無限の成層圏と煉獄騎士 (ZZZ777)
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設定集 ※ネタバレ注意、途中更新あり
設定集Ⅰ


〇織斑一夏

 

原作主人公にして、今作の主人公。

そして、みんなご存じ世界初の男性IS操縦者。

幼い頃から姉と二人きりで暮らしており、家事スキルがとても高い。

優秀だった姉と比べられ続け心を擦り減らしていたが、そんな中で姉がIS世界大会モンド・グロッソで優勝したため、それがさらに激しくなってしまった。

そんな中、第二回のモンド・グロッソ決勝戦の直前、姉の二連覇を妨害するために誘拐された。

だが、日本政府が姉にその事を伝えなかったため、誘拐犯を仕切っていた女に殺されそうになる。

殺される直前、何処からか聞こえて来た声の問いかけのに答えたことにより、煉獄騎士のダークコアデッキケースを受け取る。

その後、誘拐犯を退けた後、千冬に保護される。

ドイツ軍でラウラ・ボーデヴィッヒが巻き起こしたVTシステム事件により、煉獄騎士として完全に覚醒。

事件を解決した後、ダークコアデッキケースをくれた存在、『煉獄騎士団団長 ディミオスソード・ドラゴン』に接触。

その過去を聞き、共に歩む覚悟を決める。

ダークネスドラゴンWに渡った後、モンスター脱走事件でイギリスに行き、貴族であるオルコット家と出会い、エクシア・ブランケットと言う少女の心臓病を治療する。

そして家族のもとに戻り、『PurgatoryKnights』所属としてIS学園へ。

 

異世界で修行していたため、人外の領域の身体能力を有していて、非公式ではあるが世界最強の姉に生身、IS共に勝利している。

また、異性からの好意に疎く、かなりの天然ジゴロ。

学年別タッグトーナメントの際、クラリッサ・ハルフォーフとチェルシー・ブランケットから告白され、晴れて恋人同士に。

また、自分が造られた存在だと知るも特に動揺はしなかった。

異世界での生活でかなり原作より強化されている。

 

専用機:煉獄騎士

詳しくは設定集Ⅱで。

 

 

〇織斑千冬

 

織斑一夏の姉にして、IS世界大会モンド・グロッソ二連覇、世界最強『ブリュンヒルデ』と呼ばれる女性。

幼い頃から弟の一夏と二人での生活だったため、生活をするためにバイトに明け暮れていて、一夏に構うことが少なかった。

そのため、一夏が周囲からいじめられていても気づけなかったが、一夏が中学生の時に一夏の状態を知る。

第二回モンド・グロッソの時、一夏が誘拐されたことを知らずに決勝戦に出場し、優勝。

しかし、ドイツ軍からの情報により誘拐されたことを知り、救助。

一夏がドイツ軍での訓練を望んだため、訓練を付けることに。

その時に一夏が煉獄騎士の力を得て、ダークネスドラゴンWに行くと言い出した時は動揺したが、結果として送り出すことに。

 

一夏がいなくなった時に一夏に対する想いが大きくなり、ド級のブラコンになってしまった。

一夏とのIS勝負に負けてしまい、自身のIS、暮桜の強化を篠ノ之束に頼む。

※今作では赤月との勝負が無かったため、暮桜を所有したままだった。

IS学園の教師をしている。

 

専用機:暮桜(篠ノ之束に預けてある)

千冬がモンド・グロッソで使用していた機体。

赤月との勝負が無かったため、現在まで千冬が保管していた。

それ以外は原作通り。

 

 

〇クラリッサ・ハルフォーフ

 

本作ヒロインの一人。

ドイツ軍IS部隊シュヴァルツェ・ハーゼ副隊長。

一夏とシュヴァルツェ・ハーゼの隊員の中で一番最初に親しくなった。

訓練の休憩中等で、一夏と二人きりで活動することが多かった。

隊長であるラウラが起こしてしまったVTシステム事件が切っ掛けで一夏に恋心を抱いていると知る。

しかし、自身が造られた存在である為この気持ちを持っていて良いのか迷っていた。

その後、一夏に自信が幸せになっていいのか相談した。

一夏から言われた言葉「幸せになっていい」に救われ、恋心を持ち続け、一夏に相応しい女に成長すると誓った。

 

日本のサブカルチャーヲタクであり、他の隊員に自信のサブカルチャーを勧めている。

一夏と添い寝した際、一夏の頬にキスをした。

この時、自身が少女漫画の登場人物のように感じ、顔を真っ赤にした。

学年別トーナメントの際、同じく一夏に好意を抱いていたチェルシー・ブランケットともに話し合い、同時に一夏と付き合おうと決め、告白。

この際、一夏が試験管ベイビーだと知るも、好意は揺らがず、晴れて恋人同士に。

 

専用機:シュヴァルツェア・ツヴァイク

ドイツの第三世代型IS。

ラウラの専用機であるシュヴァルツェア・レーゲンのデータをもとに開発された姉妹機。

AICはレーゲンのものより攻撃的になっている。

 

 

〇ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

原作ではヒロインだが、残念ながら今作ではヒロインではない。

ドイツ軍IS部隊シュヴァルツェ・ハーゼ隊長。

生体兵器として生み出されたアドヴァンスドであり、優秀な個体だった。

しかし、IS適正を上げる処置であるヴォーダン・オージェ移植手術に失敗し、出来損ないと呼ばれるようになってしまった。

そんな中、ドイツ軍に教官としてやって来た千冬の指導によって評価が覆る。

その経験から千冬を崇拝し、同時に一夏に対して嫌悪感を抱く。

一夏との模擬戦の時にVTシステムを暴走させてしまい、飲み込まれる。

一夏によって救出され、この時に自信の認識を改め一夏に謝罪し、関係を修復する。

この時に一夏に恋心を抱いたが...

 

生み出された時から訓練をしていたため、世間の一般常識に疎い。

一夏は悪い影響が出ないか心配している。

 

専用機:シュヴァルツェア・レーゲン

ドイツの第三世代型IS。

AICを搭載している。

 

 

〇チェルシー・ブランケット

 

本作ヒロインの一人。

イギリスの貴族家、オルコット家のお嬢様セシリア・オルコットの専属メイド。

ダークネスドラゴンWから脱走したモンスターが引き起こした列車脱線事故に巻き込まれ、殺されそうになる。

しかし、間一髪のところで一夏に助けられる。

そこから一夏と共に生活していき、一夏に好意を抱き始める。

心臓病を患っている妹がいて、偶然一夏とディミオスの会話を耳にし、二人に治療を頼む。

無事に妹であるエクシアは治療された。

だが、エクシアやオルコット家の主人には一夏への恋心がバレている。

エクシア曰く「何でセシリア様と本人が気づいていないのかが分からない」らしい。

そのこともあって、エクシアからはかなり応援されている。

 

幼少期からオルコット家に仕えるために生活しており、家事能力がかなり高い。

それに加え、年齢よりも落ち着いた雰囲気を持っており、とても頼りになる。

しかし、家事能力は一夏に負けており、心なしか悔しい。

学年別トーナメントの際、同じく一夏に好意を抱いていたクラリッサ・ハルフォーフともに話し合い、同時に一夏と付き合おうと決め、告白。

この際、一夏が試験管ベイビーだと知るも、好意は揺らがず、晴れて恋人同士に。

 

専用機:ダイブ・トゥ・ブルー

イギリスが開発した第三世代型IS。

BT機の3号機である。

単一能力の空間潜行により、空中に消える事が可能である。

 

 

○エクシア・ブランケット

 

チェルシーの妹。

心臓を患っており、ずっとイギリス最高峰の病院に入院していた。

一夏の魔法による治療によって心臓病は完治。

現在はオルコット家の見習いメイドとして日々努力をしている。

 

姉の一夏への恋心を察していて、思いっきり応援している。

このこともあって、一夏の事を『お兄様』と呼ぶ。

 

 

〇セシリア・オルコット

 

原作ではヒロインだが、残念ながら今作ではヒロインではない。

イギリスの貴族家、オルコット家のお嬢様。

女尊男卑主義者だったが、列車脱線事故に巻き込まれ一夏と出会ったことにより、考えを改める。

この時、一夏に恋心を抱くが...

 

イギリスのIS代表候補生を目指して訓練をし、無事合格した。

だが、その事に満足せず、努力を続けている。

IS適正は「A」、さらにはイギリスが開発しているBT兵器の適正も「A」とかなり高い。

 

専用機:ブルー・ティアーズ

イギリスの第三世代型IS。

BT兵器の実践試作機である。

BT兵器とは、遠隔無線誘導型の兵器であり、複数のビットと呼ばれる射撃武器を念じ誘導で操作することが出来る。

 

 

〇ロバート・オルコット/ロザリー・オルコット

 

オルコット家当主であり、セシリアの両親。

ロバートは陰で、ロザリーは表で働き、オルコット家を支えている。

セシリアが女尊男卑になってしまった事に頭を悩ませていたが、一夏が来たことにより修正され、一夏には感謝している。

娘とその専属メイドが一夏に好意を持っている事に気づいており、ニヤニヤしている。

 

 

〇篠ノ之束

 

みんな大好きなウサギのお姉ちゃん。(笑)

ISの開発者、そして天才であり天災である科学者。

原作通りにISの開発、並びに白騎士事件を起こした。

しかし、原作とは異なり妹に愛想をつかしており、一夏を溺愛しているが、一夏が何処か毒舌に返してくるため悲しい。

ISを開発したことで一夏を苦しめたことを後悔している。

一夏が異世界から帰って来た時に『PurgatoryKnights』を発足させる。

そして、『PurgatoryKnights』の開発担当主任として働きだす。(このことを知っているのは、限りなく少数)

 

一夏が毒舌に当たるのは自分だけと感じている。

一夏に構って欲しいが、立場的にそれも出来なくなってきていて、ちょっとこの立場を恨み始めている。

 

 

〇クロエ・クロニクル

 

束の助手兼娘。

ラウラと同時期に造られたアドヴァンスドの失敗作。

処分されそうになった時、束に拾われて今に至る。

束の助手として『PurgatoryKnights』の開発担当として働く。

一夏に対しても友好的に接しており、料理を習ったりしているので、相当なついている。

最近の悩みは一夏に構ってもらえない束がダルがらみしてくること。

 

 

〇スコール・ミューゼル

 

『PurgatoryKnights』社長にして、国際テロリスト『亡国企業』の元メンバー。

ミッションに失敗して負傷している時に、束に目を付けられ拾われる。

元テロリストだが、束によって罪が消されている。

そのため社長として活動出来ている。

 

一夏には、IS学園に入る前までの生活で一夏の凄さに驚いている。

そして、一夏に好意的な感情を持ち、サポートすることにした。

また、亡国企業に所属していた専用機は国際IS委員会に返却した。

緊急時の為に束が専用機を開発している。

 

 

専用機:ゴールデン・ドーン(返却済み)→___

束曰く、ゴールデン・ドーンが炎を操る機体だったため、更に凄い炎関係の武装を搭載した機体の開発を予定。

 

 

〇オータム

 

IS学園新人警備員にして、国際テロリスト『亡国企業』の元メンバー。

スコールと同じように束に保護される。

一夏達がこの先どうするかの話し合いをした時、千冬からの打診によってIS学園の警備員として働くことに。

専用機もスコール同様、IS委員会に返却した後束が新しく作ろうとしている。

 

一夏に対しては弟のように接しており、フランクに接している。

一夏も一夏でフランクに接してくるから、姉のように接していると、千冬が嫉妬してくる。

千冬の嫉妬が怖く感じている。

 

専用機:アラクネ(返却済み)→___

束曰く、アラクネが八本の装甲脚を持つ機体だったため、サブアーム等を搭載した機体の開発を予定。

 

 

〇織斑マドカ

 

『PurgatoryKnights』所属にして、国際テロリスト『亡国企業』の元メンバー。

千冬のクローンで、当初は自分が一人の人間だと証明するため、千冬と一夏を殺そうとしていた。

しかし、ミッションで失敗して負傷したところを束に保護される。

束経緯で千冬と出会った当初も、千冬を殺そうとしたが、千冬がマドカを妹として扱っため、徐々に態度は軟化していった。

一夏との初対面でも、一夏が妹として、一人の人間として直ぐに認めてもらっため、一夏にもなつく。

一緒に生活をしているうちに、ブラコンになっていった。

 

一夏が「騎士姉弟」と言った時、仲間外れにされたように感じ、拗ねる。

その時に、一夏の助言もあり、束に専用機は騎士風でとねだる。

 

専用機:銃騎士

束お手製のIS。

マドカのリクエストもあり、騎士風である。

メインカラーは紅で差し色に金と黒いマントと、配色バランスこそ違うが、使用している色は一夏の煉獄騎士と同じものである。

 

 

〇篠ノ之箒

 

アンチ対象。

幼少期、いじめられていたところを一夏に助けてもらい、好意を持つ。

しかし、一夏に対しての好意は過激な行動になってしまう。

そのこともあり、一夏からは苦手意識を持たれているが、そのことに気づかず、自分は一夏の幼馴染だと言い張っている。

 

気に入らない事があるとすぐ暴力が出る。

束のせいで、家族がバラバラになったと思い、恨んでいる一方、都合が悪くなると束の妹だと言って逃れている。

そのこともあり、束からは愛想をつかされている。

臨海学校前、専用機を束にねだるも、愛想をつかされていたため、断られる。

 

 

〇橘深夜

 

アンチ対象。

世界で二番目の男性IS操縦者。

転生者であり、一夏アンチをして自分が主人公になることを目論む。

しかし、IS学園の入学式の日、原作と大きく異なる事に困惑する。

因にだが、この世界は一夏と煉獄騎士団が接触しているため、コイツの転生が無くても原作とは大きく異なっている。

原作とは異なっているのに未だに主人公になることを諦めていない。

 

専用機:マスター・コントローラー

転生特典のIS。

原作のIS学園の専用機をメタることが出来る。

 

ブルー・ティアーズメタ、ビット奪取

特殊ブレード『システムクラック』でビットに触れることにより発動。

ビットのコントロールを奪い、ラジコンのように動かせる。

 

シュヴァルツェア・レーゲンメタ、AIC貫通

AICで拘束されていても、自由に動くことが出来る。

特殊ハンドキャノン『ノーストップ』から放たれる弾丸も、AICの効果を受けない。

 

 

○凰鈴音

 

原作ではヒロインだが、残念ながら今作ではヒロインではない。

一夏の小学校からの幼馴染で、中国国家代表候補生。

嘗ては言語のや国の違いから虐めを受けていたが、一夏により助けられる。

この時に、一夏に恋心を抱くも...

ISが登場し、一夏が虐められる側になったときは、一夏の味方だったので、一夏にとってのかけがえのない友人

 

専用機:甲龍

中国の第三世代型IS。

燃費と安定に重点を置いており、まだまだ実験機である第三世代型でも、随一の安定性を誇る。

両肩の非固定武装から放たれる衝撃砲が目玉の武装でもある。

 

 

○更識簪

 

原作ではヒロインだが、残念ながら今作ではヒロインではない。

日本国家代表候補生。

専用機を得る予定だったが、開発元の倉持技研が一夏の専用機を勝手に制作したことにより、専用機が完成しなかった。

そのため一夏を恨んでいたが、クラス代表決定戦でも戦いを見て、その強さに憧れる。

一夏に出会い強さの秘訣を聞いた際に、仲間の大切さを教えられる。

その事もあって、クラスメイトと馴染める。

優秀な姉がいて、コンプレックスになって疎遠になっていたが、一夏が切っ掛けで仲直りする。

そのため、一夏には恩を感じている。

 

専用機:打鉄弐式

日本の第三世代型IS。

未完成だったが、4組のクラスメイトと共に完成させる。

超振動薙刀や荷電粒子砲など、武装に簪の趣味が見え隠れしている。

 

 

○更識楯無

 

原作ではヒロインだが、残念ながら今作ではヒロインではない。

ロシア国家代表にして、IS学園生徒会長。

長らく妹の簪と疎遠だったが、一夏が切っ掛け仲直りする。

この際、勘違いから一夏を襲撃するも、返り討ちに会う。

その経験から、一夏には何となく上手く年上としてふるまえない。

 

専用機:ミステリアス・レイディ

ロシアの第三世代型ISを、楯無がマイカスタムした機体。

その性能は――――

「ウフフ、おねーさんが活躍するまで隠しておくわ」

 

 

〇シャルロット・デュノア

 

原作ではヒロインだが、残念ながら今作ではヒロインではない。

フランス国家代表候補生。

GW明けにIS学園に転校してきた。

その時は、シャルル・デュノアと名乗り、男子と偽っていた。

家族や会社と確執があったが、一夏と『PurgatoryKnights』のおかげで和解。

デュノア社が『PurgatoryKnights』の傘下に入るので、自身の所属も『PurgatoryKnights』に変更。

一夏の部下に。

 

専用機:ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ

フランスの第二世代型IS。

訓練機のラファール・リヴァイブを専用カスタムした機体である。

第二世代型ではあるが、そもそものラファール・リヴァイブが第二世代型最後の機体だったこともあり、第三世代型にも引けを取らない性能である。

 

 

〇アルベール・デュノア

 

デュノア社社長で、シャルロットの父親。

シャルロットは正妻との子供では無かったため、社内に暗殺しようとするグループが出来てしまい、その集団から守るため、IS学園にシャルロットを転校させる。

長らく娘との確執があったが、一夏と『PurgatoryKnights』のおかげで和解。

その過程で、デュノア社が『PurgatoryKnights』の傘下に入る事になったが、特に気にしていない。

 

 

〇ロゼンタ・デュノア

 

デュノア社社長夫人で、アルベールの正妻。

不妊体質であり、子供を産めない悔しさから、引き取られたシャルロットを叩いてしまう。

その事をずっと後悔していた。

今では、しっかりとシャルロットの母親としていようと心がける。

 

 

〇ダリル・ケイシー

 

IS学園3年生でアメリカ代表候補生。

本名はレイン・ミューゼルでスコールの姪、そして亡国企業の元メンバー。

フォルテ・サファイアとは同性の恋人同士。

初対面の会話が切っ掛けで、一夏からはダリル姉と呼ばれている。

 

専用機:ヘル・ハウンドver2.5

アメリカの第三世代型IS。

両肩には特徴的な犬頭がある。

炎を操ることが出来る。

 

 

〇フォルテ・サファイア

 

IS学園2年生でギリシャ代表候補生。

ダリル・ケイシーとは同性の恋人同士。

初対面の会話が切っ掛けで、一夏からはフォルテ姉と呼ばれている。

 

専用機:コールド・ブラッド

ギリシャの第三世代型IS。

冷気を操る力を持つ。

 

 

〇ナターシャ・ファイルス

 

元アメリカ軍所属で、現在は『PurgatoryKnights』所属のIS操縦者。

自身の専用機である銀の福音の暴走した際のアメリカとイスラエルの虚偽報告が切っ掛けで、『PurgatoryKnights』に移籍した。

移籍後、話し合いの結果フランス国籍に。

 

専用機:銀の福音

アメリカとイスラエル共同開発の軍事用IS。

バディワールドから流出したアジ・ダハーカの細胞が原因で暴走してしまう。

『PurgatoryKnights』が解析するという名目で所持していたが、長きにわたる交渉によりナターシャのもとに返却される。

 

 

〇イーリス・コーリング

 

元アメリカ軍所属で、現在は『PurgatoryKnights』所属のIS操縦者。

ナターシャが『PurgatoryKnights』に移籍したことをきっかけに自身も移籍した。

話し合いの結果、ナターシャと同じくフランス国籍に。

 

 

〇サラ・ウェルキン

 

IS学園2年生でイギリス代表候補生。

一夏とは顔見知り程度であるが、他の2年生に比べると関われてるだけ凄い方である。

 

専用機:サイレント・ゼフィルス

 

イギリスの第三世代型IS。

BT機の2号機。

1号機であるブルー・ティアーズよりもビットの数が増えているが、パイロットの経験値上セシリアよりも生かしきれていない。

原作ではマドカが強奪した機体でありバイザーがあったが、今作ではサラの顔がしっかりと見える。

 

 

 

 




本編が進んで行くにつれて変更点が出てくれば変更します。

矛盾点があればお伝えください。修正します。


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設定集Ⅱ

〇バディワールド

 

人間が住む世界とは異なる、モンスターが住む世界。

ドラゴン

ダークネスドラゴン

スタードラゴン

デンジャー

カタナ

マジック

レジェンド

ヒーロー

ダンジョン

エンシェント

合計10のワールドで構成されている。

一夏達が住む地球とは異なる地球とバディファイトで繋がっている。

バディファイトとは、人間とモンスターがバディを組み、モンスター、魔法、アイテム、必殺技、必殺モンスターの5種類のカードを駆使して戦うカードゲームである

一夏はダークネスドラゴンWを拠点にしながら、このバディワールドで修行していた。

 

 

〇煉獄騎士団

 

ダークネスドラゴンWに所属するドラゴン集団。

嘗ては、革命の為に行動していたが邪悪の道へと進んでしまった。

龍炎寺タスクと言う少年と共に戦い、敗北。

その敗北から暫くして、漸く自分たちの罪に気づく。

そこから自分たちのチカラを罪のものとし、贖罪のための活動をし始める。

その活動の途中、バディファイトで繋がっていない人間に世界を偶然観測。

観測している時に、殺されそうになっている一夏を発見し、団長がチカラを与える。

その後、一夏の修行をサポートし正式に一夏と共に戦う事となる。

 

 

〇煉獄騎士団団長 ディミオスソード・ドラゴン

 

ダークネスドラゴンW

サイズ2

攻撃力6000

防御力3000

打撃力2

武装騎竜/白竜

 

一夏のバディモンスター。嘗ては、龍炎寺タスクとバディを組んでいた。

煉獄騎士団を率いるものとして、贖罪への責任を一番感じている。

一夏に煉獄騎士としてのチカラを分け与えた張本竜である。

バディとして一夏のサポートをしている。

最近の悩みは、何故か影が薄い扱いをされること。

バディスキルはインフェルノサークル。

両足に燃えているような円盤が出現し、自由に空を飛べるようになる。

また、無関係の人間に見られたくないときは、ステルスカーテンを着用する。

 

IS学園襲撃事件の際、吐血した一夏を守るために戦いISブレードを腹部に刺され大量に出血。

穴の開いたバディカードを残して消滅してしまう。

今現在はドラゴンWの旧煉獄騎士団本部前に埋められている。

 

 

〇煉獄騎士団の解放者 オルコスソード・ドラゴン

 

ドラゴンW/ダークネスドラゴンW

サイズ2

攻撃力7000

防御力4000

打撃力2

武装機竜/白竜

 

一夏の新たなバディにして、新生煉獄騎士団の団長である。

ディミオス同様、1度龍炎寺タスクとバディを組んだこともある。

一夏のバディとして最近無茶をしがちな一夏を支えている。

バディスキルはインフェルノサークル。

 

 

〇ダークコアデッキケース/煉獄騎士

 

織斑一夏の専用機。

黒と金の装甲を持ち、両肩のアーマーから腕から背中にかけて真紅のマントが付いている。

バディファイトのカードの力を現実のものにすることが出来るディザスターフォースを発動できる。

一夏の使用するものは、龍炎寺タスクが使用したものとは異なり、煉獄騎士団が再現したもの。

そのため、正規品のダークコアデッキケースよりも頑丈である。

だが、あくまでもダークコアデッキケースである為、自力で空を飛ぶこと等は出来ない。

また、全身に装甲が存在するが、初使用、二回目の使用時は、左腕のみの展開だった。

ディザスターフォース発動時は髪が長くなる。

また、クラス代表決定戦前、IS白式のコアと融合したことにより、白式と白騎士の意識が宿り、IS戦闘モードが追加される。

このモードでは

ライフ1=シールドエネルギー1割等、バディファイトのルールがISとの戦闘用に調整される。

 

 

〇煉獄剣フェイタル

 

ダークネスドラゴンW

アイテム

攻撃力4000

打撃力2

ドラゴン/武器

 

一夏が煉獄騎士を使用する際に初使用を除き、毎回装備する大剣状のアイテム。

臨海学校後は使用されなくなる。

ドラゴンWによく似たアイテムがある。

 

 

〇煉獄騎士団団長の剣ディミオスソード

 

ダークネスドラゴンW

アイテム

攻撃力3000

打撃力2

ドラゴン/武器

 

一夏が煉獄騎士初使用の際に装備したアイテム。

臨海学校後はフェイタルに変わり主要武器となる。

今現在はドラゴンWのディミオスの墓の墓標がわりである。

 

 

〇新生煉獄騎士団の剣 エクスピアソード

 

ドラゴンW/ダークネスドラゴンW

アイテム

攻撃力7000

打撃力2

ドラゴン/武器

 

新生煉獄騎士団の願いが詰まった始まりの剣。

今現在の一夏の主要アイテムである。

 

 

〇ディストーション・パニッシャー

 

ダークネスドラゴンW

必殺技

ドラゴン

 

煉獄騎士の必殺技。

特定条件下で相手のライフ(SE)を4減らすことが出来る。

また、カウンターファイナルで発動すると周囲の時間が止まる。

 

 

〇ジェノサイド・パニッシャー

 

ダークネスドラゴンW

必殺技

ドラゴン

 

臨海学校の際、一夏が想像した新たな必殺技。

ディストーションよりも低いゲージ数で発動することが出来、ドロップゾーンに煉獄騎士団がいればいるほど高ダメージが出せる。

 

 

〇角王

 

バディワールドのそれぞれのワールドに一体ずつ存在するモンスター。

嘗て、世界の全てを喰らい尽くそうとしたヤミゲドウを封印した。

 

 

〇無角邪王ネグロバルス

 

ダークネスドラゴンW

サイズ2

攻撃力6000

防御力3000

打撃力2

黒竜/深淵/破壊

 

ダークネスドラゴンWの角王。

嘗てドラゴンWの角王に角を折られて、恨んでいた。

一夏の仲裁によりいったん和解するも、事あるごとに喧嘩する。

 

 

〇黒き死竜アビゲール

 

ダークネスドラゴンW

サイズ1

攻撃力6000

防御力1000

打撃力2

黒竜

 

一夏にダークネスドラゴンWで修行を付け、一夏にダークネスドラゴンWの力の源を教えた。

 

 

〇一角獣王ジウン

 

カタナW

サイズ3

攻撃力8000

防御力1000

打撃力3

髑髏武者

 

カタナWの角王。

一夏に真正面からのぶつかり合いを教える。

語尾がごわすなのが特徴。

 

 

〇ナノマシン忍者月影/ナノマシン忍者白夜

 

カタナW

サイズ1

攻撃力5000

防御力1000

打撃力2/1

忍者

 

忍者兄弟モンスター。

一夏に仲間との連携、忍者特有の動きの修行を付ける。

 

 

〇二角魔王アスモダイ

 

マジックW

サイズ3

攻撃力50000

防御力10000

打撃力3

72柱/魔王

 

マジックWの角王。

72柱のモンスターと共に魔法の使い方、その場を楽しむことを教える。

一夏達とは違う地球では、国民的人気を誇っているらしい。

 

 

〇三角水王ミセリア

 

ダンジョンW

サイズ2

攻撃力6000

防御力5000

打撃力2

Dエネミー/魔王/水

 

ダンジョンWの角王。

一夏に人を慈しむことを教えた。

嘗て、氷竜キリと言う名で人間として生活したことがある

 

 

〇勇者パーティ

 

ダンジョンWの勇者たち。

一夏に罠の種類や解除等、冒険の心得を教えた。

 

 

〇四角炎王バーンノヴァ

 

エンシェントW

サイズ3

攻撃力9000

防御力8000

打撃力2

怒羅魂頭/火

 

エンシェントWの角王。

一夏に強さの理由とチカラを得た目的を、見失わないように伝える。

嘗て炎魔バンと言う名前で百鬼ハンターをしていた。

ドラゴンメタに引っかからない貴重な怒羅魂頭(ドラゴンヘッド)

 

 

〇武神竜王デュエルズィーガー

 

エンシェントW

サイズ3

攻撃力7000

防御力7000

打撃力2

ドラゴンロード

 

エンシェントWの(きゃみ)(読みは公式YouTubeより)

一夏に修行を付ける。

 

 

〇豪快番長デュエルイェーガー

 

エンシェントW

サイズ3

攻撃力10000

防御力5000

打撃力2

竜王番長

 

エンシェントWの海の番長

一夏に修行を付ける。

 

 

〇五角竜王天武

 

ドラゴンW

サイズ3

攻撃力6000

防御力6000

打撃力3

武装騎竜/緑竜

 

ドラゴンWの角王。

経緯は不明だが、ネグロバルスの角をへし折った過去がある。

一夏の仲裁によりいったん和解するも、事あるごとに喧嘩する。

復活したヤミゲドウとの戦いで負傷し、ドラムに竜王の証を譲ったことがある。

 

 

〇ドラムバンカー・ドラゴン

 

ドラゴンW

サイズ2

攻撃力5000

防御力5000

打撃力2

武装騎竜/赤竜

 

みんなご存じ、バディファ側の初代主人公の初代バディ

嘗て天武から竜王の証を引き継ぎ、五角竜王ドラムとなったこともある。

プリンが好物。

現在は一族の長をしていて十竜程子供がいる。

 

 

〇太陽の竜バルドラゴン

 

ドラゴンW

サイズ2

攻撃力5000

防御力3000

打撃力2

太陽竜

 

バディファ側の初代主人公の二代目バディ。

主人公が卵を温めることで生まれた新種族であり、必殺モンスターを新たに生み出す。

ピザが好物。

その正体は、超太陽竜バルソレイユ。

太陽神の片割れで、戦いの後眠りに付く。

 

 

〇六角嵐王ヴァリアブルコード

 

スタードラゴンW

サイズ2

攻撃力7000

防御力2000

打撃力3

ネオドラゴン

 

スタードラゴンWの角王。

一夏に未来を信じることを教える。

絢爛朱雀と言う名で人間として生活していたこともある。

 

 

〇空星 光

 

ヴァリアブルコードのバディ。

相棒学園中等部3年生の15歳。

趣味はバディファイトとテレビゲーム。

嘗て1度スタードラゴンWに迷い込んだことがあり、その時にヴァリアブルコードに出会い気に入られ、バディとなる。

が、ヴァリアブルコードは角王である事、そして結構な気分屋な為何時も振り回されている。

 

性格は堅実で、それはファイトにも表れている。

約束を必ず守る真面目。

料理は苦手だが掃除は上手い。

 

一夏達の世界(ISが存在する世界)がある事は知らない。

ヴァリアブルコードは隠しているのではなく、話す必要とタイミングが無い為話していないだけ。

 

 

〇結晶竜アトラ

 

スタードラゴンW

サイズ3

攻撃力7000

防御力7000

打撃力2

プリズムドラゴン

 

守りの戦術を得意とする、プリズムドラゴン。

一夏に守る勇気を教える。

 

 

〇七角地王ドーン伯爵

 

レジェンドW

サイズ0

攻撃力4000

防御力1000

打撃力1

ワイダーサカー

 

レジェンドWの角王。

バディポリスとしても活動している。

太陽が苦手。

一夏に正義に関する考えを伝える。

 

 

〇不滅剣デュランダル

 

レジェンドW

アイテム

攻撃力6000

打撃力1

 

喋ることが出来る剣。

バディを組むことが出来る。

一夏に使われる物の気持ちを伝える。

 

 

〇八角神王グランガデス

 

デンジャーW

サイズ3

攻撃力10000

防御力5000

打撃力2

デュエルドラゴン/神

 

デンジャーWの角王。

一夏にチカラを全力で振るう方法を教える。

ダジャレに反応しやすい。

 

 

〇アーマナイト・ケルベロス

 

デンジャーW

サイズ2

攻撃力5000

防御力5000

打撃力2

アーマナイト

 

武器を強化する先方が得意。

一夏に自信のチカラの最大限を把握する方法を教える。

 

 

〇九角勇王ムクロ

 

ヒーローW

サイズ2

攻撃力5000

防御力5000

打撃力2

ダークヒーロー

 

ヒーローWの角王。

一夏にダークヒーローとしての信念を教える。

死ヶ峰骸という名で人間として活動していたことがある。

 

 

〇キャプテン・アンサー

 

ヒーローW

サイズ2

攻撃力5000

防御力4000

打撃力2

ヒーロー

 

ヒーローWの先代角王。

一夏にヒーローとしての信念を伝える。

正体は相棒学園の教師、葱ノ山一束。

 

 

〇未門牙王

 

バディファ側の初代主人公。

太陽番長と呼ばれる熱血漢。

バディファイトが好きで、何度も世界を救ってきた。

現在は世界を旅し、様々なファイターとバディファイトをしている。

如何やら嫁がいるそうで...

一夏に真っ直ぐに生きる事を教える。

 

 

〇魔王竜バッツ

 

ドラゴンW

サイズ2

攻撃力7000

防御力4000

打撃力2

雷帝軍/ドラゴン

 

牙王の三代目バディにして、現在のバディ。

たこ焼きとピザが好物。

嘗ては凶暴な性格で封印されていた。

現在は、牙王と共に世界を旅している。

本来の姿は轟天覇王竜バールバッツ・ドラグロイヤー。

 

 

〇龍炎寺タスク

 

バディポリス所属。

そして、ディミオスの元バディで、元煉獄騎士。

幼い頃に災害で家族を亡くしていて、バディであるジャックが唯一の家族。

正義感が強く、そのせいで嘗て道を間違えってしまった。

現在はバディポリスの仕事を責任感を持ってしている。

一夏に間違った道を歩かないようにする信念と、間違った時に殴ってでも止めてくれる友人を見つける大切さを教えた。

 

 

〇ジャックナイフ・ドラゴン

 

ドラゴンW

サイズ2

攻撃力5000

防御力6000

打撃力3

武装騎竜/緑竜

 

タスクのバディ。

誇りが高く、人間のルールに縛られるのを嫌う。

家族であるタスクの事をとても大切にしている。

元々はドラゴンWだったが、現在はスタードラゴンW所属。

 

 

〇超星護ジャックナイフ

 

スタードラゴンW

サイズ2

攻撃力5000

防御力6000

打撃力3

ネオドラゴン

 

スタードラゴンWでのジャックの姿。

 

 

〇臥炎キョウヤ

 

臥炎財閥の総帥にして臥炎家の御曹司。

地球の文化を統一し、争いを無くそうとしたが、牙王により阻止される。

現在も何か企んでいるように見えると一夏は思っている。

一夏がモンスターと共に生きる覚悟を示したことで気に入る。

正規品のダークコアデッキケースを造った張本人で、一夏のものが正規品ではないと伝える。

 

 

〇終焉魔竜アジ・ダハーカ

 

ダークネスドラゴンW

サイズ4

攻撃力10000

防御力10000

打撃力3

ドラゴン/神

 

キョウヤのバディ。

世界を破壊するほどの力を持つ史上初のサイズ4モンスター。

実は太陽神の片割れで、バルソレイユと対になる存在。

戦いの後、眠りに付いていたが、ディミオス達が一夏達の世界に来た衝撃で起きる。

 

 

〇イカヅチ/淵神暴留斗

 

代々ヤミゲドウを封印していた淵神一族の子孫。

しかし、ある存在に騙されて、ヤミゲドウを解放してしまう。

ヤミゲドウと共に世界を喰らい尽くそうとする途中で騙されていたことを知り、ヤミゲドウを封印しようとするも、逆に取り込まれてしまう。

止めてくれた牙王達に感謝している。

 

 

〇大魍魎ヤミゲドウ

 

ワールド無し

サイズ3

攻撃力7000

防御力7000

打撃力2

百鬼

 

イカヅチのバディ。

嘗て世界をいくつか喰い尽くしたことがある。

長い間封印されていたが、イカヅチの手によって解放される。

世界を喰いながら進化していたが、本体は別個体として存在していた。

進化した個体は牙王によって倒され、本体が残った。

一夏との初対面で、誤って喰いそうになった。

 

 

〇ウィズダム

 

IT企業、カオス・コントロール・カンパニーのCEOであり、束と同じくらいのマッドサイエンティスト。

全世界のモンスターを「カオス化」することで意のままに操り支配し、人類にとってのユートピアを築くことを悲願としていたが、牙王によって阻止される。

一夏に自信の過去を語る。

 

 

〇Cの支配者ギアゴッドⅦ

 

ワールド無し

サイズ30

攻撃力50000

防御力6000

打撃力3

カオス

 

 

ウィズダムのバディ。

死期を悟っていた初代ウィズダムの記憶と人格が移植されているが、当初はその記憶を失っていた。

その後人格を取り戻し、心が躍るファイトがしたくなり、一旦ウィズダムのバディを解消するも、記憶がリセットされ、ウィズダムのバディに。

一夏とは会話していない。

 

 

 

 




本編が進んで行くにつれて変更点が出てくれば変更します。

矛盾点があればお伝えください。修正します。


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番外編
読者様対戦 煉獄騎士VS宇宙の不死鳥


なんと、初の番外編がコラボです!
定紋練魔(https://syosetu.org/user/434873/)さんにデッキレシピを提供して頂きました!
ありがとうございました!

時系列的には「異世界での実験」の少し前、つまりまだバディがディミオスの時の話です。
そして、バディファ側の時系列はXと神の間なのでルールは先行ドローが追加される前のルールです。
この2点を理解してください。

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

「ネグロバルス様、用とはいったい?」

 

 

《ああ、何でもヴァリアブルコードがお前を呼んでいてな》

 

 

夏休みの途中。

ISとモンスターとの関連性を調べる実験の為にバディワールドに帰って来た俺は、ネグロバルス様に呼び出されていた。

実験自体は明日ヒーローWで博士と一緒にやる予定だったから今日はフリーだったけど、急に呼ばれたからびっくりした。

 

 

「ヴァリアブルコード様が...ですか?」

 

 

《ああ。だからこれからスタードラゴンWに向かってくれ》

 

 

「分かりました。では、失礼します」

 

 

ネグロバルス様のもとを離れる。

 

 

「スタードラゴンWか...ディミオス、なんか分かる?」

 

 

《我が分かる訳が無いだろう。取り敢えず、スタードラゴンWまで行けば分かる》

 

 

隣にいるディミオスSDと会話しながら歩く。

確かに、取り敢えずスタードラゴンWに行かない事には何も分からない。

そう言う事なので、俺とディミオスはスタードラゴンWに行く事にした。

 

 

「ディザスターフォース、発動」

 

 

ダークコアデッキケースを取り出し、煉獄騎士の鎧を身に纏う。

 

 

「バディスキル、インフェルノサークル」

 

 

そうしてバディスキルを発動してから空中に飛ぶ。

 

 

「良し、いざスタードラゴンWのゲートまで!」

 

 

《ああ、行くぞ》

 

 

ディミオスもSDを解除して空中に浮いている。

そして、ディミオスと並んでスタードラゴンWのゲートに向けて飛んでいく。

その道中、『灼熱地獄』に続く門である『裁きの門 -ジャッジメント-』から出て来たカタナWの地獄モンスターである『乱獲の獄卒 (らんかくのごくそつ) 走狗(そうく)』から良く分からない魚を貰ったりもしたが、それ以外は何事も無かった。

これ、本当に何だろう?

灼熱地獄にはあまり行ったこと無いからなぁ...

良く分からん。

まぁでも、食べない方が良いだろう。

何となく腹を壊しそうだ。

元の世界に帰ってからも仕事が山のようにあるからこんなところで身体を壊すわけにはいかない。

 

 

そんな事を考えながら飛行する事数十分。

スタードラゴンWのゲート前に着いたので地面に下りる。

 

 

「ディザスターフォース、解除」

 

 

ディザスターフォースを解除し、ダークコアデッキケースをポケットに仕舞う。

ディミオスも着地し、SDに戻る。

そうしてゲートで様々な手続きをした後、スタードラゴンWに入る。

 

 

「おおお...相変わらず超未来...」

 

 

《やはり慣れないな》

 

 

確かに。

こんなに超技術が詰まってる場所なんて全然なれない。

更に、スタードラゴンWにはネオドラゴン達が住む此処以外にも、プリズムドラゴン達が住む幻想的な場所もあり、更には楽園天国に続く門『聖浄の門-サンクチュアリ-』もあるのだ。

いやぁ、凄いなぁ。

 

 

《ヴァリアブルコードの所に行くぞ》

 

 

「そうだな、早速...」

 

 

「待っていましたよ、一夏、ディミオスソード」

 

 

ヴァリアブルコード様の所に行こうとした時、そう声を掛けられた。

俺とディミオスがその方向に向くと、そこには黄色やオレンジの少し豪華な服を着て手に金の扇子を持ち、オレンジの長髪で糸目の人物がいた。

 

 

「朱雀様!なんで此処に!?」

 

 

この人物の名前は絢爛朱雀(けんらんすざく)様。

件のヴァリアブルコード様の人間体の姿である。

何時もならダークネスドラゴンWとのゲート前にはいないはずなのに、なんでここに!?

 

 

「一夏達を迎えに来たんですよ」

 

 

「わざわざありがとうございます」

 

 

何とまぁ、角王である朱雀様がわざわざ迎えに来て下さるなんて。

 

 

《それで、いったい何の用だ。わざわざ我々を呼び出して》

 

 

「それは目的地に着いてから説明します。付いて来て下さい」

 

 

朱雀様はそう言うと本来の姿であるモンスター体に戻る。

 

 

《一夏、乗って下さい》

 

 

「え!?良いんですか!?」

 

 

《はい、こっちの方が早いでしょう》

 

 

「そういう事なら...失礼します」

 

 

俺はそう言うと、ヴァリアブルコード様の上に乗る。

おおおおお...

視界が高い!

当然だけど、自分で浮いてるのとは感覚が違うからなんかすごい!

 

 

「ほら、ディミオス」

 

 

《ああ》

 

 

ディミオスはカードに戻ると俺の胸ポケットに入る。

 

 

《では行きますよ。振り落とされないで下さい》

 

 

「はい!」

 

 

そうして、ヴァリアブルコード様は一気に飛翔するとそのままスピードを上げていく。

は、速い!

何時もと違って鎧越しじゃなくて生身に風を受けるのも相まってなんか凄い速く感じる!

そうして大体数十分後。

 

 

《そろそろ着きます。下りますよ》

 

 

「は、はい!」

 

 

そうしてヴァリアブルコード様は速度と高度を落としていく。

ヴァルアブルコード様が着地したのを確認したので、ヴァリアブルコード様から降りる。

 

 

「ふぅ...此処ですか?」

 

 

辺りを見回しながら俺そうヴァリアブルコード様に尋ねる。

随分と開けたところだ。

スタードラゴンWにしては珍しく高い建築物も、鉱石の神殿も存在しない場所。

地面は相変わらずスタードラゴンWらしいのだが、逆に言えば地面以外は全然スタードラゴンWらしくない。

 

 

「うん、此処だよ」

 

 

人間体になった朱雀様はそう言うと、1度大きく息を吸った。

 

 

「光~!連れて来たよぉ~!」

 

 

「あ!ヴァリアブル!ありがとう!」

 

 

そうして、何やら聞いた事のない声が聞こえて来た。

声が聞こえて来た方向に視線を向けると、そこには1人の少年がいた。

多分俺と同い年か1つ下くらい。

優しそうな表情に、青とオレンジの髪色で青い目のイケメン。

 

 

「あ!あなたがヴァリアブルの言っていた織斑一夏さんですね?」

 

 

「あ、ああ。そうだけど...君は?」

 

 

その少年が聞いてきたことに俺がそう質問すると、その少年は笑みを浮かべる。

 

 

「初めまして!相棒学園中等部3年生、ヴァリアブルのバディの空星(そらほし) (ひかり)です!」

 

 

そうして、その少年...光君は俺に右手を差し出してきた。

 

 

「ヴァリアブルコード様のバディ!?」

 

 

え!?

聞いたこと無いんだけど!?

がばっと朱雀様の方に視線を向けると、朱雀様はニヨニヨとした笑みを浮かべていた。

 

 

「ふふふ...以前光がスタードラゴンWに迷い込んだ際に気に入ってね。バディになったんだ」

 

 

「...そういうのは前もって教えてください」

 

 

マジで驚いたんだから。

っと、俺も自己紹介をしないと。

 

 

「ヴァリアブルコード様から聞いてるとの事だったが、一応俺からも。織斑一夏だ。高校1年生で、とある企業にも所属している。よろしくね」

 

 

そう言って、俺も右手を差し出し光君と握手をする。

 

 

「えっと、じゃあ光君。今日は何の用かな?朱雀様の言葉を聞く限り光君が呼んだみたいだけど...初対面だよね?」

 

 

「はい、初対面です!」

 

 

なんとなく不安になったのでそう質問したが、やはり初対面で間違いないようだ。

じゃあ朱雀様に話を聞いていたとはいえ会ったことも無い俺に何の用だろうか。

そう考えていると、光君はポケットから何かを取り出す。

 

 

「一夏さん、僕とファイトしてください!」

 

 

そうして、光君は取り出したもの...コアデッキケースを構え、口元に笑みを浮かべながらそう言ってきた。

 

 

「ファイトを...?」

 

 

「はい!」

 

 

「光は、今までファイトしたことが無い人間とファイトしたがっていた。だから、今直ぐに呼べる人間で、私が1番強いと思っているファイターである一夏を呼んだんだよ」

 

 

光君と朱雀様がそう言ってくれる。

なるほど、そういう事なら...

 

 

「そのファイト、受けてたとう!」

 

 

ダークコアデッキケースを取り出して構え、笑みを浮かべながらそう返すのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

三人称side

 

 

光と一夏は互いに少し離れたところ移動し、向かい合う。

そして、コアデッキケースとダークコアデッキケースをそれぞれ構える。

 

 

「輝け、流星の如く!ルミナイズ!宇宙(そら)の不死鳥!」

 

 

「血盟は今果たされる。集え!絶望の軍団!ダークルミナイズ!断罪、煉獄騎士団!」

 

 

光のコアデッキケースは腕輪に、一夏のダークコアデッキケースは煉獄騎士の鎧にそれぞれ変化する。

そして、煉獄騎士と光の前にはコア部分からドローされたバディファイトのカードが6枚。

左上にはゲージを表すカードが2枚。

 

 

「行くぞ!」

 

 

「はい!」

 

 

「「バディーファイト!オープン・ザ・フラッグ!!」」

 

 

「スタードラゴンW!」

 

 

「ダークネスドラゴンW!」

 

 

「バディは、“絢爛朱雀” ヴァリアブルコード!」

 

 

「哀悼の煉獄騎士団団長 ガイスト・ディミオス!」

 

 

光の背後にはスタードラゴンWのフラッグ、煉獄騎士の背後にはダークネスドラゴンWのフラッグが出現する。

光の隣には朱雀が、煉獄騎士の隣にはディミオスSDがいる。

 

 

「僕が先行!チャージアンドドロー!」

 

 

手札6→5→6

ゲージ2→3

 

 

「手札の流星機(メテオアームズ) グラヴィダージと竜装機(ドラグアームズ) レディアント・カノーネをソウルに入れ、ゲージ3を払いセンターにバディコール!」

 

 

光は1枚のカードを突き出しながらそう宣言する。

その瞬間に、そのカードは粒子となって消滅し、光の隣に控えていた朱雀が1歩前に出ると、朱雀の周りを凄まじいエネルギーの旋風が吹き抜ける。

その旋風は光の手札2枚を巻き込んで朱雀を事を覆う。

そして、

 

 

「“絢爛朱雀” ヴァリアブルコード!!」

 

 

《ハァ!》

 

 

光の前に、ヴァリアブルコードが降り立った。

 

 

ライフ10→11

手札6→3

ゲージ3→0

ドロップ→レディアント・ストリーム! 超移住施設 バルジ 角王の証

 

 

「いきなりか!」

 

 

「ヴァリアブルコードの攻撃力は、ソウルにあるカノーネとグラヴィダージのお陰で2000と3000、つまり5000アップする!」

 

 

“絢爛朱雀” ヴァリアブルコード 攻撃力9000→14000

 

 

「キャスト、スタービリーバー。ヴァリアブルコードのソウルのカノーネをドロップゾーンに送り、ライフ1回復して2枚ドロー!」

 

 

ライフ11→12

手札3→2→4

ドロップ→竜装機 レディアント・カノーネ スタービリーバー

“絢爛朱雀” ヴァリアブルコード 攻撃力14000→12000

 

 

「ライフ1を払いキャスト、スターオルタナティブ。ドロップゾーンのカノーネを再びヴァリアブルコードのソウルに!」

 

 

ライフ12→11

手札4→3

ドロップ→スターオルタナティブ

“絢爛朱雀” ヴァリアブルコード 攻撃力12000→14000

 

 

「キャスト、エレクトリックソース。ソウルが2枚のヴァリアブルコードが存在するため、ゲージを3増やす!」

 

 

手札3→2

ゲージ0→3

ドロップ→エレクトリックソース

 

 

「アタックフェイズ!この瞬間、ヴァリアブルコードの効果発動!デッキからカードを1枚ソウルに入れることが出来る!ソウルに入れるのは...竜装機 ガーベルアンカー!」

 

 

《ふぅ...》

 

 

ヴァリアブルコードは力を貯めるような声を発する。

 

 

「“絢爛朱雀” ヴァリアブルコードで、一夏さんにアタック!」

 

 

《ハァ!》

 

 

「ぐぅ!?」

 

 

煉獄騎士

ライフ10→7

 

 

「ターンエンド!」

 

 

現状確認

ライフ11

手札2

ゲージ3

ドロップ→レディアント・ストリーム!

     超移住施設 バルジ

     角王の証

     スタービリーバー

     スターオルタナティブ

     エレクトリックソース

“絢爛朱雀” ヴァリアブルコード ソウル→流星機 グラヴィダージ 竜装機レディアント・カノーネ 竜装機 ガーベルアンカー

 

 

「俺のターン!ドロー!チャージアンドドロー!」

 

 

煉獄騎士

手札6→7

ゲージ2→3

 

 

「設置、死地への誘い」

 

 

「この瞬間、ヴァリアブルコードのソウルにあるガーベルアンカーの効果!相手が魔法を使用した時ソウルのこのカードをドロップゾーンに送りゲージ1とライフ1を払い、その魔法を無効にする!」

 

 

煉獄騎士

手札7→6

ドロップ→死地への誘い

 

ライフ11→10

ゲージ3→2

ドロップ→竜装機 ガーベルアンカー 大竜装機 トリプルバスター

 

 

「キャスト、悪の凶宴。デッキの上から3枚を見てその中のモンスター1体を手札に加える!これで手札に加えるのは...煉獄騎士団 デモンズレイピア・ドラゴン!」

 

 

煉獄騎士

ドロップ→悪の凶宴 ドラゴンシールド 黒竜の盾 煉獄騎士団 シーフタン・ドラゴン

 

 

「センターにコール、C・ダリルベルク」

 

 

《武人の本能!》

 

 

「デッキの上から3枚を確認し、その中の1枚を手札に加える。この効果で手札に加えるのは...煉獄騎士団団長の剣 ディミオスソード」

 

 

煉獄騎士

ドロップ→煉獄騎士団を束ねし者 ロード・ディミオス 煉獄騎士団 ペインダガー・ドラゴン

 

 

「ゲージ1を払い、装備!煉獄騎士団団長の剣 ディミオスソード!」

 

 

煉獄騎士

手札6→5

ゲージ3→2

ドロップ→煉獄騎士団 ネクロパーム・ドラゴン

 

 

「センターのC・ダリルベルクを押し出しセンターにコール、煉獄騎士団 デモンズレイピア・ドラゴン!レフトにコール、煉獄騎士団 ニードルクロー・ドラゴン!」

 

 

《ハァ!》

 

 

《行くぜぇえ!》

 

 

センターとレフトにそれぞれデモンズレイピアとニードルクローをコールした一煉獄騎士は、手札のカードを1枚突き出す。

 

 

「ライトにバディコール!」

 

 

煉獄騎士の隣に控えていたディミオスは、煉獄騎士のバディコールの宣言と同時に煉獄騎士の右前に向かって跳躍する。

すると、ディミオスの全員を紫のエネルギー球体が包み込む。

そして

 

 

「哀悼の煉獄騎士団団長 ガイスト・ディミオス!!」

 

 

《おおお!!》

 

 

そのエネルギーは霧散し、SDを解除したディミオスは空中で回転するとライトに着地した。

 

 

煉獄騎士

ライフ7→8

手札5→2

ドロップ→C・ダリルベルク

 

 

「アタックフェイズ!デモンズレイピア・ドラゴンでヴァリアブルコード様にアタック!」

 

 

《ハァァアア!》

 

 

《ぐぅ!?》

 

 

「ソウルガード!カノーネをドロップゾーンに!」

 

 

ドロップ→竜装機 レディアント・カノーネ

“絢爛朱雀” ヴァリアブルコード 攻撃力14000→12000

 

 

「ガイスト・ディミオスでアタック!」

 

 

《はぁあああ!!》

 

 

《グハァ!》

 

 

「ソウルガード!」

 

 

ドロップ→流星機 グラヴィダージ

“絢爛朱雀” ヴァリアブルコード 攻撃力12000→9000

 

 

「ガイスト・ディミオスの効果発動!」

 

 

《勝利のために命を捧げよ。カノナス・カサルティリオ!》

 

 

「センターのデモンズレイピア・ドラゴンを破壊し、ガイスト・ディミオスはスタンドする!そして、ディミオスソードの効果!自分の煉獄騎士団が破壊された時1枚ドローし煉獄騎士団の攻撃力を3000アップさせる!アップさせるのは、ディミオスソード自体!」

 

 

煉獄騎士

手札2→3

ドロップ→ 煉獄騎士団 デモンズレイピア・ドラゴン

煉獄騎士団団長の剣 ディミオスソード 攻撃力3000→6000

 

 

「ガイスト・ディミオスで再アタック!」

 

 

《ハァ!》

 

 

《ぐぁあああ!!》

 

 

「ヴァリアブル!」

 

 

ドロップ→“絢爛朱雀” ヴァリアブルコード

 

 

「ニードルクロードラゴンでアタック!」

 

 

《ひゃはぁ!》

 

 

「うわぁ!?」

 

 

ライフ10→9

 

 

「ガイスト・ディミオスの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

「ニードルクロー・ドラゴンを破壊しスタンドする!そして、破壊されたニードルクロー・ドラゴンの効果!手札に戻って来る!」

 

 

煉獄騎士

手札3→4

 

 

「ガイスト・ディミオスでアタック!」

 

 

《ハァ!》

 

 

「うわぁ!」

 

 

「煉獄騎士団団長の剣 ディミオスソード!」

 

 

「うわぁあああああ!!」

 

 

ライフ9→7→5

 

 

「この瞬間、キャスト!天晶の祝福(プリズミック・ブレス)!このターン相手が攻撃してきた回数と同じ枚数分デッキをめくり、その中の1枚をゲージに、2枚までを手札に加え、残りをデッキの下に戻しライフを1回復する!」

 

 

「なんだその滅茶苦茶なカード!?」

 

 

「このターン攻撃されたのは6回!よって6枚のカードを確認する!」

 

 

ライフ5→6

手札2→1→3

ゲージ2→3

 

 

「ターンエンド」

 

 

現状確認

煉獄騎士

ライフ8

手札4

ゲージ2

ドロップ8

場→煉獄騎士団団長の剣 ディミオスソード

  哀悼の煉獄騎士団団長 ガイスト・ディミオス

 

 

ライフ6

手札3

ゲージ3

ドロップ12

場→無し

 

 

「僕のターンです!ドロー!チャージアンドドロー!」

 

 

手札3→4

ゲージ3→4

 

 

「センターにコール、流星機 ドラグソラール!」

 

 

《ふっ...》

 

 

「効果発動!このカードがコールされた時、ドロップゾーンのサイズ3の《星》か《ネオドラゴン》をこのカードの上にコールコストを支払いコールする!」

 

 

「つまり...!!」

 

 

「そうです!手札の竜装機 レディアント・アルマをソウルに入れ、ゲージ3を払いコール!“絢爛朱雀” ヴァリアブルコード!!」

 

 

《ハァア!》

 

 

手札4→2

ゲージ4→1

ドロップ→ジュピターバリア 竜装機 ストレングス 竜装機 エッジシューター

 

 

「折角破壊したのに...!」

 

 

「キャスト、スタービリーバー!ヴァリアブルコードのソウルにあるドラグソールをドロップゾーンに送り、ライフを1回復して2枚ドロー!」

 

 

ライフ6→7

手札2→1→3

ドロップ→流星機 ドラグソール スタービリーバー

 

 

「キャスト、スタージャックブースト!ライフが7なので、ゲージを1増やして1枚ドロー!」

 

 

手札3→2→3

ゲージ1→2

 

 

「ゲージ1とライフ1を払い、装備!星神の刃 ヴィアラクテア!」

 

 

ライフ7→6

手札3→2

ゲージ2→1

ドロップ→大竜装機 ソニックブラスト

 

 

「レフトにコール、流星機 ピスカピスカ!」

 

 

《k...k...kkk...》

 

 

「ピスカピスカ、星合体(クロスナイズ)!」

 

 

星合体。

それは、場にいる自信をネオドラゴンのソウルに入れる事が出来る能力。

 

 

「ピスカピスカの能力!サイズ3のネオドラゴンのソウルに入ったとき、ゲージプラス1!」

 

 

手札2→1

ゲージ1→2

 

 

「ヴァリアブルコードのソウルにあるアルマの効果!ライフが6以下の時ゲージ1を払うと、このターンヴァリアブルコードは2回攻撃を得る!」

 

 

ゲージ2→1

ドロップ→竜装機 ロジスティッカー

“絢爛朱雀” ヴァリアブルコード 2回攻撃

 

 

「アタックフェイズ!この瞬間、ヴァリアブルコードの効果!デッキから竜装機 リカナザンスをソウルに入れる!」

 

 

“絢爛朱雀” ヴァリアブルコード ソウル→竜装機 レディアント・アルマ 竜装機 リカナザンス 流星機 ピスカピスカ

 

 

「そして、ヴァリアブルコードをライトに移動!」

 

 

移動。

それはアタックフェイズ開始時に空いている場所に移動できる能力。

この能力を使い、ヴァリアブルコードはセンターからライトに移動したのだ。

 

 

「僕が装備しているヴィアラクテアでガイスト・ディミオスにアタック!この瞬間、ヴィアラクテアの効果発動!アタックした時サイズ3のモンスターがいるのならこのターン2回攻撃を得る!」

 

 

星神の刃 ヴィアラクテア 2回攻撃

 

 

「ガイスト・ディミオスの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

「ガイスト・ディミオス自身を破壊し、このターン次に受けるダメージを3軽減する!」

 

 

煉獄騎士

ドロップ→哀悼の煉獄騎士団団長 ガイスト・ディミオス

 

 

「なら、このまま一夏さんに2回目のアタック!」

 

 

「ダメージを軽減!」

 

 

「でも、これは防げないですよね?ヴァリアブルコードで一夏さんにアタック!」

 

 

《はぁあああ!!》

 

 

「ぐぅ!?」

 

 

煉獄騎士

ライフ8→5

 

 

「この瞬間、ソウルにあるリカナザンスの効果!ヴァリアブルコードの攻撃で相手にダメージを与えた時、ライフかゲージを1増やす!これで増やすのは、ゲージ!」

 

 

ゲージ1→2

 

 

「ヴァリアブルコードでもう1回アタック!」

 

 

《はああああああ!!》

 

 

「ぐぁあああああ!?」

 

 

煉獄騎士

ライフ5→2

 

 

カァアアン!

 

 

ヴァリアブルコードのアタックの衝撃で煉獄騎士は吹き飛び、ヘッドパーツが外れた。

ダークコアデッキケースの影響で伸びた髪と真紅のマントが風になびく。

 

 

「リカナザンスの効果でゲージを1増やす!」

 

 

ゲージ2→3

 

 

「ファイナスフェイズ!」

 

 

光は手札のカードを1枚掲げながらそう宣言する。

 

 

「相手のライフが5以下で、お互いのセンターにモンスターがいない場合、自分のモンスターのソウル1枚をドロップゾーンに送りゲージを3払う事で発動できる、必殺技!」

 

 

光がそう宣言すると同時に、光の頭上にエネルギーの球体が出現する。

 

 

「キャスト!シャイニング・パ「カウンターファイナル!キャスト!」

 

 

そうして、光が必殺技の名前を宣言しようとした瞬間、煉獄騎士はカウンターファイナルの宣言をする。

その瞬間に、世界から煉獄騎士以外の色が消え去り灰色となる。

 

 

「絶望も、希望も、全てが打ち砕かれた時!世界から悲しみは消え去り、新たな未来が創造される!」

 

 

煉獄騎士は1枚のカードを掲げながらそう言葉を発する。

それと同時に煉獄騎士の頭上に黒と金の粒子が集まり刀身は黒く、黄金の装飾が付いており、何か所か穴が開いている巨大な片刃剣を作っていく。

 

 

「殺戮の剣!」

 

 

煉獄騎士はディミオスソードを地面に突き刺し、右手を天高く掲げる。

そして、右手を振り下ろす。

 

 

「ジェノサイド・パニッシャーーーーーぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 

 

それと同時に、片刃剣は光に向かって振り下ろされる。

煉獄騎士のドロップゾーンには7枚の煉獄騎士団モンスターが存在するため、光には7ダメージが入る。

つまり

 

 

「うわぁああああああああああああああああ!!!!」

 

 

片刃剣が消滅し、世界に色が戻ると同時に光はそう叫び声をあげながら大きく吹き飛ぶ。

その瞬間に、光のスタードラゴンWのフラッグが弾ける。

 

 

『GameEnd Winner,RENGOKUKISHI』

 

 

「俺の勝ちだ!」

 

 

このファイトは煉獄騎士の、一夏の勝利で幕を閉じた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「あー!負けたぁ!」

 

 

「ふぅ...危なかった」

 

 

それぞれ腕輪と鎧をコアデッキケースとダークコアデックケースに戻した光と一夏はそう会話をする。

そんな2人の側には朱雀とディミオスSDがそれぞれいる。

 

 

「改良した方が良いかなぁ?」

 

 

「それは光君が決める事だよ。まぁ、俺が言えるのは、自分のデッキを信じるって事かな」

 

 

「そうですね!」

 

 

一夏と光は笑い合う。

 

 

「光、そろそろ帰らないと時間だよ」

 

 

「え、もうそんな時間!?」

 

 

朱雀が光に語り掛けると、光は慌てて時間を確認する。

 

 

「あ、もう帰らないと!」

 

 

光はそう言うと、一夏に向き直る。

 

 

「一夏さん、今日はありがとうございました!またファイトしてください!」

 

 

「ああ、またファイトしよう!」

 

 

一夏と光は最後にそう会話すると朱雀はゲートを開き、光と一緒に入っていった。

これで、光は自分の世界に帰った。

 

 

「じゃあ、ダークネスドラゴンWに帰るか」

 

 

《そうだな、明日は実験だ。早いところ休むぞ》

 

 

そうして、一夏は再度鎧を身に纏うとSDを解除したディミオスと共にマントをたなびかせながらダークネスドラゴンWに帰って行く。

 

 

((やっぱりバディファイトは楽しいな!))

 

 

一夏と光は、それぞれの帰路で、そんな事を考えるのだった。

 

 

 

 




※C・ダリルベルクで手札に加えるカードは公開しなくていいです。
 昔あれだけ使ったのに最近バディファイトしてなかったからすっかり忘れてた。

光の設定は設定集に載せます。

改めまして、定紋練魔さん。
この度は御声掛けとデッキレシピの提供、ありがとうございました!
頂いたデッキレシピで一夏と如何戦わせるか考えるだけでも滅茶苦茶楽しかったです!
本当に、ありがとうございました!!


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原作開始前
プロローグ1 煉獄からの声


初投稿です!


ISとバディファイトの煉獄騎士団とのクロスオーバーです!

ただしファイトはしません。


駄文だと思うのですが、二次創作なら何でも許せる方はご覧ください!


ドイツのとある廃工場。

ここに一人の拘束された少年と、武器を持った数人の男達がいた。

 

 

少年の名は織斑一夏。

彼は第二回モンド・グロッソ決勝戦の直前、男達に誘拐されていた。

 

 

インフィニット・ストラトス、通称〈IS〉。

とある天才であり天災である科学者が開発したマルチフォーム・スーツ。

 

 

元々は宇宙に行くための翼として作られたが、現存する兵器を遥かに上回る性能をしており、軍事転用された。

現在は「アラスカ条約」によってスポーツの一種として落ち着いている。

 

 

しかしこのISには一つだけ欠点があった。

それは「女性にしか動かすことができない」というものである。

他のどんな兵器でも上回ることができない性能を持つパワード・スーツが女性にしか動かせないとなると、社会での女性の地位は一気に跳ね上がる。

そのため社会では男尊女卑ならぬ女尊男卑が当たり前となっている。

 

 

そんな現在において、ISの最高峰の大会がモンド・グロッソである。

そして、第一回モンド・グロッソを優勝し、第二回も優勝確実であるとされる、ブリュンヒルデと呼ばれ、世界中の女性から尊敬されている人物がいる。

 

 

その人物の名は織斑千冬。

一夏の実の姉である。

 

 

彼ら姉弟には両親がおらず、二人で生活をしている。

姉である千冬は、運動神経抜群で成績優秀。周りから才能の宝庫とも呼ばれるほどだった。

ただそんな彼女でも、家事はどうしても苦手だった。

料理、洗濯、掃除、整理整頓全てダメダメで一夏にまかせっきりだった。

そのため家の中で姉弟の力関係は、一夏の方が高かったりする。

 

 

ただし、周りからの評価は違っていた。

一夏の運動神経も成績も一般的なものに比べると優秀な方だった。

しかし千冬と比べると見劣りしてしまうため、周りは一夏のことを「出来損ない」と罵った。

ISが世に出てからはそれに拍車がかかり、

 

「織斑の恥さらしが]

「それでも千冬様の弟なの」

「何で千冬はできたのに、お前はできないんだ」

 

と、日に日に過激になっていき、いじめられることも多くなっていた。

 

 

その中でも通っていた剣道場の同い年の女子、篠ノ乃箒はひどかった。

彼女とは小学校1年生の時からの関係であり、いじめられていたところを助けたことで打ち解けた。

当初彼女は周りとは違い、一夏のことを「出来損ない」などと呼ぶことがなく、いい関係であると一夏は思っていた。

しかし彼女はだんだんと過激になっていき、

 

「なぜお前は勝てないのだ!私の幼なじみならしっかり勝て!」

「それでも千冬さんの弟か!?男ならもっとしゃっきりしろ!」

 

などというようになり、剣道を通しての暴力も増えていった。

 

 

因みにだが、このこともあり一夏は箒のことを幼なじみだと思っていない。

 

 

でもそんな箒の姉であり、ISを開発した篠ノ乃束は、一夏の怪我の治療をしたり、箒にも話していなかったISのことを理論段階の時から話してくれたりと、

一夏の味方でいてくれた。

 

 

その後束が世間から失踪し、箒も束の身内ということで用意された要人保護プログラムによって転校した。

中学生になると同時に剣道をやめても周りからの評価は悪くなっていく一方だった。

そんな環境でも、姉の千冬は味方でいてくれたし、少ないながらも友人もいた。

それだけで一夏は心強かった。

 

 

そして今、一夏はモンド・グロッソに出場する千冬の応援のためドイツに行き、

宿泊先のホテルから会場まで移動する途中に何者かに襲われ、気が付いたら此処にいた。

 

 

(くそっ!どこだよ此処!俺は確か、モンド・グロッソの会場に向かっていたのに、何でこんな所にいるんだ!?)

 

 

一夏が滅茶苦茶焦っているとき、誘拐犯の男の一人が口を開いた。

 

 

「混乱しているようだな。織斑一夏」

 

 

「お、お前ら誰だよ!なんで俺が此処にいるんだよ!?」

 

 

混乱しているようだなと言われても落ち着くはずも無く、一夏は目の前の男に焦りながら質問する。

 

 

「なんで、か。決まってるだろ。俺達が誘拐したんだよ」

 

 

誘拐と言われ、さらに一夏は混乱する。

 

 

「ゆ、誘拐って、いったい何がしたいんだよ!?」

 

 

「お前なら簡単に分かると思ったんだがなぁ。織斑千冬の決勝戦辞退だよ」

 

 

ここで他の男達も会話に加わってくる。

 

 

「そうそう。織斑千冬が弟思いだっていうことは知ってるからなぁ。」

 

 

「お前を使って脅せば、簡単に辞退するだろ」

 

 

「あぁ。ガキ一人誘拐すればいいなんて、楽な仕事だったなぁ!ハハハハハ!」

 

 

笑った男につられて他の男達も笑い出す。

すると、

 

 

「あんたらうるさいわよ!私に雇われただけの男の癖に!!」

 

 

という声が倉庫の入り口から聞こえてきた。

見ると、普段から威張り散らかしていそうな女が倉庫に入ってきていた。

 

 

「男の癖に笑うだなんて、どういう神経してんのよ!」

 

 

どうやら女はかなりの女尊男卑思考の持ち主らしい。

それを見た一夏は、

 

 

(あぁ。また女尊男卑のやつか。何でこんなのが当たり前のように社会にいるんだ)

 

 

と、焦りや混乱はすぐに消え、女を呆れたような感じで見ていた。

 

 

「第一ね、出来損ない一人を誘拐するだなんてこと、簡単に決まってるでしょ!それで喜ぶなんて、あーあ、気持ち悪い」

 

 

女が同じようなことを延々と言っていると、今までずっと黙って作業していた男が慌てたように声を上げた。

 

 

「た、大変です!」

 

 

「何よ!男の癖に叫ばないで!」

 

 

女は大変だと言われても態度を変えなかったが、次の男の言葉によって態度が一気に変わる。

 

 

「お、織斑千冬が決勝戦に出てます!!」

 

 

「なんですって!?」

 

 

織斑千冬が決勝に出てる。

その一言で女も、他の男達も騒ぎ出す。

 

 

「おい!日本政府にはちゃんと連絡を入れたんだよな!?」

 

 

「入れたよ!クソッ!織斑千冬は弟思いなんじゃねえのかよ!」

 

 

そんな中、当然一夏も心の中で騒ぎ出す。

 

 

(千冬姉が決勝に出てるって!?俺を見捨てたのかよ!?)

 

 

すると作業していた男の持っていたタブレットから、音声が聞こえてきた。

 

 

『決まったーーーーーーーーーー!!!織斑選手の鋭い一閃がクリーンヒット!!織斑千冬、モンド・グロッソ二連覇!!!!』

 

 

実況アナウンサーの高いテンションの声が聞こえる。

どうやら千冬は連覇を達成したようだ。

 

 

「あーもう!失敗じゃない!こいつ殺してとっと逃げるわよ!」

 

 

女は言うと男の一人から拳銃を奪い、一夏に突き付けた。

 

 

「さよなら。恨むならこの日本と織斑千冬を恨みなさい」

 

 

 

拳銃を突き付けられているのにも関わらず、一夏はどこか冷静な自分に違和感を感じていた。

 

 

(あぁ、何で俺はこんなに冷静なんだろう。まあいい。俺は死ぬのか。なんか.....あんま碌な人生じゃなかったな。

 ごめん、さよなら。鈴、弾、蘭、厳さん、蓮さん、数馬、束さん、....................千冬姉)

 

 

そうして一夏は目を閉じた。

脳裏に浮かぶのは数少ない自分の味方をしてくれた人との思い出だった。

 

 

女が拳銃のトリガーに指をかける。

そして拳銃から銃弾が放たれる------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直前、どこからともなく声が聞こえてきた。

 

 

《汝、煉獄のチカラを受け取る覚悟はあるか?》

 

 

という、不気味な、声が。

 

 

一夏は幻聴が聞こえたと思った。だが

 

 

「...何よ、今の声」

 

 

女がそう言ったことで幻聴じゃないことが分かった。

 

 

(今この女も...ってことはこれは幻聴じゃない.....?煉獄のチカラ.....いや、まて。この声は誰に向かっていった?...俺か?)

 

 

「いったい誰よ!出てきなさい!!」

 

 

女はヒステリックとも見れなくもない様子で叫んでいる。

他の男達は聞こえた不気味な声に各々の銃火器を構えることもせず、その場から動けなかった。

 

 

《もう一度問う。汝、煉獄のチカラを受け取る覚悟はあるか?》

 

 

その言葉を聞いた瞬間、一夏は理解した。

この不気味な声が問いかけているのは自分だと。

何故だか解らないが、そう直感が言っている。

 

 

(この声は俺に向かって言っている。なら俺は...俺は............!!!)

 

 

そう思ったら、もう口に出ていた。

 

 

「ああ、出来てる!俺にはまだ、返さないといけない恩がある!

 出来損ないと言われていた俺にも手を差し伸べてくれた味方がいる!

 だから、だからぁ!俺はここで死ぬわけにはいかないんだ!!

 頼むから、俺にチカラをくれぇ!!!!!」

 

 

そう、言い切った。

 

 

「はぁ?あんた、死ぬ前に頭おかしくなっちゃった?これだから男は...」

 

 

気持ち悪い。そう言う筈だった言葉はかき消された。

 

 

《よく恐怖せずに言えたな。よかろう。受け取れ》

 

 

また聞こえてきた声によって。

そして次の瞬間、異変が起こった。

 

 

一夏の足元からどす黒いエネルギーの塊が出てきて、一夏を拘束していた鎖を破壊した。

 

 

「な、なにが...」

 

 

女が言うことができたのはそれだけだった。

 

 

そうしている間に、一夏は立ち上がった。

エネルギーの塊が一夏の左腕の肘から先に纏わりつき、鎧を作っていた。

黒と金の2色で構成されており、禍々しいオーラに包まれている。

しかし、目を引くのはその手の甲だろう。そこには、紫でできた眼のようなものがあった。

 

紫の眼が怪しく光る。

すると、一夏の髪が腰あたりまで伸び、両目も赤黒く光った。

一夏が左腕を前に突き出す。

すると、一夏の手の中に一本の大剣が出現する。

 

その剣は茶色いグリップに、黒と金でできていて中央に蒼いクリスタルがはめ込まれた柄、

そして、先に行くほど幅が広くなっている刀身は切る刃ではない中央部分に、煉獄のようなものが描かれている。

 

 

そして、一夏は女とその後ろで先程から全く動いていない男達を見てこう言った。

 

 

「ゴー・トゥー・ワーク」

 

 

 




いかがでしたでしょうか?

読みにくい点などありましたらアドバイスお願いします。


ただし作者のメンタルは豆腐より崩れやすいので、
暴言等はお控えください。

不定期での更新になりますがこれから頑張っていきますので
よろしくお願いします。


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プロローグ2 煉獄のチカラ

2話です!


前回一夏君が出した剣は
「煉獄騎士団団長の剣 ディミオスソード」です。

「煉獄剣 フェイタル」ではありません。

フェイタルは後々ちゃんと出てくるので心配いりません。

今回も駄文だとは思うのですが、
ゆっくりお楽しみください。


「ゴー・トゥー・ワーク」

 

 

一夏はそう言い放った。

女や男達は目の前で起こった不可解な現象にあっけにとられていたが、

 

 

「は、はん!そんなの見掛け倒しよ!う、撃ちなさい!」

 

 

焦ったように言う女の声によって男達は漸く我に返り、一夏に向かって銃を構え、発砲した。

 

 

「フン....!」

 

 

しかし一夏は手に持っている大剣の幅が広い刀身を利用して、弾を全て弾き返した。

そして一夏は大剣の切っ先を男達に向け、無言で目を細め睨んだ。

すると、

 

 

「う、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」

 

 

「や、やっちまえぇ!」

 

 

半狂乱に陥った男達が悲鳴にも聞こえる声を上げながら、突っ込んできた。

一夏は無言で、突っ込んできた男達に向かって大剣を振るった。

男達全員から血が噴き出るが、一夏は特に気にした様子ではない。

 

 

「い、痛え、痛えよぉ」

 

 

「う、グフッ、ガハッ」

 

 

「ひゅー、ひゅー」

 

 

などと男達から声が出ているため、死んでいるわけではなさそうだ。

....まぁ、傷は一生消えることはなさそうだが。

 

 

 

一夏はただ一人残った女に目を向ける。

すると女は一瞬体を震わせるも、すぐに一夏を睨み返してきた。

 

 

「フ、フン!それがいったい何だっていうの!?男はしょせん、私には勝てないのよ!!」

 

 

女がそう言うと、女が光に包まれる。

光が晴れると、女はその身には先程までなかったパワード・スーツが装着されていた。

.....ISである。

女は第2世代型のISであるラファール・リヴァイヴを展開したのだった。

 

 

「その剣がどんだけすごくても、ISに勝つことはできないのよ!!」

 

 

女はそう自信がある声で一夏に言い放つ。

しかし一夏は気にも留めていないようだった。

 

 

「その顔ムカつくわね!男はしょせん、私たちには勝てないのよ!死ねぇぇぇぇええええ!!!」

 

 

女は叫ぶと同時にその手に接近用ブレードを展開した。

先程一夏がその剣で銃撃を防いだところを見たため、ブレードを選んだようだ。

IS特有のスピードで一夏に迫ると、そのブレードを振るった。

ブレードが一夏に届こうとしたとき、一夏は口を開いた。

 

 

「キャスト。ドラゴンシールド 黒竜の盾」

 

 

すると、一夏の目の前に紫に光る眼に黒い角を六本持ち、右側が鈍い銀色、左側は骨が剥き出しになっているドラゴンの装飾が大きく正面についた盾が出現した。

その盾は怪しい光を放ちながら、女が振るったブレードの攻撃を防ぎ弾いた。

 

 

「な、なによこの盾!?ISの攻撃が防がれるなんて、あ、ありえない!」

 

 

女は驚愕したようだった。

最強だと信じて疑わないISの攻撃がISではない得体のしれないモノに防がれたのがよほどショックだったようだ。

そして一夏は女の隙を見逃さず一瞬で懐に入り込んだ。

女は慌てて一夏に攻撃しようとするも、もう遅かった。

 

 

「消えろ.....!!」

 

 

一夏はそう言うと、女に大剣を振るった。

 

 

「ガハ....!!」

 

 

女はその一撃だけで吹っ飛び、地面に倒れ伏した。

ただ、ISの機能である絶対防御が発動し、女にはダメージがなかったが、吹き飛ばされた衝撃で脳震盪を起こし、立ち上がれない。

 

 

「くっ、こ、のぉ!」

 

 

女は如何にか顔を上げる。

しかしすぐに後悔することになる。

 

 

一夏は女のすぐそばにいて、大剣を振り上げているところだった。

 

 

「あ、あ、いやぁああああああああああああ!!」

 

 

女は恐怖のあまり悲鳴を上げると、気を失ってしまった。

 

 

一夏は女が気絶したのを確認すると、振り上げたままの大剣を振り下ろさず、少し離れてから大剣を下した。

すると、その大剣が闇の粒子になって消え、伸びた髪や光っていた両目も元に戻った。

そしてそのまま一夏もその場に倒れて気を失ってしまう。

左腕についていた鎧がエネルギー体に戻り、一夏に集まりまた別の何かになった。

 

 

-------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

千冬side

 

 

私は今、自身の専用機であるIS、暮桜を使いとある廃工場に向かって全力で飛んでいる。

何故こんなことをしているかというと、私の弟である一夏が何者かに誘拐された。と、ドイツ軍からの情報を得たからだ。

 

 

一夏が誘拐された理由は、間違いなく私の決勝戦辞退だろう。

確かに、私はブリュンヒルデと世間で呼ばれている一方、少ないとは言えない人数から恨まれているだろう。

今のこの社会は女尊男卑になってしまい、男性が非常に生きずらくなっている。

その象徴であるISを使った世界大会で優勝したのだ。

女尊男卑の被害を受けてしまった男性から恨まれるのは当然だろう。

 

 

それ以外にも、同じ女性であっても私を恨む人はいる。

世界大会には当然だが私以外の出場選手も数多くいる。

前回大会で負けてしまった人が逆恨みをすることもあるだろう。

 

 

でも、それに一夏を巻き込むのはやめてほしい。

一夏は.....一夏は、私の大切な家族なのだから。

 

 

私たち姉弟には親がおらず、私と一夏の二人で暮らしている。

私は世間では完璧超人などと言われているようだが、それは間違いだ。

私は..............家事ができない。

料理、洗濯、掃除、整理整頓全てがからっきし駄目で、一夏にすべて任せている。

私と一夏は姉弟だが違う人間だ。

このようなことがあっても不思議ではない。

 

 

だが、周りの考えは違っていた。

私が出来たことは一夏にもできると考え、無理な期待を押し付けた。

最近まで知らなかったのだが、それが原因でいじめにもあっていたそうだ。

何故私に言わなかったのか聞くと、心配を掛けさせたくなかったからだそうだ。

.........一夏はまだ中学1年、まだまだ子供だ。

それなのに自分の心の中に塞ぎ込んでしまっていた。

私は自分が姉として無力だったことを知り、何とかしようと行動した。

 

 

それでも周りからの評価は変わらなかった。

日本政府は今回の誘拐を知っていて、私に伝えなかった。

ドイツ軍からの情報がなかったら私は今、大切な家族を失うところだった。

このことを政府に問い詰めると、

 

「あんな出来損ないと周囲から言われている人間より、モンド・グロッソ連覇の方が大切でしょう?」

 

と言ってきた。

...私は今までにないほど怒り、言ってきた奴をぶん殴ってからドイツ軍と一緒に一夏の救出に向かっている。

 

 

一夏......無事でいてくれ!

 

 

------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

それからしばらくして、一つの廃工場が見えてきた。

それを見て私はドイツ軍の一人に質問する。

 

 

「おい!一夏がいるのは、あの工場か!?」

 

 

「はい!織斑一夏君がいるのはあの工場です!」

 

 

私はそれを聞き、単身で乗り込もうと加速しようとしたが、

 

 

「待ってください!今中がどうなっているのか分かりません!

 単身ではなく、全員で突撃するべきです!」

 

 

そのように言われ、私はドイツ軍の部隊とともに突撃することにした。

工場の扉の前に立ち、ドイツ軍からの合図を待つ。

 

 

「全員突撃ぃ!!」

 

 

その言葉を言われた瞬間私達は工場の中に突撃した。

どうやらかなり広く、すぐそこに一夏はいなかった。

 

 

「全員で捜索しろ!絶対に見つけろ!」

 

 

そのような指示が出て、全員が違う方向に向かって移動する。

私も当然移動する。

 

 

「一夏!どこだ!助けに来たぞ!一夏ぁ!!」

 

 

そう叫びながら移動していると、ある一角に複数の人影があった。

 

 

「ここは...」

 

 

近づくと、まず目に入ってきたのは、赤、つまり血だった。

見ると複数の男が腹部の切り傷から血を流して倒れていた。

ただし、全員うなりながらも声を出しているため、死んでいるわけではなさそうだ。

 

 

近くには、ラファール・リヴァイヴを纏ったままの女が倒れていた。

生命反応は出ているため、こちらも生きているらしい。

 

 

そしてその少し離れたところに、一人の少年が倒れていた。

間違いない、一夏だ。

 

 

「一夏ぁ!!!」

 

 

それを見た瞬間、私はすぐさま一夏の傍に移動していた。

どうやら一夏も気を失っているだけのようだ。

目立った外傷も特にない。

そのことに安堵し、暮桜を解除し、気を失ったままの一夏に抱き着く。

 

 

「一夏...!よかった....!」

 

 

さあ、ドイツ軍を呼びに行こう。

そう思ったとき私は一夏が左手で何かを握りしめていることに気が付いた。

 

 

それは、四角い直方体の物体だった。

色はグレーに近い黒色で辺にあたるところに骨の様な形をしたものがついている。

底面にあたるところが片方開いており、白に赤で何か描いているかのようなカードの束が入っていて、さながら何かのケースのようだった。

しかし私が注目したところはそこではなかった。

側面のうちの一つについている、楕円型で紫と黄色でできた、

眼球の様なものだった。

 

 

 

 

 




今回、前半は前回と同じ三人称視点。
後半は千冬の一人称視点にしてみました。

今後三人称視点のときは、そのような表記を入れます。

不定期更新ですが、次回も楽しみにしてください!

評価や感想、誤字報告等もよろしくお願いします!


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プロローグ3 チカラを使うために

いやぁ、書いてていつIS学園に入れるか怪しくなってきました。


そして、まだプロローグを2話しか投稿してないのに、UAが600を超えました!
ありがとうございます!


今回も楽しんで頂けると幸いです。


三人称side

 

 

 

世界は人間が主となって生きている。

しかし、この世には人間が暮らしていない世界、異世界というものが無数に存在している。

 

 

此処は、そんな異世界のうちの一つ。

その世界から、人間の世界の様子を眺めている存在がいた。

その存在は巨大な翼と尾を持つ『ドラゴン』だった。

ドラゴンは二本足で大地に立っており、体全体を黒と金の鎧の様な物で覆っていた。

そしてその右手には、巨大な大剣が握られていた。

 

 

《やはり彼はこのチカラに適応したか.....》

 

 

眺めている人間の世界で何かあったらしく、そうつぶやいていた。

 

 

《だが、やはり最初ということもあって、意識がハッキリとしていないようだな.....》

 

 

《団長、少しよろしいですか?》

 

 

そのドラゴンが考え事をしていると、別のドラゴンから話しかけられた。

 

 

 

《構わないぞ。何だ?》

 

 

《いえ、彼のことなんですが、何故あのようなかたちで語りかけたのですか?》

 

 

《チカラを得るというのはそれ相応の覚悟が必要だ。まして我らのチカラなら、尚更な》

 

 

質問をしてきたドラゴンに、団長と呼ばれたドラゴンはそう返す。

そして再び人間の世界を観察する。

 

 

《我らが行くは血濡れの魔道。そして彼は我らと同じチカラを得た。》

 

 

団長と呼ばれたドラゴンは、人間のある少年を見つめて言う。

 

 

《『煉獄騎士』のチカラを.....》

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

まず目に入ったのは、見慣れない白い天井だった。

 

 

 

「此処は...」

 

 

体を起こしてみる。

自分の部屋にある使い慣れたものではない、白いベッド。

身に着けているものも、着慣れない入院用の服だった。

 

 

「あれ...俺、なんで、此処に?」

 

 

記憶があやふやだった。

覚えているのは、拘束された自分に突き付けられる拳銃。

 

 

「そうだ。俺は、誘拐されて、殺されそうに.....」

 

 

そこまで思い出して、疑問が一つ湧き出てくる。

 

 

「俺、何で生きてんだ...?」

 

 

そりゃそうだ。

拳銃を突き付けられて、生きているなど思いもしなかったから。

だがあやふやな記憶がどうもまとまらない。

ふと、ベッドの近くにあった小さい丸机を見てみる。

そこには、見慣れない、直方体の物が置いてあった。

初めて見るはずなのに、次の瞬間には言葉を発していた。

 

 

「ダークコアデッキケース...」

 

 

自分で言っておいて、自分で混乱した。

初めて見る物の名前の様な言葉が、無意識のうちに出てきたのだから。

 

 

「何で俺はこれの名前を...」

 

 

そう呟きながら、手に取った。

すると、

 

 

「グッ!」

 

 

頭の中のあやふやな記憶が一気につながり、鮮明になった。

 

 

「あの時、《煉獄のチカラを受け取る覚悟》って言ってた。そして俺は、誘拐犯の男達と女を、切った」

 

 

そこまで思い出して、一夏は理解した。

此のダークコアデッキケースと言うものが、煉獄のチカラを得るために必要なものだと

 

 

「煉獄のチカラ、どうすれば使いこなせるようになる?」

 

 

そう考えていると、扉がノックされた。

 

 

「はい」

 

 

と返事をすると扉が開き、白衣を着た4~50代くらいの男性が入ってきた。

 

 

「目が覚めたんだね」

 

 

男性が言ってきた。

 

 

「はい。えっと、あなたは?」

 

 

「ああ、私はアーベル・ミュラー。見ての通り、医者をやっているものだ。」

 

 

この男性、アーベルさんはどうやら自分の主治医のようで、いろいろな情報を話してくれた。

自分が誘拐され、連れていかれた廃工場の中で気を失っていたこと。

その時にはダークコアデッキケースを握りしめていたということ。

誘拐犯の男達は切られたような跡があるが全員生きていたということ。

誘拐犯たちはISを使用した女を含めて全員逮捕されたということ。

そして、自分を発見したのは千冬姉だということ。

 

 

「そ、そうですか」

 

 

「ああ、そうだ。もうお姉さんは呼んである。そのうち来るだろう」

 

 

アベールさんはそう言い、簡単なバイタルチェックをした後、病室を後にした。

だが話の中で不可解な点があった。

 

 

「俺を見つけたのは千冬姉。でも千冬姉は決勝戦で優勝したはず。なのになんで?」

 

 

考えても答えが出るはずがなかった。

そうしていると、廊下をバタバタと走るような音が聞こえ、ノックもされずに扉が乱暴に開かれた。

入ってきたのは、

 

 

「一夏!!」

 

 

千冬姉だった。

 

 

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千冬side

 

 

私は宿泊しているホテルから一夏が入院している病院に向かっていた。

一夏が目を覚ましたと、病院から連絡があったからだ。

 

 

一夏を救出した後、色々な事が起こった。

その中でも一番大きいことと言えば、私が現役を引退しドイツ軍で教官をすることになったことだろう。

 

 

廃工場から一夏を病院に連れて行ったあと、そのまま大会を観戦するためにドイツに来ていた政府関係者のもとに行き、現役引退することを伝えた。

これは当然だ。大切な家族を見捨てた国の代表など、やっていられる訳がない。

政府関係者は私に考えを改めるように言ってきたが、私は聞く耳を持たなかった。

 

 

そしてそのままそのことを全世界に向け発信した。

これで撤回など出来る筈も無く、私は引退した。

そのあと、一夏の救出を手伝ってくれたドイツ軍にお礼がしたいと思い、何かできることはないかと尋ねた。

すると

 

 

「ドイツ軍のIS部隊の教官をしてほしい」

 

 

と言われたため、私はIS部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』の教官を務めることになった。

 

 

私は病院に向かう途中、あることを考えていた。

それは倒れていた一夏が握りしめていた物に関してだった。

 

 

「あれはいったい何なんだ...」

 

 

一夏はもともとあんな物を持っていなかった。

つまりあれは、誘拐されてから入手したものであるということだ。

一応ドイツ軍に調べてもらったが、何もわからず、カードの束も取り出すことができなっかった。

そのため今は一夏の手元に置いてある。

 

 

そんなこんなしていると、病院についた。

私は受付で一夏の病室を聞くと、すぐさま移動した。

部屋の前まで行くと、ノックもせずに扉わ開けた。

 

 

「一夏!!」

 

 

病室に入ると急に部屋に入ってきたことに驚いたのか、一夏は目を丸くしていた。

 

 

「ち、千冬姉。ノックくらいしてくれよ」

 

 

一夏は少し呆れたように言ってくる。

特に怪我もなく元気そうで、私は胸を下しながら一夏に抱き着いた。

 

 

「一夏ぁ...無事でよかった...」

 

 

そうすると一夏も抱きしめ返してくる。

 

 

「千冬姉、助けてくれて有難う」

 

 

そうして私たちはしばらく抱きしめ合っていた。

 

 

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一夏side

 

 

千冬姉としばらく抱き合っていたが、聞きたいことが幾つかあったので離れてもらった。

 

 

「なあ、千冬姉。千冬姉は決勝に出てたのに、なんで俺を救出できたんだ?そもそも何で、決勝戦に出場したんだ?」

 

 

すると、千冬姉は話してくれた。

日本政府は俺の命よりモンド・グロッソを優先し、千冬姉に誘拐のことを伝えなかったと。

だけど決勝戦が終わった後、ドイツ軍からの情報があり、俺の救出に来た事。

そして、現役を引退しドイツ軍で教官をすることになったこと。

俺はそれを聞いて、千冬姉に捨てられた訳では無いと分かり、安心した。

 

 

「そっか。千冬姉は、俺を見捨てた訳ではなかったのか」

 

 

「当たり前だ。大切な家族を見捨てるやつがどこにいる」

 

 

それはそうと。と今度は千冬姉質問してきた。

 

 

「一夏。何故誘拐犯たちは倒れていた?そして、その箱は何だ?」

 

 

答えづらかった。

これは煉獄のチカラを使うための物で、誘拐犯たちは俺が切った。なんて言えなかった。

だから俺ははぐらかすことにした。

 

 

「いや、分からない。でも、これは俺が持っとくよ」

 

 

千冬姉は納得してなさそうだったが、それ以上聞いてくることはなかった。

 

 

俺は少し考えた。

煉獄のチカラを使うには、今の俺では無理だと。

だから俺は千冬姉に頼むことにした。

 

 

「なあ、千冬姉。頼みがあるんだけど」

 

 

「なんだ?言ってみろ」

 

 

「ドイツ軍と一緒に、俺も鍛えて欲しい」

 

 

そう言うと、千冬姉はすごく驚いた様だった。

 

 

「ど、どうしていきなりそんなことを?」

 

 

だから俺は自分の本心を話すことにした。

 

 

「今俺は、自分の身を守ることすら出来ない。俺は、それが嫌だ。俺は、自分も、他人も守れるような『チカラ』を使いたいんだ」

 

 

すると、千冬姉はしばらく考えたのち、こう言ってきた。

 

 

「私はあくまでドイツ軍の教官だ。お前に構っていられる時間は少ない。それでもいいなら、鍛えてやる」

 

 

そうして俺は、ドイツに残り鍛えてもらうことになった。

 

 

『煉獄のチカラ』を使いこなすために.....

 

 

 

 




今回は異世界が登場しました。


いったいどんなダークネスでドラゴンな世界なんだぁ。


団長のセリフに、バディファイトのカード名が登場しました。
これでもう、ドラゴン達がいったい何者か確定したとと思います。


因みに人間の世界を見ているシーンは、アニメでドラムが牙王を見ているシーンと同じ様な空間から見ていると思ってください。


次いつになるか分かりませんが、次回も見てください!


評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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プロローグ4 人間関係、そして『チカラ』と『力』への考え

サブタイ思いつかねぇ...!


今回は前回から時間が飛びます。
そして漸くタグバレしているヒロインの一人が...?


更新する時間がバラバラ過ぎて申し訳ない...


UAが1000を突破しました!ありがとうございます!


今回も楽しんでください!


一夏side

 

 

俺が千冬姉に頼んでドイツ軍と一緒に鍛えてもらい始めてから、半年が経過した。

今ではすっかりIS部隊であるシュヴァルツェ・ハーゼのみんなに認めてもらっているが、最初の頃は大変だった。

ドイツ軍に交じってやる訓練だ。

そりゃあきついのは承知の上だった。

 

.....だけど、人間関係でここまで苦労することになるとは思わなかった。

シュヴァルツェ・ハーゼはIS部隊だから、当然のように女性しかいない。

男子が俺しかいないのは分かってはいたつもりでも、なかなかにキツかった。

 

 

軍のため、女尊男卑思考の人こそいなかったものの、やはり俺は素人だ。

初めのころは軽蔑の目で見られていた。

それだけではなく、

 

「何であんなのと一緒に訓練しないといけないのよ」

「生半可な覚悟の遊びのつもりなら帰ってほしいわ」

 

このような陰口を言われたりもした。

因みに本当にヒソヒソ言われることもあれば、結構聞こえる声で言われることもあった。

まぁ、俺は今までもこのような事しか言われてこなかったので、少し耐性がついていた。

そのためそこまで気がめいるようなことはなかった。

 

 

千冬姉...おっと、教官だった。

教官はそのようなことを止めるように言おうとしていたが、待ってもらった。

何故か、と理由を尋ねられたので

 

 

「俺は今までこういうことを無視してきた。

 でも、チカラっていうのは何も物理的『力』なものだけではないと思うんだ。

 俺は自分のコミュニケーションのチカラを使って、自分で解決したいんだ」

 

 

という俺の思いを正直に伝えた。

すると教官は

 

 

「分かった。ならばお前に任せよう。だが、つらくなったら私に報告しろ」

 

 

とおっしゃたので、俺は自分にできることから始めてみた。

 

 

俺がしたこと、それは料理だった。

織斑家では家事全般が俺の担当だったため、自信があった。

料理した食事を食べてもらうことで、少しでもいい印象を持ってもらおうと考えた。

 

 

俺は軍の食事を作っている厨房に行き、後で皿洗いを手伝うという条件のもと、料理をさせてもらった。

厨房にはいろいろな材料がそろっていたので、何を作ろうか迷ったが和食である焼き魚定食を作ることにした。

 

 

 

「ゴー・トゥー・ワーク」

 

 

あの日から、俺は何か行動をする際にこの言葉を口にするようになっていた。

 

定食なので、メインである鰺の塩焼きの他に白米と味噌汁もセットだ。

余談だが、

 

 

「味見をしてやろう」

 

 

と言い、シェフが一食食べたのだが、何故かショックを受けたような顔をして、膝をつき倒れてしまった。

...なんでだろ?

 

 

まぁ何はともあれ焼き魚定食は完成した。

早速食べてもらおうかと思ったが、やはり印象が良くなかったからか、食べてもらえなかった。

自信があっただけにちょっとショックを受けていると、

 

 

「フム、焼き魚定食か。もらおうかな」

 

 

と言ってきた人がいた。

シュヴァルツェ・ハーゼの副隊長であるクラリッサ・ハルフォーフ大尉だった。

俺の作ったものを食べることに他の隊員が驚く中、ハルフォーフ大尉は鰺の塩焼きを一口食べ

 

 

「おぉ...これは...」

 

 

と言った後、一言も喋らずに間食した。

そして俺に顔を向けると、

 

 

「ご馳走様。美味しかったよ。」

 

 

と言い、微笑んだ。

...ちょっとドキッとした。

 

 

ハルフォーフ大尉が食べてくれたおかげで、他の隊員たちも食べてくれた。

そうしたおかげで、隊員達とは少し仲良くなった。

このとき、ハルフォーフ大尉が

 

 

「私のことはクラリッサと呼んでくれ」

 

 

と言われたため、今では名前で呼び合う仲になっている。

たぶんクラリッサさんが一番仲いい隊員なんじゃないだろうか。

 

 

それから暫くすると、隊の中での俺の評判はかなり上がっていた。

クラリッサさんは

 

 

「おそらく一夏の料理、

 それに訓練を始めて1年も経っていないのに教官の訓練についていけてるからじゃないかな?

 私も刺激をもらっているよ」

 

 

と言っていた。

まぁ、とりあえず人間関係は解決したようでよかった。

 

 

.....ん?教官の訓練はどうだって?

 

 

逆にちょっとでも優しいところがあるとでも思ってんの?

 

 

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クラリッサside

 

 

ここ最近、我々シュヴァルツェ・ハーゼの雰囲気は変わっていた。

みんなが生き生きとした表情で訓練をしたりしている。

 

 

やはりこれも半年程前から関わり始めた、教官と一夏のおかげだろう。

 

 

教官は言わずと知れたブリュンヒルデだ。

訓練メニューは相当厳しいが、最高峰のIS操縦者ということもあって指導が的確で、まだ半年だがみんな相当実力が伸びたと感じているようだ。

 

 

一夏は最初の頃は嫌われていた。

それでも訓練を続け、時にはみんなの食事を作ったりしていく内にみんなの評判は良くなっていた。

教官は以前から訓練を受けていた私達でも厳しいと思うような訓練をするのに、少し前で一般人だった一夏がついてきているので、みんな刺激されているようだ。

料理に関しても私達の胃袋をガッチリと掴んでいる。

以前からいたシェフよりも一夏の料理の方が食べたいとみんなが思っている。

胃袋を掴まれていないのは隊長だけじゃないだろうか?

 

 

一夏は

 

 

「あの時、クラリッサさんが食べてくれなかったら、たぶん今でも馴染めてませんよ」

 

 

と言う。

確かに一夏の料理を最初に食べたのは私だ。

私はみんなよりも前から一夏のことを認めていたからな。

 

 

因みに、一夏が行動をするときに言う言葉、

 

 

「ゴー・トゥー・ワーク」

 

 

もみんな言うようになった。

一夏公認だ。

 

 

そして今、休憩時間ということで、一夏と二人で話している。

内容は日本の漫画についてだ。

...私は最近、一夏と二人で過ごす時間が凄く楽しみになっている。

何故なんだろうか?

 

 

「そういえばなんですけど...」

 

 

と、一夏が話してきた。

 

 

「うん?なんだい?一夏」

 

 

「俺、シュヴァルツェ・ハーゼの隊長とあったことがないんですけど、何でですか?」

 

 

.....隊長か。

シュヴァルツェ・ハーゼの隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐。

隊長は、未だに一夏のことを嫌っている。

 

 

隊長はアドヴァンスドと呼ばれる、遺伝子強化試験体。つまりは試験管ベイビーだ。

幼い頃から戦うための道具として、様々な体術や兵器の扱い方を教わりマスターしてきた。

しかし、ISが登場し今までの兵器など役に立たなくなってしまった。

そのため隊長はIS適正を上げるため、ヴォーダン・オージェの移植手術を行わされた。

ヴォーダン・オージェは疑似ハイパーセンサーと言えるもので、肉体に埋め込むことにより、ハイパーセンサーとの併用で普通よりも有利にISを操縦することができる。

しかし、隊長は適合が高すぎたため左目が金色に変色してしまった。

 

それからというもの、能力を制御しきれずに成績が急降下。

そのことから、『出来損ない』と呼ばれるようになった。

 

しかし、教官が一から鍛えなおしたことで実力を付け直し、シュヴァルツェ・ハーゼの隊長になった。

そのことで教官の狂信者のようになっており、教官が一番気にかけている一夏のことを毛嫌いするようになった。

 

 

余談だが、隊長は金の目を隠すために左目に眼帯をしている。

そんな隊長に合わせて、シュヴァルツェ・ハーゼ全員が、同じ眼帯をしている。

 

 

私はこのことを言うか悩んだ。

本来なら言うべきではないのだろう。

しかし一夏なら...

そう思い一夏のことを見つめてみる。

 

 

一夏はジッと見られて疑問を感じたらしく、

 

 

「クラリッサさん?どうかしましたか?」

 

 

と、首を傾げながら聞いてきた。

.....キュンとしてしまった。

 

 

一夏はみんなのことを変えてくれた。

そんな一夏なら隊長のことも変えてくれるはず。

そう思い、私は一夏に全てを話した。

 

 

一夏は話を聞いているとき、とても悲しそうな表情を浮かべていた。

全て話終わった後、一夏は暫く黙っていたが、口を開いた。

 

 

「大体わかりました。

 でも、試験管ベイビーでも人間は人間です。

 人間なら、変わることができます。

 そう信じて、いつか隊長とも笑いあってみたいですね。」

 

 

そう言って一夏はニコッと笑みを浮かべた。

 

.....やめろ。ドキドキするではないか。

 

 

-------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

クラリッサさんから、ラウラ隊長についての話を聞いた。

 

 

その日の夜、訓練や夕食も終わり自分にあてがわれた部屋に帰ってきて学校の課題をしている。

俺はまだ中学生のため、ドイツのオンラインの学校に転入したのだ。

 

 

その課題も終わると、俺はラウラ隊長について考えた。

隊長は、俺に似ていた。

出来損ないと言われたことと、教官...千冬姉に助けられたことが。

 

 

隊長は『力』が全てだと考えているらしい。

でも、俺は違うと思っている。

確かに物理的な『力』も大切だ。

だがコミュニケーションなど物理的以外の力もこの世には存在する。

俺は、それらすべてを合わせた『チカラ』が大切だと思っている。

ダークコアデッキケースから伝わってくるのも『チカラ』だからな。

 

だから、俺は........

 

 

「俺の『チカラ』、『煉獄のチカラ』であなたの『力』を超える!」

 

 

 

 




ヒロインの一人であるクラリッサが登場しました!


...一夏、まだバディに出会ってないのに。


不定期ですので次回もいつになるか分かりませんが、
待っていてください!


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プロローグ5 力を超える準備

やばい...本当にプロローグの終わりが見えねぇ.....


今回、ラウラを登場させるつもりだったんですが
結局名前だけになったしまいました。


そんなこんなで結構グダってるのですが
今回もお楽しみください!


お気に入り登録者が20人を突破しました!
まだまだプロローグですが、ありがとうございます!!


一夏side

 

 

ラウラ隊長を超えると誓った日から3日が経過した。

この3日で調べられるだけのことは調べた。

 

 

「ラウラ隊長には、第3世代型ISの『シュヴァルツェア・レーゲン』が専用機として与えられる予定。

 しかし開発が進んでいないため、現在は第3世代兵器であるAICを試験的に搭載した第2世代型IS『シュヴァルツェア』を専用機としている。

 か.....」

 

 

しかし、調べたはいいものの問題点が2つ程出てきてしまった。

 

 

「...どうやってラウラ隊長と接触しよう?」

 

 

まず1つはそれだ。

俺は未だにラウラ隊長と話すどころか会ったことすらない。

あったことがない相手と接触するというのは、なかなかハードルが高い。

しかも接触するだけでなく、何とかして力こそ全てという認識を改めさせなくてはいけない。

一応教官に頼み、ラウラ隊長の思考を調べてもらった。

結果は、クラリッサさんから聞いた通り、教官の狂信者のようになっていた。

これを知った教官からも

 

 

「私からも頼む。ラウラの考えを改めさせてくれ」

 

 

と言われた。

他のシュヴァルツェ・ハーゼのみんなに聞いても、やはりラウラ隊長の考えは改めないといけないようだ。

因みにその事を聞きまわっている際、殆どの人から

 

 

「一夏ならできるよ!」

 

 

と言われ、謎の信頼があることが判明した。

まぁ、どうやって接触するかはまた後で考えるとしよう。

それに、もう1つ問題がある。

 

 

「何で反応しないんだ...?」

 

 

それは、ダークコアデッキケースが全く反応しないことだ。

あの時のように大剣を出すことも、鎧に変換することもできない。

 

 

確かに俺はまだまだ未熟者なんだろう。

しかしこの半年間での訓練のお陰で、俺は白兵戦ならクラリッサさんと互角に渡り合えるくらいにまで成長した。

それでもダークコアデッキケースは反応してくれなかった。

 

 

俺が考え込んでいると、

 

  コンコン

 

と部屋の扉がノックされた。

俺が返事をすると、

 

 

「一夏。クラリッサだ。そろそろ訓練が始まるぞ」

 

 

という声が聞こえた。

クラリッサさんが呼びに来てくれたらしい。

 

 

「分かりました!すぐ行きます!」

 

 

俺はそう返事をすると、ダークコアデッキケースを仕舞い部屋から出た。

そしてクラリッサさんと並んで訓練場に向かう。

 

何はともあれ、今は訓練だ!

 

 

--------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

訓練も一旦終了し、今は昼休憩。

いつもと同じようにクラリッサさんと二人で過ごしている。

やっぱりクラリッサさんといると落ち着くなぁ、そんなことを考えている俺に少しばかり嫉妬の視線が突き刺さっていた。

 

 

クラリッサさんは隊員達から『お姉さま』と呼ばれるくらい部隊内での人気が高いのだ。

まあ、ただ、その人気の高さ故、ヲタク趣味が広まらないか少し心配である。

そんな人と二人でいる俺に嫉妬するのは当然かもしれない。

 

前に

 

 

「休憩のとき、いつも俺と一緒にいてくれますけど、良いんですか?」

 

 

と質問をしたことがある。

この質問を受けたクラリッサさんは

 

 

「あーあ、なに、あの、その、お前と一緒にいると、なんというか、落ち着くからな。

 それに私がこうしたくてこうしてるんだ。

 問題ないだろう?」

 

 

と頬を赤く染め、少し恥ずかしそうにしながら答えた。

....このときのクラリッサさんを可愛いと思った俺は悪くないと思う。

 

 

そんなこんなで俺は少し居心地の悪さを覚えつつも、クラリッサさんと会話する。

内容は日本のアニメについてだった。

 

 

先程チョロッと触れたが、クラリッサさんは日本のサブカルチャーヲタクである。

俺が此処に来た初めのころは、少女漫画の内容が日本の文化なんだと勘違いしていた。

俺と関わることでその勘違いは治ったが、がっつりと日本の漫画やアニメにはまっている。

 

 

クラリッサさんはヲタク趣味を隠すことはせず、寧ろおすすめの漫画やアニメなどを他の隊員たちに勧めている。

アニメにハマった隊員と、そのアニメについて話したりもしている。

しかし、その隊員いわく

 

 

「お姉さまが一番笑顔なのは一夏と一緒にいるときよ。ちょっと悔しいけどね」

 

 

らしい。

つまり、目の前にあるクラリッサさんの楽しそうな満面の笑みを他の隊員はあまり見ていないということになる。

ちょっと自分が特別みたいに思えて嬉しくなるな。

 

 

.....ん?

ちょっと特別?

それによる嫉妬?

 

 

そうか!

 

 

「そうか!」

 

 

「おお!?い、いったいなんだ一夏!?」

 

 

...あ無意識に思ったことも叫んでたわ。

まぁ、何はともあれ、これならいけるかも!

 

 

「クラリッサさん!俺、ラウラ隊長を変える方法を思いつきました!」

 

 

「なぜ今!?ま、まあいい。それで、それはどういう方法だい?」

 

 

クラリッサさんが聞いてくるが、説明より前に...!

 

 

「取り敢えず教官のところに行きましょう!説明は教官と一緒にします!」

 

 

「あ、ちょ、一夏!?待ってくれ!」

 

 

そうして俺はクラリッサさんとともに教官のもとに向かう。

ラウラ隊長は教官の狂信者だ。

ならば.....それを利用する!

 

 

-------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

千冬side

 

 

軍の訓練の昼休み。

私は教官室でラウラについて考えていた。

 

 

一夏からラウラの思考と考え方の調査をしてくれと言われたときは驚いたが、

.....結果を考えると調査して正解だったと思う。

 

 

ラウラは、力こそ全てと信じ込んでしまっていた。

おそらく...いや、確実に私が原因だ。

 

 

ラウラは部隊の中でも出来損ないの落ちこぼれと言われていた。

そこが少し前の一夏と似ていたからだろうか。

私はラウラを徹底的に指導した。

その結果、ラウラはシュヴァルツェ・ハーゼの隊長になった。

 

 

しかし、力をつけたことで成功したため、それが全てだと、正義だと信じるようになってしまったようだ。

力こそが全てと言いう考えのせいで、まだまだ素人である一夏のことを毛嫌いしているようだ。

 

 

それ以外にも、一夏を毛嫌いする理由がありそうだ。

それはおそらく.....嫉妬。

どうやらラウラは一夏が私の弟であり、大切な存在であるということに嫉妬しているようだった。

 

 

一夏は私に残った唯一の家族なのだから、特別な存在で当然だと思う。。

しかし何を言ってもラウラには届かないようだ。

 

 

一夏なら何とかしてくれそうだがなぁ.....

と、そんなことを考えていると、一夏に対して一つ疑問が出てきた。

 

 

「そういえば、何であいつは大剣の訓練なんかしているんだ?」

 

 

軍での訓練は銃やナイフ、体術の訓練が基本である。

しかしここ、シュヴァルツェ・ハーゼはIS部隊だ。

当然だが、ISに関する訓練なども存在する。

しかし一夏はISに乗れないため、時間が余ってしまうのだ。

 

 

そのため、私はその時間は好きな訓練でもするといい。と伝えた。

すると一夏は大剣の訓練をするようになった。

まぁ、確かに好きな訓練をしろと言ったのは私なのでとやかく言うつもりはない。

それでもやはり違和感を感じる。

 

 

そう。あれは、まるで...

 

 

「大剣を使った実戦をするための訓練の様な...」

 

 

一夏が使っている大剣は、一夏自ら設計し作ったものだ。

何のためにそこまでするのか。

私はそこを疑問に思っていた。

 

 

そんなことを一人考えていると、部屋の扉がノックされる。

 

 

「教官、突然失礼します。

 織斑とハルフォーフです。

 入ってもよろしいですか」

 

 

「あぁ、鍵は開いている。入って大丈夫だ」

 

 

そう返事すると、一夏とクラリッサが並んではいってきた。

 

 

「「失礼します」」

 

 

二人は軽く頭を下げながらそういうと、扉を閉めた。

私は扉が閉まったことを確認すると、二人に言葉を掛ける。

 

 

「それで、いったい何の用だ?」

 

 

「はい。ラウラ隊長のことについて、教官.....いや、千冬姉に協力してほしいことがあって」

 

 

今、一夏は教官と言った後わざわざ千冬姉と言い直した。

つまり、私が姉として協力しないといけないことなのだろう。

 

しかし、久しぶりに一夏に千冬姉と呼ばれたな。

いつもこう呼んでいたのに、久しぶりだからうれしいな。

 

 

ち、違うぞ!わ、私はブラコンではない!断じてだ!

私は頭をぶんぶんと振りながらブラコンだどいうことを否定した。

 

 

突然そんなことをした私に驚いたのか、クラリッサが

 

 

「きょ、教官!大丈夫ですか!?」

 

 

と聞いてきた。

 

それから暫くして落ち着くと私は再び一夏に質問する。

 

 

「それで一夏。協力してほしいこととは?」

 

 

「あぁ。ラウラ隊長の考え方を改めるため計画があって。

 それは.....」

 

 

それを聞いて私は驚いた。

クラリッサも驚いているようなので知らされていなかったらしい。

 

 

「い、一夏。そんなことを考えていたのか」

 

 

「はい、クラリッサさん。確かにこの計画は結構大胆なものです。

 でもこれくらいしないとラウラ隊長は変わらないと思います。

 それで、2人とも協力してくれますか?」

 

 

私は一瞬迷った。

先程一夏が言ったように、これは大胆な計画だ。

失敗したらどうなるか分からない。

だが、確かにこれくらいしないとラウラは変わらなさそうだった。

 

 

だから、クラリッサと私は一夏の計画に協力することになった。

さて、どうなることやら.....

 

 

 

 




ラウラぁ...すまん。
たぶん次回には登場できるから!


ラウラ「本当か?」


ああ!たぶんだけど。


???「それよりも、クラリッサ様はヒロインしてるのに、
   私は出れないってどういうことですか?」


ちょ!タグバレはしてるけど、本文には影も形も居ないんだから出ちゃダメ!!


と、とりあえず次回も楽しみにしていてください!


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プロローグ6 煉獄の『チカラ』は『力』と接触する

一夏「作者よ.....」


は、はい!


一夏「確かにこの小説は駄文だ。
   でもなUAは2000を超え、
   お気に入りに登録してくださった方も25人を超えたんだ...」


そうです!とてもありがたいです!


一夏「なら.....戦闘シーンを途中で切るなぁ!!!」


ご、ごめんなさいぃぃぃ!


こ、今回もお楽しみくださいぃぃぃ!!


三人称side

 

 

異世界。

此処では、団長と呼ばれるドラゴンが一人の人間の少年を観察していた。

 

 

《ついに動き出すか...》

 

 

どうやらその少年は何か行動を起こすらしい。

 

 

《お前に足りないモノ、それはチカラを使う『覚悟』だ...

 それがない限り、ダークコアデッキケースは反応しない。

 だが.....》

 

 

ドラゴンはそこで言葉を区切り、再び少年をジッと観察する。

そして暫くすると再び口を開く。

 

 

《もう、それも達成できそうだ。》

 

 

そういうとドラゴンは体の向きを変え、歩き始めた。

 

 

《あと一歩。あと一歩踏み出せば.....》

 

 

 

 

《『煉獄騎士』の覚醒はもう近い...》

 

 

 

-------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

一夏side

 

 

翌日。

俺と教官とクラリッサさんは早速計画を実行することにした。

 

 

計画の内容は、とにかくラウラ隊長の嫉妬心を煽る!!

クラリッサさんの情報だと、隊長は俺が教官...千冬姉の大切な存在であることに嫉妬しているようだった。

だから、ラウラ隊長の前で弟として千冬姉と仲良くしていれば、ラウラ隊長は嫉妬し俺に突っかかってくるだろう。

クラリッサさんも、隊長が俺のことを毛嫌いしている理由を知っているから、相当隊長から信頼されていると思う。

そんなクラリッサさんも一緒に仲良くしてるところを見せることでさらに嫉妬心を煽るという計画だ。

 

 

そんな訳だが今は訓練中。次は体術の訓練だ。

この計画は昼休憩などにしか実行できないため、今は訓練に集中することにする。

 

 

「全員集合!!」

 

 

教官から集合がかかったため、急いで集合する。

全員が3分で集合すると、教官は口を開いた。

 

 

「今から体術の訓練になるがその前に私の体術をお前たちに見せたいと思う」

 

 

どうやら訓練前に教官の体術を見ることができるらしい。

これはいい機会だ。じっくり見よう。

と思っていると、

 

 

「相手役は、織斑!」

 

 

「はい!!」

 

 

「自分の好きな武器で来るがいい」

 

 

相手役に任命されてしまった。

まぁ、教官の体術を見るだけじゃなく感じることができるから得をしたと思っておこう。

 

 

「分かりました!すぐ取ってきます!」

 

 

さて、とりあえず大剣の模造剣をとって来よう。

 

 

---------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

そんなわけで、俺は今大剣の模造剣を両手に持ち教官と対峙している。

あくまでも教官の体術を見せることがメインなので、教官は素手だ。

 

 

みんなは俺と教官を円形に囲み、静かに見守っている。

みんなが教官に注目する中、一人だけ俺に嫉妬の視線を向けてくる人がいた。

チラッと見ると其処にいたのは、小柄な体に綺麗な長い銀髪、眼帯で覆われた左目と血のように真っ赤な右目が特徴の人。

 

 

ラウラ隊長だった。

どうやら隊長は相手に選ばれたのが自分ではないので嫉妬しているようだった。

計画を本格的に実行する前に一つ嫉妬させることができた。

教官はこれを狙ってたのかな?

 

 

まぁ、それよりも今は訓練だ。

教官がメインとはいえ、俺も無様に負ける訳にはいかない!

俺は教官を見ていつも行動の前に言い、最近では部隊のみんなも言うようになった言葉を言う。

 

 

「ゴー・トゥー・ワーク」

 

 

俺はその言葉を言うと足に力を込めて、一気に教官に近づき大剣を思いっきり振り下ろす!

しかし当然のように教官は体を少し捻るだけで大剣を交わすと俺の顔をめがけて腕を振る。

俺もそこまでは読んでいたので大剣を振り下ろした時の勢いを利用して右足を軸に回し蹴りをした。

それでも教官には届かず、教官は俺の顔を目指していた左腕の向きを変えると、俺の回し蹴りをガードする。

 

 

「フム。なかなかやるじゃないか」

 

 

「余裕で防いでおいてよくそれが言えますね!」

 

 

さあ、これからだ!

 

 

-------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

まぁ、当然のように俺は負けた。

でも互角とまではいかなくてもそこそこいい勝負が出来たんじゃないだろうか。

 

 

寝転がりながらそんなことを考えていると、クラリッサさんが声えを掛けてくれた。

 

 

「一夏、大丈夫か?」

 

 

「はい一応は」

 

 

「互角とは行かなくともいい勝負だったぞ」

 

 

どうやらクラリッサさんは俺と同じ様に思っているらしい。

俺はクラリッサさんが差し出してくれた手を取り、立ち上がる。

クラリッサさんは優しいなぁ。と、そんなことを考えていると、

 

 

「織斑は暫く休憩してて大丈夫だ。さてその他諸君は、訓練を開始しろ!」

 

 

教官が指示を出した。

暫く休憩できるのは有り難い。

 

 

さて、計画は昼休憩からか。

そんなことを考えていると、訓練できるくらいには体力が回復したため、訓練に戻る。

どうなることやら。

 

 

--------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

千冬side

 

 

昼休憩。

私と一夏とクラリッサはラウラを変えるための計画により三人でこの時間を過ごすことになっている。

 

 

さて、私がいま何をしているかというと

 

 

「それで、ギリギリになってニックがブレイク・ソードを完成させて...」

 

 

「基地が襲撃されたがニックがフラフラになりながらもエクスに持って行ったんだろう?」

 

 

一夏とクラリッサが仲良く喋っているのをただただ聞いているだけだった。

話しているのは日本のアニメの内容のようで、私にはさっぱり分からなかった。

でも、一夏の楽しそうな顔につられて私も自然と口元が緩む。

 

 

しかし、クラリッサは楽しそうというより幸せそうという表情だな。

まさか一夏に惚れた...?いや、それはないか。

一夏はまだ中学生だ、彼女など認めん!!

 

 

...ん?いや、私はブラコンではない!!断じてだ!!!

 

 

それにしても、やはり先程から嫉妬の様な視線が突き刺さっているな。

ラウラか。

一夏、ここからどうするんだ?

期待してるぞ。

 

 

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一夏side

 

 

昼休憩のとき、ラウラ隊長は俺に凄まじいほどの嫉妬の視線を向けていた。

その威力は凄まじく、周りの何人かは顔を青くしてブルブル震えていた。

これは今日にでも俺のもとに来るかもしれん。

 

 

今は今日の訓練も終了した夜の10時。

俺は風呂に入った後、自分の部屋に戻っていた。

 

 

俺はこのシュヴァルツェ・ハーゼ寮唯一の男子ということで、風呂に入れる時間が遅く、しかも短い。

まぁ、仕方ないけどさ。

そんなこんなで俺が部屋に向かっていると、

 

 

「織斑一夏!!!」

 

 

そのように呼ばれた。

俺のことをフルネームで呼ぶ人なんて、シュヴァルツェ・ハーゼのみんなにはいない。

つまり、今日漸く初めて話す人というわけだ。

 

 

俺は振り返るそこにいたのは.....

ラウラ隊長だった。

 

 

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ラウラside

 

 

私はとにかく織斑一夏が憎かった。

教官が私には見せない表情をアイツに見せるのが、とてつもなく悔しかった。

 

 

私は今ではシュヴァルツェ・ハーゼの隊長をしているが、かつては落ちこぼれの出来損ないと言われていた。

そんな私を変えて下さったのが教官だった。

教官の言う通りに訓練をした。

まるで死んでしまうのではないかと思ってしまうほどきつかったが、確実に力をつけていった。

それにより、私は出来損ないの評価を覆し、隊長になったのだ。

 

 

そうしたことで、私はあることを学んだ。

それは、力が全てだということだ。

力がなければ私はまた、出来損ないと言われてしまうだろう。

...それは嫌だ。

 

 

だから私は今でも必死に訓練している。

出来損ないと言われないように。

教官に見捨てられないように。

 

 

それなのにアイツは簡単に私から教官を奪っていく。

だから私はアイツを.....織斑一夏を倒すことにした。

アイツより私が強いと、力があると証明すれば、教官は私を見てくれる!

 

 

私は織斑一夏を探した。

あんな男は教官に相応しくないんだ.....!!

 

 

暫く探していると織斑一夏を見つけた。

 

 

「織斑一夏!!」

 

 

そう呼ぶと、その男は振り返って私を見る。

 

 

教官に相応しいのは、力があるのは私の方なんだ!!

 

 

 

 




あー、一夏怖かった。


クラリッサ「今回私、影薄くなかったか!?
      私ヒロインだぞ!」


ごめん。???さんが私は出てないのにクラリッサだけヒロインするのはずるいっていうから...


クラリッサ「まだイチャイチャ少ないんだぞ!!」


展開的にイチャイチャは確かにしてないけど、この先あるから許して。


クラリッサ「あるのか。なら許そう」


よかったぁ。
次回も楽しみにしていてください!


評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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プロローグ7 煉獄騎士の覚醒

前回一夏に怒られたので、ちゃんと戦闘シーンを書いたのですが...


何だこれ?


超読みにくいし、超分かりずれぇ!


いつもより駄文度が上がってる...!


そんな今回ですが、サブタイ通りになります!
再登場まで長かった...


さっきも言った通り、いつもよりもっと酷いですが
お楽しみください!


一夏side

 

 

時刻は夜十時を少し過ぎたころ。

シュヴァルツェ・ハーゼの寮の廊下で、俺はラウラ隊長に呼び止められていた。

それも、隊長は相当な目つきで俺を睨んでいる。

 

 

いや、分かってる。原因は俺だ。

俺はラウラ隊長の『力』が全てという考えを改めさせるきっかけのため、隊長の嫉妬心を煽った。

もちろん、アフターケアまでちゃんとするつもりだった。

 

 

でも、まさか一日でこうなるとは思わなかった。

ちょっと煽りすぎたか...?

俺はそんなことを考えていたが、取り敢えず返事することにしよう。

 

 

「あ、はい。何か御用ですか、ラウラ隊長?」

 

 

「お前が隊長と呼ぶな!!」

 

 

ありゃりゃ。返事しただけなのに...

 

 

「それはすみませんでした。それで、御用は?」

 

 

「織斑一夏、私と戦え!!」

 

 

戦え。つまり勝負か。

まぁ、たぶん自分の方が力があるという証明のためなんだろうが...

一応理由は聞いておこう。

 

 

「はぁ、えっと、理由をお聞きしても?」

 

 

「決まっている!私の方が力があると、教官に相応しいと証明するためだ!」

 

 

やっぱりか.....

隊長の過去はクラリッサさんから聞いている。

あの環境ではそうなってしまっても仕方ないと思う。

でも、やっぱりそれは間違っていると思う。

 

 

俺はあの時、煉獄のチカラを使うことで、生き延びた。

でも、あれはただの力ではなかった。

あの大剣の物理的な力はものすごかった。

だが、相手に恐怖を与える力がなかったら、あのISの女にはかなわなかった。

 

 

それ以外にも、煉獄の物ではないが、料理の力、コミュニケーションの力があったから、シュヴァルツェ・ハーゼのみんなとも仲良くできた。

そんな『力』の集まりが、『チカラ』。

煉獄の物があと、何が含まれているかはわからない。

でも、力だけではないことは分かる。

 

 

つまりただの物理的な力だけでは今の俺はいない。

だから.....

 

 

「ラウラ隊長。一つよろしいですか」

 

 

「だからお前が隊長と呼「あなたにとって、『力』は何ですか」なんだと?」

 

 

さて、どうなるか...

 

 

「そんなもの聞かれるまでもない!力とは、全てだ!力とは正義だ!」

 

 

「お言葉ですが隊長。『力』だけでは何も出来ませんよ」

 

 

「ふざけるな!お前に、お前に何が分かるというんだ!!」

 

 

「あなたのことは完全には理解できません。ですが多少なら理解できます。

 私もかつて出来損ないと呼ばれ、教官...千冬姉に助けられました。

 ですが、私はたとえ『力』が強くても今此処にはいないでしょう」

 

 

「ならば、お前は何が大切だというのだ!?」

 

 

「物理的な『力』も大切ですよ。

 でも、それだけじゃない。

 この世界では『力』だけじゃ解決できないこともある。

 それを解決できるのは、物理的ではない他の『力』。

 そんな様々な『力』の集合である『チカラ』。

 それが私は大事だと思ってます」

 

 

隊長は目を丸くしていたが、暫くすると、また戻った。

 

 

「わ、私はそんな事認めん!!力こそが全てだ!それを証明する!!!」

 

 

「分かりました。勝負は引き受けます。

 申し訳ないのですが、教官の許可はとっていただけますか?」

 

 

そう言うとラウラ隊長は「フンッ!」と背を向け、歩き出した。

.....許可出るかな?

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

翌日の昼休憩。

これ以上ラウラ隊長を煽ると大変な事になりそうだったので、もうやめた。

 

 

そんなこんなでいつものようにクラリッサさんと過ごしていると、教官が語り掛けてきた。

 

「一夏。ちょっといいか?」

 

 

「教官。大丈夫です。どういたしましたか?」

 

 

「お前とラウラの勝負のことなんだが」

 

 

隊長はもう許可を取ったようだった。

 

 

「ん、なんだい一夏。隊長と勝負するのかい?」

 

 

「はい、クラリッサさん。それで教官、勝負が何ですか?」

 

 

「あぁ、一週間後に行うことになった。それで大丈夫か?」

 

 

「はい。大丈夫です。それで、ルールは?」

 

 

「真剣や実弾、閃光玉は禁止。それ以外はOKだ」

 

 

「了解しました」

 

 

此処で勝てないと、ラウラ隊長は一生変わらないだろう。

だから、この勝負.....勝つ!!

 

 

--------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

ラウラside

 

 

私と織斑一夏の勝負の日がやってきた。

 

 

私は今、模造刃のナイフを両手に持ち、織斑一夏と対峙している。

織斑一夏も模造刃の大剣を持っている。

私達の周りにはシュヴァルツェ・ハーゼの部下たちが勝負を見るために周りをかこっている。

そして審判役である教官が一歩出て、

 

 

「それでは、今よりラウラ・ボーデヴィッヒと織斑一夏の勝負を開始する」

 

 

とおっしゃられた。

 

 

その言葉を聞くと、織斑一夏は大剣を両手で構え、

 

 

「ゴー・トゥー・ワーク」

 

 

と言った。

私も両手に持つナイフを構える。

 

 

「勝負.....開始!」

 

 

開始の合図が出ると、私は足に力を籠め、一気に織斑一夏に伝わる。

織斑一夏の得物は大剣、つまり小回りが利かない。

だから、肉薄してしまえばこっちのもの...!

 

 

そう思ったものの、織斑一夏は大剣を使えない距離になる前に大剣を振るってくる。

これくらいは想定内だ。

私は体を右にずらしながら右手に持ったナイフで切りかかる。

しかし、織斑一夏は大剣から左腕を離し、私の右腕をからめとると、

 

 

「ハアッ!!」

 

 

右足での蹴りを顔面目掛けて放ってくる。

 

 

私はここまで出来るとは思わず、とっさに開いている左腕でガードするも、蹴り飛ばされてしまう。

 

 

「ガハッ...!」

 

 

私は蹴り飛ばされた先で倒れてしまう。

 

 

「な、何故...!」

 

 

顔を上げると、織斑一夏が大剣を振りかぶっていた。

私は立ち上がり切れてなかったので、そのまま大剣に両手のナイフを弾き飛ばされてしまう。

織斑一夏はそのまま剣を振るう向きを変え、私に切りかかってくる。

 

 

「グフッ!!」

 

 

模造刃なので切れることはないが、私は再びその場から飛ばされ仰向けに倒れてしまう。

 

 

何故だ...なぜ勝てない!?

私は力がある筈だ、それなのに、何故...!?

 

 

そこで私は織斑一夏の言葉を思い出す。

 

 

『お言葉ですが隊長。「力」だけでは何もできませんよ』

 

 

ふざけるな、私は、私は.....!

 

 

〈汝、自らの改変を、絶大なる力を求めるか?〉

 

 

何.....?

それがあれば、私は、アイツを、織斑一夏を超えられるか?

 

〈当然だ〉

 

 

ならば.....寄越せ!世界最強の、絶大なる力を!!

 

 

〈Valkyrie Trace System Stand-by―――boot〉

 

 

「うぐぁぁぁぁああああああああああ!!!」

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

いま、何が起こっている.....?

勝負の途中、急にラウラ隊長が苦しんでいるように叫びながらIS、シュヴァルツェアを展開したと思ったら、

シュヴァルツェアが急に変形しだした。

 

 

シュヴァルツェアは黒くドロドロしたものになると、ラウラ隊長を飲み込み、形を変えていった。

そして完成したのが、

 

 

「暮桜...?」

 

 

そう、教官の...千冬姉の専用機である暮桜だった。

 

 

「馬鹿な...VTシステムか!?」

 

 

 

そう教官は口にする。

 

 

「VTシステム...?」

 

 

「あぁ、VT...ヴァルキリー・トレース・システム。

 過去のモンド・グロッソの優勝者、つまり私の動きをトレースするものだ。

 だが、パイロットに多大な負担を掛けるため、アラスカ条約で研究、開発は禁止されている。

 なぜそれが...!」

 

 

と俺と教官が話していると、黒い暮桜...偽暮桜はこちらに突っ込んできた。

俺と教官は二方向に分かれてよけるも、偽暮桜は俺に標準を合わせた。

どうやら俺がターゲットらしい。

偽暮桜は俺に暮桜に搭載されている剣『雪片』に似た剣『偽雪片』を振るってきた。

 

 

あ、死んだ。

そう思って目を閉じる。

が、

 

 

「一夏!!」

 

 

「クラリッサさん!?」

 

 

クラリッサさんもシュヴァルツェアを展開し、俺を庇ってくれた。

 

 

「すぐ逃げろ!!」

 

 

「は、はい!!」

 

 

俺はクラリッサさんの指示に従い、俺はそこから離れる。

そのまま偽暮桜と交戦するも、やはり贋作でも暮桜のため、クラリッサさんが押されている。

 

 

「くっ...!なぜ今暮桜がない!!」

 

 

教官はどうやら今暮桜を持っていないらしい。

そしてドイツ軍にある最後のISコアは第3世代型機開発のため、今は使えない。

つまり、増援は見込めないということだ。

 

 

「きゃあ!!」

 

 

「クラリッサさん!!」「「「お姉さま!!」」」

 

 

俺とシュヴァルツェ・ハーゼの隊員の声が重なる。

クラリッサさんは、ISが解除され、俺の方まで、吹き飛ばされてしまった。

 

 

偽暮桜は一歩一歩こちらに近づいてくる。

 

 

「いち、か....お前、だけでも.....」

 

 

クラリッサさんが弱々しく声をかけてくる。

でも、俺にクラリッサさんを見捨てることはできなかった。

俺がシュヴァルツェ・ハーゼに馴染めたのは、クラリッサさんのお陰だ。

そんな人を見捨てるなんて、俺には.....

 

 

だから俺はクラリッサさんを守るように前に出た。

 

 

「な...!?一夏!?」

 

 

「一夏!危険だ!逃げろ!!」

 

 

「何してるの!?早く!!」

 

 

クラリッサさんや教官、隊員たちが口々に言ってくる。

だけど.....

 

 

「恩人の様な大切な人と、変えると誓った人を守れずして、何が『チカラ』だ.....!

俺は、自分の信じたもののために『チカラ』を使う!

 ソレが今だ!!

 ここで逃げたら、煉獄の『チカラ』を使う資格なんてない!!

 だから俺は、俺は戦う!!!」

 

 

「何を言ってるんだ一夏!早くそこから―――」

 

 

逃げろ、と言われる前に偽暮桜の動きが何者かに縛られたように止まり、何処からか声が聞こえてきた。

 

 

《漸く、最後の一歩を踏み出したか.....》

 

 

それはあの時とは違い不気味さは無いものの、確実にあの時の声だった。

 

 

「今の声は.....」

 

 

教官がそんなことを言うと同時に、俺のポケットから何かが紫の光と共に飛び出てきた。

それは、ダークコアデッキケースだった。

 

 

俺はダークコアデッキケースを左手で勢いよく掴む。

すると、ダークコアデッキケースはエネルギー体になり、俺の左肩まで覆うと黒と金の鎧になった。

鎧が出来ると同時に俺の髪が伸び、だいたい背を覆うくらいの長さになった。

左手を前に突き出すと、その中に一本の大剣が出現する。

その大剣は、大きさこそ以前の大剣と同じくらいだが、モノは全く違っていた。

剣の柄は血のように紅く、刀身は鎧と同じくらい黒い。

そして柄から刀身にかけて柄よりも明るい赤で描かれた模様が特徴的だった。

 

 

俺はその大剣を掴むとあることを思いつく。

あの時とは違う剣、あの時よりも着てる範囲が多い鎧。

つまり前回はやはり声の主に半分くらい無理やり起動してもらってたんだろう。

でも今は...俺の意思で起動することが出来た。

これで煉獄の『チカラ』に認めてもらったかな?

 

 

装着が一通り終わると、偽暮桜を縛っていたものがなくなる。

此処からは自分で.....ってことか。

 

 

クラリッサさんや教官、隊員のみんなが驚いて声すらも出ない中、俺は偽暮桜を見据え、大剣を構える。

 

 

「俺のターンだ!ゴー・トゥー・ワーク!!」

 

 

絶対に守ってラウラ隊長も助ける!!

 

 

 

 




ついに一夏覚醒!!
...完全ではないけど。


そして、プロローグ2でチョロッと言ってた剣が登場しました!
やっぱ煉獄騎士の剣って言ったらこっちでしょ!


それに一夏はクラリッサのことを「大切な人」と言いました。
おや、これは.....?


まぁ、でもタスク先輩も同じような事牙王君に言ってたし、
一夏もこれくらい言うよね!
時系列的に同じ13歳だし!


VTシステムにはフライングで登場してもらいました。
たぶん皆さん予想出来てたんじゃないですか?


次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!


評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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プロローグ8 煉獄の『チカラ』VS贋作の『力』

前回に引き続き、今回も戦闘シーンがあるんですが...


なんて幼稚な文なんだぁ。
戦闘シーンのコツを知りたい...


取り敢えず、今回もそんな内容ですが、
お楽しみください。


UAが3000を突破しました!
ありがとうございます!


クラリッサside

 

 

私は、夢でも見ているんだろうか。

だが、先程から身体は痛むし、周りの教官や隊員達も、信じられないモノを見ているようだ。

それも仕方ないと思う。

それくらい、目の前で起こったことは衝撃的だった。

 

 

隊長と一夏の勝負。

その途中で異変は起きた。

隊長が急にISを展開したと思うと、VTシステムによってその姿が暮桜になってしまった。

それでも衝撃的だが、私達が驚いてるのはまた別のことだ。

 

 

VTシステムが発動したのを確認した私は一夏を守るためISを展開し、偽暮桜と交戦、敗北した。

そんな私を守ろうと一夏が前に出た。

私や教官、隊員達は避難するよう呼び掛けた。

だが一夏は戦うと叫んだ。

そこからだった。

 

 

急に偽暮桜の動きが止まったかと思うと、何処からか声が聞こえた。

すると一夏のポケットから直方体の物体が光りながら飛び出すと、一夏はそれを左手で掴んだ。

そうすると、その直方体の物体がエネルギーのようになり、一夏の左腕を覆うと黒と金の鎧になった。

鎧が出来ると同時に一夏の髪が背を覆うくらいに伸びると、一夏の左手に黒と紅の大剣が現れた。

 

 

一夏はその剣を構え、

 

 

「俺のターンだ!ゴー・トゥー・ワーク!!」

 

 

と叫ぶと、偽暮桜と交戦し始めた。

 

 

一夏は人間とは思えない身体能力で偽暮桜と交戦している。

私達全員が呆気に取られていると、教官が急に思い出したかのように私のもとに駆けてくる。

 

 

「クラリッサ!大丈夫か!?」

 

 

「はい。身体は痛みますが、骨と内臓は無事です」

 

 

そう言うと教官は安心したような顔をした。

私は教官に一夏について尋ねることにした。

 

 

「教官、一夏のあの姿は.....?」

 

 

「正直な話、私にも分からない」

 

 

「分からない、ですか?」

 

 

「ああ。だが、鎧になったあの直方体の物体、あれは一夏が誘拐された後に入手したものだ」

 

 

「何故その様な事が分かるのですか?」

 

 

「あれは一夏が廃工場で倒れていた時に握りしめていた物だ。

 一夏はもともとあれを持っていなかった。

 つまり、誘拐後に入手したということだ。

 一夏にあれは何かと尋ねたとき、一夏は知らないといっていたが、やはり何か知っているようだ」

 

 

教官でも詳しくわからないのか...

私と教官がこのような会話をしていると、隊員の一人が

 

 

「危ない!!」

 

 

と叫んだ。

急いでそちらを見ると偽暮桜が一夏に偽雪片を振り下ろすところだった。

しかも一夏は剣を振りぬいた後なのか、今からでは剣で防ぐこともできない。

私は思わず目を瞑った。

だが、

 

 

「キャスト!ドラゴンシールド 黒竜の盾!」

 

 

その一夏の言葉で目を開けると、一夏が正面に半分が腐敗したようなドラゴンの装飾が付いた盾で偽雪片を防いでいた。

その盾は偽雪片を弾くと、闇の粒子になって消えていった。

 

 

私は目を見開いた。

VTシステムということは、現役のときの教官ということだ。

コピーなので本物より劣るとはいえ、その攻撃を盾一つで防ぐなんて...

 

 

と、急に私はここでさっきの一夏の言葉を思い出した。

一夏はさっき私のことを「大切な人」と言ったか...?

私はそのことを認識すると、顔が急速に赤くなった。

そういう状況じゃないのに.....

 

 

「クラリッサ?どうした?」

 

 

教官が顔を赤くした私を不振に思ったようだ。

 

 

「あ、いえ、大丈夫です」

 

 

そういうと教官は納得してくれたようだ。

取り敢えず、発言の真意は後で聞くとしよう。

分からないことだらけだったが、これだけは言える。

 

 

「一夏...頑張れ」

 

 

 

--------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

危なかった.....

黒竜の盾がなかったら、もう死んでいた。

 

 

鎧を纏ってから、身体能力が上昇したのが分かる。

それだけではなく、魔法――黒竜の盾もそうだ――の使い方も自然と理解してた。

だが、恐らく黒竜の盾以外の魔法は使えないだろう。

俺はまだ完全に覚醒しきれていないらしい。

 

 

しかし、さっきから偽暮桜の動きが鈍ったように感じる。

クラリッサさんと交戦してた時の方が動きにキレがあった。

ドイツはまだ第3世代兵器のAICだけでも試作品だ。

たぶんだが、VTシステムも開発中の試作品のようだ。

 

 

システムの完成度がもっと高かったら、此処まで戦えてない。

それでもギリギリなのだ。

俺が弱いのか、システムの元になった千冬姉が強いのか。

まぁ、たぶん両方だろう。

 

 

偽暮桜が偽雪片を振るってくる。

やはりさっきまでの方が、速く、鋭かった。

 

 

「フンッ!!」

 

 

俺は両手に持った大剣で偽雪片を弾く。

さっきまでだったら逆に弾き返せたであろう攻撃でも偽雪片を完全に弾き飛ばすことが出来た。

 

 

偽暮桜は偽雪片を弾き飛ばされた衝撃の余波で体を少しだが傾けた。

その隙を見逃せるはずも無く、俺は大剣で偽暮桜の胴体を切り付ける。

 

 

すると切り付けた亀裂からラウラ隊長が見えた。

俺は右手を伸ばし亀裂に強引に突っ込んだ。

そしてそのままラウラ隊長を引きずり出し、抱き留めながら偽暮桜を蹴り飛ばす。

ラウラ隊長がいなくなったことで機能を停止したのか、偽暮桜は黒くドロドロしたものになったかと思うと元のシュヴァルツェアに戻っていた。

 

 

俺はラウラ隊長をその場に寝かせる。

脈も呼吸もしっかりしているため、どうやら生きているようだ。

それを認識すると、急に意識がなくなってきた。

俺は傾く視界の中で駆け寄ってくるクラリッサさんを見ると、そのまま意識を失った。

 

 

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クラリッサside

 

 

あれから二日が経った。

私の身体は骨と内臓は無事だったため、もう完治したが隊長と一夏は目を覚まさない。

それも仕方がないだろう。

 

 

一夏が気を失った後、大剣は一瞬オレンジに光ったかと思うと、同じ色の無数の直方体として弾け飛び消滅した。

伸びていた一夏の髪も元の長さに戻り、鎧もエネルギー体になった後、元の直方体の物体に戻った。

あの物体は念入りに調べられたが何もわからず、今は教官が保管している。

 

 

隊長はただでさえ身体に負荷のかかるVTシステム、それも試作品に飲み込まれた反動で身体にダメージが残ってしまっている。

隊長のシュヴァルツェアにVTシステムを仕込んだ研究者はもうすでに捕まり、もうすぐ国際裁判にかけられるだろう。

因みに、隊長は被害者ということで特に処罰はされないようになった。

 

 

一夏もコピーとはいえ、暮桜と戦い、さらにあの鎧と大剣を使ったからか、まだ目を覚まさない。

 

 

そして今、私は一夏と隊長が眠っている医務室を訪れていた。

本来だったら男女別が良いんだろうが、あいにくシュヴァルツェ・ハーゼに男子は一夏しかいないため同室だ。

私は一夏のベットの隣の椅子に腰を掛けると、眠ったままの一夏の手を取った。

その手は大きく、温かかった。

 

 

本当だったらまず隊長なんだろうが、私は一夏のことを考えていた。

思えば、私は結構前から一夏のことを気にかけていた。

シュヴァルツェ・ハーゼの中でも最初に一夏と関わった。

休憩ではいつも一夏といたような気がする。

その時は心が安らいでいたし、気が付くとその時間を楽しみにしていた。

一夏のさりげない言葉や仕草でドキドキしたりもした。

あの時も一夏には逃げろと言ったが、心の何処かでは一夏が庇ってくれたことを嬉しく思った。

 

 

.....ああ、私は、

 

 

「一夏のことが、好きなんだな」

 

 

漸く自覚した。

だが、私はこんな事を思って良いんだろうか?

一夏には隊長がアドヴァンスドだと説明した。

だけど.....私もそうなのだ。

造られた時期が違うから外見に似ているところはないが、私もアドヴァンスドなのだ。

そんな私が一夏に恋をしていいのか。

 

 

そんなことをグルグル考えていると、教官が入ってきた。

 

 

「ん、クラリッサもいたか」

 

 

「はい。ですが一夏も隊長もまだ目覚めてません」

 

 

「そうか...聞きたい事もあるんだがな...」

 

 

「そうですね...」

 

 

教官と会話していると隊長が

 

 

「んんぅ.....」

 

 

と声を出し、ゆっくりと目を開けた。

 

 

「ラウラ!」「隊長!」

 

 

「教官...クラリッサ...此処は...?」

 

 

取り敢えず会話はできそうだ。

私がそう安堵していると、教官が隊長の疑問に答える。

 

 

「此処は医務室だ」

 

 

「医務室...なぜ私はここに?織斑一夏との勝負の途中から記憶がないのですが...」

 

 

「本来なら機密なのだが、本人には知る権利がある、か。

 ...ラウラ、VTシステムは分かるな?」

 

 

「はい、それは...まさか!?」

 

 

「ああ、お前が使用していたシュヴァルツェアにそれが仕込まれていた。

 一夏との勝負中にそれが発動し、お前は飲み込まれた」

 

 

此処まで聞いて隊長は目を見開いた。

やはり覚えていなかったようだ。

 

 

「そう、ですか。私はいったい、どうなるのですか?」

 

 

「お前も今回の事件の被害者だ。お前に処罰はない」

 

 

隊長はホッと胸をなで下ろした。

まぁ、誰しも自分の処罰は気になる。

 

 

「それはそうと、飲み込まれたならいったい誰が私を助けたんですか?教官ですか?」

 

 

「いや、お前を助けたのは、一夏だ」

 

 

そういわれると、隊長は先程よりも驚いた表情をした。

 

 

「いったい、何故...?私は織斑一夏に強く当たっていたはず。それなのに...」

 

 

「詳しいことは本人しかわからないが、昔からコイツはそういう奴だ。

 こいつも昔、出来損ないと言われ、いじめられていた。

 でも私にそれを言うことはなかった。

 私に心配を掛けさせたくなかったからだそうだ」

 

 

そこでいったん教官は言葉を区切った。

これには隊長も、私も驚いていた。

まさか一夏にそんな過去があったなんて...

 

 

「一夏は、自分よりも他人に気を遣うことが多い。

 そんな一夏だから、自分と過去が似たお前を助けたんだろう」

 

 

隊長はかなりのショックを受けているようだった。

 

 

「じゃあ、それなら、私は.....」

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

 

「は、はい」

 

 

「お前はいったい何者だ?」

 

 

「え、あ.....」

 

 

隊長は教官の問いに答えることができない。

 

 

「何者でもないなら、お前は今からラウラ・ボーデヴィッヒになればいい。

 お前は決して他人になることなど出来ない。

 お前はお前だ。

 そして、力だけじゃ駄目だ。

 色々な事があってこその強さなんだからな」

 

 

「.....はい」

 

 

隊長は泣きながら答えた。

 

 

「隊長。一夏ともちゃんと話さないといけませんね」

 

 

「ああ、そうだな。クラリッサ」

 

 

私と隊長と教官が話していると後方から声が聞こえてくる。

 

 

「う、あ.....」

 

 

振り返ると一夏が頭を押さえながら体を起こしていた。

 

 

 

 




今回、クラリッサがついに自分の一夏への好意に気づきました。
でも何か悩んでいる様子.....
クラリッサは自分の思いを一夏に伝えれるのか!?


フライングで登場したVTシステムですが
まだプロローグで本編前なので試作品ということにしました。
だから結構あっさり倒せました。


次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!


評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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プロローグ9 煉獄騎士団が『チカラ』に込めたもの

今回ついに、一夏と煉獄騎士団が接触します!
接触するのはもちろんあのドラゴンですよ!


先に言っておきますと、煉獄騎士団の話にはオリ設定が含まれてます。
ご了承ください。


というわけで、完成度はいつも通りですがお楽しみください!


一夏side

 

 

黒。見渡す限りの、黒。

俺の視界にはそれしかなかった。

 

 

どうして、俺はこんなところにいる...?

俺は確か、ラウラ隊長を偽暮桜から引きずり出して、そのまま寝かせて.....

駄目だ。ここからの記憶がない。

取り敢えずここがどこか確認しなければ。

そう思い何か黒以外のものを見つけようと歩き出す。

 

 

直前に、後方から声が聞こえてきた。

 

 

《漸く接触出来たな》

 

 

俺はビクッとして振り返る。

するとそこに居たのは.....

 

 

「ド、ドラゴン!?」

 

 

そう、ドラゴンだった。

黒と金で作られた鎧の様なものを身に着けており、背中にはまるで血の様な色の紅いマントをしていた。

頭からは一本の剣の様なものが出ており、二本足で立っていた。

そして右手には、俺が誘拐犯達を切ったときとサイズは違うが、同じ大剣を握っていた。

 

 

《そう身構えるな、とは言わない。驚いて当然だからな。

 我は煉獄騎士団団長 ディミオスソード・ドラゴン》

 

 

「れ、煉獄...ってことは!?」

 

 

《そう。お前にダークコアデッキケースを...煉獄騎士としてのチカラを与えたのは我々だ》

 

 

俺は人生で1、2位を争うほど驚いた。

今目の前に俺にチカラを与えてくれた存在が居るのもそうだが、それがドラゴンだったとは.....

にわかには信じられない事だったが、ダークコアデッキケース等のチカラを実際に使った身としては、信じれた。

だが、それと同時に疑問が出てくる。

何故、目の前のドラゴン...ディミオスソードは俺にチカラを与えたのか。

我々、つまりは煉獄騎士団。その目的は何なのか。

考えても答えが出る筈がないため、俺はディミオスソードに質問をすることにした。

 

 

「なぁ、ディミオスソード。幾つか質問があるんだが...」

 

 

《だろうな。だが、質問の前に我らの過去を聞いてもらう必要がある》

 

 

「過去を.....?」

 

 

《そうだ。お前に聞く覚悟...知る覚悟はあるか?》

 

 

俺は一瞬迷った。

 

 

わざわざ警告してくることだ。

相当な内容なんだろう。

.....でも、聞かないといけない。

聞かないと、知らないとここから先には進めない。

 

 

「ああ、覚悟はできた。話してくれ」

 

 

《よかろう》

 

 

そこから俺はディミオスソードの話を...煉獄騎士団の過去を聞いた。

まず、ディミオスソードは「バディワールド」の一つ、ダークネスドラゴンワールドのドラゴンだということ。

バディワールドとは、此処とは異なる人間の世界と「バディファイト」で繋がる異世界な事だということ。

バディファイトとは、相棒となるバディモンスターを決め、バディと共に戦うカードゲームで、未来と無限の可能性があるとのこと。

 

 

ディミオスソード達煉獄騎士団は最初、ダークネスドラゴンWで革命への覚悟と執念で活動をしていたこと。

でも、そこから段々邪悪への道を進んでしまったこと。

そんな中で同じく世界への革命を目指していた少年、龍炎寺タスクとバディを組み、共に戦ったこと。

しかしタスクもディミオス達も臥炎キョウヤという人物に騙されていたこと。

その後、タスクとのバディを解消し、タスクは罪を自覚したものの、煉獄騎士団は自覚できず、荒れたこと。

しかし、最近になって哀悼というものを理解し贖罪への道を歩き出したこと。

 

 

その最中で偶々別の人間の世界...俺の世界を見つけ、俺が殺されそうなところを見たこと。

だが何も知らない俺に簡単にチカラを与えられないから、不気味な声で俺に覚悟を尋ねたこと。

俺が答えたため、煉獄のチカラを半強制起動状態で俺にチカラを与えたことを........................

 

 

「この『チカラ』には物理的な『力』以外の何かがあるのは感じていた。

 それは.....」

 

 

《我らの罪だ》

 

 

 

俺はその話を聞いて絶句した。

こことは違う人間の世界だの、其処とカードゲームで繋がる異世界だのの話にも驚いた。

でも、煉獄騎士団の過去の話を聞くと、その驚愕は何処かに行ってしまった。

その過去はとても壮絶で悲しいものだった。

 

 

俺が何も言えないでいると、ディミオスソードが口を開いた。

 

 

《どうした?自分が振るったチカラが罪に塗れたものだと知って気分が悪くなったか?》

 

 

「いいや、違う」

 

 

そうだ、違う。

確かに驚きはした。

だが、違う。

 

 

「確かに驚きはしたさ。でも、だから何?

 お前達は自分の間違いに気付けたんだろう?

 なら、このチカラには、罪とは別に、希望が宿ってる」

 

 

《希望...か。そんな安直な...》

 

 

「安直でもなんでも、俺はそうだと思うぜ。

 だって.....このチカラがあったから俺は今生きてるんじゃないか」

 

 

俺がそう言うと、ディミオスソードは驚いた様に目を見開く。

 

 

《なるほど...そう来るか...》

 

 

「あぁ、そう行く。

 それでも、お前達が罪を感じるというなら、俺も煉獄騎士としてともに償おう。

 だから、煉獄騎士団団長 ディミオスソード・ドラゴン」

 

 

俺はいったんそこで言葉を区切り、ディミオスソードの目を見ながら続きの言葉を紡ぐ。

 

 

「俺とバディを組んでくれ」

 

 

俺がそう言い切ると、ディミオスソードは更に驚いた顔をした。

しかし、フッと目を伏せ言葉を紡ぐ。

 

 

《フフ、まさかこの短時間でここまで決心するとは思わなかった。此方からも言わせてもらおう。

 織斑一夏、是非我とバディを組んでくれ》

 

 

そして俺とディミオスソードは拳を突き合わせた。

しかしいちいちソードまで呼んでると長いな...

 

 

「なぁ、ディミオスソードって長いから、ディミオスだけでいいか?」

 

 

《好きにしろ》

 

 

許可ももらったからそう呼ばせてもらおう。

しかし、今更だが、此処何処だ...?

 

 

「なぁ、ディミオス。此処何処だ?」

 

 

《なぜ今になってからなんだ...》

 

 

ディミオスもちょっと呆れているようだ。

 

 

「仕方ないだろ。ドラゴンのインパクトが強すぎたんだ」

 

 

《まぁ、いい。此処はお前の精神世界だ。

 我の肉体はまだダークネスドラゴンWにあるから、精神だけでの会話だ」

 

 

「そうだったのか...」

 

 

《あぁ、それはそうと一夏》

 

 

「ん、なんだ?」

 

 

《さっきも言ったが我の肉体はダークネスドラゴンWにある。すぐそちらの世界に行くことはできない」

 

 

「そんな事か。それなら仕方ないな」

 

 

《そしてもう一つ》

 

 

そこまで言うと、ディミオスは言葉を切る。

まるで言葉に詰まっているように...

 

 

「どうしたんだ、ディミオス?」

 

 

《一夏お前は..............................ISが使える》

 

 

はぁ。

 

 

 

 

 

ハァッ!?

 

 

「ハァッ!!?」

 

 

俺はディミオスとの初対面の時と同じくらい動揺した。

 

 

「どどどど、どういうことだ!?」

 

 

《そのままの意味だ。本来女しか起動できないISを起動できる》

 

 

「な、何でそんな事知ってるんだよ!?」

 

 

《お前に煉獄騎士としてのチカラを与えたとき、お前の肉体情報が分かるようになった。

 そこにIS適正有とあったんだ》

 

 

なんてこったい.....

今の社会は女尊男卑だ。

それは最強の兵器である、ISが女性にしか起動できないことを根本としている。

そんな社会に、俺がIS適正があるという情報が出回ったら...

 

 

確実に、社会は混乱に陥る。

そして俺は、女尊男卑主義者からイレギュラーとして消されるか、モルモットにされる。

 

 

「そんな情報流せねぇ...!」

 

 

《取り敢えず、信頼できる者の前だけで一度起動してみろ。誤情報かもしれん》

 

 

「本当だったらどうすんだよ.....」

 

 

《だから、信頼できる者の前だけでだ》

 

 

「はぁ。解ったよ」

 

 

面倒なことになった。

どうして俺はいろいろなものに巻き込まれるんだ。

 

 

《一夏。お前はもう起きろ。お前の目覚めを待っている奴も居るようだ》

 

 

「そうだな。そろそろ起きないといけないようだな」

 

 

そう思い、俺は後ろを向く。

黒い空間にヒビが入っている。

そこの向こうが現実世界の様だ。

 

 

「じゃあディミオス。またな」

 

 

《あぁ。時間はかかるがな》

 

 

俺はディミオスの返事を聞くと、ヒビの中に入っていった。

 

 

---------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

目を開くと視界に入ってきたのは真っ白な天井だった。

どうやら医務室の様だ。

身体を起こしてみると、頭痛がした。

さっきまで精神世界でディミオスと話してたからだろうか。

 

 

「う、あ.....」

 

 

頭を押さえながら声を出した。

すると、

 

 

「一夏!目が覚めたか!」

 

 

そのような声が聞こえた。

そっちの方を見ると、クラリッサさんと千冬姉、それに隊長がいた。

隊長のベッドの隣にクラリッサさんと千冬姉がいるから、隊長も医務室の世話になっているようだ。

 

 

「ああ、はい。今目が覚めました」

 

 

俺がそう言うとクラリッサさんはホッと息をつき、教官も安堵の表情を浮かべた。

心配かけちゃったな...と思っていると隊長が声を掛けてくる。

 

 

「織斑一夏」

 

 

「はい、何でしょう?」

 

 

「その、すまなかった」

 

 

おっと、俺がディミオスと話している間に隊長にも何かあったようだ。

この間までの棘がない。

 

 

「急にどうされました?」

 

 

「私は気付けたんだよ。今までの私が間違っていたことに.....

  謝って済むかどうか分からんが、謝らせてくれ。

 本当にすまん.....」

 

 

「顔を上げてください、隊長」

 

 

俺がそう言うと、隊長は驚いた様に顔を上げた。

 

 

「生きているもの全てに間違いはある。

 大事なのは、それに気づけるかどうかです。

 だからあなたはもう大丈夫ですよ、隊長」

 

 

俺がそう言うと、隊長は少し顔を赤くしながらこう言ってきた。

 

 

「ありがとう。

 そして、その、何だ。

 私に敬語を使わずラウラと呼び捨てでいいから、私も一夏と、呼び捨てでいいか...?」

 

 

「あぁ、大丈夫だよ。これからよろしくね、ラウラ」

 

 

俺が笑顔になりながらそう言うと、ラウラは顔を真っ赤にしてしまった。

そしてクラリッサさんが何処となく不機嫌そうな雰囲気を出す。

一体全体なんなんだ.....?

 

 

俺がそんなことを考えていると、千冬姉が咳払いして注意を引く。

 

 

「一夏。質問したいことがある。いいか?」

 

 

「ああ、大丈夫だよ。千冬姉」

 

 

言った後で教官と呼んでいないことに気が付くが、特に気にしている様子はなかった。

 

 

千冬姉...教官は俺の目を真っ直ぐ見ながら俺に質問を投げかける。

 

 

「単刀直入に聞く。あれはいったい何なんだ?」

 

 

と..........

 

 

 

 




というわけで、一夏は無事ディミオスとバディを組めました!
いやぁ、よかったよかった。


前書きでも言いましたが、煉獄騎士団のストーリーはオリ設定です。
本来の設定と差異がありますがご了承ください。
てか、オルコスどうしよう.....


次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!


評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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プロローグ10 イレギュラーについての説明

感想で言われたのですが、煉獄騎士と言ったらのカウンターファイナル。
あれも登場しますが原作に入ってからの予定です。
つまり、だいぶ先になります。


今回も今回で駄文ですが、お楽しみください!


UAが4000、お気に入り登録者が35人を突破しました!
ありがとうございます!


千冬side

 

 

「単刀直入に聞く。あれはいったい何なんだ?」

 

 

私は一夏がVTシステムに飲み込まれたラウラを救出するために使った鎧や大剣の正体を確認するため、一夏に問う。

試作品だったとはいえVTシステムを発動させたISを倒した物だ。

確認しない訳にはいかない。

それがISじゃないなら尚更だろう。

 

 

男である一夏が使用した時点でISじゃないと分かるのだが、それ以外でもISじゃないと判断できる。

私はISに開発初期段階から関わっている。

ISを開発したのは、私の友人だからな。

そんな私だから分かる。

あれはISじゃない別のナニカだ。

 

 

一夏は先程から私の目を見つめながら黙っている。

まるで、どう説明するか探っているようだ。

先程まで顔を赤くしていたラウラも、不機嫌そうだったクラリッサも一夏のことをジッと見ている。

だが、一夏は何も言わない。

私は再び説明させようとする。

 

 

「男のお前が使った時点でISじゃない、別のナニカだということは分かっている。

 もう一度聞く。あれはいったい何なんだ?」

 

 

そう聞くと、一夏は軽く苦笑いを浮かべ額に手を置いた。

まるで、勘違いしている人を見たときのように。

 

 

「あー、まぁ、そうなるかぁ」

 

 

「一夏?いったい何だというんだ?」

 

 

クラリッサも一夏に聞く。

一夏はクラリッサの方に顔を一回向けた後、私の方に向きを戻した。

 

 

「分かりました、説明します。

 でも、この状態だと説明できないので、完治するまで待ってもらって大丈夫ですか?」

 

 

一夏がそう言ってくる。

会話はできるんだし、今でも問題ないんじゃないかとも思ったが、本人が出来ないと言っているんだ。

この場では聞き出せないだろうと判断した。

 

 

「分かった。だが、確実に説明してもらおう」

 

 

私はそう言うと医務室の入り口に向かう。

 

 

「取り敢えず、今は安静にしておけ」

 

 

私はそういうと医務室から出て、扉を閉めた。

中からは一夏とクラリッサ、ラウラの会話が聞こえてくる。

ラウラは変わることが出来たようでよかった。

しかし、ラウラもクラリッサも一夏に惚れたな?

あの反応では一夏以外誰でも分かる。

アイツはどこまで鈍感なんだ...

まぁ、一夏にまだ恋愛は早いから都合はいいな!

 

 

ハッ!私はブラコンじゃない!そうだ、そうなんだ!!

 

 

私はそんなことを考えながら、教官室に戻ってきた。

私はロックキーが付いた箱を見つめる。

この中には、一夏が持っていた長方形の物体が入っている。

 

 

「一夏...お前にいったい何があったんだ...」

 

 

そんな私の問いに返ってくるものはなかった。

 

 

---------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

あれから三日ほど経ち、俺は医務室から出れた。

いま俺の手元にダークコアデッキケースはない。

どうやら没収されたようだ。

 

まぁ、それもそうか。

たぶん、教官が保管してるんだろう。

 

 

そんなこんなで今。

俺は今シュヴァルツェ・ハーゼのIS訓練場にいる。

後方には整備が終了した2機のシュヴァルツェアがある保管庫に続く扉がある。

そして、目の前には人、人、人、人だった。

 

 

何でこんなにいるんだ...?

教官に、シュヴァルツェ・ハーゼの隊員全員に、IS等の整備班の方々。

それだけじゃなく何故か厨房のシェフやスタッフの人もいた。

 

 

つまり、俺がドイツ軍で関わりがある人全員だ。

 

 

この人達の共通点といえば、教官以外は何かの行動前に

 

 

「ゴー・トゥー・ワーク」

 

 

と言うことだろうか。

ディミオスが言うには、この言葉はディミオスの前バディである龍炎寺タスクさんが所属している「バディポリス」が行動前に言う言葉らしい。

煉獄のチカラを俺に与えたときに記憶の片隅に残っていたこの言葉まで俺に伝わった様だ。

そして俺から広まり、今ではシュヴァルツェ・ハーゼの共通の言葉になってしまった。

いやぁ、別世界の組織でも広まるなんてスゲー。

 

 

.....現実逃避するのはここまでにしよう。

全員が説明を聞きたいとのことで、IS訓練場に来た。

煉獄騎士団についてより俺がISに乗れることを先に言うつもりだったので都合はいい。

 

 

「じゃあ、取り敢えず話を始めようと思う」

 

 

俺がそう言うと、全員が一斉に俺のことをジッと見てくる。

.....やりづれぇ。

俺はやりづらさを感じながらも言葉を続ける。

 

 

「えー、その、人数が多いってことでIS訓練場に来たけど、此処を選んだのには理由があるんだ」

 

 

「理由...か?」

 

 

「そう。理由が」

 

 

クラリッサさんからの呟きに返事しながら、俺は後方の扉を開ける。

そして俺は体の向きを変えると、シュヴァルツェアに近づく。

 

 

「一夏?何をしてるんだ?」

 

 

ラウラの問いを無視し、俺はシュヴァルツェアの隣に来ると、みんなの方に振り返った。

騒がしくなるかと思ったが、静まり返っていた。

俺の行動を見逃さないようにでもしてるんだろうか。

 

 

「これがその理由」

 

 

俺はそう言うと、右手でシュヴァルツェアに触った。

その瞬間、俺の頭に物凄い量の情報が入ってくる。

気が付いたら、俺はシュヴァルツェアを纏っていた。

 

 

あぁ、誤情報じゃないって確信していたが、本当だった。

しかし、この視界の高さは慣れねえな。

 

 

ん?みんなの反応が悪い。

みんなさっきから微動だにしてない。

やっぱ衝撃的だよなぁ。

 

 

『な、ななな』

 

 

「な?」

 

 

『何でIS動かしてんだよ――――!!!!!!!!!!』

 

 

「うおぁ!?」

 

 

さっきまで黙っていたみんなが同時に同じことを言ってきた。

ビックリした...

 

 

「い、いいいい一夏?どどどどどういうことだ?」

 

 

「教官、落ち着いてください」

 

 

「おお、落ち着ける訳ないだろう!?」

 

 

「クラリッサさんまで...」

 

 

そこから、話を再開させるのに30分かかった。

IS解除もしてないんだけど...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「落ち着きましたか?」

 

 

『はい』

 

 

「よし」

 

 

漸くみんなが落ち着いた。

やっとISを解除できる...

俺はクラリッサさんとラウラにサポートしてもらいながら、シュヴァルツェアから降りた。

慣れてないから、降りるのも一苦労だ。

 

 

「まぁ、今見てもらった通りだが、俺はISを動かすことが出来る」

 

 

「一夏...お前、女だったりするのか?」

 

 

ラウラ...何言ってんだよ。

俺が女に見えんのか?

 

 

「違うよ。俺は正真正銘の男だ。ねぇ、千冬姉」

 

 

「あ、ああ。一夏は間違いなく男だな」

 

 

さっきから俺と千冬姉とクラリッサさんとラウラしか言葉を発していない。

いや、衝撃が凄すぎて発せないが正しいのか。

でも一応俺たちの会話は聞いているようだ。

 

 

「しかし一夏。自分がISに乗れるってどうやって知ったんだ?」

 

 

おお、クラリッサさんが話を進める内容に話を戻してくれた。

 

 

「俺がISに乗れるっていうのを知ったのは聞いたからなんです」

 

 

「聞いた?誰にだ?」

 

 

ラウラが新たに質問してくる。

聞いたって言われたら、誰から聞いたか気になるだろう。

 

 

「俺にチカラをくれた人(ドラゴンだけど)からだ」

 

 

それを聞いた千冬姉が一瞬驚いた顔をしたのち、目を細め、パッと見、睨んでいるような顔になった。

千冬姉...それ止めようぜ。めっちゃ怖えよ。

あ、教官って言ってないからかな。

それは俺のミスだな。

 

 

「一夏、そのチカラっていうのは、あれのことか」

 

 

「あれっていうのが、大剣や鎧のことならそうだ」

 

 

「っ、一夏!あれはいったい何なんだ!?」

 

 

「革命と罪と希望のチカラ」

 

 

教官のまくしたてるような問いに間髪入れずに答えると、教官だけでなく、他の人たちまで動揺したような顔になる。

まあ、急に革命だの罪だの希望だの言われたら戸惑うか。

 

 

「い、一夏。その、革命とか罪とかって、いったい何のことだ?」

 

 

クラリッサさんが動揺しながらも聞いてくる。

てか、他の隊員や整備班や厨房のシェフとスタッフはどうした?

もしかして、置物かなんかと入れ替わってるのか?

いや、違うってのは分かるんだけどさ。

 

 

「そのまんまですよクラリッサさん。

 このチカラには、力の他に革命と罪と希望が籠ってるだけですよ」

 

 

俺がそう言うとクラリッサさんだけでなく、教官とラウラも黙ってしまう。

もちろん、革命・罪・希望の意味が分からない訳では無い。

何故ここでその言葉が出てくるかが理解できていない様だ。

 

 

「ラウラ」

 

 

「な、何だ?」

 

 

急に声を掛けられたから、ラウラは少し驚きながら返事をした。

俺はそんなラウラの目を見ながら言葉を発する。

 

 

「ISを使用した模擬戦を俺としてくれ」

 

 

その言葉を認識すると、ラウラと教官とクラリッサさんは目を見開き、周りの人達がざわざわしだす。

やっと反応したよ。

 

 

「一夏?何故急に模擬戦なんだ?」

 

 

ラウラが聞いてくる。

突然模擬戦、しかもISを使用してと言われたのだ。

そう聞いてくるのは当然だ。

 

 

「俺は覚悟を見せないといけない。このチカラを使う覚悟を。それには模擬戦が最適だと判断したからだ」

 

 

俺がそう言うとラウラは今日何度目か分からない驚愕の表情をしたのち、頷いた。

 

 

「分かった。お前がそう望むなら、私は協力しよう」

 

 

「ありがとうラウラ」

 

 

ラウラからの協力は得られた。

次は...

 

 

「教官。ダークコアデッキケースを返してください」

 

 

「ダークコアデッキケース...?」

 

 

「俺が持ってた紫の眼の様なパーツが付いたやつです」

 

 

「だが、あれは....」

 

 

「あれが俺の専用機です。ISではないですがね」

 

 

「っ、何のために.....」

 

 

「もっと詳しい説明が欲しいと言うなら、模擬戦の後にします」

 

 

「.....分かった。だが返すのは模擬戦の当日だ」

 

 

「教官!?いいのですか!?」

 

 

「ああ。だが一夏、終わったら...」

 

 

「分かってます」

 

 

ダークコアデッキケースも返してもらえるようになった。

 

 

模擬戦後には正確に煉獄騎士団についての説明もしないとな。

その時にはディミオスがこっちに来れてると楽なんだが.....

 

 

 

 




今回中途半端なところで切ってしまい申し訳ありません。
しかも一夏君の模擬戦申し込みのところがかなり早足で、キチンと書けませんでした。


ヒロインがヒロインできなかったなぁ。
イチャイチャが見たい人、もう少しでありますから!
恐らく!


そんなこんなで、次回も楽しみにしていてください!


評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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プロローグ11 煉獄騎士の模擬戦

さて、プロローグも11だというのに全然原作が見えない今日この頃。
原作どころかもう一人のヒロインも居ません。
先にそのヒロインと絡む予定なので、本当にいつになるか.....


気長に待ってください。


そしてサブタイでも分かるとおり、戦闘シーンがあります。
相変わらず酷いなぁ.....


今回もいつも通りのクオリティーですが、お楽しみください!


一夏side

 

 

ラウラと模擬戦の約束をしてから二日後。

今日はその模擬戦の日だ。

俺は今自室で教官を、クラリッサさんと待っている。

理由は当然、ダークコアデッキケースを受け取るためだ。

 

 

「なぁ、一夏」

 

 

「どうしました?」

 

 

待っているとクラリッサさんが呼びかけてくる。

 

 

「何で隊長と模擬戦しようと思ったんだ?」

 

 

「二日前にも言いましたが、覚悟を見せるためです」

 

 

「その覚悟とは、いったい何なんだ?」

 

 

「共に罪を償い、歩む覚悟です」

 

 

俺がそう言うと、クラリッサさんは一瞬何処か悲しそうな顔をすると、すぐに決意したような顔になった。

 

 

「一夏。模擬戦が終わったら私の部屋に来てくれないか?」

 

 

「クラリッサさんの部屋...ですか」

 

 

「ああ。...駄目か?」

 

 

クラリッサさんは若干上目遣いで聞いてくる。

可愛い。

まぁ、特に断る理由を無いしな。

 

 

「分かりました。模擬戦の後部屋に伺いますね」

 

 

「ありがとう」

 

 

俺が答えるとクラリッサさんは嬉しそうな顔になる。

 

 

うん。クラリッサさんには笑顔が似合うな」

 

 

「い、一夏。その、照れるだろ」

 

 

「あれ、声に出てました...?」

 

 

「ああ。出てたぞ」

 

 

うわぁ!めっちゃ恥ずかしい.....

 

 

そんな会話をクラリッサさんとしていると、部屋の扉が躊躇いもなく開いた。

 

 

「おい、一夏。持って来たぞ」

 

 

「教官...ノックくらいして下さい」

 

 

「お前にプライバシーの概念があったとは...」

 

 

「ありますよ!」

 

 

いきなり入ってきた教官とこのような会話を繰り広げる。

なんか模擬戦前だというのに緊張感が無い。

 

 

「それで教官。ダークコアデッキケースは?」

 

 

「少し待て」

 

 

教官はそういうと手に持っていたロック付きのケースを開けると、中からダークコアデッキケースを取り出す。

 

 

「ほら」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

なんか、暫くぶりに手に取るな。

俺は教官からダークコアデッキケースを受け取る。

 

 

「だが一夏。説明はしっかりしてもらうぞ」

 

 

「はい、分かってます。それと教官、俺の情報ってどうなってます?」

 

 

「シュヴァルツェ・ハーゼ以外の人間は、たとえドイツ軍の上層部だろうと知らない」

 

 

「ラウラに感謝」

 

 

俺がISに乗れるということはシュヴァルツェ・ハーゼ以外の人間は知らないらしい。

これもラウラがすぐにこのことに守秘義務を掛けてくれたおかげか。

 

 

「では一夏。模擬戦は一時間後だ」

 

 

「分かりました」

 

 

そう言うと教官は部屋から出て行った。

 

 

「一夏、頑張れ」

 

 

「ありがとうございます、クラリッサさん」

 

 

さて、クラリッサさんからも激励をもらったし、頑張りますか!

 

 

--------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

模擬戦十分前。

俺はIS訓練場前にあるベンチに座っている。

ラウラや教官、見学する人はもう中にいるから周りには人っ子一人いない。

 

 

「もうすぐか...」

 

 

俺は始まる模擬戦の前に気持ちを高めていた。

 

 

「しかし、ディミオスも急に語り掛けてきてビックリしたな」

 

 

そう、待っている間にダークコアデッキケースを通じでディミオスから連絡があった。

今日にはもう此方に来れるとのことだった。

それ以外にも今日模擬戦することを伝え、チカラの使い方の最終確認をした。

 

 

そんなこんなで、模擬戦開始三分前だ。

俺はIS訓練場の扉を開ける。

中にはラウラがシュヴァルツェアを纏って立っており、離れたところに隊員達がいる。

 

 

「ラウラ。今日はありがとな」

 

 

「別に大丈夫だ。だが、ISはどうした?」

 

 

「言っただろう、これが専用機だって」

 

 

俺は左手に握っているダークコアデッキケースを一度見ると、ラウラの方を見る。

そしてダークコアデッキケースを顔の前に持っていき、構える。

そして、ラウラを見ながら言葉を、チカラを放つ。

 

 

「ディザスターフォース、発動」

 

 

すると、ダークコアデッキケースが紫のエネルギー体になり、俺の全身を包み込む。

俺が顔の前に置いたままだった左手を振るうと、包み込んだエネルギー体が変わり、鎧になった。

黒と金がメインカラーで、両肩と頭部の両側から計4本の歪な剣の様なものがついている。

肩部分の鎧の下から両腕と背中までを覆う血のように紅いマントがある。

だが、一番の特徴はやはり左手首だろう。

そこには、ダークコアデッキケースにも付いていた、紫の眼の様なものがあった。

 

 

この瞬間、俺は初めて全身に煉獄騎士の鎧を纏った。

今までは左腕だけだったからな。

周りの人たちはザワザワしている。

見慣れない、ISとは違う展開をしたのだから当然か。

 

 

全身装甲(フルスキン)...?」

 

 

「ISとは違うんだってば」

 

 

ラウラもやはり驚きながら言ってくるため、俺は少し軽く言う。

さて、次は.....

俺は右手を前に出し、言葉を発する。

 

 

「装備。煉獄剣 フェイタル」

 

 

そう言うと、前に出した右手の中に青白い光に包まれた白に黒と赤の模様があり、「FUTURECARD BUDDYFUGHT」と書いてあるカードが出てきた。

そのカードは金に輝くと形を変える。

大剣の形のなると輝きが収まり、俺が前回使った大剣が出てきた。

今までの二回とは異なる出方に俺もちょっと驚くも、今後はこれが普通になると思い、慣れることにした。

周りが再びザワザワする。

ISとは違うと聞いていてもやっぱり驚く様だ。

 

 

俺は大剣...フェイタルの切っ先をラウラに向け構える。

ラウラもその両手にIS用接近ナイフを展開し構える。

お互いが構えたのを確認した教官が言葉を発する。

 

 

「この模擬戦は、どちらかが戦闘不能となるか、または降参したら決着とする」

 

 

予想通りだ。

さて、やりますかね.....

 

 

「「ゴー・トゥー・ワーク」」

 

 

俺とラウラが同じタイミングでその言葉(ゴー・トゥー・ワーク)を言う。

...本当にシュヴァルツェ・ハーゼの共通の言葉になっちまった。

 

 

「模擬戦...開始!」

 

 

教官の声で俺とラウラはすぐに行動を開始する。

俺は足に力を籠め、ラウラに近づきながらフェイタルを振り上げる。

当然ラウラはこれに反応し、右手のナイフでフェイタルを受け流しつつ、左手のナイフで反撃してくる。

...大剣とナイフなのに折れねえってスゲェ。

俺は迫ってくるナイフを対処するため、両手で握っていたフェイタルから右手を離し、防御用に構え、

 

 

「キャスト。ドラゴンシールド 黒竜の盾!」

 

 

黒竜の盾を使い、攻撃を防ぐ。

その隙に俺はラウラから距離を取り、フェイタルを構えなおす。

.....厄介だ。

ラウラは俺に合わせそこまで飛んでいないが、それでも地面から足が離れてるとめんどくさい。

それに、ラウラのシュヴァルツェアには、プロトタイプのAICが搭載されている。

 

 

AIC、アクティブ・イナーシャル・キャンセラー。

元々ISに搭載されている、ISが浮遊するためのシステムであるPICの発展兵器で、対象を任意に停止させることが出来る。

高い集中力が必要なためプロトタイプである現在は発動させるとその場から動けなくなってしまう。

それでもめんどくさいことに変わりはない。

 

 

更に言うと、俺はモンスターコールが出来ない。

バディファイトは元々モンスターや魔法などを駆使して戦うものだ。

煉獄騎士になっていると、そのバディファイトの魔法を黒竜の盾のように実際使うことが出来る。

つまり、モンスターも実際に召喚...コールすることが出来るのだが、ダークネスドラゴンWとこの世界がまだ完全につながっていないため、コールできないのだ。

 

 

俺がどうするか悩んでいると、

 

 

「今度はこっちから行くぞ!」

 

 

と、ラウラが今度はIS用アサルトライフルを展開し、発砲する。

 

 

「クソッ!」

 

 

俺は横に跳躍し、アサルトライフルの弾を躱す。

 

 

しかし、俺が着地する前にラウラがISの加速機動技術である瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使い、迫ってくる。

俺は着地と同時にフェイタルを身に引き寄せ、防御用に構える。

構えた瞬間には、ラウラが持つナイフとフェイタルが衝突した。

ガキィン!とぶつかり合う音が響くとすぐにラウラが何かを足元に放り投げ、自信は後ろ向きの瞬時加速、後退加速で離れてしまう。

その何かとは.....

 

 

「しゅ、手榴弾!?」

 

 

そう、手榴弾だ。

俺は爆発に巻き込まれないように大袈裟にその場から急いで距離を取る。

し、室内でなんてもんを!!

 

 

爆発は小規模だったから、訓練場はそこまで被害を受けていない。

室内用なんてあるのか...

しかし、直接は巻き込まれなかったものの、熱風を受け動きが一瞬止まってしまう。

その一瞬が命取りだったようで、俺は動きが止まってしまう。

 

 

「う、ぐっ...!」

 

 

「捉えたぞ」

 

 

どうやら俺はラウラが発動したAICに捕らわれてしまったらしい。

本当に動かない...!

ラウラは集中が途切れないようにするためか、先程までよりゆっくりアサルトライフルを展開し、構え、発砲する。

 

 

「があっ!」

 

 

動けない俺は当然のように被弾してしまう。

でもこの一連で、やはりAICに多大な集中力がいることを確認できた。

そして俺はダメージを受けた。

なら...これだ!

 

 

「キャスト!地獄の炎も、生ぬるい!」

 

 

瞬間、俺が被弾した個所から炎が出てきて俺を包み込む。

因みにだがマントは燃えていない。

そのことにラウラも周りの人達も驚いているようだ。

これは本来ならドロー用の魔法なのだが、それは今大事ではない。

ラウラは驚いて集中が少し乱れてしまった。

 

 

「ハァッ!!」

 

 

その少しでプロトタイプのAICは簡単に突破できる。

俺は自由に動けるようになると、ラウラに接近しフェイタルを振るう。

 

 

「ぐぅ...!」

 

 

ラウラはこれをクリーンで受けてしまう。

やはり、先程までAICを使っていた反動か、ラウラはまだフラフラだった。

俺は再びフェイタルで切りかかる。

 

 

「ハァアアア!!」

 

 

「ぐぁぁぁっ!!」

 

 

その攻撃もクリーンヒットし、シュヴァルツェアのエネルギーが切れてしまったらしく、強制解除された。

 

 

『GameEnd Winner,RENGOKUKISHI』

 

 

「...今の音声、どっから流れた?」

 

 

なんか最後に謎の音声が流れたが、模擬戦は俺の勝利のようだ。

というか俺、煉獄騎士って名乗ってないけど...

ま、まあ良いか。

 

 

「ディザスターフォース、解除」

 

 

俺のその声に応じて、フェイタルはオレンジに光り、無数の長方形に弾け飛び、消滅する。

鎧も、再びエネルギー体になるとダークコアデッキケースに戻った。

俺はラウラの傍に行き、声を掛ける。

 

 

「おーいラウラ。大丈夫か?」

 

 

「あ、ああ。大丈夫だ」

 

 

ラウラはそう言い、自力で立ち上がる。

怪我がなくて何よりだ。

 

 

「それで一夏。説明してもらおうか」

 

 

教官のその言葉に全員の視線が俺に集まる。

落ち着かねぇなあ。

 

 

「分かりました。でも、その前に.....」

 

 

俺はそう言いつつ、訓練場の入り口に顔を向ける。

 

 

「一夏?どうしたんだ?」

 

 

クラリッサさんがそう聞いてくる。

俺は視線を扉に向けたまま答える。

 

 

「ええ、ちょっと。いるんでしょ........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 束さん」

 

 

「よく分かったね、いっくん」

 

 

俺がそう言うと扉から機械のウサミミをつけ、胸元が大きく開いたエプロンドレスを着た女性が入ってきた。

その女性は、ISの開発者である天才兼天災科学者。

篠ノ乃束だった.....

 

 

 

 




プロローグ11にしてついに煉獄騎士が完全な状態で登場!
タスク先輩って最初から鎧着てたので、装着シーンはオリジナルです。


更にはみんな大好き束お姉さんも登場しました!
束はプロローグ1で一応名前だけ出したのですが、本人は初登場になります。
チョロッとだけだったけど。


次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!


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プロローグ12 煉獄の『チカラ』の説明

今回は一夏がクラリッサや千冬達に、煉獄騎士の説明をします。
そして前回登場した束の今作での立ち位置が判明します。


.....タグで分かっとるとか言わんでぇ。
原作とは違うのでご了承ください。


取り敢えず、今回も出来はいつも通りですが、お楽しみ下さい!


千冬side

 

 

一夏とラウラの模擬戦。

ラウラはシュヴァルツェアを、一夏は例の...ダークコアデッキケースだったか?を使った模擬戦だった。

私はラウラが勝つだろうと思っていた。

だが、結果は、一夏の勝利だった。

 

 

一夏はダークコアデッキケースを鎧に変化させ、大剣を展開?した。

前回は左腕だけだったが、今回は全身だった。

.....前回は髪が背を覆うほどまで長くなっていたが、今回はどうなんだろうか?

伸びてたらどう仕舞ってるんだろう?

 

 

模擬戦は最初は接戦だったが、ラウラは手榴弾を巧みに使い、AICで一夏を捕縛した。

だが一夏は脱出するとラウラに切りかかり、勝利した。

その際、どこかから音声がなったのだが、一体どこからだろうか?

音声は一夏のことを煉獄騎士と呼んでいたし...

 

 

その後、私が一夏に説明を求めると、一夏は扉の方を見ながらこう言った。

 

 

「いるんでしょ.....束さん」

 

 

と。

このとき私はそんな事あるわけないと思った。

束はISを開発した私の親友だ。

束はISコアを467個開発すると姿をくらませ、現在も逃亡生活中だ。

そんなアイツがいる訳がないと.....

だが、

 

 

「よく分かったね、いっくん」

 

 

そんな声が聞こえが聞こえると、そこに居たのは件の束だった。

 

 

「た、束なのか...?」

 

 

「そうだよ、ちーちゃん。親友である束さんを忘れちゃったかい?」

 

 

束は昔と変わらない雰囲気で私に語り掛けてくる。

 

 

「束...久しぶりだな」

 

 

「そうだね、ちーちゃん」

 

 

束はそう言いながら此方によって来る。

私は.....

 

 

「お前今までどこにいたぁ!?」

 

 

「いだだだだ!!ち、ちーちゃん!束さんの頭が、唯一無二の素晴らしい頭が~~~!!!」

 

 

「災厄しか思いつかん頭など弾け飛んでしまえ!!」

 

 

束にアイアンクローを掛けた。

世界を混乱に陥れたのに、こいつは...!

周りのシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達が全員引いているが、関係ない!

束の頭からミシミシいい始めると

 

 

「千冬姉、千冬姉。本気で束さんヤバそうだからここらへんで」

 

 

と、一夏からストップが入ったので、私は仕方なく束を開放する。

 

 

「束さん、大丈夫ですか?」

 

 

「うう、いっくんありがと~。でも、もうちょっと早く止めれたんじゃない?」

 

 

「いやぁ、世界を混乱させたんですからこれくらいは妥当じゃないんですか?」

 

 

「いっくんもヒドイ!!」

 

 

と、束と一夏が会話する。

これくらいが妥当?一夏は甘いな。

しかし、どうして束はここに...

 

 

「それで、何故ここにいるんですか?」

 

 

一夏も私と同じことを思っていたようだ。

一夏が束に聞く。

 

 

「いっくんが面白そうな事説明するっていうから!」

 

 

「束...お前まさか...」

 

 

「うん!バッチリ見たよぉ~!いっくんがISを使ったことも、さっきの変な奴も!」

 

 

「束さん。何処から見てました?」

 

 

「んーと、いっくんがブッサイクなVTシステムをぶっ倒した所からかな~」

 

 

 

一夏は額に手を当てながら天を仰いだ。

恐らく、私と同じことを思っているんだろう。

 

 

「「めんどくさい奴(人)に知られてしまった.....」」

 

 

「チョット!?めんどくさいって酷くないかい!?」

 

 

「そのまんまですよ...」

 

 

「全くだ」

 

 

「うわーん!!二人のバカァ~!!」

 

 

と、此処でようやく周りに人がいることを思い出した。

チラッと隊員達を見ると、とても何か言いたそうだった。

 

 

「あー、お前達、大丈夫か?」

 

 

「えっと、教官。あの人は...?」

 

 

意を決したようにラウラが私に聞いてくる。

他の隊員達もうんうん、と言わんばかりの勢いで首を縦に振る。

 

 

「アイツは篠ノ乃束。私の親友で、ISの開発者だ」

 

 

『え、ええ~~~~~!!』

 

 

全員が驚いた様な声を出す。

それも当然だ。

ISを開発した天災が目の前にいて、しかもこんな馬鹿な言動の奴だとは思ったこともないだろう。

 

 

「んもう、うるさいなぁ。これだから凡人は...」

 

 

「束さん、そういうこと言っちゃ駄目です」

 

 

「でもでも~こんなにすぐ騒ぐんだよ?そう思っても仕方なくない?」

 

 

「自分のネームバリューを考えて下さいよ.....」

 

 

そんな会話を一夏と束が繰り広げる。

隊員達はその会話を聞いて目を繰り広げる。

 

 

「気にするな。アイツは殆どの人間を認識できない」

 

 

「認識できないんじゃなくて、認識する必要がないのさ~。

 束さんには、ちーちゃんといっくんとクーちゃんがいればいいのだ!!」

 

 

ん、クーちゃん?

それに、妹はどうした?

 

 

「おい、束。クーちゃんとは誰だ?それに、お前の妹...箒はどうした?」

 

 

箒の名を聞いた瞬間、一夏が顔をしかめる。

それもそうか、一夏は箒に暴力を加えられてたからな。

 

 

「クーちゃんとは、束さんが保護して育ててる娘であり助手のことさ!」

 

 

「保護した?束さん、そんな事できたんですね」

 

 

「いっくん!?さっきから辛辣じゃない!?昔の素直でかわゆきいっくんは何処いったの~!?」

 

 

「何処も何も、変わらず此処にいますよ?」

 

 

「うう、それはそうだけどさ~」

 

 

確かに、一夏は最近辛辣だ。

何があったんだろうか。

取り敢えず、今は箒のことを聞こうじゃないか。

 

 

「それで束。箒のことは?」

 

 

「ああ、アイツ?アイツなんかもう興味ないよ」

 

 

「興味ない?なんかあったのか?」

 

 

「うん。昔からいっくんに暴力振るってて嫌いだったけど、いつか更生すると思ってたよ。

 でもアイツ、転校した先々で暴力振るってるんだ。

 当然、教師から説教を受けたり警察に連れて行かれそうになった。

 その時アイツなんて言ったか知ってる?『私は篠ノ乃束の妹だ!!』だよ?

 私のせいで家族がバラバラになっただの言ってるのにだよ?

 愛想つかさないと思う?」

 

 

「いや、思いませんね。というかアイツそんなくだらないことで束さんの名前出してるんですか」

 

 

「おお、いっくん!分かってくれるかい?」

 

 

「まぁ、それなりには」

 

 

私も内心呆れてた。

アイツはそこまで腐ったか...

 

 

「あ、あのーちょっといいですか」

 

 

ここでクラリッサが恐縮そうに発言する。

 

 

「なんだよ、お前。さっさと黙れよ」

 

 

「いや、一夏の説明を聞くんじゃ...?」

 

 

「「あ、そうだった」」

 

 

「え、千冬姉に束さん、忘れてたんですか?」

 

 

私と束はすっかり本来の目的を忘れていた。

そのことに一夏が呆れたような視線を向けてくる。

す、すまん...

 

 

--------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

千冬姉と束さんが本来の目的を忘れてヒートアップしていた件は後でいいとして。

クラリッサさんが目的を思い出させてくれたおかげで二人も黙り、此方に視線を向けてくる。

視線の串刺しにもそろそろ慣れそうだな...

 

 

俺が何から説明しようか考えていると、手に握ったままだったダークコアデッキケースからディミオスが念話で話掛けてくる。

 

 

《(一夏よ...もうそっちの世界に出れる)》

 

 

(本当か?だったら協力してほしいんだけど)

 

 

《(協力?何にだ)》

 

 

(煉獄騎士団の説明。もう流石に誤魔化せない)

 

 

《(了解した。我の呼び方はコールと同じで構わん)》

 

 

(煉獄騎士になってないのにか?)

 

 

《(バディだからな。問題ない)》

 

 

(OK!頼む)

 

 

「いっくん?急に黙ってどったの~?」

 

 

「ああ、すみません。何から話せばいいか考えてました」

 

 

ディミオスと念話していたせいでただ黙って突っ立てるだけになってしまった。

俺は一度目を伏せつつ息を吸って、吐いた。

そして目を開け、みんなのことを見ながら口を開く。

 

 

「先ずはこのチカラを手に入れた経緯について話をしようと思う」

 

 

「チカラを手に入れた経緯...?」

 

 

クラリッサさんが確認するように呟く。

俺は肯定しつつ説明を開始する。

 

 

「はい、そうです。

 このチカラは俺がモンド・グロッソの時に誘拐され、連れて行かれた場所で手に入れました」

 

 

俺がこう言うと、千冬姉とクラリッサさんがやっぱり。という顔になった。

なにか予想でもしていたんだろう。

 

 

「続けます。俺は誘拐先で殺されそうになりました。目的が...千冬姉の決勝戦辞退が達成されなかったためです。

手足を拘束された上で拳銃を突き付けられ俺は死を覚悟しました。

でも、殺されそうになる瞬間声が聞こえたんです」

 

 

「声...か?」

 

 

今度はラウラが確認するように呟く。

 

 

「ああ、声だ。それはラウラがVTシステムに飲み込まれたときに聞こえたものと同じだった」

 

そう言うと周りがザワザワしだす。

聞いたことがあるからだろう。

 

 

「さて、ここから先はもう一人(竜?)に手伝ってもらいます」

 

 

「もう一人?何言ってる一夏。ここにはお前しか説明できる奴はいないぞ」

 

 

「いいや、いるよ。その声の主、本人が」

 

 

千冬姉はとっさに辺りを見回す。

隊員達や束さんも同じような反応をする。

 

 

「そんな焦んなくても、これから呼ぶから」

 

 

俺はそう言いつつ左手のダークコアデッキケースを頭上に掲げる。

 

 

「い、一夏?何してるんだ?」

 

 

「まあまあ」

 

 

クラリッサさんが怪訝そうな声を上げるが、俺は軽くいなす。

そしてコールする。

俺の、バディを。

 

 

「バディコール!煉獄騎士団団長 ディミオスソード・ドラゴン!!」

 

 

瞬間、俺が掲げたダークコアデッキケースに入っているカードの中の一枚が金に光りだす。

今までどうやってもカードは抜けなかったが、その光った一枚は自動で出ていく。

そのカードは開いているスペースまで飛んで行くと、中央に竜の横顔の様なモノが描かれた紫の魔法陣になる。

その魔法陣から同じく紫のエネルギーを出しながら、鎧を着た様なドラゴンの両手足が出てくる。

そして次の瞬間には全身が出てきていた。

煉獄騎士と同じような鎧とマントを着けており、頭部には一本の剣の様な物が付いていた。

 

 

ディミオスが、俺のバディが、ダークネスドラゴンWから、本来なら来るはずがなかった世界に、コールされた。

 

 

 

 




束は当然の様に二次創作あるあるの、箒に愛想つかして一夏側に付きました。
この先の展開上、束が一夏側にいる必要があるので。


そして!ついにディミオスがISの世界に来れました!!
プロローグ12でやっとだよ...
アニメではディミオスも煉獄騎士の鎧同様、最初からSDとかでもなかったので、コールシーンはオリジナルです。
アニメでよくあった、デカいモンスターがチョットだけ出てきてから、全身が出るのと同じですが。


次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!


評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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プロローグ13 煉獄騎士団との関わり

前回、説明を最初の方しかしてなかったので、今回も説明回です。
ホントに全然進まない。


そして、最近千冬とラウラの影が薄い...
二人とも、ゴメン!!


今回もいつも通りの出来ですが、お楽しみください!


一夏side

 

 

...どうしよう。

シュヴァルツェ・ハーゼのIS訓練場で、俺はそんなことを考えていた。

 

 

俺は千冬姉達に煉獄騎士団について説明するため、ダークネスドラゴンWから俺のバディであるディミオスをこの世界にコールした。

そこまでは良いのだが、ディミオスを見たみんなは完全に固まってしまい、先程から声一つ発しない。

...ホントにどうしよう?

 

 

「なぁ、ディミオス。どうしよう?」

 

 

《我に聞くな...》

 

 

「ですよね~」

 

 

取り敢えず千冬姉を起こそう。

俺はそう判断し、千冬姉に語りかける。

 

 

「千冬姉、起きろー!」

 

 

それでも千冬姉は反応しない。

仕方ない、無理矢理起こさせてもらおう。

俺はそう思い、千冬姉の服の襟を掴むと、

 

 

「起きろって言ってるだろうが!!」

 

 

「痛っ!!」

 

 

思いっきりビンタした。

ビンタした側の俺も手が痛いんだけど...どんだけ頑丈なの?

まぁ、漸く千冬姉が現実に戻ってきた。

流石にクラリッサさんやラウラをビンタ出来ないから他の人達は千冬姉に起こしてもらおう。

 

 

「千冬姉、やっと起きた?」

 

 

「い、一夏!?な、ななな何だあのドラゴンは!?」

 

 

「ええい落ち着け!」

 

 

現実に戻ってきたは良いものの千冬姉はめちゃくちゃ動揺していた。

これじゃあ他の人達を起こすことも、ましてや説明を進めることをは出来ない...!

 

 

「お、おおお落ち着けるかぁ!!」

 

 

「落ち着かんと説明できん!!」

 

 

「そ、そうか」

 

 

ここに来て漸く落ち着きが出てきた。

全く、これじゃあディミオスがただ出てきただけになっちゃうじゃないか。

 

 

 

《何か失礼なことを考えていないか?》

 

 

「いや、そんなこと無いよ」

 

 

《なら良いが...》

 

 

危ない、バレるとこだった。

俺は千冬姉にみんなを起こしてもらおうと思い、千冬姉にその事を頼む。

 

 

「千冬姉、みんなのことを起こしてくれない?」

 

 

すると千冬は、

 

 

「あ、ああ。分かった。任せろ」

 

 

と言うと大きな声でみんなを現実に戻す。

 

 

「全員しっかりしろぉ!」

 

 

『は、はい!』

 

 

...一発で現実に戻ってきた。

やはり千冬姉の恐怖は全員に刷り込まれているらしい。

束さんまで同じ様な反応をするとは。

 

 

「い、いっくん!?何そのドラゴン!?」

 

 

「そ、そうだぞ一夏!せ、説明しろ!!」

 

 

「束さんもクラリッサさんも落ち着いてください...」

 

 

さっきの千冬姉と同じ様な反応をする。

そこから説明を再開するのに二十分かかった。

本当にディミオスが出てきただけになってしまった。

 

 

-----‐--------------------‐-----------‐-----------------------------------------------------------

 

 

クラリッサside

 

 

私達シュヴァルツェ・ハーゼ隊は全員篠ノ乃博士が出てきた時から動揺していた。

それは仕方がないと思う。

教官や一夏は関わり有ったが私達には無かったのだ。

ISを開発した世界的天災科学者が目の前にいて、しかもあの様なふざけた態度を取る方だとは思わなかった。

 

 

正直、一夏の話これ以上の衝撃は無いだろうと思っていた。

だが、その予想は大きく裏切られた。

一夏が誘拐されたのは知っていたが、そこであのチカラを手に入れてたとは...

教官の考察は当たっていた。

ここまでだったらまだ良かった。

だが、一夏はチカラを手に入れた時と、隊長が暴走してしまった時聞こえた声の主を呼ぶと言い、手に持っていた直方体を頭上に掲げると、

 

 

「バディコール!煉獄騎士団団長 ディミオスソード・ドラゴン!!」

 

 

と何時もより大きい声を出すと、直方体からカードが光りながら出てくるとそれが魔方陣になり、そこから一夏が着ていた鎧に似た物を身に付けたドラゴンが出てきた。

それを見た瞬間、私達も、教官も、篠ノ乃博士も絶句した。

ドラゴン、そう、ドラゴンである。

こんなものが急に出てきたのだ。

驚かない訳がない。

作り物かとも思ったが、態々此処でそれを見せる必要は無いし、何より翼は動き、呼吸もしているので、生きていることは理解できた。

 

 

一夏やドラゴン、教官が何か喋ってるが私の耳には入らない。

私は.............興奮していた。

だってドラゴンだぞ!?アニメや漫画の中にしかいなかったドラゴンが、私の目の前にいるんだぞ!?

こんなもの興奮しない方がおかしいだろう!!

 

 

私がそんな事を考えていると教官が

 

 

「全員しっかりしろぉ!」

 

 

おっしゃった。

 

 

『は、はい!』

 

 

私はすぐに反応し、現実に引き戻された。

他の隊員達や篠ノ乃博士も同じタイミングで返事した。

 

 

「い、いっくん!?な、何そのドラゴン!?」

 

 

現実に戻ってきてすぐ、篠ノ乃博士が一夏にドラゴンのことについて質問する。

私もそれに続くように一夏に説明を要求する。

 

 

「そ、そうだぞ一夏!せ、説明しろ!!」

 

 

「束さんもクラリッサさんも落ち着いてください...」

 

 

一夏が私達をなだめるように声を出す。

しかし、私達は二十分経って漸く落ち着けた。

 

 

 

 

 

「落ち着きましたか?」

 

 

『はい』

 

 

「よし」

 

 

一夏の問いに関して私達は全く同じタイミングで返事をした。

この前もこんな事あったなぁ。

さっき私達を現実に引き戻した教官も返事したのを見ると、教官もまだ完全には落ち着いていなかった様だ。

 

 

「そ、それでいっくん。そのドラゴンは...?」

 

 

私達を代表して篠ノ乃博士が一夏にドラゴンについて質問しなおす。

 

 

「そうだな...ディミオス、自己紹介お願い」

 

 

《仕方がない》

 

 

一夏はドラゴンに自己紹介を頼み、ドラゴンはそれを了承した。

.....人間の言葉喋れるんだ。

 

 

《我は織斑一夏のバディであるダークネスドラゴンWのモンスター、煉獄騎士団団長 ディミオスソード・ドラゴン》

 

 

.....ちっとも分からない。

名前がディミオスソードと言うことは分かったが、それ以外...ダークネスドラゴンW?煉獄騎士団?

 

 

「一夏。今の自己紹介だと分からないことが多いのだが?」

 

 

教官も同じ事を思っていたらしい。

いや、これで完全に分かる人はいない。

篠ノ乃博士でも流石に無理だろう。

 

 

「だろうな。これで完全に分かるのは束さんでも無理だ。

 さて、ディミオス。どういう順序で説明する?」

 

 

《お前に説明した時と同じ順序で問題が生じるか?》

 

 

 

「いや、無いな」

 

 

《ならそれでいいだろう》

 

 

「そうだな」

 

 

一夏とディミオスソードは可成り親しげに会話する。

確かに今までの一夏の発言からもうすでに会ったことがあったのは分かるが...

さっきディミオスソードは《織斑一夏のバディ》と言った。

バディ...つまりは、相棒。

二人はそんな関係なんだろうか。

.....羨ましい。

私は何を考えてるんだろうか。

確認してないが一夏は隊長が暴走した時、私のことを「大切な人」呼んでくれた。

それでも、アドヴァンスドである私に一夏を愛する資格なんか...

 

 

私がそんなことをグルグル考えていると、

 

 

「クラリッサさん?どうしました?」

 

 

一夏が私の顔を心配そうに覗き込んできた。

ち、近い...やっぱりかっこいいな...

 

 

「だ、大丈夫だぞ?」

 

 

「そうですか?さっきから深刻そうに悩んでたので」

 

 

一夏はそう言うと、私から離れて行った。

 

 

「じゃあ、説明を再開しますね」

 

 

《先ず、我の世界の事から話そうと思う》

 

 

ディミオスソードがそう言い、説明を再開する。

その話は、とても壮大なものだった。

 

 

-------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

俺とディミオスは、全ての説明を終了させた。

とは言え、一度俺に説明している事だったし、俺は説明された側だ。

千冬姉達に説明するのは思いの外簡単だった。

 

 

だが、説明された千冬姉達は、そんな簡単な事じゃなかったらしい。

みんな、目を見開き驚愕の表情を浮かべている。

.....今日は驚愕の表情を浮かべやすいな。

いや、原因は俺なんだけどね。

あ、束さんもか。

 

 

「そ、それ本当なの...?」

 

 

 

《そうだ、篠ノ乃束。これは全て真実だ》

 

 

束さんがディミオスに真実かを確認するも、ディミオスは迷いもなく真実だと言い切る。

まぁ、バディワールド云々は俺も直接見たことはないが、それでも俺はディミオスを信じてる。

ディミオスの言葉に嘘は感じれないし、何より信じてなかったらバディになってないしな。

 

 

「そう、だったのか。...ディミオスソード」

 

 

《なんだ?織斑千冬》

 

 

「一夏を助けてくれて、ありがとう」

 

 

千冬姉はディミオスに俺を助けたお礼をしている。

...千冬姉が素直にお礼の言葉を言うのって珍しいな。

 

 

「そ、それでいっくん!バディになったって言ってたけど、この先どうするの?」

 

 

「そうですね...」

 

 

束さんが俺にこの先の予定を聞いてくる。

千冬姉やクラリッサさんも、頷きながら俺を見てくる。

ディミオスがバディなのもそうだが、俺は男なのにISに乗れるからな...

 

 

「取り敢えずですが束さん。俺がISを動かせるっていうのは黙っててください」

 

 

「えー、つまんないよー。言っちゃおうよ~」

 

 

束さんはつまんないと言う。

こっちの事も考えて下さいよ。

 

 

「束さん、俺はまだ中一なんですよ?IS学園にも入れないんですよ?」

 

 

「じゃあ、IS学園に入れる年になったら問題ナッシング!!」

 

 

「あー、もう。じゃあ其処まで待っててくださいよ?」

 

 

「もち!いっくんは束さんの言葉は信じられないかい?」

 

 

「はい」

 

 

「そ、そんな流れるように否定しなくても~」

 

 

束さん、あなたはISで世界を混乱させ社会を女尊男卑にするきっかけを作ったんですよ?

確かに本来の目的とは違うかもですがそんなことをしたんですよ?

信じれると思ってるんですか?

 

 

「一夏、束。私達を無視して話すな」

 

 

「あ、ちーちゃん。ゴメンゴメンゴ。忘れてたよ~」

 

 

「忘れるな!」

 

 

「ごめん千冬姉。俺も忘れてたわ」

 

 

「い、一夏...お前もか」

 

 

ごめんって。

しっかし千冬姉、シュヴァルツェ・ハーゼのみんながいるのにそんなリアクション取っていいの?

みんな信じられないものを見たような顔してるよ?

 

 

「んん、それで?一夏がISに乗れる事を発表したら一夏は十中八九IS学園に行くことになるぞ。それでもいいのか」

 

 

「ああ、束さんが居なくても、たぶんいつかばれると思うよ」

 

 

「それは...そうだな。仕方ないか...」

 

 

千冬姉も一応納得してくれた。

仮に隠してたとしても、絶対にばれてIS学園に行くことになるような未来しか見えないんだが何でだろう?

 

 

「なら一夏、IS学園に行くまではどうするんだ?今まで通り此処で訓練するか?」

 

 

クラリッサさんがIS学園に行くまでを聞いてくる。

シュヴァルツェ・ハーゼで訓練か...

それでもいいんだが、俺は...

 

 

「いや、遠慮させてください」

 

 

「なら、どうするというのだ?」

 

 

ラウラも聞いてくる。

俺は...

 

 

「俺は、ダークネスドラゴンWに行く」

 

 

俺は、そう言った。

周りはまた、驚愕に包まれた...

 

 

 

 




前回から今回で殆どストーリーが進んでない件について。
いや、本当にごめんなさい!
大丈夫です、次回は進むので!


そんな次回はクラリッサが...
いつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!


評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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プロローグ14 クラリッサの気持ち

今回のサブタイは今までの雰囲気とちょっと違うなぁ。
そんな訳で今回はクラリッサメインです!
クラリッサ視点しかないです。


今回はクラリッサがヒロインしてます!作者的には!


そんな今回ですが、クオリティーはいつも通りですがあしからず。
楽しんでください!


クラリッサside

 

 

「俺は、ダークネスドラゴンWに行く」

 

 

今、一夏は何と言った...?

 

 

シュヴァルツェ・ハーゼのIS訓練場で、私は茫然とそんなことを考えていた。

いや、分かってるんだ。

現実逃避だってことくらいは。

 

 

一夏と異世界であるダークネスドラゴンWのモンスター、ディミオスソードは過去や一夏がチカラを手に入れた経緯を説明し終わった。

その後に、一夏がこの先どうするかの話になった。

一夏は男だがISに乗ることが出来る。

そのことを篠ノ乃博士が面白がり、一夏はIS学園に行くことになった。

私はIS学園に行くまで、此処で訓練を続けるかと誘った。

個人的には、そうして欲しかった。

だが、一夏はそれを断り、ダークネスドラゴンWに行くと言った。

 

 

《ほう、そう来るか...》

 

 

「い、いっくん!?な、何でそんな!?」

 

 

「そうだぞ一夏!クラリッサが言ったように此処で訓練すれば!!」

 

 

篠ノ乃博士や教官が一夏を止めようとする。

隊長や隊員達も騒然とする。

そんな中でも、私は声一つ出なかった。

聞いた話でもダークネスドラゴンWが、もっと言うならバディワールドが人間にとって危険な場所だというのは理解できた。

自分からそんな場所に行こうとする一夏を止めたいという思いもある。

だが、それよりも別の思いが思考を支配していた。

それはもっと単純なもので、

 

 

.....好きな人が離れて行って欲しくない。

 

 

それだけだった。

私は隊長よりも早く作られたアドヴァンスドで、今まで人を好きになることなんて無かった。

だから、初恋である一夏には離れて欲しくないのだ。

...一夏はアドヴァンスドだと分かってる隊長とも今は友好的だ。

でも、恋愛になるとそれは変わってくるかもしれない。

そんな私がそんなことを思ってもよかったんだろうか。

私がそんなことを考えていると、

 

 

「あーもう!落ち着けって言ってるでしょうが!!」

 

 

という一夏の声が聞こえた。

どうやら周りの人達はまだ騒いでいたらしい。

そんな声は全く認識してなかったのに、一夏の声は認識できるとは...

私がまた一人で考えていると、一夏が理由を話し出す。

 

 

「確かに、ダークネスドラゴンWは危険でしょうし、此処で訓練することも選択肢には全然あります」

 

 

「な、なら「ですが」」

 

 

教官が喋ろうとしたことを、一夏が上から重ねて喋り遮る。

 

 

「俺は決めたんです。ディミオス達煉獄騎士団と、償いの道を共に歩くと。それに、俺はまだまだこのチカラを使いこなせていません。なら、ダークネスドラゴンWで修行するべきです。それに俺はディミオスのバディなんですから」

 

 

一夏は教官や篠ノ乃博士、隊長や私のことを見ながらそう言い切った。

この覚悟はそう簡単に覆ることはないだろう。

私は思わず笑ってしまった。

そうだ、一夏は一度決めたことを最後まで貫くんじゃないか。

そんな姿勢も、私は好きなんだから。

教官や篠ノ乃博士も、同じような事を思ったらしく、笑みを浮かべていた。

 

 

「そうだったね。いっくんは昔から、一度決めたことは簡単に変えない子だったね」

 

 

「そうだな...一夏。絶対に、絶対に帰ってこいよ」

 

 

「ッ!分かってますよ!!IS学園にも行かなきゃなんでね!!」

 

 

「おや?なんだかんだでいっくんも乗り気じゃない~」

 

 

「行かなくていいなら行きたくないんですが?」

 

 

「アハハ、それじゃあつまんないからね~」

 

 

一夏と教官と篠ノ乃博士が会話をする。

全員が笑顔だった。

 

 

「まぁ、今日出発じゃないですけどね」

 

 

「え、何でなの?」

 

 

《この世界に戻ってきた時IS学園に行くための準備だろう》

 

 

「流石ディミオス、俺のバディ」

 

 

確かに一夏は半年程私達と行動してたが、ISとは関わってない。

それなのに準備もせず異世界には行けないか。

 

 

「それに、約束もありますしね」

 

 

一夏は私を見ながら笑顔でそんな事を言う。

...照れちゃうじゃないか。

 

 

「まぁいっくん!IS関係の知識については束さんに任せんさい!!二日で完璧な教本を作り上げてあげようじゃないか!!」

 

 

「...アイツの暴力から守ってくれた時以外で初めて束さんが頼もしく感じる」

 

 

「ちょっといっくん!?いっくんは束さんの事どう思ってるの!?」

 

 

「天災駄目兎ですかね...」

 

 

「うわぁぁん!ちーちゃん!いっくんが、いっくんがイジメてくるよぉ~~!!」

 

 

「束、お前という人間を完璧に表せる言葉じゃないか」

 

 

「ち、ちーちゃんまでぇ!」

 

 

三人が騒いでいる所を、私達は笑いながら見ている。

すると、隊長が語り掛けてくる。

 

 

「なぁ、クラリッサ」

 

 

「何でしょう隊長?」

 

 

「いや、何。一夏の旅立ちはしっかり見送ってやろうと思ってな」

 

 

「そうですね隊長。一夏のことは、しっかりと見送りましょう」

 

 

その前に、私はこの後一夏と話をするんですけどね。

...決めた。私もアドヴァンスドだという事を一夏にちゃんと言おう。

言わないと、何も変わらないから.....

 

 

---------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

私は部屋で一夏が来るのを待っていた。

時刻は午後九時。

そろそろ来る頃だろう。

そう思うと、さっきの覚悟が少し揺らいでくる。

だが、私は決めたんだ。

一夏に、私もアドヴァンスドだと伝える。

どうなるかは分からないが、そうしないと何も変わらないから。

 

 

その時、コンコン。と部屋のドアがノックされた。

 

 

「はい」

 

 

「クラリッサさん、一夏です。入っても大丈夫ですか?」

 

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 

「お邪魔します」

 

 

一夏はそう言いながらドアを開け、部屋に入って来る。

訓練着以外を見るのは何気に初めてだ。

...私服もかっこいいなぁ。

 

 

「クラリッサさん、俺のことジッと見てますけど、何か付いてますか?」

 

 

「あ、い、いや、何でもないぞ。取り敢えず座ったらどうだ?」

 

 

「何もないなら良いですけど...」

 

 

一夏はそう言いながら私の向かいに座る。

 

 

「それでクラリッサさん。何の用ですか?」

 

 

「ああ、実は一夏に伝えたい事と相談事があるんだ」

 

 

「伝えたい事と相談したい事...ですか?」

 

 

一夏は首を傾げながら確認するように呟く。

...なんかかわいくていい。

ハッ!こんな事考えてる場合じゃなかった。

 

 

「そうだ。先ず、伝えたいことなんだが...」

 

 

「はい、何ですか?」

 

 

「隊長の事を説明するときに言ったアドヴァンスドは、覚えているか?」

 

 

「はい。遺伝子強化試験体の事ですよね.....ッ!まさか...」

 

 

「そのまさかだ。私も、アドヴァンスドなんだ」

 

 

一夏は目を見開く。

私までアドヴァンスドだとは思わなかった様だ。

 

 

「ラウラとはあまり似てるところが無いように見えますが...」

 

 

「私と隊長では製造された時期が違う。だから似てるところは少ない」

 

 

「な、なるほど...それで、何で今その事を俺に伝えたんですか?」

 

 

まぁ、そうなるな。

今まで隠してたことを急に言われたら誰だってそうなるだろう。

 

 

「それは、相談する事に関しては、その事を伝えないといけないからだ」

 

 

「はぁ、それで、その相談事とは?」

 

 

「なぁ、一夏.....私は、人を愛することが、幸せになることが許されると思うか...?」

 

 

「えっ...」

 

 

一夏は先程よりも驚愕したような...いや、動揺したような表情をした。

急に重たい質問をされて戸惑っているんだろう。

 

 

 

「ど、どうして急にそんなことを?」

 

 

一夏がそう聞いてきた。

 

 

「私は、アドヴァンスドだ。...人工的に造られた存在なんだ。普通の人とは違う。そんな私だからこそ、思うんだ。私でも幸せになっていいのかって...」

 

 

「.....」

 

 

一夏は何も言わない。

いや、言えないんだろうか。

 

 

「私だって、幸せになりたい...幸せになりたいんだよ!!でもっ!私はそんなこと思っちゃいけないんじゃないかって、どうやっても思っちゃうんだよ!一夏や隊長達と過ごすのは、楽しかった!でも、でもぉ!私がアドヴァンスドだってことが頭をよぎるんだ...

私は、いったい、どうすれば.....」

 

 

私は、泣きながら一夏に自分の胸の内を明かした。

一夏に気持ちを打ち明けても、全然心は晴れず、むしろ涙が止まらなかった。

 

 

私が暫く泣いていると

 

 

「クラリッサさん...」

 

 

「え.....」

 

 

一夏に抱き締められた。

何時の間に…でも、あたたかい。

 

 

「クラリッサさん。あなたが人工的に造られた存在なんだとしても、あなたは幸せになりたいって思えてる。楽しいって思えてる。なら、あなたは心を持った人間だ。人間なら、全員幸せになっていいんです。クラリッサさんも、幸せになっていいんですよ」

 

 

「い、いぢがぁ...」

 

 

ああ、一夏は優しいなぁ…あったかいなぁ...

私は暫く一夏に抱き締められていた。

ここで、一夏に確認していないことがあったのを思い出した。

...というか私、人を愛することがって言ったなぁ。

告白したみたいじゃないか!?

これは、確認しないと...

 

 

「なぁ、一夏。確認したいことがあるんだが」

 

 

「何ですか、クラリッサさん?」

 

 

「隊長が暴走してしまった時、私のことを『大切な人』って言ったよな。あれっていったい、どういう事だ?」

 

 

「ああ、あれですか。あれは...」

 

 

一夏はここで一旦言葉を区切る。

好きな人だって言われたらどうしよう...

そうしたら私、恥ずかしくて死んじゃうかも...

 

 

「大切な、友人って意味ですよ!」

 

 

えっ..........

 

 

普通に友人って意味だったぁ~~~!!

私は抱き締められた状態から顔を少し離し、一夏の顔を見る。

 

 

「?」

 

 

顔を見られた一夏は首を傾けて私を見返す。

その表情もいいなぁ。じゃなくて!!

どうやら一夏はさっきの私の言葉が告白っぽいと思っていないらしい。

私は一人で盛り上がってただけ?

恥ずかしい///

でも、でも...

 

 

「どうしたんですか?クラリッサさん」

 

 

「いや、何でもないぞ」

 

 

お前がダークネスドラゴンWから帰ってきたら、私の事を友人から一人の女性として意識させてみせる!

 

 

「もう大丈夫そうですね」

 

 

「あっ...」

 

 

一夏はそう言い私のことを離す。

もうちょっとやって欲しかったなぁ。

...そうだ!

 

 

「じゃあ、俺は部屋に戻りますね」

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

 

「はい?まだ何かあるんですか?」

 

 

一夏はそう言うとドアに向けていた体の向きをこっちに向け直してくれる。

そう言うところもちゃんとしてるなぁ。

...そうじゃないんだ!

 

 

「その、今日は私と一緒に寝てくれないか...?」

 

 

私がそう言うと、一夏は固まってしまった。

 

 

 

 




IS二次創作でオリ主がいないと一夏の鈍感は治ってるものも多いですが、今作では鈍感なままです。
.....今は。


クラリッサはヒロインできてたでしょうか?
戦闘シーンは下手くそですが、こういう心理描写や恋愛に関しても自信がない...


あれ、何で投稿始めたの、私?


と、取り敢えず次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!


評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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プロローグ15 旅立ち

はい、プロローグも15ですよ。
結構書いたつもりなのに、原作はいったいどこへ?


そんな、原作までまだまだかかる作品ですが、気長にお付き合いください。


UAが7000超え、そして初めての評価が付きました!
本当にありがとうございます!!


一夏side

 

 

俺がダークネスドラゴンWに行くことが決まった日。

俺はクラリッサさんの部屋を訪れ、クラリッサさんの話を聞いた。

ディミオスは俺の部屋でSDになって休んでる。

SDになったのにはちょっと驚いたのは内緒だ。

 

 

 

クラリッサさんの話は...気持ちは、俺が何かできるものでは無かった。

俺は、自分が無力だと思った。

目の前に悲しい思いをさらけ出し、泣いている人がいるのに、俺は何もしてあげれない。

だから俺は、クラリッサさんを抱き締めた。

正直、これが正しい行動かは分からない。

でも、俺はこうすることしか出来なかった。

クラリッサさんは暫く泣いていたが、泣き止み雰囲気が少しだけだが、改善されたように見えた。

 

 

しかし、ここで大変なことが起こった。

俺が部屋に帰ろうとした時、クラリッサさんから呼び止められ、

 

 

「その、今日は私と一緒に寝てくれないか...?」

 

 

と言ってきた。

俺は衝撃的すぎるクラリッサさんを提案に、思わず固まってしまった。

だって、クラリッサさんみたいな美人に一緒に寝てくれないかって言われたんだぞ!?

こんなの動揺するに決まってる!

と、取り敢えずクラリッサさんに確認しなくては...

 

 

「ク、クラリッサさん?な、何でそんなことを!?」

 

 

「その、なんだ。今日は心細いから、一緒にいて欲しいんだ.....駄目か?」

 

 

クラリッサさんはそう言うと、少し涙目になりながら俺を視てくる。

...そんな表情でお願いされたら、断れるものも断れねぇ...!

 

 

「い、いや、駄目じゃないです...」

 

 

俺がそう言うと、クラリッサさんは涙目から一気に笑顔になった。

 

 

「そうか。嬉しい」

 

 

クラリッサさんはそう言う。

笑顔が可愛いなぁ...

 

「それじゃあ、もう寝ようか?」

 

 

クラリッサさんにそう言われ、部屋にあった時計を見る。

もう0時を過ぎて、日付が変わっていった。

寝るにしても、心の準備をする時間くらいあると思ったのに!

しかし時刻を認識すると、途端に眠気が襲ってくる。

 

 

「そうですね。もう寝ましょうか」

 

 

反射的に俺はそう返事していた。

 

 

「ならば、もうベッドに入ってしまおう。」

 

 

クラリッサさんはそう言うとベッドに入って横たわる。

 

 

「電気はどうするんですか?」

 

 

「問題ない。この部屋の電気はリモコンで消すことが出来る」

 

 

「ベ、便利ですね...」

 

 

もう俺もベットに入らないといけないようだ。

俺は覚悟を決めるとクラリッサさんの隣に横たわる。

...やべぇ、クラリッサさんの良い匂いがする!!

クラリッサさんは俺がベッドに入ると電気を消し、リモコンをベッドの近くの棚に置いた。

 

 

「じゃあ、お休み、一夏」

 

 

「はい、お休みなさい、クラリッサさん」

 

 

寝れるかどうか心配だが、眠気もあるし寝れるだろ。

 

 

-------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

ごめんなさい、やっぱり無理です。

いや、俺も寝ようとしたんですよ。

そしたらクラリッサさんが俺に思いっきり抱き付いてきたんですよ。

さっきは俺から抱き締めたが、状況が違う。

だから俺は動揺し、寝られないでいた。

 

 

 

「それなのにクラリッサさんは...」

 

 

ぐっすり寝てる。

しかも何故か向かい合うようにして寝てるから、寝顔が見える。

...可愛い寝顔だなぁ。

 

 

クラリッサさんが『大切な人』の意味を聞いてきたとき、俺は友人としてと即答した。

何でクラリッサさんはそれについて今頃聞いたんだろう。

そして、友人という答えで良かったんだろうか。

まぁ、忘れていて思い出したから今日聞いたかもしれないし、何で今かはいいや。

それよりも...俺の答えに関してだ。

 

 

クラリッサさんやラウラ、他の隊員達のことを俺は友人だと思っている。

...誘拐されるまでは弾、数馬、鈴ぐらいしかいなかったのに、増えたな。

でも、俺の中でクラリッサさんだけが特別な様な気がする。

クラリッサさんとは一緒にいる時間が他の人達より遥かに多いし、そう感じるだけかも知れない。

そうなのに、何故かそうだと断定できない。

 

 

「何なんだろうな...」

 

 

俺はそう言って、クラリッサさんの事をもう一度見る。

束さんが俺のIS教本を完成さてくれたら、俺はダークネスドラゴンWに行くことになる。

もちろん不安もあるし、知り合いと離れてしまう寂しさもある。

でも、そんな中でもクラリッサさんと会えないのが一番悲しいと思っている自分がいる。

何で俺がクラリッサさんを特別を特別視してるのかは、俺にも分からない。

でも、今は...

 

 

「これくらいは、良いですよね?」

 

 

そう言うとクラリッサさんを抱き締め返す。

ああ、あったかいなぁ...

クラリッサさんの温かさを感じると、さっきまでより急激に眠くなってきた。

俺はそのまま、クラリッサさんを抱き締めながら、眠りに落ちた。

 

 

--------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

クラリッサside

 

 

...何か、あったかいなぁ。

私が眠りから覚めて直ぐに思ったことはそれだった。

 

 

昨日は、確か...そうだ!

き、昨日は一夏と一緒に寝たんだった!!

私はその事を認識すると、急に恥ずかしくなったから体を起こそうとする。

でも体は起きなかった。

 

 

「な、何で............///」

 

 

起きなかった理由は単純明快。

一夏が私のことを抱き締めていた。

昨日は私から抱き締めたけど、私が寝た後に一夏が抱き締めて来たらしい。

寝顔もかっこいいな...じゃなくて!

取り敢えずこのまま抱き締められていたいがその前に私の心臓が持たなさそうだ...!!

非常に名残惜しいが私は一夏の腕をどかし、ベットから出た。

 

 

「ふふ、ぐっすり寝てるな」

 

 

私はそう言い、一夏の頭を撫でる。

一夏に触れるだけで、胸がドキドキしているのが分かる。

私は一夏の事が好きなんだと、改めて思う。

 

 

と、ここであるアイデアが頭に浮かぶ。

思いついたのは自分なのに、恥ずかしくなってくる。

でも、一夏はもうすぐダークネスドラゴンWに行ってしまう。

だから、今ここで行動しないといけない。

 

 

私は寝ている一夏を見て覚悟を決めると、

 

 

「ん...」

 

 

一夏にキスをした。

...頬にだけど。

 

 

「次は、起きてるときに唇かな...」

 

 

自分で言っといてなんだが、顔が真っ赤になってるのが分かる。

...少女漫画の登場人物もこんな感じの気持ちか。

 

 

「ん、うぅ...」

 

 

と、ここで一夏が目を覚ました。

もう少し早かったら、私の呟きとかを聞かれてたかもな...

 

 

「あ、クラリッサさん...おはようございます」

 

 

「おはよう、一夏」

 

 

私と一夏はおはようを言い合う。

セリフだけだったら、同棲してるみたいだな...

 

 

「取り敢えず顔洗いますね」

 

 

一夏はそう言って部屋の洗面所に行く。

ああ、もうすぐで会話すらもできなくなってしまうのか...

分かっていたが、やっぱり悲しいな...

 

 

「ん、クラリッサさん、どうしました?」

 

 

「いや、何でもないぞ」

 

 

一夏の事をジッと見てたら不審がられてしまった。

 

 

「なら、良いですけど」

 

 

一夏も一応は納得してくれた...というか、気にしなくていいかと思ったんだろう。

ここで私は時計を見る。

六時だった。

 

 

「一夏。朝食を食べに行こうか」

 

 

「あ、もう六時なんですね。食べましょうか」

 

 

私と一夏は朝食を食べることにした。

一夏と一緒に食事をするのも、あと何回かしかないのか。

私はそんな事を考えながら一夏と部屋から出る。

すると、

 

 

「「あっ...」」

 

 

「「えっ...」」

 

 

教官と隊長がそこに居た。

な、何故こんなタイミングで!?

 

 

「一夏!何故クラリッサの部屋から出てきた!?」

 

 

「そ、そうだぞ!説明しろ!」

 

 

「ク、クラリッサさん!どうしましょう!?」

 

 

ああ、本当に漫画みたいじゃないか。

漫画とかには憧れていたが、こういう場面は体験したくなかった。

 

 

私は現実逃避気味にそんなことを考えるのだった...

 

 

---------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

ついに、俺の旅立ちの日がやってきた。

またもやIS訓練場に全員集合していた。

というか束さん、よくここで生活出来ましたね。

保護したっていう子は大丈夫なんですか?

 

 

「む、いっくん。今失礼な事考えてなかった?」

 

 

「いや、何のことですか?」

 

 

「ホントに~?怪しいなぁ~」

 

 

「怪しいのはもう大人なのに恥ずかしい恰好してる束さんの方では?」

 

 

「いっくん!?本当にどうしたの!?毒が強すぎだよ!?」

 

 

「そうですかね?」

 

 

「そうだよ!!」

 

 

 

早速束さんとこんな会話をする。

やっぱこんな空気になるな。

 

 

「まあ、いっくん。はい、束さん特別製のIS教本」

 

 

「え、こんな薄くて良いんですか?」

 

 

束さんから渡された本は、シュヴァルツェ・ハーゼに置いてある教本の三分の一程の厚さだった。

 

 

「問題ナッシング!束さんにかかれば、凡人どもでは書けないようなことでも書けちゃうからね!!」

 

 

「はぁ。流石開発者」

 

 

取り敢えず電話帳の厚さの教本じゃなくなたんだ。

これは感謝しないとな。

 

 

「束さん、ありがとうございます」

 

 

「ふふん、いっくんのためだからね~」

 

 

「一夏、次は私達だ」

 

 

束さんに感謝の言葉を言った後、ラウラが話掛けてきた。

 

 

「ラウラ、どうしたの?」

 

 

「私達、シュヴァルツェ・ハーゼからの餞別だ」

 

 

そう言って、ラウラは紙袋を渡してくる。

中を確認すると、服が入っていた。

黒がメインで、所々に赤いラインが入っており、眼帯も一緒に入っていた。

男性用だが、これは...

 

 

「これって...」

 

 

 

「ああ、男性用のシュヴァルツェ・ハーゼの制服だ」

 

 

「やっぱりか」

 

 

なんと、ラウラ達から貰ったものはシュヴァルツェ・ハーゼの制服だった。

 

 

「いいのか?俺、一般人だぞ」

 

 

「問題ない。教官の弟ということで、上の許可は無理矢理取ったぞ」

 

 

「そうか。何か嬉しいな」

 

 

「男子ということで、サイズは大きいぞ」

 

 

「ん、分かった。みんな、ありがとう!」

 

 

俺は笑顔でみんなにお礼を言った。

クラリッサさんとラウラの顔が赤くしているが、何だろう?

 

 

「一夏...」

 

 

「千冬姉」

 

 

そうしていると、千冬姉が話かけていた。

 

 

「一夏、絶対に無事に帰ってこいよ」

 

 

「ああ、分かってるよ。絶対に、帰ってくる」

 

 

俺は千冬姉にそういうと、千冬姉は優しそうな顔をして、頷いた。

...そんな顔できたんだ。

 

 

《一夏、そろそろ行くぞ》

 

 

「分かったよ、ディミオス」

 

 

今まで黙ってやり取りを見ていたディミオスが声を掛けてきた。

 

 

《オープン・ザ・ゲート。ダークネスドラゴンW》

 

 

ディミオスはそう言い、ダークネスドラゴンWへの扉を開く。

 

 

「じゃあ、行ってきます」

 

 

「ああ、行ってこい、一夏」

 

 

「いっくん、いってらっしゃ~い!」

 

 

「一夏、達者でな」

 

 

「戻ってきたら、絶対来てよねー!」

 

 

「そうそう、絶対だよ!」

 

 

みんながそう言ってくれる。

そして、最後に、

 

 

「一夏。また、いつか会おう」

 

 

クラリッサさんが声を掛けてくれた。

 

 

「はい。それでは、みんなも元気で!!」

 

 

俺はみんなにそう言うと、ディミオスと並んで、ダークネスドラゴンWの扉に入った。

 

 

 

 




はい、一応プロローグのドイツ編は終了しました。
ですが、原作まではまだまだあります。


今回、シュヴァルツェ・ハーゼの制服を一夏はもらいましたが、本来はこんな簡単に所属者じゃない人間に制服は挙げれません。
でも、それだけ一夏がシュヴァルツェ・ハーゼのみんなから慕われているという事です。


ドイツ編でラウラの影が薄かった...
すまん!!


