は一度も見せなかった不満顔をして、それから、ためらいがちにそれを口にした。

 

「じゃあ今夜セックスしよって言っても断る?」

「あのなぁ……」

 

 中学生組ならまだわかる。

 美優の影響かなにかで、そういう文化が出来上がってしまっているから、ついそういう言葉が出てしまうのも納得はできる。

 

 でも、ハルマキさんは何がどうして俺とセックスがしたいんだ。

 山本さんには由々しき悩みがあって、それがたまたま俺の体質とベストマッチだったから、偶然の偶然で関係を持てたわけだけど。

 今日会ったばかりの人間に体を許すことなんて、ましてやハルマキさんのような可愛い女の子がホイホイ男とヤリまくるなんて、そんなことはあってはならない。

 可愛い女の子はもっと価値のある存在でなければならないんだ。

 

 俺は金持ちでもイケメンでもない。

 スポーツも勉強も特別できるわけでもない。

 そんな俺とセックスする理由がどこにある。

 

 そして、なにより、肝心なのは。

 

 俺は世界で一番好きな恋人である美優と、そのセックスに至れていないんだ。

 

 その前にこれ以上セックスの経験人数を増やしてたまるか。

 もちろん後にも増えることはないけど。

 

「ならはっきりと言おう。俺はセックスさせてもらっても1円も出さないし、なんならホテル代だって払わない」

「だよね」

「もちろんだとも」

 

 次第にガチトーンに近づいていくハルマキさん。

 

「それでもいいって言ったら?」

「理由を聞こうか」

「私も不思議なんだけど単純な興味で誘ってる」

「ますます意味がわからん……」

 

 お互いにぶっちゃけモードになって、おそらくはハルマキさんの言っていることも本心なんだろうが、だとしたら本当に理由がわからない。

 

 金や能力とは関係なく、俺に男としての魅力があるのか?

 いくら美優や山本さんに褒められるようになって成長してきたとはいえ、そこまでの男になった覚えはない。

 

 俺が関わる女の子が奔放に性欲をぶつけてくるなんてな。

 美優が告白されまくってきた人生もこんな感覚だったんだろうか。

 まるで俺の存在が美優に近づいているみたいだ。

 最近は頭も良く働くし、俺と美優の遺伝子が似ているっていうのは、もしかしたらこういうことなのかもしれない。

 

「ちょっ……ちょーっと!! あ、あんた!! 何してんのよ……!!」

 

 階段から俺に向かって大声が飛んできた。

 

 しまった。

 由佳のことを完全に忘れていた。

 

「またあの子だ」

「わ、悪い、ハルマキさん! 先に戻ってて! 用が済んだら俺も戻るから!」

「へっ? あ、ソトミチ……くん……?」

 

 俺はハルマキさんとの会話を中断して階段を登った。

 

 踊り場まで降りていた由佳は、内股にさせた足をガクガクさせてかろうじて立っていた。

 

「はぁ……うっ……あ、あんたが、ちんたらしてるから……あぁうぅ……! 振動、最大にされひゃったじゃ、ないの……うううぐっ……!」

「ごめんって。ドアの前まで付き合うから、どうにか歩いてくれ」

「むりぃ……むり……! もう、階段を上がるのとかむりぃ……ああぁ……あぅ……はぁ……はぁ……」

 

 こんな公の場で喘がれて、人に見つかりでもしたら俺の立場がヤバい。

 

「じゃあ、もうその入ってるの抜くぞ」

「ダメダメ!! 絶対にそれだけはダメ!! そんなことしたら……あっ……ぐぅ……もっとひどい目にあわされるわ……!」

 

 くそう。

 なんて不健全な女子中学生たちだ。

 こんな罰ゲームが罷り通っている学校なんてエロゲの世界でもそう見ないぞ。

 

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。人が来たらどうするんだ」

「元はといえば……あんたが女とのお喋りに油を売ってたのが悪いんでしょうが……!」

 

 それを言われてしまうと否定ができない。

 たしかに悪かったとは思っているが。

 

「うぐっ……わ、わかったわよ……歩けばいいんでしょ……! はぁぅぅ……き、気合よ……きあいぃ……こんなことで負けてられないんだからぁ……!」

 

 どうにも力の入れどころがおかしい気がするこの痴女は、消防士が訓練するより必死に手すりにしがみつき、どうにか階段をよじ登った。

 そこからも気合で歩き続けた由佳だったが、男子トイレの前まで差し掛かったところで膝をついてしまった。

 

「ぅぅ……あぁぁはぁ……や……ばい……どうしよ……」

「ど、どうしたんだ?」

「あっ……ふぅ……うっ……へ、でひゃぅ……!」

「で、出る!? 出るって、何が!?」

 

 もうこれ以上は見守っていられないと判断した俺は、コップを置いて由佳の膣内に入っているローターを抜きにかかった。

 

 その体は明らかにイッていることがわかるぐらいに痙攣していた。

 しかも、由佳のスカートの中に入っていたのはローターなんて可愛らしいものではなく、クリトリスと膣内を同時に刺激するタイプの電動ディルドだった。

 

「あっ……もう……らめ……」

 

 由佳の膝を伝う程度だった愛液が、まるでおしっこを漏らしたようにその勢いを増している。

 出そうって言ってたのは、つまり、潮を吹きそうという意味だったらしい。

 

「ま、まて! ここで出すな!」

「むぅぅ……むりぃ……あぁっ…‥」

 

 こんなところで潮吹きされたら、人が来るまでに後処理するのなんて不可能だ。

 しかも、この様子だともう膣内は愛液で溢れてしまっている。

 

 どうしたものかと周囲を見渡して、せめて美優らしき影でも見えたらその部屋に放り込んだのだが、もう迷っている時間すらなく。

 

 俺はすぐ横にあった男子トイレに由佳を引っ張り込んで、前向きのまま便器に跨がらせた。

 

「あ……あアアッ……! あんんっ……アッ……!!」

 

 由佳の体が大きく跳ね、大量の愛液がパンツから漏れて便器の中ヘと注がれていった。

 その勢いは放尿と変わらないぐらいに激しく、このままだと延々と由佳がイキ続けてどうにもならなそうだったので、俺は無断で由佳のパンツとディルドを取り去った。

 

 バイブレーションの刺激が無くなっても、しばらく由佳は絶頂と潮吹きを続けて、やがて落ち着いた個室の中には、白目を剥いた半裸の女の子と男の二人きりという、非常に危険な構図ができあがっていた。

 

「はあ……」

 

 またしても面倒なことに巻き込まれてしまった俺は、諦めの境地の中、すぐ近くにいるはずの美優へと電話をかけたのだった。

 



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オフ会の延長戦

 

 俺はカラオケの個室トイレで、電動ディルドによるお仕置きによって潮を吹いた由佳と二人きりになってしまった。

 二人で入ると立つことすらままならないこの狭い空間で、由佳は洋式のトイレに逆向きに跨って息を荒らげている。

 

 こんなに酷い絵面だというのに、もう見慣れてしまって何も感じなくなった。

 自分のことながら嘆息してしまう。

 美優たちはずっと前からこうなってたんだろうな。

 

 俺にはこの意味不明な状況を自力で打破できる自信がなく、美優が由佳と一緒にカラオケに来ているらしいので助けてもらうことにした。

 

 ズボンのポケットからスマホを取り出して美優に通話をかけると、ワンコールで応答があった。

 

「──美優、質問があるんだが」

『うん。由佳のことだよね』

 

 さすがに察しの良い妹だ。

 あるいはこれも予定調和だったのか。

 

「罰ゲームのせいで由佳が潮を吹いて四階のトイレでダウンした。部屋まで運ぶから番号を教えてくれるか?」

 

 美優たちはトイレと同じフロアにいるはずだから、女の子一人を運び込むくらいはなんとかなるだろう。

 しかし、俺が質問をしても、美優はすぐに答えを返さなかった。

 

『もしかして、バイブ抜いたの?』

 

 美優は少しの間考えこんで、なぜかそんな質問を重ねてくる。

 

「それはまあ、抜いたけど。さすがに辛そうだったし」

 

 遊びで負けた罰ゲームだし、いくら美優でもそこまで徹底的にはやらないだろうと。

 そう思っていたのだが、この判断が誤りだった。

 

『ダメだよお兄ちゃん。罰は受けてもらわないと』

「ゲームで負けただけなんだろ? そこまでやるほどか?」

 

 由佳の場合は普段からお仕置きをされているから、生ぬるいと効果がないのは理解できる。

 それでも、やはりゲームはゲームだ。

 

『その女、自分が提案したゲームで自分で罰ゲームを決めて、散々私たちのことを煽ってきた挙げ句にボロ負けして飲食代も部屋代も払わずに出ていこうとしたんだけど』

 

 想像以上にどうしようもないやつだった。

 まったく同情する気にならない。

 

「うぅ……そ、それは……美優のやつがおっぱいでイカサマするから……」

 

 どうやら通話の内容は由佳にも届いていたらしく、意識を取り戻した由佳が鼻水をすすりながらぐずりだした。

 

『してないから』

 

 おっぱいでイカサマなんてどんなゲームならできるのやら。

 どんな責任も人になすりつけようとするその心意気は買うが。

 しかし、なんというかこの状況には違和感があるな。

 

「由佳はもうイタズラとかはしないって反省したんじゃなかったのか?」

 

 前にネカフェで相談に乗ってもらったときには、由佳には明らかな変化があった。

 それはどう考えても前向きなもので、俺は親心にも近い喜びを感じたほどだったのに。

 

「う……うるさい……」

 

 俺の問いに、由佳はいつものような生意気な反論はせず、虚しい口答えをするに終わった。

 

『というわけで、お兄ちゃんには罰を妨害したお詫びに代理執行人になってもらうね』

 

 電話口から聞こえてくる物騒な言葉。

 まさかとは思うが、こんなところで由佳をレイプしろなんて言うつもりじゃないだろうな。

 

『ディルドにゴムが被せてあるでしょ? それを使って、由佳が何と言おうと由佳の膣内で出して』

 

 まさかの予想通りの命令が下ってしまった。

 ほんとそういうところに躊躇がなさすぎる。

 

「そ、そんな……! もう無理やりしないって、お兄さんに約束してもらってるのに……!」

 

 それはネカフェでの相談の最後に交わされたもの。

 由佳とセックスをするつもりなんてなかったが、あのときの由佳になら俺は本気で優しくしてやりたいと思った。

 それに、山本さんをフッた後に慰めてもらった礼もある。

 

 だから、いくら美優の命令でも、断るべきだと。

 思考の表面上ではそう思うのに。

 

「由佳はどうしてそう悪いことばかりするんだ?」

 

 罰ゲームで女の子を犯すなんて倫理に反している。

 だが、俺を含めた美優たち中学生の間では、それがお仕置きとしてすでに成立してしまっているのも事実だ。

 

 その原因は俺でもわかる。

 

 由佳は口では拒否しつつも、そのお仕置きを受け入れてしまっているんだ。

 それどころか、周囲が由佳にお仕置きをするように、自ら誘導している節すらある。

 

 本気で嫌ならこんな程度の抵抗で済ませるはずがない。

 なにより、あとほんの少し大人しくしてさえいれば、美優たちだってここまでのことをしないのは由佳だってわかっているはずなんだ。

 

「か、勘違いなんだって。私は流れが悪かったから外の空気を吸いに行ってただけで……」

『それで荷物からなにまで持ち出すのはどうなの?』

「それは、セキュリティ上の問題よ」

 

 口ではこう言っているが、由佳が自らの非を認めているのは明白だった。

 態度がまるで自分の正当性を信じてもらおうとするものではない。

 

『お兄ちゃん』

 

 美優が小声で俺に話しかけてきた。

 由佳には聞かれたくない話ということか。

 

『前に私がお風呂でした話を覚えてる? 由佳と奏さんとの関係をすっきりさせたいって。それでお兄ちゃんにお願いしたいことがあるって相談したよね』

 

 俺が酷い振り方をしてしまった山本さんを救うため。

 そして、美優の何らかの失態によって拗れてしまった由佳との関係を修復するため。

 俺はその二人とセックスをすることになると美優に言われている。

 

『お兄ちゃんももう気づいてると思うけど、由佳がこんな態度を取るのには理由があるの。その原因である悩みをね、解決してあげてほしいんだ』

 

 由佳がどうしてもイタズラや悪巧みをやめられない理由。

 それはたしかに存在しているのだと美優は言った。

 

 だが、その悩みが何なのかは、美優の口から教えることはできないらしい。

 俺が自分の力で気づいてやることこそが、由佳の悩みの解決する唯一の方法とのことだ。

 だから美優は、お風呂場で詳細を隠したまま俺にお願いだけをした。

 

『任せてもいいかな』

「……わかったよ」

 

 美優の依頼はいつだって唐突だ。

 言動は謎ばかりだし、俺もずっとそれに振り回されてきた。

 

 でも、そこには常に否定のしようがない理が存在した。

 だから、俺は今回も美優を信じる。

 

 美優は最後に『それまでは好きに射精していいよ』と言葉を残し、通話を切った。

 

「何を話してたの?」

 

 俺がスマホを洗面台に置いたことに気づいた由佳が、聞こえずにいた最後のやり取りについて尋ねてきた。

 

「由佳の処遇は俺に任せるって」

「へ? マジ!?」

 

 由佳は嬉しそうに顔を俺に向けた。

 あのニヤニヤした顔は「こいつはチョロいな」と思ってる顔だな。

 

 よし、お仕置きをしてやろう。

 

「言っておくが、美優たちに迷惑を掛けたことを見逃すつもりはないからな」

「たかが二千円程度をチョロまかしたぐらいで何が迷惑だっての。それに見合うだけの罰ならもう受けたでしょ? あれがお兄さん以外に見られてたらどうなってたと思うの?」

「言い分は理解できるけどな……由佳はいい加減に反省というものを覚えろ……」

 

 由佳が正当な主張をしたことなんてほとんどない。

 なのに、つい由佳の意見には同調してしまいそうになる。

 どういう能力なのかは知らないが、滅茶苦茶な主張を強引に納得させるだけの何かが、由佳にはある。

 

 まともに取り合っていると危険だ。

 こちらで主導権を握らないと。

 

「お仕置きをするから、腰を上げろ」

「な、何よその命令のしかたは」

 

 俺は電動ディルドに電源を入れて脅してみるが、由佳は怯えるどころか呆れていた。

 こいつに馬鹿にされるのは悔しい。

 

「そんなやり方で従うわけないでしょ」

「でも従うしかないだろ。いざとなれば俺の方が力が強いし、あんまりやりたくはないけど、裸の写真でも撮って脅すこともできるし……」

「ちがーう! そうじゃないでしょうが!」

 

 由佳は飛び上がるようにクルッと体の向きを変えて便座に正しく座り直し、なぜかムキになって説明を始める。

 

「そんなことを言うくらいならやるの! やってから脅すのよ! 美優ならそうしてる! それどころか全裸にひん剥いた私を便器につま先立ちさせて『落ちずに5回イッたら許してあげる』とか理不尽なことをほざいてこっちが全ての非を認めるまで延々と続けるのよ!」

「我が妹ながら恐ろしすぎる……」

 

 前世はヤクザの親玉か何かだったんだろう。

 俺には到底真似できそうにない。

 

「わかった? お兄さんにはお仕置きとか向いてないの。だから……ね?」

 

 由佳が「わかってるでしょ?」と言わんばかりにパチパチと瞬きをしてくるが、さてはて何をおっしゃっているのかさっぱりだ。

 

「今からラブラブホテルに抜け出して、イチャイチャセックスしよ?」

「何がなんでも断る」

「じゃあネカフェでいいから」

「場所の問題じゃない……!」

 

 ダメだ。

 どうしても流される。

 

 ここで由佳とお仕置きセックスをしないと、美優の目論見通りにはならないのに。

 どうにかしてこちらの主張を押し通すんだ。

 

「大体さ。そんな調子でちゃんと勃つの?」

 

 由佳の先制攻撃はかなり強烈なものだった。

 たしかに、こんな空気で襲いかかったところで、きちんとセックスできる気がしない。

 

「したくないことをすることないじゃん。別にイチャラブする必要はないけどさ、普通にセックスしようよ」

 

 由佳は生意気顔はそのままに、ちょっぴり頬を赤らめて俺のズボンのチャックをなぞる。

 思わず、息子がピクッと反応してしまった。

 

「ね。そのほうがココも喜んでるよ」

 

 由佳は次第に硬くなり始めたペニスの裏筋を、人差し指でゆっくりと前後にさする。

 

「お前な……悪いことをした自覚はあるんだろ……」

「そうだけどさ。そろそろご褒美をくれないと、私も叱られてばっかじゃ反省できないもん」

 

 なんとも身勝手な言い分だが、どうしても同情してしまう。

 このままだと本当に普通のセックスをして終わりになりかねない。

 そうなったら山本さんの誘いを断ったことすら正当化できなくなる。

 

「いいでしょ? 後でごめんなさいってするから……」

 

 由佳は俺のズボンのチャックを下ろし、物欲しそうにしながらパンツの前開きボタンまでを外した。

 

 マズい。

 本当にマズい。

 フェラなんか始められたら絶対に普通のセックスしかできなくなる。

 

 どうにかしないと。

 頭ではそう考えているのに、体の動かし方が全くわからない。

 

「──美優のお兄さん、開けてください」

 

 ドアをノックされて、俺と由佳は凍りついた。

 

 それから、一秒の間を開けて危機的状況を理解した俺は、由佳が押し込んできた勃起ペニスを慌ててズボンに仕舞った。

 皮をチャックに挟まなくてよかった。

 

「あ、あああ、あの、お腹が痛くて……二階にもトイレはあるので……!」

 

 ドアの向こう側に誰がいるのかわからなかった俺は、慌てて言い訳をしたが。

 その直後に、俺は「美優のお兄さん」と呼ばれたことを思い出した。

 

「私ですよ。遥です。開けてもらってもいいですか?」

 

 お次はまさかの遥の来訪だった。

 こんな狭い場所で同窓会でもやるつもりか。

 

 俺がドアを開けると、遥は一礼をしてトイレの中に入ってきた。

 ここ、男子トイレなんですけど、そこは大丈夫なんですか。

 

「お邪魔しますね」

「もー!! いい雰囲気だったのにー!!」

 

 由佳の文句を聞き流して、遥は持ってきたバッグを洗面台の上に置いた。 

 意外にも薄いワンピース一枚という夏らしい格好の遥は、やはりというか妖精のように可愛らしい。

 美優のおかげで以前のように一目惚れをするような情動は無くなったが。

 

「遥はどうしてここに来たんだ?」

「お助けアイテムを持ってきたので、お貸ししようと思って」

「あんたの変態アイテムは絶対につけないッ!」

 

 由佳が八重歯を剥き出しにして遥を威嚇するが、遥はそれを意に介さずにお助けアイテムとやらをバッグから取り出した。

 

 それは綿棒ほどの細さの、長いプラスチック棒だった。

 そして、ついでのように取り出される目隠し布と腕の拘束具。

 

 どうしてそんな物騒なものを持ち歩いているのかな。

 

「そ、それは反則でしょ!? それだけはダメだって!!」

 

 どうやら由佳は長細い棒を見て怯えているようだった。

 これがどんなアイテムなのかは俺にはよくわからない。

 だが、エロいことに使う道具だということはわかる。

 

「ボロ負けだったから詳しく調べてなかったけど、荷物の中にイカサマの痕跡を発見したから追加ペナルティね」

「うぐっ……ほんとネチッこくて嫌味な性格……!」

 

 この状況を平等に判断して、悪役はどちらなのだろうか。

 にしても、イカサマをしたのにボロ負けしたとか、どんだけ不器用なんだこいつは。

 

「とりあえず目隠しして。これを下に咥えておいて。声は出さないでね」

「ちょ、いだっ、こ、こらぁ……!」

 

 遥は問答無用で由佳を後ろ手にして拘束具を嵌めると、また便器に前から跨がらせて目隠しをした。

 そして、お尻を叩いて腰を上げさせ、ゴムを装着したままのディルドを挿入してスイッチを入れる。

 

「お、おっおっおっ……あぁぐぅっ……!」

 

 由佳は後ろ向きで腕を拘束され、背中を仰け反らせる。

 

 洗練された迷いのない動きだ。

 どれほどの経験を積めばこれほどの技術が身につけられるのか。

 

「さて、由佳とセックスをしてもらう前に、私からお話があるので聞いてもらえますか?」

 

 遥は目の前でバイブの刺激に喘ぐ由佳など無いのもののように、至近距離で俺に向き直った。

 右手に持ったままの長細い棒はまだ使わないようだ。

 

「まさか、話をするために由佳をこの状態に……?」

「目的はお手伝いですよ。ただ、ついでにお話したい内容が聞かれたら困るものなので、由佳の注意を逸らしました」

 

 それは別の機会ではダメだったのだろうか。

 助け舟に関してはありがたいけれども。

 

「この状況そのものが重要なんですよ。お兄さんが由佳に絆されるのは想定の範疇なので」

 

 遥は由佳の喘ぎ声とバイブの音にかき消されないくらいの小声で囁きながら、長細い棒でまだ硬さが残ったまま仕舞われている俺のペニスを突いてきた。

 ズボン一枚だけでは残念なくらいにバレバレなテントの張り方だった。

 

「お兄さんはお兄さんらしく、由佳の相手をしてあげてください。今回のお仕置きは、ちょっとしたきっかけ作りですので、どうか気楽に」

「気楽に女の子を犯せるか……」

「形ですよ形。由佳もお兄さんにしてもらえるのがわかってるので、いつもよりもかなり大人しいですよ? よっぽど気に入られてるんですね」

「なんだろう素直に喜べない」

 

 遥はバイブ責めに苦しむ由佳の膝を、プラスチックの棒でツンツンする。

 由佳はビクビクを身を震わせながら腰を振った。

 

「私は由佳への仕込みを終えたら部屋に戻るので、一つだけ忠告をしておきます。由佳と話すときは、過去の言葉だけに振り回されないでください。そのときに感じた印象まで思い出さないと、いずれ簡単に丸め込まれるようになりますよ」

「そ、そうか。気をつけるよ」

 

 遥はその情報を俺に伝えると、由佳の膣からディルドを抜き取って俺に手渡した。

 そして、プラスチック棒の柄の部分で俺のズボンのチャックをノックする。

 どうやらディルドからゴムを外してペニスに装着しろとのことらしい。

 

 遥の前でズボンを脱ぐのはかなりの抵抗があるんだが。

 とりあえず、ゴムだけでも巻き取っておくか。

 

「じゃあ、由佳。するよ」

「や、やだやだ……それはほんとムリ……!」

「はい、ジッとしててねー」

「うっ……ううぅ……ッ!」

 

 遥は長細いプラスチック棒を、由佳の膣内にゆっくりと挿入した。

 その先端が子宮口のあたりまで到達すると、それを数センチ幅で前後させて、性感帯に微弱な刺激を与え続ける。

 

「はぅ……やだぁ……それだけは勘弁してぇ……悪かったからぁ……」

 

 これまでのディルド責めのような激しいプレイから一転して、由佳は静かに腟内をチクチクされているだけ。

 いくら潮吹きの後とはいえ、触覚が鈍いと云われている膣内では、プラスチック棒を入れられてることすら感じなさそうだが。

 どうして由佳はこんなものを怖がっているのだろうか。

 

「由佳はお仕置きの経験が長いので、体が出来上がっているんですよ。これはある種の暗示でして。由佳はこうして奥をツンツンされると、膣内が疼いて我慢できなくなるんです」

「は……え!? それって……!!」

「はい、その通りです。じゃあ頑張ってくださいね」

 

 遥は俺からディルドを取り上げると、スマホの通知を確認してから荷物をまとめてトイレを出ていってしまった。

 

「はうぅ……もうやだぁ……」

 

 由佳は目隠しをされて、後ろ手に手首をピッタリと固定されている。

 そんな体勢で膝だけを動かして、膣内の疼きに必死に耐えている。

 

「あ……あぁ……奥に欲しい……うぅ……死んじゃいそうだよぉ……」

 

 そんな由佳の可哀想な姿に、俺の体はなぜか興奮し始めていた。

 俺がこれまで由佳とそういうプレイしかしてこなかったせいなのか、それが由佳の持つ独特の体質なのか。わからないけど、どうにもこの姿が悩ましく映る。

 

 由佳とは俺らしくセックスをすればいいとのことだ。

 どういう意味かは不明だが、美優のような鬼畜責めをすることは求められていないことはわかる。

 俺が何にも配慮せずに、俺らしくこの罰を終わらせるなら、やはり由佳が一番楽に終わる方法を選ぶ。

 だとしたら、それでいいってことなんだよな。

 

 本当は何もせずに釈放してあげたいけど、由佳はこんな状態だし。

 幸いにも俺のペニスは勃起している。

 手早くゴムを付けて済ませてやるか。

 

「由佳、挿れるぞ」

「うぅー……! 次は普通のセックスって言ったのにぃ……!」

 

 由佳は文句を言いながらも、素直に腰を上げた。

 

 俺は由佳の腰を両手で持って、愛液の滴る肉穴に、ゆっくりとペニスを挿入する。

 

「あひぃっ……ヤバッ……いま敏感になり過ぎてるから……まずいかも……」

 

 由佳は長時間のバイブ責めのせいか、軽く膣奥を小突くだけで激しく身を跳ねさせた。

 

「大丈夫か? 一旦抜いた方がいいなら、それでも……」

「い、イヤ! 抜いちゃイヤ! 抜くのはダメ……だけど…………で、でも……これ以上、奥に来たら……気持ちよすぎて頭が変になっちゃう……!」

 

 由佳の態度は欲しがったり拒絶したりと定まらなかった。

 気持ちは汲んでやりたいけどこのままだと埒が明かない。

 思い切って奥まで挿れるしかない。

 

「由佳、少しだけ我慢してくれ」

「ひ、ひぎやぁああっ!! いひゃぁ、らめらぁのぉ!!」

「こら……大声を出すな……!」

 

 強引にピストンをすれば由佳が大声で喘ぐ。

 かといって、一度奥まで挿れてしまったペニスを抜こうとすると、それはそれで由佳が全力で拒んで暴れ出す。

 

 もはや由佳に合わせている余裕は一切なかった。

 俺は由佳の口を塞いで、膣内の疼きを擦り取るように背後から激しく腰を打ち付けた。

 

「うぅぅぐぅあうぅ!! んふぅー!! んんっッッ!!」

 

 拘束された女の子の口を手で塞いでバックで犯すなんて、これまでで最悪のレイプ行為だった。

 しかし、こうなったらもうダラダラと引き伸ばしてもいられない。

 

「ふぐっ……んんっッ!! ふんあぁあんっ……ううぅうぅッ……!!」

 

 俺はピストンの速度を緩めずに由佳を攻め倒した。

 由佳はいつの間にかイキっぱなしになっていて、再び潮吹きのように溢れてくる愛液に、腰を打ち付ける音がトイレ内に響く。

 それを避けるために俺はストロークを小さくして、押し付けるようにする動きに変えたのだが、どうにもこれが由佳の性感帯にハマりが良かったらしく、由佳はキュッと膣肉を締めてより激しく絶頂に達した。

 

「ああぅっぅあああっ……はひやぁうぅぐぅぅっ!!」

「由佳……もうイク……イクぞ……!」

 

 由佳の絶頂に合わせて、俺も腰の動きを速めた。

 ペニスを根元まで深く打ち付け、暴れる由佳を両腕でガッチリと後ろからホールドし、最後は子宮口にペニスを突き刺す勢いで奥まで挿れて由佳の膣内で射精した。

 ディルドですっかり柔らかくなっていた肉質が想像以上に気持ちよかった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 互いに息を切らし、ようやくこの脅迫的なセックスは終了した。

 もし外に人がいたら聞こえててもおかしくなかったけど、行為の最中はそんなことを心配している余裕なんてなかった。

 

 こんなことをして、本当に由佳の悩みを解決することに繋がるのかは俺にはわからない。

 でも、美優のことだから、意味のないことはさせないはず。

 なにより美優は、俺が他の女の子とセックスするのは嫌だとはっきり口にしたんだ。

 その気持ちを犠牲にしてでも得たかった何がこの行為にはあったと、まずは信じるしかない。

 

 俺はゴムを外して口を結び、陰部にまとわりつく精液と愛液を洗ってから美優に連絡をした。

 それから瀕死の由佳を部屋に運び入れるのを手伝い、名前しか知らなかった優花里ちゃんという美優の同級生に挨拶をして、背中を刺されるような視線に見送られながら俺はオフ会をやっている部屋に戻った。

 

 そこでは夕食前の最後のカラオケタイムが始まっていて、みんなずいぶんと盛り上がっていたおかげか俺が大遅刻をしたことをそれほど気にしてはいないようだった。

 

「ソトミチ、戻ってきたか。悪いな、あんまりアシストしてやれてなくて」

 

 放心状態の俺とは逆に、そわそわと落ち着きのない鈴原が話しかけてきた。

 俺が精気の抜けた顔をしているのでオフ会を楽しめてないと心配してくれたんだろう。

 

「アシストはいいって言っただろ。それに、いい刺激にはなってるよ。……鈴原は夕食会が終わったらどうするつもりなんだ?」

 

 俺は彼女を作る気はないし、黒澤さんと田中さんがそれぞれハルマキさんと彼方ちゃんをお持ち帰りしたら、その後は解散する流れだと思っているが。

 

「それがだな。俺、あれからハルマキちゃんと話し合って……。結論を言うと、俺はハルマキちゃんを信じることにした。だから、夕食が終わったら、ハルマキちゃんの相談を受けようと思うんだ」

 

 鈴原はチラッと横目でハルマキさんを見た。

 ハルマキさんも俺と鈴原のことを眺めていたようで、鈴原と目が合った瞬間に、楽しげな笑みを浮かべてくる。

 そんな笑顔にすっかりハートをやられてしまったのか、再び俺と目を合わせた鈴原の顔はもうゆるゆるになっていた。

 

 ああ、なんかダメそうだな。

 しかしまあ、友達としての忠告はしたし、ハルマキさんが絶対に悪い人と決まったわけではないから、この先は鈴原に任せたいんだが。

 

「相談に乗るのは構わないけど、面倒だけは起こすなよ。俺はもう帰りたいんだから」

「わかってるって。ちゃんと上手い具合にやるよ」

 

 俺はゲームにそこまで本気じゃないから、関係が拗れてギルドが解散とかになっても気にはしないけど。

 オフ会で幹事三人のいざこざとかが発生したら、俺まで巻き込まれかねないからな。

 早く家に帰って美優とイチャイチャしたい。

 

「よーしお前ら! 時間だ! 飯に行くぞ!」

 

 黒澤さんの号令と退室コールに追い出されるように俺たちはカラオケを後にした。

 

 夕食会場は歩いて行ける距離にあるレストラン。

 個室居酒屋に似た雰囲気で、学割コースを1980円で楽しめる。

 学生からすれば少なくはない出費だが、出てくるものと質と場所代を考えればかなりリーズナブルな値段設定だ。

 

 そんなお店に行く道すがら、俺は鈴原と黒澤さんと三人で歩いていた。

 

「おい、お前ら」

 

 黒澤さんは後ろから俺たち二人の首に手を回してきてヒソヒソ話を始めた。

 ガタイがガタイなだけに腕を掛けられるだけでかなり重たい。

 

「調子はどうだよ。ココはちゃんと温まってんのか?」

 

 黒澤さんは鈴原の股間をグイッと掴んで持ち上げる。

 鈴原の歪んだ顔を見ているだけで痛い。

 

「ぼ、ボチボチっすかね、今回は顔合わせ会になりそうな気が……」

「んーだまたかよ鈴原よ。お前、この前もメッセージのやり取りだけで満足してただろ? ダメだぜ会ってるうちにヤらないと。ハルマキちゃんはご奉仕してくれそうだぜ?」

 

 黒澤さんは後ろから付いてきている女子グループに見えないように手筒を作って上下に動かす。

 

 ハルマキさんは複数の男に声をかけているらしい。

 鈴原と黒澤さんの間でさえ折り合わなくなっているのに、どうするつもりなのかな。

 鈴原だって黒澤さんを出し抜いたりなんかしたら半殺しにされかねないと思うんだが。

 

「今日のメンバーはハルマキちゃん一強じゃないっすか? だから、いいかなーって……」

「馬鹿かお前は。鈴原だって女の経験は少ないんだろうが。ももちゃんでいいからヤれよ。動画撮ってルームに流そうぜ。俺もハルマキちゃんのハメ撮り流してやっからよ。ソトミチはそれ見てシコれ。そうしてっとな? 欲しくなって次はヤル気が出てくんのよ。これも、チームワークってやつだ」

 

 黒澤さんはそれだけ言うと、またハルマキさんの横に並んでお喋りを始めた。

 ハルマキさんの発言のどこまでが真実なのかはわからないが、誰といつ話してても笑顔を絶やさないあたりは根性があるよな。

 

「くっそ、どうすっかな……」

 

 鈴原はハルマキさんとのメッセージのやり取りを見返しながら呟く。

 あの黒澤さんを見るに、今夜の一日だけでも預けてしまえば、鈴原がハルマキさんを自分のものにできる可能性は限りなく低くなる。

 だから、ハルマキさんと二人きりの相談会をするには、夕食が終わってすぐにこっそりと抜け出さなければならないわけだが、そんなことをすればその後が怖い。

 

 さっき軽く肩を掴まれただけで、黒澤さんがかなりの武闘派なのはわかった。

 正面から突き飛ばされたらそれだけで骨も心も折れそうだ。

 

「無理そうなら諦めろよ? 今日の出会いが全てじゃないんだし」

「わかってるよ。わかってるけど、なんというか、ハルマキちゃんだけは、違うんだ。運命というか、この人だって感じがするんだよ」

 

 鈴原はもう完全にハルマキさんの虜になっていた。

 童貞を殺すのが上手すぎる。

 

 どうにもまともな精神状態じゃなさそうだからな。

 鈴原には悪いが、夕食が終わったら即行で帰らせてもらおう。

 

「いらっしゃいませ。ご予約の黒澤様ですね? 席までご案内します」

 

 レストランに着くと、今度は男女交互に、全員の隣と向かいが異性になるように並んだ。

 合コンで席替えをするときによくあるパターンだ。

 

 俺はトイレが近いからと言い訳をして端っこに座らせてもらった。

 残りの時間はそれぞれの思惑を外野から眺めるだけにしたい。

 と、思っていたのだが、対極の位置に座っていた黒澤さんを無視してハルマキさんが俺の隣に座ってきてしまい、俺は鈴原と黒澤さんの両方から睨まれることになった。

 

「ソトミチくんのお隣、ゲットだぜ」

 

 ハルマキさんはキメ顔で音の出ない指パッチンをする。

 スカってもやり切った表情を崩さないのは偉い。

 

「なぜ俺の隣なんだ」

「うーん。なんか疲れた顔をしてるから?」

 

 それは申し訳なかった。

 さきほど中学生をレイプしてきたばかりなのでな。

 心身ともに疲弊している。

 

「幹事としては、みんなに楽しんで帰ってもらいたいのです」

「ああ、それは……そうだよな。気を抜いて申し訳ない」

「そうだよーもー。これからが楽しいんだから。ご飯の食べ方って、その人の性格とかが出るじゃない? 狙った女がまともかどうかを見極めるならココだぞー! って。ふふっ」

 

 ハルマキさんはパントマイムでフォークとナイフを表現する。

 

「なんてね。抜いていいのは、こっちの方だぞ」

 

 かと思いきや、ハルマキさんは口を窄めてじゅぷじゅぷっと、スパゲッティを食べると見せかけた下品な顔で俺を誘う。

 その意味ありげな仕草はいったいなんなのかな。

 恋人がいるってもう言ったよね?

 

「口でするだけなら、浮気じゃないから」

 

 ハルマキさんは手で口元に壁を作って、ヒソヒソと呟く。

 俺にはまったく本性を隠さなくなってきたな。

 いよいよ剥がれてきた化けの皮の中身が酷すぎる。

 

 ここまで清々しいと逆にビッチと呼ぶのが憚られるな。

 元から遊びのセックスを悪いものだと思わないタイプなのかも。

 実際のところ、本人が好きでしてるなら、それを外野が批判する権利なんてどこにもないわけだからな。

 

「でもそれ自分の彼氏に言える?」

「他の女としてくれた方が、私とのエッチも刺激的になるでしょ? 背徳感というか、罪悪感というか。そういう心臓に負担のかかる行為って、依存性が強いらしいんだよね。そうなれば、彼氏ちゃんは何を犠牲にしてでも私とエッチをしたがる……つまるところ、そっちのがお得なわけですよ」

 

 ハルマキさんは両手でカニのマネをして、ちょきちょきと中指と人差し指を動かす。

 お得っていう表現がすでに酷い。

 

「ソトミチくんは飽きたりしないの? 彼女が下手過ぎて物足りないとかさ。新しい刺激が欲しくない? 一万円くらいで」

「やっぱり金なのか……」

 

 この調子だと今までの彼氏からもかなりの額を搾り取ってそうだな。

 他から搾り取って彼氏に貢ぐタイプではない、完全自己消費型の集金女子だ。

 もしかしたら今は彼氏がいないっていうのも嘘なのかもしれない。

 

「サクッとトイレで出すだけでも気持ちいいよ? 絶対に風俗に行くよりいいって」

「うん、あの、それは、経験談ってことでいいのかな?」

「あっ……と……。ど、ドリンクは何にしようかなー!」

 

 よくわからないタイミングでシラを切るハルマキさん。

 それからもしつこく誘われはしたが、俺は事後だったので全く股間に響いてくることはなかった。

 

 そんな俺の状態をハルマキさんも察したようで、席替えタイムになると鈴原の隣に移動してしまった。

 あいつはきっと搾れるだけ搾り取られるだろうな。

 まあ、ハルマキさんに騙されるなら、たとえ数十万円単位で持っていかれても、いい勉強になったと笑い話にできるだろう。

 

 俺が考えるべきことは、ハルマキさんが誰とセックスするかなんてことじゃない。

 由佳がなぜあんな態度を取るのかについてだ。

 

 美優が言うには、由佳の性格を理解することは、山本さんと仲直りするためにも重要なことらしい。

 ならばこれは俺が本気で取り組まなくてはならない課題なんだ。

 あの山本さんにあんな悲しい顔をさせてしまった俺にはその責任がある。

 

 気になるのはやはり遥の忠告だな。

 過去の言葉だけではなく、当時の印象まで思い出せと言われたけど。

 昔のことなんてそんな簡単に思い出せるものじゃない。

 

 俺にとっての由佳は、わがままで、怒りっぽくて、世話焼きで、何よりも美優が好き。

 いつもみんなにイタズラを仕掛けて返り討ちにあうポンコツの変わり者。

 

 俺に少なからず好意を抱いているようだが、それは俺が美優の兄だからであって、そうでなければここまでの執着はされなかっただろう。

 普段付き合っている友達の感じからするに、レズというわけではなさそうだ。

 美優だけが由佳にとっての特別。

 そして、その影響で俺も特別枠に入れられた。

 

 今の由佳は俺とエッチをしたがっている。

 その前は、美優に好き好き言っていた。

 たしか、美優の笑顔が見たい一心で頑張っていて、それが空回りして過剰なイタズラになってしまって、いつの間にかそれが、恋心に変わっていた……んだっけ?

 

 なんだろう。

 記憶に間違いはないはずなのに、この流れに違和感を覚える。

 でも、いくら考えても結論が出そうにない。

 

 まだ情報が足りないのか。

 俺の思考力が足りないのか。

 

「……ん?」

 

 俺が考えに耽っていると、スマホに一通のメッセージが届いた。

 由佳が写真を送ってきたようだ。

 

 その写真は中学生組が食事をしている最中のもの。

 卓上には中学生には似つかわしくないお高そうな料理が並べられている。

 どうやらそれは由佳が勝手に自撮りをしたものらしく、美優たちは端っこに写り込んでいるだけでカメラに目を合わせてはいない。

 

 で、その本人はというと。

 

『デラックスジャンボパフェをいつ奢るか考えておきなさいよ!!』

 

 というメッセージを添えて俺に中指を立てていた。

 美優以外のことに無駄金は使いたくないが、約束は約束だし、なにより話し合いの機会としてはちょうどよいので従ってやるしかないな。

 

 それからの夕食会は、ハルマキさんが絡んでくることもなかったためか、これといって目立つような出来事は起こらなかった。

 ただ、来きたるべき本番に向けて黒澤さんがスキンシップを激しくしたせいで、最後の方のハルマキさんは露骨に鈴原へとすり寄っていた気がする。

 

 夕食会そのものは恙無く終了し、クレジットカードを使うからという理由で黒澤さんが集金を行って、俺たちは外に出た。

 美優たちの解散のタイミングも同じだったみたいで、俺は美優と合流するためにチャットに夢中になっていて。

 

「んじゃ今日はこれまでだ! これからもギルドに顔を出してくれよ!」

 

 会計を終えた黒澤さんが、店を出てすぐに全体に声掛けをした。

 この時点で、ようやく気づいた、人数の不足。

 

 鈴原とハルマキさんが姿を消していたのだ。

 

 そのことを、黒澤さんはすぐに言及することはなかった。

 とりあえずは幹事としてオフ会の締めを行って、解散をしてからは、やはりというか向かってきたのは俺のところだった。

 

「おう、ソトミチよ。ハルマキちゃんはどうだったよ?」

「え、ああ、可愛かったですよ」

「だろう? しかもガードも薄かったからよ、お前らがトイレに行ってる間にちょろっと胸を揉ませてもらったんだが。ありゃEカップはあるな。細身だから挟めるかはわからんが、使いみちはアリそうだ」

「な、なるほど」

 

 黒澤さんはどこに行くとも聞かずに俺の横にひっついて話しかけてくる。

 美優から集合場所を聞かれてるけど、このままでは無理だな。

 この人を美優に会わせることだけは絶対に避けたい。

 

「んでよぉ、ソトミチよ」

 

 黒澤さんの不機嫌そうな声。

 それは他でもなく、鈴原とハルマキさんが一緒に消えたことへの怒りだった。

 

「そのハルマキちゃんの姿が見えねぇんだが? お前、なにか知らねえか?」

「いえ、俺はほんと、何も話とか聞いてないんで」

「鈴原のやつ、電話しても出やしねえ。あいつ……まさかとは思うが……」

 

 黒澤さんが額に青筋を浮かべて怒気を強くする。

 

 鈴原のやつ上手い具合にやるとか言ってたくせに、全部放っぽり投げやがったな。

 俺はデラックスジャンボパフェくらいじゃ済まさないぞ。

 

「あ、あいつ! ハルマキさんに相談を受けたって聞きましたよ! だから、もしかしたら近場のカフェとかで話し込んでるのかもしれません……!」

「ああぁ!? 俺はハルマキとヤるってんだからそんなんどうだっていいんだよ!! あーちくしょう!! ぜってぇホテル街だぜあいつら……許さねぇ……!!」

 

 黒澤さんは俺の話などまるで聞かず、道脇に置いてあったポールを蹴り飛ばす。

 

「まあいい。少なくともあの女は俺から逃げられねぇんだ。おいソトミチ。てめぇのとこに鈴原からの命乞いが来たら真っ先に俺に連絡しろよ。どうせ俺に会う以外に道はねぇんだからよ」

 

 黒澤さんはそれだけ言うと、ホテル街へと走って行ってしまった。

 

 俺は慌てて鈴原と通話を試みてみるが、今は電源すら入れていない状態らしい。

 ここまで徹底して連絡を遮断するということは、追いかけられていることを自覚してしまうような情報はかけらも目に入れたくないということ。

 自らの精神的にも、雰囲気的にも、誰にも邪魔されたくない状況にあるんだ。

 

 まず間違いなくハルマキさんと二人きりになっている。

 ハルマキさんの目的は間違いなく金だから、あとはどうやって搾り取ろうとしているかだけど。

 とりあえずは俺もホテル街に向かっておこう。

 

 店に入っているなら見つかる可能性は低いが、この周辺には黒澤さんの知り合いの不良集団もたくさんいるみたいだし、捕まってリンチされないとも限らない。

 せめて俺が先に見つけられそうなら見つけてやらないとな。

 

 俺は近くにあるホテル街へと足を速めた。

 ホテル街と言ってもそれほど活気のある場所ではなく、田舎とも都会とも言えないような土地にたまに存在する比較的静かなエリアだ。

 

 俺もラブホなんて使ったことはないが、入り口のそばにコース料金が出ているところがラブホだということは知っている。

 黒澤さんたちからオススメスポットを聞かされていたこともあって、迷うことはなかった。

 

 それらしい建物が見えたあたりで、美優から着信が来た。

 そういえば集合場所を聞かれていたのに答え忘れていた。

 

『お兄ちゃん? どこにいるの?』

「それが……悪い。今夜は合流できなくなった。由佳たちと一緒に帰っててくれ」

『なにか事故でもあったの?』

「事故っていうか、事件っていうか。鈴原のやつが女の子を連れてラブホに消えたんだよ。それが同じ女の子を狙ってたヤバイ人の逆鱗に触れちゃって……」

 

 きちんと事情を説明しないと美優が納得しないと思い、俺はこれまでの経緯を美優に伝えた。 

 

『鈴原さんだって、その黒澤さんって人を怒らせるのはわかってたんだよね? それなのに、黒澤さんがオススメした場所に行くのかな?』

「それは……あー……たしかに……」

 

 言われてみれば、黒澤さんの知り合いも多くて、かつ居場所もある程度絞られるこの地域のラブホにわざわざ行くとは考えにくい。

 ともすれば、鈴原たちは駅に向かった可能性も高いわけか。

 もしそうなら追いかけることはできないだろうし、俺も安心できるんだけど。

 黒澤さんが言っていたあの言葉が気になる。

 

『──ハルマキさんは逃げられないって? 黒澤さんが言ってたの?』

「そうなんだ。俺もどういう理由かはわからないんだけど、黒澤さんの口ぶりからするに、鈴原たちはまだ近くにいるかもしれない」

『ふーん。なるほどね』

 

 美優はこのヒントだけでおよその状況を把握してしまったようだ。

 さすがに頼りになる妹だが、今回ばかりはあまり関わらないでいてほしい。

 変なことに巻き込まれても困る。

 

「だから、俺は今いるところをしばらく探索してから帰るよ。そんなに遅くなるつもりはないから、美優は家で待っててくれるか?」

『私も手伝うよ。このまま家に帰っても落ち着かないし。あと由佳がまた悪いことを思いついたみたいですでに走り出してる』

「はあ!? いや、意味が……と、とにかく、手伝うとかはダメだ!! いくら美優だってこういう荒事は……って、み、美優!? 美優!!」

 

 美優からの通話は切れていた。

 俺が掛け直しても美優が応答することはなく、ただ焦りだけが募っていく。

 手伝うって言ったって何をするつもりなんだ。

 こんな夜道を女の子だけで歩かせるだけでも怖いのに。

 

「どいつもこいつも勝手ばっかり……!」

 

 俺はスマホを握りしめて全力で駆け出した。

 

 人通りの少ない、静かな街の中。

 

 今日の夜は、まだ長く続きそうだ。

 



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間違いなく自分だった過去

 

 一組の男女が駅に向かって歩いていた。

 比較的人の少ないその土地で、できるだけ道行く歩行者に紛れるように、しかし、その人々を避けるように早歩きで進んでいく。

 

「とりあえず、ハルマキちゃんの地元でいいかな?」

「そうだね。鈴原くんは終電とか大丈夫?」

「終電なんて気にする時間じゃないよ。バスも使わないから、3時間は余裕がある」

「そっか。まあ、カフェでお茶するだけだし、無用な心配だったね」

 

 ハルマキと呼ばれた少女は、媚びるような笑みで隣の男を見上げる。

 日傘とカバンを腕にかけ、もう片方の手で鈴原の腕を掴み、ヒールでちょこちょこと小動物のようについて行く。

 

 二人の目的は、落ち着いたカフェに入ってお喋りをすること、ただそれだけ。

 にもかかわらず、とりわけ鈴原には動きの各所に焦りが見られた。

 まるで何かから逃れるように、引っ付いてくるハルマキの歩幅を気にかけながらも、前を往く人を次々に追い抜いていく。

 

「ハルマキちゃん、そろそろ着くからICカード出しておいて」

「うん、大丈夫。いつもここに入れてあるから……」

 

 二人は歩きながらもカバンを弄る。

 

「あ、あれ……?」

 

 ハルマキがいつまで経ってもカバンから手を抜こうとしなかった。

 どうやらICカードが見つからないようで、ハルマキは道端にしゃがみ込むと、カバンの中を覗いて漁り始めた。

 

「嘘……でしょ……!」

 

 瞠目し、身の震えすら見て取れるほどに、ハルマキは動揺する。

 

「失くしたのか? 服のポケットとかは?」

「どうして……スマホがないの……どこにも……!! どうして!? 私、絶対にここに入れてるのに!!」

 

 ハルマキの焦りようは尋常ではなかった。

 絶対にあると確信していたものがなかったショックとは別に、スマホが無くなっていることそのものへの、脅迫的な怯えがそこにはあった。

 

「お店を出るときには確認したんだよ!? それなのにどうして無くなってるの!?」

「お、落ち着いて、ハルマキちゃん。まずはお店に電話して確保してもらおう」

 

 たしかに、この二人には焦りがあった。

 つい先ほどまで参加していたゲームオフ会のメンバーに気づかれないよう、急いで抜け出してきたからだ。

 

 だが、ゲーマーであるハルマキにとって、スマホを紛失するなどあってはならないこと。

 だからジッパーをしっかりと閉じてカバンに仕舞っておいた。

 店を出る前にはそこにあることを確実にチェックしていた。

 カバンに穴でも空いていなければ、無くなることなんてありえないはず。

 それなのに、どこを探してもスマホが見つからない。

 

「戻らなきゃ……いますぐ、お店に……!」

「待って! ハルマキちゃん!」

 

 ハルマキは鈴原の制止を振り切って走り出した。

 せっかく距離を取ったというのに、下手をすれば駅に向かっているメンバーと鉢合わせしてしまう。

 

 先ほどまで脚の高いヒールで頼りなく歩いていたハルマキが、まるで別人のように猛スピードで遠ざかっていく。

 鈴原も急いで後を追いかけるが、さすがのハルマキにもまだ理性が残っていたようで、できるだけ人の少ない道を通っていくため無理に追いつこうとはしなかった。

 

 そうして戻ってきたお店に、ハルマキは迷うことなく入っていった。

 鈴原が後に続いて店に入ると、息を切らして身だしなみも気にせず店員と話すハルマキの姿があった。

 

 その表情は明るくない。

 どうやらお店に落し物はなかったようだ。

 

 ともすれば、考えられる可能性は2つ。

 気づかぬ間にカバンから盗まれたか。

 お店で落としたものを誰かが横領したか。

 

「鈴原くん! 私のスマホに電話して! 色々と勘違いしててもっと意外な場所にあるのかもしれないし……!」

 

 店を出てすぐ、ハルマキは鈴原に頼み込んだ。

 

 ハルマキはどこまでも必死だった。

 鈴原もその勢いに飲まれて、電源を切ってあったスマホを取り出した。

 

 しかし、それももはや意味のない行為だった。

 

「おう、やっぱりここに居たじゃねえか。戻ってくると思ったぜ」

 

 二人の背後から近づいてくる、一人の男がいた。

 横にも縦にも幅のある偉丈夫で、スマホを片手に歩いてくる。

 

「く、黒澤さん……!」

 

 鈴原は黒澤を見て、咄嗟にハルマキの腕を掴んで逃げ出そうとした。

 しかし、当のハルマキはそれを拒んで動こうとしない。

 

「おっと、逃げない方がいいぜ。横の女のためにもよ」

 

 黒澤は下卑た笑みを浮かべてハルマキに視線を移す。

 

 黒澤が手にしているスマホはハルマキのものだった。

 それがわかっているからこそ、ハルマキも鈴原の牽引を無視して留まっている。

 

「返して……!」

「ああ? 返してほしいのか? そりゃあそうだよなぁ。こんなヤバい動画が大量に入ったスマホ、他人の手に渡ったら困るもんなぁ」

 

 黒澤のその言葉に、ハルマキの顔は青ざめた。

 なぜ所有者でない黒澤が中身を知っているのか。

 それはもちろん、パスワードを盗み見られたからに他ならない。

 

 黒澤はオフ会の際、しつこいくらいにハルマキの横を陣取ってきた。

 このようなことになるとは思っていなかったハルマキは、スマホをイジるときにパスワードを見られないようにはしつつも、完璧に隠すまでのことはしなかった。

 

「はっきり言っておく。逃げても騒いでも、こっそり通報したとしても、ハルマキの人生は終わるからな。そこんとこよく理解した上でついてこい」

 

 黒澤の忠告に、ハルマキからのアイコンタクトを受信した鈴原は大人しく従った。

 これまでのハルマキの反応を見るに、あのスマホを握られている時点でどうにもならない状況だということがわかったからだ。

 

 2人が連れていかれたのはランニングに使える程度の広さがある公園だった。

 ホテル街からそう離れているわけではないが、この時間に人が通ることはまずない場所。

 

「さて、鈴原よぉ、おめえはハルマキと二人でどこに行こうとしてたんだ?」

 

 黒澤が最初に詰問を始めたのは鈴原に対してだった。

 この二人の間では、黒澤がハルマキをラブホテルに連れ込むことが事前に意識合わせされていたのだ。

 だが鈴原はそんな約束を反故にし、オフ会が終了した直後にハルマキを連れて抜け出した。

 

「それは、ハルマキちゃんが困ってることがあるって言うから、相談に乗ってあげようと思って」

「それなら俺がいても構わねぇだろ? 三人寄ればなんとやらって言うじゃねえか」

「ハルマキちゃんはこう見えて人見知りだから……」

「人見知りだぁ!? ぶははっ……こいつは滑稽だなぁおい」

 

 黒澤はハルマキのスマホのロックをこともなげに開け、中のフォルダを漁り始めた。

 それを見て、黒澤の次の行動を予期したハルマキが、身を乗り出して掠れ声で叫ぶ。

 

「や、やめて……!」

 

 それはハルマキにとって最悪の展開。

 いや、この先がどう転ぼうと、バッドエンドしか残されていないのだが。

 

 何かに縋りたかった。

 何かを否定したかった。

 

 自分の人生が詰んでいることなど、そう簡単に認められるわけがなかった。

 

「なあ鈴原よぉ、俺がなんでここにお前を連れてきたかわかるか? 試されてるのはお前なんだよ。ハルマキとヤりてぇんだろ? 正直にそう言えば、お前にも回してやるぜ? 3人以上で入れるホテルを知ってんだわ」

 

 黒澤は高い目線から鈴原を値踏みする。

 

 このまま大人しく従えば、鈴原はおそらく助かるだろう。

 だが、黒澤の悪趣味な命令に従わされることは想像に難くない。

 何よりもハルマキが犯される運命は変わらないのだ。

 それは、鈴原の胸に芽生えてしまったその感情にとって、絶対に認められない選択だった。

 

「お、俺はハルマキちゃんが好きなんだ! 黒澤さんには渡せない!」

 

 鈴原は思いの丈を吐き出した。

 その言葉に、ハルマキは目を丸くし、黒澤はニヤリと笑った。

 

「よく言えたじゃねえか。なら、こいつを見ても同じことが言えるかな?」

 

 黒澤はハルマキのスマホの画面を鈴原に向ける。

 

「や、やだ! やめてください! それだけは見せないで……!!」

 

 ハルマキは鈴原の腕を掴んだまま、ただ懇願することしかできなかった。

 そんな願いを黒澤が聞き入れるはずもなく、晒される、ハルマキの黒い過去。

 

 乱交の現場だった。

 

 それも、脅されて撮ったものではない。

 

 ハルマキが複数の男を相手に、楽しげに性行為に及んでいる姿が映されていたのだ。

 

 相手は親世代ほど歳の離れた大人たち。

 その欲望を一身に受けるハルマキは高校の制服を着ていて、これが世に晒されればハルマキの個人情報は即座に特定されてしまう。

 

「なっ……!」

 

 鈴原は声を詰まらせた。

 自分の背後で怯えている少女が──この短い間で恋をするほど惹かれてしまった女の子が、見知らぬ男たちのペニスを何本も咥えていたという事実に。

 

「これは……あのっ……」

 

 ハルマキも否定の言葉を口にできなかった。

 ただ強く鈴原の腕にしがみついて、捨てないでと祈るように額を擦り付けているだけ。

 

「わかるゼェ、お前、このオヤジどもから金をもらってたんだろ? でも何か不都合があってお前は切り捨てられた。自分では、自分から見限ったんだと思い込んでたんだろうが……ダメなんだよなぁ、そういう止め方は。抜け出せなくなるんだよ。金もセックスも、欲しくてたまらなくなる。だからこんなヤバいもんを残し続けてたんだろ?」

 

 若いうちからセックスで金を荒稼ぎしていたハルマキは、その繋がりがなくなってから虚しさを埋めるようにゲームや課金に依存した。

 そして、やがては金も刺激も足りなくなり、オフ会で見知らぬ男たちに関係を迫っては金を要求し続けた。

 

 ハルマキには幼少の頃からスキンシップに抵抗がなかった。

 少しだけ性に寛容なだけなのだと、ハルマキは思っていたのだが。

 

 最初に手を出した先が悪かった。

 まだ身も心も未熟だったハルマキは、財布と貞操観念の緩い大人たちに唆されて、ずるずると淫らな世界へと沈み込んでしまった。

 

「違う……私は……もうそんなこと……」

「違かねぇだろうが。お前はセックスするために生まれてきたオナホ女なんだよ。なに、心配すんな。俺が新しいパトロンになってやるよ。前のオヤジたちと違って、くれてやるのは精液だけだがな」

 

 黒澤はハルマキの腕をつかみ、鈴原の背後から引きずり出そうとする。

 目の前でそのやり取りを見ていた鈴原は、すぐには動き出せなかった。

 

 恐怖も驚きも、そのどちらもが大きすぎて、何が正しいのかが判断できない。

 ただ、それでも、黒澤に腕を引っ張られているハルマキが、微かな希望と共に視線を向けていることに気づいて。

 

 損得の勘定などは、その瞬間にすっ飛んだ。

 

「は、ハルマキちゃんを放せ!」

 

 叫んだと呼べるような、力のある声ではなかった。

 それでも、それは音となって、たしかに黒澤の耳に届いた。

 

 大人しくしていれば見逃してもらえたのに。

 その安全地帯から足を踏み出した鈴原には、黒澤からの鋭い眼が向けられている。

 

「俺はあんたが、下ネタが好きなだけの、頼れる先輩だと思ってた。でも、これはいくらなんでもやりすぎだろ! 脅して、無理やりとか、そういう話は聞いてない……」

 

 鈴原が話している間、黒澤はスマホをチラつかせてハルマキに釘を刺してから、ゆっくりと歩いて近づいてきた。

 

 そして、黒澤は無言のまま、容赦なくその拳を鈴原の腹部に見舞った。

 

 鈴原は声を上げることも出来ずに膝をつき、細くなった呼吸を必死につないでどうにか意識を保つ。

 

「そりゃお前が知ろうとしなかっただけだろ。お前とは卒業してからたまに会うぐらいの仲でしかなかったけどよ。別に俺は今日変わったわけじゃない。お前が、知らなかった。ただそれだけだ」

 

 黒澤はその言葉を吐き捨てて、再び公園を去ろうとする。

 

 だが、鈴原も意地で腕を伸ばし、黒澤の足首を掴んで止めにかかった。

 

「おいおい、こんなクソビッチのためにマジかよ? さっきの動画はちゃんと見てたのか? 金のために親父と同じ歳の男と何人もヤリまくった女なんだぜ? こんなくたびれた肉穴が、今更人並みの恋愛なんてできるわけねぇだろうがッ!!」

 

 手を踏みつけ、顔面を蹴り飛ばし、鈴原をゴミのように捨て去っていく黒澤。

 その足には、まだ鈴原の手が掛けられている。

 

 ハルマキは喜ぶことも悲しむこともできなかった。

 この状況を生み出した原因は、誰にも知られたくなかったハルマキの過去。

 それを黒澤に握られているのだから、鈴原の行為にはなんの意味もないのに。

 

 何度蹴られても鈴原は腕を伸ばした。

 やがて、黒澤は大きなため息をつき、鈴原を痛めつけることをやめる。

 

「そうか、そんなにこの女が好きかよ。なら……」

 

 黒澤はハルマキを連れ去ることをやめた。

 その代わりに、ハルマキを地面に突き倒すと、そのままパンツを奪い去って自らもズボンのベルトを外した。

 

「キャッ……痛ッ……! やだ……やめて……!!」

「まずここで一発中出ししてやるよぉ、鈴原ぁ」

 

 体が折れないなら、心を折る。

 

 這いずって足を掴むことしかできない鈴原には、もうそれを止められるだけの力は残っていなかった。

 頭の中でいくら「動け」と命令しても、指先を動かすことすらできず、意識を保っているのがやっと。

 

「さて、ヤるか」

 

 黒澤も乱交に慣れているのか、勃起したペニスを人前に晒すことに躊躇はなかった。

 むしろ、そのいきり立ったイチモツを見せつけるように、黒澤はハルマキの向きを変え、強引に股を開かせる。

 

「やめて……痛いことしないで……挿れないで……!」

 

 ハルマキは抵抗をするものの、大声で叫ぶことはできなかった。

 秘密を握られたまま逃げられるわけにはいかないこともあるが、なによりも単純に、恐怖が身体中の力を奪い去っていた。

 

 そんなハルマキの懇願などは当然受け入れられるわけがなく、黒澤は正常位で覆い被さり、ハルマキの腰を持ち上げ、お互いの性器が触れるスレスレまで肉棒を近づける。

 

「よぉく見とけよ。惚れた女が目の前で犯されるなんて貴重な体験だぜ?」

 

 白む視界の向こうで、鈴原は絶望に染まっていくハルマキの顔を、ただ見ていることしかできなかった。

 

 ハルマキが過去に行っていた援交は、非合法で非倫理的な行為だったとはいえ、お互いに合意のもとセーフティに行われていた。

 精液を膣内に直接、しかも強引に注がれることは、これまでの経験にはなかったもの。

 決して受け入れられない人生の最悪。

 

 暴れれば動かなくなるまで殴られる。

 助けが来ても黒澤に逃げられて秘密を晒される。

 

 抵抗しても地獄。

 叫んでも地獄。

 諦めても、どうしようもなく地獄。

 

 鈴原の体はもう動かない。

 目の前でそんな絶望が迫っていても、いつも眺めているアニメのように、特別な力などは湧いてこなかった。

 

 ──しかし、奇跡というものは確かに存在した。

 

 一人の少女が犯されそうになっている光景。

 それを映す鈴原の視界の端で。

 

 傍らに落ちていたハルマキの日傘が宙に浮いた。

 

 そして、その先端はゴルフスイングのような弧を描き、黒澤の金玉を強く叩いたのだ。

 

「あぐぉぁッ────!?」

 

 突如として訪れた尋常ではない痛みに、黒澤の呼吸は数秒停止し、自分が襲われたのだと黒澤が自覚したのは二撃目が股間を外れて内股を叩いた後だった。

 

 膝までズボンを下ろしていた黒澤が即座に臨戦態勢になれるはずもなく、黒澤はその後も続けざまに股ぐらを殴打され、犬の泣くような情けない叫び声を上げた。

 

「だ、だれだぁあ!! ざけんじゃねえええ!!」

 

 痛みだけで気絶してしまいそうなほどフラフラとした意識の中、黒澤は暗闇を手探りするようにしてなんとかズボンを手で掴み、膝を伸ばしながら一気に腰まで持ち上げようとする。

 が、半脱ぎ状態だったズボンはなぜかガッチリと固定されていて、バランスを崩した黒澤は自らの力の勢いによって地面に倒れ込んでしまった。

 

「ごはっ……!? な、なにぃ……ッ!?」

 

 気づけばズボンには、腰から裾までを貫くように日傘が差し込まれていた。

 黒澤がズボンを上げるのと同時に、襲撃者は日傘の柄を踏みつけ、ズボンを穿こうとする力を封じていたのである。

 

 黒澤は正面から地面にダイブし、勃起したペニスが土と擦れて、激しい痛みに顔をぐしゃっと歪ませた。

 しかし、真の痛みが待っていたのはこの後だった。

 

 ペニスの痛みを嫌がり、地面から腰を引いてしまった黒澤の体勢は、うつ伏せと四つん這いの中間の体勢になっていて。

 

 股間にブランと垂れ下がる黒澤の睾丸。

 その丸出しの急所に、襲撃者のつま先が、力いっぱいに振り下ろされたのである。

 

「あああぁぁぁぁあああああああああああああ!!」

 

 喉が裂けるほどの悲鳴が、公園中に響き渡った。

 

 全身の穴という穴から汗が吹き出して、平衡感覚すら失った黒澤は、霞む視界だけを頼りにして周囲に腕を振り回す。

 襲撃者も黒澤の反撃を恐れているのか、不用意な追撃をしてくることもなく、しばらくして冴えてきた頭で黒澤はようやく膝立ちで拳を構えることができた。

 

「ぢぐしょう……!! いでぇぇぇええ!! ころす!! ころしてやるぅ!!」

 

 黒澤は芯のない声で叫びながら、涙で霞む視界の先にいる襲撃者を睨みつけた。

 膝はガクガクして覚束ないが、空手の有段者である黒澤なら、腕さえ動けば大抵の攻撃には対処できる。

 徐々に晴れてきた黒澤の視野が捉えたのは、非力そうな女の子ただ一人だった。

 

 オフ会のメンバーではない。

 あるいは鈴原の友人であるソトミチという男なら、黒澤を襲撃する動機は十分に存在したが、過去のどの記憶を探してもその少女と黒澤には接点がなかった。

 

 そう。

 黒澤にとっては無関係の少女。

 しかし、この事態にとっては全く無縁の人物というわけでもなかった。

 

 ハルマキはその少女のことを知っていたのである。

 

「うそっ……! 由佳、ちゃん……?」

 

 黒澤にレイプされかけた混乱からようやく覚めたハルマキが、小さく声を溢した。

 由佳はオフ会の参加者ではなかったが、共に参加していたソトミチの妹の友人で、ハルマキにとってはちょっとした因縁のある知り合いだ。

 

 それでも、今日の昼間が初対面で、決して友好的な関係を築けたわけでもなかったのに。

 なぜこんな危険を冒してまで助けてくれるのか。

 ハルマキには理解できなかった。

 

「クソっ……舐めやがって。餓鬼じゃねえか。こいつぁ大人の躾けってやつをしてやらなきゃあならねぇな!」

 

 黒澤は由佳が距離を取ったまま追撃してこないことを確信すると、脅し文句を口にしながら日傘を抜き捨ててズボンを上げた。

 由佳も次の手に困っているようで、この先はもう黒澤が一方的に嬲り犯すしかない。

 

 そんな終わりを、誰もが予見した。

 結局は、これほどガタイ差のある男をどうにかできるはずもなく。

 自分のせいで被害者が増えるだけなのだと、ハルマキはただ嘆くことしかできなかった。

 

 しかし、それは確かに奇跡だったのだ。

 

 ズボンを腰まで引き上げ黒澤が、股下をフィットさせようとわずかに上体を下げた瞬間のことだった。

 

 この女どもをどう犯してやろうかと、復讐の怒りに燃えていた黒澤の思考は、突如としてプツンと途切れた。

 

 黒澤の頭部を凄まじい衝撃が襲い、黒澤は何をされたのかもわからぬうちに地面に沈んだのだ。

 ぐらりと揺れた脳は軽い脳震盪を起こし、ごくわずかの間だが黒澤の意識を奪い去った。

 

 すぐさま反撃に転じなければならないはずの黒澤は、まず自分がどのような状態になっているのかさえ把握できず、混乱したまま地面に横たわっている。

 

「ぜぇ……はぁ……もう、私は走るのだけは嫌いって言ったよね」

 

 それは第二の襲撃者だった。

 由佳と同年代の女の子で、その口ぶりからしてお互いに顔見知りであることがわかる。

 黒澤の意識ごと首を刈り取ったのは、この少女が躊躇いもなく全体重を乗せた飛び蹴りだった。

 

「そんな無駄なもんつけてるのが悪いんでしょ」

 

 由佳は黒澤にトドメを刺した少女の、その凶悪なバストサイズに嫌味を付ける。

 とはいっても、自分の胸の平旦さがコンプレックスであるわけではないらしく、全体的にスラッとした自らの体のラインを誇らしげにしながら少女に近づいていった。

 

「こんな無駄なもの好きでつけてるわけじゃないから」

 

 翻って第二襲撃者の少女は自らの胸に強いコンプレックスを抱いているようだった。

 ずいぶんと立派なものを蓄えているのにもったいない限りだが、女としての武器は特に必要としていないらしい。

 そんなものがなくても十分に人を惹き付けるだけの美しい容姿をしているため、女らしいスタイル以上に発達したセックスアピールは事実としてデメリットの方が大きいのだろう。

 

「うっ……なに……がぁ……」

 

 黒澤は意識を朦朧とさせて倒れたままになっていた。

 もはや股間の痛みに悲鳴を上げる力すら残っていないようだ。

 

「美優のおっぱいの重さで沈んだわね」

「なんでも私のおっぱいのせいにするのやめて」

 

 そこからの手際は鮮やかなものだった。

 

 由佳は黒澤の服から2つのスマホを抜き取り、美優と呼ばれた少女はカバンから腕用の拘束具を取り出す。

 拘束具の方は高級店のSMプレイにも使えそうな上等なものだった。

 およそ通りがかりの中学生が持っていていいような代物ではないのだが、なぜだか都合よく用意されていたそれを黒澤に装着し、残りをすでに通報済みだった警察に任せることにした。

 

「こいつ金玉メタクソに蹴り飛ばしたのにまだ勃ってるんだけど。ウケる。ケツにバイブでも突っ込んどく?」

「無駄に道具をダメにするんじゃないの。腕のやつだって私が買い直して遥に返すんだから」

 

 およそ倫理観の欠片もない会話が繰り広げられている他所で、ハルマキは知らずのうちに救われていた。

 

 目の前には二人組の中学生と、拘束されたレイプ犯、そして、傷だらけの男──金をせびるためのカモにしようと思っていた男がいて、ハルマキ自身は軽い擦り傷を負った程度でいられている。

 

 脅しのネタにされていたスマホも、この少女たちが取り戻してくれた。

 そもそも、なぜこの二人がハルマキが脅されていたことを知っているのかはわからないのだが、とにかく事情を把握した上で、彼女たちは最良の形で事件を終わらせてくれたのだ。

 

「あ……あり……がとう……」

 

 ハルマキは枯れ声で、おそらく二人に届いていないであろうその言葉を口にした。

 由佳たちのおかげで無事でいられているのだから、感謝しなければならないのは間違いない。

 しかし、ハルマキの胸中には迷いがあった。

 自らの過ちを顧みたとき、なんとなくだがこの二人に感謝の言葉を伝えるのは順序が違うと、そう思ってしまったのだ。

 

「鈴原くん…………ごめんなさい……。それと……あの……ありがとう……」

 

 鈴原はもう気を失っていて、救急車が到着次第、検査のために病院へと運ばれていく。

 

 結局はまだ、ただの他人。

 何の関係も持たなかった利益の無い男だが、ハルマキはこの男から何かを得られた気がした。

 

 自分がやっていることは、風俗やAVで頑張って働いている人たちと変わりがないのだと思っていた。

 ハルマキとセックスしたどの男たちも喜んでいたし、妥当な仕事と報酬だったのだと、自分に言い聞かせてきて。

 

 いざ大人になってみると、それがとんでもない過ちだとわかった。

 

 誰に直接諭されたわけでもない。

 ただ、金のために複数の男と関係を持ったことは、決して人に言ってはならないことなのだと、世間からの遠回しの圧力を受けて脅迫的に自分を戒めるようになった。

 中途半端に割り切った援交を繰り返しながら。

 まるで意味のない自戒を。

 

 黒澤の邪推はそれほど間違ってはいなかった。

 男と乱交していた動画を残していた理由は、かつての自分を思い出すと、なぜか少しだけ楽になれたからだ。

 あるいは、オフ会で男たちを誑かしていたのは、何をしてもどこか埋められない寂しさを、その寂しさから来るストレスを、自傷することで誤魔化していたのかもしれない。

 しかし、その寂しさがどこから生まれてくるものなのかを、ハルマキは知らなかった。

 

 悪事を働いていたつもりはなかった。

 最初に『パパ』と『女』として付き合った男たちは、少なくとも体の関係にあった頃はとても優しくしてくれていたし、好きなカフェやテーマパークにも連れて行ってもらって、それは友達が彼氏としていることと同じなのだと本気で信じていた。

 

 そんな自分を。

 純粋に自分だった自分を、今は消している。

 自分がたしかにそこにいたはずの数年間を、存在しなかったことにして。

 誰にも言わず、誰にも見つからないように、そっと仕舞っていた。

 

 でも、それでも。

 

 だからこそ。

 

 今もこうして、ハルマキは誰も自分を知らない世界で、男たちから体で金を出させている。

 

「私は……そうなんだ。自分でも、気づかなかった」

 

 もう、援交はこれっきりにしよう。

 

 お金はいっぱい欲しい。

 エッチもたくさんする。

 普通に仕事をして、人並みに彼氏を作って。

 そのどちらを求めているのも、かつて悪いことをしてしまった、その過去から今に続いている他の誰でもない自分だ。

 

 そのかつてと違うのは、少し大人になったということだけ。

 貞操観念というものも知ったし、善悪の分別もついてきた。

 気付けば地に足は着いている。

 

「さて、別にあんたたちを助けるつもりで助けたわけじゃないんだけど、事実として救ってあげたんだから礼はしなさいよね」

 

 由佳は地面に座り込んだままのハルマキの前に仁王立ちし、微塵も悪びれることなく恩を着せてくる。

 

「うん……ありがとうね。お礼は考えておくよ、由佳ちゃん」

 

 助けてもらったから礼をする。

 それは当然だと思いながらも、ハルマキはどこか困惑していた。

 

 何をすればいいのかわからなかったからだ。

 いや、感謝の気持ちなんて、自分で考えて示せばいいだけなのだが。

 この由佳という少女が着せてくる恩が、まるで何かを求めている気がしなかった。

 

「そこに転がってる男にもよ。セックスが好きならヤらせてあげなさいよ」

「えっ……ああ、そうだね。考えとく」

 

 ハルマキは苦笑いだったが、口角はいつもより疲れなかった。

 こんなデリカシーの欠片もない悪態をつく少女を、ハルマキはほんの少しだけ、だからこそ、好きになったようだった。

 

「由佳。警察の人が来たから、もうお兄ちゃんと合流して帰るよ」

 

 美優は駆けつけてきた警官に軽く経緯を説明し、後のことは大人たちに任せた。

 事情聴取を受けるにしても、当事者はあくまでオフ会をしていた三人だ。

 美優たちは年齢の都合で、補導される場所と時間になっていることは少なからず問題にされたが、そこは美優の兄が迎えに来ることで見逃されることになった。

 

 兄が着いたのは、粗方の事務手続きが終わり、救急車が到着したのとほぼ同時刻だった。

 

「お前らな、店に行った時点で見つけてたならそこで連絡しろって。二人とも無事でよかったけど……」

 

 美優の兄はどこも無難にまとまった、なにとも形容し難い風体の男だったが、どこか『悪くない』と感じさせる好青年だった。

 

「ハルマキさんを見つけたのは由佳。私は由佳を追いかけるだけで精一杯だったんだから」

「そゆこと。私は通報しながらハルっちのことをつけてたんだけど、警察が来る前にヤバいことになったから止むなく出てっただけ。なんか男に逃げられるとマズそうだったからめっちゃ大事おおごとに言っといたわ」

「どうりで警官が4人もいたわけだな……」

 

 兄が駆けつけた時には事態はほとんど収束していたが、ただの喧嘩騒ぎにしては警察の対応がやや過敏だったようだった。

 

「なんにしても、もう危ないことはするなよ?」

「そもそもお兄ちゃんが首を突っ込んでなきゃ私も助ける気なんてなかったんだけど」

「私は美優とお兄さんがあいつらを助けるっていうから手伝ってやったまでよ」

 

 保護者代理の兄と、妹たち。

 分が悪いのはどうやら兄の方だった。

 

「……え、俺のせい?」

「そうだよ?」

「反省しなさいよね!」

「すみませんでした……」

 

 そもそも、この二人がハルマキたちを助けたのは、兄が一人で問題解決しようと飛び出したのが原因だった。

 

 気紛れでも遊び感覚でもない。

 美優と由佳はそれぞれに、鈴原と同じ運命を辿っていたかもしれない兄を心配して動いたのだ。

 

 そうさせたのが自分だと理解した兄は、頭を抱えて深く深く反省した。

 

「なんにしてもお兄ちゃんもお疲れ様だったね。ここまで走ってきて大変だったでしょ。さっさと帰ってシャワー浴びよ」

「ちょいちょい待ちなさい。私、お兄さんにはだいぶ“徳”を積んでいるんですけれども? パフェを奢るのは前提として、とーぜんご褒美があるはずよね?」

 

 由佳は兄に飛びついて、美優を横目で睨んだ。

 「今回ばかりは私の筋が通ってる」と無言の圧力をかける。

 端からそのつもりだった美優は殊更に反論をすることもなく……というわけにもいかなかったようで、「エッチ以上のスキンシップを許した覚えはないけど」と謎の言葉とともに由佳を引き剥がした。

 

「帰りの電車で決めるよ。とりあえずの候補日は三日後とかになるけど」

「じゃあ三日後で!! 一日空けときなさいよ!!」

「お、おう」

 

 由佳が勢いのままに畳み掛け、即座に予定は決められた。

 兄も口を挟む余地すらなかったが、悩む時間が無くなっただけ建設的だったとも言える。

 

 鈴原の搬送先は教えては貰えなかったが、救急隊員の見立てではそう何日も入院するほどの怪我ではないらしい。

 連絡が来たら見舞いに行けばいいと、兄はひとまずこの少女たちを家に帰すことを最優先にして帰路についた。

 

 賑やかな三人組が、公園を去っていく中。

 

 兄のポケットにしまわれていたスマホのバイブが、人知れずに鳴った。

 

 ディスプレイの電源がオンになり、密閉されたその空間で発光していたのは、一通のメッセージだった。

 

『大事な話があるので、明日、時間をください』

 



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類は友を呼ぶ

 

 鈴原の入院している病室は二人部屋だった。

 今は奥のベッドが空いていて、実質的な個室になっている。

 

「すまんな、ソトミチ。大した怪我じゃないのに見舞いに来てもらっちまって」

「大したことない割には大袈裟に包帯が巻かれてるな」

 

 鈴原の怪我は肋骨にヒビが入った程度で済んだようだったが、黒澤さんに蹴られた時の裂傷があちこちにあるため、処置内容だけを見ると重症患者のようだった。

 

「それと、オフ会があんなことになって悪かった。美優さんたちにも迷惑かけたみたいだし、ほんと、身勝手で最悪だったよ。申し訳ない」

「見逃してたらハルマキさんもどうなってたかわからないわけだし、そこまで気に病むこと無いよ。美優たちも警察を呼んだ上での対応だったみたいだから」

 

 鈴原がハルマキさんに誑かされて暴走したのは、ハルマキさんの黒澤さんから逃げたい想いに当てられた結果でもある。

 本人に悪意がなくて、事態が上手く纏まったから許すというのも軽率な考えだが、あそこまで拗れることなんて誰も予想できなかっただろう。

 なにより、美優たちが助けにきたのは俺の行動が直接原因なわけだからな。

 その責任まで押し付けるつもりはない。

 

 ちなみに、黒澤さんの出所後の対応については、いつだか俺が不遇を食らったときに出来た"ちょっとしたツテ"にお願いをしてあるので、この話に関係して鈴原の身に危険が及ぶことはほぼ無いと考えていい。

 

「そうそう、私らの件はお兄さんが悪いんであって、スズっちとハルっちを助けたのは都合によりだから。気にすることないのよ」

 

 俺の横で、鈴原の脚に巻かれた包帯を珍しそうに突くツインテール。

 俺は一人でこの病院に来たはずなんだけど。

 

「あえて今まで触れてこなかったんだが。なんでお前が居るんだ」

「ハルっちからあんたの動向を聞かせてもらったわけよ。謝礼としてね」

 

 由佳はピースサインを作って「にっしっし」と、してやったりの笑顔を俺に向ける。

 こいつは本格的に俺のことが好きなんじゃなかろうか。

 

「ごめんね、ソトミチくん。どうしても断れなくて、私が鈴原くんからこっそり……」

 

 当のハルマキさんも病院に来ていた。

 元々お見舞いには来るつもりで、タイミングを俺と合わせたらしい。

 あんな一件の後ではいきなり鈴原と二人きりは気まずいだろうし、緩衝材として居てほしいということなら俺も悪い気分はしない。

 

「おにーさんも私たちに心配をかけたわけだし、次は自分がお仕置きを受ける番なんじゃないの?」

「されるにしても美優にお願いするよ」

「あ、た、し、も、心配したの。だから2対1ね。美少女二人から同時にお仕置きされるとかほとんどご褒美なわけだし、もはや断る理由はないというか? あっ、それだとお仕置きにならないのか……。んーまあ、それはそれで考えればいいわよね!」

 

 由佳はテンション高めに俺の手を握ってくる。

 鈴原とハルマキさんの驚いた顔を、俺は直視することができなかった。

 

「誤解を招くから変な言い方はよしなさい」

「流れ作りよ、流れ作り。ハルっちはスズっちとお詫びエッチするんでしょ? なら、私たちが奥のベッドでおっぱじめるくらいの方が、切り出しやすいかなって」

「配慮の度が過ぎる……」

 

 段々と取り返しのつかない展開になってきた。

 鈴原は口をパクパクさせて、何かを言おうとして何も言えずにいる。

 

「由佳ちゃんとソトミチくんって、やっぱり付き合ってるの……?」

 

 ハルマキさんも由佳の発言には色々とツッコミを入れたそうな顔をしていたが、何よりも気になったのは俺との関係だったみたいだ。

 

「こいつとはほんとに何もないから」

「残念ながらそれが事実ね。お兄さんの恋人は美優だから」

 

 その言葉に、俺は咽せ返り、ハルマキさんは絶句し、鈴原は肋を押さえて悶絶する。

 まさかこんなところで暴露されるとは。

 

「そ、ソトミチ。由佳ちゃんの話はどこまでが本当なんだ? 美優って、あの、妹の美優さんだよな?」

「美優ちゃんって、私を助けてくれた、あの子なんだよね? ソトミチくんと妹さんって、義理の関係なの?」

「それについては、なんというかだな」

 

 俺はしばらくまごついていたが、他の三人が答えを待って黙り込んでしまったので、もはや誤魔化せる空気ではなかった。

 いずれは話さなければならなかったことだし、今の鈴原とハルマキさんなら教えても大騒ぎをされることはないと判断して、俺は美優との関係を洗いざらい白状することにした。

 

 ハルマキさんは当然として、鈴原には女性経験があること自体を隠していたので「お前は何を言っているんだ?」みたいな顔をされたが、途中で由佳が合いの手を入れて緊張した空気をぶち壊しにしてくれたので、思っていたよりはすんなり説明をすることができた。

 

「ソトミチも、なんだ。大変だったんだな。正直、理解はできないけど、わかったとだけ言っておくよ」

「ついでだから言っておくが山本さんとも一時期深い仲にあった」

「隠されてた悲しみとイキってた恥ずかしさで心がツラい」

「ちなみに私はこの男にレイプされて処女を奪われている」

「頼む現実世界の話をしてくれ……」

 

 鈴原はげっそりした顔で頭を抱える。

 

 話せば話すほどに酷い性生活だった。

 初体験の相手もその日にチャットで決まった妹の友人だったしな。

 

「ソトミチくん、『童貞ではない』とかなんとか言って、私よりよっぽど卑猥なことしてるし、倫理観の欠片もないよね?」

 

 ハルマキさんの発言は全く以て微塵の隙も無いほどに尤もだった。

 返す言葉が見当たらない。

 

「そんなにエッチしてるなら……私の誘いも乗ってくれればよかったのに……。まあ、今となっては私の諸々はバレてるし、ゴネるつもりもないけどさ。由佳ちゃんもダメなの? 可愛い子じゃない?」

「でしょ!? そうよね!? 私も強くそう思うわ!! あんたついでにこの女ともヤりなさいよ!」

「結託するな結託するな」

 

 昨日初めて顔を合わせたときには敵対していたはずなのに。

 ハルマキさんが諸々反省したから由佳も気を許してるんだろうが、こいつの利用できる物は何でも使う姿勢は本当に恐ろしいほど迷いが無いな。

 

「ソトミチ……お前そんなにモテる奴だったんだな……」 

「周りが不思議とそういう流れにしてくるんだよ。俺は何もしてないから」

 

 俺も全く努力をしてこなかったわけじゃないが、これほどまでに女の子から熱烈アピールを受けられるほど立派になったつもりはない。

 主に美優という存在が大きすぎるんだ。

 

「それよか、鈴原はいいのか? ハルマキさんのこと、本気で好きなんだろ? せっかくの出会いをこのまま終わりにするのは勿体無いと思うぞ」

「も、もちろん、本気で好きだ。今でもそれは変わらない。でも、この流れでオッケーを貰っても、弱味に付け込んでるみたいになるから……」

 

 鈴原はなかなかハルマキさんと目を合わせようとはしなかった。

 結果的にハルマキさんを助けたのが由佳たちで、自分は黒澤さんにボコボコにされただけという事実に負い目を感じているんだろう。

 

「付き合うかどうかはともかくとして、とりあえずセックスしとけば?」

 

 由佳はあっけからんと鈴原に提案する。

 

「お前はすぐそういう話にする……」

「だってハルっちがお詫びにセックスするって言ってるんだから。しときなさいよ。減るもんじゃなし」

 

 由佳は尤もらしくそう言い放つが、当のハルマキさん本人は「そんなこと言ってないんだけどなぁ」と困惑している。

 

「まあ、私としては、それでお詫びになるなら吝かではないんだけど。さっきも言った通り、私ってこういう女だからさ。鈴原くんは嫌かなーって」

 

 ハルマキさんが胸中を打ち明けると、鈴原は驚くと同時にソワソワし始めた。

 

 俺も美優ほどじゃないが、今の鈴原の心理状況ならわかる。

 ハルマキさんと付き合いたいし、付き合えなくてもセックスはしたい。

 それが鈴原の本音。

 

 だが、彼女を手に入れるために必死になっていると思われたくないプライドと、ハルマキさんとのセックスに興味があることを悟られたくない羞恥心が邪魔して、その本音を口にできずにいる。

 

「お、俺も、出来るだけ昔のことは、気にしないつもりだよ! でも、無かったことにするのはお互いのためにならないというか……だからまずは話し合いをだな……」

 

 鈴原はハルマキさんと微妙な距離感でギクシャクしている。

 さっきのプライド云々もあるけど、これはハルマキさんの過去のことも割り切れてないな。

 俺は女運に恵まれてるから気にならないだけで、鈴原の反応が普通なんだけど。

 

 そんな鈴原に、包帯などお構いなしにバシッと喝を入れたのは、やはりというか由佳だった。

 

「セックスに必要なのはイエスかノーよ! スズっちはハルっちとセックスしたいの! したくないの!」

「えっ、そ、そりゃ……したいけど……」

「ハルっちはスズっちとセックスしてもいいのよね!」

「ひとまずお礼ということならイエスでいいかな」

 

 由佳は二人の同意を取り付けた後、なぜか俺の方に振り返った。

 

「というわけで、お兄さんは私とエッチする?」

「なぜ俺に振ったのか知らんが個人的回答としてはノーだ」

「うぐっ……。つ、つまりはこういうことよ。ちなみに私は全面的にイエスだったわ」

 

 由佳は悔しそうに目を強く瞑る。

 なるほど美しい身の犠牲の仕方だった。

 

「とにかく、一発ヤればスズっちの悩みは無意味だったってわかるから。騙されたと思ってヤってみなさいよ」

「が、頑張るよ」

 

 そんな肩こり解消運動ぐらいの気軽さで言われても鈴原も困るだろうが。

 まあ、俺たちが残ってたんじゃ話が進まないだろうし、そろそろ由佳を連れてくか。

 ハルマキさんも鈴原との気まずさがだいぶ無くなっただろうしな。

 

「じゃあ、後は二人で話し合ってくれ。二人とも元気でよかったよ」

 

 そう言って俺は由佳と一緒に病院を出た。

 

 この病院までは電車で来ているので、実家の最寄り駅まで折り返しで帰ることになる。

 俺はそんな道すがら、廊下では人が多くて聞けなかったとある疑問を由佳にぶつけてみた。

 

「由佳はどうしてあそこまで鈴原にセックスをさせたかったんだ? いつもの世話焼きとは少し違うよな?」

 

 ハルマキさんを煽ってそこに便乗するつもりだったにしても、そんな程度で俺が由佳と喜んでセックスするような心変わりをするはずがない。

 

「お詫びやお礼にはエッチで返す。この常識をお兄さんに刷り込みたかった」

「それを言ったら台無しだな」

 

 結局はどこまでもエゴの塊だった。

 由佳の場合、なぜかそれが『らしさ』で片付けられてしまうんだよな。

 

「お兄さんはこれから家に帰るの?」

「人に会う用があるから、直接そっちに行くよ」

「ふーん。じゃあ私とは遊べないんだ」

 

 由佳はしれーっとした顔をして、しかし、その表情の奥には不満が窺えた。

 気持ちはわかるんだが、由佳とはあくまでも妹の友人としての関係でしか今はいられない。

 

「由佳と遊ぶこと自体は嫌ではないよ。でも、男女の仲って気持ちだけ割り切ってればいいものでもないと思うし。しばらくは美優だけを優先したいんだ。由佳だって俺と美優の関係は認めてるだろ?」

「それはそうだけど。これまでのお礼として構ってくれるぐらいいいじゃん」

 

 由佳は美優を諦めるとは言ったが、たしかに俺を諦めるとは言っていない。

 由佳が求めているのは健全なセックスとやらで、それはイコールでいちゃらぶエッチを指すようだから、俺に彼氏としての動きを求めるのもわかるけど。

 

 どうしてだか最近は、由佳の内に本気の想いを感じてしまう。

 ただの俺の思い上がりであればよいのだが、まだ美優との恋人としての仲も進展していないのに、これ以上のゴタゴタは遠慮したい。

 

「で、これからの用ってのは美優とのデートなの?」

「会うのは美優じゃないよ。できれば探らないでもらえると有り難い」

「あらそうなの。りょーかい」

 

 由佳は素直に承知してくれた。

 これは何かを企んでる風でもないし、信用しとくか。

 

『──大事な話があるので、明日、時間をください』

 

 昨日、事件の夜に俺に届いたメッセージ。

 端的に言えばそれは、遥からのものだった。

 

 まさか個人的に呼び出される日が来るとは思っていなかったが、美優のこととか話さなきゃならないことはいくつもあったんだよな。

 ある意味では俺が寝取ったようなものだし、場合によっては謝っておかないと。

 

 会う場所は駅近くのデパートにあるイタリアンレストラン。

 内装はオシャレで落ち着いたところだが、料理はファミレスとそう変わらない値段設定になっている。

 

 お店のメニュー表と一体になった看板の前で、複数の人が誰かを立ち待つ中。

 白いシャツが目立つ、ちょっぴり大人びたファッションに身を包んだ眩しいくらいの美少女がいて、通りゆく人々の視線を吸い寄せていた。

 

 一体どんな男を待っているのかと、誰もがその相手を気にしていただろう。

 人によっては、そんな考えを巡らせるだけで、心に悔しさが滲んだりもしたはずだ。

 そんな羨望の相手が、まさかの俺なわけだが。

 

 やはりというか現実味の無い話だよな。

 しかし、この関係はあくまでも、美優という絶対的美少女権力のおこぼれであることを忘れてはならない。

 

 スマホを弄って暇を持て余す遥に、俺は正面から気配を伺わせて、パッと顔を上げた遥と目を合わせる。

 由佳より短い髪をふわっと二つ結びにしたツーサイドアップ。

 高級ドールのような肌の質感とクリッとした潤やかな目は、しかしそこに確かな温度を宿すことで人としての形を完成させている。

 どれだけ美優と親しい関係になっても、遥の可愛さだけは変わらなかった。

 

「昨日ぶりですね、お兄さん」

「まさか呼び出されるとは思ってなかったよ。遅れて悪かったな」

「お気になさらず。入りましょうか」

 

 二人で入店して、遥の要望で店の奥の席に座ることになった。

 お店に入る直前に遥が俺の背後を見ていたような気がしたのだが、まさか由佳のやつがついてきてたりしないだろうな。

 

「お兄さんには2つほど、会って話しておきたいことがあって。片方はついでみたいなものなんですけどね」

 

 席に着いてすぐ、スープとバゲットのセットを注文してから、遥は早速話を切り出した。

 俺もそれほどお腹が空いていないので同じものを頼んである。

 

「メインの話って、やっぱり美優のことか?」

「残念。そっちがついでです」

「ああ、そうなのか? ってなると……」

「由佳のことについてですよ」

 

 遥が発した言葉に、俺は驚くことはなかった。

 これまでの経緯からして、由佳を更生する美優の計画に、遥も関わっていると思ったからだ。

 

 遥はまた俺の背後にある店の入口をしばらく眺めてから、俺の目を見て話を続ける。

 

「私がカラオケでお兄さんに話したことを覚えてますか?」

「由佳と話すときは過去の印象を思い出せってやつか?」

「そうです。それの真意をお伝えしようと思って」

 

 昨日の話の真意か。

 たしかに、俺も俺なりに考えはしたが、由佳と過去に話したときの印象を思い出せと言われても、いまいちピンと来なかったんだよな。

 

「お兄さんにとって、由佳のイメージってどんなものですか?」

「アホっぽいとか、執念深いとかだな。美優のことが好き過ぎて、それが原因で性格が歪んで、気を引きたいがためにイタズラをして空回りしてる……感じかな」

 

 それが第一印象からの由佳のイメージ。

 しかし、このところの由佳の言動を振り返ると、逆な部分も多い。

 

 勉強はできないのかもしれないが、決してどうしようもない馬鹿というわけでもないみたいだ。

 悪事のためなら記憶力も相当なものだし、あるいは興味のあることにだけ頭が働くタイプなのか、あの馬鹿さ加減も美優の気を引くための演技なのか。

 

 そして、その美優への好意だって、このところはサッパリと吹っ切れて、俺への興味に変わっている。

 しかもその興味も、美優に対して抱いていたほどの執着は感じない。

 

「最近だと、サバサバした姉御肌というか、意外と良いヤツって感じもするかな」

 

 美優のお仕置きで真人間になりかけているのかもしれない。

 それくらい、由佳の印象はコロコロと変わっている。

 

 バカかと思えば賢い。かと思えばやはりアホ。

 自己中かと思えば他人想いで、しかし、言動はどこまでも身勝手。

 一途かと思えば気の変わり様も激しく、それでも執念は人一倍に強い。

 

「まあ、なんだ。頑張り屋なんだと思うよ。結構、健気で可愛げがないでもないし」

 

 俺がそうやって言葉を続けていると、遥がクスッと笑った。

 

「好きになっちゃいましたか」

「あ、ああ、いや! もちろん、これまでやってきたイタズラは許容できるレベルじゃないし、好きとかそんなんじゃなくて! あくまで、これは相対的な評価であってだな……」

「そこまで美優に気を使わなくても大丈夫ですよ。期待通りの回答ですし」

 

 遥は満足げにそう言った。

 どうやら由佳をよく知る人はみんな似たような印象を持つようだ。

 

「由佳は事実としてまあアホなんですが」

 

 やはりそうなのか。

 

「問題なのは、人間の記憶の構造なんです。お兄さんは、由佳が美優のことを好きだと仰いましたよね?」

「そうだよ。あいつほど美優のことが好きな奴もいないだろ」

 

 遥がどれくらいお仕置きの内容を知っているかはわからないが、由佳の美優への執着は恐ろしいほどだった。

 あれはもはや好意などというレベルのものではなく、一種の崇拝に近い愛の形とも考えられる。

 

 異常なほどの慕情。

 理解のできない恋。

 

 ……あれを恋と表現するのはしっくりこないけど。

 

「本当に由佳が美優のことを好きだったと思いますか?」

「えっ……ああ……。それは、思うよ。好きじゃなきゃ、やらないようなこともたくさんあったし……」

 

 由佳が美優にイタズラをしてきたのは、美優を笑顔にしたくて、その気を引きたくて、そういう子供らしい純粋な好意で行動をしてきたからだ。

 結果的には、由佳は美優のことを好きになり過ぎて、あそこまで性格がひん曲がってしまったわけだが。

 さっきはふとした迷いが生じたけど、少なくとも由佳が美優のことを好きなのは間違いがないはずだ。

 

「本当にそう思いますか?」

 

 遥は俺を見つめるでもなく、そのぱっちりとした目を瞬かせながら、なおも同じ問いを重ねてくる。

 

「好き……なんじゃないのか……?」

「本当に?」

 

 遥は小首をかしげて、三度の確認。

 語尾が甘え声みたいに尻上がりになって、危うく俺の胸がトキメキそうになってしまったが、今はそんな不埒な事に惑わされている場合ではない。

 これだけ問い詰められるということは、ここが重要なポイントということなんだよな。

 

 つまりは、ここに過去の印象とやらが関係しているわけだ。

 

「……俺が初めて由佳に会ったのは、遥も居たときだよ。お仕置きを兼ねた勉強会をやってたやつ。そのときは、まあ、由佳が酷いイタズラをするやつだってことしかわからなかったけど」

 

 初めて由佳と会った時は、美優への好意はまだ感じなかった。

 イタズラにしても、正直なところ引くぐらいやり過ぎな事実が明らかになって、ロクでもない馬鹿だなってのが第一印象だった。

 

「例の、遥と美優の裸を撮られた事件があっただろ? 俺はあの前に、美優の弱点を教えてくれって由佳にせがまれてたんだ。もちろん教えるわけなんてなかったけど。その、弱点を知りたい理由が、美優のことを好きだったからで……」

 

 そこまで言いかけて、俺は急に自分の説明に自信を失った。

 

 美優に酷いイタズラを散々してきて、身勝手な理由で気持ちをぶつけて、その上に弱点を聞き出してまで美優を隷属させようとした奴が、どうして美優のことを好きだなんて判断になったんだっけ。

 

 由佳が好きだと言っていたから?

 俺はそれをどうやって納得した?

 そもそも、あいつが美優のことを好きだなんて言ったのは、いつの話だ?

 

 イタズラをするのは好意の裏返しだという認識が俺の脳内には出来上がっている。

 きっとそれは俺だけじゃなく、ドラマや漫画を嗜む人なら、誰だってその方程式を持っているはずだ。

 だから、弱点を聞き出してまでイタズラをしようとした由佳には、よっぽどの想いがあるのだろうと推測をした。

 なにより、イタズラの目的が美優を笑顔にすることだったのだから、それを好きの気持ちと解釈することはなんら不自然じゃない。

 

 そうやって、今の時点から、事実だけをなぞって過去を振り返ると、由佳は純粋に美優を好きだったように思えてしまう。

 

 だが、よくよく考えてみると、そうだ。

 人の物を無断で使ったり、裸の画像で脅したりすることが、純粋な「好き」な気持ちと結びつくなんて、そんなの普通じゃない。

 仮に笑顔にしたかったのが本意だったとして、それが恋愛的な想いの根拠になるだろうか。

 

 そう、これだ。

 思い出した。

 俺は由佳と話してるとき、同じことを考えていたはずだ。

 

 あいつの発言は支離滅裂で理解不能。

 いつだって由佳の言葉にあるのは、尤もらしい論理とそれに支えられる謎の説得力だけ。

 

 整合なんて全く取れていないんだ。

 だから、俺はいつだって由佳の発言に疑問を抱いていたはずじゃないか。

 

 今日だってそうだ。

 あいつは病院で滅茶苦茶なことを言って、でも、俺はもうそれが正しい説得の仕方だったと思えるようになってしまっている。

 それが由佳らしさだから。

 

 それと同じように、いつの間に由佳の「好き」を、自然なものとして受け入れてしまっていた。

 

 そのときの印象を思い出さないと由佳に丸め込まれる。

 遥が俺に忠告した言葉の意味は、こういうことだったのか。

 

「由佳は美優のこと、好きなんかじゃなかったのか……」

「あ、いえ。好きなのは事実ですよ」

「え? あれ? どっちなんだ?」

「要するにですね。認識が間違っているのは結果ではなくて、因果関係なんですよ」

 

 遥は一呼吸に食事を挟んで、再び説明を続ける。

 

「イタズラをするのは美優を好きだから、というのが間違いなんです。ここを勘違いされたままだと、お兄さんが正解に辿り着けないだろうと思ったので、こうして助言をさせてもらいました」

 

 なんともまあ回りくどい説明をするものだ。

 そこまでして、由佳の悩みとやらは俺が気づいてやらなければならないものなのか。

 

「お兄さんと同じで、私も美優も、由佳のことは好きなんですよ。結論を言えば、悪い子ではないので。ああなったのが美優のせいだから、美優は責任を感じてお兄さんに頼み込んでいる。でも、自分で助言をすると踏み込みすぎてしまうから、私をお助け役として立てた。そういうことです」

「そうか。まあ、俺も俺で、美優に振り回されるのは慣れてるし、別に構わないけど」

 

 由佳のイタズラが悪化したのは美優の影響か。

 美優は責任を背負い込むととことんまで清算しようとするからな。

 半端な解決方法じゃ絶対に許さないだろう。

 

 自力で解決できることならもっとスマートに終わらせるんだろうが、自分自身が原因とあっては他人に頼らざるを得ないよな。

 俺だって美優には返しきれないほどの恩義があるわけだし、投げ出すつもりは毛頭ない。

 

 それに、さっきは思わず取り繕ってしまったが。

 

 俺も由佳のことは好きだ。

 

「もうちょっと情報をお伝えしておくとですね、由佳は美優以外にもかなりの人数に告白をしてるんですよ」

「また混乱する情報を……。にしたって、意外だな。美優にしか靡かないと思ってたのに」

「お兄さんも、その一人ですよ?」

「まあ、そうだけどさ」

 

 由佳が俺にイチャラブセックスを要求してくるのは、俺が美優の血縁者だから。

 

 そう思ってたけど、それはあくまでも『美優の義姉になりたいがために俺に精子を求めていた』頃の理由であって、今となってはそんなもの、由佳と知り合ったきっかけでしかない。

 

 そもそも、美優の義姉になりたいから俺とセックスしたいって提案自体が滅茶苦茶だったわけだが、それ以外にも由佳の言葉のインパクトが強すぎて、俺が自分で過去の出来事を納得できる形に変えて記憶していた。

 

 由佳の願望はいつの間にかゴム有りでいいからイチャラブセックスがしたいという願いに変わっていて、初めてその要望を聞いたときは俺も強い違和感を覚えたはずなのに、もうそんなことは気にならなくなっている。

 

 そうして俺が由佳に抱く印象は『俺に気があるそこそこ可愛くていい奴』になっていた。

 

 とんでもない洗脳技術だったな。

 無理が通れば道理が引っ込むをここまで体現したやつもいない。

 

 意図的なものだったのか天然の考えだったのか。

 どっちにしても恐ろしいやつだ。

 

「……って、待てよ? あいつ、性関係はほとんど未経験だって言ってたけど。まさか告白は全敗?」

「そのまさかです。あの子、あそこまで拗れたのは美優のせいですが、イタズラ好きで生意気なのは昔からなので。なんというか、『由佳と付き合うと悪い噂が立ちそう』というマイナスイメージが、致命的な障害になってしまっているわけですね」

「それはなんとも……もう学校が変わるのを待つしか無いな……」

 

 俺もクラスに由佳みたいなのがいたら、どれだけ好意を寄せられても素直に付き合おうとは言えないからな。

 思春期の小中学生が首を縦に振るはずがない。

 

「さて、由佳の話はここまでです。後はお兄さんが自然体で接してくれればすぐに解決しますので。美優に気を遣って邪険にしたらダメですよ?」

「わかったよ。それで、美優のことについてはどういう話なんだ?」

「こちらは端的に言いますね。美優とエッチする許可を貰いたい、という話です」

 

 遥は水の入ったコップに口をつけ、澄まし顔でそう言った。

 

 またぶっ込んで来たな。

 

「答えを出す前に……今更なんだが、美優と遥って友達以上ビジネスパートナー以下って認識でいいのか?」

「ええ、それで構いません。誤解のないように補足しておくと、美優はあくまでも可愛い服を楽しみたいだけであって、ただ、私の服を使うにはエッチをしてもらうことが前提となるので、そうなってもいいですかという確認をしたいわけです」

 

 遥は銀行の受付のような淡々とした口調でそう述べた。

 この手の話題になると、この子たちはみんな堂々と話すよな。

 

 そういえば、美優は服のレンタル一ヶ月でエッチが何回とか、そういう契約で遥の服を借りてるんだっけか。

 

「エッチ以外を対価にする道はないのか」

「ないですね」

 

 食い気味で強めの即答だった。

 

「由佳とは違って、私は100パーセント性的に美優を愛してるので、エッチ以外はありえません」

「それはそれで兄としては複雑なんだが……」

 

 そうだった。

 いつもクールで口調が丁寧だから忘れてしまうが、遥もあの中学生グループの一員なんだよな。

 健全なはずがなかった。

 

「とはいえ、以前にもお話した通り、私は美優とお兄さんの関係は認めています。これはあくまでも、まだ自分では私が持っているレベルの服を作れない美優が、一時凌ぎのためにもう少し関係を続けたいと悩んでいるから伺っただけのことです」

「ああ、なるほど」

 

 ビジネスパートナーってことは、美優に益があるからこそ続ける関係なわけだからな。

 その理由が『自分では入手できない服が欲しい』であるならば、将来的にそこさえ解消すれば普通の友達に戻れるわけか。

 

「しかし、一時的とはいえ身売りは身売り。そんな関係を続けながらお兄さんだけに誠意を求めるのは、筋が通らないと。そんな感じに美優が悩んでいたので、いっそお兄さんの言質を取ってしまうことにしました」

 

 そういうことだったか。

 美優らしい悩みではある。

 

 俺以外の人間と性行為に及ぶことは義理に反するが、美優が俺を大切に想ってくれているのは、俺が美優の趣味を認めているからでもあるわけで。

 

 そんなジレンマを美優は抱えていたわけか。

 

 俺としては、幼い頃からの趣味と、恋人としての俺を、天秤にかけてくれたというそれだけで嬉しく思えるんだけどな。

 

「美優が本気で好きな趣味なら自由に楽しんでもらいたい。それがいくらか性的なものでも、遥ならギリギリ許せるというか。元々あった関係だしな」

「そうですか。ではそうお伝えしておきますね」

「ああ、よろしく」

 

 会話が終わる頃にはお互いに食事は終わっていて、俺たちはすぐに会計を済ませて店を出た。

 

 そのとき、遥はまた店内のどこかに視線をやっていて、どう考えても誰かを気にしているような素振りだった。

 

「知り合いでもいるのか?」

「いえ、そういうわけでは」

 

 そう答えるわりに、遥の足取りは緩やかで、後ろ髪を引かれているようだった。

 

 そうしてまたお店の方に振り向いたところで、今度はピクッと反応してすぐに前を向いた。

 

 で、その次はなぜか俺をジーッと見つめてくる。

 

「本屋に付き合ってもらってもいいですか?」

「本屋? 俺も一緒に? 別にいいけど」

 

 そんなこんなで、俺はデパート内にある本屋に遥と二人で移動した。

 

 漫画や小説から、参考書、雑誌に至るまで様々なジャンルの本が置いてあり、遥が雑誌コーナーに足を運んだので俺も横に立ち並んだ。

 

 表紙が見えるように置くタイプの本棚が四列設置されていて、その真ん中あたりにあるファッション誌を遥は手に取る。

 本棚の高さは女性の平均身長くらいの高さに揃えられており、本全体がパッと目につきやすい。

 

 遥は俺の横で、グラビアアイドルの水着の特集(わりと健全なやつ)を読んでいる。

 水着と女体とどちらが目的なのだろうか。

 

「後ろの棚にロリータ系の雑誌もあるけど、そっちは読まないのか?」

 

 遥なら「すでに読んでます」と答える可能性もなくはないが。

 

「美優からも話を聞いていると思いますが、うちはコンセプトものが多いので、あまり正統派のデザインには拘らないんですよ。ときにはこうして肌色を眺めている方が、いんすぴれーしょんが刺激されるのです……」

 

 なるほど。

 これは女体を目的にグラビアを読んでいるパターンだな。

 なんとなく口調でわかる。

 

 にしても、これは意外なんだよな。

 遥はロリータ趣味のわりに、発育の良い女の子が好みのようだ。

 あるいは美優を特別だと言った意味も、主に胸のあたりにあるのかもしれない。

 お互いに外見はドストライクなんだろうな。

 

 さて、俺はどの雑誌を読もうか。

 

「お兄さん、後ろの棚に移動しましょう」

 

 雑誌を手に取って何分もしないうちに、遥は本棚に雑誌を戻して俺を押した。

 やはりロリータファッション誌に興味があるようで、俺はなされるがままに移動する。

 

 これまでと違って遥は早足で、たどり着いた先にはヒラヒラした服が目立つファッション雑誌が置いてあった。

 そして、その隣に積まれていた雑貨特集のゾーンには、顔全体が隠れるくらいに本を高く上げて雑誌を読んでいる不審な人物の姿があった。

 

 スラッと伸びた脚をショートパンツに通し、どう考えてもその豊満さのせいでお腹が見えてしまっているとしか思えない胸部でシャツを押し上げている、瑞々しい女性。

 

 これほどまでにエロい身体つきをしている女の人なんて、俺には失礼ながら一人しか思い当たる人物はいなかった。

 

「山本さん?」

 

 俺が声を掛けると、山本さんは目の下ギリギリまで雑誌を下げて、目が合った瞬間に慌てて雑誌を棚に置いた。

 

「ソ、ソトミチくん! 奇遇だね、こんなところで」

 

 山本さんは固い笑顔で挨拶をする。

 

「ああ、俺もびっくりだよ。久しぶり……でもないか」

 

 あんな出来事の後で連絡もせずにばったりだから、俺としても気まずくはある。

 

「やはりこの方でしたか……」

 

 遥が山本さんに熱い視線を送っていた。

 

 表情にはまだ顕れていないが、俺と居たときとは打って変わって目が輝いている。

 

「えーっと……ソトミチくんの、お連れさん。初めまして。山本です」

「初めまして、山本さん。私のことは気軽に遥と呼んでください。で、その、ところでなのですが」

 

 遥は弾むようにステップして近くの雑誌を手に取り、その中の見開きを1ページ開いて山本さんに見せた。

 

「こういう服に興味はありませんか!」

 

 言わずもがなフリル衣装のロリータ服をオススメしていた。

 

 まさかの勧誘である。

 

 それに対し、山本さんはそれをしげしげと眺めてから、ハッとしたように顔を上げた。

 

「興味、あるかも……!」

 

 たぶん弟を女装させるためだろうなぁ。

 

「では、ぜひぜひ連絡先を交換しましょう」

 

 遥がスマホを取り出すと、ひとまずは俺を後回しにしたい山本さんは、それに合わせてスマホを手にした。

 

 それから数秒後。

 

 俺のスマホのバイブが鳴って、俺はディスプレイを確認する。

 

 メッセージが一件。

 またしても遥からだった。

 

 そこには文字の類は一切なく。

 

 ただ、サムズアップしている絵文字だけが送られてきている。

 

 どういう意味かはさっぱりわからないが。

 

 とにかく。

 

 目の前では、絵に描いたような美少女が二人、キャッキャウフフしているのであった。

 



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山本さん

 

 デパートを歩く俺の先には、二人の美少女がいる。

 

 妹の友人である遥と、俺のクラスメイトの山本さんだ。

 二人はそれぞれの学校で一番の美少女で、その洗練された造形の完成度たるや、さながら地上に降り立ったヴィーナスとエロスである。

 

 二人は雑貨屋に置かれたアイテムを手当たり次第に物色して、微妙に使い所のわからない猫型のしゃもじなどを眺め歩いていた。

 可愛い雑貨を見つけては戯れ合って、やや過剰なくらいの笑顔を互いに振り撒き、とても初対面とは思えないほど仲睦まじい様子だった。

 

「……それで、お兄さんはいつまでそうしているんですか?」

 

 数歩引いたところにいる俺に声を掛けてくれたのは遥だった。

 遥の大好きなおっぱいの大きい美人さんがすぐそばにいるのだから、もっと堪能していればいいものを。

 

「二人が楽しそうにしてるのを眺めてただけだよ」

 

 一人で後ろを付いていくことは苦痛ではない。

 この二人が美人だからというのもあるが、美優が可愛い物好きなせいもあって、最近では俺もその手の雑貨などに興味が湧いてきたからだ。

 

 山本さんにしたって、まだ気まずい間柄の俺と話すよりは、遥とお喋りしていたほうが気楽だろうしな。

 

 ただ、山本さんがどうしてあの場にいたのかは気になる。

 そもそも、今こうしてデパートを一緒に回っているのは、どうしてなんだっけ。

 

 山本さんはショートパンツにミニシャツという、それだけで刺激が過ぎる服装をしていて、珍しく片側の髪を編み込んだその耳元に、涙滴形の青いピアスを光らせている。

 俺にはそれが最寄駅のデパートに行くための格好には到底思えないのだが、まさか本当は別の予定があって、俺と遥をつけるために予定をキャンセルしたなんてことはないよな。

 

 ……まさか、な。

 

「お兄さんも料理はするんですよね?」

 

 遥が調理用の便利グッズを並べた棚を前に尋ねてくる。

 そこでようやく、山本さんはチラリと俺を視界に入れてくれた。

 

「ソトミチくんの料理は美味しいよ。なにより手際がいいんだ」

 

 そう語る山本さんはなぜか得意げで、褒めている本人が自分のことにように喜んでいた。

 もしかしたら山本さんは人を褒めることそのものが好きなのかもしれない。

 

「器具がある程度揃ってればな。このフードスライサーなんかはかなり便利だし、うちでもよく使ってるよ」

 

 雑貨屋には家で見たことのある品もいくつか並んでいた。

 美優はこういう場所で買ってきてたんだな。

 雑貨屋って店の雰囲気がファンシーだから男一人だと入りづらいし、下手したら彼女のいない男にとってはラブホテルよりも縁のない場所かもしれない。

 

「美優に教えてもらったんですか?」

「だいたいそんな感じだな。俺も料理の経験だけは長くて、変な作り方をするたびに美優にどやされてただけなんだが」

 

 料理に関しては、美優と一緒に上手くなってきたという方が正しい。

 まだ美優がフライパンもロクに持てない頃から家事全般をやらされてきたんだ。

 当時は面倒でしかたなかったけど、こうして身にはなったわけだし、今では色んなことを任せてくれた両親に感謝すらしている。

 

「なるほど。それならさぞ美味しいんでしょうね」

 

 遥は深く考えることもせず納得する。

 美優に対する信頼だけは厚いな。

 

「うんうん。ソトミチくんの優しさが沁みた良い味なんだよ。私もお姉ちゃんやってるからわかるんだ。相手の事を想って作ると上手になるの」

「そこまでハードルを上げなくても。でもまあ、弟二人の世話をしてる山本さんがそれを言うとわかる気がするな」

「愛情は捧げる相手の数だけ増えるものなのです」

 

 山本さんの久しぶりに見たホクホク顔。

 弟の話をしているとき、山本さんはいつも幸せそうにしている。

 家族が好きなんだろうな。

 いいことだ。

 

「山本さんには弟がいるんですか?」

「小学生が二人ね。下の子が赤ちゃんのときから私が世話してるんだよ」

 

 山本さんは胸の上に両手をトンと乗せて、祈るようにその慈愛に満ちた表情を覗かせた。

 こんな美人で優しいお姉ちゃんに育ててもらえるなんて。

 生まれた瞬間から勝ち組の人生とは羨ましい限りだ。

 

「弟を育てた姉の味ですか。つまり、お兄さんの料理は美優を育てた兄の味というわけですね……興味アリです」

「私もソトミチくんの味が恋しいなー」

 

 遥と山本さんは妙なテンションの高さで気を同調させる。

 なんだか二人の雰囲気がいつもと違うような。

 気のせいかな。

 

「ふーむ……それなら……」

 

 考え込む遥。

 この話の流れなら、「みんなでお料理会でもしませんか?」と提案して、俺を楔くさびに山本さんと美優を釣り出そうとするだろうと、そう思ったのだが。

 

「今度、二人でご飯でも作りませんか?」

 

 あえて“二人で”と人数を区切った遥。

 その顔は、俺の方を向いていた。

 

「お兄さん」

 

 俺は何に誘われたのかわからず、遥から尋ねられた後もしばらくリアクションを取れずにいた。

 

「え、俺? と、二人で?」

 

 美優も呼んでということならまだわかる。

 でも、この発言から読み取れるのは、遥と俺が二人きりでキッチンに立つという意味だけだ。

 なぜ付き合いの長い美優でも、好みの山本さんでもなく、俺なのか。

 

「美優に教え込まれた者同士、一緒に料理をしたら楽しいかなって思いまして」

 

 両手を後ろに組んだ遥は、ふわっとサイドテールを弾ませて、これまで見たことのない少女らしい笑みでそんな提案をしてきた。

 

「山本さんはいなくていいのか?」

「ええ、まあ。あの方はどうやら、ライバルのようなので」

 

 遥は意味ありげに横目で山本さんを睨む。

 

 ライバルって何のことなんだ。

 山本さんと二人で雑貨を眺め歩いていたときはあれだけ楽しそうにしていたのに。

 俺に聞こえないところで腹の探り合いでもしていたのだろうか。

 

 そして、当の山本さんといえば、そんな遥の言葉を聞いてムッとしている。

 こちらも何に対してムッとしているのかわからないまま、山本さんは急に距離を詰めてきて俺の手を取った。

 

「だったら私も。ソトミチくんと、二人でご飯を作る権利ぐらいは、あるよね」

 

 勢いがあったのは最初だけで、次第に尻すぼみになっていく山本さんの声。

 俺が振ったときのあのやり取りを思い出してか、歯切れは悪かった。

 

 えっ、なにこの展開。

 唐突に美少女ハーレムが始まったんだが。

 

「山本さんはダメですよ。お兄さんには美優がいるのに、女として仲良くしようとするのはいただけません」

「わ、私はあくまで、友達として仲良くしたいだけで……。それに、ソトミチくんを狙うの禁止ってことなら、遥ちゃんも同じなんじゃないの?」

「私は美優にもお兄さんにも貸しがありますから。多少いちゃつくぐらいなら許されます」

「そ、そういう、問題じゃなくない? 好きの気持ちって……」

 

 なぜか始まった二人の舌戦。

 発言の意図が欠片も理解できなくて口を挟むこともできない。

 

 ここで一番の謎なのが、遥が俺のことを好きってことになっているところだ。

 それだけは絶対にあり得ないだろ。

 生粋のレズだぞこの子は。

 

「私はちょっとお手洗いに失礼しますが、お兄さんをどこかに連れて行ったりしないでくださいね?」

 

 遥は山本さんの感情をかき乱すだけかき乱して、近くにあったトイレへと行ってしまった。

 

 またわけのわからない展開になったものだが、さすがにここまで露骨だと、もう俺にも察せるところがある。

 

 これも何かの狙いがあってのことなんだよな。

 絶対にそうに違いない。

 俺はこの手の展開には詳しいんだ。

 

「ソトミチくんってさ、どうしてそう可愛い女の子にばっかり好かれるんだろうね」

 

 大層ご不満な様子の山本さんは、エスカレーター近くのベンチに腰を下ろしてぷくっと頬を膨らませていた。

 美優を選ぶと言った俺が、容姿だけなら自分と同じかそれ以上に良い他の女の子と仲良くしているのは、山本さんとしても面白くないのだろう。

 

 俺の周りに可愛い女の子が多いという不可解な事実は、俺にとっても人生最大の謎なので理由を説明することはできない。

 あらゆる出会いのきっかけが美優であることは間違いないけど。

 

「好かれてるというより、巻き込まれているというか……」

 

 美優にも山本さんにもそれぞれに悩みがあって、俺はその解決のために選んでもらっただけ。

 努力してきたことも少なからずあるけど、努力できる環境にこの身を置かせてもらったことへの感謝は、決して忘れてはならない。

 

「そうなの? 美優ちゃんからは、色んな女の子から求められてるって聞いてるよ?」

「それは…………間違いではないんだが……深い事情があってだな……」

 

 美優のクラスメイトの貞操感の緩さは、どう説明したらいいんだろうな。

 JC組の性の奔放さに加えて、俺が美優の兄であるというステータスが合わさり、美優の手腕によって改善された俺に対して性的な求愛が凄まじいことになっているわけだが。

 口にするのも憚られる内容が多すぎて上手く話せる気がしない。

 ハルマキさんも人柄が人柄だったしな。

 

「最初は好きのふりだったのかもしれないけどさ」

 

 山本さんはベンチの上で背伸びをすると、ぐいっと身を乗り出してきた。

 

「今ではみんな、本気の好きかもしれないよ」

 

 山本さんはカラッと明るい顔になり、ハニカミながらそんなことを口にした。

 こんな明白な好意を受け取るわけにはいかないのに。

 こうも嬉しそうに話されると、こっちまで嬉しくなってしまう。

 

「ソトミチくんからは女を惑わせる悪いフェロモンでも出てるのかな」

 

 気恥ずかしさを誤魔化すためなのか、山本さんはベンチからすくっと立ち上がって俺と腕を組んできた。

 

 この容赦のない恋人ムーブ。

 簡単には振りほどけそうにない。

 

「い、一応聞いておくけど、これはどういう意味のスキンシップなのかな」

「決まってるでしょ。ソトミチくんともっと仲良しでいたい気持ちの表明です」

 

 少し懐かしさを感じるくらいの、山本さんのニッコリした笑顔。

 この表情を取り戻せたのは喜ばしい限りだけど、恋人のいる男としての立場をどう守るべきなのか、非常に悩ましいところだ。

 

「仲良くしたいのは俺も同じだよ。ただ、これはちょっと恋人感が強すぎないかな」

「へーきへーき。これぐらいは、まだ、大丈夫の範囲……」

 

 山本さんは初めの方だけ調子良さそうにギュッと胸を押し付けてはきたものの。

 そこから先は語気も弱くなり、体の密着具合もなくなっていった。

 

「み、みんなだってやってるんだし……私だって……これくらい……」

 

 山本さんは俺にくっ付いたり離れたりして、見えない敵と必死に戦っている。

 なにをそんなに頑張ってるのかな。

 

「これはただの挨拶。挨拶なの。そう、だから、こうしておっぱいを押し付けるくらい……欧米諸国では……ごく一般的な……」

 

 どこかお茶目な山本さんに癒されつつ、欧米諸国が深刻な風評被害に晒される中、俺はしばらく成り行きを見守っていた。

 

 しかし、その見えない何かは残念ながら山本さんでは敵う相手ではなかったようで。

 最後はピンと腕を突っ張って、俺から距離を取り、薄っすらと悔し涙を溜めて謝罪を始めた。

 

「ううっ……やっぱりダメ……! 恋人がいる人にこんなことするなんて…………ごめんなさい美優ちゃんソトミチくん……!」

「い、いいよ、別に。これぐらいじゃ俺も美優も怒ったりはしないから」

 

 どうやら遥の挑発を受けて不貞行為に走ろうとしたようだが、腕を組む段階で挫折してしまったようだ。

 由佳にもこれぐらいの貞操観念があればいいのに。

 

「そうやって相手を思い遣れるところは山本さんの長所なんだから。無理に変わろうとすることはないよ」

「それは、自分でもわかってるつもりなんだけど」

 

 山本さんベンチに座りなおし、大きなため息をついた。

 

「人をこんなに羨ましいと思ったの、初めてで。遥ちゃんを見てるとモヤモヤしてくるこの気持ちを、どうしたらいいのかわからないの」

 

 山本さんはキュッと口を結んで、髪を編み込んで露出した耳輪をそっと指でなぞった。

 

 どうしてそこまで遥を意識するのだろうか。

 俺は遥とはレストランで食事をしただけで、後はお喋りをしながらデパートを回っていただけなのに。

 

「なんで遥がそんなに羨ましいんだ?」

「だって、好きな人とイチャイチャできるのは、羨ましいものでしょ? ソトミチくんは、その、私にとって、特別な人なわけだし……」

 

 ほんのりと羞恥心に頬を赤く染めながら、そう嘆く山本さんの言葉に、俺は自分が抱えていた違和感にようやく答えを出すことができた。

 

「遥が俺とイチャつくのを楽しんでるって思ってるみたいだけど。あの子が好きなのは同性だけだ。だから、俺のことは別に好きじゃないと思うぞ?」

 

 山本さんは俺と遥が本気のデートをしていると思い込んでいるようだ。

 

 遥がレズだと知っている俺からすれば、今日のやりとりに情報共有以上の意味なんて無い。

 だが、遥の謎の挑発によって、遥が俺に好意を寄せているのだと山本さんが勘違いしてしまったのであれば、遥が貸しがあることに託かこつけて俺とイチャついているのだと考えるのも無理はない。

 

 美優と腹を割って話したことのある山本さんなら、遥が女の子しか愛せないことを知っているものだと思ったんだがな。

 

 でもまあ、これで山本さんも事実を知ったわけだし、だいぶ気は軽くなっただろう。

 

「私はお兄さんのこと好きですよ?」

 

 と、完全に俺が油断していたところに、いつの間にかトイレから戻ってきていた遥がまさかの発言をぶつけてきた。

 

「うぇ? あ、うん? そうなの?」

 

 あまりに予想外の回答が飛んできて、俺は思わず変な声が出てしまった。

 

 君は女の子しか愛せないんじゃなかったのかな。

 

「ソトミチくん、気付かないでデートしてたの?」

 

 呆れたご様子の山本さんに、いよいよ脳のキャパシティが追いつかなくなってきた俺は、もうどの情報から整理したらいいのかわからなくなってしまった。

 

「遥ちゃん、私と二人で雑貨を見てるときも、ソトミチくんの話ばっかりしてたよ? 元々は美優ちゃんが好きだったのは私も聞いてるけど。ソトミチくんと美優ちゃんが結ばれてから、ソトミチくんにも美優ちゃんと似たような部分を感じるようになって……それで、ソトミチくんが男の人でもいいと思えた初めての相手になったって。遥ちゃんが」

 

 おかしい、おかしいぞ。

 どうしてそんな話になっている。

 仮に遥がレズではなかったのだとしても、男として好かれるだけの関係性を築ける時間なんてなかったはずだ。

 

「まあ、そういうことですので」

 

 そういうことがどういうことなのかまず俺に説明してほしいのだが。

 そんな願いが叶うはずもなく、欠片も理解が追いつかないまま、お次は遥が俺の腕に引っ付いてきた。

 

 もうお兄さんは思考放棄してもいいかな。

 

「私たちはこれから、二人きりになれる場所で、しっぽりやってきます」

 

 遥のその発言に、絶句する俺と山本さん。

 どうやら思考放棄することはまだ許されないらしい。

 

 特に山本さんの受けたショックが深刻なものだったようで。

 

「待って。好きなのは、わかったけど。そういうのも、するの?」

 

 山本さんの声が震えていた。

 遥の発言は俺とセックスすると言い切ったも同義で、貸しがあるからデートまでなら許されたのだと思っていた山本さんにとって、これはあまりにも予想外の展開だったのだろう。

 

「一つ、訂正というか、補足をしておきますが。私はレズです」

 

 周知の事実だった。

 だからこそ、この状況にはそぐわないのだが。

 

「う、うん……それは……知ってるけど……」

 

 俺も美優からそう聞いている。

 たかが『似たような部分があった』程度で男を好きになることなどない、徹底した美少女至上主義であるはずなんだ。

 

「私が性的に好きなのは美優であって、お兄さんのことは人として好きになっただけです。ただ、私は美優には振られてしまったので、美優の恋人であるお兄さんとセックスすることで、私自身が美優になればいいという結論に至りました。『初めて男でもいいと思った』というのは、肉体に触れることが許容できるレベルの男性という意味です」

 

 淀みなく紡がれた遥のそんなトンデモ理論に、俺も山本さんも呆然としていた。

 

 もうダメだ。

 完全に理解の範疇を超えている。

 

「ちょいちょい! ちょっと待ちなさいよ! どういうことよそれ!」

「のぉあっ!? おまっ、由佳!? なんで……ってかいつの間にここに!?」

 

 突然地面から生えてきたかのように、由佳が俺の背後に立っていた。

 心霊現象みたいでマジでビビった。

 

「私のことはいいの。遥がお兄さんとセックスするとか完全に初耳なんですけど。なんでそんなことになってんのよ」

「何って、話した通りだけど?」

「あんたレズでしょ。バカじゃないの」

「体が繋がることと、心が繋がることは別。由佳だって、セックスができればいいだけなら、お兄さんが相手じゃなくてもいいでしょ?」

「うぐっ。クソみたいな屁理屈だけど言われてみると反論できないわね」

 

 由佳が加わり混沌カオスと化したこの状況に、山本さんも俺と同じくらい思考停止した真顔になっていた。

 

「あ、あの……その子は、えっと……」

「私は由佳。山本さんの次の第二セフレがこの私よ」

 

 由佳は胸元にサムズアップした親指をグッと突き立てる。

 

「いや待て第二セフレとか俺も知らないしそもそも山本さんはセフレじゃない」

「セックスしたことがあってなお友達ならセフレでしょ?」

「学校のローカルルールを持ち出すな……」

 

 ただでさえ由佳たちのクラスは国外並みに倫理観がかけ離れているというのに。

 

 たしかに山本さんと一時期はセフレのような関係にはあったけど。

 今は山本さんとはノーマルな友達であることを強調しておきたいんだ。

 

「由佳ちゃんも、ソトミチくんと、するの?」

「ええまあ。二日後に予約してるし。そうよね? お兄さん」

「えっ……あぁ……それは……」

「なに。ここまできて反故にするつもり?」

「ち、違う! そういうわけじゃなくて! するにはするけど……その……」

 

 約束は約束だし、美優からの頼みでもあるから否定はできない。

 しかし、それを山本さんの目の前で認めるとなると、後の釈明が非常に面倒になる。

 

「とゆか山本さんもまだお兄さんとエッチしたいの?」

「ふぇっ!? あっ……私は……まあ……」

 

 ごく小さな声で「うん」と肯定する山本さん。

 それはそうだとは思ったが、改めてしたいと言われるとどうにも歯がゆい。

 

 しかし、まずいぞ。

 まさか山本さんが自らの肉欲を認めてしまうとは。

 山本さんの倫理観が由佳に汚染され始めているのかもしれない。

 それだけは絶対に避けなければ。

 

「ちょっと話を整理してくるから、山本さんはここで待ってて!」

 

 俺は山本さんをその場に置き去りにして、フードコートの端っこまで由佳と遥を引っ張って行った。

 

 山本さんは放心状態で元いたベンチにちょこんと座っている。

 手早く話をまとめて戻らないとな。

 

「まず由佳だ。どうしてここにいる」

 

 こいつは確実に帰ったものだと思ったからな。

 突然現れたときは本当に驚いた。

 

「お兄さんと別れたあと、妙にエロい女を見つけたから目で追いかけてたわけよ。そしたら、改札を通る直前で急に引き返すものだから、どうしたのかなーと思って眺めてたら、その先にお兄さんがいたわけ。となったら、尾行するしかないでしょ?」

「色々ツッコミたいところはあるが動機はわかった」

 

 二重尾行になっていたわけか。

 これであのまさかの予想が事実だったと裏付けが取れてしまったわけだが。

 どうして山本さんは俺の後を追っていたんだろうか。

 

「で、遥のあれはどういうことなんだ? 俺としたいってのは嘘だよな? そもそも俺のことが好きってところからして信じられないんだが」

「なによ遥。あれ嘘だったの?」

「嘘に決まってるでしょ。男を好きになることなんて未来永劫ありえないし、男とセックスしないと死ぬ病気になったら私は女を抱いて死ぬ」

 

 凛とした目がキリリと細まり、遥は冷たい唇でそう答える。

 

 よし、いつも通りの遥だ。

 

「どこからが嘘なんだ? 山本さんに尻尾を振ってたあれも演技だったのか?」

「いえ、あの人は外見は完璧ですし、今でも抱いていただきたいと思えるぐらいには惚れています」

「遥は相変わらずキモい性癖してるわね」

「由佳に言われたくない」

 

 由佳の横槍にいがみ合う二人。

 

 遥は今日も鞄にエロ道具を仕込んでるんだろうしな。

 そういう意味ではどっちもどっちな気がする。

 

「わざわざ“外見は”って付け加えたのは、中身が気に入らなかったって意味か?」

「気に入らないというより、落胆しました。初めてお会いしたときは感動しましたが、実際にお話をしてみたら噂ほどではなかったといいますか。あれではどこにでもいる巨乳と同じです」

「なんて失礼な……。噂とどこが違うんだ」

 

 そもそも噂ってなんだ。

 美優と話してるときに出てきた情報ってことでいいんだよな。

 

「よく見てください、あの山本さんの姿を。あれが才色兼備の超美少女に見えますか」

「超美少女が何かは知らないけど。山本さんは山本さんだろ。いつも通り美人で優しい女の子だよ」

 

 いつ見たって山本さんは女神と称せるぐらいに眩しい美少女だ。

 俺とは複雑な事情があるからだいぶ気弱になってるけど、山本さんが人間として劣化したとかそんなことは断じて無い。

 

 ……はずだ。

 

「聞いてたほどじゃないってのは私も遥に同意ね。あれじゃただ乳がデカいだけの雌犬。プードルとホルスタインの雑種みたいなものよ」

「お前はもう少し言葉の選び方を考えろ。あの優しくて理知的な山本さんを動物扱いするんじゃない」

「いえ、由佳の言う通り、あの山本さんは雌犬と表現するのが適切です。……そうしたのは、他でもないお兄さんなわけですが」

「……え? マジ?」

「だから美優が気を揉んでいるんじゃないですか」

 

 遥が呆れて嘆息する奥で、やれやれと肩を竦める由佳にイラッとしつつも、俺は改めて山本さんのことを考える。

 

 俺の姿を見て予定をキャンセルして後をつけたり、もう意地汚い事はしないと言ったはずなのに嫉妬に悩んで暴走しているあたりは、たしかに俺の知っている聖女のような山本さんとはかけ離れている。

 それが俺のせいなのだとしたら、俺に振られたショックからまだ立ち直れていないということなんだろうが。

 山本さんがそこまで俺に固執する理由って何だ。

 

「もうギブアップだ。せめて美優から聞いてる話だけでも教えてもらえないか?」

「そうですね。ひとまず、由佳は席を外して。聞かれると困る話だから」

「……わかったわよ」

 

 このときの由佳は意外にも素直で、俺たちとは一番遠いフードコートの席まで移動してくれた。

 二日後のことがあるから気持ちが満足しているんだろうか。

 

「私も全てを聞いているわけではないので、今の状況を美優に連絡しながらお話します」

 

 遥はスマホを取り出して、メッセージを打ちながら話を続けた。

 

「まずお兄さんに知っておいてほしいのは、山本さんは由佳とは真逆の存在だということです」

「山本さんが、由佳と真逆? 学力とか、容姿とか、挙げれば納得できるものはたくさんあるけど……」

 

 学力試験が学年トップの山本さんに比べて、由佳は最底辺レベル。

 バストサイズは20cm以上の差がある爆乳とペッタンコで、誰にでも献身的に優しく接する山本さんに対し、由佳は誰にでも自分中心の物言いをする。

 これだけでも真逆と評価するには十分な要素があるわけだが、それを理解したところでどうなるというのか。

 

「学力や容姿が真逆なのも重要な要素です。ですが、核心的に重要なのは性格の部分。断っておきますが、これはどちらが良い悪いという話ではありません。……ああいえ、この場に至ってはやや山本さんを悪く言うことになりますが。本質はそこではないので」

 

 由佳と比べて山本さんが悪い評価になるって。

 どんな条件ならそうなるんだ。

 

「ズバリ言いましょう。山本さんは優しすぎます。これは美優から聞いていたことですが、今日会って私も確信しました」

「優しすぎる? それがダメなのか?」

「由佳と真逆の優しさなのが問題なんですよ。たとえば、フードコートでご飯を運んでいるときに人とぶつかって、溢したスープが相手の服に掛かってしまったとしましょう。原因が相手の前方不注意だった場合、山本さんと由佳がそれぞれどう対応するかを考えてください」

 

 自分が運んでいる料理が溢れて相手の服を汚してしまった場合か。

 

 山本さんだったら、相手のことを心配して火傷していないかとか服を弁償するかとか聞いて、可能な限り相手の要望に応えるだろうな。

 

 由佳なら、相手がどんな理屈を並べ立てようとも、必ず相手に悪いと認めさせる気がする。

 台無しになった料理の弁償までさせてもおかしくはない。

 その後に、なんだかんだで火傷の心配をしてやるのが、由佳らしい対応だと思う。

 

「山本さんは全力で謝り倒して、由佳は全力で謝らせるだろうな。でも、結果はそう変わらない気がするよ。山本さんに平謝りされたら、ぶつかった奴は申し訳なさで財布が空になるまで詫びるだろうし。由佳は悪に徹するとなったら容赦がないからな。あいつはその手のことになると、妙に頭がキレるし」

 

 俺のこの回答に、遥は満足気に頷いた。

 

「由佳が持つ唯一にして最大の武器は、罪悪感に屈しないメンタリティです。あの子が口達者なのは頭の回転が速いからではなく、その性格面での稀有な才能によるもので、あらゆる物事を他人のせいにする判断に一切の迷いがないんです」

「それは人としてどうなんだ……」

 

 世の中には不必要な罪悪感で潰れてしまう人も多いのだから、それが稀有な才能であることは認めよう。

 由佳がなんでもかんでも人のせいにするのはこれまで何度も見てきたけど、百パーセント自分に非があることでさえ怯まず反論するあの精神は、いっそ鮮やかなほどだった。

 

「由佳の尊厳のために言っておきますが、あの子は無意味に罪を他人に擦り付けたりすることはしませんよ。悪いことは素直に悪いと認められる子です。レストランでもお話したように、美優に対するアレは特例なのであしからず」

「それは、わかったよ」

 

 でもその特例のワケは俺が自分で考えないといけないんだよな。

 どうしてそうなのか、これもいつかタネが明かされればいいが。

 

「で、山本さんが由佳の真逆ってことは、山本さんは誰のことも悪人にできないってことか?」

「簡単に言えばそんなところです。美優が言うには、相手が敵意を持たなければ全てを自分で背負い込んでしまう性格、らしいですが」

 

 相手に敵意がなければ、か。

 たしかに俺は山本さんに敵意を向けたことはないが、他のやつだってそうそう山本さんに敵意なんて抱かないだろ。

 

 そんなことをするのは、かつて山本さんが付き合ってきた彼氏ぐらいなもので……。

 

「えっ。そういうこと? いや、待て待て。第一に、山本さんはどうしてそんな優しすぎる性格になったんだ」

「その原因になっているのが、もう一つの重要な要素なんですよ。生来の献身気質に加えて、山本さんには誰にでも優しくできるだけの常人離れした能力が備わっていた。人間の敵意とは往々にして、自らの能力や経済力の貧困からくるもの。つまり、山本さんは優秀すぎてわざわざ悪になる必要がなかったんです」

 

 美人で優秀だから優しいなんて身も蓋もない話だが、否定もできないな。

 鈴原があれだけ尽くしていた山本さんに敵意を抱いたのは、結局はコンプレックスが原因だったわけだし。

 同時に、山本さんにとってあれほどの悩みになるまで鈴原を切り捨てられなかったのは、その優秀すぎて有り余る優しさが原因だったんだ。

 

 そういや、山本さんがすぐに男を射精させてしまう体質に悩んでいたのを、俺はセックスが上手くできないことが問題だと思っていたけど。

 蓋を開けてみれば、彼氏のコンプレックスを助長してしまうことが悩みの根幹だったんだよな。

 

 鈴原が更生したのも、美優がそのことを鈴原に教え込んだからだって、いつだかの思い出話で聞かされたっけ。

 

「そんな山本さんがついに、本気になっても手に入れられない人が現れました。その人にはどうやら自覚はないようですが、相手を否定しなさ過ぎる傾向があるようでして。そこがちょうどよく、山本さんのツボにハマってしまったわけですね。ついでに美優にもですが」

 

 あ、それ、俺のことか。

 

 思いがけず二人が俺のことを好きな理由を聞いてしまった。

 たかだか否定しないことがそんなに重要なのか。

 二人にとっては都合よく大事な要素だっただけなんだろうが。

 

 これまでの山本さんの彼氏はそのコンプレックスに潰れて山本さんに牙を剥いた。

 だが、俺には美優でしか抜けない体質と、美優に叩き上げられたメンタルがあったおかげで、山本さんに劣等感を覚えずにいられた。

 それだけのことなんだけど、山本さんはそんなに嬉しかったのかな。

 

「山本さんがお兄さんに惚れた理由は、詳しくは美優に聞いてください。ともかく、山本さんが暴走気味になっている理由は、今でもお兄さんにベタ惚れだからです」

 

 恋は人を盲目にする、なんて言葉があるけど、これはそういう話じゃないんだよな。

 俺のことを好きなってしまっただけなら、山本さんの生来の優しさが嫉妬も何もかも抑え込んでくれるはず。

 

 きっかけは、俺が美優と恋仲になったこと。

 好きになってはいけない相手を好きになってしまったという、その罪悪感がキーなんだ。

 

「あらゆる言い訳を駆使しなければ今の地位を築けなかった由佳と、何も言い訳をしなくても余裕のある暮らしができた山本さん。その能力がそれぞれにもたらしたものは、強すぎる悪意の自浄作用と、悪意に耐性のない心です」

 

 人にはときに「これぐらいなら大丈夫」「これぐらいは仕方ない」と心の内で囁く悪魔が現れる。

 実際のところそれは、環境により与えられた不利を心の中で整理するために必要なものだったりする。

 

 由佳には自分に必要な悪を悪意なく断行できる強い精神があった。

 それに対し、自らが悪になる経験をしてこなかった山本さんは、恋人のいる俺を相手に「少し手を出すだけなら大丈夫」と囁いてくる悪魔を、その『自分の内側から向けられる悪意』を処理する術を知らず、どれだけあがいても抜け出せない蟻地獄にハマってしまったんだ。

 

「お兄さんが思っている以上に、山本さんの思考回路はぐちゃぐちゃになっています。……とのことで、美優からこんな指令が届きました」

 

 美優と連絡を取りながら俺と話をしていた遥は、美優からのメッセージが表示された画面を俺に見せた。

 

『お兄ちゃんへ。奏さんと元通りに仲良くできる方法を教えます』

 

 さすが我が妹よ。

 全知全能の神のようだ。

 

『その1.奏さんからのあらゆる好意を受け取ること。プレゼントやスキンシップはもちろん、デート、セックス、告白などなど。一切の拒否を禁じます』

 

 初っ端からとんでもない指示が下された。

 セックスはしてもらうことになるって聞いていたからまだわかるが、告白までオーケーしていいものなのか。

 そうなったらもう愛人やセフレの関係だと言い張って誤魔化すこともできない。

 第二の恋人、れっきとした二股になる。

 

「あの山本さんが、進んで浮気なんてするのかな。俺は山本さんに浮気を匂わせただけで説教されたんだけど」

「そこを、“むしろ”と考えるべきなんですよ。自分で浮気を叱っていたはずなのに、恋の熱に当てられた勢いでその当事者になってしまった山本さん。だからこそ、人一倍に心が弱っている。そこにお兄さんの優しさを差し向ければ、驚くほど簡単に陥落しますよ。あの手の人ほどむしろ脆いんです」

「な、なるほど」

 

 山本さんのように綺麗な心で生きてきた人間にとって、自分が絶対に正しいと思っていたことを自分に否定された瞬間は、何よりも耐えがたい苦痛。

 

 今の山本さんはきっと、自分の恋心と向き合いながら、どう行動するのが正解なのかを必死で考えているはずだ。

 

「という意味を込めたのが、この第二の指示だと思われます」

 

 遥が画面をスクロールして、美優からのメッセージの続きを表示する。

 

『その2.お兄ちゃんも素直に奏さんが好きなことを認めてそれを伝えること。私に対してはもちろん、奏さんにも遠慮してはいけません』

 

 やはり我が妹は神などではなく血も涙も無い悪魔だった。

 山本さんの誘いを断った俺が、それを蒸し返すように好意を伝えるなんて、ほとんどタチの悪いホストだよな。

 

『注意点としては、あくまでも私が一番であることを強調しないと奏さんも不審がるから。それだけは常に意識しておいてね。以上』

 

「鬼か」

「鬼ですね」

 

 これで本当に山本さんと元通りになれるのだろうか。

 美優はたしか、俺が他の女とセックスするのは嫌だと言っていたはずだが。

 由佳の望みにだって、できるだけ応えてあげてって言われてるし。

 このまま美優の指示に従っていたら、ハーレム状態になってしまう気がするのだが。

 

「あ、お兄さん。もう一通きました」

 

 どうやら美優から追伸があったようで、遥はまたスマホの画面を見せてくれた。

 

『P.S. 今日奏さんとエッチしていいのは射精一回分までです。お夕飯までには家に帰ってきてください』

 

 どこか新婚夫婦のやりとりのようで、その実態は恋人から送られてきたメッセージとは到底思えないような文面だった。

 

 本当にこれで山本さんを救えるんだよな。

 俺はもう美優のことを信じてるからな。

 

「というわけで、頑張ってくださいね、お兄さん」

「お、おう」

 

 元々は由佳のことについて情報共有するのが目的だった遥にとって、山本さんへの興味が薄れたらもうこの場にいる意味はなく。

 遠くでスマホをイジって暇そうにしていた由佳を連れて、遥は帰宅してしまった。

 

「さて……」

 

 山本さんは待っている間ぼーっとしていたようだが、俺が席から立って遥と別れたのを確認すると、控えめに手を振って反応してくれた。

 

 俺にとっては今でも十分に魅力的で可愛い山本さんだが、美優という恋人がいる男としての距離感を保ちつつ、今まで通り仲良くしようとなると、このままではいられないのは事実だ。

 

 変わらなければならないんだ。

 俺も山本さんも、変わった上で、これまでと同じ関係を再構築する必要がある。

 

 だから、俺も腹を括るとしよう。

 

 美優との純愛を守るために、俺は由佳とも山本さんともセックスをする。

 

 まずはこれがその第一歩。

 

 山本さんと仲直りエッチ大作戦、開始だ。

 



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あなたが好きでもいいですか

 

 遥たちが帰るのを見届けてから、俺は山本さんの座るベンチへと戻った。

 

 夏休みにもかかわらずデパートを歩く人は疎らで、一般では平日の昼間にあたるこの時間は大人たちは仕事をしてるのかと思うと、残り少ない学生時代が惜しく思えてくる。

 

 俺が山本さんの前に立つと、山本さんは「おかえりなさい」と丁寧な口調で迎えてくれて、その言葉を言えたことを山本さんが嬉しそうにするものだから、俺もこそばゆくなってしまう。

 

 美優と違って“好き”の感情をわかりやすく伝えてくれる山本さん。

 その感覚が新鮮で、何よりこの笑顔が似合いすぎる女神を相手に、胸の高鳴りを抑えることは不可能だった。

 

 それでもしっかりと気は保っておかなければならない。

 俺は美優の恋人として山本さんの好意に向き合わなければならないのだから。

 

「待たせて悪いな。せっかくの機会だから、少し歩こうか。話もしたいし」

 

 俺がそう提案すると、山本さんは静かに頷いて立ち上がった。

 

 美優の指示があるから流れのままに誘ってしまったけど、俺もこんなことを照れもせずに言えるようになったんだな。

 慣れとは恐ろしいものだ。

 

「遥ちゃんたちは帰ったんだね」

「居ると話がややこしくなるからな。元々はお昼を一緒にするだけの予定だったし。だから、デートとかそういう意識はなくて。遥もテンションが上がり過ぎて山本さんをからかってただけなんじゃないかな」

「そっか。ソトミチくんもびっくりしてたしね」

 

 山本さんは俺の隣でショップを眺め歩いて、さして興味も無さそうに返事をした。

 俺と遥がイチャついていたことが、遥からの一方的な意思だったとわかって安心したのだろうか。

 

「由佳については……とにかく深い事情があるんだ。美優も承知してるから気にしないでもらえると助かる」

「ふーん。じゃあエッチはするんだ」

「そ、そうなるかな。まだ具体的にどうするとかは決まってないけど」

 

 山本さんはやっぱり俺が美優以外とエッチをすることだけは気になるみたいだ。

 でも、遥たちがいたときよりも落ち着いているみたいだし、怒っている風でもない。

 一人になっている間に頭の整理がついたのだろうか。

 

「……いいな」

 

 山本さんがふと、そんな本音を漏らした。

 

 静まり返る二人の空間。

 山本さんは「言っちゃった」みたいな感じに口元を手で隠して、照れ顔でそっぽを向いている。

 

 いったいどんな言葉を返したらいいのかわかなくて、俺は無言のまま山本さんとデパートを歩いた。

 

 ただアテもなく、床が続いているから進んでいるだけ。

 山本さんもそれから何を言うこともなかった。

 ただ微妙な空気のまま、しかし、嫌な感じはしないその時間。

 しばらくして沈黙にも慣れ、俺は何もしない時間も必要だと割り切ってウィンドウショッピングを楽しんだ。

 

 美優とデートをすることになったらどんな店を回ることになるかな、とか。

 下着を店の手前に陳列されると目のやり場に困るからやめてほしいな、とか。

 そんなことをダラダラと考えること数分。

 俺は左手の甲に、偶然とは思えない頻度で山本さんの手がぶつかっていることに気づいた。

 

 チラと横目で山本さんを確認するが、一見すると俺と同じようにショップを眺めているだけ。

 しかし、明らかにその手は腕の振りとは無関係にぶつかってきている。

 そして、ときおりピクつく山本さんの指。

 

 これはもしかして、手を繋ぎたがっているのだろうか。

 美優に遠慮して踏み切れないのはわかるけど。

 まるで、夏祭りの混雑を前に、いざ意中の女の子の手を取ろうとする男子中学生みたいな、そんな純情な山本さんを見ることになるとは思ってもみなかった。

 

 俺はこの山本さんの手を、どうするべきなんだろうな。

 明確な山本さんからの好意なのだから、振り払うべきでないことはわかる。

 でも、俺からその手を握ってしまったら、浮気の了承と受け取られかねない。

 

 ただ、なんというかだ。

 もはや山本さんは気持ちを隠す気が無いくらいに、ちょんちょんと指先で俺の手の甲を突くことまでしてきていて。

 

 めちゃくちゃ手を繋ぎたがってるよな、この手。

 

 これを無視し続けたら拒絶しているのと同じになる。

 山本さんがその気ならセックスまでしろと言われているぐらいだし、ここで手を取らないとむしろ先の辻褄が合わなくなるか。

 

 というわけで、俺は山本さんのご要望通りに、ギュッと手を握ってあげることにした。

 

 そんな、軽い気持ちだったんだけど。

 

「──ッ!」

 

 手をつないだ瞬間、山本さんの体がビクンと跳ね上がって、そのまま顔がカーっと真っ赤に染まっていった。

 手のひらから伝わる熱も一気に上昇して、今なら指先からでも山本さんの脈を感じられそうな気がする。

 

 山本さんは手を繋いでもしばらくは無言だった。

 こちらを向くこともなく、ニヤけそうになる表情筋と必死に闘って、澄まし顔を保とうとしている。

 全然隠せてないけど。

 

「あっ、あの……」

 

 山本さんは余裕の無さそうな声で、ようやく会話を始めた。

 

「これは、どういう意味で、捉えていいのかな」

 

 俺が手繋ぎを受け入れたという意味。

 自らが誘ったものであっても、これほど真正面から応えてくれるとは思っていなかったんだろう。

 

「この前、山本さんの家から帰った後に、美優にちょっと叱られてな。自分から気を引いたくせに、急に拒絶するなんて男としてどうなんだって」

 

 正直なところ、俺も心残りはあった。

 美優を一番には考えたいけど、山本さんを大事にできない俺が美優を愛するというのも、また違う気がしたからだ。

 それがどれだけ自分に都合のいい考えだったとしても。

 

「それは、美優ちゃんらしいね」

 

 山本さんはどこか腑に落ちたような顔をして、不格好だった手のつなぎをしっかりと握り直す。

 

「だから、だな」

 

 山本さんとこんな風に仲良くしていたいと、少しも思わないでいられるほど、俺は完璧な男ではない。

 それどころか、俺はたった数ヶ月前までは女性耐性の無いただのキモオタだったんだ。

 こんな可愛い女の子にアプローチされて情が湧かないわけがない。

 

 本来は、『美優が好きだから山本さんは好きじゃない』、『山本さんが好きだから美優は好きじゃない』なんて比較は、無関係なはずなんだけど。

 世の中の仕組みでは一人を選ぶ必要があるから、その誰かを選ぶことは、別の誰かを捨てることになっている。

 だからお互いに本音を隠してるだけで、好きな気持ちを隠すことで得することなんて、本当は何もない。

 

 俺は美優の指示があるから、それを言い訳にして本音を言うことができる。

 俺が本音を話すようになったから、山本さんの態度も本音に近づいている。

 きっとこうして腹の内をさらけ出させることが美優の狙いなんだろうな。

 

「なんとしてでも山本さんと仲直りしなさいってことだったから、とりあえずこうしてみたんだけど。マズかったかな?」

 

 俺がそう尋ねると、山本さんは慌てて手を握る力を強くしてきて、首を横に振った。

 

「私も、こっちのほうが、早く仲直りできる気がする」

 

 山本さんはピタッと俺の横にくっついて、それから一歩だけ後ろに下がった。

 俺は手繋ぎの経験なんてほとんどなかったから知らなかったけど、近い距離で歩くときは真横にいるより少し前後していたほうが腕が楽なんだな。

 

 すでに並みのカップルより激しいセックスを経験したはずの俺たちは、処女と童貞の初デートのようにたどたどしくお喋りをしながらデパートを散策した。

 

 こうして手を繋いでると、一緒にコンビニまでコンドームを買いに行ったときのことを思い出す。

 あのときはさすがに店員に白い目で見られたっけ。

 俺が逆の立場でも殺意が湧いただろうし、ただただ申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 

 あの一週間で俺は山本さんといっぱいエッチをして、最後は美優と通話しながらセックスをした。

 こうして考えてみると、山本さんも見せつけるのが好きなタイプというか、意外と独占欲が強いのかもな。

 それに対して美優がマーキング大好きなタチなものだから、こうして二人きりでいるときもやたらと対抗心で盛り上がってしまう。

 可愛い女の子に奪い合いされるのは男のロマンではあるけど、いざ当事者になってみると悩ましいものだ。

 

「この階は全部回っちゃったね」

 

 実質的に行き止まりとなる最後のお店の前で、俺たちは立ち止まった。

 お互いの手を通して伝わるドキドキ感を探り合うので精一杯で、店なんかほとんど見ていなかったんだけど。

 

「どこ行こっか」

 

 熱い視線をセットにして尋ねてくる山本さん。

 まだまだこの時間を楽しみたい様子の山本さんは、このまま歩き続けることをご所望のようだ。

 

 さて、どうするかな。

 いつの間にかデートっぽくなってしまったので、ここは男である俺がリードするべきか。

 

「一応先に聞いておくけど、行きたいところとかある?」

 

 このデパートには小型のショッピングモールくらいの店数がある。

 駅自体はそれほど栄えてはいないが、都内まで乗り換え一つで出られる路線が交差する場所でもあるため、最近では少しずつ開発が進められているのだ。

 ここなら女の子が小まめにチェックしているような店かあってもおかしくない。

 

 もし山本さんに行きたいところがなければ、一階にあるクレープ屋にでも行くか。

 出かける前に、SNSで話題になっているスイーツがあるって美優が言ってたんだよな。

 

「行きたいところかぁ。どうしよっかな」

 

 山本さんは繋いだ手を幼稚園児のようにぶらんぶらんさせて、ニコニコと微笑んでいる。

 だんだんと幼児退行する山本さんも可愛い。

 

「ソトミチくんと……二人っきりになれるところに……行っちゃおうかな……」

 

 モジモジしながら色気を漏らす山本さん。

 

 だいぶ前から感じていたことなんだけど。

 山本さん、かなり性欲が溜まってないか。

 美優の存在のおかげでどうにか踏みとどまっているが、俺が思っていた以上に浮気に対する抵抗が無い。

 というよりもさすがに意思が弱すぎる。

 

 由佳と遥に変なことを吹き込まれたのがだいぶ効いているみたいだな。

 遥から話を聞いたときはまさかと思ったけど、この分ならいつ体を求められてもおかしくない。

 山本さんとエッチが始まったら、射精一回で収まるかな。

 ちょっと自信がなくなってきた。

 

「なんてね。えへへ。上に知らないブランドのジュエリーショップがあるから見てみたいな」

 

 山本さんは自らの発言を誤魔化すように、俺の手を引いてそそくさとエスカレーターを上っていった。

 

 山本さんに連れられてきたのはショーケースにアクセサリーを並べた立派なお店。

 夏休み満喫ファッションの俺たちが入っていいものか心配になったが、店内ではすでにサンダル短パンのオジさんが店員と話していたこともあって、店の中に足を踏み入れること自体には抵抗はなかった。

 手を繋いでいる姿を見られるのは恥ずかしかったけど、山本さんが死んでも放さなそうなくらいガッチリ掴んでいるので諦めることにする。

 

「ダイヤ付きで3万円か。やっぱり高級品なんだよな?」

「そうだね。普段のオシャレ用なら千円以下で買えるし、高くても3千円くらいだから」

 

 小ぶりの宝石が付いたピアスには、チェーンで真珠が付けられたものや、金属部分を変形させてハート型やクローバー型にしているものがある。

 とはいえ値段のほとんどはダイヤモンドが占めていて、カラット数が同じならどれを選んでも同じような価格だった。

 

「ピアスは結構持ってるんだけど、指輪はあんまり買ったことがないんだ。ソトミチくんはさ、どれが一番いいと思う?」

 

 サラッとそんな質問をしてくる山本さん。

 それってつまり、俺が好きな指輪を買いたいってことだよな。

 まあ……別にいいか。

 

 金属の色はゴールドとシルバーを基本とし、そこにピンク系やイエロー系の変化が加えられていて、あとは宝石の付け方がそれぞれに違っている。

 基本色はきらびやかで高級感があるが、色付けされていたほうが肌の色に馴染むので、ファッションとして使うならピンクゴールドなどでもいい。

 

 しかし、山本さんは本体が女神級の美少女だからな。

 存外高級感があるほうが普段のオシャレにも合うのかもしれない。

 

 と、そんな考えに耽っていたせいで、俺は山本さんにずっと見つめられていることに気づくのが遅れてしまった。

 

「どう……したの……?」

 

 真っ直ぐに送られてくる山本さんからの熱視線。

 押し寄せる感情が巨大過ぎる。

 

「真剣に考えてくれて、嬉しいなって。横顔が素敵だなって思って」

 

 山本さんは宝石よりキラキラした目で俺を見つめてくる。

 

「ま、まあ、買うとしたら高い買い物だからな」

 

 俺はさすがにいても立ってもいられなくなって、早く指輪を選んでしまうことにした。

 すぐ近くにあるケースの中はどれも似たようなデザインが多くて選びづらかったが、別のケースのところにある指輪はシンプルかつ洗練された形をしているので、それなら山本さんにピッタリ合うはずだと思った。

 

「あそこにある指輪とか、山本さんに似合うんじゃないかな」

 

 俺が指し示した先にある指輪。

 それを見て山本さんは、ポッと顔を惚けさせて静かに首を横に振った。

 

「ソトミチくん。あれは結婚指輪だよ」

 

 まんざらでも無さそうに「うふふっ」と微笑む山本さんに、気が動転した俺はもうその場に居る余裕もなくなって、最初から気になっていたゴールド系の細身の指輪を選んでそれを山本さんに伝えた。

 すると山本さんは迷わず「これをください」と店員を呼びつけて、即決で購入に踏み切った。

 

 お会計のために俺は一時的に手を解放されて、店の前で待つことに。

 

 入れ替わりで対応に来た店員と、山本さんは楽しそうに会話をしながら手続きを進めている。

 

「よろしければ他のお色などお出ししますが、お合わせはよろしいですか?」

「大丈夫です。サイズだけお願いします」

 

 学校でも誰に対しても明るく接してくれる山本さん。

 楽しそうでいいよな。

 ああいうところは心から好ましく思う。

 

「えへへ。付けてきちゃった」

 

 店の外で待っていた俺のところへやってきた山本さん。

 左手の薬指にゴールドのリングが輝いている。

 

 うん、左手か。

 オシャレの指輪をどの指に付けても意味はないと言うし。

 単に映えるからそこにつけただけだよな。

 

「……マズいかな」

 

 山本さんは指輪をさすって目を泳がせている。

 意味が無いと知っていても、現実的な認識としてそこが婚約者のものであることは意識してしまうのだろう。

 

「山本さんが一番キレイだと思う場所に付けただけなら別にいいよ」

「それは、ね。やっぱり指輪ならここかなって思うし。一番しっくりくるから」

 

 なおも目線を下げたまま指をさする山本さん。

 やがてピタッと動きが止まったかと思うと、申し訳無さそうに顔を上げて照れ気味に口を開いた。

 

「嘘です本当はこの指に付けて浮かれてました」

「じゃあ右手にしよっか」

「そうします……」

 

 好意は否定するなと言われているが、それで山本さんとギクシャクしてしまうならダメと言っておくべきと判断した。

 

 右手に指輪を付け替えた山本さんの手は、見立てのとおりに美しく映えていた。

 山本さんの手の大きさと色味だと、黄金色が自然と馴染む。

 我ながら中々に良いチョイスだった。

 

 さて、もはや目的と現状が完全に錯誤しているわけだが、俺はこの山本さんの好意を大事にしながら美優との関係を認めてもらわなければならないわけだ。

 

 次に俺がすべきことは一体なんだろう。

 美優には俺からも好きだと伝えろって言われてるけど、この状況でそんなことしたらもう行くとこまで行ってしまう気がする。

 

 しかし、なんにしても、とりあえずこれだけは言わないとダメだよな。

 

「指輪、よく似合ってるよ」

 

 これは男として最低限のマナーだから、美優がどうとかは関係ない。

 指輪を買って、それを付けてきて、見せてきたのだから、言わなければならないのだ。

 

「ありがとう、ソトミチくん。一生大切にするね」

 

 山本さんが喜んでくれたのは俺も嬉しい。

 山本さんは上機嫌に指輪を眺めて、デザインもきちんと気に入ってくれたところは、素直に良かったと思う。

 でも、いつか山本さんが付き合うはずの誰かのことを思うと、一生大切にしてもらうのは複雑な気分ではあるな。

 

 俺は山本さんがしているピアスが元カレのプレゼントだったとか言われても、捨ててほしいとは思わないけど。

 山本さんと付き合ってるわけじゃないから気にならないだけだよな。

 

「次は、どうするか」

 

 ジュエリーショップに来たのは山本さんの提案だったから、今度は俺がどこかに連れて行く番だよな。

 

 クレープ屋に行くのはひとまずやめておこう。

 このままだとイチャましい食べさせ合いが始まりそうだし、いかにもカップルっぽい雰囲気の場所は避けたい。

 

 雑貨店にでも行くか。

 今度はどこにでもあるような店がいい。

 また雑貨店かって感じだが、だからこそ熱も冷めてちょうどよくなりそうだし、全国展開してるような店を回るぐらいならそうテンションが上がるような物もないはずだ。

 

「奥にある生活雑貨を見てもいい? 買いたいものがあって」

「もちろん。一緒に回ろ」

 

 俺たちは当然のように手をつないでまたデパートを歩き始めた。

 こんなデートはまだ美優ともしたことがないから、さすがに罪悪感を覚えてしまう。

 美優はこの山本さんとのやりとりをどう思っているのかな。

 

「ソトミチくんが買いたい物って、文房具とか?」

「そうだな。蛍光ペンと付箋紙が欲しくて」

 

 前に勉強のやる気が出たときにいくつかの勉強法を調べたところ、ポストイットを使った方法が共通して多かったので買っておきたいのだ。

 

 雑貨店に着くと、今度は山本さんは店に入ってすぐ手を放した。

 さすがに人が多くて邪魔になるから控えたのだろう。

 こういう分別のあるところはいかにも山本さんらしい。

 

 それから文具コーナーに行って、買い物して終わり。

 のはずだったのだが、その道中で山本さんの足がピタリと止まった。

 そこにはルーズリーフや封筒などの書類系の商品がたくさん並べられていて、有名なアニメとのコラボ商品も置いてあった。

 

 なにか可愛いアイテムでも見つけたのかなと、俺は山本さんの視線の先にあるものを追ってみる。

 するとそこにあったのは、婚姻届だった。

 

 なんでこんなところに婚姻届けがあるんだ。

 役所に行って受け取るものなんじゃないのか。

 アニメの絵柄がプリントされてる婚姻届なんて正式に受理される気がしないが、子供のおままごと用だろうか。

 その割には記入欄が本物とそっくりだけど。

 

「あっ、ごめんね」

 

 山本さんはすぐに婚姻届から意識を外してまた歩き出した。

 何を考えていたのかは、聞かないようにしよう。

 

「付箋紙とかって、お勉強に使うんだよね? オススメのやつを教えてあげようか?」

「それは助かる。問題集を解く以外にしたことなくて」

 

 俺は山本さんからいくつか使いやすい付箋紙とペンを見繕ってもらった。

 見慣れた黄色や赤よりも、色鮮やかなものを使ったほうがキレイにノートが取れるらしい。

 商品棚に置かれている台紙でいくつか試してみると、文字を書くのに向く色や、下線を引くのに向く色などがわかってくる。

 最初のうちは色んなペンを試すだけで勉強のモチベーションが上がりそうだなと、歳甲斐もなくワクワクしてしまった。

 

「山本さんもどれか買うの?」

 

 俺が山本さんのオススメを試している横で、山本さんもひっそりとペンを走らせていた。

 やけに楽しげにしているのでもしかしたらと思ったら、可愛らしい相合い傘を書いて俺の名前を綴っていた。

 山本さんは、なんというか、子供の世話とか得意そうだなと思った。

 

「ソトミチくんの、一番近くは、やっぱり美優ちゃんかな」

 

 傘を挟んで俺の名前の隣に書かれたのは、美優の名前だった。

 そして、そのさらに横にひっそりと、山本さんの名前が添えられる。

 

「三人で結婚できたらいいのに。……美優ちゃんが許してくれるかはわからないけど」

 

 それはこの国の法律では許されていないこと。

 俺と美優が結婚することも叶わない願いだけど。

 改めて考えると、俺たちって歪な三角関係なんだよな。

 

「一番のお嫁さんが美優ちゃんで、二番目が私。二人は合間を縫ってソトミチくんに愛を捧げるのです」

「俺の休みは……?」

「そこは頑張ってもらわないと」

「は、はい」

 

 実際にそんなことになったら、どんな生活になるのやら。

 楽しみなようでも恐ろしいようでもある。

 

「ほんとは、一番近くに居たいけどね」

 

 ボソッと本音を漏らす山本さん。

 思った通り独占欲はあるんだな。

 ここまで人に想ってもらえる俺は、幸せ者だ。

 

 俺も山本さんのことは幸せにしたい。

 恋人ではなく、友人として。

 

 美優もそれを望んでいて、俺は美優だけが知る“美優を一番に愛したまま山本さんを幸せにする方法”を実現するため、こうして指示に従っているわけだけど。

 

 果たしてこの道の行く先に、みんなが幸せになる結末なんてあるのかな。

 

「私、山本奏は。病めるときも。健やかなるときも」

 

 山本さんは美優の隣に小さく書いてあった自分の名前を消し、傘を挟まない側の俺の隣に名前を書いてハートで囲った。

 これだと絵面が完全に不倫なのだが、現状がまさにこんな感じなので否定もできない。

 

「毎日ソトミチくんに美味しいご飯を作り。毎日気持ちのいいエッチをすることを、誓います」

 

 山本さんは最後に“誓約”の二文字を達筆で書き上げる。

 ちょっぴり大胆なその約束は、山本さんなら本当に幸せにしてくれることを感じさせるものだった。

 それから、山本さん一度満足げに微笑んで、急いで黒ペンで書き消した。

 

「これはさすがに美優ちゃんに怒られちゃうね」

 

 山本さんの声音に陰りはなかった。

 本音を打ち明けていく中で、少しずつこの現状を受け入れているのかな。

 

「あのさ、山本さん」

 

 山本さんならどんなことを聞いても怒らないはず。

 そんな優しさがあったからこそ、俺はこれまで山本さんに聞けずにいた。

 

「山本さんって、どうして俺のことが好きなの?」

 

 お互いに“そう”だとわかっていながら、それを明らかなものとして扱ってこなかった。

 

 遥からは美優に聞けと言われたけど、ここは、そういう話をしておくべきタイミングだと思う。

 

「ソトミチくんが好きな理由?」

 

 山本さんは俺の質問に驚いた様子もなく、髪を耳に掛け直して凛と澄ました顔をした。

 

「たぶん、聞いたら拍子抜けするよ」

 

 意地悪でも誤魔化しでもなく、ただ事実がそうあることを告げる返答。

 もっと身構えられると思っていたけど、むしろ「よく聞いてくれました」と言わんばかりの得意げな表情だった。

 

「ソトミチくんさ、私の家で一週間エッチしたとき、私が昔付き合った人のことを一度も聞かなかったでしょ」

 

 おもむろに始まった山本さんの話に、俺はそうだったかなと朧げな記憶を引っ張り出す。

 山本さんのエッチが気持ち良すぎてそれしか覚えていないが、山本さんが言うのであれば事実なのだろう。

 

「だから、好きになったの」

 

 山本さんはそれだけ言って、俺の二の腕をちょんと指で突いた。

 

 まさかの告白終了だった。

 拍子抜けするというか、まず、どういう意味なんだ。

 

「今までの人は、前に誰と付き合ってたかしつこく聞いてきたってこと?」

「んふふ。違うよ」

 

 含みのある笑い方をする山本さん。

 俺の反応を予測して楽しんでるな。

 

「一番多かったのは、そうだなぁ。お料理を作ってるときかな」

 

 山本さんは昔を懐かしむように語る。

 それほどツラい過去ではないのか、今だからツラくないのか。

 

「相手の家に行ったときは、私はよくご飯を作ってたんだけど。その度にね、『前の人にも作ってたの?』って聞かれたの。エッチのこととか、プレゼントのこととかは、みんな前の人のことを聞かないように気を遣ってくれるのに。お料理のことになると、どうしてか口に出るんだよね」

 

 山本さんの料理は味も見た目も完璧で、作ってもらえる側からするとめちゃくちゃ嬉しい一品だ。

 だが、自分が彼氏の立場になったとき、それを別の男も享受していたのかと思うと、微妙な気持ちになるのはわからないでもない。

 ましてやこの世に二人といない超絶美少女が恋人なわけだからな。

 何もかも独占したくなるんだろう。

 

「それで私は答えるんだ。『作ってたよ』って。そりゃ作るよ。一時的とはいえ好きな人だったんだからさ。でも、そういうときは、みんな揃って美味しいって言ってくれなくなるんだ」

 

 薄っすら目を充血させて不満を漏らす山本さん。

 ただ人を好きになっただけで責められるなんて、山本さんからしたら堪ったもんじゃないよな。

 

「関係が拗れるきっかけは、いつもそんなこと。最後は前にも言った通り、みんなエッチが上手くできないことに焦るようになって、元カレともヤッてたんだから俺ともヤるだろってすぐに本番を迫られて。だいたいの人とはそこで喧嘩になってフられちゃってます」

 

 きっとみんな、付き合った当初は良い人だったんだろう。

 それなのに、尽くすほど相手がコンプレックスで自滅するんじゃ、山本さんにはどうにもならないよな。

 

 山本さんは相手に敵意を向けられない限りは何でも抱え込んでしまう、なんて美優は難しく説明してたけど、要はみんなのことが大好きってことだろ。

 実に山本さんらしいと俺は思う。

 さすがに俺一人だけがこんな美少女に好きになってもらえるなんて思わないしな。

 美優はあの体質と性格だから絶対の一人しか愛さないけど。

 

「山本さんの昔のことか。俺も自分の過去を掘り返されるのはゴメンだな」

 

 どうしようもない男だった自分をなかったことにするつもりはない。

 それはきっと、美優が俺にしてくれたことも、俺自身の頑張りも、否定してしまうことになるから。

 ただ、それを他人に知られて値踏みされるのは、また違う話だ。

 

 俺も山本さんと恋仲になっていたら、山本さんの過去を気にしてたんだろうか。

 もし美優に元カレがいたなんてことになったら、俺も平静を保っていられる自信はないし。

 やはり当事者かどうかが重要な気がする。

 

「で、結局ヤッたのかとか気にならない?」

 

 山本さんからの不意打ち気味の質問に、俺は少しだけ狼狽えた。

 

「え、ああ。どうだろ。聞かれてみると気になるかも」

「へぇー。じゃあ教えない」

 

 ここにきてもったいぶる山本さん。

 気になるって言ったほうがノリが良かったか。

 

「興味がないわけじゃないけど、俺は今の山本さんが好きだから。いいかなって」

「あーほらそういうこと言う。もっと惚れちゃうぞ」

 

 山本さんは俺のほっぺを指でグリグリしてくる。

 本気の照れ隠しかってぐらい痛い。

 

「俺が山本さんに余計な詮索をしなかったのは、彼氏じゃなかったからだって思わない?」

「思わない」

 

 気にしていたことを聞いてみたら、食い気味で山本さんの答えが返ってきた。

 しかも、かなり確信めいた断言。

 

「ソトミチくんには感じるんだ。上手く言い表せないけど、ふと一緒にいたくなっちゃうような、そんな居心地の良さがあるの。だから、きっと人が嫌がるようなことは聞かないよ」

 

 山本さんのなんとも要領の得ない答え。

 でも、結構な人数に同じようなことを言われた覚えがある。

 佐知子にも、由佳の友達にも、ハルマキさんにも。

 どうしてなんだろうな。

 

「それにソトミチくんが好きな理由って、他にもいくらでもあるんだよ? 私はかなり口にしてるつもりなのに、半分も伝わってないよね」

「す、すみません……」

 

 山本さんは周囲に人がいないのをいいことに、グイグイと体を寄せてくる。

 褒められてるのか叱られてるのかわからなくなってきた。

 

 山本さんってそんなに俺のこと褒めてくれてたっけ。

 ポツポツと印象的なものは覚えてるけど、そんなにたくさん褒められた記憶はないし、そもそも俺が気付けなかったのか。

 自分の鈍感さが恨めしい。

 

「あと、これはなんで自覚がないのか不思議なんだけど。お料理ができるのも、エッチが何回もできるのも、他の人にはないすごいところなんだよ? ソトミチくんは人としても男としても、十分に魅力的な人なの。でなきゃソトミチくんが私のおっぱい吸わせた初めての人になんかならないんだから」

「なにそれ!? マジ!?」

「ほらやっぱり気づいてなかった。どうせ信じないだろうから確認しなかったけどさ」

 

 それは信じることなんて無理だろう。

 山本さんのこの素晴らしいおっぱいを前にして吸わずに別れるとか、それこそ何のために付き合ったのかわからないっていうかいかんいかん、待て落ち着けすごい失礼なことを考えているぞ落ち着け俺、落ち着くんだ。

 

「と、とりあえずなんか遠くの人にまで注目されちゃったから、出ようか」

「ソトミチくんが大きな声を出すから。はい、これとこれが私のオススメだから、お会計が済んだらお店の前で集合ね。私はちょこっとコスメを見てくるから」

 

 山本さんは商品をカゴに入れて、化粧品コーナーへと行ってしまった。

 去り際の山本さんの横顔がまたニヤついていたような気がしたのは、たぶん気のせいじゃないんだろうな。

 

 それから店を出て、俺は山本さんが来るまで数分待っていた。

 

 なぜだか胸がざわざわして、スマホをいじる気にもならない。

 用を終えてこちらに向かってくる山本さんが、さきほどよりも女の子っぽく感じる。

 

「おかえり。どこか化粧でもしてきた?」

「ん? 何も変わってないよ?」

 

 こんな短い時間じゃ何もできないよ、と山本さんは身を翻してスッと俺の横に立った。

 

 手の甲を上にして差し出された手を、俺は無意識のうちに取ってしまい、自然とそうすることに慣れてしまった自分にジワリと焦りを覚える。

 さすがに山本さんの可愛さに精神が侵食されてきたみたいだ。

 冷静に考えるとめちゃくちゃ美人だからなこの人。

 

 どこに行くともわからず俺たちは歩き出した。

 すでに目的地どころかデートの目的すら見失ってきているんだが、俺はこれからどうすればいいのだろうか。

 

 ──お兄ちゃんも素直に奏さんが好きなことを認めてそれを伝えること。私に対してはもちろん、奏さんにも遠慮してはいけません。

 

 どうにも行き詰まって、俺は美優から与えられた2つ目の指示を思い返す。

 

 これまで深く考えてこなかったけど、1つ目の指示に比べて内容が曖昧だよな。

 俺が山本さんのことを好きだと認めろという部分からして、どう解釈すればいいのかわからないし。

 

 さきほどもさりげなく山本さんに好きだと言ってみたが、山本さんが一回り可愛く見えるようになったぐらいで劇的な変化はなかった。

 いや、あの超美人な山本さんがもう一回り可愛く見えるのは十分にすごいことだが、それでも俺と山本さんの関係性にはまだ何の影響も及んでいない。

 

 もっと本気で言わないとダメなのかな。

 遥は俺が山本さんに好意を伝える意味を『優しさで山本さんの倫理観を陥落させること』だと言った。

 それは山本さんが浮気を気にしなくなるくらい、ベタベタに惚れさせろってことなんだろうけど。

 

 無理やり惚れさせようなんて、俺の素直な気持ちではない。

 加えて言うなれば、美優が一番であることを主張しなければならないのだから、今より惚れ込ませたところで結局は山本さんに叶わぬ願いを抱かせることになる。

 それはあまりにも残酷な仕打ちだ。

 

「あのさ、ソトミチくん」

 

 おもむろに口を開いた山本さん。

 俺たちはお店を見もせずに館内を歩くだけのウィンドウショッピングを続けている。

 

「美優ちゃんは、私とソトミチくんを仲直りさせるために、スキンシップを許してくれてるんだよね?」

 

 山本さんは手を繋いだまま、俺の腕に抱きついて密着してきた。

 一度は山本さんを振った俺が、これだけ濃密な接触をされても引き剥がそうとしないことから、山本さんもおよその事情を察したのだろう。

 

「そうだよ。とにかく、仲直りするまではって」

 

 そもそもこの状態で仲直りをしろというのが意味不明なんだけどな。

 もう十分に仲良しというか、側から見たらただのラブラブカップルだし、むしろ仲直りするべきなのは美優と山本さんなんじゃないかと俺は思う。

 

「私がソトミチくんと仲良しのままで、ソトミチくんのことが人として大好きで、それでいてこの恋心は消えてるような。そんな関係が望まれてるんだよね」

「そうなるな。山本さんからしたら、あんまりな話だろうけど」

「……私は、失恋するか、気持ちが冷めるまで待つかの選択肢を与えてもらってるわけだし。感謝することはあっても恨むことはないよ」

 

 それも、難しい話だ。

 山本さんの恋の結末は俺が決めることができて、俺はその選択権を美優に預けていて、その美優からの指示は、はっきりしないまま。

 

 今の俺と山本さんは、相反する選択肢がギリギリの状態で消し合うことなく存在してるような、そんな曖昧さそのもの。

 拠り所もなく浮遊して、外側の何かによってどちらに傾くのかを待っている。

 

「こんなにソトミチくんの近くに居ることが許されてるのは、思う存分に本音をさらけ出して、好きなだけソトミチくんに甘えていれば、そのうち気も晴れるだろうって……そう判断されてのことだと思ってた。だから、考えてたこと全部喋っちゃったけど」

 

 山本さんは急に歩く速度を落として立ち止まる。

 腕に体全体をぎゅうぎゅうと押し付けられていた俺は、同じように止まるしかなかった。

 

 俺も美優の指示はお互いの腹の内を明かすことが目的だと思っていた。

 でも、実際には恋心が薄れた様子なんてなくて。

 

 むしろ──

 

「……スッキリは、したよ。言いたいことも言えたし、胸のつかえはなくなってる。そのおかげで、自分の素直な気持ちには向き合えた。それで、その、そしたら」

 

 山本さんが、言い澱む、その結論は、口にされなくても明白なものだった。

 

 なぜなら、それは俺も共有している感情。

 山本さんの抱くものと同一ではないけれど、それでもはっきりと伝わる。

 

 学校でのことと、あの一週間と、今日と。

 こうして二人でいる時間は、他の人では満たされないほどに楽しいものだったのだと。

 

「ソトミチくんのことが、もっと好きになっちゃったみたい」

 

 それは言葉にされて、想いは山本さんの鼓動になって、腕から伝わる心拍数に、俺の心臓も同調する。

 どくん、どくん、と激しく拍動する音が耳に響いてうるさい。

 

「どうしたら、いいかな?」

 

 山本さんはしっとりと俺の耳元で囁く。

 密着する体の面積はさらに増えて、山本さんはもう、一切の恋心を隠すつもりがないようだった。

 

「えっと……そう、だな……」

 

 こんなにイチャラブして、好きにならないはずがない。

 それは俺も同じだ。

 

 山本さんに好きだと伝えろなんて指示に従ったら、もう本気の告白になりかねない。

 

 遅きに失したのか。

 あるいは、こうなることが美優の狙いだったのか。

 

「とりあえず、周りに見られてるから、こうやってくっつくのはちょっと」

「あっ、ごめんね。つい。……こっちのほうが落ち着いたから」

 

 腕を組む代わりに少しだけ間を空けて手をつなぎ直した山本さん。

 山本さんは恋心どころか性欲まで抑えきれなくなっていて、俺も動悸がしているせいか、エロい気分が誘発されて下半身の疼きを無視できない。

 

 ここは一旦お開きにした方がいいだろうか。

 ひとことでも好きとは言ったし、役目は果たせたんだよな。

 

「……ねえ、ソトミチくん」

 

 しげしげと俺の顔を覗き込んでくる山本さん。

 どうしたのかと正面を向き直ったら、買い物袋を持っている右手ごと両手で包み込むように手を握られた。

 

「今日ずっと、変なタイミングで上の空になるよね? なにか考えてる?」

 

 ここにきて鋭い疑問を向けられてしまった。

 俺の感情が揺れたことで、前から勘づいていたものが確信に変わったんだ。

 

「あー……それは……」

 

 俺は問い詰められたら嘘がつけない。

 状況が状況だから、山本さんも深くは追及してこないだろうけど。

 

 このままサラッと言ってしまった方が楽になれるかもしれない。

 本気で好きだと伝えなければならないというのは、あくまでも俺の想像のものでしかないし、雑貨店で軽く好きだと言ったあれでもう十分な可能性もある。

 

 だから、同じように言ってしまうんだ。

 山本さんが好きだと。

 それは本音なんだから、偽ることはない。

 これで美優の指示を全うすることも、山本さんの疑問を解消することもできる。

 

 よし、言うぞ。

 言うんだ。

 

 挨拶をするみたいに気軽に。

 指輪を褒めたときのようにさりげなく。

 感謝の気持ちと同じくらいに心を込めて。

 

「その……えっと……」

 

 落ち着いて、タイミングを計るんだ。

 お互いの呼吸のリズム、周囲を歩く人の距離から、ベストなタイミングを計算する。

 

 できるだけ素早く。

 こうしてまごついている間にも、山本さんに見つめられて、二人の間にある空気が密度を増していっている。

 変な雰囲気が醸成される前に片付けなくては。

 

 まずは心の中で素振りを。

 

 俺は山本さんが好きだ。

 俺は山本さんが好きだ。

 山本さんが好きだ。

 

 よしっ。

 

「そっ……あ……俺……あの……」

 

 山本さんはギュッと俺の手を握って、口を閉ざしたまま、薄っすらと頬を上気させて答えを待っている。

 

 その緊張感が俺にも伝わって、第一声を間違えた。

 もういい加減に言ってしまわないと。

 これ以上見つめ合っていたら、俺にまで恋心が芽生えてしまう。

 

「俺も、山本さんのこと。好き、なんだ」

 

 言って、それからが、続かなかった。

 耳に入ってきた自分の声が予定になく迫真がかっていて、なにより俺の告白を聞いた山本さんが耳まで顔を真っ赤にするものだから、やってしまった後悔と焦りが頭を混乱させている。

 

「っ……あ……まあ……一番は美優だけど……」

 

 どうにか体裁を取り繕ったけど、それが山本さんに聞こえていたかはわからない。

 俺の手を握る力が痛いくらい強くなって、山本さんも色々とコントロールが利かなくなっているようだった。

 

「ソトミチくん、あの、よければ……」

 

 一瞬だけ俺の腕を引こうとして、すぐに思い直した山本さんは、どういう心理状況かまさかの言葉を口にしてきた。

 

「これから、私の家に行きませんか?」

 

 俺の目をしっかりと見つめながらも、ときおり周囲に気を向ける山本さん。

 

 これはただの予想だけど。

 この誘いの意味は「ここだとイチャイチャしづらいから家に来ませんか?」という口説き文句だと思う。

 

 普通に考えたら、恋人のいる俺が受けていい誘いではないけど、こうしてエッチをすることになるのは当初の計画通り。

 それこそ、山本さんと仲直りエッチ大作戦が円滑に進んでいる証拠なのだから、喜んでいいことなのに。

 

 俺が男として本気で山本さんに惹かれ始めてしまったせいで迷いが生じている。

 だが、もうここまで来てしまったからには、俺も引き返すことはできない。

 

「……そうだな。行こうか」

 

 たとえ愛の告白でも、セックスの誘いでも、美優の計画では俺が山本さんの「好き」を拒否することは許されない。

 

 おそらくは俺のひとことによって、性欲を堰き止めていた倫理が決壊した山本さん。

 

 これが本当に正しかったのか、俺は最後までわからないまま。

 

 互いの指を絡ませて、ほんのりと甘い緊張感を共有しながら、俺たちはバス停へと向かった。

 

 夏の日差しに肢体を刺激される昼下がり。

 瑞々しく太陽に映える山本さんの体が、やけにエロく感じた。

 



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俺の妹が最高のオカズだった

 

 駅の停留所からバスに乗り込んだ俺と山本さん。

 指折り数えられる程度しかいなかった乗客は前方の席に次々と座っていき、俺たちは最後部の座席に並んで座った。

 

 手はつないだまま、二人の膝の間に置かれている。

 それが現在の俺たちの距離。

 

 人目がないのでもっとベッタリしてくるものだと思ったが、山本さんにはデパートにいたときとは違う緊張感があって、さきほどから黙って目を泳がせているだけだった。

 

 冷房から発射直後特有の強い排気音が響く車内。

 山本さんと繋がる右手だけが異常な温度に包まれている。

 男と二人で家に行くことに、また純情がぶり返してしまったのか。

 今日の山本さんは全体的に初々しかったとはいえ、緊張が解れるだけの触れ合いは十分にしたと思うのだが。

 

 どうしたのかとよくよく観察してみると、どうにも羞恥心に煽られているわけでは無さそうだった。

 とすると、最後のアレが原因か。

 

 山本さんは俺の告白を、どう受け取ったのかな。

 

「ソトミチくん。一個、質問なんだけど」

 

 俺の膝に手を乗せ、重々しく口を開いた山本さん。

 

「ど、どうしたの?」

 

 俺が反応をすると、山本さんはジッと俺を見つめてくる。

 意を決して、という感じだった。

 

「美優ちゃんのこと、好き?」

 

 身を乗り出して、それが山本さんにとって気合の踏み込みだった。

 

 ここにきてその質問が来たか。

 さきほどの緊張が恋煩いと違っていたのは、寝取りを危惧していたからなんだな。

 やはり美優が一番だと主張したあれは聞こえていなかったのか。

 

「美優は好きだよ。恋人としては、もちろん、美優以外にないし」

「そうだよね? 私より美優ちゃんのほうが、好き……だよね?」

「あえてどちらが上かと答えるなら、美優にはなるな。比べてこういうことを言うのは失礼だけど」

「ううん、いいの…………はぁ……よかったぁ……」

 

 それを聞いて、へにゃっと脱力して俺にもたれ掛かってくる山本さん。

 弾みで家に行くことになったとはいえ、略奪愛はさすがに困るようだ。

 そんなことになったらそれこそ家庭崩壊だからな。

 よくよく考えてみると、山本さんからしたら恐ろしいことだった。

 

「雑貨店でのあれは、聞かなかったことにしたほうがいい?」

「あれは、ただの願望だもん。妄想の中くらい一番でもいいじゃない? でも、あくまでもこれは恋が冷めるまでの執行猶予なんだし。罷り間違ってソトミチくんが私を一番に選んじゃったら、美優ちゃんに悪いよ」

 

 どうやら山本さんの懸念材料はそれだけのようだった。

 安心した山本さんは、ひょいっと繋いだ手を上げて、まずは膝と膝をぴったり合わせてくる。

 

「なので、ここからまたイチャイチャできますね」

 

 にへらと笑って調子を取り戻す山本さん。

「これは美優ちゃんが許してるから」と何よりも強い弁明を盾にして、すでに帰路についているのに、まるで旅行にでも行くかのようなウキウキ具合だった。

 

 山本さんが好きの気持ちを全力でぶつけられるのは、それでも俺と美優の恋仲が壊れないと確信できるからなんだな。

 でなければ、いくら甘えたい願望があったとしても、山本さんはおとなしく身を引いていたはず。

 どれだけ性欲が溜まっていて、恋心に倫理が決壊したところで、根本にある山本さんがそういう人間であることは変わらない。

 

 山本さんがこんな浮気じみたスキンシップにまで手を出した理由は、他でもなく美優が許しているからだ。

 イチャイチャするのは遥がそうしていたからだし、欲情しているのは由佳がエッチをすると言ったからで、だからこそ、山本さんはそこまでならセーフティーゾーンだと思うことができた。

 

 恋人のように甘えても、肉体関係に至っても、俺と美優の恋仲は壊れない。

 その確信があるから、山本さんは思う存分に愛を表現することができる。

 山本さんの本気の好きを引き出すには、俺からの好きをぶつける必要もあって。

 それが『美優を一番だとした上で、山本さんに好きだと伝える』という指示の真意だったのだ。

 

 と、今ではそう思う。

 

「じゃあ、こんな風にしても、ソトミチくんは美優ちゃんが一番に好きだよね」

 

 山本さんは俺の二の腕に引っ付いて、服の構造上で可能な限り深くおっぱいに挟んできた。

 ブラ越しでも感じるその乳房の柔らかさに、さすがに愚息がピクピクと反応を始めている。

 歩きながらでは意識しづらかったが、山本さんの谷間を真上から眺める景色は壮観で、山本さんって本当におっぱいデカいよなと今更なことを思ってしまった。

 

「そ、それぐらいは、まあ……」

「それなら……これでも平気……?」

 

 山本さんは俺の腕をおっぱいに挟んだまま、今度は俺の手を誘導して自分のふとももに挟み込んだ。

 

 しっとりした体温が指先から伝わって、俺の心臓も下腹部もざわつき始める。

 山本さんの内腿は股間部に近づくほど湿り気を増して、外側に手を滑らせればむちむちですべすべの柔らかさを堪能できる。

 ショートパンツを穿いているせいでかなり際どいところまで肌に触れることができて、下手をすればこのまま女の子の大事な部分にまで指が届く。

 

 どうしよう。

 女の子のアソコなんてもう慣れたはずなのに、まだ野外で触った経験がないせいか、ものすごくその暗部に惹かれてしまう。

 

「それ以上は、やめといたほうがいいかも。ソトミチくんのせいでパンツがぐちょぐちょに蒸れてるから、たぶんキレイじゃないよ」

「え、あぁ……そ、そうだな」

 

 そんなことを言いながらも、山本さんはクスクスと妖しく微笑んで、ただでさえ短いショートパンツの裾を上に引っ張ってパンティラインを覗かせてくる。

 

 そんな挑発をされて、いよいよ俺の性欲にも火が灯ってしまった。

 山本さんは俺の恋心が変わらないラインを慎重に探っているだけなのだろうが、こうしてジワジワと責められると、なんだか美優への愛を試されているようで気が昂ぶってくる。

 

「ソトミチくん、ズボンのチャックのとこがピクピクしてませんか」

「うっ……これは……さすがにな……」

 

 美優への愛情と、山本さんへの欲情は、また別の話。

 そんな都合のいい話は世間では認められようもないが、事実としてそうなのだから仕方ない。

 ましてやこのエロスの権化を相手に、よく耐えている方だと自分を褒めたいぐらいだ。

 

「ダメなんだよ。恋人以外の前でおっきくしたら」

 

 どう考えてもそのおっきくさせている張本人は、俺にふとももを触らせたまま腕におっぱいをズリズリしてきて、服が伸びるのも気にせずブラの中身まで見せつけようとしてくる。

 丸い肌色の面積が一気に増えて、形の崩れたブラから乳首までが露出し、その卑猥な光景に俺の愚息はあっけなく雄の本能に屈服した。

 

 バスには何気なく外を眺めている人や、スマホをイジって暇をつぶしている人がいて。

 その人たちに気付かれないように、カップルでもない俺たちはイチャイチャと互いの性感帯に触れて遊んでいる。

 その結果として敗北を認めてしまった俺の股間には、パンパンに張り詰めたテントが出来上がってしまっていた。

 

「えへへ。ソトミチくんの負けー」

 

 指で山の頂点をくいくいとイジってくる山本さん。

 こんなエロの暴力みたいな人に迫られて勝てるはずがない。

 

「おしおきタイムに入ってもいいですか?」

 

 上目遣いでそんなことを訊いてくる山本さん。

 美優のことがあるから確認したいのはわかるけど、その質問はどうなんだろう。

 

「ダメって言ったら、どうする?」

「えー。……したいなぁ」

 

 山本さんは目をパチクリさせておねだりしてくる。

 答えの選択肢がもはや固定されているのだが。

 わざわざ二つの選択肢を出しておいて、想定と違う方を選んだらループさせる悪質なゲームみたいだ。

 

「お、お願いします……」

「んふふ。仕方ないなぁ」

 

 ノリノリの山本さんは俺のズボンのチャックを下ろし、ハァハァと息を荒くしながら俺のペニスをさする。

 

 かなり性欲が溜まってたもんな。

 今の山本さんの脳内をスキャンしたらヤバいことになってそう。

 

「もう、こんなにヌルヌルさせて。ソトミチくんはエッチなんだから」

 

 山本さんは俺の先走り汁を指先でこねこねして、そんな無茶な批難をしてくる。

 全部山本さんのせいなので欠片も謝意は湧いてこないが、こういう性に理不尽なところが山本さんの可愛いところなので俺も楽しくなってきてしまった。

 

「おうちに着くまで射精禁止ね。まあどうせ出ないだろうけど」

 

 山本さんは俺のトランクスの前ボタンを外すと、ペニスを引き出すことはせずに指を差し入れてきた。

 人差し指と中指で俺の勃起した肉棒を緩く挟んで、カリと鈴口の性感帯にピンポイントで指先の側面を当て、くいっ、くいっ、と刺激してくる。

 

「ぐっ……はぁ……それ……気持ちいぃ……」

 

 山本さんはごくごく弱い力で性器を刺激しながら、目に星を散らしてずーっと俺の顔を見つめている。

 どんだけ俺の感じている姿を見るのが好きなんだ。

 本当にエッチが大好きだよな、山本さんは。

 その本気の好きに引きずられて、俺までエッチがしたくなってしまう。

 

「あっ……もう……ソトミチくんったら……」

 

 俺の手が山本さんのふとももを弄って、それでも山本さんは変わらず指責めをしてくる。

 山本さんのエロテクで与えられる快楽よりも、心からエッチを楽しんでいる感情の波が押し寄せてくることが、なにより俺の性感を高めていた。

 

 それから俺たちは、静かなバスの中ということもあり、ひっそりとそのままのエッチを続行した。

 お互いに同じ場所をクチュクチュと触り合って、快感に震えながら声を必死に堪えるだけ。

 バスに人が乗車してきたときは、山本さんは俺の腕にひっつくことだけを一時的にやめて、それでも、俺の肉棒を二本の指で挟んで刺激することだけは止めなかった。

 

 人がこちらを向いているのに。

 座席の背もたれを死角にして俺たちはエロいことをしている。

 

 ずっと野外でしてみたかったのだと、以前の痴漢プレイのときには活き活きしていた山本さん。

 自分が気持ちよくなることなんかよりも、こうして相手と一緒に楽しめるエッチができる喜びのほうが遥かに勝っているようだった。

 そんな純粋にエッチを楽しむ山本さんが五割増しに可愛く見える。

 

「ソトミチくん、そろそろ、降りる場所だよ」

 

 山本さんは家の最寄りまでバスが辿り着くと、俺のズボンから手を抜いて、指先にべっとり付いた我慢汁をちゅぶっと舐め取った。

 

「んっ……ソトミチくんのエッチ汁……生じょっぱい……」

 

 この人は何をするにしてもエロい。

 どんなことでも楽しんでくれるし、セックスパートナーとしてはこれ以上にないよな。

 前の男たちは、パンツに指を入れられる前に射精してしまっていたのだから、山本さんとしても彼氏としても残念だったよな。

 まあ、仮にすぐ射精することがなかったとしても、全員が全員、俺みたいに露出プレイに付き合ったかはわからないけど。

 

「ソトミチくん。それ、上手く私を死角にして隠してね」

 

 バスが停まり、山本さんは座席から立ち上がって、パンパンに張ったズボンを見下ろして俺の手を引く。

 腰を屈めたくらいでは隠せなくなっているそれを、俺は乗客の顔の向きに合わせて立ち位置を調整することで誤魔化した。

 

 バス停を降りてからしばらくしてもそれは同じで、勃起が収まる頃には山本さんの住むマンションまで辿り着いていた。

 

 エントランスのロックを解除し、それに合わせて降りてきたエレベーターに乗り込むと、山本さんはようやく人目がなくなったことで更にテンションが上がっていた。

 ボタンを操作する俺の背後から、もう待ちきれないご様子の山本さんが抱きついてきて、顔をうずめながらモゴモゴと何かを言っている。

 

「ソトミチくんは美優ちゃんが好き、ソトミチくんは私とエッチをしても美優ちゃんが好きだから、私はソトミチくんとエッチしてもいい……」

 

 どうやら自己暗示をかけているらしい。

 どれだけ倫理が決壊しても浮気を気にしなくなることはないようだ。

 

 エレベーターが指定の階に着くと、山本さんは俺の手を取って廊下へと進んだ。

 部屋の鍵を開けて、いざ何度目かの山本さんの部屋へ。

 

「えーっと……お邪魔します、かな」

 

 長い期間住みついたわけでもないのに、どこか懐かしさを感じてしまう玄関に入ると、ふと疑問が浮かんできた。

 そんな俺に、先に靴を脱いで部屋に上がった山本さんが、クルッとこちらに振り返る。

 

「“ただいま”って言ってくれるなら、私はいつでも“おかえり”って言うよ」

 

 山本さんの屈託のない笑みに、さすがの俺も照れが隠せず。

 小声で「ただいま」と口にしながらおずおずと靴を脱ぐと、両足が着いたところで山本さんも小さく「おかえりなさい」と言ってくれた。

 

 山本さんの居室の内装は変わらないままだった。

 日も経っていないので当然のことなのだが、不思議な懐かしさにふとそう思った。

 

 俺たちは前と同じようにベッドの縁に背中を預けて、横並びになる。

 

「来ちゃったね」

 

 いざ部屋に帰ってからは、山本さんは意外にも大人しかった。

 もっとガバッと襲われるものかと思っていたのに、山本さんは床を指でなじってもじもじしている。

 

「さっきの、アレだけどさ。なんか、エッチな感じになっちゃったやつ」

 

 表現の仕方がひどく曖昧で、聞いた瞬間には“アレ”が何を指しているのかわからなかったけど、ついさっきバスでしたことについてだよな。

 

 エッチな感じになったも何も、エッチをしていた以外に言い訳のしようはないんじゃないかな。

 まあ、山本さんの名誉のために突っ込まないけど。

 

「ほんとに……セーフだったかな……?」

 

 どうやら自己暗示に失敗したらしい山本さんは、誰もが浮気の明確なラインとして挙げるであろう『男性器への接触』をしてしまったことを悩んでいるようだった。

 

 俺は美優からセックスでもなんでもしろと指示されているから、問題がないことはわかるけど。

 

 どこまで暴露をするべきかな。

 美優がなんでも許すと言ったなんて、さすがに教えられないし。

 

「もちろん、なんとしてでも仲直りしろっていうのにも、限度はあるよ。具体的には、もしそういうことになったら、今日は一回まで……とは言われてるけど」

 

 これだけは伝えておかないと、エッチが始まったときにどれだけ絞られるかわからないからな。

 予防線を張りつつ山本さんの疑問も解消できるから、この情報だけ出したのはナイスな判断のはず。

 

「待って待って。一回って、なに? 一回って、エッチ一回ってこと? 美優ちゃんがソトミチくんに一回だけなら私とエッチしてもいいよって言ったの? それはどういう基準なのですか? ソトミチくんに一回だけ射精してもらえるってことでいいの?」

 

 まるで水を得た魚のように食い気味に詰問してくる山本さん。

 自分に対して明確にエッチの許可が出ているとわかれば、したくてもできずに悩んでいたあれこれが解消されるのだろう。

 

 よっぽど我慢してたんだな。

 

「山本さんの言った通りで合ってるよ。それで、夕方までには帰ってこいって言われてる」

 

 俺がそう明言すると、山本さんの目にいよいよ輝きが灯り始めた。

 

「それって、都合よく解釈すると、ソトミチくんと夕方までイチャイチャできて、しかも射精が一回までなら好きなだけエッチができる……ということでしょうか……?」

「そ、それで、間違いない」

 

 ただ出すだけでは気が済まない様子の山本さん。

 女の子だからどれだけ性欲が溜まっているのかわかりにくいけど、男に置き換えれば一週間オナ禁していたようなものか。

 それなら、こうなるな。

 

「じゃあ……あの……わかりきった質問かもしれないけど……」

「いいよ。なんでも聞いて」

 

 俺も腹をくくった身だから、浮気にならない範囲であればどんなことにでも応える。

 浮気の定義は世間の各々に任せるとして。

 生でセックスとかはさすがに美優の指示があっても断らせてもらうが、そうした行為以外なら、多少の変態セックスには付き合おう。

 

「たとえば……ふぇ……ふぇらちお……とか……させて、いただけるのでしょうか……?」

「う、うん。いいよ。したいことはさせてあげてって言われてるし」

 

 フェラチオなんてさせていただくものではないと思うが、ご奉仕体質の山本さんからすればその言葉遣いが自然なのか。

 

「もっと早く言ってくれればよかったのに……」

 

 たぶん、『エッチまでしていいなら、今までのスキンシップでやきもきする必要はなかったんじゃないですか』と主張したいのだろう。

 それは申し訳ないことをしたが、あの場でいきなり「フェラ一回くらいならいいよ」なんて言えるわけもないから、これは仕方ない流れだったんだ。

 

「でも、節度は必要だよね。美優ちゃんはたぶん、エッチよりイチャイチャのほうが嫌がるだろうし。ちょびっとだけ、エッチして、終わりにするね」

 

 山本さんは、俺を美優から奪いたいわけじゃない。

 願望はあっても三人で愛し合っていけるようにしたいわけでもないんだ。

 俺と美優が一番に愛し合って、それを素直に応援できるように、抱いている恋心を処理したいだけ。

 

 その目的を見失っていないあたりは、さすがは山本さんだと感心する。

 山本さんは『俺が嫌なことをしない確信があるから一緒にいたくなる』と言ったけど、こういう安心感があることも、俺が山本さんを救いたいと思う理由でもあるんだよな。

 

 にしても、本番じゃなくてフェラか。

 それだと山本さん自身は気持ちよくなれないはずだけど、いいのかな。

 

「もしかして、ゴムを持ってなかったりする?」

「ん? あるけど?」

 

 フェラをするために四つん這いになっていた山本さんが、キョトンと首をかしげる。

 

 ゴムはあるのか。

 だとすると、美優に遠慮して本番を避けてるのかな。

 

「いや、その、口だけでいいのかなって」

 

 俺がそう尋ねると、どうにも山本さんの羞恥心を刺激してしまったようで、また山本さんの顔の温度が上昇していく。

 

「あ……えと……フェラがしたいんだけど……ダメ……?」

 

 山本さんが申し訳なさそうにそう訊いてくるので、俺はそんなことないと慌てて否定した。

 

 女の子に恥ずかしい思いをさせてしまったな。

 こうなったら俺から脱ぐくらいのことはしてあげるべきか。

 

「うーん……まあ……本番をしない理由は、あるけど……」

 

 俺がズボンに指を掛けたところで、山本さんから気になる発言がぽろり。

 それはやはり美優を気遣ってのことなのか。

 ここは言及しないほうがいいよな。

 

「俺もフェラされるの好きだから、山本さんがしてくれるならすごく嬉しいよ」

 

 そう言いながら、俺はズボンのチャックを下ろす。

 その動きを、山本さんは手で制した。

 

「存じております」

 

 山本さんは服を全部脱がすつもりはないようで、バスのときと同じように、俺のトランクスのボタンを開けてそこからペニスを露出させた。

 まだ大きくなってない状態から始められるフェラって、なんだか恥ずかしいんだよな。

 

 俺がフェラチオをされるのが好きなのは、前回のお泊りの時点でバレてたっけ。

 あのときも似たような体勢になって、山本さんに昔の写真を見せてもらいながら抜いてもらったんだよな。

 あまりにも美優に似すぎていたから簡単に出してしまった。

 

 ……思い出すと暴発してしまいそうだからこのへんでやめよう。

 

 山本さんが口を近づけると、吐息が亀頭に吹きかけられて、俺はすぐに半勃起状態になる。

 横から咥えられる体勢になった山本さんの耳元には、今日一日で見慣れたピアスが光っていた。

 

「髪を上げてるからお口がよく見えるでしょ」

 

 サービス精神旺盛の山本さんに、どうしたって心は弾む。

 男の喜びを熟知しているこの美少女を相手に、たとえフェラだけであっても俺の本能は無事で済むだろうか。

 

「じゃあ……ほんとは美優ちゃんのだけど……はむっ」

「うっ……!」

 

 山本さんの口の中で膨張していく俺の肉棒。

 それを口内で転がして楽しむ山本さんの舌が、触手のようにカリの溝を這って、今日の外出で溜まった汗とニオイを舐め取っていく。

 

「はぁ……ひょとみちくんの……おひんひん……むちゅっ……んくっ……じゅぶっ……ぐぢゅっ……」

「あああっ……山本さんの……ほんと、すごい…!」

 

 一度咥えてからは、山本さんはもう遠慮をすることなく俺のペニスに吸い付いた。

 

 横髪を頭の後ろに結い上げている山本さんの横顔は、その唇が俺の肉棒の亀頭から根本までを咥え込むさまをありありと見せつけてくる。

 ときおり舌を出して、ズズズッと舐め上げる山本さんのフェラが、あまりにも気持ちよすぎて意識が飛びそうだった。

 

「じゅっぷ……くちゅ……ふぁ…………このかひゃいのひゅき…………チュッ……ちゅぶっ……!」

「いっ……ぐあぁっ……やまもと……さん……あッッ!!」

 

 夢中でフェラチオをする山本さんの肢体が、上下運動のために筋肉を収縮させて、瑞々しくも無駄のない肉の筋が二の腕や太腿の各所に形成されていく。

 四つん這いでぶら下がる豊乳に、ショートパンツを張り上げるお尻の張り。

 全身がエロい山本さんの肉付きは口内も例外ではなく、肉棒をねぶり上げる舌も、唇も、腰が抜けるほどの快楽を俺に与えてくる。

 

「じゅるるっ……じゅぷっ……んふっ。誰も見てないから脱がせていいんだよ」

 

 シャツの胸元を指で引っ張って挑発してくる山本さん。

 

「あ、でも……今のソトミチくんはダメなのか……むぅ」

 

 言った直後に、山本さんは俺が自分の意思では山本さんに手が出しづらいことに気がついた。

 こんな良い雰囲気なので俺も思わず流されそうになったが、俺から好き放題にやってしまったらさすがにアウトのラインに踏み込んでしまう。

 

 立場が逆だったら、やりたいことをやればいいだけだったから楽だったのにな。

 山本さんの場合はご奉仕するのが大好きなので、相手が主導で喜んでくれないとやりづらいみたいだ。

 

「お借りしている身だから文句は言えないよね」

「俺からは、なんともいえないけど。どこまでしていいのかは、美優に聞いてみる」

「うん。よろしくね」

 

 山本さんは上機嫌にチュッと俺のペニスの先端にキスをする。

 

「ああ……ソトミチくんのほんとにおっきくて好き……」

 

 それから俺の勃起を手でスリスリして、慈しむように両手で包む。

 これだけでも中々に気持ちのいいものだ。

 

「そんなにおっきい?」

「私にとっては、ね。みんな触っても一瞬というか、直接触ることもなく出しちゃうことがほとんどだったから。こうしておっきいままのを咥えられるのが嬉しくて……」

 

 心から幸せそうにする山本さんの、その主張は裏のない率直なものだと感じた。

 だからこそ、別に気にしなければよかっただけの違和感を、俺は覚えてしまった。

 

「エッチができないと、山本さんはやっぱりツラい?」

 

 あの一週間で山本さんが語った、元カレたちに対する想い。

 エッチなんてできなくても、ただ尽くした相手が喜んでくれるだけで、山本さんは幸せなのだと語った。

 

 それが本心だろうがなかろうが、それ自体はどうでもいい。

 だけど、体の相性が合う唯一の存在である俺がいなくなったら、山本さんはまた彼氏を作っても同じようにエッチはできなくなってしまうわけで。

 それは辛すぎると思うし、余計なお節介かもしれないけれど、美優が同意してくれるなら山本さんが満足できるまでしてあげるのもいいかと思った。

 

「前の人たちとの関係に、満足してたのは本当だよ。そのときは、ただ尽くせるだけで幸せだったの。ちょっとしたお出かけをしたり、作ったご飯を美味しそうに食べてもらえたり、毎日がそれだけでいいんだって、心から思ってた」

 

 でもね、と山本さんは、恥ずかしそうにして言葉を続けた。

 

「私も……結局はただの人なので……その……いざソトミチくんと……本物のエッチをしてみたらですね……」

 

 言い淀む山本さん。

 なんとなく先の言葉が予想できてしまって、得も言われぬ罪悪感に心臓が変な跳ね方をした。

 

「あぁ……エッチってこんなに楽しいんだって……こんなにも喜んでもらえて……こんなにも……気持ちいいんだって……」

 

 それは山本さんとしても不本意だったはずの現実。

 いっそ知らなければよかったと思ったときもあったかもしれない。

 

「気づけば私は、ソトミチくんに女にされてました」

 

 うぅ、と涙ぐむ山本さん。

 そんな状況でも、山本さんはペニスの裏筋を舐めたり、亀頭に吸い付いたりして、心のゆくままにフェラチオを堪能している。

 これはもしかして、責任を取らなければいけない案件なのでは。

 

「うぅっ……ソトミチくん…………はむっ……ちゅっ……じゅぶずずっ……」

 

 嘆きながらも俺へのフェラを再開した山本さん。

 こうして俺の肉棒を咥えている聖女のような女の子が、俺のせいで性欲の奴隷に堕ちてしまったのかと思うと、これまでに感じたことのない背徳感に腰のあたりがゾワッとした。

 

「ひぇいえきも……ひょとみちくんのドロドロひぇいえきひゃないと…………まんじょくできにゃい……」

 

 我慢汁の一滴すら味わうようにしゃぶりつく山本さん。

 

「はぁ……や、やばい……あっ……」

 

 そんなエロい姿に、俺の性欲もさすがに精子の射出を要求しはじめた。

 山本さんとは一回しかエッチができないのだから、こんなに早く射精してしまうわけにはいかないのに、山本さんが精液を欲しがっていると思うと出したくてたまらなくなってくる。

 

 これも美優とのエッチの弊害だった。

 これまで経験したエッチのほとんどが飲精だったから、精巣を吸い尽くすようなフェラや射精の要求には滅法に弱い。

 

「んじゅぶっ……ぐっぷ……じゅぶぶっ……じゅぶっ……!!」

「山本さん…………いっ……きもちいい……ッ!」

 

 山本さんの口の中でイきたい。

 でも、それをお願いするのは二重の意味でできない。

 こんなに早くエッチを終わらせたら山本さんに申し訳ないし、俺から懇願するのは美優への誠意に反する。

 他の人の口に出したいと思ってしまった時点で手遅れかもしれないけど。

 それでも、俺は射精したいことを言い出せないまま、山本さんのご奉仕を受け続けていた。

 

「んっ……ちゅぶんっ……くはぁ……ん……?」

 

 しかし、俺の嘘がつけない性格は、尋問などされなくても伝わってしまうようで。

 山本さんは肉棒への愛撫を続けながらも、俺の顔をジッと見て表情の変化を伺ってきた。

 

「ソトミチくん……んっじゅるっ、じゅぷっ……もう出したい……?」

 

 直球で訊かれたその質問に、俺はさすがに取り繕うこともできず。

 二人に申し訳ないと思いながらも、首を縦に振ってしまった。

 

 で、その結果としては、もちろん。

 

「んふっ……私の口に出したいんなら……あぁむっ……じゅぱっ、じゅるるっ、ぢゅぱっ……んちゅ……ちゅっぷっ……」

 

 山本さんの表情がまた一気に明るくなる。

 エッチが早く終わってしまうのは申し訳ないけど、山本さんならこういう反応になるのはわかっていた。

 

 自分より他人の幸せに喜びを感じる人だからな。

 エッチをしているときの射精をしたいという要求は、山本さんにとって何より嬉しいものなんだ。

 

「んっ、んぐっ……じゅるぶっ……んっ……それなら、はい、これをどーぞ。んふふっ……んぐちゅ……じゅぷっ……ぐっぽっ、ぐぢゅるっ……じゅぽっ……」

 

 山本さんはテーブルに置いていたスマホを手にして、フェラをしながら画像を漁り始めた。

 それは、前に山本さんの昔の写真を見せてもらった、古い方の端末。

 

 中学生時代の山本さんは、今の美優と容姿が瓜二つで、前回はそれをオカズに俺は射精した。

 

 だから、山本さんからスマホを手渡されたときも、それと同じものを出してくるのだと思っていた。

 

「うっ……こ、これって……!」

 

 それはただの昔の写真ではなかった。

 正面顔をアップにして、美優とそっくりの山本さんが肉棒を咥えている姿が、そこには写されている。

 

 いったい誰を相手にしたハメ撮りなのか。

 そんな疑問が湧いたのは一瞬だけだった。

 

「んふふっ……くちゅ……ちゅぱっ……! じゅるじゅるれろ……ぐっぷじゅっぷ……じゅぶっ……!」

「ああっ……はぁ……山本さん……あッ……!」

 

 激しさを増す山本さんのフェラに、俺は快楽責めにされながら、視線は手渡された画像に釘付けになっていた。

 

 美優そっくりの山本さんが咥えているペニス。

 それは、他でもない俺のものだった。

 画像の中で、正面を向いて俺の肉棒を口に含んでいる山本さんは、頬のあたりに撮影しているのとは別のスマホをかざしている。

 そのディスプレイには、前に俺がオカズにした中学時代の山本さんの写真が映されていたのだ。

 

 そして、加工で埋め込まれた『お兄ちゃん大好き♡』の文字。

 その映像が、撮影会をしたときの美優のトロ顔を俺にフラッシュバックさせる。

 

「ダメだっ……あっ……山本さん……もう……!」

 

 もう美優のハメ自撮りにしか見えなくなっていた。

 学校での真面目な姿を画像にして見せつけながら、淫らな本性を俺にだけ晒す、そんなエロい妹が俺のペニスを咥えている。

 

「んじゅっ……いひよ……らひへ……! んっ……ちゅぶじゅぶっ……ぐちゅ……ッ!」

「あっ……はああっ……! で……るッ……あああぁっッ!!」

 

 ビュッ、びゅる、ビュッ──!!

 

 様々な罪悪感を抱えながら、俺は山本さんの口に射精した。

 睾丸から尿道を通じて、あの唇の奥に精液が送り込まれたんだ。

 いっそ口内射精のほうがゴムを付けて膣出しするよりエロくさえ感じてしまう。

 

「んふぁ……いっぱい出た……」

 

 ついに美優以外の口に精液を出してしまった。

 オフ会でも由佳とセックスをしたはずなのに、この罪悪感の違いは何だろう。

 

「うっ……んくっ……ぷはぁ……ソトミチくんの味がする……」

 

 山本さんは恍惚としながら俺の精液を喉に流し込む。

 ついに美優以外にも平然と飲める人が現れたのかと、嬉しくもあり寂しくもあるような微妙な感情を抱いたのだが。

 

 結局、そのあと山本さんは盛大に咳き込んですぐにお茶を飲みに行った。

 

「ごめん」

「いや、それが普通だし、もう俺も慣れたから大丈夫」

 

 山本さんの体のほうにはエッチをしてあげられていないのに、俺とのエッチが終わってからは山本さんはスッキリした顔をしていた。

 相手がイクと同調して気分が落ち着くのだろうか。

 

「出しちゃった……」

 

 まだペニスが露出されたままの俺の股間部に、山本さんは名残惜しそうに視線を落とす。

 流れのままに出してしまったせいで10分くらいしかできなかったからな。

 とはいえ、こんな快楽攻めを何時間も続けられたら俺の精神のほうが保たないのだが。

 

「えーっと……とりあえず、この画像はどうしたの……?」

 

 山本さんが、まだ硬さの残った俺の肉棒を、ネコが戯れるようにぺしぺしして遊んでいるので、そちらは山本さんに任せてひとまず疑問を解消することにした。

 

「ソトミチくんと最後に過ごした日に撮っといたんだよ。前髪と目尻に加工をかけたら美優ちゃんそっくりになったから、そのときはただ話題のネタに保存してたの。あっ、あと肌も白くしてるよ。美優ちゃん色白だから」

 

 たしかに、山本さんが髪型を美優と同じにして、あの勝ち気な鋭い目つきになったら、それこそ姉妹のように似るだろうな。

 おっぱいの成長具合と肌ツヤも同じレベルだし。

 

「はぁ……楽しい時間が終わってしまった……」

 

 山本さんは、まだ俺の肉棒をイジっている。

 だんだんと気持ちよくなってきてしまった。

 今日射精していいのは一回までと言われているし、何か別のことを考えなければ。

 

「そういえば、今日はどこかに行く予定なんじゃなかったの?」

 

 俺は山本さんの露出の多い服装を見て、由佳から聞いた情報を思い出した。

 山本さんが俺を発見したのは、改札を通る寸前だったんだよな。

 

「え、ああ……うん……。そうなんだよね。冷静になると申し訳ないことしちゃったな」

 

 山本さんはエッチが終わったはずの俺のペニスに軽く手コキを続けてくる。

 手が大きいから手コキがまた気持ちいいんだよな。

 本格的にムラムラしてきたのでそろそろお控えいただかないと。

 

「ひ、人と、会う約束をしてたとか?」

「うん。バイト先の男の子。デートの約束をしてて」

 

 それは、また、なんというか。

 聞いてしまうと俺まで申し訳なくなってくる。

 

「最初は、ご飯をするだけの話だったんだけどね。そういうつもりがあったのかわからないけど、夜まで遊べないかなって誘われたから。……ソトミチくんを忘れるためにはいい機会かなと思って、オーケーしてたんだ」

 

 なるほど。

 だからそんなに気合を入れていたのか。

 

 仮に相手にその気がなかったとしても、そんなドエロい格好を見せられたら一瞬で悩殺されると思うんだが、そこらへんは考慮してたのかな。

 

「それをね、私はドタキャンして。今だって、夜だけでも予定が空いたらどうかって、聞かれてるのに。私はこんな所で別の男の人とエッチをしてるんだよ。ヒドい女だよね」

 

 さすがに反省で胸が苦しくなったのか、山本さんは遊んでいた俺のペニスをトランクスにしまってズボンのチャックを上げた。

 

 これまでの話を聞くと、山本さんの過去と未来の彼氏全員から俺が寝取ったみたいになるのだが。

 そんな業を背負うのだけは勘弁願いたい。

 

「でさ、ソトミチくん」

「ん? どうした?」

 

 今度は、山本さんからの質問。

 エッチも一区切りついて、いつものまったりスタイルで横に並ぶ。

 

「私たち、なんでエッチしてたんだっけ」

 

 山本さんがそんな疑問を投げつけて、しばらくは、居室に沈黙だけが満ちていた。

 

「山本さんの気が済めば、恋心も晴れるって、予想だったからじゃないかな」

「そう、だよね。でも、デートをして、エッチをして、ソトミチくんと居たくなる想いが募るばかりなのですが」

 

 まあ、現実はそうだよな。

 俺だって美優の目論見は欠片も聞かされてないし。

 予想はあくまで予想でしかない。

 

「はあ……冷静になるほど美優ちゃんへの申し訳なさが……私なにしてるんだろう……」

 

 恋を患ってからは空回りしっぱなしの山本さん。

 それでも好きなんだから辛いよな。

 

「落ち着いてるうちに解散にしよっか」

「そうだな。そうするか」

 

 まだ夕方までにはだいぶ時間があるが、気分がリセットされているうちに帰ったほうが山本さんのダメージも少ないだろう。

 

 俺は買い物袋と財布を持って、山本さんに見送られながら玄関に向かう。

 靴を履いている途中で、微かに服を引っ張られたような感覚があったが、それについては触れないでおいた。

 

「それじゃあ……またな」

「うん。また、ね」

 

 玄関を出て、ドアを閉めたのは、山本さん。

 前回は切ない別れになったが、最後に見えた山本さんの顔が笑っていたので安心した。

 

 俺は無心でエスカレーターのボタンを押し、エントランスを出て、そこでようやく詰まっていた息を吐くことができた。

 

 結局は山本さんとのエッチを楽しんでしまった。

 デートのときも、少しとはいえ俺は男として山本さんに惹かれていたし。

 

 こんな体たらくで美優は許してくれるのだろうか。

 どこまでが計画通りなのかな。

 体裁上は指示を守れたけど、僅かでも本気の好きを抱いてしまったことについては、美優も想定外だったかもしれない。

 それでも、今日起こったことは全部話すけどな。

 

 俺は夏の日差しに焼かれながら、トボトボと家にまで歩きついた。

 エッチもしてしまったし、まずはシャワーを浴びよう。

 美優はどうしてるかな。

 

「ただいま」

 

 ドアの鍵は開いていて、玄関に入るとスーッと冷気が全身を包んだ。

 

 この状況からすると美優はリビングに居るかな。

 と思っていると、予想通りにリビングから美優がお出迎えしてくれた。

 

 美優は最近になって室内着にするようになった大きめのTシャツを着て、ギリギリ裾が見えるキュロットパンツと一緒にヒラヒラさせている。

 Tシャツはもちろん、いつだか捨てられたと思っていた俺の服の一つである。

 

「おかえり。ずいぶん早かったね」

 

 美優は例によって真顔モードなのだが、この早めの帰宅にはいくばくか驚いていた。

 もっと山本さんとイチャコラしてくると思っていたのかな。

 

「結構、頑張ってきたぞ」

 

 反省すべきところはあったが、指示を遂行したというのはなかなかに偉いことだったと思う。

 そして、かなり疲れた。

 

 ずっと気を張っていたからな。

 やはり実家の安心感と、美優のこのドライな雰囲気は最高だ。

 山本さんに芽生えかけた恋心なんて、今ではなかったかのようだ。

 

「ふむふむ」

 

 美優は靴を脱ぐ俺のことをしげしげと観察して、静かにこちらに近づいてくる。

 

「そういうことなら労いましょう」

 

 そして、玄関の段差があってなお埋まらなかった身長差を背伸びでカバーして、美優は俺の頭をギュッとおっぱいで包み込んでくれた。

 

「おっ……」

 

 何が起こったのかわからなくて、俺は瞬間、心停止した。

 

 でも、美優が抱きついてきていることはわかって。

 そのために美優がつま先立ちして、俺の方へバランスを崩しかけているのを感じて。

 反射的に身を屈めると、美優は踵をストンと落として、そのまま頭を撫でてくれた。

 

「よしよし。よく頑張りました」

 

 鼻孔に広がる美優の芳醇なおっぱいの匂い。

 

 た、たまらない。

 さっき出したばかりなのに、もう下が硬くなってきた。

 

「まあこんなものでよいでしょう」

 

 美優は10秒ほど俺の頭を撫でてから、すぐに離れてしまった。

 なんという冷徹さだ。

 

「も、もっと! もっと欲しいんだが!!」

「髪の毛が汗で湿ってるからシャワーを浴びてきてください」

「よしわかった秒で入ってくる」

 

 どうやら今日は美優がイチャイチャしてくれそうなので、俺は即座に風呂場に入って丹念に全身を洗って服を着替えた。

 

 汗もさっぱりして生まれ変わったみたいだ。

 これなら遠慮なく美優にも抱きつける。

 

 恋人に、抱きつけるんだ。

 これまでゴタゴタが続いていたから、たったこれだけのことにも幸せを噛み締められる。

 いや、むしろこれから何があっても、それが幸せであることは忘れてはいけないんだよな。

 日々感謝して、日々愛情を注がないと。

 

 ……美優のことだから、やりすぎても怒るだろうけどな。

 

「上がったよ」

 

 リビングに戻ると、美優がソファーでファッション雑誌を読んでいた。

 俺が帰宅する前も同じようにしていたんだろうな。

 

 俺がリビングのドアを閉めると、美優はソファーの座面をポンポンと叩いて俺を誘導する。

 その場所に俺が腰掛けると、美優が俺の膝の間に入ってきた。

 抱き合うのが大好きな美優の性格からするに、この状態が最もしっくりくるみたいだ。

 

「お兄ちゃん、なんだか平気そうだね」

「平気そうって? まあ、山本さんとは色々あったし、その、するにはしてきたけど。精神的な部分に関しては、ギリギリ踏みとどまったというか」

「してきたのにそんな感じなんだ。すごいね」

「そんなに予想外だったか?」

「うん」

 

 どうやら、美優の見立てでは、俺がもっと山本さんにドキドキしたまま申し訳なさそうに帰宅することまで考えていたようだ。

 

 俺が美優に事のあらましを説明すると、美優は俺の判断は全て正しかったと教えてくれた。

 どうにも思っていたより良い方向に物事が進んでいるらしく、美優が上機嫌にしているので、今日はエッチな頼み事でもしてみようかなと思った。

 

「それで、山本さんの扱いは、これからどうすればいいんだ? どう考えても三人仲良く恋もさっぱりってことにはならなそうなんだが」

「別にこれまで通りでいいよ? 少しくらいならお兄ちゃんの方から手を出しても平気」

「そうなのか。まあ、そういうことならそうしとく」

 

 俺は腕の中に美優を抱いて、なおも雑誌を読み続ける美優の腕をふにふにする。

 このすっぽり収まる体のサイズ感がたまらないんだよな。

 シャツの胸部を盛り上げているこのたゆんたゆんは揉んでもいいのだろうか。

 

「ところで、俺が山本さんに恋でもしてたらどうするつもりだったんだ?」

「一応、特効薬は用意してたから、それで治療するだけ」

 

 そんなものがあったのか。

 さすがに用意の良い妹だな。

 

「それって、どんな?」

 

 俺が山本さんに惚れたときの特効薬ってことは、そんな恋の病を吹き飛ばすくらい劇的なものなんだよな。

 溢れんばかりの愛をしたためたラブレターとかかな。

 

「うーんとね」

 

 美優は雑誌を畳んで、ソファーのサイドテーブルに置くと、一呼吸置いた。

 

 そして、数瞬のためらいを含んで、答えを口にする。

 

「ちょっぴり、エッチな服」

 

 そのワードを聞いた瞬間、俺の股間部に凄まじいエネルギーが集中した。

 それは血流となって一気に海綿体へと押し寄せて、俺のイチモツは美優の背中でものの見事に屹立したのだった。

 

「美優、頼む」

「ヤダ」

 

 この攻防戦。

 懐かしくもあるが、今はそんな思い出に浸っている場合ではない。

 

「特攻薬だって言ったでしょ」

「まあ待て。俺がもっと山本さんに惚れて帰ってくると思ってたんなら、元々その服は今日の夕方に着る予定だったんだよな。頑張った結果にご褒美が減るのは異議ありだ」

「うっ……。こういうときだけ聡いんだから」

 

 美優はぶーっと口をすぼめて不満そうにしているが、断れはしないはず。

 山本さんの件だって、仲直りしなさいと言い出したのは美優なわけだし、その指示に従って成果を出した俺に対して美優は褒美を出さずにはいられないからだ。

 

 罪には罰を。

 義理には恩を。

 報いなければ気がすまない性格なのは、俺が一番良く理解している。

 

 もちろん、それがこれまでの恩のお返し分だと言われてしまえば、俺に反論の余地はないが、そんな逃げ方は美優はしないだろう。

 

「どんな服か当てられたら、着てあげてもいいよ」

 

 美優から提示された妥協案。

 恩をどう返すかではなく、美優のエッチな服を見たい要望に対する可否の議論として独立で扱うわけだな。

 

 それなら俺は勝負を受けるしかない。

 どうしても指示を遂行したことへの報酬が欲しいと、俺がゴリ押しするならそれで要望は通るけど。

 こんな可愛らしい勝負を提案されて無視できようはずもない。

 

「そうだな。治療とか言ってたし、ナース服とか?」

「…………」

 

 美優の性格からするに、本文中に答えのない国語の問題は出さないタイプだろうと踏んだ俺。

 ほっぺたをぷっくりさせて、それはもう不満そうな顔をする美優。

 

 なんというか、俺たちが兄妹であることを実感するいいきっかけになったな。

 

「死ぬほど恥ずかしい服なんだけど」

 

 自分で用意したくせになぜそんなモノにしたのか。

 恋の病の特効薬になるぐらいだから、そうでもしないと効き目が足りなかったのかもしれないけど。

 

 なんにしても、そんな死ぬほど恥ずかしい服を着た妹を見ないでいられるほど、俺は人間ができていない。

 

「美優。それはきっと予防薬にもなると思うんだ。一時的とはいえ俺も山本さんを本気で好きになりかけたし、変質性の恋のウイルスが潜んでるかもしれない」

「まあ、それは、たしかにそうだね。仕方ない」

 

 美優はどこか恨めしそうにしながらも、俺の説得に応じてソファーから立ち上がった。

 リビングを出て二階に上がる、その去り際に、美優がこちらを睨んでいたのだが、そんなになってまで死ぬほど恥ずかしいエッチなナース服のコスプレをしてくれるなんて、俺の妹は本当に最高のパートナーだと思う。

 

 長い待ち時間だった。

 二階から聞こえてきたのはクローゼットを開け閉めする音だけで、いま頃は美優が着替えているのかとか、もうとっくに着替え終わっているのにいざ着てみたら想像を遥かに超える恥ずかしさで部屋から出てこれないのかとか、そんなことを考えていたら俺の肉棒はギンギンに出来上がっていた。

 

 ズボンの中が狭い。

 勃起による圧迫感だけで、なんだか気持ちよくなってきた。

 せっかくお風呂に入ったのに、また先走り汁で汚れてしまう。

 

「あ、あの……」

「うぉっ!? み、美優、降りてきてたのか」

 

 どれだけ忍び足で階段を降りてきたのか、まったく音は聞こえなかった。

 

 ドアの陰からひょっこりと顔を出す美優は、頭にナースキャップを被っている。

 

 か、可愛い。

 これだけで十分に抜けるぐらい可愛い。

 まさか、ロリータ服しか着ないと言っていた美優が、鉄板みたいなコスプレをしてくれるなんて、もう喜びと興奮で脳内がわけわからなくなってきた。

 

「ど、どう?」

 

 まだ物陰から顔だけしか見せていないのに「どう?」と尋ねてくる美優に、俺は万感の意を込めて、もう可愛いとしか掛ける言葉が見つからなかった。

 

 美優は長い髪の一部を結い上げていて、残った髪は後ろで結んでおり、その部分だけが傾けた体から垂れ下がっている。

 もう特効薬どころか安楽死用の薬にすら思えてきたその劇薬コスプレに、俺の愚息もビクビクと狂気乱舞していた。

 

「死にそうなぐらい可愛い。ほんと、死ぬかも」

 

 そんな答えに、美優はジト目で俺を見つめ返す。

 

「体の方を見ても死なないでね」

 

 どうにもそれは約束できそうになかった。

 すでに心臓が早鐘を打って破裂しそうなのである。

 でも死んでもいいから早く見たい。

 

「体はこんな感じになってます」

 

 右足を横に一歩出して、開いた足を閉じるように全身を顕わにした美優。

 

「おっ……ぁ……」

 

 俺は息を呑み、呼吸が停止する。

 

 それは一見すると、超ミニスカであること以外は普通のナース服。

 あの美優が股下0cmの服を着ているだけでも十分に破壊的であったが、その服のエロさは形状ではなく、サイズ感にこそあった。

 

 美優の体のボディラインそのままの、ピチピチのナース服だったのだ。

 いわゆるプレイ用のコスプレ衣装には胸だけが大きい物も存在しているが、美優のあのロリで巨乳な体型に完全フィットにする服が市販されているわけもなく、おそらくは全体的に改造が施されている。

 

 美優が歩くときに揺れる胸のぷるんとした動きは、まるでニット素材をそのままおっぱいに押し当てたかのような滑らかさだ。

 

 美優はソファーでただ勃起するだけの俺の前に立ち、襟を引っ張って服の生地を強調した。

 

「この服は、お兄ちゃんの治療目的だけに買った、お安いコスプレ衣装です」

「あ……あぁ……」

「つまり」

「つまり……」

「汚したい放題です」

「────!?」

 

 その言葉を聞いた瞬間に、俺の脳内は妄想の洪水で溢れかえった。

 妄想の一つ一つが俺の下腹部に興奮を伝え、危うくそれだけで射精しそうになる。

 

 ただエロいイメージが流れるだけではない。

 それが現実のものとして、このドエロい妹に射精の限りを尽くせるのだと思うと、剛直がビクビクして排泄筋が射精運動と同じ収縮を繰り返すのだ。

 

「美優……ほ、ほんとにいいのか……」

 

 息を荒くして尋ねる俺に、美優は姿勢良く、視線は斜め下にして、もじもじと指先を合わせる。

 

「まあ、使い捨てなので。着たからには、使っていただかないと」

「ああ…………うっ……」

 

 もはや美優の声を聞くだけでペニスが気持ちいい。

 ビクつきを止めることができない。

 

「美優の、おっぱいの形、その、生々しいのは……」

「これ一枚で着てるからね」

「ということは、ブラも?」

「してないよ。形が悪かったからカップは入れたけど」

 

 美優は自分の指で胸部をぷにっと押し込む。

 服の凹み方がおっぱいそのままで、めちゃくちゃ柔らかそうだ。

 早く揉みしだきたい。

 

「もしかして、ブラをしてないのって、そこの、おっぱいのところを……」

 

 俺が手を伸ばし、指を差す、その場所は、むっちりとした美優のおっぱいの肌色が僅かに露出している、ボタンとボタンの間にある隙間。

 本格派ではない安物のコスプレ服だからこそあり得る、すべてのボタンが中心線に配置されたその薄手のナース服には、指でこじ開ければちょうどモノの一本ぐらいなら入りそうな余地があるのだ。

 

「まあ、そういうこと」

 

 美優は左右二本の指で、まず胸の上部の隙間をこじ開ける。

 そこからは、服の圧でI字になった谷間が覗いている。

 

「あぁ……み、美優……!」

 

 美優は更にそこから、胸の真ん中にある隙間をこじ開ける。

 美優が膝をつけば、俺はそこに思う存分ペニスを挿入できるんだ。

 想像するだけで、もう、軽く射精してしまったかのように精液が漏れ出てくる。

 

「ここも」

 

 一つずつ、下へと降りていく美優の隙間見せ。

 美優の下乳が、その艶やかなおっぱいの丸みが、俺を限界を超えて興奮させて、ペニスに無理やり血液を流し込んでくる。

 反り上がって天を向いている今のペニスなら、あの位置からでも美優のおっぱいを犯し尽くせる。

 

「ほんとに……それ一枚で……って、ことは……!?」

 

 美優は鳩尾と、お腹と、それぞれの隙間を開けて、インナーなど着ていないことを俺に見せつけてくる。

 

 それはやがて、下腹部へと移り。

 

 スカートと呼べるのか怪しい丈の布の向こう。

 ギリギリで見えないでいた、女の子として最も大事な陰部にまで。

 

「ここはね」

 

 ついに、美優は一番下の隙間に指を掛ける。

 俺に見えやすいように、真正面で、やや腰を突き出して。

 女児が立ったまま用を足すように、美優は膀胱の下に位置するその隙間を、ガパッと開く。

 

 そこから覗いたのは、まっさらな肌色。

 平面のようで、ほんの僅かに浮いている恥骨の形状だけが、そこにはあった。

 

「こうなってるんだよ」

 

 こそっと、秘密を耳打ちするように。

 掛けられた声が、ペニスを激しく刺激した。

 

「あ……ぁっ……!」

 

 ズボンを強く押さえてみても、もう手遅れだった。

 ギュッと尿道を圧迫する手の中で、心臓と同じように、ペニスはビクビクと弾み。

 

「あっ……アッ……!!」

 

 ドクン、ドクン、ドクン──。

 

 と、ついには大量の精液を吐き出して、なおも俺のペニスは暴走を止めなかった。

 

「あ、あれ、お兄ちゃん……?」

 

 さすがにこれは美優としても予想外で。

 いきなり股間を押さえて黙り込む俺を、心配そうに見つめている。

 そんな中で、俺は美優にごめんと何度もつぶやきながら、情けなくもズボンの中で射精してしまっていた。

 

 まさかのフィニッシュに、お互い掛ける言葉は見つからず。

 俺はドロドロになったトランクスの不快感と、惨めさだけを感じていた。

 

「出ちゃった?」

 

 美優は、いつもみたいな毒舌ではなくて。

 本当に優しい声音でそう問いかけてくれた。

 

 俺がうなずくと、美優はまだズボンを押さえ続けている俺の手を退けて、何も言わずにチャックを下ろした。

 美優はトランクスをズリ下ろすことはせず、局部が半分ほど露出するくらいにめくって、そして、

 

「はむっ……ちゅるっ……んっ」

「あ、アッ……美優、そんな、汚い……ああっ……!」

 

 服についた精液も、肌の上に残った精液も、美優は丹念に舐め取ってくれた。

 ペニス本体に残った精液も含めて、ただ俺を癒やすように優しく、お掃除をしてくれたのだ。

 

「あ、ありがとう……」

「どういたしまして」

 

 美優が竿まで口でキレイにしてくれた。

 もう何度もフェラをしてもらってるから、それ自体は特別なことではないけれど。

 それが最初の頃は絶対に嫌だと断られていた行為だと思うと、なんだか嬉しさが滲んでくる。

 

「ところでさ、お兄ちゃん」

 

 美優は俺のペニスの裏筋を指でグイグイと押してくる。

 まだ勃起したままのそれは、美優のお掃除フェラのおかげで回復しきっていた。

 

「まだ出るよね」

 

 美優の妖艶な微笑みに、俺の睾丸は急速に精液の再装填を開始する。

 もう次のエッチがしたくてたまらない。

 

 そんな美優に、俺は心からの願望を口にしてみた。

 

「服の中に、出してもいい?」

 

 答えのわかりきった質問だったけど。

 俺と美優はそういう関係だったから、尋ねずにはいられなかった。

 

「いいよ。お兄ちゃん」

 

 どこか嬉しそうに。

 そう返事をする。

 

 俺の妹が、最高のオカズだった。

 



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ドスケベナース(妹)の絞り出し回春エステ

 

 エッチなナースに体を拭いてもらっている。

 

 ズボンを穿いたまま、局部に触れることもなく射精してしまった俺は、服を全て脱がされてリビングに佇んでいた。

 美優は膝立ちになって、温かいお湯につけたタオルを絞り、丹念に下半身を拭いてくれている。

 

 コスプレ用のナース服だけを身に纏い、下着の一切を身に付けていない美優の格好は、裸ナース服とでも呼ぶべきだろうか。

 ボタンは首元から下腹部まできっちり留められているのに、その豊満なバストを包み込むには服が小さ過ぎるため、ボタンの隙間からむっちりした肌色が覗いてしまっている。

 

「お兄ちゃんのはエッチするときいつも元気だね」

 

 ほどよく熱の加えられた陰部が血流を増し、俺はギンギンに勃起したペニスを淫乱看護妹に見せつけていた。

 

 体は小さいのにおっぱいだけは凶悪なボリュームのそのナースは、俺の妹であり、俺の恋人であり、そしてきっとサキュバスか何かの生まれ変わりだ。

 

「お兄ちゃんさ、奏さんと私で、もう二回出してるんだよね」

 

 局部を中心にして、唾液や精液がベタつく不快感を取り去るよう、美優は竿の先から股下までを撫でるように拭いていく。

 

「そうだな。さっきのも、かなり出たし」

 

 これから俺は美優の体に好きなだけ射精することが許されている。

 それなのに、特に二回目の暴発でかなりの量を消費してしまった。

 いくら俺が精液の回復が早いとはいえ、減るものは減る。

 

「せっかくだから、たくさん汚せるほうがいいよね?」

 

 美優はナース服の胸元の隙間を開いて谷間をチラ見せする。

 そんなストレートな質問をされて、俺は強く頷かずにはいられなかった。

 

「そしたら、お兄ちゃんの部屋に移動しよっか」

 

 美優はタオルを湿らせていたぬるま湯を持って、俺をリビングの外にまで連れ出すと、新しくお湯を入れ直してから階段を上っていった。

 

 俺もその後ろをついていくと、美優は先に俺の部屋に入ってドアを閉めた。

 俺はすぐに開けていいのか迷って、しばらく立ち尽くしていたが、美優からのアクションが無いようなのでドアをノックして中をうかがってみる。

 

 すると、「どうぞ」と美優の声がして、俺はどこかピリッとした空気に包まれてドアを開けた。

 

「お、おぉ……」

 

 自宅に帰ったら、俺の部屋がコスプレ風俗になっていた。

 

 まず目についたのは、普段とは違うシーツが重ねられた俺のベッド。

 その脇に置かれたテーブルには、三種類ほどのプラスチックボトルが並べられていて、先ほどぬるま湯を入れた湯桶が置いてある。

 室内は薄暗く、カーテンが閉められていて、暖色系の照明が内部を照らしているだけ。

 

 そして、数秒間隔で鼻孔を通り抜ける甘い匂い。

 ベッドの奥では加湿付きアロマが焚かれており、体がリラックスした分の余力がペニスに回ってビクンビクンと脈を打たせる。

 

 その部屋の中心に、ナースのコスプレをした美優が三つ指をついて正座していた。

 頭を深々と下げると、美優の生の体を包むキツキツの服が、ぷるんと乳房を揺らして谷間を覗かせる。

 

 そして、面を上げた美優は、ほんのり恥ずかしそうにしながら、手の平を上にしてベッドを指し示した。

 

「こんなものを、用意してみました……」

 

 こんなものまで用意しておいて今さら恥ずかしがるのか。

 そういうところが可愛くて好きなんだけど。

 

「これって、マッサージとかしてもらえるのか?」

「私からはマッサージをするだけだよ。ただ、お触りは自由。あと、出したくなったら、好きに出していい。回数無制限、時間無制限のお得なプランです」

 

 お得すぎて価格も理性も破壊し尽くしだ。

 俺はこの対価に何を支払えばいいんだろう。

 これまでのことを考えると、美優は出せば出すほど喜んでくれるのかな。

 だからこそ美優はここまでの用意をしてくれたんだろうし。

 美優のためにも、今日は俺も一滴も残さない覚悟で挑まないとな。

 

「ベッドに寝ればいい?」

「最初はうつ伏せでお願い。何をしようとかは考えなくていいから。最後までジッとしてるつもりでいて。我慢できなくなったら、好きにしていいよ」

 

 俺は促されるままにベッドにうつ伏せになり、美優が横でカチャカチャと準備をする音を聞き流す。

 シーツはやや厚めで、ほんのり硬さがあるが、それが汗のベタつきや湿った布の冷たさを感じさせにくくしてくれるので逆に良い塩梅だ。

 

「そのボトルは? いくつか種類があるけど」

「美容系のオイルだよ。私が肌触りを気に入ってるものと、血行を良くする成分が入ってるものと。あとは……エッチするためのローション」

「なるほど」

 

 美優はボトルの蓋を開けて取りやすい順に並べると、大股を開いて俺の上に跨った。

 下半身に何も身につけていない美優の脚が俺の体に触れて、艶めかしい温度を伝えてくる。

 

「誰かにマッサージしてみたかったんだよね」

 

 美優は俺の上半身に厚手のタオルを掛けて、腰のあたりから少しずつ両手で体重を乗せてくる。

 こんな普通のマッサージでも、妹が一生懸命にやってくれてると思うと、心も体もほぐれて温かくなってくるものだ。

 

「美優はエステとか受けてるのか?」

「遥の紹介があるときはね。まだ学生だから、本業の合間にしてもらうぐらいだけど。一応は海外のリゾートで受けさせてもらったこともあるよ」

「遥ってほんと何者なんだ……」

「この世はコネが全てなんだよ、お兄ちゃん」

 

 美優は吐き捨てるように呟いて、マッサージする力を少しだけ強くする。

 

「北海道旅行に連れてってくれた人なんかは、高級ホテルのオーナーをやってるよ。旦那さんも貿易関係のお仕事してるお金持ちだって」

 

 美優は話をしながら俺の背中全体を指圧し、首元から腕までを丁寧に揉んでくれた。

 初っ端からドエロいマッサージが来るかと思ったが、これは中々に本格的な施術だ。

 

「その旅行の付添人ってどんな人なんだ?」

 

 俺はうっかり眠ってしまいそうになりながら、美優への質問を続ける。

 こんな極上の体験が寝ているうちに過ぎてしまったらもったいないからな。

 

 しかし、人体とは不思議なもので、意識がふわっとしていても勃起は続くものだ。

 

「ひとことで言い表すなら……そうだなぁ……」

「うん」

「ロリコンの巨乳エルフみたいな人」

「ロリコンの巨乳エルフ」

 

 まさかのワードを聞いて眠気が吹っ飛んだ。

 巨乳で金髪で色白で子供好きの女の人ってことでいいのか。

 だとしたらこれほどまでに的確な表現はないが。

 

「結婚してすぐに旦那さんの仕事が忙しくなって、このままセックスレスが続くと浮気するぞって抗議してたら、紆余曲折を経て遥が相手なら問題ないと許可が降りたらしいのです」

「未成年を相手にしてる時点で大いに問題はあるんだが」

 

 端折られた紆余曲折も非常に気になるけど、説明されたところでどうせ理解できないのは重々承知している。

 

「そして今では赤ちゃんプレイにドハマリした裏の顔を隠して日常生活を送っているのだとか」

「母性が振り切れてしまったか」

「されるほうね」

「されるほうか……」

 

 やはりJC組の世界はよくわからない。

 そのことだけはよくわかった。

 理解しようと思ったら負けだ。

 

「さて。体もほぐせたから、ここからはオイルを使うね」

 

 美優は俺の体からタオルを取り去り、手にオイルを垂らして体温に混ぜてから俺の背中に塗り込んでいく。

 

「おっ……これはまた……」

 

 普通のマッサージともローションとも違う感覚。

 美優の手は皮膚を滑っていくのに、そこには確かな肌の摩擦と温度が伝わってくる。

 

 さすがにタオル越しじゃないと、触られたそばから性欲がムラムラと湧いてくるな。

 美優はマッサージがしてみたかったみたいだし、できるだけ我慢はしてあげたいけど。

 薄っすらと汗をかいた体の血の巡りが明らかに良くなっていて、ただでさえ大きめに勃起していたペニスが、狭い椅子に長時間座ったときの脚のようにムズムズしてくる。

 

 美優のマッサージは背中から始まって、次にお尻の肉を揉んでくれた。

 どれもずっとされていたいくらい気持ちいい。

 それでも、いつペニスに手を伸ばしてくれるのかともどかしくなってしまう。

 

「そろそろ、エッチなところもマッサージする?」

「ああ、頼む」

 

 もう自然に交わされるようになったそんなやりとり。

 美優のことは恋人として認識できるようにはなったけど、こんなエッチなマッサージを妹にさせていると考えると、なんとも背徳的だ。

 

「うっ……そこっ……」

 

 美優がほぐし始めたのは、股下から肛門周りにかけてだった。

 恋人同士でもほとんど触れられることのないその部位は、イジってもらえるだけで興奮と同時に美優からの信頼も感じられる。

 

「お尻の周りをマッサージするだけで、前立腺を刺激するのと似たような効果があるんだって」

 

 美優は俺に膝をつくように指示をしてきて、俺はうつ伏せのまま腰だけを上げた。

 

 そんな情けない体勢で肛門を見られる恥ずかしさに、これまで刷り込まれてきたマゾっ気が俺の情欲を煽ってくる。

 

「んっ……はぁ……美優……そろそろ……」

 

 早くも鈴口からはトロトロと先走りの精液が垂れてきていた。

 前立腺刺激効果があるなら、これはところてんに近いものなのだろうか。

 妹にお尻をほぐされて精液を漏らすなんて、どんな羞恥プレイだ。

 

「出すならちょっと待っててね。挿れやすいようにするから」

 

 美優はローションを簡単にお湯に溶いて、手のひらで掬うと糸を引いたまま俺のペニスに塗りたくった。

 四つん這いになった俺の裏筋に、根元から先端までローションを塗り広げ、十分な量が行き渡ったところで軽く手コキをする。

 

「あっ、ああっ、あっ、美優、美優ッ……マズイ……待って……!」

 

 性感が高まっていたせいか、これだけでイッてしまいそうだった。

 それは美優もわかっていたようで、上手く暴発しないようにコントロールをしながら、美優は俺のペニス全体にローションを行き渡らせる。

 

 そして、俺の股下から上半身を入れてきた美優は、下乳あたりのボタンの隙間を広げて俺の亀頭を当てがった。

 

「入れてみて」

 

 服に圧迫されたキツキツのおっぱい。

 きめ細やかな肌ツヤが、丸みを帯びることで白く輝いている。

 まるで処女の陰部のようなその割れ目に、俺はぬっぷりと腰を沈めてペニスを挿入した。

 

「うあっ……きも、ち……ッ……!」

 

 驚異的な圧迫感だった。

 膣内ほど柔らかくはなく、手のひらより硬くない、その絶妙な包容力がペニスを包み込んでくる。

 

 腰を突き出せば、ぷるんと弾んだ肉玉にペニスをシゴかれ、腰を引けば靭帯が戻る力でペニスを吸い上げられる。

 俺の腰の動きに合わせてゆさゆさと上下に揺れる乳房が、追い討ちのように興奮を煽ってきた。

 

「妹のおっぱいは気持ちいい?」

 

 美優はただベッドに寝転がって、必死に腰を振る俺に生意気な笑みを向ける。

 

 そんな美優の態度が悔しくて、俺は美優の両手を掴んでベッドに押し付けた。

 このまま腰をパンパンと打ち付けて、この小悪魔を懲らしめてやるんだ。

 

「あっ……あぁ…………イッ……いく……!」

 

 俺が美優の上にいるはずなのに、自由なんてなかった。

 

 もっと美優のおっぱいを堪能したい。

 もっと美優のおっぱいを蹂躙したい。

 脳内で何度もそう叫びながら、すっかり美優に魅了された俺の本能は、誘われるがままに精管にドクドクと精液を送っていった。

 

「あぅ……ダメだ……あぁ……ッッ!」

 

 勝手に腰を振って、勝手に快感に悶える俺を、美優はただ見守っている。

 そのときの美優が、何を思っていたのかはわからないけど、美優のイタズラな笑みを見れば楽しんでいたことは明らかで。

 射精の間際で必死に堪えて、動きが緩慢になっていた俺に、「出しちゃえ」と小声で呟いた美優は自らおっぱいを揺らして刺激を加速させ、乳圧に絞られたペニスは一瞬にして精液の堤防を決壊させたのだった。

 

「ああっ……美優……イクよ……美優ッ……!!」

 

 どぷっ、びゅるるっ、どくん、どぷっ、びゅっ──。

 

 精液は美優の谷間の中で弾けて、薄っすらとナース服にシミを作っていく。

 

 あまりにも呆気ない幕引きだった。

 

「……あったかい」

 

 美優は俺に腕を押さえつけられたまま、中出しされた自らの胸へと視線を落とす。

 

「気持ちよかった?」

 

 俺の顔を見上げて様子を伺ってくる。

 そんな淡白な聞き方が、どうしてだか愛おしかった。

 

「気持ちよかったよ」

 

 俺は美優の手を放して自由にした。

 すると美優は俺の股下から体を抜く間際、ペニスに残った精液をズズッと吸い取って、また俺の後ろに回る。

 

「次は仰向けになって」

 

 俺は美優に命ぜられるがままに体を反転させた。

 その間、美優は自らの胸を左右から押して、谷間に出された精液のぬちゃぬちゃした感触を味わっていた。

 

「マッサージのおかげでいっぱい出た」

 

 美優はおっぱいにギュッと圧をかけて、ナース服の隙間から白い液体を滲ませる。

 狙ってやってるのかわからないけど、こういう仕草がいちいちエロいんだよな。

 さっき出したばかりなのにもう肉棒が反り上がってしまった。

 

「また普通のマッサージに戻るね」

 

 美優は手にオイルを塗り直し、次は俺の胸から腹にかけてをマッサージする。

 指の間から腕の全体、お腹から首周りにかけて、入念に筋肉をほぐしていき、そして、胸の先にも美優の指が這い寄ってくる。

 

「っ……はぁ……ぅっ……」

 

 乳首は開発されないと気持ちよくないなんて話を聞いたこともあるが、俺は美優に初めて舐められたそのときからかなりの感度があった。

 

 根本的に体が敏感なのかもしれない。

 美優がエロすぎるせいで早く出てしまうのかと思っていたが、俺ってただの早漏なのかな。

 幸いにも何度も射精できる体質だからなんとかなってるけど、美優と本番をすることになったらいちいちゴムを付け替えてなんていられないし、一度のセックスでも長持ちできるようしておかないといけないよな。

 

「お兄ちゃん、膝を立てて広げて。下半身から揉んでいくから」

「ああ」

 

 俺は言われるがままに膝を上げて、股を開いた。

 その直後に、とんでもなく恥ずかしい格好をさせられていることに気づいて、すぐに脚を閉じる。

 

「待て、美優。これって脚を広げなくても揉めるんじゃないか……」

「そうだけど。お兄ちゃんってエムっぽいから、恥ずかしい格好をさせたほうがたくさん出るんじゃないかなって思って」

「兄に理解があって嬉しいけど、面と向かって言われると複雑なんだが」

 

 俺はどうにか美優に脚を下ろさせてもらって、ふとももからふくらはぎまでを丁寧に揉んでもらった。

 射精のために必要な筋肉が下半身に集中していて、その部位を鍛えることが精液の量を増やす効果があるとも聞いたことがあるから、このマッサージのおかげでまた勢いのある射精ができそうだ。

 

「これで全身ほぐせたかな。ここから普通にエッチなことするけどいい?」

「う、うん。なんだか緊張するけど」

「リラックスしてて。気持ちよくするから」

 

 美優は俺の腰に跨ると、上体を倒してきて、そのまま俺の乳首にちゅーっと吸い付いてくる。

 

「はぅぁ……イイッ……! それ、好きだ……!」

 

 それと同時に、美優は股の間に両手を突っ込み、左手で金玉を撫でて、右手でペニスをシゴいてきた。

 

「お、あっ……あああッ……!!」

 

 三点責めによる強襲に、俺の性感は一気に高まっていく。

 胸をペロペロと舐める美優の顔がすぐ近くにあって、こんな可愛い女の子が俺の陰部を触ってくれているのかと思うと、それだけで精液が吹き出しそうになる。

 

「ああッ! 美優ッ……うぅああぁっ……美優ぅッ! はぁ……あぁ……うっ……ぐうぁ……あああッ!!」

「んちゅ……ちゅっ……んふふ。相変わらず女の子みたいに喘ぐんだから」

 

 美優は俺の顔を見上げながらペニスを扱き上げる。

 秒速で射精の寸前にまで追いやられた俺は、無抵抗に射精をさせられるのを待っていた。

 

 しかし、その快楽責めは、絶頂を迎える手前で終わってしまった。

 美優は俺の胸から顔を離すと、乳首の周りを両手の中指で円形になぞりながら、その体を下へ下へと移動させていく。

 

「今日のメインはこっちだからね」

 

 美優の体が離れ、その分だけ上体が股間に近づいていく。

 

 そうだ。

 美優の手コキは気持ちいいけど、今日はそれを堪能する日じゃない。

 このエロナースのエロコスプレを俺の精液でぐちょぐちょに汚すまで、エッチを終わらせることはできないんだ。

 

「お兄ちゃんの、ビクビクしてて可愛い。でも、おっぱいばかりはしてあげないよ」

 

 体が下がりきる直前で、美優はお腹を俺のペニスに擦りつけてきた。

 そして、そのボタンの隙間から、俺のペニスをすっぽりと咥え込み、お腹をズリズリして裏筋全体を撫で回してくる。

 

「美優っ……ぉあぁっああっ……すっごいそれ…………あああっ……あぁっ!!」

 

 俺の肉棒に美優のお腹が押し付けられている。

 体全体を前後させて、そのたわわを揺らしながら、俺が快楽に苦悶する表情を楽しげに見下ろす美優。

 その可愛さにあてられて感度の上がった俺の肉棒は、美優のへその窪みを感じるほど敏感になっていた。

 

「あっ、あっ、ごめん! 出るっ!!」

 

 もはや事前に宣言できるだけの猶予はなかった。

 俺は不意打ちのへそズリに見事に敗北し、びゅくびゅくと精液を美優のお腹へと排出する。

 

 そうして射精後の放心をしていたのもつかの間。

 美優は今度こそ上半身を俺の股の間にまで近づけて、その胸の柔らかな肉質ですっぽりと俺のペニスを捕らえてしまった。

 

 そして、射精直後で敏感になったペニスに、たぷたぷとおっぱいを上下に揺らして休みなく快楽を与え続けてくる。

 

「う、あっ……あぐっ、ああっ……美優ぅっ……あああっ! ああああぁあっ……!!」

 

 もはや蹂躙以外の何物でもなかった。

 美優の全身を使った性感責めに、俺は抗うこともできずに悶えるだけ。

 もう何度も射精をしているのに、問答無用で美優の淫らな身体が俺を絞り上げてくる。

 

「ま、まって、待って……アッ……!!」

「自分でも腰を動かしてるくせに、何を言ってるのかな」

 

 美優の言葉を聞いて初めて自覚した。

 気付けば美優の前後運動に合わせて、俺の肉棒がより深くまで豊乳を堪能できるように腰が動いていた。

 美優のパイズリに抗って、その快楽を受け流すように腰を動かしていたつもりが、その実は自ら貪るように乳圧を堪能しにいっていたのだ。

 

「こうするとお兄ちゃんの先っぽがちょっと見えるよ」

 

 美優はボタンを一つ開けて、谷間の上部が見えるようにしてくれた。

 そこからは白い液体を押し上げる俺の亀頭が見え隠れしている。

 

「ローションはもう要らなそうだね」

 

 美優はその精液を指で掬って、ペロリと口にする。

 すでに胸に出していた精液がヌルヌルとペニス全体にまとわりつき、ローションの継ぎ足しなどしなくても十分な潤滑液として機能していた。

 

「ああっ、あうぁっ……みゆぅ……美優っ……気持ちいい……ッ!!」

 

 美優のおっぱいと騎乗位でセックスするように、美優の腕を掴んで腰を打ち付ける。

 そんな俺に、美優は意地悪な視線を送っていた。

 

「せっかく妹が動いてあげてるのに、自分で出しちゃうんだ」

 

 その一言で、俺の腰の動きは制止した。

 散々焦らされていたせいで欲望のままに腰を動かしてしまったが、これではオナニーをしているのと変わらない。

 

「はぁ……ぁ……ご、ごめん……」

「それだけエッチな気分になってくれてるのは嬉しいけどね」

 

 美優は今度こそ俺の膝を立たせて、ペニスを挟んだ胸を前後させる。

 そして、片手をついて体を支え、もう片方の手で陰嚢の表面を優しく撫でてくれた。

 

「おあぁ……おっ……おおっ……すごい……!」

「お兄ちゃんはここを撫でられるのが好きだよね」

 

 肌の感度が高い俺は、陰嚢を撫でられるだけで悲鳴を上げたくなるほど気持ちよくなっていた。

 表皮を触られるだけなら、竿よりも好きかもしれない。

 

「はぁ……ああっ……美優のおっぱい……やわらか……」

 

 おっぱいでちゃぷちゃぷされながら金玉を撫でられる至福の時間。

 脳はすっかり快楽という概念が液状化したミルク色の海に漂っている。

 

 だが、俺は、気づいてしまった。

 パイズリという行為そのものより、俺の激情をドストライクに着火するエロ要素に。

 

 それは、目線を横に外したときに見える、美優の下半身。

 ベッドに寝転んでいる俺の肉棒を胸に挟みながら股ぐらを撫でている美優が、無理な姿勢になっていないわけもなく。

 カエルのように脚を広げて、一生懸命に体を前後させておっぱいを動かしてくれていたことに、俺は気づいてしまったのだ。

 

「美優…………ああっ……美優っ……!!」

 

 さきほどにも感じた美優への兄妹としての想い。

 あんなに恥ずかしがり屋な妹が、兄のために淫らな姿を晒してまでパイズリをしてくれている。

 そんな光景が、俺の脳内で俯瞰カメラのように再生されて、複雑な愛情が絡み合った性欲が一瞬で爆発した。

 

「ああっ……あっ……あぁ……!」

 

 ナース服に密封されたむっちりGカップが、俺のペニスをにゅるりとシゴき上げ、睾丸をマッサージする美優に促されるままに俺は精液を吐き出した。

 俺はパイズリをされながらおもらしするように中出しして、最後に胸元から突き出た肉棒の先端から白い液体が飛び出すまでを呆然と眺めていた。

 

「ごめん……もう……出てる……」

「うん。知ってる」

 

 しばらくして動きを止めた美優は、少しの間考え込んでから俺に腰を上げるように要求してきた。

 お望み通りにしてあげると、美優が体を起こして正座をし、俺のお尻が乗りやすいように膝を開いてそこに俺の腰を引き上げた。

 もし美優にペニスが生えていたら、俺のアナルに挿入ができそうな体勢。

 

 こうすると、ちょうど俺の股間に美優の巨乳が乗る。

 体重をかけられてもいないのに、ずっしりとした重みを股間部に感じて、この肉の密度をよくぞ維持してくれていると敬意すら表したくなった。

 

 美優はその豊乳を自分で鷲掴みにして、何の断りもなく服の隙間に俺のペニスを挿れると、今度は普通に両手を使って肉棒をおっぱい越しにこねこねしてきた。

 

「おおおっ……あっ、まじっ、ちょ、イッたばっかりだから……!!」

「気持ちいい?」

「きもちいぃ……! きもちイイッ……!!」

「やっぱり刺激はこれが一番強いんだね」

 

 たぷんたぷんと俺の股間に美優の乳房が打ち付けられて、その重みがパイズリをしてもらっている事実をありありと感じさせる。

 ただ、それは美優が試しにやってみたかっただけだったようで、快楽責めはようやく小休止を迎えることが許された。

 

「はぁ……はぁ……死ぬ……」

「でもお兄ちゃんもだいぶ連続イキに慣れてきたよね」

 

 美優は膨張感の弱まった肉棒を人差し指で撫で回して、おっぱいに埋もれていくのを楽しんでいる。 

 

「お兄ちゃんはお股のところを触るとずいぶんと反応がいいよね」

「まあ、それは、皮膚の感度としては一番だし」

「フェラするときも触ってたほうがいい?」

「どうかな……。もちろん、玉を触られながら竿を咥えられたら気持ちいいけど。フェラされることだけに集中したいときもあるから、むしろ、玉を舐めてから、先の方に移るほうが、好きかも」

 

 同時責めはその分だけ快楽が増すとは限らない。

 とりわけフェラが大好きな俺としては、美優には一心不乱にペニスを咥えていてほしいし、それ以外のことは考えてほしくないんだ。

 

 ただ、玉舐めは、なんというか、下品な行為でもあるし。

 それを美優みたいな真面目な女の子にしてもらうと格別な快感があるので、それはそれでやってもらいたい。

 

「お兄ちゃんはタマタマのとこ舐められるのが好きなの?」

「う、うん」

 

 そんな聞かれ方をすると、なんだか申し訳なくなってしまう。

 

 そして興奮する。

 

「パイズリしてもらいながら玉舐めしてもらえたら最高かも」

「おっぱいでしながら? うーん……逆向きになればいいのかな……」

 

 美優は俺の意を汲んで、どうにかパイズリしながら金玉を舐める方法を考えてくれた。

 

 しかし、そのためには美優がこちらにお尻を向けなければならず、下着を身につけていない美優のアソコが丸々と見えてしまうのだ。

 当然、それは美優も気付いていて、体の向きを反転させはしたものの、なかなか俺の上を跨ごうとしない。

 

「やっぱり、気になる?」

「さすがにちょっと、見せられません」

 

 恋人になっても、女性器を見られるのはためらわれるらしい。

 どうしても見たいとお願いすれば今の美優なら聞いてくれそうではあるけど、この謎の恥じらいの境界線を持つ妹を手放したくないとも思う。

 

「こうして密着しちゃえばいいのか」

 

 美優は俺の胸元に跨ると、膝を立てずにぺたん座りして体を密着させた。

 

 たしかに、これなら大事な部分は、あまり見えないのだが──言わないけど見えていないわけではない──美優の桃のように真っ白なお尻と、十分に広がってしまった可愛らしい菊の門がぱっくりと見えてしまっていて、俺は勃起した。

 5回も射精した後に妹の女性器を見て勃起する兄がいったいどれくらいいるだろう。

 

「おっぱいが邪魔で舌が届かない……ほんとこれ邪魔……」

 

 普通に上から覆いかぶさるようにパイズリをしてくれれば、俺のペニスを胸元に挿れながら玉舐めすることも可能だっただろうが、体と体をべったりとくっつけているため美優の首が下がりきらずにいる。

 

「腰上げてもらっていい?」

「わかった」

 

 俺は腰をグイと上げて、美優のおっぱいに自らペニスを挿入する。

 

「あぁ……美優の胸は……ほんとに締まるな……」

 

 そのままゆっくりと腰を前後させると、美優の舌が陰嚢をぺろりと舐めてきて、その快感にまた変な声が漏れてしまった。

 俺は美優のお尻を目の前にして、この腰の上げ方だと美優からも俺のケツ穴が見えているのではないかと思うと、兄妹二人で何をやっているのかとわけのわからない羞恥に襲われる。

 

「ちゅっ……へろっ……」

「はぁ……おっぱいも舌も……っ……本当に気持ちいいよ……」

 

 俺は美優の淡い色の秘部を眺めながら美優のご奉仕を堪能する。

 

 美優って、遥とたくさんエッチをしてきたわりには、性器の周りがやけにキレイなんだよな。

 割れ目もぴったりしてるし、毛が生えていた痕跡もない。

 こうして下半身だけを見ると小学生を相手にエッチをしているみたいだ。

 胸はGカップあるけど。

 

 それにしても、お尻の穴は色が薄いと想像していた以上に魅力的なものだ。

 俺はそのたわわな胸でパイズリをしてもらいながら、どうしても未知の誘惑に耐えきれず、指でそっと美優のアナルを撫でてみた。

 

「ひにゃっ!?」

 

 猫みたいな声を出して、美優はビクンと体を弾ませた。

 

 あまりに可愛くて思わず犯し倒したくなったが、これはたぶん怒られるやつだな。

 

「もー……びっくりして変な声出た……」

 

 美優は突然のことに少し舌ったらずになって、あとは僅かな恥ずかしさを滲ませるだけに終わった。

 前までなら確実にお仕置きコースだったのに、なんだかんだで俺たちの関係は進展してるんだな。

 こうして実感としてわかるのは嬉しいことだ。

 

「美優も、わかってると思うけど、男は女の子が感じてる方が気持ちよくなれるんだ」

「う、うん。まあ、そうだろうね」

 

 美優は胸の中に収まった俺のペニスの根元を指で詰る。

 

 男が女の子を気持ちよくさせようとするのは、相手のことを想ってでもあるが、そのほとんどは女の子を感じさせているという事実に男が興奮するためだ。

 

「だから、アソコを舐めさせてほしい」

「それはいただけません」

 

 きっぱりお断りされてしまった。

 しかし、美優もダメダメ言ってばかりの自分に引け目も感じるようで、これまでほどの語気は感じない。

 

「体を触るぐらいなら、好きにしていいよ」

 

 ついに美優から引き出せた妥協案。

 最初からお触り自由とは言われていたが、ここで改めて“美優を快感責めしてもいい”と許可が貰えたのは大きい。

 まだ距離のある言い方ではあるものの、他の人が相手なら絶対にしない提案だと思うと歓喜がこみ上げてくる。

 

「それじゃあ……遠慮なく……」

 

 俺はまず美優のお尻に手を伸ばした。

 雪のように白い肌の、滑らかな感触はどこも変わらず、すべすべしていて手に吸い付いてくる。

 どの部位も程よい脂肪を残していて、これが見ただけでふにふにしているとわかる美優の体のリアルな柔らかさなのだと、その誰もが知りたがる肢体の肉質を存分に堪能できる。

 

「うっ……はぁ……ぅ……」

 

 小刻みに震えながら、なおも俺の玉を舐める美優。

 全身を開発されてるらしいこの体は、どこを触っても感度がいい。

 

 とりわけ良く反応するのは、やはりふとももの部分だ。

 

「あっ…………はぅ……んあっ……!」

 

 まるで性器を直にイジられているように身悶えする美優。

 以前、不用意に触らないよう忠告されていたが、肌を撫でるだけでこんなに喘ぐのなら警戒してしまうのも納得できる。

 

「美優、腰を上げて」

「ふぇ……あっ……アソコを舐めるのはだめだよ……」

「そこは舐めないよ。ただ、ほら、すごく垂れてるから」

 

 美優のふとももに伝う淫らな雫は、俺がかつて渇望していたもの。

 それをこんな目の前で垂らされたのでは、我慢などできようはずもない。

 

 俺が美優の腰を持ち上げようとすると、口では反抗しながらも美優はお尻を浮かせてくれた。

 そして、その魅惑の液が滴るそのふとももに、俺は欲望のまま舌を這わせた。

 

「あっ、ひやぅん……ああっ……ひょこらめぇ……!」

 

 美優はふとももを舐めると、膣内にバイブでも突っ込まれたかのように喘ぎ悶えだした。

 舌で愛液を舐め取るそばから愛液が清水のように湧き出してきて、俺はオアシスを見つけた砂漠の放浪者のように美優のふとももにむしゃぶりついた。

 

「ひゃ、いひゃぁ……んっ……お兄ぃ、ひゃん……ううぅ……んンッ!!」

「ちゅうっ……ちゅばっ……はぁ……美優……すごく美味しい……れろっ……ちゅるっ……!」

 

 俺は美優の嬌声を聞いて鋭さを増す剛直を、精液まみれの美優のおっぱいにぐちょぐちょと咥えこませる。

 

「あっ、あっ、ああっ……おにぃ……ちゃん……もう、だめ、はぅ……んんっ──ンッ──!!」

 

 ビクンビクンと震える美優の体。

 ふとももを舐めてるだけなのに、イッてしまった。

 

 俺も、もう射精が我慢できない。

 

「美優……出すよ……美優……美優ッ……!」

「だ、だひへぇ……おにぃひゃん……はぅ……んあっ……らぃひぇ……んんんッ!!」

 

 どびゅ、ビュッ、びゅるるっ、びゅくっ、ビュルッ──!!