次回からは時間が一気に進む予定です。
いつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!


評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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プロローグ16 煉獄騎士の訓練

前回のあとがきでも言った通り、今回で一気に時間が飛びました。
時間が飛んでも、原作はまだまだ先...


今回は、バディファイトのモンスターが出てきます!
懐かしいモンスターも多いので、是非楽しんでください!


一夏side

 

 

あれから、俺がダークネスドラゴンWに来てから一年がたった。

俺は、まだまだ未熟だとは思うが、それでも一年前よりかは強くなったと自分では思う。

 

 

俺がダークネスドラゴンWに来て、一番初めに行ったことは、煉獄騎士団員全員との組手だった。

煉獄騎士団に所属しているドラゴン、

 

クロスボウ

ナックルダスター

ニードルクロー

シーフタン

ソードブレイカー

ジャイアントシーザー

ブラックナイフ

ネクロパーム

リングブレード

シルバースタッフ

アイアンゲルド

エヴィルグレイブ

ルナシーワンド

アングリーハンド

アンダーブレイド

ヴェノムスパイク

チェインソード

カースファルクス

トルバデゥール

イレイザーハンド

ペインダガー

デモンズレイピア

グラッジアロー

ウチガタナ

ペンデュラム

スクラップドリル

マッドハルバード

クルーエル・コマンド

ブラッドアックス

ヴァイキングアクス

ガイラムランス

サタンフォース

デスシックル

そして、ディミオス

 

 

合計34体のドラゴンを相手に連戦したのだ。

しかも、後に出てくるドラゴンの方が『サイズ』と呼ばれるモンスターの大きさが大きかったのだ。

つまり、後から出てくるドラゴンの方がモンスターの基本ステータスである『攻撃力』『防御力』『打撃力』が高いのだ。

シュヴァルツェ・ハーゼで訓練していたとは言え、ダークネスドラゴンWに来てすぐだったのだ。

もちろん全員手加減してくれていたため、大怪我を負うことはなかったが、組手が終わった後、俺は暫くまともに動けなかった。

それでも、この組手で煉獄騎士団のみんなは俺のことを認めてくれた。

シルバースタッフに話を聞くと、

 

 

《急に組手と言われて狼狽えることもなく、しかも弱音を吐かなかった。だから我らはお前を認めた》

 

 

とのこと。

 

 

その次行ったことは、体力や筋力などの身体能力の底上げだった。

俺はあくまでも一般人だ。

軍で訓練していた期間も約半年と短かったため、ダークネスドラゴンWで過ごすには、圧倒的に身体能力が足りなかった。

そのため、俺は煉獄騎士団全面協力の下、身体能力は強化した。

体力を増加するための走り込みは、ダークネスドラゴンWの地面が人間からするとやけに走りにくいので、とてもしんどい。

筋力を付けるための道具もドラゴン用のため、サイズ0用でも滅茶苦茶重い。

その他にも、シュヴァルツェ・ハーゼにいた時よりもきつい訓練ばかりだ。

この訓練は当然今も継続しており、今ではサイズ0のモンスターとは同じくらいの身体能力になった。

ディミオスは

 

 

《せめて我々全員の動きについてこれるくらいになれ》

 

 

と言う。

今はサイズ1のモンスターの動きには付いていくのがやっとで、サイズ2の動きに付いていけるようになるまであとどれくらいかかかることやら。

 

 

体力が付き始めてから行ったことは、指揮を取るための訓練だった。

バディファイトでも、リアルファイトでも、俺が煉獄騎士として指揮を取る必要がある。

だから、俺は指揮を完璧に取れる様にならなきゃいけない。

俺は、まず最初に全員の能力と煉獄騎士団の魔法を全て覚えることにした。

バディファイトでも、リアルファイトでも、モンスターは使用することになる。

そのため、誰がどんなことを出来るのかを覚えなくては、指揮の取りようがない。

更には、リアルファイトのために、全員が使用している武器の使い方も学んだ。

クロスボウやハンマー、クローなどの今まで使ったこともない武器の特性も覚える必要があったから、物凄く大変だった。

実際に指揮を取ったり、バディファイトしても上手くいかない事の方が多かったりもしたが、今ではそこそこ上達したと思う。

 

 

また、煉獄騎士団以外のモンスターや、違うワールドのモンスターからも色々と学ぶことがあった。

ダークネスドラゴンWでは、『黒き死竜 アビゲール』さんと、各ワールドに一体しか存在しない『角王』の一体である『無角邪王 ネグロバルス』様から、ダークネスドラゴンWのチカラの根本は負の感情であることと、このチカラの使い方を学び、訓練してもらった。

アビゲールさんは無口で物静かだったのだが、ネグロバルス様は荒々しい方だったので、もう滅茶苦茶な訓練内容だった。

他にもいろいろなモンスターと修行したのだが、荒々しいモンスターが多かった。

 

 

カタナWでは、『ナノマシン忍者 月影』さんと『ナノマシン忍者 白夜』さんそしてカタナWの角王である『一角獣王 ジウン』様に修行をつけてもらった。

修行では、仲間との連携の取り方や忍者特有の動き、そして真正面からのぶつかり合いを学んだ。

ジウン様いわく、

 

 

《お前には、さらなる可能性がありそうでごわす。いろいろと物事を吸収しろでごわす》

 

 

とのことらしい。

 

 

マジックWでは、角王である『二角魔王 アスモダイ』様と72柱の皆さんから魔法の上手い使い方と、物事を常に楽しむことを教わった。

スケボーやらダンスやらギターやらいろいろ行ったが、鎧着ながらだったから無駄に疲れた。

アスモダイ様は

 

 

《人生は一回しかないんだ!楽しまないでどうするよ!?それに、物事を楽しむことを忘れたら、ただ辛気臭いだけだからな。楽しむっていうのは、メンタル面では大事なんだぜ!!》

 

 

とおっしゃっていた。

 

 

ダンジョンWでは、勇者パーティの皆さんと『三角水王 ミセリア』様に教わった。

ダンジョンWらしく、仕掛けられた罠の種類や解除の仕方、それに人を慈しむことを教えてもらった。

ミセリア様は

 

 

《僕は人間として生活していたこともある。だからこそ、人間である君に可能性を感じるんだ》

 

 

と言ってくれた。

 

 

エンシェントWでは『武神竜王デュエルズィーガー』さん『武神番長デュエルイェーガー』さんそして『四角炎王バーンノヴァ』様に修行してもらった。

それぞれがサイズ3のモンスターで『神』『番長』『王』と呼ばれているため、それぞれの教えが凄まじいものだった。

バーンノヴァ様は

 

 

《漢は、全力全開でダチ公や慕ってくれる仲間を、バーンと守るもんなんだ!だからこそ、強いんだぜ!!」

 

 

と、強さの理由を教えてくれて、俺もチカラを得た目的を忘れないように言って下さった。

 

 

ドラゴンWでは、『五角竜王 天武』様、そして天武様から角王の証を受け継いだ『五角竜王 ドラム』でもある『ドラムバンカ-・ドラゴン』様、それにドラム様と同じ人間とバディを組んだという、『太陽の竜 バルドラゴン』様に修行していただいた。

大事だと言われたことは、『真っ直ぐ未来を信じて突き進む』という事。

これはドラム様とバル様のバディだった人の生き方を表したものらしい。

 

 

《オイラは、その人間...『牙王』と出会ったから、共に未来に進んだから、此処まで来れたんだぜ》

 

 

《そうバル。バルも、『牙王』と一緒に戦ったから、成長できたバル!!》

 

 

とお二人(竜)はおっしゃていた。

 

 

スタードラゴンWでは『六角嵐王 ヴァリアブル・コード』様と『結晶竜 アトラ』さんから学ばせてもらった。

ヴァリアブル・コード様からは未来を信じることを、アトラからは守る勇気を。

ヴァリアブル・コード様は

 

 

《私は人の子から教えてもらったのです。未来を信じることと、大切なものを守る覚悟を》

 

 

と教えて下さった。

 

 

レジェンドWでは『七角地王 ドーン伯爵』と、意思を持つ剣『不滅剣 デュランダル』に修行を見てもらった。

デュランダルは、使われる物の気持ちと、それにこたえるためのアドバイスをしてもらい、ドーン伯爵からは正義について教えていただいた。

ドーン伯爵は、

 

 

《我が輩の考えは、堅苦しいものがあるかもしれん。だが、正義と言う信じられるものがあるからこそ、人々は希望を持つことが出来るんだと、我が輩は考えておる》

 

 

と、考えを教えて下さった。

 

 

デンジャーWでは『アーマナイト・ケルベロス』さんと、『八角神王 グランガデス』様から修行を受けた。

ケルベロスさんは力の最大限の使い方を教えてくれた。

そして、グランガデス様は力を存分に振るうにはどうすればいいかを教えて下さった。

 

 

《力を使うという事は、それ相応のモノが必要だ。だからお前はそれを含めチカラと呼ぶのだろう?ならば、自分を信じ、突き進むだけだ。そうすれば、道を外れることはない》

 

 

これはグランガデス様のお言葉だ。

 

 

ヒーローWでは、英雄の中の英雄、『キャプテン・アンサー』さんと、『九角勇王 ムクロ』様に特訓していただいた。

アンサーさんもムクロ様もそれぞれの信念があり、それぞれの強さを教えて下さった。

 

 

《あっしはかつて、アンサーの旦那に憧れて、平和とは無関係の事をやってたんさ。でも、今では角王の一人になって、世界平和のために活動してるんさ。一夏の旦那も、きっと大丈夫やっさ》

 

 

ムクロ様はこうおっしゃってくれた。

 

 

因みにだが、角王が集まって下さったとき、ネクロバルス様と天武様がいがみ合っていたが、俺の仲介によって何とか喧嘩で暴走にはならなかった。

この二人(モンスター)を押さえるのは相当の事なのか、ミセリア様は

 

 

《やはり、人間のチカラっていうのは凄まじいな...》

 

 

と、言葉を零されていた。

 

 

訓練で、一番驚いたことと言えば、あの2人との出会いだろう。

ドラム様とバル様の元バディ、そして『魔王竜 バッツ』様のバディ『未門牙王』さんと、ディミオスの元バディにして『ジャックナイフ・ドラゴン』さんのバディ、『龍炎寺タスク』さん。

この二人との出会いで得たものは大きかった。

牙王さんはドラム様とバル様から聞いていた通りの真っ直ぐで正義感溢れる人で、

 

 

「めそめそしてても意味ないだろう?困ってる人を助けて、楽しくファイトする!それが、『太陽番長』だ!!」

 

 

と言っていた。

タスクさんとジャックさん、ディミオスは睨みあっているように見えたが、俺の仲介で和解。

ディミオスが俺にチカラをくれて助けてくれたことを話すと、ジャックさんは

 

 

《そうか...私達が成長するように、お前も成長したという事か...》

 

 

と言い、タスクさんは

 

 

「一夏君、僕はかつて道を間違えた。でも、まだバディポリスを続けられてる。むしろ、部下もできたからね。だから、君も見つけると良い。間違った道を歩かないような信念と、間違ったときに殴ってでも止めてくれるような、友達を...」

 

 

と言ってくれた。

この二人との出会いは、俺にとって凄く意味があることだった。

 

 

そして今、俺はいつも通り基礎トレーニングをしていた。

煉獄騎士として、みんなと共に戦えるようになるために...

 

 

 

 




今回たくさんのモンスターと、牙王君、そして、タスク先輩に出ていただきました。
それぞれの出番は短かったですが、出すことが出来てホットしてます。


一夏がモンスターにさん付け、もしくは様付けなのは、自分を鍛えてもらったからです。
一夏は自分はサイズ0のモンスターと同じくらいの身体能力になったと言いました。
一夏は納得してませんが、普通の人間からすると、もう人外のレベルになってきました...


次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!


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プロローグ17 事件発生

はい、ダークネスドラゴンWに来てから2話目だというのに物騒なタイトルですねぇ...
なるべく早く原作に行けるように早足に感じる所もあるかもしれませんが、ご了承ください。


それと、バディファイト側の時系列はバッツと神の間です。
説明が足りず、申し訳ありませんでした。
指摘してくださった方、ありがとうございます。


今回もいつも通りですが、お楽しみください!


一夏side

 

 

今日も今日とて、俺は訓練に励む。

IS学園に入学するまでしか、バディワールドでの訓練は出来ないだろうし、今のうちに出来るだけやっとかないとな。

 

 

「ふう、ゴール」

 

 

俺は走り込みを終え、煉獄騎士団本部に帰ってきた。

煉獄騎士の鎧を着ながらの走り込みにも、もう慣れたなぁ。

 

 

《一夏、また速くなったんじゃねえか》

 

 

「そうかな?でもそう見えるならそうなんだろうな」

 

 

俺が本部に帰ってくると、クロスボウが話し掛けてきた。

確かに、ここ最近で本部を出てから戻ってくるまでの時間が短くなったように感じる。

 

 

《全く、モンスターと同じくらいの体力になってきたな》

 

 

「そうか?煉獄騎士団の中では、まだまだ...と言うか、一番下だろ?」

 

 

《いや、確かにそうかもしれないが、ヒーローWのヒロイン達よりかはあるだろ》

 

 

「そりゃあ、女の子よりかは男の方が体力あるだろ」

 

 

《いや、アイツらもモンスターだからな?》

 

 

俺とクロスボウはそんな会話を繰り広げる。

でもやっぱり自分ではそこまですごくないように感じる。

まぁ、訓練をしていくだけだけどな!

 

 

「取り敢えず、次は筋トレかな」

 

 

俺はそう呟きながら、いったん自分用の部屋に戻る。

走り込みで服がぐちょぐちょになったため、着替えることにしたのだ。

...俺の服は煉獄騎士団から支給されたものだが、いったいどうやって準備したんだろう?

 

 

俺は汗を拭き、着替え終わると部屋を出ようとする。

その際、部屋の隅に置いてある箱が目に入る。

その箱の中には、ラウラ達からもらったシュヴァルツェ・ハーゼの制服が入っている。

 

 

「...懐かしいな」

 

 

俺はそれを見たことで懐かしい気持ちになる。

因みに、制服はラウラが言っていたように大きかったのだが...デカすぎた。

一年前はもちろん、身長が伸び、体つきもしっかりしてきた今でも大きいと感じるのだ。

どれだけ俺が成長すると思われているんだろうか。

 

 

それより、今は訓練だ。

俺はそう思い返し、部屋から訓練場に向かう。

でも、またクラリッサさんに、会いたいな...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「ふぃ~。疲れたな」

 

 

俺は今日の訓練メニューを終わらせ、少し休憩していた。

俺よりも重いものを使って訓練していたブラッドアックスも、疲労は感じていそうだが、俺ほどでもなさそうだ。

 

 

「あ、飯の当番...早くしなきゃ」

 

 

此処で俺は飯の準備を思い出した。

飯を作るために俺は調理場に向かう。

調理場の鍋とかもドラゴンサイズのため、最初こそ使うのに戸惑ったが、今ではもう慣れてしまった。

俺はこの鍋...デンジャーWでもらった、『加圧式美食調理鍋(これひとつでなんでもつくれるばんのうなべ) アツリョーク』に材料を入れていく。

今日のメニューは、同じくデンジャーWで教えてもらった『戦略兵器 でんじゃらす野菜カレー』だ。

何が戦略兵器なのかは、俺にはよく分からない。

でも、なんだかわからんがとにかく美味い。それがデンジャーWのカレーらしいのだ。

 

 

そうこうしてるうちに、俺はでんじゃらす野菜カレーを作り終えた。

俺は各ドラゴンの部屋がある方向に向かって、大声を出す。

 

 

「おお~い!!飯できたぞ~!!」

 

 

連絡手段が大声か、各ドラゴンに直接言いに行くしかないのが、煉獄騎士団本部の欠点だ。

一年以上同じところで生活してるから、これにも慣れたけどな...

 

 

そうしてるうちに、ゾロゾロと食事場にドラゴンが集まってくる。

俺は全員そろったのを確認すると、皿(ドラゴンサイズ)にカレーを盛り、それぞれの前に置く。

全員に配り終えると、俺も自分の分をよそい、席に座る。

 

 

「じゃあ、食べようか。いただきます」

 

 

《ああ、我々も食べさせてもらおう》

 

 

俺と煉獄騎士団全員はカレーを食べ始める。

食事中は、特に話をしない。

まぁ、これはこれでいいんじゃないだろうか。

そんなこんなで、俺達全員が寛ぎながら飯を食べていると、

 

 

どかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!

 

 

と、ものすごい音が聞こえてきた。

一瞬混乱するも、すぐに落ち着き、俺が取るべき行動を考える。

...普段だったら、待機、もしくは周辺を見回しながらの警備をする。

しかし、今回のこれは、もっと重要なものの様な気がする。

だから...

 

 

「ディミオス!ネグロバルス様のところに行こう!!」

 

 

《ほう、何故だ?》

 

 

「なにか、重大な事が起こったような気がする」

 

 

《分かった。ガイラムランス、此処は任せた》

 

 

《了解しました》

 

 

そのやり取りの後、俺は煉獄騎士になると、ディミオスと共にネクロバルス様のところに向かった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

俺とディミオスは空を飛びながら、ネグロバルス様のところに向かう。

俺が飛ぶ方法は、ディミオスからもらった『バディスキル インフェルノサークル』だ。

このバディスキルは両足に燃えているような円盤が出現し、自由に空を飛べるというものだ。

ぶっちゃけると、タスクさんとジャックさんのバディスキルの色違いだ。

最初こそ、空を飛ぶのに慣れていなかったため自由に飛べなかったが、今ではこうやってディミオスと並んで飛べるくらいには上達した。

 

 

そんなこんなで、俺とディミオスはネグロバルス様のところに着いた。

 

 

「ディザスターフォース、解除」

 

 

俺はディザスターフォースを解除し、ネグロバルス様の宮殿にディミオスと共に入る。

宮殿の中では、普段ネグロバルス様のもとで働くモンスターたちが右往左往しており、やはり何か重大な問題でも起こった様だ。

俺達はモンスターの一体に事情を説明し、ネグロバルス様がおられる部屋に向かうことにした。

 

 

部屋に向かう途中、俺とディミオスは会話をする。

 

 

「やっぱり、何か重大な事の様だな」

 

 

《その様だな。全く、お前の勘には恐れ入った》

 

 

「本気でそう思ってないだろ?」

 

 

《いや、多少は思っている》

 

 

「多少かい」

 

 

そんな事をディミオスと言い合っていると、ネグロバルス様の部屋の前に着いた。

俺はその人間からすると、馬鹿みたいにデカいドアをノックする。

 

 

「ネグロバルス様、織斑一夏とディミオスソード・ドラゴンです。入ってもよろしいでしょうか」

 

 

《いいぞ、入って来い》

 

 

ネグロバルス様から入室の許可をいただいたので、ディミオスと共に入る。

 

 

《「失礼します」》

 

 

俺とディミオスが部屋に入ってまず気が付いたのは、ネグロバルス様は他の角王の方々と連絡を取り合っていたという事だ。

 

 

「ああ、皆様方と連絡を取り合っていたんですね。急に入ってきてしまって申し訳ありません」

 

 

《いや、問題ないぞ一夏よ。むしろ我が輩たちはお前を呼ぶつもりでいた》

 

 

ドーン伯爵が通信水晶越しにそうおっしゃる。

でも、まだ何も説明を受けていないこの状況では、何故俺なのかが分からなかった。

 

 

「えっと、どういう事でしょうか?」

 

 

《確かに、先ずは起こったことの説明からだね》

 

 

ミセリア様はそうおっしゃると、起こったことの説明をして下さる。

なんと、ダークネスドラゴンWのモンスター一体が無断に人間界に出て行ってしまったらしいのだ。

だが、この説明を受け俺は疑問が出てきた。

人間界に出て行ったモンスターは、人間界のバディポリスの管轄だ。

わざわざ角王の方々は話さないといけない事では無いのだ。

 

 

「それだけでしたら、バディポリスの仕事なのではないのでしょうか?なぜ、角王であられる皆様方が...」

 

 

そんな俺の疑問に反応されたのは、アスモダイ様だった。

 

 

《それだけだったらな。それだけじゃないから、こんなことになってんだよ」

 

 

「それもそうですね。それでは、一体、どんなことが起こったと?」

 

 

《出て行ったモンスターが向かった世界なんだが...》

 

 

ここでアスモダイ様は言葉を区切る。

まるで、伝えにくそうな様子をしておられたが、すぐに覚悟を決めた様な顔になられた。

 

 

《一夏、お前の世界なんだ》

 

 

「えっ...」

 

 

今、俺の世界って言ったか?

...まずい。

俺の世界にはISがある。

でも、俺はダークネスドラゴンWのチカラを使い、ISに戦闘で勝利している。

つまり、出て行ったモンスターも、ISに勝利できる可能性が強いだろう。

そんなことになったら...世界は、ISが登場した時以上に混乱するだろう。

 

 

《軽くパニックになってるとこワリィが、お前に頼みたいことがある》

 

 

俺が絶賛混乱している所に、バーンノヴァ様が俺に語り掛けてくる。

 

 

「は、はい!何でしょうか?」

 

 

《このモンスターを、バーンとぶっ飛ばしてきてくれ》

 

 

「はい?」

 

 

えっと、バーンノヴァ様は今なんと?

まさか、俺にそのモンスターを退治しろとおっしゃられたのか?

 

 

《一夏の旦那。アンタの世界には、アンタが行くのが良いだろう。頼んます》

 

 

ムクロ様にも同じ事を言われてしまった。

今まで発言していない角王の方々も、同じような事を言いたげの視線を(通信水晶越しで)向けてきている。

角王の方々にここまで言われたら、その期待を裏切る訳にはいかない!!

 

 

「分かりました。そのモンスターは、我々にお任せください」

 

 

《フム、よくぞ決心してくれた。感謝するぞ、一夏よ》

 

 

「ありがとうございます、天武様。それで、何処の国に向かった等は、分かっているんでしょうか?」

 

 

《ああ、分かっておるぞ。確か...イギリスと言うとこじゃったな》

 

 

「分かりました。それでは、行ってまいります」

 

 

俺はそう言うと、完全に空気だったディミオスと部屋から出る。

 

 

「ディミオス、何か空気になる事多くない?」

 

 

《我は騒がしいのが嫌いだ...》

 

 

「はいはい...とにかく、すぐにイギリスに行こう!!」

 

 

《ああ、そうだな》

 

 

被害が大きくなる前に、絶対に倒す!!

 

 

 

 




はい、やっぱり急ぎ足に見えるでしょうか。
もうプロローグも17なので、原作が見えなくて焦ってます。
ご了承ください。


そして、今回で漸くタグバレしてるもう一人のヒロインが出てくるフラグが経ちました。
頑張って一夏と絡ませるので、待っていてください。


次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!


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プロローグ18 煉獄騎士とオルコット家の接触

今回はサブタイまんまの内容です。
そして、プロローグ18にして漸く、もう一人のヒロインが...
はぁ、原作...いつまで入れないの?


今回もいつも通りの完成度ですが、お楽しみください!


一夏side

 

 

俺とディミオスは、ディミオスが生成したゲートをくぐり、この世界に...俺の生まれた世界にやってきた。

でも、イギリスなんて来たことがなかったから、懐かしいなんて思いもしない。

 

 

「此処は...森か?」

 

 

《森であってると思うが》

 

 

俺とディミオスは、此処が森だと確信が持てなかった。

何故なら、木々は根元からへし折れて倒れてるし、地面には人間のものではない...ドラゴンのモノの様な巨大な足跡があったからだ。

 

 

「これは...例のモンスターが暴れた跡ってことか...?」

 

 

《その様だが...ん》

 

 

「どうした、ディミオス」

 

 

《同じダークネスドラゴンWのモンスターの匂いを感じる...》

 

 

「何!?」

 

 

《だが...まずいかも知れない》

 

 

まずい?いったい何でだろうか。

見つかったんだから、寧ろラッキーじゃ...?

 

 

「何がまずいんだよ?」

 

 

《そのモンスターの近くに列車が走ってる。このままだと、列車を襲いそうだ》

 

 

「なっ!早くそれを言え!!ディザスターフォース、発動!!」

 

 

ディミオスの言葉を聞いた俺は、焦りながら煉獄騎士になる。

速く行かないと、大勢の犠牲が出ちまう!

 

 

「さっさと行くぞ!バディスキル インフェルノサークル」

 

 

《分かっている》

 

 

俺はインフェルノサークルを発動すると、ディミオスの指示に従いながら空を飛ぶ。

因みに、ヒーローWのとあるバディファイトを研究して100年という博士から借りたステルスカーテンを着用している。

このカーテンは人間世界でバディワールドのモノ全てを隠せるというとても便利なものだ。

 

 

暫く空を飛んでいると、例のモンスターを発見した。

その傍には横転してしまい、炎上している素人目からしても高級なものと分かる列車だったものがある。

そして、モンスターの前には、金髪の位の高そうな夫婦と、その子供だと思われる、お嬢様感溢れる女子、そしてその女子と同じか少し高いくらいの年齢だと思われる、メイド服を着た女子。

その四人が、モンスターに襲われそうになってしまっていた。

四人は恐怖とパニックで固まってしまい、動けそうにない。

だが、このままの速度だと間に合わない...!

どうすれば.....そうか!!

 

 

「ディミオス!俺を剣で押し出してくれ!!」

 

 

《なるほど。理解した》

 

俺はディミオスの返事を聞くと、両足を屈めた。

ディミオスはその俺の足に向かって剣を振るう。

俺はその剣を思いっきり蹴り、剣が持っていた力と蹴った力を使い、加速をする!

加速した影響で、せっかくのステルスカーテンが飛んで行ってしまうが気にした事では無い。

 

 

「間に合えぇぇぇぇぇ!!」

 

 

その声と共に、モンスターはその両翼に着いた鋭いかぎ爪を振るう。

そのかぎ爪はメイド服を着た女子を捉えているようだった。

そして、そのかぎ爪が女子の身体を貫く...その直前に、俺は何とか間に滑り込み、

 

 

「キャスト!ドラゴンシールド 黒竜の盾!」

 

 

黒竜の盾で攻撃を防ぐ。

モンスターは黒竜の盾に防がれたため、いったん距離を取った。

俺は、意識をモンスターから離さないようにしながら、背中側にいる四人...特に、メイド服の女子に話し掛ける。

 

 

「一応無事そうだな...」

 

 

「は、はい。と言うか、あなたは...あの、ドラゴンみたいなのは...」

 

 

「説明は後だ。いったん隠れろ。今此処から離れようとしたら、逆に的になるぞ」

 

 

「わ、分かりまし「そんな事できませんわ!」お嬢様...」

 

 

メイド服の女子は頷こうとしたが、お嬢様風の女子はそれを遮った。

 

 

「その声、あなた男何でしょう!?わたくしは、男の言いなりに等なりませんわ!!」

 

 

成程、女尊男卑思考の奴か...

正直助けてやったのにそんな態度を取られると、イラッとするが、そんな事言ってる場合じゃない!

 

 

「そんな事言ってる場合か!死にたいのか!?生きたいんだったら、いう事は聞け!!」

 

 

俺はそう言った後、先程から黙っている夫婦に話し掛ける。

 

 

「おい、アイツ、あなたたちの娘何でしょう?だったら、守ってください。親っていうのは、こういう所でも、子供を守るものなんでしょう?」

 

 

俺、まだ中学生の年齢で、しかも親の事知らないけど...

 

 

「ああ、分かった。娘と、メイドは...セシリアとチェルシーは、私達が庇おう」

 

 

「ほら、セシリア。さっさと隠れるわよ」

 

 

「え、お、お母様!男の言う事等など...」

 

 

「いいから!」

 

 

親御さんは聞き分けのいい人で良かった。

その四人は何とか隠れられるところに隠れる。

俺とモンスターは対峙する。

 

 

「ディミオス!周辺の警備任せた!!」

 

 

《もうしている》

 

 

優秀なバディで良かった。

俺は右手を突き出し、

 

 

「装備!煉獄剣 フェイタル!」

 

 

フェイタルを装備し、切っ先をモンスターに向けて構える。

そうすると、モンスターも戦闘態勢で構える。

 

 

「ゴー・トゥー・ワーク」

 

 

俺はその言葉(ゴー・トゥー・ワーク)を言い、モンスターに向かって走り出す。

此処で絶対倒す!!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

チェルシーside

 

 

私は、チェルシー・ブランケット。

オルコット家に...セシリアお嬢様に仕えるメイドです。

唐突な自己紹介申し訳ありません。

でも、少々お付き合い下さい。

 

 

オルコット家とは、イギリスの由緒正しい貴族家の一つの事です。

そして私の家、ブランケット家は、代々オルコット家に仕えている家系です。

私も、幼少期からオルコット家に仕えることを使命と教育されてきました。

そして今は、私の一つ下の年齢であられるセシリアお嬢様の専属メイドになりました。

お嬢様は、私のことを幼馴染だと、お姉さんであり、目標であると言って下さいますが...恐れ多いです。

 

 

そんな私ですが、実は一つ、お嬢様に直して頂きたいところが存在します。

...典型的な、女尊男卑思考です。

お嬢様は、男性のことを極度に嫌っており、旦那様にもその目を向けています。

理由は分かっております。

お嬢様は、男尊女卑の時代から大々的に活動してらした奥様のことを尊敬してる一方、婿養子ということで、奥様に対して卑屈な態度になられてしまう旦那様を毛嫌いされています。

しかも、ISの登場による社会の変化によりそれに拍車がかかってしまい、全ての男性を下に見るようになってしまわれました。

 

 

しかし、お嬢様は知りません。

旦那様が、実は表にならないところではオルコット家のために奥様以上に貢献していらすことを。

奥様も旦那様も、お互いとお嬢様を心の底から愛していることを...

私は、そのことをお嬢様に伝えようと考えたこともありました。

しかし、ただのメイドである私には、伝えることができませんでした...

 

 

そして今日、私はお嬢様と、旦那様、奥様と列車に乗っていました。

正直、メイドである私にこんな高級列車は似合わないのですが、お嬢様の専属メイドであるため、乗らない訳にはいきません。

旦那様も、

 

 

「チェルシー、君はセシリアと一つしか変わらないのに、よくやってくれている。偶には、楽をしていいじゃないか」

 

 

と言って下さり、私の席もお嬢様方と同じ席になりました。

 

 

お嬢様は、不機嫌そうでした。

毛嫌いしている旦那様と同じ席なのが気に入らないようです。

何とか機嫌を直して頂きたいと思い、できる限りのことをしたのですが、お嬢様は不機嫌なままでした。

 

 

 

暫くすると、突然事件は起きました。

急に強い衝撃を受けたかのように、列車が揺れました。

驚く暇もなく、列車は横転してしまい、私たちは開けていた窓から外に放り出されてしまいました。

私も、お嬢様も、旦那様も、奥様も、大きなけがは奇跡的にありませんでした。

遠くの方には、他の乗客の方や列車の乗務員の方が倒れていました。

しかし、怪我がないのにホッとしたのも束の間、私たちにさらなる衝撃が来た。

衝撃と言っても、先程と同じ物理的なものではなく、心理的な衝撃が。

 

 

だって...目の前に得体の知れないドラゴンの様な生物がいるんですから...

その生物は口元を舌で舐めた後、ゆっくりとこちらに向かってきました。

私たちは、恐怖で声を発することも出来ませんでした。

その生物は、翼に付いている鋭いかぎ爪を振るってきた。

その先にいるのは...私。

ああ、私はここで死ぬんだ...

何か叫ぶような声が聞こえるが、よく認識できない。

お嬢様だったのか、旦那様だったのか、奥様だったのか...でも、今の声は、頭上から聞こえたような.....?

私はそんな疑問を感じながら、目を閉じました。

目を閉じていても、かぎ爪が迫ってきているのが分かる。

私は、そのまま体を貫かれる痛みを感じる...

 

 

 

 

 

 

 

 

その直前に、何かが私と生物の間に滑り込んだかと思うと、

 

 

「キャスト! ドラゴンシールド 黒竜の盾!」

 

 

という声が聞こえた。

私が目を開けると、目の前で黒と金がメインカラーで、紅いマントが付いた鎧を着た何者かが、半分が朽ち果てたドラゴンの顔の様なものが付いた盾で、生物からの攻撃を防いでいた。

そのことに、私だけでなくお嬢様方も驚いているようだった。

生物が距離をとると、その盾は消えてしまいました。

IS...では、無いのでしょうか...

何となくですが、これはISじゃないような気がします...

私がそうしていると、その鎧を着た何者かが

 

 

「一応無事そうだな...」

 

 

と話し掛けてきます。

その声が男性の声...それも、私とそう変わらない、若い声なのに驚きました。

ISじゃないと感じていたけど、本当にISじゃないなんて...

 

 

「は、はい。と言うか、あなたは...あの、ドラゴンみたいなのは...」

 

 

私は驚きながらも質問をする。

しかし、鎧を着た何者かはこの質問に答えず、

 

 

「説明は後だ。いったん隠れろ。今此処から離れようとしたら、逆に的になるぞ」

 

 

と、私たちに隠れるように言ってきました。

私がそれに返事しようとすると、お嬢様が私の言葉に被せて反論しました。

なんとも、男性の言うことなど聞けないという、なんとも女尊男卑な言葉でした。

今、そんなこと言ってる場合じゃないと思いますが...

私がそんなことを思っていると、鎧を着た何者かも、お嬢様に説教するかのように叫んだあと、旦那様と奥様にお嬢様を守るように言いました。

旦那様は、お嬢様だけでは無く私も庇うと言って下さり、奥様はまだ渋っているお嬢様を引きずりながら物陰に隠れさせました。

私も同じところに隠れながら、鎧を着た何者かの方を見ます。

すると、何者かは、その手に紅と黒の大剣を出現させると、

 

 

「ゴー・トゥー・ワーク」

 

 

と言うと、生物に向かって走り出しました。

...全く関係ないのですが、顔を見れなかったのに、あの人に胸が高鳴ってる気がするのは、なんでしょう.....?

 

 

 

 




はい、遂にチェルシーが、登場しました!
待っていた方、お待たせしました!
命を助けてもらったからか、もうヒロインし始めました。


それにしても、ステルスカーテンなんてものを開発したのは、どんな感じの博士なんだ?
100年研究...聞いたことあるような...?


次回もいつになるかわかりませんが、楽しみにしていてください!


評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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プロローグ19 煉獄騎士とオルコット家の会話

前回のサブタイの方が今回にあってるかもしれない...
何で接触を使ったんだ!この前の私!!


取り敢えず、今回は一夏とオルコット家の本格的な関わりの初めです。
チェルシーもオルコット家に括ってしまったが、大丈夫だろうか...


今回もお楽しみください!


UAが10000を超えました!ありがとうございます!!



チェルシーside

 

 

私は、目の前で行われている事から、目を離すことができなかった。

何故なら、ドラゴンの様な生物と黒と金の鎧を着た何者か...声的には男性ですが...が戦ってるんですから...

 

 

その戦いをじっと見ていると、隣でお嬢様がある事を呟きます。

 

 

「あの男...何であそこまで、戦えるんでしょうか...?」

 

 

どうやらお嬢様は、ドラゴンの様な生物よりも男性が戦っていることに衝撃を受けているようでした。

確かに、女尊男卑思考になってしまったお嬢様からすると、そっちの方が衝撃的なんでしょう。

私は女尊男卑思考という訳ではないので、普通にドラゴンの様な生物がいることに衝撃を受けたんですがね...

そうしていると、鎧の男性は再びドラゴンの様な生物にその手の大剣で切りかかります。

 

 

「ちっ...鱗が固い...めんどくさいな」

 

 

如何やら固い鱗があるようですが、発言から察するに、めんどくさいだけで倒せるんでしょうか...?

こんなことを思っていると、奥様がお嬢様に語り掛けます。

 

 

「ねぇ、セシリア。良いタイミングだから、言っておきたいことがあるの」

 

 

「はい、何でしょうか、お母様?」

 

 

奥様はお嬢様に伝えたいことがあると言います。

恐らくですが、旦那様の事やお嬢様の女尊男卑思考の事でしょうか。

 

 

「セシリア、あなたは二つ誤解をしているわ」

 

 

「誤解...ですか?いったい、何を誤解していると...?」

 

 

そこで、奥様はいったん旦那様と鎧の男性の方を見ました。

そしてすぐに、お嬢様い視線を戻すと次の言葉を口にします。

 

 

「まず、家...オルコットで一番仕事をしているのは、私じゃないわ」

 

 

「えっ...?」

 

 

その言葉を聞いたとき、お嬢様は今日一番衝撃を受けた顔になられました。

奥様の事を誰よりも尊敬していたお嬢様だからこそ、ここまで衝撃を受けたんだと思います。

 

 

「お、お母様じゃないのでしたら、いったい誰が...?」

 

 

「それはね...ロバートが、あなたの父親であり、私の夫よ」

 

 

「はっ...?」

 

 

「おい、今それを言うか...?」

 

 

「あら、良いじゃないですか、あなた」

 

 

お嬢様は今度は驚愕を通り越して呆けたような顔になられてしまいました。

旦那様が奥様に文句の様なものを言ってますが、それもお嬢様には届いていないようですね。

しかし、確かに今ではないかもしれませんが、お嬢様には伝えるべきだったと思いますよ、旦那様。

 

 

「お嬢様、大丈夫ですか?」

 

 

「あ、チェルシー...お母様が言っておられたことは、本当なんですの...?」

 

 

「はい、旦那様は、裏で誰よりもお仕事をなさってます」

 

 

「っ...本当なんですのね...お母様、お父様、なぜ、そのことを私に伝えてなかったのですか?」

 

 

お嬢様が、旦那様と奥様に話しかけます。

...お嬢様が旦那様を「お父様」と呼ばれるのは、随分と久しぶりな気がしますね。

奥様は、旦那様に「説明よろしく」と言い、自身の口からは言わない態度を取りました。

旦那様は暫く悩んでいるようでしたが、覚悟を決めたような顔をなられると、お嬢様に説明を開始します。

 

 

「私は、あくまでも婿養子だ。そんな私が一番に活躍できる訳がなかった。オルコット家内では認めてくれ、協力してくれる人しかいないが、世間はそうもいかない。だから、私は表にならないところの仕事をすることにした。そうすれば、世間からのバッシングを受けることもなく、オルコットに貢献することができるから...」

 

 

「お父様...」

 

 

この瞬間、旦那様はお嬢様に初めて真実を語りました。

旦那様もお嬢様も、暫くの間固まっていました。

そんな二人を尻目に、奥様は次の言葉を口にします。

 

 

「セシリア。あなたが誤解しているもう一つの事を教えるわ」

 

 

その奥様の言葉で、お嬢様と旦那様は動きを取り戻しました。

お嬢様と旦那様が動きを取り戻したのを確認すると、続きを話します。

 

 

「それは、男性は全員が弱いという訳じゃなく、そして、女性全員が強いという訳じゃないことよ」

 

 

「男は弱いだけでなく、女は強いだけじゃない...」

 

 

「そうよ。目の前にいるじゃない。鎧を着て、あの化け物と戦う男性が...」

 

 

奥様はそう言い、鎧の男性とドラゴンの様な生物が戦っている方向に顔を向ける。

それにつられ、お嬢様と旦那様、そして私も同じ方向を向く。

すると...

 

 

「話は終わったか?」

 

 

鎧を着た男性が腕を組んでそこに立っていた。

い、いつの間に...

そして、律義に待ってたんですね...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

モンスターを倒し終わり、襲われていた四人の様子を見たら、母親だと思われる人物が話をしていたので、話が終わるまで待っていた。

話が終わったタイミングでこちらに振り向いたので、声を掛けたのだが、全員が驚いたような表情を浮かべた。

何故だ。

俺がそんなことを考えていると、メイド服を着た女子が話し掛けてくる。

 

 

「あ、あの...何時から、そこに?」

 

 

「モンスターを倒し終わってからだが」

 

 

「それは、何時ですかという意味です...」

 

 

「『お、お母様じゃないのでしたら、いったい誰が...?』のあたりからかな」

 

 

「そ、そんな前からですか...」

 

 

俺がメイド服の女子と会話していると、貴族だと思われる男性が声を掛けてくる。

 

 

「君には、命を助けてもらった。本当に感謝している。ありがとう」

 

 

「問題ない...これはこちら側の落ち度でもある。本来なら、こちらが謝罪をしないといけない。だから、謝罪させてもらおう。すまなかった」

 

 

俺は、そう謝罪しながら頭を下げる。

明らかに年上の人に、こんな言葉遣いをするのは初めてだから、ものすごい違和感を感じる。

だが...これは仕方がないことだ。

俺の正体が、今世間に出回るのは避けなくてはいけない。

そして、モンスターを見たこの人達の記憶は...

 

 

「すまないが、記憶を消去させてもらう」

 

 

「な、何でですの!?」

 

 

お嬢様感あふれる女子...俺と同い年くらいか...が驚いたように声を上げる。

さっき、俺のことを男の言う事なんて聞かないみたいなことを言ってたやつと同じ人間か?

さっき話してたことが、心に響いたようだな。

 

 

「モンスターや、俺の記憶を残しておく訳にはいかないからな...悪く思うな。次に目が覚めたら、俺のことなど忘れている...」

 

 

俺はそう言うと、左手首にある眼を見せるようにして、左腕の肘を曲げ、左腕を上げる。

そして、左手首に右手を添え、記憶を消す...

 

 

その直前に、メイド服の女子が声を上げる。

 

 

「待って下さい!!」

 

 

「...何の用だ」

 

 

「き、記憶を消さないでください!」

 

 

「それは無理だ。そもそも、何故記憶を残そうとする?消すのは、この出来事の記憶だけだ」

 

 

このメイド服の女子はモンスターに殺されそうになっている。

むしろ、記憶なんか消して欲しいものなんじゃないのか?

俺がそんなことを思っていると、そのメイド服の女子は顔を赤くしながら言葉を発する。

 

 

「あ、あなたのことを忘れたくないからです!」

 

 

「は?」

 

 

今、この人は何と言った?

俺を忘れたくないから?

...まさか、そんな理由だとは...

しかし、顔を赤くさせながら言う事かな?

なんか、恥ずかしいこととかあったっけ?

俺がメイド服の女子の発言に対し、疑問を感じていると、

 

 

「そうですわ!助けて下さったあなたを忘れたくはありませんわ!」

 

 

「私からも頼む。君のことを、忘れることなんかできない。記憶を残してくれないか?」

 

 

「私もお願いするわ。あなたがいなかったら、たぶんセシリアが変われる切っ掛けもなかった。だから、あなたの事を覚えさせてて」

 

 

残りの三人からも、記憶を残してと頼まれてしまった。

...断りづらい。

特に、メイド服の女子からのお願いが。

 

 

「なぁ、ディミオス。良いか?」

 

 

《まぁ、仕方がないか...お前に何言っても無駄そうだ...》

 

 

良いかだけで伝わる。

なんてすばらしいバディなんだ。

目の前の四人は、急に喋りだした俺と何処からか聞こえた声に驚いたようだ。

俺はそんな四人に声を掛ける。

 

 

「おい、大丈夫か?」

 

 

「え、は、はい。大丈夫です」

 

 

取り敢えず、反応はあった。

さて、ここからどうしようか...

先ず、他言無用だということを伝えなくてはな...

 

 

「分かった、記憶は残しておいてやる。正し、他言無用で頼む」

 

 

「分かった」

 

 

男性が返事をし、他の三人も頷いた。

俺はそれを確認すると、ディザスターフォースを解除する。

 

 

「ディザスターフォース、解除」

 

 

俺の言葉に応じて、煉獄騎士の鎧はエネルギー体になると左手に集まり、ダークコアデッキケースに戻る。

四人が驚いている中、俺は自己紹介をする。

 

 

「俺は煉獄騎士...織斑一夏だ」

 

 

俺が名前を名乗ると、四人は更に驚いた顔になる。

まぁ、それも当然か。

だって...織斑だもんな。

 

 

「お、織斑ということは...」

 

 

「ああ、織斑千冬は俺の姉だ」

 

 

「や、やっぱりですの...」

 

 

やはり、織斑千冬のネームバリューは凄いな。

身内ってだけで驚かれるとは...

俺はそんなことを思ったが、取り敢えず四人にも自己紹介をしてもらおう。

 

 

「自己紹介をして頂いても?」

 

 

「あ、ああ。そうだったね」

 

 

四人は自己紹介を完全に忘れたようで、俺の言葉で自己紹介をしてくれる。

 

 

「ロバート・オルコットだ。今回は、本当にありがとう」

 

 

「ロザリー・オルコットよ。あなたが居たから、良いこともあったわ。ありがとう」

 

 

「セシリア・オルコットですわ。先程の失礼な発言はお許しください。そして、ありがとうございます」

 

 

「チェルシー・ブランケットです。オルコット家で働く、セシリアお嬢様の専属メイドです。助けてくれて、ありがとうございます」

 

 

と、全員の自己紹介が終わった。

しかし、自己紹介の後を何も考えてなかった...

俺が何を言うか考えていると、ロバートさんが言葉を発する。

 

 

「取り敢えず、話して欲しいこともあるがここでは駄目だろう。どうだ、私たちの家に来ないか?」

 

 

「はい.....はい!?い、良いんですか!?」

 

 

「ああ、私が言っているんだ。問題は無い」

 

 

そんなこんなで、俺はオルコット家に行くことになった...

 

 

 

 




セシリアの両親の名前はテキトーです。
イギリス人の名前じゃないかもしれませんが、許してください...


何だろうか、ディミオスが空気だ...
次回はちゃんと喋る(予定)ので、勘弁してください。


あれ、後書きで二回謝ってる...
やっぱり、駄文ってことかな...


次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!


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プロローグ20 オルコット家への説明

はい、投稿を開始して20話目。
それでもまだまだプロローグ。
他の方々は、なんですぐに原作に入れるんでしょうか?


そんなこんなの今回ですが、またもや説明(する)回。
オルコット家の皆さんに説明します。


今回もクオリティーはいつも通りですが、楽しんでください!





一夏side

 

 

あれから暫くして、俺はオルコット家に来ていた。

もちろん、ロバートさん、ロザリーさん、セシリアさん、チェルシーさんは病院で検査を受けた。

特に異常無しとのことで、入院することもなかった。

ちなみにだが、その間ずっとディミオスはステルスカーテンで姿を消している。

 

 

そんなこんなで、今俺はオルコット家の屋敷にいる。

...すげぇ。

まさか、人生でこんな豪華すぎる屋敷に足を踏み入れることがあるなんて...

玄関も、ロビーホールも、廊下も、今いる応接室も、何か高そうな骨董品がいっぱいある...!

俺がこの屋敷の凄さに驚いていると、応接室の扉が開く。

そこから、ロバートさん達四人が入ってくる。

 

 

「やあ、遅くなってしまって申し訳ない」

 

 

「いえ、大丈夫ですよ。それよりも、俺がここにいてよかったんですか?」

 

 

「ハハ、ここはただの応接室だからね。いろんな人が入って来るんだ。問題は無いよ」

 

 

「そ、そうですか...」

 

 

俺はロバートさんと会話する。

...俺からすると、『ただの』応接室ではないんだがな。

 

 

「それで、説明してくれるのよね?」

 

 

「はい、それはもちろん」

 

 

ロザリーさんが説明を催促してきたので、俺は立ち上がりながらそう答える。

 

 

「何してるんですの?」

 

 

「まあまあ、良いじゃないですか」

 

 

セシリアさんが俺の行動に疑問を持ち、質問をしてくる。

俺はそれをあしらうと窓に近づき、窓を開ける。

四人の不思議なものを見ているような視線を感じながら、俺は声を発する。

 

 

「ディミオス、もういいよ。SDでお願いね」

 

 

《それぐらいは分かっている》

 

 

四人はどこからか聞こえてきた声に驚いていた。

そんな四人を気にしないように、急に窓の外の空間が歪むと、そこからディミオスが出て来た。

ディミオスはすぐにSDになると、窓から応接室の中に入っていく。

俺は窓を閉めると、驚きと恐怖で固まってるっぽい四人に声を掛ける。

 

 

「怖がらなくても平気ですよ。こいつは俺のバディなので」

 

 

「バ、バディ?」

 

 

《そうだ。我は織斑一夏のバディ、煉獄騎士団団長 ディミオスソード・ドラゴン》

 

 

ディミオスが自己紹介をすると、四人からは恐怖の感情は感じれなくなった。

でも、その代わりに困惑の色が濃くなったように感じる。

 

 

「えっと、バディ?煉獄騎士団?何ですか、それは...」

 

 

チェルシーさんが四人を代表して聞いてくる。

一回モンスターに襲われた経験があるからか、何時ぞやのシュヴァルツェ・ハーゼの時よりは騒がしくない。

それでも、やはりドラゴンなんてこの世界に存在するはずのない生物を見る事に対する衝撃は強いんだろう。

...そもそもISがオーバーテクノロジーで、束さんがいなかったら今でも作ろうとすら思われて無いだろうから、ドラゴンくらい許容できそうだけどな。

まあいい、今は四人に説明をしなくては。

 

 

「そこら辺も全部説明しますよ、チェルシーさん」

 

 

《その通りだ。しかし...また説明をすることになるとはな...》

 

 

「まぁ、しょうがないやん」

 

 

ディミオスは俺、シュヴァルツェ・ハーゼ+千冬姉+束さんと、もう二回も説明してるんだ。

またか...と思っても仕方ないだろう。

でも、仕方がないじゃん。

あんな感じに頼まれたら断れない...

特に、チェルシーさんの頼み方は卑怯だと思う。

 

 

って、そんなこと考えてる場合じゃないな。

 

 

《順番は前回と同じで問題ないな?》

 

 

「問題ないでしょ。さあ、説明を開始しようか」

 

 

俺とディミオスは二人での会話を終了させると、改めて四人に向き合う。

 

 

「さて、さっきチェルシーさんが言ったことを含めた全ての説明をします。大丈夫ですか」

 

 

「はい、大丈夫です」

 

 

「大丈夫ですわ」

 

 

「問題ない」

 

 

「大丈夫よ」

 

 

全員が頷いたのを確認し、俺とディミオスは説明を開始する。

 

 

《ではまず、一夏の秘密の説明からだな》

 

 

そして、全ての説明を聞いた四人は、今までで一番驚いていて、どこか悲しい表情を浮かべていた...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

チェルシーside

 

 

私達は、モンスターから助けてくれた男性...一夏の説明を聞きました。

私はさん付けで呼ぼうとしましたが、年下なので呼び捨てで良いとのことだったので、そう呼ばせてもらっています。

私がモンスターから殺されそうになった時、空から鎧を着て現れて、ISじゃないものを使っただけでも衝撃的でしたが、それ以上に衝撃が大きい話もありました。

先ず、一夏はISを起動できるということです。

ISは本来女性にしか動かせることができず、そのため現在の女尊男卑社会の根本になっています。

そんなISを男性である一夏が動かせるというのは、現代社会を生きる私達にとっても衝撃的なことでした。

この時驚きすぎた私達を一夏は笑顔で宥めてくれたんですけれども...この時の一夏の笑顔にドキッとしました。

いったいなんで何でしょうか...?

 

 

私達が落ち着いた後、今度は一夏が部屋に入れたドラゴン...ディミオスソードがメインとなった説明を受けました。

その説明は...とてつもなく壮絶なものだったのです。

異世界のバディワールドとかモンスターと共に戦うバディファイトの事なども、俄かには信じ難い事だったが、目の前にディミオスソードというドラゴンがいるため、信じざるを得ませんでした。

でも、それ以上に衝撃を受けたのは、ディミオスソードの...煉獄騎士団の過去の話でした。

過去の罪、それに対する思いなど、私が完全に理解したとは思っていません。

それでも、思わず同情してしまいました。

そんなディミオスソード達の贖罪に付き合うといった一夏の覚悟の表情もどこか悲痛に見えました。

 

 

 

因みにですが、あの鎧...煉獄騎士になっているときに敬語を使わなかったことを一夏は謝罪していました。

旦那様と奥様、お嬢様は特に気にしたことではないとおっしゃっていました。

この時、お嬢様は一夏と同じ年齢ですので、呼び捨てで問題ないとおっしゃり、一夏はお嬢様には普通に喋るようになりました。

私も呼び捨てで構わないと言いましたが、年上にはさすがにできないと、私には敬語で話しています。

...お嬢様が少し羨ましいですね...

 

 

全ての説明を聞き終わった後、私達は何も言葉が発せませんでした。

一夏とディミオスは、暫く私たちが落ち着くまで黙っていましたが、一向に喋らなかったからか、一夏が口を開きました。

 

 

「えっと、大丈夫ですか?」

 

 

その言葉で私達は漸く反応をすることができた。

 

 

「あ、ああ。ちょっと衝撃的過ぎてね...」

 

 

「そうね...まさか、そんなことがあったなんてね...」

 

 

旦那様と奥様は説明を聞いただけで少し疲れている様子でした。

それも仕方ないと思うくらいの情報密度と衝撃でしたからね...

一夏もそれを分かっているのか、旦那様と奥様に声を掛けました。

 

 

「本当に大丈夫ですか?」

 

 

「あ、ああ。しかし、あの時『こちら側の落ち度でもある』と言っていたのは、そう言う事か...」

 

 

「そうです...それは本当に申し訳ありませんでした。特に、チェルシーさんには何と言ったらいいか...」

 

 

如何やら一夏は私が殺されそうになったことをだいぶ気にしているようだった。

確かに、あの時は本当に怖かったし、死んだかとも思いましたが...

でも、今生きているし、この事件がなければお嬢様が変わられることも、一夏と出会うこともありませんでした。

そう考えると、この事件が起きていいこともあったような気がします。

...あれ?

一夏と出会えたことが良い事?

何で私はそう思ったんでしょうか?

確かに、さっきから一夏のことを見ると、胸が高鳴る気がしますが、何なのでしょう?

私が一人でそんなことを考えていると、一夏がこっちに近づいて来て、私の顔を覗き込みました。

 

 

「チェルシーさん?さっきから黙ってどうしました?」

 

 

「ひゃあ!?だ、大丈夫ですよ、一夏」

 

 

「本当ですか?ならいいんですけど...」

 

 

一夏はそう言って私から離れていきました。

...もう少し近くにいてもよかったんですけどね。

と言いますか、お嬢様から鋭い視線が...

何なんですか、さっきから分からないことが多くないですか!?

私がそんなことを考えている間、旦那様と一夏が会話を開始していました。

私もこんなことを考えてるんじゃなく、切り替えなくては...!

 

 

「それで、一夏君はどうするんだい?」

 

 

「どうする、とはどういうことですか?」

 

 

「そのままさ、一夏君は、これからどうするんだい?」

 

 

旦那様と一夏は、これからの予定について話しているようです。

正直に言うと、私としてはここに残って、生活してほしいですね。

もちろん、私はただのメイド。

屋敷に住む許可など出せないし、そもそも一夏が判断することです。

私の希望なんて、通りしないでしょう。

 

 

「そうですね...普通にダークネスドラゴンWに帰る気でしたが」

 

 

「そうか...君さえよければ、暫くはこの屋敷に住んでもらおうと思ったんだが...」

 

 

「え?」

 

 

何と旦那様は一夏に屋敷に住んでほしいというではないですか。

この旦那様の言葉で、私は思わず一夏のことをじっと見てしまいます。

一夏は私の視線に気づいた様子はなく、暫く考えていましたが、

 

 

「えっと...何でですか?言ったら俺、部外者ですよ」

 

 

と、旦那様に質問しました。

すると、旦那様はすぐに返答します。

 

 

「いや、私がここで暮らして欲しいと思ったからだ。それ以外に理由はないよ」

 

 

「は、はぁ.....ディミオス、どうする?」

 

 

《ここで我に振るのか、お前は...》

 

 

如何やら一夏はディミオスソードと共に決めるようだ。

っていうか、ディミオスソード、影薄くないですか?

ドラゴンという、なかなか衝撃的なものなのに...

 

 

《チェルシー・ブランケット、何か失礼なことを考えていないか?》

 

 

「いえ、そんなことはないですよ」

 

 

《ならば良いが...》

 

 

あ、危なかったです...

私が内心ひやひやしていると、一夏は言葉を発します。

 

 

「分かりました。少しの間ですが、お世話になります」

 

 

「うん、遠慮はいらないわよ!」

 

 

「ロザリー、そこは私が答えるところだろう?」

 

 

「あら、良いじゃない」

 

 

少し旦那様と奥様がコントの様な事をしてらっしゃいますが、一夏はここで生活するようです。

 

 

やった!!

 

 

私は柄にもなく心中で喜びました。

...また、一夏のことを考えて胸が高まってます。

本当に、何なのでしょうか...

 

 

 

 




チェルシーには、一夏のことを呼び捨てで呼んでもらいました。
原作では様付けだったので、どうしようか悩みましたが今作ではヒロインなので。
ヒロインなので!!


大事なことなので二回言いました。


次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!


評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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プロローグ21 煉獄騎士とチェルシー

今回は一夏とチェルシーの距離を近付けます。
強引と思われるところがあるかもしれませんがご了承ください。


そんな今回ですが、楽しんでいって下さい!!


チェルシーside

 

 

一夏がオルコット家の屋敷に住み始めて、四日が経ちました。

その四日間で分かったことは...一夏が凄すぎです。

 

 

一夏は毎日トレーニングをしています。

それだけなら、IS操縦者であり国家代表候補生を目指しておられるお嬢様もしていますし、何ともないと思われるかもしれません。

しかし、一夏のトレーニングはお嬢様がしているトレーニングの比ではありませんでした。

 

 

一夏は毎朝屋敷の周りで走り込みをしています。

この屋敷はイギリス貴族の屋敷ですので相当広く、奥様の専属執事兼SPの男性でも一周するのに18分は掛かります。

しかし、一夏はこれを10分で走り切ってしまいます。

しかも...80㎏の重りを背負ってです。

80㎏だなんて、重量挙げに使われる重さですよ?

それを背負って走るだなんて...考えられません。

しかも、一夏は適度に筋肉は付いていますが、どちらかと言うと細身の方です。

そんな人が、こんなことが出来るだなんて...

それ以外にも、一夏のトレーニングは普通の人間の限界を超えているようなものばかり。

何でそんなことが出来るのか一夏に尋ねると

 

 

「いやぁ、最初はこんなこと出来なかったですよ。継続して続けてきたっていうのと、周りが人間の身体能力を軽々上回るモンスターしかいなかったので、負けないようにやってたからですかね...」

 

 

という返事が返ってきました。

正直、それだけでそんな身体能力になるとは思えませんがね...

 

 

身体能力以外にも、一夏の凄いところはありました。

ある日、一夏が料理を作ってくれました。

 

 

「お世話になりっぱなしっていうのも嫌なので、一食作らせてください」

 

 

とのことだったので、夕食を作って頂きました。

メニューは私達にはあまり馴染みのない、日本食...野菜炒め定食と呼ばれるものでした。

一夏は相当な自信作らしく、

 

 

「めっちゃうまそうでしょう?コツは弱火でじっくり炒める事なのです」

 

 

という、今までの口調とは違った感じで自慢してきました。

正直、その自慢にイラっとしないくらいに美味しそうでした。

私だけでなく、お嬢様も旦那様も奥様も、普段料理しているシェフも、他のメイドたちも同じ様なことを思っていそうでした。

そんな私達ですが、冷めてしまうのも勿体ないので早速食べることにしました。

その野菜炒めは...絶品でした。

今まで食べたことも無いような美味しさでした。

...正直、女としての自信とメイドとしての威厳が打ち砕かれたように感じます。

周りを見ると、皆さん衝撃を受けたようです。

その中でも、シェフと他のメイドが特に衝撃を受けているようでした。

まぁ、シェフは本職ですし、メイドは私と同じく自信と威厳が砕かれたようでした。

 

 

そして、今日も一夏はトレーニングをしている。

如何やら、ディミオスソードとの訓練のようだ。

正直、私から見ると何をしているのか良くわからない。

でも、何か魔法と言っていたような...?

 

 

「ディミオス、本当にこれで蘇生できるのか?」

 

 

《蘇生というよりも、瀕死のものを復活出来るだけだ。一応使えるようになって損は無いだろう》

 

 

「確かにな....ディザスターフォース、解除」

 

 

いま、一夏とディミオスソードは何と言った?

瀕死の人間を蘇生できる?

それが本当なら、あの子は...

私はそう思うと、半分無意識に一夏のことを呼んでいた。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

「一夏...」

 

 

「ん?チェルシーさん、どうしましたか?」

 

 

ディミオスととある魔法の練習を終え、ディザスターフォースを解除したところにチェルシーさんに声を掛けられた。

チェルシーさんは、いつものお姉さん感はなく、縋りつくような雰囲気を出していた。

こんな感じのチェルシーさんは見たことがなかったので、俺は心配になった。

そして、チェルシーさんはそのままの雰囲気を崩すことはなく、俺に語り掛けてくる。

 

 

「一夏...さっきの話は本当なんですか...?」

 

 

「さっきの話って、蘇生の話ですか?」

 

 

「うん...」

 

 

しまった。

さっきの話をチェルシーさんに聞かれてしまったらしい。

だが、チェルシーさんは周りに言いふらすことも無いだろうから、他の人じゃなかっただけマシか。

だけれども、このチェルシーさんは普段と違いすぎる。

本当にどうしたんだろうか...?

 

 

「...本当に、本当に蘇生ができるの?」

 

 

「は、はい。一応は...」

 

 

「なら、なら...!」

 

 

チェルシーさんは、涙目になりながら叫んでくる。

本当に大丈夫だろうか。

俺はそんなことを思いながら、チェルシーさんの言葉を待つ。

すると、すぐにチェルシーさんは言葉を発する。

 

 

「私の妹を、助けて...!」

 

 

「えっ...?」

 

 

チェルシーさんって、妹いたんだ...

頼れるお姉さん感があるのは、本当にお姉さんだったからか。

じゃなくて!!

助けてって...

いったい何でだ!?

 

 

「チ、チェルシーさん、ひとまず落ち着いてください。せ、説明をお願いします」

 

 

「そ、そうね...取り敢えず落ち着きます...」

 

 

そういうとチェルシーさんはいったん深呼吸をした。

その後すぐに説明を開始した。

 

 

「私には、エクシアっていう妹がいるの...」

 

 

「はぁ、エクシアさんっていうんですね」

 

 

「そうなの...一夏やお嬢様より年下で、私よりも明るい性格の子だったの。でも、それが...」

 

 

ここまで言うと、チェルシーさんは言葉を詰まらせてしまう。

如何やら、相当なものだったらしい。

しかし、エクシアさんか...

チェルシーさんの妹だったら相当可愛いんだろうな。

だって、チェルシーさんがこんなに美人なんだから。

って、そんなこと考えてる場合じゃない!!

俺が自分の中で脱線をしていたのを戻すと、そのタイミングでチェルシーさんが次の言葉を口にする。

 

 

「心臓病で、倒れたの...」

 

 

「っ!」

 

 

「旦那様と奥様は、何とか直そうとして下さった。でも、どの医者でもエクシアのことは直せないって、だから...だから!!」

 

 

なるほど、それでか...

チェルシーさんは、妹であるエクシアさんの事をとても大事に思っているんだろう。

いや、思ってるんだ。

普段の敬語も崩れるほどに...

だからこそエクシアさんが助かる可能性を、俺たちの会話を聞いて、その如何にかしてあげたい思いに限界が訪れていた。

なんて、優しい人なんだ。

妹のために、ここまで泣けるだなんて...

恐らく千冬姉も、俺に何かがあったとしてもここまでは泣かないだろう。

本当に、優しい人だ...

 

 

「ディミオス...使うぞ」

 

 

《我も特に止めはしない。好きなようにするといい》

 

 

「分かった」

 

 

俺はディミオスと短い会話をすると、そのままチェルシーさんを抱きしめる。

 

 

「っ!?い、一夏?」

 

 

「チェルシーさん。あなたはとても優しい人だ...でも、優しすぎるからエクシアさんの事で心を擦り減らしてしまっている。そんなことじゃエクシアさんも喜びませんよ。辛いなら、俺でも頼ってください。

力になれるかは分かりませんが」

 

 

「一夏...」

 

 

「エクシアさんには、可能なこと全てをさせてもらいます。ですから、チェルシーさんも、エクシアさんに見せる表情を考えていて下さい。まさか、そのままなんて言いませんよね?」

 

 

俺は笑いながらそんなことを言う。

これが正しい答えかどうかはわからないが、チェルシーさんの心が少しでも救われたなら...

チェルシーさんは、何故か顔を赤くして少し慌てたようだった。

それでも暫くすると、クスリと微笑んだ。

やっぱり、女の人の笑顔って素敵だな。

クラリッサさんもそうだったし。

...あれ、でもそれ以外の人も素敵だとは思うけど、二人ほど魅力的に感じないなぁ。

何でだろう?

 

 

「そうだね、エクシアには笑顔を見せないとね」

 

 

「そうですよ。エクシアさんも、お姉さんのことが大好きですよ。...たぶん」

 

 

「そこは言い切るとこじゃない?」

 

 

「だってエクシアさんと会ったことないですし...」

 

 

俺のこの言葉に、俺とチェルシーさんは笑いあう。

ん?というか...

 

 

「チェルシーさん、敬語外してくれましたね」

 

 

「えっ...あ!?」

 

 

チェルシーさんは、自分が敬語を外して話していたことに今気づいたようだった。

アワアワしてる、さっきまでとはまた違ったチェルシーさんを見る事が出来たな。

 

 

「え、あの、その...ご、ごめんなさい!!」

 

 

「何で謝るんですか?寧ろ嬉しかったですよ」

 

 

「う、嬉しい?」

 

 

「はい、距離が縮まったように感じるので」

 

 

俺がそういうと、チエルシーさんはまた顔を赤くしてしまった。

本当に何でだ?

別に熱がある訳でもなさそうだが...

 

 

《一夏...我がいることを忘れてラブコメをするな》

 

 

「いや、別に忘れてないけど....っていうか、ラブコメってなんだよ」

 

 

《何?お前、本気で言っているのか?」

 

 

「おう」

 

 

本当にディミオスは何を言ってるんだ?

ラブコメしてる?

ラブコメって、漫画とかラノベとかの種類だろうが。

 

 

《なるほど...お前はそんな感じか...クラリッサ・ハルフォーフもチェルシー・ブランケットも苦労しそうだ》

 

 

「いや、本当に何言ってるんだディミオス」

 

 

クラリッサさんとチェルシーさんが苦労する?

いったい何にだ?

俺がそんなことを考えていると、チェルシーさんが

 

 

「ふふ、ディミオスソードの言う通りかもしれないね...」

 

 

と、微笑みながら言ってきた。

本当に何なんだ?

そもそも、何について話していたっけ?

...そうだ、チェルシーさんの敬語が外れたことだ。

 

 

「チェルシーさん、これからは敬語じゃなくていいですよ」

 

 

「そうね...二人きりの時はそうさせてもらうわ」

 

 

チェルシーさんはそう言ってまた微笑んだ。

取り敢えず、チェルシーさんは大丈夫そうだな。

でも、エクシアさんを救えなかったら意味がない。

だから、俺は...

 

 

「エクシアさんを、必ず治す」

 

 

そして、チェルシーさんがエクシアさんとの面会の時間を作ってくれた。

心臓病の患者なのに面会できるのかよとも思ったが、身内ということで特別に許可が出たようだ。

...いや、俺は身内じゃないけどね?

何はともあれ、これで準備は整った。

後は、俺次第だ...

 

 

 

 




今回、VTシステム以上のフライングでエクシアに登場していただきました!
まだ名前だけですが。
今作では、まだ生体融合措置を取られていません。


さて、一夏の身体能力が人間を辞めてきました。
煉獄騎士はあくまでも鎧なので、ISと戦うにはここまでしないといけませんでした。
それに、チェルシーがヒロインしてましたねぇ。
これで大丈夫だったかな?


次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!


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プロローグ22 エクシアの目覚め

前回名前だけの登場だったエクシアが本格的に登場します!
チェルシーもエクシアも、登場シーンが少ないから口調があってるかが心配だ...
ロバートとロザリーはオリなので特に気にしてないです。


今回もいつも通りの完成度ですが、楽しんでください!


一夏side

 

 

遂に、エクシアさんへの面会の日がやってきた。

俺はオルコット家の車を借りて、エクシアさんが入院している病院に向かっている。

運転手さんと俺、チェルシーさんの他にも、セシリア、ロバートさん、ロザリーさんが付いてきている。

姉であるチェルシーさんは当然として、他の三人は何故?と思っていたのだが、

 

 

「チェルシーは私達の大切な仲間...いえ、家族ですわ。ですから、こういう場面の時こそ、協力するものですわ」

 

 

とセシリアが言い、ロバートさんとロザリーさんもこれに頷いていた。

このことにチェルシーさんは感極まっていたが、ロザリーさんが、

 

 

「涙を流すのは、エクシアちゃんが無事に目を覚ましてからにしなさい」

 

 

と言ったことにより、チェルシーさんは泣かず、微笑みを浮かべた。

 

 

因みにだが、車の中で俺とチェルシーさんは隣同士だったんだが...何故かチェルシーさんは物凄く近かった。

それはもう、腕を組んでるんじゃないかと思う程には。

実際、俺は腕に何やら柔らかい感触を感じたり、いい匂いを感じたりしてました...

この時、セシリアからは突き刺すような視線を向けられ、ロバートさんとロザリーさんはニヤニヤしてるような視線を向けられた。

いったい何なんだ...?

ディミオスはステルスカーテンで飛んでいるから、車の中にいない。

だから、助けを求めることも出来ず、ただただ困惑する俺だった...

 

 

そんなこんなで、俺達は病院に着いた。

...デカい。

如何やらイギリスでも屈指の大病院らしく、途轍もなくデカくて綺麗だ。

というか、イギリスに来てから高級そうなものしか見てない気がする。

列車(横転して半壊)だったり、オルコットの屋敷だったり、この病院だったり。

俺以外の人は何回か来たことがあるからか、それともこの大きさの建物を見慣れているからかは分からなかったが、驚いている様子は無かった。

 

 

「そんなとこで止まってないで、行きましょう、一夏」

 

 

「は、はい」

 

 

俺が立ち竦んでいると、チェルシーさんが声を掛けてきた。

俺は返事をすると、病院の入り口に向かう。

俺が歩き出すと、さっきまでたっていた位置から、ポスっと、何かが着地した音が聞こえた。

ディミオスがSDになって着地したようだ。

それを確認しながら、病院の入り口に入り、受付に向かった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

受付に説明をし、とうとうエクシアさんの病室に入れることになった。

俺達は案内の看護師さんに付いていき、エクシアさんの病室に向かっていた。

ディミオスSDは、しっかりと後ろを付いてきている。

病院の人や他の入院患者の方に蹴られないか少し心配だが...

特に蹴られてないから問題ないだろう。

 

 

そんなこんなで、俺たちはエクシアさんの病室前に着いた。

 

 

「では、私はこれで失礼します」

 

 

「はい。ありがとうございました」

 

 

病室前に着いたので、案内をしてくれた看護師さんは戻っていった。

チェルシーさんがノックをしてから、俺達は病室の中に入る。

 

 

「失礼します...」

 

 

エクシアさんの意識がないとはいえ、礼儀は守らないといけない。

俺は挨拶をしてから病室に入った。

するとそこには、チェルシーさんに似た少女が眠っていた。

腕には点滴、体には電極、口元には酸素マスクと、かなりの重症なのは素人目でもすぐに分かった。

この人が...

 

 

「この子が、私の妹のエクシアです...」

 

 

チェルシーさんが悲しそうな声で、エクシアさんの事を紹介してくれる。

やっぱり、大切な妹の痛々しい姿は見ていて辛いものなんだろう。

さっきからメイド服のスカートの裾を握りしめている。

俺はそんなチェルシーさんに声を掛ける。

 

 

「チェルシーさん、大丈夫ですか」

 

 

「は、はい...大丈夫です」

 

 

「本当ですの?辛そうですわよ」

 

 

「お嬢様...いえ、大丈夫です」

 

 

俺と同じことを思っていたセシリアが同じ質問をチェルシーさんにするも、チェルシーさんは大丈夫としか答えなかった。

これも、今日でエクシアさんが目覚める可能性があるからだろう。

その可能性が無かったら、ここまで来れてなかった。

そんなことがヒシヒシと伝わってくる雰囲気だった。

そんなチェルシーさんを見て、俺はディミオスに声を掛ける。

 

 

「ディミオス、これは...」

 

 

《いくら我でも、それぐらいの雰囲気を感じ取ることはできる》

 

 

「そうか、なら...」

 

 

俺とディミオスは短い会話でお互いの言いたいことを理解する。

そして俺は。チェルシーさんに声を掛ける。

 

 

「チェルシーさん」

 

 

「は、はい?」

 

 

「...今から、エクシアさんを蘇生します」

 

 

「っ!はい、お願いします」

 

 

俺はそれだけを言うと、エクシアさんのベッドの側に移動した。

そして、ポケットからダークコアデッキケースを取り出す。

 

 

「ディザスターフォース、発動」

 

 

俺はディザスターフォースを発動し、煉獄騎士の鎧を装着する。

俺と同じタイミングでディミオスSDも、ステルスカーテンを脱ぐ。

そして、ディミオスもエクシアさんの側に移動してきた。

俺は鎧の頭部の前パーツを開ける。

そして、左手でエクシアさんの左手を握ると、チェルシーさんに声を掛ける。

 

 

「チエルシーさん、エクシアさんの右手を握ってあげてください」

 

 

「分かりました」

 

 

ム、二人きりじゃないから敬語か...

なんか寂しいな...

そんな今あまり関係ない事を考えながらも、ディミオスと会話をする。

 

 

「ディミオス、いくよ」

 

 

《好きなタイミングでやれ》

 

 

ディミオスからの許可も出たので、俺はエクシアさんに魔法を使用する。

 

 

「キャスト。ダークネス・ヒーリング」

 

 

俺が魔法を使った瞬間、ディミオスから紫色のエネルギーが出て、俺の左手に集まった。

後ろでセシリア、ロバートさん、ロザリーさんが驚いているが、チェルシーさんは反応せずエクシアさんをジッと見つめている。

俺の左手のエネルギーは、握っていたエクシアさんの左手を通じ、エクシアさんの全身を包み込んだ。

全身を包み込んだエネルギーは、そのまま体に浸透するように溶けていった。

完全に溶け切っても、エクシアさんは目を覚まさない。

まさか、失敗か...?

俺がそう思い、焦り始めた瞬間、

 

 

「ん、んぅ。あれ、私...」

 

 

と、声が聞こえた。

それは俺は今まで聞いたことがない声だった。

俺はすぐにエクシアさんの顔を見る。

チェルシーさん、セシリア、ロバートさん、ロザリーさんも、一斉に同じ事をする。

すると、そこには目をうっすらと開けたエクシアさんがいた...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

チェルシーside

 

 

私は今、妹のエクシアが入院している病室にいます。

一夏とディミオスソードが、エクシアの心臓病を治療できる可能性があるからです。

エクシアの心臓病はかなりの重度で、イギリス最高峰のこの病院でも直すことが出来てませんでした。

そんな中、僅かでも出て来た希望に頼る事にしました。

 

 

いよいよエクシアの治療が始まるという直前、一夏とお嬢様が私に声を掛けてきました。

如何やら二人から見ると、私はあまり調子が良いように見えないそうです。

確かに、こんなに痛々しいエクシアを見るのは心苦しいですが、それでも今日はキチンと向き合わないといけません。

治療の時、一夏は私にエクシアの右手を握ってくれと頼まれ、右手を握りました。

そして、一夏が魔法を使いました。

紫のエネルギーが出てきて、お嬢様達が驚いていますが、私はそんなこと気になりませんでした。

エクシアの全身がエネルギーに包み込まれ、浸透するように溶けていっても、エクシアは目を覚ましませんでした。

一夏はどこか焦り始めているようでした。

まさか、失敗...?

私が絶望に叩き込まれそうになる直前に、

 

 

「ん、んぅ。あれ、私...」

 

 

と、声が聞こえました。

それは、最近は聞いてなかった懐かしい声で...

私はそれを認識した瞬間、エクシアの顔を見ました。

一夏やお嬢様達も同じタイミングでエクシアの顔を見す。

すると、エクシアはうっすらと目を開けていました。

私は目頭が急に熱くなるのを感じながら、声を絞り出します。

 

「エ、エクシア?だ、大丈夫?」

 

 

「お、お姉様?大丈夫って...それにここは...?」

 

 

私の記憶の中にあるエクシアと、変わらない雰囲気でエクシアが呟きました。

私は泣きながらエクシアに抱き着きました。

 

 

「エクシア!エクシアぁ!!」

 

 

「ちょっ!?お姉様!?本当に如何されたんですか!?」

 

 

エクシアの声は元気そうです。

それが嬉しくて、私は腕に力を更に籠める。

 

 

「あー良かったぁ...」

 

 

《うむ、我もヒヤヒヤしたぞ》

 

 

一夏とディミオスソードが安堵の声を漏らします。

やっぱり二人(一人一ドラゴン?)も不安だったようだ。

エクシアは声が聞こえた方向を向き、困惑の表情を浮かべる。

 

 

「えっと...どちら様ですか?」

 

 

「ん、ああ。自己紹介してなかったね。ディザスターフォース、解除」

 

 

一夏はそういうと、煉獄騎士の鎧をエネルギー体にした後、ダークコアデッキケースに戻しました。

そしてそのまま笑顔で自己紹介をします。

 

 

「はじめまして!織斑一夏です。よろしくね」

 

 

一夏の笑顔は私に向けられたものではないのに、私は顔が赤くなっているのを感じます。

それを一夏は不思議そうに眺めてきます。

...恥ずかしい。

私が恥ずかしがっていると、一夏が声を発します。

 

 

「取り敢えず、エクシアさんに説明をします。チェルシーさんは一回離れてもらってもいいですか?」

 

 

一夏に言われ、私はエクシアに抱き着きっぱなしだったことを思い出し、エクシアから離れました。

そして、一夏はエクシアに説明を開始します。

如何やら、魔法を使った治療をしたため、全てをしっかりと説明するようです。

その光景を眺めていると、お嬢様達が声を掛けてくれます。

 

 

「良かったですわね、チェルシー」

 

 

「はい、ありがとうございます。お嬢様」

 

 

「本当に良かったわ~私も泣きそうよ」

 

 

「取り敢えず元気もあるようで、本当に良かった...」

 

 

「奥様、旦那様...ありがとうございます」

 

 

私達がこんな会話をしていると、ちょうどエクシアへの説明も終わったようです。

エクシアは目をパチクリさせています。

まぁ、急に異世界とか言われて混乱しない人の方が少ないですよね。

それでも、冗談などではないと分かっているようですね。

 

 

「そ、そうだったんですか...」

 

 

「そうですよ、エクシアさん。これが事実です」

 

 

エクシアが確認するように呟いたことに、一夏が肯定で返します。

エクシアは暫く考えているようでしたが、一夏に向き直りました。

 

 

「なら、お礼を言わせて下さい。私を助けてくれて、ありがとうございます」

 

 

「いえ、エクシアさんが完全に回復して元気になってくれれば、それで十分ですよ」

 

 

「そ、それであの...私の方が年下ですし、呼び捨てで大丈夫ですよ」

 

 

「それもそうか...じゃあ、これからよろしくね、エクシア」

 

 

一夏はまた笑顔になりながらエクシアに改めてよろしくと言いました。

呼び捨てだなんて、エクシアが羨ましいですね...

私がそんなことを考えていると、エクシアも一夏に返事をします。

 

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします、お兄様!」

 

 

「何故!?」

 

 

エクシアが一夏をお兄様と呼び、間髪入れずに一夏が突っ込みました。

本当に、何でお兄様何でしょうか?

一夏とエクシアの会話を聞きながら、私もそんなことを考えていました。

 

 

そして、医者の判断により、エクシアは一週間で退院できるようになり、エクシアの一夏の呼び方もお兄様で固定されました...

 

 

 

 




今回でエクシアの治療、救出は完了しました。
心臓病の人の病室には入れないことも多いと思いますが、今作では入れたことにしてください。


一夏が使った魔法、『ダークネス・ヒーリング』ですが、これ黒竜のカードなんですよね。
でも、黒竜の設置があれば追加回復があるだけで、一応それ以外のデッキでもライフ回復出来るので、今回使ってもらいました。
使用コストが自モンスター破壊なので、煉獄騎士団のデッキにも...入らないです。


次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!


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プロローグ23 チェルシーの気持ち

はい、今回はチェルシーメイン回です。
この前のクラリッサの時のように、今回はチェルシー視点しかありません。
イギリスに来てからずっとチェルシーメインとか言っちゃダメ。


そんなこんなで、今回もお楽しみください!


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登録してくださってる方々、ありがとうございます!


チェルシーside

 

 

今日はエクシアの退院の日です。

私は再びエクシアが入院している病院に向かっています。

ですが、今回は私と一夏の二人だけで、お嬢様達やディミオスソードは屋敷におられます。

二人きりということで、私は一夏にため口で喋っていますが、心の中では敬語で問題ないですよね?

...私は誰に言い訳したんでしょうか?

 

 

そんなこんなで病院に着きました。

それにしても、よく一週間で退院できましたね。

病院の医者も驚いていました。

まぁ自分たちが、直せなかった人が急に元気になったんですからね。

それは驚くに決まっています。

 

 

「チェルシーさん、急に立ち止まって如何しましたか?」

 

 

私は知らず知らずのうちに立ち止まっていたようです。

一夏が私の顔を覗き込みながら確認してきました。

ち、近い...!

近くで見ると、やっぱりかっこいいですね...

って、取り敢えず返事しないと!

 

 

「だ、大丈夫だよ」

 

 

「本当ですか?体調が悪くなったら言って下さいね」

 

 

一夏は笑顔でそう言うと、前に向き直りました。

...今の笑顔も素敵だったなぁ。

私はそんなことを考えながら私は一夏の後を追い、病院の受付に行く。

そして受付に話しをし、エアクシアの病室に来た。

私達はノックをし、病室に入っていく。

 

 

「エクシア、入るよ」

 

 

「あ、お兄様!お姉様!来てくれたんですね!」

 

 

エクシアは元気に返事をしてくれた。

...本当に、何で一夏の事を『お兄様』と呼ぶんでしょう?

 

 

「なぁ、エクシア。何で俺がお兄様なんだ?」

 

 

一夏も同じ事を考えていたのか、エクシアに質問をします。

すると、エクシアは元気いっぱいの笑顔で答えます。

 

 

「勿論、お兄様はお兄様だからですよ!!」

 

 

「...いや、説明になってないんだが」

 

 

「良いじゃないですか。私の自由でしょう?」

 

 

「そう言われたらそうなんだが...」

 

 

一夏の質問は、究極の答え『個人の自由』の前には勝てなかった。

でも、何かしらの理由はありそうですね...

しかも、さっきからチラチラとこちらを見てきてるので、後で聞けば答えてくれそうですね。

 

 

「取り敢えず退院の準備をしちゃいなさい、エクシア」

 

 

「そうですね、お姉様」

 

 

私の言葉に素直に応じ、エクシアは退院の準備をし始めました。

一夏は何処か納得してない表情を浮かべていたが、追及しても無駄だと思ったのか、手伝いをしています。

エクシアの入院は長期だったが、エクシアの私物は殆どないので、準備もすぐ終わりました。

 

 

「正式に退院したら、オルコット家の屋敷に行けばいいのか?」

 

 

「そうね、屋敷にお嬢様達もおられるから、この後は屋敷に行きましょう」

 

 

「お姉様の主っていう事は、私の主でもあるってことですよね?緊張するな...」

 

 

「大丈夫よ、エクシア。お嬢様も旦那様も奥様も、良い主よ」

 

 

「お姉様がそういうんでしたら、そうなんでしょうね」

 

 

エクシアがお嬢様達にお会いするのに緊張していたので、私は出来るだけ緊張が解けるような言葉を掛けました。

実際にお嬢様も旦那様も奥様も、エクシアの退院に喜んでいたので問題は無いでしょう。

 

 

それから暫くして、退院の時間がやって来ました。

エクシアは病院の方々にお礼を言いました。

そして、エクシアは久しぶりに自身の足で、病院の外に出ました...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

それから三日が経ちました。

エクシアはまだメイドにはなっていないのですが、リハビリを兼ねて、見習い研修をやってもらってます。

私が中心となって指導しているのですが、他のメイドや一夏も手伝ってくれます。

一夏は、普通に私達と共に働けるくらい家事力があります。

...いえ、一夏にメイド服を着て欲しいわけじゃないですよ?

あ、でも、執事服なら似合うだろうなぁ。

一夏カッコいいし...

って、今それは関係ない!

 

 

まだ三日ですが、エクシアは着々と成長しています。

特に料理は、まだ初めて三日とは思えない出来です。

もしかしたら、私と同じくらいの出来なのでは...?

エクシアに料理を教えるのは一夏が担当してるので、それ程まで一夏の料理の腕が凄いという事なのでしょうか。

...自信がなくなっていきます...

私も一夏に料理を教わりましょうか?

いや、私にそんな時間なかったですね...

 

 

そして今、本日のメイド業務が全て終了したため、私は部屋で寛いでいます。

エクシアは、空きの部屋がなかったため私と一緒の部屋です。

というより、私の部屋が他の方の部屋より広いんですよね。

お嬢様の専属メイドなので、他のメイドよりも部屋は広めにしてあると旦那様がおっしゃっていたので、これは間違いないですね。

今まで姉妹のスキンシップも取れてなかったので、私としてもこれは嬉しいですね。

 

 

私とエクシアがお喋りをしていると、不意に部屋のドアがノックされ、

 

 

「チェルシーさん、エクシア、一夏ですけど、入っていいですか?」

 

 

という声が聞こえてきました。

こんな時間に一夏が訪ねてくるなんて珍しいですね。

いや、そもそも一夏がこの部屋を訪ねてくるほうが珍しかったですね。

私はそんなことを考えながら、一夏に声を返します。

 

 

「鍵は開いてるから入って大丈夫よ」

 

 

私はエクシアと一夏以外にはため口で話しません。

ですが、今この場にはため口で話している人しかいないので、私は一夏にため口で返しました。

 

 

「失礼します」

 

 

一夏はキチンと礼儀を守って部屋に入ってきました。

一夏もラフな格好ですが、それでも十分カッコいいですね。

 

 

「こんな時間にすみません」

 

 

「大丈夫よ。一夏」

 

 

「そうですよお兄様。それで、何か御用ですか?」

 

 

私もエクシアも、一夏が訪ねてきたことに驚きはしたものの、特に問題は無かったため一夏を招き入れました。

エクシアが訪ねていましたが、何の用何でしょうか?

私とエクシアは、一夏の言葉を待ちます。

 

 

「お二人に伝えたいことがありましてね」

 

 

「伝えたいこと?いったい何ですか?」

 

 

一夏は伝えたいことがあると言い、エクシアがそれに反応します。

私も声は出していませんが、とても気になります。

私とエクシアの好奇の視線を一夏に向けます。

そして一夏は、言葉を発します。

 

 

「俺は、もうすぐダークネスドラゴンWに戻ります」

 

 

「えっ...」

 

 

一夏が、ダークネスドラゴンWに帰る?

私は急に言われたことに混乱しました。

 

 

「そうですか...寂しいですね」

 

 

「俺も寂しいけどさ、何時までもここにいるわけにはいかないんだ。まぁ、あと三日くらいはいさせてもらうさ」

 

 

エクシアは寂しそうにしていますが私のように混乱している訳ではなさそうです。

何で混乱してないんでしょうか?

いや、何で私はここまで混乱してるんでしょうか?

...理由は、もう分かってたかもしれませんね。

前にディミオスソードにラブコメと言われたとき、私はそれを肯定しました。

だって、私は...

 

 

一夏の事が、好きだから...

 

 

だから、一夏がダークネスドラゴンWに帰ると言われて、軽く混乱したんですね...

私がそんなことをグルグルと考えていると、

 

 

「チェルシーさん?どうかしましたか?」

 

 

と言いながら、一夏が私の顔を覗き込んで来ました。

...やっぱり近くで見ても、一夏はカッコいいな...

って、今はそうじゃなくて...!

私は焦りながらも一夏に返事をします。

 

 

「な、何でもないわよ?」

 

 

「何故疑問形...なんでもないならいいですけど、何かあったら言って下さいね」

 

 

一夏はそういうとニコッと笑った。

この笑顔も素敵だなぁ。

私が一人一夏の笑顔に見惚れていると、エクシアが一夏に声を掛けます。

 

 

「それでお兄様、セシリア様達にはもう伝えたのですか?」

 

 

「いや、これからかな。取り敢えず最初にチェルシーさんとエクシアに伝えたかったから」

 

 

「そうですか。じゃあしっかりと伝えないとですね」

 

 

「そうだな。じゃあ、俺はこれで戻るよ。お邪魔しました」

 

 

一夏はそう言って部屋から出ていってしまった。

私は、一夏に声を掛けることも出来なかった...

私が一人放心していると、エクシアが声を掛けてくる。

 

 

「お姉様、ちょっといいですか?」

 

 

「な、何?エクシア?」

 

 

エクシアが改まって聞いてきたため、私は思わず身構えてしまう。

すると、エクシアは笑顔になりながら言葉を発する。

 

 

「お姉様って、お兄様の事が好きなんですよね?」

 

 

「えっ...?」

 

 

な、なな何でエクシアがそのことを!?

しかも、決めつけている感じの言い方だったし!?

私がさっきまでとは違う理由で混乱していると、エクシアが続きの言葉を口にする。

 

 

「お姉様、いくら何でも分かりますよ。セシリア様は気づいていないようでしたが、ロバート様とロザリー様も気づいておられますよ」

 

 

「そ、そんなに分かりやすかったかしら?」

 

 

「はい、それはもう。何でセシリア様とお兄様が気づいていないのが不思議なくらいには」

 

 

如何やら私の恋心は、結構分かりやすかったらしいですね...

でも、本人とお嬢様にバレてないならまだいいですね...

一夏にもバレていたら、私は恥ずかしくて死んじゃいますよ...

 

 

「お姉様、お兄様が帰られることでショックを受けたのは分かりますが、そのままでは何も変わりませんよ。告白とまではいかなくても、何か喋っておいたほうがいいんじゃないですか?」

 

 

私はエクシアに言われてハッとしました。

確かに、私はショックを受けて混乱しています。

それでも、一夏と話さない事には何も変わりません。

まさか、エクシアの言葉で気づかされるとは...

ふふっ、エクシアも成長したという事でしょうか。

 

 

「ありがとう、エクシア。ちゃんと一夏と喋ってみるわね」

 

 

「その意気です。頑張ってください、お姉様」

 

 

「ええ、もちろん」

 

 

そうだ、一夏が帰るというなら、それがしっかりと一夏と話すチャンスではないか。

私はそう意気込んだものの、時間も時間ですし、さっきまで会っていたのにまた訪ねるのは気が引けます。

だから、一夏の部屋に行くのは明日にしましょう。

明日すぐ帰る訳でもなさそうですしね。

私はそう考えながら、夢の世界に入っていくのでした...

 

 

 

 




今回は、いつも以上にチェルシーがヒロインしてましたね~。
してた...よね?


もうそろそろでイギリス編も終わりそうです。
プロローグが35を超える前には原作に入りたい...
あ、原作に入る前に設定集は出す予定ですので。


次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!


評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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プロローグ24 チェルシーとの会話

クラリッサ「作者、言いたいことがある」


うわぁ!な、何でクラリッサがいるの!?出番無いよ!?


クラリッサ「何で私よりもチェルシーの方がヒロインしてる場面が多いんだ!」


ちょっと!本編じゃ顔合わせてない処か存在を知らないのに!!


クラリッサ「前にチェルシーが後書きに出てたから問題ないだろう」


た、確かに。


クラリッサ「それで、何でなんだ!」


チェルシーの方が話の展開的にやりやすかったからです~!
ゆ、許して~!


一夏side

 

 

俺はあれから、セシリア、ロバートさん、ロザリーさん、他のメイドや執事の方々、シェフにダークネスドラゴンWに帰る旨を伝えた。

全員が帰るのが寂しいと言ってくれたので、俺としても嬉しかった。

でもやっぱり、俺も寂しいと思う。

仲良くなった人達と離れるというのは、誰でも寂しいものだと思う。

特に、チェルシーさんと別れなきゃいけないのは...

ん?何で俺はチェルシーさんを特別視してるんだ?

確かに、屋敷の人で一番関わりがあったのはチェルシーさんだが、それだけではない気がする。

シュヴァルツェ・ハーゼの時も、クラリッサさんが俺の中で特別だったし...

いったい、何なんだ?

まぁ、いいや。

 

 

そして翌日。

俺はいつも通りにトレーニングをした後、チェルシーさんとエクシアの二人と共に屋敷の掃除をしていた。

確かに、俺は織斑家の掃除全てを担当していたし、煉獄騎士団本部の掃除も俺が主に行っていた。

でも、素人なのには変わりはない。

そんな俺が掃除をしていいのだろうか?

ロザリーさんは、

 

 

「あら、良いのよ別に。あなたの掃除スキルは、十分ここでも使えるわ」

 

 

と言っていたが、本当だろうか?

オルコット家の屋敷で働くメイドの方も執事の方も、修行を積んだ超が付くほど一流な人達だ。

そんな人達に混じれるほどの掃除スキルではないと自分では思ってるんだがなぁ。

俺の作った料理も、何故かシェフがショックを受けていたが、本職であるシェフの料理の方がおいしいと思うんだがな...

 

 

って、今はそれより掃除掃除。

この屋敷は途轍もなく大きい。

それに伴い掃除をするメイドの数も多いのだが、それでも一人がサボっていると掃除が終わらない広さなのだ。

なので、俺は掃除に集中する。

全く、何で窓一枚が脚立使わないといけないほどデカいんだよ。

俺が脚立に上ろうと足を上げる。

その瞬間、

 

 

「あわわわわ!!」

 

 

という声が聞こえた。

急いで振り返るとエクシアがバランスを崩して脚立から落ちそうになっていた。

脚立とはいえ、落ちたら怪我をする可能性がある。

特にエクシアは小柄だから、特に怪我の危険性が高い。

俺が慌ててエクシアの所に向かうと、エクシアはとうとう落ちてしまう。

俺は何とかエクシアと地面の間に滑り込むと、そのままエクシアを受け止める。

あ、危ねぇ~。

ちゃんと鍛えておいて良かった~。

 

 

「エクシア、大丈夫?」

 

 

「は、はいお兄様。ありがとうございます」

 

 

「次からはしっかりと注意して作業してね?」

 

 

「分かりました。肝に銘じておきます」

 

 

取り敢えず、エクシアに怪我がなくて良かった。

 

 

...何だろう、何か視線を感じる。

それも、結構ガッツリ見てる感じの視線が...

俺はチラッ後方を見る。

そこには...こっちをジッと見ているチェルシーさんがいた。

何でそんなに見つめてるのかは疑問だが、俺はエクシアを立たせる。

エクシアは俺にもう一度お礼を言うと、チェルシーさんの所に行った。

何やら二人でひそひそ話しているが、俺には聞き取れない。

ていうか、チェルシーさんはもう自分の担当場所を終わらせてる...

俺も早くやっちゃわないとな。

俺は意識を切り替えると、掃除を再開した。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

時刻は夜10時。

俺は自分の部屋でベッドに座って寛いでいた。

っていうか、何でエクシアに部屋がなくて、俺にはあるんだろうか?

俺がダークネスドラゴンWに帰ったら、この部屋をエクシアが使うんだろうか?

 

 

まぁ、それを考えるのは俺の仕事じゃないし、いいか。

俺はそう考え、椅子に座っている(うずくまっている?)ディミオスに話し掛ける。

 

 

「なぁ、ディミオス。イギリスに来てからも色々あったな」

 

 

《そうだな。まさか、モンスター脱走事件からこのような貴族家と関わりを持つとは我も思わなかった》

 

 

「そうだよな~。それに、心臓病の女の子に魔法を使うことになるとは...」

 

 

《我が止めてもお前なら使っただろうが...》

 

 

「あ、あははは...」

 

 

そんな会話をディミオスと繰り広げていると、

 

 

コンコン

 

 

と、部屋の扉がノックされた。

こんな時間に?とも思ったが、俺は昨日似たような時間にみんなの部屋を訪れたから、別に問題は無いか...

俺はそう思い、ノックに返事をする。

 

 

「はい」

 

 

「一夏、チェルシーよ。入っても大丈夫かしら?」

 

 

チェルシーさん?

確かに、昨日部屋を訪れた時にあまり会話をしなかったな。

 

 

「鍵は開いてるので、入ってきて大丈夫ですよ」

 

 

「お邪魔するわね」

 

 

そう言ってチェルシーさんは部屋に入ってきた。

その表情は、何処か決意を決めたような顔だった...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

チェルシーside

 

 

私は、一夏の部屋に向かっています。

キチンと話さないと、絶対に後悔するので。

 

 

私は一夏の部屋に向かっている途中、一夏との思い出を思い出しています。

やっぱり、出会いが一番衝撃的でしたね...

だって、この世界の生物ではないモンスターの攻撃から、守ってくれたんですもの。

そりゃあ、衝撃を受けますよ。

今思い返すと、私はその時から一夏の事を意識していましたね。

素性どころか、顔すら分からなかったのに。

 

 

しかし、まさか一夏のお陰でエクシアが退院できることになるとは思いませんでしたよ...

あの子の心臓病は、イギリス最高峰の病院でも手の施しようがないくらいに深刻なものでしたからね。

そう考えると、私達姉妹はどちらも一夏に助けてもらった事になりますね...

一夏は私の思い人であると同時に、恩人なんですよね。

...自分で思っておいて何ですが、恥ずかしいですね。

 

 

それに、私が思っている以上にエクシアは成長したようです。

家事能力...特に料理の成長は凄まじいですが、何と言うんでしょうか...精神の成長もすごいんですよね。

今日の掃除の際、エクシアは脚立から転倒してしまいました。

一夏が滑り込んで受け止めたので、エクシアに怪我は無かったのですが、エクシアは私に、

 

 

「お兄様とくっ付いちゃってごめんなさい」

 

 

とわざわざ言ってきましたし、さっきまで部屋で話していたのですが、

 

 

「お姉様と一夏さんが結婚したら、一夏さんはお兄様ってなるじゃないですか。だから今からお兄様って呼んでるんですよ」

 

 

って言ってきた。

...本当に、何処からそんな知識を持ってくるんでしょうか?

っていうか、エクシアは最初から一夏の事をお兄様って呼んでましたね。

ということは、つまり.....!?

...そんなにも、私の一夏への好意は分かりやすかったんですかね?

 

 

そんなことを長々と考えていると、一夏の部屋の前に着きました。

やっぱり、この屋敷は広いですね。

自分の部屋から真っ直ぐここに向かってきたというのに、色んなことを考えられたんですから。

...いざ話すとなると、結構緊張しますね...

でも、話すと覚悟を決めたんですから!!

私は、一夏の部屋の扉をノックする。

 

 

「はい」

 

 

一夏の声が聞こえました。

それを確認すると、私は返事をします。

 

 

「一夏、チェルシーよ。入っても大丈夫かしら?」

 

 

「鍵は開いてるので、入ってきて大丈夫ですよ」

 

 

一夏の返事が返ってきたので、私は部屋の扉を開け、

 

 

「お邪魔するわね」

 

 

と言いながら、一夏の部屋に入りました。

 

 

如何やら、一夏はディミオスと寛いでいたようですね。

時間も時間ですし、それも当然かもしれませんね。

まぁ、昨日は同じ様な時間に一夏が訪ねて来たので許してくれるでしょう。

 

 

「チェルシーさん、何かありましたか?」

 

 

「ええ。一夏と話したい事があって」

 

 

「話したい事...ですか?」

 

 

一夏はそう言って首をかしげます。

いつものカッコいい表情もいいけど、こんな可愛い表情もいい...じゃなくて!

 

 

「そうよ。...駄目かしら?」

 

 

「いえ、別に駄目ではないですけど...」

 

 

《...我はいないほうが良さそうだ。一夏よ、我は暫く外に出ているぞ》

 

 

「分かったよ、ディミオス」

 

 

ディミオスソードが気を利かせたのか如何かは分かりませんが、部屋には私と一夏の二人きりになりました。

改めてそう思うと、何か...緊張しますね。

 

 

「チェルシーさん、立ってるのもあれですし、取り敢えず座ったらどうですか?」

 

 

「そうさせてもらうわね」

 

 

私はそう言って、一夏が腰を掛けているベッドに腰を掛ける。

ちょうど、肩と肩が触れ合うかどうかの距離だ。

私が隣に腰を掛けたのに驚いたのか、一夏は上擦った声を出します。

 

 

「チ、チェルシーさん?な、何でこの位置なんですか?」

 

 

「私がここが良いと思ったからよ。問題は無いでしょう?」

 

 

「はい、無いです...」

 

 

やっぱり一夏は、『個人の自由』という答えに弱いようですね。

まぁ、私でも勝てるとは思いませんが。

一夏は暫くアワアワしていましたが、落ち着きを取り戻した。

 

 

「それでチェルシーさん、話っていったい何ですか」

 

 

「そうね...今までの感謝を言いたくてね」

 

 

「感謝...ですか?」

 

 

「そうよ」

 

 

一夏は感謝と言われ、ちょっと驚いたのか、私の方を見てきました。

私も一夏の方に向き直ります。

...見つめ合っているようで、これはこれで恥ずかしいですね。

 

 

「私達は、あなたに助けられたことが沢山あるわ。モンスターから命を守ってくれた」

 

 

「それは、此方側のミスなので感謝されることでは無いですよ」

 

 

私の言葉を、一夏は直ぐに否定した。

如何やら、本当に感謝されることでは無いと思っているようです。

でも、そうだったとしても...

 

 

「でも、あれがあったからこそ、私達は出会うことが出来た」

 

 

「それは...」

 

 

「私達が出会えたからこそ、エクシアは心臓病を克服することが出来た」

 

 

私がそう言うと、一夏は一瞬驚いた表情を浮かべた。

でも、直ぐにいつもの明るい笑顔を浮かべた。

...何回見ても、一夏の笑顔はカッコいいなぁ。

 

 

「ハハハ、確かにそうですね。あの事件が無かったら、この関係は無かったわけですね」

 

 

「そうよ。だから言わせて。ありがとう」

 

 

「なら、素直にその言葉は受け取らせてもらいます。どういたしまして」

 

 

こうして、私と一夏は笑い合う。

なんか...幸せだなぁ。

好きな人と、こうやって笑い合えるのって...

 

 

ここで、私はある事を思いついた。

今はディミオスソードもいないし、イケるんじゃないか...?

そう思い、私はそれを口にする。

 

 

「なぁ、一夏。今日は一緒に寝ても...いいかしら?」

 

 

私はそう言うと、一夏は...

 

 

驚いた表情と、またか...という表情が混ざった表情を浮かべていた。

 

 

 

 




なんか、前書きで怒られたのって、二回目...?
私だって頑張ってるんだから、ちょっとくらい良いでしょう!


え、添い寝ネタの使い回しをするな?


..........


申し訳ありませんでしたぁ!!


こんな感じですが、次回も楽しみにしていてくださいぃ。


評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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プロローグ25 オルコット家のと別れ

サブタイからもわかる通り、今回でイギリス編は終了となります!
原作がチョッと見えて来た...かも。
私は基本書き溜めをしていないので、本当にいつになるか分からないんですよね...
なるべく早くしたいと思うので、お待ちください!


そんなこんなで(どんなこんなで?)、今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

...またかよぉ~~~~~!!

 

 

俺は現在、心の中でそう叫んでいた。

何故そんなことをしているかというと、今チェルシーさんの口から出た言葉が、それ程までに衝撃的だったからだ。

 

 

俺とチェルシーさんは、俺の部屋で話をしていた。

ディミオスは部屋を出て行ったから、二人きりでだ。

俺がチョッとドキドキしていると、チェルシーさんは感謝を伝えに来たという。

俺はそこまで感謝される事はしていないと思っていたが、それでもチェルシーさんは感謝を伝えてくれた。

その後、俺とチェルシーさんは笑い合った。

なんか、いい時間だと感じた。

しかしそのすぐ後に、事件が起こった。

 

 

「なぁ、一夏。今日は一緒に寝ても...いいかしら?」

 

 

と、チェルシーさんが言ってきてたのだ。

この言葉により、俺は衝撃を受けた。

まさか、チェルシーさんからもこの言葉を言われるなんて...

こんな体験は、クラリッサさんとの一回だけだと思ったのに!

俺がそんなことを悶々と考えていると、

 

 

「一夏?どうしたのかしら?」

 

 

と、チェルシーさんが声を掛けて来た。

そうだ、いったん落ち着け、俺。

 

 

「いえ、まさかチェルシーさんからそんなことを言われるとは思わなかったので...」

 

 

「それは、私が女らしくないという意味?」

 

 

「そうじゃなくって!あの...その、チェルシーさんみたいな美人にそんなことを言われるなんて思いもしなかったので...」

 

 

チェルシーさんが少し落ち込み気味にそう言ったので、俺は恥ずかしいが慌てて自分の本心を伝える。

俺がそれを伝えると、チェルシーさんは顔を真っ赤にしてしまった。

何でだろうか...?

チェルシーさんは本当に美人なんだから、言われなれてると思ったんだがな...

さっきまでと立場が入れ替わってしまい、今度はチェルシーさんが慌てている。

取り敢えず落ち着かせよう。

俺はそう判断し、チェルシーさんに声を掛ける。

 

 

「えっと、チェルシーさん。落ち着いて下さい」

 

 

「そ、そうさせてもらうわね...」

 

 

俺の言葉で、チェルシーさんは何とか落ち着きを取り戻した。

何でここまで慌てたのか疑問に思った俺は、チェルシーさんに質問する。

 

 

「チェルシーさん、何であそこまで慌てたんですか?」

 

 

「だ、誰でも美人だなんて言われたら慌てるわよ!」

 

 

「そんなもんですか?」

 

 

「そうよ!!」

 

 

如何やら、チェルシーさんは美人と言われ慣れていないようだ。

絶対言われなれてると思ったんだけどなぁ。

俺が意外性を感じていると、チェルシーさんが言葉を発する。

 

 

「それで一夏、その..返事は?」

 

 

「そ、それは...」

 

 

ここで、チェルシーさんが一緒に寝ても良いかを聞き直してくる。

...如何しよう。

本当に考えてなかった。

俺はチラッとチェルシーさんの事を見る。

身長差も相まって、チェルシーさんは上目遣いで俺を見ている。(多分本人に自覚無し)

こんな顔でお願いされたら...断れないじゃないか!!

俺はそう思うと、チェルシーさんに答えを返す。

 

 

「だ、大丈夫ですよ」

 

 

「そう...嬉しいわね」

 

 

チェルシーさんはそう言うと、いつもの微笑みとは違う、ニコッとした笑顔を浮かべた。

...やっぱり女性の笑顔は素敵だなぁ。

 

 

あれ、でも...クラリッサさんとチェルシーさん以外にはそこまで素敵だとは思わないな。

だったら、クラリッサさんとチェルシーさんの笑顔は...になるのかな。

何で、俺の中でこの二人が特別なんだ...?

分からない...

俺がそんなことを思っていると、チェルシーさんが

 

 

「一夏?本当に大丈夫なの?」

 

 

と尋ねて来た。

如何やら心配されてしまう程黙って考えていたようだ。

 

 

「ええ、大丈夫ですよ」

 

 

「ならいいのだけれども...時間も時間だし、もう寝ましょうか」

 

 

「え、もうそんな時間なんですか?」

 

 

時計を見ると、確かにもう直ぐ12時になろうとしていた。

もう寝る時間である。

これは...覚悟を決めないといけないようだ。

 

 

「そうですね...もう寝ましょうか」

 

 

クラリッサさんの時は直ぐに寝付けなかったが、今回は大丈夫だ!

 

 

...多分な!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

はい、無理でしたぁ!

 

 

だって、チェルシーさんも抱き着いて来てるんですよ!

クラリッサさんのときもそうだったけど、こんな美人に抱き着かれてそのまま寝付ける人なんていないだろ!

 

 

そんなことを考えていても仕方がない。

そう思い、俺はチェルシーさんの方を向き、その顔を見つめる。

...寝顔は美人でもあるが、何というか、可愛い系だな。

チェルシーさんは、本当に俺やセシリアの2個上なんだろうか。

そう思えないほど、チェルシーさんはしっかりしている。

それこそ、もう成人している千冬姉よりもしっかりしてるんじゃないかと思うくらいには。

でも、いや、だからこそ、チェルシーさんは一人で抱え込んでる節がある。

エクシアの時は頼ってくれたが、それでもチェルシーさんは基本一人で終わらせてしまう。

だから、俺は...

 

 

「誰かの事を、頼ってもいいんですよ」

 

 

と言いながら、チェルシーさんに抱き着いた。

...チェルシーさんには、聞こえてないけど。

俺はチェルシーさんの温もりを感じた。

 

 

何か、眠くなってきたなぁ...

クラリッサさんの時もそうだったし...

俺の中で特別な二人は、何か安心感があるなぁ...

 

 

そんなことを考えながら、俺は夢の世界へ旅立った。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

チェルシーside

 

 

わ、わわわわわ!!

わた、私、一夏に抱きしめられて、あ、あああんな言葉を!

と、取り敢えず落ち着け、私!

 

 

何故私がこんなにもテンパっていたかというと、一夏に抱きしめられていたからだ。

私は今日、一夏と一緒に寝ることにしました。

一夏と一緒のベッドに入ったのはいいもの、私は緊張して眠れませんでした。

如何やら一夏は私が寝ていると思っているようですが...

ベッドに入ったときのテンションで一夏に抱き着いてしまいましたが、それも恥ずかしいです...

そうして暫くしていると、急に一夏が体の向きを変え、抱き着いてきました。

私は思わず声を出しそうになりましたが、何とか堪えました。

何で急に...と私が思っていると

 

 

「誰かの事を、頼ってもいいんですよ」

 

 

と、一夏が私に言ってきた。

そして、一夏はそのまま眠ってしまった。

...キュンとしちゃいましたね。

 

 

そんなことを言われるほど、私は一人で抱え込んでいるように見えるんですかね。

結構、一夏には頼ってるつもりだったんですけどね。

...好きな人に心配されるっていうのは、何か特別扱いされているようで嬉しい反面、やっぱり心配は掛けさせたくありませんね。

 

 

一夏は、IS学園に入学すると言っていました。

そして、一夏はお嬢様と同じ年齢です。

ダークネスドラゴンWに戻った後も、また会えますよね...?

 

 

「一夏...大好きです」

 

 

私はそう言うと、一夏の頬にキスをしました。

...恥ずかしい!

私は自分の行為で顔を真っ赤にし、また寝付けなくなってしまいました。

結局、私は深夜の2時頃にようやく眠ることが出来ました...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

とうとう、俺とディミオスがダークネスドラゴンWに帰る日がやってきた。

俺とディミオスを見送るために、屋敷の皆さんがわざわざ全員来て下さった。

シュヴァルツェ・ハーゼの時もそうだったけど、俺の為に集まってくれたって考えると、やっぱり嬉しいな。

 

 

「寂しくなるな...」

 

 

「そうね、ここ最近は一夏君もいるのが普通だったからね」

 

 

ロバートさんとロザリーさんは、別れを惜しんでくれています。

 

 

「IS学園に入る年になったらこの世界に戻ってきますので、その時にはお邪魔してもいいですかね?」

 

 

「ああ、もちろんだ!」

 

 

「寧ろ、こっちからお願いしたいわね。もう一回遊びに来て頂戴」

 

 

「はい!」

 

 

ロバートさんとロザリーさんと会話をした後、今度はセシリアの方を向く。

...何か、セシリアと会話するのすっごい久々な気がする。

ちゃんと毎日顔合わせてたんだけどな。

セシリアって、お嬢様だけど影が薄い?

 

 

「一夏さん、何か失礼なことを考えていませんこと?」

 

 

「あ、いや、そんなこと無いよ」

 

 

「そうですの...なら、良いのですが...」

 

 

あ、危ねぇ~。

バレるところだった。

しかし、本当にセシリアと関わっていた実感が無い。

何でだろう?

 

 

「んん、一夏さん。IS学園での再会、楽しみにしていますわ」

 

 

「俺もだ。セシリア、慢心して代表候補生選抜テスト、落ちるんじゃないぞ」

 

 

「当然ですわ!」

 

 

ここで俺とセシリアは笑い合う。

ちゃんとセシリアと関わった思い出も出来て良かった...

俺は次に、シェフに顔を向ける。

 

 

「シェフ、俺はあなたの料理の方が美味しいと思いますよ?」

 

 

「謙遜は辞めろ。私が悲しくなる...」

 

 

謙遜とかじゃなくて、本心なんだけどなぁ。

周りを見ると、うんうんと頷いていた。

...その頷きは、俺の言葉に対して?それともシェフの言葉に対して?

ま、まぁ良いか。

 

 

「と、ともかく、シェフも頑張って下さい」

 

 

「ああ、何時かお前を追い越してみせるぞ!」

 

 

そうシェフとの会話を終わらせると、メイドと執事の皆さんの方を向く。

 

 

「素人の俺と一緒に働いて、嫌じゃなかったんですか?」

 

 

「全然!寧ろ、私達が刺激を受けてたよ」

 

 

「そうなんですか?」

 

 

「ああ、君の刺激で全員のスキルが上昇した気がする」

 

 

「さ、さいですか」

 

 

 

如何やら俺は、メイドや執事の皆さんのいい刺激になっていたようだ...

自覚は無いけどね...

俺は、次にエクシアの方を向く。

 

 

「本当に寂しくなってしまいますね、お兄様」

 

 

「そうだね...ところで、お兄様呼びを変えることは...」

 

 

「出来ませんよ?」

 

 

「そうですよね~。」

 

 

ここまでで、俺とエクシアは笑い合う。

本当に、元気になって良かった。

 

 

「エクシア、健康で、元気で生活しろよ!」

 

 

「勿論です!」

 

 

再び俺とエクシアは笑い合う。

そして最後に、チェルシーさんの方を向く。

 

 

「チェルシーさん、今までありがとうございました」

 

 

「今世の別れでは無いんですから、そこまで畏まらないでくださいよ。...また、会いに来てくれるんでしょう?」

 

 

ああ、二人きりじゃないから敬語か...

やっぱり、ため口の方が嬉しいけど、そんなこと言ってられないか。

 

 

「そうですね、また必ず会いに来ますよ」

 

 

「また会える日を、心待ちにしています」

 

 

俺とチェルシーさんも笑い合った。

全員との会話も終わったので、完全空気ドラゴンだったディミオスSDに声を掛ける。

 

 

「じゃあディミオス、帰ろうか」

 

 

《それよりも、失礼な事を考えてなかったか?》

 

 

「そんなこと無いって!」

 

 

俺がそう言うと、ディミオスは一応納得してくれたようだ。

さっきから、俺の心の声駄々洩れ?

俺がそんなことを考えていると、ディミオスはSDから元の大きさの戻ると、

 

 

《オープン・ザ・ゲート。ダークネスドラゴンW》

 

 

ダークネスドラゴンWへのゲートを開いた。

俺はそのゲートの前に立つと、みんなの方を向き、

 

 

「それでは、お世話になりました。また会う日まで!!」

 

 

と、笑顔を浮かべながら言った。

 

 

『ええ/ああ、またいつか!!』

 

 

というみんなの声を聴きながら、俺とディミオスはゲートに入っていった...

 

 

 

 




本編でもチラッと触れましたが、セシリアの陰は、本当に薄かった...
ドイツ編のラウラよりも陰が薄かったですね~。
まぁ、原作ではヒロインの二人ですが、今作ではヒロインはクラリッサとチェルシーの二人で、この二人じゃないので、問題ないですよね!!


ラウラ/セシリア「「問題ある(ありますわ)!!」」


ひゃい!
原作に入ったら、出番ある予定だからもうちょっと待って~!!


次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!


評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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プロローグ26 家族との再会

今回もサブタイで中身が分かりますが、一夏が家族と再会します。
この作品では、原作よりも千冬のブラコン度が高いです。
ご了承ください。


それに、投稿を始めてからもう一ヶ月か...
早いような、遅いような...
原作に入れないって意味では、遅いんでしょうけど。


そんな今回ですがいつもより長めなので、お楽しみください!


※タグを修正しました。



一夏side

 

 

イギリスからダークネスドラゴンWに戻って来てからも、俺は訓練をし続けた。

最近では、フェイタルがあれば、サイズ2のモンスターと勝負をして、勝つことも出来るようになってきた。

ただ、ディミオスには一回も勝つことが出来なかったけどね。

流石団長...

 

 

そして、俺は角王の皆様に合うよりも緊張...いや、恐怖する体験をさせてもらった。

バディワールドの中でも、ボスと呼ばれているモンスターとファイターとの会話だった。

 

 

最初に話させて頂いたのは、『終焉魔竜 アジ・ダハーカ』様とそのバディ、『臥炎キョウヤ』さんだった。

アジ・ダハーカ様は、色々進化しているらしいのだが、俺がお会いした時は初期形態と言われる姿であられた。

...めっちゃ怖かった。

初めてお会いするボスと呼ばれるモンスターなので威圧感が凄く、思わず手が震えていた。

キョウヤさんもキョウヤさんで、牙王さんに何度か計画を潰されたにも関わらず、まだ何か計画を立てているようで怖かった。

そして、少し会話をしたのだが...何故かお二人のお気に入りになってしまった。

キョウヤさん曰く、

 

 

「モンスターとバディを組む人間は沢山いる。でもね一夏君、君のようにバディワールドでモンスターと同じように生活する人間は少ない...だから、僕は君に興味を持った」

 

 

とのこと。

この時、俺が使用しているダークコアデッキケースが正規品ではない事を知った。

本来ダークコアデッキケースはキョウヤさんが開発、製造したものらしいのだが、俺のものはディミオスがタスクさんが使用していた煉獄騎士のダークコアデッキケースを再現したものらしい。

そのため、タスクさんの煉獄騎士と比べると、装甲の耐久値が大幅に上昇しているようなのだ。

因みにだが、アジ・ダハーカ様は一万年の眠りに付くはずだったが、ディミオス達が俺の世界に来た衝撃で起きてしまったとの事(そんな簡単に起きるものなのだろうか?)

 

 

その次にお会いしたのは、『大魍魎ヤミゲドウ』様とそのバディ『イカヅチ』さん、本名『淵神 暴留斗(ふちがみ ぼると)』さんだった。

お会いした時、ヤミゲドウ様は空腹だったらしく、頭からパックリ食べられそうになったが、イカヅチさんが止めてくれたお陰で何とか助かった。

ヤミゲドウ様も色々な進化系があるらしいが、初期形態でいらした。(厳密にはこのヤミゲドウ様は進化したヤミゲドウとは違う本体のようだ)

イカヅチさんは、

 

 

「俺様はかつて、世界を滅ぼそうとしちまった。ヤミゲドウもな。だが、アイツ等が俺様とヤミゲドウを止めてくれたお陰で、世界は残ったんだよ。だから、俺様はアイツ等に感謝してるんだ」

 

とおしゃっていた。

アイツ等とは恐らく、牙王さんと角王の皆様だろう。

 

 

最後にお会いしたのは『Cの支配者 ギアゴッドⅦ』様とバディの『ウィズダム』さんだった。

ギアゴッド様もこれまた初期形態(Ⅶより前は零を除いて廃棄されているらしく、零も改修アップグレードされⅦよりも後の型番となっている)だった。

ギアゴッド様はサイズ30もある規格外モンスターで、滅茶苦茶大きかった。

ウィズダムさんは

 

 

「私とギアゴッドは、かつて世界をカオスで支配しようとした。だが、それは不可能だった。その時に私とギアゴッドは学習した。この世界の、モンスターと人間の覚悟を...」

 

 

と語っていた。

 

 

そんな感じの、普通の生活をしていたら絶対に会えないような人達との会話も終わり、今。

訓練を続けていたことで俺の体も成長し、漸くシュヴァルツェ・ハーゼの制服がまともに着れるようになった。

ていうか、あんなに筋力強化トレーニングしたのに体が細身ってどう言う事だ...?

それに、これも(・・・)な...

 

 

そしてついに、俺が元の世界に帰る日がやって来た。

俺はこの二日間程で、全ワールドを周り、今までお世話になった角王の皆様やその他のモンスターの皆さんに挨拶をした。

とにかく過密スケジュールだったので、流石に疲れた...

そう言えば、千冬姉に帰る時期は伝えておいたが、正確な日付は教えてなかったな...

いつ帰って来るかソワソワしてるんだろうか...?

いや、無いな。

俺が急に帰っても、

 

 

「ああ、今日だったのか」

 

 

で終わりそうだ。

それよりも、千冬姉の生活の方が心配だ...

あの人は、生活能力がほとんどないからな...

多分、コンビニ飯ばっかで掃除も碌にしてないだろうな。

それに、あの人がドイツ軍の教官職を終わらせた後、何をしているかも分からない。

IS学園で教師でもやってたりな...

何か本当にそうな気がしてきた。

 

 

《一夏、そろそろ行くぞ》

 

 

「ああ、分かったよディミオス」

 

 

ディミオスに呼ばれたため、俺は煉獄騎士団本部の外に出る。

そこには煉獄騎士団所属のドラゴンが勢ぞろいしていた。

 

 

「何だよみんな、この先みんなと共に戦うのに」

 

 

《一応な。活躍が少ない奴もいそうだしな...》

 

 

「それは言ったらダメだろう!?」

 

 

自分の団の団員なのに、それは...

俺がそう思っていると、何人(竜)かが笑い出す。

 

 

《そうですね、俺らはあまり...というか、全く使われないだろう》

 

 

「いや、認めんのかい!」

 

 

俺の突っ込みでまた笑い出す。

ほ、ホントにそれでいいのかよ...

 

 

《別にいいさ。...一夏、頑張れよ》

 

 

《ああ、頑張ってくれよぉ》

 

 

「勿論」

 

 

そんなことをドラゴン達と会話する。

じゃあ、行きますか(帰りますか?)。

 

 

《オープン・ザ・ゲート。ヒューマンW》

 

 

ヒュ、ヒューマンW?

そう言うんだ。

イギリスの時は焦ってて聞いてなかったからな。

俺がそう思っていると、ゲートが開く。

 

 

「さぁ、Let`s GO!」

 

 

《いや、帰るだけだぞ?》

 

 

「雰囲気だよ、雰囲気」

 

 

ディミオスとそんな会話をしながらゲートをくぐる。

本当に、楽しみだな...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

さて、ここは...篠ノ之道場近くの山?

まさか、こんないい思い出が少ないところに出るなんてな...

 

 

俺が出てすぐに気が付いたのは、ここが篠ノ之道場の近くだという事だ。

この道場は、束さんと出会ったっていういい思い出がある一方、アイツに...篠ノ之箒に暴力を振るわれていた場所でもある。

今は篠ノ之家が束さんがISを発表したことにより要人保護プログラムによってこの街からいなくなった後引き継いだ元警察官の方が仕切っている。

その人には悪いが、やはりここにはいい思い出が無い。

 

 

俺が黙ってそんなことを考えていると、ディミオスはSDになりステルスカーテンを着ていた。

 

 

《一夏、行かないのか?》

 

 

「ん、ああ。行こう行こう」

 

 

ディミオスに言われ、俺は我が家に向かう。

道中、俺は懐かしい思いを感じていた。

モンド・グロッソの時に誘拐されてから一度も日本に帰ってきてないので、本当に久々だ。

本当に...懐かしいなぁ...

それに、鈴や弾、蘭に数馬とも会ってない...というか、連絡すら取ってないからなぁ。

心配させちまったかな?

俺がそんなこと考えていると、何時の間にやら織斑家に付いていた。

おおぉぉ...懐かしい。

やっぱり、オルコット家の屋敷よりもこういう家の方がしっくりくるな。

 

 

《普通の家だな》

 

 

「こんなもんでしょう」

 

 

俺はそう言いながら、ドアノブに手を掛ける。

如何やら鍵は掛かっていないようだ。

...これって、自分の家に入るときにやる事じゃないな...

ドアを開け、家に入る。

何か、もう薄っすらとホコリが積もっているように感じるな。

やっぱり掃除はあまりしていなかったようだ...

そう思いながらも俺はリビングの扉に手を掛け、そのまま開ける。

 

 

「ただい「一夏ぁ!」まぁ!?」

 

 

ドアを開けたら、千冬姉がおよそ人間が出せる速度ではない速度で俺に突っ込んで来た。

その時の衝撃で俺は後ろに倒れそうになるが、何とか倒れずに済んだ。

 

 

「千冬姉、危ないんだけど?」

 

 

「うう、一夏~。お帰り~」

 

 

...千冬姉ってこんな人だったっけ?

まぁ、今は良いか...

 

 

「ただいま、千冬姉」

 

 

俺がそう言うと、千冬姉は更に泣きそうになる。

本当に変わったな。

俺がそんなことを思っていると、別の人から声を掛けられる。

 

 

「ちーちゃん、いくら何でもがっつき過ぎだよ~。いっくん、お帰り~」

 

 

その声が聞こえた方向を向くと、束さんがいた。

束さんは国際指名手配されているはずなんだけど...良いのかなぁ。

まぁ、束さんだし、大丈夫か。

 

 

「はい、お久しぶりです、束さん。ん?えっと...」

 

 

俺が束さんの方を向いて声を掛けた時、千冬姉と束さん以外の人が四人いた。

 

 

「...どちら様ですか?」

 

 

眼を閉じた、何処かラウラと似たような雰囲気で銀髪の女性。

金髪で、ゴージャスなドレスが似合いそうな女性。

オレンジ色の髪で、男勝りな性格に見える女性。

そして、千冬姉の中学生の頃に瓜二つの少女。

全員が知らない人だった...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

千冬side

 

 

私はここ数日、ソワソワしていた。

異世界に行っている最愛の弟、一夏がこの世界にもう直ぐ帰って来るからだ。

帰って来る時期は知っているが、詳しい日時は知らないので、相当ソワソワしているのだ。

今日も今日で、自宅のリビングでソワソワしていた。

私はIS学園の教師であり、寮長でもあるので本来ならこの家で待つことなんてできないが、特別な許可をもらったのだ。

 

 

「ちーちゃん、今日もソワソワしてるねぇ」

 

 

「ふっ、お前もだろう、束」

 

 

「そうだね~。いっくんが帰って来るのが楽しみだよ~」

 

 

やはり束もソワソワしているようだ。

口では楽しみとしか言っていないが、さっきから部屋の中を歩き回っている。

今日帰って来るって決まってる訳ではないんだがな。

 

 

「束様、千冬様、少々落ち着いたら如何ですか?」

 

 

「クーちゃん、それは無理な相談だな~」

 

 

「は、はぁ」

 

 

今喋ったのは、束の娘兼助手にクーちゃんこと、クロエ・クロニクルだ。

クロエはラウラと同時期に造られたアドヴァンスドで、失敗作だったようだ。

それで捨てられていたのを、束が保護したらしい。

本当に、こいつがこんな事をするとは思わなかったな...

 

 

「それでもよ。なら部屋を歩き回るのは辞めてくれないかしら?」

 

 

「本当だぜ。全くちょこまかと動いて...」

 

 

「鬱陶しい」

 

 

そう、私、束、クロエ以外にこの家にいる三人が言ってきた。

スコール・ミューゼル、オータム、そして織斑マドカの三人だ。

この三人は元々亡国企業(ファントムタスク)と呼ばれる国際テロ組織のメンバーだった。

なら何故今ここにいるかと言うと、束が気に入ったからだ。

束が世界中を飛び回っている(物理)時、任務に失敗して負傷している三人を発見し、その中にマドカがいたことで興味を持ったようだ。

マドカは、違法研究施設で造られた私のクローンだ。

そのことで私に恨みの様なものがあったらしく、初対面の時は殺しにかかって来た。

でも、私が妹として接したら、キチンと受け止めてくれた。

多分一夏と会うのも内心楽しみなんだろう。

私がそんなことを考えている間にも五人は言い合いをしている。

 

 

「でもスーちゃん、いっくんに会いたいこの気持ちは抑えられないんだよ!!」

 

 

「私達はその一夏に会ったことが無いから分からないんだけど?」

 

 

...すっとその話題なのか。

まぁ、一夏の事なら私も加わるがな!

そう思い、私も口を開こうとした時

 

 

ガチャ...という音が玄関から聞こえ、足音がこのリビングに向かってきた。

私達は直ぐに静かになると、リビングと廊下の間の扉を見つめる。

そして、遂に足音が扉の前に来るとドアノブが動き、扉がゆっくりと開く。

 

 

「ただい「一夏ぁ!」まぁ!?」

 

 

そして、一夏が部屋に入って来たと同時に、私は一夏に思いっきり抱き着く。

一夏が変な声を出していたが気にしない。

私は久々の一夏の感触にちょこっと感動していた。

 

 

 

「千冬姉、危ないんだけど?」

 

 

「うう、一夏~。お帰り~」

 

 

私と一夏がそんな会話をした後、何やら一夏は束と会話していたが私の耳には入らない。

もう暫く一夏に抱き着いているか。

 

 

「千冬姉、いい加減離れてくれない?この人達の話聞きたいんだけど?」

 

 

「そうよ千冬。いい加減離れてあげたら?」

 

 

一夏、それにスコールから言われ私は一夏からしぶしぶ離れる。

 

 

「えっと...それで?」

 

 

「じゃあ、束さんが紹介してあげよう!!」

 

 

「お願いします」

 

 

そうして、束のやたらテンションが高めの紹介と共に、紹介される側の四人も軽く一夏と会話をする。

この時一夏は、元国際テロリストとか私のクローンとか言われても驚くことも動揺することも無かった。

 

 

「いっくん、驚かないのかい?テロリストだったり、クローンだったりだよ?」

 

 

束も同じ事を考えていたのか、一夏に質問をする。

すると、一夏は何処か遠い目をしながらこの質問に答える。

 

 

「いやぁ、色々な経験しすぎてもうそれぐらいじゃ驚かなくなりました...」

 

 

この時一夏を除く私達の一つになっていたと思う。

 

 

(((((いったいどんな経験したんだ...)))))

 

 

私達がそんなことを考えていると、一夏がマドカの事を見つめる。

マドカは、見つめられている事に疑問を感じたのか一夏の事を見つめ返す。

私達が二人の事を見守る中、一夏が口を開く。

 

 

「千冬姉のクローンってことは俺の姉?それとも生きた時間的に妹?」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、私達は漫画のようにズッコケた。

まさか、そんなことを考えていたなんて...

 

 

「...私は、妹だと思っていたんだが」

 

 

「あ、そうなの?なら、これからよろしく、マドカ」

 

 

「私はクローンの人間だぞ?そんな簡単に、受け入れていいのか...?」

 

 

「クローンだろうと何だろうと、人間であることには変わりないだろう?なら、拒む理由もないぞ、妹よ」

 

 

一夏は、さも当然というようにマドカに語り掛ける。

...私は無茶苦茶動揺したのに、一夏は冷静だな。

マドカは、眼に涙を浮かべている。

一夏に簡単に認めてもらった事が嬉しいんだろう。

 

 

「分かった、よろしく、お兄ちゃん!!」

 

 

マドカはそう言い、一夏に抱き着いた。

...羨ましい!!

クロエやスコール、オータムは微笑ましい物を見るように二人を見ているが、私と束はマドカに嫉妬の視線を向けていた。

暫くマドカは一夏に抱き着いていたが、一夏が離れて欲しいと言ったので、素直に離れた。

一夏はそんなマドカの頭を撫でて、私達の方に視線を向けて来た。

 

 

「じゃあ、色々話したいこともあるんだけど...千冬姉と束さんに聞きたいことがあるんだ」

 

 

「んん、何かないっくん?この束さんに何でも聞きなさい!」

 

 

一夏の聞きたいことがあると言う発言に、束がすぐさま反応し、私も頷く。

それを確認したのか、一夏は目を閉じながら、

 

 

「なら...」

 

 

と言う。

私たち全員が一夏の事を見る中、一夏は目を開きながら、言葉を発する。

 

 

これ(・・)、何?」

 

 

その一夏の両目は、黄金に輝いていた。

 

 

それを見た瞬間、私達は動きが固まってしまった...

 

 

 

 




亡国企業の三人についてはギリギリまでどういう立ち位置にするか悩みましたが、この立ち位置で行かせていただきます。


一夏は、何とバディファの方のボスに会っていました!
それにモンスターと戦って勝てる...うん、人間辞めてきてるなぁ。


次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!


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プロローグ27 織斑計画

今回は、IS十二巻で判明した内容を一夏が知ります。
まさかプロローグでするとは...
まぁ、二次創作なら普通か!


今回もいつも通りの完成度ですが、お楽しみください!


UAが15000を超えました!ありがとうございます!


一夏side

 

 

これ(・・)、何?」

 

 

俺がそう言うと、目の前の六人は固まってしまった。

千冬姉に束さん、束さんの助手でラウラと同じアドヴァンスド(ただし、失敗作と言われていた)のクロエさん。

それに元テロリストのスコールさんにオータムさん。

同じテロ組織いた千冬姉のクローンで俺と千冬姉の妹、マドカ。

全員が全員、凄い経歴の持ち主なのでこれくらいでは驚かないと思ったが...違ったようだ。

特に千冬姉と束さんの動揺が凄い。

やっぱり、この二人は何か知っているようだ。

 

 

俺がそんな事を考えながら六人の事を見ていると、何とかと言った感じで千冬姉が言葉を発する。

 

 

「い、一夏...それは、何処で...?」

 

 

「訓練中に(ネグロバルス様と天武様の喧嘩に巻き込まれて)死にそうになったら、偶然こうなったんだよ。何となく訓練したら、任意で出来るようになった」

 

 

「そ、そうか...」

 

 

それだけ言って千冬姉はまた固まってしまった。

俺は首をかしげながらキッチンの冷蔵庫に近づき、扉を開ける。

うわっ、酒ばっかじゃん...

千冬姉、ちゃんとしようぜ...

 

 

俺はそんなことを考えながら残っていた牛乳を取り出し、コップ二個に注ぐ。

それとキッチンの丸椅子をもってリビングに戻り、丸椅子に腰を掛ける。

牛乳を一口飲んだ後、さっきから黙っているディミオスに声を掛ける。

 

 

「なぁディミオス、牛乳飲むよね」

 

 

《ああ、もらおうか》

 

 

ディミオスは返事をするとステルスカーテンを脱ぎ、俺から牛乳が入ったコップを受け取る。

クロエさん、スコールさん、オータムさん、マドカは急に現れたディミオスに驚いたようだったが、シュヴァルツェ・ハーゼのみんなみたいなリアクションは取らない。

束さんや千冬姉から聞いていたんだろう。

俺は再び牛乳を飲みながら目を閉じる。

そしてコップから口を話すと同時に目を開く。

これにより、目の色が黄金から元に戻る。

千冬姉と束さんの方を見ると、何やら二人でヒソヒソ会話をしている。

そんなに話しずらい事なんだろうか...

 

 

「それよりも、お前ら落ち着き過ぎじゃねぇか?」

 

 

そんな事を考えていると、オータムさんが俺たちに言葉を掛けて来た。

そんなにリラックスしてるように見えるのかな?

まぁ、

 

 

「あの二人が何か喋らないと暇ですからね...」

 

 

「確かにそうですが...緊張とかしないのですか?」

 

 

「クロエさん、さっきも言いましたが、もう並大抵の事じゃ驚かなくなったので...」

 

 

「本当にどんな体験をしたらその様になるんですか?」

 

 

「まぁまぁ、あの二人の説明の方が先ですよ」

 

 

俺がそう言うと、俺達五人+一竜が千冬姉と束さんの方を向く。

するとそのタイミングで千冬姉と束さんが、何やら決意を決めたような表情で俺たちの方を見て来た。

 

 

「いっくん、ディミくん、リラックスし過ぎじゃない?」

 

 

「え、今ですか?」

 

 

《それよりも、何で我の呼び方が『ディミくん』なんだ》

 

 

「いいじゃんいいじゃん」

 

 

《何を言っても無駄なようだ...》

 

 

束さんの呼び方にディミオスが反応するも、直ぐに無駄だと悟ったようだ。

それよりも、

 

 

「それで、ちゃんと話してくれるんだよな?」

 

 

「あ、ああ。ちゃんと話す。覚悟は...」

 

 

「出来てるに決まっている」

 

 

「アハハ、いっくん成長したねぇ。じゃあ先ずは...何でちーちゃんといっくんに親がいないのかだね」

 

 

《篠ノ之束、それは関係がある話題なのか?》

 

 

「あるから話そうとしてるんだよ、ディミくん」

 

 

《それもそうだな...話の腰を折って悪かったな》

 

 

「別にいいよ。それじゃあ、話すね」

 

 

そこから、千冬姉と束さんの説明を全て聞いた。

 

 

俺と千冬姉は親に捨てられた訳ではなく、最初からいなかったのだ...

『プロジェクト・モザイカ』別名『織斑計画』。

遺伝子操作により、『最高の人間』を作り出す計画。

千冬姉は試験体№1000にして初の成功体。

そして俺は、その成功例を元にして改良、生み出された二番目の成功体。

つまりは、俺も千冬姉も生体兵器として生み出された試験管ベイビーであるという事。

つまりこの黄金の目は、ラウラに移植されたヴォーダン・オージェと似たようなものだという事。

ただし、天然にも関わらず最高な人間と呼べる束さんの存在が確認されたことによって、この織斑計画は中止されたという事。

クロエさんにラウラ、クラリッサさん達アドヴァンスドは、この織斑計画の一部技術が使用されているという事。

 

 

全てを聞き終わった俺は...

 

 

「ほーん、そうなのか」

 

 

の一言が出て来た。

俺のこの言葉に千冬姉と束さんは呆気にとられたような顔をし、スコールさん達四人は漫画のようにズッコケていた。

...いったいどうやったら、そんな風にズッコケれるんだろうか?

俺がそんなことを考えていると、ディミオスが声を掛けてくる。

 

 

《自分の衝撃的な真実を知ったのに、冷静でいられているからあんなリアクションを取ったんだろう》

 

 

「ん―まぁ、ねぇ。これぐらいじゃもう...ね」

 

 

《自分の事なのにか?》

 

 

「ああ...変だとは思うけどね」

 

 

俺とディミオスがそんな会話を繰り広げていると、千冬姉が声を掛けてくる。

 

 

「い、一夏...動揺しないのか...?」

 

 

「ああ、何回か言ったけど、もうこれくらいじゃ驚いたり動揺したりしなくなったよ...」

 

 

アビゲールさんもアジ・ダハーカ様の細胞から造られた人造モンスターだし、その他にも色々な人造モンスターがいたしなぁ。

まぁ、それに...

 

 

「別に、人造だろうと兵器だろうと俺は俺、『織斑一夏』という人間だ。なら、別に動揺する必要はない」

 

 

俺がそう言い切ると、みんなが驚いた表情を浮かべた。

そして、束さんが言葉を発する。

 

 

「いっくん、まだ三年もたってないのにどんな経験をしたの...」

 

 

「そうだよお兄ちゃん。人間はそんな簡単に変わらないんだよ」

 

 

束さんの言葉に続けるようにマドカも言葉を発する。

千冬姉も、クロエさんも、スコールさんも、オータムさんも頷いている。

これは、俺のダークネスドラゴンWでの生活を話さないといけないようだ...

 

 

「分かった分かった。俺のダークネスドラゴンWでに生活を話すよ。良いよね、ディミオス」

 

 

《ああ、問題は無いだろう》

 

 

ディミオスからの許可ももらったし、話しますかぁ...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

束side

 

 

いやっほぉ~!

何だかんだで初めての束さん視点だよ~。

 

 

束さんとちーちゃんは、覚悟を決めていっくんに真実を伝えたんだけど、いっくんはそれを軽く流しちゃった。

絶対に動揺するって思ってたから、呆気に取られたよ。

いっくんがここまで変わるだなんて束さんも予想してなかったから、ビックリだよ。

それでマドちゃんと一緒にいっくんに何があったのか尋ねたら、いっくんはちゃんと話してくれたんだ~。

 

 

それで話を全部聞いたんだけど...

 

 

いっくん、成長シスギィ!!

何なの!?生身でモンスターと戦って勝てるって!?

イギリスだっけ?で起こった列車脱線事故の犯人(竜)もモンスターなんでしょ!?

列車を脱線させることが出来るくらいの奴らと生身で戦えるだけでもすごいのに、それで勝てるって...

 

 

それに、角王とかボスモンスターとかも凄すぎだよ...

しかもこれで全部じゃないって...

確かにこれはもう、驚かなくなりそうだね...

 

 

話を全て聞き終わった束さん達は、驚きと納得が混ざった表情を浮かべた。

確かにいっくんの話は衝撃的だったけど、こんな経験をしたらあの話じゃ驚かなくなるよね...

スーちゃんやオーちゃん、マドちゃんみたいな元テロリストのみんなも同じ様な表情を浮かべているから、裏社会でもここまでの経験はできないみたいだね~。

束さんそういう凡人の裏社会なんて興味なかったから、知らなかったよ~。

いっくんは私達が納得したのが分かったのか満足そうに頷くと、ディミくんから牛乳が入っていたコップを受け取って、自分の分と共にキッチンに持っていた。

いやぁ、いっくんはキッチンが似合うねぇ~。

 

 

「それで、これからどうするんですか?」

 

 

「そうだね~、先ずいっくんはスーちゃんが社長の会社に所属してもらうよん」

 

 

「スコールさんが社長何ですか?」

 

 

いっくんがこの先の予定を聞いてきたので、束さんが直ぐに答える。

スーちゃんが社長って事にいっくんは疑問を感じたようだ。

まぁ、スーちゃん達は元テロリストだからそう感じたんだろうね~。

 

 

「ええ、束が私達の罪を消してくれたからね」

 

 

「だから、私達も大っぴらに活動できるんだぜ」

 

 

スーちゃんとオーちゃんの説明でいっくんは納得したようだ。

 

 

「何て言う会社何ですか?」

 

 

「あー、決めてないんだよね...如何する?いっくんが決めていいよ」

 

 

いっくんが会社の名前を聞いてきたけど、決まってなかったからいっくんに決めてもーらおっと。

束さんがそう言うと、いっくんは考える素振りを見せた後、これしかないという表情を浮かべた。

如何やら納得できる名前が出てきたようだね~。

 

 

「おやおやいっくん、良い名前が思いついたようだね~」

 

 

「ええ...『PurgatoryKnights』。煉獄騎士団を英語にしただけですけど」

 

 

『PurgatoryKnights』かぁ...カッコいいじゃん!!

 

 

「うんいいねぇ!じゃあそれでいこっかぁ!!」

 

 

「うんうん!カッコいいと思うよ、お兄ちゃん!!」

 

 

マドちゃんが賛成したことによって、会社の名前が正式に決定した。

いやぁ、決まって良かったぁ。

 

 

「ねぇ千冬姉、お願いがあるんだけど?」

 

 

「な、何だ一夏?」

 

 

話が一区切りついたからか、いっくんがちーちゃんに話し掛ける。

いっくんにお願いって言われたからか、やたらちーちゃんが嬉しそうだねぇ。

スーちゃん達を見ると、微笑ましいものを見るように二人の事を見てなぁ~。

 

 

「千冬姉、俺と模擬戦してくれないか?」

 

 

「も、模擬戦?いったい何でだ?」

 

 

「世界最強にどれだけ通用するか試してみたいからね...」

 

 

「...分かった。束、場所を用意してくれないか?」

 

 

「もち!束さんもいっくんの戦い見たいからね!!」

 

 

いっくんのお願いは、ちーちゃんと模擬戦がしたいってことだったようだね~。

まぁ、スーちゃん達はいっくんの戦いは一回も見たことが無いし、どれだけ成長したか見たいからねぇ。

 

 

それから、二日後に模擬戦することが決まった。

今から楽しみだなぁ!!

 

 

 

 




束の視点って、難しい!
束の口調で書くのは楽しいけど、束が何考えてるか分からんからなぁ...


一夏のリアクションが薄すぎたかな?
でも、この作品ではこれくらいだと思って下さい。


最近感想が少なくて悲しいです...感想お待ちしています!


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プロローグFinal 入学へ

遂に...遂に...プロローグが終わります。
長かったぁ。
まさか、プロローグに28話かかるなんて、投稿前は思いも思いもしなかった...


そんなグダグダな小説を見て下さっててありがとうございます!
取り敢えず今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

二日後、遂に千冬姉との模擬戦の日がやって来た。

俺達七人+一竜は、人里離れた山奥にある建物にやって来た。

束さんが言うには、

 

 

「ここはね、束さんが建てたISテスト場なのさ!!そこら辺の凡人どもじゃ見つからないようにステルス掛けてるからここなら安心さ!!」

 

 

との事。

 

 

そして俺と千冬姉は建物内で対峙している。

束さん達は少し離れたところから見学をしている。

この勝負、千冬姉との一対一がしたかったから、ディミオスも束さん達と一緒にいる。

まぁ、モンスターを使うのが煉獄騎士のみの機能(この世界では)だから、使っていいんじゃね?とオータムさんには言われたが、俺は使わない事にした。

ディミオス達はIS学園に入学したら出番が沢山あるから今日ぐらいは良いだろう。

 

 

俺がそんなことを考えていると、千冬姉が声を掛けてくる。

 

 

「まさかお前とこうやって戦う事になるとはな、一夏」

 

 

「俺もまさかブリュンヒルデと勝負するだなんて、誘拐される前は考えもしなかったよ」

 

 

「...ブリュンヒルデと呼ばれるのは、あまり好きじゃ無いんだ。この称号で、お前を傷つけてしまったからな」

 

 

「別に、傷けられたことに関しては千冬姉の責任じゃないし、何より気にしてないよ。寧ろ、あれがあったから、ディミオス達と出会えたからな。...まぁ、篠ノ之箒とか傷つけて来た奴には良い感情を持てないけどな」

 

 

俺がそう言うと、千冬姉は微笑んだ。

そして直ぐにキリっとした表情を浮かべると、その身体を光が包み込む。

光がやむと、千冬姉はその身にISを纏っていた。

 

 

暮桜

 

 

千冬姉の専用機であり、全IS操縦者が憧れる強さを見せつけたISが、俺の目の前にいた。

...暮桜は、千冬姉だからこそ動かせる機体なんだけどな。

 

 

「フム、暮桜(コイツ)を使うのは久しぶりだな...教官をしていた時も、IS学園の教師である今も起動させる機会が無かったからな...」

 

 

「え、千冬姉、IS学園の先生やってんの?」

 

 

初耳なんだけど...

っていうか、予想当たってたわ...

 

 

「ん?言ってなかったか?」

 

 

「ああ、聞いてないよ」

 

 

「それはすまなかったな。まぁ、今は関係ないだろう」

 

 

「...それもそうか」

 

 

腑に落ちないが、何を言っても無駄になりそうだ。

俺はそう判断し、ダークコアデッキケースを取り出す。

そして、

 

 

「ディザスターフォース、発動」

 

 

煉獄騎士の鎧を身に纏う。

そうして、二人とも専用機(俺はISじゃないけど)を展開した後、同時タイミングで武装を装備(展開)する。

 

 

「装備。煉獄剣 フェイタル」

 

 

俺はフェイタルを、千冬姉は雪片を手に握りしめ、構える。

俺はダークネスドラゴンWで作り上げた我流、言っちまえば『煉獄流』かな?

千冬姉は篠ノ之流剣術の構え(篠ノ之流には、俺が習っていた剣道と千冬姉が習っていた剣術がある)を取る。

...ISで剣術の動きを出来るのも、千冬姉と暮桜だけだろうな。

 

 

俺達が構えたのを確認した束さんが声を上げる。

 

 

「二人とも、準備はだいじょ~ぶ?」

 

 

「大丈夫です」

 

 

「此方も問題ない」

 

 

俺と千冬姉がそう返事し、束さんはカウントを取り始める。

 

 

「じゃあ、いっくよ~!3...2...1...開始!!」

 

 

開始の合図か出た瞬間、俺は地面を蹴り千冬姉に接近する。

そして一瞬にして千冬姉に近づくと、フェイタルで切り付ける!

 

 

「はぁ!?」

 

 

千冬姉はそんな声を出しながら、慌てて後退する。

しかし間に合わず、フェイタルが暮桜の装甲を切り付ける。

装甲を切りつけられた千冬姉は雪片で反撃をしてくるが、俺は身体を反らして避ける。

そして、避けた勢いを利用して、またフェイタルで切り付ける!

その攻撃は、またヒットした。

俺はここでいったん離れるため地面を蹴り、距離を取る。

そして、離れたところに、今度は千冬姉から突っ込んで来た。

...ん?何だろう、この動き、何処かで...

俺は今の千冬姉の動きを何処かで見た気がした。

モンド・グロッソとかじゃなくて、もっと前に...

 

 

あっ!もしかして...

俺はある一つの考えに至った。

って、それよりも模擬戦模擬戦!

俺は突っ込んで来た千冬姉の攻撃を、身体を横に曲げながら躱し、フェイタルを地面に突き刺す!

 

 

「なっ...!?」

 

 

そしてそのままフェイタルを軸にして、千冬姉に両足蹴りを蹴りこんだ。

その時の衝撃で、千冬姉はその場から吹き飛ばされた。

俺が体制を整え、また千冬姉に接近しようと足に力を籠めようとした時、

 

 

「ちょ、ちょっと待て一夏!」

 

 

千冬姉がストップを掛けて来た。

仕方が無く俺は接近するのを辞めた。

 

 

「何だよ千冬姉。俺変なことをしたか?」

 

 

「な、何だお前のその身体能力は!?」

 

 

「え、これくらい普通だろ?」

 

 

「いやいやいやいや!!そんな訳が無いだろう!?」

 

 

そうかなぁ?

俺はそう思い、束さん達の方を見る。

ディミオスを除く全員が凄い勢いで頷いていた。

 

 

「...そんなにですか?」

 

 

「そうだよ!!いっくん、ISを上回る身体能力って何なのさ!?」

 

 

いや、煉獄騎士の鎧も一応アシストがある(博士に頼んで付けてもらった)から、そこまでじゃないんだがなぁ。

 

 

「それで、この勝負どうするの?」

 

 

「...正直、このまま戦っても勝てる気がしない。私の負けだ」

 

 

あ、あれ?

俺...ブリュンヒルデに勝っちゃった...?

 

 

「俺、勝ったのか...」

 

 

何か、勝ったって実感はないけどな...

俺がそんな事を考えていると、マドカが近づいてきた。

 

 

「お兄ちゃん、お姉ちゃんに勝てるなんて凄いね!私もいつか追いつくからね!!」

 

 

...まぁ、マドカにそう言われると悪い気はしない。

もしかしたら、俺はもうシスコンになったのかもしれない。

俺とマドカがそんな会話をしていると、千冬姉が束さんに声を掛ける。

 

 

「束、暮桜を進化させてくれないか?」

 

 

「まぁ、こんな結果になったら悔しいよねぇ~。分かったよぉ!束さんが暮桜をバッチリ進化させちゃうね!」

 

 

...如何やら、暮桜を進化させるようだ。

千冬姉は、もう代表ではないから専用機を手放しても問題ないんだろう。

さっきの会話から、ISを使う機会も無いんだろうしな...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

暫くして、俺達全員は束さんの隠れラボの一つに移動していた。

理由は簡単、この後どんな行動をするのかを決定するためだ。

 

 

「先ず決まっているのは、俺が『PurgatoryKnights』所属としてIS学園に行くのと、社長がスコールさんってことだけですね」

 

 

「そうだな...私は教師としての仕事があるから、そこまで干渉は出来ないぞ」

 

 

確かに、教師である千冬姉は生徒一人に構っていられないんだろう。

俺がそんなことを考えていると、束さんが声を上げる。

 

 

「束さんとクーちゃんもあまり表に出れないからなぁ~」

 

 

「それに、私が社長と言っても、会社が何をするかも決めないといけないわね...」

 

 

ムムム、考えることが多いな...

それに、オータムさんやマドカもどうするかを決めないといけないし...

暫くみんなで考えていると、千冬姉が声を上げる。

 

 

「そうだ、一人くらいならIS学園で新たに雇えるぞ。オータム、来ないか?」

 

 

「はぁ?俺は教員免許なんてもってねぇぞ?」

 

 

「ああ、教員ではなく警備員としてだ」

 

 

「なるほどなぁ...良いぜ、乗った」

 

 

「では、そういう話を通しておこう」

 

 

千冬姉の計らいにより、オータムさんはIS学園で働くようだ。

...知り合いが増えるとなると、俺もありがたい。

取り敢えず、オータムさんの事が決まったがそれ以外にも決めることはある。

会社の事に関しては...

 

 

「会社は、束さんが造ったものを量産して売ればいいんじゃないですか?そうすれば、会社もちゃんと儲かりますし、束さんとクロエさんの居場所も出来るでしょう?」

 

 

まぁ、売るものに『篠ノ之束特製!!』とか言えないけどね...

俺が言ったことを検討するように、束さん達は話し合う。

暫く話し合っていたが、やがて頷いた。

 

 

「そうだねぇ~、そうしよっか!!ついでにマドちゃんも『PurgatoryKnights』所属にしちゃおうか!!」

 

 

「...専用機とかは無いんじゃ無いですか?」

 

 

何というか...マドカは俺か千冬姉以外に対応するときは結構辛辣目な対応に感じるなぁ。

いや、こっちが普通で、俺や千冬姉が相手だと年相応に戻るのかな。

 

 

「ん~、仕方が無い、束さんがコアから造っちゃいますか!!」

 

 

「待て束!!そんな事をしたら...」

 

 

「ちーちゃん、凡人どもが決めたルールでは、新しいコアを造ってはいけませんなんての無かったよね?」

 

 

「束...お前...」

 

 

「束さんが凡人のルールを知ってるだと!?」

 

 

「いっくん!?束さんでもそれぐらいは分かるんだよ!?」

 

 

まぁ、これで取り敢えずは決めることは決めたし良いか。

 

 

さて、次に...

 

 

「千冬姉、聞きたいことがあるんだけど...?」

 

 

「ん、何だ一夏?」

 

 

俺は聞きたいことがあると千冬姉に伝え、千冬姉が反応した。

...さて、さっきの事を質問しますか。

 

 

「千冬姉ってさ...白騎士でしょ」

 

 

「んなぁ!?」

 

 

白騎士...それは、ISが世界に認識されるきっかけになったIS。

とある日、唐突に事件は起こった。

全世界の軍事基地のコンピューターが同時ハッキングされ、日本に向けて合計2341発以上のミサイルが打たれた。

だがそのミサイルは一機の真っ白なISによって全て撃ち落された。

その後、そのISをとらえようと、世界中の軍が出動したが、ISはこれを全て落とし、どこかへと消えた。

この事件にる死者数はゼロである。

後に、このISの事を白騎士と呼ぶようになり、この事件を白騎士事件と呼ぶようになった。

 

 

そして今、俺は千冬姉が白騎士だと気づいた。それはなぜかというと...

 

 

「い、いいいっくん...なな何でそんな事言うのかな~」

 

 

「...束さん、俺は今あなたの事は喋ってません。なのにそんなに動揺するってことは...あなたが犯人ですか」

 

 

「へぁ!?」

 

 

「束!何言ってるんだ!!」

 

 

「ちーちゃん、今その言葉は肯定だよ!!」

 

 

「ナニィ!?」

 

 

...千冬姉と束さんの漫才を見ながら、やっぱりか...となる。

 

 

「一夏様、何で分かったのですか?」

 

 

クロエさんが何で分かったのか尋ねて来た。

スコールさん達は頷いているが、千冬姉と束さんはまだ騒いでいた。

...正直うるさい。

スコールさん達に止めてもらおう。

 

 

「説明したいんですけど、うるさいので黙らせてくれませんか」

 

 

「お兄ちゃん、私に任せて!!」

 

 

「じゃあ任せたぞ、マドカ」

 

 

二人を黙らせるのをマドカに任せた。

するとマドカは二人に近づき、

 

 

「お姉ちゃん、束さん、静かにしてね♡」

 

 

と、かなり可愛らしく二人にお願いした。

すると二人は、

 

 

「「はい!!」」

 

 

と、直ぐに黙った。

マドカのあの言い方はずるいと思う。

...でも、クラリッサさんとチェルシーさんにやってもらったほうが、俺の理性はやばそうだ。

ん?やっぱりクラリッサさんとチェルシーさんが俺の中で特別だなぁ。

何でだろうか...

俺がそんなことを思っていると、全員からの視線が俺に突き刺さる。

さて、説明するか。

 

 

「戦ってみて分かったけど、千冬姉のISに乗っている時の太刀筋は白騎士事件の時の白騎士の太刀筋に似ていた」

 

 

「そ、それだけでか...?」

 

 

「おう」

 

 

俺の言葉に全員が驚く。

まさか、それで分かるだなんて思わなかったんだろう。

みんなのそんな表情を見ながら、俺はある事を思い付く。

 

 

「姉が白騎士で、俺が煉獄騎士だから騎士姉弟か...」

 

 

俺がそう言うと、みんながズッコケた。

...本当に如何やってそうやってズッコケてるんだろう。

俺がそう思っていると、唯一ズッコケてなかったディミオスが声を掛けてくる。

 

 

《...そんな事を考えていたのか、一夏》

 

 

「だってそうじゃんかよ」

 

 

《確かにそうなんだがな...》

 

 

俺とディミオスがそんな会話を繰り広げていると、マドカが若干拗ねたような声を上げる。

 

 

「お兄ちゃん、私は仲間外れか?」

 

 

「あ、いやぁ、違うんだよマドカ...専用機を騎士にしてもらったら?」

 

 

「そうだね!じゃあ束さん、そういう事でお願いします」

 

 

「わ、分かったよ~」

 

 

束さんはまだ呆けているが、まぁ問題ないだろう。

そして、俺達の今後の行動が決まった。

さてさて、どうなる事やら...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

三人称side

 

 

それから、活動を指導した。

世界では、新たに創設された会社『PurgatoryKnights』が、創設されたばかりだというのにも関わらず、世界に影響を与える企業にまで成長した。

『PurgatoryKnights』の商品は、様々な『ISを使用することが出来ない場面・ISの整備』において、非常に優秀だった。

特に医療現場に関しては、医者と看護師の負担が三割減ったと言われる程であり、IS整備の場面では、他のメーカーの工具は使えないと言われる程だった。

 

 

そして、篠ノ之束は全世界に向けメッセージを送った。

 

 

『織斑一夏はISを動かすことが出来る』

 

 

そのメッセージは世界中を震撼させた。

男でISを動かせることが出来るだなんて、前代未聞だ。

ガゼネタかと思われたが、確認を取るとそれが真実だと判明した。

女尊男卑主義者の集まりである『女性権利団体』などは、織斑一夏をモルモットにしろ等ど騒いでいたが、実行は出来なかった。

何故なら、織斑一夏は『PurgatoryKnights』所属だったからだ。

いくら新設の会社でも、もう全世界に影響を及ぼす企業だ。

そんな企業所属の人間に危害を加えることは出来ない。

よって、織斑一夏はIS学園に強制入学、並びに無国籍状態になることとなった。

それに伴い、全世界で一斉に他の男性操縦者を見つけるための検査が実施することが決まった。

因みにだが、一夏の名前が出た瞬間、ドイツのとあるIS部隊とイギリスの貴族家が歓喜に包まれたとか何とか。

 

 

一夏は入学するまでに、千冬や束達と一緒に生活していた。

だが、千冬達はこの生活で一夏の成長を知った。

途轍もないトレーニングに、成長した家事スキル。

更には完全に人外の領域に足を突っ込んだ身体能力と、どことなく逆らえなくなった雰囲気に。

...千冬は、生身で一夏に完敗してしまい、口でも勝てなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏がISを起動できると判明(発表)した一週間ご、全世界にこんなニュースが飛び込んで来た。

 

 

『世界で二番目の男性IS操縦者が日本で発見!!名前は橘 深夜(たちばな しんや)!!」

 

 

と.....

 

 

 

 




『PurgatoryKnights』は、あくまで整備用の道具を販売してます。
武装等は販売していません。


そして、終わった~~。
いや、違うか!これから始まるんだ!


設定集を上げてから本編に入ります。
お待ちください!


感想が無くて寂しいので、ドシドシ送ってください!!


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1学期
IS学園入学


漸く本編だ~~~!!
いやぁ、ついに始まりましたよ!!
皆さん、お待たせしました!!


そんなこんなですが、完成度はいつも通りですが、楽しんでください!


三人称side

 

 

四月。

桜が舞い、新しい生活が始まる季節。

 

 

ここは、IS学園。

今日は新入生の入学式の日。

IS学園と言う、世界の中でも最高峰の学校に入学した生徒たちは、期待のに満ちた明るい顔をしていた。

これからの学園生活に胸を躍らせているのだろう。

 

 

しかし、そんな新入生達の中で異様なクラスが一つだけあった。

 

 

一年一組である。

普通のクラスだったら、初めてのHRまでの間で自分の席の周りの人達と話したりするだろう。

だが、このクラスはそんなことが無かった。

理由は簡単、男子生徒の存在である。

今年になって立て続けに二人見つかったISを動かすことが出来る男。

その男子が、二人ともこの一年一組に在籍しているのだ。

注目するなというほうが無理だろう。

そんなこともあり、今一年一組の教室には異質な雰囲気に包まれていた。

 

 

そんな中、一夏は教室の自分の席に座って居心地の悪さを感じていた。

何故か『織斑』なのに席が一番前の、しかも中央だから、クラスの役3分の2の視線が尽く刺さっているのだ。

そりゃあ居心地が悪い。

一夏は、そんな視線を気にしないようにしながら、HRが始まるのを待っていた。

 

 

一夏は現在、右腕と右胸にディミオスの頭部をイメージした『PurgatoryKnights』のマークがついたIS学園の制服を着ていた。

そして、少し俯き気味になりながら、手元の何かを見ている。

席が近くの何人かがそれを見ようとしているが、周りの人からは見れない。

その『何か』が何なのかというと...ディミオスのバディカードだった。

それを見つめながら、一夏は...

 

 

(ディミオス、ヤバい!助けて!)

 

 

ディミオスに脳内で助けを求めていた。

声に出しているならカード状態でも聞こえるが、脳内で考えていることなどはモンスター状態でも分からない。

よって、一夏のヘルプが聞こえるはずもない。

一夏が小声で助けを求めようかとした時、

 

 

―ガラガラ―

 

 

と、音を立てながら教室の前の扉が開く。

一夏は内心助かった...と安堵しながらディミオスのバディ―カードを胸ポケットに仕舞いながら、開いた扉の方を見る。

扉の先には、中学生が背伸びして大人の服を着ていますっと言われても信じれるくらい幼い印象の女性がいた。

髪は緑で、その胸元の二つの果実は、とてもとても大きかった。

だが、一夏は

 

 

(幼い印象だな~)

 

 

としか思っておらず、その果実には反応していなかった。

その女性はニコニコ笑いながら教室の中に入って来ると、教壇の前に立つ。

そして、その女性が挨拶をする。

 

 

「皆さん初めまして!この度はIS学園への入学おめでとうございます!私はこの一年一組の副担任の山田真耶と申します!皆さん、よろしくお願いします!!」

 

 

その女性...山田真耶は挨拶をする。

このクラスの副担任の教師のようだ。

だが、男子生徒に集中しているせいで、クラスの生徒は反応出来ない。

 

 

「「「よろしくお願いします」」」

 

 

いや、訂正。

三人だけ挨拶を返した。

その三人は、件の男子生徒二人と、教室後方に座る、金髪のロングヘア―の生徒だった。

 

 

「は、はい!よろしくお願いしますね!!」

 

 

山田先生は若干涙目になりながらそう返事をする。

涙目になっている理由は、三人しか挨拶を返さなかったからか、それとも三人も返してくれたからか...

前者だと思いたい。

そして山田先生は出席番号順に自己紹介をするように指示をする。

 

 

「はい!相川清香です!ハンドボール部に所属したいと考えています!よろしくお願いします!!」

 

 

指示を出されると、一番の生徒...清香が元気よく挨拶をする。

そのまま何人かの自己紹介が終了し、遂に男子生徒の一人...一夏の番になった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

「それでは、次織斑君お願いします」

 

 

「はい」

 

 

俺は山田先生の指示に従い、席を立ちながら振り返る。

その瞬間、全員の視線が俺に突き刺さる。

...シュヴァルツェ・ハーゼの時に慣れたかと思ったけど、やっぱり慣れねえなぁ...

取り敢えず、挨拶するか。

俺はそう判断し、笑顔になりながら自己紹介をする。

 

 

「『PurgatoryKnights』所属、そして世界で最初に発見された男性IS操縦者の織斑一夏です。趣味は...特にないかな?強いて言うなら、トレーニングはいつもしています。特技は家事全般です。男性ですが、ISと関わっている時間は皆さんより短いので期待はそこまでしないでください。男性だからと特別扱いせず、気軽に話し掛けてくれると嬉しいです。一年間よろしくお願いします!」

 

 

俺は最後にニコッとしながら挨拶を終える。

...ん?反応が無い...最後のニコッが気持ち悪かったのかなぁ?

俺がそんな事を考えていると、

 

 

『き、』

 

 

「き?」

 

 

クラス中の何人か...三人を除いたクラスメイトが『き』と言葉を漏らす。

俺がそれを聞き返すと...

 

 

『きゃぁぁぁぁああああああ!!』

 

 

「うわ!!」

 

 

その全員が声を上げて叫んだ。

み、耳が~!窓もガタガタ言ってるぞ!?

どんだけ声がでかいんだ!?

 

 

「凄い!カッコいい!イケメン!」

 

 

「それでいてトレーニングしてるって素敵!」

 

 

「家事も出来るって何それ!完璧じゃん!?」

 

 

俺が叫んだことも気にせず、クラスメイトは叫ぶ。

俺が山田先生の方をチラッと見ると、山田先生もオロオロしている。

如何しようかと思っていると、不意に教室の後方の扉が開き、一人の女性が入って来る。

レディーススーツをバッチリと着こなしたその女性は、

 

 

「やけに騒がしいと思ったら...お前か、織斑」

 

 

「...織斑先生、これは仕方が無くないですか?」

 

 

その女性...千冬姉こと織斑先生は、この教室の状態に呆れるがこれは俺には如何しようもない。

と言うか、織斑先生が教室に入って来たとたん、静かになったなぁ。

俺がそんなことを考えていると、織斑先生は教壇に向かい、山田先生に声を掛ける。

 

 

「すまなかったな、山田先生。クラスの挨拶を任せてしまって」

 

 

「あ、織斑先生。いえ、大丈夫ですよ。これも副担任の務めですので!」

 

 

山田先生とその様な会話をした後、織斑先生は教壇の前に立ち、挨拶をする。

...俺まだ座ってないんだけど?

 

 

「さて諸君。私がこのクラスの担任の織斑千冬だ。君たちの様な未熟な者を一年で成長させるのが私の仕事だ。私のいう事にはYesかはいで答えろ。いいな」

 

 

織斑先生、ここは軍隊じゃないんですよ。

ドイツ軍で教官やってた時と変わらないじゃないですか。

 

 

『いやぁぁぁぁぁああああ!!』

 

 

「本物よ!本物の千冬お姉様よ!」

 

 

「千冬様に指導されるだなんて光栄です!」

 

 

「私、お姉様に会うためにここに来たんです!北海道から!!」

 

 

クラスメイトはさっきと同じくらい騒ぐ。

ほ、本当にうるさい。

 

 

「はぁ...全く、相変わらず騒がしいな...よくもまぁ、毎年このような馬鹿者を集められるものだ」

 

 

「もっと叱って~~!!」

 

 

「それでいて偶には優しくして~~!!」

 

 

「静かにしろ!!」

 

 

『はい!』

 

 

おお、騒がしかったのが一瞬で静かになった。

織斑先生は、こういう事は得意なんだなぁ~~。

 

 

「それで、織斑。いつまで突っ立てる気だ?自己紹介が住んだならさっさと座れ」

 

 

「あー、いや、俺の自己紹介は終わりましたけど、まだコイツ(・・・)の紹介が終わってないんで」

 

 

「...さっさとしろ」

 

 

「はいはい、ディミオス、いいよ」

 

 

俺は胸ポケットからディミオスのバディカードを取り出す。

するとカード光り、ディミオスがSDで出てくる。

クラスメイトと山田先生は、全員驚いている。

 

 

「お、織斑君...?これは...?」

 

 

山田先生が代表して聞いてきた。

クラスメイトも結構な勢いで頷いている。

 

 

「これはディミオスソードっていう俺のサポートをしてくれるバディです」

 

 

「それは、ロボットっていう事でいいんでしょうか?」

 

 

ここは山田先生の嘘に乗っからせてもらおう。

本物のドラゴンって言うよりかは良いだろう。

元々ロボって説明するつもりだったからな...

 

 

「はい、そういう認識で大丈夫ですよ。ディミオス、挨拶」

 

 

《織斑一夏のバディのディミオスソードだ。普段はあまり皆の前に出はしないが、よろしく頼む》

 

 

「出てるときは、俺の周りを飛んでるから。改めて、ディミオス共々よろしくね!」

 

 

俺がそう言うと、ディミオスが頭の上に乗って来る。

微妙に重たい。

さて、クラスメイトの反応は...

 

 

「織斑君の頭に乗ってる!カワイイ!!」

 

 

「ホント!なんか良いかも~」

 

 

...如何やら好評、かな?俺はそう判断し、漸く自分の席に座る。

ディミオスはカードに戻り、俺の胸ポケットに戻る。

 

 

「さて、では次だ」

 

 

織斑先生が次の人に自己紹介をする指示を出し、俺の次の人が自己紹介の為に立ち上がる。

その表情は、何処かやりにくそうだった。

...すまん。

そんなこんなで自己紹介は進んで行き、遂に二人目の男子生徒の番になった。

その男子生徒は立ち上がり、クラスメイトの方を向く。

その男子生徒は、俺よりも身長が高く、イケメンだった。

赤と黒のメッシュの髪で、瞳の色は血の様な赤だった。

...すっげぇ髪色だな。本当にそれ染めてないのか?

俺がそんなことを考えていると、その男子は言葉を発する。

 

 

「世界で二番目に発見された男性IS操縦者の橘深夜です。趣味はチェス等のボードゲームです。ISに関しては素人ですが、皆さんよろしくお願いします」

 

 

『きゃぁああ――――!!」

 

 

「織斑君もかっこよかったけど、橘君も素敵!」

 

 

「チェスが趣味って、知的でいい!!」

 

 

「ええい、いちいち騒ぐな!」

 

 

『はい!』

 

 

男子生徒...橘の挨拶でも騒いだクラスメイトだが、織斑先生の怒鳴り声で直ぐに静かになった。

いやぁ、入学初日のHRなのにもう軍の様な教育が施されてるな~。

そして、橘の次の生徒が自己紹介を開始する。

まだ『橘』なのに、物凄い時間を使った気がする。

しかし、橘の席は俺とは離れてるな...

何で出席番号順の座席じゃないんだ?

 

 

さて、そんなこんなで全員の自己紹介が終了した。

そして全員の視線が織斑先生に向くと、織斑先生は喋りだす。

 

 

「さて、HRも終了だ。直ぐにこの後授業があるので準備していくように」

 

 

織斑先生はそう言って、山田先生と共に教室から出て行く。

そう、このIS学園はその特殊性から入学式初日から授業があるのだ。

面倒くさいが、あるものは仕方が無い。

俺はそう思いながら一時間目の授業の準備をする。

束さんにIS教本貰ってなかったらしんどかっただろうなぁ。

あ、学園内で二人の男子生徒だし、橘に挨拶した方がいいかな?

 

 

「織斑君、ちょっといいかな?」

 

 

と、そんなことを思っていたら橘の方から話し掛けて来た。

これは返事しないとだな。

 

 

「ああ、大丈夫だよ。それに、呼び捨てのため口で問題ないよ」

 

 

「なら俺も呼び捨てで大丈夫だ。よろしく、一夏」

 

 

「ああ、よろしく、深夜」

 

 

そう言って俺は橘...深夜と握手する。

まぁ、仲良くできたらいいな。

というか、周りのクラスメイトや廊下の人たちは何がしたいんだ?

声を掛けてくるでもなく、ただ見てるだけで...

授業の時間が近いので、深夜は席に戻っていく。

ん?なんか挙動がおかしい...

何と言うんだろうか...動揺しているような感じだ。

視線を浴びてダメージを受けているのかな?

 

 

チャイムが鳴り、山田先生が前から、織斑先生が後ろから教室に入って来た。

如何やら一時間目は山田先生の授業のようだ。

さて、集中するか...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

さて、一時間目の授業も終わり休み時間。

俺は束さんお手製の教本をもらっているし、周りのクラスメイトも前から勉強していたようだ。

いや、していないとIS学園に合格できないか。

深夜も優秀な教師役の人がいたようで、大丈夫そうだった。

 

 

さてさて、次の授業まで如何やって時間を潰そうかな?

相変わらずクラスメイトも廊下に集まっている人もただ見ているだけだし...

俺がそんなことを考えていると、

 

 

「ちょっといいか」

 

 

と声を掛けられる。

俺が声を掛けられた方向を向くと、一人の女子生徒がいた。

黒髪のポニーテールで、一見すると大和撫子に見えなくもない女子だ。

声を掛けられて、俺は...

 

 

「誰だ?」

 

 

コイツの記憶が無い。

本当に誰だっけ.....?

 

 

 

 




一夏アンチ系の転生者でも、一夏側からみるとこうなると思うんですよ、ええ。
なので今回はこんな感じになりました。


さて、原作でのファースト幼馴染らしき人が出て来ましたが、一夏は覚えていません。
六年も会ってなかったら、覚えてないと思うんですよ。
作者は。


次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!


感想が無くて悲しいので、ドシドシ送ってください!


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二番目の男性操縦者

今回は、橘深夜目線があります。
さてさて、いったいどんなことを考えているのか...


今回もお楽しみ下さい。


一夏side

 

 

「誰だ?」

 

 

俺がそう言った瞬間、目の前の女子生徒は驚愕の表情を浮かべる。

IS学園の入学初日の一時間目の授業の後の休み時間。

次の授業までの時間を如何やって過ごそうか考えていた俺に、この女子生徒が話し掛けて来たのだが...

記憶にない。

確かに自己紹介はしていたが、一回だけで全員分は記憶できていない。

それに、『ちょっといいか』の話し掛け方だと、一回会ったことがありそうだが...本当に記憶が無い。

 

 

俺がそんなことを考えている間に、その女子生徒の表情が驚愕から憤怒の表情に切り替わっていた。

 

 

「誰だ?だと!?ふざけているのか!私だ、篠ノ之箒だ!お前、幼馴染の事を忘れるとは何事だ!!」

 

 

「篠ノ之箒?.....あぁ、思い出したよ」

 

 

久しぶり過ぎて分からなかった。

そうだ、コイツが篠ノ之箒だった...

しかし、今篠ノ之は何て言った?

俺に散々暴力を振るっておきながら、幼馴染だぁ...?

そんな訳が無いだろうが。

 

 

 

「ふざけているのはお前だ篠ノ之。俺とお前は幼馴染じゃ無いだろうが」

 

 

「なっ!何故苗字で呼ぶ!昔のように名前で呼べ!それに、幼馴染じゃ無いだと!?」

 

 

「何年も前に離れて、今更名前で呼ぶわけないだろ...それに、何故お前は幼馴染だと思ってた?」

 

 

「昔あれだけ一緒にいたではないか!!」

 

 

「お前が付きまとっていただけだろうが...俺にとって、お前はただの顔見知りだ」

 

 

俺がそう言うと、篠ノ之はまた何か言おうとしてきたがちょうど良いタイミングでチャイムが鳴ったため、席に戻っていく。

ああ、また付き纏われるのか...

なんかもう、退学したい.....

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

深夜side

 

 

俺は、困惑していた...

 

 

俺、橘深夜は転生者だ。

テンプレのようにトラックに轢かれた後、真っ白な空間にいた。

そこで、ぱっと見胡散臭い神様を名乗る初老の男性に、転生させてやると言われた。

これに俺は歓喜した。

こんなクソみたいな人生を変えて、転生できるんだから。

転生先の世界がISだと聞いて、更に俺は歓喜した。

あんな朴念仁ヤロー何かじゃなくて、俺が主人公に相応しいからだ。

俺はよくある二次創作のように、一夏アンチして、俺がハーレムを造り主人公になる!

だから、俺は転生特典を四つ貰った。

 

 

①一夏以上の容姿。

②千冬並みの身体能力。

③束並みの頭脳。

④原作に登場するIS学園の専用機を徹底的にメタる専用機。

 

 

この四つを。

特に④が一番大きい。

白式、赤椿、甲龍、ブルー・ティアーズ、ラファール・リバイブ・カスタムⅡ、シュヴァルツェア・レーゲン、霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)、打鉄弐式。

この八つのISをメタれるIS、『マスター・コントローラー』を貰った。

本当だったら他のISもメタりたかったけど、それは流石に駄目だった。

まぁ、スペックは物凄く高いし、二次移行を待ちましょう。

何はともあれ、俺はこの世界に転生した。

待ってろ、俺が主人公になってやる!

 

 

そしてIS学園の入学式の日、俺は一年一組の教室にいた。

俺の席は教室の左後方。

教室の最前列の中央に、一夏がいるのが分かった。

何やら俯いているが、何をしているのかは俺には分からない。

まぁ、どうでもいいけど。

せいぜい俺の踏み台になってくれよぉ。

 

 

と、ここで突如として教室のドアが開き、山田先生が入って来た。

おお、なんて大きい胸なんだ!すげぇ!

そんなこんなで、一夏の自己紹介の番になった。

さて、千冬に出席簿で叩かれる一夏を見て笑いますか。

と、思っていた。だけど...

 

 

何だよ!?『PurgatoryKnights』所属!?それにちゃんと自己紹介してるじゃん!それに、何、ディミオスソードって!?そんなの原作に無かったぞ!それに、右側は見えなかったから分からないけど、何あのマーク!?

HRの後、取り敢えず挨拶したが、原作でのアホな感じが感じられなかった。

原作と違うじゃねぇか!

 

 

それに、極めつけはさっきの休み時間だ。

一時間目の授業の後の休み時間、箒が一夏に語り掛けた。

今は一夏に惚れてる箒も、後で俺のハーレム要員にしてやる!

と、思いながら二人のやり取りを見ていたら...

 

 

幼馴染じゃ無い!?箒は一夏のファースト幼馴染だろ!?何言ってんだ!?

 

 

そんなことを思いながら、俺は二時間目の授業を受けている。

さて、原作だとこの時間に一夏が教本を古い電話帳と間違って捨てた発言があるんだが...

 

 

「さて、ここまでで何か分からないことがある人はいませんか?」

 

 

勿論俺は転生特典の束並みの頭脳のお陰で全然平気だ。

 

 

「男子のお二人はどうです?大丈夫ですか?」

 

 

「問題ありません」

 

 

「こっちも大丈夫です」

 

 

「そうですか。でも、分からないことがあったら何でも聞いて下さいね。私は先生なので!!」

 

 

な、何でだ!?原作と違い過ぎる!千冬も頷いてるし...訳が分からねえ!

でも、アイツが織斑一夏である事に変わりはない。

ならば、俺の踏み台にしてやる。

そうだ...俺が主人公なんだ!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

さて、二時間目も終了し休み時間。

さっきは篠ノ之に絡まれて何かすることも、休むことも出来なかったからな...

せめてゆっくりと過ごしたいが...どうせまた絡まれるだろうからな...

そう思い、俺が教室から出ようとした時

 

 

「ちょっと宜しいですか?お久しぶりですわね、一夏さん」

 

 

と、声を掛けられる。

...さっきから声を掛けられてばっかだな、俺。

って言うか、この声は覚えがあるぞ。

この声は...

俺はそう思いながら振り返る。

そこにいたのは...

 

 

「ああ、久しぶりだな、セシリア」

 

 

セシリアだった。

 

 

「ここにいるってことは、代表候補生テストに合格したんだな」

 

 

「当然ですわ。でも、これからも努力は続けていくつもりですわ」

 

 

セシリアはそう言い、腰に手を当てたポーズを取る。

...何そのポーズ。

俺がイギリスに居た時はそんなの無かったよね。

まぁ...良いか。

それに、努力を続けるっていうのは大事だしな。

セシリアもしっかり分かっているようだ。

いや、分かってないと合格できてないか。

 

 

「そっか...おめでとう、セシリア。それで、皆さんはどうしてる?」

 

 

「お父様もお母様もチェルシーもエクシアも、他のメイドや執事たちも元気ですわ」

 

 

「そっか、それを聞いて安心したよ。特にエクシアの事が」

 

 

「そうですわね...エクシアの治療をしたのは一夏さんですものね。一夏さん、ぜひまたイギリスに来てくださいな」

 

 

そうだな...

まぁ、また訪れるっていう約束をしているし、チェルシーさんにも会いたいからな。

 

 

「そうだね、夏休みにでも遊びに行こうかな」

 

 

「ええ、お待ちしておりますわ」

 

 

そう言いながらセシリアは微笑んだ。

...ん?何で俺はさっきチェルシーさんだけを挙げたんだ?

ロバートさんやロザリーさん、エクシアもいるのに...何でだ?

 

 

「一夏さん、どういたしましたか?」

 

 

一人で悶々と考えていると、セシリアが心配したような声を上げる。

その声を聴いて、俺は現実に戻って来る。

 

 

「あ、ああ。何でもないよ」

 

 

「そうですか?一夏さんにとってIS学園(ここ)は異性まみれで辛いこともあるかもしれませんが、何かあったら言って下さい。可能なことは致しますわ」

 

 

「ありがとうな、セシリア」

 

 

ああ、いい友人がいて助かった。

これでセシリアがいなかったら俺は篠ノ之関係で一ヶ月もせずに退学を真剣に考えるようになっていたかもしれん。

 

 

「おい一夏!さっきから何をしているのだ!」

 

 

「篠ノ之...俺が何をしていようが俺の自由だろうが」

 

 

そんなことを考えていたら、件の篠ノ之がやって来た。

ああ、メンドクサイ...

俺が少し睨みながら篠ノ之に返事をすると、篠ノ之はまた騒ぎ出す。

 

 

「一夏、私の事は箒と呼べ!幼馴染だろう!」

 

 

「さっきも言っただろ、お前は俺の幼馴染なんかじゃない...セシリア、話はあとでしよう。席に戻っていてくれ」

 

 

「ええ、分かりましたわ。ではまた後で」

 

 

セシリアはそう言いながら、自分の席に戻っていく。

はあ、せっかくの友人と話していたのに。

これが話していたのがクラリッサさんかチェルシーさんだったら、俺はもっと残念がってるかな...

 

 

「おい、聞いているのか!」

 

 

「んあ?聞いてなかったわ」

 

 

「何故私の事は苗字で呼び、あの金髪の事は名前で呼ぶ!普通は逆だろう!!」

 

 

何が普通なんだ、何が。

如何考えてもこれが正しいだろうが。

何て自己中な奴なんだ...

 

 

俺が反論しようとした時、再びナイスなタイミングでチャイムが鳴る。

篠ノ之は盛大に舌打ちしながら席に戻っていった。

全く、篠ノ之のせいで俺まで孤立しちまうぞ...

でもまだ幸い、クラスメイトからの好奇心の籠った視線は感じている。

これは、飯の時間にでも親交を深めとかないとな。

 

 

そんな事を考えていると、教室のドアが開き織斑先生と山田先生が入って来た。

そして、織斑先生が教壇に立つ。

さっきまでは山田先生が授業していたが、如何やらこの時間は織斑先生の授業のようだ。

さて、集中しないとな。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

深夜side

 

 

馬鹿な...セシリアが女尊男卑発言をしないだと!?

しかも、発言から察するに初対面じゃない!?

この休み時間は、女尊男卑思考のセシリアとの初対面で、一夏が代表候補生を知らないというバカ発言をするシーンじゃないのか!?

普通に代表候補生の話してるし、何か候補生になる前に会ってるのか!?

しかも、チェルシーとも会ってるみたいだし...

それよりも、お母様?お父様?その二人は列車脱線事故で死んでるはずじゃ?

それに、エクシア?まさか、エクスカリバー事件でエクスカリバーに取り込まれていたエクシア・カリバーンの事か!?

ほ、本当に何が起こってるんだ。

 

 

そんなことを考えていると、チャイムが鳴り、三時間目の授業が始まる。

この時間で、クラス代表決定戦をやることが決まるんだよな。

大丈夫だ、俺は転生特典を貰った転生者だぞ。

このクラス代表で、セシリアを惚れさせて、一夏をボコボコにするんだ。

俺が主人公なんだ!!

 

 

 

 




さて、タグで分かってたアンチ対象二人が本格的に出て来ました。
この先、どうなるか楽しみですねぇ...
設定集はあとで変えておきます。


次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!


感想もドシドシお願いします!!


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メンドクサイ奴

さて、皆さん。
この作品のヒロインはクラリッサとチェルシーの二人です。
ですが...ごめんなさい!
暫くこの二人は出ないです!
あ、いや、怒らないで下さい!
ちゃんと、ちゃんと一夏としっかり関わりますから!


今回もお楽しみ下さい!

設定集変更しました。


一夏side

 

 

さぁ、三時間目だ。

織斑先生が教科書を左手に持ち開き、右手にチョークを持った時、

 

 

「ああ、そうだ。クラス代表を決めないといけないんだった」

 

 

と呟き、教科書とチョークを置いた。

発言から察するに、何か決めないといけない事を決め忘れていたようだ。

全く、俺の姉は昔から普段はキチッとしてるのに、たま~~に抜けてるんだから...

 

 

バキィ!!

 

 

突如として鳴り響いた音に、クラスメイトが驚きの表情を浮かべている。

音の正体は単純明快。

俺が振り下ろされた出席簿を叩き割った音だ。

チラッと織斑先生の顔を見ると、何処かショックを受けたような表情をしていた。

...何でだろう?俺に負けたとか考えてるのかな?

まぁ、それよりも...

 

 

「織斑先生、危ないじゃないですか」

 

 

「...お前が失礼なことを考えているからだ」

 

 

何故分かったんだ。

俺がそんなことを考えていると、織斑先生は咳ばらいをすると、クラスに声を掛ける。

 

 

「んん、さて、先程呟いたがクラス代表を決めるのを忘れてしまっていた。なのでこの時間に決めようと思う」

 

 

「せんせー!!クラス代表って何ですか?」

 

 

織斑先生がクラス代表を決めると言い、クラスメイトの一人が質問をする。

確かに、説明をしていないものを決めると言われても、分からないだけだろう。

織斑先生もそれを分かっていたのか、直ぐに質問に返答する。

 

 

「クラス代表とは、読んで字のごとく、クラスの代表...学級委員の様なもので、主にやる事は教員の補佐だ。それ以外には...そうだ、もう直ぐあるクラス対抗戦に出場してもらう。自他推薦は問わない。誰かいないか?」

 

 

織斑先生、そんな事言ったら...

 

 

「はい!織斑君が良いと思います!」

 

 

「私もそう思います!」

 

 

「なら私は橘君で!」

 

 

「私も橘君が!」

 

 

ほら、そうなるから...

俺と深夜はパンダじゃねぇんだぞ?

それに、そんな場面じゃ煉獄騎士団たちが暴れるか分からないし...

 

 

「織斑先生、辞退は...」

 

 

「他推されたものに拒否権は無い」

 

 

《フム、暴君だな》

 

 

「...ディミオス。勝手に出てくんな」

 

 

確かに俺も思ったけど。

千冬姉は一瞬振りかぶる動作をしたものの、さっき俺が出席簿を叩き割ったため、そのまま腕を下した。

うん、さっき壊しておいて良かったかもしれない。

 

 

「さて、今の所候補者は織斑と橘か...他にいないか?いないなら「はい、自推します」オルコットか」

 

 

おお、セシリアが自推したぞ。

これはもう自分からやる気を出したセシリアで良いんじゃないか?

 

 

「織斑、お前オルコットに丸投げしようとしただろ」

 

 

「気のせいですよ、織斑先生。それで、候補者が三人になりましたが、如何やって決めるんですか?」

 

 

ふぅ、危なかった。

織斑先生はこういう勘は凄まじい。

 

 

「フム...織斑の言う通り、如何やって決めるかだな」

 

 

「織斑先生、ここはIS学園ですし、ISの試合で決めるのはどうですか?」

 

 

深夜!?何メンドクサイ事を提案してるんだ!!

いや、待て。

一生徒で試合の決定が出来るはずもない。

多分この案は没だな。

 

 

「確かにそれは良いな。ならば来週の月曜日、織斑、橘、オルコットの三名で試合を行い、勝者がクラス代表になることとする」

 

 

な、何ですと~~~!!

そんな事がまかり通るだなんて...

 

 

《一夏よ...やる事になったものは全力でやれよ》

 

 

「ディミオス、いったん戻ってくれ」

 

 

はぁ...こんな事になるだなんて...

 

 

「それでは、授業を開始する」

 

 

織斑先生はそう言い、教科書とチョークを手に取り授業を開始する。

取り敢えず、授業は集中して受けないとな...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

三時間目、四時間目共に終わり昼休み。

これから昼飯だ。

さてさて、篠ノ之のせいで孤立しないように、ここで飯を一緒に食べて親交を深めたい。

 

 

「一夏さん、昼食に向かいましょう」

 

 

「ああ、セシリア。そうだな、食堂に行こう」

 

 

セシリアに誘われたから、一緒に食堂に向かう事にした。

俺がセシリアと共に教室から出ると、クラスメイトといつの間にか廊下に集まっていた人のうち、半分ほどが付いてくる。

チラッと教室を振り返ると、残りの半分が深夜の所に集まっていた。

深夜は疲れているようにも見えるが、嬉しそうにも見えた。

何でだろうか...友達が増えるのが嬉しいのか?

まぁ、いつもだったらこうやって付いてこられるのはウザく感じてるんだろうが、今回はありがたかった。

これだったら、親交も深めやすいだろう。

 

 

そんな事を考えていると、食堂に付いた。

凄い広いな...

シュヴァルツェ・ハーゼの食堂よりも広いんじゃないか?

流石、世界立のIS学園だなぁ。

そんな事を考えながら、食券販売機を見る。

おお、種類も多い...

んーと、そうだな...初日だし、日替わり定食でいいか。

俺はそう思い、日替わり定食の食券を購入する。

セシリアは洋食Aか。

イギリス人だからなぁ...

そう思いながらセシリアと共に食券を出し、料理を受け取る。

...早くない?

IS学園の食堂は物凄く出てくるのが早い。

覚えておこう。

 

 

さて、料理を持ってセシリアと共に席に座る。

テーブル一つで四人座れるので、あと二人同じ席で食べれる。

それに、近くの席も空いているから、合計あと六人と食べることが出来る。

クラスメイトでも誘うか。

俺がそう思って周囲を見渡そうとした時、

 

 

「織斑君!一緒にご飯食べていいかな?」

 

 

と、声を掛けられた。

俺とセシリアが振り返ると、そこには手にお盆を持った女子生徒五人がいた。

如何やら全員クラスメイトのようだ。

俺もセシリアも拒む理由が無いから、一緒に食べることにした。

ほ、本当にありがとう~。

 

 

「じゃあ、取り敢えず、もう一回自己紹介しよっか?」

 

 

「そうだな、そうしてくれるとありがたい」

 

 

流石にクラスメイト全員を一回の自己紹介で覚えられないからな。

特に、篠ノ之がめんどくさ過ぎて碌にクラスメイトと喋れなかったからなぁ。

 

 

「じゃあ私からするね!相川清香です!趣味はスポーツ観戦とジョギングです!よろしくね、織斑君!」

 

 

「次は私。四十院神楽です。旧華族出身です。よろしくお願いします」

 

 

「鷹月静寐よ。趣味は...そうね、雑誌とかを読むことね。よろしくね」

 

 

「谷本癒子です!特に趣味とかは無いですけど、仲良くしてください!」

 

 

「布仏本音で~~す。お菓子を食べるのが好きで~す。よろしくね~、おりむ~」

 

 

「お、おりむ~?」

 

 

「うん~!織斑だから、おりむ~だよ~」

 

 

oh、入学初日であだ名が出来たぜ。

まぁ、全然許せる範囲だしな。

さて、俺も自己紹介しますか。

 

 

「じゃあ、一応俺も。『PurgatoryKnights』所属、織斑一夏です。仲良くしてください」

 

 

「イギリス代表候補生のセシリア・オルコットですわ。皆さん、よろしくお願いいたしますわ」

 

 

俺に続いて、セシリアも自己紹介をする。

全員の自己紹介が終わり、俺達は飯を食べながら談笑する。

何だか楽しいな。

取り敢えずは五人だけれども、友人を得る事に成功した俺は、内心ウキウキしながら昼食を食べていた。

周りからの羨ましそうな視線が六人に突き刺さっているが、六人は気にせず食べている。

セシリアは代表候補生だから慣れてるんだろうけど、他の五人は凄いな...

 

 

「織斑君とオルコットさんは、以前どこかで会ったことがあるのですか?随分と親しげでしたが」

 

 

四十院さんが俺とセシリアについて質問してきた。

流石に脱線事故云々だったりエクシアの治療だったりは言えないから、掻い摘んで説明しよう。

 

 

「俺は前にイギリスに行ったことがあるんだよ。その時に、オルコット家と関わりがあったからな」

 

 

「ええ、何だかもう懐かしいですわね」

 

 

「へぇ~、おりむ~は、色々旅をしてたの~?」

 

 

「ああ、色々なところ(バディワールド)に行ったなぁ」

 

 

そんな会話をしていたら、全員が食べ終わった。

さて、昼休みはまだあるし、如何しようかな...

 

 

「取り敢えず、食器類を戻すか」

 

 

俺がそう呟くと、全員が頷いた。

まぁ、折角仲良くなったし、今日はこのメンバーで過ごすか。

そう思い、席を立とうとした時、

 

 

「やっと見つけたぞ、一夏!!」

 

 

「.....篠ノ之、何の用だ」

 

 

篠ノ之が絡んで来やがった。

楽しかった俺の気分は、一気にどん底まで落ちた。

本当に、メンドクサイ奴だな...

 

 

「お前、幼馴染の私を差し置いて何他の奴と共に昼食を食べているのだ!!私と食べるのが普通だろう!!」

 

 

「篠ノ之...俺が誰と飯を食おうと俺の自由だし、誰と友人になっても俺の自由だろうが」

 

 

「ええい、うるさい!!私と一緒に行動するのが普通だろうが!!」

 

 

「その『普通』って何だよ。俺はお前の幼馴染じゃ無い。お前の価値観を俺に押し付けるな」

 

 

「一夏ぁぁぁぁ!!!」

 

 

俺が切り捨てると、篠ノ之は叫びながら何処からか取り出した木刀を俺目掛けて振り下ろした。

相川さん達や、周りの生徒たちは悲鳴を上げる。

ったく、お前が俺に対して暴力振るうなら、巻き込まれないようにって友人が減るじゃねぇかよぉ!!

俺は内心怒りを表しながら、篠ノ之の木刀を右手で殴り、ブチ折る。

勿論、ただ殴るだけではなく、身体の力も使ったから折れたんだがな。

折れた先の木刀は、飛んでいく。

俺やみんなが飛んで行った方向を見る。

そこには...

 

 

「貴様ら...いったい何をしている」

 

 

木刀の先を左手に持つ、織斑先生がいた。

滅茶苦茶怒ってるのが分かる。

これは...俺も死んだか?

 

 

「ここでいったい何が起こったのか...鷹月、説明しろ」

 

 

「は、はい!織斑君が私達と一緒に昼食を食べていて、食器を戻そうとしました。でも、そこで篠ノ之さんが絡んできて、織斑君があしらったら篠ノ之さんが木刀を取り出しました。それを織斑君に振り下ろそうとした所、織斑君が木刀を折りました...」

 

 

鷹月さんは、織斑先生から発せられる怒気にビクつきながらも、簡潔に説明をする。

それを聞き、織斑先生は篠ノ之に鋭い視線を向ける。

 

 

「篠ノ之...貴様、入学式当日に問題行動を起こすとはいい度胸だな...」

 

 

「千冬さん、これは一夏が私を無視するのが...」

 

 

「織斑先生だ!!」

 

 

織斑先生はそう言い、篠ノ之の頭を出席簿で殴る。

そのまま篠ノ之はその場に倒れた。

...俺、今日は二個凶器を壊したのか。

 

 

「さて、私はこの馬鹿を連れて行く必要がある。くれぐれも問題を起こさないように」

 

 

織斑先生は、そのまま篠ノ之を引きずっていく。

その後、俺に視線が集中する。

はぁ...これは...

 

 

「織斑君...篠ノ之さんと何があったの?」

 

 

多分みんなが思っている事を、相川さんが代表して聞いてくる。

谷本さん達も、頷いている。

説明しないといけないようだ。

 

 

「...昔、剣道をしていて、篠ノ之とはその道場で出会ったんだ。最初の方は、いい友人になるなと思っていたんだけど、それは間違いだった。アイツ、気に入らないことがあると直ぐに暴力を振るってくるんだ。何回も、何回も...それなのにアイツは、幼馴染がどうのこうの言いやがるんだ。でも、そんな訳ないだろ?こうやって、会うだけで何かと暴力振るってくる奴なんか、幼馴染じゃ無い」

 

 

俺がそう言い切ると、皆の表情が変わる。

その表情は、俺を拒絶する表情...ではなく、何とも優しい表情だった。

 

 

「織斑君、篠ノ之さんのせいで辛い思いをしてきたんだね...大丈夫、私達は味方だから」

 

 

谷本さんがそう言い、皆も頷く。

ああ、これは...

 

 

「ありがとう、皆...俺の事は一夏で良いよ」

 

 

「なら私達の事も名前で良いよ」

 

 

「そっか...よろしく、癒子」

 

 

俺は代表して谷本さん...癒子に笑顔でこういう。

すると癒子は、顔を真っ赤にしながらあうあう言い出した。

そして、そんな癒子を羨ましそうにセシリア以外の皆が見る。

いったい何なんだ...?

まぁ、取り敢えず、

 

 

《いい友人達が出来たな》

 

 

「ああ、そうだな!!」

 

 

本当に、友人達が出来て良かった!

さて、この先も学園生活も頑張りますか!

 

 

あ、今日が初日だったわ...

『この先も』じゃなくて『この先の』が正しいじゃん...

色々ありすぎて、初日感がゼロだった...

 

 

 

 




一夏は昼休み、篠ノ之とのいざこざがあったものの、沢山の友人達が出来る。
しかし、もう一人の男性操縦者はそれをどう思うのか?
そして、放課後に起こった出来事とは!?

次回、『放課後の時間』で、お前も、バディーファイ!!


何となくやりたくなったバディファイト風の次回予告。
間違ってたら修正します。教えてください。

次回も楽しみにしていてください!

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放課後の時間

さて、前回の予告通りの内容の今回。
一夏の部屋割りの発表です!!
わざわざこういうってことは...?


今回もお楽しみ下さい!


お気に入り登録者が100人を超えました!
ありがとうございます!


深夜side

 

 

昼休み、俺はクラスメイトの半分ほどに囲まれていた。

原作ではあまり描かれて無かったけど、一般の生徒もそこそこ美形がそろってるじゃねぇか。

まぁ、手を出すとしたら俺のヒロインズによるハーレムが完成した後だな。

それよりも、さっきの三時間目、一夏は千冬の出席簿を壊してたよな...

流石に嘘だろ!だって千冬の出席簿アタックは、原作では全部一夏にヒットしてたんだぞ!

それが、防がれ、しかも出席簿が壊れるなんて...いったい何が起こってるんだ!?

まぁ、何とかクラス代表決定戦を開催させることには成功した。

マスター・コントローラーがあればあの二人何て簡単に倒せる、だから問題は無い!!

 

 

暫くそんな事をしていたら、そこそこの時間が経っていた。

まだまだ時間はあるが、腹もすいてきた。

だから俺は食堂に向かう事にした。

さて、原作でも食堂の描写はそこそこあったからな、楽しみだ。

 

 

暫く歩いて、もう直ぐで食堂に付く距離まで来た。

俺の後ろにはさっきまで俺を囲んでいたクラスメイト達がゾロゾロといる。

まだハーレムって訳ではないが、女子がこうやって俺に興味を持っているってだけで気分がいいなぁ。

俄然ハーレムを作る気が出て来た。

原作と違うところが多いが、俺は転生特典を貰った転生者なんだ!主人公なんだ!!

一夏アンチぐらい簡単に出来る!

 

 

きゃぁぁぁぁ!!

 

 

ん、悲鳴!?

悲鳴を聞いた俺は、一目散に食堂の入り口に行く。

そこから食堂を除くと、そこでは箒が一夏に向かって木刀を振り下ろそうとしていた。

...何でだよ!?この昼休みは、一夏に先輩が語り掛けて、箒が篠ノ之束の妹だって言って先輩を追いやる結構な胸糞シーンだろうが!?

何で一夏に向かって木刀を振り下ろそうとしてんだよ!?

そして、箒はそのまま木刀を振り下ろすが、一夏は木刀を殴り、折った。

そのまま折った先が千冬に飛んでいった。

俺が呆けている間に物事は進み、今は一夏がクラスメイトに何か喋っているが、俺にはそれが入らない。

目の前で一夏が木刀を折ったという事が衝撃的過ぎて、そんな事を気にしている余裕が無かった。

さっきも出席簿を割っていたし、箒の事を邪険に扱っているし、明らかに原作とは違う...

何がどうなっているんだ!?

いや、まだクラス代表決定戦がある。

そこで一夏をボコボコにして、俺が主人公だって証明するんだ!

白式みたいなブレオン機体だったら負けるわけないし、俺は主人公で、補正があるんだ...

この世界は、俺がハーレムを作る世界なんだ!!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

時間も進み放課後。

IS学園は全寮制なので、クラスメイト全員はもう寮に戻っているか、清香みたいに部活の見学に行っているかの二択だろう。

そんな中で、俺は一人教室に残っていた。

理由は単純、寮の部屋の鍵を貰うためだ。

本来なら一週間は自宅からという事だったのだが、寮長でもある姉がいるため、何と発表する前から寮に入れるように色々してくれたのだ。

これには感謝だな...今度マッサージして気合い入れて飯を作るか。

そういえばでんじゃらす野菜カレーを作ったことが無いな...

よし、ちょうどいい機会だ、食べてもらおう。

...今日はオータムさんと会わなかったな。

まぁ、生徒と警備員は会わないのが普通か。

 

 

話を戻すが、そんなこんなで俺は今織斑先生を待っていた。

ただ、事前に動かせることが分かっていた俺と違って、深夜は本当に急に見つかり、急にIS学園に入ることになったんだ。

だから深夜の寮入りも急遽だったため、部屋割り云々がややこしくなっているのだ。

深夜はさっき山田先生に連れていかれた。

何でも最終調整とかで...

それに生徒は必要ないんじゃないかと思うが、部屋割り担当である山田先生が連れて行ったんだ、必要なんだろう。

その時、深夜は結構衝撃を受けた顔をしていた。

何だろうか...決まっていた台本と違う展開になった舞台演者みたいな...

いや、実際の演者さんはプロだから、表情に出ることは無いと思うが...

何となくそんな雰囲気だった。

 

 

「それにしても、遅いなぁ」

 

 

《現在時刻は16:38。確かに遅い。今日は教室に泊まるということか》

 

 

「ディミオス、サラッと恐ろしいことを言うな」

 

 

ディミオスという話し相手がいるからいいものの、いなかったらしんどかったな。

明日も早朝トレーニングをするつもりだったから、さっさと部屋に行きたいんだけどなぁ。

 

 

《一夏よ...クラス代表決定の模擬戦はどうするつもりだ?》

 

 

「そうだな...まぁ、暴れない程度に戦うさ。っていうか、モンスターコールしてもいいのかな?」

 

 

《コールはこの世界ではお前しかできない...ISでいうところの単一能力と言っても過言ではない。煉獄騎士の機能だと言ったら使用してもいいんじゃないか》

 

 

「確かになぁ...千冬姉の零落白夜みたいに、世界的認知の単一能力って扱いになりそうだな」

 

 

「すまない、遅くなってしまった」

 

 

俺とディミオスがそんな会話を繰り広げていると、漸く織斑先生がやって来た。

織斑先生は、何処か疲れたような雰囲気だった。

 

 

「織斑先生、お疲れの様子ですが何かあったのですか?」

 

 

「ああ...まさか入学式初日に生徒指導室を使用することになるとは思わなかったぞ...」

 

 

「それは...心中お察しします」

 

 

如何やら織斑先生は篠ノ之のせいでお疲れのようだ。

教師という仕事はただでさえ忙しいのに、アイツは...

 

 

「んん、それはいいんだ。さて織斑、これがお前の寮の鍵だ」

 

 

「ありがとうございま...す?」

 

 

1-1号室...?

何だこの号室は...

さっきセシリア達に聞いた号室は、数字四桁だったはずなんだが...

 

 

「織斑、お前の部屋は教員寮の一部屋だ。生徒寮だと気が休まらないし、倫理的に良くないと思ったからな...そのようにしておいた。そして、お前の荷物は既に部屋に入れてある」

 

 

おお、俺の姉様は何とも素晴らしい人なんだ。

1-1だから、一階の一号室何だろうな。

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

「ああ、それは何よりだ。それともう一つ、スコールと束から連絡があった。今週末、会社に来て欲しいとの事だ」

 

 

「社長と主任が...?分かりました」

 

 

いったいなんだろうか?

何か問題でも起こったのかな?

 

 

「さて、伝えるものはこれで全てだ、今日はもう休め。明日からも授業はあるからな」

 

 

「あ、そういえば深夜の部屋ってどうなるんですか?」

 

 

「橘の部屋は、生徒寮の部屋だ。お前と違って本当に急な入寮だったからな...部屋番号はあとで本人にでも聞いておけ」

 

 

「分かりました。織斑せんせ...いや、千冬姉、お疲れ様。今度マッサージして料理作ってあげるよ」

 

 

「...楽しみにしているぞ、一夏」

 

 

千冬姉はそれだけ言うと直ぐに教員の顔に戻り、教室から出て行った。

多分職員室での仕事があるのか、それとも篠ノ之関係なのかは分からないが、やはり相当教員は忙しいらしい。

何なら現役で代表の頃よりも忙しいんじゃないか?

 

 

「取り敢えず、部屋に行こうか」

 

 

《そうだな...篠ノ之関係で明日も疲れるだろう。早めに休んでおけ」

 

 

「はぁ...アイツ関係で疲れたくないよ」

 

 

そう愚痴りながら、俺とディミオスは教員寮に向かう。

部活帰りなのか、何人かの生徒とすれ違うが、生徒寮に向かわない俺に疑問の視線を向けてくる。

でも、俺はそれに気づいていない振りをして教員寮に向かう。

そして俺は教員寮に付いた。

おお、集合ポストの1-1号室に織斑一夏って書いてある!

他の部屋にも誰がいるのかが分かる!

って、二部屋空いてるじゃん。

深夜も教員寮で良かったんじゃないのか?

まぁ取り敢えず、部屋に入りましょう。

俺は部屋の前に行き、鍵を開け、扉を開く。

 

 

「おお、そこそこ広い」

 

 

玄関からでも分かるくらいには、広かった。

まぁ、滅茶苦茶デカいって訳ではないが、それなりには広い。

これくらいのサイズが俺には良いなぁ。

 

 

《さて、先ずは...》

 

 

「ああ、先ずは...」

 

 

俺とディミオスはそう呟き、部屋を漁る。

理由は単純明快、盗聴器類が無いかの確認だ。

教員寮に仕掛るアホはなかなかいないと思うが、確認はしないといけない。

部屋を全て漁り終わった。

結果として盗聴器類は無かった。

これで安心だな。

 

 

「次に...最低限の荷物を出すか」

 

 

俺は千冬姉が手配してくれた荷物が入っている段ボールを開ける。

そこには、着替えと携帯端末の充電器、それにバディファイトのカードが入ったファイルの三つだけが入っていた。

これだけかいな...

まぁこの部屋には家電は全てそろっていたし、収納棚にクローゼットもあったからこれくらいで良いのか。

お腹も空いてきたな...

衣類をクローゼットに仕舞って、食堂に行きますか!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

食堂に付いた。

相変わらず周りから視線を感じるなぁ。

でも、今日はそろそろ休みたいので、少人数で飯を食いたいな。

因みに、ディミオスはお部屋で留守番しながらダークネスドラゴンWから持ってきた飯を食っている。

ロボットって説明しているディミオスが飯を食っているのは変だからなぁ。

ん?ロボットなのに飯を食ってる奴もいるじゃないかって?

誰の事を言ってるんだ?ワカラナイナー。

 

 

さてさて、何を食べようかな...

お、焼き魚定食...しかも、鰺の塩焼きじゃないか。

これは俺がシュヴァルツェ・ハーゼで初めて作った料理だから思い入れがあるな。

これにするか。

俺はそう思い、焼き魚定食の食券を買い、注文すると物凄い早さで出てくる。

待たなくていいから楽だぁ。

 

 

ん―と、席結構埋まってるなぁ。

これは誰かと相席しないとしんどいかぁ?

俺がそう考えていると、

 

 

「一夏さん、相席大丈夫ですわよ」

 

 

と声を掛けられた。

その方向を見ると、セシリアと見知らぬ生徒が一緒にご飯を食べていた。

 

 

「お、良いのか?」

 

 

「大丈夫ですわよ」

 

 

「うん、私も大丈夫だよ!」

 

 

「じゃあ遠慮なく」

 

 

許可も貰ったから、俺は相席させてもらう。

えーと、取り敢えずこの生徒に自己紹介しよう。

 

 

「えっと...『PurgatoryKnights』所属、織斑一夏です。よろしく」

 

 

「セシリアのルームメイトの如月キサラです!よろしくね、織斑君」

 

 

如何やらセシリアのルームメイトのようだ。

ルームメイト同士の親交を深めるってことか...

俺が邪魔して良かったのかな?

 

 

「一夏で良いよ」

 

 

「なら、私もキサラでオッケーだよ」

 

 

「分かった、改めてよろしくね、キサラ」

 

 

俺は笑顔でそう言うと、キサラは顔を真っ赤にしてしまった。

癒子もそうだったけど、何で笑顔で名前呼びしただけで顔が赤くなるんだ?

 

 

「そういえば、一夏さんは何号室なんですの?」

 

 

セシリアが俺に何号室なのか質問してくる。

すると、賑やかだった周りが急に静かになる。

何だ何だ...?

ま、まぁ特に心配することでは無いだろう。

俺はそう判断し、セシリアの質問に答える。

 

 

「俺は1-1号室だな」

 

 

「え、それは...」

 

 

「教員寮だな。だから関係者以外立ち入り禁止だ。もし来たら、織斑先生の制裁が下る」

 

 

俺がそれを言うと、周りの反応があからさまに落ち込んだ。

な、何だ?

遊びにでも来るつもりだったのか...?

 

 

 

 




さて、今作では一夏の部屋は教員寮の一部屋です。
二次創作でも生徒寮以外に住むのは結構少ないんじゃ無いですかね。
さてさて、空いている二部屋、これはいったい...?


次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想もドシドシお願いします!


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会社に行こう

今回は少し時間が飛びます。
サブタイ、いいの思いつかなかった...
許して!!


今回もお楽しみ下さい!

UAが20000を超えました!ありがとうございます!


一夏side

 

 

食堂から帰って来たあと、ディミオスと軽く会話をして、そのまますぐに眠ってしまった。

あまり自覚していなかったが、やっぱり疲れていたんだろう。

周りが深夜以外全員異性だったり、篠ノ之が絡んできたり...

ん?篠ノ之関係の方が何倍も疲れやすいな...

メンドクサイ奴だ。

 

 

そして翌朝、時刻は5:05。

俺はトレーニングを開始していた。

いつもだっらら4:20頃にはもう開始しているんだが...疲れていたからか、完全に寝過ごした。

さて、取り敢えず校舎周りのランニングをするか。

このIS学園、世界立のIS専門校なので、色々な施設が校舎内にあるのだ。

そのため、校舎の敷地がアホみたいに広く、校舎周り一周のランニングだけで、結構な運動になるのだ。

 

 

30分後、校舎周りを三周走った俺は、水分補給をしていた。

流石に走りっぱなしだと、汗も凄いな。

あ、水が足りないなぁ。

慌てて出て来たから、水が入ったボトルを1本しか持ってきてなかった。

これでは確実に足りなくなる。

仕方が無い、いったん戻るか。

俺がそう思い、部屋に戻ろうとした時、

 

 

「よぉ、頑張ってんな」

 

 

と声を掛けられた。

俺が声を掛けられた方向を向くと、そこにいたのは...

 

 

「オータムさん?」

 

 

新しめの警備員の制服に身を包んだオータムさんだった。

結構警備員制服が似合っていて、カッコいい。

 

 

「朝早くから校舎周り三周なんてよくやるぜ」

 

 

「オータムさんこそ、こんな時間から警備してるじゃないですか」

 

 

「こっちは仕事で、お前は自主トレだろうが。お前の方が凄いだろ」

 

 

「そうですかね?これぐらいみんなできますよ」

 

 

「出来てたまるか!?」

 

 

そうかなぁ?

一般生徒ならともかく、代表候補生とかならやってるんじゃないのか?

んー、今度セシリアに聞いてみるか。

まぁ、それよりも、

 

 

「それで、何か御用ですか?」

 

 

「んあ?ああ、差し入れだ」

 

 

オータムさんはそう言い、ペットボトルに入ったスポーツドリンクを二本分くれる。

おお、ありがたい!

しかも、冷えすぎている訳でもない適度な温度!

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

「ああ、週末にはスコール達に会うんだろ?仕事はしてるって言っておいてくれ」

 

 

「はい、分かりました」

 

 

「んじゃ、仕事に戻るわ」

 

 

オータムさんはそう言い、仕事に戻っていった。

頼れる姉御って感じでカッコぇぇ。

さて、差し入れも貰ったことだし、もうちょい頑張りますか!

次は...腕立てとかの筋トレしようかな。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

深夜side

 

 

入学二日目の朝のSHR前の教室。

俺は自席に座って考え事をしていた。

考えていることは、勿論部屋割りの事だ。

何で一夏と箒が同室じゃないんだ!?

この部屋割りは、学年別トーナメントの優勝したら云々をするための大事なシーンじゃないのかよ!?

それに、何で一夏は教員寮なんだ!!

寮内で起きるイベント全部がなくなるぞ!?

いや、違う。

これは...俺が主人公だからだ!

俺が主人公だから、寮内のラッキースケベとかを独占できるようになったのか!

そうだ、そうに違いない!!

 

 

ガラガラ

 

 

教室のドアが開き、一夏が教室に入って来た。

あ?何か運動後っぽいな...

 

 

「一夏君、おはようございます」

 

 

「ああ、おはよう、神楽」

 

 

へっ!?

か、神楽!?

馬鹿な...原作だとそんな直ぐに仲良くなってなかっただろ!?

本当に、何がどうなってるんだ...

入学式初日から、原作と違う事が多すぎる!

 

 

「ムム、二人とも、何でもうそんなに仲良くなってるの?」

 

 

「昨日昼食を共に頂いたからですよ。ねぇ、一夏君」

 

 

「ああ、そうだな。けど別に、俺は皆と仲良くなりたいから別に皆も俺の事名前呼びで大丈夫だぞ?」

 

 

「ホントに!?よろしく、一夏君!」

 

 

「えっと...鏡さんだよね?俺も名前で呼んで大丈夫?」

 

 

「うん、全然大丈夫!」

 

 

「オッケー、よろしくね、ナギ」

 

 

「はぅ!?」

 

 

「あれ、ナギー?どうしたー?」

 

 

おいおい...鏡ナギ何て、体育祭にならないと名前すら出てこないモブだろうが!!

何でもう関わってんだ!

って言うか、原作では一夏との絡みは無かっただろ!

本当に如何なってんだよ...

 

 

ここでチャイムが鳴り、全員が迅速な速度で席に着いた。

その席に着いたタイミングで山田先生と千冬が教室に入って来る。

ん?箒がいない。

何でだ?

 

 

「さて、SHRを開始する。まず皆にお知らせだ。知っている人もいるが、昨日篠ノ之は昼休みに暴力行為を働いた。そのため篠ノ之は今週自室謹慎となり、再登校は来週の月曜だ」

 

 

はぁっ!?

箒が自室謹慎!?

そんな事、原作では無かっただろうが!?

何でそんな事になるんだ!

 

 

「問題行動を起こしたら容赦なく罰せられるからな。全員健全な学園生活を送るように。さて...山田先生、何かありましたかな?」

 

 

「いえ、特には無いです」

 

 

「フム、ならば少々早いがSHRを終了する。他クラスはまだSHR中なので騒がしくしない事」

 

 

そう言って千冬と山田先生は教室から出て行った。

あれ、一夏の専用機云々の話は!?

一夏は試合直前に白式を受け取るから、専用機が遅れるとかの話は無いのかよ!?

畜生、本当に何が起こってるんだ!

いや、俺の手元にはマスター・コントローラーがある。

仮に試合直前に受け取ってなくても、白式は徹底的にメタれる!

俺が主人公なんだ!

一夏をアンチして、俺がハーレムを作るんだ!!

 

 

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一夏side

 

 

入学してからの一週間が終了し、週末。

俺は社長と主任...スコールさんと束さんに呼び出されたため、『PurgatoryKnights』に向かっていた。

今や全世界に影響を及ぼす企業ではあるが、一応本社は日本にあるため、非常にありがたい。

因みに俺の格好は私服で、胸ポケットにディミオスのバディカードが入っている。

制服の方が良いかと思ったが、俺の制服は『PurgatoryKnights』のマークが付いているんだ。

ただでさえ男がIS学園の制服を着ているだけでも目立つのに、そんなマークを付けていたら必要以上に目立ってしまう。

最悪、女性権利団体とかの過激組織が襲ってくるかもしれない。

そうなると俺も死ぬかもしれないし、周りの人々も巻き込んでしまう。

だから俺は私服を選んだ。

 

 

俺は移動をしながら、この一週間を振り返っていた。

初日以外は比較的に平和に過ごせたが、初日はしんどかった...

篠ノ之が本当にメンドクサイ...

はぁ、月曜には謹慎が解けるんだよなぁ。

もうちょっと謹慎しててもいい気がするんだが...

やっぱり腐っても束さんの妹だからな。

束さん本人は篠ノ之の事を如何とも思っていないが、そのことを周りの大人は知らないから、妹に制裁を加えると何かしら束さんにされるんじゃないかとか思ってんだろうな...

アイツがいると迷惑しかないからなぁ...

折角クラスメイト全員とは一応仲良くなれたから、邪魔しないで欲しいんだけど。

それにしても、深夜は何かおかしいな。

仲良くなったとは自分では思ってるんだが、何か表面上の付き合いしかしていない気がする。

何だかなぁ...?

 

 

そんな事を考えていると、会社に着いた。

このご時世、女尊男卑を拗らせて道行く男全てを奴隷のように扱うオバサンに出会わなかったからスムーズに到着した。

俺は普通に正面ロビーから入り、セキュリティゲートに所属証明カードを読み込ませ、同時にフェイスIDを確認する。

『PurgatoryKnights』は、会社のセキュリティにも力を入れているのだ。

しっかし、ロビーが広いし、機能性を保ちながらも豪華だ。

自分が所属している...いや、自分が創立の切っ掛けの会社だが、どれくらい儲かっているのやら...

俺はそのまま社長室...ではなく、男性更衣室に向かう。

ここまでは私服で大丈夫かもしれないが、流石に社長に会うのに私服はマズイ。

そのため、俺は更衣室でIS学園の制服に着替えることにした。

会社内なら、別に悪目立ちすることは無いからなぁ。

 

 

男の着替え何て早いもので、5分もしないで終了した。

この時、ディミオスのバディカードを制服の胸ポケットに移し、ズボンのポケットにダークコアデッキケースを移すのを忘れない。

忘れたら拗ねるからな...

さて、社長室に向かいますか。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

そんなこんなで社長室に着いた。

社長室は勿論、会社のトップである社長がいるので、もう扉から高級そう...いや、高級品だ。

俺はそんなノックするのも気が引けるぐらいの扉を四回ノックする。

 

 

「社長、織斑一夏です。只今宜しいでしょうか」

 

 

「あら、結構早かったわね。入って頂戴」

 

 

社長から入室の許可を頂いたので、俺は扉を開け入室する。

 

 

「失礼します」

 

 

そこには当然だが社長のスコールさんがいる。

社長はこれまた高級なレディーススーツに身を包んでいた。

社長は美人でスタイルもいいため、ものすんごい似合っていた。

 

 

「いらっしゃい、わざわざご苦労様」

 

 

「いえ、社長のお呼び出しに、ただの所属している人間である私が遅れる訳にもいけませんので」

 

 

「フフ、ここには私達しかいないから、気を楽にしていいわよ」

 

 

「分かりました、スコールさん」

 

 

社長...スコールさんの許可を貰ったから、俺はプライベートでの喋り方にする。

まぁ、プライベートでも俺はスコールさんには敬語なんだけどね。

 

 

「それで、いったい何の御用でしょうか?」

 

 

「ああ、束が来てから説明するから、ゆっくりしておきなさい」

 

 

「はぁ...お言葉に甘えて」

 

 

スコールさんに言われ、俺はソファーに座る。

高級なものだが、しっかりと座り心地もいい。

 

 

「オータムはどうしてるかしら?」

 

 

「オータムさんは、しっかりと警備員してますね。朝早くから警備していました」

 

 

「あら、何でそれが分かるの?」

 

 

「俺がトレーニングを開始する4:20にはもう警備担当場所にいたので」

 

 

「そ、そう...」

 

 

ん?

何かスコールさんが軽く引いている...

これぐらいのトレーニングはみんなしていたと思うんだよなぁ。

みんなってだれかって?

煉獄騎士団のみんなだよ。

 

 

俺が暫くスコールさんと話していると、

 

ズドドドド!!

 

と、廊下を爆走する音が聞こえたと思うと、

 

 

「いっくーーーん!!」

 

 

と、ノックもせずに何者かが部屋に突入してきた。

この特徴的な俺の呼び名は...

 

 

「...何してるんですか、主任」

 

 

『PurgatoryKnights』開発担当主任の、束さんだった...

 

 

 

 




さて、今回で一夏の人間辞めてるトレーニングの一部が判明しました。
4:20...疲れてても5:05って何事!?
私だったらどれだけ健康でもぐっすり寝てます。
因みに一夏の私服は、DDDでタスクが着ていた服の水色の部分が紅い奴だと思っていただければ...


次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!


感想がいっぱいあって嬉しいです!
これからもドシドシお願いします!


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騎士と騎士と式

さてさて、今気付きましたがクラス代表決定戦までも長い!
他の方々は何でオリ要素をしっかり入れつつ、あそこまで纏まってるんでしょうか...
凄すぎ!!


今回もお楽しみ下さい!


一夏side

 

 

さて、『PurgatoryKnights』社長室にて。

俺がスコールさんと共に談笑していると、主任が俺の名前を叫びながら社長室に突撃してきた。

うるさいし、頭に響く...!

 

 

「お久しぶりですね、主任。うるさいので黙って貰ってていいですか?」

 

 

「いっくん!?だから私に辛辣じゃないかな!?」

 

 

「そういうところがうるさいって言ってんですよ」

 

 

「い、いっくん~~」

 

 

主任が泣きそうになっているが、特には気にしない。

俺は昔からこの主任を見て来たので、このこのくらいで本気で凹んでないのは分かってるんだ。

でも、このままだと話を進められないので、主任を元気づけよう。

 

 

「主任、元気出してください」

 

 

「つーん、束さんは主任って名前じゃないもん」

 

 

「...束さん、今度ご飯作ってあげるので元気出してください」

 

 

「うん!束さん、頑張る!!」

 

 

ワオ、これで良いのか...

結構単純だな。

 

 

「ムムム、いっくん束さんの事を馬鹿にしていないかい?」

 

 

「してませんよ」

 

 

な、何で俺の思考はバレやすいんだ?

千冬姉もそうだし、束さんにもバレやすい。

 

 

「まぁ、それは今は関係ないんですよ。束さん、俺を呼んだ理由って何ですか?」

 

 

「それはね、いっくんの専用機の事なんだ~」

 

 

「は?専用機?」

 

 

俺の専用機は煉獄騎士ってことになってるんじゃ?

いや、そうなってる。

何でその話が今頃出てくるんだ?

俺の疑問を感じ取ったのか、スコールさんが具体的な説明をしてくれる。

 

 

「ええ、日本政府が男性操縦者のデータを取りたいからって、一夏に専用機を作ってそれを使わせようとしてたのよ」

 

 

「...俺は『PurgatoryKnights』所属で、しかも今は無国籍状態なんだから日本政府の機体なんて使わないのに」

 

 

ったく、本当に日本政府は...

第二回モンド・グロッソの時は俺を見捨てたのに、こうなったら掌返しやがって...

胸糞悪い。

 

 

「それでね、勿論私達は抗議したの。そしたら世界各国の政府も味方に付いてくれてね。その専用機をコアごと貰ったの」

 

 

おう...この会社は世界各国を味方につけれる程、世界に影響を及ぼすまでに成長したのか...

元はといえば、俺が企業所属っていう身分を作るための会社だったのに...

束さんが主任として開発した道具、どんだけ凄いんだ?

 

 

「うんうん、それでね~、折角ならそのISに会ってみないかなって思って」

 

 

「...確かに、そのIS自体に罪はありませんからね」

 

 

俺が胸糞悪いって思ったのはあくまで日本政府だ。

それに、俺のせいで無理矢理専用機になってしまったのだ。

寧ろ、俺がそのISに謝罪しないといけないだろう。

だから、俺はそのISに会う事にした。

さて、どんな感じの子なのかな?

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

そんなこんなで、俺は束さん、スコールさんと共に会社の格納庫に来ていた。

ディミオスSDも、しっかりと飛びながら付いてきている。

暫く歩くと、とある扉の前に着いた。

その扉はかなり厳重な扉で、スコールさんと束さんの社員カードとフェイスIDが無いと開かないのだ。

そうして、その扉が開く。

するとそこにいたのは...

 

 

だった。

そう、白。

真っ白な装甲を持つISがそこにはいた。

 

 

「これが、日本政府の屑が用意したIS、白式だよ」

 

 

「白式...」

 

 

《フム、煉獄騎士とは真逆のカラーリングだな》

 

 

確かに、煉獄騎士は黒と金がメインカラーだ。

この白式とは真逆である。

 

 

「白式、ごめんな。俺のせいで、無理矢理こうなったんだろ?」

 

 

俺はそう言いながら、白式の装甲を撫でる。

すると...

 

 

《馬鹿な...!?》

 

 

と、珍しく動揺したような声をディミオスが上げる。

スコールさんと束さんは言葉が出ないようだ。

それも仕方が無いだろう。

俺のポケットから、ダークコアデッキケースが光りながら出て来たのだから。

それと同時、俺の頭の中に何かが流れ込んでくる。

 

 

―――――来、て.....―――――

 

 

その言葉を認識した瞬間、俺は反射的に空いている方の腕でダークコアデッキケースを掴む。

すると、自動的に煉獄騎士の鎧が展開される。

これは、行かないといけないようだ。

俺はそう判断し、ディミオスに声を掛ける。

 

 

「ディミオス、行ってくる。体は任せた」

 

 

《...了解した》

 

 

本当、物わかりのいいバディで助かったよ。

それじゃあ、行きますか!

俺がそう思った瞬間、俺の意識は何かに吸い取られるように、落ちた...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

ここは...浜辺か?

俺が目を覚ました時、思ったことはそれだった。

砂とは思えないほど白い砂浜に、青い海と空。

そんなところに、俺は寝転がっていた。

しかも、さっきまで身に纏っていた煉獄騎士の鎧は無く、制服のみだった。

 

 

取り敢えず、俺は身体を起こす。

俺がいるのは波打ち際に程近い砂浜で、辺りを見回しても、空と海と砂浜以外何もなかった。

 

 

何をすればいいんだと俺が考えていると、後方から声を掛けられる。

 

 

「こんにちは!」

 

 

俺振り返るとそこにいたのは、白いワンピースを着て、白い麦わら帽子を被り、白い髪を持つ少女だった。

そんな少女が、微笑みを浮かべながら俺に語り掛けてきていた。

この少女とは初対面だ。

だけれども、俺は直感的にこの少女の正体を理解する。

 

 

「もしかして、白式...か?」

 

 

「正解だよ!よく分かったね」

 

 

俺の直感は当たったようだ。

しかし、この少女の正体が分かったところで、この状況はさっぱり分からなかった。

俺は『来て』という声が聞こえたからここに来た。

白式が呼んだのは間違いないとして、呼んだ理由が分からない。

俺は疑問を解消するため、白式に質問をする。

 

 

「なぁ白式。何で俺をここに呼んだんだ?」

 

 

「それは私じゃなくて、もう一人から説明するよ」

 

 

「もう一人」

 

 

俺がそう呟いたとき、

 

 

「織斑、一夏...」

 

 

と後方から...先程まで俺が向いていた方向から声を掛けられる。

俺がそこに振り向くと、そこにいたのは...

 

 

「白騎士...?」

 

 

世界がISを認識する切っ掛けとなった伝説のIS、白騎士が、そこにいた。

何でここにいるんだ...

と、思ったが、俺はある事を思い付く。

 

 

「もしかして、白式に使用されてるコアって...」

 

 

「ええ、元は私のコアです」

 

 

まさか、伝説のISのコアだったなんて...

日本政府は、たぶんこのことを知らなかったのだろう。

白騎士のコアなんてもんを俺に使わせる程、アイツ等は健全じゃない。

 

 

「...白騎士がここにいるっていうのは分かった。何で俺をここに呼んだんだ?」

 

 

「織斑一夏、あなたに、問います」

 

 

如何やら俺をここに呼んだ理由が問い(それ)のようだ。

俺はそう判断し、白騎士の言葉を待つ。

 

 

「あなたにとって、チカラとは何ですか?あなたは何故、チカラを求めるのですか?」

 

 

...何だ、そんな事か。

普通に考えたら、難しい問い何だろう。

だが、俺にとって、煉獄騎士にとって、そんな問いの答えは、とっくの等に出ている。

 

 

「贖罪のため」

 

 

俺は直ぐにそう言った。

すると、白騎士は表情こそバイザーで分からないが、驚いたような雰囲気を感じた。

 

 

「...あなたが白式に触れた時、失礼ながらあなたの記憶を見させていただきました。なぜあなたは、そんなにもドラゴン達に人生を使えるのです?」

 

 

「俺は、ディミオス達に助けられ、その過去を聞いた。その時に思ったんだよ、俺もこいつらと共に生きたいって」

 

 

「本当に、それだけなのですか?」

 

 

「ああ、それだけ。それだけだけれども、俺にとっては何より大事な理由だ。だって、俺は...」

 

 

そう、俺は...

 

 

「煉獄騎士であり、ディミオスのバディなんだからな」

 

 

俺が言い切ると同時に、俺の体は一瞬煉獄騎士の鎧に身を包まれたが、直ぐに解除された。

白騎士は、また驚いたような雰囲気を出した後、微笑んだ...ように感じた。

 

 

「そうですか...あなたは強いですね」

 

 

「いやいや、まだまだだよ。これからもトレーニングを続けないとね」

 

 

俺がそう言った時、白騎士の隣に、白式が現れた。

 

 

「いや、私達からするともうだいぶ強いよ?白騎士お姉ちゃんを使ってた人の何倍もの身体能力だし」

 

 

「そうなのかなぁ?」

 

 

これくらいは普通だと思うんだけどなぁ?

俺がそんな事を考えていると、白騎士と白式が声を上げる。

 

 

「私達は、そんなあなたに惹かれたのですだから...」

 

 

「私達は、あなたをサポートすることにしたんだ♪」

 

 

「へ?」

 

 

今、この二人は(二機は?)何と言った?

俺のサポートをする?

いや、それは...

 

 

「その気持ちは嬉しいけど、俺は白式を使う事は無い」

 

 

「アハハ、何も私を使って欲しいってわけじゃないよ」

 

 

「私と白式は、煉獄騎士の鎧に宿らせてもらいます」

 

 

へぇー、なるほどね。

煉獄騎士の鎧に宿るのかぁ。

.....はぁ!?

 

 

「そんなことが出来るの!?」

 

 

「本来ならできないのですがね」

 

 

「あなたの煉獄騎士はドラゴン達が魔法で造った鎧だからね!問題ないよ!!」

 

 

白騎士は冷静に、白式は元気いっぱいにそう言う。

うん、白騎士はお姉さんって感じで、白式は妹って感じだな。

マドカとエクシアに続き、三人目の妹的立ち位置だ。

そう思っていたら、無意識に白式の麦わら帽子を取り、頭を撫でていた。

 

 

「ふにゅううう...気持ちいい...」

 

 

「ムムム.....」

 

 

白式と気持ちよさそうな声と白騎士の嫉妬するような声で自分の行動を自覚した俺は、何とも言えないこの雰囲気に如何しようかと悩む。

取り敢えず白式の頭から手を離すと、

 

 

「あっ...」

 

 

と、白式が残念そうな声を上げる。

その残念そうな声を聞いた俺は何とも言えない気持ちになり、白式に声を掛ける。

 

 

「もうちょっとやろうか?」

 

 

「はい、お願いします!」

 

 

俺がそう言うと、白式はまた笑顔になった。

そんなにいいものなのか?

俺はそう思いながら白式の頭を撫でる。

 

 

「.....」

 

 

すると、白騎士が視線を向けてくる。

バイザーで顔を隠しているのに、ジト目なのが分かる。

これは...

 

 

「白騎士も、撫でて欲しいのか?」

 

 

「...お願いします」

 

 

白騎士はそう言うと、顔のバイザーを取る。

千冬姉が使っていた機体だし、バイザーの下は千冬姉に似た顔かな~と思っていたが、結構違った。

白式の実の姉って感じだ。

そんな白騎士が、顔をほのかに赤く染めながら、俺に頭を近付ける。

俺は開いている方の手で白騎士の頭を撫でる。

 

 

「こ、これは...」

 

 

俺が頭を撫でたとたん、白騎士は恍惚の表情を浮かべる。

そんなにいいものなのかなぁ?

今度マドカやエクシア、あとは...ラウラも撫でてみるか?

いつになるかは分かんないけど。

 

 

「「気持ちいい...」」

 

 

俺は二人のそんな事を聞きながら、暫くの間頭を撫でていた。

これ、どんな状況なんだ?

まぁ、

 

 

「「ふにゅううう」」

 

 

二人が幸せそうだし、良いか。

てか、白騎士もそんな声出すんだな...

 

 

 

 




うん、この白騎士はイメージから結構変わっちまったなぁ。

白式を如何しようか悩んだのですが、白式、白騎士共にサポート役になってもらいました。
どのような感じになるかは次回で!


次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

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騎士のフューチャー

妹キャラになった白式と、お姉さん感あるけど甘えん坊の白騎士。
如何なんでしょうか?
個人的には結構気に入ったんですけど...
まぁ、これからバンバンとはいけないかもしれませんが、活躍していきます!


今回もお楽しみ下さい!


一夏side

 

 

暫く白式と白騎士の頭を撫でていたが、何時までもこうしている訳にもいかない。

申し訳ないが、撫でるのを止めよう。

俺はそう思い、二人の頭から手を離す。

 

 

「「あっ...」」

 

 

二人が残念そうな声を上げるが、今回は再開できない。

二人の悲しそうな顔を見るのは心苦しいが、仕方が無い。

俺は罪悪感を感じながらも、言葉を発する。

 

 

「それで、これからどうするんだ?」

 

 

「あ、ああ。そうですね」

 

 

俺の言葉で白騎士は先について話さないといけない事を思い出す。

白式も物凄く名残惜しそうだったが、一応諦めてくれた。

 

 

「取り敢えず、あなたにはもう現実世界に帰って頂きます」

 

 

「あ、もう帰るのね」

 

 

結構早かったような...

でも、結構長い間いたような気がする。

この世界は、時間感覚も曖昧らしい。

俺がそんな事を思っていると、白式が声を上げる。

 

 

「それで...如何なの?」

 

 

「如何なのって?」

 

 

「だから...私達は、あなたのサポート役に、本当になっていいの?」

 

 

「さっきまで決定です、みたいな言い方だったのに」

 

 

声には出せないが、さっきまでのナデナデタイムでそのことは完全に忘れていた。

それにしても、本当に何で急に不安になってんだ?

チラッと白騎士を見ると、こっちも何処か不安そうな表情を浮かべていた。

 

 

「いや~~、その...結構な時間撫でてもらって、負担掛けちゃったから...」

 

 

「サポートすると言っておきながら、あのような態度を取るのは...」

 

 

如何やらさっきのナデナデタイムで罪悪感を覚えたようだ。

別に全く負担は無いし、罪悪感を覚える必要は無いんだけどな。

まぁ、今のこの二人に何を言ってもポジティブになることはなさそうだ。

 

 

「寧ろ、今はこっちからお願いしたいよ」

 

 

「「え?」」

 

 

だから、俺が素直に自分の気持ちを伝えると、二人とも呆気に取られたような表情と声になった。

俺はそれに苦笑しながら、二人に声を掛ける。

 

 

「最初はさ、何かやっぱ嫌だったんだよ。あの日本政府が用意したISだから。でも、少しの間だけど関わって、話して、触れ合って分かったんだ。お前らは、優しい、良い奴なんだって」

 

 

「...ISに良い奴だなんて言ったのは、あなたが初めてですよ」

 

 

「何でそんな事...ああ、コアネットワークか」

 

 

ISのコアは、コアネットワークで繋がっている。

そのため、お互いにデータのやり取りが可能なのだ。

全世界のISの情報を持っているからこそ、そんなことまで分かるのだ。

 

 

「...殆どの人間は、私達ISの事を道具としか見てないの。なのに、何であなたは、そんな事を...」

 

 

「そりゃあ、実際に会話したらそうなるだろ。意思があるって分かったら、そうなるよ」

 

 

俺がそう言うと、二人は表情を変える。

その表情は、感動したようなものだった。

そんな二人に俺は、

 

 

「だから...これからよろしくね」

 

 

と、声を掛ける。

俺の言葉を聞いて、二人は、

 

 

「「よろしくお願いします、マスター」」

 

 

と言った。

それを聞いて俺は、また二人の頭を撫でた。

 

 

「「はぁ~~~、良い...」」

 

 

撫でられた二人は恍惚の表情を浮かべながらシンクロした声を出す。

...そんなにいいものなんだろうか?

今まで人の頭を撫でたことが無いから分からない。

本当に、今度誰か撫でてみようかな?

まぁ、それはさておき、

 

 

「如何やって現実世界に戻るんだ?」

 

 

俺にはそれが分からなかった。

俺は白式に呼ばれたからこそここにこれたので、自分では如何やって来たのか分からない。

したがって、現実世界への帰り方も分からないのだ。

俺がそんな事を考えていると、

 

 

「私達がこれから現実世界に戻します。そしてその後、煉獄騎士の鎧に宿らせていただきます」

 

 

「オッケー、じゃあ...もう戻ろうか」

 

 

俺がそう言うと、白式が新たに声を発する。

 

 

「あの...その...マスター、偶にでいいので、この世界に来ていただけますか?次からは、マスターの意思でも来れるようになるので...」

 

 

上目使いでこう言われてしまっては、断れるものも断れない。

俺は笑みを浮かべながら、白式のお願いに返事をする。

 

 

「ああ、分かったよ」

 

 

「はい!ありがとうございます!」

 

 

白式は元気にこう言うと、白騎士に近づき手を結ぶ。

そして、二人は開いている方の手を俺に向けてくる。

俺は二人のしたいことを察すると、両手を出し、それぞれと手を結ぶ。

ここで、白騎士が声を掛けてくる。

 

 

「マスター、一つ注意していただきたいことがあります」

 

 

「注意してほしい事?」

 

 

俺が聞き返すと白騎士は頷き、続ける。

 

 

「IS学園に、一つだけおかしいISがあります」

 

 

「おかしいIS?」

 

 

「そうなの。コアネットワークにも接続されてないから、そこにあるってことしか分からないの」

 

 

白騎士の言葉に続き、白式が声を上げる。

コアネットワークに接続されていない?

そんなことがあるのか?

 

 

「しかも、私達を含めて、コアネットワークにはしっかりと467個のコアが接続されてるの」

 

 

それを聞いて俺は更に動揺した。

ISのコアは束さんしか作れない。

そして、束さんは今マドカ達のISを作ってはいるが完成はしていないから世界にあるコア数は、束さんが失踪する前に完成させた467個のみ...

それで、467個が接続しているのに、接続させていないものがあるという事は...

 

 

「まさか、束さん以外が造った、468個目?」

 

 

「そうなるんだよね」

 

 

俺が考え付いた仮説を、白式が肯定する。

それに俺は動揺したが、よくよく考えると異世界のドラゴンとバディを組んでるから、そう言う事もあるか~って思った。

それでも疑問に残ることがある。

仮に第三者が造ったものだったとしたら、何で世界に公表していないんだという事だ。

世界に公表しちまえば、恐らくその企業は世界トップの企業に慣れるだろうし、国での開発だったらその国は世界への発言権が大幅に上がるだろう。

それなのにそれをしないってことは、存在がバレてはいけない裏組織、もしくは...

 

 

「ディミオス達みたいに異世界から来たか、神様だったりして」

 

 

俺のその言葉に白騎士と白式は苦笑する。

まぁ、神様だったりがいたとしてもわざわざISのコアを一個だけ作ると思えんけどな。

 

 

「じゃあ、そろそろ戻すね」

 

 

「現実世界でも、よろしくお願いします」

 

 

白式と白騎士がそう声を掛けてくる。

俺は頷き、

 

 

「ああ、これから頑張ろう!」

 

 

俺がそう言うと、世界が光に包まれる。

その光で、だんだんと視界が曖昧になっていく。

そして俺の意識は、現実世界に帰って行く...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「ん、あ...?」

 

 

自然と口からそんな声が漏れる。

俺の視界にあるのは、格納庫の天井。

如何やら、白式の前でそのまま寝かせられているらしい。

俺が身体を起こすと、横から声を掛けられる。

 

 

「いっくん!大丈夫?」

 

 

「束さん、耳元で叫ばないでください」

 

 

この人の声は、結構高めで良い声なのだが、その分耳元で叫ばれると頭に響く。

俺がそう言うと、ディミオスが声を掛けてくる。

 

 

《急に倒れて心配だったんだろう...まぁ、鎧は頭以外は脱がせなかったがな》

 

 

ディミオスにそう言われ、俺は今煉獄騎士の鎧に身を包んでいた事を思い出す。

ディザスターフォースを発動していないため髪は伸びていない。

 

 

「一夏、大丈夫なの?」

 

 

「ええ、大丈夫ですよ。スコールさん」

 

 

スコールさんが改めて聞いてきたことに、俺は答える。

スコールさんと束さんは、ひとまず安堵したように息を吐く。

すると、そのタイミングで白式が光り輝く。

白式が輝くのと同時に、煉獄騎士の鎧の左手首の紫の眼も輝く。

 

 

「え、え?」

 

 

「いったい何が...?」

 

 

《なるほどな...》

 

 

スコールさんと束さんが驚いた声を出すが、ディミオスだけは理解したような声を出す。

そんな中、光は更に輝くと、不意に白式から何かが出てくる。

それが出てくると、白式の光が止む。

如何やら白式ではなく、その何かが光っていたようだ。

それを見た時、束さんが不意に声を出す。

 

 

「コア...?」

 

 

如何やらこれはISのコアのようだ。

ちゃんと見たことが無かったから分からなかった。

そのコアは、光りながら俺の方に飛んでくる。

俺が左手の紫の眼をコアに向ける。

すると、そのコアは粒子になって眼に吸収された。

 

 

「「......」」

 

 

スコールさんと束さんは目の前で起こったことが信じられないようで、絶句してしまう。

俺はその二人をいったん無視し、吸収された眼を見る。

鎧自体は何も変化していない。

でも確かに、意思を感じることが出来た。

 

 

「よろしく、白式、白騎士」

 

 

[[はい、マスター]]

 

 

その返事は、頭の中に直接聞こえた。

だから、俺以外には聞こえないんだろう。

さて、固まってる二人をたたき起こしましょうか...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

あれから、現実に戻って来た二人とディミオスに、何があったのかの説明をした。

ISと話すだなんてことは束さんでもしたことが無かったらしく、

 

 

「いっくんだけずるい~~~!!」

 

 

と言っていた。

スコールさんも白式のコアが白騎士のコアだとは知らなかったらしく、物凄く驚いていた。

まぁ、束さんは知っていたようだったが。

因みに、ナデナデタイムの事は言っていない。

束さんがめんどくさくなりそうだったからな。

そして一番驚いたのは、やはりIS学園にあるというコアネットワークに接続されていない468個目のISだった。

このことについては、束さんが調べてくれることになった。

やっぱり、開発者本人がいるとありがたいな。

 

 

残った白式の外装は、ディミオスがダークネスドラゴンWに持って行った。

何か使えそうだという事らしい。

武装も何も積んでいなかったのに、果たして使えるのだろうか?

何に使うのかは俺も聞いていないので、ちょっと楽しみだ。

 

 

白式と白騎士が宿った煉獄騎士の鎧には、ISとの戦闘用モードが追加されていた。

具体的には、

①ライフ1=シールドエネルギー1割。

②ゲージ=行動エネルギー。使用コストのある魔法やアイテム、モンスターはこれを消費する。

③手札=行動選択肢。魔法やアイテム、モンスターはコストの有無に関わらずこれを消費する。ただし、あくまで選択肢数のため、ランダム性は無い。(手札にあるものをだけを使えるんじゃなく、あくまで選択肢数を表すだけ)

④手札とゲージは一定時間で一枚ずつ回復する。

⑤初期ゲージは2、初期手札は6。

⑥ファイトモードとの切り替えは、ダークコアデッキケースの時の展開時で決まる。

 直接ルミナイズ口上を言うとファイトモード。

 ディザスターフォース発動の掛け声で戦闘モード。

 途中での切り替えは不可。

⑦ハイパーセンサー、プライベートチャネル、オープンチャネルは使用可能。

これぐらいだ。

でも、PICは無いから飛行にはインフェルノサークルを使わないといけないし、動きも完全に俺の身体能力に依存する。

 

 

そして今。

俺はIS学園に戻るために私服に戻り、会社のロビーに来ていた。

わざわざスコールさんと束さんが見送りをしてくれている。

因みに、束さんが『PurgatoryKnights』で働いているのを知っているのは社内でも限られた人のみなので、他の社員はロビーから出て行ってもらった。

 

 

「じゃあ、一夏。これからも大変だと思うけど頑張ってね」

 

 

「いっくん、今度の模擬戦はいっくんだったら勝てるよ!頑張って!」

 

 

俺は二人からのエールを受け、頷く。

ディミオスも、ポケット内で軽く震える。

俺以外には伝わんないだろうから、無理しなくていいのに。

 

 

[分かってないですね~。意思表示が大事なんですよ!]

 

 

(はいはい)

 

 

白式が語り掛けて来たので、相槌で返す。

ダークコアデッキケース状態でも俺に語り掛けてこれるのはそこそこ便利だ。

俺は、スコールさんと束さんに向き直り、言葉を発する。

 

 

「はい、『PurgatoryKnights』に泥を塗らないように頑張ります!」

 

 

「あら、一夏のための会社なんだから、そこまで気を負わなくてもいいのよ」

 

 

「それでもですよ。もうこの会社、世界トップのグローバル企業じゃないですか」

 

 

「それもそうね」

 

 

俺とスコールさんと束さんは、笑い合う。

こんなに明るい会社なんだから、頑張んないとな。

 

 

「じゃあ、行ってきます!!」

 

 

「「行ってらっしゃい!!」」

 

 

俺はその言葉を受け取ると、IS学園に帰るために歩きだす。

先ずは週明けのクラス代表決定戦だな。

さて、行きますか!!

 

 

 

 




白式の外装はディミオスが持っていきました。
どのように使うんでしょうかね...
白式は束が一夏に与えるつもりが無かったので、アレは搭載されていませんでした。
と、いう事は...?

設定集Ⅱの煉獄騎士は後程変更します。


次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

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クラス代表決定戦

やぁっとここまで来た。
本当に、クラス代表決定戦までも長かった...
まぁ今回は戦闘シーンが無いんですけどね。

ごめんなさい、ごめんなさい!
だから怒らないで!!

今回もお楽しみ下さい!


一夏side

 

 

週も明け、月曜日。

クラス代表決定戦の当日になった。

俺は4:20からの早朝トレーニングを終了し、準備をして教室に向かっていた。

今日はディミオスも俺の隣を飛んでいる。

先週一週間で、一年生の約三分の二は俺とディミオスにも慣れたようで、廊下を歩いていてもそこまで騒がれることは無い。

しかし、物凄く視線を感じる。

俺が新しく作ったは友人は、キサラ以外は一組の生徒しかいない。

だからなのかは分からないが、他クラスの生徒が俺の事をジッと見てくるのだ。

落ち着かない...

 

 

「ディミオス、これどうしたら良いの?」

 

 

《我に聞くな》

 

 

「ですよね~」

 

 

ディミオスに助けを求めたが、軽く流されてしまった。

俺は視線を全身に突き刺されながら教室に向かう。

 

 

まぁ、いくら校舎が広いとはいえ自分の教室に向かうくらいは直ぐだ。

五分もしないうちに、俺は1組の教室に着いた。

俺は、そのまま教室のドアを開け、教室に入る。

 

 

「おはよう」

 

 

「あ、一夏君。おはよう」

 

 

「静寐か。おはよう」

 

 

教室に入るなり、静寐に声を掛けられた。

ああ、こういう朝って、平和だ...

俺はそう考えながら、自分の席に向かう。

自分の席に荷物を置いたとき、また新たに声を掛けられる。

 

 

「おはようございます、一夏さん」

 

 

俺は声を掛けられた方向を向く。

そこにいたのは、セシリアだった。

 

 

「ああ、おはよう。セシリア」

 

 

「今日はクラス代表決定戦ですわね」

 

 

「そうだな。全力で戦うぜ」

 

 

「私も、本気で行かせてもらいますわ」

 

 

ここで俺とセシリアは笑い合う。

暫く笑い合っていたが、セシリアがある事を言ってくる。

 

 

「一夏さん、このクラス代表決定戦が終わったら、私と共に訓練してくれますか?」

 

 

「ああ、訓練か。良いよ、やろう」

 

 

それは、訓練のお誘いだった。

これは俺としても非常にありがたい。

やっぱり自分一人だと限界があるからな。

 

 

「フフ、ありがとうございます。それでは、私はこれで」

 

 

セシリアはそう言い、自分の席に戻っていく。

俺も席に着かないとな。

そう思い、机の上に置いたままだった荷物を仕舞い、そのまま座る。

ディミオスは片付いた机の上に乗る。

正直黒板が見えにくいが、まぁ朝のSHRで黒板を使う方が少ないし、別にいいか。

暫くして、チャイムが鳴る。

それと同時に織斑先生と山田先生が教室に入って来る。

 

 

「さて、SHRを開始する。みんな覚えていると思うが、今日の午後からクラス代表決定戦だ。戦う三人には、昼休みに詳しいルールを説明する。そしてもう一つ。この後の一時間目から篠ノ之が復帰する」

 

 

織斑先生の言葉で、クラスの大半が嫌そうな顔をする。

勿論俺もその一人だ。

篠ノ之の人物像は俺経由でみんなに伝わっているから、あまり好印象を持たれていないようだ。

まぁ、自業自得だな。

 

 

「さて、SHRは以上だ。次の授業は私が担当だ。気を引き締めるように」

 

 

織斑先生がSHRを終わらせ、山田先生と共に教室から出て行く。

何て言うか...山田先生が置物だったな。

まぁ、授業に集中して、クラス代表決定戦も頑張りますか!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

時刻は進み、午後。

とうとうクラス代表決定戦が開催される。

会場である第一アリーナには1年1組の生徒は勿論、他のクラスや上級生、更には教師までもが集まっていた。

それだけでは飽き足らず、アリーナの観客席に入れない生徒の為に、わざわざ多目的教室にLIVEで映像を流している。

何故ここまで注目されているかと言うと、世界で二人しかいない男性操縦者が戦うからだ。

誰もが初めて見る男性操縦者の戦いだ。

見たいに決まっている。

そのため、学園中が観戦しようとしたのだ。

戦う順番は、深夜VSセシリア、セシリアVS俺、深夜VS俺である。

無論、情報アドバンテージ差が出ないように、俺達は自分が出ない試合の観戦ができない。

 

 

今俺達は全員、それぞれのピットにいた。

セシリアも深夜も、それぞれの準備をしているんだろう。

そして俺も自分のピットで準備をしていた。

今の俺の格好は、『PurgatoryKnights』所属者(現在俺のみ)に与えられる特殊ジャージだ。

見た目は...タスクさんのバディポリス活動時の服の青とオレンジが入れ替わっていて、バディポリスマークの代わりに『PurgatoryKnights』のマークが付いている。

煉獄騎士はISのコアを持っているが、ISの一部の機能しか使用することが出来ない。

そのため、ISスーツ等を着る必要が無いのだ。

ここまでは良い、だが今この場には完全に部外者が存在する。

それは...

 

 

「何故ここにいる、篠ノ之。ここは関係者、並びに教員以外は立ち入り禁止だ」

 

 

「別にいいだろう?私はお前の幼馴染で関係者だ」

 

 

コイツは...

篠ノ之は一時間目の後の休み時間から俺に絡んで来やがった。

その度にあしらっているから、無駄に体力を消費している。

その度そのたびに幼馴染じゃ無いと言っているにも関わらず、コイツはまだその主張を止めないのだ。

メンドクサイ奴だ。

 

 

「関係者っていうのは『PurgatoryKnights』の事だ。それに、お前は幼馴染じゃ無い。さっさと出て行け」

 

 

「一夏!お前、まだそんな事を言っているのか!!お前は私の幼馴染だろう!!」

 

 

《本人が否定しているのにそれを言い続けるとは...愚かだな》

 

 

「貴様、私は一夏と話しているのだ!ロボットごときが口を出すな!!」

 

 

《我は一夏のバディだ。一夏が関係ないと言っている貴様の方が部外者だろう?》

 

 

「貴っ様ーーーー!!!」

 

 

ディミオスも篠ノ之を追い出そうとしてくれた。

だけれども篠ノ之は激昂し、何時ぞやのように木刀を取り出し、ディミオスに振るう。

本当だったら俺がまた木刀へし折った方が良いんだろう。

だが、それを俺はしなかった。

これ以上試合前に体力を使いたくないし、それに...

 

 

《フン!!》

 

 

バキィィィ!!

 

 

ディミオスだったらSDでも木刀をへし折るぐらい、ドローをするぐらい簡単なことだ。

実際に、俺の時は二つに折れていたが、ディミオスは四つに折っていた。

一撃で四つに折るって...団長ってすげぇ。

 

 

「馬鹿な!?」

 

 

《吹き飛べ》

 

 

ディミオスはそのまま篠ノ之を蹴り飛ばす。

そしてそのまま篠ノ之は壁に激突し、気絶した。

気絶した篠ノ之が地面に崩れ落ちたタイミングでピットの扉が開き、織斑先生が入って来た。

 

 

「...何があった?」

 

 

開口一番、織斑先生がそう言う。

まぁ、篠ノ之が地面で気絶しているのだ。

そうなるのは決まっている。

 

 

「篠ノ之が絡んで来てディミオスに木刀振るって、ディミオスがその木刀へし折って気絶させました」

 

 

「はぁ...コイツは...」

 

 

俺の説明を聞いて、織斑先生は呆れたようなため息を吐いた。

まぁ、自宅謹慎が解除された当日に暴力行為を働いたんだから。

ディミオスはロボ扱いのため、傷害未遂にはならないものの、普通に器物破損未遂になる。

そうなれば、再びの自宅謹慎、今回は二回目という事もあり、一ヶ月ぐらいにはなるだろうか?

でも、多分...

 

 

「見ていた人が大勢いた前回と違って、今回は俺しか直接見てないから、コイツは無罪放免何でしょうね...」

 

 

「ああ、そうなってしまうな...」

 

 

「「はぁ...」」

 

 

何でこんなのが束さんの妹なんだ...

束さんの妹だから罪が無くなるなら、束さんの方が可哀想だよ...

 

 

「さて、篠ノ之は取り敢えず私が引きずり出しておく。私がここに来たのはお前に『PurgatoryKnights』のメッセージを伝えるためだ」

 

 

「メッセージですか?」

 

 

何だろうか...

そもそも誰なんだ?

俺はそんな事を考えながら織斑先生の言葉を待つ。

 

 

「ああ、『いっくんなら勝てるから!ディミくんもしっかりね!!』だそうだ」

 

 

束さんじゃねえか!

呼び方で直ぐわかる!

ていうか、メッセージを伝えただけなんだろうが、千冬姉の声で束さんの口調だと違和感しかない。

束さんの口調は、束さんの甲高い声だから違和感が無いんだなぁ。

 

 

「伝えるものは伝えたぞ、織斑」

 

 

「はい、確かに伝わりました。ありがとうございました」

 

 

「...一夏、頑張れよ」

 

 

「分かったよ、千冬姉」

 

 

教師の顔から姉の顔になり、エールをくれたので、俺も弟として返す。

俺の返事を聞いて千冬姉は頷くと、篠ノ之を引きずりながらピットから出て行った。

さて、もう直ぐ深夜とセシリアの試合が始まるな。

俺は試合を見ることも出来ないし、どっちが勝ったのかを知ることも出来ない。

まぁ、良い。

俺は、俺の信じる仲間と共に、全力で戦うだけだ!!

 

 

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三人称side

 

 

一年一組クラス代表決定戦第一試合、橘深夜VSセシリア・オルコットの試合開始5分前。

アリーナには既にセシリアが専用機であるブルー・ティアーズを展開し、定位置についていた。

セシリアはイギリス代表候補生であり、専用機が第三世代型ISという事もあり、注目されていた。

観戦している生徒、教員のほとんどが、セシリアが勝利すると思っている。

それは仕方が無い事だろう。

男性操縦者は今年の受験シーズンに発見されたのだ。

長い間訓練を受けている代表候補生には、如何考えたって勝てないのだ。

 

まぁ、セシリア本人と千冬は、一夏が物凄く強く、戦い慣れていると知っているが。

 

しかし、今現在観戦者が注目しているのは、未だアリーナに出てきていない深夜だった。

セシリアに勝てるとは思っていないが、男性操縦者が初めてISを纏って出てくるのだ。注目してしまう。

 

 

試合開始2分前。

とうとう深夜がピットから出て来た。

その姿...いや、身に纏っているISに、深夜を除く全員が驚く。

一夏は『PurgatoryKnights』所属だという事が分かっているが、深夜は何処にも所属していない。

そのため、訓練機を使用すると思っていた人がほとんどだった。

しかし深夜がその身に纏っているのは、学園の訓練機の打鉄でも、ラファール・リヴァイブでもなく、専用機マスター・コントローラーだった。

黒、青緑、橙、青緑がかった白、青、白、濃い赤、黒鉄の計8色のカラーリングで、装甲は打鉄の両肩部分の盾が無いものに酷似しているが、所々が異なる。

一番の注目点はその背中であり、4対の8枚の翼だった。

深夜は周囲の驚愕だと気にしていないように、定位置に着く。

第一試合が、もう直ぐ、始まる...

 

 

 

 




マスター・コントローラーのカラーリングは、メタれる専用機の反対の色です。
間違ってるところもあるかもしれませんが、許してください。


何かいけそうなので今日の12:00、もう1話出します。

感想もドシドシお願いします!!


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転生者VS蒼い雫

本日2本目、そして久々の戦闘シーン。
相変わらず雑で分かりづらいなぁ。

でも、精一杯頑張ったので、良かったらお楽しみ下さい!




三人称side

 

 

試合開始2分前。

セシリアと深夜が自身の専用機を身に纏い、対面している。

セシリアは、見たことも無いISに対し、驚愕の視線を向け、深夜は何やら怪しい笑みを浮かべていた。

 

 

(ブルー・ティアーズだ!これなら勝った!ここで俺が勝って、セシリアを惚れさせる!やっぱり俺が主人公だ!!)

 

 

深夜はもう勝利を確信していた。

転生特典で貰った身体能力と頭脳に加え、原作に登場した学園の専用機をメタれる専用機。

これらがあるからこその勝利の確信であり、笑みだった。

そんな深夜に、セシリアがプライベートチャンネルで語り掛ける。

 

 

「橘さん、専用機を持っていらしたのですね」

 

 

「ああ、マスター・コントローラーって名前だ」

 

 

「そうなんですのね」

 

 

この短い会話は直ぐに終わり、セシリアは集中し、その手にレーザーライフル『スターライトmkⅢ』を展開し、構える。

そして、深夜もその手に特殊ブレード『システムクラック』を展開する。

 

 

(見たことが無いISですけれども、私がすることは変わりませんわ!集中して、相手に敬意を払い、戦うだけですわ!!)

 

 

(何でだ...セシリアはポーズを取らなきゃ武装を展開できないんじゃなかったのかよ!?)

 

 

セシリアは意気込み、深夜は動揺していた。

だけれども、今はもう試合開始直前だ。

落ち着く時間など無い。

 

 

『それでは、1年1組クラス代表決定戦第一試合。橘深夜VSセシリア・オルコット。試合...開始!!』

 

 

「踊りなさい、私とブルー・ティアーズとが奏でる円舞曲で!!」

 

 

試合開始のアナウンスと共に、セシリアは深夜に向かってスターライトmkⅢでの射撃を行う。

深夜は動揺していたせいで反応が遅れ、直撃とはいかなくても、掠ってしまう。

 

 

「グッ...!?」

 

 

セシリアは直ぐに移動を開始、アリーナを飛び回りながら深夜に向かって射撃を繰り返す。

深夜も回避行動をとっているものの、少しずつ掠ってしまっている。

 

 

(クソッ!!何でここまで被弾するんだ!?俺の身体能力は千冬並みだし、マスター・コントローラーのスペックも高いんだぞ!?)

 

 

深夜は自分が被弾することに納得できていなかった。

でも、これは当然である。

深夜はISを本格的に使う事も、戦う事もこれが初めてなのだ。

いくら身体能力と使用するISがハイスペックでも、経験が足らなさすぎる。

先週から訓練していたら被弾はもう少し抑えられたかもしれない。

しかし、転生特典に胡坐をかいて碌に訓練しなかったからこその、今の状況である。

 

 

だけれども、深夜もだんだんと回避が出来るようになってきた。

やっぱりこんなやつでも転生特典がある転生者だ。

そして深夜は避けながら、システムクラックを左手のみで持ち、右手に新たに特殊ハンドキャノン『ノーストップ』を展開する。

 

 

(ハンドキャノン?そんなものが上手く当たる訳...)

 

 

セシリアは深夜が避けながら展開したハンドキャノンに疑問を持つ。

本来ならセシリアの言う通り、レーザーライフルを使用する相手にハンドキャノンなど選択しないだろう。

だけれども、それは間違いだった。

何度でも言うが、こんなやつでも転生者であり、このISも転生特典...神様制なのだ。

ISが神様制なら、武装も当然神様制である。

という事はつまり、

 

 

ドキュゥゥゥン!!!

 

 

「きゃあ!」

 

 

そんじょそこらのハンドキャノンとは威力、正確性、連射力などが桁違いだ。

ただのハンドキャノンだと思っていたセシリアは被弾をしてしまう。

しかし、彼女も負けてはおらず、二発目、三発目と打たれる弾丸は全て避けきった。

 

 

(あのハンドキャノン、通常のものより強力なものですわね...ならばもう出し惜しみはしません!)

 

 

「お行きなさい、ブルー・ティアーズ!!」

 

 

セシリアは一度被弾したことにより火が付いたのか、機体名の由来にもなった第三世代兵器、『ブルー・ティアーズ』を起動させる。

機体のスカート部分から、4機のビットが離れる。

そして、そのビットはアリーナ内を飛び回り、深夜に銃口を向けるとレーザーを発射する。

このビットは遠隔無線誘導型の武器で、セシリアの指示に従って動く兵器だ。

当然集中力が必要不可欠であるが、上手く使えば相手の死角からの攻撃が可能である。

観戦している生徒たちは、とうとうセシリアが本気を出したことを悟る。

しかし、深夜は違った。

 

 

(来た!セシリアはビットを動かしている間、動けない!ここで...!)

 

 

原作知識がある転生者として、この状況はチャンスだと思ったようだ。

口元には自然と笑みがこぼれていた。

しかし、その笑みは直ぐに驚愕の表情へと変わる。

 

 

「行きますわ!!」

 

 

セシリアは、ビットと共にアリーナ内を飛び回り、深夜に向かってスターライトmkⅢでレーザーを放つ。

このことに、深夜は驚き、また少しずつ掠ってしまう。

 

 

(何でだよ!?何で動いてんだよ!!射撃も死角からだけっていう法則性も無いじゃないか!!)

 

 

深夜はそんな事を考えながら、何とか避けている。

その表情は、先程までの驚愕のものではなく、何か企んでいる表情だった。

表情に出ている時点で、セシリアには何か企んでいるのはバレているが、セシリアにはそれが何なのか分からなかった。

深夜は右手のノーストップを収納し、システムクラックを両手で構える。

わざわざ遠距離武器を仕舞った事で、観戦している生徒も、深夜が何か企んでいる事に気付いたようだ。

その次の瞬間、深夜は今までの速度とは比べ物にならないくらいの速度でビットの一つに突っ込んでいった。

しかも、マスター・コントローラーの橙の部分が輝き始め、背中の翼も橙に染まる。

急に速度が上がった為、セシリアは反応が遅れてしまい、スターライトmkⅢでの狙撃は出来たものの、ビットを動かすことは出来なかった。

深夜は狙撃を被弾してしまうものの、速度を緩めずにビットに向かい、システムクラックで切り付ける...のではなく、触れた。

そう、触れた。

ブレードなのに、切らなかったので、セシリアも観戦していた生徒も教師も呆気に取られてしまう。

しかし、その瞬間、その呆気に取れた表情が一瞬で驚愕のものに変わる。

システムクラックに触れたビットの色が、青から橙になった。

更には、アリーナのその部分を起点とした橙色のエネルギー波動が辺りに広まり、それに触れた残りのビットはスカートに付けたままだったものまで含め、橙色に染まってしまう。

 

 

「な、何が...!?」

 

 

「行けぇ!!」

 

 

セシリアが驚愕と動揺の声を出すと同時に、深夜が何か(・・)に向かって指令を出す。

その何かとは...橙に染まったビットである。

 

 

「え、きゃあ!!」

 

 

まさかビットが自分を攻撃するとは思わなかったのだろう。

セシリアは4基のビットからの攻撃をもろに喰らってしまう。

それだけでは無い、スカートに付いていた残りのビットまでもが勝手に離れ、動き始めてしまう。

 

 

「な、何が起こってるんですの!?」

 

 

「そらそらぁ!!」

 

 

セシリアが驚愕の声を漏らすも深夜はお構いなしに奪ったビットで攻撃する。

これこそが、マスター・コントローラーの『ブルー・ティアーズメタ』、『ビット奪取』である。

これは機能名通りの機能で、システムクラックで触れることが発動条件となる。

しかもこのビット奪取、本来のビットの操作方法とは違う方法で操作するのだ。

本来なら念じる事によってビットを操作する。

そのため、高い集中力が必要であり、BT兵器への適正も必要である。

しかしビット奪取の場合、システムクラックから指令を出す。

例えるならば、ラジコンやゲームと一緒である。

そのため、特にBT適正も必要ないのである。

 

 

セシリアは何とか回避しながらスターライトmkⅢでの射撃を行っているものの、ビットを奪われた衝撃から安定していない。

この状況で射撃での安定性を無くしてしまったら...終わりである。

事実、深夜はビットを滅茶苦茶に動かしてセシリアを混乱させ、自分自身も接近している。

そして、ビットでの射撃がヒットしたとき、

 

 

「これで終わりだぁぁぁ!!」

 

 

「きゃぁぁああああ!!!」

 

 

セシリアに一気に近づき、システムクラックで切り付ける!

ただでさえ驚愕で動きが鈍っているところにビットでの射撃を受けた後だ。

セシリアはこの斬撃もモロに喰らってしまう。

そして...

 

 

『ブルー・ティアーズ、SE(シールドエネルギー)エンプティ!勝者、橘深夜』

 

 

『おぉおおおおおお!!!』

 

 

試合が決着した。

観客は、セシリアのビットを奪った事と、深夜が勝利したことで大いに盛り上がった。

まさかイギリス代表候補生である彼女が負けるだなんて考えてもいなかったんだろう。

しかし、盛り上がる観客の中に混じり、このことを快く思わない人間もいた。

その人間は、女尊男卑思考の人間と、マスター・コントローラーのあまりにも対ブルー・ティアーズに特化した機能に疑問を持った人間だ。

だが、そんな人間がいる事を気にしていないように、アナウンスが鳴り響く。

 

 

『第二試合の、セシリア・オルコットVS織斑一夏は機体調整の時間も含め、15分後に開始します!』

 

 

そのアナウンスが鳴ると、ビットの色が橙から青に戻り、マスター・コントローラーの翼や装甲も元に戻る。

そして深夜は口元を歪めながら自分のピットに戻っていく。

セシリアも、何とかショックから立ち直り、自分のピットに戻っていった。

それぞれの内心の事など観客の大部分には関係ない事であり、第二試合の開始を待っていた...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

セシリアside

 

 

負け、ましたわ...

私は自身のピットに戻り、ひどく落ち込みました。

一夏さんのように昔から戦いと訓練をしていた人ではなく、本当にただの一般人に敗れたことが私の中でとても重くのしかかっています。

もしかしたら、ただの素人に負けたとイギリスの顔に泥を塗ってしまったかもしれません。

本当に泥を塗ってしまっていたら、私はどうしたら良いんでしょうか...

イギリスに迷惑をおかけしたことを謝罪しないといけませんわね...

そうしたら、お父様達にもご迷惑を掛けてしまいますわ...

一夏さんのお陰で和解できたというのに...

 

 

でも、今クヨクヨしても仕方がありませんわ。

次の一夏さんとの試合も集中しないと、一夏さんに失礼ですわ。

それにしても、橘さんの専用機、あれはいったい何だったのでしょうか?

あんな機体見たこともありませんし、何処が開発したのかも分かりませんわ。

そもそも、橘さんは何故専用機を持っているのでしょうか?

一夏さんは『PurgatoryKnights』所属ですが、橘さんは何処の国にも企業にも所属していなかったような気がするのですが...

それに、まるでブルー・ティアーズを倒すためだけの様な機能...

もしかしたら、神様がこの戦いの為に造った機体かもしれませんわね。

...自分で思った事ですが、ありえませんわ。

確かに一夏さんには、ディミオスさんという異世界からのバディがいますが、あのような存在がディミオスさん達以外にいるとは思えませんし、何よりディミオスさん達でもモンスター以外の神様は見たことが無いと仰ってましたからね...

 

 

とにかく今は、一夏さんとの試合に全力で挑みましょう。

以前から訓練をして、お強かった一夏さん。

しかも、あれからも訓練をし続けて、更にお強くなっておられるのでしょう。

正直勝てるとは思えませんが、それでも全力で戦いますわ!

そうしないと、一夏さんにも、私を支えてくれている人にも失礼ですわ!

さぁ、頑張りましょう!!

 

 

 

 




深夜はセシリアに勝ちましたが、機体性能...いや、ブルー・ティアーズメタでゴリ押しした結果です。
これは、純粋な勝利と言えるんでしょうか...?


次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

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煉獄騎士VS蒼い雫

今回も戦闘回です。
うーん、微妙!
バディファイト感を出したかったんだけど、何か微妙になってしまった。

今回はいつも以上に変な感じですが、お楽しみ下さい。


深夜side

 

 

勝った、勝ったぞ!

セシリアとの試合後、俺は自分に与えられたピットで歓喜をしていた。

マスター・コントローラーのブルー・ティアーズメタも上手くいき、俺はセシリアとの模擬戦に勝った。

でも、これだけじゃまだ駄目だ。

一夏との試合で、セシリア以上に完膚なきまでに叩き潰さねぇと、アンチにならねえからな...

白式メタもあるし、ボコボコにするのは簡単だけどなぁ!

次のセシリアVS一夏は、原作通りだろうから、セシリアの勝ちだ。

その後、俺と一夏の試合で、俺が圧倒的にボコボコにして俺が勝つ。

そうすることで、セシリアに俺の強さが証明できるし、学園中に一夏は雑魚って認識を植え付けることが出来る!!

そうしたら、今は一夏に惚れてる箒、それに鈴だって俺のものに出来る!

やっぱり俺が主人公だ!俺がハーレムを作るんだ!!

 

 

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一夏side

 

 

『第二試合の、セシリア・オルコットVS織斑一夏は機体調整の時間も含め、15分後に開始します!』

 

 

そのアナウンスを聞き、俺は試合が終了したことを知る。

試合の観戦が出来ず、勝敗も分からないので、このアナウンス以外は何も聞こえなかった。

だからこそ、このアナウンスで俺は気合いを入れ始めた。

俺は左手にダークコアデッキケースを握りしめ、目を閉じ、集中し始める。

するとここで、

 

 

[マスター、少し宜しいですか?]

 

 

(ん?何だ、白騎士)

 

 

ダークコアデッキケース越しに白騎士が語り掛けて来た。

俺は脳内で白騎士に返事をする。

俺の返事を聞いた白騎士は、続きの話し始める。

 

 

[例の468個目だと思われるISの反応をキャッチしました]

 

 

(本当か!?)

 

 

俺は白騎士の言葉に反応した。

何処にあるか、もしくは訓練機か専用機のどっちなのか分かりさえすれば、かなり調べやすい...

俺はそのまま白騎士の言葉を待つ。

 

 

[はい、そのISは専用機です。しかし、誰が所有しているのかは分かりません。今反応をキャッチ出来たのも、アリーナで使用されたからなのか、近くにいるからなのか、偶々なのかも分かりません]

 

 

(いや、専用機ってことが分かっただけでも収穫だ。ありがとうな、白騎士。今度頭撫でてやるよ)

 

 

[本当ですか!?楽しみにしてます!!]

 

 

おお、白騎士のテンションが上がった。

そんなに撫でられるのって気持ちいいんだろうか?

 

 

『織斑君、試合開始5分前です。アリーナに出てきて下さい』

 

 

「分かりました」

 

 

アナウンスで呼び出しを喰らったため、俺はいよいよアリーナに出ることになった。

 

 

「さて、ディミオス、白式、白騎士、行こうか!!」

 

 

《ああ、そうだな》

 

 

[[はい、マスター]]

 

 

俺はバディと、サポートの返事を聞くと、ダークコアデッキケースを顔の前に持ってくる。

そして、

 

 

「ディザスターフォース、発動」

 

 

戦闘モードで煉獄騎士の鎧を展開する。

ふう、戦闘モードでの試合は初めてだな...

さぁ、行くか!

 

 

「バディスキル、インフェルノサークル」

 

 

俺はバディスキルを発動し空中に浮くと、そのままアリーナに出た。

俺がアリーナに出た瞬間、観客がざわつくのが分かる。

それは当然か...

煉獄騎士は、全身装甲に加え、マント。

それに、通常なら存在するスラスターが存在しないのだから。

俺が定位置に着いたと同時にセシリアもピットから出て来る。

そしてセシリアも定位置に着く。

それを確認すると、俺はセシリアにプライベートチャンネルで語り掛ける。

 

 

「セシリアと戦うのは、これが初めてだな」

 

 

「ええ、そうですわね...相変わらず、恰好いい鎧ですわね」

 

 

「ありがとさん.....セシリア、全力で行くぞ」

 

 

「ええ、勿論ですわ」

 

 

俺とセシリアはここで会話を終わらせ、各々集中する。

さて、確か途中で切り替え出来ないんだよな。

つまりは...アレ(・・)を言ってもファイトモードにならないって訳だ。

俺はそう判断し、左腕を肘から曲げ、手首の眼をセシリアに向ける。

そして、右手を眼に添えるとオープンチャットに切り替え、アレ(・・)を言う。

 

 

「血盟は今果たされる。集え!絶望の軍団!ダークルミナイズ!断罪、煉獄騎士団!」

 

 

俺は言いながら、添えた右手を振り抜く。

俺の後ろでは、ディミオスがSDのままピットの入り口に立ち、ダークネスドラゴンWのフラッグを振っている。

...何時の間に持って来たんだ。

観客は、俺がルミナイズ口上を言ったからか、盛り上がっている。

セシリアも、驚いた表情を浮かべながらも、口元に笑みを浮かべ、

 

 

「私とブルー・ティアーズが奏でる円舞曲で、踊って頂きましょうか」

 

 

『それでは、1年1組クラス代表決定戦第二試合。織斑一夏VSセシリア・オルコット。試合...開始!』

 

 

『えっ!??』

 

 

試合開始アナウンスが鳴ると同時に、セシリアと観客が驚いた声を上げる。

それはそうだろう。

アリーナのメインウィンドウ。

本来だったらSEが表示される部分。

セシリアのものはしっかりと表示されているが、俺のもの...煉獄騎士のものには、ライフ10、ゲージ2、手札6と表示されていた。

 

 

「こ、これはいったい...?」

 

 

「煉獄騎士の仕様だよ」

 

 

俺はそう言い、

 

 

「装備、煉獄剣 フェイタル」

 

 

フェイタルを装備する。

すると、ウィンドウのゲージと手札が1枚ずつ減った。

 

 

「ライフっていうのがSEだ。ゲージが行動エネルギーで、手札が行動選択肢の数だ」

 

 

「な、なるほど...」

 

 

俺の説明で、セシリアは一応納得したようだ。

そして、セシリアも自身の武装であるレーザーライフルを展開する。

それを見て、俺はアリーナの管制室にプライベートチャンネルを繋ぐ。

 

 

「申し訳ありませんが、もう一度開始合図お願いします」

 

 

『は、はい。分かりました』

 

 

そうして、二回目の開始合図が流れる。

 

 

『改めまして、第二試合...開始!!』

 

 

「ゴー・トゥー・ワーク!」

 

 

俺はゴー・トゥー・ワーク(いつもの)を言うと、行動を開始する。

セシリアも、俺に向かってレーザーライフルを撃って来るが、俺は回避する。

俺はアリーナを飛び回りながら、セシリアの事を観察する。

 

 

...やっぱり、千冬姉よりも動けてる。

俺が戦った時、千冬姉は確かに本気だったのだろう。

だけれども、暮桜が万全ではなかった。

暮桜は第一世代ISで、その中でもかなり初期に開発された機体だ。

しかも、束さんが直接開発し、直接千冬姉に渡した機体だ。

整備も殆ど出来てなかっただろう。

もし暮桜も万全だったら、最初の一撃を掠ることなく反撃できただろう。

つまるところ、あの時の千冬姉は全然全力を出せていなかった。

それに比べ、セシリアの機体は第三世代型。

まだまだ実験機かもしれないが、最新の技術が使われ、整備も定期的に行われているのだろう。

操縦者本人は、圧倒的に千冬姉の方が強い。

しかし、セシリアの操作技術も一流のものであり、機体は万全なのだ。

そりゃあ千冬姉よりも動けても違和感を感じない。

 

 

「セシリアァ!お前、第三世代兵器使ってないだろう!本気で来い!」

 

 

俺はプライベートチャネルでセシリアにそう叫ぶ。

するとセシリアは、

 

 

「ええ、分かりましたわ!お行きなさい、ブルー・ティアーズ!!」

 

 

第三世代兵器であるビットを4基スカートから分離さる。

そして、自身と共にビットを動かし、あらゆる方向から俺に向かってレーザーが発射される。

...自分で言っといてなんだけど、結構えぐいな!

俺はそのレーザーを避ける。

ここで被弾すると、後々辛くなるから、ここは避けきる!

セシリアは、如何やらフレキシブルが出来ないらしい。

フレキシブルは、ビームレーザーを曲げる超高等技術で、結構な訓練が必要となる。

セシリアも訓練をしているのだろうが、やはり超高等技術なだけあって、まだまだのようだ。

 

 

「フッ!」

 

 

俺は迫ってきていたレーザーを避け、別方向から迫ってきていたレーザーとぶつけ合って打ち消す。

そのことにセシリアは驚き、ビットの動きが鈍る。

その瞬間に俺はビットの包囲網から抜け出す。

そして、ゲージと手札が1枚ずつ増える。

 

 

(俺のターン!)

 

 

増えた瞬間に、俺が心の中でターンの宣言をする。

そして、右手を前に突き出し、

 

 

「センターにコール、煉獄騎士団 エヴィルグレイブ・ドラゴン!レフトにコール、煉獄騎士団 ナックルダスター・ドラゴン!」

 

 

そう叫ぶ。

すると、俺の右手の中にカードが2枚出現し、一枚は俺の目の前へ、もう一前は俺の左前に飛んでいく。

そうしてそのカード達は、中央にドラゴンの横顔の様な模様が描かれた魔法陣に変わると、その中からそれぞれ、エヴィルグレイブとナックルダスターが現れる。

 

 

『えええええぇぇぇぇぇ!???』

 

 

その瞬間に観客が大声を上げるが、俺は気にせずに突き出したままだった右手を頭上に上げ、

 

 

「そして、ライトにバディコール!煉獄騎士団団長 ディミオスソード・ドラゴン!」

 

 

俺のコールに応じて、ディミオスは持っていたフラッグを地面に突き刺す...なんてことはせず、その辺に放り投げ、ピットからアリーナに出て来た。

そして、空中で紫のエネルギーに包まれると、SDを解除する。

そのまま包まれたエネルギーから出て来ると、俺の右前に降り立つ。

それと同時に、俺のライフがバディギフトで1回復、11となる。

 

 

『嘘ぉぉぉぉおおおお!?』

 

 

この瞬間、ISの世界で煉獄フォーメーションが完成した。

 

 

「さぁ、これで俺は単一能力を発動した...行くぞ!」

 

 

俺がそう言うと、俺と共に、ディミオス、エヴィルグレイブ、ナックルダスターの3竜も行動を開始する。

先程の呟きはオープンチャットにしていたので、観客にも伝わったはずだ。

本当は単一能力とはチョッと違うんだけどね。

俺と3竜はアリーナを飛び回る。

セシリアもスカートに付いていた残りのビット2基を飛ばし、合計6基のビットと共に飛び回る。

そして、セシリアは射撃をするが、的が急に4つに増えたのだ。

狙いが定まっていない。

 

 

 

「アタックフェイズ!エヴィルグレイブ・ドラゴンで、アタック!」

 

 

《ごぁぁぁああ!》

 

 

俺の指示により、エヴィルグレイブがセシリアに向かって攻撃する。

セシリアは突っ込んで来たエヴィルグレイブに向かって射撃をするも、慌てている事によりビットが思うように動いていない。

そして、エヴィルグレイブの攻撃がヒットし、SEが1割削れる。

 

 

「続いて、ナックルダスター・ドラゴンで、アタック!」

 

 

《ははははは!》

 

 

ナックルダスターも追撃し、今度は2割削れる。

 

 

「ディミオスソード・ドラゴンでアタック!」

 

 

更にディミオスソードがセシリアに向かっていくも、

 

 

「ハァァァァ!」

 

 

セシリアは気合いの籠った声を上げると、ディミオスに向かって2基のビットから攻撃する。

それは今までのレーザーと異なり...ミサイルだった。

そのミサイルはディミオスに向かっているものの、

 

 

「させるかぁ!」

 

 

《団長は守る》

 

 

《ぐらぁ!》

 

 

俺とエヴィルグレイブとナックルダスターがミサイルを落とす。

そしてそのまま、

 

 

《フン!》

 

 

「きゃあ!」

 

 

ディミオスの攻撃が当たり、SEが更に2割削れる。

 

 

「ディミオスソード・ドラゴンの効果発動!」

 

 

《勝利のために命を捧げよ。カノナス・カサルティリオ!》

 

 

俺の効果発動宣言と共に、ディミオスから闇のエネルギーが出現し、エヴィルグレイブを包み込む。

 

 

《グァァァ!煉獄騎士団に、勝利を!!》

 

 

「な、何が!?」

 

 

そして、エヴィルグレイブが破壊させる。

俺はエヴィルグレイブが破壊されたときの効果で手札を1枚増やすと、

 

 

「ディミオスソード・ドラゴンで再アタック!」

 

 

ディミオスに再アタックの指示を出す。

セシリアは、エヴィルグレイブが破壊されたときの衝撃で反応が遅れてしまい、また攻撃を喰らい、更にSEが2割削れる。

 

 

「再びディミオスソード・ドラゴンの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

再びディミオスの効果発動宣言をする。

すると、今度はナックルダスターが闇のエネルギーに包み込まれ、

 

 

《ぐひゃはぁ!団長ぉぉぉぉ!勝ってくだせぇ!》

 

 

そう叫びながらナックルダスターは破壊された。

 

 

「ディミオスソード・ドラゴンでアタック!」

 

 

俺の指令で、ディミオスが更に攻撃する。

ただし、

 

 

「流石に何度も喰らいませんわ!」

 

 

セシリアも慣れたようで、ビットを盾にしてディミオスの攻撃を防ぐ。

ディミオスの攻撃を受けたビット2基は破壊され、黒煙が発生する。

...まさか、ビットを犠牲にしてまで生き残るとは。

セシリアも勝利への執念が凄いな...

だけれども、ディミオスに気を取られ過ぎたなぁ!

 

 

「煉獄剣 フェイタル!」

 

 

「えっ...きゃぁぁぁあああ!!」

 

 

俺はセシリアがディミオスに気を取られている隙に、俺はセシリアの背後にハイパーセンサーで捉えられても射撃が出来ない速度で移動した。

瞬時加速とはまた違う加速方法に周りが驚いていたが気にしない。

そして、背後に回った時の勢いを殺さずに(・・・・・・・)フェイタルを構え、そのままセシリアをフェイタルでアタックした。

フェイタルはターン1能力で、自分モンスターが破壊されたときに打撃力が1上昇する能力を持ち、現在の打撃力は3。

これまでの攻撃でセシリアは合計7点ダメージを喰らっている。

そして今、フェイタルのアタックをアタックを喰らい、ダメージ合計は10点!

つまり...

 

 

『GameEnd Winner,RENGOKUKISHI』

 

 

俺の勝ちだ。

 

 

...やっぱりこの音声なのね。

どっから流れてんだ?

 

 

『わぁぁああああああ!!』

 

 

観客は何時もとは違う音声に戸惑っているようだったが、音声の意味を理解したと思われる瞬間に歓声を上げてくれた。

 

 

[むう、マスターが強くて私と白騎士お姉ちゃんの出番がありませんでした]

 

 

(仕方ないじゃん、白式。許せ)

 

 

さて、先ず一勝!

次も頑張りますかね!!

 




エヴィルグレイブって物凄くタイプしにくい。
でも煉獄騎士団デッキではお世話になってた。

今回漸くモンスターコールシーンありの戦闘になりました!
でも、煉獄騎士のアレは無かったです。
出番はありますので、お待ちください。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしてください!

感想も書いて下さると嬉しいです!お願いします!


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第三試合の前に

戦闘シーンの前に1話。

会話シーンは会話シーンでまた違った難しさがある。
いや、小説書くのは基本難しいか。
その中でも特に戦闘シーンが苦手ってだけで。

今回もお楽しみ下さい!


セシリアside

 

 

『GameEnd Winner,RENGOKUKISHI』

 

 

何時もの音声と違いますわね...

何があったのでしょうか?

 

 

それよりも、私は負けたのですね...

一夏さんはとてもお強かったですわ。

橘さんには何回か攻撃が当たりましたのに、一夏さんには一回も当たらなかったですわね。

 

 

「セシリア、いい試合だったな!」

 

 

「ええ、全力で戦えて、スッキリしましたわ!!」

 

 

これは嘘偽りない本心ですわ。

確かに負けてしまった事は悔しいですが、それ以上に一夏さんと全力で戦えて嬉しいですわ!

 

 

『えー、音声がおかしかったですが、気にしないで下さい。第三試合は15分後です』

 

 

「じゃあセシリア、話はまた後で」

 

 

「ええ、次の試合も頑張って下さい」

 

 

「ああ!」

 

 

一夏さんはそう言ってディミオスさんと共にピットに戻っていきました。

表情は隠れて分からないものの、何となく嬉しそうな雰囲気を感じました。

私もピットに戻らないといけませんわね...

私はそう判断し、自身に与えられたピットに戻ります。

 

 

ピットに戻り、ブルー・ティアーズを解除。

そしてピットに備え付けで置いてあるベンチに座り、持って来ておいたタオルで軽く汗を拭き、スポーツ飲料を飲みます。

暫くそのまま休憩し、シャワー室で汗を流してから制服に着替えようと思い、ベンチから立ち上がりました。

するとそのタイミングで

 

 

ピピピ

 

 

と、電子音が鳴りました。

確認すると、ピットまで持って来ていた代表候補生用の通信端末でした。

発信元は...本国!?

私は慌てて通信に応答しました。

 

 

「はい、セシリア・オルコットです」

 

 

『オルコット候補生、今日の模擬戦、お疲れ様』

 

 

「エアリさん、ありがとうございます」

 

 

通信の相手は、イギリス候補生管理官のエアリ・クレントさんでした。

今日模擬戦をするというのは本国に伝えてあり、学園の許可を貰って本国が観戦していたのです。

エアリさんは基本的には柔和な人なのですが、厳しい場面には誰よりも厳しい人です。

そんな人からの通信で正直内心ビクビクしたが、先程の声が柔らかい声だったので、一先ずは安心しました。

 

 

『さて、オルコット候補生。この模擬戦で、イギリスは織斑一夏が所属している『PurgatoryKnights』を除き、世界でかなり早い段階での男性操縦者との模擬戦データを得ることが出来ました。このことに政府もかなり喜んでいます。ビット2基の破壊は、今回は御咎め無しです』

 

 

「はぁ...分かりました」

 

 

如何やら政府はどうしても一夏さんと橘さんとの模擬戦データが欲しかったようですわね...

一夏さんのデータは、特に役に立たなそうなのですが...

 

 

『まぁ、織斑一夏のデータは特に応用が利かなさそうなモノしか集まりませんでしたが』

 

 

やっぱりそうでしたのね。

まぁ、あのような戦闘は一夏さん以外に出来そうもありませんわ。

 

 

『それよりも問題なのは、橘深夜の専用機の事です』

 

 

ここでエアリさんの雰囲気がガラッと変わりました。

通信機越しだというのに、怒気が私にまで伝わってきますわ...

 

 

『橘深夜の専用機のあの機能、あれは確実にブルー・ティアーズのデータが無いと作れないものでした』

 

 

「はい、それは分かっております」

 

 

ビットのコントロールを奪取するだなんて、データが無いと作れませんわ...

 

 

『あなたが入学してから今日までは一週間しかありませんでした。つまりは、あなたからデータが漏れても確実にあの機能を作る事が出来ません。そのため、あなたへの責任追及は行われません。まぁそもそも、あなたがデータを盗まれる隙を与えるなど私達は考えていませんが』

 

 

「エアリさん...」

 

 

私はそこまで信用されていたのですね...

嬉しいですわ。

これからもその信用を失わないように頑張らないといけませんわね。

 

 

『話を戻しますが、仮にデータを盗まれていた場合、本国から盗まれたという事になります。しかし、本国のブルー・ティアーズのデータを管理しているコンピュータに、クラッキングされた痕跡も、ウイルス等を侵入させられた形跡もありませんでした』

 

 

「えっ...?」

 

 

そのことに私は動揺しました。

私でも、本国のコンピュータでもないとしたら、いったい何処からデータが...

 

 

『それに、このような翼をもつISなど、見たこともありません。織斑一夏の所属はハッキリしていますが、橘深夜の所属情報は全く分かりません。橘深夜はいったい何処所属なのですか?』

 

 

「その...橘さんは、何処にも所属していません」

 

 

『はぁ?』

 

 

エアリさんには珍しい声を出していました。

それ程までに、橘さんが無所属だという事が衝撃的なんでしょう。

試合中は私も考えないようにしていたのですが、よくよく考えると、無所属ならあのISのコアは何処から用意したのでしょうか?

それに、誰が開発と組み立てたのでしょうか?

全てを橘さんが出来るとは考えられませんし...

 

 

『オルコット候補生、橘深夜が無所属だというのは、本当なのですか?』

 

 

「はい、本当です」

 

 

私がそう言うと、何やら通信機の向こうでバタバタと音が聞こえます。

如何やら本国も慌てているようですわね。

 

 

『オルコット候補生、我々が誰が橘深夜に専用機を与えたのか調べます。あなたはこれ以上データの流出をさせないためにも、なるべく橘深夜と接触しないでください』

 

 

「分かりました」

 

 

『それでは、この先の学園生活も頑張って下さいね』

 

 

そう言い、通信は終了しました。

...如何やら、2敗してしまいましたが、特に泥を塗った等は無いようですわ...

そのことを認識した時、私は思い切り安堵の息を吐き出しました。

良かったですわ...

 

 

さて、今度こそシャワーを浴びましょう。

そう思ったところで、ピットの扉が開きました。

...先程から、何となく狙ってるんじゃないかというタイミングですわね。

 

 

「オルコット、頑張ったな」

 

 

「物凄い試合でしたよ!」

 

 

「織斑先生!山田先生!ありがとうございます。」

 

 

ピットにやって来た織斑先生と山田先生は、私に労う声を掛けてくださいました。

ブリュンヒルデとその後継者と呼ばれた人に労われると、嬉しいですわね。

 

 

「自分でもいい試合が出来たと思っておりますわ。特に一夏さんはお強かったですわ」

 

 

「当然だろう、織斑は私に勝ったことがあるのだからな」

 

 

「「えっ!?」」

 

 

織斑先生がボソッと呟いたことに、私と山田先生はとても驚きました。

だって、織斑先生は現役時代公式戦無敗で、そのまま引退した伝説のIS操縦者。

そんな織斑先生に、一夏さんは勝ったことがあるのですか!?

 

 

「い、いったいどんな経緯でそうなったんですか?」

 

 

山田先生が織斑先生にそう質問し、私も同調する様に頷きます。

すると、織斑先生は頬をかきながら話してくださいます。

 

 

「...IS学園入学前に、実力が知りたいと勝負を申し込まれた。その時の勝負で敗北したんだ。言い訳をするのならば、暮桜は万全の状態じゃ無かったが、織斑もモンスターコールを使用していなかった。つまるところ、どちらも全力だったが本気では無かった」

 

 

「そ、そうだったのですね」

 

 

いくら万全の状態ではないとしても、あの織斑先生に勝利するとは...

一夏さん、凄すぎですわ!

 

 

「...一応、このことは内密で頼む。私も一夏も、あの勝負には納得していない事がある。いつか本気の勝負が出来た時まで、このことは周りに知られたくないんだ」

 

 

「了解しました」

 

 

「分かりましたわ」

 

 

...お二人とも、まだまだ強くなりそうですわね。

一夏さんに追いつくように、私も頑張らないといけませんわ!

あ、そうですわ。

 

 

「織斑先生、第三試合は私も観戦してよろしいですか?」

 

 

「そうだな...確かにもうオルコットは試合が終了したから、情報アドバンテージ等の差は関係ないな...良いだろう、許可を出す」

 

 

「しかし、織斑先生。アリーナの観客席も、LIVEで流している教室も埋まってしまっていますよ」

 

 

「ム、そうか...仕方が無い。オルコット、アリーナの管制室で観戦しろ」

 

 

「は、はい。分かりました」

 

 

何と、観戦のお願いをしたら管制室で観戦することになりました。

私は汗を流し、着替え終わったら管制室に向かう事になりました。

もうすぐ試合が始まってしまいますので、なるべく早くすることにしましょう。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

「いやぁ、セシリアは強かったなぁ」

 

 

《今回ノーダメージで勝てたのは運が良かったからだろう。次からは確実に被弾をする》

 

 

「ああ、だけれども、負ける気はないけどな」

 

 

《当然だ》

 

 

俺はアリーナからピットに戻って直ぐに、ディミオスとこんな会話をする。

因みにディミオスはもうすでにSDに戻っている。

俺は煉獄騎士の鎧を解除し、そのままピット備え付けのベンチに座る。

 

 

「ふぅ、やっぱり運動は気持ちいいな」

 

 

[マスター、あれが運動なの...?]

 

 

(ん?そうだぞ、白式。疲労感はダークネスドラゴンWで訓練していた時よりも無いしな)

 

 

[私達のマスター、完全に人外だよ...]

 

 

(そんなこと言うなら、もう頭撫でてやらないぞ)

 

 

[ごめんなさい!だからそれだけは!]

 

 

(冗談だよ、冗談)

 

 

[本当ですか?ああ...良かったぁ]

 

 

そんなに良いものなのか?

毎回このことを疑問に思っているが、白騎士も白式も気に入ってるんだ。

きっと良いものなんだろう。

そういう事にしておこう。

 

 

《フム、会話の内容はさっぱり分からないが、一夏が人外だと言われた気がする》

 

 

何で当たるんだよ...

千冬姉に束さんと、俺の思考を読む奴は多いのに、ディミオスまで...

 

 

《一夏よ、我の意見を言わせてもらうが、スラスター等のアシスト無しでセンサーに捉えられても反応出来ない速度を出すなど、我々モンスターと同等の身体能力を持つお前は十分人外だ》

 

 

「いや、博士に頼んでアシストは付けてもらっているんだけど...」

 

 

《それもせいぜい、お前の動きに置いて行かれないための(・・・・・・・・・・・・・・・・・)アシストに過ぎないだろうが》

 

 

「う、そう言われると...」

 

 

俺って人外なのかな?

でも、俺がやっているトレーニングは誰でも出来そうなやつしかしてないんだけどな...

 

 

まぁ、いいや。

それよりも、今は第三試合...深夜との戦いだ。

深夜は無所属だから、多分訓練機かな?

そうだったとしても、全力でいく。

それに、

 

 

「ディミオス、アレ(・・)、使っていいかな?」

 

 

《お前の判断に任せる》

 

 

「了解」

 

 

じゃあ、次も頑張りますか!!

 

 

 

 




やっぱり私はオリキャラの名前を思い付くのに時間がかかり過ぎる!
エアリ・クレントって名前だけで10分くらい使いました。

そして、次回は一夏VS深夜です!
皆さんは、結果が分かっていると思いますが...楽しみにしていてください!

感想を頂くと物凄く嬉しくなります!
なので感想を是非お願いします!


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煉獄騎士VS転生者

第三試合です。
とうとう一夏と深夜が戦います!

皆さん、ぜひ楽しんで行って下さい!

UAが25000を超えました!ありがとうございます!


深夜side

 

 

『橘君、試合開始5分前です。アリーナに出て来てください』

 

 

「はーい」

 

 

さて、第三試合だ。

俺はアナウンスで呼び出されたためマスター・コントローラーを展開し、アリーナに出る。

俺がアリーナに出た時、観客は歓声を上げてくれた。

デカい声だな。

やっぱり俺が主人公だから、ここまでの人気があるんだな!

俺が定位置に着いたとき、一夏に与えられたピットから何かが出て来る。

それは、白式を装着した一夏...ではなく、

 

黒と金がメインカラーで、紅いマントを付けた、全身装甲の騎士だった。

 

...何だ!?何だこれ!?

白式じゃない!?しかも、スラスターも何もない全身装甲!?

こんなIS、原作に無かったぞ!?

って言うか待て、白式じゃないってことは、メタが効かないじゃねえか!!

と、ここで一夏だと思われる目の前の騎士からプライベートチャネルで通信が入る。

 

 

「深夜、戦うのは初めてだな」

 

 

「そ、そうだな...」

 

 

「ん?どうした?そんな呆けたような声で」

 

 

「いや...全身装甲なのに驚いたからな」

 

 

「そっか」

 

 

そう言って通信はここで終わる。

今のは確実に、一夏の声だった...

クソッ!何で白式じゃないんだ!?

俺がそんな事を考えていると、一夏は左手首に付いている目玉の様なものを俺に見せて、そこに右手を添えた。

そして、

 

 

「血盟は今果たされる。集え!絶望の軍団!ダークルミナイズ!断罪、煉獄騎士団!」

 

 

そう言いながら、右手を振り抜いた。

後ろから、一夏のロボットが何かの旗を振っている。

その瞬間に、観客から歓声が上がる。

...何だよそれ!

そんなセリフ、原作にはこれっぽっちも無かっただろうが!?

 

 

いや、大丈夫だ。

白式メタは使えないが、そもそも原作で一夏は素人じゃねえか。

千冬並みの身体能力を持ち、ハイスペックなマスター・コントローラーを持つ俺には勝てねぇ!

俺が勝って、主人公だって証明するんだ!!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

三人称side

 

 

「装備、煉獄剣 フェイタル」

 

 

一夏はフェイタルを装備し、深夜に向かって構える。

深夜は、それを見て慌ててシステムクラックを展開する。

 

 

(クソッ!雪片弐型じゃない!?そもそも日本刀型じゃないだと!?本当に如何なってんだ!?)

 

 

深夜は一夏が使用するものが日本刀型じゃないのに驚いているようだった。

この反応を見るに、深夜は一夏の専用機が白式じゃない可能性を思い付いていなかったようだ。

これまでの学園生活で原作と異なる場面が沢山あったのに、なぜその事を思い付かなかったのか。

 

 

(無所属なのに専用機...まさかあの機体が468個目か?白騎士、白式、データ収集)

 

 

[[はい、マスター]]

 

 

一方の一夏は、深夜が無所属なのに専用機を持っていることに違和感を感じ、白騎士と白式にデータを収集する様に指示を出していた。

白騎士と白式は一夏からの初めての指令だという事で、物凄い張り切っていた。

 

 

『それでは、1年1組クラス代表決定戦第三試合。織斑一夏VS橘深夜。試合...開始!』

 

 

「ゴー・トゥー・ワーク」

 

 

試合開始と同時に、一夏はゴー・トゥー・ワーク(いつもの)を呟き、移動し始めた。

その速度は、最初から加速をせずにかなりの速さになっていた。

そのため深夜は戸惑い、固まってしまう。

一夏はそこそこ長い時間様子を窺うように飛んでいたものの、ここで急に深夜に突っ込み、フェイタルで切り付ける。

しかし、この攻撃は深夜が何となくで構えたシステムクラックにぶつかり、鍔迫り合いになってしまう。

 

 

「チッ...」

 

 

「こ、のおぉ!!」

 

 

深夜は反射的にシステムクラックでフェイタルの事を押してしまう。

一夏は反撃せずにその勢いのまま離れると、フェイタルを構えなおす。

そのタイミングで、ゲージと手札が1枚ずつ増える。

一夏はそれを確認すると、

 

 

「設置、その身を砕き、我を支えよ」

 

 

設置魔法である『その身を砕き、我を支えよ』を発動する。

その瞬間に、一夏の後方に、水晶なようなものが出現する。

その水晶には、様々な武器が重なった絵と、その上にその身を砕き、我を支えよの文字が書いてある。

 

 

「な、何が...!?」

 

 

急なことに、深夜が動揺する。

だが、一夏は気にせずに、そのまま右手を前に突き出す。

 

 

「センターにコール、煉獄騎士団 アイアンゲルド・ドラゴン。レフトにコール、煉獄騎士団 クロスボウ・ドラゴン」

 

 

そして、そのままモンスターコールした。

 

 

「はぁ!?」

 

 

深夜は動揺したような声を出すが、観客は出さ無い。

如何やら、さっきの一回だけで慣れたようだ。

一夏は右手を頭上に掲げ、

 

 

「ライトにバディコール!煉獄騎士団団長 ディミオスソード・ドラゴン!」

 

 

ディミオスをバディコールした。

ディミオスはまたその辺にフラッグを放り投げSDを解除。

そのまま飛んで行き、一夏の右前に出る。

バディギフトでライフが1回復し、11になる。

 

 

「な、何だよ、それ!」

 

 

「アタックフェイズ! アイアンゲルド・ドラゴンでアタック!」

 

 

《いざ!》

 

 

深夜は動揺の声を出すも、一夏は気にすることなくアイアンゲルドにアタックの指示を出す。

アタックの指示を受けたアイアンゲルドは、深夜に突っ込んで行く。

動揺から動きが鈍っていた深夜は、

 

 

《ふんぬぅ!》

 

 

「ぐぁああ!!」

 

 

アタックを受けてしまう。

このアタックで、マスター・コントローラーのSEが2割削れる。

 

 

「クロスボウ・ドラゴンで、アタック!」

 

 

《ハッハハハ!!》

 

 

一夏はクロスボウにもアタックの指示を出し、クロスボウは笑いながら攻撃する。

この攻撃を深夜は避けようとするも、

 

 

《動かないでもらおうか》

 

 

「クソッ!何なんだよぉ!!」

 

 

ディミオスが深夜を羽交い絞めして、動きを止めた。

深夜は何とかもがいているが、ディミオスは人間の身体能力を軽く超えるモンスターだ。

そして、クロスボウの攻撃が当たる瞬間に、ディミオスは深夜の事を離し、離脱した。

深夜は解放されたものの、直ぐに行動は出来なかった。

そのため、クロスボウのアタックもヒットする。

 

 

「あぐぅ!」

 

 

そして、SEが1割削れる。

 

 

「クロスボウ・ドラゴンの効果を発動」

 

 

クロスボウは、相手にダメージを与えた時に、ゲージを1枚増やすことが出来る。

一夏はゲージが増えたことを確認すると、

 

 

「ディミオスソード・ドラゴンでアタック!」

 

 

ディミオスにアタックの指示を出す。

ディミオスは先程まで深夜の近くにいたため、そのまま深夜にアタックする。

 

 

《フンッ!!》

 

 

「うぁあ!!」

 

 

アタックは成功し、SEが更に2割削れる。

 

 

「ディミオスソード・ドラゴンの効果発動!」

 

 

《勝利のために命を捧げよ。カノナス・カサルティリオ!》

 

 

一夏はディミオスの効果発動宣言を行う。

ディミオスは闇のエネルギーを発生させ、そのエネルギーでアイアンゲルドを包み込む。

 

 

《団長!勝って下さいよぉ!!》

 

 

そして、そのままアイアンゲルドは破壊される。

 

 

「その身を砕き、我を支えよの効果を発動!」

 

 

一夏はそのままその身を砕き、我を支えよの効果を発動する。

その身を砕き、我を支えよは、煉獄騎士団のモンスターが効果で破壊されるたびにケージを1枚増やすことが出来る。

 

 

「ディミオスソードで再アタック!」

 

 

《ハァ!!》

 

 

「グハッ!」

 

 

一夏はディミオスに再アタックの指示を出し、ディミオスは深夜にアタックをする。

このアタックも深夜に決まり、更にSEが2割削れる。

 

 

「ディミオスソード・ドラゴンの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

一夏はディミオスの効果再発動宣言をし、ディミオスは再び闇のエネルギーを発生させる。

そして、そのままクロスボウも破壊され、

 

 

「その身を砕き、我を支えよの効果発動!」

 

 

その身を砕き、我を支えよの効果でゲージを更に1枚増やす。

既に深夜は合計7点のダメージを受けている。

打撃力が上がったフェイタルでのアタックが決まれば、一夏の勝ちだ。

そして、連続でダメージを受け、疲弊している深夜にアタックを決めるぐらい簡単だろう。

しかし、一夏は...

 

 

攻撃しなかった。

ディミオスも、深夜から離れ、一夏の右前のポジションに戻る。

 

 

深夜は、体制を立て直すと、システムクラックをいったん格納、ノーストップ二丁を展開し、一夏に発砲する。

 

 

(今のゲージは5...チョッとずつ受けるか...)

 

 

一夏はそう考えると、わざわざ銃弾の着弾点に移動し(・・・・・・・・・・・・・・)、ダメージを1点受けた。

ライフが11から10に減る。

 

 

(よし、当たったぞ!このまま...!)

 

 

深夜は攻撃が当たったことで調子に乗り、そのままノーストップを撃ち続ける。

これに対し、一夏は...

 

 

(大体、あと6、7点受ければいいかな?)

 

 

そんな事を考え、自分から(・・・・)攻撃を受け始めた...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

???side

 

 

「えっ...?」

 

 

私は、無意識にそんな声が口から出ていた。

一瞬、私の見間違いかと思ったが、周囲の観客もざわついているので、見間違いでは無いのだろう。

 

 

私は、日本の代表候補生だ。

だけれども、専用機が無い。

私の専用機を作る予定だった『倉持技研』。

あそこは、所属がはっきりとしている男性操縦者の専用機を勝手に開発した。

...私の専用機の開発をストップして。

しかも、無許可だったのでその男性操縦者の所属会社、並びに世界各国から日本政府と共に批判とバッシングを受けてしまった。

そのため、日本政府からトカゲのしっぽきりでISの開発が出来なくなってしまった。

だから、私は開発途中だった専用機を貰い受け、専用機を1人で造っている。

...姉に追いつくために。

 

 

私の姉は、ロシアの国家代表だ。

昔から、私よりも優秀で色々なことが出来た。

勉強も、運動も...ISも。

何から何まで私よりも優秀で、反対に私は無能だった。

家の人も、周囲も私と姉を比べて、私の事を馬鹿にした。

 

 

まぁ、今は関係ない。

今、私はアリーナの観客席で、1年1組のクラス代表決定戦を観戦していた。

理由は簡単、例の男性操縦者を見るためだ。

私の専用機を奪ったやつを、見るために。

そんな事を思いながら観戦していたが、今の私には恨む気持ちなど微塵も無かった。

それぐらい、その男性操縦者は...織斑一夏は、強かった。

もう1人の男性操縦者とは、明らかに違う強さ。

それを見せられて、恨みなんか消え去ってしまった。

 

 

そして、織斑一夏VS橘深夜の試合。

初めは織斑一夏が優勢だった。

でも、あのまま攻撃していたら勝てた場面で、何故か攻撃しなかった。

それだけでなく、わざと自分から攻撃を受けてている。

何で橘深夜は気づかないのか疑問に思うくらいには、分かりやすい。

一般の生徒でも、わざと受けているのが分かっているぐらいには、あからさまに。

そんな行動を続けて、織斑一夏のライフも4...SEに換算して4割にまで削られていた。

橘深夜も3割しか残っていないので、そこだけ見ると接戦だが、実際には織斑一夏の方が何倍も強いんだろう。

実際、ライフを4にしてからは完全に避けている。

橘深夜はイライラしているように感じる。

さっきまで当たっていた(当たられていた)ものが当たらなくなったのだから、イライラしているんだろう。

 

 

「クソォ!こうなったらぁ!!」

 

 

ここで急に橘深夜が叫んだと思うと、ハンドキャノンを引っ込め、接近ブレードを展開した。

そして、機体を光らせる。

第一試合の時は橙の部分だけだったが、今回はすべての色が光っている。

これが全力なのかと思ったが、同時に奥の手を出さないといけないぐらいには追い詰められているんだろうと思った。

さっきまで織斑一夏は自ら被弾していた。

そんな相手にこんなに凄そうな技を使うだなんて...

そんな事を考えていると、橘深夜はブレードを構え、

 

 

「喰らえええぇぇぇ!!」

 

 

と、物凄い速度で織斑一夏に突っ込んでいった。

これを見て、織斑一夏は左手を突き出し、

 

 

「カウンターファイナル!キャスト!!」

 

 

と叫んだ。

そして、その次の瞬間...

 

 

 

 

 

『GameEnd Winner,RENGOKUKISHI』

 

 

 

 

 

その音声が流れた。

急にその音声が流れたので、私を含めた観客は全員一瞬呆けたが、慌ててアリーナを見る。

するとそこには...

 

 

ISが強制解除され、アリーナに倒れこんでいる橘深夜と、

 

何時の間にやらフルフェイスだった頭部の前を開き、左手を振り下ろした後の織斑一夏だった。

 

 

観客も、いったい何が起こったのかと、黙っていたが、織斑一夏の勝ちだという事で歓声を上げる。

周りが盛り上がる中、私は声を出せなかった。

 

 

織斑一夏は、最初からこれを狙っていたんだろう。

...強い。

私は、織斑一夏の強さに引き込まれていた。

どうやったら、あそこまで強くなれるんだろうか?

...知りたい。

あの強さの、秘密を...

 

 

 

 




さて、皆さんの予想通り...いや、これしかないだろうという展開通りに一夏が勝ちました!
次回は、試合途中の一夏視点からです。

皆さんは、???が誰か、直ぐに分かってしまいましたよね。
一夏との接触は、もう少しお待ちください。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想を頂くと、物凄く嬉しいです!感想を、ぜひお願いします!!


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決定戦後の出来事

本日2話目。
サブタイは決定戦後ですが、始まりはガッツリ第三試合の途中の一夏視点になります。
前回使ったアレの一夏視点が!

今回もお楽しみ下さい!


一夏side

 

 

さて、ライフが4になったなぁ。

ここからは避け始めるか...

クラス代表決定戦第三試合の途中。

俺はこの試合、必殺技(・・・)で決めようとしていたので、大体の発動条件を揃えた。

後は、深夜の行動次第だな...

 

 

俺が自分から当たるのを止めて数分。

深夜はだんだんイライラしてきたようで、さっきから当たる気配が無い。

いや、さっきも自分から当たってたんだけどね...

 

 

「クソォ!こうなったらぁ!!」

 

 

深夜は急にそう叫んだかと思うと、ハンドキャノンを仕舞い、ブレードを取り出した。

そして、何か光りながらこっちに突っ込んで来た。

おお、何か派手だなぁ...じゃなくて。

 

 

相手のライフ(SE)が4以下。

お互いのセンターにモンスターはいない(そもそも深夜は出せない)。

そして、相手が必殺技(単一能力、又はこちらの残りライフ4以上を一発でなくせるだけの攻撃)を使用。

この深夜の攻撃は、どう見ても俺の残りライフを吹き飛ばせるだけの威力はある。

 

 

つまり、条件はそろった。

俺は左手を突き出し、叫ぶ。

 

 

「カウンターファイナル!キャスト!!」

 

 

この瞬間、世界が灰色に包み込まれる。

俺以外のものからは色が消え失せ、自由に動くことすらできない。

まるで、俺以外の時間が止まっているようだ。

俺はそんな事を思いながら、言葉を発する。

 

 

「歪め世界よ!時を巻き戻し、悲しみを消し去れ!」

 

 

この時に、煉獄騎士の鎧の頭部の前が開き、俺の顔が見れるようになる。

 

 

「絶無の剣!」

 

 

俺の目の前に紫の巨大な魔法陣が出現する。

その魔法陣は立体的に回転すると、中からあまりにも巨大な片刃剣が出現する。

その剣は、光る銀色で刀身の中央に紫色の円盤が幾つも埋め込まれている

 

 

「ディストーション・パニッシャーーーーーぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 

 

俺は叫びながら、左手を振り下ろす。

叫びと動作に応じ、剣が深夜に振り下ろされる。

その剣は、深夜の残りSEを全て削り取ると、無数のオレンジの長方形の物体になりながら弾け、その物体も消滅する。

深夜は剣が振り下ろされた時の衝撃ですでに地面に横たわっていて、機体も強制解除されていた。

そして、物体が消滅するのと同じタイミングで世界に色が戻り、

 

 

『GameEnd Winner,RENGOKUKISHI』

 

 

俺の勝利アナウンスが鳴り響く。

観客は暫く呆けていたものの、すぐさま物凄い歓声を上げてくれる。

あまりの声量に鼓膜が破れるかと思ったのは内緒だ。

 

 

地面に横たわった深夜は...如何やら気絶しているようだ。

俺がその事をアリーナの管制室に伝えると、1分もしないうちに担架を持った教員が出て来て、深夜を医務室に連れて行った。

...食堂もだけど、IS学園は仕事が早いなぁ。

 

 

《一夏、戻るぞ》

 

 

「はいはい」

 

 

ディミオスにそう言われたから、俺は自分のピットに戻る。

 

 

「ディザスターフォース、解除」

 

 

俺はピットに戻り、煉獄騎士の鎧を脱ぐ。

そして、第二試合と同様にベンチに座る。

ディミオスはSDに戻ると、ダークネスドラゴンWのゲートを開き、その中にフラッグを戻した。

俺はそんなディミオスを見ながらスポーツドリンクを飲む。

一本丸々飲み干した時に、白式と白騎士に語り掛ける。

 

 

(白式、白騎士、データは集まったか?)

 

 

[それなんだけど...]

 

 

[あのISのデータは殆ど入手出来ませんでした]

 

 

(そうなのか...)

 

 

[うん。コアネットワーク越しも呼びかけにも応じなかったの]

 

 

[それが、コアネットワークに接続してなかったからなのか、情報を塞いでいるからなのか分かりません]

 

 

(いや...やっぱりあのISが怪しいってことが分かっただけでも収穫だ。...こんなことして俺は怒られないんだろうか?)

 

 

[ISと話せるのがマスターだけだから問題ないよ]

 

 

[そうです。ISが調べた情報をISから聞いてはいけませんだなんてルール無いですよ]

 

 

(そうなんだけどなぁ...)

 

 

心配になるじゃん。

何はともあれ、これでクラス代表決定戦は終了だ。

...あれ、俺二勝したから、クラス代表?

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「はい、という事で、1年1組クラス代表は二勝した織斑君に決定しました~!あ、一繋がりで良いですね~」

 

 

翌日の朝のSHR。

山田先生が開口一番その事を言ってきた。

最後の一繋がり云々は分からないが、やっぱり俺がクラス代表に決定したようだ。

クラスメイトも拍手をしながら

 

 

「一夏君おめでと~!」

 

 

「かっこよかったよ~」

 

 

「クラス対抗戦も頑張ってね!」

 

 

等と言ってくれる。

...何か恥ずかしい...いや、照れるな。

 

 

「織斑、クラス代表に就任したコメントでも言え」

 

 

織斑先生、そういうのは事前に言って下さいよ...

まぁ、やりますけどさ。

俺は席から立ち、皆の方を振り返る。

その時に、ディミオスも胸ポケットからSDで出て来て俺の頭の上に乗る。

...地味に重いような、そうでもないような...

別にいいけど。

 

 

「クラス代表をさせて頂くことになりました!精一杯頑張るので、皆も協力してください!よろしくお願いします!」

 

 

《我もたまに単体で行動することがあるかもしれない。その時にも、よろしく頼む》

 

 

『頑張ってね、一夏君!!』

 

 

おお、こういうので声がピタッと揃うってすげえ。

ディミオスの挨拶もキチッとしてるし...

 

 

「フム、大体の挨拶は終了したな。織斑、着席しろ」

 

 

自分で立たせておいて座れとは...

何とも理不尽だな。

 

 

ズドン!!

 

 

クラスメイト全員+山田先生が俺の事を驚いた表情で見て来る。

それはそうだろう。

俺は織斑先生に出席簿を振り下ろされたため、前回とは違う方法で躱そうとした。

俺は振り下ろされた出席簿...ではなく、織斑先生の腕を掴み、足を払って転ばさせた。

勿論、教師であり姉であり女性である人なので、怪我をさせるなんてミスはしない。

 

 

「織斑先生、危ないじゃないですか」

 

 

「...教師の足を払うお前の方が危ない」

 

 

「それを言ったら、教師なのに生徒に暴力を振るおうとした上、自宅の冷蔵庫を酒でパンパンにしながら家事一切合切を弟に任せてるアンタの生活力の方が危ない」

 

 

「それを言うなぁ!」

 

 

「...ここでのその反応は肯定ですよ?」

 

 

「ナニィ!?しまった...」

 

 

俺と織斑先生...千冬姉の漫才を全員が呆けたような表情で見ている。

 

 

「まぁ、こんな即興姉弟漫才は関係なくてでですね...」

 

 

「そ、そうだぞ...今の話は織斑とのチョットしたじゃれ合いだ。事実ではないからな?」

 

 

織斑先生、その反応は...

 

 

『はい、分かりました』

 

 

ワオ、随分と織斑先生は信頼されているようだ。

 

 

「さて、丁度いい時間なので、これでSHRを終了する」

 

 

「一時間目は私の授業なので、しっかりと準備しておいて下さいね」

 

 

織斑先生と山田先生はそう言って教室から出て行った。

俺はそのまま自分の席に座る。

 

 

《一夏...この空気はどうするんだ?》

 

 

「...山田先生に任せよう」

 

 

教室内の微妙な空気を感じながら。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

時間は進み放課後。

俺はディミオスと共に食堂にいた。

理由は夕飯を食べるため...ではなく、

 

 

『一夏君、クラス代表就任おめでとう!!』

 

パーン!!

 

この、クラス代表就任おめでとうパーティーに主役として参加するためだ。

因みに、パーン!!はクラッカーの音だ。

 

 

「...こうやって祝われるのって、何か恥ずかしいな」

 

 

《真顔で言っても説得力無いぞ》

 

 

「表情に出てなくてもそう思うの」

 

 

俺はディミオスとそんな会話をする。

って言うか、表情に出てないの?

...まぁ、いいか。

折角クラスメイトの友人がこうやって祝ってくれてるんだ。

楽しまないとな!

 

 

それから暫くの間、俺達はドリンクを飲み、飯を食べながら談笑した。

因みにだが、この場には篠ノ之と深夜がいない。

篠ノ之がいるとまーた暴力を振るう気がして呼ばず、深夜は誘われたけど断ったらしい。

らしいというのは、俺はついさっきまでこのパーティーをやる事を知らなかったため、そこら辺を知らないのだ。

...ん?まて、クラスメイト以外の人がいるぞ。

良いのか?.....良いのか。

そうして過ごしていると、

 

 

「はいはーい!新聞部でーす!織斑君にインタビューをしに来ました!!」

 

 

との声が聞こえた。

俺がその方向を見ると、眼鏡を着用し首からカメラを下げ、腕には新聞部と書いている紙を付けた生徒がいた。

リボンの色から見るに...2年生か。

 

 

「お、いたいた。私は新聞部副部長の黛薫子です!よろしくね!」

 

 

その生徒...黛先輩はそう言いながら名刺を渡してくる。

...随分本格的だな。

俺はそう思いながら自分のポケットから自分の名刺入れを取り出し、そこから自分の名刺を出して黛先輩に差し出しながら

 

 

「ご丁寧にありがとうございます。私は『PurgatoryKnights』所属の織斑一夏です。よろしくお願いいたします」

 

 

と言った。

本来だったら相手に名刺入れを取り出すところは見せないんだが...

学校内だし、これぐらいは問題ないだろう。

黛先輩は...

 

 

「う、うん...こちらこそよろしくお願いします...」

 

 

と、何故か敬語になりながら名刺を受け取った。

...名刺を頂いたからこちらの名刺を差し出しただけなのに、何でこんな空気になるんだ。

 

 

「それで...取材、でしたっけ?」

 

 

「うん、そうそう!」

 

 

おお、急に元気になった。

どんだけ取材が好きなんだ...

 

 

「じゃあ、さっそく取材をしていくね!まずは...クラス代表になった意気込みをどうぞ!」

 

 

「...まぁ、やれるだけの事をするだけです」

 

 

「えー、それだけ?まぁいいか、あとで捏造するし」

 

 

「ディミオス」

 

 

《動かないでもらおうか》

 

 

「ヒィ!!」

 

 

何らや聞き捨てならない事を呟いたので、ディミオスに指示を出し、黛先輩を取り押さえてもらう。

俺はそのまま黛先輩に近づくと

 

 

「うん...そんな事をしたらどうなるのか...分かるよね?」

 

 

キョウヤさんの口調そのままで黛先輩にそう言う。

何となくだが、パイプオルガンの音が聞こえた気がした。

本当だったら先輩に敬語を使わないのはよろしくないのだが...今回は良いだろう。

 

 

「は、はい!ごめんなさい!」

 

 

黛先輩は物凄い勢いで謝って来る。

...ここまでだと、俺にも罪悪感が。

 

 

「...私も言い過ぎました。ごめんなさい」

 

 

「いやいや、此方が悪いので...取材を再開してもいいですか?」

 

 

「いいですよ」

 

 

そこからは、和やかな感じで取材が進んだ。

黛先輩も笑顔だったので、トラウマは植え付けてないだろう...多分。

そのまま黛先輩はセシリアにも取材をした。

その後に、何故か俺とセシリアのツーショット写真を撮る事になったのだが、クラスメイトが全員映り込み、篠ノ之と深夜を除くクラスの集合写真になった。

まぁ、いいか。

こうして、放課後の時間は過ぎて行った。

楽しかったなぁ...

 

 

 

 




ディストーション・パニッシャーは、通常版と究極レア版で、タスク先輩の表情がチョッと変わるんですよ!
この究極レアが好きすぎて、絶対に煉獄騎士団のデッキから抜いてませんでした。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想を頂けると物凄く嬉しいです!是非感想をお願いします!!


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中華娘襲来!

サブタイでも分かる通り、遂にあの子が!
作者は何党って訳でも無いですが、この子は結構好きです。
しかし、党か...
ブランケッ党ってありですかね?

今回もお楽しみ下さい!


深夜side

 

 

クラス代表決定戦翌日の放課後。

俺は寮の自室にいた。

今頃食堂では、一夏のクラス代表就任パーティーをしているんだろう。

 

 

...何でだよ!!

 

 

何で俺が負けたんだ!

何で一夏が勝ってんだ!

俺は主人公だろうが!

踏み台の方が目立ってるなんて、俺は認めねえぞ!!

そもそも何で白式じゃねえんだよ!

ふざけんなぁ!!

 

 

セシリアも俺と関わろうとしないし...本当に何でだよ...

いや、まだだ。

この先も様々な事件が起こる。

そこで俺が活躍するんだ。

俺は主人公なんだぁ!

俺が、この世界の中心なんだぁ!!

俺が、俺がハーレムを作るんだぁ!!!

 

 

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三人称side

 

 

深夜が自室で妄言を吐いている時、IS学園の校門前に、一人の少女がいた。

その少女は小柄で髪をツインテールにしており、ボストンバックを背負っていた。

 

 

「えっとぉ、確か総合受付に行けばいいのよね...総合受付ってどこよ」

 

 

その少女はそう言いながら、ポケットからIS学園のパンフレットを取り出す。

ポケットの中でくっしゃくしゃになっていたのは、彼女が物凄く行動的だからだろう。

 

 

「本校舎一階...だからそれって何処よ...まぁいいか。歩けば着くでしょ」

 

 

彼女はまたパンフレットをぐしゃぐしゃにポケットに入れなおすと、総合受付を目指した歩き始める。

ただ、適当に歩いて直ぐにつく訳もなく、たっぷり20分の時間をかけ、漸く総合受付に着いた。

 

 

「はい、以上で転校手続きは完了です。IS学園へようこそ、凰鈴音さん。これが寮等の施設利用のルールなので、目を通しておいて下さいね」

 

 

「...こんな分厚いものをですか?」

 

 

まぁ、そう尋ねるのは無理はない。

渡されたルールブックは『あなたの町の電話帳』位の分厚さがあるのだ。

 

 

「はい、目を通しておいて下さいね」

 

 

「.....はい、分かりました」

 

 

受付担当者の変わらない表情にビビり、そのまま頷く。

 

 

「それで、私は何組になるんですか?」

 

 

「2組ですね」

 

 

「それで...織斑一夏って何組何ですか?」

 

 

「織斑君ですか?織斑君は1組です」

 

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

 

その後、寮の鍵を渡され、寮に向かう事になった。

 

 

(心配かけさせたぶん、覚悟しなさいよ、一夏...!)

 

 

こうして、凰鈴音は、IS学園に転校してきた。

さぁ、またひと悶着ありそうですねぇ。

 

 

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一夏side

 

 

翌日、朝のトレーニングを終え、朝食等諸々の準備を終えた俺は教室に向かっていた。

今日はディミオスはダークネスドラゴンWに戻っている。

そのため、俺は一人で歩いている。

 

 

暫く歩き、1年1組の教室に入る。

すると、教室が物凄くざわざわしているのに気付く。

 

 

「おはよう、何かあったのか?」

 

 

「あ、おはよ~おりむ~」

 

 

取り敢えず挨拶をすると、のほほんさん事、本音が挨拶をしてくれる。

 

 

「ああ、おはよう。それで、何があったの?」

 

 

「えっとね~、隣のクラスに転校生が来たんだって~」

 

 

「転校生?まだ4月だぞ?」

 

 

そういうのって、早くても5月何じゃ...?

俺がそう思っていると、

 

 

「おはようございます、一夏さん。如何やらその転入生は中国の国家代表候補生らしいですわ」

 

 

「おはよう、セシリア」

 

 

と、セシリアが声を掛けてくれた。

俺はセシリアに挨拶を考えながら、ある事を考えていた。

中国。

...アイツは、元気かなぁ。

中1で誘拐された後から、1回もあっていない処か、連絡すら取ってないからなぁ。

 

 

「一夏君!転校生も大事だけど、クラス対抗戦も大事だよ!」

 

 

「清香...何かあったっけ?」

 

 

「何言ってるの!優勝したクラスには、食堂のデザートフリーパスが与えられるんだよ!」

 

 

そうでした...

あまり自分ではデザートとか食べないから忘れてた。

しかし、そこまで盛り上がれるんだな...

やっぱり女子って甘いものが好きなのね。

俺と清香がそんな会話をしていると、何時の間にやら癒子達も会話に加わってきていた。

 

 

「そうそう、だから絶対に優勝してもらわないと!」

 

 

「...プレッシャーを掛けないでくれ」

 

 

「大丈夫だって!だって一夏君、凄い強かったじゃない!」

 

 

「そうそう!それに、専用機持ちって、1組と4組にしかいないから余裕だよ!」

 

 

「その情報、古いわよ!!」

 

 

ナギの言葉に被せるように、教室の外から声が聞こえる。

俺達が全員その方向を振り返る。

そこにいたのは、小柄でツインテールの少女だった。

 

 

「2組のクラス代表も専用機持ちになったの!今日は先生布告に来たってわけ」

 

 

その言葉に何だ何だと教室がざわつく。

急に宣戦布告何て言われたんだ、当然だろう。

そんな中、俺は...

 

 

「アッハハハハハ!何やってんだ?似合ってねぞ?」

 

 

「うるさい!笑うなぁ!!」

 

 

爆笑していた。

周りが俺の事を見て来るが、俺は気にせずその少女に声を掛ける。

 

 

「久しぶりだな、鈴」

 

 

この少女は、凰鈴音。

小学生からの俺の幼馴染であり、悪友だ。

 

 

「本当に、久しぶりね、一夏!」

 

 

鈴はそう言いながら俺に向かってきた。

そしてそのまま俺にキックを.....放たれる前に、俺は鈴の額に指を当てる。

体格差も相まって、鈴は移動できずにバタバタしていた。

 

 

「チョッと!放しなさいよ!」

 

 

「放したらキックするだろ」

 

 

「当然よ!私や弾や蘭、数馬がドンだけ心配したと思ってんの!?」

 

 

「それは...悪かったよ」

 

 

確かに、連絡取ってなかったけどさぁ。

 

 

「まぁ兎に角、SHRが始まるからそろそろ教室に戻れ。さもないと...」

 

 

「さもないと?」

 

 

バキィ!!

 

 

「...俺がこうやって出席簿を壊さないといけなくなる」

 

 

「.....凰、教室に戻れ」

 

 

「ち、千冬さん...」

 

 

「織斑先生だ!」

 

 

「分かりました!それでは、教室に戻ります!」

 

 

鈴はそう言うと、そそくさと教室に戻っていった。

俺はそれを確認すると、織斑先生に声を掛ける。

 

 

「織斑先生、いきなり出席簿で殴るのはよくないですよ。俺、IS学園に入ってから凶器壊すの3回目ですよ?」

 

 

篠ノ之の木刀が1回、織斑先生の出席簿が2回。

...出席簿って、凶器じゃないんだけどな。

篠ノ之はもう1本木刀を折られているが、折ったのは俺じゃなくてディミオスだからな。

 

 

「ルールを守らない奴に、罰を与えるのは当然だろ」

 

 

「いきなり叩くのがまずいんですよ。それに、汚したら自分で掃除するのが普通なのに、()が掃除するまでそのままの駄姉(アンタ)が言っても言葉に重みが無いですよ?」

 

 

「プライベートを口にするなぁ!!」

 

 

「...だから、その反応は肯定ですよ?」

 

 

「しまった!?」

 

 

学習能力が無いのか?

いや、あるはずなんだけどなぁ。

無いのは家事能力だけにしてくれ。

 

 

「まぁ、姉弟漫才はこれぐらいにして、山田先生もオロオロしてますし、SHRを始めてください」

 

 

「...なら、お前は着席しろ」

 

 

「はい」

 

 

俺はそう言いながら、着席する。

織斑先生は咳ばらいをすると、

 

 

「先程の話も、この前同様に織斑とのじゃれ合いだ。本気にするな。それでは、SHRを開始する」

 

 

と話をして、SHRを開始した。

何時か、この漫才でも隠し通せなくなりそうだな...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

昼休み、俺は何時ものように食堂に向かっていた。

俺の後ろには、何時ものようにセシリア達がゾロゾロ付いて来ている。

...これ、全員白衣着たら病院だな。

そんな事を考えていると、食堂に着いた。

食券を買おうと、食券機に向かおうとするが、

 

 

「遅い!待ってたわよ、一夏!」

 

 

ラーメンセットを持った鈴がいた。

待ち合わせしてないんだから、タイミングは違くて当然だろうが。

 

 

「取り敢えず、席取っといてくれ」

 

 

「分かったわ」

 

 

そう言いながら、鈴は素早い動きで席を確保してくれた。

...スープ零れてないのが凄い。

俺は日替わり定食を注文し、受け取る。

お、今日は生姜焼きか...

さてと、鈴は...

 

 

「一夏!こっちよ!」

 

 

お、そっちか。

俺は鈴が確保してくれた席に向かい、座る。

周りの席には、さっきまで俺の後ろにいた人達がそろって座っている。

...この人数でも物凄く早い食堂スゲェ。

 

 

「アンタ、本当に今までどこにいたのよ!」

 

 

「取り敢えず飯を食え、伸びるぞ」

 

 

「それもそうね」

 

 

鈴はそう言い、ラーメンを物凄い勢いで啜る。

俺はそれを見ながら生姜焼きを食す。

うん、美味い。

 

 

「はぁ~~、美味しかった。ご馳走様」

 

 

「早いな」

 

 

「ラーメンは、早く啜ってナンボよ!」

 

 

「そういうもんか?」

 

 

「そういうもんよ」

 

 

コイツは変わんねえな。

昔っから、こうやってサバサバしてんだよなぁ。

俺がそんな事を考えていると、

 

 

「あの、一夏さん。この方とはどういった関係なのですか?」

 

 

セシリアが俺と鈴の関係を尋ねて来た。

うんうん、と周りの生徒も頷く。

まぁ、説明はしないといけないよなぁ。

 

 

「コイツは、俺の小学校の頃からの幼馴染で、悪友だよ。鈴、自己紹介」

 

 

「分かってるわよ!私はアンタの子供じゃないのよ!」

 

 

「へいへい」

 

 

いやぁ~、ディミオスにそうやって指示出すことがあったから、つい。

 

 

「コホン、私は凰鈴音、鈴って呼んで頂戴。中国の国家代表候補生で、一夏の幼馴染よ!」

 

 

「ご丁寧にありがとうございます。私はセシリア・オルコットと申します。イギリスの国家代表候補生で、一夏さんの友人ですわ」

 

 

「へぇ~~、一夏、友達作れたんだ」

 

 

「うるせぇ、言ってろ」

 

 

確かに、中学の時は鈴と弾と数馬しか友人居なかったけどよ。

因みに、蘭は俺の中では友人の妹なので、友達カウントはしてない。

いや、仲は良いんだよ。本当だぞ。

俺が一人でそんな事を考えていると、清香達も鈴に自己紹介をしていた。

鈴はコミュ力高いし、直ぐに新しい友人位作れるだろう。

お、最後のさゆかの自己紹介が終わった。

ここは...ふざけるか。

 

 

「『PurgatoryKnights』所属の織斑一夏です。よろしくね、凰さん」

 

 

「いちいち一夏まで自己紹介しなくてもいいわよ!」

 

 

鈴の突っ込みで、辺りが笑いに包まれる。

コイツは、やっぱムードメーカーだな。

 

 

「それよりも一夏、アンタ本当に何してたのよ。連絡もせずに」

 

 

「アレ、鈴の嬢ちゃん、気になっちゃう感じでござんす?」

 

 

「何よ、その口調」

 

 

「ムクロ様の口調だよ」

 

 

「誰よ!?」

 

 

ム、失礼な奴だな。

角王であられるムクロ様を知らないだと?

まぁ、当然だな。

知ってたら俺がビックリするぜ。

 

 

「まぁ、その話は追々するとして、やっぱり、聞く?」

 

 

「当たり前でしょ!私はアンタの幼馴染であり、友人よ?聞かない訳ないじゃない」

 

 

それを聞き、俺は頷き、説明をしようとした。

しようとした。

そう、しようとした。

 

 

これで、妨害が入ったのは分かるだろう。

それで、その妨害っていうのが...

 

 

「幼馴染だと?如何なっているのだ、一夏!!」

 

 

篠ノ之である。

はぁ、全く、コイツはぁ...

 

 

 

 




皆さん、先に言っておきますが、この世界では一夏は中1の時点で日本を離れているので、鈴の酢豚事件は起こってません。
そもそもヒロインでは無いので...
鈴は、設定集Ⅰに後程追加しておきます。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想を頂けるととても嬉しいので、是非お願いします!


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顔見知りと幼馴染

最近、深夜の影が薄いなぁ。
まぁ、イレギュラーの屑転生者の扱いはこんなもんで良いですよね。

今回もお楽しみ下さい!


一夏side

 

 

昼休み、隣のクラスに転校してきた幼馴染の鈴と共に過ごしていた。

鈴は持ち前のコミュニケーション能力の高さで、セシリア達ともう馴染んでいた。

そして、鈴が俺が今までどんな事をしてきたのか気になって俺に尋ねて来た。

俺が説明をしようとした時に、

 

 

「幼馴染だと?如何なっているのだ、一夏!!」

 

 

と言いながら篠ノ之が乱入してきた。

チラッと周りを見ると、鈴は誰?というような表情になった。

まぁ、こいつらは初対面だし、その反応は当然だ。

そしてセシリア達は、思いっきりため息をついた。

如何やら、俺の話と、今までに取った篠ノ之の行動でメンドクサイ問題児だと伝わったようだ。

 

 

「ねぇ一夏、誰?」

 

 

「俺の顔見知り」

 

 

鈴に誰か聞かれたので、俺は素直に答えた。

本当はもう知り合いだと思いたくないけどな...

 

 

「顔見知りだと?ふざけるな!私はお前の幼馴染だろう!」

 

 

「だから、違うって何回も言ってるだろうが!俺の幼馴染に篠ノ之箒という人間はいない。俺の幼馴染と呼べる人間は、凰鈴音だけだ」

 

 

「一夏、嬉しい事言ってくれるじゃない」

 

 

「事実であり、真実だ」

 

 

そう、これが事実と真実だ。

篠ノ之は、昔に俺に剣道を通じて散々俺に暴力を振るった。

鈴は、周りに千冬姉と比較され、傷つけられた俺の味方でいてくれた。

如何考えたって、篠ノ之が俺の幼馴染な訳がない。

俺の味方でいてくれたのは鈴だけではないが、束さんは変態家事無能駄目兎...いや、知り合いのお姉さん。

こんな事を思えるのは、信頼関係があるからですよ。決して束さんを馬鹿にした訳じゃないよ?

五反田家の人達と御手洗家の人達と関わり始めたのは中学生からなので、幼馴染では無い。

よって、俺の幼馴染は鈴だけとなる。

 

 

俺の言葉を聞いた篠ノ之は、暫く固まっていたが、

 

 

「私が幼馴染じゃ無くて、こんなチビで、頭の悪そうな奴が幼馴染だと!?何を言っているのだ、一夏!いい加減目を覚ませ!お前の幼馴染は私だけだろう!」

 

 

コイツ...今、鈴の事馬鹿にしやがった。

 

 

「ふざけるのもいい加減にしろ、篠ノ之箒」

 

 

俺の、俺の大切な友人を、コイツは馬鹿にしやがった。

 

 

「お前は俺の幼馴染では無い。ただの知り合い...いや、知り合いだと思うのも嫌だ。さっさとどっかに行け」

 

 

「一夏ァァァァ!!!」

 

 

俺が怒りを爆発させないように内心で堪えながら、篠ノ之にそういう。

すると篠ノ之は何時ぞやのように木刀...いや、違う。

これは...鉄パイプ!?

コイツ、周りに人が、俺の友人が沢山いるのになんてもんを!

俺は更に怒りをため込みながら、行動を開始する。

コイツから鉄パイプをはじくと、被害が出る可能性がある。

つまり...!

 

俺は篠ノ之の持つ鉄パイプを殴り、90度に曲げる。

 

 

「何!?」

 

 

篠ノ之が驚愕したような声を上げる。

俺はそれを無視し、篠ノ之の裾と胸元を握り、背負い投げの要領で地面に叩き付ける。

 

 

「あぐぅ!」

 

 

篠ノ之はその時の衝撃で気絶した。

勿論、骨折等の怪我はしないように調節した。

本心では背骨ぐらいへし折ってやりたがったが、傷害事件を起こすと、千冬姉にも会社にも迷惑が掛かる。

流石にこれ以上千冬姉の負担は増やしたくないし、会社のイメージダウンをさせてはいけない。

そのため、気絶にとどめておいてやった。

 

 

「何があった!?」

 

 

騒ぎを聞きつけたのか、織斑先生が怒鳴りながらやって来た。

...もう負担増えてた。

 

 

「このアホが何時ものように絡んで来て、鉄パイプを取り出したので、無力化して気絶させました」

 

 

「またコイツは...」

 

 

俺の説明を聞き、織斑先生は思いっ切りため息をついた。

まだ4月だというのに、篠ノ之が凶器を取り出したのは3回目。

その内1回は揉み消されたが、それでも多い。

毎回毎回俺がもう関わるなと言っているのにも関わらず、篠ノ之は凶器を隠しながら俺に絡んでくる。

学習能力が無さすぎるし、反省もしていない。

だけれども...

 

 

「織斑先生、やっぱりコイツは退学にならないんですよね」

 

 

「...ああ、そうなってしまう。コイツはこんなんでも束の妹だ。退学処分には出来ない」

 

 

「「はぁ...」」

 

 

何でコイツが束さんの妹なんだ...

束さんが怖いから、妹であるコイツの罪は無くなるし、罰も軽いものになる。

罪と罰が、やった事に対して殆どないからまた同じ事をする。

その度に凶器を取り出し、振るう。

 

 

...もしかしたら、ここでの会話は失敗だったかもしれない。

今までは俺にしか暴力を振るってきてなかった。

だからこそ、周りへの被害も出さずに鎮圧することが出来た。

しかし、ここで話したことで、鈴へ暴力を振るう可能性が出来てしまった。

いくら鈴が代表候補生でも、生身だともしかしたら負けてしまうかもしれない。

はぁ...

これ以上篠ノ之関係で悩みたくない。

 

 

「...取り敢えず、篠ノ之を生徒指導室に連れて行く」

 

 

「.....頑張ってね、千冬姉。頑張って下さい、織斑先生」

 

 

物凄く疲れてようにいう織斑先生に、弟としても、生徒としてもエールを出す。

すると織斑先生は、

 

 

「...ありがとな」

 

 

と、短く言い、篠ノ之を引きずりながら食堂から出て行った。

俺はそれを見届けた後、皆に声を掛ける。

 

 

「あー、大丈夫か?」

 

 

「あ、うん...大丈夫。それで一夏、あれは...」

 

 

鈴が疑問の声を上げる。

 

 

「IS学園名物、織斑先生に引きずられる篠ノ之(問題児)だ。気にしない方が良い」

 

 

「そ、そう...」

 

 

鈴は、納得できていないようだったが、周りがうんうんと頷いているので一先ずは納得したようだ。

コホンと咳ばらいをした後、俺に語り掛けて来る。

 

 

「ねぇ、一夏。私とISの特訓しない?」

 

 

その内容はISの特訓のお誘いだった。

それ自体はありがたい。

だが...

 

 

「特訓するなら、クラス対抗戦後だな」

 

 

「あー、確かにそうね」

 

 

俺の言葉に、鈴も納得したようだ。

 

 

「ていうか鈴、お前よくクラス代表になれたな。転校生なのに」

 

 

「...私が代表候補生で専用機持ちだから、前の代表に押し付けられたのよ」

 

 

「なるほど...」

 

 

そこまでしてデザートフリーパスが欲しいのか...

 

 

「週一とかで良いんだったら、デザートくらい作るんだけどな」

 

 

俺がボソッと呟いたことに、周りの鈴とセシリア以外の生徒が反応する。

 

 

「一夏君、デザート作れるの!?」

 

 

「お、おう...」

 

 

そこまで食いつくか...?

 

 

「ムムム、フリーパスも欲しいし、一夏君のデザートも食べたい!!」

 

 

「一夏君、両方頑張って!!」

 

 

「は、はい!」

 

 

ここまで念押しされたら、断れるもんも断れねぇ。

 

 

「んん、鈴。やるからには、全力だからな?」

 

 

俺は、鈴にそんな事を言う。

すると鈴は笑いながら、

 

 

「上等よ!」

 

 

そう言ってきた。

そして、俺と鈴は拳を突き合わせる。

クラス対抗戦も、楽しみだな!!

 

 

『マスター、カッコいい!』

 

 

(...白式、照れる)

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

深夜side

 

 

畜生、何がどうなってんだ!

今日になって、2組に鈴が転校してきた。

それはまだいい。

いや、そうなってくれないと俺のハーレムが出来ねえ。

だけども、SHR前に鈴の頭に直撃するはずだった出席簿は一夏が壊すし、何か千冬と漫才してるし...

 

 

そして昼休み、鈴の他の組に興味が無い発言が無かったし、色んな生徒と話してるじゃねえか!

この昼休みは、一夏のファーストとセカンドの幼馴染が顔を合わせるんじゃねえのかよ!

それになんだ!?

箒の事を知り合いだと思いたくない?

何言ってんだよ!?

...いや、待て。

これは箒を堕とすチャンスだ!

そうだ、箒を堕として、その後の事件で俺が活躍して、鈴とセシリアを堕とすんだ!

俺が主人公なんだぁ!!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

時間は進み、放課後。

俺はアリーナの更衣室にいた。

理由は簡単、アリーナでの自主訓練が終わったので、制服に戻るためだ。

今回はセシリアと訓練したのだが、今日はひたすら回避機動を取った。

結果としては、やはり被弾をしてしまい、ライフが6まで削られてしまった。

でも、訓練をしたことは俺は勿論、セシリアにとっても嬉しいものがあった

俺は回避行動のパターンを増やすことが出来、セシリアは何と一回だけだが、フレキシブルを成功させた。

このことには本人は勿論、俺、更には訓練の見学をしていたクラスメイトも喜んだ。

やっぱり、友人の努力の成果が実るっていうのは、そばで一緒に見てるだけでも嬉しいもんだな。

 

 

着替えが終わり、俺は食堂...ではなく、整備室に向かっていた。

理由は単純。

主任に

 

 

「私の道具がどれ程使われているのか知りたいから、いっくん見てきて~!」

 

 

と指令を貰ったからだ。

正直俺じゃなくて主任が変装して、IS制作の会社を見学すればいいじゃんと思ったが、そこは駄目兎でもある主任だ。

その意見を言っても、結局は俺が行くことになり、結果として無駄に体力と精神力を使った俺の姿が見える。

そのため、俺は素直に指令に従う事にした。

 

 

何だかんだで初めて行くので少し時間がかかり、大体20分もかかってしまった。

そして、整備室の前にいるんだが...

 

 

「扉がデケェ」

 

 

流石はIS学園の整備室。

『PurgatoryKnights』の開発室の扉と同じくらいデケェ。

まぁ、入るか。

俺は扉を開き、中に入る。

 

 

おお、うちの製品ばっかりだ...

俺が最初に思った事はそれだった。

整備室では、放課後だというのに何人かが作業をしていて、その人達が使っているものも、共通道具置き場に置いてあるのも、うちの製品だった。

この製品は全て、『IS開発者が造った、ISのための道具、ラビットシリーズ』だ。

まぁ、正式名称を知っているのは社内でもごく少数なんだけどね。

それよりも、物凄い視線を感じる。

周囲を見ると、さっきまで作業していたはずの人達が、全員俺の事を見ていた。

作業に集中しろよ...とは思ったものの、これは好都合だ。

わざわざ作業を中断させたり、終わるのを待たずに製品の事について聞ける。

そう判断し、俺が声を掛けようとした時、

 

 

「あ、あの...!」

 

 

という声が後方から聞こえた。

俺が振り返ると、そこには水色の内側にはねた髪に、眼鏡をした女子生徒がいた。

リボンの色から察するに、同じ一年生だ。

 

 

「えっと、織斑一夏君...だよね?」

 

 

その女子生徒から、そう声を掛けられた。

引っ込み思案なのか、目が合わず、声も小さいが、確かに俺に用がありそうだ。

 

 

「ああ、そうだけど、何か用ですか?」

 

 

そのため、俺は肯定を返す。

同じ1年だが、初対面なので敬語だ。

すると、目の前の女子生徒は、言葉を発する。

 

 

「わ、私の名前は、更識、簪。私に、教えて欲しいの。あなたの、強さの、理由を...」

 

 

 

 




はい、という事で簪の登場です!
前の???は簪でした!
まぁ、皆さん分かってましたよね。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想を頂けると凄く嬉しいので、是非お願いします!


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出来損ないと呼ばれた2人

一夏と簪の話です。
何だかんだで似た者同士の2人。
今作では如何なるのやら。

今回もお楽しみ下さい!


一夏side

 

 

「わ、私の名前は、更識、簪。私に、教えて欲しいの。あなたの、強さの、理由を...」

 

 

放課後、IS学園の整備室。

製品だどんな感じに使われているのが知りたいという主任の指令の元、ここに来ていた。

作業をしていた生徒に話し掛けようとした時、ある女子生徒に声を変えられた。

それがこの、更識さんだった。

そして、更識さんはさっきの言葉を発した。

その表情は、何とも言えない痛ましさを含んでいた。

...これは、一度ちゃんと話さないといけない。

 

 

[マスター、この近くに未完成のIS反応があります]

 

 

(本当か?白騎士)

 

 

[はい、間違いありません]

 

 

(...もしかしたら、それも関係がありそうだ)

 

 

取り敢えず、会話しないと始まらない。

俺はそう判断し、更識さんに声を掛ける。

 

 

「なぁ、更識さ「簪」え?」

 

 

「いや、あ、その...苗字で呼ばれるのは嫌いだから、その、下の名前で...」

 

 

俺の発言に被せるように自身を名前で呼ぶなという更識...いや、簪さん。

これは、俺の想定以上の重い話がありそうだ。

 

 

「じゃあ、簪さん。君の事情を話してくれないかな?正直、あの情報だけだと話せない」

 

 

「あ、その、ごめんなさい。えっと...話は、あっちで...」

 

 

そうして、簪さんが指をさしたのは、整備室の中でも、一番奥の方だった。

よく見ると、追加の扉で区切られている一角がある。

恐らく、その中でという事なんだろう。

 

 

「分かった、移動しようか」

 

 

「は、はい」

 

 

そうして、俺と簪さんはその区切られた一角に移動する。

簪さんが扉を開けると、そこにあったのは...

 

 

機体の3分の2位の装甲しかない、未完成のISだった。

 

 

「これは...」

 

 

「これは、打鉄弐式。私の、専用機」

 

 

「でも、これって」

 

 

「そう、未完成」

 

 

簪さんはそう言い、何故未完成なのか説明してくれた。

この打鉄弐式の開発元は、倉持技研だと。

倉持技研。

その名前を聞いた時点で、俺は打鉄弐式が未完成の理由を理解した。

倉持技研は、白式の開発元で、今現在は俺の専用機を許可なく作ったことで、もうISの開発と研究が出来ない。

つまりは、未完成の原因は、俺だ。

それを理解した時、俺は頭を下げていた。

 

 

「申し訳ない。俺のせいで、簪さんの専用機を奪ってしまった」

 

 

「い、いやいや、大丈夫です...悪いのは、勝手に専用機を、作った、倉持だから」

 

 

如何やら、怒ってはいないらしい。

それを理解した時、俺は安堵した。

だが、それと同時に疑問が出て来る。

簪さんは、『強さの理由』を教えて欲しいと言った。

聞きたい理由を聞いていない。

それに、何故未完成のISがここにあるのかも。

 

 

「...専用機が未完成な理由は理解した。だけど、何でそのISがここにあって、俺に強さの理由を聞いてきたんだい?」

 

 

「.....姉に、追いつきたいから」

 

 

「姉に?」

 

 

俺が聞き返すと、簪さんは頷いた。

そして、そのまま説明をしてくれる。

 

 

「私の姉は、ロシアの国家代表なの。候補生じゃない、代表なの。そして、この学園の生徒会長でもある」

 

 

「国家代表で、生徒会長」

 

 

物凄い肩書の持ち主のようだ。

そんなお姉さんを持ったら、追いつきたいと思うのは普通だろう。

だけど、簪さんから感じる感情は、そんなものじゃない。

何と言うか...執念というんだろうか...

 

 

「それだけじゃない。昔から、私よりも、何もかも優秀だった。私よりも頭がよくて、身体能力が高くて、家事能力があって、人望もあって、明るくて...そんな姉だったから、私は昔から姉と比べられた」

 

 

「っ...」

 

 

何だ、その過去は...

 

 

「姉と比べたら、私はダメダメだった。だから、周りの大人から、出来損ないって言われたりもした。それでも私は努力を続けた。姉に追いつきたかったから。姉に、認めて欲しかったから」

 

 

あまりにも、似ているじゃないか...

 

 

「それなのに、姉は私に言った。『あなたは無能でいなさいな。私が守ってあげるから』って。私は、怒ったよ。私は、無能なままでいたくはない。それなのに、姉は...」

 

 

「.....」

 

 

チョッと似てないところもあるが、やっぱり...

 

 

「だから、私は、強くならないといけないの。姉を見返さないといけないの。だから、ISも自分で組み立ててる。だって、姉が1人でできたから...」

 

 

似すぎている、織斑一夏()に...

 

 

「だから、教えて!私に、強さの、秘訣を...!」

 

 

簪さんは泣きそうになりながら、そう言う。

恐らく、今改めて思い返して、感情が爆発しそうなんだろう。

 

 

「...簪さん、俺の強さの秘訣の前に、聞いて欲しいことがあるんだ」

 

 

「聞いて欲しい事...?」

 

 

そう言い、簪さんは首を傾ける。

俺は頷くと、続きの言葉を発する。

 

 

「俺の姉は、世界最強だからさ。俺も、姉と比べられて、虐められたりも、出来損ないって言われたりもした」

 

 

「あ...」

 

 

簪さんは、如何やら俺が世界最強の弟だという事を今思い出したようだ。

俺は笑いながら、話を続ける。

 

 

「ねぇ、簪さん。世界最強って...織斑千冬って、どんな人だと思う?」

 

 

「え...?えっと、完璧で、何から何まで出来ちゃうような、人」

 

 

へ~、世間の千冬姉ってそんなイメージなんだ。

何か、現実と全く違うなぁ。

 

 

「いや、そんな人なんかじゃ無いよ、俺の姉は」

 

 

「え?」

 

 

「千冬姉は、家事が出来ないんだ。掃除、洗濯、料理...全部ね。だから、昔っから俺がやってたんだよ」

 

 

「そ、そうなんだ...」

 

 

簪さんは、何処となくショックを受けた感じだった。

何だ?

幻想の千冬姉に憧れていたのか?

まぁ、それよりも...

 

 

「そんなさ千冬姉の一面ってさ、俺と、あとは...束さんくらいしか知らないのよ。そんな、一面は誰でも持ってる。多分、そのお姉さんも」

 

 

「で、でも!姉は、そんな場面、私には...」

 

 

「多分だけどさ、お姉さんは、簪さんの事が大事だからこそ、弱みを見せてないんじゃないのかな?」

 

 

「えっ...?」

 

 

「人間だれしも、大事な守りたい存在にはさ、強い自分を見せたいんだよ。守りたいからこそ、弱い部分を見せたくないんだよ」

 

 

「.....」

 

 

簪さんは黙っている。

多分、俺の言った事を考えているんだろう。

 

 

「さて、俺の強さの秘訣だったね」

 

 

俺がそう言うと、簪さんはバッと顔を上げる。

俺はそんな簪さんの事を見ながら、声を発する。

 

 

「俺の強さの秘訣は、バディや仲間、友人がいる事...かな?」

 

 

「っ!私が聞きたいのは、そういう事じゃ...!」

 

 

「まぁまぁ、最後まで話は聞いて。バディや仲間がいるっていうのは、それだけ出来る事や、やる事に対する力が増えるってことだ」

 

 

「...?」

 

 

簪さんは首を傾げる。

 

 

「仲間がいるっていうのは、自分一人では出来ない事が出来るっていう事だ。自分が苦手な事でも、それが得意な仲間がいるかもしれない。それに、仲間がいるっているっていうのは、作業の効率化も出来る。だからこそ、俺はバディや仲間が大事だと思うんだ」

 

 

「...でも、姉は、1人でISを!」

 

 

「それ、本当に1人だった?」

 

 

「え?」

 

 

「コアを用意したのも?武装等のアイデア出したのも?パーツを用意したのも?本当に、お姉さんは1人だった?」

 

 

「そ、それは...」

 

 

簪さんはそこで黙ってしまう。

勿論、俺は何処から1人だったのか知らない。

でも、流石にこれは1人では出来ないだろう。

 

 

「そう。言ってしまうと、パーツとかを用意した人とお姉さんの間に絆は無いかもしれない。でも、お姉さんは1人では無かった。1人じゃない。それだけで、強くなれるのさ」

 

 

「...でも、出来損ないの私になんて、協力してくれる人なんて...」

 

 

「出来損ないって言ってきた奴は、この学園にいるのかい?」

 

 

「そ、それは...」

 

 

「いないだろう?それに、さっきも言ったけど、俺も出来損ないって言われてたんだ。そんな俺でも、仲間や友人がいるんだ。だから、簪さんにも協力してくれる人はいるさ。クラスメイトだったり、教師だったり...所属やクラスは違うけど、俺だって。だから、1人じゃなくて、仲間を作ろうぜ」

 

 

「...私でも、仲間が、出来るの.....?」

 

 

「ああ、大丈夫さ」

 

 

俺は、なるべく安心させようと、笑顔にでそう言う。

すると簪さんは

 

 

「う、あ、あぁ、うわぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 

と泣き出してしまう。

今までため込んできたものが限界に来たらしい。

...ここで、俺が出来ることは、

 

 

ビクッ

 

 

簪さんが反応する。

俺が、頭に手を置いたから。

俺はそのまま手を動かし、頭を撫でる。

 

 

「あ、うわ、ああぁぁぁ」

 

 

簪さんはまだ泣いていたが、落ち着いたようだった。

 

 

[マスターが、マスターが私達以外の頭を...]

 

 

[白騎士お姉ちゃん、如何しよう、このままだと...]

 

 

[[マスターが私達の頭を撫でてくれなくなる!?]]

 

 

(なーにを考えているんだ、お前ら)

 

 

こんな時間は、暫く続いた。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

暫くして、簪さんは泣き止んだ。

だけれども、簪さんが、まだしてほしいとの事だったので、俺はまだ簪さんの頭を撫でていた。

 

 

[[....羨ましい]]

 

 

(我慢してくれぇ)

 

 

白騎士と白式は嫉妬の声を上げるが、我慢してもらおう。

...クラリッサさんとチェルシーさんが泣いていた時は、抱きしめたなぁ。

何だろうか。

簪さんは、抱きしめるのは違うって言うか...

クラリッサさんとチェルシーさんは、俺の中で特別って言うか...

クラリッサさんとチェルシーさん以外は抱きしめたくないなぁ...

 

 

「そろそろいいかな?」

 

 

「あ、うん...」

 

 

簪さんが頷いたのを確認し、頭から手を離す。

簪さんは物すんごく名残惜しそうだったが、このままだと話が進まないので離させてもらおう。

 

 

「もう、大丈夫そうだね」

 

 

「うん、これからは、誰かを頼ってみるよ。それから、その...」

 

 

「ああ、俺も手伝うよ、簪さん」

 

 

「あの、わ、私も『一夏』って呼ぶから、私の事を『簪』って呼んで」

 

 

「...分かったよ、簪」

 

 

俺が笑顔でそう言うと、簪は顔を真っ赤になってしまった。

何で名前呼びしただけで顔が赤くなる人が多いんだろう?

クラリッサさんとチェルシーさんも呼び捨てにしたら顔赤くなるかな?

そうなったら、可愛いんだろうなぁ...

じゃなくて!!

 

 

「それで、簪。お姉さんともちゃんと話さないとね」

 

 

「.....うん、頑張ってみる。だからその...ゆ、勇気が出ないから、協力して?」

 

 

「ああ、分かった」

 

 

そうして、俺は簪と握手する。

あ、それはそうと。

 

 

「簪、聞きたいことがあるんだけど」

 

 

「何、一夏?」

 

 

俺は、そのまま工具の一つを手に取ると、簪に向き直り、

 

 

「うちの製品って、使い心地どう?」

 

 

ここに来た本来の目的を果たすのだった...

 

 

 

 




無理矢理白騎士と白式を出しました。
正直これぐらいじゃないと、今は出番が無い...
ん?ヒロイン?
あー、そのぅ...その内ちゃんと一夏と関わります!

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想を頂けると嬉しいです!是非、感想をお願いします!


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生徒会長の接触

簪はヒロイン感してますが、ヒロインではありません。
ヒロインはクラリッサとチェルシーです!
もう少し出番は先ですが...

あ、それと...おーい、一夏~!

「何だよ」

一夏の補正が欲しいっていう読者さんが...

「補正って何だよ...」

いやぁ、鍛えてるから、戦闘面では補正無いんだけど、やっぱり恋愛面だと出ちゃうらしいよ?
特に、あの二人以外には。
あの二人は実力で堕としたっぽいけどね~

「だから、何の話だよ~!?」

今回もお楽しみ下さい!


一夏side

 

 

あれから、俺は食堂で飯を食った後、教員寮の自室に向かっていた。

簪も、もう自室に戻っている。

専用機はまだ3分の2程しか完成していないので、クラス対抗戦には出れないらしい。

でも、

 

 

「GW明けの学年別トーナメントには出れそう...」

 

 

との事。

戦うのが楽しみだ。

そのまま、俺は自分の部屋に着いた。

扉を開き、中に入る。

 

 

「ただいまぁ~」

 

 

《帰って来たか》

 

 

「お、ディミオス、もう戻って来たのか」

 

 

部屋に戻って来ると、ダークネスドラゴンWからディミオスが帰っていた。

俺はそんなディミオスに話し掛ける。

 

 

「白式の外装は?」

 

 

《ヒーローWの博士に持って行った》

 

 

「...『インフェルノ』と『ロード』と『ガイスト』と『カオス・エクスキューション』は?」

 

 

《『インフェルノ』と『ロード』は直ぐに使えるが、『ガイスト』と『カオス・エクスキューション』はまだだ。そうだな...学年別トーナメントまでには大丈夫だろう》

 

 

「そうか」

 

 

如何やら、簪の専用機と同時お披露目になりそうだ。

一層学年別トーナメントが楽しみだ!

いやその前にクラス対抗戦だな。

 

 

[[ムムム~~~]]

 

 

...白騎士と白式が拗ねてんな。

そんなに頭撫でっていいのか?

 

 

(2人とも、落ち着け...)

 

 

[ならマスター、また頭撫でて!]

 

 

(...クラス対抗戦の後な)

 

 

[約束ですよ、マスター!]

 

 

(お、おう...)

 

 

やべぇ...

もうこれは断れねえわ。

まぁ、それはさておき、クラス対抗戦優勝目指して、明日も訓練頑張ろう!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

翌日、IS学園の廊下。

俺は朝のトレーニング等を終了し、教室に向かっているんだが...

後を付けられてるな。

 

 

[付けられてるね]

 

 

[付けられてますね]

 

 

白騎士と白式も頷く。

さっきの朝のトレーニングの途中...6:10くらいから見られているのは分かっていた。

この人は、多分だがスパイか暗部に関わりがある人なんだろう。

訓練されているのが分かる。

だがしかし、俺もナノマシン忍者である月影さんと白夜さんに鍛えられたのだ。

監視されていることぐらい簡単に分かる。

今のところ害は無いが...

これ以上付けられるのは気分が悪い。

それに、この人に気を取られ過ぎて気付かなかったが、もう直ぐ朝のSHRの時間だ。

...仕方が無い。

 

 

「忍!」

 

 

俺はカタナW製のナノマシン煙幕を焚き、それに紛れて移動をする。

向かうは教室...ではなく、天井裏だ!

 

 

「え、ウソォ!?」

 

 

驚愕の声が聞こえるが気にしない。

俺は天井裏に入り、その人の声を聞く。

 

 

「く、何処に行ったの!?」

 

 

そう言いながら、その人物の足音や気配などが遠くに移動する。

...撒けたか。

俺はそれを確認すると、そのまま天井裏を移動する。

 

 

そんなこんなで、1年1組の教室の天井裏に着いた。

現在時刻はSHR2分前。

ギリギリ間に合った...

 

 

「フム、少し早いがSHRを開始する。ム、織斑はどうした?」

 

 

間に合っていなかった。

仕方が無い、このまま天井裏から出よう。

そう判断し、天井のプレートを外すと、教室に入った。

 

 

「忍...!」

 

 

そして、着地すると同時にそう言う。

本来だったら月影さんみたいな巻物があると良いんだが、そんなものは存在しない。

そのため、口頭で説明をする。

 

 

「遅くなったでござるんるん」

 

 

白夜さんの口調で。

 

 

『えええぇぇぇ!?』

 

 

...ビックリしたぁ。

そんな大きな声出さなくてもいいじゃん。

俺がそんな事を考えていると、織斑先生が話し掛けて来る。

 

 

「...織斑、何故天井裏から出て来た」

 

 

それは疑問に思って当然か...

俺はそう判断し、説明を開始する。

 

 

「何かストーキングされていたので、撒くために天井裏に入って、そのままここに来たからですね」

 

 

「全く、お前は...」

 

 

織斑先生が呆れたような声を出す。

 

 

「IS学園の校則に、天井裏に入ってはいけませんだなんてもの、無いですよね」

 

 

「.....確かに無いんだがな。取り敢えず、天井を直せ」

 

 

「分かりました」

 

 

織斑先生にそう言われたので、直しますかぁ。

 

 

「よっ...と」

 

 

俺はジャンプして、天井のプレートを触ると、そのままずらす。

あ、ずらし過ぎた。

仕方が無い、もう1回やろう。

 

 

「はい...っと」

 

 

もう1回ジャンプして、ずらす。

 

カコン

 

お、戻った。

 

 

「織斑先生、SHRは再開しないんですか?」

 

 

《よくそのテンションのまま行けるな》

 

 

「ディミオス、勝手に出てくんな」

 

 

って言うか、テンションって何だよ?

俺は何時も通りだぞ?

 

 

[マスター、この場合、何時も通りでいられるのが凄いって事だよ]

 

 

(そうかなぁ?)

 

 

[そうですよ]

 

 

白式と白騎士にそう言われてしまった。

この2人がそう言うなら、そうなんだろう。

 

 

「んん、さて、SHRを開始する。織斑、着席しろ」

 

 

「はい」

 

 

そう言われて、俺は着席する。

...視線が痛い。

これはSHRの後の休み時間で、周りに集まってくるな...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

時間は進み、昼休み。

ふぅ、今日はもう疲れたなぁ。

肉体的には疲れてないんだが、精神的に疲れた。

朝にストーカーされ、周りに人が集まり、その後授業。

それは疲れる。

しかも、もうすでに授業はIS実技が始まっている。

俺は『PurgatoryKnights』所属の専用機持ちなので、お手本をしないといけないのだ。

煉獄騎士はISのコアを持っているものの、動き等は完全に俺依存...って言うか、俺の動きまんまなので参考にならないんだが...

 

 

「そんなもの関係ない」

 

 

という織斑先生の一声により、やらないといけなくなってしまった。

バディスキルで飛んでるだけなんだから、俺の動きはISで出来ないんだけどなぁ。

 

 

そんな事を考えながら昼食を食べ終え、廊下を歩いているんだが...

 

 

「付けられてるな」

 

 

《付けられてるな》

 

 

[付けられてるね]

 

 

[付けられてますね]

 

 

さっきからまた付けられてんなぁ。

多分朝と同じ人だなぁ。

さて、如何しようかな...

整備室にでも行くかぁ。

 

 

「ディミオス、様子見たいから整備室行こうぜ」

 

 

《なるほどな...了解した》

 

 

ディミオスはもう理解してくれたようだ。

物わかりのいいバディで本当にありがたいぜ。

 

 

そんなこんなで整備室前。

中から賑やかな声が声が聞こえる。

 

 

「簪さん!持ってきたよ!」

 

 

「あ、ありがとう...」

 

 

「気にしないで!クラスメイトで、友達でしょ?」

 

 

「うん...!」

 

 

昨日の今日で簪はクラスメイトに馴染めたようだ。

良かった...

さて、

 

 

「朝から気付いていますよ。出て来たら如何ですか?」

 

 

俺がそう言うと、通路の陰から1人の女子生徒が出て来る。

簪と同じような髪色だが、簪が内側にはねていたが、この生徒は外側にはねている。

リボンの色から見るに、この人は2年生。

つまりは、

 

 

「更識生徒会長...」

 

 

簪のお姉さんだ。

俺がそう言うと、更識生徒会長は、

 

 

「あら、やっぱり簪ちゃんから聞いてたのね?」

 

 

そう言い、何時の間にか手に持っていた、扇子を開く。

そこには達筆な字で

 

 

『正解!!』

 

 

と書いて会った。

...なんだそれ?

月影さんと仲良くなれそうだな。

 

 

「それで、朝からストーキングして、何の用ですか?」

 

 

「...あなたなら分かっているでしょう?」

 

 

更識会長は、目を鋭くしながら俺にそう言ってくる。

何だろう...全く分からん。

俺が男だからか?

いや、それだったら入学式初日からやりそうだ。

 

 

「いや、全くと言って良いほど心当たりが無いんですが」

 

 

「...とぼけないで!私はもう知っているのよ!」

 

 

いったい何だってんだ...

殺気も漏れてるし...

ていうか、この扉大分分厚いけど、俺が中の声聞こえたからチョッと閉まり切ってないぞ?

声が中に...簪に届いているぞ?

 

 

「あなたが、簪ちゃんを泣かせたって事ぐらい!!」

 

 

「はぁ?」

 

 

...あー、確かに昨日簪は泣いたけど、別に泣かした訳じゃ無い。

ていうかそもそも何で知ってんだ?

もしかして...

 

 

「私の可愛い可愛い簪ちゃんを泣かせるなんて、許せない!!」

 

 

シスコンストーカーだ~~!!

だ、だりぃ~~~!!!

100環境でカイゼリオンさんのデッキと戦うぐらいだりぃ!

それに、簪に聞こえてますよそれ。

それはそうと、誤解を解かなくては...

 

 

「違いますよ。別に泣かせて無いですよ」

 

 

「嘘を言わないで!」

 

 

更識会長は、今すぐにでも飛び掛からん勢いでそういう。

本当なんだってば...

 

 

「あなたはここで成敗するわ!覚悟!!」

 

 

ウソォ!!

更識会長は扇子片手に俺に突っ込んできている。

その扇子何!?

俺、扇子で成敗されんの!?

あああ、もう!

 

 

「怪我しても会長の責任ですよ!」

 

 

俺は更識会長の腕を掴むと、そのまま足を払う。

勿論そのまま更識会長は地面に倒れる。

 

 

「えっ!?」

 

 

更識会長が驚愕の声を上げるが、気にしない。

俺はそのまま腕を抑えながら、更識会長の上に乗り、抑え込む。

ふぅ...無力化完了。

 

 

「く、この、離しなさい!!」

 

 

更識会長が何か言っているが気にしない。

気にしたら、俺が扇子で成敗されてしまう。

 

 

《我の出番が無かったな》

 

 

「無い方が良いだろ?」

 

 

《当然》

 

 

正直で宜しい。

俺は未だジタバタしている更識会長に声を掛ける。

 

 

「さっきも言いましたが、俺は簪を泣かせて無いですよ」

 

 

「嘘を言わないで「ねえ、簪」えっ...?」

 

 

俺はそう言い、整備室の扉を見る。

更識会長もつられてそっちの方を向く。

そこには...

 

 

「一夏に...お姉ちゃん...」

 

 

整備室の扉から顔を出す簪がいた。

 

 

「か、簪ちゃん...」

 

 

更識会長は、さっきまでの勢いを失い、簪の事を見つめる。

簪も簪で、更識会長の事を見つめている。

 

 

「気まずい...」

 

 

《仕方が無い》

 

 

そうなんだけどさ...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

簪side

 

 

「あなたが、簪ちゃんを泣かせたって事ぐらい!!」

 

 

へっ...?

 

 

昼休み、仲良くなれたクラスメイト達と一緒に打鉄弐式の整備をしていた。

昨日まで1人で作業をしてたけど、皆と作業すると進みが早い。

これも、仲間の大切さってものなのかな...

 

 

そんな事を思いながら作業をしていると、さっきの声が廊下から聞こえて来た。

この声は...お姉ちゃん?

一瞬空耳かと思ったけど、クラスメイト達も反応しているから、空耳じゃない。

 

 

「私の可愛い可愛い簪ちゃんを泣かせるなんて、許せない!!」

 

 

「違いますよ。別に泣かせて無いですよ」

 

 

...何を話してるの!?

それに一夏もいるし!

 

 

ん?泣かせた...?

え、お姉ちゃん、何で知ってるの!?

それに、私が自分から泣いたのに...

 

 

「あなたはここで成敗するわ!覚悟!!」

 

 

え、何をしてるのお姉ちゃん!?

成敗!?

チョッと、一夏は私の恩人なのに...!

私が慌てて整備室の扉に近づいたとき、

 

 

「怪我しても会長の責任ですよ!」

 

 

と、一夏の声が聞こえたと思ったら、何かが倒れる音がした。

え...一夏、お姉ちゃんに勝ったの?

いや、勝つ負けるじゃないんだけど、そう思わずにいられなかった。

だって、お姉ちゃんは今までISは勿論、生身でも負けたことが無かったから。

そこから、お姉ちゃんと一夏がと、あと一夏のバディだというロボットが話している。

すると、

 

 

「ねぇ、簪」

 

 

と、一夏から声を掛けられる。

私は整備室の扉から顔を出す。

そこには、

 

 

「一夏に...お姉ちゃん...」

 

 

一夏と、一夏に床に抑えられてるお姉ちゃんだった。

 

 

「か、簪ちゃん...」

 

 

お姉ちゃんが私を見つめて来る。

私も、そのままお姉ちゃんの事を見る。

気まずい.....

 

 

 

 




序盤の一夏とディミオスの会話、何だか分かりますよね...?
それに、一夏は忍者と同じようなことが出来るようになってしまいました。
さてさて、何処まで人間を辞めるか。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想を頂けると物凄く嬉しいです!是非お願いします!


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更識姉妹・織斑姉弟

今回はサブタイの人間+ディミオスしか出ません。
さてさて、どんな話をするのか...

今回もお楽しみ下さい!

UAが30000を超えました!ありがとうございます!


簪side

 

 

あれから、私とお姉ちゃん、それに一夏とディミオスソードと共に、生徒指導室に来ていた。

一夏が織斑先生に許可を取り、この教室を開けてくれたようだ。

正直、あの後直ぐに許可を取れるのは凄い行動力だ。

だから...この空気も何とかして、一夏!

 

 

「今日は消灯を超えていい許可も貰ってるから、気がすむまで話してて良いですよ」

 

 

《我らがいると話しづらいこともあるだろう...外で待っているぞ》

 

 

え、待って、行かないで~~!

そんな心の中の叫びなど聞こえるはずもなく、一夏達は出て行ってしまった。

 

 

「「.....」」

 

 

部屋の中の沈黙が辛い...

確かに、お姉ちゃんと話そうとは思ったけど、まさか昨日の今日で話すことになるとは思わなかった...

でも、何か喋らないと...

あ、そうだ。

 

 

「お姉ちゃん、何で一夏を成敗しようとしたの?」

 

 

そうだ、これを聞かないといけなかった。

私がそう言うと、お姉ちゃんは身を乗り出してくる。

 

 

「だって、織斑一夏が簪ちゃんを泣かせたから...!」

 

 

私は、それを聞いて、呆れてため息をついた。

そして、お姉ちゃんを見ながら言葉を発する。

 

 

「別に、一夏は私を泣かせてない。一夏が私を励ましてくれて、それで感極まって泣いちゃっただけ」

 

 

「え...」

 

 

私がそう言うと、お姉ちゃんは呆けた表情になった。

自身が勘違いしているのに気付いたんだろう。

 

 

「お姉ちゃんは何時もそう。私の交友関係にいちいち首を突っ込んでくる。私の友達は、私が決めるものなのに...」

 

 

「だって、簪ちゃんに悪い影響が出ないように...「ふざけないで!!」か、簪ちゃん...」

 

 

私でも信じられないぐらいの声量が出た。

でも、ここで私の思った事を言わないと、この人は、何時までも何時までも...!

 

 

「私のやる事をいちいちいちいち観察して!そのくせ私のやりたい事に反対して!何なの!?」

 

 

「か、簪ちゃん。落ち着いて...」

 

 

「落ち着けないよ!何時も何時も、私を守るって言っておきながら、私の事を苦しめて!考えたことある?私の立場から!!」

 

 

「そ、それは...」

 

 

お姉ちゃんはそこで黙ってしまう。

やっぱり考えたことは無かったみたいだ。

 

 

「何が、『あなたは無能でいなさいな。私が守ってあげるから』!?ふざけないでよ!無能でいなさいって言われた私の気持ち、考えたことある!?」

 

 

「.....」

 

 

「私だって、私、だって...」

 

 

私は目から涙がこぼれているのが分かる。

まさか、高校生になって2日連続で泣くことがあるなんてなぁ。

 

 

「お姉ちゃんの役に、立ちたいのに.....」

 

 

「へっ...?」

 

 

更識(うち)の仕事が裏の事も知ってる。お姉ちゃんが、そんな事を私にさせないようにしていたのにも、気付けた」

 

 

「簪ちゃん...」

 

 

お姉ちゃんを事を見ると、お姉ちゃんも涙がこぼれそうだった。

2人きりで泣いている姉妹。

はたから見ると、どう見えるんだろうな...

そんな事を考えていると、お姉ちゃんが

 

 

「ごめん、簪ちゃん」

 

 

と頭を下げて来た。

お姉ちゃんが頭を下げる場面だなんて初めて見た。

その事に私が驚いていると、お姉ちゃんが言葉を発する。

 

 

「簪ちゃんの気持ちを考えずに、私だけの価値観を押し付けてた」

 

 

「お姉ちゃん...」

 

 

「だけ、ど、大事な、妹に、危険なこ、とを、させたく、無かったの...」

 

 

お姉ちゃんも泣いていて、声が震えている。

そんなお姉ちゃんに対して、私も声を震わせながら声を掛ける。

 

 

「わた、しも、お姉ちゃんの事、ちゃんと分かろうと、してなかった...ごめんなさい」

 

 

「ううん、良いのよ、簪ちゃん...」

 

 

「お姉ちゃん...おねえぢゃ~~ん!!」

 

 

私は、涙をボロボロ流しながらお姉ちゃんに抱き着く。

 

 

「がんざし...ちゃん...」

 

 

お姉ちゃんも泣きながら、私の事を抱きしめてくれる。

...ああ、こうやってお姉ちゃんと触れ合うのって、久しぶりだなぁ。

 

 

暫く抱きしめ合っていた私達だったけど、泣き止んだタイミングで離れた。

泣き止んだのは...お姉ちゃんの

 

 

「ハァハァ」

 

 

という、何やら怪しい声を聞いたからだ。

 

 

「お姉ちゃん、一夏に謝らないとね」

 

 

「うん...そうだね」

 

 

一夏がいなかったら、こうやってお姉ちゃんと仲直り出来なかっただろう。

それに、クラスメイトと馴染めもしなかった。

これは...恩人だね。

 

 

「じゃあ、取り敢えず部屋を出ましょう」

 

 

「うん」

 

 

私とお姉ちゃんは部屋を並んで出る。

すると、部屋の目の前に一夏はいたのだが...

 

 

「一夏!すまなかった!だから...それだけは!!」

 

 

と、織斑先生が一夏に土下座していた。

一夏は、そんな織斑先生を見下ろしている。

い、いったい何が...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

「...仲直り、出来ると良いんだけどなぁ」

 

 

《そうだな》

 

 

生徒指導室から出てくる際の簪の行かないでくれと言っている目線は感じたが、ここで俺が残ってしまってはいけない。

そのため、俺はそのまま生徒指導室から出て来た。

生徒指導室は中でのやり取りが漏れないように、校舎内でも屈指の防音室でもある。

中の会話は俺には聞こえない。

さて、話が終わるまで暇だな...

 

 

「...篠ノ之は、如何やったらおとなしくなるかねぇ」

 

 

《如何やってもおとなしくならないと思うが》

 

 

「そうなんだよなぁ...」

 

 

篠ノ之は、鉄パイプを振り回したというのに自室謹慎は今週だけだ。

本当に、一か月間でもいいから長期で自室謹慎にしてほしいものだ。

そうしないと、あの篠ノ之は反省しない。

 

 

「もしくは、主任に頼れるといいんだが...」

 

 

《...主任は、あんなアホに割ける時間は無いだろう》

 

 

そう、主任...束さんが篠ノ之に罰を与えられない原因なので、あの人に

 

 

「篠ノ之箒に何をしても、私は何もしない」

 

 

と全世界に発信してもらえれば、篠ノ之は退学まっしぐらの、刑務所行きとなる。

がしかし、束さんにそんな事をしている余裕などない。

『PurgatoryKnights』開発主任にそんな事をしている余裕はないぐらい忙しい。

忙しいはずなのに、俺が会社に顔を出すと絡んで来たなぁ。

クロエさんもあんな自由奔放な人の助手で大変だな...

 

 

「ム、まだだったのか」

 

 

「織斑先生」

 

 

そんな事を考えながら生徒指導室前にいると、織斑先生がやって来た。

織斑先生は、その手に生徒指導室の鍵を持っているので、もう終わったと思っているのだろう。

しかし、話の内容は一切分からないので、何処まで話しているか分からない。

 

 

 

「まぁ、詰まる話もありそうなので、待ってあげましょう」

 

 

「そうだな...そのために消灯を過ぎてもいい許可を出したんだからな」

 

 

織斑先生はそう言いながら壁に寄り掛かる。

如何やら織斑先生もここで待つらしい。

 

 

「織斑先生、お仕事は大丈夫なんですか?」

 

 

「ああ、もうすでに今日の分は終わらせてある」

 

 

...怪しい。

このずぼらな姉が、もう終わらせただと?

確かに、教員になってやる事はきっきりやるようになったのかもしれないが、あの、IS国家代表現役だというのに酒を飲みまくっていて、自宅の冷蔵庫を酒でパンパンにする姉は如何も信じられない。

 

 

「...山田先生に全てを押し付けたんじゃないんですか?」

 

 

「そんな訳が無いだろう...お前は私を何だと思っているんだ、織斑」

 

 

「生活能力皆無駄目姉」

 

 

「い、一夏ぁ...」

 

 

俺が思ったまんまの織斑先生...いや、千冬姉に思っている事を言う。

確かに、『織斑先生』は尊敬できるのだが、『千冬姉』はどう頑張っても尊敬が出来ない。

因みに、『織斑選手』や『織斑教官』も尊敬できるんだが、プライベートはダメダメだ。

 

 

「そこまでいう事無いだろう!」

 

 

「ここまで言われて当然だろ。掃除、洗濯、料理すべてが出来ず、酒を飲みまくる生活能力の無さ。教職なのに、暴力を直ぐ振るう仕事力の無さ...」

 

 

「う!!」

 

 

俺が指摘をすると、千冬姉は反応する。

つまり...そう認識しているって事だ。

 

 

「認識しているなら、改める事だな」

 

 

「私にそんな事出来る訳ないだろう!」

 

 

「開き直るな!!少しでも改善する努力をしないと、1年間酒は禁止だ!!」

 

 

「なっ...!」

 

 

織斑先生はショックを受けた顔をすると、一瞬で土下座する。

この時、扉が開くような音がしたが気にしてはいけない。

 

 

「一夏!すまなかった!だから...それだけは!!」

 

 

.....如何しよっかなぁ?

ん、待て。

この人確か、教員寮じゃなくて、生徒寮の寮長室で生活してたな。

まさか...

 

 

「千冬姉、まさか、寮長室の冷蔵庫に酒入れてねえだろぉな...」

 

 

「う、それは...」

 

 

《その反応は肯定だ》

 

 

「.....無条件で一ヶ月は酒禁止!!あとで寮長室の酒は、教員寮の皆さんに配る!!」

 

 

「はい...」

 

 

はぁ、全く...

まさか生徒寮に持ち込むなんて...

何でこんな人が世間の憧れの女性ランキングトップで、理想の上司ランキングトップなんだ...

確かに、確かに尊敬できるところもなくは無いが、この飲兵衛は...

 

 

「あの...一夏?」

 

 

「んあ?」

 

 

声を掛けられたので、そっちの方向を向く。

するとそこには、

 

 

「簪、更識会長...仲直り出来たようですね」

 

 

2人が並んで立っていた。

泣いた痕は残っているが、そこには触れないのがマナーだろう。

 

 

「一夏、何やってるの?」

 

 

「...この駄目姉の説教」

 

 

「織斑先生が土下座しているの、初めて見たわ」

 

 

更識会長、それはそうでしょう。

腐ってもこの駄目姉は世界最強なんだから...

 

 

「更識姉妹.....このことは誰にも言うなよ!!」

 

 

「「は、はい!」

 

 

「だから、生徒を脅すな!」

 

 

「はい!」

 

 

全く.....

 

 

「あ、あの...織斑君」

 

 

「更識会長?如何しましたか?」

 

 

さっきまでと違い、苗字で更識会長が俺の事を呼んでくる。

簪がついでに誤解を解いてくれたようだ。

 

 

「その...早とちりであなたに襲い掛かろうとして、ごめんなさい」

 

 

「ああ、特に危ないとは思わなかったので、気にしないで良いですよ」

 

 

「ありがとう」

 

 

そう言って、更識会長は扇子を開く。

 

 

『感謝!!』

 

 

《それは如何いう仕組みだ?》

 

 

「フフ、秘密よ」

 

 

そう言われると気になるな...

 

 

「ああ、そうだ。会長、俺の事は一夏で良いですよ」

 

 

「なら、私は一夏君って呼ばせてもらうわね。一夏君も、私の事は楯無でいいわよ」

 

 

「...会長、名前楯無っていうんですか」

 

 

「え、ウソ!!」

 

 

だって、簪からは姉としか聞いてないし、俺も簪のお姉さんなら苗字は更識だな~~で呼んでたから、名前を知らなかった...

 

 

「つーん、どーせ私は影の薄い生徒会長ですよーだ」

 

 

「すみませんって、楯無さん。今度生徒会の仕事手伝いますから」

 

 

俺が出来るのか如何か知らんけど。

まぁ、こういっておけば良いだろう。

 

 

「なら、ビシバシ扱き使うからね!!」

 

 

「上等です」

 

 

アハハハハ、とこの場にいる生徒3人が笑う。

ディミオスも声には出していないが穏やかな表情になっていた。

千冬姉は、さっきから全くと言って良いほど動いていない。

そんなに禁酒がショックか?

まぁ、これをきっかけに生活態度を改めてくれ。

 

 

 

 




だんだん千冬の扱いが雑になって来た。
何時もはきっちりとした先生なんだけどなぁ。

簪と楯無が和解出来て良かったです...

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想を頂くと凄く嬉しいので、是非お願いします!


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クラス対抗戦!

よーやくここまで来た...
更識姉妹と関わらせたから、時間がかかっちまったぜ。

今回もお楽しみください!



一夏side

 

 

更識姉妹の和解から、暫くたち、4月末。

結局、あの後生徒会室には行っていない。

何でも、

 

 

「一夏君はクラス対抗戦に集中しないなさいな。落ち着いたら来てもらうわ」

 

 

との事。

楯無さんには聞きたいこともあるし、行くのを楽しみにしておこう。

あれから、俺はセシリア達と訓練しながら過ごしていた。

射撃への対応力が少しは上がったんじゃないかな?

それに、セシリアのフレキシブルの成功確率も上がっている。

いやぁ、いい訓練時間を過ごしたなぁ。

 

 

ただ、篠ノ之関係で悩みまくった。

謹慎解除後、毎時間毎時間絡んで来やがった。

毎回毎回のらりくらりと躱しながら過ごしていたが、物凄い疲れる。

クラスメイトも、篠ノ之に対して好印象を抱いていない。

今や篠ノ之の行動は1年1組にとどまらず、学園中の生徒、教員に知れ渡っている。

それだからか知らないが、何となく同情の視線を感じることが多くなった気がする。

同情の視線を向けるなら、何とかしてくれ...

 

 

そんな日々を過ごしていたが、もう間もなくクラス対抗戦だ。

1年生が初日で、対戦相手も当日発表の為、誰と戦うか分からない。

各クラスの代表は、自分のアピールの為...ではなく、デザートフリーパスゲットの為に士気を高めていた。

寧ろ、そのために士気を高めないと、クラス中からブッ飛ばされそうだ。

1年4組は、クラス代表の簪の専用機開発に集中するらしく、デザートに興味はなさそうだ。

.....いいなぁ。

 

 

《一夏、1年4組は羨ましいとか考えているだろう》

 

 

「何故バレた」

 

 

だって、クラスメイトからのプレッシャーを感じないって羨ましい!

まぁ、

 

 

「そんなの関係なく、勝ちに行くだけだ!」

 

 

《当然だ》

 

 

さてさて、楽しみだな!!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

深夜side

 

 

「...もう直ぐ、クラス対抗戦か。」

 

 

クラス対抗戦が近くなった今日、俺は自室でそんな事を呟いた。

 

 

入学してから今日まで、俺は活躍が出来なかった。

クラス代表決定戦で、俺が主人公だって証明するはずだったのに!

セシリアは俺と関わろうとしないし、鈴とは一回も会話したことが無い...

しかも、一夏と鈴が喧嘩してないじゃないか!

如何してだよ!

ここは、鈴の酢豚プロポーズを、一夏が勘違いしていたっていうアンチポイントだろうが!

何で普通に一緒に飯食ってんだよ!!

箒も学園から嫌われてるし...

 

 

いや、まだだ!

このクラス対抗戦での無人機襲撃事件で、俺が活躍をするんだ!

ついでに、一夏の印象も悪いものにしてやる!

俺が...俺が主人公なんだ!!

 

 

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遂に、今日がクラス対抗戦か...

俺は張り出されてる1年生の対戦票を確認した。

良し、第一試合は1組対2組だ。

これは原作通りだ!

ん、4組は事前棄権...

そうか、簪の打鉄弐式が完成してないからだな!

口元に笑みが漏れてしまう。

 

 

「おはよう、一夏!」

 

 

「ん、おはよう、鈴。お前もチェックか?」

 

 

「当然!」

 

 

一夏と鈴が来たみたいだな...

如何しようか...

隠れるか。

一夏とはクラスメイトだし、ここにいても違和感は無いが俺がいると出来ない会話もしてくれるかもしれない。

情報は大事だからなぁ。

俺はそう判断し、通路の陰に隠れる。

 

 

「...第一試合、1組対2組」

 

 

「おお、早速私達じゃない!」

 

 

《お互い、待たなくて済んだな》

 

 

よしよし、こっちには気付いていないようだ。

このまま観察させてもらおう。

 

 

「全力で行かせてもらうからな?」

 

 

「当然!!」

 

 

そうして、一夏と鈴は拳を突き合わせる。

...こんなシーン無かっただろ!

ま、まぁいい。

ここで俺が活躍するのが大事なんだ...

 

 

「あ、一夏」

 

 

「お、簪か。おはよう」

 

 

「うん、おはよう」

 

 

.....へぁ!?

か、簪!?

 

 

「一夏、誰?」

 

 

「俺の友達で、4組のクラス代表で、日本の国家代表候補生」

 

 

「初めまして、更識簪です」

 

 

「私は、2組クラス代表で中国国家代表候補生の凰鈴音よ。鈴って呼んでね。よろしく」

 

 

「私も簪で良いよ。よろしくね」

 

 

何でだよ!?

何でここで簪が出て来るんだよ!?

しかも、もう一夏と仲良くなってんじゃねえか!!

ふざけんなよ!

何がどうなってんだよ!

...いや、待て。

今日の活躍を、簪にも見せれるじゃねえか!

 

 

「そ、そうなんだ...」

 

 

「うん、そう。でも、クラスのみんなが手伝ってくれてるから」

 

 

...話を聞いてなかったが、如何やら専用機の話だな。

完成していないのは変わっていないか。

やはり、原作通りだ。

俺は、転生者で主人公だ!

今日、活躍するのは...俺だ!!

 

 

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一夏side

 

 

第一試合10分前。

俺はクラス代表を決めた時と同じ感じでピットにいた。

恰好も前回と同じく、『PurgatoryKnights』の特殊ジャージだ。

 

 

「観客多いな...」

 

 

《それは当然だろう》

 

 

クラス代表を決めるときは学園の関係者だけが観戦者だったのだが...

今回は、学園の正式なイベントの為、世界中が観戦可能だ。

例年なら、参加するクラス代表の所属国家か企業ぐらいしか観戦しないらしい。

それでいいんかいとも思うが、参加人数が少ないのでこんなもんなんだろう。

だが、今年は物凄い量の観戦者がいる。

まぁ...男性操縦者()がいるからだろうな。

 

 

《緊張するわけでも無いだろう。お前はお前通りやれ》

 

 

「おう、分かっているよ」

 

 

[私達も、出番は無いかもしれないけど頑張るからね!]

 

 

[なので、マスターも頑張って下さい]

 

 

(ああ、頑張るよ。白式、白騎士)

 

 

そこで、俺は集中するために目を閉じる。

そして.....

 

 

『織斑君、試合開始3分前です。アリーナに出て来てください』

 

 

「分かりました」

 

 

呼びかけられたため、俺はベンチから立つ。

 

 

「ディミオス、白式、白騎士、行くぞ!」

 

 

《了解だ》

 

 

[[はい、マスター]]

 

 

そして、俺はポケットから取り出したダークコアデッキケースを顔の前に持ってくる。

 

 

「ディザスターフォース、発動」

 

 

俺は煉獄騎士の鎧を身に纏う。

そして、ピットの入り口に近づきながら

 

 

「バディスキル、インフェルノサークル」

 

 

バディスキルを発動させ、アリーナに向かって飛翔する。

アリーナに出た瞬間、観客席の一部がざわつくのが分かる。

各国家や企業の代表だろう。

俺が定位置に着いたときに、反対側のピットから鈴が出て来る。

 

 

「...なかなか変わってるわね」

 

 

「カッコいいだろ?」

 

 

「それは否定しないわ」

 

 

「それと、SEの表記がオリジナル仕様だから驚くな」

 

 

「分かったわ」

 

 

鈴とそんな短い会話をする。

そして左手の眼を鈴に見せ、それに右手を添えて

 

 

「血盟は今果たされる。集え!絶望の軍団!ダークルミナイズ!断罪、煉獄騎士団!」

 

 

そう言いながら、右手を振り抜く。

そして、俺が出て来たピットの入り口ではディミオスがSDのままダークネスドラゴンWのフラッグを振っている。

観客の一部はまたザワザワするが、学園関係者は反応しない。

もうこれをやるのは3回目だからもう慣れたんだろう。

 

 

「アハハ!いいわね、それ」

 

 

鈴はそう言い、その両手に武装を展開する。

あれは...青龍刀か!

デカくてゴツイ...

鈴のイメージにピッタリだな。

 

 

「装備、煉獄剣 フェイタル」

 

 

俺はフェイタルを装備し、構える。

鈴もさっき展開した青龍刀を構える。

 

 

『それでは、1年生クラス対抗戦第一試合。1組、織斑一夏VS2組、凰鈴音。試合...開始!!』

 

 

「ゴー・トゥー・ワーク」

 

 

俺は、ゴー・トゥー・ワーク(いつもの)を呟き、情報収集を開始する。

さてさて、どんな機体なのかな...

 

 

「行くわよ~~!」

 

 

鈴はそう言うと、青龍刀を振り回しながらこっちに突っ込んで来た。

やっぱ、接近だよな!

俺は、その斬撃を避けながら、情報を収集する。

.....この機体、やけに安定してるな。

セシリアの機体よりも、明らかに安定した動きだ。

つまり、イギリスの機体コンセプトはBT兵器の使用だったが、中国の機体コンセプトは、安定か!?

 

 

[その様です、マスター。あの機体の名称は甲龍(シェンロン)。燃費と安定をコンセプトにした第三世代型ISです]

 

 

(なるほどな...)

 

 

白騎士からの情報で、機体コンセプトを知った俺は、そのまま次の情報を集める。

...ちょっと待て、普通にこの攻撃躱すのしんどいんだけど。

セシリアの射撃と同じくらい厄介だ。

 

 

「く、この!ちょこまかと!!」

 

 

鈴が何か文句見たいのを言っているが、気にしてはいけない。

第三世代型ISだという事は、第三世代兵器が搭載されてる。

それの情報を仕入れないとな...

 

 

「こうなったら...喰らいなさい、龍咆!」

 

 

鈴がそう叫ぶ。

...いやな予感がするなぁ!

俺は身体を大きく反らす。

すると、つい先程まで俺の身体があったところに、何か見えないものが通った。

 

 

「めんどくせぇな!それ!」

 

 

うん、もうゲージと手札は何時の間にか増えてた。

恐らくあれは、衝撃波...いや、衝撃砲か。

 

 

「ドンドン行くわよ!」

 

 

鈴はそう言いながら衝撃砲を連射する。

 

 

「キャスト!ドラゴンシールド 黒竜の盾!」

 

 

俺は黒竜の盾を発動し、衝撃砲を防ぐと、そのまま鈴から離れる。

そして、黒竜の盾の効果でライフが1回復、11になる。

観客は黒竜の盾に驚いているようだが、そんなもの気にしている暇はない。

さて、そんなこんなでまたゲージと手札が増えた。

 

 

(俺のターン!)

 

 

俺は右手を前に突き出し、

 

 

「センターにコール、煉獄騎士団 ルナシーワンド・ドラゴン!レフトにコール、煉獄騎士団 ニードルクロー・ドラゴン!」

 

 

モンスターをコールする。

そのまま右手を上にあげ、

 

 

「ライトにバディコール!煉獄騎士団団長 ディミオスソード・ドラゴン!」

 

 

ディミオスのバディコールを宣言。

ディミオスは何時ものようにフラッグを放り投げ、SDを解除して俺の元に来る。

バディギフトでライフが1回復し、12となる。

モンスターコールを初めて見る観客は本日何回目か分からないざわつきを起こす。

 

 

「ちょ、何よそれ!?」

 

 

「単一能力だ」

 

 

俺は鈴の動揺している問いにそう返す。

そして、

 

 

「アタックフェイズ!ルナシーワンド・ドラゴンでアタック!」

 

 

《喰らいなさい》

 

 

ルナシーワンドにアタックの指示を出す。

そのままルナシーワンドの攻撃はヒットし、甲龍のSEが2割削れる。

 

 

「ニードルクロー・ドラゴンでアタック!」

 

 

《ヒヒヒヒヒ!》

 

 

それを確認した俺はニードルクローにもアタックの指示を出す。

 

 

「ぎゃあ!」

 

 

ニードルクローのアタックも当たり、SEが1割削れる。

...ぎゃあって、鈴、女子なんだからそんな声出すなよ。

 

 

「ディミオスソード・ドラゴンでアタック!」

 

 

《行くぞ》

 

 

ディミオスはそう言い、鈴に向かっていく。

そして、この攻撃もヒットし、SEが2割削れる。

 

 

「キャスト!我らは不死なり。選ぶモンスターはルナシーワンド・ドラゴン」

 

 

俺は魔法カード、『我らは不死なり』をルナシーワンドを対象に発動する。

そして、

 

 

「ディミオスソード・ドラゴンの効果発動!」

 

 

《勝利のために命を捧げよ。カノナス・カサルティリオ!》

 

 

俺はディミオスの効果発動宣言をする。

ディミオスから出た闇のエネルギーがルナシーワンドを包み込み、破壊する。

 

 

《うぐぅ...あああ》

 

 

「この瞬間、我らは不死なりの効果。ルナシーワンドを手札に戻し、ゲージ1。そして、ルナシーワンドの効果、ライフプラス1」

 

 

そう、我らは不死なりの効果を受けたモンスターが破壊されるとき、手札に戻し、ゲージを1枚増やすことが出来る。

そして、ルナシーワンドは自分モンスターの効果で破壊された時ライフを1回復できる。

これでライフは13だ。

俺はそれを確認し、

 

 

「ディミオスソード・ドラゴンでアタック!」

 

 

《フン!》

 

 

「きゃぁああ!」

 

 

ディミオスに再アタックの指示を出す。

その攻撃もヒットし、更に2割削れる。

 

 

「再びディミオスソード・ドラゴンの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

《ぎひゃひゃひゃはぁ!!》

 

 

ディミオスから出た闇のエネルギーがニードルクローを包み込み、破壊する。

 

 

「ディミオスソード・ドラゴンでアタッ.......!!!」

 

 

俺はディミオスにアタックの指示を出そうとした時、異変に気付いた。

アリーナに影が出来てる。

しかも、俺やディミオス、鈴のものとは違う影が。

 

 

「ディミオス!鈴を連れてアリーナの壁まで避難!!」

 

 

《ッ!了解した》

 

 

ディミオスも気付いたらしい。

鈴を掴み、アリーナの壁まで連れて行く。

 

 

「チョッと、何をして....」

 

 

鈴の言葉は、ここで区切れた。

いや、区切りざるを得なくなった。

 

 

ドガァァァァァアアアアアン!!!

 

 

そんな音を立てながら、アリーナの観客席保護用のシールドを突き破って、アリーナに何かが落ちて来た。

急な事で、観客席がパニックに陥る。

その、落ちてきたものは...

 

 

「何だ、コイツ...」

 

 

全身装甲の、ISらしきものだった...

 

 

 

 




さて、皆さんご存じの事件が起きました。
一夏の危機管理能力、私も欲しい...(よく頭や足に物をぶつける作者)

何だかんだで本編に入ってから初黒竜の盾。
これ使うと、攻撃通らないから便利なんだけど面白味が...

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想を頂くと凄く嬉しくなります!沢山の感想、お待ちしてます!


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襲撃事件

さて、続き。
殆どが戦闘シーンで疲れました...
今回は一夏が活躍してくれますよ!

今回もお楽しみ下さい!


三人称side

 

 

アリーナは、混乱に包まれていた。

1年生クラス対抗戦第一試合。

その途中にアリーナのシールドを突き破り、何かが襲撃してきたからだ。

それは、全身装甲のISらしきものであり、現在第一試合で戦っていた一夏と鈴が対峙している。

 

 

「各教員、警備員に指令!襲撃者確認!観客の避難を開始しろ!」

 

 

アリーナ管制室にて。

襲撃者を確認したと同時に、千冬が教員と警備員に避難誘導の指示を出す。

それを受けた教員、警備員は直ぐに行動を開始する。

 

 

「織斑君!凰さん!今すぐ避難してください!直ぐに教員部隊が行きます!」

 

 

千冬の側で作業していた真耶が一夏と鈴に避難する様に声掛けするも、

 

 

『山田先生!織斑先生!現在俺がターゲットロックされてます!俺が避難をすると、観客席に被害が出る可能性があります!』

 

 

「クソッ」

 

 

一夏から与えられた情報は最悪なものだった。

それに追い打ちをかけるように、

 

 

「織斑先生!アリーナの障壁がクラッキングにより勝手に下りてしまいました!これでは2人が避難をするのも、教員部隊が出撃するのも遅れてしまいます!」

 

 

それを聞き、千冬は頭を抱える。

まさか侵入者を閉じ込めるためのシステムが利用されるだなんて想定していなかった。

しかし、緊急時に悩むことなど許されない。

それにより、千冬が下した判断は、

 

 

「織斑!聞こえたな!直ぐに障壁を解除する!観客席の避難が完了し、教員部隊が駆け付けるまで持ちこたえろ!」

 

 

『了解!ゴー・トゥー・ワーク!』

 

 

一夏にいったん任せる事にした。

指示を聞いた一夏は、あの襲撃者の情報を集めるように動き始める。

 

 

「山田先生、私は情報を聞き、指示を出します。クラッキングの解除は任せました」

 

 

「分かりました!」

 

 

千冬は真耶にも指示を出す。

そして、自身は教員や警備員からの情報を聞く。

 

 

『千冬!国家の重役の避難は完了したぜ!』

 

 

「オータム!なら、まだ生徒が残っている!生徒は更にパニック状態だ!そっちを頼む!」

 

 

『了解だ!』

 

 

オータムからの情報を聞き、追加の指示を出す。

その表面上は、冷静だったが、

 

 

(一夏...無事でいてくれ!)

 

 

その内心は、大切な弟の事を思い、滅茶苦茶焦っていた...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

「ディミオス!時間を稼ぐぞ!」

 

 

《了解だ》

 

 

俺は織斑先生からの指示を受け、行動を開始する。

俺のミッションは、観客席の避難が完了し、教員部隊が来るまでの時間稼ぎ。

本来だったら無力化までしたいが、流石にSEが3割の鈴がいるとそれも無理そうだ。

 

 

「...こんな事になるなら、削んなきゃ良かったなぁ」

 

 

《そんな事を言っても無駄だ。さっさとやるぞ》

 

 

「分かってる」

 

 

さて、情報を集めないとな...

 

 

「鈴!これから襲撃者の情報を集める!何か気付いたことがあったら言え!」

 

 

「...分かったわ!」

 

 

鈴の協力をゲットした俺は、情報を集め始める。

襲撃者は、俺をロックしたまま動かない。

タイミングを計ってんのか?

俺は、アリーナの壁に沿って襲撃者の周りを飛行する。

ディミオスと鈴は、俺が動くのと同じ速度で同じように飛行している。

襲撃者は、やはり俺に合わせて体の向きを変えるだけだ。

...コイツ、人が装着してんのか?

如何考えても機械の動きにしか見えないんだが...

まさか!?

 

 

(無人機か)

 

 

[そうみたいだよ、マスター]

 

 

[目標からISの反応は確認できますが、生体反応は確認されません]

 

 

(なるほどな...)

 

 

[あと、1つ気になる反応があるの。何か、ISのコア以外の動力があるの]

 

 

[位置としては...あの右肩ですね]

 

 

(右肩?)

 

 

白騎士にそう言われ、俺は襲撃者の右肩に注目する。

そこには、無理矢理取り付けた(・・・・・・・・・)ようなパーツがあり、それに何かがうっすらと描いてあった。

元々描いてあったものが年月で薄くなってしまったんだろう。

ハイパーセンサーが...白式のコアが無かったら見えないであろう程薄かった。

その、描かれていたものは...

 

 

CCC(カオス・コントロール・カンパニー)のマークだと!?」

 

 

そう、ウィズダムさんがCEOだった世界的IT企業、CCCのマークだった。

なんで、この世界に!

あの薄さ具合から、あれは偶々この世界に紛れ込んだのか?

...まぁ、いい。

もう直ぐGWだ。

いったんバディワールドに帰って、ウィズダムさんに聞こう。

それよりも今だ。

この襲撃者は未だに俺の事を見ているだけだ。

 

 

「織斑先生、避難状況は?」

 

 

『避難は完了している。あとはクラッキングの解除だけだ。もう少し持ちこたえろ』

 

 

「了解」

 

 

良かった...取り敢えず第一関門は突破した。

あとは、クラッキングの解除を待つだけ...

 

 

「うぉぉぉおおおお!!」

 

 

「深夜!?」

 

 

何でここに!?

ていうか何処から!?

 

 

『何故橘が!?』

 

 

管制室の音声から察するに、クラッキングの解除は出来ていない。

だというのに...

 

 

「アイツ、アリーナのシールドが壊れた穴から!」

 

 

なるほど、そこか...

じゃない!

折角動いて無かったのに!

深夜の大声に反応し、襲撃者は身体の向きを変えると、深夜に向かって跳躍する。

深夜は、襲撃者に対してブレードを振るったが、襲撃者は右腕を振るい、ブレードにぶつける。

すると

 

 

ガキィィィン!!

 

 

「な、何!?」

 

 

深夜の持つブレードが折れた。

深夜はブレードを折られた衝撃で固まってしまう。

 

 

「馬鹿野郎!回避しろ!」

 

 

俺の声も虚しく、深夜はそのまま襲撃者の蹴りを受けてしまい、観客席に突っ込んだ。

機体が強制解除される。

如何やら気絶したようだ。

襲撃者は、そんな深夜に見向きませず、またアリーナの地面に戻り、俺を見て来る。

だが、これは...

俺はその場から全速力で離れる。

すると襲撃者はさっきまで俺がいたところに突っ込んで来ていた。

 

 

「クソッ!攻撃モードになっちまった!」

 

 

『織斑!大丈夫か!』

 

 

「このまま戦闘しないと無理そうです!」

 

 

『戦闘の許可を出す!何とか持ちこたえろ!』

 

 

「了解!」

 

 

さて、戦闘の許可も出たし、やりますか!

...まだゲージと手札は回復しているが、まだ行動の時ではない。

この襲撃者の武装情報が全くと言って良いほど分からない。

避けるのはしんどいが、何とかしてメイン武装だけでも情報を引きずり出さなくては...!

不幸中の幸いか、襲撃者がターゲットにしているのは俺だけだ。

鈴やディミオスには攻撃が行かないので、流れ弾が行かないようにしながら情報を集めてもらおう。

 

 

《凰鈴音、我らで情報を集めるぞ》

 

 

「分かったわ!」

 

 

如何やらディミオスが鈴に指示を出してくれたようだ。

本当に、頼れるバディだぜ。

さて、当たらないように、回避を...

 

 

『一夏ァァァァァ!』

 

 

そう思った瞬間、物凄い音で名前が呼ばれた。

管制室じゃない!

これは...放送室!?

俺も、ディミオスも、鈴も、襲撃者も放送室を見る。

するとそこには...

 

 

『男なら...男ならそれぐらいの敵に勝てなくてどうする!?』

 

 

マイクに向かって叫ぶ、篠ノ之がいた。

ハイパーセンサーで確認すると、放送室内には何人かが倒れている。

避難が完了したのは、観客席(・・・)だけか!

あの、暴力女は...!

すると、襲撃者は両腕を放送室に向ける。

その両腕には、砲門の様な穴が開いていた。

まさか...ビームか!?

このままだと、放送室が!

篠ノ之がどうなろうと知ったことでは無いが、放送室内で倒れている人は巻き込んではいけない!

俺は今出せる最高速度で射線に割り込む。

割り込んだタイミングで、襲撃者はその砲門からビームを発射する。

...なんつー極太のビームなんだよ!

俺は、内心でそう思いながら、右手を突き出し、

 

 

「キャスト!ドラゴンシールド 黒竜の盾!」

 

 

黒竜の盾を使う。

これなら...

 

 

バキィィィ!!

 

 

え?

 

 

「グァァァァァ!」

 

 

《「一夏!」》

 

 

『『織斑(君)!』』

 

 

俺は黒竜の盾を貫通してきたビームをモロに受けてしまう。

皆が驚愕の声を上げるが、反応している暇はない。

 

 

「はぁ、はぁ」

 

 

魔法無効だと...

それに、打撃が、10...?

さっきまでライフ13はあったのに、もう3しか残ってないぞ...

だが、俺が攻撃を受けたから放送室には被害がいっていないはず。

 

 

「一夏君!」

 

 

「ッ!楯無さん!」

 

 

「篠ノ之さんは任せて!」

 

 

「お願いします!」

 

 

何時の間にやら、楯無さんがISを展開してそこにいた。

 

 

『更識!篠ノ之は反省室にブチこんどけ!』

 

 

「分かりました!」

 

 

織斑先生からの指示がこっちにも聞こえる。

如何やら楯無さんがいるのは織斑先生の指示があったからか。

 

 

「ダメージを受けたためキャスト!地獄の炎も、生ぬるい。場にディミオスソード・ドラゴンがいるため2ドロー」

 

 

俺は地獄の炎も、生ぬるいを発動し、手札を増やす。

篠ノ之が暴れている声が聞こえるが、気にしない。

俺は落としてしまっていたフェイタルを拾い、構えなおす。

 

 

「ディミオス!行くぞ!」

 

 

《了解した》

 

 

「《俺らの(我らの)ターンだ!》」

 

 

ディミオスと共にターン宣言を行う。

そのタイミングで手札とゲージが増える。

そして、右腕を突き出し、

 

 

「センターにルナシーワンド・ドラゴンを、レフトにニードルクロー・ドラゴンをコール!」

 

 

さっき手札に戻した2竜をコールしなおす。

そして、突き出したままの右腕を頭上にあげ。

 

 

「ディミオスソード・ドラゴンに重ねてライトにコール、煉獄騎士団団長 ディミオスソード “インフェルノ”!」

 

 

《魔界にて磨かれし煉獄の秘剣、その身で味わうがいい!》

 

 

俺のコール宣言に伴い、ディミオスの身体が炎に包まれる。

そうして、ディミオスは進化形態の1つ、“インフェルノ”になった。

鈴が驚いたような声を上げるが、気にしている余裕はない。

 

 

「アタックフェイズ!ルナシーワンド・ドラゴンでアタック!」

 

 

《やられなさい!》

 

 

ルナシーワンドが俺のアタック宣言と共に、ルナシーワンドが襲撃者に攻撃する。

だけれども、襲撃者は身体を反らし、攻撃を流す。

 

 

「ニードルクロー・ドラゴンでアタック!」

 

 

《アヒヒヒヒ!》

 

 

俺は更にニードルクローにもアタックの指示を出す。

ニードルクローは襲撃者に向かって行き、アタックする。

すると、今度はアタックが通り、1点ダメージが入る。

俺はそれを確認し、

 

 

「ディミオスソード “インフェルノ”でアタック!」

 

 

ディミオスにアタックの指示を出す。

 

 

《ハァ!》

 

 

ディミオスは襲撃者に向かって行き、攻撃をする。

だが、

 

 

《チッ》

 

 

襲撃者はまた身体を反らし、攻撃をかわした後、ディミオスに向かって反撃する。

ディミオスはその剣で攻撃を受け、いったん離脱する。

 

 

「ディミオスソード “インフェルノ”の効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

ディミオスの効果を発動し、ディミオスから出た炎ルナシーワンドを包み込み、破壊する。

ルナシーワンドの効果でライフを1回復し、4にする。

本来だったらこの時、サイズ2以下のモンスターの破壊が出来るんだが、今はいない。

 

 

「ディミオスソード “インフェルノ”で再アタック!」

 

 

《フン!》

 

 

再びアタックの宣言を行い、ディミオスが攻撃をする。

今度はアタックが通り、2点ダメージが入る。

 

 

「再びディミオスソード “インフェルノ”の効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

再びディミオスは炎を発生させ、今度はニードルクローが包み込まれ、破壊される。

また、ニードルクローは効果で戻って来る。

 

 

「ディミオスソード “インフェルノ”でアタック!」

 

 

《ハァァ!》

 

 

ディミオスは更に襲撃者に攻撃をする。

この攻撃も通り、更に2点削れる。

 

 

「ディミオスソード “インフェルノ”の効果発動!」

 

 

更にディミオスの効果発動宣言をする。

今度はディミオス自身が炎に包まれる。

 

 

『織斑!?』

 

 

回線から織斑先生の驚愕の声が聞こえるが、もう気にしない。

 

 

「ディミオスソード “インフェルノ”、ソウルガード!」

 

 

そう、“インフェルノ”にはこれがあるのだ。

“インフェルノ”はコールコストで元のディミオスをソウルに入れることが出来る。

ソウルはカードの下にある別のカードの事で、ソウルガードとはそのソウルを捨てると場に残れる能力だ。

そのため、“インフェルノ”は通常のディミオスよりも一回多く攻撃が出来る。

 

 

「ディミオスソード “インフェルノ”でアタック!」

 

 

《フンヌァ!!》

 

 

ディミオスは雄叫びを挙げながら襲撃者に4回目のアタックをする。

そのアタックも通り、更に2点を与える。

 

 

「煉獄剣 フェイタル!」

 

 

俺はディミオスのアタックが通ったことを確認すると、俺も攻撃をする。

もうすでに合計で7点ダメージが入ってる。

今現在フェイタルの打撃力は3。

これが通れば...!

 

 

「グアッ...!」

 

 

「一夏!」

 

 

だが、襲撃者はその巨大な腕でフェイタルを防ぎ、そのまま俺の事をはじく。

この際、2点ダメージを喰らってしまい、残りライフが2になってしまう。

しかも、襲撃者は俺に向かって腕を突き出し、さっきのビームをチャージし始める。

 

 

『織斑!』

 

 

「一夏ぁ!」

 

 

織斑先生や鈴が叫んでくる。

でも、今の俺のゲージは4(・・・・・)なんだ。

そして、ビームが発射される...

 

 

その瞬間。

俺は左手を突き出し、叫ぶ。

 

 

「カウンターファイナル!キャスト!」

 

 

そして、世界が俺以外灰色に包まれる。

俺は左腕を上げながら、言葉を発する。

 

 

「歪め世界よ!時を巻き戻し、悲しみを消し去れ!」

 

 

そして、煉獄騎士の鎧の頭部の前が開き、俺の顔が見れるようになる。

 

 

「絶無の剣!」

 

 

俺の前に紫の魔法陣が出現する。

そして、立体的に回転しながら中から巨大な剣が出現する。

 

 

「ディストーション・パニッシャーーーーーぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 

 

左腕を振り下ろしながら、叫ぶ。

俺の動きとシンクロして、巨大な剣が襲撃者に振り下ろされる。

そして、剣が一瞬オレンジに光り、無数のオレンジの直方体に破裂した後、消滅した。

そのまま、世界に色が戻る。

 

 

「え、ウソ!」

 

 

急に襲撃者が倒れたからか、鈴が驚愕の声を発する。

襲撃者の残骸を見ると、確かに無人機のようだ。

既に完全に破壊され、切断面からはスパークが出ている。

この瞬間、漸く障壁が開き、教員部隊が入って来た。

それを確認すると、俺は煉獄騎士の鎧を解除し、地面に仰向けに倒れこむ。

 

 

「ミッション、コンプリート...かな?」

 

 

《上出来だろう》

 

 

俺がそう言うと、ディミオスが俺の隣に来た。

そして、ディミオスはSDに戻る。

こうして、何とか襲撃事件は死者、負傷者ゼロで幕を閉じた。

...事後処理、めんどくさいなぁ...

 

 

 

 




はい、“インフェルノ”の初登場です!
まさかソウルガードの初使用が自爆とは...

深夜、箒と2人も妨害してきたが、最後は必殺技で終わらせる一夏。
やっぱ、パニッシャーってかっこいいですよね!

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想を頂けると物凄く嬉しいので、是非お願いします!


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事後処理

事件の処理です。
何か...うっすい内容だなぁ。
それなのに、文字数は5000あるんだ...
1話使う内容じゃ無かったかもな...

そんな内容でもよろしければ、お楽しみ下さい!


一夏side

 

 

あれから3時間立った。

今俺はディミオスと共にIS学園の会議室に向かっていた。

 

 

あの後、医務室に運び込まれた俺は色々検査を受けたのだが、特に問題なしとの事だった。

そのためそのまま医務室で休ませて貰っていたが、織斑先生がやってきて

 

 

「動けるのなら、事後処理の会議に参加しろ」

 

 

と言ってきたので、今ディミオスと共に会議室に向かっているのだ。

 

 

「...もうちょっと休みたかったけどなぁ」

 

 

《学園側からしても、この事件は問題視しないといけないのだろう》

 

 

「まぁ、そうなんだけどなぁ...」

 

 

《それに、あの場にいた生徒は凰鈴音、更識楯無以外の2人は違反行動者だ》

 

 

「そうなんだよなぁ」

 

 

そう、アリーナに来た深夜は避難命令違反だし、篠ノ之も避難命令違反だし、放送室にいた人への暴力行為もある。

深夜は今も医務室で気絶してるし、篠ノ之は楯無さんが何処かに連れて行ったので会議には参加しないだろう。

まぁ、違反者の罰の判断は学園に任せよう。

それよりも...

 

 

「CCCのマーク、如何しよう...」

 

 

そう、それだ。

あの襲撃者の右肩には物凄く分かりづらいがCCCのマークが付いていた。

気付かれてないといいんだが、気付かれたら如何しよう...

 

 

「『PurgatoryKnights』の没機体のマークって事にしようか」

 

 

《...良いのか、それは》

 

 

「ディミオスもロボって事で通してるし、いいでしょ...」

 

 

《そもそも、ディストーション・パニッシャーで破壊されてるはずだがな》

 

 

「そうだといいけど...」

 

 

まぁ、仮にバレたらそうやって説明しよう。

ハァ...何で襲撃者があのマークを付けてんだよ...

そんなこんなで、会議室前に着いた。

一応簡単に身だしなみを確認する。

うん、大丈夫。

俺はそのまま会議室の扉を4回ノックする。

 

 

「織斑一夏、ディミオスソード、来ました」

 

 

ここでディミオスの事を言うのって、違和感がある。

だけれども、一応ディミオスもアリーナにいたロボット扱いの為、来ないといけない。

 

 

「入って下さい」

 

 

入室の許可を貰ったので、俺は扉を開ける。

...今の声、男性に聞こえたな。

 

 

「《失礼します》」

 

 

ディミオスと共にそう言いながら、会議室に入る。

会議室には既に沢山の人がいた。

鈴に楯無さんに織斑先生に山田先生。

それにオータムさんを含む警備員の方々にそのほかの教師の方々。

そして、議長席らしき席に座る初老の男性...

これは...もしかしなくても俺らが最後だな。

 

 

「遅れてしまい、申し訳ありません」

 

 

「いえ、織斑君は襲撃者と交戦したのですから気にしないでください。さて、空いている席に座って下さい」

 

 

「分かりました」

 

 

ふぃ~~。

怒られなくて良かった。

俺は指示された通りに席に座る。

ディミオスは俺の膝の上に乗る。

俺は何となくディミオスの頭の上に両手をのせる。

 

 

『~~~///!?!?』

 

 

んあ?

教員の皆さんと警備員の皆さんが顔赤くなってる。

...失礼に当たるけど、チョッと横を見てみよう。

チラッと横を見ると、楯無さんと鈴も顔が赤くなってる。

何でだ?

 

 

「えーあー、それでは、IS学園襲撃事件事後会議を始めます。議長は私、IS学園長、轡木十蔵が務めます」

 

 

この微妙な空気の中、初老の男性...学園長がそう声を発する。

その瞬間に、さっきまでの雰囲気はガラッと変わり、ピリピリした雰囲気になる。

待て、学園長?

学園長は女性のはず...

ああ、影武者的な奴か。

 

 

「さて、先ずは織斑先生、報告をお願いします」

 

 

「はい、分かりました」

 

 

学園長の指示で、織斑先生が席を立つ。

俺を含めた全員が、織斑先生に注目する。

そして、織斑先生は言葉を発する。

 

 

「1年生クラス対抗戦第一試合の途中に事件は発生。突如としてアリーナのシールドを突き破り、襲撃者がアリーナに侵入。それと同時にアリーナのシステムがクラッキングを受け、障壁が下りてしまい、アリーナにいた織斑、凰の離脱、並びに教員部隊の出撃が不可能になりました」

 

 

そこまではあの場にいた教員や警備員も把握しているだろう。

実際に、皆さん頷いている。

だが、その後すぐに避難誘導に出たためこの後は知らないだろう。

 

 

「障壁が下りる前に、織斑と凰に避難指示を出しましたが、既に織斑が襲撃者にターゲットロックされており、避難すると観客に被害が出る可能性あり、そのまま障壁が下りてしまいました。そのため、避難が完了し、クラッキングの解除に成功するまでの時間稼ぎを織斑に指示しました」

 

 

「フム、織斑君、凰さん、ここまでで間違いはありませんか?」

 

 

「はい」

 

 

「間違いないです」

 

 

織斑先生の説明が間違っていないか学園長が聞いてきた。

間違いは無かったので、俺と鈴は肯定をする。

学園長は頷き、

 

 

「織斑先生、続きをお願いします」

 

 

織斑先生に報告を再開する様に指示を出す。

 

 

「はい。その後、織斑と凰が襲撃者を刺激しないように、行動。しかし、観客席の避難が完了した時に、橘が襲撃者が破ったシールドの裂け目から乱入。それにより襲撃者が攻撃を開始してしまいました」

 

 

織斑先生がそう言った時、警備員と教員の皆さんの表情が驚きのものに変わる。

まぁ、今まで深夜は問題行動を起こさなかった優等生なので、驚きもするだろう。

それを確認すると、織斑先生は続きを話しだす。

 

 

「続けます。橘はそのまま攻撃に会い、気絶。襲撃者は織斑に向かって攻撃を開始。交戦をしなければ対処が難しいとの事で、交戦の許可を出しました。しかし、ここで篠ノ之が急に放送室に乱入。放送を使い、叫びました。それにより、襲撃者の攻撃目標が放送室に切り替わりました。この時、放送室内には人が倒れており、篠ノ之が気絶させたと思われます」

 

 

そう織斑先生が言うと、今度は皆さんが呆れた表情になる。

...篠ノ之の問題児っぷりは、もう学園関係者なら全員知ってるのね...

 

 

「襲撃者は放送室に向かってビームを発砲。織斑が放送室をかばい、そのビームを被弾。そののち、更識が篠ノ之を拘束しました」

 

 

織斑先生がそう言った時、全員の視線が俺に集中する。

き、気まずい...

織斑先生、続き続き。

 

 

「織斑は被弾した後、交戦を開始。襲撃者を破壊しました。襲撃者の残骸から、襲撃者は無人機だと判断しました」

 

 

無人機、その言葉が出た瞬間に会議室内がざわつく。

無人機だなんて、どの企業も、国も作っていないからだ。

そのざわついた会議室内を、学園長が咳払いをして静まらせると、言葉を発する。

 

 

「織斑先生、報告ありがとうございます。織斑君、凰さん、何か間違いはありませんか?」

 

 

「「はい、ありません」」

 

 

そう言うと、学園長は頷いた。

 

 

「さて、では質問があります。織斑君、何故襲撃者が無人機だと分からないのに破壊するほどの攻撃を放ちましたか?」

 

 

おお、そう来るか...

正直に言うと、深夜の機体はディストーション・パニッシャーで破壊されなかったから何だけど、ディストーション・パニッシャーは俺以外に見えないからな...

まぁ、白騎士と白式に無人機だって聞いてたし、そうやって説明をするか...

 

 

「煉獄騎士のハイパーセンサーで、生体反応が無いのは確認していましたので」

 

 

「そうですか」

 

 

...納得してくれたっぽいな。

良かったぁ。

 

 

「さて、次にこの事件に関してですが、無人機だという事の公表はしません。ですが、各国が襲撃者の事は見てしまっているので、襲撃があったことは公表します。反論はありますか」

 

 

これに反対意見は出なかった。

まぁ、わざわざ世界を混乱に落とす必要は無いだろう。

 

 

「学園長、一つ宜しいですか?」

 

 

と、ここで楯無さんが挙手をしながらそういう。

学園長は顔を楯無さんの方に向け、

 

 

「更識生徒会長、発言をどうぞ」

 

 

発言する許可を出した。

全員が楯無さんの方に顔を向ける。

 

 

「今回違反行為を行った、橘君と篠ノ之さんにはどのような処罰が?」

 

 

「そうですね...」

 

 

ここで、学園長は考えるように右手を顎に当てる。

暫く考えた後、学園長はため息をついた。

 

 

「本来だったら、1ヶ月の停学、篠ノ之さんはこれまでの暴力行為を加味して退学処分にしたいのですが...」

 

 

「やはり、国際IS委員会ですか?」

 

 

楯無さんがそう言うと、学園長は大きく頷く。

やっぱりかよ...

 

 

「やはり、篠ノ之博士の妹だという事で、厳しい処罰にしようとするとIS委員会からの横槍が入ります。IS学園は本来何処の影響も受けないのですが、訓練機の所有権をだしに使われると、従うしかありません」

 

 

それを聞いて、思わずため息をつきそうになる。

国際IS委員会、そんな事してんのかよ...

だから、俺も国籍取られたのか...

いや、日本政府も嫌いだから、それはそれで良いのだが、国籍が無いと色々メンドクサイ。

特に、今俺はスマホが無い。

今ある通信端末は、会社にしか繋がらない報告用のものだけだ。

 

 

「ですが、何時ものように自宅謹慎では流石にいけません。そのため、篠ノ之さんは反省文1000枚、それにGW期間中は、奉仕作業をさせます」

 

 

おお...今までの罰よりも格段に重たい!

IS委員会からの圧力があるのに、そこまで出来た学園長に感謝!

 

 

「橘君は、初めての違反行為ですが、ISの無断展開という違反もしていますので、反省文500枚、GW期間中3日の奉仕作業とします」

 

 

おお、深夜は最初っから処罰がそこそこある...

やっぱり、『男性IS操縦者』よりも『篠ノ之束の妹』の方が影響力は強いのかな?

.....まぁ、国際IS委員会内部にも女尊男卑主義者はいそうだし、そいつらも絡んで来てんのかな?

何はともあれ、キチンとした処罰が与えられるようで、ホッとした。

 

 

「さて、違反者2人への処罰、今回の襲撃事件に関するIS学園の対応は決定しました。まだ、何か議論したいことはありますか?」

 

 

議論...?

今やったのって、織斑先生が報告して、学園長が対応を決めただけじゃ...?

ま、まぁ、議論って事にしましょう。

『PurgatoryKnights』での会議でも、発言を全くしない人がいるし、こういうもんなんだろう。

そして、特に誰からも手が上がらなかった。

おや、これは...

 

 

「では、今回の会議は終了します。皆さん、お疲れさまでした」

 

 

ば、バレなかった~~!

良かったぁ。

でも、GWにしっかりとウィズダムさんに聞きに行かないとな。

警備員や、教員の皆さんが次々と席を立ち、会議室から出て行く。

 

 

「.....帰るか」

 

 

《そうだな》

 

 

俺、呼ばれた意味なんだろう...

まぁ、お腹も空いたし食堂に行こうか。

ん、待って。

もう食堂閉まってないか?

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

ところ変わって食堂。

確かに食堂は閉まっていたのだが、会議に参加した人用に特別に開いていた。

良かった良かった。

 

 

「さて、何を食べようかな?」

 

 

《好きにしろ》

 

 

分かってるよ。

うーんと、

 

 

「チキン南蛮定食にしよう」

 

 

食券を購入し、商品を受け取る。

相変わらず早くてありがたい。

さて、何時もより空いてるから直ぐに座れるな。

 

 

「いただきまーす」

 

 

今日は普通に疲れた...

さっさと飯食い終わって寝よう。

あー、明日休校にならねえかな。

まぁ、先生たちはこの後更に職員会議しないといけないみたいだし、そっちが大変だな。

 

 

《それにしても、よく10点受けた後にあの動きが出来たな》

 

 

「ああ、アレ?確かに衝撃は身体に来たけど、別に内臓と骨にダメージ無かったから」

 

 

身体にダメージがあったら、あそこまで動けてなかっただろうな。

そう考えるとかなり危ないが、それ以前に妨害が無かったらもっと安全に動けてた。

まぁ、終わったことに何を言っても無駄だ。

 

 

「さて、ご馳走様...『一夏(君)!』わひゃぁ!?」

 

 

きゅ、急に呼ばないでくれ!

ビックリするだろ!

 

 

「鈴、楯無さん、オータムさんに千冬姉...」

 

 

千冬姉やい、ここは学園の食堂だよ?

色んな人がいるんだよ?

それでいいの?

 

 

「チョッとうるさいです...」

 

 

「そんな事言うな!心配だったんだぞ!」

 

 

「千冬姉、分かった、分かったから。だから織斑先生になってくれ」

 

 

この姉とは学園で関わりたくない。

学園では尊敬できる教師でいてくれ...

 

 

「無事でよかったわ、一夏」

 

 

「あのビームに当たって良く生きてたわね」

 

 

鈴と楯無さんは普通に労ってくれる。

そうそう、こんな感じで良いんだよ、こんな感じで...

 

 

「ったく、無茶すんなぁ、お前も」

 

 

「オータムさん...オータムさんもお疲れ様です...」

 

 

オータムさんも避難誘導疲れただろうに...

そうだ。

 

 

「明日ってどうなるんですか?」

 

 

「あ、ああ。まだ決定では無いのだが、明日は休校。クラス対抗戦も全学年で中止だろう」

 

 

俺の問いは、何とか教師の顔になった織斑先生が答えてくれた。

 

 

「それなら、明日はゆっくりするか...」

 

 

「そうしろ。凰も更識も、休むと良い」

 

 

「「「はーい」」」

 

 

さて、明日の予定は決まった。

取り敢えず、後で会社に連絡を入れとくか。

GW...休めなさそうだな...

 

 

 

 




前書きでも言ったけど、大体千冬の報告で終わるという内容。
これ、もしかしたら読まなくても次回の内容理解できるな...
ま、まぁ、一夏はここで学園長と初めて顔を合わせましたし、2人の処罰も決まったし無駄では無かったよね...?

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想を貰えると凄く嬉しいので、沢山の感想、待ってます!


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GWはGreatとWork?

今までにないサブタイ。
何となくだが、社畜のスローガンのようだ...

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

5月になった。

世間では、GWと呼ばれる連休だ。

 

 

結局あの襲撃事件翌日は織斑先生が言ったように臨時休校になり、クラス対抗戦も全学年で中止となった。

何か、あの襲撃者のターゲットは俺だったから申し訳ねぇ。

その更に翌日。

その日は普通に授業があったので教室に行ったのだが...

物凄いクラスメイトに心配された。

皆も襲撃者が来たことまでは見ていたので、アリーナにいた俺を心配してくれた。

守秘義務があるので詳しく説明は出来なかったが、それでも、心配してくれる友人がいるというのは嬉しい。

ただ、対抗戦前の約束で週1でデザートを作る事になってしまった。

だけれども、これはこれで嬉しい。

皆が俺の作ったものを食べて笑ってくれるのは、嬉しい。

因みにだが、俺は1組の皆とその場にいた教員と警備員の皆さんに作ったんだけど、何故か大人の皆さんは織斑先生以外ショックを受けたような表情だった。

俺、何かやらかしたかなぁ?

 

 

そして、GW。

新学年が始まってから初の大型連休の為、学園の皆は思い思いの休日を過ごしている。

清香みたいに部活を頑張る生徒、簪のように漫画やアニメを見まくる生徒、静寐や由子のようにショッピング等の遊びをする生徒...

更には社会人の皆さんも、忙しい仕事の息抜きとして、休暇を楽しんでいる事だろう。

そんな中、俺は...

 

 

「はい、はい、あー、はい。そうですね...社長の都合のつくときで...あ、2日後ですか?分かりました。その日は朝から向かいます。はい、はい、失礼します」

 

 

仕事だ。

俺には、『PurgatoryKnights』所属の人間としての仕事がある。

他の国家代表や候補生、企業代表はこのような事務作業はしないのだろう。

IS操縦者というのは、ISの為に身体づくりをしないといけないので、事務作業なんかやっている余裕は無いのだ。

せいぜい、報告書を制作するぐらいだろう。

しかし、俺には仕事がある。

理由は簡単、男性IS操縦者()がいるからだ。

何処にも所属していない深夜と異なり、俺のデータは現在『PurgatoryKnights』のみで取り扱っている。

そのため、抗議や俺との模擬戦依頼、又は引き抜こうとする書類などが後を絶たない。

よって、本人である俺が処理した方がスムーズにいく仕事は俺が処理をしている。

 

 

「ふぃー、いったんしゅーりょー」

 

 

疲れた...

特に日本政府、書類多すぎなんだよ。

そんな送って来るなよ。

何が国籍が無くても日本人だろ?だ。

誰が好き好んで自分の事を見捨てた国に協力するかっての。

まぁ、文句は言ってられない。

この仕事は俺がいなかったら来ない仕事だし、何より今も出勤している社員の方もいるんだ。

原因である俺が文句を言えるもんでもない。

言っておきますが、現在出勤している社員の方にはGW期間とは別で1週間の休暇がありますからね。

『PurgatoryKnights』は社員を第一に考える会社です。

 

 

《一夏、時間まであと1時間15分だ》

 

 

「りょーかい」

 

 

ディミオスにそう言われ、使用していた会社のノートPCをシャットダウンした後、しまう。

このPCは主任お手製のPCなため、そんじょそこらのPCとはスペックもセキュリティも段違いのものなので、社外持ち出しOK...というより、持ち出し用のPCだ。

いやぁ、主任ってすげぇ。

 

 

「取り敢えず、何か口に入れてから着替えよう」

 

 

そう言いながら、俺はキッチンに向かい、棚を開ける。

今日はこれから人と会う予定があるのだ。

お腹が鳴るだなんて失礼が無いようにしないといけないが、匂いのあるもんは駄目だ。

如何するか...バナナでいいや。

この前のデザート作りで余ったバナナが冷蔵庫にあったので取り出し、食べる。

食べ終わったのち、皮を捨ててクローゼットを開ける。

そのまま制服を取り出して着替え、身だしなみを整える。

 

 

《...本当に、アレ(・・)を渡しておくのか?》

 

 

「ああ、保険にな」

 

 

ディミオスが質問をしてきたので、俺は即答する。

確かに、渡しておくことの不安はあるかもだけど、保険は掛けとかないといけない。

もしもの時の、ね。

 

 

「さて、ボチボチ向かうか。遅れるのは駄目だけど、早く着く分には時間潰せばいいだけだし」

 

 

《そうだな...》

 

 

そして、ディミオスと共に部屋から出て、目的の場所に向かう。

道中、グラウンドから声が聞こえてくる。

 

 

「お願い!」

 

 

「任せて!」

 

 

部活だなぁ。

流石に女子部しかIS学園には存在してないし、俺には仕事があるので、今現在帰宅部だ。

確かに部活って青春の象徴みたいだし、憧れが無くは無いが、入ってなくても学園生活は楽しい。

だからもう、入らなくていいかな~~。

そんな事を思いながら校舎の中に入る。

目的の場所に向かって歩いていると、今度は楽器の音が聞こえてくる。

 

 

《うるさいな...》

 

 

「言っちゃだめだよ」

 

 

確かに吹奏楽部の練習は如何してもうるさくなっちゃうけど、本人達は頑張ってるんだから、言うなよ...

そんな事を思いながら、目的の場所に向かっていく。

 

 

暫く歩いて、目的の場所に着いた。

扉をノックする前に身だしなみをもう一度確認する。

 

 

「あー、ディミオス、ポケットにいる?」

 

 

《いや、別に良いだろう》

 

 

「オッケー」

 

 

ディミオスと会話した後、その扉を4回ノックする。

 

 

「織斑一夏とディミオスソードです。入ってもよろしいですか?」

 

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

 

入室の許可を得たので、俺は扉を開ける。

 

 

「《失礼します》」

 

 

勿論、この時に軽く会釈をするのを忘れない。

そう、今日会う人物というのは...

 

 

「今日はありがとうございます、学園長」

 

 

そう、轡木学園長だ。

俺はあの会議でしか会ったことが無かったので、一度ちゃんと合わないといけないと思ったからだ。

 

 

「いえいえ、気にしないで下さい織斑君。そこに座って下さい」

 

 

「では...」

 

 

学園長に促されたため、俺はソファーに座る。

うん、普通に良いソファーだ。

俺が座ったのを確認すると、学園長は机を挟んだ向かいのソファーに座る。

 

 

「さて、それでは何の用でしょうか、織斑君」

 

 

「いえ、入学してから今日まで、まだキチンとした挨拶が出来ていなかったもので...あ、これ名刺です、良かったら」

 

 

「では頂きます」

 

 

そう言って、学園長は俺の名刺を受け取った。

ふぅぅぅ、緊張する...

 

 

「織斑君、男子生徒は君と橘君しかいませんが、学園生活は如何ですか?」

 

 

「そうですね...確かに同性の友人は出来ないですが、皆が性別とか気にしないので、楽しく過ごせてます」

 

 

「そうですか、それは良かったです。生徒が楽しく過ごせるなら、私達も嬉しいです」

 

 

ここで、学園長は微笑む。

...何ていい学園長なんだぁ。

 

 

「学園長、一つお願いがあるんですが...」

 

 

「何ですか?織斑君」

 

 

学園長にそう言われたので、俺はポケットからあるもの(・・・・)を取り出し、机の上に置く。

 

 

これ(・・)、預かっていてくれませんか?」

 

 

これ(・・)は...」

 

 

学園長は驚いたような表情を浮かべる。

まぁ、それは当然だろう。

いきなりこれ(・・)を渡されたら、俺でもこんな反応になってしまうだろう。

 

 

「今回の襲撃事件の様な事が、この先起こらない可能性はありません。これ(・・)は、そのための保険です」

 

 

「.....」

 

 

学園長は、考えるように顎に手を置いた。

もう一押ししないと。

 

 

「もしもの時は起こらないようにするのが最善ですが、だからといってサブプランを立てない訳にはいきません。預かっていていただくだけで大丈夫なので、お願いします」

 

 

俺はそう言いながら頭を下げる。

完全に空気だったディミオスも、俺と同じタイミングで頭を下げる。

すると学園長は、

 

 

「分かりました、顔を上げてください」

 

 

と言った。

俺が顔を上げると、そこには優しい笑顔を浮かべた学園長がいた。

 

 

「織斑君が覚悟を決めていたのは伝わりました。万が一の時の為、これ(・・)は私が預かっておきます。勿論、管理は厳重にしますし、このことは誰にも言いません」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

俺は再びディミオスと共に頭を下げる。

そして、暫くそうしていた後、頭を上げる。

ふぅ、これでもしもの時の保険も出来たな...

学園長は、そのままそれ(・・)を手に取り、部屋の奥の何やら厳重そうな金庫に入れた。

おお...あの金庫、持ち運べないぐらいデケェ。

 

 

「ああ、学園長」

 

 

「何ですか、織斑君?」

 

 

俺がある事を思い付き、学園長に声を掛ける。

学園長は、そのまま俺に何の用なのか聞き直してくる。

 

 

「学園で、何か『PurgatoryKnights』に発注するものはありますか?ありましたら、私が代理で発注しますが?」

 

 

「そうですね...ならば、初級者用の練習キットを追加で7セット程お願いします」

 

 

「分かりました」

 

 

そう、営業を忘れない。

本来だったらこのような営業の仕方はしてはいけないし、そもそも俺の仕事では無いのだが...

まぁ、IS学園だし大丈夫でしょう。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

さてさて、今日の予定は全て終了した。

そもそも学園長と会う予定しかなかったので、それが終わってしまったらもう何も予定が無いのだ。

そんな俺は、教員寮の自室に戻ってきて、何をしているのかと言うと...

 

 

「「ふにゅぅぅぅあああ」」

 

 

白騎士と白式の頭を撫でていた。

やる事が無くなった俺は、この2人にせがまれて白式のコアに意識だけ来ていた。

前回と同じく白い海岸で、白いワンピースに身を包んだ白式と、ヘッドバイザーを外した白騎士。

その2人が俺に頭を撫でられ、幸せそうな顔をしている。

毎度思うんだが、そんなにいいもんか?

簪も、ナデナデタイムを延長してたし...

2日後会社に行ったとき、マドカに会えたらやってみよう。

 

 

「そろそろ止めていいか?」

 

 

「「駄目(です)!!」」

 

 

「は、はい」

 

 

そ、そんなにか...?

 

 

「如何しても止めたいって言うなら、私達の事を抱きしめてください」

 

 

「いいね、白騎士お姉ちゃん!マスター、是非!」

 

 

抱きしめるか...

何だろう、特に頭を撫でる事の延長のはずだ。

なのに、やりたいと思わない。

いや、寧ろ、やる事に対しての抵抗感がある。

前もこう思ったことがあるが、本当に何でだろう...

頭を撫でるのは、鈴とかの友人に対しても全然できるが、抱きしめるとなると、抵抗感が生まれる。

抱きしめる事に抵抗感が無いのは、クラリッサさんとチェルシーさんだけ...

この2人には、寧ろ自分から抱きしめたいとすら思うかもしれない。

何でだ?

何で俺の中でこの2人が特別なんだ?

俺は、二人に対してどんな感情を持ってんだ?

 

 

「もう、マスター!」

 

 

「んあ?如何した、白式」

 

 

「マスター、先程から私達が声を掛けているのに何も反応しなかったですけど、如何したんですか?」

 

 

「白騎士...いや、考え事をしていたんだ」

 

 

俺がそう言うと、二人とも一応納得してくれたようだ。

ああ、なんて言い子なんだ...

白騎士は見た目は完全に年上だが、実際に造られたのは俺が生まれた(造られた)後なので、実際に俺が年上だ。

 

 

「それで、悪いんだけど、抱きしめるのはちょっと...」

 

 

「フーン、正直チョッと悲しいけど、マスターがしたくないなら、無理強いはしないよ」

 

 

「ええ、私達は、あくまでもマスターのサポート役なので」

 

 

本当に、ディミオスとはまた違った良い仲間だよ...

俺はそう思いながら、2人の頭をまた撫で始める。

すると2人は直ぐに幸せそうな顔になり、

 

 

「「ああぁぁぁぁ、気持ちいぃ...」」

 

 

と声を出した。

よし、こんなに良いサポート役もいる事だし、これからも頑張っていこう!

取り敢えず、2日後の仕事だ!

 

 

...あれ、今ってGWだよな?

『仕事』が多いなぁ。

まぁ、『素晴らしい』仲間もいるし、頑張ろう!

 

 

 

 




『PurgatoryKnights』はホワイト企業です。
一夏みたいな特殊な立場の人間や、社長等の上司はどのような企業でも忙しいんですよ。

『PurgatoryKnights』は常に社員を募集しています。
どの様な人でも、輝ける部署が一つはあるはずです。
是非、会社説明会にご来場ください。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください。

感想を頂けると嬉しいので、沢山の感想、お待ちしています!


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新しい騎士

前回に引き続き、休めないGW。
今回は一夏が出社します!

今回もお楽しみください!

UAが35000を、お気に入り登録者が150人を超えました!ありがとうございます!


一夏side

 

 

2日後。

俺は私服で『PurgatoryKnights』に向かっていた。

そこそこ朝早く、しかもオフィス街に向かう列車なので、人は物凄く少ない。

因みにだが、今ディミオスはいない。

昨日からバディワールドに行き、あの襲撃者にCCCのマークがあったことの報告と、ウィズダムさんに話を聞きに行っている。

本来だったらそれも俺がするはずだったのだが、俺の想定の3倍位の仕事があったので、ディミオスに任せないといけなくなってしまった。

その仕事の3分の2は日本政府からの書類処理だったりする。

本当にめんどっちい...

 

 

そんな事を思っていると、会社に着いた。

うん、今回もメンドクサイおばさんに絡まれなかった。

結構街に出ると絡まれるんだが...会社に向かっていると絡まれねえなぁ。

ありがたい。

いや、普段から絡んで来てほしくないけどね?

 

 

そして、会社に入り、更衣室に向かう。

流石にGWなので、ロビーにも廊下にも殆ど人はいない。

ここまで静かな会社も珍しいな...

いや、GWなのに会社にいる俺が珍しいのか?

...如何でもいいや。

 

 

そして、更衣室に着いたので着替える。

男の着替え何て、5分で終わる。

直ぐに終わるとはいえ、いちいち着替えないといけない事に文句が出て来てしまう。

ったく、何で男が『PurgatoryKnights』のマークが付いてるIS学園の制服着てたら目立つんだよ...

学生のがプライベートでも制服を着ているのは普通だろうが。

しかも、俺はプライベートじゃなくて仕事だぞ。

何で悪目立ちするんだよ。

まぁ、仕方が無いけどさ...

そう思いながら、俺は社長室に移動する。

この会社、ビル丸々一つが本社なので、社長室までそこそこ時間が掛かる。

儲かっている証拠なんだが、エレベーターを使っているのに時間が掛かってしまうのはそこそこ不便だ。

何とかなんないかなぇ。

...まぁ、何か1つ問題を解決出来るのなら、この移動に時間が掛かる問題ではなく、篠ノ之箒問題を解決してほしい。

切実にそう願っている俺は悪くない。

 

 

そんなこんなで、社長室に着いた。

俺は一応身だしなみを整え、扉をノックする。

 

 

「社長、織斑一夏です。入ってもよろしいですか?」

 

 

「あら、もう来たのね。入っていいわよ」

 

 

...GWなのに社長はテンションが何時も通りだ。

やっぱり、凄い。

俺も頑張らねぇとなぁ!

 

 

「失礼しま「お兄ちゃん!!」へぶぁ!?」

 

 

な、何だ!?

扉を開けたら何かが突っ込んで来たぞ!?

こんな事、前にもあったような...

 

 

「...マドカ、突っ込んで来るのは止めなさい」

 

 

そう、突っ込んで来たのはマドカだ。

鍛えてるから倒れるだなんて醜態はさらさないが、普通に衝撃は感じるので痛い。

 

 

「えへへ、ごめんなさい」

 

 

マドカはそう言って素直に謝る。

うん、元テロリストだけどいい子に育ったなぁ。

 

 

「社長、お久しぶりです」

 

 

「ええ、久しぶりね。それと、今はプライベートの呼び方で大丈夫よ」

 

 

「分かりました、スコールさん」

 

 

因みに、この会話は俺が社長室に来るたびにしている。

一応俺は体制を保とうとするのだが、スコールさんはそういうのを余り気にしないので、人前でない限りプライベートで呼んでいいと言ってくれる。

本当にええ上司だ。

 

 

「それで、何でマドカが社長室にいるんですか?」

 

 

取り敢えず俺は、マドカがここにいる理由を聞く。

確かに今日マドカに会えたらいいなとかは思っていたが、会う約束はしていなかった。

だから、社長室にマドカがいるのに俺は驚いた。

するとマドカは、

 

 

「お兄ちゃんと会いたかったから!」

 

 

と物凄い良い笑顔で言った。

うん、本当に素直でいい子だ...

俺はそう思い、マドカの頭を撫でる。

すると、

 

 

「はにゃぁ!?こ、これは...いい...」

 

 

と言う声を出す。

そして、白式と白騎士はというと

 

 

[[な、何て羨ましい!]]

 

 

チョッと荒れていた。

2人とも、一昨日頭撫でてやったじゃないか...

 

 

(2人とも、落ち着けって...)

 

 

[なら、また今度頭撫でてくださいよ!]

 

 

(分かった、分かったから)

 

 

[約束ですよ!]

 

 

うーん、誰かの頭を撫でるたびに思うんだが、頭撫でられるのってそんなに良いものか?

撫でてる側からすると、全く持って分からないんだが...

さて、頭撫でるのはこの辺にして、仕事をしよう。

そもそも俺がここに来たのは仕事の為だからな。

そう思い、俺はマドカの頭から手を離す。

 

 

「あっ...」

 

 

マドカが残念そうな声を上げるが、気にしない。

いや、気にしていたら仕事が出来ない。

 

 

「じゃあマドカ。俺は仕事だから」

 

 

「そうね、そろそろ始めないといけないわね」

 

 

俺とスコールさんがそう言うと、マドカは

 

 

「はーい」

 

 

と言いながら社長室を出て行った。

この時、物凄く名残惜しそうに俺の事を見て来たが、俺は反応しない。

いや、出来ない。

 

 

「じゃあ、仕事しましょう」

 

 

そう言って、スコールさんは異常な量の書類を持ってくる。

...何で、段ボール箱3つ分あるのかなぁ。

そもそも何でこのデジタル時代にこうやって紙で送って来るのかなぁ。

 

 

 

「はい...」

 

 

初っ端から気合いが削がれたが、それでも仕事はしないといけない。

そうして、俺はスコールさんと共に書類仕事をする。

し、しんどい.....

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

書類仕事を初めて3時間後。

段ボール箱3つ分にも及ぶ書類をスコールさんと2人で処理しきった。

疲れた...

普段滅多に疲れを顔に出さないスコールさんでも、疲れ果てた表情を浮かべていた。

 

 

「...日本政府からの書類が多いわね」

 

 

スコールさんがそう言葉をこぼす。

そう、俺に回って来る仕事の3分の2を占めている日本政府からの書類。

それがこの段ボール1つ分を占めていた。

割合としては俺個人のものの方が多いが、全体量としてはこっちの方が多かった。

本当に、メンドクセェ政府だな...

 

 

「でも、その反面ドイツからは少ないわね」

 

 

そう、日本政府がゴリゴリに書類を送って来るのに対し、ドイツ政府は必要最低限の書類しか送ってこない。

この書類の少なさは技術先進国の中では1番だ。

しかも、少ない書類の中でキチンと纏められているので、新たに聞き直すことも無い。

...もしかしたら、シュヴァルツェ・ハーゼの皆が、何かやってくれてんのかな?

そうだったら、嬉しいな。

 

 

「何はともあれ、これで今日の仕事はおしまいよ。お疲れ様」

 

 

「ああ、ありがとうございます。それで、スコールさんのこの後のご予定は?」

 

 

取り敢えずは仕事が終わったので、スコールさんが労ってくれる。

それに俺は反応し、この後のスコールさんの予定を聞く。

するとスコールさんは、

 

 

「そうね...今日の予定はこの仕事だけだったから、特に予定はないわね」

 

 

と言う。

...このためにGWだというのにわざわざ出社してくださったのか。

この仕事がほとんど俺関係だったのを考えると、申し訳なくなってくる。

そんな俺の表情から考えていることを察したのか、スコールさんは微笑みながら、

 

 

「気にしなくていいのよ。私は元テロリストだし、こうしてあなたの為に働けて幸せだわ」

 

 

と言ってくれる。

何だろう...泣けてくる。

何でこんなに良い人が元テロリストなんだ...

 

 

「取り敢えず、整備室に行って、主任に顔を出してから学園に戻りますね」

 

 

「なら、整備室には私も行こうかしら。私も束と意見交換がしたいし」

 

 

そういう訳で、スコールさんと共に主任がいる整備室に行くことになった。

主任に顔を出すと、必然的に助手であるクロエさんとも顔を合わせることになる。

前回会社に来た時は主任が突撃してきたのでクロエさんとは合わなかったが、久しぶりに顔を合わせる事になる。

チョッと楽しみだ。

 

 

「それにしても一夏、身体は大丈夫だったの?」

 

 

道中、スコールさんがそんな事を俺に聞いてくる。

多分だが、襲撃事件の事だろう。

一応通信端末で報告はしておいたが、やっぱり心配を掛けてしまったのだろうか?

 

 

「ええ、報告した通りですが、体に異常はありません」

 

 

「そう?安心したわ。『PurgatoryKnights』はあなたの為の会社なんだから、何かあったら頼ってね」

 

 

「...はい、ありがとうございます」

 

 

本当に、いい上司だよ...

篠ノ之もスコールさんみたいになればいいのに...無理か。

あの暴力女は一生変わらない気がする。

そんな事を考えていると、整備室に着いた。

スコールさんは社員カードを取り出し、フェイスIDと共に読み込ませる。

そうして、扉のロックを解除し、中に入る。

そのまま、主任がいるところにスコールさんと歩いていくのだが...

 

 

「...だんだん、散らかっていってる気がする」

 

 

そう、整備室がだんだんと汚くなっているのだ。

何だろうか、これは...

いくら主任でも...束さんでも、掃除くらいは出来るはずだよな...

そ、それにクロエさんもいるし、大丈夫だよな?

いくら束さんでも、掃除が出来ないほど散らかさないよなぁ?

 

 

俺、もしかしてフラグってやつを立てまくったか?

いや、違う!

フラグってのは、へし折るためにある!!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「何か言う事は?」

 

 

「「「ごめんなさい」」」

 

 

フラグは、へし折れなかったようだ...

 

 

結局あの後、主任が作業をしている区切られたスペースにいったのだが、そこには、ぐっちゃぐちゃに散らかった床。

その散らかりぐらいは、足の踏み場が無いぐらいではない。

工具だのゴミだのが4層ぐらいに積み重なっている。

そんな状況なのにも関わらず、束さんは気にせず何かに向かって作業をしていた。

そこにはマドカとクロエさんもいたのにも関わらず、束さんを止めるどころか掃除すら出来ていなかった。

これは流石に俺も怒る。

そして、俺の怒りのオーラで俺とスコールさんがやって来たのに気付いた3人は、ものすごい速度で土下座をした。

 

 

「束さん...いや、駄目兎よ...この散らかり具合は何事だ...?」

 

 

俺の怒気を感じ取ったのか、駄目兎はビクっと反応する。

そして、駄目兎はボソボソと話し始める。

 

 

「その...マドちゃんの専用機が完成しそうだったから、テンション爆上がりして...」

 

 

「ほーう」

 

 

テンションが上がるのは仕方が無い。

でも、それだけで掃除をしない理由にはならない。

 

 

「クロエさん、マドカ...何とか出来なかったのか?」

 

 

「その...私とクロエで掃除はするんだけど...」

 

 

「束様が次から次に散らかすので追いつかなくなり、諦めてしまいました...」

 

 

はぁ...

話を聞く限り、駄目兎が1人で暴走したようだ。

さて、如何調理しようかぁ...?

駄目兎がガッタガタ震えているが気にしない。

 

 

「一夏、束を殺さないでね。それ以外だったら何をしても構わないわ」

 

 

「分かりました、スコールさん」

 

 

「チョッとスーちゃん!?何を言ってるの!?束さん死んじゃうよ!?」

 

 

「だから、殺さないようにって言ってるじゃない」

 

 

「そういう事じゃなくてぇ!!」

 

 

駄目兎が何か騒いでいるが、自業自得だ。

さて、取り敢えず

 

 

「今度皆に俺の料理を食べてもらおうと考えていたが...駄目兎、お前は駄目だ」

 

 

「えっ..そ、それは...」

 

 

「ん?」

 

 

「分かりましたぁ!」

 

 

分かればいいんだ、分かればなぁ。

 

 

「次に、マドカとクロエさん」

 

 

「「は、はい!」」

 

 

おおう、ガッツリ怯えてるぜ。

まぁ、この2人は特に何もしてなかったらしいからなぁ...

 

 

「取り敢えず、片付けるのを手伝ってくれ」

 

 

「「え?」」

 

 

マドカとクロエさんは呆けたような声を上げる。

 

 

「そ、それくらいで良いんですか?」

 

 

「もっと厳しくしてほしいならするが?」

 

 

「「いえ、キチンとお手伝いします!!」」

 

 

よろしい。

さて、怖がらせちゃったのは謝らないとなぁ。

そう判断し、2人の頭を撫でる。

すると2人は、

 

 

「「ふゃぁぁああああ.....いい...」」

 

 

という声を上げ、

 

 

[[羨ましい!!]]

 

 

さっきまで黙ってた白式と白騎士が荒れる。

だから、頭を撫でられるのってそんなにいいもんなのか?

まぁ、それはいいや。

 

 

「ところで駄目兎。さっきマドカの専用機は完成しそうだったと言ったが、完成はしたのか?」

 

 

「よくぞ聞いてくれましたぁ!!」

 

 

俺がマドカの専用機の事を聞くと、さっきまで死んだような表情を浮かべていた駄目兎が復活した。

チッ、復活が早すぎたなぁ...

駄目兎は、ぐっちゃぐちゃの地面を器用に歩き、とある扉の前に立つ。

そして、

 

 

「見よ!これが、マドちゃんの専用機だぁ!!」

 

 

その駄目兎の声と同時に扉が開き、仲にあったものが見えるようになる。

それは勿論ISだ。

その見た目は、限りなく全身装甲に近いものの、顔は露出するようなものになっている。

カラーリングは紅をメインにしていて、所々差し色で金が使われている。

そしてその左肩からは腰に当たるところまである黒い肩マントが取り付けられていた。

だが、ぱっと見スラスター等は無いように見える。

 

 

「これが...」

 

 

「そう、マドちゃんの専用機、銃騎士だよ!!」

 

 

わお、紅騎士じゃない。

しかも銃って言っちゃたよ。

 

 

「マドちゃんは剣よりも銃が向いていたからねぇ。しかも、配色バランスは違うけど、使っている色はいっくんの煉獄騎士と一緒だよ!」

 

 

みょーな所に拘ってんなぁ。

まぁ、マドカが嬉しそうだし、良いかぁ。

 

 

「それで、マドカはIS学園に来るんですか?」

 

 

そう、俺はそれが気になっている。

マドカは『PurgatoryKnights』所属だが、IS学園に通っていない。

だから、IS学園に通っても良いと思うんだが...

この専用機はコアから駄目兎が開発したものだ。

コアの絶対数問題に引っ掛かる。

すると...

 

 

「だいじょーぶ!これは、篠ノ之束個人としてマドちゃんにあげるっていう事にするから!!」

 

 

な、なんつーすれっすれの抜け道を考えるんだ!

それでマドカの立場はどうなるんだ!?

 

 

「お兄ちゃん、私は普通に『PurgatoryKnights』所属のIS乗りっていう扱いだよ!」

 

 

何で考えていることがバレた。

本当に、俺の考えてることは身内だったりバディだったり兎にはバレるのか...

まぁ、それはいったんおいておこう。

 

 

「それで、IS学園に来れるんですか?」

 

 

「それなんだけどね...」

 

 

俺の改めた質問に反応したのはスコールさんだった。

俺がスコールさんの方を振り返ると、スコールさんは話し出す。

 

 

「これ以上、『PurgatoryKnights』が技術を持っていると不審がられるから、大手のIS企業を買収して傘下に加えたいわね。そうしたら、マドカもIS学園に通えるようになると思うわ」

 

 

...やっぱり、ただでさえ男性IS操縦者()がいる上に篠ノ之束特製ISはマズイか...

まぁ、今後の方針は後で聞くことにしよう。

 

 

「それよりも、今は掃除!マドカ!クロエさん!駄目兎を拘束!」

 

 

「「はい!」」

 

 

俺の指示で素早く動いたマドカとクロエさんが駄目兎を拘束する。

 

 

「チョッと!?何してるの!?」

 

 

「アンタがいると散らかる可能性があるからな。動くな」

 

 

「はーい...」

 

 

これで駄目兎はおとなしくなる。

それから、俺とマドカとクロエさんで掃除を開始する。

スコールさんも掃除しようととしたけど、流石に社長にそんな事させる訳にはいかないので、休んでもらっている。

 

 

そんなこんなで、俺が銃騎士の周りを掃除することになった。

俺は何となく銃騎士に触り、

 

 

「マドカの事をよろしくな」

 

 

と声を掛ける。

まぁ、白式と白騎士以外と話せる訳が無...