 

 繰り返し放出された俺の精液。

 その勢いは衰えることなく、美優の服の中に注がれていく。

 

「はぁ……はぁ……うぅ……」

 

 息を切らして倒れ伏す美優。

 欲望のままに舐めまくってしまった。

 大丈夫だったかな。

 

「……エッチ」

 

 ベッドに手をついて俺を見る美優は、目の造りのせいでどうしても鋭い視線にはなるものの、いつものように睨んではいなかった。

 もはや精液を受け止めきれなくなった胸の隙間からポタポタと粘液が垂れ落ちていて、そんな体でエッチとか責められても困ってしまう。

 

 美優はまた抜いたペニスに付着した精液をキレイに舐めとってくれて、俺たちはベッドの上で向かい合った。

 ベッドにペタン座りしている美優は、股下0cmのナース服の裾を引っ張って下半身を隠している。

 

「舐めるのは、さすがにまずかったかな?」

 

 美優は怒っている様子ではなかったが、一応尋ねてみた。

 その返答に、美優はためらいながらも口を開く。

 

「イッてるとこ見られるの恥ずかしい……」

 

 小声で漏らされた美優の本音。

 これまで美優はほとんどする側だったからな。

 わかりきったことではあったけど。

 

「美優は裸を見られるのも好きじゃない?」

 

 美優はお風呂には俺と一緒に入ってくれるが、いまだにアソコを見られるのには抵抗があるようだ。

 

「だって、ほら。私、こんなだし」

 

 美優は自らのツルツルの下腹部を撫でる。

 

「お兄ちゃんも子供っぽいって思うでしょ?」

 

 美優はパイパンでぴったりしたアソコのスジを気にしているらしい。

 美優の服の好みからすれば、それはむしろ歓迎すべきものだと思うのだが。

 

「ロリコスしてるくらいだから、そっちのほうがいいんじゃないのか? 遥もそんな感じなんだろ?」

「遥は全身がロリロリしてるからいいの。私は胸から上だけが中途半端に大人っぽいから、こういうアンバランスなところを見られるのは恥ずかしくて」

 

 美優はそもそもおっぱいがコンプレックスだったもんな。

 ロリ系統に寄り切った遥か、あるいはアダルトさが完成した山本さんのようになれば、美優も自分の裸にもっと自信が持てたのかもしれない。

 

 美優は胸の大きさと、性格面から滲み出る雰囲気や目つきは大人っぽいが、身体つきと顔立ちそのものはとても幼い。

 俺はそんな美優の見た目も好きなんだけど、コンプレックスを無理に褒められても嬉しくないよな。

 

「正直に言えば、まあ、子供っぽいとは思ったよ」

「だよね」

「その上で、個人的なことを言わせてもらうと、俺はそのツルツルも含めて美優の裸がめちゃくちゃ好きだ」

「はあ、はい」

「もちろんおっぱいも大好きだよ。だから俺は美優の体を全て愛している」

「……あ、ありがと」

 

 引かれたのか、照れていたのか、美優は目をそらして床を見つめていた。

 どちらにせよ、その表情からネガティブな印象は受けなかったので、好感度は下がっていていないと思う。

 およそ美優もわかっていたことだとは思うが、こういうのは伝え方が大事なんだ。

 理路整然と自分の変態性を押し出せば相手は本気の言葉として受け取るしかない。

 少なくとも俺と美優の関係性においてはこれが有効であることを、いままでのやりとりの中で俺は学んできた。

 

「ちなみになんだけど、美優ってほんとに遥とエッチしてたのか?」

「してたけど……なんで?」

「遥とたくさんエッチをしてきた割には、色も薄いし、形も崩れてないから」

「それは、たぶん、私と遥のエッチが、お兄ちゃんが想像してるようなのとは違うからだと思う」

 

 エッチの仕方が想像と違うなんてことがあるのか。

 女の子同士のエッチなんて、お互いの性器をイジり合って、舐め合って、最後に股を交わらせてフィニッシュするぐらいしかないと思うんだが。

 しかも、相手はあの遥だしな。

 

「ディルドとかペニスバンドとか使うんじゃないのか?」

「そういうのはほとんどないよ。バイブを使うときも、指くらい細いやつとか、クリを刺激する用の小ぶりなやつだけ」

 

 それは意外だったな。

 これだけ開発されているわけだし、かなり激しいエッチをしてるものだと思ったんだが。

 

「お兄ちゃんも、もう知ってると思うけど。私って、可愛い服を着てるの、好きでしょ?」

 

 美優が確認をするように尋ねてくる。

 可愛い服を着てるのが好き、というのは、ロリコスをした自分を見ながらエッチをすると異常に興奮してしまう体質を指しているんだよな。

 もちろんそこまで含めて理解しているつもりなので、俺は頷いて美優に話の続きを促した。

 

「それが私が遥から服を借りる理由でもあるから。エッチに関しても、メインは、そっち」

 

 美優がごにょっと言葉を誤魔化した。

 言いにくいことなのかな。

 しかし、話す気が無いようでもない。

 

「レンタルのためにエッチするんだよな?」

「うん。借りる服の値段ごとに、何回イッたら貸してくれるとかが決まってて」

「ほ、ほう」

 

 なんだか前と聞いていた話が若干違うような気がするのだが。

 具体化されただけで、意味としては同じなのか。

 

「私は遥の指定する服を着て、腕を宙吊りの手錠に拘束されて、不安定な足場に立たされる。そこで延々と遥からの責め苦に耐え続ける姿を、目の前に置かれた鏡で見せつけられるわけです」

「さすがにそんなエグいのは想像できなかった」

 

 しかも、耐え続けるとは言っても、イかないとレンタルはできないんだよな。

 美優はどんな気持ちで遥にイかされているんだろう。

 

「そのときのエッチの内容がね、ひたすらおっぱいを撫で回したり、ふとももを舐り尽くすような、そんなものばっかりなので。膣内にしたって、いわゆる性感スポットをピンポイントでひたすらネチネチ刺激されるだけだから、男女がセックスするような激しい交わりはほとんどないわけです」

 

 なるほどな。

 たしかに、美優は乱れる自分の姿を見さえすれば興奮するのだから、そこに強い刺激なんてものは必要ないのか。

 むしろ、そんな自分の淫らな姿が視認できる程度に、ジワジワと責めていったほうが美優には効果があるわけだな。

 

「あと、言っておくとアソコの形と色は遺伝により決まるので、処女でも黒かったりヒダが出てる人はいるからね。行為はそれを促進させるだけだから」

「それは知らなかった」

 

 未使用の人は全員がぴっちりしてるのかと思ってたけど、よくよく考えればそれも変な話だよな。

 大人になれば大人の体つきになるものだし、それは局部でも同じことだ。

 

「もう一つ、こっちは重要な話になるんだけど」

「おう、なんだ」

 

 美優はナース服で作られた乳袋を持ち上げて、その存在を強調する。

 

「今回は、お兄ちゃんが脂肪は揉んだほうが減るって言うから、おっぱいでしてあげました」

「たしかに、言ったな」

 

 俺も詳しくは知らないが、理屈上はそうなる。

 らしいのだ。

 

「もしHカップになったら、もうパイズリはしないからね」

「なッ──!?」

 

 頭部をハンマーで殴打されたかのような衝撃が走り、俺はこめかみに強い痛みを感じながら、美優の肩をガバッと掴んだ。

 

「そ、それだけは勘弁してくれ……!」

 

 美優にパイズリがしてもらえないなんて、俺の人生が半分失われたも同義だ。

 それだけはどうあっても了承できない。

 

「ふぁっ、あ、あの、おにぃちゃ……」

「もちろん、美優の体のことは最優先に考える。だから、もしダメなら、俺にわがままを言う権利なんてないんだが……でも、最初からそれありきで考えるべきではないと思うんだ。つまるところ、今から小さくする方法を調べて、全部実践しよう。それがいい。ただ胸が大きくなるのを待つよりは、色んな方法で小さくならないか試行錯誤してみて、その上で心置きなくパイズリをするべきだと思うんだ」

 

 思いの丈を吐き切ったら、美優は目を丸くして硬直していた。

 

「すまん」

「う、ううん。お兄ちゃんのが、正論だと思う」

 

 俺が解放すると、美優は長く息を吐いて呼吸を整えた。

 俺も合わせて深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。

 

「えと、お兄ちゃん。言う機会がなかったから、いま初めて言うんだけど」

「なんだ?」

「私、お兄ちゃんと二人きりのときは、警戒モードがオフになるので。脅かされるとびっくりするから、少しだけ控えめでお願いします」

「それは、悪かった。ごめんな」

「いえいえ」

 

 美優も家でゴロゴロしてるときは小動物みたいにしてるしな。

 次からは、気をつけよう。

 

「ちなみに警戒モードがオンになるとどうなるんだ?」

「教室から廊下を歩く人の足音を聞いて、私に用のある人がいるかどうかぐらいはわかる」

「いったい美優はどんな世界で育ってきたんだ……」

 

 きっと美優は、幼い頃より男からも女からも言い寄られ続けてきて、その面倒を避けるために様々な能力を身に着けたのだ。

 そういうことにして納得しておこう。

 

「もうエッチは終わり?」

 

 美優は俺の精液で汚れたナース服を見渡す。

 服の直しに手間を掛けた分ぐらいは堪能できたとは思うが、まだメインディッシュをいただけていない。

 

「できれば正面から挿れてみたかったけど……」

 

 美優の真正面から、立った状態で乳圧に挿入するプレイ。

 これをせずにはパイズリを堪能したとは言えないだろう。

 

「お兄ちゃんはまだできそう?」

「やろうと思えば、できなくはないと思う」

 

 俺がどれだけ美優の射精命令に逆らえないとはいえ、雰囲気は大切だ。

 今は軽いピロートーク状態になっていて、即再戦となると難しい。

 休憩を入れればまた余裕も生まれるけど、美優は全身精液ドロドロだし、そのまま寝たりするのはさすがに無理だからな。

 

「正面から挿れるって、お兄ちゃんが立って自分で動くんだよね?」

「そうなるな」

「そしたら、私のこと縛ってみる?」

「いいのか!?」

「軽くね。両手だけ」

 

 なんとエッチに理解のある妹か。

 兄はもう性欲が再点火してしまった。

 

 美優はベッドから降りて、タオルを床に敷くと、そこの上に正座をした。

 その間に俺は拘束用の紐を探したが、使えそうなものは見当たらず。

 制服のネクタイで妥協したところ、美優もネクタイがシワになることは気にしつつもオーケーしてくれた。

 

「……こんな感じでいいのか?」

「上手くできてるよ。これなら私には解けない」

 

 俺は美優に手の縛り方を教えてもらい、美優の両手を後ろに回してネクタイで拘束した。

 

 それを正面から眺めた姿は圧巻のエロさだった。

 全身を精液で汚されたロリ巨乳のナースが、両手を縛られて床に膝をついてるのである。

 両手を後ろに回したことで胸の張りが強調され、ここを犯してくださいと言わんばかりにその存在を主張していた。

 

「エロ過ぎて勃起してきた」

「見ればわかります」

 

 もう無理かと思っていた射精欲がふつふつと湧いてくる。

 もっと美優のことを汚したい。

 

「美優、挿れるよ」

 

 俺は美優の正面に立って、胸の真ん中のボタンの隙間にペニスを入れ、まずは亀頭までを挿入する。

 俯いてもナースキャップが落ちないのは、きっちりピン留めしてあるからだとわかるぐらい、近くにある美優の顔。

 その美優のぱっちりとした目に見つめられながら、生殖行為とは何の関係もない肉穴にペニスを差し込んでいく。

 

 自分のおっぱいにペニスを挿入される感覚って、どんなものなんだろう。

 膣内に挿れられるときと似たような緊張感があるのかな。

 遥との経験を聞く限りでは、美優は太いのを挿れたことは無いんだっけ。

 

 このナース服にギュウギュウに押し込まれた乳肉と、美優の膣穴と、どっちのほうがキツいのかな。

 一人穴比べとかしてみたい。

 

 そんなことをしたら美優はまた恥ずかしがるかな。

 何をさせてもこの妹はエロ過ぎる。

 

 まずい。

 三擦り半どころか奥まで挿入する前に射精してしまいそうだ。

 

「……ん? 挿れないの?」

「え、ああ。挿れるよ。ただ、ちょっと休憩を」

「そっか」

 

 美優は淡々と話をして、動きの止まった腰に視線を移す。

 納得はしてくれたようだが、どうしても言及せずにはいられなかったようで。

 

「早くない?」

「ごめん」

「別にいいけど」

 

 さすがに興奮のしすぎを咎められてしまった。

 こんなエロ妹が相手では仕方ないんだ。

 俺は悪くない。

 

「では、改めて……」

 

 気が鎮まったところで、ズプッと奥までペニスを挿入する。

 中学生のおっぱいにペニスがすっぽり収まっているとか、絵面がエロすぎてどうあっても射精してしまいそうだ。

 

 俺は暴発をしないようカクカクと腰を振って、美優はただそれを見つめているだけ。

 言葉責めがあるわけでもなく、ただ淡白に、美優はおっぱいを犯されている。

 そんな美優の乾いた視線に見つめられながら、できるだけ心を無にしてペニスの出し入れを続けた。

 

「っ……ふぅ…………うっ……」

 

 自然と声も抑え気味になって、室内にはぬちゃぬちゃと水気を含んだ音が響くだけ。

 

 そんな中で、ふと美優と目が合う。

 

 目尻がやや吊り上がりな美優は、ニュートラルな状態でも勝気な表情をしている。

 そんな顔をした女の子が、体を拘束されてスケベな服を着させられていると思うと、ストロークを加速させているわけでもないのに射精欲が湧き上がってくる。

 

「もう出したいって言ったら……怒る……?」

「怒らないよ。お兄ちゃんはほんとに私の体が好きなんだなーって思うだけ」

「それはもう、美優の体じゃなきゃこんなに興奮できないよ」

「でも早漏はこれから治していこうね」

「は、はい……」

 

 俺と美優はこれから何度もエッチができる。

 それをお互いに確信しているから、焦ることだってない。

 

 会話をしているうちに、多少は乳圧に慣れてきた。

 肉棒で精液を掻き回していると、俺のオスとしてのニオイをもっと美優に染みつけたくなって、俺は美優の乳肉を持ち上げて剛直を突き立てる。

 そのとき、意図せず俺の指が美優の乳首を掠めてしまった。

 

「ひぎゅっ──!?」

 

 美優の体が反り上がって、喘ぎ声を我慢する吐息だけが漏れた。

 さっきまで余裕そうにしていた美優が、突然の快感に声を上げてしまったことを恥ずかしそうにしていて、俺はそんな美優の姿がもっと見たくなってぷっくりと硬くなった乳首をごくごく弱い力で刺激し続けた。

 

「ひゃ…………ぅ……っ!」

 

 美優が必死に声を抑えている。

 これまでは一気にイかせるばかりだったけど、こうして恥ずかしい姿を必死に隠そうとする様も最高にエロい。

 

 もとより美優は喘ぎ声なんて出したくないんだ。

 ただ、体が敏感すぎるから、普段は強い刺激を与えられて声を出さずにはいられないだけ。

 何をしてもすぐに恥ずかしがるようなこの妹が、恋人相手だろうが艶声なんて聞かれたいわけがない。

 

 だから、我慢できる刺激にはできる限り喘ぎ声を抑える。

 

「んっ……ぁ……ひっ……ン……ッ!!」

 

 乳首をコリコリされて、息を荒らげながらも、快楽に歪む顔を見せまいと必死に抵抗する美優。

 腕を拘束されているせいで上手く刺激を受け流すこともできず、体はビクンビクンと震えて、次第に口が開いて喉から呻くような嬌声が漏れてくる。

 

「美優……ダメだ……もう、エロ過ぎる……イキそう……!」

「はぁ……ふうぅぅ……あぐっ…………イッひゃ……っ……!!」

「ああぅっ……美優ッ……もう出るッ……!!」

「ひにゃ……わた……ひも…………イッ……ぎゅ……ッ!!」

 

 どぷっ、びゅるるっ、びゅぶっ、どぷんっ、ぴゅっ、びゅるっ──!!

 

 俺のペニスを根元まで咥え込んで射精を受け止める美優の豊乳。

 そこにたっぷりの精液を注ぎ続けた結果、中出しした直後のアソコのように白い粘液がジワりと漏れ出てきた。

 俺が射精するのと同時に美優は絶頂していて、収縮する筋肉の動きに合わせて精液が押し出されてくる。

 

「はぁ……はぁ……っ……ふはぁ……」

 

 美優は息を切らして呆然としていた。

 ふとももを舐めるだけでもイッて、乳首をイジるだけでもイクなんて、この体はどれだけエロいんだ。

 もっともっとイジメたい。

 

「もう……お兄ちゃん……腕を縛ってそういうことするのズルい……」

「最初のは、事故だったんだけど。美優が可愛すぎて我慢できなかった」

「むー。シスコンで早漏で性欲バカだよね、お兄ちゃんは」

「イク早さでいえば美優も変わらないと思うけど」

「うっ……お、女の子は何回もイケるからいいもん……」

 

 美優は頬を膨らませてそっぽを向く。

 そして、膝を擦り合わせてもじもじしながら、目線を斜めに上げてひっそりと俺を見つめてきた。

 

「もう、出し切った?」

「ああ。満足できたよ」

「そっか。それは、よかった」

 

 美優はそう言ったものの、どうにも落ち着いた様子はなくて。

 

「いっぱい、出したもんね」

 

 腕を縛るネクタイを窮屈そうに引っ張りながら、ボソボソと話を続ける。

 

「外してもらって、いい?」

「いいけど。美優は大丈夫か?」

 

 ひとまずネクタイの結び目に手をかけて、俺は美優の反応を伺う。

 しばらく待っていると、美優も観念したようで、口が動いているかわからないぐらいの小声で本音を漏らす。

 

「……エッチな気分になっちゃった」

 

 もう射精もし尽くして、エッチも終わりの雰囲気だったところに、美優の性欲のピークがきてしまった。

 それでも拘束を解いてくれと言ったのは、たぶんこの後に一人でするつもりだったんだろうけど。

 

 恋人をムラムラさせたまま放置なんてしたら男が廃る。

 

「痛くないようにするからな」

 

 俺は美優の股の間に手を入れて、クリトリスの包皮に指を添える。

 

「ふぇ……い、いいよ! 自分でするし! せめて、腕は自由に……しひぇ……ふひゃぁ!?」

 

 前に教えてもらった通りに、陰核に直触りはせず、包皮の上から少しだけ強めに美優のクリトリスを刺激する。

 恥骨を抉るような押し込みはせず、一定のリズムを保って、美優が自分で気持ちいい箇所を把握できるように単純な刺激を繰り返していく。

 

「ひやぁ……あっ……らめ、ああっ……おにぃひゃ……あっ……ひぎゅっ……んんんっ!!」

 

 美優はビクビク体を震わせて、声を上げて悶えるが、この反応は気持ちよくなっている証拠だと美優に教えてもらっている。

 膝をガクつかさせながらも美優は腰を浮かせて、快感のあまり制御が利かずに動いてしまうその体に、俺は指の位置を微修正しながらクリを圧迫し続けた。

 

 快楽に悶え喘ぐ美優が可愛くて愛おしい。

 びちょびちょの割れ目からおもらしみたいに愛液を垂らす姿も可愛い。

 精液に汚されたおっぱいと、ピンク色のナースキャップを揺らして、目を上向かせている美優が可愛くて仕方がない。

 

 クリを刺激しているうちに、どうしても腰を引いてしまう美優の、そのお尻の丸みに俺の視線は吸い込まれた。

 そこで思い出すのは、アナルを撫でたときに悲鳴を上げた美優の姿。

 

「美優、可愛いよ。もっと気持ちよくなって」

 

 俺は美優の胸元に二本の指を突っ込み、たっぷりの精液を掬い取った。

 それを美優の目の前で練って糸を引いて見せてから、俺は美優のお尻の穴に塗り込んだ。

 

「ひゃぁああっ!! しょれ、らめらぇっ……!! お、おにいひゃ……んにゃ……ひきゅっ……ンンッ……あっ、あっ……ひやぁ……ッ!!」

 

 前からはクリトリスを刺激され、後ろからはアナルに精液を塗り込まれ、美優は外れるはずもないネクタイの拘束を必死に振り解こうと足掻きながら、快楽に身を震わせる。

 

「ああうぅっ……んんっ……! おし、り……にひぃ……! せーえき、ぬっちゃひやぁあ……!!」

 

 美優はもう膝立ちになっていて、どちらの快楽からも逃れようと、まるで騎乗位でセックスをするように懸命に腰を振っている。

 

「ひゃ、イッ……っ……イいぃイクッ……ひぎゅッ…………ッ!!」

 

 美優は天井を向きながら激しくイッて、そこからはもうイキっぱなしだった。

 俺が指を止めるまで獣のように叫び狂って、手を放してもしばらくはイキ続け、やがて事切れたようにぐったりして静まり返った。

 

「美優。大丈夫か」

 

 俺が声を掛けると、美優は焦点の合わない目で俺の方を見た。

 どうやら意識はきちんとあるようで、美優は深い呼吸にときおり喉笛を交えて、拷問を終えた後の囚人のように項垂れる。

 

 その間に美優の両手を縛るネクタイを外そうと試みるが、美優がかなり強い力で引っ張ってしまったせいでなかなか結び目が解けない。

 

 俺が悪戦苦闘しているうちに、美優の体力は次第に回復していって、呼吸も平常通りに戻っていった。

 

「うぅっ……こんなに辱められるなんて……」

 

 涙目で嘆く美優。

 怒ってはいないみたいなので、たぶん上手にできたのだと思う。

 

「もう体中ベトベト」

「ちょっと、出しすぎたな」

「毎回思うけどさ、どこにこれだけの精液が入ってるのかな」

「それは俺にもわからない」

 

 なにせ美優のエロ声を聞きすぎたせいでまたムラムラしてしまっているぐらいだ。

 さすがに次はもう怒られそうなので言わないでおくが。

 

「そういや、服の中どうなってんのかな」

「どうだろうね。ボタン外してみる?」

「そうだな」

 

 俺は一旦ネクタイを解くのを諦めて、美優の正面に回る。

 美優も体を起こしてくれて、上から順にボタンを外していった。

 

「こ、これ、キッツキツに閉められてるな」

「だいぶ呼吸が苦しかったので褒めてほしいです」

「風呂上がったら死ぬほど甘やかすよ」

「約束だからね」

 

 二個目のボタンを外すと、漫画みたいにぷるんとおっぱいが飛び出してきた。

 俺は美優のお腹が見えるあたりまでボタンを外して、思っていた以上に白濁液まみれになっていた美優の体にゴクリとツバを飲む。

 

「どエロいことになってる」

「そんなに?」

「ああ、正面からだと、かなり、卑猥な絵面になってるよ」

「それはまた……」

 

 美優がこんなに精液をぶっかけられた姿なんてもう見られないだろうからな。

 せっかくだし美優にもどんな風になっているか教えてあげるか。

 

「スマホは一階に置きっぱなしだし、美優のカメラを取ってくる」

「え、あ、はい」

 

 美優もこのあとどうなるかはわかっていて、俺が一眼レフを持って部屋に戻っても大人しくしていた。

 それでも、実際にカメラを向けられると羞恥に耐えかねるようで、俺を責め立てるように美優が睨んでくる。

 

 そんなオークに負けた姫騎士みたいな姿で睨みつけられても、お兄ちゃんは興奮してしまうだけなのだが。

 というか、美優を撮っていたらさっきのムラムラがもう我慢できなくなってきた。

 

「美優、ごめん。これでほんとに最後にするから」

 

 俺がそう言うと、撮影の合間に勃起してしまっていたこともあって、美優は呆れながらも承諾してくれた。

 どうやって出そうか迷ったが、なかなか無い機会だし、やはりアレしかないなと俺は自ら竿を握る。

 

「もうほとんど出ないと思うけど。少しだけでいいから出させて」

「お兄ちゃんのおバカな性欲に付き合う妹に感謝してね」

 

 美優への感謝を込めながら俺は肉棒をシゴいた。

 オナニーをするのなんて久しぶりだ。

 可愛い女の子に抜いてもらってばっかりで性生活がおかしくなっている。

 

 久しぶりに握ったペニスは、だいぶ重たくなっていた。

 これは気のせいではなく本当にサイズアップしてしまったな。

 

 美優も気づいているんだろうか。

 あんまり大きくなってほしくないって言ってたからな。

 こんなスケベなおっぱいを見せられて、大きくするなってほうが無理なんだが。

 

 そして、いま目の前にあるのは、手を後ろに拘束されておっぱいを剥き出しにしたミニスカナースの姿だ。

 そんなエロい格好に、美優の幼い体つきと可愛らしく束ねられたロングヘアが合わさって、ギャップ萌えが氾濫している。

 

「はぁ……はぁ……美優……そんなに睨まれると…………もう……出そう……」

「お兄ちゃんの性癖ってもうダメな感じになってるよね」

 

 美優の冷たい視線、平坦な声音。

 それが毒のある言葉に乗せられて、俺の右手は興奮に擦る勢いを増していた。

 

「あ、ああぁ……美優……出るよ……!」

「いいよ。いっぱい掛けて」

「うっ……うぐぁ……ああぁッ……出る、出るっ……!!」

 

 びゅる、びゅる、と美優の胸に目掛けて射出された精液。

 しっかりと白い液体が見えるほどの量が、美優の体に飛んで胸からお腹まで滴っていった。

 

「き、気持ちよかった……」

「お疲れ様」

 

 射精のし過ぎで立ちくらみをしていた俺に、美優は身を捩って近づいてきた。

 そして、手を後ろにしたまま、俺のペニスをパクリと咥える。

 

「っ……み、美優……」

「はむっ……むちゅっ……じゅるっ……」

 

 手を縛られたまま頭を前後させてペニスを舐める美優。

 一度奥まで咥え込んでから、最後は唾液ごと精液を吸い取るように口から抜き取った。

 

「はい。お掃除も終わったよ」

「ありがとう。すごく良かったよ」

 

 それからどうにかネクタイを外して、美優の拘束を解いた。

 

 だいぶシワがついてしまったな。

 今後、このネクタイのシワを見るたびに今日のエッチを思い出すのかと思うと、学校生活に支障が出そうで怖い。

 

「その服は、もう捨てちゃうんだよな?」

「うーん……洗うことは可能だけど……あちこち改造してるから洗濯したらボロボロになりそう」

「そうか。まあ、仕方ないな」

 

 元から格安のコスプレ衣装だもんな。

 それに、同じネタというのも、なんだか味気ない。

 

 美優はナース服を脱ぎ去って、事前に用意していた厚めのゴミ袋にそれを放った。

 捨てる予定だった古いタオルも用意してくれていて、それで全身の精液と部屋の汚れを拭いてから同じようにゴミ袋に入れて口を括る。

 

 それから部屋のカーテンを閉じたまま窓だけを開放して換気をし、片付けをしている間にお風呂にお湯を溜めて二人で入ることにした。

 裸を見られるのが恥ずかしい美優でも、お風呂には抵抗なく入ってくれるのは嬉しいことだ。

 

 部屋の掃除を済ませてすぐにお風呂に移動し、入念に体を洗ってから二人で浴槽に浸る。

 俺が後ろで、前に美優を抱えるいつもの体勢。

 こうしていると気分が落ち着いてきて、ようやくエッチが終わったのだと実感が湧いてくる。

 

「美優は他のコスプレとかするのは嫌かな」

「ご要望があれば考えなくはないけど。何かあるの?」

「いや、キツキツの服でパイズリできるのは、これが最後になるのかなと思って」

「あー、そっちか。それはどうだろう」

 

 今回は特別に用意した安いコスプレ衣装だったから汚すことが許されたけど、美優の普段着ではまずありえないことだからな。

 

「胸を締めるだけならどんな衣装でもできるけど、正面から挿れるならさっきのナース服か、それ用の胸の開いたやつにするしかないね」

「そっか。それは、またなんか違うんだよな」

 

 明らかにここに入れてくださいって服だと、どうにも魅力が半減する。

 それは美優もわかっているようで、あまりオススメはされない。

 

「そういえば、そろそろ処分しようと思ってたブラジャーはあるんだよね。下支えするタイプだから正面からでも入るかも」

 

 美優からぽろりと漏れたまさかの情報。

 俺の背中を落雷が突き抜けた。

 

「天才か」

「するとは言ってないけどね」

「しよう、するしかない」

「胸が小さくなったらまた使うかもしれないし」

「でも純粋に寿命がきてるブラだってあるだろ?」

「い、一着だけあるけど……」

「なら決まりだな」

 

 美優の天才的なひらめきによって、俺のパイズリ人生は再起した。

 やはりスケベをするのにも知性は必要だ。

 

「え、するの? 下着姿でパイズリはちょっと恥ずかし過ぎるんだけど」

「さっきのドスケベナース服よりは恥ずかしくないと思うが」

「スケベをするための服でスケベをするのは普通なのです」

「たしかにそうだった」

 

 しかし、知性が有りすぎるのも困りものだ。

 舌戦になったら勝てる気がしない。

 

「まあ、気が向いたらね」

「美優のためなら北風にも太陽にもなるよ」

「動機が不純でも頑張る姿勢は褒めてあげましょう」

「ありがとう。美優もたくさん頑張ってくれて嬉しかったよ。ほんとに敵わない。最高の恋人だと改めて思う」

「ずっとそう思っててね」

「思うよ」

 

 美優の腰に回した腕に、ギュッと力を込めると、美優も俺の手の甲にその小さな手を重ねてきた。

 

「恋の病は予防できそう?」

「さすがにこれ以上はないよ」

「それはよかった。あと少しで全部終わるから、よろしくね」

「ああ。わかってる」

 

 俺と美優の幸せな時間。

 二人が幸せならそれでいいと、俺はつい思ってしまう。

 

 それでも、この完璧主義の妹にとっては、後顧の憂い無くイチャイチャするのには不純物の一切が邪魔なのだ。

 だから、それを俺も応援する。

 

 きっとそれが、美優が俺を好きになった理由でもあると思うから。

 

「ところでさ、お兄ちゃん」

「ん? どうした?」

「いつになったら私の初めてをもらってくれるの?」

「えっ! あ、ああ! そうだったな!!」

 

 オフ会から由佳と遥に付き合わされっぱなしで、山本さんまで俺を振り回してくるものだから、すっかり失念していた。

 今後の幸せのためのあれこれと、美優との関係を進めるのは、また別の話だ。

 

「一応、その、例の気をつけるべきことってのは、もうわかってるんだが」

「そうなんだ」

「ああ。美優の体質のことを、きちんと考えて。それで、なんというか、節度は守るべきだってのは理解した」

「ふむふむ」

 

 美優は体を浴槽の縁に寄せて腰を捻ると、横目で俺の瞳を覗き込んでくる。

 しばらく見つめ合って、特に会話が交わされるでもなく、美優は正面に向き直って俺の腕をお腹に巻いた。

 

「お兄ちゃんから誘ってね」

「ってことは、合格? いまので伝わった?」

「半分はお兄ちゃんの回答で満足。もう半分は、お兄ちゃんを信頼することにしたのでいいやってなりました」

 

 ここに来てまさかのぶん投げとは。

 いや、信頼されてってことだから、俺は美優のために何かを頑張れたのか。

 

「いい思い出にするよ」

「ありがと。でも何日も禁欲して誘ったりしたら全力で逃げるからね」

「わ、わかった。それはしない」

 

 さすがに今日ぐらいの量を美優の膣内に出したら、ゴム有りでも大惨事になりそうだからな。

 エッチの流れである程度は出してから誘おう。

 

「美優」

「なあに」

 

 俺は美優の背中から少しだけ離れて、回り込むように首を傾ける。

 その気配に美優も気づいてくれて、俺の方を向いてくれた。

 

「んっ……」

 

 どちらともなく、声が漏れて。

 

 初めて自分から重ねた唇を、俺はゆっくりと離す。

 

 美優は一拍の間を置いて瞼を上げ、ふっと微笑むと、人差し指を俺の唇に当てた。

 

「キスもこれから練習しないとだね」

 

 美優は上機嫌に俺の手を取ると、腕を退けて俺の胸に抱きついてきた。

 

 キスの続きはお預けになったけど、気持ちよさそうな寝顔を見せる美優が可愛かったので、俺は幸せをいっぱいに噛み締めてただ美優の頭を撫で続けていた。

 



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幼妻ロリ巨乳JCのパーフェクトな朝の送り出し

 

 シングルベッドの上で美優と二人。

 目が覚めると朝になっていた。

 アラームをかけるとなぜかベルが鳴る直前で目が覚める俺は、俺の右腕を枕にして寝ている美優を起こさないよう、左手でそっとアラームをオフにする。

 

 今日はバイトがあるから起きて準備をしなければならない。

 朝ごはんは一緒に食べることになっているので、どちらにしても美優は起こさなければならないのだが、この安らかに眠る恋人の顔をもう少し眺めていたいとも思う。

 

 顔が小さくて、肌がすべすべで、唇もふっくらしているこの可愛さは、もう何度目かの共寝になっても飽きることはない。

 前までは俺が起きれば美優もつられるように起きていたのだが、最近ではまた更に眠りが深くなったようで、俺が起こさない限り美優は寝続けるのだ。

 

(まだ寝ていたいけど、バイトまでそう時間があるわけでもないしな)

 

 せっかく恋人になったのだし、それなりの特権があってもいいはず。

 そう思って、俺は少しだけ美優の可愛さを堪能しながら起こすことにした。

 

 ほっぺをふにふにしたり、頭を撫でたり、手を握ったり。

 どこまでしたら起きるかを確かめながら、俺は美優の体を触っていく。

 しかし、昨晩のコスプレエッチで疲れているのか、まるで起きる様子がなかった。

 

 普段の感覚からすればこの辺りで薄っすらと目を開け始めてもいい頃だが、美優は全く反応を示すことはない。

 寝ているふりをしているのかとも思ったが、ふとももを触っても無反応だったので、これは完全に寝ていると見ていい。

 美優の性感は意識があったらとても狸寝入りなんて続けていられないくらいに敏感なのだ。

 

(これが警戒モードがオフなのか。どれだけ信頼されてるんだか)

 

 こんなに安心して眠ってもらえるのは、恋人としてこの上なく嬉しいものだ。

 なんだかんだで毎日が忙しくて、じっくりとこの幸せを噛みしめる時間が取れていないけど。

 すぐ隣りにあるこの幸せだけは、絶対に手放さないでいたい。

 

 そんな幸福感の弾みで、つい男としての本能がくすぐられて。

 俺は寝ている美優の唇にそっとキスをしてみた。

 

 柔らかな紅の厚みが重なって、啄ばむようにそれを甘く唇ではんでから口を離す。

 

 それでも美優は起きなかった。

 キスで目覚めるなんてのは、おとぎ話の世界だ。

 

 仕方がないので俺はアラームを掛け直し、美優も聞き慣れた音を鳴らしながら肩を揺すった。

 

「ふぁ……んっ……」

 

 美優の目がゆっくりと開かれる。

 そして、ぼんやりと目があったところで、美優は俺の胸に引っ付いてきた。

 

「おはよ」

「おはよう、美優。今日はバイトだからもう起きないと」

「知ってる」

 

 美優は腕を回せる範囲でギュッと俺のことを抱きしめてきて、ひとしきり頬をスリスリしてからようやく俺から離れた。

 

 美優のいつもの挨拶である。

 

「おはよう、お兄ちゃん」

「おはよう」

 

 美優の一度目の「おはよ」はとりあえず起きたよの意味。

 そして、それは同時に朝のぎゅーをしますの合図でもある。

 俺に抱きつくのが好きな美優にとって、これは欠かせない日課だった。

 

 それが終わると、美優は改めて目が覚めましたの「おはよう」を言ってくる。

 こうして俺たちの朝は始まるのだ。

 

「どうした? 美優」

 

 美優が上目で俺のことを眺めていた。

 いつもは鋭い目尻の形が、目を大きく開くと柔らかい印象になる。

 

「んー。目が覚めたら、好きな人が隣りにいるから。なんだか幸せだなって」

「そ、そうか」

 

 そんなセリフを恥ずかしげもなく吐いた美優に、俺のほうが照れ臭くなってしまった。

 

 ファーストキスのときも男気たっぷりだったもんな。

 エッチのときはあんなに純情で恥ずかしがり屋なのに。

 普段と気構えが違い過ぎる。

 

 朝起きたときに好きな人といる幸せか。

 美優も俺と同じことを感じてくれてたんだな。

 こういう部分を知ることで、ようやく美優と両想いになれた実感が湧いてくる。

 

 それにしても、美優がこんなにわかりやすく「好き」を伝えてくれるなんてな。

 やはり昨日の俺が美優の予想を上回って頑張れたのが良かったのだろうか。

 

「昨日のでだいぶ好感度が上がったのかな」

「昨日? なんで?」

「好きな人と一緒に起きられて幸せだって。急に言い出すから」

 

 美優の態度は山本さんや由佳ほどわかりやすいものではない。

 いつもドライな美優は、そこに行動が伴っているからこそ、俺は美優の「好き」を信じられる。

 

 そういうこともあって、美優が口で直接的に「好き」を伝えてきたことは、これまでほとんどなかったように思うのだが。

 

「お兄ちゃんは何もわかってないよね」

「すまん」

 

 美優は怒るでもなく、俺を仰向けにしてそこに正面から覆いかぶさってきた。

 

 この体勢も、美優が好きな形だ。

 よくおっぱいを邪魔そうにするけど。

 

「お兄ちゃんのことがどれだけ好きかを言語化するのは難しいんだよ」

「そうなのか」

「たとえば、ずっと楽しみにしていたイベントを前に寝れなくなる、あのもどかしいワクワク感があるじゃない? それがお兄ちゃんへの『好き』に置き換わるような、そんな感覚なの」

「なるほど」

 

 いまいち要領を得ないが、言いたいことは伝わってきた。

 

「それが、さっきの言葉とどう繋がるんだ?」

 

 楽しみなイベントを前にするような心境なら、もっとはしゃいだり身悶えしたりしても良いはず。

 それこそ、俺がこれまで見てきたアニメやエロゲのヒロインたちは、頬を赤く染めながら四六時中引っ付いてきて、いかにその好意を伝えられるか日々奮闘していたものだ。

 

「私が『お兄ちゃん大好き、チュッチュ』とかやったら気持ち悪いでしょ?」

「気持ち悪くないし、むしろしてもらいたい」

「しない」

「はい」

 

 とても残念だ。

 ドライな美優も好きだが、全身で甘えてくる美優も見てみたい。

 

「でね」

 

 美優は両脚で俺の腰を挟むと、体を起こして両手を広げた。

 

「私が『これぐらい好き』とかやったら、好きな気持ちは“これぐらい”になるわけじゃないですか」

「まあ、そうだな」

「でも実際には、私がお兄ちゃんを好きな気持ちは宇宙的加速度で大きくなってて、とても私の小さな体では表現できないわけですよ」

「いきなり壮大になったな……」

 

 スケールが大き過ぎていまいちピンとこない。

 美優が宇宙レベルで俺のことが好きなのはわかったが。

 

「この宇宙規模に匹敵するものとなったら、もう想像力しかない。なので、私はお兄ちゃんにごく一部の『好き』だけを伝えています。そうすればお兄ちゃんは、私がどれだけお兄ちゃんのことが好きかを考えるでしょ? そうやってお兄ちゃん側の理解を私の感覚に近づけているわけです」

「非常に理知的でびっくりした」

 

 最大限に好意を伝える方法を考えた末にたどり着いた答えが“伝えないこと”になるとはな。

 

 なんて賢い妹だ。

 たぶん俺が出会った誰よりも俺の妹は賢い。

 

「で、そろそろバイトの準備が……」

 

 俺はチラと時計を見やって時間を確認する。

 まだバスの出発時間には余裕があるが、これ以上イチャイチャしてたら時間が一気に吹き飛びそうだ。

 こうしているのが楽しすぎるからこそ、いい感じのタイミングで区切っておきたい。

 

「それについても、お話がありまして」

 

 美優は俺の上からは退かず、やや神妙な面持ちになって俺を見つめた。

 

「お兄ちゃん、バイト辞めない?」

「これまた急な話だな」

 

 俺が困惑している横で、美優はベッド脇に置いてあったスマホを手に取り、とあるアプリを開いた。

 

「前にお兄ちゃんさ、私の裁縫技術は売れるんじゃないかって言ってたでしょ? それで、趣味で作ってた小物とか、使わなくなった服とか売ってみたら、いい感じの値段で買い手がついちゃって」

 

 美優が見せてくれたのは、個人間で物の売買ができるサービスアプリだった。

 どうやらそれでそれなりの稼ぎがでているらしい。

 

「どれくらい入ってるんだ?」

「このままいくと扶養を外れる」

「マジか……」

 

 社会人で一人暮らしをしているならまだしも、生活費のほとんどを親が工面している学生の身で、それだけの額が入るのはかなり大きい。

 

「ここから真面目な話になるんだけどね」

 

 美優はスマホを置くと、また横向きにベッドに寝て俺にくっついた。

 俺もそれに合わせて横になって、美優の前髪を軽く梳く。

 この距離のほうが話しやすい。

 

「はっきりと言っちゃうけど、これから社会人になって、二人で暮らすことになったら、私のほうが収入が多くなる可能性もあるじゃない?」

「大いにありえるな。というか、絶対になると思う」

 

 俺がそう返すと、美優は安心した表情を見せながらも「私は絶対とは思ってないけど」と小声で呟いた。

 

「お兄ちゃんのバイト代も、夏休みの残りを頑張って10万円くらいでしょ? それなら私のお財布から出したほうが早いというか。そういうのにも、慣れておいたほうがいいんじゃないかなって思って」

 

 将来的に俺の稼ぎよりも美優の稼ぎが多くなれば、美優の貯金から支払いをすることが増える。

 昨今では共働きが一般的で、専業主夫も増えてはいるものの、世間体としては嫁の財布ばかりからお金が出ていくのは素直に「良いこと」とは言いにくい。

 それに、現実には妻の収入より自分の収入が少ないだけで、ストレスを感じる夫も多いことだろう。

 

 つまるところ、俺のプライドが無駄に凝り固まる前に、効率を優先する生活にも慣れておいてもらいたいということだ。

 

「もちろん、私は旦那様を立てないような嫁ではないですよ?」

 

 美優はキュッと俺のTシャツを引っ張って、上目を仰ぐ。

 そのあたりは、そうだろうと思っていた。

 これまでのやりとりからして、美優の思想は比較的古風だし、いわゆる大人たちが好きそうな常識というものは弁えている。

 

「でも、来年はお兄ちゃんも受験があるわけだし、この貴重な夏休みをバイトに費やしてまでガヤに付き合うことはないじゃない? お母さんたちもそろそろ帰ってくるから、そうなるとイチャイチャできる場所も限られてくるし。ここは私にわがままを言わせてほしいなって」

 

 美優がお願いの体を取っているのは、この提案は俺のためではないと考えているからだ。

 なぜならその選択は、世間に対する俺の男としての評価を下げることになる。

 そんなことになれば「あいつは女が働いた金で遊ぶダメな男だ」とガヤを飛ばしてくる輩も出てくるだろう。

 

 だから、他の男だったら、そんな情けない男にはなれないと断ったかもしれない。

 だが、お生憎様、俺は世間体を無視するだけで美優が幸せになるなら、他はどうでもよいのだ。

 バイトを辞めて美優が喜ぶなら迷わずそうする。

 

「そういうことなら辞めるよ。美優との時間が減るのは俺も惜しいからな」

「やった! お兄ちゃんなら絶対にそう言ってくれると思った!」

 

 美優は「これだからお兄ちゃんは」とか言いながら、俺の脚をベシベシと叩いてくる。

 とても嬉しそうだ。

 

 これまで長いこと話を聞いてきたが、つまりは「イチャイチャが足りない」ということなんだよな。

 それは俺も全面的に同意するところだ。

 

「ドタキャンはさすがに迷惑をかけるから、どうかとは思うけど」

「今日のは行って。特別にするのはお金のことだけ。それ以外は、お兄ちゃんが不出来な人だなんて言わせない」

 

 美優は軽快にベッドから降りると、俺のクローゼットからスーツ一式を取り出して椅子の背もたれに掛けた。

 どうやら昨日のうちに全部を用意してくれていたらしく、ベルトも靴下もきっちり揃っている。

 

「このシャツ、新品か……?」

 

 美優が用意した服を見ると、どれも埃が取られていて、ピシッとシワが伸びている。

 

「汗染みを抜いて、アイロンもかけておいたよ。朝ごはんを作っておくから、ゆっくり準備してきて」

 

 美優は一度自分の部屋に戻り、パジャマを着替えてから一階に降りていった。

 

 さすが、服のことになると完璧な仕事をする。

 俺が外に出ている間にここまでのことをしていたのか。

 我が妹ながら感心のあまり言葉も出ない。

 

 俺は軽く歯を磨いて顔を洗い、美優が出してくれた服に着替えて髪を整える。

 朝のイチャイチャでだいぶ時間を使ったと思っていたが、この一瞬だけでいつもより早く支度ができてしまったぐらいだ。

 

 そして、一階に降りると、なんということかもう美味しそうな香りが漂っているではないか。

 テーブルに敷かれたランチョンマットの上には、夏野菜を使った豚肉の炒め物とご飯がすでにサーブされている。

 

 夏場は米を冷凍庫に保存するのでレンチンすればすぐに出せるし、炒めものならそれほど時間はかからない。

 焼き加減からしても十分な調理が施されていて、美優のことだから味にも妥協はないはず。

 

 俺に無駄な時間を取らせないための速さを重視したスタイル。

 それでいて味も栄養も損なわれていない。

 

 これでも十分なくらいだが、美優はスープも作ってくれているようだった。

 出汁を取ったものを凍らせておけばこちらも調理は早いからな。

 匂いからするに酸辛系のスープで、普段よりも俺の体力に気を掛けている。

 

 朝はしっかり食べる家庭で育った俺たちにはこれが適量だ。

 夏場に力仕事をするということもあって、普段よりも味の濃いものが選ばれている。

 

「すぐにできるから、座って待っててね」

 

 美優はスープカップに鍋の中身を移して、それをテーブルに運ぶ。

 バスの出発時間に間に合わないぐらいになれば「先に食べてて」と言われるのだろうが、美優がそれを言うことはまずない。

 俺と、美優と、二人が着席して、いつも一緒に「いただきます」から食事を始めるのだ。

 

 美優は慌ただしくなるほど余裕のない時間の使い方はしない。

 俺が急にバイトに行くと言い出すようなことがあれば別だが、今日のように予定を計画した上で朝食を作る場合、時間を切り詰めて行動するのは美優の主義に反する。

 

 そして、何より勘違いしてはならないのは、これらの準備はすべて美優がしたいからしていることであって、俺を少しでも早くバイトに行かせることと、一緒にご飯を食べることを天秤にかければ、美優は必ず後者を優先する。

 俺も美優にはそうあってほしいし、自分を大切にすることが相手のためになるということは、これからも忘れずにいたい。

 

「献立表からだいぶ進化してるな」

「あれはほら。妹の私が考えたものだから。いざこういう立場になってみると、思うところがあるわけですよ」

 

 美優は熱々のスープに息を吹きかけて、少しずつ口に流し込んでいく。

 時短を考えると俺のスープにもそのふーふーもやってもらいたいのだが、言ったら白い目で見られそうなのでやめておいた。

 

「もうちょっと、美優と居られる時間を増やせるといいんだけどな。明日も由佳と出掛ける約束になってるし」

 

 今日はバイトに行って、明日は由佳と一日デート、その後も山本さんたちとの予定が入らないとも限らない。

 二人でやると決めたこととはいえ、夏休みに失われていく時間は惜しい。

 

「由佳には優しくしてあげてね。奏さんにも。たぶん、そう長くはかからないよ」

 

 夏休みが明けても、俺と美優が変わらずその二人と接していられるように。

 美優と一切の雑念なくイチャラブできるように。

 由佳の悩みと、山本さんの恋心の、その両方をキレイに解決する必要がある。

 

「美優は実際のところ、俺が由佳とか山本さんとそれなりのことをしてることについては、どう思ってるんだ?」

 

 美優は俺が他の人とセックスすることは絶対に嫌だと言った。

 それが嘘だったとは思わないが、言葉にしたほど嫌がっている様子もない。

 

「お兄ちゃんが思った以上のスケコマシだったのでそんなに嫌な気分ではないです」

「驚きと矛盾を同時に感じる……」

 

 普通は彼氏がそんなヤリ手だったら心配になるものだが。

 

「なんだろ。健全な嫉妬みたいな?」

「嫉妬はするのか」

「女の子だからね」

 

 この妹はまた難しいことを言う。

 

「そういうところも俺は好きだよ」

 

 お互いにご飯を食べ進めながら、一口一口飲み込んで会話をする。

 スープも飲みやすい温度になってきた。

 

「もう解決が見えてるからね。あとはきっかけを待つだけだから気が楽なの」

「俺には見えてないんだけど」

「それに加えて、許せる前提条件はもう四つほどあります」

「偶然許されているだけなのはよくわかった」

 

 もうそんな段階まで来ていたんだな。

 俺には山本さんとの関係も由佳との関係も、美優という恋人がいる観点からすれば悪化しているようにしか思えないのだが、着実に前進をしていたらしい。

 

「逆に言えば、もう引き返すわけにはいかない。特に奏さんは、堕ちるとこまで堕としてもらわないと困る」

「また物騒な話だな」

 

 俺は美優を信じているから、その指示の行く末には大団円が待っているのだと信じている。

 しかし、そこに美優と山本さんと三人で暮らしていくような未来はなくて、どうあっても最後は切り捨てることになるのだ。

 

「最終目標が仲直りすることだから、俺もやれることはやるつもりだけど。美優も言った通り、俺も山本さんのことは好きではあるから。あんまりあの優しさにつけ入るようなことは避けたいというか」

 

 美優が意味もなく上げて落とすことなんてするはずないが、いつかは山本さんの好意を否定しなければならないと思うと、会うたびに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 

「お兄ちゃんはさ、今の奏さんをどう思う?」

 

 質問の答えを出すより先に、美優が問いを投げつけてきた。

 美優の話の運び方がこうなるときは、俺の中の前提が何か間違っているのだと感覚的に知っている。

 

「今もなにも、山本さんは変わらず優しくて美人な優等生だよ」

「もっとお兄ちゃん的に」

「俺的に? そう言われると、超人的に優秀で、誰にでも全力で尽くす聖女みたいな人、って感じだけど……」

「まあそんな感じだろうね」

 

 美優はそんな感想を述べて、しばらくは黙々とご飯を食べ進める。

 

 さすがに山本さんの印象は間違ってないと思うのだが。

 まさか山本さんにも、由佳みたいな認識のすり替わりがあるってことか?

 

 山本さんが優秀なのは事実として間違いないし、もし俺の印象で間違ってるところがあるとするなら、優しいって部分になるけど。

 あの山本さんが優しくなかったら、この世から優しい人なんて消えてなくなる。

 

「山本さんは優しい人だろ」

「そこは否定しないよ。私もそう思う」

 

 やはりそうくるか。

 そもそも、山本さんは優し過ぎるせいで苦労してきたわけだし、ここが否定される要素なわけがない。

 俺も美優みたいな考え方ができるようになれば、すんなりと答えにたどり着けるのだろうか。

 

「お兄ちゃんも、遥とはもうだいぶ話したんだよね?」

「そうだな。そこそこ濃い話はしたよ」

 

 遥とは男女としての接触があったわけじゃないけど、かなりエグいことをしてる姿も見てきたし、噂にも色々と聞いている。

 

「遥はね、すごく可愛い子なんだよ。アクセサリーとかあげると、飛び跳ねるくらいに喜んでくれてね。私があげたものなのに、これでもかってくらい見せびらかしてきて、ずっと上機嫌にしてるし」

 

 美優が語り始めたのは、俺の知らない遥の姿。

 きっと知る人は少ないであろうもう1つの顔だった。

 

「旅行の準備とかは、全部遥がしてくれるの。あれで私以外の人の好みとかも把握してるから、どこに行くにしても用意が良いんだ」

「三人以上でも旅行はするのか?」

「するよ。キャンプとか温泉くらいならね。それでね。遥は何でもかんでも新しい雑貨を使うのが好きだから、移動中とかいちいち便利グッズを紹介してくるの、変な癖なんだけど私は好きで」

 

 少し照れ気味にそう語る美優にとって、遥という存在はとても大切なものなのだとわかる。

 由佳と一緒に、何年も付き合ってきた友達だからな。

 俺としても三人にはずっと仲良しでいてもらいたい。

 

「何より、本当に頭が良いんだ。遥が持ってるコネは、あの容姿で撮影会をしてた縁で繋がったものだけど。海外の製造場にまで電話一本で依頼をかけられるのは、相当な根回しが無いと不可能なことなの。そういうところは、心から尊敬してる」

 

 ポンポンと飛び出してくる未知の情報。

 あの遥ならあるいはと思える部分もあるが、やはり俺の知る姿とはほど遠い。

 

「それって遥って名前の俺の知らない誰かの話じゃないよな?」

「うちにも遊びに来たあの遥のことだよ」

 

 美優はそこまで話して、残ったご飯を食べ進める。

 

 俺の知らない遥の姿か。

 しかし、不思議には思わない。

 美優が認めているほどの人物が、ただ可愛いだけの女の子ではないだろうし。

 なにより、あの遥だ。

 

「さて」

 

 二人とも朝食を食べ終わって、一息をつく。

 とても元気になる美味しさだった。

 

「お兄ちゃんは私が語った遥の一面を知らないはずです。それはなぜでしょう」

「遥が潔癖症のレズだから」

「正解」

 

 遥は男を寄せ付けないタイプのレズだ。

 俺が男である以上、遥は女の子としての素を見せることはない。

 

 デパートで山本さんと会った時にその片鱗を見せたものの、遥の本当の可愛さを知るためには女になるしかないだろう。

 それも、遥が気に入るほどのとびきりの美人に。

 

「男子と女子とでは、遥は接し方がまるで違う。でも、それは嘘をついてるわけじゃなくて。どれも遥の意思で生きてる本当の遥の姿なの」

 

 美優は食べ終わった食器をまとめて、俺の分と一緒にシンクへと運ぶ。

 

 そして、食器を置いてすぐに戻ってくると、俺の手を取り、ソファーにまで誘導して腰を掛けさせた。

 そこに、美優が正面から膝を跨ぐように座ってくる。

 

「私だってそうだよ。普段はそんなに表情も変えないし、男女で扱いの差もある」

 

 美優は深いところまで腰と腰を近づけると、俺の首に両手を回してきた。

 

「こんな風に私から積極的にスキンシップを取る姿なんて、誰も想像できない。でも、隠したり騙してるわけじゃない。自然体でいるとそうなるだけ。クラスの子に見せる私も、お兄ちゃんにだけ見せる私も、全部が本当の私」

 

 美優の話自体は、理解できる。

 

 俺たちが社会的動物である以上、自分たちが生きる場所の枠組みやヒエラルキーに迎合するために、誰だって自分の見え方をその場に適応させている。

 そこには個人の好みによる身の振り分けもあって、好きな人にはカッコいい姿や甘えた自分を見せたくなるし、あるいはお年寄りや上司には、自然と畏まって敬語を使うようになるものだ。

 

 必要に応じて見せる自分を変えるのが普通。

 それが人と人の間に生きる俺たちの自然な在り方。

 

「お兄ちゃんといるときの私も、最初からこんなに甘えられてたわけじゃない。お兄ちゃんを好きになって、お兄ちゃんに好きになってもらって、それがお互いに伝わって、今では全く違う関係になってる。じゃあ、奏さんとお兄ちゃんは?」

 

 ようやく核心に迫る問いがなされた。

 これまでの話を聞いて、ぼんやりとこのややこしい問答の全容が見えてきたところだが、まだその意図はわからない。

 

 おそらくは、由佳みたいに矛盾をゴリ押しされて認知が歪んでるわけじゃなく、関係が変わった影響で俺が山本さんのとある一面を忘れてしまっただけなんだろうけど。

 

 さっきも言った通り、山本さんは誰にでも優しい優等生のイメージからずっと変わってないからな。

 そこは体の関係になっても同じままだと思うんだが。

 

「難しい話だな」

「だね。私だって奏さんと二人で話し合ったからわかるだけ。でも、今のお兄ちゃんなら理解できると思う。だから、今回は結論的な話だけするね」

 

 美優は俺の両手を取り、それを自らの手で包んで真っ直ぐに見据えてきた。

 

「奏さん、まだ私に遠慮してるよね。好きにさせていいよ。お兄ちゃんも存分にそれに応えていい。それで初めて、奏さんの傲慢を正せる。これまでの指示は、そういう意味」

 

 美優が語ったそれは、俺にとっては衝撃的で、しかし、なぜかスッと腹に落ちるものだった。

 

 これまでの三ヶ月間、山本さんと誰よりも濃厚に接してきた俺は、美優の語るその背景の全てを知っている。

 思考が追いついていないだけで脳の奥底はすでに理解しているんだ。

 あとは俺が、その散りばめられたピースを、一目でわかるように繋ぎ合わせればいいだけ。

 

 まず俺がすべきことは、きっと美優が傲慢と表現をした、山本さんの優しさを理解することだ。

 

「とりあえず、わかったとだけ言っておくよ。あとは俺でなんとかやれそうな気がする」

「頼りにしてるよ。あっ、ただ、本番のエッチするときは奏さんの家でしてね。それと事前に私に連絡して」

「な、なぜ……?」

「前者についてはそういう取り決めだから。自然とそういう流れになると思う」

「あー……なんかそれらしい雰囲気ではあったかも」

 

 山本さんも本番はなぜか避けてたな。

 

 本番を致すことに何の意味があるのか。

 あるいは行為そのものに意味はないのか。

 

 なんとなく、これは考えて答えが出るものではない気がする。

 

「お兄ちゃんも、だいぶ私に染まったね」

「こんだけ振り回されたら嫌でもなるよ」

「んふふ。嫌だったかな?」

「美優と同じことが考えられるようになるのは嬉しいよ」

 

 これまで、何を考えてるのかわからない妹というのが、美優の一番の印象だったからな。

 それを理解してあげたくて、俺は美優に振り回されながらも考え続けてきた。

 

 こうして分かり合えるのは、俺にとってなによりも嬉しい。

 

「こんな妹をこれからもよろしくね」

「こんな兄もな。……主に性欲のあたりとか」

「そこはほんと苦労してます」

「感謝しています」

 

 俺の性欲が、俺の生来のものなのか、美優のせいなのか、そこはまだわからない。

 

 こうして美優を正面で見ていても、やはりエロいという思いをどこかに抱いてしまう。

 

 美優が着ているのは、いつだか一斉処分をしたときにこっそり拝借していた俺の古着だ。

 それに無地のスカートを穿いて合わせているだけの、オシャレの意識がまるでない格好をしている。

 美優の部屋着はウエストを絞って美しく見せることを意識していないため、おっぱいはブラのカップの分だけ張り出ているし、お腹のところはそれに合わせて服が浮いている。

 

 だが、それが、良い。

 これがまた巨乳らしい絵面で、クるのだ。

 

「恋人の体を見てエロいと思ってしまうことは失礼なのだろうか」

「私はお兄ちゃんがいつもエッチなこと考えてるのをわかった上で好きになってるから、思う存分エッチな目で見てもらって構わないけど」

 

 美優はシャツの上からおっぱいを持ち上げて寄せてみせた。

 元が俺の服だけあって美優の体に比べてサイズが大きめで、谷間が開けているから景色がとてもよい。

 俺がおっぱいが好きなことをよくわかっている。

 

「Tシャツの中って、もしかしてブラジャーだけ?」

「もしかしなくてもブラジャーだけだよ。お兄ちゃんの服をブカブカに着てるのも谷間が涼しいからだし」

 

 美優はTシャツの襟を持ってスンスンと匂いを嗅ぐ。

 洗剤の匂いしかしないので、何か俺の物だからというの意図は、あまりないらしい。

 

 俺が使い古したものは捨ててしまったからな。

 美優が着ているのはほとんど未使用に近い。

 

「Tシャツを捲ったら怒る?」

「怒らないけど、時間は足りるの?」

 

 美優はTシャツの裾だけペロリと捲って、やわっこいお腹をチラ見せする。

 

 時間が足りるか、などと妙な聞き方をしたのは、つまりおっぱいを見たら俺が興奮してそれだけで済まなくなる可能性があるからだ。

 

「予定のバスが出るまでにはまだ時間があるよ。ただ、荷物の整理をしてないから、それを考えると微妙かも」

 

 せっかくの良い雰囲気だが、お預けかな。

 

 と、そんな残念な気分に浸っていると、美優はTシャツの裾をパタパタさせて、何かを気づいてほしそうに無言の主張をした。

 

 そうだった。

 いま目の前にいるのは、他でもない美優なのだ。

 

「……もしかしなくても、用意してくれてたりする?」

「もしかしなくても用意してあります」

 

 驚くべくもなかったのだが、その予想通りすぎる肯定に思わず感動してしまった。

 

 そういえば、俺が初めて美優に悩みを打ち明けて見た目を改善してもらったときも、美優は学校の準備を全部済ませてくれてたんだよな。

 しかも、靴まで磨く完璧っぷりで。

 

「それなら、まだ十五分以上は時間があるな」

「ふむふむ。なら見る?」

 

 美優は掴んでいた裾を俺の手に渡し、スッと背筋を伸ばす。

 

 この眼前に据えられた大きな膨らみの、その中身を拝むことができる。

 美優の下着姿を見たことがないわけではないが、美優とのエッチはほとんど着衣状態だったし、ブラジャーをつけている胸を見ることはほとんどなかった。

 

 垂れ幕を上げるように、徐々に露わになっていく美優の色白な肌に、俺の気分は高揚していく。

 細身ながらもくびれを確認できるそのお腹は、触るまでもなくすべすべしていることがわかった。

 あの小さなおへその穴に、俺は昨日イかされたのだと思うと、見ているだけでゾクゾクする。

 

 そして、鳩尾のあたりから現れる、美優の下乳。

 左右はブラのカップで覆われて、中央には下向きの谷間が露わになっている。

 

「こう言っちゃ、なんだけど。美優の体ってほんとエロいよな」

 

 俺の趣味がどうとか関係なく、美優はエロいと思う。

 いつだか胸を小さくするために痩せ型になっていると言っていたが、それでも節々の肉感は損なわれていない。

 摘めばふわりとお肉が摘めそうで、その肌の色ツヤからするに、マシュマロボディとはこういうものを形容するべきではないかと思ってしまう。

 きっと女の子でもこんな体を見せつけられたらドキリとするだろうな。

 

「体づくりには、苦労してるんだよ」

 

 美優は裸を見られることをやりづらそうにして、俺とは目を合わせない。

 

 美優はこれまで、自分の姿をオカズにオナニーをしていたのだから、そういう観点で美優を見つめていたのは他でもない自分自身なんだよな。

 自分の体をきちんと認識して、なりたい姿を思い浮かべながらトレーニングをすると効果が段違いだと言うし、美優のこのエロスもそうした努力の賜物なんだ。

 

 そして、ついには美優のブラ着けおっぱいを露わにするべく、俺は美優の首元にまで裾をめくり上げる。

 さすがに恥ずかしさを隠しきれない美優の顔がまたそそるもので、そんな美優の表情を目の端に、俺はピンク色のブラジャーの全貌をついにその目に収めた。

 

 デカい。

 ほんとビックリするくらい、カップがドンと張り出している。

 

 ブラジャーにはレースに刺繍があしらわれていたり、中央の連結部がハートの形をしていたりと、よく見れば凝ったデザインをしているものの、そんなディテールなんて説明していられないくらいとにかくサイズ感のインパクトが凄まじい。

 

 そこにあるだけで圧迫感を感じるほどだ。

 美優の生のおっぱいは何度か見てきたが、ブラをしないとどうしたって重力で下向きになるため、これほどふっくらムチムチした印象はなかった。

 整えられたおっぱいにこれだけの破壊力があるとは。

 

 いや、正確には山本さんはもっとデカかったし、ブラ自体も見慣れているはずなのだが、なかなかどうしてこの体勢で見るおっぱいは絶景なのであった。

 

 というかTシャツを捲り上げられて恥ずかしそうにする美優がエロすぎる。

 

「触る?」

 

 美優は俺の両手にそれぞれの手を重ねて、裾を上げるのを代ろうとする。

 

「……いや、いい」

 

 俺はTシャツから手を放して、美優の背中に回した。

 

 意外そうにする美優をよそに、俺はグイと美優を抱き寄せる。

 

「美優には朝の準備を頑張ってもらったから。残りの時間は美優のために使いたい」

 

 美優がくれるものは何もかもが素晴らしい。

 それに比べて俺があげられるものは限られてるけど、もういい加減に俺から美優へ尽くすことも覚えるべきだろう。

 

 美優が喜んでくれることなら、俺はいくらだってしてあげたい。

 

「……ん?」

 

 俺の言葉に、美優はなぜか語彙を失っていた。

 目をパチクリさせて、急に静かになる。

 

「ご飯とか、服の用意とか、ありがとうって言いたかったんだけど」

 

 俺が言葉を続けても、美優は理解ができているのか俺を見つめるだけ。

 どうにも美優の思考回路がショートしているようだった。

 

 まさか、欲望のままにエロいことをお願いした方が良かったのだろうか。

 それはそれで美優が喜んでくれるのはわかっているが、これほど尽くされている身で俺の欲望を優先するのは、さすがに違うと思ったのだが。

 

「美優?」

「ん?」

 

 美優は困惑した様子で瞬きをするだけ。

 

 なんだろう、このぎこちなさは。

 これまでも淡白な美優は見てきたけど、こんなボケッとした表情は初めてだ。

 もう抱き寄せようとしてたのはバレバレだし、こんな中途半端な体勢でいるのも気まずい。

 

 とりあえず流れのままに抱きしめてはみたものの、美優が何かを言うことはなく。

 どうやら長く息を止めていたようで、抱き合ってしばらくすると、美優は俺の首の後ろでふぅーっと息を吐いた。

 

 ひとまず感謝の気持ちは伝えられたので、俺は美優を解放して背もたれに体重を戻す。

 すると、美優は両手でパタパタと顔を扇いで、また大きく深呼吸をした。

 

「はあ。びっくりした」

 

 美優はなぜだか顔を熱くしていて、妙に焦った様子。

 そこに不快感はまるでなく、むしろクールな表情の奥で薄っすらとテンションが上がっているようにすら感じる。

 

 まさかとは思うのだが。

 

 いまの、照れてたのか?

 あまりにも分かりづらすぎないか?

 

「なんか、すまん」

「いえいえ」

 

 思えば、ドライな状態の美優が本気で照れたところって、一度も見たことがなかったな。

 こんな顔をするのか。

 

 しかも、あんな程度の言葉で照れるなんて。

 もっと他にタイミングがあったはずなんだが、どうしてさっきの言葉が美優の琴線に触れたんだろう。

 

 いやしかし、俺も普段から好きな気持ちとか、感謝を伝えられているほうではないからな。

 それどころか性欲ばかりが目立っていて、それを美優が受け入れて喜んでくれるものだから、俺たちの関係はずっとそうやって続いてきた。

 ある意味では、不良がたまに見せる優しさというか、そういうマッチポンプっぽい評価に、さきほどの言葉がハマったのだろう。

 

「では改めてぎゅーをお願いします」

 

 美優は両手を伸ばしてハグを催促する。

 

「ああ、やっぱり喜んでもらえてたのか」

「うん」

 

 短く頷いて、腕を更にグッと前に出してくる美優。

 早くしてほしいみたいなのでまずはその希望に応えることにした。

 さっき抱きしめたときより体温が高い。

 

「お兄ちゃんに褒められた」

 

 美優は気分が良さそうに何度も俺をぎゅうぎゅうしてくる。

 そんなに強くするとせっかく美優がアイロン掛けしたシャツがシワになってしまうのだが。

 普段は気にせずバイトに行ってるから俺は別にいいんだけど。

 

「あれくらいなら美優はいつも言われてるんじゃないか?」

「一言一句同じ言葉で褒められてもお兄ちゃんに言われたほうが嬉しい」

「そういうものか」

「そういうものです」

 

 つい数ヶ月前まで非モテだった俺の感覚からするに、あんな程度で女の子が喜ぶというのは不思議だった。

 

 しかし、俺は大切なことをまだわかっていなかった。

 

 色恋においては、何を言われるかが重要なんじゃない。

 誰に言われるかが重要なんだ。

 

 かつての恋愛感覚では、意中の子を振り向かせるために、趣味を理解して、会話の頻度を増やして、プレゼントに頭を悩ませて、その他大勢とは違う存在になることが最善だと俺は思っていた。

 しかし、多くの女の子に好意を向けられるような身になって、俺は悟った。

 数多の恋愛テクニックで攻め切るより、その人にとって精神的に身近な立ち位置を確保するほうが、ずっと気持ちは伝わりやすくなるのだ。

 

「これからも美優が信頼できる男でいるよ」

「むー。なんだか頭の中を覗かれてるみたいで変な気分」

 

 俺はいつもそうなんだけどな。

 美優からすれば、思考の先手を取られるのは不慣れなのだろう。

 

 美優は自分を預けられる相手として、俺をその唯一の存在に認めてくれた。

 俺が美優を喜ばせるために必要な情報は、その事実だけだ。

 

「最近、美優がよく寝てるから。それでわかっただけだよ」

「私ってそんなに寝てる?」

「今日だって全然起きなかったし」

「えー。今日は私、すぐに起きたよ」

 

 美優は脚も腕もべったりと俺の体にくっつけて、揺りかごのように乗っかってくる。

 たぶん服のこととかはもう考えていない。

 

「ん、ああ、そうだった」

 

 俺がアラームを掛け直してお触りしてただけだから、美優は普通に起きたんだった。

 

「むっ」

 

 そして、こんな流れになれば美優は気づく。

 俺の頬を人差し指で突いて、犯人はお前だと言わんばかりにグリグリと責めてきた。

 あえて隠していたことではないのだが、このタイミングでバレると罪悪感がある。

 

「変なことしたでしょ」

「す、すまん……」

「まあ別にいいけど」

 

 美優は何ともなさそうにそう答えた。

 変なことをしたと白状したのに、どんなことをされたか気にならないのだろうか。

 

「いいのか?」

「お兄ちゃんは私が本気で嫌がることはしないもん」

 

 美優は俺から離れるどころかまた上半身を被せてきて、俺の体重が美優と一緒にソファーに沈んでいく。

 

 美優が俺に向ける不満には、怒りの感情が含まれることはなくて。

 どちらかといえば、羞恥心によってぶつくさとボヤかれることが多い。

 俺としても嫌がらせをしたことは一度もない認識だ。

 

 ただ、最後のアレは、色んな意味で許されるものか心配ではある。

 

「実は、美優を起こす前に、キスとかしてたんだけど」

「えっ」

 

 恐る恐る口にすると、美優はピンと背筋を伸ばして反応した。

 抱き合いモードは解除されて、美優が俺の目を見つめてくる。

 

「それはなに? お目覚めのキスとか?」

「そのつもりでは、あった」

「ふーん」

 

 さっきはまるで気にしない風だったのに、実態を知るやいなや美優は問い詰めるように俺に迫ってきた。

 しかし、美優の視線はまだ見つめている範疇であって、睨まれているわけではない。

 とはいえ、その表情はとても不満げだった。

 

「ど、どうした?」

 

 この沈黙が、怒りによるものでないことを、俺はもう知っている。

 だが、何を考えているのかまでは、わからない。

 

「ほんとにわからない?」

 

 美優は俺を見つめたまま両手を繋いでぶらぶらさせる。

 どうやら悪い気分ではないことのアピールのようだが、なるほどもしかすると、こういう仕草こそが美優から発せられる最大のメッセージなのかもしれない。

 

 手順に考えればいいんだ。

 美優は俺がキスしたことを驚いた。

 しかし、それは怒っているわけではない。

 であれば美優の言葉の中からその態度の意図を探るべきで、美優がわざわざお目覚めのキスかと確認をしたのだから、そこに意味があると考えるべきだ。

 

 なら、つまりはこういうことだろう。

 お目覚めのちゅーはしてくれたのに、おはようのちゅーはしてくれないんですか、とか。

 そんな可愛らしい不満に違いないのだ。

 

 って。

 

 そんなわけあるか。

 

「わ、わかりません」

 

 俺は素直に観念する。

 美優みたいなエスパーは持ち合わせていないのだ。

 人の考えていることなどわかるはずがない。

 

 そして、美優は俺の返答を聞いて、なおも不満げにその本心を口にした。

 

「お目覚めのちゅーはしたのに、おはようのちゅーはないんだ」

 

 まさかの大正解だった。

 そうかそんな乙女チックな思考回路でいいんだな。

 俺はもう理解したぞ。

 

「いまからでも、間に合う?」

「んー、どうだろ」

 

 美優は俺の質問に、たっぷりともったいぶりを付けてから、いじらしく目をそらして答えた。

 

「まだ間に合うかも」

 

 こんなやりとりをしただけで美優の気分はすっかり良くなっていた。

 自分のしたことを喜ばれるってこんなに嬉しいものなんだな。

 さっきの美優もこんな気持ちだったのだろうか。

 

「じゃあ、す、するぞ」

「んふふ。うん」

 

 美優はこめかみあたりに伸びた左右の髪を整えて頷く。

 

 俺から初めて美優にしたキスは後ろからの不意打ちだったし、二回目は美優が寝ているときだった。

 こうして正面からするのは、口づけする過程までをずっと観られることになるから、指一本動かすだけでも緊張してしまう。

 

 まずは、美優の腕を掴んで、姿勢を整えるところからだ。

 そうして少しずつ顔を近づけていって、これからキスをすることをアピールする。

 互いの座高がズレないように、自然と唇が重なるぐらいにお腹に隙間を開けて、あとは上体を倒すだけ。

 

 腕を引き寄せると、美優の視線が俺の唇に移った。

 それから、呼吸のリズムを合わせてタイミングを計り、顔を近づけていくと美優の口が開く。

 

 そこに俺は自身の唇を触れさせて、あとは、目を閉じてその感触だけを確かめた。

 肉体で最も温度に敏感な部位で、自分とは違う体温を交わらせて、やがてその差は感じなくなっていく。

 

 不慣れなキスに、すぐ息苦しさを感じてしまい、たまらず口を離すと「チュッ」と水音が鳴った。

 

「お、おはよう」

「えへへへ。おはよう、お兄ちゃん」

 

 何秒と数えられるような長さではなかったと思う。

 それでも、キスを終えた後の美優は、ゆるっゆるのデレ顔になっていた。

 

 恋人の立場として言わせてもらうのだが。

 美優って、好きな相手にはかなりチョロいな。

 

「思ったより、上手」

「ありがとう。そう言ってもらえると安心するよ」

「お兄ちゃんは、えっちのときもそうだけど、要領は良いほうだよ」

 

 二回目にして高評価がもらうことができた。

 あの美優が言うのだから、自信を持ってもいいのだろう。

 

「これから毎朝楽しみだなぁ」

 

 美優はルンルン気分で俺の手を握ってくる。

 まあ、そうなるだろうとは思っていた。

 美優のご要望なので期待を裏切るわけにはいかない。

 

「で、あとは?」

 

 どうやら満足にはまだ至らないご様子。

 

「そうだな。行ってきますのちゅー、だともう行くことになっちゃうから……、お仕事頑張りますの、ちゅーとか?」

「あ、いいねいいね。なんでもいいけど」

 

 せっかく真面目に考えたのになんでもいいとは。

 それでも俺はめげない。

 

「じゃあ、今日はお仕事頑張ってくるからな」

「はい。体には気をつけてね」

 

 美優はテンションが上がっているのか、もうすでに自分から口を近づけてきていて、唇を少し前に出せばキスができてしまう。

 ちゅーの都合は何でもいいと言っただけあって、とにかく俺とキスをしていたいのだろう。

 そんな気持ちを汲み取って、俺もためらいなく美優と唇を重ねた。

 

「んっ……」

 

 さっきよりは、慣れたキス。

 それでも、息の継ぎ方がわからなくて、同じくらいの早さで唇を離す。

 

 美優は俺の目を見るでもなく惚けていた。 

 

「はぁ……お兄ちゃんとキスしてる……」

 

 美優の表情が蕩けて仕上がってきていた。

 エロいことをしているわけでもないのに、デレ状態に移行するのが早すぎる。

 

「お次は何のちゅーなのでしょうか」

 

 美優は舌を重そうにして続きをねだる。

 もちろん、美優にお願いをしてもらえるのは、俺にとって最大の誉れだ。

 

 ただ、実のところ、性欲的な事情がよろしくない。

 

「今朝は準備を頑張ってくれたから、ありがとうのちゅーかな」

「ふふふ。へぇ、感謝してるんだぁ」

 

 美優はニヤケ顔で俺を煽ってから、身を寄せてきて俺の顔を見上げる。

 

「どれくらい感謝してもらえてるのかな」

 

 そして、美優はここにきてド級の爆弾をぶち込んできた。

 

 あれだけ尽くされたとあっては、感謝のキスを軽くで済ませられるはずもなく。

 俺は覚悟を決めて、美優の顎に手を添え、唇の裏が触れ合うくらいに深くキスをした。

 チュッ、チュッ、と互いの唾液を混ぜ合って、溢れそうになる甘い粘液を舌で舐め取っていく。

 

「んんっ……はぁ……んちゅ……」

 

 美優は声を漏らし、なおも餌を待つ雛のように俺の唇を求めてくる。

 キスが激しくなると口を合わせながらの呼吸も気にならなくなって、秒針の音が半周分を数えるまで、俺たちは口づけを貪っていた。

 

「あっ……ふぁ……いっぱいちゅーされた……」

 

 キスをしただけで、美優は何度もイかされた後のように恍惚な表情をしていて、その淫らに緩む美優の笑みを見ていると、もう興奮を抑えておくのも限界だった。

 

「美優、そろそろ、時間が」

「ふへへ。はーい」

 

 美優は俺に預けていた上体を戻して、正面から座ってきた最初の姿勢に戻ると、俺の頬を両手で包んでドロッドロに濡れた舌を口にねじ込んできた。

 

「んんっ……!?」

 

 それから数秒、俺の口内は美優の舌に蹂躙されて、口の中にあったものを全てしゃぶり取られると、ようやく美優は俺を放して膝から降りた。

 

「いっぱいちゅーしてくれて、ありがとうのちゅーです」

 

 美優は唇を指で押さえてニコッと微笑む。

 もうちゅーなんて可愛らしいものじゃなくて、がっつりディープキスだったのだが、その点に区別は付けないのだろうか。

 

 それにしても、まずい。

 もう完全にダメだ。

 雄としてのスイッチが入ってしまった。

 

「玄関で鞄を用意しとくね」

 

 先にリビングを出ていった美優を追いかけながら、俺は迷っていた。

 予定のバスに乗るためにはもう五分しか余裕がない。

 そんな状況で美優に抜いてくれと頼んだら、ただ雰囲気もなくフェラをしてもらうだけになる。

 

 これまでも似たようなシチュエーションは何度もあったが、あの頃はむしろ美優が恋人らしい振る舞いを避け、単なる精液の処理として考えてほしいと言っていたから事務的に抜いてもらっていたんだ。

 美優とはもう恋人同士になったのに、俺からフェラで抜くだけのことをお願いするなんて、まるで性処理用の道具として扱うみたいで心苦しい。

 

「これが、お兄ちゃんのお仕事鞄です。ドリンクはただの冷たいお水だから、塩分はタブレットで摂ってね。あとは汗拭きタオルと、会員証も入れてあります」

 

 玄関に行くと、美優が鞄を持って忠犬のように待っていてくれた。

 

「ありがとう。助かるよ」

 

 俺は睾丸の疼きを告白できず、流れのままに革靴を履く。

 足の半分を通すと、美優が靴べらを渡してきて、それを使って踵を入れた。

 

「ジャケットは専用のケースに入れてあるから、会場に入ったら出してね」

 

 美優は両手で丁寧に鞄の取っ手を持って、俺に近づいてくる。

 稀に見るくらいに良い笑顔だ。

 

「どうかな? 良いお嫁さんになれそうかな?」

 

 美優は弾むような声でそう尋ねてくる。

 犬耳と尻尾を幻視してしまいそうだ。

 

 可愛い。

 バイトに行きたくなくなるぐらい可愛い。

 

「もうなってるよ」

「えへへ。嫁になってた」

 

 頭を撫でてほしいのか、コツンとおでこを胸に当ててくる美優。

 

 そのご要望に応えながら、俺は必死に内なる自分と戦っていた。

 こんな愛らしい嫁を相手に、欲情している俺はなんて節操なしなのだろう。

 しかし、同時にそんな美優に対して、激情を荒ぶらせている自分がいる。

 

「み、美優。あの」

 

 スラックスの中でムクムクと頭をもたげる堪え性のない愚息。

 ここまできたら、もう言っても言わなくてもバレてしまう。

 

「出る前に、抜いてって言ったら、怒る?」

 

 言ってしまった。

 しかし、美優は少しも驚く様子がなく、表情を変えないまま俺と目を合わせる。

 

「んふふ。いつ言うのかと思ってた」

 

 胸をツンツンして、してやったりの美優。

 鞄を床に置くと、玄関マットに膝をついた。

 

 こんなにわかりやすい状態を美優が気付かないわけもなかったけど、わかってて素知らぬ顔をしていたなんて人が悪い。

 

「時間はどれくらいあるの?」

「あと、五分……もないぐらい」

「だったら、四分まで計っておこうか」

 

 美優は俺にスマホを出させると、デフォルトで入っている時間計測アプリを起動して、ストップウォッチの画面を出した。

 

「タイマーじゃなくて?」

「こっちのほうがいいかなって」

 

 美優は俺の股間に手を伸ばし、チャックからペニスを引き出した。

 そして、チュッと俺の愚息にも挨拶を済ませて、咥え込むと同時にスタートボタンを押す。

 

「はむっ……ちゅぶっ……ずじゅっ、ぢゅるる……!」

「あっ、ああっ……美優……気持ちいい……!」

 

 美優のフェラに翻弄される俺に、美優は目を弓なりにしてスマホの画面を見せつけてくる。

 

 つまりは、そういうことだった。

 この四分間で、俺がどこまで美優のフェラに射精せず耐えられるのか。

 それが一目でわかりやすいように美優はタイマーではなくストップウォッチを使った。

 

「んちゅ……ずちゅ…………あむっんふじゅぷっじゅぷっ……んっ……ちゅっずぶっ…………ちゅぱっ」

「ああ、あ、アッ、アッ、ああぁ……ッ!」

 

 美優の容赦ないフェラチオに、俺の脚がガクガクと震える。

 早く出せるように気持ちよくしてもらうべきなのに、俺は美優の肩を押さえて必死に快楽責めに抵抗していた。

 

「ちゅぶっ……じゅるっ…………ぶっちゅっ。んふっ。お兄ちゃん、腰引きすぎ」

「だ、だって、気持ちよすぎて」

「そうやってズルするなら、舌も全部使っちゃうからね」

「えっ、今までの……って……あ、ああっっ!!」

「ぐぢゅっ……じゅるじゅぷっ……! あむっぢゅぶ……じゅるっ……じゅぶぢゅるるぶちゅ……!」

 

 美優は俺の腰を掴んで、下品な吸入音を立てながら俺の肉棒を深くまで咥え込む。

 裏筋を這ってくる美優の舌の感触がはっきりと伝わってきて、触手のようにまとわりついて責め立ててくるその技巧に、俺の睾丸が急速にせり上がってきた。

 

「ああぁうぅ……はぁ、ああっ……!」

「ずっちゅずぶっちゅ……んぐぢゅ……んふっ、ちゅぶぢゅ……ふ、んっ……!」

「ああっ、あ、あああっ……ごめん、ごめん……!! もう、出るッ……!!」

 

 びゅっ、びゅるるっ、びゅくん、びゅびゅっ──!!

 

 仕事着のスーツから露出した男性器を頬張る美優に、俺はたっぷりの精液を出して喉奥まで注いだ。

 朝一番に絞られた精液だけあって、濃い精液が尿道を流れていく。

 

「はぁ……はぁ……気持ち、よすぎ……」

「んふふ。んくっ……ぷはぁ。いっぱいでたね」

 

 美優は俺のペニスをキレイにお掃除してから、スーツにしまってチャックを上げる。

 そして、やはり確認される俺の射精タイム。

 

「ど、どうだった?」

「今で一分ちょっとだから、たぶん四十秒くらいだと思う」

「そうか……」

 

 あれだけ時間がなくて心配していたのに、済んでしまえばむしろ余っているほど。

 

 情けない。

 俺は男としてこれでいいのだろうか。

 

「おーにいちゃん」

 

 気落ちしている俺に、美優は最後の甘えとばかりに引っ付いてきた。

 

「お兄ちゃんが早漏のおかげで、あと三分もイチャイチャできるよ」

「な、なるほど。それは、よかった」

 

 こうやってポジティブに捉えてくれる美優は、やっぱり優しい子なんだよな。

 俺はまた美優に救われてしまった。

 

「あと、三分か」

 

 告げられた残り時間が脳内でリフレインして、射精の後ということもあり頭が冷静になる。

 

「美優、ちょっといいか」

「ん? なぁに?」

 

 俺は美優を引き剥がすと、体を後ろ向きにして、背後から抱き竦めた。

 

「うん? ん?」

 

 そして、困惑する美優に構うこと無く、俺はスカートの中へと手を入れた。

 

「お、お兄ちゃん、何するの」

「何って。わかるだろ」

「もう、時間がないよ」

「大丈夫、あと二分はあるから。中途半端にはしない」

「ふえ、あ、ちょっ……!」

 

 俺は迷わず美優のパンツに手を入れて、秘所に指をあてがった。

 いつものようにクロッチはぐしょぐしょに濡れていて、こんなに性欲でムラムラした体は、鎮めてあげないと可哀想だ。

 

「い、ひゃぁ! あ、朝から頑張った嫁に、なんて仕打ちですか……!」

 

 デレデレになっても恥ずかしさの抜けない様子の美優は、さしたる力も入れずに口だけで抵抗をした。

 たぶんされたい気持ちでいっぱいのはずなので、俺は構わず美優のクリトリスに触れる。

 

 ぷくっとした小さな膨らみを、まずは包皮の上から、スジに沿って縦に擦っていく。

 

「あ、あぁ……あひぃ……」

 

 しばらくして美優が大人しくなり、俺の指を受け入れ始めたら、今度は指先で円を描くようにクリトリスを圧迫する。

 まだ弱い力のまま、一定のリズムを保って、美優が自分で刺激をコントロールできるように、ただ漫然とした快感を美優に与えていく。

 

「はぁ……ああうぅ……あっ……あんっ、あ……きもちぃ……」

 

 美優は人一倍に感じやすくて、エッチモードになると声もたくさん出してくれるため、まだ指でするのに不慣れな俺でもどんな攻め方が良いのか簡単に判断できる。

 オナニーの経験も積んでくれているから、イク感覚を美優自身も熟知しているし、初心者の指遣いでも美優はすぐイッてくれるはずだ。

 

「あんっ、んんっ……はうぁっ…………おにいちゃん……うぅ……」

 

 ずっとクリの表面を撫でるだけの刺激を続けていると、美優の焦れた体がその先を要求してくる。

 こうなったら、ほんの少しだけ力を強めて、陰核を直に触りに行く。

 そのためには割れ目から愛液をたっぷりといただかなければならないので、そのついでにクチュクチュと卑猥な音を立てて美優を煽ってみた。

 

「あああっ……はあぅわっ……んんっ……くっ……! お、にいちゃ……ん、んんっ……! そんな、わたしが、えっちな子みたいに……しないで……!」

 

 恥ずかしがる美優の要望は、俺は聞いてあげることにしたいので、ひとしきり美優のエッチな音を堪能してからはまたクリの刺激に戻った。

 

 円を描く動きはそのままに、お次は陰核を中心にして美優を攻める。

 芽と包皮の隙間に指先を沿わせて、皮を捲り上げるように外周を刺激していく。

 

「あっ……んきゅっ……ん、ああっ……!!」

 

 美優は感じやすいため、この時点で軽くイク。

 そして、女の子なので一度イッて終わりではなく、刺激が続く限りはイキ続ける。

 

 こうなったら、あとは仕上げまで持っていくだけ。

 陰核の一番刺激に弱いところを、これまでと同じ程度の力で圧迫して、美優が痛くならない範囲で少しずつ強く押していく。

 

「ひひゃぁ……ああああっ、はうっ、はぁ、い、イク……イっちゃう……はぁ、はうぅああっ、ああっ

……いく、ひぃくぅはあぁうぅ……いいぃ、ひぃッ…………ク──ッ!!」

 

 ビクンビクンと大きく跳ねる美優の体。

 本気イキをしてからも少しだけ刺激を続けて、美優が疲れて快感も何もわからなくなる前に手を離す。

 

 俺のバックハグから解放したあとも、美優は床にペタン座りしてしばらくはイッていた。

 

「……えっと。もう、時間だから、出掛けるな」

 

 スマホを見ると、ちょうどストップウォッチは四分を回るところで、これなら俺の早漏もそんなに責められないよなと思いつつポケットにしまった。

 

「い、いてらひゃい……」

 

 美優はもう俺に顔を向ける余裕もなかったようで、最後にその言葉だけを交わして俺は外に出た。

 

 エアコンの効いた室内から出て、ジリジリと夏の太陽に照らされる。

 日差しを遮るように、前方に出した手の指から、気泡を含んだ粘液がダラリと垂れ落ちた。

 

 美優、めちゃくちゃエロかったな。

 

「はぁ……仕事、行くか」

 

 俺は性欲どころか思考力まですっぽりと抜け落ちて、まるで先ほどまでの淫行を咎めるかような日差しに焼かれながら、最後のバイトへと足を進めるのだった。

 



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エッチなお願いを何でも聞いてくれる山本さん

 

 イベントスタッフで派遣されるライブ会場は、それなりの回数をこなしているとある程度は応募先が絞られてくる。

 自分の実家から移動しやすい範囲にあって、駅からの距離が近く、設営や誘導が楽な場所が感覚的にわかってくるとそこばかりを選ぶようになるのだ。

 幸いにも熱中症患者が出ることもなく、あとは通行整備をしながらフェスを眺めて終わりだと、俺は打ち上げ花火でも見るような気分でイベントの進行を見守り続けていた。

 

 そんな折、最後に会えないかと思っていたその人と、ようやく出会うことができた。

 

「阿形さん!」

 

 成人にしては背の低い女性が、あてもなく通路を歩いていた。

 

 俺が声をかけても、阿形さんは辺りをキョロキョロと見渡して困惑するだけ。

 通路にはそれほど人は多くないのだが、近くに寄らないとわからないみたいだ。

 

「阿形さん、お疲れ様です」

「え、あ、はい?」

 

 俺と顔を合わせた阿形さんは、まるで初対面のような態度で接してきて、それから顔をまじまじと覗いてきた。

 

「ソトっち? マジ? えっ、誰?」

「自分で言っておいて誰ってなんですか」

「いやぁ……だって整形でもしたのかと……あと身長も伸ばした?」

 

 身長って伸ばしたくて伸ばせるものなのだろうか。

 

「どっちも変わってませんよ」

「そうかな。まあ、前からこうだった気もするけど、なんか雰囲気が違うんだよね」

 

 阿形さんの反応からして、どうにも良い方向へ変化できているようだった。

 もしそれが本当なのだとしたら、きっと美優が俺を男として育ててくれたおかげだろうな。

 

「色々とあるにはあったんですよ。その都合で、バイトも今回で辞めることになって」

「そうなの? まあ、この手の仕事は入れ替わり多いほうだけど。なんか寂しいなぁ」

「だから、俺も最後に挨拶がしたくて。会えて良かったです」

 

 それから俺たちは、チーフに怒られない程度にお喋りをして、時の流れるままに仕事を終えた。

 啓太郎さんはいなかったけど、俺はまた阿形さんに食事に誘われて、二人で居酒屋に向かうことに。

 美優も友達と夕飯を食べてくるらしい。

 

「前に一緒に行ったとこの近くでいいよね?」

「俺は構いませんよ。あそこは居酒屋が多いですもんね」

 

 阿形さんが選んだのは、四人用と六人用のソファー席が背の低い壁に囲まれて並んでいる、どこにでもあるようなチェーン店だった。

 その奥の席へと通され、俺と阿形さんは向かい合う。

 

「ソトっちは会うたびに男前になるね。今回は彼女できた?」

「まあ、はい」

「もうそれしかないよねー」

 

 二人で荷物を下ろして着席すると、店員が飲み物のオーダーを取りに来た。

 阿形さんは遠慮なくビールを注文し、俺は場に合わせるためノンアルコールのドリンクをいただくことに。

 

「彼女ちゃんはどんな人なの? もしかしてあのエロエロちゃん?」

「エロエロちゃんって、山本さんのことですか。あの子ではないですよ」

「セフレは恋人にならないっていうしね。学校の知り合い?」

 

 阿形さんは悪気なく追及してくる。

 いつかはこうして掘り下げられるのはわかってはいた。

 いざ質問されてみると如何ともし難いものだな。

 

 俺と美優の関係を他人にどう説明するべきだろう。

 恋人の存在を偽ることは美優にも話し相手にも失礼なことだが、兄妹での恋が世間で忌避されている現実はどうあっても覆ることはないし、俺がカミングアウトすることでいつか美優に嫌な思いをさせないとも限らない。

 

「まあ、身内ですよ」

「身内? 学校の友達ってこと? それとも話したくない感じ?」

「話しにくい、というのが正確なところですね。複雑な関係なので、言っても信じてもらえるかどうか」

「えーなにそれ。すっごい気になる。じゃあ私がベロベロに酔ったら話せるのかな?」

 

 阿形さんの人柄からすれば、話しても悪いようにはならないと思う。

 この場でストレートに伝えることは難しいが、勿体ぶりをつけて最後に本音を話すぐらいにすれば、阿形さんもそれを真剣なものとして受け止めてくれるかな。

 

「酔ってる阿形さんになら言うかもしれませんね」

「よっし! お姉さんじゃんじゃん飲んじゃうぞ!」

 

 俺はそれでも「ほどほどに」と阿形さんに忠告をして、運ばれてきたドリンクで乾杯をした。

 

「阿形さんって、家でも飲んでるんですか?」

「基本はお店だよ。……最近は、家でも増えたけど」

 

 阿形さんは意味あり気に一呼吸を置いて呟いた。

 

「啓太郎さんとは上手くいってるんですね」

「うーん……恋人関係は良好ではあるけどねぇ……」

 

 阿形さんは重々しく言葉を濁す。

 こういうあからさまな態度を見せるとき、人は強引にでも聞いてほしい話があるのだと、俺は経験的に知っている。

 

 まだお酒も飲み始めたばかりだし、酔った勢いで本音を漏らしたのではない。

 おそらくは、俺を誘った当初から何かしら打ち明けたい不満があって、それをほのめかしているのだ。

 

「他に何か問題が?」

「そう。まあ、うん。お酒、だからね。麻酔的な」

「飲むと啓太郎さんが寝るとか」

「い、いえね、酔うのは、私なんだけど」

 

 阿形さんはジョッキ半分ほどのビールをぐいと喉に流し、通りがかった店員にフード数品と追加のビールを注文した。

 

「念のための確認なんだけどさ。例の色っぽいあの子……山本さん? とは、親密なお付き合いをしてたんだよね?」

「そうですね。短い間でしたが」

 

 山本さんとの肉体関係はわずかに一週間のこと。

 現在続いてる状況は、セフレとは違う気がする。

 

「あと、こっちは、あくまで直感的な質問なんだけど」

 

 阿形さんは数瞬の迷いを過らせた後、ビールの残りを飲み干してジョッキを両手で支える。

 

「結構……過激なこともしてた……?」

 

 ジョッキで顔を隠しながら、阿形さんはチラと俺を見やる。

 

 この質問の意図は、『私も変態的な相談をしたいから、あなたも変態であることを示してください』というすり合わせなんだよな。

 それなら俺も乗っかってあげないと。

 

「外でとか、ですかね」

「えっ? してたの? どこで?」

「ああいえ、あくまで、バスとかでですが」

「そっ、えぇ……」

 

 ドン引きされた。

 さすがに踏み込み過ぎだっただろうか。

 

「もっとぶっちゃけたこと聞いていい?」

「どうぞ」

 

 阿形さんは声のトーンを下げて辺りに目を配らせ、周囲に聞こえないことを確認する。

 

「ソトっちって、エッチ上手いの?」

 

 まだお酒もそれほど入らないうちからここまで話が進展してしまったか。

 俺が暴露した内容が過激だったせいで、阿形さんの判断基準を狂わせてしまったようだな。

 

「どこまでが本音かはわかりませんが、上手いと言われることはありますよ」

「お、それはそれは。頼りになる」

 

 阿形さんの悩みもシモネタか。

 どうして俺にはそっち系の相談ばかりが来るのかこれまでは疑問だったのだが、こうして話してみてわかったことがあった。

 由佳の友達たちやハルマキさんたちが言っていた通り、どうやら俺には、変態的な悩みを打ち明けても大丈夫だと思われるような雰囲気が漂っているらしい。

 

「でさ」

 

 阿形さんは店員が持ってきた御通しとビールをまた勢いよく喉に流す。

 

「とても真剣な質問があって」

 

 阿形さんは居住まいを正し、両手を膝の上に置く。

 

「アレのサイズって、聞いたら嫌な気にさせちゃう?」

 

 それは予想の斜め上の質問だった。

 アレというのは男性器に他ならないわけだが、幸いにも平均ぐらいの長さはあるので聞かれても嫌な気はしない。

 ただ、サイズは女の子次第で印象が変わるものなので、俺のが大きいのか小さいのかは断言しづらいところだ。

 

「測ったことはないんですが、普通ぐらいですよ。以前はむしろ控えめなぐらいで」

「以前はって、どの時代の話? 体と一緒に大きくなるのが普通でしょ?」

「それとは別に、ここ数ヶ月でまあ、なぜかモノだけがすくすくと」

「そんなのあり得る!? 聞いたことないんですけど」

 

 俺もモノのサイズだけが成長したなんて噂は、一度として耳にしたことはない。

 しかし、ここに唯一の前例が存在してしまっているのだ。

 美優と山本さんに鍛えられることによって奇跡的に成長した、立派と評価してもらえるほどの逸物が。

 

「手でいうと、どれくらい? ソトっちので」

「中指と親指を合わせたぐらいでしょうか」

「ふむふむ。それが男の子の平均ぐらいなのかな? みんなちょうどいいって言う?」

「どうでしょうか。彼女にはこれでも大きすぎるとは言われますが」

「だよね!? そうだよね!?」

 

 阿形さんはテーブルを両手で叩いて身を乗り出してきた。

 なるほどそっち方面の悩みか。

 

「でまあ、長くなったんだけどさ」

 

 阿形さんは背もたれに寄りかかって肩の力を抜く。

 

「啓太郎とのエッチがツラいんだけど、どうしたらいいかな」

 

 彼氏のモノがデカ過ぎて入らない。

 阿形さんの悩みはそんなところか。

 

 しかし、微妙に相談する相手を間違えているような気もする。

 俺にイチモツをこれ以上大きくするなと忠告した件の嫁とは、まだ本番行為に至っていないのだ。

 

「どれくらいの大きさなんですか?」

「ソトっちの手でだいたい手首から中指の先ぐらい」

「それはまた」

 

 世の中には本当に立派なモノを持っている人もいるんだな。

 俺がこれまで取り扱ってきた悩みは精神的なものが主だったから、実技方面でアドバイスをするのは難しい。

 俺も経験豊富とはいえ、そのほとんどは成り行きでさせてもらったものだし。

 

「してるうちに慣れたりするものじゃないんですか?」

「私もそう思って、かれこれ十回ぐらいしてるんだけど、まだ悲鳴を上げるくらい痛い」

「それはしんどいですね」

 

 俺のも大きくなりすぎると美優とできなくなったりするんだろうか。

 美優は遥に膣内の性感帯まで開発されているらしいけど、太いオモチャは挿れてないって言ってたからな。

 いっそのこと入り口まで解してもらっていたほうが良かったかもしれない。

 

「ソトっちは、処女の子としたことあるの?」

「ありますよ。すでにオモチャで開発してあったので、痛くはなかったみたいですが」

「一人エッチでそこまでするって、珍しいね」

「そうですね」

 

 残念ながら一人でしてたわけじゃなく、お仕置きで無理やり開発されてたんだけどな。

 由佳のことは理解してもらえる自信がないので黙っておこう。

 

「それって今の彼女のこと?」

「いえ、彼女とは経験がなくて」

「え!? そうなの!? むしろエッチから入ったクチだと思ってた……」

「本番が、まだなんですよ」

 

 俺と美優の関係は、兄妹であるということを抜きにしても特殊だった。

 恋人でもないのに精液を飲んでもらって、でもそれは性欲の処理ではなく精液の処理であって、定期的にエッチなお仕置きを受けては、恋人ではない関係はそのままにエッチの濃度だけが高くなっていた。

 

「ソトっちは本番しないで不満は溜まらないの?」

「ないですね。ただ、俺の好みど真ん中の恋人が相手で、本番なしでも他で気持ちよくしてくれるという前提のものですが」

「超可愛くてテクがヤバい彼女なわけだ」

 

 それは否定はできないな。

 

「で、どんな彼女?」

 

 阿形さんは知らないうちに三杯目を飲んでいて、四杯目を注文するのと同時にさらっと尋ねてくる。

 十分に酔ったとは言い難いが、場の温まり具合としては申し分ないか。

 

「信じられなかったらそれまでの話になりますけど、いいですか?」

「こんだけ引っ張るぐらいだし、言うなら信じるよ」

「妹です」

「……うん」

 

 阿形さんは目を瞑って俺の言葉を反芻しながら、店員がビールを持ってくるまで口を閉ざしていた。

 

「もうちょっと飲むね」

「どうぞ」

 

 阿形さんは普通にお酒が飲める方の人みたいだな。

 これで麻酔代わりにエッチのたびに飲んでるのだとしたら、相当な出費と手間になりそうだ。

 

「お写真拝見タイムとかしてもいい?」

 

 俺の発言を信じたいが、さすがに妹という事実は受け入れがたいので、もう少し情報が欲しいということなのだろう。

 しかし、見せられる写真は、ないんだ。

 ロリロリの衣装とエッチな顔をしてる写真は絶対に見せられない

 

「……メッセージアプリのアイコンならありますが」

 

 美優がアプリのプロフィール画像を、遥たちと旅行をしたときの写真にしていたことを思い出した。

 公に晒しているものだし、これぐらいなら見せても問題ない。

 

「これでよければ」

 

 アイコンを拡大表示にしてスマホを阿形さんに向けると、阿形さんは食い入るように眺めてきた。

 

「みんな可愛いね?」

「そうですね」

「でもめっちゃロリロリしくない!?」

「そうですね……」

 

 いかんせん中学生だからな。

 精神的にはみんな大人びているとはいえ、美優と遥は完全にロリ体型だし、いくら俺が高校生の身分とはいえギリギリアウトな年齢ではある。

 

「で、妹ちゃんはどれなの?」

「右側にいる目尻が強い子です」

「うおぉ……」

 

 阿形さんはスマホを手にとって、二本指で拡大操作をしている。

 顔は全体写真で十分に確認できるほどだったので、阿形さんが何をしているのかは言われずともわかった。

 

「ソトっちの周りってエッチな女の子しかいないの?」

「どうでしょうね」

 

 これもまた否定はできない。

 俺は出会ってきた女の子のほぼ全員の性生活に関わっているわけで、今でもエッチな女の子に囲まれているわけだからな。

 

「この子にいつも本番なしで抜いてもらってるとかむしろヤバくない?」

「ヤバいですね」

「てかおっぱいとお顔立ちがマジでヤバい! こんな子のお手々とお口がエグいテクとか世の中どうなってるの!? しかもこの子が妹で恋人って何!?」

「ま、まあ、気持ちはわかりますが、落ち着いてください」

 

 これが真っ当な人間の反応なんだよな。

 むしろ酒が入っているおかげでこれでもマイルドな方だ。

 

「現実味はないけど、信じるしかないんだよね。ソトっちがそれだけ男前になったし、エロエロちゃんとセフレだったし、妹ちゃんも超エロいし、逆にこれはもう信じるしかない。とゆーか妹がエロすぎる……こんな子と一緒に暮らしてたら頭おかしくなるでしょ……なにこのおっぱい……私だって揉みたいよ……」

 

 どうにか納得してもらえたか。

 後半まで引っ張ったのは正解だったな。 

 他の人もこんな風に受け入れてくれればいいけど、世の中には過激な思想の持ち主も人もいるし、基本的には口外しないのが吉だろう。

 

「私もテクさえあればーって思うけど。エロエロちゃんにしても妹ちゃんにしても、みんな可愛すぎるよ。本番なしだとこのレベルが要るのかぁ」

「なんとも答えづらいところですが、恵まれ過ぎなぐらい可愛いのは事実ですね」

「だよねー。はあ……」

 

 彼氏のモノが大きすぎて挿入らない問題は、残念ながら俺には解決できそうにない。

 少しずつ大きいオモチャを買い替えて拡張するしか方法はないように思う。

 

「でもいいや。話したらスッキリした」

「いいんですか?」

「どうせ私が頑張るしかないってのは最初からわかってたことだし」

 

 たしかに、俺が何と言おうと、カップルの問題である以上は阿形さんの行動でしか解決はしない。

 

 ならどうして俺に悩み相談を持ちかけたのか。

 これまでの俺なら疑問に思うだけで答えには辿り着けなかったが、いわゆる女の子の愚痴というのがこのようなものなのだと、理解するには十分な経験を積んでいる。

 

「ソトっちはさ、こんな話でもどっしり受け止めてくれるから、安心感があっていいよ。実は別クチでも何人かには相談したんだけどさ、もう逆にストレスが溜まる一方で、嫌になっちゃう」

 

 今度は露骨に不快感を滲ませて、阿形さんはビールまた口にしてジョッキを重たくテーブルに置いた。

 

「何かあったんですか?」

「あったもなにも、みんなセクハラしてくるんだもん。彼女持ちだっているのにさ、『そんなに悩んでるなら、俺としてみる? 俺の小さいから簡単に入るよ?』とか言われて。私は別にお前の粗末な棒とセックスがしたいわけじゃないんだっつうの!」

 

 段々と声が荒くなる阿形さん。

 喋るごとに怒りのボルテージが上がっていく。

 

「説教ばっかしてくる輩もいてさ、『そこは阿形にも責任があるんじゃない? 自分でも入るように努力しないと』とか言ってきて。なんで私が努力してない前提なわけ? 私だって恥を忍んでデカいオモチャ買ったし。膣内で出してもらえないときは手とか口とかで最後までしてるんだよ? 大きすぎて入らないこと自体は私が悪いわけでもないのにどこに責任があるの?」

 

 相談してきた人に説教は一番やってはいけないやつだ。

 自分の視野や常識だけでものを語ると、勝手な決めつけが多くなって相手を不快にさせる。

 

 それがまた、副次的な問題を発生させることも。

 

「それでイライラが我慢できなくなったら、私は怒っちゃうんだけどさ。『ならなんでそれを先に言わないの?』って言われて、いや話には順序があるし、言いたかったのを言いたくなくさせたのはお前だし、そもそもオモチャで一人でしてますなんて気軽に言えるかっての。『相談したのはそっちだろ?』って、じゃあ乗るなって! 悩みでイライラしてるのと話をしてイライラしたのはまた別の話なんじゃい!」

 

 そして、阿形さんはビールを一気飲みをしてふてくされる。

 さすがにこれ以上は帰れなくなりそうなので俺からストップを掛けておいた。

 

「で!」

 

 途端に明るくなる阿形さんの表情。

 人は酔うとこんな感じにコロコロ機嫌が変わるものなのか。

 

「ソトっちはそういうのがないから、話してるだけで気が楽になるの」

「なるほど」

 

 俺の周りの子はこうしたマイナス面を見せてくれる人が少なかったからな。

 こうした本音に触れられるのも貴重な経験だ。

 

「俺で不運がストップしたなら良かったです」

 

 自分の評価が阿形さんの周囲の人間に比べて相対的に高いことはわかった。

 ただ、そんな説教ばかりしてくる人に当たったのは、運が悪かったとしか言いようがない。

 

「ソトっちの安心感はさ、他の人とはちょこっと違うんだよ」

 

 組んだ両腕をテーブルに乗せて、阿形さんはちょっぴり眠そうに話を続ける。

 

「自分がどうかと思うような素を晒しても、絶対に真面目に受け止めてくれるって、なんでか思っちゃうんだよね」

 

 阿形さんは組んだ腕に頬ズリしたまま俺を見上げ、突然弾かれたように体を起こして俺を指差した。

 

「で、その安心感がソトっちの性的な面での魅力でもある。だからシモネタも気軽に相談できる。あとこれは内緒だけどちょっとエッチしたくなるような感じもある」

「それは彼氏持ちの発言としてはどうなんですかね……」

 

 好意と性欲は別だというのは、俺も山本さんと過ごしていて理解したことではあるが。

 

「空は青い理由を知らなくても青いでしょ? そういうことだよ」

「なるほど、そうなんですね」

 

 何を言っているやらさっぱりだった。

 たぶん知る意味もないやつだな。

 それも経験上からわかる。

 

「んでさ、彼女ちゃんのこともっと教えてよ」

 

 それから、俺と阿形さんは喋り疲れるまで店に居座って、他愛のない身の上話で盛り上がった。

 

 阿形さんは初めのほうこそ実の妹との恋愛に疑問を抱いていたが、互いの根の深いところまで暴露してしまうと「どうせ人間なんて動物はそんなものだ」という自嘲的な空気が場を包んで、一度許容してしまってからは阿形さんも応援する立場になってくれた。

 毎回こうして上手くいくとも限らないが、理解者が増えるのは喜ばしいことだ。

 

 お店を出ると、夜は雲が無いおかげか珍しく涼しい風が吹いていて、俺と阿形さんは軽やかな足取りで駅に向かった。

 

 その道中で、阿形さんがはたと立ち止まって俺に振り返る。

 

「エロエロちゃんのおっぱいに癒されたいかも」

 

 そんな男子中学生みたいな欲望を突如として吐露されて、しかし、俺は困惑する暇も与えられないままに山本さんの働く居酒屋へと連れて行かれた。

 

「出勤してるかどうかなんて俺は知りませんよ」

「いーのいーの、いたらで。またビール瓶を運んでるかもしれないし」

「まさか出てくるまで待つなんて言わないでくださいね」

 

 そうして山本さんのバイト先に着くと、まずは辺りをキョロキョロとする阿形さん。

 そんな簡単に見つかるわけもなく、阿形さんは客が店を出てきたタイミングでレジ打ちしていた店員に声を掛ける。

 

「あの、山本さんいますか?」

「山本ならさっき帰ったよ。ランチから早番で入ってもらってたんだ。何か用でも?」

「ああいえ、ならいいです。失礼しました」

 

 三十代前半にも見えよう若い男が、山本さんの知り合いとはいえ客の可能性が高い相手にいきなりタメ口を使うのでびっくりしたが、どうやら彼が店長だったらしい。

 

「くっそーニアミス! ソトっち、走って追いかけよう!」

 

 阿形さんは元気よく走り出して、駅に向かって百メートルほど、ダッシュした直後に顔面を青白くして立ち止まった。

 

「やば、ビール一気したから胃が死んでる」

「酔いすぎですよ。山本さんのことは諦めて大人しく帰りましょう」

「はーい……」

 

 お酒は人を変なテンションにさせる。

 それを実体験として学習できたので、今回は良い機会だったと思うことにしよう。

 

 阿形さんとは改札を通るまでが一緒で、そこから別の電車に乗って帰宅する。

 ホームに向かう階段の手前で、俺と阿形さんは別れを惜しむこともなく手を振って解散した。

 

 電車はほどほどに混んでいるくらいで、ドアの隅に立っている人たちからときおり話し声が聞こえてくる。

 バイトの疲れは居酒屋で休んでだいぶ回復したが、場の雰囲気にあてられて俺も酔ったような妙な気の昂りがあるので、できれば座って落ち着きたいところだった。

 

(他人のことばっかり気にしてたけど、俺も酔ったらどうなるかはわからないんだよな)

 

 美優と本番を迎えるにあたっては越えてはならない一線がある。

 恋人としての仲が深まった今では、俺が酔って自制を失ってしまったら美優も一緒に暴走してしまうかもしれない。

 出来るものが出来てしまったら困るし、俺は二十歳になってもしばらくは飲酒禁止かな。

 

「サシの女の子を酔わせるのは、浮気の第一歩だよ」

 

 背後から俺をからかうような声がして、気付けばドアの窓に長い黒髪の女性が映り込んでいた。

 エロエロなあの美少女である。

 

「こっちに気付いてたのか」

「あれだけ騒いでたら目にも付くよ」

 

 振り返ると山本さんがいた。

 乗車した直後は姿が見えなかったので、山本さんは俺の存在に気づきながらも別のドアから乗り込んだようだ。

 

「あの人は、バイトでお世話になってた人で。今日で辞めることになるからお別れ会をしてただけだよ」

「サシで飲んでたことはともかく。二人きりの女の子が酔うまで飲むなんて、気を許してる証拠に他ならないんだからね。ソトミチくんもそろそろその辺覚えないと、ダメなモテ男になっちゃうぞ」

 

 山本さんは人差し指で俺の額を小突く。

 

 それはたしかに気を付けなければならないことだな。

 覚えておかないと。

 

「山本さんもバイト上がりだよね?」

 

 山本さんは大きめのシャツにハイウエストなスカートを合わせていて、どうにも居酒屋で働いてきたように見えなかった。

 

「ああ、これ? うちは上下制服だから。本日もお安い給料で扱き使われておりましたよ」

 

 時給820円の安バイトだったっけ。

 山本さんならもっと効率よく稼げそうだけど、どうしてそんなバイトをしてるんだろう。

 居酒屋の雰囲気そのものが好きって感じでもなさそうだし。

 

「山本さんは家庭教師とかやらないの?」

「どうして?」

「もっと稼げるバイトとかいくらでもありそうだから」

「あー、うん。どうしてだろうね」

 

 山本さんは顎をしゃくって曖昧に答えた。

 まあ、なんとなくで生きるっていうのも、全然ありな選択肢ではある。

 どちらかといえば俺もその側だし。

 

「ソトミチくんはスーツも似合うね。体つきは良いほうだから、きっちりした服がサマになるよ」

「ありがと。山本さんは、何を着ても似合うな」

「それはもう、素体が良いですから」

 

 山本さんは胸の膨らみからスカートの下までを指でなぞる。

 おっぱいの大きさもそうだが、短く上げられたスカートから伸びる脚がとにかくエロい。

 今日もどれだけの人の視線を釘付けにしてきたのやら。

 

「ソトミチくんだけはこの体を滅茶苦茶に犯せるって考えたら、ちょっと興奮しない?」

 

 山本さんはそんな俺の汚れた感情を察知したのか、口元を手で隠して囁いてきた。

 

 まともに取り合うと同意を誤魔化せそうになかったので、俺は広告の文字を無心で読みながら適当な相槌だけで返事を済ませる。

 

「昨日は帰ってから美優ちゃんに何か言われた?」

「言われたよ。思う存分にやらせろって。もう俺にも何が目的かさっぱりだよ」

「思う存分にって、ソトミチくんと好きにデートとかエッチしていいってこと?」

「そうらしい」

 

 そういえば山本さんとデートしたのも昨日のことだったんだよな。

 昨晩と今朝のエッチが濃厚すぎて数日前のことのように記憶していた。

 

「私も美優ちゃんの独占欲を甘くみてたかも。これはもう遠慮もしていられないかな」

 

 山本さんはむしろ美優の対応に納得したようで、凛と瞳を澄ませて俺を見つめてきた。

 

「他の女の子とのエッチを許してるのに、独占欲が?」

「美優ちゃんは私がソトミチくんへの未練を欠片でも残していることが嫌みたいだから。私が後悔を引きずることもないくらい、本気でぶつかれって言いたいんだと思う」

 

 なるほどそう考えれば実に美優らしい。

 やるとなったら徹底的にやる。

 それが美優の性分だからな。

 

「となれば、早速ソトミチくんとエッチしないとね」

 

 山本さんは両手でガッツポーズをして俺に期待の眼差しを寄せてきた。

 

「したい?」

「したい」

「そんなにしたい?」

「すごくすごくしたい」

 

 美優への遠慮がなくなったからなのか、本音がダダ漏れの山本さん。

 昨日の乙女チックな山本さんも好きだったけど、自らの性欲を恥じらわないこの素直さが、俺は好きだったりする。

 

「でも、明日は由佳ちゃんとデートなんだよね」

 

 山本さんは残念そうにため息をついた。

 

 俺は山本さんのお願いを全面体に受け入れろと指示を受けている。

 しかし、由佳に対しても優しくしてあげてと言われている以上、そちらも無下にするわけにはいかない。

 

「今朝は美優ちゃんと何回したの?」

「な、なぜしたことを」

「ソトミチくんと付き合ったら、私なら毎日欠かさずするから」

 

 山本さんにそう言われて、俺も美優とのこれからの生活を考えてみる。

 旅行などでどちらかが家にいないようなとき以外は、たしかに毎日していそうだ。

 

「今朝は、一回だけだよ」

「一回か。それなら、今夜もう一回ぐらい、ワンチャンスが、あったりしないかな?」

 

 山本さんは悩ましい目つきで俺にチラチラと視線を送ってくる。

 ここまで言われてしまうと、一回ぐらいならと俺も考えてしまう。

 

「するとしたら、どこでする?」

「人が少なかったらここでもよかったんだけどね」

 

 山本さんは冗談めかしく口を少し開けて赤い舌を覗かせた。

 

 このエッチな小娘は田舎の電車とかだったら絶対にしてたと思う。

 

「山本さんって俺とする前はどうやって発散してたの?」

「どうって。私をこうしたのはソトミチくんですが」

 

 山本さんは『何をとぼけていらっしゃる』と言わんばかりの真顔で小首を傾げた。

 

 たしか山本さんは昔からエッチが大好きだったはずだが。

 どこらへんに俺の責任があるのだろうか。

 

「前も言った通り、元々エッチは好きだったよ? でも、そのときのエッチは、人の内面に触れるための手段みたいなもので。……だって、私は、できなかったし」

 

 山本さんは物憂げに言葉を継いだ。

 その声にこもっていたのは、不満や辛さとはまた別の感情だった。

 

「こんなにもソトミチくんを求めてるのは、もうご奉仕がしたいからだけじゃないの。私はソトミチくんとのエッチが、ただ、好きで」

 

 山本さんは俺とセックスをして快楽を知った。

 それから恋をして、愛欲を知った。

 その生まれ持った才能で、男たちを滾らせ、悶えさせてきたこの小悪魔は、あるいは初潮前の少女たちよりも無垢に、その初めての感情を持て余しているのかもしれない。

 

「なんだか、責任を感じるな」

「そう? なら、ソトミチくんはどうやって責任を取ってくれるのかな」

 

 山本さんは俺を責め立てるように、人目も憚らず俺と密着してきた。

 そして、自らの唇を人差し指で軽く押して、俺の耳にだけギリギリ届くような声量でその欲望を言葉にする。

 

「私はここにお詫びが貰えたら、何でも許しちゃうかも」

 

 その嬉しそうな声音に、まだ電車の中だというのに肉棒が疼く。

 山本さんは美優との謎の約束によって本番を避けていることから、エッチをするのはイコールでフェラになるのだ。

 そうでなくても、このご奉仕体質の淑女はまずフェラをすることを考えるだろうけど。

 

「多目的トイレが空いてたら、そこでしちゃおうか」

「エッチ目的はどうかと思うけど……」

「ふふっ。まあ、普通の個室トイレの方が、エッチなことしてるみたいで興奮するけどね」

「それはわかる」

 

 公衆トイレで女の子とエッチとかAVの世界でしかないと思ってたからな。

 あの虚しい空気の中で性欲を発散する姿は惨めさもあってなお興奮する。

 

「駅のトイレはそんなに使ってる人は多くないから、どっちもいけそうかも」

「そういや、最近は朝しか人を見なくなったな」

「デパートに広くて綺麗なトイレができたから、みんなそっちに行ってるんだよ」

 

 なるほどな。

 通勤や通学の時は急ぎで立ち寄ることもあるが、帰路であればゆっくり落ち着けるところがいいよな。

 

「ほんとにするのか?」

「んふ。私は、してもいいよ」

「……空いてたら考えようか」

「そうだね。空いてたら、ね」

 

 山本さんはキスでもしてくるのかと思うくらいに上機嫌な顔を近づけてきた。

 

「周りの人たちは、私たちがどんな会話してると思ってるのかな」

「少なくともモノを咥える場所を相談しているとは思わないだろうな」

「スーツの男と清楚な女の子だもんね」

 

 一見すると、真面目そうに見える二人。

 頭の中はコスモスの花畑より真っピンクだ。

 

「早く硬いの咥えたいな」

「山本さんはフェラするの好き?」

「ソトミチくんにフェラするのが好き」

 

 山本さんは俺の肉棒をズボンの上からさすって、「好き」と言葉を重ねる。

 

 けしからんぐらいにエロい。

 平常心を保たないと。

 こんなところで大きくするわけにはいかない。

 

「とりあえず、もう着くから降りようか」

「はーい」

 

 山本さんとイチャついているうちに、電車は最寄り駅にまで着いていた。

 かなり音量は抑えて喋ってたけど、話し声、聞こえてたりしなかったよな。

 

「これからまたソトミチくんとエッチができると思うと、なんだかドキドキしちゃうな」

 

 ちゃっかりと手を繋いで駅の階段を登る俺と山本さん。

 人は少ないものの、やはりまだ照れ臭さはある。

 

「何を今更」

「処女に戻った気分だよ。今の私は処女」

「処女はトイレでフェラなんてしない」

「彼氏もできたことのないクラスメイトが学校のトイレで部活の先輩としていること知らないソトミチくんであった」

「嘘だろ……」

 

 風紀の乱れた学校は俺の妹のところだけにしてほしい。

 

「あら、残念ながら使われちゃってるね」

 

 駅のトイレにはちらほらと人の出入りがあって、多目的トイレも使用中のランプが点灯していた。

 しばらく待てば入れそうではあるが、人目が完全に避けられるかは微妙なところだ。

 

 悩んでいても時間が勿体無いので、家ですることにして俺たちはバス停へと向かった。

 

 その途中、ふと目についたカラオケの前で、俺たちは立ち止まる。

 

「カラオケか。夜は高いよな」

「三十分の個室と考えれば、お安いのでは?」

 

 たしかに、こうして二人きりになる場所を探してみると、カラオケは安くて都合の良い店だ。

 

「監視カメラとか平気かな」

「ここはないって友達が言ってた」

 

 山本さんも友達とそういう話をするんだな。

 

「あ、私は、あくまで聞き役で。私自身は口にしてないけど、学校では処女ってことになってるから。そのあたりはよしなにお願いします」

「彼氏がいたことすらみんな知らないんだもんな」

「そういうことです」

 

 鈴原との件で山本さんが一番困っていたのが、学校での立場が失われてしまうことだった。

 これまで付き合ってきた人たちが好意的に山本さんに気を使っているので、学校には情報の一切が漏れていない。

 どんな別れ方をしようと、最後には山本さんを守ろうという気にさせるのは、それだけ山本さんがみんなに本気で尽くしてきたからなんだろうな。

 

「入ろうか」

「うん!」

 

 入店は俺から促した。

 

 美優も山本さんも覚悟を決めたのに、俺だけが受け身でい続けるのは不義理だと思ったからだ。

 

「二人で、とりあえず三十分お願いします」

 

 俺たちに用意されたのは、二人用ほど狭くなく、ドアに付けられた窓からは死角ができるくらいの広さの部屋だった。

 中の明かりを消せば光の反射でほとんど見えなくなるため、口でするくらいならテーブルの陰に隠れるだけでも問題ないそうだが、安心できる要素はあればあるだけいい。

 

「ソトミチくん、早く早く」

 

 山本さんは死角になる位置にしゃがみ込んで、すぐにでも始めたいことをアピールする。

 この三十分コースは飲み放題のため、ワンドリンク制と違って店員が部屋に入って来る心配がない。

 

「言っておくけど、俺は一日中働いてたから……」

「私が舐めてキレイにすればいいんだよね。任せて」

 

 山本さんはむしろ嬉しそうにして俺の股間を撫でる。

 

 山本さんなら気にしないとは思ったけど。

 なんか、この何でも許される感じ、すごくエッチな気分になってくるな。

 

「そしたら、これを」

 

 ベルトを外してチャックを下ろし、ズボンとパンツをズリ下ろしてつまんだペニスを山本さんに向ける。

 チャックを開けた瞬間から汗と精液のニオイが漂ってきたそれを、山本さんはあえて鼻を近づけて嗅いで、先っぽをチロチロと舐めてきた。

 

「ソトミチくんの蒸れた精液のニオイって、なんだか好きなんだよね。あと、最初のちょっとしょっぱい味も好き」

 

 山本さんはいきなり咥え込むことはせず、玉の裏側や鼠蹊部を同じように嗅いでは舐めていく。

 部屋の両側からは他の客たちの歌声が聞こえてきて、そんな中で俺たちは、曲も入れずにフェラに勤しんでいた。

 

「もう咥えちゃうね」

 

 やや息を荒くして、我慢の限界を迎えた山本さんが、俺のペニスを口いっぱいに含んだ。

 

「はむっ……ちゅぶっ、ぐちゅ……ずずっ、じゅふちゅぶっ……!」

「うぁ……あっ……!」

 

 素人の歌声と、その合間に聞こえる喋り声、そして、ドアのすぐ前を通り過ぎていく店員の足音が、下半身を露出させている俺に危機感となって興奮を与えてくる。

 

「ふぁ……おいひぃ……んちゅぶっ……」

 

 排尿と射精をするための器官を、山本さんは愛おしそうに舌で舐めてくれる。

 勃起したペニスを咥え続けられることは、山本さんにとって得難い機会だ。

 それができるモノが、山本さんが初めて本気で恋をした人に付いているのだから、むしろ山本さんは美優の許可が下りるまで良く自制していたほうだと思う。

 

「んちゅ……ぐじゅちゅるっ……ちゅぶっ……はぁ。この位置だと、絶対に外から見えないね」

「そう、だな」

 

 客が入っているはずなのに照明も音楽も入っていない部屋を店員が不審に思わないか不安はあるものの、この部屋の構造はエッチをするのにかなり向いている。

 

「山本さんにお願いしたいことがあるんだけど」

 

 俺は美優からもっと山本さんに手を出していいと言われている。

 それは、山本さんとのデートやエッチを、俺がもっと楽しまなくてはならないというニュアンスを含むものだった。

 

「少しだけ脱いでもらうこととかできる?」

 

 さきほどから、山本さんが頭を動かすたびに揺れるおっぱいが悩ましくて仕方がなかったのだ。

 いつもお前はおっぱいばかりかと怒られそうではあるが、せっかくこれほど美しい果実を実らせている女体に対して、無関心でいる方が失礼なのではないかと俺は思う。

 

「いいよ。どこまで脱ぐ?」

 

 山本さんは一瞬も迷うことなく容認してくれた。

 おっぱいだけ触れればいいので、ブラジャーを外してシャツのボタンを開けてくれれば触ることはできる。

 

「どこまでならいい?」

 

 しかしこう、家でもないところでしているからには、エッチなイタズラ心が働いてしまうものだ。

 

「どこまでって聞かれても。ソトミチくんが脱いでほしいなら全部脱ぐけど」

「全部……!? い、いいの?」

「んふふ。興味がおありなら脱ぎましょうか?」

 

 山本さんは俺が指示するよりも先に服を脱ぎ始めた。

 その指は上半身を包んでいた服を取り去り、山本さんがブラジャーのホックを外すと、美しく形作られていた乳房がぷるんと溢れ出す。

 

「ずっとおっぱい見てるね、ソトミチくん」

「すまん……」

「お気に召したのなら、何よりですが」

 

 山本さんは視線を下げてばかりの俺の手を取って、おっぱいまで導いてくれた。

 こうしてたまに童貞のような扱いをされると、見下されている感覚よりも強烈な母性を感じてしまって、山本さんの性愛に溺れそうになる。

 

 指が沈み込むほど柔らかい山本さんのおっぱい。

 鷲掴みにすると指の間からむちっとした脂肪が溢れ出す。

 そして、手のひら全体にその反発が伝わってくるそれを、俺は欲望のままに揉みしだいた。

 

「痛くない?」

「痛くないし、ソトミチくんになら痛くされてもいい」

 

 山本さんはおっぱいに夢中になる俺を微笑ましく眺めながら、スカートのベルトを外してストンと床に落とす。

 それからしゃがんだままパンツをずり下ろすと、山本さんの柔い素肌の全てが露わになった。

 

「靴下も脱ぐ?」

「そのままがいい」

「わかった」

 

 どんな希望も聞いてくれる山本さんは、俺におっぱいを揉ませたまま裸で俺のペニスにまたむしゃぶりついてきた。

 

「はむっ……はうぁ……はぶちゅ、じゅるちゅぶちゅっ、んっ……ぐちゅっ!」

「あっ、ああっ……!」

 

 山本さんは空気を逃さないように口を密着させて、顔を前後させるたびにぶちゅぶちゅと空気の潰れる音が口内で響く。

 

 美優の命令だから乗り気になっただけなのに、さすがに山本さんが相手なだけあって、もう俺は心からこの状況を楽しんでしまっていた。

 それが山本さんにも伝わっているのか、山本さんは顔を綻ばせながらご奉仕フェラを続けてくれる。

 

 いつもの暴走状態とは違っていた。

 俺が気持ち良さそうにしているのをひたすらに山本さんが喜ぶ、以前までのエッチに戻っている。

 俺としてはやっぱり、情けない姿を慈しんでくれる、この聖母のような山本さんが一番好きだ。

 

「や、山本さん……」

「ん? んふ。なあに?」

 

 山本さんは素っ裸のままで、まるで子供に目線を合わせるように声のトーンを上げる。

 

「脚、開いてって、言っても怒らない……?」

「怒らないよ。私はすごく恥ずかしい思いをするけど、ソトミチくんがそうしてほしいなら、私は喜んで恥ずかしい思いをするから」

 

 山本さんはそう言って、しゃがんだままの脚を開き、その秘部を露わにしてくれた。

 そこには、愛液の滴る割れ目がぱっくりと口を開けていて、クリトリスの突起までがはっきりと確認できた。

 

 視界を遮る障害物の一切がなかったのだ。

 

「山本さん、前は少し生えてなかったっけ」

「美優ちゃんが生えてないって言ってたから剃ってみたの。そしたら、思いのほかすっきりしちゃって」

 

 山本さんは今更になって恥ずかしげに顔を逸らした。

 美優は体型がロリ型だからパイパンがしっくりきたけど、山本さんみたいに大人びた女性がツルツルにしていると、ギャップでまた違った興奮が味わえる。

 

「山本さんのそういうエッチなところ、マジに好きになりそう」

「こういうときだけ調子いいんだから」

 

 山本さんは鬱憤をぶつけるようにまた俺のペニスを深くまで咥えた。

 それでも、脚を開くのが俺のお願いだったため、どれだけ恥ずかしくてもそれを閉じようとはしない。

 

 そんな山本さんに薄らと恋心に似た感情すら抱きながら、俺はひたすらに胸を揉んで山本さんのアソコを凝視する。

 そうすると山本さんが、照れ隠しにフェラを激しくしてきて、そんな姿に俺のオスとしての何かが目覚めてしまった。

 

「あ、ああっ……山本さん、そのまま、奥まで咥えて……!」

 

 俺は自ら腰を動かし、山本さんの口にペニスの根本までを押し付ける。

 山本さんの豊乳を揉みしだきながら、俺は中腰になり、後背位で挿入する要領で山本さんの口内をペニスで犯した。

 

「んっ、ふっ……んじゅぐっ、ちゅぶっ……! ん、くふぁ、はあっ……んんっ……!」

 

 俺が腰を前後させるたびに、山本さんの表情筋は力を失っていった。

 

 それが絶頂の兆しであったことに、気づいたのは山本さんが体を弾ませて激しくイッたあとだった。

 山本さんの乳首はゴム栓のように硬くなり、口からは涎が溢れそうになって、窒息した脳がすでにイッていると誤認したことが、山本さんを強制的な絶頂に導いたのだ。

 そんな中でもなお露わにされていた秘裂がヒクヒクして、まるでおしっこを漏らしたように床が濡れている。

 

「かふっ……あぁ……はぁ……わけわかんないくらい気持ち良くて、死んじゃうかと思った……」

 

 恍惚とした表情で、息荒く呼吸をする山本さん。

 そんな状況すら楽しんでいる顔を見て、俺も自らの欲望に歯止めがかからなくなった。

 

「山本さんのおっぱいが、吸いたくなってきたんだけど。いい、かな?」

 

 おっぱいを揉むと小さくなるという噂があるから、美優も手で乳房に触れることは許してくれた。

 だが、乳首に吸い付くような、女性ホルモンを分泌させてしまいそうな行為はまだ抵抗されてしまう。

 

 となれば、もう山本さんのおっぱいを吸うしかない。

 しばらく吸っていなかったから、もう軽い禁断症状なのだ。

 

「おっぱい吸いたいの?」

「うん。でも、そうなると、口ではできなくなるから、山本さんは困るかもしれないけど」

「全然困らないよ」

 

 山本さんはソファーの空いた部分に膝をつくと、俺の目の前にそのおっぱいを近づけてくれた。

 

「ソトミチくんがおっぱいを吸いたいと言えば吸わせる。おちんちんを咥えてほしいと言えば咥える。それが今の私の存在意義だから」

「そこまでいくと、もはや性奴隷のような……」

 

 ファンタジーの世界でも、ここまで従順に言うことを聞いてくれる奴隷もいない気がする。

 

「ソトミチくんの性奴隷か。とても魅力的な求人だけど、私に応募資格はあるのかな」

「資格はともかくとして、俺は山本さんには、奴隷じゃない関係でお願いを聞いてほしいかな」

「あ、それ、すごく嬉しい」

 

 山本さんはおっぱいで俺を窒息させるのかと思うぐらいにギュッと抱きしめてきた。

 

「ソトミチくん、いっぱい吸って」

「それじゃあ、遠慮なく」

 

 山本さんの乳首は、美優と比べると少し大きめで、吸わせたのは俺が初めてと言ったのは嘘ではないのだとわかるくらい、まだ淡い色の突起が勃っている。

 それに俺は唇で挟んで、コリコリとした硬さを舌と唇で楽しんでから、音が鳴るぐらい強めに吸い付いた。

 

「ん、はぁ。ソトミチくんとエッチしてから、なんだか乳首が敏感になっちゃったみたいで。んあっ、あっ、それ、気持ちいい」

 

 山本さんは俺の舌使いにまた息を荒くしながら、フェラの代わりに手での刺激をペニスに与え続けてくれる。

 あまつさえスーツを着ているというのに、こんな赤ちゃんみたいなことをしていると思うと情けなくて恥ずかしくなる。

 それがまた性的快感になって沸々と湧き上がってきて、もしかしたら俺は、こんな姿を山本さんに見てもらいたくて、おっぱいを吸わせてくれとお願いしたのかもしれない。

 

「ふぁ、んっ、ソトミチくんは、おっぱいを吸うのが上手だね。よしよし。上も下もいっぱい撫でてあげるね」

 

 そして山本さんも、俺が子供扱いされて興奮していることに気付いている。

 だからこうしてあやすように俺をもてなしてくれるんだ。

 変態的なエッチに関しては、山本さんが一番だと箔を押してもいいかもしれない。

 

「あぁ、やばい。イキたくなってきた」

 

 手コキで与えられる刺激以上に、このシチュエーションに対する興奮が昂まってしまって、射精欲が溢れて止まらなくなっていた。

 

「イキたい?」

 

 山本さんは俺の耳に息を吹きかけるように訊いてくる。

 

「い、イキたい、けど、まだちょっと時間はあるから……」

 

 せっかく三十分も取ったのに、まだ半分ほどしか時間は使っていない。

 俺としては射精したくてたまらないのだが、ここで出してしまったらまた山本さんに物足りなさを感じさせてしまう。

 

「いいよ、イッて。ソトミチくんが気持ちよく射精してくれるのが、私の一番の喜びなの。今日は私、すごく満足してるから」

 

 山本さんは俺のペニスを扱く手を速くして、俺の射精を促してくる。

 こうなったら、もう欲望に任せて出すしかない。

 

「ソトミチくん、以前に美優ちゃんに似せた私の写真を見てイッたじゃない? 私のこともさ、美優ちゃんが成長した姿だと思えば、射精できるんじゃないのかな」

 

 山本さんの昔の写真を見せてもらったとき、それがあまりにも美優に似ていて俺は驚いた。

 そして、その山本さんの小さい頃の写真と、今の山本さんを美優似に加工した写真の両方で、俺は射精にまで至った。

 

「妹とは別に、お姉ちゃんがいたらきっとこんな感じだよ。ソトミチくんは、きっとお姉ちゃんでも射精しちゃうんじゃないかな」

「あ、ああっ、そんなっ……はぁ、はっ、う……ああっ……!」

 

 昔の姿が美優に似ているということは、山本さんも遺伝子的にはかなり親しい存在。

 それは山本さんが言う通り、もうひとりのオカズになり得たかもしれないセックスパートナーなんだ。

 

「ああっ! あ、や、やばっ、──ッ!?」

 

 ペニスを扱き続ける山本さんの指がカリを擦った瞬間、呪いのようにその射出を阻まれていた精子の先頭組が、ついにその欲望のままに尿道を駆け抜けていった。

 

「あっ、ちょっと出た」

 

 山本さんは小豆一粒分くらいの精液を指で掬い取って、それをネバネバと捏ねて伸ばす。

 

「ソトミチくん、いま美優ちゃんのこと考えてた?」

「ど、どうだろう……」

 

 具体的に美優とのエッチを思い出していたわけでもないし、いつもみたいに美優の声や姿を想像していたわけでもなかった。

 それでも、山本さんが美優というワードを出したのは間違いがないし、以前に射精をするために見せてもらった写真のことは考えていたから、まだ美優をオカズにしないと抜けないことに変わりないとも思う。

 

 それぐらい、俺が山本さんに対して抱いた射精欲は、どちらによるものなのか曖昧なものだった。

 

「ふふっ。思ったより早く堕ちた」

 

 山本さんは不敵に微笑み、指で遊んでいた精液を舐めとる。

 

「まさか、最初から……」

「写真を加工してたときに、可能性として考えてただけなんだけどね。ここまでソトミチくんとエッチする機会があるとは思ってなかったし」

 

 つまるところ、それは確信的でありながら、計画的ではない犯行だった。

 

「ソトミチくんは美優ちゃんのことを考えていれば射精ができるわけでしょ? それってさ、結局はソトミチくんがどう認識してるかの問題でしかないんだよ」

 

 美優とよく似た山本さんの写真で、俺は簡単に射精をしてしまった。

 すでにその時点で、俺は美優と近いものを山本さんに感じていたんだ。

 

「美優以外で、抜けるようになったのか」

「たぶんね。確認してみようか」

 

 山本さんは俺のシャツをまくり上げてソファーに倒すと、ズボンを下ろしながら俺の腰を奥に移動させた。

 そこに靴下だけを履いた裸の山本さんが跨ってきて、俺のペニスをその溝に嵌めるように割れ目をあてがう。

 

「この位置だと、ドアの窓から見えちゃうよ」

「んふ。そうだね」

 

 俺の言葉の意味を理解しているはずなのに、山本さんは体を前に倒して、ぷっくりと膨らんだエッチなおしゃぶりを俺の口に押し付けてきた。

 

「私は耳がいいから安心して」

 

 山本さんは緩やかに腰を前後させて、秘裂から湧き出してくる愛液を俺のペニスに塗りつけてくる。

 いつ誰が通るとも知らない廊下を尻目に、俺は山本さんのおっぱいを吸いながらペニスを硬くしていた。

 空いた手は無意識にもう片方の乳房を揉みしだいていて、この強烈なまでの母性にまるで逆らえる気がしなかった。

 

「ソトミチくんは美優ちゃんのことを考えずに我慢しててね。それで射精したら、もうソトミチくんは私をオカズにできるってことだから」

 

 山本さんは俺におっぱいを飲ませるために、体を斜め前にして支えている。

 その状態で素股をすると肉芽が擦れて、それを山本さんも気持ちよさそうにしていた。

 

「ソトミチくんの悩みがやっと解決できるんだね」

 

 それはもはや俺にとっては障害にはならなくなっていたもの。

 妹と結ばれたから、妹をオカズにしないと抜けないこの体質は、全く問題にならなくなった。

 むしろそれは、俺と美優の絆の強さを示す証のようなものだったはずなのに。

 

 俺は山本さんの乳首にちゅぱちゅぱと吸い付いて、なされるがままに快楽を享受していた。

 腰をくねらせる山本さんのアソコはもうぐちょぐちょになっていて、本当に挿入していないのか不安になるほど。

 山本さんの片乳を横に持ち上げて、下目でどうにか股間の状況を確認すると、そこにはパイズリをしてもらっているときのように亀頭が見えたり隠れたりを繰り返していた。

 ペニスはその全体が山本さんの淫液で照りついて、生の肉の柔らかさを感じるたびにビクビクと震えている。

 

「ん、あっ……ソトミチくんの、硬くて気持ちいい……膣内に入れちゃいたい……」

 

 周囲の音楽の切れ目に、グチュ、グチュ、と卑猥な音か聞こえてくる。

 こんな状況で挿入したら絶対に中出しするまで止まらなくなる。

 それがわかっているのに、俺はまた山本さんにオスとしての本能を引き出されそうになっていた。

 

「山本さん、もう出させて……!」

 

 さっきの手コキで射精の寸前まで追い詰められていたせいで、もう我慢も限界だった。

 このまま快楽責めをされていたら、理性が吹っ飛ぶかもしれない。

 美優との親愛の証である、妹をオカズにしなければならないという体質を否定するのは辛い決断だったが、ここで射精しておかなければ大事になる気がした。

 

「出そうなの? ソトミチくん」

 

 ほのかに優越感に浸った顔の山本さんは、腰を深くまで落として俺のペニスを肉の溝に埋めた。

 フェラとは違う肉感と、唾液とは違う粘性が、性感帯にかつてない刺激を与えて俺を昂らせてくる。

 

「あ、あっ、や、やまもとさん……!」

「ふあっ、ああっ、ソトミチくん……腰を動かしたら危ないよ……!」

 

 欲望のままに腰を反り上げていた俺は、山本さんがコントロールを失いそうになっているのを見て、慌てて動きを止めた。

 相互に腰を動かしていると気持ちがそっち側に引きずられてしまうのだ。

 

「そんなに動きたいなら、ソトミチくんがして」

 

 山本さんが腰を上げると、練り込んだローションを垂らすように愛液がダラっと溢れた。

 そして、山本さんはまたドアの窓から見えない位置に立つと、壁に手をついて俺を呼ぶ。

 

 俺は導かれるままに山本さんの背後に立った。

 すると、山本さんは俺のペニスを腿に挟んで、俺の両手にそれぞれのおっぱいを掴ませた。

 

「犯して」

 

 山本さんは俺に期待の眼差しを向けてから、その裸体を俺に預けてきた。

 それは股にペニスを擦り付けて射精してほしいという山本さんのおねだりだった。

 

「や、山本さんッ──!」

 

 俺の腰は自然と動いていた。

 動物が本来そうあるべく、生殖行為に至るその一歩手前まで、俺は無意識に動作を行っていたのだ。

 

「はんっ、あっ、あああっ……! そとみちくんの……当たって、きもちぃ……っ!」

 

 張り裂けそうなほど勃起したペニスは、上向きの力で山本さんの秘裂を圧迫し、エラの張ったカリが山本さんのクリトリスを擦って悶えさせる。

 俺は無我夢中でおっぱいを揉みくちゃにして、バックで犯されて悦ぶ痴女を躾けるように、両方の乳首を指先で抓り上げた。

 

「ひやぁうっ……あんっ、あぅああぁ! そ、ソトミチ、くん……いひゃ、きも、ちいいッ……!!」

 

 俺の名前を叫んで悶絶する山本さんに、次は臀部を叩いて叱るように、俺は腰を激しく打ち付けた。

 パン、パン、と室内に破裂音が鳴り響き、それの音を聞いて山本さんが興奮しているのが喘ぎ声から伝わってきて、俺もまた歓喜に震える。

 

 防音室であることをいいことに、俺たちは快楽を声にして寸前の交わりに耽った。

 淫らな音が反響して、それが催眠術のように俺たちの脳を蕩けさせる。

 胸を揉みしだけば山本さんの頬が緩み、乳首を抓ればふとももがキュッと締まって、そこにねじ込むようにペニスを挿入すると、擦り切れるような嬌声を上げて山本さんが身悶える。

 

 こんなエッチな女の子はお仕置きしなければならない。

 男を誑かしておかしくする魔性は、俺のペニスで更生させるんだ。

 

 セックスがしたい。

 このまま山本さんのいやらしい穴に挿入して溢れるまで射精がしたい。

 

「山本さん……もう……出るよ……ッ!!」

 

 もう理性の限界だった。

 これ以上続けていたら、俺の本能が山本さんを孕ませてしまう。

 どうにか射精して一区切りをつけなければ、全てを失うことになる。

 

「ひゃ、い、ああっ、あぁあ! だ、だして! しゃせいしてぇ!」

 

 滑舌が怪しくなりかけた、その山本さんの「だして」という叫びが、俺の射精のスイッチを押した。

 急速に尿道を登ってきた精液を、俺は山本さんの背中にかけようと、射精の瞬間に腰を引く。

 

「い、ぃギュッ──!」

 

 そのペニスを引き抜く最後の動きが、腰の引けた山本さんのクリトリスを強く擦り、その刺激が山本さんの絶頂を導いた。

 

 俺が射精するのと一緒に、脚の踏ん張りの効かなくなった山本さんの腰が降りてきて、俺はにゅるりとした温かな肉質の間に精液をドクドクと吐き出した。

 

「──ッ!?」

 

 俺は山本さんが転ばないように支えつつも、焦燥の中でなんとかペニスを抜き出し、体勢を立て直して山本さんの尾てい骨のあたりに残りの精液を出した。

 まさか山本さんが倒れてくるとは思わず、予想外の事態に軽いパニックになる。

 

「山本さん、大丈夫!?」

「うん。ごめんね。まだイクのに慣れてなくて」

 

 少しして山本さんが落ち着いたのを確認すると、俺は山本さんの股のあたりに射精してしまったことを告げた。

 すると山本さんは前から指を入れて膣の周辺を探り、そこには何もなかったことを教えてくれる。

 

「壁にも掛かってないね。でも、これだけ掻き出しても出てこないから、中には出てないと思う」

「そうなのかな。奥に押し込んじゃったとか」

「それもなさそう。中出しされても実は大丈夫なんだけどね」

 

 山本さんの気になる発言に、俺がどういう意味かと尋ねようかとした瞬間、

 

「あっ……」

 

 それがどんなハプニングだったのか、先に気づいたのは山本さんだった。

 

「どうしたの?」

「その、とりあえず、妊娠の心配とかは、ないんだけど」

 

 山本さんは壁の方を向いたまま、その事実をモジモジと教えてくれた。

 

「ソトミチくん、私のお尻に出したかも」

 

 まさかの事実に、俺も上手く状況が飲み込めなかった。

 

 どうやら絶頂の弾みで、俺のペニスの先っぽだけが山本さんのアナルに入っていたらしい。

 俺はそこに精液を流し込んでしまったんだ。

 

 その事実を聞いて、俺は、ゴクリと唾を飲んだ。

 もしそうなら、山本さんがお尻の力を抜けば、そこから俺の精液が漏れ出してくるはず。

 

「か、確認、させてもらってもいい?」

「ふぇ!? え、あぁ、うぅ……」

 

 さすがの山本さんも、アナルを見られるのは慣れていないらしい。

 穴のかなり浅いところに先っぽが入っただけとはいえ、俺は山本さんのもう一つ残っていた処女を奪ったとすらいえるんだよな。

 きちんと確かめておかないと。

 

「そ、ソトミチくんが、そう言うなら……」

 

 自らのお尻を両手で丁寧に開く山本さんの顔は、かつて見たこともないぐらい真っ赤に染まっていた。

 

 山本さんは恥じらいを知らないわけではなく、人よりもエッチに抵抗がないだけ。

 股を開いて見せるとかは、山本さんからすれば予定調和の範疇だったのだ。

 だが、これは正真正銘、山本さんにとっても陵辱に等しい行為。

 

「み、見えちゃってる……?」

 

 重厚な扉を引くように、ゆっくりと開かれた臀部の中心には、溢れそうな精液をなんとか押し留めようとヒクついている菊門があった。

 

「見えてるよ。お手拭きでキレイにするから、力を抜いて」

「う、うぅぅ……そんなに、見ないで……」

 

 ついには観念した山本さんのアナルから、俺が中に出した精液がとろっと垂れ落ちてきた。

 俺はそんな光景に感動を覚えながら、山本さんのお尻を丁寧に、精液が出なくなるまで拭いてあげた。

 

「山本さんのこと本気で好きになりそう」

「私はソトミチくんのそういうエッチのとき頭がバカになるのも好き」

 

 山本さんは辱めを受けてなお従順に、俺の方を向き直ってペニスをおしぼりで拭いてくれた。

 

「あの、ソトミチくん」

 

 そこには、まだ屹立したままの剛直が張り詰めていた。

 

 あんなエロいものを見たあとでは仕方がない。

 山本さんがエロいのがいけないんだ。

 

 と、そんなタイミングでなり響く、退室の時間を告げる電話のベル。

 このままだとまた勃起したまま帰ることになってしまう。

 

「もう三十分だけ延長しよっか」

「そうしてもらえると助かる」

 

 この時間の延長は痛い出費だが、背に腹はかえられない。

 

「はい、はい。……え? ああ、そうですか。わかりました」

 

 電話に出た山本さんは、目を丸くして俺と視線を合わせた。

 まさか、とは思ったが、どうやら満室で延長ができないらしい。

 

「どうしよっか。残り十分でもう一回出す?」

「それは、さすがに……」

 

 俺の回復の早さを考えれば、もう一度出しても明日の由佳とのデートに支障はないように思う。

 だが、エッチありのデートをすることがわかっていながら、これ以上精液を減らしておくのは、さすがに由佳をないがしろにし過ぎだと思えた。

 

「どうにか、鎮めるよ」

「そう? 無理しなくてもいいんだよ。せっかく出せるようになったんだし。ソトミチくんだって、まだ出したいからおっきくしてるんじゃないかな」

 

 山本さんは、俺の事情を知りながらも煽ってくる。

 

 なんて悪い女なんだ。

 いつか本格的にお仕置きエッチをしてやりたい。

 

「と、とりあえず、服を着ようか」

「ふふっ。はい」

 

 こんなところで裸になっている山本さんを見ていたら、落ち着くものも落ち着かない。

 俺はブラジャーをつけ始めた山本さんの横で、辺り一面を汚してしまっているお互いの粘液を拭きさり、できるだけ部屋をキレイにしておいた。

 

 場合によっては、俺たちのエッチしてる声が漏れてたかもしれないからな。

 証拠はできるだけ消しておくに限る。

 

「ソトミチくんのそこ、あんまり膨らんで見えないね?」

 

 服を着た山本さんが、俺の股間に視線を落として呟いた。

 たしかに、想像していたよりは膨らみが目立っていない。

 俺の勃起が反り上がっているおかげで、ズボンの中にどうにか収まっているようだった。

 

「ベルトで引っ掛けたらバレないんじゃないかな」

「なるほど」

 

 ベルトを一つ緩くして腰の位置を下げ、亀頭をその隙間に引っ掛ける。

 すると、ほぼ垂直になったペニスを、ズボンの布を押し上げることなく隠すことができた。

 

「でもこれ、歩くと痛いな」

「バスに乗るまでの辛抱だから、どうにかならない?」

「頑張るけど、敏感な部分だからツラい……」

 

 せめて竿の方を固定する仕組みだったら問題はなかったのだが、よりにもよって最も刺激に弱い部分を挟んでいるだけに、このまま歩くのは困難だった。

 

 それに俺はこの最大まで勃起した状態を維持し続けなければならない。

 一気に萎んでくれればそれでもいいが、しばらくは半勃ちで外を歩き回ることになる。

 俺だけが恥ずかしい思いをするだけならまだしも、並んで歩く山本さんも微妙な気分だろう。

 

「そういうことなら、もうこれしかないね」

 

 山本さんはポケットからヘアピンを取り出すと、せっかく穿いたパンツをわざわざ脱いで床に落とした。

 

「まさか、ノーパンで帰るつもり……?」

「そっちのほうが興奮するでしょ」

 

 たしかに、そんなエロい子が隣にいるとなったら、肉棒が萎えてベルトの引っかかりから外れることはない。

 そのためにノーパンで街を歩くとか、どんだけ献身的なんだこの人は。

 

「あとは、これをこうして」

 

 山本さんは俺のズボンも脱がせてきて、ガチガチに勃起したペニスに脱ぎたてのパンツを巻きつけ、それをヘアピンで止めた。

 淡い赤色のパンツが俺のペニスを包み、ぐっしょりと濡れたクロッチが亀頭をガードしてくれている。

 

「死ぬほど変態っぽいんだが……」

「んふふ。お似合いのカップルでしょ?」

 

 その状態でまたベルトを巻き直すと、今度は安定して痛みなく勃起を維持できるようになった。

 片やノーパンスカートで、片や女性物のパンツをペニスに巻いている。

 立派な変態カップルだった。

 

 それから部屋を出て、俺たちは受付で会計を済ませた。

 そこにいたのは、電車に乗っていたときと同じ、見た目だけは清楚可憐な淑女と、真面目そうなスーツ姿の男。

 服の中にとんでもないイチモツを隠し持って、俺と山本さんは仲良く手をつないでバス停に向かった。

 

 エスカレーターに乗るときには、山本さんが周囲に人が少ないことを猛アピールしてくるので、スカートの中をひっそりと弄らせてもらった。

 わかりきっていたことであっても、実際に触ってみて布がない感触はゾクッとする。

 割れ目に触れるとそこには当然のように濡れた穴があって、指を押し込めば簡単に挿入ができてしまうのだ。

 短いエスカレーターだったのでそれ以上はできなかったが、あのまま山本さんに手マンをしていたらどうなっていたのか、想像するだけで山本さんのパンツに精液が滲んでしまう。

 

 そうやって、周囲にはわからないような性遊戯を、二人で楽しみながらバス停にやってきた。

 前と違って深夜帯ではないためそれなりの人が並んでいたが、どうにか座ることはできそうだった。

 

「なんだか、ソトミチくんとのバスの思い出って、エッチなことばかりだね」

 

 停留所にやってきたバスに、山本さんはスキップでもしそうなほど気分を浮わつかせながら、俺の手を引いて椅子に座った。

 

「山本さんがエッチすぎるせいだと思う」

 

 俺は鞄を膝の深くに乗せて、後追いの乗客に勃起がばれないように隠した。

 ここまでくれば、もう安全圏だ。

 

「私はこれまで付き合ってきた大勢とここまでのエッチはしなかったよ。でも、ソトミチくんは関わった女の子みんなとエッチなことをしてる。原因はどちらにあるでしょうか」

「俺のはサンプルが少ないから……」

「じゃあ、お互い様だね」

「そうしておこう」

 

 そんな会話を交わして、それから山本さんは、俺の肩に頭を乗せてきた。

 

 バスが発進して、バスでは話し声がすることもなく、エンジン音だけが響く静かな時間だけが過ぎていく。

 これで今日のエッチは終わりだと、俺は完全に油断しきっていた。

 

「人がだいぶ降りたね」

 

 座っていた人たちも席を立ち、人の影がまばらになった頃。

 山本さんがおもむろに口を開いた。

 

 俺のペニスはまだ芯の硬さを残しているものの、半勃ちぐらいには落ち着いていて、下車するまでには萎んでいると思ったのだが。

 

「ソトミチくんの隣の女の子、いまノーパンですよ」

 

 ボソッと耳打ちされたその一言が、俺の肉棒にまた熱を注いだ。

 そのスカートの下には、何も身につけられていない、生の肌が隠れている。

 いくら夏場とはいえ涼しすぎる格好を、この少女は周囲の目を忍んでしているのだ。

 

「山本さん、ほんとエロすぎて堪んないから、それ以上はいけない」

「堪んない?」

「もう勃起してる」

「えへへ。正直者でよろしい」

 

 山本さんは俺の膝と鞄の間に手を忍び込ませると、そのまま固くなった肉棒を擦った。

 

「ソトミチくんさ、美優ちゃんの命令があれば、射精しちゃうんだよね」

 

 山本さんは美優から俺とどんなエッチをしてきたかすべて聞いてる。

 だから、俺の射精が美優の命令にコントロールされてしまうことも知っているのだ。

 最近は俺の意思で我慢することを求められるようになったが、今でも俺は美優が射精しろと命じられればするし、射精するなと命じられればどんなに刺激を与えられてもイかない。

 そういう体質のままだ。

 

「私の場合も、同じかな」

 

 俺は山本さんに、美優に近い何かを見出して、ついには美優をオカズにしないで射精をしてしまった。

 もしその条件が俺の体質に関連付いたままなのだとしたら、俺は山本さんにも射精をコントロールされてしまうことになる。

 美優のほうが優位とはいえ、二人の女の子に射精管理されるとか、いつか地獄を見ることになりそうだ。

 

「どう、だろうな……」

「さっきも、私が出してって言ったらすぐに出してくれたよね」

 

 カラオケでのエッチも、俺は山本さんの「だして」という声を聞いて射精した。

 たまたまタイミングが被っただけとも考えられるが、あの感覚は山本さんの意思のこもった言葉に、体が反応していたことは疑いようがない。

 

「ソトミチくんは、私が相手でも声だけでイッちゃうのかな」

 

 それは悪魔の囁きだった。

 もし、山本さんが断定的に射精を命じるのならば、あるいはこの場で射精してしまうことだってありえる。

 

「俺も美優の声で出してたときは、かなり興奮してる状況だったから、ただ命令されただけではイかないと思うよ」

 

 美優の命令で射精をしてしまうとはいえ、それはエッチの延長線上というか、その大部分が俺に連続射精をさせるために口にされた言葉だった。

 だから、たとえばこの場で「出して」と言われるだけでは、まだ不十分だ。

 

「このまま私のパンツに射精してみたくない?」

「そ、それは……」

 

 山本さんは意地でも言葉だけで俺を射精させたいようで、俺も萎えるようなことを考えて心を落ち着かせればいいのに、煽られるたびにエッチな妄想が脳を支配して沸騰しそうになる。

 

「今なら精液でスーツが汚れることもないんだよ」

 

 山本さんのパンツで包んでもらっている今は、コンドームを装着している状態に近い。

 無論、山本さんのパンツはぐちょぐちょになるし、歩けば精液が垂れ落ちてこないとも限らないが、少なくともトランクスの中に射精するよりはだいぶ安全な状況にある。

 そう考えると、俺は肉棒が布に包まれている感覚を意識してしまい、それが山本さんの膣内に挿入しているような錯覚を感じさせて、下腹部が疼いてしまう。

 

「だ、だめだ、山本さん、今日は……」

「ソトミチくん。出したいときに出すのが一番だよ」

 

 山本さんは顎をくすぐるように、人差し指で俺の肉棒をカリカリとイジってくる。

 そのたびに肉棒がビクついて、先端から漏れたカウパー腺液が、山本さんのパンツのクロッチに染み付いていた愛液と混ざっていく。

 山本さんの下着が俺のペニス全体を圧迫し、亀頭は卑猥な水分を感じて更にその張りを強くしていく。

 

「あっ……ダメだ……こんなとこで……」

「いいんだよ、ソトミチくん。エッチなのは、ここも同じだから。私もソトミチくんと一緒にエッチになりたい」

 

 俺の視界の端で、ヒラヒラと揺れる一枚の布。

 それは山本さんの大事な部分を隠す、儚いほどに薄い装備だった。

 ひょいと裾を持ち上げれば、そのスジのついた肌色が露わになってしまうほどに。

 

「ま、まずいって……!」

 

 俺は小声で山本さんを注意しながらも、その視線は山本さんの秘部に奪われていた。

 こんな公共の場で、まだ乗客の要る車内で、見せてはいけない部分を晒している。

 

「ねえ、ソトミチくん」

 

 俺の手を取り、その指を蜜壺に当てて、山本さんは淫らな体液の満ちるその場所にグッと押し込ませた。

 

「ここに中出しするみたいに、いっぱい精液出して」

 

 俺の耳の奥で反響するように、しっとりと囁かれた。

 その声が、俺の射精のトリガーを引いた。

 

「うっ……!」

 

 ドクン、ドクン、ドクンと、静かに脈を打つ俺の肉棒。

 亀頭から竿の根本まで、山本さんのパンツが包んでくれているその場所に、温かなものが流れ込んでいった。

 

 射精したのだ。

 呆気なく。

 俺は山本さんの命令で、一般の乗客から見えないとも限らないその中、あるいはトリガーなど無視してハンマーが振り下ろされるピストルのように、精液を吐き出した。

 

 今日は一回だけのエッチと決めていた。

 そんな強い意思があったにも関わらず、俺はついに山本さんの誘惑に屈してしまった。

 

「いっぱい出たね」

 

 どれだけの量を射精したのか、山本さんにはわからないはずだった。

 それでも、射精したあとの放心状態の俺を、山本さんは優しく抱き包んでくれて、また子供をあやすように俺を慰めてくれた。

 

 俺はどうしようもなくダメな男なのに。

 そうやって、山本さんに甘やかされるのが、酷く心地よかった。

 

「降りたら、お掃除して解散にしよっか」

 

 それから俺と山本さんは、揃ってマンション近くのバス停に降りた。

 エントランスに入ってすぐだと監視カメラがあるため、俺は山本さんにポストコーナーにまで連れて行ってもらい、そこでパンツを脱ぐことに。

 

 部屋がすぐそこにあるのだから入ればいいと思うかもしれないが、家に入ってしまうとしばらくそこで休まなければならない気分になってしまうし、どんな都合があろうと今日は外でエッチをする日だったから、むしろここですることに違和感はなかった。

 

「すっかり汚されちゃった」

 

 山本さんは俺のパンツを下ろすと、パンツを抜き取って膝を下ろした。

 床に精液が垂れ落ちないよう、山本さんは片手はパンツを持ちっぱなしにして、その口を俺のペニスに近づける。

 

「その下着、大丈夫かな。精液って汚れが落ちにくいんだけど」

「へーきへーき。暴発しちゃったときの服とか、お洗濯するのは慣れてるし」

 

 山本さんにとって、男が着衣状態で射精してしまうのなんて日常茶飯事だった。

 だから、俺が思っているほど、山本さんはこの射精を特別なものとは思っていないんだ。

 

「お掃除するね」

 

 射精をしたらお掃除をする。

 それが山本さんにとっての当たり前。

 根本から鈴口の隙間、尿道に残った精液まで、残さずキレイにしてくれるのが、この山本さんという女の子なのだ。

 

 これで好きにならないという方がおかしいだろう。

 

「はい、おしまい。いっぱいエッチができて楽しかったよ、ソトミチくん」

「俺もなんだかんだで楽しんでしまった……」

 

 これも、美優が言うには、予定通りの進行。

 俺が山本さんに積極的に手を出して、こうしてまた仲が深まっていく。

 その先にどんな解決方法があるのか、俺には見当もつかない。

 

 ただ、どんな事情があったにせよ、個人への感謝をするのはまた別の話。

 これだけ楽しくて気持ちの良いエッチをしてもらったのだから、俺は山本さんにお礼をしなければならないのだ。

 

「ありがとう、山本さん。気持ちよかったよ」

「こちらこそ。楽しいエッチをありがとう」

 

 山本さんとのエッチは、精神的も、体質的にも、かなりの障害が取り去られてしまった。

 なにより重要なのは、俺が言葉による命令で射精管理されてしまうということ。

 山本さんをオカズに射精するようになった今でも、俺は山本さんに「我慢して」と命じられるだけで、これまで通りのエッチが楽しめてしまう。

 これは山本さんにとって、あまりにも有利すぎる現実だった。

 

「またこんな楽しいエッチがしたいね」

「あ、ああ、ほんと、山本さんとこういうのするの、ハマりそうで怖い」

 

 山本さんの変態性が、俺の性癖にジャストヒットしている。

 家でまったりエッチするのは美優に相手をしてもらうのが一番だが、外でのエッチは山本さんとしてたほうが波長が合いそうだ。

 

 色んな意味で合わせちゃいけない波長なんだけど。

 

「私がソトミチくんとのエッチにハマってるのと、きっと同じ感覚なんだと思うよ」

「これは恐ろしいものだな」

「エッチになったのはソトミチくんのせいだってのも信じる?」

「そこはさすがに半々かな」

 

 山本さんが根っからのエロリストだったという説は、俺の中で永劫払拭されることはない。

 そうでなければこんなにエッチな女の子になるはずがないんだ。

 

「ソトミチくんは初めてお話をしたときより、ずいぶんカッコよくなっちゃったから、実は私も少しは緊張してたんだよ?」

「そんな馬鹿な」

 

 過去に付き合ってきた人がどんな男だったのかは知らないが、俺よりカッコいい男なんていくらでもいたはずだ。

 

「でも、なんだか美優ちゃんにしてやられた気分だな」

「好きな人を取られたから?」

「それもある、かな。自分で言うのもなんだけど、私とのエッチがなかったら、ソトミチくんはそこまでのいい男にならなかったと思うんだよね」

 

 山本さんが打ち明けたその本音は、俺にも概ね同意ができるものだった。

 俺の長所をたくさん褒めてくれた山本さんがいたから、前に進めたことだってたくさんあった。

 

「由佳ちゃんもきっとそうだよ。ソトミチくんは色んな女の子とデートして、エッチして、そうやって変わっていったんでしょ? どこまでが狙い通りなのかはわからないけど、結果的には私は、ソトミチくんの男を上げただけの女だったわけで」

 

 不満や愚痴とは、きっと違う。

 そういうネガティブな話し方ではなかった。

 ただ、漠然とした悔しさを抱えていて、山本さんもそこにやりきれない想いを溜め込んでいるのだと思う。

 

「それでソトミチくんがそんなにいい男になっちゃうのは、ちょっとズルいかも」

 

 最後に山本さんは、ちょっといたずらっぽい笑みで俺をからかって、

 

「恩返しはするよ」

「うん。いつか、長い付き合いのうちにね」

 

 それで今日のエッチは本当の終わりを迎えた。

 

 さすがの美優でも最初からそんな計画があったわけではないと思う。

 でも、美優が言っていた、俺が他の女の子とエッチすることを許せる条件の中には、そういう要素も含まれていたんじゃないかな。

 

 もっと本気になれと言った美優の命令だけど、こうした時間を過ごすほどに山本さんへの情が湧いてしまう。

 

 最後は美優との純愛を守ったまま、誰もが幸せになる道を俺は進んでいるらしいが。

 

 明日の由佳とのデートでも、俺はまた美優ではない誰かを好きになってしまうのだろう。

 

 どこに解決の糸口が用意されているのか。

 

 それは俺にはまだ、全く見えないままだった。

 



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ちょっとかわいい生意気ツインテール

 

 由佳とのデートの待ち合わせ場所は駅の改札前だった。

 朝早くの時間を指定された俺は、まだ閑散としたその場所で約束の人を探す。

 

 何をするかは聞いていない。

 集合する時間と場所と、それなりのオシャレをしてくることを指示され、俺は命じられるがままにそれなりの身だしなみを整えて家を出てきた。

 

 とはいえ、夏場なのでどうしたって薄着にはなるし、そこそこ上等なポロシャツを着てきたこと以外は普段と変わりなかった。

 強いて頑張ったことといえば、美優の助言をもらって自分で眉毛と髪を整えてきたことぐらいか。

 

『券売機のすぐ横で待ってる』

 

 由佳からメッセージを受け取ってそちらに向かうと、一人の女の子が目に入った。

 淡い水色のワンピースに、毛束を分けて巻いたツインテールを下げて、姿勢良くポーチを抱えて立っている。

 

 どこから見ても淑女然としているその姿に、俺は思わず誰と待ち合わせをしていたのか忘れそうになった。

 

「おはよう」

 

 おそらく由佳であろうその人物に、俺は自信半分に声をかけた。

 

 いつもより色の濃い唇と、長い睫毛。

 ヒールのおかげでさらに伸びた背丈に、いつもは感じない大人の色気があって。

 

 このとき俺は、素直にこいつを可愛いと思ってしまった。

 

「なにぼーっと見てんの」

「あ、いや。待たせて悪いと思って」

「別にそんなに待ってないけど」

 

 由佳はどこか緊張した面持ちで、ポーチから乗車券代わりの電子カードを取り出す。

 これまで全ての告白に失敗してきたとのことだが、デートをしたことはあるのだろうか。

 

「んじゃ行くわよ」

「行くってどこに?」

「どこって──」

 

 改札に向かおうとしていた由佳が、立ち止まって振り返る。

 

「遊園地に決まってるでしょ」

 

 そんな風に断定されても、俺は今日の予定の一片も聞いてないんだが。

 

「予定が決まってるなら、ひとまず安心したよ。俺は金だけ用意があればいいんだよな?」

「お兄さんは身ひとつあればいいの。あとは私に任せなさい」

 

 由佳はいつもより控えめな声で、しかし断定的にそう答える。

 

 一応は俺に何も教えていないことを前提で考えてくれているみたいだ。

 しかし、遊園地ってアトラクションを何度も行き来する場所なのに、踵の高い靴を履いてくるのはどうなのだろうか。

 由佳も由佳なりにお洒落を頑張った結果みたいだからダメと言うつもりはないけど。

 

「足が痛くなったらすぐに言えよ」

 

 由佳がまた改札に向かって歩き始めたので、俺は早足で横に並んだ。

 

「平気だって。今日のために歩く練習してきたんだから」

 

 由佳はムスッとしながらも、どこか気恥ずかしそうにして駅のホームへと歩き出した。

 

 学生にとっては休日の今日も、社会人たちは出勤のために朝から電車に乗る。

 俺たちはスーツの男たちに囲まれながら、地元では比較的有名な遊園地へと電車で揺られていった。

 

「そうやって髪を巻くのは流行りなのか? 美優も遥もよくやるよな」

 

 一緒に出掛けた回数はまだそう多いわけではないが、美優も遥もオシャレをするときはよく髪を巻いている印象が強い。

 あの二人はロリコスが趣味だから、ゆる甘な髪型を好んでいるだけとも考えられるけど。

 

「美優も遥もしてるんだから、お兄さんもこっちのほうが好きなわけでしょ」

 

 由佳は愛嬌のない顔で巻いた髪をクルクルと弄る。

 

 俺の好みに合わせたのか。

 好意を感じるのに微妙に嬉しくないのは、いつもの真っ直ぐ伸ばしたツインテールを俺が好きになってるからかな。

 

「まあ、その髪型も似合ってるよ。服にも良く合ってる」

「はいはい。そうやって女の子を誑かしてるわけね」

 

 なおも髪をいじりながら、由佳は窓の外に目を向ける。

 

 可愛げがないのは元からなので、それほどイラッとはこない。

 とはいえ、ここまで褒め言葉を素直に受け取らないやつだったかな。

 

「──っと」

 

 停止信号を受信した電車が急な減速をして、吊り革を掴み損ねた由佳は手を落ち着ける場所がなく俺に掴みかかってきた。

 

 それなりの衝撃はあったものの、細身で無駄な肉がない由佳の体は身構えていたよりずっと軽かった。

 

「あ、ありがと。思ったより力あるのね」

「バイトは力仕事だったし、筋トレもしてたからな」

 

 そして、それ以上に最近は、体力を使うことが多かった。

 まともに鍛えている奴らほどではないしても、以前に比べればだいぶ力がついたほうだ。

 

「そう」

 

 由佳は電車が平常速度で動き出しても、しばらくは俺にひっついたまま静かにしていた。

 慣れないヒールで足元を不安定にしていたので、俺としても無理されるよりは掴んでもらってたほうが安心する。

 

 とても静かな時間だった。

 停車する電車のドアから人が出入りするたびに、俺が由佳を引っ張って移動すると、由佳は俺に促されるがままについてくる。

 文句を言うどころかお喋りすらなくて、俺たちは遊園地の最寄り駅に着くまでずっとそうしていた。

 

 さて、もうここまで来たら、いい加減にコイツを心配してもいい頃合いだろう。

 由佳はこんなにお淑やかな性格では決してないし、いつかは俺も由佳にこうあってほしいと思ったけど、今ではあの破天荒さが好きになってしまっているからこのままでは困るのだ。

 

 駅から入園口に向かう道中で、長い脚のわりに短い歩幅の由佳にペースを合わせながら、俺はこの状況の分析に頭をフル回転させていた。

 

 ダサい気がしてなかなか人には言えないことだが、我々非モテ男子──俺の場合は過去形になりつつあるが──は女の子と仲良くお話するためのテクニックなどを、怪しいメルマガに登録したりして調べることも多い。

 その中にはこうして女の子が黙り込んでしまったときの対処法なども書いてあったりする。

 

「由佳はどんなアトラクションに行きたいんだ?」

 

 話の切り出しは前向きに。

 これからのデートを楽しみにしている前提で話を進める。

 

「人気の乗り物から回るつもり。待ち時間が少ない所はご飯までの調整とかに使えるし」

 

 由佳は山本さんみたいに大胆なスキンシップをしてこようとはせず、微妙に間の空いた距離を保ちながら、前だけを見て話をする。

 

 顔色は良いし、元気そうではある。

 であれば、体調が悪いのかと聞いてはならない。

 いわゆる女の子の日か聞くなんてもってのほかだ。

 

 何か不機嫌にさせることでもしてしまったのかと尋ねることも悪手。

 「嫌だったらデートなんてしないから!」と逆に女の子を怒らせる要因になってしまう。

 

 これらがなぜダメなのかといえば、結果的にはどちらも相手に非があると言っていることになるからだ。

 

 故に、確証が持てるまでは気にせず接するのが正解。

 さりげなく休憩を多めに取っておくぐらいがベストな選択肢なのだ。

 

「で、由佳はどうしてそんなに静かなんだ」

 

 俺と由佳は恋人同士でもなければ、付き合うためにデートをしているわけでもないので、気になったことはストレートに聞く。

 先ほどまで述べたあれこれは真剣に交際を考えている人たちのためのテクニックであって、すでに恋人のいる俺からすれば知ったことではない。

 

「慎ましやかって言いなさい。……デートなんだから、こう、雰囲気は大事でしょ」

 

 節々に本性が見えつつも、やはり由佳はデートらしい振る舞いを意識しているようだ。

 恋人らしいエッチを熱望している由佳にとって、これは道理に適った姿ではある。

 

「由佳の好きにさせるつもりで来てるから構わないけどさ。本音を言えば、俺はいつもの由佳とデートがしたいよ」

 

 仮にこのままの雰囲気でデートを続けて、エッチを始めたとしても、それは由佳としているとは言えない気がする。

 結果的に欲しい物が得られたとして、由佳もどこかで後悔してしまうのではないだろうか。

 

 俺もずっと由佳に付き合ってやれるわけではないし、いつかは由佳も別の誰かに恋人らしいセックスを求めるのだ。

 これだけの容姿でありながら告白にすべて失敗するような由佳が、簡単にラブラブな関係を手に入れられるとは思わないし、迷走の果てに若い体を欲しがるだけの男をとっかえひっかえすることにもなりかねない。

 そんなことを繰り返していたら、昔のハルマキさんの二の舞だ。

 

「みんなそうやって言うんだから。どこが気に入らないってのよ」

 

 由佳は拳を内向きに腰に当てて俺を睨みつける。

 

「デートの準備もするし、お洒落もするし、お淑やかで理想的じゃないの」

「本筋に答える前に理想的な女の子とやらについて突っ込んでおくが、美優と山本さんを知っている俺にその言葉のハードルは高いぞ」

「うぐっ……残酷なほど返す言葉がないわね……!」

 

 その辺の男子ならともかく、美優という完璧な美少女を恋人にしている俺にとって、理想的な彼女の姿とはあのレベルより下にはないのだ。

 俺が偉そうに自慢することでもないが、そう簡単にそこいらの女子が辿り着ける領域ではない。

 

「大体な、由佳とデートするって決めたような奴が、いまさら普通の女の子ヅラされて喜ぶわけないだろ」

 

 由佳に興味を持ってしまうような男は、俺と同じくあの天真爛漫さに好感を持てる段階まで脳が蝕まれている。

 そんな連中が普通の女の子らしさを由佳に求めるわけがない。

 

「そう言って、みんな最後は『やっぱり大人しい子が良かった』って離れていくのよ」

 

 由佳は恨みを吐き出すようにブツブツと呟く。

 

「それはだな──」

 

 由佳を好ましく思っていた事実に偽りはなかったはず。

 きっとデートの中で喧嘩でも繰り返して、彼女にするための評価が期待したものと違ったと嘆いただけだろう。

 

 ただ、どんな経緯があったにせよ、その言葉を由佳にぶつけるのは卑怯だ。

 普通とは違うことを求めた相手に、結局は普通であることを押し付けたのだから。

 

「男運がなかっただけだ。由佳の魅力に気づけないような男とは付き合わなくて正解だよ」

「それはマジで私もそう思うわ」

 

 由佳は腕を組んで深く頷く。

 

「だからこそ言っておく。俺を他の奴らと同じだと思うなら、このデートも止めたほうがいいぞ」

 

 このデートの行き着く先に俺と由佳が恋人同士になることはない。

 それでもなお由佳が俺とのデートにこだわったのは、俺にしかない何かを由佳が求めたからのはずだ。

 

「それもそうね」

 

 由佳はケロッと真顔に戻って納得した。

 

「あんたもなかなか言うようになったじゃないの」

「これについては由佳のおかげだな」

「じゃあそれも貸しで」

「お前な……」

 

 俺を指差して得意げにする由佳に、俺は嘆息して頭を抱える。

 由佳らしさは由佳らしさとして、このいちいち評価を下げてくる態度だけはどうにかならないものか。

 

「あんたら兄妹も難儀なものよね。借りを作ったら返さないと気が済まない性分だなんて。私はそのおかげでお兄さんとデートできるからいいんだけどさ」

 

 由佳は覚束ない足取りで、しかし先ほどよりは悠々と歩き始めた。

 

 俺と美優が恋人関係でありながら、由佳が俺とデートできることに疑問を抱かないのは、これが今までの借りの清算だと考えているからだった。

 

 ある意味でそれは間違っていない。

 由佳が美優のせいで悩みを解決できずにいるということが、このデートの存在を成立させている。

 

 俺はその悩みについても、解決のために何をするべきなのかも一切教えてもらえていない。

 なぜかはわからないが、全て俺が気づいてやらないといけないのだ。

 今日、このデートの中で。

 

 こうして接していると、悩みなんてあるようには感じないのだが、由佳は自分自身の悩みを自覚しているのだろうか。

 

「ほら、なにしてんの! さっさと今日という日を楽しみに行くわよ!」

 

 先を行っていた由佳が、俺の方を向いて仁王立ちをしていた。

 

 そして、前方に振り返って勢いよく駆け出そうとした瞬間、由佳は足をもつれさせて盛大にずっこけた。

 

「はぁ……」

 

 俺は今日一日は、由佳に優しくしてやろうと決めた。

 

 

 

 

 

 

 

「ううっ……えぐえぐ……どうしてこんなことに……」

 

 入園してすぐに医務室で処置をしてもらい、俺は膝に絆創膏を貼り付けた由佳をベンチに座らせていた。

 

「服が汚れなくてよかったな。傷も浅かったし」

「昔から転ぶのに慣れておいてよかった……」

「そこは転ばないようにとかできないのか」

 

 由佳の幼少期なんて大変だっただろうな。

 ここまで大きく育ててくれた親御さんを労ってあげたい。

 

「こんなところで燻ってなんかいられないのよ。早く絶叫しに行かないと」

「その手の乗り物が好きなのか。なら、当初の予定通り人気のありそうなところから攻めよう」

 

 よほどキャラクターに人気のあるアトラクションでもない限り、園内で最も人気なのはジェットコースターだ。

 俺は遊園地になど縁のあるタイプではなかったが、それでもジェットコースターに乗らないと遊園地に来た気がしない。

 

 待ち時間は四十分。

 夏休みであることを考えれば短い行列だった。

 

 破局しやすいデートスポットナンバーワンで名高い遊園地で、鬼門になるのがこの待ち時間。

 自分の番になるまでただ立って待つだけの苦行を強いられることになる。

 俺と由佳はカップルではないにしても、この時間がもどかしいことには変わりない。

 

「この待ち時間って無駄よね。なんで整理券とかにしないわけ?」

「代行業者がのさばってまともに楽しめる人が減るからだろ」

「悪い奴らのせいで世の中が不便になるのね」

「どこの世界もそんなもんだよ」

 

 由佳はブツクサと不満を述べるものの、態度や声を荒くしないので釣られてイラつくことはなかった。

 

 どこぞのアミューズメントパークのようにアニメチックな建物が作られているわけでもないこの遊園地には、高速で移動する車体を支えるための太い鉄骨が並んでいるだけ。

 身の上話でしか盛り上がれないこの時間だが、由佳といるのは苦痛ではなかった。

 

「前から疑問だったんだが、由佳のクラスってどうしてあんなに不健全なんだ?」

「不健全だと思うから不健全なんでしょ。みんな普通に恋愛して普通にセックスしているだけ。特別なのは美優と遥のほう」

 

 そう言われてしまうと、別に若いうちから性経験を積むことは悪いことではないし、美優には性別問わず惚れてしまいそうになる一面があることを俺は知っている。

 それでも友人たちの性行為への抵抗の無さは異様だと思うが。

 

「小学生の頃から、とりわけ仲のいいメンツとクラスが変わらなかったのも大きいけどね。校外学習のお泊まりで、とある女子生徒の体を使って保健体育の勉強をしたことから全ては始まったの」

「致命的に原因があるじゃないか……」

 

 やはりこいつらは不健全だ。

 もはやそれを疑うことはない。

 

「この歳の女の子って相手が歳上なら冴えない男とも平然と付き合っちゃうの。そういうのに騙されない知恵にはなってるから」

「その歳上の俺に出会って数分で誘いをかけてきたのが由佳の友達じゃなかったか」

 

 初対面の俺に向かって乱交しようと持ちかけてきたときは、さすがにあの子たちの将来を心配したものだ。

 

「美優の兄というステータスを舐めすぎ。ま、学校にいなきゃわからないのも無理はないけど」

「学校じゃ無愛想にしてそうなのに。人気者だよな」

「お兄さんの前でも無愛想だったんじゃないの?」

「それは……そうだな……」

 

 美優は今だって真顔の時は無愛想だし、そんな中でふとしたときに見せる愛らしさがあるのが良いのだ。

 もしかしたら、学校でもそうした姿を見せることがあったのかもしれない。

 いつだか話に聞いた優花里という少女も、美優の意外な優しさに触れて惚れ込んだわけだしな。

 

 そんな他愛無い会話をしているうちに、ようやく俺たちの番が回ってきた。

 入場口に垂らされていた太いロープが上げられて、俺たちは一番前の席に並んで座る。

 

 安全バーを腰まで下げると、由佳が俺の手を握ってきた。

 

 その重ねられた手には、俺の手首をねじ切るつもりなのかと思うほど強烈な力が込められていた。

 

「由佳、さすがに痛いんだが」

「我慢しなさい。あともっと何か話して」

 

 ジェットコースターを発進させる合図が鳴り響き、ガタンと揺れる車体。

 

 由佳の顔が青白く変わっていく。

 

「由佳、お前、まさか……」

「いいから何でも話して。お気に入りのAVについて語ってもいいから」

「デートでそんなことを話すカップルがいるか」

 

 傾斜四十五度の鉄骨の坂道を、俺たちはゆっくりと登っていく。

 由佳の体は小刻みに震え始め、唇を噛み締めるその顔からは完全に血の気が引いていた。

 

「答えろ。どうしてそんなに怖いのにジェットコースターに乗った」

「バカね。絶叫マシーンよ。絶叫するために乗らなきゃ何のために乗るの」

「そこまで自分を追い込むことないだろ……!」

 

 たまにズル賢くなるので忘れていた。

 こいつは根本的にアホなのだ。

 

 やがて頂点へと辿り着いて見えてきた、その絶景の中にジェットコースターが飛び込もうと角度を下向きに変える。

 

「あ、待って。これ死ぬ。待って止めて!」

「落ち着け、由佳。逆に考えろ。ジェットコースターが派手にすっ飛んで爆発でもするイメージを持てば逆に大丈夫な気がしてくるはずだ」

「するかっての!!!! もういいから! 後ろに下がって! ギブ! ギブ!!」

 

 そんな由佳の懇願も虚しく、車体がいよいよ前傾斜の限界にまで至ると、ジェットコースターは無慈悲な体感垂直落下を敢行したのだった。

 

 ──ギャァァァアアアアアアア!!

 

 隣から断末魔の叫びが聞こえてくると、そう思っていた。

 

 しかし、コンクリート床を面にして迫ってくる景色と暴風の中、俺が隣の座席から感じたのは、俺のほうが悲鳴を上げたくなるほど手に指を食い込ませられる痛みだけだった。

 由佳は目をギュッと瞑って縮こまっていて、早くこの地獄が終わらないかと祈っている。

 

 俺も絶叫マシーンに乗ったらできるだけ騒ぎたいタイプなのだが、由佳が心配で目が離せなかったので結局は俺も声の一つも出さずに終わってしまった。

 

 降車位置にまで戻って来ると、由佳はようやく顔を上げて周囲をキョロキョロと見渡した。

 そして、スタッフの指示に従って安全バーを上げると、ヨタヨタと歩いて俺の服を掴んできた。

 

「死んだかと思った……」

「生きてるよ」

 

 ジェットコースターが怖い人なんて珍しくもないけど、ここまでボロボロになった奴を見るのは初めてだな。

 

「これでこそ絶叫マシーンって感じだったわね」

「絶叫どころか外部情報を全部シャットアウトしてただろ」

「い、いけるときはいけるのよ。今回は出ないパターンだっただけで」

「そうか。とりあえず、頑張ったな」

 

 左手にはまだ鈍い痛みが残っているけれど、この痛みと引き換えに由佳の恐怖が少しでも和らいだのならよかった。

 

「んじゃ次は絶叫迷宮ね」

「それオバケ屋敷だぞ?」

「知ってる。でも、人気のとこから攻めるなら、次はそこでしょ」

「待て」

 

 この流れだと由佳は絶対にオバケが苦手なタイプだ。

 そして悲しいくらいアホの子だからそれをわかってて行こうとしているに違いない。

 

「せめてどこか緩いアトラクションを挟んでからにしよう」

「正気? お兄さんは温泉に入る前のかけ湯が済んだら露天浴場で涼むの?」

「そうやって微妙に反論できない理屈をゴリ押しするのはやめないか」

 

 まずもってアレがかけ湯のレベルだったとは思えないのだが。

 待ち時間も短いわけではないし、そこで落ち着いてくれることを願おう。

 

 俺たちはまた長い行列の最後尾に着いて、ボロいままの壁を残した第二の絶叫施設へ並んだ。

 この絶叫迷宮は文字通り、内部が迷路のように入り組んでいて、グループ単位で入場した客が鉢合わせする可能性もある珍しいタイプのオバケ屋敷だ。

 内装は廃病院などのコンセプト物ではなく、ファンタジー映画にでも出てきそうな純粋な迷路になっている。

 

 3Dマッピングなどの新しい技術を導入していて、そこにあるはずなのに通れる壁があったり、何もない場所から音が聞こえてきたりと、かなりの力の入った演出が盛り込まれているらしい。

 オバケ屋敷は怖くないからつまらない、という層も獲得することに成功した、次世代に続くこの園の目玉アトラクションだ。

 

「迷子になって人が出てこなかったらどうするつもりなのこれ」

「時間が経つごとに案内表示が出たりハズレ道の壁が塞がれたりして、簡単になっていくみたいだぞ。それに加えて脅かし役のスタッフが出口に追い込むとか」

「最後のはあんまり有り難くないわ……」

「怖すぎて進めなくなった人用に非常口も多くあるから、とにかく冷静にな」

 

 俺も女の子と遊園地になど来たことはないが、オバケ屋敷はやはり相方が怖がってくれたほうが楽しいものなのかな。

 

 美優がオバケに怖がる姿なんて想像できない。

 それはそれでギャップに萌えるけど。

 

 山本さんは怖かろうが怖くなかろうが、可愛らしい悲鳴を上げてひっついてくれそうなので、やはり男の夢と理想が詰まっている人だな。

 

「次のグループで入って、事前説明を挟んでから本入場だな。心の準備は出来てるか?」

「出来てようが出来てなかろうが、行かなきゃいけないんでしょ。なら行ってやるっての」

 

 誰も強制していないのに謎の覚悟を決める由佳。

 ここまで一時間近くも待っているわけだから、今更引き返すというのがもったいない気持ちはわかる。

 

「言っておくけど、私は別にオバケなんてものを信じてるわけじゃないから」

「ああ、そうなのか?」

 

 たしかに、由佳はどちらかといえば堅実なタイプだ。

 非科学的なものをここまで怖がるのは、少し意外だったりする。

 

「同じホラーでも、雰囲気で怖がらせるタイプと、驚かせて怖がらせるタイプがあるでしょ。私はビックリ系のホラー映画とかが苦手なの」

「なおのことオバケ屋敷に向いてないんじゃないか」

 

 まあこうなったら仕方ない。

 気弱な犬の散歩でもするつもりで、しっかり手を握っておこう。

 入場前からガッチリと由佳が俺の手を掴んでいるので、傍から見たらさぞ仲の良いカップルに見えていたに違いない。

 

 客を待機させるための廊下を五分に一度のペースで前進し、やってきた事前説明の部屋で四十人ほどが席に座った。

 そこで基本的な進み方と諸注意を聞かされ、複数設置された迷路の入り口に立たされると、それぞれ迷路の中に案内される。

 

 入場と同時に渡されたペンライトを手に、俺たちは薄暗い闇の中へと放り込まれた。

 

 大量の手形や赤黒い傷跡が付いた壁が、狭い通路を作っている。

 この圧迫感も恐怖を駆り立ててきて良い塩梅だ。

 3DマッピングはSF映画みたく完全な立体を作り出せるわけではないのだが、この薄暗さが手伝って本物の壁に近い質感を得られている。

 

 行き止まりに着くと、そこには冒険者が書き残したような紙切れが置いてあって、そこに出口に向かうためのヒントが書かれていた。

 『パーク伯爵の絵を見過ぎるな!』とか、禁止されるとしたくなる人間の心理をよく突いている。

 おそらくは絵画だと思っていた映像が急に変化したり、立ち止まった客をスタッフが脅かしにきたりするんだろうな。

 

「……楽しんでるか?」

 

 例によって会話はなかった。

 それどころか由佳はここでも目を瞑っていて、俺が手を引く力の向きを頼りにヨタヨタと歩いているだけ。

 

「怖くなると、無口になるんだな」

「怖くない。目を開けたら何かいそうで嫌なの」

 

 それを怖がっているというのではないか。

 オバケを信じている人と何が違うのだろう。

 

「危ないから、目だけでも開けてくれないか? また転んだりしたら足に悪いし」

「わかった。周りには何もないのね? てかお兄さんが目の前に立ってて」

「はいはい」

 

 由佳へのお姫様接待にもだいぶ慣れてきた。

 中身がポンコツだとわかっているせいか、このワガママな態度にも愛嬌を感じてしまっている自分がいる。

 俺もだいぶ毒されてるな。

 

 俺が由佳の前に立って肩を叩くと、由佳は片目から薄っすらと瞼を上げた。

 そうして確かに俺が見えることを確認すると、由佳はまず俺にガシッと抱きついてきて、それから周囲の様子を見渡した。

 

「気味の悪い場所ね」

「オバケ屋敷だからな」

 

 俺はわかってたはずの事実をいちいち掘り返してくる由佳の愚痴を聞き流しながら、メモに書いてあった通りに壁の記号を解読して進んでいく。

 

 ヒントは大抵は行き止まりに置いてあり、それを読みさえすれば脱出するのは簡単だ。

 だが、メモを読み終えたあとに元来た道を戻ろうとすると、行き止まりで誰もいなかったはずの場所からガタン! と音がしたり、壁一面が血のような赤に急に染まったりして、次第に蓄積された恐怖がヒントを読みに行くのを拒むようになってしまうのだ。

 

「手を離したら許さないからね!」

「わかってるよ」

 

 これまた俺のほうが叫び声を上げたくなるほど強く握られた手に、俺もそろそろ出口が見えてくるのではないかと思い始めていた頃。

 T字路に差し掛かったところで、右側の通路から硬いものを落とすような鈍い音が鳴った。

 

 ビクつく由佳をたしなめながら、俺が先行してT字路の右側を確認すると、そこには一人の女性が同じようにこちらを覗いていた。

 どうやら他の客と鉢合わせになったらしく、俺は相手に軽く会釈だけをした。

 

「ふん。脅かすんじゃないっての」

 

 由佳が通りがかっただけの罪のない女性に毒づいた──その直後。

 

 鉢合わせになった女性の首が、ストンと落ちて床に転がった。

 

「えっ……」

 

 由佳の口から漏れた、息の詰まるような声。

 それをかき消すように、ケタケタと無気味な笑い声が、もげた女の口から通路内に響き渡った。

 

「ギャァァアアアアアアアア!!」

 

 ようやく発せられた由佳の絶叫。

 その声は、俺を置き去りにして遠のいていく。

 

 ここにきてまさかの猛ダッシュだった。

 

「待て! 由佳! 迷子にだけはなるな!!」

 

 呼びかけてもパニック状態の由佳に届くはずもなく、俺はこの迷路の中で人探しをするハメになった。

 

 幸いにも出口が近かったので、俺は由佳と離れてからまだ通っていない通路に引き返し、そこに由佳がいないことを確認してからアトラクションの外に出た。

 

 由佳は外のベンチでめそめそと泣いていた。

 こいつはどうしてこんなにアホなのだろう。

 そして、俺はどうして、こんなにポンコツで身勝手な女の子を嫌いになれないのだろう。

 

「あんな脅かし方するなんて聞いてない……」

「教えたら怖くないからだよ」

 

 由佳は涙を拭いていたハンカチをポーチにしまうと、そこから園内地図を取り出して広げた。

 

「ううっ……次はどこに行くの……」

「め、飯でいいんじゃないか」

 

 あれだけ怖い思いをしてもへこたれないのはさすがというか。

 このバイタリティだけは俺も尊敬している。

 

 時間も頃合いだったので、俺たちはレストランに入ってお昼にすることに。

 レストランといっても先に席を取って、注文したら番号札を渡されて待つようなスタイルのお店だ。

 由佳が目ざとく空きそうな席を見つけてくれたので、ほとんど待つことなく俺たちはランチにすることができた。

 

「今日は、デートっぽい、かな……?」

 

 由佳が頬を指でかきながら照れ臭そうに訊いてくる。

 

「思ってたよりはデートっぽくなってるよ」

「そ、そっか」

 

 恐怖のせいで頭がやられたのか少女っぽくなってしまった由佳。

 こうしたしおらしいところも嫌いではない。

 

 それはともかくとして、俺は由佳の足が気になっていた。

 捻ったりはしていないようだが、どこか足を引き摺るそぶりを見せていて、よく観察してみるとベルトが擦れるところの肌が赤くなっている。

 もっと楽な靴を履けと言いたいところだけど、これだけ頑張ってくれている子を落ち込ませたくはない。

 

「次に行くところは俺が決めてもいいか?」

「え? な、なに、行きたいところあるの? なら早くそう言いなさいって」

 

 俺がデートに積極性を見せたからなのか、由佳は途端に元気を取り戻した。

 現金な分だけ扱いやすいヤツだ。

 

 俺はできるだけレストランに近く、かつ面白そうなアトラクションから先に回れるよう、地図を見ながらルートを考える。

 できるだけ足の負担が少なくなるように移動ができることと、途中に休憩できるカフェがあることを条件にすれば、自ずと回る順番は決まった。

 

 本格的に作り込んだアトラクションとしては、光線銃モチーフの武器を渡されてクルーザーで回るものがあったり、水上ボートで人工の湖を駆け回るものがあったり。

 外側に設置されているものではティーカップやメリーゴーランドなどのいかにもなアトラクションが多く、それを由佳が「カップルっぽい!」とせがむので乗ることになったり。

 

 途中で計画変更しながらもなんだかんだでデートらしい時間を楽しんでいた俺たちだったが、由佳が足を痛そうにするのがさすがに見過ごせなくなってきた。

 

「由佳。次はそこのカフェに入るぞ」

「また? さっき休んだばっかでしょ」

「いいから。適当に空いてるベンチでもどこでも座れって」

 

 俺が強引に休ませようとするので、さすがの由佳も何を意図しての発言なのか気づいたようだった。

 場所代としてアイスコーヒーを二つ買って、俺と由佳は丸テーブルを囲んで座る。

 

「こんなの平気なのに」

「痛いの庇って変な歩き方してただろ。ちょっと見せてみろ」

「あっ、ちょっと、ッ──!」

 

 すでに過剰なまでのスキンシップを取ってしまっている関係なので、俺は失礼だと思うこともなく由佳の足を触って傷のほどを確かめた。

 案の定、ベルトの跡が真っ赤に腫れている。

 

「絆創膏はないのか?」

「ない。ないし、この靴だと見えるから可愛くない」

 

 由佳は靴を脱いだ足をパタパタとさせて、不満げながらもさきほどより色の良い顔に戻っていた。

 しきりに足の指を開いては閉じて、よほど窮屈だったと見える。

 オシャレは我慢とは言うが、我慢のし過ぎも良くない。

 

「絆創膏が見えてたって由佳は可愛いよ。いつも元気なのが由佳の良いところだからな。多少の怪我ぐらい愛嬌みたいなもんだよ」

「それって、褒めてんの?」

「褒めてるよ。少なくとも俺はそういうところが由佳の良さだと思ってる」

「へ、へぇ……」

 

 由佳はいつもみたいに鋭く言葉を返してはこなかった。

 ただやりづらそうに、口をモゴモゴさせている。

 

 由佳には叱るような言葉を浴びせるより、褒めて前を向かせる方が効果的だな。

 

「駅で会ったとき、素直には言えなかったけど。由佳がそんなにキレイになると思ってなかったからびっくりした。その印象は今でも変わってない」

 

 女の子のオシャレは褒められるまでが仕事。

 その役目さえ終えてしまえば、あとに残るのは実用性だけ。

 

「俺に言われて嬉しいかはともかくとしてだ。彼氏役をやってる身としては、由佳の可愛さは十分に感じてるよ」

 

 これは本音だった。

 認めるのは悔しいが、俺がこんなにもわがままで理不尽な少女に、男として魅力を感じてしまっているのは事実なのだ。

 

「ここで由佳を見てた他の奴らも、みんな可愛いって思ってたはずだよ」

「他の人とかどうでもいいから」

 

 黙っていた由佳が口を開いた。

 

「も、もっと言って」

 

 由佳は頬だけ緩み切った状態で、しかし褒められ慣れていないせいでガチガチに固まった、なんとも言えない顔をしていた。

 

 面白いのでもっと褒めてみよう。

 

「今日のデートだって、たぶん由佳が考えてる以上に俺は楽しんでるよ。由佳といるとこっちも元気になるし、可愛い子とデートができて嬉しくないはずがないからな。足のことについては、俺にも非がある。ヒールが辛そうなのはもっと前から気付いてたけど、似合ってたから黙ってた」

 

 意識的に褒めようと思って並べた言葉だったが、口にしてみると、どれも本心だった。

 

 根が良いやつ、というのとは少し違う。

 こいつは根っからダメな部分があるし、その上で横柄で不真面目なのがこの由佳という女。

 ただ、その突き抜けたエネルギーが、そんな悪い面さえも魅力と思わせてしまう。

 ある意味では、少年漫画の大悪党に似ているのかもな。

 

「そそそ、そういう……とは…………早く……」

 

 小声で呻くように喋る由佳。

 「そういうことはもっと早く言いなさいよ」と言いたいのだろうが、口元の緩みのせいで上手く喋れていない。

 

 少し褒めすぎだったかな。

 

「だから、残りの時間を楽しむためにも、もう少し楽な格好をしよう、な? コラボショップならスニーカーとか置いてあるかもしれないし、絆創膏だってお土産用でもなんでもあれば買うか貰うかしてくるよ」

「そこまで言うならしょうがない。まかせてあげる」

「おう。まかせとけ」

 

 それから俺は由佳をカフェに待たせて、適当な靴と絆創膏を見繕った。

 ショップも近くはなかったのでなかなかに骨は折れたが、相手が誰であれ望まれることをするのは気分が良いものだった。

 

 靴の値はそれなりに張ったものの、入場券は由佳が二人分をまとめて買ってしまったので、その分のお返しだと思えば痛くない出費だ。

 

 カフェに戻って由佳に応急手当てを施し、スニーカーを履かせてヒールを箱に仕舞う。

 

 ぴょんと椅子から立った由佳は、急に目線と足の高さが低くなったことに混乱しつつも、痛みから解放されて顔色は格別に良くなっていた。

 水色のワンピースが爽やかな装いだったので、俺からするとむしろ前より好ましい格好だった。

 

「由佳ってやっぱり美人だな。なんでモテないんだ?」

「ちょっ、さっきからそんなに褒めて! なんて言えばいいのかわからないんですけど!」

 

 そうして最後は逆ギレをしてくる由佳。

 可愛げがなくてとてもよろしい。

 

「悪い、ついな。嘘は言ってないよ」

「“つい”ってなに“つい”って。嘘は言ってないとかそういうフォローはいいから。後で覚えておきなさいよ」

 

 調子を取り戻した由佳は俺に靴箱を押し付けて駆け出していく。

 次にどこに行くかまだ話してないけど、足の心配もなくなったし好きにさせてやるか。

 

 女の子を口説くことなんてしたことはなかった。

 さっきのだって、口説いたというよりはからかい半分に近い。

 それでも、女の子を褒めて喜んでもらえるというのは、これまでに感じたことのない気分の良さがあった。

 

 あるいはそれは、ただの優越感だったのかもしれないけど。

 俺も怖がってばかりいないで、もっと人が他人には触れさせないような、深いところに踏み込んでみてもいいのかもしれないな。

 

 帰ったら、美優のこともたくさん褒めてあげよう。

 テンションが上がったときしか褒めてやれてないし、俺が普段から感じている美優の魅力を伝えておきたい。

 

 たぶん、喜んでくれると思う。

 

「ほら、もっと私をちやほやして、ちゅーとかしてもいいから! イチャラブなデートをしなさい!」

 

 どうしても俺とイチャイチャしたい由佳は、人目も憚らずに大声でそんな注文をつけてきた。

 

「善処するよ」

 

 俺は独り言のように返事をして由佳を追いかける。

 

 そういや、美優と恋人としてデートしたことはなかったな。

 これまでの俺はなされるがままだったし、できるだけ俺から切り出してやりたい。

 

 でも、どうやって誘えばいいんだ?

 その前に本番エッチをするのが先か?

 常識的に考えると、デートよりセックスが先だなんて無茶苦茶だけど、俺は付き合うまでの過程が特殊だからな。

 

 俺はこれまで関わった女性の全員と、まずエッチをするところから関係が始まっている。

 そのせいで、普通の人が普通にしていることが、全くわからない。

 

「由佳は友達と遊ぶとき、どんなところに行ってるんだ?」

 

 美優はあれで引きこもり体質なので、由佳と遥以外とはそれほど遊ぶことはないはず。

 こうして聞いておけば、デートのヒントが得られるかもしれない。

 

「なんで?」

「いや、ふと気になっただけなんだけど」

 

 俺がそんな下手な話の逸らし方をすると、由佳がキッと鋭い眼をこちらに向けてきた。

 

「あー! 美優のこと考えてたでしょ! デートの最中に他の女の話をするなんてサイテー! 信じられない!」

 

 由佳は水を得た魚のように俺を非難する。

 しかし、これはどう考えても俺が悪いな。

 

「すまん、詫びる」

「とーぜん詫びなさい」

 

 由佳はスマホを取り出してメモ帳を開くと、そこについ先ほど起こしてしまった不祥事を書き込んで俺に見せてきた。

 

「これまでの詫びと貸しを合わせてもう五百ポイント超えてんの。奴隷よ奴隷。今夜は美優といるときよりイチャイチャしてくれなきゃ許さないから」

「それは頑張るけど。奴隷とイチャイチャして楽しいのか」

「楽しいに決まってるでしょ。アホなの。大事なのは客観的な事実ではなく、私がどう思うかよ!」

「なるほど納得した」

 

 五百ポイントの計算式と相対評価が気になるところだけど、今回ばかりは素直に従っておこう。

 

 由佳といるのは楽しい。

 人を幸せにするにはまず自分からと云う。

 自分が幸せになることに長けている由佳は、ある意味で誰よりも人を幸せにできる可能性を秘めているのかもな。

 

「マズいな。俺は由佳のことが好きかもしれない」

「それのどこがマズいってのよ」

 

 由佳は恨めしそうに俺を睨みつける。

 

「常識的に考えたらマズいんだよ。由佳のことが一人の女の子として好きなんだ」

「は? え? なな、なななに、言ってんの? ゆ、ゆゆ、ゆか? ゆうか? 優香? だ、誰なのそれ? また違う女の話?」

 

 由佳は盛大に吃って慌てふためいた。

 どれだけ好意を向けられることに慣れてないんだこいつは。

 

「由佳だよ。俺の半径一メートル以内にいて、遊園地でデートしてる、足に絆創膏を貼り付けたツインテールのことだ」

「そんなの、もう、私しか、いないんですけど」

「だからそう言ってる」

 

 俺が断言すると、由佳も観念して自分への評価を認めたようだった。

 そして、勢いの無くなった由佳は、俺の背中に隠れるようにして腕に引っ付いてきた。

 

「どうして私のことなんて好きになるのよ」

 

 由佳は愚痴っぽくそう溢した。

 照れている様子でも、怒っている様子でもない。

 

 この反応はさすがに予想外だった。

 由佳は美優にも男にも好かれたくて頑張っていたはずなのだから。

 

 この矛盾した言動は、情状酌量の余地もないような悪事に及んだ際の、あの無謀で強情な由佳にどことなく雰囲気が似ている。

 

 このあたりが由佳の急所か。

 

「なんで好きなのかは俺にもわからん。わからないことは、考えても仕方ないだろ」

「そ、そうね! 無駄な時間を過ごしている暇はないわ。私たちにはまだ、ラブラブホテルという最高のアトラクションが残されているのよ」

「ラブホを遊園地扱いするんじゃない」

 

 ラブホテルって学生同士でも入れるのかな。

 たしか公的には禁止されているはずの場所だが。

 

「満室だったらどうするんだ? ラブホって予約できなかった気がするけど。ビジネスホテルにでもするか?」

「待ってでも入る。年確されたらされないところに当たるまで回る」

「なぜそこまでラブラブホテルにこだわる」

「ラブラブホテルだからよ。これからセックスしますって公然と宣言して入る感じがいいんじゃない。あと、お風呂の広さが断然違う」

「決意が固いな」

 

 正直なところ、最初にラブホテルを経験する相手は美優がよかった。

 しかし、由佳の言うことにも山本さんの言うことにも従えと指示されている以上は、何かしらは犠牲になることを覚悟していた。

 

 それでいい。

 大切なのは俺個人のこだわりではない。

 最後には美優と幸せになること。

 何も気兼ねすることのないイチャましい人生を歩めるよう、どんな小さなことでも全力で取り組んでいく。

 由佳とセックスすることも、山本さんとセックスすることも、俺が美優と純愛を育むための一つのイベントでしかないのだ。

 

「いいか、由佳。俺たちはイチャイチャするには非常に不向きな関係だ。だからまず、この距離感を変えるきっかけが必要になる」

「大いに同意できる話ね」

 

 由佳は俺の話に耳を傾けて何度も肯く。

 

「この問題に対し、俺は一つの答えを持っている」

「聞こうじゃないの」

「恥じらいを持つんだ。由佳が」

「持ってますけど!?」

 

 こんな花も恥じらう乙女を捕まえて何をおっしゃるとブーイングを浴びせてくる由佳だったが、要するに褒めると照れるその愛らしさはイチャつくに値すると説明すると納得してくれた。

 

「具体的に何を変えたらいいわけ?」

「由佳が変わる必要はないよ。ちょっとしたお願いがある」

 

 これは俺にとっても、ようやく得ることのできた確信。

 遥やハルマキさんたちと出会って初めてわかったことだった。

 

「今日一日の、どこか一回だけでいい。俺のことを好きだって言ってほしいんだ」

「私はお兄さんのこと好きだけど?」

「知ってる。それでも言ってほしい」

「はあ。まあ覚えてたら言ったげる」

「よろしくな」

 

 由佳は俺のことが好きではない。

 

 いや、好きではあるのだが、女が男に向ける好意とは全くの別物。

 好きであるべきだと思ったから好きになったとか、そんな経緯で生まれた感情だ。

 

 きっとその『好き』を持て余したまま由佳と仲良くしていたら、いつかは俺も、美優と同じ道を辿ることになる。

 美優が自分では由佳の悩みを解決できないと言った理由がここにあるんだ。

 

「にしても好きって言うだけで私が恥じらうとかないでしょ」

「それしか思い浮かばなかったんだよ」

「えー、妄想のレベルが中学の男子と一緒」

「悪かったな」

 

 ニヤニヤしながら俺を馬鹿にしてくる由佳に、俺は悔しさに耐えて真面目に取り合う。

 

 美優や山本さんみたいに深刻な悩みがあるのだと思っていた。

 でも、誰も彼もがそんな特殊な境遇にいるわけじゃない。

 俺はそんな特殊に慣れすぎていた。

 

 何も難しいことを考えることはなかった。

 こいつの根底にあるのは、やはりアホという概念なのだ。

 由佳の悩みを解決するのに必要なのは、俺が思春期の相談窓口になってやること。

 それだけだ。

 

「いよっし! お兄さんには由佳ちゃんが考えた必勝告白シチュエーションをお見舞いしてやるわ!」

 

 片手を腕に掛けて力こぶを作ってから、由佳はスキップで次のアトラクションへと進んでいく。

 

 そんな必勝法があったらこれまで陵辱されずに済んでただろ、というツッコミは、入れないでおいた。

 



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ラブホテル、初体験、イチャラブセックスの予定

 

「それなりに楽しめたわね」

 

 お土産を両手いっぱいに抱えて、由佳はふわふわのツインテールとワンピースを翻し、遊園地の入退場口を振り返った。

 

 俺はあれからも由佳には振り回されっぱなしで、空いてるアトラクションや通りがかったショップがあれば口を挟む余地すらなく連行された。

 

 元気モードの由佳を相手にするのは尋常ではなく疲れた。

 ホテルに着いたら一時間ほど仮眠させてもらえないだろうかと、俺は薄い望みを由佳に向けて念じてみる。

 

「ん、なに。まだ遊びたかったの」

 

 由佳は申し訳なさそうに低姿勢で視線を送ってくる。

 

 違う、そうじゃない。

 

「遊びすぎて疲れたから、どこかで休めたら助かるなって」

「そうね。晩飯はコンビニで買って、ホテルに直行しましょ」

 

 由佳は荷物を抱えて駅へと歩みを速める。

 遊園地の近くではなく、地元のホテルを利用するつもりのようだ。

 

「いいのか? 外食して休んでからのほうが、ホテルの時間を無駄にしなくて済むけど」

「早く入ったほうが無駄にならなくない?」

 

 由佳はポカンと問い返してくる。

 

 俺と由佳との食い違い。

 ホテルの利用方法は、二つあるのだ。

 

「あ、言ってなかったけど、今夜は宿泊だからね」

「そんなの聞いてないぞ。デートは一日の約束だろ」

「一日ったら朝まででしょ。オトナのデートなんだから。遊園地だって行くことを教えてなくてもオーケーしてくれたのに、なんでラブホだけダメなの」

 

 由佳は強く言い切る口調で尋ねてくる。

 

 この聞き方をされると言い返しが難しい。

 直情的でわかりやすい主張のために、時間稼ぎのための質問すら思い浮かばない。

 

 会話ベースの議論で物を言うのは瞬発力。

 その場でなんとなく納得してしまうと、後は相手のペースで流されるまま。

 それに加えて、小さい要求を飲み込んだ後は次の大きな要求を断りにくくなるという、人間の心理的性質まで突いてくるのだ。

 

 本当に根がイヤらしい女だなこいつは。

 

「……まあ、そういうことなら、美優には明日帰るって連絡しておくよ」

 

 しかし、そんな言葉の巧さとは関係なく、俺は宿泊を否定するつもりにならなかった。

 早く家に帰っても何かが解決するわけでもないし、由佳から宿泊で入ると言われたとき、嫌だという感情が湧いてこなかったのだ。

 

「ずいぶんと物わかりがいいじゃん」

 

 由佳が怪訝な表情で俺の顔を覗き込んできた。

 

 もう少し抵抗されると思ったんだろう。

 俺としてもここまでの心境の変化は予想外だった。

 

「身勝手に振り回されるだけのデートだったら帰ってたよ。でも、今日は楽しかったからな。もう少し一緒にいてもいいかなって」

「はあ、そう。よくわかんないのね」

 

 由佳は俺の言葉に納得して、頬をポリポリとかいてから、何かを誤魔化すようにそっぽを向いた。

 

「あんた、男のくせになんで私より身軽なの。荷物持ちなさい」

「構わないけど」

 

 由佳は俺と目を合わせないまま、手に持っていたお土産を全て渡してきた。

 俺も由佳のヒールを入れた箱とか色々と持っているのだが、何かに難癖をつけなければ気が済まなかったようだ。

 

 それは駅に着いても変わらずで、電子カードを出すのに手間取っている俺にチラチラと目配せをしながらも、由佳は手伝おうとはしてくれなかった。

 

 褒められて照れているのとは違う。

 ここまで露骨だと、由佳が無理にそうあろうとしているのがよくわかる。

 

 電車に揺られながらも手すりに掴まることのできない俺が、発着時の速度変化で体勢を崩すと、由佳はその瞬間だけアワアワと俺を支えようとして、それをグッと堪えて手を引っ込めていた。

 そんなに心配なら素直になってしまえばいいのに、何を守りたくて意地になっているのか。

 

「一個ぐらいなら、持ってあげてもいいけど」

 

 由佳は目を凝らすように俺を睨んで、手のひらを差し出してきた。

 

「軽いやつにしてよね」

「助かるよ。なら、これを頼む」

 

 俺は重量はないけどかさばって邪魔だった靴箱を由佳に預けた。

 

「ありがとうな」

「ど、どういたしまして」

 

 俺が感謝を述べると、由佳は気まずそうに目を泳がせた。

 この荷物が自分で押し付けたものであることを由佳も自覚している。

 そして、こんな恩の売り方をされれば誰だって苛立つはずだということも、由佳はわかってやっているんだ。

 

「なんか、優しすぎるんだけど。逆に私への関心が薄れてるんじゃないかって心配になってきたわ。泣いちゃいそう」

「怒る気にならないのは、わざとやってるのが明から様だからだよ。それに、荷物が多くて困ってる俺を心配してくれたのは、どうあれ事実だろ。その気持ちは嬉しかったから。だから泣くな」

「ううっ……そんなこと言われたら違う意味で泣いちゃうわ……」

 

 由佳はわざとらしい演技で目蓋を擦る。

 このめんどくささが、ちょっと癖になってきた自分に危機感を覚えてきた。

 

「ま、まあ、お兄さんは私のこと好きみたいだし? これから待ってる甘い甘い男女の交わりにも、期待が高まっちゃってたりするのかしら?」

「そこは特に楽しみにはしてない」

「ここまできたらノリ良く優しさを見せなさいよ!」

 

 気づけば由佳はいつも通りになっていて、アホで自己中なままの姿がそこにはあった。

 

 このやりとりでなんとなくわかったのは、由佳は自分が主導権を握れている時だけ調子良くなるということだ。

 そのためにはある程度の反応を予測する必要があって、由佳がわざと相手に反発させようとするのは、その方が返される言葉を想定しやすいからなのではないかと、頭の端で考察してみる。

 

「ホテルに着いたらヒィヒィ言わせてやるんだから」

 

 たしかイチャラブセックスがしたかったはずの変わり身の早い女を、俺は生温かい目で見守りながら、見慣れた駅に降りて荷物いっぱいに後ろを歩いていった。

 

 夏の空が暗くなるほどの刻に、俺は由佳と一緒にホテル街を練り歩き、満室だらけのラブホテルを回ること四軒目、ようやく空室を見つけることができた。

 

「どこも一時間待ちだなんて信じられない……! おかげで三十分も無駄になったわ! どんだけセックスしたいのよ世の中の奴らは!」

「需要が多いんだよ。どんな人間だって利用の対象者だからな」

 

 俺も山本さんとエッチをする場所を探し回ったとき、シャワーとベッドが置いてある個室があればどれだけいいかと、その有り難さを改めて思い知った。

 学生はもちろん、持ち家のある夫婦でも、会社を経営しているような金持ちでも、密かに欲望を満たせるような場所は欲しくなるもの。

 由佳ではないにしても、ラブホテルそのものの薄暗い雰囲気が好きな人もいるだろう。

 

「あ、悪いけど、お金は払ってくれる? お土産を買いすぎてもうお財布が空なの」

「最初から俺が払うつもりだよ。ホテルかネカフェに来るのはわかってたからな。でも、自分で払う予定だったんなら、もっと計画的に使うか多めに入れておくかしとけよ?」

 

 ホテルのエントランスで、俺はパネルの中から無難なモダン調の部屋を選び、発光している四角いスイッチを押した。

 

「しょうがないでしょ。今日のデートのために全財産はたいたんだから」

「どんだけ楽しみにしてたんだ……」

 

 もしかしたら、由佳はヒールだけではなく、ワンピースやポーチも新品で買い揃えたものかもしれない。

 美優や遥のせいで感覚が狂っているだけで、元からデートできるだけの貯金が無かったとも考えられるけど。

 

 受付に行くと、おばちゃんが休憩レストか宿泊かと聞いてきて、俺は宿泊で答えて先払いの会計を済ませた。

 俺が相手でも年齢を疑われることはなく──気付いてても営業上はわざわざ確認などしないかもしれないが──すんなりと部屋の鍵を渡してもらうことができた。

 

 もとより三人以上で乗ることを想定していない狭いエレベーターに乗り込み、俺は由佳とともに上の階へと上がっていく。

 指定の階に着くと、予約した部屋の番号がピカピカと光っているのが見えた。

 

「人生初のラブホテルよ。正直、遊園地にいるときよりワクワクするわ」

「俺は緊張するよ。ついに来てしまったかって感じがする」

 

 俺には縁のない場所だと思っていた。

 ただのキモオタでしかなかった頃からまだ半年も経っていないのに、とうとう俺もこんな建物に来るようになったんだな。

 

「いざ、夢のラブホテルへ……!」

 

 由佳は鍵を差し込んで右に捻り、目をキラキラと輝かせながらドアノブを掴んで引く。

 

 その先にあったのは、ドアだった。

 

「……ドアね」

「二重になってるんだな。間違って開けたときの事故防止とか、防音のためだろ」

「たしかに喘ぎ声とか全然聞こえないのね。密かに期待してたんだけど」

「聞こえてたらこっちも困るだろ」

 

 俺も自分でセックスはするようになったけど、他人がしているところを直接見聞きしたことはない。

 知らない人の生の喘ぎ声なんて聞いたらどんな気分になるのかな。

 

「私は別に聞かれてもいいんだけど。まあいいや。さ、今度こそ夢の扉を開くわよ」

 

 由佳が二枚目のドアを開けると、まず目に入って来たのは大きなベッドと液晶テレビだった。

 モダンな部屋を選んだからか、ベッドの上側に例のスイッチ板が置いてあること以外は、ビジネスホテルとそれほど変わらない装いになっている。

 

「セックスするためのベッド!!」

 

 由佳はコンビニで買ってきたドリンク類をテーブルに置いて、部屋の中をあちこちと動き回った。

 

 こんなに大きいベッドは俺も初めて見た。

 横に寝てもまだ幅に余裕があるほどだ。

 クイーンサイズというやつだろうか。

 

「ビジホよりアメニティも充実してんのね。もう普段からラブホに泊まった方がいいんじゃないの?」

 

 由佳は部屋に置かれた化粧台を物色して、商品宣伝用の乳液サンプルを眺めながら呟く。

 

「どっちを選ぶにしても良し悪しじゃないかな。値段はそんなに変わらないし、この部屋で何人もセックスしてるのが気にならないならラブホを選ぶのもありだと思うよ」

「どうせビジホでだってみんなセックスしてるでしょ」

「いらんことを言うな」

 

 俺も由佳に預けられていた荷物をソファーに置いて、空いたスペースに腰かけた。

 ソファーも二人用にしては大きすぎるくらいのサイズがあって、その場で行為を始められるだけの広さが取られている。

 

「そういや、急に泊まりって言われたから着替えがないな。買ってくればよかった」

「要らないっての。私だって持ってきてないし」

 

 由佳が俺の前で自信ありげに仁王立ちする。

 

「ラブホテルってのは、行きずりの男女が終電の無くなった夜を過ごすためにあるの。そして本能のままにセックスに及んで、朝には昨日と同じ服を着て家に帰るのよ。それがいいんでしょうが」

「こだわりがあるのは伝わってきたよ」

 

 言われてみれば、ラブホテルに準備万端でお泊まりするほうが違和感がある。

 これに関しては由佳の言い分の方が正しそうだ。

 

「ところでなんだけど」

「どうした?」

 

 お互いに身軽になって落ち着いたところで、由佳が会話を仕切り直す。

 

「セックスってどうやって始めればいいの?」

 

 由佳から飛び出したまさかの疑問。

 しかして俺も答えを知らないのだった。

 

「どうかな。風呂とか入るんじゃないか?」

「風呂! そう風呂よ! 大事なことを忘れてたわ! スケベ椅子とかあるかしら……!」

 

 ウキウキ気分で風呂場へ駆けていく由佳に、俺も気にはなっていたので後をついていく。

 脱衣所のドアを開けると、透明な壁ごしの風呂場が見えた。

 

「広い!! でもマットもローションもスケベ椅子もない!!」

「ないのか。俺も置いてあるのかと思ってたよ」

「フロントに電話すれば持ってきてもらえるかな?」

「さすがに無理だろ」

 

 マットも特殊プレイの一環だからな。

 普通のカップルは使わないだろうし、ローションを散らかされたら掃除も大変そうだ。

 

「とりあえずお湯を入れとくぞ」

「はーい」

 

 ベッドルームに戻っていく由佳の返事には、すでに風呂場への興味がなくなっていた。

 飽き性というより、気の移り変わりが早いんだろうな。

 

 お湯張りはタイマー式で、時間を指定してボタンを押せば自動的に止まるようになっていた。

 風呂の様子を見にこなくて済むのは、ホテルに入ってすぐに行為に及びたいカップルへの配慮だろうか。

 

 ボタンを押してから俺はカゴに入っていたバスマットとタオルを持ってきて、手に取りやすい位置に移動させておく。

 泡風呂用の液体パックなんて物もあったので湯船の端に置いてみた。

 

「お兄さん! ヤバいの見つけた! 来て来て!」

 

 浴室にいた俺に背後から由佳がタックルしてきた。

 テーマパークではしゃいでいたときよりもテンションが高い。

 

 脱衣所から出ると、お湯の出る音で誤魔化されていた卑猥な声が聞こえてきた。

 液晶テレビには裸の男女が後背位で交わる様子が映し出されている。

 

「AVが映った! アダルトビデオが映ったわ!!」

「繰り返さなくてもわかるよ」

 

 俺は由佳に促されるままにベッドの縁に座り、並んでAVを鑑賞する。

 

 俺も誰かと一緒にAVを観るのは初めてだ。

 さすがの由佳が相手でも、女優の喘ぎ声だけが室内に響くようになると気まずい気分になってくる。

 

「これね、メニューボタンを押すと、好きなAVを選べるようになってるの」

 

 由佳がリモコンのメニューボタンを押すと、AVのパッケージがずらっと並んだ選択画面に切り替わった。

 それから由佳はそのリモコンを俺の手に委ね、期待の眼差しで俺を見つめてくる。

 

「選んで」

 

 絶対に言われると思った。

 自分の性癖をこんな形で暴露することになるなんて。

 俺も空気が読めないわけではないから断りはしないが、美優に報告とかされたら余計なイメージを与えかねない。

 

 ……いや、美優には俺のお気に入りのAVもエロアニメも全部バレてるんだったな。

 

「俺は内容よりも女優で選ぶんだけど」

「御託はいいから選びなさい。どうせ背が低くて巨乳の女が好きなんでしょ」

「どうせとか言うな。それに年下系が好きなのは二次元の話であって、現実では普通にキレイな人が好きだよ」

「あのエロ女みたいに?」

「山本さんだって」

 

 みんなしてエロエロちゃんだとかエロ女だとか失礼な。

 否定できないぐらいエロい人ではあるんだけど。

 

 リモコンのボタンをポチポチと押してページをめくっていくと、見たいようなそうでもないようなタイトルが続き、ようやく目についたのが『受験勉強にきた真面目な眼鏡っ子が図書館でレイプされる! 閉館しても終わらないアクメ地獄!』という非常にわかりやすく性癖を突いてくるものだった。

 

 由佳が無言で急かしてくるので、俺は決定ボタンを押して映像を再生する。

 

「女優で選んだ」 

「露出プレイが好きなんでしょ」

 

 場面は女優が図書館で本を選んでいるところから始まり、客として配置されたエキストラを挟んだ本棚の物陰で、男優が女優の口を塞いで無理やり服を剥いでいく。

 

「地味で巨乳のギャップが良いな」

「巨乳と露出プレイが好きなんでしょ」

 

 まるでこれまでの俺の性体験を見てきたかのような由佳の言及に、上手い言い訳が思い浮かばなかったので俺は口を閉ざした。

 

 途中から口が自由になっても女優が叫ばないあたりにAVらしいご都合感を覚えながら、一つのプレイを鑑賞し終え、次は助けを求めたはずの利用客に代わる代わるレイプされるシーンへと移っていく。

 

「どう? 興奮してきた?」

「微妙だな。人と一緒だからってのもあるけど、肝心の部位が隠れるようなカメラワークになってるのが気になる」

「やっぱりそうよね。ラブホのAVのくせにエロくないってどういうことなの」

 

 二人して真顔でAV鑑賞をしているこのシュールさ。

 これを行為のきっかけとして使うのは難しそうだ。

 

「他にもないのかな」

 

 由佳は俺からリモコンを取り上げてまたメニュー画面に戻る。

 ホテルで観るAVは新鮮さがあって最初は楽しかったけど、慣れてくるとどれも似たような内容に思えてきた。

 

「身長140センチのKカップアイドルだって。お兄さんめっちゃ好きそうじゃん」

「好きな人がロリで巨乳だっただけであって、ロリ巨乳が好きなわけじゃない」

「絶対に好きでしょ。興奮したらシコっていいからね」

「この野郎……」

 

 数字を盛っているとしか思えないアイドルのとんでもないスリーサイズに、俺はそこはかとない興味を抱きながら、再びAVを鑑賞した。

 

 今回は女優そのものが売りのようで、プレイ自体はベッドで男と交わるだけのオーソドックスなものになっていた。

 

「美優の方がエロいわ」

「それは同意する」

 

 残念ながらこちらも股間にピクリと来るものはなかった。

 美優と山本さんを知ってしまったせいで、興奮するAVのハードルも上がってしまったようだ。

 

 というより、今の俺はAVをオカズに抜くことができるのだろうか。

 

「シラけるからやめやめ。私はまずなにより普通にセックスがしたいの。普通に」

 

 これまでお仕置きエッチしかしたことがない由佳にとって、恋人らしくイチャましいセックスをするのは悲願だった。

 

 俺だって、美優のエロさに触発されて興奮が抑えきれなくなったときは自分から誘ったこともあるが、こうして落ち着いた状態からセックスを始めた経験はない。

 

 普通のセックスに関しては、お互い処女と童貞みたいなもの。

 だからといって、ここで「わからない」と言ってしまっては男が廃る。

 やはりリードするならこちらからだろう。

 

「セックスっていったらまずスキンシップだ。これから由佳に触るけど、構わないよな?」

「と、当然よ。いつでも、かかってきなさい」

 

 両手を上げて身構える由佳に、俺はベッドの中央に移動するように指示して、そこで改めて向かい合った。

 

「手から少しずつ体の方に触っていくからな」

 

 普段から露出している部位のうち、最も触れ合うのに抵抗がないのが腕だ。

 手を繋ぐのは人前でもできるが、脚をさすったりキスをしたりすることはほとんどない。

 それぐらい習慣化されたイメージが脳には刷り込まれている。

 

 俺は由佳の手を甲の側から握り、それから手首に指を回して、前腕から肩に向かって触れる場所を徐々に上に移していく。

 二の腕にまで俺の手が触れると、由佳の体がわずかにビクついた。

 

「わ、わかってると思うけど、男にこんなに触らせたのはお兄さんが初めてなんだからね。そのあたり、噛み締めながら触りなさいよ」

 

 偉そうなことを言いつつ仔犬のように不安げな目で見つめてくる由佳を、俺はできるだけ刺激しないように、二の腕のあたりからは少し長めに触るようにして肌の触れ合う感覚に慣れさせていった。

 

 腕の露出している部位のどこを触れても由佳の体が強張らなくなったところで、次は服の上から、ワンピースの輪郭をなぞるように腹部を触っていく。

 

「ねえ、これって普通のセックスなの? もっとこう、情熱的なキスをしながら、ベッドに倒れ込んでくんずほぐれつするんじゃないの?」

「それはドラマの見過ぎだと思うが……」

 

 しかし、このセックスの仕方に違和感があるのは事実だ。

 相手が由佳というもあって慎重になりすぎたかもしれない。

 

「そういうことなら」

 

 俺は由佳の手を正面から恋人つなぎして、反対の手で腰を支えながら由佳をベッドへと押し倒していく。

 

「暴れるなよ」

「わ、わかっ、わかってるっての」

 

 由佳は反射的に手を跳ね除けそうになるのを堪えてベッドに横たわった。

 下半身を密着させると、自然と由佳の脚が開いて、俺はその間に入るように覆いかぶさる。

 

 その瞬間、由佳は自分の股を隠すように、ワンピースのスカートを引っ張った。

 

「ちょっ、まっ、やっぱダメ!!」

「またそんなこと言って。いつまでも進まないだろうが」

 

 俺はふくらはぎから由佳の脚を上へと触れていって、股座にまで手を近づけると、スカートを引っ張る由佳の手をどかしにかかった。

 しかし、由佳は抵抗する力を緩めることはなく、頑としてスカートをめくらせようとしない。

 

 いざとなると奥手になるこのわがままな女に、いつまでも従っていたら終わるものも終わらないので、俺は膝の両側から由佳のお尻を撫でるようにワンピースの中に手を差し込んでいく。

 

 その指先に触れたのは、スカートの下にあるものとしてイメージしていた女性用下着の刺繍の硬さではなく、ごくごく細い、たった一本の繊維質だけだった。

 

「……由佳、お前まさか、これ」

「あの、これは、気の迷いというか……!」

 

 由佳が履いてきたのは紐パンだった。

 しかも、この布がまるで手に触れない感覚からして、Tバックであることはまず間違いない。

 それどころか、極小マイクロビキニの可能性すらある。

 

 俺が覆いかぶさったときにスカートがめくれて、その中にあるものを由佳が改めて目にしたときに、思っていた以上に恥ずかしい格好だったことに気づいて羞恥心が爆発したのだろう。

 

「ちょっと、調子に乗りすぎたみたい! だから、その、タンマで!」

 

 由佳は額に冷や汗を浮かべて、スカートの中に突っ込んだままの俺の手を掴み、行為を中断しようとしてくる。

 

 このセックスは由佳の要望で決まったものだ。

 だから、どんな流れでするのかも、由佳の望み通りにすべきだと思う。

 

「……由佳。このまましよう」

 

 俺は由佳の意思に反して、ワンピースを脱がしにかかった。

 遊園地デートでの由佳とのやりとりを思い返すと、俺がしたいことを主張したほうが由佳が喜んでくれる気がしたからだ。

 

「待って待って! 普通のパンツを買ってくるから! それから再戦で!」

「途中退室はできないって受付で言われたろ」

 

 俺は腕を掴んでいる由佳の手を、無理な力は入れないように剥がしていく。

 

「なら、脱衣所で脱いでくるから……!」

「脱がなくていい。そのままの姿の由佳が見たい」

「へ、変態! 私のエッチな下着姿がそんなに見たいの!?」

 

 涙目で抗議をする由佳に、俺は脱がす手を止めた。

 このままだとレイプしているときと変わらなくなってしまう。

 やはり服を脱がせるには北風ではなく太陽にならなくては。

 

「見たいよ。こんなに由佳の体に興味を持つことになるとは思わなかった。できれば、包み隠さず全部を見せてほしい」

「そう、なの……?」

「ああ。今日だって、由佳のことは何度も可愛いって思ってるから。女として意識し始めてるのかも」

「ば、ばか。美優がいるのに、私にそんなこと……」

 

 由佳はチラチラと部屋の隅に目をやって気を紛らわしながら、満更でもない顔で体の力を抜いていく。

 

 はたしてこれも雰囲気を出すための演技なのか、本気で俺に惚れ込んでいるのか。

 我ながら酷いたらし込みだと思うが、嘘を言ったつもりはない。

 素直な気持ちとして、今の由佳はエロくて可愛いく感じている。

 

「そんなに言うなら、見せてあげないこともないけど」

 

 由佳は「せっかく買ったし」と呟いて、ワンピースの裾をお腹あたりまで捲り上げた。

 

 その細い体でまず目が行ったのが、一本の紐だけが巻かれている腰骨だった。

 皮膚まで薄い由佳の、骨張った下腹部の逆三角形が、まだ未発達な体を生々しく感じさせる。

 局部を隠すために申し訳程度に付けられた黒い布は、一応は股下まで伸びているようだったが、そのほとんどが割れ目に食い込んでいた。

 

「中学生なのに、エロい体だよな」

「お兄さんが、ロリコンなだけでしょ」

「さすがにもう否定できないかもしれない」

 

 俺は他愛無い話で気を逸らしながら、内側に重ねられたキャミソールごと服を持ち上げていく。

 その胸部には、乳首だけをギリギリ隠す三角形の布が三つの頂点で支えられていた。

 わずかな高低差があるその丘の頂点を凝視すると、うっすらと小ぶりな突起が浮いているのがわかる。

 

「マジに興奮してきた」

 

 羞恥に耐えながらも下着姿を晒す由佳を見ているうちに、俺のズボンの中で愚息が熱を溜め込み始めていた。

 これまで何度も美優の命令で由佳とエッチをしてきたせいで、体がもうセックスをする相手だと認めてしまっている。

 

「なら、これを買ってよかったわ」

「由佳だから似合う格好だと思う。エロいし可愛いよ」

「もう、わかったってば」

 

 俺がワンピースを脱がせて取り去ると、由佳はベッドのシーツを掴んで、隠したい想いと見せたい想いの板挟みに戸惑いを滲ませた。

 

「私ばっかり脱がされるの、不公平じゃない……?」

 

 由佳から漏らされた不満に、俺はハッとさせられる。

 女の子を一方的に脱がせるのは配慮が足りなかった。

 

 俺はまずポロシャツを脱いでベッドに投げ置いた。

 その裸になった俺の上半身に、由佳がペタペタと手を触れさせてくる。

 

「案外、しっかりと筋肉がついてるのね。もっと引きこもりみたいな体をしてるかと思ってた」

「脂肪も筋肉も付きやすい体質なんだよ。今は色々あって少し引き締まってる」

「セックスのしすぎでしょ」

 

 由佳はそう口にしながら、山のように張っている俺の下腹部に視線を落とした。

 薄っすらとその頬が紅みがかって、わずかに緩む。

 

「なんだかんだ言っても、体は正直ね」

 

 そのズボンの膨らみに手を添える由佳。

 由佳は女としての自分に性的興奮をしてもらえることに、わかりやすく悦びを感じるタイプだ。

 

「脱がせてもいい?」

「いいよ」

 

 由佳は体を起こすと、俺のズボンのチャックを下ろして膝まで脱がせた。

 生地の薄いパンツには、勃起の具合がよりリアルな形になって表れている。

 

「生のモノを見るのは、初めてだから。緊張するわ」

「カラオケのときに見てなかったか?」

「あのときは、遥の乱入があったからよく見えなかったの」

 

 由佳は口先が上手く回っているときは余裕綽々で煽ってくるくせに、いざ実際にする場面になって雰囲気が出てくると、途端に女の子らしい恥じらいを伺わせる。

 美優も山本さんも、エッチをするときに恥ずかしがり屋になる点では共通しているが、どのような行為に対して恥じらいを感じるのかがそれぞれに違うんだよな。

 する方としてはどの反応も新鮮で楽しい。

 

「えいっ」

 

 間をおかずに由佳は俺のパンツをずり下ろし、そこからついに生のペニスが晒される。

 トランクスのゴム紐に弾かれてブルンと飛び出した、そのカサの付いた肉の突起物に、由佳の瞳孔が大きく開いた。

 

「おぉ……すごいえっちな形してる……」

「毎日見てる側としてもそう思うよ」

 

 性器を晒すことをなぜヒトが恥らうようになったのか知らないが、その一つの要因としてこの卑猥な形状が関係しているはずだ。

 もう少し、見るほうも見られるほうも抵抗のない器官になっていれば、世の童貞率も性犯罪率も減るのではないかと、なんの根拠もないことを考えてしまう。

 

「ほんとに、硬くて熱い……」

 

 由佳は俺の肉棒に指を絡めて、竿を覆う皮をカリに被せながら扱いてくる。

 

 AVを見たことがあるだけあって知識は豊富のようだ。

 

 指まで細くて長い由佳の手に触れられるのは、また違った気持ちよさがあった。

 山本さんと違って体温も低めだから、手のひらから指先まで、触られているのがはっきりと感じられる。

 

「ねえ、なんか、変なニオイしない?」

 

 由佳が俺の肉棒の先に鼻を近づけて、スンスンと匂いを嗅ぐ。

 初めての人からすれば、汗と一緒に漂う精液のニオイは異臭だよな。

 

「ちゃんと洗ってるんでしょうね」

「洗ってるよ。夏場とかはどうしたってこうなるんだ。どんな男でもそうだよ」

「あらそうなの」

 

 由佳は怪訝な顔で俺のペニスを扱きながら、何かを言いたげにチラチラと俺に上目の視線を向けてくる。

 

「どうした?」

「いや、その。ほら。アレ、あるじゃない。アレ」

「アレって?」

「だから、いわゆる、ぶろーじょぶってやつ」

 

 よくそんな難しい言葉を知ってるものだな。

 要するにフェラチオのことを言いたいんだろうが、フェラなんて単語ぐらい何度も口にしてきただろうに。

 自分がする行為として口にするのは、勇気がいるのは理解できるけどな。

 

「それがどうかしたのか?」

「美優も、佐知子も、したんでしょ?」

「してもらったよ」

「へぇ。ほんとに、してるのね。……こんなの、舐めるんだ」

 

 どうやら、由佳が想像していたよりもペニスの見た目やニオイが気持ち悪くて、及び腰になっているようだ。

 

「俺はみんなにしてもらったけど、できない女の子もいるみたいだから。無理はしなくてもいいよ」

 

 俺の周りはエッチに積極的な女の子が多かったので、山本さんなんかはむしろ率先して咥えてくれるぐらいだったが、世の中にはフェラができない人も珍しくないらしい。

 

「風呂で洗ってからならフェラができるとか、そういうタイプの人もいる。段階的に慣れていけばいいよ」

「ふーん。でも、その口ぶりじゃ、普段はこのまましてるんでしょ」

「まあそうだな」

「なら、私だって、するしかないじゃない」

 

 由佳は舌をチロリと出して、露骨に嫌悪感を滲ませながら口を近づけてくる。

 

 対抗意識というよりも、友達がみんなしているのに自分だけできないのが嫌なんだろう。

 あるいは、セックスがしたいというのも、単なる憧れよりもコンプレックスに近いものがあったのかもしれない。

 

「う、うぅっ……へろっ……んっ、うぅ……」

 

 亀頭の先を、ペロッと舌で舐めた由佳の顔が、さらに苦々しく歪む。

 

「おしっこの味がする……こんなのみんな舐めてるなんて信じらんない……」

「最初だけだよ。排泄器官だから、そこはどうしても仕方ないというか」

「ほんとにみんなしてるんでしょうね? 嘘だったら承知しないんだからね」

 

 由佳は文句を垂れながらも、どうにかペニスを舐め続けてくれる。

 知識源がAVだけあってか、たどたどしいフェラなのに根元から舐め上げてくる艶めかしさがあって、雄としての性欲と庇護欲を同時に刺激されてしまう。

 

「気持ちいいよ、由佳」

 

 美優や山本さんにされているときほどの刺激はないにしても、唾液で濡れた舌で舐められる物理的な快感は、誰にされていてもあるもの。

 それに、由佳の元々の可愛さに加えて、極小布のランジェリーを身に着けた子にフェラをしてもらっている、その絵面が純粋に興奮する。

 

「あー……れろ、ちゅっ……ん、それは、よかった」

 

 由佳は手順に従い俺のペニスを舐め上げると、両手で根元を抑えて先っぽを口に含んだ。

 

「はむっ……ふんっ……むちゅ……」

 

 これでよいのか迷う気持ちを、俺と目線を合わせることで訴えてくる由佳。

 フェラをしてくれるのは嬉しいし、気持ちよくはあるけど、まだ亀頭分しか咥えられていないのでもう少し頑張ってほしいところだ。

 

「あとちょっと奥まで咥えられるか?」

「んー。わりと限界なんだけど。どこまですればいいの?」

「半分くらいかな」

「わかった。頑張ってみる」

 

 由佳は少しずつ深くへとペニスを咥えていって、どうにか半分くらいまでは口に含んでくれた。

 しかし、その時点でもう軽くえづきそうになっていて、後は先端から半分の位置までを舌と唇で刺激してくれるだけになった。

 フェラが好きな俺としては根元まで咥えてもらいたものだが、それほどサイズがない俺が相手でも、普通の女の子が相手ならこれぐらいが限界なのだろう。

 美優たちは器量が良いので最初からフェラを上手にしくれたし、苦しい姿を見せることもなかったが、こうして由佳みたいに何が辛いのかをわかりやすく示してくれるのはありがたいものだ。

 

「あとは、できればでいいんだけど、竿じゃなくて腰を掴んでくれると嬉しいかも」

「ん? 腰を支えるの? それって意味ある?」

「いや、単にそっちのが興奮するだけなんだけど」

「えー……。お兄さんの、手で支えてないとぴくぴくして舐めづらいのよね」

 

 由佳は不満を口にしながらも、俺の腰を持ってフェラを続けてくれた。

 いわゆるこのノーハンドフェラというやつは、男を興奮させるためだけにあると思う。

 

「むちゅ、ちゅぶ……。なんだか、フェラをするのって、屈辱的な感じがするわ」

「征服欲がフェラの興奮につながるって話もあるから、女の子側は逆にそう感じるのかも」

 

 フェラは女の子が男を自由に快楽責めできる行為であると同時に、ご奉仕精神がなければできないような変態プレイでもある。

 しかもこれは即尺をしてもらっている状況だからな。

 俺が優位に感じるのも仕方のないことだ。

 

「由佳のおっぱい、触ってもいい?」

「……こんなものでもよければどうぞ」

「なら、遠慮なく」

 

 俺は由佳のマイクロブラの表面をなぞり、布の上からその膨らみに触れる。

 

「んっ……はぁむっ……あっ……」

 

 フェラをしながら感じる由佳に、俺はそこはかとない性欲の昂りを覚えながら、薄いながらもふにっとした乳房の肉を指で揉んでいく。

 

 男にはまだ誰にも触れられたことのないその部位。

 山本さんは経験豊富だったし、美優たちも女の子とはしたことがあったから、俺は処女好きというほどではないと思っていた。

 それでも、その女性の初めての記憶に自分が刻まれるのは、雄の本能が歓喜して止まない。

 

「あぁ……はぁ……由佳、ちょっと、マズいかも」

 

 由佳の体の中でも、特におっぱいを見たり触れたりしていると異常に興奮する。

 美優からの命令で初めてオカズにしたその影響は、思っていたよりも大きかったようだ。

 

「ふぇ……んっ……イきそうなの……?」

「ごめん、もう出そう」

「はむっ……ちゅるっ……じゅぶ……。まだ、我慢しなさい……じゅるるっ、ちゅぶっ、ぐちゅぶっ……」

「ああっ、由佳、待て、待って! あっ……!」

 

 由佳は俺が射精しそうだと言ったことに対して、逆に責めてるようにフェラを激しくしてきた。

 リアルな経験がないことが、射精を放尿と同じような感覚で我慢できると勘違いさせたのかもしれない。

 

 浅くフェラをしている分、自由に動く舌で由佳は俺のペニスを舐め回して、唾液をたっぷりにグチュグチュと音を立てて顔を前後させる。

 さすがに知識だけはある由佳の雄の興奮のさせ方は、俺の射精欲を一気に限界にまで高めていった。

 

「由佳、もう駄目だッ……! 出る、出るっ……!」

「んんっ!? こ、こはぁ、あっ、ん、んんっ……!!」

 

 どぷっ、どぷっ、と、ほとんど不意打ち気味に口内へと放出された精液に、由佳は怒る暇もなくその精液の不味さへの苦痛で顔を歪ませ、涙目になりながら必死で射精を受け止めた。

 

「ううううぅ……!!」

 

 口を開けて震える由佳は、両手で器を作ってそこに吐き出そうとする。

 俺も自分の精液が異常に不味いのは知っているので、無理に飲んでもらわなくても大丈夫なのだが、そこでまた「他の子なら飲んでいる」という意地が由佳を止めていた。

 

「ごめんな。無理はしなくていいから、もう出せ」

「んんっ……んー……! は、はぁうぅ……!」

 

 喉だけは動いて精液を運ぼうとしているのに、舌が精液を喉に流し込むことを許さない。

 しばらくはそんな争いが由佳の中で繰り広げられて、やがて最後には、由佳はえづきを堪えきれなくなって手のひらに精液を吐き出した。

 

「し、信じらんないくらい不味い……!」

「悪い。そればっかりは、ほんとどうにもならなくて」

 

 強制的にとはいえ、何度か俺の精液を飲んだことのある由佳なら、あるいはと思ったが。

 さすがにあの山本さんですら飲むのに苦労していた精液を、美優以外の子が飲めるはずもなかったか。

 

「なんで我慢しなかったの。ダメって言ったのに」

「できなかったんだよ。あんまり気持ちよすぎると、男はコントロールなんて利かないんだって」

「またそんな言い訳して。そんなに気持ちよかったなら、まあしょうがないけど」

 

 勝手に出されたことについては怒っていた由佳だったが、気持ちよすぎて我慢できなかったという部分には思うところがあったらしく、それほど追及はされなかった。

 

「風呂、入ろうか」

「そうね」

 

 二人で浴室に移動して、まずは由佳の手に溜められた精液を洗い流してから、服を脱いでお湯を張っていた浴槽に二人で浸かった。

 広い風呂ではあったが、結局は俺を背もたれにして真ん中に由佳が座る体勢が収まりがよく、俺としては慣れた形で入浴することになった。

 

 由佳の髪は、二つに結んだ髪をさらに上部に結い上げていて、ツインテールの先が濡れないようにしてある。

 上向きに縛られることで露わになった由佳の耳と首筋。

 髪の毛で誤魔化さなくても整ったその顔の造形は、さすがに美人な子だなと再認識させられる。

 

「ついに、裸同士になったのね」

 

 由佳は自分の体と、その横からの伸びる俺の足を見下ろして、感慨深く呟く。

 

 一方的にセックスだけを経験した俺たちにとって、こうして自然な姿で裸になるのは初めてだ。

 男の体を珍しそうにする由佳が、腕や脚を撫でてきて、なにとは言わないが回復してくる。

 

「あ、ジャグジーついてる」

「そうだった。泡風呂にできるらしいぞ」

「ぜひやりましょ。スイッチオーン!」

 

 由佳は壁に付いていたボタンを押すと、浴槽の縁に置いてあった泡風呂用の溶液パックを切ってお湯に溶かした。

 下から吹き上がってくる空気玉にお湯がかき混ぜられて、湯面に少しずつ気泡ができあがっていく。

 

「おっふろーおっふろー。あわあわーおふろー」

 

 由佳もばしゃばしゃとお湯を叩いたり持ち上げたりして、泡立ちを加速させた。

 やがて細かい気泡が山のように積み上がって、両手で持ち上げられるほどの量にまで増えていく。

 しかし、風呂場にシャボン玉のような泡が溢れるほどにはならず、ずっと続けている内に減る量のほうが多くなってしまった。

 

「ケチな泡風呂ね」

「ホテルの付属品ならこんなものだろ」

 

 由佳は残った泡を集めて、ふーっと息を吹きかけて飛ばす。

 言葉のわりにニコニコと上機嫌だった。

 

「ふふっ。ついにフェラまでして、こうして一緒にお風呂に入ってるのよ。身も心もオトナになっちゃった……ふふふふふ」

「嬉しそうだな」

「もちろん。しかもフェラだけで抜いちゃうとか、私って結構なテクニシャンかも」

「かもしれない。気持ちよかったよ」

 

 美優が関わると射精しやすくなる体質とはいえ、由佳の独特なエロさがなければイクことはできなかった。

 テクニシャンという部分への回答としてはどうかと思うが、由佳は実践になると急に弱気になるし、自信を失わせるようなことはしたくない。

 

「俺も由佳の体に触っていいか?」

「別にいいけど、なんで聞くの? 勝手に触ってよ」

「あ、ああ。すまん」

 

 山本さんにも言われたけど、俺も慎重になりすぎだ。

 美優とのエッチのためにも克服しておかないと。

 

 俺は由佳の体を眺めながら、脚や腰回りを重点に触っていく。

 美優や山本さんのむっちりした体に見慣れてるとずいぶんと細く感じるな。

 

 静かになった浴室に、ちゃぷちゃぷとお湯をかきまぜる音だけが満ちて、無言の空気にもピリつくことがなくなってきた。

 

 そして、あえてお預けしていた胸へと手を添えた。

 この摘むとふにふにする肉感がたまらない。

 

 また下半身がムズムズしてきた。

 

「お兄さんっておっぱいなら何でもいいの」

 

 再び硬さを宿した棒状の肉質を背中に感じて、由佳が呆れたため息を漏らす。

 

「由佳のおっぱいが魅力的なんだよ。誰でもいいわけじゃない」

「そうなの?」

「そうだよ。さっきだって、由佳のおっぱいのせいで我慢できなくなった」

「ふ、ふーん。そう。なら、もっと好きにしたかったり……する?」

「由佳が良ければ、正面を向いてほしい」

「バカ、もう。しょうがないわね」

 

 由佳も俺の言葉の真意は理解していて、腰を上げて後ろに振り返ると、胸を強調するように背中を反った。

 

 その小さな芽に、俺は遠慮なく吸い付いた。

 男である俺とそう変わらない程度の膨らみでも、乳首の形だけはしっかり女性らしいおしゃぶり型になっていて、舌で転がすとコリコリとした硬さを感じる。

 

「んっ……はぁ……やだ、えっちなことしてる……」

「由佳がエッチで俺も興奮してきた」

 

 すっかり勃起が出来上がった肉棒が反り上がって、裏筋が由佳の割れ目に当たっている。

 お風呂の中なのに濡れているそこは、由佳が擦りつけてくるせいで素股が始まっていた。

 

「あっ、あっ……はあぁぁ……上も、下もぉ……お兄さんに気持ちよくされちゃってる……」

「あんまり、動くなよ。俺も先走りが出てそうだし」

「むふっ。そうね、妊娠したら、危ないものね」

 

 由佳が快楽と悪戯心に染まった顔になって、ゾクッと嫌な予感に背筋を張りながらも、俺は口とペニスの両方で由佳の性感帯を刺激していく。

 

「ふあぁ………んあっ、お風呂のお湯より、お兄さんのがぁ……アツぃ……」

「ちゅっ、ちゅぶっ……変なこと、言うなって……」

「だって、気持ちいいんだもん……あ、んっ……もう、女の子の体にされちゃってる……」

 

 由佳の淫らな声が、聴覚を通じて股間に響いてくる。

 このタイプの卑猥な言葉は俺には合わないと思っていた。

 それなのに、由佳は元から嘘がバレバレな態度でイタズラをするせいか、こんなやり取りでも変わらず興奮してしまう。

 

「お兄さんの、女になりたいな」

「こら、ダメだって、由佳」

 

 由佳が腰を大きく前後させて、蜜口に俺の肉棒を埋めるように腰を沈めてくる。

 

 このままだと何かの弾みで入りかねない。

 生での挿入なんて、美優以外には絶対にダメだ。

 

「はうぁ……あああん……お兄さんの、硬い……おっきいよぉ……」

「うっ……あぁ……由佳、そんなに動いたら……!」

 

 由佳から与えられる性感は、おっぱいを弄っているせいか変わらず俺の雄としての本能を揺さぶってくる。

 

 由佳のペースに乗せられてエッチを止められない。

 でも、挿入事故だけは避けたい。

 

 そう考えたときにふと俺の脳裏に過ぎったのは、カラオケで山本さんとエッチをしたあの行為だった。

 

「由佳……ッ!」

 

 俺は由佳の腰を掴んで、あえて内側へと引き込んだ。

 その瞬間は由佳も驚きと悦びに表情を蕩かせていたが、俺が腰を上げると、それが望み通りの展開でないことにようやく由佳も気がついた。

 

「ちょっ、お兄さん、そこ、違っ……!!」

 

 由佳の愛液と先走りの精液で、粘液に塗れた肉棒。

 その先端を、俺は由佳のアナルへと、ぬっぷり挿入していった。

 

「ひやぁあ!? そ、そこじゃないってば! そこはお尻の穴ぁ……!」

「わかってるよ、由佳。もう出そう」

「バカバカバカ! は、入ってる! ちょびっと入っちゃってるから!! 抜きなさい、あ、あんっ、ふぁっ……らめっ……あっ……!!」

 

 俺がわざとお尻でペニスを扱こうとしたのを感じて、由佳はたまらず飛び上がって距離を取った。

 

「ななな、なんてことするの! あんた、レイプするわお尻は使うわ、ほんとロクでもない男だわ!!」

 

 由佳は内股でお尻を押さえて、涙目で俺を糾弾する。

 やってしまったこと自体は申し訳ないが、どっちも不可抗力だ。

 

「ううっ……お尻だけは美優たちにもイジられたことなかったのに……本当の初めてだったのに……」

「わ、悪かったって。それは謝るよ」

 

 俺は由佳を追うように立ち上がって、正面から肩を抱いた。

 

「前も後ろも、どっちもお兄さんに初めてを奪われるなんて……」

「でも、ほら。他の男に奪われるよりは、よかったんじゃないか」

「まあね」

 

 やはりというか由佳の反応はオーバーリアクションだったようで、当人もそれほど気にしてはいないようだった。

 

 ポタポタと体から滴が落ちる中で、やや下の目線から瞼をパチクリさせて俺を見つめていた由佳が、口を開く。

 

「え、お尻でしてみる?」

「いやそれはいい」

「ならもう風呂から出てなさい」

「はい」

 

 俺は最後に体を丹念に洗って、追い立てられるように風呂場を後にした。

 

 ペニスは勃起したままだったが、由佳を待っているうちに落ち着いた。

 このホテルにはバスローブがなく、由佳をどんな格好で出迎えようか迷って、結局はバスタオルを腰に巻いただけの状態で待つことに。

 

 由佳が風呂場のドアを開ける音がして、それから少しの間だけドライヤーの稼働音が響いていた。

 結い上げていても、すべての髪を纏められるわけでもないので、どうしても濡れる部分は出てくる。

 髪を乾かすのが終わって、脱衣所に由佳が持ち込んだミニポーチを開閉する音が最後に聞こえると、ようやく由佳がドアを開けて出てきた。

 

 由佳はタオルを体に巻いて、髪型を再びツインテールに戻していた。

 どういうこだわりがあるかは知らないが、どうしてその髪型にするのか聞かれても由佳は困るだけだろうか。

 

「バスローブがないのは予想外だったわ」

「俺もだよ。エアコンのせいで少し冷えた」

 

 俺はベッドから立ち上がって由佳に近寄る。

 

 このラブホデートは由佳の悩みを解決するためのもので、美優が言うには俺が自然体で接しているだけで上手くいくそうなのだが、はたして進展はしているのだろうか。

 俺は由佳の悩みを、思春期によくある『自分に素直になれない悩み』だと思っていたが、それでは不十分だっただろうか。

 

 今の由佳を見てみても、前から何か変わった様子はない。

 関係性で考えても、俺と由佳の親密度が増しただけで、それは由佳が悩んでいるようなこととは無関係に思えた。

 

 そこでふと、考える。

 もし俺が真に自然体で由佳と接しているだけで問題が解決するのなら、美優は俺に何も教える必要がなかったのではないか。

 俺が美優と恋仲になったからには、由佳のこのセックスの誘いを受けることはどうあっても自然になるはずがなく、俺は美優の指示があったからこそここまで由佳に付き合っている。

 となれば、美優が言う自然体というのは、あくまでも由佳の悩みを解決するという方針の中での自然体であって、思考放棄していいわけではない。

 

「由佳」

「ん。なに?」

 

 俺は由佳の目の前に立って、できるだけ穏やかな声音で名前を呼ぶ。

 由佳は不思議そうにしながら、素直に聞く姿勢になってくれた。

 

 これまで由佳と過ごしてきた中で、美優の指示を受けてから明白に変わったことといえば、互いを甘やかすような時間を持つようになったことだ。

 俺は由佳を女として褒めて、由佳は俺を男として頼る。

 そうしているときだけは、由佳が抱えている俺の知らない何かに触れられている気がした。

 

「ベッドに入ろうか。二人で少し寝よう」

 

 俺は由佳の手を取って、体に巻かれたバスタオルを外す。

 

「急に、どうしたの。ベッドでイチャイチャしたいなら、私は構わないけど」

「うん。由佳とイチャつく時間が欲しいんだよ」

 

 由佳のバスタオルを取り去って、自分の腰に巻いていた分と一緒に、隣のソファーへと投げる。

 再び二人で裸になって、その体を隠すように由佳は俺にくっついてきた。

 お風呂場で裸になるのと、部屋で裸になるのでは、やはり恥ずかしさの質が違う。

 

「あんまり見ないで」

 

 由佳はか細い声でそう溢した。

 どうにも自分の体に自信がないみたいだ。

 

「さっきまでは気にしてなかっただろ」

「そうだけど。お兄さんの相手は、みんなグラマーな体してるでしょ。さすがに私だって気にならないわけじゃないの」

 

 由佳はキュッと俺の体を抱いて、できるだけ胸から下が視界に入らないように限界まで幅を詰める。

 

「自信を持てって俺を励ましてくれたのは、他でもない由佳だ。そんなに弱気になることはないよ」

「お兄さんのは、思い込みで自爆してただけでしょ。でも、お兄さんがエッチしてきた相手が、みんなおっぱい大きくて可愛くて美人なのは紛れもない事実だし。容姿は才能みたいにあやふやなものより、目で見て明らかなものじゃない」

 

 由佳は話すほどに俺に抱きつく力を強くした。

 

 由佳が自分と誰かを比べるなんてないことだと思っていた。

 こいつもこいつでコンプレックスを抱えてたんだな。

 まだまだ知らないことばかりだ。

 

「そういうことなら、気にするなとは言わないよ。気になるものは、どう誤魔化しても気になるものだからな」

 

 俺はひっつく由佳を引き剥がして、「でも」と続ける。

 

「俺は由佳の体に興奮してる。色々あったけど、今は由佳とセックスしたい」

「ふぇっ……な、なに、急に。そんな雑な褒め方で、女が喜ぶとでも思ってるの」

 

 由佳はむくれ面をして、それでも抵抗しようとする力は弱くなった。

 

「こんなに由佳が魅力的だなんて思わなかったんだよ。下の方も、またこんなになってる。正直、美優にも申し訳ないくらい由佳の体に興奮してる」

 

 俺は由佳のお腹に屹立したイチモツを擦り付け、背中や臀部を撫でながら首筋に軽く口付けをした。

 

「こ、こら、ダメ。こんなの、不倫みたい……あっ、ひゃぁ……」

「由佳が言い出したことなんだから。一緒に責任は取れよ」

「ひやぁ、んあっ、あぁ……そんな、いけない……私を求めないで……」

「なら、由佳から俺を求めてほしい。イタズラみたいにするんじゃなくて、本気で」

 

 由佳のペースをどうにかこちらに引き込む。

 これで由佳が求めるようなイチャラブなセックスができたら、どうにか突破口が開ける気がした。

 

「男の人を求めるって、どうすればいいの」

「えっ。ああ、たとえば、思う存分に甘えてくるとか」

 

 由佳がまるで次にするべきことをわかっていなかったので、一瞬だけ真顔に戻ってしまった。

 あれだけイチャラブセックスを熱望していたのだから、自分が理想とするセックスのイメージぐらいはあるはずなのだが。

 

「甘えれば、いいのね」

「そうだ」

「あま、甘えるって、どうすれば……」

「力を抜いて、してほしいことを口にするんだよ。今なら由佳の望みに応えてやれるから。どうしてほしい?」

 

 俺はどうにかエロチックな空気を保ったまま由佳に訊く。

 すると、由佳の思考回路がついにショートして、口を開けたまま目をパチパチさせるだけになった。

 

「こっ……コッ……」

 

 由佳は俺の目を見つめて、何かを言おうとしている。

 

 しかし、それはただ喉から音が漏れているだけで、言葉にはなっておらず、どんなに理解しようとしても意味を汲み取れるようなものではなかった。

 

 やがて由佳は、壊れたパソコンのように同じ音だけを繰り返して、

 

「…………コケッ……」

 

 最後に由佳は思いもよらない声を出して、後は瞬きをする以外の全ての動作をフリーズさせた。

 

「ゆ、由佳!? 大丈夫か? おい、待て、わかった。無理に甘えたりとかしなくてもいいから。戻ってこい」

 

 俺が必死に声かけするも、どうやら聴覚情報を処理するのに多大な遅延が発生するぐらいに思考回路がぐるぐると回っているらしく、それから1分もの間、由佳は俺の声に反応しなかった。

 

「由佳、平気か?」

「ん? え? あれ、私、どうしてお兄さんとこんなことに……」

 

 記憶がリセットでもされたのか、由佳は俺と裸で抱き合っている姿を目にして、頬を赤らめた。

 

「これまでの溜めに溜め込んだツケの清算のために、ラブホつきのデートをすることになったんだよ」

「ああ、そうだったわね。思い出したわ。お兄さんとセックスする予定を日めくりカレンダーにしたんだった」

「どうしてそう無駄な部分にばかり労力をかける」

 

 どうやら由佳に甘々な男女の交わりを期待するのは難しかったようだ。

 

 俺もようやく、由佳の本質の一部を垣間見ることができた。

 こいつは仕事を任せるという意味では人に頼るのになんの躊躇いもないくせに、女として甘えることに関しては、可哀想なくらいに下手なのだ。

 どれだけ頑張ろうとしても空回りしてしまう由佳の境遇を考えると、涙すら出そうになる。

 

 絵に描いたような男女の営みではなく、まずは由佳が求めるイチャラブセックスをしてあげることに集中しよう。

 

「どうする? このままセックスはするのか?」

「するする。で、思い出したついでにもう一個思い出したことがあるの」

 

 由佳は俺にベッドに座るよう指示すると、ソファーに置いてあったポーチを漁って、そこから六本の小さい薬瓶を取り出した。

 

「なんだ、これ?」

「精力剤。ネットで買っためっちゃ強いやつ」

「んなもん六本とか殺す気か……」

「私とお兄さんで半分ずつよ。夜と、深夜と、朝で一本ずつ飲むの」

「せめて深夜は寝かせてくれ」

 

 由佳に渡されたのは英語のラベルが貼られた危なそうな精力剤だった。

 知り合いが使っている物の中から選んだようなので直ちに人体に影響はないそうだが、さすがに二十四時間以内に三本も飲んでいいような物とは思えない。

 

「なによ。高かったんだから。せめて一本ぐらい飲みなさい」

「わかったって。一本だけな」

 

 俺は由佳と二人で蓋を開けて、コツンと瓶を当て鳴らしてから、グイッと飲み干した。

 

「さすがに苦いな」

「お兄さんの精液に比べればマシだけど」

「俺の精液ってこれより酷いのか……」

 

 毎回こんなドロドロの精力剤レベルの不味さを飲んでもらってるなんて、美優と山本さんには頭が上がらない。

 

「あとね、もいっこあるの」

 

 由佳は再びソファーに戻って、またポーチを漁る。

 そこから出てきたのは、青い菱形の錠剤だった。

 

「なんだそのいかにもな薬は」

「バイアグラ。五十ミリグラム」

「どこで手に入れたんだそんなもの」

「友達の兄をツテに買ってもらったの。本番の一時間前に服用する必要があるらしいんだけど、この際だからもう飲んじゃいなさい」

「いや、それは要らないだろ。こんなに元気なんだし、俺はまだまだいけるから」

 

 さっきの精力剤だけでも、俺には過ぎた効果だからな。

 バイアグラのおかげで一晩中勃起が収まらなくなったりしたら、次の日が恐ろしくてたまらない。

 

「じゃあ、これは勃たなくなったらでいいや。朝の再戦に使えるから、今夜は安心して出し切ってね」

「おう……」

 

 由佳は俺のことを無限に射精できるセックスマシーンだとでも思っているのかな。

 本来であれば、一回や二回の射精で萎えてしまうものだ。

 これまで連戦ができたのは、美優や山本さんのような超常的な魅力によって並ならぬ性欲が引き出されたからであって、俺本人の能力はそこまで高くない……はずだ。

 

「ってことで、これだけゴムは持ってきたけど。足りるかな?」

 

 由佳は最後に、ジッパーつきのケースに仕舞われていた大量のコンドームをポーチから取り出して、俺の前に並べた。

 

「お、おい。いくつあるんだこれ」

「二十個ちょっとくらい?」

「殺す気か」

 

 こんな数を一晩で消化できると思っているのか。

 こいつの思考力はどれだけ単純なんだ。

 ってか、全財産を使い果たすことになったのは、こういう無駄な買い物のせいだよな。

 

「なんなのその顔は。楽しみだったんだからしょうがないじゃない」

 

 由佳は口角に力を込めながら唇を開いて、アヒルのような声でブーイングした。

 

「まあ、そうだな。これだけ用意してもらえると、さすがに嬉しいかも」

「でしょ。ふふん。私がどれだけ待ち望んでたか、少しでもわかるなら二十回戦ぐらいできるはずよ」

「そこはせめて人間扱いしてくれ」

 

 由佳の根性論ゴリ押しは堪らないからな。

 

 俺は由佳が用意したコンドームのひとセットを手にすると、残りをベッドの上に置いた。

 網目で繋がっている包装の一つを切り取って、由佳がベッドに来るのを待つ。

 

 由佳は使わない分の薬を戻すついでに、裸でゴソゴソとポーチを漁って、スマホを弄りながら「ラブホなうって投稿すればよかった」などと呑気な独り言を呟いている。

 

 美優たちならまず見せないであろうそのだらしない姿が、どうしてか愛おしかった。

 

 由佳が歳下だからなんだろうか。

 ああいう純粋な子供っぽいところを見ると、俺の中の由佳の評価が急に上向いてしまう。

 

「しないのか?」

「する!」

 

 由佳はスマホをソファーに投げると、全裸で万歳しながら低空のボディープレスをかましてきた。

 普通に痛い。

 

「あ、こら。なんで萎えてんの。精力剤を飲んだのに」

「あくまでも精力剤なんだから、興奮しないで大きくなったら問題だろ。する雰囲気になれば勃つよ」

「ふーん」

 

 由佳は俺の股の間に座ると、まだふにゃふにゃした状態のペニスを指で突いた。

 

「お兄さんのって小さいときはかわいいくらい小さいのね」

「それ傷つくからほんとやめてくれ」

 

 俺は結果としての経験が人並み以上だからまだいいが、大抵の男にとってその言葉は即死レベルの凶器だ。

 

「心の病気でEDになる人がほとんどなんだぞ」

「えっ!? ほんと!? ご、ごめんね、あなたは立派よ。前もとても気持ち良かったから、元気出して。今夜もよろしくね」

 

 由佳は慌てて俺の丸っこいペニスを撫で撫でする。

 

 どうして君たちは俺ではなく俺のペニスに語りかけるのかな。

 そっちが本体で俺はオマケなのか?