 

 

[うん、任せて]

 

 

「え?」

 

 

いま、声が...

 

 

「一夏様?如何しました?」

 

 

「ああ、いや、何でも無いですよ、クロエさん」

 

 

俺がそう言うと、クロエさんは自身の掃除場所に戻っていく。

 

 

(いま、銃騎士の声聞こえたか?)

 

 

[ううん、聞こえなかったよ]

 

 

[私もです、気のせいでは?]

 

 

そうかなぁ...

そうだと思うんだが、いま確実に聞こえたんだよなぁ...

何なんだろうか?

もしかして、俺って全部のISと話せるようになるのか...?

 

 

 

 




サブタイの子の出番が少ない事件。
詳しいスペックは、後々...

ヒロインの2人が出てこんなぁ。
早く出てこれるように頑張ろう!

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想を頂けると物凄く嬉しいので、是非お願いします!


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一方そのころ

学園では。
という事で、一夏がいないGWの学園です。
初めて1話に4人分の視点入れたわ...

今回もお楽しみください!


深夜side

 

 

チクショウ!

何で俺がこんな事をしないといけないんだ!

 

 

GWの丁度折り返しの日。

俺は学園の奉仕作業でグラウンドの整備をしていた。

何で、何で主人公の俺がこんな事をしなくちゃいけねえんだよ!

そもそも何で俺が活躍できなかったんだよ!

俺は主人公だろ!

あの場面は、俺が華麗にあの無人機を倒す場面だっただろうが!

それに、何で一夏と簪がもう仲良くなってんだよ!

簪が出て来るのは2学期の文化祭の後の専用機持ち限定タッグトーナメントだろうが!

本当に、どうなってんだよ...

 

 

だが、この奉仕作業は俺的にはチャンスもある。

それは...

 

 

「何故だ!何故私がこのようなことをしなくてはならないのだ!私は一夏に檄を飛ばしただけだ!」

 

 

そう、箒の存在だ。

この奉仕作業は箒も課せられていて、俺が作業の日はペア作業なのだ。

これはチャンスだ。

一夏の事しか見てない箒を俺のものにできる!

そうすれば、ヒロインの1人である箒を攻略すれば、他のヒロインも攻略できるはずだ!

余り喋れなかったセシリアとも、一回も喋れなかった鈴や簪とも関わりを持たないとなぁ!

取り敢えず箒を攻略しないと...

次の休憩時間で話し掛けよう。

 

 

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箒side

 

 

何故だ、何故なのだ!?

何故私が一夏に檄を飛ばしただけでこんな目に合わないとならないのだ!?

そもそもなぜ一夏は私の事を幼馴染だと言わないのだ!

それに、女子に暴力を振るうようになってしまったではないか!

この6年で、お前に何があったというのだ、一夏!

 

 

昔は私と共に剣道に励み、共に絆と愛情を育てて来た一夏。

だが、姉さんがISなんてものを作り、私と一夏は悲しくも離れ離れになってしまった。

でも、私は剣道をし続けた。

それが私と一夏を繋いでいるようだったから。

時は流れて今年の4月

私と一夏は遂に再開することが出来た。

私はとても喜んだ。

当然、一夏も幼馴染と再会が出来て嬉しかったはずだ。

 

 

だが一夏は私の事を幼馴染では無いというではないか!?

それに私でない金髪とは仲良く喋っているし、周りにクラスメイトの女子を集めているではないか!

何時からそんな女子を侍らせる最低な男になってしまったというのだ!

それに、一夏の戦いを見たが、何だあの戦い方は!

篠ノ之流剣道とは全くと言って良いほど関係が無い戦いではないか!

だから、あの襲撃者にも苦戦をしたのだ!

それで檄を飛ばしてやったというのに...

それなのに、私はこんな事をしている。

納得がいかん!

何故だ!

何故一夏は幼馴染である私を差し置いて、他の女共と仲良くしているのだ!

何故、一夏はあそこまで変わってしまったのだ!

 

 

そうか、誰かが一夏を誑かしたのか!

なら、許せんな!

私の一夏をあんな風に変えるだなんて!

何時か、何時か本当のお前を取り返すから待っていてくれ、一夏!

 

 

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簪side

 

 

GWの真っただ中。

確か、今日は一夏が会社に向かうって言ってたかな?

GWになってからずっと仕事をしてるみたいだから、倒れないかが心配だなぁ...

 

 

そんな、働いたり忙しく何か作業している人の方が少ない連休なのに、私達1年4組全員は整備室で作業をしていた。

理由は分かり切っていると思うが、私の専用機の開発だ。

皆、GWなのにも関わらず私に協力してくれる。

当然、私は皆にGWまで手伝って貰って良いのか確認した。

すると

 

 

「勿論!だって、クラス代表で、友達の専用機だよ?協力しない訳ないじゃん!」

 

 

と言ってくれて、他の子もうんうんと頷いてくれた。

この時に、チョッとウルって来た私は普通だと思う。

その事もあって、1年4組全員は私の専用機開発をしている。

勿論4組だけの協力では作業が出来ていない。

GWにクラス全員で整備室を使う事の許可をくれた織斑先生。

 

 

「良いんじゃないか?クラスを纏めるのもクラス代表には必要だ。それが出来ているっていうのは素晴らしいぞ」

 

 

このような事を言ってくれた。

本当にいい先生だと思う。

それに、私達が使っているこの工具。

これは全て一夏が手配してくれた『PurgatoryKnights』製の最高級品のものだ。

しかもご丁寧にKANZASHI Sarashikiと名前も彫ってくれている。

チョッと恥ずかしいのは秘密だ。

因みに、お金は払っていない。

一夏は

 

 

「ああ、良いよ良いよ。簪は友達だし。それに、俺は『PurgatoryKnights』所属だから滅茶苦茶忙しいけど金は入って来る...ていうか、これタダだし」

 

 

と言っていた。

こんな高級品をタダでくれる『PurgatoryKnights』は凄いし、それを手配した一夏も凄い...

そんな協力も相まって、私の専用機は着々と完成に近づいている。

嬉しいなぁ。

....あ、もう15時だ。

 

 

「もう15時だし、休憩しない?」

 

 

私が休憩を提案すると、

 

 

『さんせーい!』

 

 

皆が賛成する。

息が揃った肯定に、私も自然と笑みが漏れてしまう。

そして、私達はいったんお菓子を食べる事になった。

このお菓子は差し入れで織斑先生が持って来てくれたものだ。

 

 

「GWだからな。ただし、他の教員や生徒に言わないでくれ」

 

 

とは織斑先生の話だ。

こんなに尊敬できる先生なのに、何で前一夏にお説教されてたんだろう?

私はそんな事を考えながら、ウエットティッシュで手を拭く。

このウエットティッシュ、何と『PurgatoryKnights』の新商品の試作品らしいのだ。

 

 

「これ、整備で手に着いた汚れが一瞬で落ちるっていうウエットティッシュなんだ。試作品でよかったら使う?使ったら後で感想聞くけど」

 

 

一夏がそう言っていたのでありがたく使わせてもらう事にした。

...これ、本当に直ぐ手が綺麗になってる。

『PurgatoryKnights』にはどんな技術者がいるんだろう?

気になるなぁ...

 

 

あ、これ美味しい。

今度自分でも買おうかな。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

千冬side

 

 

私は、職員室である2枚の書類を眺めていた。

その2枚の書類にはそれぞれ上部に

 

 

『転入届け』

 

 

と書いてある。

要は、GW明けにやって来る転校生の書類だった。

それぞれドイツとフランスからで、2人ともその国の代表候補生だった。

まぁ、これ自体は別におかしい話ではない。

このIS学園は唯一の世界立でISを学ぶための学校。

当然、世界トップのエリート校という事になる。

...まぁ、篠ノ之(馬鹿者)の様な奴もいるが、それは限りない少数だ。

それにより、各国家で選ばれたエリートである代表候補生は一般生徒と比べると如何しても入学しやすくなってしまう。

だからこそ、代表候補生の転校生は数は少ないが珍しくは無いのだ。

代表候補生というだけ(・・・・・・・・・・)なら。

 

 

「...何故、2人とも専用機持ちで、私のクラスなんだ...?」

 

 

そう、それが問題だ。

世界には束が現在新しく作っているものを除いて、コアが467個しかない。

専用機というのは、簡単に持てるものではなく、それによりいくらIS学園でも専用機持ちは少ない。

今現在3年生に1人、2年生に2人だけだった。

私は比較的最近就職した教師なので古い年代の事はよくわからないが、専用機持ちがいない年代も多かったようだ。

それなのにも関わらず、1年生にはもう既に5人も専用機持ちがいる。

しかもその内3人が私のクラスだ。

...正確に言うなら、織斑の煉獄騎士はISのコアを持ってはいるがISとは異なり、更識のISはまだ未完成なのだが、まぁ、書類上は専用機持ちなのだ。

そんな、既に異常とまで言われる程専用機持ちが多い学年に、更に2人。

しかも私のクラスときたものだ。

これで、1年生の専用機持ちは(書類上)7人、その内1組が5人となる。

これは、確実に多すぎる。

何で1学年に戦争できるだけの戦力が揃い、その半分以上が私のクラスなんだ...

 

 

「...まぁ、文句を言っても決定してしまったものには変わりはないか」

 

 

さて、どんな生徒なのか確認をしなくては...

そう思い、私はその書類を確認する。

先ずは、ドイツか...

お、コイツは...

 

 

「...ドイツ代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

 

懐かしいな。

そう、ドイツからの転校生は、シュヴァルツェ・ハーゼの隊長でもある、ボーデヴィッヒだった。

...正直、知っている奴でホッとしている。

私が教官の頃から言われたことはそつなくこなし、自分からも行動出来てきていたので、そこまで問題では無いな。

ずっと軍にいたので一般常識や交友関係が心配だが、まぁ、織斑が何とかしてくれるだろう。

さて、次はフランス...

 

 

「フランス代表候補生、シャルル・デュノア..............はぁ!?」

 

 

私はそのデュノアの書類を見て、大声を上げてしまった。

職員室にいた他の教員から私に視線が向けられる。

私は気まずさを感じ、謝る。

そして、再度書類じっくりと読む。

 

 

「...フランスのデュノア社で発見された世界で3番目の男性IS操縦者」

 

 

まさか、3人目が見つかるだなんて...

何々、デュノア社社長夫妻の息子で、代表候補生だが、同時に企業所属でもある、か...

私はその書類を読み終わったとき、思わず頭を抱えてしまった。

まさか、私のクラスに男子生徒全員が集まるだなんて...

ここで、私は1つの疑問を持ち、三度書類を見る。

だが、今回は私が確認するのは書類に書かれている内容ではなく、書類に添付してあるデュノアの写真だ。

 

 

「確かに男子に見えるが、如何も中性的で女子にも見えるな...」

 

 

この写真が全身のものだったら判断が出来たと思うが、転入届けの写真は顔しか写っていない。

だが、顔写真だけでも、男性だと断言できない程、このシャルル・デュノアは中性的だった。

これは、もしかしたら織斑や橘のデータを狙ったスパイの可能性があるな...

確か織斑は、今会社にいるんだったな...

束やスコールは忙しいかもしれないが、伝えておいた方が良いな。

そのまま織斑に伝えてもらえれば、スパイ対策ぐらいは出来るだろう。

丁度15:00か。

良し、休憩として外に出て連絡を入れよう。

私はそう判断し、職員室から屋上に続く扉の前に移動する。

本来だったら屋上に出てしまいたいが、GWなので施錠されてしまっている。

私はそのまま束の携帯に電話を掛ける。

2回程コール音が鳴った後、

 

 

『もすもすひねもす。たっばねさんだよ~~!ちーちゃん、如何したの~~!?』

 

 

と、束がバカでかい声でそう言ってくる。

 

 

「やかましい!電話ぐらい普通に出れんのか!?」

 

 

『無理だよ~。これは、束さんの個性なんだから!』

 

 

私はそれを聞き、思いっきりため息をはく。

コイツと話すと、疲れる...

 

 

『それでちーちゃん、如何したの~?』

 

 

「ああ、GW明けに転校生が2人やって来るんだが、その内1人が男子なんだ」

 

 

『なぬ!?いっくんとあの...何っていったけ、あの2人目以外にも見つかったの!?』

 

 

如何やら束も驚くようだ。

まぁ、それは当然か...

 

 

「ああ、だが、如何もそいつが胡散臭い。スパイ対策をしておいてくれ」

 

 

『分かったよちーちゃん!いっくんにも伝えておくから!それじゃあ早速準備するから!バイビ~~~!!』

 

 

それだけ言うと、もう電話は切れてしまった。

だが、良いだろう。

これで、束やスコール、織斑が何とかやってくれるはずだ。

...何となくだが、スパイ対策では収まらないくらいの事をしそうだ。

何せ、束だからなぁ.....

 

 

 

 




前半2人の後だと簪のいい子さが更に際立つ。
因みに、箒が愛情だの言ってますが、これはそう思い込んでるだけです。

いけそうなので今日の12:00にもう1話出します。

感想を頂けると凄く嬉しいので、是非お願いいたします!


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今後の方針と転校生

本日2本目。
遂にあの2人の登場!
まぁ、片方はプロローグに出てる子なんですけど。

今回、最後の方が雑に感じるなぁ...
別に急いでた訳じゃないのに...

そんな今回ですが、よろしかったらお楽しみください!


一夏side

 

 

何とか掃除も終了し、今現在はそのまま整備室で休んでいる。

社長であるスコールさんまでこんなところで休憩するのは物凄い違和感があるが、本人が良いと言っているんだからいいんだろう...多分。

そうしていると、駄目兎の携帯に電話がかかって来た。

 

 

「もすもすひねもす。たっばねさんだよ~~!ちーちゃん、如何したの~~!?」

 

 

何だそれ。

もしもしじゃないのかよ。

って言うか、千冬姉か...

駄目兎と駄目姉が電話してんのか。

あ、いや、千冬姉は今学園で仕事だと思うから織斑先生モードか。

まぁ、一応GWだし千冬姉で良いと思うが。

 

 

で、千冬姉が言っている事は分からないが、駄目兎のリアクションから察するに3人目の男性IS操縦者が見つかったようだ。

駄目兎は準備するからと言って電話を切った。

 

 

「いっくん、スーちゃん、3人目の男性操縦者が見つかってIS学園に行くっポイんだけど、ちーちゃんが言うには如何も胡散臭いんだって~」

 

 

「まぁ、千冬の普段の生活能力はアレだけど、こういう観察眼は本物だから実際に胡散臭いんでしょうね...」

 

 

「確かにそうですね...」

 

 

千冬姉、スコールさんにも言われちゃったよ。

まぁ、改善されなかったら強制禁酒なだけだが。

 

 

「それで、一応スパイ対策をしよう!」

 

 

「束様、一応では駄目だと思いますが...」

 

 

「だって、いっくんの煉獄騎士はISじゃないし、ディミくんたちが造った奴だから束さんでもデータ見れないんだよ?IS開発者の私が見れないデータを只の凡人が見れると思ってる~?」

 

 

「そう言われると...」

 

 

確かに、そう言われると特に対策をする必要を感じなくなってしまう。

それに俺のPCを見られたとしても、そもそもPCもこの駄目兎製だからセキュリティは万全か...

 

 

《フム、何の話だ?》

 

 

「あ、ディミオス。お帰り」

 

 

ここで、バディワールドからディミオスが戻って来た。

俺以外の人達は、急にディミオスが出て来たことに驚いている。

もう俺は慣れたから、時に驚きはしない。

 

 

「それで、何だって?」

 

 

俺はそんな人達を放っておいて、ディミオスにそう質問する。

そう、ディミオスがバディワールドに帰っていたのは、ウィズダムさんにCCCマークのパーツについて聞くためだ。

それと他にも話を聞くために飛び回って貰ったけど。

 

 

《ウィズダムが言うには、意図して誰かにパーツを渡したことは無いらしい。だが、廃棄予定だった試作型抹消機神(プロト・デリーター) ギアゴッドver.Ø88の一部パーツが分解後何時の間にか無くなっていたらしい》

 

 

「つまり、偶然にもこの世界に流れ着いて、そのパーツが利用されたと?」

 

 

《恐らくな》

 

 

...面倒だな。

そうなって来ると犯人の目星すら付けられない。

それに、何で牙王さん達の世界ではなく、俺の世界なんだ...

もしや、

 

 

「ディミオス達がこの世界に来た影響か?」

 

 

《...そう思いたくないが、それが一番有力だ》

 

 

なんてこったい。

 

 

「これは悪いのは俺らって事になるのか?」

 

 

「そんな訳ないよ!」

 

 

「うお、駄目兎...何時の間に現実に復帰した?」

 

 

何時の間にやら現実に復帰していた駄目兎がそう言ってきたので、俺は驚いてしまう。

駄目兎の後ろではマドカ達がうんうんと頷いている。

 

 

「悪いのはいっくんとディミくんじゃなくて、そのパーツを利用した奴らだよ!」

 

 

「そうそう!だから、お兄ちゃんたちは落ち込んじゃダメ!」

 

 

《だそうだ、一夏》

 

 

「そうみたいだな...ありがとう、束さん、マドカ」

 

 

こうやって直ぐに元気づけてくれるっていうのはいいなぁ...

因みに、束さんは呼び方が駄目兎から戻ったことではしゃいでる。

もう少し駄目兎にしてた方がよかたかぁ?

 

 

「他には?」

 

 

《特には言われていない。バディワールドからの流出品が今後判明したら我のもとに連絡が来るようになってる》

 

 

「了解」

 

 

他には何もないと良いんだけどなぁ。

ここで、俺は時間を確認する。

そろそろ学園に戻らないとなぁ。

 

 

「じゃあ、俺とディミオスはそろそろ学園に戻りますね」

 

 

「え、もう帰っちゃうの?」

 

 

俺がそう言うと、マドカは少し寂しそうな声を上げる。

チョッと心苦しいが、戻らないといけないのは事実なので、ここは残るという選択は出来ない。

 

 

「ごめんな。今度時間があるときにでも、また相手してやるから」

 

 

「約束だよ!」

 

 

そう言ってマドカは笑う。

俺はそんなマドカの頭を一撫ですると、スコールさんと束さんとクロエさんに向き直る。

 

 

「じゃあ、行ってきますね」

 

 

「ええ、行ってらっしゃい、一夏」

 

 

「頑張って下さいね、一夏様」

 

 

「いっくん、頑張ってね!束さんに出来る事なら何でも言ってね!」

 

 

「なら束さん。『篠ノ之箒に何をしても私は何もしない』って世界に発信してくれます?そうしてくれるとアイツがいなくなってかなり頑張れるんですが...」

 

 

俺がそう言うと、束さんは苦笑いを浮かべる。

 

 

 

「あ、あははは...時間が取れたらやってみるよ」

 

 

「今こうやってる時間はあるじゃ無いですか」

 

 

「それとこれとは話が違うよぉ...」

 

 

まぁ、分かってるけどさ...

 

 

「じゃあ、行ってきます!」

 

 

「「「「行ってらっしゃい!」」」」

 

 

そう4人の挨拶を聞き、俺とディミオスは学園に戻る。

さて、GW明けからも頑張りますか!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

GW明けの初日の朝のSHR前。

俺は教室にて仕事をしていた。

結局出社した翌日からも仕事が途切れることは無く、最終日に当たる昨日にはアナログ書類が届いた。

今現在はそのアナログ仕事をしている事になる。

結局GWは仕事のせいでセシリアや鈴との合同トレーニングが出来ず、基本的に早朝と深夜に行う自主トレしか出来なかった。

教室には続々と皆が登校してきているが、俺が仕事をしているのを察してか話し掛けて来る人はいなかった。

それだけでは無く、会話の声も何時もより控えめだ。

正直この仕事の7割程が日本政府から送られてきている仕事でイライラしていたので、騒がしくなくて良かったと思っている。

そんなこんなで地道に仕事を処理していくこと十数分。

 

 

「さて、全員席に着け!今日は伝える内容が多いため朝のSHRは少し早めに始める!」

 

 

教室の後ろの扉から織斑先生がそんな声を掛ける。

するとその瞬間に皆話を終了し、自分の席に着く。

俺も仕事をいったん終了し、仕舞う。

すると、織斑先生と山田先生が後ろの扉から教室に入って来る。

...わざわざ前から来ないってことは、そこに例の転校生がいるな?

 

 

「さて、先ずは皆に連絡だ。GW期間、奉仕作業謹慎だった橘と篠ノ之だが、この後1時間目から復帰することになる」

 

 

織斑先生がそう言うと、皆が露骨に嫌そうな顔をする。

今までの行動で、篠ノ之は完全に嫌われてしまったらしい。

それに、そんな篠ノ之と同じような罰則を与えられた深夜の株も下がってしまったようだ。

 

 

「そして、今度は皆さんに嬉しいニュースです!今日からこのクラスに転校生がやって来ます!」

 

 

『やったぁぁぁ!』

 

 

今度は山田先生が、嬉しいニュースとして転校生が来ることを伝えると、皆が歓喜の声を上げる。

まぁ、俺は聞いてたのでそこまで反応をしない。

 

 

「じゃあ、お2人、入ってきてください!」

 

 

は?

2人?

聞いてねえぞ、千冬姉ぇ...?

俺がそんな事を思っていると、さっきから閉まっていた教室の前の扉が開き、件の転校生2人がやって来る。

片方は金髪で男子用制服を着用して、もう1人は銀髪で左目に眼帯をしている。

 

 

「えっ...」

 

 

その内1人を見て、俺は驚いてしまう。

 

 

「では、先ずデュノア君、お願いします」

 

 

「はい」

 

 

山田先生の指示で、金髪の方が1歩前に出る。

そして、笑いながら自己紹介を始める。

 

 

「フランスからやって来ました、シャルル・デュノアです。不慣れなことが多いと思いますが、よろしくお願いします」

 

 

そう言って、その金髪...デュノアは頭を軽く下げる。

 

 

「えっと、男子...?」

 

 

皆が固まってるなか、清香が代表して何とかという感じで質問をする。

するとデュノアは、

 

 

「はい、此方に僕と同じ境遇の方が2名いるとの事で本国より転校を...」

 

 

あ、耳塞ごう。

そうして何とか俺が耳を塞いだ時、

 

 

『きゃぁぁああああ!』

 

 

...だと思ったよぉ!

 

 

「男子!3人目の男子!」

 

 

「一夏君とは違って守ってあげたくなる系!」

 

 

「ええい全員静かにしろ!まだもう1人いるんだぞ!」

 

 

『はい!』

 

 

織斑先生の怒声により、一瞬で静まり返る。

しかし、これが男子...?

確かにそう見えなくもないが、身長や体形は女性よりだしな...

これは...胡散臭えなぁ...

まぁ、デュノアに関してはまた後で調べよう。

俺が驚いたのは、事前に聞いていたデュノアの事ではない。

もう1人だ。

 

 

「では、ボーデヴィッヒさん、お願いします」

 

 

「分かりました」

 

 

そう、コイツは...

 

 

「ドイツ代表候補生で、ドイツ軍IS部隊シュヴァルツェ・ハーゼ隊長のラウラ・ボーデヴィッヒだ。幼少期から軍にいたため、世間の一般常識とはズレている部分もあるかもしれないが、よろしく頼む」

 

 

ラウラだ~!

俺が内心滅茶苦茶驚いていると、ラウラが俺の前に立つ。

いや、元々俺の席が教室の最前列の中央だから余り立ち位置は変わってないけどね。

 

 

「久しぶりだな、一夏」

 

 

ラウラは笑いながらそう言ってくる。

それを見て、俺も笑いながら返す。

 

 

「ああ、久しぶり、ラウラ♪」

 

 

俺の言葉を聞き、皆がざわつく。

まぁ、俺自身もここまでテンションの高そうな声が出るとは思わなかった。

 

 

《久しぶりだな、ラウラ・ボーデヴィッヒ》

 

 

胸ポケットからディミオスが出て来て、ラウラに声を掛ける。

後ろでデュノアが驚いたような表情を浮かべているが、ラウラは気にしない。

まぁ、初対面じゃないしな。

 

 

「おお、ディミオスソードか。久しぶりだな」

 

 

いやぁ、本当に久しぶりだよ。

俺がシュヴァルツェ・ハーゼにいたのは中1の頃だったから、2年間も会って無かった事になるのか。

 

 

「織斑、ボーデヴィッヒ。プライベートの会話はそれぐらいにしろ」

 

 

「はい」

 

 

「分かりました、教官」

 

 

「ボーデヴィッヒ、織斑先生だ」

 

 

「すみません、織斑先生」

 

 

ラウラは思わず教官と呼んでしまった事を謝罪する。

...皆からの視線が痛ぇ。

後での説明が大変そうだ。

 

 

「さて諸君、これにて朝のSHRは終了だ。転校生2人に聞きたいことがあるかもしれんが、この後は2組との共同実技授業だ。遅れないようにしろ。それから織斑」

 

 

「はい?」

 

 

俺は織斑先生に呼ばれたので返事をする。

 

 

「デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろ」

 

 

えー、胡散臭いって最初に言ったのは織斑先生じゃないですかー。

それなのに俺に世話を押し付けるんですか?

メンドクセェな...

 

 

バキィ!!

 

 

振り下ろされた出席簿を俺が叩き割った音が教室に鳴り響く。

ラウラとデュノアは驚いたような表情を浮かべるが、その他の皆は山田先生を含めそんな表情を浮かべていない。

もう慣れたのか...

人間の適応能力ってすげぇ。

 

 

「織斑先生、危ないじゃ無いですか」

 

 

「お前が心の中で面倒だと考えているからだ」

 

 

「それを言うなら、面倒だとか言って()に押し付けず、自分で家事をやれたらその理由で怒っても良いんじゃないですか?」

 

 

「だから!プライベートを「だから、その反応は肯定ですよ?」...しまった」

 

 

ラウラとデュノアは未だに驚いた表情を浮かべているが、皆はもう既に笑える程まで慣れてしまっているようだ。

 

 

「まぁ、チャイムも鳴りますし、姉弟漫才はこれぐらいにして、デュノアを更衣室に連れて行けば良いんですね?」

 

 

「あ、ああ。そうだ。よろしく頼むぞ」

 

 

織斑先生がそう言った時に、丁度いいタイミングでチャイムが鳴る。

さて、デュノアを更衣室に連れて行かないとなぁ。

 

 

「じゃあ、ラウラ。話は後で!」

 

 

「分かった」

 

 

「ディミオス!行くぞ!」

 

 

《了解した》

 

 

さて、無事デュノアを更衣室に連れて行くのがミッションだな...

頑張らねえと...

 

 

 

 




遂にラウラが再登場!
プロローグではセシリアより早く出たのに、本編での一夏との再会はセシリアの後。
まぁ...仕方が無いよね?

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価を頂けると凄く嬉しいので、是非お願いします!


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実技授業

何だかんだでちゃんと授業風景書くのって初めて。
学園ものなのに...

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

さて、デュノアを如何やって連れて行くか...

なーんか、廊下から足音が聞こえるなぁ。

しかも物凄く走っている音が。

 

 

「あ、君が織斑君だね。僕は「それよりも急ぐぞ!」え?」

 

 

嫌な予感しかしない俺はデュノアの手を引き、教室から出る。

ディミオスはしれっとカードに戻り、胸ポケットに戻る。

ていうか、この感触...随分と細いな。

男子だったら、もうちょっと筋肉が無いと違和感がある。

いや、病気とかだったら細くなる可能性があるが、ISに乗れるなら健康だろう。

 

 

「えっと、織斑君!?これはいったい...」

 

 

「良いから急ぐぞ!取り敢えず、教室は女子が着替えるから直ぐに移動!そして...」

 

 

俺がそこまで行ったときに、後ろから物凄い量の足音が聞こえてくる。

チラッと振り返ると...

 

 

「いたぞ!転校生だ!」

 

 

「織斑君と一緒よ!」

 

 

「皆の衆!であえであえ!」

 

 

3組の生徒や2年生と3年生の先輩達が俺とデュノアに向かって来ていた。

チクショウ、もう来たのか...

っていうか何でそんなテンションなんだ。

何時からIS学園は武家屋敷になった?

 

 

「な、何で皆こんなに迫って来るの!?」

 

 

...コイツ、今ボロ出さなかったか?

本来の性別が男子だったらこんな発言はしないはず。

確実に黒だな。

だが、まだ目的が判明していない以上、もう少し泳がせておくか...

 

 

「デュノア、俺達はこの学園で3人しかいない男子生徒だ。物珍しさから集まってきて当然だろう」

 

 

「あ、そ、そうだね!僕たち、男子だもんね!」

 

 

コイツ、隠す気あんのか?

まぁ、いいか。

 

 

「お、織斑君!まずいよ!」

 

 

そんな事を考えていると、確かにまずい状況になった。

廊下で前後両方に大量の生徒たちに挟まれてしまった。

やろうと思えば全員をブッ飛ばすぐらいできるんだが、そうなると問題になる。

さて、如何するか...

飛び降りるか。

俺はそう判断し、廊下の窓を開ける。

そしてデュノアに向き直り、

 

 

「デュノア、気絶するなよ。あと、舌噛むから喋るなよ」

 

 

それだけを簡潔に伝える。

 

 

「え、ちょ、何を言って...」

 

 

デュノアの言葉を最後まで聞かず、俺はデュノアを抱え、開けた窓から飛び降りる。

 

 

「うひゃぁぁあああ!?」

 

 

『えっ!?』

 

 

デュノアや先輩たちの驚愕の声をBGMとして、俺はそのまま落下する。

因みに、俺達1年生の教室は4階なので、俺は4階から飛び降りたことになる。

それにIS学園の1階は通常の建物よりも天井が高いので、必然的に4階の位置は通常の建物の4階よりも高い。

そんなところから飛び降りたので、皆が驚愕の声を上げるのは当然か。

俺はデュノアを抱えたまま空中で一回転し、足から地面に着地する。

勿論、着地の瞬間に膝を曲げて衝撃を抑える事で、怪我をするだなんてミスはしない。

 

 

「よし、このまま授業で使う第一アリーナに行くぞ。着替えはアリーナの更衣室でするから覚えておけ」

 

 

「う、うん...分かったよ...」

 

 

デュノアは飛び降りた衝撃から抜け出せていないな。

全く、代表候補生ならこれくらいは出来るようになっておけよな?

 

 

そうして移動し、男子更衣室に着いた。

俺は自身のロッカーの扉を開けながら、デュノアに声を掛ける。

 

 

「ここが男子更衣室だ。別のアリーナを使う時も男子更衣室はここにしかないからここで着替える事になる。それと、各個人にロッカーが振り分けられてる。デュノアのはそれだ」

 

 

「分かった。えっと、こっちは?」

 

 

「それは深夜のだ」

 

 

俺はロッカーからジャージを取り出しながらそう答える。

どうせここでしか着替えないから、洗濯をしない分をここに置きっぱなしなのだ。

授業が終わったら汗が染みてるから持って帰る事になる。

 

 

「あ、織斑君。僕の事はシャルルで良いよ」

 

 

「分かった。俺の事も一夏で良いぞ」

 

 

「うん、これからよろしくね、一夏」

 

 

「ああ、よろしくな、シャルル」

 

 

そう簡潔に挨拶を交わすと、俺は制服を脱ぐ。

 

 

「ちょっ!?な、何を!?」

 

 

「もう直ぐ授業が始まる。さっさと着替えないと怒られるぞ」

 

 

「わ、分かった!」

 

 

そう言ってシャルルも着替え始める。

服を脱いでここまで動揺するってことは、やっぱり女子だな。

そんな事を思いながら、俺は着替え終わる。

 

 

「アレ?一夏、ISスーツは?」

 

 

シャルルが俺のジャージ姿を見て疑問の声を上げる。

まぁ、そりゃそうか...

 

 

「これは会社に作って貰った特別なISスーツだ。それにしても、深夜もそうだが男子なのによく普通のISスーツを着れるな...」

 

 

俺には恥ずかしくて無理だぞ...

あんなピッチピチのもの着るのは。

いや、シャルルは女子の可能性があるからまだ納得できるが、深夜はすげえな。

 

 

「さて、さっさとアリーナに出よう。俺だって何回も出席簿は壊したくないからな」

 

 

「こ、壊すの前提なんだ...」

 

 

当たり前だろ?

織斑先生は事あるごとに出席簿で殴って来るんだから。

その度叩き割る俺の身にもなってくれ。

 

 

そして、シャルルと軽く雑談をしながらアリーナにやって来た。

鎌を掛けようかとも思ったが、まだ怪しんでることを察せられるのはよくないと思い、本当にただの雑談しかしなかった。

アリーナに出ると、注目されるのが分かる。

まぁ、シャルルは転校生だし注目されて当然だな。

 

 

「織斑君のISスーツ、変わってるわね」

 

 

「ね。ぱっと見ジャージに見える...」

 

 

訂正。

如何やら俺のジャージも注目されているようだ。

そう言えば、合同実習って初めてだから、1組以外の生徒はこれを初めて見る訳か。

 

 

「一夏!」

 

 

「鈴、うるさい」

 

 

そんな事を思っていると、鈴がやって来た。

やって来るのは良いのだが、声のボリュームは考えて欲しい。

 

 

「アンタのISスーツ変わってるわね」

 

 

「会社に作って貰った。俺は通常のISスーツなど着ない」

 

 

「あ、アンタが転校生ね」

 

 

おい、話題変わるの唐突過ぎだろ。

もうちょっと考えろ。

 

 

「私は中国国家代表候補生で、2組クラス代表の凰鈴音よ!鈴って呼んで頂戴!よろしくね!」

 

 

「僕はフランス代表候補生のシャルル・デュノアです。よろしくお願いします」

 

 

そう言って、2人は握手をする。

鈴って本当にコミュ力高いな...

っていうか、握手したけど違和感に気付かないの?

これは鈴が鈍感なのか、気付いた俺がおかしいのか...

前者だな。

俺がそう判断した瞬間、チャイムが鳴り、

 

 

「さて、全員整列をしろ!」

 

 

織斑先生がやって来た。

その後ろには篠ノ之と深夜がいる。

ああ、そう言えばここから復帰だったな。

そのまま2人は俺達の列に混じって来た。

 

 

「さて、それでは授業を始める。今日は本格的にISへの搭乗を開始する。その前に、専用機持ちの模擬戦を見てもらう!オルコット!凰!前に出ろ!」

 

 

「「はい!」」

 

 

呼ばれた2人は返事をし、前に出る。

うん、気合も十分のようだ。

ん?深夜が驚いた表情を浮かべてるな。

何処かに驚く要素何てあったか?

 

 

「織斑先生、模擬戦は鈴さんとすればよろしいのですか?」

 

 

「いや、もう直ぐ対戦相手が来るから...」

 

 

「きゃぁぁああああ!ど、退いてください~~!」

 

 

セシリアが対戦相手を織斑先生に確かめると、織斑先生は対戦相手が来るというが、その瞬間に頭上から声が聞こえる。

俺を含めた全員が上を見ると、ラファール・リヴァイヴを纏った山田先生が此方に突っ込んで来ていた。

着地点は...完全に俺じゃねえか!

周りの生徒は一目散に逃げるが。このままでは確実に何人かが巻きこまれる。

しかも、最悪な事にダークコアデッキケースを取り出す暇もない。

つまり...!

 

 

「ディミオス!俺を上げろ!」

 

 

《了解した》

 

 

俺はディミオスに指示を出すと、その場でジャンプをする。

すると、ポケットから出て来たディミオスが俺の事を弾き上げる。

ディミオスはSDだったとしたも、やっぱりモンスターなので物凄い力がある。

そのため、結構な高さまでのジャンプが出来るのだ。

そして、俺は山田先生の横に着た瞬間、

 

 

「ハァ!!」

 

 

思いっ切り蹴りを叩き込む。

制御不能で落っこちて来たのなら、軌道を変えてしまえばいい。

受け止めるという選択肢がないでもないが、腕が使い物にならなくなりそうだったのでこっちにした。

 

 

『ええええぇぇぇぇ!?!?』

 

 

織斑先生を含め、全員が驚愕したような声を上げる。

まぁ、ISを蹴り飛ばすだなんて事、俺以外でしたことある人はいないだろうからな...

蹴り飛ばされた山田先生は、そのまま軌道がそれ、誰もいないアリーナの壁際に落下する。

 

 

「バディスキル、インフェルノサークル」

 

 

俺は落下しながら誰にも聞こえないぐらいの声量でそう言う。

すると、俺の両足にサークルが出現し、俺はそのまま飛べるようになる。

本来だったら4階から飛び降りた時にも使いたかったが、これはISの部分展開扱いになる。

そのため、さっきは使えなかった。

全く、ルールっていうのは偶に面倒に感じるなぁ。

そう考えながら、俺は地面に着地すると同時にバディスキルを解除する。

 

 

「ふぅ、これで良し」

 

 

「織斑、何が『これで良し』だ!何教師を蹴り飛ばしている!」

 

 

「織斑先生、蹴り飛ばさなかったら何人か巻き込まれてましたよ?」

 

 

俺がそう言うと、織斑先生はため息をつく。

そして鈴とセシリアに向かって声を発する。

 

 

「オルコット、凰。お前たちの相手は山田先生だ」

 

 

「それは、2対1という事ですか?」

 

 

「そうだ」

 

 

織斑先生がそう言うと、セシリアは納得したような表情を浮かべるが、鈴は何処か不満気だ。

鈴、もしかしなくても山田先生の強さを知らないな?

過去の試合とかを見て参考にしたりしないのかよ...

使ってるのがISじゃない俺でもしてるんだから、代表候補生、ちゃんとしろよ...

 

 

「何だ、凰、不満か?」

 

 

「い、いえ、そういう訳では...」

 

 

「問題ない、山田先生は元日本代表候補生だ。今のお前たちが2人で挑んでも勝てる訳がない」

 

 

織斑先生がそう言うと、鈴はムッとした表情になった。

だが、セシリアは

 

 

「...そうかもしれませんわね」

 

 

と呟いたので、しっかりと分析が出来ているな。

ところで、

 

 

「山田先生は何時まで寝てるのかな?」

 

 

《お前が蹴り飛ばしたんだろう》

 

 

「そうなんだけどね」

 

 

俺とディミオスがそんな会話をしていると、

 

 

「や、やれます!」

 

 

と言いながら、山田先生が復帰した。

チョッと涙目なのは、皆の前で恥をかいたからだろう。

そのまま、山田先生は空中に飛び、定位置に着く。

それを確認すると、織斑先生はセシリアと鈴に指示を出し、2人はISを展開。

そのまま山田先生と対峙するように位置に着く。

 

 

「それでは!模擬戦...開始!」

 

 

織斑先生の声で、3人は模擬戦を開始する。

...これは、勝負が見えてるなぁ。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

結局、俺の予想通りに試合は進み、山田先生の勝利で模擬戦は終了した。

セシリアも鈴も動きは悪くないのだが、連携が上手くいっていなかった。

具体的には、セシリアの射線を鈴が完全に塞いでしまう場面が非常に多かった。

この模擬戦の途中、シャルルが山田先生の使っていたラファール・リヴァイヴについて解説していたのだが、その解説はお手本のようなものだった。

まぁ、ラファール・リヴァイヴを作ったデュノア社の社長の子供らしいし、これぐらいは当然か...

俺はそんな事を思いながら、アリーナに座り込んでるセシリアと鈴に声を掛ける。

 

 

「お疲れ様。連携がなってなかったな」

 

 

「そうでしたわね...」

 

 

「アンタは如何だっていうのよ!」

 

 

セシリアは大人しくそれを認めるも、鈴は抵抗を見せる。

...正直に言うと、大人しく認めた方がカッコいい。

俺はそんな事を思いながら、鈴の言葉に返す。

 

 

「おいおい、俺の戦闘スタイルを忘れたか?」

 

 

「アンタの戦闘スタイル?...あ」

 

 

ここで鈴も、周りで聞き耳を立てている生徒も思い出したようだ。

俺の戦闘スタイルはモンスターコールをして、そのモンスター達と戦うスタイルだ。

連携や指揮の訓練など鬼のようにやった。

まぁ、別に俺個人でも戦えるけど。

 

 

「んん、今見てもらったように、IS学園の教員は全員がこのレベルの操縦技術の持ち主だ。これからもキチンと敬意をもって接するように!」

 

 

『はい!』

 

 

織斑先生の声に1組と2君の生徒全員がシンクロして返事をする。

おお、すげえ揃ってる。

さて、ここからが授業の本番だ。

頑張るか!

 

 

 

 




うーん、一夏の人外レベルが高くなったなぁ。
まさか4階から飛び降りたり、ISを蹴り飛ばせるようになるなんてなぁ...

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想もドシドシお願いします!


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実技と昼休み

前回の授業の続き。
こんな感じで良かったかなぁ?

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

転校生2人がやって来た日の実技授業。

今日から遂に一般生徒が本格的にISに乗る事になる。

そんな授業の始めに、専用機持ちの模擬戦があり、セシリアと鈴が山田先生に負けた後。

 

 

「さて、それでは皆にISに乗ってもらう。幸いにも今ここには専用機持ちが6人もいるため、6グループに分かれて専用機持ちにアドバイスしてもらいながら実習を行う。それでは、グループに分かれろ!」

 

 

織斑先生は皆にそう指示を出す。

織斑先生、セシリアと鈴はまだ回復してませんよ。

それなのにそんな指示を出すんですか?

それに、その指示の仕方だと...

 

 

「一夏君!一緒にやろ!」

 

 

「織斑君!2組とも仲良く!」

 

 

「デュノア君!よろしくお願いします!」

 

 

「橘君!私に教えて~!」

 

 

ほら、男子に人が集中するから...

シャルルも困ってるよ?

深夜は...ちょっと嬉しそうに見える。

何で?マゾなの?

因みにだが、俺の周りに人が1番集まってて、その次がシャルルで、人があまり集まってないのが深夜だ。

深夜の周りには2組の生徒しか集まってない。

...一回の謹慎で、かなりクラス内での株が下がったみたいだな、深夜は。

 

 

「...皆、ちゃんと分かれた方が良いぞ。さもないと...」

 

 

「さもないと?」

 

 

俺はそのまま視線を集まって来た人達の後ろに向ける。

すると、皆もそのまま俺の視線を追うように顔を後ろに向ける。

そこには...

 

 

「貴様らぁ!ちゃっちゃと出席番号順に並べ!」

 

 

お怒りの織斑先生がいた。

 

 

『は、はい!』

 

 

その怒りの言葉は俺、シャルル、深夜の周りに集まっていた生徒全員に届いた。

すると、蜘蛛の子を散らすかのように一瞬で周りから離れ、出席番号順に6グループに分かれた。

...おお、物凄く早い。

最初からそうすれば良かったのに。

 

 

「さて、専用機持ち諸君!今別れた6グループにアドバイスをしてもらう!」

 

 

「みなさーん、実際に使う訓練機ですが、打鉄が3機、ラファール・リヴァイヴも3機です!」

 

 

織斑先生と山田先生の指示を聞いた俺達専用機持ちは、担当するグループに分かれた。

分かれ方は、物凄い適当で近くにあったグループに入っただけだ。

まぁ、俺は篠ノ之がいるグループは避けさせてもらったけどな。

篠ノ之は授業中だという事を忘れて俺に絡んで来そうだから、避けないと他の生徒たちの折角の実習が無駄な時間になってしまうからな...

 

 

「じゃあ、このグループは俺が担当する、よろしくね」

 

 

『うん、よろしく!』

 

 

俺が担当するのは2組の生徒たちのグループだ。

交友関係は広い方が良いからな...

それで、篠ノ之は...シャルルのグループか。

何だろう、スパイ疑惑のある相手だというのに、何故だか申し訳なくなってくる。

 

 

「それで、打鉄とリヴァイヴどっちがいい?」

 

 

「織斑君のお勧めで!」

 

 

「りょーかい」

 

 

つまりは、どっちでもいいという事だろう。

そう判断し、訓練機が置いてあるところにディミオスと共に移動する。

さて、どっちにするか...

 

 

「安定性で言えば打鉄の方が高いし、打鉄にしよう」

 

 

《如何やって運ぶ?》

 

 

「普通に装着してから持ってった方が早いだろ」

 

 

ISスーツじゃなくても動くもんは動くんだから。

そう判断し、俺は打鉄に乗り込む。

何だかんだで、打鉄を動かすのって初めてだ...

 

 

「じゃあ、今日はよろしくな」

 

 

俺はそう打鉄に声を掛ける。

白式と白騎士と話せる俺だからこそ、ISには意識があるという事を忘れないようにしないといけない。

だから、話せない訓練機にも声掛けを...

 

 

[うん、任せて!私、頑張る!]

 

 

は?

い、今、声が...

 

 

《如何した一夏》

 

 

「あ、ああいや、何でもない。さっさと運んじゃおう」

 

 

突如聞こえた声に混乱していた俺だったが、ディミオスの声で現実に戻って来た。

そのまま俺は打鉄を動かし、グループのもとに戻る。

確かに今声が聞こえたんだよなぁ...

この前は銃騎士の声が聞こえたし...

でも、今は実習に集中しよう。

そうしないと、このグループの子たちに迷惑を掛けてしまうからな。

グループのもとに着いた俺は打鉄を屈ませてから降りる。

 

 

「よし、全グループ準備出来たな!それでは、全員ISを装着して歩行をしてもらう!」

 

 

全グループの準備が完了したのを確認した織斑先生は、実習を始めるように指示を出す。

さてさて、始めますか!

 

 

「じゃあ最初の人、打鉄に乗って」

 

 

「はーい」

 

 

俺が最初の人に指示を出すと、2組の出席番号1番の...エル・アスクリーさんが打鉄に乗り込む。

 

 

「アスクリーさん、何か違和感はない?」

 

 

「はわわぁ!お、織斑君が私の名前を!?」

 

 

「アスクリーさーん?如何した?」

 

 

苗字を呼んだだけで顔を真っ赤にしてしまった...何で?

取り敢えず現実に戻ってもらおう。

 

 

「エル、しっかりしろ!」

 

 

「は、はい!」

 

 

俺が名前で呼ぶと何とか現実に戻って来た。

 

 

「違和感でもあったか、エル?」

 

 

「あ、いや、無いよ!いける!ていうか、名前...」

 

 

「ああ、学園にいる人の全員分の顔と名前ぐらいは覚えた。それで、苗字の方がよかった?」

 

 

「いや、名前でお願いします」

 

 

「分かった、取り敢えずエル、そのまま立って」

 

 

「はい」

 

 

うん、ちゃんと立てたし、姿勢も安定してるな。

正直言うとエルが優秀だからなのか、IS学園の普通なのかはよくわからんが、ここまでで問題は無いな。

 

 

「バディスキル、インフェルノサークル」

 

 

俺は周りに聞こえないようにボソッと呟く。

両足にサークルが出現したのを確認すると、地面を軽く蹴り、空中に浮く。

そして、エルの隣に移動し、

 

 

「じゃあ、俺は隣を飛んでるから、歩いてみよう。困ったことがあったら聞いていいからね」

 

 

「わ、分かった」

 

 

これがバディスキルを使ってる利点かな?

通常のIS同士だと近づいての並走は難しいが、今の俺は生身に等しいので、ISに近づいての並走が出来る。

因みにだが、俺だって普通にISは動かせる。

寧ろ、ISを普通に動かせて、その動きを熟知してるからこそISじゃない煉獄騎士でISと戦えるんだ。

さてさて、エルは...

 

 

「うん、ちゃんと出来てる」

 

 

「そ、そう?良かった」

 

 

うん、歩いていてもちゃんと重心は安定してる。

それに、ただ歩いているんじゃなくてISで歩いているという事を意識出来てるな。

それから暫く歩いて、ターン地点に来た。

この実習は初めて本格的にISに乗るとの事で、2時間分時間があるのだ。

そのため、非常にゆっくりでも問題が無い。

 

 

「じゃあ、ここまで来たから戻ろうか。別に、焦って早歩きになる必要はないから、ゆっくりね」

 

 

「分かった。ゆっくり、と...」

 

 

うん、エルは大分優秀な生徒のようだ。

他のグループからは専用機持ちにアドバイスを求める声が聞こえるのに、エルは自分で出来ている。

まぁ、まだぎこちない動きをしているが、そこは慣れるしかないのでどうしようもない。

そう言えば、他のグループってどんな感じだ?

俺はエルから視線を離さないようにしながら、チラッと周りを見る。

 

 

「えっと、オルコットさん、こんな感じですか?」

 

 

「そうですわ、先程よりも安定しているはずですわ」

 

 

「あ、本当だ!」

 

 

うん、セシリアも何かあったらアドバイスをするようだ。

教えてもらっている子も出来てるみたいだし、問題ないな。

 

 

「もうそこは感覚よ、感覚!」

 

 

「その感覚が分かんないの~!」

 

 

鈴...感覚じゃ分かんないだろ.....

イメージをしやすくするためにも、言葉を使って説明しろよ...

 

 

「デュノア君!何か安定しないんだけど!?」

 

 

「いったん落ち着いて!僕が一回支えるから力抜いて!」

 

 

シャルルは、流石はデュノア社所属って感じだな。

リヴァイブの特性を理解してるから、しっかりと教えることが出来てるな...

 

 

「ボーデヴィッヒさん、後は?」

 

 

「後は普通に歩くだけだ。焦ると怪我をする可能性があるから落ち着け」

 

 

「分かりました!」

 

 

うん、ラウラもちゃんと出来てるな。

IS部隊の隊長だし、人に教えたり、士気を高めるのは得意だな。

 

 

「橘君!どうすればいいの!?」

 

 

「えっと...ちょっと待って...」

 

 

深夜は人に教えるのに苦労してるな...

まぁ、人に教えるのって大変だけど、頑張っていかないといけないぞ?

そんな事を思っていると、元の位置に戻って来た。

 

 

「じゃあエル、ゆっくりと屈んで、打鉄から出て」

 

 

「分かった」

 

 

エルはそのまま、特に俺のアドバイス等は無く、自分で出来てしまった。

 

 

「エルは、2組の中でも上位に入れるくらいにはIS操縦が上手いな」

 

 

「あ、ありがとう...」

 

 

何故顔を赤くする。

そのままエルは打鉄から離れていき、次の生徒...飯田友恵さんがやって来た。

 

 

「じゃあ、さっきのエルと同じようにやってもらうよ」

 

 

「分かった。あ、あと私の事も名前で呼んで?」

 

 

「了解。それじゃあ友恵、打鉄に乗って」

 

 

俺がそう指示すると、友恵が打鉄に乗り込む。

さて、いっちょ頑張りますか!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

時刻は進み、昼休みになった。

結局あの後、エルのようにアドバイスをしなかった生徒はいなかった。

やっぱりISに乗る事は簡単では無い為、エルのようにアドバイスがいらない生徒の方が珍しいようだ。

 

 

そして今現在、俺は教室でサンドイッチを食べながら書類とにらめっこしていた。

朝は途中だったので、残りを昼休みに終わらせる必要があったからだ。

あと、1枚...!

その最後の書類を手に取り、確認する。

.....まーた日本政府からかよ。

何々、『織斑一夏の日本代表候補生就任に関して』?

なる訳ねえだろうが。

俺は無国籍で『PurgatoryKnights』所属なんだぞ。

こんな強引に来るから、内閣の支持率が32%しかねえんだよ...

俺はそのままその書類を終わらせ、

 

 

「終わったぁ~~」

 

 

と、机に顔を埋める。

疲れた...

篠ノ之、日本政府、俺はお前らを許さない。

俺の苦労しか増えん。

もっとましな奴が総理になれよ...

野党頑張ってよ...

どう見ても高校生の愚痴じゃねえな。

俺がそんな事を思っていると、

 

 

「一夏、お疲れか?」

 

 

と声を掛けられる。

俺が顔を上げると、そこにいたのは、

 

 

「ああ、ラウラか。もう疲れたよ」

 

 

ラウラだった。

俺は顔だけじゃなくて身体ごと上げる。

すると、ラウラ以外にもセシリア、鈴、簪、楯無さんと専用機持ちが集合していた。

楯無さん、生徒会長なのにここにいて良いんですか?

 

 

「一夏、そろそろこの転校生との関係を教えなさいよ」

 

 

「関係って言われても...友人で、一応の元上司か?」

 

 

「いや、上司では無いんじゃないか?」

 

 

「でも、シュヴァルツェ・ハーゼにはお世話になったし、制服も貰ったからな...」

 

 

今年の3月あたりに漸く着れるようになったけど。

俺は、シュヴァルツェ・ハーゼに所属したわけでも無いのに一緒に訓練をし、制服まで持ってるからな...

結構関係性がややこしいことになってるなぁ。

 

 

「一夏...もうちょっと詳しく説明して」

 

 

俺がそんな事を考えていると、簪に詳しい説明を要求される。

それに同感するように、セシリア達がうんうんと頷く。

周りで聞き耳を立てている俺の友人達よ、気になるなら聞いていいぞ?

何こそこそ聞こうとしてるんだ?

 

 

「俺が中1の途中...第2回モンド・グロッソの後に日本を離れたのは知ってるだろ?」

 

 

「そうね」

 

 

「ええ」

 

 

『え、そうなの!!?』

 

 

鈴とセシリアは、俺の言葉に頷くも、簪や楯無さんや聞き耳を立てていた友人達達は驚きの声を上げる。

...説明して無かったや。

 

 

「...日本を離れたんだよ。それで、最初にお世話になったのがドイツ軍で、ラウラのIS部隊だったんだよ」

 

 

「ああ、懐かしいな...」

 

 

「最初は喧嘩したもんな?」

 

 

「...やめろ、思い出すと恥ずかしくなってしまう」

 

 

そう言ってラウラは顔を赤くする。

うん、ラウラは小柄だし、マドカや白式と同じポジションだなぁ...

俺はそう思い、ラウラの頭を撫でながら、

 

 

「悪かったって」

 

 

と謝る。

するとラウラは、気持ちよさそうに目を細める。

 

 

[[.....]]

 

 

白式、白騎士、落ち着け。

 

 

「羨ましい...」

 

 

簪、声漏れてるぞ。

そんなに良いものなのかなぁ?

 

 

「IS部隊で何してたのよ」

 

 

「何って...訓練だよ」

 

 

「ISの?」

 

 

「いや、基礎訓練だけだ。その時はIS動かせるだなんて知らなかった」

 

 

これは、一応事実だ。

俺がISを動かせると分かったのは、シュヴァルツェ・ハーゼを離れる少し前だ。

訓練をしていた時は、ISの訓練なんかしていない。

俺はラウラの頭を撫でながら、続きの説明をする。

 

 

「そんで、その後色んな世界(バディワールド)に行って、イギリスに行ったときにオルコット家にお世話になったんだよ」

 

 

「私たちからしますと、寧ろ助けて頂いたことの方が多いですわ...」

 

 

そこで、セシリアが少し落ち込んだ。

そうかなぁ?

モンスターの襲撃で命を守ったり、エクシアの心臓病を直したり...

色々してたわ。

 

 

「そんなこんな世界を周って、社長と出会った後に『PurgatoryKnights』に所属して、IS学園に来たって感じだな」

 

 

俺の物すんごいざっくりした説明で、皆納得してくれたようだ。

はぁ、知り合いが1人増えただけで、この先の学園生活も楽しくなりそうだなぁ...

 

 

 

 




一夏が忙しすぎて若干壊れちゃった。
暫くしたら戻ると思います。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想もよろしくお願いします!


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まったりタイム?

今回は、前回に引き続き日常...
ん?何だこのサブタイのクエスチョンマークは。
嫌な予感がするなぁ。

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

昼休み。

日本政府から送られてきた書類を処理しきり、疲れていた俺にラウラが声を掛けてくれた。

その際鈴たちにラウラとの関係を聞かれ、説明し終わった。

 

 

「暇だな...寝るか」

 

 

俺がそう呟いて机に頭を置こうとした時、

 

 

「チョッと!何説明するだけでまた寝ようとしてるのよ!」

 

 

と鈴に言われてしまった。

チッ、寝れると思ったのに...

 

 

「疲れてんだよ...GW期間は仕事しかしてなかったんだよ...」

 

 

「じゃあ、取り敢えずおねーさん達と会話するだけで良いから」

 

 

「まぁ、それだけなら...」

 

 

別に疲れないだろう。

俺はそう判断し、背中をどっかりと背もたれに預ける。

 

 

「一夏、先程山田先生のラファール・リヴァイヴを蹴り飛ばしていたが、何をどうやったらあんなことが出来るんだ?」

 

 

ここで、ラウラがそう尋ねて来た。

 

 

「いや、普通に鍛えただけだよ」

 

 

「...鍛えただけだああなるなら、我々シュヴァルツェ・ハーゼは如何なる?」

 

 

「ま、まぁまぁ」

 

 

そう言われると...

正直言うと、煉獄騎士はISじゃないから、ここまでやらないといけないんだよなぁ。

まぁ、どんな人でも異世界のモンスターと訓練したら出来るようになると思うよ?

多分。

 

 

「一夏君、今度私と模擬戦しない?」

 

 

「楯無さんとですか?別にいいですけど...何でですか?」

 

 

「それはね、この学園の生徒会長は、」

 

 

ここで楯無さんは手に持った扇子を開く。

 

 

『最強!!』

 

 

「だからよ」

 

 

「...織斑先生よりもですか?」

 

 

織斑先生という世界最強のブリュンヒルデがいる上で最強って名乗るんだから、織斑先生よりも強いって判断した俺は悪くない。

そもそも、会長が最強ってなんだ?

普通、選挙とかで決めるもんじゃないのか?

俺がそんな事を思いながら楯無さんを見つめると、楯無さんは視線をずらす。

あ、逃げた。

あからさまに視線をずらしたので、簪やセシリア、鈴とラウラにジト目で見られてしまう。

 

 

「モンドグロッソを2連覇した人には勝てないわよ~」

 

 

楯無さんは涙目でそう言ってくる。

 

 

「なら、生徒最強って名乗って下さいよ...それで、最強ってどういう意味ですか?」

 

 

「この学園の生徒会長は、生徒の中で一番強くないといけないのよ」

 

 

何だそのシステム。

普通に選挙で決めようや。

 

 

「模擬戦するなら、学年別トーナメントの後ですね」

 

 

「学年別トーナメント?」

 

 

俺が呟いたことにラウラが首を傾げる。

転校生だから、知らなくて当然か。

 

 

「学年別で全員参加のトーナメントがあるのですわ」

 

 

セシリアがラウラに説明をすると、ラウラは納得したように頷いた。

まぁ、名前から殆ど判断できることしかしないんだけどな。

俺がそんな事を考えていると、ラウラが俺の事をジッと見て来た。

そして、口元に笑みを浮かべながら、

 

 

「それなら、あの時のリベンジだ!」

 

 

と言ってくる。

それにつられて、俺も笑いながら、

 

 

「やってみろ。俺も成長してるからな?」

 

 

とラウラに言う。

そして、また俺とラウラは笑い合うと、拳を突き合わせた。

ここで、チャイムが鳴り、昼休みが終了する。

 

 

「あら、もう終わっちゃったのね」

 

 

「...放課後、また話そう」

 

 

「じゃあね!」

 

 

楯無さん、簪、鈴の順番でそう言い、それぞれの教室に戻っていった。

セシリアとラウラも、自分の席に戻っていく。

俺は、この時チラッと右後方を見る。

そこには...

 

 

此方をチラチラ見ているシャルルがいた。

はぁ...もう少しバレないように盗み見をしろよ。

見られてんのバレバレだったぞ?

これは、もう鎌を掛けて自分から認めさせようか...

もしスパイじゃなかったら、素直に謝るか...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

深夜side

 

 

今日、俺は1時間目から授業に復帰する。

しかも、今日からシャルルの偽名を使ったシャルロットとラウラが転校してくるんだ。

ここで2人に良いところを見せるんだ!

それに、シャルロットは会社問題があるし、ラウラは一夏の事を恨んでるんだ。

俺が堕とすことなんて簡単に出来る!

結局GWで箒は堕とせなかったが、一夏への先入観が無い2人から俺のハーレム要員にしてやる!

 

 

そして、実際に授業が始まった。

この授業は、確か鈴とセシリアが山田先生に模擬戦で負けるんだよな...

そう思っていたが、何故か鈴とセシリアは最初っからやる気があった。

おかしい...ここは、2人ともやる気が無くて、千冬に一夏に良いところを見せれるって言われて漸くやる気を出すシーンのはず...

まあ、これくらいは良い。

この授業をさっさと終わらせて、早く堕とすための作戦を考えるぜ!

そう思っていたら、空から悲鳴が聞こえた。

確認すると、ラファール・リヴァイヴを纏った山田先生が一夏に向かって突っ込んでいた。

それを見て、思わず俺は笑みをこぼしてしまう。

一夏はここで謝って山田先生の胸を揉んでしまうんだよな...

そうすれば、一夏のイメージは落ちる...

そうしたら、必然的に俺の好感度が上がる!

そう思っていたのに...

 

 

 

 

 

何でだよ!

何で一夏がラファール・リヴァイヴを蹴り飛ばしたんだよ!

原作とは流れが違うし、そもそも何で蹴り飛ばせたんだよ!

何だよ、その身体能力は!?

ふざけんなよ!

千冬並みの身体能力を持ってる俺でもそんな事出来ないぞ!

ふざけんなよ!

主人公の俺が出来ない事を、何一夏なんかがやってんだよ!!

認めないぞ、一夏の方が凄いだなんて!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

そして、昼休みになった。

一夏は何やらサンドイッチを食べながら書類を見ている。

チクショウ、こんな描写も無かったのに...

ま、まぁいい。

今度のタッグトーナメントで、ラウラがVTシステムで暴走する。

それを俺が華麗に解決して、俺が主人公だって事を証明してやるんだ!

 

 

ん、一夏にラウラが近づいてってるな。

これは、ラウラが一夏に何か宣戦布告的な事をするのか?

でも、このタイミングでそんなのあったか?

俺がそう思っていると、

 

 

「一夏、お疲れか?」

 

 

「ああ、ラウラか。もう疲れたよ」

 

 

.....はぁ!?

え、何普通に会話してんの!?

ラウラは千冬の経歴に泥を塗った一夏を恨んでるんだろ!?

何でそんな友人みたいな会話をしてるんだよ!?

 

 

「俺が中1の途中...第2回モンド・グロッソの後に日本を離れたのは知ってるだろ?」

 

 

へぁ!?

な、何それ!?

聞いたこと無いよ!?

一夏はドイツで誘拐されたけど、千冬に救出されて無事だったんだろ!?

何で日本にいなかったんだよ!?

ああああああ、訳が分からねえ。

でも!

俺は転生特典を貰った転生者で、主人公なんだ!

大丈夫だ、タッグトーナメントでは活躍できる!

 

 

---------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

時間は進み、放課後。

俺は終礼のHRの後に織斑先生を捕まえて、あまり人が通らない廊下で話をしていた。

 

 

「織斑先生。やはりシャルル・デュノアは十中八九男子ではありません」

 

 

「やはり、か...」

 

 

俺の報告を受け、織斑先生はため息をつく。

まぁ、実際に性別偽証の生徒がいると物凄く手続きが大変だし、面倒なんだろう。

 

 

「そのため、シャルル・デュノアと1対1で話す為にまた生徒指導室を借りたいんですが、何時なら大丈夫ですか?」

 

 

俺がそう質問をすると、織斑先生は眉間を抑える。

暫くそのように織斑先生は考えていたが、やがて眉間から手を離すと、

 

 

「大体1週間後なら問題は無い」

 

 

その様に言葉を発した。

 

 

「分かりました。では1週間後までに何度か掛けられる鎌を掛けておいて、引きずり出せる情報を引きずり出しておきます」

 

 

「分かった。無理はするなよ」

 

 

「織斑先生こそ、後はこちらで対応しますので、別の問題等に取り組んでください。お願いします」

 

 

「フン、生徒に言われなくても分かっている」

 

 

織斑先生は心なしか胸を張りながらそういう。

本当か...?

怪しさしか俺は感じねえ。

だが、本人が分かっていると言っている以上、そうなんだろう。

この姉は、教師モードだと尊敬できる人間なんだから、もっと信用しよう。

 

 

「では、私は職員室に戻るが、他に何か伝えておくべきことはあるか?」

 

 

「そうですね...榊原先生に男運が無いからって部屋で暴れないでと伝えてください。普段は大丈夫なんですが、その時だけ音が響いて来て...」

 

 

俺がそう言うと、織斑先生は苦笑いになった。

榊原菜月先生。

性格も顔もいいのに、男運だけが無く、実家からお見合いをかなり進められている先生。

同性の反応も良くない相手ばかり好きになり、その度にやけ酒を煽っているらしいのだが...教員寮の部屋で飲まれると、何か叫ぶ声だったりバタバタ動く音だったりが物凄い聞こえてくるのだ。

GW期間に1回実際にあり、滅茶苦茶うるさくて仕事に集中できなかった。

 

 

「わ、分かった。伝えておこう」

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

俺がそう言うと、織斑先生は頷いて職員室に戻っていった。

正直に言うと、榊原先生の暴れてる音など、篠ノ之の言動に比べればかわいいものなのだが、今のうちに何とかしておかないと、仕事に支障が出るかもしれん...

あれ?俺って学生だよな?

何でこんなことまで考えているんだろう?

そんな事を考えながら、俺は教室に戻る。

さて、今日はもう仕事はないし、部屋でゆっくりするか...

そう思っていると、向こうから慌てている様子の簪が此方に向かって来ていた。

 

 

「あ、一夏!手伝って!」

 

 

「何を?」

 

 

手伝ってとだけ言われても、分からないぞ。

 

 

「打鉄弐式がもうすぐ完成するの!」

 

 

「お、完成するのか!」

 

 

それは嬉しい。

実際に手伝いはあまり出来ていないが、工具等の手配をしたのは俺だし、実際に役に立ったよね?

 

 

「それで、作業も大詰めだから手伝って!」

 

 

「分かった!だけど、1回教室に戻っていいか?専用機以外全てを置いたままにしてるから、ある程度片付けてから行く」

 

 

「うん!じゃあ整備室で待ってるからね!」

 

 

そう言って、簪は早歩きで整備室に向かっていった。

良し、俺も教室に戻ってから整備室に行きますか!

俺はそう思い、教室に向かう。

そして、荷物をある程度片付け、整備室に向かうために直ぐに教室を出る。

そして、廊下を歩いていると、

 

 

「待たないか、一夏!」

 

 

と声を掛けられる。

はぁ...1番話したくない奴じゃねえかよぉ。

 

 

「何の用だ、篠ノ之...」

 

 

全く、これから整備室に行くっていうのに、テンションはだだ下がりだぞ...

ここは廊下なので周りにも人は普通にいるが、篠ノ之からは距離を取っている。

コイツは、もう学園中から超問題児扱いされているようだ。

 

 

「一夏、私の事は箒と呼べ!幼馴染だろう!」

 

 

「何回言ったら分かる!俺とお前は幼馴染では無い!」

 

 

いい加減しつこい!

.....俺、キレていいのか?

 

 

「まぁいい。一夏、今日はお前に伝えることがある!」

 

 

俺はお前の言う事だなんて、聞きたくねえよ。

俺が文句を言う前に、篠ノ之は俺を指で差し、

 

 

「今度の学年別トーナメントで、私が優勝したら、付き合ってもらう!」

 

 

「は?嫌だよ」

 

 

男女交際だったとしても、ただ単に買い物の付き合いでも、嫌だ。

俺がキッパリそう言うと、篠ノ之はプルプルと震え、

 

 

「一夏!お前は幼馴染のいう事が聞けないのか!」

 

 

「俺とお前は幼馴染じゃないし、何故俺がお前のいう事を聞かなくてはいけない?いい加減にしろ、どっかに行け」

 

 

「一夏ァァァ!!」

 

 

篠ノ之は、何時ものように棒状の何かを取り出す。

これは.....に、日本刀だと!?

コイツ、何でこんなもん持ってるんだ!

廊下にいた生徒達は日本刀を見て悲鳴を上げる。

コイツは、何時も何時も...!

俺は振り下ろされた日本刀を左手で掴むと、右腕を使い、折る。

この時、自身がけがをしないのは当然として、折った破片が廊下にいる生徒に当たらないようにする。

 

 

「な、何!?」

 

 

篠ノ之が驚いている間に、俺は篠ノ之の腕と胸元を掴み、地面に叩き付ける。

この時、怪我をさせたいほど俺はイライラしているが、そんな事はしない。

 

 

「...織斑先生、またご迷惑をお掛けします.....」

 

 

俺はそう呟くと、篠ノ之を引きずりながら職員室に向かう。

はぁ、整備室に行くの、遅れちまうなぁ.....

 

 

 

 




まったりしているのは、前半だけでした。
最近、深夜視点を書いていると、自分でもムカついてきます...

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想を頂けると物凄く嬉しいので、是非お願いします!


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まさかのルール

な、何のルールだっていうんだ!?
.....まぁ、タイミング的に分かりますよね。

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

あの後、篠ノ之を引きずって職員室に行き、織斑先生に今後の対応を託した。

この時の織斑先生の果てしない音量のため息に、職員室にいた他の教員の皆さんは驚いていた。

だが、ため息をつきたくなる気持ちも分かる。

篠ノ之は問題しか起こさないからなぁ...

本当に、何でこんなのが退学処分に出来ねぇんだ。

国際IS委員会ふざけんな。

早く束さんに全世界に向けた声明を出して欲しい。

 

 

職員室によったため、そこそこな時間が経ってしまっていた。

俺は急いで整備室に向かった。

すると4組の生徒全員がせわしなく動いていた。

俺は全員に指示を出していた簪の元に行き、手伝った。

そして、最終下校時刻10分前。

遂に、簪の専用機打鉄弐式が完成した。

完成した瞬間に、その場にいた全員が喜びの声を叫んだ為、整備室の壁にかかっている工具がガタガタ言ったのは内緒だ。

取り敢えずその日はそこで解散となった。

稼働テスト等はまだ終わっていないので、これで終了という訳ではないが、一区切りついたのは間違いない。

簪の嬉しそうな顔を見ると、道具を手配して良かったと思う。

因みに、皆と一緒に笑顔を浮かべている簪の事を陰で

 

 

「うふふふふ...簪ちゃぁぁぁん」

 

 

とか言いながら見ている生徒会長がいた。

こんな言動でよく生徒会長出来るなと思いながら簪にバレないように気絶させた。

簪にバレて姉の威厳が失われるだなんてことをしなかっただけ感謝してもらいたい。

 

 

そして、そんな日から1週間が経った今日。

時刻は4:50。

俺は何時ものように朝のトレーニングをしていた。

今日は、シャルルと生徒指導室で1対1で話す日だ。

今日までに、シャルルについて調べながら、掛けられる鎌を掛けてみた。

先ず、調べて分かったことは、社長夫婦間にシャルル・デュノアという子供はいない。

社長夫婦の子供は、シャルロット・デュノアという女子がいるだけだ。

シャルロットと、シャルル...気付いて下さいと言わんばかりの偽名だなぁ。

それに、これはまだ確定している情報じゃないが、如何やらシャルロット・デュノアは社長の子ではあるのだが、社長夫人の子ではないらしい。

つまるところ、愛人との隠し子である可能性が高い。

それに、スコールさんに聞いた情報なのだが、デュノア社は経営難に陥っているらしい。

デュノア社は、ラファール・リヴァイヴという世界シェア3位の訓練機の開発元だが、ラファール・リヴァイヴはあくまでも第二世代型ISだ。

未だに第三世代型を開発できていないデュノア社は、かなりピンチのようだ。

.....まぁ、シャルロット問題が解決したら、使えそう(・・・・)ではあるが。

 

 

そんな事を考えながら、俺はトレーニングを続ける。

そして、

 

 

《一夏、6:55だ》

 

 

「りょーかい」

 

 

ディミオスにそう言われたため、俺はトレーニングを終了し、自室に戻る。

シャワーで汗を流した後身体を拭き、髪を乾かした後制服を着る。

制服を着たら、髪型のセットをする。

と言っても、ただ単に髪のはねが無いチェックするだけだ。

まぁ、さっき乾かしたばっかりだし、はねがある事は無いのだが...よし、無い。

そのまま俺はキッチンに移動し、パンにマーガリンを塗ってからトースターに入れる。

 

 

「自分の部屋で飯食うのって久しぶりだな...」

 

 

そう呟きながら、冷蔵庫から取り出した卵を使い目玉焼きを作っていくおく。

...よし、今日は半熟の気分だしこれぐらいだな。

用意しておいた皿に目玉焼きを移動させる。

そして、コーヒーメーカーの電源を付け、コーヒーを淹れる。

コーヒーとトーストを待つ間に、冷蔵庫の野菜室からキャベツとミニトマトと人参とを取り出し、切る。

切り終わった野菜類を皿に盛り付け、特性ドレッシングをかけると、織斑印のサラダの完成!

.....自分で言っておいて何だが、織斑印ってなんだ?

ここで、トースターとコーヒーメーカーから完成を知らせる音が鳴る。

それを確認すると、トーストも皿に移す。

そして、一回皿3つを机に移動させた後、コーヒーが入っているカップを持って机に戻る。

コーヒーを啜りながらノートPCを起動させる。

本来だったら食べながらPCをいじるのはマナー違反なのだが、仕事のチェックはこの時間にしないといけないので、勘弁してほしい。

トーストに目玉焼きを乗せてかじりながらメールの受信欄を確認する。

...うん、新規の仕事は来てないな。

来てたら昼休みにまでに完全に終わらせないといけないミッションが発生するため物凄くきついんだが、無くて良かった...

 

 

そんなこんなで朝食を食べ終えた俺は、皿とコップを洗う。

 

 

「さて、シャルロットは如何出るかねぇ...」

 

 

《あそこまで鎌を掛けても鎌を掛けられてることに気付いていないから、此方が大分有利だがな》

 

 

そう、シャルロットは、かなりの数のボロを出している。

ボイスチェンジャー(『PurgatoryKnights』製)で声を女性のものにして、陰からシャルロットと呼んだら、必要以上に身体をビクっとさせたり。

男性特有の身体の悩みを相談(相談内容は嘘)すると、何を言っているか分かってなかった。

その他にも、男性と女性の違いを使って何度か仕掛けてみたものの、全てで引っ掛かっていた。

.....一般的な鎌かけとは違うかもしれないが、十分怪しさは引きずり出せたのでOKだ。

 

 

「さて、皿洗いも終わったし、教室に行くか」

 

 

《そうだな》

 

 

ディミオスはそう言いながら、カードに戻って俺のポケットに入って来た。

それを確認した俺は教科書類が入っている鞄を持ち、部屋から出る。

しっかりと鍵をかけ、教室に向かう。

学園の校舎内に入って、1年1組に向かって歩き出す.....のだが、何やら校舎内が騒がしい。

俺は首を傾げながら、取り敢えず教室に向かおうと思い、歩く。

やっぱり、何かザワザワしている。

更には、さっきからちらっちら見られてる。

入学したての頃にも見られていたが、その頃に感じてた視線とはまた違う感じの視線を全身に受けている。

な、何だ?

俺、何かやらかしたか?

居心地の悪さを感じながら、教室に急ぐ。

 

 

教室前に着いたのだが、何やら1年生の廊下も、各教室もざわついていた。

い、いったい何なんだ?

俺は戸惑いながら、教室の扉を開け、中に入る。

 

 

「おはよう」

 

 

「一夏君!噂って本当!?」

 

 

「う、噂...?」

 

 

何の事だ?

心当たりがあるもんはねえぞ。

 

 

「今度の学年別トーナメントで優勝した人は、一夏君と付き合えるって話!」

 

 

「.....ふざけんな、何だそのクソみてーな話は」

 

 

流石に怒ったぞ...

 

 

「誰が、最初にそれを言った.....?」

 

 

「し、篠ノ之さんかな?」

 

 

あのゴミ、1回断ったことを無理矢理合法化するために虚言を吐きやがったな...

 

 

「ブッ飛ばす...」

 

 

俺の本気の怒りが伝わったのか、クラスメイトの友人達は、この話が嘘だって分かったようだ。

誰が、好きでもない相手と付き合うよなことをするもんか。

クラリッサさんやチェルシーさんとデートしたことも、無い、の、に.....?

な、何で俺はまたここでクラリッサさんとチェルシーさんの事を考える...?

もしかして、俺って、クラリッサさんとチェルシーさんの事が、好きなのか..........?

は、ははは...

そうだったとしたら、俺、最低じゃねぇか...

2人の女性に、好意を同時に抱くだなんて...

 

 

「あ、あの一夏さん?如何いたしましたか?」

 

 

「あ、ああ。セシリアか...何でもない」

 

 

俺がジッと考えていると、セシリアが声を掛けて来た。

咄嗟に、俺は突き放すように返事をしてしまう。

正直に言うと、今は放っておいて欲しい。

 

 

「一夏さん、怒っているのは理解しますが、落ち着いて下さい」

 

 

「.....ああ。善処する」

 

 

俺はそう言うと、自分の机に荷物を置き、席に座る。

怒っているのもあるが、自分の最低さに嘆いていたんだが...

怒ってるって事にしておこう...

 

 

「やばいやばい、一夏君相当怒ってる...」

 

 

「誰か職員室に行って噂の鎮静をした方が良いんじゃない?」

 

 

「でも、後5分でSHRだよ」

 

 

「なら、教室に来た織斑先生と山田先生に直ぐ言おう」

 

 

皆がそんな感じに喋っているが、俺には殆ど聞こえていない。

ああ、クソッ...

放課後には1対1で話す大事な日なのに、俺がこんな状態では駄目だ。

何とか気合いを入れ直さねえと。

俺がそう思っているとチャイムが鳴り、織斑先生と山田先生が教室に入って来た。

 

 

「良し、全員いるな。それでは、朝のSHRを「お、織斑先生!山田先生!」...谷本、如何した?」

 

 

「い、今学園内で学年別トーナメントで優勝したら一夏君と付き合えるっていう噂が出てて、それを聞いた一夏君が怒ってます!」

 

 

「な、何!?」

 

 

由子と織斑先生がそう会話する。

怒ってはいるのだが、それを超える自己嫌悪が...

 

 

「皆、こういう噂があるというのは本当か?」

 

 

『はい』

 

 

皆からの返答を聞いた織斑先生は、頭を押さえる。

そして、ため息をついた後、

 

 

「.....後で放送でその噂は間違いだと伝える」

 

 

そう言葉を発する。

織斑先生の言葉を聞いて、取り敢えず俺は安堵の息を漏らす。

だけれども、心の中の自己嫌悪は消えなかった。

1回気付くと、自分の気持ちにウソなど付けない。

俺は、2人の事が好きだ...

そう思う度、俺は自己嫌悪に陥ってしまう。

でも、今はSHRだ。

話をしっかり聞かないと...

 

 

「んん、それではSHRを開始する。さて先週から自室謹慎の篠ノ之だが、無断で外出していることが判明した、よって、自宅謹慎の期間が延びた。大体学年別トーナメント直前までの期間となる」

 

 

...学園内で日本刀を振るったのに、そんなに短いのかよ。

せめて夏休みまで謹慎させとけよ...

 

 

「それと、1つ重要なお知らせがある。今度の学年別トーナメントだが、ルールに変更がある」

 

 

織斑先生の言葉に教室内がざわつく。

しかし、織斑先生は咳払い一つで黙らせると、続きを話し始める。

 

 

「具体的には、個人トーナメントからタッグトーナメントに変更となった。タッグのペアは各自で決めてもらう事となる」

 

 

「織斑先生、質問があります」

 

 

「ん、如何したオルコット」

 

 

ここで、セシリアが織斑先生に質問をする。

織斑先生が質問の内容を確認する。

 

 

「そのペア作りに制限はあるのですか?」

 

 

それは、ペア作りのルールを確認するものだった。

織斑先生は頷くと、説明を始める。

 

 

「先ず、専用機持ちの生徒、代表、代表候補生の生徒は一般の生徒とペアを作らなくてはならない。理由は分かり切っていると思うが、少しでも不平等を無くすためだ。SEに関しては、専用機持ちは6割、代表候補生は8割から始めてもらう。正し、対戦相手にも専用機持ち等の自分と同じ立場の人間がいる場合のみ、SE制限がなくなる」

 

 

なるほど...まぁ、妥当なルールか...

それでも、専用機持ちが有利な事には変わりはない。

実際に、微かにだが視線を感じる。

...何で俺だけ?

セシリアとかラウラとかシャルルも代表候補生の専用機持ちだよ?

ただし、俺に向けられるその視線は織斑先生の続きの説明で驚きのものに変わる。

 

 

「ああ、後織斑はペアを作らず、個人で出場してもらう」

 

 

...何で?

流石に今の俺でも疑問に思う。

 

 

「.....織斑先生、何故ですか?」

 

 

なので、織斑先生を見ながら質問をする。

すると織斑先生は、

 

 

「お前は元々個人でペア対戦が可能だからだ」

 

 

そう言う。

確かに、ペアと言わずにモンスターはセンター、ライト、レフトそれぞれに一体ずつ出せるが...

だからってペア競技にソロで出させる?

何処のFPSゲームだよ...

 

 

「さて、これで伝えることは全てだ、トーナメントに関しては終礼のHRに詳しいルールが乗ったプリントを配布する。それでは、1時間目の準備をしておけ」

 

 

最後に織斑先生がそう伝えると、山田先生と共に教室から出て行った。

教室内は、休み時間だというのに微妙な空気に包まれていた。

いや、俺が原因なんだけどね..

でも、俺に周りの事を気にしている余裕はない。

あああああ、クソ...

何で、何で俺は2人の女性を同時に好きになるんだ。

本当に、最低過ぎる...

これじゃあ、クラリッサさんにもチェルシーさんにも失礼だよ...

こんな事がバレたら、嫌われちゃうよ...

2人の事が好きだ...

こんな感情、思ってはいけないのに...

 

本当に.....

 

 

駄目駄目で、最低男だ....................

 

 

 

 




サブタイの内容がちょこっとしかない詐欺事件。

それよりも、一夏が、一夏がぁ!
自己嫌悪モードに陥ってしまった...
一夏、頑張って!

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想を頂けると凄く嬉しいので、是非お願いします!


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煉獄騎士とデュノア

シャルとの会話回です。
自己嫌悪モードになってしまっている一夏、如何するの!?

今回もお楽しみください!

UAが40000を超えました!ありがとうございます!


一夏side

 

 

時刻は進み、昼休み。

俺はディミオスと共に食堂に向かっていた。

1時間目の後に織斑先生が全校放送を使い、学年別トーナメントで優勝したら俺と付き合えるという噂は嘘だと説明してもらった。

正直に言うと、ただでさえ篠ノ之関係等で忙しい織斑先生にこんな事をしてもらうのは、とても申し訳なくなってくる。

因みにだが、その放送が流れた瞬間、学園中から絶叫が響き渡った。

如何やら本気で信じていた人が多かったらしい。

校舎が揺れた(気がした)。

 

 

そんな事を考えながら歩いていると、食堂に着いた。

俺は日替わり定食の食券を買い、そのまま食堂のオバちゃんに渡す。

直ぐに料理が出て来るので受け取ると、空いている席に座って食べ始める。

はぁ...

クソ、気分が上がらない。

俺がそんな事を考えていると、

 

 

「一夏!何辛気臭い顔してんのよ!」

 

 

鈴がそう声を掛けて来た。

俺がその方向を見ると、鈴の後ろにセシリアと簪とラウラがいた。

...俺の周りには、専用機持ちが集まりやすいのか?

 

 

「ああ、チョットな...」

 

 

自分の最低さに自己嫌悪してるだけさ.....

 

 

「まぁ、あんな噂出てたら気分が落ち込んだり怒ったりするのも分かるけど、元気出しなさいって!」

 

 

鈴はそう言いながら、ニコッと笑う。

鈴は昔から、こうやって自然に励ましてくれるんだよな。

 

 

「なら、気分を紛らわすために会話してくれ。そうだな.....皆、今の所誰とペアを組むんだ?」

 

 

取り敢えず、気分を紛らわせようと皆にペア作りの予定を尋ねる。

すると、皆思い思いの返答をしてくれる。

 

 

「アタシは、ルームメイトのティナと組む予定よ」

 

 

「私も、キサラさんと組む予定ですわ」

 

 

...ペア探すの楽したな?

まぁ、ルームメイトという学園内で1番一緒にいると言っても過言ではないくらいの人と組んだ方が連携訓練とかもしやすいか。

 

 

「私は、本音と組むよ」

 

 

「のほほんさんと?仲良いの?」

 

 

「私と本音は、幼馴染だから」

 

 

「初耳」

 

 

そうだったのか...

まぁ、聞かれてもない事をわざわざ言わないか。

 

 

「私は転校してきたばっかりだからな...如何するか...」

 

 

ラウラはまだ決まっていないらしい。

 

 

「まぁ、1組の生徒で良いんじゃない?皆良い子だし」

 

 

「フム、ならそうするか...」

 

 

実際にラウラは代表候補生で専用機持ち、それにIS部隊隊長といペアを組みたくなるような肩書しか持ってないんだから、比較的楽にペアを作れると思うけどな。

...そう思うと、ペア作りが苦手な人って如何するんだろう?

こういうペアシステムって絶対に1部の人が嫌な思いをするもんだと思うんだけどな...

 

 

「アンタは1人でしょ?大変ねぇ」

 

 

「...まぁ、元々1人で4人みたいな戦い方だから、何時もみたいに戦うだけだ」

 

 

鈴が1人の事を大変だと言ってきたので、俺はそう返答する。

すると、鈴はニッと笑いながら、

 

 

「アンタはそう言うと思ってたわ!この前は決着つかなかったけど、ほとんど私は負けてたし、リベンジしてやるわ!」

 

 

そう言ってきた。

すると、鈴に触発されたようにセシリア、簪、ラウラが

 

 

「私も、絶対に一夏さんに勝ってみせますわ!」

 

 

「打鉄弐式の初試合...一夏とも戦って、勝ちたい」

 

 

「この前も言ったが、私はお前に負けてるんだ。シュヴァルツェ・ハーゼ隊長として、負けっぱなしではいられない!リベンジするぞ!!」

 

 

そう次々に言ってくる。

それを聞いて、俺も自然に笑みがこぼれてしまう。

そうだ、皆、やりたいことを目指して努力しているし、そのやりたい事に俺との模擬戦での勝利がある。

なら...俺も、やるべきことを全力でやらないとなぁ!

俺はそう思うと、思いっきり机に頭を打ち付ける。

 

 

がぁぁぁぁん!!

 

 

結構すごい音が鳴り、衝撃が俺の頭に響いてくる。

 

 

「い、一夏?何してるの...?」

 

 

簪がそう尋ねて来るが、俺は答えない。

そうだ、悩んだり、自己嫌悪は後で出来る。

でも、シャルルとの1対1での会話は今日しか出来ない。

ならば...やるべき事を、疎かにしてはいけない。

俺は、頭を机に付けたまま、呟く。

 

 

「ゴー・トゥー・ワーク」

 

 

さぁ...やってやる!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

放課後、俺はディミオスと共に生徒指導室にいた。

理由は当然、シャルルとの会話だ。

シャルルには、もう既に織斑先生から生徒指導室に来るように伝えてもらっている。

 

 

《一夏...いけるか?》

 

 

「当然」

 

 

待っている間、ディミオスがそう語り掛けて来た。

確かに、完全に落ち着けたわけではない。

それでも、自分のやるべきことくらいは理解しているし、やれる。

 

 

  コンコン

 

 

「シャルル・デュノアです。入ってもよろしいですか?」

 

 

ここで、扉がノックされると、シャルルが入室の許可を求めて来た。

 

 

「ああ、入っていいよ」

 

 

「あれ、一夏?」

 

 

俺がそう答えると、シャルルは首を傾げながら入室してきた。

まぁ、織斑先生から呼ばれていった生徒指導室に俺がいたら驚くのは当然か。

俺は笑いながら、シャルルに語り掛ける。

 

 

「驚かせて悪いな。1対1で話したいことがあったから、織斑先生に頼んで呼んでもらったんだよ」

 

 

「ああ、そうだったんだね」

 

 

「すまない。ペットボトルので良かったら紅茶用意したけど、飲む?」

 

 

「じゃあ、貰おうかな」

 

 

シャルルは俺が差し出した紅茶のペットボトルを受け取った。

そして、そのまま蓋を開けて、中身を飲む。

中身を飲んでいる間、俺は1回席を立つと、扉の鍵を閉めてから、座っていた席に戻る。

俺が席に着いたタイミングで、シャルルは口元からペットボトルを話し、蓋を閉める。

 

 

「それで、話って何?」

 

 

ここで、シャルルが話の内容を尋ねて来た。

まぁ、話がしたいって言われたら、その内容は気になるだろう。

 

 

「実は、デュノア社の事で聞きたい事があるんだ」

 

 

会社(うち)の事で?」

 

 

シャルルはまたしても、首を傾げる。

俺は頷くと、シャルルの両目をジッと見る。

 

 

「ああ、そうだ。シャルル.....いや、シャルロットと呼んだ方がいいか?」

 

 

「え?」

 

 

そう言われた瞬間、シャルルは必要以上に慌てた反応を見せる。

 

 

「な、なな何を言ってるの?ぼ、僕の名前は「その慌てた反応で、違うと言い逃れが出来ると思っているのか?」そ、それは...」

 

 

これは、もう確定だな...

 

 

「此方で色々調べさせてもらった。デュノア社社長夫婦間に子供はいない。社長と愛人間に、シャルロットと名付けられた少女が1人いるだけ。この少女が、お前だな?」

 

 

「.....うん」

 

 

シャルロットは、力なく頷く。

俺はそれを確認すると、続きを話し始める。

 

 

「その愛人が亡くなり、お前は社長夫妻に引き取られた。そこで、高いIS適正があったのを確認し、デュノア社テストパイロットとなった」

 

 

「.....」

 

 

シャルロットは、何も言わない。

俺だって人間だ。

心は痛む。

だが、ここで止める訳にはいかない。

 

 

「月日は流れ、今年3月。立て続けに男性IS操縦者が2人発見され、IS学園に入学することとなった。その男性IS操縦者は何と少女と同年代だった」

 

 

チラッとシャルロットの方を見ると、俯いて地面を見たままピクリとも動かない。

俺は、そのまま話を続ける。

 

 

「そこで、経営難になっているデュノア社は考えた。『男性IS操縦者のデータがあれば、新しいISが造れるんじゃないか』と。そのため、同学年だったお前がIS学園に転入することとなった。接触がしやすいように、男と偽って」

 

 

俺は、話を終えると、シャルロットに声を掛ける。

 

 

「途中、俺の推測も混じっていたが、あっているか?」

 

 

「うん...あってるよ...」

 

 

シャルロットは、とても弱々しい声で肯定する。

俺はそれを確認すると、

 

 

「ISの情報を狙ったスパイ行為は重罪だ。それに、性別を偽っていたなら尚更な。それに、女子が男子と偽るんだ。失敗する確率の方が高い、それなのに、何で指示に従った?」

 

 

俺がそう言うと、

 

 

「........わけ...い...」

 

 

シャルロットは、何かをボソッと呟いた。

だが、あまりにも小さい声だったので、俺には聞こえなかった。

 

 

「何て?」

 

 

「逆らえるわけ無いじゃないか!!」

 

 

俺が聞き直すと、シャルロットは絞り出すように叫んだあと、俯いていた顔を上げる。

その顔は、涙でぐっちょぐちょに濡れていた。

シャルロットは、その涙を拭うことなく、叫び続ける。

 

 

「僕だって、こんなことしたくなかったさ!でも、仕方が無いじゃないか!お母さんが死んで!お父さんに引き取られて!正妻の人には頬を叩かれて!無理矢理テストパイロットにさせられて!逃げたかった!でも、僕は命令に従わないといけないんだよ!社長であり、父親でもあるあの人の命令は!」

 

 

やっぱり、強制命令だったようだな。

シャルロットは、全てを叫びきったようで、肩ではぁはぁと息をしている。

だんだん落ち着いてきたのを確認すると、俺はシャルロットに語り掛ける。

 

 

「それで、今からお前は何がしたい?」

 

 

「えっ...性別偽証に、スパイ行為未遂だからなぁ...良くて専用機と代表候補生の資格剝奪の上での牢獄かなぁ?」

 

 

シャルロットは、自傷気味に笑いながら、そう言う。

その目元には、また薄っすらと涙が浮かんできていた。

 

 

「違う。俺が聞きたかったのはそういう事じゃない」

 

 

そう、俺が聞きたいのは、シャルロットが(・・・・・・・)如何したいかだ。

今、シャルロットが想定した未来は、シャルロットが望んでいることでは無い。

 

 

「俺が聞きたいのは、お前自身が(・・・・・)如何したいかだ」

 

 

「.....僕には、選択肢なんて、無いんだ「ふざけるな!」い、一夏?」

 

 

今の俺にこれを言う資格は無いかもしれない。

こんな、自分の事が嫌になってくるくらいの感情を持っている俺の言葉に重みは無いかもしれない。

でも、今は言わないといけない。

 

 

「自分の選択肢はない?ふざけんなよ!自分の未来は、自分の手で手繰り寄せて来るもんだろ!!その手繰り寄せて来たものは、良いものかもしれないし、悪いものかもしれない。それでも、自分の未来は、そうやって決めるもんだろうが!次のターンに何があるか分からなくても、今の自分のターンでやれることをやれよ!!」

 

 

「ッ!だから、僕にそんな事出来る訳...!」

 

 

「その事を考えんな!!今、何がしたいのかだ!出来るかどうか分からなくても、可能性なら考えられるだろ!自分の事、自分の未来、会社や親との関係!自分が望む形はなんだ、シャルロット・デュノア!!」

 

 

ヒートアップした俺は、肩で息をする。

...本当に、人の事言えねぇなぁ。

クラリッサさんとチェルシーさんの2人に同時に好意を持って、それで自己嫌悪してる俺だなんてなぁ。

シャルロットは、暫く考え込んでいたが、やがて決意を固めたような表情をした。

その望みの内容次第では、準備してた仕込みが使えるからな...

 

 

「僕は、自由になりたい!自分の意思で、自分のやる事を決めたい!」

 

 

シャルロットは、ここまで叫んでまた涙をボロボロ流してしまう。

 

 

「家族とは?」

 

 

余りシャルロット自身は触れたくないかもしれないが、話してもらわないといけない。

ああ...今の俺なんかがやっていい事じゃないんだろうな...

本当に多分心理状態が普通でも心は痛むだろうから、2重の意味で心が擦り減ってる...

 

 

「.....仲直りして、一緒に暮らしたい。あんな人でも、僕の肉親で、父親で...家族だから」

 

 

それを言った後、シャルロットは顔を押さえて涙を流す。

 

 

「シャルロット...お前が望むのは、それか?」

 

 

「そうだよ!でも、僕にそんな事「良かった」えっ...?」

 

 

俺がそう言うと、シャルロットは顔を上げる。

俺は、そんなシャルロットを見ながら、机の下に置いてあった通信端末を取り出す。

 

 

「え!?そ、それ...」

 

 

「通信端末」

 

 

録音してあった音声を社長に送信した後、社長に連絡を入れる。

 

 

『もしもし一夏?この音声ファイルね』

 

 

「そうです。こちらで判断した限り、仕込みは使えそうです。よろしくお願いします」

 

 

『分かったわ。任せて』

 

 

その短い会話は終了し、社長は行動を開始したようだ。

俺は通信端末を仕舞い、シャルロットに向き直る。

 

 

「い、今なにしたの?」

 

 

「さっき偉そうに言っといてなんだけど、俺はただの高校生なんだ。だから...」

 

 

「だから?」

 

 

そこでシャルロットは首を傾げる。

 

 

「頼れる大人には、頼っておかないと」

 

 

今の俺なんかが頼っていいのか分からないけどなぁ...

 

 

 

 




一夏の説教セリフは、バディファイトとのクロスオーバーなので、カードゲーム風にしてみました。
間違いだったりがあるかもしれないけど、1回のドローで全てが変わる事も、あるかもしれないですよ。

一夏の思考の端々に自己嫌悪が...
一夏、何とか持ち直して!

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

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デュノア一家

前回の続き。
さてさて、シャルロットはどうなるのか。

今回もお楽しみください!

お知らせ。
白騎士と白式のセリフの鍵かっこを、『 』から[ ]に変更します。
急なお知らせで申し訳ありません。
過去の話は既に変更してあります。


一夏side

 

 

社長に連絡を入れてから、3時間が経った。

あれから、俺は何回自己嫌悪に陥ったんだろうか...

時間があると、クラリッサさんとチェルシーさんの事を考えてしまう。

やっぱり、2人の事が好きだ...

そう自覚するたびに、自分の事がこの上なく最低な奴に見えて来る。

こんな俺、如何するんだろうなぁ...

 

 

《ヤミゲドウ・ミカズチのソウルにあるオオヤミゲドウの爆雷発動条件を教えてやろう...貴様がぁ、ドローした時だ!》

 

 

「え、ちょ、ウソでしょ!?」

 

 

正直に言うと、途轍もなく暇だったので、俺とディミオスはファイトを何回かした。

それで、シャルロットが興味を持ち、今現在ディミオスと対戦している。

シャルロットはルールを覚えるのも早く、アドバイスなしでディミオスと戦えている。

っていうかディミオス、初心者相手に百鬼夜行のデッキは無いだろ...

特殊フラッグじゃん...

そして、イカヅチさんのモノマネ上手いな...

ディミオスもそんなモノマネするんだね...

余り知らなくていいバディの情報をゲットした。

 

 

「うーん、負けちゃった」

 

 

《初心者とは思えないプレイングだったな》

 

 

如何やらディミオスの勝ちで決着したようだ。

まぁ、ディミオスはバディモンスターだから、バディファイト上手いもんね...

俺がそんな事を考えていると、

 

ピピピピピ

 

と、通信端末から着信音が鳴った。

シャルロットとディミオスは直ぐに黙る。

俺は通信端末を手に取ると、通話に出る。

 

 

「はい、此方織斑一夏です」

 

 

『あ、一夏。もう終わったわよ』

 

 

「随分お早いですね、社長。もう少しかかると思っていました」

 

 

『フフ、私を舐めないで頂戴な。それで、今近くにシャルロット・デュノアはいるのね?』

 

 

「はい、いますが...」

 

 

『なら、スピーカーに切り替えてくれる?1回話したいの』

 

 

「了解しました」

 

 

俺はそう返答すると、耳元から通信端末を離す。

そして、シャルロットに視線を向けてから、

 

 

「社長が話したいって言っているから、話してくれ」

 

 

そう言う。

シャルロットが頷いたのを確認すると、スピーカーに切り替え、机の上に置く。

 

 

「社長、切り替えました」

 

 

『ありがとうね。さて、シャルロットちゃんね。通信機越しの声だけで申し訳ないわね、私は『PurgatoryKnights』代表取締役社長のスコール・ミューゼルよ。よろしくね』

 

 

「は、はい。よろしくお願いします」

 

 

シャルロットはガチガチに緊張していた。

まぁ、それも仕方が無いか。

デュノア社は世界的IS企業だが、『PurgatoryKnights』も世界的大企業なのだ。

その社長と話をするんだったら、緊張もするだろう。

それに未遂だったとはいえ、スパイで情報を引き抜こうとした所のトップというのも、緊張の要因か。

 

 

『そこまで緊張しなくていいのよ。私は、あなたの望みの懸け橋になっただけだから』

 

 

「ぼ、僕の望み...ですか?」

 

 

シャルロットは首を傾げながら、社長に聞き返す。

まぁ、そんな事を急に言われたらそうなるのは当然か...

 

 

『ええ。あなたの望みは自身の自由と、家族との和解だったわね?』

 

 

「は、はい。確かにそうですが...」

 

 

『なら、もう叶うわ』

 

 

「へっ...?」

 

 

シャルロットは困惑したような声を出す。

それを気にせず、社長は言葉を続ける。

 

 

『もう直ぐあなたに連絡が入ると思うわ』

 

 

「は、はぁ...」

 

 

シャルロットは未だに困惑した表情を浮かべていた。

そこから暫くの間、生徒指導室内が微妙な空気に包まれる。

そんな空気になると、どうしてもクラリッサさんとチェルシーさんの事を考えてしまう。

俺は、2人の事が好きだ。

この気持ちに間違いはない...

でも、この気持ちを持つこと自体が間違っている。

だって、そうだろう?

2人の女性に同時に好意を抱くだなんて、最低な事...

 

 

♪~~~~

 

 

俺が自己嫌悪していると、そんな音が生徒指導室内に響く。

如何考えてもスマホの着信音だ。

今、無国籍状態で新しいスマホが買えず、持っていない俺。

そもそもモンスターの為所有しないディミオス。

そうなると、この場にいるものでスマホを持てるのは、シャルロットだけだ。

つまり、何が言いたいのかというと、シャルロットのスマホから着信音が流れているという事だ。

 

 

「で、電話...っ!か、会社から.....」

 

 

『来たわね。シャルロットちゃん、スピーカーにしてから電話に出て頂戴』

 

 

「わ、分かりました」

 

 

シャルロットは緊張した面持ちで、スピーカーに切り替えてから、通話に出る。

 

 

「も、もしもし」

 

 

『シャルロット!!』

 

 

「「うわっ!!」」

 

 

俺までビックリしちまったぜ...

それ程大きい声で、電話口からシャルロットの名を呼ぶ男性の声が聞こえる。

 

 

「お、お父さん.....」

 

 

シャルロットがそう呟く。

如何やらこの男性が、シャルロットの父親で、デュノア社社長のようだ。

 

 

『シャルロット、すまなかった!!』

 

 

その男性...デュノア社社長は、開口一番シャルロットに謝罪をする。

 

 

「え、ど、そうしたの?」

 

 

『シャルロット...ごめんなさい』

 

 

「あ、あなたは...」

 

 

今度は、女の人の声が聞こえたかと思うと、その人も謝罪をする。

恐らくだが...デュノア社社長夫人か...

 

 

「えっと...いったい如何したんですか?」

 

 

シャルロットが困惑しながらそう尋ねる。

すると、デュノア社社長夫婦はポツリポツリと話し出す。

 

 

社長夫妻...アルベール社長と、ロゼンタ社長夫人間には子供がいなかった。

ロゼンタ社長夫人が不妊体質だったから。

アルベール社長は、ロゼンタ社長夫人が子供を産めない身体だと理解したうえで、ロゼンタ社長夫人とシャルロットの母...シルサの2人の女性を愛していた事。

シャルロットが引き取られた時に、ロゼンタ社長夫人は自身に子供が出来ない悔しさから叩いた事。

その事をずっと後悔していた事。

その後、デュノア社内にシャルロットを暗殺によって抹消しようという集団が現れてしまった事。

そのため、男性IS操縦者のデータを取るという名目上、男装させてIS学園に送り込んだ事。

 

 

それを聞きながら、シャルロットはまた涙を流している。

 

 

『これが全てだ。そして、今になってこれを明かした理由だが...』

 

 

『それは、私達が頑張ったからね』

 

 

「えっと...どういう事ですか?」

 

 

シャルロットは疑問を口にする。

まぁ、ここで急に『PurgatoryKnights』の社長が頑張ったと言われたら、混乱してしまうだろう。

 

 

『私達が、技術提供、並びに資金援助をすることになったの。これで、デュノア社は一先ず安泰。そして、このまま私達の傘下にデュノアを加えちゃうわ。そうしたら、シャルロットちゃんを暗殺しようとしていたその集団を追い出す計画よ』

 

 

社長、この短時間でよくそこまで合意出来ましたね。

てっきり、技術提供と資金援助を使ったここでの会話だけだと思ってましたよ。

アルベール社長も、よくこの短時間でそこまでの決心をしましたね。

自分の会社を、他企業の傘下に入れる決心なんて、そう簡単に出来るもんでも無いんだがなぁ...

 

 

「そ、そうなんですか...ありがとうございます」

 

 

『ウフフ、デュノアを傘下に加えられるメリットは物凄く大きいから、此方としてもありがたいわ』

 

 

デュノアが傘下にあれば、必然的にラファール・リヴァイヴの権利を得たも同然だし、それに...マドカの専用機問題も(一応)解決しそうだからなぁ...

 

 

『シャルロット...』

 

 

「何.....お父さん」

 

 

ここで、アルベール社長がシャルロットに語り掛ける。

シャルロットがそれに反応すると、アルベール社長は話し始める。

 

 

『お前には辛い思いを沢山させてしまった。それでも、お前が良いというなら、私と仲直り、してくれないか?』

 

 

『シャルロット、私からも良い?私は、初対面なのにも関わらず、あなたの事を叩いてしまったわ。そんな私でも、あなたのお母さんに、なっていい?』

 

 

アベール社長に続き、ロゼンタ社長夫人もシャルロットに語り掛ける。

すると、シャルロットは、笑いながら、

 

 

「そんなのずるいよ」

 

 

そう呟いた。

 

 

『『シャルロット...』』

 

 

「これから、家族として、一緒に過ごしてね、お父さん、お母さん」

 

 

シャルロットは、涙を流しながらそういう。

でも、その涙は今までの悲しみの涙ではなく、喜びの涙に見えた。

 

 

『『勿論!!』』

 

 

アルベール社長とロゼンタ社長夫人も、電話越しだが泣いているのが分かる声でそう返答する。

 

 

『良かったわ~~』

 

 

《ああ、そうだな...》

 

 

社長とディミオスも、そう呟く。

そんな温かな空気の中、俺はある事を考えていた。

アルベール社長は、ロゼンタ社長夫人とシルサさん、2人の女性を愛していると言っていたな...

それに、ロゼンタ社長夫人は子供を産めない事を悔しく思っていたが、アルベール社長が2人の女性を愛している事については何も言っていなかった...

本人達が納得すれば、そういう選択肢もあるのか.....?

いや、クラリッサさんとチェルシーさんが納得してるみたいに考えてる?

そもそも、俺の片思いの可能性の方が高いし...

でも少しは自己嫌悪が緩和されたかな...?

 

 

《一夏、先程から黙り込んでいるが、如何した?》

 

 

「あ、ああ、ディミオスか。チョッと考え事してただけさ...」

 

 

ディミオスに呼びかけられて、俺は現実に戻って来た。

シャルロットはもう泣き止んでいた。

 

 

『織斑一夏君、君には感謝してもしきれない。君がこのようにしてくれたからこそ、私達は和解できた』

 

 

ここで、アルベール社長がそう俺に声を掛けて来た。

感謝...か。

それを言うなら、俺もそうだな。

貴方のおかげで、自己嫌悪が少し緩和されたんだからな...

 

 

「いえいえ、気になさらないで下さい。私は、あくまでも自論をシャルロットに語っただけですので」

 

 

『それでもだ.....ありがとう』

 

 

...顔は拝見出来ないが、アルベール社長が笑っているように感じる。

あ、そうだ。

 

 

「シャルロット。流石にこのままシャルル・デュノアとして学園にはいれないのは分かるな?」

 

 

「う、うん。そりゃあ分かるけど...」

 

 

シャルロットは、少し困惑したかのように肯定をする。

それを確認すると、俺は話し始める。

 

 

「デュノア社内には、まだお前を暗殺しようとしていた集団がいる。よって、お前は必然的にシャルロット・デュノアとして転校しなおしてもらう必要がある」

 

 

ここまで言って、俺は右手の指を2本上げる。

そしてそのまま話を続ける。

 

 

「お前が取れる、本国強制送還以外の選択肢は2つ。

 ①このままの立場を継続する。

 ②『PurgatoryKnights』所属になる」

 

 

「え?」

 

 

俺の言葉に、シャルロットが驚いたような声を発する。

暫くの間、シャルロットは固まっていたが、やがて何とかといった感じで言葉を絞り出す。

 

 

「そ、そんなことが出来るの...?」

 

 

「ああ。『PurgatoryKnights』の所属IS操縦者は俺と妹の2人だからな。もうちょっと増やしたいんだよ。それに、デュノア社が傘下に加わった後なら特に違和感なく移籍できるからな」

 

 

「一夏って妹いたの!?」

 

 

「.....そこかよ」

 

 

如何考えてもそこじゃ無いだろうが...

まぁ、いいや。

 

 

「それで、如何する?もう直ぐ学年別トーナメントだから、出来るだけ早めに決めたい」

 

 

「ぼ、僕は...」

 

 

シャルロットは、迷うように視線をキョロキョロと動かす。

まぁ、急に決めてくれと言われたらテンパってしまうか。

暫くシャルロットはそうしていたが、やがて覚悟を決めた表情を浮かべた。

 

 

「お父さん...」

 

 

『シャルロット...お前の好きなようにしなさい」

 

 

「うん!」

 

 

そう言って、シャルロットは俺の方を見て来る。

 

 

「このままデュノアにいても、成長できることはある。それでも、僕はもっともっと、自分自身を高めたい。だから、環境を変える」

 

 

シャルロットは決意の籠った眼で此方を見つめて来る。

そして、

 

 

「僕は、『PurgatoryKnights』所属になる」

 

 

そう、言い切った。

 

 

「...言っただろ、未来は自分の手で手繰り寄せて来るもんだって」

 

 

俺はそう言いながら、右手をシャルロットに差し出す。

 

 

「そうだね、一夏」

 

 

シャルロットはそう返しながら俺の右手を握る。

そして、俺とシャルロットは笑い合う。

 

 

『シャルロットちゃん、ようこそ!『PurgatoryKnights』へ!!』

 

 

社長も通信機越しにそう言ってくれる。

 

 

「さて、早速出鼻を挫くようで悪いんだが、今度の学年別トーナメントは、欠場しないといけないな」

 

 

「え、何で!?」

 

 

シャルロットは驚愕の声を発する。

 

 

「学年別トーナメントはタッグだ。お前の正体がペアにバレる可能性があるからな。俺はソロ出場だからペアは組めないし」

 

 

「そ、そっかぁ...」

 

 

シャルロットは残念そうな声を発する。

確かに、俺だってそんな事を言われたらそうなってしまいからなぁ。

 

 

『ならシャルロットちゃん、その日は会社に来ちゃいなさい。シャルロット・デュノアとして転校しなおす前になるけど、早めに1回会っておきたいし』

 

 

「分かりました」

 

 

「欠場することは俺から伝えておく。織斑先生に事情を説明したら直ぐに許可は出る」

 

 

「お、織斑先生も気付いてるの?」

 

 

「正直に言うと、男装がお粗末すぎる。もう1週間過ごしていたら、もっと大勢の人に知られていてもおかしくない」

 

 

「そ、そっかぁ...」

 

 

ムム、テンションが下がっちまったか...

ま、まぁ、仕方が無いよね。

 

 

『では、私達はここら辺で通信を切る』

 

 

『シャルロット、頑張ってね』

 

 

「...うん、分かった。お父さん、お母さん」

 

 

そうして、シャルロットのスマホでの通信は終了する。

 

 

『じゃあ、私もこれで』

 

 

「はい、社長、お忙しいのにありがとうございました」

 

 

『一夏も頑張ってね』

 

 

「はい」

 

 

こうして、社長との通信は切れた。

俺は、席を立つと生徒指導室の扉に向かう。

 

 

「帰るぞ」

 

 

《了解した》

 

 

「あ、チョッと!待ってよぉ~~!!」

 

 

こうして、シャルロット・デュノアは『PurgatoryKnights』に所属することとなった。

実際に所属するのはデュノア社が『PurgatoryKnights』の傘下に入ってから...学年別トーナメント後だけどね。

 

 

未来は、自分の手で手繰り寄せて来るもの。

それを言ったのは俺なんだ。

なら、その発言に恥じないようにしてやろう。

学年別トーナメントは優勝する。

そして...クラリッサさんとチェルシーさんへの気持ちもしっかりとけじめをつける。

そう覚悟を決めて、俺は生徒指導室の鍵を閉めてから、ディミオスとシャルロットと共に帰宅...ではなく、職員室に向かっていた。

鍵、返さないといけないからな...

 

 

 

 




シャルロット、『PurgatoryKnights』所属決定!
デュノア社も傘下に入る事になりました。
二次創作でデュノア社社長夫婦両名と和解するものって少ないですよね?

そして、自己嫌悪モードだった一夏がチョッと立ち直りました!
このまま完全に復活してほしい...

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想を頂けると物凄く嬉しいので、是非お願いします!


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再会

誰とだ!?
もしかしたら、もう察している人もいると思いますが...

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

シャルロットの問題が解決してから暫くたった。

今日は、待ちに待った.....俺としてはそこまで待っていないが、学年別トーナメント初日だ。

 

 

あの日の翌日、その時点で織斑先生には、シャルロットの正体を正確に伝えたうえで、デュノア社を『PurgatoryKnights』に加える事、それに伴い、シャルロットの所属も『PurgatoryKnights』に移動すること、学年別トーナメントは欠場することを伝えた。

そう伝えた時、織斑先生は苦笑いをしていた。

何でも、

 

 

「スパイ対策だけでは収まらないと考えていたが、まさかデュノア社という大企業を傘下に入れる事になるとはな...」

 

 

との事。

そして、直ぐにシャルロットが欠場することは発表された。

皆、物凄くショックを受けたような表情で叫んでいた。

シャルロットはまだシャルルとして男子で在席してるから、男子と組みたかったんだろう。

これで、在学中の男子3人(書類上)の内、俺がソロ出場でシャルルが欠場なので、ペアを組めるのは深夜だけだ。

別に、絶対に男子と組まないといけないという訳では無いんだがな...

 

 

そして、1年生の専用機持ちのペアは、

 

セシリア・オルコット、如月キサラペア。

凰鈴音、ティナ・ハミルトンペア。

更識簪、布仏本音ペア。

ラウラ・ボーデヴィッヒ、鷹月静寐ペア。

橘深夜、篠ノ之箒ペア。

 

この5ペアとなる。

まさか、深夜が篠ノ之とペアを組むだなんて...

それに、何でも深夜の方から篠ノ之にペアをお願いしたらしいじゃないか。

あんなのとペア組んでも、絶対に良いこと無いけどなぁ...

ラウラは、静寐とペアを組んだようだ。

これは.....ラウラは勝ちにいったな?

静寐は、1組の一般生徒の中でもかなり優秀な生徒だ。

代表候補生で、現役軍人のラウラの動きにも、完全にとは言わないがそれなりについていけるだろう。

タッグマッチは、ペアとの連携が取れるかどうかが1番大事だと言っても過言ではないくらいだ。

自身の動きについてこれる静寐を選んだという事は、勝ちに行くという事だ。

 

 

そんな事を考えながら、俺が何をしているかと言うと...

 

 

「田中専務殿、ご無沙汰しております」

 

 

「ああ、織斑君か。こちらこそ、いつもお世話になっているよ」

 

 

『PurgatoryKnights』と取引等で関係がある企業への挨拶だ。

 

 

[マスター、これは学生がやる事では無いですよね?]

 

 

(そうだけれども、俺がやらないといけないんだ...)

 

 

そう、これは学生がやる事ではない。

だが、今現在『PurgatoryKnights』の人間はここに俺しかいないので、俺がやらないといけないのだ...

 

 

学年別トーナメント。

このイベントは、学園外からの観客が物凄い量いるのだ。

余りの多さに、観客を誘導する時間を作るために、朝の5時から観客席に入れるくらいには。

この間のクラス対抗戦は、毎年参加する生徒の所属国家、又は所属企業くらいしか観戦しないものなのだ。

今年は男性IS操縦者()が出るとの事で、各国家などが観戦していたが、これが異常なのだ。

しかし、この学年別トーナメントは体調不良や、今回のシャルロットの様な特別な事情が無いと全員参加のイベントだ。

スカウトや昇進、降格の判断をとてもしやすい環境なので、毎年のように大量の観客がやって来るイベントだ。

余りにも観客が多いので、国家関係者、企業関係者共に2人までと決まっている。

それに加え、国家代表、又は候補生の場合は自身の応援として政府関係者以外の人間を1人呼ぶことが出来る。

つまり、学園外からの関係者は、1企業に付き2人、1国家に付き2人と、代表又は候補生1人に付き応援者1人という事になる。

うん、途轍もなく多い。

 

 

そして、そんなイベントなのに、『PurgatoryKnights』関係者はいない。

理由は単純、今現在シャルロットが本社に来ているからだ。

デュノア社からの移動歓迎との事で、支社含め、取締役の皆さんは全員本社に集合している。

まぁ、リモートの人も何人かいるが、集合している事に間違いはない。

しかも、これは皆さん自らがそうしたくてそうしているとの事で、本社からは一切指示を出していないのに集合している。

俺としては、歓迎するのも良いが、こっちにも人を回して欲しかった。

だからこそ、俺が関係企業に挨拶に回ってるんだけどね...

 

 

[マスター、完成予定の全企業とあいさつし終わったね。お疲れ様!!]

 

 

(ありがとう白式)

 

 

さて、かなり朝早い時間から挨拶に回っていたから、随分と早く挨拶が終わった。

まだ対戦組み合わせ発表どころか、ペアを組めなかった人用のペア抽選すらまだしていないであろう時間だ。

1年生部門会場の第一アリーナで、俺は観客席近くの内部通路を歩きながらこの後どうするかを考える。

.....もう通路に人がいない。

まぁ、そもそも俺はピットに向かう方向にいるから、国家関係者と企業代表者は立ち入り禁止で、応援者じゃないとこっちに出れないか。

 

 

「今からトレーニングする訳にもいかんし、適当にブラブラして時間潰すか」

 

 

それとも、早めに着替えておこうかな?

うん、そうしよう。

俺はそう判断し、男子更衣室に向かおうと歩き出す。

その時、

 

 

「一夏...一夏か!?」

 

 

と、背後からそう声を掛けられる。

その声を認識したとたん、身体が固まってしまう。

この声を最後に聞いたのは、中1の頃...

 

俺は、ゆっくりと振り返る。

そこにいたのは黒い軍服を着用し、左目に眼帯を着けた女性...

 

 

「く、クラリッサさん...」

 

 

クラリッサさんだった。

 

 

「やっぱり...久しぶりだな、一夏!!」

 

 

「ええ、お久しぶりで.....すぅ!?」

 

 

クラリッサさんは、そう言いながら俺に抱き着いてきた、

抱き着かれた瞬間、俺は変な声を出してしまう。

ヤバい。

クラリッサさんのいい匂いだったり柔らかい感触だったりがする!

 

 

「一夏...会いたかったぁ」

 

 

グ、可愛すぎる...!

右手がガクガク震えてるのが分かる。

シュヴァルツェ・ハーゼにいた時に抱きしめたり抱きしめられたりした事があったけど、その時とは状況...いや、俺の心理状態が違い過ぎる。

クラリッサさんの事が好きだと認識したから、物凄い緊張すると同時に、物凄い罪悪感が沸き上がって来る。

だって、だって、クラリッサさんはこんなにも純粋に俺との再会を喜んでくれているのに、俺はクラリッサさんにも、チェルシーさんにも好意を抱いているんだから...

 

 

「と、取り敢えず話しにくいので、離してもらっても良いですか...?」

 

 

そうしないと、俺の心が持たない...

クラリッサさんは、最後に力を籠めた後、離してくれた。

 

 

「クラリッサさんは、何でここにいるんですか?」

 

 

俺は、罪悪感から自己嫌悪が発生する前に、取り敢えずその事を聞くことにした。

するとクラリッサさんは、

 

 

「隊長が呼んでくださったんだ」

 

 

と即答する。

なるほど、ラウラの応援者枠か。

 

 

「一夏...2年ぶりだな」

 

 

「そうですね...クラリッサさんは、相変わらずお綺麗ですね」

 

 

「い、一夏///」

 

 

これは本心だ。

クラリッサさんは、以前までもそうだったが、やっぱり美人だ。

別に、顔で好きになった訳では無いが、やっぱり美人で可愛いと思う。

実際に、今クラリッサさんは顔が赤くなっているが、物凄く可愛い。

 

 

「今まで、お元気でしたか?」

 

 

「ああ。部隊の皆を含め、全員元気でやっている」

 

 

「それは何よりです」

 

 

ああ、会話が途切れない。

クラリッサさんと話すだけで幸せに感じる。

でも、それと同時にどうしてもチェルシーさんの事が頭をよぎる。

 

 

「一夏?如何した?」

 

 

そんな事を考えていると、クラリッサさんが俺の顔を覗き込んで来た。

ち、近い...!

 

 

「い、いや、何でも無いですよ?」

 

 

「そうか、それならいいんだが...」

 

 

ああ、何て優しい人なんだ。

でも、やっぱり罪悪感が...

まさか、他の女性の事を考えてました何て言えないし...

 

 

「ところで、今一夏は何をしていたんだ?」

 

 

ここで、クラリッサさんが俺がやろうとしてたことを聞いてきた。

俺は、それに答える。

 

 

「チョッと時間が余ったので、暇つぶしを...」

 

 

と、俺の言葉は、ここで途切れた。

いや、途切れざるを得なかった。

聞き覚えのある声で、

 

 

「一夏!!」

 

 

そう、呼ばれたから。

俺とクラリッサさんは同時にその方向を見る。

 

そこにいたのは、メイド服を着用した、女性...

 

 

「チェルシーさん...」

 

 

チェルシーさんだった。

 

 

ハハハ、まさか、こんなところで好意を持ってる2人と再会するだなんて...

 

 

「一夏!会いたかった!!」

 

 

チェルシーさんはそう言いながらこちらに走ってきて、俺に抱き着いた。

あ、ああああああ!

ち、チェルシーさんもやっぱりいい匂いとかする!

 

 

「い、一夏...?この人は...?」

 

 

ここで、横からクラリッサさんの困惑の声が聞こえる。

まぁ、そりゃそうか。

目の前で知らない人に俺が抱き着かれてるんだから、困惑するか...

 

 

「チェルシーさん、離れて頂いても...?」

 

 

「分かったわ」

 

 

そう言って、チェルシーさんは離れてくれた。

いや、離れてはいるんだが、明らかに俺に近い。

心拍数が高くなっているのが分かる。

これは、単純に好意を持っている人が近くにいるからか、好意を持っている人が2人もいる罪悪感からか...

そんな事を考えながら、クラリッサさんにチェルシーさんの事を紹介する。

 

 

「此方は、イギリスの貴族家、オルコット家に仕えているメイドのチェルシーさんです」

 

 

「初めまして。チェルシー・ブランケットと申します」

 

 

俺の紹介と当時に、チェルシーさんはクラリッサさんに向かって頭を下げる。

こういう立ち振る舞いは、やっぱりメイドだなぁ...

 

 

「そしてチェルシーさん。此方は、ドイツ軍IS部隊シュヴァルツェ・ハーゼ副隊長のクラリッサさんです」

 

 

「クラリッサ・ハルフォーフだ。よろしく頼む」

 

 

今度は、逆にチェルシーさんにクラリッサさんを紹介する。

クラリッサさんは、如何にも軍人という挨拶を返す。

 

 

「チェルシーさんは、セシリアの応援ですか?」

 

 

俺はチェルシーさんにここにいる理由を確認する。

するとチェルシーさんは微笑みながら、

 

 

「ええ、お嬢様が招待してくださいました」

 

 

といった。

うん、やっぱりチェルシーさんも美人だなぁ...

 

 

「一夏、本当に久しぶり。元気に過ごしてた?」

 

 

「はい、元気にトレーニングをしながら過ごしてましたよ」

 

 

俺は笑いながらそう返す。

すると、チェルシーさんは顔を赤くする。

...可愛い。

俺がそんな事を考えていると、

 

 

「一夏、ちょっと良いか?」

 

 

「どうしました、クラリッサさん」

 

 

クラリッサさんが話し掛けてきた。

俺が反応すると、クラリッサさんは

 

 

「少し、ブランケット殿と話したいことがあるのだが...」

 

 

と言ってきた。

それに対してチェルシーさんは、

 

 

「ウフフ、良いですよ。私も、ハルフォーフ様と話したいことがあるので...」

 

 

と言いながら、クラリッサさんの近くに移動する。

そして、何やら2人でヒソヒソと会話を開始する。

話の内容が気にならないでもないが、聞かないのがマナーだろう。

クラリッサさんとチェルシーさんが話している間に、俺は自分の心を落ち着かせる。

やっぱり、2人と再会出来たのは嬉しい。

でも、やっぱり自分の心に重くのし掛かる自己嫌悪(モノ)がある。

クラリッサさんもチェルシーさんも、純粋に再開を喜んでいるはずなのに、俺は.....

駄目だ、如何やっても、自己嫌悪が.....

しっかりとけじめをつけるって、覚悟を決めたのに...

 

 

「一夏、如何したの?」

 

 

「っ!いや、何でも無いですよ」

 

 

何時の間にやら、チェルシーさんが俺の顔を覗き込んでいた。

ああ、やっぱり凄い美人...

じゃなくて!

いや、美人な事に間違いはないけど!

 

 

「話はもう終わったんですか?」

 

 

「ああ、もう終わった。それで一夏、1つお願いがあるんだが...」

 

 

「何ですか、クラリッサさん」

 

 

クラリッサさんがお願いがあると言ってきたので、俺はそれを確認する。

すると、

 

 

「この、トーナメントが終わった後、話したい事があるんだ」

 

 

と言ってきた。

その内容は気になるが、わざわざこの場で言わないという事は、俺がここで聞いても答えてくれないだろう。

 

 

「その話って、周りに聞かれない方が良いですか?」

 

 

俺がそれを確認すると、クラリッサさんとチェルシーさんは頷く。

如何やら、チェルシーさんも話したい事があるようだ。

しかし、周りに聞かれないところか...何処か良いところは...

俺の部屋だな。

そう判断し、俺は声を発する。

 

 

「なら、トーナメント後、俺の部屋に来て下さい。教員寮の1-1号室です。許可は取っておきます」

 

 

「分かった」

 

 

「じゃあ、よろしくね」

 

 

良し、如何やらそこで良いようだ。

 

 

[マスター、後10分で対戦組み合わせの発表だよ!]

 

 

(もうそんな時間か...教えてくれてありがとな、白式)

 

 

[どういたしまして]

 

 

クラリッサさんとチェルシーさんの2人と話していたら、結構な時間が経っていたらしい。

 

 

「じゃあ、クラリッサさん、チェルシーさん、時間が時間なので、もう行きますね」

 

 

俺がそう言うと、2人は

 

 

「「頑張ってね、一夏!」」

 

 

そう、笑顔で言ってくれた。

ハハハ、好きな人に笑顔でそう言われたら、頑張らないといけないなぁ!

 

 

「はい!それでは...」

 

 

俺は2人に背を向けると、組み合わせが張り出される場所に移動する。

物音から察するに、クラリッサさんとチェルシーさんも戻るようだ。

 

 

気持ちを切り替えよう。

まだ完全に自己嫌悪が消えたわけではない。

寧ろ、チョッと戻ったような気がする。

それでも、俺はやらないといけない。

真剣に戦う事が、対戦相手への敬意の表れだから。

 

 

「ゴー・トゥー・ワーク」

 

 

さぁ...やってやる!!

 

 

 

 




遂にヒロイン再登場!!
長かったぁ...
再登場の為に、結構観客の設定を変えました。
は、話っていったいなんだろうなぁ?

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

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学年別タッグトーナメント

やっと開幕だよ...
展開スピードがおっそいなぁ...
ドロー必殺技くらい遅い。
こんなグダグダ小説を見て下さり、ありがとうございます。

今回もお楽しみください!


深夜side

 

 

クソッ!

何がどうなってやがる!

 

 

今日は、学年別タッグトーナメント初日。

今日までに、シャルロットとラウラを堕とすはずだったのに...

 

 

何でシャルロットが欠場なんだよ!

おかしいだろ!

それに、お風呂での正体発覚もしなかったし...

しかもラウラがセシリアと鈴の2人を半殺しにしてないじゃねえか!

ふざけんな!

原作と違い過ぎるじゃねえか!

そもそも、このタッグトーナメントのルールがおかしい!

一夏とシャルロットがペア組んでたから、特に制限はないんじゃないのかよ!

 

 

でも、俺にとってプラスの事もある。

箒とペアを組めたことだ。

ペアになれば、一緒にいる時間を多くとれる。

そうすれば、箒も俺の事を意識してくれるはず!

そう思いながら箒と何とか会話しようとしてたのに...

箒は一夏一夏うるさい!

何でだよ!

確かに、俺はペアを組む時に

 

 

「俺と組めば、一夏に力を見せつけられる!」

 

 

と言ったけれど!

一夏の事しか考えていないから、余りにも俺との会話が少ない!

一応連携はしてくれるっぽいけど...

いや、大丈夫だ!

俺の身体能力は千冬並みだから、一般生徒のペアには絶対に負けない。

そして、マスター・コントローラーのメタ機能があれば、専用機持ちにも負けない!

一夏はソロだから、俺と箒の連携で勝てる!

それに、ラウラのVTシステムでの暴走もある。

そのためには、ラウラとの試合まで勝たないといけないが、俺は勝てる。

ラウラを華麗に救出して、俺が主人公だって事を証明するんだ!

大丈夫だ、俺ならできる!!

 

 

さて、もう直ぐで対戦表が張り出されるな...

移動しよう。

俺はそう判断し、寮の自室を出る。

暫く歩き、第一アリーナの対戦表が張り出される場所に来た。

そこそこ人がいるな...

集まっているの生徒は、全員がIS学園のジャージに身を包んでいる。

まぁ、制服よりもISスーツに着替えやすいからな...

何人かはもうISスーツを中に着ていたりしてんじゃねぇか?

 

 

「うわ、結構人がいるわね...」

 

 

「皆さん、対戦相手が気になるという事でしょう」

 

 

「フム、寧ろ気にしない奴がいるか?」

 

 

「いや、いない...と、思う」

 

 

セシリア達か!

やっぱりセシリア達も気になるんだな!

待ってろ...何時か俺のハーレム要員にしてやるぜ!

あと3分。

気になるなぁ。

 

 

「ギリギリセーフ」

 

 

ん、一夏も来たか...

今日こそは、俺の踏み台にしてやる!

そう思いながら振り返ると、何故か一夏は制服を着ていた。

 

 

「一夏さん、何で制服なんですの?」

 

 

セシリアが一夏に質問をする。

セシリアのその声で、集まっていた人も一夏が制服な事に気が付いたようだ。

 

 

「さっきまで関係がある企業各社様に挨拶して周っていたからだ」

 

 

何でだよ!

何でそんな事してんだよ!

一夏はそんな社会人みたいなこと出来ないだろうが!

街の不良とかを直ぐに殴るような奴じゃないのかよ!

 

 

「一夏、アンタ本当に学生?」

 

 

「学生だが、同時に企業所属の人間でもある。仕事は全うする」

 

 

「フム、私が軍の仕事をするのと一緒か」

 

 

「そういう事」

 

 

クソ、やっぱりラウラと一夏が普通に会話している。

本当に如何なってんだよぉ!

あ、教師が来た。

さて、発表か...

そして、教師が対戦表を壁に貼る。

 

 

その場にいた全員、張り出された対戦を見て驚いたような表情を浮かべる。

 

一回戦第一試合 ボーデヴィッヒ、鷹月ペアVS橘、篠ノ之ペア

一回戦最終試合 更識、布仏ペアVS織斑一夏

 

この2つの組み合わせで。

 

 

これを見た瞬間、俺は内心笑みを浮かべる。

やったぞ!

第一試合で、対戦相手がラウラ!

原作の一夏と一緒だ!

良いぞ、やっぱり俺が主人公なんだ!

 

 

「フム、第一試合か」

 

 

「ラウラ、頑張れよ」

 

 

「勿論だ」

 

 

ラウラとの試合を待たなくてよかった。

ここでVTが発動するから、俺が解決するんだ!

...ていうか、更識?

簪の事だよな...

何で名前があるんだ?

打鉄弐式は完成してないはずだろ?

ああ、原作では第一試合だけで描写が無かっただけで、訓練機での参加はする予定だったのか?

アニメで出てたっけか...?

まぁ、如何でもいいか。

ここで、俺が主人公だと証明するんだ!

 

 

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一夏side

 

 

対戦組み合わせ発表後。

俺は何時もの特殊ジャージに着替えた後、生徒用のリモート観戦室に向かっていた。

アリーナの観客席で見てもよかったんだが、そこでは学園外からの観客もいるのだ。

視界の端にクラリッサさんやチェルシーさんが入ったら、多分俺は集中して観戦が出来ない。

それだけでなく、多分心理状況もよろしいものではなくなる。

そのため、俺はリモートを選んだ。

 

 

「ディミオス、ちょっといいか?」

 

 

《如何した》

 

 

その道中、俺はディミオスに話し掛ける。

するとポケットからディミオスがSDで出て来る。

 

 

「『ガイスト』と『カオス・エクスキューション』は?」

 

 

《もう問題なく使えるぞ》

 

 

「そうか...『ロード』もいけるんだよな?」

 

 

《ああ、そうだ。この間のクラス対抗戦では使わなかったがな》

 

 

「中止になったからなぁ」

 

 

取り敢えず、確認したい事は確認できた。

それからディミオスと軽く喋っていると、観戦室に着いた。

観戦室は、3年生の各教室、又は視聴覚室だ。

先輩方は、自分の席に()が座ったと思うと気持ち悪く思われるかもしれないので、俺は視聴覚室に来た。

あと、普通に視聴覚室の方がモニター大きいしな...

俺は視聴覚室に入ると、ちょうどいい具合の席に座る。

どうせ最終試合だし、暫くはここにいるからな...

それにしても、

 

 

「まさか打鉄弐式のデビュー試合の対戦相手だなんてな...」

 

 

《組み合わせはどのようにして決められたかは分からないが、何か意図を感じる気もする》

 

 

多分ランダムだとは思うんだがな...

簪と4組の生徒たちの絆の象徴ともいえる打鉄弐式。

それの大事なデビュー戦。

華を持たせるならば、負けた方が良いんだろうが.....そんな八百長はしない。

正々堂々と、全力戦う事が、簪への敬意の表れでもある。

だからこそ、

 

 

「容赦はせず、勝ちに行く」

 

 

《それでこそ、我がバディだ》

 

 

如何やら、ディミオスも気合十分のようだ。

...まぁ、今気合いを入れても、試合まで結構時間があるんだけどね。

さて、後5分くらいで第一試合の開始時刻だ。

深夜には悪いが、ここはラウラを応援させてもらおう。

それに、ラウラの専用機は、もう完成しているんだろう。

シュヴァルツェア・レーゲン...どんな感じになってるのか、楽しみだなぁ...

 

 

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三人称side

 

 

学年別タッグトーナメント1年生部門試合会場、第一アリーナ。

そこでは、第一試合から専用機持ち同士が戦うとの事で、観客は始まる前から盛り上がっていた。

そんな中、先ずはアリーナに、ラウラと静寐のペアが出て来た。

静寐が身に纏っているのは、訓練機打鉄。

ラウラが身に纏っているのは、ドイツの第三世代型IS、シュヴァルツェア・レーゲン。

これを見て、観客は大いに盛り上がる。

生徒達から見れば、憧れ。

ドイツ関係者から見れば、自国の技術の活躍の場。

その他国家や企業から見れば、ドイツのIS技術の確認。

それが、この場で行われようとしているのだ。

盛り上がるに決まっている。

 

 

(な、何でこんなに盛り上がってるの!?まだ試合始まってないよ!?)

 

 

ただ、一般生徒である静寐は軽くパニックになっていた。

代表候補生等の特別な立場じゃない人間は注目されること自体に慣れていないため、パニックになってしまうのも仕方が無いだろう。

 

 

(一夏君もこんな感じだったのかな?いや、一夏君の時の方が観客はもっと盛り上がっていたような...そう考えると、何か落ち着いてきた)

 

 

ただ、一夏と比べる事で、何とか落ち着けるようだ。

パニックを自分で落ち着かせることが出来る、そういう面でも、静寐は優秀な生徒と言えるだろう。

 

 

ここで、反対側のピットから、深夜と箒のペアも出て来た。

箒が身に纏うは、静寐と同じく打鉄。

そして、深夜が身に纏うは、専用機マスター・コントローラー。

深夜の専用機を見た観客は、立場によって違う反応を見せる。

生徒達は、ラウラの時のように盛り上がる。

だが、学園外からの関係者は、一様に動揺したような表情を見せる。

それは当然だ。

一夏は『PurgatoryKnights』、男子として認識されているシャルロット(シャルル)はデュノア社に所属しており、専用機を持っていても何も不思議ではない。

だがしかし、深夜は何処の企業、国にも所属しておらず、また何処からか専用機が譲渡されたとの情報は出回っていない。

それなのに、専用機を所有しているという事に動揺していたのだ。

そんな中、学園外からの観客の中で、周りと違う反応を見せたところが1国家。

イギリスである。

イギリスだけは、1年1組クラス代表決定戦の際、深夜が専用機を所有している事を何処よりも早く知った。

しかも、その専用機に自国で開発した第三世代型ISブルー・ティアーズのデータが使われている事も知った。

そのため、政府関係者2人は、どう見ても怒りの表情で、深夜の事を睨んでいた。

そんな、数舜前とは雰囲気が大きく変わったアリーナ内で

 

 

(おかしい、橘は無所属ではないのか...いや、今実際に目の前で専用機を身に纏っているんだ。あの専用機の情報が無い以上、様々な可能性を考慮しなくては...)

 

 

ラウラはそのように冷静に分析していた。

そして、

 

 

「鷹月、少しいいか?」

 

 

プライベートチャネルで静寐に声を掛ける。

 

 

「どうしたの、ラウラさん」

 

 

「橘の専用機に関して、何か情報はあるか?」

 

 

「分かってるのは、ブレードが1本にハンドキャノンが2丁、後は翼とかが光るのと、ブレードに特殊能力がある事かな?」

 

 

急に質問された静寐だが、特に焦ることも無くラウラに情報を伝える。

 

「特殊能力?」

 

 

「うん。前に、セシリアさんとの模擬戦で、武装のコントロールを奪っていたの」

 

 

コントロール奪取という情報を聞いても、ラウラは焦らない。

やはり、ここは現役軍人だからか。

 

 

「ならば、兎に角そのブレードに注意だな。鷹月、私の指示に従ってくれるか?」

 

 

「勿論!だって、私達はペア、2人で戦うんだよ。協力しないでどうするの」

 

 

「そうだな」

 

 

ラウラは、表情や声には出していないものの。、嬉しさを感じていた。

転校してきてまだ1ヶ月もたっていないのに、ここまで信頼してくれる者とペアに慣れたのが嬉しいんだろう。

一方、深夜と箒は...

 

 

(よし、シュヴァルツェア・レーゲン!これで、マスター・コントローラーのメタ機能を使える!ここで俺が活躍したうえで、ラウラのVTの暴走から助ける!俺が主人公だって証明する!)

 

 

(フン!代表候補生だが何だか知らないが、あんなチビと一般人に私は負けない!ここで勝って、一夏に私の強さを見せ、幼馴染だと認めさせるのだ!!)

 

 

1ミリもそろっていなかった。

それに、物凄く詰めが甘い。

原作では、恨んでいた一夏に負けそうになって力を求めた結果、発動したVTシステム。

だが、今のラウラは一夏の事を恨んでおらず、力が全てだと考えていない。

それなのに、どうしてVTシステムが発動すると思っているのか。

...言ってしまえば、この世界でも同じ条件で発動したが、その際に研究者はもう捕まっているので、搭載すらされていないのだが...まぁ、それは知らなくてもしょうがない。

箒は、己の事を過大評価し過ぎだし、代表候補生の事を過小評価し過ぎだ。

自身と相手の実力を理解し、如何立ち回るかによって、戦いの内容は変わって来るのだが...如何やらそれは出来ないらしい。

 

 

『それでは!学年別タッグトーナメント、1年生の部一回戦第一試合!ラウラ・ボーデヴィッヒ、鷹月静寐ペアVS橘深夜、篠ノ之箒ペア!試合...開始!』

 

 

「ゴー・トゥー・ワーク!」

 

 

ラウラは試合開始のアナウンスと同時に、一夏と同じセリフを言い、行動を開始する。

まぁ、ゴー・トゥー・ワーク(これ)は、一夏がシュヴァルツェ・ハーゼにいた時に部隊の全員の共通の言葉に(何時の間にか)なっていたので、言う事はもう癖だったり反射だったりするだろう。

実際に、一夏はもう殆ど無意識に呟くようになっている。

因みに、これを見た観戦室の一夏は、

 

 

「シュヴァルツェ・ハーゼの皆、まだ言ってるのか...俺と同じように、もう無意識なのかな?」

 

 

と呟いていたそうな。

 

 

こうして、学年別タッグトーナメントの、幕が上がった...

 

 

 

 




中途半端に切って申し訳ありません。
次回は、ガッツリ戦闘シーンからです。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想を頂けると物凄く嬉しいので、是非お願いします!


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転生者VS黒い雨

サブタイに箒と静寐がいません。
箒は別にどうでもいいですが...
静寐、本当にごめん!

戦闘シーンなので何時通りのひどい完成度ですが、お楽しみください。

UAが45000を超えました!ありがとうございます!


ラウラside

 

 

『それでは!学年別タッグトーナメント、1年生の部一回戦第一試合!ラウラ・ボーデヴィッヒ、鷹月静寐ペアVS橘深夜、篠ノ之箒ペア!試合...開始!』

 

 

「ゴー・トゥー・ワーク!」

 

 

試合開始のアナウンスと同時に、私はゴー・トゥー・ワーク(これ)を言ってから、行動を開始する。

 

 

「鷹月!先ずは作戦通りにいくぞ!」

 

 

「了解!」

 

 

私と鷹月はプライベートチャネルで短く会話すると、事前に決めていた作戦通りに行動する。

私の専用機、シュヴァルツェア・レーゲンはレールカノン、ワイヤーブレード、プラズマ手刀がメインの武装になる。

つまるところ、私は中距離が得意となる。

そして、第三世代兵器のAIC。

これは以前までの試作品とは性能が段違いに良くなったが、それでも依然として膨大な集中力が必要の為、複数の相手に使用することは向いていない。

そのため私達の作戦は、私が動きながらレールカノン、ワイヤーブレード、プラズマ手刀を必要に応じて使う。

それに対し、鷹月は安定性が高い打鉄を使用し、私のサポートに回る。

簡単に言うと、前衛と後衛の決定をせず、私の動きに鷹月が合わせるという事だ。

一般的な行動とは異なる作戦に、如何出るか...

 

 

「フン!いくぞぉぉぉおおおお!!」

 

 

「ほ、箒!?チョッと!?」

 

 

篠ノ之がブレードを展開し、此方に突っ込んで来たな...

だが、橘の焦り具合から察するに、これは篠ノ之の独断か...

 

 

「鷹月!先ずは篠ノ之を落とす!橘の事を牽制しておいてくれ!」

 

 

「分かった!」

 

 

そのため、私は先に篠ノ之を落とすことにした。

鷹月は、アサルトライフル、焔備を展開し、橘に向かって発砲する。

それを確認しながら、突っ込んで来た篠ノ之に対して、威嚇でレールカノンを撃つ。

勿論、交わされること前提なので、プラズマ手刀を直ぐに展開。

対応できるようにする。

だが...

 

 

「グァ!」

 

 

当たった。

何でだ?

威嚇だったから、避けられて当然のものなんだが...

 

 

「飛び道具なんて卑怯だぞ!」

 

 

.....何を言っているんだ、コイツは。

もしかして、私を呆れさせて、その内に橘が私を落とす戦法か?

まぁ、そうだったとしても、

 

 

「私は、私らしく戦うだけだ!」

 

 

私はプラズマ手刀を使い、篠ノ之に切り掛かる。

 

 

「クソッ!この!」

 

 

篠ノ之は近接用ブレード、葵で応戦してくるが、非常に避けやすい。

篠ノ之のこの太刀筋は...確か、日本の剣道と呼ばれるスポーツの一種だったな。

呆れた。

別に、その剣道をくだらないと言っている訳ではない。

剣道のプロなど、剣道に誇りを持っている人も大勢いる事だろう。

そういう人たちは、素直に称賛する。

だが、今私達はISで戦闘をしている。

ISでの戦闘は、地上での戦闘と大きく異なる。

だからこそ、剣道を主軸としたとしても、IS用にアレンジだったり適応させていかないといけない。

それなのにも関わらず、この篠ノ之の太刀筋は、特にそのような工夫がされていないように感じる。

実際に剣道をしたことが無い為確信は持てないが、見た感じISでの動きとリンクしていない。

そんなものでは、私に攻撃は通らない。

 

 

「クソォ!」

 

 

「う、きゃあ!」

 

 

ム、橘が鷹月に攻撃を当てたか...

ここは、交代だな。

私はそう判断すると、篠ノ之を思いっ切り切り付ける。

 

 

「あああ!?」

 

 

それにより、篠ノ之は吹き飛ばされる。

 

 

「鷹月、チェンジ!」

 

 

私はプライベートチャネルで鷹月にそう呼びかける同時に、鷹月に向かって(・・・・・・・)レールカノンを発砲する。

当然、鷹月が陰になっているため、橘には見えていない。

 

 

「了解!」

 

 

鷹月は、ギリギリまで粘ったのち、可能な限りのスピードで移動し、橘への射線を開ける。

そして、

 

 

「あがぁ!?」

 

 

鷹月の後ろに迫っていたレールカノンの攻撃が、橘にヒットする。

私はそのまま、橘に接近し、ワイヤーブレードを使って攻撃をする。

橘から離れた鷹月は、そのまま私が吹き飛ばした篠ノ之に攻撃を仕掛ける。

ただ、先程までの橘への牽制で焔備の弾を結構な数消費してしまったため、篠ノ之には接近戦を挑むようだ。

心配はいらないだろう。

鷹月ならば、篠ノ之が相手なら、勝てる。

だから、私はここで橘を倒す!

 

 

「クソォ!この!ああ!」

 

 

フム、橘は身体能力等は高いみたいだが、如何も経験が足りていないみたいだ。

いくらスペックが高くても、戦いでは経験が何よりもものをいう。

その経験が足りていないなら、私には勝てない!

私は、ワイヤーブレードでの攻撃を繰り返しながら、距離が開けばレールカノン、逆に距離が近くなればプラズマ手刀に切り替え、攻撃をする。

そしてまたワイヤーブレードに戻り、攻撃をする。

そのループに入っていた。

橘は、何とか食らいつくように避けているが、反撃できるだけの余裕はないようだ。

ここで、

 

 

『打鉄、SEエンプティ!篠ノ之箒、戦闘不能!』

 

 

と、篠ノ之が脱落したというアナウンスが鳴る。

 

 

「そんな、箒が!?って、グファァ!!」

 

 

橘は、そのアナウンスで動きが鈍ってしまい、ワイヤーブレードの攻撃をそのまま受ける。

これはチャンスだ!

私はそのまま、ワイヤーブレードでの攻撃を続ける。

すると、

 

 

「ラウラさん!」

 

 

鷹月が合流した。

合流した瞬間に、焔備を再展開、発砲を開始する。

私は、その砲撃を遮らないようにワイヤーブレードで攻撃する。

 

 

 

「はぁ、はぁ...クソォ!!」

 

 

橘は、攻撃を受け続け、体力も消耗しているらしい。

 

 

「鷹月、残り弾数は?」

 

 

「拡張領域のものも含めて、後400発くらい」

 

 

私と鷹月はプライベートチャネルでそう会話する。

橘の残りSE量から見るに、削り切れるな。

 

 

「鷹月、AICを使う。橘を捕えたら、一気に撃て」

 

 

「分かった!」

 

 

鷹月とそう会話した後、私はワイヤーブレードでの攻撃をしながら、AIC発動のタイミングを見計らう。

鷹月は、焔備を撃たずに私がAICが発動するのを待っている。

橘が、何とかワイヤーブレードを交わそうと、ブレードを振るう。

そして、振り終わったとき、

 

 

「...今」

 

 

私は右手を前に突き出し、AICを発動する。

 

 

「うぐぅ、あぁ...」

 

 

橘は捕えられたからか、少し苦しそうな声を出す。

鷹月は、直ぐに焔備を構えなおし、発砲を開始する。

だが、橘は口元に笑みを浮かべている。

その次の瞬間、橘の機体の白い部分と、背中の翼が光る。

そして、

 

 

「はぁぁぁ!」

 

 

AICの拘束をすり抜け(・・・・)、動き始めた。

そしてそのまま、橘はハンドキャノンを展開し、発砲してくる。

私は慌ててその銃弾にAICを発動するも、その弾もAICをすり抜け(・・・・)、私に被弾する。

 

 

「ラウラさん、回避!」

 

 

「分かっている、一回離れる!」

 

 

クソ、何ですり抜ける(・・・・・)んだ!

確かに、AICは完璧ではない。

突破をされることだって、確かにある。

それだとしても、AICが解除されていない(・・・・・・・・)のにも関わらず、何故か橘は動けている。

しかも、さっきは1回捕えていたのにも関わらず、だ。

まさか...AIC対策がしてあるのか!?

でも、シュヴァルツェア・レーゲンでの公式試合は数えるほどしかしていないし、それ以前にそれは全てドイツ国内でだ。

AICを解析して、対策が出来る訳が無い!

まさか、本国のコンピュータからか!?

だが、今は戦闘中だ。

考えるのは後だ!

 

 

「鷹月!橘にはAICが効かない!」

 

 

「嘘!じゃあ、如何するの?」

 

 

「此方は2人だ!連携をする!焔備の弾は、400から減ってないな?」

 

 

「うん!」

 

 

「ならば、そのまま撃ってくれ!私が前衛をする!」

 

 

「分かった!」

 

 

AICは使えないと判断した私は、鷹月に指示を出し、私が前衛、鷹月が後衛をすることになった。

私は、先程までと同様にワイヤーブレードを使い、橘に攻撃をする。

私がそう攻撃を開始すると同時に、鷹月も焔備を構え、タイミングを見計らうかのように私と橘の周りを飛行する。

 

 

「クソッ!ウザいんだよぉ!!」

 

 

橘はブレードを展開。

そのまま振るい、ワイヤーブレードを切断する。

だが、

 

 

「今!」

 

 

振り抜いて、一瞬できた隙。

そのタイミングで、鷹月が焔備を発砲する。

 

 

「グァア!ク、このぉ!!」

 

 

その攻撃を受け、橘はブレードを片手で持ち、空いた方の腕でハンドキャノンを展開、片腕で構えて鷹月に撃つ。

だが、片手で撃った、しかも反撃の際のブレブレな構えで撃ったものが当たる訳がなく、そのまま鷹月は避ける。

そして、橘の注意が私から逸れている。

ならば...!

 

 

「アグゥ!」

 

 

私が撃ったレールカノンはそのまま橘に当たる。

これで、橘の機体のSEは残り僅かだ。

 

 

「クソッ!クソッ!クソォォォオオオ!!」

 

 

橘は、そう叫びながら、鷹月に向かってハンドキャノンを乱射する。

.....あのハンドキャノン、AICをすり抜けたのもそうだが、明らかに連射制度や威力が高すぎる。

無所属なのに持っている専用機や、その専用機の機能を含め、コイツは怪しい...

だが、鷹月に集中し過ぎだ!

 

 

「ア、グガァ!」

 

 

私は再びレールカノンを発砲した後、一気に加速をし、橘に接近する。

橘は、レールカノンでの攻撃を受けて、動きが固まっている。

そしてそのままプラズマ手刀を展開し、そのまま切り付ける!!

 

 

「うわぁぁぁあああ!!!」

 

 

『マスター・コントローラー、SEエンプティ!勝者、ラウラ・ボーデヴィッヒ、鷹月静寐ペア!』

 

 

『わぁぁぁあああああ!!!』

 

 

その瞬間に、橘の機体のSEがゼロになった。

私の...私達の勝ちである!

 

 

「ラウラさん!勝ったよ!」

 

 

「ああ、そうだな!」

 

 

そうして、私と鷹月は拳と拳を突き合わせる。

一夏は、一回戦の最終試合。

一夏と戦うには、決勝戦まで勝ち残らないといけない。

これで、一夏との再戦に1歩近づいた。

鷹月も、私と連携が出来ている。

これなら...いける!

鷹月と、優勝を目指す!

 

 

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三人称side

 

 

第一試合が決着し、早速盛り上がれる試合を見れたので、観客は盛り上がっている中。

観客の内何人かが、この試合内容に疑問を感じた。

ドイツ政府関係者2人とクラリッサと一夏である。

政府関係者とクラリッサは、AICの性質を理解しているから、一夏は試作品とはいえAICで捕縛されたことがあったから、気付けた違和感。

深夜の専用機の機能である。

AICで身動きを封じ込められても、そのAICを発動している操縦者の集中力がものをいうため、突破されることはある。

実際に、一夏は地獄の炎も、生ぬるいでラウラの集中力をそいでAICを突破したことはある。

だがしかし、深夜はAICが発動していたのにも関わらず、AICの捕縛をすり抜けた。

それに、ラウラが弾丸に再度AICを発動しても、その弾丸は止まる事が無かった。

2回目は急だったため、観戦に発動しきっていなかった可能性もあるが、1回目は確実に捕らえられていた。

それなのにもすり抜けたという事は...AICのデータが使われている可能性が高い。

その考えに至ったドイツ政府関係者は、本国に連絡を入れる。

クラリッサも、ドイツ軍に連絡を入れる。

ドイツ政府も軍も、AICのデータを保管しているコンピュータを確認。

しかし、クラッキングの痕跡もウイルス侵入の形跡もなかった。

これにより、ドイツは橘深夜を危険人物と認定。

誰が専用機を与えたのかも含め、調査、並びにラウラに警戒をさせる事にした。

一夏も一夏で、これは可笑しいと判断した。

そのため、そのまま『PurgatoryKnights』に連絡を入れる。

シャルロットの歓迎会をしていたのだが、スコールは応答してくれた。

わざわざ今だという事は、重要性が高いという事を判断したんだろう。

一夏の報告を聞いたスコールは、束と共に可能な限りの情報を調べてくれると言ってくれた。

この時に、一夏が

 

 

「主任には篠ノ之箒関連の声明を優先してもらって...」

 

 

と言うと、スコールは

 

 

「そっちの方が急務かもしれないわね...」

 

 

と苦笑いしていた。

箒の暴動は一夏が『PurgatoryKnights』に報告している(愚痴をこぼしている)ので、どれだけ一夏が苦労しているのかは伝わっているようだ。

そんな第一試合なのにも関わらず、そのような事が裏では起こっていた。

...深夜は、色々な国際問題に発展する火種をまき散らしたようだ。

 

 

だが、学年別タッグトーナメントはまだ始まったばかりだ。

これから、どのような生徒が活躍するか、楽しみである...

 




何か、深夜が超弱く見える。
いや、実際に弱いんですけど...
専用機も身体能力も転生特典のハイスペック品なのになぁ。
まぁ、如何でもいいか。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

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休憩時間

はい、鈴とセシリアはガッツリ省略します。
対戦相手が専用機持ちでは無いので...

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

第一試合の後。

そこからは特に違和感等を感じる事は無く、学年別トーナメントは進行していた。

そして、現在は昼休み。

この時間で生徒たちは昼食を取り、アリーナではシールドの点検を行う。

そんな時間で、俺とディミオスは自身の寮の部屋に戻っていた。

食堂は如何考えても混むので、自分の部屋で飯を食った方が良いと判断した。

それに、昼食後の試合に遅れても、俺は最終試合だから問題は無い。

いや、あるかもしれないが...まぁ、いいだろう。

 

 

「それにしても、やっぱりセシリアと鈴は勝ったな」

 

 

《このルール、ハンデがあるとはいえやはり専用機持ちが有利だから仕方が無いだろう》

 

 

ディミオスとそんな会話をしながら、俺は自分の昼食を作るために冷蔵庫を開ける。

今日の昼は、スタミナ丼だ。

この後に試合があるから、気を引き締める必要があるからな。

材料を取り出し、手を洗う。

調理をする時は気を付けないと怪我をするので、集中をする。

大体10分後、完成したスタミナ丼と箸を机に持っていく。

そして、ノートPCを立ち上げながら、スタミナ丼を食べ始める。

うん、手抜き料理だけど、まぁまぁの完成度で出来たな。

 

 

「それにしてもさ、学園外の観戦者って学園敷地外のホテルに泊まるじゃん?」

 

 

《そうだな》

 

 

「それで、翌日も朝早くから学園に来るからさ、大変だよね」

 

 

今日1日で終わればいいんだが、何せ人数がなぁ...

全校生徒が参加するイベントなので、参加人数が多く、それによって試合数も非常に多い。

3学年、別アリーナで同時にトーナメントが進行するとはいえ、やはり人数は多い。

初日である今日は一回戦で日程が終了するほどには。

そのため、外部からの関係者は1回敷地外のホテルに泊まる必要があるのだ。

 

 

《本来ならば、敷地内に入る事が出来ないのだ。アリーナで試合を観戦できる対価とすれば、安いものだろう。今年は男が出るのだから、余計にな》

 

 

「まぁ、その男の1人はもう負けたけどな...」

 

 

ここで俺も負けたら、観戦者から不満が出そうだ...

全く、俺も深夜も学生なんだから、そういう事に巻き込まないで欲しい。

まぁ、俺は企業所属の人間でもあるんだけどな...

でも、そんなの関係ない。

 

 

「ただ戦い、勝つだけだ」

 

 

《そうだな...だが、対戦相手は更識簪と布仏本音だ。強敵だぞ》

 

 

確かに、先ず専用機持ちの代表候補生というだけで一般生徒より強いのは確かだ。

それに打鉄弐式は簪と4組の皆(と一応俺)の絆の証の様なものだ。

第三世代型だが、第二世代型で随一の安定性を誇る打鉄の発展機だという事で安定性も高いうえでの、最新式の第三世代型兵器が搭載されている。

そして、そんな大事な専用機の大事なデビュー戦。

簪も気合が入っているだろう。

ペアも幼馴染ののほほんさんだという事で、連携も申し分ないだろう。

これは、ディミオスの言う通り間違いなく強敵だ。

だが、それでも、

 

 

「全力で行くのが、バディファイターだ!」

 

 

《ISだぞ?》

 

 

「バディモンスターのディミオスがしていいツッコミではない」

 

 

確かにその通りだけどさ...

まぁ、全力で戦い、勝つ!

 

 

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深夜side

 

 

ま、負けた...

何でだ!!

何で俺は負けたんだ!?

 

 

学年別タッグトーナメント、一回戦第一試合。

俺は、箒と共に出場した。

対戦相手は、ラウラと鷹月のペア。

俺にはマスター・コントローラーのメタ機能、それに千冬並みの身体能力があるのに...

何でだよ!

何で俺は、鷹月みたいな一般生徒にも翻弄され、しかもメタを発動させたのにも関わらず、ラウラに倒されたんだよ!!

チクショウ、訳が分からねぇ!!

しかも、VTシステムが発動しなかったじゃねえか!

訳が分からねぇ...

箒からは

 

 

「何が『俺と組めば、一夏に力を見せつけられる!』だ!負けたではないか!使えない奴め!!」

 

 

そう言われてしまった。

クソ!

何でだよ!

俺は主人公だろ!

何でヒロインに嫌われないといけないんだよぉ!!

ふざけんな...ふざけんなよぉ!!

何で転生特典が生かされない!

この世界は、俺が活躍してハーレムを作る世界だろうが!

何でだよ...何でだよぉ!!

 

 

いや、まだだ。

ラウラと一夏が戦うなら、VTシステムが発動する可能性がある。

そうしたら、俺が乱入してラウラを助けるんだ。

それに、1学期末には、臨海学校がある。

そこで、俺が福音を倒せば、俺が主人公だと、英雄だと証明できる!

そうすれば、俺のハーレムだって作れるはずだ!

そうだ、この世界の主人公は俺で、英雄なんだぁ!

そうだと証明してやる!!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

PCを確認しながらの昼食も終わり、俺はアリーナに向かっていた。

追加の仕事もなく、午後には俺が出場する一回戦最終試合があるため、アリーナにもういた方が良いと判断したからだ。

 

 

「俺の仕事は無かったけど、会社としての仕事はそこそこあったな」

 

 

《その3分の1が日本政府、又は国際IS委員会からの書類だ》

 

 

「何か、申し訳ねぇ...」

 

 

その2つからの書類って、絶対俺関係じゃん...

 

 

《社員たちに不満は無いようだから、別にいいんじゃないか?》

 

 

「不満が無いのは、社長をはじめとした上司の人柄の良さだよ...」

 

 

だって、ただの高校生の俺に頭を下げる取締役だなんて、『PurgatoryKnights』以外にはいないよ?

いや、男性IS操縦者の俺は()()()高校生ではないかもしれないが、それでもやっぱり普通の企業ならば頭を下げるだなんてことはしないと思う。

本当に、良い人たちしかいない会社で良かったぁ。

そう思うと、やっぱり俺関係で仕事が増えるのは申し訳なく感じる。

書類を送ってきて仕事を直接増やしているのは日本政府と国際IS委員会だが、その書類を送って来る理由は男性IS操縦者()がいるからなんだよなぁ。

社長も気にしないでとは言って下さるが、如何しても気にしてしまう俺は悪くはない。と、思う。

.....あれ?

俺って学生だよな?

いや、企業所属の人間でもあるけどさぁ...

俺がそんな事を考えながら歩いていると、

 

 

「あら、一夏さん」

 

 

そう声を掛けられる。

俺がその方向を向くと、そこにはセシリア、鈴、ラウラと、もう既に一回戦を終わらせ、無事に勝利した3人がそこにいた。

 

 

「ああ、セシリアと鈴とラウラか。如何した?みんな集まって」

 

 

俺がそう聞くと、鈴が

 

 

「普通に暇だったから喋ってただけよ」

 

 

そう返してきた。

ひ、暇って...

それで良いのか、国家代表候補生。

 

 

「全員、一回戦は突破したな」

 

 

「一夏、まだ本命のお前が残っているぞ」

 

 

「ほ、本命って...」

 

 

俺、そんな立場だったけ?

 

 

「私たちは、一夏さんにリベンジがしたいのですわ」

 

 

「そんなリベンジ対象が負けちゃったら如何しようもないじゃないの!!」

 

 

「ああ、そういう事ね...」

 

 

確かに、俺はここにいる3人に負けた事は無いが...

俺は別にそこまで強う訳じゃ無いんだがなぁ。

ていうかそもそも、

 

 

「トーナメントの組み合わせ的に、俺よりも前にセシリアと鈴は戦うだろ」

 

 

「「あ...」」

 

 

おいおい、それは失念しちゃダメだろ...

 

 

「私と戦うには、決勝戦じゃないといけないからな」

 

 

「まぁ、見事に端と端だからな」

 

 

何か仕組まれてないか?

このトーナメント表。

 

 

「まぁ、いいや。んじゃ、頑張って来る」

 

 

「頑張りなさいよ!簪も、きっと強いんだから!!」

 

 

「分かってるよ」

 

 

俺達はそう会話を終わらせると、3人は観客席に向かっていった。

早めに確保しておこうという事だろう。

まぁ、俺は最終試合なので休憩時間が終わっても暫く暇な時間があるんだが...

別にいいだろう。

それに、誰にも関わらないで集中する時間も欲しいしな。

 

 

「ム、織斑、ここで何をしている」

 

 

そう思ったら、タイミングが良いのか悪いのか、誰かが話し掛けて来た。

いや、もう正体は分かるんだけどね。

 

 

「織斑先生、試合時間まで集中して士気を高めようとしてただけです」

 

 

そう、織斑先生だ。

俺は返事をしながら織斑先生の事を見る。

.....なんか、俺ってもしかしなくても後ろから声掛けられる率物凄くないか?

何時も振り返ったり体の向きを変えてる気がする。

まぁ、そこまで重要なことでは無いし、別に気にしなくてもいいか。

 

 

「そうか。ならば、邪魔をしてしまったな」

 

 

「いや、織斑先生に確認したい事があったので、言ってしまえば都合が良かったです」

 

 

「教師によくそんな事が言えるな」

 

 

織斑先生は苦笑いだ。

普通だったら言えないかもしれないが、俺は織斑先生...いや、千冬姉の弱点なら山のように握っているからな。

 

 

「それで、その確認したい事とはなんだ?問題でも発生したか?」

 

 

「いや、何方かと言うとプライベートでの話ですね」

 

 

俺がそう言うと、織斑先生は少し顔が引きつった。

...またなんかやらかしたな?

まぁ、それの追及は後でいいや。

 

 

「学年別トーナメントの後、教員寮の俺の部屋に外部の人間を入れていいですか?」

 

 

「お前の部屋にか?」

 

 

「はい。如何やら外部に漏れたらいけない話があるようで...」

 

 

こういう言い方だと、何か仕事の話みたいになるな。

いや、最初にプライベートだと言ってあるから大丈夫だ。

勘違いしてくれたら勘違いしてくれたで楽なんだけどな。

織斑先生は考え込むように顎に手を当てていたが、やがて息を吐くと、

 

 

「そういう事情ならば仕方が無いが...人数は?」

 

 

「2人ですね」

 

 

クラリッサさんとチェルシーさんだから、2人。

この言い方だと、更に仕事だと思われる。

まぁ、どっちでもいいや。

俺は事実しか話してないんだから。

勘違いしたのは織斑先生の責任という事で。

 

 

「それくらいならば問題は無いな。許可を出す」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

ふう、無事に許可を得られた。

話を聞くのはこのトーナメントが終わってから...つまりは、最終日だ。

そこまでに結構時間の猶予はあったとはいえ、貰える許可は早めに貰っておいて損は無いだろう。

俺はその場でもう一度織斑先生にお礼を言うと、織斑先生は去っていった。

向かう先は、アリーナ管制室だろう。

 

 

「...トイレだな」

 

 

《.....まぁ、そうなるだろうな》

 

 

ディミオスはそう言うと、カードに戻り、ポケットに入っていった。

 

 

[マスター、私達の事忘れてませんか?]

 

 

(いや、忘れてないぞ。何でそう思ったんだ?)

 

 

ここで、何故か白騎士がそんな事を質問してきた。

俺がそう聞き返すと、今度は白式が

 

 

[だって!最近マスターと会話して無いよ!]

 

 

と言ってきた。

そんなしてないか?

 

..........

 

してないな。

 

 

(確かに、最近会話してなかった気がする)

 

 

[そうだよ!だから忘れられてないか心配で心配で...]

 

 

(わ、悪かったって。元気出してくれ)

 

 

[ならマスター。今度頭撫でてください!]

 

 

(分かった、分かったから)

 

 

[約束ですよ!!]

 

 

何とか白騎士と白式の機嫌も良くなったようだ。

あ、危なかった...

しかし、頭を撫でる約束1つで機嫌が直るだなんて...

そんなに良いもの何だろうか?

白式も、白騎士も、簪も、マドカも、クロエさんも、ラウラも。

何故か頭を撫でるだけで気持ちよさそうなんだよなぁ。

自分では良く分からないんだよなぁ。

今度束さんに頼んでそういうの測定してもらおうかな?

いや、それよりも前に篠ノ之箒関連の声明発表と深夜の専用機の調査だな。

それに、何となくだがそういう測定をあの兎に任せるのは何となく不安だ。

 

 

そんな事を考えていると、何時の間にやらこの学園の中でも数少ない男子トイレに着いた。

このトイレは俺と深夜と学園長と一応男子扱いのシャルルしか使わない。

学園警備員の方にも男性はいるが、警備員の方々は警備員専用トイレを使用されるので、このトイレは使用者が4人(正確に言うなら3人)しかいない。

俺はそんなトイレの個室に入ると、目を閉じる。

さて、試合時間までまだあるし、集中の前に、1回考え事をしよう。

束さん以外の人物、又は組織が造ったと推測されるコアを搭載したIS。

白式と白騎士が言うには、訓練機では無く専用機らしい。

そして、無所属なのに何故か深夜は専用機を所有いている。

その専用機は、何故かコアネットワーク越しの呼びかけに応じない。

これだけ見ると、確実に深夜の専用機が件のコアを搭載したISだ。

しかも、あの専用機にはAICのデータが無いと作れない対策がされていた。

それは、ラウラがAICを使わなかったら腐った機能だった。

だが、ラウラはAICを使う事を戦術にしている。

つまりは、深夜のあの機体は完全にラウラのデータを揃えたうえで、ラウラと戦う事を想定している。

 

 

「まるで、メタカードを入れたデッキのようだ」

 

 

メタカード。

例えば、レジェンドWのアイテム、竜滅剣 バルムンクは属性に『ドラゴン』か『竜』を含むモンスターにアタックした場合、無条件に破壊できる。

だが、攻撃力は3000しかないので、ドラゴン又は竜以外のモンスターへの攻撃には向いていない。(サイズ2以上のモンスターの防御力は大体5000程が多い)

そんな特定のデッキにしか使えないカード、それがメタカード。

そして、まるで深夜の専用機はまさにAICメタのようだった。

 

怪しい。

 

何故深夜は如何やってその機能を作り、何故搭載した?

そもそも何故ラウラがAICを使う事を知っていた?

.....待て。

前のクラス代表決定戦で深夜はセシリアと戦っていた。

まさか、その時にブルー・ティアーズのメタの様なものを使っていたら...

そうだったら、ますます深夜が怪しい。

深夜に怪しんでいる事を知られないように、調査しないと...

 

 

あ、俺にそんな時間なかった。

日本政府と国際IS委員会と篠ノ之め~~~。

やりたい事が出来ねえじゃねぇか!

 

 

はぁ...まぁ、今はいい。

今俺がやる事は、簪とのほほんさんのペアと戦う事。

そして、勝つことだ。

さぁ.....やってやる!!

 

 

 

 




流石に省略し過ぎたかなぁ?
許してください。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想と誤字報告、何時もありがとうございます!
今回も、是非お願いします!


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煉獄騎士VS打鉄弐式

本音...ごめん。
私に良いサブタイを思い付く能力など...無い。

今回は戦闘回なので、何時も通りのひどいクオリティですが、お楽しみください!


一夏side

 

 

あれから、トイレで気持ちを整えた俺は、現在ピットにいた。

先程の試合が終了してから、もう暫くたった。

もう直ぐ、呼ばれることだろう。

そして俺はピット備え付けのベンチに座り、ダークコアデッキケースを見つめていた。

この世界は、如何やら俺に普通の学生生活を送らせる気はないらしい。

特に、篠ノ之と日本政府と国際IS委員会は。

それに加え、深夜の専用機問題まで出て来てしまった。

俺の仕事しか増えない。

だが、今の俺がやるべきことはただ1つ。

戦って、勝つ。

それだけ、それだけでいい。

 

 

『さて、皆さん!1年生の学年別タッグトーナメント、一回戦の最終試合の時間がやってまいりました!この試合は一回戦の注目試合という事で!私、2年生の一回戦で無事敗北した黛薫子が実況をさせて頂きます!』

 

 

「何故!?」

 

 

何でここだけなんだ...

それに黛先輩、堂々と敗北したって言わなくても良いじゃないですか...

ま、まぁいいか。

ここでもアリーナの観客が盛り上がってるのは伝わって来るし。

 

 

「さて、ディミオス、白式、白騎士。行くぞ」

 

 

《了解した》

 

 

[[はい、マスター]]

 

 

俺はベンチから立ち上がり、手に持っているダークコアデッキケースを顔の前に持って来て、

 

 

「ディザスターフォース、発動」

 

 

そう宣言をする。

こうして、煉獄騎士の鎧を纏い、

 

 

「バディスキル、インフェルノサークル」

 

 

インフェルノサークルを発動して浮くと、そのままアリーナに出る。

 

 

『さぁ!先ずアリーナに現れたのは、このトーナメント異例のソロ参加、そして世界で最初に発見された男性IS操縦者の織斑一夏!専用機の煉獄騎士を纏っております!』

 

 

本当に実況するんかい。

まぁ、別に実況されるのは気にならないし、いいか。

俺がそんな事を考えていると、反対側のピットから2機のISが飛び出してきた。

 

 

『そして、今現れたのは、4組クラス代表更識簪、そしてそのペアの布仏本音だ!更識簪が身に纏うは諸事情で自身がクラスメイトと共に組み立てを行った専用機の打鉄弐式!本日が初の模擬戦だという事です!』

 

 

ちゃんと、その()()()を言わないのが偉い。

いや、これが普通なんだが...

あの先輩、ナチュラルに捏造するとかほざいていた人だからなぁ...

 

 

「は、恥ずかしい...」

 

 

「かんちゃん、しっかりしてぇ~~」

 

 

うん、のほほんさんは何時も通りだ。

緊張感が足りてない。

 

 

「簪、改めて、打鉄弐式の完成おめでとう」

 

 

「ありがとう、一夏。でも、完成しただけじゃ終われない。皆と一緒に、一夏に勝つ!」

 

 

「私も~、がんばるよ~~!!」

 

 

それを聞いて俺は、鎧の下で笑いながら、

 

 

「やってみろ」

 

 

そう言い切った。

そして俺は左手首の紫の眼を2人に見せながらそこに右手を添え、

 

 

「血盟は今果たされる。集え!絶望の軍団!ダークルミナイズ!断罪、煉獄騎士団!」

 

 

そう言いながら右手を振り抜く。

そして、ディミオスは俺の後ろでダークネスドラゴンWのフラッグを振っている。

 

 

『さぁ!織斑一夏は何時ものセリフを言い放ちました!これ、いったい何なんでしょうか?まぁ、似合ってるしカッコいいですけど』

 

 

ルミナイズ口上だ。

思わずそう言いそうになってしまう。

だが、ここでそんな事を言うとあの先輩の事だ。

ちょっとやそっとじゃ終わらないほど質問をしてくるだろう。

俺は内心そう思いながら、

 

 

「装備、煉獄剣 フェイタル」

 

 

フェイタルを装備し、構える。

すると、簪とのほほんさんも武装を展開、構える。

のほほんさんは打鉄に標準装備されている近接用のブレード、葵。

簪は、接近用の超振動薙刀、夢現。

この配置は...どちらも前衛?

いや、この2人は何方も近接、中距離の2通りが出来ると考えた方が良い。

何処かのタイミングで入れ替わったりする可能性がある。

それに、打鉄弐式には()()があるしなぁ...

 

 

『それでは!学年別タッグトーナメント、1年生の部一回戦最終試合!織斑一夏VS更識簪、布仏本音ペア!試合...開始!』

 

 

「ゴー・トゥー・ワーク」

 

 

俺がゴー・トゥー・ワーク(いつもの)を呟くと、行動を開始、アリーナの壁を添うようにして飛行する。

のほほんさんは、スラスターを起動させ、俺に突っ込んで来る。

簪は一定の距離を保ちながら、タイミングを見計らうように飛行している。

俺はフェイタルを使いながらのほほんさんの斬撃を捌きつつ、簪の事を確認する。

 

 

「あわわわわ~~!おりむーに当たらない~~」

 

 

何で口調は何時と変わらないのに、斬撃はこんなに激しいんだろうか。

 

ガキィン!ガキィン!!

 

そんな音を響かせながら、俺とのほほんさんは切り合う。

ここで、俺はのほほんさんを踏み台にして、上空に移動する。

すると、さっきまで俺の身体があったところに、夢現が振るわれた。

 

 

「危ねえな!」

 

 

俺がそう言うと同時に、簪は背中に搭載された連射式荷電粒子砲、春雷を俺に発砲する。

ちっ、荷電粒子砲が連射ってめんどくせえ!

 

 

『さて、更識簪は荷電粒子砲を連射してます!これはエグイですね!』

 

 

本当だよ。

俺は、何とか避けているが、一発左腕に掠ってしまう。

 

 

「チィ!!」

 

 

これにより、ライフが10から8になる。

 

 

『おおっと!!ここで、初めてのダメージが発生しました!』

 

 

そんなアナウンスを聞きながら、荷電粒子砲に当たったときの衝撃を利用して、いったんその場から離れる。

ここで、俺のゲージと手札が1枚ずつ増え、ゲージ2手札6となる。

俺はそれを確認すると、

 

 

(俺のターン!)

 

 

心の中でターン宣言を行う。

そして、俺は左手を突き出し、

 

 

「センターにコール、煉獄騎士団 シーフタン・ドラゴン」

 

 

《ふしゅぅぅううう》

 

 

シーフタンをコールする。

そして、

 

 

「キャスト、デビル・スティグマ!シーフタン・ドラゴンを破壊!」

 

 

魔法カード、デビル・スティグマを発動する。

すると、空中に紫のオーラを纏った鎌が出現し、そのままシーフタンを貫く。

そして、デビル・スティグマの効果でケージが2増え4、ライフが1回復し9となる。

 

 

「シーフタン・ドラゴンの破壊時効果!相手にダメージ1!」

 

 

「きゃあ!」

 

 

そしてそのままシーフタンの破壊時効果を発動する。

本来だったら相手のゲージ1枚をドロップゾーンに送ってからダメージなのだが、普通のISにゲージの概念は無い為、そのままダメージだけが入る。

これにより、簪のSEが1割削れる。

 

 

『負けじと織斑一夏も回復をしつつ相手にダメージ!』

 

 

アナウンスを聞きながら、俺は再び右手を突き出して、

 

 

「ゲージ1を払い、1枚ソウルに入れセンターにコール、煉獄騎士団 リングブレード・ドラゴン!レフトにコール、煉獄騎士団 クロスボウ・ドラゴン!」

 

 

モンスターのコール宣言を行う。

そしてそのまま右腕を頭上にあげ、

 

 

「ドロップゾーンのシーフタン・ドラゴンををソウルに入れ、ゲージ1を払い、ライトにバディコール!煉獄騎士団を束ねし者 ロード・ディミオス!!」

 

 

《行くぞ!!》

 

 

バディコール宣言を行う。

だが、俺がコールするのは通常のディミオスではない。

“インフェルノ”同様、ディミオスの進化形態の1つ、ロード・ディミオスだ。

バディギフトでライフが1回復する。

これにより、俺のライフは10、ゲージは2、手札は1だ。

 

 

『ここで、織斑一夏は自身のバディと言っているディミオスソードを出した!だが、今までの姿と違うところがあるぞ!いったいどんなものなんだ!?』

 

 

何か実況と個人の感想が混ざってないか?

まぁ、いいか。

 

 

「本音、来たよ」

 

 

「そうだね、かんちゃん」

 

 

簪とのほほんさんがそう会話する。

俺はそれを確認すると、

 

 

「アタックフェイズ!クロスボウ・ドラゴンで、のほほんさんにアタック!」

 

 

《くらえ!》

 

 

俺のアタックの指示で、クロスボウはのほほんさんに発砲する。

 

 

「あ、あわわわわ!?」

 

 

のほほんさんは慌ててアサルトライフル、焔備を展開し、リングブレードに発砲する。

だが、

 

 

「あ、あれぇ!?」

 

 

「本音!?何してるの!?」

 

 

当たってない。

寧ろ、俺やディミオスの方に飛んできてる。

何でこっちに飛んでくるんだ。

のほほんさん...射撃向いてないな。

そもそも、もう撃たれてるのに撃つのはどうかと思う。

そのままクロスボウの攻撃はのほほんさんに決まり、SEが1割削れる。

そして、クロスボウの効果でゲージが1増え、3となる。

俺はそれを確認すると、

 

 

「リングブレード・ドラゴンで簪に攻撃!」

 

 

リングブレードにアタックの指示を出す。

 

 

《踊りなさい!!》

 

 

「そう、喰らわない!」

 

 

リングブレードは簪にアタックを仕掛けるも、簪は夢現を使い、リングブレードの攻撃を逸らす。

 

 

「ロード・ディミオスで、簪に攻撃!」

 

 

《フン!!》

 

 

だが、簪は今夢現を使ってしまった。

今からでは構えなおせない。

 

 

「きゃあ!」

 

 

そのままディミオスの攻撃はヒットし、簪のSEは2割削れる。

 

 

「ロード・ディミオスの効果発動!」

 

 

《勝利のために命を捧げよ。カノナス・カサルティリオ!》

 

 

それを確認した俺はディミオスの効果発動宣言を行う。

ディミオスから出た青白いオーラがリングブレ―ドを包み込む。

だが、

 

 

「リングブレード・ドラゴン、ソウルガード!」

 

 

リングブレードはソウルガードで場に残る。

そして、リングブレードは破壊された場合、スタンド、つまり再攻撃が出来るようになる。

ディミオスは自身の効果でスタンドするため、ディミオスとリングブレードの両方が再攻撃可能となった。

 

 

「リングブレード・ドラゴンで簪にアタック!」

 

 

そして、リングブレードで簪にアタックする。

簪はそのまま攻撃を受けてしまい、更に1割SEが削れる。

 

 

「ロード・ディミオスでのほほんさんにアタック!」

 

 

今度はディミオスにアタックの指示を出す。

ディミオスはそのままのほほんさんに接近し攻撃をする。

 

 

「あにゃあ!?」

 

 

その攻撃はヒットし、のほほんさんのSEは2割削れる。

 

 

「ロード・ディミオスの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

俺は再びディミオスの効果発動宣言を行い、リングブレードは破壊される。

俺はそれを確認し、

 

 

「ロード・ディミオスでのほほんさんにアタック!」

 

 

《ハァア!!》

 

 

ディミオスにアタックの指示を出す。

先程のアタックにより、ディミオスはのほほんさんに接近していたので、そのままアタックをする。

このアタックも決まり、のほほんさんは更にSEが2割削れる。

 

 

「ロード・ディミオスの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

それを確認した俺はディミオスの効果発動宣言を行う。

今度はクロスボウが破壊される。

 

 

「ロード・ディミオスで簪にアタック!」

 

 

その俺の宣言で、ディミオスは今度は簪に向かってアタックする。

簪は、大きく動いて避けようとするが、

 

 

「避けないで貰おうかな?」

 

 

「え、一夏!?きゃあ!!」

 

 

俺が進路妨害をして、ディミオスの攻撃を通す。

その時の衝撃で、簪は大きく吹き飛ぶ。

今までの攻撃で、簪の残りSEは4割、のほほんさんの残りSEは5割になった。

それを確認した俺は、フェイタルを構え、吹き飛んだ簪に向かっていく。

 

 

「く、これ以上させない!!」

 

 

俺が向かってきたことを確認した簪は、打鉄弐式の最大武装、6機×8門の計48発のミサイル、山嵐を撃って来た。

このミサイル、本来だったら独立稼動型誘導ミサイルを発射するというさっきの荷電粒子砲の比にならないほどエグイものだ。

 

 

『更識簪、ここで大量のミサイルを発射!これはキツイか!?』

 

 

ああ、これはキツイなぁ。

でも...これが狙いだ!

俺はそのまま丁度いいミサイルを選び、そのまま受ける。

 

 

「あ、がぁ...!!」

 

 

普通に衝撃は来る。

これでライフは5減り、残りライフも5。

 

 

『なんと、織斑一夏はミサイルをそのまま受けた!?』

 

 

動揺した実況が聞こえる。

俺は吹き飛ばされながら、

 

 

「キャスト、地獄の炎も、生ぬるい!ロード・ディミオスがいるので2ドロー」

 

 

地獄の炎も、生ぬるいを発動し、手札を2枚にする。

そして、

 

 

「ディミオス!!」

 

 

《了解》

 

 

吹き飛ばされたディミオスに剣で押し出してもらい、方向転換をする。

その向かう先は、

 

 

「え、私なの~~!?」

 

 

「悪いが、元々こっち狙いだ!!」

 

 

のほほんさんだ。

俺は打撃力が3になったフェイタルでのほほんさんを切り付ける。

これで、のほほんさんの残りSEは2。

 

 

「手札の煉獄騎士団 ディミオスソード・アーリーの効果発動!ゲージ1を払い、センターにコール!」

 

 

俺は手札のディミオスソード・アーリーの効果を発動する。

このディミオスソード・アーリーはディミオスの若かりし頃を再現した個体。

アタックフェイズ中にゲージ1でコールすることが出来る。

これで、残りゲージは2。

 

 

「ディミオスソード・アーリーで簪にアタック!」

 

 

俺はアーリーにアタック指示を出す。

アーリーは無言で簪に向かっていく。

 

 

「く、受けない!」

 

 

簪はアーリーの攻撃を躱す。

 

 

「ロード・ディミオスの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

俺はディミオスの効果発動宣言を行い、アーリーを破壊する。

それを確認すると、

 

 

「ロード・ディミオスでアタック!」

 

 

ディミオスにアタックの指示を出す。

 

 

「く、きゃあ!!」

 

 

今度は避けきれず、簪はアタックを受ける。

これで、簪も残りSEは2割。

そして、俺はまだ1枚手札が残っていて、ゲージは2。

 

 

「ファイナルフェイズ!」

 

 

俺がそう宣言すると同時に、顔の前パーツが開き、俺の顔が見えるようになる。

 

 

「ゲージ2を払い、場のロード・ディミオスを手札に戻し、ライトに必殺コール!」

 

 

俺がそう宣言した時、世界から色が消え去る。

そして、俺の手元には、唯一色が残っているもの...紫のエネルギーに包まれた、1枚のカード。

俺はそれを掲げながら、宣言をする。

 

 

「煉獄騎士団団長 ディミオスソード “カオス・エクスキューション!”」

 

 

すると、世界に色が戻る。

そして、ディミオスの全身は闇のオーラに包まれる。

そのオーラはディミオスの持つ大剣に集まる。

これが、必殺技でもありモンスターでもある、必殺モンスター。

煉獄騎士団団長 ディミオスソード “カオス・エクスキューション!”である。

 

 

『こ、これは!織斑一夏、ここでなんか強そうなものを出した!』

 

 

実況がアバウトすぎる。

 

 

「ディミオスソード “カオス・エクスキューション!”でのほほんさんにアタック!」

 

 

《受けろ!!》

 

 

「あにゃぁあああ!?」

 

 

その必殺コールに驚いていたのほほんさんは直ぐに対応できず、アタックを喰らう。

 

 

『打鉄、SEエンプティ!布仏本音、戦闘不能!』

 

 

これにより、のほほんさんは脱落。

そして。

 

 

「ディミオスソード “カオス・エクスキューション!”の効果発動!」

 

 

“カオス・エクスキューション!”は相手モンスターを破壊した時、再攻撃できる。

だが、このIS戦の場合、このアタックでSEをゼロにした場合再攻撃できるという、対多用の必殺モンスターになっている。

 

 

「ディミオスソード “カオス・エクスキューション!”で、簪にアタック!!」

 

 

そのまま、俺は“カオス・エクスキューション!”にアタック指示を出す。

 

 

《これで終わりだ!》

 

 

「う、く、きゃぁぁああああ!!」

 

 

このアタックも通り、簪のSEも、ゼロになる。

つまり、

 

 

『GameEnd Winner,RENGOKUKISHI』

 

 

俺の、勝ちだ。

 

 

『わぁあああああああ!!!』

 

 

観客の人達も、歓声を上げてくれる。

 

 

「あーあ、負けちゃった」

 

 

簪はそんな声を発する。

だが、俺から見るに表情はすがすがしいものに感じる。

 

 

「こっちも結構危なかったよ」

 

 

地味にまだミサイルの衝撃が残ってる。

 

 

「でも、こうやって戦えて、嬉しかった」

 

 

「私も~!楽しかったよ、おりむ~」

 

 

そう言って、2人は笑う。

それにつられて、俺も笑う。

 

 

「一夏、優勝してね」

 

 

「当然」

 

 

そう言って、俺と簪は拳を突き合わせる。

こうして、一回戦は勝利できた。

さて、簪と約束したし、二回戦からも頑張りますか!

 

 

 

 




一夏、一回戦突破おめでとう!
簪と本音も、負けちゃったけどかっこよかったよ!

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想や誤字報告もよろしくお願いします!


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蒼い雫VS甲龍

はい、またもやガッツリ飛ばしました。
でもこれくらいは許して欲しい。

相も変わらず戦闘シーンのひどさが目立ちますが、お楽しみください!


一夏side

 

 

一回戦が終わったその日。

その日は試合の後『PurgatoryKnights』と関係がある企業各社様の代表の方々を見送った。

正直疲れてたけど、こればっかりは俺がやらないといけない。

そんな訳で直ぐに制服に着替え、笑顔で挨拶に周った。

その後は混雑した食堂で夕飯を食べ、自室に戻る。

簡単にPC内のメール等を確認した後、シャワーを浴びて寝間着になってそのまま寝た。

 

 

そしてその翌日、つまりは今日。

今日は二回戦、並びに三回戦がある。

トーナメントなので、単純に進むにつれて人数が少なくなり、それによって試合数が少なくなる。

そのため、昨日は一回戦のみで終わったが、今日は二回戦と三回戦をすることが出来る。

そんな日、今日の朝食は食堂で食べる事にした。

昨日と違い、関係がある企業各社様に挨拶をする必要が無いので、朝は少しゆっくりできる。

そんな事を考えながら、俺は食券機の前に行く。

さて、何を食べようか...

焼き魚定食に納豆だな。

俺は焼き魚定食とトッピングの納豆の食券を買い、食堂のオバちゃんに渡す。

 

「織斑君、朝早いわねぇ」

 

 

「そんな早いですかね」

 

 

「まだ朝の6時半だよ?早くなかったら何だっていうの」

 

 

そう、オバちゃんの言う通り現在時刻は6:30。

俺は食堂が開く時間丁度に来たため、俺以外に人はいない。

 

 

「朝はゆっくり過ごしたいんですよ」

 

 

「まぁ、分かるけどね。ほい、焼き魚定食と納豆」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

俺は差し出された定食と納豆を受け取ると、席に座る。

折角だから、窓際の席に座るか。

俺はそう思いその席に座る。

 

 

「いい天気だなぁ...」

 

 

[そうですね、マスター]

 

 

[今日の降水確率は3%らしいよ、マスター!]

 

 

そうか、なら今日は晴れだな。

俺はそんな事を思い、景色を見ながら納豆を混ぜ、ご飯に乗せる。

 

 

「いただきまーす」

 

 

そして、そのまま食べ始める。

うん、美味しい。

良くこの美味しさを保ちながら、あんなにも早く料理が出せるな。

食堂ってすげぇ。

俺はそのまま食べ進め、完食する。

 

 

「さて、ご馳走様」

 

 

俺は食器類を戻しに行くため、席を立つ。

二回戦と三回戦、今日は午前午後と2回戦う必要がある。

まぁ、二回戦で負けたら1回なんだが、そんな事関係ない。

未だに、気持ちの整理も完全には出来ていない。

それでも、俺が目指すのは優勝。

だからこそ、全ての試合に全力で挑み、勝つ。

それだけだ。

気合いを入れていくぞ!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

三人称side

 

 

時は進み、午後。

あれから、残った専用機持ちであるラウラ、セシリア、鈴、一夏は難なく二回戦を突破。

三回戦に駒を進めた。

そして、昼休憩をはさみ、遂に午後から三回戦が開始された。

ラウラは三回戦をも突破した。

そして今、アリーナにはこれから戦う2ペアがISを纏い、定位置に付いている。

その2ペアは...

 

 

「鈴さん、全力で行きますわよ!」

 

 

「ハッ!上等よ!」

 

 

セシリア、キサラペアと鈴、ティナペアである。

セシリアと鈴は一夏へのリベンジが目標でもあるため、2人とも物凄い気合いが入っている。

そのペアのキサラとティナは

 

 

「初めまして、だね」

 

 

「そうだね」

 

 

普通に挨拶していた。

初対面なので、これが普通であろう。

 

 

「キサラさん、私の事はティナでいいわよ」

 

 

「なら、私の事も呼び捨てで大丈夫だよ!」

 

 

「じゃあ、キサラ。負けないよ!」

 

 

「こっちだって!」

 

 

2人とも、仲良くはなったが試合だという事は忘れていない。

キサラが纏っているのは、打鉄。

ティナが纏うのは、ラファール・リヴァイヴ。

各々のペアの専用機からして、前衛後衛をはっきりさせるための訓練機の選択だろう。

 

 

「さて、キサラさん、勝ちに行きますわよ!」

 

 

「当然!」

 

 

セシリアとキサラはそのように会話した後、セシリアはスターライトmkⅢを、キサラは葵を展開し構える。

 

 

「ティナ、行くわよ!」

 

 

「はいはい」

 

 

鈴とティナも会話しながら、武装を展開する。

鈴は双天牙月、ティナはアサルトライフル、クエッキンスルーを構える。

 

 

『それでは、学年別タッグトーナメント1年生の部三回戦第六試合。セシリア・オルコット、如月キサラペアVS凰鈴音、ティナ・ハミルトンペア。試合...開始!』

 

 

「行きますわ!」

 

 

試合開始のアナウンスと同時に、セシリアは鈴に向かってスターライトmkⅢを発砲する。

それと同時に、キサラは葵を構えたまま鈴に接近する。

 

 

「全く、危ないわねぇ!!」

 

 

鈴は射撃を反射で避けると、キサラが振るってきた葵を双天牙月で受ける。

ティナはそれを確認すると、セシリアに向かってクエッキンスルーを発砲しながら近づく。

それに対し、セシリアは狙いをティナに変更する。

これで前衛は前衛同士で、後衛は後衛同士で戦う事になった。

しかし、後衛の2人はそれぞれの射程距離が変わって来る。

セシリアのスターライトmkⅢは遠距離なのに対し、クエッキンスルーは中遠距離と若干射程が短い。

しかも、リヴァイブにはアサルトライフル以外にもショットガンやサブマシンガンその他グレネードや近接ブレード等が搭載されているため、セシリアはいかにティナから距離を取りながら射撃が出来るかがカギになって来る。

しかし、セシリアには第三世代兵器のブルー・ティアーズがある。

ビーム4基、ミサイル2基の計6基の自在に動かせるビットは、一気に戦況を変える可能性がある。

だが、それは現在キサラと切り合っている鈴も同じ事。

第三世代兵器、龍砲。

不可視の衝撃砲を360度自在に放てる龍砲も、ブルー・ティアーズと使い方こそ違うものの、同じくらい強力な兵器である。

使い方とタイミングさえ合っていれば、キサラを一瞬で倒せるはずだ。

鈴とキサラが切り合い、セシリアとティナが撃ちあうという完全にタッグの意味が無くなってしまっている状況。

しかし、これはタッグなのだ。

 

 

「お行きなさい!」

 

 

ここで、セシリアが大きく動いた。

レーザービット4基をスカートから分離させ、ビットと共に射撃を始める。

その対象は、ティナだけでなく、当然鈴に向かっても発砲する。

 

 

「来たわね!なら、私も!」

 

 

鈴はそう言うと同時に龍砲を撃ち、キサラを吹き飛ばすと、そのままビットの射撃を避ける。

この時にビット4基の操作と自身の射撃を並行して行っているのに、キサラには当たらないように射撃をしているのは、流石としか言いようがない。

急に撃たれる角度が増えたことにより、ティナは少しずつだが掠ってしまい、ダメージが蓄積されている。

ここで、キサラが葵をいったん仕舞い焔備を展開。

セシリアの邪魔をしないように鈴に向かって撃つ。

ここで素人だと味方の射線を切ってしまう事も多いのだが、キサラはそんな事をしない。

これも、セシリアとの訓練のおかげか。

だがしかし、鈴も負けていない。

 

 

「くら.....えっ!!」

 

 

鈴はセシリアとキサラの射撃を避けながら双天牙月を連結させ、投擲する。

その目標は...ビットだ。

 

 

「っ!?ビットが!」

 

 

ビットを破壊された事にセシリアは動揺し、ビットの動きが鈍ってしまう。

しかし、セシリアは代表候補生だ。

意識の切り替えは直ぐに出来る。

だが...

 

 

「ティナ!」

 

 

「了解!」

 

 

同じく代表候補生の鈴と、鈴と一緒に訓練を積んでいたティナには、一瞬で十分だった。

鈴は加速をしながら移動をし、ビットに向かって龍砲を連射。

ティナもクエッキンスルーでビットを撃つ。

そのままビットは被弾してしまい、残っていたレーザービット3基も破壊されてしまう。

だが、それと同時にキサラとセシリアも発砲。

それぞれ鈴とティナに当たる。

 

 

「セシリア!如何する!?」

 

 

ここで、キサラがセシリアにプライベートチャネルで指示を仰ぐ。

その間も、なるべく焔備での射撃を続ける。

 

 

「そうですわね、私は残りのビットがミサイル2基...大分厳しいですわね」

 

 

「セシリア、凰さんと1対1にすればいける?」

 

 

「如何いう...なるほど、分かりましたわ」

 

 

この短い会話で、セシリアはキサラが何をしたいのか分かったようだ。

 

 

「なら、キサラさんはハミルトンさんをお願いします。ピンチになったら手は出しますわ」

 

 

「了解!」

 

 

セシリアとキサラは、もう完全に1対1にするつもりのようだ。

2人がこのような会話をしてるのと同時、鈴とティナもプライベートチャネルで会話をする。

 

 

「ティナ!ダメージはどのくらい?」

 

 

「そこそこ受けちゃってる。オルコットさんの相手はキツイかも」

 

 

「ならティナは如月を押さえておいて!私がセシリアを倒すわ!」

 

 

「分かった!」

 

 

鈴とティナの作戦は、奇しくもセシリアとキサラの作戦と被った。

2組の作戦が被って、しかもそれが今後直ぐにとる行動のものだったとしたら、どうなるか。

それは簡単。

 

 

ガキィイン!!

 

 

すぐさま衝突が起こる。

キサラとティナが纏うのは打鉄とラファール・リヴァイヴ。

それぞれ特徴は大きく異なる機体だが、何方も訓練機なのだ。

力は殆ど拮抗している。

そのため、キサラとティナはアリーナの端でお互いに攻撃し合っている。

2人とも、代表候補生と訓練していたおかげで一般生徒よりはかなり操縦技術が高い方なのだが、それでも迷いなく端を選んだのは、自身のペアの邪魔をしないためだろう。

そしてそのペア...代表候補生であり、専用機持ちであるセシリアと鈴は

 

 

「ビットを破壊した分、私が有利よ!」

 

 

「それは、やってみないと分かりませんわ!!」

 

 

そうお互いに言うと、一気に動き出す。

セシリアは残っていたミサイルビット2基を飛ばし、スターライトmkⅢでの射撃と同時に発射する。

鈴はというと、自身に迫るミサイルを龍砲で破壊するという荒業を使いながら、アリーナのある一点を目指して加速する。

セシリアもこの一瞬で鈴が何処に向かっているのか気付いたようで、近付けさせまいと射撃をする。

鈴が目指しているもの。

それは、さっきビットを破壊するときに投擲した双天牙月だ。

セシリアは射撃をするも、鈴の背後に争っているティナとキサラがいるため、あまり激しく撃つとフレンドリーファイアしてしまう可能性がある。

このような立ち位置だと、鈴がキサラの攻撃を受けてしまう可能性があるが、鈴は迷いなくこのルートを選んだ。

ISにはハイパーセンサーがあるし、それ以上にティナが押さえてくれることを信頼してのルートだ。

そして、セシリアの射撃も虚しく鈴は双天牙月を回収し、分離させて構えなおす。

鈴はそのままセシリア目指して突っ込もうとする。

しかし、セシリアの正確な射撃の前になかなか近付けない。

龍砲を撃つなど何とか隙を作ろうとしているが、隙という隙は出来ない。

そんな事を暫く繰り返していると、ちょっとずつだがSEに差が生まれ始めた。

鈴の攻撃はなかなかセシリアに届かないのに対し、セシリアの攻撃はちょっとずつ掠っていっている。

ぱっと見大した差では無いかもしれないが、それでも確かに差は出来てしまっている。

試合時間が終了すればSE差で勝敗は決定するため、少しの差でも勝敗に影響が出て来る可能性があるのだ。

だが、それでも鈴は焦らない。

焦ってしまうと恰好の的になる事を理解しているからだ。

そんな攻防を繰り返していると、

 

 

バァン!!

 

 

そんな音を立ててビットの一つが破壊された。

キサラの一瞬の隙をついて、ティナがビットをクエッキンスルーで撃ったのだ。

その事にセシリアが驚いているうちに鈴は残った最後のビットを龍砲によって攻撃する。

セシリアは慌てて鈴に向かってスターライトmkⅢによる射撃をするも、もう既に撃っているので、ビットはそのま破壊されてしまう。

そして、鈴はその射撃も避ける。

別々で戦っていても、これはタッグマッチ。

ペアの存在を忘れてはいけないのだ。

 

 

「...私も、理解していますわ!」

 

 

ここで、さっき鈴に撃って避けられたレーザーが急に()()()()

その向かう先は、ティナ。

 

 

「きゃあ!」

 

 

ティナはそのまま被弾をしてしまい、隙を見せてしまう。

そのままキサラはティナに向かって焔備を展開し即座に連射。

 

 

『ラファール・リヴァイヴ、SEエンプティ!ティナ・ハミルトン、戦闘不能!』

 

 

これにより、ティナが纏うラファール・リヴァイヴのSEは無くなり、脱落となる。

 

 

「訓練した甲斐がありましたわ」

 

 

「フレキシブル...!」

 

 

そう、鈴は失念していたがこれこそがBT兵器の真骨頂なのだ。

そして、このやり取りによって2対1になってしまった。

鈴とセシリアの実力は殆ど拮抗している。

だからこそ、この状況で2対1になってしまうと...

 

 

「きゃあ!!」

 

 

『甲龍、SEエンプティ!勝者、セシリア・オルコット、如月キサラペア!』

 

 

キサラの焔備での射撃とセシリアのスターライトmkⅢの狙撃によって、鈴はダメージを受け、SEがゼロになる。

これで、セシリアとキサラの勝利だ!

 

 

『わぁああああああ!!』

 

 

観客は歓声を上げる。

 

 

「ああ~~~!!忘れてた!!悔しい!!」

 

 

ここで、鈴が悔しそうな声を発する。

 

 

「でも、私も危なかったですわ」

 

 

そう、セシリアもビット6基全てを破壊されている。

かなりギリギリな戦いだったのだ。

 

 

「セシリア!一夏に勝ちなさいよ!」

 

 

鈴はそう言って笑顔で拳を突き出す

それを見て、セシリアも微笑み、

 

 

「ええ、勿論ですわ!」

 

 

その拳に突き合わせる。

それを見ると、観客は拍手を贈る。

それは、視聴覚室で観戦していた一夏もだ。

一夏はそのまま席を立ち、アリーナに向かって歩き出す。

 

 

「なら、俺も勝たないとな」

 

 

《当然だ》

 

 

学年別トーナメントは、まだまだ続く...

 

 

 

 




クエッキンスルーとかいうアサルトライフルなに?
何処語だよ。
作者語だぁ!!
お好きにお使いください。
仕えるかどうか分からないけど。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想や誤字報告もよろしくお願いします!


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再戦、煉獄騎士VS蒼い雫

一夏とセシリアの再戦。
でも、今回セシリアはタッグです。
これが、どうなるか...

今回も何時も通りの戦闘回ですが、お楽しみください!

UAが50000を超えました!ありがとうございます!


一夏side

 

 

あれから、俺も3回戦を突破した。

そして、その日はそのまま特にトラブル等は起きずに終了した。

強いて言うなら、チョッと体に痛みが残っているぐらいか。

このトーナメント、専用機持ちは相手に専用機がいない場合はSE6割から始めないといけないルールがあるのだが、俺の煉獄騎士はどうやってもライフ10からのスタートになってしまう。

そのため、試合開始前に自身のピットで自分から4点ダメージを受けないといけないのだ。

ダメージを受ける際には、俺の身体にも衝撃と痛みが発生する。

つまり、最初から身体に痛みを与えたうえで戦わないといけないのだ。

これは普通につらい。

ダメージを与える役として、わざわざレジェンドWからデュランダルを持ってきたのも気まずい。

デュランダルは文句こそ口に出さなかったが、何となく

 

 

《私は何をしている...?》

 

 

という考えが地味に伝わって来た。

デュランダルはアイテムなので表情もないのに、何で理解できたんだろうな...

 

 

そんなこんなで、今日。

今日は、学年別タッグトーナメント最終日。

午前に準決勝を行った後3位決定戦、午後には決勝戦がある。

準決勝と3位決定戦は全学年同時に行われるのだが、決勝戦は時間が別々なのだ。

午後の1戦目が1年。

1年の試合終了15分後に2年生の試合が始まり、その2年生の試合終了15分後に3年生の試合が始まる。

そして、その3年生の試合終了後には、もしかしたら試合以上に緊張することがある。

そう、クラリッサさんとチェルシーさんとの会話だ。

そもそも緊張だのの種類が違うが、それでも試合以上に緊張する。

もう考えただけで心臓がバクバクする。

未だに、2人に対する気持ちの整理は出来ていない。

試合中はなるべく考えないようにしているので影響は出ないのだが、休憩時間になるとどうしても2人の事を考えてしまう。

一度抱いた恋心は、簡単に変わらないなぁ...

俺がそんな事を考えていると、

 

 

[マスター、もうそろそろ移動する時間です]

 

 

と、白騎士が声を掛けてくれた。

 

 

(ああ、もうそんな時間か。ありがとうな、白騎士)

 

 

[いえいえ]

 

 

俺は白騎士にお礼を言うと、移動を開始する。

向かう先は当然、アリーナのピットだ。

今現在ラウラと静寐が戦っているが、あの2人は間違いなく決勝戦に進むだろう。

そして、俺と戦うのは、セシリアとキサラのペア。

鈴との試合で、セシリアは狙ったタイミングでフレキシブルを発動できていた。

つまりは、もう既に任意のタイミングで発動できるまでに成長しているという事だ。

それに、ペアであるキサラも十分動けているし、連携も申し分ない。

これはかなりの強敵だ。

 

 

「まぁ、それだったとしても全力で戦うだけだ」

 

 

《そうだな》

 

 

「...ディミオス、急に出て来るな」

 

 

このやり取り久しぶりにした気がする。

 

 

《訓練中でも、セシリア・オルコットの射撃でダメージを受ける事の方が多い。いけるか?》

 

 

ディミオスがそのように聞いてくる。

でも、その表情を見ると、俺の答えを確信しているようだった。

 

 

「当然」

 

 

《それを聞いて安心した》

 

 

俺とディミオスはそんな会話をしながらアリーナピットに向かう。

すると、通路の向こうからラウラと静寐が歩いてきた。

 

 

「よぉ、ラウラ、静寐」

 

 

「む、一夏か」

 

 

「あ、一夏君」

 

 

俺が声を掛けたことで、2人は俺の存在に気付いたようだ。

 

 

「勝ったか?」

 

 

俺はそう質問をする。

すると、2人は笑いながら

 

 

「「勿論!!」」

 

 

そう言ってきた。

それに対して、俺も笑い返しながら

 

 

「なら、俺も勝たないとなぁ」

 

 

そう言った。

 

 

「頑張ってね、一夏君!」

 

 

「お前にリベンジすることが、私的には最大目標なんだ。絶対に勝て!」

 

 

「当然だ」

 

 

そう言って、俺たち3人は笑う。

ディミオスも表情には出ていないものの、心なしか気分が上がっているようだった。

 

 

「じゃあ、セシリアに勝ってくる」

 

 

「セシリアは強いぞ」

 

 

「頑張ってね!」

 

 

「ああ!」

 

 

そうやって会話終わらせた俺は、ピットに向かう。

そして、そのままピットに入り最終調整をする。

 

 

「今回もロードで行くぞ」

 

 

《了解だ》

 

 

(白式、白騎士。調子はどうだ?)

 

 

[問題ないよ!!]

 

 

[私も問題ないです]

 

 

良し、全員問題はなさそうだ。

寧ろ、クラリッサさんとチェルシーさん関係で悩んでいる俺が1番問題ありそうだ。

苦笑いしながら、俺はダークコアデッキケースを取り出し、

 

 

「ディザスターフォース、発動」

 

 

煉獄騎士の鎧を装着する。

 

 

「ああ、試合前にダメージを受けなくていいって楽だな」

 

 

《わざわざバディにダメージを与えなくていいとは、楽だな》

 

 

ディミオスと感想が被った。

まぁ、こんなものだろう。

 

 

「バディスキル、インフェルノサークル」

 

 

俺はバディスキルを発動すると、そのままアリーナに出る。

俺がアリーナに出ると同時に反対側のピットから続けざまに2機のISがアリーナに出て来る。

ブルー・ティアーズと打鉄...セシリアとキサラだ。

 

 

「一夏さん、遂にこの時が来ましたわ!」

 

 

セシリアはかなり気合が入っているようだった。

 

 

「そうだな...クラス代表決定戦以来だな」

 

 

「一夏君、セシリア、私の事をのけ者にしないで欲しいなぁ~」

 

 

「ごめんよ、キサラ」

 

 

確かに、再戦の話をするとキサラが仲間外れになってしまうな。

控えないとな。

 

 

「セシリア、キサラ。全力で行くぞ」

 

 

俺がそう言うと、2人は

 

 

「勿論ですわ!」

 

 

「私達も全力で行くよ!」

 

 

そう返してきた。

俺は鎧の下で笑うと、左手首の眼を2人に見せながら、右手を添える。

 

 

「血盟は今果たされる。集え!絶望の軍団!ダークルミナイズ!断罪、煉獄騎士団!」

 

 

そして、右手を振り抜きながらルミナイズ口上を言う。

背後では相変わらずディミオスがダークネスドラゴンWのフラッグを振っている。

それを見たセシリアとキサラは真剣な表情になる。

俺は右手を前に出し、

 

 

「装備、煉獄剣 フェイタル」

 

 

フェイタルを装備する。

それと同タイミングでセシリアとキサラも武装を展開する。

セシリアはスターライトmkⅢ、キサラは葵。

そう考えてもセシリアが後衛でキサラが前衛だな。

 

 

『それでは、学年別タッグトーナメント1年生の部準決勝第二試合。セシリア・オルコット、如月キサラペアVS織斑一夏。試合...開始!』

 

 

「ゴー・トゥー・ワーク」

 

 

俺はゴー・トゥー・ワーク(いつもの)を呟くと、行動を開始する。

セシリアも、試合開始の合図と同時に俺に向かってスターライトmkⅢでの狙撃をする。

でも、これは挨拶代わりの攻撃だろう。

俺がその狙撃を交わしたタイミングでキサラが葵を俺に振るってきた。

速い。

代表候補生とマンツーマンで訓練すると、ここまで一気に成長するか。

じゃあ、やっぱりこのトーナメント、一般生徒同士のペア不利すぎるだろ。

 

 

「最初から、出し惜しみはしませんわ!!」

 

 

俺がフェイタルでキサラの攻撃を受けたタイミングでセシリアはレーザービット4基を起動させた。

ビットは様々な角度からの攻撃が可能だからなぁ...

前衛が相手に接近していても、威嚇で攻撃できるのが強い。

俺はキサラの斬撃とセシリアとビットの射撃を避けながらそんな事を考える。

ここで、キサラが急に後退をしたかと思うと、セシリアがビットとスターライトmkⅢでの一斉射撃してくる。

しかも、連射でだ。

クソ、これは...!

何でレーザーライフルでの連射が出来るんだよ!

俺は必死に避けているが、1つのビットから撃たれたレーザーが曲がった。

俺は反応しきれずに1発受けてしまい、ダメージを2点受けてしまう。

 

 

「グッ...!」

 

 

セシリアはお構いなしにレーザーを撃ってくるが、1度被弾した後は被弾をせずにいると、俺はフェイタルをセシリアに向かって投げつける。

 

 

「え!?」

 

 

鈴との試合で双天牙月を投げつけられたことがあるとはいえ、やはり慣れないようだ。

俺はセシリアが動揺してるうちにビットの包囲網から逃れる。

そして、フェイタルはそのまま地面に突き刺さる。

ここで、手札とライフが1枚ずつ増える。

ライフが8、手札が6、ゲージが2だ。

 

 

「センターにコール、煉獄騎士団 ウチガタナ・ドラゴン。ライトにコール、煉獄騎士団 シーフタン・ドラゴン。レフトにコール、煉獄騎士団 トルバドゥール・ドラゴン」

 

 

俺はモンスター3体を一気にコールする。

これにセシリアとキサラは身構えているようだ。

だが、俺は...

 

 

「キャスト、百鬼魔導 デスサクリファイス!ウチガタナ・ドラゴン、シーフタン・ドラゴン、トルバドゥール・ドラゴンを破壊して3枚ドロー!」

 

 

百鬼魔導 デスサクリファイスを発動し、今コールしたモンスターを破壊する。

この魔法は自分モンスターを好きな枚数破壊して、破壊した枚数ドローが出来る。

コールしたモンスター全てを一気に破壊したからか、セシリアとキサラは呆気に取られた表情を浮かべる。

 

 

「シーフタン・ドラゴンの破壊時効果、ダメージ1!」

 

 

「きゃあ!」

 

 

そのままシーフタンの破壊時効果でブルー・ティアーズのSEを1割削る。

俺はそれを確認すると、

 

 

「センターにコール、煉獄騎士団 ニードルクロー・ドラゴン。レフトにコール、煉獄騎士団 ネクロパーム・ドラゴン」

 

 

改めてモンスターをコールする。

そして、右手を突き上げ、

 

 

「ドロップゾーンのウチガタナ・ドラゴンををソウルに入れ、ゲージ1を払い、ライトにバディコール!煉獄騎士団を束ねし者 ロード・ディミオス!!」

 

 

《行くぞ》

 

 

ライトにディミオスをバディコールする。

ディミオスは何時ものようにフラッグをそこら辺に放り、ロードとなってアリーナに出て来る。

バディギフトによってライフが1回復する。

これでライフは9、手札は2、ゲージは1だ。

 

 

「アタックフェイズ!ニードルクロー・ドラゴンでキサラにアタック!」

 

 

《ギャハハハハ!!》

 

 

俺はニードルクローにアタックの指示を出す。

ニードルクローは笑いながらキサラに向かっていく。

 

 

「きゃあ!!」

 

 

そのままニードルクローの攻撃はそのままキサラに当たり、SEが1割削れる。

 

 

「ネクロパーム・ドラゴンでキサラにアタック!」

 

 

それを確認した俺はそのままネクロパームにもアタックの指示を出す。

ネクロパームは左腕にエネルギーをためると、キサラに向かって放つ。

 

 

《消し飛べ!》

 

 

「え、ウソ!!」

 

 

予想外の攻撃にキサラは反応しきれずにアタックを受け、更に1割削れる。

 

 

「ロード・ディミオスでセシリアにアタック!」

 

 

今度は、ディミオスにアタックの指示を出す。

 

 

《ハァ!!》

 

 

「そう簡単に、当たりませんわ!」

 

 

流石はセシリア。

一発目を避けるか。

 

 

「ロード・ディミオスの効果発動!」

 

 

《勝利のために命を捧げよ。カノナス・カサルティリオ!》

 

 

そのままディミオスの効果発動宣言を行う。

ディミオスから出た闇のエネルギーがニードルクローを包み、破壊する。

そして、ニードルクローは破壊時効果で手札に戻って来る。

 

 

「ロード・ディミオスでセシリアにアタック!」

 

 

《フン!!》

 

 

そのままディミオスにアタックの指示を出す。

ディミオスは剣を使わず、蹴り上げるという今までと違う攻撃方法でセシリアに攻撃する。

 

 

「え、きゃあ!」

 

 

それに驚いたセシリアはそのまま攻撃を受け、SEが2割削れる。

 

 

「ロード・ディミオスの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

ダメージを与えたことを確認した俺は再びディミオスの効果発動宣言を行う。

今度はネクロパームが破壊される。

 

 

「ネクロパーム・ドラゴンの効果発動。『呪戒発動』」

 

 

俺はそのままネクロパームの効果発動宣言を行う。

すると、空中に魔法陣が出現し、その中からさっきデスサクリファイスで破壊したトルバドゥールが出て来た。

ネクロパームは破壊された時にドロップソーンのサイズ1以下の煉獄騎士団名称のモンスター1対をコールコストを支払う事でコールできるのだ。

 

 

「な、何が!?」

 

 

「トルバドゥール・ドラゴンでキサラに攻撃!」

 

 

《奏でよう、煉獄の詩を...》

 

 

急にさっき破壊されたはずのトルバドゥールが出て来たことに驚いていたキサラはそのままアタックを受ける。

これでSEが2割削れる。

 

 

「ロード・ディミオスでセシリアにアタック!」

 

 

そして、俺はディミオスにアタックの指示を出す。

 

 

《フン!》

 

 

「きゃあ!!」

 

 

そのままディミオスのアタックをセシリアは受け、SEが2割削れる。

 

 

「ロード・ディミオスの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

ダメージを与えた事を確認した俺は、ディミオスの効果発動宣言を行う。

復活したばっかりで悪いが、トルバドゥールを破壊する。

 

 

「ロード・ディミオスでキサラにアタック!」

 

 

「え、急に私!?」

 

 

ここで、俺はディミオスにアタックの指示を出す。

標的は、キサラだ。

急に標的にされたキサラは反応しきれずにディミオスのアタックをそのまま受け、SEが2割削れる。

ディミオスはそのままアタックを終えた後、地面に向かっていく。

 

 

「っ!させませませんわ!!」

 

 

ディミオスの狙いに気付いたのか、セシリアはビットとスターライトmkⅢによってディミオスの事を撃つ。

ディミオスは器用に避けていたが、1発被弾してしまう。

だが、

 

 

「ロード・ディミオス、ソウルガード!」

 

 

ディミオスはソウルガードによって耐える。

そして、ディミオスは地面に突き刺さったままのフェイタルを回収すると、

 

 

《受け取れ!》

 

 

と俺の方に投げて来た。

俺はフェイタルを掴むと、そのままの勢いで加速して、()()()()()()()()()()()()()()でセシリアに接近し、

 

 

「煉獄剣 フェイタル!」

 

 

「く、きゃあ!」

 

 

そのままフェイタルでの攻撃をセシリアにヒットさせ、SEが3割削れる。

これで、セシリアの残りSEは2割、キサラは4割になった。

俺のライフは9、手札は3(1枚はニードルクローにしか使えない)、ゲージは1。

だが、ここでキサラが焔備を至近距離で連射してきた。

く、結構危なっかしいことするじゃねえか!

俺は思わず距離を取ってしまう。

その際に、2人はいったん体制を整えてしまった。

まぁ、このままアーリーや“カオス・エクスキューション!”を使っても終わらないだろうし、別にいいか。

だが、ここからは2人のターンだ。

一気に攻撃が来る...!

 

 

「キサラさん、もう残りSEが少ないですわね...」

 

 

「セシリア、もう一気に行こう!!」

 

 

「そうですわね、もう行きましょう!!」

 

 

2人はプライベートチャネルに切り替えることなく会話をする。

それくらい余裕が無いという事だろう。

 

 

「行きますわ!!」

 

 

セシリアはそう言うと、使ってなかったミサイルビットも起動させ、俺の事を撃って来る。

キサラも葵では無く焔備を使い続けている事を見ると、もう完全に射撃でゴリ押しするつもりらしい。

 

 

「キャスト、我らは不死なり!対象はロード・ディミオス!」

 

 

俺は我らは不死なりをディミオスを対象にして発動する。

そして、俺に1基のミサイルが迫って来た。

ったく、ミサイルをそのまま受けるのは、簪との模擬戦だけで良いんだよ!

 

 

「ロード・ディミオス、移動!」

 

 

《フッ!!》

 

 

俺は、ディミオスの移動を発動する。

本来の移動とは、アタックフェイズ開始時にライトからセンターになど、モンスターが空いているエリアにその名の通り移動できるというものだ。

だが、このISルールだと、俺への攻撃を代わりに受けてくれるというものになっている。

ミサイルを受けたディミオスは破壊されてしまう。

 

 

「我らは不死なりの効果で、ロード・ディミオスは手札に戻しゲージを1枚増やす」

 

 

そのまま我らは不死なりの効果でディミオスは手札に戻ってきて、ゲージも2になった。

2人は俺が自分からディミオスを破壊したのに驚いたのか、弾幕がいったん止んだ。

俺はその隙にいったん包囲網から逃れる。

だが、最後にセシリアがレーザービット4基から一斉に狙撃をする。

しかも、フレキシブルを発動して1点に集中させてきている。

危ねえなぁ、もう!

 

 

「キャスト!ドラゴンシールド 黒竜の盾!」

 

 

ここで俺は黒竜の盾を発動し、その狙撃を防ぐ。

そして、俺のライフが1回復し10になる。

これで、完全に包囲網からは逃れられた。

ここで、俺の手札とゲージが1枚ずつ増える。

 

 

(俺のターン!)

 

 

俺は心の中でターン宣言をすると、行動を開始する。

さて、ゲージは3あるが手札は3枚。

その内2枚はもう既に固定されてしまっている。

手札が足りない...なら、増やせばいい!

 

 

「センターにコール、ニードルクロー・ドラゴン!ドロップゾーンのウチガタナ・ドラゴンをソウルに入れ、ゲージ1を払い、ライトにコール、ロード・ディミオス!」

 

 

俺は取り敢えずディミオスとニードルクローをコールし直す。

そして、

 

 

「キャスト、デスアストレイ!ライフを3にして手札をすべて捨て4枚ドロー!」

 

 

デスアストレイを発動する。

この魔法は絶対にライフが3になってしまうが一気に4枚ドローが出来るものだ。

 

 

「レフトにコール、煉獄騎士団 ペインダガー・ドラゴン」

 

 

そして、ペインダガーをレフトにコールする。

 

 

「設置!煉獄唱歌 (れんごくしょうか )“呪われし永遠なる戦の調べ”(“のろわれしとわなるいくさのしらべ”)!」

 

 

ここで俺は設置魔法、煉獄唱歌 “呪われし永遠なる戦の調べ”を発動する。

発動すると同時に、アリーナ中におどろおどろしい音楽が響き渡る。

その事にセシリアとキサラも驚く。

煉獄唱歌 “呪われし永遠なる戦の調べ”は煉獄騎士団名称のモンスターが破壊されるときデッキの上から1枚をドロップゾーンに置きライフを1回復できる。

 

 

「アタックフェイズ!ニードルクローでキサラにアタック!」

 

 

俺はニードルクローにアタックの指示を出す。

ニードルクローはさっきと同じようにキサラに突っ込んでいく。

 

 

「そう何回も、受けない!!」

 

 

2回目なのでキサラも慣れたらしく、ニードルクローの攻撃を躱す。

だが、まだ甘い。

 

 

「ペインダガー・ドラゴンでキサラにアタック!」

 

 

《喰らえ!!》

 

 

ニードルクローの後ろにピッタリと張り付いていたペインダガーがすぐさま攻撃をする。

 

 

「え、きゃあ!」

 

 

流石に躱せず、SEが2割削れる。

これで、2人とも残りSEは2割...!

 

 

「ロード・ディミオスで、キサラにアタック!」

 

 

《行くぞ!》

 

 

ディミオスは叫び、キサラに向かっていく。

 

 

「くっ、ああああ!!」

 

 

『打鉄、SEエンプティ!如月キサラ、戦闘不能!』

 

 

ここで、キサラが脱落した。

あと、セシリアだけだ!

 

 

「ロード・ディミオスの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルディリオ!》

 

 

俺はディミオスの効果発動宣言を行い、ニードルクローを破壊する。

ニードルクローは自身の効果で手札に戻ってきて、煉獄唱歌 “呪われし永遠なる戦の調べ”の効果でライフが1回復する。

 

 

「ロード・ディミオスでセシリアにアタック!」

 

 

それを確認した俺はディミオスにアタックの指示を出す。

 

 

《行くぞ!!》

 

 

「く、そう、何度も!!」

 

 

セシリアはディミオスのアタックを躱す。

やっぱり、すげぇなぁ...

 

 

「ロード・ディミオスの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

俺はディミオスの効果を発動させる。

これにより、ペインダガーは破壊される。

 

 

「ペインダガー・ドラゴンの破壊時効果!ゲージを1枚増やす!」

 

 

ペインダガーの破壊時の効果で、俺のゲージは4になる。

そして、、煉獄唱歌 “呪われし永遠なる戦の調べ”の効果でライフが1回復する。

 

 

「ロード・ディミオスでアタック!」

 

 

《終われ!》

 

 

「まだ、終わりませんわ!」

 

 

このディミオスの攻撃をも、セシリアは躱す。

 

 

「煉獄剣 フェイタル!」

 

 

だが、その躱し切ったタイミングで俺はフェイタルを振るう。

もう、今からでは躱せない!

 

 

「く、きゃあああああ!!」

 

 

『GameEnd Winner,RENGOKUKISHI』

 

 

これで、俺の勝ちだ!!

 

 

『わぁあああああああ!!!』

 

 

観客も歓声を上げてくれる。

 

 

「まさか、前回と同じようにやられるだなんて思いもしませんでしたわ...」

 

 

セシリアは悔しそうな声を上げる。

まぁ、クラス代表決定戦の時もフェイタルでとどめをさしたからなぁ...

 

 

「一夏君、強いね!」

 

 

「伊達に鍛えてないからな」

 

 

ISと違って、俺の身体能力に依存してくるから、本当に鍛えないと戦えないんだよな。

 

 

「一夏さん、優勝してくださいね」

 

 

「勿論だ。2人も、3位決定戦頑張れよ」

 

 

「「当然(ですわ)!」」

 

 

こうして、俺は決勝戦に進んだ。

さて、頑張りますかぁ!!

 

 

 

 




2回連続で出て直ぐに破壊されるシーフタン。
そして、出てきたは良いものの直ぐ破壊され、効果すら使えないウチガタナ。
何か...ごめん。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

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煉獄騎士VS黒い雨

1年生の部、決勝戦!
遂にここまで来ました!
さて、優勝はどっちだ!?

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

準決勝から時間は過ぎ、午後。

遂にこれから1年生の部の決勝戦だ。

準決勝の後の3位決定戦はセシリアとキサラが勝利し、3位となった。

因みに2年生の部の3位はイギリス代表候補生のサラ・ウェルキン先輩らしい。

イギリスは1年、2年共に代表候補生が3位というなかなかにいい結果を残せたんじゃないだろうか。

3年生の部の3位は布仏虚先輩らしい。

苗字からして、絶対にのほほんさんのお姉さんだ。

のほほんさんも一般生徒の中では動ける方だろうし(射撃はダメダメだったが)、布仏家は優秀な人が多いらしい。

 

 

俺はそんな事を考えながら、ピットのベンチに座っていた。

恰好は何時も通りの『PurgatoryKnights』の特殊ジャージだ。

 

 

《一夏、今回は何でいく?》

 

 

ここで、ディミオスがそう聞いてきた。

 

 

「今回は、最初から『ガイスト』でいく」

 

 

《了解した》

 

 

さて、緊張するなぁ...

試合に対しても緊張するが、その後の会話にも緊張する。

もうクラリッサさんとチェルシーさんの2人と会話するのを考えただけで心臓がバクバクする。

まだ、自己嫌悪が残ってる。

そんな状態で、2人と会話するのは物凄く、なんかこう、色々とヤバい。

語彙力が無くなるくらいには、ヤバい。

 

 

[マスター、心拍数が上がってるよ。大丈夫?]

 

 

(あ、ああ。大丈夫だよ、白式)

 

 

白式にも心配されてしまった。

っていうか、心拍数測れたのかよ...

初耳なんだけど。

 

 

『織斑君、アリーナに出て来てください』

 

 

「分かりました」

 

 

俺はその指示に従ってベンチから立ち上がり、ダークコーデッキケースを取り出す。

 

 

「ディザスターフォース、発動」

 

 

そして、煉獄騎士の鎧を身に纏う。

 

 

「バディスキル、インフェルノサークル」

 

 

そのままバディスキルを発動すると、アリーナに飛び出る。

そして、定位置に着いたタイミングで反対側のピットから2機のISが飛び出してくる。

シュヴァルツェア・レーゲンと打鉄...ラウラと静寐だ。

2人も定位置に着くと、先ずは静寐が俺に話し掛けて来る。

 

 

「一夏君、遂に決勝戦だね」

 

 

「そうだな。まぁ、ラウラと静寐は決勝戦まで残ると思ってたよ」

 

 

「正直に言うと、私はここまで来れるだなんて思ってなかったよ。私は、ただの一般生徒だからね」

 

 

「そんなに謙遜しなくていい。決勝戦(ここ)まで残れただけで、静寐はかなりの操縦技術を持っている。現役軍人のラウラに合わせられてるんだからな。誇っていいと思うよ」

 

 

これは、噓偽りない俺の本心だ。

一般生徒が、現役軍人について行けるだけでも凄いのに、コンビネーションもばっちりだなんて凄いと思う。

 

 

「...なんか、照れる」

 

 

「何でだよ」

 

 

何で顔が赤くなってるんだ?

まぁ、いいか。

そして、俺はラウラと向き合う。

 

 

「一夏、遂にこの時が来た!」

 

 

なんか、さっきも同じ事を聞いた気がする。

セシリアか。

 

 

「そうだな...こうしてラウラと戦うのは、あの時以来か...」

 

 

あの時、シュヴァルツェ・ハーゼで煉獄騎士団の説明をするときにした模擬戦以来。

あの後直ぐに俺はダークネスドラゴンWに旅立ったので、再戦などは出来なかった。

 

 

「あの時から、私も成長したんだ!今日は、絶対に勝つ!」

 

 

「ラウラが成長した分、俺も成長してるんだ。そう簡単に負けはしない」

 

 

俺はそう言うと、何時ものように左手首の眼を2人に見せる。

そして、右手をそこに添え、

 

 

「血盟は今果たされる。集え!絶望の軍団!ダークルミナイズ!断罪、煉獄騎士団!」

 

 

そう言いながら、右手を振り抜く。

相変わらず、俺の後ろではダークネスドラゴンWのフラッグを振っている。

俺はそのまま右手を突き出し、

 

 

「装備、煉獄剣 フェイタル」

 

 

フェイタルを装備する。

それを見た2人は、武装を展開し、構える。

静寐は焔備、ラウラは、もう既に展開してあったレールカノンを発射準備させる。

これは...なかなか突破が難しそうだ。

打鉄は訓練機故、近中距離での戦いが安定してできる。

シュヴァルツェア・レーゲンも、さっきまでの試合を観戦した感じ、近中遠と戦える機体に仕上がってる。

ったく、第三世代型ってまだ実験機段階だよな?

なんでもうこんなに完成度が高いんだよ。

まぁ、文句を言っても何も変わらない。

 

 

『それでは!学年別タッグトーナメント1年生の部、決勝戦!織斑一夏VSラウラ・ボーデヴィッヒ、鷹月静寐ペア!』

 

 

なんか、今までと比べてアナウンスに気合が入ってるな。

最初から気合は入れようよ。

 

 

『試合.....開始!!』

 

 

「「ゴー・トゥー・ワーク!」」

 

 

俺とラウラは同じタイミングでゴー・トゥー・ワーク(いつもの)を叫ぶ。

叫んだ瞬間に、ラウラはレールカノンを俺に向かって撃つ。

俺がそれを避けると、移動地点を予測していたであろう静寐が焔備で俺の事を撃ってくる。

静寐はもう移動地点予測まで出来んのかよ!

ラウラとどれだけ訓練したんだか...

俺がその射撃を避けていると、ラウラがワイヤーブレードを展開、俺に振るってきた。

クソ、弾を遮らずにワイヤーを振るえるだなんて、厄介すぎる!

俺は何とか避けているも、ワイヤーブレードを1回、焔備の銃弾を1回受けてしまい、合計3ダメージを受ける。

だが、俺はそのタイミングでいったん2人の前から避ける。

最初から、そこそこ貰っちまった...

ここで、俺の手札とゲージが1枚ずつ増え、これによりライフが7、手札が6、ゲージが2となる。

俺はそれを確認すると、右手を前に突き出し、

 

 

「センターにコール、煉獄騎士団 エヴィルグレイブ・ドラゴン。レフトにコール、煉獄騎士団 ニードルクロー・ドラゴン」

 

 

モンスターをコールする。

そして、俺はそのまま右手を頭上に突き上げ、

 

 

「ライトにバディコール!哀悼の煉獄騎士団団長 ガイスト・ディミオス!!」

 

 

《さぁ...死者を、祝福しよう》

 

 

ディミオスをバディコールする。

今回はさっきピットで話していた通り、ディミオスの進化形態の1つ、ガイスト・ディミオスだ。

 

 

「見たことのない姿!」

 

 

「鷹月、警戒を怠るな!」

 

 

「勿論!」

 

 

ガイストを使用するのは初めてなので、2人が警戒をするように武装を変更する。

ラウラはプラズマ手刀、静寐は葵。

煉獄騎士団が近接戦闘が主な戦いの竜が多いと見抜かれているようだ。

なかなかに面倒だ。

1()()()()()()無理だな。

なら...!