 

「どうしたら、おっきくなるの?」

「口で気持ちよくしてもらうのが一番早いけど」

「えっ……まあ、いいけど。絶対に出さないでよね」

「わかってるって」

 

 ついに俺の精液の不味さにトラウマを持たれてしまったようだ。

 由佳は美優の命令で無理やり何度も俺の精液を飲まされてきたからな。

 こればっかりはどうにもならないか。

 

「はむっ、ちゅーっ……ちゅぷっ。ん。なんか、簡単に口に全部入るから、こっちのがいいかも」

「美優もそんなこと言ってたな」

「それだけフェラするのは大変なの。感謝しなさい」

「はい……」

 

 由佳は謎の優越感を見せつけて、ぱくっと俺の皮かむりのペニスを口に含んだ。

 

 くそう。

 フェラをお願いしただけでどうして叱られなければならないんだ。

 世界が山本さんみたいなご奉仕フェラ大好きな女の子で満たされればいいのに。

 

「ふぅ……あぁ……由佳、いいよ……」

 

 それでもペニスを丸呑みされるフェラは気持ちいい。

 小さい状態でも感度は変わらないし、柔らかいものを舌で舐めまわされるこの感覚は、俺ももう少し長く味わっていたい。

 しかし、気持ち良いが故に、ペニスは勃起してしまって、すぐに口からは離されてしまう。

 

「よし、セックスできるわね」

「問題ないな」

 

 俺は由佳のご機嫌通りにセックスをすると決めたので、意思に逆らわずすぐにコンドームをペニスにはめた。

 

 初体験は正常位が良いとのことだったので、由佳がベッドに寝て俺が体を起こす体位になる。

 

 割れ目にペニスをあてがうと、溜まっていた愛液がトロりと垂れてきて、十分な滑り気があることを確認してから俺は挿入を始めた。

 

「入れるぞ。由佳」

「え? 正気?」

「ん。まだ何かあるのか?」

「雰囲気よ雰囲気。こんな空気のまま初めてを迎えられるわけがないでしょ」

 

 出たなワガママお嬢様モード。

 他のやつならどうかわからんが、俺はきっちり最後まで付き合ってみせるからな。

 これはもう男の意地だ。

 

「いい? 女の子の初めては一生の記憶に残るんだから、ちゃんとやってよね」

「正確には初体験はあの段ボールだったわけだけど」

「知 っ て る わ よ! でも私はそんなの認めない。お仕置きとかレイプとかもう懲り懲りよ。今日が正真正銘の初エッチなんだから。記念日にして毎年祝ってやるんだからー!!」

「わかった、わかった。落ち着け。俺が悪かった。きちんと良い思い出になるセックスをしよう」

 

 俺は駄々をこねる由佳を嗜めて、柄でもないが頭をポンポンと撫でていたら由佳は大人しくなった。

 

「ぐすん……私とセックスしたいって言って……」

「セックスなら、さっきからずっとしたいよ。今日の由佳は可愛いからな。早くこれを入れて由佳の膣内を感じたい」

「あ、意外と、雰囲気が出ること言うのね。私も、したくなってきちゃった」

 

 由佳は体をくねらせて俺を誘惑してくる。

 まだハイテンションの余韻が残ってるな。

 もうひと押ししておくか。

 

「挿れていいか? もう、我慢できなくて」

 

 これは指示を仰ぐための質問ではない。

 エッチな気分にするための、相手から恥ずかしい答えを引き出すための問いかけだ。

 

「すっ、好きにしたら、いいんじゃないの。……それとも、私に言ってほしい?」

 

 由佳は表情こそ早く挿れてほしそうにしているのに、モジモジして正直にならない。

 

 これも想定通り。

 由佳から本音を引き出すためには、変化球が要る。

 

「どっちでもいいよ」

「えっ。ど、どっちでもいいの?」

「俺以外の男が相手だったら、由佳は自分の体を好きにしていいなんて言わない」

「まあ、ね。お兄さん以外なんて、絶対に嫌だけど」

 

 次第に由佳の体がふやけるように緩くなっていく。

 これでも、まだ足らない。

 

「答えは、わかりきってるから。でも──」

 

 俺は亀頭の一つも入りきらないぐらいに、由佳への挿入を寸止めして、焦らしながらトドメの一言を由佳の耳に吹きかける。

 

「由佳の口から言ってくれたら、俺は嬉しい」

 

 俺がそう囁くと、由佳の秘所の入り口がキュッと締まって、俺のペニスを奥へ奥へと誘い込んできた。

 

「ううっ……わ、私も……挿れてほしい……」

 

 由佳の口からアツい吐息と共に漏れた本音。

 その熱が冷めないうちに、俺はグッとペニスを奥にまで挿し込んだ。

 

「はぐっ……んっ、ああっ……入ってきひゃぁ……!」

 

 由佳がその初めてのペニスをしっかりと感じ取れるよう、俺は緩やかな動きからピストンを開始した。

 久しぶりの由佳の膣内は、美優の命令でしたときほど肉々しい柔らかさはなかったが、そのキツさが肉棒に吸い付くようで、そこには変わらない快感があった。

 

「由佳……すごく締まるよ……!」

「あんっ、ああっ……お兄さんの……入ると、見た目より、おっきく感じる……!」

 

 由佳は挿入してすぐに恋人つなぎを要求してきて、俺は由佳の両手を手綱にして腰を打ち付けた。

 

 長い二つ結びの髪がベッドの上に乱れて、俺の肉棒が膣肉を穿つたびに、由佳の声が一拍の無音を含んで荒らげられる。

 

 俺が優位になってセックスをするのは初めてだった。

 そのせいか普段より状況を俯瞰してしまうものの、あの生意気な由佳が快楽に喘いでいる姿を見るのは雄として十分な優越感があった。

 

 由佳の軽い体は、多少の筋肉が付いてきた俺には動かしやすくて、ペニスの出し入れをしながら由佳のGスポットに当たる体勢を少しずつ見極めるのも楽だった。

 女の子の膣の付き方は人によって違うけど、その日の男側の体調──もっと言えば勃起の硬さと角度を考えて、お腹の内側にめがけてどうやって肉棒で突けば気持ちよく当たるのか、コツさえ掴んでしまえば簡単なものだ。

 

「はぁ、はうぅ、あっ、ああぁ……きも、ちぃ……」

 

 由佳の穴の具合を感じ取って、反応が良くなる腰の動かし方がわかったら、今度はその状態を維持したまま別の性感帯を刺激できないかと思考を切り替える。

 最も触りやすくて快感を追加できる場所といったら、言わずもがなおっぱいだ。

 乳首だけではなく、乳房のその輪郭から舐めていくと、とあるところで急に感度が良くなっていく。

 そこから首筋にまで舌を這わせて、手はほとんどが支えに使われているものの、余裕があればふとももやアナルを撫でて可能な限りの快感を同時に与える。

 テクニックという面では、これが今までの性経験で学んできた俺の全てだった。

 

「あ、あぁっ……お兄さん……! セックス、はぁ、お兄さんと、してるの……んああっ!」

 

 由佳とのセックスは、これまでにないほどに王道的で、正しい男女の交わりだった

 

 正常位、ゴム付きで、甘い言葉を掛けながらの挿入。

 俺ももう童貞と偽れるほどに下手ではなく、そこには愛と快楽の両方が存在している。

 

 それなのに、俺のピストン運動を続ける時間には、どこか焦りがあった。

 

「あんっ、あ、あっ……」

 

 最初こそ蕩けるように熱かった由佳の蜜壺も、慣れてしまったのか特別に気持ちよくも思えない。

 山本さんや佐知子と積み重ねた本番エッチの経験で、どのようにペニスを突き上げれば女の子の性感帯を刺激できるのかはある程度は把握していたつもりだったのに、由佳のほうも声に出しているほど感じてはいないようだった。

 

「ふあぁ、あっ……あぅ……え、あの、お兄さん……? もっと……本気出していいんだよ……?」

「これで、全力だけど。気持ちよくないかな?」

「ああいえ、気持ちよくは、あるのよ? でも、なんかこう、前と違うじゃない?」

 

 由佳の気遣いのある言葉にはちょっと凹んだのだが、事実として由佳の反応が以前ほど良くはなかった。

 以前とは、由佳とお仕置きエッチをしているときだ。

 

 俺が由佳とのセックスで記憶しているのは、白目を剥くほど喘ぎ狂う姿。

 これはイチャラブセックスなのだから、そんなことにはならないのが普通だが、それにしてもイク気配すらないのはどうにもおかしい。

 

「もっと、ギュンギュンって、奥に響く感じの、あれが欲しいの」

「そうか。なら、少し激しくするからな」

 

 お仕置きでの拷問に近い性感責めに慣れてしまった由佳では、普通程度の刺激では十分に感じられないのだと俺は判断した。

 俺は腰を打ち付ける動きを大きくして、子宮口をこじ開けるぐらいの勢いで由佳の膣内を犯していく。

 

「あ……はうっ……あっ……やんっ……あっ、これ……!」

「はぁ、はぁ……由佳っ……由佳っ!!」

「ひぃ、イギっ……あ、ぐっ……イダッ……す、ストップ! あうぐうぁ、い、だ、ダメ、止めて!」

「ゆ、由佳……?」

「痛い、痛いからストップ! 一旦ヤメ!」

 

 由佳が苦痛に顔を歪ませる姿は、エッチでよくあるイヤイヤではなかった。

 俺はすぐにペニスを引き抜いて、腫れや出血がないことを確認する。

 傷つくほど強くしたつもりはないが、女の子のアソコに万が一のことがあったら大事だ。

 

「ごめんな。痛くするつもりはなくて」

「うぅっ。せっかくの初体験なのに」

「今回ばかりは本当に申し訳ない。心から謝るよ」

「わざとじゃないのは、わかるけどさ。どうしてこうなるの」

 

 由佳の要望は満たしたし、エッチな空気も十分に作れていた。

 行為自体だってごくごく自然で、決して身勝手に腰を振っていたわけではないのに、由佳のことを気持ちよくすることができない。

 

 考えても、答えは出ず。

 そこから導かれた仮説は、原因は俺ではなく由佳の側にあるのではないかということだった。

 

「もしかしたら、由佳は目隠しされたり、縛られたりとか。お仕置きみたいなプレイじゃないと、感じないんじゃないか?」

「は……?」

 

 これまでずっとお仕置きで性感帯を開発されてきた由佳にとって、愛のあるセックスで心は満たされても、脳がそれを性感に足る刺激とは判断できないのではないか。

 俺も自分のことを顧みないタイプでは決してないが、どれだけ非を漁っても、原因は由佳のほうにあるとしか思えなかった。

 

「はあー!? そ、そんなわけないでしょ! 馬鹿を言うんじゃないっての!」

「あくまでも仮説だって。一番ありえそうだから、検証してみる価値はあるかと思って」

「あり、あっ、ありえる、わけが、ないでしょうが。そんな、私がドMみたいに……」

 

 由佳は激情と混乱に頭をパンクさせていた。

 これほどまでに取り乱すのは、由佳も同じ可能性にたどり着いてしまうほどの図星だったからに違いない。

 

「そう。そんなに、試したいなら、やってみなさい。縛るなりなんなりすればいいわ。でも、それで私が気持ちよくならなかったら、お兄さんのことも同じようにして好き放題するからね」

「わかった。疑いを掛ける以上は、俺も相応の覚悟はするよ」

「よしっ、取引成立ね。絶対に気持ち良いなんて言わないんだから」

 

 由佳は境界線を引くように布団を体に巻いて、俺の準備が整うのを待った。

 俺はまず目隠しから始めようと、手頃なフェイスタオルを手にとって三つ折りにする。

 

 結局はこうして、由佳を拘束することになるなんて。

 イチャラブセックスの予定が、一転して陵辱プレイのイかせ勝負になってしまった。

 

「じゃあ、始めるぞ」

 

 俺と由佳。

 初体験のイチャラブを望んだはずの、思い出の日に。

 

 互いの尊厳をかけた戦いの火蓋が、今ここに切られたのだった。

 



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素顔の私の最初の本音

 

「まずは、こんなところか」

 

 俺はホテルに備え付けのフェイスタオルを長細く折り畳んで、由佳の目を覆うように頭部に巻きつけた。

 目隠しに使うにはだいぶ短いが、結び目が擦れないように正常位以外を選べば外れることはなさそうだ。

 

「言っておくけど、目隠しをしたら誰だって感度は上がるんだからね。私がイクぐらい気持ちよくならなきゃ、多少具合が良くなってもノーカンだから」

 

 由佳はベッドに正座して、背後にいる俺に話しかける。

 こういう痩せた体型の子が目隠しされて正座をしていると、奴隷商に躾けられた薄幸の少女のようで嗜虐心がくすぐられるな。

 

「イッたかどうかはどうやって判断すればいいんだ?」

「私が『イキましたー』って手を上げてあげる」

「お前な……」

「どうせイクことなんてないんだから細かいこと気にしないの。感覚でわかるでしょ」

「なら、もしものときは正直に言えよ」

 

 由佳が負けを認めなかったら俺が縛られて好き放題されてしまうので、できれば明確なジャッジの基準がほしいところ。

 とはいえ、俺も今日は由佳とイチャつきながらエッチをするつもりだったので、どうにも強く出ようという気にならない。

 

「言っとくけど、痛くしたら即お兄さんの負けだからね」

「俺が圧倒的に不利じゃないかそれ」

「私がお仕置きじゃないと気持ち良くなれないとか、失礼なことを言うのが悪いんでしょ。なんなら、変な実験の代わりにディープで情熱的なキスをしてくれたら、許してあげないこともないけど?」

「なんとなくだがそれは断る」

 

 この勝負は由佳が負けを認めなければ決着がつかない。

 ほとんど敗北イベントみたいになってしまった。

 どうにかソフトSMくらいの遊びにとどめて、円満に終わらせられないだろうか。

 

「ていうか、もしこれで気持ちよくなったりしても、それはそれで大問題なんですけど」

「まあな」

 

 それはそれで責任を取れとか言われそうだが、そこはさすがに美優というか中学生組が悪いので俺の関知するところではない。

 

 俺は由佳の顔の前に黙って手をかざして、何も反応しないことを確認すると、今度は由佳の両手を後ろにしてフェイスタオルを手首にかけて、備え付けのヘアバンドを捻り重ねることで簡易的な拘束具にした。

 

「意外と、キツくなるものね」

「強引に腕を引き抜けば外せるけど、ここにある道具じゃ完全には縛れないから。無理はするなよ」

 

 さて、ここから由佳を押し倒してバックからハメてもいいが、残念なことにまたペニスが萎えてしまっている。

 

 由佳の体でも触って自分で回復させるか、フェラで勃たせてもらうか。

 せっかくなら、お仕置きっぽい後者だな。

 

「由佳、悪いけどまた口でしてもらえるか」

「どんだけフェラさせるのよ。ゴムのニオイがするからイヤ」

 

 由佳は声のする方から顔を逸らしてそっぽを向いた。

 

 たしかに、一度コンドームをつけたモノを舐めさせるのは忍びない。

 お風呂で洗ってこよう。

 

「ちょちょっ、どこ行くの」

「風呂でキレイにしてくる」

「そんなの縛る前に済ませなさいって! こんな状態で女の子を放置するとかどういう神経してるの!? って、あ、こらー! 戻ってきなさいー!!」

 

 由佳が見えない相手に向かって文句を言っている姿がなんだか面白かったので、俺は黙って風呂場に行くことにした。

 由佳のためにもじっくり洗っておこう。

 

「っと、バスタオルを忘れてた」

 

 風呂を上がってからソファーに置きっぱなしだった。

 せっかくだから由佳の分はハンガーにかけて干しておくか。

 

「あ、ほんとに戻ってきたのね。ならさっさと準備して。勃たないならバイアグラ飲んでいいから」

 

 部屋に戻ると由佳が一人で偉そうに喋っていた。

 これは擬似的なお仕置きで感度が上がるかを確かめるのが目的とはいえ、俺は由佳をイジメたいわけじゃないからな。

 無視するだけの放置プレイはしたくない。

 

「由佳」

「な、なに」

 

 俺が返事をしたことへの安堵と、短く名前だけを呼んだことへの不安で、由佳は喋るのを止めた。

 

「俺もそれなりに女の子としてきたけどな。どうにもフェラが一番好きみたいなんだ」

「だからなんなの」

「なんとなく言っておきたかった」

 

 俺はそれだけ由佳に告げて、浴室に向かった。

 

 セックスは尽し合いだ。

 たとえそれがSMプレイであったとしても、二人の中に信頼や思い遣りがなければ心からの快感は生まれない。

 由佳の反抗的な態度がただの性格の悪さでないのなら、さっきの一言でそれを察してくれたはず。

 あいつはむしろ、人の心情は汲めるほうの人間だと俺は思う。

 

 風呂場で下半身を丹念に洗って、バスタオルで拭いてから、ドライヤーで水気を完全に取り去った。

 

 部屋に戻ると、由佳はベッドの上で正座のままクネクネしていた。

 

「何してんだ」

「べ、べつに」

 

 由佳は俺が声をかけるとその動きを止めた。

 放置をしたことにもっと文句を言われると思っていたが、予想に反して大人しくしている。

 まさかもうエッチな気分になり始めているのだろうか。

 

 そんな簡単なわけがないか。

 

「お仕置きを再現するといっても、俺は由佳を犯したいわけじゃないからな。あくまで形だけだ」

「わかってるっての」

 

 俺はベッドに乗り上がると、サイドテーブルに置いていたコンドームを取って、袋をちぎった。

 

 目の前には、素っ裸で後ろ手に拘束されてる女の子がいる。

 両膝でバランスを取るために広げられた股には、いつか見た薄っすらとした陰毛がチラと見えていた。

 髪と同じで茶色がかっているので、この明るい髪も地毛なのだろう。

 

 全身がほっそりした由佳の体は、比較対象があのエロ要素の塊みたいなムチムチの二人であるせいか、その肉付きに妙なリアリティを感じた。

 

「んで、この状況でどうやってフェラすればいいの」

 

 由佳は口をモゴモゴさせて、不服そうに尋ねてきた。

 可愛いやつだな。

 

「まず前に上体を倒して。それから俺が手で誘導する」

「こんな、感じ……?」

 

 由佳が顔を下げてきたので、俺はその唇に半勃ちのペニスを触れさせた。

 すると由佳は舌を出してその先端の形状を確かめ、亀頭を口に含んで吸い込みながら奥まで咥える。

 目隠しされた女の子が股間に顔を埋めるようにモノを舐めてくれるなんて、いくら不本意な拘束プレイでもエロい気分になってくる。

 

「んっ……あ……むぐっ……」

 

 俺のペニスは由佳の口の中ですぐに大きくなって、由佳はそれでもすぐにフェラを止めなかった。

 フェラをしてもらうのが好きだと言っておいたおかげか、由佳はすっかり勃起したペニスを、不安定な姿勢でどうにか頑張ってフェラをしてくれた。

 

 由佳もフェラが下手な女と思われるのは嫌なようで、目で見えない肉棒を相手に、舌を出して探るように舐り上げてくれる。

 体幹の筋肉を使いながら、ただでさえ呼吸のしづらいフェラを続けることで、徐々に由佳の息遣いは荒くなっていった。

 

 必死に首を前後させて、いつもよりもすぼんだ口で肉棒を咥えながら、先走りに漏れるカウパー腺液を吸い取っていく。

 数分ほどそうして肉棒がしゃぶられて、亀頭の傘がパンパンに腫れるぐらいまで勃起が膨らむと、ようやく由佳はペニスから口を離した。

 

「くっ……なんだか、前にも増して屈辱的だわ」

 

 そこから出てきた第一声は恨みたっぷりだったが、舐めてもらっている最中は少なからずご奉仕の気持ちが窺えたので、俺としては満足だった。

 

 満足ではあったのだが。

 

 ついには俺の心にも、抱きたくもなかった感情が芽生えてしまった。

 

「中断されると萎えるんだ。本番が始まったら口は自由になるから、喋りたいならそれから喋ってくれ」

「うぐぐっ……こんのぉ……!」

 

 由佳は歯ぎしりをして俺を威嚇してから、呼吸を整えてまた舌で俺のペニスの位置を探り、不服そうにそれを咥えた。

 

 美優を相手に勝負事をやってきた由佳だ。

 “手番”というものを理解しているはず。

 つまるところ、「あなたの番のときに私は大人しく従ったのだから、私の番にも同じだけの命令に従ってもらう」と主張するために、自分がしたくないことでもある程度は受け入るのだ。

 

「はむっ……ぐじゅ……んく……っ」

「この短時間でずいぶんと上手くなったな」

 

 この状況に俺の性感が高まっているだけなのかもしれないが、由佳のフェラは最初のときよりも格段に気持ちよくなっていた。

 由佳にはこれまでお仕置きで何度も精液を飲ませてきたし、そのことを体が覚えているせいで、油断をすれば容易く搾り取られてしまいそうだ。

 

 本番が始まってからは特にそうだけど、美優の命令でお仕置きしたときのことは、思い出さないようにしないとな。

 すぐに射精してしまうようなことがあれば、由佳は難癖をつけて俺の手番を終了させるかもしれない。

 

「ちゅぶっ……ぐちゅ……こんなこほ……させられへ…………んちゅ……ほめらぇはっへ……ぐっちゅ……うれひくなんか……はぁ……んむちゅ……」

「でも、気持ちいいのは事実なんだよ」

 

 由佳の声音からは不機嫌な響きが感じられる。

 それでも俺のペニスを咥え続けてくれている事実が、歓喜と快楽を同時に俺の性感帯に与えてくれる。

 

「はむっ……んぐじゅ……ぜったい…………じゅるっ……あほぇなかへてやる……じゅっ……じゅるるっ……ぐぢゅっ……」

 

 後ろ手に縛られながら、口だけでご奉仕を続ける由佳。

 頭の動きに合わせて左右から伸びるツインテールが揺れ、その先端はベッドにまで達してくるりと丸まっている。

 ペニスを咥え込むために頭を下げて、それと連動して腰が上下に動いていた。

 そのお尻の動きを目で追っているうちに、まるで催眠術にかけられたように由佳を犯したい欲求が湧き上がってくる。

 

「もう挿れるから、ゴムを付けるぞ」

「んっ……ずじゅっ……ちゅぱっ。ふぅ。さっさと終わらせてよね」

 

 由佳はフェラをやめて唾液を吸い上げた。

 

 俺は袋から取り出したコンドームの上下を確認してペニスに装着し、由佳の後ろに回る。

 両手を拘束された由佳と後背位でセックスするためには、ベッドに突っ伏すような姿勢にさせるしかない。

 お仕置きっぽくするためにはそれぐらいは必要か。

 

「苦しいだろうけど、我慢してくれ」

 

 俺は由佳の背中を押して、ベッドに頭をつけさせると、腰を掴んでグイッと持ち上げた。

 由佳の頭がベッドに沈み込んで、なんとか呼吸を維持しようと顔を横に向けて身じろぎするその様を見下ろしながら、俺は蜜口に亀頭までを軽く挿入する。

 

「あっ……」

 

 ごくごく小さな音量で、色っぽく漏れた由佳の声。

 その蜜穴は、さきほどセックスしたときにくらべて、溢れるほどに愛液が満ちていた。

 

「いま声出したか?」

「し、知らないし」

 

 否定する由佳の声は、どこか焦っているようだった。

 由佳自身もここまで感度が上がってしまうのは予想外だったのだろう。

 この時点ですでに“多少具合が良くなった"の域を超えている気がするのだが、由佳は『声なんて出してません』といわんばかりにキツく唇を結んでいるし、ここで追及してもけむに巻かれるだけか。

 

「始めるぞ」

 

 俺はひとまず疑念を棚上げして、由佳とのセックスを進めることにした。

 由佳がマゾヒズムに目覚めたのかどうかは挿入してみればわかることだ。

 

 俺は由佳の腰を掴み直して、これから挿入することを暗に伝えてから、先端までしか入れていなかったペニスを膣内へとズプッと挿し入れた。

 

「ひぁ……ん、あっ……」

 

 俺のペニスが子宮の入り口をコツンと突いたところで、由佳は再び微かな喘ぎ声を上げた。

 そしてまた、唇を噛み締めて、俺が腰を振るたびに、二度、三度とやってくる快楽に必死に耐え続ける。

 

「ふぅ……っ……ぅっ……」

 

 どうにか声に出すことだけは我慢して、息荒く呼吸をする由佳。

 もうこの時点で俺が正しかったことが証明されたのではないだろうか。

 

「気持ちいいか?」

 

 俺は徐々に腰を動かす速度を上げながら由佳に尋ねる。

 

「はふ……そ……そんなわけ、ないでしょ…………こんな、恥ずかしい格好をさせられて……っ……気持ちよくなんか……」

 

 両手を縛られ、ケツを突き出して、秘所からトロトロと蜜を漏らして、なお気持ち良くないと否定をする由佳。

 縛る前と比べて感度が違わないのなら、ほれみたことかと調子に乗って俺を煽ってきそうなものだが、由佳はふぅ、ふぅと息をするばかりで何も喋ることはなかった。

 声を出そうとすると嬌声まで漏れてしまいそうなのか、声帯が震えないように必死に身を縮こまらせている。

 

 それから俺と由佳との間にあったのは、セックスの運動に息を速める俺の息遣いと、由佳の愛液に気泡が混じる音だけだった。

 由佳の表情はベッドに埋まってなお緩んでいて、どう考えても快楽に浸っているようにしか見えなかった。

 

「そろそろ良くなってきたか?」

 

 俺が尋ねると、由佳は十秒ほど息継ぎのタイミングを測ってから口を開いた。

 

「股に棒が入ってるぐらいにしか、感じないっての…………どんだけ……ぁっ……セックス、下手なのよ」

 

 いつもより切迫した高い声で、それでも由佳は平常を装って返事をした。

 こんなに濡らして気持ちよくないはずもないのに、負けを認めるのが嫌だからと意固地になっているな。

 

「嘘をつくと俺も容赦しないぞ」

 

 パチン! と俺は強く由佳のお尻を叩いた。

 色白だった臀部の丸みに、うっすらと赤く手の跡が残される。

 

「ひやぁ……あっ、あっ……!」

 

 由佳は声を上擦らせて、膣穴をキツく締める。

 俺はその肉の壁をこじ開けるようにグリグリと勃起したペニスを押し付けて、繰り返し由佳のお尻を叩いた。

 

「あ、ひぃっ……んひゃ、や、ひゃめ……!」

 

 由佳の膣内はペニスの挿入を繰り返すごとにぐちょぐちょとほぐれて、名器と呼んで差し支えない仕上がりになっていった。

 普通にセックスをしていたときとは比べ物にならないぐらいに、肉襞が絡み付いてペニスを吸い上げてくる。

 愛液の役割はただの潤滑剤でない。

 液体で膣内を密閉することで、ペニスの前後によって生まれる空洞がなくなり、その溝を埋めるようにして膣肉が這い寄ってくる。

 

「っ……あっ……ぁぐっ……!」

 

 顎を上げて喉奥に声を押し込める由佳は、足の指を上向きにピンと反らせて、縛られた両手を過剰なまでの力で握り込んでいた。

 

 そうでもしないと、由佳はもう喘ぎ声を我慢することができない。

 

 由佳が気持ちよくなっているのを認めるのも時間の問題だった。

 しかし、それと同じくらいに、俺の射精欲も我慢の限界が迫ってきていた。

 

 ペニスを出し入れしているうちに、由佳の肉穴の柔らかさが、段ボール詰めをして処女を奪ったあの状態に近づいていく。

 意識をしなくても、美優の「出して」と囁く声が頭の内側から聞こえてくるようだった。

 そんな風にされたら、我慢なんてできるはずがない。

 射精する前にどうにか由佳に負けを認めさせないと。

 

「由佳も気持ちよくなってるんだろ……いい加減に認めろ……!」

「はぁ……あっ……はぅぅ……いっ……いや……こんなの、気持ちよくない……あうっ……んぁ……気持ちよくなんて、ないんだから……ッ!」

 

 俺が腰を打ち付けて、結合部がぬちゃぬちゃと粘液の擦れる音が鳴っても、由佳は頑なに負けを認めようとしない。

 

「ああっ、あぁ……あっうぅ……!」

 

 由佳の全身の筋肉がピクピクと痙攣して、膣内の締まりが急激に強くなっていく。

 

 由佳もイキそうになっているんだ。

 イカせてしまえば、さすがの由佳でも一方的に勝ちを宣言することは出来なくなる。 

 俺は射精したい思いを振り払うように、激しいセックスに切り替えて一心不乱に腰を振った。

 それはあるいは乱暴と呼べるほどに強く、由佳の子宮にペニスを打ち付けていく。

 

「あっ……あがっ……うっ……ううっ……! きもひ、よぐなんがぁ……あぅ、ああっ……んああっ……ッ!」

 

 ビクンビクンと体を跳ねさせながら、由佳はなおも抵抗する。

 俺のペニスへの射精命令は、すでに脳から発せられていた。

 

 俺は由佳の下腹部を抱えて覆いかぶさり、睾丸から排出された精子が尿道にたどり着くまでのタイムリミットで、由佳の肉壺を力一杯に掻き乱した。

 

「由佳……由佳ッ……!」

「あああっ……はぁ……うっ……あ、はっ……もうや……ひゃめっ……きゅ、けぃ、させ……あっ、らめえぇ……ああっ……んっ……あぁぁああっ!!」

 

 ──びゅく、びゅるるっ、びゅく、びゅっ……!!

 

 ゴムの中に吐き出され精液を、そのまま子宮に押し込むように、俺は目一杯にペニスを突き立てた。

 

 直後、ベッドに押し倒されていた由佳の背中が、大きく反り上がって激しく身を震わせた。

 

 互いに息を切らし、気づけば全身にしっとりと汗が浮き上がっている。

 

 由佳はだらしなく口を開けて、犬のように浅い呼吸を繰り返していた。

 喘ぎ声を出さないようにするあまり、まともに息ができていなかったんだろう。

 

 これでもうはっきりした。

 由佳はお仕置きをされたり無理やりされたりしないと性的な興奮が高まらないのだ。

 

 わかったというだけであって、何かの解決になったわけではないのだが。

 

「由佳がイッたんだから、今回は俺が正しかったってことで、ひとまずはいいよな?」

 

 俺はゴムを外して口を縛り、ティッシュで包んでからゴミ箱に放り投げた。

 

 まず事実を確認したうえで、それからどうしたら由佳が満足するイチャラブエッチができるかを考える。

 具体的に何が由佳の悩みで、どうすれば解決できるのかはわからないけど、少なくともお仕置きエッチだけで終わらせて美優と同じ立場の人間になることだけは避けないとな。

 

「い……イッて、ない……」

 

 まだ痙攣の収まりきらない体で声を震わせながら、由佳はどうにか首を横に向けて口を動かす。

 

「由佳が認めないと終わらないだろ。セックスが気持ちよくてイきましたって正直に答えろ」

「こんなに、辱められて……っ……気持ちよくなるわけ……ないでしょうが……! ましてや、イクなんて、ありえないし……」

 

 ここまであからさまにイッておいてまだ抵抗するのか。

 想定していなかったわけではないが、いざとなるとどう対処したものか難しいものだ。

 

「そ、それより、お兄さんはイッたんでしょ? ゴムを外してティッシュを取る音が聞こえたもん。だから、私の勝ちよね」

 

 由佳は早く拘束を解けと言わんばかりに腕を上げてアピールしてくる。

 

 ここで由佳の好きにさせるわけにはいかない。

 由佳を負かさないとこの不毛なやりとりを延々とやることになる。

 

「負けを認めないなら、まだ続けるぞ。俺とのセックスが一回で終わるなんて思ってないよな?」

「へ……? なに、それ……ズルくない……?」

「ズルくない。いいから、これをキレイにしてくれ」

 

 俺は由佳の口に、まだ勃起したままのペニスを近づけた。

 由佳はゴムを外したばかりの精液にまみれた肉棒のニオイに顔をしかめる。

 

「イヤだ、そんな、精液とゴムの味がするのなんて……ふぐっ……!?」

 

 そんなことにお構いなく、俺は由佳の口にペニスを突っ込んだ。

 

 由佳もその勃起の硬さを認識してからは、これがまだセックスの途中なのだということを理解して、嫌がりながらもお掃除フェラをしてくれた。

 歯を立てることもなく、恐る恐る俺のペニスをしゃぶり、精液を舐め取る。

 

 美優と同じ道を辿るわけにはいかないけど、少なくとも俺が由佳に好き放題されて、事態が好転する未来は想像できない。

 だからまずはとことんまで由佳を負かせる。

 

「ううっ……うっ、じゅぶ、ちゅぷっ……はぁ、あぐっ……! んっ、ぢゅぱっ……んはぁ、うぅ。射精したのに、こんなにおっきいとか、バカじゃないの。どんだけ女をレイプするのが好きなのよ」

「こんな体質になったのは由佳のせいでもあるんだ。次、始めるからな」

 

 俺は二個目のコンドームをペニスに装着した。

 

「もう少し、お休みさせて? 今お股を使われると、ちょっとマズいというか……」

「できないならこのまま口に出すけどいいのか?」

「よくないよくない! でも、今はまだムリなの……! お願い、休憩させて」

「イッてないなら続けられるだろ」

 

 俺は由佳の後ろに回ってお尻の肉を鷲掴みにし、両手の親指で先ほどまで犯していた穴を広げた。

 そこからはまだ変わらない量の愛液が溢れている。

 

「こ、こら、やめなさい! そんなことをして、タダで済むと思ってるの!?」

 

 まるで囚われの姫のような口ぶりで叫ぶ、由佳の感情の昂りに合わせて、トロトロと蜜が淫裂から垂れてくる。

 こんなことでも由佳は興奮してしまうらしい。

 俺はお尻の穴のほうにも指を添えて、腸内に空気が入り込むぐらいに大きく広げてやった。

 

「ひやぁ……やめッ、やめて……! そんなとこ見ないで……!」

 

 案の定、お尻の穴がヒクつくたびに、由佳の肉穴から愛液が漏れた。

 どこまでもしつけ甲斐のある体だ。

 続けていたら目的を見失ってハマってしまいそうになる。

 

「こっちも美優たちに開発されてるんだったら、使ってみても良かったんだけどな」

 

 俺は膝立ちして、由佳に肉の薄い尻肉を掴み直すと、間髪入れずに由佳のヴァギナにペニスを突き立てた。

 

「ひぎぃっ……!! あ、あああっ……んあっ、ひぁっ……! ん、あぁぅぅ……はぁうぅ……あっ、あっ、あぅぅああっ!!」

 

 由佳は激しく悶え、淫らな声を部屋中に響かせた。

 そして、その声が由佳自身の耳に入って脳が認識したところで、ようやく由佳は息を止めて嬌声を抑える。

 頭がまだ整理しきれていないうちにセックスを始めたせいで、由佳は喘いではいけないことを忘れていたようだ。

 

「そんな声が出るぐらいなんだから、気持ちいいんだろ?」

「はぁ……ふぅ……き、きもち、よく……うっ……んぁ……な、ない……ぜんぜん……きもちよくない……!」

「いつまでそうやって強情でいるつもりだ」

 

 俺は前よりさらに水気が多くなった蜜壺を、ぐちゃぐちゃと肉棒でかき回すと、由佳の全身の筋肉がまたイク直前のようにビクンビクンと跳ねた。

 たとえダメだとわかっていても、由佳は喘ぎ声を抑えきれなくなってきている。

 

 こうして実際にセックスをするようになって、十八禁のゲームやアニメで出てくるエロシーンなんてものは、たしかに男を興奮させるためのファンタジーだったのだと知った。

 それでも、ひとつだけ、二次元とリアルの両方で通用する知識があった。

 それは、女の子は一度絶頂を迎えると、次のオーガズムまでの間隔が短くなるということ。

 イクのに慣れたその体は、続けざまにペニスを挿入されると、たまらず次の絶頂への準備を始めてしまうのだ。

 

「あぅ、はぁ……はぁ……ふぅっ……んっ、いひゃ、ああっ……らめぇぇ……あぅ……や、やす、ませて……んんっ……あああっ……!!」

 

 口元に唾液を滲ませながら快楽責めに耐える由佳。

 俺は由佳の腕を両手で掴み、馬の手綱を引くようにして持つと、ストロークを大きくして何度も腰を打ち付けた。

 できうる限りオモチャで遊ぶように雑に。

 由佳の肉穴をオナニー用の道具として男本位のセックスを続けていく。

 

「気持ちいいかっ……由佳っ……!」

 

 そう尋ねるときほど強く腕を引いて、激しく腰を振る。

 もはや答えなど求めていないことが伝わるぐらいに、乱暴にペニスを出し入れする。

 

「ああっ!! ひぃ、あ、き、きもち……よぐぅ……やぁひぃぃ……ッ!! んっ、あんっ、あっ……はぁうぅ……!!」

 

 快楽に抗えず乱れる由佳の感度は更に上がって上がっていき、また体がビクついて二度目の絶頂を迎えようかというところで、俺は由佳と繋がったまま腰の動きを止めた。

 その空白の時間に由佳の体は快楽の余韻に包まれ、わけもわからず犯されているだけだった脳が冷やされていく。

 

 そうして呼吸を整えたところでセックスを再開して、俺は由佳が喘ぎ狂う姿を堪能しながら、硬い肉棒を何度も膣肉に擦り付けた。

 次第に速くなる腰の動きに、また由佳の体が痙攣し始めて、イキそうになったところで俺は腰を止めた。

 それを何度も何度も繰り返しているうちに、由佳は俺がピストンを止めても腰を動かし続けるようになった。

 

 イキたいのにイかせてもらえない。

 だから自分で動いてイこうとする。

 そんな意思だけが由佳の白んだ思考の中に残されている。

 

「あぅ……はぁ……んあっ……」

「自分から動くなんて、そんなに膣内に刺激が欲しいのか?」

「こ……これは……違くて……その……」

 

 由佳は俺の問いに戸惑って、一瞬だけ動きを止めると、何かを思いついたようにわざとらしく自分から腰を動かし始めた。

 

「お兄さんが……乱暴にするから……んっ……ああっ……こうして、衝撃を和らげてるの……あんっ、あああんっ……」

 

 壁に張り付いた突起でオナニーをするように、結合したままお尻を擦り付けてくる由佳。

 ここまで追い込んではみたものの、さすがに由佳に言い訳の隙を与えると有耶無耶にされてしまう。

 変化球で上手く墓穴を掘らせられないかと考えたが、もっと快楽堕ちさせて思考力を奪わないとダメみたいだ。

 

「由佳。こっちを向いてくれ」

 

 俺はペニスを抜いてから、由佳の体を転がして仰向けにさせた。

 それから、ぐったりして重たくなった上体を抱え上げ、対面座位の体勢になる。

 背中を仰け反った由佳のツインテールが真っ直ぐに垂れていて、巻かれていた髪はもうストレートに戻っていた。

 

「ふぁ……なに……するの……」

「なにも。セックスを続けるだけだよ」

「うぐっ……あ、んんっ……いひゃぁああっ!!」

 

 俺は由佳の正面からペニスを挿入して、その体をオナホのように上下させて根元まで深く突き刺した。

 お腹を上にして挿入したほうがポルチオを刺激しやすい分、由佳の感度も段違いに良い。

 男性器に伝わってくる快感も高まるため射精を我慢するのもツラくなるが、そこはもう由佳との根比べをするしかない。

 

「あ、ああぅ、ああひゃぁ……! こ、こひゃの、じゅるい、のぉ……あっ……あひぃ……ああうぅあぁっ……!」

 

 天に向くほどに反り上がったペニスで、由佳のお腹を内側から抉るように、腰をグラインドさせて何度も性感帯を刺激する。

 全身に残った筋肉のありったけを使って、休みなくひたすらに、呼吸する隙すら与えないほど激しく由佳の子宮を突き上げる。

 

「あうぅぁああっ、あんんっ、ひひやぁあっ!! ああっ……ぐひゃぃぁあっ……いいひぎぃあッッ!!」

 

 由佳の体が跳ね上がって、嬌声が途切れても、なおもセックスを続けた。

 

 どれだけ由佳がイッても腰を振るのをやめない。

 ひと突きで絶頂するほどイキ狂ってもなお気にせず、オスの性欲のありったけを由佳にぶつける。

 

「由佳っ……もう素直になれ……! っ……はぁ……気持ちいいって、言え……!」

「いひやぁあ、イヤ、やぁんっあっ!! みひょめにゃ、いっ……んあっ……み、みと、みとめにゃあぁあっ……ッ!!」

 

 由佳は頑なに否定をし続けた。

 もはやイエスと言わないことに全神経を割いている。

 

 もはやどれだけ喘がせても意味はない。

 何回イかせても、同じ問答を繰り返すだけだった。

 

 そんな由佳の強硬姿勢を見ているうちに、俺の脳裏にふと思い出されるものがあった。

 

「……由佳。俺たちがしたかったのは、イチャイチャしたセックスだっただろ」

 

 俺はピストンの速さを緩めて、意識の朦朧とした由佳を両腕に抱いて囁く。

 

 その言葉に、由佳はピクリと反応した。

 このお仕置きプレイは元々、由佳がそうしないと気持ち良くならないのかを確かめるために始めたものだ。

 そして、もう由佳がマゾヒズムな特殊体質であることは明白になった。

 

 だとしたら、もうこのセックスの行く末としては、由佳が気持ちいいと認めさえすれば何でも良いのだ。

 

「由佳が嘘をつくのをやめたら、俺は由佳にキスをしてもいい」

 

 あくまでも軽く唇を接触させる程度のものだが、恋人らしいイチャましさを演出するだけならそれで十分だろう。

 

「き、きしゅ……してくれるの……?」

「由佳が正直になったらな」

 

 俺はそれだけ告げて、セックスを再開した。

 もう無理な力を入れることもしない。

 これで由佳が負けを認めなかったら、俺が非を認めてしまおうという諦めも込めて、ごくごく普通にセックスらしい最後のピストンを由佳の膣内に送っていく。

 

「ああっ……んっ……あああっ……」

「可愛い声が出るようになったな……由佳……気持ちいいか……?」

「あっ……き、きもちいい……んあっ、きもちぃでしゅ……あっ、あっ……お兄さんのセックス……しゅごくきもちいい……!」

「はぁ……はぁ……正直になったほうが、由佳のためにも…………んっ? あ? 気持ちいいのか?」

 

 こいつ、あれだけ意固地に否定していたにくせに、あっさりと手の平を返しやがった。

 

「本当に気持ちいいんだな? これがいいんだな?」

 

 俺はペニスの硬さを由佳にわからせるように、膣内深くまで剛直を挿入する。

 

「あっ……ああんっ……お兄さんのカタいの……すごくきもちい……すきぃ……!!」

 

 さきほどとは打って変わって蕩けたような表情で俺のペニスを受け入れる由佳。

 俺の腕に抱かれている体をこちら側に倒してきて、自ら俺の肉棒に騎乗するように腰を振ってくる。

 

 そうだった。

 自分に利があると判断したら、恥も外聞もなく身の振り方を変えるのが由佳という生き物だ。

 結果的には俺とセックスができて、キスもできるようになって、由佳にとっては良いこと尽くしで勝負が終わっている。

 

 しかし、ここまで苦労を掛けさせられて、由佳だけいい思いをするのは納得がいかない。

 

「だったらさっきまでのは嘘だったんだな?」

「あっ、あっ、はひぃ……嘘でしたぁ……ごめんなひゃぃ……!」

 

 由佳は微塵も悪びれずにヘコヘコと腰を振る。

 もう俺はこの生意気な女を懲らしめずにはいられなくなった。

 

「お前はいつも、そうやって調子に乗って……!」

 

 俺は力いっぱいに由佳の膣を犯した。

 苛立ちに硬度を増した剛直が由佳の性感帯を擦り、その乱雑さが由佳を悦ばせるとわかっていてもなお、パンッ、パンッ、と破裂音が鳴り響くほど強く腰を打ち付けるのをやめられない。

 

「ああっ……ひぃああっ……!! あうぅごめなひゃぃ……あっ……ああんっ……もうひわけ、ごぎゃいま、ひぇん……でひぃ……んあああっっ!!」

 

 由佳は目隠し用のタオルを涙で濡らしながら、緩んだ頬と甘い声で悲鳴を上げた。

 

 俺には美優のようにとことんまで追い詰めるようなことはできない。

 だからこの性悪女は、心にもない謝罪を繰り返しながら、かつてないほど嬉しそうに犯されている。

 淫肉は俺の肉棒を歓迎するようにうねりくねり、謝りながら快楽責めされているその様が、かつてレイプした記憶としてフラッシュバックした。

 

 その記憶が俺のペニスをポンプアップさせて、充血してエラ張ったカリが由佳の腹部を擦り、重たくなった陰茎が結合部に鈍く響いていく。

 

「おおっぐ……うぅあぁっ……ひいぃぃぐいゃ……いっひゃ……いっひゃうっっ!!」

 

 由佳の「イク」と叫びながら体を細かく跳ねさせる。

 俺はもうこの状態の由佳を何度も見てきた。

 

「はぁ……由佳っ……それで、イクの何回目だ……!」

「あひぃ、あ、うぅ……わ、わかりまひぇん……もうイキすぎてわかんないよぉ……!!」

「だったら最初のもイッてたんだな……!」

「んっ、ああっ、い、イッてまひたぁ……! じゅとさいしょ、から……きもひよすぎて…………なんかいも、ひぎぃ……イってまひたぁっ……!!」

 

 由佳は強がって嘘をついたことをわびながら大声で喘ぎ狂った。

 もはや否定の余地のない完璧な陥落っぷりだった。

 俺は仰向けにしたまま由佳をベッドに押し倒して、後ろに縛られている手首をあえて自らの両手で動かせなくすると、残された筋力のありったけを使って由佳を責め立てた。

 

「あああうぅっ、ごめにゃひゃひぃっ……!! いひゃぁあああ……んああっ……あぁあううぅあぁっ!!」

「はぁっ……あっ……由佳っ…………俺ももう、イク……ッ……!!」

「があぁっ、ぐあっ、いひゃぁああっ! ああんっ!! んやぁあああっ!」

「ッ……由佳っ、で、るっ……出るっ……!!」

 

 びゅっ、どびゅっ、ぐぴゅっ、びゅっ、びゅびゅっ──!

 

 かつて美優の命令で何度も由佳を犯してきたその体は、拘束されて辱められている由佳に射精するのを使命として覚えたように、大量の精液をゴムの中へと送った。

 体力を使い果たした体にどっと疲れがのしかかってきて、俺は由佳を潰すように正面から倒れ込んでしまう。

 

「っ……はぁ……っぁ……由佳、悪い……」

 

 どうにか体を起こして由佳の腹の上から退いたが、由佳からの反応はなかった。

 強がる必要のなくなった由佳の脳は、負けを認めた途端に快楽に溺れ、俺に犯されるがままにトんでしまったらしい。

 キスの約束だったけど、寝ている間に済ませてしまうのはさすがに卑怯か。

 

 俺は由佳の目隠しと拘束を解いてベッドに寝かせてやることにした。

 由佳はしばらく白目を剥いて虫の息だったが、五分ほどすると安らかな眠りについた。

 

 風呂に入ったときに少し休めたとはいえ、遊園地からほとんど動きっぱなしになってしまったからな。

 俺も休むことにしよう。

 

 溜まった疲れのせいで朝まで寝てしまいそうなので、俺はアラームをセットするためにソファーまでスマホを取りに行った。

 筋肉疲労のダルさを感じながらディスプレイの電源をつけると、1件のメッセージが表示されていた。

 

『了解しました。明日はお家で待ってます』

 

 俺の帰宅が明日になると連絡したことへの、美優からの返信だった。

 淡白なのに不思議な温かみがある。

 早く家に帰って美優とイチャイチャしたい。

 

 俺はアラームを三時間ほど寝れるくらいにセットしてベッドに入った。

 由佳は小気味よく寝息を立てて、いつもの生意気な姿からは考えられないくらいに愛らしい顔で眠っている。

 二つ結びになった髪のまま寝ていると寝癖になりそうなのでヘアゴムを取ってやりたかったが、下手に外すとゴムが切れそうなほどガッチリ縛られていたので諦めた。

 

 それから、アラームが鳴るまでの間、途中で目が覚めることもなくぐっすりと眠っていた。

 ベッドに入ってから数分うとうとしていただけのつもりだったのに、気づいたら時間が飛んでいたみたいに大音量の電子音が俺たちの鼓膜を叩いたのだ。

 その音に驚いて、真っ先に飛び上がったのが由佳だった。

 

「え!? なになに!? もう夏休み終わった!?」

 

 起き抜けから騒がしくて、もしかしたら俺は由佳の声で目が覚めたのかもしれない。

 由佳が勢いよく布団をめくり上げたせいで俺の方まではだけてしまったので、その分の布を取り戻すように俺は布団を引きながら体を起こす。

 

「おはよう。と言ってもちょうど真夜中だけどな」

「あら、おはよう。私たちいつの間に夫婦になったの?」

「なってない」

 

 裸の男女が並んで寝てればそれなりの関係には思えるだろうが、残念ながら由佳はセフレでもない友人だ。

 

 起きてすぐにエッチをする気分にはならず、俺たちはベッドから降りて服を着ることにした。

 由佳はマイクロビキニとキャミソールだけを着てベッドへダイブする。

 

「ところで由佳。寝る前のことだけど」

 

 俺が話を仕切り直したところで、由佳はギクっと血の気の引いた顔になった。

 例の勝負について覚えているか聞こうと思ったが、確認するまでもなかったな。

 

「あんたたち、マジに責任取りなさいよ」

 

 由佳は体を隠すように布団を引いて壁を作った。

 

「俺とする前からそういう体質だっただろ。美優と遥に言え。俺は無関係だ」

「関係なかないわよ……! 最近は一人でするときディルドが無いと物足りなくなってるんだからね!? これがお兄さんのせい以外にあるの!?」

「わかった、俺が悪かった。それ以上に赤裸々な告白をするのはやめてくれ」

 

 女の子の一人エッチは見てみたい一方で、話題に出されるとどう扱っていいのか困る。

 

「ま、どうあっても、贖罪はしてもらうからね。こいつを見て目ん玉ひん剥くといいわ」

 

 由佳はまた慌ただしくベッドから降りてソファーの近くに向かった。

 その隣にあるテーブルの、テレビやらカラオケやらでごちゃごちゃしているところに紛れて、カバーのないスマホが紛れるように立て掛けられていたのだ。

 

「そんな小細工までして録画してたのか」

「とーぜんでしょ。この由佳ちゃんを何だと思ってるの」

 

 ソファーに投げられていたのはカバーだけだったのか。

 細かいところにまで知恵が回るんだよな。

 

「三時間以上放置されてたけど、録画容量は平気なのか?」

「お兄さんは何も知らないのね。デフォで入ってるタイマーで自動的に止められるのよ」

「ほう」

 

 感心している俺の前に由佳はやってきて、ばっちりお仕置きプレイが録画された動画を見せつけてきた。

 映像だけを見ていると、まるで俺が年端も行かぬ少女をレイプしているようだ。

 

「こいつがあれば、お兄さんはもう私の言うことを聞くしかないの。勝負だのなんだのは忘れなさい」

 

 由佳が得意げにスマホをかざして目を細める。

 

「俺が言うことを聞かなかったとして。どうするつもりなんだ」

「どうって、それは……」

 

 そう尋ねると、由佳はいつもみたいに鋭く切り返してはこず、しばらく口をもにょもにょさせていた。

 なんとなく撮っていただけで、目的など決めていなかったのだろう。

 

「学校でも、ケーサツでも、送り先なんていくらでもあるのよ。美優に送ってもいいし」

「送ってどうなる」

「それは……騒ぎになるなりして、色々と困るでしょうが」

 

 由佳は自信なさげに答える。

 まあ実際に送られたら困ることには違いないが。

 

「仮にだ。それで俺が警察の厄介になったり、美優が嫌な思いをしたとして。由佳はそれでいいのか?」

 

 これまでの由佳の脅しや交渉は、取り引きを考えるだけの妥当な理由があった。

 だが、最近の由佳の言い分は、どうにも無理が過ぎるように思う。

 由佳が俺とのイチャラブした関係を望んでいなくて、最初の頃のように顔見知り程度の関係であれば、こうしたやり方もアリだったかもしれないが、今となってはもう筋が通らない。

 

「ん……まあ……そうね。思ったほど、使えなさそうだし。これは消そうかしら」

 

 由佳はしょぼんとしてスマホを操作し、ファイルから動画を消した。

 こいつも大人しくなったものだな。

 

「こっちに来い」

 

 俺は由佳からスマホを取り上げてベッド脇に置くと、由佳のお腹に腕を回して、ベッドの縁に座る俺の前まで抱き寄せて同じように座らせた。

 

「えっ、えっ、ええっ、なに?」

 

 由佳は困惑して手足をバタバタさせる。

 そんな由佳の頭を、俺はポンポンと軽く撫でてやった。

 

「あの、私、脅してたんですけど……? 普通は怒るとこじゃない? ちゃんと感情ある?」

「怒るようなことなんてなかったよ」

 

 由佳が色々と勝手に自爆していくだけで、俺に実害が及んだことはほとんどない。

 優しさではなく事実として怒る要素がないのだ。

 

「あっそう。変な人ね」

 

 由佳は観念して俺の腕の中に収まると、薄っすらと頬を紅潮させた。

 それがどういう感情から来たものだったのかは、俺にはわからなかった。

 

「こうして由佳と話してるのは楽しくて好きなんだよ。前に相談したときからそうだったけど、由佳の声を聞いてると元気になるんだ」

 

 怒るどころか、由佳には感謝している。

 美優とのことは当事者間でもう清算された話だし、俺と由佳との間に限定すれば、俺はむしろ由佳に助けてもらったことの方が多い。

 

「それにな。苦手なことも多いのにいつも強がってるところとか。ズル賢いようでたまに抜けてて、予定と狂うとあたふたするところとか。由佳は結構、男心をくすぐるような健気さもあるんだよ」

「うっ……褒められてるのか馬鹿にされてるのか……わかんないけどむず痒いわ……」

「褒めてるよ。もう一度はっきり言っておくけどな。由佳は可愛いし、俺は好きだ」

 

 俺は由佳の肩にかかった二つ結びを前側に下ろし、体を引き寄せて俺に背を預けさせた。

 

「だから、そういう褒め方はやめてって。なんて言い返したらいいかわかんなくなる」

「昼間は褒められて喜んでただろ」

「雰囲気を考えてよ」

「いい雰囲気じゃないか?」

「それがダメなの」

 

 またわけのわからない反応を。

 美優を相手にして慣れてる俺だから良いが。

 

「私を褒めていいのは、私が褒めてほしそうにしてるときだけ」

「難しいことを言うな。ダメな理由がわからないと判断もつかないぞ」

「だーかーらー。会話としてする分にはいいの。私が本気になるような、本音っぽい褒め方はやめてって言ってるだけ」

 

 なるほど、そうか。

 このチグハグな話ぶり、俺はこういうとき、本人の頭の中では整然とした考えがあることをよく知っている。

 ついに深掘るべき時がきたんだな。

 

「なら、それが本心からの言葉でも、褒めないで嘘をついたほうがいいってことか?」

「そういうのとはちがくて。そもそも、なに。だったら、本気で私のこと可愛いって思ってんの?」

 

 ずっとそう言ってるだろうが。

 

「いいか、由佳。俺が言ってる可愛いっていうのは、外見だけのことじゃない。由佳の反応とか仕草とか、そういう全部が魅力的なんだ。由佳への褒め言葉はどれも本気だよ」

「へえ……そう……」

 

 由佳は無関心を装って空返事をする。

 

 こうなったら、一発ガツンとやってやらないとダメだな。

 どうせ約束は果たさないといけないわけだし。

 

「由佳」

 

 俺は由佳の首の後ろから顔を近づけて、振り向いた由佳の唇に目線を落とす。

 美優のおかげで、少しは慣れた動き。

 

 あれだけ熱望されていたものを、いまさら嫌がられるかもしれないと恐れる必要もない。

 

「一度でいいから、人の言葉を素直に受け取ってみろ」

「え、あっ……んっ──」

 

 俺は由佳にキスをした。

 

 由佳が欲しがっていたほど情熱的なものではなかったが、たしかに唇が触れて、互いの朱い肉が平らになるぐらいにしっかりと。

 

「わっ……え……は……」

 

 由佳は瞠目して、瞳を震わせる。

 

 寝る前の記憶はあると言っていたから、それほど驚かれないと思っていた。

 そんな予想に反して、由佳は俺の腕を振り払うと、ベッドの上を後ずさりして俺から遠ざかっていく。

 

「由佳、後ろ、危ないぞ」

 

 俺が注意をしても、由佳はベッドの縁まで下がってなお止まらず、後ろに転がるようにしてベッドから落ちていった。

 

「お、おい。大丈夫か?」

 

 バラエティ番組みたいな盛大なズッコケ方に、いくら由佳でも怪我をしたのではないかと心配したが、由佳はすぐにムクリと起き上がった。

 しかし、混乱状態が解除されたわけでもなかったようで、由佳は室内のテーブル伝いにヨタヨタと歩きながら、浴室へと逃げていった。

 

 そんなにビックリさせてしまったとは。

 なんだか申し訳ない。

 

 俺は由佳を追いかけていって、浴室のドアを開けた。

 

 するとそこには、洗面台の鏡に向かい合い、両手で唇を押さえている由佳の姿があった。

 

「大丈夫か?」

 

 声を掛けても、反応はなかった。

 リスが種を持つように小さく、唇に指を重ねてぼーっとしている。

 

 俺が近づいてその姿が鏡に映ると、由佳はようやく俺が追いかけてきたことに気づいた。

 

「あっ……ふぉ……!」

 

 鳩みたいな可愛げのない悲鳴を上げた由佳は、泣きそうな目で俺を見つめてきた。

 

「なに、あの、私、はじめて、おとこのひと……」

 

 瞳の揺れが由佳の全身に伝わって、わなわなと震えだす。

 

 あれだけ挑発してきたくせに、されるとなったらこれか。

 俺たちはさっきまで目隠し拘束プレイまでしていたんだぞ。

 なんだそのピュアな反応は。

 

「ビックリさせたならごめん。約束だったし、寝る前のことは覚えてたっていうから」

 

 だからあれは、正当なキスだった。

 女の子とラブホテルに来ている男が言うことでもないが、下心とか他意はまったくなかったのだ。

 

「とりあえず、部屋に戻って落ち着こうか」

 

 俺は由佳の肩を抱えるようにしてベッドへと連れ戻った。

 縁に座らせても由佳はまだ呆然としていて、しきりに唇を触っている。

 

 初めて由佳とお仕置きエッチをしたとき、美優が口移しでベロチューしていたので、由佳も慣れているのかと思っていた。

 とはいえこいつの性格を考えると、まともなキスをしてもらったことは一度もなかったんだろうな。

 

「あの……お兄さんは、どうして私に優しくするの……?」

 

 由佳の口から漏らされた疑問。

 これまでと違って、少女らしい控えめな声だった。

 

「変かな?」

「だって、私が一方的に押し付けた借りを返すために、お兄さんはこんなデートに付き合って。これだけ私がワガママしてるのに、嫌気がさしてる感じ、全然ない」

 

 由佳は俯きがちに、ついにその本音を吐露する。

 

「いつもの私が好きって、みんな言うけどさ。誰も私を求めてくれたことなくて。女の子っぽくしても馬鹿にされるし。励ましても茶化されるし。イタズラするとやっぱり怒るし。私は、私なりに、その……」

 

 由佳は語気を弱めて言葉を濁そうとして。

 それでも、話を続けてくれた。

 

「どうしたら元の自分で好きになってもらえるのか考えるのやめて。私が大人になれば時間が解決するんだろうけどさ。そんな形で自分を捨てるのは、なんか、悔しいじゃん」

 

 幼いなりに頑張って、みんなに好かれていたはずの自分は、恋愛という立場になると誰よりも遠かった。

 

 由佳の悩みは過去の俺とハルマキさんが嵌っていた泥沼のどちらにも似ていた。

 いつだか俺も美優に説教をされた、自分はキモいオタクでしかないという思い込み。

 周囲から見てそれが俺らしいからと、自分で自分を悪い評価に押し込めていた。

 そこから抜け出したいと思っても、周りは“自然な在り方”を期待するし、本当に自分らしく頑張っていた部分も捨てられない。

 

「美優だけは、私の性根みたいなとこを見極めてくれてて。私が得意なことを任せてくれて、ずっと変わらずに仲良くしてくれたの。……お兄さんほど私に関心は向けてくれなかったけどね。嬉しかった」

 

 美優は優しくて、年不相応に大人で、そのせいで由佳の根っこにある人間性を認めすぎた。

 それがやがて由佳を美優に固執させて、後付けの恋心を芽生えさせた原因だった。

 

 原因がそこにあったというだけで、決して美優が何か悪かったわけではない。

 もし、美優が感情を閉ざしていたあの時期がなかったら、由佳を拗らせずに大人にしてやることぐらい簡単にできていただろう。

 

 今はもう、美優は自分の感情に不自由していないけれど。

 その長い付き合いを経て、由佳にとって美優が敬愛の対象になってしまった今では、もう美優は由佳が求める“好きになってほしい誰か”にはなれなくなった。

 

 だから、その足りなかった部分を俺が埋めればいい。

 

 これまでの由佳との付き合いで、俺の本心から生まれた由佳が好きだという想いを伝え続けるだけでよかったんだ。

 由佳の中で周囲の期待によって凝り固まった、『わがままでイタズラ好きの女』であろうとする自分が、どれだけ他人の好意を否定しようとも。

 他でもない、由佳自身が由佳のことを好きになれるまで。

 

 由佳が俺に彼氏らしい振る舞いを期待しておきながら、俺が由佳を女として扱うと反発したり、顔を真っ赤にしていたのが、そのまま答えだったんだ。

 

「俺だって、由佳には色々と思うことはあったよ。美優ほど察しがいいわけでもないし、お互いにロクでもないこともし合ったしな。でも、こうして由佳のことを知った今では、心から由佳が好きなんだ。それだけは信じてほしい」

 

 後ろから、由佳の顔ははっきりとは見えなかったけど。

 

 俺の言葉に、由佳はしばらく目を閉じて考え込んで。

 

 それから、そっと俺の腕に手を置いた。

 

「うん。ありがと」

 

 由佳は短く返事をした。

 

 それから由佳は俺の腕から抜け出して立ち上がると、どこか吹っ切れたように清々しく笑みを作った。

 

「お兄さんは、いい男ね。私が認めてあげる」

 

 そう語る由佳は明るくて、落ち着いていて、どこか誰もが理想に思う女の子の姿になっていた。

 予想だにしなかったその穏やかな反応に、俺の胸中に何とも言えないモヤモヤとした不安が立ち込めていく。

 

 ソファーに散らかった荷物をまとめる由佳の所作は、長年一緒にいたことで無意識に染み付いたのであろう、美優に似た大人っぽさがあった。

 

「えっと、気持ちは伝わったかな?」

「もちろん。遊園地のときからあんだけ好き好き言われてたんだから。むしろ『えー付き合っちゃうのー?』とか思ったくらいだし」

 

 由佳はベッドに置いてあったスマホにカバーをつけながら軽口を叩く。

 その言葉にはいつもみたいに胸に響くような鋭さはなかった。

 

「伝わったなら、よかった」

 

 そう口にしながら、俺の心には焦りが募っていった。

 俺が由佳が期待していた何かを裏切ってしまった気がした。

 

 それがきっかけで、由佳は俺に感謝を述べたあの瞬間に、大人になることを選んだのかもしれない。

 

 それは由佳にとって一つの正しい道だったのかもしれないけど。

 俺は酷く、虚しさを感じた。

 

 きっと悩みは悩みのまま、由佳の心の奥底に封じ込められているんだ。

 この場で流れを変えられなかったら、もうそれを解決してやることができなくなる。

 

「シャワー浴びたくないか? お互い汗もかいたし、由佳はずっと髪を結びっぱなしだっただろ」

「そうね。このまんまじゃベタベタして寝らんないわ」

 

 由佳は二人分のバスタオルをハンガーから取って、俺に手渡してきた。

 

「どうするの? 先に浴びてくる? 一緒に入るの?」

 

 そんな何気ない由佳の質問が、胸にズキリときた。

 これまでの由佳なら一緒に入る一択だったはず。

 もうわがままを言う必要もないから、美優に配慮することにしたのか。

 

「一緒に入るか、由佳が先かでいいよ」

 

 選択肢を残して、保留に近い回答。

 

「うーん」

 

 由佳は結んでいた髪を下ろしながら考え込んでいた。

 そんな由佳の姿を見て、俺の思考が一時的に横道に逸れる。

 

「……ストレートだと、だいぶ印象が違うな」

「それみんなに言われる」

 

 左右に結んでいた分が下ろされて、イメージよりも長い髪をスッと伸ばすその清楚さに、いつもの生意気な猫目も可憐に見えた。

 

「髪を下ろしてる姿も、いいな。かなりいい」

 

 俺は素朴な感想を投げただけのつもりだった。

 そんな俺を、由佳は口をへの字に曲げて睨んだ。

 

「どーせ美優がストレートだからでしょ」

「えっ、ああ、違うんだ……! オフモードの由佳も可愛くて、もちろんツインテールの由佳も好きだし、どっちも褒め言葉で……!」

 

 俺が慌てて言葉を取り繕った。

 そんな姿の俺を見て、由佳はフッと笑った。

 

「恋人のことなんだから、そんなに必死に否定しなくてもいいのに。やっぱり、変な人ね」

 

 由佳はまた朗らかに笑って、それを見たとき、俺は唐突に悟った。

 

 俺が慌てて言い訳をしたのは、そうしないともう由佳の悩みに触れられなくなる気がしたからだ。

 でも、本人から頼まれたわけでもないのに、人の悩みを解決してやろうだなんて考えは、独りよがりでしかなくて。

 美優の願いを叶えてやりたい思いで食い下がってみたけど、それはあまりにも由佳の気持ちを軽視しすぎていた。

 

 元々、指示もなく自然に接していろと言われていただけだし、あの美優のことだからどんな結果になっても上手く事をまとめるだろう。

 

「由佳のことは、由佳のこととして褒めたかったから」

 

 下手な考えを捨てて力を抜くと、そんな言葉が出てきた。

 そんなにキザったらしいことを言うような男ではなかったはずなんだけどな。

 これまでは想像するだけで恥ずかしかったけど、由佳を相手にしているうちにすっかり慣れてしまった。

 

「お兄さんも、そうやって女を口説くようになったのね。お姉さんも嬉しいわ」

「そういや由佳は俺がダメなオタクだった頃から俺のことを知ってるんだよな」

「ほんとほんと。冴えない男だったのに、ずいぶん成長したもんよ」

「なぜそんな上から目線なんだ……」

 

 当時の俺を知っててこうして慕ってくれてるのは嬉しいものだな。

 由佳も逆の立場として、俺みたいな存在をありがたく思ってくれてるんだろうか。

 だとしたら、俺も嬉しい。

 

「なあ。シャワーの前に、もうちょっと話さないか?」

 

 俺はベッドに腰掛けて、今度は隣に座るよう布団を叩く。

 

「しょーがない。私もそんな気分だから付き合ってあげる」

 

 由佳はニヤニヤしながら俺の横に座った。

 少しは元の距離感に戻れたみたいだ。

 

「由佳はやっぱり良い奴だよ。美優が友達に選ぶだけあるというか。遥もきっと、仲良くなれたら由佳みたいに良いところがたくさんわかるんだろうな」

「いや、あの女だけは根っからの悪党だから。映画なら最後にボスを裏切って真のラスボスになるマッドサイエンティストみたいなやつよ」

 

 まさかそんなことはないだろう。

 それだけの素養があることは認めるが。

 

「由佳も遥の素の姿をまだ知らないんだよ。二人は恋敵みたいなものだったから。これからも美優と三人で仲良くしてくれたら、俺は嬉しい」

「だったらいいけど。私だってどっちとも疎遠になるつもりはないから」

 

 由佳も美優と同じ高校に通うのかな。

 美優が進学校に通うのならまだしも、俺でも通えるような公立校に行くらしいし。

 とはいえその段階にすら由佳の学力が足りているのかは疑問だ。

 最初のお仕置きのときに話していた限りだと、由佳の勉強のできなさは壊滅的なレベルらしい。

 

「そういや、由佳が美優にイタズラしたのは、宿題を写させてくれなかったからって言ってたけど。あれは本当なのか? 今にして思えば、アレもとっさに出た嘘だった気がするよ」

 

 俺もお仕置きプレイを通して、由佳が追い詰められると子供みたいに泣きわめくのはもう知っているが、このズル賢さがあって宿題ごときで美優を怒らせることはなかっただろう。

 

「さすがに気づいたのね」

 

 由佳はまた鳴らない指パッチンを掠らせた。

 

「二割は嘘よ」

「まさか八割も事実だとは」

「なんか勉強ってやる気にならないのよね。それに美優の感情を揺さぶれるなら理由なんてよかったの。当時の私にはね」

 

 美優からしたらいい迷惑だっただろうが、ああいう関わりかたをしていたのなら美優も覚悟していたのかもしれない。

 

「由佳はやることなすこと派手だからな。その下着だって、どこで手に入れたんだ?」

「通販よ。あたし身長は160あるし、買えるものは多いの」

 

 由佳はストレートにしたヘアを手でさらって「これでも、レディの体ですから」と言葉を付け加える。

 すごいおっぱいに囲まれていたせいで俺には物足りなく感じてしまうが、小さい胸が好みの人からしたら由佳もたまらない体だろう。

 

「そういうあからさまな服も、由佳は似合うな」

 

 キャミソールの開いた胸元には、紐状の下着が先端だけを隠しているのが見える。

 裾の短いキャミソールだけでは腰までしか隠すことができなくて、Tバックが股に食い込んだ深い溝が、少し目線を下げれば覗けてしまう。

 

「何度も見てもエロい」

「でしょでしょ。もう一回戦したくなってきた?」

「また調子乗って。こういうときは褒め言葉を素直に受け取るんだよな」

「今は褒めてほしいときなの。朝までは私の男なんだから、いい加減に私の扱いを覚えなさい」

 

 偉そうに威張る由佳は、確かに朝までがこのデートの約束だと言った。

 まだ俺とこうして一緒にいたいと思ってくれてるんだな。

 さっきの微妙に距離の空いた関係で終わるよりは、ずっと良い。

 

「俺が美優と仲良くなれたのも由佳のおかげなんだ。もう何度も助けられてるよ。感謝してる」

「ふふん。私からゴーサインが出てから褒めてちゃ遅いのよ」

「それでもきちんと伝えておきたいんだよ。どれだけ借りがあっても、由佳が相手じゃなきゃデートだってしなかった」

 

 俺がそう言うと、由佳はコクッと小首を下げて、斜め下から期待の眼差しを俺に向けてきた。

 

「ほんと?」

「本当」

「じゃあ生でエッチして」

「絶対に断る」 

「もー!」

 

 元の関係に戻ったと思ったら必要以上に巻き戻しをしてしまっていた。

 美優には好きにさせろと言われているけれど、生のセックスだけは美優以外の誰ともするつもりはない。

 

 由佳は子供みたいにベッドでしばらく暴れて、それから一つ深呼吸をした。

 

「はあ。楽しい」

 

 体を起こして、由佳は俺を見つめてくる。

 いままで見たことがないくらいに純真な眼差しだった。

 

「あのね、お兄さん」

 

 由佳はじっと俺と目線を交えたまま口を開いた。

 あの日、美優が本心を打ち明けたときと、同じ目と、同じ声音。

 

「本当は、気づいてたの。全部美優の命令なんだって」

 

 由佳が無理して吹っ切ろうとしていた想い。

 それが、最後まで悩みのまま残っていた、由佳の憂いだった。

 

「恋人がいるのにこんなデートまでするなんて、いくら借りがあったっておかしいもの。私に優しくしてくれたりとか、たくさん褒めてくれたりとか。美優の指示でしてたんだって、わかってた。頭では、そう理解してたはずなのに」

 

 その声は、少しずつ掠れていく。

 吐息を多く含んで、喉から絞り出すような、胸が苦しくなる声だった。

 

「お兄さんに褒めてもらうのが、どうしようもなく嬉しかった。何回否定しても、美優の指示だってわかってても、どうしてかお兄さんの声を聞くと胸がくすぐったくて、テンションが上がって。それで、私、もしかしたらって、ありえないこと妄想して……」

 

 想いを語るその最後に、由佳は目を逸して、ギュッと拳を握った。

 

「この勘違いが、現実だったらよかったのになって。ずっとそんな馬鹿なこと考えてた」

 

 最後まで由佳が俺の言葉を信じてくれなかったのは、俺に美優という超能力じみた洞察ができる妹がいたからだった。

 

 だからすべてを俺が気づいて、俺が解決しなければならなかったんだ。

 俺は嘘がつけない人間だから、もし美優の指示で動いていたとしたら、聞かれずともそれを白状してしまっていたはず。

 

 でも、今の俺ならば、自信を持って言ってやることができる。

 

「聞いてくれ、由佳。これから話すことを、由佳がどう思うかわからないし、本当のことを言ってる証拠なんて、どこにもないけど」

 

 きっと伝わる。

 

 由佳はとっくに、それを感覚でわかってくれていた。

 

「知っててほしいんだ。俺が美優に言われたのは、由佳が何かに悩んでることと、由佳のしたいことに付き合っていいってことだけで。それ以上のことは、指示も何もなかったんだよ」

 

 俺が語りかけているうちに、下を向いて横髪で顔を隠している由佳の膝には、気づけば大粒の涙がポロポロと落ちていた。

 鼻水を啜る音も大きくなって、俺の声が聞こえているかはわからないけど、この言葉だけは告げておかなければならない。

 

「今日まで由佳に伝えてきた気持ちは、どれも俺の本心だよ」

 

 それはこれまで何度も繰り返した言葉だった。

 それでも、由佳にはこれまでと全く違う意味で伝わっていたはずだ。

 

「ううっ……うぅ……」

 

 由佳はすすり泣いて、泣き続けて。

 

「うぅぅぅぅ……!!」

 

 やがてその泣き声は地に響くような呻き声となって、由佳は文字通り俺に牙を向けてきた。

 

「えっ、なっ……どうした!?」

「こんのぉー!! そんなに女を喜ばせてー!! 彼女持ちにそんなこと言われて私はどうすりゃいいのよー!!」

 

 由佳は俺に飛びかかってきて、結構な勢いだったので普通に痛かったのだが、言っていることは尤もだったので俺にはどうすることもできなかった。

 

「心が喜びで満たされてなんだか腹が立ってきたわ」

「それは心が喜びで満たされてないんだと思うけど」

「どっちでもいいっての! もう……」

 

 俺を押し倒した由佳は、遠慮なく俺の服で涙を拭ってから、ベッドを転がって横たわった。

 俺もそれに合わせて力を抜き、寝転んで天井を見つめる。

 

「てゆか、ほんとに美優の指示じゃなかったの?」

「どこまでを指示とするかにもよるけどな。少なくとも、何をしろとか何を言えとかはなかったよ。ああ、遥からは、由佳がフられまくってることは聞いてたけど」

 

 あれを聞いていなかったら、由佳から離れていった男の話をされたとき、俺は混乱して余計なことまで突っ込んでいたかもしれない。

 他にも遥には色々と助けてもらったな。

 

「あの女……個人情報をなんだと思ってんのよ……」

 

 由佳は怒りの右ストレートを宙にかまして、パタッと腕を下げた。

 

「まあでもお兄さんに好きになってもらえたから良いや」

 

 由佳は上機嫌に俺の腕にひっついてきた。

 この切り替えの速さは健在か。

 

 由佳は俺と美優との友達になるわけだし、確執なく付き合っていけるならなによりだな。

 もしかしたら、山本さんのことについても、美優は同じような終着を目論んでいるのかもしれない。

 

「ね、ねえ、お兄さん」

 

 強張った声と表情で、由佳は俺の腕を強く掴んできた。

 その口元が少しずつ窄んでいき、やがて辛いものを食べたひょっとこみたいな顔になる。

 

「ス…………スッ……キ……」

 

 外国人もビックリするようなカタコトで、由佳は歯の間から息を抜くようにそう言った。

 

「ん? え、なに?」

 

 なんて言ったのかわからなかったのと、由佳が唐突に謎行動をし始めたので、俺は困惑した。

 そんな俺の反応に、由佳は眉を釣り上げて、痛いほどに俺の腕を掴む握力を強めた。

 

「イチャラブしたかったら『好き』って言うって約束だったでしょうが!」

「ああ、それか。そうだったな。まあ、うん。ありがとう。嬉しいよ」

「あんたの提案なのになんなのその反応はぁ……!」

 

 由佳はポカポカと俺の肩を叩いてきて、それに飽きたところで、「コホン」と咳き込んで落ち着いた。

 

「私、好きよ、お兄さんのこと。……だからどうなるってことはないけど。純粋に女としてお兄さんに惚れたことは伝えておくわ」

 

 ベッドで至近距離まで近づいて、真面目な顔で淡白に告白してきた由佳からは、それ以上の感慨を感じなかった。

 その気持ちがどういう整理になったのかはわからないが、由佳なら上手く割り切るんじゃないかと思う。

 

「ってことで、もちろん朝までエッチするでしょ!!」

 

 こんな風に。

 

 由佳は体を起こしてコンドームを掴み取ると、それを俺に叩きつけるように渡してきた。

 

「今日が最後だからな。俺もできる限りは付き合うよ」

「あ、ちなみに忘れてないと思うけど。本当の最後はホテルを出た後のデラックスジャンボパフェだからね。私はそのまま塾に行くから」

「待て待て。この遊園地とラブホのデートで、これまでの貸し分五百ポイントの支払いになるんだろ?」

 

 ってか、塾に行くってどういうことだ。

 こいつ教材どころか文房具すら持ってないだろ。

 

「それは、こういう計算になるのよ」

 

 由佳はスマホのメモ帳を再び開くと、俺とのエッチの気持ちよさや、褒め言葉の嬉しさにポイントをつけていって──もちろん帳尻合わせのためにその場で計算しているものだが──ポチポチとこれまでの貸し分を相殺していくと、なんということかちょうどデラックスジャンボパフェをおごる分が残ったのである。

 

「ほら、これでちょうど清算できる」

「ちなみにこれからするエッチはどう計算されてるんだ?」

「私が告白する約束を果たしてお兄さんが自主的にイチャラブエッチをしてくれるんだから、貸し借りは関係ないでしょ?」

「なるほど納得しかない」

 

 実は由佳って頭が良いんじゃないのか。

 いくらズル賢く知恵が働くタイプであっても、単に勉強ができないヤツがここまで上手く話をまとめることはできないはずだ。

 そこも含めて美優が選んだ友人の才知ということだろうか。

 

「じゃあほら、第二ラウンド始めよ? こいつも二本目ぐいーっといっちゃって!」

 

 由佳は例の精力剤をまた持ってきて、二人分の瓶の蓋を取り外す。

 男としては意地を見せないわけにはいかない。

 

「このまますぐ始めるぞ」

 

 俺は一口で瓶を空にしてズボンを脱ぐと、続いて精力剤を飲み干した由佳をベッドに寝かせてパンツの紐を外した。

 

「上は着たままするの?」

「せっかくエロい服だからな」

「そんなに気に入ってくれてたんだ。むふふ。好きモノめ」

 

 由佳は締まりのない顔で俺を見上げた。

 股の方もほどよく湿って緩くなっていて、これは俺の勘違いでなければ、告白のやりとりをしたあたりから出来上がっていたのだろう。

 

 正常位でまぐわう体勢になると、俺の陰茎も自然と上向いた。

 これは体質がどうこうというのではなく、純粋に由佳が可愛くて興奮している。

 コンドームを装着して由佳と密着すると、由佳が両手を差し出してきたので、俺は恋人繋ぎをしたまま由佳に挿入した。

 

「んっ……あっ……」

 

 精液を飲ませるわけでもないし、お仕置きみたいに激しいプレイをしているわけでもない。

 だから、このセックスでは由佳はイクことはないかもしれないし、俺も射精することはできないだろう。

 それでも、今こうして由佳と繋がっていることに、じんわりと胸に染みる歓びがあった。

 

「由佳は気持ちいいか?」

「うん。お兄さんとエッチするの、気持ちいいよ」

「そうか。満足できそうかな?」

「どうだろ。よくわかんないけど……なんかね──」

 

 由佳は俺と見つめ合ったまま、頬を朱く染めて、今度はその照れくさい想いを誤魔化すことなく、くしゃっと無垢な笑顔を見せてくれた。

 

「幸せ……!」

 

 満面の笑みで喜ぶ由佳と、俺はその夜はひたすらに甘いだけの時を過ごして、朝日が昇るよりも早くに眠りについた。

 



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素顔の私の最初の本音 ~エピローグ~

 

 それから先のことは、後で人伝いに美優から聞いた話だ。

 

 俺とデラックスジャンボパフェを食べ終えた由佳は、塾の授業の開始を待って着席する生徒たちの前に現れ、こんな話をしたらしい。

 

「あなたたちに、残念なお知らせがあるわ」

 

 教壇に立って偉そうに腕を組む由佳を、生徒たちは不思議がりもせずに注目していた。

 

「私は昨日、女になったの」

 

 多分に含みのあるその言葉に、およその事情を察したのが一割と、理解できなかった無垢な少年少女がもう一割、そして残り八割が『意味はわかるがまさか由佳がそんなはずはない』と思ってまともに聞く耳を持っていなかった。

 

「お前女じゃなかったのか」

 

 そんな煽りを由佳に入れたのが、最前列にいた八割に該当する一人の男子生徒だった。

 

「なに小学生みたいなことを言っているの。わからない? ほら」

 

 その発言を待ってましたとばかりに、由佳はワンピースのスカートを指で摘んで、ヒラ、ヒラ、とはためかせる。

 揺れる影に視線を落とせば、足元にはまだ汚れのないヒールがその存在をアピールしていた。

 

「どう見たってデート用の勝負服でしょうが。しかも私は、昨日と同じ服を着ているの」

 

 その話の意味は、さすがにまだ中学生の男子には難しかったようで。

 素の感情のままに男子生徒は蔑んだ目を由佳に向けた。

 

「汚えな」

「汚かないっての! 何回シャワー浴びたと思ってんの!」

 

 由佳はツインテールの片方を鞭みたいにしならせて、ビュンビュンと音を立てて男子生徒を威嚇した。

 

「要はセックスよ、セックス! 女が女になるにはそれ以外にないでしょ! 私は愛に溢れた最高のいちゃいちゃイチャラブセックスをしてきたのよ!! 昨日……てかまさに今朝の数時間前にね!!」

 

 我慢ならなくなった由佳がモザイクの欠片もない発言をして、男子は反応に困って黙り込み、女子生徒たちも気まずそうに机に視線を落とした。

 これから受験勉強をしなければならない彼女たちにとって、教室の居心地が悪くなるなどいい迷惑だった。

 

「何やってんだお前」

 

 そこにプリント束を抱えた講師がやってきた。

 

 由佳は首だけを機敏な動きで真横に振って、その講師を睨む。

 

「あら、聞いてなかったの。なら教えてあげる」

「聞いてたよ。いいから座れ。これから約一名だけ赤点の再テストだった答案用紙を返す」

「ぬぅっ……こんなタイミングでなんて薄情な……ッ!」

「自覚があるならもっと勉強しろ」

 

 講師はプリント束を教卓に置くと、ペケまみれの一枚だけを取って横に並べた。

 

「めでたい日なんだからお祝いの言葉くらいあってもいいじゃないの。そんなことじゃ三十過ぎても童貞のままよ」

 

 由佳が余計なお世話を焼くそのネタは、かつてよりその講師が生徒たちにからかわれていた話題の一つだった。

 

 由佳だけがそれを冗談ではなく真面目に心配していて、当の講師からしたらそちらのほうが扱いに困る悩みのタネだった。

 

「言っておくがな」

 

 しかし、その日の男性講師は、いつもと返しが違った。

 生徒たちの前で言いにくそうに口を歪めつつも、由佳の得意げな顔につい反論せずにはいられなかったのだ。

 

「俺はもう童貞じゃない」

 

 教室中に走る衝撃。

 

 もはや前を向いている生徒は一人もいなかったが、全員が耳をそばだてていた。

 

「い、いつよ」

 

 愕然とする由佳に、引っ込みのつかなくなった講師も話を続けた。

 

「ちょうど、先週のことだ」

 

 小さく呟くように、講師は答えた。

 

 それはもはや羞恥プレイ以外の何物でもなかったが、その報告を聞いて由佳だけが目を輝かせて、グワッと身を近づけると講師の両手を包み込むように手のひらを重ねた。

 

「今夜は一緒にお赤飯にしましょう!」

「やかましい」

 

 そこで二人の漫才は終わって、由佳は無残な点数のプリントを手に自席へと戻った。

 空気を読んだ生徒たちも二人の会話の内容にツッコミを入れることなく、授業はつつがなく終了して、由佳は再テストに向けた勉強をすることに。

 

 ほとんど答えそのままみたいな対策プリントを渡されて、とはいえ理系科目はそれだけで解答を導けるわけもなく、由佳は勉強を教えてくれと頼んだとある人物が来るのを空き教室の黒板に落書きをしながら待っていた。

 

「あ、あの。お前さ」

 

 そこにやってきたのは、由佳にとって比較的面識があるほうの男子生徒だった。

 見ただけでも文化系とわかる、社交性はそれほどないタイプの少年だったが、学力に関しては全国模試でも上位に入る優秀な生徒だった。

 

「わかんないとこあるなら、教えるけど」

 

 下心のある申し出だった。

 

 恋愛方面になるとほとんどの生徒から一歩距離を置かれてしまう由佳だったが、それが全員に対して等しくマイナス要素になるわけではなかった。

 男が寄り付かないということは、その分だけ恋愛に疎い人間にもチャンスがあるということになる。

 とはいっても、少年もその日までは由佳のことを『顔は良いけど面倒そうな女』ぐらいにしか思っていなくて、どうしてか今日になって急に異性として仲良くなってみたくなったらしい。

 

 望み薄であることは承知の上だったし、断られるならドライに突っぱねられるだけだと思っていた。

 しかし、その申し出を受けた由佳は、チョークを粉受けに置くと、柔らかく顔を綻ばせたのだった。

 

「ありがと。でも、別の人を待ってるから要らないわ」

 

 由佳はくるっと身を翻して、人差し指を唇につける。

 その動きに合わせて、ツヤ良く伸びたツインテールが踊るように浮いた。

 

「恋のお悩み相談なら、逆にお姉さんが聞いてあげないこともないけどね」

 

 上機嫌に微笑む由佳の姿に、少年の胸は思春期の痺れに襲われて、とっさに「そっか!」とだけ返事をして逃げてしまった。

 もしかしたらそれは、これまでのような虚勢から来るものではなく、心からの自信がもたらした本来の由佳の魅力だったのかもしれない。

 いまさら由佳に惚れてしまったところで、少なくとも同学年の知り合いで由佳が男と付き合うことなどもうないのだが。

 

「由佳ちゃん、何かあったの? 誰かがものすごい勢いで走って行ったけど」

 

 代わりにやってきたのが佐知子だった。

 二人は同じ塾に通っていて、ネカフェでの一件以来、よく話すようになったのだ。

 

「別に。とにかく、時間がないから、これお願いするわ」

 

 由佳は対策プリントを横長の机に並べると、佐知子と斜めの位置で向かい合った。

 

「始める前に、一つだけ言っておくことがあるの」

 

 真剣な顔つきで、由佳は佐知子を見据えて、その珍しい態度に佐知子も緊張した面持ちで相槌の頷きをした。

 

「こうやって勉強を教えてくれるの、本当に助かるわ。だから、その、ありがとね。佐知子も忙しいだろうけど。あと半年、よろしく、お願いします……」

 

 まさかの改まった態度に、佐知子も由佳が変なモノを食べたのではないかと心配したそうだが、それがただの気まぐれでないこともすぐに悟ったらしい。

 

「うん。一緒に頑張ろ。高校でわかんないことがあっても、また教えるから」

 

 佐知子は由佳の頼みを快諾した。

 もとより由佳のことは、ロクでなしなだけで悪人だとは思っていなかったのだが、佐知子も由佳のことを“女の子になった”とこのとき感じたようだった。

 

「いよっし! こうなったら期末試験で満点取って講師どもをボロボロに泣かせてやるわ」

「たしかにそれは先生みんなが泣くと思うけど、まずはこのプリントを完璧にしようね」

「ミスったら自分に罰ゲームぐらいしないとね。お邪魔な誘惑もおさらばよ!」

 

 由佳は電源を切ったスマホを鞄に投げ入れた。

 

 その真っ暗になったディスプレイの奥には、佐知子が来るまでの待ち時間で、とある二人宛てのメッセージが送信されていた。

 

『色々と迷惑かけてごめんね。もう心配は要らないから。ありがとう。これからもよろしく』

 

 そんな月並みな言葉が、なかなか言えてなかった気がして、由佳はその飾り気のないメッセージを大の親友に送った。

 

「さ、まずは数学よ。このギザギザした記号からして謎だわ」

「そこからかぁ」

 

 由佳は筆箱から文房具一式を取り出して、その内の一本を握り込む。

 いつにない真剣な眼差しで問題用紙と向き合っていた。

 

「待ってなさいよ」

 

 スーッと大きく息を吸い込んで、由佳はシャーペンの頭を二回ノックした。

 



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セックスは、兄と妹で

 

 バナナと生クリームを積み重ねた推定50センチにもなる巨大パフェを、互いの口にねじ込みながらどうにか由佳と二人で完食した俺は、重たい胃を引きずりながら家に帰宅した。

 

 家のドアを開けると、玄関には冷気が充満していて、その実家の安心感とともにスッと心が落ち着いていく。

 一泊外で寝泊まりするだけでも慣れない環境にいるのは疲れるものだ。

 

「おかえりなさい。お兄ちゃん」

 

 俺を出迎えてくれた美優は、すっかり室内着として見慣れた俺のTシャツを着てリビングから出てきた。

 おっぱいの出っ張りで浮いたTシャツの布がヒラヒラしている。

 下にはショートパンツを合わせていて、下半身はほぼ生脚だった。

 

 言ってしまえばただ大きめのTシャツを着ているだけなのだが、どうしてこの妹はこんなにもエロいのだろう。

 

 いや、いけない。

 由佳とのデートを経て俺も男として成長したんだ。

 それを美優にも教えてやらなければ。

 

「昨日はいきなり泊まることにして悪かったな。でも、由佳の悩みは解決してやれたよ」

 

 俺は靴を脱いで家に上がるついでに、由佳に持たされていたお土産を美優に渡した。

 遊園地のキャラクターをモチーフにした定番のクランチチョコレートだ。

 

「そっか。お兄ちゃんに任せてよかった」

 

 美優はひと安心した表情で微笑んでくれた。

 他とは違って美優にできなかったことを俺が解決してやれたわけだからな。

 少しは自信にしてもいいのかもしれない。

 

「シャワー浴びてくる?」

「ああ。さっぱりしてくるよ」

 

 シャワーは由佳と何度も浴びてきたけど、ここに来るまでにまた汗をかいてしまったし、何より他の子とラブホに行ってきた体でそのまま美優に触れるのは抵抗があった。

 俺が風呂から上がると、脱衣所には着替えの一式が揃えてあって、俺はそんな美優の用意の良さに感謝しながらリビングへと戻った。

 

 美優はソファーに座って由佳からのお土産をむしゃむしゃ食べていた。

 かわいい生き物だな。

 

 俺は先に冷蔵庫からお茶の入ったボトルを取り、二人分のコップを持ってソファーに座った。

 

「お茶いるか?」

 

 尋ねると美優はコクリと頷いた。

 俺はコップにお茶を注いで美優に渡し、自分のコップにも注いで飲んで喉を潤す。

 

 数個食べたところで美優がお菓子の蓋を閉めたので、膝の間に来るかと手で示して聞いてみると、美優はスッと立ち上がって背筋を伸ばした姿勢のままちょこんと座ってきた。

 

 目の前には腰まで伸びたツヤのある黒い髪がある。

 いつ見てもよく手入れがされていて美しい。

 それといい匂いがする。

 

 由佳が髪を下ろした姿を褒めたとき、「美優がストレートだからでしょ」と言われて否定してしまったが、あれは図星だった。

 美優が普段からツインテールにしていたなら、俺はきっとツインテール好きになっていただろう。

 美優のこのロングストレートに見慣れているから真っすぐな髪が好きなんだ。

 

 ん、よく見ると髪が腰までは達していないな。

 

「切ったのか?」

「夏休みは巻いたり伸ばしたり繰り返すからね。あと、実は内側の一部だけピンクにしてたりします」

 

 美優が髪の毛をさらうと、その中に細いピンク色が入っているのが見えた。

 

「そんなにさりげなくでいいのか?」

「もっとしたいにはしたいけど。お兄ちゃんみたいな人からすると不良の文化かなって気がしたから、とりあえず外から見えない程度にエクステを入れてみました」

 

 なるほどこれは染めてるわけではないのか。

 でもロリコスにお熱な美優のことだから、できれば長期休みの間くらいは染めてみたいのだろう。

 

「ちなみにどこまでやってみたいんだ?」

「髪の毛を全部アッシュグレーにして青色とか入れてみたい」

「おうふ」

 

 だいぶ攻めたところまでいくな。

 まさしくロリータの王道と言えるカラーリングだし、美優なら間違いなく似合うとは思う。

 

「私もこの地の黒がなくなるのは嫌だから、染める予定はないよ」

「そうか。美優の髪だから、好きにしてくれていいけど。そう言ってくれるのは嬉しいよ」

 

 どれだけ好みが合う間柄でも、価値観から何まで全部が完全一致するなんてことはまずない。

 俺がこれまで美優に対して不快感を抱いたことがないのは、そう思えるように美優が日頃から気遣ってくれてるからなんだ。

 

「美優は努力家で偉いよな」

 

 俺は毛の一本も絡まない美優の髪を指で梳きながら呟く。

 

 今更なことではあるけど、きちんと言葉にして美優を褒めてやりたかった。

 

 自分が好きなことを頑張れるというのは、決してありふれた才能ではない。

 美優はやりたいことをやって、やるべきこともやっていて、その向上心は俺も見習わなくてはならないものだ。

 

「例えばどんなところが?」

「美容はもちろん、勉強も裁縫も頑張ってるだろ? 美優と一緒にいると、俺も頑張らなきゃなって気になるんだよ」

 

 そう答えると、美優は「ふーん」と淡白な感想を述べて、俺を一瞥するだけにとどまった。

 

 俺としても今の褒めかたはイマイチだったな。

 もっと内面を褒めないと。

 

「いつも冷静でいるけどさ、さりげなく優しくしてくれるところとか、俺は好きで。結構、情に溢れてるというか。人に対しても、美優は一途だよ」

 

 美優の好きなところを挙げればキリがない。

 とはいえ、美優が言われて喜びそうな部分に気付いてあげるのは難しい。

 できることなら、こうして仲良くならないとわからないような、俺だからこそ感じることを伝えていきたい。

 

「ふむ」

 

 美優は顎を上げて俺と目を合わせると、パチパチと瞬きをした。

 

「急にどうしたの?」

「え、ああ。俺も考えてることを喋らないほうだから。きちんと口にはしておきたくて」

 

 俺がそう言うと、美優は顔を上げたまま、納得したことを示す代わりに一度だけゆっくり瞬きをして、それから前に向き直った。

 

「び、微妙だったか……?」

 

 さすがに反応が薄すぎるので恐る恐る尋ねてみた。

 すると美優は俺の両腕をベルト代わりに腰に巻きつけて、グイッと後ろに体重を掛けてきた。

 

「喜ばないとでも思った?」

 

 美優は謎のドヤ顔で俺を見上げてきた。

 なんともしてやられた気分だ。

 

「急に褒められたのにはちょっとびっくりしたけど」

「俺も少しは女の子の扱いに慣れたつもりだったんだよ。それを美優にも教えてやりたくて」

「へー。そうなんだ」

 

 美優は俺の腕に背中の体重を預けたまま、脚を伸ばして横になった。

 ちょうど、俺が美優をお姫様抱っこするような体勢になっている。

 

 そうして美優は、その生脚を何となしにスリスリさせて、俺を見つめてきた。

 

 何も言わず。

 兄のシャツを着て横たわる妹が。

 ツヤツヤのふとももを擦り合わせて、俺をジッと見つめてくるのだ。

 

 そのいじらしい妹の姿に、俺の愚息はムクムクと肥大化をしてしまった。

 

 兄としての威厳を見せつけようと思っていたが、やはりこの妹には勝てない。

 女としてのエロさを引き出す術に熟知しすぎている。

 

「すまん、何も変わってなかった」

「きっと奥手の女の子が相手なら、お兄ちゃんも健闘できると思うよ」

 

 美優はソファーに膝立ちして俺に跨ると、ズボンのチャックを下ろして、トランクスの中に両手を突っ込んできた。

 

「おっ……おおっ……」

「お兄ちゃんがこれから相手にするのは、この私とあの奏さんだよ。由佳みたいな純情乙女と一緒にしたらダメ」

 

 美優は大きく開いたたわわな胸の谷間を俺に見せつけながら、洗い物をするように手を前後させてペニスを扱いてくる。

 今となってはフェラをしてもらうことが多くなったせいか、まだ慣れていないその人肌の感触に、俺のペニスは即座に剛直化した。

 

「自分からエロいことをしてくれる女の子ってレアだよな」

「しかも可愛い妹ですよ」

 

 美優は調子良さそうに付け加えた。

 

 こんな明るいうちから男を跨いでペニスを扱いてくれるなんて、なんてえっちな妹だろう。

 

 世界一えっちな妹なのではないだろうか。

 小柄で童顔でパイパンで、それでいておっぱいは大きくてふとももはムチムチだなんて、もうえっち以外の要素がない。

 

 無性にえっちなお願いをしたくなってきた。

 

「……おっぱい揉んでいい?」

 

 俺は美優のTシャツに手を突っ込んで尋ねてみた。

 すると美優は呆れ気味に「言うと思いました」みたいな顔をして、

 

「ブラジャーはお兄ちゃんが外してね」

 

 と、意外にも前向きに対応をしてくれた。

 最初はイヤイヤ言っておきながら、一度経験してみるとそれからはあっさり受け入れてくれるあたり、言葉にしているほど嫌だとは思っていないのだろう。

 

 俺は美優の手コキご奉仕を受けながら、ブラジャーのホックに手をかけた。

 外すためには内側に引っ張って金具の引っかけを取らなければならないのだが、すでにこの時点で美優のおっぱいの重量を感じる。

 これだけ立派なものを支え続けているブラジャーに俺は畏敬の念を表したい。

 

 ホックを外すと、ブラの支えから外れた美優のおっぱいが重力に引っ張られて、ツンと突き出た突起の形がTシャツの表面に浮かび上がってくる。

 

 エロい。

 やはり大きいおっぱいはエロい。

 

 俺も少しは成長したつもりだったけど、このおっぱいの誘惑にだけは微塵も勝てる気がしなかった。

 

「美優のおっぱいの重量感が堪らない……」

「重さなら奏さんの方があるんじゃない?」

「なんというか、密度が違うんだよ。山本さんのはとにかく迫力があって、美優のはこう、ズッシリ来るんだ」

「同じ脂肪なんだから質量が変わるわけないでしょ」

 

 美優は俺を叱るように根本から肉棒を絞って先端に血液を寄せる。

 パンツに手を突っ込まれているのでどうなっているか見ることはできないが、触れられている感覚だけで亀頭がパンパンに膨れ上がっていることがわかる。

 

「下の方すごくアツくなってる」

 

 美優のおっぱいを揉みしだくごとに、まるでおっぱいポンプから血液が流入してきたかのように俺の勃起が熱を増していた。

 充血したペニスは更に感度を増して、先走りでぬるぬると滑る先端が、美優の指に翻弄され始めている。

 

「ぐっ……美優の指テクが気持ち良すぎる……器用すぎるだろほんと……」

「こんなことのために器用になったわけじゃないけどね」

 

 そんなことを言いつつも、美優は得意げに俺の肉棒を責め立ててきた。

 手が小さいからこそ、刺激が手のひらで誤魔化されることなく、それぞれの指が触手のように絡んできて絶妙なタッチで性感帯を刺激してくる。

 

「Tシャツも、脱がせていいか?」

「そうすると妹は上半身裸になってしまうのですが……?」

 

 美優は俺のお願いに当たり前の質問を返してきた。

 俺の知能が幼児並みに下がっていることへの配慮かもしれない。

 

「妹の裸を見ながらおっぱいを揉みたい」

「実の妹に対する発言がそれでいいんだね」

「後悔はないよ。おっぱいは揉めてるし」

 

 俺が確たる意思を見せつけると、「お兄ちゃんはそのうち頭の病院にも行こうね」と美優は辛辣な毒舌を浴びせてきて、それからブラジャーとTシャツを脱ぎ去った。

 

 二の腕に挟まれていたおっぱいが持ち上げられて、服を脱ぐとぷるんと落ちてくる。

 

 まだ若い肌で作られているムチっとしたおっぱいの張りと、ツンとやや上向きになっている乳首が、見ているだけでその質量を感じさせた。

 

「キレイだよ、美優」

 

 俺はまた美優のおっぱいを鷲掴みにして揉みしだいた。

 指が埋もれるほどに力を加えると、内部に確かに残っていた弾力に跳ね返されて手が自然と開く。

 

 身長は150センチの小柄。

 バストは90センチある豊乳。

 そんな妹のおっぱいを揉みながら手コキをしてもらえるなんて。

 人生にこれに勝る幸福があるだろうか。

 

 大きいおっぱいの魅力は、その弾力だけに止まらない。

 “張り出ている”というのが重要なのだ。

 

 下乳の下側を手の平いっぱいで撫でられるのは、巨乳に与えられた唯一の権能と言えるだろう。

 重力により脂肪分が圧縮されたその場所は臀部よりも均一でツヤやかな曲面をしている。

 ブラの代わりに添えて持ち上げれば、その重みに感謝が沸き起こり、それがやがて興奮へと変わっていくのだ。

 

「ずいぶんと熱心に触ってるね」

「まあな。触られるのはどんな感じだ?」

「んっ……実は結構……気持ちいい……」

 

 美優は俺が胸に触れてもまるで嫌がる素振りを見せなかった。

 いつもみたいにツンと照れることもなく、俺のイチモツを撫でながら大人しく胸を弄られている。

 

「なあ、美優」

 

 ようは、流れの問題なのだ。

 日常会話でのコミュニケーションと変わらない。

 エッチでどこまでが許されるかなんてのは、関係性ではなくその日の気分で決まるものなのだろう。

 

 俺はふと、そんなことを悟った。

 

「先のとこ、吸ってもいい?」

 

 いつもの美優なら、即答で「ダメ」と答えるはず。

 

「えー……むぅ……どうしよっかな」

 

 美優は妥協点を模索してくれた。

 乳首が敏感すぎるから抵抗があるだけで、俺におっぱいを吸われるのが嫌なわけではないんだ。

 

「お兄ちゃんが一分間イかなかったら吸ってもいいよ」

「条件付きじゃなきゃダメなのか?」

「お兄ちゃんの早漏も少しは治しておかないと困るでしょ?」

 

 なるほど、たしかに俺がすぐに射精してしまっては、美優を満足させてあげられない。

 

「なら、一分な」

 

 しかし、この勝負には勝算があった。

 

 俺がフェラで射精が我慢できないのは、美優との初めてのエッチがずっと口内に射精して飲ませるプレイだったことが原因だ。

 俺の体が、美優の口がすぐ近くにあればそこに精液を出すべきだと、そう判断してしまうせいで俺は射精を我慢することができない。

 だが、手コキなら体に染み付いた記憶が薄い分だけ耐えられる。

 

「スマホのタイマーが鳴るまでに射精してなかったら、思う存分吸わせてもらうからな」

 

 俺はそう宣言してズボンごとパンツを脱ぐと、スマホのタイマーをセットして開始ボタンを押した。

 

「どうぞお好きなように」

 

 美優は自らの口に二本の指を入れて、口内でねっぷりと唾液をつけてから再び俺のペニスを握った。

 

「うっ……あっ……ッ!」

 

 美優のその色っぽい仕草と、急激に変化したペニスの快感に、俺の射精欲は瞬間だけ臨界ギリギリまで達した。

 腹直筋とお尻をギュッと引き締めて、どうにか射精は踏みとどまったものの、美優は唾液と先走りの精液を指先で練り込んだ即席のローションをペニスに塗りつけてきて、すっかり熟知している俺の快感スポットをその細い指先で弄り回してきた。

 

 左手の人差し指は竿と玉袋の付け根をこちょこちょとくすぐり、余った指で陰嚢全体をマッサージされて、自分でも尿道を粘液が通っていくのがわかるぐらいに先っぽから精液が漏れ出していた。

 それを掬い上げて亀頭に塗りたくる美優の右手は、まるで俺のエッチな体をよしよしと褒めてくれているようで、心の奥底から美優の手淫に屈服してしまいそうになる。

 

「み……美優……っ……もっと、手加減してくれ……」

「もうそんな顔して。まだ十秒しか経ってないよ」

 

 美優は膝立ちのまま上体を前傾させて、そのご褒美を見せつけるように豊かな果実を近づけてくる。

 そうして塞がれた視界の下で、俺の愚息はなおも美優の手コキに蹂躙されていた。

 

「お兄ちゃんにはこうした方が効くのかな」

 

 美優は膝の皿がソファーの背もたれにぶつかるくらいに腰を近づけてきて、筒状にした手でにゅるっと肉棒を絞り上げた。

 そのストロークに合わせて、美優の腰が少しずつ上下に動いていく。

 

 先走りの汁でぐちょぐちょに濡れたアソコが、まるで美優と向かい合いにセックスをしているように、腰の動きに合わせて卑猥な音を立てる。

 

 俺の目にはもう美優の裸姿しか映っていない。

 おっぱいもさることながら、服に覆われていない首回り、その鎖骨のラインが俺に強く美優の裸を意識させる。

 

 横乳に隠れてしまいそうな美優の脇の隙間も、このとき初めて性的な興味が湧いた。

 華奢な肩から、二の腕、ひじ先まで、肌色しかない。

 

 どこを見ても美優の生肌だ。

 美優は裸なんだ。

 

「うぐっ……はぁっ……! み、美優…………ッ!」

 

 敗北を悟った俺は、もうなりふり構ってもいられず、自分のふとももを力一杯に抓ってどうにか射精欲を紛らわした。

 性感帯に集中していた神経を分散させて、思い切り力むことで射精運動を抑止する。

 

 残り時間は二十秒。

 死に物狂いで耐えるしかない。

 

「それはズルだよ、お兄ちゃん。手はここじゃないと」

 

 美優はふとももを抓る俺の手を優しく引き剥がし、自らの乳房を掴ませた。

 その両手は無意識に美優の胸を揉み始めて、射精を我慢することと正反対のことをしているとわかっていても止めることができない。

 

 そんな俺に哀れみの目を向ける美優は、早く出せと言わんばかりの速さでペニスを扱いてきた。

 その冷たい視線がまた下腹部からゾクゾクと快感を呼び起こして、ついにはフィニッシュへの導火線が火花を吹き始める。

 

「っあああ……ダメだっ……出すなぁっ……!!」

 

 俺は顔を天井に向けて、つま先をギュッと握り込み、最後の抵抗を試みる。

 それでも問答無用で脳に送られてくる快楽のパルスを、俺は頭頂から受け流すイメージでどうにかやり過ごし、そして、ついに──

 

「す、ストップ!! 止めてくれ、美優!!」

 

 俺は美優に両腕ごと包むように抱きついて、腕の自由を封じた。

 

 その傍では、一分が経過したことを伝えるアラームが鳴っている。

 

「はぁ、はぁ……出て、ないよな……?」

 

 俺は念のため下半身を確認したが、射精をしたような痕跡はなかった。

 

 俺は耐え切ったのだ。

 美優の快楽責めから。

 長い長い一分間の我慢地獄を乗り越えて、ついに美優のおっぱいを吸う権利を手に入れた。

 

「美優、もう、吸っていい? 吸うっていうか、舐めるっていうか、とにかくむしゃぶり付きたいんだけど」

 

 俺が抑えきれない願望を口にすると、美優はジトッとした目で俺を見下ろしてきた。

 

「それを兄に言われる妹の気持ちは考えましたか」

「考えた」

 

 考えてないけど。

 

「考えてないよね」

「考えてません」

 

 それはもうおっぱいのことしか頭にないのだから考えられるわけがない。

 

「では右と左、吸いたいおっぱいを選んでください」

「右だ」

「あ、はい。……ほんとに片方でいいの?」

「まず俺から見て右を吸う。それから美優から見て右を吸う」

「もー。由佳に変な知恵をつけられたでしょ。もう好きにしてください」

 

 そんな美優の冷たい声音が心地よかった。

 沸々と性欲が湧き上がってくる。

 美優が相手になると俺はもうダメみたいだ。

 

「では」

 

 俺は美優の乳房を軽く持ち上げて、その桃色の突起を凝視してから、感謝を込めてそれを口に含んだ。

 

「んっ……」

 

 声を出すまいと構えていた美優だったが、さすがに開発されまくった乳首だけあって無反応ではいられなかった。

 

 俺が乳首を舌先で転がすと、美優はクリをイジられるのと同じくらいに体をビクつかせた。

 快感を逃すように背中を反って、しかし、一度吸わせると決めた以上は抵抗するわけにもいかず、俺の口からおっぱいが溢れないように懸命に体を寄せてくれている。

 

「あっ……ううぅ……んひゃっ……んあっ……!」

 

 美優の乳首の舌触りは滑らかだった。

 乳房が大きい分だけ乳首もそれなりにしっかりした形をしていて、突起に唇に挟んだままでもまだ先端を舐められるだけの余裕がある。

 

 俺は美優の乳首を舐め転がして、その感触を楽しんでから、ちゅーっと吸い付いた。

 

「んんっ……ん、あっ……!」

「ちゅぷっ……ちゅっ……はぁ……みゆ……」

 

 美優のおっぱいを吸うと、甘い香りが口内に広がった。

 

 母乳が出たわけでない。

 母乳は鉄の味がするらしい。

 だから俺が感じたのは、きっと母乳ではなく母性の香りだ。

 女性が出す独特のフェロモンの、男を落とすのではなく、あやすために発せられる匂いだ。

 

「あぁ…………みゆ…………」

 

 その香りを味わっていると、脳が溶けてきた。

 

 右だ左だ言っている場合ではない。

 ずっとこのまま美優のおっぱいを吸っていたい。

 

「お、お兄ちゃん……ってば……あんっ、ひゃぁ……そんな、必死に吸っちゃだめ……!」

 

 俺の意識がボヤけていくのとは反対に、美優の嬌声はどんどんと大きくなっていった。

 きっと俺が自分でもわからないくらいに強く吸ってしまっているのだろう。

 赤ん坊も母乳を出させるために一生懸命に吸うのだから、俺だって同じように吸うに決まっているのだ。

 

 だが、俺と赤ん坊には明確な違いがあった。

 美優の性感が高まるほどに、口の中に広がる香りが強くなっている。

 俺には赤ん坊と違って知能があるから、美優にたくさんエッチなことをすれば、この脳を溶かしてくれるフェロモンの甘みをもっと味わえることが理解できる。

 

 だから俺は美優のおっぱいを吸って、ときに舐めて舌で弄んで、空いた手でもう片方の乳首をコリコリと刺激した。

 

「ひぎゅっ……んあっ……!! おに、ひゃん……んにゃぃ……ひぎいぃ……んんあッ……!!」

 

 内股になった美優の脚がガクガクと震えて、まるで失禁直前のように体がフラついている。

 

 美優は初めこそ乳首を舐められながら手淫を続けてくれていたが、それもすぐに止まってしまった。

 それどころか、俺の両肩をがっしりと掴んできて、そうしていないと気持ち良すぎて上体を起こしていられないらしい。

 

 それでも構わず俺は美優の乳首を舐めた。

 もはやひとつ舐め上げるだけでビクンと仰け反るその淫らな体に、俺は精一杯の女を感じて、勃起した男性器を妹のふとももに擦り付けていた。

 

「むちゅ……あぁ……み……みゆ……!」

「んひっ、いぃぃあうぅ……んっ、あっ……ひひゃぁ……!!」

 

 ふとももでペニスをシゴいているときの弾みで、ショートパンツの正面を勃起した肉棒が突き上げた。

 その瞬間、美優はビクンビクンと痙攣しながら、俺に覆いかぶさるように抱きついてきた。

 

 どうやら、イッてしまったらしい。

 乳首を吸われているだけでもう限界だったのだろう。

 クリをひと撫でされただけで、美優は容易く絶頂してしまった。

 

「はぁ……はぁ……ごめん、イッちゃった……」

「美優、俺もイきたい」

「うぅ……わかってるってば……」

 

 美優はぐったりしたまま片手で俺のペニスをゴシゴシと刺激してくれた。

 雑に済ませたいのではなく、もうそれぐらいしか余裕がないのだろう。

 

 だが俺としてはやはり、おっぱいを吸ったまま射精したい。

 

「もうちょっと体を起こしてもらってもいいか」

「は、はい……」

 

 俺がそう頼むと、美優はちょっぴり泣きそうな目をしながら体を起こしておっぱいを吸わせてくれた。

 意地でも約束を守ろうとするその姿勢は、兄としてとても誇らしく思う。

 

「んっ、んんっ……あっ……」

 

 美優は喘ぎながらペニスをシコシコしてくれた。

 いつもの俺なら淫靡に蕩ける美優の姿に興奮を覚えるのに、今はそんなドライな空気に性感が高まっている。

 

「あぁ……美優……もう出るかも……」

 

 美優のおっぱいを揉んでいるときから限界に近かった俺のペニスは、すぐに精液を吐き出したがった。

 力なく項垂れて乳首を吸われながら爆発寸前の勃起を扱く美優に、射精のための筋肉が一気に収縮して放出の合図をする。

 

「あっ、出る」

 

 俺がいつもみたいに喘ぐこともなく、淡白な射精だったが、量はおびただしかった。

 ビュク、ビュク、と繰り返し白濁液を射出した俺のペニスは、美優の手とふとももを精子でいっぱいに汚して、やがて使命を果たしたように小さくなっていった。

 

「うぅ~こんなに出して……。パンツに掛かってたらお仕置きしてやる」

 

 美優は恨めしく呟きながら、射精後の状況を確認した。

 幸か不幸か精液は美優の服には掛かっておらず、美優は手に付着した精液を舐め取ってから、近くにあったティッシュでふとももを拭っていく。

 

「……こんなものかな」

 

 美優は精液が拭き切れたことを確認してから、脱いだ服を拾って、また俺の膝に跨って腰を下ろした。

 そして、俺の目の前でブラジャーに腕を通し、カップに豊肉を収めてホックを止めた。

 

「もう終わりなのか?」

「出したんだから満足でしょ? あんな赤ちゃんみたいに吸い付いて」

 

 美優はTシャツまで着てしまうと、足首にかかっていた俺のズボンを持ち上げてくれたので、俺も大人しく服を着ることにした。

 

 こうやってツンツンしているのも、きっと照れ隠しの一種なんだろう。

 なにせ先ほどの勝負、美優が俺の耳元で「出して」と囁いていたら、俺は一分もの快楽責めに耐えられるわけがなかったのだから。

 プライドと天秤に掛けた結果とも考えられるが、美優にはおっぱいを吸われてみたい気持ちが少なからずあったはずだ。

 

「次に吸えるのはいつかな」

 

 俺は隠しきれない欲望をそのままに、美優に尋ねてみた。

 

「それはママの気分次第です」

 

 美優は俺にそう答えて、口にしてみると思いのほか恥ずかしかったのか、しばらく目を泳がせた。

 

 ママか。

 こんなにちっちゃくて可愛くて巨乳で妹のママがいるんだから、俺の人生ってやっぱり幸せだよな。

 

「はぁ……ママ……」

 

 俺はその多幸感を表現しようと美優に抱きついた。

 生乳をイジるのも至福だったが、ブラジャーでしっかりと形作られたおっぱいを感じながら女性を抱くのは、また違った良さがある。

 

 そんな俺の両肩を、美優はガッチリと掴み、今日一番の憐れみの目を俺に向けて腕を突っ張った。

 

「いやお兄ちゃん普通に気持ち悪いんだけど」

「そんなガチな反応をされるとは予想外だった」

 

 そこまでリアルに罵声を浴びせて気持ち悪がることはないだろう。

 実の兄なのだし。

 

「妹を脱がせて赤ちゃんみたいにおっぱいに吸い付いてママって呼ぶような男の人は気持ち悪いでしょ」

「う、うん……」

 

 改めて言われてみると正論だった。

 改めて言われるまでもないことなのだが。

 俺はこれまで山本さんや由佳と彼氏のような役回りをやってきて、それなりに男を上げたつもりだったけど、人間の根幹なんてものはそう簡単に変わるものではなかったのだ。

 それがわかっただけでも、これまで頑張ってきた価値はあったと思う。

 

「まあいいけどさ」

 

 美優は俺の頭をポンポンと撫でてから、正面を向いて元の膝の間に収まった。

 こんなことをしても「まあいいけど」で済ませてくれる美優が俺は好きだ。

 

「真面目な話として、今後エッチしてるときにおっぱいを吸いたくなったらどうしたらいいんだ?」

「うーん。私にまだ理性がある場合は許可制で」

「理性が無くなってたら?」

「ん、まあ、好きにしたらいいんじゃないでしょうか」

 

 マジか。

 こんな嬉しい言質が取れるとは。

 なんでも言ってみるものだな。

 

 しかし、今後のエッチか。

 それはもう、やっぱり、そういうシーンを美優も想定してるんだよな。

 男女が、裸になる感じの。

 

「なあ、美優。前に話した、例の、本番の件についてだけど」

 

 これについても決着をつけておかなければならない。

 美優は俺を生物的な本能で求めてしまうせいで、俺の精子を異常なほど欲しがってしまう。

 そんな美優と俺がセックスをしたら、美優が暴走して子作りを始めてしまうかもしれない。

 だから俺にはそうならないように美優をコントロールする責任があるんだ。

 

「美優のこと、だいぶわかってきたんだ。どういうときに美優がえっちな気分になるかとか、どうしたら美優が喜んでくれるのかとか」

 

 美優にはエッチでたくさん気持ちよくしてもらって、たくさん叱られて、ときには、美優がエッチに積極的になることもあった。

 そうした反応の要因がどこにあるのか、美優の本音はどうなっているのか、およそ正しく把握できるようになったと思う。

 

「だから、美優とはこれから先に進んでも、エッチを楽しんでいけると思うんだ。色々と、大丈夫なように。それに、もしものときにも備えて、俺もきちんと形にして努力していくから、その……」

 

 上手くまとめようとして、喋っているうちにだんだんと着地点がわからなくなってきた。

 

 とにかく、伝えたいことは、ひとつだ。

 

「そろそろ、セックスしないか?」

 

 これまでのやりとりで、俺が考えてることは美優に伝わっているはず。

 だから美優も、俺の顔を覗き込もうともせずに、静かに俺の話を聞いてくれていた。

 

「いいよ。お兄ちゃんとセックスする」

 

 美優は俺の手を握って、はっきりとそう口にした。

 

 その簡素な言葉は確かな信頼がなければ出てこなかったもので。

 俺もようやく、美優とここまで心を通わせられたんだと嬉しくなった。

 

「いつする?」

 

 美優に聞かれて、さてどうしたものかも考える。

 

 さっきエッチしたばかりではあるけど、間をあけるのも決まりが悪いし、いっそこのまましてしまうのが正解な気もする。

 

「こ、今夜、とか?」

 

 ふと「そんなにすぐ?」と言われてしまうような恐怖が過ぎって、喋り出しでヒヨってしまった。

 いざ冷静になって美優を観察してみると、美優は手を膝に挟んでモジモジしていたし、ひょっとしたら性欲は解消されきっていなかったのかもしれない。

 

「今夜ね。わかった」

 

 美優はとりあえずの了解だけをして、ソファーから立ち上がった。

 懸念はあるものの、約束は取り付けられたわけだし、もう今夜に全力をかけるしかない。

 

 なにせ、俺はこの妹の処女をもらうのだから。

 

 中途半端な気持ちでいただくわけにはいかない。

 

「お兄ちゃん、これ」

 

 美優はリビングの棚から一枚の紙ペラを持ってきて俺に渡してきた。

 

「理性が残ってたときの私が書いたやつ」

 

 それは、名刺サイズの小さい洋封筒だった。

 

「いま読んだほうがいいのか?」

 

 封筒にはシールすら貼られていなくて、中身を確認しようと思えばすぐにできる状態だった。

 

「できれば明日以降がいいかも。いつでも読めるようにお財布にでも入れておいて」

「そうか。わかったよ」

 

 俺が了承すると、美優はフラフラと階段を上って自室に戻ってしまった。

 

 はたして何が書かれているやら。

 話している感じからして、山本さんに関係があるものではない。

 「理性が残っていたときの私が書いた」と言ったくらいだから、エッチな気分になったら言えなくなってしまうようなことが書かれているのだろう。

 

 とはいえ、美優は理性が蒸発したときのほうが素直になるので、このメモ書きは「言いたいことが言えなかったときのための保険」ではなく、むしろ理性が飛んでつい口に出てしまった言葉の信憑性を高めるためのものであるはず。

 

 エッチな気分のときにしか言えなくて、それが本音だと信じてほしい言葉。

 そんなもの、あの美優の性格からするに、俺への愛の告白──それもドロドロに甘いやつ──ぐらいしか考えられないのだが、そんなものわざわざ手紙を使って補足するだろうか。

 

 考えていても仕方ないことだし、俺も夜に向けて自室で休憩するか。

 それでも時間が余るようなら勉強でもしておこう。

 この夏休みは常に誰かとデートしていたし、宿題の消化もまだ済んでいない。

 

 俺は財布に美優からの手紙を紙幣ポケットに挟んで、その真白な封筒の表面をじっと見つめる。

 

 いや、やはり、気になるな。

 このサイズ感からするに、十数文字程度のメッセージしか書かれていない。

 そんな一文に美優のどんな想いが込められているのだろうか。

 

 にしても、「理性があったときの私が書いた」って、美優にしては変な言葉の選び方をしたな。

 発言のままに解釈をすれば、この手紙を渡したときの美優は、もう理性があやふやになっていたと読み取ることもできてしまう。

 

(……ってことは、やっぱり──)

 

 美優はまだムラムラしたままだったのか。

 自室に篭ったのがその昂りを鎮めるためだったとすれば、美優は今この瞬間にも、ベッドでアソコをイジって悶々としていることになる。

 

 それなら俺が発散させてあげたい。

 しかし、美優がオナニーしていると思うだけで興奮もするので、止めたくない気持ちもある。

 

 二階に行って耳をそばだてれば美優の淫らな呼吸音が聞こえてくるだろうか。

 あるいはこの鋭敏になった聴覚なら、ドア越しでも衣擦れの音を捉えられるかもしれない。

 

 俺の足は無意識に階段へと向いていた。

 

 盗み聞きをしようだなどと考えているわけではない。

 俺はあくまでも自分の部屋で勉強をするだけ。

 その集中力が、ほんの数分だけ横に逸れるだけなんだ。

 

 ──ガチャ。

 と、二階のドアが開く音が聞こえてきたのが、ちょうど俺が意を決して階段に足を掛けた直後だった。

 

 俺は慌ててリビングへと戻り、まるで美優のことなど考えていなかったと装うために食器を片付け始めた。

 美優は部屋を出てからすぐに階段を降りてきて、何事もなかったかのようにリビングへと戻ってきた。

 

 その表情は、ほんのわずかではあるが、ほくほくと赤みがかかっていた。

 美優はキッチンに立っている俺に目をくれることもなく、雑誌を手に取ってソファーにうつ伏せになる。

 

 俺が想像していた通りにオナニーをしていたのだとしたら、早すぎる。

 美優も俺の早漏に負けないくらいにイきやすい体質ではあるが、興奮を鎮めるためのオナニーがほんの数分で済むはずもない。

 

 オナニーはしていなかったのか?

 考えすぎだったのだろうか。

 

 俺は不甲斐なく勃起してしまった下半身を隠すために、しばらくキッチンに立ったまま美優のことを眺めていた。

 

 実家のソファーに寝そべり、雑誌を読みふける妹。

 さっきまでエッチをしていたときは、恋人である美優個人としての意識が強かったが、こうして日常を過ごしている姿を見ていると、それはどうしようもなく俺の妹なのだった。

 

 当たり前に同じ屋根の下に暮らして、数えきれないほど食卓で顔を合わせて、まだ言葉もまともに喋れなかった頃からお互いのことを知っている。

 

 そうして、十五年も一緒に暮らした実の妹と、俺は今夜セックスをする。

 

 俺と美優はもう立派な恋人同士。

 これまで何度もエッチをしてきたし、妹が相手だからといってセックスをすることに特別な感慨があるわけでもない。

 もとより俺はそのあたりの意識は薄かったし、気にするとしても美優の側だろう。

 

(美優としては、どっちのほうがいいのかな)

 

 俺は勃起がバレないぐらいに萎んだことを確認してから、美優のいるソファーへと戻った。

 

 これまでも、兄と妹という関係に拘り続けていたのは美優のほうだった。

 今日だってあえて自身が妹であることを強調してきたし、あそこまでされると何かの意図があったのではないかとも思えてくる。

 将来の避けられぬ道として、実の兄妹である事実が人生を阻んでくることを忘れさせないよう、美優が俺に意識を根付けようとしているのか。

 どちらにせよ、美優は恋人になってからも妹として扱われたく思っているように俺は感じた。

 

 俺がすぐ近くに行っても、美優は俺に意識を向けてくることもなく、ペラペラと雑誌をめくっている。

 俺は空いたスペースに軽く腰掛けて、美優の背中を見下ろした。

 

 エッチは関係なしに抱きついて美優とイチャイチャしたい。

 恋人なのだから、それぐらいは許されると思う。

 

 髪を触っても、美優は無反応だった。

 内部を指で探ってみると、たしかにピンク色のラインが見える。

 サラサラでとても触り心地がいい。

 

 このまま抱きついておっぱいを鷲掴みにしたい。

 性行為としてではなくスキンシップとしてそうしていたい。

 

 ここで触ることを諦めたら俺は一生負け犬のままだ。

 

 そう言い聞かせて、俺はついに、その両手をそっと美優の両乳に沿わせた。

 

 すると、さしもの美優も俺に反応して、しばらくは無言の目線を送ってきた。

 

「なにかするのかと思ってたけど。なんですかそれは」

「いや、あの、ほんとは、ガバッと抱きつきたかったんだけど、つい躊躇してしまってだな」

 

 俺が事情を説明すると、美優は数秒だけ思案してから口を開いた。

 

「そこはまあ、お互いに要努力の項目だね」

 

 美優は雑誌を持ったまま仰向けになった。

 

「というと?」

 

 美優も俺に抱きつきたいのを我慢してるのだろうか。

 

「お兄ちゃんが私へのスキンシップを躊躇するのは、まだ私がお兄ちゃんと触れ合うことに抵抗があった頃のやりとりが原因でしょ? そこは、私からも、今はもっと触ってほしいって言うべきだったなって」

 

 美優は真面目な語りで気を紛らわせて、やはり恥ずかしかったのか雑誌で顔を半分隠した。

 

 なるほど、そうかそうか。

 

「じゃあこれからたくさん触っていいんだな」

「私が喜ぶような触り方をしてもらわないと困りますが」

「難しい注文だな」

「私はお兄ちゃんに対していつもそうしてるよ?」

「ああ、たしかに。そうだった」

 

 俺が美優に触られて嬉しいのは、単に美優が美少女だからではない。

 男として喜ばせるという観点からしても、美優のスキンシップの取り方は常に理想的なのだ。

 俺もそこは見習わないとな。

 

「ちなみにダメな触り方をした場合はどうなるんだ?」

「普通に気持ち悪いって言う」

「それはわかりやすくてありがたい」

 

 トゲの多い妹ではあるが、ほかの男が相手ならそもそも触らせることすら許さないこの性格を考えると、それだけで俺は美優に好かれていることが十分に伝わってくる。

 

「たまに触られて嬉しいときも気持ち悪いって言っちゃうけどね。そこは私も努力をしますので。何卒何卒」

 

 美優は雑誌をパタンと閉じて手を合わせ、お祈りのポーズを取った。

 

「俺は美優に気持ち悪いって言われるのも好きだから大丈夫だよ」

「そこは改善してください」

「あ、はい」

 

 つい本心を口走ってしまった。

 しかし、残念ながらこの捻じ曲がった性癖だけはどうにもならない。

 そしてそれは美優のせいなので罪悪感もない。

 

「というわけで、触りたいところに触ってみようと思う」

 

 俺は仰向けになっている美優を下ろして、どこがセーフティゾーンかを見極める。

 首とふとももはとても敏感な危険領域だし、おっぱいは美優からすれば十分すぎるぐらいに触られた場所だし、頭を撫でる気分でもない。

 となれば、残る領域は腕か、腹か。

 

 どちらを触りたいかと聞かれたら迷わずお腹を選ぶので、俺は美優の腹部を、まずはTシャツの上からさすってみた。

 

「どうだ?」

「うーんとね。いきなりそこかって思ってたけど、存外悪くないかも」

 

 美優はお腹をさすられて、どこか安心したように表情が緩んでいた。

 触っているのも気持ちいいし、触ることで気分を良さそうにしてもらえると、こちらの心も満たされる。

 

 犬を飼っている人はこんな気分なのかな。

 美優も雑誌を読むこともしないで、目を閉じて心地良さそうに俺にお腹を撫でられている。

 

 そろそろ慣れてきた頃合いだと思うので、俺は服の中に手を入れて美優のお腹を直接触ってみた。

 美優はくすぐったそうにして、最初こそ身をよじるような仕草を見せたが、しばらく触っているうちに無抵抗になった。

 絞られたウエストでありながら、摘もうと思えば摘めるぐらいのぷにっとした感触を残しているので、触っていてとても気持ちが良い。

 肌もスベスベでもちもちだ。

 

 ここが美優のお腹なのか。

 これまで何度もエッチしてきたけど、こうして触らせてもらったことはなかったな。

 お腹の匂いを嗅がせてもらったことはあったけど。

 

 あのときは興奮した。

 なにせ、このお腹の中には美優の子宮があるんだ。

 

 赤ちゃんができる場所なんだよな。

 神聖な部位のはずなんだけど。

 美優の子宮に触れていると考えると、不本意にも興奮してきてしまう。

 

「んっ……あっ……」

 

 俺の欲情に反応してか、不意に美優が喘ぎ声を漏らした。

 

 美優もいきなりのことに混乱していて、顔が赤くなっている。

 

「ご、ごめんね」

 

 美優は申し訳なさそうに謝ってきた。

 俺からすれば邪な気持ちで触ってしまった俺が悪いのだが、美優は俺のために、このスキンシップをエッチとは別の触れ合いだと割り切りたかったのだろう。

 

「美優は平気か?」

「う、うん。何か、お兄ちゃんから邪悪な電波を受信した感じだったけど、今回は私のせいかも」

 

 さすが我が妹だ。

 第六感で理解していたか。

 

「実はその通りなんだ。申し訳ない」

 

 俺から改めての謝罪をしたが、美優がそれについて追及してくることはなかった。

 

 美優の顔が、赤くなったまま戻っていない。

 風邪でも引いたのかと心配もしたが、この抵抗のなさからして、欲情による赤面の可能性が極めて高かった。

 やはり、先ほどの手紙を渡した時点では、美優はまだ性欲を解消しきれていなかったんだ。

 

「美優は、二階に戻ったとき、その……しなかったのか?」

 

 直接的な表現を避けて、美優に尋ねてみる。

 美優はなおも俺にお腹をさすられながら、また雑誌で口元を隠して俺を見つめてきた。

 

「しようと思ったけど、やめた」

「どうしてだ?」

「それは、秘密。まあ、どうせお兄ちゃんと今夜するし」

 

 美優は部屋に戻ってオナニーをしようとして、あるいは軽く数秒だけ自分のアソコを触って、何かを思った結果、中断して部屋を出てきたらしい。

 

「言いたくないなら、俺も深堀はしないよ。それとは別に、聞いておきたいことがあるんだけど、いいかな?」

「お答えしましょう」

 

 ──今日は、少しでも素直になると決めたので。

 

 そんな言葉を、ごくごく小さな声で付け足して、美優は俺の目を見た。

 

「美優を妹として好きになるべきか、一人の女として好きになるべきか、迷ってる。俺は女として美優を好きになるつもりだったけど、美優は兄妹としての形を残したいみたいだから」

「あー。それですか」

 

 美優はいつかこの質問をされると予測していたようだった。

 

「その質問への答えは、一応、用意しています」

 

 その語り出しは、ずいぶんと曖昧なものだった。

 

「でも、答える前に、ひとつ。私たちが恋人か兄妹かは、深く考えないでほしいの。いいかな?」

「構いはしないけど。ワケは気になるな。とりあえず、それを前提として答えは聞くよ」

 

 ひとまずは、美優の答えを聞くのが先だと俺は判断した。

 

「私はね。お兄ちゃんを、兄として想い続けたい。お兄ちゃんにも、妹としての私を可愛がってほしい。それでいて、恋人でありたいの。……少なくとも、お互いが成人するくらいまでは」

 

 美優は妹であることを望んでいた。

 その基底には恋人としての関係があるものの、美優は『妹でもある恋人』ではなく、『恋人でもある妹』でい続けたいらしい。

 

「そういうことなら、無理に恋人らしい身の振り方はしないよ。……それはいいんだけど、深く考えるなってのはどういうことなんだ?」

「ん、まあ、ほら。答えがあるってことは、理由があるわけじゃないですか。どっちでも良ければ、お好きにどうぞって答えるし」

「まあな」

 

 恋人関係になってなお、俺には兄でいてほしいと願うくらいだから、相応の理由があって然るべきだと思う。

 しかも、それは俺たちの将来にも関わる重大な理由であってもおかしくはない。

 

「ね? そうやって真剣な顔になる」

「ああ、悪い。えっと、つまり、どういうことなんだ?」

「つまり、今から私が、お兄ちゃんにお兄ちゃんでいてほしい理由を答えるということです」

 

 だから、身構えないで聞いてほしいということか。

 

「わかった。なら深くは考えない」

 

 どんなに引っかかるような答えでも、逆に信じられないくらいあっさりした答えでも、ありのままを受け入れよう。

 理由がどうあれ、俺が美優の恋人であり、兄である事実だけは変わらない。

 

「これはお兄ちゃんも、自分の身に置き換えて聞いてほしいのですが」

「うん」

「私とお兄ちゃんはこれからもエッチをするじゃないですか」

「そうだな」

「こう……エッチ、するじゃないですか」

 

 美優は雑誌を床に捨てて、お腹に置かれていた俺の手を取って、それからもう片方の手も掴むと、俺が美優の膝の間にくるように誘導してきた。

 いわゆる正常位と呼ばれる体位で、セックスをするときの王道的な体勢だ。

 

「エッチ、しますよね?」

「も、もちろん。具体的には、今夜あたりに、こんな感じに……」

 

 そう、きっとこうやって、俺と美優は今夜セックスをする。

 

「こういう、ことだよお兄ちゃん」

 

 美優は両脚で俺の脇腹を挟んで、腕を引っ張ってきた。

 すると、俺の腰がさらに美優の股に入り込んで、お互いの秘部が触れ合いそうなぐらいに近づく。

 

「そ、そうか。えっと、なんだ」

 

 妙なドキドキを抱えて、俺は美優の言葉の真意を探るのに精一杯だった。

 この正常位が、どうしたというのだろう。

 

 俺は美優と何度もエッチをしてきた。

 他の子ともセックスを何回もした。

 だから、こうして美優と本番行為に及んだとしても、今更何も感じることもない。

 

 そう、思っていたのだが。

 

「お兄ちゃん」

 

 美優は俺と手を繋いだまま、両肘で胸を寄せて、ジッと俺を見つめてきた。

 

 こんな、扇情的なポーズを取っている美優の姿が、先ほどまでソファーで寝転んで、雑誌を読んでいた姿と重なる。

 

 美優とはこの家でずっと暮らしてきた。

 ファッション雑誌を手にして、ソファーに寝そべる姿だって何度も目にしてきた。

 家に帰れば廊下で顔を合わせて、何か用があると俺を「お兄ちゃん」と呼んで、話しかけてくれた。

 

 そうして十五年間、過ごしてきた相手だ。

 

 それが、今こうして淫らなスキンシップをしている、実の妹だという事実。

 

「美優……」

 

 他の女の子とセックスしたときには抱かなかった、モヤモヤした感情が胸中に広がっていく。

 それは決して不快なものではなく、それを正しく単語として表すならば、『背徳感』と呼ばれる強烈な興奮材料だった。

 

 否が応でもイメージが浮かんでくる。

 実の妹の処女を、兄である俺が貰うという情景。

 

 勃起したオスのペニス──見た目がグロテスクで、メスを孕ませるための体液が出る、普段は排泄行為にしか使われないような肉の棒を、その体の中に受け入れるということ。

 それをまだ男を知らない実の妹にやらせるというというのは、あまりにも倫理が欠けた考えだった。

 

「私は、お兄ちゃんと、セックスしたいの」

 

 ──だって、

 

 と、続ける美優の表情には、もはや真面目に考え込むほどの真剣さなどなく。

 

 ただ、年頃に生意気なままの女の子が、俺を見つめていた。

 

「その方が、興奮するし」

 

 最大限の羞恥を封じ込めて、美優はついに、そんな言葉を言ってのけた。

 

 それが、『できるだけ素直になれるように頑張る』と宣言した美優の、最初の本音だった。

 

「美優……!」

 

 俺の股間は、当然の如く、痛いぐらいにパンパンに膨らんでいて、美優のショートパンツの中に指を突っ込んだら、外側にシミができてもおかしくないくらいに濡れていた。

 

「ひゃっ……だめ……!」

「美優、しよう。もう今夜なんて待てない。ここでしよう」

「ふぇ、やっ、あの、はじめては、ベッドがいい」

 

 服を脱がそうとする俺を美優は制して、濡れた視線を仰いでくる。

 

「なら、美優の部屋に行こう」

 

 美優を妹として抱くなら、妹の部屋でセックスするべきだ。

 美優もそれを喜んでくれるはず。

 

 そう思っての申し出だったのだが。

 

「……お兄ちゃんの部屋で抱いてほしいな」

 

 美優は、俺の手を引っ張って、そうお願いしてきた。

 

「訳があるなら教えてほしい。美優を妹として抱くなら、妹の部屋でセックスするべきだと俺は思う」

 

 もう遠回しな言葉で誤魔化すこともしない。

 お互いの素のままの想いをぶつけ合いたかった。

 それを美優も感じ取ってくれたようで、そこから先はもう、遠慮なしだった。

 

「お兄ちゃんの部屋で抱かれた方が、お兄ちゃんの物になった気がするから」

 

 それは独占欲とは真逆の、被支配欲とでも呼ぶべき美優の欲求だった。

 

「そんな所有物みたいな扱いでいいのか?」

「うん。エッチのときは、そういう気分になるの。お兄ちゃんに所有されて……その、ちょっぴり本音を打ち明けると、性処理に使われるのも、妹は、嫌ではないので」

 

 美優は一言一言に、口にしてしまった後悔を滲ませて、その表情がまた発言の真実味を強くしていた。

 

「嫌ではないってのは、言葉以上の意味で読み取っていいのか?」

 

 俺がそう問い詰めてみると、美優は照れ臭そうに「えへへ」と笑った。

 

「そこは、よしなに解釈してください」

 

 期待していた中で、一番エッチな回答だった。

 

 素の性欲の断片を覗かせ始めた美優の想いは、「兄に性処理道具として扱われるのが好き」という意味に相違なく、どう考えても問題発言でしかなかったのだが、不思議とそこに違和感はなかった。

 

 美優が俺の精液を処理するだけだったあの期間──兄妹としての関係に悩みながらも、どうにか自身の体質と向き合おうとしていたというのが、あの淡白な対応の理由だった。

 だが今にして思えば、あのときの美優は自身の境遇を楽しんでもいた。

 

 美優はえっちな女の子なのかもしれない。

 実の兄を本能的に求めてしまう特殊体質が、逆に迷彩となっていたのではないかとさえ思えてくる。

 

 暴走した美優の異常に強い性欲は、素の性欲に特殊体質による性欲が上乗せされたものであるが、そのどちらが強かったのかまでは気にしてこなかった。

 あるいは、普段はその体質が自身を客観視させる契機になって、生まれ持った性欲にブレーキをかけていた可能性すらある。

 もちろん、これはあくまでも仮定の話。

 

「美優の気持ちはわかった。でも、初めては美優の部屋で貰うよ」

 

 俺は美優に握られるだけだった手を、美優の頭上にまで持ち上げて、ソファーの肘掛けに押し付けた。

 

「どうせこれからも俺のベッドで寝て、そこでエッチをするだろ。処女を捧げた記憶ぐらいは自分の部屋でもいいよな」

 

 この家は母親が俺たちを出産したのとほぼ同時期に購入したもの。

 生まれてから今日まで過ごしてきた日々が、どの部屋にも刻まれている。

 美優の部屋には、美優の妹としての人生が全て詰まっているんだ。

 

「そんなことしたら、部屋に戻るたびにエッチな気分になるのですが……。ただでさえ、お兄ちゃんがいないときは、一人でする頻度が増えてるのに」

 

 美優は不満げにそんなことを口にしたが、たぶんこのエッチな妹は、ただ兄をオカズにオナニーしていたことを白状したかっただけなのだ。

 

「美優」

 

 俺は優しく声をかけて、美優の手を引き、ゆっくりと体を起こさせた。

 

「な、なあに。お兄ちゃん」

 

 美優はドキドキを隠しきれない表情で俺を見つめてきた。

 

「美優の人生の全部が欲しい」

 

 それが今の俺の、偽りのない本音だった。

 

 俺と美優は、愛欲に塗れた視線で見つめ合って、このときの二人の感情は、完全に同一のものを共有していたように思う。

 

 とにかく、セックスがしたかった。

 

「可愛い妹の人生なんだから。大切にしてね」

 

 お互いに、大胆であっても、飾り気はなく。

 それが兄と妹として、初めてのセックスを迎えるための、十分な告白だった。

 

 俺と美優はソファーから立ち上がって、恋人として初めて手を繋いで歩き、リビングの扉を閉める。

 

 まだ夏の陽も高い、午後の昼下がり。

 

 俺たちは繋いだ手を強く握って、早足で階段を駆け登った。

 



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初体験の挿入一回目で絶頂する妹とイチャイチャしながらセックスする話

 

 俺は、妹とセックスする。

 

 早足に階段を駆け上った俺と美優は、雪崩れ込むように美優の部屋に入ると、立ったまま強く抱きしめ合った。

 互いの息が荒く上がっていて、弾む鼓動を抑えることができない。

 

「やっとしてもらえる……」

 

 美優は焦れる想いを零して、期待の篭った眼差しで俺を見つめてきた。

 

「待たせてごめんな」

 

 俺は美優にキスをして、抱きしめながら頭を撫でた。

 美優は俺に抱きつく力を強くしてきて、もう密着できる限界までくっついているのに、なおも体を寄せてくる。

 大きな胸のせいで満足できる密着感にならないのかもしれない。

 そんな美優が可愛いかったので、俺の方から痛いぐらいに抱きしめてやると、美優は満足そうに顔を綻ばせて首筋にキスを返してきた。

 

 そんな恋人らしいやりとりをしていても、どうしたって下半身は反応してしまう。

 勃起しっぱなしでピクピクと動く肉棒を、美優は自分のお腹に押し付けていた。

 

 そこで俺は気付いた。

 美優が体をギュウギュウさせてきたのは、密着度を高めたかったからではなく、こうして俺の肉棒をお腹に触れさせたかったからなのだと。

 

 性欲に忠実な美優も可愛い。

 本能的な側面が強くなってきている兆候ではあるけど、それは俺だって同じだ。

 人間こんな場面になれば、誰だって動物らしい本性が浮き出てくるもの。

 

 布越しではなくて、生の肌で抱き合って、美優にペニスを擦り付けたい。

 リビングでイチャついているときにこの手で触れていた、あのふにふにしたお腹の感触に、この肉棒を埋めてみたくなった。

 

 そんな感情に任せて、俺は美優のTシャツに手を入れた。

 美優もその意図を汲み取ってくれて、俺と顔を合わせると、小さくバンザイをして腕を上げてくれた。

 

 ブラごと美優の服を脱がせてから、すぐに俺も上半身裸になる。

 美優のショートパンツは俺がボタンを外して、同時に美優が俺のズボンのチャックを下ろし、足元に落ちた服を蹴り飛ばすと、ついでに靴下も外して放っぽった。

 

 そうしてまた、二人で抱きしめ合った。

 生の体で、お互いの肌の感触を確かめるように、背中に触れる手を滑らせて腕やお尻を撫で回す。

 

 俺よりも美優の体温の方が高い。

 美優が特別に興奮してるからではなくて、普段からこれだけの体温差があるんだ。

 それはベッドで一緒に寝ているときから知っていたこと。

 

 でも、裸の美優を抱くことが、これほど気持ちの良いことだとは知らなかった。

 これまで経験した、どの女の子とも違った興奮と安心感があって、何と比べても美優が最高だった。

 

「初めて、だね」

「そうだな」

 

 俺たちはこれだけエッチを繰り返しておきながら、お風呂場以外で裸になったことがなかった。

 

 だからこそ、こうして裸で抱き合う瞬間が一層嬉しかった。

 

 その歓喜は性衝動へと変わって、俺は美優のお腹に裏筋までぴったりと密着させたペニスを動かさずにはいられず、その全面を擦りつけるようにして腰を前後させた。

 

「んっ……あっ……」

 

 美優の口から漏れた艶声。

 それは驚きから出たものではなく、性感を刺激されて堪らず漏れてしまったもの。

 リビングでお腹をさすっているときも、俺が美優の子宮を意識して撫でたときに美優は同じ反応をしていた。

 

 生殖が意識される行為は美優にとって何よりの興奮材料になる。

 裸になって子宮に近い部分をペニスで刺激されるのは、美優にとってはセックスに等しいほどの快楽だった。

 

「あっ、あ、んっ……おにい、ちゃん……」

 

 俺は美優の腰に両手を回して、軽く抱え上げるように美優の体を引き寄せる。

 そして、その滑らかな腹部の表面にペニスをストロークさせた。

 挿入しているわけでもないのに、美優は体内に肉棒を埋められているかのように腹筋を引きつらせて、熱い吐息を漏らした。

 

「お兄ちゃん……だめ……」

 

 美優も始めこそは同調して腰を動かしていたが、途中で俺の胸元を両手で押して離れようとしてきた。

 

「どうしたんだ?」

 

 俺が緩やかに動きを止めて美優を解放すると、美優はギリギリの理性でニュートラルな状態に戻った。

 

 ──ように見えた。

 

「お兄ちゃんとの、将来のあれこれが、妄想になって止まらなくなりそうだったので」

 

 美優はできるだけ遠回しな表現を選んで、脳がセーフティラインのギリギリにあることを俺に教えてくれた。

 そして、一呼吸を置いて美優は言葉を続けた。

 

「妹の子宮を、安易に刺激するのは、とてもキケンです」

 

 美優が口重く、慎重に紡いだその言葉は、今日という日を迎える俺たちにとって忘れてはならない重要事項だった。

 

 俺とセックスすることで、美優の性本能がどれだけ暴走するかはわからない。

 だから、初体験の特別感がどれだけ気分を高揚させようとも、美優への性的な刺激は最小限にしなければならない。

 

「そうだな。俺も気をつけないと」

 

 俺は美優を孕ませないようにコントロールしなければならない。

 俺ならそれができると信頼してくれたからこそ、美優もここまで自分の素をさらけ出してくれている。

 

「じゃあ、セックスしようか」

「うん。きて」

 

 美優は俺の手を握ると、その手を引いてベッドまで移動した。

 

「いま寝床を空けるからね」

 

 布団を奥へと押しやる美優のふとももは、秘部から溢れ出した愛液で濡れていた。

 それはもう見慣れた光景だったはずなのに、俺はその美優の姿を見て妙に胸がザワついていた。

 

 ベッドから邪魔な物を退けると、美優は先に乗って正座をして、その正面に俺を膝立ちさせた。

 

 俺の屹立したイチモツをじっと見つめて、美優はお腹をさすっている。

 

 その表情は、一見すると理性的な美優だったのだが。

 顔を上げて俺と目を合わせた美優が、ほんのりと気恥ずかしさを隠していることに気づいた瞬間、すでに本能側のスイッチが入っていることにも俺は気づいてしまった。

 

「あの……今日、受精させますか……?」

 

 美優は何かを思い立ったように、そんなことを聞いてきた。

 

 リビングでイチャイチャして、自室でのオナニーを我慢して、俺のペニスに子宮をグリグリされた美優の理性には、とっくに本能に逆らえるだけの力など残っていなかったのだ。

 

「何を言ってるんだ、美優。美優はまだ処女だろ。まずは練習を積まないと」

 

 俺は冷静に、落ち着き払って、美優にそう告げた。

 多少の計算外があっても、これぐらいは乗り越えなければならない壁。

 この状態の美優をコントロールできなければ、この先も美優とセックスする機会はいつまでもやってこない。

 

「あ、そっか。そうでした」

 

 美優は恥ずかしさを誤魔化すようにはにかんだ。

 どうやら脳が本能側に倒れると知性も底をつくようで、これはこれで制御しやすいので大助かりだった。

 

「そういえば、元は俺も自分の部屋でするつもりだったから、ゴムを置きっぱなしにしてたよ。取ってこないとな」

「コンドームの用意ならありますよ」

 

 そう言って、美優はベッド近くに置いてあったティッシュ箱の後ろから、個包装のコンドームを一つ取り出した。

 

「私の理性がこんなときのために準備していました」

 

 美優は両手の親指と人差し指でコンドームの袋を摘んでそれを見せてくれた。

 さすがは準備の良い妹。

 

「美優の理性は立派だもんな」

 

 俺が何の気なしに褒めると、どうやら美優の中でもニュートラルな自分とデレデレの自分は違うものとして扱われていたようで、美優はデレ側の自分を主張するようにペコっと頭を下げて俺の前に差し出してきた。

 

「いまの私も可愛がってください」

「可愛いよ。もちろん。可愛くないわけがない」

 

 美優の頭を撫でると、それだけで美優は満足してくれて、また俺たちは正面に向き直った。

 

「ゴム、付けてくれるか」

 

 俺は美優に、あえてそうお願いした。

 

 特別な想いがあったわけではない。

 それでも、処女である妹にこの肉棒を受け入れてもらう証としては、そうしてもらうのが一番だと思った。

 

 俺のお願いに、美優は静かに頷いて、それから包装紙を破いてコンドームを取り出した。

 それを俺のペニスに被せようと美優は近づいてきて、まずは両手で竿を支える。

 

「なんだか、結婚指輪をつけるみたいだね」

 

 美優はそう呟くと、両手で包んだペニスの先に慈しむようなキスをして、それから丁寧にコンドームの輪っかを根元に下ろした。

 いつも俺より美味しい想いばかりするこの愚息に、俺は並々ならぬ嫉妬を覚えながら、俺自身にもキスをしてもらいたい気持ちを押し殺して美優をベッドに寝かせた。

 

 仰向けになった美優に俺が覆いかぶさって、ついに俺たちは、初めての瞬間を迎える。

 

「お兄ちゃんの、ゴムがついてるの見るだけでドキドキする」

 

 ペニスにコンドームを装着したとなったら、もう挿入する以外に先はない。

 これから俺たちはセックスするのだということを、この避妊具が何よりも物語っている。

 

「キスしてたほうがいいか?」

「ううん。他には何もしないで、挿れるだけしてほしい。お兄ちゃんのが入ってくるのを、いっぱいに感じたいから」

 

 美優は俺が覆いかぶさることで股下が見えなくなることがわかると、膝を立てた脚を大きく広げて、俺のペニスを迎えてくれた。

 

「挿れるよ、美優」

 

 ようやく、この言葉を言うことができた。

 オナニーを目撃されてから今まで、何度もエッチなお願いを断られては、食卓を挟んでお説教をされて。

 あの頃は、こうして裸で愛し合うことになるとは思わなかった。

 そんな美優の膣内に、これから俺のペニスを挿れる。

 

「私の処女を貰って。お兄ちゃん」

 

 美優は自らの豊かな胸を左右の手で掴んで、それを抱え込むようにギュッと身を固めた。

 蜜口に亀頭を当てがうと、美優の体が強張って、それでも決して抵抗しようとはせず、少しずつ奥へと入り込んでいく俺の肉棒を受け入れてくれる。

 

「き……キッつい……!」

 

 まだ亀頭が隠れる程度にしか挿入していないのに、挿れる場所を間違えたのかと思ってしまうほど、美優の膣穴は狭かった。

 割れ目は十分過ぎるほどに濡れていて、美優にはオナニーの経験もあって、遥に繰り返しイジられてきたはずなのに、まるで自分の手で握り込んでいるかのような圧迫感が肉棒を包んでいる。

 

「ふぁ……すごい……お兄ちゃんのが、アツくて、おっきいのも、ぜんぶ膣内から伝わってくる……!」

 

 俺の肉棒をびっちりと包み込んでいる美優の膣壁は、通常なら体温と同化して判別がつかなくなってしまうはずの温度や形さえ、つぶさに感じ取っていた。

 兄妹としての相性の良さなのか、まだ経験の無いはずの美優の膣神経は、生まれながらに俺のペニスを感じるようにできているようだった。

 

「こんなに締め付けてくる肉穴なんて、玩具でもそうないぞ……」

「はぁ……はぅ……お兄ちゃんに、気に入ってもらえたかな……?」

「セックスでも美優以外で射精できなくなるかも」

「ふへへ。うれしい……」

 

 俺は腰を落とし込むようにペニスを美優の膣内へと沈めて、一分近くかけて慎重にこじ開けていく。

 そうやって、じっくりと美優の膣を慣らして、ようやく竿の半分を美優の中に入れることができた。

 

「う、ぐっ……おにい、ちゃん……もう、お腹パンパン……」

「痛みは、大丈夫か?」

「へいき、みたい。息はしづらいし、お腹は張ってるけど、痛みはないの。そういう、体質なのかも」

 

 美優の小柄な体格からしても、異常なぐらいにキツい膣内だったが、もしかしたら美優の膣は慣らしてもこの狭さなのかもしれない。

 そう思うと、俺もいくらか気が楽になって、亀の歩みのようにゆっくりだった挿入を少しだけ加速させた。

 

「ひぎぃっ……! 痛っ……あぐッ……ぁっ……ッ!」

 

 初めて美優は痛みに悲鳴を上げた。

 俺は気が動転しそうになる頭を、どうにか「落ち着け」と暗示的に自分に言い聞かせて平静を保ち、美優の表情からその具合を窺う。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…………痛かった……」

「ごめんな、美優」

「ううん。謝らないで。もっと挿れて」

 

 ──とっても、安心したの。

 

 痛くしてしまったというのに、美優は嬉しそうに頬を緩ませて、俺にそう教えてくれた。

 

 俺に捧げる初めてのセックスが、確かに初めてのものだったのだと、その身に刻まれることが何よりも嬉しかったみたいだ。

 

「もう、子宮のとこが切なくて堪らないの。早くお兄ちゃんの、奥まで全部入れて。私の処女、お兄ちゃんのものにして」

 

 俺の姿だけをその瞳に映す美優の目に、俺は気づかされた。

 美優が求めてるのは、優しいだけのありふれたセックスではなかった。

 

 俺はこのロリで巨乳で真面目で無愛想で、ときには人妻にもママにもなってくれる妹の恋人なんだ。

 

 とても賢くて、いつも勝気な目をしているくせに、デレると砂糖を煮詰めたようにドロドロに甘えてくるこの愛しい人を、「世界の誰よりも好きになった兄」として抱きしめてやらなければならない。

 

「わかったよ、美優……! 子宮に押し込んででも根元まで入れるからな……!」

 

 俺は美優の全身を抱えると、ひと息に美優の膣内へと押し込んだ。

 

「あっ……ああっ……お兄ちゃん…………お兄ちゃん……!!」

 

 ──好き!!

 

 美優の叫び声が、部屋中に響いて。

 

 それと同時に、俺のペニスが美優の子宮口を穿った。

 

「ひゅぎぃぃいイイッ──ッ──!!」

 

 その悲鳴は、痛みによるものではなかった。

 

 俺がペニスを奥まで捻じ込んだ瞬間、美優は大きく背中を仰け反らせて絶頂したのだった。

 

「はあぁぅ……ひぃ……ひぐっ……はあぅふぅ……あっ、しゅごひっ……」

 

 長い年月をかけて、膣の奥だけをトロトロに開発されていた美優は、ついには初体験の一度目の挿入で激しくイッてしまった。

 

 美優は痙攣する体を押さえ込もうとその身を強く抱いているが、俺のペニスが入ったままのせいか、いつまでも全身がビクついてオーガズムの余韻が引かなかった。

 

「美優……」

 

 俺の視線は、初挿入でイッてしまった美優の体に釘付けになっていた。 

 

「美優……可愛いよ、美優……!! セックスも最高に気持ちいい……!!」

 

 処女のくせに一度の挿入でイッてしまう美優が狂おしいほどに可愛いくて、じっとしていることができなかった。

 俺は美優の子宮口を押し広げる勢いで、鉄芯のように硬くなったペニスを密着させたまま前後させる。

 

「ひぃゃああっ、ひゃめっ……らめにゃっ……っあああああひぃぐぅッ……あぁあッッ!!」

 

 美優は再び喘ぎ悶えて、膣の奥を三回ほど擦ったところでまた絶頂した。

 俺のペニスにびっちりと絡みついてくる美優の肉襞が、オーガズムに合わせてギュルギュルと竿を根元から絞り上げてきて俺を射精させようとしてくる。

 

「はぁ……美優……美優っ……!!」

 

 亀頭はほぐされた子宮近くの肉の柔らかさに包まれ、竿は狭い肉穴に締め付けられている。

 挿すのも抜くのも快感が凄まじくて、受け流す先などどこにもなかった。

 もう俺には射精してしまうしか選択肢がなくて、俺はその精液が射出されるまでの短い時間の中で、精一杯に腰を振って美優の初めてに俺の肉棒を刻みつけた。

 

「美優っ……イくよ……!!」

 

 精液の射出直前、俺は美優の子宮に鈴口を密着させて、拳銃のトリガーを引くように射精用の筋肉を一気に収縮させた。

 

「だ、だめ、お兄ちゃん!! それだけはダメッ──!!」

 

 美優に最後に残されていた理性が警告を発して、しかし、俺に射精を回避できるだけの猶予などあるはずがなく、美優が叫ぶその最中にも俺の精液が美優の子宮へと撃ち込まれていった。

 

「ああっらめぇにゃぁ……ああああひぃぃぅぐっ!! ああああっ……!! アッ…………ッ──!」

 

 ドクン、ドクン、と俺の精液が美優の子宮口へと送られるたびに、美優はその刺激で同じ数だけ絶頂した。

 たとえゴム越しだったとしても、挿入されたペニスの細部まで判別できてしまう美優にとって、子宮に精液を注がれる快感は耐えられるレベルのものではなかったようだ。

 

「あっ……ああ……おにぃ、ちゃ……はぁ……ふぁ……ひゅごっ……ぃ……ひゅき……」

 

 酸素を上手く取り込めないのか、お腹が大きく膨らむほど深く息をする美優の膣内には、まだ硬いままの俺の肉棒が挿入されている。

 それでも、俺に膣内で射精されてぐったりと横たわる美優の顔があまりにも幸せそうで、せめて体だけは繋がった状態でいたかった。

 

「美優、大丈夫か」

 

 俺は手を美優の頬に添えて、静かな声でそう訊いた。

 

 最低限の刺激に収める、という目標は残念ながら満たせたと言い難いが、美優の初体験としては良い思い出が残せたと思う。

 

「えへへ……だいじょうぶ……」

 

 美優は頬に添わせていた俺の手を両手に持って、自分からスリスリと頬ずりをしてきた。

 

「美優とのセックス、気持ちよかったよ」

 

 今でもまだ勃起したペニスの竿全体が美優の膣壁に強く圧迫されている。

 美優は手を股間へと伸ばして、その結合部を指で確かめた。

 

「ほんとに繋がってる……」

 

 女の子にとって、男性器が自分の股に入っている感覚がどんなものなのか、男にはおよそ想像もつかない。

 でも、結合部に触れる美優が嬉しそうだったので、俺にはそれで十分だった。

 

「お兄ちゃんと一つになるって、こういう感覚なんだね」

 

 美優は俺のペニスに埋められて隙間の無くなった膣穴をしばらく弄っていた。

 

 呂律も回るようになって、美優の意識も鮮明に戻り始めたみたいだ。

 

「気分は悪くなったりしてないか? 野性的に交わりたい衝動があったりとか……」

 

 美優の本能が強く働いているなら、俺との子作りしたい欲望で脳が侵されるはず。

 こうして見ている分には平穏無事ではあるが、この妹は真面目な表情の奥に激しい劣情を抱え込んでいたりするので油断はできない。

 

「残念ながら、私の脳は現在九割ほどお兄ちゃんに種付けしてもらう妄想に使われております」

 

 美優はいかにも冷静な風を装ってそう言った。

 

「ダメなのか」

「ダメですね」

 

 美優が身を小さくして俺を見つめると、美優の淫肉がペニスをキュンキュンと締め付けてきた。

 

「子宮のとこで射精はどう考えてもダメです」

「すまん……」

 

 こんな状況でも、俺は美優にお説教されるのか。

 しかし、これに関しては美優の言い分が十割正しいな。

 

「なんだかゴムつきで挿れられてることに違和感を感じてきた」

「だ、大丈夫か?」

「お兄ちゃんは私のことが好きなのに、どうして私ではなくゴムに射精をしたのかな?」

 

 美優はぼーっとしながらも考えを巡らせ、それから何かが思い当たったような顔をして、しゅんとしてしまった。

 

「私に愛嬌が足りなかったのでしょうか。反省してしまいます」

 

 美優の発言が理性的におかしくなってきた。

 本人も言う通り、脳内が生殖本能に蝕まれてきている。

 てか、愛嬌が足りない自覚はあったんだな。

 

「好きだから、ゴムをしてるんだよ。美優」

 

 こうなった美優も、俺が兄として上手くなだめてあげないと。

 

「妊娠したらセックスも難しくなるから。せっかく恋人になったのに、すぐにセックスレスになるのも嫌だろ」

「それはとても困る」

 

 美優が大人しくなってきた。

 これならどうにかコントロールできるか。

 

「うぅー……お兄ちゃんの精子で孕まされたいだけなのに……」

 

 美優は悩ましく身をよじって、まだ膣内に入っている俺の肉棒を感じて「あっ……きもちいぃ……」と声を漏らした。

 

「美優とはきちんと人生設計をしたいんだ。だから、エッチも焦らずにしよう」

 

 俺が美優をどうにかなだめようとすると、美優はチラチラとこちらに目配せをして、小声で話し始めた。

 

「子供が欲しいわけでは、なくてですね。いえ、その、欲しいかどうかで聞かれたら、とても欲しいのですが。そこはどうにか理性さんが抑止しているので、分別はついているのです」

 

 美優は意外な告白をして、その先をさらに続けた。

 

「だから、これは折衷案というか、私はお兄ちゃんの精子を受精したいだけで、この体にお兄ちゃんの遺伝子を刻んでもらえるなら今はそれで満足できるといいますか……」

 

 言っていることはめちゃくちゃだったが、言いたいことは伝わってきた。

 

 美優の本能は子作りを望んでいるが、現実としてそれが今の俺たちには相応しくないことは理解している。

 だから美優は、せめて俺の所有物としての印を、できるだけ取り返しのつかないところに刻み付けてほしいとねだっている。

 

「美優の気持ちは伝わったよ。すごく嬉しい。でも、そういうエッチな漫画みたいな部分は、どうにもならないというか」

「なんでよー。受精卵のままにしておけるお薬とかないのかな……そしたら私のお腹の卵子ぜんぶお兄ちゃんの精子で受精してもらうのに……」

 

 美優の頭の中が完全に二次元になっていた。

 いつだかのお勉強でエロアニメを大量に観てしまったせいか、思考がかなり非現実的なものに寄っている。

 

「いまは赤ちゃんダメなら、せめてお兄ちゃんの子供しか産めない体になりたい……」

 

 切ない声で、もどかしそうに本音を漏らす美優を見て、俺も諭すばかりではいけないと考えを改めた。

 

「焦らなくても、いつかきちんと美優のことは孕ませるから。もう少し我慢しててくれ」

 

 俺は美優にそう囁いて、軽いキスをしてあげた。

 

 すると、美優の感情の昂りがスッと落ち着いて──目はハートマークが浮かんで見えるほどキラキラしていたが──美優は俺の言葉を素直に聞いてくれた。

 

「ずっと待ってるからね」

 

 そのときの美優の顔が、いつもの凛とした表情の美優と重なって見えた。

 

 真面目なときも、エッチなときも、美優は美優でしかなくて。

 そのどちらもが、俺の大切な恋人の一面であることは、これから先も忘れずにいたい。

 

 俺はその誓いとして、今度は長い時間をかけて、美優にキスをした。

 

 鼻の先を合わせて、至近距離で見つめ合って、おでこや頬にも唇を触れさせながら、何度も、何度も、美優と口づけを交わした。

 唇が唾液に濡れて、それを舌で舐め取ると、美優が堪らず舌を絡めてくる。

 小ぶりな舌を懸命に伸ばす美優に、こんなに小さな口でいつもフェラを頑張ってくれていたのかと、俺は嬉しくなってペニスがまだ一段と大きくなった。

 射精前と変わらないぐらいの性欲が湧き上がってきて、美優の口内に舌を捻じ込むと、繋がったままの肉筒がキュッと締まった。

 

「んっ……お兄ちゃん」

 

 美優は唇をわずかに離して、この至近距離でしか聞こえないくらいの小さな声で言った。

 

「もう一つあるから、使って」

 

 それはティッシュ箱の裏に隠していたコンドームの予備のことだった。

 それを用意していた美優も、元から一つで済むとは思っていなかったみたいだ。

 

「痛いのは平気か?」

「痛みはないよ。奥をグリグリされると頭が変になっちゃうから、この意識のままでお兄ちゃんとエッチしたい。いいかな?」

「もちろん。美優の初めてのセックスだから。きちんと記憶に残さないとな」

 

 俺が少しだけイジワルな答え方をして、それでも美優は気恥ずかしそうに頷いてくれて、俺は再び美優と唇を重ねると、その二度目の長いキスの中でコンドームを付け替えた。

 

「美優。愛してるよ」

 

 口にしてみると、思っていた以上に自分が恥ずかしくて。

 

 それでも、こんなときにしか、この言葉は言えない気がした。

 

「私もだよ。お兄ちゃんが世界で唯一、ただ一人だけ。私が愛してる人」

 

 美優はそのぱっちりとした目で、真っ直ぐに俺を見据えてきた。

 

 しかし、内側にひた隠ししていた性本能が辛抱堪らなくなったようで、一つ瞬きをした後の美優の瞳は、再び情欲に塗れたハート型になっていた。

 

「は、はやく挿れて」

「ああ、悪い。焦らすつもりはなくて」

 

 こんなやりとりが、俺と美優の“らしさ”なのかもしれない。

 俺は亀頭を美優の蜜口に当てて合図をしてから、いつも通りの早さでペニスを挿入した。

 

 それでも、子宮には届かないように、半分が入ったところから慎重にストロークの大きさを見極めていく。

 

「んっ、あっ、おにいちゃんの、きた……」

 

 美優は歓喜に打ち震えてもぞもぞと足を動かした。

 二度目なのに膣のキツさは変わらない。

 そのおかげで、半分ほどしかペニスを挿れていなくても刺激が足りなくなることはなかった。

 

「どうだ? 美優」

「き、きもちぃ。けど、もうちょっと、奥も平気かも」

「なら、もう少しだけ……」

「あっ、ひにゃぁっ……! だめだめ、もうだめ……!」

「ご、ごめん」

 

 俺はまた亀頭だけを擦るような挿入に切り替えて、美優を一度落ち着かせる。

 丁度良い挿入深度を測るのは、思いのほか難しかった。

 

 というのも、理性を保ったままペニスを受け入れられる深さと、頭がイッてしまうほど感じる深さの間に、美優がギリギリ味わえる快感スポットが存在しているからだ。

 

 それを無視してしまえばピストン運動を続けるのもさして難しくはないのだが、この“イイところ”に届いたときの美優が何とも気持ち良さそうに顔を蕩かせるので、俺はどうしてもこの境界線を見極めておきたかった。

 

「んっ、ああっ……そこ、すきっ……ぃいっ……あっああっ!」

「み、美優、もう少しだ。だんだんコツが掴めてきたから」

 

 ロリ系のオナホールよりキツく締めてくる美優の肉穴の快感に耐えながら、俺は美優の反応が良くなるところを必死で探った。

 

「ふぁっ……ああっ……!」

 

 俺が腰を振るのに合わせて、美優のおっぱいがゆさゆさと揺れている。

 脂肪が横に流れても山の形を維持するその鮮度の良い果肉に、俺の視線は奪われて、それでもむしゃぶりつきたくなる感情を「今だけは」と封印してピストンの調整に集中した。

 

「はぁ……ううぅ……何回も子宮コンコンされて、寸止めなの、頭が変になりそう……」

「もう少しだけ、耐えてくれ」

 

 言っている俺も、余裕があるわけではなかった。

 美優の膣が精液をねだるようにずっと締め付けてくるせいで、俺が射精を我慢するのにも限界が近づいていた。

 

「ああんっ、あっ、お兄ちゃん、上手になってきた……」

「うっ……ぐうっ……み、美優……もう、やばい……」

 

 だんだんと美優の快感スポットがわかってきた。

 しかし、今度は場所が分かってもそこを刺激し続けてあげることができなかった。

 女の子が感じる場所を擦るほど、男に流れてくる快感も跳ね上がるのだ。

 

「あんっ、あっ、んああっ……ぁあっ、あっ……止めちゃやだ……もっと、して……」

「ううっ……美優、そんなこと、言っても…………もう……出そう……」

 

 美優が腰を止めることを許してくれなくて、俺はペニスを擦り続けるしかなかった。

 射精をしないように、どうにか腰を動かして、やがてピストンはカクカクとしたぎこちないものへと変わっていく。

 

「あっ……んっ……お兄ちゃん、イキそうになってる……かわいい……」

「ほんとにもう限界なんだよ……」

 

 あと何回か擦ったら、我慢の限界を超えそうだった。

 

 俺は勢いに任せて射精してしまうかを迷って、結局は、イかないために動きを止めることを選んだ。

 

「止まってしまいました」

「ごめん……もう、止まっててもイキそうなぐらいで……」

 

 俺が動かなくても、美優の肉襞が波打つようにペニスを圧迫してきて、そのまま出てしまいそうだった。

 

「ふふふっ。お兄ちゃんが射精を我慢してるの、実は結構好きだったりするのです」

「思い当たることが多すぎて驚かないよ」

 

 俺は深く呼吸を繰り返して、射精の熱をどうにか逃していった。

 

「早漏のお兄ちゃんもかわいくて好き」

「治さないといけないんじゃなかったのか?」

「生殖能力としては、すぐに精子を出せるのは優秀なので」

「なるほど」

 

 俺が早漏なのも、事実として美優を孕ませたい本能的な衝動が問題なわけだからな。

 その面での相性はバッチリなんだろう。

 

「まあ、これを言うと、理性的な私がたくさんエッチがしたいだけみたいになるので、やめましょう」

「そうだな」

 

 それもおそらくは事実なのだろうが。

 またお説教をされてしまいそうなので突っ込まないでおいた。

 

「落ち着いちゃったな。どうしようか?」

「うーん。なんだかとても心が満たされているので、あとはお兄ちゃんにお任せします」

 

 セックスを再開すれば、次は美優も無茶を言わずに射精させてくれるだろう。

 しかし、それだとどうにも味気ない終わり方になりそうだった。

 

「美優、体を起こしてくれるか」

「構いませんが」

 

 俺はペニスを一度引き抜いてから、美優をベッドに座らせると、クルッと回れ右をさせて後ろ向きにさせた。

 

「ベッドに手をついて」

「はい」

「お尻を上げて」

「い、イヤです」

 

 およそ俺がやりたいことを察してしまった美優は、切なる俺の要望に反抗してきた。

 

「頼む」

「ヤダ」

 

 美優は頑なに四つん這いになろうとしない。

 俺は美優をバックでハメたいだけだというのに。

 

「お兄ちゃんもわかってると思うけど、いまの私は理性的なんだよ。そんな犬みたいな恥ずかしい格好ではできません」

「後背位っていう立派な体位だよ。人間らしい営みだって」

 

 俺は美優の腰を持ち上げてお尻を浮かせて、勃起したペニスを擦り付けた。

 

「こ、こら……いけません……」

「美優だって、射精するなら膣内でしてほしいだろ?」

「それは、そうだけど……」

 

 美優の抵抗する力が急に弱くなった。

 この流れなら押し切れる。

 

「とりあえず、先っぽから挿れるよ」

「あっ、あっ、ああっ、そんな、勝手に……!」

 

 背中をピンと張って最後の抵抗を試みる美優だったが、その程度で大好きな俺のペニスの挿入を防げるわけもなく、結局は自分の力でお尻を上げた美優の膣へと、俺は容赦なくペニスをねじ込んだ。

 

「ああうんっ……あっ、ひぃああっ、ん、あああっ!!」

 

 子宮までは突いてしまわないように、それでも劣情のままに激しく、俺は美優と背後から交わった。

 バックでするのが正常位と違う感覚になっても、経験は活きたようで。美優の快感スポットを後ろから把握するのはすぐだった。

 

「ああっ、あっ、ひにゃぁあっ!! あう、あんっ、あっ、ああうぅあっ……ひゃあぅぁあああっ!!」

 

 俺は美優の全身を拘束するように、後ろから腕ごと抱きついて、ペニスを突き上げる。

 すると、美優の全身がビクンビクンと痙攣しだして、奥を擦っているわけでもないのに美優はあっさりとイッてしまった。

 

「はぁ、ああぁひぃ……んああっ! おにぃ、ひゃぁあぃひ、ひんじゃ……んんぅああっ……あっ、あああっ!!」

 

 そこで俺は美優を腕から解放して、ベッドに手をつかせて四つん這いにさせた。

 もう美優の脚はガクガクと震えていて、ペニスを挿れるたびにジュボッジュボッとイヤらしい音を立てている。

 

「あああぅ……ああっ!! んああぁあっ!! んっああっ!!」

「美優、そんなに喘ぐと、隣の家まで聞こえるぞ」

「ふぇっ、あっ、はぁうぅ……い、イヤ、ぁ……あっ……ぅうっ……ん、んっ……!」

 

 美優は一生懸命に声を押し殺して、俺にペニスを抜き差しされるたびにイきながら、潰れてしまわないように腕を張って体を支えた。

 

 美優のこの健気なところが俺は大好きで、その姿を見た瞬間に、俺はもう射精してしまうことを決めた。

 そもそもこれ以上は俺の精神が美優を犯す快楽に耐えられなかった。

 

「美優……もう出すからな……!」

 

 射精が我慢できる限界なんてのはとっくに超えていて、俺は犬の交尾のように後ろから美優に覆いかぶさって、美優の雌穴に射精の瞬間まで腰を振った。

 

「あ、あっ……おにい、ちゃん……んあっ……うっぅああっ……そんな、だめっ…………あっ……あああっ、あぅぅあっ……!!」

「出るっ……出るっ……!! 美優、イクぞ……!!」

 

 どびゅ、ビュッ、びゅるるっ、びゅくっ、ビュルッ──!!

 

 俺はペニスを押し込む代わりに、美優を強く抱きしめて射精をした。

 高い圧力がかけられたままの尿道が狭まって、精液が通るその感覚がいつもより生々しく伝わってくる。

 

「あ、ああっ、んあああっ……ああっ……!!」

 

 俺が射精をして、美優の膣内でコンドームに精液を吐き切ったあとも、美優の体の痙攣は止まらなかった。

 

「んあっ、ひぃ、なにこれ、ああっ……だめっ……また……イッひゃ……!」

 

 美優は崩れるようにベッドに突っ伏して、腹痛に悶える患者のようにお腹を抱えて丸まり、どうにか絶頂を収めようとしてもイキっぱなしの体を止めることができない。

 

「大丈夫か? 美優」

「はぁ、はぁうぅ……だめぇ……またイッちゃいそう……ああっ、あっ、膣内が、疼くの、止まんない……」

 

 美優は絶頂を繰り返して、それでもその勢いは徐々に弱まっているようだった。

 

 俺は横向きに寝転んだ美優の背中にぴったりと寄り添って体を支えた。

 美優は後ろから抱きつかれるのが好きだし、興奮するよりは落ち着く効果の方が大きいはず。

 

 俺が軽く腕を回して美優を抱きしめると、背中を向けたまま美優がその手を握ってきた。

 

「やりすぎたかな?」

「き、気持ちよかったから、別にいいけど……これはさすがに予想外……」

 

 美優の声のトーンが下がって、ようやく絶頂が収まったと思ったが、お尻のほうはまだヒクヒクと動いていた。

 

「うぅっ……まだ穴の中にお兄ちゃんに犯されてる感覚が残ってる……」

 

 美優はまたイッてしまいたい気持ちと、俺の目の前で絶頂する恥ずかしさとを、天秤にかけていた。

 

 そして、美優は寝返りを打って俺と向かい合うと、腕の中にモソモソと入り込んできて、最後にもう一度だけ小さく体を跳ねさせてイッた。

 

「はぁ……はぁ……もう……途中まではいい雰囲気だったのに……妹の初体験になんてことを……」

「俺も美優を犯さないように理性を保つので精一杯だったんだ。だから許してくれ」

「むぅ……ゆるす……」

 

 どうにか許してもらえた。

 こうして寛大な処置をとってもらえるとき、大抵は美優も心から楽しんでいたりする。

 

「初めてのセックスはどうだった?」

「めちゃくちゃ気持ちよかった」

「バックで奥まで突いたらどうなるんだろうな」

「想像もしたくないから聞かないで」

 

 美優は顔を隠すように俺の胸に埋もれた。

 

 これまでの傾向からするに、野性的な種付けピストンをして、ペニスを子宮に密着させながら中出しするのが美優にとって最も気持ち良いセックスになる。

 さらにはそこにロリコスもさせて、鏡の前に立たせてバックでハメたら、美優の脳は快楽物質で溢れ返ることになるだろう。

 そんなことをしたら美優が廃人になりかねないのでしないが。

 

「服を着ましょうか」

「そうだな」

 

 俺はコンドームを取り外して、お互いの体液で濡れた下腹部をティッシュで拭った。

 

「あっ、美優。これ」

 

 ティッシュが赤く染まっていた。

 よく観察してみると、コンドームの表面もほんのりと赤くなっている。

 

「あれだけ玩具でイジってた由佳でも出血してたぐらいだから、私も出るか。シーツも交換だね」

 

 辺りを見回してみると、ベッドにも赤い染みがいくつかできていた。

 幸いにも布団は避けておいたから被害はなかったが、さすがにこれだけ汚れたシーツを洗うのは苦労しそうだし、買い替えた方が無難だろう。

 

 俺たちはベッドからシーツを取り去り、体をキレイにしてからほかに血がついている部分がないことを確認して服を着た。

 

 美優はマットレスの上に寝転がり、俺はその縁に腰をかける。

 

「はぁー……」

 

 疲れを吐き出すようにため息をつく美優。

 あれだけイキっぱなしだったのだから、体力もかなり消耗しているはずだ。

 

「非処女になってしまった」

 

 美優はティッシュの上に並べられた使用済みのコンドームを眺めていた。

 

 俺が童貞を卒業したのはだいぶ前なのでもう慣れてしまったが、初めてセックスをした後というのは、何が変わったわけでもないのに「何かが違う」と妙に胸がはやるものだ。

 

 美優は口の結ばれたコンドームを手に取って、寝転びながらそれをボーッと観察している。

 

 半透明なゴムの中には、大さじのスプーンで掬えるほどの精液が溜められていた。

 

「これ、私の膣内で出したんだよね」

 

 美優がポツリと呟く。

 

 美優もこれまで、佐知子や由佳のことがあったから、精液入りのコンドームは何度か見てきた。

 それでも、自分の膣内で射精されたものとなると、同じ使用済みのコンドームでも全く違うものに見えるのだろう。

 

「血がついてるし。精液も出し過ぎだし……」

 

 美優は試験管を覗くようそれをしばらく眺めて、それからすぐにティッシュの上に戻してベッドに突っ伏した。

 

「私もう処女じゃないんだぁー……」

 

 美優の中に生まれたその複雑な感情に水をさしたくなくて、俺は黙ってその様子を見守っていた。

 

 良くも悪くも、処女でなくなった感覚を味わえるのは、今だけだからだ。

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん」

 

 美優は俺の腰をツンツンと突いて、俺と目を合わせた。

 

「非処女になった妹を目にした感想をぜひ」

「そ、そう言われてもな」

 

 たしかに、ここに転がっている妹は、先ほどまでは男とセックスする快感など知らない純潔乙女だった。

 

 と、言ってやりたいのだが、これまで散々フェラだのパイズリだのコスプレエッチだのしてきたので、いまさらな気もしてしまうのが本音だったりする。

 

「美優の初めてになれたことは、嬉しいし、誇りに思うよ。特別な日になった」

 

 それでも、女の子にとっては──この、これまで男をバッサリと切り捨てて生きてきた妹にとっては、男の肉棒にその体を許した事実は一つの価値観が崩れるほどの出来事だったのだ。

 

 そう思ってこの小さな恋人を見てみると、その体に愛の証を刻んだことに、隠すことのできない征服感が湧き上がってくる。

 そして、その裏にいる賢い小悪魔は、そんな俺の心情を見透かした上で心から愛し慕ってくれている。

 

 俺はその美優の全部が好きだ。

 

「美優も特別な存在になったよ。前よりずっと」

 

 俺の答えに、美優は何を言うこともなく。

 無くなった会話の代わりに美優の頬を撫でると、美優が澄んだ目で俺を見つめてくれた。

 

 それはきっと、何かを求める眼差しではなくて。

 俺と美優の間には、愛し合う男女としての、言葉に表すことのできない繋がりがあるだけだった。

 

 その見えない糸を辿るように、俺はベッドに寝転ぶ美優に顔を近づける。

 唇を触れさせる直前まで見つめ合って、そこでようやく美優の瞳に期待が滲んで、俺は息を止めた胸に鼓動を感じながら、唇を押し当てる程度のキスをした。

 

 夕暮れにはまだ早い時間。

 

 情欲に任せて、互いを求めることに集中していた意識が、乾いていく汗と共に落ち着いていく。

 

 唇を離すと、少し数の減ったセミの声が、音量のツマミをゆっくりと回すように聞こえ始めて。

 

 窓から差し込む夕陽の代わりに、美優の頬が薄らと朱く染まった。

 

「え、あ、ま、まって。ちょっと、そういうのは、ズルい……」

 

 美優は目を横に逸らして、傍にあった枕を抱きかかえた。

 

「こう見えて、予想外に声が出てしまったこととか、初体験でイッてしまったこととか、恥ずかしくて自尊心が崩壊してしまいそうなレベルでして」

 

 目線はベッドに落としたまま、美優はそのスケベな体を隠すように枕の後ろで小さくなった。

 

「こう心がぐらついているところに、お兄ちゃんからストレートに好意を向けられてしまうと、感情を防御する術がないのでやられてしまいます」

 

 美優は抽象的な言葉でボカして、照れ恥ずかしい感情を不器用に誤魔化した。

 

「やられるとどうなるんだ」

 

 俺がそう聞くと、美優は枕を放って俺に擦り寄ってきて、俺の腰元に顔を埋めた。

 

「妹が思春期に戻る」

 

 美優はくぐもった声で答えた。

 

「……戻るとどうなる?」

「ツンデレになる」

 

 要するに、何も変わらないが、照れるからやめろということか。

 

「不貞寝がしたいので膝枕してください」

「不貞寝ってそうやってするものだったっけ。構わないけどさ」

 

 美優は犬が飼い主にスペースを空けろとせがむように膝をペシペシしてきて、俺はベッドに深く腰を下ろして美優の頭を乗せてやった。

 

「まだ外は明るいね」

「夏は日が長いからな。でももう夕方だし、一時間もすれば暗くなると思うよ」

「そっかぁ」

 

 美優はそれだけ言って、俺の手を掴んで自分の頭に乗せてから、スヤスヤと寝息を立て始めた。

 

 勢いで始めてしまったから気に留めなかったけど、ずっと男を避けてきた美優にとって、初めてを捧げることには並みならぬ緊張があったのだろう。

 セックスも結局は激しいものになってしまったし、かなりの疲れがあったはずだ。

 

 俺は寝ている美優の頭を撫でて、感謝をいっぱいに込めて労ってあげた。

 こうしてくっつく度たびに頭に手を乗せさせるのだから、抱き合うのと同じくらいに撫でられるのが好きなんだろう。

 

 美優は学校では孤高の女として扱われているみたいだからな。

 たまに無言で要求してくる恋人ムーブからは、ただ一人の愛する人に甘やかされたい美優の隠れた想いが伝わってくるようだ。

 

「んっ……うぅん……」

 

 美優は俺のお腹に顔を埋めてきて、それで呼吸できるのかと心配になるぐらいに密着してきた。

 

 それでもその体勢が落ち着くようで、それからは一時間ほど、美優は気持ちよさそうに熟睡を続けたのだった。

 

 俺はその間もずっと頭を撫でていて──たまに唇をぷにぷにしたりほっぺを軽く摘んだりはしたが──外が暗くなり始めたことに気付いたのは、美優がその意識を目覚めさせた後だった。

 

「んぁ……ねてた……」

 

 寝言と勘違いしてしまいそうなほど呂律の回っていない声で、美優は目覚めの一言を発した。

 

「おはよう。よく寝れたか?」

「寝た。お兄ちゃんは……?」

「寝てはないけど、癒されてたよ」

「それはよかった」

 

 美優は体を起こして、軽く手櫛で髪を整える。

 

「お腹へった」

「そしたら、俺が何か作ろうか?」

「ううん。いいよ。こういうときは二人でダラけてないと」

 

 美優は手で口元を隠して小さくあくびをしてから、ベッドから降りた。

 

「どっちかが頑張ったら、もう片方も気を使っちゃうでしょ」

「なるほど。じゃあ、どこかに食べに行くか」

「うん」

 

 美優は気の抜けた足取りで部屋を出ると、洗面台で顔を洗って、最低限の身嗜みを整えたぐらいの時間で戻ってきた。

 

「行きましょう」

 

 美優は俺のTシャツをダボっと着たショーパンスタイルのまま、お出かけ準備完了の合図をくれた。

 

「その格好でいいのか?」

「今日はね。お兄ちゃんも一緒だし」

「そうか」

 

 美優が気にしないのなら俺があえて口を出すことでもない。

 俺は財布とスマホを持って、美優と二人で玄関まで下りた。

 

「遠くには行かないってことだよな。ほぼ近くの牛丼屋一択だけど」

「その牛丼屋さんなんかがまさしくいい感じです」

「なら、行くか」

 

 俺たちはスニーカーを履いて、外へと繰り出した。

 

「陽射しがないだけでもだいぶ違うね」

 

 ブロック塀に囲まれた道を並んで歩く。

 外気はまだ地面から昇る熱に暑くなっていたが、風が通り抜けると、肌を滑る空気は心地よかった。

 

 たっぷりとスキンシップを取ったおかげか、美優は俺にくっついてくることもなく、腕をぶらつかせて一歩先を進んでいた。

 

 ……俺はこれまで、そういう思考の順序で、物事を捉えていた。

 

「美優」

 

 手を繋ぎたくて、俺は美優の横まで早足で追いついて、俺から手を差し出した。

 

「ん? この手を握ればいいですか?」

 

 美優は一瞬だけニヤけて緩んだ顔を隠して、わざとらしくそんな質問をしてきた。

 

「そうしてもらえるか」

「いいよ。私とお兄ちゃんはラブラブだもんね」

「ああ。まあな。もちろんだよ」

 

 急に距離を詰めてくるそのセリフに、さすがの俺も照れ臭くなって、意味もなく標識を目で追った。

 夏の空気に包まれているはずの顔が熱い。

 美優はそれをからかうように微笑んでいた。

 

 歩いているうちにも陽はどんどん落ちていって、街灯と住宅の明かりだけが夜道を照らしていた。

 

 美優の手は小さかった。

 

「手を繋ぐのは、初めてだな。こうして出かけるのも」

「今日は初めて尽くしだね。おめでたい日だ」

「本当に牛丼でよかったのか?」

 

 俺は真面目に聞いたつもりだったのだが、美優は勿体ぶりに「だから良いんだよ、お兄ちゃん」と言うだけで、その先を話さなかった。

 意味がないわけがないのだから気付けと、そう言いたいわけだな。

 

「牛丼を食べてみれば、美優の言っていることが理解できるようになるだろうか」

「可能性はあるね」

 

 店に着いて、二人が足を揃えて止まったところで自動ドアが開いた。

 券売機で一番安い牛丼を二つ頼んで、俺と美優はカウンターに並んで座る。

 

 牛肉には頭を良くするような栄養素は含まれていなかったはずだが、可能性があるのなら食べないわけにはいかない。

 

 二分ほど待って出てきた牛丼は、見慣れた丼どんぶりに見慣れた牛肉が乗せられた普通の牛丼だった。

 

「いただきます」

 

 それを俺たちは、普通に食べた。

 

 新しい食べ方を教えてもらったわけでもなければ、会話が弾んだわけでもなく、いつものように行儀良く箸を持つ美優が米と牛肉を口に運んでいくのを隣で眺めていた。

 混み合うことのない店の中にはお喋りをする人たちもおらず、アニメとのコラボキャンペーンを紹介する放送とBGMが流れているだけ。

 

「美味しいか?」

「妥当な味」

「だよな」

 

 美優はまたヒョイと米を箸で摘んで、それを口に運んでモグモグする。

 その横顔は至って真顔で、安い牛丼をありがたがるわけでもなく、普段から食卓を囲んでいる姿と何も変わりなかった。

 

 でも、そうか。美優は室内着だ。

 

 髪を梳かしただけの簡単な身支度で、その服装は見る人が見れば地元の人がちょっと出歩きにきただけなことがすぐにわかる。

 兄妹ではなく男女として俺と美優を見れば、そこにいるのは『雑な格好で出てくるようなそれまで』をしてきた二人なのだ。

 

「ごちそうさま」

 

 そして、食事は終わった。

 美優は箸を置いて手を合わせると、「ふぅ」と息を吐いて、俺に顔を向ける。

 

「出ますか」

 

 結局は、俺と美優は牛丼を食べただけ。

 でも、二人は両想いで、手を繋いで帰る道が少しだけ遠回りになるのも、言葉なく合意されていた。

 

 俺たちは愛し合っていて、だから、愛し合った。

 

「俺たちはさ。結構、仲のいいカップルだよな」

 

 美優が初体験を終えた後のシメを家の近くの牛丼屋で済ませようとした理由は、俺の人生で確かに変わったものを認識させたかったからだ。

 ベッドの上で奥深くまで触れ合って、俺たちはもう、十分に特別な時間を過ごした。

 だから、俺たちに必要なのは日常であって、気合の入った手料理や高いレストランではない。

 もしそうした緊張感のある空間に身を置いていたら、きっとこの感情はその特別の中に埋もれてしまっていた。

 

「そっか。お兄ちゃんはナチュラルに変態だから、こんな事後でもそんなに乙女チックなんだね」

「あれ俺なんかいい雰囲気のこと言ったはずなんだけど」

 

 俺と美優のテンションには大きな隔たりがあるようだった。

 どこで間違えたんだろうか。

 

「これから国語の授業するね。今日はお兄ちゃんにとってどんな日だったかな?」

 

 美優は暗くなった道を歩きながら、黒板にチョークで字を書くように人差し指を動かした。

 

「捻りなく答えるなら、美優の初めてを貰った日、かな」

「はいダメです違います」

「え、あの、これ、国語の授業なんだよな?」

 

 国語の授業だとするならば、いわゆる「登場人物の心情を答えよ」などに代表される、答えがあるのかないのかわからないタイプの問題になるわけだが。

 美優先生がそんな悪問を出すだろうか。

 

「出題者の気持ちになって考えてみてください」

 

 出題者、つまりは美優の立場になって、今日がどんな日だったかを俺を主語にして考える。

 

 美優にとっても、処女でなくなったことが一番印象的な出来事であるはず。

 そして、それを俺がどうしたかで言い表すと、なるほど美優の発言の中に答えはあったわけだ。

 

「妹を非処女にした日か」

「その通りです。私はついさっきお兄ちゃんに非処女にされました」

「う、うん」

 

 どうにも罪悪感を感じる物言いだが、そういう感性で今日美優としたことを思い出すと、その記憶はまた違った印象になった。

 

 俺と仲良しに、手を繋いでいる、このちっこい妹。

 

 背筋をピンと伸ばして澄ました顔で歩く、この黒髪ロングな清楚系ロリ美少女を、俺はさっきまで肉穴にペニスを突っ込んでアンアンと喘がせていた。

 

 こんな毒舌クールな妹が、ひと皮剥けば性欲は獣のようで、牛丼屋でさえ物音ひとつ立てずに上品に食事をするくせに、セックスのときはダラシないほど愛液を漏らしてぐちょぐちょと音を響かせる。

 

 日常の中で意識されてこなかったそれらは、あえてその日常の中で思い返されることで、刺激的な変態性が浮き彫りになった。

 

「たしかに処女を貰ったなんて可愛らしいものではなかったな……」

「最後に後ろから無理やりされたの忘れてないからね」

「す、すまん。つい勢いで」

 

 俺と美優は仲良しカップルになったと同時に、エッチに関しては美優を俺の物にした側面が強い。

 これだけ文句は言っているが、またエッチになったら美優はされるがままだ。

 

 あるいはそれは、美優と由佳の間にあった、見えない絆のように。

 『性欲のままにエッチをして後で美優に説教される』というプロセスが、俺たちだけの恋人らしいやりとりなのかもしれない。

 それをお互いに認め合った今日という日は、俺たちが恋人としてステップアップすることができた記念日だ。

 

「お兄ちゃんさ、ゴムはいくつ持ってるの?」

 

 美優がそんな疑問を投げかけてきたのが、ちょうどコンビニを通り過ぎて、美優がそれを一瞥した直後だった。

 

「二個あるよ」

「二箱?」

「いや、二回分」

 

 美優に二箱かと聞き返された時点で、およそどのような思考が美優の頭の中で行われたのかはわかっていた。

 

「足りないかな?」

「うーん。私は、なんとも」

「一応、自制のために少なくしてて。あったらあった分だけ使いそうだし」

「それは賢い判断だね」

 

 その会話を終えた後で、俺と美優の足が止まる。

 

「え、どうする?」

 

 美優が尋ねてくる。

 

「今夜は、お互い難しいだろうし。明日は二個あれば足りるかな」

「私は……お兄ちゃんの性欲に従うけど」

 

 さらっととんでもないことを言ってきたな。

 

「したくはなるだろうけど。さっきも言った通り、たくさんあるとしすぎる可能性もあるからな」

「だよね。うん。なら、私も少ない方がいいと思う」

 

 そう結論を出して、俺たちは前に歩き始めた。

 

 そして、その三分後。

 

 俺たちはそのコンビニの前までやってきていた。

 

「買っとくか?」

「いや、私はただ、この時期は暑いから外に買いに行くの面倒だろうし、どうせしたくなったら買ってでもするだろうから、ついでに買ってったほうが楽じゃないかなって言っただけで」

「ああ、そういうことか。まあ今はネットで注文もできるから」

「そっか。なら、いらないかもね」

 

 ここまで戻っておきながら、結局は同じ結論が出た。

 そして、買わないと決まったのだから、早く帰ればよいものを、俺たちはなぜかその場に立ち止まっていた。

 

「ネットでもさ。もし、仮に、配達までにたくさんしたくなったら、買いに行くか迷うことになるんだよね」

「そうだな。でも、たくさんしたくなったときに一度立ち止まれるように、個数制限を考えてて」

 

 そうして議論は振り出しに戻った。

 

 でも、美優がどうしてもゴムが二個しかない状況に不安を感じているようだったので、そこは解決してあげた方がいいのかとも思えてきた。

 なかったから生でしたなんてことになったら最悪だからな。

 

 今後、俺たちの性本能がどう悪化するかはわからないし、それなら性欲の発散をある程度ルーティン化しておいたほうが安全かもしれない。

 

「念のため、一箱だけ買っておくか」

「そう? お兄ちゃんがそう言うなら、私は止めないけど」

 

 この理性的なはずの美優がどうしてかコンドームの少なさを心配するので、俺たちはコンビニに入ることにした。

 

 そして、いつものように薄いコンドームを選んで、俺たちは、そこでもまたこっそりと相談をして。

 

 結局は、「最後にちょうどよくそれだけ残っていたから」という美優の助言に従い、二箱ほど購入して家に帰ることにした。

 



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雨の日は兄妹のセックスがよく似合う

 

 窓を叩く雨の音に起こされた、いつもより暗い朝。

 

 俺の肺は異様に苦しかった。

 

 その原因は俺に覆いかぶさって寝ている美優にあって、よく朝まで眠り続けられたものだと我ながら感心してしまうほどに重い。

 美優とはもう何度も朝を迎えてきたけど、日を重ねるごとに距離が近づいていて、ついにはもうこれ以上ないところまで来てしまった。

 

 主に胸のあたりを中心にして全身がぷにぷにしている美優に抱きつかれるのは至福の極みではあるのだが、身体中の血管が圧迫されて痺れているため長くは耐えられそうにない。

 

「んぁ……お兄ちゃんだ。おはよう」

 

 美優は瞼をうっすらと開けて、下敷きにしている俺の姿を確認する。

 熟睡すると体を揺すられたくらいでは起きなくなる美優だが、どうしてか朝は俺の意識に合わせて目を覚ますのだ。

 

「おはよう、美優。体は大丈夫か?」

 

 俺は狭まった呼吸器官から空気を絞り出して尋ねる。

 

「へいきだよー。おにぃちゃん……」

 

 美優は寝ぼけ調子で顔を近づけてくると、その唇を俺の首に這わせて、吸血鬼みたいに強く吸い付いてきた。

 

「こら、美優」

 

 ガッツリとキスマークをつけてきた美優を、俺は優しく引き剥がした。

 

「お兄ちゃんだって、私に所有の証を刻み付けたんだから。キスマークの一つや二つぐらい……」

 

 そこまで言いかけて、美優は「あっ」と何かに気づいたような表情で目を見開いた。

 そういえば、美優にキスされたところ以外にも、首の全体に痒みにも似た違和感がある。

 

「ひ、一つや、二つぐらい……」

 

 美優は流れのままに誤魔化そうとしたが、俺が寝ている間にたくさんのキスマークをつけたのは明らかだった。

 首の腫れぼったい感覚からして五箇所以上、そして、鎖骨下の辺りにも、薄らとだが内出血の痕が複数残っている。

 

「いつの間にこんなにつけたんだ」

「それがね。まったく記憶にないんだよね」

 

 美優は頭の軽そうな真顔でそう言った。

 

 嘘をついている様子はない。

 どうやら、俺が熟睡している間に寝ぼけた美優がキスをしまくったようだ。

 

「どんなテンションになればこんなにキスマークをつけるんだ」

 

 俺は美優の背中をタップして、呼吸の限界であることアピールし、横に寝かせる。

 

 これだけ何箇所にもキスをするぐらいなのだから、バカップルも顔が青ざめるほどの(しかも一方的で非常に愛の偏った)ラブラブっぷりだったに違いない。

 

 なぜ俺はこれだけのことをされておいて目を覚さなかったのだろうか。

 美優が俺にベタベタしながら、あるいは聞くだけで砂糖を吐き出したくなるほどの甘い言葉を囁いて、何度も繰り返しキスをしてくれていたかもしれないのに。

 

 などと考えていると、いつの間にか美優が俺に冷ややかな視線を送っていた。

 

「妹で邪悪な妄想をしてはいけません」

「美優の可愛い惚気姿を想像してるだけだよ」

「絶対にお兄ちゃんが考えてるようなことはしてない」

 

 美優は羞恥心を押し殺して不貞腐れる。

 体こそ正直になってきているが、まだドライな感情が抜けきっていない。

 そこがまた可愛かったりもするのだが。

 

「よっぽど俺のこと好きじゃないとこんなにキスしないよな」

「やめてやめて。そんな無慈悲な……」

 

 美優は手で顔を覆って小さくなる。

 寝起きてすぐにキスマークをつけてきたわりには、寝ぼけた様子もなく意識がはっきりしていた。

 むしろどこか、軽い興奮状態というか、落ち着いていない感じだ。

 

「いい? 現実はこうだよ」

 

 美優はまた俺の上に覆いかぶさる。

 鳩尾にいい感じのダメージが入るようにダイブされて、そんな激しさも俺への好意の照れ隠しだと思えば可愛いものだ。

 

「これは初体験で犯された分の恨み……」

 

 美優はそう呟いて俺の首に強く吸い付いた。

 

 うつ伏せにおっぱいが押しつぶされて楕円形にはみ出している。

 

 妹がエロくて俺は朝から勃起していた。

 もはや美優は俺の股間が膨らんだくらいでは何も言ってこない。

 

「美優は朝からセックスするのに抵抗はないかな」

「ん? したいの?」

 

 美優は恨み云々はどこかへやって、ベッド脇に置いていたコンドームを一つ取って見せてきた。

 

「したいと言うか、しときたいと言うか……」

「とりあえず射精ができればいい感じ?」

「正直に言うとそんなところ」

「そういうことなら好きにお使いください」

 

 美優は軽い返事でコンドームの袋を破り、中身を取って俺に渡す。

 お好きにお使いくださいって、会話の文脈から考えると、このコンドームじゃなくて美優の体をってことだよな。

 所有物扱いされるのが好きな女の子って意外と多いのだろうか。

 

「私は朝からするのに抵抗はないから、したかったら言ってね」

 

 美優は体質的に、俺とイチャイチャしてれば濡れるし、唾液の分泌量が多いから寝起きで口が乾くこともないらしい。

 そのため、寝起きからフェラもセックスもできるようだ。

 

「指で軽くイジろうか?」

「いいよ、もう挿れちゃって」

 

 美優はそれだけ言って、指をキュロットの裾から入れて、パンツを股座からズラした。

 どうやら着衣でするみたいなので、俺は何も言わずにコンドームを装着し、美優の肉穴へとペニスを入れた。

 

「ふぅっ……」

 

 挿入した直後に、美優は細く息を吐いて刺激を緩和させる。

 美優の膣内のキツさは、俺も美優の膣壁の温度やザラ付きがわかってしまうほどだ。

 

「お兄ちゃんの、もうちょっと小さくてもよかったのに」

「男同士で比べるとサイズが気になるんだよ」

「私とエッチできるんだからもっと誇っていいんだよ」

「それはそうなんだけどな」

 

 挿入をしたのに続けられる日常会話。

 

 俺たちは動かなかった。

 美優は「しないの?」という表情で首を傾げている。

 

「騎乗位で動いてくれるのかなと」

「やだよそんなエッチな女の子みたいに」

 

 美優はあれだけ激しく乱れた夜を過ごしても、自分がエッチな女の子だということを認めない。

 あるいは、生殖本能の暴走という言い訳ができてしまうが故に、素の淫らさをどれだけ俺に見せてもノーカウントにしているのか。

 

 お互いに相手が動いてくれると期待してくれている。

 

 別に自分からするのが嫌なわけではない。

 だが、せっかく女の子側が自由に動ける体位になっているのだから、してもらいたくなるのがオスの心理というものだ。

 

「ディルドで遊ぶぐらいの感覚でいいんだよ。色っぽく腰を前後させたりしなくていいから」

「お兄ちゃんがしたくて始めたんだよ。なら、お兄ちゃんが動くのがスジでしょ」

「それは、そうだが……」

 

 さすがに美優を口で言い負かすのは難しいか。

 

 とはいえ、美優の騎乗位をどうしても味わってみたい。

 

 ピストンを始めてしまえば美優も快楽に負けてエッチモードになるだろうし、そこで腰を止めれば美優が自発的に動くようになるはず。

 

 でも、違う。

 そうじゃないんだ。

 美優の理性が残っているうちに、恥ずかしがりながら腰を動かす様を見てみたい。

 

「動いてはくれないか」

「動きません」

 

 膠着した二人の攻防戦。

 挿入したままのペニスが、美優のキツい膣に圧迫されて、なおも勃起を維持しようと下腹部の筋肉が収縮して血液をポンプさせる。

 

「ん、あっ、ちょっと。ピクピクさせないで」

「無理を言うなって。ただでさえ美優の締め付けが強いんだから、血管がなんかむず痒くってくるんだよ」

「うぅ……だからって……」

 

 膣内に挿入したままじっとしていると、ペニスが空の射精をするように動き、海綿体に血液が送られて一時的にペニスが肥大化する。

 そうして膣穴を広げられる感覚が、美優にとってはもどかしい快感になるようだ。

 

「ふぅ……。きょ、今日は、雨だね。一日、どうしようか。デートなら明日かな」

 

 美優は気を紛らわせようと、突然の話題を振ってくる。

 たしかに、俺たちはまだデートらしいデートをしたことがないし、夏休みの間にどこかへ遊びに行きたいものだ。

 

「デートってどんなとこに行けばいいんだろ。一般的にはカラオケとか水族館とか、遊園地とかなんだろうけど。美優はもう行き飽きてるか?」

「そんなこと、ないよ。お兄ちゃんとならどこに行っても新鮮だろうし。だから、その、水族館とかで、いいんじゃないかな……涼しいし……」

 

 美優はところどころで息を切らしながら、スマホを手に取って喋る。

 どうやら近場の水族館を探してくれているらしい。

 ちなみにまだペニスは美優の穴に入っている。

 

「都内のね、この西海浜水族館は、今年の夏にリニューアルされて。夏休みに入ってすぐは、ものすごく混んでたみたいだけど、そろそろ人も減ったかも」

「へー。それは良さそうだな」

 

 俺は美優からスマホを受け取って、会場ホームページを眺める。

 物心ついてからは水族館など行ったことがないが、はたして美優を楽しませることができるだろうか。

 魚に関する知識もないし、俺はデートの経験自体もまだ少ない。

 イルカやペンギンのショーでも見ればいい思い出になるかな。

 

「近くに温泉もあるみたいだな。水族館のそばに作れるものなのか?」

「温泉っていっても、スパだよ。んっ……近くの、アミューズメント施設に、併合されてて……」

「なるほど」

 

 俺は美優から受け取ったスマホを弄って、デートスポットを検索していた。

 

 俺に覆いかぶさっている美優は、最初こそ気を紛らわせることに成功していたが、しばらくペニスを入れっぱなしにしているうちに息が荒くなってきた。

 

 なによりも、挿入しっぱなしにしていることで俺の性欲も高まり、美優の膣内でピクピクとペニスが動く頻度が高くなってきているのだ。

 

 美優はそのたびに快楽に顔を歪ませ、しかしそれを悟られまいと、必死に平静を装って我慢を続ける。

 

「ふぅっ……じゃあ、もう……その水族館と、温泉でいいよね」

 

 美優はベッド端の何も無いところを見つめて、必死に膣内の感覚を無視しようとするも、ついには我慢ならなくなって俺にしがみついてきた。

 

「お兄ちゃん、動いて。お願い……」

 

 美優に必死の表情で頼まれて、さすがにこれはもう俺が折れるしかなかった。

 

 俺はスローモーションに近い動きで腰をグラインドさせ、キツい美優の膣壁を押し広げるように、剛直化したペニスを奥へと進める。

 すると、亀頭が子宮に近づくにつれて、美優の反応が一気に良くなっていく。

 

「あっ……ああっ……!!」

 

 自分でも恥ずかしいくらいの声を出して、美優の顔が真っ赤に染まった。

 それでも挿入を止めずに、じっくりと美優の濡れた淫肉を堪能しながら、俺はペニスを深くまで差し込んだ。

 

「い、ひやぁ、それだめッ……、ゆっくりはだめ……っ!」

「なら、もっと速く出し入れしようか」

「うん、うん……!」

 

 美優は何度も力強く肯く。

 

 緩慢な動きで挿入したほうが、俺のペニスを細部まで感じることができる。

 そうなると、美優にとっては刺激が強くなりすぎるのだ。

 それなりの速さでピストンをしたほうが、美優が耐えられる快感になるらしい。

 

「なら、こう……」

 

 俺は工夫も激しさもない淡々とした腰の動きを続けた。

 

 それでも美優の穴はびちゃびちゃといやらしい水音を立てるし、それが美優の羞恥を煽って快感を増幅させている。

 

 美優の子宮ギリギリ手前にある快感スポットにもペニスを届かせて、美優の体は激しくビクついているのに、美優はまだイかない。

 

 昨日の感覚からするともう何度か絶頂していてもおかしくないのに、美優の体はギリギリでイかない状態が続いていた。

 

「はうぅ……ひぁ……恥ずかしい……もうイカせて……」

 

 美優が泣きそうな顔で懇願してきて、さてどうしたものかと俺も思案する。

 俺も意地悪しているつもりはないのだが、美優が達しないのだ。

 

 なぜかと考えると、ふと、美優はいつでも俺を気持ちよくする立場だったことを思い出す。

 美優のことをイかせるようになった今でも、そのタイミングは俺を射精させた後ばかりだった。

 

 ならば、こうして美優をかわいがるのではなく、一緒に気持ちよくなるセックスに切り替えれば美優もイクかもしれない。

 

「美優。俺も、もうイクからな」

 

 俺は美優の体に両腕を回して拘束し、膣コキとでもいうべき自分本位への挿入へと切り替えていく。

 美優の狭い肉穴に、カリや裏筋などの敏感なところを擦り付けて、射精に向けた準備運動を続けた。

 

「ああっ……ひぃっ……んああっ、あっ……お兄ちゃん……!」

 

 美優が敏感に艶声を上げて、膣内の肉が蠢き始める。

 全身の痙攣と、その酸素の足りなさそうな呼吸が、演技ではない本物の絶頂を迎えようとしていることを示していた。

 

「気持ちいいよ、美優……締まってて最高に気持ちいい……!」

 

 ラブドールを抱くように、美優に何度もペニスを出し入れする。

 ただ快楽を貪るようにピストンをするほど、美優の感度は増していって、その表情は喜びに蕩けていった。

 

 エッチをするようになったばかりの美優は、性欲の処理と精液の処理は違うと言っていた。

 それほど美優にとっては性処理に使われるだけの行為が特別なものだったんだ。

 

 美優とは何度も肌を重ねているのに、まだまだ知らないことがたくさんある。

 そしてそれを知るたびに、美優のことが可愛く思えて、心から好きになる。

 

 もっと美優を性欲の処理のために使ってあげたい。

 俺の性欲のすべてを美優に委ねて、精液が枯れるまで処理してもらいたい。

 

「んあっ、あっ……! お兄ちゃんの、また、おっきくなってる……もう、だめ……だめぇ……ああうぅあっ……んあああっ!!」

「美優……もう、射精するからな…………イクぞ……美優ッ……!」

「あっんっああっ……お兄ちゃん……! きひぇ……ああんっ……あっ……んひゃぁああっ……!」

 

 ドクン、ドクン、と射精するたびに、美優の膣肉がそれを吸い上げようと狭い肉穴をうねらせる。

 俺の精液が大好きなこの妹は、ついには溜まり切った性欲を発散させて、額にうっすらと汗を浮かべて俺の胸に沈み込んできた。

 

「はぁ……ふあぁ……すっかり、朝からエッチをしてしまった……」

 

 美優は湯上り後のような顔で全身の力を抜く。

 まだ芯の残ったままのペニスを引き抜くと、「あっ」と小さく声を漏らしてから唇を噛み締めた。

 

「朝から可愛い妹とエッチができて幸せだよ」

 

 俺は美優の頭を撫でてからまた横に下ろす。

 着衣でのエッチだったので、コンドームを外して精液を拭ったらすぐに寝るときと同じ状態になった。

 

「妹が可愛くてよかったね」

「あとはこの日常がゲームに迷い込んだ夢でないことを祈るだけだな」

「お兄ちゃんが持ってるゲームは妹モノばかりだったもんね」

 

 ピロートークにしては慎ましさのない会話をして、心地よい疲れを深い息と共に吐き去る。

 ゴムの口を縛ってティッシュに包もうとすると、美優が慌てて俺の腕を引っ張った。

 

「ゴムは縛らないで、中身をティッシュに吸わせちゃって。もし私の頭がおかしくなったら、こっそり中身を使っちゃうかもしれないし」

 

 美優とのエッチには細心の注意を払う必要がある。

 生殖本能により増幅する美優の性欲は、想定外の妊娠をするリスクが高くなるのだ。

 

「それはわかったけど。俺が直接出した精子で受精しなくていいのか?」

 

 そう尋ねたことに、深い意味はなかった。

 俺もそれなりのエロゲ脳になっているから、昨晩のようにエロ漫画みたいな受精をねだる美優の気持ちを考えると、コンドームから絞り出した精液で受精するのは本意からズレると思ったのだ。

 

「あっ……そ、そっか。その通りだね」

 

 そんなエロゲ脳の言葉に、美優は即座に食いついて俺の手を握ってきた。

 

「その考えがあれば、大丈夫かも。私、お兄ちゃんに中出ししてもらった精子以外で妊娠しない。お兄ちゃんが『孕め』って命令しながら射精してくれたら、私はそれで受精するね」

「そうか。わかったよ」

 

 美優の誓いは、元オタクの俺には理解のできるものだったが、一般的な男性が聞いていたら困惑の極みだっただろう。

 やはりエロゲやエロアニメでセックスの勉強をしたのは失敗だったのではないか。

 

 しかしまあ、この美優がはっきりと口にした約束を無かったことにするとは思えないし、ひとまず美優が俺の精子をこっそり使う心配がなくなったのは大きいな。

 

「ところで、妹モノの何が良かったの?」

 

 美優は途切れていた会話の続きを聞いてきた。

 なんだか理性側と本能側が混濁しているようで危なっかしいけど、これぐらいは精神的な安定だと考えておくべきか。

 

「なんだろ。時間を共有してることに違和感がないからじゃないかな」

 

 改めて考えてみると、俺は妹という属性そのものに惹かれていたわけではない気がする。

 

「妹なら一緒にいて違和感がないの?」

「可愛い女の子と親密な関係になるには、それなりに恵まれた才能が要るものだろ? でも俺はコンプレックスの塊だったし、そういう主人公には感情移入ができなかったんだよ」

 

 険悪な関係から喧嘩を通して仲良くなっていく物語にしても、そもそも『美少女が嫌いな男にいがみ合うだけの時間を割いている』ということ自体に違和感を覚えるのだ。

 

 俺がそう話すと、美優は神妙な顔つきでコクコクと頷いた。

 

「お兄ちゃんが妙に冷静で客観的なのは、ダメなお兄ちゃんに可愛くて引きこもりでエッチしてくれる妹がいたからでしょうか」

「その影響はデカそうだな」

 

 努力に対して得られているものが大きすぎるからな。

 これだけ恵まれた環境にいれば、多少の理不尽も気にならなくなるものだ。

 

「お兄ちゃんは私のこと、都合のいい恋人だって思ってるよね。でも本当は、お兄ちゃんのほうが私にとって都合のいい恋人なんだよ?」

「そうなのか?」

 

 美優ならどんな男だって引く手数多だ。

 持っているものを考えれば、どう考えてもこの関係は俺の方が恵まれている。

 

「お兄ちゃんは、お兄ちゃんが見てきたままの私を好きになってくれるから。そんな人、他には絶対にいないって、私は確信してるの」

 

 美優はしっとりとした声音でそう口にする。

 

 それは美優にとって、何を於いても重要なことのようだった。

 

「奏さんがお兄ちゃんのことを好きな理由も同じなんだよ」

「それは遥からも聞いたよ。世間的には、俺に男らしさがないだけって思われそうだけどな」

 

 俺が山本さんの過去や美優の価値観を否定しないのは、結果的にそうだっただけでしかないように思うのだが、どうにも美優も山本さんもそれが俺の性格に由来しているものだと主張するのだ。

 

「そのあたりの微妙な違いは、恩恵を受けてる側にしかわからないのかもね。奏さんのハマりっぷりを見ればお兄ちゃんの良さもわかろうものだよ」

 

 美優は優しく微笑んで俺の胸に人差し指を突き立てる。

 その二人が現にこれだけ俺を好いてくれているのだから、間違いはないんだろうけどな。

 

「その山本さんなんだけど、このままで仲直り作戦は上手くいくのか?」

「もちろん。たまにイチャイチャしてるのも、その作戦の一環だからね」

「へえ。そうだったのか」

「うん」

 

 真顔でジッと俺を見つめてくる美優。

 なにやら意味ありげな目だ。

 

「イチャイチャは作戦の一環なのか」

 

 念の為に問い直してみる。

 

「いえ、まあ。したくてしてる部分は割合として少なくないのですが。計画の一部ということにしておかないと、恥ずかしさに耐えかねるので」

「なぜそこで素直にならない」

 

 美優のことはたくさん知ってきたけど、精液を飲んでもらうようになったあのときから、その感性だけは不思議なままだ。

 そこも俺が美優のことを好きになったポイントだったりするのだが。

 これまで謎掛けみたいに伝えられてきたあれこれも、美優からしたら独自の合理性に則って適切に選ばれた言葉だったんだろうな。

 

「私ってほら、恥ずかしい思いをするたびに知能がアレになるじゃないですか」

 

 自覚はあったんだな。

 

「なので、計画を破綻させないためにも、そう簡単にお兄ちゃん大好きモードになるわけにはいかないのですよ」

「そうか……」

 

 美優にとって、美優らしく生きることと、義理を貫くことは同義だ。

 たとえ思う存分イチャイチャしたい気持ちがその心の奥底に燻っていたとしても、成すべきを成すまでは自己を律する。

 それが美優の言った俺が見てきたままの姿ということなんだろう。

 

「作戦が終われば、簡単にお兄ちゃん大好きモードになる美優に会えるのだろうか」

「変な期待をするものではありません」

 

 やんわりと厳しく叱られてしまった。

 そんなガードの硬い妹は、ベッドから起き上がってグッと背伸びをして俺の方を向く。

 

「私も私で、ようやく遥に返すものが見つかったからね。お互いにこれが最後の戦いになるわけだよ」

 

 美優は力強く拳を握る。

 

「返すものか。裁縫関係なのか?」

「まさか。あの遥は私じゃなきゃ満足しない。でも、もう体を売ることもできないから。となればあとはもう、魂を売るしかないんだよ」

「魂を……!?」

 

 それは事態が悪化している気がするのだが、魂を売るとはどういうことなのか。

 いや、売るもの単体の価値を上げることによって、継続的に求められる関係を改善できるとなれば、なるほど納得はできる。

 

「とりあえず、朝ごはんにしましょう」

 

 美優はカーテンを開けて朝陽に目を細める。

 その提案に賛成して俺は美優と一緒に階段を降りた。

 

 今朝は美優が朝食係なので、鮭を焼いてオーソドックスな和風の料理を作ってくれた。

 

「なあ、美優。作戦のために俺とイチャイチャするのって、どんな意味があるんだ?」

 

 山本さんと俺が円満に友達関係に戻るために、きっとこれからやることが最後の頑張りになる。

 でも、俺と山本さんの仲は会うたびに睦まじくなっていくばかりだし、解決に向かっているとはとても思えなかった。

 

「お兄ちゃんの女性経験は大半が性行為なわけじゃないですか」

「間違ってはいないな」

 

 歯に衣着せぬ物言いをするのも昔から変わらない妹だ。

 

「裏を返せば、エッチの経験値は足りているわけですよ」

「つまり、恋人らしいイチャイチャの経験が少ないから、今はそっちの修行をする番だと?」

「まさしく」

 

 理は通っているのだろうが因果関係はまるでわからない。

 それでなぜ山本さんと友達復縁できるのか。

 

「お兄ちゃんが奏さんと一番イチャイチャしたと思うのは、どんなとき?」

「えっ……そうだな……」

 

 山本さんと過ごした最も新しい記憶は、カラオケやバスでエッチをしたこと。

 でもそれはイチャイチャしたというよりは互いの性欲を発散させただけに近い。

 

 やはり、デパートで過ごしたあのデートが、山本さんとのイチャましい思い出としては鮮明にある。

 

「遥に呼び出されたあの日に、山本さんとデパートで色んな店を回って、そのときの、なんというか……」

 

 そう話し始めたものの、舌の回りがどうにもよろしくなかった。

 たしかにあのデートは恋人がするそれと遜色ないものだったが、美優のことが常に頭にチラついていたし、どうにもギクシャクした時間を過ごした印象のほうが強かった。

 

「いや、違うな。俺がまだ美優以外の彼女を作ろうと必死だった頃に、一週間近く泊まったあの期間かな」

 

 最後の最後で俺は美優を選んだが、あのとき何か別のきっかけがあったら、俺は今ごろ山本さんと付き合っていてもおかしくなかった。

 それぐらいにあの時期は俺と山本さんの心の距離が近かったんだ。

 

「山本さんの部屋はフローリングにカーペットを敷いて過ごすタイプだったからさ。一緒にご飯を食べるときは、いつも二人でぴったり並んでて。たぶん、それかな」

 

 美優に聞かれたのでつい真面目に答えてしまった。

 あのとき、最も衝撃的で印象的だった出来事は、山本さんとセックスをしながら美優と電話したことだったはずだが、どうしてだかそっちはなんてことない話のように思えてしまう。

 

「ふむふむ。では今から同じようなことをやってみましょう」

 

 美優が食器をキッチン側のテーブルから背の低いテーブルへと移していくので、俺も美優と横に並ぶように食器を移動させることにした。

 同じようなことをするってことは、美優に「あーん」をして食べさせてもらえるということなのだが。

 マジなのか。

 

「もう何度か聞いてるけど、山本さんのための作戦ってことでいいんだよな」

 

 俺は高さの違う二つのテーブルを行き来しながら尋ねる。

 

「もちろん。私だって奏さんには恩があるし。なにより、奏さんのことは私も好きだから。だからこそ妥協をするつもりはないんだよ。やるからには、徹底的に」

 

 美優はカーペットの上に正座して、俺を見上げながら微笑む。

 

「山本さんとの接し方も前と同じでいいと」

「デートもエッチも奏さんの望むままに」

 

 迷いなく美優は肯く。

 

「もうだいぶ親密な感じになってるんだが……」

 

 俺は食器を運び終えて美優の横に座る。

 一軒家だと広さがあるので山本さんの部屋の再現にまではならないが、どうしてだか美優が隣にいてくれるこの形はしっくりきた。

 俺が山本さんと仲良くなったときも振ったときもこうやってご飯を食べていたし、俺にとって横並びで食事をすることは特別な意味ができていたみたいだ。

 

「それで大丈夫なんだよ、お兄ちゃん」

 

 美優は自信ありげに答える。

 

「奏さんには魔法が掛けてある。だからお兄ちゃんは自然体のまま、奏さんのしたいようにイチャイチャすればいいの」

「ま、魔法……?」

「お兄ちゃんも知ってるアレだよ。気づかないなら、教えないけど」

 

 そこで話を区切って、美優は箸を手に持って鮭の身をほぐす。

 

 山本さんも言っていた満足するまでやらせる作戦なのだとしたら、その先には解決がないことは俺にもわかる。

 なぜならこの作戦は、「そうしたほうがいい」という程度の小さな合意が絶妙に支え合っているだけのもので、誰かの強い欲望を叶えるものでもなければ、必ずしも解決しなければならない課題でもないんだ。

 

 誰もが簡単に手を降ろせる。

 俺にも山本さんにも余裕がある。

 そんな状態が続いていく。

 だからあえて何かを決断する必要もない。

 

 これまで俺が美優に与えられていた謎とは全く毛色の異なる状況だ。

 強いて言うなれば、美優の矜持を守るための作戦となるわけだが、そんな押し付けがましい考えで美優のプライドが守られるとは到底思えない。

 

「まあまあ、難しく考えずに。可愛い女の子とイチャイチャしてればいいだけなんて楽な仕事ではないですか」

 

 美優がほぐした鮭を箸でつまんで、空いている手を受け皿にしながら目の前に差し出してくる。

 

 山本さんには魔法が掛けられている──しかもそれは俺が知っているもの──というのが気になるが、今は美優とイチャイチャするのが先か。

 というか美優とイチャつくより優先するべきものなど一つとしてない。

 

 よし、美優とイチャイチャするぞ。

 

「はい、お兄ちゃん。あーん」

 

 思いのほか楽しそうに美優が箸を運んでくるので、俺もそんな気分になってきた。

 

 口を開けるとそこにご飯が入れられて、ずいぶんと偉い立場になったような気さえする。

 美優に主人として慕ってもらえているからなのだろうか。

 

「美味しいよ。外でどんな料理を食べても、この味が一番染みる」

 

 取り立てて上質な素材を使っているわけではないけど、美優の作るご飯は美味しい。

 長年二人で料理を作り合ってきたおかげで俺の好みを把握している。

 

「お兄ちゃんが作るご飯も同じだよ」

 

 俺が味噌汁を飲んで、美優が鮭をご飯の上に乗せ、それを食べさせてもらう。

 これまで俺が作ってきた料理でも、美優が同じように思ってくれたのなら嬉しい。

 全国を飛び回っている美優に料理が美味いと評価してもらえるのはまた格別な喜びだ。

 

 俺が咀嚼している間に美優も自分のご飯を食べ進めて、それから、半分ほど食べ進んだところで各々の食事に戻った。

 

「『あーん』をするならスプーンのがいいかな」

「それもあるし、食べさせてもらうというよりシェアするってイメージがあるな」

「ではデザートにしましょうか」

 

 美優はおもむろに立ち上がると、冷蔵庫にあったプリンを取ってきた。

 そして、両手のそれぞれにカップとスプーンを持ち、ジッと俺の食事姿を眺めながら待機している。

 正座で。

 

「この飯は食べ終えたほうがいいか」

「そうしてください」

 

 美優は俺が朝食を食べ終わるのを待っている。

 そんな姿が飼い犬のようで健気だった。

 客観的に物事を眺めているときは神のような全能さを持ち合わせているのに、自分の恋愛感情が関わるとどうにも不器用な妹だな。

 

 ボサッとしていると美優のご飯が冷めてしまうので、俺はかき込むように残りの食事を片付けた。

 

「よし、いいぞ」

 

 美優に食べさせてもらうためとはいえ色々と本末転倒な気がしてならないが、こうして謎の作戦に付き合っているのも面白いので、雨の日にできる恋人との過ごし方の一つだと思えば悪くはない。

 

「お兄ちゃん、あーん」

 

 カラメルソースに包まれてツルンと口に入ってきたプリンは、舌でほぐすとほのかな卵の香りを伴って甘みが広がっていく。

 一口食べると、美優がスプーンで次を用意してくれて、俺が飲み込むの確認してからまた同じように口に運んでくれる。

 

「美味しい?」

「美味いよ」

「じゃあ私も食べるね」

 

 美優はまたプリンをひと掬いして、スプーンの先を数秒だけ凝視してから、パクっと自らの口に放った。

 

「どうした?」

「んや。間接キスだなと思って」

「今になってそんな淡い感情を抱くとは……」

 

 しかしまあ、わからないでもない。

 何かを介するだけで物の印象は変わるもの。

 精液を飲むことに抵抗のない女の子でも、コップに出されたものは飲みたくないだろうしな。

 

 プリンがなくなるまで俺は美優に食べさせてもらって、恋人らしい時間を堪能できたものの、山本さんのときと比べると何か物足りなかった。

 それは美優も感じてくれているようで、どうしたものかと二人で首をかしげる。

 

「あれじゃないか。ある程度は美優が照れを感じないとダメなんじゃないかな」

「私にどんな恥ずかしい思いをしろと」

 

 目を細めて身構える美優。

 

 そこに俺はようやく"らしさ"を覚えることができた。

 

 山本さんに「あーん」をしてもらうことで親密な雰囲気になれるのは、あの献身的な性格と大地のように豊かな母性が根源として備わっているからだ。

 いくら徹底的で圧倒的な勝利を望もうとも、ましてやその道の天才である山本さんを相手に全勝を望むことなどできるはずがなく、やはり分野というものは考えなければならない。

 

「要は、イチャイチャできればいいんだろ? 恋人らしく、他の人では満たされないくらいの」

 

 俺が話し始めると、美優は自分のご飯をもぐもぐ食べて胃に流し込む。

 

「たとえばだ。美優が『お兄ちゃん大好き、チュッチュ』とかしてくれたら、おそらくは何者も敵わない」

「それは私が死ぬんですが」

 

 実に冷静に、冷淡に、美優は俺の提案を切って伏せた。

 

 しかし、食事が終わる頃には美優の中でも整理がついたらしく、改めて俺に向かい合う。

 

「で、具体的には何をするんですか」

 

 美優に問われて、俺は首元の小さな赤い腫れを指差す。

 

「このキスマークをつけたときみたいにしてくれればいいんだよ」

「私はそのキスマークをつけたとき『お兄ちゃん大好き、チュッチュ』なんてしてませんが!!」

 

 美優は強く否定したが、記憶にないらしいので可能性はゼロではないし、むしろ高いと俺は思っている。

 

「ならフリでいい。このキスマークのついているあたりに、形だけのチュッチュをしてくれるだけでいいんだ」

「チュッチュっていう表現がすでに気持ち悪い……」

 

 美優はため息をついて、俺を蔑むような目で見てから、横を向いてまたため息をつき、再び距離のある視線で俺を睨んでから諦めたように三度目の深いため息をついた。

 

「まあ、その案を認めましょう」

 

 認めてもらってしまった。

 

 俺と美優は一区切りをつけるために、食器を片付けてから歯磨きや洗顔などの朝の支度を終えて、それからリビングに戻ってきてソファーに座った。

 イチャイチャ作戦の第二弾を始める前に、美優は深呼吸をして心を落ち着けて、それから膝立ちになって顔を近づけてくる。

 

「それじゃあ、始めますね」

 

 美優はこれからイチャイチャするカップルとは思えないむっつりした顔で、俺の首にキスをしてくれた。

 チュッと唇が離れると、俺と美優は真顔のまま、無言で見つめ合う。

 美優も俺が言わんとしていることを理解しているようで、眉毛が不機嫌そうにピクピクしていた。

 

 やがて諦めたように美優は再び唇を近づけてきた。

 

「お、お兄ちゃん、だいすき」

 

 呪文のようにぶつぶつと小さい声で、酷い棒読みをする美優。

 形だけとはいえ、これでは成ってない。

 

「大事なところが抜けてる」

「おにーちゃんだいすきー、ちゅっちゅー! んむーっちゅ」

 

 ヤケになった美優がやぶれかぶれに首にも頬にもキスをしてくる。

 当初の目的を思い出してもっと恋人らしく振る舞ってもらいたいものだが、こんな美優でも可愛いので止めさせることができない。

 

「俺ってやっぱりすごく愛されてるよな」

「何をいまさら」

 

 美優は大きな目をパチクリさせる。

 

「お兄ちゃん。男の人にとって、女の子に愛されていることの最もわかりやすい証はなんだと思いますか?」

「愛されている証? なんだろうな……」

 

 女の子の立場を考慮するなら、一緒に居たいと伝えられることだったり、記念に残るような物を共有することになると思う。

 でも、男の人にとっての愛されている証というのなら、真っ先に思いつくのは肉体関係を許してもらうことだ。

 

「それとね、お兄ちゃん。ここに座ってて思い出すことはない?」

「思い出すことって言われてもな。それはさっきの質問に関することなのか……?」

 

 こんがらがった頭で周囲を見渡して、俺は美優の問いへの答えを探す。

 その答えは目に見えるところにはなかったが、たしかにソファーにいることで思い出されることはあった。

 

「あっ、昨日の手紙か」

 

 俺は美優に謎の小さな手紙をもらったんだ。

 

 そこに書いてある内容が、セックスに関する何かの注意文なのか。

 山本さんのことだとしたら例の魔法とやらについてわかるかもしれない。

 俺は玄関のコートハンガーに掛けっぱなしにしていた外出用のポーチから財布を取り出して、美優からもらった切手サイズの手紙を引っ張り出した。

 

「読んでいいのか?」

「うん」

 

 俺は封筒から小さい紙を取り出して、そこに書かれている美優からの短いメッセージを読んだ。

 

 そして、その文面を見て、俺の思考回路はしばらく止まることとなった。

 

『ピルを飲むので、ゴム無しでのエッチOKです』

 

 内容が想像だにしなかったものだったために幻覚すら疑った。

 しかし、何度頭を振ってじっくり読んでみても、そこにはピルを飲むことにしたから生でセックスをして膣内に射精して良いという意味の文章が書いてあった。

 

「こ、これは?」

「中出し許可証?」

 

 そんな単語をどこで覚えてきたんだ。

 いや俺のやってたゲームにもそんな言葉があったっけな。

 己の汚れた過去を強く反省しなければならない。

 

「どこから突っ込めばいいのかわからないんだが……。これを手紙にした意味はあるのか?」

 

 口にするのが恥ずかしかったのだろうか。

 でもこれは将来にも関わる大事なことだし、生でするにしてもきちんと話し合ってからにするべきだと思うのだが。

 

「理由はたくさんあるよ。お兄ちゃんは私がそれを渡すときに言ったことを覚えてる?」

 

 この手紙を渡されたときに美優に言われたことか。

 そう問われるまでは忘れていたが、美優は「理性があるときの私が書いた」とわざわざ口にしていたんだったな。

 

「お兄ちゃんと本番をするようになって、私が急にピルを飲むから中出ししていいなんて言い出したら怪しいでしょ? 子作りしたくて嘘をついてるかもしれないし」

「する前に言えばよかったのでは」

「それについても色々ありまして」

 

 どうやらそう簡単な話でもないらしい。

 

「お兄ちゃんにどれだけ知識があるかわからないから、念の為にお伝えするのですが」

 

 ピルには生理周期を安定させる目的もあるため、原則としては生理明けから服用することになる。

 排卵日から十日ほど経っていれば服用前から中出ししても安全だったが、生理周期自体に不確定要素が多すぎることと、美優の生殖本能が強すぎるので中途半端な生セックスは極めて危険だった。

 それに加えて、美優の理性がセックスに耐えられるかをまずゴム付きで判断しなければならず、そのためにも不要な情報は先に入れておきたくなかったようだ。

 

「他にもまだ理由はあるんだけど、安全と雰囲気を考慮した結果ということで」

「そうだったのか」

 

 残されている理由が気になるところだが、ひとつ謎が明らかになったのはよかった。

 

「ん? もしかして、これって最初の質問につながってる?」

「そうだよ。妹がお兄ちゃんに中出しを許したんだから、これはもう愛されている以外にないではないですか」

 

 そんな愛情の伝え方があってたまるか。

 

「美優と生でセックスしていいのか」

「いますぐはダメだからね。お兄ちゃんと昨日した感覚からすると、まだ受精する余力が残ってるから」

「そんなことまでわかるとは驚いた」

 

 生殖能力の全てを兄とのセックスに注いでいるだけあるな。

 エロゲのラベルとして貼るなら近親交配特化妹とかになるだろうか。

 

「お兄ちゃん。外は雨だね」

 

 美優が身を預けてきて、俺は流れのままにソファーに横になった。

 

「ああ。雨だな」

 

 両親のいない家。

 その外側を、雨粒がカーテンのように囲っている。

 

「兄妹のセックスが一番似合う天気だよね」

 

 美優は俺の喉元をジッと見つめて、そこにゆっくりと唇を落とした。

 

「今日は丸一日、声を我慢しなくていいからな」

「ばか。一日ずっとなんてするわけないでしょうが」

 

 呆れたような、怒ったような、そんな声で叱りながら、美優は五月雨のようにキスをする。

 

「お兄ちゃん。大好き」

「俺も好きだよ。美優」

 

 俺が口を開くと、それを塞ぐように美優がキスをしてきて、そこからは舌を絡めてくちづけを貪りあった。

 

 密着したわずかな空間に満ちる蒸し暑さに、俺の股間は膨らんで、それでもすぐにセックスを要求することなく美優の体を弄り続ける。

 こうやって、やんわりと叱られながらイチャイチャすることが、俺と美優の恋人らしさだと再認識することができた。

 俺と美優の間だけにしか生まれないこの愛の形を、今は大切にしていたい。

 

「お兄ちゃん。そろそろ、妹を襲える頃合いですよ」

 

 美優が小声で心の内を伝えてくる。

 エッチがしたいのだろうか。

 

「いまは俺と美優の愛の形を確かめ合う時間かなって」

「そんなこと言ったってほら。ピルを飲み始めたらゴムを使わなくなるんだし。いっぱい買ったじゃないですか」

 

 美優がなりふり構わない薦め方をしてくる。

 エッチがしたいんだな。

 

「美優が要るって言うから」

「私は棚に二箱あるよって言っただけですが」

「どうしても兄をエッチな男にしたいらしいな」

「エッチな妹であることを認めたくない乙女心を察するのも兄の役目です」

 

 口にしてしまったら意味がないだろう。

 

「わかったよ。でも、一日中することになっても怒るなよ?」

「怒るけどしてほしいの選択肢はありませんか……?」

 

 まったく難儀な妹だ。

 でも、そんなところがまた可愛い。

 

「だったら、美優が怒らなくなるまで、美優が怒るたびにするからな」

 

 俺は合意の意味を込めたくちづけをして、美優と一緒にソファーに沈んだ。

 

 美優との淫愛の日々が始まって、消費されていくコンドームと、その分だけゴミ箱に捨てられていく精液が、俺たちにとって文字通り必要な経験値になるとは。

 こんなやりとりが、美優の思い描いていた大きな計画のすでに中腹にあったことに、俺が気付くのはまだ先のことだった。

 



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しとしとと雨の降る

 

 雨は続いて、デートに行くこともできずに三日目。

 予報ではまだしばらく降り続けるらしい。

 

 俺は美優とセックスするとき以外は部屋にこもり切りになっていて、学校の宿題も終わりが見えている。

 

 恋仲になったのでもっと一緒にいる時間を増やすべきだとも思うのだが、俺たちは他の人よりも間があるほうが適切なようだった。

 美優がドライな性格だからというのもあるけど、俺たちはこれまでずっとそれぞれの都合で暮らしていたため、必要なときに側にいるほうが体に馴染んでいる。

 

 それに、美優は理解している。

 男の愛は性欲と結びついて切り離せないことを。

 施しと渇きはどちらも適切な量だけ必要で、壁一つ分であっても離れて過ごしていたほうがムラムラと湧き上がるものによって愛情も強くなるのだ。

 

(昼までにはまだ時間があるか……)

 

 俺は学校の問題集を閉じて、受験勉強用の参考書を机に広げる。

 

 この頃は問題文を読むことにも抵抗がなくなって進みは良い。

 自分で言うのもなんだが、美優の兄である俺の脳の作りは悪くないみたいだ。

 とはいえ、ゲームをやるのに知能とは別のゲーム勘があるように、勉強を効率的に行うためには勉強脳を鍛える必要があるみたいで、これまでサボってきたツケはそう簡単に払えそうにはなかった。

 

 そんな俺にも実は救いの手が差し伸べられている。

 山本さんから勉強会をしないかと提案されているのだ。

 俺がデパートで勉強道具を買っていたことを山本さんが覚えてくれていた。

 

 これが勉強会という名目のエッチを楽しむ会であることは明らかなのだが、勉強もできて美優の計画も進められるなら一石二鳥なので断る理由はない。

 俺は前向きに検討しているとだけ返事をして、午前中は勉強に集中することに。

 昼飯のタイミングで美優に今後の予定を聞くことにしよう。

 さすがに美優とのデートより優先するものはないからな。

 

 不慣れに参考書に蛍光ペンを引いて切りのいいところまで進めてから、俺は勉強道具を片付けて部屋を出た。

 

 隣の部屋のドアをノックしても返事はなかった。

 料理当番の美優はもう一階に降りている。

 

 俺がリビングに行くと美優がキッチンに立っていて、下味をつけた肉やスープを保存パックに入れて冷凍し、余った野菜を切っては混ぜて別のパックに小分けにしていた。

 

「勉強、お疲れさま」

 

 俺に気づいた美優が労いの言葉をかけてくれた。

 

 昨晩も一緒に寝ていたので、朝から俺が勉強をしていたことは美優も知っている。

 

 今朝の美優はまたずいぶんと寝ぼけていて引き剥がすのに二十分ほどかかったが。

 

「宿題は片付いたよ」

 

 俺が返事をする先には、髪を二つに結んだ美優がいる。

 毛量が多いので結う時は束を分けたほうが楽らしい。

 

「それはよかった」

 

 美優は「これで残りの時間は他のことに使えるね」と、ほのかに口元を緩めて下準備を続けた。

 他のことというのが、受験勉強を指すのか、仲直り計画を指すのか、はたまた美優とのエッチを指すのか。

 

 それはともかくとして、エプロン姿で料理に励む美優は眩しいくらいに可愛かった。

 

「献立にない食材も出してるな」

「性欲旺盛なお兄ちゃんのせいで献立の意味もなくなってきたので」

 

 野菜の処理が終わって、美優は包丁を洗い、水滴を拭ってからケースにしまう。

 

 一昨日からの二日間で俺と美優がセックスした回数は六回。

 事後はそのまま寝てしまうこともあって、日に三度の飯が遅れたり、食べられなかったりして、もはや用をなさなくなった献立が冷蔵庫の中身を余らせていたのだ。

 そのためこれからは作り置きをメインにして必要なときに食べる方針に切り替えたらしい。

 

「やりすぎかな」

「それはもう。妹を相手にやりまくりですよお兄さん」

 

 俺が美優のすぐ後ろに立つと、俺の鎖骨より下に美優の頭頂が来る。

 そこから艶やかな髪が流れ落ちて、お人形のような小さく整った顔があって、その下は元気に発育した胸部によって見えなくなっていた。

 

 これで痩せ型なんてことがあるのか。

 俺とエッチするようになってからはむしろムッチリ度が増している気がするのだが。

 肉体が性熟しているからこそ、白いTシャツに飾り気のない無地のスカートとエプロンでも、妙なフェチズムを感じてしまう。

 このエロスを凝縮したような妹が、にゃんにゃん甘えてくれる女の子だったらな……いや、普段の美優がこれだけクールだから、そうした欲望が湧いてくるわけなんだけど。

 

 美優は俺が邪悪な妄想をしていても、体をベタベタと触っても、気にせず洗った調理器具を拭いていた。

 どこか他人行儀でも愛情を感じるのはこの妹にしかない魅力といえよう。

 

「美優は今日また一段とエ……エプロンが似合うな」

 

 「可愛いよ」と褒めようと思っていたのに直前の邪念のせいで「エロい」と舌が滑るところだった。

 

「ただのエプロンがそんなにいいの?」

 

 美優はエプロンを両手の指で摘んで、顎を上げて上目で俺を見る。

 

「ただのエプロン姿だからいいんだよ」

 

 昨今、エプロンといえば有無を言わさず裸エプロンだが、俺は普段着にエプロンを重ねている格好のほうが可愛いと思うし、その姿のままで興奮する。

 

 なにより日頃からおっぱいが目立たない服を着ている美優が、エプロンの紐を縛ることでその膨らみを強調させているのだ。

 

「それはおっぱいに興奮しているのでは」

「おっぱいにも興奮しているというのが正しいな」

 

 こんな妹がいるのでは否が応でも勃起してしまう。

 もはや俺は日常生活でこの妹に勃起を強いられていると言ってもいい。

 

「あの、お兄ちゃん」

「いやほら、今日はまだしてなかったから」

 

 着衣のまま勃起を押し付けるのは、セックスとはまた違った興奮と快感がある。

 男の性感とはそういうものなのだ。

 

「いま作ったのは明日からの分だからね。お昼ごはんはこれからお料理するんだよ」

「だからちょうどいいタイミングかと思って」 

 

 キッチンの上も片付いてキレイになっているし。

 

「私はお兄ちゃんとエッチすると、変にお腹いっぱいになるんだよね」

「なら飯を食う前とか後とかは控えるか?」

「いえまあ別にいいんですけどね。兄の性欲を満たすのは妹の義務なので」

 

 美優はなんだかんだ言いつつもその気になってくれたようで、俺を後ろに引かせるとキッチンに手を付けるだけの幅を取った。

 

 そして、スカートの中に両手を入れて、パンツをずり下ろし、太ももの付け根にある臀部の肉の盛り上がりが見えるくらいに背面のスカートをたくし上げた。

 

「はい、どうぞ」

 

 セックスをするまでの準備はそれだけだった。

 前戯もなし、脱衣も最小限で、誘い文句も極めて簡潔。

 

 女の子に挿入口を差し出されておきながら、俺はウブな男児のように混乱していた。

 

「挿れればいいのか……?」

「そのための穴ですので」

 

 それはそうだけどさ。

 

「ゴムは持ってるよね?」

「持ってはいるよ」

 

 この数日、俺がベッド以外の場所で欲情しすぎるせいで、コンドームは常に持ち歩くことになった。

 美優からの雰囲気を壊すなという旨のお達しである。

 

「なら、はい。早くつけて」

「お、おう」

 

 俺は促されるままにコンドームをつけた。

 勃起はしているし、セックスもしたい。

 しかし……。

 

「なあ、前から思ってたんだけど。美優は前戯とか要らないのか?」

「お兄ちゃんに触られてるときから濡れてるから」

「美優が濡れやすいのは知ってるんだけどさ」

 

 前戯をするのは挿入の痛みを緩和させるためだけではない。

 セックスを盛り上げる前準備でもあるし、オーラルの時点から本番と同じように楽しみたい人だって多くいる。

 男としてのテクニックの見せ所でもあるのだ。

 

「少しぐらい、指でする時間があってもいいんじゃないか」

「えー……だってお兄ちゃん変な触り方するし……」

「しないって」

 

 美優は恥ずかしがり屋なのだ。

 これまでのやりとりからしても、されたくないわけではないはず。

 

「指でするの上手いって美優も褒めてくれただろ?」

「嘘はついてないよ。でも私は一度たりとも『してほしい』とねだったことはないからね」

 

 なるほど、たしかにそれはその通りだ。

 美優の態度があからさまに誘っていたことはあったが、指でされたいとお願いされたことはないし、舐めることに至っては凄まじい勢いで拒絶された。

 

「だったら、俺がしたいから、少しだけ指でさせてくれないか」

「もー。仕方ないな。少しだけだからね」

 

 美優は諦めた様子で承諾してくれた。

 これまではセックスするとなったら即挿入だったけど、美優だって慣れれば触られたくなるはず。

 

 そう信じて俺は美優のスカートに手を突っ込み、下腹部から美優の股に指を触れさせた。

 美優はやや前屈みになって、二つに結んでいた左右の髪が背中から滑り落ちる。

 

「んっ……」

 

 美優の反応は悪くなかった。

 今でも変わらず毛の一本も生えていない陰唇が、指触りの良いぷっくりとした緩い丘を作っていて、俺は割れ目の左右に二本の指を滑らせて美優の感度を高めていった。

 

「あっ……んあっ……だから……そこ……だ、だめっ……」

 

 指先を押し込むと弾みの良い肉がぷにぷにと返ってくるのがたまらない。

 その秘部は本人のドライな性格に似たのか侵入者を拒むようにぴっちりと閉ざされていて、しかし、指の一本でも入ることを許せば、卵の黄身を割るようにトロッと熱い粘液が垂れてくる。

 

「にゃぁ……あんっ……だめだってば……! やっぱりそういう触り方する……!」

 

 美優が力一杯に太ももを閉じて来たので、俺は美優の腰を抱えたまま指を止めた。

 美優は恥ずかしそうにしながら俺を睨んでいる。

 

「人のコンプレックスをねちねちと……!」

 

 美優が子供っぽい自分のアソコを気にしている。

 それは俺も知っていた。

 

 しかし、これまで愛撫を拒んできたのは、感じている姿を一方的に見られるのが嫌だったという理由が主だったはず。

 

 気持ちよくなっている姿を俺に見られることに慣れてきたために、残されたコンプレックスが大きな存在になってしまったのかな。

 ならば、それをコンプレックスでないものに──いや、むしろ長所として誇れるものにしてあげたらいい。

 

「美優、聞いてくれ。巨乳で“つるぷに”は男のロマンなんだ」

 

 パイパンなだけでも、あどけないだけでも足りない。

 美優のように大人びた女の子のアソコが、新雪を思わせる白肌でぷっくりした縦スジになっているのが好ましいのだ。

 

「下が“つるぷに”なら上は“つるぺた”で然るべきなんです女の子は」

 

 二人の性癖は噛み合わなかった。

 これは言葉で交わした以上に根深い方向性の違いがありそうなので無理に踏み込むのは危険だった。

 

 しかし、だからといって俺が指を触れるのを諦めるわけにはいかない。

 

 俺には確信がある。

 これまでの経験でようやく自信を持てるようになった考えがあるのだ。

 

 このイヤイヤは、いつもの範疇であると。

 

「なあ美優。他の人には見せたくなくて、ましてや男には絶対に触れさせたくないような、その可愛らしい“つるぷに”をだな」

「可愛らしいは余計です。あと妹の陰部を指して“つるぷに”を強調するものではありません。自分が一番よくわかっています」

 

 それは申し訳なかった。

 

「そんな誰にも見せたくない、体の一部をだ。俺にだけ触らせるところにしてくれたら……その、俺と美優の関係にも、もう少し特別感が出るんじゃないかな」

「もう十分に特別な関係だと思うけど……」

 

 美優は釈然としない様子で、しかし、万力のように俺の手を締め上げていたふとももの力は緩んでいく。

 

「私もお兄ちゃんと本番エッチするようになったら、もう少し大人っぽくなると思ってたんだけどね」

「驚くほどぴっちりつるつるしたままだよな」

 

 おまけに膣のキツさも変わらないし。

 

「一生この白桃みたいなお股と過ごしていくのかと思うと気が重い」

「温泉以外で見ることがあるのは俺ひとりだけだよ」

「まあそうなんだけどね」

 

 美優と会話する空気もマイルドになってきた。

 この流れならいけるか。

 

「というわけで、続きをするからな」

「えっ、あ、ちょっ……私は、まだ許可したわけじゃ……んっあっ……」

 

 俺は再び美優の股に手を這わせて、奥に手を入れるときは全体を撫でるように指を伸ばし、引くときは指を曲げてクリを刺激した。

 

「あっ……あっ……だ、メッ……おにい、ちゃん……それ……だめぇ……」

 

 美優の喘ぎ声は先ほどより小さくなっていた。

 悦びが混じり始めたその声を、美優は自覚して必死に押さえ込もうとしている。

 しかし、俺が穴の入り口をなぞるように指先で撫で回すと、美優も我慢ならなくなって溜めていた息を一気に吐き出した。

 

「やっ……ひやぁ……やめっ……そんなに触っちゃイヤ……!」

 

 美優は腰をくねらせて俺の手を退けようとするが、背後からガッチリとホールドしている俺の優勢が変わることはない。

 俺が指の第二関節を曲げて蜜壺の表層をかき回すと、抵抗感より快感が上回ったのか美優の暴れる力が弱まって、俺は四指の全体を使って美優のまっさらな股間を撫で回した。

 

「んんっ、あっ……こら、やめなさい……!」

「美優……頼む……俺はもうこのつるぷにじゃないと満足できないんだ……!」

「いゃ、あっ! もう、お兄ちゃん……ほんとに気持ち悪い……!!」

 

 口では俺を拒絶しながらも、刺激を逃すように動いていたはずの腰はいつのまにか前後に振られていた。

 そんな正直者な妹に、俺は中指を上にしてその先端を穴に当てがってやる。

 すると、引いていた腰を突き出す動きに合わせて、俺の中指が美優の膣内にニュルッと根元まで入り込んだ。

 

「あああっ──イッ……っ──!!」

 

 美優はキッチンの縁に力一杯に捕まって、爪先立ちになりながらオーガズムに達した。

 しばらくそのまま硬直して、膣内の疼きが収まったところで踵を下ろし、美優は息を整えてから涙目で俺を睨む。

 

「ううっ……変態のロリコンめ……」

 

 まさか前戯をするだけでここまで妹に蔑まれるとは。

 

「もう怒ったんだからね」

 

 美優は頬をぷぅと膨らませて冷蔵庫まで移動し、磁石で扉にくっついていたキッチンタイマーを取って戻ってきた。

 それから、時間を0秒にリセットし、次いで『1分』のボタンを一度だけ押してキッチンに置いた。

 

「タイマーが鳴るまでに出して」

「さすがに短すぎないか!?」

「足りるでしょ。お兄ちゃんどうせ早漏なんだし」

 

 結構それ心にグサッときてるんだが。

 

「ほら、さっさと挿れる」

 

 美優はお尻を向けて情緒のかけらもなく誘ってきた。

 悔しいことにこれだけ怒られ罵倒されてもペニスは勃起しっぱなしだったので挿入することができてしまう。

 

「奥まで挿れるのはダメなんだよな?」

「当たり前です。許容幅はカリ下三センチですので。厳に守るように。私にはわかりますからね」

 

 美優はツインテールの片側を鞭打つように振って、キッと俺を睨む。

 

 膣に入れていいペニスの長さまで決めるなんて。

 うちの妹は風紀委員にでもなったのか。

 

 いっそ制服でエッチをさせてくれたらいいのに。

 最近は着衣でするのにも抵抗がなさそうだから、頼んだらさせてくれそうだ。

 

 こんなに強気でいても、性感帯を責められると俺と変わらないくらいの雑魚になるので即落ち二コマになるのは目に見えている。

 それでも美優なりのプライドというか、素の自分はまだエッチの快感に溺れていないことを誇示しておきたいのだろう。

 

 どうせ堕ちたら本能ちゃんのせいにされるのだし。

 なんだかエロエロモードの美優が不憫に思えてきた。

 

「何をボサッとしてるの」

「わかってるって。挿れるよ」

 

 俺はスカートをめくりあげて生肌の露出されたお尻を見下ろす。

 太ももに掛かったままのパンツは床に落としておくか、このままにしておくか悩むところだ。

 セックスのときの大事なのは穴の向きとペニスの角度で、立ちバックというものは脚を広げてもらわなければきちんと挿入することはできない。

 

 とはいえどうせ半分しか挿れることが許されていないのだし、美優を軽く持ち上げてして挿れてしまうのが正しいか。

 

 これまではひたすらに愛を注ぎ続けるのが美優のためになるかと思っていたけど、性処理に使われるのが美優の悦びになるのはどうやら事実のようなので、ただ射精するためだけにペニスを出し入れしても美優は満足するはず。

 

 美優は無心に努めようと窓の外を見つめていて、あれだけ強気な態度を取っただけあって簡単に陥落するわけにはいかないと構えているようだ。

 そんな美優に俺は背面から覆いかぶさって腰に手を入れ、軽く爪先立ちをさせるくらいに持ち上げてから、タイマーのスタートボタンを押してすぐにペニスを挿入した。

 

「うっ……くぅ……っ──」

 

 軽く指でイジるくらいではすぐにぴっちりと閉じてしまう美優の割れ目には、大量の愛液がダムのようにせき止められていて、亀頭が侵入するのと同時に生まれた気泡がぐじゅりと音を立てると、美優は真顔のまま薄っすらと頬を赤らめさせた。

 

 美優の注文通りにペニスの半分ほどの深さでストロークをして、美優が俺のペニスの形まで感じてしまわないように一定以上の速さを保って行為を続ける。

 

 さすがというか俺と相性の良い美優の膣穴は、ぴったりと俺の肉棒の形にフィットして、奥まで差し込まなくてもギュンギュンと竿を搾り上げてくる。

 犬の交尾みたいに挿入するこの体位がまた俺の性本能も刺激してイキやすくさせるのだ。

 

 悔しいことに一分もあれば射精ができるのは事実だった。

 だが、そろそろ俺も兄としての威厳を示すときというか、無様に射精してばかりではいられない。

 

 ギリギリまで射精をしないように、俺も無心で腰を振った。

 

 そうしてセックスを続けること三十秒。

 

「ふっ……ぁ……ふうぅ……ん、んんっ……ぁっ……」

 

 ふと美優の横顔を伺ってみると、その表情はだらしないくらいに緩んでトロトロに蕩けていた。

 キッチン台に腕を張り、背中は真っ直ぐに上げて毅然とした態度を見せているが、脳内は快楽を叫ぶ淫らな言葉で溢れかえっていることだろう。

 

 美優はそんな状態でもタイマーだけには意識をやっていた。

 カリ首に愛液をかき出されて秘部からぴちゃぴちゃと音を立てながら、美優は六十秒のカウントダウンを確認している。

 その視線を戻すたびに、悦楽の奥に切なさを滲ませる美優は、きっと時間制限をしたことを後悔しているはず。

 

「もう、イキそうだよ、美優。ほんとに、こんな早く出していいのか……?」

 

 俺はそんな美優に背後から煽るように尋ねてみた。

 すると美優は何かを取り繕うように、緩んでいた表情を隠して強気な目に戻る。

 

「と、当然です……ん、ああっ、わたし、には……お昼を作る……役目が……あっ……んぐっ……はぁっ……」

 

 呼吸と一緒に押さえ込まれていた嬌声が美優の口から漏れ出る。

 こんな状況になっても兄にご飯を作る気でいてくれる健気な妹だ。

 

「んっ……もう、一分経つんだから……あっ、ああっ、ん、あっ……早く出さないと……!」

 

 あと十秒もすれば時間切れになる。

 だが、美優が俺に注文したのは「タイマーが鳴るまでに射精する」こと。

 俺も一分あれば足りることには納得したが、だからといって一分以内にイクと約束したわけではない。

 

「美優はタイマーが鳴るまでに出せって言っただけだよな」

 

 俺はタイマーに手を伸ばして一時停止のボタンを押した。

 

 これで好きなだけ美優の肉穴にペニスを入れていられる。

 

「あっ、ちょ、そんなヘリクツ……ズルっ、いッ……んやっ、ああんっ……!」

 

 一段落つけると安堵していた美優に付け込み、俺はピストンする速度を上げた。

 

「あんっ、あっ……ああっ……んあっ……! おにい、ちゃん、ヒドい……んんっ、ああっ……そんなこと、したら、怒るんだからっ……!」

 

 口では怒っていても、美優はその声音にセックスの享楽を隠しきれていなかった。

 横目で俺を睨む瞳にさえ、情欲に塗れた愛のマークが映っている。

 

「怒ってても美優は気持ち良さそうだよ」

 

 俺がほんの少しペニスを深く突き刺せば、美優はワントーン上げて絞った喉からの声を漏らす。

 私物化を望む美優でも、ただ好き勝手されるだけで喜ぶことはなくて、理屈が通っているからこそ意にそぐわないことであっても美優は受け入れて感じてしまう。

 

 つまるところ、タイマーを止めたことに言い分のある俺は、いくらでも美優にペニスを挿れてもいい。

 

「あんっ、あっ……きもちぃ、けど……んぐっ……ふぁ……それ……と、これとは……んんっ、ああっ……!」

 

 俺の肉棒を貫通させている美優の下の口が、フェラチオをするようにぐぱぐぱと蠕動する。

 俺も亀頭の先に神経が集中してきて、ひと擦りするたびに股間に響いてくる快感が増していった。

 

「やばい、もう本当に我慢できないかも……」

「ああっん……あっ……我慢なんて、してないで…………今すぐ……出しなさい……!!」

 

 顎を浮かせて涙目の美優から厳しめの命令を受けて、俺の体が急激に熱くなっていく。

 これほど強く射精しろと命令されたのは初めてだったこともあって、俺の胸のうちにはトキメキにも似た昂揚が滾っていた。

 ペニスはビクンビクンと美優の膣内で跳ね上がり、思考をするよりも早くこの体は屈服した。

 

「み……みゆ…………もう、出るからな……美優……美優ッッッ──!!」

 

 射精するまでは一瞬だった。

 俺はペニスを浅い位置で動かしたまま、美優の膣内でびゅるびゅると精子を放出し、射精の終わりに合わせて徐々にピストンのテンポを落としていく。

 さすがに動かしながらの射精ではその瞬間まではわからなかったのか、珍しいことに美優は俺と一緒に絶頂することはなく、ひとまずの行為の終わりにペニスを抜かれるとぐったりとキッチンに項垂れた。

 

 俺が美優の腰を解放すると、爪先立ちでギリギリ体を支えていた足が筋力の限界を迎えていたようで、美優はガクガクと脚を震わせた。

 コンドームを結んでゴミ箱に捨てるまでの間に美優は呼吸を整え、片手で少しずつ全体を引き上げながらパンツを穿く。

 

「お……お昼、作らないと……」

 

 セックスの直後でも構わず美優は調理に取り掛かった。

 エプロンで内股気味の脚を隠してキッチンを小幅で歩いている。

 疲れたのなら休んでから始めればいいのに、手伝おうかと言っても美優は頑なに拒むので、俺はソファーでスマホを手にぐだぐだと過ごしていた。

 

 美優とは会話をすることもなく料理は並べられ、俺は美優といつものようにお昼をすることに。

 

「そんなに無理してご飯を作る理由はあったのか?」

 

 あからさまな態度だったので尋ねてみる。

 ご飯が並べられる頃には美優の呼吸も落ち着いていて、座るときに股の辺りを気にすること以外は平常通りに戻っていた。

 

「私はイチャイチャするためのエッチと性処理は別だと思うから、どうあれ処理のほうはサクッと抜きたいわけですよ」

「なるほど」

 

 性処理ではたとえ挿入されても快楽に溺れたくはないらしく、その結果としてヘトヘトで料理もできないような状態になるのは美優の本意ではないようだった。

 俺も性欲を処理してもらうだけのエッチも嫌いではないし、深みに嵌るわけにはいかない俺たち兄妹にとって、抜き目的のセックスも今後の日常生活には必要なのかもしれない。

 

「フラストレーションが溜まったりしないかな」

「お兄ちゃんはまだまだ甘いね。エッチ初心者だから仕方ないけど」

 

 女限定に経験豊富な美優が上から目線で語ってくる。

 それなりに経験人数のいる俺がエッチ初心者とはどういうことなのか。

 これでも半野外でのプレイや、授乳、コスプレなどのエッチもひと通りこなしているのだが。

 美優は「具体的にイメージしてみればわかる」とだけ俺に告げて、ご飯を食べ終えてからは自室へ戻ってしまった。

 

 俺はというと、勉強に戻るでもなくウダウダとまたソファーに寝転ぶことに。

 

 このまま雨が止むまでデートを控えていたら夏休みが終わってしまう。

 美優との思い出を残しておくなら無理にでも外出しておくべきだ。

 とはいえ、花火大会などのめぼしいイベントは大部分が八月上旬に終わってしまっているため、ネットで調べてみても温泉旅行特集ぐらいしか見つからなかった。

 美優と一緒なら景色のいいところに電車で行って泊まるだけでも楽しいかもしれないけども。

 

 そうしてしばらく今後の予定を考えてから、俺は天井を見上げてボーッとしていた。

 

(そういえば……そろそろアレの日だって美優は言ってたな……)

 

 いわゆる女の子の日と呼ばれる、俺たち男にはその実態の秘匿された生理という名の現象。

 男側が生活する上で意識することといえば、ホルモンバランスが崩れて体調が悪くなることと、数日間はセックスができなくなるということくらいだが。

 この生理が明けるのに合わせて、美優はピルを飲み始める。

 

 そうすれば俺は美優に中出しできるようになるんだ。

 あれだけAVやエロアニメでは見てきた行為なのに、いざ自分がするとなると実感がわかない。

 美優が「イメージしてみればわかる」と言ったのは中出しをするようになった後の関係だと思うが、はたして中出しと淡白なセックスはエロく結びつくものだろうか。

 

 中出しセックスといえば、エロゲでもエロ漫画でも濃厚なラブシーンとして描かれるもの。

 それが陵辱のような一方的なものであっても、とにかく“濃い”交わりとして扱われていて、それだけ女の子の膣内に精液を流し込む行為には特別な意味がある。

 

 そんな中出しを、セックスとしての行為とは切り離して性処理のためだけに使う。

 それはもはやオナホのように扱うですらなく、ただ精液を流し込むだけの作業と言っていい。

 

 ……いや、たしかにそれは、エロい行為なのかもしれないけれども。

 

 中出しなんてしたら、膣内に残った精液がパンツに滴り落ちて、美優はトイレに入るたびにセックスしたことを思い出すことになる。

 あの体質でムラムラせずにいられるのだろうか。

 

 美優が他の子たちと違うところはいくつか挙げられるけど、オナニーが好きなのは女の子にしては珍しい性格だよな。

 山本さんだって俺と会うまではほとんどすることがなかったって言ってたし。

 

 もしかして、今も部屋に戻ってしてたりするのかな。

 あんな中途半端なセックスでは美優も欲求不満になるはず。

 俺と一緒に居るときはTシャツを基本としたシンプルな服ばかりだし、一人でするときぐらいはまた可愛い服を着てたりして。

 

 そういや、山本さんと勉強会をするために美優の都合を聞くつもりだったのに、すっかり忘れていた。

 

 今部屋に行ったら怒られるかな。

 まだしてると確定したわけではないけど。

 確認をするためには、聞き耳するかドアをノックしなければならない。

 

 同じ家に住む恋人がオナニーをしている声をこっそり聞くのは盗み聞きになるのだろうか。

 直接性器を擦りつけ合ってエッチをするのも、面と向かって自慰をし合うのも、お互いをオカズにしてこっそりオナニーをするのも、恋人の関係からすれば似たようなもの。

 ならば、バレないように確認するぐらいならいいか。

 

 と、こじつけのような理屈を捏ねて二階に上がることに。

 美優たち中学生組のせいで俺の人間性も捻れてしまったようだが、いまさら後悔することもない。

 

 階段に登るとドアが二つ見えて、その手前側が俺の部屋、奥が美優の部屋になっている。

 この家は古い建物ではないのだが、我々子どもたちにとって致命的な欠陥を抱えている点といえば、やはり小部屋のドアに鍵がないことだろう。

 自慰行為を覚え始めた思春期の少年少女からしたら心穏やかならぬ環境だ。

 それでも俺は美優が自分の部屋に入ってくることなどないと思って堂々とエロゲをやっていたんだけどな。

 

 足音を立てないように近づいて、美優の部屋の前まで来ても、喘ぎ声らしいものは聞こえなかった。

 俺が初めて美優のオナニーを目撃したときは俺がバイトで帰ってこないと美優が思っていたからこそあれだけ大胆にしていたんだ。

 

 外出する予定のない俺がいつ二階に戻ってくるかわからないこの状況では、美優もさすがに声までは出せないか。

 

(オナニーしてる前提ってのがまず失礼なんだよな)

 

 俺はこれまでの邪悪な思考を深呼吸と共に吐き捨てて、美優の部屋のドアをノックした。

 

「美優。今いいか?」

 

 声を掛けて、反応がないまま十秒、二十秒と時間が過ぎた。

 部屋にいないはずはないのだが、まさか俺の部屋にいるわけもあるまい。

 

 念のために自分の部屋に行ってみたが、やはり人影はなく、使用された形跡もなかった。

 となればもう、美優がオナニーをしていたところに俺がノックをしてしまったから、すぐに出られなかったと考えるほうが自然か。

 そう思っているところで隣のドアノブが回る音がして、ギギギと重たく扉が開かれていく。

 

「取り込み中だったか?」

 

 俺が隙間を覗き込むように様子を伺うと、美優は顔を斜めにして体が見えないようにしていた。

 裸になっていたのなら服を着る十数秒だけで済むし、これは恥ずかしい服を着ていて上手く応対ができなかったパターンだな。

 

「ご覧の有様なのですが」

 

 美優は眉をひそめて答える。

 

 まあそうだよな。

 

「すまんな」

「ご用件は」

「直近の美優の予定を聞こうと思ってた」

「奏さん優先のスケジュールでいいよ」

 

 さすがに美優は俺の言わんとしていることがわかるようだ。

 

「わかった」

 

 そんな短い言葉のやり取りをして、美優がずっと目の辺りしか見せていないことに、俺は若干の引っかかりを覚える。

 

「着てるんだよな?」

「うん」

「新しいやつなのか?」

「新しいというか、魂を売るための衣装」

「ほう」

 

 例の遥との肉体契約を無効にするための取引か。

 美優は淡々と答えているが、ドアの影に隠れているのはとんでもないエロ衣装だったりするのかもしれない。

 

「服そのものはエッチではないんですけど」

「ならどうして隠すんだ?」

 

 俺も美優のロリコスはいくつも見てきているし、それなりの理解は示しているつもりだ。

 

「ひと口では言えない……。からまあ、しょうがない」

 

 美優はドアを開けて、その衣装を隙間から俺に見せてくれた。

 

 身につけているブラウスは黒い縦のストライプで、ロリータ服としては綺麗にまとまった装いをしている。

 しかし、その中でとりわけ目を引いたのは、頭に乗った三角形の小高い二つの山と、臀部から細く長く伸びたしなやかな尾っぽだった。

 いわゆるネコミミファッションと呼ばれる性癖アイテムである。

 ちなみに髪の毛はまだ二つ結びのままだ。

 

「美優、それは……どうして……!?」

 

 ありふれたコスチュームのはずなのに、それを美優が身につけていることは俺にとって衝撃だった。

 美優のこだわりというか、本来の趣味にそれが合致する気がしなかったからだ。 

 

「まあ、入って入って」

 

 美優は俺を部屋の中へ招き入れる。

 

「いいのか? 取り込み中だったんじゃ……?」

「まだ観察してただけだから平気。お兄ちゃんにどう話そうか迷ってただけ」

 

 美優は俺を勉強机の椅子に座らせて、自身はベッドに座った。

 膝を曲げてから腰を下ろすまで、美優がやたらと慎重な動作を取っていたが、まさかその尻尾はそういう仕組みなのだろうか。

 

「遥の仕事を一度だけ手伝うことになって。これはそのために支給された服なの」

「一度だけの手伝いで服を?」

「中古が値下がりするとは限らないからね。特に遥にとっては」

 

 なるほどいかがわしい事務所の仕事らしい内容だ。

 俺も実態を詳しく知っているわけではないけど。

 

「でも、またなんでネコミミなんか」

「遥の趣味だから。お兄ちゃんは私が選んだ服しか知らないけど、実際にはもっと色んな種類の服があって。遥と私のロリータの好みは似てるようで、正反対なの」

 

 美優が言うには、趣味とビジネスの趣向の両面でロリータファッションを扱っている遥にとって、結果的にロリかわいければ素体か服の一方はロリでなくてもいいらしい。

 だからこそ遥は山本さんを見てもハイテンションになっていたし、巨乳が大好きだし、ロリ巨乳の美優にはどんな服でも着せたがる。

 

「いわば遥の嗜好は、服または本人がロリであればよいという、ロリータ・オア・ロリータで。でも私はその逆、ロリとしての完成を求める、服も本体もロリ、つまりはロリータ・アンド・ロリータが好きなの。これまでその辺りはお互いに不可侵の領域にしてて」

「そこまで違うものなのか?」

「ぜんぜん違います」

 

 美優はどういう原理か付け耳を畳んだり尻尾を振ったりしながら説明を続けた。

 

 遥が順ずるのはあくまでも自らの悦であって、ロリータ好きでも少女性を突き詰めることはないし、レズを主張していてもディルドなどの道具を使うことに抵抗はない。

 趣味もビジネスも混ぜ込んで、何でも自分の都合のいいように使うのだ。

 

 これに対して、美優は現代的に意味付けされた幼さとしてのロリと、ファッションとしてのロリータを、趣味であり主義として好んでいる。

 

「美優の主義を曲げて遥の仕事を手伝えば、貸し借りなしに肉体契約が解消できると」

「詳細については聞かれても答えないけどその通り」

「その服をなんで今着てるんだ?」

「サイズ合わせのため。あとはまあ……」

 

 ──可愛いことに、変わりはないし。

 

 と照れながらに呟いたそれが、美優の本音のようだった。

 いくらこだわりがあっても、自分の性的魅力にはなかなか逆らえない美優にとって、理性的な判断と本能的な決定は別にあるのだ。

 

「その服を買い取ってエッチに使ってくれるなんてことは」

「絶対にないからね」

 

 さすがに難しいか。

 しかし、コスチューム自体は似たようなものを美優が持っているだけだし、あとは耳と尻尾さえ俺が買ってあげれば同じことができるのでは。

 

「ないったらない」

 

 念押しするように否定されてしまった。

 

「ちなみにその尻尾って入ってるのか?」

「入っているかと聞かれれば入ってる」

 

 まるで聞かれなければ入っていない状態になるような答え方だな。

 

「ってことは、俺はやっぱり邪魔したんじゃないかな」

「平気だよ。生理も近いからこの格好のままするつもりはなかったし。まずは気分だけ上げて、あとはこう、流れで」

「そうか」

 

 観察をしていただけというのはそういうことか。

 美優もだいぶ気持ちを素直に伝えてくれるようになったな。

 軽く欲求不満になっているからだろうけど。

 

「そういや、あんまりこういうのは、はっきり確認しないものかもしれないけど」

 

 生理というワードを聞いて浮かんできた疑問。

 俺はそれなりに性欲が旺盛だし、美優も俺とのエッチが好きで付き合ってくれている部分がある。

 だからこそ俺は聞いておくべきだと思った。

 

「美優が生理のときって、俺は一人で処理してたほうがいいか?」

 

 大多数の女の子が体調を崩す期間だし、おりものの問題で脱衣が伴う行為は実質的に不可能になる。

 とはいえ、生理だからといって女の子の性欲がゼロになるわけではないんだ。

 そうなると、美優にとってもお預けの期間になってしまうから、必ずしも自己処理が良い選択ともならない。

 

「うーん……」

 

 美優はベッドに姿勢良く座って、目をパチクリさせて、ネコミミをピコピコさせて、しばらく考え込んだ。

 

「私の体調は気にしなくても。抜くのに使えるところを使ってもらえれば」

 

 それが上等なロリータ服とネコミミ衣装を身に着けた可愛い妹の回答だった。

 

「美優ほど物扱いされることに抵抗がない子も珍しいよな」

「お兄ちゃんが持ってた美少女ゲームに出てくる妹も実家にある便利な風俗みたいなものだったから。体が勝手に憧れてるのかも」

 

 そんなバカな。

 

「そうでなくても、自分らしさみたいな部分ではしっくりきてるんだよね。私は奏さんみたいに毎日全力ご奉仕はできないから」

 

 美優にそう言われて、理解はできないまでもどこか納得できるところはあった。

 

 美優が彼女でも、山本さんが彼女でも、どちらも抜きたいときに抜いてくれる恋人になっていたはず。

 でも、自分がエッチな女の子だと自負があって積極的に抜いてくれる山本さんと、エッチな女の子であることをなかなか認めないくせに頼めばいつでも抜いてくれる美優とでは、その関係性に大きな違いがあるのだ。

 それは俺にとっても『美優にしてもらうから興奮する』要素として大切な部分になっている。

 

「その山本さんなんだけど、一緒に勉強しないかって誘われてるんだ」

「奏さんも数日お預けでムラムラしてるだろうからね」

 

 まあそうなるよな。

 

「明日でいいんじゃない?」

 

 美優は他人事のように意見を述べた。

 この余裕は成功の確信によるものか。

 連日の雨で山本さんも家で暇をしているなら、いきなり誘われても困らないかな。

 

「山本さんとの関係には、どこかで逆転の秘策があるんだよな?」

 

 美優は俺の余計な行動を抑制するためにその全容を話してはくれないが、俺と山本さんと仲良くなるほど経過が順調ということは、どこかで山本さんが俺を諦めざるを得なくなるような決定的な瞬間が存在しているということになる。

 

「別に秘策なんてないよ?」

 

 美優は首を傾げると同時に尻尾をふにゃっと揺らした。

 尻尾が動くときに下腹部の性感帯に刺激がいくことがないのか、非常に気になるところではあるがともかくとしてまさかの秘策なしとはどういうことなのか。

 

「逆転の必要がないし」

「いや、だって、このまま行ったら、俺は山本さんとゴールインだろ」

「それが違うんだよ。お兄ちゃんはね、一歩一歩、着実に、円満に別れるためのゴールに向かって進んでるの。だから、このまま地面を踏みしめて、足を前に出していけばいいだけ」

「そんなまさか」

 

 あれだけ恋人らしい雰囲気になっている俺と山本さんが、特別なイベントの用意もなくあっさりとお別れすることなんてできるのか。

 最初に山本さんの予想にあったように、俺とのスキンシップを好きなだけ許していればそのうち満足するということであれば、むしろその目論見はマイナス方向に進んでいると言っていい。

 

 ──しかし、それは根本的な部分からの、俺の認識違いだった。

 

 仲良くなるほど関係が進展していると思えるのは、一緒にいるときの山本さんを見ているときの評価でしかなくて。

 俺がこうして何気なく美優と話している間にも、山本さんは山本さんの時間を過ごしていて、その脳には常に思考が巡り、その結果として感情が動き続けている。

 

「あの手紙はそういうものだから」

 

 憂うでも嘲るでもなく、冷淡にそう語った美優は、しとしとと雨の降る窓の外を見つめて尻尾を揺らしていた。

 



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清楚

 

 畳んだ傘の先で床を突くと、灰色の一帯に小さな水玉が浮かび上がった。

 駅の通路を往く人々の数は心なしか少なくなっている気がして、この蒸し暑い時期に雨天の外出は控えたくなるのが人の心というものだろう。

 

 そんな中でも俺が家を出てきた理由は山本さんとの勉強会のためで、指定された場所が都内のカフェだったので駅までやってきたわけだ。

 

 こうしてデートらしい外出をするのなら美優とも遊べばよかったと申し訳なさも感じるが、あの美優を雨の中に引っ張り出すのは改めて考えてみても忍びなく、相手が山本さんだったからこのような結論に至ったわけでもある。

 

「ソトミチくん、こっちだよ」

 

 ハツラツとした声が飛んできた方向に目をやると、男性の下半身の負荷を考えない豊満ボディの女の子がいた。

 シャツとフレアスカートという一見すると清楚な服装なのだが、ウエストの高いスカートを採用しているためシャツの膨らみが見事な乳袋を作り上げている。

 

「待たせたな」

「いいのいいの。いつ来るのかなーってワクワクしてる時間も楽しいから」

 

 山本さんは出会い一番に俺の腕に抱きついてきた。

 この蒸し暑い季節だと、谷間の熱がブラ越しにも伝わってくる。

 百センチ近いバストを誇る山本さんに乳袋を押し付けられたりなんてしたら、美優のエプロンの膨らみでさえ興奮してしまう俺が劣情を掻き立てられないわけがない。

 

 これはもはや凶器だ。

 そのうち税関にでも引っかかるんじゃないか。

 

「行こっか。ソトミチくん」

 

 山本さんは迷わずに俺と手を繋いで改札へと歩き始めた。

 前のカラオケでのエッチ以降、山本さんも吹っ切れたというか、俺への恋を満足させるために本格始動した雰囲気がある。

 

 それはショッピングデートの時のようなしおらしい姿ではなくて、一緒に日直になってプリントを配っていたあの頃の山本さんに戻ったような感覚だった。

 

「電車はすぐ来るみたい」

「こう蒸す日は一層冷房が恋しくなるな」

 

 ホームに響く電車のアナウンス。

 山本さんの長い髪をさらうぬるい風。

 

 なんてことない日常会話を続けて、二分後に到着した電車に乗り込んだ俺と山本さん。

 すると吊革に掴まっていた人々が一斉に目を向けてきて、次いで座席にいた人たちが俺と山本さんの存在に気づく。

 これまでに感じたことがないぐらいに視線が集まっていた。

 

 以前にもセクシーな服を着た山本さんとデートしたことはあったのに、これまで俺が気にならなかったのはきっとその視線のほとんどが山本さんに注がれていたからだろう。

 

 山本さんほどの美少女から積極的にスキンシップを受けるその相手が、冴えない男とあっては良からぬ感情を向けられるのも無理からぬこと。

 なによりこのムンとくる季節に男の理想を煮詰めたようなエロボディを侍らせているとなれば、それはもう男の敵でしかないのだ。

 

 こうした目を向けられるようになったのは、俺と山本さんの関係が、友達としての境界線から恋人側の領域へと踏み込んだ証拠でもある。

 

「気になる?」

 

 横に立っている山本さんが肩を寄せて俺に微笑んでくる。

 山本さんほどの人なら男にジロジロ見られる経験もたくさんあるはずだ。

 当事者になってみるまでこれほど気になるものだとは知らなかった。

 

「怖いような、申し訳ないような、なんとも言えない気分だよ」

 

 俺は小声でそう返す。

 

 周囲からの目は、何も嫉妬や羨望の感情ばかりではないだろう。

 俺のような男と付き合う女ならば、自分でもワンチャンスあるのではないかと、下心を含んだ眼差しも向けられているはずだ。

 もし俺が山本さんの彼氏だったら、他の男の目に映ることすら嫌がっていただろうな。

 

「デート中に変な人に絡まれたこともないわけじゃないけどさ。だいたいは『可愛い彼女でいいなー』って思ってるだけだよ」

「聞いたことがあるのか?」

「んーん。でも絶対そう思ってるに違いない」

「さすが」

 

 日直の頃を思い返してみると、山本さんは元々は自信家で、俺に興味を持ったのだって俺が妹以外を異性として意識しなかったことがきっかけだった。

 いつからか乙女チックで慎ましい顔をするようになって……たしか、初めて山本さんの家に行ったときはまだ「自分の魅力で俺を浮気させてしまう」と本気で心配していたほどだったはず。

 

 最近まで山本さんがしおらしくしていたのは、少ない失恋経験が俺に固執する理由を与えていたからだろう。

 彼氏と別れた経験は多くとも、最初から付き合えなかったことなどきっと皆無だ。

 

 だとしたら、元の明るさを取り戻したこの態度は空元気なのだろうか。

 こうして楽しげな表情を見ている限りではそんな感じはしないけどな。

 

 それから電車を降りて、街中を歩くその最中も、俺に引っ付いてくる山本さんの恋人ムーブのおかげで好奇の目は絶えなかった。

 それは目的のカフェに入っても同じで、カップルでテーブルを挟んでいる男でさえ、山本さんの姿をどうにか視界に収めようとぎこちなく姿勢を変えていたほどだった。

 

「お二階の席のご予約ですね」

 

 カフェに入ると、俺たちは二階にあるソファー席に案内された。

 

 ソファーと言ってもテーブルは低い掘り炬燵タイプで、各テーブルを仕切る壁に合わせてL字型に置かれている。

 客や店員が移動してこない限りは人目につくことがなく、密着して過ごしていても気恥ずかしさを感じることもない。

 というか通りがかりに見た客も密着してモゾモゾしているカップルばかりだった。

 

「勉強の目的で来たんだよな?」

 

 俺は山本さんと並んで腰を下ろしながら尋ねる。

 

「もちろん」

 

 山本さんは綿の生地に包まれたふわふわの乳袋を揺らして答えた。

 

「ソトミチくんがエッチしたくなったら、私は今すぐにでもするけどね」

 

 怪しげなウインクを飛ばして鞄から勉強道具を取り出す山本さん。

 

 このエッチに対する明け透けな欲望の表し方は、美優との関係が深まった今でさえ、悔しいことにとても望ましく思えてしまう。

 女の子はエッチであるだけいいのだ。

 

 美優もどうせエッチな女の子であることはバレているのだから、山本さんみたいにもっと積極的に性欲をぶつけてくれたらいいのに。

 

 そういえばエロエロモードの美優にはしばらく会ってないな。

 セックスをするようになったら美優の性本能が暴走することさえ懸念していたのに。

 テンションが上がってデレるのは行為の最中と朝のイチャイチャのときだけだ。

 

 なにが足りていないのだろう。

 これは真剣に悩むべき事案ではないのか。

 

「なにか心配事?」

「ああいや、なんでもない。始めようか」

 

 注文を取りに来た店員にドリンクとつまみを頼んで、早速二人で勉強をすることに。

 山本さんはぴったりと俺にひっついてきてもうラブラブ状態だった。

 

 柔らかい人肌を押し付けられるほどに俺の渇いた何かが満たされていく。

 美優とのイチャラブ成分はまだ足りていなかったようだな。

 帰ったら美優にエロエロモードでご奉仕してもらおう。

 

「こんなに堂々と勉強してていいのか?」

「平気平気。店長も了承済みだから」

 

 どうやら山本さんはこの店の店長とも面識があるらしく、開店当初にヘルプとして働いたときの誼みで予約時の席選びも優遇してもらえるようになったらしい。

 SNSで噂が拡散されるこの時代、山本さんが働くだけでも広告効果は絶大だろうからな。

 

「まずは世界史のお勉強からね」

 

 注文した料理が一式届いたところで、俺たちは勉強を始めた。

 まず勉強資料として取り出したのは山本さん特製のノート。

 学校での次の定期試験範囲に重点を置いた内容になっていたものの、授業では教わらないような補足情報でノートのほとんどが埋め尽くされている。

 

「地歴はマルっと覚えちゃったほうが楽だからね」

 

 思っていた以上に本格的な勉強が始まって、動揺しつつも俺は山本さんの講義を受けることに。

 参考書でインプットをしてから問題集でアウトプットを繰り返す、それ自体は一般的な勉強方法と変わらなかったが、点数を気にせず自分が答えを出すまでの考えを正確に訂正してもらえるのは異様なほど身の入りがよかった。

 

「このノートって山本さんが勉強するときに使ってたものなのか?」

「私のじゃなくて友達用だよ。個人レッスンは見返りも多くてさー」

 

 さすがは受験勉強の水準などとうに超えている山本さん。

 そういや山本さんが普通の女子高生として過ごしているのだって昔の悩みが影響してたんだよな。

 俺や美優と出会って、少しは人生観に変化を与えられただろうか。

 

 それからも至って真面目な山本さんと勉強を続けて、次は数学の時間に。

 エッチありきの勉強会だなどと考えていた自分が情けなく思えるほど山本さんは丁寧に教えてくれた。

 

「数式ってどうにも苦手なんだよな」

「すぐに慣れる方法で教えるから大丈夫だよ。公式を覚えればいいだけのと成り立ちから知っとくのがいいのと分けてあるから」

 

 あらゆる教科が暗記だけで済んでしまう気がする山本さんだったが、俺のような勉強初心者にもわかりやすく解説してくれてありがたい限りだった。

 これまた持参してくれたノートに数学知識が順序立てて記されている。

 

「微積とかでよく見る数式ってね、最終的には公式を組み合わせて作った方程式を現実の値が代入できる形に変換するのが主な使い道で……」

「いきなりハードルが上がりすぎて脳が拒絶反応が起こしてるんだが」

「いいからいいから、ここの参考情報を読みながら気楽に聞き流して」

 

 しかしてこの参考情報というものがなぜか学習の吸収速度を高めてくれて、山本先生による勉強効率の高さはわずか一時間ほどで実感となった。

 世の中こうしたサービスにこそ人はお金を払うんだな。

 今や数学の壁でもある微積やベクトルの分野でさえ怖くはない。

 無料で授業を受けさせてもらっていることが申し訳なくなってきた。

 

「そろそろ休憩しよっか」

 

 空になったドリンクのおかわりとランチを注文して、勉強道具を片付けた。

 カフェのランチは見栄えも良くて豪華な食事をした気分になる。

 実際に値段も高めなんだけれども。

 

「山本さんって普段は何をして過ごしてるの?」

 

 これまであまり聞いたことのなかった山本さんのプライベートを深堀りしてみる。

 ピザとパスタが運ばれてきたので、答えに悩んでいる山本さんを待ちつつそれぞれを半分に取り分けた。

 

「休日はこの辺に遊びに来るのが多いかな。友達に呼ばれることもあれば、一人で散策してるだけのときもあるよ。道を歩いてるとナンパとかスカウトがしつこいから、デパートとかカフェに落ち着いちゃうんだけどね」

「声を掛けられたりって今でもあるんだな」

「規制でかなり減ったんだけどねー。名目を変えて近づいてくる人がいるんだよ」

 

 これまで山本さんとは親密すぎるほどの日々を過ごしてきたのに、俺はどれぐらいの頻度で山本さんが外出するのかも知らなかった。

 学校で会った日を除けば、俺は山本さんと一緒に居てエッチをしなかった日のほうが少ないぐらいだ。

 

 なんて不健全な間柄なのだろうか。

 しかしこう、いざカップルらしいことをしてみると、清純なお付き合いをしている二人に見えなくもないのではないか。

 

「一日家にいることもあるのか?」

「結構あるよ。最近は、特にね」

 

 山本さんはうっとりとした目を俺に向けて続ける。

 

「ひとりエッチの時間が増えちゃったから……」

 

 赤裸々に告白する山本さん。

 徐々に濃厚になっていく淫靡な空気。

 困ったことに俺の心中では不安より期待が上回っていた。

 

「それは、大変だな」

 

 俺は危険な会話をどうにか躱しつつ食事を済ませる。

 テーブルが片付いてからは再び勉強道具を広げた。

 

「ものすごく今更なんだけどさ、山本さんって学校では男性経験がないことになってるんだよな」

「はっきりとどうって答えたことはないけどね。友達にも興味がないか聞かれてるよ」

「なんて答えてるんだ?」

「理想の人を探してる最中だよって、答えてる」

 

 山本さんはそう口にしながら、俺と手を重ねて寄りかかってきた。

 この乙女らしくいじらしい姿が如何とも度し難い。

 こんな美少女を相手に、男として心の奥底で歓びを感じてしまうのは罪だろうか。

 

「学校が始まったら気をつけたほうがいいことあるかな」

「大丈夫。ソトミチくんとの噂が回ったときもそうなんだけどさ、噂が流れるのだけはみんな慣れてるから、逆に信じないの」

 

 だから俺の噂も否定されてすぐ誰も気にしなくなったのか。

 駅で待ち合わせしてるときも知り合いに鉢合わせたらどうしようかと思ったけど、山本さんは『誰にでも仲良くしてくれる清楚で可愛い女の子』だから、さして大事になることもないようだ。

 

「だから、安心してね」

 

 俺の腕を掴んで身を寄せ、山本さんはこれでもかと乳袋を押し付けてきて、その丸みが俺の腕で押し潰されていく様を見せつけてくる。

 それは美優が言っていた通り、単に性欲溜まってムラムラしているからだと思っていたが。

 

「あ、あの、山本さん」

 

 それは俺の注意不足だった。

 よくよく確認してみると、山本さんはシャツの下にブラジャーしか着けていなかったのだ。

 雨の日に透ける可能性すらあるのに大胆な格好。

 思わず喉が鳴ってしまった。

 

「と、友達とは、他にどんな遊びをするの?」

 

 俺が山本さんとエッチをしたところで責める者など誰もいないのに、美優という恋人がいる手前、誘惑に容易く屈服してしまうわけにもいかず与太話で気を紛らわす。

 

「遊びもするけど、この夏は彼氏作りの協力が多かったかな」

「彼氏作りの協力?」

「二年生の夏だから、みんな思い出も欲しいし、エッチなこともしたくなるんだよ」

 

 山本さんはコソコソ話でそんな実情を教えてくれた。

 年頃を考えれば盛りの時期だからな。

 

 しかし、山本さんほどの美人がいたのでは協力にならないのでは。

 

「私ぐらいの高嶺の花になると、二番手を選ばせる方法もあるんだよ」

 

 海に行けば手頃な男集団もいるし、交流会と称して行われる合コンにお呼ばれすることもある。

 そこで、山本さんの友達が彼氏にしたい男に対して「山本さんは隣の男を狙っている」という偽情報を流すのが効くようなのだ。

 

 酷な話だが、山本さんが居ることによって、その場の女性の評価が『山本さんかそれ以外か』に平均化されるらしい。

 そんな状況で山本さんが別の男とお喋りを続けていると『友人には彼女ができるかもしれない』という焦りに駆られてアプローチを受け入れやすくなるという。

 

「そんなに上手くいくのか」

「飢えてるのは男の子も同じなんだよ」

 

 山本さんの手がさりげなく俺の膝に伸びてくる。

 これまで山本さんの誘惑によってボディーブローのように蓄積されてきた性欲が、俺のペニスの芯を着実に硬くしていた。

 

「そ、そっか、勉強になったよ。じゃあ、試験勉強のほうも再開しようか」

 

 スキンシップが濃厚になったきたことを咎めようとも思ったが、勝てる気がしなかったので逃げの一手を選択することに。

 

「んっふふ」

 

 しかし、もう勉強などするつもりもなさそうな山本さん。

 

「ちなみにね、そんな高嶺の花が本当に好きなのは、すぐ隣にいる男の子なんだよ」

 

 山本さんは吐息で耳朶をくすぐるように答えてノートを遠ざけた。

 

 待ちに待ったエロ教師の登場に、肉棒は悦び勇んでムクムクしている。

 

「勉強よりもエッチしたい人ー?」

 

 密着状態なのをいいことに、山本さんが小声で煽ってくる。

 エッチをしないと気が済まなそうな女教師の色声に愚息の挙手行動が止められない。

 

「ソトミチくんのムスコさんは正直ですね。先生は大賛成なので、さっそくエッチしちゃいます」

 

 山本先生は何の躊躇いもなく俺のズボンのチャックを開けてペニスを触ってきた。

 すっかり大きくなった窮屈そうな竿を、パンツの中で指を絡めて刺激してくる。

 

「や、山本さん、こんな飲食店で……」

「ソトミチくんだって好きなクセに。美優ちゃんも許可してるんでしょ」

 

 山本さんはシャツのボタンを一つ開けて、その隙間から見えるブラジャーをアピールしてくる。

 それはフロントホックのビキニタイプで、横から手を入れれば簡単に乳首に触れてしまう、まさにエッチをするための下着だった。

 

 そんな準備のいいエロ下着に俺の手が止められるわけもなく、ペニスと同じように固くなった乳首を指先でこねると、山本さんは歓喜の吐息を漏らして身を震わせた。

 

「んっ……あんっ……!」

 

 俺は無意識のうちに山本さんのおっぱいを揉みしだいていた。

 店内であるというのに、むしろ店内であるからこそ、俺は山本さんの性感を刺激するように強く鷲掴みにする。

 山本さんの言う通り、俺はこういう場所で山本さんとエッチするのが好きだ。

 美優の許可も出ているから遠慮する必要もない。

 

「ソトミチくんもいっぱい気持ちよくなって」

 

 山本さんはトランクス隙間を全開にして俺の肉棒を外に出した。

 元気よく上向きに屹立するそれを、山本さんは嬉しそうに撫で撫でして、それから優しく俺のペニスを握り込む。

 

「私の耳がいいのは、もう知ってるよね」

 

 店員が来る音や客が立ち上がる音を、山本さんは感知することができる。

 だから、これだけ大胆なことをしていても、周囲を意識して気が散ることがない。

 特殊な性癖を持っている人からすればスリルが足りないと思われるかもしれないが、俺と山本さんはあくまでもノーマル。

 したくなった場所が店内だったからここでしているだけに過ぎないんだ。

 

「山本さん、ちょっとエッチすぎる気が……」

 

 そうは言いつつも俺は山本さんのシャツのボタンをもう一つ開けて、ブラジャーからそのたわわをポロリと外に出した。

 

 これで俺も山本さんも同条件。

 山本さんは俺のペニスをずっとコキ続けている。

 

「ソトミチくんだって、すごくエッチだよ」

 

 山本さんは自らのスカートに手を入れて、紐とレースだけで作られたパンティをスルリと床に下ろした。

 

 それから犬のように浅い呼吸で興奮を吐き出して、山本さんは自ら股ぐらの愛液を掬い取ってペニスに塗りたくる。

 滑りの良くなった竿は、神経が研ぎ澄まされていることもあって、店内に響き渡っているのかと思うほどグチュグチュと音が鳴っている。

 

 そんな挑発的な行為が俺の対抗心を燃やしていた。

 美優との抑圧されたセックスとは違い、思う存分に欲望を開放できることを知った俺の性欲が、迷わずその手を山本さんのスカートへと潜り込ませた。

 山本さんのアソコは美優と変わらないぐらいに濡れていて、指を挿れて腹部に向けて軽く関節を曲げると、グジュッと卑猥な水音が鳴った。

 

「ああっ……だめ、ソトミチくん……そんなにおっきい音……」

 

 俺のペニスを扱く山本さんは、感覚が鋭いからこそ周囲にバレないギリギリの音に抑えることができるが、そんなことがわかるはずもない俺は山本さんの熱い膣内をぐちゃぐちゃとかき混ぜるだけ。

 

 もはや山本さんに清楚さなど形すら残っておらず、ただエロい女の子がおっぱいを揉ませながら俺のペニスを手コキしているだけだった。

 

「ん、んんっ……あっ──!!」

 

 山本さんも思わず嬌声を漏らして、堪えることができなかったその羞恥心に顔を真っ赤にしていた。

 喉を絞ってどうにか紛れるぐらいの声に抑えたものの、異変を感じ取った店員が階段を上って様子を見回りに来る。

 

「お客さま……お水のおかわりはいかがでしょうか……?」

 

 やってきた店員に、俺たちは苦笑いをしておかわりを断ると、店員は軽く会釈をして次のテーブルに向かった。

 俺と山本さんは直前で服を着直していて、勃起したままのペニスは山本さんの肩掛けで隠していたのでどうにか事なきを得ることができたのだ。

 

「……中途半端に終わっちゃったね」

 

 山本さんは憤慨するでもなく、さみしげな表情をしながらも目をキラキラと輝かせていた。

 よっぽど先ほどのプレイが楽しかったらしい。

 たぶんこの人は変態なんだと思う。

 

「お勉強会の場所、変える?」

 

 山本さんにそう提案されて、真っ先に思い浮かんだのがラブホテルで、それは山本さんも同じようだった。

 カフェで会計を済ませた俺たちは、次の勉強場所としてラブホテルに行くことに。

 

 まさか恋人とラブホテルに行ったことも無いうちに二度目の来館になるとは、俺もつくづく奇妙な人生を歩んでいるよな。

 

「ここが、友達と恋バナするたびに話題に上がる、ベスト・オブ・ラブホテルだよ」

 

 その建物は予め行くことが決まっていたかのように近くにあった。

 緑色の看板が掲げられた入口には、休憩と宿泊の料金が明記されていて、それは間違いなくセックスをするためのホテルだった。

 

「それって学校の奴らも頻繁に使ってるってことじゃ」

「友達の予定は探っておいたから大丈夫だよ。そのまた知り合いが来たら、そのときはそのときで」

 

 ラブホテルの部屋の良さはエントランスの綺麗さやネットの写真だけで判別するのが難しい。

 入ってみて初めて感じる、どことなく漂う“古さ”が場の雰囲気を損ねてしまうからだ。

 俺と来る初めてのラブホテルがそんな中途半端な部屋だと嫌だったようで、山本さんは多少のリスクも承知でここを選んだようだ。

 

 一回だけとはいえ経験があるおかげで部屋選びや料金の前払いに戸惑うことなく、俺は鍵を受け取って山本さんとエレベーターに乗り込んだ。

 

「美優ちゃんとは来たことあるの?」

「ないよ。考えてみると、妹とラブホテルに来るっていうのもな」

「そうかな。私はいいと思うけど」

 

 駄弁りながら二重の扉を開けて、俺と山本さんはソファーの近くに荷物を下ろす。

 

「ラブホテルで『お兄ちゃん』って呼んでもらえるの、背徳的でちょっと羨ましい」

 

 山本さんが冗談めかしく、しかし艷っぽい声でそう呼んできて、おあずけを食らっていた俺の肉棒が急速に肥大化していく。

 

 たしかにラブホテルに来てのお兄ちゃん呼びはかなり股間に来るものがあるな。

 もし制服を持ち込めるのならば、あのクイーンサイズのベッドに中学校の制服を着た妹を座らせて、「お兄ちゃん」と呼ばせてみたい。

 

 制服を着たままラブホでセックスなんて美優が許さないだろうけど。

 想像するだけで、射精してしまいそうだ。

 

「さっそく反応しちゃってるね」

 

 山本さんは問答無用でズボンの腰から手を入れてきて、俺のペニスを握ると前後に動かし始めた。

 

「や、やばいって……今そんなことされたら……!」

「ソトミチくんってば、美優ちゃんのこと考えるとすぐイっちゃうんだから。そんなので普段のエッチは困らないのかな」

 

 山本さんは意地悪く口角を上げて、俺のズボンをパンツごと脱がすと、しゃがみ込んでペニスにむしゃぶりついてきた。

 

「んっ……んちゅっ……ちゅぶじゅ……んぐっ……!」

 

 まるで空腹でも満たすかのように、山本さんは俺のペニスを夢中で咥え込んだ。

 グボグボと下品な音を立てて、その清楚な装いとは正反対の淫猥な目を俺に向けてくる。

 

「ああっ……あああっ……山本さん……だめっだ……!」

 

 カフェで散々焦らされた上に、美優のことを考えているところへ不意打ちにフェラなんてされたら、射精するまでは一瞬だった。

 

 しかし、

 

「んふっ。だーめ」

 

 山本さんは数回ほど口を往復したところで、すぐにペニスを解放してしまった。

 急にやってきた冷感に、発射直前だった肉棒も上向きの角度を落としていく。

 

「何のためにここに来たのか忘れちゃったのかな?」

 

 こんな状況で、山本さんが次に取った行動は勉強道具をテーブルに並べることだった。

 俺は下半身裸のまま、性欲の行き場を失った勃起を持て余して立ち尽くしているだけ。

 

「勉強したら復習しないと。はい、ここ座って」

 

 山本さんは俺の手を取って、パンツを穿き直す暇も与えず、陰部を露出させた俺をソファーに座らせた。

 当人は俺の股の間にしゃがみ込んで俺を見上げている。

 

 上目遣いになるといつにも増して可愛い。

 清楚さも割増だ。

 

 そんな美少女の巨乳で膨らんだシャツが股間のすぐ近くにあるというだけでペニスが脈打ってしまう。

 

「いま広げてあるページの問題、大問一つ五分で解いてね」

 

 そう言って山本さんは俺の肉棒を摩り、顔を近づける。

 右手に握られていたのはスマホのタイマーだった。

 

「山本さん、それはまずいかも」

「ん? どうして?」

「たぶん、我慢できない」

 

 俺が小声で白状すると、山本さんはニヤけた表情を奥に隠してぷっくりと怒り顔をした。

 

「美優ちゃんと同じようなことしたの? ソトミチくんたちってエロカップルだよね」

 

 自らの淫猥さを鑑みないお説教に、しかし返す言葉もなくて俺は黙ってしまう。

 すると山本さんは諦めたように嘆息して眉を下げた。

 

「ソトミチくんが射精するの我慢できそうにないから、ぺろぺろするだけにするね」

 

 山本さんは舌を伸ばして、俺の玉袋や竿を丁寧に舐り始める。

 

「あっ……ああっ……き、気持ちいい……」

 

 たしかに舐められるだけであれば射精はしないが、これはとんでもない生殺しだ。

 それでも山本さんは容赦なくタイマーをスタートさせて、ペンを持つように俺を催促する。

 

「五分以内に解けるまで、ずっとこうだからね」

 

 問答無用でフェラを始める山本さん。

 ひと舐めされるだけで勃起が引き締まり、背筋までもが真っ直ぐに伸びる。

 

 これほどの快感にいつまでも侵されていてはいつか脳がおかしくなってしまう。

 こうなっては早く問題を解いてしまうしかない。

 

(大丈夫、見たことのある式変形が二つあるだけだ……これぐらいなら……ッ)

 

 数式を視認して、二秒後には文字が霞んでいく。

 ラブホテルのテーブルは背が低いため、フェラをされている様子が目下に映ってしまう。

 

 女の子のフェラをするときの顔は不思議なことに幼く見えるもので、その表情がシャツを基調とした服装と相まって清楚さを強調するのだ。

 

 しかし、ここはラブホテルで、行われている密事は卑猥そのもの。

 山本さんは精子を貪るように玉袋を舐めて、我慢汁が溢れ出すと、その先端を美味しそうに舐めとっていく。

 

「山本さん、やっぱムリ。頭が回らないよ」

「んっ……もう、ソトミチくん……私も早く咥えたいんだから……頑張って……ちゅっ、へろっ……」

 

 変換公式を頭から引っ張り出そうとしても、ペニスの裏筋を山本さんの舌が滑るたびに脳が痺れ、下半身に意識が集中してしまう。

 

 開始から三分もしないうちに、俺の精神は射精欲に囚われていた。

 

「せめて、一回出させてくれ……カフェのときからもう我慢しっぱなしで……」

「知ってるよ。先っぽから出てくるの舐めてるだけですっごい濃い味がするもん」

 

 山本さんは切ない視線を向けて舌をいっぱいに伸ばし、俺のペニスをざらざらとした表面全体で舐め上げた。

 

「久しぶりのソトミチくんの精液の味……早く飲みたいなぁ……」

 

 自らの欲望を垂れ流す山本さんのエロさが、股間に響いて堪らない。

 大きく開けたその口内に、これまで溜め込んだ精液をどっぷりと注ぎ込みたくなってくる。

 

「五分経っちゃった。問題は解けた?」

「まだ、何も……」

「そっかぁ。なら、やり直しだね」

 

 それからも山本さんのフェラ教育は容赦がなかった。

 三回目ぐらいからは俺もその環境に適応してきて、なんとか途中式を書けるぐらいにはなったが、どうしても記憶に頼らなければならない部分は脳が働かずに先に進めなくなってしまう。

 

 頭で考えているようでは間に合わない。

 視認した数式に対して反射的に変換式を導けるようにならなければ、山本さんのフェラに耐えながら問題を解くことなど到底不可能だ。

 

(この形は一度式を展開して……ここの乗数を下ろして……あっ……あああっ、ダメだッ……い、イク、イクッ……!)

 

 最初は優しく舐めるだけだった山本さんも、時間が経つにつれて我慢ならなくなったのか、俺がイかないギリギリまで亀頭をしゃぶるようになった。

 完全に射精したとは言えないまでも、本気の限界で寸止めされたときは我慢汁とは呼べない量の精液が漏れて、それを飲む山本さんの興奮もピークに達してしまったらしい。

 そうして六回目を数えたところで、ようやく時間内に答えを出し切ることに成功した。

 山本さんは名残惜しそうに俺のペニスから口を離して立ち上がると、ソファーに座る俺の膝を跨いできて、その途中に一瞬だけ解答に目を通した。

 

「よくできたね、ソトミチくん」

 

 俺の頭を撫でておっぱいに顔を埋めさせて、それから小さな声で山本さんが囁く。

 

「二問目の最後のとこの係数だけ、間違ってる、気がするかな……」

 

 あえて確信のない言葉を使って、後ろを振り返ろうとしない山本さん。

 それが気づいていないフリだということにはすぐに気づいて、俺が指摘のあったミスだけを直すと、山本さんは待ってましたと丸を付けてくれた。

 

「ちゃんと解けて偉いね、ソトミチくん。それじゃあ、ご褒美の時間だよ」

 

 もはやそれがどっちにとってのご褒美だったのかはわからない。

 山本さんは一人でどんどんと話を進めて、そんなに我慢ならなかったのなら素直にエッチをすればよかったのに、今度こそ本当に飢えた獣のように俺の肉棒にかぶりついてきた。

 

「ぐちゅ、ちゅぶっ……はぁっ……ソトミチくんの……かたいのすきぃ……んっ……んぐっ……じゅるっ!!」

「あ、あああっ……山本さん……もうほんと保たない……!!」

「んっちゅ、んむっ……いいよ……イッて……いっぱい出して……!!」

 

 俺の腰に両手を回して、絶対に逃さないとばかりに俺の股間に張り付くと、根本まで口内に入れて激しく舌を波打たせながら吸い上げてくる。

 山本さんの性欲全開のフェラに数秒と我慢できるはずもなく、金玉から精液が上ってくる感覚と同時にペニスは最高硬度となり、尿道にゼリーが通ったような感触が下腹部に走った。

 

「はぁっ……ああうっ……出るよ山本さん…………出るッ……!!」

 

 ドロッとした音が体内から響いてきて、俺は山本さんの口の中で排尿に近い射精をした。

 喉奥にまで遠慮なく吐き出された精液は、山本さんが嗚咽を隠しきれないほどの液量とニオイを与えて、涙目の美少女の口からその凶悪な性器を引き抜くと白い液体が舌の根を覆い隠すほど溜まっていた。

 

「うっ……うううっ……」

 

 美優とセックスをするようになってから更に濃くなった精液は、もはや山本さんを以てしてもすんなりと飲み込むことはできないようだった。

 それでも山本さんは噛み切るように精液の粘性を減らして、小刻みな呼吸でタイミングを測ってから、ひと思いに精液溜まりを胃に流し込んだ。

 

「ぷはぁ……このすっごい不味いの……ソトミチくんとエッチしたって感じがして……好き……」

 

 疲弊した様子の山本さんは俺の膝にぐったり倒れ込んできた。

 その顔のすぐ横にはまだ勃起したままのペニスが天を衝いている。

 

「どうしたの、こんなに元気で。最近してなかったの?」

「そんなことはないんだけどな。昨日の午後から出してないぐらいで」

 

 きっと山本さんが清楚な格好でエロいことをするからだ。

 美優の普段着に近い服装であるがために、ただでさえ美優と似ている山本さんに俺の本能が反応してしまっている。

 

「もしかして、まだ出せそう?」

「出せるかと聞かれると、だいぶ出せそう」

 

 自分でも不思議なぐらいまだ射精できそうだった。

 そして、俺の答えを聞いた山本さんは、目を輝かせてソファーに飛び乗ってきた。

 

「ならもっとエッチしよ、ソトミチくん」

 

 疲れなどどこへ行ったやら、勉強会に戻る気もさらさら無さそうで、山本さんは俺と腰を近づけてソファーにペタリと座り込んだ。

 すると、俺のペニスに付着した唾液とは異なる、明らかにぬるぬるした液体に、竿を舐められるような感覚があった。

 スカートに覆われているから目で見て確かめることはできないが、それがパンツ越しの感触とは思えなかった。

 

「パンツはいてなかったの?」

「カフェで脱いだときからね。ソトミチくんもムラムラしてたから、挿れたいときに挿れられるようにしておきたくて……」

 

 巨乳をたゆんと揺らして恥ずかしげに語る山本さんは、そんな最中でも俺のペニスに割れ目を擦りつけていた。

 男の興奮は視覚情報からくるものだと云われているが、視認できないところでエロいことをされているというのも、なかなかに掻き立てられるものがある。

 

「な、生だと、さすがに危ないかな」

 

 あらゆる男を一瞬で果てさせる名器に、生で突っ込んでみたい気持ちは正直なところあった。

 このまま腰を深くに沈めて蜜口に亀頭をあてがい、挿入して、中出ししたい感情が嘘をつけないほど巨大に渦巻いている。

 

 それでも俺にはきちんとした彼女がいるから、この激情も区別しなくてはならない。

 生でのセックスが禁止だと明言されたわけではないけど、まだ美優ともしていないうちに、他の女性と生セックスするのはダメだと俺は思った。

 

「赤ちゃんは今はできないから、その点は大丈夫なんだけどね」

 

 山本さんからのまさかの返答。

 いや、カラオケでエッチしたときも、似たようなことを言っていたか。

 

「ピルを飲んでるのか」

「ソトミチくんとエッチするための条件だからね。中出しし放題だよ」

 

 山本さんはスカートの裾を両手の指でしとやかに持ち上げる。

 

 俺だってセックスがしたい気持ちがないわけではないが、自分から始めるのは美優に対して申し訳なさも感じる。

 

「そこの、ティッシュ箱の上に、ゴムが置いてあるから。まずはそれを付けようか」

 

 せめてコンドームを付けるところまではと、俺の方から進めることにした。

 そうすればその流れのまま、どっちつかずでセックスを初められるだろう。

 

 しかし、山本さんはソファーから立ち上がろうとせず、悩ましく秘所を肉棒に擦りつけているだけだった。

 

「んーと……その……ソトミチくんに無理やり襲って貰えると……助かるんだけど……」

 

 エッチが大好きなはずの山本さんが、なぜかセックスになると受け身になる。

 レイプ願望もないわけではないのだろうが、最近のやり取りを思い返してみると、どうやら意図的にセックスを避けているようだ。

 

「本番ができない理由があるのか?」

 

 態度が露骨だったので直球で尋ねることにした。

 こうなることは山本さんもわかっていたようで、驚く様子もなく首を縦に振る。

 

「美優に禁止されてるのかな。俺は聞いてないんだけど」

 

 もし本番禁止を言い渡しているなら美優がそれを教えてくれてもいいはず。

 だから、正解とは遠いだろうと思っていると、山本さんは肯定とも否定とも取れないような首の振り方をした。

 

「禁止は、されてない……けど、私からは、しにくくて……今となっては、有耶無耶な約束なんだけど……」

 

 山本さんのこの微妙なニュアンス。

 一方的に自分が誓っているだけだから破ろうと思えば破れるということか。

 

 いまこうしてお互いの性器を重ねているこの状況で、山本さんが勢いで挿入してしまえば、結果的に「してしまった」で済んでしまうのに、それを選ぶ気もなさそうだ。

 

 少なくとも美優が関係していることはわかった。

 だとしたら、昨日美優が言っていた手紙が関係している可能性もある。

 その手紙があるせいで、山本さんは俺とイチャイチャするほど、どんどん恋を諦めざるを得なくなっていくようだが。

 

 まさかセックスを禁止にすることによって、恋人との境界線をわからせようとでもしているのか。

 それなら山本さんがあの手紙を失恋レターだと称した理由もわかるけど。

 

 どうにもしっくりこない。

 もう一つぐらい確信的な理由があってもいいはず。

 

「無理やり犯すのは……申し訳ないけど、難しいとして。……山本さんはどうしたい?」

 

 俺も由佳を相手にレイプまがいのことをした経験はあるが、あれは美優の命令でやったことだし、もし自分から犯したくなることがあるとしても、それは美優を相手に理性が利かなくなったときぐらいなものだろう。

 

「中に……精液を出されてみたいな……」

 

 どうやら山本さんはまだ中出しをされた経験が無いらしい。

 男からすれば貴重な初めては残しておいたほうがよいと考えるものだが、女の子にとっては本気で好きな人にできるだけ早く捧げておきたいもののようだ。

 

 しかし、中出しをするのは俺も初めての経験。

 だからその相手は美優にしておきたいし、それは山本さんも理解している。

 

「そしたら、こういうのはどうかな?」

 

 山本さんはソファーで対面座りをしたまま、ゆさゆさと腰を前後に動かし始めた。

 これまでの裏筋を撫でるようなものとは違って、陰唇の内側で肉棒を挟み込み、その全体の面を使って竿の根元から先まで滑らせていく。

 

「こ、これって……」

 

 美優と素股に近いことをしたことはあるし、背面から擦り付けるだけなら以前のカラオケエッチで山本さんともした。

 しかし、こうしてきちんと女の子側に動いてしてもらった素股はこれが初めて。

 ピルを飲んでもらっているとはいえ生で性器を触れ合わせているからドキドキする。

 

「んっ……あっ……これだとやっぱり……ソトミチくんの硬いのいっぱい感じる……」

 

 腰を後ろにグラインドさせるとき、クリトリスがペニスに擦れるため、女の子側にも少なからず快感が伝わる。

 そうでなくとも秘部にイチモツが当たるだけで興奮は高まるのだ。

 だからこそ、美優が進んで素股をしてくれることはなかった。

 

 俺のペニスを生で感じたい山本さんにとっては、むしろもうこれしかない。

 

「でも……中に出すのは……」

 

 素股であれば「生セックスはしなかった」と言い訳をすることはできても、最後に精液を膣内に流し込んでしまったら中出しをしたことになるので意味がない。

 

「だから、あの、後ろに……」

 

 山本さんの求めていたもの。

 それは俺にアナルへ射精してもらうことだった。

 

「前に、ちょっとした事故で、入っちゃったことがあったでしょ? あれ、すごく良くて」

 

 カラオケエッチのときに誤って山本さんのお尻の穴に精液を出してしまったことがあった。

 今回はそれを意図的に、膣内への中出しの代わりとしてしてほしいと言うのだ。

 

「カフェを出るときに、キレイにしておいたから。入り口のとこも、ひとりエッチのときに、ちょっとずつほぐしてあるし」

 

 山本さんは妄想の中で何度も俺にアナルへ射精してもらうことを考えていた。 

 それがこうしてラブホテルに来ることになって、どうしても実現させたくなったらしい。

 

「わかった、イキたくなったら、後ろの穴に出すからな」

 

 山本さんが提示してくれた妥協案。

 これぐらい乗ってあげられなくては男ではない。

 俺の了承を得てすぐ、山本さんは激しく腰を動かし始めた。

 

「ああんっ……あっ……ソトミチくん……!」

 

 素股とは一方的にご奉仕するもの。

 それでいて同時に山本さん自身も気持ちよくなれる。

 だからこそこのプレイは山本さんにとって相性がいい。

 

 二人はお互いに下着を脱いだのみで服を着たまま。

 とめどなく愛液が継ぎ足される陰裂に、スカートの内側からはぴちゃぴちゃと水を打つ音がくぐもって響いてくる。

 

 その音も感触も、膣内に挿入しているのと変わらないほどに芳醇で、それを包んでいるのがガワが清楚な美少女であるがゆえに、卑猥さが鋭く際立っている。

 

 これまではさり気なく揺らすだけだった胸も、たぷんたぷんと俺の目の前で大きく上下して、催眠術のように視線を釘付けにしていた。

 

「あっ……ああっ……!」

 

 性感帯は快感に侵され、視覚からは本能を揺さぶられ、射精したばかりの俺のペニスはもう発射準備を再開していた。

 胸部の生肌を暴いてしまいたい感情と、清楚なままの体に犯されたい感情がせめぎ合って、混乱した両手は腕を上げることすらできずにいる。

 

 山本さんのやりたいようにやられているだけ。

 しかし、それがお互いにとってちょうどよく、結局は俺が情けなく一方的にやられているのが、俺たち二人にとっての理想のセックスだった。

 

「そ、ソトミチ、くん……あんっ……だ、めっ……イッちゃ……う……ッ!」

 

 体が小刻みに震え始め、それでも体を動かすことはやめられない。

 こんなにも早くイクなんて、山本さんも相当に性欲が溜まっていたようだ。

 俺が相手でないと得られない快感だからこそ、山本さんは貪欲に求めてくる。

 

 視界の端で揺れる黒髪。

 大波のように眼前に押し寄せてくる巨乳。

 シャツに包まれたその清純な装いに、俺の脳が何かの錯覚を起して、痺れたようにぼやけていった。

 

「山本さん……俺も……もう……!!」

 

 いつものように射精感が湧き上がってきたわけではなかった。

 

 だが、感覚的にそれを悟っていた。

 

 俺の脳が山本さんを美優と同種の存在だと認識するために必要な情報は揃っていて、あとはトリガーを引くだけの状態になっている。

 

「いいよ……出して……!」

 

 そして、それを理解していたかのように、山本さんは俺の耳もとにその言葉を放った。

 かつて俺が射精するために美優に何度も命令された言葉。

 それは俺にとって、もはや射精をするためのスイッチのようなものになっていた。

 

「山本さん……イクよ……中に、出すよ……!!」

 

 山本さんの腰が前に来た瞬間を狙って両腕で抱え込み、俺は山本さんのアナルへと勃起したペニスを挿入した。

 

「ああっ……ああああっ……きひゃっ……あッッ!!」

 

 そこは膣に挿入するより硬く、抵抗する力が強かった。

 それでも、普段の鍛錬オナニーの積み重ねで力みを抑えてくれた山本さんのアナルは、ふわりとした柔らかさに満ちて俺のペニスを受け入れてくれた。

 

「出るッ……出る……!!」

 

 ゴムに覆われていない開放的な射精は、物理的な感触よりも、体内に精液を吐き出している事実により俺の脳内に快楽物質を満たしていた。

 

「ソトミチくん……射精してる……私の中で……あっ……んんんっ……!!」

 

 それは山本さんも同じだったようで、先の方だけとはいえアナルに挿入された事実に興奮が高まり、まるで初めてのアナルセックスで絶頂したように山本さんはイキ果てた。

 

 やがて射精が落ち着くと、山本さんはふやけた顔のまま腰を上げて、アナルに挿入されていたペニスを抜いた。

 

「ソトミチくんに、中出ししてもらっちゃった……」

 

 着衣だったのでエッチさえ終わってしまえば見た目上は元通りなのだが、そのフレアスカートの中で俺が出した精液が溜められているのだと思うと、余韻とは呼べないほど男としての歓びが昂ってくる。

 

「山本さんは満足できた?」

 

 生のペニスを挿れられた嬉しさで山本さんはイッたみたいだが、あれだけ濡れていた膣にはなんの刺激も与えられていない。

 美優には手でするのも慣れてきたし、その経験を山本さんに活かしてあげたかった。 

 

「あっ、ちょっ……まって……今は……ダメッ……!」

 

 俺がスカートに手を突っ込んで蜜穴に指を挿れると、山本さんは想像していた以上の感度でビクンと体を跳ねさせた。

 イッた直後だから敏感になっているのかもしれないと、そんな山本さんが可愛く思えて、俺はカフェでしたときのように二本の指を感度の良い肉へ押し込んだ。

 

「んああっ……ああっ……! だ、だめぇっ……!」

 

 これまでにないぐらいか弱く喘ぐ山本さんに、俺も調子に乗って指をグチュグチュと動かしてしまう。

 肉棒は再び血液を充満させて、それでも膣内に指を入れているだけで俺の性欲は満たされていった。

 

「あんっ、あっ、せっかくソトミチくんに、出してもらったのに……漏れっ……ちゃう……ん、ああっ……!」

 

 中出しされた精液が流れてしまわないよう、お尻に力を入れているせいで、膣から伝わる快感に身構えることができず性感スポットの刺激を直に受けてしまっているらしい。

 山本さんのことを想えばやめてあげるべきだとも考えたが、俺の本能がとにかく欲望をぶつけろと背中を押し続けていた。

 

「ひゃっ……もう……イッちゃう……イッ……く──ッ!!」

 

 二度目の絶頂は一回では収まりきらず、俺が指を動かし続けるだけ山本さんはイッた。

 俺の脳を支配していたのは、山本さんが精液を漏らすまでイカせてしまえという悪戯心で、少女らしく嬌声を叫ぶ山本さんの体力が尽きるまで愛撫は止まらなかった。

 

 やがては山本さんの口から、か細く「あっ……」と息を漏らすような声がもれて、スカートの中から白い液体が床に垂れていく。

 

「ううっ……ソトミチくん、ひどい……」

「ご、ごめん。つい気持ちが入っちゃって」

 

 山本さんはおぼつかない足で床に立って、恥ずかしそうにキョロキョロとティッシュの在り処を探す。

 自分で漏らしてしまったものは自分で処理したいらしく、俺はできるだけ関わらないように服を着直していた。

 

「ソトミチくん、エッチなんだから」

 

 最後には笑顔になった山本さんは、なんだかんだで楽しくエッチさえできればいい健康優良児なので、今日の勉強会──勉強会と呼んでいいのかは定かでないが──は大満足の結果だったようだ。

 

 それからもまだ休憩時間は残っていたため、まるっきり勉強する気もなくなった俺たちはベッドで眠るでもなく添い寝をしてまったりしていた。

 山本さんのような美人の横で寝ていると、それだけで男としては幸せな気分になる。

 得したというと嫌味な言い方にはなるが、男としてこれほどの幸福は他に考え難く、むしろ、美優がいるから山本さんは選べないと気を保ち続けていられる俺は、実は偉いのではないだろうか。

 

「私も早く満足しないとなー」

 

 隣で寝ている山本さんが天井に向けて呟く。

 俺と山本さんにとって、この時間は美優から与えられた猶予期間だ。

 フッて必要以上に傷つけてしまった山本さんに対する義理として、せめて俺への恋が満足するまでにと用意されているラブラブOKの譲歩。

 そういう風にしか考えられない状況だから山本さんは俺とイチャイチャすることに心を決めた。

 

「ねえ、明日はデートしない?」

 

 俺を見つめて山本さんが提案する。

 今日のような勉強会の建前ではなく、ごく普通にどこかへ出かけて、一緒の時間を楽しもうということだ。

 

「明日か」

 

 美優も生理の時期のようだし、遥との仕事の手伝いも始まると言っていた。

 であれば、これは丁度いいタイミング。

 美優の作戦のことも考えれば願ってもないお誘いだった。

 

「いいよ。どこに行こうか?」

 

 デートの予定といえば、美優とは温泉と水族館に行くことになっていた。

 できればそれ以外のところにしたい。

 

「夏だし、フルーツ狩りとかどうかな? 予定では午後から晴れみたいだけど、雨でも室内でレストランみたいに食べられる農園があるんだ」

「それはいいな」

 

 これまでのどのデートよりも健康的で健全だ。

 外を歩くだけで性欲も多少は発散されるはず。

 

「なら、決定ね!」

 

 次もまた会えるとわかった山本さんは急に元気になって、時間も休憩が終わろうというところだったので俺たちはホテルを出ることにした。

 

 帰りの電車から見える空は曇りがかっているとはいえまだ明るく、妙な気の高ぶりもあったので、座席が空いても俺たちはドアの傍に立っていた。

 

 その分だけ目立ちはするというか、周囲から向けられる視線は朝よりも露骨だったが、不思議なことにそれも気にならなくなっていた。

 

 山本さんも言っていた通り、可愛い彼女を連れていれば羨ましく思われる。

 付き合っていなくとも二人きりで話していれば嫉妬もされる。

 俺もつい最近まではそういう立場だったからよく分かるのだ。

 

「周りの人には私たち、どんなカップルに見えてるんだろうね」

「どうだかな。やっぱり、釣り合わないカップルとかじゃないか?」

 

 いつだかバイト帰りの電車でも同じような話をしたな。

 

 冴えない男が美女に弄ばれているだけ。

 あるいは、山本さんに同情して、そんな男を選んでしまって可哀想だとすら思っているかもしれない。

 

 でも、その実態は……。

 

「お尻に注がれた精液を拭き取りもしないで、街中を歩いて、今もこうして電車に乗ってて。私のほうがエッチなお願いを何でも聞いちゃう雌奴隷なんだけどね」

「誰がどう考えてもそんな力関係だとは思わないよな」

 

 山本さんはどんな男より俺を慕ってくれている。

 その事実が俺に誇りを与えて支えてくれているんだ。

 視線が気にならなくなったのは、今が山本さんとセックスをしてきた直後で、そんな自信の源を再確認できたからだろう。

 俺だっていつもまでも冴えない男の殻に閉じこもってもいられない。

 俺はあの可愛い妹の恋人なのだから。

 

「美優とデートするときも似たような感覚になるのかな」

 

 美優だって山本さんに負けず劣らず清楚で巨乳な美少女だ。

 向けられる視線の多さも今日と変わらないぐらいだろう。

 なにより本物の恋人なのだから、一層イチャラブできるはずだし、そこで俺がどれだけ胸を張って彼氏でいられるかがデートの肝になるのだ。

 

 このデートで得られた経験は、次の美優とのデートにも活かせるはず。

 

「んー。それはどうかなぁ」

 

 意外なことに山本さんの口から出てきたのは否定的な言葉だった。

 それは美優を嘲るでも下に見るでもなく、ただ俺に真実を伝えようとしているだけの声音をしている。

 

「どういうことだ?」

 

 俺が尋ねても、山本さんは微笑むだけ。

 いつもと雰囲気が違う。

 

「ねえ、ソトミチくん」

 

 そして、そう。

 

 それは初めてのことだった。

 

「明日のデートは、きっと楽しくなるよ」

 

 誰もがそうだろうと予想することを述べただけなのに。

 

 これまで自然体でいるだけだった山本さんが、あからさまに隠れた意図を匂わせた。

 

「俺も、楽しみだよ」

 

 感づいているのに突っ込めない。

 俺が美優の作戦に組み込まれているからこそボロが出せなかった。

 いまにして思えば、作戦の全容を聞かされずにいて本当によかったと思う。

 根掘り葉掘り聞かれたらごまかしきれなかった。

 

「うんうん。楽しみにしてて。満足は、二人でするものだからね」

 

 このときの山本さんは、初めて家を訪れたときと似た空気を纏っていた。

 美優からの恩赦を拝受するだけだったように見えた山本さんからの、これは挑戦状なのか。

 もし、これが美優の望んだ展開なのだとしたら。

 

 あのたった一枚の手紙に、どれほどの呪いが仕掛けられていたのだろうか。

 



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居場所

 

 ぶどう狩り農園までのツアーバスを待つ晴天の下。

 ハットの付いた帽子を頭に乗せた山本さんが、深刻な表情で俺を見つめていた。

 

「ソトミチくんに、残念なお知らせがあります」

 

 湿気の抜けた風にワイドパンツがひらひらとはためくその姿は、昨日のような清楚な装いではなく、(Tシャツからバレーボールでも出てきそうなバストの膨らみに目を瞑れば)街中でよく見かけるような女の子の格好だった。

 

「残念なお知らせって?」

 

 底が厚めのスニーカーで少しだけ俺より背の高くなった山本さんの顔を見上げ、カールさせた前髪から覗く真剣な眼差しに息を呑み、身構える。

 

「なんと今日は…………エッチ、禁止です」

 

 物々しく放たれた言葉。

 

 脳裏に電流が走る。

 

「……そうか」

 

 たしかに山本さんが口にすることで衝撃的な宣告にはなっていたが、美優という恋人がいる俺にとって、エッチは山本さんからのお誘いに付き合っているだけのものだ。

 だから、禁止されたところで何も困ることはない。

 

 と言いたいところなのだが、実際のところ、とある事情によって俺は非常に残念な気持ちになっていた。

 

 昨日から美優とスキンシップを取っていないのだ。

 

 遥との仕事の準備が忙しいということと、生理初期に共寝をするのは不都合が多い事から、美優は意識的に一人でいるようにしていた。

 仲直り作戦は俺と山本さんが親密にならなければ効力が薄いということもあって、敢えて距離を取ることで俺が山本さんを女として強く意識するように仕向けている面もある。

 

 当たり前にあった妹成分が急に得られなくなったとなれば、本能が女体を求めてしまうのも無理からぬこと。

 事実として俺は山本さんに会ってから胸部のシャツの膨らみばかりに目がいっていた。

 生地が薄いので肉の揺れもぷるんぷるんと生々しく伝わってくるのだ。

 意識的に見ないようにしていても重力に引かれるように視線が吸い込まれてしまう。

 

「山本さんは、その……暑くないの?」

 

 セミの声と共にジリジリと暑さが迫ってくるこの季節に、日陰にいてもなお汗が吹き出してくる。

 濡れた跡が目立たない服を着てきてよかったと安堵している俺に対して山本さんは涼しい顔をしていた。

 豊満ボディなので俺なんかより熱を含みやすいはずだが。

 

「おっぱいのこと?」

 

 身の丈に合った自意識を持っている山本さんはすぐに俺の意図に気づく。

 

「胸の辺りは特に」

「そうだね。胸が一番暑いかな。蒸れてかぶれないようにベビーパウダーを塗ったり大変なんだよね」

 

 山本さんはシャツの上から両手で巨乳を持ち上げ、谷間に隙間が開くようにそれぞれの乳房を左右反対にたぷんたぷんと揺らす。

 

 そんなことをしたらバス待ちをしている人たちの視線が余計に集まってしまうのだが。

 巨乳としての自覚が足りていない。

 

「男の子もさ、蒸れるとニオイがするじゃない?」

 

 山本さんは俺の下腹部に一瞬だけ視線を落とす。

 

「あれって男の子同士でいると気になるものなの?」

「自分のニオイはわかるけど、他人のは感じたことないな。あるとしたら運動部の部室くらいじゃないか?」

 

 帰宅部の俺には想像上のものでしかないが、その手の匂いフェチからしたら堪らないほどの臭気空間だろう。

 

「ふーん」

 

 今度は俺の股間を凝視する山本さん。

 匂いフェチというほどではないだろうが、フェラをするときはズボンを脱いで即咥える山本さんにとって、汗に混じった精液のニオイはセックスを想起させる魅惑の香りに違いない。

 

「山本さん……?」

 

 周りに聞こえないボリュームにしているとはいえ、爽やかな朝の時間に猥談をするのはいかがなものか。

 そう思ってる傍で視姦されている愚息がわずかに反応してしまう。

 すると山本さんは急に我に返ったようにハッと息を漏らした。

 

「清らかな男女のデートなんだから、エッチな話はいけません」

 

 理不尽に俺を叱る山本さんは暑さとは別に顔を赤くしていた。

 急にエッチを禁止にして山本さんも辛いはずだし、清純デートがしたいというのであれば俺も協力してあげたい。

 

「そしたら、気分転換にコンビニで何か買おうか」

「いいね、お菓子買おう、お菓子」

 

 農園は山の方にあるのでバスに乗っている時間も短くはない。

 車内は涼しいからドリンクを買い込む必要はないが、お菓子があったほうが旅行感が増すし楽しく過ごせるはずだ。

 

 バス停は駅の近くにあるためコンビニに困ることはなく、近くの店に二人で入った。

 こうして山本さんとコンビニに来るのは、あのエッチ三昧をしていた時期に手繋ぎしたままコンドームを買いに行ったとき以来か。

 

 それは山本さんも覚えていたようで、ふと横目で山本さんの顔を伺うと、店のドア側に陳列されていたコンドームの棚に目をやっていた。

 その様子を俺に見られたことに気づいた山本さんが、誤魔化すように照れ笑いをする。

 思い出はエッチをしたことばかりなのに、その笑顔が花のようにキレイだったのは、エッチをすることも含めて人と一緒にいる時間を心から楽しんでいるからなんだと思う。

 山本さんは清純かはともかくとして、純真な人であることは間違いないんだ。

 

 俺たちはバス内でも気を使わず食べられるお菓子を三つほど買って、集合時間も近くなって並び始めたバスの列に合流した。

 お年寄りが多いのかと思っていたら意外なことに若者が多く、最近では写真映えのするデートをするために景色の良い場所まで遠出するカップルが増えているようだ。

 

「悪い、トイレだけ行ってくる」

「じゃあ私は席を確認して座っておくね」

 

 長距離移動になると思うと尿意を催してしまうもの。

 俺は急いで近くのトイレに駆け込んで、用を済ませてからバスの中に乗った。

 

 予約した席はバスの中央のあたり。

 背が高くて黒色が美しい髪をしている山本さんはすぐに見つかった。

 

「こっちだよ、ソトミチくん」

 

 控えめに手をあげて俺を誘導してくれる山本さん。

 通路を歩く俺の横から「あそこにメチャクチャ可愛い子がいた」と声が聞こえてくる。

 その男が隠れて指差していた先にいたのは山本さんで、その美少女の隣に空いている席は、他でもない俺のものだった。

 

「お待たせ」

 

 俺が腰を下ろすと、山本さんは早速ひとつお菓子を取り出して、ニッコリと笑った。

 

「好きな人を待ってる時間っていいよね」

 

 カップ型の入れ物の蓋を開けて、細く練り揚げされたスナックを口の先に咥える。

 

 山本さんはポジティブな人なので、近い将来にある楽しみを不安なく待つことができる。

 昨日の勉強会でも山本さんは俺より早く合流場所に着いていたし、人に尽くすことが好きな山本さんらしいデートの楽しみ方だな。

 

「そう言ってもらえて嬉しいよ」

 

 俺はそれほど待っている時間を前向きには捉えられない。

 アニメや映画の見過ぎというのも問題で、いわゆる「上手くいきすぎているときは不幸の前触れ」という死亡フラグが脳裏にチラつくのだ。

 

「山本さんはぶどう狩りの経験はあるの?」

「ぶどうはないんだー。だから、今日は楽しみで」

 

 バスガイドが乗車して、挨拶を済ませて、間もなくバスが発進した。

 山本さんがひとつお菓子を差し向けてきて、俺はそれを遠慮なくパクッといただいた。

 

「このツアーのぶどう狩りは四十分食べ放題で、おまけにワイン工場の見学もあるから、色んなジュースを試飲できるみたいだよ」

 

 もちろん本来ならワインの試飲がメインのイベントなので、「ソトミチくんとお酒も飲んでみたかったけどね」と残念がる山本さん。

 

 俺たちはまだ学生だけど、いつかお酒を飲むことができるのか。

 この夏に仲良くなったみんなとも酒の席を囲む日が来るのかな。

 

 山本さんは酔ったら激しそうだ。

 イケナイとわかっていてもエロい妄想が膨らんでしまう。

 泥酔セックスなどした日は、翌日を生きていく精力の一片すら残してはもらえまい。

 

 美優は……、そもそも、大人になったらどうなるのだろうか。

 いまのままロリ可愛い姿でいるのか、山本さんのようなエロ美人になるのか、あるいはそれを超えていくのか。

 いずれにしても、酔えばツンツンしたままともいかないだろうし、どんなギャップで萌えさせてくれるのか今から期待が高まるというもの。

 

 できれば猫のようにニャンニャンに甘えてほしい。

 そして翌日はそれを思い出して悶絶してほしい。

 

「ソトミチくんは、お酒を飲んだらどうなるかな」

 

 山本さんに聞かれて気づく。

 美優や山本さんの酔う姿を見るためには、俺もお酒を飲まないといけないんだ。

 これは盲点だった。

 

「酒に強くはないと思うんだよな」

「ねー。さすがのソトミチくんも、酔ったら女の子を獣みたいに犯しちゃったりして」

 

 ふふふ、と満更でもなさそうな顔をして、山本さんはお菓子を一口食べ、次の一口を俺に「あーん」と言って食べさせてくれる。

 

 俺はどうにか理性で性欲を抑えこめているので、美優とエッチするときも山本さんとエッチするときも相手本位で行為を終えることができているが、その理性がなくなったらこの美少女たちを相手に性欲を抑えられる自信がない。

 それがたとえ生セックスをするしかない状況だったとしてもだ。

 

 そう考えると、この二人を相手に理性的な判断ができている普段の俺はやはり偉いな。

 

「あっ」

 

 そして、再度我に返る……というか、自制心を取り戻す山本さん。

 

 口を尖らせて恨めしく俺を睨んでくる。

 

 今日はエッチな話は禁止なのだ。

 

「す、すまん」

 

 こんな理不尽なやりとりも、俺は慣れてしまっているので素直に申し訳なく思う。

 エッチな話をしないことがここまで難しいことだと思わなかった。

 女の子との猥談は経験の少ない男子たちの夢ではあるが、ここまで関係が進展してしまうと避けるほうが難儀する。

 

 それからもちょくちょくエッチな話に入ったり逸れたりしながら会話を続けて、バスでの旅行気分を味わう俺と山本さん。

 高速道路に乗ったバスはほどなくしてサービスエリアに入り、一回目の休憩をすることに。

 

 バスを降りると一気に温い空気に包まれた。

 広大な駐車場の奥には売店があって、その先は田舎町が見下ろせる山景色になっている。

 

 サービスエリアに来たのは修学旅行以来か。

 なんてことない場所だけど、馴染みの薄い人間からすれば中々にテンションの上がる場所だ。

 

「ご当地グルメを探そうよ。おまんじゅうとかおにぎりとか、手軽に買って食べられるのも多いんだよ」

 

 そして、俺以上にはしゃいでいる山本さんに連れられて、お土産売り場に向かうことに。

 

 手を繋ぐか迷いながら、山本さんからは手を伸ばしてこないので後ろをついて行き、二人で売店を回る。

 二人とも少食というわけではないけど、分けられるものはひとつだけ買って、半分こにした。

 

 同じ景色を見て、同じ味覚を楽しんで、おしゃべりをしながら歩き回る。

 なんてことないどこにでもあるデートの一風景だけど、俺にとってはどれも新鮮だった。

 これまでが不健全な付き合いばかりだったせいか、こんなごく普通なやりとりに胸が高鳴って仕方がない。

 

 そして、それは同時に違和感でもあった。

 なんとも表現しがたいのだが、ごく微弱な地震に揺られているような、心の淀みを胸の奥で感じていた。

 

 その原因の一端はわかっていて、ちょっとしたトイレの時間でも、会計をするだけの間でも、山本さんが俺から離れてまた戻ってくるその瞬間に、俺は少なからぬ優越感を覚えてしまっていたのだ。

 なぜこんな今更なタイミングでそれを感じるのかはわからないけれど、今日はどうしてか、山本さんの一挙手一投足が俺に向いていることが嬉しかった。

 

「どうかした?」

 

 気分良さそうに俺の横を歩く山本さんは、露店で買ったソフトクリームの頭にかぶりついている。

 

「山本さんとデートしてるのが、なんか、楽しくて」

 

 隠すことでもないと思って言ってしまった。

 すると山本さんはニヘッと笑って、ソフトクリームを「どーぞ」と分けてくれたので、同じように上からかぶりついた。

 甘くて濃厚なミルクの味がした。

 

「私もソトミチくんとデートができて楽しいよ」

 

 無理のない等身大の姿で接してくれているからこそ、デパートの二人で歩いたときには感じなかった喜びがあって、それはきっと山本さんも似たようなものを感じてくれているのだと思う。

 今日の俺たちは間違いなくラブラブカップルだった。

 

 熱気を照り返すアスファルトの道を早歩きで渡って、駐車場の真ん中あたりに停まっていたバスへと戻る。

 一人でバスに乗り込んだときにはなんとも思わなかったのに、入り口の段差が高いように感じて、気づけば後ろにいる山本さんに振り返っていた。

 

「段差、転ばないように気をつけてね」

 

 底が厚めと言っても五センチにも満たない程度なので、履き慣れている女の子からしたら運動靴で歩くのとさして変わらないのだが、それでもふとそんな言葉が出た。

 

 すると、山本さんは学芸会の出来を褒められた子供みたいな笑みで、「ありがとう」と言ってくれた。

 

 そんなやりとりが俺の中にある違和感を大きくしていた。

 俺は無意識に山本さんを大切にしてあげようとしている。

 そうした感情の動きをなんと呼ぶか。

 

 “下心”だ。

 

 俺はいま、山本さんに好かれようとしている。

 

 それは人としてなんらおかしくはない行動だし、作戦のために美優も俺が山本さんと仲睦まじくなることを望んでいる。

 だから、俺が省みるべきことはないはずで、そこにある引っ掛かりはあくまでも違和感だった。

 

「農園に着くのが楽しみだね」

「あと一時間ちょっとだってな」

 

 バスの通路を歩きながら山本さんとおしゃべりをする。

 こんなにも可愛い子の声が、意識が、俺に向いている。

 

 そこにあったのは、もしかしたら優越感ではなく安心感だったのかもしれない。

 

 かつて、外出するたびに道行くカップルたちを羨んでいた俺は、可愛い女の子を見つけては得した気分になり、その子がどこかの男のものだとわかると勝手に失望していた。

 そうしたショックを受けることがなくなった現在の状況……その根幹を成す山本さんという存在を、俺は特別に想っているのだとしたら。

 これまで感じてきた周囲からの視線は、ダメ人間だった頃の自分から向けられていたものであったとも考えられる。

 

 ……なんて、意味もないことを考えて、俺もどうかしている。

 美優に振り回されているうちに悪い癖がついたのかもしれない。

 せっかく美優も山本さんも望んでくれているデートなのだから、思う存分楽しまなくては。

 

「食べる?」

 

 そんな俺の心の切り替わりを肌で悟ったのか、山本さんが良いタイミングで二箱目のお菓子を開けて差し出してくれた。

 

「山本さん、ずっと食べてるけど、食べ放題は大丈夫?」

 

 俺は山本さんに出された分をつまんでいる程度だから問題はないが、山本さんはそこそこの量を食べ続けている。

 

「う、うん。食べようと思えば、たくさん食べられるから……」

 

 山本さんはほんのり恥ずかしそうに、それでもお菓子を口の先にパクリと挟む。

 この「食べようと思えば」の程度がどれほどのものなのか、思い知るのは農園に着いてからのことだった。

 

 天井にぶどうのツタを張り巡らせた店の前に到着したバスから、降りてすぐに籠とハサミを渡された。

 簡単に取り方を説明してもらって、グループごとに歩いて先導される道を歩いていく。

 いくつかに区画分けされたぶどう畑が左右に広がっていて、そのうちの一つに俺たち団体は案内をされた。

 

「たくさんあるね、どれが美味しいんだろ?」

「ネットには完熟を選べって書いてあったよ。房と枝の色をみるんだと」

「あ、調べてくれたんだ。ありがと、ソトミチくん」

 

 大したことをしたわけでなくても、山本さんはニコニコと感謝をしてくれる。

 暑さも構わずくっついてきて、ほっぺにチューでもしてくれそうだ。

 

 風通しの良い場所を見繕って、ハサミで一房を切り取り、大粒のぶどうを皮を剥いて食べる。

 お世話好きの山本さんもいっぱい皮を剥いてくれて、それをもぐもぐと口に頬張ること三房目。

 

「や、山本さん、そろそろお腹が……」

 

 いくら食べ放題とはいえ、ただでさえ糖度の高い大粒のぶどうを四十分も食べ続けられるはずもなく、残りの時間は山本さんに食べてもらうことに。

 どうにも遠慮がちだったので今度は俺から皮を剥いて食べさせてあげると、山本さんはそれから吹っ切れたように食べ始めた。

 

「んー、美味しい」

 

 山本さんが年相応に少女らしくしていて、俺もつい機嫌が良くなって、できるだけ美味しそうな房を見つけてあげようと周囲を見渡す。

 

「あの辺りは色が良さそうだな」

 

 指を差しても山本さんは食べるのに夢中でよくわかっていなさそうだったので、俺は山本さんを奥にまで誘導しようと手を取った。

 

「あっちのやつ、食べてみよう」

 

 そう言って山本さんを引っ張ると、山本さんは俺から手を繋がれたことに数瞬だけビックリしたようだったが、すぐにコロッと笑顔になって、それはもうすごく嬉しそうに付いてきてくれた。

 

 そんな山本さんの明るい表情に、俺の胸もときめかずにはいられなかった。

 

「ソトミチくんが選んでくれるから美味しい」

「ネット知識サマサマだな」

「選んでくれるのがソトミチくんだから美味しいの」

「わかってるって」

 

 わざとらしく膨れて、わざとらしく戯けて。

 そうして二人で笑い合う。

 バカみたいにカップルらしくイチャイチャしてるな、俺たち。

 

 これまで付き合ってきた子たちといえば、性知識が皆無な佐知子と、いつも不機嫌な由佳と、無表情でツンデレな美優と、小難しい性格をした相手ばかりで、山本さんみたいに素直な感情を吐き出してくれることがこんなにも嬉しいだなんて知りもしなかった。

 

「結構食べたな」

「いやー、つい美味しくて」

 

 後半はほぼ一人で食べていたにもかかわらず、気づけば籠には七本の穂軸が入っていて、それでも控えめにしたのだと言うのだから驚きだ。

 山本さんは美味しそうにご飯を食べる表情も素敵なのでとても良いことだと思う。

 どこを切り取っても山本さんは人を幸せにする人だ。

 

「ソトミチくんといるとさ、なんだか、自分の変かなって思うとこも見せられちゃうから、気楽で助かるんだよね」

「へぇ、なんでだろうな」

「んふふ。なんでだろうね」

 

 山本さんは理由の一端がわかっているかのように含みのある笑みを浮かべた。

 

 俺が思いつくところでは、付き合ってはいないから、というのが結局の理由だと思う。

 山本さんの昔のことを聞かない云々の話が出たときもそうだけど、お互い真剣に交際を狙っていたのならまた評価は変わっていたはず……、多分。

 

「戻ろっか」

 

 満足に食べ切った俺たちは籠とハサミを農園に返却して、バスの出発時間までを休憩スペースのベンチで待つことになった。

 屋外だが立地の問題と天井のツタのおかげで涼しい空間になっている。

 隣に座る山本さんはバッグから水筒を取り出して、キュッと小気味良い音とともに蓋を開けると、長い髪を後ろに分けてゴクゴクと喉を鳴らして飲み始めた。

 

 そんな横顔も美しくて見惚れるほどで、俺は目を瞑る山本さんの長い睫毛をぼーっと眺めていた。

 その気配に気づいた山本さんから、「いる?」と聞かれたので、一口もらうことに。

 これほどの美少女の間接キス、以前は想像するだけで興奮するほどのものだったというのに、俺は平然と頂いてしまっている。

 もし別の誰かがここに座っていて、俺がそれを目撃する立場だったら、歯痒さにテーブルを引っ掻いていたことだろう。

 

 こんなに可愛い人を、どうして俺が独占できているのだろうか。

 これまで山本さんと出会ってきた男たちは全員が節穴ばかりだったのかと、どうしたって不思議に思う。

 たかだかコンプレックスを拗らせたぐらいで、こんなに優しくて可愛い(何よりもエロい)女の子を突き放すなんて考えられない。

 

 そういえば、実際にそんなようなことを、山本さんの部屋で寝泊りしていたときに聞いたっけ。

 

「何か気になる?」

「ああいや、こうして山本さんと一緒にいるとさ、あまりに楽しいもんだから」

 

 それが羨みや妬みからきた疑念ではなく、当時の俺はあまりに自信の無い人間だったから、単純な疑問として尋ねた。

 その答えは、結局は有耶無耶にされていた気がする。

 しかし、それを改めて聞くのもな。

 

「なんで前の人たちはダメだったのかって?」

 

 そこはさすがに山本さんというか、読まれてしまった。

 

「それはソトミチくんの宿題にしてたはずだけどな」

「えっ、そうだっけ」

 

 俺にあるのは断片的な記憶だけ。

 ベッドの上で話をした俺と山本さんの姿が、俯瞰的にぼんやりと脳内に残っている程度だ。

 

「私をフるなんて信じられないってソトミチくんが言って、今の私しか知らないからだよって、私が答えて」

「ああ……」

 

 そう言われたことは覚えている。

 俺は今の山本さんしか知らない……つまるところ、山本さんも成長しているので、過去はこれほど良い女ではなかったのだと、俺はそう解釈していたのだが。

 

「シンプルな話なんだよ」

 

 山本さんは俺から水筒を取り上げて、そして、その飲み口に唇を押し当ててキスをした。

 

「ソトミチくんが相手だから、私はいまの私なんだよ。好きになれば一途に尽くすけど、どんな反応をされるかは人それぞれだし。それによってどう幸せにしたいかは変わってくるから」

 

 人の行動原理は義務かモチベーションに由来していて、それはご奉仕大好きな山本さんであっても例外ではない。

 尽くしたい想いのベクトルは常にプラス向きでも、度合いや方策は相手により千差万別だ。

 

「私がこんなにエッチな女の子になったのもソトミチくんのせいでしょ?」

「えっ……ああ、うん。それは申し訳ない」

 

 俺の影響より根のエロさのほうが勝っている気もするが、異議申し立ては心の中に留めておく。

 

「でもそれも、ソトミチくんからしたら私の魅力なわけで」

「そうだな。間違いないよ」

 

 山本さんの語り口を聞きながら思い出した。

 あの質問をしたとき、俺は山本さんに軽く叱られたんだ。

 山本さんは俺に自信を付けようとしてくれていて、そんな山本さんだからこそ「大事なことを忘れてる」と言って、俺にそれを気付かせようとした。

 

「もし私が魅力的だと思うなら、その魅力を引き出してるのはソトミチくんなんだよ」

 

 なぜこれほど素敵な人が、と思うその姿は、そもそも俺しか知らなかったのだ。

 

「私もね、ソトミチくんのことを好きになってから、自分のこと、ちょっと可愛くなったかなって思うし」

 

 山本さんは自分で言っておいて恥ずかしそうに、場を茶化して話を締めくくった。

 

「どれくらい好きなの?」

 

 それほど真面目に話し込む話題でもないと思って、俺も冗談半分に返してみる。

 

「え、すごく好き」

 

 その簡潔な回答に添えられた幸せそうな笑みが、何より俺への好意を表現していて、くすぐったさのあまりに上手く話を続けられず、俺はベンチから立ち上がって山本さんと一緒にバスへ戻ることにした。

 

 次の目的地はワイナリーで、そこでの試飲会が終わったら昼食を挟み、植物園を回って早めの解散になる。

 工場見学なんて生まれてこの方楽しいなど感じたことはなかったのだが、好きな人と未知の場所を歩くというのはそれだけで特別な時間になるもので、少なくともデートに使うのであれば断然アリだと思った。

 

 それから、試飲会の会場に辿り着くまでの間、山本さんは周囲に頻りに意識を向けていた。

 会場に着いて、蛇口付きの樽をひとつひとつ見て回ってから、二人で紙コップを手に椅子に腰を下ろして、そこでようやく山本さんはとある人物に指を差した。

 

「あの人」

 

 そこにいたのは、日焼けをしたスポーツ系の好青年だった。

 カップルではなく男女二組の四人グループで来ていて、見たところ大学生の知り合いが集まって遊びに来た感じだった。

 その男はグループの中心的存在で、四人グループとは言ったものの、他の女二人はその男にベッタリでチヤホヤしている。

 しかし、男に嫌味ったらしさは無く、むしろ陽気に周囲を笑わせていて、整った顔に作られる笑顔は爽やかで、なによりそのガッチリとした体型は、セックスが上手そうだった。

 

「ソトミチくんの思う、私の理想的な恋人って、あんな感じ?」

 

 唐突に訊かれて、図星だったこともあって、ドキリとした。

 

「運動も勉強もできそうだし、背も高くて顔もいいしな」

 

 前者はともかくとして、顔や背丈は生まれ持ってのものだ。

 俺たち下々の者からしたら羨むことぐらいしかできない。

 そうした、いわゆる上位にいる人間こそが、山本さんの隣にいるには相応しいと思う。

 

 でも、

 

「あの人と付き合ったら、私は幸せになれると思う?」

「……どうかな」

 

 即座に「そう思う」と答えることが出来なかった。

 少なくとも、その辺のブ男と付き合うよりは幸せになるだろうが、それは一般的な女の子がごく普通に享受するレベルの幸せであって、山本さんほどの人に相応しいとは思わない。

 

 では、もっとレベルの高い芸能人レベルなら……とも考えたが、むしろ幸せなイメージからは遠ざかるだけだった。

 どんなに優秀な恋人を手に入れても、どれほどの大金で豪遊ができたとしても、自身が優秀すぎる山本さんからしたらその程度のことでしかないのだ。

 

「エッチもできないしな」

「うんうんうん」

 

 力強く首を縦に振る山本さん。

 俺としても山本さんの持つ最大の才能が活かされないのは残念に思う。

 

「でもそうじゃなくてね」

 

 山本さんは真顔で訂正をする。

 

「居心地の良さが、ソトミチくんは格別なの。そのままでいていいって言ってもらってる感じがして。最近は離れてると、恋しくなるぐらい」

 

 穏やかに語る山本さんは、紙コップを両手で持って中を覗き込んだ。

 

「デパートのとき、美優ちゃんも同じなんだよって言ったのは、そういうこと。勉強したりとか、お金を稼いだりとか、一人で済んじゃうことは、別に私たちは自分で満足するまでできちゃうから」

 

 それを彼氏のステータスとして求めたところで得られるものなど何もない。

 ましてや世間からよく見られたいと考えているわけでもない美優や山本さんにとっては、恋人と二人でいるときだけに満たされる何かこそが重要だった。

 

「居心地がいいって言われても、俺は特別に何かしてるつもりはないんだけどな」

「それがいいんだよ。だからソトミチくんはすごいの」

 

 山本さんはキラキラした目を俺に向けて話を続ける。

 

「ソトミチくんはさ、色んな子とエッチさせられたり、恋人が友達と肉体関係だったり、無茶苦茶な諍いに巻き込まれたり……」

 

 レイプを強要されたり、清楚な見た目に反して破廉恥の度が過ぎる特殊性癖の子ばかりが相手だったりな。

 

「そういうの、少しぐらいは自分の好みに合わせて直してほしいって、お願いしたりするものじゃない?」

「そうなのかもな」

 

 気にならないのもある一方で、相手の子がどれも自分より高いステータスの人間ばかりだから、俺はそれ以上を求めるほどの立場にないって部分もあるけど。

 

「私も他人のこと言えないけど、特にあの美優ちゃんの性格とか性癖は、すんなりそのまま受け入れられるものじゃないと思うんだ」

 

 なるほど鈴原や由佳の例を見れば、好きな人がどれだけ上等でも自分の価値観に当てはめて変えたがるタイプはいくらでもいる。

 逆に遥とは互いにそのままを受け入れあえる関係だったからこそ、二人は仲良しだったのかもしれない。

 

「でも、ソトミチくんは、人を無理に変えようとしないから」

 

 その話を聞いて、ようやく俺にも整理がついた。

 山本さんがこれまで教えてくれた俺の好きなところは、全てがここに繋がってたんだ。

 

「常々こんなことを考えてるわけじゃないんだよ? 次に会ったときは別のことを言ってるかもしれない。でも、理屈でどうっていうのは、些末な話で」

 

 山本さんは真っ直ぐで想いの詰まった目で俺を見つめてくる。

 

「ソトミチくんと一緒にいるだけで、ソトミチくんの中にあるものが居心地の良さとして伝わってくるの。それが好き」

 

 あるいはそれは、これまで由佳の友達やハルマキさんから言われてきた「なんとなく」の正体だったのかもしれない。

 それで初対面の男を相手にセックスを許せるというのは些か過剰な気もするが、そのあたりはあの妹の存在が大きいのだろう。

 

「あと、ソトミチくんはエッチがいっぱいできてめちゃめちゃ気持ちいいから、もう絶対に他にないってぐらい好き」

 

 山本さんはやや興奮気味に分かりきった情報を付け加えた。

 イイ話をしていた風だったのに結局はそこにオチを持ってくるとはな。

 美優に育ててもらったこの体は性方面に大いに健闘しているようだ。

 

「今日はエッチの話は禁止なんじゃ?」

「なんだか揮発したアルコールに当てられて口が滑ったみたい」

 

 そんなわけがあるか。

 

「俺は……どうだろ。やっぱり山本さんの真っ直ぐなところかな。そこが好きで」

 

 もちろん、顔の良さもあってのことだけど、顔だけなら美優以外を好きになることはなかったはず。

 身に余るほど幸福な話だが、可愛い女の子だけなら俺の周りにはたくさんいるんだ。

 その中で、美優だけは特別で、美優だけが特別なはずなのに、きっと今の俺はいつ恋をしてもおかしくないほどに山本さんが好きだ。

 

「……ん? あっ、私、褒められてる……?」

 

 山本さんは目を丸くして驚いていた。

 

「あ、あれ、伝わらなかったか」

 

 たしかに、真っ直ぐなところが好きだなんて言われてもピンとこないよな。

 でも、俺のこの感情も山本さんのものに似ていて、こうして一緒にいるときに伝わってくるなんとなくの安心感が、ここまでの好意を育んだのだ。

 

「山本さんが笑ってるところ、ほんとに好きなんだよ。見てるこっちが癒されるというか。山本さんと居られて良かったって思う」

「へー、そうなんだ、えへへ。嬉しいなぁ」

 

 山本さんは予想していたよりずっと上機嫌に話を聞いてくれた。

 当たり障りのない褒め言葉なのに、こんなに喜んでもらえるものなのか。

 好きな人の言うことだからってことかな。

 

「ソトミチくん、行こっ」

 

 バスガイドに呼びかけられて、俺たちは再度バスへと戻ることになった。

 しばらく経っても山本さんはニヤニヤと高いテンションを維持したままで、ワイナリーを出てから最後の植物園に着いても、山本さんは俺にベタベタだった。

 

「そんなに嬉しかった?」

 

 斜面の一帯に広がる花畑を見下ろしながら、スロープ状に伸びている道を、俺は山本さんと腕を組んで歩いていた。

 バスは植物園の上に停車していて、そこから俺たちは園内を歩いて回ることになる。

 下方には小博物館とレストランがあって、俺たちにはそこで過ごすための自由な時間が与えられていた。

 

「ソトミチくんみたいに褒めてくれた人、今までいなかったから」

 

 少し強い風が吹いて、山本さんは片手で帽子を押さえる。

 コスモスとアジサイが段々になっている花畑に映るその姿は、まるで絵画の一部のようでつい見惚れてしまった。

 

「そうなのか」

 

 それは意外だった。

 

「だって私、可愛いし、なんでもできるし」

 

 得意げに口角を引き上げる山本さんは、その自負が相応しいほどに美人で優秀だ。

 まず第一に褒め言葉として挙がるのは、優しい、可愛い、頭がいい、エロい……とかだろうか。

 

「こんなに人に甘えたいって思ったの、初めてかも」

 

 ちょうど木陰になるところにベンチがあって、俺たちはそこに一度腰を下ろすことに。

 都会のように人や車が行き交う喧騒もなくて、景色はこんなにも広大なのに、二人きりでいる空間はより強調されていた。

 

「なんでソトミチくんの彼女じゃないんだろうなー」

「こうしてると彼女みたいな感じじゃないか?」

「えー違うよー、彼女は彼女だもん」

 

 山本さんは遠くの景色を眺めながらベンチの後ろに両手をつく。

 

「付き合うって、言ってみれば居場所の確保じゃない? 友達でも他人でも、ソトミチくんに甘えることはできるけどさ、所有権を主張できるのは付き合ってる間柄の人だけだから」

 

 山本さんはさりげなく片方の手を伸ばして、俺と手を重ねてきた。

 

「本当に欲しいときに、優先して相手をしてもらえるのって、やっぱり特別なんだよ。私がこうしてイチャイチャしてても、もし美優ちゃんがここに居たら、私はこの手を離して美優ちゃんに渡さないといけないわけだし」

 

 そうして常に一番近くにいる権利を持つこと、あるいはそれを宣言していることが、他人と恋人を分ける決定的な差なのだと山本さんは云う。

 

「ソトミチくんの隣は、居心地がいいんだ」

 

 手を伸ばした分だけ身を寄せて、帽子を膝に下ろしてから、山本さんは俺の肩に頭を乗せる。

 

「私がソトミチくんのこと好きなの、伝わったかな?」

 

 山本さんは人差し指でツンツンと俺の腹をつついてきて、どうやらそれを理解させたくて俺に心の内を丁寧に教えてくれていたらしい。

 俺の方からも、山本さんのテンションに合わせるように笑いが漏れて、その次に見渡した景色は一層鮮やかだった。

 

「伝わったよ。スッキリした」

 

 背中に一本、筋が通ったような気がした。

 

 俺は山本さんのためにデートをすることができて、山本さんは俺とデートをして幸せを感じている。

 山本さんの手を握ることだってできるし、抱き寄せて体の距離をゼロにすることも、「ありがとう」と優しく感謝を伝えることも、手を引いてエスコートすることもできる。

 

「えへへ」

 

 山本さんは軽快な足取りで俺に付いてきた。

 

「わーい、ソトミチくんとデートだ」

 

 わざとらしく、子供っぽく、小声で呟いた。

 スロープの反対側に咲いていた向日葵に彩られて、山本さんは一人の少女になっていた。

 

「写真でも撮ろうか」

 

 この日のデートは俺にとっても大事な記念になる。

 そう思って、残しておきたくなったのがその美しい姿だった。

 

「一緒に撮ろうよ」

 

 山本さんは俺の腕を引き込んで、カメラモードのスマホを内向きにかざす。

 女の子と二人で写真を撮るのなんて初めてだったから、どんな顔をしたものかと困惑していたところに、早速シャッター音が飛んできて慌ててカメラに目を向けた。

 

「あ、ちょ、待って」

「んふふ。そういうソトミチくんの素の可愛さも撮っておかなくちゃ」

 

 山本さんは慣れた様子でパシャパシャと撮っていく。

 二人でくっついているので背景などロクに写っていないのだが、それでも山本さんは満足そうに撮影ボタンを押し続けた。

 

「恥ずかしいな、写真って」

「自分で言い出したくせに。あとで送っておくね」

 

 これまでは作戦とやらに追い回されるばかりだったのと、単純に自信が無かったこともあって、自分から何かを提案することなんてなかったのだが。

 こんなにも喜んでもらえるなら、やりたいことを言うってのも悪くないものだな。

 

「そろそろお昼にしようか」

「はーい」

 

 山本さんと花畑を下りきって、中庭になっている公園を囲む施設を見渡し、レストランの入り口を探す。

 そんな俺を引っ張って山本さんが急に走り出して、中庭に着いたところで振り返った山本さんに、俺は正面から押し倒された。

 

 地面には芝生が植わっていて、大地の柔らかさと草の匂いを感じたのは久しぶりだった。

 

「どうしたの、急に」

「ここなら気持ちよく寝られそうだったから」

 

 山本さんは横向きになって俺と添い寝する形になっていて、これならベッドで寝るよりは抵抗はない。

 

「気持ちいいな」

「街中と違って気温も湿度も低くていいよね」

 

 ビル群に日差しが反射して蒸されるような暑さもなく、山の風は空気全体が動いて撫でられているようで心地良い。

 

 中学生になってから引きこもりがちだったけど、小さい頃は旅行好きの両親に連れられて色んなところに行ったんだった。

 芝生に寝そべって見上げる青空の遠さはあの頃と変わっていなくて、懐かしさを覚えるこの気分は、センチメンタリズムと呼ばれるものなんだろうな。

 

「日差しを浴びすぎるのも良くないし、中に入ろうか」

「うん、そうだね。美味しいの探しに行こ」

 

 立ち上がって土埃を払って、それから、向かったレストランでランチを食べて、博物館を回った。

 帰りのバスが出るまでの時間潰しのはずが、デートの終わりが迫るにつれて胸がザワついてきて。

 それは山本さんが彼女ではないからこそ湧き上がってきた、寂寥感と呼ばれる感情だった。

 

 まるで片想いの女の子と同じ班になって回った修学旅行の帰り道みたいに、現実に戻ってしまう虚しさと、それを避けようとする奇妙な焦りが、歪に絡んで心臓を締め付けてくる。

 

 そして俺は、山本さんと二人で下ってきたスロープを戻りながら思うのだ。

 

 『なぜ?』と。

 

 そう自分に問いかけた瞬間、俺は地面の底が抜けたような脱力感に襲われ、足をふらつかせて倒れかけた。

 

「大丈夫……!?」

 

 山本さんに支えてもらって、俺はどうにか踏ん張ることができた。

 

「ごめん、助かった。坂に躓いちゃって」

 

 どうにか誤魔化したものの、頭は混乱していた。

 

 脚の力が抜ける直前にやってきた、得体の知れない二つの違和感に同時に浸食されるような感覚。

 そのうちの一つは、俺がすでに同じものをどこかで感じたことがあった。

 

 直感的にわかっただけだ。

 実際にそれが何だったのかはわからない。

 

 一連の感覚を喩えるならば、熱湯と冷水を同時にぶっ掛けられて、気絶してしまいそうなほどの恐怖に耐え抜いた結果、ただ濡れているだけでなんともなかった、みたいな。

 そんな訳の分からない瞬間だった。

 

「気をつけてね。お借りしてる恋人に怪我させたら、美優ちゃんに怒られちゃうかもだし」

 

 山本さんは変わらず元気にニコニコしていた。

 せっかくのデートに水を差される形になったけど、こんな楽しい時間を無駄にするわけにもいかないな。

 

「山本さんに心配をかけた俺のほうが怒られるよ」

 

 山本さんの手を握り直して俺は坂道をまた登り始める。

 

 意識もはっきりしてるし、視界も良好。

 むしろ以前よりはっきり見えるぐらいだ。

 

「筋力不足かな」

「そんなことないんじゃない? ソトミチくん、むしろ運動とか得意そう」

 

 山本さんと駄弁りながら坂道を歩いて、言われてみると息も上がっていない自分に、我ながら驚く。

 昔から運動は苦手というわけではなかったが、エロゲばっかりやってた元引きこもりにしては体力があり過ぎるよな。

 

「すごいのは、ソトミチくんなのか、美優ちゃんなのか」

 

 山本さんの呟きに、そこでどうして美優が出てくるのかと疑問が浮かんで、すぐに美優の命令で筋トレを始めたことを思い出した。

 しかし、多少筋トレをした程度で、そんなに筋力が付くものかな。

 

「愛のパワーってやつなのかな」

 

 俺に尋ねるでもなく呟く山本さん。

 その言葉の意味を説明してもらったのは、バスに戻って二人で腰を落ち着けてからだった。

 

「愛のパワーって、俺と美優の?」

「正確には、ソトミチくんの美優ちゃんに対する愛かな」

 

 俺の美優への愛か。

 別の女の子とデートしておいてなんだが、そこいらのカップルには負けないぐらい愛している自信はある。

 

「ソトミチくんってさ、美優ちゃんがエッチしたいって言ったら、その前に何回抜いててもエッチできるんでしょ?」

「まあな」

 

 自分でも異常な体質だとは思うが、俺の性本能は美優の命令に強制服従する。

 出せと命じられても、出すなと命じられても、美優が本気でそう願えば俺の体は実直にそれを叶えるのだ。

 

「セックスできる回数って、性欲よりも筋力とか体力に依存してるから、たとえどれだけソトミチくんがエッチな男の子だったとしても、毎日複数回なんて絶対に無理なんだよ」

 

 微妙にツッコミたい部分はあったが、言い分には納得できた。

 俺がエッチをしてきた頻度はアスリートと同等か、あるいはそれ以上のレベルかもしれない。

 

「逆説的に俺の肉体も美優によって強制的に鍛えられていると」

 

 山本さんは頷いて、俺と肘をくっつけて、太腿を触ってくる。

 ちなみに、これまでずっと通路側だった俺はいま、窓側に座っていた。

 山本さんが譲ってくれたのだ。

 

「よりセックスに特化した身体に進化してるんだよ。学校で会ってた頃に比べても、目に見えて筋肉が増えてるもん」

 

 俺の肉体は知らずのうちに立派になっていたらしい。

 

「あと、こっちの方もね」

 

 予想していた通り──いや、期待していた通り、だったのか──、山本さんは俺の股間を手のひらで撫で回してきた。

 

 そろそろ、今日一日疑問に思っていたことを聞いてもいい頃だろう。

 

「今日は、エッチ禁止なんじゃ?」

 

 デートの内容は青春そのものだった。

 もしかしたら本気でしないつもりなのかも、という可能性も十分に考えた。

 しかし、結局のところ行きから帰りまで、ずっとエッチに関する話はしていたのだ。

 そして、今は下腹部を触られている。

 

「もちろん、ダメだよ……?」

 

 そう言いながら、山本さんは膨らみかけのムスコを優しく起こすように、なおも俺の股間を撫でて、瞬きで俺を誘惑してくる。

 

 これはダメじゃないパターンだな。

 

「ほんとにダメなのか?」

「私は……何回も、ダメって、言ってるよ」

 

 そうか責任を取りたくないわけか。

 そうしたい理由があるんだな。

 でもエッチはしたいんだよなこの様子じゃ。

 

 それなら俺だって望むところだ。

 俺だって昨日から抜いてなくて、睾丸を揺らせばたぷんと音がしそうなぐらいには精液が溜まっている。

 ここまでされたからには、挿れさせてもらうか飲んでもらうかしなければ気が収まらない。

 

「これから帰っても、まだ夕方の早い時間だよな」

「うん。そうだね」

「だから……その、だな」

 

 エッチは禁止と言われている。

 直接的な誘いは厳しいか。

 

「ほ、ホテル、とかは……今日は、あれか。ダメか」

 

 これじゃ直球勝負してるのと変わらない。

 

 くそう、なんて難しいんだ。

 これまでは誘われるがまま、流れのままだったから、ダメだと言い張る女の子を誘う方法がわからない。

 

「ホテルって、どんな?」

 

 山本さんはねちっこい声で問い返してくる。

 次第にその指先が、勃起したペニスを頭から根元までなぞるようになった。

 

「それは……あー……ら、ラブホテル……」

 

 引っ込みがつかなくなって正直に答えてしまった。

 わざとらしくても話題を変えるか、ビジネスホテルと答えてしまえばよかったのに。

 

 どっちでもやれることは同じなんだ。

 むろん、コンドームを買う都合はつけなければならないが、でも、この際フェラだけでも構わないし、なんならもう精液を飲んでもらうだけでもいい。

 

「んー? どうして、ラブホテルに行きたいの?」

 

 まだまだ俺に誘う余地を残してくれる山本さんからの再度の質問。

 そんなもの、セックスがしたいからに決まっているのだが。

 いまの山本さんにはそのお願いを承諾することはできない。

 

「まあ、カラオケ……とかでも、いいんだけどな」

「カラオケ?」

「そう、カラオケ。……が、やりたかったんだけど、ほら、どっちにも付いてるだろ? カラオケ。でもビジホにはない。だから、ラブホ」

「へぇ……そうなんだ」

 

 山本さんは人差し指と親指で俺のペニスを挟んで、クニクニとマッサージをしてくれる。

 血流も過剰なほど良くなって、まだ帰るのに数時間かかるのに、ヤル気は最大近くまで高ぶっていた。

 俺の脳のバックグラウンドではもう、サービスエリアのどこかでフェラ抜きしてもらえるところはないかと考えてしまっている。

 

「ホテルで、カラオケしたい?」

「したい! したい……!」

「エッチはダメって、私は言ったよね?」

「言った言った! わかってるから、ちゃんと」

 

 これまでどんな状況でもエッチを受け入れてくれた山本さんが意見を反転させるだけで、どうしてこうまでシたくなるのか。

 

 初めてだ。

 無理やり押し倒してでもセックスがしたいと思ったのは。

 

「ならいいよ。じゃあ、それまでは……」

 

 山本さんはスマホを取り出して、メッセージを一つ送ると、俺の端末に一枚の画像が届いた。

 そこには青春というタイトルで額縁に飾りたいほどの笑顔で写る、俺と山本さんの姿があった。

 

「次のデートプランについて話そうね、ソトミチくん」

 

 こんなに可愛い人と、楽しくて気持ちのいい思い出を、これからも作っていける。

 

「山本さんの浴衣姿とか見てみたいな」

「いいね、それ。脱がしやすいし?」

「も、目的は、お祭りとか花火だから」

 

 体を密着させて、小声で繰り返される会話。

 

「木陰に連れ込まれたりしたら、私、怖くて声が出せないかも」

「そうやって妄想を掻き立てられるとだな……」

 

 俺たちは、二人きりの空間にどっぷりと浸かり切って。

 

 バスが駅に着くまで、乗客も疲れて眠りにつくその間に。

 

 ごく自然な、カップルとしてあるがままの、なんの違和感もない時間だけが過ぎていくのだった。

 



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セックスは愛を注ぐ行為

 

 バスから下車した俺と山本さんは、まだ暗くなる前の街を歩いてラブホテルへと向かっていた。

 

 車内で二時間近く焦らされて、当然サービスエリアなんかに抜いてもらえる場所があるはずもなく、散々性欲を煽られまくった俺はもう山本さんとセックスさえできればいいぐらいの気持ちになっていた。

 

 バスに乗っている間にラブホテルの候補はいくつか見繕っていて、あとはそこに向かうのみ。

 ラブホテルに行くことを合意しておきながら「エッチはしないよね?」なんて初潮前の女の子でも聞かなそうな無理を主張する山本さんの腕を、俺は強く引っ張って早足で歩き続けた。

 

 勘違いしてもらっては困るが、イラついて乱暴にしているわけではない。

 こうして無理やり連れ込むみたいにすると、山本さんが喜びをひた隠しにしてエッチな顔をするので、もはやこれは前戯なのだ。

 かつてこれほど女の子がレイプ願望を持っていることを確信したことはないし、なんならこの場でペニスを挿入しても三秒で山本さんをイかせられる自信がある。

 

「満員の表示も出てないから、あそこで大丈夫そうだな」

 

 比較的新しいホテルには電光掲示板で『FULL』か『OPEN』の表示が出されていて、内部を伺うことなく部屋の空き状況を確認することができる。

 せっかくヤル気満々で女の子を引っ張ってきたのにエントランスで待たされたのではシラけてしまうからな。

 

 俺は入館して即スイッチを押し、受付で鍵を受け取ってエレベーターに乗り込んだ。

 山本さんはなされるがままに付いてきてモジモジしている。

 俺の勢いに圧されて淑女的な振る舞いをするようになった、この黒髪ロングがTシャツの出っ張りに乗っかっている淫らな美少女を相手に、俺は肺が浮くような加虐心に追い立てられていた。

 充血した肉棒はもはや勃起というより筋肉の隆起と表現したほうが適切に思えるほどギチギチに膨らんでいる。

 

 不思議な感覚だった。

 まるで美優を相手にしているかのように山本さんに欲情している。

 山本さんが美優と似ているからだとか、そんなどころのレベルではない。

 性欲が発散できれば誰でもいいわけではなくて、山本さんとセックスをして、山本さんの身体を使って射精がしたいのだ。

 

 朝から一日中一緒にいたはずなのに、今になって山本さんの整髪料の香りが漂ってくる。

 興奮のし過ぎで感覚器官が鋭くなっているのか、山本さんのうなじからほのかに漏れ出す汗の匂いまで感じ取ってしまって、俺の本能はその濃厚なフェロモンに激しく揺さぶられていた。

 目的の階へと上昇していくエレベーターの中で俺は山本さんにすり寄って、髪の毛の匂いを嗅ぎながらおっぱいを鷲掴みにするという変態じみた行動に出てしまうほどだった。

 

「ひゃっ……ソトミチくんっ……」

 

 驚く山本さんをよそに、Tシャツの丸みを下側から支え上げて、指をいっぱいに開いておっぱいを揉む。

 ペットボトル二本分を注ぎ込んだ水風船に近い重量感があって、両の指先から巨乳を揉んでいる実感が伝わってくる。

 その高揚感が下半身にまで届いて疼きへと変わると、いよいよ俺は我慢しきれなくなって山本さんのお尻にペニスを擦り付けた。

 

「あ、あんっ……ソトミチくん、ダメ……あっ……」

 

 自分で勝手に開発してしまったのでお尻が敏感になっている山本さん。

 ラブホテルに来たのはあくまでもカラオケをするためという建前があるので、こんな状況でも山本さんは形だけの抵抗を見せる。

 

 そんな約束は連れ込んだ時点で反故にしてしまってもよかったのだが、言い訳をして抵抗する山本さんに悪戯をするのは隷属させるのとはまた違った興奮があった。

 

「ごめん、エレベーターが揺れるもんだから、ついふらついて」

 

 こちらも言い訳をして合わせると、山本さんは「なら、仕方ないよね……」で済ませてくれた。

 どんな理屈でもこじつければ許してもらえそうなので、さっさと部屋に連れ込んでフェラをしてもらおう。

 

 エレベーター前には監視カメラもあるため俺は一旦山本さんを解放し、ドアが開くのを待った。

 山本さんがスカートを穿いていればもっと悪戯ができたというのに、今日はあいにくとパンツスタイルなので股座に手を突っ込むこともできない。

 エッチをする上でスカートというものがどれだけ偉大かを思い知らされた。

 次からはスカートを穿くようにお願いをしておこう。

 

 ラブホテルの中身が建物毎にそう変わることもなくて、部屋に入ると大きめのベッドを中心とした見慣れた空間が広がっていた。

 前と同じようにソファー近くに荷物を置いてから、山本さんは「疲れたから少し横になろっか」とベッドへ向かった。

 

「山本さん、待って」

 

 俺は山本さんに背後から抱き止めた。

 

「わっ……あ、はい……」

 

 次第に雄としての本能が強くなっていく俺に感化されて、すっかり雌になった山本さんは、ほわほわの乙女顔をして赤面する。

 

「そのズボン、シワになりやすそうだから脱いだほうがいいよ」

 

 山本さんを脱がせられればなんでもよかったので、適当な理由をつけてまずはズボンを下させる。

 本音ではエッチがしたい山本さんは何の疑問も挟まずに同意して脱いでくれた。

 床に落ちたそれを拾うついでに、肉厚な尻に食い込んだパンティを見上げると、クロッチの部分だけが違う色の作りなのかと思うほどそこは愛液に濡れていた。

 

「そんなに見ちゃヤダ……」

 

 山本さんは内股をすり合わせてアソコを隠す。

 なんでもしてくれる山本さんも大好きだが、やはり乙女の恥じらいは良いものだ。

 

「パンツもだいぶ汚れてるよ」

 

 俺は山本さんの腰に指をかけて、有無を言わさず脱がしにかかる。

 展開の早さに山本さんも何か言い訳を挟もうとしたようだが、俺がそれより早く山本さんのパンツをズリ下ろすと、観念して脚を開いてくれた。

 足首にかかるまでパンツが落ちると、アソコから糸を引いていた粘液を隠すように山本さんはまた膝を閉じて俺のほうを向く。

 

「ソトミチくんのも、ズボンが破けちゃいそうだよ」

 

 三角定規でも内側から当てているのかと思うほど立派なテントを張っているズボンは、腰周りを留めるボタンが弾けそうなぐらいに張り詰めていて、早く脱がないと本当に壊れてしまいそうだった。

 

「実はさっきから、トランクスのボタンが先っぽに当たってかなり痛くて」

「それは大変だね、ズボンもパンツも脱がないと……」

「屈むと痛みが強くなるから、脱がせてもらっていいかな」

 

 着々と進んでいくセックスの準備。

 山本さんとのやりとりはどれもエッチをするための建前ではあったが、ズボンを脱がないと陰部が怪我をしそうなほど勃起しているのは事実だった。

 どうしたことか興奮が凄まじい。

 山本さんを相手にこれほど欲情したことは今までなかった。

 

「そういうことなら、脱がせるね」

 

 竿が引っかからないように腰の布を引っ張って、ひと思いに脱がせてもらう。

 その直後に、自分でもわかるぐらいの汗と精液のニオイが部屋に広がった。

 

「はぁ……ソトミチくんの匂い、すごい……」

 

 俺のズボンを下ろすためにしゃがんでいた山本さんの目の前には、勃起した俺のペニスが反り立っている。

 無意識だったのか山本さんは鼻を亀頭に近づけて、その裏側に付着している粘液のニオイを嗅ぐと、顔を蕩かせて秘部からとろりと愛液を漏らした。

 

「だいぶ汗をかいたからな」

 

 この暑い時期に長いこと外で過ごしていたため、いつもより発汗量が多く、そこに山本さんの焦らしが加わった結果、パンツの中は雄のニオイで充満していた。

 

「ずっと窮屈そうだったもんね」

 

 自分でやっておいて他人事のように俺の肉棒を愛撫する山本さん。

 汗まみれのパンツの中で長時間勃起させられるのはかなりしんどかった。

 

「そのせいか、股のあたりが痒いような、ひりつくような感じで。もしかしたらかぶれたりしてるかも」

「そうなの? どうしたらいい?」

 

 山本さんは期待の眼差しで俺を見上げてくる。

 バスで焦らされたのは俺だけではなくて、山本さんも俺のペニスを咥えたくて仕方がなかったはずだ。

 

「デリケートな部分だから、できるだけ染みない方法で汗を取りたいかな。我慢し通しでもう限界だから今すぐお願いしたいんだけど」

「そう言われても……染みないようにって言われたら、人肌ぐらいの温度で触れるしかないし……今すぐって言われると……お口で舐め取るぐらいしか……」

 

 それぐらいしか思いつかない。

 そんなはずはないのだが、今の俺たちはそういう思考回路をしている。

 もうそれでよかった。

 

「なら舐めてもらっていいかな」

「ソトミチくんのためになるなら、したいけど……それだと、ふぇら……みたいで……」

「いいから。頼むよ」

「そ、そうだよね。急がないとだもんね」

 

 強引に迫った分は俺の責任になる。

 だから、山本さんは素直に願いを聞き入れてくれて、俺の腰を掴んでペニスに顔を近づけた。

 その嬉々とした従順ぶりに尻尾を振っているのが見えるようだった。

 

「どこを舐めればいいですか……?」

「いまは、ちょうど股の間が辛くて。足の付け根の内側のあたり」

「付け根っていうと、このあたりかな」

 

 山本さんは少し俺に足を開かせて、金玉の横側から鼻面を突っ込むと、舌を伸ばして俺の股下を舐め始めた。

 

「んっ……んんっ……へろっ……むちゅっ……」

 

 舌を出し入れして股の奥から陰嚢の裏までを丹念に舌で愛撫する山本さん。

 鼻から大きく息を吸い込んで、精液の臭気を堪能しながら、ペチャペチャと卑猥な音を立てて股座に顔を埋める。

 

「うっ……いいよ……山本さん……」

 

 山本さんのエロさはその容姿の艶やかさからくるものだけでなく、献身的な可愛さにドロドロの淫乱さを混ぜ合わせているからこそ強烈に性欲を掻き立てられるもの。

 

 その卑猥さは屋外でのエッチを通してさらに強まっていて、これほど乱れた姿を俺以外に見せたことはないだろう。

 そもそも、俺以外の男が相手ならバスでの焦らし行為すら耐えられず、射精をして終わってしまっている。

 山本さんからしても、俺がこうした行為が好きだというある種の信頼があるからこそ、ここまでの素を晒してくれるのだ。

 このエロさが俺が引き出した山本さんの魅力だというのならば、男としてこれほどまでに誇らしいことはない。

 

「もっと全体的に汗を舐めとってもらえると嬉しい」

「はむっ……うん……」

 

 山本さんは唾液が漏れそうなぐらい口を広げて睾丸を含み入れ、絶妙な愛撫で陰嚢全体を舌で舐め回す。

 常人なら痛みを与えてしまうであろうその行為も、山本さんにかかれば性感帯全体を刺激する絶技に変わった。

 

「山本さん……ああっ……すごい、イイっ……」

 

 山本さんが俺の玉袋を舐めて、勃起したペニスに遮られたその顔面に、悦びの表情が滲んでいる。

 鈴口からトロトロと溢れ出した先走り汁がツーと糸を引いて、山本さんの頬に垂れ落ちてもなお、山本さんは構わず玉フェラを続けてくれた。

 

 山本さんはパンツを脱いだだけで、Tシャツはまだ着衣したまま。

 上から見下ろすその姿はTシャツの裾でギリギリ秘部が隠れていて、そこからスラッと伸びた生足がほぼ丸見えになっている。

 なぜだかはわからないが、そんな絵面を眺めていると無性にムラムラした。

 

「や、山本さん……そろそろ先っぽの方も……」

 

 山本さんに思い切りフェラチオをして、いつもみたいに美味しそうにペニスにしゃぶりついてほしい。

 

「んっ……ちゅっ……、先っぽも汗でかぶれちゃった……?」

 

 もはやエッチをすることが最優先になった俺にとってはペニスを咥えてもらえればなんでもいいのだが、理由があってエッチを拒んでいる(ことにしている)山本さんとしてはそうはいかない。

 だから、どんな行為をするにも理由が求められた。

 

「それは、だな……」

 

 しかし、このやりとりを面倒なものだとは思わなかった。

 なぜなら、俺はあの美優とずっとエッチをしてきたのだ。

 むしろこうして謎の抵抗をされると燃えてくる。

 

「ボタンが擦れたせいか痛くて。股のとこは山本さんに舐めてもらって楽になれたから、竿もお願いしたい」

「そうなんだ。なら、頑張るね」

 

 山本さんは優しいので、ペニスが痛くなったら優しく舐めてくれる。

 我慢汁の滴る精液の出口を、山本さんはカリ裏まで丹念に舐ってから口に含んだ。

 

「あああっ……やっぱ、すごい……気持ちいい……!」

 

 フェラなら昨日もしてもらったはずなのに、山本さんもフラストレーションが溜まっているおかげか舌捌きがエゲツなくて腰がガクつくほどだった。

 射精をせずとも精子が少しずつ漏れ出していて、それを味わうように山本さんはディープスロートで竿の全体を吸い上げてくる。

 

「あっ……ああっ……ッ……!?」

 

 俺の身体に異常が起こり始めたのはそこからだった。

 いや、正確には、もうとっくに俺の脳はおかしくなっていて、それが肉体へと顕著に表れ始めたと言うべきか。

 

 射精しそうだった。

 山本さんの口内に精液を思い切りぶちまけたい欲望が噴き上がって、それと共に強烈な射精欲が俺の下腹部を襲っていた。

 

「ん、んちゅ……ちゅぶっ……ぐっ……ちゅっ……じゅるる……っ!」

 

 フェラをする大義名分を手に入れた山本さんは容赦がなく、一心不乱に俺のペニスを味わうことだけに集中している。

 隆々と屹立したペニスが根元まで山本さんの口に丸呑みにされているその景色が、俺の脳内を酷くエロティックにさせていた。

 

「ソトミチ、くんの……ふぐっ……んぶちゅ……じゅるっ……きょうは……ひゅごくおっきぃ……んっぐっ……」

 

 肥大化したペニスを、これまでないぐらいに苦しそうに、懸命にフェラをする山本さん。

 亀頭は喉に入りっぱなしで締め付けられ、裏筋はぬるっとした舌で撫で回されるのがはっきりとわかるぐらい、山本さんは力強く俺の肉棒をしゃぶっている。

 

 その様は飢えた動物のようでもあり、生殖と無関係の行為であるという面では非野生的で、フェラこそが人間特有のエロさであることを再認識させられた。

 

 そして、雌を孕ませることができるわけでもない口の中に、射精をすることも。

 

「じゅるっ……ちゅぶ、じゅるるっ……んっちゅ……んぐっ……!」

「ああぅあっ……山本さん……俺、もう……!!」

 

 限界をあっさりと超えてしまった。

 俺の体はいつもとすっかり変わっていて、今日は射精を我慢しなければならないのだと、そう悟った瞬間にはもう遅かった。

 

「出るッ……出るッッッ!!」

「んっ、んんっ!?」

 

 山本さんは驚いて、以前に空からイキを繰り返した俺のことだから、まだ耐えられる余裕があると判断して口を離そうとした。

 

 しかし、もう尿道にはカウパー腺液が打ち水のように塗り広げられていて、あとはもう精液が押し流されてくるだけの状態。

 脳からの発射命令は下っているし、Tシャツを着ている山本さんに精液を掛けるわけにはいかないという想いが強く働いて、気付けば俺は山本さんの頭を両手で掴んでいた。

 

「出すよ、山本さん……飲んで……!!」

「んんんーー!! んっー?!」

 

 ドピュドピュッと遠慮なく山本さんの口の中へと放出された精液は、無許可で口内射精したという事実を認識した瞬間に爆発的に興奮が高まり、追い打ちのように濃い精液を山本さんの舌に垂れ流していった。

 

「うっ……ううっ……んぐっ……!」

 

 俺のペニスを奥まで咥えたまま、頬を膨らませないと溜めきれないほどの精液を出されて、山本さんは肺を引き攣らせながら俺の射精を受け止めた。

 しかし、

 

「うぶっ……げほっ……!」

 

 山本さんの反応も予想だにしないものだった。

 俺の精液をどうにか飲み込もうと頑張っていた山本さんが、手のひらを器の形にしたかと思うとそこに精液を吐き出してしまったのだ。

 

「ううっ……ごめん……」

 

 気管に入ってむせたわけではなく、拒絶反応から吐き出してしまったようだった。

 手の受け皿に溜まった白濁液を、それでも懸命に飲もうとする山本さんだったが、体が拒絶してしまっているので口を近づけることもできない。

 そんな山本さんの姿に俺も申し訳なくなって、何としてもごっくんしようとする山本さんをなだめて洗面所にまで連れて行った。

 

「あぁ……ソトミチくんの濃いのが……」

 

 蛇口を捻って山本さんの手を水で洗い流す。

 分離させた卵の白身を捨て去るように、ドロっとした半透明の液体が排水溝へと消えていった。

 

「ほんとにごめんね」

 

 ベッドに連れ戻した山本さんは意気消沈して力なく俺に抱きついてきた。

 俺が飲んでもらうのが好きだからというのもあるだろうが、山本さんまでもが精液を飲めなくなったとなれば、あとはもう俺の精液を口で処理できるのは美優だけになる。

 そのあたりの悔しさなんかもあったのだろう。

 

「不味すぎて飲めるものじゃないってみんなに言われてるから」

「そうだけど……なんで今日は飲めなかったんだろう……」

 

 意気消沈する山本さんの疑問に、俺の脳内では一つの答えが出ていた。

 

 俺の精液を飲んだときに言われる「苦い」には味覚としての不味さの他に、俺の精子が体に合わないために引き起こる生理的な拒否反応がある。

 

 味だけが問題ならどれだけ苦くても山本さんは笑顔で飲み込んでくれただろうが、残念ながら俺の精子の適合者は美優しかいないようで──美優は俺の精液を不味い不味い言うが吐き出そうとする素振りすら見せたことがない──、俺が興奮して濃い精液を出すほどみんな極端に苦さを感じるようになる。

 

 これまで山本さんが飲めたのは、俺の射精に美優をオカズにした負い目があったからで、つまりはまだ飲める程度の薄さだったというだけのこと。

 

 それが飲めなくなったのであれば、その結論は至極単純なところに落ち着く。

 

「山本さんのこと、好きになりすぎたのかも」

 

 山本さんが好きすぎてかつてないほど精子が出てしまったという以外になかった。

 

「へっ……?」

 

 涙を引っ込めて驚く山本さん。

 俺が相手を好きになるほど精液が苦くなるという関係性は、山本さんの頭の中でもすぐに結びついた。

 

「じゃあ、その、おっきいのも……ソトミチくんが私のこと好きってこと……?」

 

 山本さんは射精前と変わらない勃起を維持する俺のペニスを指差す。

 

 それについては俺も戸惑っていた。

 まるで薬でも飲んだかのように肉棒が怒張している。

 こんなにも竿が重たくなったのは、美優を相手にしたときでさえあったかどうか。

 

 ただ、ひとつ確実に言えるのは、山本さんと植物園を回っていたときに感じたトキメキに似た何かが、俺の性欲を突き動かし続けているということ。

 

 だからきっと山本さんの言う通り、俺は山本さんが好きで勃起している。

 

「山本さん」

「は、はい」

 

 俺は山本さんの両肩を掴んで、そのフィギュアのように可愛らしい顔と美しい体を眺める。

 美優とは違って、がっしりとした体型に搭載されたその肉という肉は、見るだけで柔らかさがわかるほどにキメ細かくて色っぽい。

 万人を慈しむような優しい目尻の曲線も、あらゆる欲望を受け止めてくれそうなふくよかな乳房も、いまはもどかしいほどに魅力的に映る。

 

「山本さん。俺……」

 

 ビクンビクンと猛る俺の肉棒。

 この女性とセックスしたいと性本能が叫んでいる。

 

「山本さんが好きだ」

 

 これまで伝えてきたものとは違う。

 衝動からくる「好き」の告白だった。

 

「それは…………あー……う~…………」

 

 山本さんはデレっとした顔をゆるゆるにして、それから両手で顔を隠す。

 何かを聞きかけたようだが、それを上回るほどの照れ恥ずかしさがあったようだ。

 

 純情に染まって足をバタバタさせる山本さんと、ヤりたい衝動を抑えきれない俺と。

 男女の悲しい宿命である。

 

「山本さん。そこに寝て」

 

 俺は山本さんの体を倒して、ベッドへと横たえる。

 俺が上半身を入れて山本さんの脚を開かせると、その意図を察知したのか、山本さんはごくごく軽い力で俺を押し返した。

 

「そ、ソトミチくん、わかってる……? さっきのは、結果的に出ちゃったけど、今日はエッチ禁止だって……」

 

 満更でもなさそうに、それでも抵抗しないわけにもいかない山本さんは、正常位の形になってしまっていることに一応の異を唱える。

 

「山本さんが可愛い過ぎて。本当はバスに乗ってるときから山本さんとセックスすることしか考えてなかった」

「ふぇ……えぇ……」

 

 山本さんはニヤけたいのを我慢して、むず痒そうな真顔で歪んだ口を閉ざす。

 

 こうして俺が抑えきれなくなってセックスに至るのは計画の範疇だったはずだが、それでもこれだけ新鮮な反応をしているのは、山本さんも自分の感情がこれほど揺さぶられると思っていなかったからだろう。

 あんな手練手管を持っているくせに、本気の恋には純情なところも山本さんの可愛いところだ。

 

「だから、これから山本さんとセックスする」

 

 俺はティッシュ箱の上に置いてあったコンドームの袋を一つ取って、中身を取り出す。

 

 山本さんは緊張した面持ちで、ゴムの装着が完了したペニスに視線を落としていた。

 

 そうして、俺が山本さんに覆い被さり、亀頭が蜜口に沈もうかというときだった。

 

「待って。それは挿れたら、ダメな予感が……」

 

 山本さんが秘所を両手で押さえて行為を中断する。

 これまでの形だけの抵抗とは違って、明確に躊躇している喋り方だった。

 性欲の限界だった俺はその意味を深く考えることもなく、イキリ立ったイチモツを山本さんの膣内へと挿入した。

 

「ああっ……ぐっ……あっ、ああんっ!!」

 

 直後、山本さんは背中を反って嬌声を上げた。

 それはほとんど絶頂に近い感じ方だった。

 

「ひゃっ、あっ、だめ、ああっ……ん、ああっっ!」

 

 久しぶりの山本さんの膣肉の柔らかさに、俺は歓喜のあまり腰を何度も打ち付けていた。

 以前よりも山本さんの感度が格段に良くなっていることなど気にすることもなく、山本さんの体の大きさに対して丁度よいサイズになったペニスを肉壁いっぱいに擦り付けて、猿のように盛った腰の動きで肉槌を打ち下ろす。

 

「山本さん……気持ちいい……ッ!! あああっ……山本さん……好きだっ……もっと……イッて……!!」

「んぁあぅっ……んっ、あっ、あっ、あああっ、だめ……いひゃ、らぇ、ひゃっ……ああんっあっ!!」

 

 ペニスを奥深くまで突き刺せば、先端に子宮の硬さを感じる。

 そこを何度もノックして絶頂の催促を入れると、山本さんはその要望に応えるようにイキ狂った。

 

「まっ、まって……これ、ちがっ……あっんんっ……きもひよひゅぎぃっ……ああっん、あああぅぁあっ!!」

 

 久しぶりのセックスがそんなに気持ちいいのか、山本さんは快楽に溺れるのを恐れるように、俺の体を押し返して抵抗する。

 その意思にノーを突きつけるように山本さんの腕をベッドに押し付けて、あとはめちゃくちゃに腰を振るだけで山本さんはイッた。

 

 セックスを止めようとする腕の動きとは真逆に、俺のペニスに快楽責めされている山本さんの下半身は素直になっていて、両脚は俺を逃すまいと腰に巻きついている。

 もう男の生殖器を受け入れてしまっているのだから素直になってしまえばいいのに、なぜか山本さんは無意味な抵抗をし続けている。

 

「ひゃぁ、ら、らめっ、ああんんぐっ、あっ……んんあああっ、あんっ、あ、あああっ!! そ、とみちっ……くんっ……とめ、ひぇ、ああっんっ、ああっ、ひゃっ、んああああっ!!」

 

 ペニスを出し入れすれば山本さんがイく。

 その享楽に浸ってしまってた俺は、山本さんのビクビクと痙攣する体を愛おしく抱きしめて、山本さんのお願いも、自らの筋力の疲労さえ無視して、ただひたすらに山本さんを犯し尽くした。

 

「山本さん…………山本さん……ッ!!」

 

 なによりその衝動は熱烈な愛情によって生まれていた。

 今日までのデートを通して山本さんに抱いた好意の全てをぶつけなければ気が済まなくて、俺は繰り返し想いを叫びながらセックスを続ける。

 

 そうして、山本さんの喉から乾いた音が聞こえ始めた頃に、自然とやってきた射精の衝動。

 

「ううぁあっ……山本さん、もう……ダメだっ……イキそう……!!」

「ぁあぁっ……ゅぐっ……イッ……アアッ……そ、とみちっ……くんッッ……んンンッ!!」

「もう出すよ、山本さん、あ、ああっ……!!」

 

 最後は腕の力いっぱいに山本さんに抱きついて、俺はその柔らかな肉に包まれながら山本さんの膣内で射精をした。

 さきほど山本さんの口に出した量を超える精液がコンドームに注がれたのだと、ペニスを抜いて確認しなくとも体感でわかるぐらいの射精量だった。

 

「うっ……ううっ……ん、あっ……」

 

 山本さんは俺の射精後もしばらくイキ続けて、ペニスを引き抜くと愛液と空気が一気に漏れ出してグジュりと下品な音を鳴らした。

 いまの山本さんにはそれを恥ずかしがるほどの余裕すらない。

 

 そんな息絶え絶えの山本さんを見下ろして、俺の背中には冷たい汗が流れていた。

 

 形だけの抵抗をする山本さんと、なんだかんだで楽しくイチャラブセックスをするだけのはず。

 それなのに、俺はいつしか山本さんを犯すことだけに夢中になっていた。

 

 それはこれまで由佳を相手にやってきたことと同じように。

 

 女の子を強引にイかせまくることだけを目的とした一方的なセックスだった。

 

(こ……これって……)

 

 コンドームを外して、なおもそそり立つ剛直を目にしたとき、俺は戦慄した。

 

 俺が山本さんのことを好きになったのは事実で、その想いがこれだけペニスを肥大化させているのは間違いない。

 

 だが、それだけではなかったのだ。

 美優に調教された俺の体は、形式上とはいえ山本さんをレイプすることになったとき、山本さんへの好意を相乗効果として交配欲求を爆発的に昂らせた。

 

 美優の指示で由佳を犯した、あのときのように。

 

「はぁ……うぅぅ……ソトミチくん……」

 

 ようやく意識のはっきりしてきた様子の山本さんが体を起こす。

 

「ソトミチくんのエッチ、すごすぎて、私……」

 

 山本さんは何かを言いかけて、そして、俺の勃起したままの肉棒を視界に入れると、わずかに奥へと身を回避した。

 

「ソトミチくん……どう、しちゃったの……?」

 

 まるでサイズの変わらない肉棒に、山本さんも怯えている。

 

 本来であれば俺がこうして性欲を持て余すのも山本さんの計画通りだったはずだ。

 ここに至るまで散々俺を煽ってきたのは、こうして無理やりセックスをさせられたかったからに他ならない。

 

 俺が性欲を抑えきれなくなって、山本さんに迫って、情けなく腰を振る俺を宥めながら、最後には愛のあるセックスをする。

 

 そうしたシチュエーションを思い描いていたのに、現実は獣の如き暴れっぷりで快楽地獄を味わわされた。

 

 結果として、俺から本気の恋を引き出そうとした山本さんが、それに成功してしまったがために墓穴を掘ったことになる。

 

 偶発的にそうなったわけではない。

 おそらくは、ここまでが美優が思い描いていた図式のうち。

 山本さんが直前になってセックスを止めようとしたのは、計画外に絶倫状態になった俺を見て、この身体に仕込まれた美優の作意を感じ取ったからだったんだ。

 

「自分でも、不思議なんだけど」

 

 それを理解したところで、山本さんが好きな想いと、犯したい欲望は変わらなかった。

 俺はどうしたって山本さんが好きで、そのことになぜか一切の負い目がなくて、このパンパンに血液が詰まったペニスでもっと山本さんの膣内を掻き回したかった。

 

「山本さんのことが可愛くて仕方ないんだ」

 

 俺は枕の上に座る山本さんに近づいて、二個目のコンドームを手に取った。

 そして、迷わずにそれをペニスへと装着する。

 

「それは、嬉しいけど……今日はエッチ禁止だから……!」

 

 山本さんは俺の脇を抜けて、四つん這いになって俺から距離を取ろうとする。

 俺はその後を追いかけてお尻を鷲掴みにした。

 

「とりあえずこれだけ鎮めさせてくれ」

「そとっ、ソトミチくんは、そういう人じゃないよね!?」

 

 山本さんの言う通り、俺の人間的本質はマゾ寄りなので、これは美優の策略によって後付で与えられた性的衝動だ。

 それは俺が山本さんを相手に自然と射精していることからも証明されている。

 

 だからこそ一層にタチが悪い。

 俺がそこに免罪符を見出してしまうからだ。

 

 要するに、これは美優本人と、美優を本気にさせた山本さんが悪いので、俺のレイプは正当化されるということ。

 

「すぐ終わらせるから。挿れるよ、山本さん」

「え、あ、だめっ……だめえっ……!」

 

 雄の生殖器を欲しがるようにグパッグパッと伸縮する蜜口に、俺は後背位で肉竿を挿入した。

 

「うっ……はあぁぁ……! 気持ちいい……っ!」

「あああんっ、あっ、ああアアッ……!!」

 

 挿れた瞬間から体をガクつかせて、支える力を失った山本さんの腰を持ち上げてペニスを打ち付ける。

 

「あっ、ひやっ、だめっ……! こんなのぉ……だめ、なの……ああん、んあ、ああうぅっ!!」

 

 自らの肉棒の硬さを顕示するように。

 山本さんの柔らかい膣肉の隅々にまでペニスを擦りつけて、抉るようにストロークさせていく。

 もとより体力があったわけでもない俺は、呼吸も筋力も限界近くなって、それすら快感になって山本さんを犯し続けた。

 

「ああううぅ……あっ……ああアアっ……ひぃ、ああぁぅ……ああンンッッ!!」

 

 快楽が脳天にまで響き渡ってしまっている山本さんは、言語らしい声を発することもできなくなった。

 そんな堕ちた姿がまた愛らしくて、まだまだ俺のペニスがパンプアップされていく。

 

「ひぃぁああっ、ん、あああっ……!! ああひぃいうんぐっ、がはあふっ、んあっ……ああんんうぅあっ……!!」

 

 ひと突きするごとに山本さんの嬌声が更に激しくなり、涙に頬を濡らしながら悶絶する山本さんの表情を見て、どうしようもなく堪えがたい射精欲が湧き上がってくる。

 それでも即座に射精にまで至らなかったのは、この体がまだ山本さんを犯し足りないと感じていたからだった。

 

 それはもはや使命感のようでもあり、しかしその実態は、美優が俺の体を使って間接的に山本さんを犯していると言うほうが適切だ。

 俺一人の力でこんなに山本さんをイキ狂わせられるはずがない。

 だから、こんなにも簡単に山本さんがイクようになったのは、俺のせいではなく美優のせいだ。

 

 それだけではない。

 強引に俺を引き剥がそうと思えば山本さんになら簡単にできたのに、山本さんはそうしなかった。

 たとえそれが確実に美優への敗北に近づくとわかっていても。

 つまりは山本さんは、もう俺とのセックスがやめられないぐらいに俺のペニスに嵌ってしまっているということ。

 

 故に、完全無罪。

 完全合意のレイプだ。

 

「ああんあっっ……あひぁああぐっあっ……!! んんっ、んあぁううぅあっ……アアッ、ンンンぁああっ!!」

「山本さん……イッて……もっと……!!」

 

 そこにはもはや相手を気持ちよくしようなどという気遣いはなく、俺は更に数十分をかけて山本さんを犯した。

 

 山本さんは四つん這いの姿勢も維持できなくなってベッドに沈み込み、それでも俺は寝バックの体勢で強引にペニスをねじ込んで、全身をプレスするようにピストンを繰り返す。

 

 そして、大袈裟ではなく山本さんの絶頂回数が百を超えた頃。

 山本さんは全身を痙攣させる力さえなくして、そこで俺はようやく射精に向けた挿入として、ペニスの重さをすべて子宮に叩きつけながらコンドームの中に精液を撒き散らした。

 

「あっ……ああっ……ぅっ……」

 

 目も虚になった山本さんをうつ伏せのままベッドに寝かせる。

 ペニスを引き抜くと、先端に精液が溜まりすぎていたのかコンドームが外れてしまい、膣口からはポコポコと中出しをしたかのように白濁液が流れ出てきた。

 それをティッシュで拭ってきれいに取り去ったところで、俺は全身の疲労感にベッドに倒れ込んだ。

 

 今日だけで体に蓄えていたエネルギーのすべてを使い切ってしまった気がする。

 明日になれば筋肉痛で二日は寝たきりになりそうだ。

 

「うっ……トイレ……」

 

 しばらくして意識を取り戻した山本さんが、なんとか体を起こして、まずはベッドの縁に座った。

 

 そして、脱衣所の奥にあるトイレに向かおうと、立ち上がった。

 

 そのときだった。

 

「えっ……わっ……! うそ……ッ!?」

 

 筋力の一切が言うことを聞かず、数秒ほど脚をプルプルとさせて持ち堪えていたものの、山本さんは耐えきれずに床にペタンと座り込んでしまった。

 

「やっ、ヤダっ……待って、あっ、ダメッ……!!」

 

 緊迫した声に切なさが混じって、山本さんはシャツを両手で思い切り下に引っ張るが、そんな行為に意味はなく。

 

「どうした!?」

 

 俺が駆け寄ったとき、山本さんは泣いていた。

 顔を真っ赤に染め上げた本物の羞恥からくる涙だった。

 

 床一面が水浸しになっていて、その範囲はなおも広がり続けている。

 山本さんは口をギュッと一文字に結んで俯いていた。

 

「あっ……、と、とりあえず、タオルを……!」

 

 俺はとっさに脱衣所からタオルを取ってきて、湯上り用のバスタオル一枚を残して他を床に敷いた。

 ほんのりとレモン色が広がり重たくなっていくそれを、なんとも言えない気分で俺は見つめる。

 

「うぅ~……ソトミチくん……」

 

 潤んだ目で俺を見上げる山本さん。

 そんな顔をされても俺にはどうしようもないのだが。

 

 もう自力で立ち上がることもできなくなった山本さんの腕を引っ張り上げて、ふとももから伝う聖水──山本さんは聖女なので──を気にしないようにお風呂場まで連れて行ってから、俺は給湯のボタンを押すだけしてまたベッドルームへと戻った。

 

 山本さんがシャワーを浴びている最中に洗面所とベッドルームとを何度か往復して、最後には消臭剤を撒いてどうにか気にならない程度に掃除を終わらせる。

 もう疲労困憊でこのままベッドで寝てしまいたい気持ちを振り払い、風呂場の様子を確認することに。

 

 山本さんは広いお風呂の端っこで、まるで田舎によくある正方形の風呂桶にでも入っているかのように、小さく膝を折って体育座りしていた。

 

「入ってもいい?」

「うん」

 

 大丈夫かと聞くのも忍びなく、しかし一人にしておくよりは何か紛らわせたほうがいいかと思ったので、俺も一緒に入ることにした。

 

 シャワーで軽く汗を流してから、山本さんの正面に、俺も膝を折って風呂に入る。

 

「はぁ」

 

 落ち込んではいるが怒っている様子はない。

 まあこの人を怒らせるなんて相当なものだろうが。

 

「まさかこの歳でおしっこを漏らしてしまうなんて……」

 

 山本さんは湯船の床を指で詰りながら呟く。

 美優のときみたいにトイレでならここまで落ち込むこともなかっただろうが、ホテルのカーペットを水浸しにしてしまったとなれば心の傷も相当に深いだろう。

 

「もうお嫁に行けない」

 

 山本さんはちょっぴり恨めしそうに俺を横目で睨む。

 美優のように本当に心にくるような厳しい目ではなく、可愛らしく不満を訴えかけてくるようなその表情は、男心がくすぐられて嬉しくさえなってしまう。

 

「ソトミチくんが責任を取ってくれたら何も問題はないんだけどね」

「そうしたい気持ちはあるんだけどな」

 

 俺のその返答に、山本さんはごく僅かな落胆の色を顔に滲ませて、それからまた普段通りの優しい雰囲気に戻った。

 

 山本さんが泳ぐように俺に近づいてきて、膝を突いて脚を伸ばすように要求してきたので、それに従うと山本さんは俺の膝を跨いで両手を俺の首の後ろに回してきた。

 

「どうだった? 無理やりシた感想は」

 

 山本さんは意地悪な顔でそう訊いてくる。

 どうにもバツが悪くて俺は目を横に逸らし、それでも好奇心の収まらない様子の山本さんはずっと見つめてきた。

 やがて俺も観念して答えることに。

 

「してる最中は楽しんでたのかもしれない。でもやっぱり俺は、山本さんに優しく抜いてもらうほうが好きかな」

「男の子って挿れてるほうが好きなんじゃないの?」

「普通の人はそうなのかもな。俺は経緯が特殊だから、本番行為にそれほどロマンは感じないというか」

 

 俺にとっての初エッチは、美優の口に精液を注ぎ込んだあのときだ。

 佐知子に童貞を貰ってもらうまではずっと自分でシゴいて美優に精液を飲んでもらっていて、だから俺にとってはその行為が特別な意味を持ってしまい、挿入以上に興奮するプレイになっている。

 

「そうなんだ。でも、私もなんだかんだで、ソトミチくんにご奉仕してるほうが好きかも」

 

 山本さんはフッと笑って、俺の身体に胸からお腹まで手を滑らせていく。

 やっぱり山本さんと言ったらこの包み込むようなエロスだ。

 

「挿れてもらってると、愛は感じるけどね」

 

 山本さんは綺麗な瞳で正面から俺を見つめてくる。

 

 山本さんにとってまともな本番の経験は俺しかない。

 だからそう感じられた相手も俺しかいないわけで。

 それが恋人としての愛だったかはわからないけど、俺が山本さんを大切にしている気持ちはたしかに伝わっていたらしい。

 

 それをこれからの人生で形にしていけないのは申し訳なくもあり残念でもある。

 

 俺には、そう思えるだけの余裕があった。

 

「今回も美優ちゃんにしてやられちゃった」

「俺もこうなるとは自分でも予想外だったよ」

 

 俺は間違いなく山本さんが好きで、その山本さんは誰もが羨む美人で、そんな子が全裸で俺と触れ合っている。

 そのうえに、山本さんも俺のことが好きで、他では味わえないほどの極上の性快楽もセットにしてそれを伝えてくれている。

 

 にもかかわらず、俺はただ、それらのことを冷静に認識しているだけだ。

 

 それが意味することなんてもう一つしかない。

 

 俺はこの天才的で比類なき美の女神を相手に、精神的優位に立ってしまっている。

 その結果として、俺の山本さんが好きな気持ちは強まる一方、感情は俯瞰しているというか、落ち着き始めていた。

 

 愛を深めながらも恋を遠ざけるを実現した一つの形。

 美優の指示を受けていた俺自身、こんな風になるなんて思ってもみなかった。

 

「でもね、ソトミチくん」

 

 山本さんも今日の結果がどうなったかは理解しているはず。

 それでも、山本さんはいつもと変わらない様子で、その顔には偽りのない笑みが浮かんでいた。

 

「それでもまだ、ソトミチくんは私か美優ちゃんか、あるいはその両方を選ぶことになるんだよ」

 

 山本さんが語った不可思議。

 選ぶという行為に付随する、俺が迷う余地がそこにはまだあるのだと、そうはっきりと口にした。

 

「どういう意味なんだ?」

「んふふ。美優ちゃんとデートすれば、思うところがあるんじゃないかな」

 

 山本さんはそう言って、俺の手を引っ張って立ち上がった。

 風呂からはもう出るようなので、栓を抜いて脱衣所に戻り、バスタオルを使い回しして体を拭いてから着替えることに。

 

 美優とのデートについては、昨日も妙なことを言われたっけ。

 山本さんとデートするほど楽しくはならない、というのが本当であれば、たしかにそれは大問題だし、あるいは山本さんを必要とする可能性にもなるかもしれない。

 そりゃ美優は山本さんほどイチャラブはさせてくれないだろうが、美優とのデートには美優とのデートなりの楽しさがあるはずだ。

 

「ところでソトミチくん」

 

 二人が着替え終わったところで、山本さんはベッド横の湿ったカーペットを一瞥してから口を開いた。

 

「私がお漏らししたのは、絶対に誰にも言わないでね」

 

 いつにない強い目つきで山本さんがお願いしてきた。

 

「もちろん、口外するつもりはないよ」

「ほんと? 誰にもだよ? 美優ちゃんにも言っちゃダメだからね? 墓まで持っていってね?」

 

 山本さんはグイグイと体を寄せて念押ししてくる。

 立ち直ったようでまだかなり気にしているらしく、このダメージはしばらく引きずりそうだ。

 

「わかった、わかったから」

 

 この美貌にしてお漏らしをする女子高生だなんて、また山本さんの魅力が増してしまったわけだが、これは本人には言うまい。

 

「ソトミチくん」

 

 念押しにじとーっとした目で山本さんに見つめられる。

 俺はこうした思考が表情に出やすいのだろうか。

 気をつけなくては。

 

 ホテルを出て、帰りのバスに乗り込んだ俺たちは、二人席に並んですっかり暗くなった夜空を何気なしに眺めていた。

 

 美優の指示もあって色々とやってきたわけだが、山本さんはこの状況に何を思っているんだろう。

 当初は恋を満足させるためにイチャラブして、今では俺と本気の恋をするためにデートをして、その未来にはまだ俺と暮らしていく道を見出しているわけだが、どうにもそこに山本さんらしさが感じられない。

 

 今日のデートもとても楽しかったし、山本さんらしい一面もたくさん見れたわけだけど、それは“もし山本さんと付き合えたら”という仮定に基づく非現実であって、平常の生活リアルではないんだ。

 言葉悪く言えば、美優から俺を奪おうとしているわけで、成否のいずれであれ山本さんが心から望む結果が得られるとは思えないのだが。

 

「次のデートはどうするんだ?」

 

 俺が尋ねると、山本さんは真っ暗な窓に映る俺と目を合わせて、それからこちらに向き直った。

 

「どこかテーマパークに行きたいな。海が近くて、景色のいいところ」

 

 楽しそうに答える山本さんに、陰りのようなものは見えない。

 

「アトラクションメインより、ショーとかがある方がいいのかな」

「あ、そうそう。花火が上がるとこなんかがあれば、ソトミチくんと一緒に見たいなーって」

 

 山本さんはウキウキとした笑顔で、あれやこれやとしたいことを口にしていく。

 俺は罪滅ぼしになるのであればなんだってやるつもりだが、はたして山本さんは本当に今を楽しめているのだろうか。

 

「山本さんはさ、美優のことはどう思ってるんだ?」

「ん? それは私と美優ちゃんが勝負みたいなことをしてることへの質問?」

「まあ……そうなるな」

 

 さすがに見透かしてくるか。

 核心を聞かせてくれるのであれば願ってもないことだが。

 

「そうだなー。ソトミチくんの奪い合いになっちゃってはいるかな。それが望まれてたし、今となっては美優ちゃんにとっても必要なことだから」

「美優のためにやってるように聞こえるな」

「今となっては、ね」

 

 山本さんは人差し指を立ててウインクする。

 これまでのデートは、山本さんに一方的に押し付けられた、失恋までの執行猶予のはずだったが。

 

「美優ちゃんは私のために。私は美優ちゃんのために。お互いを想って、本気でソトミチくんを狙ってるの」

「俺の立場は……?」

「可愛い女の子二人に取り合いされて幸せじゃない?」

 

 山本さんはさも当たり前のように切り返す。

 以前にもそんな理屈を平然と並べ立てる女がいたな。

 

「仮に俺が山本さんのことを好きになりすぎて、もう離れて暮らせないってなったら、どうなるんだ?」

「それはもちろん、美優ちゃんは身を引いてソトミチくんを差し出すか、三人で生きていく道を選ぶことになると思うよ?」

「えっ」

 

 それはない。

 あれは義理に厚い生き物だから、しばらくの期間は俺の体を他の女の子に預けているけれども、独占欲は人一倍に強くて、本人だって俺が他の人とセックスするのは絶対に嫌だと言っていたんだ。

 

「お互いに全部が計画通りじゃないんだよ。それぞれに予想外があって、その過程で、自分の将来のために必要なことに気づいて。それは私と美優ちゃんが本気になって、初めて手に入るものだから、こうなってる」

 

 最初っから置き去りにされっぱなしだったというのに、まさか知らずのうちにそんなところまで行っていたとは。

 それが事実ならこれまでの山本さんの言動にも説明はつくが、なんだってそうややこしい解決しかできないんだあの妹は。

 

「そこに勝ち負けがあるとなったら、ソトミチくんは美優ちゃんがどんな人間かはよく知ってるよね?」

「生半可な覚悟ではやらないだろうな」

 

 犠牲なく相手に同じレベルのものを求めない。

 それが人生に関わる大事なものであっても。

 美優はそういう人間だし、そういう生き方しかできない。

 一般人の価値観とは覚悟の度量が違う。

 

「大変な妹を好きになってしまったものだ」

「男前だよね。だから私、美優ちゃんのことは、大好きだよ」

 

 それが最初の問いへの返答。

 二人は決していがみ合ってはいないんだ。

 いまはそれがわかっただけでも良しとするかな。

 

「デートができる日はまた後で連絡するよ。とりあえず数日は筋肉痛で動けそうもない」

「自分で処理できなくても美優ちゃんがいるもんね。私のことをデリバリーしてもいいけど」

「ほんとにそういう貞操観だけは希薄だな……」

 

 俺の周りに真っ当な女の子はいないものか。

 

 佐知子かな。

 今は佐知子が恋しい。

 

「あ、いま浮気した?」

「もうそんなこと言ってられる状況じゃないと思うが」

「ふふっ。そうだね」

 

 俺は背もたれに体重を移して長く息を吐く。

 

 美優にとって必要なことって何だろうな。

 きっとまた俺が気付かなきゃならないことなんだろうけど。

 直接それを言わないってことは、実感が持てなければ意味がないものなんだ。

 

 それが美優とデートをすればわかることなら、そうするまで。

 俺は美優と恋仲なのだから、まず誰よりも美優とデートするべきだ。

 

 むしろなぜまだしてないんだ俺は。

 いや俺のせいか。

 決断力の無さを他人のせいにしてはいけないな。

 よし次は誰が何と言おうと絶対に美優とデートするぞ。

 水族館と温泉のデートだ。

 

「んっ……ふぁ……やばい、眠気が……」

「起こしてあげるから寝てもいいよ」

 

 優しく頭を撫でられて、霞んでいた視界が暗く狭くなっていく。

 

「ねえ、ソトミチくん」

 

 明らかに図ったタイミングだった。

 その言葉に反応する必要を与えず、俺にその意味を考えさせないために。

 

 俺が眠りへと誘われる直前、山本さんは穏やかな声音で呟いた。

 

「本気の恋に懸けられるのは、同じ価値の一人だけなんだよ」

 

 お互いのための奪い合いだなんて、どれだけ体のいい形容をしようとも、それは決して水を浴びせ合うような微笑ましいものではなかった。

 

 この二人が求める互いに足りない何かが、いったいどんなものなのかはわからない。

 それでも、いまの俺には、そのために俺が求められていることはわかる。

 

 そのどちらもが俺にしか与えられないものだというのなら、この体はいくらでも使ってもらおう。

 

 そして、俺も考えるんだ。

 

 この大切な二人を幸せにする、最善の方法を。

 



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美優と山本さん

 

 物事はより多角的に捉えるべきだ。

 

 やり方が常人の倫理観にそぐわないというだけで、美優は間違いなく俺を助けてくれている。

 俺一人では山本さんを傷つけて距離を置くしかなかったところを、美優が手伝ってくれているからこそ、みんなが幸せになる道があるのだと信じることができた。

 

 そもそもの話、この事態は俺が妹をオカズにしないと抜けないという体質だからこそ引き起こったのであって、だとしたら俺は協力するのではなく、むしろ当事者としての意識を持たなければならない。

 

 意外と難しいことではないのかもしれない。

 美優にとっては最後に俺に選ばれることが幸福につながっている。

 そこさえ守れば美優の幸せは保証されるのだ。

 

 それを前提として、俺が最後に山本さんに美優を選ぶと伝えたときに、笑顔で送り出してもらえるような、そんな関係を……あるいは、思い出を、山本さんと作っていけたらいい。

 

 そんなことを、俺は天井を見上げながらボヤッと考えていた。

 

(う、動かん……)

 

 仰向けに寝たまま腕の一本も上げることができずにいた。

 どうにか指の関節が曲がるというぐらいで、他は全身麻酔でもかけらているのかと思うほど動かない。

 昨日の山本さんとのセックスで肉体の限界を超えてピストンを続けた代償は想像以上に大きかったようだ。

 

「こんこーん。お兄ちゃん起きてますかー?」

 

 その元凶である妹が俺の部屋にやってきた。

 幼い頃からなぜかノックをするときに擬音を口にする。

 癖なんだろうか。

 

「起きてるよ」

「あ、ほんとだ」

 

 ドアの隙間から顔を出して様子を伺ってくる。

 頭を一本に編んで、もうお出かけをする格好になっていた。

 

 昨日は帰ってからすぐに寝てしまったし、時計を確認することもできないのでどれぐらいの時間を寝ていたのかもわからない。

 おかげで美優ともほとんど話せなかった。

 俺のくたびれた様子を見て何があったのか大体のことは把握したようだったが。

 

「って、美優、出かけるのか?」

「今すぐ出るわけじゃないけど、遥のところには行く予定だよ?」

 

 それは困る。

 非常に困る。

 何せ今の俺は全く動くことができないのだ。

 食事はともかくとしてトイレがやばい。

 

「首から下がまるで動かなくてな」

「あら大変」

 

 あら大変、じゃないぞ妹よ。

 このまま出かけたら俺の部屋が大惨事になる。

 

「少しも動かせないの?」

 

 美優が俺の真横まで近づいてきて、床に膝をつく。

 遥と会うときには甘々コーデにする美優の巨乳フリルが眼前へとやってきてドキドキしてしまった。

 

「頑張っても立ち上がるのは難しいな」

「えー。じゃあちんちんに管でも通しとく?」

「もうちょっと穏やかな発想はできないのか……」

 

 俺が美優におあずけをくらっている分だけ、美優も俺とのスキンシップする機会も減っている。

 なので最近しばらくはドライモードだ。

 

 まあこっちの美優も好きなのだが。

 

「ほんとに動けない?」

「動けない」

「いまだけ私のおっぱいを好きにしていい言っても?」

「残酷な質問をするものじゃない」

 

 美優は柔らかな胸部の膨らみをベッドの縁に乗せて、俺の目の前でたゆんたゆんと上下に揺らす。

 手を伸ばせば鷲掴みにできる距離にあるのに、何もできない己の無力さが悔しくて仕方なかった。

 

「えっ、全身どこも動かせないんだ」

「だからそう言ってるだろ」

 

 ようやくわかってくれた妹に、どうにか救済の手を差し伸べてもらえないかと、俺は寝ながらに目で訴えかけた。

 

「なんだかそうまでなるとイタズラがしたくなるよね」

「いや知らんが何をするつもりだ」

 

 美優にイタズラをされるなんて初めてのことだ。

 怖いようで楽しみなようで緊張してくる。

 

「まあエッチな内容なんだけど」

 

 おおよそわかり切っていたことを口にすると、美優はスッと姿勢よく立ち上がり、スカートに手を入れてパンツを脱いだ。

 その人差し指に引っ掛けられていたのは、小さなリボンの付いたピンク色の可愛らしいパンツだった。

 

「まさかそれが取れたらくれるとか」

「それは考えてなかったけど。お兄ちゃんはまだこんなものが欲しいの……?」

 

 美優はもはや蔑むでもなく俺を見下げてくる。

 その“こんなもの”が欲しいんだよお兄ちゃんは。

 さあ早く妹のパンティをおくれ。

 

「いまならスカートをめくっても怒らないよ」

「マジか!?」

 

 あまりの衝撃に俺は叫び、そして続けてやってきた腹筋への激痛に俺はまた叫んだ。

 あれだけ秘所を見られるのを拒んだ妹が、こんな明るい場所でその割れ目を拝ませてくれるなんて、この先の人生でも一度あるかどうか。

 

「いくらこの兄が相手とはいえそこまでするとは……マジでやるからな……」

「いいよ。まだ出かけるまで時間があるから、お兄ちゃんで遊んであげるね」

 

 美優はこれみよがしに自分の手でスカートをヒラヒラさせて、かろうじて中が見えないように風を送ってくる。

 しかも楽しそうにするでもなく真顔で煽ってくる感じが余裕たっぷりで、余計に腹立たしいというか見下げられている感じがするというか、もうとにかく生意気な妹だった。

 ここは兄としての威厳を見せつけてやらねばならない。

 

 しかし、そう思うその心の傍らでは、妹のスカートをめくるのに命を掛ける兄ってどうなんだろうと冷静になる自分がいないでもなかった。

 

「スカートめくれたら、そのまま舐めてもいいよ」

「なんだと……!!」

 

 美優が手を口に添えてコソコソと、耳打ちにとんでもない提案をしてきて、俺は全てを投げ出して脳からあらゆる神経にパルスを送った。

 

「うぉおっ……おおおっ……いづあっ、あぁぁ、痛い痛い……ってかちっとも動かない……!!」

 

 どれだけ命令を送っても返ってくるのは痛みだけだった。

 やがて頑張る体力すらも底をつき、俺は再びベッドへ沈んだ。

 

 下半身の一部だけは元気になった。

 

「そっちは動くんだ」

「悲しいことにな」

 

 時間があるならセックスをお願いしたかったが、この状況では美優が主体に動くしかないのでどっちにしても断られていただろう。

 昨日あんだけ山本さんとしたのに、何を考えてるんだかな。

 

「もし俺が動けたら舐めてよかったのか?」

 

 舐めるのだけは頑なに拒んできた妹だ。

 そう簡単に許せるはずもない。

 

「そもそもお月の物の期間なので」

 

 そうだった。

 完全に騙された。

 

「もし期間外だったら舐めてよかったのだろうか」

「約束した以上は舐めさせてたけど、その日からお兄ちゃんのことをちょっとずつ嫌いになってたと思う」

「そんなに嫌なのか……」

「仮に明日お兄ちゃんが死ぬとしてもイヤ」

 

 美優は何事もなかったかのようにパンツを穿き直して、それから、どことなく後ろめたそうにチラッと俺に視線を落とした。

 

「ん……まあ、死ぬ前ぐらいは、舐めさせてあげるけど」

「死ななきゃ舐めさせてもらえないとはな」

 

 これが優しさと呼べるものかは不明だが、どことなく美優の心の暖かさに触れた瞬間だった。

 

「生理用にしては随分と可愛いパンツなんだな。てか脱いで大丈夫だったのか?」

「これは特注で遥から貰ったやつ。血は常に出続けるものじゃないから大丈夫だよ。私は比較的コントロールできるほうだし」

 

 そんなものなのか。

 女の子の体はよくわからんな。

 コントロールができるならやはり舐めさせてもらえたのではないかとも思ったが、まだ俺の知らない女の子の秘密がありそうなのでやめておいた。

 

「ところでトイレの問題は何も解決してないんだが」

「あっ、そうだった。奏さんに来てもらおっか。あの人なら嬉々としてお世話してくれそうだし」

「そんなに暇ではないと思うけど……」

 

 美優が連絡したところ、「おっけー! すぐ行きます!」とのことだったので、山本さんが来ることになった。

 

「いいのか? 俺の部屋に呼んで」

「色々あってね」

 

 美優は何を考える様子でもなくスマホをいじっている。

 恋人になった俺が他人に触れられるのは美優も嫌だと、はっきりそう口にしていたのにこれはどうしたことか。

 山本さんだから特別に許されているんだろうか。

 

「山本さんがさ、俺を取り合うのは美優との勝負だって言ってたけど、いつの間にそんなことになってたんだ?」

「そうなの? 私は何も聞いてないけど」

「だって昨日山本さんがそう……」

 

 たしかに口にしていた。

 俺が山本さんと一緒に過ごしていくことを望めばその通りになるとさえ言ったんだ。

 そんな勝負が何の言葉も交わさずに始まるわけがない。

 

「考え方によっては、そうとも言えるかも? 私がお兄ちゃんをけしかけてるからには、もし二人が両思いになったときに『やっぱりあげません』って言うのは卑怯じゃない?」

「言わんとすることはわかる」

 

 つまりは明確な合意で始まった勝負ではなくて、美優の覚悟の決め方が自然と勝負の形にさせているだけか。

 そういや山本さんも、勝負してると言い切ったわけではなかったからな。

 

「とはいえそうなるなんて微塵も思ってないけどね」

「そこは信頼してもらって構わないよ」

 

 あくまでも目論見通りにならなかった場合の美優の責任の取り方の話だ。

 失敗するなど美優は思っていないし、だからこそそれを勝負だとも考えない。

 

「私としては奏さんが本気になってくれればそれでいいの」

「全力でぶつかれば山本さんも満足するって話か?」

 

 少なくとも俺と山本さんはそう考えている。

 というより、でなければここまで俺と山本さんをイチャイチャさせるわけがない。

 

「そうなんだけど、ニュアンスがちょっと違くて」

 

 美優は正座して俺と顔の高さを合わせる。

 

「奏さんってさ、完璧超人なのに、普段は天然というか、おっちょこちょいな印象じゃない?」

「たしかにそうだな。たまに見る本気の山本さんは凄いけど」

「そこが要点なんだよ」

 

 美優は食い気味に話を切り込んでくる。

 

「奏さんは過去のトラウマのせいで、努めて普通の女子高生でいる。それでも何をやっても一番の山本さんは、いつも『その気になればできる』で生きてるわけですよ」

 

 なるほど言われてみると思い当たる節はあるし、かつて資料室で山本さんに悩みを打ち明けてもらったとき、その秀で過ぎた体を呪って、自分はごく普通に生きたいのだと口にしていた。

 

「それで美優は“傲慢”だって言ったのか」

 

 俺の脳内で紐付いたその情報に、美優は肯く。

 俺は聖母のような山本さんと接している時間が長かったからそのイメージばかりを持ってしまっていたが、よくよく思い返してみればあれは自分の可愛さをよく理解している要領のいい気さくな美少女だったな。

 

「そんな奏さんにとって、お兄ちゃんは自分に興味を持たなかった稀有な存在で、初めて付き合う前にフラれた男で、今ではその恋も手放せないほど惚れ込んでる初恋の人になってて……、まあ、手放せなくしたのは私なんだけど」

 

 そうだろうな。

 あの優しい山本さんを暴走させてあまつさえその行為を肯定し続けたのは他ならぬ美優なのだから。

 山本さんも見えていながら飛び込んだ罠だったとはいえ、ここまで深みにハマるとは思ってもみなかっただろう。

 

「要はね、奏さんが身を引いたとしても、奏さんの中でお兄ちゃんが『その気になれば手に入ったはずの相手』でい続けるのが、私は嫌で。中途半端に関係が終わったら、お兄ちゃんの中にもわだかまりが残るだろうし。私はそういう一切を排除したいの」

 

 なんという我が妹の逆ラオウとでも言うべき不遜ぶりよ。

 完璧主義というか、潔癖症なのか。

 

 そういやいつだか、この作戦は俺と気兼ねなくイチャイチャするためのものだって言ってたけど、そこは当初から変わってなかったんだな。

 

「だから奏さんには本気を出してもらって、その上で徹底的に負かすことにした」

 

 目をキッと細めて、しっとりと美優は言い放つ。

 もう俺を独り占めにするのをやめたのかと思っていたら、とんでもない独占欲の塊だった。

 

 もとより、俺とイチャイチャし続けることで山本さんが俺への恋に満足するなんて、美優は微塵も思ってはいなかったんだ。

 全力を出し切った山本さんを負かさなければ、山本さんが真に満足することはないと理解していたからこそ、美優はそれを引き出すために俺の体を山本さんに預けた。

 

「それにね」

 

 美優は一呼吸を置いて、俺と視線を交える。

 

「私たちは少しでも多くの人に祝福してもらわないといけないから」

 

 不意に溢した、美優のその意味深な言葉は、あるいはこれまで話してきた中で一番重要なことだったのかもしれない。

 

 由佳を相手にやってきたことも、これから遥へ恩返しをしに行くこともそうだが、美優はいずれお互いを忘れ去ってしまいそうな微妙な距離感での別れを許さない。

 それがどれだけ都合の良い、強欲な願いだったとしても、この妹はそれを真っ当なこととして叶えてしまう人間だということを、俺はこの数ヶ月の間で知ってきた。

 俺が当事者の自覚を持たなきゃならないことって、存外そのあたりなのかもな。

 

「……負かすって意味じゃ、昨日のでだいぶはっきりした勝敗がついた気がするよ」

 

 俺がやるべきは、山本さんと円満にお別れすること。

 まずはそれを完遂することに集中するべきだ。

 

「そうなの。もう大部分は完了してるんだよ」

 

 美優は両手でチョキチョキと指を動かす。

 どうやらそのジェスチャーが完了の意味を表しているらしい。

 

 思った通りあれは美優の狙い通りだったんだな。

 でも、まだ山本さんには余裕がありそうだった。

 美優にとっても解決しなければならない課題があるとか言ってたけど、それは美優がさっき呟いたことだったのだろうか。

 なんか、そんな感じじゃなかったんだよな。

 

 ……あるいは、美優も自覚していないことなのか?

 

「あ、奏さんが着いたみたい」

 

 美優のスマホのバイブが鳴って、ディスプレイには一件の通知が表示されていた。

 

 山本さんが家に来たらしく、美優が玄関にまで出迎えにいく。

 

 ほんとにこの部屋に山本さんが来るのか。

 なんだか、今までになく緊張するな。

 

「昨日ぶりだね、ソトミチくん」

 

 ドアを開けて、山本さんが手を振りながら部屋に入ってきた。

 

 見慣れたはずのその姿も、俺の部屋という景色には溶け込めずにいる。

 自分の部屋に女の子を呼ぶことなんてそう無いことなんだけどな。

 佐知子も由佳も俺の部屋を使ったことがあるし、これで関係を持った子たちはみんな俺の部屋に呼んだことになってしまった。

 

「見ての通りマグロでして」

 

 美優が俺のことを手で指し示して山本さんに状況を伝える。

 

「見事なマグロだね」

 

 肩出しニットを中心に大人っぽいコーデの山本さんが髪をかき上げて俺を覗き込んでくる。

 美人二人に見つめられて、動かない体が余計にガチガチに固まっていた。

 

「で、具体的に私は何をすればいいの?」

「まずはトイレとご飯を。お昼からの事はお任せします。夜遅くなるかもしれないので、もしお兄ちゃんが回復しないようなら面倒をみといてください」

 

 美優の説明を聞いて、一日中俺のことを好きにできるとわかり、山本さんは楽しげに「この前のお勉強の続きでもしよっか」と囁いてきた。

 

 さてこの状況、すでに山本さんとの決着は付いているらしいのだが、俺はどう接するべきだろうか。

 美優がわざわざこの部屋に呼んだぐらいだから意味はあるはずなんだが、肝心の着地点がわからないのでどう山本さんを誘導すればいいのかもわからない。

 

「ソトミチくんはおしっこしたい?」

「尿意はそれなりには」

 

 昨日は即寝して、朝からすでにこの状態だからな。

 膀胱にはかなりの量が溜まっている。

 

「出すものはある?」

「ペットボトルならありますよ」

「ならハサミとテープで作っちゃおうか」

 

 勝手に不穏な方向へと話が進んでいって、思わず「えっ」と俺の口から声が漏れる。

 

「なあ、山本さんなら、俺を担いでトイレぐらい行けるんじゃないか……?」

「えーむりだよー女の子だし」

 

 山本さんがわざとらしくできないアピールをする。

 倍の体重がある人でも運べるぐらいの力はありそうなものだが、なぜ尿瓶スタイルにこだわる必要がある。

 

 世話をされる側なので文句も言いづらい。

 

 そうこうしているうちに美優が2リットルのペットボトルを持ってきて、底面をハサミで切り落として切り口をテープで塞いでいった。

 

「はい、じゃあパンツを脱ごうね」

 

 山本さんが簡易尿瓶を持って笑顔で俺のパンツに手をかける。

 

「待て待て待て待て!」

 

 介護とご奉仕は紙一重。

 そのエロさには明確な隔たりがある。

 これは明らかに介護であってエロくない。

 俺が美少女だったのならまだしもこの状況は全くエロくない。

 俺が美少女だったらよかった!

 

「お兄ちゃん、無駄な抵抗はやめて奏さんにお任せしないと。口しか動かなくてもやりづらいんだから」

 

 そしてこの場面に妹まで加わる始末。

 お前は早く遥のところに行け。

 

「おしっこしましょうねー」

 

 山本さんは布団を剥がして問答無用でパンツをずり下ろし、俺の下半身を露出させる。

 あまつさえ妹の目の前で。

 これ以上の陵辱行為があるだろうか。

 

「あっ、小っちゃい」

「小さいですね」

 

 その言葉にグサリと傷ついた心臓がセメントでも流し込まれているかのように重たい拍動をした。

 

 勃起すればそれなりのモノにはなるようになったものの、縮こまっているときは皮に包まれてしまうので、小さい状態を見られる恥ずかしさは変わらないのだ。

 

「どんぐりみたいで可愛いよね」

「萎れてくのがいつ見ても不思議でして」

「男の子ってどんな感覚なんだろ。いまだと3センチぐらい?」

「定規当ててみますか?」

「やめろ……!」

 

 こいつら争ってるとか言うわりには仲良く人のペニスで遊びやがって。

 もう涙を堪えるので精一杯だ。

 

「はーい、それじゃあしーしーの時間ですよ。ここに上手に出しましょうね」

 

 山本さんが俺の体を横にして、そこにペットボトルで作った尿瓶を当てがう。

 まるで赤ん坊をあやすような言葉を使って。

 

 そして、俺が放尿するのを、二人が観察していた。

 

「どうしたのかな、ソトミチくん。まだ出なそう?」

「お兄ちゃん早く」

 

 丸っこいちんちんを撫で撫でする山本さんと、膀胱を押して強制的に排尿させようとする美優と。

 対照的な二人に俺はいじめられていた。

 

 何がどう拗れてこうなったのか。

 俺にはもう訳がわからない。

 

「ソトミチくん」

「お兄ちゃん」

 

 同時に呼びかけられて、軽く放心状態だった俺が二人の方を見ると、そこには想像もしなかった表情が並んでいた。

 

 いまこの部屋にいるのは、俺がお漏らしによる屈辱を与えてしまった二人なのだ。

 

 それがどれぐらい恨まれているのかは知る由もないが、「まさか女の子にお漏らしをさせておいて自分だけ出さないわけがないよね?」と言わんばかりの目で二人が俺を責め立てていた。

 

 どちらの件も、あれは偶発的なものであって、俺のせいではない。

 しかし、結果してそうさせてしまったからには、俺も責任を取らないわけにもいかず。

 

 俺は涙と一緒に流した。

 屈辱の放尿を。

 その瞬間に立ち込めるニオイと、ボトルに跳ねる音が、俺の自尊心を少しずつ奪い去っていった。

 

 なるほど、これが俺のような元から惨めだった男ならいざ知らず、プライドの高い美少女二人にさせてしまったとあっては、罰を受けないわけにもいかなかったんだな。

 

「あー……」

 

 そこからしばらくのことは記憶から消した。

 そして、なんやかんやがあってひと段落してから、俺はパンツを穿かせてもらえたのだった。

 

「美優ちゃん、今日は可愛い服を着てるね」

「遥と会う時はだいたいこんな感じなので」

 

 それから美優と山本さんの間で会話が始まった。

 そこにはガールズトークとしての壁があって、俺は口を挟むことも出来ずミノムシのようにジッとしていた。

 

「美優ちゃんの部屋、見てもいい?」

「構いませんよ」

「やった。例の服も見せてよ」

「それはちょっと……」

 

 まるで姉妹のように親しげに話す二人は、俺の部屋を出て隣へと行ってしまった。

 

(寂しい……)

 

 美少女二人と同じ部屋となれば、三人プレイでイチャコラタイムが始まるものだと、世の男性諸君なら誰もが予期したことだろう。

 だが残念ながら今回はそんな嬉しハプニングは起こらなそうだ。

 

「きゃー美優ちゃんおっぱい大っきい!」

「実は最近また胸が……」

 

 壁越しに美優の部屋からキャッキャうふふな声が聞こえてくる。

 非常に気になる内容だが、さすがに全てを聞き取ることはできなかった。

 

 二人っきりで随分と楽しそうだ。

 エッチができなければ俺は無用ということだろうか。

 

 最近思うのだ。

 俺って体目当てで求められているのではないかと。

 いやあれだけ可愛い女の子が相手ならそれでも十分な幸福だと言えるのだが、いざ自分がその方面に満たされてしまうと、もっと人として見てほしいというか。

 

 山本さんが俺に伝えてくれた『好きなところ』を信じるのならばそんな心配をする必要はないのだが、こう現実を突きつけられてしまうと思わずにはいられない。

 

 俺ももっと面白みのある人間だったらよかったな、と。

 

 美優と比較するのは我ながら酷なことだとはわかっていても、部屋の中身からしてもう美優の方は面白の宝庫というか、俺だってもっと美優が部屋にどんなものを置いているのか知りたいし、ノートひとつ取ってもどんな文章を書いているのか非常に興味がある。

 

「あ、ソトミチくん。戻ってきたよ」

 

 そんなことをうだうだ考えている間に山本さんが俺の部屋に戻ってきた。

 どうやら美優は遥のところへ出掛けたらしい。

 

「さて、どうしよっか」

 

 山本さんは俺の前にしゃがみ込んで、短いスカートからチラリと白いパンツを覗かせた。

 今日はパンツの日なのか。

 

「美優とはどんな話をしてたんだ?」

「んふふ。内緒」

 

 山本さんはニヤニヤしながら立ち上がり、勝手に俺の机にある教科書類を物色し始める。

 

 美優とずいぶんと仲が良いもんだな。

 しかし、なぜだろう。

 もし美優と山本さんが本物の姉妹だったとしたら、俺の人生はだいぶロクでもないものになっていた気しかしないのは。

 

「こんな状態でも俺は勉強ができるんだろうか」

「それを色々模索してみるのだよ」

 

 山本さんはベッドに戻ってくると、受験生向けの漢字問題集を俺の目の前にかざした。

 

「俺は腕が動かせないんだが」

「私が書くから、その読みを答えるの」

「ほう……。して、どこに書くのかな」

「ソトミチくんの胸板とか、おへそのあたりを、こう……指で……」

 

 やっぱりエロい女じゃないか。

 

「いやね、別に今日はエッチをするつもりはないんだよ? ソトミチくんもそんな感じだし、この部屋でエッチなことするのも、なんだか美優ちゃんに悪いし」

 

 そういう配慮はあるわけだな。

 

「俺はずっと生殺しなんだが……」

「そこは、ほら。後で出すべき人に出してもらえばいいというか」

「それはそうか」

 

 射精してくれる人がいる幸せ。

 それを当たり前のものだと思ってはいけない。

 世の男子ならば、いや数ヶ月前の俺だって、渇望するほどにその存在を求めていたのだから。

 

「……今更、なんだけどさ」

 

 山本さんが本を床に置いて、小さい声で喋りかけてくる。

 

「ソトミチくんと美優ちゃんって、ほんとにそういうことしてるんだよね」

「ま、まあな」

 

 言わんとしていることはわかる。

 話ではいくら聞いたことがあっても、実の兄妹がこのベッドの上でまぐわっているなど想像するのは難しい。

 それも、ついさっきまで親しげに話していた少女と、目の前にいるクラスメイトの男の二人だ。

 仮にそれがただの友達同士だったとしても、行為に及んでいると知れば顔を逸らしたくもなるものだ。

 

「なんか……すごいよね……」

 

 ほんのりと赤面する山本さん。

 美優に抜いてもらっていると伝えたとき、最も驚いていたのも山本さんだった。

 中学生組の性事情が異常なだけで、あれが普通の反応なんだけど。

 

 そういうモヤモヤがあって今は手が出しづらいのかもしれない。

 

「あっ……それともお腹空いている?」

「そうだな、いつも朝は食べる習慣だから。何かしら入れておきたいかも」

「なら、腕によりをかけて作ってくるね」

 

 山本さんは足取り軽く部屋を出ていった。

 もしかしたら、俺と一緒に作りたかったりしたのかな。

 それは思い上がりだろうか。

 

 それから、ご飯を食べさせてもらって、山本さんが言った通りエッチはなしで勉強の時間を過ごしていた。

 俺は美優の計画のために何ができるのかと考えたものの、結局は俺らしく山本さんに接しているのが一番だという考えに至り、これまでと変わらない団欒を楽しむことに。

 

 一人でも多くの人に祝福されるようにと言った美優の言葉を聞いて、山本さんが好きなままの俺でい続けることが大事なのではと考えたからだ。

 それは美優に指示されていた内容と変わらないけど、その意味を理解できただけでも大きな進歩だと思う。

 

「ソトミチくんさ、腕も動かないの?」

 

 しばらくスキンシップをしたりしなかったりしながら勉強を続けて、ずっと寝返りも打てずにいる俺に山本さんが聞いてくる。

 

「動くような気がしないでもないんだが、細い枝でも刺さっているような感覚というか、変な痛みと怖さがあってな」

「そうなんだ。そしたら、マッサージしてみよっか」

 

 山本さんは俺の腕を取って布団の上に乗せ、丁寧に肩から指先までを揉み始める。

 

 筋肉痛に対してマッサージが良いとは言えないが、ここまで動けなくなっているのはもはや筋肉痛の問題だけではないようで、そのマッサージはなかなかに効果的だった。

 

「最初は痛かったけど、かなり楽になったよ」

 

 おかげでどうにか腕は動くようになった。

 その様子を見て、山本さんは足のマッサージへと移行する。

 

「うあっ……ッッ!?」

 

 山本さんが太腿を押した瞬間に焼けるような痛みが全身を駆け抜けた。

 腕に関しては支えをなくした山本さんの腰を上げるのに使っていたぐらいだったが、脚と腹筋は延々激しい運動をし続けていたため、その消耗の具合は比ではなかった。

 

「こっちはまだ難しいかあ」

 

 山本さんは脚へのマッサージを諦め、それでも楽しげに教材を持ってきた。

 

「腕が動くようになっただけでもよかったね。これで文字は書けるし」

 

 ベッドの縁に両手を着いて、ニットに形作られた二つの膨らみを腕に挟む。

 

「私のおっぱいで漢字練習でもする?」

 

 やはり基本エロいことしか考えない人だ。

 

「悪い女教師め……」

 

 そんな誘いを受けてしまっては下半身がピクピクと反応してしまう。

 やはりここは美優が帰ってくる前に一度抜いてもらえるようお願いするべきでは。

 

「えいっ!」

「ぐほっ……?!」

 

 山本さんが俺に飛び乗ってきて、俺は二十秒近く呼吸ができなくなった。

 その見た目以上に重量感がある山本さんが飛び乗ってきた衝撃は美優のときの比ではなく、肺にあった空気は一瞬で全て押し出され、内臓の迫り上がりすらリアルに感じた俺は本当に死ぬかと思った。

 

「そんな大袈裟な反応しなくても」

 

 小恥ずかしそうに咳払いをする山本さん。

 言っておくが下手をすれば肋がイッててもおかしくなかったからな。

 

「実はこんなこともあろうかと水性ペンを持ってきておりまして」

 

 俺の手に渡されたマジックペンには、確かに水性の二文字が書かれていた。

 いったいどんな事態を想定したのやら。

 

「こっちのほうが書きやすいかな?」

 

 腰に両手を伸ばした山本さんは、服の裾を掴んで下乳のあたりまで引き上げた。

 そこには引き締まったボディに必要な脂だけを乗せた、スベスベした書きやすそうな肌が露出された。

 

「おや」

 

 山本さんは体を捻って、その下にある物を興味深そうに見つめる。

 

「こっちは相変わらず元気だね」

 

 ズボンの上から指でツンツンされて、その棒の形状がはっきりと浮き上がる。

 

「小さいのも好きだけど、私はやっぱりおっきくなってる方が好きだな」

 

 屈託のない笑みでそう語る山本さんに、俺まで嬉しくなってしまって、それと同時に性欲もムクムクと湧き上がってきた。

 

「今日も、エッチは禁止なんだよな」

「それは抜いてほしくなっちゃったってこと?」

 

 そういう意味で間違いはない。

 

「別に禁止ってわけじゃないけど。ほら、美優ちゃん連絡するとは言ってたけど、急に帰ってこないとも限らないじゃない?」

 

 もしエッチをしている最中を目撃でもされたら、この後のことがどうなるかもわからない。

 そんな心配をしているらしい。

 

「それなら大丈夫だよ。美優はあえて口にしたんだと思うし。そういうのは絶対に守るタイプだから」

 

 美優は口約束でも線引きを曖昧にしたままにはしないからな。

 あの中学生組とのあれこれがあったからこそ、そんな美優の人格を知ることができた。

 あれはあれで有意義な期間だったわけだな。

 

「信頼されてるね」

 

 山本さんは目を伏して呟く。

 その言葉遣いにほのかな違和感を覚えたのは、気のせいではなかったのかもしれない。

 

「で、お腹で漢字練習はやるのか?」

 

 とんだエロ勉強法だが、モチベーションを高めるという一点においては非常に理に適っている。

 ……もしかして、もう一般に普及されている勉強法なのだろうか。

 

 そんなはずないか。

 

「それがね、実際にこの体勢になってみてわかったんだけど」

 

 山本さんは両手で胸の丸みをなぞってから、そのくびれたウエストに沿ってストンと落とした。

 

「自分の胸が邪魔で、ソトミチくんが何を書いたのかわからないんだよね」

「じゃあダメじゃないか……」

 

 水性ペンこんなものまで用意しておいて、なぜそこは事前に予行演習しておかなかったのか。

 

「いやね、私が上の服を全部脱げば、おっぱいをこう、ブラインドみたいに開くだけで覗けるわけですよ」

 

 なるほど全裸での予行演習はしていたようだ。

 偉いぞ山本さん。

 どことなく美優っぽさが出てきている気がするけど。

 

「脱ぐ?」

「ぬ、脱いでみようか」

 

 そして誘惑に逆らえない俺である。

 

 山本さんは美優のことを知ったからか迷いなく上半身の衣類を脱ぎ去った。

 ブラジャーに支えられた胸の丸みも好きだが、重力に引っ張られて少し平らみを帯びたおっぱいも堪らなく良いものだな。

 

「そしたら、試しに何か書いてみる?」

 

 山本さんが軽く背中を反ってお腹を張る。

 もうそれだけでエロい絵面になるのだからズルい人だ。

 こうして寝ながら見上げると、山の頂に突起が二つあって、やはりこの景色はいつ見てもいいものだなと想いに浸ってしまう。

 

 てかもう勃起がビンビンでキツい。

 

(フェラを、してほしい……っと、やば……)

 

 ほんの冗談のつもりが、くっきりと黒文字で山本さんの体に『フェラ』と書いてしまって、女の子を汚してしまった感覚がゾワっと後悔と興奮を湧き上がらせた。

 

「ソトミチくん……」

 

 何を書かれたのかなんて、確認するまでもなく山本さんにはわかってしまい、むっつりとした視線で俺は見下ろされていた。

 

「ソトミチくんお勉強する気ないでしょ」

「いや、ほら。せっかくだし、勉強ばっかしてると勿体無いかなって」

「もー。しょうがないんだから」

 

 山本さんは前傾姿勢になると、俺の両腕を膝に挟んで、その豊かな果実をぶら下げた。

 

 デカい。

 あといい匂いがする。

 

「いったい、何を……」

「ソトミチくんがエッチなことばっかり考えてるから、ちょっとお仕置きというか、イタズラがしたくなってきて」

 

 女の子ってみんなそうなのか。

 

「ふふふっ。今日はこの時間しかおっぱいを吸わせてあげませんよ、ほれほれ」

「うぉっ……ぉおおお……っ!!」

 

 ピキピキと悲鳴を上げる腹筋に鞭を打って、ギリギリ届かない位置に用意されたご褒美を口にしようと必死に体を起こす。

 

 しかし、筋という筋が切れそうなぐらいに力んでも体は一ミリも上がらずに、俺はまたしても惨めに敗北を喫したのだった。

 

 この数分でいくらか首が伸びた気がする。

 

「ソトミチくん一生懸命で可愛い」

「くっ……」

 

 俺はまた妹を相手にしたときと同じ失態を繰り返してしまった。

 しかし、こればかりは我慢ならないのだ。

 たとえ一度は味わったことのあるものだとしても、これだけ大きいおっぱいを目の前に晒されては、吸い付かずにはいられないのが男というもの。

 

「そしたらご要望通りフェラをしてあげるね」

 

 さすがは山本さんというか、エッチをするとなったらノリノリだった。

 

 反対向きになった山本さんは、お尻を俺の顔の辺りまで下げて、四つん這いの体勢になる。

 

 このムチムチしたエロいふともも、落書きがしたくなってくるな。

 

「また邪なこと考えてる?」

 

 山本さんがおっぱいを腕で押さえて股の間にある俺の顔を覗き込んでくる。

 

「ああいや、その、昔のAVとかで見た光景を思い出してだな」

 

 俺が遠回しの表現で伝えると、山本さんは数秒思案して、それからまた口を開いた。

 

「“雌豚”とか書いてみる?」

「いや山本さんを相手にそんな……」

 

 山本さんもその手の動画とか見たことあるんだろうか。

 

「ソトミチくんなら、“中出し無料”でいいんだよ」

 

 山本さんが悪戯な顔で囁いてくる。

 

 それがまた嘘でないというところが、イヤらしくも悩ましいところだ。

 

「もしくは、ソトミチくんがこれまで私とセックスした回数分だけ、正の字でカウントしてみるとか」

「やはり凌辱系AVを見たことがあるな?」

「ソトミチくんと違って私は勉強熱心なの」

 

 尤もらしいことを言ってエロビデオを見てただけじゃないか。

 男を悦ばせるための努力を惜しまないその姿勢は尊敬するけれども。

 

「それはともかく抜いちゃいますか」

 

 山本さんは俺のパンツを脱がせて躊躇なく勃起したペニスにかぶりついた。

 

「おっ……おうふっ……」

 

 やはりいい。

 フェラをしてもらうと最高に気分が良くなる。

 

 口内の人肌の温かさも、唾液の粘性に包まれるのも、唇と舌の柔らかさに触れられるのも気持ちいいし、何より女の子自らが男のペニスを気持ち良くするために動いているその姿がどこまでも支配欲を満たしてくれる。

 

「ふっ……んじゅっ……ぐぢゅっ……」

「あぁ……いいよ、山本さん……上手……」

 

 結局はエッチをしてもらうことになってしまった。

 昨日、山本さんが冗談っぽく、デリバリーしてくれてもいいなんて言っていたが、それもその通りになってしまったな。

 しかも、口内射精も中出しも無料でできる美少女デリバリーヘルスだ。

 この男としての至上の極楽を手放そうとしているのだから、俺が選ぼうとしているものの大きさが改めてわかるというもの。

 

「はむっ……ちゅっ……ん、んんっ……!」

 

 俺は両手を伸ばして山本さんのおっぱいを揉みしだいた。

 美優と違って勝手におっぱいを触っても怒られないところが山本さんのいいところだ。

 山本さんのおっぱいがデカすぎて、フェラをしてもらっている様子が見えないこともある。

 ただ、腕しか使えないこの状況で、山本さんのおっぱいの重さはかなり手首に来るものがあった。

 

「ああっ……山本さん……すごいよ……気持ちいい……!」

 

 山本さんが俺のペニスを咥えているところを眺めながら、手のひらいっぱいに乳房の柔らかさを感じて、たまに乳首をイジっては色っぽい声を漏らす山本さんの反応を楽しむ。

 腕が疲れてからはふともものあたりを指でなぞったりして、感じながらもフェラを続ける山本さんに、俺の興奮も高まっていった。

 

「ちゅっ、ちゅぷっ……じゅる……んくっ……じゅぶっ……」

「山本さん、もう……出すよ……!」

 

 このベッドで、この体勢で、俺はまさに美優とエッチなことをしたことがあって、それを思い出せば簡単に妹のオカズは出来上がった。

 

「山本さん……出るッ……!!」

 

 金玉に溜まった精液を口の中に放出する。

 どれだけ繰り返そうがこの至福感だけは無くならない。

 

「んっ……くっ……ぷはぁ。今日は、飲めたよ」

 

 山本さんはニッコリ笑顔でピースサインをしてきた。

 昨日は俺の精液を飲めなかったことにえらくショックを受けていたようだったしな。

 俺としても山本さんにはやはり精液を飲んでもらいたい。

 俺の欲望が満たされるからというのもあるのだが、山本さんにはそういう女の子でいてほしいという、個人的な願望もあったりするのだ。

 

「スッキリしたね、ソトミチくん」

 

 エッチができて山本さんも満足したようで、それからは与太話をしながら残り時間を過ごした。

 

 美優から帰ってくるとの連絡があって、入れ替わりで行ってしまうのかと思っていたらそんなことはなく、今度は玄関にまで来た美優を山本さんが迎えに行った。

 

 恋人持ちの男とエッチした後にその恋人を出迎えに行くって、どんな感覚なんだろうな。

 まあ俺がやらせたんだけど。

 

「ただいま、お兄ちゃん」

 

 行きと同じ格好の美優が戻ってきて、その後ろを山本さんがついてきた。

 

 また俺の部屋に美少女二人。

 

 そして、腕が動くようになった俺は、なんとかベッド脇の壁に体を起こすぐらいのことはできるようになっていた。

 

「だいぶ回復したんだね」

「かなりしんどさは残ってるけどな。あと二日ほどは家で休養したいよ」

「奏さんもありがとうございました」

「いいえ、とっても楽しかったので」

 

 三人で、円満団欒。

 

 最後までこうして仲良くしていられるといいんだが。

 俺がやるべきことは理解したけど、どう決着をつければいいんだろうな。

 

 山本さんは身支度を整えて帰宅モードに。

 夜飯を一緒に食べたりすることはないか。

 そこまでいくと、もう違うっていうのは、なんとなく俺にもわかる。

 

「そういえば、行くとき言いそびれちゃったけど。私も急に大きくなったタイプだから、実家にほとんど未使用のブラが残ってるかも。あの頃の私のアンダーなら美優ちゃんに合うんじゃないかな?」

 

 唐突な、山本さんから美優への振り。

 

「え、あ、いや、まだ要ると決まったわけでは」

 

 そして、珍しく美優の焦った表情。

 

 まさか、美優、いやまさかな。

 

「ともかく、夜道も暗いので。奏さんも気をつけて帰ってください」

 

 会話の繋がり的に物騒な言葉をかけて、美優は山本さんを送っていった。

 

 あれだろうか。

 生理になると胸が張るとかそういう話だろうか。

 

 そういや、あと数日でその期間も明けるんだよな。

 

 そしたら、俺は、美優と生でできるんだよな。

 

 中出し、してもいいんだろうか。

 また条件とか出されたりしないかな。

 念のためコンドームは携帯しておいたほうが良いだろうか。

 

「お兄ちゃん」

 

 山本さんを見送りした美優が戻ってきた。

 

「ああ、美優か」

「考え事?」

「いやほら、デート、例の水族館と温泉、行こうと思って。いつなら大丈夫そうだ?」

 

 水族館ならともかく、温泉はそういう時期には行けないものだ。

 だからこればかりは美優に日にちを決めてもらうしかない。

 

「三日後なら平気だよ。その日に行こっか」

「ならそうしよう」

 

 ようやく美優とのデートが決まった。

 天候に左右されるものでもないし、何があろうと三日後は美優とデートをするぞ。

 

「あと、これも念のため、確認しときたい」

「なんでしょうか」

「えっと、だな、ゴムの代わりの、薬のほうについてなんだが」

「ああ、はい」

 

 美優は至って冷静に俺の話を聞いている。

 

「中に出したくなったら、どうしたらいいだろうか」

 

 この際なので誤魔化さずにはっきり教えてもらうことにした。

 

「別に人目につくようなところでなければ、どうぞご自由に?」

「えっ。あ、そうか」

 

 コクっと首を傾げて、何を迷っていらっしゃるとむしろ不思議な様子で答える美優。

 

 これまでに比べて条件が緩すぎないか。

 中出しは好きにして良くてアソコを舐めるのはあんなにも嫌がるのかこの妹は。

 らしいといえばらしいのかもしれないが。

 

「ん? そのペンは、なんでそこにあるの?」

 

 美優が指差した先にあったもの。

 それは俺が枕に挟んだままにしていた水性ペンだった。

 

「これは、山本さんとの勉強で使ってて」

 

 結局勉強には使わなかったけど。

 

「ふーん」

 

 美優はさして興味もなさそうな反応をした。

 山本さんのように喜んでマゾ化してくれる女の子より、やはりこういう強情な娘を汚すほうがそそられるものがあるんだよな。

 

「いつか生でするときさ、“中出しOK“とか、そのふとももの辺りに書いてみたい欲はある」

 

 矢印付きで。

 

「お兄ちゃん、ペン貸して」

 

 美優が手を出してきて、俺はそこに素直にマジックペンを置いた。

 あんなことを言えば美優に怒られるのは目に見えていたのだが、それでもしたい欲求は一度は伝えておかなければならないと思ったのだ。

 

「って、待て、そういうのは男に書いても絵にならないから……!」

 

 これでもう何度美優に待てと言ってきただろうか。

 

 なぜだか美少女たちが受けるべき恥辱を、今日は俺が引き受けることになり。

 

 無残にも全ての服を剥ぎ取られた俺は『変態』『シスコン』『射精脳』とか、色々と酷いことを下半身を中心に書かれ、しばらく放置されたのだった。

 



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恋人とのデート

 

 よく晴れたわけでもない、しかし、夏にしては涼しい、実にデート日和の天気だった。

 美優と出かけるのならばこれ以上を望むべくもない。

 絶好の曇り空だ。

 

「ようやく初デートだね」

 

 電車のドアから外の景色を眺める美優は、珍しく胸元が開放的なシャツを着て、膝上が十分に見えるぐらいに短いスカートを穿いている。

 その美優を後ろから眺めていると、腰からお尻のラインにはくっきりとした丸みがあって、胸の大きい子はお尻も大きくなるのかなみたいなことを俺は考えていた。

 ちなみに今日はストレートヘアなのでそのお尻に毛先がかかっていたりする。

 

「ようやくだな」

 

 美優とは服を買いに行ったことはあったが、あれは当時の俺からしたらデートだったというだけのこと。

 俺たち二人にとってのデートはこれが初めてになる。

 

 電車に揺られること一時間。

 

 比較的都会にあるその水族館は規模こそ大きくはないものの、周辺に様々なお店が並び立っていて、水族館自体が丸一日時間を潰すには難しいからこそ逆に絶好の寄りどころとして選ばれている。

 

 最寄りの駅に着いて、電車から降りる人は多かった。

 美優は体が小さいので人混みに紛れてしまうと見つけるのが大変なため、自然と手を繋ぐ形になって俺たちは歩いていた。

 

 山本さんとは手の大きさが段違いで、心許なさを感じると同時に、歳上としてしっかりしなければならない自覚が芽生えていく。

 どちらかというと、兄として、という感覚ではあったが。

 

「美優って遥とは手を繋いで歩いてたりしたのか?」

「なんで?」

「こうやって歩くのはどれだけ慣れてるのかなって」

「引っ張られるのには慣れてるよ」

 

 美優は半歩後ろを歩いて俺を見上げる。

 

 由佳や遥が相手じゃ、たしかに美優は引っ張られる側かもな。

 

 美優は独立して動くタイプというか、山本さんのようにどんな状況でもぴったり引っ付いて行動してくれるわけではないので、こうして手を繋がなければと思ったのは必然だったのかもしれない。

 

「俺は水族館の楽しみ方を知らないんだけど、魚に詳しくなくて平気かな」

 

 遊園地と違って、眺めることに特化したその施設には、どんな楽しみがあるのか俺は知らなかった。

 昨日までの暇な時間に有名な生き物は調べておいたが、それでもいざ行ってみてどの種類か当てられる自信はない。

 

「水族館を楽しむポイントは、仲の良い人と行くことだよ」

 

 美優は大人しく俺に手を引かれながら教えてくれる。

 駅を出てからは直通の広い歩道橋を進んで、目的の水族館の名前が書いてある標識に従って歩いていた。

 

「身も蓋もないような……。付き合う前は良くないとか?」

「知らない街を一緒に歩いてるだけで楽しい人とかいるじゃない? そういう人たちが、より盛り上がれる場所、みたいな」

「なるほど」

 

 これまでほとんど家でイチャコラするだけだった俺たちにとっては、むしろ好都合な場所ということか。

 

「カップルのデート先なんてそんなとこばっかりだけどね」

 

 たしかに、水族館の後に行く予定の温泉にしたってそうだ。

 もしそれが旅館ともなったら、どれだけいい湯や美味い食事が目的だったとしても、最後は部屋でストレスなく過ごしていられる相手が最も望ましい。

 何気ないことを共有できる相手って大事だよな。

 

「それなりに並んでんな」

 

 売券の受付にはパッと見だけでも百人以上が複数の列を作っていた。

 それでもライブスタッフをやっていた経験があるので面食らうほどではないのだが。

 

「オンライン予約してあるからコード認証で入れるよ」

 

 美優はスマホの予約完了画面を俺に向けてかざす。

 

「頼りになるよ」

 

 美優は遊び慣れしているだけあって手際がいい。

 男としてはリードしてあげたいところだが、ここは焦らず急がず、今日のデートを楽しもう。

 

 館内に入るとすぐに薄暗い空間になって、エアコンの涼しさに身が包まれた。

 

 入り口からすぐの水槽には大量の魚の群れが。

 いるかと思ったらそんなことはなく、オープンスペースに三メートルほどのアザラシのオブジェが置いてあって、そこに写真撮影の列が出来上がっていた。

 

「なんだあれは」

「この水族館のマスコットキャラだよ。でかアザラシくん」

「でかアザラシくん」

「の、十分の一スケールの像」

「元の設定がデカすぎる」

 

 あれだけキレイにデフォルメされたオブジェなんて、かなりの値段がしただろうに。 

 

「だいたいああいうのは入り口にあって、館内を見終わったら印刷した写真とデータを買えるの」

「無料ってわけじゃないんだな」

「だいたい二千円ぐらいが相場だよ」

「たっか」

「『せっかくの思い出ですので』って言われると、安く感じるものなんだよ」

 

 そうか。

 せっかくの思い出、か。

 

「撮影自体は、無料みたいだな」

 

 これは美優との初デート。

 その思い出にと言われてしまうと、たしかに欲しくなってしまう。

 

「……撮っていくか?」

「そうしよっか」

 

 美優がすんなりOKしてくれたので、俺たちは撮影の列に並ぶことになった。

 美優と二人で写真を撮るなんて、家族写真以来な気もするけど。

 

 どんな顔して写ればいいんだ。

 

「お次の方、どうぞー」

 

 十五分ほど並んでいると、俺たちの番が回ってきた。

 

 スタッフさんたちは撮影の要領は掴み切っていて、俺たちが大人しめなカップルだと見るや否や、腕に抱けるサイズのぬいぐるみを持ってきて、それと一緒に撮るように提案をしてくれた。

 なるほどこれなら変なポーズを取る必要もないし、くっ付いていても恥ずかしくないので自然な形で被写体になれる。

 

 問題なのは表情で、ここでまさかの美優が困った様子で「どんな顔をしたらいいかな」と相談してきたのだった。

 思えば家を出てからも俺たちは恋人らしい雰囲気を醸してこなかったし、いざカップルとして写真に写れと言われてもどうしたらいいかわからなかった。

 俺たちは人前でイチャイチャするのが苦手カップルだったのだ。

 

 それでも後続が待っているし、モタモタしていては適当なタイミングでシャッターを押されてしまう。

 

 だがここで閃くのが兄の頭脳だった。

 

「このぬいぐるみ、美優が持ってろ。遥との撮影だと思って、ほら、あのカメラにスマイルを」

 

 そう指示すると、美優は即座に言葉の意味を理解して、エビのぬいぐるみを腕に抱きながらほんのり横目線のカワイイスマイルをキメた。

 そこでパシャっとカメラのシャッターが切られる。

 なお俺はその後ろで若干苦笑い気味の笑顔を作って、手だけはさりげなく美優の腰に回していた。

 

 どうにか二人とも笑顔で撮ってもらうことができたが、なんともカップルらしさはないというか。

 俺たちらしさはあるのでよしとするか。

 

「最初は、ペンギンだね」

「まさかの魚じゃないのな」

 

 水族館を進んで、まず視界に入ったのがクチバシのついた二足歩行生物だった。

 まるで集会をするように岩の上でたむろしている種類もいれば、頻繁に水に出入りしている個体もいる。

 

「ビルに入ってる水族館だと、入口からほとんど魚ってパターンも多いけど。ここは一応専用施設だから、外に近いところは陸の生き物を置いとくんだよ」

「ほう、そういう」

 

 水族館も色々と展示の工夫がされているみたいだ。

 奥へと進むと、映画のモチーフになった魚や食用でも有名な甲殻類が並んでいて、さらに進むごとに水深も大きくなってクラゲや深海魚なんかが見れるようになっている。

 館内もブラックライトによる光の加減で空間全体を神秘的に見せたりといい雰囲気だ。

 

「近くで見ると面白い顔の魚って多いな」

「そうそう。女友達と行くと大体『可愛い』と『キモい』って言って回るだけで満足する」

「羨ましい……」

 

 男集団ではできない楽しみ方だ。

 こうして実際に回ってみても思ったが、いい歳の野郎が大勢で遊びに来るところとは言い難い。

 そのお陰で客層はそこそこ品があるというか、まあ子連れが多いのでかなりうるさいのだけれども、恋人とまったり時間を過ごすにはちょうどよい場所になっている。

 

(しかし、これって……)

 

 俺は隣を歩いている美優を横目に見て思う。

 

 なんというか、普通に二人で水族館を回っているのだ。

 家を出てきた兄妹二人のままというか。

 

 山本さんとデートしたときのように、周囲からの視線が気になることもなければ、連れの存在を自慢げに感じるでもなく、妙な胸騒ぎを覚えることもない。

 

 家にいる時と変わらず、当たり前の時間を過ごしているだけ。

 

 これを恋人とのデートらしい一日と言っていいものか。

 

 やはりイチャつきが足りないんだろうか。

 男からイチャイチャしにいくってのも気持ち悪い話だし、ここは美優から『お兄ちゃん大好き』をしてくれるように誘導するしかない。

 

「これが一番大きい水槽みたいだな」

 

 そこは館内でも一番の人気スペースで、多くの人が立ち止まって大水槽を鑑賞していた。

 下にはエイ、上にはサメやイワシなど、多種多様な魚がごっちゃになって泳いでいる。

 

 水槽をすぐ近くで観察したい人用の低い床と、水槽全体を観察したい人用に高い床があって、その二つを分ける手すりにはたくさんの人が密集していた。

 

 着いてすぐは人が多すぎて近寄れなかったものの、数分遠目から眺めているうちにいい隙間ができたので、美優とそこに入ることに。

 

 これならちょうど一人分しか空いてないわけだし、男女でくっついていてもなんらおかしくはない。

 薄暗くて目立つこともないしな。

 

「こういう水槽さ、どこもサメと小魚が一緒になって泳いでるけど、どうして食べられたりしないのかずっと不思議なんだよね」

「調べてみるか?」

「いや、なんか、謎のままのほうがいいというか」

「そうか。楽しみ方もそれぞれだもんな」

 

 そんな会話をしつつ、俺はさりげなく美優に後ろから抱きついて、その細ましくも柔らかい体の感触を堪能する。

 嗅ぎ慣れたいい匂いがして、抱き慣れた体温があって、そこでようやく俺は、美優がそこにいる実感を得ることができた。

 

 スキンシップが急に濃くなったことは美優も感じ取ったみたいで、手すりに手をかけながら俺を見上げてきた。

 しかし、美優は何も言わず、単に触れ合いがしたかった気持ちが伝わったのか、すぐに前を向き直った。

 

 その状態のまましばらく大水槽を眺めていて、美優の体の柔らかさを感じているうちについ胸の膨らみに手がいってしまい、揉むか揉まないかぐらいの強さで触ってしまう。

 

 するとまた美優がこっちを振り返って、俺をジッと見つめてきた。

 

『どっち?』

 

 そんな心の声が聞こえてきて、俺もごくごく小さな声で「したいとかではなくて……」と答えると、美優は納得してまた水槽のほうを向いた。

 おっぱいは性的な興奮材料だけでなく、そこにあるとつい見たり触ったりしたくなる不思議な魅力がある。

 

 そうしていると、美優が俺の腕を内側へと引っ張ってきた。

 どうやら密着の具合が足りないらしく、俺はもう少しだけ美優をキツめに抱きしめる。

 だが、それでも美優は物足りなかったようで、腰を何度も後ろに引いて俺にぶつけて、もっと強めるように催促してきた。

 俺は全身でベッタリと美優に覆いかぶさって、密着の度合いを更に高めると、思い切って美優の肺が潰れそうなぐらいに体重をかけ、手もおっぱいを掴んだまま強く美優を抱きしめてやった。

 

 美優は苦しそうにしていたが、全く拒むようなそぶりを見せなかったので、このぐらいの強さが正解だったとみて間違いない。

 

 美優って結構、こういうの好きだよな。

 

「こんな楽しみ方も、あるわけだな」

 

 俺が力を緩めると、美優は数回深呼吸をして、わずかにドヤ混じりの満足顔で振り返った。

 

「カップルだからね」

 

 そうやって周囲にバレないように美優とイチャイチャを堪能して、手すりから離れてから歩く館内は、先程までと景色が変わっていた。

 俺と美優がいる場所にはしっかりとカップル空間が出来上がっていたのだ。

 

 やはりスキンシップは偉大だ。

 ようやく恋人としてのラインに立てた気がする。

 

 ただ、悔しいことに、性欲にまで火がついてしまって、下半身のほうも穏やかではいられなくなっていた。

 山本さんが来てからの三日間は美優に抜いてもらっていなかったせいもあってすぐにスイッチが入ってしまう。

 これではエロ目的で付き合っているだけと思われかねない。

 冷静になるんだ、冷静に。

 

「あと、残ってるのは野外ゾーンだな」

「だいたいカワウソがいるとこだね」

 

 薄暗い廊下に徐々に光が差し込んできて、自動ドアを開けた先には、小さな動物園にも思える緑豊かなオープンガーデンが広がっていた。

 美優が言っていた通り、頭上に張り巡らされたパイプにはコツメカワウソがせわしなく行き来していて、若い客がこぞって写真を撮っていた。

 どこでも人気の動物らしい。

 これだけ開放的なスペースなら性欲も落ち着かせられそうだ。

 

 俺は美優と清らかな気持ちで最後のスペースを眺め歩き、亀やうさぎと触れ合ったりして、最後に例の写真を購入して水族館を出たのだった。

 フレーム付きの写真は美優のポーチに入れ、電子データは専用のサイトからダウンロードすることなり、俺は初めて公に見せられる美優の写真を手に入れた。

 

 これで堂々と、彼女として、紹介ができるわけだが。

 

 次の目的地である温泉は、スパをメインとした総合エンタメ施設で、湯につかるだけでなく食事や岩盤浴なども楽しむことができる。

 受付でロッカーキーを兼ねるICチップ入りの腕輪を渡され、まずは更衣室で浴衣に着替えることに。

 

 浴衣なんて人生で初めてだからきちんと着れているのか不安でたまらなかったが、これまでのあれやこれやのおかげで体が引き締まってきているからか、鏡に映るその姿に恥ずかしさはなかった。

 更衣室を出るとそこには美優の姿があり、ピンク色の浴衣に身を包んで姿勢良く手を前に重ねて立っていた。

 

「おまたせ。思ってた通り可愛いな」

「そういうときは思ってたよりもって言わないと」

「ああ、悪い」

 

 デート慣れの無さがまたここで露見してしまった。

 ほんとエロゲの知識って役に立たないよなこういうとき。

 

「お兄ちゃんも似合うよ。いい体になったね」

 

 美優は俺の腹筋をバシバシと叩いて、それから腕を組んで歩き出した。

 まずは館内をぐるっと一周して美優が案内してくれるらしい。

 

 横髪がさらりと揺れると、どんなときでも釣り上がりで強気な印象になる美優の目に楽しげな輝きが宿っていて、今日はデートしてあげられてよかったなと心底思った。

 俺の妹はやっぱり可愛い。

 

 こうした施設に慣れていない俺にとって、ソファーチェアが大量に並んでいるリラクゼーションエリアなんかは壮観で、バイキングにはビールサーバーも設置されており、いつかあれを美優と二人でグラスに注いで一杯やりたいものだ。

 

 もしここが温泉旅館なら、酔った美優と部屋に戻って、浴衣を脱ぐのもそこそこに、なんてのもな。

 

(……やめろ。落ち着け。考えるな)

 

 俺は瞼を力いっぱい閉じて邪悪な妄想を吹き飛ばす。

 

 美優の浴衣姿がいけなかったのだ。

 

 スパで配られる浴衣は生地が薄かったので、巨乳かどうかわかるぐらいの膨らみが見えてしまっていた。

 腕に当たる美優の胸の感触も、普段よりダイレクトに感じられる。

 こうした諸要素が間接的に俺の性欲を煽っていた。

 

 それでも美優曰く、ブラジャーの膨らみが目立たないようにワイヤーのないタイプを持参してきたというのだから、この妹の胸のデカさというのが改めて分かるというもの。

 思わず脱がせたくなってしまう。

 

「お兄ちゃん、お風呂場でおっきくしたりしないでよ」

「しないって」

 

 美優のことを考えながら湯に浸かったりなんかしたら、風呂場で一人で勃起する変態になりかねない。

 この浴衣だって勃起すればすぐに股間の膨らみがわかってしまうから、この館内にいる限りはエッチな妄想をしてはならないのだ。

 

 だが、それでいい。

 エロいことばかりを考えていたら、俺と美優はエッチをするだけの関係になってしまう。

 もっと、恋人らしく、彼氏と彼女らしく、しなければならない。

 

「ここは予約制の個室があるみたいだから、我慢できなくなったらそっちに行ってからね」

「そんなものが」

 

 冷静にならねばと思った矢先に美優がとんでもない情報を持ってきた。

 

「でも、夏休みだから満室になってるよな……」

 

 そう思ってホームページから予約ページを見ると、予想通り灰色の文字でびっしりと。

 しかし、それはまさに奇跡的に、一時間だけ休憩の枠が空いていたのだった。

 

「まじか、こんな時期にあるのかそんなこと」

「当日だと逆にキャンセルで空くことがあるんだよ」

「そうなのか。よ、予約、しとくか? 三時間後とかだけど」

「お兄ちゃんがしたければどうぞ」

 

 ここで俺にボールパスか。

 予約したらエッチがしたいだけだと思われかねない。

 

 だが、せっかくの温泉で偶然にも巡り合った個室に入れるのだから、思い出としては貴重な体験といえようもの。

 ざっと見る限り、もう先の予約は二週間ほど満室になっているし、事前にリサーチして個室を使おうと思ってもできなかったはずだ。

 

「予約したぞ。風呂の前にメシを食いたいんだけど、いいかな」

「いいよ。私も食べたい」

 

 お風呂に入る前に食事をすることになり、フードコートに行って和食をいただくことに。

 同じ刺し身の定食を注文して、対面に座って二人で喋って、美味しいごはんを頂いて、ひと休憩。

 和室スペースを使っていたこともあり、食べ終わった後は美優も俺の横に来て、二人でダラダラと寝ていた。

 

 俺たち以外にも二人で寝ているカップルがいたので、そう目立つこともなくくっついていられた。

 美優の寝顔は可愛くて、頭を撫でるとまた気持ちよさそうに眠るので、愛おしさが倍増する。

 これが俺の彼女なんだよな。

 

(……ただ、なんというか)

 

 美優は俺の理想とする彼女だ。

 かつて、俺がエロゲをやっていたころから憧れていた、まさしく妹的な愛嬌のある存在で、他に望むべくもない。

 今日のデートだって楽しく過ごせているし、美優のことが心から好きなことに疑いの余地など微塵もなかった。

 

 だからこそ、俺はもう、その事実から目を背けているわけにはいかなかった。

 

(美優を彼女って呼ぶのには、何故か抵抗があるんだよな)

 

 あくまで言葉遣いとしての問題だと思い込んで避けていた。

 美優を俺の彼女だと呼ぶことへの違和感。

 

 互いに他のパートナーを作らない契約関係として、恋人同士であるとは公言していたものの、俺はほとんど美優のことを彼女だと言ったことはなかった。

 俺にとっての美優の存在と彼女という言葉の定義が、微妙にズレている気がしたのだ。

 

 美優のことが一番に好きなことに嘘偽りはないものの、正直なところを話してしまえば、『理想の彼女』のイメージを挙げるときに出てくるのは山本さんだった。

 

(もしかして、これなのか)

 

 山本さんが言っていた、俺が美優か山本さんかを選ぶ余地とやらが、この気持ちの迷いを指しているのだとしたら。

 たしかに解決しなければならない大事な課題ではある。

 

「そろそろ、お風呂に行く?」

「そうしようか。水族館を歩き回って足も疲れたしな」

 

 美優が短い眠りから目覚めたので、そこで二人で別れて浴場に行くことになった。

 せっかくカップルできたのに、肝心のお風呂は一人で入らなければならないのが温泉の残念なところだ。

 客室露天風呂のある旅館なら混浴で入れるらしいし、美優ならいいところを知ってないかな。

 まず間違いなくエッチなことをするだろうけど。

 

「はぁ……」

 

 シャワーで体の汚れを落としてから、俺はヒノキで作られた円形の風呂に浸かってさっきの続きを考えていた。

 

 俺と美優がイチャイチャしているときは常にエッチをしている。

 無論、ドライな関係でいるのが嫌なわけではなし、だからこそエッチに耽る美優が可愛く映る部分もあるわけで。

 今の距離感が悪いとは全く思わないのだが、そこにはいわゆる“彼女感”というものはなかった。

 

(そもそも、要るのか? 彼女感)

 

 なんてことを考えてしまうほどには俺の脳は考え疲れていた。

 こんな調子ではせっかくの初デートが台無しになってしまいそうだ。

 

 今日は、いつもの俺でいよう。

 

 美優もエッチをすることに前向きだったし、これまでお預け状態だったのは美優も同じなのだから、むしろ美優だってエッチがしたくてたまらないはず。

 

 しかも中出し解禁日だ。

 美優の生の膣内に精液を注ぎ込める日。

 本能側の美優はめちゃくちゃ喜んでくれるだろうな。

 

 早く生セックスがしたい。

 妹に中出しができるなんて兄として最大の幸福じゃないか。

 マジで彼女感とかどうでもよくないか?

 あの可愛くて巨乳の妹に中出しできるんだぞ。

 

 しかも、美優が許してくれるなら、このスパの休憩室で、さっそく試射できるわけだ。

 

 ダメか?