 

 

「アタックフェイズ!エヴィルグレイブ・ドラゴンとガイスト・ディミオスで、静寐に連携攻撃!」

 

 

《行くぞ、エヴィルグレイブ!》

 

 

《はい、団長!》

 

 

2()()()攻撃すればいい!

連携攻撃とは、その名の通り2体以上のモンスター、アイテムで同時に攻撃することだ。

この場合、攻撃力と打撃力を2体の合計とすることが出来る。

 

 

「え、ちょ、如何いう...きゃあ!!」

 

 

急な連携攻撃で驚いた静寐は、そのままエヴィルグレイブとディミオスの攻撃を受ける。

これで、SEが3割削れる。

 

 

「ガイスト・ディミオスの効果発動!」

 

 

《勝利のために命を捧げよ。カノナス・カサルティリオ!》

 

 

そのまま俺はディミオスの効果発動宣言を行う。

ディミオスが発生させたエネルギーに包み込まれ、破壊される。

 

 

「エヴィルグレイブ・ドラゴンの破壊時効果!1枚ドロー!」

 

 

エヴィルグレイブの効果でドローをし、これで手札は4枚。

 

 

「ニードルクロー・ドラゴンとガイスト・ディミオスでラウラに連携攻撃!」

 

 

それを確認した俺は、ニードルクローとディミオスに連携攻撃の指示を出す。

 

 

《ギャハハ!団長ぉ!行きますよぉおおお!!》

 

 

《ああ、行くぞ!》

 

 

2人はそのままラウラに向かっていく。

 

 

「う、クソッ!」

 

 

ラウラはニードルクローとディミオスに向かってワイヤーブレードを振るう。

しかし、ニードルクローもディミオスも、バディモンスターであり、身体能力は人間とは比べ物にならない。

しかも、2竜共煉獄騎士団として長い間一緒に戦っていた。

コンビネーションは抜群だ。

2竜共、ワイヤーブレードを躱し、ラウラに攻撃を当てる。

 

 

「く、ああ!」

 

 

これで、SEが3割削れる。

 

 

「ガイスト・ディミオスの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

それを確認し、俺はディミオスの効果発動宣言を行う。

闇のエネルギーはニードルクローを包み込み、破壊する。

 

 

「ニードルクロー・ドラゴンの破壊時効果!手札に戻って来る!」

 

 

そのままニードルクローは破壊時効果で手札に戻って来る。

 

 

「俺とガイスト・ディミオスで静寐に連携攻撃!」

 

 

《一夏、行くぞ!》

 

 

「ああ!」

 

 

そして、俺はフェイタルを構え、ディミオスと共に静寐に接近する。

静寐は俺とディミオスに向かって焔備を撃ってくる。

ディミオスは俺の事を蹴って、俺の事を加速させる。

 

 

「え、ちょ、嘘!?」

 

 

こんな行動に出るとは思わなかったのか、静寐は驚いた声を上げる。

その事も相まって、焔備での射撃が安定していない。

俺はそのままフェイタルで静寐の事を切り、ディミオスの方へ蹴り飛ばす。

 

 

「わきゃぁあああ!?」

 

 

静寐は悲鳴を上げるが、ディミオスは気にした様子もなく静寐の事を切り飛ばす。

これでSEが5割削れた。

レーゲンの残りSEは7割、静寐は2割。

俺のライフは8、手札は5(1枚はニードルクロー)、ゲージは2。

ディミオスが静寐を切り飛ばした際、ラウラが静寐に合流した。

そして、そのままレールカノンを発砲してきたので追撃のアーリーが出せなかった。

出せたら、静寐は落とせたと思うんだがな...

 

 

「では、行くぞ!」

 

 

「うん!」

 

 

如何やら2人はこの一瞬でプライベートチャネルで会話をしたようだ。

早い。

作戦を立てるのも、行動を起こすのも早い。

静寐は焔備を、ラウラはワイヤーブレードを展開し、攻撃をしてくる。

弾丸に集中してるとワイヤーブレードに当たるし、ワイヤーブレードに集中してると弾丸に当たる。

これが1番厄介かもしれない。

それに、まだAICがあるからなぁ...

 

 

《クソ、厄介だな》

 

 

ディミオスも思わずそう言葉をこぼす。

弾幕は激しくなり、俺とディミオスは完全に囲まれる形になった。

ここで、俺とディミオスは動きが固まってしまう。

AICに、捕えられたのだ。

(一応使える)ハイパーセンサーで確認すると、ラウラが右手をこちらに向かって突き出しているのが分かる。

ち、意識していたのに...やられた。

ラウラはレールカノンの発砲準備をしている。

静寐は、焔備での射撃をいったん止めている。

ラウラの集中力を遮らない為、か...

 

 

「喰らえ!」

 

 

そして、ラウラのレールカノンが俺とディミオスに向かって発射された瞬間、

 

 

「ガイスト・ディミオスの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

ディミオスの効果を発動する。

これが、ガイスト・ディミオスの特徴だ。

他の形態のディミオスの場合、自分モンスターを破壊して発動する能力は再攻撃しかない。

しかし、ガイスト・ディミオスの場合は、3つの能力がある。

再攻撃、アタックフェイズ中に1枚ドロー、そして、次に受けるダメージを3軽減。

この3つが。

今回使うのは当然ダメージ軽減だ。

ディミオスは自身の事をエネルギーで包み込み、破壊する。

 

 

「何!?」

 

 

ラウラの動揺した声が聞こえる。

それと同時に俺にレールカノンがヒットし、俺は吹き飛ぶ。

さっきの動揺で集中力が途切れ、AICも維持できなかったらしい。

当たりはしたが、さっきのディミオスの効果でライフは1しか減っていない。

このタイミングで、俺の手札とゲージが1枚ずつ増える。

これで俺のライフは7、手札は6、ゲージは3。

 

 

「ゲージ1を払って、俺にダメージ1を与えキャスト!煉獄騎士よ、永遠なれ!ドロップゾーンのエヴィルグレイブ・ドラゴンとガイスト・ディミオスを手札に!」

 

 

俺は魔法、煉獄騎士よ、永遠なれを発動する。

この魔法はドロップゾーンの煉獄騎士団名称のモンスター2体を手札に戻せるのだ。

俺はそれを確認すると、

 

 

「ライトにコール、ガイスト・ディミオス!センターにコール、エヴィルグレイブ・ドラゴン!レフトにコール、ニードルクロー・ドラゴン!」

 

 

今戻した2体とさっき戻って来たニードルクローをコールする。

これで、俺のライフは6、手札は4、ゲージは3。

 

 

「アタックフェイズ!エヴィルグレイブ・ドラゴンとガイスト・ディミオスでラウラに連携攻撃!」

 

 

俺は、エヴィルグレイブとディミオスにアタックの指示を出す。

 

 

《行くぞ!》

 

 

《はい!》

 

 

俺の指示で2竜はラウラに向かっていく。

だが、

 

 

「ハァ!!」

 

 

ラウラは身体を大きくひねり、攻撃を躱す。

まさか、連携攻撃も躱されるなんて...

 

 

「ガイスト・ディミオスの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

俺は直ぐにディミオスの効果を発動させ、エヴィルグレイブを破壊する。

エヴィルグレイブの破壊時効果で手札が1枚増え、5枚になる。

 

 

「ニードルクロー・ドラゴンとガイスト・ディミオスと俺で連携攻撃!合わせろ!」

 

 

《了解した》

 

 

《ヒヒヒ、任せろぉ!》

 

 

2竜での攻撃がかわされるなら、俺も含めて3方向から行く!

 

 

「な、何!?」

 

 

ラウラは驚愕の声を上げる。

ラウラはそれでも反応し、プラズマ手刀を展開する。

だが、ここまで接近出来たら俺の間合いだ!

 

 

「ハァアア!!」

 

 

「う、くぅ!」

 

 

俺がフェイタルでラウラの事を切り、直ぐに上方向に加速して移動する。

すると、

 

 

《フン!》

 

 

《いひゃひゃあ!》

 

 

「ぐぁあああ!」

 

 

ディミオスとニードルクローが同時にラウラに攻撃し、ラウラにダメージを与える。

これで、レーゲンの残りSEは1割...!

 

 

「ガイスト・ディミオスの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

俺はディミオスの効果発動宣言を行い、ニードルクローを破壊する。

ニードルクローが自身の効果で手札に戻ってきたことを確認すると、

 

 

「ガイスト・ディミオスでラウラにアタック!」

 

 

ディミオスにアタックの指示を出す。

 

 

《これで終わりだぁ!》

 

 

「う、クソッ!」

 

 

ラウラは、もう避けられないと悟ったように声を上げる。

だが、

 

 

「ラウラさん!」

 

 

静寐が、焔備でディミオスの事を撃つ。

ディミオスはその射撃を避けるが、攻撃が中断されてしまう。

 

 

「鷹月!助かった...」

 

 

「うん、ここから...」

 

 

「いや、これで終わりだ!ファイナルフェイズ!」

 

 

2人が合流したタイミングで、俺はファイナスフェイズを宣言する。

その瞬間、鎧の顔の前のパーツが開く。

 

 

「ゲージ2を払い、場のガイスト・ディミオスを手札に戻し、ライトに必殺コール!」

 

 

そして、世界から色が消え去り、俺の手元には紫色のエネルギーに包まれた1枚のカード。

俺はそれを掲げ、宣言する。

 

 

「煉獄騎士団団長 ディミオスソード “カオス・エクスキューション!”」

 

 

《うぉおおおおお!!》

 

 

世界に色が戻り、ディミオスが“カオス・エクスキューション!”へと進化する。

 

 

「ディミオスソード “カオス・エクスキューション!”で静寐に攻撃!」

 

 

そして、そのままディミオスにアタックの指示を出す。

 

 

《行くぞぉ!!》

 

 

ディミオスは持っている大剣を振り下ろし、斬撃を飛ばす。

 

 

「え、何それ!?」

 

 

斬撃を飛ばすだなんて事、初めてやるので静寐は対応しきれず、そのままアタックを受ける。

 

 

『打鉄、SEエンプティ!鷹月静寐、戦闘不能!』

 

 

「ディミオスソード “カオス・エクスキューション!”の効果発動!」

 

 

《行くぞぉおおお!!》

 

 

ディミオスの効果を発動し、再攻撃が可能になる。

 

 

「ディミオスソード “カオス・エクスキューション!”でラウラにアタック!」

 

 

《ハァアアアア!!》

 

 

それを確認した俺は、ディミオスに再アタックの指示を出す。

ディミオスは咆哮をあげながら、ラウラに突っ込んでいく。

だが、

 

 

「はぁ!」

 

 

ラウラは超人的な反応でディミオスの斬撃を避け、レールカノンを発砲してきた。

よく見ると、左目の眼帯を外している。

ヴォーダン・オージェか!

 

 

「がぁ!!」

 

 

俺はそのままレールカノンを受け、ライフが2になる。

くそ、完全に失念してた。

俺も、覚醒させるか?

だが、今俺の顔の前パーツは開いている。

クラリッサさんとチェルシーさんには、しっかりと説明がしたい。

クソッ!

如何する?

 

 

俺が迷っている間に、ラウラは体制を整えていた。

こうなったら、もうディミオスでの再攻撃は出来ない。

さて、如何する!?

 

 

「一夏ぁ!」

 

 

ラウラはそう叫び、レールカノンでの再狙撃準備をする。

 

 

「キャスト!デッドリー・ブースト!ゲージを3増やす!」

 

 

それを認識した瞬間、俺はデッドリー・ブーストを発動し、ゲージを4にする。

この魔法は、一気に3増やせる代わり、一定時間後ゲージが無くなってしまう。

こうなったら、これで決める!

 

 

「喰らえ!」

 

 

その声と共に、ラウラはレールカノンを発射する。

その瞬間に俺は左手を前に突き出す。

 

 

「カウンターファイナル!キャスト!」

 

 

この瞬間に、世界は灰色になる。

そして、俺は左腕を上にあげる。

 

 

「歪め世界よ!時を巻き戻し、悲しみを消し去れ!」

 

 

「絶無の剣!」

 

 

俺の前に紫の魔法陣が出現し、その中から超巨大な剣が出て来る。

俺は左腕を振り下ろしながら叫ぶ。

 

 

「ディストーション・パニッシャーーーーーぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 

 

俺の腕の動きとシンクロして、剣がラウラに振り下ろされる。

そして、レーゲンのSEを削り取った後、一瞬オレンジに発光してから無数の長方形にはじけ飛んだあと、消滅する。

 

 

『GameEnd Winner,RENGOKUKISHI』

 

 

そして、世界に色が戻ると同時、その音声が鳴り響く。

俺の、勝ちだ。

 

 

『決まったぁああああ!学年別タッグトーナメント1年生の部優勝は、織斑一夏だぁ!!』

 

 

『わぁあああああああああ!!!』

 

 

そんなアナウンス、今まで無かったやん。

なんで急に?

まぁ、いいか。

 

 

「勝ったぁ!」

 

 

《ああ、やったな》

 

 

ディミオスもSDに戻り、そんな声を交わす。

あああ、勝ててよかったぁ...

 

 

「く、悔しい...」

 

 

ラウラはそんな声を漏らす。

 

 

「あーあ、やっぱり一夏君は強かったなぁ...」

 

 

静寐もそんな声を漏らす。

 

 

「でも、2人とも強かったよ、俺のライフ、もう2だよ」

 

 

本当に、ギリギリだった。

でも、何とか勝てた。

 

 

「まあ、良い。一夏」

 

 

「一夏君」

 

 

「「優勝おめでとう!」」

 

 

「ありがとう!」

 

 

何はともあれ、1年生の部は俺の優勝という事で幕を閉じた。

この後は2年生、3年生の部の後に、クラリッサさんとチェルシーさんとの会話...

ああああああ、緊張してきた.....

 

 

 

 




一夏、優勝おめでとう!
一夏が戦う時はライフ、手札、ゲージの3つの数字を管理しないといけないから大変なんだ...
そして、遂に次回は!

そんな次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

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表彰式と会話

遂に、クラリッサとチェルシーとの会話!
の前に表彰式。

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

2年生の部、3年生の部と共に問題も無く終了した。

そして、俺は今現在制服を着て、第一アリーナにいる。

クラリッサさんとチェルシーさんとの会話を意識し過ぎて完全に忘れていたのだが、これから表彰式があるのだ。

この表彰式は、第一アリーナで行い、1年生の部、2年生の部、3年生の部の優勝者、準優勝者、3位入賞者を表彰するものだ。

まぁ、表彰と言っても、特にメダルとか賞状を無く、ただただ祝われるだけだけどな。

そんなこんなで、今第一アリーナには俺を含め17人の人間と1体の竜がいる。

そして、アリーナの観客席には、人、人、人.....

大量の観客がいた。

各国家と各企業の代表の方々全員と、受賞者の応援者の方々がアリーナに集まっていた。

物凄く多い。

勿論、学園の生徒達に向けて配信もしている。

自分の教室で視聴しているのだろう。

 

 

『それでは、IS学園学年別タッグトーナメント、表彰式を始めます』

 

 

俺がそんな事を考えていると、そんなアナウンスが鳴り響く。

 

 

『1年生の部、第3位。セシリア・オルコット、如月キサラペア!』

 

 

そのアナウンスと同時に、セシリアとキサラが1年生用の表彰台の3位者用の所に同時に上がり、手を振る。

それと同時、アリーナにいる人間全員が拍手をする。

っていうか、表彰台が3つあるこの状況何なの?

 

 

『2年生の部、第3位。サラ・ウェルキン、ロイミ・バキクレンペア!』

 

 

『3年生の部、第3位。布仏虚、佐々木雅ペア!』

 

 

あ、先に3位の方々を言うのね。

てっきり先に1年生からだと思ってた。

 

 

『1年生の部、準優勝!ラウラ・ボーデヴィッヒ、鷹月静寐ペア!』

 

 

そして、ラウラと静寐は表彰台に立ち、手を振る。

心なしか、さっきよりも拍手の音が大きい。

 

 

『2年生の部、準優勝!フォルテ・サファイア、テスカ・アリネンスペア!』

 

 

フォルテ・サファイア先輩は、確かギリシャの代表候補生で、専用機持ちだったな。

やっぱり、専用機持ちが有利なのは変わらないのかな?

 

 

『3年生の部、準優勝!マイナ・カルテット、青木楓ペア!』

 

 

お、3年生の準優勝のペアは何方も代表でも、候補生でも、企業代表でもない。

これは、スカウト等があるんじゃないかな?

っていうか、今『PurgatoryKnights』所属のIS操縦者は俺とマドカとシャルロット。

その内シャルロットはフランス代表候補生も兼任の予定だ。

まぁ、3人しかいない訳だ。

正直に言うと、スカウトしたい。

 

 

『1年生の部、優勝!織斑一夏!!』

 

 

「ディミオスも呼んで!!」

 

 

悲しいじゃん...

俺はそう叫びながら表彰台に立ち、手を振る。

 

バチバチバチ!

 

うお、拍手がデケェ。

 

 

『2年生の部、優勝!更識楯無、エルザ・コルエントペア!!』

 

 

うん、楯無さんは安定だな。

流石は生徒会長。

 

 

『3年生の部、優勝!ダリル・ケイシー、渡辺沙月ペア!!』

 

 

ダリル・ケイシー先輩は、アメリカの代表候補生で3年生唯一の専用機持ち。

そして、社長と同じ元亡国企業所属で、本名レイン・ミューゼル。

社長と主任が言うのは、元々IS学園にダリル・ケイシーとしてスパイに送り込んでいたが、その途中に社長たちが亡国を抜けたため、先輩も一緒に抜けたとの事。

元々スパイとして身分を隠していたため、そのままダリル・ケイシーとして過ごしているらしい。

まぁ、色々な事情があって大変な人だ。

まだ1回も話したことが無いが、社長の身内との事だから是非とも1回会話がしたいなぁ...

俺がそんな事を考えていると、なんか分からないがマイクを渡された。

確か、今の人は新聞部の人...

チラッと周りを見ると、楯無さんとダリル先輩もマイクを受け取っているが、それ以外の人は受け取っていない。

何だ何だ...?

 

 

『それでは、優勝者3ペア、合計5人にインタビューをしたいと思います!!インタビューするのはこの私、黛薫子です!!』

 

 

「え、今!?」

 

 

そういうインタビューって、絶対今じゃないだろ!?

何やってんだ新聞部!

 

 

『まずは、ダリルさんと沙月さんです!』

 

 

「何で!?」

 

 

こういうのって、1年生からじゃないの!?

なに!?

俺が男だから!?

あ、そんな気がしてきた...

さて、俺に番が回って来るまで少し時間があるな。

如何しようかな...

 

 

「取り敢えず、ディミオス出てこい」

 

 

《了解した》

 

 

順番を待つ間に、ディミオスの事を呼ぶ。

ディミオスはポケットの中から出て来て、SDの状態で俺の頭の上に乗る。

なんか、それハマってんのか?

まぁ、いいけど。

ディミオスが俺の頭の上に乗ったタイミングで、楯無さんとエルザ先輩のインタビューが開始した。

ヤバい、これからインタビューだってのに、その後のクラリッサさんとチェルシーさんとの会話を想像するとガチガチになってしまう。

だが、今の俺は『PurgatoryKnights』所属者として見られるのだ。

無様な姿を見せないようにしないと...

落ち着け、俺!

俺が何とか心を落ち着かせたときに、丁度楯無さんとエルザ先輩へのインタビューが終わった。

さぁ、俺の番か。

 

 

『さて、最後に!織斑一夏君へのインタビューをしたいと思います!よろしくお願いしまーす!』

 

 

『はい、よろしくお願いします』

 

 

いやぁ、マイクを使うのって久々。

なんか違和感あるなぁ...

 

 

『先ず、今のお気持ちをどうぞ!』

 

 

うーん、今の気持ちかぁ...

 

 

『さっきのアナウンスで、ディミオスの事もちゃんと呼んで欲しかったですね』

 

 

バディの事は、ちゃんと呼んで欲しかったなぁ...

 

 

 

『そ、そういう事では無くてですね...』

 

 

今の気持ちっていうから...

 

 

『そうですね、優勝できたことは嬉しいですね。1年生は専用機持ちの代表候補生も多く、皆強いので』

 

 

簪も、セシリアも、ラウラも強かった。

鈴とは戦ってないけど、あのセシリアと拮抗していたから、相当強いことは分かっている。

そんな中でも、優勝できたのは嬉しい。

 

 

『続いての質問です。恋人は今いますか?』

 

 

『関係なさすぎる!』

 

 

2つ目の質問の内容じゃない!

こういうおふざけ枠って、最後の方にするんじゃないの!?

何とも滅茶苦茶な新聞部...

そもそも、俺の恋人の有無なんて需要無いだろ。

 

 

『いいじゃないですか!みんな気になってますよ!』

 

 

『はぁ...いないですけど』

 

 

好きな人は、2人いるんだけどなぁ...

 

 

『ありがとうございます!』

 

 

何故お礼を言う?

訳が分からんインタビューだ。

 

 

『今、何か言いたい事はありますか?』

 

 

お、まともなのがきた。

そうだな...言いたい事か.....

 

 

『『PurgatoryKnights』は常に人材を募集しています。是非、会社説明会にご来場ください。待ってまーす!!』

 

 

宣伝しておこう。

本当に、人材が欲しい。

これから、発展途上国への支援プロジェクトが本格的に始まるから、人材はどれだけあってもいい。

 

 

『あ、ありがとうございました...最後に、カメラに向かって決め顔お願いします!』

 

 

『何でですか?』

 

 

なんでそんな事をする必要がある?

そもそも、恋人の有無以上に需要が無い気しかしない。

 

 

『良いじゃないですか!ウインクとかで良いので!!』

 

 

『ま、まぁ、それくらいなら...』

 

 

カメラは...そこか。

俺はそのままカメラの方を向くと、なるべく気持ち悪くならないように気を付けながら、ウインクをする。

すると、

 

キャァアアアアアア!!

 

と、校舎の方から声が聞こえて来た。

な、何だ何だ!?

 

 

『ありがとうございました!それでは、これでインタビューを終わります!』

 

 

お、おう。

何とも変な感じのインタビューだった...

まぁ、終わったなら、いいか。

ああ、もう直ぐ2人との会話だぁ。

緊張する...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

時間は進み、通常だったら放課後と呼ばれているような時間。

俺は企業各社様への挨拶を済ませた後、クラリッサさんとチェルシーさんの元に向かっていた。

もう既に織斑先生から許可証を2枚貰っている。

これが無いと、警備員に止められる可能性がある。

クラリッサさんとチェルシーさんは、恐らく代表、代表候補生用の応援者との交流部屋だろう。

2人とも、ラウラとセシリアの応援者としてここにきているからなぁ。

 

 

「あ、一夏君!」

 

 

「清香じゃん。如何した?」

 

 

その道中、清香に声を掛けられた。

俺が反応をすると、

 

 

「一夏君、優勝おめでとう!」

 

 

「ああ、ありがとう」

 

 

優勝をお祝いしてくれた。

 

 

「それで、一夏君の優勝おめでとうパーティをしようと思うんだけど、今日大丈夫?」

 

 

「あー、悪いけど、今日はもう予定が入ってるんだ」

 

 

そうやって、パーティをしようとしてくれる友達がいるのは嬉しい。

でも、この後はクラリッサさんとチェルシーさんとの会話という、今日1番の予定が入ってる。

これだけは絶対に外せない。

 

 

「そっかぁ...なら、明日だね!」

 

 

「そうだな。明日なら問題ない」

 

 

「じゃあ、皆にそういう言っておくから!パーティ楽しみにしていてね!!」

 

 

清香はそう言うと、校舎の方に向かっていった。

なんか、申し訳ない。

俺がそんな事を思っていると、

 

 

「「一夏!」」

 

 

そう声を掛けられる。

 

 

「クラリッサさん、チェルシーさん」

 

 

そう、2人が交流部屋のある方向から歩いてきた。

恐らく、もうラウラとセシリアとの会話を終わらせたんだろう。

 

 

「取り敢えず、これが許可証です。持っていてください。」

 

 

俺は、2人に許可証を渡す。

この許可証は首から下げるタイプのものなので、2人はそのまま首から許可証を下げる。

うん、ドイツ軍の軍服の女性(美人)とメイド服の女性(美人)が並んでるのって、なんか不思議な感じがする。

 

 

「じゃあ、俺の部屋に行きましょうか」

 

 

「ああ」

 

 

「ええ」

 

 

2人が頷いたことを確認すると、俺は自分の部屋に向かって歩き出す。

2人も、しっかりと付いて来ている。

何だろう、気まずい。

本当だったら、俺が何かしら話題を振らないといけないのだが、今の俺には如何せんそれが出来ない。

だって、俺は、俺は.....

駄目だ、これから会話するってのに、どうしても自己嫌悪が降り切れない。

クラリッサさんもチェルシーさんも、何も話さない。

ど、どうしよう...

今ディミオスや白式、白騎士は頼れない。

今日は2回も戦い、ラウラ、静寐ペアとの戦いではライフが2まで削られた。

そのため

表彰式の後ディミオスがダークネスドラゴンWに、ダークコアデッキケースを持ち帰っている。

その時の白式と白騎士の

 

 

[[マスターと離れるの、悲しい...]]

 

 

が、可愛いと思った俺は悪くない。

そんな事をグルグルと考えていると、俺の部屋の前に来た。

俺はそのまま部屋の鍵を開け、扉を開ける。

 

 

「どうぞ。男の1人暮らしだから、散らかってますけど」

 

 

仕事が多くて、書類だのPCだのが机の上に出しっぱなしだ...

片付けておけば良かったぁ!!

 

 

「「お、お邪魔します...」」

 

 

ん?

なんで2人とも顔が赤くなってるんだ?

まぁ、いいや。

 

 

「好きなところに座って下さい。今お茶用意します」

 

 

俺は机の上の書類とPCを片付けてから、キッチンに移動する。

紅茶でいいか...

俺はそう判断し、紅茶を淹れ始める。

俺はコーヒー派なので、紅茶はパックの奴しかない。

まぁ、これくらいは許して欲しい。

そして、俺は自分の分のコーヒーと紅茶2杯を持ち、クラリッサさんとチェルシーさんの所に戻る。

2人とも、さっきまで書類等で散らかっていた机の近くに座っていた。

 

 

「どうぞ。パックの奴ですけど」

 

 

「わざわざ出して貰ったものに、文句は言わないさ」

 

 

「ありがとう、一夏」

 

 

俺が差し出した紅茶を、2人はそのまま飲む。

俺も机の側に座り、自分の分のコーヒーを飲む。

うん、何時も通り。

大体半分ほど飲んだところで、俺はカップを机に置く。

すると、そのタイミングでクラリッサさんとチェルシーさんが声を発する。

 

 

「一夏、優勝おめでとう」

 

 

「カッコよかったわよ、一夏」

 

 

「あ、ありがとうございます...」

 

 

この2人に褒められると、照れる...

ま、まぁ、それは良いんだ。

それよりも、今はクラリッサさんとチェルシーさんが話したいという事についてだ。

俺は、異常なほどの緊張と、それにつられて出て来る自己嫌悪をなるべく無視しながら、声を発する。

 

 

「それで、クラリッサさん、チェルシーさん。話したい事って何ですか?」

 

 

俺がそう質問をすると、クラリッサさんとチェルシーさんは顔を見合わせた。

そして頷き合った後、いったん席を立つと、俺の右前と左前に座り直した。

ち、近い近い...

 

 

「一夏、これから話すことは、冗談でも何でもなく、全部本気だから...」

 

 

「は、はぁ...」

 

 

チェルシーさんに念押しされて、俺はそう頷く。

ん?

全部『本当』じゃなくて、全部『本気』?

俺がその事を疑問に思っていると、2人が俺の手を握ってから、口を開く。

 

 

「私、クラリッサ・ハルフォーフと」

 

 

「私、チェルシー・ブランケットは」

 

 

 

 

 

「「織斑一夏の事を、1人の男性として、愛しています」」

 

 

 

 

 

 

 

えええええええええええええええええええええ!?

 

 

クラリッサさんとチェルシーさんは、顔を赤くしている。

可愛い...じゃなくて!

 

 

「そ、それって...」

 

 

「な、何回も言わせるな...」

 

 

「こ、告白よ.....」

 

 

俺の耳に間違いは無かったようだ。

え、こくは、え?

俺は絶賛混乱中だ。

だって、好意を抱いている女性2人に、同時に告白されるだなんて...

え、は、どうしよう...

 

 

「一夏、混乱してる?」

 

 

「は、はい。それなりには...」

 

 

それなりじゃなくて、物凄く。

俺がそんな事を考えていると、クラリッサさんとチェルシーさんがポツリポツリと説明し始める。

 

 

「私とチェルシーは、一夏の事が大好きなんだ」

 

 

「絶対に、一夏を譲る事は出来ない。そう思えるくらいには、大好きなの」

 

 

ピエッ!?

い、いいい今!?

嬉しいやら、恥ずかしいやらで頭がパンクする!

それに、今クラリッサさん、チェルシーさんの事名前で...

あれ、初対面の時はブランケット殿って言ってたような...?

 

 

「だから、私とクラリッサは話し合ったの。如何したら、私達が納得できるかって」

 

 

「それで、決めたんだ。2人一緒に、恋人になれればいいって」

 

 

「へ?」

 

 

2人一緒に、恋人...?

いや、そんな事、俺には出来な...

 

 

「一夏、今お前は無国籍状態なんだろ?」

 

 

「は、はい。そうですが...」

 

 

今、それは関係ない気しかしないが...

 

 

「なら、2人と付き合っても、問題は無いんじゃない?」

 

 

関係あった。

 

 

「え、は、え.....お2人は、納得してるんですか?」

 

 

「フフ、私達から言い出したんだぞ」

 

 

「納得してない訳、無いでしょう」

 

 

それを聞いて、俺は俯く。

こうなったら、俺もキッチリさせないと...

 

 

「.....答えの前に、見て欲しいものがあります」

 

 

俺がそう言うと、2人は今まで握っていた俺の手を離し、首を傾げる。

俺はそれを見た後、目を閉じる。

そして、目を開けながら、2人に声を掛ける。

 

 

()()、なんですけど」

 

 

俺がそう言うと、2人は驚いた表情を浮かべる。

それはそうか。

俺の両目は、さっきまでと異なり、黄金に輝いているのだから。

特に、クラリッサさんの衝撃は大きいだろうな。

 

 

「一夏、それって...」

 

 

クラリッサさんが何とかという感じで声を漏らす。

 

 

「ヴォーダン・オージェ、そのものでは無いですが、まぁ、似たようなものですね」

 

 

俺がそう言うと、クラリッサさんは更に驚いたような表情になる。

だが、チェルシーさんはよく分かっていないようだ。

それは当然か。

 

 

「えっと...その、ヴォーダン・オージェって?」

 

 

チェルシーさんのその質問に、クラリッサさんが説明を始める。

その間に、俺は何とか心を落ち着かせる。

まさか、こんな状況になるだなんて...

自分が好きな女性が、俺の事を好きだなんて思ったことも無かったし、同時に付き合うだなんて事、考えたことも無かった。

でも、今は自分の事の説明だ。

いったん落ち着け、俺。

俺が何とか心を落ち着けたタイミングで、クラリッサさんの説明も終わったようだ。

チェルシーさんも驚いた表情を浮かべている。

そして、2人同時に俺の事を見てくる。

俺はそれを見ると、説明をし始める。

 

 

「プロジェクト・モザイカ、別名織斑計画。遺伝子操作等で最高の人間を作り出す計画。試験体№1000にして初の成功体が俺の姉...織斑千冬」

 

 

「「えっ!?」」

 

 

2人は驚愕の表情を、更に大きいものにする。

俺はその2人を見ながら、続きを話す。

 

 

「そして俺は、その成功例を元にして改良、生み出された二番目の成功体。つまりは、俺も試験管ベイビーの1人。ドイツのアドヴァンスドは、織斑計画の技術を一部流用したもの」

 

 

「「.....」」

 

 

2人は、何も喋らない。

俺はいったん目を閉じて、開く。

すると、目の色は元に戻った。

俺はそのまま、2人の手を今度は自分から握る。

2人はビクッと身体を震わせたが、やがて俺の顔を見て来た。

俺は今までの人生で一番真剣な顔をしながら、言葉を発する。

 

 

「俺は、純粋な人間ではないかもしれない。それに、2人の女性に同時に好意を抱くような男だ。そんな俺で良かったら...」

 

 

ここで、いったん言葉を区切る。

今までで一番心臓がバクバクいってる。

大きく息を吸って、言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 

「俺と、付き合って下さい」

 

 

 

 

そう、俺は言い切った。

クラリッサさんとチェルシーさんは、暫く固まっていたが、

 

 

「「勿論!よろしくお願いします!!」」

 

 

と、俺に突っ込んで来て、思いっきり抱きしめてくれた。

その表情は、目に涙を浮かべているが、美しい笑顔だった。

その時の衝撃で、俺は思わず仰向けに倒れる。

 

 

「一夏、お前は私に言ってくれたな。『幸せになっていいんですよ』って。だから、お前も幸せになっていいんだ」

 

 

「一夏、あなたは私も、エクシアの事も助けてくれた。そんなあなたは、造られたものだったとしても、あなたは人間」

 

 

ああ、俺の目にも涙が浮かんでいるのが分かる。

でも、今俺がするのは...

 

 

「.....はい!」

 

 

笑顔でそう返事して、クラリッサさんとチェルシーさんを抱きしめ返す。

 

 

こうして、織斑一夏は、クラリッサ・ハルフォーフさんとチェルシー・ブランケットさん、2人の女性と交際することになった。

 

 

あああ、幸せ.....

 

 

 

 




そして、告白!
サブタイにはこれが続きます。

一夏、クラリッサ、チェルシー、男女交際開始、おめでとう!
日本、ドイツ、イギリスと超遠距離だけど、3人なら大丈夫!

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想や誤字報告もよろしくお願いします!


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恋人との会話

前回の続き。
ここ最近戦闘しか書いてなかったから違和感が凄い。

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

学年別タッグトーナメント、最終日。

表彰式の後、俺は自分の部屋でクラリッサさんとチェルシーさんの2人と会話していた。

その内容は、クラリッサさんとチェルシーさんの、俺への告白だった。

当然、俺は滅茶苦茶動揺したが、クラリッサさんとチェルシーさんは2人同時に付き合ってもいいと言ってくれた。

この時、俺はプロジェクト・モザイカの事を説明したうえで、再度俺から告白した。

すると、2人はこの告白を承諾してくれて、俺はクラリッサさんとチェルシーの2人と、付き合う事になった。

そして今現在、何をしているかと言うと、俺の部屋でクラリッサさんとチェルシーさんが俺に抱き着いて来ていて仰向けに倒れている。

俺も、2人の事を抱きしめ返しているので、何とも言えない幸せな時間です。

でも、クラリッサさんとチェルシーさんは、学園の関係者では無い為、何時までもこうしていれる訳ではない。

物凄く勿体ないが、2人には離れてもらおう。

 

 

「すみません、離して貰っても良いですか?」

 

 

「いやだ」

 

 

「く、クラリッサさん...」

 

 

「離れたくない」

 

 

「チェルシーさんまで...」

 

 

そう言ってもらえるのは嬉しいが、そろそろ本気で離して欲しい。

さて、如何するか...

 

 

「クラリッサ、チェルシー、いったん離れろ」

 

 

まぁ、ため口に呼び捨てで離れてくれたら、苦労はしない...

 

 

「「う、うん...」」

 

 

俺がそう思っていると、2人は顔を赤くして離れてくれた。

 

 

「可愛い...」

 

 

思わずそう声が漏れる。

だって、可愛いんだから仕方が無い。

2人は更に顔を赤くする。

このままだと無限ループに突入しそうだから、ここら辺で止めておこう。

 

 

「「一夏!」」

 

 

「はい?」

 

 

ここで、クラリッサさんとチェルシーさんが俺の名前を呼ぶ。

俺がそれに反応すると、2人は

 

 

「一夏、これからはため口に呼び捨てで頼む!」

 

 

「そっちの方が、より恋人感があるので!」

 

 

と、勢いよく言ってきた。

 

 

「...善処する。だが、人目があるときは敬語だぞ」

 

 

今までずっと敬語だったから、直ぐにはならないかもしれないけど。

それにしても、

 

 

「せっかく付き合えたのに、暫く会えないのは悲しいな...」

 

 

俺がそう言うと、2人の表情も少し暗くなる。

そう、クラリッサさ...クラリッサとチェルシーは、学園関係者ではない。

それにドイツ軍IS部隊副隊長と、イギリス貴族家に仕えているメイドという立場上、日本に残ることなどできない。

そして、当然ながら日本とドイツ、イギリスは離れているので、どうやっても直接会うことなどできない。

次に会えるとしたら、夏休みか...

 

 

「でも、連絡自体は、簡単に取れるわよね?」

 

 

チェルシーはそういう。

.....そうだったら、良かったんだけどなぁ。

 

 

「俺、無国籍状態だからスマホ無い」

 

 

「「あっ...」」

 

 

俺が2人と同時に付き合えている理由である無国籍状態。

これのせいでスマートフォンという現代社会必須アイテムを俺は所有していないので、海外にいる人と簡単に連絡は取れない。

この状態に感謝しているが、文句も言いたくなってきた。

手紙という手段が取れなくもないが、時間がかかり過ぎる。

仕方が無い。

 

 

「料金は高いが、寮の固定電話から国際電話かけるしかないな」

 

 

「一夏、良いのか?」

 

 

「ああ、『PurgatoryKnights』所属として、そこそこの給料は貰ってるからな」

 

 

本当に、ただ所属してるだけの高校生にここまで払えるってすごい。

社内から反対意見が出てないのは、社長のおかげかな?

 

 

「今の所、どれくらい貰ってるの?」

 

ここで、チェルシーが給料について聞いてきた。

これは単純に好奇心からだろうし、恋人だから別に言ってもいいか。

 

 

「月100万円くらい。貯金は1200万円くらいはあったと思う」

 

 

『PurgatoryKnights』所属として働きだしたのが今年の3月くらいからだが、その際に束さんから1000万程貰った。

今月分...5月分の給料を貰っていないので、貯金は1200万程だ。

 

 

「そ、それは多いな...」

 

 

「それは、自分でもそう思っている」

 

 

そう、ただの高校生に渡す給料としては多すぎる。

マドカやクロエさんよりも多いし、開発主任の束さんよりも多い。

取締役の皆さんと同じくらいの金額だ。

これは異常な量だ。

確かに、俺は所属者としての仕事以外にも大量の仕事書類に、関係がある企業各社様への挨拶回りに、営業。

人事の仕事に、新規プロジェクト...今は発展途上国への支援プロジェクトの整理...

あれ?

もしかしなくても、俺って学生じゃないくらいには忙しい?

まぁ、いいや。

そのおかげで給料も高いし、給料が高いからスマホが無いという状況でも、海外にいる恋人と連絡が取れそうだから、いいか。

 

 

「そういう事だから、スマホの電話番号教えてもらってもいいか?」

 

 

「いいぞ。寧ろこっちから教えようとしたからな」

 

 

クラリッサがそう言うと、2人同時にスマホを出してくれる。

俺はその画面に出ている電話番号をメモする。

っていうか、良い感じにため口で話せてるな。

このままいけそうだ。

俺がメモを学生帳の中に仕舞った時、ふと時刻を確認する。

すると、もうクラリッサとチェルシーは帰らないといけない時刻になっていた。

 

 

「もう、時間だな」

 

 

俺がそう言うと、2人は悲しそうな表情を浮かべる。

ここで別れると、次に会える日がまだまだ先だから、悲しんでいるのだろうか?

俺もせっかく付き合えたのに分かれるのは悲しいが、こればっかりはどうしようもない。

俺は立ち上がりながら、2人に声を掛ける。

 

 

「敷地の入り口までは送るよ」

 

 

俺がそう言うと、2人も立ち上がる。

そして、そのまま扉を開けて、3人で歩き出す...のだが、何故かクラリッサとチェルシーは俺の腕に抱き着いて来ていた。

 

 

「えっと...2人とも、どうした?」

 

 

俺がそう聞くと2人は、

 

 

「これから暫く会えないじゃない。だから...」

 

 

「ギリギリまで、お前に触れていたいんだ」

 

 

と言ってきた。

可愛い。

 

 

「じゃあ、許可証返さないといけないから、警備員室に行こうか」

 

 

「分かった」

 

 

クラリッサが頷いたことを確認すると、俺達は警備員室に向かって歩き出す。

勿論、歩幅はクラリッサとチェルシーに合わせて普段よりも短めだ。

俺からするとゆっくりめな速度で歩いている。

そして、俺の両隣には恋人達...なんか、幸せだなぁ...

 

 

教員寮と警備員室はそこまで離れていない。

このゆっくりめな速度でも、5分で着いた。

 

 

「じゃあ、手続してくるから一回離してくれ」

 

 

俺がそう言うと、2人は渋々といった感じで離してくれた。

そして、そのまま2人から許可証を受け取ると、警備員室の中にいる人に声を掛ける。

 

 

「すみません、許可証の返却に来たのですが」

 

 

すると、中にいた人が反応する。

 

 

「おお、一夏か」

 

 

「あ、オータムさん」

 

 

そう、その人とはオータムさんだった。

オータムさんは警備員なので、ここにいても全然おかしくない。

 

 

「許可証の返却だったな。これに名前書いてくれ」

 

 

オータムさんはそう言い、管理用の書類とボールペンを一緒に渡してくれる。

俺はそれに名前を書くと、そのままオータムさんに渡す。

書類仕事のし過ぎで、もう名前を書くのにも慣れてしまった。

 

 

「良し。じゃあ、返却してくれ」

 

 

「はい」

 

 

俺はそのまま許可証を2枚オータムさんに渡す。

オータムさんは手慣れた感じで許可証を戻す。

今年の4月から働き始めた新人とはいえ、もう慣れてしまったようだ。

 

 

「そういや一夏、優勝おめでとうな」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

ここで、オータムさんがそう言ってくれた。

こうやって言ってくれるのは、素直に嬉しいな。

 

 

「これからも、頑張ってくれ。スコールには、夏休みには会えるとでも言ってくれ」

 

 

「分かりました。オータムさんも頑張って下さい」

 

 

「ああ。それで、客は如何する?送ってもいいが」

 

 

「いや、俺が送ります」

 

 

恋人だから、最後まで自分で見送りたい。

 

 

「そうか。じゃあよろしくな」

 

 

「分かりました」

 

 

俺は最後にそう言うと、クラリッサとチェルシーの元に戻る。

 

 

「じゃあ、入り口まで行こうか...」

 

 

「うん」

 

 

「分かった」

 

 

2人はそう言うと、また俺の腕に抱き着いてきた。

そこから、入り口に向かってゆっくりと歩き出す。

その道中、2人の温かさを感じながら会話をする。

この、特別なのものではない会話でも幸せだと感じるのは、クラリッサとチェルシーだからかな。

そんな事を考えて、会話していると、とうとう入り口についてしまった。

 

 

「...夏休みには、それぞれに遊びに行くから。日程は、ラウラとセシリアから聞いてくれ」

 

 

「分かった」

 

 

「楽しみにしてるわ」

 

 

...ここで行動しないと、暫く会えないからな。

覚悟を決めろ、俺。

 

 

「クラリッサ、チェルシー」

 

 

俺は、そのまま2人の名前を呼ぶ。

 

 

「如何したの、一夏」

 

 

先に反応したのは、チェルシーか。

俺はそれを確認すると、チェルシーの肩を掴む。

 

 

「え、ちょ...」

 

 

そして、そのまま、チェルシーにキスをする。

 

 

「.....!!」

 

 

チェルシーは、顔を真っ赤にしながら目を閉じる。

俺も目を閉じると、そのまま暫く唇を重ねていた。

そして、大体1分くらいたったところで唇を離す。

そのまま、チェルシーの隣で固まっていたクラリッサにもキスをする。

 

 

「ん、んぅ...」

 

 

クラリッサも顔を赤く染めながら目を閉じる、

そして、クラリッサとも1分くらいキスをし続けた後、唇を離す。

俺も、自分の顔が赤くなっている事を実感しながら、声を発する。

 

 

「...俺からの、これからも頑張ろうのプレゼントって事で」

 

 

自分で言ってから物凄い恥ずかしくなってくる。

クラリッサとチェルシーも一段と顔を赤くした後、

 

 

「ありがとう。これで、これからも頑張れそうだ」

 

 

「一夏も、頑張ってね」

 

 

笑顔でそう言ってくれた。

それに対して、俺も笑顔になりながら、

 

 

「勿論!」

 

 

そう返した。

そして、

 

 

「じゃあね、一夏」

 

 

「また、夏休みに」

 

 

2人はそう言うと、歩き始める。

それを見て、俺は手を振りながら、

 

 

「また会えるのを楽しみにしてるぞ!」

 

 

そう言う。

2人も1回振り返って手を振ると、背を見せて歩いていく。

このIS学園は日本本土に向かう手段はモノレールしかないので、モノレールの駅に向かっているだろう。

俺は、2人の背が見えなくなるまで手を振る。

そして、背が見えなくなると、寮の自室に戻るために歩き出す。

 

 

「...急に、寂しくなるな」

 

 

寂しさを感じながら歩き、自室の前に着いた。

俺はそのまま扉を開け、中に入る。

 

 

《フム、お帰りと言っておこうか》

 

 

すると、もうディミオスが帰ってきていた。

 

 

「おお、ディミオス。帰って来てたか。ダークコアデッキケースは?」

 

 

《異常無しだ》

 

 

「良かった良かった」

 

 

俺はそう言うと、取り敢えず手を洗う。

そしてそのままリビングに戻り、机の上に置いてあるダークコアデッキケースを手に取る。

 

 

(お帰り、白式、白騎士。異常が無くて良かったよ)

 

 

[ただいま、マスター!]

 

 

[ただいまです、マスター]

 

 

うん、やっぱり安心感が凄い。

そんな事を考えながら、俺はPCを取り出し起動させる。

 

 

《一夏、何かいいことでもあったか?》

 

 

すると、ディミオスがそんな事を聞いてきた。

何でバレた。

 

 

「あー、その...クラリッサとチェルシーと、その...付き合う事になって...」

 

 

《漸くか》

 

 

「漸く?」

 

 

なんだその言い方は。

 

 

《ドイツやイギリスにいるときから、クラリッサ・ハルフォーフとチェルシー・ブランケットがお前に好意を抱いている事に気付いていた》

 

 

「そうなの!?」

 

 

衝撃の真実...

 

 

《ロバート・オルコットやロザリー・オルコット、エクシア・ブランケットにシュヴァルツェ・ハーゼの人間も気付いていたと思うぞ?》

 

 

「マジかいな...」

 

 

そんな大勢に...

俺が軽くショックを受けていると、何やら白式と白騎士が会話し始める。

 

 

[白騎士お姉ちゃん、このままだと...]

 

 

[ええ、このままだと...]

 

 

[[マスターが取られる!?]]

 

 

(...なーにを言ってるんだ?)

 

 

取られるとか無いんだが...

 

 

[マスター!絶対に、絶対私達の事を捨てないで下さいね!!]

 

 

(捨てない捨てない)

 

 

[ほんとに?]

 

 

(本当だから...今度頭撫でてやるから落ち着け)

 

 

なんでこんなに荒れてるんだ?

サポート役で、大事な仲間を捨てる訳が無いのに。

 

 

[本当ですか、マスター]

 

 

(ああ、今度な)

 

 

ふぅ、何とか落ち着いたか。

と、ここで会社との通信端末が

 

ピピピピピ

 

と音を立てる。

俺は直ぐに手に取ると、通信に出る。

 

 

「はい、此方織斑一夏です」

 

 

『あ、一夏、スコールよ』

 

 

「社長、何か御用でしょうか?」

 

 

通信の相手は社長だった。

俺は直ぐにメモを取れるような準備をする。

 

 

『取り敢えず、学年別トーナメントの優勝おめでとう』

 

 

「ありがとうございます」

 

 

社長からも、お祝いの言葉を頂くことが出来た。

嬉しい。

 

 

『さて、本題に移るわ。明日の朝9時から、デュノア社を傘下に加える事を発表するために会見を行うわ』

 

 

「早速ですね」

 

 

確かに、この学年別トーナメントが終わった後に発表することにはなっていたが、まさか翌日の9:00からだとは思わなかった。

まぁ、早くて悪い事は無いか。

 

 

『それで、一夏にはシャルロットちゃんの再転入手続きを代行してほしいの』

 

 

「シャルロットのですか?分かりました」

 

 

デュノア社を傘下に加えたら、シャルロットも『PurgatoryKnights』所属になるので、再転入手続きは必要だろう。

それに、今現在はシャルル・デュノアという男子として在籍しているから、よっぽどな。

 

 

「シャルロットは、何時から復帰出来そうですか?」

 

 

『そうね...週明けの月曜日かしら』

 

 

「了解しました。学園にはそう伝えておきます」

 

 

『お願いね。じゃあ、そろそろ会議だから』

 

 

「分かりました、失礼します」

 

 

『ええ。学園生活、頑張ってね』

 

 

「はい」

 

 

俺はそう返事をすると、通信が切れた。

俺は通信端末を机の上に置く。

 

 

「放課後は、清香達がパーティしてくれるらしいし、昼休みだな」

 

 

昼休みに学園長室に行かないといけないから、明日は朝直ぐに職員室に行かなければ...

なんか、休み時間の方が忙しそうだ。

 

 

「じゃあ、明日も頑張りますか!」

 

 

クラリッサやチェルシーとも、約束したしな!

さて、今後も頑張ろう!

 

 

 

 




一夏、やるなぁ...
そんな簡単にキスって出来ないんだよ?

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想や誤字報告もよろしくお願いします!


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金の再転入

シャルロットの再転入です!
臨海学校前に、日常話を何回か挟みます。

今回もお楽しみください!


一夏side

 

翌日、俺は朝から職員室に行き、昼休みに学園長室に行く許可を得た。

そして、社長の言っていた通り9:00丁度に『PurgatoryKnights』は会見を行い、デュノア社を傘下に加える事を発表した。

その瞬間に、世界では株だのなんだのの大きな動きがあったらしいが、そこら辺はまだまだ勉強不足なので良く分からなかった。

因みにだが、その情報は当然ながらIS学園にも届き、『PurgatoryKnights』所属である俺は様々な視線を感じた。

まぁ、それは当然か。

デュノア社は世界トップクラスのIS企業。

そんな企業が事前情報無しでいきなり『PurgatoryKnights』の傘下になったのだから、その『PurgatoryKnights』所属の人間に注目しない訳が無い。

そして昼休み。

質問をしてくる皆を躱しながら、俺は学園長室に向かった。

1年生の皆は、学園長室に行く用事があると言えばすんなりと質問を止めてくれたのだが、先輩方...特に、新聞部の人達がなかなか質問を止めてくれなかった。

それによって、俺はナノマシン煙幕を消費しないといけなくなってしまった。

今度カタナWに行って新しく貰わないと。

 

 

そんな事を思いながら学園長室に行き、シャルロットの再転入手続きを代行で行った。

その際に、デュノア社問題等々全てを説明もしたが、たいして学園長は驚いていなかった。

これも豊富な人生経験からなるものなのだろうか?

 

 

そして、その日の放課後には清香達が俺の優勝パーティーを開いてくれた。

これには、1組だけではなく1年生の殆どが部活等を休んでまで参加してくれた。

こんな大勢でもパンクしない食堂ってすごい。

このパーティで、今まであまり関わりが無かった他クラスとの生徒とも話すことが出来たし、中々いい機会だった。

ただ、篠ノ之が不参加なのは、まぁ当然として、何故か深夜も参加してくれなかったらしい。

少し悲しい気もしなくもないが、これで深夜の怪しさが更に上がってしまった。

そろそろ調査をしたいんだがなかなか出来ない。

仕事が忙しいっていうのもあるが、正直何処から調査したらいいのか分からないのが現状だ。

まさか直接

 

 

「専用機調べさせて!」

 

 

って言う訳にもいかないしなぁ。

どうしたものかなぁ...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

そんなこんなで週も明け、月曜。

今日はシャルロットが、シャルロットとして再転入してくる日だ。

まぁ、その事を知っているのは教員と俺だけだけどな。

そんな日の朝のSHR前。

俺は自席にて仕事をしていた。

アナログの仕事など、殆どが日本政府から送られてくる俺関係の書類なのでさっさと終わらせてしまおう。

そう思いつつ仕事をしていても、流石に何枚も同じ内容の書類を見るとイライラしてくる。

だ、か、ら、俺は無国籍状態で『PurgatoryKnights』所属だから、日本の代表候補生になどならん!

何回言ったら分かるんだ。

あれか?

日本政府にも篠ノ之みたいなアホが何人もいるのか?

全く、簪は良く日本代表候補生なんてやってられるな。

本人にその気があるのなら、是非とも『PurgatoryKnights』にスカウトしたい。

 

 

俺はそんな事を考えながら仕事をし、全ての書類を捌ききったところで、

 

キーンコーンカーンコーン

 

と、タイミングよくチャイムが鳴る。

俺が書類を仕舞うと、それと同じタイミングで教室のドアが開き、織斑先生と山田先生が入って来た。

だが、山田先生は何処か疲れたような感じだ。

あ、あれだ...シャルロットの再転入による寮の部屋割りだな?

なんかこう、お疲れ様です。

仕事が大変なのは分かりますが、頑張って下さい。

山田先生といい榊原先生といい、IS学園の教師は苦労する人が多いのかな?

織斑先生も、私生活はあんなのだが、仕事は優秀だからな。

 

 

「さて諸君。朝のSHRを始める。山田先生、お願いします」

 

 

「はい...」

 

 

山田先生は覇気のない声で返事をすると、教卓の前に立つ。

山田先生は小柄で童顔なため、拗ねている子供のようにも見える。

 

 

「本日は皆さんに転校生を...あ、いや、そうでもないのかな...?まぁ、新しいお友達を紹介します」

 

 

うお、やべえ。

これはかなり疲れてらっしゃる。

どうする?

なんか俺にできる事ってあるか?

.....無い気がする。

クラスの皆は、山田先生のあまりにも疲れ果てている声に驚いていたが、それ以上にその内容に驚いているようだった。

まぁ、ここ最近ラウラとシャルルが転校してきたばっかりなのに、そんな事を言われたら驚くのも無理は無いだろう。

 

 

「それでは、入ってきてください...」

 

 

「はい」

 

 

山田先生がそう言うと、再び教室の扉が開き、中に人物が入って来る。

その人物を見て、クラスメイトが驚いた表情を浮かべる。

 

 

「えっと...『PurgatoryKnights』所属、シャルロット・デュノアです。よろしくお願いします」

 

 

その人物は、まぁ、当然ながらシャルロットだ。

ただし、身に纏っているものは女子用の制服で、俺の制服と同じ位置に同じ『PurgatoryKnights』のマークが付いてるけどな。

そして、それを見たクラスの皆は...

俺は咄嗟に耳を塞ぐ。

 

 

『ええええええ!?!?!?!?』

 

 

ですよねぇ!

あー、危なかった。

 

 

「え、どどど、どういうことですか!?」

 

 

清香が物凄く混乱したような表情で、その質問を発する。

すると、クラスの皆は一斉にうんうんと首を縦に振る。

 

 

「そうだな...織斑、説明しろ」

 

 

「はい」

 

 

織斑先生に説明を丸投げされたため、俺は席を立ち、皆の方に振り返る。

すると、視線が俺に突き刺さる。

視線が突き刺さっている事による居心地の悪さを感じながら、俺は説明を開始する。

 

 

「デュノア社が『PurgatoryKnights』の傘下になっただろ?それで、デュノア社所属だったから『PurgatoryKnights』に移る事になったんだよ」

 

 

うん、我ながら何ともざっくりとした説明だな。

まぁ、話の本筋は話してるし、問題は無いだろう。

 

 

「そうだけど、そうじゃなくて!え、何で女子の制服着てるの!?」

 

 

あ、そっち?

 

 

「何でも何も、シャルル・デュノアの本名はシャルロット・デュノアで、本来の性別は女子だったってだけだ」

 

 

俺がそう説明をすると、クラスの雰囲気が若干暗くなったように感じる。

なんだ?

そんなに男子がいて欲しかったのか?

いるだろ、俺と深夜が。

 

 

「一夏さん、質問いいですか?」

 

 

「ん?何だセシリア」

 

 

ここで、セシリアが質問をしたいと言ってきた。

 

 

「シャルロットさんが『PurgatoryKnights』所属になるという事は、フランス代表候補生の肩書はどうなるのですか?」

 

 

あ、それか。

まぁ、同じ代表候補生として気になる部分はあるんだろうな。

その質問に俺が答えようとした時、シャルロットが先に答える。

本人の方が説明しやすいこともあるから、このまま任せるか。

 

 

「僕は元々デュノア社とフランス代表候補生を兼任していて、そのデュノア社所属の肩書が『PurgatoryKnights』に代わるだけだから、代表候補生は続けるよ」

 

 

「『PurgatoryKnights』は本社が日本にあるだけで、多国籍企業だ。フランス代表候補生と兼任しても問題は無い」

 

 

実際に、フランス政府にも社長が説明してるからな。

 

 

「流石先輩。補足ありがとう」

 

 

「やめろ恥ずかしい。普通にしてくれ」

 

 

「え、でも実際に先輩で上司だし、一夏ってそこそこ偉いんでしょ?」

 

 

そんな笑顔で、しかも砕けた口調で言ってもそう思わないぞ?

 

 

「偉くない偉くない。ただの所属してる人間だぞ?まぁ、人事権は持っているが...」

 

 

俺とシャルロットがそんな会話をしていると、ラウラが

 

 

「一夏、今の話どういうことだ?」

 

 

と質問をしてきた。

 

 

「これは俺とシャルロットの立場の話になるんだが、俺の方が早く『PurgatoryKnights』に所属してるし、俺は一応『PurgatoryKnights』所属IS操縦者を纏める立場にあるからな。所属IS操縦者は俺含め3人だけど」

 

 

3人しかいないのに纏める立場とは何なのか。

それに、マドカは妹だし、シャルロットはクラスメイトだからな。

あまり上下関係はない。

 

 

「3人?一夏とデュノア以外に誰かいるのか?」

 

 

「ああ、俺の妹がいる」

 

 

ラウラがそう聞いてきたので、俺はそう答える。

すると、

 

 

「え、一夏君って妹居るの!?」

 

 

清香が驚いた表情になる。

 

 

「俺に妹がいるのがそんなに不思議かよ」

 

 

「だって、聞いたこと無いよ!?」

 

 

「聞かれなかったからな」

 

 

聞かれてない事を、わざわざいう訳が無いだろう?

まぁ、何はともあれ。

 

 

「1組クラス代表として、俺が言おう。ようこそ1年1組へ、シャルロット」

 

 

俺は笑いながら右手を差し出す。

すると、シャルロットも笑いながら、

 

 

「うん、よろしく」

 

 

と言い、右手を差し出して握手をする。

こうして、シャルロットは正式に1年1組に転入してきた。

これからの学園生活も、賑やかになるな...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

深夜side

 

 

チクショウ!

何がどうなってやがる!

 

 

結局あの後、ラウラがVTで暴走することが無かったじゃねぇか!

なんでだよ!

なんで暴走しなかったんだよ!

俺の主人公としての見せ場が無かったじゃねぇかよ!

ふざけんな!

おかしいだろ!

なんでこの世界の主人公で、世界の中心である俺が全く活躍できなくて、なんで俺の踏み台でしかない一夏が活躍してんだよ!

ふざけんなよ、ふざけんなよぉ!!

 

 

いや、まだだ。

まだ臨海学校がある!

臨海学校での福音の暴走事件を俺が解決するんだ!

そうすれば、俺が主人公だと証明できる!

いや、それでけじゃまだ足りない。

ここで一夏を退場させてやる!

そうだ、どさくさに紛れて一夏の事を落とせば、ただの踏み台野郎にこれ以上活躍の場を取られなくて済む!

仮に完全に落とせなくてもISに乗れなくしてしまえば、もうIS学園にはいられないだろ!

そうすれば、俺の主人公としての立場を確立し、俺がハーレムを作るんだ!

待ってろよぉ...

 

 

そして、今日は月曜日。

朝のSHR前に、俺は教室にいる。

教室の前の方では、一夏が紙に何か書いてる。

あれ、そういえば、シャルロットがいない。

結局正体バレイベントは無かったし、トーナメントにもいなかった。

どうなってるんだ?

と、ここでチャイムが鳴り教室に教師2人が入って来る。

 

 

「本日は皆さんに転校生を...あ、いや、そうでもないのか...?まぁ、新しいお友達を紹介します」

 

 

は?

転校生?

.....まさか!?

 

 

「えっと...『PurgatoryKnights』所属、シャルロット・デュノアです。よろしくお願いします」

 

 

...はぁああああ!?

え、何がどうなってんだよ!?

シャルロットが、あの一夏と同じ企業所属!?

なんでだよ!

シャルロット問題は、取り敢えず時間稼ぎにしかならない方法で解決するんじゃないのかよ!?

なんで所属企業が変わるっていう事にまでなってんだよ!?

俺が混乱しているうちに、一夏がどんどん説明する。

 

 

「ああ、俺の妹がいる」

 

 

へぁ!?

い、妹ぉ!?

なんだよそれ!

一夏の家族は千冬だけじゃないのかよ!?

誰だよ、その妹って!

混乱している俺を置いて、一夏とシャルロットが握手している。

チクショウ、何がどうなってるんだよぉ!!

 

 

「フム、終わったな。織斑、デュノア、席に座れ」

 

 

「「はい」」

 

 

千冬の指示で、一夏とシャルロットが席に戻る。

 

 

「さて、今織斑とデュノアから説明があったが、デュノア社は『PurgatoryKnights』の傘下に入った。よって、訓練機のラファール・リヴァイヴの所有権も『PurgatoryKnights』に移った。あまり皆には関係ないかもしれないが、一応伝えておく」

 

 

千冬の説明で、クラスの奴らが頷く。

クソ、何でそんな簡単に受け入れてんだよぉ!!

 

 

「それでは、1時間目は4組と合同の体育だ。遅れないように体育館に移動しろ。特に男子2人」

 

 

「分かりました」

 

 

「は、はい」

 

 

何とか千冬の声掛けに反応できた。

危ない危ない。

叩かれるのは勘弁だからな。

 

 

「それでは、これでSHRを終了する」

 

 

千冬はそう言うと、山田先生と共に教室から出て行った。

一夏は直ぐに席を立つと、教室から出る。

俺も急いで教室から出る。

チクショウ、訳が分からない事が多すぎる!

だが、そんな事関係ない。

俺が、主人公なんだ!

俺が、英雄なんだ!

俺が、ハーレムを作るんだ!

 

 

 

 




無事に再転入できてよかったぁ。
トーナメントの時学園にいなかったからあまり活躍できなかったけど、これからは一夏の部下として頑張ってね!
書類仕事は一夏の担当だけど!

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

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体育の授業

IS関係ではない授業。
こういう日常も大事ですよね。

今回もお楽しみください!

UAが55000を超えました!ありがとうございます!


一夏side

 

 

シャルロットが再転入してきた日。

その日は1時間目から体育なので、俺は更衣室に移動した後直ぐに体操着に着替え、体育館に向かう。

IS学園の体操着は、何故か肩まで露出している上に、ブルマーという仕様だ。

男子は下は半ズボンなのだが、上は女子と共通なのだ。

深夜は特に気にせず着ているが、俺にはあんな体操着は着れない!

そんな訳で、俺は学園長に直接交渉をし、何とか特別製の体操着を着れる権利を獲得した。

俺の体操着は、色は通常のものと色は同じで、白生地に赤いラインが入っているもので、形はただの半袖Tシャツと半ズボンだ。

そして、制服と同じ位置に『PurgatoryKnights』のマークが付いている。

冬用に、同じデザインで長ジャージも持っている。

 

 

そして、俺は体育館に着いた。

この学園の体育館も、全校集会などが行われるため、生徒全員が入れるくらいには広い。

織斑先生が言っていた通り4組との合同授業なため、もう既にそこそこな人がいた。

まぁ、着替えること自体は男子の方が早いが、この学園では男子更衣室はアリーナにしかないので移動に時間が掛かる。

そのため、体育とIS実技には時間ギリギリにならないと到着できないのだ。

しかし、なんでこの学園は体操着にブルマーだなんて旧式のものを採用してるんだ?

なんかこう、弾とか数馬が中1の頃から変わってなかったら、歓喜しそうだな。

俺はクラリッサとチェルシー以外では興奮などしないから特に歓喜などという感情は分からないんだけどな。

 

 

「あ、一夏」

 

 

「お、簪か」

 

 

そんな事を思っていると、簪が声を掛けて来た。

 

 

「.....なんか、元気ないか?」

 

 

簪は、何となく元気が無いように見える。

俺がそう聞くと、簪は頷いて、

 

 

「...動きたくない」

 

 

と言った。

それを聞いた俺は、苦笑いするしかなかった。

簪はアニメや漫画が大好きで、休日は部屋でずっと見ている、完全なインドア派らしいのだ。

だから、身体を動かすしかない体育は苦手なんだろう。

 

 

「ISは大丈夫なのに、体育は駄目なのか?」

 

 

「うん。ISは良いんだけど、体育は...特に、球技が駄目」

 

 

「そ、そうか.....」

 

 

ISの方が激しく動くと思うんだけどなぁ...

俺がそんな事を考えていると、

 

 

「全員集まっているな、整列!」

 

 

織斑先生が開口一番指示を出す。

生徒たちは直ぐに1組と4組に分かれて、そのまま整列する。

この間3秒。

もうみんな、完全に織斑先生の指示に反応する速度が最高速度になってる。

 

 

「さて、本日から体育ではバスケットボールを行う!ただし、身体能力の関係上、男子2人には別の事をしてもらう」

 

 

「織斑先生、その別の事とは?」

 

 

女子に混ざって球技が出来る訳が無いのは理解しているので、俺はその別の事の内容を聞く。

 

 

「男子2人には、私の目が確認できるところで基礎トレーニングをしてもらう。1人はステージ上、もう1人は体育館の入り口だ。今じゃんけんして決めろ」

 

 

織斑先生から指示を貰ったため、俺は深夜とじゃんけんするために移動する。

 

 

「「最初はグー、じゃんけんポン」」

 

 

俺がチョキ、深夜はパー。

俺の勝ちだ。

 

 

「じゃあ、ステージで」

 

 

俺はステージでやる事を織斑先生に伝える。

織斑先生は頷くと

 

 

「良し、それでは準備体操をした後、体育館を5周だ!その後、女子は再整列、男子はトレーニングを開始!」

 

 

『はい!』

 

 

織斑先生の指示に従い、全員一斉に準備体操を開始する。

この準備体操が、運動の中で一番大事だと言っても過言ではない。

これを怠ると、怪我をする可能性がぐんと高まるからな。

そして、準備体操が終わったから、体育館5周か...

少ないな。

20周はしても良いんじゃないですかね、織斑先生。

そんな事を思いながら、俺は軽めに走る。

軽めに走ったのに、何故かラウラたちを2周くらい周回遅れにした。

全く、代表候補生ならこれくらいは出来ないと。

そんな事を思いながら、俺は取り敢えずステージに上がる。

 

 

「ディミオス、何したらいいと思う?」

 

 

俺がディミオスにそう尋ねると、ディミオスはSDで出てくる。

 

 

《そうだな...切り合うか?》

 

 

「いいね、それ。じゃあ、重り持ってくるから、模造剣頼んだ」

 

 

ディミオスの提案を採用した俺は、そのまま重りを持ってきてそのまま身に着ける。

両腕と両足と腰、合計5個。

1個10Kgなので、50Kg。

ディミオスが模造剣を持ってくるまで暇なので、軽く筋トレをする。

良い感じに身体が温まって来たところで、ディミオスが模造剣を2本持ってきた。

俺はその内片方を受け取る。

 

 

《ルールは如何する?》

 

 

「ステージから出る、又は降参で負け。あとは、怪我をしないようにする。これくらいでいいかな?」

 

 

《了解した》

 

 

ディミオスはそう言うと、模造剣を構える。

SDのままだが、侮ってはいけない。

ディミオスはSDのままでも十分すぎる身体能力を有している。

俺はディミオスの事を見据えたまま、模造剣を構える。

俺が先程していた筋トレで発生していた汗が、床に落ちる。

その瞬間に、俺は床を思いっ切り蹴り、模造剣を振るう。

ディミオスもそのまま模造剣で俺の攻撃を防ぐ。

 

ガキィ!

 

そんな鈍い音が響く。

なんか視線を感じるが、気にせず俺とディミオスは切り合う。

俺は何度もディミオスに攻撃をするが、避けられて、時には捌かれてしまう。

SD形態は、通常の姿よりパワーはないものの、その分小回りが利くため、簡単に避けられてしまう。

俺が剣を振り抜いたタイミングで、ディミオスは俺に向かって遂に攻撃してくる。

だが、俺は振り抜いた勢いのまま身体を倒し、低い位置から再度攻撃をする。

ディミオスはこれに気付いたようで、攻撃を中断しそのまま模造剣で俺の攻撃を受ける。

 

ガキィ!

 

と、また鈍い音が響く。

 

 

《フム、中々やるようになったな》

 

 

「そりゃ、如何も!!」

 

 

俺はそのままディミオスの持つ模造剣を押しのけると、突き攻撃を行う。

ディミオスはそれを躱すと反撃してくる。

俺はそれを避け、体制を整える。

それからは、攻撃、防御、反撃、防御の繰り返し。

 

ガキィ!ガキィ!ガキィイ!

 

何度も模造剣同士がぶつかる。

攻撃もどんどん激しくなっていくが、身体の動き自体は最小限に抑える。

身体が大きく動くというのは、それだけ隙を生みやすいという事。

ディミオス達バディモンスター相手では、生身だとその隙が命取りになる。

それは、ダークネスドラゴンWでの修行で嫌という程理解させられたからな。

そんな応戦を繰り返していると、

 

バキィイ!!

 

と、今までとは違う音が鳴る。

 

 

「《ち、折れたか》」

 

 

俺とディミオスの声が重なる。

そう、何度もぶつけ合ったからか、俺とディミオスの持つ模造剣は同時に折れてしまった。

俺とディミオスは、取り敢えず破片を集めてから、ステージ上に座る。

そして、俺は身に着けていた重りを外す。

と、ここで体育館にいるすべての人間が俺とディミオスの事を見ているのに気付いた。

 

 

「...バスケしないんですか?」

 

 

俺はそう呟く。

この時間は、バスケの時間だったはずだ。

それなのに、俺とディミオスの切り合い訓練を見てて良いのか?

俺がそんな事を思っていると、

 

 

「織斑...ステージでそんな事をして、集中できるとでも思っているのか?」

 

 

織斑先生がそう言ってきた。

そんな事ってなんだ?

 

 

「ただの訓練じゃないですか」

 

 

「いや、一夏。あれは訓練ではない。ただの戦闘だ」

 

 

ラウラがそう言うと、体育館にいる人間全員が頷く。

 

 

「えー、戦闘だったらもっと激しいよな、ディミオス」

 

 

《ああ、戦闘だったら我はSDではないし、そもそも得物は模造剣ではない》

 

 

「それに、わざわざ場外負けのルールも作らないよなぁ」

 

 

いやぁ、ダークネスドラゴンWで何回死を覚悟したことか...

ん、おいおい、ラウラ。

なんでそんな軽く引いたような表情になる。

セシリア?シャルロット?簪?織斑先生?

それに清香たちまで...

泣くぞ。

俺がそんな事を思っていると、

 

 

「おい一夏!ふざけているのか!」

 

 

篠ノ之がそう叫びながら近づいてきた。

ふざけてるのはお前だろ。

今授業中だぞ。

 

 

「何だ篠ノ之。俺は別にふざけていない」

 

 

本当は反応すると逆効果かもしれないが、反応しなかったら反応しなかったでこのアホは暴れるので、反応しない訳にはいかない。

周りを見ると、織斑先生は思いっ切りため息をつき、セシリア達は嫌そうな表情になる。

ただ、シャルロットだけはあまり篠ノ之と関わってこなかったので良く分かってなさそうだ。

これは、後でキチンと篠ノ之とは関わるなと言っておかないといけないな。

 

 

「何故篠ノ之流剣道を使わん!そんな邪道な剣は捨てて、剣道をしろ!」

 

 

あ?

今コイツはなんつった?

邪道な剣...だと.....

 

 

「ふざけるのもいい加減にしろ篠ノ之ぉ!!お前に、何が分かるってんだよぉ!!!」

 

 

この戦い方は、ディミオス達煉獄騎士団が、長い年月を掛けて作って来たものだ。

確かに、煉獄騎士団は一度道を踏み外している。

そうだったとしても、今はこうやって自分たちの罪と向き合い、償いをしている。

そんな誇りを、邪道だと...?

少なくとも、篠ノ之が言っていいことでは無い!

 

 

「一夏!お前、幼馴染に何て口をきくんだ!」

 

 

「何度も言ってるだろ!俺とお前は幼馴染では無い!」

 

 

俺はそう言いながら、ステージから降りる。

篠ノ之はプルプルと腕を振るわせて、

 

 

「一夏ァァァァ!!」

 

 

と叫びながら突っ込んで来た。

正直、このまま殴ってやりたいが、そんな事はしない。

俺は篠ノ之の腕と胸元を掴むと、そのまま地面に叩き付ける。

背骨の1、2本折ってもいい気がするが、会社に迷惑が掛かるので、気絶にとどめておく。

 

 

「.....織斑先生、どうしますか?」

 

 

「.....生徒指導室に運んでおく。さて、諸君!時間も時間なので、少し早いが1時間目を終了する!2時間目に遅れないように!解散!」

 

 

織斑先生の指示に従い、皆体育館から出て行く。

俺も篠ノ之を織斑先生に渡し、更衣室に向かう。

ディミオスは何も言わずに俺に付いてくる。

こうして、気分を害したまま1時間目は、終了した。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

時間は進み、昼休み。

今現在俺は深夜を除く1年生の専用機持ち全員と食堂で昼食を食べていた。

 

 

「そ、そうなんだ...じゃあ、篠ノ之さんとはあまり関わらないようにするよ」

 

 

「そうした方が良いですわ」

 

 

シャルロットにも篠ノ之の問題児っぷりを話したから、これで大丈夫。

 

 

「それにしても、またやらかしたのね」

 

 

鈴はそう言いながらラーメンを啜る。

今この場にいる人物の中で唯一体育館にいなかったから、こんな感想になるんだろう。

 

 

「ああ、そうだ。もしかして、アイツの家系はそう言う人間が多いのか?」

 

 

ラウラは首を傾げながらそう言う。

おいおい、それは流石に失礼だぞ。

 

 

「いや、あのアホのご両親は立派な人だった。子供たちへの武道の教えをしていた人で、千冬姉の戦い方の基礎はそこで習ったものだ」

 

 

「織斑先生は...ていう事は、一夏の戦い方は違うの?」

 

 

俺がそう説明をすると、簪が首を傾げる。

 

 

「ああ、俺が色んな世界を旅している時に出会った人たちの教えを1つ1つ取り入れてるんだよ」

 

 

実際にファイトではそこまで活かせない事が多いが、確実にバディワールドでの修行は俺の為になっている。

 

 

「それに、忘れてるかもしれないが、あのアホのお姉さんは束さんだぞ」

 

 

「「「「「あ...」」」」」

 

 

フム、完全に忘れられているようだ。

 

 

「束さんは束さんでヤバい人だが、少なくともあのアホよりはましだ」

 

 

「篠ノ之博士って、ヤバい人なの?」

 

 

簪がそんな事を聞いてくる。

 

 

「ISを造って世界を混沌に陥れて失踪した人だぞ?尊敬できるところ(会社への貢献)もあるが、ヤバい事の方が多い」

 

 

俺がそう言うと、5人は少し納得したような表情になった。

うん、やっぱりこの説明だけでヤバい人判定できるくらいには、色々やらかしてる。

俺はそんな事を思いながら昼食を食べ終わる。

すると背後から

 

 

「お前が織斑一夏か?」

 

 

と声を掛けられる。

俺が振り返ると、そこにいたのは、

 

 

「ダリル・ケイシー先輩」

 

そう、ダリル先輩だった。

俺は直ぐに立ち上がり、身体ごとダリル先輩の方を向く。

 

 

「初めまして。社長のスコールからは話を聞いています。これからよろしくお願いします、ダリル先輩」

 

 

「おう、よろしくな。それと、私の事は普通にダリルで良いぜ。ダリルお姉ちゃんも可」

 

 

そう言うと、ダリル先輩はニシシと笑う。

うん、大分フランクリーな人だ。

それでいて、何か付いて行きたくなるような安心感がある。

千冬姉も安心感があるが、ダリル先輩みたいな性格の姉も欲しかった。

 

 

「じゃあ、よろしく願いします、()()()()()()()()()?」

 

 

俺は笑いながらそう言い、右手を差し出す。

ダリル姉は、

 

 

「お、おう...」

 

 

そう言いながら俺の右手を握り、握手をする。

んあ?

心なしかさっきまでより顔が赤い。

なんで照れてんだ?

 

 

「あ、ダリル、ここにいたっスか?」

 

 

ここで、別の方向から新しい声を掛けられる。

その方向に振りむくと、そこにいたのは

 

 

「フォルテ・サファイア先輩」

 

 

2年生のフォルテ先輩だった。

発言から察するにダリル姉を探していたみたいだ。

 

 

「お、フォルテ。すまないな」

 

 

ダリル姉はそう言うと、フォルテ先輩に近付き、後ろから抱き着く。

 

 

「...お2人の関係性は?」

 

 

何となく気になったので聞いてみる事にした。

すると、2人は

 

 

「恋人だ」

 

 

「こ、恋人っスね...」

 

 

という。

 

 

「へー、ダリル姉同性愛者だったんですね。お2人とも、お幸せに」

 

 

2人の女性と同時に付き合っている俺としては、特に思う事は無い。

普通に、恋人同士は幸せになるべきだと思う。

 

 

「ダリル姉?」

 

 

フォルテ先輩が首を傾げる。

まぁ、それは当然か。

 

 

「ダリル姉が、『ダリルお姉ちゃんも可』との事だったので」

 

 

「な、なるほどっス」

 

 

この説明で、フォルテ先輩も納得したようだ。

 

 

「じゃあ、私もフォルテ姉でいいっスよ」

 

 

フォルテ先輩は、冗談半分と言わんばかりの表情でそう言ってくる。

まぁ、許可を貰ったなら、

 

 

「じゃあ、これからよろしくお願いします、()()()()()

 

 

そう呼ぼうかな?

俺は笑いながらそう言う。

するとフォルテ姉は、少し顔を赤くしながら

 

 

「よ、よろしくっス...」

 

 

と言ってきた。

...何で照れるんだ?

すると、ダリル姉とフォルテ姉は、此方に背を向けてヒソヒソと話し出す。

 

 

「何だアイツ!カワイイ!」

 

 

「ほ、本当に弟みたいっス...」

 

 

...男にかわいいとか使うもんじゃ無くないか?

まぁ、何はともあれ、

 

 

「お2人とも、俺の事は一夏で良いので。これからよろしくお願いします」

 

 

もう一度、俺はそう言うと、

 

 

「「ああ、よろしくな(よろしくっス)。一夏」」

 

 

と言ってきた。

こうして、俺は今日で姉(的な人)が2人増えた。

妹的立ち位置は増えていくのに、姉は増えていかなかったので、普通に嬉しい。

これからも、賑やかになりそうだなぁ...

 




ダリルとフォルテが、何時の間にやら一夏のお姉ちゃん(的立ち位置)になってた。
なんで?
まぁ、いいか。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想や誤字報告もよろしくお願いします!


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生徒会室へGO!

サブタイまんまの今回。
漸く生徒会室に一夏が行きます。

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

ダリル姉とフォルテ姉の2人と関わりだしてから、そこそこの時間が過ぎた。

今は6月の中旬。

もう直ぐで、1年生は校外学習である臨海学校がある。

そんなある日の昼休み、俺は教室で缶コーヒーを飲みながら仕事をしていた。

篠ノ之は、暴行未遂との事で反省文50枚だけだったのだが、あの後直ぐに鉄パイプを持って暴れたため俺が撃退。

そのまま篠ノ之は臨海学校までの自室謹慎となった。

なんで夏休みまで謹慎出来ないんだとも思うが、国際IS委員会からの、訓練機の所有権を使った脅しには従うしかない。

全く、メンドクセェなぁ...

そんな事を考えながら俺が書類をめくる。

その書類は、発展途上国支援プロジェクトの書類だった。

その内容を見て、頭を抱える。

 

 

「人手が足りんかぁ.....」

 

 

そう、その内容とは実際に発展途上国に行って支援行う人間がいないとの事だった。

このプロジェクトは、やはり直接行かないといけないので、かなり体力が求められる。

欲を言えば、軍に所属しているIS操縦者並みの身体能力が欲しい。

だが、そんな人材はいない。

 

 

「仕方が無い、プロジェクトの開始が遅れてしまうが、一般公募して訓練するか。まぁ、もしかしたらバッチリ人材が見つかる可能性もあるから、そっちの準備もさせておくか...」

 

 

俺はそう呟き、その書類を終わらせる。

そうしてすべての書類を終わらせたとき、

 

 

「一夏くーん!」

 

 

と、廊下から声を掛けられる。

 

 

「何ですか、楯無さん」

 

 

その声を掛けて来た人物は、楯無さんだった。

俺は自席を立ち、廊下に出てから楯無さんの元に向かう。

 

 

「一夏君、今日の放課後生徒会室に来れる?」

 

 

俺が近付くと、楯無さんはそんな事を言ってくる。

放課後か...

 

 

「特に問題は無いですが...何で今日なんですか?」

 

 

俺はそう質問をする。

仕事は今丁度終わらせたので問題は無いのだが、急に言われたので疑問に思うのは普通だと思う。

 

 

「今日が急に暇になったからよ」

 

 

楯無さんはそう言う。

急に暇になったからって...

俺は暇つぶしのおもちゃじゃないんだぞ。

まぁ、いいか。

 

 

「分かりました。では放課後、生徒会室に行きますね」

 

 

「うん、待ってるわね!」

 

 

楯無さんはそう言うと、どっかに行ってしまった。

全く、忙しい人だな...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

放課後。

俺は楯無さんに言われた通り生徒会室に向かっていた。

だが、生徒会室に向かっているのは俺1人ではない。

 

 

「簪も呼ばれたんだな」

 

 

そう、俺の隣には同じく生徒会室に向かっている簪がいる。

 

 

「うん、昼休みに、みんなと食堂でご飯を食べてたら、お姉ちゃんが『簪ちゃん!!放課後生徒会室に来て~!!』ってうるさかったから」

 

 

「あ、あはははは...」

 

 

楯無さん、簪にうるさいって言われちゃってますよ?

そんなので良いんですか?

それから、簪と雑談をしながら生徒会室に向かう。

IS学園の敷地が頭おかしいくらいには広いとはいえ、生徒会室はその名の通り生徒会が使用をする部屋なので、生徒教室からそこまで離れている訳でも無い。

大体10分ぐらいで生徒会室の前に着いた。

俺と簪は一応身だしなみを整えると、扉をノックする。

 

 

「織斑一夏と更識簪です。入ってもよろしいですか?」

 

 

『あ、入っていいわよ~~!』

 

 

入室の許可を貰ったので、俺は扉を開ける。

 

 

「「失礼します」」

 

 

簪と共にそう言い、生徒会室に入る。

生徒会室の中には3人の人間がいた。

 

 

「一夏君、簪ちゃん、いらっしゃ~い」

 

 

楯無さんと、

 

 

「あ、かんちゃん、おりむ~!!」

 

 

のほほんさんと、

 

 

「わざわざすみません」

 

 

3年生の先輩。

確かこの人は、布仏虚先輩...だったはず。

 

 

「本音と虚さんもいたんですか」

 

 

簪がそう言ったので、この人は布仏虚先輩で間違いないようだ。

 

 

「織斑君とは初めましてですね。生徒会会計の布仏虚です。よろしくお願いします。私の事は虚で良いですよ」

 

 

「織斑一夏です、此方こそよろしくお願いします。自分の事も一夏で大丈夫です」

 

 

取り敢えず、俺は虚さんと挨拶を交わす。

初対面の挨拶が一番大事な気がするからな。

それにしても、

 

 

「のほほんさんも生徒会だったんだね...」

 

 

正直に言おう、イメージと違い過ぎる。

 

 

「この学園の生徒会はね、会長は最強じゃないといけないけど、それ以外のメンバーは会長が決めれるの」

 

 

だから何だよ、そのシステム。

普通に選挙で決めようや。

 

 

「だから、取り敢えず幼馴染の虚ちゃんと本音を生徒会に入れたのよ」

 

 

...まぁ、システムに対して思う事はあるが、なんでこのメンバーなのかの理解は出来た。

簪がいないのも、メンバーを決めた時にはまだ和解してなかったからだな。

 

 

「それでお姉ちゃん、今日呼んだ理由って何?」

 

 

簪が楯無さんにそう質問をする。

確かに、簪の話を聞く限り来てとしか言われていないらしい。

そんな質問が出るのは当然か。

 

 

「もしかして、お2人とも理由を聞いていない感じですか?」

 

 

「はい、私はお姉ちゃんに『来て』としか言われてないです」

 

 

「俺も、『急に暇になったから』としか言われてないです」

 

 

虚さんが俺と簪にそう聞いてきたので、俺と簪は素直に答える。

すると、虚さんはギロっと楯無さんの事を見る。

 

 

「お嬢様!何で説明して無いんですか!」

 

 

そして、楯無さんに対してそう言う。

如何やら、理由を説明しなかったのは楯無さんの独断らしい。

 

 

「そ、そっちの方が面白いじゃない」

 

 

楯無さんは余裕ぶってそうだが、何となく余裕のなさがにじみ出ている。

独断での行動は控えた方が良いですよ?

 

 

「虚さん虚さん、それくらいにしておいた方が...」

 

 

「そうだよ~、おね~ちゃん落ち着いて~~」

 

 

俺とのほほんさんが宥めると、虚さんはいったん落ち着いたようだ。

それにしても、()()()、か...

 

 

「それで、本当に何で呼んだんですか、楯無さん」

 

 

今の会話で、ただ暇だから呼んだ訳ではない事が分かった。

俺が呼んだ理由を尋ねると、楯無さんは扇子を取り出す。

 

 

「一夏君、簪ちゃん、今この生徒会には人数が足りないの」

 

 

「人数?」

 

 

簪が首を傾げる。

 

 

「今生徒会には、3人しかいないの。私が会長、虚ちゃんが会計、本音が書記。生徒会には、後副会長と庶務が必要なの」

 

 

確かに、3人では生徒会は成り立たないだろう。

...察した。

 

 

「だから、一夏君と簪ちゃんには生徒会に「嫌です」何で!?」

 

 

俺が楯無さんの言葉を遮って断ると、楯無さんが驚いた声を上げる。

簪や虚さんも、俺の断る速度に驚いているようだ。

 

 

「まだ全部言ってないじゃない!」

 

 

「どうせ生徒会に入れ、ですよね?」

 

 

俺がそう言うと、楯無さんは扇子を開く。

 

『そのとおり!』

 

なんで会話が成立してるんですかねぇ。

不思議な扇子だ。

 

 

「一夏君には副会長してもらおうと思ってたのに!」

 

 

「なおさら嫌です」

 

 

「理由は!?」

 

 

楯無さんは俺が断る理由を聞いてきた。

 

 

「会社の仕事が忙しいので無理です」

 

 

ただでさえ休み時間を削って仕事してるのに、生徒会の仕事などしている暇はない。

睡眠時間やトレーニング時間、クラリッサとチェルシーとの連絡時間を削れば出来るのかもしれないが、睡眠時間はコンディションを整えるのに必要最低限の時間しかしてないし、トレーニングを止めるのは言語道断だ。

そして、クラリッサとチェルシーとの連絡時間は一番削れない。

俺の忙しさや時差の関係もあって長い時間は取れないのだが、これは何にも代えられない時間だ。

出来るだけ多くの時間を取るために、わざわざ時計を2個買ってドイツのシュヴァルツェ・ハーゼの基地がある場所の時間とイギリスのオルコット家の屋敷がある場所に時間に合わせたのだ。

 

 

「そこを何とか!形だけでいいから!」

 

 

楯無さんはそう言いながら頭を下げる。

いや、形だけじゃダメでしょう。

そもそも、俺が副会長になって何かメリットがあるのか?

...そうだ、この状況を使ってずっと聞きたかったことを聞いてしまおう。

 

 

「俺の質問に噓偽りなく答えたら、検討ぐらいはしてあげますよ」

 

 

「本当に!?」

 

 

「ええ、答えれたらですけど」

 

 

俺がそう言うと、楯無さんは思いっ切り胸を張る。

 

 

「おねーさんに任せなさい!何でも答えてあげるわ!それに、虚ちゃんもいるんだから!!」

 

 

「私頼みですか...」

 

 

楯無さんの言葉を聞いて、虚さんはため息をつく。

何となくだが、虚さんは苦労人なんだろう。

 

 

「じゃあ、質問なんですが...」

 

 

俺はそう言いながら、楯無さん、簪、虚さん、のほほんさんと、順番に全員の顔を見る。

そして、俺はその言葉を口に出す。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()?()

 

 

その瞬間、生徒室が静寂に包まれる。

楯無さんは、目を細めて俺の事を睨むようにして見てくる。

 

 

「...何で、そう思うのかしら?」

 

 

「否定はしないんですね」

 

 

つまりは、肯定で良いんだな。

楯無さんは何も反応しない。

簪たちは、なんかオロオロしている。

俺はそれを確認しながら、3本指を立てる。

 

 

「1つ、初対面の時のかなり訓練されたストーキング技術」

 

 

「え、お姉ちゃん、一夏の事をストーキングしてたの...?」

 

 

俺がそう言うと、簪は驚愕の声をあげて楯無さんの事を見る。

その視線は、何処か軽蔑が混ざっているような気がする。

 

 

「違うわよ!尾行って言いなさい!」

 

 

「...尾行はしてたんだ」

 

 

簪と楯無さんが何か言い合っているが、俺は気にせず続きを話す。

 

 

「2つ、初対面の時に襲って来た時の攻撃の仕方。あれは確実に闇討ちの仕方」

 

 

真正面からだったから分かりずらかったが、あれは確実にただの格闘技ではない。

 

 

「3つ、少しはみ出てて完全に隠しきれてない、棚の中の大量の簪の隠し撮り写真」

 

 

「ウソ!?完璧に隠したはずなのに!?」

 

 

楯無さんは慌てて生徒会室の中でも1番大きくて中が見えないタイプの棚の方を向く。

 

 

「...本当にあるのかよ」

 

 

「お姉ちゃん...」

 

 

「ハッ!騙された!?」

 

 

そう、楯無さんが見た棚からは、写真などはみ出ていない。

それに俺はどの棚とも言っていないのに、楯無さんは迷いなくその棚の事を見た。

つまりは、あの棚に確実に簪の隠し撮り写真があるという事。

俺はその棚の前に移動する。

 

 

「ちょ、一夏君!?それだけは、それだけはぁ~~!!」

 

 

楯無さんの悲鳴を無視して、俺は棚を開ける。

するとそこには、確実に1000枚を超えているであろう枚数の写真があった。

簪とのほほんさんと虚さんが俺の近くにやって来る

 

 

「簪ちゃん!駄目!」

 

 

「ディミオス!」

 

 

《邪魔はしないでもらおう》

 

 

楯無さんが叫びながらこちらに迫って来たので、ディミオスに頼んで足止めをしてもらう。

そして、簪たち3人と共に写真を確認する。

それらに移っているのは全て簪で、どっからどう見ても隠し撮り写真だった。

しかも、角度的にただ隠れて撮っただけではなく、屋根裏等々の訓練していないといけないような場所から撮られたものばかりだ。

 

 

「あ、あああぁぁぁぁ」

 

 

楯無さんは、絶望したような表情で膝から崩れ落ちる。

 

 

「お姉ちゃん...」

 

 

「お嬢様...」

 

 

「楯無様...」

 

 

簪、虚さん、のほほんさんの順でそう言う。

のほほんさんの真剣な声初めて聞いた。

俺はそんな事を考えながら、何故かある紅茶を淹れる。

そして、その紅茶を楯無さんに差し出す。

 

 

「これでも飲んで落ち着いて下さい」

 

 

「ありがとう~~」

 

 

楯無さんはそのまま受け取ると、チビチビと飲み始める。

 

 

「...随分と手際が良いんですね」

 

 

虚さんがそんな事を言ってくる。

 

 

「そうですかね?」

 

 

「ええ、よく紅茶を淹れる私と同じくらいの手際でしたよ」

 

 

「そうなんですか。普段はコーヒーしか淹れないので、そう言ってもらえると嬉しいですね」

 

 

そんな会話を虚さんとしていると、楯無さんが

 

 

「あ!?」

 

 

と声を上げる。

俺達4人が一斉に楯無さんの方を向くと、

 

 

「私、元凶に励まされた!?」

 

 

と声を上げる。

 

 

「元凶とは失礼な。元はと言えば、簪の盗撮をした楯無さんが悪いんでしょう」

 

 

「...はい」

 

 

楯無さんが、しゅん、と言った感じで肩を落とす。

 

 

「.....これ、なんの話だったっけ?」

 

 

ここで、簪がそう言葉をこぼす。

のほほんさんも首を傾げている。

俺はそれに対して苦笑いしながら続きを話しだす。

 

 

「以上3つの理由から、俺は楯無さんが暗部、もしくはスパイ組織の所属だと判断した」

 

 

俺がこういった事で、簪とのほほんさんはこれが何の話だったのか思い出したようだ。

 

 

「そして、日本人なのにロシアの国家代表IS操縦者をしている時点で、何か特別な立場にいることは確定している」

 

 

楯無さんも、簪も、虚さんも、のほほんさんも、誰も何も言わない。

 

 

「最後に、虚さんの『お嬢様』発言、そしてのほほんさんが簪の幼馴染だという事。それら全てを考慮すると、更識家が大下の組織で、布仏家が仕える家...で、間違ってませんか?」

 

 

俺が最後にこう言うと、楯無さんは扇子を開く。

 

『正解!』

 

...だから何だよ、その扇子。

俺がそんな事を思っていると、楯無さんが口を開く。

 

 

「更識は、対暗部用暗部。そして私は、その17代目当主。『楯無』は、更識の当主が代々継いでいく名前よ」

 

 

「おお、思ってたよりも大きい組織だった」

 

 

17代...大分長い事続いてるな。

だが、キョウヤさんの臥炎財閥だったり、ウィズダムさんのCCCも大分長い事続いてるからな。

そこまで驚きはしない。

 

 

「一夏、感想はそれだけなの?」

 

 

簪が呆気に取られたような表情と声でそう言ってくる。

虚さんやのほほんさんも同じ様な表情を浮かべている。

 

 

「それだけですよ。強いて言うなら、俺のプライベートだったり『PurgatoryKnights』の情報を探ろうとしたら、それ相応の仕返しがある、と思っていただきたいぐらいですかねぇ~」

 

 

「それ相応...って、何?」

 

 

楯無さんがそう聞いてくる。

俺は笑いながら、

 

 

「優秀な幹部の人を雇うとか」

 

 

そう言う。

俺は人事権を一応持っているので、やろうと思えばできる。

俺の言葉を聞いた4人は顔が引きつってる。

おやおや、暗部ならこれくらいは普通じゃないんですか?

 

 

「何はともあれ、俺がただ単に気になってた事を聞いただけなので。これからも、仲良くしてもらえると嬉しいですね」

 

 

俺はそう言いながら、楯無さんに向かって右手を差し出す。

すると、楯無さんも笑いながら、

 

 

「フフ、勿論」

 

 

と言って、俺の右手をを握り返す。

ふぅ...良かった。

途中から仲悪くなったらどうしようかと思ってたぜ。

さて、次にすることは...

 

 

「簪、寮の部屋の確認をしよう。隠しカメラや盗聴器があるかもしれない」

 

 

「ッ!分かった!」

 

 

「虚さんとのほほんさんは楯無さんの部屋の確認をお願いします。受信する側がある可能性が高いので」

 

 

「分かりました!主の行動を正すのも私の役目なので!」

 

 

「お~!任せろ~~!」

 

 

この大量の隠し撮り写真を見て、寮の部屋を確認しない訳にはいかないからな。

 

 

「ちょ!?何かってに決めてるの!それに虚ちゃん!?何で私の指示よりイキイキしてるの!?」

 

 

そんな楯無さんを無視して、俺達4人は二手に分かれて行動をする。

 

 

「待って!待ってぇ~~~!!」

 

 

楯無さんの悲鳴をBGMにしながら。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「案の定出て来たな」

 

 

《しかも、これだけ大量にな》

 

 

学生寮の簪とのほほんさんの部屋。

俺とディミオスと簪で部屋を漁った結果、隠しカメラ26台、盗聴器7台という多すぎる量となった。

簪はショックを受けたようで、さっき洗面所に行ってから戻ってこない。

 

 

「それにしてもディミオス、今日なんかおかしくないか?」

 

 

《ああ。廊下にも教室にもグラウンドにも寮にも誰もいない。吹奏楽部等の音が鳴る部活の音も聞こえない》

 

 

そう、生徒会室からここに来るまでの間で、人を見ていないし、音も聞こえない。

辛うじて体育館方面からの音は聞こえたが、部活をしている感じではなかった。

何をしているんだろうか?

俺がそんな事を思っていると、簪が洗面所から戻って来た。

だが、足元がおぼついている。

 

 

「簪、無茶すんな。ベッドで横になってろ」

 

 

「...うん、そうする」

 

 

簪は素直に俺の言う事を聞いて、ベッドに入る。

 

 

「水の用意しようか?」

 

 

「お願い」

 

 

そう言われたので、俺はコップを取り出してその中にミネラルウォーター注ぎ、簪に差し出す。

簪はそれを受け取ると、そのまま一気に飲み干す。

 

 

「...まぁ、ショックは大きいだろうが、一応楯無さんとは仲良くな」

 

 

「うん...でも、暫くは顔を合わせられない」

 

 

《それはそうだろうな》

 

 

ディミオスの言う通りだ。

千冬姉が俺やマドカに対してあんなことをしていたら、多分俺は一発殴る。

殴った後に、家族会議だ。

 

 

「まぁ、生徒会に入る云々は誤魔化したし、大丈夫だろ」

 

 

「あ、そういえば...」

 

 

そう、結局生徒会室の会話で俺と簪は生徒会に入るなど一度も言っていない。

 

 

「簪、教室とかがやけに人がいないけど、何か知ってる?」

 

 

取り敢えず、俺は簪にもその事を聞いてみる。

すると、簪は身体をビクッと振るわせた後、

 

 

「い、いや?知らないよ?」

 

 

ダウト。

絶対に何か知ってる。

 

 

「ほーん、そうか...体育館にでも行こうかな~~~」

 

 

「駄目!」

 

 

ほらぁ。

この反応は何か知ってるな。

 

 

「まぁ、俺に危害が無いならいいけどさ...」

 

 

俺はそう言いながら、コップにもう一度ミネラルウォーターを注いで簪に渡した後、ディミオスと共に部屋の入り口に移動する。

 

 

「じゃあ簪。俺は帰るから。このゴミは俺で処分しておくよ」

 

 

「うん、よろしく。一夏、ありがとうね」

 

 

簪の返答を聞いてから、俺は隠しカメラと盗聴器をゴミ袋に放り込んで部屋から出る。

 

 

《更識楯無の部屋に行くか?》

 

 

「あ~、そうだな。虚さんとのほほんさんにも見てもらった方が良いか」

 

 

ディミオスの言葉で、俺は行き先を楯無さんの部屋に変更。

そのまま移動を開始する。

さて、虚さん達はどんな反応になるんだろうかねぇ...

 

 

 

 




会長...何やってるんですか。
簪がショックで軽く体調崩しちゃいましたよ?

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想や誤字報告もよろしくお願いします!


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織斑一夏ファンクラブ

サブタイでの盛大なネタバレ。
許してぇ...

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

生徒会室で一夏達が会話している時。

IS学園に在籍している殆どの生徒が体育館に集まっていた。

ここにいない生徒は、生徒会室にいる一夏、楯無、簪、虚、本音と自室謹慎の箒、そして深夜くらいだ。

生徒以外に教師も何人か集まっている。

 

 

そんな人が集まっている体育館。

そのステージにマイクを持って上がる人物が1人。

新聞部副部長の薫子だ。

 

 

『皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。本日は私、黛薫子が司会進行を務めさせて頂きます』

 

 

何時になく真面目で違和感がありまくるが、それに対して反応は無かった。

薫子はそのまま発言を続ける。

 

 

『早速ですが、本日の本題を始めたいと思います』

 

 

薫子のその発言で、体育館内の雰囲気がガラッと変わる。

みんな、緊張した面持ちで薫子の事を見ている。

薫子はそんな視線を全身に受けながらも動じずに、

 

 

『今ここに!織斑一夏ファンクラブ、〈親衛騎士団〉の発足を宣言します!!』

 

 

そう、マイクに向かって叫ぶ。

その瞬間、

 

 

『わぁああああああああ!!!!』

 

 

と、体育館に集まっているすべての人間が一切に声を上げる。

そう、この集まりは、一夏のファンクラブである〈親衛騎士団〉の発足会だ。

 

 

『このファンクラブは、生徒会の認証を得ている部活動と同じ学園組織です!』

 

 

一夏本人の公認は受けていない非公認ファンクラブなのだが、それは関係が無いようだ。

 

 

『織斑一夏の事を尊敬している人、憧れている人、ガチ恋している人、様々いると思います!そんな人達全員で、織斑一夏の事を推していきましょう!』

 

 

『おおおおおおおおおお!!』

 

 

最後の薫子の言葉に同調する様に、全員が声を上げる。

薫子はそれを確認すると、新しい話を話し始める。

 

 

『さて、皆さんには体育館に入るときに名簿に名前を書いていただきました。あの行為ですでに〈親衛騎士団〉への加入は完了しています!1週間後に会員カードを寮の部屋のポストに入れておきます!』

 

 

このファンクラブは、運営側もかなりの気合が入っているようだ。

因みにだが、生徒会室にいる面々も、一夏本人以外は加入している。

 

 

『本日は、〈親衛騎士団〉の初回集会という事で、織斑一夏と関わりが深い4名の方のコレクションを拝見させていただきます!どうぞ!』

 

 

薫子の案内によって、ステージ上に新たに4人の人物が上がる。

その人物とは、入学前から一夏との関わりがあった鈴、ラウラ、セシリアの3人と、同じ会社所属のシャルロットだ。

 

 

『この4人の織斑一夏に関する写真コレクションの中から1枚、拝見させていただきます!』

 

 

薫子はそう言いながら、鈴にもう1本のマイクを渡す。

それと同時に、ステージ上に巨大ディスプレイの準備がされる。

 

 

『早速、凰鈴音さんのコレクションを見せて頂きましょう!』

 

 

薫子がそう言うと同時に、用意されたディスプレイに大きく一夏の写真が出る。

その写真の一夏は、Yシャツの上に黒いエプロンを着用して、右手に料理が乗った皿を持っていて、カメラに向かって苦笑いを浮かべながら左手を振っている。

それを見た会員たちは

 

 

『きゃぁああああ!!』

 

 

と、一斉に声を上げる。

それ程までに、この写真の破壊力は凄いようだ。

 

 

『凰鈴音さん、この写真の説明、よろしくお願いします!』

 

 

『分かったわ』

 

 

薫子にそう言われて、鈴はマイクに向かって写真の説明を喋る。

 

 

『この写真は、中学1年生の頃の写真で、日本代表で忙しくて家になかなか帰れなかった千冬さんが久しぶりに帰って来るからって、一夏が張り切ってご飯を作っているところよ』

 

 

『おお、なるほど...それで、何で苦笑いしてるんですか?』

 

 

『それは、私が急に写真を撮ったから、「何撮ってんだよ」的な事を言ってたのよ』

 

 

鈴の説明で、全員がこの写真の状況を理解したようだ。

 

「羨ましい...」

 

「織斑君のエプロン姿...良い!」

 

そんな感想が漏れる。

ここで、

 

 

『何故、そんな日に凰さんがいたんですか?』

 

 

と薫子が鈴に質問をする。

 

 

『一夏が、「賑やかな方が千冬姉も喜ぶだろ」って私と、あと2人の友人を呼んでくれたのよ』

 

 

『なるほどなるほど...手料理って美味しいんですか?』

 

 

『それはもう美味しいわよ。一口食べたら女としての自信を失うくらいには』

 

 

『そ、そんなにですか...』

 

 

鈴と薫子の会話を聞いた会員たちは、またもや羨ましがる声を発する。

それを聞いた鈴は、

 

 

『え?1-1は、毎週一夏にスイーツ作って貰ってるんじゃないの?』

 

 

と思わずそう言う。

その瞬間、会員たちの視線が1年1組の生徒に集中する。

その視線を受けた1組の生徒達は気まずそうに身を捩る。

 

 

『おおっと?本当ですか?』

 

 

薫子はそう言いながらステージ上のシャルロットにマイクを向ける。

シャルロットも気まずさを感じながら、喋る。

 

 

『ほ、本当です...でも!先生方も余ったの食べてますよね?』

 

 

シャルロットの言葉によって、今度は教師に視線が集中する。

教師の人達も、先程までの1年1組同様気まずそうにする。

 

 

『ん、んん!それでは、次にラウラ・ボーデヴィッヒさんのコレクションを見せて頂きましょう!』

 

 

薫子はそんな空気を変えるために次の話題に移動させる。

会員たちも、視線を教師からディスプレイへと戻す。

 

 

それから、ラウラとセシリアの写真を公開した。

ラウラのはシュヴァルツェ・ハーゼの基地で訓練して出て来た汗を拭いている一夏の写真(この時、まだ一夏と和解してなかったので撮影したのはラウラではない)。

セシリアのはオルコット家の屋敷でバケツと雑巾、モップをもって歩いている一夏の写真。

どちらの写真も鈴の写真のようにカメラの方は向いていないものの、破壊力は凄まじい。

実際に、それぞれの写真が出た瞬間にも会員は一斉に声を上げた。

そして、最後のシャルロットの番になった。

 

 

『それでは!最後に、シャルロット・デュノアさんの写真を見させて頂きます!』

 

 

薫子がそう言うと、ディスプレイに写真が出る。

その瞬間、

 

 

『キャァアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

 

と、今日一番の声が上がる。

その写真では会社のロビーに一夏がいるのだが、その一夏はビジネススーツを着ていて、眼鏡をかけていたのだ。

エプロン等よりも、破壊力は高い。

 

 

『しゃ、写真の解説をお願いします!!』

 

 

司会進行の薫子も興奮している。

 

 

『この写真は、『PurgatoryKnights』のロビーで一夏が企画課のクレステッドさんと話しているところですね。一夏が「最近目が疲れるんですよ」って言って、試しにクレステッドさんの眼鏡を借りてかけているところです』

 

 

『お、おお....では、眼鏡を買ったんですか?』

 

 

『いや、一夏は「まだクラクラするなぁ...ただ単に視力云々じゃなくて目が疲れてるだけですね」って言ってましたよ。帰りにコンビニに寄ってホットアイマスクを買ってました』

 

 

薫子とシャルロットの会話を聞いて、この写真の状況を理解した会員からは、

 

「これを生で見られただなんて...羨ましすぎる!」

 

といった感想が出て来た。

それを聞いたシャルロットは、

 

 

『羨ましいっていったら、3年のケイシー先輩と2年のサファイア先輩って、一夏に「ダリル姉」と「フォルテ姉」って呼ばれてますよね?いいなぁ...羨ましいです』

 

 

そう発言する。

その瞬間に、ダリルとフォルテに視線が集中する。

さっきのスイーツとは異なり、本当の姉である千冬を除いたらダリルとフォルテの2人だけがそう呼ばれているので、羨ましいという感情はこちらの方が大きいのだろう。

実際に一夏がそう呼んでるところを聞いたことがある人もない人も、一夏が自分の事を姉と呼んでくれる事を想像すると、更に羨ましいと思える。

 

 

『ケイシーさんとサファイアさんへの追及もしたいところですが、ここでお時間となってしまいました』

 

 

だが、薫子がそう言った事によっていったんはその視線が薫子に戻る。

 

 

『順番に体育館から出て頂きます。そして、ケイシーさんとサファイアさんには後で取材しに行きます』

 

 

薫子がそう言った事により、ダリルとフォルテは引きつった表情になる。

こうして、織斑一夏(非公認)ファンクラブ、〈親衛騎士団〉の初回集会は終了した。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

「ハックション!」

 

 

何故か急にくしゃみが出た。

 

 

「おりむ~、風邪~?」

 

 

「いや、風邪では無いんだけどな...誰か俺の事を噂してんのか?」

 

 

《お前の噂など全世界で行われているだろう》

 

 

「そうかなぁ?」

 

 

2年生学生寮、楯無さんの特別個室前の廊下。

ここで、俺とディミオスとのほほんさんがまったりと会話していた。

 

 

あの後、虚さんとのほほんさんに簪の部屋に仕掛けられていた隠しカメラと盗聴器を見せた。

そして、簪がショックのあまり体調を少し崩したことを伝えると虚さんが激怒。

現在進行で、楯無さんの部屋で楯無さんに説教している。

当主が側近に説教されるというかなりレアな光景がこの扉の先で行われているのだ。

そして、俺とディミオスとのほほんさんは邪魔をしないように廊下に出て来て、そのまま会話している。

 

 

「それにしても、もう直ぐ臨海学校だね~。楽しみ~~」

 

 

「そうだな...俺は中1から碌に泳いでなかったから、楽しみではあるな」

 

 

中1に体育の授業で少し泳いで、俺はそこから水着を着たことが無い。

シュヴァルツェ・ハーゼで訓練していた時は泳ぐだなんてことできなかったし、ダークネスドラゴンWには海やプール、泳げる川がそもそもない。

イギリスにいたのも短い期間だったから泳いだことはない。

よって、俺は長い事泳いだことが無い。

だが、臨海学校で泳ぐとは言っていない。

緊急の仕事をしないといけない可能性があるし、仕事が無くてもトレーニングすると思う。

一応水着は通販で買ったが、使わないかもしれない。

 

 

「のほほんさんは水着とか買ったの?」

 

 

「まだだよ~。休日にかんちゃんと買いに行く予定なんだ~」

 

 

「そっか」

 

 

なんかこう、平和だな。

俺がそう思っていると、

 

ピピピピピ

 

と、通信端末が着信音を響かせる。

 

 

「ごめん、会社からだから」

 

 

「いいよ~、お仕事頑張って~」

 

 

俺はのほほんさんに断りを入れてから、移動して通信に出る。

 

 

「はい、此方織斑一夏です」

 

 

『もすもす、いっくん?束さんだよ~~!!』

 

 

「何か御用でしょうか、主任」

 

 

連絡の相手は、主任こと束さんだった。

相変わらずうるさい。

もう少し声のボリュームを押さえて欲しい。

 

 

『ムムム、いっくん。束さんの事は名前で...』

 

 

「今学園なので無理です」

 

 

一般生徒に聞かれたらどうするんだ。

 

 

「それで、本題は何ですか、主任」

 

 

『そうだった。そろそろ、マドちゃんに()()()()()()()()()専用機を与えるって発表したいんだよね~』

 

 

束さんの話の内容とは、マドカの専用機についての事だった。

 

 

「良いんじゃないですか?デュノア社も傘下に入ったことですし」

 

 

『そうなんだ~。でもね、マドちゃん個人に専用機を与えると、絶対に凡人どもが騒ぐじゃん?だからね、愚妹に関する声明発表と同時に言うと、いっくんがパンクしちゃう可能性があるから、そっちはまた別のタイミングでね』

 

 

フム、如何やら束さんもこっちの都合を考えられるくらいには成長したようだ。

このまま、興味のない人間でも対応できるように成長してほしいんだけどなぁ...

無理かなぁ...

俺は束さんの親じゃないのに何でこんな事を考えてるんだ?

 

 

「了解しました。要件はそれだけですか?」

 

 

『うん、これくらいだね。じゃあいっくん、バイビ~~!!』

 

 

「はい、失礼します」

 

 

俺はそう言うと通信を切る。

そして、さっきまでいた楯無さんの部屋前に戻ると、もう既に虚さんと楯無さんが廊下に出てた。

だが、虚さんは疲れ果てていて、楯無さんは廊下にも関わらず座り込んでいた。

 

 

「虚さん、お疲れ様です」

 

 

主人を説教しないといけないのって辛いですよね。

俺も姉だったり、姉の友人だったりを説教しないといけないので、多少なりかは理解できます。

 

 

「本当に、疲れました...」

 

 

「虚さん、もう休んだらどうですか?」

 

 

「そうですね...では、休ませていただきます」

 

 

「ええ、お大事に」

 

 

虚さんはフラフラと歩いて行った。

 

 

「楯無さんも、簪へのストーキングはもうしない方が良いですよ」

 

 

「うん...もう絶対にしない」

 

 

楯無さんも反省しているようだ。

 

 

「じゃあ、俺も帰りますね」

 

 

「おりむ~、バイバーイ!」

 

 

「ああ。また明日、のほほんさん」

 

 

俺はのほほんさんに挨拶をすると、ディミオスと共に自分の寮の部屋に向かって歩き出す。

 

 

「ディミオス、なんかまた空気だったな」

 

 

《...解せぬ》

 

 

途中から、ディミオスの発言が全くなかった。

 

 

[私達なんて、もっと空気ですよ!]

 

 

[マスター、私達の事忘れてないよね?]

 

 

(ご、ごめんって...今度頭撫でてあげるから)

 

 

[約束だよ!]

 

 

白騎士と白式も少し荒れたが、何とか納得してくれたようだ。

 

 

...今日は、クラリッサに連絡をする予定だ。

楽しみだなぁ...

 

 

 

 




非公認ファンクラブ。
でも、部活と同じ括りの学園組織。
どうなってるんだ。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想や誤字報告もよろしくお願いします!


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ショッピング

臨海学校の準備回。
それ以外特にいう事無い。

今回もお楽しみください!

お気に入り登録が200を超えました!ありがとうございます!


一夏side

 

 

生徒会室に行って、楯無さんの簪へのストーキングが発覚した翌日。

俺は何時ものように朝から教室の自席で仕事をしていた。

相も変わらず日本政府と国際IS委員会からの書類が多い。

このままだと、本格的に臨海学校初日の自由時間を丸々仕事に費やす必要になってくる。

どうしたもんかねぇ...

俺がそんな事を思っていると、

 

 

「一夏!」

 

 

と、廊下から声を掛けられる。

廊下を見ると、そこには鈴がいた。

 

 

「鈴か。ちょっと待ってろ」

 

 

俺は書類を仕舞うと、鈴の元に移動する。

 

 

「なんか用か?」

 

 

俺がそう尋ねると、鈴は

 

 

「今週末、臨海学校用の買い出しに行くから付き合いなさい」

 

 

という。

週末かぁ...

 

 

(白式、白騎士、今週末って仕事の予定あったっけ?)

 

 

[ううん。今の所は入ってないよ!]

 

 

[ですが、午後からは発展途上国支援プロジェクトに関する緊急会議がある可能性がありますね]

 

 

(オーケー。ありがとうな、白式、白騎士)

 

 

それなら、午前だけなら問題は無いな。

あと、人数の確認をしておこう。

鈴と2人きりだったら行かない。

まだクラリッサともチェルシーともデートしたことが無いのに、鈴と2人きりだなんてする訳がない。

 

 

「メンバーは?」

 

 

「そうね...橘以外の専用機持ちと、本音よ」

 

 

つまりは、鈴、セシリア、ラウラ、シャルロット、簪、のほほんさんの計6人だな。

...待て、その人数だと、

 

 

「俺は荷物持ちかい」

 

 

「そうだけど?」

 

 

コイツ、悪びれることも無く...

まぁいいけどさ。

 

 

「分かった。だけど、午後から会社の会議があるかもしれないから午前だけな」

 

 

「大丈夫よ!もともと午前に行く予定だったから」

 

 

それは何とも都合のいい。

 

 

「集合場所と時間は?」

 

 

「9時半に正面ゲートよ」

 

 

「了解だ」

 

 

まぁ、妥当な時間か。

大体の店が10:00オープンだ。

IS学園は立地上モノレールに乗らないと敷地外に行けない。

そして、本土の駅には大型複合型施設、レゾナンスがあるため、移動にそこまで時間はかからない。

 

 

「じゃあ、はい」

 

 

鈴はそう言って、1枚の紙を渡してくる。

これは...外出届...

 

 

「準備いいな」

 

 

「でしょう?」

 

 

鈴は胸を張りながらそう言う。

...いや、そこまで威張る事でもないけどな?

 

 

「じゃあね一夏!週末逃げないでね!」

 

 

「仮に逃げたとして、何処に逃げるんだよ」

 

 

俺の返事を聞いた鈴は笑うと、そのまま2組の教室に戻っていった。

全く、元気な奴だな...

 

 

「ん?どうした?」

 

 

ここで、俺は教室の中から物凄い量の視線を向けられている事に気付いた。

俺は取り敢えずそこにいたさゆかに尋ねる。

 

 

「いや、別に...」

 

 

さゆかはそう言うと、自席に戻っていった。

確実に何かある『いや、別に...』だったが、聞き直しても答えてくれないだろう。

何だ何だ...?

何もないと良いんだけどなぁ...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

そんなこんなで週末。

時刻は10:05。

俺は、専用機持ちとのほほんさんと共にレゾナンスに来ていた。

()()()()()()、のほほんさんと共に。

 

 

「...楯無さんとダリル姉とフォルテ姉は水着いらなくないですか?」

 

 

そう、レゾナンスにいる専用機持ちは鈴、セシリア、ラウラ、シャルロット、簪の1年生のみでは無く、楯無さん、ダリル姉、フォルテ姉と2、3年生の専用機持ちもいたのだ。

ここに深夜がいれば、IS学園に在籍している全ての専用機持ちがレゾナンスにいる事になる。

 

 

「何言ってるの一夏君。夏休みに海に遊びに行くんだから水着は必要なのよ」

 

 

「さいですか」

 

 

楯無さんとフォルテ姉は去年のがあるじゃないですか。

俺がそう思っていると、

 

 

「一夏。女子ってのはな、毎年新しい水着を買うんだぜ」

 

 

「そうっスよ。男子には分からないかもしれないっスけどね」

 

 

と、姉2人がそう教えてくれる。

...感想が、へ~くらいしか出てこない。

それにしても、

 

 

「...簪、歩きにくいんだけど?」

 

 

そう、さっきから簪が俺に隠れるようにしながら歩いている。

理由は分かっている。

楯無さんと顔を合わせないようにするためだろう。

分かってはいるんだが...歩きにくい。

 

 

「ごめん...でも、隠れさせて」

 

 

「分かったよ」

 

 

こうして、若干の歩きづらさを感じながら、10人という大人数で移動する。

暫く歩くと、水着を扱っている店に着いた。

 

 

「...種類多」

 

 

女性モノしか店頭にないのに、ザッと100種類くらいはあるんじゃね?

男性用のものは、店の奥の方に5種類くらいしかないのに。

あ、そうだ。

 

 

「シャルロット」

 

 

「どうしたの、一夏」

 

 

俺がシャルロットを呼ぶと、シャルロットは俺の元にやってくる。

俺はそのまま財布を取り出し、

 

 

「はい、これ」

 

 

中に入っている5000円札をシャルロットに渡す。

そのとたんに、シャルロットは驚きの表情を浮かべる。

周りを見ると、鈴たちも驚きの表情を浮かべている。

 

 

「え、これ、え?」

 

 

「5000円札だけど?」

 

 

「そうじゃなくて!え、良いの?」

 

 

「ああ。シャルロット、5月の途中に入ったから給料チョッと少なかっただろ?だから、水着は俺の金で買って良いよ」

 

 

悪いとは思うが、5月分の給料はシャルロットにはあまり支払われていない。

IS学園で生活している以上、家賃とかは考えなくていいが、それでもプライベートで使える金は現状そこまで余裕がある訳では無いだろう。

だからこそ、月100万という収入で余裕がある俺が買ってやるべきだろう。

そういえば、クラリッサとチェルシーには言い忘れたが、俺は()()()が100万だからな

税諸々を抜いて100万。

やっぱり多すぎねえか?

 

 

「わ、悪いよ...」

 

 

「いいっていいって。一応の上司で先輩なんだからカッコ付かせろ」

 

 

俺がそう言うと、シャルロットは納得したようで、

 

 

「じゃあ、お言葉に甘えようかな?」

 

 

と言ってから水着を選び始めた。

 

 

「...水着選ばないんですか?」

 

 

だが、シャルロット以外の8人は何時まで経っても水着を選ばない。

俺がその事を尋ねると、

 

 

「目の前で迷いなく5000円を差し出す光景を見て、直ぐに選べるわけないじゃない!」

 

 

と鈴が言う。

それに同調する様に、他の7人はうんうんと頷く。

そうかなぁ?

会社の部下に上司が奢るのは当然だろ?

それよりも、

 

 

「早くしないと俺帰りますよ?」

 

 

午後からは寮にいないといけないからな。

俺がそう言うと、

 

 

「なら、さっさと選んで私達の分も奢ってもらうわ!」

 

 

と鈴が言い、水着を選び始める。

 

 

「奢んねーよ」

 

 

俺はそう言ったものの、聞こえてるか怪しい。

鈴に触発されたように、他の7人も水着を選び始める。

俺は近くのベンチに移動して、そこに座る。

 

 

こういうところで、クラリッサとチェルシーと買い物デートしてみたいな。

映画見て、何かスイーツを食べながら、ブラブラとお店みて...

当然お金は俺が出すことになるが、デートなら全然問題ない。

恋人が喜んでくれるなら、少々高いものでも迷いなく出せる。

あー、海にも行ってみたいなぁ。

クラリッサとチェルシーの水着姿見たい。

こう、浜辺でイチャイチャしてみたい。

夏休みにでも、海に...

いや、無理だな。

ドイツ軍IS部隊副隊長に、オルコット家のメイド。

俺の恋人のこの立場的に海に簡単に行けない。

でも、何時か海デートもしてみたいなぁ...

 

 

俺がクラリッサとチェルシーとのデートの妄想をしていると、

 

 

「そこの男。私の荷物を持たせてあげるわ」

 

 

と、やけに香水の匂いがキツイオバサンに声を掛けられる。

出たよ...女尊男卑のメンドクサイ人だ...

 

 

「自分の荷物は自分で持てや」

 

 

俺がそう返答すると、

 

 

「なに?口答えするの?男のくせに!」

 

 

このオバサンはそう言う。

ったく、メンドクセェ。

 

 

「男は、黙っていう事聞いてればいいのよ!ISに乗れない下等生物が!」

 

 

「乗れるぞ」

 

 

「はぁ?」

 

 

俺はIS学園の生徒手帳と『PurgatoryKnights』の所属証明カードを取り出し、オバサンに見せる。

それには、当然ながら俺の顔写真と名前が乗っている。

 

 

「お、織斑一夏!?」

 

 

それを見たオバサンは、驚いた表情になり、そのように叫ぶ。

まぁ、世界で2人しかいない男性IS操縦者の片方が目の前にいるとは思わないだろうな。

俺の顔って、ニュースで出てるから気付かれる事も多いけど、今回は気付かれなかったな。

このオバサンが俺の名前を大声で叫んだことで、変に注目されてしまう

本当に、メンドクサイ。

 

 

「第一、アンタはISに乗れんのかよ」

 

 

「わ、私は女よ!乗れるに決まって...!」

 

 

「そうじゃねえよ。アンタみたいな、自己中心的で我儘な奴に、ISが心を開くのかって聞いてんだよ!」

 

 

こういう女尊男卑の奴らの道具にISがなってるって考えると、泣けてくる。

ISにも人間と話せないってだけで、感情が、意思があるっていうのに...

 

 

[マ、マスタ~~]

 

 

[そこまでISの事を...私達、泣いちゃいます...]

 

 

白式と白騎士がそう言ってくれる。

うん、いい子らだ。

 

 

「な、何を言って...」

 

 

「一夏君!」

 

 

オバサンは更に何か言おうとしていたが、それを遮って俺を呼ぶ声が聞こえる。

そっちの方向には、この騒ぎを聞きつけたのか、楯無さんを先頭に俺と此処に来ていた9人がいた。

みんなは、そのまま俺の側にやって来ると、オバサンの事を見る。

そして、楯無さんが口を開く。

 

 

「良くも一夏君にちょっかい出してくれたわね。私達〈親衛「親衛?」あっ...」

 

 

何、親衛って。

その言葉はここで使うべき言葉じゃ無くないか?

 

 

「馬鹿!何言ってんだ!」

 

 

「バレたらどうするっスか!」

 

 

ダリル姉とフォルテ姉の2人が楯無さんに何か言ってる。

だが、声が小さくて良く分からない。

そして、鈴、セシリア、ラウラ、シャルロット、簪、のほほんさんの6人はと言うと...

 

 

「ウフフ」

 

 

「フフフ」

 

 

「ふっふっふ...」

 

 

「アハハ」

 

 

「えへへぇ...」

 

 

「んふふ~~~」

 

 

と、目に光りの無い笑みでオバサンの事を見つめていた。

普通に怖い。

オバサンもガッタガッタと震えているが、まぁ、自業自得だ。

 

 

「さっさとどっか行け」

 

 

俺がそう言うと、オバサンは、

 

 

「は、はいぃぃ!」

 

 

と言いながら、走ってどっかに行った。

ふぅ、これで良し。

 

 

「おりむ~、大丈夫だった~~?」

 

 

「ああ、大丈夫だったよ」

 

 

実際に何かされた訳じゃないからな。

俺がそんな事を思っていると、のほほんさん以外のみんなも俺の周りに集まってくれる。

 

 

「一夏さん、大丈夫ですか?」

 

 

「一夏、大丈夫?」

 

 

「ああ、大丈夫だよ」

 

 

こうして心配してくれる友人や姉(的立場の人)がいるってるのは嬉しいもんだな。

そう思っていると、

 

 

『ハロハロー!凡人共!天才のたっばねさんだよ~~!!』

 

 

急にレゾナンス内にそんな音声が鳴り響く。

俺達は一斉にレゾナンス内の巨大ディスプレイに視線を向ける。

先程まで広告が流れていたそこには、ISの開発者である束さんがデカデカト映っていた。

他の客も、ディスプレイを見て物凄く驚いている。

 

 

『今日は、世界中に伝える事があるから、こうやって世界中のディスプレイにクラッキングさせてもらったよ!』

 

 

ったく、こうやって発表するのかよ。

もうちょっと穏便にすると思ってた。

 

 

『束さんは新しく468個目のISを作ったんだ!でも、束さんには必要なくなったから、ある人個人にプレゼントすることにしたんだ!』

 

 

束さんがそう言った瞬間、恐らくその束さんの事を見ていた全ての人間は驚いた事だろう。

束さんは467個目のISコアを造って直ぐに世界から失踪した。

そして、全世界が探しても見つからなかった人物だ。

そんな人物が、新しくISを、それも個人に与える事したと発言をすれば、驚かない訳がない。

 

 

『それで、その与える人ってのは、ちーちゃんといっくん...織斑千冬と織斑一夏の妹で、『PurgatoryKnights』に所属している織斑マドカちゃん!』

 

 

束さんの発言と同時に、俺の周りにいた9人が一斉に俺の事を見てくる。

気持ちは分かるが、見られる俺の事も考えてくれ。

 

 

『あ、言っておくけど、これはマドちゃん個人にあげるものだから、他の国とか企業がいちゃもんつけるのは無しだし、マドちゃんを『PurgatoryKnights』から引き抜こうとしても駄目だからね!そんな事を考えたり計画したりしたら、そこが持ってるIS全てを動かなくするからね!』

 

 

おう、結構しんどい脅しだな。

束さんはISの開発者で、全てのISコアを実際に作った人だからそう言う事も可能だろう。

これで、マドカの身の安全も一応確保されたか?

万が一暗殺とかを企てても、会社にいる限りは安全だし、学園に来たら俺が守るし。

 

 

『んじゃあ、束さんはこれでおさらばするね!バイビー!!』

 

 

束さんがそう言うと、ディスプレイが一瞬暗転し、元々流れていた広告が再び流れ始めた。

さて、今の時刻は、と...

11:20か。

 

 

「んじゃあ、一夏さんもこれでおさらばするね!バイビー!」

 

 

時間も時間なので、俺は学園に戻るために駅に向かって歩き出す。

すると、

 

 

「え、一夏!?帰るの!?」

 

 

と簪が驚きの声を上げる。

 

 

「学園に帰ってから会社に確認する。PCもあるし、そっちの方が安全だしな。確認取れ次第伝えるから、寮の誰かの部屋...出来ればシャルロットとラウラの部屋に集まっていてくれ」

 

 

シャルロットも『PurgatoryKnights』所属だし、そこが一番俺が訪ねて違和感ないからな。

俺はそのまま駅に向かって歩き続ける。

すると、9人は慌てて俺の後を付いてくる。

さて、シャルロットにはまだ束さんが『PurgatoryKnights』の開発主任だと伝えてないし、どうするかなぁ。

まぁ、社長と相談かな?

 

 

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箒side

 

 

何故だ!何故なのだ!

私は、一夏に邪道な剣を捨てろと言っただけなのに、何故また自室謹慎になどならないといけないのだ!

そもそも何故一夏は篠ノ之流剣道をしない!

昔、あれだけ私と共に高め合ったというのに!

クソ!

私には、一夏を変えてしまった元凶を葬り去り、元の一夏に戻すという使命があるのに!

 

 

...その元凶とは、いったい何なのだ?

一度しっかり考えよう。

あの、一夏の幼馴染を自称するチビか?

大いにあり得るな!

一夏の幼馴染は私だと言っているのに、あのチビは...

 

それか、あの一夏のペットロボットか?

それもあり得る。

何が一夏のバディだ!

私の方が一夏の事をよく理解しているというのに!

 

それに、あのイギリスの金髪の可能性もあるし、眼帯チビの可能性もあるな...

どうすれば...

 

 

そうだ!

力だ!

力が...専用機があれば!

専用機があれば、アイツ等を退け、私の一夏を取り戻せるはずだ!

そうと決まれば...!

私はスマホを取り出し、ある番号に電話を掛ける。

その番号とは、当然ながら姉さんのものだ。

姉さんは、私と一夏の事を一度切り裂いたんだから、本当の一夏を取り戻す手伝いをしてもらわないと...!

 

 

『はいはい、束さんだよぉ』

 

 

暫くのコールの後、姉さんの声が聞こえてくる。

 

 

「お久しぶりですね、姉さん」

 

 

『ああ、久しぶりだねぇ...それで、なんか用?』

 

 

姉さんがそう聞いてきたから、私は専用機の事を口にする。

これで、私にも力が...!

 

 

「姉さん、私だけの専用機を『は?嫌だよ』なぁ!?」

 

 

「何でですか!」

 

 

『決まってんじゃん。私の名前を乱用して?いっくんに迷惑しかかけてないお前に?専用機を与えると思ってるの?』

 

 

「ふざけないで下さい!姉さんは、私と一夏を切り裂いたでは無いですか!そのせいで一夏は変わってしまったんです!本当の一夏を取り戻すためにも、私に専用機を!」

 

 

『いっくんは変わったんじゃなくて、成長したんだよ?それに、お前が変わらなさすぎるんだよ!もういい』

 

 

ここで、電話が切れてしまった。

私は再度電話を掛けるも、繋がらない。

 

 

何故だ!何故だ!

私はスマホを投げつけ、壁を殴る。

 

 

クソ!クソォ!

何故だ!

本当の一夏を取り戻したいだけなのに!

何故だ!何故なのだ!!

 

 

 

 




束...その発表方法は何なんだ?
普通に声明発表しようや。

それよりも一夏、会社の部下にサラッと5000円奢れるだなんて...
凄い!
恋人相手だったら、必要なものを奢るんじゃなくて、プレゼントを買うんだろうなぁ。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想や誤字報告もよろしくお願いします!


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臨海学校の始まり

遂に始まりました!
臨海学校!

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

買い物に出掛けてから暫くたち、7月。

今日はとうとう臨海学校の初日だ。

 

 

あの後、社長と相談し、シャルロットには束さんが『PurgatoryKnights』の開発主任だとは明かさない事にした。

鈴たちがいる場所で説明する訳にも行かないからな。

タイミングを見計らって説明しようとも思ったが、鈴たちが集まってるのに、シャルロットにだけ説明するのは鈴たちに怪しまれると思ったからな。

でも、何時かはちゃんと説明するつもりだ。

 

そして、シャルロットとラウラの部屋に集まっていた9人には、マドカが専用機を貰ったのは間違いないという事だけを伝えた。

1組以外の生徒には俺と千冬姉に妹がいると言った事は無かったので、セシリア、ラウラ、シャルロット、のほほんさん以外の5人はその事に驚いていた。

特に、小学校からの付き合いである鈴は物凄く驚いていた。

ディミオスと協力しないと落ち着かなかったくらいには、驚いていた。

まぁ、何とか落ち着かせてから、

 

「生き別れの、妹だ。世界中を旅してた時に本当に偶々再開したんだ」

 

という、何処の漫画だよっていう説明をしたら、一応納得してくれたようだ。

 

 

説明をした後、社長に確認すると、マドカは特例でIS学園に転入することとなったようだ。

その事を社長から聞いた翌日、山田先生の顔色が大変良くなかった。

十中八九、寮の部屋割りだろうな。

...今度、ケーキでも差し入れしようかな?

それと同時に、クラスの皆にも説明をしないといけなくなったが、同じくマドカが専用機を貰ったのは間違いないという事だけを説明した。

 

 

そんなこんなで今日。

今日は出発の日なので、朝の7:00には正面ゲートに集合していないといけない。

現在時刻は6:40。

そこそこな人がもう集まりだしてきた。

だが、みんな何処かフラフラしていて、眠そうだ。

俺は普段から4:20からトレーニングしてるから全然問題ない。

俺はそんな事を考えながら、缶コーヒーを飲む。

 

 

「...この世で一番美味しい飲み物はブラックコーヒーだなぁ」

 

 

朝飲んでも美味しい。

食後に飲んでも美味しい。

仕事中に飲んでも美味しい。

最高。

 

 

「おはよう、一夏君」

 

 

「ん、静寐か。おはよう」

 

 

ここで、静寐に話し掛けられる。

俺は缶から口を離して、静寐の方を向く。

 

 

「...一夏君、よくブラックコーヒー何て飲めるね」

 

 

「ブラックコーヒーが世界で一番美味しい飲み物だろ?」

 

 

俺がそう言うと、静寐は何故か苦笑いになった。

 

 

「わ、私はブラックはチョッと...」

 

 

「何でぇ。一回飲んでみなよ」

 

 

「機会があったらね...」

 

 

あ、これ絶対飲んでくれないやつだ。

それから、セシリア、ラウラ、シャルロットも会話に加わり、暫くそのまま雑談する。

 

 

「フム、全員整列しろ!」

 

 

と、織斑先生が指示を出すと、3秒で静かになり、クラスごとに整列する。

相変わらず早い。

 

 

「さて、本日より3日間臨海学校となる!これからモノレールで本土に渡った後、バスで移動をする!全員準備は出来ているな!」

 

 

うん、織斑先生は朝から声が出てるな。

だが、その隣の山田先生の疲れ具合が引ける。

あー、予備のコーヒーを差し上げようかな...?

 

 

「次に山田先生、お願いします」

 

 

「はい...」

 

 

織斑先生に言われ、山田先生は覇気のない顔で一歩前に出る。

 

 

「それでは、今日から皆さんと共に学んでいく転校生を紹介します。どうぞ...」

 

 

「はい!」

 

 

おや?

この声は...

山田先生に呼ばれて、1人の女子が物陰から出てくる。

その女子の事を見た瞬間、みんなが衝撃を受けたのが分かる。

何故ならば、その顔は織斑先生にそっくりで、その制服には『PurgatoryKnights』のマークが付いているのだから。

 

 

「織斑千冬と織斑一夏の妹で、『PurgatoryKnights』所属の織斑マドカです。本日より、1年3組に転入させていただきます。私が急に転入してきた理由は、みなさんご存じだと思います。本来の年齢では中3ですが、特例で転入させていただくこととなりました。よろしくお願いします」

 

 

良し。

ちゃんと自己紹介は出来たな。

えらい!

どっかの姉だったり兎より全然ましだ!

そして、マドカの自己紹介を聞いたみんなはというと...

 

 

『ええええええええ!?』

 

 

と、大絶叫を上げる。

俺は耳を塞ぐのが遅れてしまった。

み、耳がぁ~~!!

俺は耳を押さえながら、シャルロットと共にマドカに近付き、声を掛ける。

 

 

「よぉ、マドカ」

 

 

「マドカちゃん、おはよう」

 

 

すると、マドカは笑みを浮かべながら、

 

 

「お兄ちゃん!シャルさん!」

 

 

と言いながら、こっちに寄ってくる。

ん?

 

 

「シャルさん?」

 

 

俺がそう聞くと、マドカは説明をする。

 

 

「シャルロットさんって呼ぶの長いから、愛称をつけさせてもらったんだ~」

 

 

へー、それはいいかもしれない。

確かに、いちいちシャルロットって呼ぶの、長いからな。

 

 

「じゃあ、俺もそうやって呼ぼうかな?」

 

 

「うん、全然大丈夫だよ!」

 

 

良し、本人からの許可も貰った。

これで、呼ぶのがチョッとは楽になるだろう。

 

 

「織斑兄妹、デュノア。それぐらいにしろ」

 

 

「「「分かりました」」」

 

 

織斑先生にそう言われたので、俺とシャルは列に戻る。

その直前に、

 

 

「あ、お兄ちゃん。会社からの...主任からのプレゼントがあるんだ」

 

 

と、マドカに呼び止められる。

 

 

「主任から?」

 

 

なんか、嫌な予感しかしない。

だって、束さんだからなぁ...

俺がそう思っていると、

 

 

「はい」

 

 

と、マドカがそのプレゼントとやらと渡してくれる。

これは...

 

 

「スマホ?」

 

 

そう、スマホだ。

いや、俺は国籍云々で使えない...

 

 

「このスマホは、回線が独立してるから、無国籍のお兄ちゃんでも使えるよ!」

 

 

「え、マジ?」

 

 

「うん、マジ。それに、普通のスマホとも通信可能だから、メッセージアプリのインストールだったり、友達登録とかも出来る...まぁ、普通のスマホと同じようなことが出来るよ!」

 

 

「え、やったぁ!」

 

 

束さん!

アンタ偶にはいいものくれるじゃないですか!

ISとかいうもの開発したのと同一人物かとは思えないくらいだぜ!

 

「お、織斑君の連絡先...欲しい!」

 

「こ、交換してくれるかな!?」

 

 

そんな声が周囲から聞こえてくるが、俺は気にしない。

これで、クラリッサとチェルシーとの連絡が取りやすくなる!

.....あ。

メアドもメッセージアプリのIDも聞いてねぇ!

やっちまった!

PCは会社のだからって聞かなかった俺が悪いけど!

俺はそうショックを受けながら、

 

 

「マドカ。3組の子と仲良くな」

 

 

とマドカに言う。

するとマドカは、

 

 

「うん!」

 

 

と元気よく返事をする。

うん、素直でいい子だ。

俺はそのまま半分無意識でマドカの頭を撫でる。

 

 

「ふぁ...」

 

 

[[う、羨ましい!]]

 

 

『あああ!?』

 

 

すると、周りが思い思いの反応をする。

なんで妹の頭を撫でただけで、ここまで反応するのやら...?

俺はそう思いながら、シャルと共に1組の列に戻る。

 

 

「んん、さて、それでは1組から移動を開始する!くれぐれもはぐれないように!」

 

 

織斑先生はそう言い、1組乗れるの先頭に立ち、牽引していく。

さてさて、マドカの事が心配だが...

バスの中で、3組の子達と打ち解けられるといいが...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

そんなこんなで、バスの中。

俺は、ボーッと窓から景色を見ていた。

 

 

モノレールで本土に渡った後、一般の人から(特に俺と深夜が)物凄く注目されていたが、それ以外は特に何も起こらず、無事にバスに乗ることが出来た。

そして、バスに乗ってから思い出したのだが、そう言えば篠ノ之はもう謹慎が解除されてる。

そのため、臨海学校にも参加するし、今同じバスに乗ってるのだ。

なんかもう帰りたい。

いや、ドイツかイギリス行きたい。

もう仕事もいったん放っておいて、クラリッサとチェルシーと過ごしたい。

バス内では、ド定番ともいえるカラオケ大会が開催されている。

俺は1番最初に歌って、今は篠ノ之以外の全員が歌い終わって歌いたい人が2周目をしている。

全く、織斑先生と山田先生も歌ったというのに、篠ノ之はこういう集団行動も出来ないのか...

まぁ、篠ノ之の歌を聞きたいかと聞かれると、首を横に振るんだがな。

 

 

「一夏、どうかしたか?」

 

 

「いや、なんでも無いよ、ラウラ」

 

 

隣の席に座っているラウラに声を掛けられたので、俺はそう返す。

俺の隣の席は、深夜以外のクラスメイト全員参加の壮絶な戦い(ジャンケン)により、ラウラとなった。

何故俺の隣の席というだけでそんなに盛り上がる必要は無いように思えたが、まぁ...みんな楽しそうで良かった.....のか?

 

 

「強いて言うなら、マドカが心配だ」

 

 

「そうか...今日初めて顔を見たが、本当にきょうか...織斑先生ととそっくりだったな」

 

 

まぁ、妹じゃなくてクローンだからなぁ。

そっくりで当然だ。

 

 

「まぁ、妹だからな。俺と織斑先生も似てるし、俺とマドカも似てるだろ?」

 

 

「確かにそうだな」

 

 

そこから、俺は視線を窓の外からラウラに移し、それから暫く雑談する。

だが、何となく車内全体から視線を感じる。

何だ何だ...?

俺、なんかやらかしたか?

俺がそんな事を思っていると、

 

 

「海!見えたぁ!」

 

 

と、清香が声を上げる。

そこで、俺は再び視線を窓の外に向ける。

すると、遠くの方に海が見える。

 

 

「遂に着いたか...」

 

 

《フム、あれが海か...》

 

 

「ディミオス、急に出てくんな」

 

 

ここで、ディミオスがポケットからディミオスがSDで出て来た。

全く、急に出て来るのが好きだな。

 

 

そこから、バスは暫く走り、駐車場に止まり、ディミオスがポケットに戻り、俺達はバスから降りる。

そして、その他のクラスのバスからも全員降りてから、1組から順番に移動する。

そこから歩いて、臨海学校の3日間お世話になる旅館、花月荘に到着した。

正面入り口前には、人のよさそうな女将と思われる着物を着た女性が笑みを浮かべて立っていた。

 

 

「さて、諸君!此方が今日から3日間お世話になる花月荘だ!挨拶をしろ!」

 

 

『よろしくお願いしまーす!』

 

 

織斑先生の指示に従い、みんな一斉に挨拶をする。

 

 

「フフフ、皆さんお元気ですね。私は当旅館の女将を務めております、清洲景子と申します。皆さん、どうぞお楽しみください」

 

 

そう言って、その女将さんは頭を下げる。

...こんな暑いのに、着物を着ていて、しかも汗一つかかずに笑顔でいられるってスゲェ。

すると、女将さんが俺と深夜の事を見て、目を見開く。

 

 

「おや、あなたたちが噂の...」

 

 

この時、俺は織斑先生が何か言おうとしているのを確認しながらそれよりも素早く名刺を取り出して女将さんの側に移動し、笑顔で挨拶をする。

 

 

「初めまして。『PurgatoryKnights』所属の織斑一夏です。この度は、異例の男子が在籍中との事で多大なるご苦労をお掛けしてしまうと思いますが、是非よろしくお願いいたします。名刺、良かったらどうぞ」

 

 

「あらあら、ご丁寧にどうもありがとうございます。では、受け取らさせて頂きますね」

 

 

女将さんはそう言って名刺を受け取る。

なんか、織斑先生や深夜、それにそれ以外の生徒や教師の方々からの視線を感じなくもないが、今はスルー。

 

 

「それにしても、ご立派な旅館ですね。私はこのような旅館に来るのは今回が初めてですので、物凄く楽しみです」

 

 

「そうなのですか。では、是非楽しんでいって下さいね」

 

 

「ええ、そうさせていただきます。では、失礼します」

 

 

俺は女将さんに頭を下げた後、背中をあまり見せずにクラスの列に戻る。

 

 

「では皆さん、海に行く場合は離れの方の更衣室をお使いください。海に直ぐに出れますよ。それでは、私はいったん失礼します」

 

 

女将さんはもう一度頭を下げ、旅館の中に入っていった。

あ、深夜が挨拶できてない。

ミスったぁ~。

深夜と一緒に行けばよかった~!

と、ここで未だに視線を向けられている事に気付いた。

 

 

「如何しました?」

 

 

俺がそう聞くと、

 

 

「織斑...お前は本当に高校生か?」

 

 

と、織斑先生がそう言ってきた。

いやいや、何をおっしゃいますか。

 

 

「俺は高校生ですよ。ただ、企業所属の人間ってだけで。なぁ、シャル」

 

 

俺は取り敢えず側にいたシャルにそう声を掛ける。

するとシャルは、

 

 

「確かに、挨拶はするけど...あそこまで完璧に出来ないよ」

 

 

と言う。

 

 

「大丈夫、練習練習」

 

 

俺がそう言うと、シャルは

 

 

「頑張る」

 

 

と言った。

よしよし、向上心があるのはいい事だ。

ここで、織斑先生が

 

 

「んん!では、全員荷物を部屋に運べ!そうすれば、今日は1日自由時間だ!」

 

 

と指示を出す。

すると、みんなが荷物をもう一度しっかり持ち、移動を開始する。

 

 

「織斑先生、俺と深夜の部屋って何処ですか?部屋割り表に書いていませんでしたが...」

 

 

俺がそう言うと、移動をしていた生徒達がびたっと動きを止める。

何だ何だ?

 

 

「織斑は私と、橘は山田先生と同室だ」

 

 

お、そういう事は、

 

 

「つまりは、教員部屋ですね」

 

 

「そうだ」

 

 

織斑先生がそう言うと、周りの女子生徒が一気に肩を落とす。

まぁ、教員部屋だったら、部屋凸出来ないからなぁ。

そんな事を思いながら、俺は織斑先生に、深夜は山田先生について移動をする。

ていうか、俺と織斑先生は姉弟だからいいが、深夜と山田先生は同室で良いんだろうか?

女子生徒と一緒の部屋よりはましだと思うけど...

そんな事を考えながら歩いていると、教員部屋の1つに着いた。

織斑先生が部屋の扉を開けると、部屋の中が見えるようになる。

 

 

「おお、海が見える」

 

 

そう、部屋の窓からは大きく海が見える。

綺麗な海と砂浜。

クラリッサとチェルシーと一緒に来たかった。

 

 

「さて、織斑。ここでは私が教師だという事を忘れるなよ」

 

 

「分かってます、織斑先生」

 

 

「さて、私は職員会議だ。くれぐれも自由時間だからと言って羽目を外し過ぎないように」

 

 

織斑先生はそう言うと、部屋から出て行った。

俺は、荷物から許可を得て持ってきたノートPCを取り出し、起動させる。

これから海に行くかトレーニングをするけど、確認は大事...

 

 

「.....仕事来てんじゃねえかよぉ!!」

 

 

クソ!

今日くらいは仕事忘れられると思ってたのに!

日本政府と、国際IS委員会めぇ...

 

 

「ディミオス」

 

 

《如何した?》

 

 

「海行ってていいぞ。雰囲気だけでも味わっておけ」

 

 

《...ならば、そうさせてもらおう》

 

 

ディミオスはそう言うと、SDのまま窓から海へ飛んで行った。

俺は荷物からノイズキャンセリング機能があるヘッドホンを取り出し、装着する。

さぁ...やろうか!

 

 

 

 




折角海にいるのに、恋人に会えずその上仕事の一夏。
.....お疲れ様。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

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仕事をする人、遊ぶ人

前回の続き。
平和です。

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

仕事を始めてからだいたい1時間が経過したのだが...

 

 

「仕事が終わらん...」

 

 

そう、先程から休みなく仕事をしているのに、全くと言って良いほど仕事の終わりが見えない。

このままだと、確実に夕食の時間までは掛かる。

最悪だと、夕食後、消灯時間になるまでしないといけなくなるし、折角の温泉も部屋の内風呂で終わってしまう。

まぁ、明日の装備試験に影響が出なければいいものだと割り切るしかないか?

俺がそんな事を思っていると、不意に部屋の扉が開いた。

いくらノイズキャンセリングヘッドホンをしていても、視界の中で起こった事ぐらいは気付ける。

 

 

「あれ、織斑君。いたんですか?」

 

 

「山田先生?」

 

 

俺はヘッドホンを外しながらそう答える。

そう、部屋の扉の前に立っていたのは山田先生だ。

その手には、先程移動の際に持っていた旅行用のバッグを持っている。

 

 

「どうかしたんですか?」

 

 

「あ、織斑先生から聞いて無いんですね。私、この部屋なんですよ」

 

 

「...はい?」

 

 

山田先生は、深夜と同室なんじゃ...?

俺がそんな事を思っていると、山田先生が説明を始める。

 

 

「もともと、男子の2人が教員と同室なのは、消灯時間を無視した生徒が部屋に押し掛けるのを防ぐためです。それで、橘君と私が同室だという必要があったんです」

 

 

「はぁ...それで、本当に深夜と同室じゃないのは、やっぱり倫理的問題ですか?」

 

 

「そうなりますね」

 

 

「俺とは良いんですか?」

 

 

「お姉さんと同室なら問題ないと判断されました」

 

 

それでいいのかよ。

まぁ、そもそも俺には恋人がいるから襲ったりなんかしないけどな。

 

 

「つまり、山田先生と深夜が同室なのは建前で、深夜は個室、俺と織斑先生と山田先生が3人同室なんですね」

 

 

「そのとおりです」

 

 

なるほど、理解した。

だから、山田先生が今旅行用バッグを持ってるのね。

山田先生はそのままいったんバッグを置くと、再び話し掛けてくる。

 

 

「織斑君は海に行かないんですか?確か、水着を通販で買ったのでは?」

 

 

寮にいて通販していいのか分からなかったので、山田先生に確認をしたから、俺が水着を買ってるのも分かってるんだろう。

 

 

「本当は行くつもりだったんですけど、生憎仕事がありましてね」

 

 

「そ、そうなんですか...」

 

 

俺がそう言うと、山田先生は苦笑いを浮かべる。

まぁ、臨海学校で海にいるってのに、仕事をする生徒なんて俺くらいだろう。

 

 

「織斑君は、高校生とは思えないくらい働いてますよね」

 

 

「まぁ、俺は世界で2人しかいない男性IS操縦者で、『PurgatoryKnights』所属の人間ですからね。忙しいのは覚悟の上です」

 

 

「凄いですね、織斑君は」

 

 

山田先生はそう言う。

そこまで凄いことはしていないんだけどね。

ただ、与えられた仕事をしているだけだからな。

普通に、自分からできる事を探している一般の社員の方の方が凄い。

それに...

 

 

「山田先生も、頑張ってらっしゃるじゃないですか」

 

 

そう、山田先生も寮の部屋割りという、地味だが物凄く大変な仕事を任させている。

そんな人が、頑張っていない訳がない。

 

 

「そうですね...そう言って貰えると、これからも頑張れちゃいます!」

 

 

山田先生は、そう言いながら荷物から水着が入っていると思われる小さいバッグを取り出す。

 

 

「教師の方も、海に入るんですね」

 

 

「はい。織斑君には悪いですけど、今は休憩時間なので」

 

 

「気にしなくていいんじゃないですか?楽しんでください」

 

 

「ええ、そうさせてもらいます」

 

 

山田先生はそう言うと、そのまま部屋から出て行った。

さて、仕事を再開するか...

俺は再びヘッドホンを装着し、PCとにらめっこするのだった...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

三人称side

 

 

浜辺には、IS学園1年生の生徒が集まって遊んでいた。

泳ぐ生徒、砂遊びをする生徒、日光浴をする生徒など様々だ。

 

 

そんな中、やはり注目を集めているのはマドカだ。

 

 

「マドカちゃん、競争しよう!」

 

 

「分かった!」

 

 

マドカは、無事3組の生徒と馴染めたようだ。

今はクラスメイトの何人かと、危なくない所で泳いで競争をしている。

マドカは千冬のクローンで、一夏に感化されてトレーニングを重ねているので、一般生徒よりも物凄く身体能力が高い。

そのため、圧倒的な差をつけてゴールした。

 

 

「は、早いね...」

 

 

「鍛えてるからね。でも、お兄ちゃんには全然勝てないんだよね...」

 

 

「ねえ、織斑君ってどれくらい凄いの?」

 

 

ここで、マドカにクラスメイトが一夏の凄さを尋ねる。

 

 

「そうだね...少なくとも、私は何一つ勝った事が無いよ...そうだ、シャルさ~ん!!」

 

 

マドカは、シャルロットの事を呼ぶと、

 

 

「マドカちゃん、どうかした?」

 

 

シャルロットは直ぐにマドカの所に来た。

同じ会社所属という事で、しっかりと仲が良いようだ。

 

 

「お兄ちゃんの凄さを教えてるんですけど...お兄ちゃんに勝てた事ってありましたっけ?」

 

 

「いや、無いね...学力でも、身体能力でも勝てなかったね。特に、生身の模擬戦で僕とマドカちゃんの2人でかかったのに、軽く流されたからね...」

 

 

「そ、そんなに凄いんだ...」

 

 

マドカとシャルロットの説明で、一夏の凄さが伝わったようだ。

 

 

「あ、私、お花を摘んで来るね。私の事は気にせずに遊んでて良いよ」

 

 

そして、マドカのクラスメイトはそう言ってはなれた。

こうして、この場にはマドカとシャルロットが残った。

 

 

「シャルさん、ちょこっと泳ぎます?」

 

 

「そうだね、泳ごうかな」

 

 

マドカとシャルロットは会話をし、泳ぐために海に向かう。

と、その時に

 

 

「アンタたち、ちょっといい?」

 

 

と、鈴が声を掛ける。

鈴の後ろには、セシリア、ラウラ、簪と深夜を除く専用機持ちが揃っていた。

それを見たマドカは、

 

 

「初めまして、織斑マドカです。よろしくお願いします」

 

 

と、挨拶をする。

 

 

「凰鈴音よ。鈴でいいわ。よろしくね!」

 

 

「セシリア・オルコットですわ。名前で構いません、よろしくお願いしますわ」

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。よろしく頼む」

 

 

「更識簪です。よろしく」

 

 

それに反応し、鈴たちも自己紹介をする。

 

 

「それで、鈴。どうかしたの?」

 

 

シャルロットが鈴に話し掛けて来た理由を尋ねる。

 

 

「そうそう、一夏見なかった?アイツ、何処探してもいないんだけど」

 

 

それを聞いたシャルロットとマドカは顔を見合わせた後、同時に首を振る。

 

 

「いや、見てないよ」

 

 

「私も見てない」

 

 

シャルロットとマドカがそう言った事により、鈴たちは表情を暗くする。

同じ会社所属の2人だったら一夏が何処にいるか知っていると思ったんだろう。

 

 

「っていうか、一夏って水着買ってたっけ?」

 

 

ここで、シャルロットがそう言うと、鈴たちは考え込むように顎に手を当てる。

そして、全員が「あっ」という表情になった。

この前買い物に行ったとき、一夏は何も買ってない事を思い出したんだろう。

 

 

「つ、通販で買っていた可能性もありますわ」

 

 

セシリアがそう言った事により、鈴たちは暗くなっていた表情を少し明るいものに変える。

 

 

「そ、そうよね。臨海学校って分かってるのに、水着を買わない訳がないわよね」

 

 

「でも、だったら何処にいるんだろう...」

 

 

簪が改めてそう言った事もあり、シャルロットとマドカも含め、6人で首を傾げる。

と、ここに

 

 

《フム、何をしている?》

 

 

ディミオスがやって来た。

 

 

「あ、ディミオスソード。久しぶり」

 

 

《ああ、久しぶりだな》

 

 

取り敢えず、マドカがディミオスにそう声を掛け、ディミオスもそれに返事をする。

 

 

「それで、お兄ちゃんが何処にいるか知らない?」

 

 

《一夏なら部屋で仕事しているぞ》

 

 

ディミオスがそう言った瞬間、6人の動きが止まる。

そして...

 

 

「「「「「「ええぇぇぇ~~!!?」」」」」」

 

 

と、6人同時に叫ぶ。

その声量から、浜辺中から視線が集まる。

 

 

「一夏さん、臨海学校に来ても仕事してますの!?」

 

 

《ああ。日本政府と国際IS委員会から仕事が来ていたからな》

 

 

「そ、そうなのか...」

 

 

この会話の内容が聞こえていたのか、周囲からは

 

「一夏君、いないのか~」

 

「織斑君に水着見てもらいたかったなぁ...」

 

などと呟く声が聞こえてくる。

 

 

「お兄ちゃん、やっぱり忙しいんだね...」

 

 

「流石一夏...」

 

 

『PurgatoryKnights』に所属している2人は、一夏に会えないというよりも、お疲れ様だという感情の方が大きそうだ。

この2人にとって、一夏は先輩であり上司なので、そう思うのは普通だ。

 

 

「フム、何やら盛り上がっているが、どうかしたのか」

 

 

と、ここで千冬がそんな事を言いながらやって来た。

その後ろには、真耶もいる。

千冬の事を見た瞬間、周囲の生徒は

 

「うわ...織斑先生、スタイルいい!」

 

「水着姿も似合ってる!」

 

と言った感想を漏らす。

 

 

「あ、おねえちゃ...じゃなくて織斑先生。お兄ちゃんが、臨海学校なのに仕事をしてて海に来てないからテンションが下がってるところです」

 

 

マドカが取り敢えずざっくりとした説明を千冬にする。

すると、千冬は納得したように息を漏らす。

 

 

「なるほどな...織斑兄はやはり忙しいのか」

 

 

「そのために、ノートパソコンの所持許可を得たんですね」

 

 

教師2人がそう発する。

ここでシャルロットが、

 

 

「それにしても、織斑先生も山田先生も、水着がすっごく似合ってますね!」

 

 

と、千冬と真耶の水着を褒める。

 

 

「そうですか?嬉しいですね~」

 

 

真耶はそう言って少し照れたように身を捩る。

千冬は、特に反応を見せないが内心嬉しいようだ。

 

 

「それでは山田先生。休憩時間も短いですし、軽く泳ぎますか」

 

 

「そうですね!泳ぎましょう!」

 

 

千冬と真耶はそう短く会話した後、泳ぐために海に向かう。

 

 

「シャルさん、今度こそ泳ぎましょう!」

 

 

「そうだね、行こう!」

 

 

その2人の後に続いて、マドカとシャルロットも海に入る。

 

 

「あ、チョッと!私達も行くわよ!」

 

 

「分かりましたわ!」

 

 

「ああ!」

 

 

「うん!」

 

 

それに感化され、鈴、セシリア、ラウラ、簪も海に入る。

 

 

((((((((一夏/一夏さん/織斑君、ごめん!/すまない!/すみません!))))))))

 

 

8人全員、心の中で一夏に謝罪しながら。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

深夜side

 

 

チクショウ!

何が...何がどうなってんだよ!!

 

 

事の発端は、今日の朝。

正面ゲート前で整列していた時だ。

なんと、山田先生が転入生がいるというのだ。

原作ではそんなこと無かったし、俺が困惑していると...

 

 

「織斑千冬と織斑一夏の妹で、『PurgatoryKnights』所属の織斑マドカです」

 

 

......なんでだよ!

なんでマドカが転入してきてんだよ!

マドカは、亡国企業に入ってる、敵だろうが!

なに普通に一夏と千冬の妹って言ってんだよ!

一夏の事を殺そうとしてんじゃないのかよ!

それに、転入理由は知ってる?

何のことかと思い、クラスメイトに尋ねた。

すると、この間の休日に、束が世界中のディスプレイをクラッキングし、マドカに専用機を与える事を伝えたらしい。

俺は、その時1日中寝てたから知らなかった。

それはそうと、なんで束がマドカに専用機を与えてんだよ!

確かに、束は黒騎士をマドカに与えてたけど、それはもっと後だろうが!

臨海学校では、箒に紅椿を上げるんじゃないのかよ!

 

それ以外にも、まだまだおかしいところがある。

なんで一夏が旅館の女将に名刺を差し出しながら挨拶してんだよ!

それに、俺は何で個室なんだ!

男子の部屋に押し掛けるのを防ぐために、教員と同室じゃないのかよ!

なんだよ、建前上って!

 

そして、なんで一夏は仕事してんだよ!

海での日常イベント全部なしだぞ!

いや、待て...

これは、俺が海イベントを出来るという事か!

そうだ、そうに違いない!

つまりは、俺が主人公だという事!

やっぱりそうだ...この臨海学校で、俺が主人公だと証明するんだ!

そう思うと、俄然明日が楽しみになって来た...

待ってろぉ...

明日で、一夏を蹴落としてやる!

そうして、俺が主人公だと証明するんだぁ!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

「いったん昼飯...」

 

 

俺はそう呟くと、PCの電源を落とす。

そうして、ヘッドホンを外し、固まっていた背筋を伸ばす。

肩がバキバキと音を立てる。

はぁ...疲れた.....

 

 

《一夏》

 

 

「ん?どうした、ディミオス」

 

 

ここで、ディミオスが窓から部屋に戻って来た。

俺はそのまま視線をディミオスに向ける。

ディミオスの表情は、何処か重いものに感じる。

 

 

《ダークネスドラゴンWから連絡が来た。如何やら、バディワールドからまた流出品が確認されたらしい》

 

 

「何!?それは本当か!?」

 

 

《本当だ》

 

 

本当だったとすると、いったいどうなるか...

 

 

「その、流出品の内容は?」

 

 

《それらを今から確認しに行く。遅くとも明日の朝までには戻る》

 

 

「分かった。気をつけてな」

 

 

《ああ。オープン・ザ・ゲート。ダークネスドラゴンW》

 

 

ディミオスはそのまま、ゲートを潜っていった。

...これは、また事件が起きる気がするな。

この前の、ギアゴッドver.Ø88の一部パーツのように悪用されていたとしたら...また、俺が解決する。

それは、バディワールドと1番関わっている俺の役目だ。

明日の装備試験、何もなければいいんだがな.....

 

 

 

 




実は、一夏とここまでしっかり話すのは初めての山田先生。
大丈夫、あなたは忘れられてないよ!

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想や誤字報告もよろしくお願いします!


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1日目の終わり

まさかの1日目でガッツリ3話使う事件。
ここまで使う作品は他にないんじゃないですかね?
それくらい、グダグダだという事か...

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

あれから時刻は進み、夕方。

IS学園の生徒は思い思いの時間を過ごしていた。

いったん昼食をはさんだ後、また泳ぐ生徒、部屋でゆっくりする生徒等々様々だった。

そして、一通り遊んだあと、今から夕食だ。

この旅館では、何故か食事時浴衣着用なので、全員が浴衣を着用している。

IS学園には様々な国籍の生徒が在籍しているため、当然ながら髪の色1つでも様々な個性を持った生徒達がいる。

そんな生徒達が、全員同じデザインの浴衣を着ているのは、何処となくシュールだ。

更に、宗教上の理由や文化の違いなどで正座が出来ない、もしくは苦手な生徒の為にテーブル席も用意されている。

そして、生徒の前には既に本日の夕食が用意されている。

カワハギをはじめとした刺身に小鍋、山菜の和え物と味噌汁とお新香。

とても豪華だ。

生徒達も、早く食べたいと言わんばかりに目を輝かせている。

だが...

 

 

「....織斑兄は如何した?」

 

 

食事前の挨拶をするために、教員たち用のスペースから生徒用スペースに来ていた千冬がそう声を漏らす。

そう、まだこの場に一夏が来ていないのだ。

それを表すように、端の席が1つ、料理は来ているのに座っている生徒はいない。

 

 

「まだ来てないです」

 

 

先程の千冬の呟きに答えるように、シャルロットがそう言う。

それを聞いた千冬はため息をつく。

 

 

「ならデュノア、織斑兄のことを呼びに...」

 

 

千冬がシャルロットにそう指示を出している途中で、

 

ガラガラ

 

と、襖が開く。

そして、全員がその開いた襖に視線を向ける。

すると、そこにはこの場に唯一いなかった生徒である一夏がいたのだが...

 

 

「織斑兄...何かあったか?」

 

 

そう、千冬が心配そうな声を漏らす。

今の一夏は眉間を押さえていて、どう見てもふらっふらだった。

 

 

「.....疲れました」

 

 

一夏はそうボソッと呟くと、誰も座っていなかった席に座る。

そして、そこそこ強いタイプの目薬を取り出して、そのまま差す。

暫く眉間を押さえた後、

 

 

「あー」

 

 

と声を漏らす。

 

 

「遅れてすみませんでした」

 

 

「い、いや、大丈夫だ。以後気を付けるように」

 

 

「分かりました」

 

 

一夏と千冬はそのように会話する。

そして、一夏は目薬を仕舞う。

 

 

「ん、んん。さて、それでは全員揃ったので、夕食を開始する。全員残すなよ!それでは、頂きます」

 

 

『頂きます!』

 

 

「いただきます...」

 

 

千冬の号令合わせて、生徒は元気よく、一夏はボソッと頂きますと言う。

そして、千冬が教師スペースに戻ると同時に、一斉に食べ始める。

 

「ん!おいしい!」

 

「ねー!」

 

と、生徒達が思い思いの反応を見せる中、一夏は無表情でただただ食べる。

表情が変わることも無く、何か感想を言うでもなく、ただただ食べる。

その事もあって、一夏の周りにはチョッと重い雰囲気が流れていたが、今の疲れ果てた一夏にその事を気にする余裕がない。

 

 

「お、織斑君、大丈夫...?」

 

 

その空気に耐えられなかったのか、一夏の隣に座っている生徒が一夏に声を掛ける。

一夏は、持っていた箸をいったんおいてから、その隣の生徒に顔を向ける。

 

 

「ああ、大丈夫だよ。エル...」

 

 

その生徒とは、一夏と実技授業で同じ班になったことがある、エル・アスクリーだ。

 

 

「エルこそ、正座で大丈夫なのか?」

 

 

「うん、私は大丈夫だよ!宗教上は問題ないし、日本に来る前に一応練習しておいたから!」

 

 

「正座の練習...」

 

 

今現在は無国籍とはいえ、今までずっと日本で過ごしてきた一夏にとって、その言葉には違和感があるんだろう。

だが、

 

(まぁ、日本になじみがないとそんなもんか...)

 

と、一夏は直ぐに切り替えた。

一夏はそのまま箸を再び持ち、食事を再開する。

だが、一夏の表情が変わる事は無く、ただただ食べてる。

暫くそうしていると、当然ながら夕食を食べ終わる。

 

 

「ごちそうさまでした...」

 

 

一夏は手を合わせてボソッと呟く。

だが、心なしか先程よりも声は大きかった。

 

 

「ふぅ...ご飯食べたから少しは元気が出て来た」

 

 

如何やら、夕食を食べたことにより、活力を取り戻したようだ。

表情も無表情から少しは改善されている。

 

 

「ごちそうさまでした!」

 

 

ここで、隣のエルも食べ終わった。

一夏とエル以外にも、チラホラと食べ終わった生徒が出て来ている。

 

 

「今更だけど、エルと話すのって久しぶりだな」

 

 

「そうだね...実習以外ではあまり話さないからね」

 

 

今度は、一夏からエルに話し掛ける。

一夏は忙しくて、昼休みにも仕事をしている事が多く、1組の教室からは出ないので、他クラスの生徒と話す機会があまりないのだ。

だからこそ、クラス外でよく話す人が鈴と簪しかいないのだ。

 

 

「あ、そうだエル。連絡先交換する?」

 

 

と、ここで不意に一夏がそう呟く。

その瞬間に、食事をしていた生徒全員が一夏とエルに視線を向ける。

 

 

「え、良いの!?」

 

 

「自分から言い出しといて、駄目な訳がないだろ?」

 

 

(正直に言うと、クラリッサとチェルシーの2人と先に交換したいけど...友人と交換するのも大事だからな!)

 

 

一夏は、心の中ではやはり恋人であるクラリッサとチェルシーの事を考えていたが、友人と交換するのも大事だと判断したようだ。

クラリッサとチェルシーも、友人と連絡先を交換するくらいなら許してくれるだろう。

 

 

「それで、どうする?」

 

 

「お、お願いします!」

 

 

一夏がスマホを取り出しながらそう聞くと、エルも顔を赤らめながらスマホを取り出す。

顔を赤くしたエルを見た一夏は、

 

 

(何故赤くする...俺、なんか意識されてんのか?まぁ、確かに2人しかいない男子の片方ではあるが...まさか、ねぇ。惚れられてるなんてことは...無いな。そもそも、俺にはクラリッサとチェルシーがいるし)

 

 

そんな事を考えていた。

そうして、2人は連絡先を交換した。

 

 

「お、おおお織斑君の、連絡先...!」

 

 

「おー、本当に交換出来てる...主任、ありがとう」

 

 

エルはその事にパニックになりながらも、一夏と交換できたことに喜び、一夏は本当に普通のスマホとして使える事に感動していた。

と、ここで...

 

 

『ズルい!!!』

 

 

「えきゃ!?」

 

 

「ん?」

 

 

周囲の生徒が一斉にそう叫び、エルは驚いたような悲鳴を上げるが、一夏は特に表情を変えない。

如何やら、何回か叫ばれたことにより、一夏には耐性が付き始めているようだ。

 

 

「ズルい!織斑君と連絡先を交換するなんて!」

 

 

「一夏君!私とも!」

 

 

生徒は、口々にそんな事を言う。

エルはアワアワしているが、一夏は何かを悟ったようで耳を塞ぐ。

その次の瞬間、

 

 

「うるさいぞ!」

 

 

と、お怒り状態の千冬がやって来た。

その言葉を聞いた瞬間に、一斉に静かになる。

 

 

「全く...織斑兄、少しは考えて行動しろ」

 

 

「自由時間に仕事をしていた俺に、そこまで考慮しろと?」

 

 

「.....以後気を付けるように」

 

 

千冬はそう言うと、教員スペースに戻っていった。

みんなが千冬に注目している中、どさくさに紛れてマドカが一夏に近付く。

 

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん」

 

 

「ん?如何した?」

 

 

マドカが小声で話し掛けて来たので、一夏も声を潜めてそう返す。

 

 

「主任から伝言があるんだけど、良い?」

 

 

「後で聞こう」

 

 

「分かった。じゃあ、部屋に行っていい?」

 

 

「大丈夫だ。先生方には俺から説明をしておく」

 

 

そう会話を終わらすと、マドカはしれっと戻っていった。

それから、暫くしないうちに全員が夕食を食べ終わったのだった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

マドカside

 

 

夕食から暫くの時間が経った。

今は全クラス、男子、教師全員の入浴時間が終わったため、10時の消灯時間までの自由時間だ。

そんな時間、私はお兄ちゃんがいる教員部屋に向かっている。

あの夕食の後、お兄ちゃんはそのまま部屋に戻っていった。

何でも

 

 

「後42枚...今日中に終わらせないと明日に響く...」

 

 

との事だ。

温泉に行く余裕がないから、部屋の内風呂に入るらしい。

折角の温泉があるのに、入れないだなんて...

やっぱり同じ会社に所属しているとはいえ、お兄ちゃんみたいに偉い立場になると仕事は忙しくなっちゃうんだなぁ...

 

 

それにしても、3組の人は皆良い人だったなぁ...

年も1つ下で、急に専用機を、それもあの『篠ノ之束特製』の専用機を急に貰ったのに、それなのにも関わらず私と仲良くしてくれた。

今日、急に転入してきたのにバスの中で一気に仲良くなれて、海でも遊んで...

お兄ちゃんの友達の専用機持ちの人とも、シャルさんのお陰で仲良くなれた。

元テロリストだとは思えないくらい、今が幸せだ。

このまま、平和に過ごせると良いんだけどなぁ...

 

と、もう直ぐお兄ちゃんとお姉ちゃ...織斑先生の教員部屋か。

次の角を曲がれば...

あれ?

 

 

「何してるんですか?」

 

 

私はそう声を発する。

教員部屋の前には、シャルさん、セシリアさん、ラウラさん、鈴さん、簪さんと、午前中一緒にいた専用機持ちの人達が集合していた。

それだけなら、まぁ、分からなくもない。

お兄ちゃんや織斑先生に用があるだけかもしれない。

でも、5人全員が耳をピタッと扉にくっつけているのならば話は別だ。

5人とも、私の声に反応して私の事を見ると、一糸乱れぬ動きで口の前に右手の人差し指を持ってくる。

これは...静かにって事かな?

 

 

「シャルさん、どうかしたんですか?」

 

 

私はひそひそとシャルさんに何をしていたのか尋ねる。

すると、シャルさんはその場を離れ、さっきまでいたところに指を向ける。

実際に聞いてみてって事だろうか?

私はそのまま、さっきまでシャルさんがいたところに行き、扉に耳を当てる。

すると、部屋の中の音が聞こえてくる。

 

 

『ん!あ!気持ちいいです...』

 

 

『そうですか?それは良かったです』

 

 

『一夏、お前は本当に上手いな』

 

 

『昔から、千冬姉にはしてたからな』

 

 

『あ、織斑君、それ以上激しくは!』

 

 

『しないですよ。俺も疲れてるんです...』

 

 

こんな会話が。

え、なんで山田先生もいるの!?

それにお兄ちゃん、何してるの!?

昔からお姉ちゃんにはしてた!?

え!?え!?え!?

扉に張り付いている他の人達も顔を赤くしている。

 

 

『はぁ...おい、扉の前の6人』

 

 

と、ここでお兄ちゃんが急にそう言ってきた。

私達はビクっと身体を震わせる。

だが、シャルさんは今扉に耳を当てていないので何て言われたのか分からないようだ。

 

 

『怒らないから入ってこい』

 

 

そう言われたら入るしかない。

私はそう判断して、扉を開ける。

当然ながら、部屋の中の様子が見れるようになる。

そこには、布団にうつ伏せで寝ている先生2人と、山田先生の背に肘を当ててるお兄ちゃん。

その光景を見た瞬間、私達は部屋の中で起こっていた状況を理解する。

 

 

「ま、マッサージ?」

 

 

鈴さんがそう呟く。

 

 

「マッサージ以外に何があるんだよ。()()()()()()を付き合ってもいない人、ましてや教師や姉とする訳ないだろ」

 

 

お兄ちゃんは呆れたような表情で私達の事を見ている。

私達は思わずお兄ちゃんから視線を逸らす。

お兄ちゃんはため息をつくと、

 

 

「それで、なんか用か?マドカ以外は来るって聞いてないぞ」

 

 

と言ってくる。

私は、そのままシャルさん達の事を見る。

シャルさん達は、視線を泳がせる。

如何やら、大した理由は無いっぽい。

 

 

「大した用は無いのかよ...それでマドカ。主任の伝言って?」

 

 

「あー、周りに人がいない方が良いんだよね...」

 

 

シャルさんを含め、専用機持ちの5人と山田先生は、主任が束さんだと知らないし...

 

 

「分かった。じゃあ、部屋に来てもらって悪いが、外に行くか」

 

 

「少し待て、一夏」

 

 

お兄ちゃんが私を部屋の外に連れて行こうとすると、織斑先生が待ったをかける。

そう言えば

お兄ちゃんの事を名前で...

さっき、お兄ちゃんも『千冬姉』って呼んでたし、何となくプライベートな雰囲気も混じってるのかな?

 

 

「1回、女子だけと話させてくれないか?」

 

 

「...まぁ、いいけど...なら、俺はロビーのマッサージチェアでも使うか。千冬姉のマッサージ、痛いだけだったからな」

 

 

お兄ちゃんはそう言いながら部屋から出て行った。

 

 

「織斑先生、どういうことですか...?」

 

 

簪さんがそう尋ねる。

 

 

「あー、一夏が仕事で疲れたからって、マッサージをしてやったんだ。そうしたら...」

 

 

「『アンタのマッサージはただ痛いだけだ!』って言って、見本を見せてやるって感じで私と織斑先生にマッサージをしてくれた感じですね~」

 

 

織斑先生の説明に、山田先生が補足をする。

なるほど、そう言う事だったのか...

あれ、山田先生は何でここにいたんだろう?

そう疑問に思うと、

 

 

「ああ、私もこの部屋なんですよ。お姉さんと一緒の部屋だったら倫理的に問題は無いだろうって。橘君と同室だと言ったのは、橘君の部屋に生徒が押しかけないようにするためです」

 

 

と、私達の心情を読み取ったかのように山田先生が説明をする。

私達6人全員が状況を理解したタイミングで、織斑先生が

 

 

「んん!さて、残って貰ったのは他でもない。お前らが、一夏の事を如何思っているかを確認しようと思ってな」

 

 

という。

お兄ちゃんの事を如何思っているか、か...

私にとっては頼れる上司でお兄ちゃんだけど、他の人達は如何思っているのか、確かに気になる。

 

 

「それに、凰、オルコット、ボーデヴィッヒ、デュノア、更識は一夏のファンクラブに入っているんだから、何か特別な感情を持っているんだろう?」

 

 

織斑先生の言葉に、私は驚く。

お兄ちゃん、ファンクラブあるの!?

凄いなぁ...それくらい、みんなから認められてて人気って事だよね!

それから、鈴さん、セシリアさん、ラウラさん、簪さん、シャルさんの順でお兄ちゃんの事を如何思っているのか、そしてそれは如何いう切っ掛けなのかを話し出した。

5人全員が、お兄ちゃんに少なくない量の感謝や絆、そして隠しきれていない好意を抱いているようだ。

切っ掛けとしては、全員お兄ちゃんと関わりだした時の出来事が、そのままお兄ちゃんを意識する切っ掛けになっているみたいだ。

いやぁ、初対面でそんな事が出来るお兄ちゃんは凄いなぁ。

そして、私の番になった。

私は、そのまま自分の気持ちを正直に話す。

 

 

「お兄ちゃんとは、家の関係もあって関わりが短いけど、頼れる上司で、カッコいいお兄ちゃんだよ!」

 

 

私がそう言うと、私以外の人が笑顔になる。

それから、暫くの間あまり出来ないガールズトーク(教師2人含む)をした後、お兄ちゃんに主任の伝言を伝えるのだった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

消灯時間をとっくに過ぎた1:00頃。

俺は唐突に目を覚ました。

だが、目を覚ましたとしてもすることなんてない。

俺の隣には織斑先生が、その更に奥には山田先生が寝てる。

俺はそのまま仰向けになり、頭の下で両手を組んで、マドカから聞いた主任の...束さんの伝言を思い返す。

その内容とは、明日、いや、今日この臨海学校に侵入するとの事。

理由は、篠ノ之箒に絶縁を言うためだとか。

聞いた話では、如何やら篠ノ之は束さんに専用機をねだったらしい。

その事に束さんは激怒。

 

 

「いっくんには悪いけど、もう我慢できない!あの愚妹との関係を切る!」

 

 

との事。

これは推測だが、口頭で篠ノ之本人に絶縁を言い渡した後、全世界に向けて声明発表するんだろう。

確かに、俺の仕事は更に忙しくなるかもしれない。

それでも、篠ノ之に関する声明を言えるんだったら、俺としては大歓迎だ。

 

 

俺がそんな事を考えていると、急に空中にゲートが開く。

その中から、ディミオスが出て来た。

 

 

「お帰り、ディミオス」

 

 

《なんだ、起きていたのか》

 

 

今、唐突に起きたんだよなぁ。

俺はそんな事を思いながら、布団から抜け、トイレに行く。

ディミオスは意図に気付いたようで、俺の後を付いてくる。

そして、トイレに入って、ディミオスに尋ねる。

 

 

「それで、なんだって?」

 

 

《流出したのは、アジ・ダハーカの細胞らしい》

 

 

「と、言う事は、アビゲールさんの兄弟みたいなものか?」

 

 

《そうなるな》

 

 

俺はそれを聞いて頭を抱える。

また厄介そうなものが...

まぁ、俺がすることは、

 

 

「明日、何か起こるかもしれない。早めに寝よう」

 

 

《そうしておけ》

 

 

俺はそのままトイレから出て、一応手を洗ってから布団に戻る。

明日、束さんの侵入以外何も起こらないと良いんだけどなぁ...

 

 

 

 




いやぁ、一夏が疲れてます。
クラリッサとチェルシーに癒してもらいましょう。
夏休みに。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

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天災兎の襲来

やっと2日目。
そして、プロローグと設定集を除くと50話目。
続いてる...のか?

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

ディミオスからアジ・ダハーカ様の細胞が流出したと報告を受けた後、不安を感じながらも俺はそのまま寝た。

そのまま久しぶりに6:40まで寝た後、朝食を食べた。

そして、これから2日目...いや、この臨海学校の真の目的である浜辺での実技だ。

専用機持ちは国や会社から送られてきた装備の試験を、非専用機持ちは普段アリーナではしにくい、大きな動きを伴う訓練を行う。

そのため、浜辺には既に中国、ドイツ、イギリス、日本、フランス(という事になってる『PurgatoryKnights』)から送られてきた装備が大量に積みあがっている。

まぁ、俺の煉獄騎士にはIS装備の後付けなど出来ないし、マドカの銃騎士も束さんから直接貰った最新式なので、追加装備などない。

そして、深夜も専用機を()()()持っているものの、無所属なので送られてくる装備などない。

そのため、俺とマドカはシャルの手伝いをした後、深夜は最初から一般生徒の訓練補助をすることとなる。

そんな実習開始15分前。

もう既に浜辺にはそこそこな人が集まっている。

そんな中、俺は缶コーヒー片手に浜辺に集まっている装備を眺めていた。

俺の隣には、マドカ、シャル、鈴、セシリア、ラウラ、簪と深夜以外の専用機持ちが集まっている。

わざわざ集合しなくても良いと思うんだが、何故か集まっているのだ。

 

 

「いやぁ、こう見ると壮観だなぁ...」

 

 

俺がそう呟くと、集まっている6人もうんうんと頷く。

装備1つ1つは、やはりそこまでの迫力がある訳ではないが、こうやって集まるとやはり迫力だ。

と、そうやって眺めていると、ある事に気付く。

 

 

「なんか、イギリスからの装備数少なくね?」

 

 

そう、それはイギリスから送られてきている装備数が少ないという事だ。

中国やドイツ、そして開発元企業の倉持技研がISを作れなくて自分だ立ち上げた簪にも日本政府から大量に装備が送られているのに、セシリアに向けたイギリスからの装備数はどう見ても少ない。

っていうか、今思ったが日本政府は取り敢えず大量に送っとけ主義なのか?

この装備しかり、俺への書類しかり...

そう思うとなんかムカついてきた。

俺がそんな事を考えていると、セシリアは説明を開始する。

 

 

「ええ、確かに少ないですわ。その理由は、本国ではBT兵器搭載ISの2号機であるサイレント・ゼフィルスの開発が始まりましたの」

 

 

「つまり、そっちに人員を使ってるからってこと?」

 

 

簪が首を傾げながらそう尋ねると、セシリアは頷く。

へぇ~、ブルー・ティアーズの後継機か...気になるな。

是非完成したら模擬戦してみたいものだ。

 

 

「パイロットは決まってるの?」

 

 

「ええ。現段階では、サラ・ウェルキン先輩がパイロットになる予定らしいですわ」

 

 

なるほど。

確かにこの前の学年別タッグトーナメントの2年生部門で3位だったウェルキン先輩だったら適任か。

そこから少し6人と雑談していると、

 

 

「全員整列!」

 

 

織斑先生が指示を出す。

その瞬間に、専用機持ちと非専用機持ちに分かれて整列する。

まぁ、元々軽く分かれていたから、俺達7人に深夜が合流して整列しただけだけどな。

全員が整列したのを確認した織斑先生は小さく頷くと、指示を出し始める。

 

 

「さて、これから専用身持ちは武装試験を非専用機持ちは海での訓練を始め...」

 

 

だが、その指示は途中で途切れてしまう。

それも仕方が無い。

何故なら、

 

ズドドドド!!

 

と、物凄い勢いで走る音が聞こえてくるんだから。

 

 

「ちーちゃ~ん!いっく~ん!マドちゃ~ん!」

 

 

織斑姉兄妹の名前を叫びながら走ってくる、頭にウサミミを着けたエプロンドレスの女性。

そう、束さんだ。

束さんは物凄い勢いで織斑先生に突っ込んでいく。

山田先生を始めとした先生方、マドカを除いた専用機持ち、一般生徒全員がその方向を見て驚愕の表情を浮かべる。

ったく、マドカから侵入するってのは聞いたけど、こうやって堂々と、派手に来るのかよ!

俺はそのまま地面を蹴り、束さんの進路に割り込むと、

 

 

「鉄拳 ドラゴナックル!!」

 

 

と叫びながら左手で束さんを殴りにかかる。

鉄拳 ドラゴナックルは、ドラゴンWの初期最強アイテムで、ダメージを与えた時ゲージを1枚増やすことが出来る。

嘗ては牙王さんも使用していた。

ダークネスドラゴンWにも鉄拳 ブラックナックルという似たようなアイテムがあるのだが、まぁ、ドラゴナックルの方が咄嗟に出て来たんだ。

実際に装備している訳でも無いし、別にいいだろう。

 

 

「ちょ!?危ない!」

 

 

束さんは慌てながらも、何とかといった感じで避ける。

だが、それが俺の狙い。

俺はそのまま束さんの足を払い、倒す。

そして、両腕を押さえて制圧完了。

 

 

「束さん、合わせて」

 

 

「分かった!任せて、いっくん」

 

 

小声で束さんに簡潔に伝えると、束さんも小さくそう返す。

それを確認した俺は、声を発する。

 

 

「お久しぶりですねぇ...束さぁん...」

 

 

違和感のない感じで演技をしながら。

 

 

「ひ、久しぶりだね...いっくん...」

 

 

今さっき打ち合わせしたように、束さんも合わせてくれる。

ただ、束さんの普段の様子を知っている人は俺とマドカと織斑先生、後一応篠ノ之しかいない。

だから束さんは多少胡散臭くてもいい。

ラウラも会ったことはあるが、そこまで関わりは無かったので私生活は知らないだろう。

 

 

「今まで、何処をほっつき歩いてたんですかぁ...ISなんてもん生み出して、世界を混沌に陥れるだけ陥れて、失踪してぇ...」

 

 

「いっくん、怖い怖い。落ち着いて...」

 

 

「落ち着けるかぁ!!」

 

 

うん、このままのテンションで行くの結構きついぞ。

誰か...織斑先生、マドカ、なんか言って!

 

 

「織斑...よくやった!」

 

 

俺がそんな事を考えていると、織斑先生がそんな事を言いながらこっちに来た。

 

 

「ち、ちーちゃん!それは酷くないかい!?」

 

 

「貴様には、それくらい言わんと割に合わん!」

 

 

如何やら、織斑先生も察してくれたらしい。

まぁ、織斑先生は束さんが『PurgatoryKnights』の開発主任だと知ってるからな...

だが、織斑先生まで加わってしまうと、如何話を進めるかが問題になるな...

 

 

「ディミオス」

 

 

俺が小声でディミオスを呼ぶと、ディミオスは何も言わずにポケットからSDで出てくる。

 

 

《いい加減説明したらどうだ?》

 

 

そして、出て来たタイミングでそのままいう。

うん、ディミオスは本当に頼りになる。

 

 

「仕方が無いな...」

 

 

俺はそう言いながら束さんの事を離す。

束さんは起き上がり、俺、ディミオス、織斑先生、束さんが視線で会話をすると、織斑先生が口を開く。

 

 

「束、聞きたい事は色々あるが、取り敢えず自己紹介をしろ」

 

 

ここで、俺は周囲のマドカを除くすべての人間が此方を見ている事に気が付いた。

まぁ、急に侵入してきた人物と俺と織斑先生が話しているんだから無理はないか...

 

 

「え~、メンドクサイよ~~」

 

 

「なら、その頭を捻り潰しても良いんだぞ?」

 

 

「やります!」

 

 

この2人は、昔からこんな感じだったんだろうか?

学生時代の外での織斑先生...千冬姉の様子を知る手段が俺にはないから、必然的にそんな感想が出て来てしまう。

束さんは立ち上がると、固まっているみんなの方を向き、

 

 

「ハロハロ~、ISを開発した篠ノ之束だよ~」

 

 

と、両手でピースを作りながらそう言う。

もう少し真面目にできないのかとも思うが、まぁ、束さんなのでしょうがないだろう。

俺はそんな事を考えながら両耳を塞ぐ。

 

 

『えええええええええ!?!?』

 

 

丁度そのタイミングで、みんなが驚愕の声を上げる。

チラッと見てみると、反応が遅れたであろうマドカは両耳を押さえながら浜辺に倒れている。

俺はそのままマドカに近寄り声を掛ける。

 

 

「マドカ、大丈夫か?」

 

 

「うん、大丈夫...お兄ちゃんは、良く反応できたね」

 

 

「慣れたからな」

 

 

入学時から始まり、何回も絶叫されたらなれる。

俺とマドカがそんな会話を繰り広げているさなか、なんか周りでは聞いたことがある気がする会話をしている。

あー、あれだ。

シュヴァルツェ・ハーゼのIS訓練場に束さんが現れた時だ。

全く、相変わらず他人に興味を持たないのな。

成長したところもあるのに、こういうところは成長しないのかよ。

はぁ...

俺はそう思いながら、束さんの所に戻る。

 

 

「それで束さん、わざわざ臨海学校に侵入してきた理由は何ですか?部外者は立ち入り禁止なんですが?」

 

 

「ふふん、ISの開発者である私が部外者だと?」

 

 

「だから先に要件を聞いたんじゃないですか...」

 

 

まぁ、俺は元々マドカから聞いているから関係ないが、周りにそう言っておくことは大事だからな。

実際に俺がそう言った事により、さっきまでザワザワしていた周囲も静かになる。

束さんは、さっきまでの何処かふざけた空気を一瞬で真面目なものに変える。

急に空気が変わったことに、更に周りが驚いた表情を浮かべるが、今度は誰も言葉を発しない。

束さんの言葉を掻き消さない為だろう。

束さんはそのまま、一般生徒列の方を見る。

 

 

「今日は、篠ノ之箒に用があって来たんだ」

 

 

その瞬間に、一般生徒の列がまるで打ち合わせでもしたかのようにザッと分かれて、篠ノ之が1人囲まれる形となる。

...なんか、ここだけ見るとスゲェ...束さんとIS学園生徒が仲良いみたい。

そんな事無いはずなんだけどなぁ。

篠ノ之はそのまま束さんの方に歩いてくる。

その表情は、口元がにやけているように見れる。

今までの要素で、喜ぶような要素があったか?

変な奴だ。

 

 

「姉さん!やっぱり私に専用機を作ってくれたんですね!!」

 

 

...はぁ?

やっぱコイツ馬鹿だろ。

話を聞く限り、1回断られてるんだろ?

それなのに何でそんな判断が出来るんだ。

 

 

「はぁ?そんな訳ないじゃん」

 

 

ほら、束さん怒っちゃったよ。

俺はそう思いながら、マドカと共に専用機持ちの事を抑える。

やっぱり、代表候補生で専用機持ちであるシャルたちから見ても、今の篠ノ之の発言はイラっと来るものなのだろう。

汗水流しながらの努力で掴んだ専用機。

それぞれの環境により状況は異なるが、全員が必死になりながらこの立場を掴んだんだ。

それにマドカとは異なり大した努力もせず、加えて何時もの篠ノ之の普段の様子を考えると、怒ってしまうのも仕方が無い。

 

 

「お前ら、落ち着け」

 

 

「そうです!落ち着いて...」

 

 

《落ち着け》

 

 

ん?

如何やらディミオスも織斑先生を抑えているらしい。

 

 

「な!ならなんだというんですか!!」

 

 

「これを見せるためだよ!」

 

 

束さんがそう言うと、突如として映像が流れ始める。

これは、立体空中ディスプレイ...

やっぱり、束さんの技術力は凄いな...

 

 

『ハロハロ~、この間ぶりだね、篠ノ之束だよ!今日も大事な、大事なお知らせがあるんだ!』

 

 

さっきまでイラついていたシャルたちも、織斑先生たち教師も、一般生徒も、そして篠ノ之もその映像の事をジッと見つめている。

 

 

『今回みんなに伝えるのは、私の妹って事になってる篠ノ之箒についてなんだ。今ここに宣言するね。篠ノ之箒に何をしても、篠ノ之束は何もしない。だから、篠ノ之箒が何かをして罰を与えても、私は何もしない。しっかりと罰を与えて欲しいんだ。何でそう思ったのか、それを説明するね』

 

 

そこから、映像の中の束さんは説明を続ける。

その内容は、俺への暴力行為があったこと等々だ。

どうやって情報を入手したかと疑問に思ったが、学園長から貰ったと説明もした。

学園長.....本当にありがとうございます!

今度注文の品俺のポケットマネーで何かサービスします!

教師の方々も、シャルたちも、一般生徒の皆も、何処か安心したような表情でその映像を見ている。

まぁ、遂に篠ノ之にまっとうな罰を与えられると思うと、安心するのも無理はない。

 

 

『それで、今篠ノ之箒はIS学園の行事で花月荘っていう旅館にいるんだ。だから、拘束しておくから、その行事が終わったら警察に渡すね。今度こそ、しっかりと罰を与えてね。バイバ~イ!』

 

 

そこで、映像は途切れた。

 

 

「この映像は、この間みたいに全世界に向けて配信したよ。だから、大人しく拘束されろ」

 

 

束さんは、篠ノ之に向かってそう言う。

 

 

「な!?何で私が拘束されないといけないんですか!」

 

 

「はぁ?今の説明を聞いて理解しなかったの?お前が今までしてきた行動に、罪がないとでも思ってるの?」

 

 

「今まで自室で籠ってました!」

 

 

「それくらいで、罰になるとでも思ってたの?あんなんじゃたりないよ。確かに、謹慎した分は罰が軽くなるかもだけど、まだまだ罰が残ってるに決まってるじゃん」

 

 

篠ノ之に向かって、束さんはそう言い捨てる。

篠ノ之が再び何か言おうとした時、

 

 

「篠ノ之、お前を拘束する」

 

 

と、織斑先生が篠ノ之に近付きながらそう言う。

 

 

「な!何でですか千冬さん!」

 

 

「織斑先生だ!たった今、学園長から連絡が来た。お前を拘束しろとな」

 

 

織斑先生がそう言うと同時に、何人かの教師の方々が篠ノ之の事を囲む。

その手には、手錠や縄、抵抗した時用だと思われる警棒などが握られている。

 

 

「く!?一夏、お前も何か言ってくれ!幼馴染だろう!!」

 

 

篠ノ之は俺の方を向きながら、そんな妄言を叫ぶ。

俺はため息をついてから笑顔で篠ノ之に向かって、

 

 

「俺とお前は幼馴染では無い。さっさと捕まれ」

 

 

そう吐き捨てる。

俺がそう言ったタイミングで、教師の方々は一斉に篠ノ之にかかり、手錠と縄で篠ノ之の事を拘束する。

 

 

「く!?離せ!離せと言っているだろう!」

 

 

篠ノ之がそう喚いているが、教師の方々は気にすることなくそのまま篠ノ之を旅館に引きずっていく。

確か、今日は使われていない部屋があったから、そこに拘束するんだろう。

 

 

《...これで、篠ノ之はもういなくなるな》

 

 

ディミオスがそう呟いたことにより、俺を含めたIS学園の生徒はふぅ~と息を吐く。

これで、学園生活も暫く平和になるかな...

俺がそう、考えた時、

 

キィィィィン

 

「ぐ、あ...?」

 

 

突如として、何かを感じた。

 

 

《く、これは...》

 

 

ディミオスも、何か感じたようだった。

 

 

「なぁ、ディミオス。今...」

 

 

《なに?一夏も感じたのか?》

 

 

俺とディミオスがそう言い合うと、

 

 

「お、織斑先生!大変です!」

 

 

山段先生が情報端末片手に、焦ったような表情を浮かべながら走って来た...

 

 

 

 




バディサマー2021 “社畜!海での仕事!”

ダークネスドラゴンW
魔法
深淵/チャージ/回復

■「バディサマー2021 “社畜!海での仕事!”」と「デビル・スティグマ」は合わせて4枚までデッキに入れることが出来る。
■このカードはファイナルフェイズ中には使えない。
■【対抗】君の場のモンスター1枚を破壊する。破壊したら、君のデッキの上から2枚をゲージに置き、君のライフを+1する。

フレーバーテキスト
「はぁ...海での自由時間を削った仕事は辛い...クラリッサ...チェルシー...」


唐突に思い付いた。
現実では全然夏じゃないですけど。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想や誤字報告もよろしくお願いします!


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暴走事件

遂に事件が!
さて、如何なるか...

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

束さんが臨海学校に侵入して、篠ノ之に関する声明を発表。

そのまま篠ノ之は拘束された。

そしてその後、俺とディミオスが何かを感じたタイミングで、山田先生が情報端末片手に走って来た。

山田先生は織斑先生に近付き、小声で何かを織斑先生に伝える。

それを聞いた織斑先生は、考え込むように眉間に手を置いた後、

 

 

「諸君!実技は中止だ!専用機持ち以外は速やかに自室に戻り待機!部屋から出たならそれ相応の罰があると思え!専用機持ちは私についてこい!」

 

 

そう、指示を出す。

みんな、急にそう言われたことにざわつくも、

 

 

「さっさとしろ!」

 

 

『は、はい!』

 

 

織斑先生の再度の指示により、一斉に旅館に戻っていく。

織斑先生と山田先生も移動し、その後を専用機持ちが付いて行く。

俺も移動しようとするが、ディミオスが移動しようとしない。

 

 

「如何した、ディミオス。行くぞ」

 

 

《あ、ああ。すまない》

 

 

俺がディミオスに呼びかけると、ディミオスも織斑先生の後を付いて行く。

俺は首を傾げながらも、小走りで付いて行く。

そうして、旅館にあった1部屋...扉に作戦司令室と張られている部屋にたどり着く。

ディミオスと共に部屋に入ると、専用機持ちが全員、既に座っていた。

俺とディミオスもマドカの隣に座る。

全員揃った事を確認した織斑先生は説明を開始する。

 

 

「本日、ハワイ沖にて、アメリカとイスラエルが共同開発している軍用IS、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が暴走をした」

 

 

フム、軍事ISの暴走か...

ん?銀の福音?

どっかで見たことがある名前...

あ、そうだ、思い出した。

まぁ、それよりもなんでそれを俺達に言うのかだ。

 

 

「その対処を、偶々近くにいた私達IS学園が...もっと言うなら、お前たち専用機持ちが対処することになった」

 

 

は?

 

 

「暴走した軍用ISの対処を学生にさせるんですか?」

 

 

「そうだ」

 

 

なーに考えてるんだ。

どう考えても学生の仕事じゃねぇ。

いや、普段から学生がする量じゃない仕事をしているが、それとこれとは話が別だ。

 

 

「諸君、これは訓練ではない。身を引いても構わない。身を引きたいものは、今すぐこの作戦室から退室して、自室待機をしろ」

 

 

織斑先生もそれを分かっているのか、参加を強制させない。

だが、専用機持ちは誰も部屋から退出しない。

()()()()()()()()()I()S()()()、つまり、俺達以外に近くに直ぐ出れる軍隊がいないという事。

それを分かっているから、全員やる気があるようだ。

誰も退出しなかった事を確認した織斑先生は、口を開いて言葉を発する。

 

 

「良し。それでは作戦を立てる。何か質問はあるか?」

 

 

「はい。目標の詳細なスペックデータを要求します」

 

 

「よろしい。だが、このデータは2ヶ国の最重要機密データだ。決して他言しないように。情報の流出が確認された場合、諸君らには最低で2年の監視が付く」

 

 

織斑先生はそう警告しながら、俺達に銀の福音のスペックデータを公開する。

それを見て、専用機持ちは作戦を立てるために話し合う。

 

 

「私のブルー・ティアーズと同じ射撃特化型ですわね」

 

 

「しかも、広域殲滅を目的にしているだけあって、相当厄介そうね」

 

 

「それに、この多方向推進装置も厄介だな...偵察は出来ないのですか?」

 

 

「無理だ。対象は超高速で移動している。接触チャンスは1回だ」

 

 

「でも、無人機なら最悪コアだけ取り出せば...」

 

 

「いや、銀の福音は有人機だ」

 

 

簪の発言とスペックデータを否定した俺に、視線が集まる。

 

 

「織斑兄、その情報は何処で?」

 

 

「企画書ですけど?」

 

 

「企画書?」

 

 

織斑先生はそう言う。

みんなも不思議そうに俺の事を見てきている。

 

 

「アメリカ政府とイスラエル政府も馬鹿だなぁ...パーツと器具の発注をした企業の所属者に虚偽の報告をしても、バレバレだぜ」

 

 

そう、先程思った事。

俺は銀の福音の名前を以前1度見ている。

それは、『PurgatoryKnights』に送られてきた企画書と発注書。

俺はそこで既にどんな装備を搭載予定かを見ているため、当然テストパイロット者の事も見ている。

 

 

「そ、そうなのか...なら、この装備類がどんなものか知らないのか?」

 

 

「あくまで企画書しか見てないので、完成品の設計図等は見てないです」

 

 

《そもそも、一夏は処理する仕事が多すぎて、仮に設計図を見ても覚えられる時間はいだろう》

 

 

確かに、企画書だけだから覚えてたけど、設計図までは覚えられない。

俺はそんな事を思いながら、改めて発言をする。

 

 

「なので、短期に決着を付けることは賛成ですが、余りにも衝撃が多すぎるとパイロットが死亡します」

 

 

俺の言葉で、みんな一斉に案を考え直す。

パイロットの事を考えると、ゴリ押しが使えなくなるからなぁ...

パイロットの、確か...ナターシャ・ファイルスさんも、暴走したくて暴走したわけじゃないからな。

助け出さないと。

 

 

「そうです!織斑君、あの、SEを一瞬で無くならせる技は!?」

 

 

ここで、唐突に山田先生がそう言い、俺に視線が集まる。

あー、そう来るかぁ...

そうなるとディストーション・パニッシャーの説明をしないといけなくなるんだけどなぁ...

まぁ、緊急時だ。

そんな事言ってられない。

 

 

「あれは、俺の必殺技のディストーション・パニッシャー。確かにSEを大きく削れるけど、発動に条件がいる」

 

 

「じょ、条件?」

 

 

「ああ。相手のSEが4割以下で、自分(と相手)センターにモンスターがいないときだ。それに、使用コストもゲージが4かかる。それに、削れるSEも4割だけだ。発動条件が4割以下だから基本倒せるが、発動後削れる前に何かしらでSEが回復すると倒しきれない」

 

 

「そ、そんな条件があったのですわね...」

 

 

「それに、確実に当てるには相手が単一能力か、俺の残りSE全てを1度で吹き飛ばす攻撃をしてこないといけない」

 

 

「なるほど。つまり、本当に最後の詰めなのだな」

 

 

「当たり前だろ?条件なしで10割全部削れたら、最初に使ってる」

 

 

最後に決めるための技なんだから必殺技なんだ。

そんなホイホイ使えてたまるか。

いや、まぁ、マジックWにはドローする必殺技とかもあるが...

それは今関係ない。

 

 

「だから、俺単体だなんてことは不可能...そもそも、対象が高速で移動しているから接触の手段が限られる.....ディミオス、最高速度ってどれくらい出せる?」

 

 

《銀の福音に接触は出来る》

 

 

「セシリアって、イギリスから強襲用高機動パッケージ貰ってたけど、高機動訓練してるから、インストールすればすぐ使えるよね?」

 

 

「ええ、そうですわ」

 

 

「深夜、あの...俺との模擬戦でやった光る奴、最高速度はどれくらい?」

 

 

「げ、限界までしたことがねぇから分かんねぇ...」

 

 

自分の専用機なら、分かっててくれよ...

まぁ、仕方が無い。

それなら...

 

 

「先に俺がディミオスに、深夜がセシリアに乗って銀の福音に接触。いったんそこで足止めして、簪、シャル、ラウラの合流を待つ。合流したら、簪たちにはミサイルやレールカノンでの援護をしてもらう...最後に、俺か俺の愉快なモンスター達か深夜の攻撃で鎮める...でどうでしょう?」

 

 

俺がそう言うと、織斑先生も山田先生もシャルたちもみんな驚いた表情になる。

正直、緊急時じゃなかったら疑惑がある深夜を専用機持ちに近付けたくないのだが...

まぁ、今のこの状況じゃ仕方が無い。

 

 

「お兄ちゃん、私は?」

 

 

「マドカは待機。まだ専用機持ちになってから日が浅いし、1人は待機予備人員は用意しておいて損はないからな」

 

 

俺がそう言うと、マドカは納得したような表情になった。

 

 

「...織斑、よくそんな作戦がパッと出てくるな」

 

 

「これくらい普通ですよ」

 

 

特に、俺はバディファイターでもあるんだ。

バディファイトでは、相手の場、手札の状況、残りゲージ、ドロップゾーンのカードなど、判断することが多い。

そんな中、使うカードや戦術を決めるため、ファイターはこういう状況で作戦を立てるのが得意だ。

得意...なはずだ。

 

 

「それで、みんなのISの調整、手伝ってくれますよね、束さん?」

 

 

俺は天井を見ながらそう言う。

織斑先生たちも、俺につられるように天井を見上げる。

すると...

 

 

「うーん...如何しよっかなぁ~~」

 

 

と、言いながら束さんが天井から降りて来た。

周りの専用機持ちも教師の方々も驚いた表情を浮かべている。

だがそんな中、織斑先生が何とかという感じで言葉を絞り出す。

 

 

「束...ここは関係者以外立ち入り禁止だ」

 

 

「まぁまぁ、織斑先生。それはもういいじゃないですか。それで束さん、如何したらしてくれます?」

 

 

「そうだなぁ...束さんが喜ぶようなことをしてくれたらいいよ~」

 

 

束さんが喜ぶことか...

そうだなぁ...

 

 

「俺の手料理と千冬姉のご奉仕?」

 

 

「やる!」

 

 

単純だなぁ。

 

 

「待て一夏!何故私を巻き込んでる!」

 

 

「いいじゃん。協力しろ千冬姉」

 

 

俺がそう言うと、千冬姉は仕方が無いという表情になったのち、ハッとした表情を浮かべる。

周りからの視線に気付いたんだろう。

そのまま千冬姉から織斑先生に戻ると、ゴホンゴホンと咳払いをする。

 

 

「じゃあ束さん。ブルー・ティアーズの調整、何分で出来る?」

 

 

「大体5分くらいかな~」

 

 

「じゃあ、パッケージ調整頼んだ。データ引き抜くとかしたら、ご褒美無しな」

 

 

「了解!」

 

 

「さて、織斑先生。如何しますか?」

 

 

俺は最後に、織斑先生にそう尋ねる。

織斑先生は、考え込むように顎に手を当てる。

そして息を吐いてから

 

 

「...この作戦に、反対意見があるものは?」

 

 

そう周りに尋ねる。

だが、専用機持ちからも教師の方々からも反対意見は出なかった。

 

 

「良し、なら織斑兄の作戦を採用する!現場での作戦指揮権は織斑兄に与える!準備出来次第、作戦を開始する!」

 

 

「《了解》」

 

 

「「「「「「「はい!」」」」」」」

 

 

「分かったよ~!」

 

 

こうして、銀の福音鎮圧作戦が開始されたのだった...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

三人称side

 

 

作戦会議から約5分後。

今現在、束がブルー・ティアーズへのパッケージインストールの最終調整を行っている。

無論、マドカと千冬の監視の元、データを抜き出さないようにしている。

まぁ、束にとって今更必要は無いデータかもしれないが、それでも監視は必要だ。

そんな中、一夏は浜辺に立ち、ダークコアデッキケースを握りしめながら海の方を眺めていた。

 

 

「なぁ、ディミオス」

 

 

《なんだ、一夏》

 

 

そんな中、一夏はディミオスに声を掛ける。

一夏はディミオスが反応したことを確認すると、

 

 

「さっき感じたのって、もしかしなくてもダークネスドラゴンWの気配だったよな」

 

 

そうディミオスに聞く。

すると、ディミオスは頷いてから言葉を発する。

 

 

《ああ。それに恐らくだが、距離があるのにあそこまで威圧感のあるものとなると...》

 

 

「やっぱり、アジ・ダハーカ様の細胞か...」

 

 

《そう考えるのが妥当だ》

 

 

その会話の内容とは、一夏とディミオスが先程感じ取った()()

それの正体に関するものだった。

 

 

「アジ・ダハーカ様の細胞は、恐らくだけど...無理矢理寄生した感じかな?バディワールドからこっちに来て、成長するための依り代として選ばれたのが、銀の福音」

 

 

《そうだと確定するのは危険な思考だが、十分にあり得るな》

 

 

ディミオスがそう言うと、一夏は息を吐く。

アジ・ダハーカ本体の強さ、そしてその細胞から造られたアビゲール両方の強さを知っている一夏としては、相当厄介なことになるのを理解しているようだ。

 

 

「だが、絶対に倒す...」

 

 

一夏には、作戦指揮権が与えられている。

その事もあり、一夏は決意をとっくに固めている。

だが、その気合で空回りをしないように心掛けるのも忘れない。

そうして、一夏が煉獄騎士の鎧を展開しようとダークコアデッキケースを構えた時、

 

 

《一夏》

 

 

と、ディミオスが一夏に声を掛ける。

 

 

「ん?如何した、ディミオス」

 

 

一夏がそれに反応した時、ディミオスは

 

 

《一夏...何故お前は気配を感じた。以前イギリスでのモンスター脱走事件の際は、感じれなかったはずだ》

 

 

そう一夏に尋ねる。

一夏は、考えるように首を傾げる。

 

 

「んー、まぁ、あれから更にダークネスドラゴンWで過ごしたりしてるし、感じられるように成長したんだろ」

 

 

《そうだと、良いんだがな...》

 

 

ディミオスの態度を一夏は疑問に思うものの、今は銀の福音だと判断し、今度こそ煉獄騎士の鎧を展開する。

 

 

「ディザスターフォース、発動」

 

 

そうして、鎧を身に纏ったタイミングで、一夏とディミオスに専用機持ちが合流する。

専用機持ち以外にも、待機のマドカ、そして千冬と真耶と束も来ている。

 

 

「織斑兄、ディミオスソード、橘、凰、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、更識、頼んだぞ」

 

 

「《了解》」

 

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

 

千冬の呼びかけに、全員が答えると、一夏は右手を突き出し、

 

 

「装備、煉獄剣 フェイタル。ライトにバディコール!哀悼の煉獄騎士団団長 ガイスト・ディミオス!」

 

 

フェイタルを装備し、ディミオスの事をガイストとしてライトにコールする。

そして、一夏はディミオスの上に乗る。

ディミオスSDが一夏の頭の上に乗る事はあったが、ディミオスに一夏が乗るのは初めてだ。

一夏の行動を見たマドカ以外の専用機持ちは、一斉に専用機を展開。

そして、強襲用高機動パッケージ、ストライク・ガンナーをインストールしてあるブルー・ティアーズを展開したセシリアにマスター・コントローラーを展開した深夜が乗る。

それを確認した一夏は、

 

 

「ラウラ。俺が墜ちた場合の指揮権はお前に渡す。万が一の時は頼んだ」

 

 

ラウラにそう言う。

 

 

「っ!分かった」

 

 

ラウラがそう頷いたことを確認した一夏は、

 

 

「みんな、行くぞ!」

 

 

そう、声を発する。

それと同時に、ディミオスが空中に飛び、銀の福音に向かっていく。

それに触発され、セシリア達も一斉に飛んでいく。

だが、最高速度の差で作戦通りディミオス、セシリアとシャルロット達の差は開く。

見送っていたマドカ達も、作戦司令室に戻る。

束はサラッとどこかに消える。

 

 

だが、一夏も、ディミオスも、千冬も、束も気が付かなかった。

セシリアの背中に乗っている深夜が、この場において不自然なほどの笑みを浮かべていたことを...

 




カードゲームいろいろやってる人あるある。
ルール処理とかゲームによって違うからルールが混ざる。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

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福音との対峙

前回の続き。
相変わらず戦闘シーンは苦手。
戦闘時のディミオス達モンスターの声を如何するかで時間を使う。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

銀の福音鎮圧作戦によって、IS学園1年生の専用機持ちはマドカを除き銀の福音に向かって海上を飛行している。

そんな作戦中、先頭集団である一夏、ディミオス、セシリア、深夜の3人と1竜は他の専用機持ちよりも速い速度で飛行している。

 

 

(白式、白騎士、反応は?)

 

 

[まだないよ!]

 

 

[コア・ネットワークからの呼びかけも反応しません。コア・ネットワークから切断されている可能性が高いです]

 

 

(了解。このまま索敵してくれ)

 

 

一夏は、サポート役である白式と白騎士に索敵の指示を出す。

そのままディミオスの背中に乗りながら移動する。

今の一夏のライフは11、手札は4、ゲージは1。

 

 

『織斑兄、橘、オルコット。目標は捉えたか?』

 

 

ここで、作戦指令室にいる千冬からオープンチャネルでそう呼びかけられる。

 

 

「いえ、まだ確認できませんわ」

 

 

セシリアが、そう返した時、

 

 

[マスター!11時の方向に反応あり!]

 

 

「情報訂正!11時の方向に反応確認!これより臨戦態勢に移る!」

 

 

白式が銀の福音の反応を捕え、そのまま一夏がオープンチャネルで情報を伝える。

それと同時に、一夏の手札とゲージが1枚ずつ増え、手札が5、ゲージが2になる。

それを確認した一夏は、

 

 

「ゲージ2を払い、センターにコール、煉獄騎士団 チェインソード・ドラゴン!レフトにコール、煉獄騎士団 ナックルダスター・ドラゴン!」

 

 

《さぁ、行くぞ!》

 

 

《戦いの始まりだ!》

 

 

チェインソードとナックルダスターをコールする。

 

 

[マスター、接触まであと8秒です!]

 

 

「接触予想あと8秒!備えろ!」

 

 

白騎士からの情報をディミオス、チェインソード、ナックルダスター、セシリア、深夜に伝える。

その瞬間に、全員に緊張が走る。

 

 

「バディスキル、インフェルノサークル」

 

 

一夏がそう呟くと、両足に円盤が出現する。

そして、全員の視界に銀の福音が入る。

その姿は全身が赤黒く染まっており、資料映像のものと大きくカラーリングが異なっている。

それを見たセシリアと深夜は、

 

 

(カラーリングが違う...でも、確認できる範囲の違いはそれだけですわね)

 

 

(はぁ!?な、なんであんな色なんだよ!?そんな色じゃ無かっただろ!?)

 

 

心の中でそんな事を思っている。

そして、一夏と3竜は、溢れ出るダークネスドラゴンWの気配を感じていた。

 

 

(やはり細胞だからか...どちらかというとアジ・ダハーカ様というよりは、アビゲールさんに近いものを感じる)

 

 

一夏は、やはりアビゲールに近いものを感じていた。

そして、

 

 

「3...2...1...0!!」

 

 

一夏のその声で、一斉に行動を開始する。

銀の福音も、一夏達に気付き、行動を開始する。

セシリアは、パッケージの影響でビットを使えないので、新しい武装のレーザーライフル、スターダスト・シューターでの射撃をする。

だが、

 

 

『La........♪』

 

 

そんな電子音声と共に、銀の福音は射撃を避ける。

 

 

「く、予想以上に素早いですわ!」

 

 

「設置!その身を砕き、我を支えよ!」

 

 

一夏は、設置魔法のその身を砕き、我を支えよを発動する。

これで一夏の手札は2枚。

 

 

「アタックフェイズ!ガイスト・ディミオスとチェインソードで連携攻撃!セシリア、深夜、援護射撃!」

 

 

一夏がディミオスの上から退きながら指示を出す。

 

 

《チェインソード、行くぞ!》

 

 

《はい、団長!》

 

 

「分かりましたわ!」

 

 

「お、おう!」

 

 

ディミオスとチェインソードが銀の福音に向かって行き、セシリアと深夜が射撃を行う。

だが、銀の福音も背面のウイングスラスター、銀の鐘から高密度に圧縮されたエネルギー弾を放つ。

 

 

《クソ》

 

 

ディミオスとチェインソードはエネルギー弾を避けるために身体を反らす。

 

 

《っ!危ないな》

 

 

だが、ここで深夜が放っていた弾丸がディミオスを掠る。

 

 

(やっぱりセシリアに比べると、深夜の射撃は精度が良くない...仕方が無いな)

 

 

「ガイスト・ディミオスの効果発動!」

 

 

《勝利のために命を捧げよ。カノナス・カサルティリオ!》

 

 

一夏は深夜の射撃の腕前を再確認しながら、ディミオスの効果発動宣言を行う。

銀の福音が放ってくるエネルギー弾を避けながら、ディミオスは身体から闇のエネルギーを発生させ、チェインソードを包み込み、破壊する。

 

 

「その身を砕き、我を支えよの効果。ゲージを1枚増やす」

 

 

そして、そのままその身を砕き、我を支えよの効果を発動させ、ゲージを1にする。

 

 

「く、この...!エネルギー弾が厄介すぎますわ!」

 

 

セシリアはそう言いながら、スラスターを使いエネルギー弾を躱す。

そう、エネルギー弾の発射元である銀の鐘は、36砲口を使い全方向に発射できるのだ。

しかも、今現在の戦場は海上。

通常のアリーナとは異なり、移動制限がほぼ無いので、銀の福音を日本本土に寄せず、パイロットも救出するとなるとなかなか高難易度のミッションだ。

 

 

「シャル!あと何秒だ!?」

 

 

一夏もエネルギー弾を避けながら、プライベートチャネルでシャルロットにそう尋ねる。

 

 

『センサーには捉えてる!あと12秒!』

 

 

(12秒か...なら!)

 

 

一夏はシャルロット達の状況を確認し、一瞬で判断を下す。

 

 

「ガイスト・ディミオスとナックルダスターで連携攻撃!セシリア、援護射撃継続!深夜はシャルたちに状況説明!」

 

 

《今度こそ行く!》

 

 

《団長、付いて行きます!》

 

 

「喰らいなさい!」

 

 

一夏の指示によって、ディミオスとナックルダスターは銀の福音に向かって行き、セシリアは射撃をする。

深夜の射撃の腕前を考慮し、いったん連絡係にしたようだ。

深夜の表情は、何処か悔し気だったが、一応大人しく指示に従い、プライベートチャネルで説明をしている。

 

 

《ナックルダスター!》

 

 

《はい!》

 

 

ディミオスとナックルダスターは、お互いに位置を確認し合いながらエネルギー弾を避ける。

そして、いったんエネルギー弾が収まったとき、ディミオスがナックルダスターの事を剣で押す。

そうして、ディミオスの剣をするエネルギーを加えた速度で銀の福音に向かっていく。

 

 

《ゴラァ!!》

 

 

『La....La!?』

 

 

そうして、初めて銀の福音にダメージが入る。

銀の福音は初めて受けた衝撃で、一瞬エネルギー弾の発射が止まる。

その瞬間に、ディミオスも銀の福音に接近し、切り付ける。

 

 

《ハァァ!!》

 

 

『Laaaaaa!?』

 

 

そのまま、駄目押しとばかりにセシリアが射撃をするが、銀の福音はスラスターを使い、一気に加速をする。

そうして、銀の福音がいったん離脱して体勢を立て直そうとした時、

 

 

「簪!ラウラ!鈴!」

 

 

「山嵐、全弾発射!」

 

 

「喰らえ!!」

 

 

「龍砲、いっけぇぇ!!」

 

 

一夏の指示によって、既に合流していた簪が山嵐を、ラウラがレールカノンを、鈴が龍砲を発砲する。

銀の福音はそれに気付き避けようとするも、48発のミサイルとレールカノンと龍砲での射撃を全て避けるのは完全に体勢を立て直せていなかったこの状態では難しく、ミサイルを4発ほど身に受ける。

 

 

「ガイスト・ディミオスの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

そうして、一夏はディミオスの効果発動宣言を行う。

ディミオスから発生したエネルギーがナックルダスターを包み込み、破壊する。

その身を砕き、我を支えよの効果でゲージが1枚増え、2になる。

 

 

『一夏、よくもう合流したって分かったね』

 

 

「もう12秒経ってるからな。それよりも集中しろ!ガイスト・ディミオスでアタック!」

 

 

プライベートチャネルでシャルロットとそう短く会話した後、一夏はディミオスにアタックの指示を出す。

 

 

《ゼァア!!》

 

 

『La!?』

 

 

そのままディミオスの攻撃も通り、銀の福音は又もや体勢を崩す。

 

 

「このまま押し切る!ラウラ、AIC!」

 

 

「了解だ!」

 

 

一夏は、ここで決める判断をし、ラウラにAICの指示を出す。

ラウラは右手を銀の福音に向けてAICを発動し、捕える。

 

 

「セシリア、簪!ラウラの護衛!深夜、シャル、鈴、銀の福音にありったけ撃て!」

 

 

「分かりましたわ!」

 

 

「分かった!」

 

 

「.....ああ」

 

 

「うん!」

 

 

「任せなさい!」

 

 

一夏の指示に従い、5人は行動する。

 

 

(深夜の返事に覇気がない...さっきディミオスに掠ったから落ち込んでんのか?)

 

 

そんな中、一夏は深夜の返事に覇気がない事を疑問に思っていた。

だが、今はなるべく気にしないように意識を切り替え、フェイタルを構えて銀の福音に向かっていく。

 

 

「煉獄剣 フェイタル!!」

 

 

そうして、そのまま一夏はフェイタルで銀の福音を切り付ける。

 

 

『La...!?』

 

 

一夏は、自身の攻撃が通ったことを確認すると、

 

 

「ラウラ、AIC解除!ディミオス!」

 

 

「っ!分かった!」

 

 

《了解した!》

 

 

ラウラにAICを解除させ、ディミオスと共に銀の福音の事を蹴り飛ばす。

 

 

「一斉攻撃!!」

 

 

そうして、全員に向かって指示を飛ばす。

 

 

「喰らいなさい!」

 

 

「いっけぇ!!」

 

 

「行くぞ!」

 

 

「喰らえ!」

 

 

「山嵐、再度全弾発射!」

 

 

「.....」

 

 

一夏の指示に従い、専用機持ちは一斉に攻撃をする。

銀の福音は、そのまま全ての攻撃を喰らい、海へと落下する。

 

 

「やったわ!」

 

 

「あっけなかったな」

 

 

「うん...パイロットの人助けに行こう」

 

 

鈴、ラウラ、簪がそのように会話する。

セシリアとシャルロットも安心したような表情を浮かべている。

だが、一夏は

 

 

(おかしい...銀の福音には間違いなくアジ・ダハーカ様の細胞が組み込まれている...それなのに、こんなあっけなく...まさか!?)

 

 

そんな事を考える。

そして、慌てて銀の福音が落下した個所を見る。

すると、微かに紫の光が一夏の視線に入った。

 

 

「まだ終わってない!全員構えろ!!」

 

 

一夏はそう言いながらフェイタルを構える。

その瞬間、

 

バシャア!!

 

そんな音を立てながら、海の中から、銀の福音が飛び出してくる。

それを見て、セシリア達も慌てて構える。

だが、銀の福音は一夏達の事を気にせず、更に高い位置まで飛翔する。

そして、

 

 

『GaaaAAA!?!?!?』

 

 

銀の福音はそんな電子音を響かせながら、その装甲を紫のエネルギーで包み込む。

 

 

「な、何が!?」

 

 

シャルロットが驚愕の声を上げるも、銀の福音からはエネルギーがあふれ続け、次第に大きなエネルギーの球体へとなっていく。

そうして、

 

 

『GaaaaaAAAAAAAA!!!』

 

 

エネルギー球体の中からそんな音声が聞こえたかと思うと、エネルギー球体から何本か竜の頭の様なものが何本か飛び出る。

そのまま、元の銀の福音の腕の様なものも飛び出ると、そのエネルギー球体を払うように腕が動き、そのエネルギー球体が霧散する。

その中から、銀の福音が出てくる。

だが、その姿は資料映像の姿とも、先程までの姿とも異なっていた。

全体的に赤黒かった装甲は完全に黒になり、元々無くなってた銀要素はもう完全に何処かに行ってしまった。

だが、一夏達が視線を向けているのはそこではない。

その元々は銀の鐘があった背面。

そこにはもう既に銀の鐘は無く、1つの黒に赤い罅の様なものがある球体、そして、その球体から同じく黒に赤い罅の様なものがある無数の竜の頭が生えてきている。

 

 

「こ、これは...?」

 

 

簪は、驚愕したような表情でそんな事を言う。

シャルロット達も声には出さないが、同じような表情で銀の福音の事を見ている。

だが、一夏とディミオスだけは、違う反応をしていた。

 

 

《やはりか...》

 

 

「“アンリミテッド・デスドレイン!”....!!」

 

 

そう、銀の福音だったもの。

それは、アビゲールの必殺モンスター体、“アンリミテッド・デスドレイン!”にそっくりだった。

 

 

『GAAAAAAA!!』

 

 

銀の福音から叫ぶようにその音声が鳴る。

その瞬間に、煉獄騎士の鎧の左手首にある紫の眼から、カードが10枚飛び出すと、弾けるように消滅する。

 

 

「クソ、やっぱりLO(ライブラリアウト)か!」

 

 

一夏が戦闘するときに使用する手札とゲージ。

これは一定時間で増えたり、カードの効果によって増える。

では、それは何処から増えるのか。

そう、デッキである。

通常のバディファイトの場合、そのデッキからドローしたりするのである。

このデッキが無くなってしまったら敗北となってしまう。

そして、その相手のデッキを無くならせて勝利する戦法がLOである。

 

 

『GYAAAAAAAAAAA!!!』

 

 

銀の福音がそう叫ぶと同時に、無数の竜の頭が一夏達に向かってくる。

 

 

「当たると危険だ!避けろ!」

 

 

一夏の声に応じて、専用機持ち達は竜の頭に当たらないようにスラスターを使い移動する。

だが、ブルー・ティアーズのビットや先程までのエネルギー弾とは異なる、全方向からの攻撃に、専用機持ちはついて行けてない。

 

 

「く、あ...」

 

 

そんな中、鈴が完全に竜の頭に捉えられてしまう。

 

 

「ッ!鈴!」

 

 

だが、一夏は鈴に接近し、鈴の事を蹴り飛ばし、離脱させる。

その時、右足が掠ってしまう。

 

 

「がっ...!!」

 

 

すると、紫の眼からカードが10枚飛び出て、弾けるように消滅する。

 

 

(何!?“アンリミテッド・デスドレイン!”のLO効果は場に出た時のみのはず...!何でだ!?)

 

 

一夏は、本来だったらありえないはずの効果に、驚いていた。

だが、思い返すのはクラス対抗戦の時の襲撃事件。

あの時の襲撃者は、ギアゴッドver.Ø88の1部パーツだけが使われていた。

だが、ギアゴッドver.Ø88の打撃力は3だが、何故か10あり、本来持っていないはずの魔法無効化効果まで持っていた。

 

 

(考察は後だ!今はこの状況を何とかする!)

 

 

一夏は取り合えずその事をいったん考えないようにし、また竜の頭を避け始める。

専用機持ちもいったん避ける。

 

 

「はぁ、はぁ」

 

 

一夏は息を切らしながら飛行をする。

暫く飛行していた時、専用機持ち達も、表情に疲れが出て来ていた。

 

 

そして、その瞬間は唐突に来た。

 

 

バキィ!グサ!

 

 

そんな音が、響く。

 

 

「う、あ、あ.....」

 

 

一夏の、そんな弱々しい声があたりに響く。

その声を聞き、シャルロット達は一斉に一夏の方を見る。

すると、そこには...

 

 

背中から、システムクラックを突き刺され、鎧から血を噴き出している、一夏がいた。

 

 

煉獄騎士の鎧は、ISコアこそ持っているが、シールドバリアーなど存在しない。

そのため、簡単にブレードが貫通してしまった。

 

 

「深夜.....て、め、ぇ...」

 

 

この混戦状態では、このフレンドリーファイアがどのようにして起こったのかは、一夏にも分からない。

だが、深夜が自分を刺した。

それだけは理解が出来た。

一夏の両足から円盤が消え、そのまま海へと落下する。

 

 

「「「「「一夏(さん)!!」」」」」

 

 

専用機持ちは一斉に一夏の名前を呼ぶも、

 

 

《ぼさっとするな!》

 

 

ディミオスの声で何とか現実に帰還する。

 

 

《ラウラ・ボーデヴィッヒ!今、指揮権を持っているのはお前だ!さっさと旅館に戻れ!今の心理状況だったら戦闘持続は無理だ!我がせめて時間を稼ぐ!》

 

 

「っ!分かった...旅館に戻るぞ!」

 

 

ラウラは、そう指示を出しながらスラスターを吹かす。

 

 

「ラウラ!?い、一夏を助けないと...」

 

 

「今の私達では無理だ...体勢を立て直す...」

 

 

《とっとと行け!!》

 

 

ラウラとディミオスの声により、専用機持ちは深夜を拘束した後、旅館に避難する。

 

 

《せめて、暫く動けなくなってもらうぞ!》

 

 

ディミオスはそう言うと、単身で銀の福音に向かっていく。

 

 

『GYAAAAAAAAAAA!!!』

 

 

《うぉぉぉおおおお!!》

 

 

ディミオスは何度も竜の頭を避けながら銀の福音に近付き、思いっきり叩き斬る。

だが、それと同時に銀の福音の腕がディミオスの身体を貫通する。

 

 

『GAAAAA!?!?』

 

 

銀の福音はそう叫んだ後、物凄い速度で移動した後、再びエネルギーの球体に包まれる。

 

 

《防御力7000の相手では、これが精いっぱいだ...》

 

 

ディミオスは最後にそう言うと、そのまま破壊された。

 

 

 

 

 

(ライフ、0...)

 

 

海に沈んだ一夏は、自身のライフが0になったことを確認した。

それと同時に、意識に靄が掛かってくる。

 

 

[マスター!しっかりして!]

 

 

[意識を保って下さい!マスター!]

 

 

白式と白騎士が一夏に必死に話し掛ける。

だが、一夏は

 

 

(クラリッサ...チェルシー...)

 

 

仮面越しに海面を見上げ、薄れていく意識で恋人の事を考えながら、海の底に沈んでいった.....

 

 

 

 




“アンリミテッド・デスドレイン!”はアビゲールのデッキより、ゼータジェムクローンデッキのイメージ。
デッキの解説っていらないと思い、今回は大きく省きました。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください。

感想や誤字報告もよろしくお願いします。


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煉獄のチカラは消え去らない

ひっさびさの千冬視点。
そして久々にサブタイにチカラの文字が。

今回もお楽しみください!


千冬side

 

 

「お、織斑君の煉獄騎士の反応消失(シグナルロスト)...生体反応(バイタルサイン)も確認できません...」

 

 

は...?