 ダメだろうか。

 初中出しはきちんと俺の部屋のベッドでしてほしいかな。

 それもありうる。

 なら休憩室でできるのはフェラだけになるわけか。

 

 だが、それでもいい。

 美優と家以外でエッチができるなんて、そうない話だろうからな。

 それに三日も精液が溜まってるんだ。

 ドロドロに濃い精液を飲ませてあげることができる。

 早く飲ませたい。

 

「……ダメだ、落ち着け、何してるんだ俺は」

 

 小声で自分を諌めて気を静める。

 

 妹に中出しがした過ぎて公共浴場で思いっきり勃起してしまった。

 美優にもするなと注意されていたのに。

 

 俺は膝を畳んで勃起したペニスを隠し、それが通常サイズに縮まるのを待ってから風呂を出た。

 

 美優とエッチがしたいがまだ二時間以上の待ち時間がある。

 

 ここはいったん、深呼吸だ。

 

 吹っ切れてからの思考速度がヤバすぎた。

 なんだって性方面の魅力があんなに高いんだうちの妹は。

 

 これからまた美優と合流だからな。

 失言だけはないようにしないと。

 

「スッキリした?」

 

 湯上がりの美優は髪の毛を結い上げていた。

 髪をまとめると顔面の良さがより際立って、その低い身長との対比がよく映えるようになる。

 大和撫子然とはこのような姿を指すのか。

 

「汗もかいてさっぱりだよ」

 

 血流が良くなりすぎて困るほどにな。

 さて、どうやって個室までの時間を潰すかな。

 

「岩盤浴にでも行ってみるか? 俺は名前を聞いたことあるだけで、どんなとこなのか知らないんだよ」

「行こ行こ。そこぐらいしかないし」

 

 そうして俺は美優を引き連れて岩盤浴エリアへ。

 

 どうしてか、このあたりから美優への視線が集まり始めた気がする。

 すっぴんの女の子が多いせいで、相対的に美優の美少女度が最高値に達してしまったからなのだろうか。

 でも、各カップルの彼女さんたちも、みんな美人ばかりだ。

 

「すっぴんでも、可愛い子って意外と多いな」

「あれがお兄ちゃんたちの好きなナチュラルメイクってやつだよ」

「えっ、化粧してんの? あれで?」

「公共の場ですっぴんになるわけないじゃないですか。ましてや彼氏の前で」

「そうか……」

 

 美優に教えてもらったポイントに従って目元や眉毛を確認してみると、たしかに人工的な痕跡があった。

 あれで肌本体はゴリゴリに濃く美白しているらしい。

 とはいえ、それで可愛く見えるのなら、化粧って正義だよな。

 

「美優はしてるのか?」

「私はあんまり。元のメイクだって薄いし」

「そうなのか」

 

 美優はまだ中学生だもんな。

 出かけるときは化粧らしさを感じることはあっても、私生活で化粧した顔をみることはほとんどない。

 うちの妹はいついかなるときでも可愛いんだ。

 

「妹のすっぴんが可愛くてよかったね」

 

 美優が俺にぴったり寄り添って、自慢気にそう囁いてくる。

 

「ま、まあな」

 

 こういうときはすかさず心の中を読んでくる妹だ。

 何にしても素体が良いにこしたことはない。

 お風呂に入ってたってベッドの中だって美優は可愛いんだからな。

 

「二時間後はそんな可愛い妹と二人きり」

「やめろ、俺を盛り上げるな」

 

 美優から追撃の燃料投下。

 むくむくとやる気が湧き上がってきてしまう。

 体は反応させないようにしなくては。

 

 だが、美優の言う通り、俺はこの顔の良い湯上がり美少女とイチャラブエッチする予定があるんだ。

 存分に自慢の妹を眺めていくがいい男子諸君よ。

 そして羨ましがるがいい。

 

 なんて、怨念じみたことを考えていたら、本当にあの山本さんとデートをしていたときのように視線が集まってきた。

 どうやら、水族館の最後のあたりから俺が欲情しだしたのがきっかけらしく、俺に欲情されるとテンションが上がってしまうこの不埒な妹は、それを機にラブラブオーラを醸し始めたのだった。

 やはり女の子からの大好きアピールは誰もが憧れるものなんだな。

 

「お兄ちゃん、その部屋のとこが二つ空いてるよ」

「なら、そこから行くか」

 

 岩盤浴はその効能によって部屋が分かれている。

 これから入る青色ライトの岩盤浴室は全身の筋肉をリラックスさせる効果があるらしく、この間の筋肉痛からいよいよ完全回復ができそうだ。

 

「下は普通に硬いな」

「それが岩盤浴ですから」

 

 ブランケットを敷いて温められた床に寝転がり、そこで美優と仕切りを挟んで寝る。

 美優が一番奥で、俺がその手前。

 

 たしかに全身が内側からポカポカと温まってきて、疲労回復には効きそうだ。

 枕まで硬いのは個人的に困りものだが。

 

(美優はどうしてるかな)

 

 静かなのでしゃべることもできず、寝る以外にやることがない。

 そういう施設なので当然なのだが、ふと美優がどんな様子か気になって体を起こしてみる。

 

(うーん……これは……)

 

 おっぱいが重力に押されて、浴衣の隙間からお肉の丸みが覗いてしまっていた。

 それは日常見える谷間ぐらいの隙間ではあったが、他の男の目には入るのは好ましくない。

 対面の位置にいる人たちは全員が女性のグループだったので、美優もそのあたりわかっててやっているのだろうが、俺としては気になってしまったのでそっと手を伸ばして美優のおっぱいを隠したのだった。

 

 そうしてようやく安心ができたところでまた寝転がる。

 

 早く時間が過ぎ去ってほしいと願いながら。

 

 これはデートなのだから、一分一秒を惜しみながら楽しむべきなのに。

 どうして俺はこうも性欲優先なのだろうな。

 

 これでは山本さんとお外でエッチをしているのと変わらないのではないか。

 山本さんは恋人ではないので問題はなかったのだが、それが美優も同じとなってしまっては困るのだ。

 たとえ彼女感はなかったとしても、セフレになるのだけはいけない。

 それでは俺が山本さんを捨てて美優を選ぶ理由がなくなってしまうんだ。

 

(ここは一つ、視点を変えてみるか)

 

 美優は俺にどんな彼氏でいてほしい?

 美優から見た俺に彼氏感はあるのだろうか?

 できることなら頼れる男になって、デートでもぐいぐい引っ張っていってほしいとか、そういう理想はあったりしないか?

 

 考えて、考えて、グルグルとこれまでの美優や山本さんとのやりとりを反芻し、一つの答えを得る。

 

 美優からの要望なんてものは、無い。

 これは断言する。

 

 いまの俺でいい。

 

 その結論だけは変わらなかった。

 

 だとしたら、じゃあさっきの彼女感なんてものも、どうでもいいものだったのか?

 

 そう自分に問いただしてみると、一番しっくり来るのは「なくてもいい」という回答だった。

 

 しかし、答えに無責任な感も否めないわけで。

 

 ここだけだ。

 彼女感なんてどうでもいい。

 これはしっくりくる。

 だが現実、美優とは彼氏彼女として付き合っていかなければならなくて、その事実を無視することもできない。

 

 この不協和。

 

 こいつさえ正せれば、俺に迷いなんてものはなくなる。

 

 ならこれだけを、じっくりと考えていくことにするか。

 

「お兄ちゃん、あとどれぐらい居る?」

「もう出ようかとは思ってて。空いてそうなとこ適当に回ったら、あと汗を流して時間まで休もうか」

 

 せっかく来たので岩盤浴なるものをあるだけ堪能して、体の調子が良くなった気がしてきたところで切り上げる。

 最後にその岩盤浴でかいた汗を、もう一度お風呂に入り直してさっぱりと流し、残りの時間はリラクゼーションエリアでまったりすることにした。

 

 のだが、そこは残念ながら人でいっぱいだった。

 ポツポツと椅子の空きはあったのだが、二人で並んで座れそうな余裕はない。

 ソファーチェアを後ろに倒せば寝ながらテレビが見られることもあって人気のスペースなのだ。

 

「雑魚寝のほうなら空いてるね」

「そっちにするか」

 

 リラクゼーションエリアの一画にはゴザが敷かれた休憩スペースもあって、そこには四角いたわら枕が規則正しく並べられている。

 

 広さとしてはテニスコート二つ分ほど。

 寝ている人は疎だった。

 

 というのも、床にゴロ寝するタイプは低温サウナに似たような場所があって、多くの人はそちらに流れるのだ。

 

 俺と美優はできるだけ入り口から遠く、人の少ない所を選んで横になった。

 美優は髪を結い上げていたクリップを外して、その長い髪を下ろす。

 内側にこっそりと入れたピンク色のエクステが艶の良い黒髪と混ざり、同じ淡赤色の浴衣とマッチしていて、そこには現代風ながらも奥ゆかしい美少女が寝そべっていたのだった。

 

 和風ってエロい。

 

「あと三十分もあるね」

 

 美優が俺との距離を縮めてきて、温まった体の湯気すら感じてしまうほど接近した。

 思いっきり抱きついて寝ているカップルも何組かいたので、それほど目立つこともないだろうが、こんな公共の場所で美優と触れ合えるなんてドキドキしてしまう。

 

「休憩室を使うために休んでるって、なんか変な感じだよな」

 

 それだけカップルにとって、個室というのは重要な場所。

 『二人きりになれる』という言葉がもたらす付加価値は人類にとって無限大の意味がある。

 

「休憩する気なんてないくせに」

 

 美優は人差し指を俺の浴衣の隙間に入れて、胸元の重なりを緩める。

 

 美優の言う通り、俺はエッチがしたいから待っているだけだ。

 それは美優も同じはずだが。

 

「美優も期待してるんじゃないのか」

 

 俺も同じように、美優の浴衣の胸元に指を入れて、その隙間を開けるように下ろしていく。

 その指先に当たったのは、柔らかい生肌の感触だった。

 

「着てないのか……?」

 

 美優はTシャツも身に付けずに、下着の上に直に浴衣を羽織っていた。

 もうそれだけで俺の心臓の鼓動は最高潮に達して、体が熱くなってくる。

 

「ほんとはブラも外そうと思ったんだけどね。先っぽが浮いちゃうから」

 

 美優は腕で胸を隠して、その豊満な乳房を寄せ上げた。

 

 エロいなこの妹は。

 

「奏さんなら全部脱いできただろうけど」

「やりかねないな」

「私はそこまでできないので、これでご容赦いただけますでしょうか……」

「十分だよ、十分すぎる」

 

 俺は美優の浴衣を上から覗き込むようにして、そこに広がる美肉の園に、目が釘付けになっていた。

 かつてないほど防御力の低いその装い。

 襲いたくなってくる。

 

「お腹、触っていいか」

「えっ……ぁ…………んっ……」

 

 俺は美優の浴衣の中に手を入れて、サラサラとした肌の感触を手のひら全体で堪能する。

 くすぐったいのか感じているのか、時折美優が色っぽい声と共に身を捩って、そんないじらしい姿に俺の性欲がまた燃え滾ってしまう。

 

「お兄ちゃんのエッチ」

 

 抵抗もしない妹に潤んだ目で見つめられて、そんなありふれた言葉がストレートに俺の性癖に突き刺さった。

 トランクスはもう我慢汁でベトベトになっていて、このままだと浴衣まで汚しかねない。

 というより、こんなに勃起してしまって、俺はどうやって立ち上がればいいんだろうか。

 

 でもそんなこともどうでも良くなるぐらい、美優の浴衣に手を突っ込んで弄るのは滅茶苦茶に興奮した。

 

「あ、あんまり、激しく触ると、はだけちゃうよ」

「……っ、すまん、やりすぎた」

 

 俺は浴衣から手を引き抜いて、襟を整えて美優の肌を隠す。

 緩んだ帯はそのままなので浴衣全体は乱れたままなのだが。

 

 どの瞬間を切り取っても美優がエロい。

 心臓が肋の中心を叩くように激しく拍動している。

 今すぐガス抜きをしないともっと破廉恥なことをしてしまいそうだ。

 

「ずっとおあずけだったもんね。溜まっちゃって大変なんじゃないかな」

 

 美優は勃起した俺のペニスに爪の先を軽く当てて、浴衣の上からツーっと筋に沿ってなぞっていく。

 射精できない状況で妹に煽られる多幸感が、限界近い性欲にさらに燃料を投じていた。

 

「美優だって、ツラいんじゃないのか。ほんとはしたいだろ」

 

 俺がそう尋ねると、美優は上気した頬を緩めて、その本音を口にしてしまうかをしばらく迷ってから、ついには打ち明けた。

 

「妹はお兄ちゃんに欲情されていれば幸せなので」

 

 いつだかも聞いたその答え。

 だが、事実として、美優にとってはエッチをするにあってそれ以上に大事なことはないようだった。

 

「エロ妹め」

 

 まるで男に興味なんてありませんみたいな顔をしておきながら、兄の前となると淫らな本性を隠せなくなる、どうしようもないブラコン性欲妹だ。

 

 俺はそんな憎らしい妹に仕返しがしたくなって、浴衣の下から手を忍び込ませると、パンツの裏側にある小さな肉芽を爪で軽く弾いた。

 

「んんっ……あっ……!!」

 

 予想だにしなかったほど大きな声が漏れて、俺も美優もテンパって身を縮こまらせた。

 

 実際には、自分たちで聞こえていたほどの声量ではなかったようなのだが──そこはさすがに美優が耐えた──、周囲の目がこちらに向いていないか怖くて動けなかった。

 

「お、お兄ちゃん……」

 

 美優が指先でちょこんと俺の服を引っ張って非難の目を浴びせてくる。

 

 仕方がないので勇気を持って周りを確認してみたが、こちらに視線をよこしている人はいなかった。

 一番近くで寝ていた女の子組も急にヒソヒソと話を始めたりはしなかったので、あれが喘ぎ声として誰かに届いたことはなかったみたいだった。

 

「指先で擦ったぐらいであんなに感じるとは思わなくて」

「うっ……、う、うるさい。そういう体質なんだからしょうがないでしょ」

 

 美優は股を隠すように浴衣を下に引っ張る。

 

「個室が空くまであとどれぐらいだ」

「まだ何分も経ってません」

「なんて生殺しだ……」

 

 こうして手で触り合うだけでなく、美優の柔肌を全身で感じて、勃起したペニスを慰めてもらいたい。

 もっと男女で使えるプライベートスペースが増えたらいいのに。

 

 いや、俺たちが寝ているこの場所も、十分に人目につきにくいところではある。

 全体が浴室のようなものだから監視カメラも設置されていないし、何もできないわけではないんだ。

 

「ここは壁際だし、人がいるところからも美優の背中で隠れるから、おっぱいを吸うぐらいはしてもバレない気がする」

「できるわけないでしょうが。声を我慢するのがどれだけ大変だと思ってるんですか」

「そこは、どうにか、美優の努力で……」

 

 そうでもしてくれないと気が収まらない。

 何かしら俺の性欲が満足できるご褒美が脳に欲しい。

 

「そうだ。美優、パンツを脱いでくれないか?」

「えっ、なんで」

 

 そんな露骨に引いた顔をするものじゃない。

 

「美優がこの場でパンツを脱いでくれるだけで死ぬほど興奮する」

「変態さに正直なのは結構ですが、そうすると妹はノーパンになってしまいます」

「エッチな格好になって恥ずかしがる妹が見たいんだ」

「実の妹に向かってなんてことを」

 

 それでもなお、俺は期待の眼差しで美優を見つめた。

 

 美優に触れるわけじゃない。

 性器をイジるわけじゃない。

 だからこれはエッチではないのだ。

 

「いやぁ……それは、ちょっと、ね……」

 

 美優はふとももを擦り合わせてモジモジしている。

 どうやらやんごとなき理由がありそうだ。

 

「これがないと、歩くときにお汁つゆが垂れてしまうので」

 

 美優はなおも股を押さえながら目を泳がせる。

 どうやら愛液を受け止めるものがないと、床に垂れ落ちてしまうことを気にしているらしい。

 俺とエッチなことをしているとすぐに濡れてしまう美優からしたら大きな問題だ。

 

 だが、脱いでもらわなければ困る。

 俺が興奮を抑えきれそうにない。

 ここで脳に何か満足する情報を与えないと、大変なことをしでかしてしまいそうだ。

 

「要は、漏れなければいいんだよな」

 

 俺の頭は驚異的な速度で回転していた。

 兄は妹とエロいことをするためならどこまでも進化を遂げられる。

 

「美優、その点なら大丈夫だ。パンツがなくてもどうにかなるよ」

「そうなの?」

「ああ。だから、まずは兄を信じて脱いでほしい」

「お願いの内容がもう信用ならないんですが」

 

 そうは言いつつも、美優は周囲からの視線がないことを俺にアイコンタクトで確認してきて、誰もこちらを向いていないことを俺も頷きで返した。

 それから、浴衣の下から手を入れた美優は、できるだけ上半身の姿勢を変えないまま脚だけを巧みに曲げ伸ばしし、するりするりとパンツを脱いで足先から手に取った。

 

「ぬ、脱いだよ」

 

 美優はまた目を合わせてくれなくなって、恥ずかしそうにパンツを浴衣の中に隠しながらノーパンになった事実を伝えてくれる。

 

「なら、そのパンツをまずは俺に」

「いいえこれはポーチに隠します」

「なっ……」

 

 ここまでやっておいて付き合いの悪い妹だ。

 別に何をしようってわけじゃないのに。

 

「せめてこの瞬間だけでも触らせてほしい。美優の温もりを感じたい」

「もー……しょうがないな」

 

 美優は背後にいる人たちから見えないように、低い位置で薄桃色のパンツを外部に晒して、それを俺に触らせてくれた。

 髪色にピンクを入れているおかげか、最近の美優は同系色のアイテムがマイブームのようだ。

 

「うぁ……すっごいあったかい……」

「妹がついさっきまで履いてましたから」

「もうこの中に射精したいんだけど」

「ダメに決まってるでしょ」

 

 美優はそう言って巾着ポーチにパンツを入れてしまった。

 俺が三日も射精せずに溜まっている事実は美優も知っていて、だからこそ勝手な射精は許されないのだ。

 ましてや美優の体外になど。

 

「で、私はどうすればいいの。まさか手で押さえて歩けなんて言わないよね」

「それについてはだな」

 

 美優がどんなに興奮しても愛液を垂らさずにノーパンで歩き回れる方法。

 それは実にシンプルで、かつ雰囲気を損なわない至高の対処法だった。

 

「美優のことだから、絆創膏を持ってるんじゃないかなと思って」

 

 ぴっちりツルツルのパイパンだからこそできる最善の策。

 美優が無毛なのは絆創膏を貼るためだったのではと思えるほどのジャストアイデアだった。

 

「悔しいことに持ってるけどさ。その、なに。お兄ちゃんはそんなので興奮するの」

 

 美優は身を守るように体を抱きすくめる。

 そんな美優を励ますように、俺は美優の肩を揺らしてありったけの想いを打ち明けた。

 

「するよ。死ぬほど興奮する。てかもう想像するだけでイキそうだ」

 

 美優が疑問に思う気持ちも理解はできた。

 見栄えでエロい部分はもちろんあるが、絆創膏を貼るだけでそこまでの興奮材料になるかと問われるとそうでもなかった。

 

 だが、今回は目的が別。

 これから貼る絆創膏には、この公衆浴場で美優をノーパンにするという大事な意味があり、さらには美優の愛液を漏らさないという重要な役割を担っている。

 だから、その絆創膏は果てしなくエロいのだ。

 

 その情熱は、俺の意志を込めた告白で美優にも伝わったはず。

 

「このポーチに入ってるんだよな?」

「化粧品用のミニバッグにありますけども」

 

 美優は嫌がるそぶりを見せながらも絆創膏の存在を教えてくれた。

 つまりは、貼る気は満々ということだ。

 

「よし、あった。俺が貼ってもいいか?」

「え、いや。お兄ちゃん絶対に触るじゃん。それに、貼っても見せないからね」

 

 なんと強情な妹よ。

 強気な目がさらに迫真がかって、しかし、これから股に絆創膏を貼るという事実は揺るがないと思うと、それはそれでエッチなのでまあいいかなという気もしてきた。

 

 俺は大人しく絆創膏を美優に渡して、貼るのを任せる。

 美優はまずティッシュでアソコを拭おうとして、そこで、実は自分でやるのも結構恥ずかしいということに気がついた。

 

「そんなに見ないでよ」

 

 トイレで用を足した後の姿を見られるようなものだ。

 恥ずかしくないわけがない。

 

「やっぱり俺がやったほうが」

「い、いいです。自分でやります」

 

 美優はやりづらそうにしながらも、できるだけ股座に手を突っ込んでいるのがわからないよう、何度も浴衣の掛かり具合を調整して、まずは愛液を拭き取った。

 それから絆創膏のシールの片方を剥がし、再び下半身へと手を伸ばした。

 

「ん……んと、ここで、いいのかな……」

 

 美優は割れ目の位置を指で探って、迷いも吹っ切れないまま、自分の股を弄っている姿を俺に見られるのが恥ずかしくて適当にアタリをつけて絆創膏を貼り付けた。

 そして、最後にもう片方のシールを引き剥がそうと、指の摘み方を調整しているところで俺がストップをかける。

 

「片端を貼るのだけでも俺にやらせてくれないか」

「えぇ……まあ、いいけど……」

 

 これで結構押しに弱い美優は、大好きな兄の願望を無下にすることもできず、渋々と俺の手を誘導して絆創膏の端を渡してくれた。

 

「美優のそういうところ、俺は本当に好きだからな」

「こんな状況で言わないでください」

 

 それでも嬉しそうにするのがうちの可愛い妹で、そんな美優のために俺は丁寧に絆創膏を貼り付けていった。

 最後にペロッとそのシールが剥がれると、なんとも言えない達成感と幸福感が俺の身を包んだ。

 

「念のため、割れ目が隠せてるか確認するからな」

「う、うん……」

 

 俺は絆創膏の上を指でなぞって、その両端に指が沈み込む溝が残っていないことを確認する。

 

「ん、んっ……なんか、変な感じ……」

 

 絆創膏の上から性感帯を触られるのは、コンドーム越しの感触ともまた違った感覚だろう。

 

「貼ってるとこ見てもいい?」

「それはダメだって言いました」

 

 ダメなものはダメだった。

 しかし、あの美優がアソコに絆創膏を貼ってるなんて。

 考えれば考えるほど興奮する。

 今後の妄想に影響をきたしそうだ。

 

 そして、ミニバッグに残った絆創膏を見て、俺の脳がさらなる閃きに至る。

 

「この絆創膏があればトップレスにもなるんじゃないか」

「どれだけ妹を剥きたいんですか」

 

 美優がブラジャーをしてきたのは乳首が浴衣に浮いてしまうからだと言っていた。

 であれば絆創膏で乳首を隠しさえすれば、美優は下着の一切を身につけずに浴衣だけになることができる。

 

 さすがにブラ紐を抜くのに浴衣を脱ぐ必要があるのでその願いは叶えてもらえなかったが。

 

「予約まであと何分あるんだ。俺はいつになったら美優とエッチができる」

「あと十分もないから、もうちょっとだけ待ってね。移動の時間を考えたらすぐだよ」

 

 時間を確認しながら美優もそわそわしている。

 性欲が抑えきれないのは俺だけではない。

 

「美優も早くエッチしたいもんな」

「……うん」

 

 もう正直になるしかない美優に、俺は最後の癒しを求めてもう一度秘部を触りにいった。

 今度は美優も抵抗せずに俺の手を受け入れてくれている。

 左手で絆創膏に隠されたスジをなぞり、右手は美優のブラジャーに手を突っ込んで、すっかり硬くなっていた乳首を手のひらでグリグリと弄りながら揉みしだく。

 

「んぁっ……はぁ……お兄ちゃん……」

 

 美優が熱い吐息を漏らして、つい声が漏れそうになると、美優はその瞬間に自らの手で口を塞いだ。

 遠くから見ても怪しまれないように、不要な身動ぎをすることもできず、無抵抗にやられている美優はこの世で一番エロかった。

 

「美優。部屋に着いたら、中に出していいよな?」

 

 二人きりになったらもう我慢なんてできない。

 前戯はもう十分に済んでいるし、なんならドアを閉じた直後にペニスをねじ込んでやりたい。

 

「う、うん。お兄ちゃん、いっぱい溜まってるもんね」

 

 美優の生の膣内に精液を注ぎ込める。

 妹のこのいやらしい体に俺の生殖の証を染みつけられるんだ。

 

「大事な記念だから、今日は子宮に一番近いところで射精しようか」

「うぅ……それは……非常に危ないような気もするのですが……」

 

 美優は俺のペニスで子宮口を小突かれるとすぐに雌化してしまう。

 ましてや生の挿入で、互いの生殖器にキスをさせてるような状態で精液を注いだりなんかしたら、美優は本能剥き出しのエロ妹へと変貌しかねない。

 

 それでも出したかった。

 その後のことはどうにでもできる自信が、今度は俺の本能の側から湧き上がってきていたからだ。

 

「美優が一生忘れられないぐらい、思いっきり射精するからな」

 

 俺は美優を抱き寄せて、さりげなく露出させたペニスを美優のお腹に擦り付けた。

 その瞬間に美優の膣内がビクビクと脈打って、もしかしたらその瞬間にイッていたのかもしれない。

 

「優しく、してください……」

 

 エロスイッチが入った美優と、ようやく耐えた三十分。

 時間になると、俺と美優はラブラブな生ハメセックスをするために、足をもつれさせながら駆けるように個室へと向かったのだった。

 



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お兄ちゃんの精子で孕みたがりな妹と初めての中出しセックス

 

 スパの休憩室フロアへ向かうエレベーターには、同乗してくる客もおらず、俺と美優は二人きりになってしまった。

 

「こう静かだと、エッチなことしたくなるね」

 

 美優は俺の浴衣の袖を引っ張って何かを主張したそうな顔で見上げてくる。

 

 その意見には大いに賛同するが、残念ながらここには監視カメラがあるのだ。

 浴衣の下をノーパンにしてアソコに絆創膏を貼っている妹にエッチなイタズラがしたくても、大っぴらに乳繰り合うことはできない。

 

「美優が浴衣をめくってくれたら物凄く興奮するものが見られるんだけどな」

 

 カメラは背後にあるので、二人ともドアを向いたこの状態なら、ちょっとした露出をすることぐらいはできる。

 

 上昇していくエレベーターの中。

 俺たちに与えられた時間は十秒程度しかない。

 

「見せたらいいことある?」

 

 すっかりエロモードのくせに、まだモジモジして踏み出せない美優が尋ねてくる。

 

「美優に中出しする精液が増える」

 

 その言葉を聞いて、美優の指がピクンと反応する。

 

 それは美優にとって何よりも嬉しいはずのご褒美で、恥ずかしさを隠しきれずも美優の手が浴衣の隙間に吸い込まれていく。

 

 低音の鳴り響く鉄箱の中。

 

 数字が大きくなっていく階数表示に目配せしながら、美優はついにその指を帯の下に入れた。

 

「一瞬だけだからね」

 

 自発的な行動のくせに、なぜか顔だけは不服そうに美優は承諾する。

 

 宣言された通り、それは一秒にも満たないわずかな時間だった。

 

 幕を開けるように開かれた浴衣からは、美優の生脚と白桃のような恥部が覗いて、美優の色白さに馴染めない肌色の絆創膏がスジに沿って貼り付けられているのが見えた。

 

 ゴクリ、と唾を飲んで、勃ちっぱなしの愚息が脈打つように反応する。

 薄灰色に変色したガーゼが美優の濡れ具合をそのまま表していて、もうしばらくしたら美優の愛液を受け止めきれずに剥がれ落ちてくるだろう。

 

 美優のアソコが見られただけでも興奮するのに、それを公共の場で晒すことがあるなんて。

 妹がだんだんとエッチになっていく様をずっと眺めている身としては、言葉にできないほどの充足感があった。

 

「満足、した?」

 

 美優は照れ恥ずかしそうに浴衣から手を放す。

 

 一生懸命に頑張ってくれた美優に、俺は思わず抱きついて、頬にキスをしてしまった。

 

「大満足だよ。部屋に着いたら、すぐに挿れてやるからな」

 

 俺も妹のことが大好きな兄としてお返しをしてあげなくてはならない。

 

「約束だからね」

 

 美優は手を繋ぐ代わりに小指を絡めてくる。

 頬の赤らんだ惚れ顔を隠すように俺の反対側を向く美優は、すっかり雌に仕上がっていた。

 

 エレベーターのドアが開いて、俺たちは予約した番号の部屋まで足早に移動をした。

 

 そこには暗証番号を入力するタッチパネルがあって、予約完了時に指定された数字を入力してロックを解除する必要がある。

 

「えっと、番号は……」

 

 俺はスマホを片手に写真を表示させる。

 番号はスクリーンショットで取ってあるので、それを見ながらたった六桁を入力するだけなのだが、興奮して上手く指が動かず、失敗してはクリアボタンの連打を繰り返してしまう。

 

「早く早く」

 

 エッチがしたくて待てない妹が、たまらず俺の浴衣に手を突っ込んで、ペニスを扱いてくる。

 

「あっ、お、おい、ダメだって」

「ここも監視カメラは背中側だから大丈夫だよ。お兄ちゃんも見せてくれなきゃフェアじゃないよね」

 

 そう言って美優は俺の腰に巻かれていた帯を奪い去った。

 前に重ねられていた浴衣がストンの垂直になって、そこから上向きに膨張する肉棒が丸出しの状態になった。

 

「早くしないと誰かに恥ずかしいとこを見られちゃうよ」

「お前な……」

 

 エッチなことになると楽しそうに煽ってくる妹の手コキに耐えながら、どうにか暗証番号を入力して、最後に精算用の腕輪をICリーダーにかざす。

 ロックが解除されてすぐにドアを開け、先に美優を押し込んでから俺も部屋に入った。

 

 玄関らしき空間がそこにはあって、すぐ目の前には大きな棚が置かれている。

 左手には掛け軸、右手に襖があって、おそらくは右手にある部屋で休みながら、料理などを注文した場合にこの棚に置いてもらうのだろう。

 

 部屋がどんな感じになっているのかは気になるところだが、まずは何よりセックスがしたい。

 

 俺は美優の後ろから浴衣をめくり上げて、股の後ろから前へとペニスを擦るように前後させた。

 だがそこにはまだ絆創膏が貼られているので、俺のペニスを挿入することはできない。

 

「そんなに焦らさないで……」

 

 美優は配膳用の棚に手をついて、悩ましくお尻を振って挿入を催促する。

 

 美優とはセックスすること自体が久しぶりだ。

 山本さんとの仲直り作戦のことがあったとはいえ、これまでいったいどれだけの日々を自慰で済ませてきたことだろうか。

 

「美優が挿れられるようにしてくれないと」

 

 俺はなおも絆創膏の上からペニスで秘部を撫でるだけにとどめた。

 

 今日のセックスはこれまでとは違う。

 俺の性欲を発散させるためだけではなく、美優が中出しされたがっているからしているんだ。

 

 その比重は、もはや後者の方が大きなものになっている。

 

「部屋に着いたらすぐ挿れてくれるって約束したのに」

「だから居間にも行かずにこうして挿れる体勢になってるだろ。でも美優が絆創膏を貼ってるから入らないんだよ」

「むぅー……お兄ちゃんが貼れって言ったんだもん……」

 

 そうは言いつつも、そろりそろりと美優の手は自らの股の間へと伸びていく。

 

 自分でも理不尽を言っていることは理解している。

 美優が言うように、その絆創膏は俺が貼らせたものだ。

 

 しかし、これはただの理不尽ではなかった。

 イヤな事は絶対にイヤだと言う美優が、こうして従順になっているのは単にムラムラしているからだけではない。

 

 美優にも自覚があったんだ。

 

 その絆創膏は俺が一方的に貼らせたのではなく、美優自身にもそうしたエッチなことをしてみたい欲望があったのだと。

 

 それが負い目となって、こんな意地悪なことでも美優は従うしかなくなっている。

 この問答こそが、美優が自らをエッチな女の子だと白状した決定的な瞬間だった。

 

 不満そうに頬を膨らませて、それでも今は性欲より優先するものがない美優は、せめてもの抵抗をするように無言のまま絆創膏を剥がした。

 そして、愛液に塗れて粘着力を失いかけているそれを、棚に置いてもう待ちきれないと目で訴えかけてくる。

 

 こんなにも頑張ってくれた妹にご褒美をあげないわけにもいかず、俺は剥き身のままのペニスを美優の膣内へとすぐさま挿入した。

 

「ひゅぐっ……あっ、あっ……!!」

 

 背中を反って快楽を受け流そうとする美優の腰をがっしりと掴み、暴れさせないようにしてずぷずぷと竿を沈めていく。

 絆創膏によって垂れ落ちずに溜められていた濃密な愛液に生の肉棒を埋めると、お湯の中に放尿するような温かい快楽が下腹部に広がって、気を抜いたら膣内に精液を漏らしてしまいそうだった。

 

「奥までいくからな……!」

 

 たっぷりの愛液ですんなりと挿入ができたかと思ったのも束の間、ただでさえキツキツだった美優の膣肉が久しぶりのセックスで狭まっていて、そこにペニスを捻じ込むとギュッと絞り出すように膣襞が絡みついてきた。

 

「あぐっつ、ぁ、ああぁっ……ひゅご、いぃはぁあっ……らめっ、あっ、ああっ……!!」

 

 いつもより少しだけ深くペニスを挿入しただけで、美優は快感に喘ぎ悶えた。

 もう美優が一番感じる子宮にペニスが達してしまったらしい。 

 

「んあぁっ、あっ、ああっ……! おにぃ、ちゃん……きもひ、ぃあぁっ、あああんんっ!!」

 

 初セックスのひと突きで絶頂してしまうような妹が、大好きな兄の男性器を生で受け入れて正気でいられるわけもなく、数回膣内を擦っただけでもう火花を散らしたように目を浮かせていた。

 

 俺もしばらくは半挿れで慣らしてあげるつもりだったのだが、こんなにも容易く奥に届いてしまうなんて。

 よもや挿れる前から子宮が降りてきているとは思わなかった。

 

「エロい妹だな……ほんとに……!」

 

 こうなってしまったからには構わず根元まで挿れることにした。

 俺は美優のお尻をピシンッと叩いて、しっかり自分の足で立たせてから、浴衣の上の方に手を伸ばしてブラジャーを外す。

 目立たないように潰されていたおっぱいが、解放を喜ぶように零れ落ちてきて、俺はその豊乳を揉みしだきながら腰を打ち付けた。

 

「はぅぁあぅ……ああんっ、うぅあぁ……おにい、ひゃん……うぅうっ、ああっ……ッッ!!」

「美優っ……すっげぇきもちいい、けど……声は抑えないと……!」

 

 ここは客室だけが効率よく密集して並べられた専用のフロア。

 ましてやドアの真ん前で行為をしているのだから、大声を出したら丸聞こえになる。

 

「むりぃ、い、はぁっ……あぅ、んっああぁあっ、きもひよしゅぎ、て、む、りぃ……っ!!」

 

 待ち焦がれた兄との生セックスで、理性を保てるわけもなかった。

 それがわかっていても、乱れる美優の姿が可愛くて俺も腰を振るのを止めることができない。

 

「あっ……ああっ……」

 

 そうしてバックで突きまくっていると、美優もイキっぱなしで筋力の限界が来たようで床に崩れ落ちてしまった。

 

「はぁ……はぅ……これ、もうだめかも……」

 

 美優は息を乱して、配膳台の中段にもたれ掛かる。

 そこで一旦の小休止となった。

 

「俺はまだイッてないんだけど」

 

 耳そばで意地悪なことをボソッと言ってみると、美優は申し訳ない気持ちで目をいっぱいに潤ませて俺を見上げてきた。

 

 ……あんまりイジめるものではないな。

 

「部屋に入って、じっくり続きをしようか」

 

 俺は美優の手を引いて立ち上がらせてから襖を開ける。

 八畳ほどの和室の真ん中に四角い木製のテーブルが置いてあって、そこに四つの座敷用の椅子が並べられていた。

 他に部屋にあるのは注文用のタブレットと水の入ったピッチャー、そして給湯器とお茶セットだけだった。

 

 まさかベッドが置いてないとは。

 畳だからそこに寝転べってことだろうけど、そこでエッチをするのもな。

 

「美優はテーブルの角のとこに座ってくれ」

「ふぇ……ここ……?」

 

 美優は俺が指さした木製テーブルの端にちょこんと座る。

 その手前に俺が膝を立てればいい具合にペニスが美優の穴に合うのだ。

 

「……どうした?」

 

 互いに乱れた浴衣のまま。

 美優は立ち尽くす俺の勃起したペニスを眺めている。

 

「あ、いや、その……こんなおっきいのがさっきまで私の膣内に入ってたんだなって……」

 

 美優は指を竿に当てて長さを測り、それを自分のお腹に当てて深さを確認した。

 それで何を思ったのかはわからないのだが、美優の体が小さいせいで結構なところまで入ってるのがわかってしまい、美優は何か後悔したように手を引っ込めた。

 

「これが入ってるときはすごい勢いで喘いでたよ」

 

 俺がそう言うと、美優は咄嗟に両手で顔を覆って髪を振り乱した。

 

「やだやだ……言わないで……!」

 

 エロ娘ながら純粋な美優をからかうのは楽しい。

 しかしそれ以上にセックスがしたかったので、俺は美優の前で膝をついて挿入の準備をした。

 

 角っこに座らせた美優は自然と脚を開く形になっていて、上体を少し後ろに倒させると見えてきたその蜜口に、俺はペニスの先端を触れさせた。

 

「あ、あの、これはいったい……」

「この角度なら入るのがよく見えるだろ」

「そんなものを見せたら妹の気が触れます……!」

 

 自分のことをよくわかっていながら、それでもこれから結合される箇所から目を離すことができない美優に、俺は構わずペニスを挿入していく。

 

「ふぁ……あっ……キてる……んっ……!」

 

 小柄な体格につるぷにの陰部は、そこだけを切り取ればまだ初潮前の体のようで、そんな薄い線だけが見える股の間に生の肉棒を捻じ込むのは陶酔感に近いほどの快楽があった。

 

 無機質に男根を咥え入れていく愛液たっぷりの肉穴が、まるで大好きな兄の肉棒を味わいながらも無表情でフェラをしていた頃の美優のようで、視界を共有している美優にとっては否応なく共感させられる光景のはず。

 

「やだ……んんっ、あっ……! 恥ず、かしぃ……んあっ、やんっああぁっ!!」

 

 羞恥のあまりに美優が手で視界を塞いでも、構わずスローペースでの挿入を繰り返す。

 美優は膣内に挿入された肉棒の状態を、指先で触れるのと変わらない精度で感じ取ることができてしまう。

 そんな美優からしたら、生の肉同士が擦れる感覚なんて卒倒物だろう。

 

「あっ、あっ、あっ……んああっ………ああっ……!!」

 

 勃起で上向く俺のペニスは、正面からの挿入時に常に美優の腹部を押し続けてGスポットを刺激する。

 そこを通り過ぎる瞬間にビクンと跳ねて喘ぐ美優の姿が堪らなく好きだ。

 

 美優は演技でさえ感じている姿を晒そうとは絶対にしない。

 それなのに、みっともなく股を開いて体をビクビクさせるのは、抗いようがないほど気持ち良くなっている証拠だった。

 

「あっ……あっ……らめ……あぁぅぅ……気持ひぃ……ん、あああぐッッ!!」

 

 一往復に五秒をかけるほどの緩い動きで、亀頭の笠が美優の肉襞に引っかかる感覚すらわかるぐらい、ねちっこいスローセックスで美優を快感責めにする。

 

 それから更にスピードを落としていって、腰の動きを止めると、今度はペニスでピクつく刺激だけを美優に与えることにした。

 

「んっ……んんっ……!」

 

 美優を休ませると同時に、体力の回復から生まれる余裕を焦らしへと変えていく。

 

 俺は中途半端に脱がしたままになっていたブラを片方ずつ腕を通して外させて、最近また大きくなっているらしい美優のおっぱいを揉みしだいた。

 

「あぅ……あっ……ああっ……」

 

 美優は文句も言わず、されるがままに俺に胸を揉まれている。

 無断でおっぱいを触ってもこの頃は怒られることもないのだ。

 この妹、慣れさせてしまえばなんでもできる。

 

「お兄ちゃん……」

 

 美優は自分のお腹に両手を乗せて、俺のペニスの先端がある辺りを指先で撫でている。

 どうやらどの位置まで入っているのかを外側から探っているらしい。

 

「美優の子宮はどのあたりなんだ?」

 

 興味本位で聞いてみただけだった。

 

 それが美優にとって、俺に握らせるべきでないキケンな情報だと、俺自身も気づかずに。

 

「えと……このおへその下のとこ……ちょうど届くときが、いちばん、あたまがふわってなる……」

 

 美優はお腹を触っていた両手の中指でその位置を指し示すように軽く押し込む。

 偶然にもハートにも似た形が表れた、その先端こそが美優の子宮の入り口だった。

 

「ならそこに精子を出すから、しばらくマークしといて」

「ふぇ……あっ、ああっ……ん、ぁああっ!!」

 

 俺は徐々にピストンの速度を上げて射精に向けた運動を始める。

 

 美優が教えてくれた位置にぴったりペニスの先が当たるように、決して強く押し付けず、コツン、コツン、と二人の性器が小鳥の啄みのようなキスをするように腰を前後させる。

 

「ああっ、んっ、だめっ、あっ……おかひくなっちゃ……ああっんっ、ひゃぁんっううあうっ!!」

 

 快楽の波に体は痙攣し、呼吸が苦しくなって顎が上がってもなお、美優は腹部に置いた手で俺に子宮口の位置を教えてくれていた。

 どんなに体が苦しくても脳内に分泌される快楽がそれを上回っていて、責め苦から解放されようとすることもなく刺激を求め続けている。

 

「美優……美優ッ……!!」

 

 美優の膣内は挿入した瞬間に射精していてもおかしくなかったほど気持ちいいのに、俺は射精をしないようコントロールすることができていた。

 

 あるいは、美優の本能が俺の精子を欲しながらも、理性側の美優がその本能を押させつけてしまうぐらいに「もっとセックスの快楽を味わっていたい」という意志を俺に伝えて射精を止めていたのかもしれない。

 

「あっ、ああっ! おにぃ、ちゃん……っ!!」

 

 だがそれももう限界。

 睾丸から汲み上げられた精液が発射の直前にまで至り、強烈な射精欲が襲ってくる。

 それは美優から俺への明確な射精の要求だった。

 

「美優……もう、出すからな……ッ!!」

 

 腰を激しく動かしてペニスに十分な摩擦を与え、脳内で弾けるように射精の信号が発信されてから、精液が射出されるまでの間に大きなストロークへと変えていく。

 それが美優とのセックスで何度も繰り返した射精のやり方で、最後に突き出した瞬間に精子が放出されることを、美優の体も覚えている。

 

「おにぃ、ちゃ、あんっ……ああぁんうぅあっ……ああっ……!!」

「出るッ、出るぞ……美優──ッ!!」

 

 びゅるるっ、びゅる、びゅくっ──!!

 美優がマークしてくれた子宮口にぴったりとペニスをくっつけて射精をすると、大量の精液が尿道を押し広げながら駆け抜け、三日間溜めたそのほとんどをホースの口を噛んだような勢いで美優の子宮に流し込んでいった。

 

「ぃひゅッがぁああぁっ────!!」

 

 硬直した身体から悲鳴のように絞り出された嬌声を最後に、美優は恍惚とした表情で天井を見上げ、全身を脱力させた。

 コンドームと変わらない密着具合でぴっちりとペニスに吸い付いていた肉壺も、ペニスを引き抜けば俺が挿入した痕跡である空洞ができあがっていて、そこからだらしなく涎を垂らすように白濁液を漏らしていた。

 

 ついに俺は、自分の妹に中出しをしたんだ。

 

 その実感が湧き上がってきたとき、俺の胸に残っていたのは、歓びと、興奮と、誰に向けたものでもない後引くような罪悪感だった。

 

「美優……」

 

 大量射精の影響か、貧血になったようにぼやける視界の中で、俺は美優に覆い被さる。

 

 少し、違う。

 

 罪悪感、背徳感、あるいは後悔か。

 そういったものがあったから、俺はこんなにも興奮している。

 

 そして、やってしまったこの状況を、俺と美優は楽しんでいるんだ。

 

 兄妹でもある恋人ではなく。

 恋人でもある兄妹としての関係を望んだ美優にとって、これこそが至高の性快楽に違いない。

 その考え自体は俺も肯定しているし、同じ道に合流してしまっても良いのではないかとすら最近は思っている。

 

 改めて思うのだ。

 俺はこの妹に、恋人らしさを求める必要はあるのか、と。

 

「お、にい……ちゃん……」

 

 美優が寝言のようなボソボソとした声で俺を呼ぶ。

 

「美優、どんな気分だ?」

 

 目の焦点が定まらないままの美優に声をかけると、美優はわずかにこちらに首を向けた。

 

「みずのなかに、いるみたい……とっても静かで、落ちつく……」

 

 口を半開きにして曖昧な滑舌で喋る美優は、意識の半分ぐらいは別の世界に行っているようだった。

 かなり危ない状態かもしれない。

 

「からだはふわふわ、宙に浮いてて……おなかのとこだけ、ムズムズして……きもち、よくて……んっ、んっ……あっ……」

 

 美優の腹筋が痙攣したかと思うと、ぼこっ、ぼこっ、と秘所から精液が溢れ出してテーブルに広がっていく。

 

「おにいちゃんの、せいえき、しきゅうに、いっぱい……あっ、ああっ……ぃ……んっ……」

 

 ペニスを抜いてもなおイキ続ける美優から、俺自身も信じられないぐらいの量の精液が垂れ流しになっている。

 新雪を均したような色白のパイパンが悲惨な状況になっていて、俺はその光景に酷く萌えていた。

 

「美優。お兄ちゃんはここにいるぞ」

 

 快楽に悶えるうちに流れていた涙の跡を親指で拭って、俺は美優の唇にキスをする。

 

「んっ……ふぁ……お兄ちゃん……」

 

 それから美優はふっと笑って、ようやく俺のことを見てくれた。

 どうやら意識を引き戻すのに成功したらしい。

 

「ちから、入んない。お兄ちゃん起こして」

「はいよ」

 

 俺は両手を広げておねだりする美優の腕を引き上げて、ほとんど脱ぎかけになっていた浴衣を肩に掛け直す。

 

「ひゃっ……なに、これ……」

 

 美優は股を開きっぱなしにして寝ていたことに今更気づき、さらにはそこから夥しい量の精液を漏らしていたことを知って、羞恥に耳を赤くした。

 

「中出しするとこうなるんだよ」

「あぁーうー……私が気付く前に拭いといてよぉ……!」

 

 美優はテーブルの上で体育座りになって、浴衣で全身を覆ってしまう。

 

 仕方ないので俺がティッシュで拭き取ることにした。

 この量はゴミ箱には残せないので、ビニール袋に入れて別の場所に捨てておこう。

 

「美優にも生でしたことを実感してもらったほうがいいかと思って」

 

 どうせなら写真でも撮っておきたかったぐらいだ。

 

「そんな配慮しなくても。私はお兄ちゃんの精液がお腹に残ってるのわかるんだから」

 

 美優はそう口にして、自分で言っておきながらきまりが悪そうにむくれ顔をした。

 

「かなり流れてた気がするけど、まだ残ってるのか?」

「まだまだいっぱい残ってますけど」

 

 美優はテーブルから降りようとして、しかし、精液が垂れてしまうのが心配なのか動けずにいる。

 ここはやはりアレしかあるまい。

 

「また絆創膏を貼ろうか」

 

 そう口にしながら、俺の手にはもう絆創膏の用意があった。

 

「お兄ちゃんってそういう俗っぽいこと好きだよね」

「まあそう言うな」

 

 ワレメに絆創膏はたしかに俗っぽいが、事実として今は有効な手段なのだから仕方がない。

 

 美優は大人しく脚を開いて、ティッシュで表面の粘液を拭った。

 一度経験してしまうとそれほど抵抗しなくなるのもいつもの美優だ。

 

 中出しセックスの後で裸体を晒す羞恥心が和らいでいるのか、今回は端から端まで俺が貼っても美優は嫌がらなかった。

 

「……あの、お兄ちゃん。ここに押し入れがあるのですが」

 

 立ち上がってすぐ、あるいは意識が戻った段階から気づいていたのかもしれないが、美優はこの部屋に押し入れがあったことを俺に教えてくれた。

 

 それは居間に入った直後には目に入らなかった、襖の左側に続く場所にあったもの。

 押し入れを開けると布団類一式が用意されていて、どうやら普通に寝ることもできたらしい。

 

「美優も疲れただろうし、布団は出しておこうか」

 

 テーブルを移動させて布団を敷けるだけのスペースを作る。

 一組だけ用意しておけば十分だろう。

 

 そこにまず美優を寝かせて、俺はその間にゴミ類をまとめていた。

 

「……なにやってんだ?」

 

 俺が目を離しているうちに、美優がうつ伏せの状態でお尻だけを突き出して左右にフリフリしていた。

 誘っているのだろうか。

 

「こうすればお兄ちゃんの精液が子宮に入るかなと思って」

 

 素面に戻ったと思ったらまだ頭はバグったままのようだった。

 なんだかんだ絆創膏でアソコを塞いで喜んでいるのは美優の方なんじゃないか。

 

「それで入るようになるものなのか?」

 

 ゴミをあらかたまとめ終わって、俺は美優の隣に移動する。

 

「普通は入らないはずだけど。想像するとエッチだから入ると思ってる」

「なるほど」

 

 うちの妹は立派なエロ漫画脳になっていた。

 俺が中出しをしたとき、美優の体感では子宮の中にどっぷりと精液が注ぎ込まれていたことだろう。

 

「んへへ」

 

 抑えきれない笑みを浮かべて、美優はお腹をさすっている。

 俺に中出しされたことがよっぽど嬉しいらしい。

 

「お兄ちゃんの精子でいっぱい……」

 

 美優は浴衣がはだけるのも気にせず布団にゴロンと寝転がる。

 脂を残しながらもくびれが見えるぐらいに絞られた美優のお腹はさらさらで気持ち良さそうだった。

 

 これだけお腹が綺麗だからつるつるのアソコも映えるんだよな。

 思わず触りたくなってしまう。

 

「んっ、ああっ……!」

 

 つい我慢ができず、俺がお腹を触ると美優はビクビクビクッと腹筋を引き攣らせて喘ぎ声を上げた。

 

「す、すまん」

「もー。お兄ちゃんが奥に出すからお腹まで敏感になっちゃったじゃないですか」

「申し訳ないとは思っている」

 

 反省するつもりは微塵もないが。

 

「お兄ちゃんのせいでまた変な気分になってきた」

 

 美優が何かを訴えかけるような目で俺を見つめてくる。

 これはいわゆるイチャモンというやつだな。

 

「俺だって美優がエッチな声を出すから変な気分になってきたよ。お詫びにおっぱいを吸わせてほしい」

「お兄ちゃんがそういうことするから胸が大きくなるんでしょ」

「いいじゃないかHカップになったって。美優もエッチなんだし」

「私はエッチじゃありませんし! あと全国のHカップに謝りなさい」

 

 押しつ押されつの兄妹の問答。

 でも美優がイチャラブしたいのは明白で、そのためにはエッチなスキンシップが必要なので、兄としては引くわけにはいかない。

 

「美優、いいか? よく聞け」

 

 俺は美優の頭の横に手をついて覆い被さる。

 

「お兄ちゃんのことが大好きな美少女GカップJCがエッチじゃないわけがない」

「酷い風評被害じゃないですか……!」

 

 実際のところわりと妥当な判断だと思う。

 

「……で、その妹にどう責任を取れと」

 

 不服ながらも申し訳なさそうな表情で美優が俺を見上げてくる。

 最近は俺に発情した姿を見せることも多くなってきたせいか、自分がエッチな妹ではないと否定しきることもできなかったようだ。

 

「こんなエッチな妹を持ってしまった兄の性欲を慰めてくれればそれで」

 

 だからおっぱいを吸わせてもらう。

 俺が上体を低くして、そのぷっくりとした突起に唇を近づけると、美優は最後の悪あがきに両手でそこを隠した。

 

「妹がエッチになるのはお兄ちゃんが欲情するのが悪いという反論は」

「聞けないな」

 

 俺は美優の手を布団に押し付けておっぱいにしゃぶりついた。

 

「あっ……いひゃ……ああんっ……!」

 

 ちゅるちゅると舌で舐りながら美優の乳首を吸い上げる。

 美優は再び喘ぎ乱れて、快感を受け流そうと膝を内股にして力を込めた。

 

「ちゅるっ……んっ……ああ……美優……すごく興奮する……」

「んあっ、ひゃ、らめっ……あかちゃん、みたいに……あんっ……吸っちゃいやぁ……!」

 

 美優の乳首を舐めると甲高い艶声が響いて勃起が止まらなくなる。

 実の妹のおっぱいを吸っているのだと思うと余計に興奮して頭が変になりそうだった。

 

「むんっ……はぁ……美優……!」

 

 俺は美優の手を塞ぐこともやめて、もう片方の乳房を揉みしだく。

 

「んあっ、あっ、おにいちゃん……は、はずかしぃ……うぅ……あっ、んああっ……!」

 

 美優は手が自由になっても俺を退かそうとはせずに、背中に腕を回しておっぱいに吸い付く兄を慰めてくれている。

 それが美優の俺に対する優しさで、こうしていることが兄妹としての愛情表現だった。

 

「あっ、だめ、お兄ちゃん、まって……あっ、ああっ……お股、貼ったやつ取れちゃう……んっあっ……」

 

 美優にエッチな刺激を与えすぎて、絆創膏が愛液でふやけていた。

 このままだと膣内に残った精液で布団を汚すことになってしまう。

 

「んむっ……ふぅ。そうか、絆創膏はあんまり役に立たなそうだな」

 

 俺は美優のおっぱいから口を離して、しばらく思案する。

 新しい絆創膏を貼り付けてもまた無駄になるだけだろうし、エッチがしたくなってしまった今となっては邪魔でしかない。

 

「お腹の精液、出しきってみるか」

「どうやって?」

 

 美優は複雑そうな面持ちで尋ねてくる。

 精液は残しておきたいが、エッチができなくなるのも嫌で、渋々といった感じだ。

 

「まずそこのテーブルに膝をついて立ってくれ。痛かったら椅子の座布団を敷いてもいいから」

「下が硬いのは私は平気だけど。ここに膝立ちするの?」

 

 美優は四つん這いでテーブルの上に乗って、それから膝を曲げて正座をする。

 その状態から膝立ちをすると、帯をつけていない浴衣の前が開いて、美優のむっちりとした色白の豊乳とパイパンが露わになった。

 

「なんか、すごいエッチな格好……」

 

 美優は独り言のように呟いて浴衣を前に交差させる。

 

「美優のエッチな姿が世界で一番可愛いよ。だから、俺には隠さないでほしい」

「うぅ……そう言われても……」

 

 布団に寝転んでいたときから発情状態だった美優だ。

 兄のエッチなお願いはそう簡単に断れない。

 

 それに、普段の美優も、だんだんと俺にエッチな姿を見せることに寛容になってきている。

 昨日のスキンシップからの流れで思ったのだが、美優はクールな表情で固めてしまったイチャラブしたい想いを、エッチをすることで少しずつ溶かしていっているのではないだろうか。

 

「頼むよ。美優の裸を見てエッチな気分になりたいんだ」

「うーん……お兄ちゃんがそこまで言うなら……」

 

 美優は大人しく浴衣から手を離して再び上下の恥部を露出させる。

 素直でいい子になったものだ。

 

「そこなら精液が垂れても簡単に拭けるから。絆創膏を剥がして、お腹を押してみて」

「……わかった」

 

 美優が絆創膏を剥がすと、ぴっちり閉じていたワレメが俺に見られている刺激でヒクヒクと動いて、溜まっていた愛液がとろっと流れ出てきた。

 

「もう時間が経ってるから、白いの残ってないかもよ?」

「それなら、漏れる心配をしなくて済むってことだろ。確かめてみよう」

「う、うん」

 

 美優は呼吸を整えて、両手でお腹を押し込みながら、少しずつお腹に力を入れていく。

 ぷるぷると筋肉が震えて、それでも美優は懸命に精液を押し出そうとしていた。

 こうやって訳がわからないながらも頑張っている美優を見ているだけで、興奮してペニスがピクピクと疼いてくる。

 

「あんまり、出ない……?」

「でも中にはかなり残ってるんだろ?」

「そのはずなんだけど」

 

 粘性が高すぎて押すだけでは出ないのだろうか。

 まさかそんなことはないと思うのだが、ここまで来てしまうと美優の膣の構造が俺の精液を溜め込むようにできていても不思議ではないので、単純に力を加えるだけでは出ないと考えるべきかもしれない。

 思えば美優がテーブルに寝転んでイッていたときは精液が流れ出ていたし、膣の蠕動が排出のきっかけになる可能性はある。

 

「美優。またちょっとお腹を触るからな」

「お兄ちゃんが押すの?」

「押すっていうか」

 

 蠕動させるといっても、ただ感じさせるだけだと弱いみたいだから、その先が必要なんだ。

 

「えっと……。イッてくれ」

 

 俺はどう表現するかを迷って、代替となる言葉を結局は見つけられず、美優の背後に回り込んでできるだけ優しい声でお願いをした。

 

「なんて返事をすればよいでしょうか」

 

 美優はほんのり照れ顔で視線を下げる。

 

「断られても触るつもりだけど。肯いてくれたら俺は嬉しい」

 

 これまでは俺が欲情するままに美優を一方的にイかせてきた。

 いや、美優だけではなく、佐知子も山本さんも、どの女の子だって、男が勝手に興奮してその結果に絶頂するものだ。

 

 だから、もし美優が俺の頼みに応えて自分の意思でイッてくれるのなら、これほど嬉しいことはないし、死ぬほど興奮する。

 

「えと、じゃあ、その……、はい。イキます……」

 

 ボソボソと聞こえるか聞こえないかぐらいの声で美優は答えて、触りやすいように浴衣を広げてくれた。

 

 そんな美優のエロい姿に、もうそれだけで射精してしまいそうになるのをぐっと堪えて、俺は美優の後ろから手を回して腹部に触れた。

 

「ん、んっ……ああっ……やっぱ、り、すごい……あっ……!」

 

 俺が美優のお腹を撫でると、中イキしているときと同じ痙攣反応が起こって、美優は膝立ちを保てずにフラつきそうになる。

 それを俺は背後から支えてなんとか美優の股を広げさせ、そこから精液が流れ出してくるのを待った。

 

「あっ……ひぁあっ……ん、ああっ……おにぃ、ちゃん……!」

 

 普段の前戯とは違って、肌を羽毛でくすぐるように触れるのではなく、中出しの時に美優がガイドしてくれた位置を軽く押しながら割れ目に向かって撫で下ろしていく。

 

「んんンッ……はぁ……ひぃあああっ……っあ……ぐっ……!」

 

 繰り返し押し寄せるオーガズムの波に美優は悶え続けて、力の抜けかかった脚がブルッと震えたかと思うと、美優は咄嗟に股間を隠そうと腕を内側に伸ばした。

 

「ひぁ……らめ、でちゃ……うっ……あっ……!」

 

 ポタ、ポタ、と愛液に薄まった白濁液が、美優の陰裂から垂れていた。

 お漏らしをしたような感覚に危機感を覚えた美優は、なおも続く俺の快楽責めに悶えながらも股を押さえようとする。

 

 しかし、それは形だけのこと。

 イかされることも、漏らすことも、どちらも気持ち良くなってしまった美優の体は、そのわずかに残った理性が発する信号に全く付いていっていなかった。

 

 お腹を撫でられてイキ続ける美優は、突き出すように局部を露出させて、ひたすら溜め込んだ精液を吐き出し続けている。

 

「美優。いっぱい出てるよ」

「あぁ、ぅぅ…………こんな、の、だめ……あっ、あっ……」

 

 美優の膣内から絞り出された精液がテーブルに広がっていき、やがて割れ目から白い粘液が垂れてこなくなったところで、俺は美優を解放した。

 精液を踏んでしまわないよう、後ろに引いてからお尻が着くように座らせる。

 

「はぁ、はぁ……なんかもう、私、お兄ちゃん以外と一生エッチできない……」

 

 美優は自分のお腹から出てきた精液の量を確認すると、他人には絶対に見せられないような姿まで兄に晒してしまったと思い至ったようだった。

 

 これが、女の子を仕込む、ということなのだろうか。

 俺の周りには経験豊富な女の子ばかりだったから、開発する喜びを中々味わえずにいたけど。

 

 美優が俺の色に染まっていくのを見ていると、これまで味わったことのない格別な快感に心が満たされていった。

 

「最初から俺以外にないだろ」

 

 唯一可能性のあった遥とも性的な関わりを断つことを決め、男が相手となると兄にしか身体を許せないのだから、美優は一生俺以外とエッチはできないのだ。

 

 そういう身体になってるってだけで、もう十分にエッチだ。

 

「ところで」

 

 テーブルの上で疲れ切っている美優に、俺は屹立した剛直を見せつける。

 

「美優のせいでもうこんななんだが」

 

 美優にたっぷり中出しして満足していたはずの肉棒が、再び獣のような性欲を宿していた。

 

「中出ししていいかな」

「いまお腹をキレイにしたばかりですけども?」

「……ダメか?」

「……ダメでは、ないです」

 

 美優は『どうぞこの体を好きにお使いください』と言わんばかりに、俺に赤裸々な姿を預けてくる。

 

 美優と迎える二度目の中出しセックス。

 

 二人の火が灯ったその瞬間、スマホのアラームが作動して、部屋中に電子音が鳴り響いた。

 

「あっ、まずい」

 

 ここは一時間きっかりしか借りられない休憩室。

 延長料金が取られるだけならいいが、後ろの予約が詰まっているので清掃員がこの部屋に入ってきてしまう。

 

「あと五分しかない」

「ふぇ……!?」

 

 美優は瞠目してその事実に驚愕する。

 見事に誘い受けが成功したと思っていた美優からしたら、とんだ水差しだった。

 

「い、急いでするか?」

「したい……したいけど……」

 

 悲しくも俺の早漏なら五分もあれば問題なく射精を済ませるには足る。

 それでも、せっかくの初デートエッチを雑に済ませるのは、美優にとってあまり好ましくはないようだった。

 

「まあ、でも、美優はいっぱいイッたから、結構満足してたりするのかな」

 

 そもそも美優の体力的に保たない気もする。

 

「お兄ちゃんが一回しか射精してないのに満足できるわけないじゃないですか」

 

 美優は俺に飛びついてきてよくわからないことを言い始めた。

 

「俺の、問題なのか?」

 

 兄の精子が大好きな美優からしたら、自分がイクより俺が射精するほうが大事なのはわかる。

 でも、あれだけたっぷり中出ししたわけだし、男としての責務は果たせた気はするのだが。

 

「妹はもうお兄ちゃんがいっぱい射精しないと満足できない体になってしまいました」

 

 どうやら自分がイクとかどれだけ精液を出したかとかは関係なく、とにかく俺に射精をしてほしいらしい。

 

 兄としては嬉しいことだけれども、楽観的に考えていたら地獄を見そうだ。

 

「これだけたっぷり精液は出しただろ」

 

 俺はテーブルに飲みかけのカルピスを溢したような乳白色の水溜りを指して美優の説得を試みる。

 山本さん相手のときはまだ美優をオカズにしないと抜けないからセーブされているが、美優が相手となっては制約がないどころか際限がない。

 

「やだやだお兄ちゃんがいっぱい射精してくれなきゃヤダ!」

 

 俺を布団に押し倒した美優が、上目に俺を見つめながらペニスをゴシゴシしてくる。

 妹がとんでもないイヤイヤ期に突入してしまった。

 

「み、美優って、エッチのことになると……っ……たまに、元の性格から考えられないぐらい……甘えたがりになるよな」

「性欲が高ぶりすぎるとお兄ちゃんスキスキ妹になるのでこれはもう諦めてください」

 

 美優はじーっと俺の目を見つめて、ずっとペニスをシコシコシコシコしている。

 さすがお兄ちゃんスキスキ妹になっただけあって好きな人の好きな部位をイジるのになんの躊躇もない。

 雑にシゴいているだけなので射精するほどではないのだが、ただでさえ興奮している体にこの手コキは刺激が過ぎる。

 

「帰ってから……だと、遅いよな」

「うん」

 

 電車にも乗るし、家まで一時間以上かかるし。

 

「そしたら、この後、ラブホにでも行くか……?」

 

 いつだか妄想した妹とのラブホテル。

 まさかこんなに早い段階で実現するとは思ってもみなかったが。

 

「行く」

 

 即答だった。

 もはや彼女感がどうだとか悩んでいる余裕すらなく、とにかくエッチをしていたいだけになってしまった俺たちは、休憩室から休憩室へとハシゴをすることになった。

 

「あとね、お兄ちゃん」

「な、なんだ……?」

 

 美優はなおも肉棒を撫でたり上下に擦ったりして、先走り汁に手が塗れても、構わずくちゅくちゅと音を立てて触り続ける。

 

「今日はたぶん、残り一日こんなテンションだと思うから、頑張ってね」

 

 美優は指先についた粘液を舐め取って微笑む。

 

 頑張ってね、と美優が言ったのは、『頑張って妹のためにたくさん射精してね』という意味だ。

 つまり、ラブホに着いたら俺は美優に凄まじい勢いでイチャつかれながら何回も射精することになる。

 射精地獄行きが確定した。

 

「お、お手柔らかに」

 

 すっかりお兄ちゃん大好きモードになった美優が頭をグリグリと擦り付けてきて、こうなると兄には頭を撫でる義務が発生するので俺は美優の髪を優しく撫で下ろしながら、『いっそ中出ししまくって美優の意識を飛ばしてしまうか』とか物騒なことを考えていた。

 

「お兄ちゃん」

 

 美優がいつもよりワントーン高い声で俺を呼ぶ。

 

「どうした?」

 

 俺が応えると、美優は満面の笑みで言った。

 

「お兄ちゃんと一緒にいると、ほんとに楽しい」

 

 それは、これまで美優が抱えていた悩みのせいで、素直に俺に伝わらずにいた、美優が今この瞬間に感じている本心だった。

 

「好き」

 

 その言葉を俺に伝えてくれた美優の目は、どこまでも純粋に、澄んでいて。

 

「俺も、美優が世界で一番好きだよ」

 

 こんな可愛い妹の期待は裏切れるわけもなく。

 俺は大人しく腹上死を覚悟して美優に体を預けることを決めたのだった。

 



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妹とラブホテル

 

 スパから出てきた俺と美優は、手を繋いでラブホテルを目的地に繁華街を歩いていた。

 

 時刻はすっかりと日も暮れた頃。

 珍しく都会の空には星が煌めいている。

 

「お兄ちゃんはさ、妹付き合いがいいよね」

 

 交差点の信号待ちで、美優が俺の腕にくっついて立ち止まる。

 日中よりも大きく開けられた谷間には、意図的に寄せられたおっぱいがゴムボールを潰したように盛り上がっていた。

 

 こんな俗っぽいやり方で兄の気を引こうというのだから健気な妹だ。

 

 美優は引きこもり系の色白なので、ワレメもおっぱいも写真を加工したみたいなツヤ肌をしている。

 そこにロリ特有のぷにぷにした肉質を併せ持っているこの妹は、もう存在自体が反則というか、美優のパイパンを思い出すだけで勃起してしまいそうだった。

 

「妹付き合いってなんだ」

 

 妹のエッチな挑発に人知れず負けそうになっていることひた隠しながら、性欲モードでまたワケのわからないことを言い出した美優に妹付き合いなるワードの意味を尋ねる。

 

 妹におねだりされて、たっぷり中出しセックスした後にもかかわらずラブホテルに向かっていることだろうか。

 

「妹のお願いで友達をレイプしたりとか」

「なるほど付き合いのいい兄だな……」

 

 この妹ときたら、女子同士でいかがわしいことはするわ、他の子とセックスはさせるわ、自分のクラスを不健全の混沌に陥らせた元凶なだけはある。

 それでも、そんなありのままを好きになってしまった俺は、山本さんの言う通り少し普通ではないか、あるいは重度のシスコンだったのかもしれない。

 

「これからもいくらだって付き合うよ」

「さっすが」

 

 美優は密着したゼロ距離から飛びつくように俺の腰に抱きついてくる。

 

 まだ周囲には人もチラホラといるのに大胆なことだ。

 それから美優は照れ気味に俺から離れて、青信号になった横断歩道に足を踏み出した。

 

 俺への好意を表に出してくれるようになったのは嬉しい。

 性欲でムラムラしているからというのもあるだろうが、気持ちを言葉にしてもらえるだけで恋人らしい実感が持てるというものだ。

 恋人というより、ワルなバディという感じは否めないけれど。

 

「ところで」

 

 しばらく歩いて、風俗街に近づいてきたところで美優が口を開いた。

 

「お兄ちゃんは妹をどんなラブホテルに連れ込むつもりなんでしょうか」

 

 美優からのドキリとする質問。

 いよいよ兄の純情な心を弄び始めた。

 

 口調は落ち着いていてもお兄ちゃん大好きモードは継続中だ。

 激しくスキンシップをしなくても伝わってくる。

 真顔でじーっと見つめてくる美優が、俺に向けて「好き好き好き……」と熱いメッセージを発信しまくっているのが。

 

 きっと美優の脳内はエロい妄想で溢れかえっていて、もし思考回路を繋いだりなんかしたら、雪崩のように押し寄せる卑猥感情に侵食されて俺の脳は破壊されることだろう。

 

「ラブホなんてどこも同じだよ。特殊プレイ向けに凝ったとこ以外は、二人で使える風呂とベッドが置いてあるだけだ」

「へー。そうなんだ」

 

 美優は調べる必要のない性知識は持ち合わせていない。

 兄に性教育をするために学んだもの以外は、遥との経験で得られた知識や技能しかないのだ。

 もしそうした経緯がなかったら、今でも美優はまだ純粋無垢な清少女のままだったはず。

 

「いかがわしいお店が増えてきたね」

「もう風俗街の中心だからな」

 

 都会のラブホテルはある程度の範囲に集まっていることが多い。

 飲食店などの一般施設と風俗街が、駅を挟んでそれぞれ反対側に分離してることもあって、ラブホテルに行こうとすると必然的に大人のお店を目にすることになる。

 

 見慣れない街並みを興味深そうに観察していた美優が、どこか遠くの一点を眺めていることに気づき、その方向に目をやるとビルの二階の窓に『イメージサロン~妹パラダイス~』とパネルが貼り付けられているのが見えた。

 

 学生服にコスプレした二十代から四十代ぐらいの妹を相手にエッチなことをしてもらう性感サービス店だ。

 

 美優は俺もその店の存在に気付いたのを確認してから、ちょんちょんと手を引いて俺と目を合わせた。

 どうやら、自分の存在をアピールしているらしい。

 

「お兄ちゃん。妹パラダイスだって」

 

 妹は俺に向けてそう言った。

 

「あ、ああ。こっちも負けてられないな」

 

 何を言い返せばわからなくて、表明してしまった謎の対抗意識に、美優は「そうだね」と拳を握って応えてくれた。

 

 こちらは想像上の妹ではなく、血の繋がった本物の妹だ。

 しかも、実年齢に偽りのないロリロリの美少女で、演技ではなく本気で俺のことが好きときている。

 こんな妹とイチャラブしながら中出しセックスをしようというのだから、これがパラダイスでなくてなんなのか。

 

 負ける要素が一つも見当たらない。

 

「着いたな」

「だね」

 

 そんな与太話をしているうちに、ラブホテルに着いた。

 エントランスが見えないようになっている曇りガラスの自動ドアを、まずは俺が足を踏み込んで開け、その後ろを美優が付いてくる。

 

 清掃が済めばすぐに部屋が空くとのことで、俺たちは数分待ってから部屋を選ぶことに。

 俺はすっかり慣れてしまった手つきで受付を済ませて、美優と二人でエレベーターに乗り込んだ。

 

「お兄ちゃんがラブホ慣れしてる……」

 

 美優はまるで、「妹がいなければ脱童貞どころか女の子とまともに話すこともできなかったあのお兄ちゃんがまさか」とでも言いたげな口調でそう言った。

 

「悪かったな」

 

 佐知子をはじめ、たくさんの女の子と深い関係を持てたのは俺にとって確実にプラスだった。

 男として自信がついたのもそうだが、もし俺が美優とだけ付き合っていたとしたら、妹と愛し合うことに疑問を抱き続けていた気がする。

 

 しかし、

 

「実の妹とラブホに来てよかったものか」

 

 エレベーターから出て、部屋の鍵を開けながら俺は呟く。

 

「ラブホへの妹の持ち込みはご遠慮くださいとは書いてなかったよ」

「連れ込みの間違いだろ」

 

 鍵を開けて靴を脱ぎ、見慣れたベッドルームへと足を踏み入れる。

 

「お兄ちゃんは私のことを一人の妹だと思うこともできるし、妹の形をした射精道具と考えることもできる」

「そんなこと言ってると本当にオナホにするぞ」

 

 俺が脅すようにそう言うと、美優にちょっぴり期待の眼差しを向けられた。

 

 ドエスなのかドエムなのか。

 

 そういや今の美優は本能側のテンションだったな。

 最近ではニュートラルな状態と混ざってきているのでわかりにくいが、この美優は性欲ムラムラでお兄ちゃん大好きな射精させたがり妹なのだ。

 

「ほら、私って、ロリータ服でコスするの好きでしょ?」

「ん、ああ。そうだな」

 

 そのうえコスプレした自分の姿を見てオナニーまでしているからな。

 

「そのせいか、自分がエッチ用の人形として扱われるのが、こう、客観的に見て興奮するというか」

「わかるようなわからないような」

 

 美優が特殊性癖を持っているということだけはよくわかった。

 いわゆる一般的なレイプ願望とは少し違うということだな。

 ラブドール願望とでも名付けるべきか。

 

「あ、お兄ちゃん、ここにコンドームがあるよ」

 

 美優はベッドに飛び乗ると、ティッシュ箱に置かれていた個包装のコンドームを手に取った。

 

「ゲームとかアニメだと中出しばっかりだけどさ。現実だとゴムが付いてるのもエッチだよね」

 

 たしかに、避妊のためにゴムをつけようなんて、エロゲじゃ煩わしいだけだけど、リアルでするときはそのドキドキ感が特別な興奮に繋がるものだ。

 

「ゴムを付けるのって、挿入するための前準備だろ? それを同意した時点で、セックスしていいって言われてるのと同じ意味になるし。そういうところがエロいんじゃないかな」

 

 それは美優と初めてセックスをしたときにも思ったこと。

 コンドーム自体が、ひとつのセックス許可証なのだ。

 

「ふーん」

 

 美優はじーっと俺の股間を見つめてから、何を思ったのか、コンドームをお腹の上に乗せて仰向けになった。

 万歳をする形で両手を上にして、ベッドに寝転がった美優が妖しい視線を仰いでくる。

 

「み、美優……?」

 

 ベッドには長い髪をシーツに晒した巨乳の妹が横になっている。

 完全なる着衣で、スカートが捲れて下着が見えているわけでもない。

 

 それなのに。

 

「お兄ちゃん。ここにコンドームがあるよ」

 

 お腹に乗せられたコンドームに注意を差し向けられて、俺は全身がゾワッと身震いした。

 

 美優は同じ言葉を繰り返しただけなのに、その一言に俺は性欲のスイッチを押されてしまった。

 

 誘われている。

 

 しかも強烈に。

 

 ゴクリ、と唾を飲み込む。

 目の前のベッドにはコンドームがセットになった妹が一人。

 膣内にはきっとローション代わりの愛液がたっぷりと仕込まれている。

 

 それはまさしく、開封した直後に楽しめるようにパッケージされたラブドールのように。

 「どうか私を使って」と、自分の体が性処理のためにあることをアピールしている。

 

 なんともいじらしい妹のおねだりだ。

 はっきりとそう口にしなくても、もう俺とのエッチが待ちきれないことを、この妹は服を脱ぎもせずにコンドームをお腹に乗せるだけで伝えてきた。

 

「そんなに言うなら、使うからな」

 

 俺は下半身の衣服を脱ぎ去ってベッドに上がった。

 妹をオナホとして使うために。

 ペニスはすでに痛いほど勃起している。

 

「最後は、ゴムに出していいのか」

 

 俺はゴムの袋を破りながら尋ねる。

 

「それはダメ。ゴムしたまま射精したら怒るからね」

 

 やはり射精用ドールになってもそこは譲れないか。

 

「イキそうになったら生にするよ」

 

 妹がオナホになってもわがままに付き合うのが兄の務め。

 本番なら中出し、フェラ抜きなら口内射精、それが美優とエッチするときの原則だ。

 

 俺は美優に覆い被さって、パンツをズラしてペニスを挿入する。

 

 そして、亀頭がすっぽり入ったかというところで、美優が脚を閉じて俺の侵入を拒んできた。

 

「あっ……ふ、服が……」

 

 言いづらそうに美優が呟く。

 

 こんな雰囲気だから割り切りたい。

 でも、以前からずっと服が汚れることを嫌ってきた美優にとって、そう簡単に着衣セックスは受け入れられるものではない。

 

「美優がもし射精するための人形だとしたら、俺は服を着せて楽しみたいな」

「ううっ……それは……」

 

 美優にはいずれロリータコスチュームを着て中出しをさせてもらうことになる。

 これはそのため練習だ。

 

「美優はこれから俺が射精するために使われるんだ。それだけ考えて横になっててくれればいい」

「う、うん」

 

 俺が諭すと、美優は全身から力を抜いて、天井を見つめた。

 

 美優はこれまでの俺の性処理──もとい、精液処理をしてきたわけだが、それは全て美優が能動的に俺を射精させるものだった。

 俺に体を預けて、ただ射精させるためだけに挿入されるのは初めてになる。

 

 恋人らしいセックスからはまたかけ離れてしまったが、こんなスキンシップの取り方でなければ俺と美優は愛し合えなかった。

 

「美優、挿れるよ」

 

 俺は美優の両脚を持ち上げて、ペニスを少しずつ深くへと入れていった。

 

「……っ……あっ……」

 

 薄らと漏れる美優の喘ぎ声。

 

 普通にしてくれればいいのに、美優は人形らしくいようと、無表情で声を押し殺している。

 

 これはこれでエロい。

 

「勝手に動くからな」

 

 俺は構わず正常位でピストンを開始する。

 

 そうして俺は初めて、着衣セックスのエロさを知った。

 服を着たまま、デートをしてきたままの姿の美優に、ペニスを挿入しているんだ。

 水族館でも遊園地でも、可愛い彼女を見せびらかすように連れ歩いて、そして俺はいま、その彼女に淫らなことをしている。

 

「ああっ……美優……!」

 

 スカートに愛液が飛び散るのも構わずペニスを出し入れする。

 前後する腰の動きに合わせて、着衣のままの美優のおっぱいが上下に揺れていた。

 左右に流れることのない、ましてや俺に見せつけるために寄せあげられたバストは、重量感のある乳房をこれでもかと強調している。

 

「んっ、んあっ……ぁ……うっ……ん……」

 

 服を着たままの新鮮なセックスに、美優の感度もこれまで以上に高まっている。

 それでもなお、美優は声を出さないように堪えていた。

 そうやって美優が性感に耐えている姿が愛おしくて、俺は声がわずかに漏れるぐらいのギリギリのポイントを責め続けた。

 

「あっ……ぁっ……うっ……あっ……」

 

 ペニスは半分だけを使い、できるだけ雑にストロークのリズムをバラけさせる。

 

 ただ入れて出してを単調に繰り返すだけの作業。

 

「ぁっ……っ……ふぁ……」

 

 それでも、膣内は俺のペニスを咥え込むようにギュッと締まって、緩んだ途端に漏れ出てくる愛液の量で十分すぎるほどに気持ちよさが伝わってくる。

 

 美優と初めてエッチをしたときは、ただエロゲのテキストを送るだけの、オナサポとすら呼べないぐらいの冷淡なものだったのに。

 今ではこうして俺のペニスを受け入れて、オナホにまでなってくれている。

 

 どこをどう切り取っても恋人らしいセックスではない。

 だが、こうしたエッチをしているときの美優が、何よりも愛おしく感じる。

 

「美優、好きだ」

 

 いくら不健全だと言われようとも、エッチをしているときが一番強く感じられる。

 誰とどれだけエロいことをしようとも、妹と交わる興奮に勝るものはない。

 一皮剥けば淫らな本性が露わになるこのスケベな妹に、これからも何度だってエッチなことをしたい。

 

「っ……あっ、ぁ……お、おにい、ちゃん……」

 

 美優の顔が真っ赤に染まって、次の瞬間に差し込んだペニスに美優の体がビクンと跳ね上がった。

 

「ああっ……あっ……!」

 

 美優が感じてくれている。

 

 俺の好意を受け取って、その気分の昂りで、性感がどんどん増している。

 甘ったるい言葉を掛け合うよりも、俺たち兄妹はこうした触れ合いを通して愛情が深まっていくんだ。

 それが俺たちが互いにかけがえのない存在になっている理由でもあった。

 

「うっ……うぐっ……ぁ……うぅっ……んっ……」

 

 感度が上がってもなお無反応でい続けようとする美優。

 拳にも軋むぐらいの力が入って、もう他に意識を集中していないとイクのを耐えられなさそうだった。

 

「気持ちいいよ……美優……!」

 

 俺は構わず美優の蜜穴に肉棒を擦り付ける。

 何度挿入されてもぴっちりと張り付いてくる狭い膣壁は、乱暴に扱うだけで罪悪感が湧き上がってきて、それが更なる興奮材料になってペニスをまた肥大化させた。

 

 この妹にはどれだけイケないことをしてもいい。

 そんな加虐心が美優をより道具らしい肉穴として扱っている。

 

「うぅ……んふぅ……あっ……」

 

 呼吸を整えて快楽を受け流す美優だったが、膣内はビクビクと痙攣していて、もう絶頂を催している。

 その表情は気恥ずかしそうに目を横にそらしているだけなのに、体はこんなにも感じているなんて。

 ギャップにやられてこのままイッてしまいそうだった。

 

「あっ……ふぐっ……んぁっ……ひゃ、ら、らめっ……っ……!」

 

 俺の興奮を感じ取り、急激に増した快楽に声が出そうになって、それでも美優は全身をこわばらせることでどうにか耐える。

 

 しかし、そんな状態でも俺に容赦なくペニスを出し入れされて、美優のオーガズムを堰き止めていた快楽の堤防は呆気なく決壊した。

 

「んっ……っ…………ン──ッ!」

 

 呼吸を止めて声を抑えたまま、美優はわずかに海老反りになって、できるだけ俺にバレないようにして絶頂した。

 膣内の隙間に溜めきれない愛液が、じわりと結合部から溢れ出てくる。

 

「美優は、イクところも可愛いな」

 

 俺がそう褒めると、美優はむず痒そうに口を歪ませてそっぽを向いた。

 

「サービスみたいなものなので」

 

 美優は言い訳がましくだいぶ無理のある照れ隠しをする。

 女の子がイクと男が興奮するのは間違いないが。

 

 実際、どこまでイかずに耐えられるのだろうか。

 

「奥まで挿れても我慢できる?」

「子宮の入り口をグリグリされなければ頑張れる」

 

 やはりポイントはそこか。

 美優にとって俺のペニスで子宮を刺激されるのは強制的にイかせるスイッチみたいなもの。

 とはいえ、これまではセックスのフィニッシュに向けた挿入でしか刺激したことはない。

 

「これから一番奥まで突いてみるから、イかないように我慢してみてもらってもいい?」

「えっ……! いや、絶対に無理なんですが……!」

「まあまあ。そう思い込んでるだけで意外といけるかもしれないし」

 

 生殖に関わる行為で美優が興奮するというのは、あくまでも経験則ではそう考えれるというだけのこと。

 セックスでの盛り上がりがなければ存外それほど感じないのかもしれない。

 

「とりあえず、一分ぐらい耐えてみてくれ」

 

 これまで美優にはものの一分で簡単に射精させられてきた俺だ。

 もし、美優がいくら我慢しても一分以内に必ずイってしまうなんてことがあれば、俺たちの関係も少しはフェアなものになるのではないだろうか。

 

「いくよ」

「う、うん」

 

 俺は美優に再び覆い被さって、美優の割れ目にペニスが垂直になるように軽く腰を浮かせて下半身を完全に密着させる。

 

 体温が溶け合う蜜洞の中で、亀頭にある触覚でもなんとか感じ取れるぐらいの、グリッと擦れる感触にまずはたどり着いた。

 ここが美優の子宮口だ。

 

「んっ……」

 

 強く口を真一文に結んだ美優が、ほのかに表情を緩ませて反応する。

 

 美優も俺のペニスが当たっているのを感じ取っているらしい。

 それから、俺は膣内のペニスを竿の根元を支点にして上下に動かすように、美優の股に腰を擦り付けていく。

 

「あっ……うっ……ん、んっ……!」

 

 美優の腰を押さえる俺の両腕を、美優が咄嗟に掴んできた。

 少しでも俺との密着具合を緩和させることで感度を下げようとしているみたいだが、それでも俺は構わず、腰をぐいぐい押し当てる。

 

 決して激しい動きではない。

 前後の移動はほぼゼロに等しく、速いピストンこそが女の子を感じさせられる一番の方法だと思っている人には、ただ休んでいるだけにも見えるだろう。

 

 それでも。

 

「ひああっ……あっ、ん、あっ……! だ、だめっ……!」

 

 美優はすでに声を抑えられなくなっていた。

 

 美優の膣の狭さからしたら十分すぎるぐらいに太く勃起した竿が、あの柔らかな肉穴の中に入っているのだ。

 剛直化した棒で一番の性感帯である子宮口をピンポイントでグリグリと刺激され続ければ、美優にとっては激しいセックス以上の快感だったのかもしれない。

 

 そんなことを考えながらも、俺はただ腰を押し付けるだけの零距離のピストンを続けていく。

 

「はぁ……ああうっ……ん、あっ……あああっ……!」

 

 俺の手を掴んだまま、ビクビクと体が痙攣していく。

 正確に測っているわけではないが、少なめに見積もってもまだ三十秒も経っていない。

 

「美優、もうちょっと我慢できるか?」

「むり、むりむりぃ……! イク……もう……イッちゃう……!」

 

 美優も自分でわかるぐらい限界が来ているようだった。

 

 俺はあえて動きを変えたりはせず、美優が絶頂をするそのときまで、ひたすら単純なテンポで子宮を刺激し続ける。

 

「あっ、あっ、ああっ……! ひゃ、ら、めぇえっ……ひっ……イク……ッ……!!」

 

 美優はオーガズムの快感に下半身を力ませ、膝を内側へと閉じながら再びビクンビクンと体を弾ませた。

 

 本当に一分もしないうちに美優はイッてしまった。

 

「はぅ……あぁ……ほんと、むり……これだけは、ほんと我慢できない……」

 

 子宮の入り口は本当に美優を強制的に絶頂させるスイッチだった。

 こんなに小さい動きでも一分もしないうちにイッてしまうなんて。

 俺の妹は可愛すぎるな。

 

 しかし、結局、美優を気持ちよくするために動いてしまった。

 女の子をオナホとして扱うのは、思っていたよりも難しい。

 それが恋人ともなればなおさらだ。

 

「生で挿れるよ」

 

 俺は腰を引いてコンドームを外すと、美優のスカートの中に両手を伸ばした。

 

「美優はそのまま寝てて。俺が脱がすから」

「えっ……あ、うん……」

 

 パンツを脱がされる瞬間も美優はジッとしていた。

 しかし、その表情はいたたまれない様子だった。

 寝ている状態でパンツを脱がされるのは、普通に脱ぐよりもかなり羞恥を煽られるのだ。

 

「なあ、美優」

「ん?」

「ほんとに、射精だけするからな」

 

 俺の端折りぎみの宣言に、美優はそれでも意図を汲み取って、期待に緩みそうになる頬を引き締めてシレッとした顔で頷いた。

 

「ど、どうぞ、ご自由に」

 

 ほんのりと滲む恥ずかしさを声音に隠しきれないまま、俺に体を預ける美優。

 せっかく美優が射精用の肉穴として頑張ってくれているのに、普通にセックスをするのでは失礼だ。

 

 オナホを気持ちよくしようと思ってペニスを挿入する人間はいない。

 だから、俺がこれから行うのは、ただ竿を擦りつけて射精することだけだ。

 

「ふぅ…………っ……」

 

 ぬぷっ、ぬぷっ、とペニスが静かに膣内へと侵入していく。

 イキ濡れした肉穴が竿全体をねっとりと包み込んできて、生の肉と肉が擦れる感触に、先走り汁どころか精液に近いものが漏れて出てきた。

 美優のつるマンに、グロテスクなほど勃起した肉棒が入っていく様は、いつ見ても興奮する。

 

 擦れば擦るだけ愛液ローションが出てくるエロい肉穴に、ぬちょぬちょと粘液を絡めながらペニスをねじ込んでいく。

 自分が気持ちよくなることだけに集中して、無言でひたすら腰を振り続ける。

 

「ん……あぁ……いっ……」

 

 広いベッドルームには、美優が漏らす艶っぽい吐息だけが嬌声として響いていた。

 あんあんと喘ぎ声を出さなくても、それだけで十二分にオカズとして俺を刺激してくれる。

 むしろ、こちらのほうが興奮するぐらいだ。

 

「あー……すっげぇきもちいい……」

 

 女の子が感じるだけ男も気持ちよくなるのは間違いないが、それは支配欲に近いものが満たされることで興奮が増しているだけ。

 膣肉の内側にあるヒダの一つ一つが絡みつくことで得られる快感は、シゴくことに集中してこそ感じ取ることができる。

 

 妹をオカズに、妹の体を使って、自分の好きなようにオナニーができるなんて。

 最高の快楽だ。

 

 しかも、中出しでティッシュいらず。

 マジでたまんないな。

 早く射精したい。

 

「あっ……お、お兄ちゃんの、すっごくカタい……お腹、キツい……」

 

 二回もイッて敏感になった膣で、生のペニスを感じてまた薄らと喘ぎ声を漏らし始める美優。

 

 もっと良くしてあげたくなる気持ちを押し殺して、右手でするのと同じ要領で、カリにある性感スポットが締まるようにピストンを続ける。

 

 早漏は女の子が満足する前にセックスが終わってしまう悩ましい体質で、いつもなら頑張って射精しないように動きをコントロールするところだが。

 

 今回はそんな遠慮もいらない。

 イキたくなったら、それがどんなに早くても自分の好きなタイミングでイッていい。

 

 俺は美優の小さな体に根元いっぱいまでペニスを押し込んで、腰を強く打ち付ける。

 こうなったらもう射精するまで止めることができない。

 

「ひ……ひぁ……イッ……っ……!」

 

 気づけば美優の表情は快楽に蕩けていて、手で口を押さえるのに必死になっていた。

 俺にお腹の深くまでペニスで突かれて、もうイッてしまいそうなのかもしれない。

 普段なら一緒にイこうと言葉を交わして、ギリギリまで射精を我慢するところだけども。

 

 俺はこの喘ぎ声を潜めて悶えている美優の姿を見ながら射精がしたかった。

 

「ふぅ……うっ、あっ……もう、出る……!」

 

 美優の絶頂を待たずして、俺は射精をした。

 

 どくどくと精液が膣内に流し込まれていって、静かに使われていた美優の体に俺の体温が混じる。

 

 尿道に残った精液が吐き出されるまで、俺は美優の締まった膣肉でペニスを絞って、射精が完全に終わってからゆっくりと引き抜いた。

 

 美優は射精された興奮で絶頂の寸前にまで至った体を抱き、どうにか最後まで喘ぎ声を抑え切っていた。

 

「っ……はぁ……いっぱい、出たね……」

 

 美優は自分はイカせてもらえなかったのに、それでも満足そうに俺に微笑みかけてくる。

 本当に俺を射精させるのが好きなんだな。

 

「これでよかったのか?」

「もっと淡白に出してもらってもよかったけど」

「これ以上って、どうやれば……」

 

 セックスをするのだから、どうしたってそれなりの雰囲気にはなってしまうはずだ。

 

「お兄ちゃん、まだ硬いまんまだね」

「ああ。思ったより、良かったからな」

 

 黙って身勝手に射精するセックスの気持ち良さに、まだペニスが勃起したまま余韻として残っている。

 

「じゃあもう一回出そっか」

 

 美優はベッドにペタン座りして、俺の方は膝立ちのまま、肉棒が美優の小さな手に包まれる。

 中出しした後の愛液と精液が混じった竿は、手コキをするにはちょうどいいぐらいヌルヌルになっていた。

 

「手でするね」

「わ、わかった」

 

 何をするのかと緊張している俺をよそに、美優はシコシコとペニスを扱き始める。

 

「お、おおっ……」

 

 懐かしい感触だった。

 美優に手でしてもらうなんて、まだフェラもしてもらったことがなかった頃以来じゃないか。

 

 しかも、美優も真顔のままペニスをシゴいているし……なんだか、これはかなり股間にくるな。

 

「気持ちいい?」

「もちろんだよ。美優は、指が細いから……っ……欲しいところに、ピンポイントにくるというか……あっ……」

「それはよかった」

 

 美優はときおり指を絡めたり手のひらで撫で回すようにして、着実に俺に性感を与えていく。

 

 部屋は再び静まり返ったまま。

 今度は手コキで粘液に空気が混じる音と、俺が気持ち良さに漏らしてしまう吐息だけが部屋に流れていった。

 

「うっ……ふぅ……」

 

 美優の手が俺のペニスを半分ほど包んで、カリの段差を通過するたびに、ちゃこ、ちゃこ、と石珠が擦れる音が鳴る。

 

 ラブホテルに来たらひたすらラブラブ中出しセックスをするものだと思っていたのに。

 

 俺はただ膝立ちをするだけになって、美優は股間に生えた突起を上下にシゴく機械のようになってしまった。

 これではオナホ妹というより、性処理用のアンドロイドとか、手コキメイドのほうが近いような……。

 

 そして、何より俺を興奮させるのが、これまで俺を幾度も射精させてきた、なんの気なく俺を見つめる美優のぱっちりした目だ。

 顔は無機質に瞼をパチクリさせるだけで、真顔で俺を見上げながら手コキをする、この美優の冷淡さが酷く俺の性欲を昂らせる。

 

「うっ……あっ……美優、やばい、すぐ出るかも……」

 

 先ほど出したばかりの三回目の射精だというのに、もう限界がすぐそこまで来てしまった。

 

 同じ真顔でも、冷たい視線でシコられていた以前とは違う。

 笑顔や惚れ顔などなくとも、どこかテレパシーのようにお兄ちゃん大好き感情が伝わってくるのだ。

 

 そんな妹に手コキをされたら何分も我慢していられない。

 このまま射精してしまうと美優の服に思いっきりぶっかけることになるので、せめて口を開けてそこに出させてもらわないと。

 

「もう出そう?」

「相変わらず早くて申し訳ないけど……」

「お兄ちゃんが早漏なのはもう慣れてるから大丈夫だよ」

 

 この他人行儀な美優の優しさが身に染みる。

 そして興奮する。

 

「そしたら、私の中で出してみて」

「えっ……み、美優がいいなら、俺は構わないけど……」

 

 当時の美優だったら、そのまま口に射精させてそれで終わっていた。

 だが、今回はこれまでとは主旨が違っていたようで。

 

「はい、どうぞ」

 

 美優は手コキをやめると、四つん這いになって俺にお尻を向けてきた。

 

「はやくはやく」

「わ、わかった」

 

 俺は美優のスカートをめくりあげて、イキかけの肉棒を思い切って深くまで挿入する。

 

「うあっ……イク寸前に、この締め付け……やばい……」

 

 それは、人生で初めてコンドームをつけたときに、その圧迫感だけであっさりとイッてしまったときのように。

 手コキで敏感になっていたペニスが、後背位でさらに狭まった膣壁に圧迫されて、一気に射精を催促される。

 

 我慢することは許されない。

 勃たせて、挿れて、気持ちよくなったら、精液を出す。

 美優が期待しているのはその機械的な流れだけだ。

 

「んっ……お兄ちゃんの、おっきぃ……」

「み、美優……あっ……もう、い、イキそう……」

「いいよ。このまま、ちんちん擦って出して」

 

 生のペニスを突っ込んでいるところに、美優にそんなことを言われて我慢できるわけもなく。

 

「ああっ……美優っ……イク、イクッ……あっ……あああっ……!」

 

 俺は情けない腰つきでどうにか数回膣内で擦らせてもらって、それから引けた腰でビクビクと震えながら、細かい射精を何度も繰り返した。

 

「んあっ……お兄ちゃんの精子、中で出てる……」

 

 美優は嬉しそうな声で俺の射精を受け止めてくれた。

 ペニスを引き抜くと、こんなに短いセックスだったのにびっくりするぐらいの白濁液が流れ出てきた。

 

「き、気持ちよかった……」

「えへへ。私も、お兄ちゃんに射精されるの気持ちいい」

 

 美優に冷たくされながら射精する経験を積みすぎたせいか、こんなに動きのないエッチでも満足ができてしまう。

 俺の性癖はこの妹のせいでどこまで歪められてしまったのだろう。

 

「お兄ちゃん早漏だからできるエッチでもあるんだよ。よかったね」

 

 また他人行儀にこの妹は。

 一層好きになってしまいそうだ。

 

「美優も満足か?」

 

 セックスはどれも中途半端だし、最近はイキまくって果てるパターンが多かったから、物足りなさがあっても不思議ではないが。

 

「うーんと、お兄ちゃんとのエッチ自体には満足なんだけど」

 

 美優は言いづらそうに、話を続ける。

 

「その、お口のほうが、最近ご無沙汰なので……」

 

 照れ恥ずかしそうに告げられた美優の本音に、俺は大事なことを忘れていたことに気付かされた。

 

 俺にとって美優の口に射精するのが特別なプレイであるように、中出しされたい本能とは別の欲求が、美優にはまだあるんだ。

 

「そうだったな」

 

 もしかしたら、オナ禁した溜まった精液は、美優の口に出してあげたほうがいいのかもしれない。

 美優はドロドロに生臭い精液を飲むのが好きなようだし、俺もそのほうが興奮する。

 

「まずは風呂に入ろうか」

 

 お互い服を着たままだったし、自分の膣内に入っていたペニスをお掃除フェラするのは美優は嫌だろうからな。

 

 お湯を溜めてしばらくしてから二人で浴室へ。

 

 俺がまず体を流して美優にシャワーを渡してから浴槽に入る。

 それから、美優が再びシャワーのお湯を出して、髪の毛を結った肩に掛け流していく。

 

 美優の丸い体のフォルムに沿って腰から背中へと水流が形成されて、豊乳の先端からは清水が湧き漏れるように雫が落ちていた。

 

「ん? どうかしたの?」

 

 俺の視線に美優が気づく。

 

「いや、美優の裸って、エロいなって……」

「何を今更」

 

 そう、今更なのだ。

 それはわかっているのだが、何度見てもエロさが褪せない。

 全身ツルツルのロリボディにこの豊満さは反則だ。

 

「見られるのは嫌?」

「ううん。いっぱい見てほしい。お兄ちゃんしか見せる相手いないし」

 

 美優はシャワー止めて、濡れた全身を抱き隠すように裸体を見せつけてくる。

 

 世の女優たちよりも自分の体に自信を持っている美優のことだ。

 褒められるのはなんだかんだ嬉しいんだろうな。

 『エロい』が女の子にとって褒め言葉なのかは男に判断のつくところではないけれど。

 

「でもアソコは見せてもらえないんだよな」

「どうせエッチしてるときは見えてるんだからそれでいいでしょ」

 

 美優は素っ気なく答えて俺の隣に入ってくる。

 

 美優もわかってて言っているのだろうが、セックスをしている最中に秘所が視界に入ってくるのと、美優の意志でアソコだけを見せてくれるのでは、その絵面のエロさに大きな隔たりがあるのだ。

 

 もし、美優が自らの指でぷにマンを広げて俺に見せてくれるようなことがあれば、俺はそれだけをオカズにして一生分抜くことができる。

 

「お兄ちゃん」

 

 窘めるような美優の声音に、何が起こっているのかと思ったら勃起していた。

 

 妹が相手になると俺自身も呆れるぐらい際限がない。

 そのうち丸一日美優と繋がったままセックスをし続けられるようになるのではなかろうか。

 

「これは射精させないといけませんね」

 

 美優は俺と膝の距離を詰めて、こめかみに垂れた後れ毛を耳にかける。

 

 まるで射精旅館の女将だ。

 エロモードの美優は俺の性欲がどんなに旺盛でも冷たくあしらわれることはなく、美優は喜んで俺を射精させてくれる。

 

「そしたら、舐めてくれるか」

 

 俺は湯船の縁に座って、勃起したペニスを美優に見せつける。

 

「できればタマの方から舐めてもらっていいかな」

「好きなの?」

「ま、まあな」

 

 タマ舐めは美優にはしてもらったことがない。

 つまりそれは他の女の子との経験というわけで。

 まあ山本さんにフェラしてもらったことがきっかけではあるんだけど、その快感の程を知っているというのは恋人としてはやや複雑だろうか。

 

「お兄ちゃんが好きならするけど」

 

 美優は優しく腰を掴んで、金玉にキスをするように唇から口で触れてくれた。

 

 結い上げた髪と風呂場の照明で、美優の顔の造形がより鮮明になる。

 お風呂に温められて血色の良くなった赤い唇が浅黒い玉袋を撫でているのは、綺麗な女の子を汚している感覚が増して興奮してくる。

 

「なんだか屈辱的なことをさせられてる気分」

 

 そして、それは美優も同じようだった。 

 

 決して吸い付いたりはしないように、睾丸を口の中に含んで、優しく舐めてはチュッと口を離して陰嚢を愛撫する美優。

 その表情は決して怒っているものではないものの、眉は下がって悩ましげだった。

 

「普通にフェラをしてても感じることではあるんだけどさ」

「そうなのか?」

 

 美優はもとより山本さんのようなご奉仕体質ではない。

 お兄ちゃんの射精好き好きモードの本能側は喜んでフェラをしてくれるが、それでも根っこにある美優の感情がなくなるわけではないし、タマ舐めともなるとまた違うようだった。

 

「でも、フェラは美優がしたがってたから」

 

 お口が寂しいとのことだったので俺から提案したまでだ。

 

「別にそれが嫌とは言ってないもん」

 

 美優はほっぺを膨らませて、それから竿をひと含みにしてジュルジュルッと吸い付いてきた。

 

「おおあっ……み、美優ぅうッ……!」

 

 急な刺激の変化に腰が浮いて滑り落ちそうになる。

 

 そんな俺をからかうように微笑いながらフェラを続けて、美優は容赦なく快感を与え続けてきた。

 久しぶりに咥えられるのが嬉しかったのか、いつものように照れ隠しに睨みつけてくることもせず、俺への熱い視線を外さないまま奥へ手前へとペニスを口内へ含み入れていく。

 

「んっ……じゅるっ……じゅるるっ……ぢゅっぷっ……!」

 

 屈辱は感じる。

 でも、屈服してみたい欲望は奥底に隠れているのか、兄を相手にフェラをしたくなる。

 もし、それが美優の思いだとしたら、この妹もだいぶブラコンを拗らせ過ぎている。

 

「じゅるるっ、じゅぷっ……ちゅっぷ……!」

「み、みゆぅ……! もっと、手加減して……!」

「んぶっ……ちゅっ……、はいはい」

 

 美優は口からペニスを出して、ふーふーと息をかけて冷ましてくれた。

 そんな美優の様子がエロ可愛くて、射精直前のペニスがさらにバルクして跳ね上がる。

 

「んっ……うっ……!」

「こら。ふーふーでイかないの」

 

 美優に叱られて、それでもちょろっと白い液体が出てしまった愚息は、亀頭を真っ赤にしてなんとか射精を堪えた。

 

 しかし、これはもう次の刺激で確実にイってしまう。

 

「見るからに射精の寸前だね。こんな状態で止まることもあるんだ」

「それが……気持ちも冷めれば、萎えてくんだが……今は視覚的な刺激が強過ぎて……」

 

 俺の目の前には濡れた美優の裸体がある。

 色白卵肌のロリ巨乳がお湯に揉まれるようにして形を変え、ふわふわと柔らかそうに水面に浮いたり、かと思えば、美優が膝立ちになるとムチッとした丸みが張り出してきて、否応なくおっぱいに視線が奪われる。

 本人の自覚は薄いようだが、興奮にぷっくり膨らんだピンク色の乳首がこれまたエロティックだった。

 

「ふーふーし続けたらほんとにイク?」

「まず間違いなく」

「ふむふむ……それはそれでカワイイかも……」

 

 美優は俺の股間にまた近寄ってくると、元気に上反りして勃起している肉棒をジッと見つめてきて、それから数秒考え込んだ。

 

「これって手を使わずに射精したら上に飛んじゃうよね」

「俺が前傾になれば、重みで少しは水平になるけど」

「じゃあそうしてもらっていい?」

 

 どうやら美優はこのまま俺を射精させる気まんまんのようで、叱られ損のペニスは妹の吐息でイかされることになった。

 

 俺は湯船の縁ギリギリ手前に座り、上体を前に傾けてペニスの先端を美優の顔の上に向ける。

 

 下手したら顔射になってしまいそうだが。

 口の中に上手く入れないと怒るよな……。

 

 射精がそんな器用にコントロールできるものではないことを、美優もそろそろ知っていそうな気もするが、それでも美優は口を開けて「ここに出してね」と精液を吐き出す場所を指示してきた。

 

「じゃあお兄ちゃん、イっていいから出して」

 

 妹に射精の許可をもらって、口を開けられて、そうすると調教済みの俺のペニスは誰の手に触れられることもなくビクビクと射精の準備を始めた。

 

 これまで何度も叱られては条件付きで射精させてもらって、精液を飲んでもらって……俺のペニスにとっては、それが一つの正しい射精の形として体に覚えさせられていた。

 

 美優が俺のペニスの裏筋に顔を近づけてきて、「ふー」っと下から撫で上げるように息を吹きかけてくる。

 

「おおっ、あっ」

 

 たかが吐息に性感帯が強くくすぐられる。

 

 それから美優は、鈴口に向けて刺激をする気がないぐらいの弱い息を一定間隔で吹きかけてきた。

 

 それはもはや手コキのような強制的に射精へと導く行為ではなく、「飲んであげるから出ておいで」と優しく精子を誘っているようですらあった。

 

「あーん」

 

 繰り返される硬直化が、もはや限界であることを悟ると、美優は口を開けてその瞬間を待った。

 

 俺のペニスの先から精液が出てくるのを。

 

「み、美優……出るよ……!」

 

 赤い舌が喉奥に下げられた美優の口腔内を見て、俺は抗い様のない射精欲に襲われ、びゅっ、びゅっ、と空中に精液を射出した。

 

 それは、一部は美優の口元に掛かったものの、一番濃い液塊は無事に口の中へと落ちていって、射精が終わるその瞬間まで美優は口内に白濁液を溜めていた。

 

 射精が落ち着いてからも、美優は口を開けたまましばらく精液を舌で転がして、それからゆっくりと飲み込んだ。

 

「んふっ。ごちそうさま」

 

 美優はニッコリと微笑んで、久しぶりに精液を飲めたことを嬉しそうにしていた。

 

 しかし、やはり繰り返しの射精の後で味が薄くなっていたのか、えもいわれぬ感情を顔に滲ませる。

 

「あっさりし過ぎでなんか物足りない」

 

 溜めたら溜めたで怒るくせに、この妹はどろどろの濃厚精液でなければ満足できないのだ。

 山本さんの件が済んだら、オナ禁でたっぷり凝縮された特濃精液を金玉が枯れるまで飲ませてやりたい。

 

「美優、あの、悪いんだが」

 

 俺のペニスはまだ勃起していた。

 正確には、射精がきちんと終わっていなかった。

 

 ペニスは射精直前の敏感状態のままで、本来さっきの射精で出るはずだった精液がまだ残っている。

 

「残りもすぐ出るかな?」

「たぶん」

「なら、お風呂上がる前に済ませちゃおっか」

 

 美優は立ち上がって、シャワーとは反対側の浴室の壁に手をつく。

 

「挿れて」

 

 首だけを横にして後ろ振り向く姿がとても艶かしい。

 

 エロいな、この妹。

 

「挿れた瞬間に射精するかも」

 

 俺が美優のお腹に腕を回してペニスを当てると、美優はお尻を前後に振って割れ目でペニスを擦ってきた。

 

「それでいいよ」

 

 そんな美優が可愛くて、正直なところもうこの時点で半分ほど出かかっていた。

 

「いくよ、美優」

 

 立ちバックの体勢で、後ろから美優の膣内へと生の肉棒を差し込んでいく。

 

「あっ。すっごいカタい」

 

 股の間から、自分のお腹の中に、射精する瞬間のペニスと同じものが入ってきたことをすぐに悟った美優。

 

 気持ちよさそうにしながらも、独り言のように漏らされた感想が、俺の性欲に最後の後押しをした。

 

「うっ……も、もう、ムリ……!」

 

 挿入だけして、ロクに腰も振れないまま。

 

「で、出る!」

 

 ドピュッ、ドピュッ、と膣内で吐き出される精液。

 美優も射精されているのを感じているようで、俺の射精が続いている間は心地良さそうな表情をしていた。

 

「いっぱい出された」

 

 今日一日で何度も中出しされたお腹をさすって、美優は感慨深げにそこを見下ろす。

 

「そのうちお兄ちゃんの精液だけでお腹が膨らんだりしないかな」

「そこまでエロ漫画みたいなことにはならないんじゃないかな」

 

 ペニスを引き抜いて、垂れ落ちてきた精液がお風呂のお湯にふわっと浮き上がる。

 湯船にゆっくり浸かってもいられなさそうなので、美優と一緒にシャワーで体を流して浴室から出ることに。

 

 妹がエロ漫画脳になっているのは知っていたが、なぜ唐突にそんなことを言い出したのか。

 

「ボテ腹ってジャンルがあるじゃない?」

 

 美優が綺麗になった体を拭きながら不穏なワードを口にする。 

 

「あれってすごくエッチだと思うんだよね」

「そうか」

 

 妊娠が連想されるからなのか、美優のストライクゾーンの真ん中寄りにある性癖らしい。

 どこでそんな知識を仕入れたのかは聞かないことにしよう。

 俺も射精するだけで妹のお腹を膨らませられるならしてみたかった。

 前世の種族はオークだったのかもしれない。

 

「ふー……疲れたー」

 

 美優は裸のままベッドに倒れ込む。

 

 ホテルに入ってまだ一時間も経っていないが、美優の言う通りすでにかなりの疲労感があった。

 射精だけは何回もさせられたからな。

 美優としてもそこはもう満足だろうか。

 

「お水飲みたい」

 

 美優に要望されて、冷蔵庫から無料のミネラルウォーターを取り出す。

 俺の分をコップに注いでから、残りを美優に渡した。

 バスローブの前を肌けさせたまま着た俺は、テーブル脇に立ったままコップを傾けて水を喉に流し込んだ。

 

 ベッドには、美優が寝転んでいる。

 

 素っ裸になった美優が、両手を広げても十分に端が余るほどに大きなベッドに、一人横たわっているのだ。

 

 こうして遠目から眺めていると、奇妙な気分になってくる。

 

 色白で艶のある肌をしたロリロリしい体に、大人びた長い黒髪と、重力に引かれながらも形の崩れない巨乳。

 そんな女の子が俺と一緒の部屋にいるという奇妙。

 

 現実味のない現実を改めて認識させられるというか。

 そのベッドに寝ている少女が、俺のセックスの相手だということに掴みどころのない幸せを感じている。

 

「お兄ちゃん」

 

 薄いシーツ一枚で体を隠して、こちらを見つめてくる美優。

 

 ベッドにいるのは女性の美貌の一側面を完成させつつある美少女だ。

 

「どうしたんだ? 美優」

 

 だが、俺にとっては一人の妹でしかなかった。

 

 今日のデートを通してむしろその認識は強まっている。

 俺はどうあっても、美優を妹としてしか愛せない。

 

「ラブホにいる妹はどうかなって思って」

 

 美優は男がエロいと感じるものをよく理解している。

 だから、妹である自分が、ラブホテルのベッドで兄のことを呼ぶだけで、十分に淫靡な響きになることも知っていた。

 

「美優ってなんでそんなエロいんだろうな」

 

 俺はベッドに足元側から乗って、正面から美優に近づく。

 

「巨乳だから?」

「そんな単純なものじゃないような……」

 

 小首を傾げながら安易な回答をする美優の豊満な乳がシーツの端からチラ見えして、ピクリと反応してしまったペニスに、あながち間違っていなかったかもしれないと思い直す。

 

 この妹が相手だと無限にエロい気分になるな。

 真面目に色々と危ないんじゃないだろうか、なんとかブレイクとか。

 

「お兄ちゃんはまだお射精できるの?」

「いまになってまたできる気になってきた」

「すごいねお兄ちゃんは」

 

 美優は片手でシーツを上げたまま、逆の手を伸ばして小さく縮こまったペニスに触れる。

 

「シスコンぶりが」

「そこか」

 

 事実、妹が好きでたまらない。

 俺はロリコンであることも、シスコンであることも、もう認めなくてはならないところにいる。

 

 そして、それをからかう美優も、こんなシスコンの兄に愛されて喜んでいる。

 やはり相当なブラコンだなこの妹は。

 

「妹への愛情に満ちているのは大変良いことです」

 

 ひとつビクつくたびに少しずつ膨らんでいくペニスを下側から美優が撫でる。

 そこからさらに腕を突っ込んできて、前腕の部分で金玉から後ろまでの肌まで触ってきた。

 普段触れられることのない敏感な臀部にまで美優の指が伸びてきて、俺のペニスはすぐに硬さを取り戻していく。

 

 そんな様子を美優が含みのある笑みで眺めていた。

 

「美優、どうした?」

「んーん」

 

 美優は首を振ってそれを誤魔化す。

 

 この勃起したペニスはどう処理したものか。

 布団を剥いで「セックスしたい」と迫れば美優はしてくれるだろうけど。

 

「口で出してもらっていいか」

 

 俺は膝立ちになって、ベッドで上体だけを起こしている美優にお願いする。

 

「この体勢のままフェラで抜いてほしい?」

「そうしてもらえると嬉しい」

 

 俺はバスローブを脱ぎ去って、勃起した肉棒を美優の口に近づけた。

 こうして自分から陰部をさらけ出すのは今でも慣れないが、お願いすれば美優はしてくれることを経験的に覚えてきたため、恥ずかしさに興奮も混ざってきている。

 

 美優もいつかはそうなってくれればいい。

 だいたいのプレイはやってきたものの、クンニだけは断固拒否されている。

 それがもし、美優の方から舐めてほしいとお願いしてくれるようになれば、無茶苦茶エロいことになるんだがな。

 

「お兄ちゃんはさ」

 

 美優は舌を出して、尿道口をスレスレで舐め上げる。

 

「おっ、おおっ……!」

「んふふ」

 

 快感に思わず声を上げた俺に、楽しげに微笑みかけて、

 

「妹のお口でフェラしてもらって、射精させてほしいんだよね?」

 

 そう問い直してきた。

 

「その通りお願いしたつもりだけど」

 

 まさかこの期に及んで条件をつけてくるわけじゃないだろうな。

 

「いやさ、ここに来る途中、『妹パラダイス』っていうイメージサロンがあったじゃない?」

 

 美優に聞かれて、そういえば妙に美優がそのお店のことを意識していたのを思い出す。

 

「ああいうお店っていくらするんだろ?」

「んー……要はピンサロだよな。七千円前後じゃないか? フェラ抜き四十分とかで」

 

 いつだか鈴原が聞かれてもいない知識をベラベラと喋っていたので、多少は俺にも風俗関連の知識はある。

 

「そっか。じゃあ、仮に一時間一万円だとして。妹パラダイスに行くと、男の人は一万円で設定上の妹にフェラをしてもらえるんだよね」

「そうだな」

 

 よくわからないタイミングで始まった風俗談義。

 俺はまだペニスを突きつけているだけで、美優はそれを放置して俺を見上げている。

 

 それからは、無言の時間が続いて。

 

 ようやく美優の口が開いたと思ったら、俺のペニスの先をパクッと咥えて、じゅるっと吸い付いてきた。

 

「うっ、おおっ……どうしたんだ、み、美優っ……うあっ……あっ……!」

 

 美優は急にフェラを始めて、ペニスを口に含んだまま、舌でしばらくコロコロと舐め転がす。

 その間もずっと俺を見つめ続けていた美優は、最後にちゅーっと空気を吸い出して、キュポッと音を立てて口を離した。

 

「お兄ちゃん気持ちいい?」

 

 不意の問い掛けに、なぜかドキッとする俺の心臓。

 

「も、もちろん」

 

 美優はまだ俺をジーッと見つめていて、目線を切らさないまま再びペニスを口に含むと、じゅる、じゅるっ、とスローなペースでフェラをしてくる。

 

「あー……なんか、エロい…………くっ……気持ちいい……!」

 

 美優の謎行動に疑問は残るものの、とにかくエロい。

 フェラなんてこれまで何度もしてもらってきたのに、その絵面がやたらとエロかった。

 

「じゅるっ……んちゅ……じゅるるっ……ちゅぱっ……ん、ぶはぁ……。んふっ。お兄ちゃん、どう?」

 

 美優は媚びるぐらいの妙に甘ったるい声で尋ねてくる。

 

「どうもなにも、めっちゃエロいんだけど……」

 

 急にエロさ増し増しになった美優の、その理由に気付かされたのは次のことで。

 

「お兄ちゃんはフェラが一番好きだもんね」

 

 美優は裸を隠していたシーツを下ろして、両手で俺のペニスの根元を持ってフェラを再開する。

 

「はむっ……ちゅっ……お兄ちゃん……じゅるっ……んちゅっ……ぷは……んっ……ちゅぶっ……」

 

 俺たちが実の兄妹だからこそ、美優が俺を「お兄ちゃん」と呼ぶのはごく自然なことで、それが故に意識は薄れていた。

 

 愛情を込めた「お兄ちゃん」が本来持つべき響きの淫猥さ。

 そして、フェラされるのが何より好きだと知っているほど、兄妹で何度もエッチをしてきたという事実。

 

「んっ……じゅるっ……じゅぷっ……へろっ……ちゅぷっ……」

「み、美優……!」

 

 妹にペニスを舐めさせている。

 

 これまでしてきたあれこれから、その文脈だけを抜き出すと、俺たちはとんでもなくエロいことをしているのだった。

 

「お兄ちゃん、出そう?」

 

 いつもより高い声で、唇をつけたまま喋る美優の息遣いが、竿の先から腰に伝わってくる。

 

「出る、出るっ……!」

 

 口淫での刺激以上に、そう尋ねられたことが射精のトリガーとなった。

 

 俺は美優の口に肉棒を突っ込んで、そこで漏れる寸前の尿を吐き出すように、開放的な射精をした。

 

「んくっ……んっ……。また精子出たね、お兄ちゃん」

 

 美優は精液を飲み込むと、硬さの残るペニスを唇でもて遊んで、なおも口を離そうとはしない。

 

「ねえお兄ちゃん」

 

 美優がうるっとした目で俺を見上げてくる。

 

「まだ出せるよね」

 

 落ち着いた声で、美優はまだ俺にそんな期待を向けてくる。

 

「美優が出せって言えば、出るはずだけど……」

「そうだよね。私のお兄ちゃんだもんね」

 

 美優は俺の回答に顔を綻ばせて、なおもフェラを続ける。

 

 俺は腰を前に突き出して、美優のわがままにペニスを預けた。

 

「んっ……んちゅ……むっちゅる……じゅるっ……」

 

 それからは、一心不乱だった。

 特別卑猥な言葉を使うこともなければ、激しく乱れることもない。

 

 俺のペニスを咥えていること自体が大好きで、ようやくフェラに集中できるようになったことを喜ぶように、ただ夢中になって肉棒をしゃぶっている。

 

 その分だけ美優は容赦はなくて、喉も頬も舌の裏も、その全てを使って俺の肉棒を堪能している。

 

「っ……ぐっ……!」

 

 これだけ没頭している美優のことを邪魔したくはない。

 それでも、どうしたって射精欲は襲ってくるもので。

 亀頭から根元まで舐り尽くす美優の舌技に耐えられず、睾丸がどんどん上へとせり上がっていく。

 

 俺は美優の肩を掴んで、どうにか舌が刺激する性感ポイントからずらそうとするのだが、そんな程度で美優の口淫により与えられる快楽から逃げ切れるわけもなく。

 

 我慢の限界の限界まで耐えて、今度はイクと宣言することすらできずあっさりと口の中に射精してしまった。

 

「んむっ……じゅるっ……じゅるじゅぷっ……ずじゅっ……じゅっぷっ……!」

「ぐああっ……あっ……!」

 

 俺が射精してもなお、美優はフェラチオをやめない。

 

 口内射精された精液をあえて飲み込まず、肉棒に塗り付けてからその全体を一気に吸い尽くしてくる。

 

 そのあまりの快感に膝から力が抜けて、自然と後ろに倒れる形になった俺を、美優はそれでも追いかけてきてペニスを咥え続けた。

 

 俺がベッドに仰向けになって、今度は美優が四つん這いになって俺のペニスを咥え下ろす。

 

「ちゅっ……ちゅぷっ……じゅるっ……くちゅっ……」

 

 美優の首の動きは決して激しいものではない。

 ひたすらに俺の肉棒をしゃぶることに集中しているだけで、俺をイキまくらせるのを目的とした逆強制フェラというわけではないのだ。

 

 舌こそ俺を果てさせるためにグネグネとうごめいてはいるが、美優はじっくりと俺のペニスを味わっている。

 

 美優はサラッと言って流していたが、ここずっとフェラができていなかったことは、美優にとってかなりのフラストレーションだったのかもしれない。

 

「ぢゅるっ……じゅっ……じゅるるっ……んっ……ぐっちゅ……」

 

 俺の側も、天井を見つめてただ淫部を舐められているだけ。

 より正確に言えば、一緒にラブホに来た妹がペニスを咥えたがっているので、体を預けているというのが実態だ。

 

 俺の勃起を舌で堪能したい美優の想いが伝わっているからか、これだけ射精したのにまだ硬さが抜ける様子はなく。

 俺は妹に強制勃起させられて、フェラチオをさせてあげるために横になっていた。

 

 そして、俺がイクと予告しないことも、美優はそれはそれで楽しんでいたようで。

 続いて射精感がやってきたときには、俺は美優に何も言わずに口の中に射精した。

 

 それを美優が舐めて、飲み込んで、俺の金玉が空になるまでひたすらしゃぶり尽くされた。

 

 俺は二十分ほどベッドに寝ていただけで、美優の口内に五回も射精をして、下腹部の感覚が無くなってきたところでようやくふにゃふにゃになった萎えチンが美優の口から解放されたのだった。

 

「んっ……ぷはぁ。ごちそうさま、お兄ちゃん」

 

 美優は丁寧に俺にそう言って、知らぬ間に体力を使って動けなくなっていた俺の横に寝転んできた。

 自身が「お兄ちゃん」と呼ぶ男の精液を飲みまくって、美優は充実した表情をしていた。

 

「寝たまま何回もイかされてるのはどうだった?」

「ひたすら気持ちよくて最高だった」

 

 寝ているだけで抜いてもらえて、射精の瞬間に何も配慮する必要がないというのはこれまでないほどの開放感だった。

 

「美優は、満足したか?」

「うん。すっごく満足。お兄ちゃんがよければまたこれやりたい」

 

 美優も俺に気を使わずにひたすらフェラができるこのプレイが気に入ったようだった。

 無言で淡々と何回も射精をさせられるあたり、かなり俺たち向きなエッチだとは思う。

 

「美優」

「ん? なあに?」

 

 俺は美優に体を向けてから、腕を広げて頭を乗せさせる。

 

「今日のデートで美優のことがまた好きになったよ」

 

 ずっと抱えてきた、彼女感の無さという問題は何も解決していない。

 むしろ、その感覚はスパでエッチをしたときからもっと薄くなっている。

 

 その代わりに、美優のことを強く妹として意識するようにはなって。

 その分だけ、美優への愛は倍増していた。

 

「いっぱい伝わってるよ。だから、私も、少し素直になれた気がする」

 

 美優は照れ顔に緩んだ頬をかく。

 

「今の美優って、どっちの美優なんだ?」

 

 スパを出てからもずっと本能側のテンションだと言った美優は、事実としてエッチには積極的だったが、その雰囲気もプレイ内容もニュートラルな状態のものに近かった。

 

「お兄ちゃんも薄々感じてるとは思うけど」

 

 美優は何回か視線をそらしてから、俺の胸に隠れるように身を小さくしてこっそり目を合わせる。

 

「根の私が本能を超え始めてるので……」

 

 美優が羞恥を堪えて発露した本音。

 

 兄に対して異常なまでに発情をする美優の本能。

 それを超えている、というのは、理性が本能を抑えているという意味なのか、あるいは……。

 

「だからね」

 

 俺の思考を遮るように美優が続ける。

 

「今まで言い訳に使っていた私もアレですが、そのあたりは気にせずその場の私に付き合ってもらえると嬉しいです」

 

 美優の中でも折り合いをどう付けようかは迷っているようで、俺の方はどっちの美優も好きなので迷わず頷いた。

 

 美優が体質的に兄に対する性本能が強いのはもう疑いようがない。

 そのせいで美優がとんでもなくエッチになったり理性的になったりするのには、もう慣れたつもりでいる。

 

 気になるのは、これまで何回も考えを巡らせてきたあのことだけ。

 美優と一緒にいるとき、本能モードの美優とイチャラブしているときには、俺は彼女感を少なからず感じていた。

 その美優が、だんだんとニュートラルだったあの頃の美優に支配されつつあるというのであれば、俺はどうあっても美優を妹として愛していくしかなくなるということ。

 

 もうこれが最後のことになるだろう。

 俺の中に確実に存在する美優への愛を、どう整理するかの最終フェーズにいる。

 そうして、一生を共にしていくことになる、美優との今後の生活が決まっていくんだ。

 

 それは俺が心を決めさえすればいいだけの話。

 

「ところで、妹パラダイスの話題を出したのは、何か意味があったのか?」

「世の中には妹がエッチだったらいいなって思ってる人がたくさんいることを知ってもらいたかった」

「なるほど」

 

 俺もエロゲをやっていたからわかる。

 妹モノはエロ作品の一大ジャンルだ。

 実際の妹に欲情する人間は少ないだろうが、妹がアニメやゲームのようにエッチだったらと思う男は大勢いる。

 

「俺の妹がエッチでよかった」

 

 これまで頑なに受容れようとはしてこなかったこの妹も、ようやく自分がエッチな女の子であることを俺には認め始めている。

 

「妹もお兄ちゃんが二次元の美少女好きで助かっております」

 

 美優が腕の中で丁寧に頭を下げる。

 もし俺が二次元好きでなければ、美優のラブドール願望など理解できる人間にはなれなかった。

 

「お兄ちゃん」

 

 美優が腕を伸ばして、柔らかな裸体を俺に晒すようにしてから、ギュッと抱き寄ってくる。

 

「奏さんのことが済んだら、将来のこととか、一緒に考えようね」

 

 高校大学を卒業して、どんな仕事をしながら、二人でどんな部屋に住んで、どう暮らしていくのか。

 兄妹として、恋人としての今後を、じっくりと考えていく必要がある。

 

 まず考えるべきはどのランクの大学を目指すかだな。

 

「まず考えるべきはエッチの頻度だよね。いまは奏さんが分担してくれてるけど、いなくなったらその分私だし」

「たしかに」

 

 性欲を持て余すのも困るし、美優にハマり過ぎるのも困る。

 実に悩ましい問題だ。

 

 俺たちにとっての最優先課題であることは間違いない。

 

「二人暮らしを考えるなら、騒音問題を考えるとやっぱりマンションだよな。今は持ち家だからいいものの」

「ね、お兄ちゃんもうるさいし」

「それはすまん」

 

 もっと静かにエッチする方法も考えなくては。

 

 こういう色々に思考を巡らせているのは楽しい。

 美優との未来はどうあっても明るいと思えるから、どんな悩みも楽しんでいられる。

 

「ホテルはまだ時間あるけど、寝てくか?」

「お兄ちゃんはどう?」

「正直もう家でもいい気はしてる」

「だよね。お兄ちゃんも妹がラブホテルに居る以上の楽しみはないだろうし」

 

 さすがは我が妹。

 男の感性を良くわかっている。

 

「んじゃ帰るか」

 

 こうして、ラブホテルに来て一時間で性欲を発散してさっさと出るという行きずりの男女のような時間を過ごして、俺たちは帰ることにした。

 

 妹ラブホテル効果は一時的なもので、それはもう十分に堪能することができた。

 

 と、思っていたのだが。

 

 妹とラブホテルに行ったことに思考が影響されていくのは、自宅へと戻った後のことだった。

 



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理想の彼女とHな妹

 

 洗面台を前に朝食後の歯磨きをしながら、俺は鏡に映る自分の顔をぼーっと眺めていた。

 

 夏休みに入る前は冴えないブ男だとしか思わなかったのに、いまでは歯ブラシを口に突っ込んでいるこんな姿でさえそれほど悪くないように見える。

 

 服や美容院選びなんて、俺にとっては得体が知れないだけだった世界も、いざ足を踏み入れてみるとやって当たり前とさえ思えるものだった。

 

「人間、変わるもんだな」

 

 独り言をつぶやいて歯磨き粉を洗面台に吐き捨てる。

 

 変わったといえば美優もそうだ。

 あの仏頂面がデレるわけだからな。

 

 男にとんと興味のなさそうなあの顔を見ていると、今だに美優がどんな風に甘えてくれるのかを忘れそうになる。

 

(美優は何か予定があるのかな?)

 

 俺は美優に今日の予定を伺うべくリビングに戻った。

 

 ソファーに姿勢よく腰を掛けて、長いまつげをパチパチと、朝が弱い美優はどこか呆けているような顔でスマホをいじっている。

 

 非常に落ち着き払った、低いローテンションで巨乳の妹。

 これが重度のブラコンというのだから、まさしく兄をギャップ萌えで殺すために生まれてきたような生き物だ。

 

「美優は今日はどうするんだ?」

 

 俺が声を掛けると、美優はアンテナが立ったように頭をピンと反応させて、白いTシャツにブラジャーの刺繍が透けたデカい乳をこちらに向けて口を開く。

 

「私は遥と最後のお仕事があるから、おでかけする予定だよ」

 

 なるほど美優もいよいよ身辺の整理をつけるわけだな。

 この落ち着きようを見ると、俺の方もそろそろなんだろう。

 

「なら、俺も適当な時間に出掛けるかな」

 

 俺は美優の隣に座った。

 付かず離れず、拳一個分の隙間を開けて、俺たちはソファーに並んで腰掛ける。

 

 美優のテンションが低いときの距離感だけは、どうにも変わらない。

 もっと自然で恋人らしいスキンシップが取りたいのだが。

 

「美優」

「はい」

 

 美優はいつもの調子で事務的な返事をする。

 

 そんな美優に、俺はジリと間を詰めて、抱きつこうと両手を前に出しかけて。

 

 そこで躊躇してしまった。

 

「……ん? 何か威嚇をされたような」

「威嚇ではない」

 

 真顔の美優に思わず乾いたツッコミが入る。

 

 性欲が高まっていないとスキンシップを取るのが難しい。

 というより、変に焦ってしまったが、ここまで居住まいを正している妹に急に抱きつくのもおかしな話だよな。

 

 タイミングを見極めないと。

 

「私はお兄ちゃんのわかりやすいところが好きだから。そんなに無理をしなくても」

 

 俺の反省を読み取ったように、美優が励ましの言葉を掛けてくれた。

 

 こうしたやり方は美優には喜ばれないと分かっていても、俺にも地味に童貞根性が残ってるというか、どうしても自分よがりな無理をしてしまうのだ。

 

 思考の上ではいくら割り切ったつもりになろうと、男らしい自分を見せつけたい欲望に打ち勝つのは中々に難しい。

 

「なら、相談したい」

「なんでしょうか」

「自然なスキンシップが取れるようになりたいんだが、どうしたら上手くできるだろうか」

 

 悩んだら素直に聞く。

 これが俺らしい頑張り方だ。

 

「性欲に身を委ねればいいんじゃない?」

 

 美優はなぜそんな分かりきったことを聞かれたのかと疑問符を浮かべるように首を傾げた。

 

 あれ?

 ちゃんと俺が考えてること伝わってる?

 

「あの、普段は?」

「普段って?」

「たとえば、この現状がまさに、普段かなと」

「お互いにムラムラしてないときってこと?」

 

 まあ、そうなるな。

 

「別に要らないんじゃないかな」

「えぇ……」

 

 恋人らしい関係を目指すためのきっかけとして、一番簡単な筋道だと思っていた。

 

 でも、そんなことはなかった。

 

 うちの妹はドライなのだ。

 

「遥から連絡だ」

 

 美優はスマホを確認すると、ソファーから立ち上がった。

 

 もう外出の支度をする時間かな。

 俺は急ぎの用はないし、邪魔にならないようにソファーで大人しくしていよう。

 

(しかし、どこに行ったもんかな)

 

 この頃はアニメストアにもゲームショップにも行ってないし、久しぶりにそうした刺激を浴びるのも手だな。

 

 それなら駅前でも済ませられるし。

 

「お兄ちゃん」

 

 俺がスマホの地図を眺めるのに集中していると、美優に呼ばれた。

 

 リビングを出て、すぐに引き返してきたようだ。

 

「立ってもらっていい?」

「ん? ああ、構わないよ」

 

 何か美優の持ち物でも踏んでしまったのかと、立ち上がって辺りを見回したが、何もなさそうだった。

 

「どうかしたか?」

「お兄ちゃんに性欲のないスキンシップがいかに難しいかを教えてあげようと思って」

 

 まさかの実演講習だった。

 なぜ急に気が変わった。

 

 でも、このやりとり。

 俺の相談から、美優の謎の言動までの流れ。

 俺たち兄妹らしいコミュニケーションとして、これほどしっくりくるものもない。

 

「是非ともご教授願いたいね」

「わからせてあげましょう」

 

 美優は俺のことを見つめたまま歩いてきて、美優のおっぱいが俺の肋に触れそうなぐらいまで距離を詰めてくる。

 

 これだけ密着すると身長差が顕著に現れてくるもので、美優が軽く首を上げると、顎下に鏡餅を膨らませたような丸くて艶色の良い谷間がよく見える。

 

 それから、美優はおっぱいを寄せるように腕を畳んで、俺を見上げるだけになった。

 

「……お、俺は、どうしたらいいんだ」

 

 てっきり美優の側から何か仕掛けてくるのかと思ったが。

 そんな気配もない。

 

 ただ、俺の目の前で小さくなっている美優は、非常に可愛かった。

 

「お兄ちゃんには妹に抱きつく権利がありますが」

 

 誘われている。

 

 こんな言い方をしているが、要は「早く抱け」ということだ。

 

「では遠慮なく」

 

 俺は美優を腕の中に抱き込んだ。

 柔らかくて、いい匂いのする、女の子一人分の体温がある。

 

「そして、お兄ちゃんは『こんなに可愛い女の子に抱きつくことができるなんて俺は幸せだな』と思う」

 

 こんなに可愛い女の子に抱きつくことができるなんて俺は幸せだな。

 

「それからお兄ちゃんは『可愛い妹に抱きついてるとムラムラするな』とも思う」

 

 可愛い妹に抱きついてるとムラムラするな。

 

「ついにはムラムラしたお兄ちゃんは徐に下半身を露出し始める」

「しません」

 

 そんなことしたらいつもと同じだ。

 

 ……俺はいつもそんなことをしてるのか。

 

「でもムラムラはしてきた?」

「少しはな」

 

 それでも、まだ抜いてほしくなるほどではない。

 

「私がここでチューをせがんだらどうする?」

「可愛すぎて萌える」

「じゃあチューして」

「……ほんとに、していいのか?」

 

 美優はコクリと頷く。

 

 俺を見上げて、ぱっちりとした目を瞬かせる美優が、嘘ではなくキスをしてほしそうに見えた。

 

 だから、俺は半ば衝動的に、美優を抱きしめて唇を重ねた。

 

「んっ……」

 

 美優の口から声が漏れる。

 

(なんだろう、この感覚。柄にもなく、胸がときめくというか。すごくドキドキする)

 

 先ほどまでドライなやりとりをしていた俺たちが、抱き合ってキスをしている。

 

「んんっ……ちゅ、ぷはっ……」 

 

 唇を離した美優の顔がほんのりと赤らんでいた。

 

「これと同じことがお兄ちゃんからできますか?」

「無理だな」

 

 ニュートラルな状態からの、イチャラブなキス。

 この萌えは逆の立場では絶対に起こり得ない。

 

 美優が俺を誘うからこそ、ドライな妹が兄にキスをねだるからこそ、萌えるのだ。

 

「では、もうちょっと続きを」

 

 美優は照れを隠すようにはにかむ。

 声に甘えた響きが混ざっていた。

 

 講義は終わったから、それはともかくキスがしたいという、今度こそただのおねだりだった。

 

 可愛すぎる。

 

「わかったよ」

 

 どうしたことか欲しがりさんな美優に、俺は再びキスをして、互いの唇を甘噛みするように何度も口づけをした。

 

 そうしているうちにどうしたって性欲は高まってしまって、情けなくも俺の下半身が反応してしまう。

 

「ね、スキンシップしてると、ムラムラするでしょ」

 

 キスの合間に、美優はわずかに唇を離して、声帯を震わせない息の抜ける声で囁いてきた。

 

 ここまでされたら興奮しないわけがない。

 キスはセックスの一部なのだ。

 しかし、これがもしハグだけのスキンシップだったとして、欲情せずにいられたかと問われるとその自信もない。

 

「それにね、お兄ちゃん」

 

 キスを一旦落ち着かせて、美優が話を続ける。

 

「お兄ちゃんは性欲抜きのスキンシップがお望みのようですが。触られる側の私がどんな気持ちになるか、考えたことはありますか?」

 

 俺は大事なことを見落としていた。

 こうまでなると、下半身が穏やかな状態でないのは俺だけではないのだ。

 

「妹を生殺しにしたらいけないよな」

「ですです」

 

 本能的な、体の反応が強いのはむしろ美優の方だ。

 仮に俺がなんの気無しに触れたとしても、美優はお出かけするのに困るぐらいには濡れてしまうだろう。

 

「私は一人でするのも嫌いではないので、絶対にダメとは言いませんが。あんまり頻度が多いと困ります」

「だな。気をつけるよ」

 

 スキンシップは性欲ありき。

 いざとなればエッチをする覚悟がなくてはならない。

 

「ちなみに、性欲がないとスキンシップが減るのは、どのカップルでも同じだからね?」

「え、そうなの?」

「うん」

 

 そいつは知らなかった。

 けど、言われてみれば、俺は少し美優に対して欲情しやすいというだけで、男としての基本構造は変わらないのだ。

 女の子に触れたくなるのって、やっぱり溜まってるときだもんな。

 

「……で、どうしよう、これ」

 

 お互いにすっかり興奮してしまった。

 

「私はお兄ちゃんから授業料を貰うから。お兄ちゃんは射精したければご自由にどうぞ」

「えっ、そんな……おわっ──!?」

 

 美優はそう言うと俺のことをソファーに押し倒して、正面から乗っかってきた。

 

「お兄ちゃん」

 

 まるで精気に飢えた淫魔のように、甘ったるい声を耳打たせると、美優は有無を言わさず舌を捻じ込んできた。

 

「じゅるっ……ちゅっぷっ……んっ……んふぅ……じゅるるっ……じゅぱっ……」

 

 美優の貪るようなキスに、脊髄まで痺れさせられて俺は動けなくなった。

 

 そんな上からの攻めに合わせて、俺の股間へと、美優の腰が波打つように押し付けられてくる。

 テントを張ったズボンの上から、美優は俺の勃起したペニスにクリトリスを押し付けて、ただ自分の性欲を発散させるためだけに動いていた。

 

「はぁ……はぁむっ……んちゅっ……じゅるっ……ちゅぷっ……あっ……んあっ……!」

 

 それはセックスというより、兄の体を使ってのオナニーだった。

 俺を気持ちよくさせようなどとは一ミリも考えておらず、しかし、そんな美優の欲望に正直な姿がかえって俺の体を興奮させていた。

 

「ふぁあっ……あっ……おにいひゃん……んあっ……あっ……むっ……ちゅぶっ、じゅるるっ……ぷはぁ……おにい、ちゃん……」

 

 美優にキスをされるごとに、俺のペニスはどんどん太く硬くなっていって、その分だけ美優の快感も高まっていた。

 

 敏感になったペニスの先から、美優の愛液でズボンがぐっしょりと濡れていることさえ感じ取れてしまう。

 

 エロすぎて気が変になりそうだった。

 

「んあああっ……んっ、んんっ……あっ……アッ……!!」

 

 そして、俺が射精のタイミングを測る暇もなく、美優は事前の宣言も無しにイッた。

 宣言通り自分が気持ちよくなることだけを考えていたようだ。

 

「ふぅ……っ……はぁ……イッちゃった……」

 

 美優は呼吸を整えて、それから、体を起こして密着状態を解除した。

 

「ふふふっ。スッキリ」

 

 美優は満足げだった。

 

 どうやら精液が供給されていないときは、イクことでそれなりの欲求を解消できるらしい。

 そうでなければオナニーが堂々巡りになってしまうし、仕組み上は理解できるのだが。

 

「美優。これって、もしかして、俺はイかせてもらえないやつ?」

「だって咥えたり飲んだりしたら遥のとこに行けなくなるし」

 

 やはりそうなのか。

 諦めるしかないのか。

 

「そんなに妹に射精させてほしい?」

 

 美優は『策ならある』といった表情だった。

 

「ものすごく妹に射精させてほしい」

「しょうがないなぁお兄ちゃんは」

 

 美優は俺の頬に両手で触れると、口の中を覗き込むように顔を近づけてきた。

 

「我慢しちゃダメだよ」

 

 そこからの美優は凄まじかった。

 

 美優は俺の唇を舌でこじ開けると、ただひたすらにキスだけに専念して口内を蹂躙してきた。

 美優の舌はもはや別の生き物のようにのた打って、舌先や口蓋などの敏感な部分を絶妙なタイミングでくすぐってくる。

 

 何よりその勢いが、これまで溜め込んだ愛を一気に送り込んでいるようで。

 美優の甘い唾液が舌に絡むたびに、俺のペニスはビクンと震えていた。

 

(ヤバいっ……こんな、どうしよう……妹にキスイキさせられそうだ……)

 

 本来なら男女逆の立場で行われるべきその行為は、妹から兄への有り余る愛を以って着実に終わりの時を迎えようとしていた。

 

「んっ……はぁ……あっ……み、ゆっ……んんんっ……!!」

 

 物理的にペニスを刺激されているわけではない。

 だからこそ、我慢のしようがなかった。

 

 脳の射精を命じるための神経を直に責められているみたいに、俺は美優に口内をひと舐めされるごとに射精をした。

 

「あっ……ああっ……っ、あっ……!!」

 

 射精が始まると、今度は止め方がわからなかった。

 

 美優からのキスが終わるまで、俺は涙を流しながら、何度もイかされた。

 

「はぁ、はぁ……うっ……あぁ……」

 

 パンツの中はもう精液の感触すらわからなくなっていて、ただそこにはお湯を溢したような温かさがあるだけだった。

 

「ん? 出た?」

「で……出た……」

 

 美優はキスすることに夢中になっていて、自分が兄を射精させまくったことには気付いていなかった。

 

「えへへ。じゃあ、精液処理は、今日はできないので。自分でパンツは洗ってね」

 

 美優はそう言うと、上機嫌に階段を登って部屋へ戻っていった。

 

 外出するのを諦めようかと思うほどコッテリと絞られた。

 

「シャワーを浴びるか……」

 

 俺は美優が外出の支度をしている間に、精液まみれのパンツを手洗いして、体をキレイに洗い流した。

 

 おかげで色々とサッパリした。

 

 太陽光を浴びながらする着替えが心地良い。

 

 爽やかな朝だ。

 

(しかし、なんだな)

 

 あんなラブラブなやり取りをしても、俺たちは恋人というよりも兄妹だった。

 

 でもそれが悪いことには思えなくて、この関係性が一番しっくり来ている。

 

 実際、今この瞬間が何より幸せだ。

 

 文句など一つもつけられようはずもない。

 

(なのに、どうしても、あの違和感だけはな)

 

 山本さんとのデートで根付いたその疑問だけは、俺の頭の片隅にずっとへばりついていた。

 

 こだわりなんてないはずの彼女感。

 それが美優と一緒にいるときに得られないことをどうしても気にしてしまう。

 

 やはり気晴らしが必要そうだな。

 

 と、改めて外出への決意を固めたところで、美優も支度が終わったようだった。

 例によって遥に合わせたロリータ風コーデに身を包んだ美優が玄関にまで降りてくる。

 

 胸部が大きめに開いたワンピースから見える、ブラウスの膨らみがとてもエロかった。

 

「どうかした?」

 

 玄関の全身鏡で最後の身だしなみ確認をしている美優が、小指で眉毛の端を撫でながら尋ねてくる。

 

 ブラウスに大きいおっぱいを封じ込めているので、服のシワの付き方やスカートの浮き具合にも気を配っているようだ。

 

「なんというか、だな」

 

 俺はこんなに可愛い妹と、昨日はラブホテルでイチャイチャして、中出しにまで及んでいた。 

 

 ラブホテルで妹に「お兄ちゃん」と呼ばれる喜びは短いものではあったが、兄妹でラブホテルに行った事実はこれから先も俺の人生に残り続けるのだ。

 

「美優が妹で心から良かったと思う」

 

 これだけの清楚さを醸しておきながら中身はエロ漫画脳だからな。

 

 ロリコン冥利に尽きる。

 

「お兄ちゃん」

 

 美優が身だしなみ確認を終えて俺の方を向いている。

 

 またしても不埒な思考が読まれてしまっただろうか。

 

「私もお兄ちゃんの妹でよかったと思ってるよ」

 

 美優は手を口元にさりげない笑顔まで添えて、こんな兄に寛大な言葉をかけてくれた。

 

 不意のことにときめいた感情に、俺は放心して。

 俺は心の底からこの妹に惚れさせられていることを思い知らされたのだった。

 

「行ってきます」

「……はっ、い、行ってらっしゃい。気をつけてな」

 

 美優は俺に手を振って、体の捻り際にたぷんと胸を揺らして出ていった。

 

 そんな美優の残像を眺めながら、俺はぼーっと廊下に立ち尽くして、

 

「うーん……」

 

 誰もいなくなった空間で一人。

 俺は説明のできない引っ掛かりを覚えて脳みそをグルグルと回転させていた。

 

 何か大事なことを見落としている気がする。

 

 しかもそれは、昨日のデートから現れていた。

 

 密やかな、しかし、重大な事実のように思う。

 

 昨日から気になっていたことなんて、美優のおっぱいがやたらと柔らかそうだということぐらいだが、それはいつものことだし……。

 

「ハッ──っ!!?」

 

 いや、まさか、そんな。

 

 “そう”なのか!?

 

 あの美優のことだから、もし“そう”なのだとしたら、何かしらのアクションがあると決めつけていたが。

 

 たしかに、電車に乗っているときも、スパでイチャついているときも、ラブホテルにいるときも、美優は"そう"だった。

 

「だとしたら……!」

 

 俺はダッシュで階段を駆け上がって、美優の部屋のドアを開けた。

 

 たった数秒の無酸素運動なのに、やけに息が上がっている。

 

 この心臓の拍動は美優と初めてセックスをしたとき以来か。

 

 目標はベッドの横に置かれている円筒状の入れ物だ。

 

 ゴミ箱を漁るという行為がどれだけ罪深いことか、健全な男子として十分に理解はしている。

 だけど、あれだけアピールをされたのでは、兄として無視するわけにはいかない。

 

 俺は一歩ずつ足を踏み出し、ゴミ箱へと近づく。

 その中に捨てられていたのは、何かしらの用途で使われたティッシュがいくつかと、カラフルなチェック模様の紙袋だった。

 

 下着を折り畳めばちょうど収まるぐらいの大きさだ。

 美優レベルのものがはたして店頭に並べられているのか、男である俺には知る由もない。

 

 だが、これだ。

 間違いない。

 

 俺は震える手を伸ばして紙袋を拾い、折り畳まれていた口を開いた。

 

「あっ……あああっ……!!」

 

 本当に見つけてしまった。

 

「う……嘘だろ……ほんとに、こんな……」

 

 俺は紙袋の中から白いタグを摘んで取り出した。

 

 小さな文字が羅列されたそこには、はっきりと『H65-70』の表記がなされていたのだ。

 

 製品名と値段の間に並べられた、カップサイズとアンダーを示す項目。

 

 その細身のアンダーサイズは変わらず、65センチから70センチ。

 

 そして、カップサイズは──

 

「み……美優……」

 

 あの妹はついに、名実ともに“H”な女の子になっていた。

 

 つまり、要するに、より分かりやすい言葉で言えば、美優はおっぱいが大きくなっていたのだ。

 

「なってたじゃないか……あんなに……!」

 

 どうしてもっと早く気づいてあげられなかったのかと。

 後悔の念に苛まれると同時に、やってきたとある恐怖が、まさしくその訳を示していた。

 

 美優がHカップに成長してしまったら、二度と美優のおっぱいに触れない。

 

 俺はそう思っていた。

 

 だから俺は、ホテルであれだけエッチをしても、パイズリの要求すらすることができなかった。

 

 しかし、どうやら美優の心情にも変化が訪れていたようで。

 

 美優は俺にずっとアピールをしていた。

 そのHカップは“使ってもいい”ものなのだと。

 

 知らずのうちにあのHカップは、兄を射精させるための道具へと昇華されていたらしい。

 

「なんてエッチな妹なんだ」

 

 紙袋をグシャっと握り潰して。 

 

 俺は勃起していた。

 

「いや、もう無理だろ……」

 

 自分で自分にツッコミを入れたくなるほどの事態だった。

 俺は涙が出るぐらい美優に射精させられたんだ。

 

 もう金玉はすっからかんで、カウパー腺液すら出ないところまで絞られている。

 

「…………」

 

 なのに、勃起している。

 しかも、妹がHカップになったという事実だけで。

 そんな自分が悲しくて、それでも俺は興奮していた。

 

「美優……」

 

 オナニーをするしかない。

 義務感からではなく、敬意によってそう感じた。

 

 俺は妹の部屋で下半身裸になり、自分でも驚くほど立派に怒張したペニスを握りしめた。

 

「ふぅ…………うっ……」

 

 オナニーをするなんて、いつぶりのことだろう。

 俺は美優という存在によってセックスの相手に恵まれ、性欲が溜まれば誰かしら(しかもとびきりに可愛い女の子)に抜いてもらうことができた。

 

 それでも、やはり俺の体は、美優のために存在している。

 射精をするために無理に美優のことを考えているより、こうしてオカズにしているときのほうが、明らかにペニスが活き活きしている。

 

 ペニスの成長具合にしたってそうだ。

 美優のHなおっぱいに挟まれて不足のないペニスになるために、この竿はここまでの肥大化を遂げたのだ。

 そうでなければ説明がつかない。

 

「はぁっ……はあっ……美優……くそっ……エロすぎる……」

 

 ナニを扱く手が止まらない。

 

 美優に怒られるかもしれないという不安はなかった。

 

 結局、恋人を怒らせてしまう確率なんてものは、たとえそれが記念日のプレゼント選びに失敗するような、善意によるものでも存在していて。

 

 兄に欲情されることを喜ぶあの不埒な妹に対して、これは決して罪深い行為などではないのだ。

 

 大切なのは何が正しいかではない。

 自分のやったことに責任を持てるかどうか。

 それが、己の意思を貫くために必要なことだ。

 

「うっ……美優っ……!」

 

 上下に激しくペニスを扱きあげる。

 

 射精の瞬間はもうすぐそこまで迫ってきていた。

 

 美優がおっぱいを見せてくれているわけでもない。

 下着を手にしているわけでもない。

 妹のおっぱいがHカップだという事実にだけ興奮して俺はペニスを滾らせている。

 

「はぁ……ふぅはぁ……美優……出るよ……! イクッ…………うっッ……!」

 

 俺は膣挿入するように紙袋をペニスに被せて、その内部に精液を吐き出した。

 

 どぷっと粘液が飛び散るたびに、その証がシミになって外側に表れてきた。

 

「ふぅ……はぁ……はぁ……」

 

 やってしまった。

 

 後悔はないが──いや後悔がないと言えば嘘になるが、それはともかくとしてオナニー後の賢者タイムは避けられない。

 

 冷静になると大変なことをしたかもしれない。

 

 俺はズボンを穿き直して、自分の部屋に戻ると、精液のニオイが漏れ出すその紙袋を捨ててベッドに仰向けになった。

 

(紙袋が無くなってたら美優も気付くよな……)

 

 オナニーをしたこと自体はよいとして。

 紙袋に射精したのはどうかしていた。

 

 美優になんて説明すればいいだろう。

 下着にぶっかけたとかならまだ理解はしてもらえただろうが、俺は現物に触れてすらいないしな。

 

(せめてHカップに気付いたことだけでも報告しなくては)

 

 俺はスマホを手に取り、美優にメッセージを送った。

 

『大きくなってたのいま気付いた』

 

 まずは短く、伝えたいことをそのままに。

 ここからどう繋げるかを考えていると、美優から早速返信がきた。

 

『たしかにそれは私にとって、とても重要な事実です』

 

 文章が少し変だった。

 まるでネットの翻訳機で和訳をしたみたいな直訳文だ。

 

 と、不審に思っていると、続けざまに二通目が来た。

 

『ですが、急ぎの用でもないのに、友人の家に向かっている妹にわざわざメッセージをしてくるあたり、一人で抱えていられない罪悪感があるものと妹は推測しました』

 

 背筋が凍った。

 

 俺の思考回路はこうやって筒抜けになっているわけだな。

 

『すまん抜いた』

『ブラに出したの?』

『下着は使ってない』

『じゃあなんで抜いたの』

 

 たしかにそうだ。

 それはそうだ。

 

 そうなるよな。

 

『詳しくは言えないけど、下着は無傷』

『よくわかりませんがそれは何よりです』

 

 兄妹のメッセージグループに意味深な会話が積まれていく。

 これはSNSに上げたら絶対にバズるやつだな。

 絶対に上げられないけど。

 

『ところで、メッセージを貰ったついでに聞いておきますが、誕生日プレゼントは何がいいですか?』

 

 懺悔は早々に終わり、話題が次に移る。

 

「あっ、そっか」

 

 美優に尋ねられるまで忘れていた。

 そういえば俺の誕生日が近いんだったな。

 

 とはいえプレゼントなんて、親から貰う現金くらいしか経験がないし、パッとは思いつかないな。

 

 ふむ。

 

『美優のことを一日好きにできる券とか』

 

 今の俺が素直な欲望に従うとしたらこれしかない。

 

『この流れでよくそんなふざけたことが言えますね』

 

 俺はスマホに土下座をした。

 勝手におっぱいをオカズにしてごめんなさいをした直後に言うべき内容ではなかった。

 

 そうして俺が頭を下げていると、再びスマホのバイブが鳴った。

 

『考えておきます』

 

 やはりこの妹も相当なブラコンだった。

 

「さて」

 

 正気を取り戻した俺は外出の支度をすることにした。

 

 無目的に街に繰り出すなんて暇人みたいだが、かと言って部屋にこもってゲームや勉強をする気分にもなれない。

 

 山本さんのことは、今後のことが何も決まってないけど、連絡待ちでいいのかな。

 それとも俺からデートにでも誘うべきか。

 

 当初の目的が気晴らしとはいえ、暇だって言われたら会ってみるのも手だな。

 

(とりあえず一人で出歩く前提で支度をして、連絡だけしてみるか)

 

 俺は山本さんに『おはよう。今日はどうしてる?』と、ちょっと付き合いたてのカップルみたいな雰囲気を感じるメッセージを送った。

 

 それから着替えをして財布など一式を用意したところで、山本さんからの返信が来た。

 

『おはよー! 今日は予定があるんだ~。どうかした?』

『用があるわけじゃないけど。前に花火を見に行こうって話してたのを思い出して』

 

 深く考えずに送ってから、俺は以前に山本さんとした会話を思い出していた。

 

 夏休みも終わる頃なので大々的にやっている地区はそう多くないだろうが、いまどきは冬でも花火を上げるところもあるぐらいだし、どこかしらではやっているはずだ。

 

『それなら、考えてあるよ! こっちで日程決めちゃっていい!?』

 

 どうやらもう山本さんが目星をつけてくれていたようで、俺より忙しいはずの山本さん側に合わせてデートの日取りを決めることにした。

 

 駅に向けて走るバスに乗り込んでから、改めて山本さんとのメッセージのやりとりを眺める。

 

 他の男子であれば、こんな簡単なメッセージのやりとりでさえ、あの山本さんとはできないんだよな。

 自分がどれだけ男として恵まれている立場なのか、山本さんのおかげでとてもよく理解できる。

 

 山本さんの部屋での一件からしばらく経って、俺たちもだいぶ普通に話せるようになってきた。

 こうして日常的なやりとりを続けて、フっただのフラれただのを有耶無耶にしてしまうのも、美優の計画の一つにはなっているのかな。

 

 最後に楽しい夏の思い出を作って、そしたら、山本さんとも円満な友達関係に戻れるかもしれない。

 

(暇になると一人で駅前をブラつくぐらいしかやることがないってのも、どうなんだろうな)

 

 振り返ってみれば、俺はオフ会以外では男友達と遊んでいなかった。

 

 高波のやつはどうしてるかな。

 真面目に部活をやってるんだろうか。

 鈴原とハルマキさんの進展の具合はどうだろう。

 アイツらも暇してるかもしれないし、連絡してみるか。

 

 それぞれメッセージを送ってみると、鈴原から早々に返信が来た。

 みんなずいぶんとレスポンスがいいな。

 

『お、なんだ、暇なのか!? なら、ちょうどいいから今夜付き合えよ~』

『何かイベントでもあるのか?』

『あるっつーか、ないっつーか。合コン?』

『は?』

 

 話を深掘りしてみると、どうやら鈴原はハルマキさんと付き合うまでには至らなかったのだが、そこからオフ会の関係者との付き合いが転じて合コン友達になったらしい。

 しかも今では高波も巻き込んでるんだとか。

 

 友人の生き方をとやかく言うつもりはないけど、合コンに付き合うつもりはない。

 と、返事をしようとしたところで高波と三人のメッセージグループに入れられた。

 

『ついにソトミチも参加か!?』

『いや俺は行かんし』

『なんでだよこいよ、もう夏休みも終わるんだぞ。お前も童貞ぐらい捨てとけ』

 

 とても面倒なことに巻き込まれた。

 

『鈴原と違って俺はもう入れ喰い状態だぜ~』

 

 ほうほう、ついに高波もそんなところまで来たか。

 あいつはスポーツもやってるしモテる要素はあったからな。

 

『こいつは平気でブスとか手出してっから』

『勝率ゼロのお前にいわれたくねー。てかこの前の子は可愛かったし』

『くっ……たまたまとはいえあれはムカつく』

 

 俺の関わりのないところで勝手に話が進んでいく。

 

『小さな成功を積み上げてきた結果だよ。お前は顔に拘り過ぎ。つか俺は部活で体力あるから夜の方もバッチシだけど、鈴原は大丈夫なのかよ~』

『うるせぇ俺が誘わなきゃ女日照りだったくせに! この前のハメ撮り見せられたのはマジでイラッときたわ!』

『お前はあんなぶっ続けでピストンして女をイかせらんないもんな笑』

『今夜からメンバー入れ替えるか』

『おい!』

 

 嗚呼嗚呼、まったく。

 こいつら、夏に入る前は冴えないオタクだったのに、どうしてこうなってしまったんだ。

 

 俺も人のことは言えないけど。

 

『ソトミチもなんか喋れよ』

『知らん勝手にやってろ。俺は抜ける』

『あ、待て! やってみって! 一回だけでいいから!』

 

 そんな下手くそなナンパみたいな鈴原のメッセージを最後に、俺はグループから外れた。

 

 人生経験を積むのはいいことだ。

 俺なんかよりむしろあいつらのほうが王道的な成長の仕方なんだろう。

 

 あいつら、楽しそうだな。

 俺はまだ童貞扱いか。

 

 それも仕方のないことだ。

 山本さんのことは言えないし、美優は妹だし、他もみんな中学生だし。

 

 ……いや、山本さんのことだったら、もし仮に本物の恋人になっていれば、周りに話すことはできたんだよな。

 

 誰もが憧れる理想の恋人。

 実際に触れ合ってきた俺もその評判に一切の偽りはないと断言できる。

 山本さんとなら、人生のどんなステージを想像しても、将来は絶対に幸せだ。

 

 美優は俺にとっての理想の塊だが、まずもってあのロリ巨乳の異質さと、実妹であるという世間的な体の悪さが、大手を振って自慢できない要因になっている。

 

 その点は立場的に美優も同じはずなのだが、俺のことはどう思ってるのかな?

 さすがに堂々と実兄が彼氏だとは言っていないだろうし、先のことをどう考えているかも気になる。

 

 彼女感の無さに焦りが生まれる所以もこの辺りにあるのだろう。

 山本さんがホテルで俺に話していた、『美優とデートをすればわかる他の女の子を選ぶ余地』とやらも、大方はこのことを指していたのだと今では理解できる。

 お互いの“人生の平穏”を幸せと定義するなら、別々の人と結ばれるのも十分に考えられる選択肢だ。

 

 美優との関係を恋人と捉えたとき、どこをどう割り切ったって、その問題は付き纏うことになる。

 

(……ってことぐらいなら、もう整理はついてるんだよなぁ)

 

 俺だってそれなりに自分でものを考えられるようにはなった。

 全部わかってて、それでも美優に惚れてて、心の底から愛している。

 

 それなのに、この形の捉えきれない違和感はなんだ。

 俺が抱えている悩みって、そんな程度のものなのか?

 

「あっ……」

 

 バスを降りて無目的に歩いていた俺は、気付けば見覚えのあるカフェ通りに足を踏み入れていた。

 

 もうすぐお昼になる時間帯。

 

 もしかしたら俺は、無意識にそれを期待してこの場所を選んだのかもしれない。

 

「コンサル料をいただくわよ」

 

 背後から声がした。

 

 後ろを振り返ると、ちょっぴり大人びた化粧をリップに施した不機嫌ツインテールが、歩道の真ん中で仁王立ちしていた。

 

「俺のこと好きだったりする?」

「こっちのセリフだっての!」

 

 相変わらずの鋭い目で睨みを利かせてくる由佳。

 

 その奥には佐知子の姿もあった。

 

「久しぶりだな」

「はい、お久しぶりです」

 

 佐知子は人当たりの良い麗かな春の陽気のような笑顔を向けてくれた。

 そのユルい雰囲気がモヤモヤしていた心を和ませてくれる。

 佐知子はそこにいてくれるだけで場が癒しの空間になるな。

 

「二人はどうしてここに?」

 

 およそ答えの見えている質問をすると、答えようとしていた佐知子に割って入って由佳が口を開いた。

 

「塾、メシ」

 

 必要最低限のワードで俺の予想の答え合わせをしてくれた由佳は、佐知子にアイコンタクトを取ると、俺の腕を引っ張って歩き出した。

 

「あんたの方は別に大した用じゃないんでしょ。ならメシ行くわよメシ」

「わかったわかった。付き合うから、そんなに引っ張らなくても」

 

 俺が連行されてきたのは、どこにでもあるカフェレストランだった。

 

 時間帯の割には空いていて、入ると店員には自由な席へと言われたので端にあるソファー席を選ぶことに。

 

「勉強は順調なのか?」

 

 由佳はあれから、佐知子と真面目に受験勉強をしているらしい。

 

「由佳ちゃんは意外と理系脳というか、持ってる情報から答えを導くのが早くて。やり方を教えてあげるとすぐできるようになるんですよ」

「へえ、まあ要領は良さそうだったもんな」

「イマイチ褒められてる気がしないんですけど。やってみれば簡単だったわよ。逆になんで周りができないのか理解に苦しむわ」

 

 由佳は余裕綽々と言った感じにメニュー表を広げて、ある程度の中身を俺と佐知子に見せると悩む時間も与えずに店員を呼んだ。

 店員が来るまでに決めろということか。

 

「なら、かなり成績は上がってるのか?」

「上がっては、いますよ。かなり。……前がアレだったので……」

「なによ」

 

 歯切れの悪い佐知子にガンを飛ばす由佳。

 由佳は基本的にテストは赤点塗れで、塾では補修の常連だったため、いわば伸び代しかないというヤツだった。

 

「由佳ちゃんは、勉強自体にはやっぱり関心が持てないというか……歴史を覚えたりするのはすごく苦手なんですよね……」

「佐知子の歴史ノート全く役に立たなかったわね」

 

 由佳の苦言に、佐知子は涙を堪えるように目を強く瞑る。

 

 理系もある意味では覚えゲーではあるが、その覚えるべきことが理屈に基づいているので、思考をこねくり回しているうちに解き方は自然と体に染みついてくる。

 歴史なら紐づくものは物語だろうが、こちらは興味が持てないことには覚えるのは難しい。

 

「んなことより、このメンバーで集まったんだから、近況報告会するしかないでしょ」

 

 由佳はタンと机を叩いて話題を区切る。

 問答無用でレストランに連行されたのは、由佳の側にも話したいことがあるからだった。

 

「なにか進展でもあったのか?」

「そうねー。まずは佐知子ちゃんからお話したらどうかしらぁー?」

 

 由佳はイヤラシイ目を佐知子に向けて発言を催促する。

 まさか、佐知子の進展って……。

 

「彼氏ができた……とか、そういう話か……?」

 

 まだ店員に注文を頼んだ直後のタイミング。

 居酒屋ならお通しも来ていないところで、とんでもなくホットな話題を持ち出されてしまった。

 

 前にも似たような話を佐知子としたが、あのときは俺も自分のことで頭が一杯一杯だったというか、改めてこういう話をされるとえもいわれぬ感情が湧き起こってしまう。

 

「もう修羅場よ、修羅場」

 

 佐知子が喋るより前に由佳が話の先を匂わせる。

 

 修羅場は複数の男がいなければ起こり得ないシチュエーションのはずだが。

 佐知子に限ってそんなはずは。

 

「由佳ちゃん、そんな誤解を生むような話し方をしなくても」

「でも事実として修羅場ったでしょうが」

「それはそうだけど……」

 

 それはそうなのか。

 

 俺もすでに恵まれている身だし、寂しい気持ちは拭いきれないけれども、佐知子に好きな人ができたのなら祝福をしなくてはならない。

 

 そうした心構えはしているつもりだが、修羅場となると話は別というか。

 佐知子が複数の男を同時にというのは……いや、佐知子だからこそ逆にアリなのか……いやいやいや。

 

 そんなはずはない。

 良識のある先輩として、そんな破廉恥な人付き合いは止めなくては。

 

「まあまあ、まずはドリンクでも取ってきましょ」

 

 由佳は自分で話を振り出しておいて勿体ぶるようにまた話を中断する。

 ドリンクバーを頼んでいたので俺たちは三人分のドリンクを揃えて再び着席した。

 

「で、佐知子に聞くが。もちろん、勘違いだとは思ってるけど。……複数の男と、付き合ってるのか?」

 

 由佳に発言権を渡したのでは話が進まないので、佐知子を名指しして質問する。

 

「私は誰とも付き合ってないですよ。……少なくとも、私は」

 

 佐知子は目を逸らして、砂糖をたくさん入れたコーヒーを一口飲み込む。

 

「少なくともってのは、どういう?」

「ええと……。以前にお兄さんには、私が何人かの男の子から告白されたって話はしましたよね?」

「ああ、それなら覚えてるよ」

 

 佐知子は初めて会った頃に比べてずいぶんと大人っぽくなっていて、同じ塾の男子諸君らから熱烈なアピールを受けているらしい。

 

「佐知子のやつ、それぜーんぶ保留したままなの」

 

 由佳がドリンクのストローを咥えたまま口を挟む。

 

 ああ、なるほど。

 事情が見えてきた。

 

「私は、恋愛経験とか、全然なかったので。経験してみないことには、何も学べないですし。お付き合いしたい気持ちはあるんですけど」

「候補が複数いて選べないのか?」

「う、うーん……」

 

 佐知子は周囲を見渡して、同じ塾の人間がいないことを確認してから、顔を近づけて小声で話を続けた。

 

「結局、誰もお付き合いしたいと思えなくて」

 

 佐知子は申し訳なさそうにため息をついた。

 

「なら全員断ればいいんじゃないか?」

「あたしもおんなじ事を言ったわさ」

「だって、そんなことしたらもう二度と告白してもらえないかもしれないし……!」

 

 忘れていたが、佐知子は俺と同じく自分に自信がないタイプだ。

 恋愛下手は往々にしてそのような思考回路に陥るのはとても共感できるんだけどな。

 

「佐知子がこんな調子なもんで、返事を保留してる間に自称彼氏がたくさんできてたわけよ」

「それは修羅場にもなるな」

「うぅっ……!」

 

 佐知子は目をバッテンにして俯く。

 これは佐知子が完全に被害者とも言いづらい。

 

「魔性の女よ、佐知子は。いつかは美優を超える逸材ね」

 

 由佳は楽しげに鼻を鳴らす。

 

 そいつはバトル漫画ならアツい展開だが、佐知子には是非とも穏やかで明るい家庭を持ってもらいたいものだ。

 

 しかし、そうか。

 

 みんなそれぞれで人生が進んでるんだな。

 

 俺も、俺の人生を知ってもらいたい。

 せめて、中学生組や、鈴原たち。

 あとは、山本さんかな。

 そうした人たちには、話せると思う。

 

「実は、相談が──」

 

 と俺が話しかけたところで。

 

「ご、ごほん! んんっ、んっ!」

 

 由佳が仕切りに咳払いをし始めた。

 どうかしたのだろうか。

 やたらとウインクも投げてくるが。

 

「ところで、俺からも話があって」

「ちょーちょいちょいちょい! 佐知子の話を聞いたんだから、話題を回すでしょ、フツー!? はいグループ会話能力Cマイナス! 面接でも合コンでも即クビね!」

 

 由佳にズバッとランク付けされてしまった。

 もしかしたら俺は合コンに行って学びを得てきた方がよかったのかもしれない。

 

「ごめんな、つい」

 

 由佳は考えてることが感情に出やすいから楽しくてつい無駄なワンレスポンスを挟んでしまう。

 

「こっちだってわかってて言ってますけど。なに、佐知子もいるのに私ばっかりからかって、やっぱり私のこと好きなの?」

 

 好きか好きじゃないかで聞かれれば間違いなく好きではある。

 

「ふんっ。まあいいわ。その由佳ちゃんへの特別な感情が、あんたを人生のドン底に突き落とすことになるというわけなのだけれどね」

 

 由佳はムスッとしながらも、その口ぶりは自信に満ちていた。

 

 いや、ハハッ、まさかな。

 

 待て、急に胸がザワついてきた。

 

「なあ佐知子。まさかとは思うんだが。俺はこの話を聞かないほうがいいんだろうか」

「聞かないほうがいい話なら私も前置きを挟んでますので、大丈夫ですよ」

「それはよかった」

「勝手に完結するじゃないっての! ほら、さっさと質問しなさいよ」

 

 どうやらその話をすることが俺をレストランに連れ込んだ真の目的だったらしい。

 

 では遠慮なく聞かせてもらおう。

 

「由佳は彼氏はできたのか?」

 

 モテるモテないはさておくとして。

 由佳は高校に入るまでは彼氏とか作らないと思っていたが。

 

「できたわ」

 

 力強い断言だった。

 

 さて、ここからどうやってオチまで持っていくのかな。

 

「どんな経緯で?」

「聞いて驚くなかれ。私もついに告白をされたのよ」

「それは驚かざるを得ないな」

「無理もないわね」

 

 得意げにツインテールをかき上げる由佳。

 男に告白されて、彼氏ができたと言われたら、どこをどう取り違えても彼氏ができた事実は揺るぎないように思うのだが。

 この話、本当にオチがつくのか?

 

 佐知子は静観を決め込んでいる。

 

 あるいは、『彼氏はできたものの……』というやつなのだろうか。

 ネットで知り合った遠距離の人だとか、男のフリをした女だったとか、恋愛ゲームの中での話だとか。

 

 どれも由佳の性格を考えるとなさそうだし、仮に彼氏ができてしまったのならどんな相手であれショックを受けるのは避けられない。

 

 無論、佐知子のときと同様に、祝福はする。

 特に由佳の場合は、盛大に祝ってやらねばならない。

 これまで由佳と長く付き合ってきたやつなら誰でもそうするだろう。

 いっそ学校のクラスメイト総出で祝いの会を開いてやってもいい。

 こいつはそれだけの義理を通してきた女だ。

 

「どんな男なんだ?」

「ん……それは、わかんないけど。まあカッコよくて優しい男よ。多分」

 

 さっそく雲行きが怪しくなってきたな。

 

「ネットの知り合いなのか? どれくらい話したことがあるんだ?」

「いや、そうじゃなくて。なんか根本的に勘違いしてるみたいだけど」

 

 なにを勘違いする要素がある。

 

「実質的に彼氏ができたも同然という話をしてるのよ」

 

 これまでの俺の心配を返せ……!

 

「じゃあなんだ? 告白はされたけどオーケーはしてないのか?」

「その質問についてはイエスね」

 

 だったら彼氏できてねぇじゃねえか。

 “その質問については”ってのが気になるところだが、そこは突っ込んでも話がややこしくなるだけか。

 

「なら、告白は断ったのか?」

「断ってはいないわ」

「なら由佳も保留中か」

「どちらかといえば、そうね。保留ね。うん。まあ、保留に近いわ」

 

 保留すら妥当じゃないんだとしたらこの話はいったいなんだ。

 

「佐知子」

 

 そろそろいいだろう。

 

「由佳ちゃんはラブレターを貰ったので大喜びしているということです」

「そんな話をどうしてここまで勿体ぶった」

「妙な言い方をしないでちょうだい。たしかにラブレターを貰ったけど、大喜びしてるわけじゃないから」

 

 そう断りを入れる由佳の口元は緩んでいた。

 

 嬉しいんだな。

 

 男からの告白なんて、由佳がこれまでいくら望んでも手に入れられなかったものだ。

 自ら彼女を作る道を閉ざしていた俺より、ずっと達成感があるものだろう。

 

「誰からどうやって渡されたんだ?」

「誰からなのかは知らない。でも、塾で普段私が座る席の机に入ってたの」

「ならお前のかわからないよな!?」

「いえ、待ちなさい。気持ちはわかるけど、そこは確かなのよ」

 

 彼氏ができたと判断するラインがどんどん手前側になっていくあんまりな展開に思わず興奮してしまった俺を制して、由佳はガサゴソと鞄を漁り始める。

 

「これが証拠よ」

 

 由佳が机の上に置いたのは一枚の洋封筒だった。

 封を開ける側の外面には確かに由佳の名前が書かれている。

 

「これは……ラブレターっぽいな……」

「そうですね。私も現物は初めて見せてもらいました」

 

 佐知子も手紙本体はまだ見ていなかったらしい。

 確認するまでもなく、まともに取り合うような話ではないと早々に見切ったのだろう。

 聡い娘だ。

 

 そうこうしているうちに料理が運ばれてきて、繁々と封筒を透かすように見る俺たちを他所に、由佳は黙々とご飯を食べ始める。

 

「なあ、由佳」

 

 封筒を見ていて気になったことがひとつあった。

 

「ずいぶんとキレイにシールが貼られてるけど、まさか開けてないなんてことはないよな?」

 

 俺が尋ねると、由佳はステーキを切り終えたナイフとフォークを置いて、ゆっくりと顔を上げた。

 

「開けるわけないじゃない」

 

 由佳はどっしりとした口調でそう返した。

 予想してた通りだけど、どうしてそうなった。

 

 ……ああいや、待てよ。

 

 冷静になって考えるんだ。

 

 佐知子に『ラブレターを貰って喜んでいる』と指摘されたときのあの照れ様。

 もしかして由佳は、本当に告白されたことが嬉しすぎて、どう扱ったらいいのかわからなくなってるんじゃないのか?

 

 ここまでのやりとりは、いつもの破天荒さとは違って、由佳の混乱から生まれたスレ違い問答だったのかもしれない。

 

 由佳は恋愛方面に関しては信じられないぐらいウブだからな。

 それは遊園地デートをした俺が一番よく知っている。

 

「開けていいか?」

「逆になんでいいと思ったの」

「もしこの手紙に返事の期限とか……もしくは呼び出しの日とかが書いてあったら、本当の告白の機会を逃すことになるかもしれないし」

「なっ──!?」

 

 慌てて俺から手紙を引ったくった由佳は、急いでシールを剥がした。

 

 そして、それからそっと封をして膝に置いた。

 

「……どうした?」

「え……だって……思ってたのと違ったらヤだし……」

 

 まあそうだろうな。

 おそらくこいつがラブレターを開けられなかった真の理由がそれだ。

 

「由佳ちゃん、勇気を出して!」

「そうだ。お前ならやれる。また立ち直れるって」

「失敗する前提で話してんじゃないわよ! ……いいの。私に告白をしてくれたこの優しくてカッコいい謎の男子は、美しい思い出のままでいてくれればそれで」

 

 由佳はすっかりと当初の威勢の良さを無くして視線を落とした。

 

 まあ。

 

 そうだな。

 

「なんなのその目は」

「いや。そういう考えもアリだなと思って」

「うんうん。私も否定はしないよ。人の幸せの形はそれぞれだから」

「その優しさが逆に痛く染みるわ」

 

 由佳は胸の痛みに少し我を取り戻して、手紙を俺によこしてきた。

 

「ラブレターじゃなかったら午後の授業は休む。あんたは私を慰める」

「責任は取ろう」

 

 負う理由はないけれども。

 

「では、失礼して」

 

 できるだけキレイにシールを剥がして、四つ折りにされていたその手紙を俺は開いた。

 小さい文字で結構な文量が書かれたそれを、佐知子と一緒に読み進める。

 

「ふむふむ、ずっと前から元気を貰ってて、気付いたら好きになってました……と。最近は以前よりもよく笑うようになって、その表情を見たり声を聞いたりしているとドキドキして、目が離せなくなって、卒業を前に想いを伝えずにはいられませんでした……ほう……」

「こ、こここっ、こぇに出すんじゃないってのぉ……」

 

 由佳の耳が赤くなっている。

 こんな姿を見ることになるとは。

 

「思いっきしラブレターっぽいな」

「ですね」

 

 茶化しようがないほど真っ直ぐな愛の告白だった。

 

「で、誰からだって……?」

「それが差出人は書いてないんだよ」

「なんで!?」

 

 再度俺から手紙をぶんどった由佳は、血眼になって文章を読み込む。

 

 文章中にも書かれていたが、由佳たちはもう卒業生だ。

 付き合ったところで先は長くないし、成就する見込みが元々薄いのであれば、想いだけを伝えて次に進むというのも立派な選択肢ではある。

 

「うぬぬぬっ……ヤリ逃げされた気分だわ……」

「せっかくなんだからもっと清らかな表現にしろ」

「でも、ちゃんとしたラブレターでよかったね。私も読んでて胸が込み上げてきちゃった」

 

 由佳はどうにも腑に落ちない様子で、ネタとしてもオチがついたのかどうかわからない状況になってしまったが、それでも由佳が一人の女の子として認められた事実は俺も素直に嬉しく思う。

 

「んで」

 

 由佳は肘をつきながらフォークに刺した肉を口に運ぶ。

 

 行儀が悪い。

 

「あんたの相談ってなに」

 

 ようやく俺に発言権が回ってきた。

 

「それが、だな」

 

 微妙な流れに区切りをつけたくて、一呼吸をつける。

 

 俺が話したいのは美優のことだ。

 美優と付き合っていて、彼女感が得られないことを悩んでいる。

 ただ漠然と、そのことを打ち明けたい。

 

 それがいったい何の悩みになるのか、それすら自分ではわかっていない。

 

 でも、こうして由佳や佐知子と話していて、俺はより強く感じていた。

 

「美優とのことで、ちょっと。考えることがあって」

 

 佐知子と恋人のままだった今を想像すると、こんな食事のワンシーンでも、微笑ましくイチャイチャしながら過ごす時間を思い描くことができる。

 

 それは由佳が相手だったとしても同じで。

 遊園地デートで見せてくれた少女らしい由佳の一面。

 あの表情を俺にだけ見せてくれる由佳が恋人となって隣を歩いている姿が、情景となってありありと目に浮かんでくるのだ。

 

 それなのに。

 

「美優とデートをしてても、いまいち恋人っぽさが出ないというか。彼女感がないんだ。……こう、上手く言葉にはできないんだけど。だから、どうってわけでもないんだけどな。なんか、引っかかってて」

 

 俺がとりとめのない言葉で説明をすると、佐知子はどう反応すればよいかを迷っているようで。

 

「はあー。何かと期待して聞いてみれば。くだらない話だったわね」

 

 由佳はストローを咥えたまま辟易したようにそう言った。

 

「真面目な悩みなんだよ」

「はんっ。やっぱり、今日はコンサル料をいただく必要がありそうね」

 

 由佳はプラスチックの筒からレシートを取り出すと、指に挟んでピシッと真っ直ぐに立てた。

 どこでそんな芸を身につけた。

 

「でも由佳ちゃん。お兄さんと美優ちゃんの関係を考えると、あんまり簡単な話でもないんじゃない? 兄妹で、恋仲って……」

「そこが問題よ」

 

 由佳はズバッと核心に切り込んでくる。

 

「なんで美優を彼女にする必要があるの?」

 

 それはどういう質問だ。

 

「美優はもう彼女なんだが」

「でもお兄さんの中じゃ彼女じゃないんでしょ?」

「それは、実感の問題であって。……たしかにそう言われると、美優が彼女だってことを納得できてないのかもしれないけど……」

 

 こうして話してみても、俺の中にはやはり存在する。

 美優を彼女として位置づけることへの違和感。

 

 やっぱり、俺はどうしたって、世間体なんてものを……

 

「位の話をしてるのよ。なに妹から彼女に格下げしてるのかって」

「格、下げ……?」

 

 なんだ。

 言っている意味がわからない。

 意味がわからないのに、何かにピンときている自分がいた。

 

 そう、か。

 

 そうなのか。

 

「お兄さんの彼女なんて、私でも佐知子でも、その辺の女だって、誰にでも成れるのよ。でも妹は世界に一人しかいないの。唯一無二の存在よ」

 

 妹は唯一無二。

 確かにそうだ。

 

 一部も否定する隙がない。

 

「あんたは美優という“妹”と両想いになったの。そして、自覚しなさい──」

 

 由佳の視線が鋭く俺を射抜く。

 

「あんたは実の妹にしか興奮しない、真性の変態なのよ!」

 

 ドクンと心臓が拍動する。

 

「俺は……」

 

 変態じゃない。

 

 変態じゃ、ない……のか……?

 

「佐知子は、どう思うんだ?」

「私ですか……!? ええと……お兄さんのことは、頼りになる男の人だと思ってますけど……」

 

 言い淀む佐知子。

 

 俺は手に汗を握っていた。

 

 俺はとんでもない思い違いをしていたのかもしれない。

 

「エッチの最中に、美優ちゃんのことを考えてたって言われたことを思い出すと、その……変態さんなのかなって、思っちゃうところはあります……」

 

 俺は見失っていたんだ。

 

 これまで俺がやってきた、妹にまつわるあれやこれや。

 

 まさしく、変態としか言いようがない所業だった。

 

 というか今朝の俺がもう変態でしかなかった。

 

 これまでの俺も、美優との関係が始まってからの俺は全て、いっぺんの否定のしようもなく。

 

「あんたたちの関係なんて、変態兄妹以外にないでしょ。そんなのもわからないから、くだらないことに悩むのよ」

 

 さすがは本家中学生組の由佳だった。

 かつてそうした組織の只中にいた由佳だからこそ、この悩みの根幹にいち早く気付いたのだった。

 

(そうだ……俺は……妹が好きだったんだ……!!)

 

 ようやくだ。

 完全にモヤが晴れた。

 

 これで俺は、前に進むことができる。

 

「由佳、ありがとう」

 

 俺は手元にある料理を急いでかき込んで、三人分の代金をテーブルに置いてから立ち上がった。

 

「それから、佐知子も。二人のどっちかとでも出会わなかったら、俺はダメだったよ」

 

 思えば不思議な巡り合わせだった。

 人の繋がりをここまでありがたく感じたこともない。

 

 そして、晴れた視界の先には、俺が歩むべき道が見える。

 今度こそは俺が、誰かを支える側の立場になるんだ。

 

「私はずっと応援していますからね!」

「どうでもいいけどたまには私とも遊んでよね」

「わかってる。これからも、またこうしてご飯とか食べような」

 

 俺はスマホを片手にその振動を感じながら店を出た。

 

 ディスプレイには、山本さんからのデートの日取りの連絡が表示されている。

 

 ギラギラと照りつく日差しを俺は腕で遮った。

 

 この暑い夏も、もうすぐ終わる。

 



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使われたい美少女、二人

 

 山本さんとのデートを控えた前日の夜。

 

 俺は美優と二人で誕生日ケーキを囲んでいた。

 

「お兄ちゃん。お誕生日おめでとうございます」

 

 美優は着席したまま深々と頭を下げた。

 なぜこのようなおめでたい日に仰々しい態度なのか、その原因はこのあとのやり取りですぐに判明することになった。

 

「では、はい。月並みな渡し方ですが。こちらが誕生日プレゼントです」

 

 美優はバレンタインでもないのに板チョコを渡してきた。

 どこにでも売っているような百円ぐらいの板チョコだ。

 これが恋人になって初めて誕生日を迎える俺へのプレゼントらしい。

 

(つまり、これは……)

 

 美優は月並みなプレゼント、ではなく、"渡し方"だと言った。

 

 それはすなわち、この板チョコがプレゼントそのものではないことを意味している。

 

 この長方形から連想されるものといったら、それはもうチケットのような紙状のものしかあり得ないわけで。

 

(考えておく、とは言ってたけど、まさか本当に用意してくれたとは……)

 

 俺が板チョコの銀紙部分を取り出すと、その裏からピラっと紙が出てきた。

 

 俺がそれを拾い上げると、そこには『お兄ちゃんのお願いを一度だけ聞く券』と書かれていて、要するに一度だけならどんなことでも美優は言うことを聞いてくれるわけである。

 

「念のための確認だけど、これは話を聞くだけの券じゃないよな?」

 

 俺は小さめのホールケーキを切り分けている美優に尋ねる。

 

「この妹がそんなセコいプレゼントをするとでもお思いですか」

「だよな」

 

 ピンク色に縁取られた可愛らしい紙にいかがわしいことを書いてよこしてきた妹の声は実に涼しげだった。

 

 美優は義理を通すことにおいて並ならぬ覚悟と拘りがある。

 不要な期待をさせるぐらいなら最初から普通のプレゼントをするだろう。

 

「なら、誕生日ということだし、少しわがままを言ってもいいだろうか」

「お兄ちゃんからわがままなんて珍しいね。聞きましょう」

 

 美優は取り分けたケーキにサクッとフォークを指して、大きめに削り取ったスポンジを一口に咥えた。

 

「一度だけお願いを聞く、となると、どこまでがお願いの範疇なのか切り分けが難しいと思うんだ。たとえば、仮にエッチなお願いをするとして。俺が『美優のオナニーを見せてほしい』って言ったとするだろ?」

「はい」

 

 美優は『仮にも何も、エッチなこと以外に使う予定があるんですか?』みたいな顔をして話を聞いている。

 

「そこで俺がムラッときて、やっぱり抜いてほしいとお願いしても、オナニーを見られるほうが恥ずかしい美優からしたら抜くこと自体に抵抗はない。でも、追加でのお願いになるから、流れ的には断ることもできる」

「そうですね」

 

 美優は冷静に答える。

 

「とするとだ。俺としては最初から一度のお願いにそれも含めておけばと後悔するわけで、それを見越すと最初のお願いをどうするか迷うわけだよ」

「つまり?」

「一度、ではなく一日ならどうだろう?」

「ふむふむ」

 

 淡白な相槌を打ち続ける美優。

 ケーキを味わうのに神経を集中している。

 都内で新しくオープンしたお店で予約してまで手に入れた逸品なので、上に乗っているイチゴの一つでさえそれなりの高級品だ。

 

「俺が券を使ったその日は、俺が満足するまで美優は俺のお願いを聞く。具体的には深夜0時まで。これなら客観的でわかりやすいし、こっちも楽しみ甲斐がある」

「お兄ちゃんに良心が残っているなら許容します」

「そうか。よかった」

 

 同意してもらえてよかった。

 これで俺も心置きなくケーキが食べられる。

 

「ならこのチケットは『1日中どんなにイヤなことでもお兄ちゃんの命令に絶対に従う券』に書き換えておくからな」

「お兄ちゃんの良心ほんとに残ってるよね?」

「もちろん」

 

 パクッとケーキを咥えたままの美優が、ジトーッと暗い目を向けてくる。

 

 例によって兄としての評価が下がっている気がしないでもないが、ここで折れてもいられない。

 俺には兄として妹を堪能する責務がある。

 つい先日それを自覚したばかりなのだ。

 

「それはそれとしてだ。明日になったら、親父たちが帰ってくるだろ? だから、今夜は、その……ど、どうかなって」

 

 自分から積極的になってみたものの、歯痒さが隠しきれない。

 世の男性諸君らは、どうやって女の子をエッチに誘っているのだろうか。

 

「明日は奏さんとのデートがあるので、オススメはしませんが」

「わかってる、いつもは山本さんと会う前はしないことにしてるし。だから、今夜だけはって思ったんだけど」

 

 これまで、俺が山本さんとデートする前は、できるだけ美優とエッチをしないようにしてきた。

 理由は他でもなく、性欲を溜めておくためだ。

 

 とりわけ男にとって、愛は性欲によって深まることを美優は知っている。

 だから、山本さんと恋人らしい雰囲気を俺が自然と作り出せるように、美優は意図して性欲の発散を禁じている。

 

「んーと、今回はそういう話とはちょっと違ってて」

 

 美優は真面目な顔で淡々と話を続ける。

 

「今夜休んでおかないと、お兄ちゃんはもしかしたら死ぬかもしれない」

 

 しっとりと、冗談めかしさなど欠片もなく、美優はそう言った。

 

「なんで!?」

「何故とは言えないのですが。ただの予感でもあるし、それは明日じゃなくてまた別の日かもしれない。でも、もしそれが明日だったとしたら、多分お兄ちゃんは今日エッチしたら明日死ぬことになる」

「なんだと」

 

 訳は分からないが、美優の謎の自信に満ちたその言葉は、俺にエッチを諦めさせるには十分だった。

 

「そういうことなら、まあいいか……」

 

 どうせこの先だって、ずっと美優とはエッチをしてくのだ。

 今夜できなかったところで、さしたる問題はない。

 

「なんにしても、誕生日をお祝いしてくれてありがとうな。このケーキも。本当に嬉しいよ」 

「いえいえ。お兄ちゃんの妹ですので」

 

 そこでようやく美優も朗らかな表情になって、俺たちは二人で誕生日ケーキを食した。

 たまに出てくる『お兄ちゃんの妹』の真の意味が何なのかは実はよくわかっていないのだが、ニュアンスで伝わらないこともないので突っ込まないことにしている。

 

「あと、このチケットも。マジで貰えるとは思ってなかった」

「それについては……、たまたまね」

 

 美優はまた意味深なことを言って、食器を片付けにキッチンへと立った。

 今夜の美優はまた一段とミステリアスだな。

 

「あ、そうだ。お兄ちゃんにもう一個言うことがあるんだった」

 

 食器洗いを終えた美優が、俺のところへ戻ってきた。

 

「言うことって?」

「これからの二人に必要なもの」

 

 美優はスマホを操作して、その画面を俺に見せてきた。

 そこに映っていたのは、カレンダーを管理するアプリだった。

 

 なるほどこの予定表を俺たちで共有するわけか。

 

「たしかにカップルには必須のアプリだな」

「私たちにとって無いと困るものなんだよ」

 

 美優は俺と二人のためのものであることを強調して、同じアプリをインストールさせてから、二つのカレンダーを共有した。

 

 そのうち一つは、『兄妹の予定表』という名称のカレンダー。

 

 そして、もう一つは──

 

「な、なんて……いかがわしい……」

「私としてもどうするか非常に悩んだんだけど。お兄ちゃんも一つ大人になったわけだし。こんなものがあってもいいのかなって」

「そうだな」

 

 美優が予定日を埋め込んでいる、そのカレンダーに付けられていたタイトルは『お兄ちゃんの性処理予定表』。

 

 性欲の強い俺……というか俺たち兄妹にとって、その日にエッチができるかどうかは死活問題。

 それを、カレンダー共有アプリを使うことで、よりストレスのない性活を送れるようにと、美優が考えたものだった。

 

 カレンダーには美優の生理周期が記載されていて、ピルを飲んでいるためかなりの精度で美優の体の具合を把握することができる。

 

「この背景がグレーのマスがダメな日か。普通の予定もこっちに共有されてるんだな」

「どちらかというとこっちがメインで、もう一個は人前で開くとき用かな」

「なるほど」

 

 うっかり間違えないように気をつけないと。

 

「えーっと……要するに、このカレンダーの真っ白のマスであれば、俺はいつでも……」

「はい、妹をお使いいただけます」

 

 美優は事務的な口調で言い切った。

 

 妹を使えるというのは、エッチをするためにその体を使えるということだ。

 性欲が溜まったときに、射精を目的として、妹の口や膣を自由に使える、ということ。

 

 このアプリは本来、確認を取らずとも互いの予定を把握しておけるようにするためのもの。

 

 しかしてその実態は、兄が射精をするための『妹予約アプリ』なのであった。

 

 ……神アプリか?

 

「あれ。俺に予定を更新する権限がないな。これだと肝心の予約ができないんだが?」

「お兄ちゃんにはまだやることが残ってるでしょ? いいきっかけだから話をしただけだもん」

 

 誕生日に合わせただけの早すぎるプレゼントだったというわけか。

 

「つまり、この妹予約機能は……」

「山本さんとのことが解決したらアンロックされます」

 

 まさかの条件解放式だった。

 こんなエッチなアプリを前にして、なんとももどかしい。

 

「こんなモノを渡して、使えるようになったら本当に使うからな」

「お兄ちゃんならこんないかがわしいモノでも本当に使うだろうなと思ってインストールしたから大丈夫だよ」

 

 そういうことなら期待に応えよう。

 すべて綺麗に片付いたら、予約でカレンダーをいっぱいにしてやる。

 美優の予定を見る限りだと時間単位の設定もできるみたいだし、その日に抜きたくなったときの呼び出し機能としても使うことができそうだな。

 

「なら、まずは明日だな。今夜は大人しく寝て、明日は全力だ」

「頑張ってね。私も応援してるから」

 

 美優は両手をグーにして、小さくエイエイオーをしてくれた。

 

 こんなに可愛い妹がいるんだ。

 

 一日でも早く、この妹のためだけの兄になってやらないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 迎えた夏休み最後の日。

 

 俺は山本さんと遊園地デートをするために駅で待ち合わせをすることになった。

 

 遊園地なら由佳とも行ったのだが、山本さんが指定したのは園内を回ることを主としたリゾート系の遊園地で、まさしく恋人たちが集う場所になっている。

 メインイベントとして花火が上がる場所はもうここしかない。

 

 改札横の柱の陰でしばらく待っていると、向かいから眩しいぐらいの美少女が見えた。

 耳元にピアスを光らせて、短めのスカートを揺らしながら長い足でこちらに歩いている。

 

 その側を通り行く誰もが彼女を振り返っていた。

 

 少女は俺のところへやってくると、たおやかな仕草で耳元の髪をかき上げ、熱のこもった視線を俺に注いできた。

 

「ソトミチくん、おはよう」

 

 なんでもないそんな言葉が色っぽかった。

 

 もうそれだけで、なんだか「好き」と言われているような気さえした。

 

「おはよう。今日はいつもと違うね」

「うん、どうかな?」 

 

 うっとりとた目つきで視線を落として、恥じらいながら全身をアピールする山本さん。

 羽織物で肩から先を日差しから隠したその中に、豊な膨らみを見せるレース基調のタンクトップが、いつも以上に山本さんを大人っぽくしていた。

 

 しかし、どれだけのお洒落をしても張り出た胸の丸みにまず目がいってしまうのが、男の悩みというか、巨乳の女性の悩みでもあるのだろうか。

 

 ……いや、今日のおっぱいはいつにも増して大きいし、形がキレイだな。

 

「あ、気付いた? 今日は盛ってみたの」

 

 あれだけ乳のあった胸を更に寄せて上げてきたのか。

 それはさすがに反則だろ。

 俺としては眼福の至りだけど。

 

「ソトミチくんはおっぱいが好きだろうなって」

「俺のことを一番に考えてくれたことは嬉しいよ。一応、美容院に行ったのにも気付いてるからね。ピアスもよく似合ってる」

「あ、嬉しい。やっぱりソトミチくんはちゃんと私のこと見てくれるなぁ」

 

 ふふふと微笑んで、それから山本さんは、誘うように俺にウインクをしてから楽しげに歩き出した。

 

 あれだけ目立っていれば誰だって気付く。

 きっと、山本さんは俺がどんなことを褒めても、ああして喜んでくれたんだろう。

 そういう「好き」に真っ直ぐなところが、一緒に居て心地良く感じる。

 

 そんな山本さんに俺は追いついて横に並ぶ。

 

 高級店の顔馴染みにいそうなお姉さんスタイルに、若さに身を任せて肌の露出を足したような大人可愛い山本さん。

 靴にはいつもよりヒールがあって、ギリギリ並んでいた身長は山本さんの方が高くなっていた。

 

「やりすぎ、かな?」

「ヒールとかピアスのこと?」

「うん」

「そんなことないよ」

 

 俺たちは一つの改札をそれぞれ通って、またくっ付いてから目的のホームへと向かう。

 

 俺も男なので、山本さんが言わんとしていることはわかる。

 男の背の方が低いのは悪く目立つし、元は清楚を型にはめたような二次元美少女しか好きになれなかった俺からしたら、ギャルっぽいアイテムに抵抗がないわけでもない。

 しかし、女の子の好きなものを頭から否定するってのもな。

 

「山本さんが好きな格好をしてきてくれたんなら、それが一番だから」

 

 それは山本さんからの信頼の証。

 俺に取り柄があるとしたらきっとそういうところだし、これからどんな関係になっても、山本さんにとって安心できる存在でありたいと思っている。

 

「そんなこと言われると、惚れちゃいそう」

 

 もうすでに惚れているのでは。

 

「まあ、なんだ。今日は山本さんの彼氏になったつもりで来てるから。……性欲も、控えめにするように、頑張るし」

 

 ここが男の見せ所。

 たとえ妹に禁欲させられて溜まっていようとも、山本さんのエッチな体に負けたりなんかしない。

 

「えー、そこはいいのに。すぐにエッチなことを考えちゃう堪え性のないソトミチくんが好きなんだから」

「それはそれで複雑な……」

 

 とはいえそこは山本さんの言う通りか。

 俺が山本さんと本当に付き合ったら、何を於いても性欲を優先してデートをするだろうしな。

 そこだけは考えを改めておこう。

 

 俺たちが駅の階段を降りている途中で電車到着を報せるチャイムが鳴り響いて、乗車列の一番後ろに、俺と山本さんは揃って並んだ。

 

「ねえ、ソトミチくん」

 

 電車がホームにやってきて、山本さんの髪を風が攫う。

 山本さんはそれを右手で押さえると、色っぽく微笑んだ。

 

「私の彼氏としてデートしてくれるって言ったの、ちゃんと聞いてたからね」

 

 それは"限りなく恋人に近かった友達"の関係から、もう一歩踏み込んだ距離感でデートをしたいという意思表示。

 

 美優からの指示もあったわけだし、これまで何度だって山本さんは、俺と恋人に近い関係になる機会はあったはずなのに。

 

 ここに至るための道のりは、この日を迎えるまでのやりとり以外にはなかったようにも思う。

 

「そこは期待してくれて構わないよ」

 

 何がどう変わるというわけではない。

 

 しかし、俺が責任を取らなければならないという自覚が、今は自分の芯として存在している。

 

 昨晩、美優が話していた予感とやらは──きっと、当たっている。

 山本さんの態度からしてもそうだ。

 今日は何かがある。

 

「それじゃあイチャイチャしに行こ!」

「ちょっ、山本さん、くっつき過ぎ……!」

 

 山本さんは俺の腕に抱きついてきて、電車の中に俺を引っ張り込んだ。

 

 そのボディの肉厚さと、周囲から集められた視線による羞恥から、俺は車内の冷房でしばらく体の火照りを冷ますのだった。

 

 それから一時間ほど電車に揺られて、やってきた遊園地。

 

 夏休みも終わる頃だというのに、まだまだ入場口は若者で溢れかえっていた。

 

「早めに来たのに、もうこんな列になってるのか」 

「このところは新しいエリアの追加ペースが早かったからね。しばらくぶりだから私も楽しみなんだ」

「そうなのか。俺は……初めてだけど……」

 

 俺はその光景に圧倒されていた。

 

 テレビで見たことがあるだけだった景色が、この肉眼に映っている。

 大きく門を構える入場口のアーチから、その奥に聳えるお城、山々に見え隠れするアトラクションが、見ているだけで期待感を煽ってくる。

 

 ──そうした、テーマパークの作り込みもそうだったのだが。

 

 何よりも列に並んでいる人たちが、これまで付き合ってきた人種とは明らかに異質だった。

 

 見渡せば各所に学生グループがいて、男女混合、男だけの団体も女だけの団体も、みんなワイワイと集まって、キャラ物の服や制服で統一感を出して特別な空気感を楽しんでいる。

 人混みの中には、ネットの配信用に自分にカメラを向けている人なんかもいた。

 

 そして、言わずもがなカップルが多い。

 

 そうした人々のほとんどが、オフ会などの集まりでは出会うことのないような、いわゆる陽キャ、学校ではスクールカースト上位だった人種ばかりだった。

 SNSによく写真を上げているタイプのオシャレな男子や、パネルからそのまま飛び出てきたような美女たちが、組になって列を成している。

 

 ここでは一人でいることなど許されない。

 一人でいることを好む人が歓迎される場所でもない。

 それはオタク文化に自らを閉ざしてきた俺にとって、これまで触れてこなかった未知の世界だった。

 

 山本さんには期待してくれなんて言っておきながら、俺は不甲斐なくも緊張している。

 たぶん美優と一緒にいてもこうなってただろうから、ある意味ではこれも、俺の素のままの彼氏らしい振る舞いではあるのだけれど。

 

「ソトミチくん。大丈夫?」

 

 山本さんはなぜか両手でブラのカップを持ち上げておっぱいをたぷたぷさせながら訊いてきた。

 餅とプリンの良いところだけを取って混ぜたような凄まじい重厚感だ。

 

「ほれほれ」

 

 たぷん、たぷん、たぷん……と、山本さんは俺が釘付けになっている視線の先でおっぱいを揺らし続ける。

 ただでさえデカかった胸を、さらに目立つようにして盛ってきた、その途方もないほどの巨乳をだ。

 

 すごい。

 

 これはすごいな。

 

 滑らかに波打つ乳房の柔らかさと同調して、俺の心の凝りもだんだんと解れていく。

 

 ああ……、そうか。

 

 そういえば、このおっぱいは今は俺の物だったな。

 

「山本さんはどうしてそこまで男に理解があるの?」

「好きな人のことを想えばこそだよ」

 

 ニッコリ笑顔の山本さん。

 

 男の心情を優しく汲み取ってくれる理想の彼女だ。

 

 なんだか、懐かしさも覚えてしまう。

 初めて山本さんと話したときもおっぱいの話題だったっけ。

 山本さんは軽率におっぱいを揉ませてくれるからな。

 

「中に入ったら、どこから回ろうか?」

 

 山本さんは園内マップを広げて眺めている。

 入場ゲートも少しずつ近づいてきた。

 

「順番は任せるよ。俺はアトラクションというより、この海上を自転車で半周できるやつとか、キャラクターの等身大像が並んでる通りが気になる。あ、でもここのシューティングゲームはやってみたい」

 

 由佳ともやったけど、なんだかんだでガンアクションは楽しいんだよな。

 

「なら、どこのエリアから行くは私が決めちゃってもいい?」

「もちろん。助かるよ」

 

 山本さんは歩く順を計画して先導する係。

 俺は園内を行く中で、気になったお店を指差す係。

 

 そんな役回りを決めて、列が消化されるのを待ってから、俺たちは受付で入場の手続きをした。

 

 そこで渡されたのは、入場パス代わりとなるICチップ入りのブレスレット。

 青と赤のペアになっていて、俺たちは手を繋ぐ方の腕にそれぞれ付けて、園内を真っ直ぐに進む。

 自然と指が絡む形で繋がれた手に、赤と青のリングが交わって、それだけで二人の間には恋人っぽい空気が生まれていた。

 

「ソトミチくん」

 

 見つめられるだけで胸の奥が焼けてしまうような澄んだ目を俺に向けて、山本さんが呼びかけてくる。

 

 好意というものを一部も隠さずにストレートに伝えてくれるのが山本さんの一番の魅力だ。

 長所がありすぎて普段は意識しないけど、一緒に居る時間が長くなるほどに強くそう思う。

 

「どうしたの? 山本さん」

 

 隣を歩いている、背が高くて可憐な女の子に声を返す。

 まだ底は広い、歩き慣れたヒールを履いてきたその歩き姿は、足運びがとても綺麗だった。

 

「……あの、こんな早くからで、申し訳ないんだけど……並ぶ前に食べ物を買ってもいいかな?」

 

 山本さんは照れ恥ずかしそうに相談してきた。

 

「今朝は興奮しちゃって何も食べられてなくて……」

「構わないけど、そんなに楽しみにしてたの?」

 

 小学生でも無さそうなことを言われて、笑い出しそうになるのを堪えて思わずはにかんでしまう。

 

 まだレストランの開店前だから、食べられるものといえばお土産屋さんのお菓子か、各所で軽食を販売している屋台ぐらいしかない。

 

「それはもう、大好きな人とのデートですから」

 

 山本さんはこれでもかと瞳に感情を込めて俺を見つめてから、ふふっと微笑むと先にある屋台に近づいていった。

 

「ポップコーンお一つくださいな」

 

 山本さんが軽快なリズムで歌うように注文をする。

 

 それを聞いた園内スタッフは、出来立てのポップコーンをスコップでサクサクとかき混ぜて、童謡でも流れてきそうな軽快な手捌きでバケツに注いでいく。

 

「400円になります!」

「はーい、ピッタリ払いますね」

「まいど~どうも~! 楽しんで、お過ごしください!」

 

 テンション高めで俺たちを送り出してくれたスタッフの口調は、どうやらそのエリアでモチーフとなっている映画のキャラクターを真似ているようだった。

 ポップコーンの味もただの塩味ではなく、舞台となる地域から特徴を出して、イタリア風ソルトとして名付けられている。

 いくつか分けてもらって食べてみると、確かに普通の塩味とは違った。

 

「ん~、うまー!」

 

 大きめのバケツを腕に抱いてアトラクションの列に並ぶ山本さん。

 これだけ綺麗な身なりをしても、年相応の少女らしさを失わない。

 

 一緒にいるときの身の楽さでいえば、山本さんに敵う者などいないだろう。

 それぐらい、山本さんと居る時間は、幸福感しかない。

 

 山本さんのそんなところが俺は好きで。

 それは間違いなく恋に匹敵するほどの好意で。

 でも、俺はもうその気持ちを自覚することに、躊躇うことはなかった。

 

「山本さんにひとつ、お願いがあるんだけど、いい?」

「え、なになに? なんでも言って!」

 

 山本さんは期待いっぱいに目を輝かせる。

 そこまで純粋な反応をされると言いにくい話なのだが。

 

「今日は山本さんの彼氏になるって言っただろ? でも、なんか本調子にならないというか……その原因って、やっぱりアレかなって……」

 

 山本さんが本当に彼女だったらどうなるかを考えると、駅のホームでも話をした通り、性欲を前提としたお付き合いになるはずなのだ。

 

 しかし、山本さんがエッチを自粛しているので、肝心のその部分が封じられてしまっている。

 いくら山本さんがエッチな妄想を許してくれても、男としてはその先への期待がないといまいち盛り上がらない。

 

「あ、そうだった。私も大事なことを言い忘れてたよ。そのことならもう大丈夫なんだ」

 

 山本さんは俺にポップコーンのバケツを渡すと、ウェットティッシュで手を拭いてから肩掛けしている鞄に手を伸ばした。

 

 そこから出てきたのは、手のひらサイズのポーチ。

 本来であれば化粧道具でも入れるべきそのケースから顔を覗かせたのは、円形が浮き上がった正方形の包装の繋ぎ──ひと目では数えきれないほどのコンドームだった。

 

「準備万端です」

 

 山本さんは嬉々として声音を尻上がりに、そのひと繋ぎを指で引っ張り出して俺に見せる。

 

 一つ二つのレベルではない。

 ポーチの中身全部がコンドームだ。

 十か、あるいは二十か?

 何個入ってるんだ?

 まさかこの一日で全部使うつもりか?

 俺は死ぬのか?

 

「なら、今日はそっちも制限なしってこと?」

「うん……昨日から性欲が鎮まらなくて……」

 

 山本さんはほんのりと頬を赤く染める。

 まさか、今朝は興奮してご飯が食べられなかったって、そっちの意味じゃないだろうな。

 

「それなら、よかった……まあ、さすがにこんなテーマパークじゃ、こっそりは無理だろうし……夜が、楽しみだな」

 

 美優の予感は当たっていた。

 

 昨晩は休んでおいてよかった。

 山本さんが相手ともなれば確実に絞り尽くされる。

 

「もちろん、こんな賑やかな場所でする気には私もならないけど……」 

 

 山本さんは周囲に聞こえないように耳側に顔を近づけてくる。

 

「ホテルの当日予約もあるから、アトラクションとセックスを交互に楽しむでもいいんだよ」

 

 股間にじんと響く甘い囁きだった。

 こんな大衆のど真ん中で勃起しかねないほど、俺の鼓膜はエッチな周波数に揺らされていた。

 

「か、考えておくよ」

 

 自分から持ち出した話しなのに、気付けばまたタジタジにされている。

 

 シャキッとするんだ。

 こんな可愛い女の子が、デート用の鞄に大量のコンドームを入れてるとかエロ過ぎるだろ。

 

 いやそれこそ似たシチュエーションで同じようなことをやったやつは過去にもいたが、なんというかあれは半分は勢いと冗談みたいなもので、こっちのエロ娘の方はガチだ。

 

 やるとなれば全てのコンドームに射精するまで帰さないとかも平然とやるだろうし、それができるだけの魅力も能力も体力もある。

 

 気掛かりなのは、あれだけダメだダメだと拘っていたものを、こんなにもあっさりと覆してしまってよいのかということだが……。

 

 山本さんが積極的になってくれるのなら何よりの行幸と考える他ないか。

 俺も盛り上がってきてしまったしな。

 

「うふふっ。やっぱりソトミチくんとこういうことしてる時が一番楽しいなぁ」

「そこは同意するよ。ただ、一旦こうなると、エロいことしか考えられなくなるけど」

「別にいいんじゃない?」

 

 まあそうなんだろうけどさ。

 美優といい、そういうとこ、あっさりしてるよな。

 ほんとに腹違いの姉妹では無いんだよな。

 

「山本さんは彼氏がおっぱいばかり見てたりしてたらどう思う?」

「え、どうって。そのためのおっぱいだし」

「ああそうなんだ」

 

 いくら巨乳とはいえ目立たない服を着ることもできるわけだし、こんだけあからさまなおっぱいにしてきたということは、まあそういうことか。

 

「あとはほら、ちょっぴりソトミチくんに優越感を味わって貰いたかったり?」

 

 その言葉が意味するところは、いまでも周囲の男たちからチラチラと視線を向けられている、この状況そのものを言っている。

 

 前後左右と、カップルだらけであるにも関わらずにだ。

 

 ここに来ている女の子のレベルがなんだのと言ったが、それは一般人の平均と比べての話であって、山本さんクラスの美少女がそういるわけもない。

 

 で、この絵に描いたようなエロボディなわけだから。

 

 それはもう俺は羨望の眼差しで見られているというか、人知れず恨みを買っていてもおかしくはないのだ。

 

 普通の女の子なら、男からエロい目で見られるのなんて嫌なはずなのに、自分に絶対の自信があるが故に山本さんはそれを楽しむことができる。

 だからこそ、彼氏の側も優越感に浸ることができる。

 

 この自尊心の逞しさは懐かしいな。

 ようやく山本さんにらしさが戻ってきた感じだ。

 

「そろそろだな」

「えへへ。アトラクションがこんなに楽しみなの初めて」

 

 列の先頭に着くまでにポップコーンを食べ終わって、ようやく俺たちの番がやってきた。

 

 午後にはまた人も増えるため、まずは人気の列から並ぼうと考えた結果、最初のアトラクションは俺が希望した移動型のシューティングゲームになった。

 

 自動制御されたカートに乗って大量の模型が配置された道を進んでいくと、モンスター化した模型に3D映像がマッピングされて禍々しく動き出し、それを専用の光線中で撃ち抜いて点数を稼いでいくという内容になっている。

 

 このアトラクションの珍しいところが、結果がスコアとして表示されることと、そのスコアに応じてエンディングが分岐するという点だ。

 ひと月は配置が変わらないので、ゲームが苦手が人でも何度か乗れば最高エンディングを見ることができるのだが、こうしたデート向けのテーマパークでは珍しい趣向だろう。

 

 列の先頭から一組ずつが飛び出していき、専用のケースに立てかけてある光線銃を手に取って、観覧車と同じくらいの速度で動くカートへ乗り込んでいく。

 

 俺と山本さんも大人用に用意された装備を手にしてカートへと乗った。

 ドアを閉めたスタッフが俺たちを見送って、先の景色がほとんどわからないぐらいの暗い道を進み、スピーカーから流れてくる俺たちが遂行するべき使命とやらを右から左へ流していく。

 

「ワクワクするね! 今日は本気出しちゃおっかな」

「普段は本気ではやらないの?」

「だって、私が全部倒しちゃうと、一緒に乗っててもつまらないじゃない?」

 

 なるほど確かにな。

 山本さんレベルの能力になってくると撃ち漏らしもなさそうだし。

 このアトラクションでの初見完全クリアは月に一組もいないという噂だが、山本さんなら平然とやってのけるだろう。

 

「なら競争といくか」

 

 暗闇を進んでいくカートの振動を足元に感じながら、弾の補充に必要なリロード動作をガチャッと決めて、俺は遠くに見え始めたターゲットに狙いを定めた。

 

 俺だってゲームは得意なんだ。

 いくら山本さんが相手とはいえ引き下がるわけにはいかない。

 

「いいの? 手加減しないよ?」

「望むところだ」

 

 ブォンという地に響く低音が反響すると同時に、洞窟内が急に明るくなって、暗闇に隠れていたモンスターや石像たちに悪の魂が宿っていく。

 

 俺は全長で五十センチもある銃を構えて照準を覗き込み、その一匹に狙いを定めた。

 

 その直後。

 

 同時出現したターゲットの六体が、端から連鎖爆発するように散っていった。

 

「なっ……!」

 

 俺は照準から目を離して山本さんのほうを振り返る。

 

 そこには、涼しい顔でカートリッジを再装填する山本さんの姿があった。

 

 エイムにかかる時間はほぼゼロ。

 銃に設定されたリロードタイムを考慮した理想値で、山本さんは次々とターゲットを撃破してスコアを稼いでいく。

 

「配置知ってるの!?」

「うーんと……動作音で、なんとなく?」

「んなアホな」

 

 その言葉通り、向かい合う山本さんの背後から出現したターゲットに、俺よりも早く狙いを定めた山本さんが精密な射撃で撃破していく。

 

 鮮やかなものだった。

 圧倒的に人としての作りが違うことを思い知らされる。

 

 だが、

 

「そういうことなら……!」

 

 出現を事前に察知するのは、何も鋭い感覚器官を持つことが唯一の術ではないのだ。

 敵の出現そのものが演出の一つである以上、そのパターンには人間らしい思考が通っているわけで、ある程度のゲーム勘を持っていれば、次にどの方向から襲われるかを予測することはそう難しくはない。

 

「きたっ!」

 

 すでに俺が構えていた向きに配置されていた仮面の群れに、モヤモヤした魂の影が重なって、その目が赤く光りだす。

 

 複数体で同時出現したターゲットの真ん中──無駄な動作を極限まで減らせばまず最初に狙われることのないであろうターゲットに照準を重ねて、俺は引き金を引いた。

 

 直後、魂が爆散して落ちていく仮面たち。

 

 しかし、俺の銃に表示されていたカウンターは、『0』のまま変わってはいなかった。

 

「競争、って言ったからには、勝ち負けにも全力じゃないとね」

 

 山本さんは容赦がなかった。

 俺の銃口の向きから、どのターゲットが狙われているかを判断して、先に撃ち落としたのだ。

 

 俺も男として意地を見せるべく、是が非でも一点を稼いでやると、意気込んだまではよかったのだが。

 結局、ゲームの最後まで俺の銃口の向きを正確無比に把握し尽くしていた山本さんにより、俺の決意は無惨にも散らされた。

 

 ただの一発の無駄もなく、山本さんは見事に一人で全ての敵を撃墜したのだった。

 

「やったー! 大勝利~!」

「強すぎる……化け物か……!」

 

 理不尽なほど圧倒的だった。

 ここまでやられるといっそ清々しいほどだ。

 

「マジでセックス以外で勝てる気がしないな」

「ほんとならそのセックスでも誰にも負けないはずなんだけどね。むしろ得意分野?」

「相性ってのは何にでもあるもんだな」

「ソトミチくんのセックスは気持ち良すぎるから……」

「そ、それは、励みになる言葉だ。……ところで、飯はどうする?」

「いくいく!」

 

 出口へ向かう道すがらにお喋りをして、早速ではあるが小休憩を挟むことにした。

 

 カフェもレストランも各所に点在している。

 朝が早かったので、お昼になる前にガッツリしたものを食べようと、肉バル風のイタリアンレストランに目星をつけていたのだが。

 

「……ソトミチくん?」

 

 俺の目はテラス席に座る一組のカップルへと止まっていた。

 

 ドラマやアニメでは有名だが、日常ではなかなか目にすることのなかった、二人用のストローがついたドリンクを飲んでいたのだ。

 

 ハート型になっているストローの二つの口をそれぞれ咥えて、少し首を伸ばせばキスができそうなぐらいの至近距離でお互いに見つめ合っている。

 

「ほう。ソトミチくんもまたベタなものが好きですな」

「いや、別に、そういうつもりじゃなくて……!」

「私たちもあれやろ! 次のお店はあそこにけってー!」

 

 そんなこんなで山本さんに強制連行された俺は、カップル用のメロンソーダを注文させられて、あまつさえテラス席の一番端へと座らされたのである。

 

 テーブルの中央にはハート型のストローが入ったグラスが置かれて、その隣にはついでに買ったサンドイッチが添えられていた。

 

「き、緊張するな」

「ラブラブ感があって良いじゃない? 美優ちゃんとか絶対にやらなそうだし」

「まあな」

 

 こんに可愛い子と見つめ合って、カップル用のドリンクが飲めるなんて貴重な体験だ。

 美優にやらせたらムスッとしながらストローの先を咥えてるだろうな。

 

「んふっ、そしたらソトミチくん、一緒にチュー……!」

 

 山本さんがストローをパクッと咥えて、期待の眼差しで見つめてくる。

 管の中を緑色の液体が登っていって、俺も慌てて自分に向けられたストローの先端を口に含んだ。

 

 山本さんの顔が近い。

 

 目がおっきい。

 

 ドリンクに混じった香料とは違う女の子の匂いがする。

 

「うぐっ……は、はずい……」

「むふふっ。ソトミチくん可愛い」

 

 照れてしきりに目を逸らす俺を、鑑賞でもするかのようにずっと見つめてくる山本さん。

 

 それからしばらくして心を落ち着けて、俺も覚悟を決めて目を合わせると、そこでまた山本さんはニコッと朗らかな顔になった。

 

 なんだかやられっぱなしだ。

 これはもう俺からも打って出るべきだな。

 

 山本さんは俺が好きで。

 今の俺は山本さんの彼氏で。

 

 なら、山本さんに好かれるために、もっとできることがあるはず。

 

「山本さんも、可愛い、よな」

 

 言われたことを言い返してみる。

 意外と口にして伝えたことは少なかったかもしれない。

 

「ん。それは嬉しい」

 

 さすがの山本さんも照れた。

 そんな仕草がまた、愛らしい。

 

 俺はストローから口を離して、それでも顔の近さは変わらないぐらいの位置で頬杖をついた。

 

「やっぱりそのピアス、似合ってるよ」

「あ、ほんと? ありがと。ソトミチくんにそう言ってもらえると、頑張って選んだ甲斐があったよ」

 

 どうやらそれは今日のデートのために見繕ってきた新品のようで、山本さんも俺と同じようにして頬杖をつくと、空いていた手で耳たぶに触れた。

 

「なんでピアスって悪いイメージが強いんだろうな。耳に穴を開けるのが自傷行為っぽいからかな? イヤリングなら抵抗がないってのは、まあ、実際あるか……」

「うんうん、あるね。あと、『それって元彼の趣味?』って聞かれたことは何度かある」

「それは辛い」

 

 健全な女の子なら、自分から好んでピアスをつけたりなんかしないと、そういう固定観念があるのかもしれない。

 

「俺も美優がいなかったらどうだったかな」

 

 ダメ男の見本として、女の子へのデリカシーもなく、自分の気持ちばかりを優先していたかもしれない。

 

 ……デリカシーのなさに関しては、まだ十分に改善されたとは言い難いけど。

 

「過程はどうあれ、いまここに素敵なソトミチくんがいてデートしてくれてるわけだから、私は幸せだけどな」

「ほ、ほう……」

 

 また小恥ずかしいことを。

 

 でも、それは俺が山本さんに抱いている印象と、そう変わらないものだったりするのかな。

 

「こうしてラブラブソーダも飲めるし」

 

 山本さんはまたチュッとストローに吸い付く。

 それに合わせて俺もメロンソーダを飲む。

 

 お互いの唇は再接近して。

 山本さんの唇が、やけに艶やかだった。

 

 キスをしたら気持ち良さそうだ。

 フェラテクと同じくらい舌使いも半端ではないんだろうな。

 また意識がドロドロになるくらい堕とされてみたい。

 

(こんなにエッチをしてるのに、俺は山本さんとキスしたことがないんだよな……)

 

 セックスに関してはもう数え切れないほどしてきたのに、キスだけはその全てを記憶している程度にしかしていない。

 

 美優から彼女を紹介してもらったあたりからそうなのだが、俺の女性遍歴はどう考えても順序がおかしい。

 

 山本さんからしてくる気配もないしな。

 

 俺が思っている以上に、キスって特別なものだったりするんだろうか。

 

「いまソトミチくんが考えてことがわかるかも」

「山本さんはどう思う?」

「実は今日するタイミングを伺っておりました」

「夜になったら花火があるよな」

「それが一番ロマンチックだね」

 

 色々と端折りまくった会話。

 それでも俺たちは通じ合っている。

 

「でもね、ソトミチくん」

 

 至近距離で俺を見つめる山本さん。

 

 その目が、ゆっくりと、閉じられて。

 

「──ッ!?」

 

 山本さんの厚く柔らかい唇が、俺の唇と重なった。

 

 ごく僅かな時間ではあったのに、温度に敏感なその器官は、山本さんの唇の熱と、芳醇なメロンな香りを瞬間に凝縮して、俺の脳が痺れるほどの情報を伝えてきたのだった。

 

「あっ……こ、こんな、いきなり……」

 

 完全なる不意打ちだった。

 

 できる距離にいたとはいえ、まさかこんな白昼堂々とキスをされるなんて思ってもみなかった。

 

「ここは恋人の聖地だよ。キスぐらい、したいときにしていいんだよ」

 

 山本さんは自身の照れ臭さを隠すように薄らと微笑んだ。

 戯れのような些細なことだったのに、俺の脈は跳ね上がっている。

 

 それから、山本さんは真っ赤になった俺の耳に淫らな声を打って、

 

「エッチなキスは、夜になったらたっぷりしてあげるからね」

 

 茹だって混乱するだけの俺を、しばらくニコニコと楽しそうに眺めているのだった。

 

 



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魔法

 

 俺と山本さんは再びアトラクションの列にいた。

 薄暗い館内の至るところに棺やツタンカーメンなどのエスニックなインテリアが置かれている。

 

 アドベンチャー系の映画をモチーフに、トロッコでピラミッド内部を旅するコースターへと乗るこのアトラクションは、傾斜も速度も控えめなため絶叫マシンとしては分類されていない。

 しかし、置物の不気味さやガタガタと揺れるカートの不安定さが、むしろ他のアトラクションよりも怖いとファンの間では人気になっている。

 

 待ち時間もだいぶ長くなって、列の先頭が見える頃には一時間以上が経過していた。

 そんな長い時間を俺たちはどう過ごしていたのかというと。

 

「ソトミチくん……んっ……ちゅっ……」

「っ……や、山本さん……またそんなとこを舐めて……」

「へろっ……むちゅ……ほんとはお口でチューがいいけど……」

「いくら暗いからって、そこまでは……うっ、あぁ……」

 

 それはもうイチャイチャしていた。

 大勢の人が周囲にいる中で、俺は山本さんに後ろから抱きつかれて、列に並ぶ時間のほとんどを密着して過ごしていた。

 

 いま俺は山本さんと一緒にスマホを眺めている。

 アトラクションの待ち時間はどうしても暇になるため、このテーマパークで題材になっている映画をいくつかダウンロードしてきたのだ。

 

 止まっている間は山本さんが背後から抱きついてきて、列が進むと腕を組んで進み、くっついたまま二人で歩く。

 そして、止まったらまた山本さんは両腕を俺の腰に回してきて、全身の柔らかいところを押し付けながら下半身を指でなじったり首筋を舌でくすぐったりしてくるのだ。

 

「だってソトミチくんとキスしちゃったし」

 

 山本さんは背後から俺の耳をはむっと甘噛みしてくる。

 人前でなければペニスがズボンを突き破っていた。

 

「キスがそんなに重要だったのか」

 

 俺と山本さんはあれだけ体を重ねておきながら、今日という日になるまでキスをしてこなかった。

 だから、特別感は俺にもあったものの、さすがに山本さんだって俺とがファーストキスということもあるまい。

 

「ソトミチくんとは、本気で好き同士になるまでしないって決めてたから」

 

 どうやらキスをしなかったのは意図した行動のようだった。

 それが、どういうわけだか、あのテラスでのカップル用メロンソーダで振り切れてしまったらしい。

 

「どうしてしちゃったの?」

「だって……」

 

 山本さんがギュッと俺を抱きしめてくる。

 それから、肺に溜め込んだ、熱い吐息が耳にかかった。

 

「ソトミチくんのこと、やっぱり好きだなって思っちゃって。あの瞬間から、もうすっかり恋人の気分で……」

 

 山本さんは一途に人を好きになるほどに性欲が強くなる。

 俺に向けられたそれはこれまで山本さん自身が経験してきたいずれとも比にならず、こうして過剰なスキンシップをとっていることが盲目的なまでの恋をしている証だった。

 

 山本さんにもいくつもの思惑があって。

 美優との取り合いに対する心構えと、それとは別に、まだ混乱したままの恋心に、どう整理をつけるべきか、山本さんは迷いながらデートをしていた。

 それがあのキスで吹っ飛んでしまったようだ。

 

「それにしたって、ずいぶんと上機嫌だね」

「他の人にはこんなことできないから」

「ああ、それもそうか」

 

 すっかり慣れていたので忘れていた。

 俺の体は美優のおかげで特別製になっているが、他の男では山本さんの性的な刺激には耐えられないのだ。

 

「お家にいるならまだしもさ。外にいるときにこうして抱きついてるだけでも、みんないつ射精しちゃうかわからないし」

 

 こうしてデートをしてみると、改めて問題の具合がよくわかる。

 山本さんと旅行をするのにいったいどれだけのパンツを持っていけばいいのやら。

 

「だから、思う存分することにしました」

 

 自らの優秀すぎる体に悩まされていた山本さんの、艶かしくも晴れやかな表情が見れて、俺としても誇らしい気持ちでいっぱいだった。

 

 その気分の良さのまま、やってきた搭乗のとき。

 俺は山本さんとトロッコに乗り込んで、腰に簡易的な安全ベルトをつけた。

 カートの縁は高いし、コースにもそれほど高低差があるわけでもないのだが、怪我人が出たら営業も続けられないので念のためというわけだ。

 立ったままのコースターアトラクションというだけでかなり思い切った仕掛けといえる。

 

 一組で一カートずつ、それが連結しない形で八つほど連なっていて、俺たちはその最後尾にいた。

 

「しっかりと手すりにお捕まりくださいだってよ」

「ソトミチくんとしばらくギュッてできないんだ」

「一分やそこらだから……」

 

 これだけ甘えてくる山本さんも珍しいかもしれない。

 俺もだいぶギャップ萌えに弱いというか、美優にも甘えられるとどうしようもないくらい可愛いと思ってしまって、山本さんもその例に漏れなかった。

 

「でも、そういうことなら、俺が後ろから腕を回して支えようか?」

 

 腕を伸ばせば手すりと体の間に人一人分くらいは入ることができる。

 この行動が彼氏らしいのかはさておくとして、山本さんが喜びそうなことがあるならどんなことでもしたかった。

 

「されたい! お願いしていい!?」

「いいよ」

 

 山本さんはベルトが邪魔にならない範囲で俺の前に立って、そこに俺が被さるようにして両腕を伸ばした。

 

「きゃー! ソトミチくんに抱きつかれてる……!」

「どんだけ俺のことが好きなんだ」

 

 形式的にもトロッコなので、登りはごく短い区間しかない。

 階段を上がるようにして列に並んできた俺たちは、左右から来る不気味な音や人形に驚かされながら、緩やかな坂を少しずつ下っていく。

 

 そうして、トロッコが一定の間隔を空けてレールを進んでいき、列に待っている人たちが見えなくなった頃。

 山本さんの後ろから抱きついていた俺は、さきほどと立場が逆転していることに気づいた。

 高いヒールを履いて身長が逆転しているとはいえ、それほど差があるわけでもないから、俺と山本さんの顔は頬が擦れそうなほど近くにあった。

 

「山本さん」

 

 それは、精一杯の彼氏らしさの、その延長のつもりだった。

 

 俺の声に反応した山本さんは、周囲の景色を楽しんでいたところから視線を切って、俺に振り向いてきた。

 

 至近距離で、目が合って──いつか、美優に教えてもらったように──俺が山本さんの唇に視線を落とすと、山本さんも俺の意図を汲み取ってくれた。

 

「んっ──」

 

 唇を重ねると、どちらともなく声が漏れて、俺たちは暗闇の中で刹那の愛を送り合った。

 山本さんの体温が瞬間的に高くなって、抱きしめる俺に熱が移ってくる。

 触れ合いほどの軽いくちづけに、それでも、山本さんの奥に眠る何かには強く響いたようで。

 

 キスが終わると、周囲が明るくなり始めて、いよいよ本格的なコースターが始まる……かと、俺は思っていた。

 だが、俺からキスをされて山本さんがついばみ程度で満足をするはずもなく、前に振り返るどころか山本さんは俺を強く抱きしめてきて舌を伸ばしてきた。

 それから、精力を奪い取るみたいに、絡ませた俺の舌を引っ張り出して、じゅるじゅると卑猥な音を立てて山本さんが吸い付いてくる。

 前方からはとっくに他の客たちの悲鳴が聞こえてきているのに、俺たちは興奮に任せてお互いの唇を貪っていた。

 

「んちゅっ……じゅるっ……ちゅぱっ……はぁ……ソトミチくん……」

「んっ……ぁっ……山本さん、好きだよ……」

「私も……好きぃ……ほんとに好き……ちゅっ、じゅるっ……じゅっぱっ……ちゅぷっ……」

 

 ムクムクと膨れ上がる股間に、性欲を委ねて全身を山本さんに押し付ける。

 山本さんも強く下腹部を押し返してきて、お腹でペニスを扱くように、腰をグラインドさせて刺激を与えてきた。

 

 そうして俺たちが間接的ながらも熱烈な性行為に耽けていると、ガタンッ、とカートが揺れて俺たちの間を強制的に空けさせたのだった。

 

「あっ……んふふ。やりすぎだったかな」

 

 ぺろりと舌なめずりをして唾液を舐め取る山本さん。

 その妖艶な表情は完全に淫魔のそれだった。

 

「ソトミチくんのことが好きすぎて気が変になりそう」

「それは俺としても嬉しいよ」

 

 ただ、代償は大きかった。

 俺のペニスが簡単には鎮まらないぐらいに勃起している。

 

「降りたらスッキリさせてあげるから、それまで我慢してね」

 

 山本さんはそれだけ言って、前を向いた。

 どこで抜いてくれるのかはわからないが、そうともなれば後はこの一分近い時間を我慢するだけだと、俺はまたその背後から覆い被さるようにして山本さん越しに手すりを掴んだ。

 

 その瞬間に、またトロッコは、強い振動を起こして──

 

「ん、あっ……! ソトミチくん、それ、ダメッ……ああっ……!」

 

 逆転した身長差がもたらした意外な副産物に俺は苦しめられることになった。

 後ろから密着することで、膨らんだズボンの先端が、ちょうど山本さんの敏感なところに当たってしまっていた。

 そんな状態で俺たちの体は前後左右へと揺られて、足元から振動が這い上がってくる肉棒は、まるでバイブのように山本さんの性感帯を刺激した。

 

「あんっ、ぐあっ……す、っごい……はぁあっ……んあぁああっ……!!」

 

 普段の精神状態ならなんともないものとしてやり過ごせたのかもしれない。

 だが、今の山本さんは先ほどのキスで最高潮に気が昂ぶっている。

 場合によっては、過敏な部分にペニスが当たっていなくても感じていた可能性すらある。

 そんな山本さんのために、俺は腕をどかしてあげることができなかった。

 

「はぁ、はぁ……っ…………!!」

 

 山本さんを逃すまいと、逆に手すりを強く握って、密着の具合も自らの意思で高めて山本さんを責め立てる。

 俺と山本さんが本物の恋人になったらこんな状況で絶対にやめたりないし、だから、俺は山本さんのアソコにわざと竿の先端が当たるように膝の角度を調整して、揺れが大人しい区間には胸を揉みしだいて山本さんを休ませなかった。

 

「ソトミチ、くん……あっああっ……!! 奥まで、振動が……届いっ、てるぅっ……!!」

 

 曲がりくねったレールを進み続け、いよいよ出口も見えようかというところ。

 アトラクションのクライマックスとして、直線の道でトロッコが急加速して、俺たちは後ろ側への強いGにさらされることになった。

 前後で重なった俺の、最硬に勃起したペニスが、山本さんの股座へと押し込まれていく。

 

「アッ──!! いっ……イッっ…………ッ──!!」

 

 前につんのめることのないように、緩やかに速度を落としていくトロッコの中で、山本さんは脚をガクつかせながら手すりを支えにしてどうにか立っていた。

 ただでさえセックスを我慢し続けてきた山本さんが、穴の入り口だけとはいえ俺のペニスに秘部を刺激されて耐えられるわけもなく、アトラクションが一周するまでに見事にイキ果ててしまった。

 

 カートが停車する間際で、俺たちはよろめきながらも、どうにか呼吸を落ち着けた。

 

「山本さん、エロすぎ」

「ソトミチくんがエッチなことするから……」

 

 嬉しそうに呟く山本さんは、カートから降りる際にできるだけ俺と離れないようにして、ロッカーに預けた荷物を取りに進む。

 イクことができたのは山本さんだけなので、俺の肉棒はまだ勃起している。

 それをどうにか山本さんが体と荷物で隠してくれていた。

 

「どうやってスッキリさせてくれるんだ?」

 

 俺が勃起したのは山本さんのせいなので、山本さんには俺を射精させる責務がある。

 

「とっておきの場所があるの。任せて」

 

 入園時に話に出ていた、ホテルの当日予約でもするのかと思いきや、山本さんはそれを手段として提示しただけで、どうにもホテルに向かう様子はなかった。

 それどころか、テーマパークのメインエリアからはどんどん離れていって、いつしか退場用のゲートが見えるところまで来てしまった。

 

「出るの?」

「当日なら再入場ができるから、こうして外に出てもいいんだよ」

 

 これは盲点だった。

 たしかに、園内は人で溢れかえっているし、ホテルを取る以外には個室もないので、二人きりでイチャイチャする場所を確保するのは難しい。

 実際のところ、この混み具合ではホテルの当日予約ができるかも怪しいところだ。

 だが、外に出てしまえば、駅の近く以外にはほとんど人がいない。

 

「遊園地の外って……、何もないけど」

 

 人がいないということは、遊園地から出てまで行くべき魅力的なスポットがないことを意味している。

 インスタントなセックスがしたいカップル御用達の、カラオケもネットカフェも存在しないのだ。

 人の少なさを活かして野外でするとかのほうがまだ考えられるが、海も近いこの場所には人目を避けてエッチができそうな木陰もほとんどなかった。

 

「そこにあるでしょ? 運動公園」

 

 山本さんが目的地にしていたのは、無料で開放されている市民公園だった。

 そこも例に漏れずに人が少ない場所になっているが、建物もないのでむしろ身を隠すところも少ない。

 と、思っていた俺の視界に、あっさりとその答えが転がり込んできた。

 

 無料の運動公園には、寂れた公衆トイレがあるのだ。

 都内の公衆トイレと違ってよっぽどのことがなければ人が通ることがない。

 

「まだ時間はあるから、このままラブホテルでエッチ三昧するより、サクッと抜いて遊園地に戻ろっかなって」

 

 清々しいほどの笑顔で山本さんはそう言った。

 よほどエッチが好きな女の子でもこの性行為への抵抗のなさには至れまい。

 

 俺は山本さんと手をつないで運動公園へと向かい、その端っこにある公衆トイレに入った。

 市営の公園だけあって整備だけはよくなされていて、汚らわしさはなく便器はどれも真っ白だった。

 

「なら、山本さん。これを頼むよ」

 

 俺は山本さんを男子トイレに連れ込んだ。

 一番奥にある個室に二人で入って、俺は山本さんの前で勃起したペニスを露出させる。

 美優に我慢させられていたせいで重たくなった肉棒は、ブルンとその太い竿を晒して、先端からとろっと我慢汁を垂らしていた。

 

「私の口はソトミチくんが射精するためのおトイレみたいなものだから、好きなだけ出してもいいけど……夜の分ぐらいは、残してね?」

 

 仁王立ちをする俺の前で、便器と同じぐらいの高さでしゃがむ山本さんが、上目遣いでそんなお願いをしてくる。

 山本さんは恋人になってさえ自らを性処理用の道具として自己認識しているわけだが、美優といいどうして可愛い女の子は彼氏のオナホになりたがるんだ。

 

「一回射精させてくれればいいよ。けど、しばらく我慢してたし、ものすごく興奮してるから、かなり濃いのが出ると思う。大丈夫?」

「うん! 頑張って飲むから、上手にできなかったら叱ってもいいからね?」

 

 山本さんを叱ったりなんてできるわけが……いや、そういうプレイも想像してみると興奮するな。

 

「それでは、ソトミチくんにご奉仕のフェラチオを……チュッ……はむっ、ぐぷっ……じゅるるっ……じゅぱっ……じゅっぽっ……!」

「あっ、ぐあっ……はぁ……!」

 

 間髪入れずに山本さんはフェラを開始した。

 俺以上に性欲を溜め込んでいた山本さんは、個室とはいえほとんど野外に近いこの状況で、下品な音を出して俺の肉棒にしゃぶりついてくる。

 

「じゅるっ……ぷはぁ……ソトミチくんの、せいえきのあじ……ふあぁむっ……ちゅっ……おいひぃ……はぁ……じゅる、じゅぱっ、ぐっぽっ……じゅるるるっ……!」

 

 丹念に、かつ荒々しく、山本さんは俺のペニスを舐る。

 最初から射精させることが目的で、山本さん自身は気持ちよくなろうとはしていなかった。

 

 でもそれは、エッチに飽きただとか、早く園内に戻りたいとかではなく、処理を処理として済ませるための行為としてそうしているのだった。

 

「ちゅぱ、ちゅばっ……んっ、ちゅぷっ……すぐに出していいんだからね、我慢しないで……あむっ……じゅるるるうっ……!」

「ぅ……くうっ……!」

 

 ペニスを奥深くまで咥える山本さんからは、精液を出させたいという想いだけが伝わってくる。

 

 一緒に自分もオナニーをしたりだとか、これはそういうプレイとは程遠い位置にあった。

 

『恋人が勃起しているから射精させてあげる』

 

 山本さんがこのフェラで叶えようとしていたのはその意思だけだった。

 

「ああっ……あっ……そんな、手加減なしで……されたら、うっ、ああっ、はぁ、あああっ……!」

 

 恋人でありながら性欲を処理をするためだけの行為をする。

 そうした嗜好が男を興奮させることを、山本さんはわかっていた。

 ある意味ではリアリストとも呼べる、そんな価値観が、俺が美優と繰り返してきた淫らな経験と重なっていって──

 

「っ……!! はぁ、うっ、ああっ……もう出るよ……山本さん……!!」

 

 びゅるるっ、びゅくびゅくっ──と、俺は興奮のままに山本さんの口内へと射精した。

 

 ごく自然に、自らの意思に近い形で。

 俺はついに山本さんのフェラだけで射精をしてしまった。

 

「んぐっ……ん、んんっ……!?」

 

 それは山本さんからしても予想外の出来事だったようで、いきなり注がれた大量の精液を、山本さんは溢さないようにするのに必死だった。

 相手を好きになるほどに濃くなる俺の精液は、美優に出すときと変わらないぐらいの精子濃度なっていて、それを美優以外の女の子が飲みのは難しいはずだったのだが。

 

「ん、ごきゅっ……っ、ぷはぁ……、飲んだよ」

 

 目を赤く腫らしながらも山本さんは精液を飲んでくれた。

 このときだけはどうあっても美優に負けられないと、そんな想いが強く作用したのか、山本さんは舌の上でしばらく精液を転がす余裕すら見せてそれを喉に流し込んだのだ。

 

「あ、ありがとう。スッキリしたよ」

 

 山本さんはそれからしばらく尿道に残った精液を吸い取って、ペニスの周りについた唾液を丁寧に舐め取ってくれて、最後はチュパッと空気の音をさせて口を離した。

 

「んふっ。なんだかすんなりと出たね」

 

 この結果がもたらしたものは、単に山本さんが俺を射精させられるようになったということだけではない。

 俺は山本さんとのエッチで射精をコントロールできるようになっていた。

 触れただけで射精してしまうわけでも、いくら刺激してもイけないわけでもない。

 

 気分が乗っていないときはまだ美優のことをオカズにしなければならないのかもしれないけど、ともかく今このタイミングで、俺と山本さんの悩みは双方を補完する形で解決されたのだった。

 

「山本さんのフェラでイけそうだったから、我慢せずにいたら出ちゃって」

「ほんと!? わー、嬉しい……私、ここまで頑張った甲斐があったんだね!」

 

 俺と山本さんの関係は、そもそもが俺が美優以外をオカズに射精できないことが原因で始まったもの。

 それが解決されたことにはかつて感じたことのない感慨深さがあった。

 

「こんな場所で、ありがとうな」

「いえいえ。ソトミチくんのためなら、どこでも射精させてあげるからね」

 

 山本さんは上機嫌に立ち上がって、トイレのドアを開けた。

 感覚器官が異様に鋭い山本さんは聴覚のみで壁の向こう側に人がいるかどうかがわかるので、こうした人の少ないところであればすんなりと外に出られるのだ。

 

 男子トイレから出ると、眼前には遠くまで見渡せる広場があって、射精した後の景色はとても爽やかなものだった。

 

「ソトミチくん、ちょっとだけ待っててね」

 

 山本さんは近くにあった自販機で水を購入して、また公衆トイレに入っていった。

 それから数分してから、山本さんは空になったペットボトルを携えて出てきて、自販機横のゴミ箱にそれを放り込んだ。

 

「どうしたの?」

「お口をね、スッキリさせてきたの。ソトミチくんとはもっとキスしたいし」

「そういうことか。助かるよ」

 

 山本さんはポーチに歯ブラシを常備していて、俺とのデートではもはやトイレでのフェラチオぐらいは当然にあるものとして準備をしてくれていたみたいだ。

 

 それから俺たちは遊園地に再入場して、時間の限りアトラクションに乗っては、レストランでご飯を食べて、映画を元に作られた橋や泉を巡りながら、近くに設置されたベンチでイチャイチャしたりした。

 

 山本さんはいつでも、どこにいても、何回も俺のことが好きだと伝えてくれて、そのたびに俺たちは、人目に隠れてこっそりとキスをした。

 

 本当に山本さんと一緒にいると楽しいことが尽きない。

 どこで何をしていても幸せを感じる。

 

 それこそ、この幸福感を、手放したくなくなるほどに。

 

「山本さん」

「なあに? ソトミチくん」

 

 空に薄っすらと暗がりが広がる頃。

 俺たちは人の少なくなり始めた広場から見える、静かな湖を眺めていた。

 アトラクションを目的に日帰りで利用していた客たちはもう帰路についていて、しかし、周囲が静かなのはそれだけが理由ではなかった。

 

「もう少し、こっちに寄って」

 

 キスがしたいから。

 

 俺がそう言うと、山本さんは嬉しそうに向かい合いになって、髪を耳にかけた。

 

 もとより手を繋いでいたぐらいの距離。

 それでも、キスをするためには、まだ遠かった。

 

「人が通っても、気にしなくていいから。いっぱいしよ」

 

 俺たちは抱き合って、キスをした。

 

 園内のある区画ではパレードが始まっていて、ほとんどの来場客がそちらに集まっている。

 花火の前の余興としてキャラクターたちが様々な乗り物と一緒に登場し、花火までのカウントダウンを行うその催しは、夏休み最後の特別イベントとして多くの人々が楽しみにしていた。

 

 俺たちもその行列に参加するつもりだった。

 でも、今は何より、遠くで賑やかな歓声と電子音だけが響くこの静かな空間が、俺たちには心地よかった。

 

「はぁ、はぁっ……っ、ちゅっ……山本さん……」

「んちゅっ……ぷはぁ……はぁ、はぁぁ……ん、ちゅっぷ……ソトミチくん……はむっ……んっ……んはぁっ……」

 

 アツく蕩けるほどの口づけに、このまま湖の底へ沈んでしまいたくなるほどの、甘い多幸感に包まれる。

 

 俺はとっくに山本さんに夢中になっていた。

 山本さんの居ない生活なんて考えられなかった。

 このテーマパークで過ごしてきた時間で、俺は改めて気づかされたのだ。

 これだけ一途に愛してくれる人を手放すなんて愚かなことだと。

 

 キスをして、抱き合って、それがもう何度目になるのかもわからないのに、渇望するほどの欲求に駆り立てられた俺たちは、まだ人の通りがあるその場所で激しく互いの体を求め合っていた。

 

「ねえ、ソトミチくん」

 

 離れた唇に、寂しさを覚えた。

 

 山本さんの目が真っ直ぐに俺を見つめている。

 

「これから──」

 

 言葉を紡ぐ山本さんの口元が、俺の視界の中で、無音のまま動いている。

 

 ──二人で、花火を観て。

 

 音が遅れて届いた。

 景色がスローモーションに映っている。

 それから山本さんは、ゆっくりと、また何かを喋った。

 

 ──夜は私の部屋で、たくさんエッチをして。

 

 遅延を伴って聞こえる山本さんの声。

 それでも、山本さんの唇を見ているだけで、何を言っているかがわかる。

 

 ──エッチに疲れたら、二人でくっついたまま寝て。

 

 ──目が覚めたら、目的もなくダラダラして、目が合ったらその度にキスをして。

 

 起きたらソトミチくんが作った朝ご飯を食べるの。

 

 お出かけの準備をしてる間に、ソトミチくんがムラムラしちゃうから。

 

 ついでみたいな、でも、きっと何時間も終わらない激しいセックスをして。

 

 それが終わったら、

 

 私と、

 

 ソトミチくんと、

 

 二人で、結婚しよ。

 

 

 

 その言葉にドクンと心臓が跳ねた。

 俺は放心したまま跳ね回る鼓動を抑えることができなかった。

 山本さんの申し出を、受け入れたいと思ってしまったから。

 

 山本さんの目には一切の曇がりなくて、俺が承諾さえすれば本気でそうする発言だったから、俺もその未来を現実のものとして考えた。

 ギリギリで婚姻年齢をクリアした俺たちは、これから籍を入れて、夫婦になることもできる。

 少なくともうちの両親は山本さんに反対なんてしないし、山本さんの奔放さからすれば、相手方の親も文句は言わないだろう。

 

 それでも、俺には美優がいる。

 

「三人で暮らそうよ。私とソトミチくんは結婚して、美優ちゃんもこれまでと変わらずで。私は、それでいいから。美優ちゃんといつ何回エッチしたって、気にしないから」

 

 願ってもない申し出だった。

 それが全員が幸せになる最善の道であることを、同じ立場なら誰もが考えたはず。

 

「美優ちゃんと、赤ちゃんを作ってもいいから」

 

 俺と美優は兄妹で、あまつさえ血が繋がっていて、法的には婚姻関係にはなれないし、子を産めば戸籍上は片親になることが確定している。

 だが、そこに山本さんとの婚姻関係があれば、全員が養子として収まることができるのだ。

 

 世間に対する負い目もない。

 三人で一つの家庭を支えれば、一般的な夫婦よりもずっと楽に生きられる。

 そうした余裕は人生にも彩りを与えてくれる。

 

 だから、

 

「俺も、三人で暮らしたい」

 

 彼氏だとか、彼女だとか、恋人感だとか、円満別れだとか。

 そうした煩わしさをすべて忘れて、愛しい二人の女性と一緒にいたかった。

 

 心の底から強くそう思った。

 まだまだ山本さんとキスをしていたいし。

 これからもずっと、明るい笑顔の溢れる幸せな時間を過ごしていきたい。

 

「でも、結婚は、できない」

 

 体が自然とそう答えていた。

 

 思考の上で結論が整理されたわけではない。

 俺がそうすべきこととして当たり前のように口にしていた。

 

「だから、このままの三人で、一緒に暮らせないかな?」

 

 美優への気持ちの整理もついて、山本さんへの想いもはっきりした。

 俺は山本さんが好きで、それは他の何物でもなく恋心で、美優に向けている好意と何ら変わりはなかった。

 だから、二人を同時に愛していけると、俺はそう思っていた。

 

 山本さんが、俺を、そうさせていたから。

 

「ふふっ。そっか」

 

 山本さんは優しく微笑んだ。

 結婚しようと口にしたあの言葉が冗談だったはずもないのに、そこには後ろ暗さなんて微塵も感じることはなかった。

 

「はぁー。ダメダメ。私ったら、何を言ってるんだか。ソトミチくんには、美優ちゃんがいるもんね」

「え……? あ、ああ。だから、美優と、山本さんと、三人で……」

 

 俺が美優のことも考えずにこんなことを口走っていたのは、それが山本さんの全身全霊に魅せられた俺の深層心理の答えだったからだ。

 いつか山本さんの部屋でのお泊りで植え付けられた、俺が山本さんに本物の恋をしていた頃の潜在意識。

 それが、以前のデート──ぶどう狩りに行ったあの日に掘り起こされて、俺は一種の催眠状態にでもなったように、山本さんへの想いを消しきれなくなった。

 

 あれが恋だったことは事実で、それは今でも変わらないし、一片の偽りもない。

 

 本気で好きだった。

 

「それだとダメなの。今のままじゃ、私は美優ちゃんと同率の一番にすらなれないから」

 

 三人での暮らしでもいい。

 むしろそうなるのが山本さんの狙いだと思っていた。

 その予想は正しかったのだが、俺は山本さんの性格の大事なところを見落としていた。

 

 本当は悔しかったと、お泊りの最後で山本さんが吐露した本音。

 本当は一番近くにいたいと、婚姻届けに冗談半分に下書きしていたときも、山本さんは寂しそうに呟いていた。

 そのあとだって、いつも山本さんは俺の一番近くにいたがった。

 

 美優の次として愛されるような関係では満足できなかった。

 

 これが山本さんにとって、一生のうちで初めての、本気の恋だったからだ。

 

「……そうか」

 

 納得をしてからは、現実の受け入れは早かった。

 

 魔法が解けたみたいに体から熱が蒸発していく。

 

 これは美優が山本さんと、俺の二人に与えた猶予期間だったのだ。

 どうあがいたってそれ以上にはならないし、互いが満足さえすれば、終わってしまうもの。

 

 山本さんもすっかりと諦めがついたように、カラッとした笑顔になった。

 

「あーあ。最後の最後まで美優ちゃんの思う通りかぁ」

「仕方ないよ。あの妹だし」

「まあね」

 

 山本さんに全力でぶつからせて、それでもどうにもならないものがあると理解させる。

 自らの能力が優秀すぎる故の悩みだとわかっていたからこそ、遺恨なく解決するにはまず山本さんの好きなようにやらせて手加減もさせないようにする。

 それこそが美優の考えた円満な別れ方の最善手だった。

 

「美優ちゃんもよくここまでやってくれたよね。私が乗り気だったから良かったけどさ、もし私が『どうぞお幸せに』ってどこかで諦めてたら、こんな計画も成り立たなかったのに」

「それもそうだな。だから、美優も半分くらいは賭けだったんじゃないかな?」

 

 美優は自信満々だったけど。

 あれは俺を勇気づけるための方便だったのかもしれない。

 

 どちらにしても決着はついたわけだし。

 穏便に済んだってことで、いいんだよな。

 

「じゃあ、そろそろ……」

 

 パレードも終わるから、花火の見える場所に移動しよう。

 そう口にするつもりで俺は後ろに振り返った。

 

 ただ、それだけのつもりだった。

 

「待って……!」

 

 山本さんが俺の腕を掴んだ。

 骨が軋むほど強く。

 

 あまりの力の強さに俺はびっくりして、痛みに腕を振り払うと、その先に見えた山本さんの表情は今にも泣き出しそうだった。

 そして、その瞬間の気まずさを埋めるように、山本さんはまた笑顔で取り繕って、パッと両手を開いた。

 

「あっ……、ご、ごめん。せっかくだから、最後まで、遊んでいかない?」

「俺もそのつもりだし、花火が始まるから、移動しようかと思ったんだけど」

 

 互いに釈明をした。

 

 言葉だけをなぞれば、自然なやり取りだったかもしれない。

 

 再び歩きだして、花火の観賞に向かう俺の後ろを、山本さんはついてこなかった。

 二人の距離は開いて、俺が振り返ると、山本さんは何メートルも後ろで俺をジッと見つめていた。

 どうしたのかと、尋ねることすら躊躇してしまうほど、張り詰めた顔をして。

 

「……ごめん、なさい」

 

 声を震わせて山本さんが謝罪をした。

 

 俺の腕を掴んでしまったことが、決定打だった。

 

「あ……あの……」

 

 か細く続く山本さんの言葉。

 

 そう。

 そうなんだ。

 簡単に諦められるはずがなかった。

 

 こんなやり取りで済ませられるのなら、最初から山本さんもここまで拘っていなかった。

 さっき山本さん自身が口にしたように、他でもない山本さんが俺と美優の関係を応援してくれたのだから、倫理を無視したデートなんかせずに『お幸せに』で終わっていたんだ。

 

 それができなかったから、俺たちはこんなにも拗れていたというのに。

 

 美優の言っていたことは何も間違ってはいなかった。

 山本さんの思考回路はとっくの昔からぐちゃぐちゃになっていて、相手に恋人がいるからとか、そんな真っ当な理性で考えられる状態ではなかった。

 あのとき俺が山本さんをフったときからずっと。

 有り余るほどの優秀さで成立させていた優しさを、自分自身で全否定してしまうほどの、支離滅裂な思考と言動に苦しんでいた。

 

「最後に、聞かせて」

 

 拠り所のない思考に、山本さん自身もそれを、口にすべきではないとわかっていたはずだった。

 

「もし、あのとき、私が美優ちゃんとの恋を応援してなかったら」

 

 それでも、想いは口をついで出てしまった。

 

「あのとき、私がソトミチくんの恋人に立候補してたら」

 

 どうしてもこの状況に抗いたくて、そんな筋道などもうどこにもないのに、だからこそ、ありもしない架空の世界にしがみつくことしかできなかった。

 

「いまの私たちは、本物の恋人に、なれていましたか?」

 

 静まり返った空間に、風がなびいて、山本さんのを髪をさらう。

 柵の向こうでは暗くなった湖面が波にゆらゆらと煌めいていた。

 

 返答には迷ったが、答えは直感的に出ていた。

 一切の誤魔化しようもなく、山本さんを傷つけるものだった。

 

 傷つけたくはなかったが、嘘をつくのが優しさとは思えなかった。

 仮にそれが山本さんへの痛みの押しつけになるのだとしても。

 思ったままを答えるのが最大の誠意だと俺は判断した。

 

「うん。付き合ってたよ。あのとき背中を押されてなかったら、俺は間違いなく山本さんを選んでた」

 

 それが偽りのない答えだった。

 

 何をどう考えたって、もしあの時点から山本さんが俺に恋をしていたのなら、美優を諦めた俺が山本さんと付き合わないわけがなかった。

 

 もしそんなことになっていたとしたら。

 

 俺は今頃、山本さんと恋人として、この遊園地でデートをしていたはずなんだ。

 

「……そっか」

 

 何もかもを諦めたような吐息が漏れた。

 山本さんの声には、そうやって区切りをつけた気持ちが混じっていた。

 

 別の側面としてみれば、美優と山本さんの勝負に、決着がついて。

 この先、俺と山本さんがデートをする未来も、なくなった。

 

 俺と山本さんの、仮初の恋人関係は終わったのだ。

 

 それが明確になって、次にお互いにどんな言葉をかければいいかわからなくて、しばらくの沈黙が続いた。

 

 その静寂を破ったのは、遠くでバンッと弾ける火薬の音だった。

 

 カラフルな光が俺たちの横顔を照らして、眩しさの後にまた音が響く。

 

 何発もの大輪の花が、夜空に咲いては散っていった。

 俺たちは互いに何も言わず、華々しく輝いては消えていく花火の音を聞いていた。

 

 本当なら、それが今日のデートのメインイベントになるはずだった。

 横に並んで、手をつないで、同じ景色を共有したその思い出が、二人にとって大切なものになるのだと。

 そんな夢すら見ていたのに、恋人としての二人で過ごすはずだった時間が、今は虚しく消化されていくだけ。

 

 それが終わりの合図だった。

 

 俺と美優が恋仲になったことで、もう取り戻せないものがあることを、この曖昧な関係でずっと誤魔化してきた。

 

 山本さんが初めての経験に認められずにいたそれが、ついには否定しようのない形で突きつけられた。

 

 そして、とっくに限界を超えていた山本さんの心から、ついには感情が溢れ出した。

 

「──────!!」

 

 花火の音にかき消されて、山本さんの叫びは届かなかった。

 

 顔を見せまいと俺の胸に飛び込んできた山本さんは酷いぐらい泣いた。

 おそらくは彼女の人生でも今後一生ないほどの悲しい声を上げて。

 たくさんの後悔とわがままを吐き出し、痛いほど俺の手を握りしめて、震えを止めようとする体からは、横隔膜の痙攣が悲痛なぐらいに伝わってきた。

 

 涙の染み込むシャツが熱さと冷たさの両方を宿していく。

 俯きに漏れる嗚咽だけが花火の音に消えていく中、俺は涙を流すまいと歯を食い縛って、ただ胸の中で泣き叫ぶ山本さんの頭を撫でてあげることしかできなかった。

 



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他人の彼氏

 

「おまたせしました」

 

 園内の化粧室の前で待っていると、まだ腫れの引かない目元以外は元通りの山本さんが戻ってきた。

 予定されていたイベントもほとんどが終わって、残っているのは宿泊予定の客ぐらいになっている。

 辺りはすっかり暗くなっていた。

 

「落ち着いたみたいでよかったよ」

 

 当たり障りのないことしか言えなかった。

 これから帰りの電車に乗って、最寄りからはバスに乗り換えて、それで、俺と山本さんの夏は終わりだ。

 少なくとも、友達を超えた関係としては。

 

 そのはずだったんだけど。

 

「あの、さ。今夜は……うちに、泊まらない?」

 

 山本さんは後ろ手に指をなじって、首を傾げて、ぎこちない笑顔だった。

 

 まさかの申し出だった。

 ここまであからさまな決着がついたのだから、山本さんもすんなりと身を引くものだと思っていた。

 しかし、そう提案してきた山本さんの口調は、俺を繋ぎ止めるために必死になっているという風でもなく、何かの目的があって俺を誘っている様子だった。

 

「もしかして……」

 

 そこには、半ば確信的なものがあった。

 

「美優から何か言われてる?」

 

 俺がそう尋ねると、山本さんは静かに頷いた。

 

 こうしたまさかの展開が起こったとき、大抵は美優が絡んでいることを、俺もさすがに学習している。

 それはおそらく、山本さんが俺の介護にやってきた日のことだ。

 隣の部屋で美優と二人きりになった際に、山本さんはそこで何かしらの取り決めを交わしていたんだろう。

 

「山本さんがいいなら。俺は、構わないけど」

 

 だから、俺は承諾した。

 

「ありがと、ソトミチくん。じゃあ、帰ろっか」

 

 閑散とした遊園地を後にして、帰りの電車に運良く並んで座ることができた俺たちは、それでも会話の糸口を掴めずに無言のままだった。

 

 座席から伝わる振動だけを感じながら、俺は美優に送ったメッセージをぼーっと眺めていた。

 

『全部、終わったよ。これから山本さんの家に行ってくる』

 

 こんな結末で山本さんは幸せだったのか。

 たしかに、中途半端な後悔を引きずり続けるより、こうして白黒つけたほうが山本さんのためにはなったのかもしれない。

 でも、山本さんの好意を高めるだけして、それを踏み躙るような別れ方はしないって、美優は言っていたのに。

 

 帰り道、友達の関係に戻ったはずの俺たちは、友達だった頃ほどの会話をすることはなかった。

 一見すると元気になった様子の山本さんに、俺はどんな話題を投げかけたらいいのかがわからず。

 最寄り駅で電車を降りて深夜バスに乗り込んでから、ようやく山本さんが口を開いてくれた。

 

「明日から学校だね」

 

 目を合わせないままの会話。

 今日で夏休みが終わって、始業式の後には授業が始まる。

 その後には受験勉強の忙しさに追われることになるんだろう。

 

「そうだな。なんだか変な感じがするよ」

 

 このひと夏で俺と山本さんには色んな事があった。

 それ以外にも、俺には美優やその友人たちとの、人には語れないような出来事があって、ずいぶんと濃い夏を過ごしたものだ。

 

 そんな思い出も、学校が始まれば日常へと溶けていく。

 俺と山本さんはクラスメイトで、結果だけを見れば夏の前後で関係には何も変わりはない。

 それでも、次に学校で顔を合わせることになったとき、俺はまた前みたいに話せる自信がなかった。

 

 これから、どんどん、疎遠になっちゃうのかな。

 フった側の俺が言える立場ではないんだけど。

 それは、すごく、寂しいことだと思った。

 

「はぁ~。ソトミチくんと上手くいってたら、みんなに彼氏ができたって言うつもりだったのになぁ」

「マジ? 俺、殺されそうなんだが」

「へーきへーき。きっと時間が解決してたよ」

 

 俺と山本さんが恋仲になって、学校中で恨まれたりチヤホヤされたりして。

 そんな、ありありと想像を膨らませられた未来も、すでに儚い妄想に変わった。

 デートに来る前の山本さんは、俺の彼女になった未来を考えていたのだろうか。

 それを思うと余計に胸が苦しい。

 

 明るい会話だったはずの俺たちの声は、そこで途切れた。

 バスに乗っている間、俺は怖くて山本さんの顔が見れなかった。

 

 美優からの返事はまだ来ていない。

 通知を見るだけしてメッセージは受け取ったのか、あるいはもう寝てしまったのか。

 考えているうちに山本さんの家の近くのバス停についていた。

 バスを降りてから、俺たちは腕が触れ合うぐらいに寄り添って歩いて、それでも山本さんの部屋に着くまで、もう手を繋ぐことはなかった。

 

「どうぞ、お上がりください」

「なんだか久しぶりに感じるよ」

「うん。そうだね」

 

 ここは俺と山本さんが愛を育んだ部屋でもある。

 山本さんにとっても、俺をここに連れてくることは辛い記憶を呼び起こすはずなのに、どんな目的で部屋に招いたのだろうか。

 

「ソトミチくんにね、最後の、お願いというか。実は、一つだけやり残してることがあって」

「やり残してること?」

 

 居間に入って、座る場所に悩む俺に、山本さんはそんなことを言った。

 

「お手紙を渡さないといけなくて」

「あっ、ああ……」

 

 その言葉を聞いて思い出した。

 俺がこの部屋で見つけた中身のわからない洋封筒。

 山本さんはそれを失恋レターだと呼んだ。

 美優が渡したらしいそれは、言葉通りの物でしかなくて、山本さんに俺へのさよならを告げさせるための手紙だった。

 

 山本さんはマットレスの隙間に入れられていたそれを引っ張り出して開封する。

 折りたたまれたA4サイズの紙を広げると、山本さんはそれを俺に渡してきた。

 

「いままで、私のわがままに付き合ってくれて、ありがとうね。美優ちゃんにも、ソトミチくんにも、本当に感謝してる。……で、だから、その……そこに書いてることは、履行したいなぁって……思ってるんだけど……」

 

 急にモジモジし始めた山本さんを怪しく思いながらも、俺は手紙に目を通した。

 

 それは、ある条件をもとに、山本さんが俺への恋を完全に諦めることを約束した誓約書だった。

 用紙の最下段には美優の筆跡と思しき署名がついている。

 

 そして、その条件とは──

 

「というより、どちらにも拒否権はないんですが……」

「えっ……これが、美優から……!?」

 

 要約すると『別れる前に俺と好きなだけセックスしていい』という文言が書かれていた。

 

 当初よりこの約束は、俺とセックスをすることで山本さんに未練なく別れさせるために交わされたもので、おそらくは俺が山本さんをフッたあの日に渡されるはずだった。

 山本さんの部屋から帰宅して、風呂場で美優に事の顛末を話したときに、俺が山本さんとセックスをしなかったことを驚いていたのはこの約束があったからだ。

 

「だから、あんなに本番を避けてたのか」

 

 契約の履行は持ち越しになって、恋心を捨て去ることも保留した山本さんは、自分の意思で俺とセックスすることができなくなった。

 ラブホテルで俺に襲わせたのは、どうしても我慢ならなくなった山本さんの苦肉の策で、それだって美優の側から俺を射精させる許可が出ていなかったら諦めていたことだろう。

 

「これはもっと早くに渡すはずのものだったから。もう、効力としても怪しいし、逆に約束を守る必要もなかったんだけど」

 

 それはラブホテルに行ったときにも聞いた話。

 そこにはこういう裏があった。

 誓約書の扱いが曖昧になって、美優の策略によって正常な判断能力が失われても、その約束の形だけでも山本さんは守り続けた。

 

「でも、遊園地では、もう制限はなしだって」

「それは、ね。どっちに転んでも今日で決着かなって思ってたから。ソトミチくんが私を求めてくれるなら、それはそれでもうこんな誓約書なんて意味は無くなるし」

 

 でも、結局は俺が山本さんのものになることはなく、いまはこうして、細い約束だけが残っている。

 

 この山本さんとのセックスは美優も合意している。

 わざわざ紙にして署名までしたのはそのためだ。

 どんな流れでこの状況に至ろうと、俺が美優に確認を取る必要がないように。

 

「なるほどな。……で、拒否権がないってのは?」

 

 聞こえていたけどあえて後回しにしていた。

 どこかの悪魔の囁く姿が絵に浮かんだからだ。

 

「もし私が負けを受け入れたら、それがどんな結末だったとしても、絶対にこの手紙の中身は実行しろって……美優ちゃんが……」

 

 こんな状況まで見越しておいて、やっぱり悪魔だなあいつは。

 

 しかし、そうか。

 

 この終わりを残酷なものにするかどうかは、俺次第ってこともでもあるよな。

 

「するよ。俺も、したいから」

 

 俺にも繋ぎたい望みがあった。

 こんな中途半端な別れだけはどうしても受け入れられない。

 俺が強くそう思ったのだから、つまりはそういうことなんだ。

 

「ほんと!? あ、ありがと……」

 

 山本さんは感謝を口にしてから、その誓約書に履行済みとしてのサインを書き加えて、それを封筒に戻した。

 

 たくさん泣いて、一区切りがついたから、もう気持ちの整理もできただろうなんて、ここまで付き合わせた俺がそんな雑な片付け方をしていいはずがない。

 

 最後まで俺らしく足掻くんだ。

 こうして俺が考えることだって、美優はお見通しなんだろう。

 

「ソトミチくん」

 

 手紙を仕舞った山本さんは、指先に迷いを残しながらも姿勢を伸ばして立って、俺と向かい合った。

 

「私、今でも……たぶん、これからも、ずっと。ソトミチくんのこと、好きだからね」

 

 それは、俺たちにとって、とても大切な。

 でも、もう何の意味のない告白だった。

 

「俺も、山本さんのことは、ずっと好きだよ」

 

 告げられた言葉に、本音を返すか、迷いはしたけど伝えることにした。

 いずれは真実を受け入れるしかない山本さんに対して、嘘をつくことには意味がないと思った。

 この夜に残された時間も俺は正直でいよう。

 

 今にしてわかったんだ。

 この手紙がどれだけ山本さんを苦しめてきたのかを。

 

 美優は俺に、山本さんが望むままにデートをして、エッチも許して、できうる限りの彼氏らしい振る舞いをしろと言った。

 俺はその指示に従っている間、山本さんとの距離は縮まっていくばかりで、いつかは本物の恋仲になってしまうのではないかと心配ばかりしていたけど、現実は真逆で。

 

 どれだけ俺との楽しい時間を過ごしても、部屋に帰ってくればまた、山本さんこの手紙によって現実に引き戻される。

 静まり返った、一人きりの場所で。

 

 二人の仲が恋人らしいものへと近づくほどに、冷静になってしまったときの苦しみは激しくなって、それはいつしか山本さんから理性を奪うほどになった。

 だから、その呪縛から抜け出すことのできる唯一の道として、山本さんは美優に持ち出された勝負に縋るしかなかった。

 美優と俺の仲を応援したい気持ちと、俺の一番になりたい想いの、その自己矛盾に苛まれ続けて、最後に踏み込み過ぎた結果が、今日なんだ。

 

 いわばそれが、美優が山本さんに掛けた、魔法だった。

 

「……エッチの前に、シャワー浴びよっか?」

「そうしようか。だいぶ汗もかいたし」

 

 山本さんと俺は風呂場に移動して、そこでお互いに服を脱いだ。

 当たり前のように一緒に入ることにしてしまったけど、どうせこれからセックスをするのだし、気持ちを慣らすにはちょうどいいよな。

 

 山本さんのむっちりとした裸に、乳首はピンと勃っていて、山本さんはこっそりと洗濯機にパンツを放り込んでいたが、この様子では股の濡れ具合も相当なものだろう。

 

「ううっ……そんな目で見ないで……」

 

 惨めさという種類の羞恥に耐えられず、山本さんはその裸体を腕で隠した。

 どうしてこんな状況で興奮してしまうのかと、情けなく思いながらも欲情してしまうことへの申し訳なさは、俺がこれまでのエッチで長いこと経験してきたものだ。

 だから、その気持ちは非常によくわかる。

 

 俺はトイレで抜いてもらったから比較的に性欲は落ち着いているが、山本さんは朝からずっとお預けをくらっているのだ。

 美優の命令によって強制的にエッチをすることになったとはいえ、好きな人とのエッチが何より好きな山本さんが、この状況に興奮しないわけがなかった。

 

「あ、あの……」

 

 山本さんがいじらしくねだるような視線を向けてくる。

 

「キスは、したら怒る?」

 

 セックスが許可されているのだから、キスぐらい……と、普通の男女ならなるのだろうが、交友関係においてまずエッチが先にくる俺にとって、その質問がなされるのは当然のことだった。

 

「怒らないよ。山本さんからしづらいなら、俺からもタイミングを見てするから」

「ほんと? それは、嬉しいな」

 

 山本さんは淑女然とした雰囲気になって、俺の提案を喜んでくれた。

 

「と、いうことでだな」

 

 キスではないんだけど、と申し訳なさを呟きに滲ませながら、俺はパンツを脱いだ。

 こんな流れでちゃんとセックスができるのか心配していた俺のイチモツは、きっちりとビンビンになっていた。

 欲情されると嬉しい、とは美優の口癖だが、山本さんが俺とのセックスに興奮してくれているのがわかって俺も感化されてしまったのだ。

 

 山本さんは俺の勃起に視線を落として、それから、少しだけ笑った。

 

「この硬いのにキスすればいい?」

「あいや、そうじゃなく……普通にフェラを……、まあ、キスもしてもらえるなら、お願いしたいけど」

「うふふ。はーい」

 

 山本さんはしゃがんで、たっぷりのキスをペニスにしてから口に咥えた。

 わざわざシャワーを浴びる直前で、すぐにお湯でキレイにすることもできたのに、山本さんは何ら迷いを抱くこともなく陰茎を舐めてくれる。

 

 トイレでしてもらったときとは違って、貪るような舌使いではなく、トイレで出した後の精液の残滓を丁寧に舐め取るようにしゃぶってくれた。

 

「じゅっぷ……ちゅくっ……じゅるっ、じゅぱっ……んっ……」

「うっ、あぁ……気持ちいい……」

 

 この慎ましやかな感じ、たまらない。

 女の子が粛然とフェラをしてくれるだけで俺の心は満たされる。

 

「へろっ……むちゅ……ぱぁ……、結構、調子良さそう?」

「ああ、だいぶな。念のため、本番まで射精は控えるけど」

「ふむふむ」

 

 山本さんはまた咥えようとして、亀頭をぺろっとだけして、また口を離した。

 

「記念にパイズリもしておこうか?」

「お、おう。そうだな」

 

 なんの記念かは分からないけど。

 

 山本さんは両手で左右の乳房を持ち上げて、それで俺の陰茎を挟み込んだ。

 

「ん、しょ……はぁむっ……ちゅぶっ……」

「あ、ああっ……いっ、やば……」

 

 たゆんたゆんと揺れる山本さんのおっぱいに俺のペニスは包まれて、ギリギリで見え隠れするその先端が、浅いフェラチオによってぐぽっぐぽっと控えめながらも淫靡な音を立てる。

 

「ううっ……ちょっと、良すぎるなそれ……あっ、あっ……」

「むふふ。ちゅるっ……じゅぽっ……じゅっぷ……我慢汁、美味しい……あむっ……じゅるっ……」

「く、うぅあっ……」

 

 まずい、射精しそうだ。

 性欲には自信があるけど、いまは一瞬でも賢者タイムに入ってしまったら、その先を上手くやれる気がしない。

 

「はむっ、ちゅぷっ……ちゅっぱっ……」

「す、ストップストップ。もうイっちゃいそう」

「ん? そう? じゃあふーふーしないと」

 

 山本さんは俺の肉棒をおっぱいと口内の熱から解放して、ふーっと優しく息を吹きかけてきた。

 

 その瞬間、俺のペニスがビクビクッと激しく疼き上がった。

 

「あっ、うああっ……! そ、それも、ダメなんだ、ごめん!」

「このふーふーも美優ちゃんで経験済み?」

「……う、うん」

「まったくスケベな兄妹なんだから」

 

 俺が瞬間的に射精を我慢できなくなると、それが美優との経験に紐づいていることがバレてしまう。

 難儀な体質になったものだ。

 

「そしたら、次はシャワーだね」

「ああ。同時に洗うでいいんだよな?」

「ん? うん。んふふ」

 

 山本さんは俺の質問に含み笑いを浮かべた。

 わざわざ一緒にシャワーを浴びるのだから、交互に洗い終わるのを待つのでは意味はないし、つまるところそれは洗いっこをするという暗黙の同意を示している。

 

 浴室に入って、先に洗われる側になるのは山本さんだった。

 俺は石鹸を専用のネットで泡立てて、それを山本さんの体に塗りたくっていく。

 どこもかしこもモチモチでエロい。

 

「ソトミチくんの硬いのがお尻に当たってる」

「どうにかベッドまで保ちそうだよ」

「やった」

 

 俺は興奮を維持するためという名目の元に、山本さんの指に収まり切らないほど大きい胸を揉みしだきながら、ペニスを擦り付けた。

 膝を伸ばしている状態では入るはずもないのに、肉棒が石鹸でぬるっとしてるだけで、途端に生挿入を連想した脳から危険信号が発出されて、それがドキドキに変わっていく。

 妹に興奮してしまうこともそうだが、こうしたスリルに昂ぶってしまう体質もまた自制していかなければならない。

 俺が子作りする意思を示したら美優は絶対に断らないからな。

 

「ベッドでするときは、ゴムはつけるんだよな?」

 

 念のための確認。

 仮に遊園地でのことが上手くいっていたとしても、山本さんはゴムありでセックスをする予定だったみたいだし、それは今でも変わらないはずだとは思っている。

 

「つけるよ。ピルを飲む約束は、避妊を確実にするためだから。それになんだかんだ言っても、私も生は未経験だし……中出しはまだちょっぴり怖くて……」

「なるほどな」

 

 責任を取る覚悟と、いざ身籠ってしまうことを考えたときの未知への恐怖は、また別のものだ。

 エッチの快楽で高揚しているときならまだしも、中出しをするのはピルを飲んでいても怖い。

 それが普通。

 

 そう考えると、実の妹にがっつりと中出ししている俺って……。

 

 美優と生でヤリまくっていることは、聞かれるまでは黙っておこう。

 

「次はソトミチくんの番だよ」

「お、お手柔らかに」

「安心して。射精させないようにちゃんと加減するから」

 

 山本さんはネットで石鹸を泡立て直して、それを両手につけてから、まだお湯で流していない肢体の隅々までを使って俺の体を洗ってくれた。

 

「うっ、ふぅ……山本さんの体って、こういうプレイに使うと凶器だよな……」

「ソトミチくんならタダで時間も無制限ですよ」

「気持ちよすぎて申し訳なくなってきた……うっ、あっ……!」

 

 首や下腹部などの敏感なところは、手で直接弄られて、それ以外の部位は山本さんのおっぱいがキレイにしてくれた。

 硬いままの乳首を背中に感じて、前方で放置されている肉棒がピクピクしている。

 それから、山本さんは俺の横に回って、谷間と股の間でそれぞれ俺の腕と脚を挟み込んで体を上下させた。

 

「ま、待って、それやばい、マジでイク……!」

「えー? おちんちんには触ってないよ?」

「それでも、おっぱいの刺激が強すぎて……」

「あらあら。なら仕方ないから洗い流しちゃおっか。腕をおっぱいで挟まれるだけでイッちゃうソトミチくんも見てみたかったけど」

「な、何卒、ご容赦を」

 

 山本さんは悩ましく上下させていた体の動きを止めて、もう何回も寸止めを食らっている肉棒をエッチな刺激から解放してくれた。

 

 それから山本さんはシャワーからお湯を出して、二人分の泡を流した。

 

「楽しいね、ソトミチくん」

「ああ」

 

 そうして、すっかりと体から泡が消えた後も、山本さんはしばらくお湯を出しっぱなしにした。

 どちらから声をかけることもなく、浴室にはシャワーの音だけが響いて、背後の山本さんのことは見えていないけれど、自分の体にかけるためにそうしているわけではないことはわかっていた。

 

 しばらくして山本さんはお湯を止めた。

 シャワーヘッドを台に掛けて、ポタポタと、髪の毛から水滴が滴る。

 

 とんっ、と背中に乗る重みがあった。

 

 さっきまで賑やかだった浴室は嘘のように静まり返っている。

 

 山本さんが泣いていた。

 

「うー……どうしてこうなるの……」

 

 楽しいことだけに没頭したい。

 だが、それも今となっては容易いことではなかった。

 「やっぱり、やめようか?」なんて言葉もチラつくほど、山本さんは辛そうで。

 いくら美優からの命令でも、俺が断れば終わりにできてしまうこの夜は、しかし──これまでで一番の強さで抱きついてきた山本さんの踏ん張りで、もう少しだけ頑張ることになった。

 

「よーし! 本番、いっちゃおう!」

「そんなに元気で大丈夫?」

「うん! ふとしたとき以外は、大泣きしてからはほんとに楽になってるの。だから、またこんな風に落ち込んじゃうことがあっても、すぐに回復するから、見守ってて」

「わかった」

 

 俺たちは浴室から出て、体を拭いて、服は着ないままベッドに移動した。

 エッチが始まってしまえば、またイチャイチャした世界に没入できるはず。

 

 そう信じて、まずは膝立ちで山本さんにフェラをしてもらって、竿にコンドームを装着した。

 仰向きに寝転がる山本さんに、正常位で挿入をする、ごくありふれた恋人らしいセックス。

 俺は山本さんの蜜口に勃起したペニスを触れ合わせた。

 

「山本さん、いくよ」

「きて。いっぱい、感じさせて」

 

 俺は山本さんの膣内にペニスを挿入して、それからしばらくは緩慢な動きを続けた。

 そのほうが山本さんに竿の感触が伝わりやすい、というのもあったのだが……。

 何よりも、シャワーの最後であんなことになってしまったせいか、思っていたより膣内の濡れ具合が足りず、激しくすると痛くしてしまいそうだった。

 

「山本さん、気持ちいい?」

「うん。すごく、いい。だから、続けて」

 

 言葉だけの返事だった。

 でも、山本さんにはそれ以外に選べる答えがなかった。

 ここで気持ちよくないと口にしてしまったら、山本さんにとって最後のセックスの記憶は、また悲しいだけのものに塗り替わってしまう。

 

「……ソトミチくん。やっぱり、お願い。キスして。そしたら、きっと濡れるから」

 

 山本さんも自身の具合はわかっていて、俺を誘うように腕を伸ばしてきた。

 本当なら俺からのキスを待っていたかったはずなのに、それを無視してまでキスを求めたのは、山本さんがもう限界だったからだ。

 

 俺は山本さんの首の後ろに腕を回して、体を密着させて、抱きしめながらも舌をねじ込んだ。

 触れるだけのキスでは今の山本さんには足りないことがわかっていた。

 同調するように山本さんからのキスも激しくなって、俺たちはこれ以上に密着しようのない体の隙間を、それでも埋めるようにして腕の中に引き合っていた。

 

「んっ……ちゅっ……はぁ……んんっ……ちゅぱっ……! そとみち、くん……じゅるっ、ちゅっ……ちゅぱっ……ふぁあっ……はぁ……!」

「はぁ、んんっ……やまもと、さん……ん、ちゅるっ、じゅっぷっ……!」

 

 互いに貪るようなキスをした。

 欠けた心の足りないものを埋めるように、快楽よりもその激しさだけを求めて、邪魔な思考など入り込む余地がないほどの行為に耽っていく。

 

 そこには満たされるものなど何もなくて。

 やがてその激しさにすら慣れた体は、悲哀という感情をチラつかせて、山本さんは俺と唇を離すと、泣きそうな顔で俺の腕を掴んだ。

 

「ソトミチくん……もっといっぱい挿れて……もっと、奥を……強く突いて……!」

 

 山本さんに懇願されて、俺は力いっぱいに腰を振った。

 労りなどない強引なセックスで、それでも山本さんが辛いことを一時でも忘れられるならと、俺は硬い肉棒を何度も膣内で突き上げた。

 だが、どれだけピストンをしようとも、いつものように愛液が溢れるあの水音が響くことはなかった。

 

 いつしかそんな行為の無意味さをお互いに悟って、それがわかったから、俺は腰を動かすのをやめた。

 それからしばらくは、息の上がった二人の呼吸だけがあって、ドクドクと激しい脈がこめかみを通り抜ける感覚だけに救われていた。

 

 山本さんは涙の潤んだ顔を、両手で覆った。

 

「どうして……私……こんなにわがまま言って……もう済んだはずなのに…………まだ……」

 

 気持ちよくなれないのは、後悔があるからだと。

 後悔があるのは、俺への気持ちを捨てきれないからだと。

 山本さんは自分を責めた。

 

 手紙を渡してからのセックスは、恋の終わりを誓ったもの。

 俺への恋心を完全に捨て去るという約束だけはどんなことになっても守らなければならない。

 しかし、こんなセックスが最後になるのは、山本さんにとって死ぬよりも辛いことだった。

 

「ねえ……お願い…………お願いだから……私、やっぱり……」

 

 そして、ついには山本さんは口にしてしまった。

 

 言葉にしてはならない、その最悪を。

 

「二番目でいいの……ただの、セフレだって、いいから……。これからも、私と……」

 

 今日という日の、その全てを無駄にする願いだった。

 それでも、俺は山本さんの気持ちが理解できてしまったから、慰めることも諭すこともできなかった。

 

 いつしか山本さんの瞳からは、それを叶えようとする意思は薄れていって、それでも消しきれなかったその想いは、心の奥底にひた隠しにされた。

 

「ソトミチくん」

 

 山本さんの声は震えていた。

 

「キス、して」

 

 涙を流したままの精一杯の笑顔で、もうそれだけしか望めるものがなくて、最後のひと欠片に望んだのが口吻だった。

 

 俺は山本さんの頬に両手を添えて、親指で涙を拭った。

 溢れてきたばかりのそれはとても冷たかった。

 

 結局は何もしてあげられないまま。

 キスをしてしまったら本当に全部が終わってしまう気がして、俺は慰みに応えたい想いを必死に堪えて、掛ける言葉を探した。

 

 それでも、どれだけ考えを巡らせても、山本さんを救える方法は見つからなかった

 責任を取ると意気込んだところで、そこに能力が伴わなければ、結局は後悔することしかできないのだと。

 自分の無力さを、ただ思い知らされるだけだった。

 

「他人の彼氏とヤリまくっておいて、よくもまだそんなわがままを言えるものですね」

 

 凛とした声が通り抜けた。

 

 視界の外、ドアのある方から、聞こえるはずのない、いや聞こえてはならない人物の声が、はっきりと俺たちの耳に届いたのだった。

 

「えっ──」

 

 俺がその音源の方へ振り返ると、そこには見間違えようもない、俺の実の妹が相変わらずの仏頂面で、腰に片手を当てて立っていたのだ。

 おっぱいの膨らみが目立つTシャツに、珍しく短いスカートを合わせて、細身ながらもムチッとしたふとももを露出させている。

 

「み、美優!? おまっ、な、なんでここに!? ドアには、たしかに鍵を……!」

 

 突然の美優の出現には山本さんも驚いていて、目尻から流れていたものも乾いていた。

 行為の最中はいっぱいいっぱいだっただろうから、もしいま美優が侵入してきたのなら気づかなかったのも仕方ない。

 だが、何かしらの方法でこの部屋に潜んでいたのであれば、さすがに山本さんが察知していたはず。

 

「誓約には文面外の条件が二つあるんだよ」

 

 美優は俺たちに近づきながらそう言った。

 

 あの契約を交わすための取り決めの一つが、山本さんがピルを飲むこと。

 そして、二つ目のそれは……

 

「私にスペアの鍵を渡しておくこと」

 

 美優は我が家のものではない鍵を取り出して、それをテーブルに置いた。

 

「奏さんなら、いざともなれば腕づくでお兄ちゃんを部屋に監禁したり、強制的に中出しさせたりもできるから」

 

 美優の言葉に、ようやく現状を理解した山本さんも反応した。

 

「し、しないもん」

「できるかどうかが問題なので」

「それは……できるかで言われれば……そうだけど……」

 

 そうなのか。

 まあそうだよな。

 俺を動けなくすることも無理やり興奮させることも山本さんならワケはない。

 俺が美優をオカズにしなければ射精ができないとはいえ、それも例の加工写真のようにいくらでも抜け道はあるのだ。

 

「とりあえず、一旦、場をリセットというか、まずは服を着てからだな」

 

 俺と山本さんはまだ繋がっていて、それを引き抜こうとする俺を、なぜか美優が制した。

 

「いいよ、そのままで」

 

 またわけのわからないことを言い出した。

 

「さっきは二人で、ずいぶんとキスで盛り上がってたみたいだけど」

 

 ちょっと棘のある声で美優は続けた。

 

「キスがそんなに特別なんだ」

 

 どうやら、美優はさきほどの山本さんの懇願を聞いていたらしい。

 いったいいつから部屋にいたのやら。

 

「山本さんとは、まあ、な……」

 

 今日が初めてで、それが最後になるのだから、セックスをするのとは別に満たされるものがあった、はずだった。

 

「ふーん」

 

 美優は俺と山本さんの結合部に視線を落とした。

 勃起はまだギリギリで維持されて、山本さんの膣内に挿入されている。

 すでに由佳とのことで経験はあるとはいえ、セックスの真っ最中を見られるといたたまれない気分になる。

 

「気持ちいい?」

「それは、まあ……でも、いまは……」

 

 山本さんの腟内が乾いてしまっているので、これまでに比べると快感の度合いは天と地ほどにかけ離れていた。

 

 山本さんは申し訳無さそうな顔をしている。

 俺も心から気持ちいいと言えるぐらいのセックスをしてあげたかった。

 

「これまでのは?」

「それはもちろん、気持ちよかったよ。他にないぐらい」

 

 山本さんとのセックスはどれも幸せだった。

 男としての悦と楽に満ち溢れる山本さんのご奉仕精神は、たとえ美優でさえ追いつくことはできないであろう境地に達していると断言できる。

 

 特に本気の山本さんはすごかった。

 カラオケでも、ラブホでも、トイレでも、射精のために尽くしてくれる山本さんに、恋人としての愛情も加わって。

 

 他にはない──と、つい口をついて出てしまうほどに、山本さんとのセックスは気持ちがよかった。

 

「じゃあさ」

 

 美優の顔が近づいた。

 

「私とするのと、どっちが気持ちいい?」

 

 尋ねられた瞬間、脊椎まで凍るような感覚があった。

 

 とんでもないことを聞かれていた。

 この状況で、悲しみに明け暮れている山本さんを前に、していい質問ではない。

 

 だが、そうだ──俺は大きな勘違いをしていた。

 美優は徹底的にやると言った。

 他でもないこの美優が徹底的にやると言ったのだから、ただ山本さんを泣かせたぐらいで、済ませるはずがなかった。

 

「気持ちいいほうに、キスして」

 

 最低な命令だった。

 

 しかし、それは山本さんにとって、因果応報と言えるものでもあった。

 なぜならその質問は、まさしくこの部屋で、俺が山本さんとセックスをしているときに、山本さんが美優との通話中にしてきたものなのだ。

 

「お、同じくらい……かな……」

 

 嘘はついたつもりはなかった。

 なのだが、実際には俺はもう否定ができないほどのシスコンで、ロリコンなので、実のところ明確な答えは別にあった。

 だが、その答えを聞くことは、山本さんからしたら、あるいは縛られて無理やり犯されるより酷い。

 

「強いて、どちらかと聞かれると、美優かもしれないけど……」

 

 俺はどうにか無難な回答で乗り切ろうとした。

 

「言ったよね? 気持ちいいほうにキスしてって」

 

 当然のごとく許されなかった。

 

 キスをしなければならない。

 山本さんよりも美優とのセックスが気持ちいいと感じている、その証拠として。

 もうあんまりだってぐらい酷い仕打ちなのだが、それでも、俺にはそれができてしまえるのだった。 

 なぜなら、俺の体はもう山本さんと美優のエッチを比較をすることに、慣らされてしまっていたからだ。

 

「あの、ソトミチくん……? まさか、こんな状況で……」

 

 せめて嘘だったとしても自分にキスをしてほしい。

 そうすべきだし、そうしてくれると、山本さんは俺に対して思っていたのだろう。

 

 でも、現実は非情なのだった。

 

 俺にとっては妹とのセックス以上の快楽は存在しない。

 これだけはまさしく天地がひっくり返ったとしても変わらない事実だった。

 

「山本さん、ごめん」

 

 俺はそれだけ告げて。

 

「んっ……」

 

 美優にキスをした。

 

 下半身は、山本さんと繋がったまま。

 

「はむっ……ちゅっ……じゅっちゅるっ……ちゅぱっ……ふぁ……お兄ちゃん……」

「美優……っ……んっ……」

 

 それから、俺は美優とキスをし続けた。

 そのとき山本さんがどんな表情をしていたのかは、本当にわからない。

 だが、問題が起こったのは、その次のことだった。

 

「んあっ、ふぇ? そ、ソトミチくん……なんだか、ナカが……あっ……!」

 

 結合部を押さえて悶える山本さんは、急激に膣内へと伝わってきた快楽に混乱していた。

 

「おっ、おっき……いいッ……! だめっ、こんなの……あっ、あんっ……!」

 

 美優とのキスによって、俺のペニスが奮い勃っていた。

 濡れの足りない山本さんとのセックスで、萎えかけていたはずの肉棒が、またたく間に硬さを取り戻して山本さんの膣内で肥大化してく。

 

「ま、待って待って、なに、これ……ひゅごっ、あんっ、ああっ……!! ら、らめえっ……!!」

 

 美優のせいでスイッチの入ってしまった俺のペニスに、山本さんが一人で感じている。

 その最中にも、俺と美優はキスをしていた。

 次第に熱を増していく舌の奪い合いに、横目で山本さんのことを見ていた美優は、少しの間だけ唇を離した。

 

「お兄ちゃん。奏さんとの契約は、まだ履行中でしょ? いつまでも止まってたら可哀想だよ」

 

 美優は義理堅いのでこんな状況でも自らが認めたことは完遂させる。

 それに対して、俺としてはこんな状況で山本さんとセックスをするのはよくないことだと思った。

 だが、俺のペニスの肥大化によって、敏感なところに当たるようになってしまった山本さんの膣内が、気づけばびしょびしょになっていて。

 

 そのあまりの気持ちよさに、俺の腰は勝手に動いていた。

 

「ダメダメっ、ストップ……こんなのイヤ、あっぐああっ、んああっ……ひぃふあぁあっ、あっ、あっ、おね、がい、止めてぇっ……!」

 

 すでにイッているようですらある山本さんは、俺のピストンから伝わる快楽を、素直に受け入れることも、拒絶することもできなかった。

 美優に無理矢理やらされているだけのセックスは屈辱的なのに、膣をペニスで刺激されて伝わってくる快感は、拒否できるはずなどない最上級の幸せだったのだ。

 

「うううっ……なんで……なんでぇっ……ソトミチくんと、してるのは……あっ、ふぁあっ、あああっ……私、なのにぃっ……!」

 

 目の前で熱烈なキスを見せつけられて、それは自分とのセックスの気持ちよさを比較された結果で。

 自分がこうして気持ちよくなれているのでさえ、自分の大好きな人とキスをしている、妹のおかげだった。

 

 それは山本さんからしてみれば寝取られに等しい状況だった。

 しかも、セックスをしているのは山本さんのほうであるにも関わらずにだ。

 その屈辱は、過去すでに、同じ場所で味わっていたもの。

 

 人生で二度目となる、セックスをしている側での寝取られだった。

 

「うっ、やば、これ……出そうかも……」

 

 山本さんとは別に、俺もイきそうになっていた。

 由佳としたときから俺の体は女の子に無理やりすることで興奮するようになっている。

 

「出しちゃえば?」

「それはさすがに……」

 

 あまりにも行為の相手を軽視しすぎている。

 当然、山本さんは俺たちの会話を聞いていて、

 

「イヤッ……そんなのやだぁ……! そとみち、くん……んあっ、ああっ……私の、こと……見て……!」

 

 山本さんはイキそうになる俺を止めようとしてきた。

 それでも、美優からのゴーサインを出された俺が、パンッ、パンッ、と腰を打ち付けると──

 

「ひぃいあっ、ああっ……んぐぅああっ、あっ、ああっ、あんああっ……ふぁ……ああああっ……!!」

 

 山本さんは快楽に喘いで、それからは何も言語として発することができなくなった。

 

「お兄ちゃん、我慢しないで」

 

 美優に促されて、それから、俺は再びの美優とのキスをして。

 

 舌を絡ませながら、ほんの少しだけ押し付けるような美優の愛のこもったくちづけに、びゅくっ、びゅくっ、と、俺は呆気なく射精をしてしまったのだった。

 

「はぁ……はあぁ……ふあ……っ……あっ……」

 

 俺が腰の動きを止めた後も、山本さんは体をビクビクと痙攣させていて、すっかりとイキまくっていたらしい。

 

 その絶頂の波が落ち着いたところで、ようやく美優は俺から視線を外して、山本さんを見下ろした。

 

「男が射精するよりも前に断りもなくイクだなんて。女が成っていませんね」

 

 厳しい叱咤が飛んだ。

 よもや山本さんも、エッチに関して叱られることがあるなど、思いもしなかっただろう。

 

「うううっ……私だって、頑張ったのに……」

 

 山本さんはまた泣いた。

 でもそれは、今日これまでの一日で自らへの呵責に苦しんでいたものとは違う、ただ美優に泣かされているだけの山本さんがそこにいたのだった。

 

「頑張ったって……。さっきも言いましたけど、お兄ちゃんは私のものなので」

「それは……。たしかに」

 

 納得してしまった。

 

 そんなトンチンカンなやり取りに、一旦場が静まり返って。

 

「よいっ、しょっと……」

 

 なぜか、唐突に美優が服を脱ぎ始めた。

 

「なに……やってんだ……?」

 

 俺も射精をして、山本さんとのセックスは終わった。

 だというのに、美優はHカップになったブラジャーを外して、たぷんとその大きな乳房を揺らし、続けてパンツに指をかけてそれを床に下ろしていた。

 

「なにって」

 

 その直後、俺と山本さんが耳にしたのは、ごくごく予想のついた、しかし、とても受け入れがたいセリフだった。

 

「私もしようかなって」

 

 まさかの展開に、漏れる声すらなかった。

 驚きの連続で理解が追いついていない。

 

「それは……ソトミチくんと、美優ちゃんとで……?」

「他にないじゃないですか」

 

 美優は切り捨てるように言って返した。

 つまりはこれから俺とのラブラブエッチを山本さんに見せつけるということである。

 

「他人の彼氏とこれだけやりまくっておいて、ちょっと泣いたぐらいで許されると思ったんですか?」

 

 どうやら相当恨んでいたらしい。

 好きにやらせていたのは自分だというのに。

 あまりに身勝手で最低な美優らしいやり方だった。

 

「だから、ね? お兄ちゃんも……」

 

 美優は山本さんの膣から俺の肉棒を抜かせた。

 山本さんから「ああっ」と切ない声が漏れても、気にすることなどなく。

 

「たかだか一回ぐらいで、終わると思わないでね」

 

 美優は俺のペニスからコンドームを取り去ると、すっかり小悪魔モードになった顔で俺の目を覗き込んできて、生の肉棒をさすりながら唾液に濡れた舌を出して見せたのだった。

 



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どうしようもないブラコンの妹と、イチャラブセックスを見せつけられて泣かされた親友と、最後には3Pが始まる話

 

 異様な光景だった。

 

 単身用の狭いマンションの一室で、男女がベッドの上で三人、裸になっている。

 

 一人は俺のクラスメイトである友人で、さっきまでセックスをしていた束の間の恋人。

 もう一人は俺の実の妹で、これから俺とセックスをしようとしている本物の恋人。

 ……そして、このめちゃくちゃおっぱいのデカい美少女二人とセックスをするのが、つい数ヶ月前までは冴えない童貞だった俺だ。

 

「あの、美優ちゃん……何を、するつもりなの……?」

 

 山本さんはベッドの端で、俺にイかされて火照った体をどうにか落ち着かせていた。

 美優が現れたことそのものよりも、いまここで俺と美優がエッチをしようとしていることに困惑しているようだった。

 

「何かと聞かれると。とりあえず、お口で出してあげようかなと」

 

 美優は俺のペニスを優しく握って、それをさすりながら卒なく答えた。

 ペニスを握られている俺も裸だし、会話をしている二人ももちろん裸で、ブラジャーもしてないのに球状に近い丸みを下乳に帯びた乳房を、たぷんたぷんと重たそうにぶら下げている。

 

「お口でって……その……ふぇ、フェラするってこと……?」

「それ以外にありますか? 奏さんも散々してきましたよね? 私のお兄ちゃんに」

「そ、それは……そうだけど……」

 

 山本さんは妙にドギマギしていた。

 この中の誰よりもエッチ慣れしているはずなのに、その表情を見ているだけで、山本さんの異常な心拍が伝わってくるほどの緊張ぶりだった。

 

「このベッドでするのは……さすがにマズいんじゃないか……?」

 

 俺は山本さんに直接話しかけることができず、美優に小声で話しかける。

 流れ的には致し方ない部分もあるとはいえ、このベッドはこの先も山本さんが寝るのに使うのだし、あるいはいつか未来の彼氏とセックスをすることになるかもしれない場所でもあるのだ。

 そんなところで別のカップル(しかも過去唯一本気で愛した男とその妹)がセックスをしていた思い出など、山本さんからしたら堪ったものではないだろう。

 

「私とお兄ちゃんがこのベッドでエッチしたらマズいですか?」

 

 美優は平然と山本さんに質問を打ち返した。

 

「えっ……ああ……まあ、それはそうかもだけど……」

 

 それについては「言われてみれば」というぐらいだったようで、山本さんの反応はごく薄いものだった。

 目の動きを見るに、山本さんが意識をしているのは俺ではなく、美優のほう。

 もっと言えば、その美優の裸であり、慣れた手つきでさりげなく俺のペニスをシゴいている手だった。

 

「いや、だって……二人は……その……」

 

 山本さんは言い淀んで、美優に対して申し訳なさそうにしながらも、その感情は言葉にされることとなった。

 

「そういうこと、本当にしてるんだなぁ……って……」

 

 緊張を含んだ声音で、目を伏せる。

 

「ずっと前から知ってたじゃないですか」

「う、うん……それは、そうなんだけど……」

 

 山本さんは片腕で胸を抱いて、人魚のように脚を揃えて身を小さくする。

 実の兄妹で性行為をしている姿は山本さんにとって想像していた以上に衝撃的だったようだ。

 

 美優の言う通り、山本さんは俺と美優がセックスをしていると前から知っていた。

 問題なのは、それが言葉上でのやり取りでしかなかったということ。

 なぜなら山本さんは俺と美優が一緒にいるところを見たことなんて、デパートと自宅の二回だけしかない。

 しかも、そのいずれでも、美優はただの世話焼きでクールな妹としてしか振る舞っていなかった。

 

 山本さんは経験豊富とはいえ、あの不健全な美優たち中学生組とは違い、真っ当なセックスしかしてこなかった人だ。

 彼女たちと仲良くしているとつい忘れそうになってしまうが、常識が捻じ曲がっているのは言わずもがな俺たちのほうなわけで。

 思い返してみれば、山本さんはいつだか俺と美優がセックスをしていることについて、何か言いたげにしていたこともあった。

 そして何より、初めて俺と美優が兄妹でエッチをしていると知ったとき、他の誰よりも驚いていたのが山本さんだった。

 

「私とお兄ちゃんは兄妹で、奏さんとのデートがなければ毎日のようにエッチしてますよ。……昨日もお兄ちゃんは、私をエッチに誘ってきてたんだよね」

「そ、それは……夏休みも終わるし……溜まってたし……」

「そうなんだろうね。あれだけ出したのに、まだこんなに硬くして」

「み、美優……あ、あっ……」

 

 セックスの後で滑り気を帯びている俺のペニスを、こちゃこちゃと卑猥な音を立てて山本さんの意識を引き寄せようとする。

 山本さんは俺とのエッチを繰り返してしまった罪悪感からか耳を塞ぐこともできなくて、複雑な表情で目を泳がせていた。

 

「中途半端なセックスでお兄ちゃんも不完全燃焼でしょ。私がちゃんと出してあげるから、ここ来て」

 

 美優は山本さんのことなど意に介さず、床に降りてから俺をベッドの縁に膝立ちさせた。

 そして、俺のペニスの先端に唇を近づけると、睨み付けるようにして俺を見上げてきた。

 今の俺は美優と心が通じ合っているので、その視線が意味することはすぐにわかった。

 山本さんに兄妹の仲の良さを見せつけるのだから、早くイったりしたら承知しないという意味が込められているのだ。

 

「イキたくなったら、口に出していいのか?」

「口以外のどこで出すの?」

「そう聞かれると……でも、山本さんの前だし……」

「そんなの気にしないで、お口にいっぱい出して」

 

 美優は甘い声でそう言ってから、小さな口をいっぱいに開いて、俺の肉棒を奥まで咥え込んだ。

 

「はむっ……ちゅるっ……ぱっ……あんっ……じゅるっ……じゅっぷ……」

 

 緩やかなストロークで、何度も舌を絡めて、唾液の混ざる音をチュパチュパと響かせる。

 じゅるっ、じゅぶっ、とフェラチオによる卑猥な音が響いて、それを聞いているはずの山本さんは、ベッドの隅で俺たちから視線を逸らしていた。

 そして、ときおり、ほんの一瞬だけ、チラとこちらを見て、それから顔を真っ赤にして顔を背ける、ということを繰り返している。

 

「あぁ……ぅっ……美優、頼むから、手加減を……あっ……ああっ……」

「んっ……じゅるっ……ぶっ……ちゅっ……ん、喘ぐのは構わないけど。イクのだけは我慢してよね」

「わ、わかってる……わかってるけど、くっ、あっ……!」

「はむっ……じゅるるっ……じゅるっ……ちゅっぷっ……」

 

 美優はここが山本さんの家であることなどお構いなしに俺のペニスを咥える。

 その雰囲気に同調するように、俺も快楽から漏れ出る声を抑えられなくなって、持ち主が蚊帳の外になっているベッドの上では兄妹でのフェラチオが堂々と行われていた。

 

「んっ……あむっ……ぢゅっ……ぷっ……はぁ、お兄ちゃん、きもちい……? んむぅ……じゅるるっ……ちゅぅ……んっ……」

 

 美優は元から激しいフェラチオというものはしないので、あくまでも動きの少ない口技に空気を多く含ませているだけ。

 しかし、美優が相手となると、そんな控えめなフェラが俺の性感にハマって、強く射精欲を掻き立ててくる。

 

「気持ち良すぎて、そろそろ限界が」

「ん……ちゅっ、ぱっ。もー、早いんだから。じゃあ奏さんより私のフェラのほうが気持ちいいって、素直に言えたら射精してもいいよ」

「おまっ、まだ、そんな……!」

「でも実際私のフェラのほうが気持ちいいんでしょ?」

「それは…………まあ……そう、だけど……」

 

 否定できる要素が無さすぎて、そう口にしてしまった俺がチラと横目で山本さんを見やると、そこには寂しそうな顔で傷心している裸の美少女の姿があった。

 

「なら練習した通りにちゃんとイってね」

 

 美優は俺の腰を掴んで、ベッドの段差でちょうど膝立ちした顔の位置で屹立している俺の肉棒を、正面から包み込むように丸呑みしてきた。

 

「ぢゅうっ……ちゅるるっ……はむっへろっ……ちゅるっ……ちゅうぅぅ……ちゅっぷちゅっぷっ……」

「あっ……ぐっ、あっ、あっ……!」

 

 美優は俺のペニスを根元まで咥え込んで、あえて首はほとんど動かすことなく、舌さばきだけで俺の性感帯を責め立ててくる。

 

「ああっ、ああっ……! だ、ダメだ、そんな、されたら……!」

 

 腰の引ける俺を視線で制して、美優はイクなら絶対に言えと念押しの睨みを利かせてくる。

 そんな兄妹の性行為を目の当たりにしている山本さんは珍しいくらいに耳まで真っ赤だった。

 

「あああっ……ああっ……気持ちいいっ……山本さんのフェラより、イイッ……ふうぅっ……ああっ……!」

「ちゅるっ……はむっ……ちゅっ……おにいひゃん……んっ……らひへ……ちゅうっ……ちゅっぷっ……」

「はぁ、ああっ……こんな気持ちいいの……他の人じゃ……っ……はあっ……ああイク……イクッ……!!」

 

 いつしか俺は自ら腰を振って、すでに喉奥まで使っているであろう美優の口内にペニスの全体を擦り付けて、欲望のままに性欲を解き放った。

 

「はぁ、ああっ、イクっ! イクッ! もう……出るッッ──!!」

 

 びゅっ、どりゅりゅっ、びるるるぅ、びゅくっ、びゅびゅっ──!!

 

 一度口にしてからは、思いのほか淀みなく出てきた言葉にそのまま興奮を乗せて、俺は美優の口内に大量の精液を射精した。

 すっかりと太ましくなったその竿の中から、それに比例して量の多くなった白濁液が、睾丸から押し流されては美優の口へと注がれていく。

 美優は喉の奥を強く締めて、精液が直接胃袋に流れないように、口に含むことのできる許容量のいっぱいまで貯めてそれを舌で味わい尽くす。

 

 美優は口からペニスを抜くと、ドロっと粘着く精液の液溜まりを口を開いて見せてくれた。

 

 それを山本さんは、見たくないはずなのに見てしまっていて、その量と濃さと、自身のフェラよりも断然気持ちいいと言われながら射精されたことへのショックが、かなり堪えている様子だった。

 唇を真一文に強く結んで、泣き顔になりそうな自分を必死に抑えている。

 すでにボロボロになった自尊心に追い討ちをかけられて、それでも自分が悪いことをしてきた自覚があるが故に、ただひたすらに自分を責めることしかできずにいる。

 

 ──そんな山本さんに、フェラ抜きを終えた美優が、目線を移した。

 

 それはこれまでのように、山本さんの精神状態を見るための確認作業とは違い、明確な山本さんへの目的意識を持って向けられているものだった。

 

 美優はベッドに四つ足で乗り上がると、今度は俺が端に行くように顎で指示をした。

 俺がそれに従ってベッドのスペースを空けると、美優はハイハイで山本さんのすぐ近くにまで寄って、両手を引っ張った。

 

「わ、私? 何かな? ごめんね、ベッドは、好きに使ってていいから……」

 

 山本さんは俺と美優との口淫を目にしながらも、頭の中では俺に執着してしまったことへの後悔ばかりが巡っていて、上手く状況が飲み込めていないようだった。

 ベッドの中央に出てくるように腕を引かれて、それは本来であるならば、美優が俺の精液を口に含んだままということから後の行動は予測がついたはずなのに。

 

「美優ちゃん……ふえ、あっ、ちょっ……!」

 

 美優が正面から山本さんに乗り掛かって、山本さんはベッドに押し倒されて腕を動けないようにされた。

 腕力なら美優に負けるはずもない山本さんも、今まさに反省をしていた謝罪すべき相手に組み敷かれたとなっては、無理に押し退けるという選択を取ることもできず。

 

「んっ!? んんっ……っ……あっ……んぐぅっ……!?」

 

 無抵抗の山本さんの口に、美優は容赦なく舌を捻じ込んだのだった。

 

「お、おい、美優、なにして……!」

 

 垣間見えたその瞬間に、二人の唇は俺の精液を口移しするために隙間ほども離すことなく重ねられていた。

 それから、美優の髪で口元が隠されて、それでもぐちゅぐちゅと淫猥な唾液の交換がなされていることは、その音と動きでわかった。

 美優が自身の舌を山本さんの舌を絡ませて、お互いの舌で俺の精子を挟み、すり潰して、無理矢理に精液の味を感じさせている。

 向かい合うようにして重なった女の子二人の裸体が、苦しみと興奮に身を捩って、抜け出そうとする山本さんとそれを阻止しようとする美優の肢体が絡み合っていた。

 

「んぐっ……んんっぅっ……!! んっ、んンンッー!! ふぅ、ん、んんっ……んんんっ……!!」

 

 山本さんの表情が苦悶と快楽に歪んで、そうしているうちに口内の精液を全て山本さんに移し終えた美優は、嬲るようなくちづけをやめて山本さんを解放した。

 

「んっ……むっ、ちゅっ……ぷは。……どうですか? 奏さん」

 

 犯していた側の美優も、疲れと発情とで息が上がって、活性化した血流に色白な肌がほんのりと赤みを帯びていた。

 

「これが女の子を孕ませたくて射精するときのお兄ちゃんの精液ですよ。ご自身が飲まれていたものがどれだけ精子の薄いものだったかご理解いただけましたか?」

「むぐっ……うぅ…………うっぐっ……」

 

 涙を堪えて、鼻の啜る音に、心が痛んだ。

 美優に体で教えられた悔しさと、飲み込めないほどの精液の苦さに、もう何度目かわからないぐらい山本さんは泣かされていた。

 半分は俺のせいとはいえ、こんな追い込み方はあんまりだ。

 

「お兄ちゃんがきちんと射精できるのは妹だけなので。これまでの一度でもお兄ちゃんを満足させられていたなんて思っているようでしたら、そんな勘違いは改めてくださいね」

 

 重ねられた言葉に、喋ることができない山本さんは、涙ながらに何度も頷いて了承をした。

 

 それから美優は、山本さんの両頬に手を添えて、

 

「でも、その体の出来の良さと技術だけは認めてあげます。こんな順でなければ、お兄ちゃんの性処理に使ってあげてもよかったかもしれません」

 

 それは、他の人とのセックスを絶対に認めたくないと口にした美優にとっての、最大の賛辞だった。

 山本さんの側からすればそんなことは知る由もないのだが、美優の声音が友好的なものに変わったことには気づいたようで、強張っていた体からは緊張が抜けていた。

 

「では飲むのは勘弁してあげます」

 

 美優は山本さんに優しくキスをして、さっきの強引にねじ込むような舌使いとは違う、親愛すら感じさせるほどのねっとりとした接吻で口内の精液を舐め取っていった。

 

「んっ……ふぅ……あっ……美優ちゃん、女の子同士で……上手すぎ……」

「ちゅっ……んっ……私は別に抵抗ないですし。奏さんはいちいち細かいことを気にする性分ですね」

「いや、兄妹とか、女の子同士は、普通じゃ……あっ……んっ……」

 

 そして、山本さんの口内の精液をキレイにしたはずの美優は、なおも唇を重ねてキスを続けた。 

 同性でのキスに戸惑いを隠せない山本さんに、それを上回るほどの快感を与えて、俺がいる手前、最後まで抵抗しているように見せていた山本さんは、美優が唇を離す瞬間には快楽に身を委ねているようですらあった。

 

「はぁ……はぁ……うぅ……どうしよう……私……」

 

 山本さんは両手で顔を覆ってうずくまった。

 

 女の子のキスで気持ちよくなってしまったことに罪悪感を感じているのかもしれない。

 また一つ山本さんの中で常識が破壊されてしまった。

 

「では奏さんは邪魔なので、またすみっこで大人しく見ててください」

「え? あ、うん……」

 

 山本さんは美優の指示に大人しく従って、四つ足立ちで移動をすると、ベッドの端で俺たちが見えるように膝を抱えて座った。

 乳房は膝に潰された分だけハリを増し、膝に間の暗がりには、山本さんのアソコが薄らと見えていた。

 美優に嬲られた影響か、遠目でも湿っているのがわかるぐらいに濡れている。

 

「あの……何を、見てればいいのかな……?」

 

 すっかりと考える力を失った山本さんが、美優に尋ねる。

 

「私は妹なので。お兄ちゃんの性処理をするだけです」

 

 美優がそう言って視線を向けた先が俺の股間で、そこは自分でも信じられないぐらいにビンビンに勃起していた。

 

「それも出してあげるから。お兄ちゃんは足をこっちに寄越して仰向けになって」

「す、すまん……」

 

 俺も申し訳なさに素直に従うしかなくて、ベッドの中央に下半身がくるように仰向けになり、その性欲にだらしのない生殖器を美優に預けた。

 

 美優は寝転ぶ俺に近づいてきて、顔と顔が接近する。

 あどけないながらも凛々しい顔つきの妹で、眼下では意識を背けられないくらいの実り豊かな双房と、まだ見慣れない淡い色の乳首が、否応なく俺の性欲を煽ってきた。

 

「……えっ。み、美優? 何をする気だ?」

「だから、セックス」

 

 それは何に対する「だから」なんだ。

 

「……あっ、え? す、するの? そ、そっか……じゃあ……あの、ゴムならいっぱいあるから……」

 

 これから俺と美優のセックスを見せつけられることになると悟った山本さんが、動揺を隠しきれないながらも、俺とのセックスで使っていたコンドームの繋ぎを千切って美優に差し出した。

 

「何ですか? それ」

 

 美優はそれだけ言って、上向きにそそり立った俺のペニスに秘所を密着させると、俺に抱きつくように体を寝かせた騎乗位の姿勢になった。

 

「だって、コンドーム……つけないと……」

「私とお兄ちゃんの間に、そんな不純物は不要です」

 

 美優が腰を落として蜜口で俺のペニスの先端を咥え込むと、山本さんは血の気の引いた顔で固まった。

 

 山本さんも、気づいているはずだった。

 俺と美優がもう中出しまで経験しているということに。

 しかし、山本さんにはちょっとした思考の偏りがあって、察してしまったものが受け入れ難い事実だったとき、それをギリギリまで選択肢として考慮しない傾向がある。

 

 そして、美優がピルを飲んでいて、この行為がセーフティであることがわかっていたとしても、兄妹でのエッチを目の当たりにして気を動転させてしまうような山本さんには、俺と美優の生セックスを見て平静を保っていられる自信などなかったのだ。

 

「美優は、大丈夫なのか?」

「平気。中出し一回ぐらいなら、気合いで耐える」

 

 美優は俺に中出しをされると、正気でいられずにラブラブモードになってしまう。

 もしこの場でそんなことになったら収拾がつかなくなるからな。

 

「美優ちゃんも、準備はしてるのかもだけど……ソトミチくんの中出しは危ない気が……」

 

 山本さんがモジモジとしながら発言したその内容は、たしかに俺の精液の量と美優との相性を考慮すれば十分に真っ当なもので、美優もその忠告には同意見の様子だった。

 

 しかし、

 

「それでも構いません。というより、私は今すぐにでも受精したいぐらいの心持ちなので、奏さんとはお兄ちゃんに孕まされることへの覚悟が違います」

 

 どこか心配にもなる美優の切り返しに、山本さんは想いの差を感じ取ったのか口を噤んだ。

 事実、美優のことだから、もし明日妊娠したとしても幸せな人生を送れるだけのプランは考えているはず。

 俺にだってどんな困難でも美優となら乗り越えられる自信があって、だから、ピルを飲んでの中出しで美優が俺の子を孕む可能性がコンマ数パーセントにも満たないのであれば、性的な快楽を優先するために生セックスをするのは十分にアリなのだ。

 

「これ以上焦らされたら変になっちゃいそうだから、挿れちゃうね」

 

 俺と生殖器の入り口だけを共有していた美優は、蜜穴からダラダラと汁を漏らしていた。

 昨日の夜にセックスができなくてツラかったのは美優も同じだったのだと、その体のアツさから俺は感じ取ることができた。

 だから、最後は俺が、自分で腰を動かして美優に挿入をした。

 

「あんっ……ん、ああっ……!!」

 

 ズブブッ、とペニスを膣に挿入された美優が、背中を仰け反らせて嬌声を上げた。

 

「わっ、わっ……あぁ……っ!」

 

 剥き身の陰茎がピンク色の肉穴へと入っていく瞬間に、山本さんは何かを言いかけて、それでも俺と美優の生セックスを止めることはできなかった。

 

「美優、っ、はあ……気持ちいい……ッ!」

「ふぅ、ああっ……お兄ちゃん……すっごい、おっきぃ……!」

 

 自分勝手に大きく腰を振って、できるだけ雑で速いピストンを心がける。

 美優が俺の肉棒の感触に集中してしまわないように、セックスをしているという感覚だけで美優を責め続けた。

 

「ふぅ……あ、ああっ……美優っ……くっ……ああっ、気持ちいい……!」

「はぁ、はぁっ…お兄ちゃん……奥、きてる……!」

 

 生でのセックスとはいえ、山本さんの前でまだ理性は強く残っているし、ここまでは美優も余裕がある状態。

 

 だと、思っていた。

 そんな俺の見積もりは、ごく甘いものだったようで。

 

「くぅぅ……はぁ……美優の膣内、ぐちょぐちょで……吸い付いてくる……!」

「ふぁ、あっ、お兄ちゃん、だめ……ちょっと、すとっぷ……!」

 

 俺に身を委ねていたはずの美優が、俺の両腕を拘束するように抱きついてきて、腰の動きを止められた。

 

「はぁ、っ……美優……? どうしたんだ?」

 

 俺の顔の横に両手をついて体を起こした美優の体が、小刻みに震えていた。

 どうしたことかと美優の顔を覗いてみると、もうびっくりするぐらい屈服するのが早かった美優の惚けた表情がそこにはあった。

 

「ごめん、お兄ちゃん。やっぱり無理かも」

 

 声音だけは申し訳無さそうにする美優の腰が前後に動いていた。

 もぞもぞと小さな動きで、俺のペニスの形を感じ取ろうとするように、欲しいだけの刺激を貪っている。

 

「おい、待て、美優。ここまでやっといて、そんな……!」

 

 俺を餌に緻密に計画を練り上げて、最後には散々山本さんを泣かせて、意味ありげにセックスまで見せつけておきながら、このどうしようもないブラコンの妹は最後の最後に性欲に負けて全部をぶん投げやがった。

 

「うぅ……だって、お兄ちゃんが奏さんとばっかしてるから、私は何回も一人でしてたんだよ? こんな……っ……あっ……お兄ちゃんの、おっきいのが入ったら……もう無理に決まってるもん……」

 

 段々と知性を削ぎ落として幼児化していく美優。

 そしてついには、美優はしゃがみ姿勢になって、腰を上下に振り始めた。

 

「み、美優……それは、ダメだっ、あっああっ……!」

 

 ばちゅん、ばちゅん、とお尻をスタンプさせて、まさか美優が騎乗位で自分から動くなんて思っていなかったせいで、俺のペニスもすっかりと快楽にやられて血流の限界いっぱいまで肥大化してしまった。

 

「あっ、しゅごっ、おっき……らめ、あっ、あっ……!」

 

 美優はカリがGスポットを擦るように、べったりと押し付けた亀頭を腹部に経由させて、膣奥にある子宮口に触れた瞬間にグリッと抉るような押し込みを自分からしていく。

 山本さんに見せつけるためだけの激しいセックスをしなければならないのに、美優はそんなことはもう忘れてしまったかのようにじっくりと俺のペニスを味わうセックスに夢中になっていた。

 

「お腹、ぎっちり……ふぁ……ううっ……苦しいの……しゅ、き……っ」

 

 美優の狭い膣が俺のペニスをキツく絞ってくる。

 その声は完全に性欲モードの甘ったるさになって、ひたすらに肉欲を貪っていた。

 

「お兄ちゃんもういいからちゅーして、一番奥で出して」

「そんなことしたら、美優は……」

「いいからぁ……おにいちゃん……」

 

 舌っ足らずな声でおねだりされて、それがあまりにも可愛かったから、俺も美優の体で思い切り気持ちよくなりたくなってしまった。

 もうこの射精だけは好きに済ませてしまおう。

 

「ほんと……どうしようもない妹だな…………んっ……ちゅっ……」

「ふむぅっ……んあっ……おにいひゃ……ひゅき……んっ……ちゅっぷっ……へろっちゅっ……」

 

 上下に重なって、舌を絡ませて、ピストンなんてすることもなく、ただひたすらに美優の子宮口へと亀頭をグリグリと押し付けていく。

 

「んんっ……あ、ああっ……! それしゅき……もっとして、きもちい……っ、ひあっ……!」

「美優、美優っ……すごくいいよ…………ふうっ……あああっ……! 小さい体で、奥まで咥えこんで……はぁ、あああっ……ぐっ……ぜんぶ、気持ちいい……!!」

 

 もはや美優とセックスしてるだけで、悪いことしてる気分になってくる。

 そして、それがたまらなく興奮する。

 

 兄妹でセックスをしていることも、幼い体にペニスを挿入していることも、そのどちらもが俺を最高に滾らせていた。

 美優の小柄を抱きかかえると、なおその実感は増して、背徳感への同じ興奮を共有している俺たちは、劣情のままに体を押し付け合った。

 

「んっ……じゅるっ、ちゅっ……ぷはっ……美優……美優……っ! もう出すよ……膣内で、射精するからな……!!」

「んああっ……ああっ、っ、ああああっ……!! 出して、おにいちゃん……っ、ああっ、せーし、はやく出してぇっ……!!」

 

 蜜壺を勃起した竿でかき回す俺の腹部に、飛沫となって美優の淫汁が飛び散る。

 抽送よりも子宮を擦ること優先した膣内の刺激に、美優が先に絶頂して、キツく締まる膣の蠕動につられるようにして俺は射精をした。

 

「美優……出るッ……ああ──ッ!!」

 

 どくっ、どくっ、どくっ、どくんっ──と、ペニスが膨らんでは尿道から精液が吐き出されて、俺のペニスに空間のほとんどを占領されていた美優の膣内は、一瞬で俺の精液に満たされた。

 濃い精子の塊が美優の子宮に密着した状態から侵入を始めて、その全てが美優の卵子を求めて泳ぎだしている。

 

「あぁ……っ、はぁ……。美優……すごくよかった……」

「ふぁあっ、はあっ、はあっ……お兄ちゃん……だいすき…………んっ……ちゅっ……」

 

 美優にキスをされて、精液を注いだお返しに、愛情をいっぱいに注がれた。

 汗ばんだ肌はその雫を乳首の先に集めて、それを手で拭うと美優が色っぽく身を捩った。

 これだけ可愛い妹がいて、他に望むものなどないと。

 キスに交わる美優の体温を感じながら俺は夢心地に浸っていた。

 

 ──そんな俺が、山本さんのことを思い出したのは、コンドームの個包装が床に落ちる音を聞いたときだった。

 

 ついに中出しの瞬間を目撃してしまったことに、山本さんはショックを受けて固まっていた。

 そして、同時に美優も山本さんがいたことを思い出したのか、中出しされた証拠を見せつけるように、力の入らない腰を頑張って持ち上げてペニスを引き抜いた。

 ドロッと俺の腹部に熱い体液が流れ落ちて、美優の子宮にたっぷりの精子が種付けされたことを、山本さんはその目で認めることになってしまった。

 

「お兄ちゃんの、お掃除してあげるね」

 

 美優はいつにないほど優しい声で、そんなことを言ってくれた。

 俺の腹部に溜まった大量の精液を満足そうに眺めながら、股の間に移動した美優がまだ硬いままの竿をペロペロと舐めてくれる。

 

「ありがとう、美優。すごく気持ちいいよ」

「いえいえ。お兄ちゃんのためですから。……まだ硬いけど、出そうなの?」

 

 美優はからかうように聞いてくる。

 

「あと一回ぐらいなら、出るかも……」

「そういうときは一回じゃ済まないでしょ、まったく。私がおかしくなる前にスッキリしてよね」

 

 ……と、こんなやり取りをしている俺たちなのだが。

 

 ここは他人の家のベッドで。

 その持ち主である山本さんは、この甘ったるいセックスの一部始終を目撃していたのだ。

 

「うっ……う……うううっ~……」

 

 また、山本さんが泣いてしまう。

 ただ快楽を目的として兄が妹の膣内に精液を流し込むという、非道徳的な行いを目の前で繰り広げられて、ショックだか悲しみだかわけのわからない感情に涙を流してしまう。

 

 それがむしろ、良識ある人間の、正常な反応のはずだった。

 

 でも、どうやらここが、山本さんの脳が何もかもを投げ捨てる臨海点だったようで。

 

「むぐぅうう……もー! 他人のベッドでイチャイチャしくさってぇー!」

 

 頬をいっぱいに膨らませて、美優に負けないぐらいに幼児退行した山本さんが、コンドームを投げ捨てて俺たちのもとへと飛んでやってきた。

 

「美優ちゃんもソトミチくんも兄妹でそんなにエッチなことして。今日まで真剣に悩んでた私が馬鹿みたいじゃない」

 

 ムスッと愚痴を垂れる山本さん。

 

 そんな山本さんに、美優は流し目で意味ありげに微笑んだ。

 

「ようやく現実を理解しましたか」

「二人のラブラブっぷりには勝てないことがよくわかりました」

 

 山本さんは辟易するようにため息をつく。

 その態度に美優がいつもの厳しい言葉を切り込んだ。

 

「ここまでしないといけなかった私の身にもなってください。お兄ちゃんとエッチしてるところを他人に見られるのがどれだけ恥ずかしかったと思ってるんですか」

「うっ……そこは、ごめんね」

 

 敵対していたはずの二人は、いつの間にか打ち解けていた。

 お互いに抱えていたものが色々とあったんだな。

 

「ねえねえ。私もお掃除の手伝いしてもいい?」

 

 山本さんが勃起した俺のペニスを指でつつきながら美優に尋ねる。

 

「まあ、きちんと反省もしたみたいですし、私もやり過ぎた自覚はあるので今回は許可してあげます」

「やった!」

 

 美優は竿とその周囲に付着している精液のお掃除を山本さんに任せて、俺のお腹に垂れた精液を舐めてキレイに吸い取ってくれた。

 愛液もだいぶ混ざってはいそうだけど、その点は美優なら大丈夫そうだな。

 

「ソトミチくんの、ちゃんとおっきくなってるやつが舐められる……はぁ……むっ……じゅるるっ……ちゅぷっ……」

「うっ、あっ……山本さん、そんな勢いでされたら……!」

 

 勃起したペニスを口いっぱいに広げる山本さんに、美優は構うことなく、精液を全て舐め取ってからその舌を俺の胸元へと伸ばしてきた。

 そして、美優の口が俺の乳首にまで達すると、じゅぶっと空気を含ませる音を立てて吸い付いてくる。

 

「あっ……ああっっ……!!」

 

 突然の快感に、思わず体が跳ねた。

 乳首とペニスの両方を舐められる感覚が俺を抗いようのないほどの興奮状態に駆り立てている。

 大団円になってつい油断をしていたが……もしかしたら、俺はいま大変な状況にいるのかもしれない。

 

「お兄ちゃん、しばらく射精禁止だよ」

 

 それは美優によって言い渡された、俺の体への絶対遵守の命令だった。

 

 射精しろと命ぜられればいくらでも精液を吐き出すこの体は、当然、射精をするなと命じられればどれだけ刺激をされても精液が出なくなる。

 

 そうして快感を発散する術を奪われた俺は、山本さんのペニスフェラと、その横に並んで合流した美優のタマフェラによって、ダブルの刺激に犯されることになった。

 

「ああっ……あっ……あああっ……!! だ、ダメだっ、それは……はぁ、あああっ……待って……うっ、ぐっ……ううっ、はぁ、ああっ……!!」

 

 竿の先から陰嚢の根元まで、チロチロと細かな舌使いでくすぐられては、口に丸呑みして下品な音を立ててくる。

 その刺激が各所同時に与えられて、やがて美優のフェラが合流した俺の肉棒は左右から美優と山本さんの二人に舐め回された。

 大人びた優しい顔の山本さんと、まだあどけない美優の勝ち気な目が、俺を一点に見つめている。

 そんな二人の口から伸びた舌が俺の男性器を舐め回して、下半身はゾクゾクと身震いしていた。

 

「イッ……ぐっ、ああっ、はあっ……い、イク……イク、あっ、ああっ──!!」

 

 ペニスは脈打って、それでも射精が行われることはなく、性欲だけがひたすらに蓄積されていく。

 山本さんが唇を竿に這わせて、美優が亀頭をしゃぶって、二人の顔が近づくと、俺のペニスを間に挟んでのベロチューにただ蹂躙されるだけだった。

 

 俺はその快楽だけで悲鳴を上げて、それでも射精をすることは許されず、ついには俺までもが涙を流すことになった頃にようやくダブルフェラでの快楽責めが終わった。

 

「お兄ちゃん喘ぎすぎ。ここマンションだよ」

「私が苦情を受けるんだから、できるだけ静かにね」

 

 そう言って四つ足で迫ってくる二人は、仰向けに寝転ぶ俺の左右にそれぞれが控えた。 

 

 右手には美優がいて、その小柄に不釣り合いな豊乳が、ムチッとその存在を主張してる。

 左手には山本さんがいて、妖艶とさえ思わせるほどのエロいボディからは、溢れんばかりの肉感が乳房を見ているだけで伝わってくる。

 

 そんな二人が俺の眼前にご褒美をぶら下げて、射精をさせる気なんてさらさらないくせに、俺に二人分のおっぱいを味わわせようとしてくる。

 

「……っ、あぁ……こんなエロいもん、見せられたら…………!」

 

 俺が二人の巨乳を揉みしだくのはすぐだった。

 すぐさま美優の乳首にも吸い付いて、それでもまだ山本さんのおっぱいが片方余っているのだから、これほどの贅沢はもうこの人生であり得るわけがなかった。

 

「んっ、ああっ……! お兄ちゃん、がっつき過ぎっ……ん、あっ……!」

「いい歳して妹のおっぱいにむしゃぶりつくなんて、意地の欠片もないところもステキだよ、ソトミチくん……ひぁ、あっ、あはっ、んあっ……」

 

 二人分のおっぱいを揉みしだきながら、美優と山本さんの乳首を交互にしゃぶっていく。

 常に両手の指から肉が溢れて、この両手で得ることのできる最上の至福を俺が味わっていると、そそり立ったまま放置されていた俺の肉棒が見えないところで何かに挟まれた。

 それは俺のペニスの上部と下部、カリと根元を同時に刺激する形になって、その感触は限りなく手コキに近くて、美優と山本さんが足の指で俺の肉棒をシゴいているのだと気づくのはすぐだった。

 

「あっ、あっ、ああっ……!! やばっ、あああっ……、それっ、がぁっ……ああっ……!!」

 

 このエッチな美少女二人は、俺の目の前にまで這い寄って来ておっぱいで視界を塞ぎ、その陰では左右の足の俺に近い側を持ち上げて肉棒を指コキしている。

 接触面積の少ない足での刺激も、二人分ともなれば相当なものだった。

 

「はぁ、あっ、もう、無理っ、ムリだぁっ……射精したい……射精させてくれっ……!!」

 

 美優に射精を禁止されて空撃ちしかできない俺に、それも二人は足コキすることをやめない。

 

「ソトミチくん、我慢汁だけでもう射精してるみたいにドロドロだよ」

 

 俺が悶えるほどにペニスの滑りはよくなって、余った皮で擦るだけだった足の動きが、竿の全体を撫で回すように激しいものへと変わっていく。

 

「あっ、ああああっ、あっ、んああっ……! だっ……があぁあっ……! しぬっ……出したい、出したい……っ!!」

「もう、お兄ちゃんったら」

 

 頭がおかしくなりそうな射精欲に、俺が絶叫していると、美優が足コキをしながらも俺の耳元に顔を近づけきた。

 

「いいのかな。そんなすぐ出しちゃって」

 

 ボソッ、と、囁くような声で。

 美優の吐息が耳朶にかかる。

 

 俺はビクッと反応してしまって、それをチャンスと見た山本さんまでもが、不敵な笑みを浮かべてもう片方の耳に近づいてきた。

 

「そうだよ、ソトミチくん。こんなに気持ちいいのに射精しちゃうなんて、もったいないよ」

 

 俺は二人の巨乳を揉むのをやめられないまま。

 両耳を別々の声に支配されて、最も敏感な場所も刺激され続けている。

 一人だけでは反対側へと逃げてしまう力も、それを逆側からもう一人が挟み込むことで、手コキと変わらないぐらいの十分な圧になっていた。

 

「せっかくだから……耳も舐めてみよっか」

 

 美優が片方の耳でそう囁くと、まるで二人の意思が繋がっているみたいに、山本さんが反対の耳を舐め回してきた。

 

「んっちゅっ……へろれろっ……んっ……ちゅっ……ソトミチくん……ずーっとおっきくしててえらいね……はむっ……ちゅるっ……ぱはぁ……」

 

 ゾクゾクゾクッと、これまでこの身に覚えたことのないほどの鳥肌が立って、俺の声が掠れ始めてもなお、美優は追い打ちに息を吹きかけてきた。

 

「ふぅーっ……はぁ……お兄ちゃん……ん、ちゅっ……へろっ……こういうのも、好きなんだ……えろれろっ……んむっ……ちゅっ……」

 

 俺を休ませるどころか、二人は左右から俺の耳を舐め続けたまま。

 更には乳首までもをイジってきて、ありとあらゆる性感帯を同時責めにされた。

 カリカリと指先で突起を弾いて、あるいはさするほどの力でつねって、微小ながらも勃起していた乳首が体温の異なる手に尊厳ごと踏みにじられていく。

 

「あああがあっ……はぁあああっ、もう、むり、あぁ、イク……イクっ……イかせてくれ……出したい、射精したいっ……!!」

 

 射精したら終わってしまうだけ、ではないのだ。

 精液が尿道を流れる刺激こそが射精の快感であり、それを伴わないオーガズムは、むしろツラさを増幅させていく。

 体はいつまでも性感帯を刺激される快楽を求めて、本能は精液を射出することを命じてきて、その矛盾の極限にまで酷使された脳は、異常な熱を宿して焼き切れてしまいそうだった。

 

「んふっ。しょうがないなぁ」

 

 泣き叫ぶ俺が、もう危ない状態であることを美優も悟ったようで。

 

「じゃあお兄ちゃん。溜めた分だけ、いっぱい射精してね」

 

 美優と、山本さんと、舌を真っ直ぐに伸ばして、レロレロと俺の耳の穴を犯して。

 乳首はそれぞれの指に蹂躙されながら、もはや揉みしだいている巨乳の感覚なんてなくなるほどの快楽に浸されている俺のペニスを、二人の足が勢いよくシゴき上げてきた。

 

「あッッ──がはぁっ、あああっ……!! ああ出るぅうううっ、あああっ、はぁっ、ぐあぁああっ……!!」

 

 どぴゅどぴゅどぴゅっ、びゅるるっ、びゅっ────びゅびゅるるっ、びゅくっ、どびゅるっ、びゅっ、びゅっ──!!

 

 わけがわからないぐらいに精液が飛んで、俺の体も、美優と山本さんの体も、大量の白濁液でベトベトになった。

 噴射にすら近かった俺の射精に、美優と山本さんは顔を見合わせて喜んで、それからお互いの体に付着した精液を、それはもう丹念に舐め合っていた。

 悲しいことにもう山本さんも相手が女の子であるとか気にすることもなくなっていて、俺の体の精液を舐め取ったあとは、俺を真ん中に寝かせて膝立ちの二人が両手を正面から繋いで、乳を合わせながらまたベロチューでの精液の口移しをしていた。

 

「はぁ……はぁ……ああっ……がはぁ……っ……し、しぬぅ……もう……ぁ……」

 

 そんな二人の下で、俺は息も絶え絶えになっていて、もうこれ以上の射精をすることだって今後一切ないだろうと思えるほどの疲労感に、しばらくは呆然としていた。

 山本さんが飲めない分の精液を美優が飲み尽くしたはずの後も、美優と山本さんはねっとりと舌を絡ませ合って、そんな姿に俺は自分を呪いたくなるぐらい興奮をしてしまっていた。

 

「二人とも、すっかりキスにハマってないか?」

「んっ……むっ……ちゅっ……、違うんだよ、ソトミチくん」

 

 やっとキスをやめた二人が、俺の腕を引いて体を起こすのを手伝ってくれた。

 

「そうだよ。これはお兄ちゃんのためなんだから」

「え……お、俺? 俺は別に、そういう、趣味はないけど……」

 

 美優も山本さんもそれはもう絵になるぐらいの美少女なので、二人でキスをしている姿は下手なAVを見るよりも遥かにエロいものではあるとは認めるが。

 

「そうじゃなくて。こういうこと」

 

 美優は俺に顔を近づけて。

 それから、まるで山本さんと間接キスでもさせるかのように、舌を深くまでねじ込んで俺にキスをしてきた。

 

「んっ……んんっ、あっ……み、美優、何を急に……!」

「んふっ。何も感じない?」

「何って……特別なことは、別に……」

 

 俺は自分の唇を指で拭って、それから、美優の言っていた意味をようやく理解した。

 

「あれ? そういや、苦味とか、感じない……」

 

 それどころか妙な体の昂りで甘いとすら思ってしまうほどだった。

 美優は精液を口にした後のはずなのに。

 

「ソトミチくん、フェラで射精した後のお口でちゅーされるの嫌でしょ? だから、お互いでお互いの口をキレイにしてたんだよ」

 

 山本さんは「でも、唾液は余計に二人だけどね」なんてことを付け加えて、べーっと舌を伸ばして見せてきた。

 

「なんだ……俺はてっきり、山本さんまで……」

「違う違う。まったく人聞きの悪い。……まあ……美優ちゃんなら、なくはないかなとは思っちゃったけど」

「頼むから思わないでくれ」

 

 しかし、きっと三人プレイなんてものは、どうあっても女の子二人でのやり取りは発生してしまうのだろうなと俺は諦めた。

 

「ところでさ」

 

 山本さんは会話を区切って。

 

 何やら、不穏な空気が漂った。

 

「いまって、まだ……例の契約は、履行中……なんだよね?」

 

 人差し指を顎に当てて、山本さんは小首を傾げる。

 

「まあ、そうですね」

「じゃあさじゃあさ。私もまだソトミチくんと本番エッチしていいってこと?」

「約束は約束ですので。止めはしません」

 

 そんな会話をする傍で、俺は、

 

「……は?」

 

 と絶句していた。

 

「あのさ、そしたら、あの……で、できれば、生で……お願いしたいなぁって……」

「ええー……それは……さすがに譲り難い部分なんですが……」

 

 山本さんと美優が意味不明な会話をしている。

 全く何を言っているのかわからない。

 脳が理解することを拒否している。

 

「お願いっ! 後生だから~!」

「いくらピルを飲んでいるとはいえ、お兄ちゃんの精子を膣内に入れるなんて妹としては許せるわけが……」

 

 美優はそう口にしながら、俺のことを横目に見て、その視界の中にすっかりと萎えた俺のペニスを捉えた。

 そして、何かを閃いたような顔で、まさかの発言が飛び出した。

 

「いまのお兄ちゃんなら精子が薄そうなのでギリギリ許容してあげてもいいかもです」

「ほんと!? やったぁ!!」

 

 嘘だと言ってほしかった。

 

「えっ……いや、これ、無理だろ? 俺、さっきのが今日一回目じゃないんだけど……」

「いつもみたいにいっぱい出さなくても。それをおっきくして奏さんの膣内で射精さえしてくれればいいから」

 

 美優は軽い口調で俺を宥めた。

 なぜだろう、美優が山本さんの味方をしているのは。

 今日まで泣かせてきたことへの罪滅ぼしだろうか。

 

「これまで、色々あったけどさ。お兄ちゃんって、結局は色んな女の子とエッチしてきただけじゃない?」

「それは……間違っちゃいないけど……俺だって色々と頑張ってだな……」

 

 美優の言うとおりではある。

 だが、そのどれもが美優の指示であったわけだし、美優がその言葉を口にするのは違う気がする。

 

「別に責めてるわけじゃないんだ。それがお兄ちゃんの役割だから」

 

 これまでの計画で俺がやってきたことといえば、会う女の子全員の欲望に応えること。

 それが結果的にはエッチをすることがほとんどになっていて、俺はただひたすらにこの肉体を女の子たちの性欲に預け続けてきた。

 それが、俺に与えられた、役割。

 

「その責務は、きちんと全うするべきだよね」

 

 そう結論付けられると、俺に否定できる余地はなかった。

 

「それで、奏さんはあとお兄ちゃんと何回エッチしたいんですか?」

「えっと……その……あんまり、欲張らないほうが、いい?」

「悔いだけは残してほしくないので。むしろ限界までいってください」

「じゃあ、中出しセックス五回と、その後にソトミチくんへの全力ご奉仕を所望しますっ」

「わかりました。妹が認めます」

 

 いや死ぬ。

 

「では、奏さんはベッドに仰向けに寝てください」

「私が下になればいいの? はーい」

 

 山本さんはルンルン気分でベッドに寝て、惜しげもなく股を広げて俺からの挿入を待った。

 そして、その上に美優が覆いかぶさって、隙間に入り切らなかった二人の巨乳がむにゅっと潰れていた。

 

「それじゃあお兄ちゃん、奏さんに五回。私と交互によろしくね」

「えっ……は……ん……? 美優にも、するのか……?」

 

 俺の体の都合を全く考える様子のない二人に、俺は絶望して眩暈がした。

 

「恋人が目の前にいるのに、ソトミチくんは私とだけするつもりなのかなー」

 

 山本さんが意地悪く美優を支援する。

 美優と山本さんは敵同士だったことなんて完全に忘れていて、もう俺とセックスさえできれば何でもいいぐらいの単純な思考しかしていないようだった。

 その優秀な頭は何のためについているのか。

 

「俺、そろそろなんかの病気になって死にそうなんだが……」

 

 そうは言っても、俺の目の前にいるのは、とびきりの美少女。

 その二人が裸で上下に抱き合って、俺に期待の眼差しを向けている。

 俺の肉棒を誘うようにして広げられた二つの穴からは、期待を滲ませるようにトロトロと愛液が漏れ出ていた。

 

「お兄ちゃん……」

「ソトミチくん……」

 

 柔らかで淫らな肉が二つ重なっている。

 そんな御馳走を用意された俺のペニスが、雄として奮い立たないわけもなく。

 

 俺の本能は青筋まで浮かぶほどギチギチに勃起した陰茎を二人に見せつけた。

 

「こうなったら……気絶するまでやるからな……!」

 

 これはまだ、ほんの始まり。

 

 三人で過ごすには狭いこの一室で、死を覚悟するほどの快楽地獄を、俺は迎えることになるのだった。

 



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生意気な美少女は孕ませる

 

 花びらが息づいている、と。

 女性器を比喩した言葉がある。

 俺の目の前にある淫らな肉のヒダは、荒い呼吸によって開いては閉じてを繰り返し、勃起した俺の陰茎を誘うようにそこに咲いていた。

 

 それも、二人分。

 俺の実の妹と、親友である美少女の、変態的なほどにトロトロと愛液の漏れた卑穴が上下に並んで、俺に挿入されることを期待している。

 

「ソトミチくん……早く……」

 

 息を荒らげながら俺の生ペニスを欲しがる山本さんは、惜しげもなく股を開いて俺に淫らな姿を晒していた。

 

 セックスのことしか考えていない女の穴だ。

 これまでのデートでも幾度として垣間見えたその本性が剥き出しにされている。

 

「射精したら一回だからな」

 

 俺は山本さんの両膝に腕を回して、正常位で挿入する意思を示した。

 すでに大量の精液を吐き出しているはずの俺の肉棒は、また少女を犯そうと隆々と脈打っていた。

 

「お兄ちゃん、私もなんだから、あんまり焦らさないでよね」

 

 俺を誘う淫乱な美少女の上には、たっぷりの乳肉を挟んで卑猥なミートサンドバンズを作っている、どうしようもないブラコンの妹がいた。

 お尻をこちらに向けて、性的興奮の象徴である愛液を秘所から恥ずかしげもななく垂らし、兄の中出しを待っているのだ。

 俺のペニスは珍しいぐらいにビキビキと青筋を立てて苛立っていた。

 

「言われなくても……っ!」

 

 山本さんの膣内へと入っていくペニスが疼く。

 金玉が早く精子を射出しろと俺を追い立てていた。

 性本能は昂って、いつもより激しく拍動する心臓を抑えられないまま、俺は愛液に満たされた肉壁を押し退けて生の性器を挿入していった。

 

「んっ、ああっ……ああああっ!!」

 

 挿入した瞬間に山本さんが嬌声を上げた。

 二人に煽られたペニスが更に肥大化しているのか、初めてキツいと感じた山本さんの膣内に、俺は強引に肉棒を捩じ込んでいった。

 生で無理やりされているような感覚が山本さんにも興奮を与えているのだろう。

 セックスが始まってすぐに、快感に声を漏らすことを堪えられずに身を悶えさせていた。

 

「はぁ……ぐっ……山本さんの、膣内……吸い付いてくる……っ!!」

 

 腰を前後させる度に、まるでバキュームフェラでもされているかのように、グッポグッポといやらしい音が鳴った。

 さっきまで舌や唇で何度も俺の肉棒をペロペロと舐めしゃぶっていたくせに、この淫らな少女にはそれだけではまだ足りないらしい。

 

「はぁ、はあっ……どう、しよっ……んっ……生で、しちゃってる……あっ、んああ……だめっ……気持ち、いいっ……!!」

 

 あれほどまで抵抗を見せていた生セックスも、むしろだからこそなのか、自分がされるとなると興奮しすぎてもう理性などかけらも保てないらしい。

 これから中出しまでされることになるのに、それを自覚していながら山本さんは俺の陰嚢から強引なまでに精液を吸い出そうとしてくる。

 

「くっそ……こんな……はぁ、ああっ……ぐっ……!」

 

 山本さんの穴の気持ちよさを感じながら、俺にはこれまで芽生えたことのない感情が生まれていた。

 ゴムなしで直接性器を交わらせるこのセックスに快楽目的を超えて交尾としての側面を強く感じる。

 これまで勃起して射精するだけに留まっていた雄の本能がその先にまで達してしまっていたのだ。

 

 孕ませたい。

 この生意気に俺を誘ってくる美少女二人を、ピルを飲んでいようが関係なく受精させたくなった。

 

 性本能が完全に生殖本能へとシフトしている。

 こんなエロい体をしやがって覚悟しておけと。

 その先のことなどどうでもよくなるぐらいに俺のペニスが種付けをしようと奮起している。

 山本さんの腰を引き寄せる腕も、ペニスを打ち付ける下半身も、使えるだけの筋肉を総動員して排卵を促していった。

 

「ひぁっ、あっ、あっ、だめえっ……!! ひゅご、ひゅぎいっ……っぐ……あああっ……はぁ、んああっ……らめっ、らめぇ……おかひくなっちゃうぅっ……!!」

 

 イキ狂う山本さんに、俺はなおも陰茎を差し込んでいく。

 その様子を眺めていた美優が、慌てて着付けするように山本さんの頬を両手で挟んだ。

 

「まだ一回目で、そんな無様にイかないでください……お兄ちゃんに孕まされちゃいますよ……!」

 

 俺は山本さんにこれから五回も中出しすることになるのだ。

 あるいはこれほどの屈服状態だったら本当に妊娠してしまうかもしれない。

 それならそれでよかった。

 

 山本さんに種付けをしたら、今度は美優の番だ。

 

「だって……だってえぇ……っ!!」

 

 もう自分の意思ではどうにもならないぐらいに山本さんはイかされている。

 俺の射精欲も限界を迎え、一回目の中出しのときがきていた。

 

「もうイクからな……中に出すからな……!」

 

 あとはもう美優に中出しをするのと同じように。

 俺は山本さんの子宮口にペニスの先をつけて射精した。

 

「ひぁあっ……いっひぐっ……そとみちくんの、中出しで……ああっ……イッ……ちゃ……ぁっ……ッッ!!」

 

 俺の射精に合わせて山本さんは絶頂した。

 陰茎はどくどくと精子を膣内に送り、子宮の入り口に壁打ちをするように射精を繰り返した。

 

「あっ……はあっ……中出ひ……きもちぃ……」

 

 初めての中出しの快感に山本さんは酔いしれていた。

 その様子を見ていた美優も我慢ならなくなったようで、

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃん」

 

 お尻を振って挿入を催促してきた。

 美優におねだりをされて、賢者タイムがまだやってこない俺は、その孕ませへの意志力を保つべくすぐさま美優の膣内にペニスを挿入した。

 

「あああぁあっ……!! お兄ちゃんの、さっきより、硬い……おっきいっ……!!」

 

 山本さんよりも更にキツく俺のペニスを締め付けてくる美優の肉穴に、俺はペニスに付着していた精液を肉襞で拭くように、ねっとりとした腰使いでピストンをした。

 山本さんのおっぱいを枕にして、ほとんどうつ伏せに近い形で寝ている美優に、俺はその上から更に覆い被さった。

 そして、乳首をいじり倒しながら、穿つようなピストンで責め立てていく。

 

「ひあっ、あっ、らめっ……イッちゃう、イッちゃううっ……!!」

 

 二回目の生セックスということもあって、美優のイク早さは山本さんの比ではなかった。

 三擦り半もする頃には膣内がビクビクと引き攣っていた。

 

「ああっ、ああっ、っ……あああっ……ひぁ、ひゅごいろおぉ……!」

 

 種付けモードの俺のペニスを挿入されて、美優が数秒として耐えられるわけもなく、しかしもうこんな卑猥空間ではそんなことは大した問題ではなくて。

 

 美優をバックから陰茎で責め立てていると、山本さんに感じた以上に、このままこの妹を孕ませたくなってくる。

 孕めと迫りながらでも美優の膣内に射精したくなるほどに。

 でも、それだけはできないから、俺は堪えるしかなかった。

 口にしてしまえば美優は確実にその命令を遂行してまう。

 

「はぁ……美優ちゃん……ソトミチくんとエッチして、ほんとに気持ち良さそう……」

 

 呼吸の落ち着いた山本さんは、口元を緩ませて俺にバックから突かれている美優のことをうっとりと眺めている。

 他人のセックスを見てドギマギしていた山本さんも、もうすっかり3Pに慣れてしまったようだった。

 

「あっ、あっ、あっ、ああっ……らめ、あっ、ぎもひぃ……!」

「美優ちゃん、頑張って、もうすぐ大好きなお兄ちゃんが射精してくれるよ」

「はあ、ふぁ、ああっ……せーし……はぁ……おにいちゃんの……うっ、ぐ、あっ……はあっ……しゃせぇ、しゃせぇしてほしいのっ……!」

 

 山本さんに煽られて、品性を失いつつも甘ったるい声で喘ぐ美優に、ビキビキとイキみ始めた俺のペニスが精液を送り始めた。

 

「美優……美優っ……イクからな……ッ!!」

「あぁ、あぁああっ……おにぃちゃん……きてっ、きてえぇえっ……!!」

 

 どぴゅっ、どぴゅっ、どびゅびゅっ、どびゅっ──!!

 

 尿道に感じる十分な量の精液の流れ。

 さきほどの山本さんの膣内射精も、この美優への注ぎ込みも、最初に射精するだけと宣言したはずが思いっきり孕ませる量の射精になってしまっていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 休みのない連続中出しセックス。

 それも精液をセーブしての射精ではなく、睾丸にある貯蔵液のほとんどを使い切ってしまった。

 今回はさすがにガクッと精力が衰えていく。

 

 それでも、

 

「っ……ぐっ……次、二回目いくからな……!」

 

 俺は気力だけで勃起を維持し続けた。

 美優と過ごした夏休み中の異常な射精回数のおかげで、まるで筋肉を操るように、俺はある程度は勃起に無理をさせることができるようになっていた。 

 心臓は既に壊れてしまいそうなほど鼓動して、このまま十回なんて数字を数えたら腹上死を免れないほどの危機感を覚えながら、俺は剥き身のペニスを山本さんの膣内へと挿入した。

 

「あああっ……ソトミチくん……すごい、あっ……まだ……おっきぃ……!」

 

 勃起した状態で挿入さえすれば、あとはメス化した山本さんのトロトロの蜜穴が優しく竿を包み込んで俺を勃たせてくれる。

 

「はあっ……ふぅ、ああっ……山本さんの、膣内……アツい……!!」 

 

 射精をするほどに敏感になる皮膚が、爛れるほどの熱量を山本さんの愛液から感じ取る。

 ごく薄かったコンドームの隙間がまるで分厚い壁だったかのように思えるほど、生のセックスで伝わってくる山本さんの膣肉の粒感と肉の柔らかさはリアルだった。

 

「ああっ、あっ、あッッ……! ソトミチくん……はぁ、すごい、ああっ、んっ、いや、あっ、ああっっ……!!」

 

 そして、ペニスを突っ込めば、女の子が身を悶えさせて絶頂する。

 その男としての悦びが俺の性欲を支えていた。

 

「ふあ、あっ……おにいちゃん、そんなに頑張って……奏さんにも、出しすぎ……」

 

 注がれた精液を割れ目から垂らしながら、ようやく意識の戻り始めた美優が俺と山本さんのセックスに苦言を呈する。

 すでに射精した後だったから少ない精液になるはずが、孕ませる意欲を燃やしてしまっていることで並以上の量になってしまっているのだ。

 それでも、カラの金玉はピストン運動によって前後に揺られながら、最も孕ませるべき相手である美優の存在を認識して精液の急生産をやめない。

 

 もはや女の子に種付けするための体にされてしまった。

 このセックス大好きなエロ美少女たちによって。

 

「うっ、ああっ、はあっ……!! まだ、こんなもんじゃ……死ぬぐらいイカせてやるからなっ……!!」

 

 一度出したことによって射精までに余裕の生まれた俺は、その逆にイくほど敏感になる女性器を相手に剛直を突き立てて、苦しそうな声が聞こえるほどの刺激を絶え間なく与えていく。

 

 十回連続で中出しセックスなんてふざけたことを言われたわけだが、二人ともイカせまくって気絶させてしまえば、もうそこで終わりだ。

 山本さんの側が続行不可になったのだから俺の責任ではない。

 そのためにもありったけの精力を膣内にぶつけていく。

 

「ああっ、あっ! ひぁあっ、ああっっ……そとっ、みちくんっ……激しいっ……!!」

「うっ……ぐああっ……はぁ、ああっ……まだだ……まだ、もっと……イけ……ッ!!」

 

 労りなどない、ただペニスを打ち付けるだけのピストンに、それでも山本さんの肉厚はその全ての衝撃を吸収して快楽へと変えてしまう。

 むしろその力一杯の杭打ちが山本さんにはちょうどよく響くようだった。

 

「はあっ、はああっ……ソトミチくん……こんなっ、すごいのっ……あああっ、ふあっ、ああっ……っ……ひぁ、あっ、あっ、ああっ……ぎもっぢいぃ……っ!!」

 

 濡れ方と、解れ方と、もうこれ以上には気持ち良くなりようもなかったはずの山本さんの肉穴は、俺のペニスの形を学習するかのようにねっとりと絡み付いてくる。

 これほどの名器が相手では無心で突きまくるなんてことはできず、俺の射精欲に三度目の限界が近づいていた。

 

「あああっ……ぐぅうっ……かぁ、はあっ……!!」

 

 山本さんの熱い愛液の温度に包まれて、射精したい衝動を感じてからは我慢できなくなるまではすぐだった。

 それはただひたすらに気持ちのいいお漏らしのように、俺は山本さんの膣内でオーガズムのときを迎えてしまった。

 

「ソトミチくんっ……そとみち、くんっ……!!」

「あああっ……出る、出るッツ!!」

 

 枯れていたはずの精液はその粘液を絞り出して、着実にその量を減らしていく精子を包みながらどぷどぷと山本さんの膣内に吐き出された。

 

「ふあああっ、ひゅごい……ソトミチ、くんの……精液、注がれてるの……感じる……」

「はぁ、はぁ、うっ……ぐっ……」

 

 三連続の中出しに、精液はおろか筋力のほとんどすら使い尽くして、それでも俺はまだセックスを止めることができない。

 ここで止まったら二度と奮起出来なくなる。

 

「美優っ……いくぞ……また中に出すからな……!」

「お兄ちゃん、まだ勃起してるの…………しゅ、しゅご……あっ、あっあっああっ……! きひゃ……ああっ、んあっ……ひぁ、ああああっ……!!」

 

 俺が挿入した瞬間に、美優はイって、あとはもう快楽に身を委ねるだけになった。

 男にはイける回数に限りがあるというのに、この妹ときたら呆気なくイきやがって、ほんとうに悔しくて仕方がない。

 これまで自らを俺が射精するための道具だと称してきた美少女二人が、今度は俺を竿玩具として弄んでいる。

 その事実にペニスは怒りを宿して、減衰する性的興奮を補って張り詰めていた。

 

「んあっ、あっ、おにい……ちゃん……!! そんな、乱暴に……あっ、ふああっ……ダメっ……え……ッッ!!」

 

 俺の肉棒に膣内を蹂躙されて、言葉だけは嫌そうにしながら、その顔は綻んでさえいる。

 その下で、二度目の中出しにイキ果てていた山本さんも、もはや俺たち兄妹のセックスを見て興奮に身震いをさせていた。

 

「美優ちゃんも、ソトミチくんも、ほんとにエッチ……っ……はぁ……美優ちゃんが犯されてるの、見るだけで……なんだか……私も……ッ」

 

 俺が美優を強引にイかせまくって、美優はもうロクに足にも腕にも力が入っていないくせにオーガズムによる痙攣だけは立派にしていて、山本さんはその美優に感化されてピストンのリズムに合わせて挿入されているかのように体をビクつかせていた。

 

 果てには美優と二人の山本さんは乳首の先で繋がって、俺が美優を引き上げるたびに擦れるその刺激に、二人は嬌声を上げては貪るようなキスをして劣情を分け合っていた。

 

「はぁ……はぁ、くそっ……こんな、エロい女二人……俺一人で満足させなきゃならないなんて……ッ!」

 

 怒りは湧き上がってくるのに、肝心の結合部といえば、兄の精液を吸い付くそうとするいやらしい妹の膣穴に翻弄されていた。

 どれだけ絶頂させても俺の肉棒を求めることをやめない。

 普通の女の子が相手ならもう二、三人はイキ果てて力尽きた死体の山が積み上がっていてもおかしくないのに、どれだけのキツいアクメを喰らわせてもゾンビのように這い寄ってくる。

 

「おにぃひゃん……おに、ひゃんの、せっくしゅ、しゅき……あっ、あっぐあっ……ふああっ、んあっ、ああっ……!」

「くそっ……美優っ……ああっ……ぐ、ううっ……美優ッ……!!」

 

 もうダメだった。

 また射精してしまう。

 挿入した直後はいけると思っていたのに。

 この二人の体は想像を超えて易々と俺のペニスを限界に追いやってくる。

 射精されたくてセックスしている女の体はこうも気持ちがいいものなのか。

 

「もういいっ、出すからな……出すぞ美優っ……中に……っ……イクッ……!!」

「んあっ、あっ、ああああっ!! おにいひゃん!! おにぃ、ひゃ……あんんぐあっ、ああっ!!」

 

 どくんっ、どくんっ、どくんっ、と塊みたいな精液が押し出されて、すでに生殖溶液で一杯だった美優の膣内を必要以上に白濁液で満たしていく。

 

「んっ、んんっ……美優ちゃんの、膣内がビクビクしてるの……あっ、ふあ……私にも、伝わってくる……っ……!!」

 

 それに同調するように山本さんも体を跳ねさせて、二人で仲良く絶頂してベッドに力なく倒れた。

 

「あっ、あっ……お兄ちゃん、の……せーえき……また、しきゅうにきた……」

 

 美優は嬉しそうにそう呟きながら、子宮で俺の精子を感じるようにイキ続ける。

 俺に膣出しされた後も感じイッてしまうのがこの妹の体の最もエッチな部分だ。

 こんな強気な顔をしておいて兄の射精が何よりも好きなので本当にどうしようもない。

 

「はぁ……あぁ……つ……次……また……山本さんに……」

 

 美優の膣からペニスを引き抜いて、脚を開く山本さんのすっかりと穴の広がったアソコに、竿を挿入しようとしたのだが。

 

「あれ……なんだ、穴の場所が……」

 

 ペニスは大きくなっている。

 が、肝心の硬さがなく、ふにゃふにゃになっていた。

 さっきまでと同じ要領で入れようとしているはずなのに、どこが入り口なのかわからないぐらいに挿入が困難になっていた。

 

「はれ……あっ……んんっ……。ソトミチくんのが……入り口で、溶けちゃってる……」

 

 山本さんは俺をからかうように笑顔になっていたが、俺としては死活問題だった。

 まだ美優と山本さんに二回ずつ、計四回しかセックスができていない。

 これからあと六回もの射精をしなければならないなんてもう絶望しかなかった。

 

「こんな……まだ、半分も……!」

 

 俺は自分でぬるぬるの竿をシゴいて勃たせようとしてみるが、蒟蒻でも擦っているかのようにまるで手応えがなかった。

 というよりペニスの触覚がほとんど死んでいた。

 

「嘘だ、これじゃあ…………ふううぅ……硬く、しないと……」

 

 焦れば焦るほどに陰茎から芯が抜けていく。

 そんな俺を見かねてか、美優が自分と山本さんの股の間……ちょうど、二人のクリトリスが擦れあっている部分に手を入れて、指を上下に開いて俺のペニスを招いた。

 

「おにーちゃん、ここにそれ挟んで」

 

 半勃起状態のペニスを二人のクリトリスの間に挿れろということだった。

 思考回路が少女二人の変態性に焼かれて何が何だかわからなくなっていて、それでも、美優の兄として約束を果たさなけばならない想いは強くあったので、俺はその提案に乗ることにした。

 

「私たちでソトミチくんのおちんちんを元気にしてあげるね」

 

 弾むような声で山本さんは言った。

 無尽蔵の体力と性欲のある山本さんからしたら、俺が身を削ってどうにか四回まで至ったこれまでのセックスでさえ、ものの一つだったのだろう。

 俺はとっくに命がけで、腹上死寸前まで来ているのに、このエロ美少女たちときたら射精させることへの容赦がない。

 

「言っておくけど、もう気持ちいいことをしてもらったぐらいで勃つような状況じゃ……」

 

 金玉はすっからかんで、海綿体も疲弊仕切り、どうにか勃起を支えていた周辺の筋肉さえ使い尽くした。

 精力はとっくに底を尽きて、ムンとくる汗と精液の匂いに充満したこの部屋の雰囲気が冷めてしまったら、避けようもなく訪れる賢者タイムに俺は完全にダウンしてしまう。

 

 そんな諦めにも似た心持ちで、俺は蛙みたいにして恥ずかしい格好で股を開く二人のクリの間に、どうにか勃起の形だけを保っている陰茎を差し込んだ。

 

「ふぅ……っ……二人とも、とろとろで気持ちいいよ……」

 

 雄と雌の体液が混じり合って、それがローションとして十分に機能しているそこは、挿入をするだけで股間に響くぐらいの快楽ゾーンだった。

 しかし、それでも、俺のペニスをイキリ勃たせるまでには至らない。

 

 それも二人は承知の上だったのか、クリではさまれてもなお柔らかいままの俺のペニスを、二人はクスクスと嘲笑いながら楽しんでいた。

 

「お兄ちゃんのちんちんがこんなにダメになったの初めて……」

「ずいぶん二人で絞ったもんね」

 

 昨晩は美優の忠告に従ってエッチを我慢していたものの、俺はこのセックスの前に山本さんと美優のフェラで一発ずつ、そして美優には生セックスでの中出しをしての三回もの射精をしていたのだ。

 一日で十三回なんて、そんなもの要望しているほうがどうかしている。

 

「んっ……ぁ……二人で挟んでると……ふぁ……んあっ……素股とは、また違う……っ」

 

 美優は俺のペニスを使ってクリオナをするように、クイックイッと腰を前後させる。

 床オナみたいな情けない動きに俺の興奮の火がまた着き始めていた。

 

「あっ……美優ちゃん、そんなにお股を押し付けたら……っ、んぁ、あっ……私のクリまで、押し込まれて……はあっ、あっ……」

 

 美優の腰振りに合わせて、俺のペニスを間に挟んでいる山本さんが気持ちよさそうに身をよじる。

 兄の肉棒のこととなると途端に我慢が利かなくなる美優に山本さんも追いつこうと、逆側から波打つように腰を動かし始めた。

 

「ああっ……奏さん、だめぇ……クリの、刺激……あっ、あっ……強く、なりすぎちゃう……」

「美優ちゃんだけ楽しむなんてずるいもん……はあ、ああっ……っ……あっ、ああっ……気持ちいい……」

 

 美優が腰を振れば山本さんが感じて、山本さんがクリを押し付ければ美優が喘ぎ声を上げる。

 その相互的な動きが二人の興奮を高め合って、俺の肉棒を使っているはずの二人は、俺なんてそっちのけで乳繰り合ってエッチを楽しんでいた。

 

「あんっ、あ、あっ……、美優ちゃん……気持ちいい……っ!」

「奏、さん……ふあっ、激しっ……らめっ、あっ、もう……!」

「美優ちゃん、ほんと早いんだからっ……じゃあ、私が……イかせちゃうから……」

「あっあっ……ひあっ、あっ……らめらめっ……っ……ああああっ!」

 

 山本さんが激しく腰を振って、美優がイッて、ダラダラと垂れ落ちてくる愛液に、ぬちょぬちょと卑猥な音が響き渡る。

 

 その間で良いように使われている俺の肉棒は、また苛立たしく血管を浮き上がらせて、それがちょうどイボのように二人のクリへの刺激を増幅させていた。

 

「あんっ、あっ、お兄ちゃんの、カタい……ひあ、あっ……また、ひぐっ、い……ぐっ……!」

「ソトミチくんの……また、おっきいっ……! はぁ……すっごい……あっ、ああっ……また、挿れてほしくなっちゃう……!」

 

 よがり狂う二人の艷声に、俺のペニスは勃起した。

 それでも、俺はすぐに山本さんの膣内に挿れることはせず、二人の淫部に隙間にペニスを挟んだまま前傾になった。

 

「そんなにイイんだったら……このまま、クリイキで……!!」

 

 俺は美優ごと山本さんの体を強く抱きしめた。

 そして、出来うる限りに二人の股間が密着するように腕で締め上げて、硬くなったペニスを二人のクリトリスに無理やりプレスさせた。

 

「はぁ、はああっ……二人まとめて、イけッ……!!」

 

 俺は小休憩で回復した筋力を総動員して、敏感になった陰核を亀頭の先とカリの張りで抉るぐらいの気持ちで猛ピストンした。

 

「あがぁっ、はあっ、ひイグっ……あっ、あっ……!! おにいひゃらめぇあっ……ぎもひ、あっ、んあああっ!!」

「わたし、もっ……イクッ、イクぅっ……!! あああっ……カタいの、ひゅごいい!!」

 

 いつもより高い声で泣くように喘ぐ美優と山本さん。

 これまで膣内に挿入してのセックスがメインだったから、二人ともクリイキには慣れていない。

 

 と、思っていた。

 この責め方なら二人ともすぐにダウンするはずだったのに。

 

「おにいちゃん……もっと、もっとぉっ……!! ほしぃの、それ、あっ、しゅきっ……!!」

「ひああっ、ああっ、んああっ……!! ソトミチくんっ……きもちいよぉっ……!!」

 

 クリトリスにペニスを擦り付けるほどに二人は更なる刺激を求めてくる。

 二人してだらしない顔で、今はもう快楽以外の一切が要らないと声が聞こえてくるほどの、いやらしい目つきで俺を見つめていた。

 

 これでもダメだった。

 山本さんはともかくとして美優はオナニーも大好きな淫乱妹であることを忘れていた。

 クリの刺激にだって慣れていたんだ。

 

「ぐっ、ああっ、そんな、あっ、あっ、ダメだっ…………うっ……!!」

 

 挿入中の膣内を覗くように、愛液と精液でぐちょぐちょになった腹部を前後する肉棒が、二人のエロ美少女にイジメられる様子が側面側から見えていた。

 美優も山本さんも、俺のピストンに喘ぎ悶えて、もう何度もイッているはずなのに、懸命に腰を振る俺を嘲笑うかのように余裕の顔をしていたのだ。

 

「ああっ……くっ、あっ、ダメだっ……もうイクッああ出るっ……!!」

 

 二人分の卑猥な魔力に触れて、俺の脳裏に敗北の二文字がよぎった。

 それはペニスの側から脳へと送られた精子放出の命令であり、俺にはそれを止める術がなかった。

 

「山本さんの、膣内に……膣内に出すからな……ッ!!」

 

 二人のお腹の隙間に射精してしまいそうになったギリギリ手前で、俺はペニスを引き抜いて山本さんの膣内に挿入し直した。

 刹那ほどの猶予で俺は全力のピストンを山本さんの肉穴にぶつけていく。

 

「んああっ、きたぁっ……はぁ、はあっ……そとみち、くんのっ……んあっ……射精するためっ……だけにぃ……あっ、ああああっ……!!」

 

 まるで精液の吐き捨て場にように膣内を使われた山本さんは、その扱いの雑さに興奮が昂って、俺が挿入したその一発で絶頂していた。

 膣壁が伸縮を繰り返し、その中で俺は──どぴゅっ、びゅっ、びゅるるっ──と、大量の精液を放出して三度の種付けを終えた。

 

「はあ……アアッ──?!」

 

 その瞬間のことだった。

 

 無理矢理に勃起させられていたペニスに、まるでヒビでも入ったかのような痛みが走った。

 その直後に全身の筋肉がピシッと硬直し、破裂しそうなほどの拍動をしていた心臓は、ピンで刺された痛みに似たショックがトドメの一撃となって嘘のように鎮まった。

 

「アッ……かはぁッ……」

 

 死んだ。

 

 そう思った。

 

 全身から力が抜けて、俺は崩れるようにして倒れてベッドに横たわった。

 

 俺はセックスのしすぎで死んだんだ。

 こんなエロい女二人を相手に何度も射精とピストンを繰り返した。

 その代償がこれだ。

 でも、悔いはない。

 これだけの美少女を抱き潰して死ねたのだ。

 後悔など、あるはずが……

 

「あれ……ソトミチ、くん? 大丈夫……?」

 

 掠れゆく意識の中で聞こえる山本さんの声。

 その変調を感じ取った美優も俺のほうを向いて、ようやく俺が限界を迎えたことに気づいたようだった。

 

 美優はなんとか体を起き上がらせて、お尻を向けていた体勢から反転して俺の近くにやってきた。

 

「お兄ちゃん、セックスなんかで死んじゃだめ」

 

 思いのほか厳しかった妹の励ましに、しかし、たしかに俺はまだこんなところで死ぬわけにいかないと、正気に戻ることができた。

 

 いまはまだ過程。

 山本さんと、こうして仲直りをして、そしたら美優と思う存分にイチャイチャするんだ。

 

「うっ……ぁ……あぁ……」

 

 呻きにも似た返事に、それでも二人は安心したようで、俺のことなど気にせずにまたキャッキャウフフし始めた。

 

 俺はもう、いい。無理だ。

 十回連続で中出しなど、最初から人間のやることではなかった。

 後のことは美優に任せよう。

 

 俺は、もう、十分に頑張ったよな。

 

「お兄ちゃん、出すだけって言ってたのに、量多すぎ」

「掻き出してもまだこんなに出てくるよ。すっごい、あったかい」

「奏さんにまでそんなに出して」

 

 二人は膣内に溜まっていた精液を手のひらの上に出して、それを山本さんのお腹の上に広げてあれこれと語っている。

 どう考えても睾丸に収まる量ではないのだが、この際だからもうその仕組みとかは気にしないことにする。

 

「シーツも大変なことになっちゃいましたね」

「これはさすがに買い替えかなぁ……」

 

 汗と精液と愛液と、色んなもので汚れたこのシーツが、夜のまぐわいの激しさを物語っていた。

 エアコンの設定温度は高めのまま、淫靡に淀んだ空気だけがそれらの体液をエロいものとして成立させている。

 

「美優ちゃんは、こういうの舐めるの、抵抗ない?」

 

 山本さんは自分のお腹に溜められた精液を指差して美優に尋ねる。

 俺の精液だけであれば美優は喜んで舐め取るだろうが、膣内に出されたそれには愛液も混じっているのだ。

 

「抵抗ない……というと、やや語弊がありますが。……自分自身もそうですけど、相性の良い人のは舐めるの嫌じゃないので」

「相性がいいっていうのは、私?」

「はい。以前にお話した通り……細かい条件は結局のところわかっていないのですが、生物的に近い人が相手だと割と何でも受け入れられるので」

 

 美優は美優自身のことも好きだし、俺のことはもちろんのこと、美優と容姿が似ている山本さんは遥以上に体の相性がいい相手と言える。

 もしかしたら美優がここまで山本さんに肩入れをしたのは、そういう本能的な部分の好みもあったのかもしれない。

 

「へー。……実はさ、私もちょびっとだけ、興味が湧いてきたんだよね」

 

 山本さんが返した言葉に、美優は最初は精液の話かと考えて、しかし、それが予想もしなかった一言であることに遅れて気づいた。

 

「ふえ、ん、ん? それって」

「えへへ。いやさ、だって、この先に女の子とエッチすることってないだろうなって思うし。人生経験みたいな、ね?」

「世の中には積まなくていい経験もあると思いますが」

 

 山本さんと美優はそんな話をして、美優は実際に俺の静液を舐め取ってみせて、それから、真剣な表情での会話が始まった。

 

「タンパク質ってさ、長期間残っておくと、ニオイになっちゃうんだよ。だから、キレイにしておいたほうがいいんじゃないかなって」

「シャワーは浴びますけども……!」

「えー! せっかくなんだしさ、ね、ね? お願い……!」

「うっ……うむぅ……でも、それは……」

 

 俺は薄らとした意識で話を聞き流しているだけだった。

 だから、その時になるまで、二人が何の話をしていたのかわかっていなかった。

 ましてや俺と美優のセックスを見て慌てふためいていた山本さんが、女の子を相手にエッチの提案をするなど。

 

「お兄ちゃんの前ではご勘弁を」

「ここしかするとこないもん。ほら、お尻をこっちに向けて。絶対に気持ちよくするから。テクだけならソトミチくんより絶対に上だよ」

「それが逆に心配……って、あっ、ちょっ……!」

 

 必死の抵抗を見せる美優だったが、力比べで山本さんに勝てるはずもなく。

 ベッドに寝そべってままだった山本さんに美優には脚を持ち上げられて、強制的にその股を山本さんの顔の上に移動させられた。

 

 美優の顔が山本さんの股の間にあって。

 美優の股に山本さんの顔が埋まっていて。

 

 それは、もはや疑いようもなく、女の子同士でのシックスナインだった。

 

「なにいっ……!! ア、ガッ──ウッ!!」

 

 その事実を認識した瞬間、俺の体が跳ね上がった。

 しかし、それも一瞬のことで、限界ももう果てまで使い尽くしていた俺に、起き上がることなんてできるはずもなく。

 

「あっ……ああっ……あっ、らめっ……! 奏さ、んっ……そこ、はっ……あっ、んああっ……!」

 

 美優がアソコを舐められて悶えていた。

 セックスをしているときとは違って息にまだ余裕があるからなのか、これまで聞いたこともない声で喘いでいる。

 俺が相手では見せてさえくれなかったその秘所を山本さんに晒して、中出しされた膣内をペロペロと舌でお掃除されている。

 

「んっ……ちゅっ……はぁ……へろっ……ちゅるるっ……はぁ……。美優ちゃんのココ、すっごくえっち……はぁむっ……じゅるっ、へろじゅじゅじゅうぅっ……」

「んああっ! ひあ、らめ、らのぉおっ! らめらめ、やめっ、あっ……んんんっ……ンンッ……!!

「美優ちゃんも、気持ちよくなってばっかりいないで、私の舐めて」

 

 山本さんは美優のクリトリスと陰唇を舐め回して、初めての女の子の感触を味わっている。

 その快感に脳をやられてしまったのか、俺に中出しをされたときからとっくに脳の回路が焼き切れていたのか、美優は山本さんに操られるがままにその舌を割れ目に伸ばしていた。

 

「はぁ、はあああっ……美優ちゃんも、上手っ、あっ、そこっ、イイッ……!!」

 

 男に何不自由しないはずの美少女二人が、お互いの気持ちいいところを刺激し合っている。

 色白でむっちりした裸体が上下に交わって、豊乳を左右で揺らしながら、長い黒髪から赤い舌を伸ばして快楽に耐えながら懸命に互いの秘部を舐めているのだ。

 

 俺は無情にも勃起していた。

 恋人がしてはならないことをしているその最中を見てしまっているのに、本当に情けないことなのだが陰茎を勃たせることを我慢できなかった。

 で、俺とのセックスを目的にしていたはずのこの二人の少女は、せっかく俺が勃起したというのに──俺が動けないなら騎乗位でもしてくれればいいのに、そんな俺のことなど埒外にして新しい刺激に夢中になっていた。

 想像していた以上にこの二人は相性が良かったらしい。

 悔しいったらない。

 

「んっ、むちゅっ、あっ……もう、こんなことまでさせて……こうなったら、容赦しませんからね」

「あっ、あっ、そこっ、ぎもぢっ、あっ……ひゅごっ……こんな、のっ……んああっ……初めてっ……ああっ!!」

 

 気づけば慣れている側の美優が優位に立っていて、山本さんは美優の指捌きにイかされまくっていた。

 美優はGスポットを的確に突いて、それだけではなく、イキまくって感じにくくなった体をどう責めたら敏感にすることができるのか、それをわかっていて舐め方や指の入れ方を変えていた。

 

「あんっ、ああっ……だめ……ほんと、上手すぎ……ソトミチくんと全然違う……」

「はぁ、っ……はあ、当たり前じゃないですか、誰と比べてるんですか、まったく」

「えへへ、ごめんごめん」

 

 美優の責めの上手さに勝てないと悟ったのか、山本さんは美優とのエッチを終わらせると、満足顔で体を起こして、美優を抱き寄せるとそのままベッドに倒れ込んだ。

 

「やることやっちゃった」

「将来後悔しないことを祈っておきます」

 

 ようやく息を落ち着けた二人は、体力お化けの山本さんはともかくとして、美優はもう疲弊しきっている様子だった。

 あの小さい体でよくここまで頑張ったものだ。

 

 俺はといえば、置いてけぼりだった。

 

 まあ、いいさ。

 こういう扱いも慣れている。

 

 セックスのできなくなった俺に役割などないのだ。

 俺はこの部屋の家具の一部になっている。

 

「あのさ、美優ちゃん」

 

 一転して静まり返った室内で、山本さんは汗でぺったりした美優の前髪を撫でて除ける。

 

「どうしてソトミチくんのことがそんなに好きなの?」

 

 そして始まったまさかのガールズトーク。

 

「それは前に会ったときに教えたはずですが」

 

 美優と山本さんはお互いの語れるところを全て語り尽くしている。

 だから、今更そんな質問をすることに、何の意味もないと俺も思っていた。

 

「あの頃はまだ、色々としがらみがあったじゃない? 嘘は言っていないんだろうけど、全部を話してくれたわけじゃないと思うんだよね」

 

 美優が山本さんとの仲良し作戦を遂行するために、言葉を選んでいたのではないかという山本さんの推察。

 当たらずと言えども、といったところだったようで、美優は数秒考えてから口を開いた。

 

「別に、奏さんとそう変わりませんよ。一緒にいる安心感が好きなので。……ただ、そうですね。それが好意足り得る理由については、奏さんとは違うかもしれません」

 

 美優は胸の内を語った。

 俺がまだ意識を保っていることを美優もわかっていて、だからこそあえてそれを口にしたのかもしれなかった。

 

「人を好きになるには、自分が幸せであるべきで。一人でも生きていける自分が、その人といることでもっと幸せになれるから一緒にいたいって……、そう想い合って恋人になるのが正しい在り方だと思っています。でも……」

 

 美優は穏やかな声音で、淡々と語った。

 

「私は、その人と一緒だから幸せになれる──、そんな恋しか、きっとできません。誰が相手だったとしても依存しちゃいます。だから、お兄ちゃんみたいに、一生私を愛してくれる確信がある人じゃないと、お付き合いとかは踏み切れないので」

 

 それは美優の体質が与える影響とは別の側面。

 美優という人間の本質に関わる部分の話で、それは俺も聞いたことがなかったら、驚くと同時に、どこか嬉しい気分でもあった。

 

「私がお兄ちゃんに求めてる安心感はそういうものです。この体質のことといい、都合よく付き合ってもらってますけど……その……私は、結構、真面目に……お兄ちゃんのこと、好きなので……」

 

 照れくさそうに、最後をそう締めた。

 美優が可愛くて悶え死にそうだった。 

 

「んふっ。そっか。やっぱり、お似合いのカップルだね、二人は」

 

 山本さんは美優の頭を撫でて、それから柔らかな丸みで美優をギュッと抱きしめた。

 

「私のために、ここまでありがとう」

 

 それは、断面を区切ってみれば、酷い仕打ちの数々だったように思えた。

 だが、こうして収まるところに収まってみると、山本さんとしては、美優に感謝するしかないぐらいの状況になっていたのだろう。

 そこには一切の偽りのない感謝と慈しみがあった。

 

 俺はその二人の声を聞いて、眠気に意識を虚ろにさせていた。

 これで全てが決着したのだと、胸をなでおろして。

 自らの役割をきちんとこなせたことに、少なからず誇らしさを感じながら、山本さんとの仲良し大作戦は無事に幕を下ろすことになったのだった。

 

 と、このときの俺は、

 

 本気でそう思っていたのだが──

 

 眠りについて、泥に沈むような深い眠りだったはずなのに、まだ朝陽が部屋に差し込んだばかりの時間帯に俺は目を覚ました。

 

 俺はベッドの中央に寝かされていて、その両サイドには俺の腕をおっぱいで挟むようして寝息を立てている巨乳の美少女二人がいた。

 長い黒髪は乱れたままシーツの上に広がっていて、夢でも見ているのかときおり強く瞑られる瞼に、長いまつ毛がピクッと動く。

 さきほどまで俺のペニスを咥えていたその唇は、血色のいい紅で膨らんで、いつも健康的な山本さんはもちろんのこと、美優の顔も水気を多く含んだ代謝の良い肌になっていた。

 寝顔を見ているだけでも美人だとわかる造形に、眼下へと視線を移せば、セックス三昧の日々を送っているとは思えないほどキレイな乳首が露わになっている。

 

 こんな贅を尽くしたようなシチュエーション、まだ味わっていたかったのだが、悲しいことを尿意を催してしまっていて、トイレに行かないとシーツどころかマットレスまでダメにしてしまいそうだった。

 俺は泣く泣く腕をおっぱいから引き抜いて、二人を起こさないように慎重に体を起こすと、ベッドを降りてトイレに向かった。

 

 さすがに体が軋む。

 しかし、また以前のように動けなくなるかと思っていたのに、この体も美優たちとの性交を繰り返すことで鍛えられているのか、歩いてみると体は軽かった。

 

 用を足して、洗面所に向かい、手を洗う。

 射精のしすぎで顔は貧血気味の酷いものだったが、体の筋肉量はというと、ちょっとしたスポーツマンぐらいの肉付きになっていたのだった。

 

「すごいな……」

 

 いつだか山本さんの言った、妹を想う兄の本能の力なのか、元よりあの美優の兄だから素体は良かったのか、俺は鍛えるだけ成長する恵まれた体質に生まれていたらしい。

 

 と、俺がまた不審に鏡を眺めていると、不意に洗面所のドアが開いた。

 俺は驚きの声を漏らさないように喉を締めて、ゴクリを唾を飲むその向こうには、なんということか美優の姿が現れたのだった。

 

「どうしたんだ? 美優も疲れてるだろ?」

「そうなんだけど。お兄ちゃんが起きると私もつられて目が覚めちゃうんだよね」

 

 たしかに美優は俺が起きるとちょうどよく目を覚ますんだよな。

 まだ眠いだろうに悪いことをしてしまった。

 

「お兄ちゃんは何してたの?」

「トイレに起きただけだよ」

 

 予想外に鍛えられていた肉体に自惚れていたことは棚上げにして、ともかく本当ならまだあのおっぱいに埋もれて寝ていたかった。

 

「山本さんは?」

「寝てるよ。気持ちよさそうに」

 

 俺とのことが吹っ切れて、精神的に余裕が出たおかげか、山本さんの眠りは安らかだった。

 あの美優との会話を聞く限り、少なくとも山本さんの恋の顛末に関しては、決着と見て問題なさそうだ。

 

「お兄ちゃんは体は大丈夫?」

「ああ、それが不思議とな。あれだけ無茶したのに、下半身もわりと元気みたいで」

 

 排尿するときに激痛が走るのではないかと心配していたが、そんなこともなく、竿も精力も驚くほど回復していた。

 

「マッサージの効果が効いたのかもね」

「マッサージ?」

「お兄ちゃんが寝てる間にね。お兄ちゃんの体のあらゆるところを、揉んだり、舐めたり。奏さんと」

「なんだと」

 

 そんなことしてたとか。

 あれだけしっとりとした会話までしてたくせに。

 俺をベッドの中央に移動させる過程でまた色々やってたんだな。

 なんで俺が動けないときに限ってそんなエロいことをするんだ。

 

「じゃあお兄ちゃんはまたエッチできるんだよね」

「えっ……ま、まあ……」

 

 美優はそう言って俺の前にしゃがんだ。

 そして、首を下向きにしていた陰茎の先を、美優はパクリとその口に含んだのだった。

 

「はーむっ……ちゅっ……じゅるっ……ちゅっぱっ……」

「おっ、お、お、おい……あっ、美優……! もう、あんだけしただろ……!」

 

 いきなりフェラを始めた美優に、ペニスは勃ってしまって、それでもこんな場所で急にエッチをされたのでは落ち着かず、俺は美優の頭を撫でるようにして諌めて口から肉棒を抜いた。

 

 すると美優は、亀頭のさきっぽを唇につけながら、どこか恨みのこもった上目遣いで俺を見つめてきた。

 

「……少ない」

 

 美優はボソッと呟いた。

 

「えっ」

 

 まさかの一言に、俺は絶句した。

 あれだけの回数だけセックスをさせておいて、まだ足りないというのだろうか。

 

「奏さんには三回中出ししたのに。お兄ちゃん、私と三回目する前に寝ちゃったよね」

「いや、それは……!」

 

 美優が言ったのは、全体の射精回数や精液の量ではなかった。

 五回ずつと約束したあの連続中出しセックスの最後に、美優は自分だけが少ないままエッチを終えられたことに不満を持っているようだった。

 

「でも、その前に美優には一回しただろ? 一番最初の、一番濃いやつ」

「それはそれ。五回は五回。お兄ちゃんは恋人として、お友達より私の中に出した回数のほうが少ないことに何の負い目もないんですか?」

「それを言われてしまうとだな……」

 

 もうこうなった美優はどう諭しても収まらない。

 というよりこの無茶な持論を聞いていたら俺も申し訳ない気分になってきた。

 

「山本さんの部屋なのに、好き勝手やっていいのか? すぐ向こうで寝てるんだし」

「だから、こっそり、ね。早く早く」

 

 美優は立ち上がって尻を振り、俺を誘ってくる。

 ずいぶんとエッチな妹になったものだ。

 

「あんまり声を出すなよ」

「わかってるって」

 

 俺は美優の腰を押さえると、さっきまでのベッドでのまぐわいとは真逆の優しいピストンでペニスを出し入れした。

 

「あっ……んっ……お兄ちゃんの……すっかり、元気になってる……」

 

 洗面台の隣にある洗濯機に両手をついて、俺の腰振りに乳を揺らしながら美優は感じている。

 美優はただ俺にペニスを挿入されていることを嬉しそうにしていて、これまで山本さんとの仲直り作戦のために我慢していたことが、まだフラストレーションとして解消されていないらしい。

 

「ああぁ……おにい、ちゃんの……おっきぃ…………いつもより……っ……ふぅ……ぐっ……息、苦しいかも……」

 

 美優はその表情こそ気持ちよさそうにしていたものの、よく見てみるとこっそりとつま先立ちして腰を浮かせていた。

 俺も美優の膣のキツさは感じていて、膣壁への密着度が増した分だけ、ペニスを出し入れしたときの肉襞の吸い付きが良くなっていた。

 

 山本さんとセックスしたときにも感じたことなので間違いない。

 俺の肉棒がまた成長してしまった。

 

「ごめん、また大きくなったかも」

「うう~……なんで余計なことするの……こんな、のっ……はぁ、ふあぁ、あっ……私の体には、おっきすぎるよぉ……」

 

 美優は体が小さいだけでなく、そもそもとして膣穴が狭くて広がりづらい。

 一人でも遥ともオモチャでたくさんイジってきたはずが、初めてセックスをしたときに処女らしい狭さをしていたのも、その美優特有のロリマン体質によるものといえる。

 

「でもこれも美優の作戦の副産物だから」

「うっ、うぅ……こんなの想定してない……はぁ……うっ、ああっ、あっ、あぁ……もう、ダメかも……はぁぁぅ……」

 

 一回り大きくなった陰茎は長さもそれなりで、いつも通りの半分の挿入をしていたはずが、だいぶ良いところまで入ってしまっていたらしい。

 

 美優が声を抑えるのに必須でもう限界なことに気づかなかった。

 膣穴がギュウギュウ締め付けてきて、それが絶頂の合図だった。

 

 俺はまだ刺激には耐えられるだけの余裕はあった。

 でも、こうして静かにセックスをしても呆気なくイッてしまう美優が可愛くて、ちょっぴり意地悪をしたくなって無断で射精することにした。

 

「ああっ、あっ、イッ……イッ、くぅっ……、はぁ、はぁ……あっ、ああっ! あっあっ! お兄ちゃん、んっ、ああっ、ナカ、出てっ……ん、んんっ……!!」

 

 美優がイッたタイミングに合わせて、俺は何も言わずに射精をした。

 それを感じ取った美優は驚くと同時に続けざまのオーガズムを強制されて、ガクガクと脚を震わせながら洗濯機にしがみつく力すら残せずに床へとヘタリ込んでしまった。

 閉じる力のない膣内からは白濁液が漏れ出している。

 

「ふぁ、はぁ、はぁ……お兄ちゃん、イクなら言ってよ……」

「悪い。つい出来心で」

 

 中出しされるとイかずにはいられない妹、可愛いな。

 俺が寝る前に山本さんと依存だなんだ話してたけど、こんなエロい妹を手放すわけがないだろ。

 

「他人の家で勝手にエッチをしてしまったな」

 

 見知った場所とはいえ、自分の家以外でセックスをするのはいけないことをしている気分になる。

 しかも、今回は家主がすぐ近くで寝てるわけだしな。

 俺たちって、結構な変態カップルなのかもしれない。

 

「まあ、他人の家だから。私もまだ正気でいられるというのもあるので」

「それもそうだな」

 

 これだけ中出しをしたのだから、美優が甘々の本能型妹になっていてもおかしくはない。

 そうなっていないのは慣れない部屋ですることへの緊張感が美優の理性を支えているからだ。

 

「戻るか」

「うん」

 

 俺と美優は揃って居間に戻った。

 山本さんはまだ寝息を立てて眠っている。

 

「寝てるな」

「よっぽど疲れてたんだね」

「だろうな。精神的な部分は特に」

 

 一日であれだけ泣いて、泣かされたんだ。

 さすがの山本さんだって眠たくもなる。

 

「せっかくだから、ここでもしとく?」

「山本さんの目の前でエッチをするってことか……?」

「うん」

「それは……さすがに……でもな……」

 

 実のところ、眠りのきわに美優を寝取られた身としては、悔しい想いがないわけではない。

 

 ──するか。

 

「起きてるんだけど」

 

 急に山本さんの声が聞こえて、寝言かと思ったら山本さんが目を覚ましていた。

 というより、だいぶ前から起きていたらしい。

 

「い、いつから、起きてたんだ?」

「ソトミチくんがトイレに行ったときから」

 

 ええっと。

 それって、もしかして。

 俺と美優がエッチをしていた、最初から最後までということだろうか。

 

「二人が脱衣所でイチャコラしてたの全部聞こえてたからね」

「すみませんでした」

 

 俺は深々と頭を下げた。

 美優は予想外に恥ずかしいところを知られて、恥ずかしそうにしていた。

 お前も謝れ。

 

「お二人の仲が睦まじいのはよろしいことですが」

 

 山本さんは体を起こして、両手を上にグッと背伸びをした。

 賢者タイムに入った状態で見ていると実に健康的ですばらしい体つきだ。

 

「お腹がすいたから、ご飯にしよっか」

「ですね。休憩しましょう」

「たしかに、腹は減ったな、でも……」

 

 こんな悠長にしているが、もう朝なのだ。

 いくら山本さんの家がうちと近いといっても、支度の時間を考えたらもう時間もないはず。

 

「何時になったら帰るんだ? 学校あるだろ、今日」

 

 立ち上がって、キッチンへと向かおうとしていた二人に、俺は尋ねた。

 

 至極、真っ当な質問をしたはずだったのだが。

 

 俺の問いかけを聞いて、美優も山本さんも、ポカンとした顔をして俺のほうを見たのだった。

 

「えっ、なんか俺、変なこと言った?」

「そうじゃなくて。お兄ちゃんまさか学校に行くつもりなの?」

「ソトミチくん、そんなに行きたい?」

「え? ……え?」

 

 俺、普通のことを言ってるよな。

 なんで責められてる風なんだ?

 

「学校は諦めたら? いくらお兄ちゃんでも間に合わないよ」

「それは……多少は、遅れるかもしれないけど……。今から帰れば、まだ行ける範囲だろ」

 

 今日は始業式なのだ。

 そんな日に俺と山本さんが揃って休むなんて目立ちすぎる。

 

 と、そんなことを考えている俺に、美優は怪訝な顔でなおも確認を続けてきた。

 

「これからまた四回エッチするんだよ? ほんとに多少の遅れで済むの?」

「あ? え? ……ええっ!?」

 

 予想外の言葉に、しかし、山本さんもすっかりその気だったようで。

 何を言ってるのかと美優と顔を見合わせて首をかしげていた。

 

 たしかに俺は二人に五回ずつ中出しすることを約束した。

 でも、もう十分に満足はさせられたというか、場の空気的にも、みんな悩みも解決できてすっきりハッピーな感じだっただろ。

 

「まさか、私のお兄ちゃんが、約束を守らない……なんてこと、ないよね?」

「私はあまり強く言える立場じゃないけど……。でも、最後のことだし、もうちょっと大切にしてもらいたかったな……」

 

 正直なところ、絶句するしかなかった。

 しかし、非は俺にあった。

 

 美優の言う通り、約束を果たさずに終わるというのは、少なくともこの妹の兄としてはあってはならないことだった。

 それがわかっていたから、山本さんもそれを当然のこととして期待していたし、だから、もう俺は学校をサボってこの美少女二人とセックスするしか道はないのだ。

 

「わかった。今日は、休みの連絡を入れよう……」

「やったぁ! ソトミチくんとエッチだぁ!」

「さすがは私のお兄ちゃん。そういうとこ好きだよ」

「ははっ。はあ。ありがとう」

 

 女の子二人がヤル気なのだ。

 男が些細な体裁なんて気にしてどうする。

 

 こんな可愛い子とセックスができるなら他に望むべくもないだろう。

 

「それじゃあ、ソトミチくんのために、美味しい朝ごはんを作るからね」

「お兄ちゃんはベッドでダラダラして待ってて」

 

 男をダメにする代表みたいな美少女二人は、裸のままエプロンを身につけて、息を合わせたように仲良く同時にキュッと紐を絞った。

 そんな二人が、薄い布を挟んでおっぱいを押し付け合って、両手を指を絡ませるようにして繋いで俺に楽しげな目を向けてきた。

 

「今朝の献立はぁ……スクランブルエッグを私のお腹の上に乗せて、ソトミチくんはそれを口で掬うように食べて……、メインのパンケーキは、美優ちゃんから口移しで食べさせてもらいましょうか」

「奏さん、正気ですか」

「美優ちゃんは今後一生やらないだろうし、これもいい思い出づくりだと思って、ね?」

「そう言われてしまうと、弱いです」

「お……俺は、寝てるからな」

 

 もうどうにでもなれとふて寝を決め込んで、そんな俺を尻目に二人は仲良くキッチンへと向かった。

 

 ずいぶんと仲が良くなった二人のイチャイチャする声が聞こえる。

 

 これ以上に不健全になりようもないと思っていた俺の生活は、まだまだこれから下品に堕ちていくようだった。

 



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私がこれからどんな人とエッチをしても、一生忘れられなくなるぐらいの気持ちいい中出しをして

 

 三学期制の学校に通う俺の、二学期の始業式の日の朝。

 

 俺は学年で一番可愛いと噂の、とびきりエロい巨乳の美少女の部屋で裸になっていて、さきほど妹との中出しセックスを終えてから今はベッドでゴロゴロしている最中だ。

 そのクラスメイトと妹は二人でキッチンに立っており、俺のために朝食を作ってくれている。

 

「ソトミチくん、お待たせしました~」

 

 踊るようにキッチンから出てきたのはエロクラスメイトの山本さんで、裸エプロン姿の彼女はその唯一の衣服を脱ぎ去るとテーブルの上に仰向けに寝転び、皿に盛ってあったスクランブルエッグをわざわざお腹の上に乗せて俺を誘ってきた。

 そこに続いてやってきたのは切り分けられたパンケーキを片手に部屋に戻ってきたエロ妹の美優で、テーブルの側に膝をついて座ると背中に手を回して紐を引っ張った。

 はらりと落ちたエプロンを美優は退けて、もう片方の手に持っていたスプレー缶からホイップクリームを山本さんの豊かな胸の頂に乗せると、さらには蜂蜜までをそこに垂らした。

 昨晩まで俺とのセックスでだらだらにアソコから漏らしていた体液のように、エロティックな粘性が傾斜の大きい丘の上から流れてくる。

 

 いわゆる女体盛りと呼ばれる受け皿となった山本さんは、その細長い指で自らを膝をなぞり、腹部へと俺の顔を誘って、赤い舌をべーと出して本性を剥き出したそのエロ顔にはもはや恋に悩んでいた頃の面影など微塵もなくなっていた。

 俺はその淫らな裸に招かれるままに、山本さんの膝の間に入るようにして、朝食のときを迎えるのだった。

 いわずもがな俺も裸である。

 

「お兄ちゃん。一生に一度の体験をどうか楽しんでね」

「美優ちゃんもしてあげればいいのに」

「しません、こんな下品なことは」

 

 美優はあくまでも冷ややかにそう言うと、山本さんの乳首に吸いついて、「ああんっ」と喘ぎ声を上げる山本さんを無視してホイップクリームと蜂蜜を口に含むと、皿にサーブしていたパンケーキを一切れ咥えてから俺にキスをしてきた。

 

「んっ……んちゅ……くちゅっ……」

「美優……っ……んあむっ……んくっ……」

 

 口内で混ざった食事を口づけによって摂取して、美優は俺が飲み下すたびに隅々まで口内を舐ってキレイにしてくれた。

 俺の生涯でもこんなはしたない食事の仕方をすることは今後ないだろう。

 たぶんこれも、美優としては山本さんを必要以上に泣かせてしまったことへの負い目からしているのだろうが、この卑猥の権化みたいな人の発想にわざわざ付き合うこともなかろうに。

 しかし、なぜなのか、俺はこの非日常的な変態性に勃ってしまっていた。

 

「勃起しながらの食事ってどんな気分かな? ソトミチくん」

「頭が痛いけど、悪くないよ。すごく興奮する」

 

 本当にこれから一生ない経験だろうしな。

 それからパンケーキとスクランブルエッグとを、組み合わせなんて関係なく、俺は美優のキスと山本さんへのお腹に口をつけるのとを繰り返して、隣にポット型の容器に入った牛乳が置かれていることにときおり意識を持っていかれながらも食事を進めたのだった。

 

「んふっ、これ気になる?」

 

 食事が終わって、体を起こした山本さんは、牛乳の入った容器の取手を摘んでニコッと笑った。

 嫌な予感がする。

 

「美優ちゃんに飲ませてもらおうか」

 

 弾むような声で美優を指名した山本さんとは対照的に、緊張した面持ちの美優が、その言葉の意味を理解して俺に近づいてくる。

 

「これは美優ちゃんのおっぱいなので、ソトミチくんは美優ちゃんの乳首をちゅーちゅーして飲んでね」

 

 山本さんが牛乳ポットを手に俺を誘導して、その前で美優は膝立ちになり、重たそうなおっぱいを持ち上げた。

 どんだけ変態なんだこの二人は。

 

「私と奏さんとを同列に見ないで下さい」

 

 美優は俺の内なる思考に睨みを利かせて言及してきた。

 たしかに美優と山本さんとでは変態のベクトルが違う。

 

「いいからいいから。はい、ソトミチくんは美優ちゃんのおっぱいを吸って。美優ちゃんはソトミチくんが上手におっぱいを飲めたらいい子いい子してあげてね」

「なんて屈辱的な……」

 

 ほんとどうしてこうなったんだろうな。

 などと思いながらも俺は、膝立ちしている美優の股下に足を伸ばして座り、ちょうど乳首が目の前にくる角度まで体を起こして、そのまま美優のおっぱいに吸い付いた。

 

「んっ、あっ……! お兄ちゃん、躊躇なさすぎ……!」

 

 美優の乳首が吸えるのなら都合など何でも良かった。

 俺がちゅぱちゅぱと美優の乳首にしゃぶりついていると、美優の乳房に山本さんが牛乳を垂らしてきて、俺はそれを零さないように強く吸い付いたり舌を出したりして飲んでいった。

 

「ちょっ、んっ、はぁ……あっ、あっ……そんな、強く吸っちゃ……ダメっ……ああっ、ん、あっ……!」

 

 牛乳を飲ませる、なんてのは変態プレイをするための口実でしかなくて、山本さんは少量のミルクが少しずつ美優の乳首から出るように、上手くポットの傾きを調整してくれた。

 美優のおっぱいは濃厚でとても甘かった。

 

「そんな、吸っても、出ないからっ……んんっ……ああっ……お兄ちゃん、らめっ、あぁ、らめえっ……んああっ……イっちゃう、から……ほんとにだめええっ……!」

 

 母乳とは、子を産んだ後に出るものだ。

 それを擬似的にとはいえ俺に飲まれている美優は、たぶんめちゃくちゃに興奮して気持ち良くなっているはずだ。

 乳首からは保育用の養液を出して、股からはセックス用の愛液を垂らして、この妹も否定のしようがないくらいに不健全で淫猥だった。

 

「あっ、あっ……イクッ……ひぃあっ、イク、イクッッ……!!」

 

 俺に乳首を吸われながら、美優はイった。

 おっぱいをあげていることへの興奮と、乳首への刺激だけで、妹はオーガズムに達してしまったのだ。

 

「美優ちゃんったら、おっぱいをあげてるだけでイっちゃうなんて。それじゃあママにはなれないよ?」

 

 山本さんが煽りをくれて、美優は不満げにしつつも反論することができず、今度は山本さんがおっぱいをくれることになった。

 俺にはママが二人いる。

 

「はーい、ソトミチくん。ミルクの時間だよぉ」

 

 俺のことを小馬鹿にするかのような撫声で、自から乳房に牛乳を注ぐ山本さんの乳首に、俺は本能のままに吸い付いた。

 その体格差のお陰で乳房のサイズも乳首の咥えやすさも美優より一段上の山本さんのおっぱいは、どれだけ強く吸っても許してもらえそうな包容力があった。

 

「んんっ……ソトミチくんってば、そんなに吸ったら本当に出ちゃうかも……。上手だよ、ソトミチくん……はぁ、っ……あっ……。すっごく、気持ちいい……」

 

 山本さんは一生懸命におっぱいを飲む俺を撫で撫でしてくれた。

 口を大きく広げておっぱいを吸うと、柔らかい乳肉がその分だけ口内を満たしてくれて、気づけば俺は山本さんに抱きついて乳首をしゃぶっていた。

 

「お兄ちゃん……奏さんのおっぱいでそんなに興奮して……。そんなにエッチなことがしたいなら…………はゆっ……んっ……じゅるるっ……ちゅっ……」

 

 俺が山本さんのおっぱいを堪能しているその陰で、何か我慢ならなくなった美優は、ギンギンに勃起していた俺のペニスをフェラチオし始めた。

 

「んっ……あっ、美優っ……そんな、急に……!」

 

 山本さんの背後からじゅぶじゅぶとペニスにしゃぶりつく音が聞こえて、想定外のことに山本さんもおっぱいタイムをやめて振り向くと、そこには先ほどの授乳エッチで本能ダダ漏れモードになった美優の姿があった。

 緩んだ顔で一心不乱に肉棒を舐めて、しゃぶって、土下座でもするように頭を深くまで下げて喉奥にペニスを咥え込んでいる。

 

「こら、美優ちゃん、勝手なことしちゃダメでしょ」

「んむぅ……んっ……ぐっ……じゅぶぶっ……じゅっぶっ……、ちゅぱっ……はぁ……。こんなことさせられて……もう、我慢なんてできません」

 

 美優は俺のイチモツから口を離すと、我先にと俺に跨ってきて、一秒と間を置くことなく腰を下ろした。

 

「あっ……ああっ、あっ……お兄ちゃんの……おっきぃ……!!」

「美優っ……ぅ……ああっ……!!」

 

 美優が自分から腰を動かして、気づけば騎乗位セックスが始まっていた。

 寝起きからお風呂で中出しをしていたこともあって、美優の性欲は溜まりっぱなしだったのだろう。

 

「美優ちゃん、次は私でしょ!? 美優ちゃんはさっき、ソトミチくんと……」

「私は、っ、あっ……お兄ちゃんと、仲良しだから……あっ……ああっ……んあっ、はぁ、あっ……!! 何回エッチしても、いいんだもん……!!」

 

 正論を振りかざした暴論だった。

 交互の順序からしたら、次は山本さんが俺とセックスする番のはずだったのに。

 それなのに美優は山本さんに断りもなく俺のペニスを挿入してしまったのだ。

 

「んっ、んんっ……あっ、はぁ、ああっ……お兄ちゃんの……すきっ……すきぃっ……!」

 

 そのなりふり構わない姿は、もう美優が理性を維持していられなくなっている兆候だった。

 由佳と、山本さんと、それぞれのために俺とセックスしたい欲望を自制して、その最後となった昨日からは何発もの中出しをされているのだ。

 むしろここまで正気でいられたのが奇跡に近い。

 

「もう……そんないけない子は……」

 

 しかし、それでも、今は契約の履行の最中で、この瞬間だけは俺を使用する優先権は山本さんにある。

 

 だから山本さんも容赦はしなかった。

 山本さんは俺へのおっぱいタイムを終わらせると、ミルクポットをテーブルに置いて、俺のペニスに跨る美優の後ろに回り込んだ。

 

「美優ちゃんも、ソトミチくんも、二人まとめてイかせちゃうからね」

 

 山本さんは騎乗位でセックスをする美優の背中におっぱいを押し付けるように、体を密着させて強制的に美優を前傾へと倒した。

 それと合わせて、山本さんは美優の膝の上に自らの膝を絡ませて、腰と腰をガッチリと固定して一つの体として全身のコントロールを奪ってしまった。

 

「ふえ……え、えっ……!?」

 

 困惑する美優に、山本さんは美優の意思など一切考慮することなく、全身を絡めたまま腰をズプッと落とした。

 美優と山本さんの動きは完全に同期していて、山本さんが腰を落とせばその分だけ美優の腰も下がる。

 抵抗のしようもないその膂力と体重差に、美優は俺のペニスを根本の一番深くまで咥え込まされた。

 

「あっ、あああっ……らぁあらめぇっ!! こんな、のっ……んっぐっぅうんあああっ……!!」

 

 美優が主導の騎乗位ともなれば、いくら本能モードになっていたとしても、ギリギリ自分で動くことができる程度の刺激になるようにコントロールがなされる。

 しかし、山本さんはその臨界点を一気にふっとばして、以前よりも更にサイズの増した俺の肉棒をまるっと美優の膣内に入れてしまった。

 更には美優に上から体重を被せて、俺の下腹部と割れ目を密着させたまま、グリグリと子宮口を押し付けるように腰をグラインドをさせてきた。

 

「ああっ、あっ……山本さん……それはっ……俺も……う、があっ……!!」

「ひあああっ、ああっ、あっぐ……ぅっ、ああっ……ひょなおっきいので犯しちゃイヤああああっ……子宮、壊れちゃううっ……!!」

 

 これまでの美優からしたら考えられないぐらいの深く強い刺激。

 全身雁字搦めで強制でもされていなければ絶対にすることのなかったエグいストロークだった。

 

「ふぅ、っ……美優ちゃんがいけないんだよぉ……。私がエッチするはずだった、のにっ……はぁ……はっ……ソトミチくんのこと取るから……」

 

 山本さんはその状況を楽しんでいて、きっとそこにはこれまでやられた分の仕返しも含まれていたのだろう。

 どれだけ美優が泣いて喚こうとも、ひとカケラとして手心を加えるつもりはないようだった。

 

「おにぃ、ちゃんの……ぉんっおっ、ああっ……ちんちん、子宮に入ってるうぅ……ッ!! あっ、むりぃ、らめぁああっ……ひんじゃう……あっ……んああっ……!!」

「んふっ、おちんちんが子宮に入るわけなんて……っ……ないで、しょ……。でも……美優ちゃんがそう感じるなら……っ」

 

 山本さんは美優の体を抱きすくめると、前後の腰の動きに加えて上下方向にも美優を弄び始めた。

 強制的に子宮を下ろさせるように、山本さんは美優のお腹に腕を回して、子宮口を突き破りそうな勢いで強引に体重をかけさせていく。

 

「ひああっ、んぐうっあっ、ああっ……、あっ、ああっ、ひやあああっああぅっ……!!」

 

 絶叫に等しい声量で喘ぐ美優に、刺激に耐えられなくなっていたのは俺も同じで。

 

「あっああっあっ……出るっ……出るぅ……!!」

 

 どぴゅどぴゅどぴゅどぴゅっ──!!

 

 セックスの最中に呆気なく俺は射精してしまった。

 それでも山本さんは美優を解放しようとはしない。

 

「ほらっ、ほらっ……ソトミチくんがいっぱい子宮に精子を出してくれたよ……!」

「んっ、あっ……ひやっ、いわっないで……ああっ、っ、ああっ!!」

 

 耳元で山本さんに煽られて絶頂する美優が、まるで陵辱されているようで、当然のことながら俺の勃起が収まることはなかった。

 美優の感覚からしたら子宮姦に等しいこのセックスは、下手をしたら廃人になるところまで堕ちる可能性さえある。

 

「んあっあっ、ああっ……もうむりぃいいっ!! いやぁあああっ!!」

 

 イキすぎて、快感により焼かれるほどの負荷が神経にかかり、美優はもう精神的にも危険な領域に入っていた。

 

「はぁ、ああっ……山本さん、もう、それ以上はっ……!!」

 

 快楽に翻弄されながらも、俺はどうにかセックスを止めようとした。

 しかし、そんな美優に、あろうことか山本さんは、更なる追い討ちをかけたのだった。

 

「ソトミチくんに中出しされた精子……いまはどの辺りを泳いでるのかな……」

 

 山本さんは美優に強制的なスタンピングをさせながら、指先で美優のお腹をなぞり、子宮と卵管がある位置を刺激した。

 

「子宮にたっぷり射精してもらえたから……もう美優ちゃんの卵子は……ソトミチくんの何億もの精子に犯されてるかも……」

 

 ボソッ、と、美優の叫び声と比べたら、かき消えてしまいそうな囁きだった。

 だが、そのワードの強烈さが聴覚を鋭くして、俺にまで聞こえたのだから美優にもその言葉は文字通りに認識されていたはずだ。

 

「ふあっ、あっ、ああっ……せーし……お兄ちゃんのっ……せーし……!! ああっ……らめっ、あっ……もうお兄ちゃんのあかちゃんしか……はぁ、んんああっ……あっ、産めないのっ……あっ、ああっ……!!」

「そうだよぉ……っ、はぁ……幸せだね、美優ちゃんは……」

「はぁ、はああっ、ああんんあっ……しあわへっ、ひゅぎて……しんじゃうぅっ……」

 

 美優の脳はバグって、叫ぶ体力も尽きて、ぐったりとした状態のその体内では、膣だけが唯一俺のペニスを感じてイキっぱなしになっていた。

 蠢く肉壁が俺のペニスを包んで、ぐんぐんと精液を吸い上げてくる。

 

「はああっ、あっ……美優……ごめんっ……! また、出る……射精するっ……!」

「あっ、あっ、あっ……おにぃ、ちゃん……の、せーし、いっぱい……っ、んっ、んんっ、ふあっ……ほしぃ、のっ……!」

「あっ、ああっ……美優……っ!!」

 

 陰茎の先を子宮口に当てたままびゅるびゅると放出された精液を、山本さんはまるでその精子たちを美優の卵子まで誘導するかのように、またお腹から卵巣の位置までを辿るようにくすぐった。

 

「ふああっ……あっ……おにいちゃんのせーしがしきゅうにいっぱいきてる……んっ、あっ……いま……ナカで、ぷちゅって……」

「あーあ、美優ちゃん孕まされちゃった。大好きな兄ちゃんの精子で、卵子が赤ちゃんになったよ」

「はぁ…………あっ…………アアッ……アッ……」

 

 美優は絶頂に体を痙攣させることすら出来ず、ついには糸が切れたように気を失い、そのまま深い眠りについてしまった。

 

「はぁ、はぁ……山本さん、やりすぎ……」

「うふふふっ。だって兄妹揃って可愛いんだもん」

 

 山本さんは最後までノリノリで、美優を持ち上げてペニスを引き抜くと、ソファーに横にして布団を掛けてくれた。

 俺の腹部は中出しした精液が溢れ落ちてベトベトになっている。

 

「これだけセックスしてるのに、すごい量だね」

「俺もどうしてこうなったんだかわからないよ」

 

 俺と山本さんは食器類を片付けてから、食事のこともあって汚れていた体をシャワーで洗い流すことにした。

 すでに俺も山本さんも暗い感情なんかは吹っ飛んでいて、恋人が寝ている隣で申し訳なくもあるが、楽しく体を洗いっこしながら罪悪感まみれのキスをたっぷりとして、それからまた裸のままベッドに戻ってきた。

 

 明るくて魅力的な表情に戻った山本さんの顔がまたすぐ近くに来て、俺はその柔らかい肉感に包まれながら横になっていた。

 

「もう今頃は、みんな始業式をやってるのかな」

 

 俺の頭を撫でる山本さんの手は、さきほどまで酷使されていた体を労るかのような優しい手つきだった。

 俺たちがこうして部屋でまったりとしている間、他の生徒たちは久しぶりの学校に喜怒哀楽を振りまいているのだろう。

 

「こんなことしてていいのかな」

「午前いっぱい授業するだけだし、始業式だって何回も聞いたような話をされるだけでしょ。おうちでエッチしてたほうが有意義だよ」

「それもそうだな」

 

 学生の本分は勉強をすること。

 しかしながら俺が通っているのは進学校ではないし、学生らしい青春を送るのだって、今後大人になっていくためには欠かすことのできない重要な経験であるはず。

 

「そういえば、山本さんってなんでうちの高校に入ったの?」

 

 山本さんは運動も勉強もずば抜けてできる完璧人間だ。

 学力で考えればまず候補になんて入らないだろうし、かといって就職に強いわけでも特別な催しをやってるわけでもない。

 

 そういや、バイトだってモデルとかではなく、安い給料の居酒屋だったよな。

 山本さんならもっと上手な生き方があったように思うけど。

 

「あれ? 言わなかったっけ?」

 

 山本さんは俺の質問に首を傾げて、思案する。

 どうやら何か核心に関わる事情があるようだった。

 

「そっか。きちんと口にしてはいなかったかな」

 

 山本さんは遠い日を懐かしむように、天井を見上げて、それから和んだ雰囲気でグッと腕を伸ばした。

 

 もしかしたら何かの会話の端にその理由は述べられていたのかもしれない。

 あるいは、美優から伝えられる形で、聞いていた可能性はある。

 それでも、俺は山本さんから直接その動機を聞いておきたかった。

 

「別になんてことはないんだ。普通の女の子でいたかったんだよ」

 

 山本さんは肺から息を抜いてシンプルにそう答えた。

 

「それだけ?」

「うん。それだけ」

 

 ニコリと微笑む山本さんに、それ以上の想いはないように思えた。

 そして、無理矢理に納得しようとした俺を見て、山本さんは気を遣うようにして言葉を続けた。

 

「何でも出来すぎるのは、人と一緒にいるとき窮屈で。男の人と上手くいかなかったのもそれが原因だし。悪く言えば、手を抜いてたというか。……美優ちゃんには、全部見透かされちゃってたけどね」

 

 ごく普段に悩んで、頑張って、人並みに得られたもので生きていく。

 そんな生き方がしたくて山本さんは本気になることをやめた。

 俺に嘘をつくことさえできなかったあの山本さんは、そのときの山本さんからしたら全力で、それが自らの能力を枷する悪癖だった。

 

 美優はそれがわかっていたから、山本さんを傲慢だと評して、本気になれるだけの物を用意した。

 そして、今度は執拗に、かつ徹底的に、山本さんの弱点だけを狙い撃って、ここまで追い込んだ。

 

「だからさ、こんな気持ちいいぐらい負かされて、スッキリしたよ。……そのおかげで、私はちゃんとソトミチくんが好きだったんだってこともわかったし」

 

 優しい声音のまま、山本さんは俺の顔に手を添えて、目を見つめてきた。

 

「本当の本気で全力だったよ。こんなにも欲しい男の人が自分の物にならないのは、悔しいな」

 

 そう俺に告げた山本さんの語気は変わらなかった。

 平坦な語りだからこそ、喉奥の僅かな掠れに本音が滲んでいた。

 

 それでも──

 

「あまり辛そうに感じないのは、俺の気のせい?」

 

 俺が尋ねると、山本さんは首を横に振った。

 

「好きなままでも、応援できる愛があることがわかったから」

「美優のこと、認めてくれたのか」

「うん。ただ、二人が別れちゃったら、私はどうしようもなく許せないかもだけど」

 

 冗談めかしく山本さんは笑った。

 それは、今の俺でも、同じことを思う。

 だから、美優のことだけは絶対に離さない。

 それがこれまで付き合ってきた女の子たちに通すべき義理でもある。

 

「というわけで、ね? 湿っぽい話はこれで終わり。私はまだソトミチくんとエッチする権利を二回も残してるんだから、これからまたたっぷり相手をしてもらわないと」

「わかってるよ。こういう言い方はしちゃいけないんだろうけど……。俺が美優以外とエッチできるのも、今日が最後だからな。こちらとしても楽しませてもらうつもりだよ」

「おっ、いいね。その意気だよソトミチくん。こういうときははっちゃけなきゃね」

 

 山本さんは楽しそうに俺に覆いかぶさって、長い髪を両手でかき上げた。

 くびれのあるボディがそそり立って、反動に巨乳がぷるんと揺れる。

 本当に捨てるのがもったいないぐらいに綺麗な人だ。

 

「ソトミチくん……」

 

 山本さんは俺のペニスをさすって、胸にキスをしてきて、長い舌をいっぱいに使って首を舐めてくれた。

 

「あぁ……気持ちいい……。やっぱり、こういうまったりエッチが一番だよ」

「ちょっとイジめすぎちゃったもんね。時間をたっぷり使って気持ちよくしてあげるから、リラックスしてて」

 

 それから、山本さんは俺と両手を恋人繋ぎにして、濡れた股を膝や肉棒に擦り付けながら、上半身を舌でいっぱいに刺激してくれた。

 特に耳は念入りに舐られて、輪郭の縁いっぱいを舌先でツーっとなぞられてから、一気に穴舐めに入ってくちょくちょといやらしい音を聞かせられたときはゾワッとしてそれだけで射精してしまいそうだった。

 

「うっ、ああっ……こんなの、竿に触れられなくても出ちゃいそうだよ……」

「それでもイかないでくれるのはソトミチくんだけなんだよ」

 

 山本さんは宣言の通りに、神経さえ通っていればどこでも時間をかけて舐めてくれて、いつしか指先で触れるだけで声が出てしまうほど、俺の全身は敏感にさせられていた。

 キス攻めにあっている間も、常に触れている山本さんの体の温度が適度に裸体の心地よさを保って、神経の鋭敏化を少しも鈍らせなかった。

 

「んっ……はむっ……ちゅっ……。えへへ。なんだかもう他の人の男だと思うと興奮してくるよ」

「頼むからそういう悪い影響だけはされないでくれ」

 

 わかるよ。きっと美優の周囲にいた女の子たちも、こうやって常識を破壊されてきたんだろう。 

 あれだけ純情だった山本さんが、実兄妹のセックスさえ許容して、浮気エッチを楽しんでしまっているんだ。

 俺にはもう責任は取れないので、この先のことはこれから付き合っていくであろう素敵な彼氏さんたちに任せることにする。

 

「ところで、そろそろ下の方も……」

「任せて。たっぷり時間をかけて舐めてあげるね」

「お、おう」

 

 本当はもう挿入までしてほしかったのだが、ここは山本さんのためにもグッと堪える。

 

 山本さんは肝心の竿には触れてくれずに、陰嚢やお尻、膝から足の指までを、ちゅっぱちゅっぱとそれはもういやらしく舐めてきた。

 それがまた──夢心地だった。

 

 人間の快楽はどこまで続くのか。

 エッチなアニメを何本と見てきた俺には疑問に思うことがあった。

 だが、タマを舐めている間におっぱいで脚を温めてもらえていたりすると、これがもう全くといっていいほど快楽度が落ちないのである。

 ときおり硬くなった乳首が触れて、それがまた女体を意識させてきて、結局はセックスが上手い人の前戯はマッサージやエステと同じでいくらやられていても気持ちが良いものなのだと、俺はこのとき理解したのだった。

 

「んふふ。美優ちゃんはこんなたっぷり舐めてくれるかな〜」

「そういう手放し難くなることを言わないでほしい」

 

 確かにこんなセックスは美優とは望めない。

 美優と山本さんは別の人間なのだからしょうがないのだが、こんなにもエッチが大好きだと正面切って伝えてくれる女の子とは、いつまでもセックスをしていたかった。

 

 まあ、山本さんも俺とのセックスができなくなるわけだし。

 ここはお互い様だということで、甘んじてこのねっぷりとしたセックスを受け入れることにした。

 

「では、気づいたら人参みたいな大きさになっちゃってたソトミチくんのどうしようもないおちんちんを、じっくりフェラチオしていくね」

 

 半分ぐらいはその要因に加担している山本さんが、陰茎の下半分である金玉から竿をメインにして、優しく舐め上げるようなフェラチオを始めた。

 チュパチュパと唇を滑らせて、舌を伸ばしてチロチロとくすぐって、先走り汁が溢れそうになると、今度は逆に亀頭だけを口に含んだ浅いフェラでしゃぶりついてきた。

 

「うっ……あっ……! ヤバっ、出したい……!」

「だーめ。残念ながら、膣内射精以外は禁止ですので。気持ちよくしゃぶられててください。……あーんむっ、じゅぶっ……じゅっぷ、じゅぶっ……じゅるるっ……」

「あっ、ああっ、あっ……!!」

 

 一転してペニスを口いっぱいに咥え込んだ山本さんに、俺は下げようのない腰を引いてなんとか抵抗していた。

 いくら山本さんとのエッチで射精をコントロールできるようになったといっても、こんだけ敏感にさせられては限度というものがある。

 

「ん、んぐっ……じゅぶっ、じゅぽっ……じゅっぷじゅっぷ……じゅるるっ、じゅぱっ……はあぁむっ……んむっ……ぐぽっ、ぐぽっ……」

「あ、あっ、あっ、イク、イクッ……!!」

「じゅっるるっ……じゅるっ……っちゅぅっ……ぱはぁ。ふふっ。気持ちいい? 絶対に射精させてあげないよ」

 

 山本さんの意地悪な言葉が俺のエム性感に響いた。

 こうやって優しく強引に搾られる幸福感……他でもない、山本さんとのエッチだ。

 本当にこの人とセックスができてよかった。

 心からそう思う。

 

 かれこれ一時間以上、俺は山本さんの舌技に責め続けられていた。

 

「えへへ〜……みんなが真面目に授業してるときに……私は彼女持ちの男の人とエッチをしてるんだぁ……」

「その先までいったらダメだからな、ほんと」

「冗談だってばぁ、もう。ソトミチくんは心配性なんだから。ソトミチくんだけが特別に決まってるでしょ」

「そ、そう言われると……照れるな……」

 

 楽しそうに微笑む山本さんに、俺もつい頬が緩んでしまう。

 相変わらず男の転がし方が上手い人だ。

 

「それじゃあ……これから、もうビンビンですぐに果てちゃいそうなソトミチくんと、じ〜っくり生セックスさせてもらうからね」

 

 山本さんは俺のペニスを上向きにすると、これからゴムなしで性器が結合することがよくわかるように、人差し指と中指でぱっくりと自らの肉穴を広げてから、秒速一ミリぐらいの速度で腰を下ろしていった。

 

「おっ、おっ、おっ……ああっ……すげぇっ……ナカ……あったかい……!!」

「んふぅっ、はぁ……ソトミチくんの……おっきくて……中のヒダが引っかかる……あっ、ああっ……んっ……!」

 

 膣奥まで挿入された俺の亀頭の先に、何かが当たる感触があった。

 それは山本さんの子宮にペニスが到達した合図で、その直後に山本さんは思い切り腰を下ろして陰茎を膣内に丸呑みにしてきた。

 

「おおっぐっ、ああっ……いいっ……!!」

 

 ただでさえイキそうだったペニスが肉襞で舐め尽くされて、暴発の寸前まで達したが、入れっぱなしで動かなくなった山本さんのおかげでなんとか射精を耐えることができた。

 

「はぁっ……こんな、苦しいぐらい、硬いのがお腹に入ってるの……とっても、幸せ……入れてるだけで気持ちいい……」

 

 山本さんは俺のペニスが入っているあたりのお腹を愛おしそうに撫でていた。

 美優とのセックスで子宮姦を強く意識させられていた俺には、自分のモノがあり得ないところにまで届いているように見える。

 

「すっごいよ、ソトミチくんの。一生雌でいたくなるぐらい奥まで響いてくる」

「そんなに良いのか」

「もうこの先絶対にないぐらいね」

 

 俺と顔を近づけて、またキスをされるかと思った、その絶妙な距離感で、山本さんはパンッ、パンッ、と腰を打ち下ろし始めた。

 

「ああっ……はああっ……!! ソトミチくん……っ、んんっ……ああっ……ソトミチくぅんっ……!」

 

 俺のペニスに蕩ける山本さんの顔が目の前にあって。

 精液が沸き立つぐらいにエロかった。

 

「あっ、あっ、ああっ……ソトミチくんのきもちぃ……きもちいいよぉ……はぁ、はっ、ああぁ……いいっ……いいいっ……!」

 

 硬くなった肉棒が膣内に入ってくる感触を何度でも欲しがるように山本さんは杭打ちした。

 俺とのセックスに散々負かされてきた山本さんが、どれだけ雌として堕ちていたのか、それを見せつけるような淫乱なセックスだった。

 

「山本さん……愛液、溢れすぎ……っ……ああっ……はぁ……もう、射精したくなる……っ!」

「ふぅ、んっ、ふぅっ……はぁ……どうする? っ、んあっ……中出し、する……?」

「いや、まだっ……最後まで、溜めるから……!」

 

 山本さんの最後の男性経験を、最高に気持ちのいいセックスで上書きする。

 それが目的であることには変わらないけど、それ以上に、俺と山本さんの間には、このセックスを一生の思い出にしたいという想いが共有されていた。

 

 俺は持てる限りの力を使って射精を我慢した。

 山本さんは飽くことなく下の口で俺の肉棒を貪り続けて、時計の針の進みが、はっきりと変わっていたのがわかるほどの、長くて濃密なセックスの時間を二人きりで過ごしていた。

 

「ソトミチくん……すきっ……ほんとに好きっ……!」

 

 先に堪えられなくなったのは山本さんの方で、俺の頬を両側から手で挟むと、俺から精液を絞り出すための深いキスをねじ込んできた。

 

「ちゅるっ……へろっ……んむっ……はぁ……ソトミチくん……好き……愛してる……一生、ずっと……んっ……ちゅっ……ちゅぶっ、じゅるっ、ちゅぷっ……はぁ……私は、ソトミチくんのことが好き……!」

 

 キスをしたまま、山本さんは何度も腰を上下させて、俺のペニスを膣で擦った。

 腰使いはずっと変わらないまま。

 伝えきれないほどの愛情を、それでもどうにかキスの形で表現をして、その思いの昂りだけで俺たちは絶頂へと向かっていた。

 

 俺からも山本さんの体を抱きしめて、したい限りのキスをして、それを喜ぶ山本さんにまた興奮が高まって、抱きしめる腕の力を滅茶苦茶に強くした。

 それでも、ぱちゅんっ、ぱちゅんっ、と腰を打ち付ける音は一定のリズムを刻み、俺たちは生の性器で繋がったまま、恋人となんら変わりない愛のあるセックスを続けた。

 やがて山本さんの膣はキュッと締まって、それは山本さんが絶頂に達する合図で、女の子だから何度でもイけるのに、山本さんは俺に合わせてイクのを必死に我慢して腰を振り続けてくれた。

 

 お互いの脳は完全にトロけて、キスに送り合う唾液の味すら甘美に感じるほどの臨界点を迎えた瞬間に、俺のペニスは山本さんの中でピシッと芯が入ったように肥大化して硬直した。

 

「あっ……はぁ……んちゅっ……ソトミチくんも……イキそうなんだ……あむっ……はぁ……ちゅっ……」

「ごめんっ……んあぁ……あっ……膣内に出したくて、もう止まんないかも……」

「いいよ、出して……あんっ……ちゅっ……はぁ、っ……ソトミチくんのキモチ、膣内にぜんぶ届けて」

 

 山本さんはとろっとろで甘々な表情で、俺を誘った。

 膣奥を押し付けるように山本さんの腰が引きついてきて、俺は山本さんのお尻を鷲掴みにすると、ついにはフィニッシュに向けたピストンを力の限りにぶつけた。

 

「んっ、ちゅっ……はぁ……山本さん、出るよっ……んっ……はぁ……膣内に、出すよ……!」

「はぁ、うん、っ……出して……ソトミチくんの精子、私の膣内にいっぱい、出して……!! あっ、ああっ……っ……あああっ、はあっ……おっきいので、壊れるぐらい奥まで突いて……!!」

 

 想いの昂りに、いまこの瞬間だけは山本さんの男になって、俺たちは愛し合う男女として互いの性器を擦り合った。

 脳から絶頂へのシグナルを出されて、これまで過ごしてきた時間が凝縮されてあらゆる感情が一度に流れ込んできた。

 

「あっあああうぐっ、ああっ……はぁ、はぁ、あああっ……!! 山本さん……出るっ……ああっぅああああっ……出るっ……!!」

「あんっ、ああっっ、あっ、んああっ……!! ソトミチくん……ソトミチくんっ……!! 出して……私がこれから、どんな人とエッチしても……っ、はぁっ……ああっ……一生、忘れられなくなるぐらいの気持ちいい中出しして……!!」

 

 どぷっ、びゅっ、びゅるるるっ、びゅくっ、びゅくっ──!!

 

「──あああっっ……ソトミチくん……!!」

 

 二人で一緒に達したその直後は、どくん、どくんっ──と、脈が跳ねる音だけが耳に響いていた。

 そこから、数度の拍動を置いて、山本さんの絶頂する声が届いていた。

 甘くて、切なくて、何より喜びに満たされた声だった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 上下に重なって、互いの肺から熱い吐息が漏れて、俺は、山本さんの膣内にドクドクと精液を出していた。

 

 中出しをされた感触も、膣内を精液が流れていく感覚も、その全部を覚えていてほしくて、俺はしばらく無言のまま山本さんを抱いていた。

 

 山本さんの顔は何よりも嬉しそうで、俺はこの人に中出しして本当によかったと心の底から思った。

 

「……これで、よかったんだよな」

 

 俺は汗に張り付いた山本さんの前髪を除けながら聞いた。

 

「うん。もう決めたことだから」

 

 山本さんは満足そうに頷いた。

 

「私は私なりで、幸せに生きてはいくけど。この人生で一番に気持ちよかったのは、ソトミチくんとしたセックスだったって。それだけは否定しないで生きていくことにしたの」

 

 そう言われてしまうと、もう俺から言えることは何もなかった。

 

「誇らしいことだな」

「それはそうだよ。もうソトミチくんは立派に美優ちゃん自慢のお兄ちゃんになんだから。これからはその全身全霊を注いであげてね」

「もちろん。そのつもりだよ」

 

 ピロートークに、穏やかな時間が流れて。

 すっかりとまったりした気分になっていた。

 

「そういや、エッチはもう一回するんだよな?」

 

 計五回の約束で、山本さんには四回しか中出ししていない。

 雰囲気だけを考えるならこれで仕舞いというのもあり得ない話ではないが、まさかここまできて山本さんが最後の一回はいいやなんて言うとは思えなかった。

 

「もちろんするよ。ちょっと待ってて」

 

 そう言って山本さんは、アクセサリーをまとめた引き出しを開けた。

 そこには一つだけ、個別に入れられた箱が目立っていて、山本さんはそれを開けると中の指輪を手に取った。

 

「デパートで買ったやつ?」

「そう。私のお気に入り。これも、私の、大切な思い出だから」

 

 山本さんはそれを胸にしっかりと抱いて。

 それから、俺に手渡してきた。

 

「最後はさ、普通にソトミチくんにしてほしいんだ。正面から挿れて、気持ちよくなったら、そのまま射精してもらっていいから。ただ──」

 

 山本さんは最後に、俺にあるお願いをした。

 

 そのお願いは、これまでのエッチからしたらあまりに慎ましやかで──もしかしたら、山本さんが最初から望んでいたセックスは、そんなありふれた男女の交わりだったのかもしれなかった。

 

 俺は山本さんからのお願いを承諾して、ベッドで正常位の体勢になって再び重なりあった。

 

 そして、俺は勃起したペニスを山本さんの膣に挿入した。

 また山本さんと恋人繋ぎをして、左手の薬指にはめた指輪を強く挟みながら、キスをしたりおっぱいを吸ったり、これまで何度も繰り返したような、ごくごく普通の優しいだけのセックスをした。

 

 そのときの山本さんがあまりにも楽しそうで、今度は俺が泣きそうだった。

 でも、最後のエッチに涙を見せるわけにもいかなくて、俺は必死に泣くのを我慢して腰を振った。

 山本さんの膣内はびしょ濡れで、ずっとそうだったはずなのに、こうしてただ繋がっているだけだからこそ、自分のペニスでここまで感じてくれることを嬉しく思った。

 

 短くもないけど、時間をかけすぎることもない。

 妊娠もしないようにした、ただ快楽を求めて生の性器を入れ合うだけのセックス。

 その最後の男と女の交わりに、俺は「山本さん」ではなく、下の名前で呼んで、精一杯の愛を囁いた。

 

「────」

 

 ただ幸せな時間だけが過ぎて、俺たちは心が満たされると同時にイッて、胸に秘めた愛と同じだけの精液を膣内に出した。

 

 残り一回限りのピロートークでは、山本さんの要望通りに、たっぷりのご奉仕フェラをすることになって。

 実はそこで俺は六回目の射精をしてしまったのだが、中出しではなかったので、こっそりとノーカンにすることにした。

 

 

 ──ソトミチくん。私は、ずっと。あなたを愛しています。

 

 

 エッチの終わりに、きっとこの先で口にされることはないであろう言葉を、俺は受け取って。

 

 キスはもうできなかったから、俺は代わりに、その左手につけた指輪を一生大切にしてほしいと、山本さんにお願いをしたのだった。

 

 



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正妻

 

 美優が目覚めるまでの間、俺と山本さんは二人で部屋の掃除をしていた。

 美少女二人分の愛液と俺の精液に塗れて染みだらけのシーツは、結局のところ破棄することはせずに洗濯して使い続けるらしい。

 山本さんはその気になればすごい人なので、俺のことを好きでいながら普通に結婚して幸せな人生を過ごしていくことぐらいはできるのだ。

 そうなっても俺のことをオカズにしてのオナニーはし続けますと宣言されてしまったときには頭を抱えたが、まあ世の女性としてその実ありふれたことだったりすることかもしれないので無用な心配はしないことにした。

 

「にしても美優ちゃん、ぐっすり寝てるね。寝心地の良いソファーじゃないのに」

「意外とどこでも寝れるタイプなのかもな」

「実は起きてたりして」

「ははっ。まさかな」

 

 この部屋で長い時間をもう一度過ごせたのは良いことだったのかもしれない。

 山本さんの男性経験もそうだけど、この部屋で過ごした時間も山本さんにとっては悲しいもので終わっていて、だから、こうして和やかな雰囲気で部屋を出ることになったのは俺と山本さんのどちらにとっても幸いなことだった。

 

「来週から学校か。エッチで初日を休んだってのは冷静になってみるとヤバいな」

「ヤバいね。ソトミチくんのせいで背徳感に興奮する身体になっちゃったから、今夜は早速シちゃうかも」

「お、俺のせい? てか、そんな早速で大丈夫なのか……?」

 

 山本さんはもうすっかりと元気を取り戻している。

 言葉の節々にいやらしさを感じるほどエッチに前向きなのだ。

 もちろんそれは喜ばしいことだけど、そんなにもあっけらかんとしていて良いのだろうか。

 

「ん? 将来的なお話のこと? それはもう、こっそりしますとも。ソトミチくんとのセックスを昨日のことのように思い出して……」

 

 山本さんは頬に両手を当ててウットリとした表情になる。

 この女は新しい男ができても俺とのセックスをオカズにオナニーをするつもりだ。

 

「こっそりなんだな」

「言わないよ、さすがにね。お墓に入るまで胸の中にしまっておきます。私とソトミチくんだけの思い出だから」

 

 ニイッと笑って、山本さんはまた部屋の片付けを進めていく。

 こっそりすると聞いて、ヒドいような気もしたけど、少なくとも山本さんにとって忘れられない思い出であることは変えようがないことなので、それをあえて口にするべきかと問われたら俺としても判断に迷うところだ。

 

「ソトミチくんが美優ちゃんと上手くやっていくためには、そういうのも必要だよ」

「……え?」

 

 山本さんの言葉が、具体的に何を指してのものだったのか。

 それを聞こうとした矢先のことだった。

 

「んっ……ふぁ……あれ……。なんで、私……」

 

 ソファーでむくりと影が起き上がって、ようやく美優のお目覚めだった。

 先に着替えた俺たちは服を着ていて、布団を払った美優は裸で、大福のように色白のもっちりとした乳房がチラ見えすると、美優は自らの裸体を隠すようにして俺たちを睨んだ。

 

「ジロジロと見ないでください」

 

 その美優の不機嫌面に、反応したのは山本さんだった。

 山本さんはスラリと伸びた長い指を波うたせながら、ニヤニヤと下卑た笑みで美優に近づいていく。

 

「あれだけ二人でシたんだから、裸ぐらい良いじゃない。お互いのイイところも知り尽くした仲なんだし……」

「お、お兄ちゃんに変なこと吹き込んだら承知しませんからね」

 

 恥ずかしそうにする美優と、構わず迫る山本さんと、俺が寝ている間にこの二人がどんな触れ合いをしていたのかは非常に気になるところだが、問い詰めても教えてはもらえないだろうな。

 

「私もシャワーを浴びさせてもらいます」

「どうぞどうぞ。あるものは好きに使っていいからね」

 

 山本さんはやたらと美優を気に入っているようで、知らずのうちに二人の間には友情に近いものが生まれているようですらあった。

 身を削っての勝負の後に残った何かがそうさせているのかもしれない。

 これもお互いが本気でぶつかったおかげなのかな。

 

 そうこうして、帰りの準備を終えた美優と俺が玄関に向かって、見送ってくれる山本さんの表情は深読みなんてする必要もないぐらいに明朗だった。

 

 まだ青空が残るうちに外に出てきた俺たちは、久しぶりに日差しを浴びたような眩しさに揃って目を細めた。

 俺は指折り数えられる日数しかこの部屋で過ごしていないのに、そこはもう第二の実家みたいな親しみがあって、この場所を出ていかなければならないことへの寂しさは拭いきれなかった。

 でも、これは比喩でもなんでもなく、俺と美優にとっても巣立ちのときでもあった。

 

「美優ちゃん。ソトミチくん。改めてだけど、私のために色々とありがとうね。二人とも、大好きだよ」

 

 Tシャツに膝下までのパンツで簡単な装いに留めた山本さんの、その胸の膨らみから相対的に作られた細身のシルエットは完成された美で、まだ明るい時間の陽光に当てられてもなお、男の情欲を誘うほどにエロかった。

 こんな人に本気で好きになってもらえたんだから、俺はもうこの先で自信を失うことなんてないだろう。

 山本さんのおかげで手に入れられたものが俺にはたくさんあった。

 

「ソトミチくんは来週からまたよろしくね」

「ああ。学校では、勉強とかも見てもらえると助かるよ」

「最優先でお相手するから、いつでも言って」

 

 満面の笑みで応えてくれた山本さんに、俺も思わず表情が緩む。

 こんなやり取りでも愛を感じてしまうな。

 明るくて幸せそうな笑顔が何よりも似合うのが、この山本奏という女性の魅力であって、俺もこれからの山本さんの人生の支えになれたらと思う。

 

「美優ちゃん」

 

 山本さんに名前を呼ばれて、美優は緊張した面持ちで正面に向かい合った。

 

「これから大変なこともあるだろうけど。いつでも頼ってね」

 

 そのときの山本さんは優しいお姉さんのようで。

 どこか含みも感じる励ましの言葉をかけられた美優は、その意図をしっかりと読み取って、芯のある真っ直ぐな姿勢から深々と頭を下げた。

 

「よろしくお願いします」

 

 それはまるで嫁ぎ先への挨拶のように、重たく真面目な返事だった。

 

 以前に、美優は言っていた。

 俺たちは一人でも多くの人に祝福してもらう必要があると。

 山本さんが「大変なこと」という言葉で表現した、俺たちがこれからぶつかるであろう壁を乗り越えるためには、こうして信頼できる人の助けが必要になる。

 

 だから美優は、由佳にも、遥にも、山本さんにも、自らの主義主張を捻じ曲げてまで、最大限の義理を通してきたんだ。

 

「ずっとずっと応援してるから。どんなときでも、会いに来て」

 

 山本さんは美優にハグをして、顔の上がった美優の表情は、どこかホッとしたような緊張の解けた様相だった。

 美優もここまで気を張り詰めて頑張ってきたんだもんな。

 

「ソトミチくんも、美優ちゃんも。愛してるよ」

 

 山本さんからの、元気いっぱいの愛をもらって、ついには俺と美優はマンションを後にすることになった。

 

 寂しさはあっても今生の別れというわけではなのだ。

 むしろ、俺と美優のこれからを考えるならば、これから最も付き合いの長くなる人になるわけで。

 まず俺が向き合うべきなのは美優なんだよな。

 だいぶ待たせてしまった。

 

「ん? そのカバン、ずいぶんと膨らんでるな」

 

 帰り道に美優の肩掛けが大きく揺れているのが気になって、ポーチの部分を見てみると、見栄えを意識する女の子が絶対に入れないであろう容量までパンパンに何かが詰め込まれていたのだ。

 

「これね、奏さんからお土産」

 

 美優がカバンからガサゴソと音を立てて取り出したのは、見覚えのある個包装が大量に入ったビニール袋だった。

 

「なんで、ゴムをそんなに? 使うのか?」

 

 美優はピルを飲んでいるので、俺がコンドームを着ける必要はないはず。

 もうすでに何回も中出しをしてしまっているし。

 

「何年かしたらね。私の身にも差し障るものがあるので」

「……そうか。生で出しすぎると、美優の精神状態も危険だもんな」

「そ、それも、なくはないけど。私はたまたま副作用がないだけで、飲み続けてると腎臓とか血圧に悪いんだってば」

「えっ、ああ、そうなのか。なら、無理することはないって。悪いな、なんか」

 

 単に妊娠しなくなるだけの便利アイテムかと思っていたけど。

 そう単純なものでもないんだな。

 出費で考えたら、ゴムを買い続けるのとピルを飲み続けるのは、どっちのほうがお得なんだろうな。

 

「お兄ちゃんに早めに生でのエッチを許可したのは、そこまでしないと奏さんを負かせられなかったからであって。お兄ちゃんとの関係からしたら予定外の進展具合にあります」

「そうだったのか。なんなら、今日明日からは、ゴムでするようにするか?」

「え、あっ、いや。そんな急には、やめなくてよいですが」

 

 美優は照れ恥ずかしそうにしながらコンドームが入った袋をカバンに戻した。

 数年後で構わないというのであれば、美優のペースに合わせよう。

 どうやら美優にも都合があるようだし。

 

「美優の計画を聞いてたときはどうなるかと思ったけど。山本さんが最後まで元気そうでよかったよ」

「……まあ。あれだけ二人でイチャラブしてたらね」

 

 美優はそっけなくそう返してきて。

 俺と美優は、しばらくの間、無言で歩いていた。

 

「……え?」

 

 そして、俺は立ち止まった。

 それから数歩先に進んだところで、美優が歩くのを催促するように首だけを俺に振り返って、俺は慌てて美優を追いかけた。

 

「まさか……起きてたのか……?」

「起きてたというか。起きたというか。ソファーで目が覚めたら、お兄ちゃんと奏さんが恋人のように甘々な時間を過ごしていたので、妹は息が苦しくなるほどの胸の痛みに耐えながら二度寝しました」

「それは申し訳ない……」

「んー。別にいいんだけどさ」

 

 山本さんとのイチャラブセックスは、元を正せば美優がやらせたもの。

 しかし、目が覚めて自分のものだったはずの男が別の女とそれはもう仲睦まじくイチャイチャとエッチをしていたら、生物の根源的な感情はそう穏やかではいられない。

 

 はずなのだが、どうにも文句を言うわりの辛さはないようだった。

 歩き姿も、表情も、堂に入っているというか、余裕があった。

 さながら俺の妻としての、である。

 

「意外と、平気そうだな?」

「なんかね。由佳と、奏さんと、あとは佐知子もだけど。これまでお兄ちゃんとエッチしてる現場を見てきたからなのか。尾を引くものはないんだよね」

「そうなのか」

 

 たしかに美優は俺がこれまでエッチをしてきたどの女の子との行為も目撃している。

 だから、慣れたというのなら、経験としてはわからなくもないのだが。

 男女の在り様って、そんなものでよかったっけ。

 

 なにより、

 

「美優は、俺が他の子とエッチするのは、絶対に嫌だって言わなかったっけ?」

 

 俺としては、アレは結構、印象的な言葉として記憶に残っている。

 美優は他の女の子に比べたら、だいぶ独占欲が強いほうだと思っていた。

 

「お兄ちゃんは浮気しないって信じられるから言えることではあるんだけどさ。結局は、みんな今でもお兄ちゃんのことは好きなわけだし。なんだかんだでいい男になっちゃったお兄ちゃんは、きっとこれからモテていくだろうと思うから」

 

 美優は落ち着いた声音で語り続ける。

 長い黒髪の奥に見え隠れする美優の横顔は楽しげだった。

 

「最近では、ちょっぴり優越感も、なくもなかったり」

 

 美優は人差し指でほっぺをかいて、顔は真っ直ぐに前を向いたまま、照れ臭そうにそんな本音を溢した。

 

 それこそ思いもしなかった心情の変化だった。

 美優は恋人とは二人だけの空間を好む性格だと思っていたからだ。

 俺に向けられる好意など、たとえそれがプラスの要素をもたらすものであっても、かつての美優なら不純物として切り捨てていたはず。

 

 これまでの経験を通して、それだけの余裕が美優に生まれていたのか。

 思えば、美優が話す声から受ける印象が、初めて自慰行為を見られたあの頃よりも柔らかくなっている。

 

 美優は完璧な存在だから、変わりようなどないと思っていたのに。

 いつだか由佳が言っていた、美優の一人の女の子としての部分に、俺はまだ十分には向き合えていなかったのかもしれない。

 

「私は一生で一人としか恋ができない人間だから。自分でも、だいぶ重たいなって思うし。……たぶん、お兄ちゃんに捨てられたら死んじゃうし。お付き合いしてすぐの頃は、焦りとか不安でいっぱいだったんだよ。こんな私で、お兄ちゃんは大丈夫かなって」

 

 美優はそう話しながら、俺の手を取って、それから、這うように指を絡ませて、手を繋いできた。

 

「でもね。お兄ちゃんは頭のてっぺんから足の先まで私のもので。私の人生は死ぬまでの全部をお兄ちゃんが貰ってくれて。気づいたら、それが絶対の確信になってて。もう、不安はないみたい」

 

 珍しく俺の一歩前を歩く美優が、繋いだ手を大きく振って、はにかむように笑った。

 

 夏の終わりも近づく時期とはいえ、まだ暑さの抜けない八月の住宅街に、秋の訪れを思わせるような爽やかな風が吹いていた。

 

「美優……?」

 

 少女然とした美優の笑顔に、耳鳴りにも似た感覚が俺を現実から浮き上がらせていた。

 目の前を歩く道が引き伸ばされて、喉の奥が、熱湯を流し込んだように熱い。

 

 美優がこんなにも自然に笑う姿を見ることができるなんて。

 

 なんだか俺、バカみたいだ。

 泣きそうになっている。

 

「ん? どうしたの?」

 

 美優からの返事が聞こえたときには、美優は少しだけ緩んだぐらいの、いつもの真顔に戻っていた。

 

「美優は、今さ」

「はい?」

 

 俺の問いかけに、小首を傾げて反応した美優の髪が、はらりと下に揺れ落ちた。

 

 これまで美優の笑顔を全く見なかったわけではない。

 エッチをするときの美優は、ユルユルなぐらいに満面の笑顔だった。

 でも、今の美優は、性欲に突き動かされて、どうにかなっているわけではない。

 

 淡泊で、事務的で、真面目で可愛い俺の妹。

 ニュートラルでありのままの美優が、俺との信頼関係に安心して、微笑んでくれただけなんだ。

 

「ああいや、なんでもない。美優にも、だいぶ余裕ができたみたいで、よかったよ」

 

 俺は取り繕って、美優も俺の態度を不審に思っていたようではあったけど、そこを掘り下げてくることはなかった。

 俺を交配相手として認識して発情している美優だって、それも紛れもない美優の一側面であることには違いない。

 だから、これまでの笑顔が嘘だったなんて言うつもりはないが、一つの達成感に込み上げてくるのもいたしかたのないことなのだ。

 

「えー、変なの。……ふふっ。別にいいけどさ」

 

 また頬を緩ませて、俺の横を足取り軽く歩く。

 美優は本当に、よく笑うようになった。

 

「私は今後も、お兄ちゃん以外の男には肌に触れさせることすらありませんので、ご安心ください」

 

 美優はそう言いながら、そのたわわな胸で挟み込むように、俺の腕に抱きついてきた。

 あえて俺の二の腕から手の先までが美優の体に触れるようにして。 

 慣れないことを急にやったせいで、腕の収まりの悪さにちょっぴり苦い顔をしているあたりが萌える。

 

「徹底してるな」

「お兄ちゃんだけの妹なので」

 

 また当たり前のようなことを大袈裟に表現する妹だな。

 でも、恋人でいるよりは妹でいたい美優からしたら、お兄ちゃんの妹であることは言葉以上に重要なことなのかもしれない。

 

「それはそれとして」

 

 美優は会話を一区切りし、俺を見上げてくる。

 そこにはまた愛らしい不機嫌顔があった。

 

「これまで我慢させられた分、私はしばらくはわがままになるから。ちゃんと付き合ってね」

 

 拗ねたような声で念押しをしてくる。

 美優はこれまでの計画のために、ずっと俺とエッチしたい気持ちを押し殺してきた。

 そのわだかまりを総て清算した今、美優はその鬱憤を晴らそうとしている。

 

 ……俺としては、それでも結構なエッチをしてきたと思うのだが。

 

「もちろんだよ。これからは全部の都合を美優に合わせるから」

 

 どっちにしたって、俺が美優より優先するものなどもうないのだ。

 昨日今日とセックスはしてきたけど、とにかくもうこの妹とイチャイチャしたくて仕方がない。

 

 逸る気持ちを足に乗せて、俺たちは家に戻ってきた。

 ドアを開けると、旅行帰りの洗濯をしている母親が、ちょうど洗濯機のある脱衣所から出てきたとこだった。

 

「あっ……あら、おかえりなさい。二人とも急に学校を休むなんて、大丈夫だったの?」

 

 それに続いて俺たちの帰宅に気づいた父親がリビングから出てきて、珍しく人と距離を詰めて立っている美優を不思議そうに見ていた。

 

「なんだお前ら。どこに行ってたんだ?」

 

 俺と美優は、学校を休むから体調不良とでも伝えておいてくれと母親にメッセージを送っただけで、詳しい理由を説明していない。

 その両親の疑問に答えたのは、先に靴を揃えて玄関に上がった美優だった。

 

「お兄ちゃんとお泊まりデートしてきた」

 

 美優はざっくりとした言葉を選んで、嘘をつくよりはよかったのかもしれないが、もう少しオブラートに包んだ表現があったようにも思う。

 

 その発言に目を丸くしていたのは父親だけで、母親はなぜかすんなりと納得をした顔だった。

 これも女性の包容力というやつなのだろうか。

 

「お泊まりって、荷物も持たないでか?」

「軽く一泊してきただけだから」

 

 美優はそれだけ言って、自室に行ってしまった。

 その後ろ姿を目で追いながら、俺も続いて玄関に上がる。

 

「父さんたちは来週からの仕事はどうするんだ?」

「変わらないよ。土日休んだらまた朝から晩まで仕事だ。……てか、なんだ。お前らなんかあったのか?」

 

 その疑問はどちらかというと、「お前ら」ではなく、「お前は」という俺個人に向けられたものだった。

 この夏休みで顔つきも体つきも一回り大人になってしまった俺に、父親も尋常ではない履歴を読み取ったらしい。

 美優とのことだけでなく、俺はその友人や山本さんと、人に言えないようなことを幾つもしてきたからな。

 

「近いうちに話すよ。……美優は、元気になったから」

「そうか。それは、何よりだったな」

 

 あの小学校の一件以来、美優が無理して大人になってしまったことを、両親も気にしていないわけではなかった。

 それでも、美優には学校での友達もたくさんいたし、勉強の出来もよかったから、そういう風に成長しただけだということでどうにか納得をしていた。

 その美優がまた幼少の頃の明るさを取り戻したともなれば、両親としてもそれ以上に喜ばしいことはないし、そのためにはちょっとしたことでは済まないような出来事があったのだろうと想像も及んだはずなのだ。

 

 親父はひとまず「お疲れさま」とだけ俺に声をかけて、リビングに戻っていった。

 そして、美優を追って階段を登っていく俺に、今度は母親が声をかけてきたのだった。

 

「こーちゃん」

 

 呼び止められて、階段の途中で振り返った俺に、母親は笑顔というより苦笑いに近い表情で、声量小さく俺に言った。

 

「あんまり騒がしくしないようにね」

 

 母親の言葉に、俺は意図を汲みきれずに「ああ」とだけ言って返して。

 そして、前を向いてからその真意に気づき、口角が歪に上がっていくのを抑えられなかった。

 

 家に帰ってきた美優の様子からするに、母親は俺たちの関係を知っている。

 しかも、そのことには美優が絡んでる。

 後で問いただしておかないと。

 

「はあー……」

 

 俺は部屋に戻ってきてから、ベッドに大の字で寝転んだ。

 山本さんとのデートの帰りが遅くなるとは思っていたので、通学用のカバンには宿題なり教材なりがもう入っている。

 肉体的にも精神的にも、この二日でかなりの体力を使ったため、まだ寝るには早い時間にもかかわらず何もやる気は起きなかった。

 美優も俺の部屋にくることはなくて、隣の部屋のドアが開いたと思ったら一階に下りてしまった。

 

 俺はスマホですっかりと更新を追うことのなくなった動画サイトの一覧を眺めて、それから美優に夕飯に呼ばれ、俺も一階へと降りることに。

 リビングに入ると美優と父親はすでに着席していて、久しぶりに家族団欒の時間を迎えることになった。

 

 久しぶりの母親の料理だった。

 俺は煮物を箸で摘んで口に放る。

 個々人の好みはあっても、家庭には家庭の味というものがあって、美優が作る料理も煮物だけはあえて母親の味を真似ているので、これだけは食べ慣れた味だった。

 

「こーちゃんはこの夏休みで進路は決めたの?」

「受験勉強はしてたよ。大学は、次の模試の結果とかで考える」

「まあまあ母さん、久しぶりの食事なんだからそんな堅い話はしなくても」

「そうだけど、でもねえ」

 

 母親は心配そうに俺に目を配らせながら食事をテーブルに運んでいく。

 言わんとしていることはわかるさ。

 俺には美優の面倒をみる責任があるからな。

 つい口を挟みたくなるのが親心というもの。

 

「てか美優の心配はしないのか?」

 

 むしろ受験シーズンの真っ最中なのは美優のほうなのだ。

 それが進路はおろか勉強の進み具合も聞かないなんて。

 

 と、ちょっと理不尽を感じたので話題を受け流してみたのだが、両親は揃って目を丸くするだけだった。

 

「しないわよそんな」

「するわけないだろ」

 

 わかるよ。

 尋ねた俺自身が不安を感じていないぐらいだ。

 美優に厚く信頼を置くこの両親が心配なぞするわけがなかった。

 

「こーちゃんのが大変でしょ。予備校ぐらい考えなさいよ」

「それは、まあ……」

 

 夏休みを終えて、学校でもいそいそと通い始める生徒が増えている。

 俺だってやる気には燃えているから、予備校に通うことだって考えていないわけではない。

 

「予備校みたいな人がいるからいいんじゃない?」

 

 黙々とスープを飲んでいた美優からのさりげない呟きが横から飛んできた。

 

「そんなにすごい奴がいるのか?」

「お兄ちゃんには日本一美人で頭が良くて巨乳のお友達がいるの」

「よし今度うちに連れてきなさい」

「あなた。いい加減にしなさい」

 

 ようやく着席した母親に注意されて、わりと本気で期待していたらしい親父はそこから大人しくなった。

 

 そこからも家族の談笑は続いた。

 両親からは長い土産話があって、俺も美優も以前と比べるとよく口が回るようになって、その様子を眺めていた母親はどこか嬉しそうだった。

 

 食事が終わり、美優と入れ替わりで風呂に入った俺は、また自室のベッドで天井を見上げていた。

 

「はあ」

 

 しかし、ダメだったな。

 

 美優とのことは話せなかった。

 食事中の会話の雰囲気からするに、親父はまだ何も知らされていない。

 母さんは俺たちの心の整理がつくまでは待つつもりでいるんだ。

 

 逆に言えば、それは俺の口から伝えなければならないということ。

 

(闇雲に話し出せばいいってものでもないよな)

 

 それを聞いた父親がどんな反応をするかなんて、考えずに真実を伝えてしまったほうが楽だ。

 しかし、いくらうちの両親が放任主義で寛容な性格をしているからといって、俺と美優の関係が否定されない保証はどこにもない。

 それでも俺と美優には別れるという選択肢はないから、どちらにしても突き進んでしまうしかないし、そうともなれば最悪は離別の事態にだってなり得る。

 仮に母親の力を借りるにしても、俺が色々と考えて動かないとな。

 

「こんこん。お兄ちゃん居ますか」 

 

 ドアのノックと一緒に声が聞こえて、俺が応えると美優が部屋に入ってきた。

 シルキーでピチピチの、巨乳が着るとエロく見える、俺と一緒に寝るとき用のパジャマに美優は着替えていた。

 

「どうした? もう寝るのか?」

「そこも含めて、お兄ちゃんと今後のことをご相談に来ました」

「ならちょうどよかった。俺も美優に聞きたいことがあって」

「ママのことなら、私が産婦人科でピルを処方してもらうときに、そのときまでのことは話したよ」

 

 理解の早い妹で助かる。

 

「というと……。どこまで知ってるんだ?」

「察してる範囲まで言うなら、たぶんだけど、お兄ちゃんとお付き合いして、エッチしてることまでは、わかってると思う」

 

 やはりそうなのか。

 それは許されていると理解していいのだろうか。

 

「母さんは何も言わなかったのか?」

「ママには私が小学生のときから悩みを聞いてもらってたからね。女の子が好きかもしれないとか。お兄ちゃんのことを好きになるかもとか。エッチな気分になっちゃうからピルを飲んでおきたいとか。そういう話は、長い時間かけてずっとしてたから」

 

 なるほど、そうか。

 母さんは美優が幼い頃から抱えていた悩みを当初から知っていたから、好意の対象が最後には実の兄になっても、心の準備はできていたというわけだな。

 

「だからあの一言か。……わかった。親父には、俺から説明するから」

「よろしくね。それと、私からのお話だけど。これからも夜は一緒に寝るでいいんだよね?」

「もちろん」

 

 同じベッドに入っているところを、何かの拍子に見られてしまうかもしれない。

 それでも、だからといって別々のベッドで寝るというのは、今となっては考えられなかった。

 この点については、美優も賛同してほしがっていたようだし、やっぱり恋人なら同じベッドで寝ないとな。

 

「なら、あともう一つ」

 

 うん。

 おそらくは、アレについてだろうな。

 

「エッチも、するよね」

「する」

 

 たとえ下で親が寝ていようとも、美優とエッチしない生活は同衾しない夜よりも考えられない。

 

「じゃあさ。お兄ちゃん、お疲れのところ申し訳ないけど。こういうのは、初日が肝心だから」

「だな。軽くでも、してみるか」

 

 こうして、やや強引ではあるけど、二人でエッチをすることに。

 

「お口でいい?」

「抜くのは口でいいよ。ただ、服はお互いに脱ごう」

「は、はい」

 

 これも俺と美優の将来のため。

 俺が先にパジャマを脱いで、パンツも下ろして、それに続いて美優も裸になった。

 何度拝んでも見慣れない、ロリで巨乳でエッチな体の俺の妹だ。

 

「またそうやって。いやらしい目で妹の裸を見て」

 

 そんなエロい体をしてるのが悪いんだろう。

 

「でも、お兄ちゃんの、ちっちゃいままだね」

「昨日と今日で出し過ぎたからな」

「意味わかんないぐらい射精したもんね」

 

 その半分はお前が出したんだがな。

 

「えへへ。やっぱりこのどんぐりみたいなサイズも可愛くて好き」

「男としては複雑なんだが。とにかく、舐めてみてもらってもいいか」

「はーい」

 

 美優は気軽に答えて、パクっと俺のペニスを口に含んだ。

 丸っこくて亀頭が皮に包まれたそれを、美優は舌で転がして、ちゅぱちゅぱと口から出し入れして楽しそうにフェラをしている。

 無駄にデカくなってしまった俺のペニスにだいぶ文句を言っていたからな。

 言葉にしている通りに小さいのが好きなんだろう。

 

「んむ……はむっ……ちゅるっ……んちゅ……へろれろっ……あぁ……んっ……」

「っ……ふぅ、この状態でされるのも、いいな……」

 

 勃起していない陰茎を舐めてもらうなんて、そうそう無い機会だからな。

 これまで美優としてきたエッチを考えるともう二度とできないかもしれない。

 

「お兄ちゃんはすぐおっきくするもんね」

 

 美優は俺の性欲の強さ批難して、それからまた小さいままのペニスを咥えた。

 これまで美優とエッチをしてきたほとんどは、俺が欲情して美優に迫ったものだ。

 だから、まずペニスを見せるとなったら勃起をしていたし、美優も俺の性欲に奮い立った肉棒の相手しかしてこなかった。

 

「これさ、お兄ちゃんのって、小さいときは皮を被ってるけど。舐められるときは、剥くのと被ったままなのと、どっちのが気持ちいいの?」

「えっ、そんなこと、聞かれてもな」

 

 無邪気に兄の心の傷を抉ってくる妹だ。

 

「剥かないほうが、新鮮という意味では、気持ちよくはある」

「ふむふむ。なら、こういうのはどうなのかな」

 

 美優はペニスから口を離すと、舌を伸ばして、皮に包まれた亀頭の隙間に舌の先端を入れてきた。

 

「おっ、あっ……それっ……ヤバいかも……っ……!」

 

 まさかの内側からの包皮舐めに、普段のフェラチオ以上の快感が腰から突き上がってきた。

 美優は舌で右回りに左回りに舐めてきて、皮がめくれると、唇でそれを無理やり戻して、皮と亀頭の間を丹念に舐め回してきた。

 

「へろっ……れろおっ……ちゅぷっ……ちゅっぷっ……はあ……えろぉ……れぇろっ……」

「あああっ……はあぁっ……すごっ……ああっ……気持ちいいっ……!」

 

 美優は鈴口が見える程度に頭を出した亀頭の先っぽだけにキスをして、吸い付いて、ちゅぱちゅぱとエッチな音を立てて何度もキスをしては、小さなペニスを楽しそうに堪能していた。

 

 兄のペニスを咥えてここまでのことができるなんて。

 妹がエッチになりすぎて困る。

 何より美優が俺のペニスをひたすら舐めているこの絵面が好きだった。

 できることなら、このまま口内射精まで、いきたかったのだが。

 

「あーむっ……ちゅっ……へろっ、はあ。ようやく、親指ぐらいの大きさにはなったね。どう? 出そう?」

「めちゃくちゃ気持ちいいんだけど……今日は、難しいかも……」

「そっか。あれだけ出した後だもんね」

 

 どう頑張っても射精するのは無理そうだった。

 これだけ刺激してもらっても勃起しないのだ。

 もう出せるものなど一滴もないのだろう。

 

「俺ばっかり、ごめんな。美優にもしようか」

「あー。それは、いいや」

「まだ恥ずかしいのか?」

「それもあるけど。してもらう気分でもなくて」

 

 美優の顔はエッチに興奮して火照ってはいたが、蕩け顔の本能モードまでにはなっていなかった。

 

 俺が勃起できなかったから、雰囲気を悪くしてしまったか。

 一概に俺のせいではないとはいえ申し訳ないことをした。

 

「我慢してるわけじゃないんだよな?」

「恥ずかしくて誤魔化してるんじゃないよ。ほら、今って、お兄ちゃんも興奮の度合いとしては弱いじゃない? いつもはいつ犯されるのか怖いぐらいギラギラしてるし」

 

 それは妹の側に犯されたい願望が見え隠れしてるからだけどな。

 

「前も言った通り、私はお兄ちゃんに欲情されてないと、エッチな気分にはならないので」

 

 温泉に行ったときに美優が言ってたことだよな。

 あのときは美優の頭もバグってたし、俺を煽るための誘い文句だと思っていたが、まさか事実だったとは。

 

「お兄ちゃんに性欲がないときは、基本的に妹にも性欲がないと思っていただいてよいです」

「そうか」

 

 難儀な体質だな。

 兄と性欲がリンクしているというのは、妹として、どう思うのだろう。

 恋仲になった今では、兄妹としての相性の良さとして考えることもできるけど。

 

「なら、今日はここまでにするか。中途半端で悪いな」

「いいのいいの。きっと疲れてるだけだよ。お兄ちゃんなんて、一晩もすればすぐ元気になるんだから」

 

 そう、これは、美少女二人にこってりと絞られて、脳がさすがにもうやめろと拒絶反応を起こしているだけ。

 金玉だって空っぽだし、だから、ぐっすりと寝て体調が戻れば、また美優とセックスができるようになる。

 

「ただね、お兄ちゃんのその喘ぐのは、ちょっとどうにかしたほうがいいと思うんだ。ママたちもお兄ちゃんのそういう声はご遠慮願いたいだろうし」

「すまなかった」

 

 これからは堪えるように頑張ろう。

 本番をするようになって美優がどう声を抑えるのかは楽しみにしておくこととする。

 

「寝るのも裸のまましてみるか?」

「ぜひそうしましょう」

 

 美優は裸のままノリノリで俺のベッドに上がって、下着まで床に脱ぎ散らかしたままなのに、俺も布団の中に入るように引っ張ってきた。

 

 山本さんに影響されてか、元からこうだったのか、エッチな妹になってしまったものだな。

 

「それじゃあ、おやすみ。美優」

「おやすみなさい、お兄ちゃん。寝てる間におっきくなっちゃたからって、こっそり挿れたりしないでね」

「しないって」

 

 そんな冗談を言い合って、まったりと互いの素肌の触れ合いを堪能していたら、結局は俺が勃起することもなく眠くなってしまった。

 あれだけ射精したのだから、今日まだエッチができると考えていたのが間違いだったんだ。

 明日、朝になったら、裸の美優を起こして、フェラ抜きをしてもらおう。

 エッチな恋人がいると、毎日そういう楽しみがあって幸せだ。

 

 そうやって期待だけを膨らませながら、ようやく長い一日を終えた。

 俺も美優も、このときはこの勃起不能の問題を、その程度のものにしか考えてはいなかった。

 

 



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男性器治療専門山本クリニック(定休日なし・二十四時間営業・ソトミチくん以外のご来院は受け付けしておりません)

 

 始業式が金曜日であったため、俺と美優にとってこの土日は身辺の整理された境遇に体を慣れさせる期間となった。

 土曜日には両親からのお土産を一通り貰って、珍しくランチにも家族全員で外食に行って、そして夜にはまた、美優とエッチをする流れになったのだが……。

 

「もしかして、緊張してる?」

「かもしれない」

 

 昨晩の再現のように裸になった俺たちは、美優のフェラチオからエッチを始めたのだが、どうにも俺のペニスの勃ちが悪い。

 サイズが小さいのは美優も喜ぶところなのでよいのだが、問題なのはその硬さだった。

 

「ふにゃふにゃだね」

「なんだろうな。なんか、芯の入れ方を忘れたような感覚で……」

 

 また美優に包皮のままフェラを頑張ってもらって、たっぷりの時間を掛けてどうにか射精だけはできたものの、勃起しないままでは精液の飛びに勢いもなく、その量も濃さもティースプーンでサラッと掬える程度のものでしかなかった。

 サイズも小さい上に硬さもないとなれば挿入することもできず、俺はその日も美優に何もしてあげられないまま夜を終えてしまったのだった。

 

 日曜日の朝も、俺のペニスが勃起する気配はなかった。

 睾丸に精液が溜まっていく感覚も弱々しい。

 両親がいるときに無理に裸になるのはよくないのかもしれないので、その夜はパジャマで寝ていたのだが、美優の寝顔を見ても安らかな気持ちになるだけで興奮することはなかった。

 

 諸々の問題が解決されて、美優と正式に恋仲になって、背徳感で突き動かされていた俺の性衝動が収まってしまったのかと不安になる。

 女の子を相手に勃起ができないことがこんなにも申し訳ないとは。

 初めての経験に戸惑う中、美優は俺を「疲れてるだけだよ」と励ましてくれて、その日のエッチはお休みすることにした。

 

 俺が股間部に精液の重さを感じるようになったのは、通学日である月曜の朝だった。

 ベッドですぐ隣に寝ている美優のパジャマのボタンを外して、下乳や乳首を恋人特権で勝手に触っていると、目を覚ました美優と一緒にビクンとペニスが反応した。

 

「何を勝手に妹のおっぱいを触っているんですか」

「おかげで性欲が溜まってきたかもしれない」

「えっ。ほんと!?」

 

 美優はガバッと布団を取り去って、即座に臨戦態勢に入った。

 実はエッチしたいのを我慢していたのか、俺の性欲に合わせてムラムラしてきたのか、どちらにしても朝から妹がエッチをしてくれる気分でよかった。

 

「お兄ちゃんの性欲が溜まるのに三日もかかるなんて珍しいね」

「単に出し過ぎだったんだと思うよ」

 

 と、テントの張ったズボンを美優に見せてみる。

 美優は最初こそ嬉しそうにしていたが、すぐに眉を顰めた。

 

「ん? お兄ちゃん、脱いでみて」

 

 美優に催促されて、パンツを脱いでみると、そこには勃起したペニスがあった。

 親指サイズではない、肉棒と表現するに足るだけの形状をしている。

 ただし、俺自身としても血液の通っている感じが弱いというか、勃起しているはずの肉棒にはいつもの隆々とした力強さがなかった。

 以前に比べると、太さも長さもだいぶ控えめだ。

 

「とりあえず本番はできそうだけど。お兄ちゃんのってこんな感じだったっけ」

「いや、もうちょっと、大きかったかと」

「だよね。今のだと十センチくらい?」

「少なくとも平均ほどもないだろうな」

「ふむふむ。まあ舐めてるうちにおっきくなるかもだし」

 

 俺はベッドに仰向けになって、美優が俺の足元に移動して、まずはフェラチオから始めてもらう。

 

「あむっ……んぐっ……ちゅっ……ぱっ。あーんむっ、んむっ……じゅるるっ……ちゅっ……」

 

 すっかりとフェラの上手くなった美優に、俺の肉棒は久しぶりの快感に包まれて、根元まで唇がつくぐらいにペニスを丸呑みした美優が、その口内で舌を竿全体に這わせてきた。

 

「おおっ、あっ……いつもと、少し違うけど……いい……かなりいい……っ!」

 

 硬い棒状のものが美優の唇の奥へと消えていって、やや口窄みに俺の股間を舐める美優の顔が、やたらとエロティックだった。

 勃起したペニスを口の中いっぱいに咥えてる女の子って、やっぱりいいよな。

 そう考えると、このサイズ感でも悪くはないんだけど。

 

「んっ……んんっ……ちゅぶっ……へろっ、ちゅっ……あっ、んっ……ふむっ……」

 

 美優は俺のペニスをひとしきりしゃぶって、キュポッと息を吸いながら離すと、そこには硬さだけを取り戻したビンビンの肉棒が弾けるように飛び出してきた。

 

「大きさはこれが限界なのかな。根元までピッタリ咥えてやっと喉に届くぐらいだから、前のお兄ちゃんのと比べるとだいぶ控えめかも」

「そうか……。どうしようか?」

「私としては体に優しくて楽しみではあるよ。お兄ちゃんに挿れてもらってもいい?」

「いいよ。正面でしようか」

 

 美優は俺と入れ替わりに仰向けになって、下半身だけを裸になった俺たちは、正常位でセックスを始めた。

 コンドームをつける手間を挟むことなく、生の陰茎が美優の膣内にぬるりと入り込んでいく。

 

「んっ……あっ……」

 

 挿入した瞬間に美優は声を漏らして、それは美優の刺激されるのが好きな場所に当たっている証拠だった。

 美優の割れ目がもともとがかなり狭いのでこの肉棒の直径でもまだキツいぐらいですらある。

 こんだけセックスしてるのに、なんでまだピチピチのキツマンなんだろうな。

 山本さんとは別のベクトルで美優も特別にエロい体をしている。

 

「美優のナカ、ぐちょぐちょで、あったかいよ。ちゃんと濡れててよかった」

「ふぅ……、んっ、んあっ……お兄ちゃんのがお腹の内側をちょうどよく擦ってくれるから、前とは違う感覚だけど、これはこれで……はあ、はあんっ……あっ……」

 

 長さを落としたペニスはいわゆるGスポット呼ばれる部分に当たりやすくなっていて、グラインドさせる角度を工夫せずにただピストンをさせるだけでも、相当な快楽にはなっているようだった。

 

「ふうっ、はあっ、あっ……美優っ……!」

 

 だから、俺は腰の動きを速めて、美優の膣内を穿った。

 普段は奥まで届かないように遠慮してしまうから、力いっぱいに腰を打ち付けられるセックスは爽快だった。

 

「んあっ、ああっ……お兄ちゃん、すごいの……っ……はげしっ、あっ……気持ちいい……!」

 

 美優も高速ピストンで責められるのには特別な快感があるようで、気持ちよさそうにする美優の秘所はまたぴちゃぴちゃと愛液で卑猥な音を立てていた。

 さらには早漏まで改善されているようで、朝の短い時間をいっぱいに掛けて、俺はひたすらに美優の膣穴へとペニスを出し入れし続けていた。

 

「あっ……はあんっ……お兄ちゃん……お兄ちゃん……!」

「美優っ……出るよっ……もう出すからなっ……!!」

「はあっ、んっ、うんっ……あっ……でも……これからっ、学校が……! はあ、んあっ……あっ、あっ……中出し、しちゃ、んあっ……ああっ!」

「美優、ゴメン、無理っ……!! もう出るっ……中出しするからっ……あっ、ああっ……!!」

 

 美優の膣内に久しぶりの大量精液をどぷどぷと吐き出して、俺は優越感と性快楽の両方に包まれながら、美優の膣の奥深いところで射精をした。

 射精によるビクつきが終わるまで、俺は生のペニスを美優の膣内にいれたままにして、その最中に呼吸を整え、最後にはキスをすると美優は照れ恥ずかしそうにした。

 

「うぅ……私も考え無しだったけど……これから学校なのに中出ししてもらっちゃった……」

「ごめん、久しぶりだったから、どうしても美優の中に出したくて」

「私も外に出されるのはイヤだったから、いいんだけどね」

 

 美優は起き上がって、お腹を押して精液をティッシュに出せるだけ出してから、シャワーを浴びるために一階へ降りていった。

 朝のシャワー習慣があったわけではないので両親には勘ぐられそうだが、この先のことを考えたら細かいことは気にしてられない。

 

(ふう……。セックスは、できた……けど……)

 

 二階の洗面台で顔を洗ってから、俺は着替えまでを済ませて自室で朝食の時間を待った。

 しばらくは朝も晩も母親が料理を作るらしい。

 

 今朝のセックスは、これまで俺が理想としていた、激しいピストンを伴う愛のあるセックスだった。

 しかし、どうにも腹落ちが悪い。

 

 美優の小柄な体格を考えるなら、むしろ今ぐらいのサイズが望ましい。

 これからも毎日のようにエッチをするのだから、美優に負担がないのが一番だ。

 しかし、せっかく三日ぶりのセックスだったというのに、美優の感じ方もセックスの内容もあっさりだった。

 

 通学前の短い時間だったからというのもある。

 それでも、男としてはやっぱり、立派なイチモツで女の子を責め立てたいものなのだ。

 というより、今日のセックスで、美優はイッていたのだろうか。

 

 気になって、美優がシャワー上がりに部屋へと戻った音が聞こえてから、俺は美優の部屋に行って尋ねてみた。

 

「──たしかに。イッてなかったかも?」

 

 ブラシで髪を梳かしながら、俺の質問に、これまたあっさりと美優は答えた。

 

「でも、イクのもイクで疲れるからなぁ。お兄ちゃん、私が気絶するまでイかせてくるし」

「そうだよな。そういうツラさもあるよな。ごめんな」

 

 男が快楽を求めるほどに女の子の肉体的な負担は増す。

 これは抗いようのないトレードオフであって、だからそこ生物的な構造として弱い立場になりやすい女性側に合わせたセックスをするべきなのだ。

 

 それが一般的な男女であれば。

 

「でもまあ。本音を言うと」

 

 しばらくの話の後に、美優は恥ずかしそうに正直な想いを吐露してきた。

 

「ちょっと物足りないかも」

 

 現状のセックスに満足することはできる。

 大きさはどうあれ気持ちのいいセックスはできるのだ。

 

 だが、以前のセックスに比べると刺激が足りなかった。

 というより、俺たち兄妹にとっては、ただ快楽があるだけではダメなのだ。

 こんなセックスで満足をするぐらいだったら、俺たちは最初から兄妹で結ばれる必要さえなかったのだから。

 

「奏さんに相談してみましょう」

「あのエロ魔神ならどうにかしてくれるかもな」

 

 セックスの悩みとなったらまず山本さんだ。

 

「でもさ、予備校の件でも思ったんだけど。美優は俺が山本さんを頼るのは嫌じゃないのか?」

「別にいいよ。お兄ちゃんの彼女は私だもん」

 

 ああ、強すぎる。

 たったその一言だけで俺の迷いもなくなってしまった。

 

「なら、アドバイスを求めてみるか」

 

 と、いうことで、わりとスッキリした頭で学校へと登校してきた俺は、土日を挟んだおかげか山本さんと同日に学校を休んだ理由を聞かれることもなく、ごく平凡な二学期を迎えることとなった。

 

「えー。お前らも知っての通り、来年受験生になるお前らの最後の休み期間が今なわけだ。修学旅行がこの時期なのもそのためだからな。好きなやつと班を組んで、好きなように遊べ」

 

 ホームルームで担任が放った言葉に、色めき立つクラスの生徒たち。

 修学旅行の楽しさの半分は担任の気分次第なところもあり、くじ引きで同行者が決まってしまうなんてこともあるので、これは僥倖な知らせだった。

 とはいえ、このグループは課外授業として、歴史館などを巡る日のための班であって、自由行動でのグループは任意だ。

 俺たちももう小学生ではないからな。

 

 にしても、そうか。

 修学旅行があるんだよな。

 しかも三泊四日の長期旅行。

 生徒としてはそれだけ楽しめる時間があるわけだけど、俺と美優からしたら四日もエッチができないわけで。

 

 大丈夫だろうか。

 帰ったらこの件も相談しておかないとな。

 

「ソトミチ、男は俺と高波の三人でいいよな?」

 

 ホームルームが終わって、早速話しかけてきたのが鈴原だった。

 こういうときは固定のメンツでつるんでいると楽でいい。

 

「男は、ってなんだ?」

「は? ああ、お前そういや休んでたから知らねえのか」

「何を」

 

 当校の男女比は五分なので、クラスもほぼ男女均等割されている。

 課外授業日の班は六つに分けることになるので、男が六人の班が三つ、そして女子も同じようにグループを作るのが当然だ。

 

「見ろ、あそこを」

 

 鈴原は教室の隅を指差した。

 そこには男女で三人ずつの六人グループが形成されている。

 

「やつらが清き課外授業をトリプルデートだと称して勝手に混合グループを作ったせいで、他が同性で固まると何人かがあぶれるんだ」

「なんて迷惑なことを……」

 

 どうやらそれをきっかけに、全てのグループが男女混合になる流れになったようで、水面下では男女それぞれでどう組を作るかを牽制しあっていたようだった。

 担任がくじ引きだと言ったらどうするつもりだったんだそいつらは。

 

 すでに伴侶のいる俺からしたら、女と一緒に歩くことなんて面倒でしかない。

 ランチをする場所で揉めたくはないからな。

 

「そりゃあ山本さんしかいないだろ。可愛い子を呼んでもらおうぜ」

 

 後から高波もやってきて、おそらくはクラスの全員が狙っているであろうその人の名前を口にする。

 

 言っておくが、その人も半分ぐらいは俺のものだからな。

 

「鈴原はいいのか?」

「構わないぜ。進化した俺を見てもらいたいしな」

「そういや合コンのほうは収穫あったのかよ」

「高波のやつは彼女を作ったよ」

 

 鈴原に状況報告をされた高波が自慢げに親指を自分に向ける。

 彼女がいるくせに山本さん連呼とは。

 運動部のチャラいのはダメだな。

 

「そして、俺もヤった」

「よかったな」

「……ハルマキちゃんとな」

「そうか。詳しくは聞かん。話したければ修学旅行の夜にでも話せ」

 

 まあ、いいんじゃないかな。

 鈴原も女慣れしたおかげか見てくれも悪くなくなったわけだし。

 なんかあったんだろう。

 

「ソトミチはどうだったんだよ」

「遊んでたよ」

「誰と」

 

 鈴原が俺を問い詰めてくる。

 その横から、髪の長い女子が一人、割って入ってきた。

 

「私と、だよね。ソトミチくん」

 

 山本さんの一言に、クラスの空間にピキッとヒビが入った。

 

 やりおったな。

 

「ライブでばったり会っちゃってさ、意外と趣味が合うんだよね」

「あーそうだったな。そうそう」

「それで二人でカラオケにも行ったりとか」

「うんうん」

 

 フェラチオしかしてなかっただろうが。

 

「もしかして、お前ら付き合ってんのか!?」

 

 山本さんの発言に一番に驚いたのが高波だった。

 鈴原のやつは意外にも冷静に話を聞いている。

 

「付き合ってはいないよ」

「付き合ってないよ」

 

 付き合っていはいないんだ。

 セックスはしまくったけど。

 俺の恋人は美優だからな。

 誰より大切な可愛い妹だ。

 

「よくわかんないけどよ。だったらなおのこと、山本さんは俺たちとグループで構わないんだよな?」

「うん。いいよー。……奈々子もいいよね?」

 

 山本さんが後を振り返って質問を投げたその人物は、クラスでも山本さんが一番に仲良くしている川藤奈々子という名の女子生徒だった。

 肩上で切りそろえられたボブカットが涼し気な真面目な女の子で、山本さんとはベクトルの違う優等生だ。

 

「またそんなモテないのと遊んでいたのあなたは」

「モテるモテないじゃないでしょ男の子は。それに、ほら。夏休み前と比べて、みんな立派になったじゃない」

 

 鈴原と高波も巻き込まれて、川藤とはほとんど話すこともなかった俺たちは、緊張を隠せないまま挨拶をした。

 

 一番の変化があったのは鈴原だろうな。

 顔立ちも端正になったし落ち着きも出てきたし。

 

 高波も女慣れしたという意味では変わったはずなのだが、見た目には全く現れていない。

 まあこいつは中身がしょうもないオタクだっただけで、俺たちの中では一番に外見がまともだったからな。

 

「私は奏が一緒になってくれるなら何でも構わないけど。あと一人はどうするの」

「ん、考えてなかった。どうしよ」

 

 山本さんは誰とでも仲が良いので、川藤以外の女子とは付き合いの濃淡が変わらない。

 だから、とりわけ懇意にしている友達が多いわけではない。

 なので、あと一人を募集する必要があるわけだが。

 

 そこで、山本さんの視線は、俺の席の隣へと移された。

 

「え、あ、私?」

 

 そう、小野崎である。

 メガネでおさげの小野崎だ。

 もう一人は男子からでも構わなかったのだが、既存のグループの中に一人が混じるとき、男よりも女の子のほうが馴染みやすいというのは事実としてあるのだった。

 

「ソトミチくんと仲良かったよね?」

「仲が良かったわけでは……」

 

 そうだ。仲が良かったわけではない。

 いつだかの美優の命令で話をしていただけで。

 他の女子と比べれば話しやすくはあるが。

 

「小野崎は別にグループがあるんじゃないのか?」

「それはね。あったんだけど。なぜか男女混合の流れになっちゃったから、元々考えてたグループもバラバラになっちゃって。好きな男の子と歩けるなら、やっぱりそうしたいじゃない?」

 

 ここにもとばっちりの被害者がいた。

 最初に男女でグループで作った奴らはいつか天罰でも受けてほしい。

 でも、そこまで恋愛が盛んではないと思っていたこのクラスも、そうした雰囲気が言い出しづらくさせていただけで、好き合ってる人とかはそれなりにいたんだな。

 

「結論としては、小野崎は俺たちのグループでいいのかな」

「いいよ。好きな男子が被ったりしてて修羅場だから。強引に誘われた口実さえくれれば」

 

 小野崎からのその提案に、俺が目線で残りのメンバーに確認を取ると、ずっと黙っていた鈴原から話し始めた。

 

「それで六人が決まるなら言うことないだろ。俺は無理にでも小野崎を引き抜きたい」

「小野崎! こっちに来い! 絶対に楽しいぞ!」

「私が誘ってるんだから断れるはずないもんね!」

「しょうもない男子が増えるよりマシだから、口裏を合わせるぐらいならするわ」

 

 ということで満場一致で残りの一枠も確定となったのである。

 歓喜の声で溢れていた朝の時間も、放課後が近づくに連れて徐々に怒りと悲しみの感情が交じりだして、早々とメンツを固めてしまってよかったと改めて思った。

 

 そして、さしたる興味もなかった修学旅行のグループづくりなんかより、俺にはもっと差し迫った事情があるのであって、山本さんには予めメッセージを送っておいて放課後に時間を作ってもらうことになった。

 山本さんが堂々と友達宣言をしてくれたおかげで、学校で二人で話していても周囲を気にする必要もなくなったものの、この学校で俺と山本さんが集まる場所と言ったら例の資料室しかなかった。

 

「懐かしいね、ここも」

「初めて本格的にやったとこだもんな」

「あのときはこんなにソトミチくんのことを好きになるとは思わなかったよ」

 

 サラッとまた、山本さんは俺への好きを全面に、教室では見せなかったようなユルユルな笑みを向けてくる。

 

 ドアに鍵をかけて、キングファイルの積まれた棚を前にした俺たちは、また壁際に椅子を持ってきて並べて、そこに座った。

 

「俺も同じくらい驚いてるよ」

 

 教室ではただ影が薄いだけだった俺が、こんなにも可愛い女の子に好かれるなんて思いもしなかった。

 それも、この先の人生でないほどの、特別な男として。

 

「悩みってエッチ関係のお話であってるかな?」

「まさしくご想像の通りで。……ってか、相談の内容まで前と似たような感じだな……」

「また勃たなくなっちゃったの?」

「そういうこと」

 

 俺は正確な事情を山本さんに伝えた。

 勃起も射精もすることはできるが、以前のような元気が出ず、精力も射精量も目に見えて衰えているという悩みを、赤裸々に。

 

 山本さんはその話を聞いて、「ふむふむ」とロクに頭を回してなさそうに考え込むと、おもむろにブラウスのボタンを下から外し始めた。

 

「とりあえずおっぱいでも揉んでみる?」

 

 隙があればおっぱいを触らせたがるなこの人は。

 

「ど、どうかな。いいんだろうか」

「おっぱい揉むくらいなら浮気にならないよ。ほら、手を入れて、欲望のままにガバッとやって」

 

 山本さんは半分ほどブラウスのボタンを外すと、キャミソールと一緒にたくし上げて、ブラジャーまでを捲りあげた。

 重量感のある脂肪分の塊がぶるんと溢れてきて、その頂きにはちょうど哺乳瓶の先につけられそうなほどのキレイな立体をした乳首がぷっくりと膨らんでいた。

 

 あまりにエロくて俺は咄嗟に目を逸らしてしまった。

 

「山本さんの身体って、やっぱり、エロいよな……」

「服の中の隅々まで知ってるくせに」

 

 山本さんはブラウスをパタパタとさせて、細めた目でいやらしく俺を見つめて、早く揉めと煽ってくる。

 

「今日も私とすれ違った百人ぐらいの男子が脱がせて拝みたいと思ったはずのおっぱいだよ? 学校の人目のないところで優越感たっぷりに鷲掴みしたくはない?」

「そこまであからさまに学校でエロいことさせたがるのも山本さんぐらいだよ」

 

 山本さんは男が喜ぶシチュエーションをきっちり把握している。

 正直なところ俺も興奮していた。

 悩みが悩みなので、山本さんに相談させたとなれば、こうなることも美優は見越してのことだろう。

 こんな程度でまごついていては、山本さんを相手に失礼というもの。

 

「んっ……ソトミチくんの手、あったかい……」

 

 俺はブラウスに手を入れて、山本さんのおっぱいを揉んだ。

 放課後の部活に励む生徒たちの掛け声を聴きながら、俺はブラウスの擦れる音と手に余るほどの乳房の弾力を堪能していた。

 乳首をイジっても山本さんは喘ぐのを我慢して、それでもたくし上げられた裾から覗く腹筋が引き攣っているのは見えて、頬を朱に染めて緩ませる山本さんの顔はとても淫らだった。

 ペニスが勃起してスラックスがキツかった。

 

「ソトミチくん、勃起してるね」

 

 山本さんは俺のズボンのチャックを下ろして、ペニスを露出させた。

 できるだけ竿に触れないようにしていたあたり、そこが山本さんにとっての線引きなのだろう。

 前開きの隙間から顔を出したペニスは、最盛期ほどではないにしても、今朝に美優とセックスしたときよりは大きくなっていた。

 

「ちゃんと硬さもありそうだよね?」

「なんか、調子が出てきたかも」

 

 乳揉み陰茎療法であっさりと治ってしまった。

 山本男性器クリニックは即効性があって助かる。

 

「美優ちゃんとセックスしたときは興奮してた?」

「あー、どうだったかな」

 

 恋人らしい熱のあるセックスに不満はなかった。

 しかし、美優の興奮の度合いも薄かったように思えて、俺としてもそれほど盛り上がれてはいなかったかもしれない。

 

「なんとなく原因に察しがついてきたよ」

 

 山本さんは椅子から立ち上がって、互いに服を直さないままに、俺にも立つように指示してきた。

 

「ちょっとエッチなことしてもいいかな?」

「えっ。あ、ああ」

 

 じゃあ今までのはなんだったんだ。

 おっぱいを揉ませたのは挨拶だったとでも言うつもりか。

 

 と不埒なことを考えている俺の目の前で、山本さんはスカートを緩ませて、パンツと一緒に半脱ぎになるまで下ろした。

 そこには山本さんの無毛の女陰が顔を覗かせて、もう片方の手でおっぱいが見えるようにブラウスを捲り上げているその姿が、俺の陰茎を鞭打つようにイキリ勃たせてきた。

 

「えっろ……」

 

 思わず呟いてしまった。

 山本さんはそれを聞いて嬉しそうにしていた。

 

「また、ちょっとおっきくなったね」

 

 山本さんはニヤニヤと俺のペニスを眺めている。

 まさか、俺の興奮の度合いが足りなかったなんて、そんな簡単な話で済んでしまうとは。

 

「山本さん、見るたびにツルツルだけど、毎日剃ることにしたの?」

「実はね、本格的に永久脱毛を始めたんだ」

「永久脱毛って……もう生えなくなるやつ?」

 

 山本さんほど大人っぽい人であれば、陰毛が生えていてもむしろ自然なくらいだ。

 これほどキレイに剃られていると、あえてアソコを永久脱毛したのだというのが丸わかりで、温泉に入るときに目立ったりしそうなものだが。

 

「そうだよ。永久脱毛っていっても、完全無毛になるかは繰り返す量によるんだけど……。私は、ソトミチくんの好みのままの体でいたかったから。全部やろうかなって」

「俺のこと好きすぎるな」

「ソトミチくんより好きになる人なんていないよ」

 

 山本さんはアソコのチラ見せをひとしきり俺に楽しませてから、パンツとスカートを床に落とした。

 はだけたブラウスだけを着た下半身裸の淫らな女子生徒の出来上がりだった。

 

「この先、どんな人と付き合うことになっても、私はソトミチくんとのセックスで女にされたんだってことを、目に見える形で体に残しておきたくて。毛の一本すら二度と生やせなくなるぐらい、徹底的に処理するつもりなんだ」

 

 山本さんはまたブラウスの裾を上げて、左右に大股を広げて、脱毛のレーザーにより色素さえ薄くなった色白のパイパンを俺に見せつけてくる。

 

「照射されるときって、火で炙られるような強い痛みがあってね。それがまるで、ソトミチくんへ忠誠を誓う奴隷の焼き印を押されているみたいで……すごく興奮するの。おかげで施術のナースさんには迷惑かけちゃった」

 

 軽い口調で話をしているが、やっていることはドがつくほどの変態行為だった。

 

 もうほんとエロすぎて胸のドキドキが痛い。

 ついさっきまで、教室では姫のように扱われていた清純派美少女が、控えめな痕跡とはいえたった一人の男のために不可逆な施術をしているなど誰も思わないよな。

 

「あまりこう言うべきではないのかもしれないけど。かなり、嬉しいな。してもらう身としては」

 

 相手が絶世の美少女だからというのはもちろんある。

 ただ、元オタクである俺の経験からすると、恋愛弱者の希望の星である誰にでも優しい山本さんが、心に決めた一人の男のために体で奉仕しているという事実が、とても精巣にくるのだ。

 

「んふふ。その言葉が聞けただけで私は満足だよ」

 

 山本さんからしたら尽くしたいから勝手に尽くしているだけなのかもしれない。

 でも、支配欲がそのもの快楽となる男にとって、その報告を聞くだけでも射精できるほどの悦びがあった。

 

「それじゃあ。ちょっとだけエッチなことするね」

 

 そう言って、山本さんは、俺のペニスの先が裸の下半身に触れないぐらいに近づくと、俺の耳に上からしゃぶりついてきた。

 

「んん~ちゅっ……じゅるるっ……ちゅぷっ……、はぁ……ソトミチくん……ちんちんおっきくして……」

「っ……ああっ……ンッ──!?」

 

 不意の快感に腰を抜かされて尻餅をついた。

 目の前にはブラウスの裾に見え隠れする山本さんの淫部がある。

 

「もう、ソトミチくんったら、そんなに私の恥ずかしいところを見つめちゃって……。おちんちんもビクンビクンだね」

「あっ、ああ、これは……!」

 

 つるつるでキレイなパイパンについ見惚れてしまった。

 その割れ目を山本さんは片手の指でクパァと開いてくれた。

 愛液で糸の引いたそこは果実を割って開いたように生々しい断面をしていて、脱毛により美しさの増した山本さんのヴァギナはもはや芸術的だった。

 

「んふふっ。彼女が居なかったら好き放題に舐められたのにね」

「口惜しいとはこのことだな」

「美優ちゃんが許してくれたら、何年後かにでもご自由に」

 

 こんな卑猥な会話の中で、るんと弾むような声で山本さんはそう言った。

 

「でも、大きさはそんなに変わってないね? 私が相手だとこれぐらいが限界かな。あとはソトミチくんのお家に行って、美優ちゃんに解決してもらおっか」

 

 「解決の方策も見えたことだし」と山本さんは付け加える。

 これはまたエッチなことになる流れだな。

 

「山本さんは、もし、俺のペニスのサイズがこのままだったとしたら、女の子の立場としてどう思うだろうか」

「全然気にしないよ。私は」

 

 山本さんは下唇に人差し指を乗せて微笑んで、微塵の迷いもなく即答した。

 「私は」を強調したその意味は実に山本さんらしいものだった。

 

「たとえ頑張って勃起しても私の膣に入れられないぐらいおちんちんが小さくなったとしても、私は毎日ソトミチくんのためにフェラチオの研究していくらでも気持ちよくしてあげる。タマタマに精子さえあれば子供も作れるわけだしね」

 

 山本さんは爽やかな笑顔でそう言ってのけた。

 山本さんに本気で愛されるってこういうことなんだな。

 恋人でいるわけでもないのになんて幸福感だ。

 

 そう感心している俺に、山本さんは正面から跨ってきて──断っておくが、まだ俺は勃起したペニスをズボンの外に露出させているし、山本さんは下半身裸で腰をあと少しでも下ろせば生で挿入ができてしまう状況にある──、今度は俺の首に舌を這わせ、乳首を服の上からコリコリとイジってきた。

 

「それに、性感帯なんて、いくらでも増やせるわけだし……」

「んっ、んっ、んんっ、んー……!!」

「あー、またビクビクして、先っぽからお汁を垂らして……。射精までしちゃったら浮気だよ。イかないように我慢しないと」

 

 それはどんな判断基準だとか、そんなの突っ込んでいられる余裕もないぐらいに、山本さんの舌と指は気持ちよかった。

 山本さんの忠告がなかったら射精していたところだった。

 一人の男に性欲全振りするとここまでエロくなるのか。

 

「ほんとに出そうだから、ストップ」

「んー残念。ソトミチくんの喘ぐ声が好きなのに」

 

 山本さんはようやく俺から離れて、暴発寸前になってもさほど大きさが変わっていないことを確認する。

 この部屋での事前の検証はここで一旦の区切りとなった。

 

 俺は山本さんに冷たい水を買ってきてもらって、それをペニスに当てて竿の血流を弱くすることでどうにか勃起を鎮めた。

 なおさしたる意味はないがその中身は山本さんがきっちり頂いていた。

 さしたる意味はない。

 

 それから、二人で目立たないように学校から出て、俺の家で美優と合流することに。

 

 山本さんのズルいところは、これでもう一通り経験済みで、かつ自己の能力の高さから男をステータスとして全く見ていないというところだ。

 これが本物の清純処女だったら、「彼氏のが小さくてもいい」なんて、実は裏でチャラい男のデカチンでやりまくってる女の常套句でしかなくなる。

 山本さんとの性生活における最大の魅力は、一方的に尽くされることに安心していられることなのかもしれない。

 

「にしても、あそこまでしてよかったかな」

「心配しないで。必要であえてやったことだから。美優ちゃんのとこに行けばわかるよ」

 

 いつだかの美優っぽいミステリアスさを醸してきた山本さん。

 しかし、その理由が判明するのは、俺と山本さんが家に着いてすぐのことだった。

 

「──あ、あのっ、これは……んっ、あっ……どういう、状況なんですか……!」

 

 俺の部屋で、美優は上半身の衣服を脱がされておっぱいを露出させ、背後から山本さんに乳首責めされていた。

 

 これはどういう状況なんだ。

 

「まだ一週間もしないのに、またこんな……!」

「あれがあったから今があるんだよ。今日もおっぱいが大きくて可愛いね、美優ちゃん」

「んっ……んんっ……あっ……ひああぁ……!」

 

 おっさんみたいな下卑た笑みで山本さんが美優の乳をイジめている。

 山本さんがこういうことをやると、姉や母が歳下の家族を可愛がっているようにはならず、レズっぽい淫靡さすらなかった。

 あのねっとりした責めっぷりは実の娘に手をかける鬼畜親父のようですらある。

 なんにしても卑猥だった。

 

 ちなみに俺は下半身裸になっていて、美優の陵辱される姿に勃起していた。

 

「ほら見て。ソトミチくんのおちんちんがどんどん大きくなってくよ。私が言った通り、美優ちゃんに問題があったでしょ?」

「これは、これで……っ……問題なんですけども……!」

「へーきへーき。ソトミチくんも私のおっぱいを揉んだし。私とこうしてるぐらいは浮気じゃないから」

 

 そのための資料室での変態行動だった。

 いやこの場合はどちらにも問題があるのであって、お互いにやったからといって帳消しにはならないのだが。

 美優の緻密な戦略からするとずいぶんと大雑把というか、勢いを何よりも大事にするところは山本さんらしいやり口ではあった。

 

「美優ちゃんも男の人を興奮させる努力をしないと。オナニーしてるところを見せてあげるとか」

「し、死んでも嫌です」

「ならもっと可愛い姿を見せるしかないね」

 

 山本さんは容赦なく美優の乳首をつねりあげる。

 その指の力加減は絶妙で、俺の知らない間の二人きりのイチャイチャで弱いところを調べ尽くされてしまったのか、美優はひたすらに性感を責められて身悶えしているだけだった。

 

「んっ、んんああっ、だめっ……! それ以上、したら……あんっ、ああっ……!」

「イッたら浮気になっちゃうよ、美優ちゃん。もっと頑張って」

「いやっ……あっ、あっ、もう、イッちゃう……! らめらめぇっ……ああっ、あっ……浮気に、なっちゃう……!」

 

 美優まで山本さんの訳の分からない浮気基準に乗っかっていた。

 テンションが上がると頭がおかしくなるのは美優も同じだった。

 

「ああっ……ひぁ……っ……あアッ──!!」

 

 そして、美優は抵抗していたわりに呆気なくイッた。

 その後も美優は山元さんにおっぱいを揉まれたり耳をふーふーされたりしてイキまくっている。

 

「美優ちゃんったら、そんな簡単にイッちゃって。……いいの、ソトミチくん? 美優ちゃんが浮気してるよ?」

「えっ……ああ……」

 

 もう好きにしてくれ。

 俺は君たちの倫理観には付き合えない。

 美優が山本さんとエロいことをしていようとも、もうエロいとしか感じられない体になってしまったんだ。

 二人して俺の性癖を捻じ曲げてくれたせいでな。

 

「うふふ。美優ちゃんもすっかり出来上がったし、ソトミチくんのも元通りだね。では、邪魔者は退散しますので仲良ししてくださいね」

 

 山本さんは美優を解放すると、早々に帰り支度をしてドアの外まで出てしまった。

 

「二人がラブラブしてくれないと、嫌なんだからね」

「い、言われなくても、これから思う存分にラブラブしますので」

「それを聞いて安心したよ。じゃあ後は二人で頑張ってね」

 

 美優の批難するような視線に追い立てられて、山本さんは階段を降りて行った。

 それから、美優はしばらく窓の外を眺めて、自宅へ帰っていく山本さんを手を振りながら見送った。

 

「ふう。なんてエッチな人なんでしょうか」

「俺も改めて山本さんのエロさを思い知らされたよ」

「せめて私を巻き込むのはやめていただきたいのですが。……まあ、それはそれとして。久しぶりのちゃんとしたエッチをしましょうか」

 

 あれだけイかされまくったのを「それはそれとして」で流してしまう相変わらずの割り切り具合で、美優が俺に振り返ったその先では、ペニスがまた硬さを失ってしんなりと折れてきていた。

 

「えっ、な、なんで!?」

「お、俺にもわからない。さっきまでは力が入れられたのに……!」

「と、とにかく、お口でしてあげるから。お兄ちゃんは頑張って元に戻して」

 

 美優は慌てて俺の前に座って、パクリとペニスを咥えてきた。

 

「じゅるるっ……ちゅっ……んちゅっ……じゅるっ、じゅぶっ……んくっ……」

「おっ……うぅ……気持ちいい……」

 

 ペニスが太くなることで美優の口内に触れる表面積が大きくなるからか、フェラチオは昨日までより快感が増していた。

 しかし、最も大きかったときからは程遠く、気持ち良さはあるのにペニスから硬さが抜けそうになってくる。

 

「んっ……ん、じゅるっ……じゅぶっ……はぁ、うぅ……お兄ちゃん、もうちょっとだけ、どうにか力を入れてください……」

「わかってる、いま、やってるから」

 

 外部からの刺激をペニスで感じるとき、その感度は勃起している間でも一定ではない。

 射精に向けた何かにカチッとハマった瞬間から、精液が射出されるときまでは一直線に感度も上がっていく。

 そのレールにさえ乗ればペニスの硬さを戻すことができる。

 

 それが俺と美優の共通認識で、俺は自ら射精運動を起こすことによって、ペニスを奮い立たせた。

 その結果として、ペニスはぐんぐんと肥大していき、硬さも元通りになった。

 しかし、

 

「うっ、うっ……あっ、ごめん美優……っ! これ、もう無理かも……!」

「んっ……んぐっ……じゅぶっ……ふぇ? え? あ、まって……あむっ……んっ……!」

 

 びゅっ、びゅっ、びゅっ──! と無情にも射精をしてしまった。

 これまでのセックスでは、射精しそうになっても、そのギリギリのところでコントロールすることができていたのに。

 萎えた状態から無理に勃たせると、最硬度まで行った後はもう射精するしかできなかった。

 

「うぅ~……せっかくおっきくなったのに……」

「ご、ごめん」

 

 そして、普段なら一回の射精ですぐ萎えてしまうことなどないのだが、今回の射精では美優に咥えながらもペニスは小さくなっていってしまった。

 

「あっ……でも、山本さんのおかげで、俺が興奮さえすれば解決はしそうなことがわかったし……! だから、また、夜になったら試そう」

「そうだね。これは二人で乗り越えなきゃいけない壁だもんね」

 

 美優もまだめげることはなくて、二人で一緒に真面目な早漏改善をすることになった。

 その夜になって、美優の口に出した精液が少なかったこともあってか、またすぐに睾丸に精子の溜まった合図がきた。

 

 金玉は疼くし射精したい意欲もある。

 だから、この体には美優とセックスがしたい意思があるはず。

 おそらくは、美優と山本さんとの三人プレイで射精しまくったときの刺激が、俺の感覚を狂わせているだけに過ぎないのだ。

 ただ、余韻があまりにも強烈で、時間が解決してくれるのを待っていたら、きっと俺と美優は何ヶ月もまともなセックスができないままになってしまう。

 

「だから、折り入って美優に、相談をしてもよいだろうか」

「聞きましょう」

 

 夜なってから再び俺の部屋に集まり、風呂から上がった美優、いつものシルキーなパジャマで床に正座していた。

 

「俺も美優のおっぱいを揉みたい。山本さんも言っていた通り、まず必要なのは興奮なんだ。だとしたら、俺は美優のおっぱいを揉みたい」

 

 勇気を出して、俺は想いの限りを伝えた。

 

 その言葉を、美優は目を閉じて咀嚼して、そして、ゆっくりと頷いた。

 

「わかりました。私のおっぱいは、好きにしていただいてよいです。揉むなり、吸うなり」

「まじか!? じゃあ吸う!!」

「は、はい」

 

 まさかの快諾に、俺の心は歓喜に舞い上がった。

 山本さんの忠告があったからなのか、まさか揉むだけでなく好きにしていいとまで言ってもらえるなんて。

 

「私も、恋人として、自覚が足りなかったかもしれません。お兄ちゃんは大切な人なので、おっぱいぐらいは、好きにさせてあげるべきでした。反省しています」

 

 美優は耳を赤くして、一言一言、懸命になってその言葉を口に出していた。

 コンプレックスであるその巨乳を好きようにしていいというのは、もうそれだけで美優から俺への愛の大きさが表現されているのだった。

 

「痛くならないようにするからな」

 

 俺は美優のパジャマのボタンを外していく。

 半円を描く胸部の上側から、両手で一つずつボタンを隙間に通して、留めを解除するたびに下着しか身に着けていない美優の鎖骨が露出されていった。

 

 パジャマを取り去ると、次はブラのホックに手をかける。

 レース付きの可愛らしいブラジャーはオーダーメイドらしくて、カップの支えをなくすと締め付けから開放されたように膨らみが増すその巨乳を、しっかりと受け止める役割をしていた。

 山本さんよりも芽の控えめな乳首が可愛らしく挨拶をしてくれている。

 

「今日は羞恥プレイをされてばかり……」

「美優の恥ずかしがる姿が可愛いんだよ。吸うけど、いいよな」

「どうぞ。好きなだけ吸って興奮してください」

 

 美優は手を膝に揃えて乳首への刺激に構えている。

 俺は美優の重たい乳房を持ち上げると、俺は首を下げて美優の乳首に吸い付いた。

 

「んんんっ……!! あっ……うぅ……っ……!!」

「んっ……はぁ……ちゅっ……美優……」

 

 敏感な乳首の刺激に耐える美優を相手に、俺は乳房の先を平たく潰して、突き出てきた乳首を口内のいっぱいにまで含んで舌をチロチロと上下に動かす。

 

「あっ、あっ、あっ……!! お兄ちゃん、それぇっ……だめっ……!!」

 

 乳首を舐めるたびに美優がビクついて、それと同調するように俺のペニスもビクビクと肥大化を始めた。

 軟なはずの美優の乳房は、それでも巨乳であるが故の丈夫さもあって、ジュルッと強く吸い付くとその分だけ美優は気持ち良さそうに嬌声をあげた。

 

「ああっ、ああんっ……そんな、ひあっ……おにいちゃん、夢中に、なりすぎ……!」

「んっ……ふぅ……だって、美優がこんなにおっぱいを吸わせてくれて……それこそ、夢みたいで……」

 

 俺は両手で美優の乳房を持って、右の乳首に左の乳首に、繰り返し吸い付いた。

 ジャンクフードを豪勢に頬張るように、雑に美優のおっぱいを吸っては、ストローの先に残った雫の一滴までもを味わうように、執拗に舐って美優を責め立てた。

 

「はぁん、ああっ……もう…………イクっ……!!  イッ…………イクっ…………イクっ……!!」

 

 堰を切ったように美優は絶頂した。

 それからの美優は俺の舌に翻弄されるがままにイッて、全身の筋力が使い尽くされて体を支えられなくなったところで、俺は美優の腰を持ち上げてベッドに押し倒した。

 

「美優、勃起したよ。おっぱい吸いながら挿れるからな」

「はぁ、はぁ……まって……きゅうけい……させて……」

 

 俺は美優の衣服を全部脱がせて、俺もズボンを脱いで剛直を突き出した。

 

「お兄ちゃん待って、わたしそんなの挿れられたら絶対に大声でちゃう」

「だったら二人で布団を被ってしよう」

 

 俺はもう性欲を止められなかった。

 美優に覆いかぶさったその上から布団を被って、俺と美優は簡易な防音の中でセックスを続行する。

 ベッドの縁にだらしなく垂れ下がっていた美優の脚を俺は持ち上げて、床に膝立ちをしながら俺は美優にのしかかるようにペニスを挿入した。

 

「はぁ、はああっ……美優っ……美優っ……!!」

「んんっ!! んぅぅううっ……あっ……んンンンッ……!! あ、ああッおにいちゃん……!! らめっ、あっ、はげしっ、イッ……ッ……もうらめらろイッちゃうのぉおっ……!!」

 

 パンッ、パンッ! と腰を打ち付けて、布団の中にくぐもる美優の絶叫を聴きながら、俺は何度も魔羅で杭を打ち付けた。

 吸い付く美優の乳が俺のピストンに合わせて上下に揺れて、子宮の奥を突くのと乳首を吸い上げるのを同時にすると、美優は背中を仰け反らせて激しくイった。

 

「アッ、あああっっ、ああっ、いやあああっ!! ひ、ひぎもぢぃっ……んんっ、あっ、らめぁああっらめらめっ……あっ、ああっ……ああっ!! おひ、ひゃっ、っ、あっ、イク、ひぐいぃっあっ……ああぅああっ……!!」

 

 久々に味わう美優の膣をこじ開ける感覚に、陶酔感にも似た快楽が身を包んでいた。

 美優を犯すことが本人から許される、その権利を持っていることが、俺の自尊心を極限の高次元にまで押し上げていた。

 

「じゅるっ……じゅっ……はあ……美優…………好きだ……一生愛してるからなっ……!! 中に出すぞ……美優……!!」

「あああっ……んんああぅあっ……!! なからひぃ……ひゅきぃいっ……あああぁあっ……!!」

 

 びゅるびゅるるるっ、びゅくびゅくっ、どぷっ、どぷんっ、どぷっ──!!