私は、その報告を、直ぐに理解できなかった。

 

 

ハワイ沖で実験していた軍用IS、銀の福音が暴走。

それを、何故か私達IS学園が対処することになった。

当然私は反対した。

生徒の安全を脅かすようなことを、教師である私がすんなりと許容出来る訳がない。

だが、日本政府の馬鹿どもや、アメリカ政府にイスラエル政府、更には国際IS委員会と4か所から言われたら従うしかない。

 

 

そうして、作戦会議をした結果、まだ専用機持ちになって日が浅い織斑妹を除き、全専用機持ちが銀の福音を止めるために出撃した。

指揮権は、作戦の立案者でもある織斑兄に託した。

織斑兄達が出撃した際、教員たちは海上を封鎖した。

作戦指令室には、私と織斑妹と山田先生だけが残って、監視用空中ドローンで戦闘の様子を確認していた。

織斑兄達には伝えていないが、実は密漁船が戦闘海域に侵入しようとしたというアクシデントもあったが、何とか引き返させることに成功した。

そうして、織斑兄達は銀の福音を海に落とすことには成功した。

だが、その後銀の福音は海から空中に上がり、その姿を大きく変えた。

そのおどろおどろしい姿に、山田先生は小さく悲鳴を漏らしていた。

姿を変えた銀の福音は、圧倒的なパワーで一気に戦況を変えた。

織斑兄以外の専用機持ち達も動きが鈍る中、その事件は起こった。

橘の接近用ブレードが、織斑兄の事を貫いたのだ。

 

 

「お兄ちゃぁああん!!」

 

 

その瞬間に、織斑妹が悲鳴を上げる。

そして、山田先生が呆然と報告をした。

私も、一瞬何も考えられなくなる。

だって、織斑兄が、一夏が.....

 

 

だけれども、この緊急時でそんな事をしている余裕はない。

 

 

「マドカ...束を連れてこい」

 

 

「.....分かった」

 

 

マドカも、覇気がない声でそう返事をし、作戦指令室から束を呼びに出て行った。

っ!駄目だ。

弱気になるな。

今は悲しんでる場合じゃない。

今は勤務中で、緊急時だ。

私はそう自分に言い聞かせながら、ドローンからの映像を確認する。

映像では、ボーデヴィッヒ達が橘を拘束しながら慌てて旅館に向かって来ている。

そして、ディミオスソードが単身銀の福音に向かっていく。

ディミオスソードはそのまま破壊されてしまったが、何とか銀の福音をその場にとどめる事には成功した。

それを確認した私は、全教員に向かって指示を出す。

 

 

「織斑兄が橘のフレンドリーファイアで墜ちた。今現在橘を拘束しながら専用機持ちが旅館に戻ってきている。教員は先に旅館に戻り、専用機持ちから橘の拘束を引き継いでくれ。橘はいったん倉庫にぶち込んでおけ。銀の福音は、ディミオスソードの活躍で動きを止めている」

 

 

私がそう指示を出すと、通信先からは驚いたような声が聞こえた後、

 

 

『了解...』

 

 

その様な声が次々と聞こえてくる。

やはり、教員たちにとってもいち...織斑兄が墜ちたことは衝撃的なようだ。

 

 

「山田先生、私もいったん浜辺に出ます」

 

 

「はい、分かりました」

 

 

私は山田先生とそんな会話をした後、浜辺に出る。

すると、海上封鎖をしていた教員続々と戻ってくる。

 

 

「織斑先生...」

 

 

「榊原先生、取り敢えずISを解除して、橘を拘束する準備を...」

 

 

「はい」

 

 

私の指示に従って、榊原先生はISを解除して、先程篠ノ之を拘束する際に使用した手錠等の予備を持ってくる。

そうして、教員たちが揃ったタイミングで、専用機持ちを確認した。

橘は俯いていて表情が良く分からないが、橘以外の専用機持ちはやはり全員顔色が優れていない。

私は、橘を見た時沸々と怒りが湧いて出てくる。

だが、あの混戦状態では橘のフレンドリーファイアーが故意か故意ではないかの判断が出来なかったし、教師が生徒を殴るだなんてことは出来ない。

私は右手を思いっ切り握りしめながら、

 

 

「橘...お前を拘束する。全員ISを解除しろ」

 

 

そう指示を出す。

すると、専用機持ちはいったん橘に装備を突き付ける。

橘は、織斑兄を刺してしまったショックか、ただ単純に装備を突き付けられたからか、特に抵抗を見せず教師に拘束された。

そうして、教師に連れて行かれる橘を見ながら、専用機持ちは専用機を解除する。

だが顔色は一向に良くならない。

 

 

「...取り敢えず、作戦指令室に戻れ」

 

 

私はそう言うと身体の向きを変え、作戦指令室に向かって歩き出す。

 

 

「「「「「はい...」」」」」

 

 

専用機持ち達も、覇気がない声で返事をしながら私の後を付いてくる。

私が何か声を掛けれると良いんだが、私も無理矢理落ち着かせてるだけだから、如何声を掛けていいのか分からない。

そんな重い空気の中、私達は作戦指令室に戻る。

作戦指令室には、もう既に橘と篠ノ之を拘束している教師以外の教師全員と織斑妹、そして束が揃っていた。

束も、何時ものやかましい雰囲気は無くなり、何とも真剣な表情になっている。

恰好はウサミミエプロンドレスなので、違和感が凄い。

 

 

「さて、銀の福音が何時までもあのように止まっている訳がない。今から作戦会議をする」

 

 

私はそう言うも、やはり専用機持ちの反応が無い。

 

 

「織斑妹、デュノア、凰、オルコット、ボーデヴィッヒ、更識。ショックを受けているのは分かるが、織斑兄とディミオスソードが何とか稼いでくれた時間だ、無駄には出来ない」

 

 

「「「「「「っ!はい」」」」」」

 

 

私の声掛けで、

専用機持ちは何とか顔を上げ、表情を暗いものからやるべき事をする決意の表情へと変える。

良し、これなら何とかいけそうだ。

 

 

「束、お前もどうせ見ていただろう?あの銀の福音の姿の変わり方はただの二次移行なのか?」

 

 

私がそう言うと、作戦指令室にいる全ての人間の視線が束に集まる。

束はその視線を気にせず、

 

 

「いや、あれは違うかな。そもそも、あのISはまだ試験段階だったんでしょ?なら、絶対に二次移行はしないね。恐らくだけど、私の可愛い可愛いISに何かが仕込まれたね」

 

 

と、私の質問に答える。

その答えを聞いて、私達全員が頭を抱える。

ただでさえ暴走した軍用ISという強敵なのに、何かIS以外のものが使われているとなると、何処まで、どんなことが出来るのか分からない。

だが、ここで銀の福音を抑えれないと日本本土が壊滅してしまう。

正直に言うと、日本政府がどうなろうと知ったことでは無いが、無関係の人間を巻き込むことなど出来ない。

だから、私達がやらないといけないんだ。

 

 

「...束、織斑妹。専用機である銃騎士は使えるのか?」

 

 

「銃騎士は遠距離系のISだから、接近しなくていいから戦いやすいし、『ガレッド・シューター』を使えばある程度は戦えると思うけど...」

 

 

「やっぱり、あの銀の福音に有効かどうか分からない」

 

 

く、やはりか...

さっきまでの状況と違い過ぎるから、作戦が建てずらい...

そもそも、さっきまでの作戦は織斑兄が単独で考えたものだ。

普通、あそこまで簡単に作戦は思いつかない。

時間が無いから急がないといけないのに、急ぐほど焦って作戦が思いつかない...

と、ここで

 

 

『GYAAAAAA!!』

 

 

と、言った叫び声ともとれる音が作戦指令室に響く。

私達は一斉に監視用ドローンからの映像が写っているディスプレイを見る。

そるとそこには、エネルギー球体を霧散させた、銀の福音がそこにいた。

 

 

『GAAAAAAAAAA!!』

 

 

銀の福音は、再びそう叫ぶようなアクションをした後、日本に向かって移動を開始した。

それを見て、私達は一斉に焦り始める。

 

 

「く、取り敢えず出撃する!あの銀の福音に攻撃が通る可能性がある織斑妹を主軸とする!専用機持ちは直ぐに準備を...!」

 

 

私が急いで指示を出そうとした時、

 

 

バシャアア!!

 

 

そんな音が、作戦指令室に響く。

私達は再びディスプレイを見る。

そこには...

 

 

ヘッドパーツが外れてしまったんだろう。

長くなった髪を風になびかせ、両目を黄金に光らせた一夏がいた。

 

 

「お、お兄ちゃん...」

 

 

マドカが、そんな声を漏らす。

一夏が出て来た個所は銀の福音の前。

 

 

『GAAAAAAAAA!!』

 

 

銀の福音は、一夏に向かってそんな叫びをあげる。

 

 

「ゴー・トゥー・ワーク.....!」

 

 

一夏は、銀の福音を見据えながら、そう呟いた.....

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

視界にあるのは、黒。

なんの歪みも無く、ただただ何処までも沈みそうな黒が、俺の目の前に広がっていた。

 

 

「う、あ...ここは.....?」

 

 

俺はそんな声を漏らしながら、身体を起こす。

今まで俺が寝転がっていた床も、見渡す限りの空間も、全てが黒。

俺は深夜に刺されて、海に落ちたはず...

なんで生きてて、こんな真っ黒なところにいるんだ...?

いや、待て。

ここは、1度何処かで...

 

 

「ディミオスと初めて会った時の、俺の精神空間...?」

 

 

そうだ。

俺はここで初めてディミオスと会話したんだ。

でも、なんで今ここに?

俺がそんな事を考えた時、

 

 

「ぐぅ....えぁ....?」

 

 

全身に違和感を感じた。

思わず、その場に膝をついてしまう。

 

 

「何だ、この、身体から、何かが、湧き出て、くるような、感覚は...?」

 

 

俺は身体にかかる違和感を拭いきれず、そのまま前に倒れる。

そうして、地面に顔面からぶつかっていく。

 

 

ボスッ!

 

 

....ボス?

それに、顔面から倒れた割にはそこまで痛くないな。

俺はそう思いながら、再び身体を起こす。

するとそこは、

 

 

「浜辺...って事は、白式と白騎士がいるところ...」

 

 

そう、ここは今まで何回か来たことがある浜辺だ。

相変わらず、白い砂浜と青い海と空のコントラストが綺麗。

俺がそんな呑気な事を考えていると背後から、

 

 

「「マスター!!」」

 

 

と、声を掛けられる。

俺が振り返ると、そこには当然ながら白式と白騎士がいた。

 

 

「「無事でよがっだぁああああ!!」」

 

 

2人は半分泣きながら俺の方に突っ込んで来る。

 

 

「え、ちょ、ま!!」

 

 

俺は2人を止めるも、そのまま2人は俺に抱き着いて来た。

その衝撃で俺は仰向けに倒れる。

 

 

「よがっだぁ、よがっだよぉ...」

 

 

「マズダーが、死んでじまうがどぉ...」

 

 

フム、如何やらかなり心配を掛けてさせてしまったようだ。

まぁ、取り敢えず。

 

 

「離れてくれ...苦しい...」

 

 

俺は2人にそうお願いする。

すると、2人ともすんなりと離れてくれる。

そして俺は上体を起こす。

あー、苦しかった。

 

 

「...俺は、深夜に刺されて海に落ちたはず。何で、まだ生きてるんだ?」

 

 

俺は、さっきまで俺の精神空間だと思われる空間で感じていた疑問を2人に尋ねる。

すると、2人は涙を拭ってから説明してくれる。

 

 

「確かに、マスターは橘深夜に刺されて、多量出血に内臓も傷ついていて、かなりの重体だったよ」

 

 

「ですが、私達が何とか治療することに成功しました」

 

 

フーン...

ん?

 

 

「え、そんな事出来たの!?」

 

 

知らなかったんだが!?

 

 

「はい。全てのISで私しか持っていない操縦者の生体再生能力で、マスターの身体を治療しました」

 

 

全ISで白騎士だけ...

流石は、伝説のIS...

 

 

「っていうか、煉獄騎士はISじゃないのによくそんなことが出来たな」

 

 

俺がその疑問を口にすると、白式が説明してくれる。

 

 

「うん。マスターの煉獄騎士は、ディミオス達が魔力で造ったものだからね!そこからエネルギーを使ったよ!」

 

 

「そうか...ディミオス達に感謝だな」

 

 

そもそも、このダークコアデッキケースが臥炎財閥制だったら、白式と白騎士は宿ってないか...

そう考えると、ますますディミオス達に感謝しないといけなくなってくる。

俺がそんな事を考えていると、

 

 

「マスター、そのカードは何ですか?」

 

 

と白騎士が聞いてきた。

俺はそれを聞いて首をひねる。

今、俺はカードだなんて持って無いはず...

そう思いながら手元を見ると、何故か右手にバディファイトのカードを横向きに持っていた。

 

 

「っ!これは...」

 

 

横向きという事は、必殺技か必殺モンスターのカードか...?

俺はそう思いながら、カードの表面を確認する。

 

 

「今まで見たことが無いカード...でも、これなら...!!」

 

 

そう、声が漏れる。

銀の福音が今どんな状況かは分からない。

でも、まだ戦っているのだとしたら、このカードは確実に有効だ。

.....まぁ、()()()()()()()だがな。

俺はそう思いながら、白式と白騎士の事を見つめながら

 

 

「白式、白騎士。行こう」

 

 

そう言う。

すると2人は、

 

 

「「はい、マスター!」」

 

 

そう元気よく返事をする。

その瞬間に、視界が光に包まれた。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

ガッツリ海の中だな。

俺が目を開けて思った事はそれだった。

まだ辛うじて太陽の光は届く深さで助かった。

これが無かったら、何処に行けばいいのかも分からないからな!

 

 

「バディスキル、インフェルノサークル」

 

 

俺がそう呟くと、両足に円盤が出現する。

まぁ、海中なのでゴポゴポ泡が出ただけだけどな。

そして、俺はいったん両目を閉じた後、開く。

これで俺の両目は黄金に輝いているだろう。

俺は、そのまま水圧を考えながらゆっくりと上がっていく。

そして、もう水圧をもうあまり受けない水深に来てから、勢いよく海中から飛び出す。

 

 

バシャアア!!

 

 

先ず感じたのは、長髪が風になびいている感触。

さっきまで頭部もちゃんとあったんだが、如何やら海中から飛び出した際取れてしまったようだ。

そうして目の前には、竜の頭を携えた銀の福音。

 

 

『GAAAAAAAAA!!』

 

 

銀の福音は、叫ぶようにそんな音声を発する。

今見ると、何処となく苦しそうにもがいているようにも見える。

俺はそのまま銀の福音を見据えながら

 

 

「ゴー・トゥー・ワーク.....!」

 

 

ゴー・トゥー・ワーク(いつもの)を呟く。

だが、俺の今のライフは、0...

この先に行動できるかどうかは、ここの賭けだ...!

 

 

「設置魔法、その身を砕き、我を支えよの効果!自分のライフが0の時!このカードをドロップゾーンに置き、デッキの1番上のカードをドロップゾーンに置く!そのカードが魔法だったら、もう1つの効果が発動する!」

 

 

この煉獄騎士の戦闘モードは、通常のファイトと同様、手札とゲージを使う。

だが、この手札はただの行動可能数(使えるカード枚数)を表すもので、本来の手札と違う。

そして、使用したカードが送られるゾーンがドロップゾーンである。

デッキから直接ドロップゾーンに送られるカードは、ランダムでデッキに入っているカードの内どれかになる。

俺は、左腕の紫の眼を銀の福音に見せて、そのまま左手を振り抜く。

すると、紫の眼からカードが1枚飛び出て、俺の前にやってくる。

そうして、俺はそのカードを確認する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔法カード、ドラゴンシールド 黒竜の盾!よって、効果を発動!」

 

 

その瞬間に、黒竜の盾とその身を砕き、我を支えよが破壊され、辺りにエネルギーが漂う。

 

 

「ライフ2で復活する!!」

 

 

そして、そのエネルギーが吸収され、俺のライフは2に戻る。

 

 

『GYAAAAAA!?』

 

 

銀の福音は、目の前で起こったことに驚いているようだ。

俺はそれを確認して、宣言する。

 

 

「俺のターン!!」

 

 

さぁ、まだ終わらないぞ!!

 




私はアニメでの牙王君とタスク先輩のパニッシャー対決の後、何方も設置魔法で生き残るシーンが大好きです。
必殺技とは?
まぁ、必殺コールを1ターンに何回も出来るようにするするゼータとかいうやつもいるし、いいか。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想や誤字報告もよろしくお願いします!


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煉獄騎士VS銀の福音

前回の続き。
一夏が復活して、いったいどうなるのか!

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

「俺のターン!!」

 

 

俺がそう宣言すると同時に、手札とゲージが1枚ずつ増える。

これで、俺のライフは2、手札は3、ゲージは3。

結構カツカツだ。

 

 

『GAAAAAAA!!』

 

 

ここで、銀の福音がそう叫ぶと俺に竜の頭が俺に迫ってくる。

 

 

「ったく!俺のターンって言ってんだろうが!!」

 

 

俺はそう文句を言いながらも、その竜の頭を避ける。

だが、竜の頭は1つだけでは無いので、何度も避ける。

く、中々危ない...

これは、目を光らせてなかったら危なかったな...

俺はそのまま身体を捻らせていったん離脱する。

ちっ、海に落ちた時フェイタルをどっかに落としてしまった。

こうなったら...!

 

 

「ライフ1を払い、キャスト!魂の渇きを血で潤して。ゲージを1枚増やし、ドロップゾーンのダークネスドラゴンWのバディモンスター1枚を手札に加える!」

 

 

俺は魂の渇きを血で潤してを発動し、これでガイスト・ディミオスを手札に戻す。

そして、俺は銀の福音からの攻撃を避けながら、

 

 

「ライトにコール、哀悼の煉獄騎士団団長 ガイスト・ディミオス!センターにコール、煉獄騎士団 グラッジアロー・ドラゴン!レフトにコール、煉獄騎士団 ニードルクロー・ドラゴン!」

 

 

《うぉおおおおお!!》

 

 

《がぁぁああああ!!》

 

 

《ひゃははぁあああ!!》

 

 

モンスターを3体同時にコールする。

コールされた3竜は、同時に雄叫びを上げる。

 

 

『GAAAAAAAAA!!』

 

 

急にモンスターが増えたことに銀の福音は驚いたのか、また叫びをあげると、一気に竜の頭をこちらに放ってくる。

クソ!

やっぱり厄介だな!

 

 

「いったん避けろ!!」

 

 

俺の指示に従い、3竜共銀の福音の攻撃を避ける。

 

 

《一夏、無事だったか》

 

 

と、ここでディミオスがそんな事を言ってくる。

 

 

「ああ、一応な。それよりも...」

 

 

《ああ。行くぞ!!》

 

 

俺とディミオスは短く会話をすると、銀の福音に集中するために意識を切り替える。

 

 

「アタックフェイズ!ガイスト・ディミオスとグラッジアロー・ドラゴンで連携攻撃!」

 

 

俺は直ぐにディミオスとグラッジアローに連携攻撃の指示を出す。

 

 

《行くぞ!》

 

 

《はい、ディミオス様!》

 

 

そのままディミオスとグラッジアローは銀の福音に向かっていく。

銀の福音は、竜の頭を2竜に向かわせるが、2竜共しっかりと避けていく。

そうして、もう少しで銀の福音に届くというところで、

 

 

『GAAAAAAA!!』

 

 

銀の福音はそう叫ぶと、身体を動かし体術の要領で攻撃を避ける。

ち、やっぱりそもそもの銀の福音が高スペックすぎる!

流石は、第三世代型の軍用ISか!

 

 

「ガイスト・ディミオスの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

俺はディミオスの効果発動宣言を行う。

ディミオスから出た闇のエネルギーがグラッジアローを包み込み、破壊する。

 

 

「グラッジアロー・ドラゴンの効果発動!デッキからアイテムを手札に加える!そして、俺がアイテムを装備していないのでそのままコストを支払い装備する!」

 

 

そして、俺はグラッジアローの破壊時効果を発動する。

俺は右手を前に突き出して

 

 

「ゲージ1を払い、装備!煉獄騎士団団長の剣 ディミオスソード!」

 

 

そう、宣言をする。

俺の右手の中にカードが1枚出現し、形を変えていく。

そして、1本の大剣へとなる。

その大剣は、ディミオスが持つものと同じ形のもので、俺がドイツで誘拐された際に使ったものと同じ剣。

煉獄騎士団団長の剣 ディミオスソードである。

なんか、何時もとは違うが、ずっとディミオスが使ってきたのを見て来たものだから、なんか嬉しいな。

 

 

「ガイスト・ディミオスとニードルクロー・ドラゴンで連携攻撃!」

 

 

《ニードルクロー!》

 

 

《団長ぉ!行きまっせぇ!!》

 

 

俺は、そのままディミオスとニードルクローに連携攻撃の指示を出す。

ディミオスとニードルクローは、そのまま銀の福音に向かっていく。

 

 

『GYAAAAAAAAAA!!』

 

 

だが、銀の福音は竜の頭を一斉に動かし、ディミオスとニードルクローを襲う。

 

 

《避けるぞ!》

 

 

《へぇい!!》

 

 

ディミオスとニードルクローは、避けながら銀の福音に接近していく。

そうして、もう少しで攻撃が届くというところで

 

 

『GAGYAAAAAAA!!』

 

 

銀の福音がまた身体を捻り、攻撃を避ける。

く、全く当たらねぇ...!

 

 

「ガイスト・ディミオスの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

俺はディミオスの効果発動宣言を行い、ニードルクローを破壊する。

 

 

「ニードルクロー・ドラゴンと、ディミオスソードの効果発動!」

 

 

そして、ニードルクローは自身効果で手札に戻ってきて、その後ディミオスソードの効果が発動する。

煉獄騎士団団長の剣 ディミオスソードは、煉獄騎士団名称のモンスターが破壊された時、1枚ドローをして煉獄騎士団名称のカード1枚の攻撃力を3000上げることが出来る。

 

 

「上昇させるのは、ディミオスソード本体!」

 

 

これで、ディミオスソードの攻撃力は6000。

そして、俺のライフは1、手札は2(1枚はニードルクロー固定)、ゲージは2。

 

 

「俺とディミオスで連携攻撃!行くぞ!!」

 

 

《了解だ!!》

 

 

俺とディミオスは2方向から同時に銀の福音に向かっていく。

 

 

『GAAAAAAAAA!!』

 

 

銀の福音は、そう叫ぶような動作をした後、何時ものように竜の頭を向かわせてくる。

だが、流石にもう当たらない!

 

 

「はぁぁあああああ!!」

 

 

《ハァアアアア!!》

 

 

『GYAAAAAAAA!!』

 

 

竜の頭を避け、俺とディミオスは銀の福音接近する。

銀の福音はまた体術で避けようとするが、

 

 

「ぜぁああああ!!」

 

 

『GYAAAAA!?』

 

 

俺がディミオスソードで切り付ける。

そして、銀の福音が少し体制を崩したところで、俺はそのまま蹴り飛ばす。

 

 

「ディミオス!」

 

 

《ああ!!》

 

 

そして、俺の声に応じてディミオスが銀の福音を切り付ける。

 

 

『GYAAAAAA!?!?』

 

 

その攻撃も通り、銀の福音は叫ぶような声を上げた後、いったん離脱するように距離を取る。

合計打撃力は4の為、銀の福音の残りSEは6。

 

 

『GYAGAAAAAAAAAAA!!』

 

 

離脱した銀の福音は、咆哮を上げるような動作をしながらそんな音声を流す。

それと同時に、竜の頭が銀の福音の前に集まると、その口からエネルギーを発生させ、1つの球体を作る。

これは、恐らく今の銀の福音の本気...

ったく、まだこんなの残してたのかよ!

 

 

《一夏、マズいぞ!ディストーション・パニッシャーは、今は使えない!》

 

 

ディミオスがそう言ってくる。

確かに、今のゲージは2だし、相手のライフは6。

発動条件は全く満たしていない。

だが、今の俺なら...!

 

 

『GAAAAAAAAAAA!!!』

 

 

銀の福音は、そんな咆哮をあげる。

それと同時に、竜の頭が作っていたエネルギー球体が俺に向かって放たれる。

今...!

 

 

「カウンターファイナル!キャスト!」

 

 

俺がそう宣言すると、世界から色が消え去る。

そして、ディミオスも、銀の福音も、エネルギー球体も、動きが止まる。

それなのに、俺の長髪はなびいているから違和感を感じる。

だが、そんなもの今は関係ない。

俺は右腕を頭上に掲げながら言葉を発する。

 

 

「絶望も、希望も、全てが打ち砕かれた時!世界から悲しみは消え去り、新たな未来が創造される!」

 

 

それと同時に、俺の頭上に黒と金の粒子が集まり、形を作っていく。

それは、巨大な片刃剣。

刀身は黒く、黄金の装飾が付いており、何か所か穴が開いている。

 

 

「殺戮の剣!」

 

 

俺の言葉に続き、片刃剣は振り下ろす準備をしているようだった。

そして、俺は右腕を振り下ろしながら、叫ぶ。

 

 

「ジェノサイド・パニッシャーーーーーぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 

 

俺の動きに合わせて、片刃剣が銀の福音に振り降ろされる。

そして、銀の福音に直撃する。

そのまま、片刃剣は一瞬オレンジに発光し、無数の長方形に弾け飛び、そのまま消滅する。

その瞬間に、世界に色が戻る。

 

 

《っ!何故、カウンターファイナルが...》

 

 

ディミオスがそんな事を言う。

そう、これが俺の新しい必殺技、ジェノサイド・パニッシャー。

この必殺技の使用コストは、ゲージ2。

そして効果は2つ。

相手のライフが3以下の場合は、相手にダメージ3。

そして、相手が必殺技を使用した時(相手が単一能力を発動したか、自分のSEを一発で吹き飛ばす攻撃をしてきた時)、俺のドロップゾーンの煉獄騎士団名称のモンスター種類数分、相手にダメージ!

俺のドロップゾーンには、銀の福音のLOで増えたカードが20枚。

その内、煉獄騎士団名称のモンスターは4種類。

それに加え、俺が使用しドロップに送られたモンスターは3種類。

よって、合計7種類で、7ダメージだ!

 

 

ジェノサイド・パニッシャーを受けた銀の福音は、そのまま機体が強制解除される。

その、直前に、

 

 

[止めてくれて、ありがとう]

 

 

そんな声が、聞こえた。

 

 

「い、今.....」

 

 

だが、そんな事考えている暇はない。

銀の福音のパイロットのナターシャさんが、そのまま海へと落下していってしまう。

 

 

「っ!ディミオス!!」

 

 

《了解した!》

 

 

俺はディミオスに指示を出すと、ディミオスはそのままナターシャさんの事を追う。

俺はいったん視線を空に向ける。

空は、こんな戦いが起こっていたとは思えないくらいには青かった。

そんな事に、俺はついつい苦笑いしてしまう。

だが、

 

 

ガザッ!ガザザザ!!

 

 

「あ、えぁ...?」

 

 

一瞬、視界が赤黒く、なった。

思わず頭を抑える。

その時に、瞬きをして目の色を元に戻す。

 

 

《一夏、如何した?》

 

 

ここで、ディミオスがナターシャさんを抱えながら戻って来た。

その手には、煉獄騎士の鎧の頭部パーツも持っていた。

 

 

「回収したのか...」

 

 

《一応な》

 

 

まぁ、ありがたいな。

 

 

「じゃあ、戻るか...」

 

 

《ああ》

 

 

こうして、俺は銀の福音を倒すことに、成功したのだ...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

三人称side

 

 

一夏とディミオスは、花月荘を目指して海上をゆっくり移動する。

ディミオスはナターシャを抱えているし、一夏はさっきまで海に墜ちていたから念のため物凄くゆっくりだ。

そんなゆっくりとした速度でも、確実に進んいるので、遠くにうっすらと旅館が見えて来た。

 

 

「着いた...」

 

 

《そうだな》

 

 

一夏の呟きに、ディミオスがそう答える。

そして、そのまま飛んでいると

 

 

「おにいちゃあああああああああん!!」

 

 

そんな叫び声が、一夏とディミオスに聞こえる。

一夏がハイパーセンサーで確認すると、砂浜にはマドカ、シャルロット、鈴、セシリア、ラウラ、簪の専用機持ちに、束、千冬や真耶といった教師が集合していた。

 

 

「みんな集まってるな」

 

 

《お前が心配なんだろう》

 

 

一夏とディミオスはそんな短い会話をする。

一夏は笑うと、そのまま砂浜に着地する。

 

 

『お兄ちゃん!/一夏!/一夏さん!/いっくん!/織斑君!』

 

 

その瞬間に、集まっていたみんなが一夏に寄っていく。

それに対して、一夏は何かを言おうと口を開く。

 

 

その瞬間に、一夏の視界が歪んでいく。

思わず頭を押さえ、身体を揺らす。

 

 

「っ!いっくん!?」

 

 

その事に束がいち早く気付き、慌てて一夏に寄っていく。

だが、

 

 

「マドカ...シャル...社長への説明、と、対応は、任せた.....」

 

 

一夏は、絞り出すような声でそう言うと、そのまま仰向けに倒れていく。

その際、伸びていた髪の毛が短くなっていき、元の長さに戻る。

そして煉獄騎士の鎧はディミオスが持っていた頭部を含め紫のエネルギー体になり、ダークコアデッキケースに戻り、浜辺に転がる。

そのまま一夏は、浜辺へと倒れこんだ。

 

 

「いっくん!」

 

 

「一夏!」

 

 

束と千冬は一夏の名前を呼び、一夏に近寄る。

首元に手を当てて脈を確認。

肺に耳を当ててその後は呼吸を確認。

そうして、確認を終わらせた束と千冬は安心したかのように息を吐く。

 

 

「脈も呼吸もしっかりしてるよ」

 

 

「ただ、意識を失っただけみたいだ」

 

 

それを聞いた専用機持ちと教師も安心したような息を吐く。

と、ここで、

 

 

「あ!織斑先生!一夏の背中の刺し傷は!?」

 

 

そう、シャルロットが言う。

千冬は直ぐに仰向けだった一夏の身体をうつ伏せにさせ、背中を確認する。

だが、千冬は直ぐに眉を顰める。

 

 

「傷が、無い...?」

 

 

千冬のその呟きによって、専用機持ちは一斉に一夏の背中を確認する。

その背中は、ジャージは破れていたものの、その下の肌に傷は無かった。

 

 

「ほ、本当に傷がありませんわ...」

 

 

「だが、一夏は橘に刺されたはず...」

 

 

ラウラのその言葉で、その場にいた全員が首を傾げる。

 

 

《.....おい、此方にも意識を失っている人間がいるんだが?》

 

 

そのディミオスの言葉によって、全員ディミオスがナターシャを抱えていことに気が付いた。

直ぐに教師の何人かが担架を持ってきた。

ディミオスはその担架にナターシャを乗せると、エネルギー球体に包まれ、SDに戻る。

そして、一夏が落としたダークコアデッキケースを回収する。

 

 

(一夏の肉体も、煉獄騎士の鎧も、確実に橘深夜によって刺されたはず...なのに、何方も穴が塞がっていた。つまりは、ダークコアデッキケース内の白式と白騎士が、何かしたな...)

 

 

ディミオスがそんな事を考えていると、千冬が

 

 

「んん!全員注目!織斑兄と銀の福音のパイロットは治療室に連れていけ!そして、待機命令を解除するが、その治療室には誰もいれるな!これによって、銀の福音鎮圧作戦はいったん終了とする!」

 

 

そんな指示を出す。

 

 

『はい』

 

 

ディミオスと束以外が返事をして、各々旅館に戻り始める。

 

 

《織斑千冬、篠ノ之束》

 

 

「ん?どったの、ディミくん」

 

 

ここで、ディミオスが千冬と束の事を呼び、束がそれに反応する。

千冬も声には出さなかったが、ディミオスの方を向く。

 

 

《一応、報告しておきたい事がある。周りには聞かれたくないのだが、何時、何処が良い?》

 

 

「そうだな...今日の夜、崖近くなら...」

 

 

《そうか。なら、そこで頼む。我は一夏の側についておく》

 

 

ディミオスはそう言うと、旅館の中に入っていく。

 

 

「...じゃあちーちゃん。私も、ディミくんの話まではいったん隠れるね」

 

 

束もそう言い、一瞬でどこかに消えて行ってしまう。

それを見た千冬は、

 

 

「...いったい、何があるんだというんだ...」

 

 

そう呟くと、頭を振り、旅館の中に戻っていった。

こうして、銀の福音鎮圧作戦は、いったん幕を閉じた...

 




新事実!
ジェノサイド・パニッシャーがアニメで使われなかったのは一夏のカードだったから!
え、そんな訳ない?
....はい。

オリカを期待した皆さん、すみません。
取り敢えずはジェノサイドで...

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

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新たな社員

今回は一夏ダウン状態の中、マドカとシャルが頑張ります!
いったいどうなるのか...

今回もお楽しみください!


マドカside

 

 

あれから、お兄ちゃんと銀の福音のパイロットのナターシャ・ファイルスさんは治療室に運び込まれた。

その後、専用機持ちが一応集まって待機していると、山田先生が2人の容態を教えてくれた。

お兄ちゃんもナターシャさんも、特に身体に異常はなく疲労が蓄積してるだけらしい。

ナターシャさんは、暴走したISのパイロットとして滅茶苦茶な動きをさせられていたのに、内臓にも骨にも異常が無かったのは奇跡みたいなものらしい。

報告を受けた私達も、それは素直に喜んだ。

でも、お兄ちゃんの身体も異常無しという事を聞いた私達は、一斉に首を傾げた。

だって、お兄ちゃんはあの橘に刺されて、海に墜ちたんだから。

山田先生も私と一緒に監視用ドローンから見てたから、物凄く疑問に思っていた。

だが、私達がどれだけ考えても答えが出ない事は明白なので、その場は解散になった。

この時に、分かり切っていた事ではあったが守秘義務が課せられた。

 

 

そして、今私が何をしているのかというと...

 

 

「シャルさん、緊張しますよ」

 

 

「僕もだよ。スカウト何て初めてするんだから」

 

 

シャルさんと共に、ナターシャさんがいる部屋の前にいた。

これから、ナターシャさんを『PurgatoryKnights』にスカウトするからだ。

 

 

何故、スカウト出来る事になったかというと、学園と『PurgatoryKnights』がそうしたからだ。

IS学園はアメリカ政府とイスラエル政府に報告書の1部虚偽を問い詰めた。

そして、その虚偽を見抜いたお兄ちゃんが所属する『PurgatoryKnights』にも情報をくれて、そのままIS学園と『PurgatoryKnights』でアメリカ政府とイスラエル政府と交渉。

その結果、世界にこの暴走事件を公表しないという条件の元、銀の福音の暴走の原因解明を『PurgatoryKnights』がすることになった。

まぁ、実際にするのは主任とお兄ちゃんとディミオスソードだけになりそうだけど。

そして、パイロットのナターシャさんは本人の判断に任せるという事になった。

そう、()()()()()()()()()

つまりは、本人が決めさえすれば、どんな勧誘をしてもいい。

『PurgatoryKnights』は前々からお兄ちゃんがボヤいていたように、発展途上国支援プロジェクトの人手不足だ。

そのため、現役軍人であるナターシャさんを勧誘できるのはまたとない機会。

だから、『PurgatoryKnights』に入らないかという交渉をするんだけど...

 

 

何時もなら、こういうのをしているお兄ちゃんが今、気を失っているので私とシャルさんがすることになった。

私もシャルさんも、所属IS操縦者としての仕事はするけど、こういった企業代表としての仕事はしたことが無いので物凄く緊張してる。

お兄ちゃんは、なんでこういう仕事を普通に出来るんだろう...

そもそも書類仕事は所属IS操縦者の仕事じゃないんだけど...

まぁ、お兄ちゃんだから仕方が無いと言えば仕方無いんだけどね...

 

 

「じゃあ、シャルさん。そろそろ、行きましょうか」

 

 

私は、覚悟を決めてシャルさんにそう言う。

するとシャルさんも、覚悟を決めた表情で

 

 

「うん、行こう」

 

 

そう返してくれた。

私は、そのまま部屋の扉をノックする。

ナターシャさんが起きていても起きていなくても、これは礼儀。

 

コンコン

 

...反応が無い。

まだ意識が戻っていないのかな?

私はそう思いながらも、もう1回ノックする。

 

コンコン

 

...やっぱり反応が無い。

 

 

「まだ、起きてないのかな?」

 

 

シャルさんがそう呟く。

私がそれに返そうと口を開いたとき、

 

 

『はい...』

 

 

と、中から声が聞こえて来た。

私とシャルさんはいったん顔を見合わせた後、扉を開ける。

 

 

「「失礼します」」

 

 

それと同時にシャルさんと共にそう声を発する。

そうして部屋の中に入ると、部屋の中央にある布団にいた金髪の美人女性が上体を起こしてこっちを見ていた。

 

 

「えっと...あなた達は...」

 

 

その女性...ナターシャさんはそう言う。

初対面だし、その反応は当然だと思う。

私はそう思いながら、シャルさんと共に自己紹介をする。

 

 

「初めまして。『PurgatoryKnights』所属IS操縦者の織斑マドカです」

 

 

「同じく、『PurgatoryKnights』所属のシャルロット・デュノアです」

 

 

私達がそう言うと、ナターシャさんは驚いた表情を浮かべた後、

 

 

「アメリカ軍所属の、ナターシャ・ファイルスです」

 

 

そのまま自己紹介をしてくれた。

 

 

「すみません、座っても良いですか?」

 

 

「あ、大丈夫ですよ」

 

 

シャルさんがナターシャさんにそう許可を取ったので、取り敢えず私達はナターシャさんの近くに座る。

 

 

「えっと...何で私は、ここで寝てたのかしら?」

 

 

すると、ナターシャさんはそう私とシャルさんにそう聞いてくる。

確かナターシャさんは銀の福音のパイロットでハワイ沖にいたはず。

それなのに、目を覚ましたら旅館で寝ていたら疑問に思うのも仕方が無い。

 

 

「ナターシャさん、今まで何があったのか覚えていますか?」

 

 

覚えていないとは思うけど、私は一応確認する。

ナターシャさんも1回考えるように顎に手を置くけど、頭を横に振る。

 

 

「全く覚えてないわ」

 

 

うん、想定通り。

私とシャルさんは一瞬視線を合わせると、ナターシャさんの事を見る。

 

 

「では、今まで起こったことを説明します」

 

 

「衝撃が大きいので、覚悟してください」

 

 

私とシャルさんがそう言うと、ナターシャさんは眉をひそめる。

まぁ、私だってそんな事を初対面の人に言われたらそんな表情になっちゃうから、ナターシャさんがそんな表情になるもの理解できる。

だけれども、ナターシャさんは直ぐに表情を変え、

 

 

「...分かったわ」

 

 

そう言う。

それを確認して、私とシャルさんは今までの銀の福音鎮圧事件を説明する。

銀の福音が暴走し、それの鎮圧に私達IS学園が駆り出された事。

その過程でお兄ちゃんが海に墜ちたりもしたが、お兄ちゃんが銀の福音を強制解除させ、ナターシャさんを救出したこと。

そのままお兄ちゃんは倒れた事。

そして、アメリカ政府とイスラエル政府の無人機だという虚偽情報を使った交渉の末、『PurgatoryKnights』が銀の福音の暴走原因解明をすることになった事。

ここまで説明すると、ナターシャさんは下を向いて悲しそうな表情を浮かべた。

 

 

「えっと...如何しました?」

 

 

シャルさんもその事には気付いたんだろう。

心配そうな声でナターシャさんにそう尋ねる。

すると、ナターシャさんは語りだす。

 

 

「あの子は...銀の福音は、空を飛ぶのが大好きだったの。それなのに、暴走して、人を傷つけてしまうだなんて...それに、アメリカがあの子を無人機だと偽って、私ごと撃破しようとしてたって考えると...」

 

 

ナターシャさんは、半分泣きながらそんな事を言う。

それを見て、思わず私とシャルさんも視線をそらしてしまう。

ナターシャさんからの言葉からは、ナターシャさんが銀の福音の事をどれだけ大事にしていたかがヒシヒシと伝わってくる。

そんな大事にしていた銀の福音が暴走して、人を傷つけたとなったら悲しむのも無理はない。

それに、そんな大事なISを破壊するような命令、それも自身の命は度外視されていたとなると、私にはどれほどの悲しさなのか理解できない。

でも、こんな時お兄ちゃんなら...

 

 

「ナターシャさんが、それだけ銀の福音の事を思ってるからこそ、銀の福音もナターシャさんの事を助けたんじゃないですか?」

 

 

私がそう言うと、ナターシャさんとシャルさんが私の方を向く。

私は笑いながら、

 

 

「だって、ナターシャさんは身体に異常が無いじゃないですか。暴走したISに取り込まれて怪我もない。それは、銀の福音が暴走しながらもナターシャさんを守ったからじゃないですか?」

 

 

そう、ナターシャさんに向けて言う。

するとナターシャさんも微笑みながら

 

 

「そうだと嬉しいわね」

 

 

と言った。

それにつられて、シャルさんも笑顔になっている。

じゃあ、そろそろ本題に入ろうかな?

 

 

「それでナターシャさん。今日私達がここに来たのは、ナターシャさんにある提案をしに来たんです」

 

 

私がそう言うと、ナターシャさんは首を傾げる。

私とシャルさんは視線をいったん合わせると、説明を始める。

 

 

「ナターシャさん。あなたは今アメリカ軍所属ですが、今回の事件を受けてあなたが如何するかは、あなたの判断に任せられることになりました」

 

 

「わ、私の判断?」

 

 

「はい。このままアメリカ軍に残るのか。それとも、新しい場所で、新しい生活をするのか。それの判断です」

 

 

シャルさんがそう言うと、ナターシャさんは表情を驚きと困惑が混ざったような表情に変える。

まぁ、急にそんな事を言われたら誰しもそんな表情になってしまう。

 

 

「そこで、ナターシャさんに提案があります。是非、『PurgatoryKnights』に入りませんか?」

 

 

「.....え?」

 

 

私がそう言うと、ナターシャさんは呆気に取られた表情になる。

 

 

「えっと...何で私が?」

 

 

ナターシャさんがそう聞いてきたので、私とシャルさんはそのまま説明を続行する。

 

 

「『PurgatoryKnights』は、発展途上国支援プロジェクトを計画しています」

 

 

「その為に、実際に発展途上国に行って活動をする人手が不足しているんです。それで、ナターシャさんのように、軍所属のIS操縦者は、まさに求めていた人材なんです」

 

 

その説明をすると、ナターシャさんは考え込むように顎に手を当てる。

まぁ、これだけで決断出来るとは私もシャルさんも思っていない。

『PurgatoryKnights』が何を出来るかも伝えないと。

 

 

「勿論、ナターシャさんの国籍等の問題...例えば、亡命して国籍を変えたいという場合でも、私達は全力でサポートします」

 

 

「そして、生活支援もしっかりしますよ。お給料も、月の手取りが60万円ほど...」

 

 

シャルさんがそう言うと、ナターシャさんは随分驚いた表情になる。

 

 

「ず、随分多いのね...」

 

 

如何やら、アメリカ軍の報酬よりも多いらしい。

 

 

「確かに多いとは思います。私達も月手取り50万ですし...」

 

 

「お兄ちゃんは、確か手取り100万だったような...」

 

 

私がそう言うと、ナターシャさんは更に驚いた表情になる。

まぁ、高校生が付きに稼ぐ金額じゃないよね...

もう自分で稼いだお金で生活できちゃうよ。

....もともと、親がいないから扶養受けてなかった。

私はそんな事を考えながら、最後のカードを使う。

 

 

「もし、うちに入って貰えば、直ぐにとは言えませんが、銀の福音と再会できる可能性もあります」

 

 

私がそう言うと、ナターシャさんは一気に表情を変える。

その表情は、何処か嬉しそうだった。

本当に、銀の福音の事が好きなんだなぁ...

 

 

「先程も言いましたけど、これからの判断をするのはナターシャさん自身です」

 

 

シャルさんは、ナターシャさんに向かってそう言う。

 

 

「ですが、もしよろしければ、私達と共に、働いて頂けないでしょうか」

 

 

「「よろしくお願いします」」

 

 

最後に、私とシャルさんは同時に頭を下げる。

そのまま暫くすると、ナターシャさんが声を発する。

 

 

「いくつか確認したいんだけど、良い?」

 

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

 

その言葉に反応しながら、私とシャルさんは顔を上げる。

 

 

「まず、仮に私が入ったのなら、やるべき仕事は発展途上国に行って、活動をすればいいのね?」

 

 

「はい、その通りです」

 

 

「それで、私の国籍とかのサポートもしてくれる」

 

 

「『PurgatoryKnights』に可能な範囲なら、出来る限りのサポートをします」

 

 

「最後に、銀の福音と再会できる可能性がある...」

 

 

「確証は出来ませんが、アメリカ軍に所属し続けるよりかは、可能性は高くなります」

 

 

何回か、確認するかのように質疑応答を繰り返す。

そして、全ての質疑応答が終わるとナターシャさんは考えるように顎に手を置き、目を閉じる。

慣れないなりにも、シャルさんと出来る限りの事をした。

これでどうか...!

 

 

そこそこ長い時間、ナターシャさんは考えていた。

でも、やがて目を開くと笑顔になり、

 

 

「是非、私を『PurgatoryKnights』で働かさせてください」

 

 

と、言ってくれた。

 

 

.....やったぁ!!

スカウト成功!!

 

 

私は内心物凄く喜ぶ。

シャルさんも、口元に笑みを浮かべていた。

 

 

「はい!よろしくお願いします、ナターシャ・ファイルスさん」

 

 

私はそう言いながら、笑顔でナターシャさんに右手を差し出す。

ナターシャさんも更に笑顔になりながら

 

 

「此方こそ、よろしくお願いします」

 

 

と言って、右手を出して私と握手をする。

暫く握手していたが、何時までもしている訳にも行かないので離す。

そして、これからの事をシャルさんと説明する。

 

 

「会社への連絡は僕たちからしておきます。ナターシャさんは、今はしっかり休んでおいてください」

 

 

「国籍等を如何するかは、社長や人事部の方々、そして所属IS操縦者を纏める係のお兄ちゃんと話し合って下さい」

 

 

「分かったわ」

 

 

お兄ちゃんはともかく、ただの所属IS操縦者の私達ではこれくらいしか言う事が無い。

っていうか、人事権を持ってるお兄ちゃんが異常なんだよ...

それに、昨日も折角の自由時間に仕事してたし...

 

 

「お兄ちゃんとも会って欲しいですけど、今は意識が戻ってないので...」

 

 

私がそう言うと、ナターシャさんは顔を暗くする。

まぁ、上司となる人を堕とした原因があると考えてしまっているんだろう。

 

 

「大丈夫ですよ。お兄ちゃんは優しいので」

 

 

「そうです。寧ろ、優秀な人材が入って歓喜すると思いますよ」

 

 

「フフ、そうだといいわ...」

 

 

シャルさんの言う通り、お兄ちゃんは歓喜すると思う。

その光景が目に浮かぶ。

 

 

と、ここで外から声が聞こえてくる。

 

 

『離せ!何故私がこんな事をされなければならないのだ!』

 

 

『いい加減にしろ篠ノ之!大人しくしろ!今までのお前の行動を振り返ったら、理由は分かるだろうが!』

 

 

『千冬さん!私は何もしてないじゃないですか!私はただ、変わってしまった一夏を元に戻そうとしただけです!』

 

 

『はぁ...もういい!とっとと行くぞ!』

 

 

そんな声が。

 

 

「えっと...今の声は?」

 

 

「IS学園の問題児が搬送されている声です。気にしないで下さい」

 

 

「わ、分かったわ...」

 

 

シャルさんがナターシャさんにそう説明すると、一応納得してくれたようだ。

私とシャルさんは立ち上がると、ナターシャさんに声を掛ける。

 

 

「では、詳しいことはまた明日話しましょう」

 

 

「今は休んでください」

 

 

「そうさせてもらうわ」

 

 

そうやり取りをして、私とシャルさんはナターシャさんの部屋から出る。

そして、扉を閉めて軽くシャルさんとハイタッチする。

 

 

「やったね、マドカちゃん!」

 

 

「はい、シャルさん!」

 

 

そう話した後、そのまま私達は自分の部屋に戻るために歩き出す。

その途中、お兄ちゃんが寝ている部屋の扉が見える。

お兄ちゃん、早く目を覚まさないかな.....

 

 

 

 




前々から発展途上国支援プロジェクトって言ってたのはこのため!
途中のマドカのセリフがカードを使うなのは...まぁ、バディファイトとのクロスオーバーなので。
ちょっとくらいカードゲーム要素あっても良いじゃないですか。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想や誤字報告もよろしくお願いします!


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夜の海での会話

前々回の最後のディミオスがしたいと言っていた会話。
それです。

今回もお楽しみください!


千冬side

 

 

私は、数人の教師と共に篠ノ之を拘束しながら歩いていた。

理由は簡単。

篠ノ之を警察に引き渡すためだ。

今まで、篠ノ之は何度も何度も暴力行為を行った。

その全ては織斑兄に向けられていて、織斑兄が全てを捌いてくれていたから傷害事件までに発展しなかったが、篠ノ之は一向に反省しなかった。

そんな中、束が篠ノ之に関する声明を発表。

そして篠ノ之は警察に引き渡されることになったのだが...

 

 

「クソ!離せ!離せと言っているだろう!!」

 

 

先程から、篠ノ之は暴れていて上手く連れていけない。

全く、もう警察の方は来ているというのに...

 

 

「離せ!何故私がこんな事をされなければならないのだ!」

 

 

「いい加減にしろ篠ノ之!大人しくしろ!今までのお前の行動を振り返ったら、理由は分かるだろうが!」

 

 

「千冬さん!私は何もしてないじゃないですか!私はただ、変わってしまった一夏を元に戻そうとしただけです!」

 

 

コイツは...

織斑兄は、一夏は、変わったんじゃなくて成長したんだというのに...

そして、篠ノ之が成長して無さすぎるんだ!

 

 

「はぁ...もういい!とっとと行くぞ!」

 

 

そうして、篠ノ之の腕を掴み強引に連れて行く。

その他の教師も、強引に篠ノ之を連れて行く。

 

 

「クソ!離せ!私は何もしていない!!」

 

 

そんなやり取りを何度も繰り返し、何とか旅館からは出る事に成功した。

あと、もう少し...!

 

 

「離せ!私はただ一夏を取り戻したいだけだ!」

 

 

「いい加減、大人しくしろ!」

 

 

はぁ、疲れる...

そんな事を思いながら篠ノ之を引きずっていると、

 

 

「お疲れ様です」

 

 

と、警察官の方5人がやってきて下さった。

 

 

「どうも。それで、コイツなんです」

 

 

「分かりました。あのパトカーに入れて輸送します。すみませんが、そこまで協力していただけますか?」

 

 

「分かりました」

 

 

そう言われたので、私達はパトカーに篠ノ之を入れるまでは協力することにした。

それにしても、パトカー3台も使うのか...

 

 

「クッ!離せ!離せぇ!!」

 

 

そう暴れる篠ノ之を、教師と警察官総出でパトカーに押し込む。

そうして、何とかパトカーに乗せる事には成功した。

 

 

「では、後はお任せください」

 

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

そうして、篠ノ之は連行されていった。

私達教師はそれを確認すると、旅館に戻る。

...ディミオスソードの報告を聞く時間まで、あと少しか...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

そうして、現在時刻は20時。

私は教員たちに許可を取り、指定した場所まで向かっていた。

教員たちは、弟である一夏が目を覚まさない事に気を使ってか、特に理由を聞いてこなかった。

...良い、同僚だな。

 

 

そんな事を考えながら歩いていると、指定した場所に着いた。

その場にはもう既に束がいて、柵に腰を掛けて足をブラブラしていた。

 

 

「ん、ちーちゃんも来たね」

 

 

「ああ。お前は随分早いな」

 

 

「まぁ、ディミくんの話は気になるしねぇ~~」

 

 

私と束はそんな会話をする。

束の表情は何時ものおちゃらけた顔では無く、真剣なものだった。

一夏が気を失ったり、銀の福音のあの姿など、気になるものが多いんだろう。

そんな事を考えていると

 

 

《フム、もう来ていたか》

 

 

と言いながら、ディミオスソードがやって来た。

 

 

「あ、ディミくん!やっほぉ~!」

 

 

束はディミオスソードにそう声を掛ける。

ディミオスソードはそれに

 

 

《ああ》

 

 

と短く返すと、そのまま地面に着地する。

そうして、私と束を見ながら言葉を発する。

 

 

《早速本題に入る。伝えておきたい事は2つ。銀の福音の暴走原因と一夏についてだ》

 

 

ディミオスソードがそう言うと、私と束は一気に表情を変える。

まさか、今回の銀の福音事件で気になっていた事2つがディミオスソードの口から出て来るだなんて思わなかった。

ディミオスソードもそれは理解しているんだろう。

軽く頷いている。

 

 

《まず、銀の福音の暴走原因だ。銀の福音には、終焉魔竜アジ・ダハーカの細胞が埋め込まれていた可能性が高い》

 

 

「ア、アジ・ダハーカ?」

 

 

なんだ、それは。

束も同じ様な表情をしている。

 

 

《アジ・ダハーカは、ダークネスドラゴンWのモンスターで、太陽神の片割れ。世界の半分くらいは簡単に滅ぼせるほどの力を持っている》

 

 

ディミオスソードの説明は俄かには信じられないものだった。

世界の半分は簡単に滅ぼせるなど、創作物の中では無いと鼻で笑ってしまうかのようなものだ。

だが、ディミオスソードという目の前のドラゴンの存在そのものが創作物の中ではありえないと考えていた存在だ。

世界の半分の滅ぼせる力を持っている存在がいても不思議ではない。

 

 

「はへぇ~~...それで、何でそんなのがISに埋め込まれてたの?」

 

 

束も同じ様な思考に至ったのだろう。

ディミオスソードの説明を否定せずにそんな事を聞く。

 

 

《バディワールドから、アジ・ダハーカの細胞が流出しているのは確認していた。アジ・ダハーカの細胞は、細胞から新たなモンスターが生み出せるほどのエネルギーを秘めている。そんな細胞だからこそ、成長するための依り代として銀の福音に寄生した可能性がある》

 

 

「そ、そんな事があり得るのか...?」

 

 

《分からない。我らから見ればISなど未知のものだし、そちらから見ても我らは未知の存在だろう。本来ならば、関わる事のない存在なのだからな》

 

 

確かに、ドイツで誘拐されていた一夏をディミオスソードが異世界から発見しなかったら、そもそも関わりは無かったな。

 

 

《篠ノ之束。ISコアとIS装甲は新たに作れるか?》

 

 

と、ここで急にディミオスソードが束にそんな事を言う。

それを言われた束は一瞬驚いた表情を浮かべたものの、直ぐにその真意を理解したようだ。

 

 

「うん。でもあと2つが限界だし、第二世代ぐらいのじゃないと直ぐには出来ないよ」

 

 

《それくらいで問題ない。実験をするだけだからな》

 

 

その発言を聞いて、私はディミオスソードが何をしたいのか理解した。

ISとディミオスソード達モンスターが合わさるとどのようになるかが何も分からない。

その為、実験をして把握しておきたいという事だろう。

 

 

《それで、次に一夏の事なのだが...》

 

 

ディミオスがそう呟くと、私と束に緊張が走る。

一夏は、橘に刺されたうえ、その後銀の福音と戦闘をして今意識を失っている。

そんな一夏に、何か別の事が起こったのか...

 

 

《一夏が橘深夜に刺されたことは間違いない。だが、一夏の身体には何も異常はない。煉獄騎士内の白式と白騎士が何かしたと考えていると思ってるが、何か知っているか?》

 

 

「待て!煉獄騎士内の白式と白騎士?如何いう事だ?」

 

 

そんなの、聞いたこと無いぞ!?

私が混乱していると、

 

 

「白騎士のコアを使った白式っていうISを日本政府が無理矢理作ったんだ。そして、なんやかんやあってそれのコアがいっくんの煉獄騎士に宿ったんだ」

 

 

と束がざっくりと説明した。

正直に言うと、もう少し深堀してほしいが、大体の事が分かったから今は良しとしよう。

 

 

「それでねディミくん。白騎士には、操縦者の生体再生能力が備わってるの。いっくんを治療したのはそれだと思うよ」

 

 

《なるほどな...》

 

 

ディミオスソードは納得したかのようにそう呟く。

だが、それと同時に私も納得していた。

まさか、あの生体再生能力がこんな形で役に立つだなんて...

 

 

《...我の疑問は解消した。そして、今一夏が気を失っている理由は心当たりがある》

 

 

ディミオスソードがそう言うと、私と束はジッとディミオスソードの事を見る。

 

 

《お前たちも見たと思うが、一夏が何故か新しいカードを使った。具体的に言うと、新しい必殺技を創造した》

 

 

ん...?

ど、如何いう事だ?

 

 

「ディミくん、如何いう事?」

 

 

束も同じ事を思ったんだろう。

ディミオスソードにそうやって質問する。

 

 

《銀の福音作戦会議の時に一夏が説明した必殺技の条件、覚えているか?》

 

 

「ああ。覚えているぞ」

 

 

確か、相手のSEが4割以下で、使用にはゲージが4だったよな...

ん?

確か一夏が銀の福音と対峙していた時、その条件は達成していなかったような...?

 

 

《確かにあの時、その必殺技の条件は達成していなかった。それなのにも関わらず、何故か必殺技が発動した。よって、一夏があの瞬間に新しい必殺技を創造したと考えるのが普通だ》

 

 

あ、新しい必殺技の創造...

それがどんなに凄い事なのか、私には理解できない。

でも、このディミオスソードの反応から通常ではあり得ない事だという事は理解できる。

 

 

「つまり、一夏はその新しい必殺技の創造で意識を失ったという事か?」

 

 

《そうだと確証は出来ないが、その可能性が高い》

 

 

そういう事か...

 

 

《だから、暫くすれば一夏は意識が戻る》

 

 

最後に、そのディミオスソードの言葉で私と束は胸をなでおろす。

ここで一夏の意識は戻らないと言われたら、私と束は発狂する自信がある。

 

 

「それを聞いて安心したよぉ...んじゃ、そろそろ束さんは時間だから帰るね!」

 

 

束はそう言うと、そのまま腰かけていた柵から立ち上がる。

そして、私とディミオスソードの事を見ながら

 

 

「いっくんが目が覚めたら、束さんも心配してたって伝えてね!バイビ~~!!」

 

 

という。

すると、次の瞬間には束の姿は見えなくなっていた。

 

 

《忙しい奴だな》

 

 

「全くだ」

 

 

ディミオスソードと束に関する感想が被った。

それ程、束の行動は忙しいという事か。

 

 

「では、私達も旅館に戻るとしよう」

 

 

《そうだな》

 

 

私とディミオスソードはそのまま旅館に戻るために移動する。

一夏...早く起きてくれ...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

先ず視界に入ったのは、和室の天井。

一瞬何処か分からなかったが、今は臨海学校で花月荘に泊まってたのを思い出す。

つまりは、俺は寝てたのか...

俺はそう思いながら上体を起こす。

 

 

「う、あ...」

 

 

すると、軽くめまいがするため、頭を抑える。

めまいがするまで寝てただなんて...今、何時だ?

俺はそう思いながら時計を探す。

でもこの部屋に掛け時計は無かった。

俺が視線を布団の横に移動させると、そこにスマホがあるのを確認する。

俺はスマホに手を伸ばす。

銀の福音を撃破して、旅館に向かって.....駄目だ、そこからの記憶がない。

そして、俺はスマホのロック画面で日時を確認する。

 

 

「...8日の13:00!?」

 

 

翌日の昼じゃねえか!?

俺滅茶苦茶寝てた...

っていうか待て!

今日は最終日だからもう直ぐ出発!?

いや、だったらもっと早く叩き起こされるはず...

って事はまだ大丈夫だな...

 

 

「そう言えばディミオスもいないし、ダークコアデッキケースもない...昨日刺されたから、ディミオスがダークネスドラゴンWにでも持って行ってんのかな...?」

 

 

俺はそう呟きながら立ち上がる。

うん、めまいも無くなった。

今の俺の服装は、花月荘の浴衣。

つまり、誰かが着替えさせてくれたな。

まぁ、倫理的にマドカか千冬姉だろ。

そして俺はそのまま身体を伸ばす。

 

 

「あ、あ~~~~」

 

 

身体がバキバキと音を立てる。

長い事寝てたから、身体が固まってるな...

俺がは伸ばしていた身体を元に戻し、布団の上に胡坐で座る。

そして、もう一回スマホを見ようとした時、

 

ガチャ

 

と扉が開く。

 

 

「ん?」

 

 

俺は短く声をだしながら扉の方に顔を向ける。

するとそこには...

 

 

「お、お兄ちゃん...?」

 

 

「い、一夏...」

 

 

と呟くマドカとシャルがいた。

その後ろには、金髪の長髪女性...ナターシャ・ファイルスさんがいた。

 

 

「如何した?マドカ、シャル」

 

 

マドカとシャルが一向に動こうとしないので、俺はそう声を掛ける。

すると、

 

 

「お兄ちゃぁあああん!!」

 

 

「一夏ぁああああ!!」

 

 

と俺の名前を叫びながら2人は俺に突っ込んで来た。

この光景、見たことある!

具体的には、ISのコア人格2人が突っ込んで来たことがある!

だが、1回見たからといって対応できるわけではない。

俺はそのまま2人に突っ込まれて布団に仰向けに倒れる。

 

 

「ぐえ!?」

 

 

思わずそんな声が漏れる。

 

 

「良かったぁ...目が覚めたんだね...」

 

 

「心配したんだよぉ...」

 

 

2人は泣きながらそう言ってくれる。

う、嬉しいんだけど、苦しい...

 

 

「は、離れてくれ...」

 

 

俺がそう言うと、2人は素直に離してくれる。

俺はそのまま上体を起こす。

 

 

「まぁ、今起きたよ」

 

 

俺がそう言うと、2人は胸を撫で下ろす。

かなり心配を掛けてしまったようだ。

まぁ、1回深夜に刺されて海に墜ちて、その後意識を失って翌日の昼まで寝てたら心配もするか。

 

 

「それで、何でナターシャ・ファイルスさんまでいるんだ?」

 

 

俺がそう言うと、マドカとシャルがナターシャさんの事を呼ぶ。

そして、3人そろって座る。

そのまま、説明をしてくれる。

IS学園と『PurgatoryKnights』がアメリカ政府とイスラエル政府とした交渉。

その結果、ナターシャさんはこの先如何するか自分で決められることになった事。

そして、マドカとシャルのスカウトで『PurgatoryKnights』で働く事になったという事。

 

 

「なるほどね.....滅茶苦茶嬉しい!」

 

 

俺はそれを聞いてそんな感想を漏らす。

だって、発展途上国支援プロジェクトの問題点が一気に解消されたんだぞ!

嬉しくない訳ないだろ!

俺のテンションが一気に上がった事に3人は驚いていたが、全員笑顔になる。

それを見て俺も笑顔になると、ナターシャさんの前に移動して右手を差し出す。

 

 

「これからよろしくお願いします、ナターシャさん」

 

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

そうして、ナターシャさんも右手を差し出して握手をする。

 

 

「ああ、俺の事は一夏で良いですし、プライベートの時はため口で良いですよ?」

 

 

「え、でも...上司の方にそうやって話すのは...」

 

 

「良いですって。そもそもマドカとシャルもプライベートではため口ですし。まぁ、流石に仕事の時は敬語ですけど」

 

 

俺がそう言うと、ナターシャさんは一応納得したようだ。

 

 

「なら、そうさせて貰うわ。私の事もナターシャでいいわよ」

 

 

「プライベートから年上の女性を呼び捨てする訳にはいかないので、仕事の時はそうさせてもらいますね」

 

 

俺はそう言い、笑う。

すると、ナターシャさんも微笑む。

 

 

「そう言えば、会社への連絡はもう終わってるのか?」

 

 

俺はマドカとシャルにそう尋ねる。

すると、

 

 

「うん。スカウトしたという事はもう伝えたよ」

 

 

「ナターシャさんには本社に来てもらって、そこで社長たちと今後如何するかを話し合ってもらう予定だよ」

 

 

と言う。

そういう事になってるのか。

 

 

「あとどれくらいで学園に戻る事になってる?」

 

 

「そうだね...今から織斑先生に一夏が起きたって伝えに行くから、そこから判断かな?」

 

 

「了解」

 

 

その報告を聞いて、俺は再びナターシャさんに向き合う。

 

 

「俺は学園に戻るので、具体的な話はまず社長としておいてください。なるべく早いうちに俺も会社に行くので」

 

 

「分かったわ」

 

 

そして俺はそのまま立ち上がる。

 

 

「んじゃ、取り敢えず着替えるわ」

 

 

「分かった。じゃあ、私達は織斑先生に伝えに行くね」

 

 

「ナターシャさんも、一応行きましょう」

 

 

「分かったわ」

 

 

そうして、3人はそのまま部屋から出て行った。

俺も自分の荷物が置いてある教員部屋に移動する。

わざわざ3人が俺とこないって事は、織斑先生は今いないんだろうな。

 

 

何はともあれ、新しい社員が入って良かった...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

時刻は進み、15:30

俺はIS学園に向かうバスに揺られていた。

 

 

あの後、部屋でIS学園の制服に着替えて、PCを確認。

案の定山のような仕事が来ていた。

それに俺はテンションが下がったものの、取り敢えず後で詳しく確認しようと思ってPCを含めた荷物を片付けた。

そのタイミングで、織斑先生たち教師の方々と深夜以外の専用機持ちが一斉に部屋に突っ込んで来たので、天井に張り付いて躱した。

かなりの心配を掛けてしまった事を再確認しているとディミオスも帰って来た。

小声で確認すると、やっぱりダークネスドラゴンWでダークコアデッキケースの確認していたらしい。

 

 

そして、直ぐに帰る準備を開始するよう指示が出て、14:00にはもう既に駐車場に全員が集合していた。

その前に俺とマドカとシャルはナターシャさんを見送り、ナターシャさんは本社へと向かった。

一般生徒には、銀の福音暴走事件が説明されていないが、出発が遅れた原因は俺の体調不調だと説明されたので、物凄く心配してくれた。

そしてこの時に、織斑先生が篠ノ之は警察に引き渡された事、深夜は命令違反を起こしたため拘束されている事が説明された。

篠ノ之の搬送にはみんな安心したような顔をしたものの、深夜の拘束には驚いた表情をしていた。

まぁ、この間のクラス対抗戦での命令違反は1組以外にはあまり広まってないから衝撃も大きいだろう。

 

 

そして今はユラユラとバスに揺られている。

バスの車内は体調不良という事になっている俺に気を使ってか静かだ。

そこまで気を使わなくていいんだけどなぁ...?

 

 

「それにしても、本当に疲れたな...」

 

 

「そうだな」

 

 

俺のその呟きにラウラが反応する。

 

 

「帰ってからはゆっくり休むと良い」

 

 

「休みたいんだが、それは出来なさそうだ」

 

 

「何?何かあるのか?」

 

 

ラウラは首を傾げながらそう言ってくる。

俺はそれに頷きながら

 

 

「ああ。仕事があるし、それにもう直ぐ期末テストだ」

 

 

そう返す。

すると...

 

 

『わ、忘れてた!?』

 

 

という絶叫が響く。

耳が...耳が.....

この反応を見るに、如何やらみんなテストの存在を忘れていたらしい。

はぁ、学生ならテストを忘れちゃ駄目だぜ。

何はともあれ、激動の臨海学校は終了した。

これからも頑張らねえとなぁ...

 

 

 

 




臨海学校、無事終了!
でも、もうちょっとだけ1学期は続く。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想や誤字報告もよろしくお願いします!


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緊急授業!一夏先生!

まだまだ1学期。
サブタイまんまの内容ですが、今回は一夏が結構ガッツリ授業します。
ここでそんなの読みたくない!って方は飛ばして呼んでも大丈夫です。

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

結局、深夜は夏休み明けまでの自室謹慎に反省文1000枚。

それに加えて夏休み期間の毎日の奉仕作業処分となった。

監視用ドローンの映像から判断した結果、あの混戦状態ではフレンドリーファイアが故意かどうかの判断が織斑先生や学園長でも出来なかったらしく、そうなったらしい。

 

 

そして、臨海学校明けの月曜日。

朝のSHR前の教室には、何時もの様な元気な雰囲気が消え去っていた。

理由は単純。

今週末...というか明日から1学期末テストがあるからだ。

期末テストの日程は初日と2日目で一般5科目(英、国、数ⅠA、地理、化学基礎。歴史やその他理科は2年生以降)と実技4科目(保体、家、音、美)

3日目がIS座学。

そして最終日がIS実技だ。

 

 

そんな中、明日の初日には学生の98%が嫌いと言われている(俺調べ)数学が1時間目からあるため、みんな数学の参考書などを片手にノートにペンを走らせている。

因みに俺は2%側だ。

っていうか、俺は苦手科目などない...いや、全部の科目が得意だ。

寧ろ勉強するのは楽しいと思える。

それくらいになるまで勉学は極めて置かないと俺の仕事はやっていけない。

勉強が楽しいのも、普段から仕事ばっかりしてる反動だろうな。

まぁ、得意とはいえ流石に最後に何もしないのは宜しくないので、俺も復習の為にノートをめくる。

うん、基本はもう理解して覚えてるし、大丈夫かな。

俺がそんな事を考えていると

 

 

「お兄ちゃーん...ちょっといい...?」

 

 

そう廊下から声を掛けられる。

まぁ、俺をお兄ちゃんと呼ぶ人物は1人しかいない。

いや、エクシアは俺の事をお兄様と呼ぶが、お兄ちゃんではない。

 

 

「如何した、マドカ」

 

 

俺はノートを仕舞って廊下に移動する。

すると、マドカは

 

 

「お兄ちゃん、勉強教えて!」

 

 

と言ってきた。

その瞬間に、教室内から一斉に視線を向けられる。

な、何だ何だ...?

俺はそんな事を考えながら、マドカに向き合う。

 

 

「いいぞ。多分だが...数学だな?」

 

 

「うん、そう」

 

 

俺のその問いに、マドカは頷く。

やっぱりか...

やはり98%という数字に間違いは無いようだ。

 

 

「もう直ぐSHRだし、昼休みだな。俺が3組に行くから、昼休み待ってろ」

 

 

「分かった!お兄ちゃんありがとう!じゃあね!」

 

 

マドカはそう言うと、そのまま3組の教室に戻っていった。

うん、マドカは3組のみんなとしっかり馴染んでいるようで安心した。

俺は軽く笑うと、教室に戻る。

すると...

 

 

「な、何か...?」

 

 

クラス中の視線を感じた。

いや、多分みんなも教えて欲しいって事なのだろうか?

だったら先に言ってくれ...

口に出さないと分かるもんも分からないし、出来るもんも出来ないぞ。

俺はそう思いながらも視線に気付いていないふりをしながら自席に座る。

 

キーンコーンカーンコーン

 

と、ここでチャイムが鳴り、教室の扉が開き織斑先生と山田先生が教室に入って来た。

その瞬間、みんな直ぐに参考書を仕舞う。

俺も身体ごとしっかりと織斑先生に向ける。

 

 

「フム、全員座っているな。ではこれより本日のSHRを開始する!」

 

 

さて、今日も頑張りますか...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

時刻は進み、昼休み。

昼食を食堂で食べた後、俺はマドカと共に1組の教室で俺のノートを回収してから3組の教室に向かっていた。

まぁ、向かうと言っても2組の教室を間に挟んで直ぐなのでそこまで時間は掛からない。

3組の教室には今俺の隣にいるマドカ以外の全生徒が揃っており、みんなノートにペンを走らせている。

俺がマドカと共に教室に入ると、教室にいる生徒が一斉に視線を向けてくる。

そりゃそうか。

俺が3組の教室に入るのはこれが初めてだからな。

俺は若干の気まずさを感じていると、マドカは自席に座って教科書類を取り出したので俺も席に近付く。

 

 

「それで、数学の何処だ?」

 

 

「んーっと...ここ」

 

 

マドカは教科書を開き、あるページを指で差す。

俺は覗き込みそれを確認する。

 

 

「はいはい、場合の数ね」

 

 

確かにここは難しい。

ちゃんと理解しないと次がさっぱり分からない所だからな。

俺は自分のノートの場合の数のページを開き、マドカに解説するために近付く...

その直前に、何やらガタガタと物音が聞こえる。

俺とマドカが周りに視線を向けると、みんなが俺とマドカに先程までとは違った視線を向けていた。

その、「是非私にも...!」と言わんばかりの視線を。

これは...やらないといけないな。

 

 

「えっと...場合の数が分からないから私も教えて欲しいって人」

 

 

俺は右手を上げながらそう言う。

すると、全員が右手を上げる。

...全員かい!

エドワース先生、何やってんの!?

まぁ、逆に全員に教えるほうが楽か...?

俺はそう思いながら

 

 

「じゃあ全員に纏めて教えるから準備して」

 

 

黒板前に移動してそう言う。

すると、マドカを含め3組のみんなが一斉に教科書とノートの準備をする。

う、そこそこプレッシャーを感じる。

やっぱり教師の方々って凄いな。

 

 

「んじゃ、最初からザックリと解説するよ」

 

 

俺がそう言うと、みんな一斉に頷く。

 

 

「まず、集合と要素からだ。集合っていうのは範囲がはっきりしたものの集まり。要素っていうのは集合の中の1つ1つのものだ」

 

 

俺はそう言いながらチョークを持って黒板に文を書く。

 

 

「Xが集合Aの要素であるとき、Xは集合Aに属するという。この文を分かりやすくすると...」

 

 

俺はさっき書いた自分の文に書き足す。

 

 

X(自分)集合A(1-3)要素(クラスメイト)であるとき、X(自分)集合A(1-3)に属するという、ってなる。ここまでで質問ある人?」

 

 

俺がそう尋ねるも、誰も手を上げない。

良し、ここまではいいか。

 

 

「これの表し方は、Xが集合Aの要素である事をX∈Aって表す。そして、Yが集合Aに要素でない事をY∉Aって表す」

 

 

俺がそう言うと、みんな頷く。

 

 

「じゃあ練習問題。有理数全体の集合をQとするとき、次の空欄に∈か∉のどちらか適する方を入れてくれ」

 

 

俺はそう言って、黒板に問題を書く。

(1)3 Q (2)√2 Q (3)-2/3 Q

 

俺が書き終わると、みんなノートに問題を解き始める。

大体1分したところで、

 

 

「そこまで。この問題は、有理数かそうじゃないか理解してれば解けるからそのまま答え書くぞ」

 

 

俺はそう言い、答えを記入する。

(1)3∈Q (2)√2∉Q (3)-2/3∈Q

 

 

「それじゃあ次。集合の表し方には{ }の中にその要素を並べる方法がある。例えば、12の正の約数全体集合Aの場合...」

 

 

俺はそう言いながら黒板に新しく数式を書き込む。

 

A={1,2,3,4,6,12}

 

 

「こうなる。まず集合のアルファベットを書いて=、そして{ }を書いてから中に要素の数字を,で区切りながら書く。そして次に...」

 

 

俺はさっきの数式の下に新しく文を数式を書く。

 

100以下の正の偶数全体の集合B

B={2,4,6,・・・・・・,100}

 

5で割り切れる自然数全体の集合C

C={5,10,15,・・・・・・}

 

 

「この2つの例題みたいに、集合の要素が多かったり無限に多くの要素がある場合には、省略記号の・・・・・・を使って表せるよ。この時に、最低3つは要素の数字を書いて、100以下とか限度が決まってる場合は最後にそれを書いてね」

 

 

俺はそれを言うと、新しく文と数式を書く。

 

(1)1より大きく3より小さい実数全体の集合D

D={X|1<X<3,Xは実数}

 

(2)正の偶数全体の集合E

E={2n|n=1,2,3,・・・・・・}

 

 

「こうやって、要素の代表をXで表して、{ }の中の縦線の右にXの満たす条件を書く方法もある。(2)の場合は、E={2,4,6,・・・・・・}に置き換える事も出来る。ここまでで何か分からない人?」

 

 

俺はそう尋ねると、1人の生徒が手を上げる。

1人か...なら。

 

 

「ディミオス、行ける?」

 

 

《任せろ》

 

 

俺がディミオスに指示を出すと、ディミオスは胸ポケットからSDで出て来てその生徒の机に飛んでいく。

これで個別指導もOK。

 

 

「良し、じゃあ練習問題。次の集合を要素を書き並べて表して」

 

 

俺はそのまま文を書く。

(1)18の正の約数全体の集合F

(2)G={X|-2≦X≦3,Xは整数}

(3)H={2n+1|n=0,1,2,3,・・・・・・}

 

 

「時間は...3分。始めてくれ」

 

 

俺がそう言うと、みんなはまたノートに問題を解く。

俺は何となくみんなのノートの中身を確認しながら回答を書く準備をする。

そして3分経ったところで、

 

 

「そこまで。今から回答を書く」

 

 

そう言ってから回答を書き始める。

(1)F={1,2,3,6,9,18}

(2)G={-2,-1,0,1,2,3}

(3)H={1,3,5,7,・・・・・・}

 

 

「さて、大事なのは(3)。さっき俺は最低3つって言ったけど、この問題は4つ以上書かないと不正解になる」

 

 

俺がそう言うと、みんなは驚いた表情をする人とうんうんと頷く生徒に分かれていた。

 

 

「この問題で大事なのは、問題がH={2n+1|n=0,1,2,3,・・・・・・}って事。0,1,2,3,って4つ数字が書いてある。問題が4つなら、答えも4つ以上書く必要がある。これは5つでも6つでも一緒。覚えておいてくれ」

 

 

俺がそう言うと、みんな頷く。

それを確認して、俺は新たな解説を始める。

そうやって解説を進めていると、昼休み終了の時間になった。

何とか終了までに集合のザックリとした解説は終わった。

途中、理解が遅れてる人にはディミオスに個別解説してもらったりもしたが、終わったんだから良いだろう。

 

 

「終わったぁ...みんな、理解できた?」

 

 

俺がそう聞くと、みんな一斉に頷いてくれる。

 

「すっごく分かりやすかったよ!」

 

「これで何とかいけそうだよ...」

 

といった感想も言ってくれる。

人に教えるっていうのは良い復習方法なので、俺としてもテスト前の詰めにはちょうど良かった。

 

 

「応用問題の対策とかは各自教え合いながら勉強してくれ」

 

 

俺はそう言いながら自分のノートを閉じて教室の扉に向かって歩く。

 

 

「じゃあ、俺は戻るよ。じゃあねー」

 

 

『教えてくれてありがとう!じゃあねー!』

 

 

最後に俺がそう言うと、3組のみんなはそう俺にお礼を言ってくれる。

俺は笑顔になりながら3組の教室を出て、1組の教室に戻る。

ふぅ、軽く授業みたいになってたけど、昼休みに軽くしてただけで結構疲れた。

やっぱり教師の方々ってのは凄いな...

俺はそう思いながら1組の教室に入る。

 

 

『一夏君!』

 

 

「うおっ.....どうかしたか?」

 

 

その瞬間に、専用機持ち3人を除くクラスメイト全員から声を掛けられる。

俺がどうしたのか聞くと、

 

 

『私達にも勉強教えてください!』

 

 

と、一斉に頭を下げて来た。

そーなるかぁ...

まぁ、友人達からの頼みだからな、一肌脱ごう。

 

 

「分かった、分かった。放課後な」

 

 

俺がそう言うと、みんな納得したように席に戻っていった。

ここでチャイムが鳴り、昼休みが終了した。

俺も席について次の授業の準備をする。

そうして5時間目開始のチャイムが鳴ると同時に教室の扉が開き、化学基礎担当教師の湊桜子先生が入って来た。

 

 

「みんな、明日はテストだから、直前の対策プリントを用意したよ!」

 

 

おお、ありがたい。

さて、集中しますか...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

三人称side

 

 

放課後、一夏は昼休みのように勉強を教える事になったのだが...

その参加者は1組の生徒では無く、他のクラスの生徒までいた。

如何やら昼休みに一夏が3組で授業していたのは学年中に広まっていたらしい。

もうちょっとした塾だ。

会場も、食堂の一角を借りて、わざわざホワイトボードを5枚程持ち込んだ。

そんな中、一夏はディミオスや専用機持ちの力を借りて何とか教え終わった。

数学だけでは無く、一般5科目全てを教え切った一夏はやはり凄い。

 

 

そしてテスト当日。

少し余裕そうに問題を解く生徒。

頭から煙が出てるのかと錯覚するほど必死に解く生徒様々だった。

そうして、IS座学も終了しIS実技。

IS実技は点数では無く、合格不合格での判断となる。

これは、一般生徒と専用機持ち生徒で内容が異なる。

一般生徒は、搭乗、立ち上がり、歩行、空中に10秒間浮遊するという簡単な基礎。

そして専用機持ちは訓練機を使った教員との模擬戦。

勝利、又は模擬戦内でのポイントをクリアすれば合格となる。

この時、訓練機を使用するのだが、こんな時でも一夏はISスーツを使わなかった。

それでも山田先生相手に勝利して合格していた。

まぁ、教員側もテストなので本気ではない事は一夏も理解している。

そうして、IS学園期末テストは終了した。

そして、翌週の月曜日に一気に採点結果が返却される。

 

 

IS学園の期末テストで座学で赤点を取ったものはその教科1つに付き3日間の補修(IS座学の場合は5日間)、IS実技で不合格の場合は専用トレーニング10日間となかなかに夏休みを消費することになってしまう。

だが、1年生2年生3年生共に、赤点者と不合格者は1人も出ておらず、強いて言うなら自宅謹慎の深夜くらいであろうか。

そして、専用機持ちは放課後食堂でテスト返却の定番という事で、点数だけお互いに発表した。

これがその結果である。

 

 

  一夏:一般5科目、500点 実技4科目、400点 IS座学、100点 IS実技、合格

 マドカ:一般5科目、456点 実技4科目、324点 IS座学、88点 IS実技、合格

 シャル:一般5科目、482点 実技4科目、364点 IS座学、94点 IS実技、合格

   鈴:一般5科目、452点 実技4科目、362点 IS座学、90点 IS実技、合格

セシリア:一般5科目、472点 実技4科目、382点 IS座学、86点 IS実技、合格

 ラウラ:一般5科目、462点 実技4科目、358点 IS座学、92点 IS実技、合格

   簪:一般5科目、492点 実技4科目、394点 IS座学、96点 IS実技、合格

  楯無:一般5科目、498点 実技4科目、396点 IS座学、100点 IS実技、合格

 ダリル:一般5科目、474点 実技4科目、348点 IS座学、96点 IS実技、合格

フォルテ:一般5科目、480点 実技4科目、380点 IS座学、86点 IS実技、合格

 

 

これを見た後、1年生達は先輩を交えてテストの復習をしようとしていたが、一夏だけは

 

 

「仕事だぁああああ!アッハハハハハ!!」

 

 

と笑いながら寮に戻っていった。

これを見た専用機持ち達は、

 

 

『....頑張れ!』

 

 

と、一夏の背中に声を掛けるしか無かったのだった...

 

 

 

 




みなさん、数学って好きですか?
割と本気で集合の最初の方の解説をしました。
拒否反応が出た方、ごめんなさい!

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想や誤字報告もよろしくお願いします!


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支援プロジェクト、始動

夏休みまであと少し。
今回遂にプロジェクトが始まります!

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

テストのが返却された翌日の昼休み。

俺は食後のコーヒーを啜りながら仕事をしていた。

電子書類の仕事が一気に増えてPCを教室などに持ち込む許可も貰った。

俺の周りには、自室謹慎の深夜を除いた1年生専用機持ちとのほほんさんが集合していた。

別に集合を掛けたわけでは無いんだけどなぁ...?

っていうか、マドカとシャル以外にPC見られると困るんだけど...

まぁ、みんなもそれを分かっているのか、ちゃんと俺の後ろにはいないんだけどさ...

 

 

「そう言えば、みんなって何の部活に入ってるの?」

 

 

俺がそう思っていると、マドカはそう質問をする。

うん、同じ会社所属のシャル以外には敬語も取れてて、みんなに馴染んでるみたいだな。

実際には1個下なのだが、同学年だし敬語は無くていいだろう。

それにしても部活か...俺は仕事が忙しいからな...

俺がそんな事を思っていると、みんな口々に自分の部活を言う。

 

 

「僕は料理部だね」

 

 

「私はテニス部ですわ」

 

 

「私はラクロス部ね」

 

 

「私は茶道部だ」

 

 

「私は...まだ入ってない...」

 

 

「私は生徒会~~」

 

 

へ~~。

のほほんさん以外は知らなかった。

ラウラが茶道部か...チョッと意外だ。

 

 

「俺は言わなくても分かると思うが無所属...いや、会社の仕事部だ」

 

 

「あ、あはは...うん、知ってる」

 

 

俺がそう言うとマドカは苦笑いになって頷いた。

俺もそれに笑いながら、PCを操作し、次のページに移動させる。

.....ん?

こ、これは...

 

 

「え、マジ!?」

 

 

俺はそれの内容を見て、思わず声に出して驚く。

急に俺が声を出したからか、みんなが驚いたような顔をする。

だが、俺はそれに反応せずに笑みを浮かべる。

 

 

「喜べ、マドカ、シャル!仲間が増えそうだ!」

 

 

俺がそう言うと、マドカとシャルはPCの画面を覗く。

すると、2人とも驚いた表情になったのち、笑みを浮かべる。

やっぱり2人とも、仲間が増える事は嬉しいようだ。

 

 

「良し!じゃあ金曜は休む!」

 

 

俺がそう言うと、

 

 

「何?そこまでしないといけないのか?」

 

 

とラウラが聞いてきた。

 

 

「ああ。一応な」

 

 

俺はそう返答しながらPCの電源を切る。

そうして、俺は席を立って

 

 

「織斑先生にこのこと言ってくるわ」

 

 

そのまま職員室に向かう。

 

 

「一夏、頑張ってね」

 

 

簪がそんな声を掛けてくれる。

 

 

「おう」

 

 

俺はそれに返事をして、職員室に向かう。

さぁ、どうなるかな...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

その週の金曜日。

現在時刻は9:40。

俺はビジネススーツを着用し『PurgatoryKnights』本社に来ていた。

理由は単純。

今日は今から面接なのだ。

 

 

今週の火曜日に俺のPCに来た書類。

それはアメリカ軍所属のIS操縦者、イーリス・コーリングさんが『PurgatoryKnights』に転職したいという内容の書類だった。

ナターシャさんに話を聞くと、イーリスさんはナターシャさんが所属していた部隊に所属しているIS操縦者で、第三世代型ISのファング・クエイクのパイロットらしい。

ナターシャさんとは互いに愛称で呼び合う仲で、性格は気さくだが戦闘になると周りがあまり見えなくなるのが玉に瑕。

そんな人らしい。

俺と社長と人事部部長の佐野蓮子さんと共に話し合い、面接をして判断する事となった。

そして、俺は面接官をするために、『PurgatoryKnights』本社に来ているのだ。

まぁ、殆ど採用は決定していて、ナターシャさん同様国籍等のサポートまでする予定だが、一度しっかりと話し合わないといけないからな。

因みに、織斑先生に今日は欠席して面接官をすることを伝えると

 

 

「そうか...頑張れ、織斑」

 

 

と、何処か可哀想なものを見る目でそう言ってきた。

なんでそんな目をするんだと思ったが...まぁ、いいか。

 

 

「それにしても、高校生が面接官っていうのは違和感があると思うんだけどなぁ...」

 

 

俺がそんな事を口にすると、

 

 

「あら。一夏は所属IS操縦者を纏める立場なんだからいないと駄目よ」

 

 

そう社長が言って下さる。

 

 

[そうだよ!マスターは偉いんだから!]

 

 

[それに、私という最初のISコアと意思疎通出来るので、他のISからも気になられているんですから!]

 

 

(ハハハ...ありがとうな、白式、白騎士)

 

 

白式と白騎士に励まされたから、やらない訳にはいかない。

俺はやる気を入れ直すと、顔を上げる。

 

 

「じゃあ一夏。そろそろ行きましょう」

 

 

「はい、社長」

 

 

そのタイミングで社長から声を掛けられたので、俺は席を立ち、今いる社長室の扉を開ける。

そうして、そのまま社長が部屋から出たことを確認してから部屋の扉を閉める。

そして社長の3歩くらい後ろを歩きながら、面接会場である部屋に向かう。

 

 

「それにしても一夏。あなたは頑張ってるわね」

 

 

「急に如何されました、社長」

 

 

その道中、社長が急にそのような事をおっしゃる。

俺がそう聞き返すと

 

 

「一夏は、学生なのに一般社員以上に責任感が高い仕事を物凄く多くしてるじゃない」

 

 

と言って下さる。

まさか社長直々にそう言って下さるだなんて...

嬉しいな。

 

 

「いえいえ、そんな事はありません。これは織斑一夏がやらないといけない事なので」

 

 

「本当に真面目ね...辛くなったら何時でもいうのよ?」

 

 

ああ、本当に良い上司で、良い会社だ。

 

 

「ええ。もし耐えられなくなったら、相談させてもらいます」

 

 

俺がそう言うと、社長は微笑む。

そのまま軽く雑談をしながら歩き、面接会場である部屋に着いた。

俺が扉を開けて部屋の中を確認する。

中にはもう1人の面接官の蓮子さんがもうスタンバイしていた。

そうして、社長が部屋の中に入ったのを確認してからいったん廊下を確認し、扉を閉める。

 

 

「社長、一夏さん。お疲れ様です」

 

 

扉を開けたから、当然蓮子さんも社長と俺に気が付いた。

席を立ち、俺と社長に軽く会釈をする。

 

 

「ええ。蓮子もご苦労様ね」

 

 

社長は蓮子さんにそう返す。

俺は苦笑いになりながら

 

 

「蓮子さんの方が立場は上なんですから、敬語にならなくても良いですよ」

 

 

そう蓮子さんに言う。

女性相手なので年齢は知らないのだが、高校生の俺よりも確実に年上であることは間違いないし、人事部長という立場は所属IS操縦者である俺よりも高いものである。

それなのに、蓮子さんは俺に敬語を使う。

 

 

「いえいえ。一夏さんの方が仕事はしてますし、権限は強いじゃないですか」

 

 

「そ、そうですかね?」

 

 

あれ?

俺って部長より権限強いの?

良く分からん。

 

 

「フフ、2人ともそのくらいにして、面接の準備をしちゃいましょう」

 

 

「「はい、社長」」

 

 

そんな会話をしていた俺と蓮子さんは、社長の声によって面接の準備を開始する。

イーリスさんとは初対面だが、受付でもう既に『PurgatoryKnights』所属IS操縦者規約事項書類はもう渡してある。

目は通してくれているだろう。

 

 

そうして、時刻は9:58。

10:00から面接なので、そろそろイーリスさんが入って来る。

俺は長机の左側に座っていて、社長が真ん中、蓮子さんが右側である。

そして、長机の前には向かい合うようにして置かれたパイプ椅子と手荷物を置く籠。

準備は完璧だ。

 

コンコンコンコン

 

ここで、そんなノック音が部屋に響く。

 

 

「どうぞ」

 

 

ノック音に社長が返事をすると、部屋の扉が開く。

 

 

「失礼します」

 

 

そうして、部屋の扉が開いてから、そこにいた金髪ショートの女性が頭を下げてからそういう。

この女性が、イーリスさん。

イーリスさんは、頭を上げてから、身体ごと向きを変えて扉を閉める。

 

 

「どうぞ。荷物を置いて座って下さい」

 

 

社長がそう言うと、イーリスさんはもう一度

 

 

「失礼します」

 

 

と言ってから荷物を置き、椅子に座る。

うん、特に問題ないな。

 

 

「本日の面接官を務めます、『PurgatoryKnights』代表取締役社長のスコール・ミューゼルです」

 

 

「同じく面接官を務めます、『PurgatoryKnights』人事部部長の佐野蓮子です」

 

 

「『PurgatoryKnights』所属IS操縦者纏め役の織斑一夏です」

 

 

「「「よろしくお願いします」」」

 

 

社長、蓮子さん、俺の順番で簡単な自己紹介をする。

 

 

「此方こそ、本日はよろしくお願いいたします」

 

 

イーリスさんはそう言って頭を下げる。

その表情は、何処か緊張しているようだった。

 

 

「さて、では早速ですが面接を始めます。先ずは自己紹介と、今回本社へ転職を希望した動機を聞かせてください」

 

 

社長はイーリスさんに向かってそう言い、面接がスタートした。

面接は恙無く進んだ。

志望動機は、ナターシャさんの転職。

アメリカ軍に所属しているイーリスさんも銀の福音が暴走している事は知っている。

その上で、銀の福音を無人機だと報告し、ナターシャさんを犠牲にしようとしたアメリカの元で働いて行くのは無理だと判断したらしい。

そんな事を聞いたら自分もそうなってしまうのかと考えるのは当然だし、愛称で呼び合う程の仲の人間を見捨てたところでは働いて行けないだろう。

転職先を考えていた際、前に俺が指示を出して世界中に発信していた発展途上国支援プロジェクトの一般公募情報を見たらしい。

まだいける可能性があって、今回応募したらしい。

 

自身の長所は、行動に移るまでが早い事。

逆に短所は、興奮すると周りが見えなくなる事。

これは、ナターシャさんからの事前情報通りだ。

 

発展途上国に実際に支援に行って自分に出来ると思う事は、軍人IS操縦者として鍛た身体と体力を生かした物資の運搬や路肩工事など。

これは、1番大事な事なので、それに自信がある事は素晴らしい。

 

 

(白式、白騎士。ISから見てイーリスさんは如何見える?)

 

 

[そうだねぇ...結構いいひとに感じるよ!]

 

 

[コアネットワーク越しにファング・クエイクに尋ねてみましたが、凄く丁寧に扱ってくれたらしいですよ]

 

 

(なるほどね...ありがとう、白式、白騎士)

 

 

IS視点から見ても、イーリスさんは良い人らしい。

そして、今現在しているイーリスさんからの質問は終わった。

 

 

「最後に、何か言いたい事はありますか?」

 

 

俺がイーリスさんにそう尋ねると、

 

 

「アメリカ軍所属という事で、世間一般からの常識とはかけ離れている部分もあるとは思いますが、精一杯頑張りたいと思います。よろしくお願いします」

 

 

イーリスさんは、決意の籠った眼で此方を見ながらそう言ってきた。

うん、これは...

俺はチラッと視線を横に向け、社長と蓮子さんと視線を合わせて頷き合う。

そうして、

 

 

「では、イーリス・コーリングさん。あなたを採用します。これからよろしくお願いしますね」

 

 

社長は笑顔でイーリスさんにそう言う。

 

 

「え?」

 

 

イーリスさんは呆けたような表情で此方を見る。

社長はそのまま採用書類にサインをして、社長専用の印鑑を押す。

そのまま蓮子さんがサインをして人事部部長用専用の印鑑を押した後に、俺がサインをして所属IS操縦者纏め役専用の印鑑を押す。

これで、イーリスさんは無事『PurgatoryKnights』所属IS操縦者だ。

 

 

「ん?イーリスさん、如何かしましたか?」

 

 

未だに呆けた顔でいたイーリスさんに俺がそう声を掛ける。

すると...

 

 

「そ、そんな簡単に採用して良いんですか?」

 

 

と尋ねてくる。

俺は笑いながら、

 

 

「ええ。元々ナターシャさんからあなたの事は聞いてましたし、貴重な軍人IS操縦者ですからね。元々9割採用は決まってました。今回の面接で、余程態度に問題が無い場合はその場で採用するって決めてたんです」

 

 

という。

本来の面接だったらこんな事は言わないのだが、まぁ、いいだろ。

 

 

「そ、そうだったんですか...」

 

 

イーリスさんは脱力したようにそう言う。

 

 

「では、イーリスさん。あなたの国籍等の話し合いをしたいのですが...今直ぐにでも問題は無いですか?」

 

 

「は、はい。問題ないです」

 

 

だが、社長のその声によって、イーリスさんは気合いを入れ始める。

さてさて、俺も頑張りますか...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

イーリスさんの面接日からそこそこな時間が経ち、今は7月下旬。

明日はIS学園1学期の終業式だ。

そんな日、俺は又もや学園を1日中欠席し俺は国際空港に制服で来ていた。

理由は単純。

今日から発展途上国支援プロジェクトでアフリカ大陸に行くナターシャさんとイーリスさんの見送りだ。

他のスタッフはもう既についているらしいので、後は2人が行けばプロジェクト始動である。

 

 

あれから、ナターシャさんとイーリスさんの国籍などの話し合いを何度も重ねた結果、2人はアメリカ国籍からフランス国籍になる事になった。

フランスを選んだ理由は、傘下のデュノア社がフランスにあるため、日本以外で1番『PurgatoryKnights』の影響力が強いからだ。

イーリスさんともこの間でかなり仲良くなり、プライベートではため口で喋ってくれるまでは仲良くなった。

まぁ、仕事の時は逆に俺がため口で話して2人は敬語なんだけどな。

仕事の時だけ敬語になるのはマドカとシャルと一緒だ。

 

 

そして今は、見送りという事で搭乗ゲート前にディミオスと共にいるのだが...

滅茶苦茶目立ってる。

まぁ、IS学園の制服を着ている織斑一夏()にディミオスだもんな。

目立つのは仕方が無い。

 

 

「辛いことも多いと思いますけど、頑張って下さいね。暫くしたら俺も1回尋ねると思います」

 

 

「ええ、分かったわ」

 

 

俺の言葉に、ナターシャさんが頷く。

 

 

「イーリスさんも、この間日本に来たばっかりですけど、もうアフリカに行くってキツイですよね」

 

 

「まぁ、そうかもしれねえけど、自分で選んだ道だからな。頑張るぜ」

 

 

イーリスさんも笑いながらそう言ってくれる。

 

 

《我はいるのだろうか...?》

 

 

「まぁまぁ。関わっていた期間は短いけど、確かに関わってたんだから」

 

 

《確かにそうだがな》

 

 

俺はディミオスとそんな会話をした後、2人に向かって真面目な顔で

 

 

()()()()()()()()()。頼んだぞ」

 

 

そう言う。

すると2人は

 

 

「「はい、頑張ります」」

 

 

と頷く。

そして、搭乗の時間が迫っているので、2人はゲートを潜っていく。

俺はギリギリまで手を振って、2人が見えなくなってから手を下す。

 

 

「じゃあディミオス。夏休みにクラリッサとチェルシーに渡すプレゼントを買ってから帰るぞ!」

 

 

《そこまで計画だったのか...》

 

 

ディミオスはそんな声を漏らす。

当たり前だろ?

全く会えてない恋人にプレゼントを用意するのは。

あああ、会えるのが凄い楽しみだ。

明日が終われば、夏休みだからな!

 

 

 

 




一夏、遂に面接官まで果たす。
仕事超頑張ってるなぁ...

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想や誤字報告もよろしくお願いします!

あと、新作出したのでそっちもよろしくお願いします!
https://syosetu.org/novel/273574/


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1学期最終日

遂に1学期終了!
長かったぁ...

今回もお楽しみください!


深夜side

 

 

クソ!

なんでだよ!

なんでなんだよぉ!!

なんで、俺は今自室謹慎になってんだよぉ!

 

 

俺は、自分の部屋のベッドに転がりながらそんな事を考えていた。

何故なら、俺は自室謹慎で、食料品などの買い物以外部屋から出られないからだ。

事の発端は、この間の臨海学校。

俺が一夏を刺したら、俺は拘束され、夏休み明けまで自宅謹慎になり、反省文1000枚に加えて夏休み期間中の奉仕作業処分になってしまった。

なんでだよ!

主人公が、自分の邪魔をする踏み台を潰しただけじゃねえか!

一夏がいなくなったから鈴たちは俺に惚れて、漸く俺のハーレムライフがスタートするはずだったのに...

それに、なんで箒が捕まってんだよ!

臨海学校では、箒が束から貰った紅椿で専用機持ちになるんじゃなかったのかよ!

なんで束は箒にあんな事したんだよ!

そもそも銀の福音の暴走は、束が箒の活躍の場を作るために引き起こしたものじゃないのかよ!

カラーリングも、二次移行の姿も原作とかアニメとかとは全然違うし...

どうなってんだよ!

 

 

まだだ...

マドカは何故か転校してきているが、亡国企業が無くなった訳ではない...

2学期の文化祭からは、俺が活躍するんだ...

そうすれば俺の信頼も回復するし、ハーレムも作れる!

いや、だが、結局また一夏が妨害してくる気がする。

なんで主人公の俺が活躍出来なくて、踏み台の一夏ばっかり活躍するんだよ!

可笑しいだろ!

確かに俺はあの時神様に転生してやるって言われて、転生したこの世界の主人公だぞ!

マスター・コントローラーがあるからそれも間違いない。

何処に主人公が活躍できない物語があるんだよ!

何処に、ヒロインが活躍できずに逮捕される物語があるんだよ!

ふざけんな、ふざけんなよ!

 

俺は主人公なんだろ!

俺は、ハーレムを作るんだぁ!!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

今日は、1学期最終日。

当然ながら、今から終業式だ。

終業式。

それは学生からするとただただ面倒な行事だが、学園側からすると教育委員会から(IS学園は国際IS委員会からも)言われているしなくてはいけない行事なのだ。

あの、学園長や校長がしている長ったらしい話も、実は委員会からこれを言えと言われている台本的なのがあるのだ。

長ったらしい話は聞くのも疲れるが、話す方や準備するのも大変だから文句を言ってはいけない。

何故俺がそんな事を知っているのかというと...

 

 

「何で俺とディミオスまで準備手伝ってるんですか?」

 

 

そう、俺はこれから行われる終業式の準備をしていた。

あれ?

俺は一般生徒なんだけどなぁ?

俺がそんな事を考えていると

 

 

「良いじゃない一夏君。男の子の力が欲しかったのよ」

 

 

と、楯無さんが言う。

今現在準備をしているのは、終業式担当の教員の方々と生徒会メンバーと俺とディミオス。

この中で本来準備しなくていいのは俺とディミオスだけ。

文句も言いたくなる。

 

 

「第一、俺は生徒会に入ると言ってませんが?」

 

 

「あの時生徒会に入るって言ったじゃない!」

 

 

「検討すると言っただけです。検討の結果、やはり仕事が忙しいので無理です」

 

 

俺がバッサリとそう切り捨てると、楯無さんはへなへなと力を抜いたようにその場に座り込む。

 

 

《全く...人に仕事を手伝わせているんだったら自分も仕事をしろ》

 

 

そんな楯無さんに向かって、SDのままプロジェクターとノートPCを持っているディミオスがそう声を掛ける。

何でそれ持ってんのかな...

まぁ、IS学園は生徒数も多いし、何か見せたい事があるのなら、プロジェクターを使った方が早いか。

 

 

「お嬢様!1回言われたのですから直ぐに行動してください!」

 

 

「はい!」

 

 

ディミオスに言われても行動を開始しなかった楯無さんは、虚さんのお説教により一瞬にして行動を再開した。

教員の方々も見ているこの場での公開説教は嫌だと判断したんだろう。

 

 

「虚さん。ステージ上の準備完了しました」

 

 

「一夏君、ありがとうございます」

 

 

取り敢えず自分に与えられた仕事を終わらせたので、虚さんに報告する。

すると、虚さんは反応をし、感謝の言葉を述べてくれる。

 

 

「次にやる事って何かありますかね?」

 

 

「生徒会担当の分は、お嬢様が終わらせたらもう終了ですね」

 

 

なるほど...

 

 

「じゃあ、教員の方々の方の仕事に手伝いに行きますね」

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

そうして、俺は教員の方々の所に移動する。

 

 

「榊原先生、何かお手伝いすることはありますか?」

 

 

「あ、織斑君」

 

 

そうして、俺は近くにいた榊原先生に声を掛ける。

榊原先生は、していた作業をいったん中断して俺の方を向く。

 

 

「そうね...じゃあ、マイクとかのテストを手伝って貰っていい?」

 

 

「そう言うのって、直前にするものじゃないんですか?」

 

 

「確かにそうだけど、もっと事前にも確認しておくの」

 

 

まぁ、確かに直前だけだったら駄目か。

何回もテストをするのは基本だからな。

 

 

「分かりました。お手伝いします」

 

 

「お願いね」

 

 

そうして、俺は榊原先生からマイクを何本か受け取り、マイクのテストを開始する。

...のだが、何か隣から視線を感じる。

俺がチラッと横目で榊原先生の事を確認すると、榊原先生は俺の事をジッと見ていた。

心なしか顔も赤い。

何でだ?

まぁ、いいか。

そうして、俺は時間ギリギリまで準備の手伝いをして、そのままディミオスと共に1組の教室に戻って、みんなと合流してから再び体育館に向かう。

のほほんさんは生徒会なので終業式へは裏方としての傘下になる。

はぁ、準備をしたうえで話を聞くだけっているのはそこそこ辛いが、まぁ、頑張りますか...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

三人称side

 

 

終業式が終了した後はクラスのHR。

HRでは夏休みでの過ごし方の注意や、夏休みの課題の配布、そして1学期の成績の返却が行われた。

 

夏休みの過ごし方の注意では、外泊する際には届け出を出すことや、IS学園の生徒であるという事を忘れないように生活しろなど、常識的な注意を言われるだけだった。

それくらいの事は高校生に言わなくていいかと思うが、言わないと浮かれて羽目を外し過ぎてしまうかもしれないのでしっかりという必要がある。

 

夏休みの課題は、A3サイズの課題プリントでIS座学が30枚、一般5科目が20枚。

IS学園はIS座学という他の学校にはない授業がある関係上、実技科目からの夏休み課題は出ないし、読書感想文や自由研究などもない。

その反面、課題プリントは130枚とえげつない量である。

まぁ、プリントを終わらせれば課題も終わるというゴールは分かりやすい。

 

最後に、1学期の成績。

成績表を受け取った生徒は思い思いの反応をした。

自分の想定よりも高い成績で喜ぶ生徒。

妥当な成績だろうと頷く生徒。

余り宜しいとはいえず焦る生徒など、様々だった。

その中では、3組の数学の成績はやけに良かった。

テスト直前での一夏の緊急授業が功を奏したのだろう。

 

 

そして今は放課後。

生徒会室には生徒会メンバーに加え、一夏と自室謹慎中の深夜を除くIS学園在籍中の全専用機持ちが集合していた。

理由は単純。

楯無が

 

 

「折角1学期が終わったんだから、みんなで集まってチョッと喋りましょう!」

 

 

と集合を掛けたからだ。

簪は物凄く嫌そうにしていたが、本音や虚が守るという条件の元、生徒会室に来ていた。

そんな中で、生徒会室にいる人間の視線は、マドカとシャルロットの2人に集まっていた。

2人とも、疲れ果てたように生徒会室のソファーに座り込んでいた。

 

 

「2人とも、如何したのよ」

 

 

そんな2人に、鈴がそう声を掛ける。

すると2人は顔を上げてから口を開く。

 

 

「チョッと...夏の会社説明会のビラを配るのに疲れて...」

 

 

「何せ、1人で1学年だったからね...」

 

 

そう、2人はさっきまで『PurgatoryKnights』の夏の説明会のビラを生徒向けに配っていたのだ。

マドカが1年生、シャルロットが2年生、一夏が3年生に対して配っていた。

会社説明会のビラは、1年生の時に配っておくと、早めの内に『PurgatoryKnights』が進路の選択肢に入って来るし、2年生や3年生は真剣に進路に対して考える時期なので効果は絶大だ。

その為、一夏が会社から会社説明会のビラを大量に取り寄せ、マドカとシャルロットと共にIS学園中に配布したのだ。

 

 

「え?そんな事してたっスか?」

 

 

フォルテがそんな事を2人に尋ねる。

 

 

「はい。お兄ちゃんが『専用機持ちならもう殆ど進路は決まってるようなもんだし、それに全員友達なんだから配布しなくていいだろ』って事でみんなには配って無いんですよ」

 

 

「なるほどっス」

 

 

マドカの返答に、フォルテは納得したように頷く。

まぁ、一夏もわざわざ仲のいい友人に会社説明会のビラを配ろうとは思わないだろう。

 

 

「それで、その一夏は何処だ?」

 

 

ここで、ダリルがそんな事を2人に聞く。

 

 

「一夏はもう課題してますよ。何でも『さっさと終わらせないと仕事に支障が出る...!!』だそうで...」

 

 

「そ、そうか...」

 

 

ダリルは、引きつったような返事をする。

周りのみんなも、苦笑いを浮かべている。

と、ここで

 

 

「そうだわ!みんなに聞きたい事があるの!」

 

 

楯無がそんな声を上げたため、全員の視線が楯無に集まる。

 

 

「みんな、夏休みになにするの?」

 

 

それを言うと、全員が脱力したかのようにズッコケる。

 

 

「えっと...私は、一度イギリスへ戻るつもりですわ」

 

 

「私も一度本国の軍に戻る予定だ」

 

 

そんな中、セシリアとラウラはそう言う返答をする。

それに続けて2人同時に

 

 

「「あと、その期間中に一夏(さん)が来る予定だ(ですわ)」」

 

 

といった事で、生徒会室が一気にざわつく。

 

 

「一夏が行く予定!?いいなぁ...」

 

 

簪はそんな事を呟く。

その言葉に一斉にセシリアとラウラとマドカとシャルロット以外が頷く。

如何やら、一夏のファンクラブ〈親衛騎士団〉のメンバーからすると、一夏と暮らせる時間というのはとても羨ましいもののようだ。

 

 

「僕も1回フランスに戻りますけど、家族に会ったらすぐに戻ってきますね。『PurgatoryKnights』本社は日本なので」

 

 

「私はそのまま日本にいます。多分何日かは織斑家に行きますけど」

 

 

その空気を変えるかのようにシャルロットとマドカがそんな事を言う。

2人とも一夏のように空気を変える術を身に着け始めている。

それにつられて、専用機持ち達は各々の予定を言い合う。

 

 

「私は更識に帰るよ」

 

 

「私と本音も実家に帰ります」

 

 

「私も本国に戻るけど、基本は日本にいるわね。中学の友達とも遊ぶし」

 

 

「私もギリシャには戻るっスけど...それ以外には特に決まってないっスね」

 

 

「確かに、本国に帰る以外の予定はねぇな」

 

 

それから暫くの間、専用機持ちと生徒会メンバーは雑談をしていた。

簪と楯無も少しは会話で来ていたし、良い時間であったことは間違いない。

 

 

「いっぱい話したわね...そうだ、そろそろ夕ご飯食べに行かない?」

 

 

そんな時、楯無がそんな事を言ったので、全員で食堂に移動する。

IS学園の食堂は、夏休み期間でも開いているので問題なく食事ができる...というか、今日はまだ1学期なので普通に営業をしているのだ。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

夕食を食べる時間になったので、俺は食堂にいた。

ん~と、何を食べようかな...

日替わり定食でいいか。

俺はそのまま日替わり定食の食券を買い、そのまま受け取る。

そうして席を探していると、

 

 

「お兄ちゃん!空いてるよ!」

 

 

と声を掛けられる。

俺がその方向を向くと、マドカを始めとした深夜以外の専用機持ちが全員集合していた。

4人掛けテーブル席の1つが1人分空いている。

 

 

「全員揃ってんのか」

 

 

俺はそう言いながらその席に座る。

 

 

「うん。さっきまでみんなで喋ってたんだ」

 

 

俺の呟きに答えるように、シャルがそう答えてくれる。

なるほどなぁ...

 

 

「お兄ちゃん、課題してたんでしょ?どこまで終わったの?」

 

 

「全部」

 

 

マドカのその疑問に答えながら俺は両耳を塞ぐ。

すると...

 

 

『ええええええ!?』

 

 

と、周りで会話を聞いていた一般生徒含め全員がそんな声を上げる。

だと思ったよ...

俺はそう思いながら耳から手を離す。

 

 

「え、一夏、課題全部終わらせたの!?」

 

 

「そう言ってるだろ」

 

 

鈴がそう言ってきたので、俺は笑いながら返す。

 

 

「まぁ、明日からは仕事だな。出来るときにしとかないとドイツとイギリス行ってまで仕事することになる」

 

 

それだけは絶対に避けなければいけない。

ただでさえクラリッサとチェルシーとは会えて無いのに、暫くぶりに会ったときに仕事はしていたくない。

 

 

「そ、そんな仕事があるの?」

 

 

簪がそんな事を聞いてくる。

俺はそれに頷きながら

 

 

「お盆があるからな。その前に急ぎでの書類がわんさか」

 

 

そう言うと、みんな納得したように頷く。

 

 

「まぁ、何はともあれ、1学期は終わったんです」

 

 

俺がそう言うと、みんな俺が何をしたいのか察したようだ。

適当に水の入ったコップを持つ。

 

 

「お疲れ様でーす!」

 

 

『お疲れ様でーす!!』

 

 

俺の声に合わせて、軽く乾杯をする。

そうして、1学期を振り返りながら夕食を食べた。

 

 

明日からは夏休みだ!

早くクラリッサとチェルシーに会いたいな...

 

 

 

 




1学期終了記念!現時点での一夏使用デッキレシピ公開!

デッキ名:断罪、煉獄騎士団
フラッグ:ダークネスドラゴンW
バディ:哀悼の煉獄騎士団団長 ガイスト・ディミオス

モンスター 26枚
哀悼の煉獄騎士団団長 ガイスト・ディミオスx4
煉獄騎士団を束ねし者 ロード・ディミオスx4
煉獄騎士団 ネクロパーム・ドラゴンx4
煉獄騎士団 グラッジアロー・ドラゴンx2
煉獄騎士団 シーフタン・ドラゴンx3
煉獄騎士団 デモンズレイピア・ドラゴンx2
煉獄騎士団 ペインダガー・ドラゴンx2
煉獄騎士団 ニードルクロー・ドラゴンx3
C・ダリルベルクx2

魔法 20枚
煉獄騎士よ、永遠なれx4
我らが行くは血濡れの魔道x4
煉獄魔導 血盟陣x3
煉獄唱歌 “呪われし永遠なる戦の調べ”x2
悪の凶宴x3
死地への誘いx2
ドラゴンシールド 黒竜の盾x2

アイテム 2枚
煉獄騎士団団長の剣 ディミオスソードx2

必殺技 1枚
ジェノサイド・パニッシャー!!x1

必殺モンスター 1枚
煉獄騎士団団長 ディミオスソード “カオス・エクスキューション!”x1

※一夏がバディファイトをする際の使用デッキ。
 ISバトルで使用するデッキとは異なる。

次回からは夏休み編です!
その前に新作を原作突入させます!

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

感想や誤字報告もよろしくお願いします!


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夏休み
黒兎たちとの再会


夏休み!
漸く!
ヒロインと会える!

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

無事に夏休みに突入して、今日で4日目。

俺は今現在私服で空港にいた。

 

 

専用機持ちはみんな夏休み初日か2日目に自分の国に帰って行った。

今日本に残っている専用機持ちは、日本の代表候補生である簪と、本社が日本にある『PurgatoryKnights』所属の俺とマドカだけだ。

同じく『PurgatoryKnights』所属のシャルだが、シャルはフランス代表候補生と兼任してるし、家族もフランスにいるのでフランスに帰っている。

 

 

そうして、俺が空港にいる理由。

それは簡単。

今からドイツに向かうからだ。

俺は夏休みに入ってから仕事まみれだったが、結構頑張り何とかスケジュールを開ける事に成功した。

まぁ、ドイツ、並びにイギリスに行った後は更に忙しくなりそうだけど...

 

 

「さて、そろそろ出発ロビーに行こうかな」

 

 

俺はそう呟くと、置いてあったデカい旅行鞄を持ち、リュックを背負って自動チェックイン機に向かう。

そうして、チェックインを終わらせて預け荷物の手続きをする。

その後、保安検査場でのセキュリティチェックや税関審査、出国審査を受けた後、搭乗口に向かう。

 

 

「かなりスムーズだったな」

 

 

搭乗口前のベンチに座りながらそう呟く。

そう、周りの人たちが手続きに20分近くかかっているのに、俺は10分もかからずに全ての手続きが終了した。

 

 

[まぁ、マスターのパスポートは特別製だからね]

 

 

そんな事を考えていたら、白式がそんな事を言ってくる。

そう、俺は今現在無国籍なので第2回モンド・グロッソの際に取得した日本のパスポートが使えないのだ。

その事を社長に相談すると、何と国連と国際IS委員会をも巻き込んでの会議にまで発展したらしい。

その結果、俺は世界で恐らく唯一であろう国連発行のパスポートを所有している。

深夜がパスポート申請をするなら同じく国連発行のパスポートになるんだろうけど、今深夜は謹慎中なので今すぐにパスポートを申請する事は無いだろう。

 

 

(国連発行という信頼性が1番あるパスポートだから、手続きが早かったのかな?)

 

 

[そうだと思いますよ。何しろ世界で1番大きくて、世界のトップの組織ですからね]

 

 

俺が考えていたことに白騎士が肯定する。

そのまま、軽く白式と白騎士の2人と会話していると、搭乗アナウンスが流れる。

俺はその指示に従って搭乗手続きをして自分の座席に向かう。

今回の飛行機、俺の座席はビジネスクラスだ。

8月になったら夏のボーナスも入るし、今の段階でもお金に余裕はあるし、普段から学業と並行して仕事してるのだ。

飛行機の座席くらい豪華で良いだろう。

 

 

「ここだな」

 

 

自分の席に着いた俺は、リュックからPCを取り出し、リュックを仕舞う。

ファーストクラスだったらここまでやってくれるんだろうけど。

そんな事を考えながら座席に座る。

そして、そのままPCを起動させる。

 

 

「さぁ、ギリギリまで頑張りますか...」

 

 

[[マスター、頑張って!!]]

 

 

白式と白騎士の応援を聞きながら、俺は仕事を開始するのだった...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

飛行機に乗り込んでから約12時間後。

悪天候などの問題もなく、俺は無事にドイツに着いた。

日本とドイツの時差は8時間。

俺が日本を出発したのは12:00なので、現在時刻は16:00。

12時間というフライト時間だが、ビジネスクラスの良い座席のお陰で体に痛みは無い。

だが、12時間中10時間仕事してたので普通に疲れた。

 

 

「仕事が最近やけに多いな...お盆前だという事を考慮しても多いな...」

 

 

俺はそんな事を呟きながら預けておいた旅行鞄を受け取ると、そのまま到着ゲートから出る。

ゲートを出た先では飛行機から出てくる人を待つ人が集まっていた。

ビジネスクラスはエコノミーよりも前に出て来るので、結構な人数がいる。

 

 

「お、いたいた」

 

 

そんな中でも、俺は目的の人物2人を直ぐに見つけた。

理由は簡単。

シュヴァルツェ・ハーゼの制服に眼帯という分かりやすすぎる特徴だからだ。

 

 

「ラウラ!クラリッサさん!」

 

 

俺がそう言うと、2人とも俺に気付いたようだ。

俺に顔を向けて手を振ってくれる。

ああ...そんなクラリッサも可愛い!

だけれども、クラリッサの表情は何処か不満気だった。

まぁ、俺が呼び捨てしなかったからだろう。

でもラウラも近くにいるし許して欲しい。

その不満気な表情もいいなぁ...

 

 

「一夏、ようこそドイツへ」

 

 

俺が2人に近付くと、ラウラがそんな事を言ってくる。

 

 

「ああ、本当に久しぶりだな」

 

 

俺もそんな事を返す。

だが、睡眠時間2時間未満の為、少しふら付いてしまう。

 

 

「一夏、大丈夫か?」

 

 

そんな俺の状態を見てか、クラリッサが心配そうに声を掛けてくれる。

良い恋人だ。

 

 

「ああ...10時間仕事してたから疲れたんだよ」

 

 

俺がクラリッサの問いにそう返すと、

 

 

「そ、そうか」

 

 

と、少し引きながらそう言ってくれる。

俺はそれに苦笑いする。

するとラウラが、

 

 

「では、そろそろ行こうか?」

 

 

と言ってくる。

俺とクラリッサは頷くと、俺は2人に誘導される形で空港内を歩いて駐車場に向かう。

そうして、駐車場に停まっている側面にウサギのマークが付いた黒い車の前まで来た。

 

 

「これってシュヴァルツェ・ハーゼの部隊用の車だよな?」

 

 

俺がそう質問すると、2人は頷く。

 

 

「俺が乗って良いのか?」

 

 

「ああ、問題ないぞ。もう既に基地内に入る許可は取ってあるからな。基地内に入るには軍所属である身分証の掲示か、関係車両に乗っている必要があるんだ」

 

 

「つまり、入る許可があるって事は、乗る許可も同時に出るって事か」

 

 

「その通り」

 

 

なるほど、ラウラとの会話で理解した。

俺は取り敢えず2人に手伝ってもらいながら荷物をトランクに積み込む。

そして、クラリッサが運転席に、ラウラが後部座席に乗り込む。

 

 

「一夏は助手席に乗ってくれ」

 

 

クラリッサにそう言われたので、俺は助手席に乗る。

クラリッサの隣だ...嬉しい。

 

 

「っていうか、クラリッサ免許もってたんだな」

 

 

「ああ、運転出来て損な事は無いからな」

 

 

「確かに」

 

 

そう短く会話した後、クラリッサは運転を始める。

俺は窓の外の景色を見る...という事は無く、ジッとクラリッサの横顔を眺めていた。

車の運転に集中しているクラリッサの表情は真剣なもので、かっこよくて美人だ。

そうして、ラウラにバレないようにクラリッサの顔を見続け、やがてシュヴァルツェ・ハーゼの基地に着いた。

正直に言おう、時差ボケと仕事疲れで眠気がピークだ。

寝ておけば良かったか...?

だが、クラリッサの横顔を眺めるという至福の時間を失う訳にはいかなかったのだ。

 

 

「.....眠い」

 

 

俺はそう呟きながら車から降り、リュックを背負う。

 

 

《一夏、鞄は我が持つぞ》

 

 

「ディミオス...ありがとう」

 

 

旅行鞄を持とうとした時、胸ポケットからディミオスがSDで出て来て鞄を持ってくれる。

 

 

《久しぶりだな、クラリッサ・ハルフォーフ》

 

 

「ああ、久しぶりだな、ディミオスソード」

 

 

すると、ディミオスはクラリッサにそう言う。

前に俺がクラリッサとチェルシーに会ったときは、ディミオスはダークネスドラゴンWに戻っていたから本当に久しぶりだろう。

 

 

《それと、おめでとうと言っておこう》

 

 

すると、ラウラに聞こえないようにディミオスがそう言う。

それを言われたクラリッサは一気に顔を赤くする。

急に顔を赤くしたクラリッサにラウラは首を捻りながらも、

 

 

「では、基地内に入ろう」

 

 

そう言いながら基地に向かって歩き出す。

そんなラウラに続いて俺とクラリッサとディミオスも基地に向かっていく。

そうして、俺はふらつきながら歩いて行き、基地の中に入る。

.....懐かしい。

もうちょっと元気だったら良かったんだが...

俺がそんな事を思っていると、

 

 

「一夏、この内履きを使ってくれ」

 

 

クラリッサが大きめサイズの内履きを差し出してくれる。

俺は外履きからその内履きに履き替える。

うん、サイズもピッタリ。

すると、ラウラとクラリッサは歩き始める。

俺とディミオスが慌ててその後を追う。

だが、俺の歩き方がフラフラの為、どうしても遅れてしまう。

 

 

「おーい...待ってくれ...」

 

 

俺がそう言うと、2人はいったん立ち止まる。

そうして、直ぐにクラリッサはこっちに戻ってきてくれた。

 

 

「一夏、すまない」

 

 

「大丈夫ですよ、クラリッサさん」

 

 

...やっぱり、これだと他人行儀だな。

恋人だしやっぱり普通に喋りたいな。

ラウラも俺に合わせてゆっくりと歩いてくれる。

そして、歩いていると食堂の前に着く。

 

 

「食堂...?」

 

 

俺がそう言葉を漏らすと同時、ラウラとクラリッサが扉を開ける。

そして、

 

 

『一夏、久しぶり!!』

 

 

食堂の中にいた隊員たちが、一斉にそう言ってくれる。

 

 

「あ、ああ。久しぶり...」

 

 

本当だったら俺も元気よく返した方が良いんだが...

今の俺にそんな気力は残ってない。

 

 

「ん?一夏、如何したの?」

 

 

「飛行機で10時間仕事したうえでの時差ボケで眠気がピークだ」

 

 

そんな俺に隊員の誰かがそう聞いてきたので、俺は簡潔にそう返す。

ヤバい、誰が誰かがパッと分からないくらいには眠い。

 

 

「だから、集まって貰って悪いけど、取り敢えず明日で...」

 

 

俺が目頭を押さえながらそう言うと、俺が限りなく眠い事が伝わったようだ。

全員分かったと言ってくれる。

 

 

「では一夏。部屋まで案内しようか?」

 

 

「クラリッサさん...お願いします」

 

 

すると、クラリッサが部屋まで案内してくれるというので、俺とディミオスは再会の雰囲気をぶち壊して部屋に向かう。

その際の少し気まずい感じは今の俺でも感じ取れる。

だが対応は出来ない。

そうして、暫く歩いて俺が宿泊する部屋に着いた。

 

 

「前の俺の部屋じゃねえか」

 

 

そう、その部屋は前に俺がお世話になっていた時に使っていた部屋だ。

 

 

《一夏、我は先に荷物を入れておく》

 

 

ディミオスはそう言うと、俺が背負っていたリュック事荷物を部屋に入れてくれる。

そうして、ここには俺とクラリッサが2人きり。

 

 

「クラリッサ...会いたかった!」

 

 

「一夏、私もだ!!」

 

 

そうして、俺とクラリッサはそう言い合うと、同時に抱きしめ合う。

ああ、あったかい...

本当に、会いたかった...

 

 

「クラリッサ」

 

 

「ん?一夏、如何し」

 

 

クラリッサの言葉は、そこで途切れる。

何故なら、俺が唇で唇を塞いだから。

クラリッサの顔も、俺の顔も赤くなる。

 

 

「じゃあ、クラリッサ。おやすみ。晩御飯はいらないから」

 

 

機内食を変なタイミングで食ったから腹は減ってない。

最悪腹減ったら持ってきたブロックタイプの栄養調整食品を食べればいい。

顔を赤くしたままのクラリッサは

 

 

「あ、ああ。おやすみ...」

 

 

そう返してくれる。

俺はそのまま部屋に入って、ディミオスがそこら辺に荷物を置いている中、内履きを脱いでベッドにダイブするのだった...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

クラリッサside

 

 

一夏がシュヴァルツェ・ハーゼ基地にやって来た翌日。

結局昨日、一夏はその後部屋から出ることなくずっと寝ていたらしい。

前々から電話越しで忙しいという事は聞いていたが、あそこまで疲れるほど忙しいのだろうか...

心配だ。

もし一夏が倒れたりしたら、私は、私は...

想像するだけで不安になって来た。

早く一夏の顔を見たい。

 

 

そんな私だが、今食堂にいる。

現在時刻は6時20分。

これから朝食という時刻だ。

そして、食堂にはシュヴァルツェ・ハーゼの隊員が全員集合していた。

昨日は再会もそこそこに一夏がダウンしてしまったので、今日は朝からという訳だ。

 

 

「一夏はもう起きているのだろうか?」

 

 

「はい、さっき男性用シャワールームに人がいたので起きてると思いますよ」

 

 

隊長と隊員の1人、ネーナがそんな会話をする。

シュヴァルツェ・ハーゼの隊員は全員女性だが、今回の一夏のように本当に偶にだが男性が宿泊することもある。

その為物凄く狭いが男性用のシャワールームも存在しているのだ。

そして、今この基地にいる男性は一夏しかいない。

男性用シャワールームに誰かいたという事は、一夏がいたという事だろう。

良かった...

疲れすぎてそのまま体調崩すだなんてことが無くて本当に良かった。

私達がそんな会話をしていると、食堂の外から足音が聞こえてくる。

一斉に扉に視線を向けると、そのまま扉が開く。

そこにいたのは、一夏とディミオスソードなのだが...

 

 

一夏は、男性用のシュヴァルツェ・ハーゼの制服を着用していた。

流石に眼帯はしていなかったけど。

私達がその事に驚いていると、一夏は

 

 

「昨日はごめんね。久しぶり!」

 

 

そう言いながら笑顔になる。

それを見た隊員たちは

 

 

『うん、久しぶり!』

 

 

笑顔でそう返しながら一夏に寄っていく。

それにつられて、私と隊長も一夏に近付く。

こうやって見ると、私の恋人は人気があるんだな...

 

 

「一夏、如何して制服なんだ?」

 

 

取り敢えず、私はその事を一夏に尋ねる。

 

 

「折角貰ったんですし、ここで着ないと着る機会が無くなりそうだったからですね」

 

 

すると、一夏はそう返してくれる。

だが、人前という事で一夏は敬語だ。

.....やっぱり呼び捨てが良いな.....

 

 

「それにしても、これがデカすぎなんだよ。今年になって漸く着れたんだぞ?」

 

 

「丁度良かったじゃないか」

 

 

「それはそうなんだがな...」

 

 

一夏と隊長はそのように会話する。

そこから、一夏は隊員たちと共に談笑をする。

 

 

《フム、元気が戻って良かった》

 

 

ディミオスソードが此方に移動しながらそう言ってくる。

 

 

「一夏はそんなに忙しいのか?」

 

 

《ああ。最近は特にな。お前やチェルシー・ブランケットに会う時には絶対に日程を開けると言っていたぞ。昨日は、ギリギリ間に合って無かったがな》

 

 

私がディミオスソードに一夏の事を聞くと、ディミオスソードはそう返してくる。

 

 

《それ程、恋人の事が大切という事だ》

 

 

すると、唐突にディミオスソードがそう言ってくる。

思わずにやけてしまう。

そうか、一夏はそんなにも私の事を思ってくれてるのか...

 

 

「そろそろ飯食べていいか?」

 

 

すると、一夏がそんな事を言ったので、朝食を食べる事にした。

勿論私は一夏の隣の席を確保した。

そうして、私は朝食を食べながら一夏の横顔を眺める。

うん、カッコいい.....

私がそんな事を思っていると、

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 

一夏はもう食べ終わっていた。

は、早い...

男子は、食べるのが早いのか?

すると、一夏は手を机の下に入れると、私の膝に手を置いてきた。

 

 

「っ!」

 

 

私が一夏の顔をもう一度見ると、一夏は視線を逸らす。

 

 

「.....」

 

 

私も少し恥ずかしさを感じて、朝食を食べるのを再開する。

一夏の手が膝に置いてある。

それだけなのに、物凄く幸せに感じる。

一夏も何処か嬉しそうだった。

 

 

「「...♪」」

 

 

そんな幸せな時間を、私と一夏は過ごすのだった...

 




長く会えて無かったからか、一夏もクラリッサもデレデレ。
ただし、他人には見せない。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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平穏な基地での生活

続き。
漸く一夏に平穏が...

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

前日のダウンから一晩で復活した俺は、そのままシュヴァルツェ・ハーゼの制服を着てそのまま食堂に向かった。

そして、昨日は碌に出来なかった会話を終わらせてクラリッサの隣でご飯を食べた。

そこそこ早く食べ終わったので、俺は机の下でクラリッサの膝の上に手を乗せた。

自分でやっといてなんだが、恥ずかしい。

だけれども、クラリッサと触れ合えて嬉しい。

 

 

そうして、朝食を食べ終わり、現在時刻は8:00。

今から基礎訓練だ。

俺も制服から動きやすいジャージに着替え、外のグラウンドにいた。

そして、俺は今クラリッサと共に準備運動をしている。

身長が1番近いという理由だけでクラリッサとペアになれた。

嬉しい。

 

 

「それでは!今から基礎訓練を始める!先ずはランニング20周だ!」

 

 

ラウラがそう指示を出したので、ラウラも含めて全員でグラウンドの外周を走る。

まぁ、グラウンド外周のランニングだなんて身体のアップみたいなものだし、軽くで良いだろう。

そう思っていたのだが、何故かクラリッサやラウラを含め、全員を4周くらい周回遅れにした。

 

 

「みんなが遅いのか、俺が速いのか...」

 

 

《後者に決まってるだろ。現役軍人で、IS部隊員が遅い訳がない》

 

 

「そうかなぁ...?」

 

 

これくらいは誰でも出来ると思ってたんだがな...

ディミオスと軽く会話していると、みんなが走り終えた。

みんな俺がゴールしたタイミングでペースを上げて、残り4周を更に速い速度で走っていた。

その為、全員息が切れ始めている。

 

 

「い、一夏...何故軍人である私達よりも、速いんだ...」

 

 

ラウラが呼吸を整えながらそう言ってくる。

 

 

「んー...鍛えてるからかな?」

 

 

「お前は何時も仕事してて、鍛えてる時間は無いように見えるが?」

 

 

「基本4:20から訓練はしてるし、可能な限りの訓練はしてるぞ?」

 

 

俺がそう言うと、その話を電話でしたことがあるクラリッサを除き若干引いている。

泣くぞ。

いや、まぁ、IS学園のみんなは基本7:00以降起きだし、確かにこの基地でも起床時間は6:00か...

 

 

「それで、次は?筋トレ?」

 

 

「あ、ああ。んん!それでは、各自ペアで筋力トレーニングを始める!」

 

 

俺がラウラに次のトレーニング内容を尋ねると、ラウラはそれを肯定し、そのまま指示を出す。

その指示に従い、全員がそのまま準備運動の時のペアに分かれる。

 

 

「良しクラリッサ、やろうか?」

 

 

「ああ。やろう」

 

 

周りに聞こえないくらいのボリュームで俺がクラリッサにそう言うと、クラリッサはそう返してくれる。

うん、やっぱり敬語よりもこっちの方が良いな。

そうして、そのまま全員筋トレを開始する。

そのまま全身の筋肉を良い感じにほぐしたところでペア同士での模擬戦をする事になった。

ここで、俺は1つの問題に直面してしまった。

クラリッサを投げたり出来ないという問題に。

万が一にでもクラリッサに、恋人に怪我をさせてみろ。

俺は間違いなく最低男の烙印を押される。

それだけじゃない。

最悪捨てられる。

そんな事になったら俺は耐えられない。

だからといって、訓練の手抜きを行う訳にもいかない。

怪我をする可能があるし、クラリッサにも失礼になる。

その為、俺が取った行動はスタミナ切れを狙った模擬戦だ。

口で言うは簡単だが、これはなかなか難しい。

そもそも俺のスタミナがクラリッサより無かったらこれは出来ないし、クラリッサから繰り出される攻撃を全て躱す必要がある。

 

 

「フ!ハ!」

 

 

クラリッサがそう言いながら攻撃を繰り出す。

だが、俺は身体を反らしたり、時にはそのまま受け止めたりと攻撃を喰らわないようにする。

 

 

「はぁ、はぁ」

 

 

クラリッサの息が上がって来た。

そうして、蹴りをしてきたところでスタミナ限界が来たのか、クラリッサは大きく隙を見せる。

 

 

「今!」

 

 

「くっ!?」

 

 

俺はその隙をつき、クラリッサの足を払う。

そしてそのまま身体を倒すクラリッサと地面の間に身体を滑り込ませるとそのままクラリッサを受け止める。

よし、完璧。

 

 

「はぁ、はぁ...一夏、お前は強いな」

 

 

すると、クラリッサがそんな事を言ってくる。

 

 

「まぁ、鍛えてるから。それに...」

 

 

俺はそれにそう返しながら耳元に口を近付ける。

 

 

「これくらいしないと、大切な恋人は守れないだろ?」

 

 

そして、俺はそう囁く。

すると、クラリッサの顔が赤くなる。

可愛い。

俺はそう思いながら

 

 

「立てるか?」

 

 

とクラリッサに声を掛ける。

 

 

「ああ、問題ない」

 

 

すると、クラリッサはそのまま立ち上がる。

 

 

「ならば、私も強くならないとな。大切な恋人を守りたいのは、私も一緒だ」

 

 

その瞬間に、クラリッサも俺の耳元でそう囁く。

それを言われた俺も顔が赤くなる。

恥ずかしいけど、嬉しい...

受け止める体勢だった俺も立ち上がる。

 

 

「じゃあ、ラウラに終わった事を報告しに行こう」

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

そうして、2人でラウラの元に向かう。

うん、昼間に授業以外で身体動かすの久々だったから気持ち良かったな。

引き続き、頑張りますか!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

時刻は進み、現在16:45。

訓練は昼食を挟んで15:00まで行われた。

模擬戦後の訓練も基本クラリッサとペアで行った。

学年別タッグトーナメント後のから直接会う機会は無かったため、少しでも触れ合えるのは嬉しい。

ディミオスは器具の準備等の手伝い等もしていたが基本空気だった。

そして、今何をしているのかというと...

 

 

「《最初はグー、じゃんけんポン》」

 

 

《先攻》

 

 

「後攻か...」

 

 

バディファイトだ。

自由時間になった際、是非やってみたいと何人かの隊員が言い出し、気が付いたらラウラやクラリッサを含め全員がバディファイトを始める事になった。

いったんディミオスにバディワールドから大量の構築済みデッキを持って来てもらい、そのまま俺とディミオスでルール解説をした。

そして、初心者大会のスタッフの様な気持ちで俺はそのままファイトしているみんなに教えながら徘徊していた。

全員がルールを覚えたところで、俺とディミオスのファイトが見たいとの事で、俺とディミオスがファイトすることになった。

ただ、2人とも使用デッキが煉獄騎士団でミラーマッチになりそうだったので、それ以外のデッキを使う事になった。

その為、俺はディミオスのデッキを知らない。

 

 

「《バディーファイト!オープン・ザ・フラッグ!》」

 

 

《百鬼夜行!》

 

 

「ヒーローW!」

 

 

《バディは、天和御魂(あまのにぎみたま) ヤミゲドウ・ミカズチ!》

 

 

複製模倣兵器(ふくせいもほうへいき) ジェムクローン!」

 

 

百鬼か...

なかなか面倒だな...

ディミオスの表情から見て、ディミオスも同じ様な事を考えているんだろう。

 

 

《我のターン、チャージアンドドロー》

 

 

ディミオスは取り敢えずチャージアンドドローをして考えるように顎に手を当てる。

 

 

《設置、汚されし淵神の祠》

 

 

そして、ディミオスは汚されし淵神の祠を設置する。

っていう事は...

 

 

《ライフ1を払いライトにコール、御雷の騎士 リベリウス》

 

 

ですよね...

 

 

《リベリウスの登場時能力、他に百鬼があるのでゲージプラス1、1ドロー。祠の能力、爆雷持ちが出たので1ドロー》

 

 

これでディミオスのライフは9、手札は6、ゲージは4。

 

 

《ゲージ1を払いキャスト、災禍の襲来。デッキからヤミゲドウを1枚手札に加える》

 

 

そう言って、ディミオスが手札に加えたのはバディのヤミゲドウ・ミカズチ。

 

 

《センターにコール、導魔 ダインガス。登場時能力でドロップゾーンのカード2枚をゲージに置く》

 

 

さっき使った災禍の襲来と払ったゲージがゲージに行く。

 

 

《レフトにコール、御雷の従者 グラシャラボラス。そして、リベリウス、ダインガス、グラシャラボラスの3体をソウルに入れゲージ4を払い、センターにバディコール!天和御魂 ヤミゲドウ・ミカズチ!》

 

 

メンドクセェ!

1ターン目からバチバチに使いやがって...

ディミオスのライフは10、手札は3、ゲージは1。

 

 

《ターンエンド》

 

 

「俺のターン」

 

 

《ターン開始時、ヤミゲドウ・ミカズチの能力!デッキから百鬼を1枚ソウルに入れる。これで入れるのは.....コクジョウヤミゲドウ》

 

 

「メンジョ―?」

 

 

《コクジョウ》

 

 

お馴染みのやり取りをしたが、かなり面倒だ。

 

 

「今の爆雷は?」

 

 

《ターン1の魔法と、モンスターコールと、ターン1の爆雷を与えた時だ》

 

 

爆雷、それは条件を満たすと相手にダメージを与える能力。

ヤミゲドウ・ミカズチはソウルのカードの爆雷全てを得る。

今の爆雷は、俺が魔法を使った時と、俺がモンスターをコールした時と、爆雷でダメージを与えた時か...

 

 

「ドロー、チャージアンドドロー」

 

 

取り敢えず俺はカードを引く。

でも、動くしかないか...

 

 

「ファイナルフェイズ!」

 

 

《そうだよな...》

 

 

「必殺変身!機甲戦鬼 ゼータ!」

 

 

変身、それはモンスターをアイテムのように装備できる能力。

そして必殺変身は、ファイナルフェイズに1回だけ行うことが出来る、必殺モンスターへの変身だ。

 

 

「ゼータに変身している時、このカードは破壊されず、手札に戻せない。そして、俺は必殺モンスター以外のモンスターをコールできず、1ターンに何回でも必殺モンスターをコールできる!」

 

 

そう、このデッキは通常のデッキと異なり、通常は1ターンに1回しかできない必殺コールを何度も行うデッキだ。

 

 

「キャスト、人造符:THREE GAUGE!ゲージプラス3」

 

 

《魔法を使ったのでソウルのリベリウスの爆雷!そして、ダメージを与えた事でソウルのグラシャラボラスの爆雷!》

 

 

これで、俺はダメージを2喰らってしまう。

だが、問題ない!

 

 

「ゲージ1を払いキャスト、人造符:TWO DRAW!2枚ドロー」

 

 

《相変わらずそのままのカード名だな》

 

 

「俺に言うな。ライトに必殺バディコール!複製模倣兵器 ジェムクローン!」

 

 

《モンスターコールにより、ソウルのコクジョウヤミゲドウの爆雷!》

 

 

だが、この爆雷はバディギフトと合わせて実質チャラだ。

 

 

「ジェムクローンはバディゾーンで効果がある。フラッグがヒーローWの時、ヒーローW以外の必殺モンスターを使える!」

 

 

《ルールをぶち壊すな》

 

 

「こういうデッキだ!ジェムクローンの効果!ゲージ1を払いカード名にジェムクローンを含まない必殺モンスターを重ねてコールコストを払わずコールする!これでコールするのは、複製番竜 クリムゾン・アロガント!」

 

 

《爆雷!》

 

 

そうして、俺とディミオスはそこそこな激闘を繰り広げた。

爆雷によってじりじりとライフが擦り減っていく中、俺が必殺モンスターを使い攻めていくという展開。

そして...

 

 

「ジェムクローン “オリジン・ブレイカー!”でアタック!ソウルの複製騎士団 レギオンの効果で、打撃力は8上がり10!そして、ソウルのドラムバンカー・ドラゴン “ドリル・ラム・バスターブレイク!”の効果で相手は対抗を使えず、貫通!!」

 

 

《...負けた》

 

 

「しゃあ!」

 

 

俺の勝ち!

 

 

「激戦だったな...」

 

 

「これが、初心者とは違うプロの戦い方...」

 

 

プロでは無いんだがな。

まぁ、俺はディミオスと出会った時からずっとしてるし、ディミオスはそもそもバディモンスターだからな。

そりゃあ今日始めた初心者よりかはバディファイトが出来る...と、思う。

 

 

「今何時だ?」

 

 

俺はラウラの事を見ながらそう質問する。

結構長い事ディミオスとバディファイトしていた。

その為、今が何時かの判断が出来ない。

 

 

「17:30だな」

 

 

「30分以上してたのか」

 

 

《それぐらいは普通だろ》

 

 

「俺らからしたらそうだが、してない人からすると長いと思うだろ。俺らが将棋7時間とか聞いて何やってんだと思うのと一緒で」

 

 

《そうだな》

 

 

俺とディミオスはそう言いながらデッキをケースに仕舞い、プレイマットも仕舞う。

そして、

 

 

「そろそろ飯の準備...はしなくていいのか」

 

 

そう呟く。

昼間に勉強も仕事もしなかったのは久しぶりだったので、普通に飯の準備する気満々だった。

 

 

「久々に料理したいな」

 

 

「ム、なら、明日の晩御飯を作ってくれないか?」

 

 

俺の呟きにラウラがそう反応する。

 

 

「明日?別にいいけど...急に良いのか?」

 

 

「ああ、問題は無い。厨房には私から話を付けておこう」

 

 

そんなこんなで、俺は明日料理することになった。

何作ろうかな...

俺は明日のメニューを考えながら、プレイマットとデッキを戻しに部屋に行くのだった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

時刻は進み、22:40。

あの後、そのまま夕食の時間になりクラリッサの隣の席で夕食を食べた。

恋人の隣でご飯を食べるのがこんなに幸せだなんて思わなかった。

本当はもう片側にチェルシーもいたら良いんだろうな...

3人で、雑談しながらゆっくりとご飯食べて...

今の俺の仕事の忙しさ、それに加えクラリッサとチェルシーの仕事柄簡単に会えない。

そんな事は分かっているが、それでもそういう生活を考えるのは、仕方が無い。

だって、2人が好きなんだから。

 

 

そして、俺が今何をしているのかというと...

お土産片手にクラリッサの部屋に向かっていた。

夕食の後、顔を真っ赤にしたクラリッサから

 

 

「きょ、今日は私と一緒にいてくれないか...?」

 

 

と言われた。

恋人が、そんな感じでお願いして来たら断れる訳がない。

それに俺もこのお土産を渡したかったからな。

因みにディミオスは部屋でお留守番だ。

そうして廊下を歩いていると、クラリッサの部屋に着いた。

俺はそのまま扉をノックする。

 

 

「クラリッサ、俺だ」

 

 

『一夏か。入っていいぞ』

 

 

クラリッサから入室の許可を貰ったので俺は部屋に入る。

すると

 

 

「一夏ぁ!」

 

 

とクラリッサが俺に突っ込んで来た。

そして、そのまま俺の背中にクラリッサの両腕が回される。

 

 

「うおっと...クラリッサ、痛い」

 

 

「すまない...でも、人前ではあまりくっつけないから...」

 

 

「まぁ、確かに」

 

 

俺もそう言いながら、クラリッサの背中に腕を回す。

そうして、俺とクラリッサはしばし抱きしめ合う。

やっぱり、こうして触れ合えるだけで幸せ...

 

 

「ん?一夏、何か手に持っているのか?」

 

 

そうしていると、クラリッサがそんな事を言ってくる。

俺は笑いながら言葉を発する。

 

 

「クラリッサ、実はプレゼントがあるんだ」

 

 

「プレゼント?」

 

 

俺がそういうと、クラリッサは俺から離れる。

そして、俺はそんなクラリッサに持っていた袋からそのプレゼントが入った綺麗にラッピングされた箱を取り出す。

 

 

「はい、これ」

 

 

「あ、開けて良いのか?」

 

 

「勿論」

 

 

俺がそういうと、クラリッサはそのまま俺が渡した箱のラッピングをほどき、箱の蓋を開ける。

すると

 

 

「えっ...」

 

 

と驚いたような表情になる。

俺がプレゼントしたのは、ペンダントネックレス。

銀のチェーンに、ペンダント部分にはダイヤモンドが1つ輝いているシンプルな物。

 

 

「い、一夏、これって...」

 

 

「ん?ダイヤモンドを使ったペンダントネックレス」

 

 

「そうじゃなくて!良いのか、こんな、高価なもの貰って...」

 

 

「当然!クラリッサに似合うと思って買ったんだから」

 

 

もう少し豪華なものもあったが、クラリッサの雰囲気的にシンプルな物の方が似合うだろうと判断した。

 

 

「ありがとう...嬉しい!」

 

 

クラリッサはしばしそのネックレスを見つめた後、箱ごと机の上に置いてからまた俺に抱き着いてくる。

 

 

「喜んでくれたようで良かった」

 

 

「最愛の恋人から貰ったんだぞ...嬉しいに決まってるじゃないか」

 

 

さ、最愛...

嬉しいやら恥ずかしいやら...

そこから、俺とクラリッサはベッドに腰を掛けて談笑をする。

 

 

「そう言えば一夏。私は明日買い出しなんだ」

 

 

「買い出し?」

 

 

「ああ。訓練に必要なものを発注したりするんだ。副隊長は、そういうのも仕事だからな」

 

 

そうか、やっぱり副隊長っていうのは大変だな...

 

 

「それで、その...一緒に来てくれないか...?」

 

 

クラリッサは、若干上目遣いでそう言ってくる。

それを見て、俺は笑いながら

 

 

「当然。断る訳ないじゃん」

 

 

そういう。

すると、クラリッサは一気に笑顔になる。

可愛い。

その後も、俺とクラリッサは色々会話をした。

この間主任から貰ったスマホで連絡先を遂に交換した。

滅茶苦茶嬉しい。

これで今までよりも簡単に連絡が取れる!

そうやってまったりしていると、時間は23:00になった。

 

 

「じゃあ、そろそろ寝ようか?」

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

クラリッサの言葉に俺が応じる。

そして、部屋の電気を消してから2人でベッドに入る。

前にクラリッサと寝た時は緊張しまくりだったが、今はそうでもない。

緊張していない訳では無いが、それ以上の喜びがある。

 

 

「一夏」

 

 

すると、クラリッサが俺の名前を呼んでくる。

その一声でクラリッサが何をしたいのか俺も理解した。

 

 

「クラリッサ...」

 

 

俺がクラリッサの名前を呼ぶ。

そして、何方からという事もなく、俺とクラリッサの唇が重なる。

そうして、大体1分経ったところで唇を離す。

 

 

「おやすみ、クラリッサ」

 

 

「ああ、おやすみ、一夏」

 

 

そうして、俺とクラリッサはお互いにそう言い合った後、もう一度唇を重ねる。

そのまま俺とクラリッサは抱きしめ合う。

唇が離れると、眠気が襲ってきた。

俺は腕の中にクラリッサの存在と温かさを感じながら、眠りに付くのだった...

 

 

 

 




人造符(じんぞうふ)とか機甲符(きこうふ)とか鏡効符(ミラーエフェクト)とかのそのままのカード名が大好き。
特に好きなカードは鏡効符:THE FUTURE。
名前もカッコいいし、強い。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

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クラリッサとの初デート

続き!
サブタイそのままの内容です。

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

クラリッサと共に就寝した翌日。

俺は目を覚ました。

隣では幸せそうな寝顔を浮かべているクラリッサがいた。

可愛い。

俺はそう思いながらクラリッサが起きないようにベッドから降りる。

いったん身体を伸ばしてからスマホを手に取り、時刻を確認する。

 

 

「...4:10」

 

 

昨日は疲れ果てて起きるのが遅かったが、そういう事が無いとやはりこれくらいの時間に起きるのか...

まぁ、もう習慣だからな。

昨日のラウラとの約束で、俺は今日の晩御飯を作ることになっているが、今からする事なんてない。

 

 

「...身体動かすか」

 

 

俺はそう呟くと、部屋の扉に向かう。

だが、その直前に俺はクラリッサの方に移動する。

クラリッサは相変わらず幸せそうに寝ている。

 

 

「いち、かぁ...」

 

 

すると、クラリッサは俺の名前を呼びながら寝返りを打つ。

か、可愛い...

名前を呼ばれたから一瞬起こしてしまったかと思ったが、如何やらただの寝言のようだ。

 

 

「クラリッサ...大好き」

 

 

俺はそう言いながらクラリッサの頭を撫でる。

すると、クラリッサは気持ちよさそうに

 

 

「ん、んぅ...」

 

 

と声を漏らす。

その事に俺は笑みを浮かべると、今度こそ部屋の扉に移動し、そのまま部屋の外に出る。

 

 

「まずは着替えて、そのままランニングだな」

 

 

俺はそう呟くと、そのまま自分の部屋に向かって移動する。

さて、何時もより朝食の時間が早いから何時もよりも身体動かせる時間が短いからな。

気合い入れますか!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

あれから時間は進み、現在9:00。

俺は私服に着替え、車の前にいた。

 

 

あの後、ディミオスと共に身体を動かした俺はそのまま食堂に行った。

結構ギリギリまで身体を動かしていたから、俺が食堂に着いたときにはみんなが集まっていた。

俺は昨日と同じようにクラリッサの隣で食事をとっていたのだが...

何となくクラリッサが不機嫌そうだった。

まぁ、理由は分かる。

朝声を掛けることなく部屋を出たからだろう。

でも、これはもう習慣なんだ。

仕方が無いじゃないか。

因みに、2人きりになったときにその事を素直に謝ると許してくれた。

優しい。

これからは気を付けます。

 

 

そして今、俺はクラリッサと共に買い出し用の車の前にいた。

私服で良いのかとも思ったが、今回注文するのは銃火器等では無く、ただのトレーニング機器なので私服で問題ないとの事だ。

その為、クラリッサも私服だ。

正直に言おう、凄く良い!

今のクラリッサの服装は黒メインのシンプルな服だが、クラリッサにはごちゃごちゃした服よりもこういうシンプルなのが似合ってる!

 

 

「クラリッサ、その服似合ってるよ」

 

 

その為、俺は素直にそういう事にした。

俺が褒めると、クラリッサは嬉しそうに笑みを浮かべる。

可愛い。

 

 

「一夏も、やっぱりカッコいいな」

 

 

「そうかなぁ?自分ではそう思わないんだけど...」

 

 

今の俺の服は通販で買った適当な物。

前々から来てるタスクさんが前に着ていたものの色違いの服は確かにお気に入りだが、夏は少し暑い。

その為、この間通販で夏物を買ったのだ。

本当だったら服屋に行ってちゃんと見ていたいが、日本の服屋は男性物が極端に少ないし、最近の忙しさのせいで買い物に行く暇すらない。

臨海学校前ならまだ少し余裕があったから、みんなで買い物いった時に買っておけば良かった。

通販で服を買うとなると、そこそこな値段のものを買うのはサイズ間違いとかが怖いので買えない。

だから、どうしても安くてファッション性というものが全くないものを買う事になってしまう。

正直にこの服じゃクラリッサとつり合う気がしない。

 

 

「ああ、確かに服は安物なのかもしれないが、一夏がカッコいいからな。どんな服でも似合ってるぞ」

 

 

すると、クラリッサがそんな事を言ってくれる。

 

 

「ありがとう」

 

 

俺は口元に笑みを浮かべながらクラリッサにそう返す。

恋人に褒められると素直に嬉しいな。

そうして、クラリッサが運転席に、俺は助手席に座る。

そのままクラリッサはエンジンを起動させ、車を走らせる。

俺は初日と同様にクラリッサの横顔を見つめる。

やっぱりいいなぁ...

俺がそんな事を思っていると、

 

 

「あ、あの、一夏?」

 

 

クラリッサがそんな事を言ってくる。

 

 

「ん?如何した、クラリッサ」

 

 

「何で、私の事をジッと見てるんだ?一昨日は隊長もいたから聞けなかったが...」

 

 

「何でって、クラリッサが可愛くて、魅力的だから」

 

 

俺がそういうと、クラリッサは顔を赤くする。

だが、運転の集中が切れる事は無い。

流石。

 

 

「い、一夏...恥ずかしい」

 

 

可愛い。

そのまま暫く移動をし、車は様々なお店が連なっている通りの近くの集合駐車場に停まる。

そうして、俺とクラリッサは車から降りる。

 

 

「部隊車だけど、そこまで目立たないな」

 

 

「買い出し用の車だからな。目立つ車だと市街に出れないからな」

 

 

「なるほど」

 

 

確かに、目立つ車だと普通に来れないか。

俺はそんな事を考えながらクラリッサの隣に移動し、その手を握る。

その握り方は、いわゆる恋人繋ぎだ。

その瞬間に、クラリッサは顔赤くする。

 

 

「っ!一夏、その...」

 

 

「ん?嫌だった?」

 

 

「いや、嬉しいに決まってるじゃないか...」

 

 

クラリッサは若干俯きながらそういう。

可愛い。

そのまま、俺はクラリッサの歩幅に合わせてゆっくりめに歩きながら店に入る。

この店は筋力器具を扱う店のようだ。

 

 

「何が不足してるんだ?」

 

 

「そうだな...ダンベルとかだな」

 

 

「持ち帰りは出来ないから発注して送ってもらうんだな?」

 

 

「そうだ」

 

 

クラリッサと軽く会話した後、発注の手続きをしに行く。

そんな感じで、訓練に必要な器具全てを注文し終わった俺とクラリッサは、取り敢えず元の通りに戻って来た。

そんな中、俺は案内板を見ていた。

なるほど、大体ここから10分歩けばカフェとかが並んでるエリアね...

 

 

「なぁ、クラリッサ」

 

 

「如何した、一夏」

 

 

俺がクラリッサの事を呼ぶと、クラリッサは俺の事を見ながら反応する。

俺はその案内板を指さしながら

 

 

「俺とデートしない?」

 

 

そういう。

クラリッサは、

 

 

「へぇ!?」

 

 

と、顔を赤くしていたが、

 

 

「あ、ああ!デートしよう!」

 

 

と、笑顔で言ってくれた。

その事に俺も笑顔で返しながら、恋人繋ぎのまま2人で移動する。

そして、飲食店を始めとした様々な店が集合しているところに着いた。

 

 

「クラリッサ、何食べたい?」

 

 

「私に合わせなくていいんだぞ?」

 

 

「デートは、女の子の意見を尊重するものでしょ?」

 

 

俺、何だかんだでデートするの初めてだけど。

 

 

「そ、そうか...なら...」

 

 

クラリッサはそう言いながらあたりのお店を見回す。

そして、

 

 

「クレープにしないか?」

 

 

クレープの店を指さしながらそういう。

 

 

「ああ、良いね。じゃあそうしよう」

 

 

俺はそう頷き、2人でそのクレープ 屋に入る。

そのまま2人でメニュー表を見る。

そこそこ種類があるな...

 

 

「じゃあ、俺はこのバナナミルクってやつにしようかな?」

 

 

「ならば、私はストロベリーアイスにしよう」

 

 

俺とクラリッサがお互いに注文する品を決める。

 

 

「Ich bin jetzt bereit, eine Bestellung zu machen(注文お願いします)」

 

 

俺はそのままドイツ語で定員さんにそう声を掛ける。

俺がドイツ語を話したからかクラリッサが驚いたような表情を浮かべる。

 

 

「Ja, welches willst du(はい、どれにしますか)」

 

 

「Ich hätte gerne eine Bananenmilch und ein Erdbeereis(バナナミルク1つとストロベリーアイス1つお願いします)」

 

 

「Verstehen.Es sind 5 Euro(分かりました。5ユーロです)」

 

 

俺は店員さんに言われた通り財布から5ユーロを取り出すと、そのまま渡す。

 

 

「Bitte warte ein bisschen(少しお待ちください)」

 

 

金を受け取った店員さんはそのままクレープを作り始める。

 

 

「一夏...ドイツ語なんて話せたのか?」

 

 

「ああ。ドイツ語と英語は使えるようになっておいた」

 

 

クラリッサにそう聞かれたので、俺はそう返す。

 

 

「何でその2つなんだ?」

 

 

「クラリッサとチェルシーがいるから」

 

 

クラリッサの質問に俺が間髪入れずにそう答えると、クラリッサは顔を赤くする。

恋人の母国語くらい覚えておいて当然だろう?

 

 

「Es ist vollständig. Bitte nimm es(出来ました。受け取って下さい)」

 

 

「Danke sehr(ありがとうございます)」

 

 

定員さんが差し出した2つのクレープを受け取り、ストロベリーアイスの方をクラリッサに差し出す。

そのまま2人で空いている席に座る。

 

 

「「頂きます」」

 

 

そして、2人で同時にそういうとそのままクレープにかぶりつく。

 

 

「.....甘」

 

 

いや、クレープだから甘くて当然なんだけど。

ここ最近甘いの食べてなかったし、ブラックコーヒーばっかり飲んでたから凄く甘く感じる。

 

 

「美味しいんだけど、甘いな」

 

 

「確かに甘いな。だが、偶に食べるのは良いものだ」

 

 

クラリッサは嬉しそうにそういう。

普段から副隊長として頑張り、キッチリした雰囲気を出しているクラリッサだが、やはりこういうところは女子らしい。

物凄く可愛い。

そのまま食べ進めていき、ふとクラリッサの方を見ると、頬にストロベリーソースを付けていた。

普通に教えるのも良いけど...

やっぱりこうやってやろうかな?

 

 

「クラリッサ」

 

 

俺はとある方法を考えながらクラリッサのことを呼ぶ。

 

 

「一夏、どうかしたか?」

 

 

すると、クラリッサは俺の方に顔を向ける。

俺はそのままクラリッサの頬に顔を近付けると、付いているストロベリーソースをそのまま舐めとる。

 

 

「い、一夏!?」

 

 

「ソースついてたよ」

 

 

クラリッサが顔を赤くしながら慌てたように声を発したので、俺はそういう。

すると、クラリッサは顔を赤くしたまま視線を逸らす。

 

 

「可愛い、可愛いよクラリッサ」

 

 

「一夏...恥ずかしい///」

 

 

「ごめん」

 

 

俺が謝ると、クラリッサはそのまま残っていたクレープをパクパクと食べる。

それを見た俺も残っていた自分の分のクレープを食べる。

 

 

「「ごちそうさまでした」」

 

 

そうして、2人同時に食べ終わる。

そのまま俺とクラリッサは恋人繋ぎをすると、2人同時に店を出る。

 

 

「クラリッサ、次如何する?」

 

 

「そうだな...服でも見ないか?」

 

 

「良いね、俺も服買おうかな?行こう!」

 

 

そうして、2人で談笑しながら移動する。

デートって、こういう感じで良かったのかな?

何せ、急に始めたデートだからな...

クラリッサが喜んでくれてると良いんだけどな...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

急遽始まったデート、そしてその後の俺の晩御飯作りを終え、現在22:30。

俺はクラリッサの部屋にいた。

 

 

あの後、ラウラ達に怪しまれない時間まで2人で過ごした俺とクラリッサは、俺が考えてた晩御飯用の食材で不足していたものを買って基地に戻った。

2人で食材を買っていくのは夫婦みたいだと考え、1人で顔を赤くしてしまった。

まぁ、そんな俺を見てクラリッサも同じ事を思ったのか顔を赤くしていた。

基地に戻って特にみんなから突っ込まれることは無かったので良かった。

 

 

そうして、そのまま暫くみんなと談笑した後、俺は晩御飯を作り始めた。

俺が選んだメニュー、それは戦略兵器 でんじゃらす野菜カレー。

バディワールドにいた時は定期的に作っていたのだが、IS学園に入学してから作って無かったメニューなので結構懐かしさを覚えながら作った。

まぁ、加圧式美食調理鍋(これひとつでなんでもつくれるばんのうなべ) アツリョーク以外でのでんじゃらす野菜カレーの調理は初めてだったが、特に問題ない。

今度戻ったときアツリョークを新しくこっちに持ってこようかな...?

みんなが美味しいと笑顔で言ってくれたので良かった。

デザートとしてプリンも作ったのだが、それもみんな喜んでくれた。

やっぱり、自分が作った料理を美味しそうに食べてくれるのは嬉しいな。

 

 

夕食を食べ終わった後は、再びみんなでバディファイトしながら談笑した。

俺は明日にはもうこの基地を出なきゃいけない。

本当だったらもっと滞在していたいのだが、俺は忙しいし、イギリスにも行くことを考えるともう明日にも出発しないといけない。

だから、俺はみんなと出来るだけ会話をした。

 

 

そうして、今は昨日と同じようにクラリッサの部屋にいる。

ディミオスも昨日と同じように部屋で留守番。

因みに、

 

 

《寧ろ留守番させろ。1日お前のポケットでデートの会話を聞いていたんだ、胸焼けする》

 

 

と言われた。

何で会話聞いてただけで胸焼けするんだ?

まぁ、いいか。

俺はクラリッサと共にベッドの縁に腰を掛けながら2人で談笑する。

 

 

「今日のデート、如何だった?急に始めてプランも何もなかったから、クラリッサが楽しかったか如何かが心配で...」

 

 

「心配しなくても、私は楽しかったぞ。スイーツを食べ、服を買い...なんてことはないかもしれないが、一夏と一緒だったから凄く楽しかった」

 

 

俺と一緒だったから、か...

それは、恥ずかしい...

 

 

「それは良かった」

 

 

俺が笑顔でそういうと、クラリッサも笑顔になってくれる。

可愛い。

そうやって2人で話していると、もう23:00になっていた。

 

 

「クラリッサ、そろそろ寝ようか?」

 

 

それを確認した俺は、クラリッサにそう声を掛ける。

...だが、クラリッサの反応が無い。

俺が隣に座っているクラリッサの方を見ると、クラリッサは俯いていた。

俺は心配になって声を発する。

 

 

「クラリッサ、如何し...」

 

 

だが、俺の言葉はそこで途切れた。

いや、途切れざるを得なかった。

 

 

俯いていたクラリッサが、顔を上げたかと思うとそのままの勢いで俺の事を押し倒してきたから。

突然の事に反応出来ず、そのままベッドの上に倒れる。

その衝撃に俺が一瞬だけ痛みを感じると、クラリッサはそのまま俺の上に馬乗りになって来た。

 

 

「ちょ、クラリッ...」

 

 

俺のその言葉も、クラリッサが急にキスをしてきたため遮られる。

 

 

「ん、ん...」

 

 

「は、ん、んぅ...」

 

 

俺とクラリッサはそんな声を漏らす。

な、急に、何が!?

そして、1分以上はキスした後、クラリッサは唇を離す。

 

 

「はぁ、はぁ」

 

 

「ふぅ、はぁ...」

 

 

2人同時に、そんな感じで息を吐く。

俺が混乱していると、クラリッサはそのまま自身が来ているシャツのボタンを1つずつ外していく。

 

 

「クラリッサ!?何を!?」

 

 

俺の声を無視して、クラリッサは全てのボタンを外し、そのままシャツを脱ぎ去る。

その途端、当然ながら黒い下着に包まれた女性特有の2つの豊かな膨らみが露になる。

その事に、顔が一気に赤くなっていくのが分かる。

 

 

「一夏ぁ...」

 

 

クラリッサはそう言いながら、俺の服にも手を掛けて来る。

 

 

「クラリッサ!待て!!」

 

 

俺が何とか抵抗しながらそういうと、クラリッサが手を止めてくれる。

 

 

「クラリッサ、今何をしようとしてるのか、分かってるのか?」

 

 

「ああ...一夏と、そういう行為をしようとしていた」

 

 

クラリッサの口からハッキリと言われたことで、俺は更に顔が赤くなっていくのが分かる。

だが、ここで言葉を詰まらせてはいけない。

俺が何とかしないと...

 

 

「何で、急にそんな事を?」

 

 

俺がクラリッサにそう尋ねると、クラリッサはビクっと身体を震わせる。

そして、悲しそうな表情になりながら口を開く。

 

 

「私は、不安なんだ。私は22歳で、一夏はまだ15歳。年が開いている...チェルシーは18で一夏とも年が近いが、私は成人しているし、明らかに2人より年齢が高い」

 

 

俺はクラリッサの言葉を聞きながら考える。

確かに、俺はまだ誕生日を迎えてないから15、今年で16だ。

チェルシーとは2歳差だが、クラリッサとは6歳差。

確かに、年齢が離れている。

 

 

「一夏が、私の事を愛してくれているのは感じる。それは物凄く嬉しい。だけれども、分かっていても不安なんだ。年齢が離れてるから、何時か見放されるんじゃないかって。だから...」

 

 

クラリッサはより一層悲しそうな表情を浮かべる。

それを聞いて俺は唇を噛み締める。

恋人がこんなにも悩んでるのに、俺は気付けなかったなんて...

覚悟を決めろ、織斑一夏!!

 

 

「クラリッサ...」

 

 

「え、きゃ!?」

 

 

俺はクラリッサの名前を呼ぶと、そのままクラリッサの事を抱きしめ身体を引き寄せる。

そして、俺は引き寄せたクラリッサと自分の身体の位置を交換する。

今の体制は、先程までと逆で俺がクラリッサの上にまたがっている。

俺はそのままクラリッサにキスをする。

 

 

「ん、んぅ!?」

 

 

そして、俺はクラリッサの口の中に舌を入れる。

所謂ディープキスというやつだ。

クラリッサも、驚いていたものの、俺の舌に舌を絡ませくれる。

 

 

「ん、んぁ、んちゅ、あ...」

 

 

「んはぁ、んぁ、んん...」

 

 

俺とクラリッサのこんな声に合わせて、唾液が絡まり合う音も聞こえる。

俺とクラリッサは、何方を目を閉じず互いの眼を見続ける。

そして、俺は唇を離す。

口と口の間に銀の唾液の線ができ、ぷつりと途切れる。

 

 

「クラリッサ...ごめん。不安にさせちゃって。でも、俺がお前を見放すことなんてない!俺は、クラリッサ・ハルフォーフの事を、心の底から愛してるんだ!」

 

 

そして俺がそう言い切ると、クラリッサは

 

 

「一夏...ありがとう!」

 

 

さっきまでの悲しそうな表情から一転、一気に笑顔になる。

それを見て、俺も笑顔になりながら、自分の着ているシャツの前を開ける。

 

 

「クラリッサ...大好きだ。愛してる」

 

 

「一夏、私もだ。愛してる。だから、今夜は私を愛してくれ」

 

 

「ああ、勿論」

 

 

俺は、そのままクラリッサにキスをする。

 

 

 

 

そうして、俺とクラリッサは、朝まで愛し合ったのだった.....

 




一夏、クラリッサ、おめでとう!
お幸せに!

一夏、チェルシーもいるからね!

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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屋敷への再訪問

さぁさぁ、もう1人のヒロインの出番です!

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

「ん、んん...」

 

 

そんな声が、自然と口から出る。

なんか、あったかいな...

俺は腕の中に温かさを感じながら、そのまま眼を開く。

するとそこには...

 

 

「ん、ぁ...一夏ぁ...」

 

 

そんな声を漏らしながら、俺に抱きしめられながら幸せそうな寝顔を浮かべる、全裸のクラリッサがいた。

 

 

「へ!?」

 

 

俺は慌てて自分の身体に視線を向ける。

すると、俺の全裸で、クラリッサも俺の事を抱きしめ返していた。

そこまで見て、俺は昨日...いや、確実に日付が変わるまで行為をしていたから、今日の俺とクラリッサの行為を思い出した。

その瞬間に、自分の顔が一気に真っ赤になるのが分かる。

 

 

「ん、あ...え!?」

 

 

すると、クラリッサも目を覚ましたのか、そんな驚きの声を上げた後、顔が赤くなっていく。

 

 

「えっと...おはよう、クラリッサ」

 

 

「あ、ああ。おはよう、一夏」

 

 

取り敢えず俺が挨拶すると、クラリッサも返してくれる。

...如何やって会話してたっけ?

俺がそうやって混乱していると、

 

 

「...一夏」

 

 

クラリッサがそう俺の名前を呼んでくる。

 

 

「如何した、クラリッサ」

 

 

俺がそう返すと、クラリッサは俺の胸元に額を押し当てて、

 

 

「今、凄い幸せだ...」

 

 

俺の事をより一層強く抱きしめながらそう言ってくれる。

 

 

「俺も、幸せだ...」

 

 

そんなクラリッサの事を抱きしめながらそう返す。

そして、俺とクラリッサは2人で笑い合う。

 

 

「そろそろ起きようか?」

 

 

「そうだな、起きよう」

 

 

クラリッサがそう言ってきたので、俺はクラリッサの事を離す。

クラリッサも名残惜しそうにしてたが俺の事を離し、起き上がる。

そうして、クラリッサはそのまま脱ぎ捨ててあった下着を身に着ける。

俺は、そんなクラリッサから目を離せなかった。

 

 

「一夏?その、なんでジッと見てるんだ?」

 

 

すると、当然ながらクラリッサは顔を若干赤くしながら俺にそう聞いてくる。

 

 

「あ、いや、その...クラリッサが、余りにも魅力的だったから...」

 

 

俺がそういうと、クラリッサは顔を真っ赤にする。

そして、いそいそと残りの服も着始めた。

可愛い。

俺はそう思いながら、自分が脱いだ服を着る。

そうして、2人とも服を着たことを確認した俺は、

 

 

「...食堂に行く?」

 

 

クラリッサにそう尋ねる。

 

 

「ああ、そうだな。もう時間だからな」

 

 

すると、クラリッサは頷き、立ち上がる。

俺もそんなクラリッサの隣に移動する。

 

 

「クラリッサ、愛してるぞ」

 

 

俺がそういうと、クラリッサは驚いた表情を浮かべてから、微笑む。

 

 

「私も、一夏の事を愛してる」

 

 

そのクラリッサの言葉を聞いた俺は、クラリッサにキスをする。

そして1分近くキスをした後、唇を離す。

 

 

「じゃあ、行こうか」

 

 

「ああ」

 

 

そして、2人並んで食堂に向かう。

ギリギリまで、恋人繋ぎをしながら。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

現在時刻、10:20。

俺とディミオスは基地の正面入り口前に立っていた。

荷物類はもう既に車に乗せている。

クラリッサとラウラは空港まで見送りに来てくれるが、流石に部隊員全員は来れない。

その為、みんながここで見送ってくれるというのだ。

 

 

「短い間だったけど、楽しかったよ。また来れる時には来るから」

 

 

取り敢えず、俺はみんなに向かって笑顔でそういう。

すると、みんなも

 

 

「またね一夏!」

 

 

「バディファイトも楽しかったよ!」

 

 

と返してくれる。

バディファイトが広まって良かった。

今度IS学園のみんなにも勧めてみようかな?

 

 

「じゃあな!」

 

 

《また、会える日まで》

 

 

俺とディミオスはそう言い、手を振りながら車まで移動する。

みんなも、俺とディミオスに手を振り返してくれる。

空港まで付いて来てくれるラウラとクラリッサと共に車の前まで移動する。

そのままクラリッサは運転席に、ラウラは後部座席に、俺は助手席に座り、ディミオスは俺の胸ポケットに戻る。

そうして、クラリッサの運転で空港に向かう。

その道中、俺は相変わらずクラリッサの横顔を眺め続ける。

相変わらず美人だ。

 

 

[マスター、本当に恋人にデレデレですね]

 

 

(急に如何した、白騎士)

 

 

[マスター!私達の事、絶対に捨てないでよね!]

 

 

(捨てないから。安心しろ、白式)

 

 

白騎士と白式の2人とそうやって会話する。

そのまま暫く話していると、空港に着いた。

俺はそのまま車から降り、リュックを背負って鞄を手に取る。

そして、空港の中に入り、可能な限りの手続きを済ませ、鞄も預ける。

そうして、俺は審査ゲートの前まで来た。

ここから先は実際に搭乗する人しか行けないので、ここで別れとなる。

周りにも、チラホラと見送りらしき集団が何組かいる。

 

 

「じゃあ、ラウラはまた学園で。クラリッサさんは、また遊びに来れた時に」

 

 

俺がそう言うと、ラウラは頷くが、クラリッサは何処か寂しげな表情を浮かべる。

それは分かる。

俺もクラリッサとまた暫く会えなくなるのは悲しい。

だけれども、ずっとここにいられる訳がない。

 

 

「また、絶対に会えますから!」

 

 

俺が笑顔でそういうと、クラリッサも笑顔になってくれる。

これ以上の言葉が無くても伝わるっていうのは、いいな。

 

 

「またな!!」

 

 

「ああ、学園で待っていろ!」

 

 

「また会えるのを楽しみにしてる!!」

 

 

俺とラウラとクラリッサはそう言い合い、俺は手続きをするためにゲートに向かう。

俺が振り返って手を振ると、2人とも振り返してくれる。

その時、クラリッサと目を合わせる。

そして、2人で笑い合うと俺はそのままゲートの係員にパスポートと搭乗券を見せ、手続きを開始するのだった...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

ドイツを出発してから約2時間後。

俺は問題なくイギリスに着いた。

イギリスとドイツの時差は1時間だ。

飛行機が出発したのはドイツ時間11:30なので、現在時刻イギリス時間12:30だ。

俺はビジネスクラスの席から降り、軽く伸びをしながら通路を歩いているところだ。

 

 

「...やっぱり同じヨーロッパで、飛行時間も短くて時差も少ないから、疲労もないし時差ボケも無いな」

 

 

1時間くらいだったら特に問題ない。

1日徹夜するより全然マシだ。

 

 

[マスター、高校生は普通徹夜しないんだよ?]

 

 

(なんだ白式。ネットには『テスト前だから徹夜~~』とかいうのがゴロゴロいるだろ?)

 

 

[それはその方々の自業自得です。ですが、マスターのように仕事で徹夜をする高校生は他にはいないと思います]

 

 

白騎士にそう言われ、俺は考える。

確かに、そもそも高校生で会社の仕事をしてるのは俺くらいか?

タレントをしている方や、マドカ達の様な企業所属のIS操縦者も仕事はある。

だが、それとこれとは仕事の種類が違う。

それに加え、俺は通常のIS操縦者としての仕事もしてる。

そう考えると、白騎士の言う通り仕事で徹夜をする高校生は俺くらいか...

 

 

白式と白騎士と会話していると、荷物受け取りコンベヤーの前に来た。

俺の荷物は.....あ、来た。

俺はそのまま自分の荷物を手に取ると、到着ゲートに向かって歩き出す。

その道中、結構注目されてるのが分かる。

まぁ、俺は世界で2人しかいない男性IS操縦者の1人だからな。

注目されるのも仕方が無いか。

 

 

そんな事を考えながら歩いて、到着ゲートをくぐる。

すると、その先には到着した人を待つ人たちが集合していた。

く、ドイツの時よりも人が多くて何処にいるのか分からん。

俺が目的の人物たちを見つけようとキョロキョロしていると、

 

 

「一夏さん!」

 

 

「一夏!」

 

 

「お兄様!」

 

 

と声を掛けられる。

俺がその方向に振り向くと、分かりづらいが目的の人物たちを見つけた。

 

 

「セシリア!チェルシーさん!エクシア!」

 

 

俺は右手を上げながらチェルシー達に近付く。

近付いていくことによって、漸くメイド服という特徴的な服装を認識する。

俺が近付いてきたことで、3人とも手を振ってくれる。

 

 

「お兄様!お久しぶりです!」

 

 

そうして、エクシアが笑顔でそう言ってくれる。

 

 

「ああ、久しぶり!エクシアも元気そうで良かった」

 

 

「はい!私はあれから元気です!」

 

 

エクシアは元気よくそう返事してくれる。

魔法で治療した人間はエクシアしかいなかったから本当に心配だった。

元気でいてくれて、本当に良かった...

俺も笑顔になりながらエクシアの頭を撫でる。

すると、

 

 

「ふぁ!?.....良い.....」

 

 

エクシアは気持ちよさそうな表情になり、そんな声を漏らす。

うーん、頭撫でるのって本当にそんなに良いものなのか?

自分では良く分からないんだが...

 

 

「チェルシーさんもお久しぶりです。お元気でしたか?」

 

 

俺はエクシアの頭を撫でながらチェルシーにそう声を掛ける。

だけれども、やっぱり敬語だと他人行儀だな...

 

 

「ええ、元気にしてたわ。一夏も元気そうで良かった」

 

 

チェルシーも同じ事を思っているのか、何処か不満気だった。

そんな表情も可愛い!

 

 

「では、ここで話すのもなんですし、屋敷に行きませんか?」

 

 

俺がテンション上がっていると、セシリアがそんな事を言ってくる。

 

 

「そうだな...移動しよう」

 

 

俺がそう言うと、チェルシーとエクシアも頷く。

そうして、4人で駐車場に向かって歩いていく。

その道中俺はセシリアとエクシアにバレない程度にチェルシーの事を見る。

メイド服に身を包んでいるという事は、業務中という事。

チェルシーは物凄く真面目な表情でセシリアの3歩程後ろを前で手を組みながら姿勢よく歩いている。

物凄くカッコいいし、美人。

いいなぁ...

エクシアはメイド服を着ていないが、休暇だろうか?

 

 

俺がそんな事を考えていると、駐車場に着いた。

着いたのだが、やけに目立つ車が1つある。

そう、滅茶苦茶デカくて、如何見ても豪華だというのが分かる、車が。

 

 

「なぁ、セシリア。もしかして、あれか?」

 

 

俺はその車を指さしながらセシリアに尋ねる。

すると、セシリアは頷き

 

 

「ええ。あれは我がオルコット家が所有する車ですわ」

 

 

そう言う。

やっぱり...

流石は貴族家。

 

 

「お嬢様、お待ちしておりました」

 

 

すると、車の側に控えていた運転手だと思われる男性がそう頭を下げ、後部座席のドアを開く。

おいおい、何だその後部座席は!

何だ、リムジンか!?

そんな感じの席の配置の仕方...

セシリアはそのまま車に乗り込み、エクシアもセシリアを支えるようにしながら車に乗り込む。

 

 

「一夏、荷物積み込むの手伝うわよ」

 

 

「チェルシーさん、ありがとうございます」

 

 

俺はチェルシーに手伝ってもらい、車に荷物を積み込む。

そして、そのまま俺も車に乗り込む。

ざ、座席が柔らかい!

何でさっきまで座ってたビジネスクラスの席と同じくらい柔らかいんだ!?

豪華だな...

 

 

「では、出発します」

 

 

チェルシーも車に乗り、ドアを閉めたことを確認した運転手の男性はそう言うと、そのまま車を出発させる。

この車、後部座席はリムジンのように席同士が向かい合う感じなのだが、リムジンほど長さは無い。

後部座席には普通に6人が限度なのでは無いだろうか?

そして、席の配置は俺の隣にチェルシーで、俺の前にセシリア、セシリアの隣にエクシアだ。

チェルシーの隣なのは嬉しいが、チェルシーの事を見つめられないじゃないか!

まぁ、仕方が無いか...

 

 

「それでエクシア。今日は休暇なのか?」

 

 

道中、俺は気になっていたことをエクシアに尋ねる。

すると、エクシアは頷いて

 

 

「はい、今日と明日は休暇を頂いていたんです」

 

 

という。

良かった、明日もか...

今日だけだったら完全に俺のせいで休暇を潰してしまった事になってしまう。

そうならなくて良かった...

 

 

[マスターは自分の休暇を殴り捨ててるのに、他の人の休暇は気にしてるんだね]

 

 

(殴り捨ててるんじゃない、元々無いのさ!)

 

 

[そっちの方が駄目じゃないですか?]

 

 

(それは俺や『PurgatoryKnights』じゃなくて日本政府と国際IS委員会と女性権利団体に言ってくれ)

 

 

[マスター、遂に女性権利団体からも仕事が来るようになったんですか?]

 

 

(ああ。その3つからの仕事が無くても仕事はあるが、今より全然マシだ)

 

 

女性権利団体からは仕事と言うより文句や脅迫の様なものだが、それでも面倒なことに違いは無い。

辛い。

 

 

そこから、俺はチェルシー達3人と軽く談笑した。

そうして数十分後、オルコットの屋敷に着いた。

相変わらず大きい。

俺はそう思いながら車を降り、荷物も取り出す。

そして、チェルシー、エクシア、セシリアも車を降りると、

 

 

「ではお嬢様、私はガレージに車を入れてまいります」

 

 

運転手の男性はそう言い、車を走らせる。

 

 

「では一夏さん、屋敷に入りましょう」

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

セシリアがそう言い、俺達4人は屋敷の中に入っていく。

うん、やっぱり玄関から豪華。

 

 

「ロバートさんとロザリーさんに挨拶する前に、荷物置いていいか?」

 

 

俺がそう尋ねると、

 

 

「ええ、問題ないですわよ。寧ろ、荷物を置いてからゆっくり喋りたいとお父様とお母様も思っていますわ」

 

 

セシリアはそう言う。

 

 

「じゃあ一夏、客室に案内するわ」

 

 

「お願いします、チェルシーさん」

 

 

チェルシーが部屋に案内してくれるというので、俺は素直にお願いする。

 

 

「私はお父様とお母様の所に行っていますわ」

 

 

「私もそうしておきます」

 

 

セシリアとエクシアはそう言うと、そのまま移動する。

俺はその背中を見届けてから、チェルシーに案内される形で客室に移動する。

 

 

「...客室も豪華だ」

 

 

感想がそれだった。

何でこんなに豪華なんだ!

逆に落ち着かん!

俺はそう思いながら取り敢えず鞄とリュックを置く。

そして、

 

 

「チェルシー!会いたかった!」

 

 

「一夏、私も!」

 

 

俺とチェルシーはそう言い合い、そのまま抱きしめ合う。

その瞬間に、夏だという事が気にならない温かさといい香りを感じる。

 

 

「一夏ぁ...」

 

 

「チェルシー...」

 

 

そのまま暫く抱きしめ合っていたが、何時までもこうしていれる訳ではない。

名残惜しいが、俺はチェルシーの事を離す。

だが、チェルシーはなかなか離してくれない。

 

 

「えっと...チェルシー?」

 

 

「ん~~」

 

 

何だ、可愛いぞ。

如何しようか...

あ、そうだ。

 

 

「チェルシー」

 

 

「え!?」

 

 

俺はチェルシーの頬に右手を当てながらそう名前を呼ぶ。

急に触れられたからか、チェルシーは驚いたような声を発し、顔を上げる。

俺はそんなチェルシーに、そのままキスをする。

 

 

「ん!?んぅ...」

 

 

チェルシーは顔を真っ赤にしながらそんな声を漏らす。

1分近くキスし続けた後、唇を離す。

 

 

「チェルシー、そろそろ行こうか?」

 

 

俺が笑顔でそう言うと、

 

 

「そ、そうね...」

 

 

チェルシーは顔を赤くしたままそう言い、俺の事を離してくれる。

可愛い。

 

 

「じゃあ、旦那様と奥様がいらっしゃる部屋まで案内するわ」

 

 

「お願い、チェルシー」

 

 

そうして、俺はチェルシーに案内される形で部屋を出て、ロバートさんとロザリーさんがいる部屋に移動する。

 

 

[甘い...甘い...!]

 

 

[これは、胸焼けします!]

 

 

(ISコア人格でも胸焼けってするんだ...)

 

 

白式と白騎士2人のそんな声を聞きながら。

 

 

 

 




一夏とチェルシーも再会出来ました!
良かった良かった。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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平穏な屋敷での生活

そのまま続き。
平穏です。

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

チェルシーに案内されながら歩いて大体5分。

5分歩かないと目的の部屋に付かないくらいには屋敷が広い。

貴族っていうのは凄いな...

そんな事を考えていると、

 

 

「一夏、着いたわ」

 

 

とチェルシーが言う。

此処か...

 

 

「ディミオス」

 

 

《了解した》

 

 

俺がディミオスの事を呼ぶと、ディミオスは胸ポケットからSDで出て来る。

 

 

《久しぶりだな、チェルシー・ブランケット》

 

 

「久しぶりね」

 

 

そして、ディミオスはチェルシーにそう言う。

チェルシーがディミオスの言葉に返すと、

 

 

《そして、おめでとう》

 

 

とディミオスが言う。

その瞬間に、チェルシーは顔を赤くする。

可愛い。

 

 

「じゃあ、扉を開けるわね」

 

 

チェルシーは何とか表情を整えると、そのまま扉をノックする。

 

 

「旦那様、奥様、チェルシーと一夏です。入っても宜しいでしょうか?」

 

 

『ああ、良いぞ。入ってきてくれ』

 

 

入室の許可を貰ったので、チェルシーは扉を開ける。

 

 

「「《失礼します》」」

 

 

チェルシーの声に合わせて、俺とディミオスも同じ様に声を発する。

中にいたのは、ロバートさんとロザリーさん、そして先程先に向かうと言っていたセシリアとエクシアだ。

 

 

「ロバートさん、ロザリーさん、お久しぶりです!」

 

 

《久しぶりだな》

 

 

俺とディミオスは取り敢えずロバートさんとロザリーさんに挨拶をする。

 

 

「本当に久しぶりだ。元気そうで何よりだ」

 

 

「ええ!久しぶりね!」

 

 

俺が挨拶すると、ソファーに座っていたロバートさんとロザリーさんも挨拶を返してくれる。

 

 

「一夏君、座ったらどうだい?」

 

 

「そうですね、座らせてもらいます」

 

 

ロバートさんにそう言われたので、俺は開いているソファーに座り、ディミオスは俺の膝の上に座る。

何でこの部屋にはソファーが4つもあって、机も2つあるんだろうか。

ソファー自体も物凄く高そうだし、部屋に飾ってある骨董品も高そうだ。

 

 

「では、私は紅茶を淹れてまいります」

 

 

チェルシーはそう言って頭を下げると、部屋から出て行った。

あ、チェルシー.....

俺は出て行った扉を見つめていたが、何時までもこうしていると怪しまれると思い、視線を戻す。

 

 

「それにしても、本当に久しぶりね!見ない間に本当に成長したわね!」

 

 

すると、改めてロザリーさんがそう言って下さる。

 

 

「そうですかね?自分では良く分からないんですが...?」

 

 

「そうよ。顔つきも雰囲気も大人になってるわ」

 

 

そう言われて、俺は反射的に自分の頬を触る。

そうかなぁ...?

 

 

「確かにここ最近は1日10時間くらい仕事をしてるから多少はそうか...?」

 

 

「10時間ですか!?」

 

 

「ん?声に出てたか?」

 

 

《ああ、出てたぞ》

 

 

エクシアの驚きの声でさっきのが声に出てた事に気付く。

見ると、ロバートさんとロザリーさんは若干引いてて、セシリアは納得という表情をしていた。

まぁ、セシリア以外は俺が普段から仕事してることも、夏休みに仕事が山のようにある事も知らないか...

 

 

「一夏君、君は本当に高校生かい?」

 

 

すると、ロバートさんが苦笑いしながらそう尋ねて来る。

それに対して俺も苦笑いしながら

 

 

「定期的に良く言われますが、俺は高校生ですよ。ただ、世界で2人しかいない男性IS操縦者の1人で、『PurgatoryKnights』所属なだけで」

 

 

そう返す。

 

 

「君は凄いな...」

 

 

「いえいえ、俺はそんなに凄くないですよ。俺以上に頑張ってる皆さんがいるので」

 

 

そこから、暫くロバートさん達と談笑する。

IS学園での生活や、オルコット家の皆さんの生活の事などを話していると、部屋にノック音が響き、

 

 

『チェルシーです、紅茶をお持ちしました』

 

 

といった声が部屋に響く。

チェルシーだぁ!

 

 

「入っていいわよ」

 

 

「失礼します」

 

 

ロザリーさんの声に応じて、チェルシーが部屋に入って来る。

その手にはトレイが乗っており、そのお盆には紅茶が入ったカップとお茶菓子。

あんなに乗ってるのにバランスを崩さず運べるのは凄い。

それに、あの真剣そうな表情が良い!

 

 

「お嬢様、代表候補生管理官の方から書類が届いておりました」

 

 

すると、チェルシーはトレイを持ったまま書類をセシリアに渡す。

それを受け取ったセシリアはその書類を確認する。

 

 

「すみません、急遽この書類を提出との事なので、私はこれで...」

 

 

「ああ、セシリア。頑張ってこい」

 

 

ロバートさんの言葉にセシリアは頷くと、そのまま部屋から出て行く。

やっぱり代表候補生っていうのは大変だな。

俺がそんな事を考えていると、チェルシーは全員の前に紅茶を置いていく。

その動作1つ1つが洗練されてて、俺は見惚れてしまう。

これも、チェルシーだからかな?

 

 

「お嬢様の分が余ってしまいましたわね」

 

 

「あら、ならチェルシーが飲むといいわ。休憩も必要よ?」

 

 

「奥様...そうですね、そうさせていただきます」

 

 

ロザリーさんの提案によって、チェルシーも紅茶を飲む事にしたようだ。

俺の隣に腰かける。

今の座り方は、ロバートさんとロザリーさんが1つのソファーに座っていて、その前にエクシア。

そして、エクシアが座ってるソファーの隣のソファーに俺とチェルシー。

今チェルシーの横顔を眺められないのが少し悔しい。

俺がそんな事を考えていると、何やらロバートさんとロザリーさんとエクシアが何かヒソヒソと話し始める。

チラッとチェルシーの事を見ると、チェルシーも不思議そうに3人の事を見ている。

だが、膝の上のディミオスは納得したかのように軽く頷いていた。

俺は取り敢えず紅茶を飲もうと手を伸ばす。

 

 

「お姉様とお兄様って、もう付き合ったんですか?」

 

 

「「ふぇあ!?」」

 

 

その瞬間に、エクシアにそう言われ俺とチェルシーは同時にそんな声を出す。

な、なななな!?

何で、急にそんな!?

顔が急速に赤くなっていくのが分かる。

隣を見ると、チェルシーもガッツリ顔を赤くして慌てていた。

 

 

《一夏、その反応は肯定だ》

 

 

「分かってるわ!」

 

 

自分でやって直ぐに分かった。

この反応は肯定だって。

エクシアたちの方を見ると、3人とも口元に笑みを浮かべていた。

 

 

「やっとですか!」

 

 

「おお、遂にか...」

 

 

「あらあら」

 

 

そして、3人ともそんな反応をする。

その事に思わず俺は視線を3人からずらす。

 

 

《前に言っただろう?前々からこの3人は気付いていたと》

 

 

「...確かに言われた」

 

 

完全に忘れてた。

 

 

「んふふ...お兄様、お姉様、お話詳しく!」

 

 

すると、エクシアがジリジリと詰め寄りながらそう言ってくる。

その後ろでは、ロバートさんとロザリーさんも興味津々という感じで此方を見てくる。

あそこまでテンションが高いロバートさんは初めて見る。

 

 

「チェルシー、如何する?」

 

 

「もう言わないといけないわね...」

 

 

俺とチェルシーはそう言い合うと、そのまま3人に説明をすることにした。

告白された状況を説明するというのは物凄く恥ずかしい。

俺とチェルシーは顔を真っ赤にしながら説明をした。

この時、俺がクラリッサを含め2人の女性と同時に付き合っている事を言っても、特に反応は無かった。

 

 

「えっと、これで全部ですね...」

 

 

俺とチェルシーが説明し終わると、エクシアが俺に近付いてくる。

そして、俺の右手を握って

 

 

「お兄様!お姉様の事をお願いします!!」

 

 

そう笑顔で言ってきた。

その事に、俺は少し拍子抜けてしまう。

 

 

「え?それで良いのか?俺、2人の女性と同時に...」

 

 

「はい!本人達が納得しているなら私達は何も言いませんし、お兄様みたいな素敵な男性でしたら寧ろそれくらい応援したくなります!」

 

 

エクシアがそう笑顔で言ってくる。

その事に俺は思わず顔を赤くしてしまう。

そして、チェルシーの方を見るとチェルシーも顔を赤くしていた。

...可愛いなぁ。

 

 

「本当に、良い青春ね~」

 

 

「ああ。微笑ましいな」

 

 

ロザリーさんとロバートさんは柔らかい笑みを浮かべながらそんな事を言ってくる。

 

 

「一夏!」

 

 

「え、ちょ、チェルシー!?」

 

 

すると、唐突にチェルシーが背中から抱き着いてくる。

 

 

「これで、認められたわね」

 

 

「まぁ、確かに」

 

 

「大好き!」

 

 

「.....俺もだ!」

 

 

そう言い合い、俺とチェルシーは笑い合う。

 

 

《はぁ...全く》

 

 

「これが、イチャイチャというもの...!」

 

 

「...甘いな」

 

 

「甘いわね...」

 

 

そんな声を聞きながら。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

オルコットの屋敷に来た翌日。

現在時刻は11:00。

俺は屋敷の厨房にいた。

 

 

昨日はあの後も談笑をして、食堂で夕食を食べ、普通に客室で寝た。

本当はチェルシーと一緒に寝たかったがセシリアが戻ってきてしまい言い出せなかった。

 

 

そして今日の朝、俺は身体を動かした後そのまま朝食を食べた。

チェルシーは勤務中という事もあり一緒に食べる事が出来なかった。

悲しいがそれは仕方が無い。

そして午前中は今日まで休暇のエクシアにディミオスと共にバディファイトを教えながら遊んでいると昼食準備の時間になった。

 

 

そんな時間に何で俺が厨房にいるかというと...

理由は簡単。

今日の昼食は俺が作るからだ。

俺が作って良いのかとも思ったが、ロバートさんが是非との事で厨房に話を通していたらしい。

作る相手はロバートさん、ロザリーさん、セシリア、エクシア、そしてチェルシーの5人。

さて、何を作ろうか...

 

 

(白式、白騎士、何が良いと思う?)

 

 

[そうだね...日本っぽいのが良いんじゃない?]

 

 

[そうですね、白式の言う通りイギリスでは滅多に食べられないものが良いんじゃないですか?]

 

 

(なるほどね...)

 

 

俺は2人のアドバイスを参考にしながら取り敢えずここにある食材を確認する。

結構いろいろあるな...

何だこの野菜。

見たこと無い。

....食べてみたいが、今回は人に食べさせる料理だから使うのは控えておこう。

 

 

「お、魚...冷凍ものだけど、しっかりとしてるから解凍すればそのまま使えるな」

 

 

まぁ、イギリスも島国だから、結構簡単に魚は手に入るのか。

マグロのサクにサーモン。

魚以外にも海老やイカ...

さっき調味料の所に酢があったな。

 

 

「良し、寿司だ!」

 

 

俺はそう言いながら酢を取り出し、シャリの為のご飯を炊き始める。

普通に米があって助かった。

米を炊いている間にマヨネーズソースを作っておく。

 

 

[マスター、お寿司握れるの!?]

 

 

(ああ。何回か握った事がある)

 

 

[な、なんでまた...]

 

 

(大体小学校3年くらいかな?その時から千冬姉は忙しかったけど、偶に帰って来るんだよ。帰って来た時には豪華な飯にしたかったけど何にしようか迷った時に、スーパーで超安売りされてたサーモンのサクがあったんだよ。それと同じく安かった酢を使ってなんちゃってで握ったのが始まり)

 

 

その後も何回か握ったし、バディワールドでは角王の方々に握るために1回本気でやった事がある。

魚はフグとかの免許いるやつ以外は全部捌けるし、魚の扱いも出来る。

 

 

「なかなか、寿司握ったことある高校生は少ないんじゃないかな?」

 

 

そんな事を考えていると、ご飯が炊きあがった。

俺はそのままご飯をボウルに移し、酢を混ぜ合わせる。

そして、大体混ざった所で冷やす。

本来はうちわが良いのだが、そんなもの無い為ただの板で冷やす。

結構やり辛いが何とか終わった。

 

 

「後は捌いて握るだけ...」

 

 

俺はそう呟くとさっき確認した魚を取り出し、捌く。

寿司のネタに使えそうなのはさっき確認した4つくらいなので俺はそのまま捌く。

そして、そのままシャリを手に取り握る。

余り長い事手に持っていたらなまってしまうので素早く。

多めに作ったサーモンの1部にマヨネーズソースを塗り、置いてあったガスバーナーで炙る。

何で置いてあるんだろう?

 

 

 

「良し、完成!」

 

 

そうして、俺は全ての寿司を完成させた。

まぁ、出来としては回転寿司レベルのものだが、十分だろう。

 

 

「ディミオス!運ぶの手伝って!」

 

 

《了解した》

 

 

寿司は鮮度が1番。

厨房と食堂は続いているとはいえ、一度に運んでしまった方が良い。

そうして、俺とディミオスで寿司を置いてあるプレートを1度に運ぶ。

喜んでくれると良いんだけどな...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

時刻は進み、現在22:20。

 

 

俺が作った回転寿司とかスーパーのお惣菜クオリティーの寿司だが、5人全員に喜んでもらえた。

白式や白騎士の言う通り、日本らしいものを作ったのが良かったのかな?

 

 

そして今、俺はチェルシーの部屋に向かっていた。

昼食の後、隙を見つけたチェルシーが俺に顔を赤くしながら

 

 

「あの、その...今日は、一緒に寝ない?」

 

 

と言ってきた。

これは断れる訳がない。

手には勿論チェルシーへのプレゼントが入った袋を持っている。

クラリッサにプレゼントをあげたのに、チェルシーにあげない訳がない。

ディミオスは客室で留守番。

 

 

《どうせイチャイチャするんだろ?胸焼けする》

 

 

との事。

イチャイチャって何だよ。

俺はやろうと思ってしてる訳じゃ無いんだが...

そんな事を思っていると、チェルシーの部屋の前に着いた。

俺はそのまま扉をノックする。

 

 

「チェルシー、一夏だけど」

 

 

『あ、入ってきていいわよ』

 

 

入室の許可を貰ったので、俺はそのまま部屋に入る。

 

 

「一夏!」

 

 

「チェルシー!」

 

 

その瞬間、チェルシーが俺に突っ込んで来た。

俺はそのままチェルシーの事を抱きしめる。

その瞬間に、チェルシーの温かさを感じる。

 

 

「チェルシー...」

 

 

「一夏ぁ...」

 

 

お互いに名前を呼び合いながら暫く抱きしめ合う。

そのまま暫く抱きしめ合っていたが、

 

 

「チェルシー、プレゼントがあるんだ」

 

 

俺のその言葉により、チェルシーは俺の胸に埋めていた顔を上げる。

 

 

「プレゼント?」

 

 

「ああ」

 

 

俺はそう言いながら、袋からラッピングされた箱を取り出し、チェルシーに差し出す。

 

 

「開けて良いの?」

 

 

「勿論!」

 

 

俺の言葉に応じて、チェルシーはラッピングをほどき、箱を開ける。

そして、その中身を見たチェルシーは驚いたような表情を浮かべる。

俺がプレゼントしたのは、耳に穴をあけないタイプのイヤリング。

ダイヤモンドがそれぞれに付いていて、デザイン自体はとてもシンプルな物。

クラリッサにプレゼントしたものよりもダイヤモンドのサイズは小さいが、2個使われているため値段は同じくらいだった。

 

 

「え、これ、え!?」

 

 

チェルシーはそんな驚きの声を発する。

 

 

「ん?如何した?」

 

 

「こ、こんな高級な物、貰っちゃって良いの!?」

 

 

チェルシーの問いに、俺は笑顔を浮かべながら

 

 

「当然!チェルシーの為に買ってきたんだから!」

 

 

そう返す。

すると、チェルシーは箱を机の上に置いて笑顔を浮かべながら

 

 

「ありがとう!嬉しい!!」

 

 

と俺に抱き着いてきた。

俺はそんなチェルシーの事を抱きしめ返す。

また暫く抱きしめ合っていたが、一回離れるとベッドの縁に腰を掛け、2人で談笑する。

 

 

「ねえ一夏。私明日と明後日休暇なの。だから、明日私と出掛けない?」

 

 

「お、勿論!チェルシーとだったら出掛けるに決まってるじゃん!」

 

 

そうして、俺は明日の予定が決まった。

いやぁ、楽しみだ。

その後、俺はチェルシーとも連絡先を交換した。

物凄く嬉しい。

そこから暫く談笑していると、23:00になった。

 

 

「じゃあ、チェルシー、そろそろ寝よう」

 

 

「そうね」

 

 

そうして、部屋の電気を消して、チェルシーが先にベッドに入り、俺も同じベッドに入る。

うん、やっぱり少しは緊張するけど嬉しさの方が上回る。

 

 

「ねぇ、一夏...」

 

 

すると、チェルシーがそう俺の名前を呼んでくる。

その声で、俺はチェルシーの事を抱きしめ

 

 

「チェルシー...」

 

 

名前を呼んでから、チェルシーにキスをする。

 

 

「ん、んん//」

 

 

キスをした時、チェルシーも俺の事を抱きしめ返してくる。

そして1分間近くキスをした後、1回唇を話す。

 

 

「おやすみ、チェルシー」

 

 

「うん、おやすみ、一夏」

 

 

そう言い合った後、再びキスをする。

そして、その後唇を離し、俺とチェルシーは眠りに付いた。

夏だというのに気にならないお互いの温かさを感じながら。

 

 

 

 




作者は某回転寿司チェーンで働いてます。
だから何だですけど。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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チェルシーとの初デート

前回の続き!
チェルシーとのデート回です。

今回もお楽しみください!


チェルシーside

 

 

「ん、んぅ...?」

 

 

自然と私の口からそんな声が漏れる。

身体を起こして、部屋に掛けてある時計に目を向ける。

時刻は、6時20分。

 

 

「朝...」

 

 

私はそう呟くとベッドから降り、身体を伸ばす。

そして、部屋に一夏がいない事に気が付く。

その事に、私は少し寂しくなってしまう。

私がクラリッサと共に一夏に告白し、付き合い始めてから今まで電話越しで声を聞くことしか出来なかったのに。

また会えたから、この後また会えるというのに寂しさを感じてしまうのでしょうか?

 

 

「一夏...」

 

 

私は、一夏の名前を呟きながら部屋の扉を見つめる。

 

 

「取り敢えず、着替えないと...」

 

 

私はそう言いながら部屋にあるクローゼットに向かう。

そして、その扉を開こうとした時、

 

 

「あれ、チェルシー。もう起きてたんだ」

 

 

と、部屋に私以外の声が響く。

私が部屋の扉に再度視線を移すと、そこには一夏がいた。

一夏の服装は昨日寝る前に着てたものとは違う、普通の私服。

髪などが整ってるので、恐らくシャワーを浴びた後なのでしょう。

 

 

「おはよう、チェルシー」

 

 

私がそんな事を考えていると、一夏が笑顔で挨拶してくる。

カッコイイ...

 

 

「お、おはよう。一夏」

 

 

私はついつい一夏に見惚れてしまっていましたが、現実に戻ってきて一夏に挨拶をする。

 

 

「えっと、何してたの?」

 

 

「朝の訓練。終わったからチェルシーを起こそうと思ったんだよ」

 

 

私が訪ねたことに、一夏は笑顔のまま答えてくれる。

何でわざわざ起こしに来てくれたんでしょう?

すると、一夏は私に近付いて

 

 

「今日はお出かけだからね。なるべく長い時間チェルシーといたかったからさ」

 

 

と私の事を抱きしめながらそう言ってくれる。

その瞬間に、私の顔は一気に赤くなる。

そんなに私の事を考えてくれて...

あれ?

そう言えば...

 

 

「一夏、なんで私の考えてることが分かったの?」

 

 

「チェルシーの表情が、起こしに来た理由を聞きたそうにしてたから」

 

 

私の疑問に一夏がサラッと答える。

そ、そんなに分かりやすかったのですか...

 

 

「じゃあ、チェルシー、そろそろ食堂に行こう」

 

 

すると、一夏がそう私の顔を見ながらそう言う。

 

 

「そうね、行きましょう」

 

 

私がそう言うと、一夏は抱きしめていた私の身体を離す。

仕方が無いとはいえ、名残惜しい...

そうして、私と一夏は並んで食堂へと向かう。

今日のお出かけ、楽しみ!

 

 

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一夏side

 

 

朝食後、俺は玄関前に私服で立っていた。

チェルシーは準備との事でまだ来てない。

まぁ、こうやって待ち合わせするのはデートっぽくていい。

いいのだが、俺には1つ問題がある。

 

 

「...近くの店が何も分からん!」

 

 

そう、俺はイギリスの土地勘が全くないのだ。

ドイツの時も土地勘は全く無かったが、あの時はクラリッサに案内される形で街に行き、その場で案内板を見てからデートを開始した。

だが、イギリスにも案内板があるとは限らない。

それに今回は最初からデートなのだ。

最初からそういう目的なら、最初から多少なりとも店の事を知っていた方が良いだろう。

だが、全く分からん。

 

 

「最初はチェルシーの希望に合わせる形で、それが終わったらブラブラするか...」

 

 

もうそうするしかない。

なんか、不甲斐ない...

だが、その時々の俺の行動でチェルシーが楽しめるかが決まる。

俺が頑張らないとな!

俺がそんな事を考えていると、

 

 

「一夏、お待たせ!」

 

 

と、チェルシーが玄関から出て来た。

チェルシーの服装は当然ながら何時ものメイド服では無く、私服。

白を基調とした明るめの服装で、とてもチェルシーに似合ってる。

可愛い!

 

 

「チェルシー、その服似合ってるよ」

 

 

俺が素直にチェルシーの事を褒めると、チェルシーは笑みを浮かべて、

 

 

「ありがとう、一夏」

 

 

と言ってくる。

 

 

「一夏も、その服似合ってるわよ」

 

 

「ありがとう」

 

 

そう言い合って、チェルシーは俺の隣に立つ。

 

 

「それで、チェルシーは何がしたい?」

 

 

俺は取り敢えずチェルシーがやりたい事を尋ねる。

するとチェルシーは

 

 

「そうね...この近くの繁華街で、新しい服が欲しいわ」

 

 

「OK、服ね」

 

 

やっぱり女子は服を買うのが好きなのかな?

まぁ、チェルシーが楽しんでくれたらそれでいいや。

 

 

「じゃあ、時間が勿体ないしそろそろ行こうか?」

 

 

店の事は分からなくても、流石に繁華街の場所くらいは分かる。

 

 

「ええ、そうね」

 

 

チェルシーが頷いた事を確認すると、俺はチェルシーの手を握る。

握り方は、恋人繋ぎで。

 

 

「え、一夏!?」

 

 

チェルシーは顔を赤くしながらそんな声を発する。

 

 

「嫌だったか?なら止めるけど...」

 

 

「違う!嫌な訳がないじゃない///」

 

 

チェルシーは更に顔を赤くしながらそう言う。

俺は笑みを浮かべながら

 

 

「それは良かった。さぁ、行こう!」

 

 

チェルシーにそう声を掛ける。

 

 

「うん、行こう!」

 

 

チェルシーはそう頷き、目的の繁華街に歩き始める。

そして、当然俺もチェルシーのペースに合わせながら歩く。

 

 

暫くチェルシーと共に談笑しながら歩いていると、目的の繁華街に着いた。

うん、さっぱり分からない。

 

 

「チェルシー、目的のお店はどれ?」

 

 

「えっと...あれね」

 

 

チェルシーはそう言いながら、とあるお店を指さす。

 

 

「あそこか」

 

 

俺はそう呟くと、また2人で移動し始める。

その道中、周りの店を確認することを忘れない。

お金はそこそこ持ってきた。

多少料金は高くてもチェルシーが満足できるようにしないとな。

そんな事を考えていると、そのお店の前に着いた。

なんか、そこそこ高そうなお店...

 

 

「此処か?」

 

 

「うん、此処」

 

 

クラリッサが頷いた事を考えると、俺はその店の扉を開ける。

扉を開いた瞬間、目に入るのは女性モノの夏服と秋服。

なるほど、確かに服屋は先のシーズンのものをかなり早く売るもんな。

 

 

「チェルシーは夏服と秋服どっちを買うんだ?」

 

 

「どっちも」

 

 

「了解。先ずは夏服か?」

 

 

「うん」

 

 

チェルシーの言葉に従い、俺とチェルシーは一先ず夏服を見る。

...女性モノは良く分からないな...

俺はそんな事を考えながら名残惜しいが握っていた手を離す。

 

 

「あ...」

 

 

チェルシーは残念そうな声を漏らす。

だが、何時までも握っていたままだと服を選べないので離すしかないのはチェルシーも分かってるので、それ以上の反応は無かった。

そうして、2人で夏服を選ぶ。

選ぶと言っても、チェルシーが基本的に探して、偶に俺の意見を聞いてくる感じだ。

 

 

「んー...こっちとこっち、どっちがいいと思うかしら?」

 

 

そう言ってチェルシーは2つの服を俺に見せて来る。

半袖で袖元と首元がレースになっている白いブラウスと、淡い青の半袖シャツ。

 

 

「どっちもチェルシーに似合うと思うけど...」

 

 

そうだな...

 

 

「ブラウスの方かな?そっちを着たチェルシーの方が可愛いと思うぞ」

 

 

俺がそう言うと、チェルシーは顔を赤くする。

何で....あ。

俺、服じゃなくてチェルシーが可愛いって言ってた。

まぁ、事実だし特に問題は無い。

 

 

「じゃ、じゃあ、こっちにするわ」

 

 

チェルシーは顔を赤くしたまま青いシャツを戻し、ブラウスを買い物かごに入れる。

そして、そのまま何着か夏服を選び、今度は秋服だ。

 

 

「秋服は試着した方が良いんじゃないか?」

 

 

「そうね...そうするわ」

 

 

俺の言う通り、チェルシーはよさげな秋服を選び、試着室に入っていく。

俺は試着室で待つこと10分。

試着室のカーテンが開き、

 

 

「一夏...如何?」

 

 

と、チェルシーは俺に聞いてくる。

それを見た俺は、思わず目元を隠しながら視線をそらしてしまう。

 

 

「い、一夏、如何したの?」

 

 

すると、チェルシーは心配そうに俺にそう言ってくる。

 

 

「いや、その...チェルシーが可愛くて、直視できない...」

 

 

俺は顔を赤くしながらそう言う。

それを聞いたチェルシーも顔を赤くする。

今チェルシーが着てるのは、赤を基調としたニット。

少しゆったりとしたその服は、抜群にチェルシーに似合ってた。

物凄く可愛い!

 

 

「本当に可愛い...」

 

 

「も、もう!分かったから///」

 

 

チェルシーは顔を赤くしたまま試着室のカーテンを閉める。

そして、俺はその間に赤くなった顔を落ち着かせる。

何とか落ち着いたところでカーテンが開き、先程までの私服に着替え直したチェルシーが、試着していたニットを手に持って出て来た。

赤かった顔も元に戻っているが、口元はにやけていた。

そんな表情も良い!

 

 

「これにするわ」

 

 

チェルシーはそう言いながらそのニットをかごに入れる。

 

 

「他のも見る?」

 

 

「そうするわ」

 

 

チェルシーはそう言うと、別の服を探し始める。

 

 

そこから、何着か秋服を試着して、買うものが決まった。

どれも凄い似合ってたが、流石に全部は買えないのでかなり俺も悩んだ。

 

 

「そうだ、一夏は服はいいの?」

 

 

すると、チェルシーがそう聞いてくる。

服か...

ドイツで夏服は買ったが、秋服は買って無かったな。

どうせ仕事が忙しくて買いに行く暇はないし今買うのが良いのかもな。

 

 

「確かに欲しい。けど、俺の服も選んでいいのか?」

 

 

「いいに決まってるじゃない」

 

 

チェルシーの許しを得たので、2人で男性モノが置いてあるエリアに移動する。

 

 

 

 

「日本よりかは男性モノの種類が多いな...」

 

 

確か臨海学校前に行った水着の店も男性モノは少なかったし、通販でさえも日本のサイトのものは男性モノが極端に少ない。

これも、日本の女尊男卑が激しいからか。

 

 

「その女尊男卑の原因の女性権利団体からも仕事が増えて来てるからな...」

 

 

俺はそう呟きながら服を選ぶ。

如何しようかな...

 

 

「これかな?」

 

 

俺はそう言いながら1つの服を手に取る。

その服は、チェック柄で赤がメインのニットシャツ。

 

 

「取り敢えず試着するか...」

 

 

そうして、俺とチェルシーは試着室に行き、俺は中に入る。

そして試着する。

暖色系の服だなんて小学生の時以来着てないので違和感が凄い。

 

 

「チェルシー、如何かな?」

 

 

俺はカーテンを開き、チェルシーに尋ねる。

するとチェルシーは顔を赤くしながら

 

 

「カッコイイ...」

 

 

そう言ってくれる。

そう言われて俺も笑みを浮かべる。

 

 

「赤メインでニット生地だからお揃い?」

 

 

俺は何となくそう呟く。

そう言った後で自分の顔が急速に赤くなっていく事が分かる。

チェルシーの方を見ると、さっきまでよりも更に顔が赤くなってる。

 

 

「じゃ、じゃあこれにしよう」

 

 

俺はそう言いながらカーテンを閉め、さっきまで着てた私服に戻り、このニットシャツをかごに入れる。

そこから俺の秋服も何着か決め、レジに向かう。

そして店員さんはレジに服を通していく。

 

 

「It's a total of 372 pounds(合計372ポンドです)」

 

 

そこそこするなぁ...

日本円で56000円か...

俺はチェルシーが財布を取り出す前に自分の財布を取り出し、372ポンド支払う。

 

 

「Thank you for your purchase(ご購入いただきありがとうございます)」

 

 

そのまま商品を受け取り、店の外に出る。

 

 

「買ったなぁ...」

 

 

俺がそんな事を呟くと、

 

 

「い、一夏!?その、お金...!」

 

 

チェルシーが慌てたようにそう言ってくる。

 

 

「いいっていいって」

 

 

「いや、でも...!」

 

 

「デートっていうのは、男が支払うものだろ?」

 

 

俺がそう言うと、チェルシーは顔を赤くする。

可愛い。

 

 

「じゃあ、次何か食べる?」

 

 

「そうね...何かスイーツ食べたいわ」

 

 

「スイーツ...」

 

 

俺はそう言いながらあたりを見回す。

そして、あるドーナツの店を見つける。

 

 

「ドーナツとか?」

 

 

俺はそのドーナツ屋を指さしながらそう言う。

 

 

「ドーナツ...いいわね!」

 

 

チェルシーが頷いた事を確認したので、俺とチェルシーは移動する。

当然、恋人繋ぎをしながら。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

時刻は進み、現在22:40。

俺はチェルシーの部屋にいた。

今日もディミオスは留守番。

ディミオス曰く

 

 

《本当に、胸焼けする...》

 

 

との事。

 

 

デートは、夕方ギリギリの時間まで2人で過ごし、時間になるとそのまま屋敷に戻った。

ロバートさんやロザリーさんにエクシアは俺とチェルシーが付き合っている事を知ってるし、セシリアは今日は代表候補生の云々があったらしく、ギリギリまで外に出てても特に何も言われなかった。

そして、その後はロバートさん達と共に夕食を食べた。

俺は明日にはイギリスを出発しないといけない。

仕事が忙しすぎて本当にゆっくりできない。

悲しいが、これは仕方が無い。

本当に、恋人とゆっくり過ごしたいんだがな...

 

 

「一夏、今日はありがとう」

 

 

俺がそんな事を考えながらチェルシーと共にベッドの縁に座っていると、チェルシーはそう言ってきた。

 

 

「今日は楽しかった?」

 

 

「うん、凄い楽しかった。一夏と一緒だから、本当に凄く楽しかった」

 

 

俺がそう尋ねると、チェルシーは笑顔でそう言ってくれる。

それにつられて俺も笑顔になる。

 

 

それから、俺とチェルシーは暫くの間談笑した。

恋人の隣で、恋人と会話をするだけで物凄く幸せだ。

俺がふと時計を見ると、時刻は23:00になっていた。

 

 

「チェルシー、そろそろ寝る?」

 

 

俺はチェルシーの方を見ながらそう尋ねる。

すると、チェルシーは何も言わず俺の方にもたれかかって来る。

急な事に俺が身体をビクっとさせると、チェルシーはそのまま俺の腰に両腕を回してくる。

 

 

「一夏...」

 

 

「ちょ!?チェルシ」

 

 

俺がチェルシーの名前を呼び終わる前にチェルシーは俺にキスをしてくる。

 

 

「ん、んぁ、んぅ...」

 

 

「ん、んちゅ、んぁ...」

 

 

もう何分キスしたか分からなくなったところで、チェルシーは唇を離す。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 

「ふぅ、はぁ、はぁ」

 

 

唇を離したことで、俺とチェルシーは荒く呼吸をする。

 

 

「チェルシー、如何した?」

 

 

俺は、チェルシーにそう尋ねる。

だが、チェルシーはそれに答えず、逆に別の質問をしてくる。

 

 

「一夏。クラリッサとは、シタの?」

 

 

その、質問を。

 

 

「そ、その、シタっていうのは...」

 

 

「そういう行為の事よ」

 

 

チェルシーにそう言われ、俺は顔を赤くする。

 

 

「シ、シタよ」

 

 

俺は視線を泳がせながら、素直にそう答える。

すると、チェルシーは俺の腰に回している腕に力を籠めて来る。

それに伴って、俺の腰が締め付けられるがもう気にならない。

 

 

「...ズルいわね」

 

 

すると、チェルシーはボソッと呟く。

ズルい?

俺が疑問を感じていると、チェルシーは言葉を続ける。

 

 

「同じタイミングで、同じ恋人になったのに。行為はクラリッサだけがもう済ませてるなんて...」

 

 

それを聞いて、俺は右手を握りしめる。

確かに、そう思ってしまっても仕方ないかもしれない。

チェルシーにそんな辛い思いをさせてたなんて...

織斑一夏、覚悟は出来てるだろ!

 

 

「チェルシー」

 

 

「え、きゃ!?」

 

 

俺は方にもたれかかってきていたチェルシーの両肩を掴み、そのままベッドに押し倒す。

そして、

 

 

「ん...」

 

 

「ん、んん!?」

 

 

チェルシーに対してキスをする。

そのキスは、舌を絡ませ合うディープキス。

 

 

「ん、んちゅ、あ、んん...」

 

 

「んぁ、んぅ...んんん...」

 

 

俺とチェルシーから漏れる声と同時に、唾液が絡まり合う音が部屋に響く。

唇を離すと、唇と唇を繋ぐように銀の唾液の線ができる。

 

 

「チェルシー、ごめんな。辛い思いさせて。でも、これは言わせてくれ。順番とか、そう言うのは関係ない!俺は、チェルシー・ブランケットの事を心から愛してる!」

 

 

俺がそう言い切ると、チェルシーも笑みを浮かべて、

 

 

「ありがとう、そして、私も一夏の事を、愛してる!」

 

 

と言ってくれた。

それに俺も笑みを浮かべるとチェルシーが着ている服に手を掛ける。

チェルシーは抵抗せず、そのまま服を脱がされ、下着に包まれた女性特有の膨らみが目に入る。

 

 

「チェルシー...」

 

 

「一夏...」

 

 

俺とチェルシーは名前を言い合うと、再びキスをする。

そして、その間に俺は自分の着ている服を脱ぐ。

唇を離し、お互いの眼を見つめ合う。

 

 

「チェルシー...!」

 

 

「一夏ぁ...!」

 

 

お互いの名前を言い合う。

 

 

 

 

そうして、俺は、チェルシーと朝まで愛し合った...

 

 

 

 




イギリスの服屋なんて分からないので作者の想像です。

そして、一夏、チェルシー、おめでとう!
お幸せに!

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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帰宅と仕事

前回の続き。
サブタイからにじみ出る苦労。

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

「ん、ぁ...」

 

 

眼を開けるときに、自然とそんな声が漏れる。

そして眼を開けると、全裸のチェルシーと目が合う。

 

 

「「っ...///」」

 

 

その瞬間に、俺とチェルシーは同時に顔を真っ赤にする。

そして、全裸で抱き合っているチェルシーと自分の身体を見る事で、寝る前までの行為を思い出す。

 

 

「お、おはよう。チェルシー」

 

 

俺は取り敢えず笑顔でチェルシーに挨拶をする。

すると、チェルシーも

 

 

 

「おはよう、一夏」

 

 

と挨拶を返してくれる。

そして、チェルシーはそのまま俺の胸に頭を押し付けて来る。

 

 

「一夏...今、凄い幸せ...」

 

 

そして、チェルシーはそう言ってくれる。

俺はそんなチェルシーの頭を撫でながら

 

 

「俺も幸せ」

 

 

そう返す。

そこから暫く俺とチェルシーは裸のまま抱きしめ合う。

 

 

「チェルシー、そろそろ服着ようか?」

 

 

俺がそう言うと

 

 

「そうね...」

 

 

チェルシーは名残惜しそうに俺の事を離す。

俺もチェルシーの事を離すと、チェルシーはベッドから降りて、脱ぎ捨ててあった下着を身に着ける。

カーテンの隙間から部屋に差し込んでいる光によって、チェルシーの姿が幻想的に浮かび上がる。

その事に、俺は思わず赤面してしまう。

 

 

「一夏?如何したの?」

 

 

そんな俺に、チェルシーはそう尋ねて来る。

 

 

「いや、その...チェルシーが、幻想的で、綺麗だったから...」

 

 

俺がそう言うと、チェルシーも顔を赤くする。

俺の恋人は2人とも、可愛くて、綺麗だな...

俺はそんな事を考えながら自分の服を着る。

そして、俺とチェルシーは完全に服を着終わった。

 

 

「6:55か...」

 

 

俺は時計を見てそう呟く。

もうそろそろ食堂に向かっておいた方が良いだろう。

 

 

「じゃあ、チェルシー。食堂に行こうか」

 

 

「そうね、もう行った方が良いわね」

 

 

俺がチェルシーにそう尋ねると、チェルシーは頷く。

俺はそれを確認してから、チェルシーの隣に立つ。

 

 

「チェルシー、愛してる」

 

 

そして、チェルシーの事を見つめながらそう言う。

チェルシーは驚いたような表情を浮かべた後、笑顔になって

 

 

「私も、一夏の事を愛してる」

 

 

と言ってくれる。

俺はそんなチェルシーの頬に手を置いて、そのままチェルシーにキスをする。

 

 

「ん、んん...」

 

 

「んぁ、んぅ...」

 

 

そして、1分くらいキスをした後、そのまま唇を離す。

 

 

「じゃあ、行こう」

 

 

「ええ、行こう」

 

 

そうして、俺とチェルシーは食堂に向かう。

ギリギリまで恋人繋ぎをしながら。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

朝食を食べ終え、自分の手荷物も纏めた。

後は空港に行って、飛行機に搭乗するだけ。

そんな状況で俺は荷物全てを持ち、ディミオスと共に屋敷の玄関前に立っていた。

俺の前には、ロバートさんとロザリーさんとエクシア。

これから出発なので、見送ってくれるらしい。

チェルシーとセシリアは空港まで来てくれるが、ロバートさん達は仕事もあるのでここでお別れだ。

 

 

「お世話になりました。また余裕が出来たら遊びに来させてもらいます」

 

 

俺はロバートさんとロザリーさんに向かって笑顔でそう言う。

 

 

「また、何時でも遊びに来てくれ。歓迎するぞ」

 

 

「やっぱり、一夏君がいると楽しいわ!また会えるのを楽しみにしておくわ!」

 

 

ロバートさんとロザリーさんがそう言ってくれたので、俺は笑顔のまま頷く。

そして、俺は身体の向きをエクシアの方に向ける。

 

 

「エクシアも元気でいろよ。これからも頑張れ」

 

 

「はい!お兄様も、頑張って下さい!」

 

 

そして、俺とエクシアは笑い合い、俺は半分無意識にエクシアの頭を撫でる。

 

 

「....いい」

 

 

エクシアは気持ちよさそうに目を細めてそう声を漏らす。

 

 

[[羨ましい...]]

 

 

その瞬間に、白式と白騎士がそんな声を漏らす。

 

 

(飛行機の中で撫でてやるから)

 

 

[約束ですよ!]

 

 

(ああ)

 

 

そんな風に白式と白騎士の2人と話していると、ディミオスがエクシアたち3人と会話をしていた。

そして、会話が終わる。

 

 

「じゃあ、また会える日まで!」

 

 

《また会える日を楽しみにしている》

 

 

「一夏君、頑張れ」

 

 

「私達も、また会えるのを楽しみにしてるわ!」

 

 

「お兄様、また会いましょう!」

 

 

最後にそう言い合い、俺は手を振りながら車に向かう。

 

 

俺が車に着くと、車の前で待っていてくれたチェルシーとセシリアが手を上げてくれる。

 

 

「お父様達との会話は終わったんですの?」

 

 

「ああ。終わったよ。じゃあ、行こうか」

 

 

俺はそう言い、荷物を車に乗せる。

この時に、チェルシーと運転手の男性も手伝ってくれる。

そして荷物を全て車に乗せるとディミオスがカードになり俺の胸ポケットに入って来る。

それを確認して、セシリア、チェルシー、俺の順番で車の後部座席に乗る。

運転手の男性は運転席に乗り込み、車を発進させる。

俺は車の中で、チェルシーの事を見る。

チェルシーは今日まで休暇なのでメイド服では無く私服。

昨日買った白いブラウスを早速着ている。

物凄く可愛い。

何時までも見つめていたいが、この場にはセシリアもいるので俺は直ぐに視線を戻す。

 

 

暫くそのまま車が走り、空港に着いた。

俺は車を降り、荷物を全て持つ。

 

 

「お嬢様、私はここでお待ちしてます」

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

運転手の男性はそう言うと、そのままその場に立っている。

俺は男性に頭を下げてから空港に入る。

そして、俺は手荷物を預ける手続きをする。

これで今俺が持ってる荷物はPCとかが入ってるリュックのみ。

 

 

「セシリア、また学園で。チェルシーさんは、お元気で」

 

 

出国検査ゲート前で、俺はセシリアとチェルシーに向かってそう言う。

セシリアがいるのでチェルシーに対して敬語を使わないといけないので、少し寂しい。

やっぱり恋人には普通に話したいな...

 

 

「ええ、一夏さん。また学園で会いましょう」

 

 

「一夏。元気でね」

 

 

俺の言葉に、セシリアとチェルシーがそう返してくれる。

 

 

「ああ、またな!」

 

 

俺はそう言って手を振ってからゲートに向かう。

セシリアとチェルシーも俺に手を振ってくれる。

そして、手続きを始めるときにチェルシーと視線を合わせて、同時に笑う。

手続きを完了したので、俺はゲートを潜り搭乗ゲート前に向かう。

後は普通に飛行機に乗り込むだけ。

現在時刻は11:30。

日本とイギリスの時差は9時間で、フライト時間は12時間なので、日本に着くころには翌日の8:30だろう。

ドイツもイギリスも楽しかったなぁ...

クラリッサとチェルシーに会えたってだけで物凄く嬉しいのに、シュヴァルツェ・ハーゼのみんなやロバートさん達に会えたから、楽しかった。

 

 

[マスターは、恋人さんにデレデレでしたね...]

 

 

ゲート前の椅子に座ると、白騎士がそう声を掛けて来る。

 

 

(そうだな...まぁ、クラリッサとチェルシーだからな!)

 

 

[如何いう根拠?]

 

 

(まぁまぁ、白式。細かいことは気にするな)

 

 

そこから暫く白式と白騎士の2人と会話してると、搭乗のアナウンスが流れる。

そのアナウンスの指示に従い俺は手続きをして飛行機に乗り込み、ビジネスクラスの自分の座席に向かう。

そして、PCだけを取り出してリュックを仕舞う。

そのまま座り、PCを起動させる。

さて、仕事はどのくらい来てるのか...

 

 

「おい、ふざけんなよ...」

 

 

何でこんなに来てるんだ...

どうやったら1週間も経って無いのに書類が3000枚溜まってんだよぉ!!

 

 

[マスター...大丈夫?倒れない?]

 

 

白式が心配そうに声を掛けてくれる。

 

 

(ああ、大丈夫だ)

 

 

さっきまで高かったテンションは一気に下がった。

だが仕方が無い。

 

 

(取り敢えず、白式と白騎士の頭撫でる。今からそっち行く)

 

 

[分かりました、マスター!]

 

 

白騎士がそう返事をする。

先ずは、白式と白騎士と話してテンションを上げよう。

俺はそう思いながらポケットに入っているダークコアデッキケースを触り、意識を白式と白騎士がいる空間へと意識を飛ばすのだった...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

マドカside

 

 

夏休みも始まって1週間とちょっとたった日。

私はシャルさんと共に『PurgatoryKnights』本社に向かっていた。

 

 

お兄ちゃんは今、海外に行っている。

確か、今はイギリスだったかな?

海外に行く前に物凄い量の仕事をしてから心配だったけど、無事に海外に着いたみたいで良かった。

 

 

そして、シャルさんは2日前に日本に戻ってきていた。

昨日は時差ボケによってダウンしてたシャルさんだけど、今日は元気になったみたい。

 

 

「ねぇ、マドカちゃん」

 

 

「シャルさん、如何しました?」

 

 

道中の電車の中、シャルさんが私に呼びかけて来る。

私がそれに反応すると、シャルさんは

 

 

「今日何で僕たちが会社に呼ばれたのか知ってる?」

 

 

そう聞いてきた。

私達が会社に向かっている理由。

それは、『PurgatoryKnights』開発主任が束さんだと説明するためだ。

説明するタイミングが無いとかで結局1学期には説明できてなかったから、夏休みだししちゃおうっていう事らしい。

 

 

「うちの開発主任がシャルさんに挨拶したいって言ってましたよ」

 

 

「開発主任...確かに会った事無いね」

 

 

私の説明でシャルさんは納得したらしい。

そのままシャルさんと雑談しながら移動し、遂に会社に着いた。

 

 

「えっと...先ずは社長に会いに行きましょう」

 

 

「そうだね、そうしよう」

 

 

私とシャルさんはそう会話をしたのち、更衣室で制服に着替えて社長室に向かう。

そして、社長室に着いた。

シャルさんは社長室の扉を4回ノックする。

 

 

「社長、シャルロット・デュノアと織斑マドカです。入っても宜しいでしょうか?」

 

 

『あら、入っていいわよ』

 

 

入出の許可を貰ったので、私とシャルさんは扉を開け

 

 

「「失礼します」」

 

 

と頭を下げながら社長室に入る。

 

 

「2人とも、いらっしゃい」

 

 

すると、社長席に座っていたスコールが顔を上げてそう言ってくる。

 

 

「社長、お久しぶりです」

 

 

「お久しぶりです」

 

 

...スコールに敬語を使うのに違和感がある。

前々から普通に喋っていたからね...

 

 

「今日は如何いう理由できたのかしら?特に呼んでは無かったわよね」

 

 

スコールは確認するようにそう呟く。

 

 

「はい、主任がシャルさんに会いたいという事で。先に社長に挨拶しようと思いまして」

 

 

「あら、そうなの。じゃあ今から呼ぶわ」

 

 

私が説明をすると、スコールは置いてある通信機から通信を入れる。

 

 

「...ええ、こっちに来てるわよ。だから来ちゃいなさい...分かったわ、待ってるわ」

 

 

そして、スコールはその通信機を元に戻す。

 

 

「今呼んだからもう直ぐ来ると思うわ。だから座って少し話しましょう」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

シャルさんはそう言ってソファーに座る。

私もシャルさんの隣に座る。

 

 

「2人とも、学園生活は楽しい?」

 

 

そしてスコールはそう質問してくる。

 

 

「ええ、楽しいですね。一夏や他の専用機持ちのみんなとわちゃわちゃしてます」

 

 

それに対して、シャルさんがそう笑顔で答える。

そこから、私達3人で談笑する。

そうして大体15分くらいたったところで、廊下から足音が聞こえてくる。

私達が同時に視線を扉に向けると、バーンと扉が開き

 

 

「マドちゃんやっほー!久しぶり!そしてシャルちゃん!ちゃんと話すのは初めてだね!」

 

 

と、主任こと束さんが勢いよく入って来た。

 

 

「し、篠ノ之博士!?」

 

 

シャルさんは物凄く驚いたようにそう声を発する。

まぁ、そりゃそうだよね...

 

 

「私が『PurgatoryKnights』開発主任の篠ノ之束さ!」

 

 

そして束さんはキラーンという効果音が入りそうな感じで親指を立てる。

 

 

「え、え、え!?」

 

 

シャルさんは今だ混乱してる感じでそう視線をぱちぱちさせてる。

 

 

「シャルさん、落ち着いて下さい」

 

 

私はシャルさんを落ち着かせるために声を掛ける。

そこから5分くらいの時間を使い、シャルさんは何とか落ち着いた。

 

 

「ま、まさか篠ノ之博士が開発主任だったなんて...」

 

 

「まぁ、束が開発主任だったことは全く知られてないからね」

 

 

シャルさんの呟きにスコールがそう言う。

 

 

「さてさて、本日2人を呼んだのは他ではない!ISの整備をするためさ!」

 

 

「え!?でも、本国でやりましたし、そもそも勝手にされるのは...」

 

 

「ノンノン!束さんはISの開発者だよ?他の凡人では分からないことまで整備できるし、そもそもシャルちゃんは『PurgatoryKnights』所属でもあるから『PurgatoryKnights』開発主任の束さんが整備しても何も問題は無いのさ!」

 

 

束さんは人差し指を立てて横に振りながらそう言う。

そして、シャルさんは納得したように頷いた。

 

 

「私の銃騎士は殆ど使ってないぞ」

 

 

臨海学校の暴走事件では使う機会がありそうだったが結局お兄ちゃんが1人で撃退しちゃったから使わなかった。

 

 

「使って無くても整備は必要だよ!」

 

 

「...確かにな」

 

 

私がそう言うと、束さんは一瞬で真面目な顔になる。

 

 

「2人には、いっくんをサポートしてもらうんだから」

 

 

「「っ!」」

 

 

その瞬間に、私とシャルさんに緊張が走る。

 

 

「2人とも知っているとは思うけど、いっくんは仕事し過ぎてる。高校生とは思えないくらいに」

 

 

「ええ...でも、一夏にしか出来ないのよね...」

 

 

束さんの言葉に続き、スコールがそう言う。

その表情は、何もしてあげられないのが悔しいと言わんばかりのものだった。

 

 

「束さんには、悔しいけどいっくんに対してのサポートが大々的に出来ない。だから、2人にはいっくんをサポートしてほしいんだ」

 

 

「だから、ISは万全にしておく必要があると?」

 

 

「うん。最近IS学園では事件が起こってるからね」

 

 

その瞬間に、私とシャルさんは更なる衝撃を受ける。

確かに、そうなって来るとISは万全にしておかないといけない。

 

 

「だから、2人にはそういう想定を含めていっくんのサポートをしてほしいんだ。お願い」

 

 

そして、束さんは頭を下げる。

私とシャルさんはいったん顔を見合わせ、

 

 

「「当然(です)!!」」

 

 

同時にそう言う。

すると、束さんは顔を上げる。

 

 

「お兄ちゃんをサポートするのは当然!」

 

 

「一夏には助けてもらって、今もお世話になりっぱなし...だから、一夏のサポートをするのは当然です!」

 

 

私とシャルさんがそう決意を束さんに言うと、束さんは一気に笑顔になる。

そして、

 

 

「じゃあ、早速行こう!」

 

 

と、私とシャルさんの腕を掴んで来た。

そしてそのまま腕を引っ張る。

 

 

「ちょ、ま!」

 

 

「待って!待ってぇ!」

 

 

流石に自分で歩ける!

だが、束さんはそのまま社長室の外に出る。

 

 

「頑張ってねぇ~」

 

 

「「社長ぉおおおお!!」」

 

 

社長も助けてくれず、私とシャルさんはそのまま束さんに引っ張られていく。

待って、何か足が浮いてる気がする!

た、助けてぇ!!

 

 

 

 




一夏休暇終了のお知らせ。
一夏...頑張って!

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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新しい専用機持ち

前回とは全く関連性が見れないサブタイ。
でも、内容はサブタイまんま。

今回もお楽しみください!


マドカside

 

 

夏休みも中盤になって来たある日。

今、私はIS学園のアリーナ近くにいた。

 

 

会社でシャルさんに束さんが『PurgatoryKnights』の開発主任だと明かした日。

あの後は命の危険を感じる方法で束さんの研究室に連れていかれ、私の銃騎士とシャルさんのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡは束さんに整備された。

大きく変わった所とかは無いけど、少しエネルギー効率を見直したらしい。

らしいというのは、束さんの作業が早すぎて気が付いたら終わっていてしっかりと見ていないから。

やっぱり開発者っていうのは凄いなぁ...

 

 

そしてその日の2日後、お兄ちゃんは海外から帰って来た。

シャルさんと一緒に空港まで迎えに行ったけど、その表情はチョッとイライラしていた。

理由を尋ねると

 

 

「1週間も経ってないのに書類が3000枚溜まってる...」

 

 

って言っていた。

如何にかしてあげたいけど、この仕事は私達では如何することも出来ない。

何も出来ない自分が悔しくなってくる。

シャルさんも同じだった。

折角お兄ちゃんのサポートするって決めたのに...

お兄ちゃんはそんな私達に

 

 

「これは俺の仕事だから。マドカとシャルは気にしないで良いよ」

 

 

って言いながら笑っていたけど、気にしない訳がない。

本当に如何にかしないと、お兄ちゃんが倒れちゃうかもしれない...

 

 

そして、お兄ちゃんが帰って来てから3日後くらいから各国に帰っていた専用機持ちのみんなが日本に戻って来た。

みんな各国での代表候補生の仕事は終わらせたので、あとやるべきことはIS学園の課題のみ。

お兄ちゃんは以外の専用機持ちが集まって必死に課題を終わらせた。

やってみて分かった、これを終業式の日の夕食前に終わらせたお兄ちゃんは凄い。

 

 

終わらせてからは、私達は夏休みらしく遊んだ。

みんなでお買い物したり、プールに行ったり、夏祭りに行ったり...

お兄ちゃんは仕事でその全部に参加していなかった。

楽しかったけど、やっぱりお兄ちゃんの事が心配だった。

雰囲気を壊さないようにしてたけど、心配なものは心配。

本当に、何か...

 

 

そして今、IS学園のアリーナ近くにいる。

私の周りには、シャルさんを始めとしたお兄ちゃんと橘深夜以外の専用機持ちと、とある1人の生徒。

 

 

「サラ先輩、落ち着いて下さい」

 

 

「そうはいってもね...緊張するのよ、セシリア」

 

 

その生徒とは、イギリス代表候補生のサラ・ウェルキン先輩だ。

そして、このメンバーで集まっている理由。

それは...

 

 

「だって、私に専用機が与えられるのよ?」

 

 

そう、サラ先輩にイギリスから専用機が与えられるからだ。

本当だったら私達はいらないのだが、折角なので見学させてもらう事にした。

因みにお兄ちゃんは、今学園にはいない。

名目上は『PurgatoryKnights』本社に行ってる事になってるけど、本当はディミオスソードと一緒にダークネスドラゴンWに帰っている。

何でも、ダークネスドラゴンWで調べたい事があるとか...

 

 

「サラちゃん、良かったわね」

 

 

「そうっス!これで2年生で3人目っスよ!」

 

 

ガッチガチに緊張してるサラ先輩に、楯無先輩とフォルテ先輩がそう声を掛ける。

確かに、今年の1年生が異常に専用機持ちが多いから忘れかけてたけど、2年生以上の専用機持ちは現状3人。

今回のサラ先輩で漸く4人目だ。

そうなって来るとダリル先輩の仲間外れ感が凄いが、まぁ、本人は気にしていないようだし、良いだろう。

そんな事を考えていると、

 

 

「ウェルキン候補生」

 

 

という声が響く。

私達が一斉にその方向に振り向くと、そこにはタブレットを手に持ちスーツを着た金髪の大人な女性が立っていた。

 

 

「エアリ候補生管理官、如何も。この間ぶりです」

 

 

そうして、サラ先輩がその女性にそう返答する。

この人がイギリス代表候補生管理官かぁ...

 

 

「エアリさん」

 

 

「オルコット候補生も、この間ぶりですね」

 

 

そのままその女性...エアリさんにセシリアさんも挨拶をする。

そうして、そのまま3人で会話をする。

なるべく聞かないようにしながら、シャルさんや鈴さん達と集まって会話をする。

 

 

「なんか、やっぱり私達邪魔じゃないですか?」

 

 

「そうだね...生徒会長のお姉ちゃん以外は、来ない方が良かったかも...」

 

 

「でも、特に何も言われてないし良いんじゃない?」

 

 

鈴さんのその言葉で、確かにエアリさんから何も言われていない事に気が付く。

これなら、良いのかなぁ?

 

 

「では、ウェルキン候補生。早速行きましょう。もう既にアリーナに整備士と専用機はスタンバイしてます」

 

 

「わ、分かりました」

 

 

ここで、エアリさんがそうサラ先輩に声を掛ける。

サラ先輩は緊張した面持ちで返事をすると、そのまま2人で移動していく。

 

 

「では、私も与えられている仕事がありますので...」

 

 

セシリアさんもそう言って2人とは別の方向に歩いて行った。

そうしてこの場には、余り必要のないメンバーだけが残った。

 

 

「じゃあ、私達は観客席に行きましょうか」

 

 

楯無先輩の声で、私達はアリーナの観客席に移動する。

何だかんだで臨海学校の初日に転入したから、観客席に入るのはこれが初めてだ。

アリーナ自体には期末テストだったりで入ったことはあるけど。

 

 

そこから暫くして、アリーナのピットから1機のISが飛び出してきた。

全体的に濃い青色のカラーリングで、蝶を連想させるシルエット。

 

 

「あれがイギリスの開発した新しい第三世代型ISの、サイレント・ゼフィルス...」

 

 

なるほど...

そこから、サイレント・ゼフィルスを纏ったサラ先輩はそのままアリーナを滑空する。

今回が初登場という事で、テスト滑空らしく速度は遅めだ。

だが、前々からサイレント・ゼフィルスの機体スペック等は聞いていたのだろう。

サラ先輩の表情は少し余裕があるように感じる。

 

 

「は、はい!」

 

 

ここでサラ先輩が急にそう声を発したかと思うと、機体のスピードを上げ、複雑な動きを開始する。

多分プライベートチャネルでそんな指示が出たのだろう。

ジグザグに動き、急上昇に急下降。

クイックターンに完全停止。

今日初めて使う機体とは思えないほど、かなり使いこなしている。

やっぱり代表候補生は凄い。

そんな事を思っていると、サラ先輩が出て来たピットとは反対側のピットからブルー・ティアーズを身に纏ったセシリアさんが出て来た。

そしてセシリアさんはビットとライフルを展開し、サラ先輩に攻撃をする。

だが、サラ先輩はスラスターを吹かしその攻撃を避ける。

セシリアさんがフレキシブルをしていない事や移動をしていない事、サラ先輩が反撃しない事を考えると、回避テストなのだろう。

 

 

「セシリアが言っていた仕事とはこのことだったのか」

 

 

ラウラさんがそう呟く。

そのまま暫くセシリアさんが射撃をしていたが、サラ先輩の被弾はゼロ。

ミサイルビットやフレキシブルを使っていないとはいえ、これは凄すぎる。

お兄ちゃんでも普通に被弾するらしいし...

そして、セシリアさんがビットを戻しライフルも仕舞う。

それと同じタイミングで、サラ先輩はライフルとビットを展開する。

今度は逆で、サイレント・ゼフィルスのビットとライフルのテストだろう。

そうしてそのままサラ先輩はセシリアさんに向かって射撃を開始する。

ライフルでの射撃はセシリアさんと同じくらいの精度だけど、

 

 

「く、うぅ...」

 

 

ビットの操作はやはり慣れていないみたいで、サラ先輩は表情を歪めながらそんな声を発する。

見る限り、サイレント・ゼフィルスのレーザービットは6基。

ブルーティアーズの4基よりも扱いは格段に難しいだろうし、そもそもセシリアさんの方がビットの使用期間は長いし練度も上だ。

セシリアさんよりもビット操作が出来ないのは仕方のない事だろう。

その証拠に、ビットはかなりフラフラしながら飛行している。

 

 

「なら、いったん...!」

 

 

サラ先輩はそう呟くと、6基のビットの内4基を戻す。

数を減らすと、当然ながら1基向けられる意識は大きくなる。

だから、数を減らして精度を上げるのは普通の判断だ。

だけれども、やっぱりビットの扱いはセシリアさんの方が精度は上だと感じる。

 

 

「ふぅ...ここまでですわね」

 

 

ここでセシリアさんがそう呟き、その場に留まる。

それと同時に、サラ先輩も射撃を止める。

 

 

「はぁ、はぁ、き、キツイ...」

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 

思いっ切り肩で息をしているサラ先輩に、セシリアさんがそばに移動してからそう声を掛ける。

 

 

「せ、セシリアは良くあんなに滑らかにビット動かせるわね...」

 

 

「サラさんよりも長くBT兵器を扱っていますから...それに、一夏さん達と特訓しましたし」

 

 

「お兄ちゃんと?」

 

 

サラ先輩とセシリアさんの会話に、思わず私は首を傾げてしまう。

まぁ、私の声は2人に届く訳が無いので2人とも特に反応しない。

 

 

「確かに、一夏とかなり特訓してたわね」

 

 

「どんな感じだったんですか?」

 

 

「なんでも、『プログラムでのランダムより考えて動く的の方が良いだろ!』って、一夏とあのロボット達が攻撃せずただただハイスピードで避けるのをビットだけで狙うって感じだったね」

 

 

だから、鈴さんとシャルさんがそう説明してくれた。

 

 

「お兄ちゃんがって事は、まだその時は仕事以外の事する余裕があったんですね...」

 

 

思わず私はそう呟く。

その瞬間に、観客席にいた専用機持ちのみんなは表情を暗くする。

お兄ちゃんが最近仕事しかしてないのはみんなが知ってる。

だからこそ、みんな心配なんだろう。

 

 

「一夏は今日も仕事なんだよね?」

 

 

そして、簪さんはお兄ちゃんの事を尋ねて来る。

私とシャルさんは頷いてから

 

 

「そうですね。今は会社にいます」

 

 

「学園にいても、自室で仕事してるらしいし...」

 

 

そう答える。

そうすると、みんなが心配そうな表情になる。

 

 

「これなら、一夏君との模擬戦だなんて絶対に出来ないわね」

 

 

「そうだね。約束してるとはいえ、絶対に出来ないと思うよ」

 

 

ここで、楯無先輩と簪さんがそう会話をする。

お兄ちゃん、そんな約束してたんだ。

 

 

「お兄ちゃんは真面目なので、心の中では絶対に『何時か模擬戦しないと...』って考えてると思います」

 

 

「確かにな」

 

 

私の呟きに、ラウラさんが頷く。

 

 

「同じ会社のアンタたちは、何か出来ないの?」

 

 

ここで、鈴さんが私とシャルさんにそう尋ねて来る。

私とシャルさんはそのまま1回視線を合わせてから、言葉を発する。

 

 

「お兄ちゃんの仕事は、お兄ちゃんじゃないと出来ないものばかりなんです。立場の問題とかがあって、私達が簡単に手を出していいものじゃないから、私達では正直何も出来ないんです」

 

 

「社長も何とかしようとしてるけど、社長を始めとした取締役の皆さんにももう余裕がないから...」

 

 

そして、視線をアリーナに戻す。

そこにはもうサラ先輩もセシリアさんもいなかった。

多分、ピットに戻って色々話し合っているんだろう。

 

 

「私達に出来る事は、なるべくお兄ちゃんに負担を掛けないようにするだけですね...」

 

 

私の言葉に、みんなが頷く。

お兄ちゃん、みんなお兄ちゃんの事心配してるから、辛くなったら頼ってね。

 

 

「じゃあみんな。セシリアちゃんとサラちゃんの所に行きましょう」

 

 

楯無先輩は立ち上がりながらそう言葉を発する。

そんな楯無先輩に私達も続いて立ち上がり、そのままアリーナの外に移動する。

 

 

アリーナの外では、セシリアさんとサラ先輩はエアリさんと会話をしていた。

 

 

「オルコット候補生、ウェルキン候補生。この先の学園生活も頑張って下さい」

 

 

「「はい!」」

 

 

「それでは、私達はこれで」

 

 

エアリさんはそう言うと、後ろに控えていた整備員だと思われる人達と共に正門に移動していった。

 

 

「サラちゃん!本当におめでとう!」

 

 

「おめでとうございます!」

 

 

そうして、その場に残ったサラ先輩に楯無先輩とシャルさんがそう声を掛ける。

 

 

「ありがとう!」

 

 

サラ先輩は、笑顔になりながらそう返答する。

そして、サラ先輩は私達の事を見ながら、

 

 

「これから私も専用機持ちなので、よろしくね!」

 

 

と言ってきた。

それに対して、私達も

 

 

『よろしくお願いします!』

 

 

「よろしくっス!」

 

 

「ああ。よろしくな」

 

 

思い思いの反応をする。

 

 

「それにしても、ここに男子2人が来れば専用機持ち全員集合になるんだね」

 

 

ここで、サラ先輩がそう呟く。

確かにお兄ちゃんと橘深夜が来れば、この場にはIS学園に所属してる全ての専用機持ちが集まる事になる。

その人数は12人。

多い。

 

 

「お兄ちゃんも今日は見学したそうでしたけど、生憎会社にいるので」

 

 

「えっと...織斑君って、噂では聞いてたけどそんなに忙しいの?」

 

 

私の言葉に、サラ先輩がそう尋ねて来る。

 

 

 

『うん/はい』

 

 

その疑問に、サラ先輩以外のこの場にいる人間が一斉に頷く。

一糸乱れぬ私達の返事に、サラ先輩は苦笑いを浮かべていた。

 

 

ここで、楯無先輩がパンパンと手を叩く。

 

 

「セシリアちゃん以外の1年生はサラちゃんとの関わりが無かったし、みんなで交流会をしましょう!」

 

 

そして、ニッコニコの笑顔で楯無先輩はそういう。

 

 

「お姉ちゃんはそういうの好きだね...」

 

 

「良いじゃない、簪ちゃん!」

 

 

楯無先輩と簪さんがそのように会話する。

交流会か...楽しそう!

 

 

「じゃあみんな、生徒会室へGO!」

 

 

楽しそうにそう言った楯無先輩は生徒会室に向かって歩いていく。

私達も苦笑いを浮かべながら楯無先輩に付いて行く。

 

 

お兄ちゃんもいると、もっと楽しくなるんだろうけどな...

お兄ちゃん、本当に大丈夫かなぁ...

 

 

 

 




サラはバイザーしてません。
してません。
大事な事なので2回言いました。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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異世界での実験

久々に一夏視点。
言う程でもないか。

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

8月になって夏休みも中盤になって来たある日。

今、俺はダークネスドラゴンWの煉獄騎士団本部に来ていた。

理由は単純、ダークネスドラゴンW...というか、バディワールドで調べたい事があるからだ。

 

 

「ディミオス、準備できたか?」

 

 

《ああ。だが、流石に我だけでは両方同時に運ぶのは無理だ》

 

 

俺がディミオスに声を掛けると、ディミオスが目の前に置いてある荷物を見ながらそういう。

そこにあるのは、2機のIS。

そう、これからこのISをヒーローWに運び、実験をするのだ。

実験の内容は、モンスターの細胞などがISにどんな影響を及ぼすかだ。

クラス対抗戦の時の襲撃者にはギアゴッドver.Ø88のパーツが、臨海学校の時の銀の福音にはアジ・ダハーカ様の細胞が組み込まれていた。

そして、その2機は通常ではあり得ない程のスペックをしていた。

その理由を探るために、今回実験することにした。

実験するのは未来の技術が詰まっているスタードラゴンWでも良かったのだが、博士がいるヒーローWの方が良いと判断した。

 

 

「確かにな。如何しようかな...」

 

 

いかにディミオスでもIS2機を同時に運ぶのは無理だろう。

このISが束さんに直接作ってもらった武装も何もないISとはいえだ。

さて、如何しようか。

まぁ、普通に2回に分けて運ぶか...

俺がそんな事を考えていると、

 

 

《ディミオス様、一夏、手伝います》

 

 

と声を掛けられる。

俺とディミオスは同時にその方向に振り返る。

そこにいたのは...

 

 

「オルコスじゃん。久しぶり」

 

 

ディミオスと似た容姿を持つドラゴン。

煉獄騎士団の解放者 オルコスソード・ドラゴンだった。

 

 

《ああ、久しぶりだ》

 

 

俺の言葉に、オルコスはそう返してくれる。

オルコスは一時期ディミオスに変わり煉獄騎士団を率いた事があるらしい。

らしいというのは、その時俺はまだ煉獄騎士団と関わっていなかったから話を聞いただけだからな。

 

 

《それで、これを運べばいいのですか?》

 

 

《ああ、頼む。ヒーローWまでだ》

 

 

オルコスが手伝ってくれるなら、普通に1回で運びきれるな。

 

 

《これが、ISなのですね》

 

 

「そうだよ。ディミオスと、俺が使ったモンスター達以外は見た事ないと思うけど...」

 

 

《それはそうだ。博士も、ISが見れると物凄くワクワクしていたぞ》

 

 

ディミオスのその言葉に、俺とオルコスは思わず笑みを浮かべてしまう。

眼を輝かせてワクワクしてる博士の姿、簡単に想像できるなぁ。

 

 

「じゃあ、早速運ぼう。俺もずっとこっちにいれる訳では無いからな」

 

 

俺がこうしている間にも、仕事は溜まり続けるからな。

無駄に過ごす時間を少しでも減らしておかないといけない。

 

 

こうしてディミオスとオルコスにIS2機を運んでもらって、ヒーローWに来た。

 

 

《そこそこ重い...》

 

 

オルコスはそう呟く。

普通にISをなんのサポートも使わずに運べるのは凄い。

やっぱりモンスターだなぁ。

そんな事を考えながら暫く歩き、博士の研究所前に着いた。

ISを持ったままのディミオスとオルコスに変わり、俺は研究所の扉を開き、

 

 

「博士ぇ!一夏です!来ました!」

 

 

と、研究室の中に向かって叫ぶ。

すると、研究室の中からバタバタと走る音が聞こえてくる。

 

 

「はいどーも!バディファイトを研究して100年!メンジョ―はかせです!」

 

 

そして、目の前に現れた白衣を着て口元にまるでサンタの様な白髭を生やし、丸いサングラスを掛けた男性がそうハイテンションで言ってくる。

 

 

「知ってますよ?」

 

 

そう、この男性がステルスカーテンなどを作ってくれた博士、メンジョ―はかせだ。

モンスター正式名称は、メンジョーはかせ “伝授・宇宙戦術(でんじゅ・コスモ・タクティクス)!”だ。

IS学園に入る前に何回も会ってるから今更自己紹介しなくていいのに...

 

 

《博士、何処に置いたらいい?》

 

 

「んっとね...ついて来て」

 

 

《了解した》

 

 

博士に連れられて、ディミオスとオルコスは研究所の中にISを運ぶ。

その後ろから俺も研究室に入る。

うん、少しごちゃごちゃしてる。

掃除したいな...

そしてディミオス達に付いて行き、物凄い量のコンピュータと配線で繋がれた水槽がある部屋に着いた。

ディミオスとオルコスは持っているISをコンピュータ近くの台座に置く。

そして、博士はそのままISをコンピュータに有線で繋ぐ。

 

 

《ディミオス様、一夏。ここで失礼します》

 

 

「ああ。オルコス、ありがとうな」

 

 

ここで、オルコスはダークネスドラゴンWに帰って行った。

さて、後は俺とディミオスと博士で実験する事になる。

 

 

「これが、コアもしっかりあるISかぁ!いいなぁ!」

 

 

博士はハイテンションでそういう。

そういえば、残った白式の外装はディミオスが博士の所に運んでたな。

 

 

「じゃあ、早速実験しましょう」

 

 

「そうだね。チャチャッとやっちゃおう!」

 

 

《先ずは、モンスターの細胞を埋め込んだ際の反応からだな》

 

 

そうして、俺とディミオスと博士は実験を開始するのだった...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「...これは、かなり厄介だな.....」

 

 

実験は終了して、今現在は研究所の休憩室に移動していた。

博士は、まだ何かしたい事があると来ていない。

 

 

《確かにな...》

 

 

俺の呟きに、ディミオスが同調する様に頷く。

 

 

実験の結果、モンスター細胞やモンスターパーツはISに取り込まれた時に異常な威力が出る理由が分かった。

ISのコアには、コア人格が存在する。

そんなところにモンスターが入り込んでくると、コア人格が一種の拒絶反応を起こすらしい。

人間がウイルスに感染すると発熱するのと同じような現象が、あの異常な威力の原因のようだ。

それが分かったのはいい。

だが、もう1つ厄介な事実が判明した。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()I()S()()()()()()()...」

 

 

そう、それだ。

それが今回の実験で分かったもう1つの事。

これがどういう事か。

臨海学校での銀の福音に寄生していたアジ・ダハーカ様の細胞。

寄生をしていた理由は、こっちの世界に流出した細胞が成長するための依り代に銀の福音を選んだからだと思っていた。

だが、今回判明した事実では、そんな事あり得ないという事になってしまう。

一応キョウヤさんに頼んで持ってきたアジ・ダハーカ様の細胞をISの近くにおいてみたが、自分から寄生する事は無かった。

 

 

《つまり、アジ・ダハーカの細胞を銀の福音に寄生させた何者かかいるな。それは、ギアゴッドver.Ø88のパーツを再利用した奴と一緒だろう》

 

 

ディミオスがSDになってソファーに座りながらそう呟く。

ギアゴッドver.Ø88のパーツは如何あがいても1人では再起動出来ないので、何者かが再利用していたのは分かっていた。

だが、まさかアジ・ダハーカ様の細胞まで何者かが利用したものだったとは...

 

 

《しかも、最悪の場合、その何者かがアジ・ダハーカの細胞を培養して保管している可能性がある》

 

 

「それなんだよなぁ...」

 

 

もしそうだったら、本当に最悪だ。

これからもアビゲールさんのような強力なモンスターと同じくらいのスペックを誇る奴らが大量に襲撃してくる可能性がある。

そうなると、俺と煉獄騎士団だけじゃ確実に撃退できない。

マドカやシャルたちに手伝ってもらわないと...

だけど、そうしたらシャルや楯無さん達にディミオス達の説明をしないと...

流石にこれ以上説明する訳には...

 

 

[襲撃に悩む高校生だなんてマスターくらいだよ...]

 

 

俺がそう考えていると、白式がそう声を掛けて来る。

 

 

(いやいや、楯無さんも考えてるだろ。生徒会長だぞ)

 

 

[ですが、今日は新しい専用機の見学をしているのでは?そのまま、交流会を開いたりしてそうですし、マスターの方が深刻に考えているかと...]

 

 

(白騎士...そんな事は言っちゃ駄目だ)

 

 

折角フォローしたのに。

それに、実際にそういう事をしてそうなんだよな...

いや、いくら楯無さんでも、少しはそういう事を考えている...はず。

 

 

「一夏君、待たせたね!」

 

 

ここで、博士が休憩所に入って来た。

その手には、何かの機械を持っていた。

 

 

「博士、それなんですか?」

 

 

俺がその機械について尋ねると、博士はその機械を休憩所の机の上に置く。

そして、

 

 

「一夏君のダークコアには、ISのコア人格が宿ってるんだったね?」

 

 

と聞いてくる。

 

 

「はい、そうですけど...」

 

 

「この機械は、その人格の声を一夏君以外にも聞こえるようにするものだ!」

 

 

「え!?スゲェ!!」

 

 

流石博士!

そんなものまで作れるなんて...

 

 

「ただ、これは一夏君のダークコアじゃないと使えないし、この研究所じゃないと使えないんだ」

 

 

《今持ち運んでるのにか?》

 

 

「そうだよ」

 

 

うん、理由の説明はしてくれないんだ...

そこは博士らしい...

 

 

「じゃあ一夏君!使ってくれい!この溝にダークコアをはめるだけでOKだ!」

 

 

「分かりました」

 

 

俺はダークコアデッキケースを取り出しながらそう答える。

 

 

(白式、白騎士、はめたら何か喋ってくれ)

 

 

[[分かりました!]]

 

 

白式と白騎士の返事を聞いた俺は、そのままその機械にダークコアデッキケースをはめる。

すると、

 

 

『あ、ああ。マスター、如何?』

 

 

と、白式の声が機械越しに聞こえてくる。

 

 

「お、聞こえてる!ディミオス、如何?」

 

 

《我にもしっかりと聞こえているぞ》

 

 

おお、スゲェ!

 

 

「成功!やったぁ!」

 

 

博士もテンション高めでそう歓喜する。

 

 

《白式、白騎士。こうやって会話するのは初めてだな。何時も一夏の隣というかなり近い距離にいるんだがな》

 

 

ここで、ディミオスが2人に向かって話し掛ける。

 

 

『うん、初めまして。ディミオス!』

 

 

『マスターと一緒にいるという共通点はありましたが、私達はマスター以外と話せませんでしたからね』

 

 

そうして、白式、白騎士の順でディミオスにそう返事をする。

そこからディミオスと白式と白騎士で会話をし始める。

俺は普段から話してるし、話題が振られた時だけ会話に参加すればいいか。

俺がそう思いながら、博士に声を掛ける。

 

 

「博士、白式の外装ってどうなってます?」

 

 

すると、博士は白髭を撫でてから俺の方に振り返る。

 

 

「解析は終わってるんだけど、コアが無くて実験とかには使えないからチョッと持て余してる」

 

 

「なら、煉獄騎士の強化に使えませんか?正直、ただの鎧だとこれ以上きつくて...」

 

 

「ああ、全然いいよ。でも、今からだと4ヶ月は掛かっちゃうよ」

 

 

4ヶ月かぁ...

まぁ仕方が無い。

 

 

「それでもです。お願いします」

 

 

「OK!準備が出来たらディミオス経緯で呼ぶから来てくれい」

 

 

「分かりました」

 

 

俺と博士の会話が終わったタイミングで、ディミオス達の会話も終わったようだ。

 

 

「ディミオス、終わったか?」

 

 

《ああ、終わったぞ》

 

 

「じゃあ、帰って社長と主任に報告して仕事だな」

 

 

『マスター...本当に大丈夫?』

 

 

「大丈夫大丈夫」

 

 

確かに忙しいが、まだまだ元気だ。

エナジードリンクにも手を出してないし、大丈夫だろ。

俺はそう思いながら、機械からダークコアデッキケースを取り外し、ポケットに入れる。

 

 

「じゃあ博士。ありがとうございました」

 

 

「全然だいじょーぶ!じゃあ、次回に会うまで~、チェック・ディス・ワン!!」

 

 

博士の独特な挨拶を背に、俺とディミオスは休憩所を出る。

そして研究所の外に出ようとする前に、今日実験に使ったISが視界に入った。

俺は、そのIS前に移動して、2機に同時に触る。

 

 

「今日はごめんな。実験に使っちゃって。でも、君たちのお陰で事実が判明したよ。ありがとう」

 

 

そして、笑顔でそう声を掛ける。

まぁ、返事は無

 

 

[全然大丈夫だよ!]

 

 

[あなた達のお役に立ててよかったです!]

 

 

へっ...?

い、今...

 

 

《一夏、もう行くぞ》

 

 

「あ、ああ。分かった」

 

 

ディミオスにせかされたので、俺はそのまま研究所の外に出る。

今、確実にあの子たちの声が.....

それは今はいいか。

 

 

「戻って報告するのが先だしな」

 

 

《そうだ。早く話し合って損なことは絶対にない》

 

 

そうして、俺とディミオスは『PurgatoryKnights』に向かうのだった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「以上が、今回の実験で分かった事です」

 

 

『PurgatoryKnights』に戻って来た俺とディミオスは、社長室で待ってもらっていた社長と主任にそう報告をした。

その報告を聞いた社長と主任は難しそうな表情を浮かべる。

 

 

「そっかぁ...それは、かなり厄介だねぇ...」

 

 

主任は顎に手を当てながらそう呟く。

 

 

「ねぇスーちゃん。もしかしなくても、()()()()の可能性あるよね?」

 

 

「ええ、あるわね」

 

 

そうして、主任と社長はそう会話をする。

 

 

「「亡国企業...!」」

 

 

2人は、同時にそう呟く。

それを聞いて俺も思い出した。

社長やオータムさん、マドカやダリル姉が所属していたテロ組織、亡国企業。

確かに、社長たちは亡国企業の一部隊に過ぎなかった。

抜けても組織自体は残り続けている。

その可能性も十分にあり得る。

 

 

「そうなって来ると大変すぎますね。国際的なテロリストが相手だと、IS学園を襲撃されても対処しきれない」

 

 

専用機持ち達は良いかもしれないが、一般生徒達はそう上手くはいかない。

直ぐにパニックになってしまうだろう。

 

 

「そもそも、仮にアイツ等だったとして、目的が分からないわ。一夏なのか、千冬なのか、IS学園なのか、『PurgatoryKnights』なのか...」

 

 

社長は手元を見ながらそう呟く。

確かに...

クソ、正体不明だし目的不明だ。

 

 

「いっくん、何が起こるか分からないけど、確実に何かが起こると思うんだ。だから、絶対に気を引き締めてね」

 

 

「分かっています、主任」

 

 

主任が違和感が生じるくらい真面目な表情で俺に言ってくるので、俺もしっかりとそう返す。

 

 

「じゃあ、一夏、束。何か起きたら私に相談してね」

 

 

「分かりました」

 

 

「おっけ~」

 

 

そうして、社長の声にそう返事をする。

 

 

此処からこれ以上俺達で会話をしても何も発展しない為、ここで終了することにした。

そして、俺は学園に戻ろうとした時、仕事で相談したい事があったのを思い出した。

丁度いいからここでしてしまおう。

 

 

「社長、相談したい事があるのですが、良いですか?」

 

 

「良いけど...一夏、本当に大丈夫なの?最近仕事しかしてないんじゃない?」

 

 

「確かに仕事しかしてないですけど、大丈夫ですよ」

 

 

それに、これは俺にしか出来ない仕事だ。

俺が頑張らないと...

 

 

「いっくん...辛くなったら、相談するんだよ?」

 

 

「はい、分かってます、束さん」

 

 

俺がそう言うと、主任は笑顔になってから社長室を出て行った。

そこから俺は社長と大体1時間くらい相談した後、社長室を出る。

現在時刻は15:30。

想定してたより長くなっちまったな。

さぁ、帰ろう。

俺がそう思った時、

 

♪~~~♪~~~

 

 

と、スマホが着信音を鳴らす。

この音は電話だ。

俺がスマホを取り出すと、そこに表示されていたのは、チェルシーの名前。

チェルシーだ!

そう思ったら、もう既に通話に出ていた。

 

 

「もしもし、一夏だけど。チェルシー、どうかしたか?」

 

 

『あ、一夏。その...これからお仕事だから、どうしても一夏の声が聞きたくて...』

 

 

く、何て可愛いんだ!

確かに、時差の関係でイギリスは今6:30。

これからお仕事だな。

 

 

「そっか。チェルシー、頑張ってね!」

 

 

『ええ、ありがとう。一夏も頑張ってね」

 

 

「ああ!」

 

 

ここで、通話は終わってしまう。

これは仕方のない事だが、やっぱり悲しい。

でも、

 

 

「チェルシーに頑張ってって言われたから、元気が出た!」

 

 

これで、学園に帰ってからの仕事も頑張れる!

 

 

[マスターは、本当に恋人さんの事が大好きですね]

 

 

(当然だろ?)

 

 

大好きだから恋人なんだ。

俺にとって、クラリッサとチェルシーはこれ以上ないほど大切で守りたい存在なんだ!

 

 

「さぁ、帰って仕事だ!」

 

 

倒れない程度に、頑張るぞ!

 

 

 

 




しれっとオルコスの初登場とメンジョ―さんの名前出し。
はかせまでが名前なので、如何するか悩みました。
漢字表記は立場で、ひらがなは名前です。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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旧友との再会

この子たちの事、忘れてた訳ではありませんよ!
今後の出番は怪しいですが...

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

8月も後半になって来て、もう直ぐ夏休みが終わるというある日。

俺は物凄い珍しく会社以外の所に向かっていた。

本当に、最近はIS学園か『PurgatoryKnights』にしかいなかったから本当に久しぶりだ。

 

 

「それに、これから会う奴らも久しぶりだからな...」

 

 

そう、俺が今日向かっているところ。

そこは俺の友人、五反田弾の実家の定食屋、五反田食堂だ。

中1の途中である第2回モンド・グロッソの後日本を離れてから、1回も会って無いどころか連絡すら取っていない。

だから、今日会いに行くために半分無理矢理予定を開けた。

まぁ、14:00からは『PurgatoryKnights』で会議があるから昼飯を食べたら直ぐに会社に行かないといけないから、俺の服装はスーツだけど。

 

 

因みに今日俺が行く事は伝えていない。

鈴に頼んで集めてもらったのだが、その際に俺の事を言っていなかったらしい。

だから、弾たちは普通に鈴が来ると思っているらしい。

その鈴は今日元々マドカ達と遊ぶ予定があったらしく、今日はいない。

俺もそっちに参加しても良かったが、今日は弾たちと会うために予定を開けたから当初の予定通りこっちに来ることにした。

 

 

「もう直ぐで着くな...」

 

 

[マスター、嬉しそうだね]

 

 

俺がそう呟くと、白式が話し掛けて来る。

 

 

(まぁな。中1から会って無かったからな。凄い楽しみだ)

 

 

[確か、5人と合う予定なんですよね]

 

 

(そうだよ)

 

 

弾、数馬の友人2人。

そして弾の妹の蘭と祖父の厳さんと母親の蓮さん。

この5人が集まっている...らしい。

そこら辺は全部鈴がしてくれたから話を聞いただけなので良く分からない。

さてさて、如何いう反応をされるかな...

 

 

(っていうか、俺中学時代の友人3人って少なすぎ...)

 

 

[いやいや、ネットにはリアルでの友達がいない人がいますし、マシでは無いですか?]

 

 

白騎士にそう言われ、俺は少し考える。

確かに、そう考えると3人だけだけどしっかり友達と呼ばれる人たちがいたのは良かったのかもしれない。

特に当時は千冬姉と比べられてあまり味方がいなかった時期だからな...

そんな俺が、IS学園にもドイツ軍IS部隊にもイギリス貴族家にも仲のいい友人が出来て、この上ないほど大好きな恋人も出来た。

変わったな...

 

 

そんな事を考えていると、五反田食堂の前に着いた。

おお、懐かしい...

良くここでご飯食べてたな。

鈴の実家の定食屋と同じくらいの頻度で来てた。

っていうか、俺の中学時代の友人の3分の2は定食屋の子供なのか。

なんか不思議な対人関係。

俺はそんな事を考えながら、そのまま五反田食堂の扉を開ける。

 

 

「あ、すみません。今日は営業して無くて...」

 

 

「おいおい、久しぶりに遊びに来た友達にそれは無いんじゃないか?」

 

 

扉を開けた瞬間にそう言われたので、俺は思わず苦笑いを浮かべながらそういう。

その瞬間に店の中にいた人間全員が一斉に振り返り、俺の事を見て衝撃の表情を浮かべる。

 

 

「い、一夏...」

 

 

その中で、赤みがかった茶髪で頭にバンダナを巻いている男子...弾が、そう言葉を零す。

その隣では、数馬、蘭、厳さん、蓮さんが口を開けて固まっている。

 

 

「おう、久しぶり」

 

 

俺は笑顔でそう言う。

すると、

 

 

「「一夏ぁ!!」」

 

 

と、弾と数馬が突っ込んで来た。

ったく、あぶねえな!

俺はそう考えながらその場でジャンプをし、2人の頭に手を置いて空中で1回転しながら避ける。

 

 

「あぶねえよ!」

 

 

「うるせぇ!心配かけさせやがって!」

 

 

「そうだ!お前、今まで何処にいた!」

 

 

俺が振り返ってそう言うと、心なしかさっきよりかはゆっくりめの速度で2人は突っ込みながらそう言ってきた。

今度は避けずに2人の頭を軽く叩いて止める。

 

 

「取り敢えず突っ込んで来るのを止めろ」

 

 

俺はため息をつきながらそう言うと、2人は一応落ち着いた。

それを確認してから、未だに驚いた表情のままだった3人に声を掛ける。

 

 

「蘭、厳さん、蓮さん、お久しぶりです」

 

 

そうして、その3人に声を掛ける。

すると、

 

 

「一夏さん!」

 

 

「一夏!」

 

 

「一夏君!」

 

 

と、3人が駆け寄ってくれる。

馬鹿2人と違って突っ込んでこないあたり、ちゃんと良識を持っている。

 

 

「一夏さん!お久しぶりです!」

 

 

「ああ、久しぶり」

 

 

「お前、何処ほっつき歩いてた!」

 

 

「厳さん!?お玉持ちながらは止めてください!」

 

 

厳さんにお玉で叩かれると痛いんだから!

何でお玉をあんな威力で武器に出来るのかが分からない。

もう既に年齢が80を超えているとは思えない程元気でいらっしゃる。

今の俺はこのまま働いていたら80を迎えるころにはもう既に介護必須になってると思う。

 

 

(そう考えると、俺って働き過ぎ?)

 

 

[そう考えなくても、マスターは働き過ぎです」

 

 

[いつか倒れちゃいますよ]

 

 

(そうは言ってもなぁ...日本政府と国際IS委員会と女性権利団体が...)

 

 

もうその3つよ。

その3つの仕事が無ければ、俺は臨海学校で海にも行けたし、もう少し長くドイツとイギリスにいれたんだ!

いや、まぁ、そこ以外からも当然書類は送られてくるのだが、かなりマシになる。

 

 

「一夏君...本当に久しぶりね」

 

 

「はい、お久ぶりです」

 

 

蓮さんは若干涙目になりながらそう言ってくれる。

蓮さんは優しいなぁ...

そもそも、いったい何歳なんだろうか。

いや、こういう事を考えるのはデリカシーが無いのだが気になる。

蓮さんは見た目で年齢のあたりが付けられない程見た目が若い。

俺はこのまま行くと絶対に実年齢より老けて見えてしまう。

それはチョッと...

クラリッサとチェルシーに嫌われる!

 

 

(そうなったら、俺は耐えられない!)

 

 

[いや、それは無いと思うよ。マスターの恋人さん、マスターの事を本気で愛してるっていうのは、私達にも伝わって来てますし]

 

 

[マスターが恋人さんを愛してるのと同じくらい、恋人さんもマスターを愛してるんだと思いますよ]

 

 

(それだと良いんだけどなぁ...)

 

 

そうだと信じよう。

それはそうと。

 

 

「本当に、久しぶり!!」

 

 

「「ああ、久しぶり!」」

 

 

「はい!お久しぶりです!」

 

 

「おう、久しぶり」

 

 

「フフ、久しぶりね!」

 

 

俺は笑顔でそう言うと、5人同時にそう返してくれた。

ハハハ、やっぱり友人と会うのは、楽しいなぁ...

 

 

--------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「クソ!この!」

 

 

「弾...お前弱くね?」

 

 

「うるせぇぞ一夏ぁ!って、あ!」

 

 

「はい、俺の勝ち」

 

 

あの後、俺は弾たちに今まで何をやっていたのかの説明をした。

バディワールドの説明をする訳にもいかなかったので、普通に鈴たちにした説明と同じようにモンド・グロッソの後に日本を離れて世界を旅していたという事だけを説明した。

その事で、一応全員が納得してくれた。

 

 

そして今は弾の部屋で男3人でゲームをしていた。

普通に格ゲーをしていたのだが...何故か非常に弾が弱い。

あれ、おかしい。

これは弾のゲームのはずなんだがなぁ...

 

 

「クソ、また負けたぁ!」

 

 

「弾、お前...暫くゲームで遊んでなかった一夏に負けるってヤバいぞ」

 

 

「うるせえ!大体数馬も一夏に負けてんじゃねえかよ!」

 

 

「お前が全敗なのに対して、俺は8戦4敗だ。お前よりはマシだろ」

 

 

「確かに。数馬の方がまだマシだな」

 

 

俺と数馬がそう言うと、弾はへなへなと力を抜きその場に倒れこむ。

 

 

「良くゲームでそこまでショック受けれるな」

 

 

いや、まぁ、俺もバディファイトで負けるとショック受けるけど、ほら、ねぇ。

俺の場合は掛けてる思いが違うからセーフ。

 

 

「うるせえ!勉強も出来ない、スポーツも出来ない、ならゲームぐらいでしか活躍できないんだよぉ!」

 

 

「あれ?なんか音楽同好会入ってるんじゃなかったのか」

 

 

「まぁ、『私設・楽器を弾けるようになりたい同好会』だからな。因みに、創立理由はモテたいからだ」

 

 

「お前ら...」

 

 

モテないからって...

 

 

「そういう事してるからモテないんじゃないのか?」

 

 

「「うっ!?」」

 

 

俺がそう言うと、2人同時に胸元を抑えその場で蹲った。

 

 

「お前は良いよなぁ!IS学園とかいう女の園に入ってよぉ!」

 

 

「そうだそうだ!」

 

 

さっきまで俺の味方だった数馬も弾側に寝返り、俺に嫉妬の視線を向けて来ていた。

如何やら恋愛は人を変えるらしい。

俺の恋愛はあまり一般常識とは異なるものだから良く分からん。

まぁ、俺にはクラリッサとチェルシーがいればそれで良いからな。

 

 

「ISの訓練は死ぬ可能性があるぞ」

 

 

「「な、ならいいや...」」

 

 

俺がそう言うと、2人とも先程までの勢いを収め、露骨に視線を逸らした。

分かればいいんだ、分かれば。

 

 

「っていうか、鈴がいれば完璧だったな」

 

 

「仕方ないだろ。鈴は今日予定があるっていうからな。サプライズの為に予定だけ組んでもらった」

 

 

確かに、ここに鈴がいたら中学時代の友人全員が揃う事になる。

まぁ、男だけっていうのもいいじゃん。

基本周りの友人が今女子しかいないから男子とつるみたかったんだよ。

 

 

「そろそろ12:00だな」

 

 

俺は腕時計を見ながらそう呟く。

 

 

「昼飯食いたい」

 

 

「ならうちで食ってけ!じいちゃんも腕によりを掛けて飯作ってるぜ!」

 

 

「マジ?なら食おうかな」

 

 

厳さんのご飯を食べるのは久しぶりだな。

俺の料理の和食はここの飯をトレースして俺流にアレンジしたものも多いからな。

本当に中1の頃はお世話になってた。

俺はそう考えながら弾と数馬と共に部屋を出て、1階に戻る。

 

 

「じいちゃん、飯お願い」

 

 

「分かってる!今作ってるからチョッと待て!」

 

 

そうして弾が厨房にいる厳さんに声を掛けると、その様な声が帰って来る。

見ると、厳さんが鍋を2つ同時に振るって炒めていた。

スゲェ。

俺はそう思いながら席に座る。

さて、ここからは食事マナーに気を付けないとな。

厳さんが飛ばしてくるお玉はシャレにならんほど痛いんだ。

今の俺ならキャッチできるかもしれないが、わざわざ当たりに行こうとは思わない。

 

 

「おまちどうさん」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

厳さんは、五反田食堂名物の業火野菜炒め定食を3人分出してくれる。

 

 

「さて、いただきます」

 

 

「「いただきます!」」

 

 

俺と弾と数馬はしっかりと挨拶をして、野菜炒めを食べ始める。

うん、美味しい!

野菜炒めなのにご飯が進む!

如何にかトレース出来ないかな...

 

 

[マスター、今仕事で忙しいのにそういう事も考えるの?]

 

 

(良いか白式、俺にとって料理っていうのは一種の息抜きだ。今はな)

 

 

[今はって...不穏なんですが]

 

 

(今後もしかしたらそんな事も言ってられんほど仕事が来るかもしれん)

 

 

それは本当に俺には分からない。

仕事を送って来るのは日本政府や国際IS委員会や女性権利団体だからな...

俺はそう考えながら黙って食べ進み、完食する。

 

 

「ご馳走様でした」

 

 

俺はしっかりと両手を合わせながらそういう。

ふぅ、美味しかった。

 

 

「一夏...早くねえか?」

 

 

すると、弾が驚いた表情を浮かべながらこっちの方を見てくる。

 

 

「最近飯食う時間が無くなって来たからな。早食い出来るようになった」

 

 

「飯食う時間ねぇって...お前どんな生活してんだよ?」

 

 

「うるせぇ!」

 

 

「危ない」

 

 

「「いてぇ!!」」

 

 

こんな流れるような会話の後。

俺の手にはお玉が握られており、弾と数馬の頭にはたんこぶが出来ていた。

 

 

「一夏...お前...何でぇ...」

 

 

弾は蹲りながらそんな事を言ってくる。

 

 

「まぁ、ねぇ。鍛えてるから」

 

 

俺は弾から視線を厨房の中の厳さんに向ける。

すると、厳さんも驚いた表情を浮かべていた。

 

 

「厳さん!お返しします!」

 

 

俺はそう言ってお玉を投げ返す。

お玉はそのまま洗い場に綺麗に収まる。

 

 

「ナイス!」

 

 

上手くいったぜ。

 

 

「一夏...お前...やるようになったな」

 

 

「流石に人間成長しますよ」

 

 

そう言って、俺と厳さんは笑い合う。

 

 

「お前らさっさと食べたら?」

 

 

「...そうする」

 

 

俺がそう言うと、弾と数馬は食事を再開する。

そうして、俺が食器を厳さんに返して2人の食事を眺めていると、

 

 

「一夏君はこの後どうするの?」

 

 

と、店の奥で何か作業していた蓮さんがこっちに来ながらそう質問してきた。

 

 

「この後会社での会議が14:00からあるので、そろそろお暇します」

 

 

「あら、そうなの」

 

 

俺がそう返答すると、蓮さんは少し驚いたような表情を浮かべる。

 

 

「一夏君は学生でしょ?大変ね~」

 

 

「まぁ、学生ではありますが、『PurgatoryKnights』所属IS操縦者纏め役でもありますから。これくらいは普通です」

 

 

俺がそう蓮さんに言うと、漸く食べ終わった弾と数馬が俺の事を見てくる。

 

 

「お前、だからスーツだったのか!」

 

 

「最初に気付け」

 

 

この後会議の予定が無かったら私服で来てるわ。

何でわざわざ弾たちに会うのにスーツがいるんだ。

いや、厳さんに会うならいるかもしれないが、弾と数馬だけだったら確実に要らない。

 

 

「あ、あの...一夏さん。帰られる前に折り入ってお願いが...」

 

 

ここで、蓮さんと同じように店の奥で作業をしていた蘭がそう声を掛けて来る。

 

 

「ん?如何した?取り敢えず言ってみろ」

 

 

ここで直ぐに承認しないのがテクニック。

いや、蘭は仲いいしこういう事しなくても良いかもだが念には念を入れて。

 

 

「分かりました!その、チョッと待っててください!」

 

 

蘭はそう言うと、そのまま2階に向かっていった。

何か取って来るものが必要なんだろう。

俺はそう思っていると、弾と数馬は食器を厳さんに返していた。

 

 

「厳さん、会計お願いします。この馬鹿2人分の会計は別で」

 

 

「「おい!」」

 

 

俺の言った事に弾と数馬はなんか言ってきたが気にしない。

 

 

「別に要らねえよ。今度もっかい顔見せたらな」

 

 

「...!はい、分かりました」

 

 

厳さんがそう言ってくれたので、俺は笑顔でそう返す。

そのまま暫く待っていると蘭が戻って来た。

その手には、何か書類を持っている。

蘭はそのまま俺の隣の席に座ってから、

 

 

「私、IS学園を受験しようと思ってるんです!」

 

 

と言ってくる。

俺は思わず驚いた表情を浮かべてしまう。

そのままなんか弾がギャーギャー言ってたが、再び厳さんのお玉アタックでその場に蹲った。

なんか反対的な事を言ってた...気がする。

 

 

「IS学園に入るには、IS適正が必要なんじゃなかったか?」

 

 

「そうだぞ。いくら優秀でも適性が無かったら合格しない」

 

 

数馬がそう疑問を口にしたので、俺は肯定する。

あの篠ノ之とかいう元生徒はIS適正はCだが束さんの妹という事でなんか入っていたが、それは例外中の例外だ。

まぁ、男子という異常が言う事ではないかもしれない。

 

 

「それなら問題ないです!」

 

 

蘭はそう言うと、手に持っている書類を俺に見せている。

そこに書かれていたのは...

 

 

「IS適正、A...」

 

 

IS適正診断テスト結果表の文の下に、そう書いてあった。

 

 

「なるほど、これなら問題ないな」

 

 

「そうですよね!だから、私がIS学園に入ったときには、是非一夏さんに指導を...」

 

 

お願いの内容はそれかぁ...

なんかまたギャーギャー弾が騒いでいるが、またお玉アタックを喰らっていた。

アイツは学習が出来ないのか。

そんな事を考えていると、俺に視線が集まっているのが分かった。

俺は軽く息を吐いてから蘭に視線を向ける。

 

 

「.....蘭。これはお前の知り合いじゃなくて、『PurgatoryKnights』所属IS操縦者として話す。しっかり聞いておいてくれ」

 

 

俺がそう言うと、この場の空気が少しピリッとしたものに変わる。

蘭は息をのんだ後、しっかりと頷いた。

俺はそれを確認してから、しっかりと話し始める。

 

 

「俺の意見としては、IS学園への受験は考え直した方が良い」

 

 

「っ!」

 

 

俺がそう言うと、蘭は驚いたような表情を浮かべる。

 

 

「弾たちにはさっき軽く話したが、ISの訓練は普通に命の危険がある。死ぬ可能性もあるし、足や腕に障害をおう可能性もある」

 

 

その言葉を聞いて、厳さんは顔をこわばらせる。

実際に蘭がそうなってしまった場合の事を想像して怖くなってしまったんだろう。

 

 

「確かに、IS操縦者が世の中の女性の憧れなのは理解してる。でも、それに伴う危険を理解するのは、入学してISに触ってからだ。実際に教本を見ると危険性も書いてあるが、実際に触ってみないと心のどこかで安全だと考えてしまう」

 

 

「.....」

 

 

蘭は黙ってしっかりと俺の話を聞いている。

 

 

「それでもなお、IS操縦者を目指すっていう選択も全然いい。でも、その選択をした場合、ISに人生の殆どを使う事になる。だからこそ、それ相応の覚悟が必要だ」

 

 

「それ相応の、覚悟」

 

 

俺の言葉を、蘭は噛み締めるように繰り返す。

 

 

「俺は、男性IS操縦者として半強制的にIS学園に入った。だからこそ思うのは、しっかりと覚悟を決めるのが大事だという事だ」

 

 

俺はしっかりと蘭の事を見ながらそう言う。

蘭も俺の事をしっかりと見ながら話を聞いている。

 

 

「蘭がやりたい事が、本当にISなのか。そこをもう1回考えた方が良い。今はもう中3で、そこまで時間がある訳では無いかもしれない。でも、まだ夏休みだろ?まだ大丈夫だ。もう1回、自分のやりたい事をしっかり考えた方が良い。これは、蘭の人生だからな」

 

 

俺が最後に笑顔でそう言うと、蘭は

 

 

「...はい!もう1回しっかり考えたいと思います。ありがとうございます!」

 

 

と、笑顔で返してくれた。

良し、伝わって良かった。

蘭はそのまま書類を戻すと言って部屋に戻っていった。

 

 

「一夏...お前、何時からそんな重みのある言葉を言えるようになった?」

 

 

すると、厳さんがそんな事を聞いてきた。

 

 

「まぁ、これくらいは出来ないと『PurgatoryKnights』所属IS操縦者纏め役なんて出来ないですよ」

 

 

「...成長したな」

 

 

厳さんは口元に笑みを浮かべると、そのまま洗い物を開始した。

さて、そろそろ帰ろうかな?

俺がそう思うと

 

 

「一夏!お前に...1つ聞きたい事がある!」

 

 

と、やけに真剣な表情で弾が詰め寄って来た。

弾の後ろでは数馬も同じ様な表情を浮かべてる。

 

 

「な、何だよ」

 

 

俺が聞き返すと弾は覚悟を決めた表情を浮かべた。

 

 

「お前...彼女出来たか!?」

 

 

「出来たぞ」

 

 

そうして、弾がしてきた質問に速攻で返すと、2人は

 

 

「「な、何!?」」

 

 

と言って、俺の肩を掴んで来た。

そして俺の身体を前後に振りながら詰め寄って来る。

 

 

「い、何時だ!?」

 

 

「GWの少し後だ」

 

 

付き合ったのはそこだ。

だが、初デートはついこの間だ。

そう考えると、俺が駄目彼氏みたいに感じるが許して欲しい。

俺とクラリッサとチェルシーは全員立場が立場だから、簡単に会えないんだ。

住んでる国も違うからな。

 

 

「「そ、そんなぁ...」」

 

 

そうして、2人はそのままへなへなとその場に倒れる。

な、何だ何だ?

 

 

「蓮さん、こいつら如何しましょう?」

 

 

「あー、ほっといていいわよ」

 

 

蓮さんに許可を貰ったので、俺はそのまま2人を放置することにした。

すると、蘭が戻って来た。

 

 

「えっと...お兄と数馬さん、如何しました?」

 

 

「気にしない方が良い」

 

 

俺がそう言うと、蘭は苦笑いを浮かべていた。

何となく弾と数馬が何かしたという事を察したんだろう。

 

 

「それじゃ、そろそろ時間なのでお暇します」

 

 

俺はそう言うと、店の入り口に移動してから、振り返る。

 

 

「それじゃあ、今日はありがとうございました!」

 

 

「はい!私こそありがとうございました!」

 

 

「ええ、またご飯食べに来てねぇ!」

 

 

「おう、また来いよ」

 

 

「はい!」

 

 

俺は最後にそう挨拶をしてから、五反田食堂を出て『PurgatoryKnights』に向かう。

 

 

(楽しかったな)

 

 

[マスターが楽しそうにしていて、私達も嬉しかったです]

 

 

さぁ、仕事も頑張りますか!

 

 

 

 




珍しくディミオスが出てこなかった。
出すとごちゃごちゃしそうだったから出しませんでした。
ん?既にごちゃごちゃ?
...許して。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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夏休みも終わり

今回で夏休みは終了です!
そして、100話!
実はプロローグと設定集で30話使ってるので本編70話。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

「クソ!クソォ!何でだよ!何でなんだよぉ!」

 

 

IS学園生徒寮、深夜の部屋で。

部屋の主である深夜はそうブツブツと呟きながらベッドに座り、ベッドの事を殴っていた。

 

 

「夏休みイベントが、全部潰れてるじゃねえか!」

 

 

そうして、最後に思いっきりベッドを殴った後肩で息をしていた。

 

 

深夜は、臨海学校の次の日からの自室謹慎に加え、夏休み初日から奉仕作業を毎日行っていた。

臨海学校で一夏の事を刺したのだ。

これくらいは当然、いや寧ろこれくらいで済んでいる事に感謝しないといけないのだが、深夜は納得していなかった。

 

 

「謹慎になったとしても、何か軽くイベントはあるんじゃないのかよ!クソ、今まで本当に何もなかったぞ!学園ものの主人公が夏休みになにも出来ないだなんて、そんな事ある訳無いだろ!」

 

 

深夜はそう言って、今度は壁を殴る。

だが、その後直ぐに殴った方の拳を反対側の手で撫でる。

みっともない姿をさらしているが、この場には深夜しかいない。

だから誰かに見られるという事が無かっただけマシだろう。

 

 

「何でだよ...何で俺は今まで1回も活躍出来て無いんだよ!」

 

 

深夜は、自身の入学してからこれまでを思い出して、またイラつく。

だが、今度は壁では無くまたベッドを殴っていた。

 

 

深夜は、入学してから今まで活躍という活躍をしてこなかった。

強いて言うなら、クラス代表決定戦ではセシリアに勝っているが、その後の一夏のインパクトでそれも薄れてしまっている。

その後のクラス対抗戦では襲撃者に立ち向かっていったがあっけなくやられ、罰を与えられた。

学年別タッグトーナメントでは1回戦でラウラと静寐のタッグに負けた。

そして臨海学校、そこでも活躍どころか違反行為を起こし、今に至る。

 

 

この状況に対して、深夜は納得していない。

だが、こうなっているのは当然である。

深夜は神様から専用機などの転生特典を貰った転生者である。

当然ながら、このISの世界の原作の知識がある。

だが、知識があるからといって活躍出来るとは限らない。

ISは実際に動かして訓練しないと使いこなせない。

だけれども、深夜は原作知識と自身が転生者であるという事で調子に乗り、特に訓練などしてこなかった。

それがこの結果である。

 

それに、入学式の日。

あの日の一夏の自己紹介が原作と違ったのだから、原作知識など役に立たない。

その事に未だに気付いていない時点で、活躍など出来ない。

 

 

「主人公が活躍できない物語が何処にあるんだよ!」

 

 

深夜は、イライラしたまま再びベッドを殴る。

未だに自分が主人公だと思っている深夜。

 

 

「まだだ、まだ物語はある!2学期には学園祭とか、キャノンボールがある!俺がそこで活躍するんだ!」

 

 

深夜は笑みを浮かべながらそう言葉を零す。

 

 

「俺は主人公だ!ハーレムを作るんだ!」

 

 

この期に及んで、深夜は未だにそんな事を考えている。

 

 

「俺が活躍して、俺が主人公だと!」

 

 

深夜は、そんな言葉を何度も何度も繰り返す。

一種の狂気すら感じるが、自分が主人公だと信じているのならば、この考えを変える事は、無いだろう...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

マドカside

 

 

夏休みも、今日を含めて後2日。

そんな日に私は織斑家にいた。

この場には、私以外にもお兄ちゃんと橘深夜を除く専用機持ちが全員集合していた。

チョッと狭い。

 

 

何で今日ここで全員重合しているかというと、楯無先輩が

 

 

「夏休みの最後に、みんなで集まりましょう!」

 

 

と集合を掛けたからだ。

会場が家である理由は、寮とか夏休みじゃなくても行けるところはつまらないとの事で、学園とはあまり関係が無くて直ぐに行けるところ。

専用機持ちのみんなの家は日本にはないし、楯無先輩と簪さんの家も直ぐに行けないらしいので、消去法で家になった。

お姉ちゃんとお兄ちゃんという家の主人2人がいない中で大人数集合という状況だけど...大丈夫かな?

まぁ、お姉ちゃんとお兄ちゃんにはメッセージを送っておいたし、大丈夫だよね?

お姉ちゃんとお兄ちゃんは仕事で今は家にいない。

お姉ちゃんはともかく、お兄ちゃんは本当に倒れないか心配だよ...

 

 

そして、今はみんなでボードゲームだったりカードゲームをしている。

10人という大人数だけど、これならみんなで同時に遊べる。

 

 

「あ、じゃあ、ポイント!これで8ポイントを...」

 

 

「お姉ちゃん、ゾンビは?」

 

 

「あ!?」

 

 

「じゃあ、楯無は敗北っスね」

 

 

ここで、楯無先輩が負けた。

ボードゲームをやり始めてからそこそこな時間が経っているのだが、簪さんと鈴さんが強い。

鈴さんはテレビゲームではボロ負けしてたのに、急に勝つようになってきた。

そして、簪さんは...ね。

元々ゲームが好きらしいけど、テレビゲームもアナログゲームも強い。

それ以外にも、シャルさんやラウラさんは安定してるし、セシリアさんは、負ける事が多いけど勝つときは結構ぶっちぎる。

先輩方もハイレベルな戦いを繰り広げてる。

頭脳ゲームとかをすると、かなりのじかんが1ターンにかかるけど、見てるだけで面白いほどの読み合いをしてる。

そうやってみんなでゲームを続けていって、

 

 

「私の勝ち!」

 

 

このゲームは簪さんの1人勝ちで終わった。

 

 

「簪さんは強いですわね」

 

 

「それもそうだが、このゲームは本当にタイトル通りの可能性があるな...」

 

 

そんな簪さんにセシリアさんは称賛の声を掛け、ラウラさんはパッケージを手に取り眉をひそめながらそう言葉を発する。

確かに、このゲーム唐突に、そして理不尽に敗北が決定するからね。

タイトル通りで間違いない気がする。

そこから、またみんなでワイワイとゲームをする。

お兄ちゃんもいたらもっと楽しいだろうな...

お兄ちゃん、サラッと色んなゲームで勝ちそうだし、カードゲームは簪さんをも凌駕しそう。

バディファイトが凄いからね...

 

 

「じゃあ、次!もう1回やりましょう!」

 

 

楯無先輩がそう言いながら今使ったカードを回収してシャッフルする。

そして、全員に再び手札を配り、順番を決めるためにじゃんけんをしようとした時

 

 

「フム、やはり賑やかだな」

 

 

という声がリビングに鳴り響く。

 

 

「あ、お姉ちゃん!お帰りなさい」

 

 

「ああ。ただいま、マドカ」

 

 

その声を発した人物は、お姉ちゃんだった。

私はそのままお姉ちゃんの側に近寄り、鞄を受け取る。

 

 

「一夏は如何した?」

 

 

「お兄ちゃんはまだお仕事で会社にいるよ」

 

 

お姉ちゃんはそう聞いてきたので、私はそのまま伝える。

すると、お姉ちゃんはため息をつく。

 

 

「アイツ、何時か倒れるぞ...」

 

 

「うん、そういう気はしてる」

 

 

お姉ちゃんもお兄ちゃんの事が心配みたいだ。

それはそうか。

大事な家族があんなに働いてるんだから、心配しない方がおかしい。

...それにしても。

 

 

「何でみんな黙ってるんですか?」

 

 

私は視線をお姉ちゃんからみんなの方に移しながらそう言う。

さっきまで賑やかだったのに、みんな急に黙ってしまった。

特にサラ先輩なんか、一目見て緊張してるのが分かる。

 

 

「いや、その...織斑先生に急に会って、緊張しない訳が...」

 

 

私の疑問に、シャルさんがそう返答する。

それを聞いたお姉ちゃんは軽く息を吐いて

 

 

「なんだデュノア。学園では担任だぞ。今更担任に緊張するのか?」

 

 

微笑を浮かべながらそう言った。

言われたシャルさんや他の人達は呆気に取られたような表情を浮かべている。

その事に私は笑いながらキッチンに移動し、冷えた麦茶を用意する。

 

 

「えっと...ふ、普段と雰囲気が違いますね」

 

 

「今はプライベートだからな。そこまで厳格にはしないさ」

 

 

お姉ちゃんは軽く身体を伸ばしながらその疑問に答える。

そんなお姉ちゃんに私は麦茶を差し出す。

お姉ちゃんはそれを受け取るとそのまま麦茶を飲み干す。

 

 

「ふぅ、暑い外から戻ってきた後の冷えた水分は美味しいな」

 

 

「そりゃそうだよ」

 

 

私がそう言うと、お姉ちゃんは笑ってから麦茶をシンクに持っていく。

 

 

「じゃあ、お姉ちゃんもゲームする?」

 

 

「そうだな...今日はこの後予定が無いからな。混ざらせてもらおう」

 

 

こうして、お姉ちゃんも混ざってゲームをする事になった。

みんなは最初の方は若干ぎこちなかったけど、何回もゲームを繰り返すと少しは馴染んだみたいだ。

私やお兄ちゃんにとっては教師と言うより姉の印象の方が強いけど、みんなにとっては教師で、ブリュンヒルデの印象が強いみたいだ。

お兄ちゃんと唯一昔から関わりがある鈴さんでさえ、やっぱりそっちの印象が強いんだろう。

まぁ、お兄ちゃんと鈴さんが関わっていたのは小学校5年生から、中学校1年生の途中までらしい。

その間はお姉ちゃんは忙しかったので、鈴さんと関わる事は無かっただろうからそれも仕方が無いか。

...当時のお姉ちゃんと今のお兄ちゃん、どっちが忙しいんだろう?

私の予想では、お兄ちゃん。

あんな過労死が見えてくるように働いてる男子高校生、他にいないよ。

 

 

そうしてみんなでゲームをしていると、もう6時半を過ぎていた。

 

 

「もうそろそろ夕ご飯の時間だな」

 

 

ここで、ダリル先輩が壁にかかってる時計を見ながらそういう。

 

 

「夕ご飯、如何する?」

 

 

鈴さんがそう言うと、みんなでどうしようか考える。

まぁ、今から買い物に行って作るか、出来合いのお弁当を買うか、何処かの飲食店に行くか。

このどれかだろう。

如何しようかみんなで話し合おうとした時、

 

ガチャ

 

と玄関を開ける音が響く。

私達が一斉にリビングの扉に視線を向けると、その扉も開き

 

 

「多っ」

 

 

といいながら、お兄ちゃんが入って来た。

半袖Yシャツのスーツに、暗めの青のネクタイに腕時計。

黒のリュックに、両手には大きめの買い物袋。

何処から如何見てもただのサラリーマンだ。

 

 

「お兄ちゃん!お帰りなさい!」

 

 

「おう、ただいま」

 

 

お兄ちゃんは買い物袋をキッチンに運びながら挨拶を返してくれる。

 

 

「飯は食べたか?」

 

 

ここで、お兄ちゃんは私達の方を見ながらそんな質問をしてくる。

 

 

「いや、これから如何しようか考えるところだったけど...」

 

 

私がそう答えると、お兄ちゃんは

 

 

「やっぱりな。俺が今から作るわ」

 

 

ネクタイを緩めながらそう言ってくれる。

 

 

「え、そ、それは...お兄ちゃん疲れてるだろうし、いいよ」

 

 

「わざわざ材料買ってきたんだが?」

 

 

私が断ると、お兄ちゃんはさっきまで手に持っていた買い物袋を持ち上げながらそういう。

私がその袋を覗き込むと、確かに結構な量の食材が入っていた。

 

 

「良く私達がここまで残ってるって分かったわね」

 

 

「分かるわ。お前と何回遊んだと思ってる」

 

 

鈴さんとお兄ちゃんはそう会話して小さく笑い合う。

 

 

「それに、料理は俺にとって息抜きなんだ。料理させろ」

 

 

「...じゃあ、お願いしようかな?」

 

 

「お願いされました」

 

 

お兄ちゃんは笑いながらそう言うと、

 

 

「ここで1つ、重大な事案が存在する」

 

 

急に真剣な顔になって、そんな事を呟く。

な、何?

私達全員がお兄ちゃんの事を見ると、お兄ちゃんは

 

 

「俺ってさ...ウェルキン先輩と初めましてなんだよね」

 

 

と、サラ先輩の事を見ながらそう言う。

その事に思わず私達は拍子抜けしてしまうが、そんな私達の事を放ってお兄ちゃんはサラ先輩に話し掛ける。

 

 

「すみません、初対面でこんな感じで。織斑一夏です、よろしくお願いします」

 

 

「あ...イギリス代表候補生のサラ・ウェルキンです。よろしくね、織斑君」

 

 

「一夏で良いですよ」

 

 

「あ、なら、私の事もサラで良いわよ」

 

 

「分かりました、サラ先輩。それとも、サラさんの方が良いですかね?」

 

 

「っ!で、出来れば、さんの方で...」

 

 

「?...分かりました」

 

 

サラ先輩が急に表情を変えたことにお兄ちゃんは疑問を感じていたけど、そのまま流した。

まぁ、お兄ちゃんには分からないだろうけど、お兄ちゃんと仲がいいっていうのはもう一種のステータスみたいなのもだからね。

そんな中で先輩じゃなくてさん呼びなら、少しテンションは上がっちゃう。

ステータス以外にも、お兄ちゃんは本当にカッコイイ男子だから仲良くなって正解だと思う。

っていうか、お兄ちゃんって恋愛出来るのかな?

今物凄く忙しいから恋愛だなんて出来てなさそう...

でも、お兄ちゃんの恋人になれたら、それは凄いと思う。

いったい誰がなるんだろうな...

 

 

「じゃあ、俺は取り敢えず着替えて荷物置いてくる。ディミオス、準備頼んだ」

 

 

《了解した》

 

 

お兄ちゃんの声に応じて、ディミオスソードがスーツの胸ポケットから出て来た。

そうして、お兄ちゃんはいったんリビングを出て部屋に向かい、ディミオスソードはキッチンの棚からお皿を取り出し、そしてもう1個何かを取り出す。

その何かとは...

 

 

「ホットプレート?」

 

 

簪さんがそう呟く。

そう、ディミオスソードが取り出したのは、少し大きめのホットプレートだった。

 

 

「懐かしいな。まだとってあったのか」

 

 

お姉ちゃんはそう呟く。

そこそこ長く使ってるものらしい。

ディミオスソードはそのままホットプレートを机の上に置いて、プラグをコンセントに繋ぐ。

そうして、今度は大皿3つを取り出してホットプレートの隣に置く。

何で3つも?

私達がそう疑問を感じると、丁度そのタイミングでお兄ちゃんが戻って来た。

さっきまでのスーツとは異なり、落ち着いた色がメインのシンプルな服。

 

 

「ディミオス、ありがとさん。ここからは俺がする」

 

 

《分かった》

 

 

そうして、ディミオスソードとバトンタッチしたお兄ちゃんは、

 

 

「明日の朝飯の食材を冷蔵庫に入れてなかった」

 

 

と呟き、袋から取り出した豆腐とかを持って冷蔵庫の扉を開ける。

 

 

「おい千冬姉!何で冷蔵庫の中が酒だけなんだよ!」

 

 

そうして、お兄ちゃんは若干怒気を含んだ声でそうお姉ちゃんに言う。

冷蔵庫の中を覗くと、本当にお酒がぎっしりだった。

私達は一斉にお姉ちゃんの事を見る。

すると、お姉ちゃんは気まずそうに視線を逸らす。

 

 

「おい駄目姉!本気で酒禁止にするぞ!アンタ酒飲み過ぎだ!」

 

 

「そ、それだけは...!!」

 

 

お姉ちゃんは素早くお兄ちゃんに頭を下げる。

その珍しい光景に、みんな驚いたような表情でお姉ちゃんの事を見ている。

 

 

「安い謝罪だ...」

 

 

お兄ちゃんはそう言いながら冷蔵庫の中を整理して豆腐とかを入れる。

そうして、冷蔵庫の整理を終えたお兄ちゃんは、エプロンを身に着けてからお姉ちゃんに缶チューハイを渡す。

 

 

「冷蔵庫に入りきらん。飲め。今日は許す」

 

 

「は、はい!」

 

 

「...完全に、一夏の方が立場が上に感じる」

 

 

その光景に、ラウラさんが思わずそんな事を呟く。

 

 

「何言ってんだラウラ。学園での関係が特殊なだけで、普段からこんなんだぞ」

 

 

「それを言うな!」

 

 

「あ?普段からしっかりしろこの駄目姉!」

 

 

「すみません!!」

 

 

お兄ちゃんはため息をつきながら、棚からホットプレートの交換用のパーツと、袋から材料を取り出す。

その交換用パーツを見て、私達はお兄ちゃんが何を作るのか一瞬で分かった。

 

 

『たこ焼き?』

 

 

「正解」

 

 

お兄ちゃんは交換しながらそう答える。

そうして、タコ焼きプレートとなったプレートに油を塗る。

 

 

「たこ焼きをこの人数分って、時間かかるんじゃ...」

 

 

「まぁまぁ、見てろ簪」

 

 

お兄ちゃんはそう言うと、材料を全てボウルに移してプレートの横に置き、竹串を2本取り出す。

 

 

「未門流、たこ焼きづくり!」

 

 

そうして、お兄ちゃんはそう言うと物凄い勢いでたこ焼きを作っていく。

私達が呆気に取られていると、何時の間にやら大皿3つにたこ焼きの山が出来上がっていた。

 

 

「完成!」

 

 

お兄ちゃんは誇らしげにそう言うと、たこ焼きの1つに爪楊枝を刺して、そのまま食べる。

 

 

「うん、味もばっちり」

 

 

出来立てのたこ焼きを1口で食べて良く熱がらないな...

私がそんな事を考えていると、お兄ちゃんは割りばしを人数分取り出してさっきディミオスソードが出したお皿と一緒にみんなに配る。

 

 

「席に座って食べろ」

 

 

お兄ちゃんはそう言いながらエプロンを脱ぐ。

その指示に従って、私達は椅子に座る。

ただ、椅子が足りないのでキッチンから座れるものを何個か持ってきたりしたけど。

そんな私達を見たお兄ちゃんは微笑むと、買い物袋からパン2袋とブラックコーヒーとエナジードリンクを取り出す。

...いやな予感!

 

 

「じゃあ、俺は仕事しながらこれ食うからもう食べていいぞ」

 

 

『やっぱり!』

 

 

お兄ちゃんがそう言った瞬間、私達は一斉にそう言葉を発する。

みんな考える事は同じだったようだ。

 

 

「お兄ちゃん、こういう時くらい食べようよ!」

 

 

「仕方ないだろ。文句は俺じゃなくて日本政府と国際IS委員会と女性権利団体に言ってくれ」

 

 

お兄ちゃんはそう言葉を零すと、リビングの入り口に向かう。

 

 

「ディミオスはここにいていいぞ。みんな、飯食ったら帰れよ。時間も時間だし、家には客用の布団が無いからな」

 

 

「えー...まぁ、仕方が無いわね。一夏君の寝顔写真撮ろうとしたのに...」

 

 

「声が漏れてるんですよ、楯無さん」

 

 

お兄ちゃんはジト目で楯無さんの事を見ている。

楯無さんは見られて視線を横に逸らす。

 

 

「そもそも俺の寝顔はレアですよ」

 

 

「何で?」

 

 

「睡眠時間が短いからな!」

 

 

「誇っていう事じゃないよ!」

 

 

何の自慢にもならないよ!

 

 

「マドカ、風呂は仕事終わったらシャワー浴びるからそのままでいいぞ」

 

 

「分かった」

 

 

「じゃあ、みんなしっかり食べてね~~」

 

 

お兄ちゃんはそう言うと自分の部屋に戻ってしまった。

 

 

「...本当に、直ぐに倒れちゃうよ.....」

 

 

シャルさんがそう心配そうに言葉を漏らす。

お兄ちゃん、大丈夫かな...

 

 

「取り敢えず、折角お兄ちゃんが作ってくれたんですし、食べましょう」

 

 

「そうだね」

 

 

そうして、私達はお兄ちゃんの事を心配しながらも、たこ焼きを食べる事にした。

 

 

『熱っ!!』

 

 

忘れてた!!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

夏休み最終日の夜。

俺はIS学園の教員寮の自室で明日の準備をしていた。

 

 

「明日は...普通に始業式と、授業か」

 

 

初日から授業あるのはしんどい。

でも、仕方が無いか。

 

 

「明日からは、夏休みに比べればゆっくりできるだろ」

 

 

《普通は逆なんだがな》

 

 

俺の呟きにディミオスがツッコミを入れる。

まぁ、普通は夏休みの方がゆっくり出来るに決まってる。

名前にも休みって入ってるくらいなんだから。

でも、俺の場合は違う。

授業の時間には、当然ながら授業しかできない。

だから仕事をする事は無いのだ。

授業と仕事、どっちが辛いかといわれると、それは仕事だ。

だからこそ、休みの日じゃない方が俺はゆっくり出来る。

 

 

「2学期には、学園祭とかがあるな...俺、参加できるだろうか?」

 

 

《このままのペースで行くと、確実に準備への参加は出来ないな。本番には...分からないな。出来るかもしれないし、出来ないかもしれない》

 

 

参加してぇよ!

臨海学校の自由時間、俺仕事してたんだぞ!

学園祭も参加できなかったら、俺の青春はいったい何処に!?

 

 

[マスターは恋愛はしてるけど、それ以外に青春っぽい事何もしてないよね]

 

 

(そうなんだよ白式...)

 

 

俺って本当に高校生...だよな。

自分が心配になって来る。

 

 

「とうとうエナドリに手を出したしな」

 

 

《まだ2回しか飲んでいないから大丈夫だが、飲み過ぎは身体を壊すぞ》

 

 

「分かってるよ。仕事が減ったらな...」

 

 

そうやって会話していると、明日の準備は終わった。

俺はPCの電源を付け、起動するのを待つ間にサンドイッチを食べる。

そうして1つ食べ終わったら丁度起動した。

俺はそのまま作業用のソフトを起動する。

 

 

[マスター、ご飯それだけですか?]

 

 

(いや、もうちょっと食べるさ。仕事しながらな)

 

 

うーんと...やっぱり仕事が大量だな。

 

 

「夏休みに実験できたのはいいが、深夜のISに関しては何も進展しなかったな...」

 

 

《仕方が無い。我々が直接調べることなど出来ないのだからな》

 

 

そう、それだ。

深夜の専用機、マスター・コントローラー。

誰が開発したのか、誰が深夜に渡したのか、如何やってドイツの技術などを組み込んでいるのかなど、調べないといけない事が多い。

だが、1学期を含め今まで何も分かった事は無い。

如何するかな...

 

 

「っておい!何でこの仕事納期が明日なんだ!今日送って来ただろうが!」

 

 

ふざけんな!

はぁ...

 

 

「俺、頑バル!」

 

 

《頑張れ》

 

 

[[頑張って下さい!]]

 

 

さぁ、夏休みの思い出は、クラリッサとチェルシーと実験と弾たちと仕事だけだった。

取り敢えず、仕事をする!

そうして、明日からの2学期も頑バル!

 

 

 




夏休み終了記念!誰得か分からない作者の使用デッキ!(そこそこガチです)

デッキ名:ロストタイム
フラッグ:ゴッドクロック/真なる時の神 ジ・エンドルーラー・ドラゴン
バディ:タイムスカウト オメガ

フラッグ 2枚
ロストワールドx2

モンスター 15枚
時の神 タイムルーラー・ドラゴンx2
時を制する神 タイムルーラー・ドラゴンx1
タイムスカウト オメガx3
タイムジェネラル トゥボカスx3
タイムオブザーバー オクトx2
タイムスカウト ランゲx4

魔法 33枚
クロノス・ペリオx4
クロノス・アルメーテx4
クロノス・リヒトムーヴメントx4
クロノス・リバースx4
クロノス・バンテ・アージx2
クロノス・シン・エピタx2
クロノス・シン・ブロックエンドx2
クロノス・ヴァントx2
―エス―x3
―カストラ―x3
フューチャーカード バディファイトx3

ロストデッキ

モンスター 10枚
暁闇の騎士 ロストナイト:ギルト・ランスx4
アルアーロ・デリルレイx3
改過魔神竜 ヴァニティ・廻・デストロイヤーx2
凶乱魔神竜 ヴァニティ・刻・デストロイヤーx1

魔法 17枚
ディメンジョン・ドローx3
ディメンジョン・レストレントx3
デイ・オブ・デバステーションx2
ディメンジョン・ルインx2
ディメンジョン・スレイヤーx2
バトルオブヴァリアントx3
深淵と凶乱の侵略x2

アイテム 3枚
凶乱魔塵 ロストレス・ハイザーx2
凶乱魔装 ロストレス・ウォールx1

バディファイトのサービス終了まで使ってたデッキ。
そこそこ思い入れがあるが、身内での使用は友人から禁止されていた。

夏休みが終わりました!
一夏は休んでないし、現実の季節と真逆だけど。
次回からは2学期です!

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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2学期
2学期の始まり


今回から2学期!
そうしてこっちを更新するのは新年初。
今年もよろしくお願いします。

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

2学期始業式の日、時刻は5:30。

俺は何時ものように朝のトレーニングをしていた。

最近は仕事のせいでみんなとの訓練が出来てないから、こういうところでしっかりと訓練しておかないと。

 

 

《一夏。今日も確か更識楯無に呼ばれているんだったな》

 

 

「そう。始業式の会場設営の手伝いだってさ」

 

 

仕事が忙しいから勘弁してほしかったので断るメッセージを送ったのだが有無を言わせない感じで押しかけて来たので、渋々参加する事にした。

勘弁してほしい...

 

 

「ディミオス、準備出来たぞ」

 

 

《受け取れ、模造剣だ》

 

 

「ありがとう」

 

 

そう会話した後、俺はディミオスから模造剣を受け取る。

俺とディミオスが今からする事、それは斬り合いだ。

1学期にも体育の授業かなんかでやった事があるが、それだ。

 

 

《ルールは?》

 

 

「場外は無し。だけど節度をわきまえる事、そして怪我をしないようにする。これくらいでいいかな」

 

 

《了解した》

 

 

ここで俺とディミオスは会話を切り上げ、お互いに何歩か離れて模造剣を構える。

そうして暫くお互いが見合っていたが、風邪が吹き周りに生えていた木々が揺れて音が鳴る。

 

 

「ハァ!」

 

 

それと同時に俺は地面を思い切り蹴りディミオスに接近し模造剣を振るう。

 

 

《フッ!》

 

 

ディミオスは俺の攻撃をそのまま自身の模造剣で受ける。

 

ガキィ!

 

模造剣同士がぶつかったときの音があたりに鳴り響く。

 

 

《...パワーが上がったな!》

 

 

「そりゃどうも!」

 

 

俺はそう言うとディミオスの剣を力任せに弾き、ディミオスの事を蹴る。

だが、SDであるディミオスには簡単には当たらずそのまま避けられてしまう。

 

 

《ハァ!》

 

 

今度はディミオスが模造剣を俺に振るってくる。

 

 

「くっ!」

 

 

蹴りを放った体制だったが、俺は身体を捻り模造剣でガードする。

 

ガキィ!

 

再びあたりにその音が響く。

 

 

《フム、スピードも上がってるな!》

 

 

「ディミオスよりは遅いけどな!」

 

 

やっぱりSDでもモンスターだからパワーもスピードも俺よりかは全然上だな!

俺はそんな事を考えながらディミオスの剣を押し戻し、今度は自分から攻撃をする。

 

 

「ハァ!」

 

 

《甘い!》

 

 

そこから、俺とディミオスは攻撃、防御、反撃、防御を何度も繰り返す。

 

 

「はぁ、はぁ」

 

 

そこそこ息が上がって来た。

 

 

「ハァ!!」

 

 

俺がディミオスに攻撃をすると、

 

 

《もらった!!》

 

 

と、ディミオスが俺の足を払ってくる。

仕舞った!

俺はそのまま仰向けに倒れてしまう。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

《決まりだな》

 

 

俺が受け身を取ると、俺の顔の前にディミオスの持つ模造剣が突き付けられる。

これは...負けだな。

 

 

「ディミオス、参った」

 

 

俺がそう言うと、ディミオスは

 

 

《ふぅ...かなり身体能力が上がったな》

 

 

と言いながら模造剣をどかす。

俺はそのまま上体を起こす。

 

 

「はぁ...ディミオスには勝てないか」

 

 

《さっきも言ったが、それでも身体能力は上がっている。これでは、何時かは負けるかもな》

 

 

「何時かは勝つさ」

 

 

そう俺とディミオスは会話をする。

仕事ばっかりで碌に訓練が出来てないけど、ディミオスが言うなら間違いないだろう。

これで身体能力が落ちてたら、俺は睡眠時間を削ってトレーニングし直すことになってた。

俺がそんな事を考えていると

 

 

「おう一夏。朝からよくやるな」

 

 

と背後から声を掛けられる。

俺がそっちの方に振り返ると、そこにいたのはオータムさんだった。

 

 

「オータムさん!なんか久しぶりですね」

 

 

「確かに久しぶりだな」

 

 

なんか物凄い久しぶりだ。

夏休みの間は会話してなかったからな。

 

 

「お前、最近仕事のし過ぎじゃないか?スコールから聞いたぞ」

 

 

ここで、オータムさんがそう言ってくれる。

俺は思わず苦笑いをしながら頭をかく。

 

 

「そうですかね?」

 

 

「話を聞くだけで、お前が働き過ぎなのが分かる」

 

 

うーん、仕事している姿を見せていないオータムさんにもこう言われてしまうのか。

 

 

《お前は働き過ぎだ》

 

 

[マスターは働き過ぎです]

 

 

[いつか倒れますよ]

 

 

おう、ディミオス達にも言われてしまった。

 

 

「改善した方が良いぞ?」

 

 

「そうしたいんですけど、日本政府と国際IS委員会と女性権利団体からの仕事が...」

 

 

俺がそう言うと、オータムさんは苦笑いを浮かべる。

本当に勘弁してくれ。

 

 

[マスター、そろそろ時間です]

 

 

(もうそんな時間か。ありがとう白騎士)

 

 

ここで、白騎士がもう時間であることを知らせてくれる。

 

 

「じゃあオータムさん。そろそろ時間なので」

 

 

「そうか。2学期も頑張れよ!」

 

 

「はい」

 

 

こうしてここでオータムさんとは別れ、俺は寮の自室に戻る。

シャワーで汗を流し、制服に着替える。

着替え終わったらPCを起動し仕事のチェックをしながら朝食に完全栄養食のパンを食べる。

完全栄養食。

それ1つで1日分の栄養を取れるという便利すぎるもの。

このパンの場合は1日6つ、つまり朝昼晩2つずつ食べればそれで栄養はOKだ。

 

 

「便利な世界になったものだな...」

 

 

[マスター、それは高校生が食べるものじゃないよ]

 

 

(ん?何だ白式。別にそんな事書いてないぞ)

 

 

[そう言う事では無くてですね。高校生ならもっとしっかりとした食事をとるものだという事です]

 

 

(仕方ないじゃないか。時間が無いんだ。それに週1くらいは自分で作ってるからいいだろ)

 

 

[そうですけど...]

 

 

《一夏、さっさと食え。もう直ぐ時間だ》

 

 

「OK!」

 

 

白式と白騎士はまだ納得してなさそうだが、取り敢えず時間の為俺はそのままパンを2個直ぐに食べ、PCをスリープにしてから鞄に入れ、それをもって寮の外に出る。

2学期が始まるから、仕事の量は夏休みよりはマシだろう。

そして、2学期には学園の行事が目白押しだ。

少しは青春ってものを感じれるといいな...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

時刻は進み、始業式後の2学期最初のLHR前。

俺は自席で時間ギリギリまで仕事をしている。

 

 

あの後楯無さんや虚さんやのほほんさん、そして教員のみなさんと共に準備を終わらせ、そのまま教室に戻った。

俺が教室に来たのは最後だったのだが結構みんな日焼けしていた。

特に清香を始めとしたスポーツ関係の部活に所属しているみんなはこんがりとしていた。

俺も結構営業とか挨拶回りとかで外を出歩いていたからそこそこ日焼けしてたけど、流石にスポーツしてたり海に行った人と比べると焼けてない。

まぁ別に焼きたいわけでも無かったしどうでもいいけど。

 

 

そして忘れてはいけないのが、2学期から深夜が謹慎が明け、復帰する事だ。

だが、まぁ、周りと馴染めていなかった。

正直4月とかの方が周りに馴染んでいた気がする。

 

 

そんな事を考えながら始業式に参加して、学園長などの話を聞いた。

まぁ、特にそれ以外に何かあった訳でも無く、他の先生からも話が何個かあり始業式は終了。

 

 

そして今という訳だ。

俺がPCとにらめっこしながら仕事をしていると

 

 

「一夏さん、所属IS操縦者用の書類終わりました」

 

 

と言いながらシャルが書類を持って来てくれた。

俺は顔をそっちの方に向けてからその書類を受け取る。

 

 

「確かに受け取った。ありがとうな、シャル」

 

 

どれどれ...

うん、しっかりできてるな。

流石はシャル。

誤字もないし大丈夫だ。

...なんだ?

視線を感じるぞ?

 

 

「...何でそんなに見て来るんだ?」

 

 

俺は視線をみんなの方に向けながらそう言う。

そう、何故かシャルが俺の所に来て会話してからみんなの視線が集まっていたのだ。

俺がそう質問すると、

 

 

「いや、その...シャルロットが一夏に敬語を使うのに違和感があったからな...」

 

 

ラウラがそう答える。

 

 

「確かに、学園で俺に対して敬語使うのははこれが初めてか?」

 

 

「そうだね」

 

 

敬語からため口切り替わったシャルが俺の質問にそう答える。

まぁ、仕事の時しかこうはならないからな。

 

 

「仕事の時くらいは上司に敬語を使うよ」

 

 

「寧ろ仕事以外の時に敬語で呼ぶな。同級生で友人だから違和感あるし、仕事が来たと思ってテンション下がる」

 

 

「...それもそうだね」

 

 

すると、シャルは若干心配そうな表情になって自分の席に戻っていった。

若干だが、俺を見ているみんなの視線も心配そうなものに変わっている。

俺、そんなに働いてるか?

...働いてるか。

自分で言ってて悲しくなってきたぜ。

そんな事を考えながら仕事を進めていくと

 

キーンコーンカーンコーン

 

とチャイムが鳴る。

それと同時に俺は直ぐにPCをスリープにしてしまう。

俺が丁度しまったタイミングで教室の扉が開き、織斑先生と山田先生が入って来た。

 

 

「さて諸君、おはよう。今日から2学期だ。先程学園長が仰っていたが、2学期には様々なイベントが存在する。だからといって気を抜かず、しっかりと生活するように!」

 

 

『はい!』

 

 

織斑先生の言葉にみんなで一斉に頷く。

全く、これがあの生徒達の前で酒だらけの冷蔵庫を見られた俺の姉と同一人物かよ。

私生活でもしっかりしてくれ。

 

 

「織斑、今何を考えている?」

 

 

「え?私生活ではだらし姉なのを直してくれって考えてました」

 

 

「それを言うな!!」

 

 

「ここでその反応は肯定ですよ?そもそも織斑先生だって言って無いのに」

 

 

「...しまった」

 

 

なんかこのやり取り久しぶりな気がする。

 

 

「まぁ、夏休み明けの姉弟漫才もこのくらいにしておいてですね」

 

 

「そ、そうだ。今の内容は全て冗談だからな?」

 

 

織斑先生がそう言うと、クラスのみんなは頷く。

だが、セシリアとラウラとシャルは苦笑いを浮かべていた。

夏休みに真実の姿を見たため、鵜吞みに出来ないのであろう。

まぁ、今までの漫才と言ってきたことも真実だし。

 

 

「それでは、提出物を回収します。みなさん、机の上に準備してください」

 

 

ここで、山田先生がそう指示を出す。

その指示に従い、クラスの全員が提出物を準備する。

謹慎だった深夜も課題は受け取っていたらしい。

 

 

「はい、では出席番号順に持って来てください。1番最初に成績表を回収します」

 

 

山田先生の指示に従い出席番号順に成績表を持っていく。

俺の成績表って千冬姉しか俺以外には見ないからわざわざ配布された意味を感じないが、仕方が無い。

そうして、各教科からの課題も提出した。

俺は夏休み入る前に全部終わらせてそのままずっと仕舞ってたからみんなよりも折り目がはっきりしてたけど、まぁ気にしない。

そんなこんなで提出物は全て提出し終えた。

 

 

「フム、少し時間が余ったな」

 

 

織斑先生は時計を見ながらそう言う。

確かに、少しどころか15分近く時間が余ってる。

 

 

「そうだな...順番に夏休みの思い出でも喋ってくれ」

 

 

小学生か。

何でこの年齢でみんなの前で夏休みの思い出をスピーチしないといけないんだ。

 

 

「先ずは相川」

 

 

「はい!」

 

 

そして何で清香はそんなにノリノリなんだ?

俺がそんな事を考えている間に清香はすらすらと夏休みの思い出を喋っていく。

.....青春してるじゃん。

 

 

[マスターがして無さすぎるんです]

 

 

(それは...そうだな)

 

 

白騎士に言われたことに俺は頷く。

仕事がなぁ...

 

 

「じゃあ次は織斑兄」

 

 

「はい」

 

 

さて、そんな事を考えている間に俺の番になった。

俺は席から立ち上がりみんなの方に振り返る。

さて、俺の夏休みの思い出は...

 

 

「.....ドイツ行ってイギリス行って中学時代の友人と会って、それ以外全部仕事」

 

 

これだけだな。

うん。

 

 

「...織斑兄、もう少し詳しく.....」

 

 

織斑先生がそう言ってくるので、俺はもう1度考える。

そうだな...

無許可でクラリッサとチェルシーの事は言えないから...

 

 

「と言っても、ドイツにもイギリスにも昔にあった人に会いに行った感じですし、中学時代の友人とは本当に友人ノリで半日過ごしただけですし...」

 

 

俺がそう言うと、山田先生や織斑先生を含め、俺の話を聞いていたみんなが悲しそうな表情をする。

おいおい、そんな表情になるな。

話をした俺まで悲しくなってくるではないか。

でも、俺の夏休みの思い出が仕事とクラリッサとチェルシーが殆どだ。

 

 

「以上ですね」

 

 

「そ、そうか...では、次頼む」

 

 

そう言われて俺は席に座る。

なんか、微妙な空気で話をパスしてすまん。

入学式の日の自己紹介でも同じ事を考えたような気がする。

そんなこんなでみんなの夏休みの思い出の話も終了した。

そうして丁度いいタイミングでチャイムが鳴り

 

 

「では、これでLHRを終了する、この後は授業があるから各自準備しておけ」

 

 

と指示を残し織斑先生と山田先生は職員室に戻っていった。

さて、授業も頑張りますか!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

時刻は進み、現在20:20。

俺は部屋で朝食や昼食と同じ完全栄養食のパンを食べながら仕事をしていた。

 

 

あのLHR後の授業は、2学期初日という事でいつもよりはスローペースだった。

そのおかげで大変リラックスしながら学業に取り組むことが出来た。

普通は可笑しいのかもしれないが、俺からすると仕事が忙しいので授業はリラックスタイムだ。

しっかりと授業は聞いてるしテストの点数も良いんだからこれくらいは許してくれ。

俺がそんな事を考えていると

 

♪~~~♪~~~

 

とスマホが着信の音を鳴らす。

誰だ?

こっちは今忙しい...

クラリッサだぁ!

 

 

「もしもしクラリッサ?一夏だけど、どうかしたか?」

 

 

『あ、一夏!その、偶々電話出来る状況の休憩時間になったから、一夏の声が聞きたくて...』

 

 

何て可愛いんだ!

電話越しでも分かるくらいには、クラリッサの声も嬉しそうだ。

 

 

「そっか。今は普通に昼ご飯を食べた後か?」

 

 

『そうだよ。一夏は今何をしていたんだ?』

 

 

「完全栄養食のパンを夕食として食べながら仕事してた」

 

 

クラリッサの質問に俺がそう返すと

 

 

『一夏...身体は大丈夫か?』

 

 

と物凄く心配そうな声でクラリッサが言ってくれる。

 

 

「ああ、大丈夫だよ」

 

 

『それならいいんだが...一夏、無理も無茶もしないでくれ。一夏に何かあったら、私は...』

 

 

「大丈夫だ、心配かけさせるようなことはしないって」

 

 

『その言葉、忘れないでくれ』

 

 

「勿論」

 

 

俺がそう言うと、クラリッサはほっと息を吐く。

こんなに心配してくれる恋人がいるなんて...俺は幸せだな。

 

 

『じゃあ一夏。こっちから電話しておいて悪いがもう時間だから...』

 

 

「うん。クラリッサ、頑張ってね!」

 

 

『一夏も、身体を壊さないように頑張ってくれ』

 

 

「ああ!」

 

 

ここで通話は終了した。

 

 

「さて!クラリッサと話せたから元気出た!頑張るぞ!!」

 

 

そうして、俺はそのままパンを食べ終わると、PCでの仕事を再開した。

....女性権利団体!

いい加減に同じ内容の書類を何百枚と送って来るのを、やめろぉ!!

 

 

 

 




一夏の悲痛な叫びが...
私にも届いた...

一夏、頑張って!

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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突然のカミングアウト

な、何のカミングアウトだ!?
まぁ、察した人もいると思いますが。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

2学期が始まってから少しの日数が経過したある日。

IS学園の体育館には全校生徒が集まっていた。

理由は簡単。

9月の中旬にある学園祭の説明のための全校集会があるからだ。

学園祭が近いという事もあって、集まっている生徒の大多数はテンションが上がっていた。

 

 

その大多数ではない生徒、一夏はボーッと立ってステージの事を見ていた。

一夏は相も変わらず仕事まみれの生活を送っていながら、今日も朝からこの全校集会の為の準備をしていたのだ。

少し疲れている。

 

 

(...学園祭、本当に当日だけじゃないと参加できないぞ.....)

 

 

一夏は溜まっている仕事の量を考えて、一夏はため息をつく。

丁度そのタイミングで、

 

 

『それでは、これから全校集会を始めます』

 

 

と、司会進行役の真耶がマイクを使いそう言い、全校集会は始まった。

まず初めに学園長である十蔵が挨拶代わりに話をして、そこから他の教員が学園祭での注意事項などを話す。

注意事項は大事な事なのでテンションが上がっていても全員が集中して話を聞いていた。

ただ、準備段階の話だけは一夏は苦笑いで聞いていた。

自分が参加できない事を聞いても仕方が無いという事だろう。

それでも話をしっかり聞いているのは、一夏が真面目だからだろう。

 

 

『それでは、次に生徒会、お願いします』

 

 

教員の話が終了したので、真耶はそう指示を出す。

その指示に従い、生徒会長である楯無がステージ上に立つ。

 

 

『みなさん、今年はごたごたしていた為、こうやって挨拶するのは初めてですね。1年生のみなさんには私の顔を始めてみる人もいるのではないでしょうか。生徒会長の更識楯無です』

 

 

ステージ上に立った楯無は、マイクを使い全校生徒に向かって挨拶する。

 

 

(.....それは良いのか?)

 

 

一夏は、楯無が言った事に疑問を感じていた。

まぁ、生徒会長が2学期になって漸く全校生徒の前で挨拶というのは普通に考えたらおかしいだろう。

 

 

(原因は立て続けに起こってる事件と、俺と深夜だろうから、俺が言えることでは無いか)

 

 

一夏は1人で何となくの理由を察していた。

 

 

『それでは早速ですが、本日の目玉を発表します!!』

 

 

楯無がそう言うと、体育館内は一気にざわつく。

だが、楯無が咳ばらいをして静まらせる。

 

 

『みなさん、落ち着いて下さい。毎年我がIS学園では各部の出し物の売り上げに応じてその部の部費を増やしているのだけど、それじゃあつまらないと思い...』

 

 

楯無はそう言うと、バット右手を上げる。

その瞬間、プロジェクターが、スクリーンに一夏の顔写真を映す。

体育館にいる生徒達は一夏と深夜を除き一瞬でザワザワしだす。

 

 

『売上1位の部活に、織斑君を強制加入させます!』

 

 

楯無がそう言い切った瞬間、体育館内が歓声で揺れる。

みんなで頑張ろうと全員がやる気を見せる中、

 

 

『ほぉ...無許可でよくそんな事が言えましたねぇ...?』

 

 

といった声が体育館に響く。

騒がしかった体育館は一瞬で静かになり、その場にいた生徒達は一斉に1人の生徒の事を見る。

その生徒とは、マイクを手に持ちどう見ても怒っている表情の一夏だった。

 

 

『い、一夏君、如何してマイクを...』

 

 

『嫌な予感がしたので準備の時に接続済みのものを1つ拝借しました。ああ、榊原先生に許可は貰ってますよ』

 

 

一夏は笑顔になってゆっくりとステージに歩いている。

笑顔だが、怒気や殺気などか漏れ出ている。

 

 

『よくもまぁ、俺に無許可でそんな事出来ましたね』

 

 

『い、いいじゃないの!それくらい!』

 

 

『何開き直ってるんですか。仕事が忙しいので部活に入れるわけが無いんですよ』

 

 

一夏はマイクで楯無と会話しながらステージに移動し、ステージ上に上がる。

楯無はダラダラと冷や汗を流している。

 

 

『それで?何か言い残したことはありますか?』

 

 

『い、一夏君、落ち着いて落ち着いて...』

 

 

一夏がそう言うと、楯無は1歩下がりながらそう返す。

 

 

『い、一夏君!これは、一夏君にもメリットがあるのよ!』

 

 

『ほう?仕事の時間を奪われるというデメリットを上回るメリットがあるというんですか』

 

 

楯無の苦し紛れとも感じる発言を聞いて、一夏は嘲笑うような表情を浮かべながらそう返す。

チャンスだと思ったのか、楯無は口元に笑みを浮かべる。

 

 

『そうよ!私達みたいな可愛い女の子に囲まれる!』

 

 

『そんなものメリットでは無いのですが』

 

 

楯無が言った事を一夏がバッサリと切り捨てる。

 

 

『な、何でよ!男の子として嬉しい状況じゃないの!?』

 

 

楯無は、一夏の言った事に驚いたようにそう声を発する。

そう言われた一夏は

 

 

(如何する...言う?...言うか。名前さえ出さなければ迷惑は掛からないだろう)

 

 

と考え、口を開く。

 

 

『恋人がいるので特にそう思いません』

 

 

そう、一夏が言った瞬間。

体育館内の空気が一瞬にして凍り付いた。

 

 

(...ヤバい!)

 

 

空気の変化を察した一夏は咄嗟に耳を塞ぐ。

その直後、

 

 

『ええええええええ!?』

 

 

と、先程までとは桁違いの絶叫が体育館に響く。

 

 

「か、貫通した!?」

 

 

そのあまりの声量に、両耳を塞いでいたのにも関わらず一夏の耳がダメージを受けた。

 

 

『み、みんな落ち着いて!私が質問するわ!』

 

 

楯無がマイクを使ってそう叫ぶ。

その叫びによって徐々にだが体育館内が落ち着いてくる。

 

 

『い、一夏君。これから質問をするから正直に答えて』

 

 

『はぁ、分かりました』

 

 

一夏は何で質問されるのか良く分かってなさそうな表情でそう返事をする。

 

 

『えっと、一夏君、今恋人って言ってたけど...本当?』

 

 

『本当ですよ。わざわざ嘘ついて如何するんですか』

 

 

楯無の質問に一夏は素直に答える。

そうして一夏の答えを聞いた生徒達は、

 

 

『そ、そんなぁ~~』

 

 

と声を出す。

中にはその場に座り込んだり寝転がる生徒まで現れた。

 

 

『前にはいないって言ってたじゃない!』

 

 

『そんな事言いましたっけ?』

 

 

『学年別タッグトーナメントの時よ!』

 

 

楯無に言われ、一夏は学年別タッグトーナメントでの出来事を思い出す。

 

 

(そんな事あったっけ?トーナメントではみんなと戦って、クラリッサとチェルシーと付き合い始めて...あ、そう言えばインタビューの時そんな事を言ったな)

 

 

そうして、確かに言った事を思い出した。

 

 

『今思い出しました。確かにその時はそう言いましたけど、その後付き合い始めただけです』

 

 

『な、何で今までそんな事を黙ってたのよ!!』

 

 

『俺に恋人が出来た事なんてわざわざ報告することでは無いでしょう』

 

 

一夏は楯無の質問に淡々と答えていく。

表情も少し面倒くさいと思っているものになっている。

 

 

『あ、相手は!?』

 

 

『言いませんよ、相手のプライバシーもあるので。強いて言うならIS学園の生徒では無いです』

 

 

一夏がそう言うと、体育館内にいる全員が驚いていた。

特に専用機持ちや1組の生徒などの一夏と多少なりとも関わりのある人間は、大きく驚いていた。

過労死まっしぐらに感じるくらいには仕事をしている一夏が、学園外という殆ど関わりが無いように感じる人間と付き合っているとは思わなかったんだろう。

 

 

『そう...一夏君、その恋人さんのどんなところが好きなの?』

 

 

『全部です』

 

 

楯無の質問に、一夏は今までクラリッサとチェルシーにしか見せたことが無いような幸せそうな笑みを浮かべながらそう答える。

その表情を見て、全員が悟った。

一夏は本気で、そしてこれ以上ないくらいには恋人の事が好きなんだという事を。

 

 

『そ、そう...一夏君、ありがとう.....』

 

 

『別にいいですけど。それで?撤回はしてくれるんですか?』

 

 

『う、うん...撤回するから.....』

 

 

(なんだ?なんでこんなにテンションが低いんだ?)

 

 

一夏は、楯無のテンションがやけに低い事が気になっていた。

そこでふと、ステージ下の生徒達を見てみる。

全校生徒も、殆どの生徒が蹲っていたり天井を見つめていたりブツブツ何かを呟いたりしていた。

その光景を見て一夏は若干引く。

 

 

(取り敢えず戻ろう)

 

 

そう判断した一夏は、マイクを教員に返してから列に戻る。

 

 

『え~~....これで、今までの生徒会の発表は無かった事に.....それでは、生徒会の発表を終わります.....

 

 

最後に楯無は消えそうな声でそう言うと、トボトボと戻っていった。

そんな楯無の事を、一夏は不思議そうな視線で見ている。

 

 

『えっとぉ...それでは、これで全校集会を終します。各学年の1組から順番に教室に戻って下さい』

 

 

ここで真耶がそう指示を出す。

その指示に従い、各学年の1組から順に教室に戻っていく。

だがその足取りはとても重いものだった。

 

 

(な、何だ何だ?何があった?)

 

 

一夏は困惑しながら教室に戻るのだった...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

全校集会の後。

全クラスは各教室で学園祭の出し物についての話し合いをする事になっている。

俺はクラス代表の為、話し合いの司会進行をしないといけないので、俺は教壇に立っているのだが...

 

 

「.....如何した?」

 

 

俺はそう声を発する。

そう、何時もは元気な1組なのだが、何故か全員のテンションが異様に低かった。

机に突っ伏していたり、背もたれにもたれかかって天井を見ていたり、何かうわ言を呟いていたり...

本当に如何した?

正常なの深夜だけじゃないか。

 

 

「山田先生、如何しましょう」

 

 

「え!?いやぁ~~、そのぉ....」

 

 

フム、山田先生でも如何することも出来ないようだ。

織斑先生はさっき面倒くさくなったのか

 

 

「それでは、決まり次第私に伝えてくれ...」

 

 

と職員室に戻ってしまった。

まぁ、織斑先生も何故か元気が無いように見えたし、別にいいか。

それよりもみんなだ。

意見を出してくれないと話し合いが進まない。

 

 

「と、取り敢えず話し合いをしてくれ。周りの席の人と自由に話し合って良いから!」

 

 

俺がそう言うと、みんなゆっくりと体の向きを正常な位置に戻してから、周りの席で話し合いを始める。

良かった、ここまでは正常だ。

そうして大体10分経ったくらいで

 

 

「メイド喫茶」

 

 

という意見が出た。

お?

この意見を出したのは...

 

 

「ラウラ。なかなかイメージにない事を言うじゃないか」

 

 

そう、ラウラだった。

俺がそう言うとみんなが一斉にラウラに視線を向ける。

その瞬間に、恥ずかしいのかラウラは顔を赤くする。

 

 

「流石に一夏にメイド服を着せる訳にはいかないから、執事服を着てもらえばいいかな?」

 

 

ラウラの言葉を補助するようにシャルがそう言う。

その瞬間に、さっきまでテンションが下がっていたみんなが一気に顔を上げる。

 

 

「一夏君の執事服!?.....あり!」

 

 

「うんうん、それは良いかも!」

 

 

おお、何か知らないが元気になって良かった。

 

 

「一夏君!何か執事口調で喋って!」

 

 

「急!」

 

 

何で俺が...

まぁ良いか。

 

 

「それにしても執事口調って如何すればいい?」

 

 

「それでしたら、我がオルコット家の執事の方を参考にすればいいのでは?」

 

 

俺の言った事に、セシリアがそう返す。

確かにな。

オルコット家のみなさんはそれが本職だからな。

.....チェルシーと一緒に働いてるんだよな。

良いなぁ。

って、それよりも今は...

 

 

「ん、んん」

 

 

俺はいったん咳ばらいをして喉の調子を整える。

そして、営業や挨拶回りの時に使う営業スマイルを浮かべながら

 

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

 

と、みんなに向かって言う。

その瞬間に

 

 

『はう!?』

 

 

とみんなが顔を赤くする。

 

 

「これは...良い.....」

 

 

「最高だ...」

 

 

な、何だ?

良く分からない。

 

 

「じゃあ、メイド喫茶で良いのかな?」

 

 

俺がそう確認すると、

 

 

『うん!』

 

 

と返事が返って来た。

俺は頷いてからさっき織斑先生から渡された用紙にメイド喫茶(男子は執事)と書き込む。

深夜が執事服という話題は出てなかったが、まぁ良いだろう。

俺だけなのは不公平だからな。

あ、そう言えば。

あれを伝えておかないと。

 

 

「そう言えば、俺は準備に殆ど参加できない。衣装合わせと...駄目だ、本当にそれくらいじゃないと無理だ」

 

 

「え!?何で!?」

 

 

俺がそう言うと、シャルが驚いた表情を浮かべながらそう言ってくる。

それに対して俺は苦笑いを浮かべながら

 

 

「仕事が大量に来てる。俺に過労死しろというのならば準備に参加するが...」

 

 

と言うと

 

 

『いや、休んで!参加しないで!!』

 

 

深夜以外の全員が必死そうな表情でそう言ってきた。

お、おう。

そこまで必死にならなくても...

 

 

「じゃあそういう訳だから、チョッと休ませて貰う。クラス代表の変わりは、シャルに任せた」

 

 

「うん、任せて!!」

 

 

俺がシャルにクラス代表代理を頼むと、シャルはやる気満々でそう返してくれる。

これで俺が抜けても問題ないな。

と、ここで

 

キーンコーンカーンコーン

 

とチャイムが鳴る。

 

 

「じゃあ、これで話し合いは終了ですね。山田先生、指示を」

 

 

「あ、はい。それでは、織斑君は用紙を織斑先生の所に持って行って下さい。その他のみなさんは休み時間です。次の授業の準備をしてください」

 

 

山田先生の指示に従い、みんなは机の上に教科書類を出している。

さて、俺も職員室に行かないと。

俺は教室を出て、職員室に向かって歩き出す。

授業に遅れるのはマズいから早くしないと。

そう思っていると

 

ピピピピピ

 

会社との通信用端末が着信音を鳴らした。

俺は迅速に他に人に聞こえない所に移動して端末を取り出し通話に応じる。

 

 

「はい、此方織斑一夏です」

 

 

『一夏さん、急な連絡申し訳ありません。企画課のクレステッドです』

 

 

「ああ、クレステッドさん。どうかしましたか?」

 

 

『それがですね...日本政府から企画課に仕事が来まして...』

 

 

「.....もしかしなくても私絡みですね?」

 

 

『は、はい、そうなんですよ』

 

 

「分かりました、対応するのでPCに送っておいてください」

 

 

『すみません』

 

 

「いえ、気にしないで下さい。では、やる事があるので失礼します」

 

 

『はい、失礼します』

 

 

ここで通話は終了した。

 

 

「...日本政府ぅ!!」

 

 

本当に怒るぞ!

はぁ...

取り敢えず職員室に行こう.....

 

 

 

 




一夏の恋人がいる事のカミングアウトでした!
それはそうと...一夏、倒れるぞ。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

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学園祭の準備

サブタイまんまの内容です。
さて、如何なるか...

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

学園祭に関する全校集会の日から約1週間後。

IS学園は、学園祭に向けての盛り上がりを見せていた。

 

 

「それじゃあ、本格的にメニューを決めよう!」

 

 

それは、1年1組でも同じ事だ。

これから、メイド(男子は執事)喫茶に出すメニューの話し合いだ。

一夏にクラス代表の代理を頼まれたシャルロットが黒板前に立ち、クラスを仕切っている。

因みに件の一夏は今教室に...と言うより学園にいない。

一夏は今日学園を欠席し、朝から会社に向かっているからだ。

出発前に

 

 

「今日は9社との商談かぁ...しんどい...」

 

 

と呟いているのをマドカとシャルロットは聞いていた。

その為、シャルロットは一夏の負担を減らそうと気合いを入れていた。

 

 

「メイド喫茶だから、基本的にドリンクとオムライスとかの単品メニュー、そしてメイドか執事によるサービス付きのセットにしようと思うんだけど、如何かな?」

 

 

シャルロットがそうクラスに問いかけると、クラスメイトから

 

 

「賛成!」

 

 

「うんうん、それでいいと思う!」

 

 

という反応が帰って来る。

それを確認したシャルロットは頷き

 

 

「じゃあ、そろそろメニューを決めよう。周りの席の人と話し合って良いから、先ずはどんなドリンクを出すか考えて」

 

 

を指示を出す。

指示をされた生徒達はそのままみんなで相談をする。

そんなクラスメイトを見ながら、

 

 

(ふぅ...クラスを纏めるのは緊張するなぁ。でも、一夏は仕事が忙しいのにこれをやって来たんだもんね。僕も頑張るぞ!)

 

 

シャルロットはそんな事を考え、改めて気合いを入れる。

 

 

「そろそろ、意見を聞こうかな?じゃあ、話し合いで出た意見を教えて」

 

 

シャルロットがそう言うと、何人かが手を上げる。

 

 

「えっと...じゃあ谷本さん」

 

 

「はい!」

 

 

シャルロットは癒子を指名し、そのまま癒子は立ち上がる。

 

 

「定番ですけど、メロンクリームソーダが良いと思います!」

 

 

「なるほど、メロンクリームソーダ...」

 

 

そのままシャルロットはチョークを持って黒板にメロンクリームソーダと書き込んでいく。

 

 

「じゃあ、次は...相川さん」

 

 

「はい!」

 

 

シャルロットは次に清香を指名する。

そうして、そのまま何人かから意見を聞き、全員で投票をしてドリンクのメニューを決定する。

その後、オムライスを始めとした単品メニューも決まった。

 

 

「じゃあ、最後にサービス付きセットメニューを決めたいんだけど...」

 

 

そうして、遂にメイド喫茶をメイド喫茶たらしめるもの、サービス付きセットメニューを決める時がやって来た。

だが、シャルロットの表情は少し重いものになっている。

 

 

「...あまり一夏に注文が集中すると、一夏が過労死しちゃうから、そこを如何にかしないといけないね」

 

 

シャルロットがそう呟いた事で、何故重い表情になっていたのか全員が理解した。

そして、一斉に考え出す。

 

 

「一夏君が担当する執事サービスの値段を高めにするのは?」

 

 

「いや、それだけだったら普通に一夏に注文が集まるよ」

 

 

うーんと全員が考える。

そうして大体10分後、

 

 

「では、一夏さんには来店してくださった人の席案内と、単品メニューの運びだけをしてもらえばいいのでは?」

 

 

とセシリアが言葉を発する。

 

 

「確かに!」

 

 

「うん、それなら一夏君の負担にもならないよね!」

 

 

それを聞いた生徒達はそう肯定する。

 

 

「だが、それで単品メニューの注文が増えたら如何する?」

 

 

「そうなったら、もう席案内だけしてもらおう」

 

 

ラウラが口にした疑問に、シャルロットがそう返す。

1組殆どが...深夜以外がここまで真剣に一夏の体調を気遣えるのは、それ程までに一夏の事を想っているからだろう。

一夏は入学した時から全員と馴染めるように様々な事をしていたし、真剣にIS戦闘をしていたりクラスの事を纏めたりしている姿を、クラスメイト全員が見ているのだ。

一夏の事を心配するのは当然だ。

 

 

「じゃあ、一夏に関してはそれでいいかな?」

 

 

『うん!』

 

 

シャルロットがそう確認すると、しっかりとした返事が帰って来る。

それを聞いたシャルロットは頷き、

 

 

「それじゃあ、今度こそサービス付きセットメニューを考えよう!」

 

 

と笑顔になって声を発する。

 

 

そこから、時間ギリギリまでクラスで話し合い、メイド喫茶で出すメニューは決まった。

 

 

「じゃあ、僕はこの書類を織斑先生に提出してくるから」

 

 

「はーい」

 

 

シャルロットはそう言うと、メニューを書き込んだ書類を職員室に持っていくために教室を出る。

 

 

(あれ?そう言えば橘君何も喋らなかったな...体調悪かったのかな?)

 

 

その道中、そんな事を考えながら。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

時刻は進み、現在18:30。

 

 

「クソ!何なんだよ!何がどうなってるんだよ!!」

 

 

深夜は寮の自室でそんな事を叫んでいた。

 

 

「はぁ、はぁ...」

 

 

叫び終わった深夜はそのままベッドの縁に座って息を整える。

 

 

「なんだよ!一夏に恋人って!あの唐変木の朴念仁が、恋人を作れるわけが無いだろ!!」

 

 

深夜はそう叫んで、ベッドの事を殴る。

原作では、ヒロインたちの恋心に気が付かず、様々な不名誉なあだ名を付けられている一夏に恋人が出来ている事に納得が出来ていないようだ。

かなり前から原作とは異なる事が起こっているのに、何故そんな可能性も視野に言えていなかったのか不思議である。

 

 

「だが、一夏と付き合ってるのはヒロインズじゃない!ならば、ヒロインズは俺のハーレム要員だ!」

 

 

深夜は笑みを浮かべながらそう言う。

 

 

「そうだ、あの一夏をわざわざ排除する理由は無くなった!これで、ハーレムづくりに全力を注げる!」

 

 

未だにハーレムだなんてものを考えている深夜はそんな事を口にする。

ここまでくると狂気しか感じない程に深夜はハーレムに執着している。

だが、冷静に考えて深夜にハーレムが作れるだろうか?

臨海学校で一夏の事を刺しただけでは無く、それ以前に深夜は特にそれといった行動をしていない。

つまるところ、深夜は好かれる行動を何もしていないのだ。

そもそもハーレムを作ろうと考える事が浅はかなのだが、その上で何も行動をしていない。

そんな人物が、人に好かれる訳が無い。

 

 

「最近の一夏は、教室にいない事が多いから邪魔されない!!」

 

 

深夜は笑みを浮かべながらそう言う。

 

 

「あのまま過労死してくれると楽なんだがなぁ...」

 

 

人の過労死を望んでいる時点で、人として終わっている。

だが、深夜はその事を理解していない。

 

 

「学園祭で、一気に俺のハーレムを作ってやる!ハハハハハ、アッハハハハハ!!」

 

 

そこから暫く、深夜は笑い続けるのだった...

 

 

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一夏side

 

 

「つ、疲れた...」

 

 

『PurgatoryKnights』の応接室で。

俺は椅子の背もたれに身体を預けて板チョコを食べながらそう言葉を零す。

今日は朝から商談まみれで疲れた。

糖分を取らないともう頭が回転しない。

 

 

「クソ、オメガエンド社め。無理難題押し付けやがった」

 

 

俺はオメガエンドが渡してきた書類を見ながらため息をつく。

まぁ、オメガエンドとの取引は重要だからやるしかないけどさ...

俺はそんな事を考えながら営業部に向かう。

 

 

「すみません、織斑一夏ですけど。商談終わりました」

 

 

「あ、一夏さん。お疲れ様です」

 

 

俺が営業部の部屋に入ると、営業部部長の佐々木健さんが俺の元に来てくれた。

わざわざ来てくれなくてもいいのに。

 

 

「佐々木さん、これが今日商談をした9社からの書類です」

 

 

俺はそう言って、佐々木さんに書類を手渡す。

 

 

「お、おお...」

 

 

その書類を受け取った佐々木さんは、苦笑いを浮かべていた。

まぁ、仕方が無い。

通常の書類よりも文字やグラフがギッシリと書き込まれている書類が、大量にあるのだから。

 

 

「確かに受け取りました」

 

 

「はい、ではそろそろ私はIS学園に戻ります」

 

 

「分かりました。私もこれを確認したら帰ります。今日はお疲れ様でした」

 

 

「いえ、それでは...」

 

 

俺は佐々木さんとそう会話をして、営業部の部屋を出る。

そうして、駅に向かいながら俺は腕時計を確認する。

時刻は18:20。

もうガッツリ定時を過ぎていた。

佐々木さん、俺の為に残って...すみません。

 

 

そう考えているうちに駅に着いた。

俺はそのままIS学園方面の電車に乗り込む。

 

 

(...帰ったら、PCには日本政府か国際IS委員会か女性権利団体からの仕事が来てるんだろうな...)

 

 

[ええ、十中八九来ていると思いますよ]

 

 

俺が考えている事に同調する様に白騎士がそう返してくる。

 

 

(如何したら仕事来なくなると思う?)

 

 

[それは...如何もしようがないんじゃない?]

 

 

(そうだよなぁ...)

 

 

白式の言った事に、俺はため息をつきながら同調する。

 

 

(俺が何をしたってんだ!)

 

 

[男性なのにISを動かしました]

 

 

(...反論が出来ねぇ)

 

 

そうやって白式と白騎士と会話しながら移動し、電車からモノレールに乗り換える途中にコンビニでエナジードリンクを買ってからIS学園に向かう

 

 

「帰って来たぁ」

 

 

校門前に着いた俺は軽く伸びをしながらそう言葉を零す。

いやぁ、疲れたぜ。

 

 

「そう言えば、今日はメニュー決めだったな...どんなのになったのかな?」

 

 

当日は俺もいるんだから把握しておかないと...

シャル、まだ食堂にいるかな?

俺はそう思い時刻を確認する。

19:10...微妙だなぁ...

 

 

「まぁ、いいや。いなかったら寮に行けばいいし、取り敢えず食堂に行こう」

 

 

寮に入るなら許可を取る必要があるから、食堂にいてくれた方がありがたいけど。

俺はそんな事を考えながら食堂に向かう。

あ、そう言えば俺制服じゃなくてスーツだけど...いいや。

そんな事を考えていると、食堂前に着いた。

俺はそのまま食堂に入る。

その瞬間に、俺に視線が集まる。

そんなに俺に注目しなくても良いじゃないか。

 

 

「あ、お兄ちゃーん!!」

 

 

俺がそんな事を考えていると、俺にそんな声が掛けられる。

俺に声を掛けて来たのは、勿論マドカだ。

声が聞こえてきた方向を向くと、深夜を除く1年生の専用機持ちが全員集まっていた。

 

 

「みんな集まってるのか」

 

 

「うん、みんなで晩御飯食べてたんだ」

 

 

俺が近付きながらそう言うと、シャルがそう返してきた。

俺は近くの空いている席に座る。

 

 

「一夏、アンタ何で恋人の事黙ってたのよ!」

 

 

席に座った瞬間、鈴がそう詰め寄って来る。

チラッと周りを見ると、周りの生徒達も前のめりになって聞き耳を立てていた。

 

 

「わざわざ、俺彼女出来たんだ~~って言うか?男子の友達とかなら言うかもしれないけど、女子には言わない」

 

 

「お兄ちゃんが恋愛してて安心したよ。このままお兄ちゃん恋愛出来ないで青春終わると思ってたよぉ~~」

 

 

「...妹に恋愛出来るか如何かを心配されてたの、俺」

 

 

俺そんなに働いてる?

うん、働いてるわ。

 

 

「まぁ、許せ鈴。今度からなんかあったら報告するから」

 

 

「...分かったわよ。でも、私は諦めないからね!」

 

 

はぁ?

諦めない?

何で今その言葉が...

おいおい、何でラウラ達も頷く?

まさか.....ねぇ。

流石に俺の思い上がりか?

仮に本当だったとしても、俺はクラリッサとチェルシー以外と付き合うつもりはないけどな。

俺はそんな事を考えながらさっき買ったエナジードリンクを取り出し、プルタブを開ける。

炭酸特有のプシュッという音を聞いてから、俺はそのまま中身を呑む。

 

 

「お兄ちゃん!?遂にエナドリに手を出したの!?」

 

 

「言い方」

 

 

違法薬物じゃ無いんだぞ。

 

 

「シャル、メニュー決まったんだろ?教えてくれるか?」

 

 

「あ、それで食堂来たんだ。はい、これだよ」

 

 

俺がシャルにここに来た目的を尋ねると、シャルはスマホを渡してくれる。

その画面には、出すメニューがしっかりと載っていた。

おお、真面目だな。

流石はシャル。

 

 

「ありがとう、大体把握した」

 

 

「え、もういいの?」

 

 

「ああ、暗記は得意になったんだよ」

 

 

昔だったら無理だった。

仕事が多すぎて覚えておかないといけない事が多すぎて気が付いたら暗記が得意になってた。

俺はシャルにスマホを返してから、エナジードリンクの残りを飲み干す。

 

 

「ふぅ~~。仕事するか」

 

 

「...もう完全にただのサラリーマンですわ」

 

 

俺の呟きにセシリアがそう反応する。

ははは、こんなんでも高校生なんだぜ。

 

 

「あ、そうだ。仕事の前にこれだけ聞いておこう、みんな学園祭のチケット誰に渡すの?」

 

 

IS学園の学園祭。

これは通常の学校の文化祭等と異なり誰でも来れる訳では無い。

入場の為のチケットがいるのだ。

そしてこのチケットは、生徒1人に1枚配布され、生徒が招待という形でチケットを渡すのだ。

正直回りくどいやり方にしか感じないが、これも防犯上の都合だ。

仕方が無い。

 

 

「僕はお父さんに渡すよ」

 

 

「へぇ、デュノア社長...無礼の無いようにしないと」

 

 

「あはは、気にしなくていいと思うよ?お父さんも一夏に1度会いたいって言ってたし」

 

 

そうなの?

でも『PurgatoryKnights』の傘下企業とはいえ会社の社長なんだ。

緊張はする。

 

 

「私はチェルシーに送りますわ」

 

 

「私はクラリッサだ」

 

 

え、マジ!?

やったぁ!!

 

 

「えっと...誰ですか?」

 

 

「私の幼馴染で、私のメイドですわ。当日は私服で来させますけど」

 

 

「我がシュヴァルツェ・ハーゼの副隊長で、私の副官だでもあるんだ」

 

 

そして、俺の恋人!

それはテンション上がって来るなぁ...

 

 

「私は...如何しよう?何なら弾にでもあげようかしら」

 

 

「鈴、冗談でも言って良い事と悪い事がある」

 

 

「アハハ!それもそうね」

 

 

「あげるんだったら蘭にしておけ。IS学園受験するかどうか悩んでたから、一応学園祭に来ておいて損は無いだろう」

 

 

「あ、そうなの?なら蘭にあげようかしら」

 

 

弾はここに来ると暴走する可能性があるからな。

真面目な蘭なら間違いは無いだろう。

 

 

「私は...特にあげる人はいない」

 

 

簪は少し俯きながらそう言う。

その瞬間に、場の空気が少し気まずいものになる。

 

 

「あ、あ~~。簪、元気出しなさい」

 

 

「うん...」

 

 

鈴が簪を励ますと、簪はそのまま頷く。

えっと...如何しよう。

 

 

「それで、一夏とマドカは誰に渡すんだ?」

 

 

俺がこの空気を如何しようか悩んでいるとラウラがそう質問をしてくる。

おお、ありがてぇ。

 

 

「私はうちの社長に渡す予定だよ」

 

 

「俺はうちの人事部部長に渡す予定だ」

 

 

マドカと俺はそのまま質問に答える。

蓮子さんが来ればスカウトも出来るからな。

優秀な人材は他社に取られたくないのは何処も同じだ。

 

 

「じゃあ、そろそろ俺戻って仕事しないと納期に間に合わなくなるから戻るわ」

 

 

「お兄ちゃん、晩御飯は?」

 

 

「部屋に完全栄養食のパンがある。それを食べながら仕事する」

 

 

俺はそう言ってからエナジードリンクの空き缶を手に持って席を立つ。

 

 

「一夏...大丈夫なの?」

 

 

「なんだ簪、俺は元気だぞ。心配ないって」

 

 

俺は笑みを浮かべながらそう言うと、一応簪は納得してくれたようだ。

 

 

「じゃあな、また明日~~」

 

 

俺はそう言うと、食堂を出て教員寮の自室に向かう。

はぁ、絶対に今日も大量に仕事が来てるんだよなぁ...

まぁ、頑張りますか...

 

 

 

 




一夏が倒れそうという事以外は平和だった。
クラリッサとチェルシーの話題が出た瞬間だけ元気になる一夏。

次回もいつになるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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開幕、学園祭!

遂に!学園祭が!スタート!
長かった...

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

今日は、いよいよ学園祭当日だ。

朝から開幕を知らせる花火が打ちあがっている。

そして、IS学園の生徒は全員テンションが物凄く高い。

それは当然だ。

俺は準備に参加していないからあまり思い入れというのが発生していないが、みんなここ最近はこの学園祭に向けて精一杯準備をしてきたのだ。

そりゃあテンションが上がって当然だ。

それは我々1年1組も同様だ。

現在は、メイド喫茶開店約15分前。

メイド喫茶の開店時刻と学園祭の開催、つまり外部からのお客さんの来場は同時なのでIS学園正門前やモノレール駅には様々な来賓の方が来ている事だろう。

 

 

「さぁみんな。あとちょっとで学園祭が始まる!」

 

 

そして、俺は執事服を着用し、完全にメイド喫茶仕様になった教室でみんなの前に立っている。

執事服を着るのは衣装合わせの時以来2回目だから違和感がるけど、何となくチェルシーとお似合いなようで嬉しい。

そうして、目の前に集まっている深夜は執事服、それ以外のみんなはメイド服、調理班のみんなはエプロンを着用している。

こうなってみて感じるのは、やっぱりメイド服はチェルシーが1番似合ってる。

って、今はそれ関係ないか。

 

 

「初日の話し合いと衣装合わせ以外準備に参加してない俺がこうやって仕切っている事にふざけんなと思うかもしれないが、まぁ許して欲しい」

 

 

俺がそう言うと、深夜以外のみんなは笑みを浮かべながら首を横に振る。

おお、許してくれたようで良かった。

 

 

「さて、このメンバーで、IS学園1年生としての学園祭は今回しか無いんだ!楽しんでいこう!!」

 

 

『おおー!!』

 

 

俺の言葉に応じて、みんながやる気の籠った声を発する。

 

 

「良し!開店するぞ!準備!」

 

 

『おおー!!』

 

 

そうして、俺の掛け声に応じてみんなが開店に向けた最終準備を開始する。

テーブルの確認だったり、お冷の準備。

そして、調理班は直ぐに調理が開始出来るようにフライパン等を準備をし、調理室に向かっていく。。

 

 

「じゃあ、呼び込み行ってくるね!」

 

 

「行ってらっしゃい!」

 

 

清香やさゆか、そして深夜を始めとした何人かのみんなは呼び込み用のチラシやプレートを持って教室を出ていった。

さて、俺も準備しないとな。

俺は雰囲気づくりの為にお盆を持って、メイド喫茶の入り口にスタンバイする。

俺の仕事は席への案内と単品メニューの運搬だから、取り敢えず最初は席案内だけだな。

 

 

「ん、んん」

 

 

俺は営業スマイルの準備をしながら喉の調子を整える。

そうして、暫く待機していると遂に開店の時間になった。

その瞬間に入り口が開き、3人の女子生徒が入って来る。

 

 

「いらっしゃいませ、お嬢様方」

 

 

その入って来た女子生徒達に対して営業スマイルを浮かべながらそう声を発する。

すると、その生徒達は

 

 

「「「/////」」」

 

 

何故か一斉に顔を赤くする。

本当に何でだ。

だが、今の俺は執事だ。

顔や声に出してはいけない。

 

 

「では、お席にご案内いたします。どうぞ」

 

 

そうして、俺は生徒達を席に案内する。

 

 

「では、ごゆっくりと」

 

 

俺は最後にそう声を掛け、次のお客様の元に向かう。

 

 

「いらっしゃいませ、お嬢様」

 

 

「///」

 

 

だから何で顔を赤くするんだ?

俺はそんな事を考えながらお客様を席に案内する。

 

 

そうしてすぐさま満席になる。

満席になった後は俺は単品メニューを席に運ぶ。

 

 

ふぅ、かなりの大盛況だな。

お客様が途切れない。

 

 

「4番テーブル!オムライスとメロンクリームソーダ!」

 

 

「はい!」

 

 

「これ、3番に持って行って!」

 

 

「分かった!」

 

 

ドンドンと調理班が作っておいたストックが減っていき、ドンドンとストックが運ばれてくる。

そうして運び込んでおいたカセットコンロや電子レンジで温めて、お客様に出す。

それの繰り返しだ。

そうして食事などを終わらせたお客様は帰って行き、新たなお客様が入って来る。

 

 

「いらっしゃいませ、お嬢様方」

 

 

そのお客様を席に案内する。

 

 

そうして、開店してから約1時間。

お客様が途切れたことは1度もない。

そしてIS学園生徒以外の来賓のお客様もちらほらと来店されるようになってきた。

まぁ、殆どが俺目当てかな。

 

 

「いらっしゃいませ、お嬢さ...」

 

 

「はぁい一夏。頑張ってるわね」

 

 

「一夏さん、お疲れ様です」

 

 

「社長!蓮子さん!」

 

 

やべぇ!

急に羞恥心が!

そして、俺が社長と言ってしまったため店内の視線がこっちに集中する。

 

 

「あ、あれが『PurgatoryKnights』の社長...」

 

 

「す、すごい美人...」

 

 

そして他のお客様やクラスメイトがそんな事を呟く。

だが、社長はそんな事を気にしていないようで、笑顔で俺に言葉を掛けて下さる。

 

 

「一夏、似合ってるわよ」

 

 

「フフ、そうですか。ありがたいお言葉です」

 

 

俺は社長の言葉に笑みを浮かべながら返事をする。

例え相手が社長でも、今は執事を止める事は許されない。

 

 

「では、お席にお案内いたします」

 

 

「ええ、お願いね」

 

 

そうして、俺は社長と蓮子さんを席に案内する。

 

 

「では、ごゆっくりお楽しみください」

 

 

そして、俺は社長と蓮子さんに頭を下げてから席の近くを離れる。

 

 

「一夏君!これ5番!」

 

 

「了解!」

 

 

その瞬間にメロンクリームソーダ単品を渡されたため、俺は指示された5番テーブルに持っていく。

 

 

「お待たせいたしました。メロンクリームソーダ単品でございます」

 

 

「あ、ありがとうございます///」

 

 

だから、何で顔を赤くするんだ?

っと、新しいお客様が...

 

 

「いらっしゃいませ、ご主人様」

 

 

おお、男の来賓の方だ。

...男にご主人様って言われるのって如何なんだろう?

まぁ、考えなくていいか。

 

 

そこから更に1時間、社長と蓮子さんはもう既に退店している。

だが、お客様は本当に途切れない。

他のクラスがどうなってるのか知らないが、他のクラスまでこうだったらやっぱり来賓が多い事になる。

 

 

「いらっしゃいませ、ご主人さ」

 

 

新しいお客様が入って来たので、俺はそっちの方向を見ながら来店の挨拶を言う。

だが、その人物の顔を見た瞬間思わず固まってしまう。

金髪の髪にスーツを着用した男性。

俺は最低限の身だしなみを整えて改めて言葉を発する。

 

 

「初めましてですね、アルベール・デュノア社長」

 

 

そうして、俺は笑みを浮かべる。

そう、この人はデュノア社社長でありシャルの父親の、アルベール社長だ。

 

 

「ああ、初めましてだ。織斑一夏君」

 

 

そして、アルベール社長はそう言って微笑みを浮かべる。

 

 

「あ、あの人!リヴァイブのデュノアの社長じゃない!?」

 

 

「ほ、本当だ!でも、今確かデュノア社って『PurgatoryKnights』の傘下だったよね!?」

 

 

「って事は、織斑君とどっちが偉いんだろう...」

 

 

こらこら、そんな事を言うんじゃないよ。

 

 

「織斑一夏君、本当にあの時はありがとう」

 

 

「いえいえ、気にしないで下さい。それでは、お席にお案内します」

 

 

俺がアルベール社長と短くそう会話した後、席に案内する。

...部下の父親で、所属企業の傘下企業の社長との初対面が執事服って如何なんだろう...?

ま、まぁ仕方ないよね。

 

 

「では、ごゆっくりお楽しみください。そして」

 

 

ここで、俺は1回4番テーブルで接客しているシャルに視線を向ける。

それにつられて、アルベール社長もシャルに視線を向ける。

 

 

「何かありましたら、何なりとお申し付けくださいませ」

 

 

「...ああ、そうさせてもらおう」

 

 

「では」

 

 

俺は頭を下げてから席から離れる。

 

 

そうして、そこから30分後。

さっきまで全くという程途切れなかったお客様がチョッとずつ減って来て、とうとう空席が目立つようになってきた。

 

 

「一夏さん、少々休憩しませんか?」

 

 

すると、セシリアがそう声を掛けてくれた。

セシリアも当然ながらメイド服を着用しているのだが...多分クラスメイトの中で1番違和感がある。

セシリアは普段、メイドを雇っている側の人間だ。

そんな人間がメイド服を着ているのだ。

違和感がありまくるのは当然である。

いや、待て。

今日チェルシーは私服で来るんだよな。

セシリアがそう言ってたから間違いない。

って事はだよ。

ここに来たら普段の立場逆転って事か。

 

 

「一夏さん?如何しました?」

 

 

「あ、ああ。大丈夫だよ。それよりも、良いのか?休憩貰って」

 

 

俺が1人で考えていると、セシリアがそう声を発した。

今後1人で考え込むのは止めよう。

 

 

「はい、今はお客様も減っていますので」

 

 

「分かった。じゃあ休憩貰おう。お昼時には帰って来る」

 

 

こうして、俺は休憩を貰った。

さて、クラリッサとチェルシーに合流したい!

会えると良いんだけどなぁ...

 

 

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三人称side

 

 

「.....クラリッサとチェルシーに会えない!」

 

 

《仕方が無いだろ、この人数だ》

 

 

休憩を貰った一夏は、海老カツサンドを職員室近くの廊下で食べながらそう不満気な声を発していた。

職員室近くはIS学園生徒並び関係者以外立ち入り禁止で、この近くでの出し物も無い。

そして教員の殆どは警備に出払っているため、今現在ここは一夏とディミオス以外いないのである。

 

 

「だって!折角同じ空間にいるのに会えないだなんて!」

 

 

《まぁ、それはな...》

 

 

「確かに、しょうがないけどさ...」

 

 

ディミオスと会話した一夏はため息をつく。

そうしてそのまま海老カツサンドを食べ終わる。

 

 

「ご馳走様でした」

 

 

一夏はそう呟くと、ゴミをしっかりと片付ける。

 

 

「此処は静かでいい...」

 

 

《如何考えたって高校生の感想ではないな》

 

 

ディミオスにそう言われて、一夏は苦笑いを浮かべる。

学園祭に参加している高校生で、こんなにもテンションが高くないのは一夏くらいだ。

その事を一夏も思ったからだ。

 

 

「まぁ、元々私生活が高校生じゃないからな」

 

 

《それが問題なんだ》

 

 

「ははは...如何にかなんないかねぇ」

 

 

《少なくとも、日本政府と国際IS委員会と女性権利団体が変わらないと如何にもならないな》

 

 

「そうなんだよなぁ」

 

 

「《はぁ...》」

 

 

一夏とディミオスは同時にため息をつく。

 

 

「まぁいいや。それよりもディミオス、今度煉獄騎士団でピクニック行かない?」

 

 

《何処にだ?》

 

 

「うーん...楽園天国?」

 

 

《確かに、息抜きという面ではこれ以上ない場所だな》

 

 

一夏が提案したピクニックという案と場所を聞いて、ディミオスは暫く考える。

 

 

《我としては構わないが、お前にその時間はあるのか?確か、学園祭が終わったら会議まみれじゃなかったか?》

 

 

「そうなんだよ。だから、行くとしたら仕事が落ち着いてからだ」

 

 

《果たして、何年先になるかな》

 

 

ディミオスのその言葉に、一夏は苦笑いを浮かべる。

そうした後、軽く伸びをしてから

 

 

「じゃあ、そろそろ行こう。折角の学園祭だ!楽しまないとな!」

 

 

と言葉を発する。

そうして、一夏はディミオスと共に出店が出ているエリアに移動する。

そこには当然生徒や来賓の人が集まっている訳であり、一夏は執事服を着用し隣にディミオスがいる事も相まって物凄く注目されている。

 

 

「さて、休憩も長いようで短いからな。何しようか...」

 

 

そうして周りをぐるっと見ていると、一夏はとある人物を見つける。

 

 

「お~い!蘭!」

 

 

そうしてその人物...蘭に声を掛ける。

声を掛けられた蘭は身体をビクっと震わせてから一夏の方に身体の向きを回転させる。

そんな蘭に一夏は苦笑いを浮かべながら近付く。

 

 

「蘭、如何だIS学園は?」

 

 

「あ、はい!凄いですね!学園祭なのに、床とかが綺麗に保たれたままですし、チラッと見えた施設も高そうなものばかりですし」

 

 

「実際高いからな。因みに、IS学園の備品の70%が『PurgatoryKnights』製だ」

 

 

「そうなんですか!?やっぱり凄いですね...」

 

 

そんな感じで、一夏と蘭は軽く会話をする。

一夏が来賓の中学生と仲良く会話しているという光景に、周りは驚いたような表情を浮かべている。

 

 

「それにしても、一夏さん、その恰好...」

 

 

「ん?ああ、クラスの出し物がメイド喫茶なんだ。だから、男の俺は執事の格好をね。似合ってないか?」

 

 

「いや!似合ってると思います!」

 

 

「そりゃあ良かった」

 

 

一夏はそう言って笑みを浮かべる。

そんな一夏の笑顔に、蘭と周りで2人のやり取りを見ていた生徒達は顔を赤くする。

その光景を見た一夏は首を傾げる。

 

 

《一夏、そろそろ戻らないとまずいかもしれない》

 

 

「もうそんな時間か?」

 

 

ここで、ディミオスが一夏にそう声を掛け、一夏は腕時計で時間を確認する。

蘭はディミオスを見たことで驚いている。

 

 

「えっと...一夏さん、これは...」

 

 

「ああ、俺のバディのディミオスだ」

 

 

《一夏のバディ、『PurgatoryKnights』製ロボットのディミオスソードだ》

 

 

蘭に聞かれたため、ディミオスは咄嗟に自己紹介をする。

どんな時でもロボット設定を忘れないようにしているので、違和感等は生じさせない。

 

 

「じゃあ蘭、俺そろそろ戻らないといけないから。楽しんで行ってくれよ!」

 

 

「はい!」

 

 

最後に一夏は蘭に向かってそう言うと、足早に自分の教室に戻っていく。

そうして、自分の教室前に来た一夏が見たのは、途轍もない大行列だった。

 

 

「マジか」

 

 

《頑張れよ》

 

 

ディミオスはそう言うとカードに戻り執事服の胸ポケットに入る。

それを確認した一夏は教室内に戻る。

 

 

「織斑一夏、戻りました!」

 

 

「一夏!早く次のお客を席に案内した後これを3番!」

 

 

「了解!」

 

 

戻ったとたんに一夏はラウラから指示を飛ばされる。

そのまま一夏は指示に従い、客を席に案内する。

 

 

「では、私はこれで」

 

 

そうして頭を下げて席から離れ、単品のドリンクを3番に運ぶ。

 

 

「お待たせいたしました」

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

ドリンクを運んだ一夏は、そのまま入り口の方に向かい次の客に営業スマイルで話し掛ける。

 

 

「いらっしゃいませ、お嬢様方。お席にお案内します」

 

 

「は、はい///」

 

 

(だから何で、顔を赤くするんだよ)

 

 

それから約40分後。

お昼時のピークを乗り越え、漸く余裕が出て来た。

 

 

「はぁ、はぁ」

 

 

[マスター、どうかしましたか?呼吸が荒いですが]

 

 

(白騎士...いや、普通に疲れたんだよ)

 

 

[そうなの?でも、何時もより格段に呼吸は荒いよ?大丈夫?]

 

 

(ああ、大丈夫...だと思う)

 

 

一夏は白式と白騎士と軽くそう会話する。

 

 

[マスター、辛かったら保健室に行った方が良いよ]

 

 

(白式、そこまでじゃないから大丈夫だ)

 

 

一夏はここで会話を終了させる。

その時に、丁度新しい客が教室前に来たことを一夏は察した。

その為入り口付近にスタンバイする。

 

 

「いらっしゃい、ま、せ...」

 

 

そうして、一夏は入って来た客に向かって挨拶をしようと口を開いて、思わず固まってしまう。

何故なら

 

 

「「一夏!」」

 

 

「クラリッサ、チェルシー...」

 

 

そう、その客がクラリッサとチェルシーだったからだ。

2人とも私服を着用し、一夏に向かって笑顔で声を掛ける。

そんな2人を見た一夏はというと、少し顔を逸らしてしまう。

だが、それも仕方が無いだろう。

一夏は休憩時間の間ずっと2人の事を考えていて、漸く2人にあえて、しかも笑顔を見ることが出来たのだ。

それだけじゃない。

クラリッサもチェルシーも、夏休みに一夏がプレゼントしたアクセサリーを身に着けていたのだ。

逸らした顔の口元には確かな笑みを浮かべていた。

 

 

(ヤバい!2人とも可愛い!俺のプレゼントしたアクセサリーも身に着けてるし!)

 

 

(一夏、執事服似合ってる!)

 

 

(一夏、カッコいい!)

 

 

3人とも恋人が大好きなので同時にそんな事を考える。

だが、一夏は勤務中であることを思い出し、のどの調子を整える。

そして、

 

 

「いらっしゃいませ、お嬢様方」

 

 

と、今までの営業スマイルとは異なる、ニコッとした心からの笑みを浮かべる。

それを見たクラリッサとチェルシーは顔を若干赤くするが、直ぐに笑みを浮かべる。

 

 

「では、お席にお案内いたします」

 

 

そうして、一夏は2人の事を席に案内する。

席に座ったクラリッサとチェルシーに、ラウラとセシリアが視線を向ける。

その時、2人が少し驚いたのは仕方が無いだろう。

ラウラとセシリアは、2人が関わっている事を知らないのだ。

それなのにも関わらず相席しているのだから、驚かない方がおかしい。

 

 

(さて、次に...)

 

 

「では、ごゆっく」

 

 

一夏の、その言葉は、途中で途切れた。

いや、途切れざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がはっ!」

 

 

 

 

 

 

 

びちゃ!

 

 

 

 

 

その音は、突然教室内に鳴り響いた。

全員一斉に、その音の発生源に目を向ける。

そこには、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あ...?」

 

 

口元を抑えている、一夏がいた。

一夏の足元には、赤い水たまりの様なもの...血だまりがある。

その足は、ガクガクと震えている。

一夏は口元から手を離す。

その手には

 

 

 

 

 

 

 

べっとりと血が付着していた。

一夏はそれを視認した瞬間、足から力が抜け、血だまりへと倒れ込む。

 

 

 

びちゃ!

 

 

 

また、そのような音が教室内に響く。

 

 

 

「がはっ!ごふっ!う、おぇ!はぁ、がはっ!」

 

 

 

「「一夏ぁ!!」」

 

 

倒れ込んだ一夏は、口から大量の血を吐き出す。

1番近くにいたクラリッサとチェルシーが慌てて席から立ち上がり一夏に駆け寄る。

 

 

「あ、あ、ぁ...」

 

 

傾いて、朧げな視界で駆け寄って来る2人を見た一夏は、

 

 

「一夏!」

 

 

「一夏ぁ!」

 

 

[マスター!]

 

 

[何で、急に!マスター!]

 

 

そんな声を僅かに認識しながら、意識を失った...

 

 

 

 



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こんな時に

前回の続き。
前回後書きを書いて無いのはわざとです。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

ピ、ピ、ピ、ピ

 

 

IS学園、医務室。

此処は通常の保健室とは異なり、大学病院の様な最先端の医療機器が備わっている場所。

世界で唯一ISを学ぶための学園であるIS学園だからこそ存在する場所である。

そんな場所に、1人の男子生徒...一夏が、ベッドの上にいた。

一夏がここにいるのは、今現在も行われているIS学園の学園祭で1年1組が行っていたメイド喫茶にて、突然血を吐き倒れたからだ。

 

 

一夏が倒れた教室は、一気にパニックに陥った。

それは当然だろう。

目の前で一夏が吐血して倒れたのだ。

しかし、そんなパニックな状況でも何とか冷静だったラウラがクラリッサ、胸ポケットからSDで出て来たディミオスと共に応急処置。

チェルシーが近くにいた教員に連絡。

連絡を受けた教員はそのまま他教員に担架を持って来てもらい、一夏を医務室に運んだ。

 

 

そして、今も一夏は意識を取り戻さず眠っている。

顔についていた血はしっかりと拭かれていて、服装も血まみれの執事服から入院着になっている。

そして口には酸素マスクを付けられていて、腕には点滴用の針が刺さっていて、身体には電極が貼られている。

 

 

そんな一夏が眠っているベッドの横で一夏の事を見守っている1人と1竜。

 

 

「一夏...」

 

 

《.....》

 

 

千冬とディミオスである。

ディミオスは医務室に一夏が運ばれるときにそのまま付き添い、千冬は運び込まれた後一夏が倒れたという事を聞き、担任であるという事と姉であるという事で入室を許可されたのだ。

 

 

「ディミオスソード...一夏は、何故...」

 

 

《それは我にも分からない。だが、休憩中は我や友人と笑顔で会話できるほどに体力はあった。だが、倒れる前、やけに息が荒かったのを覚えている》

 

 

千冬の問いに、ディミオスは冷静にそう返す。

 

 

「そ、そうか...」

 

 

(一夏...お前は無茶をし過ぎなんだ)

 

 

千冬は物凄く一夏の事を心配していた。

何年も前から...それこそ、織斑計画で生み出された時から、千冬は一夏と暮らしてきた。

今はマドカという新しい家族も出来てはいるが、それまではずっと2人で暮らしてきたのだ。

そんな大事な弟が吐血して倒れて、心配しない姉などいない。

 

 

《一夏...》

 

 

そして、それはディミオスも同様だった。

ディミオスはあの日から、一夏と初めて会話したあの時からずっと一夏のバディとして共に過ごしてきた。

基本的にSDで一夏の隣にいるか、カードで一夏のポケットに入っているかなので、常に一緒にいるのだ。

一夏が倒れて心配しないわけが無い。

 

 

そうして大体10分が立った時、医務室の扉が開き

 

 

「織斑君の身体検査の結果が出ました」

 

 

と言いながら医務室に勤務している医師、エミリー・シエントが入って来た。

 

 

「シエント先生!一夏は、一夏は大丈夫なんですか!?」

 

 

「織斑先生、織斑君が心配なのは分かりますが落ち着いて下さい」

 

 

「す、すみません」

 

 

千冬はエミリーに思わず詰め寄るが、エミリーに宥められ落ち着く。

そうして、千冬が落ち着いたことを確認したエミリーは言葉を発する。

 

 

「織斑君はまだ意識が戻っていないものの取り敢えず命に支障は無いです」

 

 

その言葉を聞き、千冬とディミオスは同時にホッと安心したように息を吐く。

それを確認したエミリーは、口を開き言葉を発する。

 

 

「それで織斑君が倒れた原因なのですが.....先ず、過労では無いです」

 

 

「な!?」

 

 

《やはりな》

 

 

エミリーの言った事に、千冬は驚きの声を発し、ディミオスは納得したように頷く。

 

 

「な、何で納得して...」

 

 

《過労というだけだったら、吐血するまで身体にダメージは入らないだろう。過労だけだったら内臓へのダメージは無いのだからな》

 

 

「た、確かに...」

 

 

千冬はディミオスが直ぐに納得していたことに疑問を感じていたが、ディミオスの説明で納得をした。

 

 

《それで、一夏の身体の何処に異常があった?》

 

 

ディミオスは、エミリーに向かってそう質問をする。

それに合わせて千冬もエミリーに視線を向ける。

だが、視線を向けられたエミリーは表情を曇らせている。

 

 

「それが、その...織斑君の身体には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「《な!?》」

 

 

その衝撃的な言葉に、今度はディミオスまでもが驚きの声を発する。

だが、それは当然だろう。

吐血をして倒れたというのに、内臓を含め異常がないというのだから、驚かない方がおかしい。

 

 

「そ、それは本当なのですか!?」

 

 

「はい。内臓や骨へのダメージも無く、血液にも異常な数値は無し。ウイルス等の検査でも陽性反応は無く、吐血してしまった事で多少は血圧等の数値が平常時と差がありますが、これくらいなら異常とは言えないです」

 

 

エミリーのその説明を受けて、ディミオスはチラッと一夏が眠っているベッドの横に置いてあるダークコアデッキケースに視線を向ける。

 

 

(...この間のように、また白式と白騎士が治療したのか?だが、一夏は煉獄騎士を身に纏っていないどころか直接ダークコアデッキケースに触っていない...それでも治療できるのか?)

 

 

そうして、ディミオスはそう考える。

だが、自分で考えても分かるわけが無いし、今ここでは白式と白騎士と会話出来ないので取り敢えず後でと意識を切り替える。

 

 

「そ、それじゃあ一夏が倒れた原因は、分からないんですか?」

 

 

「はい、残念ながら...」

 

 

千冬の問いに対して、エミリーは悔しそうな表情を浮かべながらそう言う。

この医務室に勤めている医師であるのに、患者が倒れた原因が分からないのが悔しいんだろう。

 

 

《...何か、どんなものに症状が似ているとかは無いのか?》

 

 

ディミオスのその質問に対して、エミリーは考えるように顎に手を置く。

そうして大体5分後。

エミリーは顎から手を離して言葉を発する。

 

 

「正直に言いますと、心あたりがありません。こんなに異常が無いのに症状が出るというのは、もうアレルギーか拒絶反応くらいしか...」

 

 

「アレルギーか、拒絶反応?」

 

 

「はい。ウイルスもない、内臓も問題ない、ならもうこの2つくらいしか...」

 

 

《だが、一夏はアレルギーを持っていない。それに、拒絶反応とは?》

 

 

「例えば、体質が合わない人からの臓器を提供されるときにおこるあれです」

 

 

《.....それにも心当たりはないな》

 

 

結果的に、本当に原因が分からないという事を再認識した。

千冬とエミリーは同時にため息をつく。

だがディミオスは一夏に視線を向けて

 

 

(拒絶反応...仮にそうだとして、いったい、何が...)

 

 

そんな事を考える。

 

 

「ではシエント先生、私は取り敢えずこの事をクラスに説明してきます」

 

 

「分かりました。私も学園長などに報告、容態悪化の際の準備もしておきます」

 

 

《では我はこのまま様子を見ているとする》

 

 

このような会話の後、千冬とエミリーは医務室から出てそのまま千冬は1年1組の教室に、エミリーは学園長室に向かって歩き出す。

そうしてこの場にはディミオスと未だに眠ったままの一夏だけになった。

 

 

《お前に、何があったんだ》

 

 

ディミオスは、一夏の顔を見ながらそう呟くのだった...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

医務室を出た千冬が1年1組の教室に戻ると、そこには1組の生徒全員とマドカが集合していた。

一夏が吐血をして倒れたという事を聞き、休憩中だったり呼び込みをしていた生徒は一斉に教室に戻って待機していたのだ。

マドカも同様で、クラスメイトから1組に行けと言われたため、この場で千冬が来るのを待っていたのだ。

そして、1組生徒とマドカ以外は既に教室から出ており、現在は別の所で待機している。

 

クラリッサとチェルシーは医務室に行くか残ってたいと思っていたが、こんな混乱している状況で我儘を言える状況じゃないと判断したため、大人しく移動をして、それぞれラウラとセシリアからの連絡を待っている。

そして、教室内はメイド喫茶仕様のままだったが、机などは壁際にずらしてあり、床に付着していた一夏が吐いた血も綺麗に拭きと取られている。

 

 

「お、お姉ちゃん!お兄ちゃんは、お兄ちゃんは!?」

 

 

千冬が教室に入って来た途端、マドカが焦りながら千冬に近付きそう聞いてくる。

そんなマドカの後ろでは、深夜を除く1組の生徒全員がマドカと同じような表情を浮かべている。

 

 

「一夏は、取り敢えず命に支障は無いとの事だ」

 

 

千冬のその言葉で、全員が一斉に安心したように息を吐く。

マドカがお姉ちゃんと呼んでも怒らない事、そして一夏の事を名前で呼んでいる事から千冬も一夏の事を大分心配している事が分かる。

 

 

「よ、良かったぁ...本当に良かったぁ...」

 

 

そう呟くマドカは、目元に涙を浮かべている。

 

 

「織斑先生、一夏が倒れた血を吐いた原因って...?」

 

 

マドカと同じく目元に涙を浮かべているシャルロットが千冬にそう質問をする。

その質問に応じて、深夜以外の生徒の視線が千冬に集まる。

 

 

「あ、ああ。それが...」

 

 

だが、千冬は表情を曇らせてからさっきエミリーからされた説明をそのまま全員にする。

千冬の説明を聞いた生徒達は、驚いた表情を浮かべる。

 

 

「げ、原因不明の吐血...という事ですか?」

 

 

「そうだ」

 

 

ラウラが口にした疑問に、千冬はそう返事をする。

千冬が肯定したことにより全員が混乱するが、やがて考えても分からないという事に気付き、いったん考察を止めた。

 

 

「織斑先生、取り敢えず会社に連絡を入れていいですか?」

 

 

「あ、ああ。問題ない。一夏が倒れた時教室内にいた1組生徒以外の人に連絡が取れるのなら説明をしても構わん」

 

 

シャルロットが会社への連絡の可否の確認を千冬にし、千冬はそう返答する。

それを確認したシャルロットはスコールに、マドカはクロエに、ラウラはクラリッサに、セシリアはチェルシーに連絡を入れる。

 

 

『そう...取り敢えず一夏は無事なのね?』

 

 

「はい、そうです」

 

 

『...分かったわ。一夏が目を覚ましたら改めて連絡を頂戴』

 

 

「分かりました」

 

 

ここで、シャルロットはスコールとの会話を終了させ、通信端末を仕舞う。

 

 

「そうなんだ、お兄ちゃんが...」

 

 

『そうなのですね...ですが、一夏様に命の危険は無いのですね』

 

 

「うん、一応は...」

 

 

『なるほど...束様には私から伝えておきます。一夏様に後で束様から連絡があると伝えておいてください』

 

 

「分かった」

 

 

マドカとクロエもここで会話を終了させる。

 

 

『隊長!一夏は、一夏は大丈夫なのですか!!』

 

 

「あ、ああ、命に支障は無いとの事だ」

 

 

『よ、よがっだぁ...』

 

 

「ただ、原因不明だとの事だ」

 

 

『わがりまじだ...失礼します...』

 

 

クラリッサは泣きながらラウラとの通話を終了した。

 

 

『お嬢様!一夏は、一夏は!?』

 

 

「チェルシー、落ち着いて下さい。それで一夏さんですが、吐血の原因は分からないものの、取り敢えず無事だそうです」

 

 

『そ、それは良かったです...では、失礼します...』

 

 

チェルシーははぁはぁと完全に焦っていたように息を吐きながら通話を終了する。

 

 

クラリッサとチェルシーがここまで焦っているのは仕方が無いだろう。

最愛の恋人が目の前で血を吐いて倒れて意識を失ったのだ。

しかも、吐血する前には自分たちと普通に会話が出来ていたのだからなおさらだ。

だからこそ、吐血の原因は不明だとは言え取り敢えずの命に支障は無いと聞いたら泣いたりもしてしまうだろう。

 

 

通話をしていた4人が通話を終了したのを確認した千冬は頷くと

 

 

「では、学園祭の途中だが1年1組の出し物は中断する」

 

 

と、発言をする。

その瞬間に、マドカを含めたクラスにいる全員の視線が千冬に集まる。

 

 

「異論はあるか?」

 

 

千冬はそうクラスに尋ねるが、誰も言葉を発しなかった。

それを確認した千冬は、息を吐く。

 

 

「それでは、今から軽く教室を片付けたら今日はこれで終了だ。その後は学園祭の他の出し物に行っても、寮に戻っても構わん」

 

 

千冬がそう言うと、全員が力のない返事をして頷く。

 

 

「では、早速片づけを...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガァアアアアン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

千冬の言葉の途中で、突如としてその音は鳴り響いた。

その音の一瞬後に校舎全体がガタガタと揺れる。

 

 

「キャアアアア!?」

 

 

「何!?何!?」

 

 

「落ち着け!!!」

 

 

一瞬で混乱に陥った教室内を、千冬は一喝で静かにさせると同時に教室の窓際に移動し、外の様子を確認する。

すると、アリーナの方から黒煙、そして何機かのISと思わしきシルエットを確認した。

 

 

「っ!襲撃だ!専用機持ちはすぐさま他クラスの専用機持ちと連絡を取り合い対応!一般生徒は避難だ!」

 

 

『緊急事態!今現在、IS学園は襲撃を受けています!生徒や来賓の方は教員の指示に従い、焦らず避難してください!』

 

 

千冬が指示を出した直後に、放送でも避難指示が出される。

 

 

「こんな時に...!!」

 

 

千冬はギリッと奥歯を噛み締めながらそう言葉を零す。

 

 

ドカァアアアアン!!

 

 

「緊急時の為ISの使用を許可する!早く行動しろ!」

 

 

再びの爆発音と同時に、千冬はそう指示を飛ばす。

 

 

「「「「分かりました!!」」」」

 

 

「分かりました...」

 

 

その瞬間に、専用機持ちが一斉に教室の窓に走っていき、ISを展開して窓から出ていく。

 

 

 

「行きますわよ、ブルー・ティアーズ!」

 

 

「シュヴァルツェア・レーゲン!」

 

 

「行こう、リヴァイヴ!」

 

 

「お願い、銃騎士!」

 

 

「....」

 

 

そうしてISを身に纏った5人はアリーナに向かいながらプライベートチャネルを開き、セシリアがサラに、ラウラが鈴と簪に、シャルがダリルとフォルテに、マドカが楯無に連絡を入れる。

だが、深夜だけは連絡をせず口元に笑みを浮かべていた。

 

 

「全員、落ち着いて私についてくるんだ!」

 

 

『は、はい!』

 

 

専用機持ちが出撃したのを確認した千冬はそのままクラスに指示を出し、クラスメイトを安全な場所に誘導していく。

その間に廊下にいた来賓の人などもしっかりと誘導していく。

 

 

(い、一夏はまだ医務室に...いや、駄目だ。私は私の仕事を全うする!一夏はディミオスソードかシエント先生が避難させてくれる!)

 

 

その道中に、そんな事を考えながら。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

時は少し戻り1度目の爆発音の直後、医務室。

 

 

《今の爆発は...》

 

 

ディミオスも当然ながら気が付いていた。

慌てて窓に近寄り外を確認する。

だが、医務室の窓からは何も分からない。

ここで、放送が入る。

 

 

『緊急事態!今現在、IS学園は襲撃を受けています!生徒や来賓の方は教員の指示に従い、焦らず避難してください!』

 

 

《襲撃...!》

 

 

それを聞いたディミオスは一夏の近くに戻る。

 

 

《直ぐに一夏を連れて避難を...》

 

 

ドカァアアアアン!!

 

 

ディミオスが一夏を連れて避難しようとした時、また再び爆発音が響く。

ディミオスが再び窓の外に視線を向けると、今度はチラッとだが遠くにISだと思われるシルエットを確認した。

 

 

《.....仕方が無い、一夏は教員に任せる!》

 

 

ディミオスはそう覚悟を決めると窓から飛び出て

 

 

《うぉおおおおおお!!》

 

 

SDを解除し、シルエットに向かって飛んでいく。

 

 

一夏(バディ)の事は、我が守る!》

 

 

 

 

 

そうして、ディミオスが医務室を飛び出てから約7分後。

 

 

「山田先生、急ぎましょう!」

 

 

「はい!シエスタ先生!」

 

 

医務室に向かって真耶とエミリーが急いで向かっていた。

その手には担架を抱えている。

 

 

「織斑君が倒れているっていうのに!」

 

 

「何で、こんな時に!」

 

 

2人は走りながらそう言葉を口にする。

だが、自分たちで何を言っても変わらない事は分かり切っているので、2人ともそれ以上の事は言わなかった。

そうして走って約2分後。

2人は医務室前に着いた。

 

 

「織斑君!」

 

 

エミリーが一夏の事を呼びながら医務室の扉を開ける。

だが、そのままエミリーは固まってしまう。

 

 

「シエント先生?いったい如何し...」

 

 

そんなエミリーの様子がおかしいと思った真耶はエミリーの後ろから医務室を覗き込み、同じように動きを止めてしまう。

 

 

「「お、織斑君が、いない!?」」

 

 

そうして、同時に驚愕の声を発する。

そう、2人の視線の先には一夏はおらず、一夏が使っていたベッドの上に酸素マスクや電極、点滴の針が散らばっているだけだった...

 

 

 

 




大変なことになって来た。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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別れ

前回の続き。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

「マドカちゃん、行くよ!」

 

 

「はい!シャルさん!」

 

 

IS学園の学園祭当日。

一夏が原因不明の吐血をして倒れた後、医務室勤務の医師エミリーから説明を受けた千冬がその説明をそのまま1組の生徒全員とマドカに説明をした。

そして、1組の出し物を中止し解散しようした直後に突如としての爆発音。

ISだと思われる集団を確認したため襲撃と判断し、ダウンしている一夏以外の専用機持ちは全員襲撃者への対応を任せられた。

 

 

「シャルさん!2時の方向に2機確認!」

 

 

「了解!そこから行くよ!」

 

 

マドカとシャルロットはそう声を掛け合うとマドカが確認した襲撃者と思われる2機のISに向かっていく。

専用機持ちは、基本2人1ペアでの行動となっている。

マドカとシャルロット、セシリアとラウラ、鈴と簪、楯無とサラ、ダリルとフォルテ、深夜だけが1人での行動である。

 

 

2機のISに近付いたシャルロットとマドカはアイコンタクトで意思疎通をすると、シャルロットがアサルトライフルを展開し、威嚇射撃を行う。

だが、襲撃者2人はそれに気付いているようで、その射撃を避け、視線をシャルロットとマドカの方に向ける。

 

 

「そこの2人!今すぐISを解除しろ!」

 

 

マドカは襲撃者に向かってそう声を発する。

だが、襲撃者2人は

 

 

「邪魔をしないでもらうわ!」

 

 

「織斑一夏を差し出しなさい!」

 

 

そう言うと、マドカとシャルに向かって射撃をする。

 

 

「お兄ちゃんが目的か!」

 

 

「そんな事させない!捕えて情報を吐いて貰うよ!」

 

 

マドカとシャルは射撃を避けながらそう言葉を発し、襲撃者を睨む。

そうしてマドカは特殊アサルトライフル、ガレッド・シューターを展開して構える。

それと同時にシャルロットも先程のアサルトライフルを構えなおす。

 

 

「シャルさん、行きましょう!」

 

 

「うん、マドカちゃん!」

 

 

そうして、マドカとシャルロットは、襲撃者との交戦を開始した。

 

 

交戦を開始したのは、マドカとシャルロットだけでは無い。

 

 

「フォルテ、行くぞ!」

 

 

「分かってるっスよ!」

 

 

「「私達の弟分は、私達が守る!」」

 

 

ダリルとフォルテを始めとした、他の専用機持ち達も交戦を開始していた。

 

 

「ラウラさん!」

 

 

「任せろ!」

 

 

「く、この!」

 

 

「鬱陶しい!とっとと織斑一夏を渡せ!」

 

 

セシリアとラウラはお互いの専用機の特徴であるビットとAICを使い、襲撃者の事を攻撃する。

 

 

「サラちゃん!専用機貰ったばっかりだけど、実践よ!大丈夫!?」

 

 

「楯無...うん、大丈夫!」

 

 

「分かったわ!でも無理しないでね!」

 

 

楯無は、まだ専用機持ちになって日が浅いサラの事をサポートしながら襲撃者を探し出し、交戦を開始する。

 

 

「簪!飛ばしてくわよ!」

 

 

「うん!山嵐、全弾発射準備!」

 

 

鈴は龍砲の即時発射準備を、簪も山嵐全弾発射準備をする。

そうして、襲撃者に向かって行く。

 

 

「.....」

 

 

深夜は、1人で飛んでいた。

他の専用機持ちとは異なり、襲撃者の元に向かって交戦していない。

 

 

(クソ!如何なってるんだよ!演劇の途中で襲ってくるんじゃないのかよ!)

 

 

深夜は1人でそんな事を考えている。

 

 

(一夏がぶっ倒れたのは、俺にとってプラスだ。だから、ここで俺が活躍して俺が主人公だと証明するんだ!)

 

 

そうして、深夜は口元に笑みを浮かべる。

何でこういう状況になってまでもそんな事を考えるのかは到底理解が出来ない。

だが、深夜は愚かにもその考えを持ったまま襲撃者の事を探し始めるのだった。

 

 

襲撃者と交戦しているのは、専用機持ちだけではない。

 

 

《フン!ハァ!》

 

 

医務室近くで、ディミオスもまた襲撃者2人と戦闘を行っていた。

 

 

(音から察するに、他の専用機持ち達も戦闘しているな。という事は、こいつらはそれだけのISを所有しているという事...それなりに巨大な組織だな)

 

 

襲撃者からの射撃を避けながら、ディミオスはそう考える。

 

 

「コイツ、情報にあった織斑一夏のサポートロボットよ!」

 

 

「なら、織斑一夏の情報を聞き出す!」

 

 

(何!?一夏の吐血の原因はこいつらか!?いや、だが、ウイルス反応も無かったのに、こいつらに如何にか出来るのか?)

 

 

ディミオスは襲撃者の会話を聞いて一夏の吐血の原因ではないかと一瞬考えるも、エミリーから聞いた説明を思い出してすぐさま否定する。

 

 

《貴様らの目的はなんだ!》

 

 

ディミオスは取り敢えず襲撃者の目的を探ろうと、そう疑問を投げかける。

その言葉を聞いた襲撃者たちは

 

 

「ハン!教えるわけが無いでしょ!さっさと織斑一夏が何処で戦ってるか教えなさい!」

 

 

と言い、ディミオスに対する射撃を続ける。

その射撃を避けながら、ディミオスは

 

 

(()()()()()()()()()()()、か。つまり、一夏が倒れたことを知らない...一夏の吐血原因はコイツらでは無いようだ)

 

 

そう考える。

 

 

《ハァア!!》

 

ガキィ!

 

ディミオスは弾丸を弾きながら襲撃者に接近し、切り付ける。

 

 

「ぐっ!この...!」

 

 

《ふっ!》

 

 

ディミオスは切り付けた襲撃者の事を蹴り飛ばし、いったん離脱する。

 

 

「くらいなさい!」

 

 

《そう簡単にくらうか!》

 

 

もう1人の襲撃者がディミオスに向かってサブマシンガンを連射するが、ディミオスは避け、弾丸を捌き、その襲撃者に向かっていく。

 

 

《ハァ!》

 

 

「くぅ!?」

 

 

そして、ディミオスはその襲撃者も切り付ける。

 

 

(はぁ、はぁ、コイツら...IS学園に襲撃してくるだけあって実力が高い...)

 

 

「よくもやってくれたわね!」

 

 

《ちっ...》

 

 

襲撃者はディミオスに向かって射撃を行う。

 

バババババ!!

 

先程までと違い、正確性を捨てゴリ押しをしてきた襲撃者に対してディミオスは舌打ちをする。

そうして、最低限の動きで弾丸を避ける。

 

 

(クソ、如何する?医務室に流れ弾が行くのは...)

 

 

ディミオスは医務室に流れ弾が行かないように避け、弾く。

 

 

《はぁ、はぁ》

 

 

何時もの戦闘は、一夏が指示をし、他モンスターや一夏と共に連携しながら戦っている。

その為、本来ならこうやって単独で戦う事など無いのだ。

だが、ディミオスも煉獄騎士団団長として、一夏と出会う前は煉獄騎士団に指示を出して戦っていた。

それに加え攻撃力や防御力や打撃力を含めた基本スペック、それにISと戦う際に必要となる身体能力も十分にありすぎるディミオスだからこそ、こうやって戦えているのだ。

 

 

《うぉおおお!!》

 

 

ディミオスはそう咆哮を上げると、多少の被弾は覚悟のうえで襲撃者の1人に突っ込んでいく。

急な咆哮に驚いた襲撃者たちは反応が遅れる。

そうして、ディミオスが襲撃者に切り掛かろうと大剣を振り上げる。

だが

 

 

《っ!》

 

 

ディミオスは直前になって急遽身体を捻る。

 

バァン!

 

その直後、ディミオスが今まで交戦していた襲撃者2人がいる方向とは違う方向から、ディミオスに対しての発砲が行われた。

ディミオスが発砲された方向を確認すると、そこにはISを身に纏った()()()()()()()()()()()()()()がいた。

 

 

《な、貴様は...》

 

 

ディミオスはその顔を見て驚き、動きを止めてしまう。

その一瞬の隙を付き、さっきまでディミオスと交戦していた襲撃者がディミオスに接近する。

そして...

 

 

《しまっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

 

時刻は少し遡り、専用機持ちやディミオスが襲撃者と交戦を始めた直後。

人が避難をし無人になったIS学園の廊下を、1人の男子が歩いていた。

その人物は、黒と金のカラーリングで真紅のマントが付いた鎧を着ていて、ヘッドパーツの前を開け顔が見える状態にしていた。

そう、一夏である。

一夏はディミオスが医務室を飛び出した直後に目を覚ましたのだ。

目を覚ました一夏は最初は吐血をしたため大人しくしようとしていたが、外から聞こえてくる戦闘音で学園が襲撃されている事を察し、ダークコアデッキケースを手に取り医務室を抜け出したのだ。

 

 

「はぁ、はぁ」

 

ガシャ、ガシャ

 

 

医務室を抜け出した一夏は煉獄騎士の鎧を身に纏い、廊下の壁に身体を思いっ切り預けながら昇降口を目指して歩いている。

 

 

[マスター!今からでも遅くありません!避難を!]

 

 

[そうだよ!吐血しちゃったんだよ!?その状態で戦場に出ても戦えないよ!]

 

 

白騎士と白式は一夏の事を止めようと説得する。

 

 

「白式、白騎士...臨海学校の時みたいに、治療は出来ないのか...?」

 

 

[[っ!]]

 

 

一夏のその言葉に、白式と白騎士は反応する。

そうして、暫く白式と白騎士は黙っていたがやがて言葉を発する。

 

 

[それが、その...やろうと思えば出来るんだけど、マスターの身体に問題があって..いや、問題が無くて...]

 

 

「如何いう、事だ?」

 

 

[マスターの身体には、何処にも異常が無いんです]

 

 

「...異常が無い?何を言ってるんだ。吐血したんだぞ」

 

 

白騎士の言葉を聞いた一夏はそう言葉を発する。

 

 

[それが本当なの。マスターの身体にはウイルス反応もないし、内臓にも異常は無いの]

 

 

「...その情報、真偽は?」

 

 

[間違いありません。マスターの身体を検査した医務室勤務の医師の方もそうおっしゃってましたし、マスターが鎧を展開してから私達で調べ直しましたが、やはり異常は発見されませんでした]

 

 

そこまで聞いて、一夏は歩いていた足を止める。

そうして、壁に背を預けてその場に座り込む。

その時にヘッドパーツを外し、ヘッドパーツの中から伸びた髪が出て来る。

 

 

「それでも、やろうと思えば出来るんだよな?頼む、白式、白騎士。出来る範囲で良い!治療してくれ!」

 

 

[マスター、何でそこまで...]

 

 

「...ここにはクラリッサとチェルシーがいるんだ。危険にさらすわけにはいかないんだ!それに...」

 

 

一夏は一度大きく息を吸い、吐く。

 

 

「ディミオスが、バディが戦ってんのに俺が行かない訳無いだろ!」

 

 

一夏がそう言い切ると、白式と白騎士は暫く考えるように黙る。

そして

 

 

[分かったよ、マスター]

 

 

[出来る範囲で治療しますので、暫く意識が飛びます]

 

 

そう言った。

それを聞いた一夏は笑みを浮かべて

 

 

「分かった。よろしく頼む」

 

 

そう白式と白騎士に伝えた後、両目を閉じた。

 

 

そこから暫くたち、一夏は唐突に両目を開いた。

その両目は、黄金に輝いていた。

 

 

「ふぅ.....いける」

 

 

そうして一夏は立ち上がり、再び外に向かって歩き始める。

その足取りは、先程までとは違いとても滑らかなものだった。

暫く歩いた一夏は、

 

 

「...問題ない」

 

 

そう呟くと、今度は走り出した。

マントと伸びた髪がたなびく。

 

ガシャ、ガシャ

 

廊下を蹴るたびに、そのような音があたりに響く。

普段なら絶対にしない行動をしている事で、一夏は思わず苦笑いを浮かべる。

だが、直ぐに真面目な表情に戻るとそのまま走り続ける。

 

 

「ディミオスは何処だ!?」

 

 

そうして、昇降口から外に出た一夏はそう言い、辺りを見回す。

だが、昇降口から見える範囲では、ディミオスも専用機持ちも戦闘していなかった。

 

 

《うぉおおお!!》

 

 

「っ!ディミオス!」

 

 

ここで、一夏はディミオスの咆哮を聞き取った。

聞こえて来た方に身体を向け、走り出そうとする。

その瞬間

 

 

ガザッ!ガザザザ!!

 

 

「あ、うぇあ...?」

 

 

一夏は足を止め、頭を抑える。

 

 

[マスター、如何しました!?]

 

 

「いや、今、視界にノイズがはしって、何かこう、赤黒く見えて...」

 

 

頭を抑えながら白騎士の質問に一夏はそう返答する。

だが、頭を振って意識を切り替えるとさっきの方向に向かって走り出す。

バディスキルが発動できず、飛べないので走るしかないのである。

 

 

「多分、第2アリーナを曲がった先...!」

 

 

一夏はそう言い、走る。

そうして、第2アリーナの先を曲がる。

 

 

そして、曲がった先で、一夏が見たものは...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ぐ、がぁあああ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダークネスドラゴンWのモンスター特有の青白い血を、ブレードが突き刺された腹部から周囲に撒き散らしているディミオスだった。

そして、ディミオスの周囲には、ISを身に纏っている女が3人。

その内の1人が持つ接近用ブレードが、ディミオスの事を突き刺していた。

接近ブレードがディミオスの腹部から抜かれる。

 

本来、バディモンスターがバディファイトで破壊される時に血は流れない。

攻撃を受けたところが黒くなり、その後身体がオレンジに発光して無数の長方形に弾け飛び、そのまま消滅する。

それは、この世界でISと戦闘するときも同じだった。

煉獄騎士団はその戦い方の関係上、ディミオス以外は自分で破壊するため、他人からの攻撃を受けるのは一夏かディミオスという事になる。

普段の模擬戦は基本一夏が攻撃を受けているが、臨海学校の銀の福音暴走事件の際にはディミオスも攻撃を受け、そのまま破壊された。

だが、それもすべて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

今回ディミオスは、コールを受けずにそのまま戦いに赴いた。

つまりどういうことか。

 

 

ドシャ!

 

 

「ディミオス!!」

 

 

ディミオスは、そのまま地面に落下した。

一夏はそうディミオスの名前を叫ぶ。

 

 

《い、一夏、何で、此処に...》

 

 

「ディミオス!」

 

 

地面に倒れたディミオスは、腹部からの血を抑えながら一夏に視線を向ける。

一夏はディミオスに駆け寄りたい衝動をグッと堪えて、空中のISを身に纏っている3人に視線を向ける。

 

 

「織斑一夏よ!」

 

 

「丁度いい!ここで倒して、連れ帰るわよ!」

 

 

3人の内、2人は一夏の事を見てそう言葉を発する。

だが、一夏はその2人の事など気にしていなかった。

 

 

「何でお前がここにいる...」

 

 

一夏は最後の1人...黒髪ポニーテールの日本人女子の事を睨みながら、言葉を発する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「篠ノ之箒ィ!!」

 

 

そう。

先程ディミオスに向かって発砲した黒髪ポニーテルの第三者。

それは、捕まっているはずの箒だった。

 

 

「一夏...漸くあえたな!あの時に不当に捕まってから、お前に会うために私は色々な事をしたのだぞ!」

 

 

箒が、此処だけ聞くと感動的かもしれない言葉を紡ぐ。

 

 

「篠ノ之箒、取り敢えず織斑一夏を捕えるわよ」

 

 

「会話は後でいいでしょ」

 

 

「フン!そんな事分かっている!」

 

 

箒と襲撃者2人はそう短く会話した後、アサルトライフルを展開、一夏に銃口を向け発砲する。

 

 

「キャスト、ドラゴンシールド 黒竜の盾」

 

 

一夏は冷静に黒竜の盾を発動し、射撃を遮る。

 

 

「お前らが、ディミオスを...」

 

 

一夏はそう呟くと、俯く。

そして、

 

 

「ブッ飛ばす...」

 

 

そう声を発する。

その表情は、感情というものが全く感じられないものだった。

 

 

「ハン!そんな事出来る訳無いでしょ!」

 

 

「装備、煉獄騎士団団長の剣 ディミオスソード」

 

 

襲撃者は鼻で笑うが、一夏はそれを無視してディミオスソードを装備する。

 

 

「先ずは貴様からだ」

 

 

一夏はそう言うと、地面を思いっ切り蹴り跳躍する。

その先にいるのは先程までディミオスに向かって接近ブレードを突き刺していた襲撃者。

 

 

「な!?」

 

 

「沈め」

 

 

そうして、一夏はディミオスソードをその襲撃者に叩き付ける。

 

 

「ぎゃあ!!」

 

 

そうして、その襲撃者は地面にうつ伏せで墜ちる。

一夏は襲撃者の上に着地すると、そのままその頭を踏みつける。

 

 

「この!」

 

 

もう1人の襲撃者が一夏に向かって銃を構えるが、一夏が女の上に乗っているため発砲できない。

 

 

「一夏!お前は何時からそう卑怯になったのだ!」

 

 

箒が接近ブレードを展開し、そう言いながら一夏に突っ込んでいく。

 

 

「五月蠅い...」

 

ガキィン!

 

一夏に向かって振るわれたブレードを、一夏はディミオスソードで受ける。

 

 

「ぐ!?この!?」

 

 

「篠ノ之箒、貴様は捕えて情報を引き出した後警察に突き出す」

 

 

一夏はそう言うと、腕に力を籠めて箒の持つブレードをを弾く。

 

 

「なぁ!?」

 

 

「フン!」

 

 

ブレードが弾かれたことに驚いた箒は、一夏の斬撃を避けることが出来ずそのまま攻撃を受け、大きく吹き飛ぶ。

 

 

「がぁ!?」

 

 

「ちっ!使えないわね!」

 

 

さっきから銃を構えている女がそう舌打ちをしてから言葉を発する。

 

 

「ゲージ2を払いライトにコール、煉獄騎士団 サタンフォース・ドラゴン。レフトにコール、煉獄騎士団 ナックルダスター・ドラゴン」

 

 

そんな女の事を見ながら一夏は右手を上げ、そうコール宣言を行う。

 

 

 

《うぉおおお!!》

 

 

《うぉらぁ!!》

 

 

コールされたサタンフォースとナックルダスターは雄叫びを挙げながら地面に降り立つ。

 

 

「こ、コイツは!?」

 

 

「サタンフォース・ドラゴンはアイツに。ナックルダスター・ドラゴンはコイツだ」

 

 

一夏は銃を構えた女の事を見ながらサタンフォースに、自分が乗っている女の事を蹴りながらナックルダスターに指示を出す。

 

 

《任せろぉ!》

 

 

《団長に手を出したこと、後悔させてやる!》

 

 

サタンフォースとナックルダスターの返事を聞いた一夏は頷くと、女の事を思いっ切り踏んづけてから箒に接近する。

 

 

「さっさと捕まれ」

 

 

一夏はそう言いながら箒に向かってディミオスソードを振るう。

 

 

「がぁ!」

 

 

箒はその攻撃も受け、再び吹き飛ぶ。

 

 

「ぐ、このぉ!」

 

 

箒は予備だと思われる接近ブレードを展開しながら立ち上がる。

立ち上がった箒はブレードを両手で構えながら一夏の事を睨む。

そんな箒の事を一夏は変わらない無表情のまま見ている。

 

 

「一夏!私はお前を取り戻したいだけなんだ!私に付いて来てくれ!」

 

 

「俺は元々貴様のものではない。俺は、自分自身と俺の恋人のものだ」

 

 

こんな状況になっても身勝手な事を言う箒に対して、一夏はそう言い切る。

その言葉を聞いた箒は驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「こ、恋人だと!?」

 

 

「そうだ。だが今関係は無い。貴様を拘束する」

 

 

一夏はそう言うと箒に接近しディミオスソードを振るう。

箒は接近ブレードで応戦する。

 

ガキィン!カギィイン!!

 

その様な音があたりに響く。

 

 

「ぐ、このぉ!」

 

 

箒はそう表情を歪ませながら言う。

一応先程までとは異なり吹き飛ばされる事は無いが、それでも箒は防戦一方だった。

 

 

「一夏!お前が変わってしまったのはその煩わしい女のせいなのだな!心配はいらないぞ!私がその女を始末してやるからな!」

 

 

「寝言は寝ても言うな。煩わしい」

 

 

箒が言った言葉に対し、一夏はそう反応すると箒の顔目掛けて左足で蹴り上げる。

 

 

「っ!」

 

 

箒はそれを防ごうとブレードを構えるが

 

 

「単純だな」

 

 

一夏は右足だけで跳躍するとそのまま空中で身体ごと回転させディミオスソードで箒の事を切り裂く。

 

 

「がぁ!?」

 

 

咄嗟の事で反応出来なかった箒はそのまま攻撃を受け吹き飛ぶ。

 

 

《フン!》

 

 

「ぎゃあ!」

 

 

《オラァ!》

 

 

「グフッ!」

 

 

サタンフォースとナックルダスターが交戦していた2人も吹き飛ばされ、3人は1つの場所に集められる。

そして、その3人を囲むように一夏、サタンフォース、ナックルダスターが立つ。

 

 

「貴様らを拘束する。逃げるなよ」

 

 

一夏がそう言うと、

 

 

「そ、そう簡単に捕まる訳無いでしょ!」

 

 

「くらいなさい!」

 

 

箒以外の襲撃者2人はサブマシンガンを展開し、辺りに滅茶苦茶に発砲する。

滅茶苦茶なので一夏達に当たりはしないが、一夏達も襲撃者たちに近付けない。

その一瞬の隙を付き、襲撃者たちは一気に飛翔する。

 

 

「く、まだだ!まだ、私は一夏を!」

 

 

「我儘いうな!今は撤退よ!」

 

 

箒がごねるが、一蹴されそのまま飛んでいく。

一夏はサタンフォースとナックルダスターに追いかけるように指示を出そうとしたが

 

 

ガザッ!ガザザザ!!

 

 

「あ、ぐぅ、がぁ!」

 

 

再び一夏の視界にノイズがはしり、一瞬あたりが赤黒く見え、一夏は頭を抑える。

その瞬間に、煉獄騎士の鎧はエネルギー体になり、ダークコアデッキケースに戻る。

それに伴い伸びていた髪は元の長さに戻り、両目の色も元に戻る。

サタンフォースとナックルダスターはその影響で身体を維持できなくなり、オレンジに発光した後無数の長方形に弾け飛び、そのまま消滅した。

一夏は思わず膝を地面に着くが、

 

 

「っ!ディミ、オス!」

 

 

直ぐにダークコアデッキケースを回収してから立ち上がると、ディミオスの元に向かっていった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「一夏!何処だ!一夏!」

 

 

「一夏!聞こえているなら返事をしてくれ!」

 

 

「何処にいるの、一夏!?お願い、返事をして!」

 

 

IS学園の校舎周辺を、一夏の名前を呼びながら走り回っている女性が3人。

千冬とクラリッサとチェルシーである。

一般生徒や来賓の避難誘導が終わったタイミングで、真耶から千冬に一夏が医務室からいなくなったという情報を聞いた。

それを知った千冬は、まだ学園敷地内にいる可能性があるから探しに出て、クラリッサとチェルシーがそれに同行したのだ。

最初は千冬は2人の事を止めたものの、人数は多い方が良いという事、クラリッサは軍人であり、チェルシーも多少武術の心得があるという事で、同行を許可された。

 

 

「教官!やはりここら辺では無いようです!」

 

 

「そうか...アリーナの方に向かおう!」

 

 

「了解!」

 

 

「はい!」

 

 

そう会話した後、3人はアリーナの方に向い走り出す。

その途中に

 

 

「お姉ちゃん!」

 

 

と声を掛けられる。

3人がその方向を見ると、ISを展開したマドカとシャルロットがいた。

双方、ISに多少のダメージはありそうだが本人に怪我は無い。

その事に千冬は安堵の息を漏らすが直ぐに切り替える。

 

 

「マドカ!状況は!?」

 

 

「専用機持ちは、橘以外は襲撃者の拘束が完了してるよ!それで、お姉ちゃんと、えっと...お2人は何を?」

 

 

「それが、一夏が医務室からいなくなったの!」

 

 

「「え!?」」

 

 

チェルシーのその言葉に、マドカとシャルロットは同時にそんな声を発する。

それは当然だろう。

吐血して倒れた人物が何処かに行ったと聞いたら心配もする。

それが一夏なら尚更だ。

 

 

「ど、如何するの!?」

 

 

「可能な限り探す!マドカ、手伝ってくれ!デュノアは襲撃者を拘束室に運んでくれ!他の専用機持ちにも伝えて、拘束室だ!」

 

 

「分かった!」

 

 

「了解です!」

 

 

千冬の指示を受けたシャルロットは、そのまま飛んでいく。

マドカは、銃騎士を展開したまま少し高い位置から一夏を探し始める。

 

 

「マドカ!ハイパーセンサーで一夏の反応を!」

 

 

「もうしてる!...っ!いた!第2アリーナの近く!」

 

 

「良し、行くぞ!」

 

 

マドカの報告を聞いた千冬は直ぐに第2アリーナに向かって走り出す。

その後を付いて行くように、クラリッサとチェルシーも走り出す。

マドカもSEが限界近かったのか銃騎士を解除し走り出す。

 

 

「ディミオス!しっかりしろ!おい!」

 

 

第2アリーナに近付いてきたとき、そんな声が聞こえて来た。

 

 

「間違いない!お兄ちゃんの声!」

 

 

マドカがそう言うと、千冬たちの表情がさらに引き締まり、心なしか走るスピードが更に上がる。

そうして、4人は第2アリーナを曲がる。

そこにいたのは...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディミオス!おい!」

 

 

ディミオスに必死になって呼びかける入院着の一夏と

 

 

《ぐ、うう》

 

 

その一夏に抱えられる形で横たわっていて、腹部からは青白い液体をあたりに撒き散らしているディミオスだった。

衝撃的な光景に、クラリッサも、チェルシーも、千冬も、マドカも。

何も声が出せなかった。

 

 

「おい!ディミオス!!」

 

 

《一夏...我はもう、限界のようだ...》

 

 

一夏の呼びかけにディミオスはそう反応する。

ディミオスの身体からは、紫の粒子状のエネルギーが発生していて、ドンドンと身体が薄くなっていっている。

 

 

「ディミオス、何言ってるんだ!」

 

 

《一夏...お前と出会った、あの日から、お前が煉獄騎士になったあの日から。我は、バディとしてお前と共にいた。その期間、様々な事があった》

 

 

「ディミオス...!」

 

 

ディミオスの言葉を、一夏は聞いている。

一夏の表情は、悔しそうな、悲しそうな、色々な感情が混ざっているものだった。

 

 

《一夏、お前と、過ごした、日々は、楽しかった》

 

 

「っ...」

 

 

ディミオスは、弱々しく一夏にそう声を掛ける。

それを聞いた一夏は、奥歯をギリッと噛み締めてから言葉を発する。

 

 

「ディミオス...俺からも、言わせてくれ。あの日にお前が俺にこの、煉獄騎士の力をくれたから、俺はこうやって今ここにいれるんだ。ディミオス、お前と一緒に過ごせた時間は、凄い楽しかった」

 

 

《.....》

 

 

一夏の言葉を、ディミオスは黙って聞いている。

 

 

「ディミオスの意思は俺やオルコス、煉獄騎士団が引き継ぐ。だから...」

 

 

一夏はそう言うと、ディミオスの顔を見て、笑顔を浮かべる。

 

 

「今までありがとう。おやすみ、相棒」

 

 

《.....ああ。おやすみ、相棒》

 

 

ディミオスは笑みを浮かべながらそう言うと、身体が紫の粒子となり、消滅した。

 

 

「あ、あ、あぁ...」

 

 

一夏の手の中には、穴が開いたディミオスのバディカード。

 

 

「う、ああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

一夏は、地面に拳を打ち付けてそう叫び声をあげる。

 

 

「一夏...」

 

 

「一夏...」

 

 

「一夏...」

 

 

「お兄ちゃん...」

 

 

千冬たちは、一夏の名前を呟く事しか出来なかった。

 

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

一夏の悲痛な叫びが、IS学園に響いていた。

 

 

 

 




アビゲールがガイトと初対面の時に、右目を負傷していてそこから青白い液体が流れていたので、ディミオスの血の色も同じものにしました。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください。

評価や感想、誤字報告何時もありがとうございます。
今回もよろしくお願いします。


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学園祭後のIS学園

サブタイそのままです。
どうなるかな?

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

学園祭での襲撃事件から週が明け、月曜日。

今日から通常通り授業が再開される。

 

 

襲撃事件での襲撃者は、深夜と一夏以外の専用機持ちが捉える事に成功した。

そうして捕えられた襲撃者は専用機たちによって拘束室に運び込まれ、千冬を始めとした教師たちによって尋問を受けていた。

当初、襲撃者たちはなかなか口を割らなかったものの、ブリュンヒルデとしてのオーラや殺気を全開にした千冬の尋問によって口を開いた。

 

 

襲撃者たちは、夏休みに束とスコールが懸念していたように亡国企業のメンバーであった。

亡国企実働部隊『クライム・ソーサ―』。

それが襲撃者たちが所属している部隊の名前。

スコール達が嘗て所属していた部隊、『モノクローム・アバター』が個々の技術力の高さを生かした部隊だったのに対し、此方は数で押す戦術を取る部隊。

その証拠に、モノクローム・アバターは人数が少なかったが部隊員のISが全て専用機だったが、クライム・ソーサ―はメンバーの数自体は多いもののISは全て量産機である。

 

 

今回の襲撃の目的は、一夏の身柄の確保並びに可能であればISの強奪。

その目的を聞いた瞬間千冬は襲撃者の事を思いっ切り殴りそうだったが何とか堪えていた。

 

 

そして、組織の潜伏場所やアジトなどの情報は最後まで言わなかった。

今現在も言わないので、如何したものかと教員は頭を悩ましている。

襲撃者たちは今現在全員拘束室の中で拘束しており、常に見張りの教員が3人以上拘束室の前に武装をしながらスタンバイしている。

 

 

そして、この襲撃事件では見逃せない事案が1つ発生した。

箒がクライム・ソーサーのメンバーと共にいた事である。

これは一夏から千冬に、そして千冬から学園長、並びに全教員と楯無に伝えられた。

この情報を聞いた全員が驚いたが、それは当然だろう。

臨海学校の際に警察に身柄を差し出して刑務所にいるはずの箒が亡国企業の様なテロリストと共にいたのだ。

驚かない方が可笑しい。

 

 

日本政府の暗部である楯無は、日本政府にこのことを確認した。

刑務所にいるはずの箒が外に出ているのだ。

日本政府がなんの情報を持っていない訳が無い。

すると、日本政府は箒が入所していた刑務所から何人かが脱走していたという情報を持っていたのだ。

この刑務所に収監されている受刑者は全員女性で、中にはISに触った事がある人もいたようだ。

そう言った状況の中で、つい先日に何名かの受刑者の集団脱獄が判明した。

警備員や巡回の刑務官が前もって気絶させられていた事、塀の扉が外側から破壊されていたことから、外部の人間の、それも複数人の関与が疑われるとの事だ。

 

 

その情報を聞いた楯無は怒りを覚えた。

何故、その事を公表していないのかと。

楯無や楯無から連絡を受けた虚が日本政府を問い詰めると、大事になって支持率を下げたくないという何とも身勝手な回答が帰って来た。

その回答を聞いた楯無や虚はこれ以上ないほどに怒りをあらわにしたが、何とか堪え学園に報告をした。

当然ながら千冬や他の教師たちも怒りを覚えたが、それよりも大事な事があると後回しにする事にした。

 

 

このことは専用機持ち全員にも伝えられている。

これまた全員が怒りを覚え、簪は代表候補生を辞めるという考えも一瞬思い浮かんだ程だ。

 

 

そして、今日から授業が再開される。

だが、今学園に一夏はいない。

 

 

一夏はあの後、その場にいた千冬に最低限の報告をした後自室に籠ってしまった。

マドカや、何時もだったら絶対に無視しないであろうクラリッサとチェルシーの声を無視して、自室に戻ってしまった。

理由は考えるまでも無い。

ディミオスの死だ。

一夏は第2回モンド・グロッソの誘拐事件の際にディミオスによって煉獄騎士のチカラを受け取った事によりその場をしのぎ、初めて直接会ったときからバディとしてずっと一緒にいた。

同じ空間で過ごし、同じように訓練をし、協力して戦ってきた。

そんな大切なバディを急に失って、直ぐに立ち直れる訳が無かった。

 

 

クラリッサとチェルシーは簡単な事情聴取をされ、直ぐに解放された。

千冬と共に行動していたという事もあり、警察に突き出されるという事にはならなかった。

解放されたクラリッサとチェルシーはラウラやセシリアに声を掛け、もう帰国している。

ドイツ軍IS部隊副隊長(隊長はIS学園在籍中)とオルコット家メイドという立場上、簡単に帰国を遅らせる事が出来ないからだ。

2人とも日本に、IS学園に残って一夏の側にいたかったが、それが出来ない。

デートやそういう行為はそれぞれ1回づつしか出来ておらず、それ以前になかなか直接会えないのだ。

そんな状況だから、恋人が苦しんでいるのに側にいてあげられない。

クラリッサとチェルシーは、その事に関して悩んでいた。

 

 

そして、今一夏は学園では無く『PurgatoryKnights』にいる。

一夏は襲撃事件の前に吐血して1度気を失っているのだ。

所属IS操縦者が吐血をして、会社が何もアクションを起こさない訳がない。

特に、『PurgatoryKnights』は創業のきっかけが一夏なので、一夏の為の会社といっても過言では無いのだ。

その為、『PurgatoryKnights』は襲撃事件の後IS学園に一夏を本社に連れて検査をしたいと申し立てた。

学園側もそれを受理し、一夏は『PurgatoryKnights』で束による精密検査を受けている。

一夏も自分の足で歩けるくらいには回復していたが、モノレールの駅に行く途中にすれ違ったオータムとも会話をしていなかった。

 

 

「.....織斑先生、みんなは大丈夫でしょうか?」

 

 

朝のSHR前。

教室に向かっている真耶は、隣に歩いている千冬にそう声を掛ける。

目の前で一夏が吐血して倒れ、その後に襲撃事件が発生したのだ。

生徒達の精神面での心配をするのは当然である。

 

 

「...分からないですね。正直、心の病を患ってしまってもおかしくありません。特に、今年はGW前にも襲撃事件があり、試合を観戦していた生徒はその襲撃者の事を見ています」

 

 

「確かにそうですね...」

 

 

「なので、心の病を患ってしまっているか、その1歩手前の精神状態の生徒がいる可能性は十分にあります」

 

 

千冬はそう言い、2人同時にため息をつく。

だが、千冬は頭を振ると

 

 

「取り敢えず、私達に出来る事は織斑兄以外が全員元気で登校しているのを願うだけです」

 

 

「そ、そうですね!そして、万が一心に傷を負ってしまっていたら、私たち教師がサポートしましょう!」

 

 

そうやって、千冬と真耶は気合いを入れ直して改めて教室に向かって歩き出す。

そうしてチャイムが鳴り、千冬と真耶は教室に入っていく。

 

 

「全員席に着け、SHRを始める」

 

 

教室に入った千冬がそう言うと、全員一斉に席に着く。

空席は、一夏の席しかなかった。

取り敢えずは休む程まで心に傷を負っている生徒がいない事に千冬と真耶は内心ほっとしたように息を吐く。

 

 

「さて、一先ずみんなに連絡だ。織斑兄だが、みんな知っての通り学園祭の時に吐血してしまっている。その為、今朝から織斑兄は『PurgatoryKnights』に行き、精密検査を受けている。そして、今週1週間は大事を取って休み事になっている」

 

 

千冬がそう言うと、深夜以外の全員が一瞬驚いた表情を浮かべたものの、直ぐに心配そうな表情を浮かべる。

特にシャルロットの反応は大きいものだった。

シャルロットは常日頃から一夏が忙しそうに仕事しているのを見ていて、その上で学園祭の時には目の前で吐血して倒れて、その上で医務室から1度抜け出している事を聞いている。

心配しない訳がない。

だが、それと同じくらい安心もしているだろう。

『PurgatoryKnights』の主任が束なのは夏休みにシャルロットにも知らされている。

束の元だったら大丈夫だろうと考えるだろう。

ISの開発者の技術力に間違いなど存在しないだろうから。

 

 

「そして、学園祭での襲撃事件の事だが、先ずIS学園関係者以外にこの話は厳禁だ。理由は、言わなくても分かると思うがむやみに外部に情報を漏らし、世界を混乱させないためだ。既にIS学園としての声明は既に発表してあるが、IS学園敷地外へ出た時にマスゴ...マスコミ関係者からの取材があるかもしれない。だが、そう言うのは全て無視するように」

 

 

千冬のその言葉に、全員が一斉に頷く。

途中の発言が過激だったのは仕方が無いだろう。

実はIS学園には、一夏への取材願いが大量に来ているのだ。

無論、ただでさえ過労死しそうな一夏にそんなもの受けさせるわけにはいかない。

なので教員が(特に千冬が)拒否の対応をしているのだ。

イラつかない方がおかしい。

 

 

「次に、メンタル面での相談だ。IS学園では、今回の事件を受けて今後一定期間毎日カウンセラーの方が来て下さる。その為、少しでも心に不安を抱いたら相談してほしい。無論、相談するのは普通の教員でも可能だ」

 

 

千冬はここまで言って、一度クラス全員の顔を見回す。

 

 

「私達たち教員、そしてIS学園は生徒の、みんなの味方だ。だから、辛くなったら絶対に頼ってくれ」

 

 

『...はい!』

 

 

そうして千冬が発した言葉に、深夜を除く全員がしっかりとした返事を返す。

その光景を見て、千冬と真耶はこれなら大丈夫だろうと安心した。

 

 

「それでは、これでSHRは終わりだ。山田先生、何かありますか?」

 

 

「いえ、特にないです」

 

 

「良し、それでは1時間目の授業は私が担当だ。準備を忘れないように!」

 

 

『はい!』

 

 

元気な返事を聞いた千冬と真耶は笑みを浮かべると、教室を出た。

そして2人は並んで職員室に帰って行く。

 

 

「取り敢えず、みんな元気そうで良かったです」

 

 

「そうですね...」

 

 

その道中、真耶が呟いた事に千冬がそう返事をする。

千冬の表情は安心半分、心配半分といったものだった。

そんな千冬を見て、真耶も少し表情を曇らせる。

 

 

「すみません。織斑君は、無事では無かったですね...」

 

 

「.....はい。ですが、『PurgatoryKnights』の開発主任は個人的な関わりがあって、技術力も信頼してるので、大丈夫だと思います」

 

 

「そうですか。また、クラス全員揃って元気な姿を見たいですね」

 

 

その真耶の言葉を聞いて、少し俯いて千冬は考える。

 

 

(一夏。私やお前の近くにいる人は、全員お前の味方だ。だから、1人で抱え込まないでくれ)

 

 

そうして、千冬は顔を上げ、職員室に向かってしっかりとした足取りで歩き始めた。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

一夏side

 

 

「.....今日から、授業再開か...」

 

 

『PurgatoryKnights』の医務室。

俺はベッドの上に座っていた。

先程まで主任による様々な検査を受け、今は結果待ち。

因みに、今手元にダークコアデッキケースが無い。

多分主任に没収された。

 

 

「ディミオス.....」

 

 

俺は、手にディミオスのバディカードを持ちながらそう言葉を零す。

バディカードには穴が開いていて、カードの向こうの景色が見える。

それを見て、俺はカードを持っていない方の手を握りしめる。

 

.....俺のせいだ。

俺がもうちょっと早く行動出来ていたら。

俺が、もう少し早く襲撃者を倒せていたら。

俺が、俺が倒れていなかったら。

ディミオスはここで死ぬことは無かったのに...

 

 

ガァン!

 

 

「クソ...」

 

 

俺がそうやっていると

 

 

「一夏様、体調は大丈夫ですか?」

 

 

と言いながら、クロエさんが部屋に入って来た。

俺は扉の方向に顔を向ける。

 

 

「ああ、大丈夫ですよ。それにしても、お久しぶりです、クロエさん」

 

 

「はい、お久しぶりです」

 

 

俺はクロエさんにそう声を掛け、クロエさんもそう返答する。

...気まずい。

何だかんだで、クロエさんと2人きりは初めてだ。

だから、会話が発生しない。

如何しよう...

と、俺がそんな事を考えていると、

 

 

「一夏様のスマートフォンを持ってきました。私が持っている間にも、通知のバイブレーションが沢山なっていました」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

と言いながら、クロエさんが俺のスマホを手渡してくれる。

俺はそのままスマホを受け取り、電源を付ける。

すると、クロエさんの言う通りメッセージアプリの通知が山のように来ていた。

これは、俺が1日仕事用PCを放置していた時に来ている仕事と同じくらいの量...

いや、こっちの方が多いな。

俺はそんな事を考えながらメッセージアプリを起動させる。

千冬姉やマドカ、シャルを始めとした色んな人からメッセージが来てた。

その中でも、クラリッサとチェルシーからは沢山のメッセージが来ていた。

 

 

「クラリッサ、チェルシー......」

 

 

俺はメッセージを見る。

俺の体調を気遣うもの、俺の心を気遣うのも、色んなメッセージが来てた。

その事は嬉しいけど、返信する気力が無い。

取り敢えず後で返信しよう。

俺はそう判断し、そのままスマホの電源を切る。

 

 

「返信しなくていいのですか?」

 

 

「チョッと、返信する気力が無くて...」

 

 

俺がそう言うと、クロエさんは心配そうな表情を浮かべる。

クロエさんは常に両目を閉じてるけど、こうやって見るとしっかり表情は分かるんだな...

 

 

「一夏様、少々宜しいですか?」

 

 

「なんですか、クロエさん」

 

 

クロエさんが口を開いたので、俺は反応する。

すると、クロエさんは目を閉じたまま顔をしっかり俺の方に向けて来る。

 

 

「一夏様は、普段から学生とは思えないほどの仕事をこなしています。それはとても凄い事です。ですが、自分を追い込んでいませんか?『これは自分がしないといけないものだから』と」

 

 

「.....」

 

 

その通りだ。

俺は普段からマドカやシャルにそう言っている。

でも、それは追い込んでるんじゃなくて事実である。

だって、俺の仕事は俺宛てに送られてきてるのが殆どだ。

これは立場上、俺以外に任せる訳にはいかない。

 

 

「社長や束様が普段から仰っているはずです。『辛くなったら頼ってね』と。一夏様はもう少し自分の味方が大勢いる事を自覚した方が良いのでは?」

 

 

「...味方がいる事を自覚、か」

 

 

十分自覚してるんだがな。

クラリッサとチェルシー、白式と白騎士に、IS学園のみんな。

嘗ての出来損ない()から考えれば十分すぎる。

これも、ディミオスが煉獄騎士()にしてくれたからか。

 

 

「...」

 

 

そう考えた時、俺は思わず奥歯を噛み締める。

 

 

「一夏様...」

 

 

そんな俺を見てか、クロエさんがそう声を発する。

 

 

コンコン

 

 

「いっくん、起きてる?」

 

 

ここで、ノックの音とそんな俺を呼ぶ声が響く。

この独特な俺の呼び方と声。

一瞬で誰か分かる。

主任だ。

検査の結果が出たか。

 

 

「起きてますよ。そもそも寝てないです」

 

 

俺がそう返事をすると、扉が開き主任と社長が入って来た。

あ、社長も来て下さったんだ。

 

 

「あ、クーちゃんもいたんだ」

 

 

「はい、一夏様のスマートフォンを渡しに来ました」

 

 

「なるほどぉ!」

 

 

主任とクロエさんはそう会話する。

 

 

「一夏...大丈夫?」

 

 

「社長。はい、身体は大丈夫です」

 

 

「今日は気を楽にして、プライベートの呼び方で良いわよ」

 

 

「分かりました、スコールさん」

 

 

スコールさんにそう言われたので、俺は呼び方を変える。

 

 

「それで主任、検査の結果は如何でしたか?」

 

 

「いっくん、束さんの事は名前で...」

 

 

「結果を言ったらそうしてあげます」

 

 

「チョッと!?なんか私に対して当たり強くない!?」

 

 

普段ならここでなんか言えるんだろうけど、生憎今の俺にそんな余裕はない。

その代わりにクロエさんが主任の相手をやんわりとしてくれるからありがたい。

 

 

「お、おほん。それで、いっくんの身体なんだけど、やっぱり異常はないね」

 

 

「束が検査しても、やっぱりそうなるのね...」

 

 

「うん。血液の数値も、脳を含めた内臓にも異常は無し。学園側から貰った直後のデータと比べても、特に異常っぽいのは無いよ」

 

 

「.....」

 

 

主任とスコールさんの会話を聞いて、俺はバディカードを持っていない方の掌を見る。

白式と白騎士が言ってたから間違いないとは思っていたが、やはり主任でも分からないのか...

 

 

「それでいっくん。そう言う事だから今後は絶対に無理しちゃ駄目だからね。原因不明だから、また何時吐血するか分からないから」

 

 

「...はい、分かりました」

 

 

「ああ、後一夏。あなた暫く仕事禁止」

 

 

「え!?何でですか!?」

 

 

まだ未処理の大量に俺のPCにあるんだけど!?

俺がそう驚いた反応をすると、スコールさんは半眼を作りながら俺の事を見てくる。

 

 

「仕事があるとあなたは絶対に無理するからよ」

 

 

「うっ...まだ未処理のあるんですが?」

 

 

「それはこっちで片付けておくから後で送って頂戴。立場問題なら心配いらないわ。社長である私直々にするから」

 

 

「それは、スコールさんの負担が...」

 

 

「そんな事気にしない!先ずは自分の身体を第一に!」

 

 

「は、はい!」

 

 

スコールさんが珍しく語尾を強めていったので、俺は反射的にそう頷く。

俺の返事を聞いたスコールさんは、満足そうに頷いた。

 

 

俺はチラッと、ずっと持ってるままの穴の開いたディミオスのバディカードに視線を向ける。

何度見ても、変わることなどない。

 

 

「...味方」

 

 

だけど、このカードは間違いなく俺とディミオスを繋いでいるものだ。

そして、このカードは間違いなく煉獄騎士団団長のものだ。

 

 

「...束さん、ダークコアデッキケース返してください」

 

 

「え!?」

 

 

俺が束さんの事を見ながらそう言うと、束さんは驚いた表情を浮かべる。

 

 

「持ってるんでしょ?返してください」

 

 

「...返せない。返したら、またいっくんは無茶をする!」

 

 

「返してくれないと俺が困るんですが」

 

 

「返して欲しい理由はなに!」

 

 

束さんがそう言うと、スコールさんとクロエさんの視線も俺に集まる。

俺は1度息を吐いてから、言葉を発する。

 

 

「俺の味方は、俺の仲間は、この世界にいるだけでは無いんですよ」

 

 

俺はそう言って、束さんの眼を見る。

 

 

「俺は、常に煉獄騎士団と戦ってきたんです。煉獄騎士団は、俺の大切な味方であり、仲間なんです。だから、俺はダークネスドラゴンWに帰ります。その為に、ダークコアデッキケースを返してください」

 

 

「いっくん...」

 

 

「それに、ダークネスドラゴンWなら、仕事しなくていいでしょ?」

 

 

俺がそう言うと、束さんは俯いた。

そうして暫く考え込むようにしていて、やがてゆっくり顔を上げた。

その表情は、笑顔だった。

 

 

「分かったよ、いっくん」

 

 

束さんはそう言うと、俺にダークコアデッキケースを返してくれる。

 

 

[[マスター!]]

 

 

(お、おう。元気だな)

 

 

ダークコアデッキケースを手に取った瞬間白式と白騎士が声を掛けて来たので、俺は思わずそう反応してしまう。

 

 

「ディザスターフォース、発動」

 

 

そして、俺は煉獄騎士の鎧を身に纏う。

そのままヘッドパーツを外し、長髪が露になる。

 

 

「う~ん...長髪のいっくんもカッコいいけど、やっぱり短髪の方が束さんは好きだな~~」

 

 

何を言ってるんだ。

俺はそんな事を考えながら1度両目を閉じ、開く。

これで、両目は黄金に輝いているだろう。

俺は左手を前に出してから、言葉を発する。

 

 

「オープン・ザ・ゲート。ダークネスドラゴンW」

 

 

そうして、俺の前にダークネスドラゴンWへのゲートが開く。

 

 

「じゃあ、千冬姉が聞いてきたら説明お願いします。いってきます」

 

 

「ええ、任せて」

 

 

「いっくん、自分1人で抱え込まないでね」

 

 

「一夏様、いってらっしゃいませ」

 

 

3者3様の返事を聞いた俺は、そのままゲートを潜り、ダークネスドラゴンWに帰るのだった...

 

 

 

 




一夏、大丈夫か?

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告などありがとうございます!
今回も宜しければ、是非お願いします!


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新生煉獄騎士団

サブタイでのネタバレ(バディファイト知ってる人だったらもう予想はついてた)

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

「ふぅ...帰って来たな...」

 

 

ダークネスドラゴンW、煉獄騎士団本部前。

自分の世界と繋がっているゲートから出て来た一夏は、そう言葉を零した。

一夏の背後でゲートが閉じ、それと同じタイミングで少し風が吹く。

ディザスターフォースの影響で伸びた髪と真紅のマントが風にたなびく。

そして、遠くの方からモンスターの咆哮が聞こえて来る。

 

 

「...うん、相変わらずだな」

 

 

夏休みは直ぐにヒーローWに向かったため、余り長い時間ダークネスドラゴンWに滞在していなかった一夏は自然とそんな感想が漏れる。

一夏は黄金に輝く両目でチラッと隣を見て、そこにディミオスがいない事に思わず俯いてしまう。

 

 

[マスター...]

 

 

「白式...いや、大丈夫だ」

 

 

そんな一夏に白式が声を掛けるが、一夏は頭を振ってからそう返事をする。

 

 

「ディザスターフォース、解除」

 

 

一夏がそう呟くと、煉獄騎士の鎧はエネルギー体に戻り一夏の左手に集まる。

そしてそのままダークコアデッキケースとなる。

それに伴い伸びていた髪は元の長さに戻り、同時に瞬きをする事で両目の色も元に戻す。

一夏はダークコアデッキケースを仕舞うと、それと同時に穴の開いたディミオスのバディカードを取り出す。

 

 

「ディミオス、帰って来たんだよ。ダークネスドラゴンWに」

 

 

そう呟く一夏の表情は何とも痛々しくて、悲しいものだった。

暫くそのままディミオスのバディカードを眺めていた一夏だが、ずっとこうしている訳にはいかないと意識を切り替え、煉獄騎士団本部に入っていった。

 

 

「...ただいま」

 

 

正面入り口から入った一夏は、そうポツリとこぼす。

煉獄騎士団本部はそこそこ大きく、全竜を集めるならかなりの大声を出さないといけない。

だが、今回一夏はそんな大声を出していない。

だけれども、一夏のその声に応じて煉獄騎士団が続々と集まって来た。

 

 

《一夏、大丈夫か?》

 

 

「あ、ああ、オルコス。俺は、大丈夫だ」

 

 

1番最初に来たオルコスが一夏に声を掛け、一夏はそう返答する。

一夏はそのまま入り口近くのベンチに腰掛ける。

そうして、煉獄騎士団全団員が揃った事を確認した一夏は、口を開く。

 

 

「...全員分かってると思うけど、この間のIS学園学園祭で、ディミオスが、死んだ」

 

 

一夏は軽く俯きながらそう言葉を発した。

 

 

《.....》

 

 

そんな一夏を見て、オルコスは何も言わない。

オルコスだけでは無く、デスシックルを始めとした他の団員達も、何も言わない。

そして、一夏は学園祭の時に起こった出来事を最初から説明した。

先ず、自身が吐血をして倒れ、気を失った事。

その後にIS学園が襲撃を受け、倒れていた自身以外の専用機持ちが対処の為に出撃し、それと同時にディミオスも襲撃者と戦い始めた事。

ダークコアデッキケースを通してのコールをしていなかったので、ディミオスは刺されても破壊されずに流血し、そのまま死亡した事を。

 

 

「これが、学園祭で起こった事...ディミオスが死んだ経緯だ」

 

 

全ての説明がし終わった後、一夏はそう呟いた。

 

 

「俺が倒れていなかったら、俺がもう少し早く戦いに参加出来ていたら、ディミオスは死なずに済んだんだ。だから、だから...」

 

 

一夏は身体を震わせながら、口を開く。

 

 

「ディミオスが死んだのは、俺が原因だ...」

 

 

その一夏の言葉は、消えるような、それこそ今こうやって全員が注目していなかったら聞き取れないくらいのボリュームだった。

一夏は俯いたまま何も言葉を発しない。

 

 

《一夏、顔を上げろ》

 

 

そんな一夏に向かってオルコスがそう声を掛ける。

一夏がそのまま顔を上げると、この場に集まっている全竜が真面目な表情を浮かべていた。

 

 

《ディミオス様が死んだ原因が一夏?そんなわけが無いだろう》

 

 

「デスシックル...」

 

 

《原因は襲撃者、違うか?》

 

 

「サタンフォース...」

 

 

そんな中、煉獄騎士団の中で2竜しかいないサイズ3のデスシックルとサタンフォースがそう一夏に言う。

それに続くように、煉獄騎士団の全竜が一夏に声を掛けていく。

 

 

《団長が今の一夏を見たらどんな反応をするか、分かっているだろ》

 

 

《今のお前に必要なのは悔やむことでは無い》

 

 

《今の一夏に必要なのは、前を向く事だと分かっているだろう?》

 

 

《我ら煉獄騎士団は、1度の過ちや敗北では立ち止まらない》

 

 

《それは、煉獄騎士である一夏も同様だろう》

 

 

《お前がここで前を向かなかったら何も変わらないぞ》

 

 

「マッドハルバード、ブラッドアックス、スクラップドリル、クルーエル・コマンド、ガイラムランス、ヴァイキングアックス...」

 

 

サイズ2のモンスター達が、一夏にそう声を掛ける。

 

 

《一夏...貴方が前を向くのなら、私達はあなたを支える》

 

 

《貴方が前を向けないと言ったら、前を向かせる》

 

 

《団長も、言っていたでしょう?》

 

 

《共に戦うと》

 

 

《だったら、我らが共に戦わない訳がない》

 

 

《私たちは、今まで一夏の世界でも共に戦ってきただろう》

 

 

《それはこれからも変わらない》

 

 

《それは、既に定められているも同然》

 

 

《我らは、これまでもこれからも》

 

 

《一夏、お前と共に戦おう》

 

 

《我らは戦い以外では死なぬ不死の竜》

 

 

《今まで生きて来た年数は、一夏よりはるかに上だ》

 

 

《ならば、既に覚悟は済ませている》

 

 

《我らが行くは血濡れの魔道》

 

 

《煉獄の炎をその身に宿し》

 

 

《煉獄騎士よ、永遠なれ》

 

 

《一夏も知っているだろう?》

 

 

《オレらの魔法でもあり、信念でもあるんだからな》

 

 

《それは団長も承知のはず》

 

 

《そして、それに倣うように、団長の魂も永遠であろう》

 

 

《だから、お前が前を向かないで如何する?》

 

 

《団長の事を想うのならば、前に進んで見せろ》

 

 

「リングブレード、ルナシーワンド、ペンデュラム、ペインダガー、ブラックナイフ、ネクロパーム、トルバデゥール、デモンズレイピア、チェインソード、ソードブレイカー、シルバースタッフ、ジャイアントシザー、シーフタン、グラッジアロー、カースファルクス、エヴィルグレイブ、ウチガタナ、ヴェノムスパイク、イレイザーハンド、アンダーブレイド、アイアンゲルド...」

 

 

サイズ1のモンスター22体が次々と一夏に言葉を掛けていく。

 

 

《一夏、お前が気に病む必要などない》

 

 

《そして、俺達も過去を振り返ったりはしない》

 

 

《俺達は、戦って進むだけだ》

 

 

「クロスボウ、ナックルダスター、ニードルクロー...」

 

 

サイズ0のモンスター3竜が一夏にそう声を掛ける。

 

 

《一夏》

 

 

そうして、最後にオルコスが一夏に呼びかけると、一夏はオルコスの方に顔を向ける。

一夏がオルコスの目を見つめると、オルコスは口を開いた。

 

 

《我々は常に戦い続けて来た。故郷を守るために。一夏、お前にも戦う理由はあるはずだ》

 

 

「...っ!」

 

 

オルコスにそう言われ、一夏は上げていた顔を再び俯かせる。

そして、暫くそのままでいたがやがて顔を上げた。

その表情は、覚悟が決まったものだった。

 

 

「...煉獄騎士団が、故郷の為に戦ってきたように、俺にも戦う理由は、ある」

 

 

一夏は、そう話し始める。

 

 

「俺には、守りたい大切な恋人が出来た。俺には、戦わないといけない相手が出来た」

 

 

そう語る一夏の事を、煉獄騎士団全員がしっかりと見ている。

 

 

「そして、俺には、俺には...応えないといけないことが出来た!だから...!!」

 

 

一夏はそう言って、一度大きく息を吸って、吐いた。

 

 

「俺と一緒に、また戦ってくれ!」

 

 

そうして、一夏がそう言うと

 

 

《当然だ!》

 

 

と、全員が返答した。

それを見て、一夏は久しぶりの笑みを浮かべた。

そして一夏は立ち上がると、オルコスの前に歩いて行く。

 

 

「ディミオスがいなくなった今、煉獄騎士団の団長はオルコスだ」

 

 

《...ああ、そうなるな》

 

 

一夏が言った事に、オルコスが頷く。

 

 

「だから言わせてもらう。煉獄騎士団の解放者 オルコスソード・ドラゴン」

 

 

一夏はそう言うと右手を上げ、オルコスの前に突き出す。

そして、一夏はオルコスの目を見ながら言葉を発する。

 

 

「俺とバディになってくれ」

 

 

《.....!!》

 

 

一夏の言葉を聞いたオルコスは、驚いたように両目を見開いた。

だが、やがてオルコスは笑みを浮かべると

 

 

《当然だ。ディミオス様に応えるために、我も共に戦おう》

 

 

その言葉を述べた後、一夏の拳に自身の拳を打ち付けた。

そして、一夏とオルコスは笑い合う。

そんな一夏とオルコスの事を、他の煉獄騎士団の面々は穏やかな表情で見守っていた。

 

 

「......そうだ、ディミオスのお墓作らないと」

 

 

そんな中、一夏は少し俯きながらそう呟く。

その瞬間にオルコスを含めた煉獄騎士団も少し顔を俯かせた。

ディミオスに2度と会うことは出来ない。

そんな事、頭では分かっているが心の何処かではまた会えると考えてしまうのは仕方が無い。

そんな中でお墓を作るというのなら、会えない事を突き付けられるのと同様だ。

 

 

《...そうだな。ディミオス様の事をしっかりと弔わないといけない》

 

 

一夏の言った事に同調する様に、オルコスがそう頷く。

そして、一夏と煉獄騎士団全竜は暫くディミオスのお墓の場所を話し合った。

そうして大体20分後、じっくりと話し合った一夏と煉獄騎士団全竜は煉獄騎士団本部を出て、話し合って決めた場所に向かって歩き出す。

 

 

《...一夏、1つ聞いておきたい事がある》

 

 

その道中、オルコスが不意にそう言葉を零した。

一夏は立ち止まり、オルコスに視線を向ける。

 

 

「何かあったか、オルコス?」

 

 

《一夏、今日は如何やってダークネスドラゴンWに来た?》

 

 

「いや、如何って...普通にゲートを開けてだけど...」

 

 

一夏がそう言った瞬間、オルコスは信じられないものを見たように両目を見開いた。

いや、オルコスだけではない。

一夏とオルコスの後ろにいた煉獄騎士団の面々も同じ様な表情を浮かべていた。

 

 

「ど、如何した?」

 

 

《一夏、お前...何でゲートを開けた?今まではディミオス様に開けてもらっていたではないか》

 

 

「え...?」

 

 

オルコスのその言葉で、一夏は思い返した。

ディミオスと共に初めてダークネスドラゴンWに来たその日を。

その日は当然、ディミオスが開いたゲートを通って来た。

そして、ダークネスドラゴンWから他のWに行くときも、帰って来る時も、自分の世界との行き来も、全てディミオスがゲートを開けていた。

そう、一夏は()()()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

それなのにも関わらず、一夏は今回自力でゲートを開けた。

それも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「あ、れ?何で俺、今日自分で...そもそも、何で開けれるって理解していたんだ...?」

 

 

オルコスに言われた一夏は、自分でも訳が分からないという感じでそう呟く。

すると

 

 

ガザッ!ガザッガザザッ!ザザザザザ!!