 

 布団に籠もった熱気の中で汗が飛んで、美優の膣内にも大量の精液が射出された。

 俺は久々の快感にぐったりと倒れ伏して、美優の胸の上で肺が大きく膨らんだり縮んだりするのを、余韻としてただ味わっていた。

 

「ふぅ、はぁ、っ……おにぃのばか……おっぱい吸いすぎ……女の子イカせすぎ…………でもスキ……」

「俺も美優が好きだよ」

 

 それから俺たちは愛情たっぷりのキスをして、それからはセックスの疲労感に包まれるままに、服も着ないでベッドで抱き合って寝落ちするまでずっとキスをしていた。

 

 そして、その翌朝のことである。

 

「おっぱい、封印させてください」

 

 制服に着替えた美優がブレザーにおっぱいの形をくっきりと張り出しながらそう言ってきた。

 当然といえば当然だが一日と経たずにおっぱいを好きにしていい許可は撤回されてしまったのである。

 

「な、なぜだ」

「お兄ちゃんにおっぱいを吸われるのが気持ちよすぎてこのままだと頭がおかしくなりそうだからです」

「それは……そうか……」

 

 そう言われてしまうと食い下がることはできないな。

 俺も調子に乗ってやりすぎた自覚はある。

 

「もう治ったんだし困らないよね」

「困りはしないけど、永久にってことじゃないんだよな?」

「雰囲気で流してくれれば。怒りはしませんので」

「だよな」

 

 要は俺が頼み込んで吸わせてもらうエッチの始め方は許可しないということ。

 この妹のことなので土下座をして頼み込めば──ゴミを見るように気持ち悪がられるだろうが──なんだかんだで吸わせてくれるはずだが、俺も男なのでいい加減にセックスの流れの作り方を覚えなければならない。

 

「ところでお兄ちゃん」

 

 美優はようやくストレートに戻った髪を腰まで下ろして、あれだけ激しいセックスに喘いでも全くあどけなさの抜けないパッチリとした目で俺を見つめてきた。

 

「ん、どうした?」

「お兄ちゃん、昨日は一回しか出していないわけじゃないですか」

「そうだな」

 

 俺と美優の間では精液たっぷりの射精以外はカウントしないので一回で相違ない。

 

「となると、これまで何日も出てなかったわけなので、一晩が経った今朝ともなれば、また溜まっていますよね」

「そのはずだな」

「なので。心優しい妹がお口で出してあげようと思います」

「お、おお。ずいぶんと積極的だな。すごく嬉しいよ」

 

 これも山本さん効果なのか。

 性生活のために男を喜ばせることの必要性が身に染みてわかったようだな。

 

「いや、まあ、その……。これまで、しばらく薄いのを飲まされてきたので」

「そ、そういうことか」

 

 一見すると愛らしい人形のようですらあるこの妹は、秘めたる好物として喉に引っかかるぐらいドロドロしたとても苦いお兄ちゃんの精液というものがある。

 なので、フェラチオという行為が好きかはさておくとして、そろそろ俺のきちんとした精液が飲みたいらしい。

 本人も口にするのも憚られる非常に恥ずかしい秘密なのであえて確認は取っていないが、この会話のやり取りがそのような意味で成立しているのはもう間違いがない。

 

「じゃあ、頼むよ」

 

 俺はズボンを半脱ぎにしてペニスを露出させた。

 

 もう朝食も済んだこの時間。

 俺たちは学校に行く前に、兄妹でフェラチオをする。

 

 そして、俺はこのロリで巨乳の妹に、また気持ちよく射精をさせてもらう……。

 

 はずだった。

 

「あの……、お兄ちゃん?」

 

 どうしたことだろうか、ペニスが勃起する様子がない。

 あれだけ情熱的なセックスをして完治したと思われていた俺の勃起不能は、まだ完全には治癒していなかったのだ。

 

「あ、えと……これは……。また、疲れてるのかも……」

 

 俺が懸命に弁明をするも、ようやくと期待していた美優は、目に涙を溜めるぐらいに憤慨して頬を膨らませていた。

 

「むむぅぅう~!!」

 

 そんな愛らしい顔をして、欲しいのは俺の精液だなんて。

 

「昨日のでコツは掴んできたから! だから、色々……ぱっ、パイズリをしたりだとか、場所を変えたりだとか、試してみよう!」

 

 俺は少しでも前向きに。

 百パーセントが俺のせいでないことをわかっている美優も、その意気込みは汲んでくれた。

 

「もしくは、アレを出すしかないか」

「あ、アレは最終手段にしましょう。お兄ちゃんとする用は、仕上げも、まだなので」

「そうか」

 

 美優も俺とのことをきちんと考えてくれていたんだな。

 これは益々期待に応えないわけにはいかない。

 

「美優」

「はい」

 

 俺はペニスを露出させたままで。

 きっちりと制服を着込んだ美優に、想いを告げる。

 

「おっぱいでまた無理やり勃たせて、イカせてもらえないだろうか」

 

 勃起はしないが、美優の言っていた通り、性欲は溜まっているのだ。

 

「…………。私のこと遅刻させたら、二度としないからね」

 

 美優はさっそく、撤回の撤回をして。

 

 ブレザーのボタンに、指を掛けたのだった。

 

 



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お兄ちゃんの精液を飲むのは嫌いではない理由

 

 射精した後には興奮が落ち着くのと共に勃起が収まり、一時的には性欲がなくなる。

 いわゆる賢者タイムが来るのが男性機能としては普通のことだ。

 

 俺もその普通の一人だった。

 

 妹とセックスをするまでは。

 

(射精はしたい……ものすごくムラムラする……)

 

 俺は捉えどころのない性欲を持て余して、ベッドで仰向けに寝てスマホの画面を眺めていた。

 以前に美優にインストールしてもらったカレンダー共有アプリを開いて、今日もまたこれを使ってしまおうかと、親指を迷子にさせて宙をなぞっている。

 

 このところは美優に口で抜いてもらってばかりいる。

 これまで当たり前のように勃起していた精力を失ったせいで、セックスに自信が持てなくなったこともその要因の一つだった。

 美優は他の女の子と違って、自分の性感帯を刺激されるより俺が射精することに満足感を覚えるタイプなので、その点では問題ないのだが……。

 

 なんだかんだと言ってもかつての俺の性欲は女の子にとって魅力だったはずなんだ。

 美優から与えられた絶倫というギフトがあったからこそ、俺はここまでモテる男になったわけで。

 

 いまさら性欲が普通に戻っても嬉しくはない。

 なんとしても強い勃起を取り戻す必要がある。

 本能剥き出しでエロエロモードになる美優をもうずいぶんと見ていないのだ。

 あの生真面目な妹をエロ堕ちさせることが、兄であるこの俺の使命だとすら感じている。

 

(やっぱり、今日も美優に抜いてもらおう)

 

 この勃起不調は俺の責任ではないんだし、回復するまでのことは恋人と二人三脚で支え合うべきだ。

 美優のおっぱいを触らせてもらえばきちんと勃起はするし、ペニスのサイズも元通りになる。

 問題なのは精子の薄さと精力の衰えだけ。

 本当に、あと一歩のところまで来ているんだ。

 

(今日の十八時から。フェラチオ、即抜きで。あと、おっぱいも、希望……っと)

 

 俺はカレンダーに予定を書き込んだ。

 このアプリでは『共同の予定』として入れたイベントに対する承認行為ができる。

 今頃は美優のスマホに通知が飛んでいるはずで、内容を見てから美優は俺の依頼を引き受けるかどうかを判断する。

 五分ほど待っていると、伺いは無事に承認された。

 

 アプリなら通知をするだけなので勉強を中断させたりすることもない。

 隣の部屋に頼み込みに行っていた頃に比べて些細な違いではあるが、これから恋人として毎日を濃密に過ごしていくからこそ、逆にプライベートな時間を守ることが大切だと考えている。

 

 俺はスマホでゲームをしたり動画を見たりして時間を過ごした。

 あと三十分もすれば美優は俺をフェラ抜きするためにこの部屋にやってくる。

 承認する側の美優はどんな気持ちで許可をしてくれているんだろうな。

 なお、美優の方からエッチの要望が来たことはまだない。

 

 予約の十八時になったところで、俺は下半身を露出させてベッドで仰向けに寝るだけになった。

 すると、コン、コン、と部屋がノックされて、俺が入室を許可すると美優がドアを開けて中の様子を確認してきた。

 学校から帰宅した後に、制服からの着替えとしてよく目にする無地のTシャツとフレアスカートをラフに着て、美優は俺がペニスを露出させていることを認めると部屋に入ってベッドに登ってきた。

 

 美優が俺の足元でペタン座りをすると、Tシャツの胸元には、乳首の部分だけが色濃くなった肌色が透けて見えて、ブラジャーは身に着けずにTシャツ一枚でやってきたことがわかる。

 俺におっぱいを触らせることになるからと、無駄な手間を省いただけなのだろうが、上半身裸になるよりかえってエロい。

 いっそ裸で来てくれてもと思うものの、恋人になっても生肌を見られるのは恥ずかしいという謎の羞恥心を持っているところが美優の可愛いところでもある。

 

 美優が前傾に上体を倒してフェラの体勢になると、半勃ちのペニスを口に含んだ。

 俺は両手を伸ばして、Tシャツをめくり上げてから、おっぱいを下側から支えるように持ち上げる。

 

 美優は唇を輪の形にして肉棒へと這わせ、それをゆっくりと上下に滑らせていく。

 頭を下げるとペニスが美優の口内へと吸い込まれていって、口を引き上げるとパンパンに張った亀頭が美優の口から見え隠れして、その淫らな行為は視覚と連動した快感を陰茎から全身へと行き渡らせる。

 フェラチオはじゅるじゅるとイヤらしい水音が鳴ることもなく、喉奥までペニスを咥え込んだときに竿のピクつきが重なると、「んっ……」と鼻から息を抜く美優の呼吸音が聴こえてくるだけ。

 

 俺が仰向けに股を広げて、美優はその間に肘をついて身を丸めて、肉棒を口いっぱいに咥えて一生懸命にしゃぶっている。

 美優の後ろに立てば、突き出されたお尻の丸みを拝めるのだろうか。

 温泉デートをしてからは、美優も家の中ならスカートを短めにすることが増えたので、しゃがめば股下に挟まれてシワの寄った美優のパンツを下から拝むことができるはずだ。

 

 そんなエロ妄想のせいで海綿体に流れ込む血流量が増して、ビクビクと動く肉棒を咥えづらそうにしながら、美優はフェラをする口の動きを早めた。

 俺も射精までの限界を感じて、フィニッシュに向かうその最中に、ちょっとした悪戯心で美優の乳首をコリコリと指先でイジる。

 美優は快感に悶えて、口からペニスが離れそうになるのに、すると決めたら意地でもやめない美優は、それでも俺の肉棒をしゃぶり続けた。

 

 断続的に与えられる刺激に、ギュンと睾丸がせり上がってくる。

 精子を発射するシグナルが脳から流れてきて、精液による尿道の摩擦と共に快感が一気に気分が高揚する。

 

 ペニスを咥えながら、上目で俺の表情を伺ってきた美優と視線が交わって、俺は美優と見つめ合ったまま美優の口内に射精をした。

 美優の口から出ているペニスの根元が、ビクンビクンと脈打っている。

 濃さはなくともそれなりの量の精液が注がれているはずなのに、美優は口の中に射精されている間、微かに頬を上気させた真顔でじっと俺のことを見つめているだけだった。

 

 俺は口内射精が収まるまでを見届けて、射精が終わった後は美優が精液を吸い上げてスッキリさせてくれた。

 

「っ……ふぅ……。ありがとう」

 

 俺の感謝の言葉に、美優は瞬きだけで反応をした。

 それから、美優は見てわかるようにゴクリと喉を鳴らして精液を流し込んで、最後まで言葉を発さないまま部屋を出ていった。

 

 フェラ抜きを予約すると、自然とこういう流れになった。

 美優は不機嫌なわけではないし、俺もこの対応に不満はない。

 あまり大きな声で人に話せることではないのだが、美優は性処理に使われるときはそれこそ道具のように扱われることを好むので、こうした一方的な性欲の押し付けも俺たち兄妹としてはあるべき姿の一つなのだ。

 

 美優にフェラ抜きしてもらって、次は夕飯の時間になるまで待つだけだ。

 しばらくは母親が早くに帰宅をしてくるので、このところは俺が料理をすることもなくなっていた。

 

 我が家では美優が体型管理をしたいからと十九時になるまでには夕食を済ませることにしている。

 それは言い出した美優本人が一番わかっているはずなのだが。

 

「──美優ちゃん遅いわね。二階には居たんでしょ?」

「出てってないならいるはずだよ。さっきも顔を合わせたし」

 

 夕食の時間になっても美優は一階に降りてこなかった。

 最近は夕方になれば美優はリビングに居ることが多いので、母親も声かけなんかはしていないのだが、今日ばかりは呼びに行かなければならないようだ。

 

 カレンダーアプリで俺が射精するために美優を予約するとき、美優は不都合があれば平然と否認したり時間変更を要求してきたりする。

 だから、まだ勉強が終わっていなかったり、別の予定があったのなら、そう言ってきたはずなのだが。

 

「美優。ご飯の用意ができてるぞ。食べないのか?」

 

 俺は美優の部屋をノックして声をかけた。

 次の生理までにはまだ日があったはずだ。

 さっきフェラをしてもらった感じからして、体調不良という線も薄い。

 

「なんですか。人の取り込み中に、騒がしくして」

 

 美優がドアを開けて出てくるまでに、なんと五分もの時間を要した。

 それも、顔がギリギリ見えるぐらいにだけドアを開いて、その顔はどこか赤らんでいる。

 

「だから、メシ……」

 

 ドアの向こう側で、姿こそ見えないようにしているが、美優は間違いなく裸になっている。

 どうやら盛りの真っ最中だったらしい。

 

 そのため、美優は肩で息をしているのを隠しきれないまま、不服そうな顔で俺を睨んできた。

 

「スマホでメッセージを送ってくれたらよかったじゃん」

「送ったよ」

「へ? 嘘っ……」

 

 美優は驚いていたが、すでにメッセージは何通も送っていた。

 これでもそれなりに美優のプライバシーは尊重したつもりでいる。

 

「それは気づきませんでした。でも、ご飯ならご飯だよって言ってくれれば、すぐ行くってドア越しにでも返事はしたのに」

「結構、何回か言ってたぞ……?」

「う、うむぅ……」

 

 美優は俺がメッセージを送っても飯だと言っても出てこなかった。

 夕食の時間はいつも決まっているので、あの聡明な美優がその直前に一人で自慰行為をおっぱじめるわけがないと、高を括っていた俺も悪いんだけどな。

 結果的には、美優は、してしまっていたので。

 つまり、それは性欲を発散してあげられていない、俺のせいでもある。

 

「寝込んでたりしたわけじゃないならよかった。邪魔してごめんな」

「別にいいけどさ」

 

 エッチなハプニングがあっても、言葉に出してるほど気にしていないのがこの妹だったりする。

 

「先に行ってご飯を食べてるよ」

「私もすぐ着替えてくるから、一緒に行こ」

「そんなに焦らなくてもいいよ。母さんには上手いこと言っておくからさ。美優もスッキリしないと食欲も出ないだろ?」

 

 俺なりに気を使ったつもりだった。

 しかし、美優はムッと俺に責めるような視線を寄越してくるだけだった。

 

「スッキリするところまではいったので大丈夫です」

「お、おお。そうか。なら、待ってるよ」

 

 美優は今度はブラジャーとキャミソールまできっちり着込んで部屋から出てきた。

 それからリビングに降りて、食事を終えて、俺たちはまた二人の夜を迎える。

 

 風呂に入って歯を磨いて、パジャマに着替えたら、あとは寝るだけ。

 せっかく同じ家に暮らしているのだから、ならではの生活がしてみたいものだが、この家では俺たちは仲がいい兄妹でしかないので、同じベッドで寝る以上の特別なことは何もないのだった。

 

「ふと思ったんだが。もしかすると、それぞれが一人でする時間も作ったほうがいいのかな?」

 

 夜更けになり、美優が俺のベッドで寝転がって、俺がその自分のベッドで寝ている可愛い妹を眺めて悦に浸っているときのこと。

 夕飯どきのアクシデントから、俺は一つの懸念を抱いていた。

 

「どうして?」

「いやほら。食事の後は大抵こうして同じ部屋で過ごしてるわけだろ? そうなると、一人でエッチする時間って、帰宅してからの数時間しかないわけで。暗くなってからの方が性欲は強くなるだろうから、美優にとっては不都合だったかなって」

「まあ一理はあるね」

 

 美優は俺の枕をおっぱいの下に挟んで抱いている。

 この妹は性欲が溜まっていても自分からエッチがしたいと言い出せない性分なので、オナニーの時間を確保してあげることは、きっと俺が想像している以上に大切なことなのだ。

 

「俺は毎日のように美優に抜いてもらってるからいいけどさ。美優は、たまに発散するぐらいしかしてないんだから、したいときにできないのはツラいんじゃないか?」

「……ん? なにが?」

 

 話を聞いていなかったのか、オナニーの話題はやはり恥ずかしいのか、美優は横になったままトボけたように首を傾げた。

 

「だから、たまにするオナニーを邪魔されるのは、美優も困るだろうと」

「ああ……。そうだね。うん」

 

 美優は簡素にそう返事だけをした。

 話題として、美優が付いてきづらいのは理解している。

 だが、今後を考えるなら、一度は真剣に話し合っておくべきなのだ。

 

「美優は、俺の精液を飲むと、ムラムラするんだよな?」

「とてもしますね」

「このところは、ずっとフェラで抜いてもらってばかりだったから。それでさっきはご飯前にしちゃったんじゃないかと思ってるんだけど」

「まあ相違はないです」

 

 美優の反応がどうにも薄い。

 俺は大事な話をしているはずなのに、なぜだ。

 

「どうしてそんな話を今更?」

「えっ……それは……」

 

 俺がまともにエッチをできないから、美優に苦労をかけてしまっている自覚はあるのだ。 

 俺に欲情されないとセックスする気にならない美優にとって、気持ちの入っていない挿入や無理をしての前戯行為をしたとしても、そこに満足感はない。

 だからこそ、しばらくは自己処理してもらうしかないので、美優がオナニーしやすい環境を作ろうと思ったのだが。

 

 それが、「今更」とは、逆にどういうことなのか。

 俺が困惑していると、美優はふと何かに気づいたように「あっ、そういうことか」と呟いた。

 

「どうしたんだ?」

 

 俺が尋ねると、美優は俺の枕を抱いたまま、体を起こしてベッドの縁に座った。

 

「いえ、何でもありません。お兄ちゃんの干渉しすぎないところは、むしろ好ましい部分なので。諸々含めてこれまで通りにしていただけると助かります」

「これまで通りって……、これまで通り?」

「そう。これまで通り」

「そうか。美優が、そう言うなら」

「お兄ちゃんは前と同じようにエッチができるようになることだけを考えてて」

 

 美優は話を終わらせて、ポンポンとマットレスを叩いた。

 

 そろそろ一緒に寝ましょうという合図だ。

 

「なら枕を返してもらおうか」

「うっ……、な、なんか恥ずかしいから、今日は私がこっちで寝る」

 

 美優はずっと胸に抱えていた枕をベッドに置いてまた横になった。

 俺と美優が使っている枕は、両サイドにそれぞれ赤と青のラインが入っただけのシンプルな物。

 だから、どっちがどっちを使おうと、寝心地に変わりはない。

 美優がおっぱいに抱いていたという事実を除けば。

 

「兄の性欲回復のために、美優の温もりが宿った枕を使わせていただけないだろうか」

「言うと思った。絶対に譲りません」

 

 相変わらず変なところにこだわりのある妹だ。

 おっぱいを吸ったり揉んだりすることは許してくれるくせに、匂いだとか体温だとかには今でも羞恥を感じるらしい。

 

 そんな妹を覆いかぶさるように跨ぎ渡って、俺は壁につけているベッドの反対に移動した。

 これは俺の寝相が悪いだとかの理由ではなく、美優からの申し出でそうなっているだけ。

 壁が近いと寝づらいとかそういうのがあるんだろう。

 

 俺と美優は仲良く同じタオルケットを被って、横になって向かい合う。

 このベッドは通常より少し規格が大きいだけのシングルサイズなので、クイーンサイズの掛け布を使えば一つの布団でも奪い合いをすることにはならない。

 もちろん、一人一枚のタオルケットで寝たほうが楽ではあるのだが、そこは兄妹としての願望を形にした結果がここに収まっているのだった。

 

「美優」

 

 俺は美優の頭を撫でて、長い髪のひと束を腰元までスッと横に梳いた。 

 

「好きだよ」

 

 このところは体では示してあげることができていないから。

 せめて口では気持ちを伝えるようにしたかった。

 

「ふふっ。どうしたの? お兄ちゃん」

 

 美優は急な俺の接近に、からかうように笑って。

 それから、俺の胸に抱かれるように体を寄せてきた。

 

「私もお兄ちゃんのこと好きだよ」

 

 美優は暗がりでもはっきりわかるぐらいに微笑んで、そこに俺がキスをしようとすると、体を固くして目を閉じてそのときを待った。

 唇が重なって、ただそれだけの、ドライなくちづけになった。

 

「美優って、俺がキスをしようとすると、妙に緊張するよな」

「それは、だってさ」

 

 美優は腕を畳んだ窮屈な姿勢のまま目線を横にそらす。

 

「明日とかなら週末だからいくらイチャイチャしてもいいんだけどさ、おやすみのチューをするたびに盛り上がってたら、睡眠不足になってしまうではありませんか」

「最近は性欲不振だから大丈夫だよ」

「毎日妹にフェラをさせておいてどの口が言うんですかね」

「そこはほんと申し訳ない」

 

 どれだけ精子が薄くなろうと、日に一度は射精がしたくなるのだ。

 女の子とセックスしたい欲求と射精がしたい欲求は別にあるのだと、俺はこの数週間で思い知った。

 

「ちゃんとしたセックスをしてあげられなくてごめんな。俺は美優に口でしてもらってるのに、美優には一人でさせてばかりで」

「んー。私としては、仮にお兄ちゃんの性欲が戻ったとしても、まだしばらく今の関係を続けたいぐらいなんだけどね」

「それは無理な優しさではなく、本心で?」

 

 俺が尋ねると、美優は「うん」と頷いた。

 

「もうさ。言っちゃうけどさ」

 

 美優は暗がりでもわかるぐらいに恥ずかしさに顔を赤くして続けた。

 

「体質の、問題でね。お口に出してもらった後に、一人エッチすると……その……なんというか…………イクとき、頭が真っ白にトぶくらい、気持ちよくて……」

 

 美優は小声でまさかの事実を暴露をしてきた。

 

 それは先ほどの「今更」のやり取りと鑑みると、美優がオナニーを好きになったのは、最近になってのことではないということ。

 しかも、あの会話からして、実はこっそりとほぼ毎日していたことになる。

 美優にはロリコスをした自分をオカズにオナニーをするという変態趣味こそあったものの、単に一人エッチが好きになったのは、俺の性処理をするようになった後のことだろう。

 それがいつからだったのかを聞くのは、さすがに可哀想かな。

 

「そんなにイイのか?」

「それはもう」

「まさかとは思うんだけど。それが俺のことを好きになった理由だったりはしないよな?」 

「それは難しい質問だね」

 

 難しい質問なのか。

 

「それがお兄ちゃんのことを好きになった直接の理由では有り得ないけど。過去に色々した動機の一要因であることは否定しないかな」

「意図的に飲んでたときもあったのか?」

「一人エッチのために?」

「そう」

「さすがにそれはない。…………ない」

 

 そうか。

 ないか。

 ならよかった。

 あってもよかったけど。

 

「俺からも一つだけ言えることがある」

「なんでしょうか」

「男はオナニーをいっぱいする女の子が好きなんだ。だから、俺はまた美優のことを好きになった」

「はあ。そうですか」

 

 美優は照れ隠しに無愛想な返事をして、俺がさりげなく「毎日してるの?」と聞くと、美優は小さく頷いてから「まあ大なり小なりありますが」と最後に付け加えた。

 

「美優」

「はい」

「好きだよ」

「私もお兄ちゃんが好きです。こんな妹ですが」

 

 美優の照れ姿が可愛くて、俺はまた美優にくちづけをして、今度は舌までを絡ませるウェットなキスを繰り返した。

 唇を離すと、美優が寂しそうにしたその顔は、以前のような本能剥き出しのエロモードではなく、乙女チックな少女のそれだった。

 

「このところは、キスをしても美優は理性的だな」

「お兄ちゃんが不調だからね。お兄ちゃんも私とキスをしててそんなに興奮しないでしょ?」

「そう言われるとそうだな。なんでだろ……いつもより、美優の口の中のぬるいからかな……?」

 

 俺の記憶の上では、美優の口内はいつも熱いぐらいの高体温を宿しているのだ。

 だから、キスをしていても、フェラをされていても、その舌が触れるだけで気持ちよくなれる。

 それが、このところはやや冷え気味で、そのせいかキスをしていてもセックスがしたくはならなかった。

 

「キスって、相手の体調がわかるように出来てるんだって。私としても、このところはお兄ちゃんのキスが美味しくはないので、興奮もいまいちといった感じなのです」

 

 むしろいつもは美味しかったのか。

 でもたしかに、以前までの美優とのキスは甘みすら感じるほどだったのに、最近では硬水を舌で転がしているような感覚が強い。

 

 セックスがしたくなるような性衝動を抑えたままキスができるのは、俺たち恋人としては好ましい変化ではある。

 だけど、俺としては、キスが気兼ねなくできるより、キスをするだけでムラムラしてしまうからと、それを避けたがる美優の方が好きだな。

 

「それじゃあ、今日はもう寝ようか」

「うん」

 

 難しいことを考えてるとまた勃起すらできなくなってしまいそうだ。

 そんな心配を振り払うように、俺は早々に眠りにつくことにした。

 

「お兄ちゃん」

 

 美優は俺のことを呼んで、俺が反応して目を開けると、俺の顔を両手で挟んできてキスをしてきた。

 

「おやすみなさい」

 

 それだけ言って、美優は布団に潜って顔を隠した。

 

 こんなに可愛い妹を持って、俺は幸せだ。

 

 俺も美優のことを幸せにしてあげたい。

 

 だから、きっと、この週末こそは、美優と情熱的で激しいセックスを……。

 

「──ん、ん……あれ……」

 

 気づけば真夜中だった。

 時計を見るとまだ三時になる前で、ぐっすり寝落ちしたわりに、早くに目が覚めてしまったことがわかる。

 その原因はといえば、考えるまでもなく、股間にある疼きにあった。

 

(あー……なんでだろ……ムラムラするな……)

 

 キスのしすぎでそうなったのか、射精が上手くいかないから性欲が捌け切らないのか、どちらにしても俺の性欲は美優のフェラ抜きでさえスッキリとはしていないようだった。

 

(さすがにこんな時間になってまで抜いてもらうとかはできないしな。美優のやつは意外と喜びそうだけど、立場的には俺からは頼みづらい)

 

 美優はベッドの外側を向いて寝ている。

 すやすやと寝息を立てて、閉じた瞼にはキレイに外ハネしたまつ毛が見えていた。

 目鼻立ちのいい顔の下には、何度見ても飽きない巨乳が膨らんでいて、横向きになってなお、その丸みをパジャマの内部で形づくっていた。

 

 こんなに可愛い妹に尽くしてもらっておいて、俺の体は何を満足しないのか。

 それがわからないまま、しかし美優の寝姿を眺めているだけで性欲は高まっていって、いつしか俺の目は完全に覚めてしまっていた。

 

(美優……なんでこんなに可愛いんだ……)

 

 女の子を可愛いと思う気持ちと、セックスがしたくなる衝動は、どうあっても切り離せない。

 いつどれだけ眺めていても美優が可愛くて仕方ないのだ。

 美優が性欲の捌け口に使われることを喜ぶ女の子でなかったら、俺なんぞとっくに振られてしまっていたことだろう。

 

 タオルケットの上からでもわかるボディラインは、掛け布を取り去ると、シルク生地のパジャマに女の子らしい曲線を各所に見ることができた。

 下半身に身につけられているのはキュロットパンツで、その中にはナイトブラの色と合わせた黒レースの下着がチラ見えしている。

 

(エロい……寝てる美優のアソコ……彼氏だし、ちょっとぐらい見たっていいよな……)

 

 横向きに寝ている美優は、上側の膝を前に出して寝ているので、裾口の広いキュロットパンツは軽く指を入れるだけで下着をズラすことができてしまうのだ。

 そんな美優の股下を眺めているだけで俺のペニスは痛いぐらいに勃起してしまって、もう性的好奇心を抑えることはできなかった。

 

(後でどれだけ怒られたっていい……いまの俺なら、もしかしたら……!)

 

 睾丸の疼きは、まるで大量の精子が跳ね回ってさえいるようで、それはこれまで俺が美優に特濃の精液を出していたときと同じ感覚だった。

 

 復活しかけている。

 美優のアソコを見ることによって。

 

 そうともなれば俺に迷いはなかった。

 美優のパンツに指を入れて、まずはスケスケのクロッチに隠れていた陰唇を拝む。

 その言葉の表す通り、厚い唇のように口の閉じられたパイパンが、黒ずみの一切すらなく美しい色形を保っている。

 

 こんなにも魅力的な唇を見ているとこちらにもキスをしたくなってくる。

 でもそれは、美優が寝ている間ではなく、起きているときに。

 許可を貰わずに舐めるのが怖いのではないのだ。

 俺にクンニされることを虫を払うように拒絶してくるあの美優が、俺にアソコを舐められていることを認識しつつ、性感に身悶えしてほしい。

 その姿、表情を、拝みたいんだ。

 

 舐めるだけであれば佐知子にもしたし、山本さんならいつ頼んでも喜んでさせてくれただろう。

 でも、そうしたプレイに意味はなくて、俺は相手が美優だから興奮を覚えるのだ。

 だから、俺は美優の寝込みにアソコを舐めたりはせず、あくまでも気持ちよく射精することに注力をした。

 

 寝ている女の子の膣内がどうなっているのか。

 俺の興味はもうそちら側に移っていて、閉じられていた秘裂に人差し指を挿れると、第一関節も入りきらないうちに愛液の熱が指先に伝わってきた。

 

(美優……濡れてる……しかも、かなり興奮してるみたいだ……なんで、こんなに、トロトロなんだ……)

 

 寝ている女の子の膣内は常にこれぐらいの愛液で満たされているものなのか。

 あるいは、今寝ている美優がエッチな夢を見ているのか。

 さすがに寝る前のキスの余韻がまだ残ってるなんてことはないよな。

 美優のこのぴっちりしたぷにマンならありえない話でもないけど。

 

 指を二本差し入れて、クパッと開くと、マン筋の下側に伝って愛液が流れ出てきた。

 よけられていたパンツがそれを吸収して、黒い色がさらに黒く、シミになって滲んでいく。

 

(これ……こんなに濡れてるなら……)

 

 マックスに張り詰めた俺の勃起ペニスでさえ簡単に挿入することができそうだった。

 というより、したい。

 したくてたまらない。

 

 美優を起こしてしまうとか、もうどうでもよかった。

 俺は何かに急かされるようにして下半身の衣類を全て脱ぎ去って、ギンギンに勃起したイチモツの先端を、美優の割れ目に入れ込んだ。

 

(ふぅ……ぅ……ヤバい……興奮する……起きて急にこんなデカいのが膣内に入ってたら、美優はびっくりするよな……でも……ああっ……もう無理だ……寝てる間に犯すからな、美優ッ……!!)

 

 ぐぢゅっ、と、挿入した瞬間に、押し出された空気と愛液が混ざって卑猥な音が鳴った。

 同時に美優の体がビクッと跳ねて、それでも構わず俺はペニスを奥まで入れていった。

 

「んっ……ん、ん…………あっ……」

 

 寝込みに挿入された美優は喘ぎ声を上げた。 

 しかし、それは想像していたよりは小さな反応だった。

 俺が二度三度と腰を前後させても、美優は目を閉じたままで、でもどうせすぐ起きてしまうだろうと、俺は最初から全力で腰を振った。

 

「はぁ……あっ……あああっ……!! 美優っ……すごく締まってるよ……!! ふうっ、うぅ、ああっ……いい……気持ちいい……!!」

 

 寝たままの筋肉は閉じた状態で固まっていて、挿入したときのキツさはいつもより増しているぐらいだった。

 俺は横向きに寝ている美優の片膝を持ち上げて、側面から猛ピストンをかける。

 滑りのいい膣は抽送のたびにピチャピチャと音を立ててパンツを濡らしていた。

 

「ん……んんっ……あっ……おにぃ……ちゃ、ん……! ん、はぁ……あっ、ああっ……!」

 

 子宮にゴリゴリと亀頭を押し当てていると、美優の喘ぎ声は大きくなっていった。

 美優はもう起きているのかもしれないが、それにしては美優の反応は小さくて、瞼は閉じられたままだった。

 

 もしかしたら、と。

 俺の脳内に邪悪な妄想が浮かぶ。

 寝込みに犯されていたりしたら、美優は表面的にでも怒るはずで、そうした反応のない今なら寝ている美優に中出しをすることができるかもしれない。

 

「美優っ……美優っっ……ああっ……あぁ……!!」

 

 そう思うと、あとは射精に向けて一直線だった。

 硬さもサイズも完全状態になった肉棒が、久々のキツい膣シゴきに歓喜して、大量の精子を吐き出すためのカタパルトを固めている。

 

「んっ……んんっ…………あっ、あんっ……!」

 

 どれだけ奥を突いても、美優は喘ぎを漏らすだけで起きる気配がない。

 俺のペニスを子宮に押し付けられるのが大好きな美優が、これだけ激しいセックスを寝ているふりで耐えられるはずがなくて、どういう訳かこのセックスの最中でも眠りから覚めることがない美優に、俺の射精欲求は最大にまで高まった。

 

「ああっ……イクッ……!! もうイクぞ、美優……!! このまま中で射精するからな……久しぶりに濃いのをたっぷり注いでやるからな……!!」

「んっ、んンッ……あっ、はあっ、アッ……!! んんっ……ンッ……!!」

 

 ビクビクと膣内で震えるペニスに、美優の体も射精の予兆を感じ取ったのか、ギュッと肉棒を締め付けて絶頂で応えてくれた。

 俺は微睡の中でイッている美優の膣に太まったカリをひたすらに擦り付けた。

 

「はあああっ……ああっ、あああっ……美優……出る、出るッ……ッッ!!」

 

 びゅッ、びゅるるッ、びゅびゅッ、びゅるるるっ、びゅくっ、びゅくびゅくっ──!!

 

 久しく忘れていた美優の膣内へ精子を解放する快感に、俺の全身に血液が沸騰するほどの熱が迸っていた。

 その高まった脈の分だけペニスの筋収縮は速度を増して、いつもより短い間隔で射出されていく精液に、美優も「んあっ……あっ……ふあぁ……」と、おもらしをしてしまいそうな表情で快感に浸っていた。 

 

 ついに寝たままの美優に中出しをしてしまった。

 呼吸が落ち着いてくると頭に昇っていた血も下りてきて、俺は寝息を立てている美優と生殖器を繋げたまま、妹の膣内に自分の精子を注ぎ込んだ罪悪感と興奮の両方を覚えていた。

 

 あれだけ喘いで、最後にはイッていたはずなのに、美優はまだ寝ている。

 あるいは絶頂の瞬間だけは起きていて、突如やってきた快感に、また気を失っただけなのかもしれないが。

 ともかく、俺に中出しをされてもなお、その後の美優は無反応だった。

 

 ペニスを引き抜くと、白濁した粘液が流れ出てきた。

 俺は美優に中出しした事実をしっかりと確認してから、美優の陰唇をピッタリと閉じて、パンツを元に戻した。

 愛液と精液でパンツはグショグショになっていて、美優が起きたら俺は中出ししたことを気づかれて怒られるのだろう。

 

 それでも、このセックスで俺が得たものは大きかった。

 完全回復をする術がようやくわかったのだ。

 今にしてみれば、なぜこんなことになるまで気づかなかったのかと思うほど、簡単な解決方法があった。

 

 それを伝えたら美優は喜んで今夜のことは帳消しにしてくれるはず。

 きっとそうに違いない。

 俺はほどよい疲労感に包まれて横になり、ペニスをベッド脇に置いていたティッシュで拭ってから、布団は掛け直さずに美優のことを眺めていた。

 

 久しぶりにたんまりと精子を出した。

 美優のヴァギナは陰唇が合わされた状態が肉体に記憶されているので、中出しした直後であっても、外部から手で意図的に閉じれば精液は漏れてこなくなる。

 

 美優はすやすやと寝息を立てて眠っていた。

 ごく普通に、見慣れたパジャマに身を包んで、安らかにベッドで横になっている。

 この妹のお腹の中には、俺がついさっき無許可で注いだ精子が元気に動き回ってるんだよな。

 想像してみるとエロい状況だ。

 

「んっ…………うっ……ふぅ……」

 

 美優は寝ている間に、寝言にしては色っぽい声を出していた。

 寝ながら精子に犯されているのかもしれない。

 そんなエロ漫画みたいな妄想をしていると、「んっ、あっ、あっ、ああっ……」と、美優のエッチな声が大きくなっていって、ついには何もしていないのに美優はビクッ、ビクッ、と身を震わせてまたイッてしまったようだった。

 

(えっろ……こんなの、見ちゃってよかったのかな……)

 

 美優からしたら、男で言うところの夢精する瞬間を目撃されたようなもの。

 かといって忘れてあげたくても忘れられるものではないのだが。

 

 現実では俺に犯されて、夢の中でも美優は行為に励んでいるらしい。

 なんてエッチな妹に育ってしまったんだ。

 たぶん俺のせいだから責任を取って結婚してあげないと。

 

「ううんっ……」

 

 美優が一人でイッた後もしばらく観察をしていると、美優は何の前触れもなく目を覚まして、スッと体を起こした。

 それから美優は周囲を観察して、両方の乳房を持ち上げるように何かを確認して、それから下半身に手を伸ばし、パジャマを身につけていることを再確認する。

 

 俺と目が合ったのは、その後だった。

 

「へっ……? あ、ご、ごめん。起こしちゃった?」

 

 美優は動揺を必死に隠しながら訊いてきた。

 俺は仰向けに寝転んだ状態で、どう説明すれば中出しした事実と精力回復の糸口を掴んだことを上手く伝えられるかを考えていた。

 

「起こされたというか、起きてたというか……」

 

 とりあえずの保留に、曖昧な返事をして、しかし、それが美優の不安を余計に煽ってしまったらしい。

 

「あの、も、もしかして、私……変な声、出してた……?」

 

 どうやらエッチな夢を見ていた自覚はあるみたいで、寝言でそれがバレていないかを美優は気にしているらしい。

 俺は美優が淫夢でイってしまった姿を見てしまっている。

 しかし、それは俺が中出しをしたことが原因であるとも考えられる。

 そのため、変な声、もといエッチな寝言を聞いてしまったことを素直に伝えるべきかは、悩ましいところだった。

 

「美優がエッチな夢を見てるらしいところは見たよ。でも、それはたぶん、美優が寝てる間に俺が中出しをしたからで……」

 

 と、俺が説明をしようとしたとき、美優は違和感を覚えたのかスカートの中に手を入れて、そのパンツの惨状に顔を真っ赤にして話を聞かなくなってしまった。

 

「うそっ……ヤダ、なにこれ……。うぅ……ごめん、お兄ちゃん……うるさかったよね、起こしちゃうぐらいだし……。私、欲求不満なのかも……」

 

 美優は涙目になって俺に抱きついてきた。

 体温が異常なほど高くて、これほど美優が恥ずかしがっている姿を見たことはなかった。

 

「美優、聞いてくれ。それは俺がいけないんだ。美優が寝てる間に、俺が、余計なことをしちゃったから」

「……ふえ?」

 

 そこまで聞いたところで、美優はようやく耳に届いていた情報を頭で整理できたようで、俺を見上げる美優の表情が、だんだんと怪訝なものへと変わっていく。

 

「もしかして、私のお腹の中には、お兄ちゃんの精子が入っているのでしょうか」

 

 美優は困惑しながらも、どこか嬉しそうな口角の吊り上がりを隠しきれないままお腹をさすった。

 

「実にその通りなんだ」

「えと……それは、いつ? 先っぽだけ入れて、自分でシゴいて出したの?」

「がっつり挿入して腰も振ってたんだけど、なぜか美優が起きなくて。おそらく、たまたま俺がセックスするのと美優が見てる夢が重なったんだと思う」

 

 俺がそこまで説明すると、美優は口を閉じて、それから俺に背を向けるように膝立ちになった。

 その体を肩にタオルケットをかけることで隠して、美優は下を向いて膣内の状況を確認する。

 

「うわっ……え!? 何、この量……ドロドロ、すっごい出てくる……どれだけ中出ししたの!? お兄ちゃんってば!」

 

 美優はすかさず怒りに身を翻して、手についた精液を拭うのもそこそこに、俺に飛び掛かってきた。

 

「ご、ごめんて! 目が覚めたらやたらとムラムラして、どうしても我慢ができなくて……まさか、あれだけ激しくしても美優が起きないとは思わなかったから……!」

「ならビンタしてでも起こしてよ、まったく……私の知らないところでこんなに濃いのを出して……!」

「ビンタは、さすがにな。もう、寝込みを襲ったりはしないから。ほんと申し訳ない」

「別に寝込みを襲うのは構いませんが、今日のだけは許せません」

「ん? え? 何が違うの?」

 

 俺が尋ねると、美優はいい加減に妹を理解しないさいという目で睨んできた。

 その直後に俺も混乱が落ち着いて、「ああなるほど」と納得に及ぶ。

 

「これだけ出したってことは、お兄ちゃん、元気になったってことだよね?」

「元気になったよ。もうほとんど回復してる」

「だったら、私が寝てる間のエッチも、前みたいなすごいやつだったんだよね……?」

「だいたい美優の想像してる通りだと思う」

 

 つまり、美優も完全状態になった俺のペニスで、久しぶりの気持ちいいセックスを味わいたかったということだった。

 

「とても申し訳ないことをした」

「妹の乙女心をもうちょっと勉強してください」

 

 不勉強であることは謝罪するがもう少し難易度のほどはどうにかならないものか。

 

「で、どうやって元気になったの?」

「そこが肝心でな。美優のアソコを観察しながらイジってたら、信じられないぐらいの性欲が湧き上がってきたんだよ」

「え、待って。観察って、何? 看過できない発言なのですが?」

「そこで俺は一つ、完全回復への可能性に思い至った」

 

 俺が強引に話を進めていると、どうやら美優も俺と同じ答えを導き出したようで、しかし、それは美優にとっては到底受け入れられないはずの手段だった。

 

「そ、その方法だけはイヤです……!」

「でもそれしかないんだ、確信があるんだよ! その、だから……美優のアソコを舐めさせてもらったら、確実に元の調子に戻るから……!」

 

 そう、簡単な話だった。

 山本さんに相談した当初に気づいた「興奮が足りないだけ」という結論に誤りはなく、とある要素が抜け落ちていたことが、俺の復調を阻害していただけだったのだ。

 それは美優が、自身の秘部に触れることを極端に恥ずかしがっていたことに起因していて、その制限は俺の立場からすると、セックスへの遠慮を生んで、充分な興奮に至れていなかった。

 

「俺たちは、もう立派な恋人だろ? だから、お互いの好きなところを触って、好きなところを舐めていいと思うんだ」

「うぐぅ……恋人にだって隠したいところの一つや二つあるではないですか……」

 

 美優はそれでも譲らなかった。

 もうおっぱいは好きにさせているのだからと、これまで大切に守ってきた秘所だけは隠していたい気持ちが上回っている。

 

 それでも、美優だってまた元のようにイチャイチャしたいはずで、そのためには美優をたんまりの精子で快楽堕ちさせる必要があって。

 だからこそ、ここは俺が強引にでも押し進めなければならなかった。

 

「美優がどれだけ拒んでも無意味だからな。俺には例のチケットがある」

「妹のアソコを舐めるためだけにあの特権を使うつもりですか」

「美優だって最初からそうなることはわかってて渡してきたんだろ?」

「それは、まあ、考えなくはなかったけどさ。流れってものがあるじゃない?」

「どう考えたってこれ以上の使い所はないよ」

 

 俺はベッドから起き上がって、机の中に保管していたその紙ぺらを取り出し、美優に渡した。

 

「それに、このチケットは『日付が変わるまでどんなに嫌なことでも兄の命令に絶対に従わなければならない』という効力を持つものであって、つまり、妹のアソコを舐めるためだけに使われるものではない」

「わ、私は、お兄ちゃんに良心が残っていればと条件をつけたはずですが……」

「悪いがそれは諦めてくれ」

「なんて堂々たる悪党ぶり……。もう。な、何を、させるつもりなの……?」

 

 ああだこうだ言いつつ、美優は流されやすいタイプなので、ロジックなど無視した勢い重視の進め方をしたほうが丸め込みやすい。

 というより、ロジカルに責められるとそれだけ理性的な切り返しを用意することになるので、美優もいっそ問答をする暇などないぐらいに攻められたほうが楽なのだ。

 俺はこれまでの付き合いからそれを学んでいる。

 

「美優のアソコは舐める。これは絶対だ。加えて、美優から俺に舐めさせてほしい。さしあたっては、明日の放課後は美優が先に家に帰って、ロリロリな衣装をノーパンで着てスカートをたくし上げながらおかえりなさいをしてもらおうか」

「良心の欠片もない……!! そ、それはさすがに、抗議します!!」

「ダメだ。今回ばかりは俺の言う通りに従ってもらう」

 

 ここで引いたら美優のためにならない。

 心を鬼にしなくては。

 

「いいな? 俺が学校から帰ってきたら、美優はゴスロリのコスチュームで髪も化粧もきっちり整えて俺を出迎えて、ノーパンのスカートの中を俺に拝ませるんだ」

「う……うぐぅ……!」

 

 たしかに良心がどうたらの話はあった。

 しかし、このチケットは俺の誕生日プレゼントとして渡されたもので、美優としてはそれを「やっぱり無しで」とするわけにはいかないのだ。

 こっそりと兄のことを考えてオナニーに耽ってしまうこの深刻なブラコンの妹からすれば。

 誕生日のプレゼントを取り上げるよりは辱めを受けることを選ぶ。

 

 この妹はそういう生き物だ。

 

「……わかりました。そこまで仰るのでしたら、従います。約束通り、本日命令される全てに。お兄ちゃんがそれで満足するというのでしたら、妹はこの身と尊厳をなげうちましょう」

 

 美優はついに覚悟を決めて、使用済みの証としてチケットを半分に破いてからゴミ箱に捨てた。

 

「でも、そんな恥ずかしいことをさせて、どんな空気になっても知らないからね。お兄ちゃんがドン引きして萎えても私の責任ではありませんので」

「するわけないだろ。愛する妹がロリコスして自分からアソコを舐めさせてくれるんだからな」

「……お兄ちゃんのこと一週間ぐらい嫌いになるもん」

「ならこの一日は嫌いって言うのも禁止で」

「うむむむむ……!」

 

 美優は俺を睨みつけて頬っぺたを膨らませた。

 

「日付が変わったら真っ先に嫌いって言ってやるんだから!」

 

 美優は最後に捨て台詞を吐くと、頭まで布団を被って不貞寝してしまった。

 そんな妹の膣内には俺の精子がたっぷりと入っていて、美優はそれについては気にしていなくて、こんなやり取りをしていても俺たちは仲のいい兄妹なのだった。

 

 俺も精力を回復させるために寝ておかないと。

 ついに美優が一番大切にしてきたところを舐められるんだ。

 しかも、美優の趣味全開の、ゴスロリ衣装まで着てもらえる。

 

 明日の放課後、美優がどんな顔で出迎えてくれるのか楽しみだ。

 



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どんなにイヤなことでもお兄ちゃんの命令に絶対に従う妹

 

 真夏の時期が過ぎ去ったこの頃も、晴れの日は外を歩くとジリッと額に汗が滲む。

 放課後の帰宅時間にはまだアスファルトが吸収した太陽光の熱が残っていて、早く秋の訪れを報せる風が吹いてくれたらと思う帰路の住宅街は、木の葉が擦れる音すら聞こえないほどの静寂だった。

 

『準備はできています。いつでもお帰りください』

 

 スマホの画面に表示されたメッセージを確認して、俺は自宅へと足を進めていた。

 はやる気持ちに歩幅は大きくなり、それでも運動に昇華されるはずの性欲は体から逃げ切らず、家に辿り着く頃には他人に見せられないほどズボンが張り出していた。

 

(いよいよか……)

 

 思えばここまで長い道のりだった。

 美優にロリータ趣味があることを知ったあの日。

 俺は昏倒するほどの威力で美優に鳩尾を叩かれて、そのお詫びにとアソコを舐めることを要求したら、虫嫌いが害虫を追い払うより酷く拒絶された。

 

 俺だって舐めることにこだわりがあったわけではない。

 でも、美優には散々ペニスを舐めさせているのに、俺は大切な恋人のアソコを舐めたことがない事実だけが残っていて、それはあのときのやり取りと合わさって言いようのないモヤモヤになっていた。

 美優が意地になって隠そうとするせいで、いつしか俺はあの美優のつるつるのぷにマンに好奇心を囚われていたのだ。

 

「よし」

 

 気合を入れて、ドアノブへと手をかける。

 この扉の向こう側には、ロリコスをしたノーパンの妹が待っている。

 甲斐甲斐しくも俺にアソコを舐めさせるために。

 

 ドアを開けて、玄関へと足踏み入れた。

 冷房による涼しい風が吹いてきて、汗ばんだ肌をしっとりと冷やしていく。

 

「ただいま」

 

 俺の帰宅の合図は、すでに玄関で待機をしていたその一人に向けられていた。

 

「お……お、おかえりなさい。お兄ちゃん」

 

 両手を前に重ねて、スッと背筋を伸ばし、緊張のせいか殺意すら感じさせる目つきで俺を睨んでから頭を下げる我が妹。

 美優が体を起こすと、ゆるく巻かれた二つ結びの髪が、カチューシャに付けられたレースリボンと一緒に揺れる。

 

 白いシャツで作られた乳袋が、胸元が開かれているドレスからはみ出して、キツく締め上げられたウエストとのコントラストに、俺はひと目で心を奪われた。

 唇はリップで紅く塗られ、ネイルも艷やかにムラ無く整えられたその化粧技術も、このコスプレ趣味によって培われたものなのだろう。

 しかし、俺の興味を最も煽ってきたのは、その愛らしい小顔でも、コスチュームを立体作る巨乳でもなかった。

 

 美優はニーハイにガーターベルトまで着けていたのだ。

 俺がノーパンを指定したにもかかわらず。

 あの美優が人との約束を一方的に破るわけがなくて、もし俺の想像が正しければ、上辺のレースから続く左右の細いベルトとストッキングのくちゴムによって縁取られた、美優の真っ白なパイパンがスカートの中に隠されているはず。

 

 ゴクリッ……と、生唾を飲まずにはいられなかった。

 ただでさえ窮屈なズボンが張り裂けてしまいそうなほどペニスが暴れ回っている。

 

「美優……可愛いよ。とても、キレイだ……」

「そ、そうですか」

 

 美優も毅然と振る舞おうとはしている。

 だが、これから自分がしなければならない行為を考えると、心を穏やかなまま律しきるのも難しいのだろう。

 スカートを摘み上げる指先が震えていた。

 

「お……お、おもっ……お申し付けの、通り……。本日は、スカートの中の、着衣物を減らしておりますので……」

 

 緊張に声を淀ませながら、美優は俺の目の前でノーパンのスカートを持ち上げていく。

 そうするところまでは、美優も俺を強く睨みつけることで、なんとか目を合わせてくれていたのだが。

 

「お好きなように……私のアソコを、舐めてください……」

 

 最後のその台詞を放つ直前に、美優は床に視線を落として、顔は化粧の上からでもはっきりとわかるぐらいに羞恥に赤らんでいた。

 美優にとって無毛の女陰を自ら見せつけることほど屈辱的な行為はない。

 

 俺は花に誘われる蝶のように顔を近づけて、鼻孔を拡げて、どれだけ目を凝らしても毛穴の一つすら見つからないつるつるの秘所をその目に拝んだ。

 

「すぅ……はぁ……っ……美優のここ…………明るいところで見ると、こんなにキレイなのか……」

 

 美しかった。

 芳ばしかった。

 ガーターベルトに挟まれたそこは、額縁に飾られた一枚絵のようで。

 世界で最も貴重なその表面に、俺は恐る恐る手を触れた。

 

「うっ……ううっ……」

 

 スカートをたくし上げている美優は、俺に触れられるとビクッと脚を震わせた。

 きっとこの割れ目に指を入れたらまた卵を割ったみたいなエロい粘液が溢れてくるんだろう。

 

「お腹も……ふともも……お尻も……どこも、真っ白でつるつるだ……ふうっ……ああっ……なんてかぐわしい……」

 

 美優の肌の各所に鼻を近づけては、その表皮の匂いを薬物のように摂取していく。

 美優は恥ずかしがり屋さんなので、体はどこもかしこもボディソープの香りがした。

 俺にじっくりと観察されることになるからと、自分の身体の匂いは少しも嗅がせたくない一心で、入念にお風呂で洗ってきたのだろう。

 そんな妹の健気さだけで俺は興奮することができる。

 

「っ……んっ……お兄ちゃん、変態みたいでとても気持ち悪いのですけれど……」

「美優はその変態にアソコの匂いを嗅がせてるわけだが」

「やっ……やめてください……! そういうことを言うのは……!」

 

 美優はスカートの上から俺の頭を押さえた。

 今すぐ舐めて美優の体液を直に飲んでみたかったが、妹のアソコの匂いを堪能しているだけでもう射精してしまいそうだったので、俺は仕方なく立ち上がった。

 

 美優は目に涙を溜めていて、しかし、化粧によって膨らんだ涙袋によって、それは色っぽさを強調するアクセサリーにさえなってしまっているのだった。

 

 こんなエロい妹を持って変態にならない兄がいるのか?

 俺はそうは思わない。

 

「俺はこれから体を清めてくる。そうしたら、美優が膣に溜めてるそれをたっぷり頂くからな」

「どうぞご勝手に。私はタオルを用意して待っておりますので、日が変わるまでごゆっくりお清めください」

 

 美優は丁寧な口調で自分という意識を限りなく消し去り、毒舌で俺に対抗することでなんとか恥ずかしさに耐えていた。

 俺は美優と一緒に脱衣所に入って、逞しい陰茎を見せつけるように堂々たる脱衣をして全裸になった。

 そのとき、お腹につきそうなほどそそり立った自分のイチモツを見て、ちょっとした嗜虐心が働いた。

 

「ここだけは美優の口で清めてもらえるかな」

 

 汗と我慢汁とで決して清潔な状態ではない肉棒だが。

 だからこそ、清楚な装いに身を包んだ美優に、フェラでお掃除をしてほしくなった。

 

「お兄ちゃんにそう言われては、私は承服するほかございませんので」

 

 美優は元気いっぱいの勃起に目を落として、「そんなに元気ならもう私の舐めさせる必要ないじゃん」と毒づいてから、俺の前で膝を突いた。

 

「はむっ……じゅるっ…………ちゅうっ、ちゅっぷっ……」

 

 美優は俺の陰茎の根元を両手の指先で支えて、まずは竿の半分までを口に含んで、上目で俺を睨みながらフェラチオをしてくれた。

 こんなに嫌な顔をされながらペニスを咥えてもらうのはいつぶりだろうか。

 昔の美優を思い出して、また興奮してしまう。

 

「どうかな? 完全に勃った俺のモノは」

「んむ……じゅるっ……ちゅぱっ…………んっ……汗と、おしっこで……へろっ…………しょっぱくて…………はぁむっ……んっ、じゅるるっ……じゅっぱっ……先走りで出た生臭さと、苦さが混ざってる……」

 

 美優は舌を伸ばして、ペニスをすすり上げて、陰嚢と鼠径部とを舐めてから、更に奥深くまで剛直を咥える。

 

「んぐっ……ぐぽっ……じゅるっ……んっ……じゅるるっ、じゅぶっ……妹をノーパンで、ロリコスさせて……アソコを舐めようとする……んむっ、ちゅっ、ちゅっぷっ……サイテーなお兄ちゃんのニオイがいたします……んぐじゅぶっ……じゅるるるっ……じゅぐっ、じゅぱっ……じゅぶるっ……」

 

 美優は俺のペニスをしゃぶりながら、怒りに任せて感想を並べて、最後にはまた刺すような上目遣いで俺を睨みつけてきた。

 

 恨みをたっぷりと声に込めて、それでも舌による愛撫は優しかった。

 いつもよりボリュームの多いまつ毛に、控えめな色ながら瞳に重ねられたカラコンが、ただでさえぱっちりとした美優の目を一層大きく際立たせている。

 兄を興奮させるために妹がロリコスでフェラまでしてくれている事実に、俺は危うく射精してしまうところだった。

 

「ふぅうっ……っ、あぁ。いいよ、美優。ずいぶんとキレイになった。妹がいい子で俺は嬉しいよ」

「…………。イッちゃえばよかったのに」

 

 美優も俺が射精しそうだったことには気づいていたようで、フェラが終わるとまたサラッと悪態をついてきた。

 丁寧なようで粗雑なこの扱いが、また股間に来る。

 言葉で責められただけで射精してしまう前にシャワーを浴びてしまおう。

 

 俺は浴室に入って、美優のエロ熱が冷めないうちに素早く上がって、タオルを受け取ってからもすぐに体を拭いて髪まで乾かした。

 その一連の様子を、美優は無心で眺めていた。

 

「……どうだろうか。この勃ちの良さ、やっぱり美優にロリコスしてもらってよかったと思うんだけど」

「はあ。そうですね。ずいぶんと立派になられて。妹の体の小ささを考えない、いかにも配慮の欠けたサイズだと思います。とても気に入りません」

 

 美優は興味なさそうに冷たく俺をあしらう。

 なんとつれない反応だろうか。

 こんな妹でも俺のことを好きでいてくれるのだから、女心というのはわからないものだ。

 

「お清めが済んだようでしたら。どうぞこちらに」

 

 美優は浴室のドアを開けて俺を先導して階段を登っていく。

 残念ながら下からスカートを覗き込んでもノーパンの割れ目がチラ見えすることがなかったので、この悔しさはこれからのクリ舐めにぶつけることにした。

 

 美優は俺の部屋の前で待機をしていて、俺が追いつくと、なぜか一つ咳払いをしてから目を横にそらした。

 

 それから、美優は俺の部屋のドアを開けて、その内部へと誘導する。

 そこは薄暗くキャンドルの灯りだけに照らされた、ムーディーな空間になっていた。

 ほのかにアロマの香りが漂って、深呼吸をすると、どこか心が落ち着くようだった。

 

「これは?」

「妹が、お兄ちゃんのために、一生懸命にこしらえました」

「そうか」

 

 俺は部屋に入ると、パチッと天井の電灯をオンにして、それから閉じられていたカーテンを全開にした。

 

「あ、ああっ……! なんてヒドいことをするんですか! 妹がせっかく頑張ったのに……!」

「どうせアソコを見られるのが恥ずかしいから暗くしたんだろうが」

 

 キャンドルは火を消して片側に寄せて、いっそ窓も開けてしまおうかと血迷ってから、美優が声を我慢することなどできるわけがないとそれは踏みとどまった。

 

「むぐぐっ……ちゃんとコスはしてあげたんだからいいじゃん……! お兄ちゃんのそれだってもう前より元気なぐらいなんだからさ!」

「それとこれとは話が別だ。いいからそこに立って、スカートを捲れ。これ以上ごねると約束不履行で明日からもやらせるぞ」

「うぅ……お兄ちゃんのイジワル……ばか……」

 

 美優はムッと口を結んで、それでも俺には逆らえないので、大人しく部屋に入ってきて俺と向かい合いになった。

 それからスカートを握りしめて、持ち上げたり下げたりを繰り返して、過呼吸になりそうなほどの深呼吸のあとに、ようやく割れ目が見えるぐらいに裾を捲った。

 

「お兄ちゃん。どうか、妹のここを、舐めてください」

 

 それを、口にしたら、後はなされるがままに、舐られるだけ。

 そう思っているはずの美優は、ようやく恥部を晒すことにも慣れてきたのか、あとは兄の役割だと言わんばかりにふぅと息を吐いた。

 

「では、思う存分、堪能させてもらおうか」

 

 ゴシックドレスに身を包んだ妹の前に膝を突いて、全裸の俺が股間に顔を埋める。

 夏前と比較すると、トレーニングジムで鍛え上げてきたかのような筋肉が、俺の全身には搭載されていた。

 

 それほど筋トレを頑張ったわけではない。

 美優と山本さんとのセックスを繰り返しているうちに、段々とこの体になっていった。

 いつだかの山本さんの予言が現実になってしまったというわけだ。

 この体に完全状態の剛直と合わさって、小柄な美優からしたら鬼が金棒を携えているようなもの。

 そんな凶悪なペニスをギンギンにして控えたまま、俺は繊細な舌使いでまず美優のおヘソを舌先でくすぐる。

 

「あっ、あんっ……ちょっと、そこは……!」

 

 美優は咄嗟のことにビクンと腹筋を引き攣らせた。

 直接アソコを舐めると思っていたのだろうが、俺がこれまで制限されていたのは何もクンニだけではないのだ。

 そもそもとして、全身が敏感なこの妹は、指だろうと舌だろうと体に触れられることを厭う。

 恋人である俺に対してでさえだ。

 

 だから、今日は美優のアソコを味わう日ではないのだ。

 

 美優の体を隅々まで味わう日なんだ。

 

 おっぱいだけは吸ったり揉んだりすることを許されるようになったけど、やはり下半身ともなるとこの妹は容易には体を明け渡さない。

 

「んむっ……へろっ……はぁ……美優……」

 

 おヘソを舐めて、薄い贅肉の上から子宮を刺激してから、今度は女陰を通り越してふとももへと舌を這わせていく。

 

「あっ、あっ、ダメだってば……! そんな、とこ……んんっ……こらぁ……! やめっ、あっ、内側のとこっ……舐めちゃやだ……!」

 

 美優は内股になることでどうにか抵抗をするが、スカートを上げ続けなければならない美優には、俺の舐め回しを防ぐ術などその程度しかない。

 俺はニーハイストッキングのくちゴムをペロペロと舐めて、ガーターベルトに舌を挟んで下から舐め上げて、ふとももの付け根から腰のあたりまでを、丹念に愛撫していく。

 苦情をつけながらも逃げることのない美優は、もうそれだけでハァハァと息を切らして快楽に悶え苦しんでいる。

 

「やだやだ、もうお願い……許して、あっ……アソコのとこ、好きなだけ舐めていいから、それやめて……ん、んんっ……ひあっ……!」

 

 美優の体はどこを舐めても美味しかった。

 丁寧に洗われた肌の全てにいい匂いがして、俺はこのときに初めて、女の子を味わうという感覚を強く抱くことができた。

 もしかしたら俺は、今日この瞬間になってようやく童貞を卒業できたのかもしれない。

 

「ヤバい……美優の脚を舐めてるだけで、射精しそう……」

「うううぅ……お兄ちゃんが変態だよぉ……んっ、んんっ……あっ……ぅうぐっ……」

 

 玄関での俺の発言のせいで、美優には自らその変態に体を舐めさせている意識が植え付けられている。

 俺が変態的に興奮するほどに、同じだけ美優の羞恥を煽ることになるのだ。

 

「んむっ……んじゅる……ぺろれろぉ……んむちゅっ……。あっ」

 

 そして、ついにはそれが溢れてきてた。

 口を開くきっかけがなければ、固く閉ざされたまま封印されているはずの美優の愛液が、割れ目から滲み出して床までその糸を引いている。

 

「美優、もったいないから、漏らさないように膣の入り口を締めてもらえないか」

「そんなこと言ったって……どうやったらいいかわかんないし……」

 

 美優はなんとか俺の要望に応えようとしてくれているのか、まっさらな股間部にはわずかに筋肉の動きが見られた。

 しかし、残念ながらそれは逆効果だったようで、美優が膣の入口を閉めようとするほど、膣内の筋肉が締まって、蜜部からは余計に愛液が漏れてきてしまった。

 

「もうやだこれ……恥ずかしくて死んじゃいそう…………お願いだから、早く舐めて満足して……」

 

 美優が俺に哀願してきて、コテとスプレーでカッチリと固定した二つ結びの巻き髪もどこか力なかった。

 ここまで妹にお願いをされて応えないのでは兄として失格だ。

 俺は狙いを裂け目に絞って、伸ばした舌を近づけていく。

 

「んっ、んっ、あっ……そんな、舐め方……あっ、あっ……!!」

 

 俺はいきなり陰唇の内側まで舌を入れることはせず、美優の股にある溝の端から端までを舌先でなぞって、溢れてくる愛液と美優の反応を堪能した。

 クリトリスの下からお尻の近くへと、スジを割るか割らないかの加減でツーっと舌を移動させる。

 美優のふとももの筋肉がビクビクと動いていていた。

 たったこれだけの快感に、美優は立つことさえ必死だった。

 

「イヤらしい舐め方、しないでっ……んっ、あんっ……。もっと、グチョグチョに舌を入れてください……」

 

 美優は俺の舌を膣内に入れようと腰を前後させている。

 スカートをたくし上げて、自分こそどれだけイヤらしい動きをしているのかわかっているのだろうか。

 頭が真っ白になるぐらいにイカされまくったほうが美優としても楽なのだろうが、俺が求めているのは陵辱されてなお性感に喘ぐ美優の姿なのだ。

 

 故にまだ、まだ舐めない。

 アソコは舐めるが、膣は刺激しない。

 全身性感帯なほど開発されているといっても、その肢体のどこよりも、美優は膣がよわよわですぐに理性がヘタるからだ。

 

「美優、次の頼みがある」

「なんですか。次は妹にどんな酷いことをさせるんですか」

「両手の指でクリの皮を剥いて俺に舐めさせてくれ」

「お兄ちゃんの鬼畜……!!」

 

 どんなに酷い要求だろうと、言うことを聞く約束だ。

 だから、美優は俺を親の仇が如く睨みつけながらも、最後にはスカートを口に咥えて、両指でクリの皮を剥いて俺に突き出すのだ。

 股間部に短い鋭角の包皮を纏っていたそこが、ピンク色の芽を出して俺の目の前に晒されている。

 

 そこに俺が唇を被せるようにして、チュッと吸い付いてから触手が這い回るように舌をペロペロと動かすと、美優は凄まじい勢いで腰をくの字に引いた。

 

「んんんンッ……!! んぐぅううっ……!! あっ、んあらめっ、あっ、ああっ……!!」

 

 直後、俺の頭にスカートが落ちてきて、辺りが真っ暗になった。

 俺はすぐにクリ舐めを中断してスカートから顔を出す。

 

「美優、スカートが落ちてくると暗くて何も見えない。きちんと咥えておいてくれ」

「そんなこと言ったって……声が出ちゃうもん……」

「いいから、ほら」

 

 俺が仕切り直しをさせると、美優は泣きそうな顔でまたスカートの端を咥えた。

 

「では…………んぢゅ……ぢゅるるっ…………ちゅるっ……ちゅっぱぁ……」

「ん、ンッ、ンッ、んん……!! ふあ、はぁ、あっ……!! んっ、アアッ……!! ごめなひゃい……これ、むり……!!」

 

 数秒もしないうちに、美優にしては根性もなくまた口からスカートを放してしまった。

 どうやら美優が声を出さずに耐えられるような快感のレベルではないらしい。

 

「イキそうなのか?」

「もうイッてるってば! こんなとこ舐められたら、誰だってイキます……!」

 

 たしかに、直にクリを舐められてイク人は少なくないだろう。

 だが、たった数秒だぞ。

 普段から散々と人を早漏扱いしておいて。

 

「お願いだから、片手で許してください……」

「仕方ない。その代わり、俺が舐めやすいようにちゃんと皮を剥くんだぞ」

「は、はい……」

 

 美優は不満そうに口を真一文にして、それでもやはり約束は破れないので、ツイストされたツインテールと前髪の触覚をぶんぶんと振って気合いを入れ直した。

 それから、片手でスカートをたくし上げて、空いた方の手を股に添えて、人差し指と中指で包皮をめくった。

 

「こ、これで、お願いします……」

 

 美優の用意ができて、俺は改めて美優の股間に顔を近づける。

 荒い鼻息が剥き身のクリトリスに吹き掛かるだけで、美優はビクビクと感じていた。

 

「んんむっ……じゅるっ……ぢゅぱっ……へろれろぉ……じゅるるるっ……んんっ……」

「あ、あ、ああっ……あああっ……! んっ……んんっ……! はぁ、ああがっ……はぁ、はああっ……んんンッ……!」

「ぢゅるっ……ちゅぱっ……ぢゅるるるっ……んん……ぐちゅ……チュパっ……はぁ……はあ……んんぅ……ぢゅうっ……」

「ひぁあっ、ああっ……ひっ、ああっ……!! もう、イッてる、からあっ……もっと、やさしく、してぇっ…………あっ、あっ……んっ……ああんあっ……!!」

 

 美優は俺にクリトリスを舐められて感じている。

 恥ずかしさに顔を赤くして、それでも快感のあまりに口角が緩んで、だらしない表情になっている──はずなのだ。

 しかし、せっかく美優が恥ずかしい格好で絶頂しているのに、顔を美優のアソコに密着させていると、視線を上に向けてもそこには服に圧縮しきれない大きな乳袋が見えるだけだった。

 

「んっ……じゅるっ……ちゅっぱっ……ん、美優。おっぱいが邪魔で美優の顔が見えないんだが」

「ふぇ、はぁ、ふう……し、知りません、こんな格好させてるのが……んっ……んんっ……はぁ、っ……悪いん、でしょうが……!」

 

 美優が裸であれば、おっぱいを左右にどけてもらうことで、顔を見ることはできたかもしれない。

 であれば胸だけでも出して顔を見せてもらうか? とも思ったが……。

 どうにもそれを美優に要求するのは違うように思えた。

 

 エロビデオなんかではロリコスしておっぱいだけ丸出しの格好はとても卑猥に映えるのだが、俺がいま求めているのは趣味としてロリコスを楽しんでいる妹のアソコを舐めることなのだ。

 オナニーをするときでも衣装はきっちりと着る美優の、そのコスチュームから美優らしさを奪ってしまうのは何か違う。

 

「なら仕方ない。俺はこっちに集中させてもらうか」

 

 俺はいよいよと美優の割れ目に焦点を合わせる。

 心の中で合唱をして、汁の滴るその裂け目へと舌の先端を入れると、美優のぴっちりした肉ひだに堰き止められていた愛液が俺の舌を伝って流れてきた。

 ウイスキーボトルの最後の一滴を舌を伸ばして味わうように。

 美優の淫汁が俺の喉を潤したその瞬間に、ジュルルルッ──!! と俺は美優のアソコにむしゃぶりついた。

 

「あっ、んあああっ!! あっ、あああっ!! お、おにぃ、ひゃんああぅ、ひああああぁっ!!」

「んむっ……んうぅ……じゅるるっ、じゅるっ、ぢゅうっ……!! はぁ……へろっ……えろっ……んっ……くぢゅっ……ぢゅっ……ぐちゅぷっ……」

「ひあっ、あっ、あっああっ……!! 奥らめっ、舌、入れちゃっ……んっ、んんぅうっ!! あああっ、ひっ、いぐっ……あっ、そこっ、だめぇ、ナカに舌、入れないで……!!」

 

 美優の愛液をひとしきり味わってからは、毛の一本すら遮る物のない女陰にぴったりと口を密着させて、舌を膣の奥まで伸ばした。

 ザラザラとした膣壁の感触が舌の全体から伝わってきて、これまで俺が何度もペニスを擦っていた肉洞は、こんなにもエロく気持ちよさそうな場所だったのだと再認識することができた。

 

「ああアッ……ううぅうっ……おに、ひゃ、ああっ……!! ごめんなさいっ……もう、だ、だめ……あっ、ああっ……イッ……っ……ンンッ──!!」

 

 俺が卑猥な音を立てながらアソコを吸っていると、ついに美優はその快感に耐えきれずにガクンと膝から崩れ落ちた。

 プレイとしては困るのだが、俺もだいぶ射精の限界が近くて、床は美優の膣から垂れた愛液と我慢のギリギリで単発の発射だけがなされた精液で汚れていた。

 

「あの……私、もうかなりイッてるから、立つのしんどい……」

「しんどいって。まだ何分も舐めてないだろ」

「だってぇ……」

 

 美優はウルウルとした瞳で俺を見つめてくる。

 エッチに責められるとなると途端にヘタるなこの妹は。

 加えて俺が妹に弱いと知っての甘えぶりだ。

 度し難くはあるが、可愛いすぎて怒るに怒れなかった。

 

「なら、立ってスカートをたくし上げるのはもういいから」

「ほんと!?」

「その代わり、ベッドで四つん這いになってお尻をこっちに向けてくれ」

 

 俺が次の指示を出すと、美優は見慣れたジト目で俺を蔑んできた。

 そんなことをしても俺を喜ばせるだけだというのに。

 俺にはどれだけ罵倒されようともこの強気な妹のアソコを舐め尽くす覚悟がある。

 こうともなったら意地でも曲げてやらん。

 

「あまりにも要求が酷いので医療行為だと思い込むことにします」

 

 美優は素っ気なくベッドに登って、俺にお尻を向けて腰を突き上げた。

 

 なんの医療行為だと思い込むつもりだ。

 兄の性欲治療という点では医療行為に相違ないが。

 いや相違はあるな。

 世間一般にこんなエロい治療法があってたまるか。

 

「美優がうずくまってても舐められるには舐められるんだけど。やりにくいから、できるだけ腰は上げてくれな」

「お兄ちゃんが優しく舐めてくれればそうします」

 

 美優はベッドに肘を突いて、声を我慢する用に枕を顔の下に置いて、いつでもどうぞと目線で俺に合図してきた。

 

「優しくか」

 

 興奮のあまりについベロベロと舐めてしまったが。

 じっくりと責めて美優の体を味わうのも悪くはない。

 

 俺は美優のお尻の下に回って、膝を広げているおかげで半分ほど開かれていたヒダを視界に収めつつ、美優のピンク色の穴を観察するだけしてから、臀部の下あたりから陰唇の外側を丁寧に時間をかけて舐っていった。

 唾液による舌の湿り気を途切れさせないようにして、硬く尖らせることもないように。

 いつも美優にしてもらうフェラの逆算によってクンニの経験の少なさを補っていく。

 

「っ……っ……!!」

 

 美優はふーふーと息を荒くして枕に顔を埋めていた。

 性感帯を直に舐められなくても、アソコの周囲を舐められるだけでかなり具合が良いらしい。

 俺も山本さんにはお尻から股下までかけて丹念にご奉仕フェラをしてもらった経験があるからな。

 このあたりを舐められる気持ち良さはわかっているつもりだ。

 

 美優がずいぶんと気持ち良さそうにしているので、口技と同時にふとももへのフェザータッチを折り混ぜていく。

 これも山本さんのフェラチオマッサージで何度もやってもらったこと。

 股下から膝の裏側に向けて、軽く触れるぐらいの力で撫で上げていくと、それだけで性感は何倍にも膨れ上がる。

 

「ふ……っ……ンッ……!! ぁんっ……ぁっ……っはぁ……!! ぁぅ……ふぁ……ふぅ……っ……!!」

 

 美優は快感に苦悶して、嬌声を堪えるのに必死だった。

 元よりふとももは遥によって重点的に開発されていた部分。

 そこを撫でられながら穴周辺を責められたとなっては、美優もいつまで正気でいられるか。

 俺だって過膨張したペニスがムズムズして、刺激を欲しがってグパグパと開いている美優の肉穴に突っ込みたくてしかたないのを我慢して舐めるのに徹しているのだ。

 美優にはまだまだ感じてもらわないと。

 

「あっ、あぐっ……あ……はのっ……おにいっ……ちゃん……それ、もう、やめて……あたまがどうにかしそう……」

「そんなに気持ちいいのか?」

「きもちいい……うぅ……すごいきもちいい…………。おねがいですから……もうイかせてください……」

 

 美優は腰を上下させて俺の舌を膣穴に入れようとしてくる。

 あれだけ嫌々言っていたくせに、されるとなったら舐められたがりな妹だ。

 美優がお尻を振るのに合わせて、その身を上品に着飾っているフリルスカートが揺れて、膝の間から見える景色の向こうではおっぱいがたゆんと揺れ動いていた。

 

 今日に限っては妹に容赦をしたくはないが、ここまで無様な姿をサービスをしてもらって譲歩しないのもどうかと思い、俺は美優の膣ヒダを両手の親指で開いてひと思いに舌をねじ込んでやった。

 

「ああんっ……ああっ……んぅぅあああっ!!」

 

 上下左右に届く限りの性感帯を舌で刺激して、その後は擬似的なピストンとして舌を前後運動させることで美優の膣奥にまで刺激を送っていく。

 執拗なまでに時間をかけて、じゅぱじゅぱと下品な音もできるだけ大きくなるように空気を混ぜながら、美優が枕に顔を埋めてもいられなくなるまでクンニで責め立てていった。

 

「んうぅぅうぅ……!! ああっ、あっ、あああっ……いい……イイっ……ひゅごいきもちいいッッ!! あんっ、ああっ、はあああっ!! あんっ、あああっ、はぁ、あっ……んんんっ……はぁ、いい、いいっ……!! イクッ、イクッ……あ、あ、あああアアッ!!」

 

 美優はお尻を突き上げながら何度もイッた。

 膣舐めの刺激から逃れようと腰を上げて、それでも舐め続けられて絶頂して、脚に力が入らなくなって蛙のように股を広げて崩れ落ちるのと、それでも気張って子鹿のように震えながら腰を上げるのを繰り返す美優は、その高貴なドレスによく似合うぐらいに品の欠片もなかった。

 

「ふあ、ああっ、あっ……っ、んんっ!! あっ、ま、まって……!! ちょっと、ダメッ、お兄ちゃん……すとっぷ!! あっ、ああんっ……あっ、だめっ、ほんとにだめだってばぁ!!」

 

 美優が急に俺の頭を手で押し退けて、本気の声で中断を要請してきた。

 さすがにどうしたことかとクンニを止めると、美優はキツく閉じた股を塞いで、イキそうになる体を抑えるのに必死になった。

 片方の手で強くシーツを握って、何かから意識を逸らそうとしている。

 その体勢で我慢しているってことは、まさか、そういうことなのか。

 

「み、美優、大丈夫か?」

「はぁうぅぅぅ……うっ……はぁ…………と、とりあえず、しばらくは大丈夫そう……」

 

 ベッドの上なのでどうしようかと焦ったが、どうにか波が引いた美優は全身から力を抜いてゆっくりと呼吸を落ち着けた。

 美優は慎重にベッドから足を下ろして、それでもイッた直後の体では踏ん張れずに俺に抱きついてきて、俺たちは至近距離で見つめ合う形になった。

 

「なあ、美優」

「な……なに……?」

「それ、おしっこじゃなくて、潮を吹きそうだったんじゃないのか?」

「ち、違うって! いまだって、したいもん」

 

 美優はゴスロリスカートの中で膝を擦り合わせてモジモジしている。

 イキすぎて潮を吹きそうだったのかと思ったが違ったみたいだ。

 

「でも……ということは……あのまま舐めてたら……」

 

 俺がアソコに口を付けたまま、美優が我慢できなくなっていたら、図らずともそういうプレイになってたわけだよな。

 

「口に出してとか言ったらビンタだからね」

「言わないって」

 

 いくら相手が大好きな妹でも、俺にだってできないことはある。

 無論、美優のほうから強く望まれたりしたら、また話は変わってくるけれども。

 

「でもどうして急に尿意なんか」

「もしかしたらお兄ちゃんをお出迎えする前に飲んだハーブティーが原因かもしれません」

「もしかしなくてもそれしかないだろ」

 

 原因と結果が明確じゃないか。

 エッチが絡むとどうしてこの妹はこうも頭が弱くなるのか。

 

「だって、いざお着替えしたら、緊張しすぎて舐めさせるどころじゃなかったんだもん」

「それは……まあ、そういうことなら、しょうがないが……」

 

 過ぎたことをあれこれ言っても意味がない。

 美優のアソコは充分に堪能できたしな。

 

「というわけでトイレに行かせてください」

 

 美優が俺にそう頼んできた。

 俺が手を貸さないともうトイレにも行けないらしい。

 

 そうした都合もあって俺は美優と一緒にトイレに入った。

 美優は便座に腰を落ち着けて、スカートの余りは汚れないように腕に抱える。

 

「ん。あの。したいんですけど」

 

 なかなかトイレから出ていかない俺に、美優から批難する視線が飛んできた。

 俺も美優の小水に興味があったわけではないのだが、このときの俺には天啓的に閃くものがあって、どうしてもそれを試したくなってしまったのだ。

 

「美優って、もし今イッたら、もう我慢はできない?」

「絶対に無理……だけど……。どうしてそんな質問を……?」

「いや、ちょっと、思うところがあってだな」

 

 妹の排尿にはそれほど興味はない。

 だが、排尿を見られて羞恥に悶える妹には大いに興味がある。

 

「美優って、ローターを持ってたよな?」

 

 俺のその言葉に、美優は凍りついた。

 一瞬にして俺の意図を理解したらしい。

 

「お兄ちゃんって自分がどれだけ変態かわかってる? たぶんお兄ちゃん自身が想像してる十倍は変態だよ? 妹に何をさせようとしてるのかもう一度ちゃんと考えてみて?」

「いや……俺はただ、美優が我慢の限界を迎えるまでローター責めをしたいだけで……」

「ただじゃないでしょうが! 妹にも女の子としての尊厳があるんだからね! もうお兄ちゃんのこと嫌いだもん!」

「あっ、こら。嫌いって言うのは禁止の約束だぞ」

 

 美優はムスッとした顔で俺を睨んでくる。

 それから、フリフリのスカートから両手を放すと、静かに膝の上に置いた。

 トイレの照明で化粧の目立った顔を不満げに、しかし、自分から言い出したことなので、俺の命令にはどんなにイヤなことでも逆らうことができない。

 

「机の右側の引き出しの上から二番目」

 

 実に不服そうに美優はそう言った。

 俺は感謝を述べてからトイレを後にして、美優の部屋でローターを探すことに。

 

 美優から教えてもらった引き出しを開けると、そこには本体だけがそのまま置かれたコード付きのシンプルなピンクローターが入っていた。

 遥とのプレイで使っていたならもっと高級なリモコン式なんかを持っていそうだったが、自分がオナニーしている姿を絵にしたときのそれっぽさが重要な美優にとって、あえてこの安物を使っている理由が俺にはわかった気がした。

 

「……ん?」

 

 美優に失礼だし、時間もなかったしで、不用意に漁るつもりはなかった。

 それでも、引き出しを開けた瞬間に目に入った物からは、目をそらすことができなかった。

 

 大量のSDカードが透明なボックスの中に整理されていたのだ。

 内部には間仕切りが幾つかあって、その間仕切りに付けられたラベルと対応する記録内容と思われる、同名のラベルが付いたノートがその下に入れられていた。

 

「『遥と旅行』『スタジオで撮影』か……。結構、本格的に楽しんでたんだな」

 

 それが何かの琴線に触れて、つい独り言になった。

 エッチをするための格好として、美優に無理を言ってロリコスを要求してしまったが、今後はセックスの道具としては使わないほうがいいのかもしれない。

 今日の衣装は美優が俺とエッチをするために急いで仕上げてくれたものだけど、美優はあの衣装だって、真面目に作り込んで撮影に使いたかった可能性もある。

 あれだけ可愛く着飾ってくれた妹を尿意の限界でローター責めするのはやりすぎだったかな。

 なんて、そんな考えまで過ぎってしまった。

 

「……ん? ん!?」

 

 が。

 

 しかし。

 

 そんな俺の感傷は一瞬で吹き飛んだ。

 

 美優が撮影をした場所を示していると思われるそのラベルの中に、『お兄ちゃんの部屋』といういかがわしいニオイのプンプンする文字を発見してしまったのだ。

 しかも、その容量は遥との撮影で溜め込んだデータと同等のカード数が使われている。

 俺は自分の部屋がコスプレ撮影に使われていたなんて一言も聞いていないので、こっそり俺の部屋で撮影をしたことは間違いないが、であればその利用頻度からするとこのデータ量は普通ではない。

 

 たまにこっそり撮るだけのコスプレ写真だけでテラバイトまで容量を食いつぶすはずがないのだ。

 加えて、あの遥が男である俺の部屋で撮影をするはずもないので、これは間違いなく美優一人が個人で撮ったもの。

 

 ここから推察するに、この記録媒体に保存されているほとんどは、写真ではない。

 

 動画だ。

 

 では、美優はポージングを決めるに不適当な殺風景きわまりない俺の部屋で、何の動画を個人撮影していたのか?

 

 そんなもの、問うまでもなかろう。

 ノートの中を覗けばどんなプレイに及んでいたかは明らかだが、もはやその必要すらない。

 

 俺の知らない間に一人きりでそんなエッチなことを楽しんでいたなんて。

 

 ローターを手に部屋を出た俺には、睾丸が煮えたぎるほどの怒りが湧き上がっていた。

 

「美優」

 

 威風堂々とトイレのドアを開けて俺は戻ってきた。

 鍵をかけていなかったのはさすが我が妹と、そこだけは褒め称えてやりたい。

 

「なんですかその目は」

「俺も射精がしたくて我慢ができなくなってきた」

「あとでちゃんと中出しさせてあげるってば」

 

 美優はできるだけつまらなそうに努めて、ローターの振動部を膣内に入れてから、黙ってツマミを渡してきた。

 

「はい。お好きなだけ妹の尊厳を奪ってください」

 

 仏頂面でそうのたまった妹に、俺はみっちりと密度の詰まった肉槍を見せつけながら、電源に指をかけた。

 このスイッチを押せば美優は絶頂しながら漏らすという恥ずかしい姿を俺に晒すことになる。

 ……と、当初は考えていたものの、いざこのような流れになるとそれほど簡単ではないように思えてくる。

 

 実際に使ってみるとそれなりの振動があってびっくりする強さはあるが、たかだかローター程度の刺激だ。

 なにより、美優は単に物理的な刺激に弱いのではなくて、俺とセックスをしている実感に興奮してエクスタシーに達するタイプの、いわばお兄ちゃん好き好き絶頂体質なのだ。

 ドライに徹している美優を堕とすためにはもうひと工夫いる。

 

「美優のフェラで俺がイクのと、ローターで美優がイクのと、どっちが早いか勝負してみないか? 俺が先にイッたら普通に排尿をしていい」

「……イヤです」

 

 美優は淡々と断った。

 そして、俺のギンギンに勃起したイチモツに目をやってから、また俺を睨みつける。

 

「お兄ちゃんのそんなモノを咥えながら膣内を刺激されたら間違いなく私が先にイクので。そしたらお兄ちゃん、私が大変なことになってる最中でもお構いなしに口の中で射精してくるじゃないですか」

 

 さすが冷静になっているだけあって未来予知じみた洞察力がある。

 

「ダメかな?」

「ダメです」

「ならこうしよう」

 

 俺はローターのつまみを少しだけ回してスイッチを入れた。

 

「んんっ……あっ、急に……ヒドい……!」

「振動は最弱にしてあるからまだ耐えられるだろ」

「うっ……うぅ……これならなんとか我慢できるけど……」

 

 美優は突然の刺激に驚いて、それでもまだイクことはなかった。

 ごく微弱な振動音だけが美優の膣内部から響いて、しばらくするとローターの刺激にも慣れて美優の表情から硬さが抜けてきたので、俺は強度設定をそのままにしてコントローラーを美優に返した。

 

「これは……何の真似ですか……?」

「これぐらいの刺激なら美優もフェラができるだろうと思って」

「そんなにフェラしてほしいならするけどさ……正直、ローターとか関係なくもう漏れそうなのですが……」

 

 美優は膝をぴったりと合わせて、俺に慈悲を懇願してくる。

 

「だから、これから一分で射精させてくれ。そしたらここから出てくよ」

「むぅ……一分あれば……お兄ちゃんなら射精させられそうだけど……」

「だろ?」

 

 これまで俺が美優に本気でフェラをしてもらって、事実として一分も耐えられたことがない。

 美優にとっても非常にフェアな提案のはずだった。

 

「だから、もし一分で俺をイかせられなかったら、そのツマミを美優が自分で強にしろ」

「ふえ……? じ、自分で、するの……? お兄ちゃんって実は真性のサディストなのでは……?」

「美優の兄だからな」

「それを言われてしまうと返す言葉がありません……」

 

 美優は急に弱気になって、渡されたローターの線が自らの膣と繋がっていることを再認識して、またほんのりと顔を赤らめた。

 

「じゃあこいつを咥えてくれ」

 

 俺は反り上がったペニスを手で前に向けて、美優に口を近づけさせる。

 美優はついに抵抗をやめて、亀頭から数センチをしゃぶって先走り汁を吸った。

 

「長いし太いしで咥えづらい……前のがよかった……ちゅーちゅーするだけですっごく苦いのが出てくるし……」

「これだけ待たされたんだ。しょうがないだろ」

 

 美優の愛液にはペニス増大と精力増強の効果がある。

 俺側の体質なのかもしれないが、その神秘はこの体によって証明されていた。

 

「どうやって時間を測ればいいの?」

「体感でいいよ。美優が諦めるまで俺は耐える」

「お兄ちゃんがイクまで時間を無視してお口でするかもしれませんが」

「いいよ。美優が負けを認めたときが一分だからな」

「うぐっ……そうやって話を運べば、私が律儀に時間を守ると思ってるんでしょ。残念ながら今回だけはアテが外れてるからね」

 

 美優は「絶対に負けなんて認めてやらないから」と吐き捨ててから、俺の腰を両手で支えてペニスにしゃぶりついてきた。

 

「むぐっ……んっ……じゅるっ……じゅぷっ、じゅるぱっ……はぁ……おにいちゃんの……はんっ……おっきぃ……はぁ……んむっ……んっ……」

 

 美優は開始直後から激しく首を前後させて、口内では繊細な舌捌きでカリを擦って、視覚と触覚の両方から絶妙に男のツボを突いてくる。

 口だけでは足りないとみると、喉奥までを使って、美優は根元深くにまで唇を被せてきた。

 その間には長いストロークを織り交ぜて、AV女優なんて目ではないぐらいのロリ顔フェラで俺を責め立ててくる。

 眼下で動く美優の頭に、帯の広いフリル付きカチューシャが観察しやすくなって、そこに俺を睨みつける美優の上目が加わってとても刺激的だった。

 

「ぐじゅっ、じゅるるっ……ぐじゅぶっ、がぷっ……ぐっぽっぐっぽっ、ぐちゅるるっ……じゅぱっ……はぁ……はれ……なに、これっ……んっ……じゅぷっ……」

 

 それでも俺は大雨に打たれる巨木のごとく耐えていた。

 フェラは気持ちいいし、その気になればいつでも射精できる。

 だが、今の俺には、射精をしないという選択肢を取ることもできるようになっていた。

 

 美優は一心不乱に俺のペニスをしゃぶって、頑張りすぎて息も絶え絶えになっているのに、ただ負けたくない想いだけで喉奥までのフェラを続けていた。

 酸素が足りなくなって頭がクラクラしている様子ですらあっても、それでも美優は俺を射精させるために口淫をやめない。

 

「あぁ……美優……気持ちいいよ……頑張ってる姿もすごく可愛い……」

 

 俺が刺激に強くなったわけではない。

 ましてや美優のフェラが下手になったわけでもなかった。

 

 セックスとは、心でするものなのだ。

 俺がこれまで美優や山本さんに情けなくやられていたのは、美優たち美少女に対して自分が絶対的な下等生物だと思っていたことが原因。

 それが、これまでのあらゆるイベントを乗り越えて、対等の人間として向き合えるようになった。

 そして今日という日に、俺はようやく、この妹をして精神的優位に立つことができたのだった。

 

「むぐっ……んっ、じゅるっ……ううううぅ……!」

 

 美優もそれはわかっていた。

 なぜなら、これが全て俺の地力だなんてことはなくて、美優自身が心の奥底で好きな人に従わされたい欲求を抱えていたからこそ、あんなチケットまで俺に渡してきたのだから。

 

「もうそろそろ一分になるな」

 

 俺の言葉に、もうとっくに負けを認めていた美優は、その強気な目に悔しさを滲ませてローターのコントローラーを握りしめた。

 強弱の調整部に親指をかけて、恨みと羞恥が入り混じった瞳で俺を睨んでくる。

 勝負事には規律を重んじるこの妹が、罰を承知で始めたプレイを投げ出すわけもなく。

 

「ふぅっ……ふぅぅっ…………ううっ……んうっ……うぐうぅうううっっ……!!」

 

 浅く短い呼吸を繰り返しながら、美優は震える指で振動最大にまで自らツマミを押し込んだ。

 直後に美優は便器に座りながら脚をガクガクと痙攣させて、快楽と屈辱に俺のペニスを咥えながら嗚咽する。

 俺は涙目の美優と目が合って、可哀想だという気持ちもなくはなかったが、勝負事での情けは美優に失礼なので、早く俺をフェラ抜きさせろと目線で催促をした。

 

 美優はそこで完全に屈服して、先ほどまでのフェラテクが見る影もない、口をただ前後させるだけの拙いフェラで、下半身をイキ震わせながら俺のペニスを刺激してくれた。

 

「美優、すげぇエロい……このまま口の中で出すからな……溢さずに全部飲んで……っ……あっ、あっ……出るっっ!!」

 

 びゅるるるっ、びゅくっ、ごぷっ、ごぷっ──! と、精液が尿道を通るたびに、下水管を水が流れるようなゴポゴポという音が鼓膜まで響いてきた。

 俺の精液を飲むことで性感が高まった美優は、そこで目に見えてわかるほどに全身をビクつかせて絶頂した。

 

 直後、ギュポッ、と聞き慣れない音がした。

 その後にはカランと硬い物がぶつかる音が続いて、美優は口内射精されてイキながら排尿を強制されるという筆舌に尽くしがたい醜態を晒しながら、俺の射精を口で受け止め続けた。

 

「うぐっ……んむうっ……げほっ……っかはぁ、はぁ…………ううっ……うううぅ……」

 

 美優は目を真っ赤に腫らして、敗北の涙に咽せなびいた。

 それでも丁寧なお掃除フェラで尿道に残った最後の一滴までを吸い取ってくれて、美優はお腹をさすりながら喉の引っ掛かりを何度も飲み下そうとする。

 

「お兄ちゃんの精液、久しぶりにこんな苦いの飲んだ…………ドロドロでお腹きもちわるい……」

 

 美優はキュッと口を強く閉じて、込み上げてくるものをなんとかやり過ごす。

 焦らされての一発目なのでかなり濃いのを出してしまった。

 それでも呑んでくれるのだから、愛を感じてしまうな。

 

「そんな状況で、申し訳ないんだが。挿れていいかな?」

「ふえっ……?」

 

 美優は勃起したままのペニスを見て、ちょっと絶望した顔になった。

 だいぶ溜め込んだので、一回の射精だけでは出し足りない。

 美優と山本さんとセックスを繰り返したせいで俺の性欲はもう普通ではなくなっているのだ。

 

 回答に困っている美優を待つことなく、俺は姿勢を低くして美優の両足を持ち上げた。

 美優は便座の上で股を広げられて、ガーターベルトの中央で開かれたその秘裂は、まるで俺とセックスをするための穴として挿入を待っているようだった。

 

「え、えっ……待って待ってまだ拭いてない……!」

「大丈夫だよ。前に色々あって調べたけど、おしっこ自体はキレイなものらしいから。美優が気になるなら俺が舐めてもいい」

「そういう問題じゃありません! というか、この体勢……めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど……!」

「四の五の言うな。今日は逆らうの禁止の日だぞ」

「うぐぐっ! 悪魔! 鬼畜! お兄ちゃんのエッチ!」

 

 口の悪さの直らない妹に、俺もだんだんとお仕置きがしたくなってきて、俺は中腰になって美優の狭い穴にペニスの先をフックさせてから、一気に肉棒を奥まで押し込んだ。

 久しぶりの全開のセックスに、美優の膣はミチッと悲鳴を上げて、それでも肥大化したイチモツの径を一番太いところまで受け入れてくれた。

 

「あっ、あっ、ああっっ!! ひぎゅっ……ううっ……んあああっ!! お、おっきっ……あ、うぐっ……ひゅごい、んんっ、ぐるしっ……うっ……んあっ、ああっ!!」

 

 俺はプレス気味に腰を振って、美優の両足を持って秘所を下半身を引きつけながら、オナホにも近い粗雑な扱いでペニスを膣コキした。

 先端はゴリゴリと子宮口を抉って、そのたびに美優が歓喜の悲鳴を上げる。

 

 たしかに少し前までのペニスの方が美優の体には優しかった。

 Gスポットを刺激するだけなら控えめなぐらいのほうが都合がいい面もある。

 普通の男女のセックスならそれほど竿の大きさは必要ないのだろう。

 だが、俺たち兄妹にとってはそうではなかった。

 

「美優ッ……ああっ……美優、美優ッ……!! 亀頭が美優の子宮で擦れて…………最高に気持ちいい……!!」

「はあぅぐっ、ひあっ、あああっ!! おにいひゃのおっ、ごりごりくりゅろっ……あんんっ、はああ……ぎもひいっ……!! あんっ、あっ、んあっ!!」

 

 美優はスカートを抱きしめて、脳天まで迸ってくる快楽にやられまいと髪を振り乱した。

 その表情は苦悶しつつも満足げで、ようやく美優が求めていたものを与えられたのだと、それが俺の性欲を満たすことにも繋がっていた。

 

 美優の最も敏感な性感帯は、正確には膣ではない。

 膣で感じる刺激だけでは、それが本番行為であれ美優からしたら前戯でしかないのだ。

 美優が一番に刺激を欲しているのは子宮であって、どの体位にあってもその最奥にペニスを届かせるためには、ある程度の長さがいる。

 だからこそ、俺はペニスをここまで元通りにする必要があった。

 

「ふうっ、はぁ……美優は、小さい方がいいとか言ってたけど……っ、ああ……やっぱり、こっちのが良いだろ……!」

「むぐっ、ふぅううっ……ううっ……ひゃんと、げんきになったんならっ……! いちゃいちゃしたかったのにぃいっ……! おにいちゃんのばかばかっ! もうほんとにキライだもんっ!」

 

 嫌い嫌いって、禁止しているのに、そこだけは約束を守れない妹だ。

 俺は苛立つ陰茎を美優の膣に擦りつけて、V字に開いた股間に何度も腰を打ち付けた。

 射精のときが近づいている。

 

「そんなに嫌いなら、精子は外に出すからな……!」 

「んっ、んんっ……ふえっ……へっ……!? や、やだ……中出しじゃないとやだ……!! おねがいしますっ……はあっ、んはぁっ、あんぐぁっ……中に、出してください……っ!」

「ふぅっ、っ……今日は、俺の命令は……どんなことでも従うんだろ……! そんなにわがままだと……っ、はあっ……やり直しにするぞ……!」

「それでもイヤっ……! やりなおしでもいいから中に出して……!」

 

 美優は俺にしがみついて、形振り構わずに懇願してきた。 

 久しぶりの本気セックスなのでどんなことがあっても中出しをされたいらしい。

 嫌いな男の精子であれば膣内に出されたいはずがないのだが、俺も意地悪がしたいわけではないので、美優に一つのチャンスを与えることにした。

 

「なら……本音は俺のことが好きだって言うなら、このまま中に出してやるぞ……っ!」

 

 美優を犯し続けたい想いにピストンは止められず、そんな状況で美優のわがままに焦らされて、射精したいのをどうにか堪えながら俺は最後に猶予を美優に委ねた。

 すると美優は、狭い膣にペニスをねじ込まれて、その被虐快楽によって喘ぎ苦しみながらも、だらしがないぐらいの喜びをその表情に浮かべた。

 

「やったっ、中出しっ……して、もらえるのっ……! しゅ、しゅき……! わたしほんとはお兄ちゃんのことしゅきらもん! おにいちゃんらいひゅきっ、あんぁっ……んきゅっ、ぐっ……はぁ……しゅきしゅきっ……おにいちゃんしゅきぃっ……!!」

 

 その瞬間に美優の股が自らの意思で開かれた気さえした。

 逡巡すらすることなく手の平返しをするなんて。

 最初からわかっていたことだからいいのだが、中出しをしてもらうこととなると、なんと翻す身の軽いことか。

 

「ふんっ、はぁ、はっ……そんなに好きなら……これまで溜めた精子、美優のナカにたっぷり出すからな……!!」

「ああっ、あっ……しゅき……しゅきなのでっ……あっ、んあっ……なからしおねがいしまひゅ……!! らいひゅきなっ、おにいちゃんのせーしくださいぃっ……!」

 

 美優は緩んだ口から舌まで出して俺にキスをせがんできて、その可愛さと興奮で俺の脳に射精のスイッチが完全に入った。

 俺は美優と両手を正面から恋人繋ぎに組んで、美優が開いてくれるその秘所の穴に、力の限りにペニスを打ち込んでいく。

 

「んぐっ……むちゅっ……ふぅっ……みゆっ……んっ、もうイクッ……んぢゅっ、んんっ!!」

「ちゅっ、ぢゅるっ、はむんっ……チュッ、ん……おにいひゃん、きてっ……んっ、はあぁ……こいのっ、らひてえっ……!!」

「美優…………美優ッ……!! 出る、出るぅうっ……っ……んああっ……出るッッ!!」

 

 びゅるるるっ、びゅくっ、びゅくびゅくっ、びゅるるっ、びゅっ、びゅびゅっ、びゅぅうっ──!!

 

 腰と臀部が密着するほど深く膣内を穿って、俺と美優はピッタリとくっついたまま二人の共同作業で子宮へと精子を送った。

 大量の精液を注がれた瞬間に、美優は力を振り絞って繋いでいた手を強く握ってきて、俺のペニスが射精に脈打つたびに絶頂する体をなんとか股を開いたままにしてくれた。

 射精が終わってからは、俺は美優の脚を下ろして、静まり返った個室の中で何度も美優とキスをした。

 

「んっ……んむっ……ちゅぷぁ……はあ、はあ……美優……可愛かった……」

 

 俺が美優を解放すると、美優はトイレのタンクを背にして壁にもたれかかった。

 股を開きっぱなしにした割れ目からは精液が垂れ落ちている。

 それから呼吸が落ち着くまでの数分間で、美優も意識を取り戻して、自らの惨状に気づいて脚だけは閉じたのだが、便座からはしばらく動けそうになかった。

 

「ふぅ。濃いのが出ると、こっちも気持ちいいよ。美優も久々の感覚はどうだった?」

「うっ……うぅ……知りません……妹の尊厳を根こそぎ奪っておいて……」

 

 悲しみにむせなびく美優は、ひとしきり嘘泣きをしてスッキリすると、上体の余力で姿勢を正して、アイラインを強めに引いた目を鋭くして俺を睨んできた。

 

「まさか、あんな態度まで取っておいて、まだ嫌いだとか言うんじゃないだろうな」

「嫌いなものは嫌いです。ぷぃっ」

 

 わざとらしい口調で美優は俺から顔をそむけた。

 上からも下からもあれだけ濃い精液を注がれてなお、これだけ冷静でいられるとは、よほど理性側の羞恥が気付けに効いているらしい。

 とはいえ振る舞いに見えるほど余裕はないはずだ。

 

「ひとつ聞いておきたいんだけど、そのガーターベルトとストッキングって購入品?」

「ん? 購入品だよ? 自作したかったけど、お兄ちゃんとのエッチを考えると強度が難しくって……」

「ならふとももにぶっかけてもいいのかな」

「いいわけがありません」

 

 美優はしかめ面で即座に否定をした。

 しかし、二度も射精したはずの俺のペニスがまだ勃ったまま萎えないことに気づいた美優は、俺が持て余している性欲に、なぜか顔を赤くして少し照れたのだった。

 まあこの性欲の全てが美優に向けらているものには違いないが。

 最近はまたわかりやすくなったな。

 可愛い妹だ。

 

「や、やっぱり男の人は、射精したらとりあえずスッキリするぐらいが、ちょうどいいと思います」

「俺が何回も射精しないと満足できないんじゃなかったのか?」

「それは私がお兄ちゃんを射精させたいときの話です。お兄ちゃんが好き勝手に私の体を使うときは、二回も出したら満足してください」

 

 美優は調子の良い言い訳をして、よれたストッキングとガーターベルトを引っ張り上げて、両手で頭の状態を確かめながらカチューシャの位置を直した。

 それから、乳揺れのせいでシワだらけになったシャツを伸ばし、そこに俺が両手を出して美優がそれを掴むと、条件反射で美優が立ち上がった。

 

「はっ」

 

 美優がしてやられたと気づいたときにはすでに遅くて、フラフラな足でも立てるようにタンクに手をつかせてから、俺は後ろからスカートを捲り上げてビンビンに勃起したままのペニスを美優の割れ目に擦り付けた。

 

「いいよな?」

「あっ…………はい……」

 

 こうともなると美優も文句は言えないので、大人しく挿れられるだけになる。

 後背位から肉棒を挿入された美優の体から、だいぶトイレに流れたはずの精液がまだ押し出されて溢れてきた。

 粘質をまとった穴と竿がぬちょぬちょと擦れて、垂れ落ちた体液が便器内の水面を叩くと、スカートで結合部が見えないはずの美優もそこがどうなっているのかを理解させられて恥ずかしそうだった。

 

「さっきの話の続きだけど。次はふとももに射精させてくれないか」

「ダメにっ、決まっています。だいたい、せっかくのエッチなんですから……んっ、ぁ……中出ししてくれればいいのに……イジワルなお兄ちゃんなんて、ふぁんっ……んぁ……キライ、です……!」

 

 スローテンポで始まったセックスに、会話をしながらもピストンをされて、「んっ……んんっ……」と美優は性感に声を漏らす。

 

「ならやっぱり中に出すか」

「えっ……な、なんで、急に……っ」

「美優が中出ししてほしいって言うから。このまま射精することにするよ」

「んっ、あっ……はぁ……そ、そう……ですか……」

 

 スローセックスといっても、腰は雑に前後させるだけ。

 俺のペニスを膣で感じすぎると、美優は快楽のあまりに頭がおかしくなるので、会話をしたいときは焦らしてはならない。

 

「美優。俺のこと、好き?」

「それはっ……あっ……だって、嫌いっていうの、禁止だから……はぁん、っ、はぁ……好きって言うしかないので、その……」

「じゃあその命令は取り消す。嫌いと思ったら素直に嫌いと言っていいよ。その上で答えてくれ」

「ふぇ……ぅ……んっ……」

 

 嫌いと言わない約束がなくなって、俺に中出しをしてもらえることにもなって。

 美優には俺を嫌いと言う理由がなくなった。

 

「ううぅ……好きだってば……ばか……」

 

 美優はあれだけの羞恥責めをされて、今でも強引にバックからハメられて、それでも兄に精液を注いでもらえるとなったら、美優にとってはそれまでの過程などは些事でしかない。

 

「なら、そろそろ射精するけど……美優は、こう……奥に、挿れられるのと……。こうして、引き抜かれるのだと、どっちのが気持ちいいんだ……?」

 

 俺は背中側だけめくりあげたスカートが落ちないように押さえながら、もう片方の手で美優の腰を支えて、力加減を変えながらのピストンをして美優に尋ねる。

 

「そ、それは……奥のグリグリがなければ……引き抜かれるときのほうが……っ、すき、です……」

 

 美優は室内が静かだから聞こえるぐらいの小さい声で答えた。

 

「お兄ちゃんが、腰を引くと……ふぅ……ぅんっ……膣の中が、無理やりキュッてさせられるから…………その……っ……それが、とてもよくて……」

 

 美優の膣穴は小さくて、本来であれば平均的なサイズのペニスでさえ痛くて入らないキツさをしている。

 それなのに、俺とセックスをするときは、美優の膣はちょうどよく筋肉が緩んで挿入を受け入れられるようになる。

 それは裏を返せば、俺のペニスを体内に受け入れる以上の空間が全くないということで。

 そんな状態でペニスを引き抜くと、美優の膣内は空気圧が急激に下がって、強制的に膣を締めさせられるのだ。

 

「これが気持ちいいのか?」

 

 美優の好みに合うように、ペニスを一番奥深くまでピッタリと膣に挿入した俺は、美優のお腹に腕を回して膣道を締めつけるように抱きしめながら引きを意識したピストンに切り替えた。

 

「ああっ、ううああっ……だめっ、それ、ほんとだめっ……きもちいい……はあっ、はあああっ……んんっ、ああっ……きもちいい……きもちいいよぉ……!!」

 

 片手をタンクから離して、美優が手を握ってきた。

 気持ちいいと叫ぶ美優の声が普通ではなかった。

 

「ああっ、んんあああっ……!! お兄ちゃん、もう、ほんとにダメぇっ……!! ああっ、ん、ああっ……わたしっ、んっ、ぁ、ひああっ、あああっ……セックスしか、できない女の子になっちゃう!!」

 

 美優の理性が、精神が、本当に崩壊してしまう予兆を感じて、俺はいつものような粗雑で乱暴なセックスでペニスを擦った。

 お腹に回していた腕で美優の腰を持ち上げて、美優が爪先立ちになるぐらいに体を浮かせてから、射精に向けて腰を強く打ち付けた。

 

「はぁ、はあっ……美優、中に出すぞ……残りの精子、全部美優の中に出すからな……っ!!」

「ああっ、んうぅああっ、おにぃ、ちゃん……!! お兄ちゃん、お兄ちゃんっ!! 好きっ……好きぃっっ……お兄ちゃん……大好きなのぉっ……んぅっああっ、ひゎあああっ!!」

 

 ドクドクッ、ドピュルルルッ、ドプンッ、ビュルルッ、ビュルッ、ビュッッ、ドクッ、ドクッ、ドクン──ッ!!

 

 美優の膣内に、金玉の精子が枯れるまで、長い長い射精が行われた。

 一度は整えられた美優のロリータコスチュームも、全身の布はヨレて、ふとももには二人の体液が伝い、カチューシャは床に落ちていた。

 汗と尿と精液と、淫猥なニオイの立ち込める狭い個室に、美優はトイレのタンクにもたれかかってか細く息を切らして、やがて気絶するように眠りについた。

 

 引き抜いたペニスの先から白い糸が床に伸びて、同じようにして股から精液を垂れ流しにしている美優の後ろ姿に、俺は底知れない背徳感と優越感を覚えていた。

 

「全部出た……」

 

 放心して、天井を見上げて、心臓の音が落ち着いた頃に再び目にしたその惨状に、美優をこのまま放置しておくのはあまりにも可哀想だったので、俺は自分の部屋に運んで寝かせることにした。

 



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お兄ちゃんの好きなところ

 

「んっ──、お兄ちゃんの部屋だ……」

 

 俺のベッドで目を覚ました美優が、眠たい目を擦りながら起き上がった。

 寝起きに弱い美優でもすぐに俺の部屋だとわかるぐらいに、美優もこの部屋で過ごすことに慣れたらしい。

 兄妹としての関係に落ち着いているので──特に美優からの兄妹で愛し合いたいという要望が強く──仕方ないといえば仕方ないのだが、恋人としての関係性の進展としては地味だけど嬉しい変化だった。

 

「おはよう。休めたか?」

「うん。……えっと、まだ夜だよね? 私、なんで寝てたんだっけ……?」

 

 美優は寝ている間に着せられていた俺のTシャツとスウェットを不思議そうに眺めている。

 ドレスは着たまま寝かせるのは、シワになるし美優も寝づらいだろうしで、俺が着替えさせておいた。

 ついでに体もある程度は綺麗にしてある。

 さすがに奥に溜まっている精液を掻き出すまではできなかったが。

 

「あっ……そうだった! お兄ちゃんとの約束があったのに、ごめんね! すぐにシャワーを浴びてくるから……!」

「いいって、ゆっくりしてきなよ」

 

 時刻は夜の十時を回った頃。

 日付が変わるまでの約束だったので、時間が無駄に過ぎてしまうことにはもったいなさもあったが、存分に楽しめたし美優も疲れただろうしで、俺も美優が起きたらまたセックスをしようとは考えていなかった。

 ゴスロリ衣装で中出しを懇願する美優がエロすぎて、もうほとんど出てしまったこともあるしな。

 だから、余った時間で楽しめることを楽しめればいいと、俺は思っていたのだが、やはりというか義理を重んじる美優としてはそうはいかなかったようで、部屋を飛び出して体を洗いに行ってしまった。

 

 俺は美優が寝ている間にご飯も済ませて、風呂にも入って、余った時間にネットサーフィンをして暇を潰していただけ。

 それも、ちょくちょく美優の寝顔を眺めていたら、時間が過ぎるのなんてあっという間だった。

 

「──お待たせしました。時間がかかっちゃってごめんね。お兄ちゃんのが……なかなか流れきらなくて……」

 

 慌てて戻ってきた美優だったが、部屋でまた二人で落ち着く頃には二十三時を過ぎていた。

 化粧を落としたりスキンケアしたり、特に髪の毛を乾かすのには時間がかかったようで、そこに俺から中出しされまくった膣内部をキレイにするという作業も含まれていたとなると、文句も言えない。

 

「ご飯はいいのか? 軽いものなら、ゼリーなりサラダなりあっただろ?」

「そこは大丈夫。お兄ちゃんに中出しされすぎてまだお腹いっぱいだから」

 

 胃袋と子宮にはそんな関連性があったのか。

 まあこの妹をして今さら驚くことでもないが。

 

「それより、お兄ちゃんはいいの? 約束の期限まであと一時間もないよ?」

「エッチに関してはもうかなり満足してるからな。でもせっかくだし、できることはさせてもらうかな」

「ぜひぜひ」

 

 美優は意外にもノリノリだった。

 せっかくの機会だから、という想いは美優にもあるのだろう。

 アソコを舐められて、コスプレさせられて、中出しされまくって、そうしたプレイも、美優からしたらあのチケットを渡した時点で想定済みだっただろうしな。

 美優だってこの状況を楽しんでいるんだ。

 

 風呂から上がった後も、美優は下着以外は俺の服を着ている。

 お堅く見えてこの妹も彼シャツとか俗っぽいものが好きだった。

 

 そうした美優らしさは気づきにくいところにも随所に現れている。

 たとえば、こうして話をしているときだって、いつものようにベッドの縁に腰をかければいいものを、俺より頭を低くするために美優は好んで床に正座をしている。

 屋外では意識して俺の半歩後ろをついてくるタイプだからな。

 愛する男に従っている自分という在り方が、美優にとってはしっくりきているみたいだ。

 

「なら、また一つ命令があって。正直に答えてもらっていいかな?」

「……嘘偽りなく答えることが命令?」

「その認識で合ってるよ」

 

 起きてすぐエッチをしようとは考えていなかった。

 でも、もし日付が変わる前に美優が起きたら、命令をしてでも聞こうと思っていたことがあった。

 

「美優って、俺のこと好き?」

 

 俺の問いかけに、美優は何を言われたのかわからない様子で、大きな眼をパチパチとさせた。

 

「答える前にそれを聞いた理由を教えてもらってもいい?」

「トイレで、エッチしてたときとか、舐めてたときとか。だいぶ、嫌いとか、好きとか、言われたし……本音のところは、どっちだったのかなと……」

「あー、なるほど」

 

 美優はしばらく考え込んで、口を開く前に立ち上がって、俺と席を代わるように目で訴えてきたので俺はベッドに移ることにした。

 それから美優は机の棚からルーズリーフを取り出して、ボールペンで何かを書いてから一枚めくってそこに円を描き、俺の正面でペタン座りをすると俺にそのノートを見せてきた。

 

「ん? 丸? 好きって意味の、オッケーマークか何か?」

 

 なぜ言葉にして教えてくれないのだろうか。

 俺からすれば慣れたことなので別に構わないのだが、どう理解してやればいいのかわからない謎行動に、俺がしげしげとノートを眺めていると、美優は解説を挟むことなく丸の中に縦線を入れた。

 

「えっ……なんだ……天気記号でもないだろうし……、ってなると、やっぱり、嫌いって意味?」

 

 俺が不安になっているところで、美優は円の左半分を斜線で塗りつぶした。

 そして、そこに矢印を引いて、その矢印の根本に文字を書いた。

 

『どうしようもないシスコン』

 

 まさかの罵倒だった。

 

「いや、ごめんて。でも、しょうがないだろ。美優が相手だと性欲がどうにもならないのは体質なんだし。恋人になった今ではむしろ望ましいことんだと思うんだけど……」

 

 美優はいつだか言っていた。

 自分は一生で一人しか愛せないタイプだから、捨てられたら死んでしまうと。

 そのせいで、俺が由佳や山本さんと関係を持っている間には不安があって、それが解消された今だからようやく俺とラブラブになる決心がついたのだと。

 であれば、俺がどうしようもないほどのシスコンなのは、美優にとっては望ましいことのはず。

 

 そうやって考えを巡らせているところで、美優は残りの半円を更に半分にするように横に線を引いて、次はその下半分を格子状の線で塗りつぶして新しい矢印を伸ばした。

 矢印の根本にはまた新しい文字が書き込まれる。

 

『毎日エッチのことばっかり考えてる』

 

 コメントが追記されるたびに申し訳ない気持ちになった。

 美優のことを女の子として大事にしたいとは思っているのだ。

 それでも、夏前と比較して何倍にも増幅してしまった性欲を持て余しておくことはできないし、美優以外の女の子で発散するわけにもいかないし。

 そもそも俺をここまで絶倫にさせたのは美優なので、その責任は恋人として取ってもらわなければならない。

 

 要はすまないとは思っているが改めるつもりもないのだ。

 これからも毎日俺の性欲は美優に処理してもらう。

 それが俺たち兄妹にとって最重要の決定事項だ。

 

 そして、四分の一になった円の残りを、美優はまた半分にして、その下側を雑に塗りつぶして三本目の矢印を足した。

 

『プレイの要求が普通に気持ち悪い』

 

 ズンと胸にきた。

 否定のしようがないマイナスだった。

 妹にアソコを舐めさせてくれとこれだけ頼み込んでしまったので、これは仕方のないことと言える。

 

「あの、美優? 俺の良いところが書かれる余地が、あと八分の一しかないんだが?」

 

 俺に対する文句なのか、彼氏としての評価なのか。

 ともかくとして、俺の印象が書き連ねられているその円の残り八分の一に、美優は最後の矢印を伸ばして四つ目のコメントを書いた。

 

『お兄ちゃんとしての色々』

 

 雑っ……。

 

「まあ、なんだ。俺も、これまでやりすぎたとは、思ってるからさ。美優とは、これから恋人として、先のことを話し合っていきたいというか……」

 

 せめて、エッチは二日に一回ぐらいに留めておいた方がいいのかとか、考えたこともあった。

 それでも、射精量が多い方が美優は喜ぶので、美優のためだとも考えて俺は毎日のようにエッチをしてきた。

 しかし、ここまではっきりと言葉にされてしまうのでは、やはり性欲を抑える方法を考えるべきなのかもしれない。

 

 と、ようやく日々の行いを省みることにした俺に、美優はルーズリーフのページを一枚戻して、恥ずかしそうに顔を隠しながら、最初に書き込んでいた文字を見せてくれた。

 

『お兄ちゃんの好きなところ』

 

 ルーズリーフの上から顔の半分だけを出した美優と目が合った俺は、まさかの告白にドキッとしてしまった。

 

 ついさっきまで俺は罵倒されまくっていたはずなんだが。

 そう思って美優に近づいて、ページを捲ると、どうしようもないシスコンだとかなんだとか、俺が先ほど認識したままの文句が書いてあった。

 

「えーっと……。俺のこと、好きなの?」

 

 最初の質問に戻って、俺が改めて美優の本音をうかがうと、美優は照れ顔に目尻を下げながらようやく口を開いた。

 

「お兄ちゃんのことは大好きです。これ以外に答えはありえません」

 

 どストレートな愛の告白に、俺は自分で赤面しているのがわかるくらいに体が暑くなってきた。

 さっきまで不安でいっぱいだったのに、好きだと言った美優からの本気が有り有りと伝わってくる。

 こんな可愛い妹に愛され過ぎているな俺は。

 

「この、どうしようもないシスコンっていうのは、まあ両想いの証だからいいとして……、いつもエッチのばっかり考えてるとか、プレイの要求が気持ち悪いとかは、普通に悪口では……?」

「それはですね」

 

 美優は照れ顔を直すように咳払いを挟んでから話を続ける。

 

「お兄ちゃんの性欲を相手にするのは大変ですが、これがなくなった生活を考えると寂しくて仕方がないので、好ましい部分として考えています。……それに、その…………私も……したいので……」

 

 どちらかというと最後のが本音だろうな。

 エッチが好きな妹でよかった。

 

「その次のは?」

「お兄ちゃんのエッチの要求が気持ち悪いのは本当に気持ち悪いと思っているので、記載の内容は偽りのない事実です」

 

 うん、まあ、そうだろうな。

 そうだろうと思っていたよ。

 

「でも、お兄ちゃんとエッチするのは楽しいし、少なくともそうしたプレイは私からはお願いできないから、感謝している面もあって」

「別に、美優からエッチのおねだりをしてくれても、いいんだぞ?」

「それは……まあ……考えてはいるから……」

 

 美優はまた小声に照れを滲ませる。

 エッチに正直になることについては、美優も努力をしてくれているのだ。

 だから、俺としては焦ることもないし、急かすつもりもない。

 

「ってことは、俺がしたいことは、どんなエッチなことでもとりあえず美優にお願いをしてみればいいわけだな」

「いえ、無理なものは無理なので。一度きりの人生だからとどうしてもご所望なのでしたら、奏さんにしてもらってください」

 

 まさかの切り返しだった。

 そこは「どんなプレイでもお申し付けください」ではないのか。

 

「山本さんをどんな扱いしてるんだ……」

「変態プレイ専門かつお兄ちゃん専用の性処理係?」

「酷いな!?」

「ご、ご本人がそう仰っていたので。私自身は、奏さんのことは人として尊敬しています」

 

 美優は慌てて注釈を足して、メッセージでのやり取りでも証拠があると教えてくれた。

 まあ山本さんに頼んでしてもらえない変態プレイはないだろうしな。

 

 ちなみに、美優は今でも山本さんと密に連絡を取り合っているらしい。

 しかも、恋人である俺に隠れるように、こそこそとだ。

 いったい何について話をしてるのかな。

 浮気とかじゃないよな。

 別に山本さんとしてても俺は怒らないけどさ。

 

「ともかく、美優に愛されてるのはわかったよ」

「愛しておりますよ」

 

 美優は淀みなく口にして、その表情は得意げだった。

 照れ照れな美優もよかったが、夫婦然として愛の言葉を囁き慣れている妹というのも、また風情があって良い物だ。

 

「兄としての色々ってのは、少々複雑だったがな」

「そこは私としても難しいところで」

 

 美優はルーズリーフを机に戻して、俺の横に座った。

 

「具体的にどこが好きっていうのは難しいんだよね。たとえば、いまの私たちって、イチャイチャしてるじゃない?」

「間違いなくイチャイチャしてるな」

 

 誰が何と言おうと俺たち兄妹のイチャイチャはこうなのだ。

 適切な距離感での、適切な言葉の投げ合い。

 それと同時に、恋愛経験が少ない俺たちにとって重要な、恋人としての相手の気持ちの埋め合いをして、お互いの好きを実感している。

 

「こういう事をしてるときのお兄ちゃんの対応が、私にとってはちょうどよくて。お兄ちゃんと一緒にいると、気楽だし、楽しいし。正直、そこが魅力的すぎて、あとはおまけみたいなところで」

 

 美優は「エッチに関する部分はまた別ですが」と小声で付け加えた。

 

「だから、言葉にするのは難しいだけで、本当はいつも好きだなって思ってるんだよ」

 

 美優の声は澄んでいた。

 このイチャましいやり取りの中で、心と一緒に口も頬もほぐれてきたようだ。

 他人には理解されなくとも、俺たちは順調に愛を育んでいる。

 

「好きって言葉ぐらいは言ってくれてもいいんじゃないか?」

「それは、だって。恥ずかしいもん」

「……そういうことならさ」

 

 大量の中出しを決めたときみたいに、美優がエロエロモードになっているときでもなければ、お兄ちゃん好き好きちゅっちゅをしてもらうことは難しい。

 美優だって恋人だからもっと好意は口にするべきだとわかってはいて、これまで蓄積されたクールな自分という壁が、それを難しくしているのだとも、俺はわかっている。

 

「美優にもっと好きって言ってもらいたい。残りの時間で、それが命令……ってことで、いい?」

 

 俺からの、お願いに近い命令に、美優は不思議そうに首を傾げた。

 

「命令で口にした好きなんかでいいの?」

「いいんだよ。美優からしたって、命令だから仕方ないって思えるだろ?」

「それは、まあ、そうだね」

 

 美優は俺を見つめてきた。

 

「じゃあ言うね。……好き」

「うん、いい調子」

「お兄ちゃんのこと好きだよ」

「俺も美優のことが好きだよ」

 

 見つめあって、想いを伝え合って。

 口にした後で脳内にこだまする自分の声に、照れ恥ずかしくなる。

 ただ、これだけでは、心の距離を詰めるには足りない。

 

「キスも、頼む」

「はいはい」

 

 美優は「しょうがないなぁ」という顔で承諾してくれた。

 でもそれはいつものような嫌がりながらの渋々の承諾ではなくて、美優からも「ようやく調子が出てきたね」と俺を励ましてくれるような表情だった。

 

「お兄ちゃん、好きだよ」

 

 美優はそう言って、俺の頬に両手を添えて。

 唇に、そっとキスをしてきた。

 

「もっとしてほしい」

「……はい」

 

 美優は義理堅くて、俺の命令を絶対に聞かなければならないから。

 即承諾するのが当然だった。

 

「んっ……ん、ちゅっ……はぁ……。お兄ちゃん、大好き。ずっと好き」

「俺も美優が好きだ。一生、愛してるから」

 

 キスをしては、見つめ合って、想いを伝えて。

 その想いを確かめるためにまた、俺たちは唇を重ねる。

 

「美優。もっと」

「んふっ。何回すればいいの」

「日付が変わるまで、ずっと。何度でも」

「わかった。じゃあ、命令のまま従うね」

 

 美優は俺に抱きついて、チュッとキスをして、俺をベッドに押し倒して舌を奥まで絡ませてきた。

 

「好きだよ、お兄ちゃん……んっ……はぁ……ちゅっ……ん……大好き……お兄ちゃん……好き……んむっ……はぁ……」

 

 永遠にも似た長いキスではなくて。

 キスをしては、見つめ合ってを短く繰り返し、息継ぎの代わりに愛を囁く。

 お互いの情熱が絡み合って、それは生殖器を繋げ合うことなんかよりずっと恋人らしいセックスだった。

 

「んっ……ちゅっ……美優…………好きだ………………、あっ」

 

 気にするつもりなんてなかったのに。

 目に入ってしまうと、どうしても意識してしまって。

 俺の気持ちが一瞬だけ落ち着いたのを感じとった美優からも、キスが止んだ。

 

「ん? どうしたの?」

「ああいや、その……時間が……」

 

 美優が俺の命令を聞く期限として定めた深夜零時の直前になっていることを、壁掛けのアナログ時計を見て気づいてしまった。

 美優がこうして好き好きしてくれているのは俺の命令があってのことなので、時間を過ぎてしまえばその効力は無くなってしまう。

 無論、気づきさえしなければ二人でこのままラブラブの世界に入り込めたのだろうが、約束は約束、というのが俺たちの中で大事な遵守事項だったので、ある意味ではこれは必然的にもたらされた中断だった。

 

「どうして気づいちゃったの」

「ごめん、つい、目に入っちゃって」

 

 美優もこのやりとりを楽しんでいたから、俺が時間のことに気づいてしまったことには不満そうだった。

 

「時計、取って。お兄ちゃん」

 

 美優に指示されて、俺は壁掛けの時計を外して美優に渡した。

 美優はその背面を確認して、衛星通信を切るボタンを押してからツマミを回し、分針を反時計回りに一周させた。

 そして、それを俺に手渡してきた。

 

「時計が壊れている気がしたので直してあげました」

 

 俺はまだ美優とのイチャイチャタイムに戻れるようだった。

 

 その気持ちは、嬉しい。

 

 でも、このままだと、俺たちはずっと最初の頃のままな気がした。

 

「美優。これは、間違ってないよ」

 

 俺はスマホの時計を確認して、分秒まできっちりと揃えてから、また衛星通信のボタンを押した。

 それを壁にかけてから、またベッドに戻る。

 

「……もう、しないの?」

 

 美優は不安げに視線を仰いできた。

 

 したくないわけがない。

 理性的なままの美優に好きと言われながらのキスなんて、次はいつしてもらえるかわからない至福の時間なのだ。

 だがそれは、俺からの絶対命令があるから、美優がしてくれているだけ。

 美優の本心がどうあれ、今の状況はそういうもの。

 でも、充分に恋人らしくなった俺たちなら、そんな誓約がなくともできる気がした。

 

「美優。また、俺のことを好きって言って。キスしてくれないかな?」

 

 その瞬間に、日付が変わった。

 美優もそのことは気づいていた。

 

 美優は視線をそらして、ギュッと胸の前で拳を握って、即座に否定の言葉を返してくることはなかった。

 俺だってもう、美優が俺のことを好きでいてくれているのは知っている。

 それでも美優としては、時間のことなんて気にせずに勢いのままに済ませてしまえば、たとえその最中に日付が変わっていようと、なんだかんだと言い訳をして全部を俺のせいにすることもできたのだ。

 でも、美優も約束の効力がなくなったことを認識してしまっているので、もうそれもできない。

 

「俺は美優のことが好きだよ。一人の女の子としても。妹としても」

 

 今度は俺から告白をして、美優の頬に手をかけた。

 そして、精一杯の勇気を込めて、美優の唇にキスをした。

 

 唇を離すと、美優は、嬉しそうにして照れた。

 

「私だって、お兄ちゃんのこと好きだもん。お兄ちゃんとしても、男の人としても。だから……」

 

 んっ──、柔らかい紅が触れて、吐息だけが抜けて。

 触れ合った口づけは、もう離れることがなかった。

 

「お兄ちゃん……好き…………これからも、もっと……いっぱいキスしたい……んちゅ……ちゅっ、ぷちゅ……へろっ……あむっ……んっ、んんっ……はぁ……大好き……」

「んむっ……ちゅぅ……っ、はぁ……美優……んっ……好きだよ……美優……」

 

 ベッドに移動する時間さえ惜しく感じるほどに、互いの口内をまさぐって、舌を吸い合う。

 射精の代わりに分泌される唾液を美優に貪られて、俺はそのお返しに最奥までねじ込んだ舌で口内を舐り、ビクビクと性感に震える美優の反応を堪能する。

 美優に精液を飲んでもらう関係が始まってからも、それどころか、恋仲になってからでさえほとんどキスをすることがなかった俺たちにとって、兄妹でキスをするという行為は生殖器での触れ合いよりよっぽど背徳的だった。

 

 セックスは快楽を享受するための行為として割り切れる。 

 一方的にキスをするだけなら、それだってプレイの一部としても思うことができた。

 でもこうして、互いを乱暴なぐらいに抱きしめて、息を乱しながら舌を絡ませていることは、俺たちが兄妹でありながら男と女として繋がっている何よりの証拠だった。

 

 きっとこれからも俺と美優にとってキスをすることは、兄妹として──その兄妹という関係をダシにして気持ちよくなっている、ふしだらな兄と妹の関係として、背徳感を感じるための愛情の確認行為になるのだろう。

 

 それは最終的には性欲という形に還元されて、俺の精液量を増幅させていく。

 密着する腹部に服の中で勃起した肉棒が割り込むまで時間はかからなかった。

 

「んっ……むっ……はぁ……んんっ……っ……あぁ……み、美優……ごめん、また、出したくなってきた……」

「んん~……んっ……もう……あれだけ妹の膣内に射精しておいて、まだ出したいの……?」

 

 俺を軽く叱る美優は、だらしない笑顔だった。 

 男である俺は勃起という形で目に見えて興奮しているのがわかるが、美優だってもうパンツを替えなければならないぐらいに愛液を漏らしてぐちょぐちょになっているはずだ。

 

「お兄ちゃんは実の妹を相手に性欲ばっかりなんだから」

「ごめんな。出せるものは出したはずだったんだけど、これだけキスをされるとさすがに興奮は抑えられないみたいで」

「へーそうなんだぁ。ふふふ」

 

 美優は俺をギュッと抱きしめてきて、それから、襲いかかるようなキスをしてきた。

 

「ちゅぅっ……はむちゅ……ぢゅるっ……ぷはぁ……。でも、そんなお兄ちゃんも、好き」

 

 美優は嬉しそうに勃起したペニスを撫でている。

 絶倫じみた性欲の強さは美優にとって好ましい俺の一部分だ。

 なにせ体質のせいとはいえ俺をこんな体にしたのは美優自身だからな。

 

「射精できるかはわからないんだけど、挿れてもいい?」

 

 俺は美優の股座から指を這わせる。

 キュロットパンツの上からでさえ湿っているのがわかった。

 

「今日は特別に、私から挿れてあげる」

 

 床に寝転された俺は、その上で下半身の衣類を脱ぎ捨てる美優を眺めていた。

 美優がこんなに積極的にセックスをしてくれる日が来るなんて。

 初めて精液を飲んでもらったときには想像さえできなかったのに。

 

 俺の方もパンツをずり下ろされて、美優は俺の勃起したペニスでぴっちりしたアソコの肉を自ら広げていった。

 見るからに狭そうな膣の入り口に、サイズだけは立派になった俺の肉棒のエラ張った亀頭が、無理矢理に押し込まれていく。

 竿の硬さ任せに膣口をこじ開けたら、あとはたっぷりの潤滑油のおかげで膣道を貫通するまではすぐだった。

 

「ああっ……あっ……ああああっ!! お、お兄ちゃん、のっ……おっきいのが…………入ってくる……っ!!」

 

 美優は苦しそうにしながらも顔を綻ばせて腰を上下に動かす。

 騎乗位に慣れていない動きが、美優にしてはぎこちなくて、そんな姿が愛おしかった。

 

 最初は一生懸命に膣壁でペニスを擦ってくれた。

 勢いをつけて、AVの真似事みたいに四つん這いになって、腰を前後にくねらせながら肉棒を搾り上げていく。

 それが続いたのは三十秒ほどで、挿入して即射精しそうになる早漏男子みたいに、その後の美優は動きを止めての休憩を挟みながら、またひと擦りしては止まってを繰り返す。

 膣から受ける刺激に耐えるのに必死なのもあっただろうが、美優にとって我慢しなければならない最大の苦痛は、そこではなかった。

 

「ふあっ、っ、はぁ……お兄ちゃんので……奥ぐりぐりしたい……」

 

 美優にとって、俺とのセックスにおける性感帯はGスポットではなく子宮にある。

 その入り口に触れないように杭打ちをするのは、美優にとって耐え難い焦らしプレイなのだ。

 美優以外で射精しない体質の俺が、これまでのエッチで味わってきたような空イキ地獄のようなもの。

 俺のためだから美優は頑張ってくれているが、もう美優の脳内は俺のペニスを膣の最奥に届かせるために腰を下ろしてしまいたい欲求でいっぱいになってるはず。

 

「奥で擦ってもいいよ。でも、腰は止めないでもらえると嬉しい。俺も射精したいから」

「う、うん……わかった……」

 

 美優は俺からの許可を半ば命令のように受け取って、床に手のひらをいっぱいに広げて体を支えてから、お尻を俺のペニスの根元に当たるまで下ろしてきた。

 

「うぎゅっ……うっ、あああっ……か、かたい……おっきいぃ……!! んっ、んんんっ、あっ、あひゅごひっ、奥……ぐるっ……うっっ……!!」

 

 それからの美優は大きく腰を上下させることはせずに、ゴリゴリと子宮に肉棒を押し付けるような動きに切り替えていく。

 美優は濡れやすい体質だから、セックスをするときにいつもアソコがグチュグチュいって、普段はそれを恥ずかしがって隠そうとするのに、今では自分で腰を振って卑猥な音を立ててくれている。

 

 俺にエッチな姿を見られることを少しずつ許してくれていた。

 美優が進んで騎乗位をしてくれているというだけで奇跡なのだ。

 俺は衝動的にペニスを突き上げたくなるのを我慢して、美優の不慣れな騎乗位に心を震わせながら身を任せていた。

 

「はぁ……ひゅごぃろ……んんっ、あっ、あっ、あだめっ……っ……!! ふーっ……っ…………!! アアッ……ぅぅ、じぶんれうごかひてりゅろに……ぃ、イッ……いひゃうっ……ぅ、ぁああっ、アッ、アアッ……!!」

 

 自分ので腰を振りながら喘ぐ美優は、まだ何分と繋がってもいないのに、もう呂律が回らなくなっていた。

 

 イクたびに膣内がギュッと締まって、美優は動きを止めて膣痙攣が収まるのを待ち、落ち着いてから力を振り絞ってどうにか腰を持ち上げる。

 しかし、引き抜くペニスのカリに膣壁を擦られて、美優はまた抗いようもなく絶頂してしまった。

 イキすぎて疲労の限界を迎えた脚から力が失われて、今度は美優の意志とは関係なく腰が結合部にグジュッと落ちてくる。

 するとまた美優はイッて、ぜんぜん俺のペニスを膣で擦れないことに泣きそうになりながらも、懸命に体に鞭を打って動かして、また俺のペニスに嵌まってはイクの繰り返しだった。

 

「ごめっ、らひゃい……おにぃひゃん……ぅ、うぐっ……わたしっ……ばっかりイッて……でも、もうむり…………イかせられ、なくて……ごめんな、さいっ……」

 

 絶頂のしすぎて体力を使い果たして、美優は腰を振れなくなってしまった。

 もう可愛いし締まりが良すぎるし犯したいしで滅茶苦茶にしてやりたかったが、そんな身勝手な性衝動より、いまの俺は兄としてエッチに素直になった妹のためにありたかった。

 

「ありがとう、美優。俺ももう少しでイクから。あと少しだけ頑張ってイかせてほしいんだ」

 

 俺がそうお願いをすると、美優はまた「うぅ……わかりました……」とツラい体に無理を利かせて、限界を迎えた身体でなおも動こうとしてくれる。

 

「もう動くのはツラいだろうから、また……キスを、してくれないかな? たぶん、それでイけると思う」

「キス……? いいの? えへへ。それでいいなら、いくらでもできるもん」

 

 美優は俺に倒れ込むようにして顔を近づけてきて、首に腕を回してから舌を入れてきた。

 口内の器官が擦れるたびに美優が性懲りもなくイッて、俺の首ごと抱きしめてくる腕が力んで呼吸が苦しくなる。

 その分だけ俺は美優からの愛情を感じて、口内に送り込まれる唾液が精液に変換されていくように、美優の膣内で肥大化する勃起は射精を熱望してそのサイズと硬さを増していった。

 

 俺も射精のときが近づいていた。

 膣内でペニスがビクつくたびに、狭い膣道を押し広げられた美優が快感に喘ぎ声を上げる。

 その悲鳴にも似た嬌声が俺の性欲を爆発させて、ビクッ、ビクッ、と跳ね上がる肉棒の先端からお漏らしをするような我慢汁が溢れて、俺の精子の排出を感じ取った美優の絶頂が止まらなくなった。

 

「あああっ、ああっ、んっぐぅううあっ!! ああんあっ……おにい、ちゃん……っ!! い、イクっ……い、くっ……んっ、ううっ、んああっああっあっ……と、とまりゃいぃ……っ!!」

 

 キスを続けることさえできなくなった美優に、俺は最後まで責任を果たさせようと頭を抱きしめて舌をねじ込んで、劣情の限りに舌をかき混ぜるその最中に、びゅくびゅくッびゅくぅッ──!! と精液を注ぎ込んでいった。

 

 美優は俺に射精された刺激で最後にまた激しくイって、ぐったりを気を失って倒れる美優を抱き止めようとした俺の体は、もうイメージした通りには動かなかった。

 もう出ないはずだった体に無理に射精をさせて、限界を超えてしまった俺は、脱力に頭をゴツんと床にぶつけたその衝撃で夢の世界にまでトんでいってしまった。

 

 ──それから俺が目を覚ましたのは、夢の中でまでキスをしまくっていた美優とのイチャイチャによって、夢精のスイッチが入った直後だった。

 

「あっ……ヤバっ……!!」

 

 目覚めと同時にペニスがビクビクと脈打って、その精液は裸で繋がったまま寝ていた美優の膣内に吐き出された。

 コンドームのような役割をしている美優のおかげで、床を汚さずに済んだわけだが、まさか朝まで騎乗位のまま下半身裸で寝てしまうなんて。

 セックスでかいた汗と冷房で体が冷えてしまっている。

 

「んっ……ふぁ……うぅ…………お兄ちゃん……」

 

 中出しをされて目を覚ました美優が、気怠そうにしながらも体を起こした。

 そして、俺が夜と朝で二度も中出しをしたお腹をさする。

 

「お兄ちゃんの精子が泳いでる気がする」

「美優ってマジに精子を感じられるの?」

「寝起きはさすがにわからないよ」

 

 寝起きじゃなきゃわかるのか。

 美優のブラコン体質も大概だよな。

 

「精子って何日もかけて卵子を目指すじゃない? ということは逆に、ほぼ毎日中出しされてる私のお腹の中でお兄ちゃんの精子が泳いでない日はないのかも」

「それを言われると恐ろしくもあるな……」

 

 あれだけ大量射精している俺が言えた義理ではないが。

 美優が嬉しそうに子宮を労っているので止めるとも言えないのだった。

 でも、頻度についてはいつか真面目に話し合わないとな。

 今は比較的に暇な学生の身分だからいいけど、大学生社会人となって忙しさに追い込まれたときにはエッチなんてしていられなくなるだろうし。

 

「んふふっ」

 

 急に美優の表情が緩んで、一晩が経った朝からも美優は上機嫌だった。

 

「どうかしたか?」

「朝からお兄ちゃんに中出ししてもらえるなんて、これまでで最高の目覚めかも」

 

 美優は乳首の勃った巨乳を腕で挟みながら照れ笑いした。

 たった一晩で妹がこんなにエッチになってしまうとは。

 

「美優は俺のこと大好きだな」

「大好きだよー、お兄ちゃん。んーっ」

 

 美優はデレデレな顔で俺にチューをしてきた。

 昨日からの勢いで、半分くらいは冗談のつもりで言ったのだが、美優はすっかりお兄ちゃん大好きモードになっている。

 俺が中出しをしたから、というのとは少し違う気がした。

 

「美優もだいぶ積極的になったな」

「これまで言えなかった分を伝えておかなきゃだからね。だから、好きって言ってほしかったら、いくらでも言ってあげるよ」

 

 美優は「えへへー」と力の抜けた笑みで俺に抱きついてきて、今度は舌を伸ばしてディープなキスをねだってきた。

 なにかがおかしい、と俺はこのとき直感的に思っていて、それは美優からのねっとりした口づけが行われた瞬間に、確信になった。

 

「んっ……ん、美優……! 口の中、熱っ!」

 

 冷え切った体との温度差で、火傷しそうなほどという表現が過分でないほどに、美優の口内は高熱になっていた。

 

「それはお兄ちゃんへの愛情のせいではないでしょうか」

 

 美優はなおもニコニコしている。

 可愛いけれどこれは看過できない。

 

「とりあえず、まずは服を着て、体温も計るからな」

「大丈夫だって」

「いいから、ほら」

 

 美優は俺に命じられて渋々と服を着て、それから自室に戻って前開きの薄手のパーカーと体温計を持ってきた。

 結果は七度五分という、元々体温の高い美優からしたら微熱程度のものだったが、それでも無理をさせることはできない。

 今日からまた土日休みでよかった。 

 

「昨日は俺まで寝ちゃってごめんな。美優に布団ぐらいかけられればよかったんだが」

「いいって、大したことないし。私だって私の管理ぐらいするもん」

「それでも昨日の状況はまた別だろ? 俺がもっとしっかりしないと……」

「ああっ、だから、そういうのは、なしでお願いしたくて……!」

 

 美優はパーカーのチャック部分を両手で引っ張って抗議の意を示す。

 前を閉めると乳袋が目立つのでチャックを上げることはほとんどない。

 

「昨日はせっかく楽しい一日だったのに。嫌な思い出みたいにしちゃヤダ」

 

 美優は俺にしがみついて甘えてくる。

 それは確かに美優の言うとおりだ。

 気遣いってのはなにも、謝罪一辺倒で済むものではないんだよな。

 

「そうだな。じゃあ、今後は気をつけようか」

「うん!」

 

 美優は花が咲いたようなパッとした笑顔になった。

 熱の影響があるとはいえ、ここまでデレるのは昨日のことがあったからだろうな。

 俺たちもいよいよ恋人らしくなってきたか。

 

「熱でも食べられそうなものと、念のために解熱剤を持ってくるから。美優は自分の部屋で待ってろ」

「はーい」

 

 美優は手を上げてルンルンと自室へと戻っていく。

 熱を出すこと自体が稀だから、微熱程度であんなに理性が溶けた状態になるとは思わなかった。

 今朝の中出しも効いてないわけではないんだろうけど、エッチの最中でなくともああもデレてくれるなんて、風邪が治っても二人きりのときぐらいはデレてくれると嬉しいんだがな。

 

(えーっと……余った薬はどこに入れてたかな……)

 

 リビングに下りて、テレビ横の棚に重ねられたケースを上から順に漁っていく。

 薬局で貰って使わなかった分はこの辺りにしまってたはずだが。

 

「こーちゃん、何してるの?」

 

 そうこうしていると母親が寝室から出てきた。

 まだ休日にしては朝早い時間なので父親は寝ている。

 

「美優が熱を出したから。解熱剤が欲しくて」

「それなら、ここにまとめてあるから」

 

 母親が解熱剤のシート一式をそこから取り出して、俺に渡してくる。

 それを俺はありがたく頂戴しようとしたのだが、かなりの握力で掴まれているので、取ることができなかった。

 

「こーちゃん」

 

 母親は怒るでも叱るでもない、呆れたような表情だった。

 

「もう少し静かにやりなさい」

「えっ……え、うそ、き、聞こえてた?」

 

 たしかに深夜のやつは美優とイチャラブするのに夢中で声を抑えるとか考えていなかった。

 さすがにまずかったよな。

 

「もしかして、父さんにもバレた?」

「お父さんにはあんたが大音量で変なビデオを見てるって話にしてるけど」

「そうか……。父さんは、美優とのこと、どう思うかな」

「さあね。見る限りでは勘付いてすらいなさそうだけど。昔から何を考えてるかわからない人だから、折りを見て話すことね」

 

 母親からも明確に俺から告げろとのお達しが出てしまった。

 これはますます先のことを考えておかないとな。

 

「それはそうと、騒がしくするのはやめてね。お父さんまで盛り上がっちゃって大変なんだから」

 

 満更でもなさそうに母親が注意をしてきた。

 夫婦仲の手助けができるなら喜ばしい限りだが。

 

「母さんだってまだ若いんだし、いい機会じゃないか。声とかは気をつけるようにするけどさ」

 

 俺がそう返すと、母親はむすっとした顔で黙った。

 こういうとこは美優に似てる

 

「あんたね。このままじゃ二人目の妹ができることになるわよ」

 

 ギクっと、身体の芯から震えた。

 母親は俺を若いうちから産んだので、出産のリスクを考えてもまだ大丈夫なぐらいだから、家族が増えること自体は歓迎したい。

 でも、美優みたいなのがもう一人生まれたら、十年後にはきっと俺の人生が崩壊することになる。

 

「子供作るかどうかは、母さんたちの自由だけどさ。三人目は男の子がいいんじゃないか」

 

 俺は硬い笑顔でそう告げた。

 性別を選ぶことなどできないことはわかっている。

 わかってはいるのだ。

 

「そうね、次は男の子がいいかしらね。美優ちゃんみたいに可愛い男の子だったら嬉しいわ」

 

 母親は頬に手を添えて微笑む。

 美優レベルの可愛い男の子だと。

 それはそれで何かの間違いが起こりそうだから勘弁してくれ。

 

「と、とにかく、次からは気をつけるから」

 

 俺は冷蔵庫からエネルギー飲料だけを取り出して、逃げるようにリビングを出た。

 美優の部屋に入ると、美優は布団にくるまっていて、なにやら苦しそうにしている。

 

「熱、上がってきた?」

「わかんない。お兄ちゃんが測って」

 

 美優は布団を退けるとTシャツを捲り上げて汗ばんだ肌を晒した。

 なんだか、エッチだな。

 

「──三十八度か。しばらくは安静だな」

「お兄ちゃんは大丈夫なの?」

「今のところはな」

「へえー。体が強くなったんだね。頼もしい限り」

 

 美優と山本さんとのセックスで、日が経つごとに俺の体は強靭化している。

 性欲は持て余して大変な限りだが、男として頼り甲斐のある成長ができているのなら、それに越したことはない。

 

「今日は俺も家にいるから。美優の気が散らないようならできるだけこの部屋にいるし」

「ありがと。一緒にいて……眠くなったら、寝るまで手を繋いでくれると嬉しいな」

 

 美優はベッドの縁に背中を預ける俺に抱きついてきた。

 あんなことをした後なので、もう今更になって風邪が移るからだとか気にすることもない。

 

「明日も家にはいるつもりだから。必要なものがあったら何でも言ってくれ」

「明日も明後日も明明後日もでしょ。今は一秒だってお兄ちゃんと長く一緒にいたいし、一日だって離れたら死んじゃうもん。これから毎日欠かさずチューだからね。約束だからね」

 

 美優がおっぱいで首を挟むようにギュウギュウと高体温を押し付けてくる。

 風邪が治るまではエッチができないのだから勘弁願いたい。

 

「わかってるよ。俺にとって美優より優先するものなんてないから。ずっとそばにいる」

「えへへー。やった。お兄ちゃんが近くにいてくれるから安心して寝られそう……んっ……ふあっ……んんっ……」

 

 美優は俺に手繋ぎを要求してきて、まだしばらくは眠りにつきたい様子だった。

 俺は両手で優しく美優の手を握り返して、その寝顔を眺める。

 

 熱が下がったらどうなるのかな。

 少なくとも、美優は以前よりは素直になってくれると思う。

 だから、それをゆっくりと楽しむとしよう。

 

 月曜日からも、しばらく放課後は直帰しないと、美優に怒られそうだな。

 

 その次の休みは、美優とデートがしたい。

 どこかに泊まりに行ってもいいし、とにかく先のことを考えると、楽しみしかない。

 

 そんな明るい未来を思い浮かべながら、俺は美優の長いまつ毛を見つめて、自分の恋人の可愛さに浸り続けるのだった。

 



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俺の妹がこんなにデレるはずがない

 

 美優が熱を出して、夜になっても体温は高いまま下がらなかった。

 俺は消化がいいようにおかゆを作って美優の部屋に持ち込み、ベッドで体を起こした美優の隣に座る。

 

「そろそろお腹が空いただろ。食べられるだけでも食べたほうがいいよ」

 

 テーブルを引き寄せてそこに器を置き、美優の頭を撫でながら、寝ぼけまなこの美優が覚醒するまで待つことに。

 美優は俺の手が髪に触れるたびに、猫みたいに目を閉じてのっぺりした顔になった。

 

「頭がぽわぽわする……」

 

 こんなのんびりした姿は俺以外に見せることはないんだろうな。

 でも、本当は美優だって、人と接するときもこうして気を抜いていたかったんじゃないかと思う。

 俺がそのための相手として少しでも長く側にいてやりたい。

 

「お腹すいた。お兄ちゃん。ん」

 

 美優は俺にアイコンタクトで「食べさせて」と要求してきた。

 俺はスプーンで一口を掬って、ふーふーしてから、それを美優の口に運ぶ。

 美優は俺のことをジッと睨むばかりで口を開けなかった。

 

「食べないのか?」

「そうじゃなくて。あーん、ってしてほしい」

 

 美優はパッチリした目で一途に俺を見つめてきた。

 真顔なので真面目に要求している。

 熱に便乗してどこまで甘えてくるつもりだ。

 

「わかったよ。はい、あーん」

 

 俺も照れ恥ずかしさを隠しきれないまま美優のわがままに付き合ってやると、美優はパクっとスプーンを加えて、嬉しそうに頬を緩めた。

 ずっとニコニコしていて、やけに上機嫌だった。

 

「そんなに嬉しい?」

「私はあんまり風邪を引かないから。こういうのちょっぴり憧れてたんだよね」

 

 美優は普段からクールで毒舌で、理知的かつ事務的な行動しかしない。

 その反動なのか、美優は恋人として定番の俗っぽいやりとりやプレイに、人並み以上の憧れがあった。

 

 俺は美優の要望通りに「あーん」を繰り返してご飯を食べさせ、食事を終えた。

 その後の美優はまだ物足りなそうにしていて、俺に体をひっつけてくると、少し長くなった前髪を分けてから「あのあの」と上目でまたおねだりをしてきた。

 

「熱が出てるときの、定番のアレをやりたいをやりたいのですが」

 

 美優がそれを遠回しに求めてきたのは少なからず俺の性欲を刺激してしまうからだった。

 しかし、俺に断るという選択肢があるはずもなく。

 

「お湯を持ってくるから、大人しくしてるんだぞ」

「はーい」

 

 美優は子供みたいに素直な返事をして、また布団にくるまった。

 俺は洗面器にお湯を入れて、そこにフェイスタオルを浸けて、食器と入れ替わりに美優の部屋へと持ってきた。

 定番のアレとはもちろん、お風呂に入れないときの体拭きだ。

 

 俺はテーブルに洗面器を置いて、美優の服を脱がそうと、パジャマに手をかける。

 めくり上げた肌に下着が見えるぐらいのところで、美優が少しだけ抵抗をした。

 

「恥ずかしすぎてまた熱が上がりそう」

「自分で言いだしたんだろ」

 

 まあ俺も半ばプレイのようなものとしてやっているが。

 美優が自分で脱ぐ気配はなく、下着も俺が脱がせることに。

 俺がブラジャーのホックまでを外すと、美優はバストトップを隠しながらカップの方を外した。

 俺が美優を脱がせる機会はほとんどないので、無言の中でもお互いに感じるものがあるというか、静かな室内で女の子の生肌が一方的に晒される状況はどうあってもエロティックだった。

 

 成熟した乳房を抱えた背中の生肌が艶かしい。

 昨晩に限界まで精液を絞っておいてよかった。

 二日ぐらいならまだなんとか耐えられそうだ。

 

 俺は絞ったタオルを滑らせて、長い睡眠で少し赤い跡ができているだけの美優のまっさらな肌を拭いていった。

 すると美優はくすぐったかったのか「んっ」と身をよじりながら色っぽい声を漏らす。

 そこからは理性との格闘だった。

 

「下も俺がやっていいのか?」

「うん。全身やって」

 

 美優は俺の質問に答えながらパンツに親指を差し込んで、ズボンと一緒に脱ぎ下ろした。

 重たい乳房を抱きかかえている背中の筋肉と、後ろ姿に見える押し出されてきたお尻の脂肪が、お饅頭のような曲線を形成して艶めいている。

 ……明日あたりには性欲の限界がきてしまいそうだな。

 

 俺は美優の素肌をできるだけ見ないように薄目で体を拭いていった。

 前部分に腕を回すと、必然的に二の腕に美優のおっぱいが当たる。

 視界を塞ぐことで、肌に触れる小柄な身に不釣り合いな乳の巨大さが更に際立った。

 揉みしだいて勃起したペニスを挟んで射精したい。

 

「終わったぞ」

「ありがと、お兄ちゃん」

 

 美優は新しい下着とパジャマに着替えて、布団を被り直した。

 俺の股間は当然のごとくパンパンに張っている。

 

「んふふっ。妹が射精させてくれなくて残念だね」

「今日ほど残念だと思った日もないな」

「自分で出すなら飲んであげてもいいよ」

「風邪で寝込んでる妹には頼めないよ」

「じゃあ私が元気になるまで出さずに溜めておいて。ぜんぶ飲んであげるから」

 

 小悪魔みたいに微笑んで、美優は「今はしてあげません」と言わんばかりに布団を引き込んで丸くなった。

 熱を言い訳にして妹が調子に乗っている。

 治ったら飲んでくれるとのことだが、もし熱が引いて正気に戻っても主張を変えたりはしないだろうな。

 本当に溜まった分が空になるまで飲ませるからな。

 

「俺も風呂に入ってくるから。そしたら、また勉強の続きをやりにこっちに来るよ」

「私は嬉しいけどお兄ちゃんは勉強ばっかりで飽きない?」

「やらないといけないことを整理してると意外とな」

 

 今の世の中では効率のいい勉強方法が本でもネットでもたくさん出回っているが、それが現実として高効率になるかは勉強する本人の性格による部分も大きい。

 この頃は山本さんに教わった方法に従って、目標までのノルマを設定し、それに従ってワークブックを進めていた。

 俺のゲームでのコンプ癖などを考えると理に適った方策ではあった。

 

「そこは奏さんに感謝しないとね」

「だな」

 

 せめて名の知れた大学へと行くために、俺のような偏差値半数以下の人間はスタートを早めて頑張らなくてはならないわけだが、闇雲にペンを握っているだけだとどうしてもモチベーションが保てない。

 その問題を解決してもらってからは学校の課題の消化も速くなった。

 

 インターバルとなる休憩の合間に、俺は性欲発散のための簡単な運動を自室でしてから風呂に入った。

 それからまた着替えを済ませて美優の部屋に戻ると、美優はスマホを手に「おかえり」と言ってくれて、またそこから就寝までの勉強を始めることに。

 美優が布団をかぶって横になったので、できるだけ美優の睡眠を邪魔しないように静かにページを捲り、ペンを走らせて、何分かが経っても美優が声を発することはなかった。

 眠ってしまったのかとベッドを見ると、そこには布団にくるまったまま俺を熱心に見つめている美優の姿があった。

 

「人がいると気になって眠れないか?」

「ううん。お兄ちゃんの横顔に見惚れてただけ」

「そんなにいい顔でもないだろ」

「カッコいいよ、お兄ちゃんは。妹補正を抜きにしても逞しくなった感じがあるし。いくら見てても飽きない」

 

 熱があるだけあってストレートな物の言い方だった。

 妹補正が何なのか、むしろ一般的にはマイナス方向に働きそうなそれについては、例によって言及しないでおく。

 美容やファッションに関する知識を仕込まれ、筋トレより効果のあったセックス三昧の夏休みを通し、何よりこうして口にしている以上に自分には自信がついてきていることが俺の雄としての姿を成長させているようだった。

 

 俺は自分の容姿や能力にはこだわってこなかったし、美優だって俺に兄以上の役割を求めたりはしないはず。

 それでも、美優の横を歩く男として恥ずかしくないステータスを獲得することは、美優のためにも、ひいては俺自身のためにも必要だった。

 

「お兄ちゃんに甘えられるならもうちょっと風邪を引いててもいいかも」

「風邪なんか引いてなくても甘えさせるし熱がツラそうだから兄は妹に早く治ってほしいよ」

「看病されてるのと単に甘えるのとは違うんだってば」

 

 美優は俺にお世話をされていることそのものを楽しんでいるようだった。

 家族っぽい付き合いというか、兄妹らしいやりとりがそこにあるからだろう。

 美優は両想いになった今でも男としてより兄としての俺を好きでいる。

 もちろん性的な対象として。

 

「明日もお兄ちゃんにいっぱいお世話してもらえるといいな」

 

 そんなデレデレな状態で一日を過ごした美優だったのだが──。

 

 その翌日の朝のこと。

 

「ん。これ」

 

 俺が美優の部屋にいくと、体温計を渡された。

 三十六度五分と見事に平熱に戻っている。

 

「体調は問題なさそうか?」

「悪くはありません」

 

 美優は目尻の切れたクールな視線を俺に向けてくる。

 体温と共に精神状態までクールに戻ったようだった。

 と、このときの俺は思っていた。

 

「シャワーを浴びてくるね」

 

 美優は会話を急いで区切るように、寝汗を流すために一階へと降りていった。

 

 美優の体調が回復したということはエッチができるということである。

 本人が望んでいたほどオナ禁の日々が続いたわけではなかったが、治ったら飲むという約束なので、俺としては美優に処理をしてもらうつもりでいた。

 明日からまた学校が始まってしまうと美優に飲んでもらうのは頼みづらくなるからな。

 

 シャワーの後に脱衣所で着替えまでを済ませた美優は見慣れた普段着にスカートを揺らして階段を上がってきて、俺と廊下で顔を合わせることになった。

 

「あっ。お兄ちゃん」

 

 俺の姿を見て美優は足を止めた。

 どうしてだか妙な硬さのある美優と、俺は数秒見つめ合って、美優が頬を赤く染めて目をそらした。

 

「どうかしたか?」

「いえ、別に。何でもないです」

 

 美優はそそくさと自分の部屋に戻っていく。

 何があったのかは知らないが、今の精神状態の美優にエッチがしたいとは言いづらいな。

 まだ性欲には余裕があるし、そっちに関しては出直すことにするか。

 

 しばらくして美優に声をかけて朝ご飯を食べに一階に下りると、リビングにはもう親はいなくて、二人してどこかへ出かけたようだった。

 俺と美優は互いに引きこもり体質なので無理をするつもりはないのだが、夏休み前から俺たちは家でエッチをしてばかりだったので、たまには外に出てみるのも悪くはないと思った。

 

「病み上がりで具合が悪くないようならどこかに軽く出かけるか?」

「それがいいかも。ぜひそうしましょう」

 

 ことのほか外出に意欲的だった美優と、朝食を終えてから俺たちはどこに出かけるかを決めることにした。

 しかし、お互いにカラオケやボウリングに行くタイプでもなく、公園や動物園に行くにはまだ暑いし、水族館にはこの間のデートで行ったばかりで、遊園地も俺が直近で二度も行っているので気分にはならなかった。

 ラブホに行くのでは家でしているのとさして変わらず、美優はショッピングならいくらしても飽きないとのことで、結局はどこに行くかを決めるための参考資料を探しに駅構内の書店に行くことになった。

 

 俺が先に着替えを済ませてリビングで待っていると、十五分ほどの後に美優がやってきた。

 夏を越えて美優の服も薄着から切り替わり、秋色のチェックスカートに合わせた白ベースの服に着替えた美優は、雰囲気だけの軽いメイクを乗せている。

 外向きの支度をするたびに大人っぽいなと思う俺だが、美優としては俺の好みに合わせてまだまだ甘めの装いにしているらしくて、その証拠にスカートをチェックにしたのは俺に制服デート気分を味わわせたいからだとか。

 オタクの趣味をよく理解している妹である。

 

 財布を持ったことを確認してから二人で玄関を出て、この頃は髪を巻くことも多かった美優はストレートにアイロンをかけ直し、いつもより清楚な雰囲気の妹とお出かけをすることに。

 住宅街から大きな通りに抜けてバスに乗り、俺もすっかりと行き慣れた駅のデパートに着くと、室内の照明を照り返す白い床の通路を兄妹の親密な関係がわかるぐらいの近さで並んで歩いていく。

 

(こんなときは、手を繋ぐべきなのだろうか……)

 

 人を避けながら歩く俺と美優の間では、まるで付き合いたてのカップルみたいに、手の甲だけが触れたり離れたりを繰り返している。

 俺たち兄妹の在り方としては、無理に恋人らしく振る舞うべきではないのだが、もし隣にいるのが山本さんだったら腕を組んでひっつくぐらいはしているよなと思うと、美優とも公的なスキンシップを少しはしてみたくなった。

 いつか遠くに出かけることがあったら、そのときは、チャレンジしてみてもいいかもな。

 

 駅構内を進んで書店の入り口まで辿り着いた俺たちは、旅行の特集をやっている雑誌コーナーに立った。

 海の写真を表紙に飾った青色で埋め尽くされていたそこは、一転してブラウン調の落ち着いた場所になっている。

 

「この時期だと紅葉なんかは見れるのか?」

「場所によりだけどまだ先かな。私は寒い日の露天風呂とかが苦手だから、去年はまだ暖かいうちに温泉に行ってたよ。ロープウェイで登れる範囲なら屋外のカフェテラスも良かったかな」

 

 美優は手に取った雑誌のページを捲って、視線を下に落としたまま俺と喋っている。

 

(温泉か。この間は日帰りだったし、旅館に泊まりもしてみたいよな)

 

 そんなことを考えながら、俺は美優が見ている雑誌を一緒になって眺めていて、しばらくしてからチラッと俺を一瞥してきた美優と目が合うと、美優はまた照れた様子で視線を本に下ろした。

 

「なあ。さっきから俺と目を合わせてくれない気がするんだが」

「そ、そうかな」

 

 美優は髪を耳に掛け、瞬間的に目元を隠すことで思考を悟られまいと誤魔化した。

 今の美優は野外仕様のクールモードで、思考回路は理性が九割以上を占めているはずだが、ときおり見せる恥じらった微笑みはデレモードのそれだった。

 これは家に帰ったら問い詰めなければならないな。

 

「露天風呂って、個室にも付いてるところがあるんだよな」

「あるよ。おっきなベランダに木製のお風呂があって、そこにお湯が流れてるの」

「ほほう」

 

 雑誌の中にも露天風呂付き客室の紹介ページがあったのでそこに飛んでもらうことに。

 リゾート系ともなるとそれなりの値段にはなるものの、一万円そこそこでもかなり良い雰囲気の旅館に泊まることができそうだ。

 美優は山本さんと違ってどこでもエッチをしてくれるタイプではないけれど、他人に見られる心配がなければ、あるいは客室露天風呂でならしてくれるかもしれない。

 

「どうせエッチなこと考えてるでしょ」

「バレたか」

 

 露骨だったし、俺も隠す気はなかったしな。

 

 でも、俺はこの頃の美優の、たまに理性を残したままエッチな気分になる姿を見て、思うのだ。

 

「美優だってしてみたい気持ちはあるんじゃないのか?」

 

 旅行シーズンも終わって人も疎らになった行楽エリアに、俺たちは至近距離でくっついて話をしている。

 美優は俺の問いに頷きはせず、ムッとした赤ら顔で俺を睨んできて、それからお決まりのようにまた雑誌に視線を戻して口を開いた。

 

「まあ、あるけど」

 

 やっぱりあるんじゃないか。

 いやまさかの肯定だったけど。

 普通に罵倒されると思っていたのに、これは美優からの新しい境地に踏み入ってみたいというアピールなのか。

 

「してみたいエッチがあるなら、美優から言ってくれてもいいんだぞ。俺なら多少変態っぽいことでも喜んで付き合うから」

「その点だけはお兄ちゃんに絶大な信頼を置いていますが…………その……なんというか……」

 

 美優は読みもしないページを捲り続けて、羞恥心との葛藤を終えると、口元の緩んだ顔で言葉を続けた。

 

「お兄ちゃんにエッチをせがまれて、やむにやまれず事に及んでしまう……という流れが、結構、好きだったりしまして……」

 

 美優は小声でそんな本音を暴露してきた。

 こんな可愛い顔をして性処理に使われるのが好き──兄限定ではあるが──というちょっとした変態性癖を持った妹としては、『断っている体で強引に迫られてなあなあでしてしまうシチュエーションそのものが好き』という難しい好みに理解を示してほしいとのことだった。

 

 俺は理解しよう。

 

「ただ、懸念があるとしたら、外でするときに美優が声を我慢できるかどうかだな」

 

 下の階で寝ている母親に注意されるぐらいだし。

 

「私の声がうるさいようなら、頭をお湯に沈めていただいても」

 

 美優は顔を雑誌で隠してそうのたまった。

 いや死ぬって。

 

「そうでなくてもタオルで口を塞ぐとかあると思うし。最悪、どうにもならなかったら、お口のご奉仕だけしてみるとかもありかなって」

「わりと乗り気だったんだな」

 

 温泉のワードを出したのは美優なので、俺が客室露天風呂を要求することになったのは、もはや誘導された結果である可能性さえあった。

 妹がますます性欲に正直になってくれていて兄は嬉しい。

 

「念のための質問だけど。旅館とかホテルとかじゃないと外でするのは嫌だよな?」

「そうだね。ドキドキすることはお兄ちゃんと経験してみたいけど、エッチしてるところを他の男の人に見られるのは嫌だから」

「納得した」

 

 美優は行為を見られる恥ずかしさがどうの以前に、俺以外の男にエッチな姿や生肌を晒すことを嫌う。

 これまでも他の男には握手さえ拒んできた美優のことなので、どれだけエッチな関係になろうともそこだけは守らないとな。

 

「奏さんなら人目さえなければ山の中でも裸になってセックスさせてくれそうですが」

「否めんな」

 

 あの人は好きな男を悦ばせるためならなんだってやるからな。

 あのご奉仕精神だけは美優を含めて他の誰にも真似はできまい。

 

「とりあえず、秋向けの旅館とかグルメの雑誌を買っておくね」

 

 美優は棚からいくつかの冊子を見繕ってレジに並び、会計を済ませてから戻ってきた。

 書店のロゴの入ったビニール袋を腕に下げて、巨乳でパーカーの胸部を膨らませた髪の長い妹が俺に近づいてくる。

 瞬きしているだけで可愛い。

 

「な……なんですか……」

 

 美優は咄嗟に目を逸らして、帰宅をするべく下りのエスカレーターに足を向けた。

 その後に追いついて、俺は周囲から変に思われない程度に美優に接近し、耳元で声量を小さく具合を尋ねることに。

 美優は耳輪が熱そうだった。

 

「どうしてそんなに目を逸らすんだ?」

 

 俺の息が耳の穴に吹きかかるのか、美優は首を引っ込めながらビクビクと俺の声を聴いていた。

 

「いえ、その……昨日と一昨日と、お兄ちゃんのことを好き好き言いすぎて……」

「思い出すと恥ずかしくなるのか?」

 

 まあ、予想のついた話だった。

 理性側の美優からしたら羞恥に耐え難いほどドロドロの甘えっぷりだったからな。

 

 しかし、美優の回答は俺の予想とは少し違っていて。

 エスカレーターをひとつ下りきってから、さらに下のフロアへ続くステップに乗るUターンの瞬間にだけ俺と目を合わせてきて、同じように美優の背後に立った俺の手を、美優は胸の膨らみの上部に押しつけるように引き寄せた。

 

「恥ずかしいのもあるけど。もう頭は冴えてるはずなのに、体の方はまだあの夜のことを覚えてるみたいで……お兄ちゃんの顔を見るとものすごく心臓がバクバクするの……」

 

 俺の手が美優の胸の厚い脂肪を通してさえ鼓動を感じ取っていた。

 表面上はクールに戻っていた美優だったが、その内心ではずっと俺と目が合うたびにドキドキしていたらしい。

 思っていた以上に可愛らしい理由だった。

 

「だから、ね? お兄ちゃんを直視してると、またあの夜の私に戻ってしまいそうで」

「それの何が問題なんだ?」

 

 お兄ちゃん好き好きチュッチュしてくれる妹の何が問題なんだ。

 何が問題なのか教えてほしい。

 

「問題に決まっています。そんなことを言っているとこのまま腕を組んでおっぱいを押し付けたまま歩きますよ」

「なおのこと兄は嬉しいのだが」

 

 とは言って返したものの、美優は「バカにぃ」と呟くだけで、大々的にスキンシップをしてくることはなかった。

 

 それからも美優は照れたりボヤいたりの繰り返しで、帰り際に通ったバーガーショップで簡単な昼食を済ませてから、俺たちはバスで家に戻ることに。

 バスの二人席に座って、頬杖をついて窓の外を眺めている美優が、俺の手の甲に指を滑らせてきた。

 手を繋ぐでもなく、指でなじるように、控えめなスキンシップで肉欲を満たしている。

 

「……家に帰ったら、するか?」

 

 それとなく距離を詰めて尋ねてみる。

 

 美優はまだ外に顔を向けたまま。

 俺の指に自分の指を絡めてきて、ギュッと握って返事をしてきた。

 

 バスから降りて家に向かう美優の足は、俺を急かすように速かった。

 今日の外出で唯一となった手繋ぎの時間を早々と終え、家に着く頃には俺も美優もかなりの汗をかいていた。

 しかし、玄関のドアを閉めて二人きりの空間になってから、美優は空調を効かすこともなく俺に正面から抱きついてきたのだった。

 俺たちは鍵も掛けていないドアの前で見つめ合って、顎を上げてキスをせがんでくる美優と待ちわびた濃密な絡み合いに及んだ。

 

 口内で互いの唾液を混ぜあって、口蓋をくすぐるたびにビクつく美優にペニスを露出させられた俺は、流れのままに美優のお尻に両手を回してパンツに手を入れた。

 汗なのか愛液なのかわからない湿り気に、俺がぐちゃぐちゃとアソコをいじっていると、感じすぎて手コキができないとクレームを入れるように美優が腰を振って俺の手を払おうとする。

 キスはしたままなので言葉でのコミュニケーションをすることはできず、俺たちは互いの性器の探り合いで感情を読み取って性感を高めていくだけだった。

 昨日から射精していない俺は性欲の高ぶりにセックスへの渇望を抑えきれず、ドアに追い込まれていた立ち位置を逆転させて、唇を重ねたまま美優の脚を持ち上げて下の口とも繋がることにした。

 

 服が汚れることも厭わず、汗をかき続けながらも密着をして、挿入をするとキスをする美優の舌の動きが止まった。

 俺は舌根から吸い上げるように美優の唇にしゃぶりついて、悲鳴にならない嬌声を喉の奥で響かせ続ける美優に正面からのピストンを浴びせた。

 片足立ちの美優はドアに背中を預け、俺は陰茎の勃起で美優の体に芯を入れさせてセックスできる体勢を保たせた。

 

 下半身では激しく行為に及びながら、キスの息継ぎに合わせて服を脱いで上裸になり、互いのズボンとスカートは中途半端に下ろされただけの状態で俺たちは劣情を発散させていた。

 美優を抱きしめると汗にまみれた乳房が俺の胸板で滑って形を変え、そこからは硬くなった美優の乳首の感触が伝わってきた。

 

 労りのない乱暴な突き上げに美優の表情はとっくに蕩けていて、様々な体位を可能にするために体の痙攣を抑えながら膣だけを蠕動させてイクことを覚えた美優はこの間にもう数え切れないほどイッていた。

 割れ目から伝わってくる愛液が俺の下半身にまで流れ落ち、乱れに乱れたその勢いのまま、普段のように射精の予告をすることもなく終始キスを続けた状態で俺は美優の膣内に勝手に中出しをした。

 

 射精の瞬間だけは美優にわかるように腰の動きを止めて、ドクッ、ドクッ、と陰茎の脈打ちで膣道が押し広げられる感覚を伝えてから、間髪を入れず精液を押し込むようにピストンを再開した。

 

 もはや美優とのセックスでは一回の射精でペニスが萎えてくれない。

 美優も体力的には限界だろうが、俺の性欲を処理することが俺たちにとっての最優先事項なので性交は続けさせてもらった。

 

 とはいえ美優の筋肉にはどうしたって限界がくるもので。

 体勢の崩れた美優の膣からペニスが抜けて、卑裂から白濁液がドロッと溢れて玄関のタイルに垂れて落ちた。

 俺はズボンを脱ぎ切って、美優のスカートも取り払い、上がり床に美優を仰向けに寝かせてから脚の開いた美優に動物の交尾みたいな雑なピストンで剛直を打ち下ろした。

 美優が何かを言いかけていた気がしたが構わずにキスでまた口を塞いで、もはや全身痙攣も抑えきれなくなった美優が絶頂しっぱなしで白目さえ向きそうなほどイキまくっている。

 そんな美優の乱れた姿に興奮が最大にまで達した俺は、二人分の汗の飛沫を床にまで垂らしながらフィニッシュに向かった。

 美優の膣壁との摩擦で亀頭を限界まで刺激して、ピストルから弾が飛び出すように勢いのある射精で、美優の子宮に注げるだけの精子を送った。

 

 二度の射精にようやく俺の性欲は一段落して、キスとホールドから解放された美優は、これまでにないほど汗で長い髪を湿らせていた。

 全裸に足元だけは靴下を履いたあられもない姿で、中出しされた精液を割れ目から垂らしながら床に横たわっている。

 俺は呼吸を落ちつけてから忘れていたドアの鍵を掛けて、美優の服とポーチを拾うとそこにチラとスマホが見えたので、美優のスマホでだけこっそりと事後の姿を写真に収めてからお湯を張りに風呂場に向かった。

 

 そうして俺が玄関へと戻ってくる頃には美優も体を起こしていて、ペタン座りしたその股からまだ精液を漏らしていた。

 汗だくで張り付いた前髪を鬱陶しそうに払ってから、美優は上気させた顔でむぅと頬を膨らませた。

 

「二回はまずかったかな?」

「そうじゃなくて……」

 

 美優はモジモジしながら否定する。

 それほど怒っているわけではなさそうだ。

 

「あっ、服か……。精液は付いてないみたいだったけど、汗でだいぶ汚しちゃったな」

「それも最近は慣れてきたのでもう良いのです」

 

 どうやら着衣でのエッチもオーケーになってきたらしい。

 だとしたら何が悪かったのだろうか。

 

 と思案していると、美優が先にその理由を口にした。

 

「飲むって言ったのに……」

 

 どうやら、熱を出したときの約束として、治ったら精液は全部飲むと言っていたのに、フェラもなくひたすら中出しされまくったことに憤慨しているようだった。

 

「美優だってムラムラしてただろ? 挿れてほしいのかと思って、ついガッとやっちゃったけど」

「それは、間違いはないのですが。私としては、挿れてほしいのを我慢しながらお口でお兄ちゃんを気持ちよくしてる自分というのも、悪くないと思っていたので……」

 

 そうだった。

 美優の場合、エッチそのものが好きというより、エッチをしている自分が好きという側面もある。

 山本さんとはまた違った理由で美優も必ずしも自分への直接的な快楽は求めておらず、何よりオナニーが大好きでもあるので、溜まった分は自己処理してしまえばいいのだ。

 そうした状況が長く続きさえしなければ美優は本番行為なんてなくても充分にエッチに満足ができる。

 

「でも、お兄ちゃんのセックスはすごく良くなってるよ」

 

 美優は嬉しそうに照れ笑いしていた。

 中出しされた精液がそろそろ効いてきたらしい。

 

「そんなによかった?」

「うん。口を塞がれながら身勝手に中出しされるの、めちゃくちゃ興奮するし、死ぬほど気持ちいい」

「たしかに図らずとも美優の好きそうなやり方ではあったな」

 

 俺だけに対してはレイプ願望のようなものもあるからな。

 デレ期の今となっては、キスをされながら一方的に俺に射精されるのは、美優にとって最高の歓びだろう。

 

 美優は俺に両手を引き上げられてなんとか自分の足で立って、俺が床の掃除をしている間に風呂場へと向かった。

 先にシャワーを浴びて、ちょうどお湯が溜まったところで俺も浴室に入り、また兄妹二人して狭いお風呂に収まることに。

 

「私たちって仲がいいよね」

「そうだな」

 

 性行為をしているだけではわからない美優との心の距離は、こうした日常的なスキンシップによって測ることができる。

 

「えへへ。お兄ちゃんとお風呂に入るの好き」

 

 美優は俺の膝に挟まっていた体を反転させて、チュッとソフトなキスをしてきた。

 外で我慢していただけあってデレデレだ。

 

「そこまで俺のことが好きだったら、もしかしてアソコを舐めさせてもらうこととかもできたりする?」

「えーそれはどうしようかなぁ」

 

 美優がニヤニヤしながら渋っている。

 一度したら慣れる性格は今でも健在だ。

 

「いいよ。お兄ちゃんは特別だから」

 

 これまで恥ずかしくて誰にも見せられずにいたつるつるのパイパンを、美優は湯桶の中で立ち上がって、俺の真正面で晒してくれた。

 体の丸みのあらゆる極点から滴り落ちる雫が、湯面を叩いて波紋を作っている。

 

「美優……ほんと、たまらん体になったな……」

 

 このところは体のアンバランスさにもそれほど気にならなくなり、元のとおりに必要な脂肪を残したままのむっちりした肉体が、射精し尽くしたはずの俺の陰茎に再び熱を集中させてきた。

 

 ──そのときのことだった。

 

「ただいまー。……あれ。風呂場の電気がつけっぱなしだったか」

 

 玄関からビニール袋の擦れる音と共に声が聞こえてきた。

 浴室のドアの向こうで、二人分の会話がどんどん近づいてくる。

 

「や、やばっ……!」

 

 美優と二人の入浴中。

 

 両親が外出先から帰ってきたのだった。

 

 



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俺の妹が最高の恋人だった

 

 夏休みが始まってからは、俺と美優が仲良くなるためのきっかけであり、思い出の場所で。

 恋仲になってからは、日常的な裸のスキンシップができる憩いの場所だった。

 

 美優とのお風呂を楽しんでいる最中に両親が帰ってきた。

 俺にアソコを舐めさせるために勢いよく立ち上がったはずの美優のお湯の中にしゃがみ込んでいて、結った髪の後れ毛から水を滴らせながら浴室のドアの向こうに視線をやっている。

 非常に困ったことになった。

 

「まさかこんなに早くに帰ってくるとは……」

 

 買い物帰りの荷物は玄関に置いたのか、両親が会話をする声だけが近づいてくる。

 浴室の照明がついていることには気づかれていて、足音もすぐそばまで迫っていた。

 

「どうしよっか、お兄ちゃん」

 

 美優は中出ししまくった直後なので、この状況にあってもぽわっとした表情をしている。

 ともなればここは俺がしっかりするしかない。

 というより。

 

 俺は兄なのだから。

 親への対応は俺が決めるしかない。

 

「ここは腹を決めて、堂々としてるしかないな」

 

 ドアのくもりガラスに人影が映し出される。

 もはや誤魔化すことなど不可能だった。

 

「……あれ? 誰か入ってるの?」

 

 ドアの向こうからの声は、母親のものだった。

 まだ説明のしやすい相手で助かった。

 

 と思った直後のこと。

 

「美優が入ってるんじゃないか? スカートも置いてあるし」

 

 父親もすぐ横にいたみたいで、洗濯機に掛けただけにしている美優の服に気づかれてしまった。

 かといってこんな状態の美優に応対をさせるわけにもいかないし、ともなれば美優は先に風呂を浴びて部屋にいることにするしかないな。

 

「母さんたちも帰ってきたのか。早かったな」

「あら、こーちゃんが入ってたのね」

「なんだ。美優が入ってると思ってたんだが違ったのか」

 

 ドア越しの会話。

 息子が入っているとわかればわざわざ開けて確かめてくることもない。

 

「ああ、美優なら……」

 

 この場にはいないことにして済ませる。

 それが一番だと思った。

 

 その瞬間には。

 

 でも、俺は継ぐ言葉に迷った。

 

 俺たちは着替えを持っていないので、こっそり二人で自室に戻るためには両親がリビングに行ってその扉を閉めてくれていて、かつそこから出てこないタイミングで二階に上がるしかない。

 別段、それ自体は難しいことではないし、慎重に外をうかがえば、美優の存在を隠し通したままやり過ごすことはできたはずだった。

 

「美優なら、俺と一緒に入ってるよ」

 

 だが、もはや俺と美優の関係は、隠せるかどうかの問題ではないのだ。

 これだけ親密な間柄になっておきながら、同じ家に暮らす両親さえコソコソとしているようでは、いつかその背徳感も申し訳なさに変わってしまう。

 

 もちろん、明かすべき時期、というものもあっただろう。

 ただそれが、俺と美優の仲の良さを見せつけるためのきっかけとしては、ここしかないと直感的に悟った。

 

「な、なに!? 美優が!?」

 

 慌てふためいている父親の声。

 母さんは事情を知っているので、あるいは親父が美優の服に言及したときには気づいていたのかもしれない。

 

 そんな俺の対応に、美優は嬉しそうに微笑っていて。

 エロエロに惚けたときとは違う頬の緩ませ方をした美優が、浴室のドアに手を伸ばして、両親と顔が見えるぐらいに隙間を開けた。

 

「やっほ~」

 

 美優は満面の笑みで両親に手を振っていた。

 それを見た父親は顔を引きつらせて、苦笑いをして固まっていた。

 その直後にはひと悶着があったわけでもなく、母親に連れられるようにして、父親は何も言わずにリビングへと戻っていった。

 

「ついにやってしまったな」

「やってしまいましたね」

 

 とはいえいつかは起こるとわかっていた出来事。

 美優とエッチしている声が両親のいる家中に響いてしまったあのときから、それはもう遠くないことになっていたのだろう。

 さすがにこんな状況でエッチなことができるはずもなく、俺たちは大人しく風呂から上がって、別々の部屋で着替えを済ませた。

 

 美優はあれだけ激しいセックスをした後なので、疲れて寝ていることだろう。

 両親との会話は俺がやらなければならない。

 

(いけるよな。ここで逃げたら、この先で出会う人にだって、ずっと後ろめたさを感じたまま接していくことになる。行くと決めたからには、がむしゃらにだって進まないと)

 

 部屋を出て行く足は重たかった。

 階段を一段下りるたびに、やっぱり部屋に戻ってなかったことにしようかと迷いも生じた。

 それでも、俺は床に根を張ったような足をどうにか持ち上げて、リビングの前までやってきた。

 

 すぅと深呼吸をして、話すべきことを頭で整理し、扉を開けた。

 

「おかえり、母さん。父さんも」

 

 俺がリビングに入ってきて、視線をよこしてきたのは母親だけだった。

 俺が話をつけなければならないのは親父で、そのためには、いままさにビール缶のプルタブに掛けられている指は止めなければならない。

 

 事情を知っている母さんは俺の考えていることを察してくれて、目で合図を送るだけでリビングから出て寝室に行ってくれた。

 床に座ってビールグラスを傾けている父親の横で、俺は立ったまま話を始める。

 

「なあ、父さん。ちょっとだけ、飲むのを止めて、話をさせてくれないか」

 

 俺が声をかけても父親は目を合わせてくれることもなく。

 テーブルの上では黄金色の缶がプシュと小気味の良い音を立てていた。

 

「あの、話を……」

「まあ待て。わかってるから。飲ませろ」

 

 親父に俺の声は届いていたようで。

 それでも構わずグラスにビールを注いで、泡の盛り上がりが縁のギリギリで落ち着くのをジッと眺めていた。

 

「酔う前に話がしたいんだけど」

「大丈夫だ、一杯だけなら。だがとにもかくにも飲まずには聞いてられん」

 

 さきほどの風呂場の状況を見て、山本さんのマンションから仲睦まじく帰ってきたあのときの俺と美優を知っている父親も、いまから俺が何を話し出そうとしているのかはおおよそ察しているようだった。

 声にドスが利いているわけでもなく、怒っている様子でもないが。

 

 ぐいっと一口でグラスの半分までを流し込んだ父親は、ため息のように長く長く疲れを吐き出して、それから横に座れと合図をしてきた。

 こうなったら、美優との関係はもうバレているものとして話をするしかないな。

 

「父さんは、美優のことはどこまで知ってるんだ」

 

 俺は親父の隣に腰を掛けながら尋ねてみる。

 

「どこまでって、どういう話だ」

「美優が小さい頃に悩んでたことについてだよ。フリフリの服を着て学校に通ってたら怒られた話とか、クラスの男子と喧嘩した話とか、女の子しか好きになれないかもって悩んでたのとか」

「ああ、それな」

 

 親父はまたグラスを仰いで残りの半分を飲み干した。

 一杯とはいえその勢いで大丈夫かな。

 アルコールが回る前に核心には触れておかないと。

 

「話は聞いてたよ。美優と話すのは母さんに任せてたけどな」

 

 父さんは一杯だけと言いながら、二本目の缶も早々に口を開けた。

 今日は最初から飲むつもりだったのか事前にもう一本が用意されていた。

 俺はその缶を父親から受け取って、「悪いな」と口にしながら傾けられたグラスに注いでいった。

 

「結果的には、美優は俺しか好きにならないらしい」

 

 注ぎながら俺はそれを口にした。

 父親は無言だった。

 

「精神的なものだから、何が原因かはわからないけど。女の子か兄妹か、とにかく、自分に近い人間じゃないとダメなんだと」

 

 そのどれもが美優の経験則による結論だが。

 これまで俺や山本さんたちと重ねてきた触れ合いからするに、もう間違いではないはず。

 

 ビールを注ぎ終わって、空いた缶をテーブルに置いても、親父はすぐにはそれを飲まなかった。

 

「ふう」

 

 そして、また一つのため息。

 それから、ようやく二杯目のビールを口にした。

 

「なんで父さんじゃないんだろうな」

 

 父親にあるまじき発言だった。

 場を和ませたかっただけかもしれないが。

 

「さあ? 俺には母さんの血も入ってるからじゃないか。小さい頃からの世話も俺と母さんがしてたし」

「それは、そうだな」

 

 父親は納得していた。

 やはりというか、ここまでの話を聞いても、憤りのようなものは感じない。 

 

「とにかく、まずお前からの話を聞かせろ」

 

 ここまでは、ただ状況を伝えただけのこと。

 親として気になっているのはその先についてだ。

 

「俺はもう残りの人生を美優と過ごすことに決めてる。美優もそれを望んでる。だから、この先で一生、俺は美優以外とは付き合わない」

「ほう。それをどう証明する?」

 

 父親はそこでようやく俺の目を見た。

 ここにきて試されている。

 

 しかし、ここまでの流れは、俺も想定していた範疇のこと。

 

「前に、家庭教師になるかもしれない人がいるって話をしたの、覚えてるか?」

「ん? ああ……なんか、すごい巨乳の……」

「そうだ。そのすごい巨乳の人だ」

 

 少々の記憶違いは無視して、俺はスマホを手に山本さんに写真を見せた。

 父親の腰がわずかに浮いて前のめりになった。

 

「俺はこの人から真剣に告白されて断っている。それも、それなりに親密な関係を築いた上でだ」

「おい待て。まさとは思うがこのすごい巨乳とそういうことにまでなったのか」

「ああ、なった。何度も。ものすごく迫られてな」

「っ……!」

 

 父親は額に汗を浮かべていた。

 俺以外の人間からしたら、山本さんという存在は特級の美少女だからな。

 画面越しであっても、加工では到達し得ない何かを感じているはず。

 

 しかし、元の位置に戻って心を落ち着けた父親は、そこで一旦冷静になった。

 

「……。それを信じろと?」

 

 そう、仮にさきほどの話を論拠に俺が美優を選んだ覚悟を信用してもらうにしても、その元となる話が嘘や誇張でないことを、また別に信じてもらわなければならない。

 

「すでに証拠の用意はしてある」

 

 全ては先手を取って、俺の考えた筋道で納得してもらうため。

 山本さんには嘘を疑われたときの証明として、ビデオ通話をしてもらうように頼み込んでいた。

 

『あ、もしもーし。ほんとに掛かってきた。もう私が話しちゃっていいの?』

 

 俺のスマホの画面に映し出された可憐な少女の姿に、また親父の腰が浮いた。

 動画ともなると写真以上に誤魔化しようがないからな。

 よほど山本さんが好印象のようだった。

 

「お、あっ、ど、どうも。父、です」

『わーソトミチくんのお父さんだ! はじめまして、山本奏です』

 

 ディスプレイ越しに頭を下げた山本さんに、慌ててペコリと会釈をする父親。

 緊張のしすぎで目が泳いでる。

 童貞か。

 

「えっ……と、息子とは、親しい間柄だったそうだが……」

『ええ、はい、そうですね。おそらくはお聞きした一言一句に偽りはないかと思います。親しい間柄だった、ではなく、今でも親しくさせていただいていますし、私は大好きですけどね』

 

 山本さんは俺に向けてウインクを飛ばしてきた。

 そこまでするとわざとらしいのでやめていただきたい。

 

「お前、金でも積んで言わせてるんじゃないだろうな?」

「そんなことないって。こんなに可愛い人が俺みたいな男に金を積まれたからって大好きなんて言うはずないだろ」

「それもそうだが……しかしな……」

 

 まだ納得をしない父親。

 この超がつくほどの美少女と俺が男女の行為にまで至ったというのがひっかかっている様子だった。

 

『んふっ。まあ、そうですね……ソトミチくんのお父さんにでしたら、特別に。信じてもらうためにこういうことをするのもやぶさかではないですが……』

 

 そう言って山本さんは、スマホを何かに立てかけて置いて。

 

 唐突に、服を脱いで下着だけの肌を露出させ始めた。

 

「ま、待って山本さん!! そこまでは言ってない!!」

「お、おおおっ、お、こ、こら、待ちなさい、そういうことをうら若き少女がするべきでは……!!」

 

 とか言いながらガッツリと画面に食い付いている父親だった。

 雄としての本能を刺激することにおいては山本さんの右に出る者はいない。

 

『あら、よろしいんですか? 信じていただけましたか?』

「わかったわかった、し、信じよう。信じる。いいから、服を着て。もう通話も切るからね」

『はいっ、短い時間でしたがお話できて楽しかったです! それでは……!』

 

 山本さんとの通話はそこで終わった。

 

「なんであの子にしなかった!?」

「色々あったんだよ」

 

 俺だって迷いはしたさ。

 迷った末に美優を選んだから、今の関係があるんだ。

 

 それを、俺は父親に伝えて。

 俺の美優への覚悟については信じてもらえることになった。

 

「もちろん、兄妹でっていうことには、父さんも思うところがあるだろうけど……」

「美優があれだけ笑うようになったんだ。本人が幸せなのは普段の態度からでもわかる。否定はしないさ」

「ってことは……!」

 

 父親からの許しの言葉が出た。

 今度は俺が前のめりになる番だった。

 

「ただし。お前らの関係を認めるためには条件がある」

 

 父親は俺の眼前で人差し指を立てて俺を静止し、そのまま指を冷蔵庫に向けた。

 話の前に三本目を持って来いという意味であることはすぐにわかったので、俺は駆け足でキッチンに行ってビール缶を持ってきた。

 

「条件ってなんなんだ?」

「子供のことだ。お前らの」

 

 いきなり深いところに突っ込んできたな。

 でも、子供二人がそのまま夫婦という形に収まる立場にあっては、言及しないでおくわけにもいかない内容だ。

 

「最低でも一人は孫を俺に見せろ。お前と美優の子供でないとダメだ。いつまでとは言わんが、ボケる前に孫と話したい。それが条件だ」

 

 まさかの親側からの子を産めという命令だった。

 俺と美優は元からそのつもりだったし、条件というほどのものにはならないけど。

 

「美優はあの性格だからな。結婚するかどうかもわからなかったし、今はお家の血筋のために子を産むなんて時代でもない。だから、仮に結婚したとしても、美優にその気がなければ美優の子は諦めるつもりだった。嫁ぎ先との関係だってあるわけだし」

 

 父親はそこまでを口にしてから、グラスに残っていたビールをぐいと飲み干した。

 まだ酔っている様子はないし、その場限りの勢いで言っている風でもない。

 真剣な話として俺に聞かせている。

 

「だが、お前が相手となるなら別だ。無理だと思ってた美優の子供が見れる可能性が出てきたんだ。親としてどうだと言われようと、母さんがなんと言おうと、この条件を譲る気はない」

 

 なるほど、たしかに娘に子供を産むよう強制するのは、昨今の世間からしたら錯誤的だし、父親としてもあの美優にそれを強いるのは気の進まない話だったろう。

 

「その点なら心配ないよ。そう遠くはないうちに孫の顔は見せるから。俺としても…………俺たちとしても、楽しみにしててくれるなら、嬉しい限りだよ」

「……そうか。なら、いい。好きにしろ」

 

 親父はそこまで言って、三杯目はグラスを垂直に置いたまま豪快に注いで、溢れそうになる泡ごと一気に喉に流した。

 父さんも母さんも元から自由人だったし、俺たちの関係を受け入れてもらえたことは、そんなに不思議なことではなかったのかもしれない。

 

「よしっ、まだまだ夜まで時間はあるわけだし……! 母さん! 今夜は肉をたっぷり用意してくれ! 豪快に食いまくるぞ!」

 

 急に立ち上がった父親はリビングのドアを開けると、寝室に退避していた母親に大声で注文をつけた。

 さすがに酔いが回ってきているな。

 

「もう、なによ。そんなんじゃお父さんは買い物に行けないでしょ」

「美優たちに行かせればいいじゃないか。仲がいいみたいだし、母さんも飲もう」

「祝う本人達に買いに行かせてどうするのよ……」

「まあ細かいことは気にするな。どうせなら、今夜は俺たちもどうだ、なあ……?」

「こ、こら、やめてってば。息子の前で……」

 

 そうだ息子の前でイチャイチャするな。

 嬉しいのはわかるけどさ。

 

「おにいちゃーん? パパも、お話は終わったの?」

 

 騒ぎを聞きつけて美優も二階から下りてきた。

 夕食前に家族勢揃いになってしまったな。

 

「おー美優! 今日からは堂々と二人で風呂に入っていいぞ!」

「え、いいの? お兄ちゃんとイチャイチャしても」

「パパとも風呂に入るか!」

「それは死んでもお断りします」

「そ、そうか…………はは……そこまで言わなくても……」

 

 美優の鋭い一言に、親父のアルコールは冷や汗と共に半分ほど飛んだようだった。

 この期に及んで美優らしいというか。

 実の親が相手だろうと容赦はない。

 

 ──この日から俺と美優は、親公認の仲となった。

 

 とは言っても、二人の生活が変わるわけでもない。

 ご飯を食べて、お風呂に入って、明日の支度が済んだら俺の部屋でエッチをする。

 そんな家族らしさと恋人らしさが入り混じった日常を過ごしていくだけ。

 

「上手くいってよかったね、お兄ちゃん……んっ……」

 

 このところやたらとボディラインが目立つようになったパジャマ姿の美優と抱き合い、お風呂場で中途半端になっていた性欲を解消するためにキスをする。

 

 生活が変わらないと言っても、もちろん無意味だったわけではない。

 俺たちがここまで深い関係にあることは想像に及ばないだろうが、両親に俺たちの在り方を認めてもらえたことは精神的な安定として何よりも重要だった。

 身も心もリラックスさせてこそセックスは気持ちよくなるもの。

 そしてなにより、兄妹でエッチをすることに罪悪感がなくなってかつ背徳感は変わらないということが──主に美優にとっては──最も重要なことだった。

 

「美優……キスするの気持ちいいよ……」

 

 舌を絡めて、美優から伸ばされる舌にしゃぶりつき、口内を舐る。

 俺だって美優が妹だから興奮している部分はある。

 美優が妹だから、俺たちは両想いであることがわかった後も、エッチを繰り返しておきながら最後までキスをしなかった。

 妹とキスをしているから興奮するし、こうして俺が一方的に舌をねじ込んでいるキスは、愛を伝えるためではなく性欲を解消するためにしている。

 要するにオナニーだった。

 

「んっ……んふぅ……んんっ……はぁ……お兄ちゃん……んっ……」

 

 美優も兄である俺とキスしていることに興奮している。

 そして、俺の性欲解消のために自分を使われることに興奮する体質でもある。

 だからそれは、あるいは愛情表現としてのくちづけより、美優にとっては気持ちのいいものだったのかもしれない。

 

「はぁ……んむっ……ちゅ……はぁ……んんっ……ここ……すっごくアツい……」

 

 美優が俺のズボンを脱がせて勃起した肉棒をさすっている。

 美優のほうから俺の性器に触れるために脱がせるなんて珍しいことだった。

 

 しかし、美優の手はあくまでもペニスの皮を撫でるだけで、手コキには至らない。

 美優もこの接吻が兄のオナニーであることを理解している。

 俺に求められるまでは体を預けることしかしない。

 それでも俺を脱がせたのは美優の性欲が限界にきているからで、兄に欲情されている証に触れることでほんの少しずつ自分の性欲を満たしていた。

 

「ふんっ……むちゅっ……ふぁ……はぁ……おにいちゃん……んっ、ぢゅっ……ぷは……あっ……んあっ……」

 

 美優は俺にキスをされるたびに表情から筋力が失われて、もうこれ以上に伸びようもない舌を必死に出し、俺にもっと妹とのキスを味わって興奮してほしいと要求している。

 もうこれ以上は耐えられそうにないようだった。

 ふとももから滴り落ちている愛液がそれを告げている。

 お風呂で俺とエッチをするはずが中断されてしまって、美優は元から俺とエッチをするつもりでノーパンでパジャマを着ていたらしい。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……っ…………ねえ……お兄ちゃん…………精子飲みたい……」

 

 美優が俺の陰嚢を撫でて、その中身が欲しいと俺にねだってきた。

 もうこれ以上の焦らしは美優にツラい思いをさせるだけ。

 そう判断した俺は美優に脱がされていたズボンを完全に脱ぎ去って、隆々と屹立している陰茎の前に正座するように指示をした。

 

「なら、そこで待ってて」

 

 美優は俺に言われた通りに、ペニスをシゴく兄の前で姿勢良く正座した。

 膝を畳んでいると愛液は裾から逃れることができないため、ほんのりと股の部分が湿ってきている。

 

 俺と美優が初めてエッチをしたあの日のように。

 俺は性欲に任せてペニスを擦って、美優は俺の射精を口で受け止めようとしてくれている。

 当時と同じシチュエーションのようで、その中身はまったく違っていて。

 あれだけ服を汚されることを嫌っていた美優がパジャマを愛液に湿らせ、自らの口に射精させることを美優が俺にお願いしてきたものだ。

 

 そして、なにより。

 

 妹の目の前で平然とオナニーをする兄を睨んでいたあの表情は、俺の精液が飲みたくて今か今かと目を輝かせている。

 

 陰茎を擦る兄と、射精のときを待つ妹と、その間には愛が通っていた。

 

「お兄ちゃん、愛してるよ」

 

 俺はペニスを勃起させて、その先端を妹に向けて、シコシコと手を前後させている。

 そんな兄を見上げて、美優は恋する乙女のような惚け顔で愛の告白をしてくる。

 

「美優っ…………俺も美優が好きだ……っ!! 一生美優のことを愛してるからなっ……!!」

 

 おそらくそれは、膣にペニスを挿入して、生殖器を繋げたまま口にされるべき言葉。

 でも俺たちは互いが兄妹であることに興奮しているというそれだけで十分に繋がれていた。

 だから、物理的な繋がりなどさしたる問題ではなかった。

 

「美優っ……!! もう、出るっ……!! 射精できるだけするからっ……口を開けて最後まで飲んでくれっ……!!」

「はぁ、はぁ……何回射精してもいいから……お兄ちゃんの精液ぜんぶお口に出して…………んっ……!!」

 

 どぴゅっ、どぴゅっ、びゅるるるっ、びゅくびゅくっ、びゅびゅっ、びゅるるっ、びゅっ、どくっ、どくんっ──!!

 

 美優が開けた口内に、飛び出る瞬間でさえはっきりと白色の放物線が視認できるほどの精液量が、繰り返し注ぎ込まれていった。

 美優にオナニーを見られて射精して、美優に口内射精した事実に興奮して射精して、俺のペニスから出た白濁色の体液を嬉しそうに口に溜める美優がエロすぎて、俺はその姿を見ながらまた射精をするのだった。

 特濃の精液が尿道を通るたびに、計り知れない快感が全身を突き抜け、きっとこの瞬間にしか分泌されることのない脳内麻薬が俺を侵していく。

 

 今夜出せるすべての精液が美優の口に注ぎ込まれた。

 美優はその味をじっくりと確かめるように舌でかき混ぜ、口を閉じて何回も鼻で呼吸をして香りを楽しんでから、ゴクリと喉を通る際の喉越しに満足げな表情を浮かべた。

 

「美優。飲んでくれてありがとう。気持ちよかったよ」

「こちらこそご馳走様でした、お兄ちゃん。……美味しかったよ」

 

 美優はデレデレでゆるゆるな頬を精一杯に持ち上げて笑みを作っていた。

 俺が中出しをしまくったときが一番に興奮するものだと思っていたけど、今の美優は間違いなく過去最高に興奮している。

 それはもはや疑いようもなく、美優の生殖本能が体質的にもたらしていた性欲を、兄妹での背徳エッチが好きになってしまった美優の性格的側面からくる性欲が凌駕している証拠だった。

 

「お兄ちゃんはスッキリしたよね」

 

 美優は床に手をついてふらつく足で立ち上がった。

 

「脳みそ壊れちゃいそうなぐらいムラムラしてるから、隣の部屋で済ませてくるね」

 

 兄のオナニーを手伝い終えたので、次は自分の番ということみたいだ。

 

 たしかに性欲は落ち着いた。

 でも美優のことが好きでどうしようもない、胸が締め付けられるようなこの感情はまだ昂ったままだった。

 あるいはその愛情も、性欲の一部分なのかもしれない。

 とにかく俺は我慢をしきれなくて美優に抱きついてしまった。

 

「ごめんな、美優。すぐにオナニーしに行きたいよな。でも、あと少しだけ、こうして抱き締めさせてくれ」

 

 これは明らかに俺のわがまま。

 美優の都合は考えていない。

 別にその場でオナニーをしてほしいと思っているわけでもない。

 ただ美優を抱きしめていたくて抱きしめている。

 

「んっ……んんっ……おにい、ちゃ……あっ……今そんな強く抱きしめられたら……はぁ……っ……あっ……」

 

 美優が色っぽい声を漏らしている。

 まるで俺にバックからハメられているような、嬌声に近いものだった。

 でも、俺は服を着直しているし、美優だってノーパンなだけでパジャマは着ている。

 不思議なことに勃起もしていなくて、ペニスが美優の敏感なところにあたっているわけでもない。

 

「美優。どうしよう。美優が好きすぎてもうしばらく離れられそうにない」

「ふぁ、んっ……ダメっ……そんな耳の近くで喋らないで……あっ、んっ、んんっ……!」

「美優、好きだよ。美優…………美優……」

「んっ、あっ……耳元で、名前呼んじゃイヤ……はぁ、ん、んんっ……!」

 

 美優は俺の声に体をビクつかせた。

 俺が喋るのをやめようとも、もはや吐息が耳にかかるだけで美優は喘ぎ声を上げた。

 ビクッ、ビクッ、と美優はお尻を突き出すように腰を引いて、それが強制的に膣を締めさせられる快感を受け流そうとしているのだと、おびただしい愛液のお漏らしを見てわかった。

 

「はぁ、はあっ……あああっ……!! お兄ちゃん……お兄ちゃん……!!」

 

 俺はもう言葉も発さず、耳に息がかからないようにもしているのに、抱きしめられているだけで美優はイキまくっていた。

 さきほどの口内射精で最高潮に高まった性欲に加えて、俺が今感じているようなどうしようもないほどの愛の疼きを、美優は同時に感じているんだ。

 言うなれば美優は、ただムラムラしすぎたからイッている。

 兄の精液と抱擁によって性欲がキャパシティを超えたことでオーガズムに達したのだ。

 

「あっ、ああっ、あっ……!! お……にい……ひゃ…………んンッ────!!」

 

 美優はついに体力を限界まで使い果たして、脚をガクつかせながら床に膝をついた。

 腰まで伸びた長い髪の、その隙間に見え隠れする、びっしょびしょのシルクパンツが美優の興奮をありありと表していてエロかった。

 

 買い取りたい。

 

 気持ちが落ち着いて少し理性的になった俺はそう思った。

 

「ふぁ、ひぁ、ううっ……待って……こんなのクセになったら、お兄ちゃんの声を聞くだけでイクようになっちゃう……」

 

 美優のこの連続絶頂で性欲は収まったのか、まだ違和感の残る耳をしきりに触りながら、お漏らしが見えないように少し離れて俺に背中を向けていた。

 

「俺は美優のことがどんどん好きになっていく感覚があって良いんだけどな」

「それは私も同意するけど、さっきも言った通りいつか脳が壊れそう……」

 

 美優はどうやってお漏らしを隠そうか考えた末に、ズボンとして穿いているからシミが目立つのだから上だけを着ればぎりぎりアソコを隠せると、ノーパンTシャツスタイルになって立ち上がった。

 その服の中身を想像すると出しきったはずの精子が再充填されてしまうので、後ろ髪を引かれながらも美優のことは視界に入れないようにした。

 あれは兄に精液を出させるために生きている存在だ。

 たぶん人間とサキュバスのハーフか何かだと思う。

 

「私は体をキレイにしてすぐに戻ってくるから、お兄ちゃんはベッドで待っててね。今日も一緒に寝よ」

 

 このところの美優は俺と二人で過ごせる時間があれば少しでも長く一緒に居たがる。

 急ぐ必要もないのに準備は手早く片付けて戻ってくるのだ。

 そんな美優が可愛くて実は最近は少しだけ寝つきが悪くなっていたりもした。

 

 そうしたときは美優の寝顔を見て過ごす。

 あの夏休みの前からこれだけ時間を共にしているのに、その顔を見ても飽きることがない。

 美人は三日で飽きるとは誰が言ったのか。

 

「支度は終わったよ、お兄ちゃん。今夜もギュッてしながら寝ようね」

 

 俺と美優はベッドの中で抱き合って。

 体勢を変えたいときは、手だけを繋いで寝る。

 それが俺と美優の就寝スタイル。

 

 もう俺たちはラブラブだった。

 両親にも二人の関係を認めてもらって、山本さんという頼もしい存在もいるし、きっと由佳も遥も佐知子も、俺たちの将来を祝福してくれるはず。

 何一つとして不安のない人生。

 俺はこれからも美優と同じようにイチャイチャしてエッチを続け、いつかは子供も作って孫の顔を親に見せて、より大きな幸せを育んでいく。

 

 二人でいればどんな困難も怖くはない。

 これまでたくさんの女の子との紆余曲折があったからこそ、改めて断言できる。

 

 俺の妹が、最高の恋人だった。

 

 

 

 

 と、言えることには間違いはなくて、人によっては、ここでそのような道に進むことも、幸せな将来の形の一つと考えたのかもしれない。

 

 でも、この極端なラブラブ度合いでい続けるのは茨の道で、少なくとも俺にとってはなんともしなければならない状況だった。

 

 その理由──というか問題の一つが顕在化したのが次の日のことだった。

 

「っ……はぁ……美優、出るよ……飲んで」

「あぁむっ……んくっ……んっ……」

 

 朝イチから見つめ合うようにして目を覚ました俺たちは、高ぶる性欲のままにフェラチオをして口内射精をしていた。

 

「朝からいっぱい出たね」

「あれだけ射精すると完全回復とはいかないけどな。朝晩で一回ずつとかなら毎日こなせそう」

「んふっ。それは頼もしいね。私はちょっぴり物足りないけど」

 

 美優は俺が射精した後の肉棒をしゃぶって、まだ硬さのあるうちに膣内へと自ら挿入した。

 

「んっ……はぁ……お兄ちゃんの精液を飲んだ後だと、膣内が敏感になるからすっごく気持ちいい……」

「ふっ、んっ……それは、よかった」

「これからはお口でする回数を増やしてもいいかな?」

「もちろん。前からもっと飲みたいって言ってたもんな」

 

 まだ素直じゃないときの美優は口には出さなかったが、昔から美優は口内射精されるのが好きだった。

 だから、俺も中出しと半々でエッチを続けるつもりだ。

 

「じゃあさ、学校でムラムラしたままだと困るから……激しくイかせてほしいな」

「朝からそんなにしていいのか?」

「疲れたら学校で寝るから」

「そんなこと、たまにだけにしておけよ」

 

 俺は体を起こして美優に覆いかぶさって、腰を強く振って美優と正常位で生セックスをした。

 昨日の今日で二連続の射精はキツいが、両親に認めてもらった記念にしばらくは美優のわがままに付き合おう。

 

「美優……美優っ……!! 膣内に出すからな……中出しするぞ……美優っ……!!」

「んんっ……ああっ……!! お兄ちゃん……きて、きてぇっ……!!」

 

 ドクッ、ドクッ、と精液が膣内に吐き出されて、美優はぐったりとベッドに横たわった。

 こんなこともあろうかと早めに起きていたので少しは寝かせていられる。

 

(ふぅ……週末のロリコスエッチから立て続けだと、さすがにキツいな……)

 

 俺は朝シャンして着替えを済ませ、朝食の準備を始めた。

 美優をできるだけ長く休ませてやりたいからしていることだが、ついでなので親の分も作ることになる。

 

(美優にはああ言ったけど、俺が学校で寝ることにもなりかねないな……)

 

 せっかく勉強の調子も上がってきたところだ。

 俺は山本さんと違って完璧超人なわけでもないし、俺のできる範囲で美優に尽くす。

 これまでも手抜きしてばっかりの人生だったけど、これからは要領良く生きるための上手な手抜きを覚えていかないとな。

 それが巡り巡って美優のためにもなるんだ。

 

 俺は学校に行くまでの準備を済ませて美優の様子を確認しに部屋に戻った。

 俺が起こすつもりではあるが、念のためにアラームはセットしてあって、美優はすでに起きていた。

 

「お兄ちゃん、おはよう。準備ありがとうね。朝のエッチも」

「これぐらいなんてことないよ」

 

 セックスと家事は俺にできる数少ない恩返しだからな。

 恋人としての関係がどれだけ成熟しようとも、美優が俺にしてくれたことを忘れるつもりはない。

 

「お兄ちゃんに任せてばっかりだと悪いから、明日は私がお料理するね」

「美優は疲れるだろうし、無理することないよ」

「本番エッチしなかったら大丈夫だもん」

 

 たしかに体力的にはそうかもしれないが、美優は俺の精液を飲むとムラムラしてしまう体質のはず。

 中出しも口内射精もしないのなら可能だが、それは美優自身が許せなさそうだしな。

 

「お兄ちゃんのを咥えながら私もすれば、一人エッチの時間を別に取る必要はないでしょ?」

「なるほど天才的だ」

 

 それなら時間的には問題はなさそうだ。

 とはいえ、朝にセックスをしてから学校に行くのは、美優にとって憧れだった部分もあるらしくて。

 完全になくすのではなく、学校の持ち物や着替えを前日に揃えておいて、ギリギリまでエッチの時間を取ることもできるようにした。

 

 これまでと違って美優もエッチをしたい欲求を隠さない。

 喜ばしい変化ではあるが、少し寂しさもあるな。

 子供の成長を見守る親の気持ちってこんな感じだろうか。

 

 それから朝食を終え、美優もシャワーと着替えを済ませてから、登校をする。

 制服姿の美優はいつ見ても凛々しくて、こんな可愛い妹が毎晩男とイチャラブセックスしているのだと思うと、その相手が俺でよかったと心から思う。

 

「それじゃあ行ってくるね、お兄ちゃん。今日は遅くなりそうだから、ゆっくり休んでて」

「わかったよ。行ってらっしゃい」

 

 俺と美優は玄関でも口づけをして、ちょっとばかし根性が負けてディープなキスをしてしまって、そのままエッチまでしたくなる気持ちをグッとこらえて美優を欲情させてしまったことにも少しばかり恨まれながら見送りをした。

 そのあとから俺はチャリで学校へ向かった。

 これまでは都合によって美優と二人で歩く日もそうでない日もあったけど、いつかは一緒に登校する習慣もつけたいところだ。

 まあ美優は俺と同じ学校に来るそうなのでいずれは叶うことなのだが。

 

 そして、問題が起こったのがこの後のこと。

 学校の用事で帰りが遅くなる美優より先に家に着いた俺は、小時間の睡眠を取り、それからセットしていたアラームによって目を覚ました。

 

 家は静かなままで、両親も美優もまだ帰ってきていないようだった。

 俺は寝ぼけた頭で夕飯でも作っていようかと、洗面台で顔を洗ってから、今ある食材でどんな料理が作れるかスマホの画面を開いたときのこと。

 

「……えっ、は?」

 

 一瞬、何かのウイルスにでも感染したのかと思った。

 

 とんでもない量の通知がきてきたのだ。

 

 そのほとんどはスケジュール共有アプリからきていたもので、その相手はもちろん美優しかいない。

 

『繰り返しの予定:おはようのチューからいちゃいちゃスキンシップとお口エッチ。毎朝必ず』

 

『繰り返しの予定:おかえりのチューから中出しエッチ。生理の日はお口で。平日は毎日必ず。即でいいよ』

 

『繰り返しの予定:おやすみのチューをしてお兄ちゃんに射精してもらう。お兄ちゃんがしてほしいことなんでもします。毎晩必ず射精だけはさせてね』

 

『本日の予定:お兄ちゃんにアソコを舐めてもらえなかったので、今日に振り返りね。もしよければ舐めながら勝手にお口を使って射精していいよ。毎日のとは別ね』

 

『明日の予定:キスだけで中出ししてもらうのがものすごく好きなので明日あたりしたいな。服を着たまま入れるだけしてキスで中に出して。好きなときでいいよ。毎日のとは別ね』

 

 そして、明後日の予定……と、そこから直近二週間の予定まで、美優がしたいプレイがひたすら書き込まれていた。

 最低でも一日三回、多いときは四回も五回もの射精を要求されている。

 さすがに冗談だと思いたいが、今朝の様子からするとこれを冗談だと思う方に無理があって。

 

「ただいま」

 

 ドアの開閉音が聴こえて、俺が玄関まで出迎えをすると、そこには真顔で鞄を下ろしている美優の姿があった。

 

「おかえり、美優。遅くまでお疲れ様だったな」

「うん。大変だった。んっ」

 

 美優は俺と距離を詰めると靴を脱ぐのも早々にキスをねだってきた。

 ひと目ではニュートラルな表情だったので、エッチな気分ではないのかと思いきや、キスをするとなるとどうにも予定通りにはなっている。

 

 制服姿の妹が目を閉じて顎をクイと上げているのだから、もうキスをしないでいられるわけもなく。

 俺は花の蜜に誘われるように唇を重ねてしまった。

 

 その瞬間からはまたディープキスだった。

 どちらともなく始められた舌の奪い合いは、制服にシワがつくことも気にせず互いの体を引きつけ合う衝動に変わって、俺はすっかりこの妹という存在に乗せられてしまっていた。

 

 口づけを離した後の美優は、見てわかるぐらい発情した顔だった。

 美優の性欲は落ち着いていたわけではなく、俺のキスで解ける外向きの顔だったらしい。

 

「お兄ちゃん、帰ってから少しは休めた?」

「ああ、だいぶな」

「そっか」

 

 靴を脱いで玄関に上がった美優は、俺に一歩近づいて、胸の膨らみを押し付けながら色っぽく微笑んだ。

 

「それじゃあ、今夜もいっぱい射精できるね」

 

 蕩けた笑顔になった美優は、膨らんだ俺のペニスをズボンの中で直に触れて、指先に付いた我慢汁をペロリと舐め取る。

 

「予定表に入れた通りに、これから毎日お願いね、お兄ちゃん」

 

 美優の性欲が、ついに壊れた。

 



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テクノブレイク

 

 美優は遺伝子的に、あるいは生物的に近い人間しか好きになることができない。

 その体質ゆえに美優は兄である俺を好きにならざるを得なかった。

 俺と美優が両想いになって初めてその事実を明かされたとき、俺は美優のことを不幸な女の子だと思った。

 その他の優秀な男子生徒からの告白をすべて断り、俺のような冴えないオタクにしか性的興味を持つことができなかったからだ。

 

 しかし、俺の肉棒を美味しそうに咥える美優を見ていると、考えを改めさせられる。

 

「はむっ……じゅるぶっ……ぐぢゅっ……ちゅぷっ……」

「っ、はぁ、美優……俺、もう二回も射精してるから…………あっ、ううっ……」

 

 自室で突っ立ったまま、パンツをずり下ろされた俺は床に膝を突いている美優にフェラチオをしてもらっている。

 小さな口で逞しくなった俺のペニスを咥え込んで、喉まで使わなければ入れられない根元にまで唇の位置が達していた。

 頭を動かすたびにパジャマに作られた乳袋もゆっさゆっさと揺れている。

 

「だってお兄ちゃんが制服でのエッチは特別にしたいとか言うから予定が狂っちゃったんだもん」

 

 美優が呼吸をひと休みさせる間にボヤいて返した。

 フェラ抜きを望まれたら最後まで口だけでご奉仕するのが信条である美優は、小ぶりとは言えなくなってしまったペニスをしゃぶって射精させるのにもノーハンドを貫いている。

 もちろん、そのほうが俺を喜ばせられるからだ。

 

 玄関で始まったエッチはキスの後に軽くしゃぶってもらっただけで、あとはお風呂に二人で入って美優の泡まみれのおっぱいでパイズリ抜きしてもらうプレイに変更していた。

 美優からしたらむしろ特別感を出したくないからこだわらなかったのだろうが、制服でのセックスはもっと渋々な交渉の末に行いたいので、こんな自販機で買うより容易くその権利を手に入れたくはないのだ。

 

 難儀な性癖だとは自分でも理解している。

 でもこれは、美優に植え付けられた性癖でもあって。

 

「うっ……み、美優っ……! で、出るよ…………ああっ……!」

 

 ドクドクとペニスが脈打って、その度に精液が尿道を通り抜けていく。

 たかだか敏感な部分を粘液によって擦られるだけの刹那的快楽が、どうしてこうも欲しくなってしまうのか。

 美優はそんな俺の欲求を汲み取って射精をさせてくれる。

 そして口内に吐き出された精液を満足げに喉に流すのだ。

 

「ごちそうさま。それじゃあ私は隣で続きをしてくるね」

 

 美優は俺の部屋を出て自分の部屋へと移動する。

 俺の精液を飲んでムラムラしてるからオナニーをして性欲を解消してくるということだ。

 本来ならそれも俺の役目なのだろうが、賢者タイムの男にそれをやらせるのは苦痛になってしまうことを美優もよく理解している。

 

 美優は俺の精子が好きでどうしようもないほどの生殖本能を身の内に宿している。

 ともなれば中出しをされるのが最も好きなはずなのだが、俺に口内射精をされながら愛を育んできた美優にとって、フェラチオは本番以上に好きな行為のようだった。

 自身がイクことより俺が射精することに満足感を覚える美優とのエッチでは、男側の前戯やセックスの技量など二の次で、どれだけ量と回数を多くして射精できるかが重要となる。

 

 俺の側にも特殊体質みたいなものはあって、妹の美優をオカズにしているときは性欲も精液も際限なく湧いてくる。

 それを考えると、美優が俺を選んだこと、いや選ばざるを得なかったことは、むしろ本来的すぎるほどの人間らしいセックスパートナーの選び方であったとも考えられる。

 世の男女が遺伝子相性をニオイなどの要素で判断するのと同じように、体質の相性が一番いいのが兄である俺であることを無意識下で感じ取っていたからこそ、生まれたときから他の男を一切寄せつけなかったのではないかと思うわけだ。

 

 ともなれば今の美優は最高に幸せなはずで、俺はその大切な妹の幸せのためにこの身を捧げるべきなのだと、そう思う。

 ひたすら毎日をイチャラブして、そうやってエッチ三昧をするエロ漫画に憧れていた時期もあった。

 その正に真っ只中にいるこの境遇は、俺にとっても幸福以外の何物でもないはずなのに。

 

 美優がオナニーから戻ってきて共寝した翌朝、美優は俺が目を覚ましたときからペニスをしゃぶっていた。

 

「お兄ちゃん、おはよう。んーむっ……ちゅっ……じゅるぷっ……」

「う、あっ……朝から、そんな……うあっ、ああっ……」

「だってお兄ちゃんの、おっきくなってたんだもん」

 

 一晩も寝れば俺の精液はある程度は充填される。

 それが精力や性欲に繋がるかはまた体力的な都合はあるが、とにかく射精をすることはできるのだ。

 

「んっ……ぢゅっ……はぁ……。でもさすがに毎日フェラだと顎が疲れてくるかも」

 

 俺のペニスがまだ小さいままだったら、フェラだけをする期間があってもよかったのかもしれない。

 しかし、美優の口の小ささも穴の狭さも考えずに肥大化してしまったこのイチモツは、ずっと同じプレイだけを続けるには少々難があるようだった。

 

「ナカでもいい?」

「俺は構わないけど、美優はいいのか? 今日も学校があるし」

「朝にシャワー浴びるようにするから大丈夫だよ。夜だってエッチいっぱいして汗はかいてるから」

 

 美優は俺の上に乗っかると、肉棒の径に対する膣のキツさに「んっ……」と顔をしかめながら、ゆっくりと腰を落としていく。

 

「美優の穴って、ほんと広がる気配がないよな……ふぅ、くっ……こんだけ挿れてるのに、締めつけキツすぎ……」

「んっ、んんっ……はぁ、んっ、私だって、お兄ちゃんのでお腹がパンパンになって苦しいんだもん……」

 

 穴の狭さが変わらないアソコにペニスを咥え込んで、それでも美優の腰の振り方は少しずつ上手くなっているから、俺とのセックスにだいぶ染まった感じは見て取れた。

 美優はスローテンポで根元から先端まで大きくストロークさせて、また腰を下ろすと、根元側の太い陰茎が入りきるたびにミチッと肉が無理やり広げられる音がする。

 

「んっ……はぁ、気持ちいい……お兄ちゃんと繋がってるの、とっても幸せ……んんっ、んっ、ふうっ……ああっ……」

 

 美優が腰を上下させる速度を高めていく。

 それに合わせて俺の肉棒も射精の準備に入った。

 美優には山本さんほど膣を自在に動かす技術はないが、その膣道の狭さが手コキと同等の圧を俺に与えてきて、美優に至っては何を考えずに腰を振るだけで俺を射精に導くことができた。

 

「ああっ、ぐ、はぁ……美優っ……もう出るよっ……っ……!!」

「お兄ちゃん……私もっ……んんっ……!!」

 

 どぷどぷっ、と精液が美優の膣内で弾けて、美優も俺の射精に合わせてイった。

 膣と陰茎で繋がったまま倒れ込んできた美優が俺の胸の上で息を乱している。

 額に汗が浮かんで、長い髪をよける仕草が事後のエロスを醸していた。

 

 俺の精子を子宮にかけられると、美優は半ば強制的に達してしまう。

 人間は周期的に排卵をする生き物なので、動物と違ってオーガズムをしても意味がないと言われてはいるが、美優の体質を考えれば絶頂で排卵する動物的な機能が本能に色濃く残っていても何ら不思議ではないと俺は思う。

 

「ふぅ。んふふっ。朝イチだと精液がドロッとしてるね」

「中出しでわかるの?」

「一回目と三回目ぐらいなら、出された後の棒と擦れる感覚で違いはわかるよ」

「それはさすがというか」

 

 お兄ちゃんの精子で孕むために生まれてきた妹だからな。

 存在がもうエロすぎる。

 

「シャワーを浴びてくるね」

 

 美優は割れ目から精液が漏れないように慎重にベッドから立ち上がって、自分の手で陰唇をぴっちりと閉じると、歩幅を小さくして部屋を出ていった。

 ああすると中出しされた後でも膣内に精液を隠したまま動けるらしい。

 山本さんとは別方面でセックスに都合のいいように作られている体だ。

 中出しセックスをするために完成されている。

 

 そうしてまた学校に行って、学校から帰ってから美優とエッチな時間を過ごし、学校と家との往復をするだけの日常は、半年前と比べると妹との性関係によって劇的に変化していた。

 

 今日は美優が先に帰っていて、ミニスカートにエプロン姿というとてもエッチな格好で出迎えをしてくれていた。

 エプロンはウエストに紐を巻くので巨乳との相性も非常にいい。

 

「おかえり、お兄ちゃん」

「ただいま、美優。んっ」

 

 帰ったら手洗いより前にまずキスをして、舌を絡めてのディープキスをしてから、高まった気分のままに玄関を上がる。

 今日こそは美優が予定してくれていたエッチをするために、美優は俺がアソコを舐めやすいようにパンツを脱いでくれていた。

 正面で至近距離に立った俺は美優にキスをして、その間にズボンを脱がされて、肉棒を手コキされる。

 自分だけがアソコを見せるのは恥ずかしいので俺のアソコも見せろということのようだった。

 

 興奮が高まったところで美優はエプロンをめくり上げた。

 限界まで短くされたスカートはもはや衣服としての意味を為しておらず、股下のスジの部分だけがチラ見えしている。

 あまりに淫靡なスジチラだった。

 

「どうぞ、お兄ちゃん」

 

 しかし、俺はエプロンを持ち上げて微笑む美優の顔を見て、悟ってしまった。

 美優のしていることは酷くイヤラシイし、あの真面目な妹がこんなエッチな格好をしているのだと思うと、その見た目のインパクトに性欲は爆発する。

 それでも、俺の頭の片隅にはどこか、もっと冷たい目で見下ろしてほしいと願ってしまう自分がいたのだ。

 

 美優とラブラブになって、積極的にエッチをおねだりしてもらって、それは俺が美優に望んでいたことなのに、俺の体は無責任にも美優が熱を出す前の頃のようなドライな視線を求めている。

 

「うっ……み、美優……」

 

 それでも俺の舌は美優のアソコに伸びていって、ラブジュースに満たされた割れ目にその先端をねじ込んでしまう。

 舌先から根元に滴ってくる妹の愛液に俺は勃起を一層鋭くして、それでも考えているのは別のこと。

 

 たとえば、こんなエロエロに迫られるなら、山本さんがいい。

 ご奉仕精神に溢れた山本さんの、自分の淫乱さを曝け出すようなあの笑み、あの腰つきで俺を誘って、陰唇を自らの指で開いて俺の舌を導いてほしい。

 情けない姿の俺の頭をヨシヨシして、俺がエッチで頑張っていることをダダ甘な判定基準で褒めてくれたら、それだけで心が満たされる。

 

 俺は美優の陰唇と口づけをしてからジュルジュルと吸っては舐めてを繰り返し、ビクつく美優をさらに責め立てるように、舌をピンと伸ばして膣奥まで貪っていく。

 そんなことが許される恵まれた身分でありながら、俺の脳裏にはいつかのメイドご奉仕をしてくれた美優の姿がフラッシュバックしていた。

 鉄のスカートでも持ち上げているかのようなあの動きの重さ、憎しみさえ込めて見えるほどの目元の強張りと、俺をゴミのように見下ろす瞳が、俺の陰茎に詰められた綿を石のように堅固なものにしていく。

 

 あれだけアソコを見られるのを嫌がっていた美優はクリトリスと膣ヒダを舐められる快楽にすっかりハマっていて、俺の後頭部に手を回して口が離れないようにしていた。

 そんなことをしなくても俺は美優のアソコを舐めるのをやめないし、なんなら俺の額に手をついて押し返すようにして俺の卑劣な行為を蔑んでほしい。

 そうしてくれたら俺はどれだけ無様でも必死に舌を伸ばして舐め続けるし、そんな俺に腹の底からの「気持ち悪い……!」を投げつけて涙目になりながらイく美優が相手なら、俺は日に十回だって射精することができるのに──。

 

「はあっ……あっ、ヤバっ……出るっ! ごめん美優……もう出そう……!」

 

 妄想が行き過ぎて射精欲が限界を超えてしまった。

 俺は陰茎の根元を握って立ち上がり、グンとせり上がってくる睾丸から精液が送り出されてくるのをギリギリまで耐えるが、射精のスイッチが入ってしまったからにはもう止められない。

 

「ふあっ、えっ!?」

「美優、ほんとごめん……ッ!」

 

 俺は美優に壁際で脚を上げさせて、正面から割り入るように美優の膣穴へとペニスを挿入した。

 咄嗟の無理な体勢だったため浅いところまでしか入れられなかったが、どうにか美優の膣を受け皿にして俺はどくどくと精液を送り込み、床に撒き散らさずに射精を終えることができた。

 陰裂が陰茎で破られて、亀頭だけが入っている状況で、美優は突然のことに呆然としている。

 

「あっ、え……? これ、出てるよね……?」

「ああ。ごめんな。我慢ができなくて」

「もう……」

 

 美優は俺にペニスの先だけをアソコに挿れられてトイレのドアに背中を預けながらムッとしている。

 アソコを舐めているだけで俺が射精してしまったことが、もはや最近では普通になってきていて、そんな俺への諦観がかつての美優を呼び起こしたのか、自分の体の内部が精液を飛び散らせないようにするためだけに使われたことに美優はちょっぴり怖い顔で俺を睨んできた。

 

「妹の膣をティッシュの代わりにするのはどうかと思うのですが」

 

 美優の氷柱で刺すような声に、俺はまた美優の膣内でドクッと精液を一発漏らしてしまった。

 それを膣から感じ取った美優はクールな表情を保ちながらも顔を逸らし、なんだかんだと精液処理のために体を使ってもらえたことが嬉しかったようで、手の甲で口元のニヤけを隠すその奥には照れ恥ずかしそうな頬の赤みがあった。

 

 結局のところ、俺は妹とセックスをしてなお、妹をオカズにしてセックスをしていたのだ。

 もはや自分でも何を言っているのかわからないほど哲学的にまで至ったこの性癖は、しかし射精をするためには向き合わなければならない問題だった。

 

 俺がペニスを引き抜こうとすると、浅いところで射精したからほとんどの精液が床に垂れてしまうと美優が待ったをかけてきた。

 こうなっては美優のぴっちりしたスジマンも堰き止める役割を果たさない。

 

 だが、お互いにアンバランスな格好にあることに加え、手の届く範囲に代わりとなる受け皿はなかった。

 ということで、俺は美優の体を抱き上げて、美優には俺の上半身に抱きついてもらった。

 

「わあっ、あっ、んっ……、これは、ちょっと……!」

 

 正直、無理だと思っていた。

 しかし、美優や山本さんとのセックス三昧で鍛え上げられたこの体幹は、五十キロそこそこの女の子であれば持ち上げられてしまうようになっていたらしい。

 

「んあっ、あっ……待って、これ……ふあっ、あっ……お、奥まで入っちゃう……!」

 

 俺に抱きかかえられた美優は、上向きに挿入されたままのペニスを、自重によって膣の深くまで咥え込んでいく。

 それが俺の興奮にも繋がって、美優がやや抵抗を示しているのが逆に俺の性欲に火をつけてしまっていた。

 俺は美優の体を上下に揺すり、必死になって俺の腰に足を絡ませてしがみついている美優に、膣奥への刺激を与えていった。

 

 俺は美優を持ち上げる勢いを前方への推進力として、美優の体重による振り子の力で風呂場に進みながら歩行とピストンを同時に行っていく。

 浴室の中に移動し終わる頃には美優の膣から溢れた愛液と精液で俺の下半身はびしょ濡れになっていて、床を汚さないためのこの行為に、性的な気持ちよさ以外の意味があったのかと言われるとそれはわからない。

 でもとにかくこの新鮮なスタイルと美優の恥じらう姿が俺の勃起を堅持させていて、再び射精をする以外には収まりがつきそうになかった。

 

「これっ、ん、ああっ……あっ、あっ……これ、AVみたいで、イヤっ……! だめえっ、恥ずかしいっ……もう……っ……んんっ、ああぅああぁ……ッ!」

「美優っ……めちゃくちゃ気持ちいい……! ものすごくムラムラしてるから、落ち着くまで出させてくれ……!」

「ひあっ、あっ、んっ……何回出すの、もう、だめっ、あっ、イクっ……イクイクイクぅ……ひぎゅうっ──!!」

 

 美優は強引なセックスにイって、それでも俺は美優の体を持ち上げ続けた。

 女の子を抱えての挿入は、下手をすれば陰茎を骨折する可能性すらあるとは聞いていたが、それでも俺はこの情欲を止めることができなかった。

 

「美優、美優っ……!! またイクよっ……膣内に精液出すからな……!!」

 

 最後に美優を持ち上げて下ろしてのタイミングに腰の突き出しを合わせ、美優の子宮口にペニスをねじ込んで射精した。

 美優は声にならない喉奥からの音を漏らし、気を失いそうになりながら失禁するみたいに潮吹きして、俺に床に下ろされると精液と愛液を割れ目から垂らしながら脚をガクつかせていた。

 

 そんな美優がいつになく可愛かった。

 俺の性欲がおかしくなっている。

 二回も射精したのに陰茎は硬さをちっとも失っていない。

 

「美優。そこの壁に手をついてお尻を向けてくれ」

「も、もう無理……待って、ほんとに子宮壊れちゃう……!」

「大丈夫だから。今どうしようもなく美優とセックスしたいんだ。頼む」

 

 俺がお願いの体裁だけを取り繕って無理やり美優を反対向きに膝立ちさせて、従うしかないような流れでバックからペニスを挿入させてもらった。

 

 美優に息を整えさせる時間をとることもなく、俺は美優の腰を掴んで背中を反るようにペニスを突き出して膣に竿の根元までねじ込んだ。

 パンパンと下腹部と臀部がぶつかる音と合わせ、浴室には美優の声がよく響いて、これがもっと遅い時間であれば夕食を作っているお隣さんにも聞こえていたかもしれない。

 そんな悲鳴にも近い喘ぎ声を出しながら、美優はイキっぱなしで俺の陰茎の打ち付けを受け続けた。

 

 手をついた真正面には、お風呂の鏡がある。

 美優はそれが視界に入りそうになるたびに首を強く横に振っていた。

 エプロンの紐を結ぶことで作られた乳袋が、俺が腰を打ちつけるたびに前後に揺れている。

 お尻を突き出したこの体勢ではなおのこと丈の短いスカートがその意味をなしておらず、めくる必要もなくお尻の丸みも竿に広げられた膣穴も丸見えだった。

 

 卑猥としか形容しようのない妹の姿に、俺は興奮するし、美優も視界の端に映る自身の姿に興味を引かれて体位を崩せずにいた。

 美優の体力を考えればとっくにイキ果てているはずなのに、バックで兄にハメられている自分の姿が好きでやめたくないというただそれだけの理由で壁に手を突いている。

 

「美優っ……また出るぞ……射精するからなっ……!」

 

 俺が美優の背中に覆いかぶさって腰を振って、美優は返事をすることもできずに俺の獣のような腰振りに絶叫しながら中出しをされた。

 俺のピストンが止まると美優はペタンと座り込んで、後ろから見えるわずかに浮き上がったその割れ目から、おびただしい量の体液を風呂場の床に垂れ流しにしている。

 

「はぁ、はぁ……っ、美優……」

 

 俺が美優に呼びかけると、美優は震える腕と足でどうにかこちらを向いてくれた。

 そして、それから泣きそうなぐらいの涙目になった。

 俺の陰茎はまだ隆々と青筋を立てていたのだ。

 

 自分でもなぜこれほど興奮しているのかはわからなかった。

 妹とのイチャ甘な生活を望んでいたはずの俺は、妹に罵倒されるか妹をイキ果てさせなければ真なる興奮には至れなくなっていた。

 拗れる、という言葉は、こういった事象を指すものなのかもしれない。

 

 イキっぱなしで精液まみれの美優を前に、三回も連続で射精したはずの俺のペニスはまだ勃起している。

 しかし、もうこれ以上は美優に負担をかけてもツラい思いをさせるだけだと俺の本能のデキた兄としての別側面が悟っていて、残った性欲は美優のおっぱいを勝手に使って処理させてもらうことにした。

 

 そのお願いを聞いた美優は膝を突く位置を三点で上手く支えるように調整してから、エプロンごとTシャツを持ち上げて谷間に陰茎を挟んだ。

 精液の粘性で、下からすっぽりと、容易く入ってしまった。

 

 美優の巨乳が下着に締め付けられて俺のペニスを力強く包んでいる。

 ミニスカとたくし上げられたエプロンしか身につけていない美優はほとんど裸に近いのに、その少ない布による境界線があるだけで、美優のおへそやふとももの存在がより強調されて俺の性欲を増幅させる強烈な視覚効果として役立っていた。

 

 尻に代わって美優の下乳に腰を打ち付けて、俺は懸命に腰を振って射精をするための刺激をイチモツに与えた。

 美優は後ろに倒れそうになる体を腹筋の力でどうにか支えて、俺の腰が乳にぶつかるたびに美優のウエストが締まるのがまたエロかった。

 もうセックスをしている最中の美優の筋肉の動きを見るだけで興奮してしまう。

 限界まで力を使い果たしたふとももはピクピクと痙攣しているし、俺を早く射精させたいからと乳を左右から挟んで圧迫する二の腕は閉じられた肘によってその肉が盛り上がって、普段は見られない脂肪の揺れが現れている。

 

「うっ……ううっ……美優っ……!!」

 

 俺が射精しそうになってゴクリと嚥下される喉も、陰茎を一心に見つめる瞳の向きも、ピストンのたびに揺れる腰元の毛先も前髪も、美優のあらゆる部位に興奮する。

 なにより自分の体をオモチャみたいにして射精のために使われている現状を受け入れてくれているという事実が、俺に最大限の肉棒の膨張をもたらしていた。

 

「出るっ……うううっ……で、出るうぅっ……!!」

 

 それは発射するというより絞り出すような感覚に近かった。

 美優の乳の中に生クリームを注入するように、びゅるびゅると白濁液が注ぎ込まれていって、谷間から染み出してきた精液が乳房の曲線によって前方に流れ出してエプロンにシミをつけていった。

 

「お兄ちゃんってば……こんなに妹の体を汚して……」

 

 美優が肘を広げると、Tシャツの間からドボドボと精液が垂れ落ちてきて、今度は美優の両ふとももの溝に体液溜まりができあがった。

 それを見て、美優は上に着ていた服を脱いで脱衣所に放り投げてから、ふとももの隙間に手を突っ込んで掬えるだけの精液を飲んだ。

 指と指の間に入った精液も丹念に舐めとって、精子の一匹も逃さないようなしゃぶり尽くしに引き抜かれた指先が艶かしかった。

 

 その後に微妙な沈黙が流れた俺たちは、湯船にお湯が溜まるまでの時間をさらに無言で過ごして、それから仲良く二人でお風呂に入ることにした。

 順番に体を洗っていつもの前後の位置で一緒に風呂に入り、美優は体育座りをして水面を覗き込んでいる。

 

「どうかしたのか?」

「んっ……いや……その……」

 

 美優はお湯の熱さとは違う頬の赤みを残したままだった。

 エッチが終わった後からどうにも美優がよそよそしいというか、気まずそうにしている。

 

「お兄ちゃんのすごかったなって……」

 

 下を向いたままポツリと呟いた。

 デレデレな状態はまだ続いていて、俺とのエッチが気持ちよかったことに間違いはなかったようだった。

 だというのに、このところは一緒にお風呂に入ればいくらでも胸を揉ませてくれるしアソコも見せてくれていた美優は、膝をぴったりと閉じて体を丸くして恥ずかしいところを見えないようにしている。

 

「美優?」

 

 俺が声をかけても美優は半ば心ここにあらずで。

 その理由が判明したのが寝る前のこと。

 パジャマに着替えて寝る支度ができたので、まだ少し早い時間ではあったが、最近の尋常ではない射精量に疲れて寝ることにした。

 

「お兄ちゃん。寝る前にチューしてって言ったら怒る?」

 

 布団に入って密着状態だった美優が、再び顔を赤らめて訊いてきた。

 俺が美優からキスをせがまれて怒るはずなどありえようはずもないのに、どうしてそんなことを尋ねたのかと不思議に思いながらも、美優のご要望のとおりにキスをした。

 

 寝る前なので、唇を触れさせるぐらいのキスを、数回だけ繰り返した。

 美優は「えへへ」と口角を緩ませて喜んでくれていて、しかし、それが満足だったのかと言われるとそうでもなかったようで。

 

「ベロでチューしたい……」

 

 美優はチロと舌を出してその続きをねだってくる。

 それも恋人らしいイチャイチャだと思ったし、何よりデレ顔で甘えてくる美優が可愛くて俺が我慢ならなかったから、美優のご要望どおりに俺は舌を絡めるキスをしてあげることにした。

 舌先で舐め合う感触の確かめ合いから始まったそれは、やがて互いの舌にしゃぶりつくものに変わって、唇を波打たせながら鼻から抜く息に喘ぎを含ませて、何分もずっとそうしていた。

 

 それが原因だったわけではない。

 もっと早くに気づくべきだった。

 その言葉をはっきりと口にされるまで、俺はむしろどうして気づかなかったのかと今更ながらに思った。

 

「寝る前に一回だけ、シちゃだめ?」

 

 俺の胸に手を置いて、ピトッとくっついてきた美優が上目でそう尋ねてきた。

 

「うえっ……えっ!?」

 

 セックスのお誘いをされているのだ。

 大量射精を四連発もしたその日の晩だというのに。

 美優だって体力はもう残っていないはずで、それなのにエッチがしたいとせがまずにはいられないほど、子宮は性感を求めて疼いているらしい。

 理由はほかでもなく俺とセックスしている姿を鏡を使って美優自身に見せつけてしまったからで、あれは俺が想像していたよりもずっと強力に美優の性欲を煽るようだった。

 

「美優、実はだな。俺、最近はセックスをしてないときでも、脈がちょっと激しめになってて……」

「うん。だから、一回だけ」

 

 美優はただセックスがしたい一心で俺を見つめてくる。

 それ以外のことは二の次のようだった。

 

「でもほら、たぶん今したらそのまま寝ちゃうだろうし。もう何日も中出しして寝てるから、美優だってニオイがするのは嫌だからお風呂前だけにするって言ってただろ」

「だからゴムつけてしよ」

 

 どうあってもセックスをしないと美優の性欲は収まらないようだった。

 ともなればどうするか。

 もちろんセックスをするしかない。

 俺の体、ひいてはオスとしての生殖機能は美優のためにあるのだから、美優がセックスをしたいと言ったのであればいかなる状況であれしなければならない。

 

 ひと月かそこらぶりのコンドームの箱を引き出しから取ってきて、美優がフェラで勃たせてくれたペニスに被せると、ゴムの締め付けがやたらとキツく感じられた。

 消費期限が一ヶ月もないとは考えられないし、もうサイズが合わないのかもしれない。

 

「やっぱりゴムつけるとこれからエッチするんだって感じがしてドキドキするね。私が勝手に動くから、お兄ちゃんは休んでていいからね」

 

 美優はそんな優しさを見せてくれて、ズブッと腰を落としてセックスを開始した。

 俺は陰茎を硬くさえしていればいい。

 あの射精回数の後で、一般的な人からしたら何よりそれが困難なのであろうが、俺はこの体質なのでできてしまうのだ。

 そして、性器を膣で擦られたら、どうしたって快感は覚えてしまうもので。

 

「うっ……ふぅっ、うっ、ぐっ……!」

 

 美優の膣が被さって、竿が引き抜かれ、それを繰り返すたびに体は反応してしまう。

 わずかながらではあるが、しかし確実に体はビクついていて、そうして我慢しているのが美優にとってはむしろエッチな気分を煽るようだった。

 

「お兄ちゃん、感じてるの可愛い。射精したいときにしていいからね」

 

 腰のストロークこそ大きかったが、美優の動きも激しくはなかった。

 美優自身の筋力も限界だというのもあるだろうが、美優にとってセックスとは俺の肉棒と繋がって子宮が刺激されていることが大事なので、それ以外の刺激はむしろ膣内の感度を下げるから邪魔なのだ。

 

「うっ、ううっ…………美優っ……!!」

 

 そして、俺はそんな美優に一方的に騎乗位で絞られて、ベッドで仰向けになったまま行為の後には汚れを拭き取る余裕すらなく寝落ちしてしまったのだった。

 

 その翌日。

 

 俺はもう何度目かの金縛りにあっていた。

 

 体が動かない。

 筋肉的な疲労もあるだろうが、それだけではなかった。

 動く意志力が失われているのだ。

 精力が美優に吸い尽くされて、俺は吸血鬼に血を抜き取られたゾンビのように天井を見つめているだけだった。

 

「お兄ちゃん、おはよう」

 

 美優が俺の顔を覗き込んで挨拶をしてきた。

 美優のほうはツヤっつやだった。

 髪の毛が三割増しで照明を反射している。

 肌艶がよすぎてもう洗顔まで済ませてきたのかと思った。

 

「んふふ。昨日もいっぱいしちゃったね」

 

 美優は寝起きからデレデレで俺の腕に頬ずりしてくる。

 もう最近は美優とエッチをしている記憶しか残っていない。

 もはやカレンダーの予定なんてあってないようなもので、日に四回以上も抜かれることになるとは思わなかった。

 

「ゴムつきでするのもいいよね。どれだけ出してもらったのかわかりやすいし」

 

 ベッドボードに視線をやっていた美優は、体を起こしてそこに手を伸ばし、使用済みのコンドームを手に取った。

 そこには精液が溜まって口が縛られているコンドームが二つあった。

 

「あ、あれ……? なんで、もう一個あるんだ……?」

「ん? 覚えてないの? あのあともう一回したんだよ? ゴムがちょうどなくなるからって」

 

 どうやら俺はあの状況で更に美優に搾り取られていたらしい。

 しかも、ゴムがちょうどなくなるから二回したとか、じゃあ三つ残っていたらどうなっていたんだという話だ。

 どうりでここまで体が動かなくなるわけだな。

 

「じゃあ朝一番の搾りたて、頂いちゃうね」

「えっ……お、おいおい、待て! 待て美優……! あっ、ああっ……!」

 

 ある意味でカレンダーの予定通りの寝起きフェラに、抵抗しようと思っても体は動かず、俺はこの精液大好き妹にせっかく一晩寝て回復した分の精液を抜き取られることになった。

 

「あっ……あっ、あっ、あっ……」

 

 全身を張り巡らされている血管の、その末端から生命力のようなものが吸い寄せられていって、下腹部の一点に集約されていく。

 きっとエロゲをやりすぎた俺の脳がそのイメージを実感として俺に与えているだけなのだろうが、リアルすぎるほどに寿命を削って射精している感覚があった。

 

「ん~……ぢゅるるるっ……ちゅっ、ぢゅるっ……」

「ああああっ、ああぅあああっ……!!」

 

 射精を渇望している美優にフェラチオをされて我慢をするのは不可能で、俺は命をすり減らしながらも美優の口に精液を吐き出してしまうのだった。

 

 もう一歩も動ける気がしない。

 今日は学校を休もう。

 日中も睡眠に費やせば、またしばらくの精力は確保することができる。

 

「お兄ちゃん、起きないの?」

「起きないんじゃなくて起きられないんだよ美優。俺のことは気にせずに支度をしてくれ。今日は学校を休もうと思う」

「えっ、そうなの」

 

 美優は俺の発言に目を輝かせてお腹に乗っかってきた。

 

「じゃあ私も休もうかな」

「起きる!! 起きるよ!! 実は起きれるから!!」

 

 脊髄反射で体を起こした。

 その後もなんとか歩くことはできたが、脳が動けと命令してから常に一秒ぐらいの遅延を伴っている感覚だった。

 いま制服に着替えないと学校にいく気が失われそうだったので、俺は制服に着替えてネクタイまでを締め上げた。

 美優はまだパジャマでデレデレしている。

 可愛い妹め。

 

「美優は俺のこと好きすぎるな」

「大好きなお兄ちゃんですから」

「可愛い妹に愛されて俺も幸せだよ。美優のためならこの命も惜しくない」

「えへへ。ほんとは一秒だって離れたくないけど、妹は学校だから仕方なく別々の時間を過ごすことにしているのです」

 

 着替え終わった俺を見て俺が学校に行くことを確信した美優は、ニコッと笑顔を一つ残して俺の部屋を出ていった。

 

 そうした日々が常態化した。

 俺と美優は顔を合わせれば欲情して、あるいはイチャイチャと何十分ものキスに及んで、俺が一日に射精する回数が三回を下回ることは一度もなかった。

 世界中のどんなカップルよりもラブラブしている自信を持てるほどの日々に、しかし俺の体は着実に何かを失いつつあった。

 

 ほぼ無意識に寝落ちして、無意識に登校して、知らないうちに授業が終わって休み時間になっていたりする。

 日中はほとんど気絶したように授業を受けていた俺は、昼食休憩となる昼休みの時間に、ペンを指に挟んだまま頭をふらふらさせて席に座っていた。

 視界が二割ほど狭まっていて、黒色の領域が多くなっている。

 おそらくはこの暗闇の世界へとシャットアウトされたとき、俺の命の火も燃え尽きるのだろう。

 テクノブレイクというものだ。

 

「ソトミチくん、大丈夫?」

 

 学校で久しぶりに聞いた山本さんの声。

 心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。

 俺と山本さんが仲良くなったことはクラスのみんなは知っているので、今となっては他人を装う必要はないのだが、どうしてだかこの頃の山本さんは忙しそうというか、放課後もすぐに帰ってしまうことが多かった。

 

「目の下のクマすごいよ? クレヨンでメイクしたみたい」

「ああ……だ、大丈夫……ではないかもしれない……」

 

 家に着くとつい美優が可愛くてイチャイチャしてしまい、こんな状況にあっても俺から手を出すことがあったりもしたので、そろそろクールダウンをするべく美優と今後の過ごし方を話し合わなければならない。

 親公認となったお祝いとしてのイチャラブセックス期間は、それで一区切りだ。

 

「あなたがぼーっとしているのは構わないのだけれどね。今日が期限だから、さっさと回答してくれない?」

 

 山本さんの陽だまりのような柔らかな声とは対照的に、疲弊した脳を追い打ちで突き刺すような鋭い声の持ち主である川藤奈々子が、珍しく俺の席に近づいてきた。

 

「え……期限って、なんだっけ?」

「バカにしてるの? グループチャットで何度もリマインドしてるでしょ。修学旅行の自由時間、どこを回るか候補を出し合うことになっていたわよね」

 

 山本さんを押しのけて俺の眼前に立ちふさがった強面少女。

 その圧に頭のモヤが吹き飛んで、ようやく思考回路が稼働し始める。

 

「……修学旅行?」

 

 急な話に、血の気が引いた。

 いや、急な話ではかった。

 ずっと学校で話し合われていたことなのに。

 

「い、いつ!? 何泊だっけ!?」

「来週。三泊四日。プリントも配られたでしょう。奏といい、何が忙しいのか知らないけれど、やることはやってもらわないと困るの」

 

 川藤に叱られて、それでも俺はもうそんなどころではなかった。

 

 来週からの修学旅行。

 それも四日間も家からいなくなる。

 

(修学旅行…………共有カレンダーに、予定を入れてない……)

 

 指から力が抜けて。

 

 教室の床にペンが転がった。

 

 



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射精警察

 

「お兄ちゃん……私はお兄ちゃんが居なくなったらどうやって生きていけばいいの……」

 

 火曜日の早朝から啜り泣きが部屋中の壁に染みついていた。

 支度を済ませて制服姿で鞄を肩にかけている俺のブレザーをパジャマ姿の美優が引っ張って、まるで今生の別のように泣きすがっている。

 修学旅行先までは新幹線での移動で、その発着駅まではバスで向かうためいつもより早く学校に着かなければならない。

 

「何度も話し合っただろ? 四日間だけ我慢したら、また土日にデートでもできるから」

「それはそうだけど……」

 

 先週まで修学旅行の話をしていなかった俺は、すっかりお兄ちゃん好き好きモードになってしまっていた美優を、それでも説得したつもりでいた。

 だが、いざ本当に会えなくなるとなると美優も堪えていたものを抑えきれなくなったようで、子犬のような瞳で俺を見つめて学校に行かせまいと服を掴んで放してくれない。

 

 妹が相手なのでもちろん無理矢理に引き剥がすことなど考えてはいないのだが、実のところ今の俺には美優の腕力にさえ勝てるかどうかもわからなくなっていた。

 せっかくセックスの経験を重ねて分厚くなった筋肉の張りは、美優のヤクザ的な精液の取り立てによって多量のタンパク質を失い、ついには運動量と反比例するように細まっていた。

 このままいけばせっかく筋トレで鍛えた腕も枯れ枝のようになってしまいそうで、修学旅行の都合で離れる期間も俺の肉体のためには必要な休養だったのかもしれない。

 

 そんな状況になっても、美優と離れるのは寂しいんだけどな。

 四日も溜まればこれだけした後でも俺も美優も性欲はフルリミットだろうし、帰ってからの美優がどれほど恐ろしい淫魔に化けているのか。

 それは考えないようにしておこう。

 

「そろそろ行かないと」

 

 俺もギリギリまで美優とエッチをしていたかった。

 というより、実際のところ寝起きのフェラではきっちり精液を搾り取られていて、それがこれまでの回数からしたらものの数に入らなかったというだけのこと。

 

 俺が美優と手を重ねて諌めると、美優も観念して大人しくなった。

 

「夜には通話してね」

「もちろん。二人部屋だから、鈴原のやつにはどうにか都合をつけてもらうよ」

 

 あいつは美優に恩もあるから、話せば融通してくれるだろう。

 この頃は女に熱を入れているし、修学旅行中にはそもそも部屋にいない可能性もある。

 俺と同じで夏前まで童貞のオタクだったはずのあいつが夏休みの女遊びであそこまで変わってしまうとはな。

 雰囲気がそうさせるのか経験を積むほどに顔つきも男前になっていて、もはや昔の外見すら思い出すことができない。

 

「それじゃあ行ってくる。また四日後にな」

 

 俺は下手に後ろ髪を引かれることがないように家を後にした。

 美優も通話でも話せると思うと寂しさも軽減されたのか、最後には手を振って俺を見送ってくれた。

 

 学校に着くと、校庭にはすでに複数台のバスが停車していて、第二学年の生徒たちがその横のスペースに続々と集まってきていた。

 俺たちのグループは男子組と小野崎だけがクラスの列に並んでいて、山本さんと川藤の姿はまだない。

 出発までそれほど時間が余っているわけでもないんだけどな。

 

「二人はまだ来てないの?」

 

 俺が声をかけて反応したのは高波と小野崎で、鈴原は眠たい目を擦っているだけだった。

 朝に弱いのは知っているが、それにしたってダルそうというか、俺ほどではないにしても目の下のクマが色濃い。

 

「てっきりソトミチと来るもんだと思ってたけどちげーの?」

「なんで俺があの二人と」

「川藤はともかく、山本さんとは仲がいいんだろ? 最近忙しそうにしてるのにも関係してるんだと思ってたけど」

「山本さんが放課後に何をしてるのかは知らないよ。むしろ教えてほしいぐらいだ」

「仲良しなのかよくわからん関係だな。……っと、噂をすれば! やっぱマブいぜ山本さんはよぉ!」

 

 高波は相変わらずむさ苦しいぐらいの元気さで、山本さんの姿を見てすぐに駆け出して行った。

 隣には川藤も歩いている。

 二人とも背が高い上に、ロングとボブの長短ヘアのコンビなので、並んでいると見つけやすい。

 

 そんな姿を眺めていた俺の横から、今度は小野崎が声をかけてきた。

 

「ソトミチくんは大丈夫なの?」

「大丈夫って、何がだ?」

「ものすごくゲッソリしてるから……」

「ああ、これなら心配ないよ。修学旅行中には回復するから」

「へ、へぇ……」

 

 小野崎は苦笑いでとりあえずの納得をして、山本さんたちと合流しに行った。

 俺もヤツれているのはわかっているのだが、この状態が定常化しているので自覚も薄れている。

 あのサキュバスから精力を吸われなくなれば体もすぐに元に戻るだろう。

 翻って美優はといえば俺の精液を飲みまくったおかげか山本さんに負けないぐらいにツヤっツヤのムチムチになっていて、あの身長にして一時的にはバストが百センチを超えてたときもあったと思う。

 いや絶対にあった。

 最後にしてもらったパイズリが気持ち良すぎて美優の乳に挟まれたまま何度射精したか覚えていない。

 俺も美優もそういう体質をしている。

 

「で、鈴原はなんで眠たそうなんだ?」

「それが……夜遅くまで起きててな……ゲームしたり通話したり……」

「今日が修学旅行なのはわかってたんだから自重しとけって」

「ハルマキちゃんに付き合えって言われたら断れないんだよ」

「あ? なんで?」

 

 俺が質問しても、眠いのか決まりが悪いのか鈴原は答えない。

 鈴原のやつも俺と似たような境遇になっているのだろうか。

 だとしたらシンパシーを感じるよ。

 どんな状況なのか夜にでも聞かせてもらおう。

 

 修学旅行の行き先は初日が軽い観光とホテル会場内でのレクリエーション、二日目が文化的施設巡り、三日目が自由行動で、最終日にハイキング程度の自然体験をして家へと帰ることになる。

 バスの中ではさすがに男女それぞれで固まるかと思いきや、例によって第一グループが班ごとでまとまった座席となるように担任に願い出たため、ここでも俺たちは班員でペアを組むことになった。

 

 ともなると俺の隣は山本さんか、あるいは山本さんの隣は川藤が座るからやはり鈴原かと考えていたら、なんということか一番ないと思っていた川藤が俺の隣に座ることになった。

 高波と小野崎が残りのペアで、山本さんは鈴原と座っている。

 そして二人して早くも就寝モードだった。

 

 これだけバス内が騒がしいのによく眠っていられるものだ。

 鈴原はハルマキさんとの通話が夜明けまで続いたせいで寝不足だと言っていたが、山本さんは何が理由であんなに疲れているのかな。

 このところは放課後も忙しない感じだし、俺と同じで修学旅行での期間が休養になるといいのだが。

 

「……っても、川藤が山本さんと隣で良かったんじゃないか? わざわざ寝る二人を固めなくても」

「そうね。でもあなたとも話がしてみたかったから。奏と鈴原に私からお願いしたの」

 

 なんだと。

 あの男をミジンコ程度にしか思っていない氷の女王が自ら俺の隣を望んだなんて。

 モテ期なんだろうか。

 

「そんな妙な呼び方をされた覚えはないし、私にも彼氏ぐらいいたことあるから。付き合う人間を選んでるだけ」

「普段からもっと冗談とか言ってくれると話しやすいんだけどな」

「そうね。善処するわ」

 

 川藤は切り揃えた毛先を軽くさらってから手癖のように耳を触った。

 この近さだと耳たぶのピアスの穴まで見える。

 外だとやんちゃしてたりするのかな。

 意外と話しやすそうな人でよかった。

 

「で、俺と話したかったって、またなんで?」

 

 川藤にはモテない男の代表みたいな評価をつけられてたはずなんだけどな。

 

「直接あなたに興味を持ったわけではなくて。奏があれだけ入れ込んでた男がどんな人間か知りたかっただけ」

 

 川藤は山本さんが俺に興味と仲良くしてくれていたことを早くから知っている。

 しかしそれは、誰にでも優しい山本さんが、その辺の男たちに手を差し伸べる範囲の姿でしかなかったはずだが。

 

「……どこまで聞いたの?」

「それほど詳しくは。あなたに恋をしてフラれたとか。信じられない話をされて聞き流してた程度ね」

 

 そりゃ信じられないだろうな。

 未だに自分でも信じられない。

 

「山本さんはまだ引きずってたりするのかな? 今日もやたらと疲れてるみたいだし、無理なことをしてないといいけど」

「それについては安心して。毎日楽しそうにしてるから、きっといい変化よ。というよりあなたも知らないの? なんで奏が忙しいのか」

「し、知らない……」

 

 聞こうと思えば聞ける機会はあったのかもしれない。

 ここしばらく意識が朦朧としていてそんなどころではなかっただけで。

 

「あなたにも話してないなら理由があるのでしょうね。なんにしても、しょうもない躓きで人生丸ごと惰性で生きてたあの子が元に戻ったみたいだから。私は嬉しいわ」

「そうなのか? それは…よかった」

 

 修学旅行中に山本さんと話せる機会ぐらいはあるだろう。

 思い悩んでいないのならいいんだ。

 山本さんは笑顔が何より似合う人だから。

 元気でいてくれればいい。

 

「ところで」

 

 川藤は話を一区切りして、ようやく俺の顔を正面から見た。

 美人慣れしてしまった俺でもキレイだと思うほどスッとした切れ長の目と鼻筋がとても美しい。

 

「あなたはどうしてそんなにヤツれているの?」

 

 またそれか。

 妹に精液を絞られすぎたせいだよ。

 

「そこまで酷いかな?」

「ええまあ。ゾンビみたいで気色が悪いというか。奏のことがなかったら絶対に話しかけてなかったぐらい不細工だわ」

 

 川藤の毒舌を考慮すると少々過剰なフレーバーが加えられているとして、これだけ言われるのだから事実そうなのだろう。

 美優と通話しているうちに寝落ちしてしまうかもしれない。

 

「疲れているのなら寝る? 私は構わないけど」

「逆にもう少し話したいって言ったら迷惑じゃないかな?」

「それは……意外ね。私が隣を望んだのだし、迷惑なことはないわ」

 

 いつかの美優のようにドライなだけだと思っていた川藤は、こっそりと俺にだけ見せるように口角を上げて微笑んだ。

 

「思ってたよりあなたと話すのは嫌ではないみたい」

 

 目を合わせながらのひとことに、不本意ながらもときめいてしまった。

 このギャップにはやられてしまうな。

 女性経験がないままだったらどうなっていたことか。

 その頃の俺だったら話しかけてもらえてすらいないか。

 

 と、川藤に不思議な親しみやすさを覚える時間は穏やかに過ぎ去り、バスがサービスエリアを経由することもなく新幹線の発着駅にまで辿り着いた。

 今度は修学旅行用に開かれた改札ゲートを通ってホームに整列することになっていて、なんということかそのときまで俺と川藤との会話は続いていたのである。

 俺と川藤のどちら側にその要因があったのかはわからないが、ともかく二人で並び歩いたままお喋りをしていて、クラスごとの整列のために担任の近くて立ち止まったところで、川藤の並な胸の膨らみをガバッと鷲掴みにする影が近づいてきた。

 

「奈々子ぉ~!」

「ひあっ……らんっ……ちょっと……!」

 

 俺との会話で油断しきっていたのか、胸を弄られた川藤はかつて誰にも聞かせたことがないだろう声を出して、周囲の注目は一点に川藤へと集められた。

 背後からやってきたその不埒者である親友に、川藤は肘鉄を食らわせてから真っ赤な顔を短い髪で隠した。

 

「奏……なんなの、まったく」

「だって奈々子がソトミチくんと楽しそうに話してるんだもん」

「悪いの? 班員との交友を深めちゃ」

「奈々子がそれを言うのはズルいじゃん。モテない男とお喋りするのがどうとか言ってたくせに」

「それはそうだけど」

 

 切れ長な目を横に流して、バツが悪そうな顔をする川藤。

 彼女としても日頃から人を敵視するきらいがあることを自覚しているのだろう。

 

「なによ。嫉妬?」

「嫉妬。決まってるでしょ。知ってるくせに」

 

 皮肉として投げた言葉を微塵の照れもなくストレートに返されて、ついには反駁する言葉も失った川藤は俺の隣を山本さんと代わった。

 まあ、川藤は俺と夏休みを過ごしたことで変わった山本さんに興味があっただけで、元々は俺と喋りたかったわけではないからな。

 

 新幹線での座席は山本さんが俺の隣に座ることになった。

 といっても、俺は三人席の窓側で、真ん中に山本さん、その隣に川藤という並びである。

 新幹線のシートの都合上、六人で一班を維持するには三人席を二つ使うか二人席を三つ使うしかない。

 

「山本さんは変わりないみたいだね」

 

 バスで睡眠を取ってはいたが、疲れている様子でもない。

 今にもブラウスのボタンを弾き飛ばしてしまいそうな豊満なバストはこれまで以上の張りを見せているし、俺に対する態度も休み明けと違いがなかった。

 

「変わりないって?」

「ほら、最近は忙しそうだったから」

「ああ、そのことね。二人きりになったら教えてあげる」

 

 山本さんはウインクを飛ばしてニコッと笑顔を見せる。

 

「いまはダメなの?」

「ダメってことはないけど、コンプライアンス上の問題で、ちょっとね。とっておきのサプライズだから楽しみにしてて」

 

 眩しいくらいの満面の笑みを見て、俺は今更になって山本さんの髪ツヤも肌ツヤも以前よりも格段に増して色良くなっていることに気づいた。

 川藤が言っていた通り、今の山本さんはきちんと自分の人生を楽しめているらしい。

 サプライズと言われてしまったら楽しみにしておくしかないな。

 コンプライアンスって表現は気にはなるけど。

 

 それからホテルに着くまでの小観光として、各班順番に地元の城下町と天守閣を回った。

 山本さんが高波や小野崎たちとも仲良くペアの時間を作って班を盛り上げてくれたので、それなりにドライなメンツが揃っていたはずの俺たちのグループはどの班よりも初日を楽しんでいたと思う。

 早めのチェックインをしてからは夕食の前に大会場に集まって、各班の連携を高めるためのクイズ大会や伝言ゲームなんかをやってから、俺たちはそれぞれの部屋に移動した。

 

 三泊する分の大きな荷物はすでに発送済みで、部屋の前には二つのボストンバッグが積まれている。

 同室である鈴原と中に入ると、二人用なのに居室六畳ほどの小さな部屋ではあったが、バストイレ別で水回りがキレイなところは好印象だった。

 

「なあ、ソトミチ」

 

 二つ用意されていたベッドにそれぞれで荷物を開けて、着替えの準備をしながら鈴原が話しかけてきた。

 夕食の後に各部屋で風呂などを済ませて、夜中の九時には消灯となっている。

 もちろんそんな時間に寝る生徒などいるわけもないが。

 

「お前、奏とは……、山本さんとは、どういう関係なんだ?」

「あ? なんでそんな質問を?」

 

 俺が問い返すと、鈴原はやれやれとため息をついた。

 

「どう考えたってお前らの仲の良さは普通じゃないだろ。付き合ってるのか?」

「んー……まあ……そうだな。お前は色々と知ってる身だし、話すべきかもしれないな」

 

 鈴原は山本さんの男性遍歴を知っているし、これだけ勘付いているのであれば隠す必要もない。

 そう判断して、俺はこれまでのことを、事実だけかいつまんで鈴原に話した。

 山本さんと恋をして、何度もセックスしてきたこと。

 結果的に恋人関係には至らなかったこと。

 そして、その理由が、妹の美優にあることも。

 

「じょ、情報量が多すぎる……。話を整理させろ。お前が……仮に山本さんと付き合うための条件をクリアして、親密な間柄になったのなら、まあその事実は信じよう。……で、今付き合ってるのが、あの美優さんだってのは……どういうことなんだ? い、妹だよな?」

 

 鈴原が混乱するのも無理はなかった。

 あのクールな美優しか知らない鈴原からしたら、ましてや実の妹である美優と俺が男女の仲にあるなど、想像すらできない世界だろう。

 妹物のエロゲのやりすぎて頭がおかしくなったのかと言われたが、実に尤もなコメントだと思う。

 

「それがありのままの現状なんだよ。信じてくれとしか言いようがない」

「ソトミチの変わりっぷりを見りゃあ信じることもできるけどよ……でも、そうか。お前も、山本さんも、美優さんも……幸せなんだったらよかったよ」

 

 当然、じゃあいつから童貞じゃなかったのかと聞かれて、オフ会での裏側も話したが、鈴原が怒ることもなかった。

 こいつもこいつで大人になったらしい。

 

「ハルマキさんとはどうなんだ? どうやって付き合うことに?」

「俺も付き合ってるわけじゃないんだ。合コンで上手くいかなかったときとかにムシャクシャするものをぶつけ合ってるだけで」

 

 それでラブホで合流してセックスか。

 夏休みに何度も会っていたとはいえ、まさかの進展の仕方だった。

 芋臭かった友人が知らないうちに信じられない女性経験をして様変わりしていたという感覚は、これまで俺が秘密を打ち明けてきた全員が感じてきたものだろう。

 こんな気分になるものなんだな。

 

「なんとも不健全な関係だな」

「お前が言うな妹に手を出して。……オンゲとかも続けてるから、ヤる以外にもストレス解消のために通話したりゲームしたりしてるんだよ」

 

 ハルマキさんは不満が溜まると鈴原を呼び出してオンラインゲームで吐き捨てるように愚痴るのだという。

 それが今の二人の関係性で、つまるところセフレなのだが、俺も山本さんとは似たような関係なので咎めることもできない。

 

「んでハルマキさん以外とはどうなんだ?」

「デートまではもう余裕でいけるぜ。連絡先を交換して遊びに行くまでのノウハウはマスターしてるって感じだな。お前が女日照りのままだったらハウツー本にして売ってやっても良かったが……。つかメルマガで稼げんじゃねえかな俺?」

「怪しい商売に染まるな」

 

 メガネを上げる癖の代わりに前髪を手でさらうようになった鈴原は、「こういうときの反応をキャラのパラメータとして置き換えてみるとよお……」とかオタク癖が抜けきったのかどうかわからないような話をベラベラと始める。

 元からおしゃべり好きだった鈴原にとっては、山本さんを喜ばせるためにあれこれとネットで調べていたことが今のリアルでの会話のネタになっているそうだ。

 デートまではできてもセックスにまで至ることができないのは、こいつの根底にあるのが女性を喜ばせたいという情熱からくるものだからだろう。

 いずれは大学も中退してホストにでもなるんじゃないだろうか。

 

「お前も変わったな」

「俺自身でも考えられなかったけどな。環境を変えると体が慣れてくるんだよ。まっ、こんな話が大っぴらにできるのもお前ぐらいだが」

 

 俺も鈴原も特殊な女性経験を積んできた熱心な二次元信奉者だったからな。

 一般人からしたら受け入れ難いような話でも平然とすることができるのは、互いに友人でいてよかったと思える部分だった。

 

 夕食にはすき焼きをメインとした和食を堪能して小鉢までカラにしてから、大宴会場を後にして夜の時間に。

 美優との通話がしたいので部屋を空けてくれとお願いしたら鈴原は快諾してくれて、高波を含めた新たな仲間たちと不健全な遊びをするべく旅立った。

 どういうルートかわからんが、他クラスの似たような女子集団と知り合って今夜は会合が催される予定らしい。

 そんな女遊びばかりしてどうするのだという話だが、学生のうちの性経験は貴重なものだろうし俺は悪いとは思わない。

 もはやあいつを陰キャと呼ぶことはできんな。

 そのうち刺されることにならないことを祈っていよう。

 

 風呂と着替えを済ませて、さあいざ美優と通話をしようと思っていたのだが、メッセージを送っても返信どころか既読すらつかなかった。

 こちらの準備はとっくにできているし、あまり遅くなると鈴原が戻ってくるので、通話を直接かけてみるも反応はなく。

 長風呂にでも入っているのかと油断しているところで、ようやく美優からの応答があった。

 

「お兄ちゃん、ごめん、全然気づかなくて……!」

 

 焦った様子で通話をかけてきた美優はビデオを切っていて、スピーカーの奥からはどこか荒い呼吸が聞こえていた。

 これはもしかするともしかするかもしれない。

 

「一人でしてたのか」

「ものすごく真っ最中でした」

「カメラつけてもいい?」

「も、もうちょっとだけ待って」

 

 美優の速い息継ぎの隙間から、衣擦れの音が聞こえてきて、いかがわしい雰囲気がさらに増していく。

 この妹は本当にエロいことしか考えてないな。

 

「お待たせしました」

 

 ようやくビデオ通話に切り替えてくれた美優だったが、俺にオナニーをしていたことを指摘されたからなのか髪も服も乱れたままで、ベッドのシーツはシワまみれの様子が映し出されていた。

 雑に仕舞われてブラの中でもっちりと膨らんだ乳房が溢れそうでエロい。

 

「準備中だってメッセージを返してくれてたら俺も待ったのに」

「それよりお兄ちゃんと早くお話ししたかったもん」

 

 美優はベッドボードにスマホを置いて、それを覗き込むように両手を突いて体の向きを調整してからベッドにペタン座りする。

 手櫛で髪を整える仕草が愛らしい小動物のような妹らしさと、身体の至るところに見える成熟した女としてのアンバランスさが、俺の性癖を刺激して興奮させてくる。

 しばらく射精は必要のない体のはずなのに勃起してしまいそうだった。

 

 一秒でも早くと帰宅してすぐに寝るまでの支度を済ませた美優は、待っているうちにムラムラしてしまって一人エッチに夢中になっていたらしい。

 よく見ると美優がいるのは俺のベッドだった。

 美優の体質を考えれば当然の帰着だったとも言える。

 

「スッキリした後なら落ち着いて話せそうかな」

「イク直前だったから、スッキリはしてないんだけどね」

「そ、そうか。普通に話すのは、できそうか?」

「うん……」

 

 美優はしきりに髪を梳かして曖昧な返事。

 モジモジして顔も赤い。

 俺に目配せするその合図は、どう考えても欲情しているものだった。

 

 とはいえ、じゃあオナニーをしようという流れになれば、俺はまた射精をすることになる。

 無論、通話エッチに興味がないわけではないのだが、せっかく休養と割り切っていたのにそれでは体が休まらない。

 なので、しばらくは今日の活動内容を報告したり、秋の旅行先なんかを話していたのだが、美優が集中して話を聞くことはなく。

 正面を向いてお喋りしてくれていた美優はベッドに仰向けに寝転んで、上げた脚をスリスリと擦り合わせて悶々としながら、ついには仰ぐような視線を俺に注いでそのお願いを口にしてきた。

 

「お兄ちゃん……続きしてもいい……?」

 

 あれだけ連日していたエッチが急になくなって、美優の体も物足りなさに耐えかねるのだろう。

 俺だって今日は射精をする必要はないはずなのに、それが習慣になってしまっているせいで金玉が疼いていた。

 画面越しの妹があまりに色っぽいこともある。

 

「お兄ちゃんも一緒にしよ」

「そ、それは、恥ずかしいな……」

「前は毎日のようにしてたじゃん」

「画面越しだとまた違うんだって」

「そうなの?」

 

 美優は平然と服を脱いでいて、まずはブラジャーまでを外しておっぱいを晒している。

 エロエロモードだとこんなに素直なんだな。

 ……いや、そうか、この妹はカメラ越しに何度もエロい自分の姿を撮って、それを鑑賞しているのか。

 そろそろあの秘密のSDカードの中身を見せてもらいたい。

 

「オカズが欲しいなぁ」

 

 美優は俺にも脱いでほしいとおねだりしてきた。

 せめてオナニーする妹を鑑賞するだけなら、ムラムラはするものの性欲の回復には都合がいいと思っていたのに。

 

 俺の精液を飲むようになってから美優はすっかりオナニーにハマってしまった。

 そのオカズが実の兄であるということへの倫理的な問題意識は、とうの昔に吹き飛んだ。

 その兄である俺はと言えば、妹をオカズにオナニーすることに罪悪感を覚えたことは一度もない。

 

 ひとまずは露出すればよいとのことなので俺は下半身の衣類を膝まで脱ぎ下ろした。

 陰部にカメラを向けると、普段は上からしか見ることのない自分のペニスが別角度からワイプに映って、兄妹でエッチをすることとはまた違った背徳感が身を包む。

 

 勃起はまだ半分で、丸っこくてどんぐりみたいだった形状が、ようやく竿と呼ぶにふさわしくなった程度。

 美優はそんな兄の陰茎を一心に見つめて股座を手でイジっている。

 ときおりグチュッと水泡を潰すような卑猥な音が聞こえて、そのたびに陰茎がピクリと脈打った。

 

「なあ、実はさっきから気になってたんだが」

「んっ……ん……ふう…………なあに……?」

「俺のシャツが置いてあるのはどうしてなんだ?」

「ん……なんでだろうね」

 

 美優はオナニーをしているのとは別の手で、ベッドに脱ぎ捨てられていたシャツを拾い上げた。

 洗濯して置いておいたにしては不自然なシワの寄りがある。

 主に胸部の辺りに。

 

「何に使ってたかは教えてあげません」

 

 教えてもらうまでもないがな。

 

 通話の前にもオナニーをしていて、俺からの着信に応えるために急いで着替えてブラジャーまで雑につけたということは、美優は裸シャツで一人プレイに及んでいたことになる。

 スケスケのシャツに乳首が勃っていたりしたんだろうか。 

 

「お兄ちゃん……なんか、とても猛々しくなっておりますが……」

「興奮と憤りでムラムラしてきた」

 

 美優のオナニーのハマり具合を考えたら、俺と男女の仲になる前から同じようなことをしていた可能性もある。

 いつだかは自分の下着を使うことは許さないとか言っていたくせにいざ自分が興奮する立場になると見境なしだ。

 もうしばらくエッチはしたくなかったはずなのに陰茎がイライラして妹を犯したくなってきた。

 

「お兄ちゃんも擦って」

 

 妹に誘惑されて、ついには俺も止まらなかった。

 陰茎の猛りを見せつけるようにカメラに近づけて、オナニーをする妹をオカズにオナニーをする。

 豊満な乳は左右に流れてもなおパンケーキのように膨らんでいて、新芽のように蕾を出す色良い乳首を見ていると、吸い付きたくてたまらなくなった。

 

「お兄ちゃんの……すごい……っ、ふあ……挿れてもらえないの寂しい……」

「俺も美優に飲ませられなくて悔しいよ……前みたいに美優の口に出したい……!」

 

 カリ張った亀頭に皮を被せて前後に擦って、触れることのできない女体へと発射口を向ける。

 目の前でオナニーをして、精液を飲ませることこそが、俺と美優との始まりのエッチだ。

 それは他のどんなプレイよりも特別で、だからこそ美優の口で受け止めてもらえないことがもどかしい。

 

「んっ……あっ……あっ……。お兄ちゃん……私、さっきまで寸止めだったから……もうイッちゃう……」

「み、美優……俺も出るかも……!」

「はぁ、はあっ……んんっ……」

 

 美優の体がビクンと跳ねて、快感にとろけてしまいそうな顔に、俺の興奮も高まっていった。

 しかし、その表情は数秒の遅れを伴って冷静なものになってしまったのである。

 

「ん。お兄ちゃんはイッちゃダメ」

「え、え……? 美優が一緒にしよって言ったんだろ?」

「それは一緒に気持ちよくなりたいってことだもん。射精したら精液が出ちゃうでしょ」

「射精ってのは精液を出すことなんだから、当然だろ」

 

 まさかこの妹はオナニーに誘っておきながら自分で処理できないのは嫌だから出させないとでも言うつもりか。

 たしかに休息期間にするつもりではあったが、寸止めされるとなるとまた話は別になる。

 

「とにかくお兄ちゃんは射精しちゃダメ」

「美優は?」

「私は女の子だからいいの」

 

 美優は俺のオナニーを止めておきながら、またグチュグチュとアソコをいじって、「はぁっ、はぁっ……」と息を荒くしていく。

 そんな淫らな姿を兄に見せつけておきながら射精は許さないなんて横暴が過ぎる。

 

「んあっ……ふぁ、あっ……い、イッちゃう……んっ……!」

「こ、こら、待て美優。ズルいぞ……そんな気持ちよさそうに……!」

「んんっ……はぁ……だって気持ちいいんだもん……お兄ちゃんに見られてるの恥ずかしいけど……っ、あっ、あっ……もうだめっ……ああっ……」

 

 そうしてついに、美優は体をビクビクと痙攣させて、溜まりに溜めた性欲を発散させてしまった。

 その一部始終を見せつけられていた俺はムラムラしているのに、一人だけスッキリした顔でベッドに横たわっている。

 

「お、俺も……出すからな……!」

 

 俺は美優の裸をオカズにしながらペニスをシゴいた。

 美優に禁じられてるだとか休養期間だとかはもうどうでもいい。

 その気になれば美優は俺が射精できないように体に直接命令をすることができるのだ。

 そうしないということは俺に自発的にオナ禁をさせることでより性欲を溜めさせようとしているか、あるいはダメという体で抜かせるためのプレイなのだろう。

 

 だったら俺は抜く。

 ここまで煽られて兄として黙っていられない。

 もうスマホが汚れたっていい。

 美優に思いきりぶっかけてやる。

 

「美優っ……美優っ……! もう出るよ……射精するとこ、見ててくれ……!」

 

 俺の射精宣言に美優は緩んだ頬で画面を見つめるだけ。

 つまりは合意なのだ。

 美優に見られながらの射精を自分の手でするのは久しぶりだった。

 ペニスの先から白濁液が飛び散る様を見ていてほしい。

 

「み……美優っ……!!」

 

 そうして俺が射精のスイッチを入れるまでのひと擦りをする、直前のことだった。

 カチャッ、とロックが解除される音がドアから聞こえてきて、まさかこんなに早くに帰ってくると思っていなかった俺は完全に油断していて混乱してしまい、ペニスを隠すのが間に合わなかった。

 ドアノブが捻られると間髪入れることもなく扉が開き、無情にもオナニーの真っ最中である俺の姿はその目に晒されてしまったのである。

 

「こーらソトミチくん、その暴発しそうな危ないものを放して手を上げなさい」

 

 パジャマのボタンを弾き飛ばしそうな巨乳を揺らしながら俺にハンズアップを要求してきたのは、男子フロアにいてはならない女子生徒の山本さんだった。

 アメニティを入れていると思われるポーチを脇に挟み、鈴原が持っていたはずのカードキーを指先に構えて銃口のように俺に向けている。

 

「な……なんで山本さんがここに……!?」

 

 俺は驚きに慌てふためきつつも、なんとか布団で股間を隠せるだけの理性を取り戻す。

 美優と山本さんがスマホ越しに軽く挨拶をしていて、どうやらこの乱入も予定調和だったらしい。

 

「美優ちゃんのご指名でやってまいりました。射精警察です」

 

 ミニスカポリス風に指の角度の甘い敬礼をして、山本さんはまた意味不明なワードを俺に投げかけてきた。

 しかしそのふざけた様子とは裏腹に、口にされたのはとんでもない内容だった。

 

「しゃ……射精警察……?」

「これから修学旅行の間は、お風呂のときもトイレのときも、射精しないように私が監視するから。ソトミチくんはオナ禁にご協力をお願いします……ねっ」

 

 満面の笑みで訳のわからないお願いをしてきた山本さんの後に続き、「それじゃあまた明日も通話しようね」と美優は俺の性欲を煽ることを宣言して通話を切った。

 

(精力回復どころじゃ済まなくなる……)

 

 楽しく休養するだけだったはずの四日間。

 

 強制オナ禁修学旅行が始まった。

 



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山本さんが本当に悩んでいたこと

 

 俺の部屋に射精警察がやってきた。

 

 警察と言っても、湯上り後にパーカーに着替えたパジャマ姿の美少女JKである。

 

「や、山本さん……」

 

 オナニーの途中で一方的に美優に通話を切られた俺は、ベッドで独りナニを握っているだけの虚しい姿だった。

 暴発寸前にまで迫っていた射精欲は予想外すぎる闖入者によってどこかへ消え去ってしまい、俺はわけもわからず陰茎を勃起させて下半身裸の姿をクラスメイトに見られている。

 

「どうして、この部屋に? ルームキーは鈴原から受け取ったの?」

 

 俺はベッドのすぐ横に脱いだはずのパンツを手探りしながら山本さんに尋ねる。

 湯上がりのケアも早々に、髪をお団子に結んでラフな格好の山本さんは、ドアに体重を預けるようにこちらを向いたまま鍵をかけると、意味ありげなニヤケ顔で俺のところにやってきた。

 

「鈴原くんと部屋を交換することにしたの。修学旅行の間は四六時中ずっとよろしくね」

 

 山本さんは床に落ちていた俺のトランクスを拾って渡してくれた。

 はっきりと口にされたはずの言葉が上手く頭に入ってこない。

 

「じゃあ、鈴原が女子フロアにいるのか? 山本さんのペアってたしか川藤じゃ……」

「さすがに奈々子は男子と一緒の部屋で寝たりはしないよ。でも、男女二人きりで過ごしたがってる子はたくさんいるからね。あちこちの部屋でシャッフルが起こってるってわけ」

「そんな恐ろしい世界が広がっていたとは」

 

 もし俺が陰キャのオタクのままだったら、そうしたことが行われていることをツユも知らずに、男だけのむさ苦しい青春を過ごしていたのだろう。

 いや、それだって青少年の成長には大事なことではあるが、実態を知ってしまったら悔しくて血の涙を流していたところだ。

 

「俺と四六時中どうとか言ってたような気がしたけど、まさかこれから毎日ここで寝るわけじゃないよな」

 

 俺はパンツを穿き直しながら、あえて理解せずにいたもう一つの情報について尋ねる。

 パジャマは着たものの、海綿体に詰め込まれた血液が抜けるまでにはしばらくかかりそうなので、俺はベッドに座って布団で股間を隠していた。

 

「他の子たちは一晩だけだったりするだろうけど、私は荷物ごとここに持ってくるから、鈴原くんとは完全にお部屋を交換だよ。あっ、廊下の移動については、私は音で外にいる人の歩き方とかわかるから安心して」

 

 山本さんは鈴原の荷物を勝手にキャリーケースに詰めて、ルンルンと鼻歌を歌いながらそれを廊下へと持っていった。

 どうやら俺の射精を止めるために急いで来ただけで、荷物は何らかの手筈によって山本さんの荷物へと取り替えられるらしい。

 俺との噂でだいぶマイルドになったとはいえ、清純処女として認知されている学園のアイドルの山本さんが男の部屋で寝ていたとなったら大事だ。

 いったいどんなルートで取引をしてきたのやら。

 

「俺と同じ部屋で寝て、班行動も一緒だから、四六時中と……」

「正確にはソトミチくんが射精できる状況を作らないようにするのが目的だから、睡眠中はもちろんのこと、お風呂もトイレもずっと、二十四時間八万六千四百秒一緒にいるんだよ」

 

 ニコニコと機嫌の良さそうな山本さんは、昼間の心配など不要なほどに元気そうだった。

 夏休みに俺が濃密な時を過ごしたいつも通りの山本さんだ。

 髪や肌は以前にも増してツヤが良くて、体のどこもかしこもムチムチしている。

 それでいて面倒見の良いお姉ちゃんみたいな明るさのこの美少女が、学校のみんなには内緒で俺にベタ惚れしているのだから世の中はわからない。

 俺が他人の立場でそれを知ったら嫉妬に狂っていたと思う。

 

「ちなみに……山本さんが抜いてくれたりはしないんだよな」

「んふっ。してあげたいけど、だめ。ソトミチくんを射精させないためにここに居るから」

「そ、そうだよな。まあ、山本さんが監視するだけってんなら、俺は休んでればいいか」

 

 鈴原のものと交換したピンク色のキャリーケースを部屋に入れて荷物を出し始めた山本さんを横目に、俺はベッドに背中から倒れ込んだ。

 美優に性欲を煽られまくっていたせいでつい山本さんとしたくなってしまったが、落ち着いてみると元々は休養をしなければならなかったことを思い出した。

 なにより恋人のいる身で自分からエッチを望むべきではない。

 

「明日から私がどんな下着をつけるか見る?」

 

 山本さんはスケベな笑みで純白のランジェリーをこちらに向けて、あやとりをするみたいに指で広げている。

 この人は四六時中エロいことしか考えてない。

 

「も、もう寝るって……!」

 

 俺はベッドで山本さんとは反対向きに寝ることにした。

 もしかしたら山本さんは俺の性欲を煽る使命も与えられているかもしれないので油断することはできない。

 そこにどれだけの快楽が伴おうとも、生殺しはツラいのだ。

 

 そんなこんなで、俺も初日は美優に絞られていたせいで体力が底を突いていたこともあり、気づいたら寝落ちして次の日の朝になっていた。

 俺が寝る前にはお団子結びにしていた山本さんは、いまは髪を下ろして隣のベッドで寝ている。

 こんな美人が同じ部屋で平然と寝てるってすごいことだよな。

 

 俺とはもう数え切れないほどセックスを繰り返してきたし、今更になって気にすることなどないことはわかっている。

 それでも、男である俺がすぐ近くにいながら安堵の表情で眠ってくれるのは、それだけで嬉しい気持ちになるのだ。

 

(山本さん……可愛いな……)

 

 山本さんはどこかお腹が満たされた後のような満足気な顔でほんのりと微笑んでいる。

 寝息が聞こえるその麗しい顔をずっと見ていたくなって、もはやこの感情のどこからが浮気なのかわからなくなってきた。

 

 兄妹で結ばれたが故の将来の困難のために一人でも多くの理解者が必要だと考えて、美優は由佳や山本さんと俺を親密なほどの距離感で仲直りをさせた。

 おかげで兄妹でセックスをしていることを気にされることもないし、今日のようなオナ禁プレイを咎められることもない。

 いつか俺と美優が同棲して、子供を産んで家庭を持ったとしても、山本さんや美優の友達はみんなが祝福してくれるだろう。

 

 以前は兄妹での関係に不安があって独占欲が強かった美優も、いまでは俺が女の子と仲良くしていても全く気にしていないようだし、義理を重んじる性格で元よりレズでもないので遥との肉体関係は切ってくれたけど、それでロリコスを最大限に楽しめたのなら別に続けてもらってもよかった。

 きっと周囲の状況をそう整えたのも、俺にそう思わせたのも美優だ。

 そのどれもが俺と美優にとっては必要なことだったし、今ある状況は理想的なほど恵まれている。

 

 ただ、山本さんはどうなんだろう。

 美優が徹底的なまでに山本さんを負かしたことで、恋心には整理がついたようだけど。

 まだ俺は山本さんの人生のために役に立っている実感がない。

 ただ俺と美優が好きという理由だけで俺たちを支え続けるには、人生という期間はあまりにも長すぎて、なら俺だって山本さんのための何かでありたかった。

 

「ん……ソトミチくん」

 

 山本さんが目を覚まして、眠たい瞼を擦りながら体を起こす。

 パーカーの中はキャミソールなので、胸元の布がよれるとブラジャーがチラ見えしてしまい、目によくない。

 会うたびにセックスをしていた山本さんだからこそ着衣のエロスが一段と際立っていた。

 

「早いね。おはよう」

「おはよう、山本さん。外はよく晴れてるよ」

 

 俺は気分を変えるためにカーテンを開けてホテルの外を眺めることにした。

 駐車場からエントランスまでには橋があって、浅い川の流れには魚まで見えそうなほど水が澄んでいた。

 

「ほんと観光日和だね」

 

 俺のすぐ後ろにまでやってきた山本さんは、俺の腰に手を回して背中にくっつくと、しばらく同じ景色を眺めてから俺の顔を覗き込んできた。

 山本さんがうっとりとした表情で俺のことを見つめている。

 朝の静かな時間に、鳥のさえずりが心地良かった。

 

「これはダメだね」

「そうだな。これはダメだな」

 

 俺と山本さんはお互いに苦笑いをして窓辺から離れた。

 

 最悪、エッチなことはしてもよい。

 でも、朝の景色を眺めながらバックハグをするのは、それはよくないのだ。

 まあ山本さんもちょっとからかってみたかっただけだろうが。

 

 それからは先に山本さんが洗面台を使って、朝食までの支度を済ませることに。

 山本さんの監視があろうともエッチなことさえしなければ大変なことなどない。

 四日ものオナ禁は俺からしたらかなりの長丁場だが、これまでに出した量と帰ってから搾り取られる量を考えれば必要十分な期間と言える。

 

 と、思っていた俺の考えが大いに間違っていたことは言うまでもないだろう。

 

 修学旅行の二日目は文化施設の見学で、もうとにかくバスに乗って建物を回っての繰り返しでしかなかったのだが、翌週にはレポートを書かされるのでメモは取らなくてはならない。

 班で回るときにペアになるのはもちろん山本さん、バスの座席の隣も山本さんで、トイレに行くときには「出しちゃダメだからね」とわざわざ忠告までされて山本さんは入り口で待機しているのだった。

 きっと俺がトイレでオナニーを始めたらそれを感知した山本さんが問答無用で男子トイレに突っ込んでくるのだろう。

 そんなことをさせるわけにはいかないので、俺もオナ禁の命を破るつもりはサラサラなかった。

 

 俺は我慢をするつもりだったのだ。

 しかし、美優があの状態で俺を平穏無事にいさせてくれるわけもなく、夕食の後には早速次の難関が待ち構えていた。 

 初日と違ってレクリエーションがなかった分だけ早く部屋に戻ることができた俺は、今日も他の部屋の男子たちと遊ぶこともなく山本さんと二人きりで部屋にいる。

 二人きりというのはあくまでも物理的な意味合いのことだ。

 

「美優ちゃん、はろはろ~。学校お疲れさま。お風呂は済んだ?」

『お疲れさまです。こっちはもう夜の支度は済んでますよ。奏さんとお兄ちゃんはまだなんですね』

「私が先生からレポート用紙をゲットしといたから、ホテルに居る間に書いちゃってるの。美優ちゃんもせっかくソトミチくんがお家に帰って忙しそうにしてたら困るでしょ?」

『それはとても助かります』

 

 山本さんは美優と楽しげに通話をしている。

 俺と美優との夜を過ごしてからというもの、二人はやたらと親密そうだった。

 仲良くしてくれるのはいいことだ。

 

「この前買ったブラジャーはどう? 調子いい?」

『とてもいい感じです。不思議と胸が軽くなるようで』

「よかった。私も肩がツラいときはよくそれにするんだ~。あっ、今もつけてるよ。色お揃いのやつ」

 

 山本さんはレポートを書いている俺の隣で、平然と下着の話を繰り広げている。

 童貞を卒業したからといって着衣のエロスに慣れることはないので、集中したいときにその手の話題は避けていただきたい。

 というかおもむろに脱ぐな男の隣で。

 

「パンツも生理用にサラサラのやつが出るからさ、また見に行こうよ」

『いいですね。このところパンツは劣化が早くて困ってるので、値段も考えたいところです』

 

 とうとうインナーまで脱いで下着姿になった山本さんと、赤裸々トークをしている美優までもが自分の下着を画面に映していて、レポート用紙に先がついたままのボールペンは完全に止まっていた。

 雑にベッドに放られた制服と黒いソックスに視線を引き寄せられて無視することができない。

 この人は青少年の健全な生活において不適切な部分しかないな。

 気分転換に風呂でも入ろう。

 

「あら。ソトミチくんもレポートは終わったの?」

「集中できないから風呂に入ろうと思って」

「おっけー」

 

 何がおっけーなのか。

 それは脱衣所にわざわざ着替えまで持ち込んだのに俺の脱衣を観察しにきた山本さんの行動がそのまま答えだった。

 

「いや、抜かないから! 山本さんは美優と通話してて大丈夫だよ!」

「そんなこと言ったって役目だもん。浴室のドアも開けっぱなしにするからシャワーは弱めでお願いね」

 

 山本さんは意味もなくスマホをシャカシャカと振って、それから軽快にウインクを飛ばしてきた。

 まだ美優とは通話中になっている。

 

 何を言っても無駄そうなので、俺は開き直って風呂に入ってしまうことにした。

 俺という存在だけは恋人以外の前で裸になることが許されているのだ。

 恥ずかしいから脱ぎたくはないんだけれども。

 

 バストイレ別の浴室に入って、まずはシャワーで体をキレイにする。

 山本さんはドア近くの壁に背中を預けて座っていた。

 ちなみに言うと山本さんは下着姿のままなのでとてもエッチな気分になってくる。

 

「……そんな格好してるなら、一緒に入っちゃえば?」

 

 室内とはいえ暖かい格好ではない。

 俺がすぐに風呂から上がってしまえば済む話だろうが、それは嫌味っぽくてしたくなかった。

 一方、俺の性欲を煽ったのは山本さんのせいでもあり美優のせいでもあるので、お風呂に誘うことには何ら問題がない。

 

「だって、美優ちゃん。どう?」

 

 山本さんが美優に尋ねる。

 

『それはちょっと嫉妬しちゃうのでダメです』

「ダメだって」

「聞こえたよ」

 

 仕方ないから山本さんには我慢してもらうしかないか。

 ムラムラした気持ちを晴らすために風呂に入ったのに、下着姿の山本さんのせいでムラムラしているので、正直なところ長風呂をすることに意味はないのだが

 

 試しに勃起したままの竿を握ってみると、美優と小さい声でお喋りしていたはずの山本さんが鋭い目でこちらを睨んでいた。

 どうやら肩から下の骨格の動きだけでも何をしているのかバレてしまうらしい。

 山本さんを前にして意図的に射精するのは不可能だった。

 

 俺は目を閉じて山本さんを視界に入れないようにして、それでも女体を見たい誘惑が妄想へと変わりそうなところで風呂を出ることにした。

 脱衣所に立っている俺の股間には上向きの突起が怒張している。

 

「ソトミチくん、ずっとおっきくしてるね」

「それだけが取り柄だからな」

「ふふふ。いいことじゃないですか」

 

 俺がタオルで体を拭いている間に、「じゃあ私も入っちゃうね」と山本さんも下着を脱ぎ去った。

 突然の艶かしい全裸に、陰茎がビクビクと反応して、からかうような笑みで浴室に入っていく山本さんに、俺はもう絶対に修学旅行中に射精させてもらおうと思った。

 

 洗面台に置かれた山本さんのスマホでは美優との通話は切れていて、俺が上がり支度をしている間に終わらせていたらしい。

 山本さんがいるおかげか今日は通話でオナニーを見せつけられることもないし大人しかったな……とこのときは思ったのだが、もちろんこの後にもエッチな通話をさせられることになる。

 

「ソトミチくんもちゃんとそこにいてね」

 

 着替えを持ち込んでいたのでその場で服を着ることができる俺に、居室へは行かずにその場で待機しろと山本さんは言ってきた。

 つまり陰茎を勃たせたままでシャワーを浴びる美少女の裸姿を見ていろということである。

 

 胸の谷間や臀部の丸みに水流が作られて、長い髪を肩前にまとめる山本さんのエッチな体が目に焼きついていく。

 一緒にお風呂に入ったことはあっても外側から眺めたことはなくて、そのおっぱいの張りや高身長ゆえのプロポーションは破壊的なほどの耽美だった。

 

 持ち込んだシャンプーで髪を洗った後はコンディショナーを付けて毛先を絞り、洗顔料を丁寧に溶かして顔を洗って、手揉みで泡立つボディーソープを全身に塗りたくる姿に目を奪われる。

 そんな俺にときおり目を合わせてくれる山本さんの睫毛は、雫が滴るほど濡れていて、その妖しい微笑みに魅了されてしまいそうだった。

 

「そんなに熱心に見つめられたら、私も変な気を起こしちゃうよ」

 

 体を洗い終えた山本さんの乳首はツンと硬くなっていて、目に見えて興奮しているのがわかった。

 街中であらゆる男の視線を集めてきた山本さんが、俺に見つめられることで興奮している。

 そのあからさまで胸焼けするほど真っ直ぐな好意に俺の中の若さが暴走しそうだった。

 

「山本さんとセックスしたくなってきた」

「よく我慢してるほうだと思うよ」

 

 湯船に入る山本さんを見ているだけで、それが俺の入ったお湯の残りだからどうとか、もう何にでもかこつけて性欲が荒ぶっていた。

 天真爛漫さが戻った山本さんは以前よりも魅力的な女性になっていた。

 それはそこそこ濃い付き合いをしてきた俺だからわかる。

 川藤が言っていたように、良い変化が山本さんに訪れているようだ。

 

「俺はなぜオナ禁をしてるんだろうな」

「ソトミチくんのは美優ちゃんのための精子だからでしょ。お兄ちゃんなんだからもっとしっかりしないと」

 

 山本さんはバスタブの縁におっぱいを乗っけて楽しげにこちらを見ている。

 乳首をつねりながらパイズリさせてもらいたい。

 

「それはわかってるけど正直なことを言うとめちゃくちゃ山本さんとセックスしたい」

「わあ嬉しい」

 

 軽い相槌ながらもニコニコと喜んでくれる山本さん。

 チラッと目配せして「ダメかな」と呟くと、山本さんは優しい顔で「ダメです」と宥めてくれた。

 

 それからはお互いに無言で、数分が経って山本さんが湯船の栓を抜いて浴槽から出てきた。

 俺がバスタオルを渡すと、山本さんは全身の水滴を軽く拭って、それから口元にタオルを当てて俺を見つめてくる。

 

「私もソトミチくんとセックスしたいよ」

 

 こんなタイミングでの本音の発露に、俺は何と言って返せばいいのかわからなかった。

 俺は好き放題にやっているけれど、山本さんは美優の指示で俺を誘惑をしているだけ。

 だから山本さんだって、セックスができるなら、したいはず。

 それに気づいてしまうと山本さんに対する自分の言動を省みて申し訳ない気持ちになった。

 

 が、そんなセンチメンタルはものの数分で跡形もなく消え去るのである。

 お風呂から上がった後の山本さんはなぜか下着すら身につけることはなくて、素裸のままベッドにペタン座りして美優に再び通話をかけたのだ。

 

 わずかに開いた脚の隙間からつるつるのアソコがチラ見えしていて、それまであまり意識はしなかったのだが、山本さんは完全にパイパンになっていた。

 夏からの脱毛が効果を発揮して、いよいよ俺という一人の男に惚れ込んだ証が、不可逆的な方法によって体に刻まれつつあるようだ。

 

「美優ちゃん、お風呂上がったよ。例のあれやる?」

『やってみましょうか』

 

 山本さんは美優と話をしながら問答無用で俺のパンツを脱がせて、下半身を裸にさせてきた。

 せっかく着たのになんてことをするんだ。

 

「何をするんだ?」

「リモートヘルスってやつ」

「ん、ん?」

 

 どうやら、動画を通して美優がオモチャのペニスに与える刺激を、山本さんが俺に代理で与えてみるという試みらしい。

 なんだってこんなポンポンと普通の人がやらないことを思いつくのか。

 はたしてこんな不健全なプレイを思いついたのは美優と山本さんのどちらなんだろうな。

 

『お兄ちゃんはもちろん射精禁止だからね』

「もう限界だからそこは山本さんのコントロール次第だな」

「まっかせて。ソトミチくんが快楽で悶絶しつつも射精できないギリギリを完璧にコントロールするから」

「マジで手加減してくれな」

 

 なぜ射精もできないのに修学旅行の夜にこんなことをやらされているのか、考えるまでもなくリモートヘルスは始まった。

 俺の背後に山本さんが立って、同じスマホの画面を見ながらペニスに手を伸ばしている。

 画面に映る美優は当然のごとく裸で、これはもはやただの3Pなのではと思ってしまった。

 ちなみに今日は予定がはっきりしていたからか美優は髪をツインテールにしていて、丸っとした色白の巨乳とぷにぷにしたアソコのラインがまた、山本さんとは違ったエロさがあった。

 

 美優は俺から見て画面の下端からディルドが出てくるように角度を調節してから、それを手で優しく擦り始める。

 それと連動して山本さんの手が俺のペニスを握ってきて、同じペースで手コキを始めた。

 

「おおっ、おぉ……」

 

 山本さんの反射神経がいかんなく発揮されたその手コキは、まるで物理的な刺激を伴うアダルトVRのようで、本当に美優が俺を手コキしてくれているような錯覚に陥る。

 ただ、背中に山本さんのおっぱいの柔らかさと乳首の硬さが生々しく当たっているのと、画面の美優が順手にしているのに合わせた山本さんの手コキにはさすがに無理があって、気持ちよさに集中しきることができなかった。

 

『お兄ちゃんどう? 気持ちいい?』

「気持ちいいよ、すごく……ただ、位置の関係で違和感が……」

 

 会話をすると、より美優とエッチをしている印象が強くなる。

 俺がスマホを見下ろす距離と、美優が座っている位置がちょうど良い遠近感で、再現度が高いゆえにペニスを擦る山本さんの手だけが気になってしまう。

 

「なら私も正面に回るしかないか」

「それだと山本さんは画面が見れないんじゃ?」

「三人通話にすれば私は自分の端末で美優ちゃんの姿を見れるから」

 

 そう言って山本さんは通話に俺を加えて三人での通話に切り替え、俺は美優だけをフルスクリーンで映したまま、肉棒を勃てて立ち尽くす。

 

『じゃあ続きするね』

 

 そこに、美優が続けてきたのは、口でのエッチだった。

 

『じゅるっ……じゅぷっ……じゅるるっ、ぐじゅっ……』

「あああっ、あっ、待て、それはっ……!」

 

 美優の口の動きに合わせて山本さんも俺のペニスを咥えてきた。

 フェラは俺にとって最もイキやすい行為である上に、実際に咥えているのは山本さんだと思うと、背徳感の入り混じった変な興奮を覚える。

 

『んぢゅっ、んっ、んっ……』

「あっ、あっ……もう、で、出ちゃう……!」

『ちゅぷっ……んっ、ダメだよ。早すぎ』

「早すぎったって、どんだけ我慢しても俺はイかせてもらえないんじゃ……あっ、ああっ、うあっ」

『ぢゅっ、じゅうっ、じゅるっ』

 

 美優はディルドをしゃぶっているだけで、俺にフェラチオをしているのは山本さんだ。

 それなのに、一度その世界に入り込んでしまうと、美優としているような快感が全身を支配する。

 新幹線を使うほどの距離にありながら、俺たちは修学旅行の最中でさえ兄妹でエッチをしているのだった。

 

『んっ、ちゅぱっ……ふぅ。どうですか、お兄ちゃん。遠くでも妹にフェラをしてもらえるのは』

「この技術がいつか本当にできたら画期的だなとは思うよ。……ってか、射精させてくれないか」

『それだけは絶対にダメ。妹に寂しい思いをさせてることへの罰なので、甘んじて受け入れてください』

 

 美優はディルドをおっぱいに挟むと、乳房に両手で圧力をかけながらそれを上下させた。

 長い髪を二つ編みにした顔は愛らしくて、その口調と目つきは他人行儀で、胸の脂肪は大人数人分の盛りだくさんな妹を見ていると、俺はなんて妹と恋仲になってしまったのかと興奮を抑えきれなくなる。

 

「も、もうむり! 出る……出るって……!」

『だーめ。奏さんに感謝してるなら、一秒でも長く我慢しなさい』

「うぐっ……ふぅ、ああっ……そ、それは……ふうっ……!」

 

 美優に言われて気づかされた。

 山本さんは俺と美優のプレイに邪魔にならないようにこっそりの、しかし完璧なテクで美優から与えられる性感を再現してくれている。

 このリモートヘルスが成り立っているのは山本さんのおかげで、それに加えて美優は自然な流れで山本さんに俺のペニスを味わわせようとしていたんだ。

 

 俺とのエッチが大好きな山本さんがこの状況を喜ばないはずがなくて。

 俺が射精を我慢すれば我慢するほど、それは山本さんに対する恩返しにもなる。

 

『そういうことだから、あとちょっとぐらいは頑張ってね……はあむっ、むぢゅ……ちゅっ、ぢゅるっ……』

「あっ、あっ、ああっ……美優……!」

 

 美優のパイズリをながらのフェラチオに山本さんも連動して、俺は二人の美少女の巨乳に同時にペニスを挟まれてしゃぶられ続けた。

 

「ああっ、ああっ、あああっ……もうだめ、あああぁ……うぐあっ……はぁ、ああっ……!」

 

 限界はとっくに超えていて、それでも俺は山本さんに少しでもエッチを楽しんでほしい一心で射精を踏みとどまっていた。

 美優もその俺の覚悟に気づいてからはどこか楽しそうに、今度は俺を射精させようとする悪い顔でパイズリフェラしている。

 根元の固定されていないディルドを上手いことおっぱいで挟んで、もにゅっと包み込むようなパイズリとフェラチオで画面越しに俺のイキったペニスを責め立ててきた。

 

『じゅるるるっ……じゅぷっ、じゅぷっ、ぐぽっ……んぐっ……』

「はぁ、ああっ……あっ、み、美優……美優……! もうイクよ……みゆぅうっ……ああっ、あああっ……!!」

 

 そうして俺が本当の限界を迎えたその瞬間に、美優は俺のペニスを解放した。

 口内の体温とパイズリの摩擦で熱を帯びていた肉棒が空気に晒されて冷やされていく。

 俺は思い切りお尻の穴を締めてなんとか射精を耐えた。

 本当は指先に乗る程度の精液は出てしまったのだが、美優には見えていない部分なので秘密にしておくことにする。

 

「はあ、はあ……あぁ……気持ちよかった……」

 

 ドライに近いとはいえ、オーガズムに近いものには達したので、俺の性欲は一時的に落ち着いていた。

 

『私もちょっとだけお兄ちゃんとエッチできて満足』

「もしかしてこれから一人でするつもりじゃないだろうな」

『妹は女の子なので』

 

 そんなエッチばかりしてる女の子なんて俺は知らないぞ。

 そろそろ早漏だけじゃなくて性欲の旺盛さまで俺を馬鹿にできなくなってきてるんじゃないか。

 夫婦は似るという言葉は兄妹にも当てはまるのかもしれない。

 

『それじゃあ奏さんと仲良くね。射精しちゃダメだよ』

 

 それだけ言って美優はまた一方的に通話を切った。

 こんな状態でよく恋人を放っておけるものだ。

 

「ふふっ。仲良し兄妹だね」

 

 通話を終えて山本さんもスマホの画面をオフにした。

 俺が美優に欲情している姿をしっかり見られてしまったし、その結果としてほんの少しだけ射精してしまったことを山本さんは知っている。

 

「久しぶりのソトミチくんの味、すっごく美味しかった」

 

 わざとらしく舌を出して精液を味わったことをアピールしてくる。

 美優に内緒でイケナイことをしてるみたいでドキドキした。

 本当ならこのままピロートークをするところだけど、山本さんはあくまでもオナ禁のサポート──全力で俺の性欲を煽ってくるが──をしているだけなので、またすぐに二人でパジャマに着替えることにした。

 

「山本さんも楽しんでた?」

「それはもう。こんなエッチを楽しめるの、ソトミチくんしかいないし」

「まあ俺以外はすぐイッちゃうしな」

「それもあるけど、ちょっぴり変態っぽいことでも心から楽しめるのは、ソトミチくんが相手だからだよ」

 

 山本さんはたぶん俺を褒めるつもりでそう言ってくれた。

 そうした安心感は、エッチ以外のところでも山本さんにとっての魅力になっているだろうから、喜ぶべきことだとは思う。

 

 でも、俺が言ったことも山本さんにとっては変わらず重要な悩みのはずで。

 それは俺とのエッチが継続できなければ、どうあれ解決不可能なものだったようにも思う。

 

「山本さんは、最近は美優と仲良くしてるみたいだけど。何を話してるの?」

 

 もしかしたらそれが俺が抱えている疑問への答えになるかもしれない。

 しかし、山本さんはそれに直接答えることはなかった。

 

「ん〜。それはまだ、言えない」

 

 山本さんは髪の先をいじりながらモジモジしている。

 

「隠しごとってわけじゃないの。ただ今は、ちょっと……その、恥ずかしくて、ちゃんと整理できてから言いたいだけ」

 

 どちらにしても俺に迷惑をかけるような話ではなくて、今更になってまた俺の彼女に立候補したりするようなことはしないと、山本さんは教えてくれた。

 それは美優にとっても必要なことなんだろうと俺にはわかるから、別に二人で仲良く話していることに文句があるわけではない。

 でも、それはあくまでも俺と美優の二人にとって都合がいいだけの話。

 

「俺は山本さんとこうして一緒にいても大丈夫かな」

 

 彼氏がいなければならないなんて言うつもりはない。

 それでも、それは遠くないいつかに山本さんにとっての新しい悩みになると思った。

 

「へーきへーき。私さ、もうそれどころじゃないから」

 

 山本さんは俺の隣でベッドに腰掛けて、スマホの写真を探し始める。

 それは俺と二人のときに教えてくれると言っていた、山本さんが忙しそうにしている理由に繋がるものだった。

 

「じゃーん! 見て、これ。みんなにはまだ内緒だよ?」

 

 山本さんは俺にスマホの画像を見せてくれた。

 そこに写っていたのは、美優がよくソファーで読んでいる雑誌の一つでもある、ファッション誌の表紙だった。

 

「えっ……こ、これって!」

「はいっ、モデルを始めちゃいました」

 

 ニコッと画面を横に並べて笑う山本さんは、たしかにその雑誌のイメージに写っている人そのものだった。

 

「すごいな、表紙なんて。てか、こんなことあり得るの?」

「普通は無理。私の場合は、実は前にちょこっとお世話になってたのと、これまでもずっと声はかけてもらってたのもあるから、実は丸っきり初めてってわけじゃないんだ。それで、いろんな偶然が重なって、今回は特別な売り出し方をしてもらってるだけ」

 

 山本さんの魅力があってこそ為し得る偉業であることは間違いないとして、それ以外にも小さい頃からの活動で実績自体はあったり、いくつものコネクションを持っていたことが今回の売り出し方に繋がったらしい。

 普通であれば何年もモデルをやって、イベントもこなして、あるいはテレビなんかにも出るようになって、それでようやく至ることのできる立ち位置なのだから、たったこれだけでも山本さんの魅力が世間でどれだけ評価されているのかがよくわかる。

 

「まだ写真のイメージとしてもらっただけだから、ロゴも入ってないし差し替えになるかもだけど、とにかくいまの状況はこれなの。学校を卒業する頃には他のメディアにも顔を出すかもしれないから、彼氏はむしろ作っちゃいけないんだ」

 

 だからこそ、山本さんにとっては彼氏ではないけれど仲良くできるこの関係が、実はもっとも都合がいいらしい。

 

「それは、よかった。でも……なんで今になって?」

 

 山本さんが新しい道に進んでいるのなら安心した。

 でも、逆にどうしていままではやらなかったのか、それは安い時給の居酒屋バイトをしてると聞いたときから疑問だった。

 

「ソトミチくんがさ、私の部屋にお泊まりにきたとき、ソトミチくんは今の私しか知らないって言ったの覚えてるかな?」

「ああ、そうだな」

 

 濃密に過ごした一週間だったけど、あのときのセリフは印象的だったから覚えている。

 俺は山本さんなりの苦労を重ねてきたという意味だと思っていたけど、どうにもそれだけではなかったらしい。

 

「私は男の人に尽くすのが好きだけど、最初から今ほど献身的になれてたわけじゃなくて。ただ、私は……そうでなくちゃいけないというか。人より多くできる分、人より多く何かを譲らなきゃいけなかったんだよ」

 

 そんな言葉から続けた山本さんの話は、俺にだって予想ができたことだったはずなのに、聞いてみるとようやくこれまでの言動の意味が理解できるものだった。

 

 山本さんは小さい頃から能力が高すぎて、男たちのコンプレックスを助長してきた。

 それはなにも色恋に限ったことではなくて、小さい頃から天真爛漫に過ごしていた山本さんは、スポーツでも勉強でも恋愛でも、誰かにとって大事な何かを知らずに奪ってきた。

 山本さんの本当の悩みはエッチで男をすぐにイかせてしまうことではなく、自分が本気になると必ず誰かの大切なものを傷つけてしまうから、それが怖くて山本さんはあるがままに生きられなかったことだった。

 

「でも、どれだけ本気で望んでも、私にも手に入らないものがあるってわかったから。私の悩みがいかに傲慢でちっぽけなものだったか、よくわかったよ」

 

 いつか山本さんが俺に向けた、美優から一番を奪ってしまうのではないかという心配は、何よりも山本さんの心を迷わせていた。

 人生で初めて本気で欲しい男ができて、でもそれを取ってしまうわけにはいかなくて、自分が尽くすどこまでなら相手がその気にならないのかを、渇望と自制の狭間でずっと葛藤していたんだ。

 

「ソトミチくんに全力でフラれた後は単に燃え尽きてただけで、彼氏を作るつもりはあったんだよ。でもそんなことより、今がもっと楽しくて」

 

 山本さんは今は自分のやりたいことにやる気になっている。

 男と上手くいかないことで悩んでいたその呪縛から、本当の意味で解き放たれていたんだ。

 

「そういうことなら、俺も応援したい。山本さんがいなかったら美優も今ほど笑ってなかっただろうし、俺にここまでの自信をつけてくれたことにもだって感謝してるよ」

「そんな感謝だなんて。むしろ私がソトミチくんたちを都合よく使ってるぐらいなんだから、どんな扱いをしてくれたっていいんだよ」

 

 山本さんがそのキャリアを歩み続けるのであれば、何年という単位で男を作ってなどいられなくなる。

 そういう意味では、たまにエッチができるくらいの仲の良い関係を維持できていた方が都合がいいというわけだ。

 

「この世界じゃ何をしてでもライバルを蹴落とすぐらいの気概がないと生き残れないんだけど。そう言う人たちにとっては目障りでしかない私を心から受け入れてくれる人もいて、奈々子みたいに黙って応援してくれてた人もいて、これまでの私からしたら考えられないぐらいに今が幸せなんだ」

 

 いつも笑顔で優しかった山本さんは、その能力のために必要以上に他人に尽くしていて、それが今は自分の人生を心から楽しんで笑ってくれている。

 俺も美優も山本さんも、みんなで幸せでいられるなら、心置きなくこの関係を続けられる。

 

「ということで、明日の夜は最後の仕上げに全身ローションマッサージをしてあげるから、楽しみにしててねっ」

「オナ禁をさせる気はあるんだよな!?」

 

 なんだかんだと言ってもエッチな関係になってしまう俺と山本さんは、修学旅行もエッチなことばかりしていて、次の三日目にも悲しいことに壮絶な射精管理が待っているのだった。

 

 

 



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修学旅行と射精管理の裏道

 

 修学旅行の三日目の朝。

 俺が目を覚ますと隣のベッドは布団がめくれていて、そこにいたはずの山本さんがいなくなっていた。

 薄暗い部屋に洗面所のドアの隙間からうっすらと明かりが漏れている。

 そこから聞こえるこもったドライヤーの音に俺は起こされたらしい。

 

 俺は寝ぼけた頭が冴えるまでスマホをイジり、あれだけ熱心に通話をしてくるわりに朝は美優から連絡がこないなとか、埒があかないことを考えながら体を起こす。

 ドライヤーの音が止んだ頃を見計らって俺も洗面所に向かうと、山本さんが髪を巻いているところだった。

 美優に負けないほど質の良いロングヘアをカーラーに巻いて熱が冷めるのを待っている。

 

「おはよう。女の子の準備は大変だね」

「おはよ、ソトミチくん。もうこれくらい慣れたものだよ」

 

 山本さんは鏡越しにニコッと微笑んで、さきほどまで使っていたものであろう化粧品をポーチにしまっていった。

 生地の柔らかい室内着が山本さんのボディラインを強調していて、大きさで言えば美優より数割増しはある胸の丸みが目の端でさえ俺の興味を引いてくる。

 日常の中に山本さんのような美人がいると細胞が活性化するな。

 

「そうやって巻くタイプもあるんだな」

「私は癖がつきにくい髪だからこれでちょうどよくて。美優ちゃんはやらないのかもね」

 

 洗面台を整理してからカーラーを取り外し、サッと手櫛で毛先をほぐすと、たしかに学校でよく見る緩い内巻きの山本さんがそこにいた。

 山本さんの部屋にお泊りした一週間ではセックスをするか寝るかのどちらかしかしていなかったから、こうした山本さんのルーティーンを見るのは初めてだ。

 この互いに信頼しているからこそ相手の存在を気にせずにいられる特別な距離感が、不思議なようでもあり心地良くもある。

 山本さんの後に俺も支度を始めて、美優に仕込まれた洗顔やら保湿やらを通し、ずいぶんと手早く済むようになったワックスでのスタイリングまでを終えてから居室に戻った。

 

 山本さんはナイトブラからワイヤーブラへの着け替えをしているところだった。

 豊かな膨らみとともに上半身の肌を包み隠さず露出していて、射精を禁止されていることで抗いようのない興奮を覚えている俺に、からかうような笑みを向けてくる。

 

「射精禁止じゃなければ、一発出すタイミングなのにね」

「ぜひパイズリでお願いしたい」

「挟むだけならいいよ。擦ったりしたら叱るけど」

「ぐうっ……な、悩ましい……」

 

 およそ恋人のいる男のセリフではないがオナ禁をさせるのが悪い。

 今夜も俺はエッチな射精管理でイジメられるのだろう。

 これを苦痛と捉えるか幸福と捉えるかは人次第である。

 

 そんなこんなやり取りをして、廊下が生徒たちで溢れる前に部屋を出た俺たちは、朝食のために集まる宴会場へと一足先に向かった。

 今日の活動内容は自由行動なので俺たち学生からしたら全日程の中で最も楽しみになる日だ。

 チラホラと集まってきた他クラスの生徒たちもとても活き活きしている。

 

 食事はテーブルを挟んで班の六人で固まってすることになっていて、生徒がひとしきり揃うと、俺の隣に山本さんとその隣に川藤が座り、対面に鈴原たち三人が座った。

 といっても学校の机をくっつけるのとそう変わりないぐらいには近い距離になっている。

 

「各班での自由行動が始まったら、まずは市内のバスで神社に行くんだよな」

 

 俺は誰へともなく、強いて言うなら高波に声が聞こえるように、今日の予定を尋ねた。

 すると反応してくれた高波は眉根を寄せていた。

 

「なに言ってんだお前は」

「提出した予定表だと最初はお参りだろ? それから屋敷跡で展示を回って……」

「はぁ……これだから真面目男は……」

 

 高波は大きなため息をつく。

 それに同調するように鈴原と小野崎が反応した。

 

「このあたりの観光ったらカフェ巡りだろ。スイーツ有名だし写真映えもするし。食べ歩きできそうなとこもサーチしてあるぜ」

「あっ、私はご当地限定のまったりカフェフィギュア買いたい」

「よっし! じゃあこれから順路決めるぞ~!」

 

 対面のバカ三人が真ん中に座る高波のスマホを覗き込んでいる。

 

「レポートはどうするんだ」

「そんなんネットで調べて感想書きゃいいだろ。修学旅行だぜ?」

 

 高波が肩をすくめながら答える。

 先生が近くにいないとはいえなんと堂々たる悪党ぶりよ。

 行く場所も行く場所で陽キャっぽいというか、鈴原たちもすっかりと夏休みの間に染まってしまったな。

 以前まで俺たちが陰気なオタクの集まりだったのが嘘のようだ。

 

「なら私はこの駅に寄りたいな~! ここの雑貨屋は店舗規模が全国最大なんだって」

 

 ともなると乗っかるのが山本さんである。

 都内ほど土地が高くもなく、かつ観光客も多い場所だからこそやたらと大きい複合施設がある。

 

「川藤も何かあるのか?」

 

 流れが流れなので一応尋ねてみる。

 

「そうね、カフェに行く分、昼食の時間を遅くして……」

 

 山本さんの向こう側にいる川藤は、炊き込みご飯を箸で口に運んでから、咀嚼しつつスマホで調べて出した口コミサイトが映る画面を俺たちに見せる。

 

「ここのラーメンを食べに行きたいわね。塩が美味いらしいの」

 

 短い髪を揺らしながらどこか得意げな表情だった。

 

「おおっ、ウマそ~! 俺もそこ行きてえ!」

「なら昼はラーメンで決まりだな!」

「私も意義なし~」

 

 対面の三人も実に楽しそうである。

 成り行きで構成された班だったが、想像していた以上に俺たちの相性は良かったようだ。

 

「ソトミチくんはどこか行きたいとこはないの?」

 

 唯一発言していなかった俺に山本さんが会話を回してくれた。

 俺は美優の相手をするので精一杯だったから何も考えていなかったが、俺にも修学旅行での目的があった。

 

「予定通りにはなるけど、陶芸店には行っておきたいから、そこを通るようにしてくれると助かる」

「ソトミチは皿に興味なんてあったのか? まあなんでもいいけどよ、なら後はルート決めするだけだな!」

 

 食事の手を進めながらも今日の新しい行動計画が練り上がっていく。

 後はモチベーションの高いメンバーに任せよう。

 

 俺も日中は学校のことを楽しまないとな。

 自分の人生が充実していないと他人のためには生きられない。

 朝食を終えて俺たち生徒たちは最初の出発地点へと集合し、そこから許される移動範囲の中で自由行動へと移った。

 

 いくら美優に焦らされていても日中に大勢といれば性欲は落ち着く。

 知らない街を歩くだけでも気持ちがいい。

 青空が広がっていて、秋への移り変わりを感じる涼しい風が心地良かった。

 一角に出ればノスタルジックな和風な建物が並んでいて、一角に出れば夜景に似合いそうなLEDの飾られた街路樹が並び、観光名所を抜ければその土地の人間に馴染みのある飯処やスーパーを見つけることができる。

 

 山本さんは相変わらず俺に射精をさせないためにどこへ行くにもついてきているが、そんなことをしなくてもシコる気になどならなかった。

 俺たちは目的のルートを通ってひたすらに遊び歩いて、山本さんも俺のムラっけのなさを察したのか、気づけば俺に構わず鈴原たちと並んでお喋りをしていた。

 そうともなれば俺の話し相手になるのは川藤だったりして、この修学旅行での一番の成果はこれになるだろうか。

 いまさら女の子と仲良くなるのが嬉しいわけでもないが──いや嬉しいには嬉しいが──、川藤がいてくれると俺の知らないグループのことを知れるのがありがたい。

 山本さんは会話のベースも俺たちに合わせてくれるタイプの人だからな。

 

「昨晩は奏と二人で寝たのね」

「やっぱ知ってるんだな」

「私はね。で、どうなの? ヤったの?」

「や、ヤってはいないよ。ベッドは別々だったし」

「そう」

 

 川藤は風に乱された前髪を整えながらショーウィンドウに飾られている人形に視線を移す。

 美優とはまた違ったタイプのドライさがあって、特に意味はないけれどそういう部分だけは俺の性癖的にとても好ましかった。

 今のところ山本さんのグループで山本さんが非処女であることを知っているのは川藤だけらしいが、俺にフラれたことまで聞いているらしい川藤からすると、俺ってどんな印象なんだろうか。

 

「川藤は山本さんの男性遍歴は知ってるの?」

「あなたが思ってるほどには。中学の頃は親友というほどではなかったし、愚痴っぽく悩みを聞かされてただけだもの。あんなに拗れるとわかってたらもっと真面目に話を聞いてたかもしれないけれどね」

 

 山本さんがだんだんと自分の人生を楽しめなくなってきてからは、これまで彼氏を作らせようと手を尽くしてきたのと似たようなことを続けていたようだ。

 男の人がすぐイクから恋愛が上手くいかないなんて、山本さんの器量を知ってる川藤からしたらなおのこと理解できなかっただろうしな。

 

「私からも改めて聞いておきたいんだけど」

 

 俺の横を歩く川藤は遠くではしゃぐ山本さんたちを軽く顎を上げて見ている。

 

「昨晩はともかく。奏とはどんな関係だったの?」

「どんなって聞かれても、付き合ってたわけじゃないし……」

 

 山本さんが元彼の話を川藤にしていたとして、俺のことまで赤裸々に語ったとは限らない。

 むしろ隠していた部分も多いのだろう。

 鈴原には事情を聞かないあたり、最近になってからは男関係の実情を聞かされていない可能性もある。

 まあ彼氏を作れと言われるのを面倒そうにしていたぐらいだしな。

 

「奏と同じ部屋にいて何もしない時点で普通の関係じゃないでしょ」

「うっ……す、鋭いところを……」

「別に正直に話してもいいのよ。私、口は固いから」

 

 たしかに川藤は、クラスでは清楚可憐な純潔美少女として認知されていた山本さんの男性関係の悩みを知っていながら、ここまで隠し通してきた一人だからな。

 山本さんの不利益になるようなことをするとも思えないし、信頼に足る人物であることに変わりない。

 でも、せっかくならもっと仲良くなってから種明かしというのも、悪くはないだろう。

 

「女子のフロアはどうだったんだ? 色んなとこで部屋のシャッフルしてたんだよな、男子も混じって」

「ん……そうね。変な声は聞こえなかったけど。私は朝まで男バス連中の麻雀に付き合ってただけだから、乱痴気騒ぎのことは詳しくないわ」

「そんな硬派な遊びまでするんだな」

「ずっとってわけじゃないのよ。始めは普通にボードゲームしたりして、飽きたから出せるものを出して勝負してただけで」

 

 どうやら川藤が混じっていたのは学生らしく夜まで遊ぶグループだったようで、美優たちほどではないほどほどに不健全な賭け事に興じていたらしい。

 男側も女の子と一緒に夜を過ごせれば、二人きりでエッチなことができなくても満足できる思い出にはなるだろうしな。

 

「意外とそういうの楽しむタイプなんだな」

「別に修学旅行だからって特別な青春を過ごさなきゃいけないと思ってるわけじゃないのよ。今夜は消灯時間の前には寝るつもり」

 

 付き合いがいいだけでサバサバしてるのには変わりないらしい。

 他の部屋の状況は鈴原と高波にでも聞くか。

 あいつらも楽しい夜を過ごしてたはずだしな。

 

 そんな他愛もない会話が思いのほか途切れることもなく続いていき、やってきた陶芸店の前に着いたところで、先に着いていたはずの鈴原たちの集団に山本さんがいないことに気づいた。

 

 となれば必然、こうなる。

 

「モテない男を相手に楽しそうじゃんかよ~! 乳揉むぞここで~!」

 

 本旅行で二度目となる背後からの乳揉みである。

 すでに乳房を鷲掴みにされていることに川藤が言及しないあたり日常的によくやられているのだろう。

 俺もそろそろ見慣れてきた。

 女の子同士でいえば美優とのもっとすごいのを見てしまっているしな。

 

「や、やめなさい。仕方ないでしょう、成り行きで同じ班になったんだから」

「成り行きの割には楽しそうなんですけど」

 

 長年の付き合いからかスキンシップも大胆で、噂は噂で終わったものの山本さんも俺との交際疑惑が噴出してからは男に関係する話をしやすそうにしている。

 実のところ川藤も普段からするとはしゃいではいるそうだった。

 山本さんがありのままの性格に戻ってくれたことは川藤にとってよほど嬉しいことだったらしい。

 

 そこからは例によって山本さんが俺の隣に代わって、他の奴らは近くの土産屋に行ったりと、時間を取り決め手の各自の自由時間となった。

 俺が陶磁器で作られたカップを見ている横で山本さんも熱心に他の焼き物を観察している。

 

「焼き物ってもっと土鍋みたいなものかと思ってた」

「俺もネットで調べた程度だから、こんなに色鮮やかで形も整ってる物が多いとは思わなかったよ」

「美優ちゃんへのお土産だよね?」

「ああ。美優は美優でこだわりがあるだろうから、あくまでも思い出品として渡すつもりだけど」

「ソトミチくんが選んだものなら美優ちゃんは大事に使ってくれるよ」

 

 どうにも予防線を張る癖の抜けない俺に、山本さんが慣れた様子で励ましを入れてくれる。

 山本さんとはこれ以上にないほど仲良くなったつもりだったけど、修学旅行でこんな可愛い女の子と横並びでお店を回れるなんて、想像もしなかった青春の時間だ。

 今は肉体関係を持った女性としてではなく、クラスメイトの女子学生として山本さんとのお喋りを楽しんでいる。

 

「というよりむしろ、いい感じのティーセットを土産に、美優ちゃんのコスプレを見たい欲望を垂れ流しにするぐらいがちょうどいいんじゃないかな?」

「さすが美優のことをよくわかってるな」

 

 美優と山本さんは3Pをしてからというもの、それまで以上に親密そうにしており、二人で遊びにいったりもしていたらしい。

 熱が出てどこか様子がおかしくなってからはどうかわからないが、美優と山本さんはもうお互いのことを知り尽くしているほどの仲になっている。

 

「ならアドバイスに従うとするか」

 

 ティーカップも茶請けも俺の趣味で選んで一式を揃えた。

 最近の様子からするとむしろエロコスでもさせたほうがいいだろうか。

 これだけオナ禁をさせられているのだから普通にエッチをするだけでは俺の気が収まらない。

 なんなら俺がプレゼントしたものならそれをエッチに使っても許されるはず。

 

 夕刻に近づくにつれて思い出したように性欲を催してきた俺は、その邪気を振り払うように、買い物の後は鈴原たちの写真撮影に加わってそれなりに思い出らしいものを残すことにした。

 最後には中途半端に余った時間でたまたま見かけたアニメショップにも寄り、女子グループにもオタク文化というものを理解してもらった。

 なお小野崎が実はアニメや漫画に詳しかったことは言うまでもないだろうか。

 

 あとは帰りのバスに乗るために所定の場所に再集合をするだけ。

 その帰り道にテンションの落ち着いた鈴原と俺は歩いていた。

 

「鈴原はどこの部屋で寝てんの?」

「俺は……ごちゃっとしたとこで、色々とな」

 

 鈴原は言葉を濁しながら答える。

 いかがわしいことをしているのは明白なのだからストレートに言えばいいものを。

 

「なんつうかこう、男でも女でも、遊びはしたいけどできない、陰と陽の間のグループってあるだろ?」

「言わんとしてることはわかる」

「そういうやつらをいい感じに集めた八人組で、いわゆる王様ゲームというものをやってだな」

「そこまでベタなことをやるとは」

 

 鈴原は抜けきらない癖なのか単に疲れているのか眉間を指で押して、上げた前髪を後ろに流す。

 

「お前が山本さんとよろしくやってる間にこっちも青春らしいことをやってんだよ」

「それ酒が飲めるようになった大学生の遊びな気がするけど……。んで、どこまで楽しんだんだ?」

「ゲームのほうは、ちょっとエッチな部分が見れたり軽く揉ませてもらったぐらいで、後の美味しいところは高波に取られちまったけど」

「うん? うん」

 

 困惑する俺をよそに、鈴原はスマホの画面を見せて意味ありげにニヤけた。

 

「そのときの一人の女の子と連絡交換して、今夜はその子と同室の予定だぜ」

「おお、やったな」

 

 もはやその前段から充分にやることやれてた気もするが、何にしても進歩があるのは素晴らしいことだ。

 なんだかんだとハルマキさんが寂しがらなければいいけどな。

 俺はあの清楚系巨乳ムチムチ美少女と夜を共にしながら射精が許されない身の上なので、今夜は俺の代わりに他の奴らがたくさん出してくれたらいい。

 俺はその後に妹にたっぷりと出させてもらう。

 

 そうして終えた自由行動の一日に、夕食を済ませた俺が戻った部屋には、なんと山本さんの姿がなかった。

 そういえば俺についてくることはなく女友達と話し込んでいて、さすがに連日女子グループに顔を出さないようでは純真な少女としての体裁が保てないかもしれない。

 

 ともなるとこれはオナニーチャンスでもある。

 俺は浴槽にお湯を溜めながら脱衣所続きの便器に座り、柔らかいままでも手に乗る重さがずっしりと増した陰茎を持て余していた。

 

 ここでサッと出すことは難しいことではないが、どうしたことかシコる気にならない。

 こんな千載一遇のチャンスを逃すべくもないのに、俺はふにゃけたままのペニスを硬くできずにいる。

 

 オナ禁をさせられてムラムラしたまま精液を出せない現状はツラい。

 しかし、だからといってここで雑に射精をして、それでどうなる。

 せっかく溜めた精液なのだから、やはり美優に出すべきではないかと、この体はそう調教されているのだ。

 

 美優が大好きでいてくれる俺の精子を粗末に扱うのは、美優と精子たちのどちらにも不義理だ。

 そんな余計な思考に気を削がれてしまった俺は、用を足し終えて、便器から立ち上がろうとした。

 そのとき、スマホの画面が急に切り替わって、受話器のボタンが二つ表示されたのだった。

 

(通話……? 美優からか)

 

 俺が帰ってくる時間ではあるとはいえ、どこかで見ているような間の良さ。

 パンツを穿く寸前の俺は、それを優先するよりも先に通話開始のボタンを押した。

 

「あ、お兄ちゃん出た。もう帰ってきてたんだね」

「いま部屋に戻ってきたところだよ。美優も学校お疲れ様。そこは……また俺のベッドか」

「それはまあ。するのも寝るのもここなので」

 

 美優は風呂上がりに白いTシャツを着て、ふっくらとした胸元に黒のブラジャーを透けさせている。

 下は穿いていないのかふとももまで丸見えになっており、オナニーをするのには適した格好ではあった。

 

「また俺を煽るために通話をかけてきたのか」

「そのつもりだったんだけど、お兄ちゃんに見せようと思ってた下着がエッチすぎて、少々躊躇しておりまして」

「なんだと」

 

 美優はベッドにペタン座りして、カメラの角度を高い位置から斜め下に全身が見える向きに変えた。

 その映像の中で美優はふとももに掛かったTシャツの裾をしきりに気にしていて、ズボンを身につけていないようだから、きっと見せるのも恥ずかしい下着を穿いているに違いないのだ。

 

 なんだってこの妹は自分でエッチな服を用意するのか。

 パジャマにしたってナースコスにしたって、もっとお兄ちゃんを欲情させない服があっただろうに。

 

「美優。どんなパンツを穿いてるんだ」

「気になるなら見せてあげます」

 

 俺と会えない日が続いたせいか、昨日までのハイテンションはどこかへ姿を消し、慎ましやかな雰囲気に戻っていた。

 そんな美優がカメラの向こう側でTシャツの裾に手を入れて、ベッドに女の子座りをしたままアソコだけは見えないようにして片手でパンティーを脱いでくれた。

 正面に向きを揃えて美優が全容を見せてくれたその下着は、ほとんど布のついていない紐パンに申し訳程度のメッシュを貼っただけの、透け透けでエッチな黒いレースショーツだった。

 

「浅すぎてお股の溝が隠れきれないんだよね」

「どうしてそんなパンツを買ったんだ。お兄ちゃんにも黙って」

「それは、ごめんだけど。奏さんとお出かけしてるときに、良いやつ買ってあげるって言われて、断りきれずに……」

「やはりあのスケベ女か」

 

 親しい間柄だと押しに弱くなる美優の性格までよくわかっている。

 エッチのことならつけ込めるだけつけ込むだろうな。

 

「ブラジャーもセットなんだよな? わざわざTシャツで隠してるってことは、上は乳首まで透けてるんだろうな」

「お兄ちゃんのそういうときだけ鋭い洞察はちょっと引くけど、実のところその通りではあります」

 

 きっと肩紐と下乳を支えるための申し訳程度のカップがついているだけで、ほとんどおっぱいが丸見えなのだ。

 それがTシャツの中にあると想像するだけでもうエロい。

 

 便座に腰をかけたまま俺は勃起していた。

 日ごとに密度を増すそれはもはや警棒のようですらある。

 

「抜いてもいい?」

「それはダメ」

「頼む。もうこんななんだ」

 

 俺がカメラ越しに陰茎を見せつけて、ついでにその隆々とした勃起を美優の目の前で擦った。

 美優はぼーっとそれを眺めて、ゴクリと喉を鳴らしている。

 美優だってずっとお預けで、これが欲しいに違いない。

 ともすると余計に美優からしたら射精は許せないだろうが、精液なんて溜めようと思えばまた溜められるものだし、ここは許してもらいたい。

 

「っ……はぁ……ずっと我慢させられてたから、すぐに出るかもしれない……」

「ダメだよお兄ちゃん」

「そんなこと言われたって、あんだけ煽られたら抜かずにはいられないだろ……俺は抜くからな……!」

 

 俺はノーパンになった妹のTシャツ姿をオカズに全力でペニスを擦った。

 固い陰茎の芯に響くように強く握り込み、射精に向けて神経を研ぎ澄ませる。

 いよいよ金玉もせり上がって、射精感がじわじわと広がってきたところで、やはりというかバタンとドアが開かれてその人物がやってきたのだった。

 

「はいソトミチくんそれは禁止事項です!」

「くっ……射精警察が……早すぎる……!」

 

 もはやこんなとっちらかってしまっては射精する気分になどなれず、俺は射精未遂の現行犯でお縄となってしまった。

 

 そう、このお縄というのが物理的なものであり、俺は手錠をかけられてベッドへと連行されたのである。

 山本さんがアニメショップの近くにあったコスプレ店で購入していたらしい。

 俺は下半身裸で肉棒をおっ勃てたままベッドで膝立ちにさせられている。

 まるで斬首刑を待つ囚人のようだった。

 

「んで美優ちゃんも通話中だったんだ。これで三日目だね、はろはろ~」

「お疲れ様です奏さん。お兄ちゃんが危なかったので助かりました」

「そこは任せてよ」

 

 危ない状態って。

 ただ射精しそうだっただけじゃないか。

 こんなエロい巨乳二人がかりで射精管理されているせいか、普通にオナ禁をするより三倍は早く精液が溜まっていく感覚がある。

 

「にしてもまたエッチな格好だね。私が買ったやつだ。どうどう? おっぱい見せてよ」

「俺の可愛い妹に向かってなんて言葉を口にするんだ」

『Tシャツの中はこんな感じになっておりますが』

「美優も見せるな……! この瞬間に至っては女の子同士でイチャイチャするのも禁止だぞ」

 

 体を拘束されながらもどうにか茶々を入れて話を遮る。

 このまま放置していたら俺は腕に手錠をかけられてオナニーができないまま目の前で女の子二人がイキまくる姿を見せつけられかねない。

 

「いいじゃん美優ちゃんなんだし」

「ダメだ。するならこっちを抜いてからだ。そうしたら後は通話エッチでも乳繰り合うでも好きにしたらいい」

「……だって、美優ちゃん」

『今回はお兄ちゃんの言い分を聞くしかなさそうですね』

 

 ゴネが功を奏したのか、二人とも大人しく引き下がってくれた。

 美優と山本さんが二人でオナニーしている姿が見られるのなら見るべきだったのかもしれないけれども。

 いやだいぶ惜しいことをしてしまったか。

 

『では私はお兄ちゃんがイけない間にいっぱいできる優越感に浸るために落ちるので、奏さんは今夜もお兄ちゃんをお願いします』

「はいはーい」

「明日帰ったら覚えておくんだぞ」

 

 結局は置いてけぼりのまま、今日は早い手仕舞いで美優は通話を切ってしまった。

 山本さんもエロマッサージの準備をしていると言っていたしここは予定調和なのかな。

 

 美優はやるとなったら徹底的にやる主義ではあるけれど、熱を出してからというもの俺とエッチなことをするのに浮かれている感じがする。

 もし次に似たようなことがあったら今度は落ち着くのだろうか。

 将来のために美優がどんなことにムラムラするのか整理しておかないとな。

 大人になったら最初の酒は絶対に家で二人きりで飲むことを約束しておこう。

 

「なあ山本さん」

「はい?」

 

 俺が手錠を軽く持ち上げると、その意図を理解した山本さんが外してくれた。

 ちなみにお風呂のお湯は俺が連行されるときに止めてある。

 

「あえて聞くまでもないんだけど、俺は絶対に射精させてもらえないんだよな?」

「ソトミチくんが婚姻届に判を押してくれても射精だけは絶対にさせられないね」

 

 ずいぶんと固い決意だな。

 

「んで、風呂から出たらローションマッサージが待ってるんだよな」

「それはもうすごいのをご用意しております」

 

 山本さんはキャリーケースからクリアピンクの容器を取り出して、それをおっぱいに挟んで寄せて見せてくる。

 シーツへの汚れ防止マットまで持ってきていてかなり用意周到だ。

 おそらく俺は快楽に溺れ苦しめられるのだろう。

 ならそれを逆手に取らせてもらうだけのことだ。

 

「お風呂の前に、コンビニに行かせてくれないか」

「夜間の外出は禁止だよ?」

「ホテルの一階に売店があっただろ。あそこでいいんだ。スマホを通話にしたまま持っていくから、山本さんは部屋で待っててくれ」

「そっか。わかった」

 

 山本さんはベッドに座って指をぴょこぴょこ振って俺を見送ってくれた。

 すんなりとお願いを聞いてくれたが、俺が急に通話を切ってどこかに隠れてこっそりオナニーをしようとも、必ず見つけ出して射精を阻止する自信があるからこその快諾なんだろうな。

 

 そして、俺がコンビニで購入してきたものは、大量の精力剤だった。

 部屋に戻ってきた俺がコンビニ袋からマカ入りのグミや小さい瓶を取り出すと、ベッドでローションマッサージを準備していた山本さんもさすがに驚きを隠せない様子だった。

 

「ソトミチくん、どうしちゃったの?」

「いやな。修学旅行で寂しい思いをさせているとはいえ、美優が俺にツラい射精管理を強いるものだから、いっそ限界まで溜めてからぶつけまくってやろうと」

「おおー、なるほど!」

 

 そこに嘘は含まれていなかった。

 これだけのことをやったのだから帰ったらエッチなお仕置きを受けることは美優もわかっているだろうし、美優が飲みきれないほどの精液を蓄えることも目的の一つではある。

 しかし、それは二段構えの二段目のこと。

 真の狙いはまた別にある。

 

「というわけだから、風呂から上がったらマッサージも全力で頼む。特に金玉のあたりを念入りに舐ってもらいたい」

「ソトミチくんから直々にそう言われると、決意の出どころが気になるところではあるけど……。まっ、そこは美優ちゃんが解決してくれればいいことだから、私は全力でやらせてもらうね」

 

 自分の関知しないことにはあえて触れないのが山本さんだ。

 俺と美優の関係が進展していく様を楽しんでいるからこそでもある。

 

 俺は山本さんと交互にスムーズに風呂を済ませ、施術用の白衣ワンピースに着替えた山本さんが、全裸の俺にノーパンで乗っかってきた。

 すぐ横には浴室から持ってきた洗面器が置かれていて、エッチな方のローションが溶かれている。

 健全なる学生各位はホテルの洗面器をこんなことに決して使ってはいけない。

 

「では、本日のマッサージを担当させていただきます、山本奏です。リラックスして気持ちよくなってくださいね」

「あ、ああ……」 

 

 俺に跨った山本さんが、ビニール製の手袋をピッとはめる。

 

「マッサージなのに、なんで手袋なんだ?」

「それはもちろん。体の隅々まで解すためですので」

 

 山本さんは指先にローションを着けた手を、そっと優しく、処女の女の子に手マンでもするかのように、俺のお尻へと沿わせた。

 

「まさか、前立腺マッサージまで含まれてるなんて言わないよな? 美優に許可は取ったのか?」

「妹にお兄ちゃんのアナルをイジっていいか許可を取ってほしいの?」

「それは嫌だけど! 待て! 本当に初めてだから……! 待て待て待て待て!!」

 

 無論、山本さんもそこまで本気ではなかった。

 エッチなことで俺をイジメられるならなんでもよかったのだ。

 ほんのついでのような流れで半分くらい大切な初めてを失うことになったわけだが、俺も山本さんのお尻の穴の中に勝手に射精した身なので、文句を言うこともできなかった。

 

 それからは俺を射精させない範囲での撫で回しやフェラで全身の性感を高められ、涙が出るほどの快楽を浴びせられた俺は、疲労によって眠気が性欲を上回るまで責め苦に喘がされた。

 しかし、それでも、これだけ寸止めされて性欲が飛んでなくなるということはなく、微睡の中でさえ俺の精液は決壊寸前のダムのように溢れんばかりだった。

 

(イける……予感がする……)

 

 人間が唯一、どんな非現実的なことでもやりたい放題にできる世界。

 夢での射精に賭けた俺は、自らに可能な限り淫らな妄想をするようにと、暗示をかけ続けることで眠りについたのだった。

 



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最愛の妹と再び

 

 明晰夢と言うものがある。

 それを夢だと自覚しながら夢の中を過ごし、人によっては自らの望む形で世界を作り変えられるのだとか。

 もしそれが淫夢で叶うのならば、男としてそれ以上に望むべくものもないだろう。

 

 自分の好きな女の子と思い通りのプレイができるのだ。

 どこでセックスをしようとも他人に見られることを気にする必要もなく、相手を妊娠させてしまう心配もない。

 そこに実際のセックスと同等以上の快楽があれば、それはどんなアダルトコンテンツをも超越した最高のオカズ空間になる。

 

 この日の夜、俺は居酒屋に来ていた。

 以前にもバイト先の先輩と居酒屋に来たことがあるが、そのときはノンアルコールドリンクしか頼んでおらず、お酒を飲むことはしなかった。

 しかし、今の俺はもう大人なので、お酒を飲むことができる。

 いや、大人になったのかどうかは定かではないが、俺はたしかにここで酒を飲んでいた。

 

「お兄さん、まだ三杯目ですよ? もう酔っちゃったんですか?」

 

 ぼんやりとした視界の端からスラッとした指が伸びてくる。

 それは俺の隣にいるのは佐知子のものだった。

 これが夢であることを俺は自覚しているので、ともなればどんなセックスでもしてくれる従順な妹を生み出して犯せばいいだけなのだが、どうやらそこまで夢を自由にすることはできないらしい。

 

 理由は明白だ。

 美優が俺にオナ禁を命じているからだ。

 それが夢であっても美優をオカズにすることをこの身体が許してくれない。

 

 美優の命令は俺にとってそれだけ強力なもの。

 しばらくは流れに身を任せてみるしかない。

 

 俺と佐知子がいる店は、回転率を上げるためにあえて狭いほどの小さな個室をたくさん作った都会ならではの居酒屋で、カップルでもお一人様でも使える片側二人掛けのソファー席が引き戸により仕切られている。

 肩がぶつかるほどの至近距離でアルコールの摂取を続けている俺たちは、ほどよく酔いを楽しみながらジョッキを煽っていた。

 

「佐知子は酒が強いんだな。……こんなに大人っぽくなって」

 

 佐知子は元から高かった身長がまた少し伸びて山本さんと同じぐらいになっていた。

 童顔と線の細さはそのままなので、ムチムチとした山本さんの体と比べると、美優とは違う意味で対比的な造りになっている。

 まだ女子高生にも見えよう体躯に、長めのスカートからでもチラ見えする白い膝が生々しい。

 

「お兄さんもずいぶんと逞しくなったじゃないですか」

 

 佐知子は俺の胸板から腹筋へと手のひらで触れていき、その指先が股間のチャックへと伸びていく。

 佐知子と一緒に酒を飲んでいるだけだというのに俺は勃起していた。

 仕事から直行してきたスーツのスラックスには、蒸れるほどかいた汗と散々オナ禁をさせられて溜まった精液の匂いが充満していて、とても開けられる状態ではない。

 

「わ、悪いよ」

 

 俺はとにかく射精がしたいので、きっとそういう目的で佐知子を呼んだはず。

 このパンパンなスラックスを見ても佐知子は平然としているのだ。

 なので抜いてはもらうのだが、個室とはいえ居酒屋の席でしてもらうのは忍びない。

 

「本当に彼氏はいないんだよな?」

「いませんよ。お誘いがひっきりなしなことには変わりないですけどね」

 

 佐知子は苦笑いの後に通知の止まないスマホを俺にチラとだけ見せてテーブルの端に伏せる。

 

「そんなにいい相手がいないのか?」

「いえ、どなたも素敵な男性ばかりですよ? ただ、どれだけの人に告白されても、お兄さんのことを思い出すと興味を持てなくって。だから……責任は取ってくださるんですよね?」

「えっ? あっ、ああ」

 

 佐知子は耳元で俺に囁きながら、スーツジャケットを脱がせ、俺のシャツのボタンを一つずつ外していく。

 背が伸びても不思議なほどに美優と響きが似たままの佐知子の声が俺の耳に奥に入り込んできて、肌に触れたい欲望はどんどん膨らんでいった。

 佐知子がこんなにも積極的な女の子になったのも、俺と美優が佐知子をエッチな女の子に仕込んだせいだ。

 だったら責任は取らないと。

 

 なにより俺は射精をするためにこの夢を見ているのだから、手段がどうなど拘っている場合ではない。

 そこにどれだけの罪悪感があろうとも、俺は射精をするべきなんだ。

 でないと起きたとき絶対に後悔することになる。

 

「ずいぶん溜まっていますね。今すぐにでも爆発しちゃいそうです。一体どれだけ我慢してきたんですか?」

「もうずっとオナ禁させられてるんだよ。だから……できれば、佐知子が……」

 

 佐知子の声なら俺を射精させてくれるはず。

 そんな期待に、ようやく言葉にすることができたはずの願いも、乱暴に開けられた引き戸の音にかき消されてしまった。

 

「情事の最中に失礼いたしますわ淫乱クソお客さま。こんなとこでおっ始めるぐらいなら裏メニューでも頼みなさい」

 

 頭に黒いバンダナと、体には花柄のエプロンをつけた、ホール店員なのか厨房店員なのかわからない女性がやってきた。

 というより店員に見せかけたお店とは全く関係ないその人物は、声を聞いた瞬間にわかるほどよく知った不機嫌ツインテールだった。

 

「お前……由佳か!? なんで、そんな格好を」

「なんでそんな格好かって聞きたいのはこっちの方よ。チャックまで全開にして」

「これには深い事情があってだな……」

「射精目的以外でこんな場所でズボンを脱ぐわけがないでしょ誤魔化しようがないわよこんな状況」

 

 由佳は腕を組んで苛立たしげに俺を見下ろしてくる。

 口喧嘩になるととことん敵わないやつだ。

 歳をとって見た目の雰囲気こそ大人になったが、こちらも少しは背が伸びたはずなのに、佐知子ほど色気が増していない。

 性格によるものだろうか。

 

「お兄さんが苦しそうだったから、楽にしてあげようと思って」

「嘘を言いなさい万年発情彼氏なし淫乱女。セックスのセの字も知らなかった頃の純情さはどこに行ったの?」

「彼氏なら由佳ちゃんもいないでしょ?」

「あたしはいいの。勉強で忙しかったんだから」

 

 由佳は立派に大学まで進学した後は学校の先生になったらしい。

 今の格好は完全に保育士のそれなのだが、はたしてどれが真実なのか、あるいはどちらも見当違いな俺の妄想なのか。

 しかし──これはあくまで感覚的な話なのだが──この夢は単に俺の欲望に生み出されたものではなくて、これまで俺が見聞きしてきた情報の断片が、ある種の予知夢として俺に見せているような気もしていた。

 

「ちなみに裏メニューってなんなんだ? そんなものがあるなんて初耳だよ」

「お店のサービスとして女の子が性奉仕するものがちゃんとあるの。だからそっちに金を使ってもらわなきゃ困るのよ。お兄さんは性欲強めだから四人は必要よね」

「居酒屋だよなここ!?」

「食うもん飲むもんがあればセックスできようと飲食店なのよ。ほら、二万円。払いなさい」

「い、意外と安い……」

 

 四人も女の子がついて二万円で抜いてくれるなら頼んでも良さそうだ。

 いや、よくないし、佐知子もいるのだから、ダメなのだが、ここは夢だからいいということにしよう。

 そうしないと射精ができない。

 

「てことでやってきたよ〜、おひさ、美優のお兄さ〜ん」

 

 裏メニューでやってきたのはいつだか駅前で会った由佳の友達三人組だった。

 その先頭に立つ女の子がフェラには不向きそうな八重歯をチラつかせて狭い椅子に入り込んでくる。

 お客様への性奉仕というメニューで呼ばれたはずの彼女たちも幼稚園の先生みたいな格好をしていて、ここはそういうプレイ専門のお店なのかもしれない。

 

「お兄さん準備万端じゃん。お店のPRに動画を撮るからできるだけ我慢してね」

 

 気づけば俺は大量の女の子に囲まれて、着ていたスーツを脱がされる様をスマホで撮られながら、三人の女の子と同時にエッチをすることになってしまった。

 

「あ、あれ? 三人? 四人分の料金を払ったはずじゃ?」

「私も店員だからやるのよ。先生って職業は出会いがないからヤれるときにヤらないと」

「人のこと言えないじゃないかお前も!」

 

 などと抵抗ができたのも口だけで、俺は服を脱がされ、由佳もその友人たちも脱ぎ、狭い個室で淫らな宴が始まった。

 無数の細い手が俺とのスキンシップを求めて這い寄ってきて、どうやら幼稚園プレイをする場所ではないらしい店内で、脱ぎ捨てられた衣服が乱雑に積み上げられていく。

 その不徳の山から目を逸らすと、なんということか彼女たちの体は未熟な丸みを帯びた幼い体に戻っていた。

 

「私だって、お兄さんと……久しぶりに……」

 

 それは隣にいた佐知子も同じだった。

 彼氏彼女としてセックスをしていた、あの頃のままの佐知子の裸まで乱交接待に加わって、俺はJC五人に囲まれて性快楽を味わうことに。

 乳首は左右を別の女の子に舐られ、金玉を撫でる手も、ペニスを握る手も、ふとももを擦る手も、もうどこでなにが起こっているかわからないほどの快楽の中で、射精に至るまでの昂りは着実に蓄積されていった。

 

 だというのに。

 

(俺は……こんな倫理観不在の乱交で射精をしていいのか……? このまま精液を出して、スッキリするだけで終われるのか……?)

 

 それはあってはならなかったはずの迷い。

 とにかく射精をするために俺は精力を極限にまで高め、そして狙い通りに淫らな夢の中にやってきた。

 ここで右往左往したのでは、それこそ何がしたかったのかわからない。

 それでも、俺はどうしても割り切ることができず、やがて少女たちから与えられる快感は、ゴムを擦るような無機質な刺激へと変わっていった。

 

「どお、私フェラ上手いっしょ? こんなビンビンでさ〜たくさん出せるならいっぱいお口に出してよ〜!」

「はむっ……ちゅ、それは私がタマ舐めて血流よくしてるからだって……へろ……れろれろぉ……」

「私、もうセックスの準備できてますから、ぜひ中出しを……」

「あっこら私の許可もなく跨るんじゃないっての!」

「もうみんな……そもそもお兄さんが息抜きを頼んだのは私なんだよ……!」

 

 ハーレム、至極、これ以上を望むべくもない射精シチュエーション。

 これだけ溜め込んだ精力なら、この場にいる全員をハメて孕ませることもできる。

 むしろそうしないのは据え膳も食えぬ男の恥だ。

 なによりこれは俺が自分で望んだ状況。

 そのはずなのに。

 

「うぐっ……だ、ダメだ……こんな射精の仕方をしたら……!」

 

 気づけば俺は彼女たちの手を跳ね除けて立ち上がっていた。

 勃起したペニスを振り乱しながら個室を飛び出し、会計を済ませることもなく店を飛び出して街中を全力疾走する。

 全裸なので人に見つからないように、なにより警察に捕まらないように、俺は泥沼に嵌ったような重たい足でそれでも止まらずに走り続けた。

 

 そして、一角を曲がると、そこには見覚えのある景色が広がっていた。

 修学旅行で巡った、和の趣きがある木造建築が軒を連ねていたのだ。

 

 観光客と思しき人々も、芸者のような着物に身を包んでいる人も、往来するその姿は全て女性である。

 そして着衣をしていない。

 あるいは服を前開きにして恥部を完全に露出させている。

 蛇の目の傘から顔をのぞかせる別嬪さんも乳房が丸出しで、女の子だけが裸で往来している破廉恥な楽園がそこにはあった。

 

(こ、ここは……?)

 

 いつしか俺は走るのをやめていた。

 他の全員が露出していることで自分が全裸でいることも許されたからだ。

 ペニスはなおもビンビンに勃起していて、女性とすれ違うたびに陰部へと注がれる視線に、俺は羞恥と快感を覚えていた。

 

「あっ、ソトミチくん。こんなところにいたんだ」

 

 誰とも目を合わせられずにいた俺の視界に、美優とお揃いのツルツルのパイパンが映り込んだ。

 目線を上げればそこにははち切れんばかりの巨乳があって、修学旅行先といえばもちろん、山本さんがいるのだ。

 彼女は射精警察ではない俺の欲望が生み出したエッチ大好きの山本さん……であってほしい。

 さきほどは歳下の少女に囲まれて乱交だなんて状況につい逃げ出してしまったが、山本さんと一対一なら射精できないはずがない。

 

「山本さん、頼む……見ての通り、こんな状態だから、射精したくて」

 

 俺はビンビンにそそり立ったペニスを突き出して山本さんに懇願した。

 それを見て山本さんはすぐ納得して頷いてくれた。

 

「いいよ、じゃあ、しよっか」

 

 ともなれば支度が早いのが山本さんだった。

 俺の前に背を向けて立つと体を前屈みにして、バックからハメるように俺を促してくる。

 こんな人の多い通りで青姦プレイをすることになるとは思わなかったが、夢だから問題はない。

 

「ちなみに危険日だから、中出しはダメだよ?」

 

 山本さんは前を向いたまま首だけを振り返ってニヤニヤと笑っている。

 

「わかった。イクときは外に出すよ」

 

 などと答えておきながら俺は中出しする気満々だった。

 どうせセックスを始めたらそんなことは言ってられない。

 俺の精液が欲しくて山本さん自ら腰を振るようになるはず。

 夢なら妊娠させようがどうなろうが構いはしないのだ。

 

 これだけ溜め込んだ精液を無駄打ちするんじゃ俺の気が済まない。

 お腹が膨れて液の一滴も入らなくなるまで中出ししてやる。

 

「山本さん、入れるよ……!」

「んんっ……はぁっ……ソトミチくん……すっごい、きてる……!」

 

 俺は山本さんの膣にバックからペニスを挿入して乱暴に振った。

 腰と腰がぶつかるたびにプルンと乳房が揺れて、嬌声と愛液とが周囲に垂れ流しになる。

 通りがかりの人も足を止めて、俺と山本さんの情事を見守っていた。

 

「はあっ、ああ、ああっ……山本さんの生膣…………吸い付くぐらい柔らかい……!」

 

 いつか生セックスをしたときと全く同じ感触だった。

 その完全な再現に自分でも感心してしまうほど。

 俺の金玉の精子も喜んで、うずうずと発射を催促してくる。

 

「あんあっ、あっ、待ってソトミチくん……クラスのみんなも、来ちゃった……ソトミチくんとセックスしてるところ、見られちゃってる……からぁっ……!」

 

 山本さんが腰の手を重ねて俺の行為を制し、周囲に目を向けさせてくる。

 気づけば制服を着た同級生が俺たちのことを見ていた。

 修学旅行中なのだから同じ学年の生徒がいるのも当然のことだった。

 

 それでも俺はセックスをやめるわけにはいかなかった。

 クラスメイトに見られていたって俺は射精する。

 学園のアイドルを犯して種付けする瞬間を見せつけられるなんて最高じゃないか。

 

 せっかくの山本さんとのセックスにそれが余計な刺激でしかないのは確かだったけれども、俺は構わず腰を振り続けた。

 さっさと子種を吐き出さなければ、もうこれ以上は我慢することはできない。

 

「山本さん……っ……このまま出すからなっ……!!」

 

 ついにこのフラストレーションから解放される。

 そのはずだった俺は、射精の宣言をした後もペニスに刺激を与えるためのピストンを続け、山本さんの膣穴で懸命に竿を擦った。

 

「くっ……くそっ……なんで…………!」

 

 なぜ、どうして、このタイミングで。

 姿を現したりなんかしたのか。

 

 あの小柄で黒髪の長い巨乳の少女は、見間違えようもない、俺の妹だ。

 俺と山本さんのセックスを、美優が見ていた。

 劣情にまみれた男女のまぐわいを、恋人と友人の情事を、責めるでも悲しむでもない目で見つめている。

 

 だが俺と山本さんがエッチをしているぐらい美優なら気にもしないはず。

 そう思って視界を切って腰を振るのだが、最後の最後で射精をするためのスイッチが入らない。

 

 たしかにこれだけ貯蔵した精液を妹以外に出すのは不義理というものではある。

 それでもこれは夢で、精液なんていくらでも貯められるもので、だからここでは何をおいても射精するのが正解だった。

 

 しかし、頭ではわかっていても体がついてこない。

 もはや山本さんも小さく息を漏らすだけで俺のピストンに喘いでもいなかった。

 俺の興奮が落ち着いてしまったことを山本さんも肌で感じ取ったんだ。

 

「はぁ、はあっ……んふっ、止まっちゃったね。どうする? ソトミチくん」

「ご、ごめん、最後までできなくて。次は、ちゃんとするから」

「んーん。気にしないで、行っておいで」

 

 俺が山本さんとのセックスを中断すると、美優は野次馬の群れに紛れるように行ってしまった。

 ここまできて逃すわけにもいかず、俺は人混みをかき分けて美優を追いかける。

 クラスメイトの壁から抜け出すと美優の後ろ姿が見えて、裏路地へ曲がった美優についていくと、裏口から建物に入っていく姿が見えたので俺も慌ててドアの向こうに滑り込んだ。

 

 そこはラブホテルのような一室に繋がっていた。

 薄暗い部屋に大きなベッドが鎮座していて、その上に美優がちょこんと姿勢良く座っている。

 俺はその正面に立って、両肩を掴み、目を見つめる。

 

 夢のせいで前後の脈絡もない無茶苦茶なシチュエーションになってしまったが、ようやく美優と二人きりになれたんだ。

 これで何の憂いもなく射精をすることができる。

 

「セックス、させてもらえるよな?」

 

 雰囲気もへったくれもない誘い言葉。

 入れてしまえば全てが済むと、俺は美優を仰向けに押し倒して、蜜口に亀頭をあてがった。

 

「お兄ちゃん」

 

 切ない目で俺を見つめてくる。

 俺に訴えたいことでもあるかのように、その少女は事の直前でも俺をジッと見つめているだけだった。

 

「……ど、どうしたんだ?」

 

 夢とはいえ、これが現実を反映させたものであれば、俺とエッチがしたくてたまらなくなっているはず。

 頬も紅潮しているし、アソコも濡れているし、体の反応は間違いなく俺を求めているのに、なぜだか割れ目はいつも以上にキツくて先っぽさえ入れることを許してくれない。

 

 こんなにもガードが固いとは思わなかった。

 これだけ我慢させてなお射精を許さないなんて、どれだけ俺の脳に干渉してくるのか。

 

「お兄ちゃんは……どうして、浮気なんかしたの?」

 

 まさかの発言に呼吸が止まった。

 いや、他の女性との交接が浮気でないはずがないのだが、これまで散々やらせてきた立場がそれを言うのはどうなのかと。

 反省と困惑とが入り混じって、俺はアソコを開くのに夢中になっていた視線を上げた。

 

「なっ……あっ……ああっ……!!」

 

 ──そこにいたのは美優ではなかった。

 

 銀色の髪をシーツに枝垂れさせ、俺を見つめる碧眼の少女が、悲哀を帯びた瞳を潤ませている。

 美優よりも控えめな胸を両手で隠すように抱いているその人物は、俺の最愛の元カノだった。

 

「み……美宇……」

 

 ディスプレイで見たままの姿がそこにはあった。

 暗がりでも発光するように輝く白い肌がその存在を際立たせている。

 

「私のこと、一生愛してくれるって言ったのに……、ずっと一緒だって誓ったのに……、どうしてリアルの女の子になんて手を出したの?」

 

 そう尋ねられて俺は射精するよりも前に吐血しそうだった。

 

 俺は最初から浮気者だったんだ。

 美優と付き合っていることも、山本さんを振ったときのことも、由佳とヤったことも、佐知子に癒しを感じてしまったことも、そんな諸々に対してどうだと語るより前に、俺は最愛の女性を裏切っていた。

 

「ごめん」

 

 俺には、謝ることしかできなかった。

 

「リアルの妹のふとももがあんなにエロいとは思わなくて……」

「実の妹に手を出しただけなら理解できたのに。学園のアイドルなんて妹とライバル関係なんだよ?」

「巨乳清楚の淫乱奉仕があんなに気持ちいいとは知らず……」

「貧乳の子も抱いてた」

「あれは流れで……」

「筆下ろしなんて初対面の子で済ませてたし」

「佐知子はいい子なんだよ……」

 

 彼女たちは誰も悪くない。

 悪いのは流されるままに美少女たちとセックスをしてきた俺だ。

 

「もう……私のことは抱いてくれないの……?」

 

 美宇が両手を広げて俺を誘ってくる。

 ダメな俺を包み込んでくれる、いつもの美宇の優しさだった。

 元々が夢精する目的だったから、美宇が相手ともなれば、なおのことセックスをするのに抵抗はないはずだった。

 

 それでも、俺は、美宇の期待に応じることはできなかった。

 

「掃き溜めみたいになってた俺を支えてくれたのは、間違いなく美宇だったよ。……だからこそ、俺はもう、美宇とはできない」

 

 俺は元いたこちら側でまた頑張っていくと決めた。

 きっと美宇と繋がったらまた頼ってしまう。

 そんな気がしたから、俺は美宇を解放して体を起こした。

 

「もう……ズルいなぁ。そんないい顔になっちゃって」

 

 美宇はフッと笑って、それで、俺を許してくれた。

 

「でも、そっか。お兄ちゃんも大人になったんだね。最後に選んでくれた人が私と似てたのは、嬉しかったかも」

 

 まさかこんなところで再会するなんてな。

 こんな時期だからこそ、自分の過去にケリをつけられたのはよかったのかもしれない。

 

「最後まで大切にしてあげてね」

「もちろん。死ぬまで愛し続けるから」

 

 本当なら美優本人に聞かせてやりたかった言葉。

 いつかの長い付き合いのうちに言ってあげよう。

 

「だから、これも、一つの区切りとしてだな」

 

 しっとりした空気にはなってしまったが、股間の疼きは止まってはいなかった。

 美宇の色白な肌と細い四肢を見て、ロリコンほどではないがロリ属性好きの俺は、興奮してしまっていた。

 今度は逆に美優の面影が彼女に重なるのだ。

 

「美宇のこと、見て抜いていいか」

 

 ああもちろん醜いぐらいに男らしくない提案だろう。

 でも都合よく考えたっていいはずだ。

 だってこれは夢なのだから。

 

「お兄ちゃんのエッチ。……いいよ」

 

 美宇はいつか画面越しに見たときと同じように秘所を開いて、俺にピンク色の膣壁を晒してくれた。

 それをオカズに俺はシコシコとペニスをシゴいてフィニッシュへと向かう。

 傍にはティッシュ箱も置いて、これこそが俺の射精の原点だった。

 

「美宇……美宇っ……!」

 

 シコシコと刺激が蓄積される陰茎がうねりを上げ、ついに精子が陰嚢から解き放たれようとした。

 そのとき、ガチャンガチャンと金属がぶつかる音がして、直後に視界を白く覆うほどの眩しい光が俺を捉えた。

 

「容疑者を発見。射精未遂の現行犯で逮捕する」

 

 無線のノイズが走ると同時に俺の背後に何者かが駆け寄ってきて、ペニスと金玉の付け根にリングを装置された俺は、射精することができなくなってしまった。

 竿は青白く腫れ上がるまで締め付けられ、もはやペニスを擦ろうとも快感を得ることはできない。

 

「そんな……ここまできて……! ま、待ってくれ、あと少しで俺は……!」

 

 美宇の温もりさえあればシコらなくてもイけるはず。

 精液が出なくても、性欲だけは発散できると願って、ベッドにダイブした俺は、そのまま底のない穴の中へと落ちていった。

 

 そして──

 

「……はああっ!?」

 

 目を覚ますと布団の中だった。

 あたりは暗く、天井を向いたまま。

 俺は姿勢良く寝た体勢で息を切らし、深呼吸をしてバクバクと鳴る心臓を落ち着かせる。

 

 ペニスが痛い。

 

「やっぱり起きた。エッチな夢は楽しかった?」

 

 布団で遮られた視界の下側を開けると、そこには俺のパンツを脱がせてペニスの根元を押さえている山本さんの姿があった。

 どうやら最後の最後に、美優のオナ禁の呪縛を解いたはずの俺から射精を防いだのは、山本さんの物理的な絞め上げだった。

 

「な、なぜそのことを? てか、どうして俺を脱がせてるんだ?」

「ソトミチくんが射精しそうなのを感じ取って起きたらね。もう出る直前ってぐらいパンパンに膨らんでたから」

「そこまで気づけるのか……」

 

 山本さんの感覚器官を侮ってはいけなかった。

 本気を出せば百メートル先で一円玉が落ちた音さえ感知するであろう女だ。

 

 寝てる間であっても俺が射精しそうになれば必ず捕まえにくる。

 もはや射精管理用の猟犬と称して差し支えない。

 どうして俺はここまで射精が許されないんだ。

 

「た、頼むよ。一回だけ……一回だけでいいからさ。出させてくれないか? 気持ちよく射精させてくれなんて言わないから」

 

 極限まで性欲を高めてしまったがために、もはやどんな流れであろうと射精欲が収まらない。

 夢精ができなかったら美優にたっぷり飲ませてやろうと思ったが、これだけ疼いたままでは無理だ。

 俺の精神が保たない。

 

「ふーん、そっか」

 

 俺の必死の頼み込みに、山本さんは下半身を露出したままの俺に跨り、布団を払いのけた。

 反り上がったペニスの真上で開かれた脚は生肌が完全に露出している。

 俺のペニスを押さえていた山本さんもすでに脱いでいた。

 

 まるで騎乗位セックス寸前のような状況に、歓喜と緊張で喉の奥が辛くなってくる。

 山本さんのふとももは、部屋の薄明かりに照らされて、肌に薄く伸びる潤みが光を反射していた。

 

「もしかして、俺が寝てる間にするつもりで準備してた?」

「ううん。さっき起きたってのは嘘で、実はソトミチくんの隣でオナニーしてた」

「こいつ……!」

 

 夢の中と同じようにニヤニヤしている山本さんに陰茎の先から苛立った俺は、両手で腰を掴んでペニスを挿入しにかかる。

 この際、犯すことになろうともセックスしてやる。

 

「んふっ。やめといたほうがいいよ、ソトミチくん」

 

 山本さんは陰茎の先と淫穴の口がギリギリ触れ合うぐらいのところで俺のことを止めた。

 

「もうピルは飲んでないから、中出ししたら妊娠するかも」

「えっ……?」

 

 考えてみれば当然ではあったが、俺には予想外の発言だった。

 たしかに俺とは区切りがついたわけだし、モデルの仕事で忙しくなるということだから、セックスなどしていられない山本さんからしたらもう飲む意味もない。

 それでも、美優と山本さんのやりとりを見ていると、いつでもどこでもできるように準備はしているものだと思っていた。

 

 あれだけスキンシップを許しておきながら、先のことまで美優と話していると言っていたその中身に、俺とセックスすることは含まれていなかったということか。

 それが当たり前のことなのはわかっているけれど、態度が紛らわしすぎる。

 

「なら、口で」

「それはダメ。膣内射精以外は許さない」

 

 まるで発情中の美優みたいなことを言う。

 実質的なセックス不可の宣告だった。

 いや、生でセックスしても、射精する瞬間に抜けばワンチャンスがあるかもしれない。

 

「もし私とソトミチくんがエッチして射精しても、別に美優ちゃんは怒ったりはしないだろうけど。……もし、美優ちゃんより先に私を妊娠させたら、どうなるだろうね」

 

 目を細めて俺を見つめる。

 高い視線から届いた熱と冷気の両方を含んだ言葉に、俺の悪あがきは終わった。

 

 たかだか射精するだけのことなのだ。

 諦めるほかない。

 

「はぁ……俺はただ射精したいだけなのに……どうしてこんなに苦労しなくちゃならないんだ……」

「まあまあ。美優ちゃんに寂しい思いをさせてるんだから、お兄ちゃんは我慢だよ」

「別に俺は悪くないだろ」

「んーまあ、美優ちゃんも変なスイッチが入っちゃってるのは間違いないけどね。だから、こんなところで射精してる場合じゃないんだよ、ソトミチくん」

 

 山本さんは俺に跨っていた脚を上げてベッドから降りた。

 熱が出てからの美優の異変には山本さんも気づいていたらしい。

 その気付けのためにオナ禁した精力が必要だったということか。

 なるほど山本さんがやたらと美優に協力的だった理由がわかった。

 

「にしてもオナ禁してる男の横でオナニーするか普通」

「だって」

 

 起き上がって白い目を向ける俺に、山本さんは身を屈めて耳打ちをしてきた。

 

「私もソトミチくんとエッチしたくて変になりそうなんだもん」

 

 ビクッと、射精しそうなぐらい、ムスコが反応した。

 

 まったくこの人は。

 男の興奮のさせ方を完璧なほど熟知している。

 

「とりあえず今日はぐっすり眠れるように、一時的に性欲がなくなるツボを押してあげるから。それでお家まで頑張って」

「そんな便利なものがあったなら最初から教えてくれればよかったのに」

「性欲が戻る頃には血流が増進して射精しまくるまで勃起が収まらなくなると思うけど」

「……冗談だよな?」

 

 と、そのツボの存在が真実だったのかはわからないが、山本さんにかなり痛めのマッサージをしてもらって、エロいことを考えられなくなった俺は不思議なほどあっさりと深い眠りに落ちたのだった。

 

 そして、翌日にはハイキングが始まり、有り余る精力で班の女子の荷物まで背負って歩き通した俺は、最後もバスの中で山本さんに癒してもらって完全状態で帰宅することができた。

 

 ちなみに鈴原のやつは知らないうちに家に帰っていて、どうやら朝まで騒がしくヤりまくっていたのがバレて強制送還となったらしい。

 どれだけうるさい声を出していたのか。

 セックスできたのがそれほど嬉しかったのかな。

 

 とばっちりで同衾が見つかった生徒もいたらしいのだが、そこに俺と山本さんが巻き込まれなかったのは幸運だったのか、あるいはそこまで計算づくだったのか。

 いずれにせよ、当然の如く教員から質問攻めにあった俺がお咎めなしだったのは、説教の中でも鈴原が口を固く閉ざして秘密を守ってくれたおかげなので、近いうちに詫びと慰めのために飯でも奢ってやろう。

 

 性欲を煽られながらのオナ禁をやり通して四日目。

 ついに家の戸を開けた俺の前には、憎たらしいほど愛おしい妹が待っていた。

 帰宅後に学校の制服を着たままの、あと何ヶ月見ることができるのかわからないそのシンボル的な格好で、慎ましく手を重ねて俺を出迎えてくれた。

 

 もはや我慢する必要はない。

 そもそも我慢することなどできない。

 まずはこの妹に自分が溜めさせた精液がどれほど粘っこく濃縮されたかを味わわせてやろう。

 

 俺のペニスはスラックスを突き破りそうなほど怒張していて、蓄積された過分量のテストステロンが全身の筋肉さえ張り上がらせている。

 そんな俺が靴を脱いで玄関に上がろうとしたそのとき、枯れ枝を立て掛けられたかのようなか弱い力で美優が抱きついてきて、そして、何か歯痒そうな赤ら顔を上げて俺を見つめてきた。

 

「あの、お兄ちゃん」

 

 ごく小さい声で語りかけてくる。

 美優の反応がどうにもおかしい。

 どうおかしいのかと言うと、おかしくなっているはずの美優からすると大人しすぎるくらいにおかしかった。

 

「妹は、正気に戻ってしまいました」

 

 つまりそれは、熱を出したラブラブモードの美優はやっぱりどこかが変になっていて、それが一人寂しい時間の中で治ってしまったということだった。

 

「えっ……いや、あの」

 

 美優がいつもの調子に戻ったのは嬉しい。

 それ自体は俺も歓迎したい話だった。

 

「これ、どうすんの」

 

 だからといって俺の性欲まで落ち着くわけではない。

 今でも俺と美優のお腹の隙間で、もう一つの心臓がそこにあるかのように勃起したペニスが脈打っている。

 その熱と拍動を美優も感じているので、なおのこと困っているのだろう。

 

「毎日、ちょっとずつ……じゃあ、ダメだよね……?」

「ダメだな。悪いがこの金玉の中身は空にしないと収まらない」

「ですよね」

 

 気まずそうに唇を結ぶ美優と、見つめあったり目をそらされたりして、数十秒後。

 

「お、お手柔らかに、お願いします」

 

 美優は意を決して、しかし緊張した表情は隠せないままに、俺を家に上げてくれた。

 

 昨晩、通話を切ったときに大人しくしていた美優は、治りかけの姿だったらしい。

 それに気づけなかったことには申し訳ないと思うが、現に俺はこうして射精を完全に禁止されたままここにきてしまったんだ。

 あと射精警察として頑張った山本さんにも謝ってあげてほしい。

 

「大丈夫だよ、美優。あまり大きな声は出せないし、加減はするから」

 

 始まってしまったらどうなるかはわからないけど。

 何せ清楚な妹が帰ってきたのだ。

 

 兄として、犯さないわけにはいかなかった。

 



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理性が強い妹

 

 俺はベッドに座って膝に肘をつき、股間を勃起させながら険しい表情を美優に差し向けていた。

 美優は床に正座をしてバツが悪そうに俺を見上げている。

 

「……これをどうしてくれるかだが」

 

 長い沈黙の後に俺から話し始めた。

 性欲を煽られながら四日間も溜められた精液の処理と、そんなオナ禁の期間中に自分だけ自慰行為に耽っていた妹の処遇を決めなければならない。

 

 美優を犯すことは決定している。

 ただし、一口に犯すと言っても、強引に挿入して肉穴として使うだけを指すものでもないし、その手のやり方が元から好きでなかった俺にとっては由佳や山本さんを相手にやや食傷気味である。

 せっかく美優が理性的に戻ったのだから、ここはそのままの美優に普段はできないお願いをしてみるのがよいだろう。

 この妹の魅力といったらなんと言っても責任を取らなければ気が済まないタチであることだ。

 

「お兄ちゃんはとても怒っているのでな。悪いが美優にはそれなりにエッチなことをしてもらうことになる」

「承服しております」

 

 美優は制服が着物に見えるほどスッと背筋を伸ばして真顔で受け答えをする。

 これから実の兄に犯されるというのになんと涼しい表情か。

 俺だって、たかだか射精をするためだけに妹に酷いことをしたいわけではないのだが、ここまでオナ禁をさせたからには生優しいイチャラブセックスでは済まされない。

 

「とりあえず制服のままセックスしていいか」

「えっ……あ、はい」

 

 美優は早速ささやかな抵抗を兄に見せて、それでも自分の立場を弁えてすぐに同意をしてくれた。

 あれだけエッチで服が汚れるのを嫌がっていた美優からしたらかなり簡単に折れてくれた方だ。

 

「それとだな」

 

 俺は美優の机の引き出しを指差す。

 

「そこにいかがわしい動画が保存されてるだろ」

「いかがわしいかいかがわしくないかで言えば、いかがわしい方の動画はSDカードに入っています。それをいつ知ったのかはまあ予想がつくので聞きませんが」

 

 美優も以前に俺にローターを取りに行かせたときにどうなったのかを理解している。

 あるいはそんなものがあると知っても俺なら勝手に見ることはないと信頼したからこそ隠しもしなかったのか。

 

「それと本件とでどのような関係が?」

「美優にはこれから理性を保ったままセックスをしてほしくて。努力義務で終わるのもなんだから、一回イッたら一つ動画を見るってことにして、イかないように頑張ってほしい」

「予想のだいぶ上を行く酷さで妹は泣きそうです」

 

 ああわかっている、わかっているとも。

 負け確定の勝負に罰ゲームが用意されているようなものだ。

 しかし、そもそもがこの怒張を鎮めるためのお仕置きなのだから、美優はどれだけの羞恥プレイを要求されようとも、それを飲まなければならない。

 

 文字通り自らで撒いた種なわけだからな。

 美優の膣できっちり回収してもらわないと。

 

「じゃあ……私はそこに寝転がって耐えてればいい?」

「いや、俺が寝る。美優はパンツを脱いで俺の上に跨ってくれ。挿入さえしてくれれば俺をイカせる方法は任せる」

「私が騎乗位で射精させなければならないように聞こえるのですが?」

 

 美優は顔を引き攣らせて訊く。

 その顔が見たかった。

 

 美優はセックスで自分から動くことを極端に嫌うからな。

 エッチな女の子に見えるからという無駄な理由により、能動的に射精させることはセックスにおける主義に反する。

 たぶんフェラをしているときも『私が咥えていたら勝手に射精した』とか自分に言い訳をしているタイプだろう。

 少なくともドライなモードの美優はそういう性格をしている。

 

「セックスでご奉仕と言ったら騎乗位だ。世の中の常識だろう」

「うぐっ……昨日までの私はどうしてあんなことを……」

 

 美優は苦々しい顔をしながらも立ち上がって俺のところにやってきた。

 力なく揺れるスカートが美優の心中を物語っているようだ。

 本能側の性格は今の美優からしたらほとんど他人である。

 

 美優はパンツを下ろし、ベッドに上って、兄の下半身へと股を開く。

 それだけでも美優からしたら大変な屈辱だろう。

 俺は制服を着崩したように中途半端にシャツを開けてズボンを足元まで下ろしていた。

 裸でもよかったのだが、せっかくの制服エッチなのだし、雰囲気は大事だ。

 

 美優が履いていた薄桃色のパンツは床に畳んで置かれている。

 反省の色が見えて悪くないので貰うなどはせずそのままにしておくことにした。

 

「ところで、なんで急に正気に戻ったんだ?」

 

 俺は服が汚れないようにスカートの広げ方を迷っている美優に尋ねる。

 

「う、うーん……な、なんでだろうね」

 

 美優は歯切れ悪く誤魔化すだけ。

 ということはそれなりに思い当たる節があるということだ。

 

「いえまあ、実はその、最近のお兄ちゃんとのエッチには不満がありまして……」

「あれだけ自分から迫ってきてたくせに!?」

 

 まさかの発言に驚いていると、そんな最中にも美優は割れ目に亀頭を押し当てて挿入を始めようとしていた。

 性感に集中してしまわないようにあえて雑談を挟んでいる。

 

「エッチそのものに不満があったわけじゃないんだけどね。私ってさ、お兄ちゃんに挿れられると、すぐアレになるでしょ?」

「そうだな」

 

 本能剥き出しの淫乱モードにな。

 

「だから、こう……」

 

 美優は喋りながらゆっくりと腰を低くして肉棒を下の口に咥えていく。

 その表情は、今日に至ってはすぐに蕩けることはなく、あえて表情筋から力を抜いているのかと思うくらい意図的な真顔に努めていた。

 

 そして、そのまま腰を上へ下へと、騎乗位のセックスが始まる。

 美優の秘所の濡れやすさは変わらないまま、無表情での肉穴ご奉仕に、ぐちょぐちょとした音のいやらしさが俺を興奮させてきた。

 締まりのキツさとぬるぬるとした感触に、俺の陰茎は硬さを増し、溜まりに溜まった精子は早く妹の膣に出て子宮に行きたいと尿道の入り口に行列を作っている。

 

「ふぅ……っ……本番エッチになると負けるのは、私の方は悔しかったりしたので……ん、ぁ……お兄ちゃんをイかせる側になってみたいな……などと、思っていたら、お兄ちゃんとしてないうちに正気に戻ってました」

 

 どうやらあのラブラブ期間の中でもふと我に返ることはあったらしい。

 そして、それはセックスを通して積もった不満によるものではなかったようだ。

 元から淡白なエッチを望んでいた理性側のセックスへの要望は、一度はあの性欲ドロドロの本能によって消し飛んでいたものの、ここにきてまたその勢力を盛り返してきている。

 

 素の美優の性癖は孕まされることではなく性処理に使われることに悦びを見出すものだからな。

 なおかつ事務的な作業として射精させることを好む美優からしたら、即落ち二コマみたいなセックスは大いに不満だっただろう。

 

 俺にとっては悲しくもあり嬉しくもあり、ただいずれにしても、それは俺たちには必要なことだった。

 エッチをするたびに性本能が剥き出しになってしまうのでは今後の美優の生活に差し障る。

 ならばこれは美優の理性がどこまで精液への渇望に勝てるかの試験にもなるわけだ。

 お兄ちゃんがしっかりと監督してあげよう。

 

 その美優はといえば上体を前傾気味に腰をくの字に曲げて浅い挿入を繰り返している。

 というより俺の陰茎が大きくなりすぎで半分しか入らない。

 

「これも妹としては大いに不満です」

「実は俺も逆に物足りなさを感じてるよ」

 

 ペニスが強くなることは男にとって憧れであり誇りだ。

 お仕置きをする立場であれば逞しい陰茎であるに越したことはない。

 しかし、それは美優と比べても俺が優位に立つということ。

 俺としてもこの身分にはしっくりきていなかった。

 

「なので、これからは、妹がきっちりお兄ちゃんの性欲を管理します」

 

 そうして美優は激しく腰を振ってペニスを責め立ててきた。

 ベッドに両手をついて脚を屈伸させるように、ブレザーに包まれた乳房が揺れるほどの激しさで肉棒を膣コキをする。

 

「うっ……美優……っ……!」

 

 上下の運動に合わせて挿入角度が変わり、膣の入り口が俺のペニスの裏筋を滑らかに愛撫する。

 美優は喘ぐこともなく、文字通り自分の体を使って、ローションまみれのオナホを被せるように肉棒をシゴき続けた。

 ドライなままでする初めての騎乗位に、美優が興奮しすぎてイクのを我慢できなくなるまで。

 

 それが約二十秒ほどのことである。

 

「んっ……あっ……ふぅ……お、お兄ちゃん……ど、どう? イキそう? 私、あの、そろそろ……」

「もういつでもイけるぐらい気持ちよくなってるよ。でも、先にイッて恥ずかしがる美優も見たいから我慢してる」

「いじわる……」

 

 いち、に、さん、と腰を上下させて、また美優の動きが止まる。

 その後も少し動いては止まりを繰り返して、童貞が早漏を我慢しながらする初めてのセックスみたいな出し入れをしたあとは、美優は完全に静止してお腹をピクピクさせるだけになった。

 

「ん、んっ……うぅ……どうしよう……」

「動けないのか?」

「次でもうイキそうというか……こうして入れてるだけでも達しそうな感じが……あっ、あ、あっ……」

 

 キュッと唇を噛み締めて、喘ぎも漏らさず、体をできるだけ硬直させて、膣内部からじわじわと伝播してくる快感に耐えていた。

 しかし、俺が肉棒を差し込んだわけでも美優が腰を動かしたわけでもなく、ただ挿入されてるだけの気持ちよさで臨界を超えてしまって、美優は水が表面張力を失うような唐突さでビクッ、ビクッ、と体を震わせた。

 そこからはしばらく無言の時間が続いて、次に赤らんだ顔の美優と目が合う。

 

「ふぅ……っ…………うぅ……」

「何か言うことは?」

「……………………い、イキました」

 

 このセックスにおける絶頂のカウントは申告制である。

 しかし、美優は立場が悪くなると嘘をつけないので、イッたら正直に言うしかない。

 たとえ口にするのがどれだけ恥ずかしかったとしても。

 

「ならこれで一回だな。続きを頼む」

「う、うん」

 

 美優は騎乗位でのセックスを再開した。

 できるだけ深く入れないように穴を使う美優の腰使いは、よく締まる穴の入り口だけでペニスをシゴいているようで、これはこれでまた新鮮だった。

 

 だんだんと挿入が浅くなるのは美優がイったせいで膣内が敏感になっているからで、やがては穴から肉棒を抜いては入れてを繰り返す行為へと変わっていった。

 しかし、それは美優からしたら挿入直後の快感を何回も味わうようなもので、快楽から逃れるための手段としては悪手だった。

 

 やがては肉穴がペニスの径に広げられる快感に美優は知らず知らずのうちに夢中になり、なんのために浅い腰振りをしていたかも忘れてまたオーガズムに達した。

 ビクッと体が震えて、快感と共に脳天から煩悩が飛んで、その直後に美優の正気が戻ってくる。

 

「す、すみません。またイッてしまいました」

「ああ、知ってるよ。じゃあこれで動画二本視聴は確定だな」

「はい……」

 

 美優は続けての挿入の直前に、引き出しへと目をやって、自らが犯してしまった誤ちの重大さを認識する。

 イけばイっただけロリコス撮影動画を兄に見られるのだ。

 たとえそこに裸姿が映っていなかったとしても、フリフリの服を着て上機嫌に撮影をしているところを見られるのは、美優からしたら堪らない羞恥だろう。

 絶頂の引き換えに失うのはそうした人間性なのでもっと頑張ってほしい。

 

「んあっ……ん、あっ……だめっ……いっ……んんっ──ンッ!!」

 

 そう願っていた俺の体の上では、腰を振るごとに無様にイってしまう妹の姿があった。

 一度イってからはその次までの周期が短くなっていて、俺も射精がしたいのにいまいちタイミングが掴めない。

 もしここで膣内を精液まみれにしたら自分で動けなくなったりしないだろうか。

 

 美優はベッドに手をついて息を切らしている。

 呼吸を落ち着けようとしている肺の動きに合わせてブレザーの胸部をパツパツにさせている乳房が揺れていた。

 

「何回イった?」

「えっと…………よんかいくらい……」

「そうか」

 

 ここまで絶頂に対して根性がない様子だと回数を覚えきれなくなりそうだ。

 俺としても本意ではないが、美優への忠告も含めて体に刻んでおくしかない。

 

「スカートを上げて。イッただけ正の字を書いてくから」

「そんなエロ漫画みたいに……!」

 

 抵抗は見せつつも全部自分が悪いので美優も嫌とは言えない。

 美優のペン立てから取り出した筆ペンで、俺は美優の体に一つの正の字と追加の横線を書き加えた。

 もはや細い筆でふとももを撫でるだけで美優はイきそうである。

 

「美優にはもっとやってほしいことがあるんだ。とりあえずもうそろそろ射精させてくれ。もう限界なんだ」

「お兄ちゃんにいま中出しされたらちょっと理性が危ない」

「お詫びなんだからできるだろ」

「はい」

 

 義理は論理に優先する。

 美優はどうあれ俺を騎乗位で中出しさせなければならない。

 その結果として何回イクことになっても。

 

 そして、俺をイかせるためにはもう深くまでペニスを入れるしかないことも美優は理解している。

 だから美優は腰を下にまで落として、その瞬間にも脚をガクつかせて、引き上げる際にカリが膣壁を擦る快感に抑えきれない吐息を漏らしながら、俺の竿全体を膣で刺激してくれた。

 

「くうっ……いいぞ……美優、イクからな……」

 

 ペニスがピクピクと脈打って、それを射精の合図として受け取った美優は、愛液を垂れ流しにしながら一生懸命に腰を振った。

 スカートで隠されたそこを射精の直前に開くと、剃ることもなくツルツルの曲面を維持したアソコが肉棒を咥え込んでいるのが見えて、結合部を見られる恥ずかしさに美優がギュッと膣肉をいきませたタイミングで俺は精液を放出した。

 

 外に出していたら細長い線となって飛んでいたであろう精液が肉襞の隙間を埋めるように滲み出して、精子が子宮を目がけて肉襞を這い上っていく。

 何度も美優の膣の細部を知覚してきたペニスの感触が俺にその立体構造さえ認識させて、外側を観察していながら断面を見るように、白濁液を注ぎ込む映像が俺の脳裏に浮かんでいた。

 

「お、お兄ちゃんの精子……すっごい量……」

「まだまだ貯蓄はたっぷりあるからな」

「それはちょっと嬉しいかも」

 

 反省しているのかしていないのか。

 

 美優は挿入したままの竿に白く濁った体液が滴り落ちるのを眺めている。

 ちょうどスカートをめくってくれているので、俺は美優の申告に従って正の字をまた一つ追加した。

 

「今度はそうやってスカートをたくし上げたまましてくれ」

「こんな丸見えの状態でするのは恥ずかしいです」

「それはもう今さらじゃないのか……?」

「冷静になってみると想像以上にエッチなとこまで見えてて」

 

 美優はスカートを抱えて股の間を覗き込むように視線を下ろす。

 ペニスを挿入した状態でのクリトリスは穴が広げられる分だけ内部から押し広げられるので、クリトリスの包皮までがめくれてしまい核の部分が露出するのだ。

 いつかクリ舐めをさせてもらったときのように、単にアソコを見せてもらうだけのときとはまた違った卑猥さがある。

 

 つまるところ、それは俺にとっても新しい刺激になるわけで、諦めるわけにはいかなかった。

 パイパンとは人の目に晒されてこそ意味があるもの。

 

 そして、なんだかんだと言いながらも、美優も覚悟が決まったようで。

 

「これもすべて悪い方の私のせい……」

 

 自分をエッチな女の子だと認めたくない美優が、俺の精子を欲しがる体質を盾に生み出した性欲全開の側面。

 というより、それも含めて美優の性格の一部に過ぎなかったものを、別人格のように扱っていただけなのだが。

 美優も最近では俺に対して性欲に正直になってくれるようになったので、これはある意味でその無用の精神性に決別をするための行為でもある。

 美優からすれば自戒のための自罰だ。

 

 だからこそ、今回に至っては美優は強い抵抗を見せることもなく、スカートをたくし上げたままの騎乗位セックスを続けてくれた。

 今度は体を垂直に起こして、喘ぎ漏れそうになる声を押し殺して腰を上下させている。

 あまりの羞恥に一周回って美優の真顔がさらに固くなっていて、騎乗位どころかそれはもはやディルドスクワットに近かった。

 

「どうですか、お兄ちゃん。妹が頑張っているのですから射精してください」

「そう言われると弱いんだよな……くっ……」

 

 もはや俺たちにとっては物理的な刺激などさして意味をなさない。

 元から言葉一つで射精ができた俺だ。

 性欲側の美優がセックスのテクニックを習熟させたが故に性感帯への摩擦に意識がいっていたが、本来なら俺の体はとうの昔から美優には逆らえないのだ。

 

 俺を見下ろして膣を使い、ただ兄を射精させる事務行為と成り果てた騎乗位セックスは、美優に快感に耐えさせるだけの余裕を与えていた。

 調子づいた美優が煽るようにペニスを下の口で咥え込んで、「お兄ちゃん。精子、早く」とねだられてしまっては俺もイクを我慢できるはずもなく、搾り取られるようにして俺は再び妹の膣に射精をした。

 

 これではお仕置きなのかどうかもわからない。

 事実、もしこの流れが続いていたら、俺はベッドに横たわっているだけで金玉の精子を干上がらされていた。

 

 ところが、異変が起こったのは俺が三回目の射精をした後のことだった。

 すでに精液を溜める空間のない膣から白濁液が垂れ流しになって、美優のベッドが俺の精子で汚れ始めた頃。

 それまで悠々と腰を振っていた美優の動きが緩慢になった。

 

「ふうっ……はあ……お兄ちゃん、三回も中に出したのに、なんでまだこんなに硬いの……んっ……ううっ……」

 

 勢いは急激に衰えて、ようやく一つ腰を下ろしたかと思ったら、美優が膣から愛液とともに大量の精液を吹き出してイッてしまった。

 それから呼吸を整えてまたお尻を上げ、自重でペニスを奥にまで挿入するが、そこでもまた美優はイッてしまう。

 

「あっ……ふあぐうっ…………ううっ……も、もう……むり……あっ、あっ、んんっ……ふぅうっ……ああっ……!」

 

 それからも、弾みをつけて腰を浮かしては自重でペニスを挿れ、そこでもまたイき、ぷるぷると膝を震わせながらの騎乗位が続いていく。

 その表情は精液を求める獣の顔ではなく、乙女チックに頬を赤らめて何かに没頭していて、うっとりとしているようにさえ見えた。

 俺の顔も結合部すらも見ていないその目線に、俺はどこか覚えがあった。

 

「たまに美優は本当に変態だなって思うことがあるよ」

「っ……お兄ちゃんに、言われたくはないです……!」

 

 その口答えこそ俺の想像が当たっている証拠だった。

 美優は膣を使った本番セックスでさえ事務的に性処理をしている自分に興奮しているのだ。

 

 性処理に使われることに悦びを覚える美優は、正確には義務として兄の性欲に使われている自分に興奮していて、結局のところ自分のエッチな姿こそが何よりの美優のオカズなのである。

 無表情で騎乗位搾精するセックスが完成してしまったからこそ、実際にそれを行っていることに興奮して美優は絶頂してしまった。

 割り切ることで快感をシャットダウンしていた脳もそれを期に再び美優の神経から快楽パルスを受信するようになり、もはやひと擦りで一回イク体になってしまった。

 

「さすがにもうこれ以上頑張れって言うのは可哀想だな」

「お情けを頂ける枕詞には聞こえませんが……」

「だから最後にそこの鏡の前で立ちバックでハメさせてくれ」

「やっぱり鬼畜じゃないですか……! 妹をセックスするための何だと思ってるんですか……!」

 

 セックスをするための何かではあるらしい妹を俺は抱き上げ、バックへ移行するその間に、対面座位でのピストンをして美優の脚に正の字を足していった。

 一画を書いてはまた腰を振り、また一画を書いては腰を振って、泣きそうな顔でイキ続ける美優にペニスを差し込みながら、気づけば美優は絶頂の記録は五文字目にまで突入していた。

 

「ねえ、お兄ちゃん、あの、あと何回射精するつもり……?」

「俺はまだ三回しかイッてないからな。あと三回はイかないとスッキリしないよ」

「じゃあ……あといくつ正の字が増えちゃうの……?」

「それは美優次第だよ。スペースがなくなってきたからお尻のほうにも書くからな」

 

 俺は全身鏡を壁に立てかけて、その両サイドに手がつくように美優を立たせた。

 お尻を突き出した美優のふとももには大量の精液が垂れていて、内もものあたりは文字を書くのには使えなくなっている。

 前かがみで手を突っ張る美優には、これからペニスで突かれるために広げた股と、自分を犯す兄の姿の両方が見えていて、おそらく美優も俺とセックスしていることをこれほど強く自覚できる光景を目にしたことはないだろう。

 その瞳は恐怖と期待による興奮に潤んでいた。

 

「待って待ってねえお兄ちゃんこれ私死んじゃう」

「もとからこれはそういうお仕置きだよ」

「またエッチな私になったらどうするの……?」

「大丈夫だよ。そうはならない。そうならないように、美優は頑張るよ。多分な」

「そんな人任せな……あっ、ああっ……!!」

 

 俺が後ろからペニスを挿入して、その刺激だけでは、美優はイかなかった。

 背後は腰を振る兄の姿があり、腰を打ちつけられるたびに揺れる乳房があって、このプレイを成り立たせるために必死に体を支えている自分がいる。

 そうした情報のインプットによって、美優はイっていた。

 急激な膣の収縮に、本来であれば力が抜けてしまうはずの下半身は、呻くように声を出すことで快楽を上へ上へと流し、立った状態をなんとか維持してくれた。

 

「うぐぅうああっ、あ、あ、あっ……おにぃ、ちゃん……はぁうぁっあっ、ああっ……うううぅ……ん、んぐぁっ、ふあっ、ああっ……」

 

 性欲に溺れた獣のような声は、理性を残したままの美優からしたらどんな手を尽くしてでも抑えておきたかったはず。

 あるいは、可愛らしくあんあん叫んで恋人っぽいセックスの雰囲気にしてしまえば、美優の体は保ったのかもしれない。

 でもそうしなかったのは、きっと美優が鏡に映る自分に一方的に使われるだけの存在であってほしいと願ったからだ。

 

 美優はそういうセックスに興奮するから俺の指示に対して従順だった。

 従順でいる自分を鏡で眺めるのが好きだから美優はこれだけ頑張れていた。

 何より、そんな自分が一番に兄に愛されることを知っていて、だからこそ美優は変態的な性癖に高ぶる姿を晒すことにさえ迷うことがなかったのだ。

 

 俺もその愛しさの分だけ美優にたっぷりと中出しをした。

 イクときだけはピストンを止めて、引き攣る美優のお腹の中へ精液を流し込む瞬間を、美優に見せてあげた。

 そのたびに美優は「うぐぅううぅ」と悔しそうな声を喉奥に籠もらせて、せめて俺が宣言した三回目の射精まではと、自分が射精のために使われる姿をその目に焼きつけたのだった。

 

「はぁ、はぁ……美優の中、わけわかんないぐらいとろっとろだな……。とりあえず、溜まってた分はスッキリしたよ」

 

 真顔でありながら俺の肉棒を受け入れてくれるのがいい。

 その美優はといえば、俺が美優の腰を掴んでいた手を離しても、美優は鏡をぼーっと眺めたまま。

 しかし、それは意識がトンでいたのではなく本当に鑑賞をしていただけのようで、しばらくすると美優は床にペタンと座って鏡越しに俺と目を合わせてくれた。

 

 予想外にも美優は最後まで犯される姿を楽しめていたようだった。

 俺が射精するたびに美優にイッた回数を申告させていたので、もしかしたら数字をカウントさせるという制限が、ギリギリのところで美優の理性を繋いでいたのかもしれない。

 

「絶対に制服にお兄ちゃんの精液ついた」

「ま、まあ、あと何ヶ月も着ないものだから、許してくれ」

 

 美優はスカートの周囲をぐるりと確認してから、俺が渡したティッシュ箱を容赦なく軽くして床に飛び散った二人分の体液を拭いてくれた。

 服のことを気にしていられる余裕があるなら大丈夫そうだな。

 数分休んでからは立つこともできるようにもなっていた。

 

「さて」

 

 これで終わりではない。

 美優にはこれから自分がどれだけの咎を背負ったのかを認識してもらわなければならない。

 

「えーっと……私から見えない位置にも書いてあるようなんですが……」

「言っただろ。ふとももは濡れて使えないから。鏡を使って頑張ってくれ」

「まったくお兄ちゃんは射精するとなったらふてぶてしい」

 

 どれも自らが招いた業であるが、軽口を叩けるぐらいのほうが好きなので見逃すこととする。

 美優は改めて鏡の前に立ち、スカートを捲って下半身に筆ペンで書かれた正の字を数えていった。

 後ろの文字を確認するために脚を上げたり、背中向きで体をねじったりすると、奥に溜まっていた精液がヴァギナから漏れてきて、それを律儀にも無言で拭う美優がまた可愛らしかった。

 

「いくつあった?」

「んと。うん。六十二画ほど」

 

 美優は呟くように小さな声で俺に告げる。

 数秒経ってから目が合って一瞬で逸らされた。

 

「六十二回もイッたのか」

「は、はい」

 

 美優は癖になった長い髪で顔を隠す仕草で照れ恥ずかしさを誤魔化す。

 六十回もイクというのは男からしたらありえない数字だ。

 女の子だからこそ実現できるエッチの奇跡だった。

 

 しかも、これは美優が一回一回、イッたと認識した数をカウントしたもの。

 連続で絶頂した分を数えていたら三桁はいっている。

 それで立っていられるなんて美優もだいぶ体力がついたな。

 そこは俺のおかげだろうか。

 

「それで、実はですね」

 

 美優は数え終わった後も鏡に映る自分の姿に目線をチラチラとやっていた。

 スカートさえ下ろせば普通の女学生に戻るのがまた逆方向のギャップになっている。

 

「自分のあられもない姿を見ていたらムラムラしてきたのですが」

 

 美優は申し訳なさそうに俺に言った。

 これだけセックスをしてなおエッチを求めてしまっていることへの恥ずかしさもあり、お仕置きをされている立場で追加を望むのは身分違いだということもあり。

 そうした物を弁える精神性がこの期に及んでもはっきりと要求をできなくしている。

 

「ならもう一発やるか。カウントはなしで」

 

 俺のほうはまだ頑張れる。

 美優がセックスをしたいと言うならいつでもする。

 いつでも性処理に使っていいと美優が言ってくれるのは、その逆に俺がいつでも美優の性欲に付き合えるからでもあるのだ。

 俺たちの微妙な関係はそうやって成り立っている。

 

「えっと。あのさ」

「どうした」

「元々はさ。我慢させた分、私に飲ませるって言ってたじゃん」

「当初はその予定だったよ。つまり、そうか」

「うん」

 

 お仕置きなので何も言わなかったが、美優は不服なのだ。

 あれやこれやと無理やりやらされるのは覚悟していたものの、そのいずれであっても、美優が一番に望んでいたことは叶えられると思っていたんだ。

 美優もこうして反省することにしたのだし、シメとしては美優の気持ちに寄り添ってあげるべきだな。

 

「この状態で構わないか?」

「大丈夫」

 

 美優は下半身を露出させたままの俺の前に正座した。

 さり気なく鏡から見える位置に移動したことへの配慮には頬を膨らませていたが、一度やったことには抵抗しないのが美優である。

 

「はむっ……んっ……」

 

 小さくなりかけていた陰茎を美優が口に含んで丸呑みにする。

 そこからは射精をするまで言葉を交わすことはなかったが、美優がフェラに夢中になってくれているだけで俺には満足だった。

 

 本能むき出しの美優を犯すために、あるいは山本さんとのセックスのために、俺の肉棒は鍛え上げられて逞しくなった。

 だが、いまこうして俺のペニスを咥えている美優は、純粋に兄のイチモツと精液の味を楽しみたい妹としての美優なのだ。

 久々のフェラにはお仕置きセックスをするときと変わらないぐらいの興奮があったが、不思議なことに俺の肉棒は美優が喉を使えばギリギリで根元まで口に入れられるサイズに留まっていた。

 

 俺が一日に複数回の射精ができるのも、こうして美優の望む形に勃起できるのも、すべては思いやりであり愛である。

 孕みたがりの美優が俺の精液を飲むことを好むようになったのは、果たして体質的なものだったのか元からの性癖だったのか、今となっては問い正す気もないのだが。

 こうしてたまにふと兄のモノを咥えたくなる美優が俺は好きだった。

 

「美優。出るよ」

 

 腰を動かすこともなく、美優も激しくしゃぶったりすることはなく。

 俺は美優が陰茎を舐めることを楽しんでいるうちに自然と限界を迎えて、美優も俺の精液が出てくるまでの一連のことを楽しんでいた。

 びゅっ、びゅっ、と静かに美優の口に精液を出して、今日のエッチは終わった。

 

 その後に俺は動画のことに話をしたかったのだが、どうやら自分の口に射精されている瞬間を鏡越しに見てしまっていたらしく、「ちょっとだけ一人の時間をください……」と言われて俺は自室へ戻ることになった。

 あれだけのセックスをした後なのでオナニーをしているかはわからないが、これまでと違って理性を保ったままエッチを終えたことに対して色々と思い馳せたいこともあるのだろう。

 

 それから二人で別々に食事と風呂を済ませて、いつものように寝る時間に。

 俺の部屋にやってきた美優と、動画のことについて話すのは後回しにして、まずはお土産を渡しながら普段通りになった美優とのお喋りを楽しんだ。

 

「でもまあ、これはこれでいい経験だったかもな。露天風呂旅行に向けた練習にもなったし」

「お外でエッチする気満々じゃないですか」

 

 美優だってそうだったから提案したのではないのか。

 露天風呂が設置されているベランダは、外部から見えなくなっている状態とはいえ、やはり外気に晒されながらのセックスは格別だろうしな。

 露出趣味ではない俺たちからしたら誰にもバレないぐらいがちょうどいい塩梅なので、エッチをしている最中の美優の声は抑えられるに越したことはない。

 

「あ、そういえば。こんなタイミングで言うのは非常に心苦しいんだけど」

「ん? なんだ?」

 

 美優はスマホで何かを確認して、それからベッドに潜り込んで俺を横に誘った。

 

「また二日ほど射精するの我慢してもらっていい?」

「そろそろ、そういうお願いをするときは理由も添えてもらえないか?」

「ん、んと……そ、そうだね。今回は、まあ、何日かしたら言うよ」

「まあ。ならいいが」

 

 これでも少しは進歩したと言えるのか。

 ただ、一つだけ、美優の表情からしてわかったのは、そのお願いが何かの作戦のためではなく、単に口にするのが恥ずかしいことをするためのもののようなので、俺はようやく素直になり始めた妹のためにまたちょっとしたオナ禁をすることにした。

 

 



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陽性

 

 長い長い夏休みを終えてからしばらくが経ち、薄れていく残暑に秋を感じ始める今日この頃。

 俺がやっていることといえば妹とのセックスと受験勉強ぐらいなもので、漫画やゲーム以外の趣味でも始めようかとも思うのだが、やはり自分の時間ができたら何をしたいかと言われるとゲームか動画鑑賞くらいなものである。

 せっかく体が丈夫になったのだから、美優と一緒にスポーツでもやってみるべきだろうか。

 

「女の子と一緒にできる運動って何かあるかな」

 

 移動授業から戻る廊下で隣を歩く山本さんに訊いてみた。

 いつでもご機嫌な山本さんは歩くたびにブラウスの膨らみがボインボインしている。

 また謎にオナ禁をさせられて山本さんの巨乳が二割増しに大きく見えた。

 長くて黒い髪はブラウスの白色をより美しく際立たせるのだ。

 

「セックス以外に?」

「セックス以外に」

「ないんじゃないかな」

「そんなキッパリと……」

 

 しかし、事実として思い浮かばないのだからないのかもしれない。

 美優は胸以外に脂肪が少ないので動けないことはないだろうが、だからといって運動が得意というわけでもないだろうし、好きかどうかもわからない。

 

 きっと学校の体育だって器用にこなしているタイプだ。

 これからの季節を考えれば紅葉狩りくらいがちょうどいいかな。

 

「にしても、美優ちゃんがあっさり元に戻っちゃうなんてね。せっかくソトミチくんを性欲の獣にしといたのに」

「あれだけ苦労かけた割に面白い話にもできなくて悪かったな」

 

 性欲の獣という表現はアレだけれども。

 

「きっちり体で払わせてあげた?」

「一応はな。ただ、強引なのはどうにも肌に合わなくて……」

「んふふ。まあそうだよね、ソトミチくんは」

 

 あくまでも周囲には聞こえない声で、「ペロペロされてヒーヒー言ってるぐらいが可愛いもん」と、山本さんも俺のドM根性を見透かしている。

 

 そもそも、これまで俺が女の子を相手に優位でいられたのは、美優によって体がそう仕込まれていたからであって、俺自身の意思や能力では到底成し得ないことだった。

 しばらくはその魔法にも近い全能感で優秀な雄でいられたけれど、いずれは冴えないダメ男である本性と向き合わなければならない。

 その上で俺は美優の横を歩く男として恥ずかしくないように努力をしていくんだ。

 

「山本さんは、俺とこう……何かやる予定はあるの?」

「ん? どういうこと?」

「あれだけのことやらせて、結局は無駄になったわけだろ? 美優のことだからそのあたり気にしてるじゃないかと」

「ああ、なるほど」

 

 美優はいつも頼み事には対価を用意している。

 それがなおのこと、ただ性欲を暴走させただけの無意味な結果に終わったとあっては、ケジメをつけずにはいられないはずなのだ。

 

「美優ちゃんが変なことに気づいててわざと付き合ってた部分もあるし、お礼なんて元々必要ないんだよ。おかげでソトミチくんとエッチなことができてラッキーって感じ」

 

 山本さん曰く、俺とセックスをしたがっていたのも煽りのうちだったとか。

 男を色香で惑わすのが好きな山本さんからしたらフェラができただけでも棚ぼたで、本番行為にこだわりがあるじゃないと言っていた過去の発言も、言葉の通り嘘ではなかったらしい。

 納得はしたけど、どこまでが本音なんだかな。

 

 と、お喋りをしながら戻った教室では、ちょっとした騒ぎが起こっていた。

 間違った座席についた陽キャグループの一人が、机の横に下げられていた手持ちカバンを開けてしまい、その中に隠されていたエロ同人誌を見つけてしまったのだ。

 ゴリゴリの十八禁で色んな意味で問題である。

 

「こいつ学校にエロ本持ってきてんぞ! てか何冊あんだよ性欲ヤバすぎんだろ」

「そ、それはこの間の戦利品の交換のためで……」

「うわーエロ本交換とかオタクは闇が深けえわー。てか中身もヤバくね? オヤジのケツ舐めさせてんし…………これクソエロいな……」

 

 勝手に人のエロ本を拝借して鑑賞している男子に、どこから注意したらいいのかわからずに周囲が戸惑っていると、そこに真っ先に切り込んでいったのが鈴原だった。

 あいつは何気に男らしさが日々増していて羨ましくもある。

 

「お前ら待て! それは血と汗と金と敬意で形になった想いの結晶なんだよ! ぞんざいに扱うんじゃない!」

「なんだよ修学旅行じゃ喘ぎ声がうるさくて説教されたくせに」

「あれは隣の部屋のとばっちりくらったんだよ……!」

 

 どうやら件の教員バレは鈴原が直接の原因だったわけではなく、女との同室をたまたま検められただけで、ヤッてる現場を押さえられたわけではないらしい。

 正直なところセックスの有無で処分が変わるかと言われると謎なのだが、修学旅行から強制送還された以外のペナルティは課せられず、なんだったらその少人数での帰り道で仲が深まったりもしたのだとか。

 やつにも近いうちに彼女ができそうだ。

 

「どうでもいいからさ、教室でそんな話しないでよ。奏に変な知識を吹き込まないで」

「ほんっと男って汚らわしい。あんたらまとめて卒業まで停学してたら?」

「んだよ。お前らだってエロ話ぐらいするだろうがよ。ほらお前らもケツ穴見てみろって。結構リアルだぜ」

「きゃー汚れる! うちの姫が汚れる……! 見せんなカスしね!」

 

 教室のドアで立ち止まっていた俺から山本さんを引き剥がすように、グループの女子が堅牢な壁を形成する。

 俺と仲良くしていることなんてのは、クラスメイトからしたら誰にでも優しい山本さんの日常の一片でしかなく、過去から現在に至るまで山本さんは清楚清純な女の子として認識されているのだ。

 

 これだけの黒髪清楚が処女だと思われていれば祭り上げられるのも無理はない。

 こんな可愛い子が処女なわけがないのだが。

 

 程なくして興味をなくした陽キャAが本を返し、次の授業の担当教師がやってくるまえに騒動は沈静化した。

 俺と山本さんも自席に戻ろうとする中、エロ本を持ってきた当人は一緒にそれを買ったのであろう仲間と盛り上がっている。

 そのすぐそばに山本さんの取り巻きがいるとも知らずに。

 

「やっべ山本さんにエグいの見せちまったよ」

「気をつけろよな、没収されてたらどうすんだよ……でも、こんなスケベプレイ、山本さんにやらせたら死ぬほど興奮するだろうな……」

「ちょっと男子」

 

 今度はその女子Aがエロ本を手に取り、見開きをいっぱいに広げると、おっさんの股を裂くように真っ二つにした。

 

「うぉぉおおおおおおお! おまっ、おまえ!! それは器物損壊罪だぞ!! 弁償しろぉ!!」

「こっちが犯罪だって言うならそっちは猥褻物陳列罪でしょうが!!」

「うるさい思い出ごと弁償しろ!! ケツ舐めろよこらあ!!」

「うっわ……きっも……そんなことする女が現実にいるわけないでしょ……!! 現実見ろクソ童貞!!」

 

 そこに女子生徒が仲間を呼んで大騒ぎである。

 山本さんに汚い知識を吹き込んだ罪は重たいのだ。

 この学校では。

 

 渦中の山本さんはといえば、自席に戻ってよいのか判断がつかず、それとなく俺の近くでステイしている。

 

「やっぱり例の件のお詫びをさせてもらおうかな」

 

 山本さんは手を壁にしてコソッと呟く。

 

「どうして急に気が変わった」

「ソトミチくんはアナルを舐めながら手コキしたらどんな声を出すのか興味があって」

 

 ほらすぐそういうことを言う。

 山本さんの本性を知ったらクラス全員が泣くぞ。

 

「今度さ、雑誌の見本が届くんだよね。本人の前で表紙にぶっかけするのとか興奮しない?」

「山本さんっていつもそんなこと考えてるの?」

「お勉強に脳のキャパ使う必要ないから」

「だからってもっと有用な使い方があるだろ……」

 

 俺も複数の女の子となんだかんだとあったが、やはり山本さんは群を抜いて変態だと思う。

 脳みそがセックスのことしか考えていない。

 

「まあ、美優に聞いてみるよ」

 

 どう聞けばいいのかわからないけど。

 

 こういうときこそは美優に癒されたい。

 なにより射精解禁の日だし、早く帰宅しなければ。

 

 エロ本事件を機に当のオタクグループは女子と溝を深めたようで、それでも俺には冷たい視線を向けられることはなかったのは、今にして思えば不思議な感覚だった。

 小野崎たちに積極的に話しかけていた努力が実を結んだのか、いつの間にか自分の立ち位置が変わっていた学校の生活にも慣れていて、俺は俺で真っ当な大学を出て真面目に働くために勉学に励み、一日の講義を終えたのだった。

 

 そろそろ模試の日も近づいている。

 これまで頑張った勉強の一区切りに、まずそこを目標にするのも悪くはないだろう。

 まずはどの教科も偏差値が五十を超えるようになれば御の字だ。

 

 帰宅の準備をしている間にスマホに通知が来て、どうやら例のカレンダーアプリに美優が変更を加えたらしい。

 このアプリ、事前に予定していた内容を埋め込み式で通知してくれるのだが、俺たちがエッチの予定しか入れていないせいで『今日はセックスの日です! よい一日になりますように!』とリマインドされるのが中々にドキッとさせられる。

 美優が生理で本番ができないときなんかは『今日はフェラチオですね! 楽しみましょう!』とかになるわけで、フェラチオなぞそんな励んでするものでもなかろうと心中で突っ込んでしまう。

 

 通知を完全に切るのは後に不安を残すので、内容だけ見えないように設定を変えておくか。

 ちなみに美優が変更したのは予定の詳細に『中出し希望』と加えたものだった。

 そんなものわざわざ書かなくても膣内に出すのに、むしろそれは口内射精禁止と読み替えられるもので、俺にオナ禁までさせてどうしたのかなと答えの見えないことを考える。

 

 そうしているうちに家に着いて、玄関を開けるとリビングから妹が出てくるという、慣れた一連の流れが続いた。

 

「おかえり」

「ただいま、美優」

 

 靴を脱いで家に上がり、カバンとブレザーを美優に預かってもらって、すぐ近くで向かい合いになる。

 まだニュートラル状態に見える美優は、俺にだけわかるぐらいに血色の良い頬の明るさをしていた。

 軽い興奮状態ではあるみたいだ。

 

「夜にする?」

「今すぐしたい」

「わかった。なら、シャワーを浴びるのも後回しでいいのかな?」

「うん。すぐに私の部屋に来て」

 

 美優も先に帰ってきたくせに制服姿で、シャワーを浴びていないどころか着替えもしていない。

 まさかこの間の今日でもう制服セックスにハマったわけじゃないだろうな。

 あれだけ服が汚れるのを嫌っていたくせに、どうも美優はエッチに関しても食わず嫌いというか、まあ一度慣れるとしたくなるのはいつものことか。

 

 俺はトイレに行って、洗面台で手を洗い──階段を上っている最中に、ふとこれまであまり考えなかった、あることが頭をよぎった。

 

 中出し希望であっても最初はフェラチオから始まるはず。

 というより口内射精が禁止になってもペニスはしゃぶってほしい。

 美優のフェラがないと満足感に欠けるからだ。

 

 となると、トイレに行った直後のペニスは、洗面台で洗っておくべきだったかもしれない。

 それとも、排尿直後のペニスであっても、汗の味とさして変わりはしないのだろうか。

 美優はそのあたりどう考えてるのかな。

 

 山本さんが相手ならたとえ飲んでくれと頼んでもやるだろうが、美優は絶対にやらない。

 ならば何も感じていないとは思えない。

 

「美優。もう準備はできたけど、する?」

 

 美優の部屋のドアを開けると、美優が机の前に立って何かを眺めていた。

 それをペン立てに紛れ込ませるように戻すと、美優はこちらを向いて、さっきよりはっきりと赤らんだ顔で口を開いた。

 

「する。ちゃんと溜めてくれてるよね」

「もちろん。美優のためだからな」

 

 俺はズボンのチャックを開けて陰部を露出させ、美優も当然のように俺の前に膝をついてそれを咥える。

 まだ親指程度しかない皮被りの男性器を、美優は舌で皮を捲るようにカリを舐めて、それから海綿体に血液を充足させるために吸いついてきた。

 

「やっぱフェラを始めてすぐの快感は格別だな」

「はむっ……んっ……ちゅ。ん。一瞬だけだもんね。私も好き。んちゅっ……んむっ……」

 

 次第に大きくなっていく竿に視線を落としながら、美優は俺の肉棒を咥えて、完全に勃起してからは裏筋の根元から先を舐め上げたりと、すっかり手慣れた順で兄に性的快楽を味わわせてくれた。

 しばらくそうしてからしゃぶりつく段階に移って、竿全体を口に含んだり亀頭だけを吸ったりしながら、ペニスを気持ちよくしてくれる段階に入ったとき、どうにもそこがちょうどいいタイミングだと俺は思ってしまったのだった。

 

「なあ、美優。一個聞いていいか」

「なんでしょう?」

 

 やはり一度気になった疑問は解消しておきたい。

 

「フェラをする前にトイレに行ったときは、洗ったほうがいいのかな?」

 

 俺が尋ねると、美優は俺の目を見つめたたまま、数秒だけペニスをしゃぶり続けて、それから口を離した。

 

「別に洗わなくてもいいけど」

 

 それだけ言って美優は舐めるだけのフェラを続けた。

 しゃぶらないのは喋りながらエッチをしやすくするためで、美優のほうはといえば、シャワーを浴びずにする前はアルコールフリーのウェットティッシュでアソコを拭いているらしい。

 匂いと恥ずかしさの両方を隠すための隠れたルーティーンだった。

 

「美優は、俺の方のやつは気にはならないの?」

「それはまあ、咥えたときに、おしっこの味だなーっていう塩っぽさは感じますが」

「嫌いな味ではないっこと?」

「うーんと……嫌いではないというか……」

 

 美優は悩ましそうに目を泳がせる。

 精液と違って、滴ほどでもそれを口にすることを、受け入れられているというわけではないようだ。

 

「私はお兄ちゃんとしかエッチができないから、こんなことを言われてもありがたみはないかもだけど」

 

 美優はまた下から仰ぐ視線で俺と目を合わせる。

 

「お兄ちゃん以外が相手だったら、トイレの後のやつをすぐ舐めるとか死んでも嫌なので」

 

 そうして美優はカウパーの漏れる鈴口からチュッと中のものを吸い出して、ゴクリと飲み込む。

 

「それなりに愛情のこもった行為であることはご認識いただきたいです」

 

 要するに、排尿の直後のペニスを咥えるのには抵抗があるが、俺が喜ぶからそれでも即尺をしてくれているということだった。

 妹の愛が行動に表れすぎていてめちゃくちゃ萌える。

 

「ごめん、出そう」

「んー、ダメ。今日は中に出してもらわないとイヤなの」

「そ、そうか。すまん」

 

 山本さんが相手だとエロくて興奮してだけど、美優が相手だと萌えるだけで射精しそうになるんだよな。

 妹の愛情でお兄ちゃんの性癖はだいぶ歪められてしまった。

 

「でもたまには濃い味も新鮮だったりするから、今日のエッチが終わったらまた二日ぐらい我慢してね」

「妹の満足のためならいくらでもオナ禁するよ」

 

 前のように煽り散らしさえされなければな。

 濃い精液が欲しい美優の想いには最大限に応えてあげたい。

 というより連日複数回のエッチをしていたあの日々の方がおかしかったのだ。

 俺も長い時間をかけて体を労ってあげなければならない。

 

「というわけで……脱いでもいい?」

 

 美優はブレザーの襟を摘んで俺に確認する。

 やはり制服エッチはまだ慣れていないようだ。

 

「着衣だと汚れちゃうもんな」

「ううん。そうじゃなくて」

 

 美優は部屋の明かりを薄くして、「裸でしたいの」と、自身のブラウスをはだけさせながら、俺にも服を脱ぐように催促してきた。

 アソコを見られるのが苦手な美優が、着衣を避ける理由ではなく裸になりたがるのは珍しい。

 やはり今日のセックスには何かあるようだ。

 

 その上、プレイは普通にベッドで正常位が望みとのこと。

 俺は美優をベッドに横たえ、正面から穴に勃起したペニスを向かい合わせると、そこでまた美優が俺の手の甲をさすって何か言いたげにしていた。

 

「で、あの」

「どうした」

「もういくつかお願いがあって」

「この際だからなんでも言ってくれ」

 

 今日は珍しく美優から誘ってくれたセックスなので、俺はその全ての望みを叶えるまでだ。

 

「できるだけ行為中の会話はなしでいいですか」

「出すときは?」

「お兄ちゃんのタイミングで勝手に中出ししてくれていいから」

「わ、わかった」

 

 美優がここまでストレートにエロいことを言うとはな。

 冷静に見える以上に性欲は高まっているらしい。

 

「他は?」

「激しくするのもなしで」

「単調な感じでいいの?」

「うん。あと、あの、最後は、私の一番奥に……」

「ゆっくりやって、出すときは密着して、だな」

「それで、ね? できたら、終わった後は、しばらく私を一人にしてもらえますか?」

「えっ、ピロートークとか、添い寝もなしで?」

 

 それはつまり、美優に種付けだけして部屋を出ろということかと俺が尋ねると、美優はコクコクと首を縦に振って、それからは俺の挿入を待つだけになった。

 

 注文の多いセックスだが、美優がそうしたいのなら従おう。

 美優が俺にとって射精用のオナホであると同時に、俺は美優にとって精液が出るディルドのようなものでもあるのだ。

 竿としての役割を果たせないのであれば美優を使う権利もない。

 

 ならばと俺は薄暗い部屋で静かにペニスを挿入した。

 美優の膣は入り口からもうヌルヌルで、細い膣道は体表面の温度よりもだいぶ高い熱を宿している。

 美優に煽られまくって凶暴化したペニスとは違い、初めて美優とセックスをしたときと変わらないぐらいのサイズに収まっている俺の竿には、それでもあの頃と変わらないぐらいの圧迫感に包まれていた。

 

 会話はしないと言われていることもあって、俺は美優に挿入している快楽を吐息にも出さず、完全な静寂を保つように努めていた。

 肉棒を前に突き出すと、ぬちゅっ、と音がして、美優も俺と同じように呼吸を抑制しているので、あとはそれでも抑えきれない小さな喘ぎ声だけが続くだけ。

 

 やがて暗さに慣れた目が美優の顔の輪郭をはっきりと俺に認識させる。

 できるだけ存在感を消してほしいという要望だったので、ジロジロと見ることはしなかったが、美優が妄想に耽るように遠くを見つめて快楽に浸っていることはわかった。

 俺の腰の動きに合わせて、上下に体をゆっさゆっさと揺られながら、良いところに当たると身をキュッと縮こませて口を押さえる姿が愛らしい。

 

 アンアンと女の子が喘がなくとも、自分のペニスを挿入することでこれだけ喜んでもらえるのだと思うだけで嬉しくなるし、それは同時に快感にも興奮にも昇華されていくものだった。

 こんな美優の素直な姿は、もしかしたら俺がいない間にこっそりと撮っていた動画の中でしか見られないものだったのかもしれない。

 

 会話がないからこそ、普段は気にしない繊細な部分に意識が向いていた。

 その分だけ愛が伝わってきて、単調に膣を擦っているだけの肉棒に、抗いがたい快楽が上乗せされていく。

 簡単にしているほど我慢はできなさそうだった。

 

 いつもならここで、「イキそう」とか、「そろそろ出すよ」とか、美優に心構えをさせてから射精をしている。

 それは俺が美優のような美少女に精液を出すことに罪悪感を抱いていた頃の名残でもあり、同時に美優が俺の精液によって本能剥き出し状態になってしまうが故の事前宣告でもあった。

 だが、今日は黙ってセックスをして、俺の好きなように中出ししてくれと言われているので、その言葉さえも不要に思えた。

 

 激しくすることも許されていないので、俺は最後の最後に精液を増やすための興奮材料として美優の乳房の揺れを観察して、皿に空けたプリンように揺れる乳房と、その先端で固くなっている乳首を目で追いつつ、発射の瞬間には美優の子宮口にペニスの先っぽをつけて射精をしたのだった。

 びゅっ、びゅるっ、と、美優の子宮の入り口から精液が染み出すように、射精が行われていく。

 黙って妹に種付けするのも他に代えがたいほどの快感があった。

 

「ん。……ん? ふえ? なんで、止まって……?」

 

 美優は俺がセックスをやめたことに疑問を抱いていた。

 しかし、それは美優が妄想の中に浸っていたせいで中出しされたことに気づかなかったからであり、膣内に注がれた精液の感触を指先と同じぐらい精密に膣で感じ取れる美優からしたら、答えを待つまでもない質問だった。

 

「さ、さすがに、早くない?」

 

 美優がドン引きした様子で射精後の俺を見つめている。

 もはや失望とも取れる早漏への反応だった。

 これまでは美優が許してくれていたというだけで、普通はこうなるのだ。

 

「ごめん。つい、いつもの勢いで。気持ちよくて……」

「まあ、うん。それは、よかったけど。どうしても我慢できなかった?」

「美優のことを一度可愛いと思ってしまうと、加速度的に興奮が高まって、抑え込み難くてな」

「男の人ってそういうものなのなんだね。とはいえ、かといってあえて萎えるようなことを考えてほしくはないので、しかたないものとは考えます」

 

 ということで、許してはもらえた。

 しかし、これは美優の思い描く種付けだけのセックスとは異なってしまっている。

 美優が妄想にどっぷりと浸っている間に中出しを済ませてほしいということなのだ。

 お互いの性癖を理解し合って、様々なプレイができるようになったいま、なぜ想像の世界で美優が致そうとしているのかは俺の知るところではない。

 数日後には教えてくれるらしいのでそれを待とう。

 

「次、二回目いける?」

「少し休憩したらいける」

「よかった」

 

 無論、美優が強く俺に命じてくれればすぐにでもできるし、俺も本気を出せばできないことはないのだが、お互いに静かにしたまま行為を終えるというまったり空間を維持したままの二回戦には多少の休憩を要する。

 美優はガーゼタイプの薄い布団で上半身を覆って、体温を保ちつつ恥部を隠した。

 

 お互いの生殖器はつなげたまま。

 半勃起まで陰茎は柔らかくなっているものの、引き抜くと精液が漏れ出してしまうので、あえて肉棒で蓋をしている。

 

「休憩のついでに……ほんと、ついで程度の質問があるんだけど」

「伺いましょう」

 

 美優はシーツに広がっている髪を指でいじりながら言った。

 見た目は可愛らしいのに仕草の節々が色っぽい。

 

「修学旅行で話に出たんだけどさ。男の精子ってのは、いわゆるタンパク質なわけだろ」

「ニオイの話ですか?」

 

 美優は即座に俺の次の言葉を推測して当ててきた。

 やはりそのあたりは知識としてリンクしているのか。

 

「正直、普通じゃない頻度で中出ししてると思うんだけど。いままで、美優のアソコが臭ったことって一度もないんだよ。俺の嗅覚がおかしいのかな?」

 

 美優だってその対策はたくさんしているとは思っている。

 しかし、それにしたって美優の陰部は無臭というか、むしろいい匂いがしすぎる。

 

「私はごく普通のケアをしてるだけなんだけどね。実のところ私も同じ心配はしてたし、自分でも全くニオイを感じないのは嗅覚の問題かなとは思ってた」

 

 美優は自らの大きな乳房ごとタオルケットを抱きしめて、腟内を泳いでいる精子を労るようにして腹部を温めている。

 妹との事後なのにこんな日常会話ができることに興奮してしまうな。

 すぐにでも二回戦目ができそうだ。

 

「結局、理由はわかったの?」

「確実なことは何も。でも、一つ考えたことはあって」

 

 美優は俺の手を取って、正面から指を絡めて握る。

 

「私、お兄ちゃんと一緒にいるだけで濡れるから。膣内の浄化作用が人より強いんだと思うの。逆に、お兄ちゃん以外の人の前だといつも乾いてるぐらいだし」

「なるほど。美優にそう言われてみると、ありえると思えてしまうな」

 

 俺とエッチをしているときは腟内が愛液の除菌成分で満たされ、エッチが終われば不要なものは流れ去り、エッチをしていないときはドライなままで雑菌が増えることもない。

 まさに俺と中出しをしまくるためにある体の造りと言える。

 

「難しいところはともかく、そういったところもひっくるめて体質なのではないでしょうか」

「そうだと俺も信じてるよ」

 

 きっと俺が臭いフェチだったら美優の体臭も相応のものになっていたはず。

 美優の長い黒髪も、溢れんばかりの巨乳も、フェロモンたっぷりのいい匂いも、兄である俺を喜ばせるためにあるのだ。

 こうして結論付けられたもののすごいところが、俺が美優のことを好きになりすぎて、どんなニオイでも芳しく感じるようバグっているのではなく、俺の好みに合わせて美優の体が花のように香っているということ。

 現実性はどうあれ、俺たち兄妹が半ば確信を以てそう感じているのは、遠からぬ事実がそこにあるということに相違ない。

 

「ということで、私のナカのお兄ちゃんのモノがとても準備万端なのですが、できますか?」

「もちろん。今度は美優の希望通りにするから」

「うん。あ、ただ、自分で言い出しておいてなんだけど、お兄ちゃんが気持ちいいように出してね? そういう……前向きな、お兄ちゃんの……その……タネが、ほしいので……」

「わかったよ」

 

 妹の発言の意味が理解できていなくとも、わかったと答えるのが兄の役目でもある。

 美優が俺の精子を欲していることなど今に始まったことではないのだ。

 最後の部分を濁した理由を聞いたところでどうしようもないので、俺は一回目と全く同じ要領で美優の膣にペニスを出し入れした。

 

 やり方がさっきと変わらなかったので、美優もすぐにそれに慣れて自分の世界に入り込んでくれた。

 俺はVR用の電動ディルドにでもなったかのように、機械的に美優にペニスでの快楽を与えていく。

 美優がイクまでにそう時間はかからなかった。

 声に出さずに、膣をキュッと締めるだけの絶頂を、美優はただ楽しんでいる。

 

 美優との生セックスに関しては俺もかなりの数を重ねてきたので、美優の膣の収縮によって今どのような感情にあるのか、感覚的に理解してそれを動きに反映させることもできた。

 美優が漏らす「んあっ、はんっ……」という声が意外なほどに色ツヤがよく、意外と好評だったらしいそれを続けていると、明らかに愛液の漏れる量が違うオーガズムにまでたどり着いた。

 

 よくAVとかにある、排尿に見えるほどの明らかな液の漏れ方ではない。

 それをなんと呼称すればいいのか、俺の知識では的確な表現をすることができなかったが、最近になってきて増えてきた美優のその反応は、状態から見るに潮吹きではあるのだろう。

 一般的な潮吹きと異なる点を挙げるとすれば、そこに明確な快楽が伴っているところか。

 

 こうなると美優の腟内の具合も最高の柔らかさになってくる。

 もはや頑張ったところで射精を我慢できる気持ちよさではない。

 言ってみれば美優が俺の精液を求めて腟内をそのように準備しているほぐれ具合であり、俺が精液を吐き出すべきタイミングもそこにあるわけで。

 俺は最後まで美優の妄想を邪魔することなく、ただその体の奥に俺が射精したという事実を伝えるようにして、子宮直掛けで金玉の中身をすべて吐き出すフィニッシュをした。

 

 ドクン、ドクン、と、鼓動と一緒にこめかみに熱いものが流れて、それが落ち着くまでの、膣内射精をしていることを実感する数秒がたまらなく好きだった。

 それが妹ともなればなおさらで、俺は俺とのセックスに安心しきった様子で快楽だけを享受していた美優を尻目に、ペニスを引き抜いた後はドアの音も立てないようにして部屋を出たのだった。

 

 そうして、目的が不明なままのセックスが終わり、迎えた二日後の朝のことである。

 美優が一人の時間を楽しみたがっていたので、一昨日と昨晩は学校から帰ってきてからの朝までを、俺たちは別々で過ごしていた。

 

 そうした都合もあり、今朝、俺が美優と顔を合わせたのは、美優が洗面所で支度をしているときのことだった。

 正確には、先に入っていた美優が顔の保湿をしているところで、そこに俺が合流した形になる。

 

 そこで俺は美優の衝撃的な姿を目撃することになった。

 驚くべきことに、美優が「ふん、ふふん」と鼻歌を鼻ずさんでいたのだ。

 ニヤけた表情までセットして。

 まるで王道的ラブコメヒロインがイケメン主人公くんの惚気話をしているときのような綻び顔である。

 

 本能モードでベタベタに甘えているとき以外は見せなかった表情だった。

 しかもその肌艶まで良くなっていて、これまでも俺がたっぷりの中出しをしてあげたことはあったのに、それを上回る量の精液のコラーゲン物質がそのまま肌に吸収されたみたいな、それぐらい俺が混乱するほどの上機嫌モードだった。

 

「あっ。お兄ちゃんだ。おはよ」

 

 なおのこと驚いたのは、美優は俺が現れてもそれを隠すように表情を真顔に戻すことをしなかったのだ。

 性的か恋愛的に盛り上がるイベントがなければ無表情であるはずの妹が、どうしたことかニコやかである。

 無論、昔に比べればよく笑うようにはなったのだが、朝から上機嫌で笑顔なのは今でも珍しいことだった。

 

「何か良いことがあったのか?」

「ん? うん」

 

 美優は力強く、一度だけ首を縦にふった。

 

「まあ、正確には何も起こってないんだけどね」

「ええっ……どっち……?」

「んふっ。まあまあ。そういえばさ、お兄ちゃんはこの間からまだ射精してないよね?」

 

 していない。

 するなと言われていたのでな。

 

「じゃあきっと出したいよね」

「めちゃくちゃ出したい」

「であれば妹はまた使われるためにお家にいてあげます」

 

 優しい妹だ。

 お兄ちゃんの性欲を発散させるだけではなく、そこに引け目を感じさせないよう、自ら射精用の道具になってくれているところが素晴らしい。

 俺が美優に射精させてくれとお願いするという流れでフェラ抜きがしたい意図は見え隠れしていたが。

 それがプレイの一環となる兄妹の性事情である。

 

「帰ってくるまで全力でエロいこと考えておくからな」

 

 フェラを主目的にエッチをするのは久しぶりのことだ。

 なので、可能な限りムラムラした状態でしてもらいたかった。

 

 そうやって、俺が性欲を溜めて、美優が処理してくれて。

 そんな当たり前の日々がこれから繰り返されていくのだと思っていた。

 性欲で昂ったまま帰宅した俺にはそれぐらいのことしか考えられなかった。

 特に、美優が謎にエッチに積極的だったことなど、一晩寝てからは気にしなくもなっていた。

 

 夜になって、今度は互いに寝るまでの支度を終え、フェラ抜きをしてもらおうと俺は美優の部屋を訪ねた。

 美優はちょうどトイレに行きたかったらしく、入れ替わりで部屋で待つようにと俺は指示されて、そのときにふと、二日前の美優が机の前で何かしていたことを思い出したのだった。

 

 別に、美優の秘密を探ろうなんて思ってはいなかった。

 ペン立ての中身程度など、わざわざ断ってから見るようなものではないと、俺は思っていて。

 なんの気なく、確かこの辺りのものをイジっていたなと当時の美優の動きを思い出しながら、手を伸ばした先に、なぜかそれはむき身のままでそこに差し込まれていたのだった。

 

「ん? これって……?」

 

 思わず独り言が声に出てしまうほど、それは俺にとって見覚えのある、しかし現実には見たことのないものだった。

 

 両端が丸い形状をしている平べったいそれは、ちょうど体温計ぐらいの大きさをしていた。

 長細い楕円形の真ん中に窓があって、赤い線が引かれている。

 それはどこにでもある、検査薬の一つの形だった。

 

 俺の少ない知識では、それはとある事実の有無を女の子が確認するためのものぐらいしか思い浮かばなくて、二本の線が並んでいるそれは、俺にとって意味を理解するより先に不穏な心拍数の高まりをもらたすものだった。

 

「……え──?」

 

 小さな窓に、線が二本。

 それはあらゆる検査薬にとって共通の、陽性を示す化学的なサインだった。

 

「は……?」

 

 その意味を理解していても、何が起こっているのかはすぐには理解できなかった。

 

 ただ、少なくとも、人はこうなってしまうのだと言うことは、客観的事実として分かった。

 俺はその検査結果を見て、そっと元に戻してからは、表情筋をピクリともさせることができなかったのだ。

 

 ベッドに腰を落ち着けて、ぐるぐると空回りする思考に、俺はどれだけの時間をそうしていたのか。

 美優がトイレに行ってから水を流すまで、それほど長くはかかっていなかったはずなのに、その音に思考が強制的に切断されるまでの時間は何十分もあったような情報の密度があった。

 

 そうして、再起動した脳がようやく正常な思考回路へと電気信号を流し始めてから、俺はようやくそのことを認めることができた。

 

(これって……そういう……ことなのか……)

 

 美優が、妊娠した。

 



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種付けと幸せ

 

 美優が妊娠したという衝撃の事実が判明してから数分後のこと。

 トイレを済ませて戻ってきた美優が部屋のドアを閉めて、直後に俺と目が合ったその頬は、バスタブにピンクの絵の具を一滴垂らしたような色づきをしていた。

 照れと恥ずかしさを混ぜ込んだ感情である。

 なぜ照れ恥ずかしそうにしているのかは知らないが、兄の精子で孕んだ上にその兄のペニスを咥えてフェラ抜きしようとしていることに対して不埒な思考でもよぎったのかもしれない。

 

 俺との子供という美優が望んでいたものがようやくできて、だからこそ美優はあれだけ上機嫌にしていたのに、俺の胸に込み上げてきたのは喜びを上回る焦りだった。

 本当なら今すぐにでも抱きついて祝福するべきだとは思うのに、それが正解であることに確信が持てない。

 

 いや、どちらも正解なんだ。

 喜ぶことも、悩むことも、どちらもすべきことで、でもそれは行動にすると正反対のものだから、体が硬直してしまっている。

 

「どうかした?」

 

 性欲を溜めまくってきたはずの俺が脱ぐそぶりも見せないので、美優も不思議に思ったようだった。

 上機嫌にフェラチオをしてくれるつもりだった美優はベッドに腰掛けている俺の前に膝を折っている。

 洗濯物を畳む前の母親みたいなたおやかな一連の仕草だった。

 

「ああ、いやな。結局、前の中出しのとき、なんで美優が俺にオナ禁をさせたのか聞いてないなって」

 

 妊娠したことと正常位セックスに関係があるのかは俺にもわからない。

 ただ、デキないと思っていたら受精してしまったので、一つの区切りとしての真正面からのセックスをしておきたかったのだと、俺は推測している。

 美優はセックスの前にあの検査薬を意識していたわけだし、無関係ということはないだろう。

 

「ん……まあ……それは……その……。心の準備ができたら言うから、もうちょっと待っててください」

 

 どうやら美優もタイミングを探っているみたいだ。

 俺に孕めと命令されるまで妊娠しないと言っていたのにデキてしまったという予想外が、告白を難しくさせている。

 

 ならば、すでにその事実に気づいている俺が何をすべきか。

 考えているうちに、焦りも段々と落ち着いてきた。

 

 こうなってしまったからには何かのサプライズの形でそれを明かすつもりなのかもしれないし、ならば俺もそれを全力で祝福できるように準備しておかなくては。

 喜ぶことも悩むこともどちらも必要なら、まず喜ぶことに全力を尽くして、それから一緒に悩んだっていいはずだ。

 

「そういうことなら、急かさないよ。いつもに通り頼めるか」

 

 俺はできる限り簡単に脱衣してペニスを露出させた。

 兄の性欲を口で処理するのは妹のありふれた責務であり、これからも日常的に行われていく作業であるため、簡易的かつ業務的であることが望ましい。

 

 俺のペニスを見て、美優はパジャマの上からしきりにお腹を触っている。

 そうして柔らかい生地のそれが揺らめくたびに、その奥に俺の精子で孕ませた受精卵が入っていることを意識してしまう。

 パジャマの緩い生地がマタニティウェアのようでイメージが掻き立てられるのだ。

 美優のお腹が俺の精子で膨らんだ姿が。

 

 ある種、神聖でさえあるこの妹を、俺のペニスで悦ばせては辱め、性快楽に溺れさせることでピルの薬効さえも超えて排卵を促させた。

 臨月を迎えてお腹が丸くなってさえ美優は俺の性処理のためにペニスを咥えるのだろう。

 陰茎で穢されてこそ背徳的な昂りをもたらすその姿が、俺のペニスを瞬く間に膨れ上がらせた。

 

「急におっきくなった」

「美優に口で抜いてもらえるとなればな」

「まあ頼もしい限りではあるけどさ」

 

 美優はブツクサと言いつつもすんなりペニスを咥えてくれた。

 まずは両手の指先で優しく陰茎を支えて亀頭をチュパチュパする。

 それから裏筋からタマの筋までを舐めて、竿全体を口に咥える。

 初めの数分は美優が好きなようにしゃぶるので、目線も陰茎の根元に集中していて、しばらくすると俺と目を合わせてしゃぶってくれるようになるのだ。

 

 視線を交えたままペニスを咥える女の子の表情はなぜこれほど男心をくすぐるのか。

 普段でも可愛い女の子の顔はフェラをしていると一段と可愛らしく見える。

 特に何割増かに見えるパッチリした目がいい。

 そんな愛らしい瞳で太い竿を口にしているギャップが俺を萌えさせる。

 

「んちゅ……ふんっ……んっ……」

 

 この前のセックスでは美優は俺に無言を要求していた。

 それは自分だけの世界に浸りたいという要望からくるものだった。

 

 今回のフェラはそうではない。

 しかし、俺たちはまだ言葉を交わしてはいなくて、というより、最近では自然と喋らないフェラが定着しはじめている。

 

 これまで俺は美優が咥えてくれるたびに「気持ちいいよ」と言うようにしていた。

 それは沈黙の気まずさを埋めるものであると同時に、フェラを褒めることで美優が恥ずかしがるのを楽しむ目的があった。

 最近ではフェラをしてもらうのが当たり前になってきたので、もはやそういうフェーズを通り越している。

 

 美優が口を引いたときに、唇の隙間からにゅるっと表れる肉棒を目で見て楽しむ、という余裕もできて、むしろそっちに集中したいから会話がだんだんと邪魔にさえなってきたのだ。

 まあ、フェラは元よりペニスで口が塞がるので、女の子に喋らせないほうがいいというのもある。

 

「んちゅっ……はむっ……ちゅぷっ……」

 

 美優もそれをわかっているからあえて聞いてはこない。

 俺が何も言わないからといって、気持ちよくないのかとか、体調が悪いのかとか、そんな心配はしないのだ。

 たぶん、このペニスを射精させたら、どれだけ濃い精液が出てくるのかなぐらいしか考えていない。

 

 自分を孕ませた精子を舌でも味わうという響きの淫靡さよ。

 それを美優がやるからこそ余計にエロく感じる。

 結局はそうした裏腹の性癖を宿した妹の、清楚で凛とした目が射精のトリガーになり、俺は美優の口内に射精するのだった。

 

「うっ────ふぅ……!」

 

 どぷっ、どぷっ、どぷっ、と精液が美優の口の中に吐き出されていく。

 

 射精の瞬間にあえて口を開けさせたりはしなかった。

 美優がペニスを咥えているその唇の奥で精液が出て、高い粘性と共に喉奥へと流れているという、その事実を脳内で思い浮かべることが格別の快感となるのだ。

 無論、美優が開けた口に精液を注ぐのも最高なのだが。

 

 ともかくこの妹は精液を飲ませた後の余韻がいい。

 賢者タイムに向けて急激に冷めるのではなく、氷の床を滑るように長く緩やかな興奮が続いていくのが満足感を高めてくれる。

 

「んくっ……ふぅ。久々にマズいの飲んだ」

「俺もスッキリしたよ。ありがとう」

 

 やはり濃いのを飲ませるのはいいな。

 エッチをするようになってからは薄いのを飲ませることも増えてたし、口で受けてもらえるようになったばかりのあの頃のように、また欲望の全てを美優の口内にぶつけるのもいい。

 

「次は四日ぐらいオナ禁してみるか」

「えっ、いいよ」

 

 口元の精液を指で拭って、正座をしたままバッサリ。

 高揚感のまま提案したので、まさかのはたき落とすような言葉に、俺は数秒ポカンとしてしまった。

 昔の美優は、性欲を溜めて口に出すほど怒っていたけど──それでも本人はその後の一人遊びを楽しんでいたんだが──いまこの瞬間に至って俺の自発的なオナ禁を良しとしないとは考えもしなかった。

 

「お兄ちゃんがしたいなら拒まないけどね。今回は、色々あって、変なテンションでお願いしちゃっただけで……してみるとこう、やっぱり違うなって思って」

「どこが?」

「うーん、とね」

 

 射精は俺が性欲を発散したくてするものであって、美優が濃い液を飲むために俺が性欲を我慢するのは本意ではない。

 美優はそう言ってから俺に服を着るように促してきた。

 

 美優に苦い味が恋しくなるときがあるのは間違いないはずだし、陽性になった現実が少しばかり美優の頭をおかしくさせていたのも事実としてあるのだろう。

 それでも実際にオナ禁をさせてからのフェラ抜きをしてみると、処理に使われていない自分の方がしっくりとこないと主張するあたり、この妹の性癖の捻じ曲がりようも相当なものである。

 

「まあ、美優らしくて安心した」

「ご心配をおかけしました」

 

 お腹に子を宿したことによってまた暴走状態になるかと思ったが、その心配はなさそうだ。

 思い悩んでいる風でもないし、俺はできる限り寄り添って、美優が頼れる男であることに努めよう。

 

 悩みを打ち明けてもらうためには信頼を高めることが必須。

 もし美優の口からはっきりと「妊娠した」と言われても、今の俺ならどっしりと受け止めてみせるさ。

 

 そうして俺は日常生活をいつも通りに送ることにした。

 俺が妊娠に気づいた昨夜から朝の通学までの間、美優はしきりに俺をチラ見しては考え込むことがあって、俺が重大な何かに気づいたことに関してはもう勘づいている節がある。

 妊娠の事実が言葉として伝えられるのも時間の問題だろう。

 

 学校生活でも俺はいつも通りだった。

 いつも通り友達と会話して、いつも通り勉強をして、いつも通りに放課後を迎えた。

 本当にそうできていると俺は思っていた。

 山本さんと二人の放課後を迎えるまでは。

 

「ソトミチくんはどうしてそんなに緊張してるの?」

 

 近頃、俺が勉強熱心なので、学校が終わってからの三十分ほどの面倒を山本さんに見てもらうようになっていた。

 モデルの仕事までの時間調整にも使われていたりする。

 

 元からよからぬ噂を流されていた俺たちではあったが、修学旅行で仲良くなったことが広く認められると、俺と山本さんが二人で話していることには誰からも文句を言われなくなったのだ。

 山本さん曰く、俺が妹ばかりに性欲を向けていて他の女の子に色目を使わなかったことが今の結果にも繋がってもいるそうだが、その辺りは俺にはよくわからない。

 本当のところは川藤のやつが上手い具合に俺の存在を周囲に説明しているのだと思っている。

 

 ともかくとして、美優を妊娠させたことへの焦りは、俺が自分でも感じていなかったほど体に表れていたらしい。

 

「そんなに緊張して見える……?」

「うん。声とか身振りとかが大袈裟というか。私にはそう見えるな」

「そ、そうか。まあ、大した話ではないんだが」

 

 とは誤魔化してみるものの、指摘されてしまうと自分の置かれている状況を再認識してしまって、その問題のリアルな深刻さが俺を更に焦らせるのだった。

 鼓動の高まりと共に体温が上がって、動いているわけでもないのに額から汗が垂れてくる。

 

「いやな……その……大した話ではない……ことはないんだけど……」

「そうだろうね。ここからでも心臓の音まで聞こえてきそうだもん。また何か悩み事? 美優ちゃん関係かな?」

 

 さすがは山本さんというか、この指摘がなされた時点で、もう嘘をつくことはできない。

 山本さんは相談を受ける気でいてくれているし、この場をやり過ごしてもいつかボロを出してバレてしまうのだろう。

 何より誰よりも頼るべき山本さんに隠し事をするのは誠実さに欠ける。

 

 しかし、この場で言ってしまっていいかはまた別の話。

 山本さんなら必ず良い方に捉えてくれる確信はあるが、こんな会話の流れで暴露するのではなくて、きちんと時間をとって真剣に相談をした方がいい事態なんだ。

 俺に真剣みがなければ美優に対してだって失礼というもの。

 ならばまずは仕切り直しだ。

 

「実はその通りでな。真面目に相談したいことがあるんだ。また時間があるときに話をさせてくれないか?」

「ソトミチくんのためなら喜んで。ただ、一応聞いておくんだけど、私に関係のある話ではないんだよね?」

「ああ、もちろん……」

 

 と、言いかけたところで、俺の頭の中が真っ白に吹っ飛んだ。

 

 山本さんに関係ない話とは断言できない。

 しかも、もし関係のある話になってしまっていたら、悠長にまた別の日になんて言っていられる状況ではないんだ。

 

「あ……えっ……と……念のため、確認なんだが……」

「もし生理がどうとかの話ならまだではあるんだけど。もしかしてそういう話?」

「本当にそういう話なんだ」

「あらまあ」

 

 山本さんは驚いて、その後に言葉が出なかったのは多分、ピルを飲んでいたのに美優が妊娠したので自分の立場も楽観視できるものではなくなったからだろう。

 複数の女の子と性行為に及ぶというのはそういうことなんだ。

 

 さすがに佐知子と由佳は問題ないはずだが、状況が状況だけに無視もできない。

 急に真面目になったのは俺との子ができて美優との関係が確定したから、ということはさすがにないと信じているけど、ともかく一度は関係を持った身として何も聞かないわけにはいかなかった。

 

「とりあえず、おめでとうだね。ソトミチくんも美優ちゃんも。素直に喜んでもらえるかはわからないけど、私からは祝福しておくね」

「え、あっ……ありがとう。そう言ってもらえるのは、心強いよ」

 

 山本さんは実に落ち着き払った様子だった。

 無理をして言ってくれているわけでないことはいつも通りの柔和な笑顔を見ていればすぐにわかる。

 俺だって美優の前では同じように喜ぶべきだと理解はしていて、この対応は実に参考になるものだった。

 

「ピルは飲み続けてたんだよね?」

「これまでの美優を見る限りではまず間違いなく」

「で、見事に貫通しちゃったんだ」

「貫通というか、引きずり出したというか」

「ソトミチくんの精子ヤバいね?」

 

 ああ、ヤバい、ヤバすぎる。

 美優ほど管理がきっちりしている子を相手にさえ孕ませてしまうなんて、どれだけ受精させる能力が高いのか。

 

「山本さんは次の生理はいつ来そうなんだ?」

「来てみないとわからないかな。服用をやめてすぐ来る人もいれば、遅い人は何ヶ月かこないって話も聞くし」

「となると……」

「ちゃんと結果が出るかわからないけど、検査はしてみるね」

「ありがとう。そして……申し訳ない」

「んふふ。大丈夫だよ。ドキドキ半分、ワクワク半分って感じだし」

 

 山本さんは謎にブラウスの上から楽しそうに自らの胸を揉んでいる。

 弾むような心の動きを胸の柔らかさで表している──のではなく、リアルに母乳が出るようになった自分を想像して歓喜しているんだな、これは。

 

 もし二人を同時に妊娠させていた場合は俺の法的な立ち位置はどうなるんだろうか。

 それどころか、極めて低い可能性とはいえ、三人や四人が同時だったら……。

 

「もし、山本さんも陽性だったら、どうするつもりでいる?」

「私は誰が何と言おうと産むよ。美優ちゃんには悪いけど、これだけは絶対に譲らないから」

 

 俺と真正面から視線を交えての強い断言だった。

 かつての告白は俺にとって一つの過去になってしまったが、山本さんの中の熱量はまた別の形に変わっただけで、少しも失われてはいなかったらしい。

 

「ってことだから、ね? ソトミチくんも、わかるよね」

 

 ──美優ちゃんにどう接してあげるべきか。

 

 それが山本さんからの答えでもあり俺へのアドバイスでもあった。

 

 さっきの山本さんの答えは美優の立場でも一緒なんだ。

 将来のことでどれだけ悩むことになろうとも、美優に産まないという選択肢はない。

 だから、俺が美優にかけてやる言葉も「おめでとう」しかあり得ないし、こんなところでアタフタしていてはいたずらに美優を不安にさせるだけ。

 

 美優は告白するタイミングを迷っているんだと俺は思っていたけど、本当は俺が頼りないから言い出すきっかけを掴めなかっただけで、今日この瞬間だって俺に妊娠したと伝えたい想いでいっぱいなのかもしれない。

 

「……学校のことも、法律のことも、俺が全部知っておかないと」

 

 人を安心させるために大事なのは何を考えるかじゃない。

 どんな行動で示すかだ。

 

「紙に書いてまとめてみるよ。俺がやるべきことを。調べたことはノートにでも書き溜めて、美優からの話があったときに渡してみるかな」

「いい心がけだね。さすがはソトミチくん」

「もっと前に気づくべきことがあったけどな」

 

 無避妊で中出ししまくるほど肉欲に溺れたわけではない。

 現実的な範囲で守れるものは守ってきた。

 これは誰にでも普遍的に起こり得ることで、人はどれだけ想像力を働かせていても、誰しもそれが己が身に降りかかるまでは自分事としては考えられないものだ。

 

 とはいえ、俺と美優の体の相性が良すぎることを考えれば、他の人では仕方ないことも、俺たちにとっては仕方ないで片付けられないものだったりする。

 それでも事前に避けられたかと言われたら難しいのだが。

 

「今までのことがあったからこそ美優ちゃんは幸せなんだから」

 

 もっと胸を張って美優に寄り添っていればいいんだと。

 そう山本さんに言ってもらえて、俺は「ありがとう」と心からの感謝を返事にすることができた。

 俺が自信を持って美優を幸せにすることが、美優のためにもなることだし、山本さんのためにもなることなんだ。

 

 そこまで話をして、それが山本さんと話せる時間のリミットだった。

 下手をすれば自分も妊娠しているかもしれないという状況で、あれだけ楽しそうに仕事に行けるなんて。

 円満別れという形で、最後の最後まできちんと山本さんとも愛を育めたことは、こうした結果からみるとよかったことだったのかもしれないな。

 

(美優の卒業までのことを考えると、学校に隠し通すのは難しいか)

 

 公立の義務共育機関だから無理な退学や休学はない。

 美優の成績なら最悪通わないでも卒業はできるだろう。

 進学校を受験するつもりじゃなかったのは幸いだった。

 

 なにより美優にとって最終就職先となっているこの俺との関係は絶対的なものとして約束されているんだ。

 それが美優にとっての安心材料になるならばその支えを一番に大事にしなければならない。

 

 といっても、美優の性格を考えれば、卒業まで通学はするって言いそうなんだよな。

 そうなると校内でのサポートが必須になる。

 やはり妊娠していないかの事実確認も兼ねて、由佳たちにも相談はしておかないと。

 

 遥も含めて三人に連絡をしておいて、あとは……親への説明か。

 美優にやらせるわけにはいかないからな。

 子供を作れと言われている身とはいえさすがに早すぎる。

 歓迎されるばかりではないことは覚悟しておくべきだ。

 

「──美優。帰ったぞ」

 

 まずは美優を安心させてやらなければならない。

 妊娠しても俺が絶対に幸せにすると示してやるんだ。

 

「お、おかえり、お兄ちゃん」

 

 いつも通り玄関にまで出迎えにきた美優はどうしてか身構えていた。

 少し声を張っただけのつもりだったが、美優からの告白を引き出す幕開けとしてはイマイチだったようだ。

 

 制服姿の美優は今日も自然体でクールな雰囲気を纏っている。

 こんな妹がお兄ちゃんとのセックスにハマりすぎて妊娠してしまったなんて。

 他人事ではないのだが、その姿をエッチだと思わなければ、俺たち兄妹の関係としてはいけない気がした。

 

「美優はまだ風呂に入ってないのか?」

「お湯は張ってあるよ」

「なら一緒に入ろう」

「うん? いいけど」

「ついでにマッサージでもどうだ」

「なんで……!?」

「美優も脚が浮腫んだりするだろ」

 

 帰り道にネットで調べた限りの知識しかないものの、妊娠すると様々な変化が体に表れるらしいことはわかったので、まずはそこを労るのができる旦那の第一歩と判断した。

 ホルモンバランスも崩れて精神的に不安定にもなるようだし、俺がいればなんとかなると思ってもらえるぐらいには頼り甲斐のあるところを見せつけなければならない。

 

「お兄ちゃんがなぜそんなにハッスルしてるのかわかりませんが。そういう気分なのでしたら、妹は覚悟しておきますので、今夜は好きなだけお使いください」

 

 どうやら勘違いさせてしまったらしい美優は、それでもお風呂には一緒に入ってくれるようで、脱衣所のドアを閉めて先に服を脱ぐと、俺に断りもなく浴室に入ってシャワーを浴び始めた。

 

 同時に二人がシャワーを使うのが難しいからではない。

 美優にとっては服を脱いでいる姿を見られることが裸を見られるよりも恥ずかしいのだ。

 

 あるいは身体的な変化を湯面で隠したかったということもありうるか。

 長く見積もってもまだひと月しか経っていないのでお腹は膨らんでいないはずだけどな。

 

「俺も入るぞ」

 

 浴室のドアを開けて見えたのは美優の後ろ姿だった。

 お湯に濡れた長い髪が背中に垂れて、毛先がちょうど美優のお尻の上あたりにきているのがとてもエッチに見える。

 正面の鏡には見ているだけで頬っぺたがこぼれ落ちてしまいそうになる豊満な胸の膨らみがあって、夏休みに入れていたピンクのインナーカラーもいつの間にか消えており、黒く輝く美しいロングヘアがそこにはあるのだった。

 

「エッチをしてないときの美優の体ってなんでこんなにエッチなんだろうな」

「そんなに頭がおかしくなるぐらいムラムラしてるならいっそこの場で挿れてください」

 

 美優は鏡越しに俺を睨みながら、ネットで泡立てた石鹸を腕に滑らせて、お尻を上げるようにして軽く腰を引いてきた。

 

 それは今すぐ立ちバックでハメろということだろうか。

 実にそうしたい気分ではあるが当初の目的はそうではないのだ。

 お風呂で手を出すのは控えておこう。

 

 俺は股間こそギンギンに勃起していたが、美優に手を出すことなくシャワーを終えた。

 本当に処理しなくていいのかと心配する美優に、「気にするな」と俺は返して、後ろに座り込み、美優を抱きしめる。

 

 お湯に浮いたおっぱいを鷲掴みにしたくなる感情は昔から変わっていなかった。

 あと一年もしないうちにそこから母乳が出るようになるのだと思うとそれだけで射精しそうにさえなる。

 

 それでも、俺は欲望を抑え、美優を襲うことをしなかった。

 頼り甲斐のある兄としての姿を美優に見せつけなければならない。

 

「お兄ちゃん、もしかしてエッチしない気?」

「ああ。今日はその……恋人としての美優を感じたい日なんだ」

「そうですか。そういうことでしたら理解はします」

 

 恋人の関係になるとエッチしなくなるなんて妙な関係にも思えるが、俺たちにとって性的なスキンシップは兄妹としてやるものであって、それ以上のものはない。

 俺たちはそうした性癖で繋がっていることを認め合っている。

 

「ではマッサージも禁止です。生殺しにされたら堪りません」

「なっ……! いや、まあ、仕方ないか……それはそうだよな……」

 

 俺に触れられるとエッチな気分になる美優はこうして一緒にお風呂に入っているだけでムラムラしてしまうんだ。

 する気がないのに相手だけ発情させるのはできる男として配慮に欠ける。

 

「俺は先に上がってるから。風呂から出て支度が済んだら美優の部屋に呼んでくれないか」

「私の部屋? わかった」

 

 お腹の子を労るなら美優の部屋でしたほうがいい。

 美優の全身の、子宮の隅々に至るまでリラックスさせてあげて、今夜は出来うる限りの愛を伝えよう。

 俺からの愛情が何よりも美優を安心させるはずなんだ。

 

「お兄ちゃん。上がったよ」

 

 湯上がりの美優は、シルク生地だったパジャマを買い替えて、ピンク色のタオル生地に身を包んでいた。

 全身ふわふわで抱きついたら気持ち良さそうである。

 抱きつきたい。

 

「お兄ちゃんから性欲をヒシヒシと感じる」

「正直なところムラついてはいるんだが今日はそうじゃないんだ」

「では何をなさるのでしょう?」

 

 二人で美優の部屋に移動して、美優のベッドに並んで腰掛けた。

 いつもならもう何度となくエッチをしてきた流れである。

 

「色んなことが落ち着いたからな。将来のことを話しておきたくて」

「良いことですね。どこの大学に行くかとか?」

「美優とのことだよ。何歳で家を出て、どんな家で暮らして、その、何人ぐらいで暮らすのかとか」

「そっちか。また急だね。でもまあ、私もそういうことを考えないでもないよ」

 

 美優は机の引き出しからノートを取ってきて開いて見せてくれた。

 そこにはこの近辺で通える学校の偏差値だったり、一緒に住む家を賃貸にした場合と購入した場合の費用だったり、生涯のやりたいことリストの書き出しだったりが、こと細かく書かれている。

 兄妹で思考回路は似るものらしい。

 

 几帳面な美優が書いたにしては情報が整理されておらず、思いついたものを順番に並べていった感じだった。

 とはいえほぼノートを埋め切るこのボリュームはいったいどれだけの時間を費やしたものなのか。

 

「想像以上にリアルだし量もすごいな。人生計画表みたいだ」

「リラックスタイムに筆を滑らせてたらこんな感じになってました」

 

 美優は恥ずかしいのかパラパラとページを速くめくってじっくり読ませないようにしている。

 リラックスタイムという言葉を聞いた瞬間に思い浮かんだのは自慰行為なのだが、さすがにアソコをイジりながらノートを書くというのはいささか違和感があった。

 エッチなノートではないのかもしれない。

 

「妹を自慰中毒か何かだと思っているのですか」

「オナ禁させられたら実はツラいのは俺より美優なのかもしれないと思ったことはある」

「まあ罰ゲームでも絶対に受け入れる気はないけどね」

 

 元からオナニーが好きだったのか俺のせいでハマってしまったのかは知る由もない。

 それはともかくフェラの義務だけ残してひと月オナ禁をさせたら美優がどんな顔でオナニーをさせてほしいと懇願してくるのか興味がある。

 

 っと、いけない。

 これではいつもの兄妹の会話だ。

 いま俺は恋人として、ひいては夫としてここにいるんだ。

 

「美優は大人になったらファッション関係の仕事に就くのか?」

「普通のお仕事をやりながら趣味に生きるよ。歳をとるまで趣味は本業にしないつもり」

「だから将来の職業には会社の事務員としか書いてないのか」

 

 美優にしてはずいぶんと夢のないことを書くと思ったらそういうことか。

 義務感で趣味が楽しめなくなったら元も子もないし。

 仕事が忙しくなるとプライベートとの両立が難しくなるからな。

 俺と俺たちの子供との時間を何よりも大事にしたい美優からしたら、それは避けなければならない重要な問題だった。

 

 俺にやってほしい仕事についても、詳しくは書いていない。

 ただ、『あんまり忙しくない仕事だといいな……』とコメントが添えてあったのはだいぶ萌えた。

 

 上機嫌にペンを滑らせていた美優の姿が目に浮かぶ。

 リラックスタイムとはつまり、脳内に同じ快楽物質が出ているのならオナニーをしなくてもいいでしょという、性感帯への刺激を伴わない自慰を指して名付けられた実に美優らしい行為なんだ。

 

 美優からは何も言葉はないが、ノートを眺めているその視線の端で、俺の思考を読んで無言の肯定をしてくれている。

 性欲でハイになっているとき以外はいつだって美優は俺の考えていることを理解してくれるんだ。

 

 だったら、そのお腹の子に俺が気づいてることだって。

 

 美優はもう知っているはずだ。

 

「将来のことといえば、子供が生まれたりしたら、美優は俺と子供とどっちの方が好きになるんだろうな」

「ん、悩ましい質問だね」

 

 子供のことに話題を集中させる。

 普段からこうした話をしておいた方がいざ美優が告白しようとしたときの緊張も和らげられるだろう。

 

 美優は俺との視線を切って天井を見上げた。

 

「でも、やっぱりお兄ちゃんだよ」

 

 それから美優が答えを出すまでは早かった。

 現実どうなるかはさておき、美優がそう思ってくれたのは素直に嬉しい。

 

「子供たちが嫉妬するぐらいお兄ちゃんとイチャイチャしたい。パパの取り合いをして、みんな起きてるうちは子供の相手をしてもらって、寝静まってから子供には見せられないぐらい本気で私のことを愛してほしい」

 

 お風呂で軽いスキンシップをしたときのテンションが保たれているのか、美優は上機嫌に本音を口にしていた。

 いずれ子供たちは俺たちの手から離れて別の誰かと愛し合うのだろうし、大切なのは夫婦の愛であるというのは、俺にとっても考えに相違ない。

 

「子供が生まれても性処理はしてもらえると思ってていい?」

「もちろん。妻の大事な役目だもん」

 

 子供の世話をしながらセックスをするのは大変だろうし、実際に産んでみたら気が変わるなんてこともあり得るとは思っている。

 でも、少なくとも美優の体質からしたらエロいことをするのはストレス発散をするのに大事なことだし、女性は三十歳になってから性欲が増すと言うので、むしろせがまれることさえあるかもしれない。

 先々まで見据えれば、それこそお互いのためにセックスをするのが支え合いなんだよな。

 

「ちなみに美優のお腹がおっきくなったり母乳が出るようになったらそれでエロいことをしてもいいんだろうか」

「やはりだいぶ溜まっていらっしゃいますね? お兄ちゃん」

 

 美優はいつのまにか勃起していた俺の股間を見ている。

 これから父親になる身として頼れる姿を見せるつもりだったのに結局こうだ。

 

 しかし、今日は大事な初日。

 ギリギリまでは理性を保ってみせる。

 妊娠していてもいいんだと美優を安心させられるまでは。

 

「美優は自分の卵巣の位置とかわかるのかな」

「わかるわけがないですが」

「わかるわけはないのか」

「子宮の入り口がどこかは触ればわかるので、卵管がどんな感じに伸びてるのかは確かめたことがあります」

 

 つまるところ、オナ禁しまくった後の金玉のように卵巣が疼くことはないが、物理的な位置は推測可能で、そういうのを確認するだけで興奮できる性癖の美優は、お腹から見るとどのあたりで卵子が排出されるかを調べたことがあるらしい。

 

「いつも精子を出されてるのを感じるのはどのあたり?」

 

 俺は美優のパジャマをめくってお腹を露出させる。

 

「だいたいこの辺」

 

 美優はズボンとお腹に少しだけ隙間を開けてそこを指で示した。

 普段なら間違いなく抵抗するのに、律儀に俺の質問に答えてくれるのは美優も相当にムラムラしているからに違いない。

 もうここまできたら責任を取るしかないか。

 

「排卵日には、この上あたりに卵子が来るんだよな」

「ですね。卵巣はその斜め上あたりにありますので」

「となると、こう……移動してきて、俺の精子と出会うわけか」

「はい」

 

 美優が教えてくれた卵管の上を、指先でなぞっていく。

 美優の腹筋……というより膣が収縮して、ピクピクするお腹を辿っていくと、やがておへそに辿り着いた。

 この奥ではもう俺の精子と美優の卵子が交わっている。

 

 美優は俺がベッドについていた手に自らを手を重ねて、睨んでいるとも澄ましているともとれない微妙なニュアンスの表情で、俺を見つめてきた。

 手のひらがとても熱い。

 

「排卵したかも」

「なら中出ししてみようか」

「しないって言ったら怒る」

 

 美優は「ほんとに妊娠しちゃうかも」とは言いながらも、下だけを脱いで、俺にも同じようにしてペニスを出させた。

 正面から跨ってきた美優はそれでも自分から挿れることはしないで、俺からの挿入を待っている。

 流れとしては自分からでも、俺に孕まされたという事実は欲しいらしい。

 

 俺は対面座位のまま美優の膣に挿入して、それでもお腹の子を労るために、激しいセックスはしなかった。

 子宮に精子を注ぎ込まれる瞬間を美優に感じてほしかったこともある。

 すでにデキてしまった後ではあるけど、こんなやり取りをしていれば、美優だって妊娠したと俺に告げることに躊躇いもなくなるだろう。

 他でもない俺が、俺の意思で孕ませたのだから。

 

 射精をするまでに、もはやペニスを擦る刺激は必要なかった。

 俺たちは舌を絡めて愛を送り合い、膣のペニスが触れ合っているその事実を確かめながら、生殖行為に集中する。

 最後にはフィニッシュに向けて猛ピストンをかけるように激しく舌を絡め合って、興奮が最高潮に達したところで射精をした。

 

 それと同時に美優はビクンと体を跳ねさせてイった。

 俺は子宮口とペニスの鈴口が離れないように全力で美優を押さえつけて、それこそ強制的に種付けをするように精子を送り込んだ。

 精子の一匹も逃させず、子宮の中でたった一つの美優の卵子を奪い合って、生き残った強い遺伝子が結ばれればいい。

 

 すでにデキてしまった後ではあるけど、これは俺にとっても美優への愛と我が子への願いを示す、誓いの膣内射精だった。

 

「ふあ……すっごいのきた……ほんとに妊娠したかも……」

「だとしたら楽しみだな。検査薬は持ってる?」

「へっ? ま、まあ。万一に備えてのものはありますが」

 

 美優は中出しされた余韻に浸りつつも、俺からの提案に少し驚いたようすだった。

 ピンポイントで妊娠検査薬の話を持ち出したからだろう。

 こうなってさえしまえば、あとは妊娠に足る期間を待つだけ。

 それで美優はいつでも俺に孕まされたと堂々宣言することができる。

 

「お兄ちゃんが言うなら、使ってみようかな」

 

 美優は緩んだ口元で嬉しそうに言った。

 

 だいぶ好印象を持ってもらえたようだ。

 

 エッチはしてしまったけど、美優との将来を全肯定できたので、十分な成果と言える。

 明日からも気を抜かず、恋人として、夫として、なにより兄として、頼れる存在であり続けよう。

 いつか美優はありのままの俺でいいと言ってくれたけど、この件だけは男として意識を変えるべきなんだ。

 

「妊娠検査薬って確か、おしっこを掛けるんだよな?」

「こんないい雰囲気で邪悪なことを考えるのはどうなんですか」

「まあほら、一生に何度もないし」

「死んでも嫌です」

 

 まだ繋がったままの俺たちは、その膣内を精液と愛液でドロドロと濡らして、そんな最中でも兄弟としての会話ができる。

 

「でも、お兄ちゃんらしくて安心した」

 

 美優はふっと微笑った。

 

 幸せを最大限に享受して、課題は一緒に乗り越える。

 それが俺たちのあるべき形。

 いや、もしかしたら、世の中のカップル全てがそうあるべきなのかもしれない。

 

「じゃあ……使ってみるね。妊娠検査薬」

 

 美優はその頬に特別な性的昂りを紅く乗せながら、いつか見た素直な笑顔でそう言ってくれた。

 

 



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ピンクの検査薬

第九巻が本日から発売開始されました!!
いよいよウェブ版に追いついてきてヤバいですが、書き下ろしも入れつつ最後まで出版しきりますので応援いただけると嬉しいです!!
■Kindle
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CMCTJ6DC
■FANZA
https://book.dmm.co.jp/product/4130440/b126afrnc01257




 

 薄暗い一室に三人の女の子がいる。

 ちょうど美優と同じくらいの歳の子たちだった。

 

 周囲は騒がしいものの部屋の壁に防音処理が施されていて、会話をするのに支障はなく、また誰かに話を聞かれることもない。

 人数に対してだいぶ広いその部屋にはステージがあり、その中央にはマイクスタンドが置かれていて、しかし、今日に至ってはそれが使われることはないのだった。

 

「まさかいきなり全員と話すことになるとは……」

 

 俺が視線をやるその先には不機嫌顔のツインテールがストローでメロンジュースを飲んでいる。

 言わずもがなその人物とは由佳であり、横でちょこんと座っている佐知子は軽い挨拶をしてくれて、遥は数秒目を合わせてくれただけだった。

 みんな学校帰りの制服姿である。

 

 由佳はテーブルに置いていた小さいカップのソフトクリームを一口で平らげてから俺にスプーンを指し向けてきた。

 文句があるときの行儀の悪さは変わっていない。

 

「あたしら三人同時にメッセを飛ばしてくるなんて、美優の一大事しかありえないでしょ。さっさと話しなさいよ」

 

 由佳と佐知子が毎日一緒に勉強していることは俺も知っていたので、一斉に相談を持ちかけたら只事ではない事態だとバレることぐらいは考慮すべきだったな。

 もうしばらく美優の反応を伺った後でもいいと思っていたが、こうともなれば話さないわけにもいかない。

 いずれ伝えるつもりだったその時期が少し早まっただけのこと。

 

 放課後になって由佳から『緊急会議よ!!』とメッセージが届いて、指定されたのがこのカラオケだった。

 学校で勉強して帰ることが増えたので俺の帰宅が遅くなっても美優が気にすることはない。

 しっかりと事実を伝えて、やるべきことを話し合えたらいい。

 

 この三人なら惜しみなく美優を気遣ってくれることはもうわかっている。

 どうやって本題を切り出すかが最も難しいところだ。

 

「話はもちろんあるんだ。ただ、今回ばかりは本気で真剣な話で。どう伝えるかが難しくてな」

「ズバッと言えばいいのよズバッと。ここいる全員、あんたにケツの穴まで晒してるんだから、今さら深刻も何もありゃしないのよ」

 

 由佳の淑女らしからぬ発言に、佐知子は「そこまで見せてないけど……」と恥ずかしげに呟いて、ただのとばっちりである遥はなぜか由佳ではなく俺を睨んでいる。

 由佳だけはケツの穴どころではない醜態を何度も晒してくれているので誤りではないのだが。

 

「あ、あの、美優ちゃんのことでは、あるんですよね? 私たち全員に相談するぐらいですし。何かの病気なんですか?」

「病気ではないんだ。まあ、でも、そういう感じの相談だよ」

 

 さすがは佐知子だ。

 察しが良くていい感じに話を進めてくれる。

 

「美優が病気なんて、この間の熱が珍しかったぐらいなんだから、まずないでしょ。あり得るとしたらつわりが来たとかじゃないの?」

「いや、その……」

 

 由佳が冗談っぽく言ったそれがほぼ正解だったので返答の仕方がわからなくなってしまった。

 なんだって君らはそう直感が鋭いんだ。

 こっちの気苦労も考えろ。

 

「何を根拠にそう判断されたんですか」

 

 次に口を開いたのは遥だった。

 由佳ではなく、明らかに俺の方を向いて訊いてきている。

 俺の反応から、由佳の放った冗談がまさしく相談の核であることまで読み取ったらしく、それを踏まえての質問だった。

 

 まだ話題についてこれていない佐知子は遥の言葉の意味を理解しきれておらず、由佳も「は? あたしに聞いてんの?」と不審げである。

 

「検査薬に二本線が入ってて」

 

 その遥に向けた返答に、遥本人は瞼を閉じてため息をついただけで、ワンテンポ遅れて『バンッ!』と両手で机を叩いて立ち上がったのが由佳だった。

 

「そ、それっ……!! 完璧に本物じゃない……!!」

 

 血の気の引いた顔で目を見開いて、隣の部屋にまで声が響きそうなほどの驚きようだった。

 続いて話の中身を理解した佐知子は、きっと祝福をしなければという思いから拍手の寸前みたいな手の上げ方をしていて、そこで固まっている。

 

「そうでしたか。てっきり美優の想像妊娠かと思ってましたが。それはおめでたですね」

「想像で妊娠できるならあたしがしてるっての! どおりで最近はトイレ行く頻度も上がってると思ったわ……」

 

 そんな変化まで起こっていたのか。

 俺は全然気づいてやれてなかったな。

 由佳が冗談のつもりで言っていた、つわりってやつがもう来てるのかもしれない。

 ますます美優のことをケアしてやないと。

 

「ていうか私も実は孕まされたりしてない?」

「そこを俺も心配してたんだ。でも、さすがに由佳は生理がきてるよな? 佐知子も」

「ん、まあ、そうね。残念ながらきてたわ」

「は……はい……私も……」

 

 さすがに生理まできていれば問題はないだろう。

 コンドームが誤って外れたことだってなかったし。

 これで山本さん以外の心配はなくなったと考えていい。

 

「それでな。勝手なお願いだとはわかってるんだけど、美優の学校でのサポートをお願いしたくて」

 

 時期的にどこまで外見的に目立つようになるかはわからないが、卒業までには外目でもわかるぐらいにお腹が膨らむかもしれない。

 元が小柄な美優からしたらなおのことだ。

 

 そのうえ、食べ物や運動にも制限がかかる。

 学校での階段の登り降りですら危険が伴うのだ。

 いくらしっかり者の美優でも任せきりにはしていられない。

 

「あったり前でしょ! 学校に来るってんならもちろん面倒見てやるっての!」

 

 カッと身を乗り出した瞬間に由佳の長い二つ結びが前に揺れて、ガッツポーズするその意気を強調する。

 こういう状況になると心強い仲間だ。

 

「だけどね」

 

 しかし、その次に由佳の口から飛び出してきたのはまさかの一言だった。

 

「悪いけど、私、高校は美優と同じとこには行けないわよ。佐知子と本気で勉強して西高に行くって決めてるの」

 

 励ますにも茶化すにも全力だったはずの由佳は、今は妙に落ち着き払っている。

 美優のことで改心して、佐知子のところで真面目に勉強も続けて、それは目覚ましいほどの成長の証だった。

 それでも完全に吹っ切れたわけではない様子の由佳は、腕を組んで憂いを含んだ顔を横に向けており、隣の佐知子はちょっと照れた様子で「毎日すごい頑張ってるんです」と由佳を褒めていた。

 

「ありがとう。いまのクラスでのことだけでも助かるよ」

 

 美優との義理や友情の範囲でやってもらえるだけでいいんだ。

 仲良しだからって負担をかけたいわけじゃない。

 それは美優だって望んでいないはず。

 

「でも安心なさいな。もし美優に嫌がらせする輩がいたら、別の学校だろうとぶっ飛ばしに行くから」

「あ、あのっ。私からも、おめでとうございます」

「そうよ! おめでたじゃない! 妊娠祝いは何がいい!?」

 

 雰囲気の暗さを察して佐知子が祝福の言葉をかけてくれた。

 止まっていた拍手も気持ちよく音が鳴って、俺の背中を叩く由佳も心の底から祝ってくれているのがわかる。

 妊娠祝いなる言葉は初耳だったがそれぐらい喜んでくれているんだ。

 それが二人の反応だった。

 

「美優の周りはまあ、こういう環境ですし。誰も怒ったりすることはないでしょうから、分不相応ながら私から言いますが」

 

 ずっと深くソファーに腰をかけていた遥が立ち上がって由佳と入れ替わった。

 その瞳に怒りこそ篭っていないが、美優と同じぐらい淡白な性格をしている遥からすると、尖った感情が見てわかるほど目が細まっている。

 

「美優の若さで産むことにどれぐらい負担があるかはわかっているんですよね? 美優とお兄さんの性格を考えると、もしものときに感情を抑えて母体を優先させることができるとも思えませんし。事故とはいえきっちり反省してもらわないと」

 

 遥の言葉は端から端まで正論だった。

 出産というものが俺にとってまだリアルになっていない。

 美優の気持ちに寄り添うことが逃げの選択肢ではないと断言できるだけの熟慮はこれから先も必要になってくる。

 

 山本さんの助言は、あくまでもこれまでの俺と美優の営みが間違っていなかったというだけで、目の前の幸せだけを追い続ければいいという意味ではない。

 そこまでを含めて俺が考えるべきことなんだ。

 

「謝るべき人にはきちんと謝るし、美優のことは何よりも大切にするよ。どれも結果で示してみせる。だから、美優には祝福してやってほしい。そうじゃない部分のことは、きちんと二人で考えるから」

 

 山本さんからも、遥からも、言われなかったら気づけなかったことがあった。

 由佳と佐知子のように真っ直ぐに喜んでもらえるのもありがたいし、信頼できる仲間っていうのはこれほどまでに重要なものだったんだな。

 美優が無理をしてでも守りたかったものがなんとなくわかってきた気がする。

 

「それはまあ、もちろん」

 

 遥はしっとりと目を閉じて、次に開いたその視線は柔らかいものに変わっていた。

 美優の周囲で自分だけがハッキリと言える立場だからと、あえて一言を伝えてくれただけで、その根っこのところにある感情は由佳たちと変わりないものだったらしい。

 

「ところで、お腹の子は女の子ですか?」

「それは知らん」

「美優の娘に着せたい服が無限にあるので、いっそこうなったからには女の子が生まれるまで美優を孕ませてもらっても」

「さっきと言ってること逆だな?」

 

 もちろんそれは冗談の範疇であって──実際に女の子が生まれたとなったら本当に遥は服を大量に送りつけてくるだろうが──遥も美優が子を授かったことを喜ばないはずがなかったのだ。

 

 出会ったばかりのことはぶっ飛んだ考えの子ばかりで価値観が合う気がしなかった彼女らも、だからこそこうして祝福をしてくれるのは他にない良縁だったと言える。

 その後も女の子の気持ちにまつわるあれこれをレクチャーされて、最後には由佳の「てかいつまでも美優を一人にしちゃダメでしょ!?」の一言で会議は和やかに終わり、無事報告は完了したのだった。

 

 帰宅の途中も調べるのは妊娠した美優に関することばかりだった。

 なんでも妊婦はカフェインを摂り過ぎるのがよくないようで、カフェインレスでかつ美優の舌に合う紅茶を遥に教えてもらったりと、準備は着々と進んでいる。

 もちろん、安定期に入るまではぬか喜びになってはならないので、物を揃え過ぎるのもよくない。

 まず考えるべきは手帳を貰うためにどこの病院に行くべきかぐらいか。

 

 そうしたことに脳のリソースを使っていたせいか、玄関に入った俺はリビングから出てきた父親の姿を見た瞬間に驚きで固まってしまった。

 最近は気まぐれで両親が早く帰宅するので心臓によろしくない。

 

「どうした? そんなとこにつっ立って」

「ああいや、珍しいなと思って。帰ってきてたんだな」

「そりゃまあ、お前らがこの先どうするかってのもあるからな。子供の成長は今のうちに見守っとかないと」

 

 どうやら、親父は俺と美優の関係を知ってから、俺たちの独立が早いのではないかと気にしているらしい。

 まだ大学の進路も確定しているわけではないものの、距離によっては一人暮らしも必要になる。

 そうなれば、美優が俺と離れて暮らすことをよしとすることは考えられないため、同棲という選択肢にまで飛躍する可能性もあるのだ。

 

 俺としては美優と暮らす充分な準備ができるまでは実家にいるつもりだけどな。

 その方が美優だって都合がいいはず。

 

 それに、もはや実家を離れるだとか言っている場合でもないのだ。

 俺たち二人の責任で子供は育てなければならないとはいえ、今の年齢でとなれば親の協力は必須と言っていい。

 生活費だってろくに稼げない身の上なんだ。

 

 だからこそ、美優が妊娠した事実も、できるだけ早くに伝えなければならない。

 

「お兄ちゃん、おかえり」

 

 そう考えていたからこそ、美優が階段を降りてきたこのタイミングは、運命的なようにも思えた。

 

 俺も父親になる覚悟をしている。

 山本さんも美優の友達もみんな、美優の妊娠を祝福すると言ってくれた。

 あとは俺たちが両親に認めてもらうだけ。

 

「なあ、美優」

 

 父親が出てきたのはトイレに行くためで、わずかだが俺と美優には二人で話す時間があった。

 その間に俺はリビングに入ろうとしていた美優を抱き止め、お腹をさすりながら語りかける。

 美優は困惑していたものの、俺にお腹を触れられるのが心地よかったのか、首だけを振り返って俺を見る目は優しかった。

 

「そろそろ、父さんたちに話さないか?」

「ん? 何を?」

「だから、ほら……」

 

 誤魔化そうとする美優の理解を促すように、俺は美優のお腹を撫で続けた。

 

 自分から話す勇気がないのはしょうがない。

 美優だけに関することなら、あの甘々な両親はなんだって許すだろう。

 だが、俺が絡んでいるとなれば一筋縄で行かないことは容易に想像できる。

 だから、話をするのは俺からでいい。

 

 ただ、その前に、美優の口から、妊娠した事実を俺に告げてほしい。

 

「俺たちの……将来のこと。美優の、お腹にいる……子供のことを」

 

 何年と付き合ってきたわけではない。

 それでも、今日に至るまでの濃厚な月日と、兄妹として過ごしてきた十数年は、俺たちの愛を確かなものに成熟させてくれた。

 

 美優とならどんなことが起きたって幸せを掴んでみせる。

 

 そんな確信が俺の中に強くあった。

 

「えっ」

 

 俺のお願いに美優はまず小さく驚いてから、

 

「え、えっ!?」

 

 発言の本気度合いがようやく伝わったのか、美優は身を翻すようにして俺の腕を振りほどき、俺から半歩分の距離を取った。

 

「き、気が早くない? たしかにこの前はそんな話をしたけど、あれはあくまで話の流れで、検査っていうのは……その……プレイの一環というか……」

「二回目の検査のことなら、待たなかった俺も無粋だとは思うよ。でも、きっと今なんだ。父さんたちに言うべきなのは」

 

 美優が自分から言いだしてくれた、二度目の検査の結果を見てからでもいいとは思っていた。

 妊娠したからといって、これから安定期に入れる確証もない。

 それでも、仮に上手くいかなかったとしても、ここで妊娠した事実を両親に告げなかったら後々の人生で必ず歪みを生む。

 

「ん、ん? えと、二回目? って、どういうこと?」

 

 美優との噛み合わない話。

 何日も前から並行線を辿っているこの議論は、さすがにこれだけ繰り返せば美優も折れると思っていた。

 

「だから、前にも検査をしてただろ? 陽性の検査薬だって、机に……」

「なっ……なんだって!? み、美優が妊娠したのか!?」

 

 と、そこで会話に割って入ってきたのが、トイレを終えた親父だった。

 美優との会話が上手くいかなすぎて、聞こえないように気を回すのを忘れていた。

 

「お前らな! いつか作れとは言ったけど早すぎるだろ!? お、そ、それで、美優の体は大丈夫なのか? そろそろ冷え込む時期だからな。今日は温かい汁物にでも変えてもらうか? 暖房入れるか!? 鉄分足りてるか!?」

 

 血走った目をかっぴらいて、おそらく抱いているであろう俺への怒りを封印して全力で美優を心配する父は、やはりというか大人なのであった。

 やっぱり、お腹が大きくなる前に本当のことを告げてよかった。

 

「落ち着いて、お父さん。私、妊娠してないから」

 

 美優は低い声で空気を凍らせて、呆れたような顔で俺を睨んでくる。

 ここまで否定するということは、もしかするともしかするのかもしれない。

 

「お、おお? ん? どっちなんだ? したのか? してないのか?」

「してるんだよな? 美優。もう、正直に言っていいんだぞ?」

「だから、してないんだってば。お兄ちゃんは私の部屋に来て。お父さんはビールでも飲んで全部忘れてて」

 

 本人によって完全に否定された妊娠説は、美優の部屋で改めて二人で話し合われることに。

 腕を引っ張られて階段を登る途中、リビングに入っていく親父の横顔がどこか残念そうだったのは気のせいだろうか。

 

「──お兄ちゃんの精子でなら、薬を飲んでても私が孕ませられる可能性があることは認めます。だからって、さすがに妊娠した前提でお父さんたちに話すのは早すぎです」

 

 部屋に入るなり早速お叱りモードだった。

 怒っているほどではないが、ハッピーな感情が一つもないことだけは見てわかる。

 

「父さんに聞かれたのは申し訳なかったけどさ。でも、もういい加減に、打ち明けてくれてもいい頃かなって思って」

「打ち明けるって。まさか私が妊娠してるってこと?」

「まさしく」

「……お兄ちゃんもしかして、私が妊娠してると本気で思ってる?」

 

 本気もなにも実物を見てしまったからな。

 しかし、美優のこの口ぶり、少し怖くなってきた。

 

「あのさ。さっき下で話してたとき、私が妊娠の検査してたとか不穏なことを言ってたけど」

「ああ。だってほら。そこのペン立てに入ってるよな? 二本の線が入ってるやつ」

 

 俺が勉強机を指差すと、美優は「あー……」と気の抜けた声を出して、それから俺が確認したものと同一の検査薬を持ってきた。

 

 この両端が丸いピンク色の楕円棒、間違いない。

 陽性の線もくっきりと残っている。

 

「これは妊娠検査薬ではありません」

 

 な……んだと……。

 

「じゃあなんだそれは」

「排卵検査薬です」

「紛らわしすぎるだろ!? どっからどう見ても妊娠検査薬と同じじゃないか!!」

「女の子でも普通にわからなくなります」

「どうしてそんなものがまかり通ってるんだよ……!」

 

 待てよ、いや待て。

 それが本当だとすると今までの俺の行動はどうなるんだ。

 

 山本さんや由佳たちに告げてしまった誤報は正さなければならなくなるのか。

 どんな顔して訂正すればいいんだ。

 

「まさかとは思いますが」

「いや、だって、もう確実な証拠だったし」

「もう……! 私に聞けばよかったじゃないですか」

「だってほら、美優が何やら言いづらそうにしてたことがあっただろ? ……それは、どうなんだ?」

 

 というより、排卵検査薬だと?

 なんでそんなものを買ったんだ。

 妊娠したい人が排卵日を確定させるために使うものだろ。

 

「それは……まあ……」

「関係してるのか?」

「関係してなくは、ないと言いますか……」

 

 この態度、間違いなくこれが言いづらさの原因だな。

 あの謎の中出し希望のときに美優が見ていたのが検査薬であることは変わりないんだ。

 

 そうかそういうことか。

 ただ膣内に精液を送り込むだけみたいなセックスを要望した理由はそれか。

 そんなことのために俺はここまで気苦労をかけさせられてきたのか。

 

「排卵確定日に俺とセックスしてエクスタシーしてたんだな」

「まあ……言いようによっては……」

「美優からしたらオナホとかディルドと同じオナニー道具なんだろ」

「そ、その言い方はやめてください……!」

 

 美優は周知に顔を朱に染めながら素早く検査薬を背後に隠した。

 これまでの態度とこの反応からするに、美優が俺の中出しで孕まされる妄想をするためだけにこれを使ったことは明白だ。

 妹の淫らな性実態は俺の想像の及ばないレベルに至っている。

 

「ともかく。お兄ちゃんが責任を持って訂正してよね。私は由佳からその話題を振られても完全無視するから」

「ちゃんと訂正はしておく。そこはマジで申し訳なかった」

 

 美優が妊娠を告白するタイミングを測っていると思いこんでいたとはいえ俺の過失だ。

 由佳にガミガミ言われるのは構わないのだが、山本さんに無用な心配をかけてしまったのは心苦しい。

 佐知子もあれだけ純心な反応をしてくれたのに。

 遥は……、もしかしたら、半分ぐらいは妊娠していないとわかっていたのかもしれない。

 

 とはいえ、もしものときを考えるいいきっかけにはなったかな。

 普通に人生を過ごしてたら、産婦人科に行ってからの手続きなんて、絶対に知ることはなかっただろうし。

 

「てか、ピルを飲んでるのに、排卵ってするんだっけ? 卵子が排出されたら受精しないか?」

「ん。だから、これはピルを飲み始めるより前に検査したやつ」

 

 それをずっと取っておいてあるのか。

 排卵周期上の検査陽性日が来るたびに、妄想を捗らせていたんだよな。

 エロゲをそれなりにやり込んだ自負がある兄からしても妹がエッチすぎてびっくりする。

 脳みそを取り出したら真っピンクなんだろうな。

 

「でさ」

「はい。なんでしょう」

「一応、最後はああして、ガッツリ中出したわけじゃないか」

「めちゃくちゃ精液出されましたね」

「そっちで妊娠したってことはないの?」

「……」

 

 ようやくクールダウンに向かっていた空気が、美優の肌の裏側から伝わる体温によって上昇していく。

 

 だって気になるだろう。

 あれが排卵検査薬だったということは、美優はまだ一度も妊娠の検査をしていないことになる。

 あの夜の美優の発言からするに、卵子が排出されてしまった可能性もあるのだ。

 

「そこまで言うのでしたら」

 

 通常は生理が来ないことを認識してから検査をするもの。

 とはいえ調べた限りでは、妊娠さえしていれば、生理予定日より前でも反応はするらしい。

 

 そして、その他諸々の意図を、言わずとも美優は汲み取って、今度こそ本物の妊娠検査薬を机の引き出しから取り出した。

 負い目がないときの頭のキレと、面倒くさくなったときの豪気さはいつもながら惚れ惚れする。

 

 俺は美優にトイレへと連れられ、普段着姿の美優が便座に跨り、スカートからパンツをずり下ろすところまでを見ていた。

 不正の余地などない完全な検査スタイルである。

 

 美優は検査薬を箱から取り出して股の間にセットし、その時を待つ。

 大切な溶液の排出口は暗がりの中に見えないままとなっていた。

 

「スカートを上げたら怒るんだよな」

「当然です。というより前から思ってたんだけど、裸に見慣れても妹の排尿になんか興奮するの? しかも何度も見てるのに」

「するだろ普通に。妹だぞ」

 

 妹がパンツを脱いで人に見られると恥ずかしい行為をしてるんだから、それを見て興奮しないわけがない。

 興奮しないのは動物としての摂理に反する。

 事実として俺の股間もあられもない姿になっている。

 

「まだ出してないんだけど。まあいいから黙って見ててください

「出し終わったらでいいから処理してくれないか」

「それは別に構いません」

 

 うちの妹はドライになると許容範囲が広がる不思議なところがある。

 

 検査薬の構えられたそこに、黄金色の液体がかかる瞬間も、そう感動的なものではなかった。

 それでも、お互いに無言のトイレの中で、美優がおしっこをする音だけがなっているのは妙にエッチだった。

 

「はい終わりました。無味乾燥でしたね」

「どれぐらいで結果がわかるんだ?」

「だいたい五分。なのでお兄ちゃんを射精させるには充分すぎるぐらいの時間です」

「なんだと」

 

 俺は勃起した陰茎をズボンの中から美優の前に引きずりだした。

 排尿後の美優はパンツを足首に掛けたまま、ティッシュで股を拭くこともせず、無気力そうに俺のペニスを咥える。

 かつてないほど淡白なフェラチオの始まり方だった。

 以前にもメイド姿の美優に同じような構図でフェラをしてもらったことがあるが、前後の文脈があるかないかでこうも気の昂りが異なるものか。

 

「なんかいっつもお風呂前のを舐めさせられてると思うと悔しくなってきた」

 

 ちゅぱちゅぱとフェラをする合間に美優がボソッとこぼした一言。

 そこに続いたのはペニスを吸い尽くすような絶技よりも俺の性感帯を強く刺激するものだった。

 

「今日は私もこのままのをお兄ちゃんに舐めさせちゃおうかな」

 

 いつだかは死んでも舐めさせないとまで言われた密部。

 それをあろうことか雫の滴るままで味わわせようという。

 衝撃的な発言だった。

 

「ま、マジか。美優が、いいって言うなら……俺は……うっ……あっ」

 

 びゅるっ、びゅうぅうっ、と、つい美優の口内に射精してしまった。

 それほど刺激されていたわけでもないのに、最高潮時と同じだけの量が美優の喉奥へと流し込まれていく。

 

「この情けない味が兄ちゃんの精子って感じがする」

 

 精液を飲み下した美優は、トイレでパンツを脱いだまま兄のペニスをフェラ抜きしたというのに、何事もなかったかのように澄ました顔をしていた。

 

 その情けない精子でいずれは受精することになるんだからな。

 大人になったら絶対に孕ませるからな。

 

「じゃあ、次は美優のを……」

「お断りします」

 

 無情にも美優はビデボタンを押して綺麗さっぱり股を洗い流してしまった。

 いやそれでも舐めさせてくれるのなら舐めるのだが。

 

「舐めさせません」

「そうだよな」

 

 まあ想定の範囲だった。

 

 大丈夫。

 いつもの美優だ。

 きっと陽性反応も出ない。

 

「お兄ちゃんの早さだと五回イかせても検査結果が確認できないね」

「悪かったな」

 

 軽口を叩き合って、日常となんら変わりない兄妹の距離感で、俺たちは話していた。

 

 でも、本当はそれは緊張の裏返しで。

 美優の部屋に戻ってカーペットに横並びで座り込み、テーブルの上に置いた検査薬を眺める俺たちからは、会話がなくなっていた。

 スマホを弄ってのんびり過ごしているように見える美優も、検査薬と時計にしきりに目をやっている。

 俺は喉が渇いて喋れなかったので黙り込んでいた。

 

 一分、二分、と時間が過ぎていく。

 検査の窓にまだ線は現れてこない。

 出るはずがないとわかっていても、もしもを考えると緊張する。

 

 そして、四分を超えた残りの一分間。

 ついには美優も検査薬を凝視するだけになった。

 

 兄妹で並んで妊娠検査薬の反応をドキドキしながら見ている。

 こんな瞬間がくるなんて、まだずっと先のことだと思っていた。

 

 残り二十秒、残り十秒と、針が進む。

 浮き出てくることのない陽性線に、マックスまで高まった心拍は、五分を超えたところで空気の抜けた風船みたいにスゥと落ち着いていった。

 反応するなら二、三分で出るものらしく、五分してでなければまず陰性とのことだ。

 

 つまり、美優は本当に妊娠してなかったのだ。

 

「ね? これでもう疑いようがないでしょ?」

「ああ、悪かった。とんでもない早とちりで」

 

 俺はまずメッセージで誤報を伝えた面々に謝罪と訂正を入れた。

 詫びるなら対面であるべきだが、報連相はスピードが最優先である。

 

「残念な気持ちもあったりするのか?」

「ううん。お兄ちゃんに孕まされて妊娠したいし」

 

 やはりそうか。

 俺が俺の意思で美優に種付けしない限り、満足いく妊娠にはならないよな。

 

「あ、でもさ」

 

 まだもう一つ、俺には気になっていることがあった。

 

「由佳のやつがさ、最近は美優のトイレに行く頻度がやたらと上がってるって言ってたけど、それはどうなんだ?」

 

 俺はもうつわりが来ているものだと思っていた。

 妊娠していないということならなおのこと心配だ。

 

「私の性欲がおかしくなったときにお兄ちゃんとエッチしすぎたせいで、まだ尾を引いてるものがありまして」

 

 正気に戻ってからは平然と性処理をしてくれているように見えていたが、まだ完全には復調していなかったらしい。

 学校に行くとクールな思考に切り替わるはずの美優も、ムラムラを抑えきれずにトイレに駆け込むことがあったのだとか。

 

「ってことは、学校でオナニーしてる……ってことじゃ……!」

「違います」

 

 美優は即答して、それから「ああいえ、もちろん、一番酷いときは、全くなかったわけではないですが」と付け加えてから続けた。

 

「できるだけ瞑想だけで鎮めてたの。最初はキツくて無理かなって思ってたけど、続けてたらちょっとずつコントロールできるようになってきて」

 

 俺とのエッチで性本能が暴走しがちな美優は、精液を飲んでも中出しにしても、その後に体が火照りが残ってしまう。

 俺を射精させることで美優がスッキリする部分もあるようだが、それでも体質というものは抗い難いのだ。

 それを、ついに美優は、自分の意思でオンオフする術を身につけつつあるらしい。

 

「だから今もそれだけ平静としていられるのか」

「うん。脳の一部の機能を止めておくと、侵食が止まるってイメージ。油断すると今からでもエッチな気分にはなる」

「中出しでもコントロールできそう?」

「それは……特訓中……」

 

 まだまだ上手くいかないことも多いようだ。

 でも、目覚ましい進歩だな。

 美優がその感覚を完全にものにしてくれれば、それこそ俺はなんの気兼ねもなく兄妹でセックスしまくりの生活を送れるようになる。

 そう考えるとものすごく楽しみになってきたぞ。

 

「そういや、寒くなる前の温泉旅行、そろそろいいんだよな?」

「会話の流れ的に不穏なものを感じますが、私もそろそろかなとは思っていました」

 

 個室露天風呂付きのお泊まり旅行。

 野外で美優とセックスする唯一の方法と言っていいそれが、現実に近づいている。

 

 もう今日から射精禁止にしとこう。

 太陽の下で溜めに溜めた精液をどっぷりと美優に中出ししたい。

 明るいベランダで美優にフェラチオもしてもらいたい。

 その後、しばらくお湯に浸かって休んだら、全身のあらゆる部位を使って射精させてもらいたい。

 

 妹の体を性処理のために都合よく使いたくて仕方なくなってきた。

 今日の話を聞いて、俺も昔のような純粋な性欲が戻ってきた気がする。

 

「い、一応、旅行なので、エッチ以外のとこも考えてくださいね」

「ああ、そうだったな。もちろん。一緒に決めよう」

 

 どちらかといえば、恋人が愛を深めるためのものではなく、夫婦としてのハネムーンみたいなものでもない。

 いつか大人になれば、今のような関係にならなくても、あり得たかもしれない。

 兄妹の仲良し旅行が計画されるのだった。

 

 



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