 

 

「あ、がぁ...!」

 

 

一夏の視界にノイズがはしり、見える景色の色が赤黒く染まる。

一夏は思わず頭を押さえ、地面に膝をつく。

 

 

《っ!一夏!》

 

 

オルコスが一夏の側に駆け寄る。

 

 

「あ、ぐぅ、あがぁ!!」

 

 

一夏は空を見上げるように身体を起こすとそう叫ぶ。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ...」

 

 

一夏は地面に両手をつき思いっ切り肩で呼吸をする。

額には汗も出ていて、明らかに異常がある事が分かる。

 

 

《一夏!大丈夫か!》

 

 

「オルコス...ああ、大丈夫だ...」

 

 

オルコスが一夏に声を掛け、一夏はまだ荒い呼吸でそう返す。

 

 

「はぁ、はぁ...取り敢えず、行こう。時間は有限だ。俺には仕事が待っている!」

 

 

[社長に没収されたじゃないですか]

 

 

(...そうでした)

 

 

白騎士に突っ込まれ、一夏はそんな反応をする。

それと同時に、自身が普段から仕事しかしていなかったという事実を改めて認識した。

 

 

一夏が再び歩けるようになるまで回復してから、再び全員で歩き始める。

そうして、暫く移動をする。

 

 

《ああ、懐かしいな.....》

 

 

目的地に着いたとき、不意に煉獄騎士団の誰かがそう呟いた。

 

 

《本当に、久しぶりだ...》

 

 

「俺は初めてだな。此処が...」

 

 

《ああ、此処が...》

 

 

オルコスと一夏は、その目的地の事を見つめながら言葉を発する。

 

 

「《旧煉獄騎士団本部》」

 

 

オルコスと一夏の言葉が重なる。

そう、ディミオスのお墓として選んだ場所。

そこは、ディミオス達煉獄騎士団のかつての故郷であるドラゴンWにある、旧煉獄騎士団本部。

 

 

「ディザスターフォース、発動」

 

 

一夏はダークコアデッキケースを取り出すと、煉獄騎士の鎧を身に纏う。

 

 

「装備、煉獄騎士団団長の剣 ディミオスソード」

 

 

そうして、一夏はディミオスソードを装備すると、

 

 

グサッ!

 

 

そのまま、ディミオスソードを墓標のように地面に突き刺す。

 

 

「ディザスターフォース、解除」

 

 

ディザスターフォースを解除した一夏は、突き刺したディミオスソードの前を軽く掘る。

そして、穴の開いたディミオスのバディカードを取り出すと、

 

 

「ディミオス、しっかり休めよ」

 

 

少し悲しそうな、でも穏やかな表情でそう声を掛けると、掘った穴にバディカードを入れた。

その上に土を掛けてバディカードを埋めると、少し土をならす。

そして、そのまま一夏は両手を合わせ、目をつむる。

 

 

「ディミオス、安らかに...」

 

 

そんな一夏の後ろでは、煉獄騎士団全竜が敬礼をしていた。

 

 

《ディミオス様、如何か安らかに》

 

 

煉獄騎士団を代表するように、オルコスがそう言葉を発する。

それから暫くの間、全員でディミオスに対して黙祷を捧げていた。

大体5分後、一夏は目を開くとそのまま立ち上がった。

 

 

「ディミオス、また会いに来るから」

 

 

一夏はディミオスソードを撫でながらそう言うと、背を向ける。

 

 

「じゃあ、そろそろ戻ろうか」

 

 

《そうだな。ディミオス様も、故郷でゆっくりしたいだろう。我らがそれを邪魔してはいけない》

 

 

そうして、一夏と煉獄騎士団全竜はディミオスのお墓を後にし、ダークネスドラゴンWに帰るのだった...

 

 

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一夏が新たにオルコスとバディを組み、ディミオスのお墓を作ってから1週間が経過した。

明日からは一夏が学園に復帰するため、今日の内に学園に戻っておかないといけない。

 

 

この1週間で、一夏はかなり心の治療は出来た。

そして、一夏とオルコスの間には新たな絆が確かに芽生えていた。

 

 

《...全員注目!》

 

 

煉獄騎士団本部ロビーで。

オルコスが腕を組みながらそう呼びかける。

その瞬間、ロビーに集まっている全団員がオルコスに視線を向ける。

 

 

《我ら煉獄騎士団は、今1度大きく変わる時が来た!》

 

 

オルコスは全員の視線を感じながら話し始める。

そんなオルコスの隣には当然のように一夏が立っており、一夏もオルコスに視線を向け、話を聞いていた。

 

 

《これから我らが戦うのは、一夏の世界のテロリストだ!今までの戦いとは、全く違うものになるだろう!》

 

 

そんなオルコスの言葉に、一夏を含めた全員の表情が少し厳しいものになる。

そもそも、バディモンスターとISの戦闘が本来ならば起こりえなかったイレギュラー。

その上で人間のテロリストとの戦闘となると、オルコスの言う通り今までとは全く違うものになるだろう。

 

 

《その上で、戦おうではないか!ディミオス様に応えるためにも!一夏の守りたいものを、我らでも守るために!》

 

 

《おおお!!!》

 

 

オルコスの言葉に応じて、煉獄騎士団の団員が雄叫びを上げる。

そんな光景を確認してから、今度は一夏が1歩前に出る。

 

 

「...これからの戦いは、本来だったら煉獄騎士団には関係ないものだ。でも!俺には戦う必要があるんだ!大切なものを守るために!だからっ...!!」

 

 

一夏はそこまで言うと、一度大きく息を吸って、吐いた。

そして、決意の籠った表情で言葉を発する。

 

 

「俺と一緒に、戦ってくれ!」

 

 

《当然だ!》

 

 

そんな一夏の言葉に、また団員たちは一斉にそう返事をする。

それを確認した一夏は

 

 

「今日から!新生煉獄騎士団の幕開けだ!!」

 

 

右手を上げながらそう宣言する。

 

 

《おお!!》

 

 

オルコスを含め、全団員がそう返事をする。

そして、それを見て一夏は頷く。

 

 

「それじゃあ、行ってくる」

 

 

一夏はそう言うと、ダークコアデッキケースを取り出し、そのまま煉獄騎士の鎧を身に纏う。

そして、ヘッドパーツを外し、両目を黄金に光らせる。

 

 

「オープン・ザ・ゲート。ヒューマンW」

 

 

左手を前にあげた一夏は、そう呟く。

すると、一夏の前にゲートが開く。

 

 

「オルコス、行こう」

 

 

《ああ、そうだな》

 

 

《一夏、頑張れよ!》

 

 

「ああ!」

 

 

そんな会話をした後、一夏とオルコスは...煉獄騎士と、新生煉獄騎士団団長は、一夏の世界に戻っていくのだった...

 




フレーバテキスト無いと口調が分からん。
あってもモンスターが喋ってないと口調が分からない。

今回、煉獄騎士団には全竜に喋って貰いました。
省略しようかとも思ったけど、しっかりと喋る事が大事だと思いました。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、何時もありがとうございます!
今回もよろしくお願いします。


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助っ人参戦!

前回とうって変わりサブタイだけでは分からない。

今回もお楽しみ下さい!


一夏side

 

 

ディミオスのお墓参りをし、新生煉獄騎士団を結束させた翌日。

俺は今日から学園に復帰する。

そして、今日は朝のSHR後直ぐに緊急全校集会があるので、俺も体育館にいた。

 

 

昨日は帰って来てから、クラリッサとチェルシーに連絡を入れた。

2人からは心配を掛けさせたことでお叱りを受けたが、2人ともその場で許してくれて良かった。

それにしても、何か2人がバタバタしてたみたいだけど何かあったのかな?

聞ける雰囲気じゃなかったから聞いてないけど、後で聞いてみようかな。

 

 

そして、今日の朝のSHR前。

教室に入った瞬間に教室の中にいた人たちから一気に心配される声を掛けられた。

学園祭で吐血して気絶した後、千冬姉達1部の人としか会ってなかったからかなり心配を掛けてしまったようだ。

実際に教室にはクラスメイト以外にもマドカや鈴や簪、楯無さんやサラ先輩、フォルテ姉とダリル姉といった他クラス他学年の専用機持ち達も集まっていた。

特にマドカとシャルはかなり焦ってた。

本当に心配を掛けて申し訳ない。

 

 

そして、会社...というか仕事に関してだが、今でも書類仕事はさせてもらえない。

再開できるとしたら10月以降らしい。

こればっかりは社長が決める事なので仕方が無い。

というか、俺の健康を気遣って下さった結果なので今回は甘えさせてもらおう。

まぁ、書類仕事じゃない仕事...俺がずっと希望していた事が如何やら可能になったらしいので、そっちはさせてもらうけど。

 

 

『それでは、これより全校集会を始めます』

 

 

俺がそんな事を考えていると、司会進行役の山田先生がそうマイクを使って呼びかける。

さて、集中して話を聞かないと。

 

 

『先ず初めに、学園長、お願いします』

 

 

「はい」

 

 

山田先生の司会に従い、学園長がステージ上に上がる。

そして、教壇前に立った学園長は頭を下げる。

それに合わせて俺達生徒も一斉に頭を下げる。

頭を上げ、学園長に再び視線を向ける。

生徒達の視線が集まった事を確認したであろう学園長はマイクを使って話し始める。

 

 

『みなさん、今日は集まってくれてありがとうございます。それで早速なのですが、今日緊急で全校集会を開いた理由を話したいと思います』

 

 

早速だな。

こんな直ぐに言うって事は、余程大事な事のようだ。

 

 

『我がIS学園は4月末のクラス対抗戦での襲撃に加え、学園祭でも襲撃をされてしまいました』

 

 

学園長は物凄い真面目な表情でそう言う。

その瞬間に、体育館内の空気が少し重いものになったのを感じる。

襲撃事件の原因はどっちも俺だから、物凄く申し訳ない。

 

 

『その為、我がIS学園は警備を強化する事にしました。今後、校舎内にも警備員が入る事があると思いますが、生徒のみなさんは気にしないで大丈夫です』

 

 

なるほど。

つまりオータムさんに会う可能性もチョッと高くなるという事か。

 

 

『それだけではありません。襲撃者は今後もISを使用してくる可能性が高いでしょう』

 

 

まぁ、それはそうだろう。

どっちの襲撃事件もISが使用されていた。

いや、クラス対抗戦の時の襲撃者はギアゴッドver.Ø88のパーツを使用していたから半分モンスターなのかもしれない。

 

 

『その為、今日から学園に警備のための助っ人として、専用機を持っているIS操縦者の方がお2人やってきてくれました』

 

 

おお、よくそんな事出来たな。

外部からそんな簡単にIS操縦者を、しかも2人も手配出来るだなんて。

何時もの仕事でIS操縦者派遣の依頼の難しさを感じている俺としては、学園長の苦労がにじみ出て感じる。

 

 

『お2人はみなさんとも今後関わっていくと思いますので、この場で簡単に挨拶をして頂きます。それでは、お願いします』

 

 

「「はい」」

 

 

学園長の指示に従って、2人の人物がステージ上に上がっていく。

 

 

「えっ...?」

 

 

その2人を見た時、自然とそんな声が漏れていた。

だって、その2人は黒い軍服を着用して眼帯をした女性と、メイド服を着用した女性だったのだから。

周りの生徒達は、その2人の特殊な服装を見て少しざわつく。

 

 

『今日から警備の為に学園で過ごさせていただく、ドイツ軍IS部隊シュヴァルツェ・ハーゼ副隊長、クラリッサ・ハルフォーフだ。よろしく頼む』

 

 

『同じく、学園で過ごさせていただくチェルシー・ブランケットと申します。セシリア・オルコットお嬢様の屋敷でメイドとして働いております。みなさん、よろしくお願いいたします』

 

 

そうして、その2人の女性...クラリッサとチェルシーは、マイクで軽く自己紹介をした後、同時に頭を下げる。

な、何で2人が!?

クラリッサならまだ分かるけど、チェルシーまで...

そうか!

2人がなんかバタバタしてたのはこの為か!

俺がそんな事を考えていると、2人と視線が合った。

すると、2人とも笑顔を俺に向けてくれた。

 

 

「...ああ」

 

 

そんなクラリッサとチェルシーに、俺も笑みを返した。

 

 

『お2人とも、ありがとうございました。お2人には後でそれぞれの教室でも簡単に挨拶をして頂く予定です。お2人とも、戻って頂いて大丈夫です』

 

 

学園長のその指示に従い、クラリッサとチェルシーがステージ上から降りる。

 

 

『それでは、私からは以上となります』

 

 

学園長もそこで話を終わらせると、頭を下げる。

それに合わせて、生徒である俺達も頭を下げる。

 

 

それからは、結構淡々と全校集会は進み、そのまま終わった。

そして、順番に教室に戻っていく。

クラリッサとチェルシーが学園に...

取り敢えず後で詳しい話は聞こう。

それでも、クラリッサとチェルシーが学園にいるんだったら、楽しくなりそうだな...

 

 

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三人称side

 

 

朝の全校集会から時刻は進み放課後。

食堂では、一夏と深夜を除く専用機持ちとクラリッサとチェルシーが一緒に夕食を食べていた。

その周りでは、他の生徒達が興味津々といった感じでクラリッサ達を見ていた。

 

 

あの後、クラリッサとチェルシーは十蔵の説明通り各学年の各教室に周って簡単に挨拶をしていた。

2人ともかなりの美人であるうえ、その頼りがいのある雰囲気から生徒達に好意的に受け入れられているようだ。

そんな2人の挨拶周りで1番時間が掛かったクラスは、当然ながら1年1組だ。

このクラスにはクラリッサの上司であるラウラ、チェルシーの主人であるセシリアがいるのだ。

少し話が長くなってしまうのは仕方が無い。

実際に、クラリッサとラウラが、チェルシーとセシリアがそれぞれ個別で少し話をしていた。

 

 

そして今、食堂で夕食を食べながら雑談をしている専用機持ち達とクラリッサとチェルシー。

 

 

「へぇ、クラリッサさんも漫画好きなんですね!」

 

 

「ああ。だけれども、最近はあまり読めていないんだがな」

 

 

クラリッサと簪は同じ漫画好きという事で会話が盛り上がっていた。

 

 

「私も18なので敬語はいりませんよ、ケイシー様」

 

 

「18!?同い年なのかよ...」

 

 

「そうとは見えない程、大人っぽいっス...」

 

 

ダリルとフォルテは、チェルシーの雰囲気が大人っぽい事に驚いていた。

そうして、暫くの間全員で談笑をして楽しむ。

大体30分が経った時、

 

 

「おお、まだいたまだいた」

 

 

という声が食堂の入り口の方から聞こえた。

全員が入り口に視線を向けると、そこには片手にブラックコーヒーの500㎖ペットボトルを手に持った一夏がいた。

 

 

「あ、お兄ちゃん!」

 

 

「おう、マドカ」

 

 

マドカが一夏に声を掛け、一夏がペットボトルを持っていない方の手を軽く上げてそれに応えると、そのまま一夏は専用機持ち達が集まっている席に近付く。

 

 

「クラリッサさん、チェルシーさん、お久しぶりです。学園祭以来ですね」

 

 

席に近付いた一夏はクラリッサとチェルシーにそう話し掛ける。

だが、人前という事で敬語である。

 

 

「ああ、久しぶりだ」

 

 

「一夏、大丈夫だったの?」

 

 

クラリッサとチェルシーはそう返答する。

一夏が敬語な事でその表情は若干悲しそうだったが、それでも一夏と対面で話せる事が嬉しそうだった。

そんな2人の事を見ながら、一夏は近くの空いていた椅子に座る。

 

 

「はい、取り敢えずは大丈夫です」

 

 

一夏は席に座ってから、クラリッサとチェルシーに返答する。

一夏の表情も、敬語を使っているからか若干不満そうではあった。

 

 

「お2人とも、学園に滞在するって事ですけど、何処で暮らすんですか?」

 

 

「ああ、私達は2人とも教員寮で過ごさせていただく事になっている」

 

 

「教員寮...確かに2部屋空いてましたね...」

 

 

一夏は4月の始めの方の記憶、教員寮に初めて行った時の記憶を思い出した。

そう、教員寮は一夏を含めても後2部屋余っていたのだ。

一夏はその部屋に入る事に納得し、同じ寮にクラリッサとチェルシーが来るという事に若干口元に笑みを浮かべた。

 

 

「一夏、アンタ今まで何してたのよ」

 

 

「ん?会社との連絡だよ」

 

 

鈴が一夏に質問をし、一夏はそう返答するとペットボトルの蓋を開け、中身のブラックコーヒーを一気に飲む。

その瞬間に、クラリッサとチェルシー以外のこの場にいる全員が若干表情を苦そうなものに変える。

 

 

「如何した?」

 

 

「一夏さん、よくそんな勢いでブラックコーヒーを飲めますわね...」

 

 

「セシリア、この世界で1番美味しい飲み物はブラックコーヒーだって言ってるだろ?」

 

 

一夏がそう言うと、全員が苦笑いを浮かべた。

 

 

「そう言えば、そろそろキャノンボール・ファストね!」

 

 

ここで、唐突に楯無がそんな事を言う。

キャノンボール・ファスト。

ISを使った戦闘では無く、レースを行う競技である。

IS特有のハイスピード、そしてライフルやグレネード等を使った妨害の派手さなどで人気の競技である。

そしてIS学園では、近々そのキャノンボール・ファストの大会を開催するのである。

 

 

「確かにそうですね」

 

 

「今年は、1年生の専用機持ちが多いから例年とは違った感じだけど、大盛り上がり間違いなしだわ!」

 

 

楯無は嬉しそうにそう言う。

それに従い、専用機持ち達や周りにいる生徒で出場する生徒も嬉しそうな笑みを浮かべている。

 

 

「まぁ、俺は出ませんけど」

 

 

ピシッ!

 

 

その一夏の言葉で、少し楽しげだったこの場の空気が一瞬で凍り付いた。

 

 

「え、一夏、出ないって...」

 

 

「ああ。俺はキャノンボール・ファストに出ない」

 

 

シャルロットが確認すると、一夏はそう頷く。

そのまま一夏はペットボトルを机の上に置き、両耳を塞ぐ。

 

 

『えええええええええええええええ!?!?』

 

 

その瞬間に、その場にいた一夏とクラリッサとチェルシー以外の全員が絶叫を上げる。

 

 

「え!?お兄ちゃん、何で出ないの!?」

 

 

「仕事」

 

 

マドカが一夏に出ない理由を尋ねると、一夏は間髪入れずにそう答える。

一夏の言葉を聞いた周りの人たちは驚いたような顔を浮かべる。

 

 

「し、仕事って...一夏、今書類仕事社長ストップかかってるじゃん!」

 

 

「書類仕事は、な」

 

 

一夏はブラックコーヒーの残りを飲みながらそう言う。

一夏のその言葉に、話を聞いていた人は全員首を傾げた。

 

 

「お兄ちゃん、如何いう事?」

 

 

「ああ。うちの会社が発展途上国支援プロジェクトをしてるのは知ってるだろ?」

 

 

「うん、そうだね」

 

 

「それの視察で、俺キャノンボール・ファストの週はアフリカに行くんだよ」

 

 

一夏はさも当然かのようにそう言う。

 

 

『あ、アフリカぁ!?』

 

 

だが、話を聞いていた人たちはそうもいかない。

今度はクラリッサとチェルシーを含めて、全員が絶叫を上げる。

 

 

「あ、アフリカって、あのアフリカ!?」

 

 

「ああ、南半球の大陸の、アフリカ。それも、まだ技術発展が進んでない所だな。だから、今週末には予防接種しないといけない」

 

 

鈴が確認するかのように一夏に尋ねて、一夏は何当たり前の事をと言わんばかりの表情でそう返す。

 

 

「な、何でわざわざ一夏が行くの?一夏じゃ無くても良いんじゃない?」

 

 

「確かに、視察だけだったら俺が行く必要は無い。でも、今回俺が行くのは、俺がずっと希望してた事のついでみたいなもんだ」

 

 

「その、希望していた事って?」

 

 

マドカがそう聞くと、一夏は

 

 

「な~に、現地で頑張ってる部下に、銀の翼を届けに行くのさ」

 

 

と笑顔で言った。

急な一夏の笑みを見たクラリッサとチェルシーは、周りの人達にバレないように若干にやけていた。

 

 

「一夏、スケジュールはどんな感じなのよ」

 

 

「スケジュールか?その週の月曜の昼から現地に向かって、えっと...キャノンボールの前日、26にはこっちにこっちに戻って来る」

 

 

「なら、キャノンボールの当日...27はこっちにいるのね?」

 

 

「そうだけど...時差ボケとか疲労があるから出場はしないぞ」

 

 

鈴が一夏のスケジュールを尋ね、一夏はそう返答する。

 

 

「別にキャノンボールの事を言ってんじゃないわよ。その日は、もう1個大事なイベントがあるじゃない!」

 

 

「.....なんかあったか?」

 

 

鈴の言葉を聞いて、一夏は暫く考え込むようにしていたが、全く分からないようで鈴にそう聞き返した。

鈴は苦笑をしながら、口を開いた。

 

 

「なぁに言ってんの!その日は一夏の誕生日じゃない!」

 

 

「誕生日.............ああ!誕生日!」

 

 

その言葉の意味を理解した一夏は、思わず椅子から立ち上がってそう大声を発した。

 

 

「そうじゃん!俺今月の27日誕生日だった!」

 

 

『な、なに~~!?』

 

 

一夏の言葉に続くように、鈴以外が一斉に驚きの声を発する。

そう、キャノンボール・ファスト当日の9月27日。

その日は一夏の誕生日でもあるのだ。

一夏は試験管ベイビー故その生まれは特殊ではあるが、9月27日が誕生日で間違いないのである。

 

 

「完璧に忘れてた」

 

 

「自分の誕生日を忘れる?」

 

 

「男の自分の誕生日に対する価値観ってこんなもんだよ。しっかし鈴、よく覚えてたな」

 

 

「...ま、まぁね」

 

 

「ん?如何かしたか?」

 

 

「いや、何でもないわよ」

 

 

一夏と鈴がそう会話している中、周りはざわざわと会話する。

 

 

「お兄ちゃんの誕生日!」

 

 

「なら盛大にパーティーしないと!」

 

 

「サプライズは絶対に無理だけど、一夏の事を祝おう!」

 

 

「いや、別にしなくていいけど...」

 

 

『いや、やる!』

 

 

「さいですか」

 

 

一夏はそこまで自分の誕生日に興味がある訳では無かったので断ろうとしたが、周りの圧を感じて頷いた。

そうして、暫くの間久しぶりに一夏を含めて会話をしていたが、時間も時間なので解散するのだった...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「「一夏ぁ!!」」

 

 

「クラリッサ!チェルシー!」

 

 

教員寮、一夏の部屋。

クラリッサとチェルシーが一夏に抱き着き、一夏も2人の事を抱きしめ返していた。

暫くの間、お互いに幸せそうな表情を浮かべながら抱きしめ合っていたが、ずっとそうしている訳にもいかないので名残惜しそうに離れた。

 

 

「えっと...何で、2人が専用機を持ってるんだ?」

 

 

そうして、一夏は1番気になって来た事をクラリッサとチェルシーに質問した。

クラリッサもチェルシーも、少なくとも夏休みまでは専用機を持っていなかった。

それなのに、今日急に専用機を所有してIS学園に来たら驚くに決まっている。

 

 

「私は、一夏も知っているとは思うが元々専用機が作られる予定だったんだ。それが完成したんだ」

 

 

「それは何となく分かってたけど...」

 

 

一夏はそう言うと、チェルシーに視線を向ける。

チェルシーはフフッと微笑んでから、言葉を発する。

 

 

「イギリスが開発した新しいIS、BT3号機のダイヴ・トゥ・ブルーのテストパイロットになったの」

 

 

「BT3号機!?夏休みに2号機のサイレント・ゼフィルスをサラ先輩が受け取ったばっかりなのに、イギリスは凄いな...」

 

 

「フフ、私やお嬢様の祖国ですから」

 

 

一夏がそう言うと、チェルシーは笑みを浮かべながらそう返した。

そこでいったん会話は途切れる。

クラリッサとチェルシーは視線を合わせて、頷き合う。

 

 

「2人とも、如何し...!?」

 

 

一夏はそんな2人に声を掛けようとし、途中で言葉を詰まらせた。

何故なら、クラリッサとチェルシーが同時に胸に顔を埋めて来たからだ。

 

 

「...ねぇ、一夏」

 

 

「チェルシー、如何かしたか?」

 

 

「お願いだから、もう無茶はしないで...!!」

 

 

「...っ!?」

 

 

そう言うチェルシーの声は、涙ぐんでいた。

その声を聞いた一夏は、思わず表情を固いものにする。

 

 

「一夏が目の前で血を吐いて、倒れて...凄い心配だった!一夏がこのまま死んじゃうんじゃないかって、凄い怖かった!」

 

 

「チェルシー...」

 

 

泣きながらそう言うチェルシーに、一夏はそう返すしか出来なかった。

一夏の胸元は、その涙で濡れていく。

 

 

「...一夏」

 

 

「.....クラリッサ」

 

 

今度はクラリッサが一夏に声を掛ける。

 

 

「私は、一夏に言ったはずだ...頼むから、無茶だけはしないでくれって!なのに、一夏は血を吐いて、その上で病室から抜け出して...!!」

 

 

「.....」

 

 

クラリッサのその声も、涙ぐんでいるものだった。

恋人2人が自分の事で泣いているという事実に、一夏は唇を噛み締める。

 

 

「クラリッサ、チェルシー...」

 

 

一夏は、2人の名前を呼びながら、胸元にいる2人の事を抱きしめる。

 

 

「ごめん、心配、掛けさせちゃって。恋人を悲しませるだなんて、彼氏失格かもしれない。だから...」

 

 

一夏はそう言うと、抱きしめていた手を離し、クラリッサとチェルシーの頬に手を置く。

その瞬間に、クラリッサとチェルシーは一夏の胸に埋めていた顔を上げ、一夏の顔を見上げる。

 

 

「ここで約束するよ。もうこれ以上、無茶はしないって」

 

 

一夏はそう言うと、クラリッサにキスをする。

 

 

「っ!...ん、んぅ///」

 

 

急な事で驚いたクラリッサだったが、顔を真っ赤にしながら一夏の背中に手をまわし、暫くの間キスをし続ける。

舌を絡ませ合いながら、お互いを感じるようにキスをしていた2人だが、やがて唇を離す。

離した時に、唾液の糸がお互いを繋ぎ、途切れる。

一夏は顔を真っ赤にしたままのクラリッサに向かって笑みを向けた後、チェルシーに視線を向け、

 

 

「///ん、あ、んん...///」

 

 

チェルシーにもキスをする。

チェルシーも顔を真っ赤にしながら、一夏と舌を絡ませ合う。

くちゅ、くちゃと、唾液どうしが絡み合う音を響かせながら、キスをし続ける。

そうして唇を離すと、唾液と唾液でお互いの口が繋がれ、切れる。

唇を離しても顔を真っ赤にしているチェルシーに、一夏は笑みを浮かべる。

 

 

「もう、これ以上心配は掛けさせないから」

 

 

そうして、一夏はクラリッサとチェルシーに向かってそう言う。

それを聞いた2人は笑みを浮かべて

 

 

「今の言葉、しっかり聞いたからな」

 

 

「破ったらお仕置きね」

 

 

と一夏に返す。

 

 

「まぁ、一先ずこれからは学園で一緒に過ごせるな」

 

 

「ああ、そうだな。それで、隊長や教官たちには何時私達が付き合っている事を伝えるんだ?」

 

 

「ん~~、まぁ、タイミングを見てかな」

 

 

「それでいいの?」

 

 

「良いだろ。プライベートなんだし」

 

 

そうして、3人は暫くそのまま会話をする。

その表情は、とても幸せそうなものだった。

 

 

「じゃあ、そろそろ自分の部屋に戻るわね」

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

チェルシーが時計を見ながらそう言い、一夏がそう返す。

 

 

「クラリッサ、チェルシー。一緒に暮らすことが出来るようになって、何て言うかこう...凄い幸せだ!これから、よろしくな!」

 

 

「一夏!私も、こうしてここで過ごせることになって幸せだ!」

 

 

「私もよ!これから、お互いに支え合っていきましょう!」

 

 

そう最後に言い合い、クラリッサとチェルシーは自分の部屋に入っていった。

残った一夏は幸せそうな笑みを浮かべ、鼻歌を歌いながらシャワーを浴びる準備をし始めた。

 

 

そして、この会話を最初っから最後まで聞いていたオルコスは

 

 

《こ、これが噂に聞くイチャイチャカップルの会話...!ディミオス様、これに耐えていたのですね...》

 

 

と考えるのだった...

 

 

 

 




漸く、漸く一夏にクラリッサとチェルシーが合流!
ここで合流しないと一生出来なさそうだった。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていて下さい!

評価や感想、誤字報告いつもありがとうございます!
今回もよろしくお願いします!


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久々のまったりした日

ひっさびさに一夏がゆっくりする。

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

警備強化の助っ人として俺の最愛の恋人2人がIS学園に来た翌日。

今日はこれからキャノンボール・ファストに向けた授業がある。

その為、俺は更衣室でジャージに着替え、アリーナに向かっていた。

そして、俺の隣ではオルコスがSDで浮遊している。

 

 

「オルコス、SDには慣れたか?」

 

 

《ああ。慣れてしまったら、この身体もなかなか良いものだ》

 

 

「人間はそういうの無いから、良く分からん」

 

 

その道中、俺はオルコスとそんな会話をする。

昨日初めてIS学園に来たというのに、もう随分と慣れている。

これも新生煉獄騎士団の団長か...

 

 

そんな事を考えていると、アリーナに着いた。

俺はキャノンボールに参加しないので、基本的にみんなのサポートをする事になる。

まぁ、仮に参加していたとしても、ただの鎧である煉獄騎士に準備とは?といった感じになってしまうのだが。

 

 

「う~~ん...なんか、社長ストップで仕事がなくなったから、次の仕事が無いのに時間に余裕があるとソワソワするな」

 

 

《それはかなり重症だぞ...今度精神科に行くんだな》

 

 

「そこまででは無いでしょ...」

 

 

仕事中毒(ワーカホリック)じゃ無いんだから。

俺がそんな事を考えていると、続々とみんなが集まって来た。

 

 

「あ、一夏。この授業参加するんだ」

 

 

「ああ、シャル。みんなのサポートだよ」

 

 

アリーナで待機をしていると、シャルが話し掛けて来たのでそう返す。

そうすると、シャルはなるほどと頷いた。

 

 

「それにしても一夏。昨日言ってた銀の翼って...」

 

 

「多分、シャルが思ってるものと同じものだよ」

 

 

「そっか...良く許可が出たね」

 

 

「結構時間が掛かったけどな。アレは、しっかりと届けた方が良いだろ」

 

 

「.....そうだね!」

 

 

俺が言った事に、シャルは笑顔で頷いた。

そうして暫くするとチャイムが鳴り

 

 

「全員整列!」

 

 

ジャージ姿の織斑先生がそう指示を出す。

それに従い俺を含めた全員がザッと整列する。

織斑先生の隣には、ISスーツ姿の山田先生とクラリッサ。

警備の助っ人としてIS学園にいるクラリッサとチェルシーだが、あくまでも助っ人で警備員として過ごしていく訳では無いので、警備ミーティング以外の時間はフリーなのである。

その為、クラリッサとチェルシーは普段は人手が必要な授業のサポートをする事になったのだ。

クラリッサもチェルシーも一般科目やIS座学では人に教えられるだろうし、ISを含めた実技科目のお手本としても活躍出来るだろうな。

 

 

「さて、今日からキャノンボール・ファストについての授業をしていく!ただし、参加しない織斑は全員のサポートをするように!」

 

 

『はい!』

 

 

織斑先生のその言葉に、俺を含めた全員がノータイムで返事をする。

その返事を聞いた織斑先生は満足そうに頷いた。

 

 

「それでは、これより専用機持ちと一般生徒で別行動を開始する!専用機持ちは山田先生に当日の会場のマップのデータの解説と注意事項を受け、各自でISの調整を行え!一般生徒は私が指導するのでグループに分かれろ!」

 

 

その織斑先生の指示に従い、俺以外の専用機持ちが山田先生と共に移動する。

そして、一般生徒達はグループを作っていく。

俺は指示が来るまで暇なのでオルコスと共にクラリッサの近くに移動する。

 

 

「クラリッサさ~ん」

 

 

「ああ、一夏」

 

 

俺がクラリッサに声を掛けると、クラリッサはこっちを向いてくれる。

...何だろう。

ISスーツ自体は今までの学園生活で見慣れてるのに、クラリッサのISスーツ姿には、なんかこう、感じる。

前にシュヴァルツェ・ハーゼの基地で生活させてもらってた時にもクラリッサのISスーツ姿は見てるのに、何かを感じる。

これが興奮か...

 

 

「そうだ、オルコス。初対面だろ?」

 

 

《ああ、そうだな》

 

 

ここで、俺はオルコスとクラリッサが初対面であった事を思い出した。

 

 

「クラリッサさん、紹介します。俺の新しいバディのオルコスです」

 

 

《一夏のバディ、煉獄騎士団の解放者 オルコスソード・ドラゴンだ》

 

 

「クラリッサ・ハルフォーフだ。よろしく」

 

 

俺の言葉に続いて、オルコスがクラリッサに挨拶をし、クラリッサがそれに返す。

 

 

《一夏から聞いている。一夏の恋人なのだろう?》

 

 

「...ふぇ!?」

 

 

オルコスの言った言葉に、クラリッサが驚いたような声を発する。

可愛い。

まぁ、急に恋人なのだろうとか言われたら驚くのは当然か。

 

 

「そ、そうだが...」

 

 

クラリッサはもじもじしながらそう言う。

可愛い。

 

 

《ならば、これから我と関わる事も多いだろう。よろしく頼む》

 

 

「...ああ、よろしく」

 

 

オルコスとクラリッサはそう言い合い、拳と拳を打ち付ける。

 

 

「織斑!クラリッサ!機材運ぶのを手伝え!」

 

 

「「はい!」」

 

 

織斑先生がそう指示を出してきたので、俺とクラリッサは織斑先生の方に歩いて行く。

さて、取り敢えず頑張りますか!

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

三人称side

 

 

時刻は進み昼休み。

当然ながら昼食を食べる時間。

 

 

「う~~ん...なんか、久しぶりに屋上に来たなぁ~~」

 

 

そして、IS学園の屋上には一夏がいた。

一夏は屋上に来た途端身体を伸ばしてそんな言葉を発する。

 

 

「いい景色だ」

 

 

「まだ気温は高いけど、涼しい風が吹いてるわ」

 

 

屋上には、一夏の他にクラリッサとチェルシーだけ。

とても平和な時間である。

 

 

「じゃあ、お昼ご飯食べようか」

 

 

一夏は昼食であるお弁当が入っている包みを掲げながらそう言う。

 

 

「そうね、早速食べましょう」

 

 

チェルシーがそれに頷く。

そして、3人は屋上備え付けのベンチに座る。

この時、クラリッサとチェルシーの間に挟まるように一夏が座り、肩と肩が触れ合うくらいには近くに座っていた。

 

 

「はい、お弁当」

 

 

「「ありがとう、一夏」」

 

 

一夏は取り出したお弁当箱3つの内2つをそれぞれクラリッサとチェルシーに手渡す。

そう、今日の3人のお昼は一夏特性のお弁当なのだ。

一夏は本来ならばお弁当を3人分も作っている余裕などないのだが、仕事をスコールによってストップさせられた事で時間が出来た一夏はお弁当を作ったのだ。

一夏は普段完全栄養食のパンしか食べてなかったので、しっかりとしたお弁当を食べるのは久しぶりだ。

 

 

「おお...これは、中々美味しそうだ」

 

 

「流石一夏ね」

 

 

「その先の感想は食べてから受け取ろうかな?」

 

 

一夏がそう言うと、3人とも同時に微笑んだ。

 

 

「「「いただきます」」」

 

 

そうして、3人は手を合わせて同時にそう声を発する。

 

 

「ん!これは...美味しいな」

 

 

「本当に美味しい...負けた気がするわ」

 

 

「いや、勝ち負けとかないだろ」

 

 

「一夏、乙女心が分かっていないな。女は、恋人に手料理を食べて喜んでもらいたいものなんだ」

 

 

「だけど一夏がここまで美味しい料理を作れるとなると、そうも出来そうにないわ...」

 

 

クラリッサとチェルシーは、若干悔しそうな表情でそう呟く。

そんな2人を見て、一夏は少し呆けたような表情を浮かべた後、フッと笑顔になった。

 

 

「そんな事無いよ。クラリッサもチェルシーも料理できるのは知ってる。それに...」

 

 

「「それに?」」

 

 

「...俺は小さい頃から、ずっと自分で料理してきたから、人の作った料理を食べたことが無いんだ。そりゃあ、外食とかしたことはあるけど、そうじゃなくて、何と言うか......()()()()()()()()()()()()を食べたことが殆どないからさ。だから、その...作ってくれたら、嬉しいなって...」

 

 

一夏は、顔を赤くして視線を逸らしながらそう言う。

その言葉を聞いたクラリッサとチェルシーが今度は呆けた表情を浮かべていたが、

 

 

「フフフ、そう言ってもらえたら私達も嬉しいわ♪」

 

 

「だったら、明日の弁当は私達が作ってあげよう♪」

 

 

と言い、少し顔を赤くしながら一夏に抱き着いた。

抱き着かれた一夏は一瞬驚いた表情を浮かべたが、

 

 

「...ああ、よろしく!」

 

 

と笑顔で返した。

そこから暫くの間、談笑をしながらお弁当を食べ進めた。

 

 

「「「ご馳走様でした」」」

 

 

そうして、3人がお弁当を食べ終わった。

一夏がお弁当箱を回収し、そのまま持ってきたときと同じように仕舞う。

 

 

「ああ...平和だなぁ」

 

 

一夏は空を見上げてそう言葉を零す。

ついこの間、襲撃を受け戦闘があったとは思えない程、IS学園は平和だった。

 

 

「そうだな」

 

 

「こんな平和が、何時までも続くと良いのだけれども...」

 

 

クラリッサとチェルシーも、一夏に同調する様に言葉を発する。

そうして、クラリッサとチェルシーは一夏の手を握る。

その握り方は、当然のように恋人繋ぎで。

急に握られた一夏だけれども、しっかりと指に力を籠めてクラリッサとチェルシーの手を握り返す。

そこから暫く、また3人で談笑をする。

 

 

「ふぁぁぁぁ...」

 

 

「如何したチェルシー、眠いか?」

 

 

「う、うん...少し、眠気が...」

 

 

チェルシーがあくびをしたので一夏が眠いのか尋ねると、チェルシーは眠そうに頷いた。

 

 

「なら、少し寝る?」

 

 

一夏はチェルシーの手を握っていた左手を離し、自分の膝を叩きながらそう言う。

 

 

「え、良いの...?」

 

 

「勿論」

 

 

「...なら、少し寝させてもらうわ」

 

 

チェルシーはそう言うと、一夏の膝に自身の頭を乗せた。

所謂膝枕である。

横になったチェルシーは目を閉じると、そのまますうすうと寝息を立て始めた。

 

 

「...可愛い」

 

 

一夏はチェルシーの寝顔を見て思わずそう言うと、チェルシーの頭を空いている左手で撫でる。

撫でられたチェルシーは

 

 

「う、うぅん...」

 

 

と声を漏らし、可愛らしい寝顔を浮かべた。

そんなチェルシーを見て、一夏は思わず笑みを浮かべる。

暫く一夏がチェルシーの頭を撫でていると、

 

 

ぽす

 

 

と、一夏の右肩に少しの衝撃が来ると、肩に重みを感じた。

一夏が右側に視線を向けると

 

 

「すう、すう......」

 

 

可愛らしい寝息を立てるクラリッサの顔があった。

 

 

「え...!?」

 

 

一夏は思わず驚いた声を発するが、その一瞬後、状況を理解した。

クラリッサが、一夏の肩に頭を乗せ、一夏とは手を繋いだまま寝始めたのだ。

 

 

「...何だ、可愛いじゃないか」

 

 

一夏はそんなクラリッサを見て、そんな感想を漏らしていた。

膝の上にはチェルシー、右肩にはクラリッサ。

一夏にとってこれ以上ないほど大切な恋人が可愛い寝顔をさらしながら寝ている事に、思わず一夏はにやけてしまう。

 

 

「ふ、ふぁぁあああ...俺も、眠くなってきた...」

 

 

一夏はあくびをしてからそう呟くと、肩に乗っているクラリッサの頭を上に自身の頭を乗せた。

 

 

「俺も、暫く寝るか...」

 

 

一夏は目を閉じながらそう呟くと、そのまま眠りに付いた。

屋上で3人だけの状況で。

恋人と寄り添って昼寝をする3人は、とても幸せそうな表情を浮かべていた。

 

 

[あ、甘い...!!]

 

 

[マスターと恋人さんのイチャイチャ度、前より上がってる...!]

 

 

一夏のポケットに入っているダークコアデッキケース内の白式と白騎士は、そんな感想を漏らすのだった...

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

時刻は再び進み、夜の11時50分。

教員寮のチェルシーの部屋で、一夏とチェルシーが寝間着姿で軽くお茶を飲んでいた。

 

 

一夏とクラリッサとチェルシーは、結局昼休みギリギリまで寝ていたが、しっかりと授業に遅れる事は無かった。

そして、放課後には一夏が何時振りか分からない程ゆっくりと過ごしていた。

マドカやシャルたちと軽く雑談をして、そのまま食堂でバディファイトをして...

所謂、普通の高校生の放課後を過ごした。

 

 

そうして、これまた久しぶりに食堂で夕食を食べ、そのまま夕食後は深夜を除く1年生専用機持ちで暫く談笑した。

一夏が話の途中で参加したり、逆に離脱することなく最初から最後までいたのは何時振りなのだろうか。

パッと出てこない程、一夏は仕事をしていたという事である。

 

 

その後、解散した一夏はチェルシーの部屋を訪ねた。

理由は単純明快、チェルシーから部屋に来てとメッセージを受け取ったからだ。

チェルシーの部屋を訪ねた一夏は、呼ばれた理由を尋ねた。

すると、チェルシーはクラリッサと話し合って、順番で一夏と一緒に寝る事にしたとの事だ。

そしてジャンケンをした結果、チェルシーが先に寝る事になったので、最後に一夏の許可を貰うために来てもらったとの事だったのだ。

その説明を聞いた一夏は、1秒も間を開けずに承諾した。

今まで長い間恋人と共に居れなかった一夏にとっても、その提案は魅力的だった。

まぁ、やる事やってはいるのだが、それでもやはり一緒にいられる時間は長い方が良いだろう。

 

 

「チェルシー、そろそろ寝るか?」

 

 

「一夏...そうね、そろそろ寝ましょう」

 

 

一夏が部屋にある時計を見ながらそう言い、チェルシーがそう頷く。

チェルシーの部屋は、昨日来たとは思えない程綺麗に纏まっていた。

チェルシーがあまり物を持ってこなかったというのもあるが、それでも綺麗だった。

部屋にも、几帳面さが出ているという事だろう。

 

 

一夏はさっきまでお茶が入っていたコップをチェルシーの分も含めて洗う。

そして、歯磨きをするとチェルシーと共にベッドに入る。

因みに、オルコスと白式と白騎士は一夏の部屋にお留守番である。

昼休みのイチャイチャでやられたようである。

 

 

「一夏、アフリカに行くんでしょ?」

 

 

「ああ、行くよ」

 

 

一夏がチェルシーの質問にそう答えると、チェルシーは一夏に抱き着いた。

 

 

「一夏、お願いだから無理だけはしないで」

 

 

「...うん、分かってる」

 

 

チェルシーのその言葉に、一夏は頷くとそのままチェルシーの事を抱きしめ返す。

お互いの温もりを暫く感じ合っていると、2人が眠気を感じ始めた。

 

 

「こうして、恋人同士常に一緒に居れるっていうのは、幸せだなぁ...」

 

 

「そうね...私達の立場もあったけど、一夏が忙しかったから...」

 

 

「まぁ、仕事が再開したらまた忙しくはなりそうだけど...」

 

 

一夏がそう言った瞬間、チェルシーの腕に力が籠められた。

そんなチェルシーに一夏は笑みを浮かべると、チェルシーの背中に回していた右手を離し、チェルシーの頬に置く。

 

 

「大丈夫、もう無茶はしないから」

 

 

そして、優しそうな声色でチェルシーにそう声を掛ける。

その言葉を聞いたチェルシーは、穏やかな笑みを浮かべると

 

 

「一夏...」

 

 

一夏の名前を呼びながら目を閉じる。

 

 

「チェルシー...」

 

 

そんなチェルシーを見て、一夏もチェルシーの名前を呼ぶと、そのままチェルシーとキスをする。

 

 

「ん、んん、んぅ...」

 

 

「んぁ、んん...」

 

 

そうして、大体1分後。

一夏とチェルシーは唇を離す。

 

 

「おやすみ、一夏」

 

 

「ああ、おやすみ、チェルシー」

 

 

そうして、一夏とチェルシーは眠りに落ちるのだった...

 

 

 




いやぁ、一夏が幸せそうで何より。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、何時も何時もありがとうございます!
今回もよろしくお願いします。


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煉獄騎士、アフリカに行く

サブタイそのまま。
なんかこれが定型文になってきた。

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

キャノンボール・ファストの週の月曜日。

俺は予定通りアフリカに来た。

約12時間に渡るフライトだったため、何もしてないのに疲れた。

背骨がガッチガチに固まってやがる...!

背伸びをすると、心配になるくらいバキバキと音が鳴った。

 

 

アフリカは南半球、つまり今は冬から春の間くらいなのだが、今回訪れた此処は赤道に近いので物凄く熱い。

それに紫外線なども強い。

だが、そんな暑さや紫外線もこの主任特製の作業服で全然平気だ。

この作業服は見た目は一般的な物と何も変わらないのだが、その生地が特別製なのだ。

主任特製のこの生地は外の温度に応じて冷たくなったり、逆に温かくなったりするのだ。

それだけでは無く湿気は外に排出されて蒸れる事は無く紫外線も完全にカットできる。

同じ生地を使用した帽子もかぶればもう完全体制である。

 

 

そして今現在、俺は『PurgatoryKnights』が用意した軽トラックの荷台に乗りながら目的地に向かっている。

今日は『PurgatoryKnights』のプライベートジェットで来たのだが、乗ったのは俺を含めて4人、残りは全て荷物だった。

そうしてアフリカに着いた俺達は元々現地にいた社員の方々と協力し、2トントラック2台に飲料水や食料等を乗せた。

その後、一先ずの目的地である『PurgatoryKnights』運営の難民キャンプに行こうとしたのだが、ここで1つ問題が。

2トントラック以外の車が軽トラックしかないのだ。

今日来た4人だけならそれでも普通に問題無いのだが、荷積みをして下さった社員の方々も向かうので足りないのだ。

その為、軽トラックの荷台に俺と、今日一緒に来た社員の佐藤涼子さんと共に乗っているのだ。

日本でやったらアウトだが、此処はアフリカ。

問題無い。

 

 

「後何時間だ?」

 

 

「後4時間です」

 

 

「長いな...まぁ、仕方が無いか」

 

 

今は業務時間なので、俺の方がため口だ。

なんか、姉や兎や恋人以外の年上の人にため口使うのは違和感が凄い。

それも逆に敬語を使われるのだから尚更だ。

まぁ、良いか。

 

 

そのまま、暫く荷台で風を受けながら進む。

軽トラックの後ろには、着いてくる2トントラック2台。

今の所は何も問題が起こっていない。

それに、このむあっとする熱気もこの作業着のお陰で全然気にならない。

流石は主任だ。

これでISというものを作って世界を混乱に陥れてなかったら尊敬できる研究者なんだがな...

 

 

「ふぁあああああ」

 

 

「...眠いか?」

 

 

「あ、すみません」

 

 

「全然気しなくていい。時差ボケは辛いだろ。実際に俺も眠い」

 

 

「でも一夏さんは全然眠そうでは無いですよね?」

 

 

「良く徹夜してたからな。これくらいなら耐えられる」

 

 

俺がそう言うと、涼子さんは苦笑いを浮かべた。

解せぬ。

仕事で徹夜くらい誰でもするだろ?

 

 

[マスター、それは異常です]

 

 

(そうなのか?)

 

 

[そうだよ。それに、マスターは高校生だよ?普通はアルバイトでもない仕事をしてるだけでも異常なんだから]

 

 

(そ、そうか...)

 

 

白騎士と白式に怒られてしまった。

クラリッサとチェルシーに心配かけないように、今後無茶は止めよう。

 

 

そんな事を考えながら移動する事約2時間。

現在時刻は11:20。

後2時間なので、到着予想時刻は13:20。

眠気のピークはとっくに過ぎ去ったのでもう全然問題無い。

そして、周りの景色も完全に郊外になって来た。

商店も家も無く、木もまばらになって来た。

たま~~に村が遠くの方に見えるが、それも2~30分に1回だ。

 

 

そうして、そこから更に2時間後。

飛行機での長い時間のフライトに加え4時間の車による移動、そしてトラックへの荷積みで疲れた。

だが、まだまだ...いや、寧ろこれからが仕事の本番なのだ。

 

 

「...さて、もうそろそろだな」

 

 

俺がそう呟くと、遠くの方に新しめな綺麗なテントが見えて来た。

あれが一先ずの目的地である、難民キャンプ。

近付いて行くにつれ、当然ながらどんな状況なのかハッキリと分かって来る。

先ず、何個かあるテントはかなり大事に使ってあるのかかなり綺麗だ。

まぁ、今年に設置されたものだからというのもあるかもしれないが、それでも綺麗だった。

 

 

「着きましたね」

 

 

「ああ、着いたな。荷物を下ろす準備だ。俺は挨拶をする」

 

 

「はい、分かりました」

 

 

取り敢えず着いたので、俺は涼子さんにそう指示をする。

視線をテントたちの方に向けると、テントの中から沢山の人達が出て来ていた。

全員が少し瘦せている印象を覚えたが、それでも全員が笑顔を浮かべていた。

俺は軽トラックの荷台から降り、軽く伸びをする。

 

 

「はぁ~~、疲れた」

 

 

バキバキと鳴る背中の音を聞きながら、そんな言葉を零す。

色んな道具が入った鞄を担ぎ、左手にロック付きアタッシュケースを手に持つ。

さて、荷下ろしは涼子さん達がしてくれるから俺がやる事は...

 

 

「一夏さん!」

 

 

そんな事を考えている俺に、そんな声を掛けらる。

俺はそっちの方向に振り返りながら、言葉を発する。

 

 

「ナターシャ、イーリス。久しぶりだな」

 

 

「はい、お久しぶりです」

 

 

そこにいたのは、支援プロジェクト開始当初からこっちで作業に当たっていたナターシャさんとイーリスさん。

以前に会ったときよりも確実に日焼けしているが、思っているよりもちょうどいいというか...綺麗な小麦色に焼けていた。

まぁ、2人にもこの作業着は配られてるからな...

 

 

「元気してたか?」

 

 

「はい、元気にしていました」

 

 

「私達では無くここで働いている人たちも、この難民キャンプで生活している人も、全員元気です」

 

 

「それは良かった」

 

 

やっぱり人間元気で、健康でいるのが1番だ。

 

 

[マスターがそれを言っちゃ駄目だよ。吐血して倒れたんだから]

 

 

[そうです。それに、以前から徹夜をしていたり無茶をしていたんですから]

 

 

(...それを言われると何も返せねぇ)

 

 

全部事実なんだし。

今後の生活を見直さないと...

って、今はそれは関係ないんだよ。

 

 

「イーリス、暮らしている人の中の長的立ち位置の人っているか?挨拶をしておかないと...」

 

 

「あ、それなら...」

 

 

俺の言葉に、イーリスさんが反応しようとしたその時だった。

 

 

「おお...あなたが、織斑一夏さんですか?」

 

 

と、声を掛けられる。

俺とナターシャさんとイーリスさんがそっちの方向に振り向くと、そこには何人かの大人に連れられたご老人の男性がいた。

 

 

「初めまして、あなた方に保護して頂いた村の村長を務めていました、アルゼと申します」

 

 

その男性...アルゼさんは、杖を突きながら俺に近付き挨拶をしてくれる。

 

 

「初めまして、『PurgatoryKnights』所属IS操縦者纏め役、織斑一夏です」

 

 

俺は笑顔でそう挨拶を返し、アルゼさんと握手をする。

 

 

「日本語お上手ですね。勉強されたのですか?」

 

 

「はい、私達を助けて頂いて、お礼の言葉は是非その方の母国の言葉で伝えたかったのです」

 

 

何て良い人なんだぁ!

こんな人だからこそ、村長が成り立つのか。

 

 

「この度は、私達を保護してくださり本当にありがとうございました」

 

 

『ありがとうございました』

 

 

アルゼさんの言葉に続いて、アゼルさんの後ろにいた人たちがそう言い頭を下げる。

 

 

「いやいや、気にしないで下さい。これは、私達がしたかった事ですので」

 

 

「...それでもです。見てください、あんなに楽しそうな子供たちを」

 

 

アゼルさんはそう言いながら視線をトラックの方に向ける。

俺もそっちの方に視線を向けると、そこでは涼子さん達が荷下ろししている荷物をキラッキラした目で見ている子供たちの姿があった。

 

 

「以前までは食事は1日1回で量も少なく、水も濁った泥水や雨水を飲んでいましたから、あの子たちもあんなに元気に生活出来ていなかったんです」

 

 

その言葉を聞いて、俺は奥歯を噛み締める。

あの子達と俺、どっちの過去の方が辛いだろうか。

考えるまでもない、あの子達だ。

俺は幼少期、確かに周りからいろいろ面倒な事をされていたが、飯は食べれていたし水も飲めていた。

この子達と比べたら、どんなにマシだったのかと思う。

 

 

[マスター、それは比べるものじゃないよ]

 

 

[確かにマスターは普通にご飯を食べれていましたが、あの子達とは違い暴力を受けていたでは無いですか。ですから、どっちもどっちです。どちらもつらい過去を送っています]

 

 

(...そうなのかもな)

 

 

心の中で白式と白騎士にそう返答する

 

 

「ですが、今はああやって笑顔を浮かべています。これも、あなた方に保護して頂いたお陰です」

 

 

「......子供たちの未来は、我々が守っていくべき大切な宝物です。それを守ることが出来て会社としても、私個人としても非常に嬉しいです」

 

 

「はっはっは、あなたもまだまだ子供では無いですか」

 

 

「フフフ、そうですね」

 

 

俺とアルゼさんはそう笑い合う。

その瞬間だった。

 

 

「ゴホッ!ゴホッ!」

 

 

「っ!だ、大丈夫ですか!?」

 

 

アルゼさんが急に咳き込んだ。

直ぐに駆け寄り声を掛ける。

 

 

「だ、大丈夫です...少し持病が...」

 

 

「全然大丈夫じゃ無いじゃないですか!すみません、神田さん!」

 

 

慌てて此処で共に活動してくださっている医師、神田孝太さんを呼ぶ。

俺の慌てた声で状況を察したのだろう。

白衣を纏った神田さんが走ってやって来た。

 

 

「アルゼさん、無茶をしてはいけません。直ぐにお身体を見ますのでテントに入りましょう」

 

 

「あ、ありがとうございます...」

 

 

「神田さん、少しですがお手伝いします」

 

 

「一夏君ありがとう。アルゼさんの身体を一緒に支えてテントに入れてください!」

 

 

「分かりました!」

 

 

そうして、神田さんと共にアルゼさんを近くのテントに運び込む。

良し、これで後は神田さんが何とかしてくれる。

神田さんは世界一とも言われている医療学校を首席で入学し、首席で卒業。

内科、外科、耳鼻科等々いろいろ担当できるが、中でも外科手術の腕は世界一と言われている。

だったら此処じゃなくて病院で手術してとも思ったが、神田さん本人が

 

 

「手術は僕じゃなくても出来る。そして、こうやって発展途上国で医療をする医師は少ない。だから僕はプロジェクトに参加したんだ、医療が届かなくて助けられない命はあってはならないからね」

 

 

と仰っていて感動した。

これが真に患者と向き合う医師か...

 

 

そんな事を考えながらテントを出ると、さっきまでアルゼさんの近くにいた、多分アルゼさんの村の村民である方々が集まっていた。

 

 

「そ、村長は大丈夫ですか!?」

 

 

「はい、神田さんならしっかりと見てくださいます」

 

 

そう伝えると、みなさんホッとしたように息を吐いた。

自分たちの村長が咳き込んだのなら心配もするだろう。

それに、アルゼさんはご老体だ。

何時身体を壊してしまっても不思議ではない。

 

 

[そして、マスターも何時身体を壊しても不思議ではないね]

 

 

(白式...そう何回も言わなくても...)

 

 

[言わないとマスターは無茶するじゃないですか!]

 

 

(しないよ。クラリッサとチェルシー、それにみんなに心配かけさせて、かなり悪い思いさせちゃったから)

 

 

[...そこで、もう身体を壊したくないよって言わないのがマスターらしいね]

 

 

(あ、あはは...)

 

 

白式に呆れられてしまった。

まぁ、それはそうと。

俺にはもうちょっとやらないといけない事がある。

肩に担いでいる鞄からメモ用紙とペンを取り出しアタッシュケースを板代わりにする。

 

 

「すみません、みなさんにお聞きしたいのですが、何か『PurgatoryKnights』にして欲しい事や欲しい施設などはありますか?」

 

 

俺がやらないといけない事。

それは生活している人の声を本社に持ち帰る事。

可能な範囲で実現させてもらうのだが、取り敢えず聞き取りしない事には何をしたらいいのか分からないのでこうやって聞き取る訳だ。

 

 

「そうですね...子供たちの学ぶ場である、学校が欲しいですね」

 

 

「あなた達が送ってくれた教材などで勉強は出来ていますが、やはり学校は...」

 

 

そう言われて、俺はメモをする。

 

 

「学校...学校かぁ...」

 

 

正直に言おう、かなり難しい。

いや、学校を建てるだけなら簡単なのだ。

建てるだけなら。

教員は何処から派遣するか、教育委員会への登録等々やらないといけない事が山のようにある。

そして、最大の問題が何処まで生徒を()()()()()()だ。

ここら辺には、学校が1つもない。

そして、今難民キャンプにいる人達以外にも村はあり、その村の子供たちも学校に行きたいだろう。

そうなると、此処で急に学校を建たら、その子供たちを如何するか問題が出て来てしまうのだ。

仮に受け入れた場合でも、登校に片道歩き4時間の距離から通う子も現れそうだ。

そうなって来ると、その子にかなりの負担がかかってしまう。

だからといって何個も学校を建てると今度は確実に人材が不足する。

 

 

「資金に余裕はタップリあるんだがな...」

 

 

資金が無くて悩むんじゃなくて、資金以外で悩むことになるとは...

まぁ、今はいいや。

後で会議しよう。

 

 

「他には何かあるでしょうか?」

 

 

取り敢えず切り替えて、他にいろいろ意見を聞く。

こういう時ほどアナログでの作業が早くて良かったと思う。

此処ではデジタル機器でのトラブルがあったら解決が出来ないので原則やり取りはアナログなのだ。

その為、こうやってメモをするのもアナログだ。

 

 

「フム...では、本社に持ち帰って会議させてもらいます。実現まで時間が掛かってしまうものはあるとは思いますが、可能な範囲で実現させて頂きます」

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

そんな言葉を聞きながらメモ用紙を鞄に仕舞う。

さて、次に()()を渡さないと...

俺がアタッシュケースを見ながらそんな事を考えている時だった。

 

 

クイクイ

 

 

「ん?」

 

 

着ている作業服がなんか後ろに引っ張られた。

しかも、この感覚的に低い位置から引っ張られてる気がする。

振り返って下の方を向くと、そこには何人かの5歳くらいだと思う子供たちがいた。

 

 

「あ~~、What's wrong?(どうしたの?)」

 

 

大人の方たちは日本語を喋れているが、子供たちは喋れるかどうか分からないので取り敢えず英語で話しかける。

すると、俺の作業服を引っ張ったであろう子が

 

 

「ア、アソボ?」

 

 

と片言の日本語で話してくれた。

 

 

「He's working now, so play later(一夏さんは今働いてるんですから、遊ぶのは後にしなさい)」

 

 

「気にしなくていいですよ」

 

 

注意するようなその声に、そう反応する。

いったんアタッシュケースを地面に置くと、ポケットからダークコアデッキケースを取り出し、その中に入っているオルコスのカードを出す。

 

 

「オルコス、荷物頼んでも良いか?」

 

 

《頼まれた》

 

 

オルコスはSDで出て来てそう言う。

オルコスを見た人たちは全員驚いた表情を浮かべている。

 

 

「Wow!What is this?(わあ!これ、何?)」

 

 

子供たちがキラッキラした目でオルコスを見ながらそう質問をしてくる。

 

 

「It's called my buddy Orkos. It's a robot(俺のバディのオルコスって言うんだ。ロボットだよ)」

 

 

「あ、あなた方の技術は凄いですね...」

 

 

「ISというものが存在しますから。これくらいは出来ますよ」

 

 

俺の言葉に、大人の方々は納得したように頷いた。

ナターシャさんやイーリスさんからISとは如何いうものかを聞いているのだろう。

そんな事を考えながら鞄とアタッシュケースをオルコスに手渡す。

鞄には会社関係の重要なものが、そしてアタッシュケースには俺が今日来た最大の目的の物が入ってるので、これで安心だ。

 

 

「Let's play!(さぁ、遊ぼう!)」

 

 

「ヤッタァ!」

 

 

俺が笑顔で、片言の日本語で返してくれる子供たち。

そうして、他の子供たちが集まっている場所に向かって、一緒に走っていくのであった。

 

 

 




心の中では敬語だけど口に出すとため口の一夏。
普通逆では?

そして神田さんがめっちゃ良い人。
こう言うお医者さんキャラってメッチャクチャ好き。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告何時もありがとうございます!
今回も是非よろしくお願いします!


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銀の翼の再生

アレの再登場です!

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

一夏が発展途上国支援プロジェクトの視察でアフリカの『PurgatoryKnights』運営の難民キャンプを訪れ、子供たちと遊び始めた1時間後。

 

 

「あぁ~~、久しぶりにトレーニング以外で動いたけど、偶にはこういうのも良いなぁ~~」

 

 

一夏は身体を伸ばしながらそう呟いた。

1時間ぶっ通しで身体を動かしながら遊び続けたので子供たちは疲れたようで肩で息をしていたが、一夏の息はきれていないし、疲労感もそこまで感じていない。

 

 

「W、Why are you so fine?(な、何でそんなに元気なの?)」

 

 

「I've been training(鍛えてるから)」

 

 

子供の1人が肩で息をしながら一夏に質問をすると、一夏は涼しい表情のままそう返答をする。

 

 

(.....さて、明日は遠くの村を周る予定だし、そろそろ本当に渡さないと渡すタイミングが無くなる。)

 

 

一夏は明日からの予定をザッと頭の中で確認し、そう判断をした。

 

 

「I still have something to do, so let's stop playing(まだやる事があるから、遊ぶのはもうやめよう」

 

 

一夏がそう言うと、子供たちは不満そうな表情を浮かべる。

疲れているとはいえ、5歳くらいの子供たちは性別関係なくまだまだ遊びたいお年頃だ。

だから、一夏に急にそんな事を言われたらそんな反応をしてしまうのも仕方が無い。

一夏もそれを分かってるので、苦笑いを浮かべながら頬をかいた。

 

 

「I'm sorry, I'll play again next time(ごめんね、また今度遊んであげるから)」

 

 

一夏はそう言うと、笑顔を浮かべて近くにいる子供の頭を撫でた。

 

 

「Promise me!(約束して!)」

 

 

「Of course(勿論)」

 

 

一夏はそう言うと、テント近くにいるオルコスの元へ走り出す。

その際に1度振り返って

 

 

「let's play again!(また遊ぼう!)」

 

 

と手を振りながら笑顔で言った。

子供たちの返事を聞きながら、一夏はオルコスの元に走っていく。

 

 

(チェルシーの為に覚えた英語だけど、役に立って良かった...)

 

 

その道中で一夏はそんな事を考えて、思わずフッと笑みを浮かべる。

一夏が普通に英語を喋っているので忘れるかもしれないが、一夏はチェルシーと付き合い始めてから英語を勉強し始めたのだ。

だから、今英語の大切さを実感しているのだ。

 

 

「オルコス!」

 

 

《来たか》

 

 

一夏がオルコスに声を掛けると、オルコスはそう返事をする。

 

 

「荷物ありがとうな」

 

 

《気にするな》

 

 

オルコスから荷物を受け取りながら一夏はお礼を言う。

荷物を受け取った一夏は鞄からメモ帳を取り出すと

 

『子供たちが思いっ切り遊べる環境』

 

 

とメモをすると、そのまま仕舞った。

 

 

《...律義だな》

 

 

「大事だろ、こういうのは」

 

 

《確かにな》

 

 

一夏はオルコスとそう会話しながら鞄を荷物置き場に置きに行く。

そして、そのままアタッシュケースを手に持つと、

 

 

「遅れてごめんな。でも、しっかり今から届けるから」

 

 

と、アタッシュケース...というよりも、その中に入っているモノに対してそう声を掛ける。

一夏は暫くそのままアタッシュケースの事を見ていたが、やがて立ち上がると、

 

 

「さて、ナターシャさんは...」

 

 

そう呟きナターシャを探すようにあたりを見回した。

 

 

「...いた」

 

 

ナターシャを見つけた一夏は、そのままアタッシュケースを手に持ちながら向かっていく。

そんな一夏の後を追うようにオルコスもナターシャに向かって飛んでいく。

 

 

「ナターシャ!チョッと良いか?」

 

 

「はい、どうかしましたか?」

 

 

一夏がナターシャに声を掛けると、ナターシャは振り返りながらそう返答する。

 

 

「作業を中断させて悪いな。ナターシャに渡すものがあるんだ」

 

 

「渡すもの...ですか?」

 

 

「ああ」

 

 

ナターシャは首を傾げる。

急に上司に当たる人物から渡すものがあると言われたら疑問を覚えるに決まっている。

 

 

「ナタル!まだ残ってるぞ!」

 

 

「イーリ!ごめん、今...!」

 

 

「いや、あっちを早く終わらせよう。俺も手伝うから」

 

 

「分かりました!」

 

 

一夏はナターシャとそう会話した後、オルコスにアタッシュケースを預けイーリスと合流し作業を進めていく。

段ボール箱に入っている荷物を運んだり、水道管のフィルター交換用のパーツを準備したり...

『PurgatoryKnights』運営の難民キャンプなので、『PurgatoryKnights』のスタッフが全てを行わないといけないのだ。

 

 

「ふぅ、これでいったん休憩だな」

 

 

「はい、そうですね...」

 

 

「つ、疲れたぁ...」

 

 

作業が終わった一夏が言った事に、ナターシャとイーリスがそう反応する。

 

 

「い、一夏さんはそこまで疲労を感じて、無いんですね...」

 

 

「鍛えてるから」

 

 

(さっきも同じ様な事を言った気がする)

 

 

イーリスの言葉に一夏は間髪入れずにそう返答した一夏は、内心でそんな事を考える。

こんなに特撮ヒーローのセリフに似たような事をネタ以外で何度も言うのは違和感があるのだろう。

でも、それは事実なのでどうしようもない。

 

 

「き、鍛えてるって...私達は腐っても元軍人なんですが?」

 

 

「それは......現役との違いって事で」

 

 

「...辞めてから半年も経っていないんですが」

 

 

「じゃあもう俺にも分からない」

 

 

一夏がそう言うと、3人は同時に苦笑いを浮かべた。

 

 

「さて、じゃあ改めて渡すものがあるんだ」

 

 

「分かりました」

 

 

「ん?なんかあるんですか?」

 

 

「イーリスには言ってなかったな。ナターシャに渡すものがあるんだ」

 

 

一夏の説明を聞いたイーリスも先程のナターシャと同じような表情を浮かべた。

その事に一夏は微笑を浮かべる。

 

 

「じゃあ、チョッと移動して良いか?」

 

 

「分かりました」

 

 

「私もいて良いんですか?」

 

 

「イーリスなら問題ない」

 

 

そんな会話をした後、3人とオルコスは物陰に移動する。

移動した一夏はオルコスからアタッシュケースを受け取る。

 

 

「じゃあ、早速渡そうか」

 

 

一夏はそう言うと、アタッシュケースの持ち手部分にある指紋認識プレートに親指を押し付ける。

 

ピ――――――――

 

『ロック解除』

 

甲高いロック解除音と共に、システム音が解除したことを伝える。

 

 

「ず、随分厳重なんですね...」

 

 

「これでも保管していた時に比べれば軽い方だ」

 

 

一夏は視線をナターシャに向ける。

 

 

「ナターシャ、受け取れ」

 

 

一夏はそう言うとアタッシュケースを開き、中に入っているモノをナターシャに見せる。

 

 

「......え?」

 

 

「これは...」

 

 

それを見たナターシャは呆けた表情を浮かべ、一緒に見たイーリスは驚いたような表情を浮かべる。

 

 

「い、一夏さん、これは...」

 

 

ナターシャは信じられないといった表情でナターシャが一夏にそう質問する。

一夏は穏やかな表情を浮かべながら、言葉を発する。

 

 

「ああ。本物だよ」

 

 

一夏がそう言うと、ナターシャは目元に涙を浮かべながら口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「銀の福音.....!!」

 

 

ナターシャは震える右手でアタッシュケースの中に入っている待機形態の銀の福音を手に取る。

 

 

「あ、あ、あ...」

 

 

銀の福音の事を握りしめたナターシャは、

 

 

「お帰りなさい...!!」

 

 

泣きながらそう言うと、銀の福音の事を胸元に引き寄せた。

そのまま地面に膝をつき、声を出しながら泣き続ける。

 

 

「ナタル...!」

 

 

イーリスも泣きそうになりながらも、銀の福音の事を抱きしめるナターシャの事を抱きしめた。

 

 

「お帰り、お帰り...!」

 

 

銀の福音に話し掛けるナターシャを、一夏は微笑ましく見ていた。

 

 

(届けて良かった...)

 

 

そう、一夏が思った時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[うん!ただいま!]

 

 

そんな声が、一夏には聞こえた。

 

 

「ッ!い、今...」

 

 

《如何かしたか?》

 

 

一夏が驚いた声を発したため、オルコスがそう反応する。

 

 

「今、何か...いや、声が聞こえなかったか?」

 

 

《聞こえなかったが...》

 

 

オルコスの言葉を聞いた一夏は、考えるように顎に手を置く。

 

 

(前から、俺は偶に何処からか声が聞こえる事があった。で、それは全部ISの近く...もしかして、俺って白式と白騎士以外のISの声も聞こえるのか...?)

 

 

《一夏、どうかしたか?》

 

 

「...いや、何でもない」

 

 

オルコスの疑問に一夏はそう返答する。

 

 

「グスッ...一夏さん、この子を、私の元に返してくれて、ありがとうございました...!!」

 

 

「気にしないで。銀の福音も、ナターシャと一緒に居るほうが良いだろう。大切にしてやってくれよ」

 

 

「はい!」

 

 

一夏の言葉に、ナターシャがそう返事をする。

そうして暫くの間、ナターシャは銀の福音との再会した喜びの涙を流しているのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

一夏side

 

 

ナターシャに専用機である銀の福音を返してから大体4時間後。

これから夕食だ。

今日は物資補給の日なので夕食はチョッと豪華にカレーライスだ。

日本とかの先進国での暮らしになれちゃうとカレーはそこまで豪華に感じないかもしれないが、此処はアフリカ...それも、難民キャンプ。

『PurgatoryKnights』から送られてくる物資しか食料が無いので、カレーのように少し手の込んだ料理ってだけで超豪華なのだ。

 

 

「さて、もう直ぐ完成だな」

 

 

そんなカレーの調理を任された俺。

20分ほど前から煮込んだカレーは、もうすぐ完成する。

本格的なものを作ろうとすれば、何日も仕込みをしないといけないので、日本でも市販しているカレールゥを使ったものだから簡単にできる。

因みに、小さい子も食べるので甘口。

正直甘口のカレーは甘ったるくて好きじゃ無いのだが、それは仕方が無い。

 

 

「ご飯炊けましたか?」

 

 

「もうバッチリ」

 

 

「じゃあお皿によそって下さい。カレーも出来たので」

 

 

「分かったわ」

 

 

もう業務時間外なので俺はナターシャさん達に敬語だし、逆にため口を使われている。

うん、立場的には問題があるかもしれないけど、やっぱり俺が年下なんだからこうじゃないと。

 

 

「はい、どうぞ」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

ナターシャさんから受け取ったご飯が盛られたお皿に、カレーをよそう。

そうして全てのお皿にカレーをよそい終わった。

人数が人数なので準備するだけでも1苦労だ。

最後に俺の分のカレーを手に持ってみんなが集まっている所に行くと、子供たちがキラッキラした目でカレーを見つめていた。

そんな子供たちを見て、俺は笑みを浮かべる。

 

 

「おう一夏、来たか」

 

 

「はいイーリスさん、来ました」

 

 

「ほら、スプーンだ」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

イーリスさんからスプーンを受け取ったので、俺は開いている椅子に座る。

 

 

「じゃあ、一夏も来たので食べましょう!」

 

 

「一夏、挨拶だ!」

 

 

「俺ですか?良いですけど...」

 

 

英語が良いかな?

いや、日本語で行こう。

そう判断した俺は両手を合わせる。

俺の真似をしてか子供たちも両手を合わせ、それに続くように大人の方たちも両手を合わせる。

 

 

「いただきます!」

 

 

『イタダキマス!』

 

 

『いただきます』

 

 

そうして、全員で一斉に食べ始める。

やっぱり甘口カレーは甘ったるしく感じるが、

 

 

「Delicious!(美味しい!)」

 

 

「Eat for the first time!It's really delicious!(初めて食べる!すっごく美味しい!)」

 

 

こんな子供たちの笑顔を見ると、なんかもうどうでも良くなってくる。

俺はそんな事を考えながらカレーを食べ進める。

 

 

「甘口カレーなんて久しぶりに食べたけど、やっぱりなんか甘いわね」

 

 

「まぁまぁ、甘口ですし」

 

 

「辛口になれてると、刺激が欲しくなってくるな...」

 

 

「分かりますけど」

 

 

確かに刺激は欲しい。

でも、まぁ今日くらいは良いだろう。

 

 

「Refill!(おかわり!)」

 

 

そんな事を考えていると、1人の子供が空になったお皿を突き出しながらそう言った。

早い。

 

 

「Wait a minute(ちょっと待ってて)」

 

 

俺はそう言いながらそのお皿を受け取ると、おかわりのご飯とカレーをよそう。

う~ん、と...半分くらいで良いか。

 

 

「Here you are(はい、どうぞ)」

 

 

「Thank you!(ありがとう!)」

 

 

俺からお皿を受け取った子供は、そのままガツガツとカレーを食べ始める。

 

 

そうしてご飯も食べ終わって、現在時刻は23:30。

ご飯を食べて満腹になった子供たちは、もう19:00にはもう寝てしまった。

ひっさしぶりに小さい子供の寝顔見たけど、なんか、かわいい。

俺も子供欲しい...

いや、まだまだ早いな。

俺高校生だし、そもそも国籍無いし。

 

 

「う~ん...なんか、眠気が出て来たなぁ~」

 

 

《時差ボケでの眠気を無視していろいろしてきたんだ。疲れたんだろう》

 

 

俺はテントから少し離れたところにある腰掛が出来る岩に腰を掛けてそう呟いた。

隣にはオルコスがSDのまま浮いており、俺の呟きにそう返答する。

上を見上げると、IS学園では絶対に見れない星空。

 

 

「綺麗だなぁ~」

 

 

《そうだな》

 

 

「いろいろ大変だけど、此処は平和だなぁ~」

 

 

《ああ、こんな平和な空間が、全世界に広がれば良いんだが...》

 

 

本当にそうだ。

だけれども、そうはいかないのだ。

IS学園への襲撃者はテロリストだったし、これからも戦闘はあるだろう。

でも...

 

 

「バディファイトは、フューチャーカードだからな。未来は、守る」

 

 

《そうだ。我らには、守るものがあるのだ。その為に...》

 

 

「ああ、その為に...」

 

 

「《俺ら/我らは戦う》」

 

 

俺とオルコスがそう声を重ねる。

そうして、再び空を見上げる。

星座の見え方は日本とは違うけど、それでも同じ星たちが輝いていた。

...こんなの、俺には似合わないかな?

そんな事を考えて、思わず笑みを浮かべてしまう。

さて、そろそろテントに戻って寝よう。

そう、考えた時だった。

 

 

ガザッ!ガザ、ガザザザザッ!ガザザザザッ!

 

 

「あ、がぁ!?」

 

 

《っ!一夏!》

 

 

視界にノイズがはしって、星空が一瞬赤黒く見えた。

思わず膝をつき、頭を押さえる。

 

 

「あ、ぐぅ!?が、がぁ!!」

 

 

《一夏!大丈夫か!?》

 

 

オルコスが何か言ってるが、全然分からない。

頭が痛い。

気持ち悪い。

吐き気がする。

 

 

「う、ガハッ!ゴホッ!おぇ!」

 

 

びちゃ!

 

 

咳き込んだ際に何かが胃の中から出て来た。。

分かる、嘔吐だ。

胃液のせいで喉と口が焼けるように痛いし、変な味がする。

 

 

「っう、はぁー、はぁー」

 

 

《一夏!口をゆすげ!》

 

 

オルコスが水の入ったペットボトルを差し出しながらそう言ってくれる。

俺はそのまま受け取り、水を口に含んでうがいをする。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ...」

 

 

《大丈夫か!?》

 

 

「...じゃないかもしれない。取り敢えず寝る。明日、神田さんに診てもらおう。オルコス、悪いけど処理頼んだ...」

 

 

《分かった、取り敢えずゆっくりしろ》

 

 

オルコスに嘔吐物の処理を頼んで、俺は寝る事にした。

......俺は、いったいどうなってるんだ?

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

三人称side

 

 

9月26日。

キャノンボール・ファストの前日。

 

 

「ふぁぁあああ...着いたぁ...」

 

 

日本で1番大きい国際空港の到着口から、作業服を着た一夏が周りの邪魔にならない程度に伸びをしながら出て来た。

 

 

一夏は嘔吐をしてしまった翌日、神田に診てもらったが、原因は分からなかった。

神田曰く

 

 

「原因は分からない。でも...何かはあるはずなんだ。何かは」

 

 

との事だ。

 

 

一夏はその日以外は特に体調を崩すことも無く、現地での仕事をこなしていた。

難民キャンプ以外の村に周って食料品を支給したり、水道管工事の準備をしたり...

現地の人の生活を守るために、いろいろな仕事をした。

そうして仕事をこなしていくうちに帰ってくる日になったので、こうして戻って来たのだ。

一夏と一緒に現地に向かった涼子を含む3人は、もう1ヶ月残る予定なので、今回帰国したのは一夏1人だ。

 

 

「あ~、眠い。さっさと帰って寝よう」

 

 

一夏はそう呟くと荷物受け取り口から鞄を受け取り、そのまま到着ロビーに出る。

 

 

「さて、電車の時間は、と...」

 

 

「一夏!」

 

 

「ん?」

 

 

一夏はスマホを取り出して電車を時間を確認しようとした時、一夏の名前を呼ぶ声が聞こえた。

一夏がそっちの方向に視線を向けると、そこにいたのは...

 

 

「アレ?千冬姉、何でいるんだ?授業は?」

 

 

そう、姉である千冬だった。

 

 

「明日のキャノンボールに向け、今日は午前授業だからな。もう終わっている」

 

 

「なるほど。でも、疲れてるだろうし無理に来なくても良かったのに」

 

 

「疲れているのはお前もだろう。モノレール駅まで車を運転してやるから」

 

 

「ありがと、千冬姉」

 

 

一夏と千冬はそう会話すると、2人で移動する。

駐車場に停まっている千冬が借りたレンタカーに鞄を仕舞うと、千冬は運転席に、一夏は助手席に座る。

 

 

「こうやって姉弟で揃うのも久しぶりだな」

 

 

「そうだな。昔は、2人の時間の方が長かったのだが...」

 

 

「俺も千冬姉も変わったな」

 

 

一夏の言葉に、2人は同時に微笑を浮かべる。

そうして、千冬はギアをニュートラルにして車を進ませる。

 

 

「それで、その...一夏、聞きたい事があるのだが...」

 

 

「ん?なんかあった?」

 

 

「その...一夏!お前の恋人の事について詳しく教えろ!」

 

 

「え、嫌だけど」

 

 

一夏がそう言うと、千冬は驚いたような表情を浮かべる。

 

 

「な、何でだ!?」

 

 

「俺や相手のプライベートだ」

 

 

「家族にプライベートは無いだろう!」

 

 

「あるわ!第一、アンタには俺の恋愛なんて関係ないだろ!」

 

 

「いや、私の可愛い弟だぞ!関係あるに決まっている!」

 

 

「ブラコンがぁ...」

 

 

一夏は若干引いた眼で千冬の事を見る。

暫くそうしていたが、

 

 

「.....半年の禁酒で考えてやらん事も無い」

 

 

「なっ!?私から酒を取ったら何が残るというのだ!」

 

 

「ブリュンヒルデや教師としての威厳くらい残ってろ!」

 

 

「う、それは...」

 

 

そうして、モノレール駅の近くに着くまで、そうした姉弟漫才が車の中では行われていたのだった。

それでも、一夏も千冬も。

浮かべている表情は笑顔だった...

 

 

 

 




時差ボケを感じさせない男、一夏。
でも、内心滅茶苦茶眠い。
それでよくカレー作れたな...

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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キャノンボール・ファスト

主人公が出場しない大会。
そして今までで1番鈴が喋ってます。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

9月27日。

一夏の誕生日であり、キャノンボール・ファストの当日。

IS学園の、キャノンボール・ファストに出場する生徒達は朝から大盛り上がりだった。

今日に向けて、ずっと頑張って来たのだ。

盛り上がらない方がおかしい。

それは、深夜を除く1年生専用機持ち達も同様だった。

 

 

「遂にこの日がやって来たわね!」

 

 

1年生専用機持ちに与えられた控室で、鈴が誇らしげにそう声を発する。

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

「今までいろいろ頑張って来たからね!負けないよ!」

 

 

そんな鈴のその言葉に反応するように、ラウラとシャルロットがそう言葉を発する。

2人の表情はやる気満々と言った表情だった。

 

 

「それにしても、会場の警備は凄いですわね...」

 

 

「うん。IS学園の警備員の人は何時もなら休みの人も全員出勤だし、ハルフォーフさんとブランケットさんも既に持ち場についてるし」

 

 

「学園祭での襲撃がありましたから、これくらいで当然という事なのでしょう」

 

 

セシリアと簪は会場の警備について話していた。

2人が話しているように、キャノンボール・ファストが行われているこの会場は、未だかつてないほどの厳重な警備体制となっていた。

例年ならば学園祭の時のように特別指定席のチケットを渡したりも出来たのだが今年は警備の関係で中止。

また、学園の生徒に加え世界各国や各企業の来賓の観客も会場に入れず、中継を見る事になっている。

それ程までに、警備が強化されているのだ。

 

 

「お兄ちゃんはまだ寝てるのかな?」

 

 

マドカは控室の窓から空を見上げながらそんな事を呟く。

 

 

「う~ん...時間も時間だし、何より一夏の事だからもう起きてる気がするけど、昨日結構フラフラだったからね...」

 

 

マドカの呟きに反応するようにシャルロットがそう言葉を発する。

その言葉に、この場にいる全員が一斉に昨日の事を思い出した。

一夏の事を千冬が迎えに来た時に説明していたが、昨日は半日だったのだ。

その為、楯無たち2、3年生、そしてクラリッサとチェルシーを含めた全専用機持ちがIS学園の正門近くで一夏の事を待っていたのだ。

千冬と共に帰って来た一夏は、凄く眠そうに目を擦っていた。

空港に着いたときはまだ千冬と会話できる余裕があった一夏だが、モノレールのまったりとした振動にやられて眠気が一気に襲ってきたんだろう。

眠いのに無理やり起こすわけにもいかず、結局そのまま一言二言会話した後そのままクラリッサとチェルシーに支えられながらフラフラとした足取りで教員寮に戻っていったのだ。

因みに、一夏は自分の部屋に入る前にクラリッサとチェルシーにそれぞれキスをしていたのだが、それは本人達以外には関係ない事である。

 

 

「そう言えば、一夏で思い出すことがあるんだ」

 

 

「如何かしたの?」

 

 

此処で、急にシャルロットが思い出したかのような表情を浮かべながらそんな事を言い、それに簪が反応する。

それに少し遅れる形でマドカ達も視線をシャルロットに向ける。

 

 

「一夏ってさ、何かハルフォーフさんとブランケットさんと異様に仲いいじゃん?何でだろうなーって」

 

 

シャルロットのその言葉に全員が一斉に一夏がアフリカに行く前の生活を思い返した。

 

 

「確かに、お兄ちゃん結構ハルフォーフさんとブランケットさんと一緒に居るよね」

 

 

「だが、一夏とクラリッサはシュヴァルツェ・ハーゼの基地にいるときから結構一緒に居たぞ」

 

 

「一夏さんとチェルシーも、前々から仲は良かったですわ」

 

 

「一夏と前々から関わりがある2人がそう言うなら、そうなのか...」

 

 

「...まぁ、お兄ちゃんが楽しそうなので良いじゃないですか」

 

 

「あはは、そうだね!」

 

 

マドカの言葉に、シャルロットが笑みを浮かべながらそう返す。

そんなシャルロットにつられて、マドカ達も笑みを浮かべる。

 

 

『わぁあああああああ!!!』

 

 

ここで、この控室に置いてあるモニター備え付けのスピーカーから、そんな大きな歓声が上がる。

全員が一斉にモニターに視線を向けると、丁度今行われていたレースの1着がゴールをした瞬間だった。

 

 

「もう終わったのですわね。やはり、かなりのハイスピードですわね」

 

 

「それはそうだろう。キャノンボール・ファストの売りはハイスピードレースなんだからな」

 

 

「っていうか、次の次は私達の出番なんだからとっとと向かいましょうよ」

 

 

「そうだね、行こう」

 

 

鈴の言葉に簪が頷き、そのまま全員で移動を開始する。

1歩、また1歩と会場に近付くにつれて、全員の表情は真剣なものに変わっていく。

 

 

「あら、お嬢様、みなさん」

 

 

「チェルシー!如何してここに?」

 

 

「たまたまです」

 

 

その道中、たまたま近くにいたチェルシーが声を掛けて来た。

チェルシーの今の格好は、ISスーツの上に簡単に脱げるジャージ、そしてメイドを示すホワイトブリムである。

正直に言うとホワイトブリムの場違いな感じが凄まじいのだが、チェルシーには無いと逆に違和感があるかもしれない。

 

 

「みなさん、本番ですね。頑張って下さい」

 

 

チェルシーはふわりとした笑顔を浮かべながらそう全員に向かって言う。

一夏が見たら一瞬で内心テンションがMAXになりそうな笑顔を見た専用機持ち達は、同性だが一瞬ドキッとしてしまう。

 

 

「ありがとうですわ、チェルシー。チェルシーこそ、警備頑張って下さいな」

 

 

「はい。では、私はこれで」

 

 

チェルシーはメイドらしくお辞儀をすると、その場から離れて行った。

 

 

「はぁ~、セシリア、アンタのお嬢様っぽいところ初めて見たわ」

 

 

「ちょっと鈴さん!?如何いう事ですの!?」

 

 

「あの、セシリア、ごめんね。僕もそう思った」

 

 

「シャルロットさんまで!?」

 

 

セシリアはショックを受けたような表情を浮かべる。

 

 

「何か、何かをしないといけませんの...?」

 

 

セシリアは頭を押さえながら思わずその場に膝をつく。

本人からしたらかなりのショックである事に間違い無いのだが、周りから見ると少しコミカルに見える。

事実、この場にいるセシリア以外は口元に笑みを浮かべながらセシリアの事を見ていた。

 

 

「まぁまぁ、セシリア。とっとと行きましょう」

 

 

「鈴さんがそれを言いますか!?まぁ、行きますけれども!!」

 

 

セシリアはがばっと立ち上がってそのままのしのしと歩いて行く。

 

 

「鈴、多分セシリアに積極的に妨害されるよ」

 

 

「うげ、そうなると面倒ね~~」

 

 

「煽るのが悪い」

 

 

「煽ってないわよ!」

 

 

簪と鈴とラウラがそう会話した後、鈴たちもセシリアの後を追うように歩いて行く。

道中にも警備員の人達や、IS学園の教員の人達とすれ違いながら歩く。

そうして、待機場に着いた鈴たちは一斉にISを展開する。

 

 

「僕とマドカちゃん以外は、やっぱり結構パッケージで見た目変わるね」

 

 

「そうですわね。特に鈴さんが」

 

 

「フフン、良いでしょう?」

 

 

鈴は胸を張り、自信ありげな表情を浮かべながらそう返す。

パッケージ。

換装装備の事であり、ISの性能を大きく変更する事も可能である。

その為、目的に応じたパッケージを使用する事で目的達成に大いに近付くのである。

そして、鈴の専用機である甲龍には高速機動パッケージである『(フェン)』がインストールされており、完全にキャノンボール・ファスト仕様になっているのだ。

 

 

「だが、そのパッケージはキャノンボール専用何だろう?今後使う機会はあるのか?」

 

 

「あ~、少なくとも普段は使わないわね~。今後も使う機会...データを取れる回数で言ったら、セシリアのパッケージの方が多いんじゃない?」

 

 

「ええ、このストライク・ガンナーは強襲用高機動パッケージですから。臨海学校の時や今回のように応用は利きやすいですわね」

 

 

さっきまで鈴に対して怒っていたセシリアだが、ISを展開した事で冷静になったのだろう。

特にカリカリした様子を見せず鈴の言葉に反応していた。

 

 

「それにしても、マドカの専用機のそのマントは必要なのか?」

 

 

「必要ですよ!お兄ちゃんとお揃いです!」

 

 

「色は違うじゃない」

 

 

「それでも!お兄ちゃんの煉獄騎士と使ってる3色は一緒です!ただ使ってる場所と割合が違うだけで!!」

 

 

マドカの余りの本気度に、シャルロット達は若干引く。

 

 

「あー、うん。分かったよ、マドカ」

 

 

「分かればいいんです、分かれば」

 

 

簪が若干面倒くさそうにマドカにそう言うと、マドカは何故かドヤ顔を浮かべながらそう返す。

 

 

「あ、アッハハハ!」

 

 

そんなマドカに鈴が笑いを我慢できず声を出しながらゲラゲラと笑う。

それにつられて、マドカを含めた全員が声を出しながら笑う。

 

 

「あ、あ~~...今ので緊張解けたわ」

 

 

「え、緊張してたの?」

 

 

「私だって緊張くらいするわよ!ま、まぁ良いわ。それでみんな、全力で行くわよ!」

 

 

『勿論!』

 

 

鈴の気合の入った声に、全員が一斉にそう返事をする。

そうしてまた全員で笑みを浮かべていると

 

 

「......」

 

 

死んだ魚のような目をした深夜が待機場にやって来て、無言でISを展開した。

 

 

(あ、忘れてた)

 

 

(忘れてましたわ...)

 

 

(完璧に忘れてた)

 

 

(忘れていたな)

 

 

(そう言えばいた)

 

 

(こんな人いたっけ?)

 

 

そんな深夜を見たマドカ達は一斉に深夜という存在がいたことを思い出した。

一夏が吐血したりアフリカに行ったりしたインパクトで忘れていたようだ。

 

 

(キャノンボール...こんなのあったか?アニメでは無かった...よな...でも、確か6巻あたりに何かあったような...アレ?アニメでもあったっけ?クソ、何だ?良く思い出せない...!!)

 

 

深夜は深夜で、キャノンボール...と言うより、原作の知識を忘れかけているようだ。

だが、それはそうだろう。

だって、深夜はこの世界に来てから()()()()()()()()()1()()()()()()()()()のだから。

どれだけ印象深い思い出でも、時間が経てば薄れていき、やがて忘れる。

転生前に読んだだけの原作も、やがて忘れていく。

寧ろ、ここまで覚えていたのが凄い事なのである。

これも一応深夜が転生者で転生特典を貰っているからだろう。

別の事に使っていれば、ハーレムだなんて考えていなかったら、今頃若くして世界で活躍できる人物になっていたかもしれない。

だが、深夜が選んだのはISを動かしハーレムを作る事だった。

その結果がこれなのである。

 

 

「まだだ、まだ、まだ...!!」

 

 

深夜は虚ろな表情を浮かべながらブツブツと1人で呟いていた。

そんな深夜を見て、マドカ達は若干気味の悪いものを見る表情を浮かべた。

 

 

『さてさて!遂にこの時間がやって来ました!1年生、専用機持ちの部門です!選手のみなさん、スタート地点に並んでください!』

 

 

ここで、実況兼アナウンスがそう指示を出してくる。

実況は中継以外に観客はいないんだしわざわざ会場に流さなくていいと言ってはいけない。

 

 

『さて、残念ながら織斑一夏君は会社の都合で欠場ですがそれを補う熱いレースを期待しています!』

 

 

「上等!見せてやるわよ!」

 

 

実況に対して、鈴が自信満々にそう叫ぶ。

声には出していないものの、深夜を除く他のメンバーも同じ様な表情を浮かべる。

 

 

『それでは、全員構えてください』

 

 

アナウンスに従い、全員がスタンバイする。

 

 

『IS学園キャノンボール・ファスト1年生専用機持ちの部。レース...スタート!』

 

 

ビュン!

 

 

スタートの合図とともに、全員が一斉にスタートする。

先頭は、ラウラだ。

 

 

「行きますわ!」

 

 

そんなラウラに向かって、セシリアは発砲で妨害をする。

 

 

「当たるか!」

 

 

だが、ラウラもそう簡単にあたりはしない。

身体を捻り速度を落とさないようにしながら避ける。

 

 

「山嵐、ロックオン...全弾発射!」

 

 

「うわぁ!危ない!」

 

 

「ったく、ロックオンミサイルは面倒!喰らいなさい、龍砲!」

 

 

ボガァン!ドガァン!

 

 

簪は山嵐をロックオンし発射するも、シャルロットと鈴が迎撃する。

ミサイルが爆発したことで黒煙が発生する。

 

 

「...今!ガレッド・シューター、ファイア!」

 

 

バァアン!!

 

 

少し後ろの方にいたマドカは黒煙をチャンスと受け取り、特殊アサルトライフル、ガレッド・シューターを発砲する。

ガレッド・シューターは弾丸が高出力のエネルギー弾であり、チャージをすればするほど威力、射程距離が伸びるのである。

弱点としてはチャージ中に音、並びに光が発生してしまうのだが、ミサイルの爆発音と黒煙で遮られていたためチャージ出来たのである。

 

 

「くっ!?かなりの高威力だ!!」

 

 

「ラウラ、貰ったよ!」

 

 

「しまった!?」

 

 

射撃を避けたことで、ラウラは少しだけスピードを落としてしまう。

その一瞬の隙を付きシャルロットが先頭に出る。

 

 

「く、この!」

 

 

「甘いよ!」

 

 

「貰いました!」

 

 

そこから暫くの間、抜き抜かれのデッドヒートしたレースが繰り広げられる。

そんなレースの最後尾。

周りから離されている所を深夜は飛んでいた。

 

 

(はぁ、はぁ、追いつけねぇ...!何でだよ、何でだよぉ!?)

 

 

深夜は苦しそうな表情を浮かべながらそんな事を考えている。

だが、ここ最近碌なトレーニングをしてない深夜が他の専用機持ちより遅いのは当然である。

トレーニングを継続しないと、肉体は劣っていく。

例えそれが、転生特典の超一級品だったとしても。

 

 

「先頭は貰いましたわ!」

 

 

「あ、待て!」

 

 

そうこうしているうちに、他の専用機持ち達は2周目に入ろうとしていた。

その時だった。

 

 

ドガァアアアアアアアン!!

 

 

そんな音を立てながら、()()()何かが落ちて来た。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

一夏side

 

 

「いただきます」

 

 

時刻は9:00。

俺は自室で朝食を食べていた。

今日の朝食は完全栄養食のパン。

アフリカに行っていたから野菜とかの食材は1つも残っていないので、前にまとめ買いしていたこれを食べているのだ。

 

 

「もうそろそろで無くなるな...また後で買っておこう」

 

 

10月からは仕事も再開するんだし。

忙しくなったら料理する暇無くなるんだから、食料の確保はしておかないといけない。

 

 

「ご馳走様でした」

 

 

食べ終わったので、キッチンにあるプラスチック用のゴミ袋にパンが入っていた袋を入れる。

ついでに冷蔵庫の中からペットボトルのブラックコーヒーを取り出す。

中身をコップに移してペットボトルを冷蔵庫に戻してからコップを持って机に戻る。

そうしてスマホを取り出して簡単にSNSを見ながらコーヒーを飲む。

うん、美味しい。

 

 

「あ、やっぱりキャノンボールは注目されてるんだ」

 

 

ネットニュースアプリを開くとトップニュースにIS学園のキャノンボールについての事が載っていた。

警備関係で観客は入れないし、中継も生徒とか国とかしか見れないのに。

 

 

《外部の人間が見れないのだろう?だったら逆に気になるんじゃないのか?》

 

 

「あ~、確かに。見れないものの方が気になるか」

 

 

好奇心ってそう言うもんだし。

そう考えながらスマホの電源を切ると、ダークコアデッキケースを取り出して中に入ってるデッキの確認をする。

 

 

「う~ん...これで良いかなぁ?」

 

 

《そうだな...死地への誘いは3枚で良いんじゃないか?》

 

 

死地への誘い。

相手はドロップゾーンからのモンスターコールが出来なくなる効果と、ターンに1回相手モンスターかアイテムをゲージ2を払う事でレスト出来る効果を持つ強力な設置魔法だ。

ISの戦闘で置き換えると、相手は一度落とした武装を拾えなくなり、ゲージ2を払う事で一定時間武装を使用不可にする、っていう効果になる。

今のデッキレシピには4枚入っているのだが...

 

 

「あ~、やっぱりそう思う?」

 

 

《ああ。ダリルベルクにホーリーグレイブもあるし、直接は持ってこれないがダリルベルク等を持ってこれる悪の凶宴もある。十分だろう》

 

 

「だけど、空いた1枠何入れるっていう話になるんだよなぁ~」

 

 

《沈んだ海底遺跡は如何だ?》

 

 

「う~~ん...サイズ3が入って無いから回収できないからな...あのカードって回収があるから強いみたいなところあるだろ?無かったら少しカードパワー控えめだし」

 

 

《なるほどな......デスゲージ・タイマーはどうだ?》

 

 

「あ、デスゲージ・タイマーか!なるほど、ピンで入れるならちょうど良いかも。でも、タイマーはタイマーで2枚は欲しいんだよなぁ」

 

 

《それもそうか》

 

 

如何しようかなぁ...

う~ん...

 

 

「取り敢えずピンで入れて回してみる。調整が必要そうだったらまた調整すればいい」

 

 

《まぁ、デッキというのはそうやって変わっていくものだ》

 

 

そう、ファイターが進化すると同時に、デッキも強化されていくものさ。

さて、デスゲージ・タイマーは何処に仕舞ってあったかな?

 

 

「うわ...ストレージだよ。オルコス、探すの手伝って」

 

 

《仕方が無いな》

 

 

そこからオルコスとダークネスドラゴンWのストレージを漁る事数十分。

 

 

「あったぁ!」

 

 

《やっとか》

 

 

全く!

何でエンシェントWのストレージに混ざってたんだよ!

探すのに時間かかり過ぎた!

まぁ、何はともあれあったんだ。

取り敢えずデッキに入れよう。

そうして入れ替えたデッキを入念にシャッフルする。

手札事故だけは勘弁願う。

そうしてシャッフルし終わったので、簡単に地面にデッキを置き、手札6枚ゲージ2枚を確認する。

良し、事故ってない。

これでシャッフルもOKだ。

それを確認してからデッキを纏めて、ダークコアデッキケースに入れる。

机の上に置いてから、残っていたコーヒーを飲み干す。

 

 

「ふぅ...俺も中継見に行こうかな」

 

 

《今更だな。もうレースは始まってるぞ》

 

 

「いいじゃん。今のレース終わっても次あるだろうし」

 

 

でも、オルコスの言う通りレースは始まってるな。

行くなら早い方が良いだろう。

そう判断し、コップを少し急ぎ目に洗う。

そうして着替えて簡単に身だしなみを整える。

...良し、問題ない。

 

 

「さぁ、行こうか」

 

 

そう呟き、ダークコアデッキケースを手に取った瞬間

 

 

[[マスター!大変です!]]

 

 

と、かなり焦っている白式と白騎士の声が聞こえた。

 

 

(如何した?)

 

 

[コア・ネットワークを通じての情報です!今現在、キャノンボール・ファストの会場が襲撃を受けているとの事です!]

 

 

(おいおいマジかよ!)

 

 

またか!

 

 

[レースをしていたマスターの妹さん達が応戦してるけど、レース途中で結構疲労してたから厳しいかも!]

 

 

[マスターの恋人さんもいますが、2人だけなら厳しいかもしれないです!]

 

 

(...分かった。ありがとう、白式、白騎士)

 

 

白式と白騎士にお礼を言ってからダークコアデッキケースをポケットに入れる。

 

 

「...オルコス、会場に襲撃があったらしい」

 

 

《っ!そうか...それで、如何するんだ》

 

 

「行くに決まってるだろ!」

 

 

《ふっ!そうだな!》

 

 

玄関に移動し、靴を履く。

 

 

「ダークネスドラゴンW経由で行く!オープンザゲート、ダークネスドラゴンW!」

 

 

俺とオルコスの目の前にゲートが開く。

 

 

「オルコス、新生煉獄騎士団のこの世界でも初陣だ」

 

 

《ああ、行くぞ!》

 

 

オルコスの返事を聞いてから、オルコスと同時にゲートの中に入る。

クラリッサ、チェルシー、みんな、待っててくれ!

 

 

 

 




実は私も存在を忘れてた深夜。
一夏がイチャイチャしてたりアフリカ行ってて出番無さすぎたから...
そして、実は今までしっかりとした戦闘描写が無いマドカと銃騎士。
臨海学校の時、ジェノサイドに活躍取られたから...

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告何時もありがとうございます!
今回も是非よろしくお願いします!


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煉獄騎士団の解放者

前回の続き。
戦闘シーンは相変わらず雑。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

ドガァアアアアアアアン!!

 

 

「な、何!?」

 

 

キャノンボール・ファスト、1年生専用機持ちの部。

レースも大盛り上がりしていた時、突如として爆発音を伴いながら上から何かが落ちて来た。

その何かが落ちて来た地点では土煙が大きく発生しており、その正体は直ぐに確認できない。

 

 

『全員武装を展開して構えろ!襲撃だ!』

 

 

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

 

「りょ、了解...」

 

 

千冬の焦ったようなオープンチャネルでの呼びかけに応じ、マドカ達は直ぐにレースを中断し一斉に武装を構える。

それに一瞬遅れて深夜もシステムクラックを構える。

 

 

「アハハハハ!何よこれ!凄い威力じゃない!」

 

 

「良いからとっとと行くわよ!」

 

 

「分かってるわよ!」

 

 

すると、土煙の中からそんな会話が聞こえてくる。

マドカ達は視線を鋭くしながら土煙の事を睨む。

そうしてその一瞬後、土煙の中から2機のISが飛び出してきた。

訓練機である打鉄を改造したであろう黒いIS。

その手には何も武装を持っておらず、何故あそこまでの爆発をしたのかは現状では分からない。

それなのにも関わらず、その操縦者たちは表情に笑みを張り付けていた。

 

 

「貴様ら!何が目的だ!!」

 

 

ラウラがレールカノンを何時でも発砲できるように構えながらそう声を発する。

すると、襲撃者2人は笑みを張り付けたまま声を発する。

 

 

「ハン!アンタたちには関係ないわ!」

 

 

「織斑一夏を差し出しなさい!」

 

 

襲撃者2人は流れるようにアサルトライフルを展開するとそのままマドカ達に発砲する。

マドカ達はすぐさま回避をして反撃をする。

 

 

「また狙いはお兄ちゃんか!ガレッド・シューター、ファイア!」

 

 

「そんな事、させる訳無い!!」

 

 

マドカとシャルロットは憤りを感じながら襲撃者に対して発砲をする。

それを切っ掛けに他の専用機持ち達も発砲を開始する。

 

 

バァン!バァアン!バァアアン!!

 

ドガァン!ドガァアン!!

 

バキュゥン!バキュゥン!!

 

 

暫くの間、アリーナに発砲音が鳴り響く。

 

 

「この!ちょこまかと!」

 

 

「アハハハハ!そんなの当たらないわよ!」

 

 

襲撃者2人は笑いながら発砲をし続け、それと同時に避ける。

 

 

「く、かなりのスピードが出てますわ!」

 

 

「これ、本当にただの改造品!?」

 

 

パッケージの影響でビット使えずライフルでの射撃をしているセシリア、山嵐の発射タイミングを見計らっている簪がそう声を発する。

そう、襲撃者2人のISは異常なまでの速度をだしていたのだ。

キャノンボール・ファストの為にスピード特化にした第三世代型や個人専用のカスタム機に付いてこれる...いや、上回っているといっても過言ではないくらいには。

 

 

「く、この!」

 

 

「アハハ!貰っ...!?」

 

 

バァン!

 

 

襲撃者の1人が鈴に向かって発砲しようとした時、その襲撃者に鈴や他の専用機持ちとは別の方向から攻撃が行われた。

 

 

「隊長!」

 

 

「お嬢様!」

 

 

そして、襲撃者の背後からクラリッサとチェルシーがそれぞれの専用機であるシュヴァルツェア・ツヴァイクとダイヴ・トゥ・ブルーを身に纏いながらアリーナにやって来た。

戦闘領域にやってきた瞬間にクラリッサとチェルシーは各々の武装を展開し、襲撃者2人に向かって攻撃する。

 

 

「く、この...!」

 

 

「ぐぁ、がぁ...!」

 

 

クラリッサの機体、シュヴァルツェア・ツヴァイクはラウラのシュヴァルツェア・レーゲンの姉妹機。

搭載されているAICはレーゲンのものより攻撃的な物になっており、AICの指向性力場を付与・展開する事で相手の装甲を刳り貫く事が可能になるツヴァイクと呼ばれる棘がある。

 

 

「はぁ!」

 

 

「がぁ...!!」

 

 

チェルシーの機体、ダイヴ・トゥ・ブルーはイギリスのBT3号機。

単一能力である空間潜行(イン・ザ・ブルー)はチェルシーの姿が空間に沈むように消え、空間内を飛行できる能力。

デメリットとしてビットの使用が不可能になるが、それをもってしてもかなりのチート能力である。

 

 

「ふっ!」

 

 

「ぎゃあ!」

 

 

クラリッサとチェルシーは機体の性能を渋ることなく存分に発揮している。

 

 

「す、すご...」

 

 

「僕たちなんかよりよっぽど強い...」

 

 

鈴とシャルロットはクラリッサとチェルシーの戦いに呆気に取られていた。

そうなるのもおかしくないくらい、クラリッサとチェルシーは強い。

これも、全部一夏の為である。

以前から仕事が忙しい事を2人に零していた一夏。

そんな一夏の事を支えたいと思っていた2人は自分たちに出来るだけの事をやって来た。

何時か一夏と一緒に暮らせることになったときの為に出来る限りの事をしてきた。

家事やらなにやら、チェルシーは元々メイドな為ある程度は出来ていたが今よりももっと上を目指し、クラリッサも出来るだけスキルを伸ばしてきた。

そしてそれは、ISも同様。

クラリッサもチェルシーも、一夏と共に戦えるようにするために、一夏を守れるようになるために努力をしてきた。

その結果、2人とももう千冬を除いたIS学園の教員の実力は軽く超えるほどの実力を身に着けているのだ。

 

 

「ぼさっとするな!私達も行くぞ!」

 

 

「お2人だけに戦わせるわけには行きませんわ!」

 

 

ラウラとセシリアはそう声を発すると2人に付いて行くように攻撃を行う。

 

 

「隊長!」

 

 

「クラリッサ!合わせろ!」

 

 

「了解!」

 

 

「チェルシー!行きますわよ!」

 

 

「お嬢様、分かりました!」

 

 

ラウラはクラリッサと、セシリアはチェルシーとタッグを組んで襲撃者に攻撃をする。

長年ずっと一緒に行動していたので、コンビネーションは抜群である。

それに、それぞれの機体の相性もあいまって襲撃者を確実に追い詰めていく。

 

 

「が、はぁ!ぐ、この...!」

 

 

「ぎゃあ!が、ぐぅ!」

 

 

「簪さん!」

 

 

「マドカ!」

 

 

「「了解!」」

 

 

襲撃者が少し大きく引いた瞬間、セシリアとラウラは簪とマドカに指示を出す。

 

 

「山嵐、全弾発射!」

 

 

「ガレッド・シューター、フルファイア!」

 

 

その指示を受けた簪とマドカは各々の武装の最大出力の攻撃をぶつける。

 

 

「「ぎゃあああああ!!」」

 

 

その攻撃を受けた襲撃者2人はそう悲鳴を上げながら攻撃を受け、そのまま地面に落下し、辺りには土煙が発生する。

だが、深夜を除く全員が警戒を緩めることなく武装を再度構えながらその土煙の事を見ていた。

 

 

「あああああ!もう!使うわよ!」

 

 

「...仕方ないわね!さっさとしなさい!」

 

 

すると、土煙の中からそんな声が聞こえてくる。

何か来る。

そう全員が構えた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その、まるで風を切るかのような音は唐突に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

そうして土煙の中から一振りの()()()()()()()()()()

 

 

「きゃぁああああ!?」

 

 

「シャルロット!?」

 

 

急な事で避けられなかったシャルロットはそのまま斬撃を受けてしまい地面に落下する。

 

 

「う、そ...!今ので、半分SEが...!」

 

 

シャルロットがフラフラと立ち上がりながらそう呟いた事で、他の専用機持ち達は一斉に驚愕の表情を浮かべるも直ぐに切り替え襲撃者たちの方を見る。

土煙が晴れたそこには。

襲撃者の1人が剣を振り抜いた後の体勢で()()()()()()()()()()()()()、禍々しい剣を持っていた。

 

 

「な、何だ、その剣は!?」

 

 

ラウラが動揺しながらもそう叫ぶ。

すると、剣を持っている襲撃者は笑いながら声を発した。

 

 

「これは私達の組織が開発した剣よ!確か名前は...アクワルタ・グワルナフ!

 

 

その襲撃者はそう言うと、そのままスラスターを使用しその剣を振るう。

滅茶苦茶に振るえば振るう程、斬撃が飛びアリーナを破壊する。

 

 

『みんな、聞こえる!?』

 

 

「お姉ちゃん!どうしたの!?」

 

 

その襲撃者から放たれる斬撃を避けていると、急に楯無から連絡が入る。

 

 

『IS学園のアリーナにも襲撃者30人!私とフォルテとサラちゃんとダリル先輩で対処してるけど、人数が多すぎる!何人か来れない!?』

 

 

「嘘...」

 

 

その報告を聞いて、簪は絶望したような声を発する。

声には出さなかったものの、マドカ達も同じ様な表情を浮かべていた。

 

 

「アハハハハ!どうしたのどうしたの?とっととくたばりなさい!」

 

 

「くっ!?」

 

 

剣を持つ襲撃者はそう笑いながら攻撃を繰り返す。

地面は抉れ、壁は破壊され、武装や装甲も朽ちていく。

そしてもう1人の襲撃者もアサルトライフルを使いマドカ達を攻撃する。

 

 

「このぉ!邪魔!」

 

 

「ぎゃあああ!?」

 

 

鈴がアサルトライフルを持つ襲撃者に向かって衝撃砲を連射する。

その襲撃者はそのまま全弾を身に受け大きく吹き飛ぶ。

 

 

「今!」

 

 

「これで終わり!」

 

 

ラウラとシャルロットがその襲撃者に対して全力の攻撃をする。

 

 

「ぎゃあああああ!!」

 

 

その襲撃者は最後にそう断末魔を上げると機体が強制解除され、アリーナの地面に落ちた。

 

 

「ちっ!まぁ良いわ!こいつらくらい私1人で十分よ!」

 

 

剣を持つ襲撃者はそう言うと、そのまま手に持つ剣をあたりに振るう。

その度にアリーナはドンドン破壊されていく。

 

 

『みんな!大丈夫!?』

 

 

「お姉ちゃん!こっちもピンチ!増援は無理!」

 

 

『こっちからも無理!く、待ちなさい!』

 

 

楯無からの通信はここで切れてしまう。

 

 

「あん?...良い得物!」

 

 

すると、襲撃者が急にそう言うと狙いを変え猛スピードでどこかに突っ込んでいく。

慌ててマドカ達が襲撃者に向かう方に視線を向けると、そこには...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今まさにアリーナから脱出しようとしている、実況をしていた人がいた。

 

 

「しまった!観客がいないから避難民を忘れていた!」

 

 

「助けないと!」

 

 

マドカのその声に応じ、深夜を除く全員が一斉に襲撃者に攻撃を行う。

だが、襲撃者は最低限の動きでそれを避けると実況をしていた人の数メートル先まで迫る。

 

 

「貰ったわ!」

 

 

「いやぁああああああああ!?」

 

 

そうして襲撃者はブレードを振り上げる。

 

 

もうだめだ。

そう思ってしまった本人も、マドカ達も目をつむり顔をそむけてしまう。

その、瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャスト!ドラゴンシールド 黒竜の盾!」

 

 

ガキィン!

 

 

そんな声と共に、甲高い音があたりに響く。

それと同時に目を閉じていた全員が目を開く。

するとそこには。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメージを0にし、ライフを1回復する!」

 

 

真紅のマントと長い黒髪を風にたなびかせる、漆黒の鎧を身に纏った騎士がいた。

 

 

「「一夏!!」」

 

 

その姿を見た瞬間、クラリッサとチェルシーが名前を呼ぶ。

 

 

「とっとと逃げろ」

 

 

「は、はい!」

 

 

一夏は襲撃者の事を見たままそう言い、実況をしていた人はそのまま焦ったようにこの場を走り去る。

 

 

「織斑、一夏...!」

 

 

「...貴様を捕える。オルコス!」

 

 

《了解した!》

 

 

一夏の声に応じて一夏の背後からSDのオルコスが飛び出て襲撃者に切り掛かる。

 

 

「ちっ!この!」

 

 

《ハァ!》

 

 

そうして、襲撃者は一夏の近くから離脱する。

 

 

「マドカ、みんな、楯無さんたちもだろ?行け」

 

 

「え、でも...」

 

 

「コイツくらいは俺1人で十分だ。行け!!」

 

 

「っ!分かった!みなさん、行きましょう!」

 

 

一夏の言葉を聞いたマドカ達は、一斉に楯無のもとに向かっていく。

そうしてこの場に残ったのは、一夏とオルコスとクラリッサとチェルシーと襲撃者。

襲撃者は剣を構えて一夏の事を睨む。

その体勢は、今にも飛び掛からんとする獣のようだった。

 

 

「...汚い剣だなぁ」

 

 

だが、そんな事は気にもしていないように。

一夏は襲撃者の持つ剣を見ながらそう言葉を零した。

 

 

「なんだそれ?アクワルタ・グワルナフのレプリカ品か?汚いなぁ」

 

 

一夏の言葉を聞いた襲撃者は声を荒げながら言葉を発する。

 

 

「なんでこの名前を知ってるのよ!この剣は、私達の組織が「違う」なに!?」

 

 

襲撃者の言葉に被せて、言葉を否定した一夏は冷たい目をしながら言葉を発する。

 

 

「アクワルタ・グワルナフは、アジ・ダハーカ様の力の象徴。キョウヤさんの剣。世界を終焉に導く魔剣...たとえレプリカ品だったとしても貴様の様なゴミが持っていいものではない!いや!レプリカの存在を許してはいけない!!」

 

 

「何を言って...!!」

 

 

一夏の言った言葉の意味が理解できなかった襲撃者は困惑の表情を浮かべながらそう声を漏らす。

 

 

「「一夏!!」」

 

 

「...クラリッサ、チェルシー、行かなかったのか?」

 

 

一夏はチラッと視線を2人に向けてそう言うと、直ぐに視線を襲撃者に向ける。

 

 

「一夏の事を放っておける訳が無い!」

 

 

「だから、一緒に戦いましょう」

 

 

「...分かった」

 

 

一夏は若干口元に笑みを浮かべながらそう言うと、左腕の紫の眼を襲撃者に見せつける。

 

 

「今一度集え!解き放たれし、煉獄の騎士達!ダークルミナイズ、新生煉獄騎士団!」

 

 

一夏が襲撃者に向かってそう宣言すると、一夏の背後にダークネスドラゴンWのフラッグのマークが浮かび上がった。

 

 

「ハン!大仰に言っちゃって!直ぐに全員ブッ飛ばしてあげるわ!」

 

 

襲撃者は笑みを浮かべながらその剣を...レプリカを構える。

一夏とクラリッサとチェルシーは並ぶと、3人同時に声を発する。

 

 

「「「ゴー・トゥー・ワーク!!」」」

 

 

3人のその宣言と同時に、襲撃者はレプリカを振るいながら突進してくる。

それと同時に3人はその場からそれぞれ別方向に分かれて離脱する。

 

 

「俺のターン!」

 

 

ライフ11

手札6

ゲージ3

 

 

「ゲージ1とライフ1を払い、装備!新生煉獄騎士団の剣 エクスピアソード!」

 

 

ライフ11→10

手札6→5

ゲージ3→2

 

 

一夏は右手を前に差し出しながらそう叫ぶと、その中に1本の大剣が出現する。

銀がメインカラーで金の装飾品と水色の宝石が散りばめられている。

この大剣こそが、新生煉獄騎士団の願いを込めた、始まりの剣。

新生煉獄騎士団の剣 エクスピアソードである。

 

 

「装備時の効果発動!デッキからカード名に「煉獄騎士団」を含むサイズ2のモンスター1体を手札に加える!俺が手札に加えるのは、煉獄騎士団の解放者 オルコスソード・ドラゴン!」

 

 

手札5→6

 

 

「待ちなさい!」

 

 

襲撃者はそう叫ぶとスラスターを動かし一夏に接近しようとする。

だが、

 

 

「今は私達が相手だ!」

 

 

「邪魔をしないでもわうわ!」

 

 

クラリッサがAICを、チェルシーがビットを使用しその行く手を阻む。

 

 

「ハン!喰らいなさい!」

 

 

襲撃者はレプリカを振るい斬撃を飛ばす。

クラリッサとチェルシーは避け、アリーナの壁はまた崩壊する。

 

 

「これで!」

 

 

「センターにコール!C・ダリルベルク!」

 

 

《おおおお!!》

 

 

手札6→5

 

 

襲撃者が一夏に向かおうとした時、一夏はセンターにC・ダリルベルクをコールする。

急に目の前にモンスターが現れた事で驚いた襲撃者は一瞬動きを止め、その隙にチェルシーからの射撃を受ける。

 

 

《武人の本能!》

 

 

「デッキの上から3枚を確認し1枚を手札に加え、残りのカードをドロップソーンに送る!これで俺は死地への誘いを手札に加える!」

 

 

手札5→6

ドロップゾーン→新生煉獄騎士団 ニードルクロー・ドラゴン 煉獄魔導 血盟陣

 

 

「設置!死地への誘い!」

 

 

手札6→5

 

 

「ダリルベルクを押し出しセンターにコール、新生煉獄騎士団 ホーリーグレイブ・ドラゴン!レフトにコール、新生煉獄騎士団 クロスボウ・ドラゴン!」

 

 

《ハァ!》

 

 

《ふっ!》

 

 

手札5→3

 

 

一夏がコールしたのは、今までもコールしたことがあるホーリーグレイブとクロスボウ。

だが、その身に纏っている鎧は今までのものとは異なる蒼と金の鎧。

 

 

「これが、織斑一夏の...!?」

 

 

「ライフ2を払い、ドロップゾーンのニードルクローをソウルに入れライトにバディコール!煉獄騎士団の解放者 オルコスソード・ドラゴン!」

 

 

《我こそが、ディミオス様の意思を継ぐ新生煉獄騎士団の団長!煉獄騎士団の解放者 オルコスソード・ドラゴンなり!》

 

 

ライフ10→8→9

手札3→2

 

 

一夏の後ろに控えていたオルコスがSDを解除し、回転をしながら勢いよく飛び出て一夏の右隣に着地する。

 

 

「アタックフェイズ!オルコスソード・ドラゴンとホリーグレイブ・ドラゴンで連携攻撃!クラリッサ、チェルシー、離れろ!」

 

 

《了解した!》

 

 

《任せろ!》

 

 

「「了解!」」

 

 

一夏の指示に従ってホリーグレイブとクロスボウは襲撃者に2方向からの攻撃を行い、クラリッサとチェルシーは離脱する。

 

 

《ハァ!》

 

 

《オラァ!》

 

 

「ぎゃあ!?」

 

 

そうして襲撃者に攻撃はヒットし、SEが4割削れる。

 

 

「オルコスソード・ドラゴンの効果発動!」

 

 

《勝利の為に力を重ねよ!カノナス・カサルティリオ!》

 

 

一夏はオルコスの効果発動宣言を行う。

その瞬間にオルコスから出たエネルギーがホーリーグレイブを包み込み、破壊する。

だが。

 

 

「オルコスソード・ドラゴンの効果!俺のアタックフェイズ中に《武装騎竜》が破壊されてドロップゾーンに置かれる場合、このカードのソウルに入れることが出来る!」

 

 

破壊されたホーリーグレイブはそのままオルコスに吸収される。

 

 

「ホリーグレイブ・ドラゴンの効果!アタックフェイズ中に破壊された時、1枚ドローする!」

 

 

手札2→3

 

 

「オルコスソード・ドラゴンとクロスボウ・ドラゴンで連携攻撃!」

 

 

《行くぞ!》

 

 

《はい!》

 

 

一夏のアタック指示に従い、オルコスとクロスボウが襲撃者に向かっていく。

 

 

「このぉ!」

 

 

襲撃者はレプリカを振るい斬撃を飛ばす。

 

 

《ぐぅ!?》

 

 

「オルコスソード・ドラゴン、ソウルガード!」

 

 

その斬撃はオルコスに当たるも、ソウルガードによってオルコスはフィールドに残る。

 

 

ドロップゾーン→新生煉獄騎士団 ホーリーグレイブ・ドラゴン

 

 

《ハァ!》

 

 

《ふっ!》

 

 

「ぐぁああ!?」

 

 

そのままその攻撃はヒットし、SEが更に3割削れる。

襲撃者は一夏の事を睨むとすぐさま大きく移動し、一夏の近くから離れる。

だが、一夏は笑みを浮かべると

 

 

「今だ!」

 

 

と叫んだ。

 

 

「「了解!」」

 

 

その瞬間に、襲撃者の周りにビットが現れ襲撃者の事を狙撃する。

 

 

「な、がぁ!?」

 

 

ビットの事など思考から抜け落ちていた襲撃者はそのまま攻撃を受け、身動きが止まる。

 

 

「オルコスソード・ドラゴンの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

「クロスボウの効果!ゲージ+1!」

 

 

ゲージ2→3

 

 

「はぁ!」

 

 

「ぐ、うぅ...!?」

 

 

その一瞬の隙を付くように一夏はオルコスとクロスボウの効果を発動させ、クラリッサは襲撃者の身体をAICによって拘束する。

 

 

「「一夏ぁ!今だ!」」

 

 

「ああ!俺とオルコスで連携攻撃!行くぞ!」

 

 

《任せろ!》

 

 

一夏とオルコスは襲撃者に向かって高速で移動する。

 

 

「《ハァアア!!》」

 

 

「ぐ、ぎゃあああああああああああああああ!!!!」

 

 

AICで拘束されている襲撃者にそれを避ける術はなく、そのままヒットすしSEが4割無くなる。

4割と3割と4割、合計すると10割。

つまり、

 

 

「俺の...俺達の勝ちだ!」

 

 

攻撃がヒットした瞬間にクラリッサがAICを解除した事により襲撃者は大きく吹き飛ぶ。

そうして地面に落下した瞬間に襲撃者のISは強制解除され、襲撃者は地面に転がって気絶する。

手に持っていたレプリカ品は地面に転がり、そのまま砕け散る。

 

 

「ちっ、壊れたか。サンプルとして持っておきたかったんだが...」

 

 

それを確認した一夏はそうボヤくと、地面に降りる。

 

 

「オルコス、拘束手伝ってくれ」

 

 

《了解した》

 

 

一夏はそうしてオルコスと共にその襲撃者の事を拘束する。

 

 

「ディザスターフォース、解除」

 

 

そうして煉獄騎士の鎧はダークコアデッキケースに戻り一夏の左手に戻る。

ダークコアデッキケースをポケットに仕舞った一夏は視線を前に向ける。

 

 

「「一夏!!」」

 

 

「クラリッサ!チェルシー!」

 

 

その瞬間にクラリッサとチェルシーが一夏に声を掛け、一夏は笑顔でそれに返答する。

クラリッサとチェルシーももう1人の襲撃者を拘束しており、ISを解除していた。

 

 

「一夏、体調は大丈夫なの?」

 

 

「ああ、全然問題ないよ」

 

 

一夏の返答を聞いた2人は安心したようにホッと息を吐いた。

ここで、一夏のスマホが着信音を鳴らした。

一夏がスマホの画面を確認すると『千冬姉』になっていた。

 

 

「もしもし千冬姉?」

 

 

『一夏!そっちは大丈夫か!?』

 

 

「ああ、こっちも終わった。襲撃者2人は拘束したが、サンプルで確保しておきたかった装備が砕け散った。修復も無理だろう」

 

 

『そんなこともう関係ない!一夏達が無事ならそれでいい!それで、戻ってこれるか?』

 

 

「俺もクラリッサもチェルシーも全員無事だ。直ぐに戻れる」

 

 

『そうか。ならばすぐに戻......ん?呼び捨て?』

 

 

ブチッ!

 

 

「...やっちまったぜ」

 

 

一夏はため息をついてからそう言うとスマホをポケットに仕舞った。

 

 

「取り敢えず、この2人をIS学園に連れて行く。オルコス、片方良いか?」

 

 

《いや、我が両方先に連れて行っておこう。お前は()()()()()()()()帰ってこい》

 

 

「...分かったよ、ありがとうな」

 

 

ゆっくりと歩いての部分を強調したオルコスに一夏は笑みを浮かべながらそう返すと、オルコスは襲撃者2人を抱えて飛んでいった。

 

 

「じゃあ、帰ろうか」

 

 

「そうだな、折角だしゆっくり帰るか」

 

 

「ええ、雑談でもしながら帰りましょう」

 

 

一夏とクラリッサとチェルシーは笑い合いながらそう言うと、クラリッサとチェルシーがそれぞれ一夏の右腕と左腕に抱き着いた。

抱き着かれた一夏は腕に当たる柔らかさだったり暖かさだったり感じる2人の匂いだったりで顔が若干赤くなっていた。

そんな一夏を見たクラリッサとチェルシーは嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

 

そうして、3人はゆっくりと帰って行く。

1週間ぶりに話す恋人との幸せな時間を噛み締めながら。

 

 

 

 




終焉偽魔剣 アクワルタ・グワルナフ・レプリカ

ダークネスドラゴンW/レジェンドW
アイテム
攻撃力10000
打撃力5
ドラゴン/英雄/武器

■このカードは「終焉魔剣 アクワルタ・グワルナフ」としても扱う。
■このカードは「終焉魔竜 アジ・ダハーカ」の能力、またはカード名に「レヴァンティン」を含むアイテムの『逆天殺』以外で装備できない。
■君がこのカード以外に《英雄》のアイテムを5枚以上装備している間、このカードに攻撃されているモンスターの『ソウルガード』を無効にする。
■【対抗】【起動】君のバディがアイテムなら、相手のカードが1枚で攻撃してきたとき、その攻撃を無効にする。

フレーバーテキスト
終焉の剣「アクワルタ・グワルナフ」の名を騙りし、機械仕掛けの魔剣。

本作初オリカ(バディサマー2021を除いたら)。
でも効果は使われなかった(考えるの正直無駄だけど楽しかった)。
一応アジ・ダハーカデッキでも使えるけどレヴァンティンデッキじゃなかったらただのバニラアイテムなので採用価値は無い。


一夏の手札状況などの書き方を変えました。
こっちの方が分かりやすいと思ったんですけど...如何ですか?

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告何時もありがとうございます!
今回も是非よろしくお願いします!


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一夏誕生日パーティ

一夏の誕生日パーティ!
の前に事情聴取。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

IS学園、会議室。

ここには学園長の十蔵を始めとしたIS学園の全教員と、まだ到着していない一夏とクラリッサとチェルシーを除く全専用機持ちが集まっていた。

全員が集まっている理由は単純明快。

先程起こった襲撃事件に関する事情聴取、並びに会議をするためである。

その為、会議室内には重々しいピリピリとした空気が漂っていた。

 

 

一夏達が捕えオルコスが運んだ襲撃者2人と楯無たちが捕えた襲撃者30人、計32人は全員拘束され今現在はIS学園地下の拘束室に閉じ込められていた。

拘束室の前にはオータムたち警備員が張り付いており、地下なので当然窓は無く脱出は不可能である。

 

 

コンコンコンコン

 

「織斑一夏、クラリッサ・ハルフォーフ、チェルシー・ブランケット、来ました」

 

 

ここで、この重苦しい空気の中にノック音が響き扉の向こうから一夏の声が聞こえてくる。

 

 

「入って下さい」

 

 

「「「失礼します」」」

 

 

十蔵が入室の許可を言うと、3人が頭を下げながら会議室に入室してきた。

 

 

「遅れてしまい申し訳ありませんでした」

 

 

「気にしないで下さい。特に織斑君は昨日までアフリカに行っていたんですからまだ疲れも取れてないでしょう。では、空いている席に座って下さい」

 

 

十蔵は会議室の1番端、扉に1番近い場所に置いてある空いている3脚のパイプ椅子に視線を向けながらそう言う。

3人は頷くと真ん中に一夏、左側にクラリッサ、右側にチェルシーが座る。

そして一夏の膝の上にずっと飛んでいたオルコスが座る。

 

 

「それでは、全員揃ったので今回の襲撃事件の会議を始めます」

 

 

一夏達が席に座った事を確認した十蔵はそう言葉を発する。

その瞬間に、再び会議室の中の空気がピリッとしたものに変わる。

 

 

「まず最初に、状況の確認をします。ボーデヴィッヒさん、更識生徒会長、よろしくお願いします」

 

 

「「はい」」

 

 

十蔵の指示を受けたラウラと楯無は立ち上がる。

そうして、先ずはラウラが説明を開始する。

 

 

「キャノンボール・ファスト、1年生専用機持ちの部のレース最中に事件は発生しました。襲撃者2名が突如として乱入。レース最中の私達に攻撃をしてきました。私達は交戦を開始。途中クラリッサとブランケットさんが合流し襲撃者を追い詰めましたが、襲撃者は謎の武装を使用しました」

 

 

謎の武装。

そのキーワードに少し会議室内は少しざわつく。

 

 

「続けます。交戦の結果、襲撃者の片方を撃破する事には成功しましたが、謎の武装を使用している襲撃者が逃げ遅れた実況者に標的を定めました。その襲撃者の攻撃は一夏が防ぎ、そのまま一夏、クラリッサ、ブランケットさんの3人で交戦を再開、私達は楯無さん達の援護に周りました」

 

 

ラウラの言葉を聞いた時、この場にいる全員の視線が一夏に集まる。

一夏は首を軽く振って楯無に視線を向けると、今度は楯無が説明を開始する。

 

 

「それと同時刻、IS学園校舎近くにも襲撃者30名が出現。最初は2年生、3年生の専用機持ちのみで対処していましたが、途中でラウラちゃん達が加勢に来てくれたお陰で全員の拘束に成功しました。なお、此方ではラウラちゃんの言う謎の武装の確認はされませんでした。以上です」

 

 

楯無がそう言うと、楯無とラウラは席に座る。

 

 

「なるほど...では織斑君、ボーデヴィッヒさん達と別れた後の様子を教えてください」

 

 

「はい」

 

 

十蔵の指示に従い、一夏は席を立ちあがる。

オルコスは一夏の隣に浮遊する。

 

 

「先程のラウラの説明に会った通り、私達3人で戦闘を開始しました。撃破には成功し拘束しましたが、サンプルとして保管しておきたかった武装は砕け散りました。あまりにも細かすぎて破片の回収も出来ませんでした。その後、オルコスに襲撃者の運搬を頼み私達は歩いて戻ってきました。以上です」

 

 

一夏は言い終わった後、椅子に座り直しオルコスも一夏の膝の上に座り直す。

 

 

「なるほど...織斑君、一点宜しいですか?」

 

 

「はい、何でしょうか?」

 

 

一夏がそう言うと、十蔵はジッと一夏の事を見つめる。

 

 

「何故、あのタイミングで現地に来ることが出来たのですか?それ以前に、何故襲撃があった事を知っていたのですか?」

 

 

十蔵のその言葉に、この場にいる全員が一夏の方に視線を向ける。

その反面、一夏は内心滅茶苦茶焦っていた。

何故なら、ダークネスドラゴンWの事は1部の人間しか知らず、白式と白騎士と喋ることが出来るのを知っている自分以外の人間はこの場にいないのだから。

 

 

《それは、我が一夏に連絡をしたからだ》

 

 

そんな一夏の内心を察してか、オルコスがそう言葉を発する。

 

 

《我は先代のディミオス様と同様『PurgatoryKnights』製のロボットだ。情報通信くらいは簡単にできる。一夏の運搬もな》

 

 

「今オルコスの説明した通りです。オルコスから情報を得て、オルコスに運搬してもらいました」

 

 

オルコスの言葉を一夏は肯定する。

その説明を聞いた十蔵は一応納得したように頷く。

 

 

(助かった)

 

 

(《礼はいらん》)

 

 

一夏とオルコスはアイコンタクトでそう会話すると、そのまま視線を十蔵の方に戻す。

 

 

「他に現段階で質問をしたい方はいらっしゃいますか?」

 

 

十蔵のその質問には、誰も手を挙げなかった。

それを確認した十蔵は頷くと、新たに言葉を発した。

 

 

「それでは、今回の件に関する話し合いをします。まず初めに、襲撃者32名の扱いに関してです。織斑先生、よろしくお願いします」

 

 

「はい」

 

 

十蔵の指示に従い、千冬が席から立ち上がる。

 

 

「現在襲撃者は32名全員地下拘束室で拘束しています。今後全員の意識が戻り次第順次情報を得られるように尋問をした後、国際IS委員会に身柄を引き渡す予定です」

 

 

国際IS委員会。

その言葉を聞いた瞬間に一夏とクラリッサとチェルシーが怪訝そうな表情を浮かべる。

3人よりかは表情の変化は少ないが、深夜を除く専用機持ち達も同じ様な反応をしていた。

 

 

「織斑君、どうかしましたか?」

 

 

「いえ、ただ......あまり国際IS委員会に良い印象が無いものですから」

 

 

一夏のその言葉を聞いた教員たちは、納得した表情を浮かべた。

今でこそ社長ストップされているが1学期や夏休み、そして学園祭前は一夏は仕事しかしてないといっても過言では無かった。

その仕事を送って来た元の1つである国際IS委員会に良い印象を抱いていないのは当然だろう。

 

 

「ですが、反対では無いので心配しなくて大丈夫です」

 

 

「そうですか...この案に反対の方はいらっしゃいますか?」

 

 

十蔵のその言葉には誰も反応しなかった。

それを確認した千冬はそのまま席に座り直す。

 

 

「では次です。IS学園の警備面に関してです。更識生徒会長、お願いします」

 

 

「はい」

 

 

十蔵の指示を受けた楯無が再び立ち上がる。

 

 

「今回の襲撃で受けた被害はキャノンボール・ファストの会場アリーナのみであり、校舎等に被害はありませんでした。その為、大人数での数押しには対応できると考えています。しかし、襲撃者が使用していた謎の武装には一夏君以外対応が出来ませんでした」

 

 

楯無はそう言うと、少し悔しそうな表情を浮かべる。

いや、楯無だけではない。

他の専用機持ち達もそうだし、教員たちもそうだった。

特にクラリッサとチェルシー、そしてマドカと千冬は悔しそうだった。

ただでさえ仕事で身体を酷使し、血を吐いて倒れた大切な存在にこれ以上の負担を掛けるしかないのがたまらなく悔しいんだろう。

 

 

「つまり、今のIS学園の最高戦力は一夏君です。ですが、一夏君にこれ以上負担を掛ける訳にはいきません」

 

 

「いや、別に負担ではな」

 

 

『駄目です!』

 

 

「はい!」

 

 

楯無の言葉を否定しようとした一夏に対して深夜を除く全員がそう言う。

その迫力に一夏は思わず肩を震わせる。

 

 

「んん!話を戻します。その為、早急に何か策をうたなくてはなりませんが...つい先日にハルフォーフさんとブランケットさんに来ていただいたばっかりです。正直言って、新たな戦力の補強は難しいです」

 

 

楯無がそう言うと、全員が難しそうな表情を浮かべる。

 

 

「更識生徒会長、ありがとうございました」

 

 

取り敢えず十蔵がそう言うと、楯無は席に座る。

 

 

「今後、IS学園にまた襲撃がある可能性は極めて高いです。しかし残念ながら、私達には敵の情報がありません」

 

 

十蔵はこの場にいる全員の事を見ながらそう言う。

 

 

「その為、今回の襲撃者から情報が得られなければ待ちの構えをするしかありません。みなさん、何時襲撃があっても直ぐに対応できるようにしていてください」

 

 

『はい!』

 

 

十蔵の言葉に、深夜以外の全員が決意の籠った表情でそう返す。

 

 

「それでは、襲撃者からの情報を得次第再び会議をしようと思います。今日はここで解散です。みなさん、ゆっくりと休んでください」

 

 

十蔵がそう言うと、続々と会議室から人が出て行く。

ただ、一夏と深夜を除く専用機持ち達は全員で同じところに向かっていた。

そうして、会議室内には十蔵と千冬が残った。

 

 

「織斑先生、どうかされましたか?」

 

 

「......学園長、1つ宜しいでしょうか?」

 

 

千冬は十蔵の目を見ながらそう言葉を発する。

そのあまりにもの眼光に十蔵は少し驚くも、頷いた。

それを確認した千冬は言葉を発した。

 

 

「......私の専用機の、暮桜の事なのですが」

 

 

千冬の表情は、完全に覚悟が決まった表情だった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

一夏side

 

 

「せーのっ!」

 

 

『一夏(君/さん)、お誕生日おめでとー!!』

 

 

パァン!!

 

 

「あ、ありがとう...」

 

 

事件後の会議から約1時間後、食堂にて。

俺は盛大に誕生日を祝われていた。

今の俺はIS学園の制服の上にでかでかと『本日の主役!!』と書かれたベタなタスキを肩にかけ、頭にはキラッキラのパーティー三角帽子を被っている。

食堂の壁も結構飾られており、机の上にはいろいろな料理が並んでいる。

何だろう。

今までの人生で1番豪華に誕生日を祝われてる気がする。

 

 

「一夏!な~にうかない顔してんのよ!」

 

 

「あ、ああ、鈴。いや、ほら、鈴なら分かるだろ?自分の誕生日にここまで豪華に祝われたことが無いからリアクションがわかんなくてな」

 

 

「取り敢えず楽しんどけば良いのよ!」

 

 

鈴は笑いながら背中をバシンバシンと叩いてくる。

 

 

「地味にいてぇからやめい」

 

 

「アハハ!まぁまぁ、ほら、プレゼントよ」

 

 

「な!?鈴がプレゼントだと!?」

 

 

「チョッと!何失礼な事言ってんのよ!」

 

 

「冗談冗談」

 

 

ここまで言って、ニヤリと笑みを浮かべる。

そんな俺の表情を見た鈴も笑みを浮かべると言葉を発する。

 

 

「これが私のプレゼントよ!」

 

 

ドン!!

 

 

物理的にそんな音が鳴った。

そして俺の眼の前には、中々に大きいラーメンどんぶりが置いてあった。。

 

 

「どう?うちで使ってたのと同じどんぶりよ!」

 

 

「...大事に保管するわ」

 

 

「それだけ!?」

 

 

「ごめん、反応に困る」

 

 

正直ラーメンどんぶりだと思わなかった。

俺自分でラーメン作らないしどうすればいいんだよ。

そう考えていると、今度は鈴の顔がドンドンにやけ顔になっていく。

 

 

「アハハハハ!その顔が見れて満足だわ!」

 

 

「お前さぁ...誕生日にやるか?それ」

 

 

「それが私よ!」

 

 

鈴のあまりのドヤ顔に俺もついつい笑ってしまう。

やっぱり鈴とはこうやって馬鹿してる時が1番楽しいな。

 

 

「一夏さん、私からもプレゼントですわ」

 

 

「フム、私からもだ」

 

 

すると、今度はセシリアとラウラがプレゼントを持って来てくれた。

 

 

「おお、これはセシリアのがティーセットで、ラウラのがコーヒー豆か?」

 

 

「そうですわ。ぜひともゆっくりしたいときに飲んでくださいまし」

 

 

「お前はコーヒーをよく飲んでいるからな。好きに飲むと良い」

 

 

「これは嬉しい!2人ともありがとうな!」

 

 

しかもこれ、両方とも高そうだぞ。

特に紅茶。

なんか逆に飲むのが勿体ない気もするが、これはキチンと飲ませてもらおうかな。

 

 

「一夏君、お誕生日おめでとう!」

 

 

「おめでとう、一夏」

 

 

「楯無さん、簪」

 

 

今度は楯無さんと簪が来てくれた。

 

 

「はいこれ、プレゼントの高級袴よ。綺麗に使ってね♪」

 

 

「私からは、特撮ヒーローの全話+劇場版+外伝スピンオフのブルーレイセット。私の一押しだから面白いのは間違いない。じっくりと見てね」

 

 

「おおお...ありがとうございます!」

 

 

この袴、すっげぇ手触り良い!

ドンだけお値段するんだ...

それにこのブルーレイセットも絶対に高いだろうし...

流石更識家...なのかな。

 

 

「おう一夏。私からはこのボールペンだぜ」

 

 

「一夏、私からはこの名刺入れっス」

 

 

「一夏君、私はあまり一夏君の趣味分からなかったからベタにハンカチよ」

 

 

「ダリル姉!フォルテ姉!サラさん!ありがとうございます!」

 

 

これはありがたい!

全部仕事でつかえる!

特にハンカチは新しく買おうと思ってたからベストタイミング!

 

 

「お兄ちゃん!お誕生日おめでとう!はいこれ、プレゼントのカードファイルだよ!」

 

 

「一夏、これがプレゼントのカードケースだよ。お誕生日おめでとう!」

 

 

「マドカ、シャル!俺の事分かってるな。ありがとう!」

 

 

流石はマドカとシャルだ!

俺の事を良く分かってる!

それにこれ、ファイルは表紙とかシックな感じがするし、ケースの方はカードが傷つかないように加工されてる良い奴だ!

これは嬉しい!

超ガチレアとかを大事に仕舞おう!

 

 

「「一夏」」

 

 

「クラリッサさん、チェルシーさん」

 

 

ここで、クラリッサとチェルシーが声を掛けて来た。

俺が2人の方に視線を向けると、

 

 

「一夏、お誕生日おめでとう」

 

 

「私たちからのプレゼントはこれよ。喜んでくれると嬉しいわ」

 

 

2人はそう言って笑顔を浮かべて、凄い綺麗にラッピングされた箱を手渡してくれる。

2人揃った笑顔は最高だな!

何時までも見ていられる.......はっ!?

取り敢えず受け取らないと。

 

 

「ありがとうございます!開けても良いですか?」

 

 

「ああ。一夏へのプレゼントなんだ。開けてくれ」

 

 

「開けちゃって良いわよ」

 

 

「分かりました。開けさせてもらいますね」

 

 

開封の許可を貰ったので早速開けよう。

取り敢えず椅子に座らせてもらって、と。

......何だろう。

貰ったプレゼント全部取り敢えず近くの空き机の上に置いてるからかなんか引っ越し前の荷造り中みたいになってるぜ。

まぁ良いや。

じゃあ、クラリッサのから開けさせてもらおうかな。

ラッピングがグシャッとならないように気を付けて......

そうして丁寧にラッピングをはがすと、中から凄い高級そうな箱が出て来た。

その箱の蓋を開けると、中に入っていたのは...

 

 

「財布...」

 

 

そう、財布だった。

黒い革製の長財布。

金具部分は金色で、財布の中央部分には真紅の線が1本。

まるで煉獄騎士の鎧の様なカラーリングだ。

そして、財布の端の方には『Ichika Orimura』『Clarissa Harfouch』と、俺とクラリッサの名前が彫られている金のプレートが付いていた。

 

 

「え、これ...もしかして...」

 

 

「ああ、オーダーメイドだ」

 

 

「え!?良かったんですか!?そんなにお金のかかる...」

 

 

「ああ。夏休みには一夏からもプレゼントをもらったし、何より一夏の誕生日プレゼントに金を惜しむ必要は無いだろう?」

 

 

クラリッサはそう言うとニコッと笑みを浮かべてくれる。

可愛い。

可愛いよクラリッサ。

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

俺も笑顔を浮かべてそうお礼をする。

なんか周りがザワザワ言ってるけど気にならない。

 

 

「さて、じゃあ次に...」

 

 

チェルシーからのプレゼントを開けよう。

この財布は傷つけないようにいったん仕舞おう。

そうして財布を仕舞い、チェルシーからのプレゼントのラッピングも綺麗にはがす。

すると、こちらも凄い高級そうな箱が出て来た。

その箱を開けると、そこには...

 

 

「懐中時計...」

 

 

蓋つきの懐中時計が入っていた。

綺麗な金色の懐中時計で、紐は黒。

手に取って竜頭を押し蓋を開けて文字盤を見る。

黒い盤に金のローマ数字。

紅い長針と短針と秒針。

これもまた煉獄騎士の鎧のカラーと一緒だった。

蓋の裏には『Ichika Orimura』『Chelsea Blankett』と、俺とチェルシーの名前が彫られていた。

 

 

「え、これももしかして...」

 

 

「ええ、オーダーメイドの特注品よ」

 

 

「え!?そんな...良いんですか!?」

 

 

「もちろん♪一夏の為に用意したのよ。遠慮なく受け取って♪」

 

 

チェルシーはそう言うと、パチリとウインクをしてくれる。

可愛い。

チェルシー、可愛いよ。

 

 

「ありがとう、チェルシーさん」

 

 

チェルシーにも笑顔でお礼を言う。

いやぁ、まさか大事な恋人達からこんなに良いものを貰えるだなんて...

物自体が高級なのもそうだけど、わざわざ俺に合わせたオーダーメイドで、しかも名前まで掘って貰えるだなんて...

これは一生の宝物にしよう。

いや、そうしないと罰が当たる。

さて、傷がつく前に懐中時計も仕舞ってと。

 

 

「改めて、みんなありがとう!こんなにプレゼント貰ったの初めてだから凄い嬉しい!」

 

 

改めてみんなにそうお礼を言うと

 

 

『改めて、お誕生日おめでとう!』

 

 

と、みんなが返してくれた。

 

 

そこから暫くの間、俺達は料理を食べながら談笑をした。

もう2学期だというのにまだしっかりと喋ったことが無かった人だったり、なんかクラスメイトのはずなのに最近...と言うより長い間会った事が無いように感じる清香や静寐達とも会話をした。

その後は全員で出来る簡単なゲーム(景品無しビンゴ、超じゃんけん大会などなど)をして大盛り上がりして若干疲れた。

何故あんなに元気なのだろうか。

何故あんなにビンゴやじゃんけんで盛り上がれるのだろうか。

正直良く分からない。

まぁでも、俺も楽しかったし良いや。

そして今。

 

 

『ハッピーバースデー!!』

 

 

俺の眼の前には火のついたろうそくが16本刺さったホールケーキ。

こんなベタなの生まれて初めて見た。

 

 

「フー」

 

 

息を吹きかけてろうそくの火を消す。

その瞬間に

 

 

パチパチパチパチ!!

 

 

とみんなが拍手してくれる。

なんか、恥ずかしいな。

 

 

「はい、一夏」

 

 

「クラリッサさん、ありがとうございます」

 

 

でも、それでも。

 

 

「ジュースのおかわりよ」

 

 

「ありがとうございます、チェルシーさん」

 

 

こうやって、恋人や友人達と過ごせる誕生日っていうのは、楽しいものだな...

 

 

 

 




超ガチレアとかいうバディファイト以外では聞かないレアリティ。
一夏、私からも!
お誕生日おめでとう!
現実とはかなりズレてるけど!

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告何時もありがとうございます!
今回も是非よろしくお願いします!


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織斑家家族会議

このサブタイから察するに、遂に...!

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

食堂で一夏の誕生日パーティーが行われているのと同時刻。

IS学園の屋上にて。

 

 

「フム...9月も下旬となると、夜風は少し冷たいな...」

 

 

夜空を見上げながら、千冬はそう呟いた。

千冬は暫くの間そうしていたがやがて頭を軽く振ると、ポケットからスマホを取り出した。

そうして少し操作した後耳にスマホを当てる。

そう、千冬はとある人物に電話を掛けているのだ。

数回のコール音の後、相手が電話に出る。

 

 

『もすもすひねもす?たっばねさんだよぉ~~!!』

 

 

その相手とは、束である。

 

 

「やかましい!電話ぐらい普通に出れんのか!!」

 

 

『え~?これが私の普通だよぉ~?ちーちゃんは分かって無いなぁ』

 

 

「そんなもの私が知るか!!」

 

 

束の言葉に、千冬はそうツッコミを入れる。

だけれども、その口元には若干だが笑みが浮かんでいた。

やはり、久しぶりに親友と話すのだから内心嬉しいのだろう。

それは束も同じ様で、電話越しでもテンションが高いのが分かる声だった。

だけれども、次の瞬間この少し暖かい雰囲気は一気に変わる。

 

 

「束...もう出来ているのか?」

 

 

『うん。もう出来てるよ』

 

 

千冬の問いかけに、束はすぐさまそう返答する。

その声色は、少し嬉しそうで、でも悲しそうで...いろいろな感情が混ざったようだった。

 

 

『実を言うと、夏休みに入る前くらいにはもう出来てたんだ。あとはちーちゃんの覚悟が出来たら...ううん、ちーちゃんが必要とするときが来るのを待つだけだったんだ』

 

 

「そうか...ならば、今がその時だ。私には、今必要なんだ」

 

 

『いっくんの為...だよね?』

 

 

「ああ」

 

 

千冬はそう言うと数歩歩き、屋上から見下ろす形で食堂がある方向を見る。

 

 

「お前の事だからもう知っているだろう。私は...私達は、一夏に頼る事しか出来なかった。一夏が間に合わなければ、あの人は死んでいた。それだけじゃない。もっともっと被害が出ていた可能性がある」

 

 

『うん、そうだね』

 

 

「だから、もうこれ以上一夏に頼らなくても良いように...今度は、私が戦えるようにしないといけないんだ......!!」

 

 

千冬のその言葉を聞いた束は、うんうんと頷いた後、言葉を発した。

 

 

『ちーちゃんが凄かったせいでいっくんは比べられた。そして、束さんがISを作ったから、女尊男卑のあおりを受けちゃって......アハハ、今思い返すといっくんに迷惑しか掛けてないね』

 

 

「そう、だな...」

 

 

束の自分を卑下するかのような笑い声に、千冬は悔しそうな表情を浮かべながらそう返す。

千冬にとって、一夏は大切な家族。

この世界に1人しかいない弟。

そんな一夏に負担を掛けていたという自分が許せないんだろう。

 

 

『だからちーちゃん。いっくんのチカラになってあげて。今の束さんは、そんなに表立って動けないからさ』

 

 

その束の言葉を聞いた千冬は、

 

 

「当然だ!!」

 

 

そう、覚悟の決まった表情で返した。

それを聞いた束は嬉しそうな声色で笑った後、

 

 

『今度会社に取りに来て。スーちゃんには話を通しておくから』

 

 

と言った。

 

 

「ああ、頼んだ」

 

 

『うん!頼まれましたぁ!』

 

 

急にまたおちゃらけた雰囲気を醸し出した束に、千冬は苦笑いを浮かべた。

そうして通話を終わらせようとした時、ふと思い出した。

今日連絡を取ったときに、一夏がクラリッサとチェルシーの事を呼び捨てしていたことを。

 

 

(...あまり認めたくないがアイツは天才だ。アイツの見解を聞いてみるか)

 

 

そう判断した千冬は、言葉を発した。

 

 

「束。これとは別で1つ確認したい事がある」

 

 

『ん~~?ど~したの?ちーちゃん』

 

 

「......一夏に、恋人がいる事は知ってるか?」

 

 

千冬の言葉を聞いた束は、電話越しでも分かるくらいビシッと固まった。

そして、そこから数分後

 

 

『な、何だってぇ!?!?!?!?』

 

 

「やかましい!電話なんだぞ!私の鼓膜を考えろ!」

 

 

束は絶叫を上げ、千冬はそれに対して怒鳴る。

 

 

『そ、そんなの束さん聞いたこと無い!』

 

 

「お前の事だから知ってると思っていたが...」

 

 

『だって!いっくんのプライベートまで見てるといっくんに嫌われちゃうじゃん!』

 

 

「それはそうだ」

 

 

誰だって自分のプライベートはある。

それを無視したら嫌われるに決まっている。

 

 

『た、束さんの可愛い可愛いいっくんがぁ~~...知らない間に他の女のものになるだなんてぇ...ちーちゃん!その相手は知らないの!?』

 

 

「ああ。一夏はプライベートだと言って教えてくれなかった。だが、1つ気になる事がある」

 

 

『ほうほう?それはいったい?』

 

 

「一夏は基本、年上には敬語を使っているな?」

 

 

『そうだね。プライベートの時にちーちゃんに、仕事の時に部下の人達にため口を使ってるけど、それ以外年上の人には敬語だね』

 

 

千冬の言葉に、束は1つ1つ確認するようにそう言った。

それを聞いて千冬は頷くと、そのまま次の言葉を発する。

 

 

「それなのに、一夏が呼び捨てにした年上の女が2人いるんだ」

 

 

『なん......だと!?』

 

 

「束。この間IS学園に警備助っ人で専用機持ちが来たのは知ってるな?」

 

 

『あ~...えっと、眼帯女とメイド女だっけ?』

 

 

「そうだ。一夏はその2人にも何時もは敬語を使ってるんだが...」

 

 

『...まさか!?』

 

 

束の声に、千冬は頷く。

 

 

「さっきの事件後、私が一夏に電話をしたんだ。すると、一夏は何時も敬語を使い、さん付けをしている筈の2人の事を呼び捨てで呼んだんだ」

 

 

『......ちーちゃん。それはもう確定だねぇ』

 

 

「そう、か...」

 

 

『ちーちゃん。いっくんとその女2人に直接聞いてみて』

 

 

「...そうだな。そうしよう。結果は追って報告...しなくていいか」

 

 

『うん。束さんは超小型カメラを使って監視するから』

 

 

「分かった。今度タイミングを見計らって聞いてみる」

 

 

『お願いね、ちーちゃん』

 

 

ここで通話は終了した。

千冬はスマホを仕舞うと、そのまま屋上を後にした。

 

 

(一夏...お姉ちゃんはまだ認めないからな!)

 

 

屋上に来た時とは、違った覚悟をしながら。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

一夏side

 

 

どうも。

世界で2人しかいない男性IS操縦者の1人で『PurgatoryKnights』所属。

煉獄騎士団の解放者 オルコスソード・ドラゴンのバディ、煉獄騎士の織斑一夏です。

私は今ものすっごい面倒な状況に巻き込まれています。

それはもう、こんなわざとらしく誰にも聞こえない心の中でこうやってよくある漫画の主人公のような自己紹介をするくらいには。

さて、今どんな状況なのか。

私自身もう1度ハッキリさせたいので丁寧に確認します。

先ず、此処はIS学園の教員寮1-1号室。

つまり私の部屋です。

そして今この部屋に誰がいて、何が起こっているのかというと...

 

 

「あ、あわ、あわわわわ...」

 

 

あわあわと実際に声に出しながら、きょろきょろと焦ったように視線を泳がせている私の妹である織斑マドカ。

 

 

「「......」」

 

 

言葉を発さず、真面目な表情を浮かべながら私の両隣に座ってる私の最愛の恋人であるクラリッサ・ハルフォーフとチェルシー・ブランケット。

この真面目な表情も非常に可愛いです。

もうこのまま2人の事を抱きしめたいです。

キスしたいです。

ですが、そうもいきません。

それは何故か。

 

 

「ふぅ......」

 

 

私とクラリッサとチェルシーの正面、マドカの隣に座っている私の姉であり担任教諭、織斑千冬が両腕を組み険しい表情を浮かべ威圧感を放っているからです。

 

 

「はぁ...」

 

 

なんでこんな事に...

思い出せ俺...

 

 

~昼休み~

 

 

俺の誕生日パーティーから少し経ち、10月になった。

仕事の方も徐々に再開してきた。

流石に夏休みとかそこら辺の量はまだ社長に止められているのだが、そこそこまた忙しくなってきた。

相も変わらず送られてくる仕事の8割を日本政府と国際IS委員会と女性権利団体が占めているのだが、その比率が少し変わって来た。

吐血する前は圧倒的に日本政府からが1番多かったのだが、今は女性権利団体からの仕事が1番多い。

日本政府からの仕事は他に比べると少し多いな程度なのだが、国際IS委員会と女性権利団体からはもう比べ物にならないくらいの仕事がやって来てる。

書類の内容を確認する限り、如何も俺の事が気に入らないらしい。

全く、もう10月だというのにまだ文句を言ってくるのか。

面倒だ。

それに、何となく分かっていた事だがどうも国際IS委員会と女性権利団体はずぶずぶの関係にありそうだ。

書類の内容が似てる。

それも面倒だ。

こっちは国際的なテロリストの相手をしないといけないってのに。

 

 

「...大体こんな感じだ」

 

 

昼休み、屋上で。

クラリッサとチェルシーが作ってくれたお弁当という俺にとってこれ以上ないご馳走を食べながら俺は仕事の現状を2人に説明した。

 

 

「そうか...今のところ無理はして無いんだな?」

 

 

「ああ。夏休みみたいにエナドリは飲んでないし、バッチリ健康だよ」

 

 

「なら良いんだけど...一夏、絶対に無理はしないでね」

 

 

「もうしないさ。大切な恋人の事にこれ以上心配を掛けさせるわけにもいかないからな」

 

 

そう言って、俺はクラリッサとチェルシーの頭を撫でる。

すると、2人とも気持ちよさそうに目を細めて身を捩る。

可愛い。

俺の恋人は世界で1番可愛い。

異論は認めん。

絶対にだ。

 

 

そんな事を考えんがらお弁当を食べ進め、しっかりと完食した。

 

 

「ご馳走様でした」

 

 

「「お粗末様」」

 

 

「凄い美味しかったよ、ありがとう」

 

 

「これくらいはするさ。大切な恋人の為だからな」

 

 

「これからも時々は、お弁当を作ってあげるからね」

 

 

「...ありがとう!」

 

 

なんて嬉しい言葉なんだ!

これ以上嬉しい事は無い!

すると、

 

コツコツコツ

 

と、屋上に向かって階段を上る足音が聞こえて来た。

フム、敬語モードにならないといけないか。

そう意識を切り替えると、丁度屋上の扉が開いた。

 

 

「織斑先生。珍しいですね、屋上に来るだなんて」

 

 

俺は屋上に来た人物...織斑先生に思わずそう言ってしまう。

 

 

「織斑、クラリッサ、ブランケット。今屋上にいるのはお前たちだけで間違いないな?」

 

 

「そうですけど...どうかしましたか?」

 

 

織斑先生は俺達の事を見るたび急にそんな事を聞いてきた。

そう返答すると、

 

 

「お前たち3人に聞きたい事がある」

 

 

と織斑先生は言って来た。

 

 

「なんですか、教官」

 

 

クラリッサはそう返答する。

これは...もしや...

俺が不安を覚える中、織斑先生は1度大きく息を吸って、吐いた。

 

 

「お、お前たち3人は、付き合ってるのか!?」

 

 

「「っ!?へっ!?」」

 

 

「やっぱりか...」

 

 

ちくしょう。

慌てて通話を終わらせたが、やはり誤魔化し切れていなかったようだ。

 

 

「い、一夏?」

 

 

「すまん。ボロが出た」

 

 

「謝らなくていい」

 

 

俺とクラリッサとチェルシーはそう会話した後、視線を合わせて頷き合う。

そして、視線を織斑先生に向ける。

 

 

「私、織斑一夏は」

 

 

「私、クラリッサ・ハルフォーフと」

 

 

「私、チェルシー・ブランケットと」

 

 

「「「お付き合いしています」」」

 

 

そうして、特に打ち合わせをしていないが揃って笑顔を浮かべながらそう織斑先生にそう言った。

その瞬間。

 

ビシリ

 

そんな擬音が聞こえてきそうな感じで、織斑先生は固まった。

 

 

「織斑先生?どうかしましたか?」

 

 

俺はベンチから立ち上がり、織斑先生の顔を覗き込むようにしながらそう言った。

すると、織斑先生はわなわなと肩を震わせて

 

 

「そんなの、お姉ちゃんは認めないぞ!」

 

 

と、何故か若干涙目になりながらそう言って来た。

 

 

「認めないってなんだ!俺の恋愛だぞ!俺の勝手だろ!」

 

 

「一夏は私の弟だ!一夏の恋愛は私にも関係がある!」

 

 

「アンタは娘の結婚の相手を拒む父親か!そんなテンプレこの時代にいないし、そもそもアンタは姉だろうが!関係ないだろ!」

 

 

「ある!私があると言ったらあるんだ!」

 

 

くそ!

これじゃあただの水掛け論だ!

 

 

「あああもう!もう直ぐ昼休み終わるから!また放課後!!」

 

 

「言ったな!今言ったな!放課後、お前の部屋にマドカと行くからな!絶対だぞ!」

 

 

「分かった!分かったから!もう終わり!いったん終わり!」

 

 

俺が無理矢理話を終わらせると、千冬姉はそのまま屋上から去って行った。

 

 

「はぁ......クラリッサ、チェルシー、巻き込んでごめん」

 

 

「気にしないで良いわよ」

 

 

「ああ。教官はああ言っていたが、絶対に認めさせよう!」

 

 

「......そうだな!」

 

 

そうして、俺とクラリッサとチェルシーは放課後に千冬姉を鎮める事にしたのだ。

 

 

~現在~

 

 

そうだ。

昼休みに千冬姉が暴走したんだった。

 

 

「...もう1度確認する。お前たち3人は付き合ってるんだな?」

 

 

「ああ。俺はクラリッサとチェルシーの2人と同時に交際している。それに間違いはない」

 

 

千冬姉の確認するかの様な言葉に、俺はすぐさまそう返答する。

その瞬間に、千冬姉はがばっと身体を乗り出してきた。

 

 

「一夏!なんで今までこの事を黙っていた!」

 

 

「クラリッサとチェルシーのプライベートがあったからだ。それに、俺の恋愛事情を話す必要が無いと判断したからだ」

 

 

「確かにそうかもしれない!でも!流石にこれは話すだろ!」

 

 

「そうか?」

 

 

俺は意見を求めるためにマドカに視線を向ける。

それに伴い千冬姉とクラリッサとチェルシーもマドカに視線を向ける。

4人から同時に視線を向けられたマドカはただでさえあわあわしていたのに更にあわあわし始めた。

だが、直ぐに息を吸って、吐いた。

そうして少し落ち着いてから話し出した。

 

 

「まぁ先ず、お兄ちゃんが前々からハルフォーフさんとブランケットさんとやけに仲が良いなとは思ってたよ」

 

 

なに?

って事はもしかしたらこのまま過ごしててもバレてた可能性があるのか?

やはり俺のクラリッサとチェルシーに向ける愛は隠しきれなかったか。

 

 

「それで、確かに付き合ってたのは教えてくれてもいいじゃんとは思ったけど、確かに別に言わなくても障害は無かったなぁ~って...」

 

 

「マドカ!私と一夏、どっちの味方なんだ!」

 

 

「どちらかと言えばお兄ちゃん」

 

 

マドカのバッサリ切り捨てるかの様な言葉に、千冬姉はショックの表情を浮かべる。

というかマドカよ。

お前何時からそんなバッサリ言えるようになった?

流石は俺の妹だ。

 

 

「......まぁ良い!それは良い!だが一夏!お前、なんで2人と同時に付き合っている!?」

 

 

「クラリッサとチェルシーが好きだから」

 

 

千冬姉の呼びかけに間髪入れ居ずにそう返す。

 

 

「いや、2人が好きだったとしても普通は...!」

 

 

「俺は今無国籍だ。何処の国にも属さない。つまり、何処の国のルールにも縛られない。したがって、2人の女性と同時にお付き合いをしていても問題ない。それに、本人同士で納得してるしな」

 

 

そう言った後、クラリッサとチェルシーに視線を向ける。

2人は頷くと、そのまま話し始める。

 

 

「教官。私は一夏の事を愛してます。これ以上ないくらいには」

 

 

「私も同様です。一夏は私にとって、世界で1番大切な人なんです」

 

 

「.......」

 

 

クラリッサとチェルシーの言葉を、千冬姉は真面目な表情で聞いている。

因みにマドカは告白まがい的な事を聞くことになるからか顔を真っ赤にしている。

 

 

「一夏の事は絶対に譲れない。だから話し合って、2人で同時に付き合う事にしたんです」

 

 

「私達は、一夏の事をこれ以上ないくらい愛してます。だからお願いします、認めてくれないですか?」

 

 

クラリッサとチェルシーはジッと千冬姉の事を見つめる。

その表情は、きりっとした真剣なものだった。

 

 

「千冬姉。俺からも良いか?」

 

 

「一夏...」

 

 

俺がそう言うと、千冬姉は俺に視線を向けて来る。

 

 

「俺はクラリッサとチェルシーの事をこれ以上ないくらいに愛してる。もう、他の女性の事なんて興味が無くなるくらいに。クラリッサとチェルシーがいない生活なんて考えられないくらいに」

 

 

「......」

 

 

俺の話を千冬姉は黙って聞いている。

チラッとマドカの方を見ると、先程までよりも顔が赤くなっていた。

話を聞いて恥ずかしくなってきたのだろう。

 

 

「だから千冬姉。認めてくれ。お願いします」

 

 

「「お願いします」」

 

 

俺が頭を下げ、クラリッサとチェルシーも同じ様に頭を下げた。

それから数十秒後。

 

 

「ふぅ...」

 

 

と、千冬姉が息をついたかと思うと、

 

 

「そこまで本気なら、私が出る幕は無いじゃないか」

 

 

と呟いた。

 

 

 

「と、言う事は?」

 

 

「...認めてやる。好きにしろ」

 

 

良し!

これで千冬姉の許可を得た!

それだけじゃあない!

担任教諭の許可を得たから、これで合法的に校内でイチャ付ける!

 

 

「ただし!条件がある」

 

 

「「「条件?」」」

 

 

「...お互いに支え合って、絶対に裏切らない事を誓え」

 

 

「そんなもの、言われるまでもなく出来ている!」

 

 

「当然です!」

 

 

「分かっています!」

 

 

千冬姉の言葉に、俺達は同時にそう返答する。

それを聞いた千冬姉は満足そうに頷いた。

 

 

「じゃあ、私は時間だから戻る。邪魔して悪かったな」

 

 

「私も戻るね。お兄ちゃん、おめでとう!」

 

 

そうして、千冬とマドカは俺の部屋から出て行った。

俺の部屋に残ったのは、俺とクラリッサとチェルシー。

 

 

「良かったぁ...」

 

 

「これで、家族公認だな♪」

 

 

「漸く人の前でくっつけるわね♪」

 

 

そう言って、クラリッサとチェルシーが俺に抱き着いてきた。

 

 

「ああ、そうだな!」

 

 

そう言って、2人の事を抱きしめ返す。

そこから暫くの間、俺達は抱きしめ合っていたが

 

 

「一夏...」

 

 

と、クラリッサが語り掛けて来た。

 

 

「ん?どうし」

 

 

ちゅっ♡

 

 

「ん...!?ん、んんん...」

 

 

「んぁ、んちゅ...ん...」

 

 

クラリッサにキスされた事に気が付いたのは、キスされてから数十秒がたった後だった。

 

 

「ぷはぁ...」

 

 

「はぁ、はぁ、クラリッ「んちゅ♡」!?」

 

 

今度はチェルシーがキスをしてきた。

 

 

「ん、んんん...んぁ、んちゅ...」

 

 

「んぁ、んん...んちゅぅ、んん...」

 

 

そうして、大体1分後。

唇を離された。

 

 

「ぷはっ...はぁ、はぁ...」

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ...2人とも?如何した?」

 

 

俺がそう言うと、2人は何とも妖艶な笑みを浮かべた。

 

 

「...まだ、1回しか出来てないからな?」

 

 

「今日くらいは、良いじゃない?」

 

 

2人は着ている服をはだけさせながらそう言って来た。

 

 

「そう言う事なら...お相手しよう」

 

 

そこから俺達は朝まで愛し合った。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

クラリッサとチェルシーの2人と共に愛し合った日の朝、SHR前。

俺は何時ものように教室に向かっていた。

だが、何時もとは違う事が1つ。

 

 

「昨日は激しかったな♪」

 

 

「幸せな時間だったわ♪」

 

 

上機嫌な2人が俺の隣を歩いているという事だ。

 

 

「そうだな...改めて、よろしくな」

 

 

「「うん、よろしく!」」

 

 

そう2人と会話して、IS学園の校舎に入った。

その瞬間だった。

 

 

ジッ......

 

 

何やらこの場にいる全員から視線を向けられた。

な、なんだなんだ?

4月でもまだマシだっただろ?

俺はそう思いあたりを見回すと、何やら人だかりが出来ていると事がある事に気が付いた。

あそこは確か...学校新聞の掲示場だった...はず。

しっかりと見たことが無いから良く分からないけど。

俺とクラリッサとチェルシーが近付くと、ザッと綺麗に人がいなくなっていく。

それによって、学校新聞の掲示場だと改めて認識すると同時に、新聞が読めるようになる。

え~と、なになに...?

 

 

『織斑君、ハルフォーフさんとブランケットさんと同時交際か!?』ね...

 

 

「なんでバレた!?」

 

 

あれか!?

もしかして昨日の昼休み、いたのか!?

 

 

「え、え、え?」

 

 

「なんで?」

 

 

クラリッサとチェルシーも驚きの声が聞こえて来た。

くそ!

後で新聞部に乗り込んでやる!

俺がそう決意した時だった!

 

 

「一夏ぁ!これは如何いう事よ!」

 

 

「一夏!クラリッサ!どういうことだ!」

 

 

「チェルシー!?これはどういうことですの!?」

 

 

「一夏!?これは何!?」

 

 

「一夏?これは如何いう事!?」

 

 

と、マドカと深夜を除く1年生専用機持ち達がはしりながらやって来た。

はぁ...

 

 

「クラリッサ、チェルシー、逃げるぞ!!」

 

 

「ああ!」

 

 

「ええ!」

 

 

『まてぇ!』

 

 

そうして。

朝のSHRが始まるまでこのドタバタ劇は続くのだった。

 

 

 

 




漸く千冬に認められたね!
おめでとう!

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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ミッションカード “天災兎を説得せよ!”

このサブタイでとあるデッキがイメージ出来たらそこそこコアなバディファイター

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

一夏、クラリッサ、チェルシーの関係が千冬に認められ、ついでにマドカにもバレた翌日。

新聞部の策略により関係性が学園中にバレた3人は専用機持ちや過激派の生徒達からの逃走劇を繰り広げ、朝のSHRの開始により何とか助かったのであった。

そうして、その日の昼休み。

 

 

『説明して!!』

 

 

「はいはい」

 

 

一夏は自分の席に座っており、その隣にはクラリッサとチェルシーがいる。

そうして3人を囲むように深夜を除く専用機持ちが立っており、その周りにはガヤの生徒達が集まっていた。

 

 

「まぁ、説明するといっても...まぁ、あの新聞に書いてあったことは事実だよ。俺はクラリッサとチェルシーの2人と同時に付き合ってる」

 

 

もうバレて隠す必要が無くなったからだろう。

一夏は普通にクラリッサとチェルシーの事を名前で呼び捨てにしている。

 

 

「何時から!?」

 

 

「前にもなんか言った気がするけど、タッグトーナメントの後...というか、最終日だ。2人が告白してくれて、付き合う事にした」

 

 

簪に詰め寄られた一夏は付き合う日の出来事を簡単に説明した。

まぁ、正確にいうのなら一夏が自分の生まれの説明したりしたのだがそこは説明しなくて大丈夫だろう。

 

 

「クラリッサ...何故この事を黙っていた」

 

 

「チェルシーもですわ!なんでこんなに重要な事を黙っていましたの!!」

 

 

ラウラはクラリッサに鋭い視線を向けながら、セシリアはチェルシーに詰め寄りながらそう問い詰める。

 

 

「隊長、いくら部下の私でもプライベートがありますので」

 

 

「お嬢様、従者の私にもプライベートがあると以前仰っていたでは無いですか。それに、もう旦那様や奥様、エクシアは知っているのでてっきりお嬢様も知られてるかと」

 

 

それに対し、クラリッサとチェルシーはあくまでも冷静にそう返答する。

そうして、2人は笑みを浮かべながら一夏に抱き着く。

抱き着かれた一夏は驚いたような表情を浮かべるも、直ぐに笑みを浮かべる。

それを見たガヤの生徒達は黄色い歓声を上げ、専用機持ち達は奥歯を噛み締める。

 

 

「まぁまぁみなさん、いったん落ち着いて下さい」

 

 

「そうだぜ、取り敢えず落ち着け」

 

 

「落ち着かないと何も始まらないっスよ」

 

 

マドカとダリルとフォルテは興奮している人たちを抑える。

マドカは前日に聞いているし、ダリルとフォルテは恋人同士なのでそこまで衝撃を受けていないのである。

 

 

「一夏君、なんで2人同時に付き合ってるの!?」

 

 

「無国籍ですし、全員で納得しているので」

 

 

楯無の質問に一夏はすぐさまそう返答する。

 

 

(昨日千冬姉に同じ様な事を言ったんだよなぁ...)

 

 

「...一夏、1つ良い?」

 

 

「どうした、鈴」

 

 

一夏が内心で昨日の夜の出来事を思い返していると、鈴が一夏にそう声を掛ける。

一夏がそれに返答すると、

 

 

「アンタ、ハルフォーフさんとブランケットさんのどこが好きなのよ!」

 

 

と、鈴は一夏に向かって言った。

その瞬間、一夏に抱き着いていたクラリッサとチェルシーは動きを固め、周りの人達も動きを止め一夏に視線を向ける。

そして、視線を向けられた一夏は1度深呼吸をすると

 

 

「先ず可愛い。とにかく可愛いところ。そして俺の事もしっかりと想ってくれているところ。自分の仕事を最後まで成し遂げるところ。自分で判断してから行動出来るところ...」

 

 

2人の好きなところをつらつらと話し始めた。

話を聞いているクラリッサとチェルシーはもう顔を真っ赤にしている。

1分、5分、10分、20分、30分と、一夏の話は止まる事を知らない。

クラリッサとチェルシーは真っ赤を通り越してもう良く分からない感じに沸騰してしまっているし、話を聞いている専用機持ち達やガヤの生徒達も話を聞いているだけで顔を真っ赤にしていく。

 

 

「それに、少し照れた時のふにゃっとした表情が「一夏!もういい!もう良いから!」ん?」

 

 

まだまだ話しそうな勢いの一夏に対して、もう恥ずかしすぎて涙目になっているチェルシーがストップを掛ける。

 

 

「恥ずかしくて私達が限界だ!もう話さなくて良いから!」

 

 

「あと30分は魅力について語って、その後2時間ずつくらいクラリッサとチェルシー個人の魅力を語ろうとしてたのに?」

 

 

「「もう話さなくていい!!」」

 

 

「...しょうがないなぁ。これくらいで勘弁してやろう」

 

 

クラリッサとチェルシーの必死のお願いで一夏の話は終了した。

因みに一夏は涙目の2人を見て

 

 

(可愛い...可愛いなぁ...最高だなぁ...)

 

 

と呑気に考えているのだった。

 

 

「あ、アンタの本気度は伝わったわ...」

 

 

「伝わってくれないと困る!俺は本気でクラリッサとチェルシーの愛して「「わぁああああ!!恥ずかしいからもうやめてぇぇ!!」」はーい」

 

 

鈴の言葉に返事をした一夏の言葉は、もう限界に達しているクラリッサとチェルシーの言葉によって遮られた。

そんな2人を見た一夏は愛しいものを見るかのように口元に笑みを浮かべる。

 

 

(そんな表情見せられたら、もう応援するしか無いじゃない)

 

 

(...何だ、悔しいとも思えないじゃないか)

 

 

(この3人の幸せを願えないと、罰が当たりそうですわ)

 

 

(幸せそう。応援しないとなんか損しそう)

 

 

(全くもう、応援しないといけないじゃ無いの)

 

 

「...一夏、おめでとう」

 

 

鈴、ラウラ、セシリア、簪、楯無は心の中で、シャルロットは小声でそう呟いた。

そんな6人にマドカ、ダリル、フォルテの3人は見守るような視線を向けていた。

 

 

「一夏」

 

 

「ん?どうした、シャル」

 

 

シャルロットが一夏に声を掛け、一夏はシャルロットに視線を向けながらそう返答する。

 

 

「お幸せにね!」

 

 

「......ああ!!」

 

 

シャルロットにそう言われ、一夏は笑顔でそう返答した。

そんな一夏のニッコリとした笑顔を見て、限界を超えていたクラリッサとチェルシーも少し落ち着き、笑顔を浮かべた。

 

 

「そう言えばさぁ、1つ言いたいんだけど」

 

 

「お兄ちゃん、どうしたの?」

 

 

ここで、一夏が唐突にそう言いマドカがそれに反応する。

 

 

「もう直ぐ、チャイムなるよ?」

 

 

一夏のその言葉に、全員が固まった。

そう、一夏は先程クラリッサとチェルシーの2人の好きなところを30分語っていた。

つまり、もう直ぐ昼休みが終了するのである。

 

 

『もっと早く言ってぇ~!!』

 

 

全員が一斉にそう叫ぶと続々と自分のクラスや席に戻っていく。

 

 

「ほら、クラリッサ、チェルシー、持ち場に戻らないと」

 

 

「はっ!?そ、そうだった」

 

 

「はやく行かないと...」

 

 

「ああ......続きはまた後で言ってあげる♪」

 

 

「「/////!?!?!?!?」」

 

 

一夏の最後の攻撃でノックアウトされた2人は顔を真っ赤にしながら逃げるように教室から出て行った。

そうしてそんな2人を見ていた一夏は

 

 

「......可愛いなぁ、もう」

 

 

幸せそうな表情を浮かべながら、そう言葉を零すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぐぐぐぐぐぐ...いっくんがあんな幸せそうな表情を浮かべるだなんてぇ...!!」

 

 

そんな学園でのドタバタを超小型カメラを使用し監視していた束は、一夏の惚気を聞いて顔を真っ赤にしながらそう唸った。

 

 

「ちーちゃんはああ言ってたけど、束さんはまだ認めてないぞぉ...!!」

 

 

束は画面を見ながら、そう言葉を零した。

そう、束が一夏の事を監視している理由。

それは未だにクラリッサとチェルシーの事を認めていないからだ。

姉である千冬が認めているのにも関わらず、だ。

 

 

「こうなったらぁ...実力行使だぁ!!」

 

 

束はそう言うと、早速何かの準備をし始めるのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「なぁ、オルコス」

 

 

《なんだ、一夏》

 

 

「......如何してこうなった?」

 

 

《如何してこうなったんだろうな》

 

 

10月最初の日曜日。

主任である束に『PurgatoryKnights』の会議室まで呼び出された一夏とオルコスはそんな会話をしていた。

だが、それは仕方が無いだろう。

何故ならば。

 

 

「「........」」

 

 

「ムムムムム...!!!」

 

 

目の前で、クラリッサとチェルシーが束と睨み合っていたからだ。

 

 

「はぁ...」

 

 

一夏はため息をついてから、言葉を発する。

 

 

「主任、如何いう状況ですか?俺を呼んだ理由は?」

 

 

「これ!」

 

 

「これですか?この、クラリッサとチェルシーが主任と睨み合ってるのを見せるために呼んだんですか?」

 

 

「うん!」

 

 

「.......駄目だ、理解できたのに状況の理解が出来ない。クラリッサ、チェルシー、説明をしてくれ」

 

 

束の説明を聞いた一夏だが、それだけで全てが理解できたわけでは無かった。

一夏がクラリッサとチェルシーの方向に視線を向けながらそう言うと、2人は説明を開始する。

 

 

「金曜日の夜に私達に篠ノ之博士の声で音声メッセージが届いたんだ」

 

 

「今日、この時間に『PurgatoryKnights』まで来るようにって」

 

 

「そのメッセージ通りに来たの?」

 

 

「いや、怪しいから行かないようにしたんだ。したら...」

 

 

「したら?」

 

 

「......さっき急に篠ノ之博士がやって来て、気が付いたら此処にいたの」

 

 

それを聞いた一夏はギロリと束に視線を向ける。

 

 

「アンタ俺の恋人を拉致したのか?」

 

 

「え!?あ~、まぁ...うん」

 

 

「死ね」

 

 

一夏は殺気を全開にするとダークコアデッキケースを取り出す。

 

 

「ま、待って!いっくん待って待って!!す、ステイステイ!!」

 

 

「あ?大事な恋人を拉致した相手を許すわけ無いだろ?例え拉致先が所属企業の本社ビルだったとしても」

 

 

「取り敢えず無事だったから良いじゃん!落ち着こう!ね!!」

 

 

「はぁ...さっさと分かりやすく説明しろ」

 

 

一夏の鋭い視線を向けられた束はアワアワしながら説明を開始する。

 

 

「だって!いっくんに恋人がいる事が認められないんだもん!だからいっくんに相応しい女かどうか直接確かめようしただけだもん!!」

 

 

「開き直るんじゃねぇ!!なんで千冬姉が認めてんのにアンタが認めねぇんだ!!関係ないだろ!!」

 

 

「うううううう.......!!」

 

 

一夏のあまりにもな怒りっぷりに会議室が震える。

 

 

《一夏、落ち着け。そう興奮していては冷静な判断が出来ない。バディファイターから判断力を取ったら破滅だ》

 

 

「っ!そうだな。ふぅ......落ち着いた」

 

 

オルコスに言われ、一夏はいったん冷静になる。

言われて直ぐに切り替えられるあたり、流石である。

 

 

「あの、一夏?1つ聞きたい事があるんだけど?」

 

 

「ん?どうしたチェルシー」

 

 

チェルシーの言葉に対して一夏は視線を向けながらそう返答する。

 

 

「あの、篠ノ之博士はなんで此処に私達を呼んだの?此処って一夏の所属企業の本社よね?」

 

 

チェルシーの言葉にクラリッサが同調する様に頷いている。

それを見た一夏は一瞬視線を束の方に向けるとそのまま視線を元に戻す。

 

 

「他言無用で頼むが、このアホ兎は『PurgatoryKnights』の開発担当主任だからな。融通が利く此処にしたんだろう」

 

 

一夏の言葉を聞いたクラリッサとチェルシーは驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「そうなのか!?なるほど、だから『PurgatoryKnights』は設立から何年も経っている訳でも無いのにここまで巨大な企業なのか...」

 

 

「いや、あのアホ兎だけのお陰じゃないさ。社長を始めとした上司の方々と、実際に働いている労働者の方々、全員の努力と頑張りの上に会社は成り立ってるからな」

 

 

一夏のその言葉に、クラリッサとチェルシーは納得した。

会社は、組織は1人では成り立たない。

全員の協力があってこそ初めて成り立つものだ。

いくら1人の大天才がいても、組織は上手くいかない。

 

 

「ちょっといっくん!何時までもアホ兎は酷いんじゃない!?」

 

 

「なんだ?ゴミの方が良かったか?」

 

 

「もっと酷いじゃん!!」

 

 

「じゃあなにかこの評価を覆す行動をするんだな」

 

 

一夏はそう言うと、そのまま会議室の扉の前に移動する。

 

 

「じゃあもう帰る。クラリッサ、チェルシー、行くぞ」

 

 

「「一夏、待って」」

 

 

「どうした?」

 

 

そうしてそのまま帰ろうとした一夏だが、クラリッサとチェルシーに呼び止められる。

一夏が振り返ると、2人は覚悟の決まった表情を浮かべていた。

 

 

「篠ノ之博士が認めていないのなら、私達は認めさせてみせる。何故なら、私達は一夏の事を愛しているから」

 

 

「だから、篠ノ之博士を今、この場で認めさせてみせるわ。だから...篠ノ之博士、受けてたちます」

 

 

そうして、クラリッサとチェルシーは束の事を見ながらそう言い切った。

それを聞いた束はがばっと立ち上がるとそのまま2人の方に視線を向けた。

 

 

「フフン!良い気になるのも今の内だよ!」

 

 

「...何をする気なんだ?」

 

 

「そりゃあもう、いっくんの恋人に相応しいかどうかテストするのさ!!」

 

 

「はぁ...」

 

 

束の自身満々な表情を見た一夏は、思わずため息をついた。

だが、直ぐに頭を振って意識を切り替えるとクラリッサとチェルシーに近付く。

 

 

「2人がやるって決めたなら俺は止めない。だから」

 

 

一夏はそう言うと、2人に顔を近付ける。

そして

 

ちゅ

 

と、それぞれの頬にキスをした。

キスされた瞬間にクラリッサとチェルシーの顔は赤くなっていく。

 

 

「頑張ってのおまじないって事で♪」

 

 

そんな2人に一夏は笑みを浮かべながらそう言った。

 

 

「...ありがとう、一夏。これで百人力...いや、万人力だな!」

 

 

「ええ、絶対に認めさせます!」

 

 

「うぐぐぐぐぐぐぐぐ......!!」

 

 

そんな3人のやり取りを見て束は悔しそうな表情を浮かべる。

そうして、束によるクラリッサとチェルシーのテストが始まった。

 

 

~TEST1 料理~

 

 

「こっちは出来たぞ!」

 

 

「後3分!お皿の準備を!」

 

 

「任せろ!」

 

 

『PurgatoryKnights』、社員食堂。

日曜日の為営業していなかったそこを借りてクラリッサとチェルシーは料理をしていた。

食堂の席には束と一夏とオルコスが並んで座っていた。

 

 

「うぐぐ...なんて良い手際なんだ...!!」

 

 

《それに、2人の連携も申し分ない》

 

 

そんな2人を見て、束とオルコスはそんな感想を漏らす。

そして一夏は

 

 

(2人並んだエプロン姿...良い...結婚出来たらこうなるのかな?)

 

 

と笑みを浮かべながらそんな事を考えていた。

 

 

「「出来ました!!」」

 

 

そうして完成した3人分の料理を持ってきた。

 

 

「「「いただきます」」」

 

 

一夏とオルコスと束はクラリッサとチェルシーの料理を食べ始める。

 

 

「うん、美味しい!!」

 

 

「うぐっ!?なんて完成度だ...!?」

 

 

《フム、美味しいではないか》

 

 

3人はそれぞれの感想を言いながらガツガツと食べ始める。

 

 

「「「ご馳走様でした」」」

 

 

食べ終わった一夏はクラリッサとチェルシーに視線を向ける。

 

 

「クラリッサ、チェルシー、美味しかったよ!!」

 

 

「そう言ってくれると嬉しいな」

 

 

「一夏に褒められると自身が付くわ」

 

 

「うぐぐぐぐ......これは、料理は認めるしかない...!!合格...!!」

 

 

束の合格の声を聞いた2人はハイタッチする。

 

 

「次!!」

 

 

~TEST2 掃除~

 

 

「此処の汚れしつこい!!」

 

 

「ほら、メラミンスポンジだ!」

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

『PurgatoryKnights』、開発主任専用研究室。

束が開発主任であるという事は知られていない為、束は自分のラボにいないときは基本此処にいて、生活してるのである。

 

 

「おいアホ兎。なんでこんなに汚いんだよ」

 

 

そして、何故此処でクラリッサとチェルシーが掃除のテストをしているのかというと、単純に此処が滅茶苦茶散らかってるし汚れているからである。

 

 

「だって、束さんは掃除苦手なんだもーん」

 

 

「...クロエさんは?」

 

 

「最初の方は掃除してくれてたんだけど、なんか途中からしてくれなくなったんだよねぇ~」

 

 

「まぁ、その気持ちは分かるな。俺だって掃除したくねぇ」

 

 

一夏はそう言った後、帰る前にクロエに顔を出してから帰ろうと考えるのであった。

そうして十分後。

 

 

「「終わりました!!」」

 

 

クラリッサとチェルシーは掃除を終了した。

 

 

「おお...あんなに散らかってて汚れていたのに...」

 

 

《まるで引っ越したてのようだ》

 

 

一夏とオルコスは綺麗になった室内を見てそう感想を漏らした。

十数分前までもう半分ゴミ屋敷だったのに、もう完璧に綺麗になっていた。

 

 

「1時間も掛かって無いのに綺麗になるだなんて...合格...!!」

 

 

「その前に折角2人が綺麗にしてくれたんだから汚さないように!!」

 

 

「はい!!」

 

 

法覚の判断を下した束に一夏は半分怒りながらそう声を発し、束はそれに元気よく返事をする。

 

 

「取り敢えず次!!」

 

 

~TEST3 洗濯~

 

 

「...なんで全部同じ服なんだ?」

 

 

「さぁ...?」

 

 

『PurgatoryKnights』、社内寝泊まり室の近く。

名前の通りどうしても会社に寝泊まりをして仕事をしないといけない人の為の宿泊部屋であり、シャワー室等も近くにあるこの部屋の近くには洗濯機が大量に置いてあるのだ。

そうして、その洗濯機を使いクラリッサとチェルシーは束の服(全てがアリス風エプロンドレス)を洗濯しているのである。

 

 

「おいこらアホ兎。アンタもしかして洗濯面倒くさいからクラリッサとチェルシーに押し付けたのか?」

 

 

「そ、そんな訳無いじゃん!!」

 

 

《その反応は肯定だぞ》

 

 

「うっ!?」

 

 

「はぁ...まぁもう良いけどさ...」

 

 

束の反応に一夏はため息をつきながらそう返答する。

そうして大体数十分後。

 

 

「...何処に干せばいいんだ?」

 

 

「それならシャワー室の隣に乾燥室があるからそれ使ってくれ。アホ兎、回収は自分でしろよ」

 

 

「それくらいは分かってるよ!!」

 

 

全てのエプロンドレスの洗濯が終わった2人は一夏の案内で乾燥室に1つ1つ干していき、乾燥室のスイッチを入れる。

 

 

「手際は完璧だったな」

 

 

《ああ。それにエプロンドレスにダメージが入らないようにしていたぞ》

 

 

「うぐぅ...合格だよぉ!!次で最後!!」

 

 

~LAST TEST 組み手~

 

 

「ふっ!」

 

 

「はぁ!」

 

 

「とぁああ!!」

 

 

「......何で3人が組み手をしているんだ?」

 

 

《我に聞くな》

 

 

『PurgatoryKnights』の運動場。

此処は社員の人達が自由に使用できる場所であり、運動不足に悩んでいる人が結構な頻度で利用しているのである。

そんなこの場所で、クラリッサとチェルシーは束と組み手をしていた。

束は細胞レベルでハイクオリティでハイスペック。

つまりは身体能力もかなり高い、高すぎるのである。

だが、クラリッサとチェルシーは2人同時とは言えそんな束と拮抗しているのである。

 

 

「ハァ!」

 

 

「甘い!」

 

 

「そっちもです!」

 

 

「ぐぅ...!?」

 

 

クラリッサと束が見合った時、束の意識から一瞬外れたチェルシーが束に肉薄しそのまま蹴りを入れる。

そうして衝撃で少し束の動きが止まってしまった瞬間

 

 

「ハァ!!」

 

 

「あがぁ...!?」

 

 

クラリッサが束の事を思いっ切り殴り束は少し吹き飛ぶ。

 

 

「おおお...アホ兎が少しとは言え吹き飛ぶ姿を見るだなんて......」

 

 

一夏はそう驚きの感想を漏らす。

幼少期から束の人外さを見ている一夏としてはとても衝撃だったのだろう。

そうして吹き飛んだ束の事をクラリッサとチェルシーが注意深く見ていると束は

 

 

「あ、あっはははははは!!」

 

 

と、大笑いをしながら立ち上がった。

急な事に一夏達が驚いていると、束はそのままクラリッサとチェルシーに近付いて行く。

 

 

「束さんを吹き飛ばせるくらいの実力があれば、いっくんを守ってあげられるね」

 

 

優しい笑顔を浮かべながら束がそう言った事で、3人は同時に驚いた表情を浮かべる。

 

 

「篠ノ之博士、まさか...」

 

 

「うん、言おうと思ってることであってると思うよ。束さんは、君たちにいっくんを守って欲しかったんだ」

 

 

「え...?」

 

 

束の言った事に一夏は呆気に取られたような声を発した。

そんな一夏に束は優しい視線を向けながら言葉を続ける。

 

 

「いっくんは無茶しがちだからねぇ。束さんは常にヒヤヒヤしてるよ。だから、いっくんの恋人さんにはいっくんを守れて、支えられる人じゃないと認められなかったんだよ」

 

 

「束さん...」

 

 

「だからね、()()()()()()()()()()()

 

 

束は2人の事をあだ名で呼ぶとそのままニコッと笑みを浮かべた。

 

 

「いっくんの事、守ってあげてね?」

 

 

「「.......はい!!」」

 

 

束の言葉に、クラリッサとチェルシーはしっかりとした表情で頷いた。

 

 

「うんうん、これからは束さん事を名前で呼んで良いからねぇ!」

 

 

「...束さん」

 

 

「ん?どったのいっくん」

 

 

「......貴女の気持ちは伝わりました。さっきはすみませんでした」

 

 

「良いんだよいっくん。説明も無しに拉致したのは事実だし。それじゃあ、3人とも」

 

 

束はそう言うと、そのままぐるっと3人の表情を見回してから続きを話す。

 

 

「お幸せにね!!」

 

 

「「「...はい!!」」」

 

 

3人の笑顔を見た束は満足そうに頷いた。

 

 

「今日は急に呼び出してごめんね!」

 

 

「本当ですよ」

 

 

「チョッといっくん!?」

 

 

「アハハハハ!それじゃあもう帰りますね。今度は余裕があるときに読んでください。料理作ってあげます」

 

 

「本当!?それは楽しみ!!じゃあね!!」

 

 

「はい、また」

 

 

「では、また今度」

 

 

「また今度お会いしましょう」

 

 

一夏とクラリッサとチェルシーは3人で並ぶと、クロエに顔を見せるためにクロエがいるであろう研究室に歩いて行くのだった。

因みに、クロエと会ったクラリッサがかなり混乱していたのは余談である。

そうしてこの場に残った束は

 

 

「いっくん......やっぱりちょっと悔しいけど、それでもいっくんの幸せそうな笑顔が見れて束さんは満足だよ」

 

 

と、笑みを浮かべるのだった。

 

 

「あ、服回収しなきゃ!!」

 

 

 

 




ミッションカード “天災兎を説得せよ!”

ダンジョンW
魔法
ドロー/回復

■『設置』(このカードは場に置いて使う)
■君のモンスターが攻撃した時、君のデッキの上から1枚を、裏向きでこのカードのソウルに入れる。
■このカードのソウルが5枚以上になった時、このカードをドロップゾーンに置く。置いたら、君のライフを+2し、2枚引く!

フレーバーテキスト
天災兎に認められろ!そうしたら恋人との交際が許可されるぞ!

なんとなく作ったら微妙になってしまった。
多分採用するとしたら1~2枚。

これで遂に世紀の大天災にも認められたぜ!
これからお幸せにな!

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告何時も本当にありがとうございます!!
今回も是非よろしくお願いします!!


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壊レユク身体

なんて不穏なサブタイなんだ...

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

一夏とクラリッサとチェルシーが『PurgatoryKnights』で束とあれやこれやあった翌日。

今日は普通に平日である。

朝のSHR前の1年1組の教室には一夏が1人だけの状況で、一夏は自分の席でPCを使用し仕事をしていた。

机の上にはブラックコーヒーの500㎖のペットボトルが置いてあり、もう3分の2が飲まれていた。

 

 

「う~ん...如何したものかなぁ...?」

 

 

一夏は難しい表情を浮かべながらPCでの作業を進めていく。

そんな一夏の事を廊下から心配そうに見つめる人物が2人。

クラリッサとチェルシーである。

大切な恋人が朝早くから仕事をしている。

しかも以前吐血をしてぶっ倒れた人が。

そんなの心配しない方が嘘まである。

 

 

「一夏は大丈夫だろうか...?」

 

 

「大丈夫だとは思うけど...それでも心配...」

 

 

クラリッサとチェルシーはそう呟く。

しかし、何時までも一夏の事を見ている訳にもいかないので2人は1組の教室前から移動していった。

 

 

「...また心配かけさせてるのか、俺は」

 

 

そんなクラリッサとチェルシーの会話を聞いていた一夏はそう呟き視線を先程まで2人がいたところに視線を向けた。

一夏は暫くそうしていたが、直ぐに仕事を再開した。

それから時間は流れSHR開始の時間が迫って来ると同時に続々とクラスメイト達が教室にやって来る。

教室にやって来た生徒達は一夏が仕事をしている事を察して静かに席に向かっていく。

そうして時間が流れる事数十分。

SHRの開始時間となった。

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

「全員席に着け!SHRを始める!」

 

 

チャイムが鳴ると同時に千冬と真耶が教室に入って来て、千冬がそう指示を出す。

それと同時に一夏はPCをスリープにすると机の上のペットボトルと同時に仕舞う。

クラス全員の準備が完了したのを確認した千冬は頷くと言葉を発する。

 

 

「今日は全員に連絡がある。1週間後、専用機持ち限定のタッグマッチが行われる事になった」

 

 

千冬のその言葉を聞いたクラスの全員は驚きの表情を浮かべる。

急にそんな事を言われたら驚くに決まっている。

 

 

「織斑先生、タッグマッチをする理由はなんですか?」

 

 

シャルロットが手を上げながらそう質問をする。

そんな質問が来ることは分かっていたかのように千冬は頷くとその質問に返答する。

 

 

「この間のキャノンボールが中止になった事、それにそもそも観戦出来なかった企業や国などから不満の連絡がかなりあってだな。その為専用機持ち達の戦闘を見せる事になったのだ」

 

 

そう説明する千冬の表情は凄い面倒くさそうなものだった。

千冬も納得している訳では無いという事だろう。

 

 

「その為、専用機持ちはそれぞれペアを作っておくように」

 

 

「「「「はい」」」」

 

 

「......はい」

 

 

千冬の言葉に一夏、シャルロット、セシリア、ラウラはしっかりと、深夜はボソッと反応する。

その後真耶が話し始め今日の予定を数点話した。

 

 

「それでは、今日のSHRはこれで終了す「織斑先生、1つ良いですか?」どうした織斑」

 

 

千冬の言葉を遮る形で一夏が手を上げながら発言をした。

その瞬間に一夏に視線が集まる。

 

 

「さっきのタッグマッチの話なのですが、1つ聞き忘れていた事がありまして」

 

 

「なんだ、言ってみろ」

 

 

「オルコスたちってどうなりますか?」

 

 

一夏の言葉を聞いた千冬は考えるような表情を浮かべ顎に手を置いた。

そして数秒後。

 

 

「分からないな...仕方が無い。あとで確認しておくからそれまではペアを組むな」

 

 

「了解」

 

 

千冬の言葉に一夏は頷く。

 

 

「改めて、これでSHRは終了する!次の授業の準備をしておけ!」

 

 

一夏が頷いたのを確認した千冬はそう言うと真耶と共に教室から出て行った。

そうしてクラスの全員が授業の準備をし始める。

 

 

「はぁ...仕事あるのになぁ...いろいろと面倒だなぁ......」

 

 

そう呟いた一夏に、深夜以外のクラスの全員から心配そうな視線を向けられた。

一夏はそれに気が付いていないのか、それとも気にしている余裕がないのかは分からないが特に反応することなくPCを取り出すと、かなりの速度でタイピングし始める。

 

カチャカチャカチャカチャカチャカチャ

 

そんなタイピングの音は、授業開始のチャイムが鳴るまで途切れる事は無かった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

一夏side

 

 

......あ、れ?

なんだ...?

身体が、熱いし、重たい...

昨日は、織斑先生から説明があって......

どうなったんだっけ?

 

 

「...今、何時だ?」

 

 

う、く...?

なんで、ベッドから時計を、簡単に、見れねぇんだ...!!

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ...

 

 

「8:47...!?」

 

 

遅刻じゃねえか...!

早く、準備...!

そう思い、ベッドから降りようとした瞬間だった。

 

 

「う、あ...?」

 

 

ドサッ!!

 

 

足に力が入らず、そのままベッドから落ちてしまった。

 

 

「い、た...」

 

 

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ...

くそ...!

上体が、起こせない。

せめて仰向けに、なりたいけど、それも出来ない...

 

 

「はぁ、はぁ...ゴホッ!ゴホッ!」

 

 

咳も出てる...

 

 

「オル、コス......」

 

 

声を出すのも難しい。

身体が重たい。

動けない。

 

 

《一夏、如何した!?》

 

 

さっきの俺の微かな呟きを聞いてオルコスSDが慌てて来てくれた。

う、く...

だけど、上手く説明できない...

 

 

「身体が、動かない...」

 

 

《なに!?取り敢えず、身体を起こさないと!!》

 

 

オルコスはそう呟くとSDを解除する。

 

スゲェな...

狭、い室内で、器用だな...

 

オルコスはそのまま俺の身体を支えると壁に背中を持たれかけることが出来るところにまで移動させてくれる。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ......」

 

 

呼吸は、しやすくなった。

それでも、意識が、はっきりしないし、身体は思うよう、に動かないし、熱い...

 

 

《一夏、大丈夫か!?》

 

 

「あ、あ...ヤバい......」

 

 

《......熱い。体温計!》

 

 

オルコスが俺の額に手を当ててからそう言うとSDに戻り体温計を取りに行ってくれる。

そんなオルコスの姿をボーッと見る。

壁に全体重を預けてるから少しは楽になって来た。

でも、だるいし、熱いし、動かないし、はっきりしない...

 

 

《体温測れ!》

 

 

「...あ、分かった」

 

 

はぁ、はぁ...

う、くぁ...

脇の熱気逃がすのも、一苦労...

そうして苦労しながら脇に体温計を挟む。

 

ピ――

 

ア、レ?

こんな音じゃなかった気が...

 

 

「エラー...?」

 

 

取り出した体温計は体温では無く、『ERROR』の表記をしていた。

 

 

「はぁ、はぁ...もう、1回...」

 

 

何度か試しても、全てがエラーだった。

 

 

《もしかすると、一夏の体温が高すぎてその体温計では測れないのかもしれない》

 

 

「それは、無いだろ。45℃ま、で、測れる、やつだ、ぞ」

 

 

《だが、現に測れていない》

 

 

そう、何だよなぁ...

はぁ、はぁ...

駄目だ。

上手く思考が出来ない。

 

 

「ゴホッ!ゴホッ!...はぁ、はぁ......」

 

 

《...一夏。博士の所に行くぞ》

 

 

?

なんで、博士のところなんだ...?

 

 

《ここ最近のお前の身体はおかしい。1度こちらの技術でも検査をしておいて損は無いだろう》

 

 

「確、かに...ゴホッ!」

 

 

《...早い方が良いな》

 

 

オルコスはそう言うと再びSDを解除する。

そうして俺の事を抱きかかえる。

 

う、おぇ、この浮遊感が、気持ち悪い...

 

 

《耐えろ》

 

 

「あ、ああ...学園、には...」

 

 

《我が誤魔化しておく》

 

 

「分かった...」

 

 

もう、駄目だ。

意識が...

 

 

「オルコス、もう、寝る...」

 

 

《ああ、寝ていろ。オープン・ザ・ゲート》

 

 

狭まる視界でオルコスがゲートを開けたのを視認して、俺は眠りに付いた...

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

三人称side

 

 

一夏がオルコスにヒーローWにまで搬送されているのと同時刻。

 

 

「...織斑は如何した?」

 

 

1年1組の教壇に立っている千冬はそう言葉を発した。

今現在は朝のSHR中。

何時もなら確実に一夏は自席にいるのである。

しかし、一夏の席である最前列中央席は空席のままだ。

千冬の言葉を聞いたクラス全員は一瞬一夏の席に視線を向けるも、誰も言葉を発しない。

 

 

「...誰も知らないのか?」

 

 

今度の千冬の言葉には、クラス全員が頷いた。

 

 

「デュノア、会社の方の予定で何か無いのか?」

 

 

「特に一夏に予定は入って無いですね...今日は会社で会議がありますけど新規の製品開発なので現段階では一夏は関係ない事ですし......」

 

 

「そうか...」

 

 

同じ会社のシャルロットなら何か知っているのではないかと思ったがそれも駄目だった。

千冬は暫く考えるように顎に手を置いた後、ラウラに視線を向ける。

 

 

「ボーデヴィッヒ、クラリッサに連絡を入れて確認してみてくれ」

 

 

「分かりました」

 

 

千冬に指示されたラウラはスマホを取り出しクラリッサに連絡を入れる。

恋人であるクラリッサなら何か知っているかもしれないと考えるのは普通だろう。

 

 

「クラリッサ、私だ。今一夏が教室にいないんだが何処にいるか知っているか?...ああ、そうか。邪魔をしてすまなかったな。......ああ、また後で」

 

 

通話を終了させたラウラはスマホを仕舞い千冬に視線を向ける。

 

 

「クラリッサも分からないとの事らしいです」

 

 

「そうか、ならオルコット」

 

 

「はい、チェルシーに確認しますわ」

 

 

今度はセシリアがスマホを取り出しチェルシーに連絡を入れる。

 

 

「チェルシー、私ですわ。一夏さんが何処にいるか知りませんこと?SHRですが教室におられなくて...ええ、ええ...分かりました。あとで連絡しますわ」

 

 

通話を終わらせたセシリアはスマホを仕舞う。

 

 

「チェルシーも知らないと言っていましたわ」

 

 

「フム...」

 

 

千冬がそう頷いたとき、職員室に連絡を確認しに行っていた真耶が教室に戻って来た。

 

 

「織斑先生、職員室にも何も連絡は無いです」

 

 

「そうか...仕方が無い。織斑の事は後で確認する。SHRを再開する」

 

 

真耶の言葉を聞いた千冬はそう反応する。

何時までも一夏の事に時間を割けないと判断したのだろう。

千冬のその言葉を聞いて、クラスの全員の視線が千冬に集まる。

その瞬間に

 

コンコンコンコン

 

そんなノックする音が()()()()()聞こえて来た。

ガバッと全員が視線を窓の方に向けると、窓を叩いているオルコスがいた。

千冬は少し慌てた様子で窓の方に向かうと窓の鍵を開ける。

 

 

「オルコスソード!一夏は如何した!?」

 

 

一夏のバディで常に一緒に居るオルコスなら流石に一夏の居場所を知っている。

そう思った千冬は直ぐにオルコスにそう質問する。

一夏への呼び方が苗字から名前に変わっているあたり、内心で焦っていたことがうかがえる。

 

 

《一夏は今朝から発熱した》

 

 

「なっ!?」

 

 

『えっ!?』

 

 

オルコスの言葉を聞いた全員が驚きの声を浮かべる。

 

 

「い、一夏は無事なのか!?」

 

 

《それは分からない。だが、今は保健室でも会社でもなく、取り敢えず安全な場所で安静にしている》

 

 

オルコスの遠回しな言い方で千冬、セシリア、ラウラの3人は察した。

今一夏はバディワールドにいると。

 

 

「分かった...」

 

 

《ああ。だから一夏は欠席で頼む。それと、来週のタッグマッチは欠場で構わないな?》

 

 

「勿論だ。体調が悪いものを戦わせるわけには行かない」

 

 

《では我は一夏のもとに戻らさせてもらおう》

 

 

「ああ」

 

 

オルコスは最後にそう言うとそのまま窓の前から教員寮の方に飛んでいった。

そして誰も見ていない場所にまで移動したオルコスはゲートを開くとダークネスドラゴンWを経由してからヒーローWに向かった。

 

 

「......そういう訳なので、織斑は欠席だ」

 

 

オルコスが飛んでいったのを確認した千冬は窓を閉めてからそう呟いた。

 

 

「ボーデヴィッヒ、オルコット、後で連絡を入れておいてやれ」

 

 

「分かっております」

 

 

「了解しました」

 

 

千冬はセシリアとラウラに視線を向けながらそう言い、2人はすぐさまそう返事する。

 

 

「...もう時間だな。それでは今日のSHRを終了する。授業の準備をしておけ」

 

 

千冬はそう言うと、教室から出て職員室に向かっていく。

しかしその声色からは何時もの覇気は感じられなかった。

 

 

(一夏が熱を出した...やはりまた一夏に負担を掛けていたのか...?だがしかし、今は10月、寝冷え等の可能性も...いや、一夏だぞ。あの小学生のころから私より家事や体調管理が出来た一夏だぞ。そんなミスをする訳...いや、ここ最近の一夏はまた仕事で体調管理が疎かになっているのかも...)

 

 

千冬はそう悶々と1人で考えている。

別に千冬が今この場であれこれ考えても一夏の体調は改善しないという事が分かっていながらも考えてしまうのは、やはり一夏が大切な家族だからだろう。

 

 

「お、織斑先生早いですって!待って下さい~!!」

 

 

真耶が1人でスタスタ歩く千冬にそう声を掛けるが、1人で悶々と考え周りの声が聞こえていない千冬は真耶に気付くことなくそのまま職員室にたどり着くのだった。

 

 

そして千冬と真耶の去った教室ではすっごい重い空気になっていた。

一夏が発熱している。

そんな事を聞いて明るい雰囲気を保てるわけが無かった。

準備が終わった殆どの生徒が自分の席に座って待機している中、ラウラとセシリアだけはスマホを持ってそれぞれ人気のないところに移動した。

 

 

「クラリッサ、私だ」

 

 

『隊長、一夏は、一夏はどうなったんですか!?』

 

 

ラウラが通話をした瞬間にそう焦ったようなクラリッサの声が聞こえて来た。

恋人が教室にいないという事を急に聞かされたのだ。

焦るに決まっている。

 

 

「ああ。如何やら今朝に発熱をしてしまったようでな。今は安静にしているらしい」

 

 

『一夏が、発熱...!?』

 

 

「オルコスソードの言い方では、如何やら今はこっちの世界にいないらしい」

 

 

『そう、ですか......教えて下さりありがとうございました』

 

 

クラリッサの声色は誰が如何聞いても不安がっているものだった。

以前吐血してぶっ倒れた恋人が今度は発熱、しかも異世界に搬送されていると知ったら物凄く不安がるのは当然だろう。

クラリッサの声色が悪いまま、ラウラは通話を終了させた。

 

 

『お嬢様!一夏は何処にいるんですか!?』

 

 

「ええ、それが如何やら発熱をしてしまったようです」

 

 

セシリアと通話しているチェルシーも、クラリッサと同じような反応をしている。

 

 

「それで、今は如何やらあっちの世界で安静にしているようです」

 

 

『あっちの世界......そうですか。お嬢様、わざわざありがとうございました』

 

 

チェルシーの声は震えていた。

しかし、主人であるセシリアに無礼が無いように平静を取り繕うと、そのまま通話を終了させた。

 

 

そして、ラウラとセシリアはそのまま教室に戻っていった。

そんな2人の足取りは、やはり少し重たいものだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「う~ん...これはかなりひどいなぁ...」

 

 

ヒーローW、メンジョ―はかせの研究室。

この研究室の主であるメンジョ―はかせは手に持っているレポートを見ながら顎髭を撫でていた。

メンジョ―はかせがチラッと視線を移動させると、そこにはベッドで寝ている一夏の姿があった。

その腕には点滴の針が刺さっており、如何見ても重症といった見た目である。

 

 

《博士。一夏の状態を詳しく教えてくれ》

 

 

『そうです!早く!』

 

 

『マスターはいったいどうなっているのですか!?』

 

 

ベッドの隣にいたオルコスSD、そして以前メンジョ―はかせが開発した装置にはめられているダークコアデッキケース...つまり白式と白騎士がいた。

 

 

「取り敢えず一夏君の今の体温は47℃だ」

 

 

『47℃...!?』

 

 

『かなり危険じゃないですか!?』

 

 

メンジョ―はかせの言葉を聞いた白式と白騎士はそう驚きの声を発した。

 

 

「うん、そうだ。だけどオルコスが最初に持ってきたときよりも少し下がってる気がする。まぁ、これははかせの感覚だから何とも言えないが」

 

 

《そうか......それで、一夏の発熱の原因はなんだ?47℃なら、ただの風邪なんかじゃ無いんだろう?》

 

 

「ああ.........一夏君の体調不良の原因は............」

 

 

メンジョ―はかせがその次の言葉を発しようとした、その瞬間だった。

 

 

「え、う、あ.......」

 

 

ベッドの上から微かにそんな声が聞こえて来た。

がばっとメンジョ―はかせとオルコスが視線を向けると

 

 

「こ、こ、は......?」

 

 

辛そうな表情を浮かべる一夏が目を覚ましていた。

 

 

 

 




主人公の体調が安定していた小説内での期間、約1ヶ月(その間も異変はあった)。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告何時も本当にありがとうございます!!


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その剣に籠めるもの

前回の続き。
どうなるのかな?

ブシロードカードゲーム祭り2022でバディファイトカップが開催されるのが凄い嬉しいです!
作者は情報確認が遅れて参加申し込み出来なかったんですけど、また公式が大会を開催してくれるだけで満足です!
さぁ、バディファイトだ!

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

暗い、暗い。

 

 

何処だ、此処は。

 

 

俺は、なんで此処にいる?

 

 

あ、あ、あ...

 

 

―――...―――.......―――――――

 

 

気持ち悪い。

 

 

なんだこの声。

 

 

―――――りゅ―の―――は

 

 

止めろ。

 

 

お―――な――

 

 

止めろ。

止めろ。

止めろ止めろ。

止めろ止めろ止めろ止めろ止めろぉ!!

 

 

「え、う、あ.......」

 

 

口から、そんな声が漏れた。

その一瞬後には俺の視界は暗い世界から、明るい世界へと切り替わった。

 

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ...

ああ、身体がだるいし、熱い...

なんで、俺此処にいるんだっけ?

 

 

「こ、こ、は......?」

 

 

目を開きながらそう呟く。

目の前に広がるのは真っ白い天井に、俺の腕に刺さってるであろう点滴の袋。

ああ、そうだ。

俺、熱出して運ばれたんだった。

 

 

「はぁ、はぁ...」

 

 

「一夏君、大丈夫かい?」

 

 

この、声は...

 

 

「博、士...」

 

 

「自分で聞いておいて何だけど、辛いだろうから喋らなくていい」

 

 

「は、い...ゴホッ!ゴホッ!」

 

 

咳をすると、喉と肺が痛い。

痛いのに体がだるくて腕が動かせないから余計に痛い。

 

 

「一夏君、君は今かなりの高熱だ。多分意識を保っているのがやっとだろう。水を飲んで汗を拭いたらもう1度寝よう。オルコス、はかせは着替えを持ってくるから一夏君にスポドリ飲ませて汗拭く準備しておいて」

 

 

《了解した》

 

 

博士はそう言うと視界から外れて、今度はオルコスが視界に入って来る。

 

 

《上体は起こせそうか?》

 

 

オルコスに言われたので、上体を起こそうとする。

う、く、ぁ...!

駄目、だ...

動かない...

 

 

「む、り...」

 

 

《無理ならそのまま寝ておけ。ほら、咥えろ》

 

 

オルコスはゴムストローを口元に差し出しながらそう言ってくれる。

 

う、ぁ...

ストローも、咥えずらいって、どう、いう、事だ...

 

なんとかストローを咥え、そのままスポーツドリンクを飲む。

スポーツドリンク特有の味が身体に染み渡る。

 

 

「はぁ、はぁ...ありが、とう...」

 

 

《気にするな》

 

 

『そうだよ!マスターは今病人なんだよ!』

 

 

『自分の身体の事だけを考えてください!』

 

 

「白式、白騎士...いたんだ」

 

 

気が付かなかった...

 

 

「ゴホッ!ゲホッ!ふぅ...はぁ...ふぅ...」

 

 

《深呼吸しろ。過呼吸だと余計に苦しくなる》

 

 

「分かっ、て、る...」

 

 

正直、肺をしっかり動かせないくらいには身体がだるいのだが、そんな事言ってられない。

オルコスに言われた通り、大きく息を吸って、吐く。

それを何回か繰り返すと、呼吸はかなり楽になった。

でも、やっぱり身体は思うように動かないし、熱いし、なんかボーッとする...

 

 

「着替え持ってきたよ。それじゃあ、一夏君の汗を拭こう」

 

 

《一夏は自分で身体を動かせないらしい。我らで上体を起こして脱がせないといけない》

 

 

「りょーかい」

 

 

博士とオルコスはそう会話すると俺の身体を掴み持ち上げてくれる。

 

うぇ、急に動かされたから、頭が、揺れて、気持ち悪い...

あ、汗が拭かれてく...

なんか、べっちょりしてたから、良い感じ...

 

そうして俺の汗を拭きとった博士とオルコスはそのまま俺に新しい服を着せてくれる。

...今更だけど、今まで着てた服も博士のか......

 

 

「それじゃあ一夏君、ゆっくり寝てていいよ」

 

 

「は、かせ...は、つ熱の、げんい、んは...?」

 

 

「......元気になったら説明するよ」

 

 

こういうって事は、分かってるのか...

ああ、もう...

身体が、重いし、だるいなぁ...

 

 

「ゴホッ!ゴホッ!ゲホッ!」

 

 

《一夏、無理をするな。もう寝ろ》

 

 

「あ、ああ...おやすみ...」

 

 

『おやすみなさい、マスター』

 

 

『ゆっくりしてくださいね』

 

 

白式と白騎士を言葉を遠くの方で聞きながら。

俺は再び眠りに付くのだった...

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

三人称side

 

 

一夏がメンジョ―はかせの研究室に運び込まれてから約1週間が経った。

この1週間、一夏はずっと治療を受け、なんとか熱も下がり普通に生活できるくらいにまで回復した。

そしてその間はずっと学園を欠席している。

流石に1週間もこのまま誤魔化せると思っていないオルコスは『PurgatoryKnights』に行きスコールにこの事を説明。

そしてスコールと警備員のオータムの協力を仰ぎ、一夏は『PurgatoryKnights』に搬送されたという事にした。

今IS学園では一夏は検査入院のための欠席という扱いなのである。

 

 

「それで博士。俺の発熱の原因ってなんなんですか?」

 

 

一夏は椅子に座りながらそう言葉を発した。

そんな一夏の前には椅子に座り、レポートを眺めているメンジョ―はかせがいた。

 

 

「ん~~、話しても良いんだけど...」

 

 

メンジョ―はかせはそう呟くとレポートから視線を一夏に向ける。

そうして、それから暫くの間サングラス越しに一夏の事を見つめる。

何時もの少しおちゃらけた雰囲気からは感じられないくらい真面目な雰囲気を醸し出すメンジョ―はかせに、一夏は思わず緊張してしまう。

 

 

「一夏君、これから話すことは多分君にとってかなりの衝撃だと思う。聞いた事を後悔しちゃうかもしれない。それでも...聞くかい?」

 

 

「っ......」

 

 

サングラスの向こうのメンジョ―はかせの真剣な表情を見た一夏は息をのむ。

 

 

《一夏、大丈夫か?》

 

 

『『マスター......』』

 

 

そんな一夏に、オルコスと装置にはめられているダークコアデッキケースから白式、白騎士が心配そうな声を発する。

一夏は視線をオルコスたちに向ける。

わざわざメンジョ―はかせがこんなにも事前注意を言う事となると、かなりの内容であるという事は簡単に予想できる。

 

 

「......はい、聞きます」

 

 

でも、それでも。

一夏はメンジョ―はかせの事を見ながらそう、しっかりと頷いた。

それを見たメンジョ―はかせも頷き返した。

 

 

「それじゃあ、説明しようか...」

 

 

レポートを机の上に置いたメンジョ―はかせはそう呟く。

 

 

「一夏君、君は......」

 

 

そうして、メンジョ―はかせは言葉を発する。

一夏の、身体の事についてを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ.....?」

 

 

その言葉を聞いた一夏は、呆然とそう呟いた。

 

 

「は、ははははは...は、博士、冗談が.......」

 

 

一夏のその言葉は、途中で途切れた。

メンジョ―はかせの表情から、冗談ではないと分からされたから。

一夏の口元は震えており、表情も良いものとは言えない。

 

 

『マスター...』

 

 

「い、何時から...なんですか?」

 

 

白式の声掛けを無視して。

一夏は震える口でなんとかそう呟いた。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ......」

 

 

体調は回復しているのにも関わらず、一夏の呼吸は荒い。

その眼には、驚愕と不安、そして不安が見えていた。

 

 

「やっぱりか...」

 

 

そんな一夏の様子を見たメンジョ―はかせは小声でそう呟くと、説明を始める。

 

 

 

 

 

 

「――――――――――――――――――――――――――――」

 

 

 

 

 

そうして、全ての説明を聞き終えた一夏は

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ...」

 

 

明らかに調子が悪くなっていた。

 

 

「...気分転換でもしたらいい」

 

 

「はか、せ。もう、1つ、良いですか...?」

 

 

そんな一夏にメンジョ―はかせは気分転換を提案するが、その前に一夏がそう声を絞り出した。

 

 

「俺は...織斑一夏は、後どれくらい大丈夫なんですか...?」

 

 

「...分からない。でも、多分......1年以上は無理だと思う」

 

 

「っ...!!」

 

 

メンジョ―はかせにそう言われた一夏の表情は、真っ青で。

 

 

「一夏君、白式の外装を煉獄騎士に追加する案は白紙だ。ただでさえ今後どうなって行くのか分からないんだ。これ以上負担がかかる可能性がある行為はしない方が良い」

 

 

「は、はい...」

 

 

「余った外装ははかせが有効活用させてもらうよ」

 

 

「分かりました...」

 

 

メンジョ―はかせとそう会話する一夏は如何見ても調子が悪かった。

 

 

「.......外の空気吸ってきます.........」

 

 

一夏はそう呟くと、フラフラとした足取りで研究室を出て行った。

そんな一夏の背中を、オルコスたちは心配そうな表情を浮かべながら見つめていた。

 

 

《...追いかけるとしよう》

 

 

『今は1人でいた方が...』

 

 

《それは分かっている。だが、仮に自殺行為等をしようとしたら止めないといけないからな。陰から見守る》

 

 

オルコスはそう言うと、一夏に気が付かれないような距離を保ちながら一夏の後を追いかけた。

そうして、研究所に残ったのはメンジョ―はかせと白式と白騎士だけ。

 

 

「...ねぇ、白式、白騎士」

 

 

『なんですか、博士』

 

 

メンジョ―はかせの呼びかけに、白騎士がそう反応する。

 

 

「一夏君のサポートって、今のままじゃ限界でしょ?」

 

 

『それは...そうですね』

 

 

『私達はあくまで、ただの意識ですから...』

 

 

白式と白騎士は、そう悔しそうに呟く。

ダークコアデッキケースに宿っている2人は、常に一夏と共に居るといっても過言では無いのだ。

それなのにも関わらず、基本的に一夏に声を掛けるしか出来ないのだ。

そんなの、悔しいに決まっている。

 

 

「そう、君たちは今ただの意識だ。だから...」

 

 

メンジョ―はかせはそう呟くと、研究室の奥の方に置いてあるあるものに視線を向ける。

 

 

「君たちが望むのなら...その状況を変えてあげよう」

 

 

『『...!!』』

 

 

その言葉だけで、メンジョ―はかせがしようとしている事を察した。

 

 

『出来るんですか...?』

 

 

「勿論!だってはかせはバディファイトを研究して100年だよ?そんなの簡単さ!」

 

 

メンジョ―はかせの言葉を聞いた白式と白騎士は

 

 

『『やります!!』』

 

 

と、即決で返事をした。

姿が見えないはずなのに、メンジョ―はかせには覚悟の表情を浮かべている白式と白騎士が想像できた。

そんな事に、メンジョ―はかせは口元に笑みを浮かべる。

 

 

「よし!じゃあ早速作業をしよう!あ、ジェネシス呼ばないと!」

 

 

ドタバタとメンジョ―はかせは研究室を出て行く。

 

 

『『...大丈夫かな?』』

 

 

そんなドタバタとした様子を感じて、白式と白騎士はそう呟くのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「...俺は、如何すればいいんだろうな...なぁ、ディミオス......」

 

 

ドラゴンW、旧煉獄騎士団本部前のディミオスのお墓で。

一夏はしゃがみ、墓標変わりのディミオスソードに触れながらそう呟いた。

 

 

「否定したい。逃げ出したい。もう、仕事も何もかも放って暮らしたい。でも、俺は、俺は.......」

 

 

何か答えが返ってくるはずもない一夏の独白は、空に溶けていく。

しゃがんだままの一夏は、そのままの姿勢で暫くの間過ごした。

一夏の表情は、驚き、痛み、悲しみ...様々な感情が混ざったものだった。

 

 

「クラリッサ、チェルシー...」

 

 

一夏が考えるのは、大切な恋人2人の事。

 

 

「俺は、まだ恋人でいれるのかなぁ......?」

 

 

一夏は、空を見上げながらそう呟いた。

口元は震えていて、顔も真っ青だ。

そして、一夏は俯いた。

右手を心臓部分に当てながら、一夏は

 

 

「俺は、俺は......」

 

 

そう、うわ言のように呟く。

そのまま暫くの間一夏はそうしていたが、やがて俯かせていた顔を上げる。

 

 

「もういっそのこと、期限を迎える前に...今、消えちゃえば楽なのかな...?俺が、織斑一夏が、織斑一夏じゃ無くなる前に......」

 

 

そう呆然と呟く一夏の表情は、もう限界なのが一目でわかる程、憔悴しているものだった。

一夏はフラフラとディミオスソードの柄に手を伸ばしていく。

そうして、柄に手が届くというその瞬間に

 

 

《一夏、とどまれ》

 

 

と、一夏にそんな声が掛けられた。

一夏はビクっと身体を震わせてから振り返ると、そこにはSDを解除したオルコスが立っていた。

 

 

「お、オルコス...」

 

 

《今ここでその行動をとるのは違う》

 

 

オルコスは真剣な表情を浮かべながらそう一夏に言う。

一夏はディミオスソードに伸ばしていた手を引っ込める。

 

 

「なぁ、オルコス。俺は、如何したらいいと思う?だって、俺は、俺は...」

 

 

《...急にあんなことを言われて動揺してるだろう。だが、それを1人で抱え込む必要は無い》

 

 

「...それは......」

 

 

《確かにクラリッサ・ハルフォーフやチェルシー・ブランケット、それに織斑千冬などには説明しにくい...いや、出来ないかもしれない。だが、我が、我らがいる》

 

 

「っ...!!」

 

 

オルコスにそう言われ、一夏は視線をガバッとオルコスに向ける。

 

 

《我ら新生煉獄騎士団は、お前と共に戦う。これからも、常に》

 

 

「......」

 

 

オルコスの言葉を、一夏は黙って聞いている。

 

 

《そして、我も常にお前と共に居よう.......我は、一夏のバディだから》

 

 

「っ!バディ...!!」

 

 

バディ。

その単語を聞いた一夏は表情を変える。

 

 

《ディミオス様よりかはバディでいる期間は短い。だが、それでも!我はお前のバディだ!お前の背負うものは我も背負っている!1人で抱え込むんじゃない!》

 

 

そうして、オルコスは必死に一夏に訴える。

それを聞いた一夏は、

 

 

「そう...だな」

 

 

と、口元に笑みを浮かべながらそう呟いた。

 

 

「......俺には、オルコスがいる。共に戦ってくれる仲間たちがいる。そして...守りたい、守らないといけない大切な存在がある。だから、俺は...」

 

 

一夏はここで1度大きく深呼吸をした。

さっきまでのマイナスな自分を吐き出すかのように。

そして、また前を向くためのチカラを取り込むかのように。

 

 

「俺は、まだ戦う。俺の限界が来るまでは。織斑一夏は、煉獄騎士として戦う。だからオルコス」

 

 

一夏はそう呟いて、オルコスに視線を向ける。

 

 

「俺と一緒に戦ってくれ!」

 

 

《当然だ!》

 

 

そう言い合い、一夏とオスコスは拳をぶつけ合う。

そうして、一瞬後に笑い合う。

 

 

(...まだ、完全に大丈夫だという訳では無いだろう。心はなんとか壊れる前に直せたが、一夏の身体は、もう......)

 

 

だが、オルコスは内心でそんな事を考える。

オルコスの瞳には、まだ一夏が万全の状態で映ってはいなかった。

 

 

そうして、一夏とオルコスが拳を離す。

その、瞬間だった。

 

 

キィイイイイン

 

 

そんな、何かが飛んでくる音が聞こえて来た。

 

 

「ん?オルコス、何この音?」

 

 

《さぁ?我も知らな...こっちに向かっているぞ!》

 

 

「マジかよ!?」

 

 

一夏は咄嗟にダークコアデッキケースを取り出そうとポケットに手を伸ばす。

が、ここで思い出した。

研究室に置いてきたことを。

 

 

「ヤバいか!?」

 

 

ドガァァァアアアン!!

 

 

一夏がそう叫んだ瞬間、そんな爆発音とも聞こえるほどの豪快な音を発しながら、何かが落ちて来た。

土煙が発生し、一夏とオルコスの視線を遮る。

 

 

「くぅ!?」

 

 

《む...!!》

 

 

一夏とオルコスは目に土煙が入らないように目元を覆いながらそんな声を漏らす。

そうして土煙が晴れて、状況が把握できるようになる。

一夏は、何かが落下した地点の事を確認する。

そこにいたのは...

 

 

「アレ?バルソレイユ様?」

 

 

《おお!一夏いたバル!》

 

 

牙王の2代目バディ、太陽の竜 バルドラゴンの真の姿である太陽神の片割れ、超太陽竜 バルソレイユだった。

 

 

《バルソレイユ...何故此処に来た?》

 

 

《博士に状況を聞いたんバル!だから、一夏とオルコスに力を分け与えに来たんだバル!》

 

 

「力を...?」

 

 

バルソレイユのその言葉に一夏は首を傾げる。

 

 

《そうバル!2人とも、手を出すバル!》

 

 

バルソレイユに言われるままに一夏とオルコスは同時に手を差し出す。

すると、バルソレイユは2人の手に自身の手をかざす。

 

 

《はぁぁぁあああ...バルバルバルバルバル...!!》

 

 

そして、バルソレイユはそうブツブツと呟く。

すると、一夏とオルコスの事を白い光のオーラが包み込んでいく。

 

 

「これは...!!」

 

 

《バル~~!!》

 

 

一夏がそう呟いたとき、バルソレイユがそう叫ぶ。

その瞬間あたりが白く、まるで太陽のように暖かい光に包まれ、一夏とオルコスの視界を再び遮る。

そうして光が晴れた時にはもう一夏とオルコスを包んでいたオーラも無くなっていた。

その変わり、一夏の手の中には

 

 

「...カード......」

 

 

1枚のカードが握られていた。

一夏はそのカードを確認するも、白紙だった。

 

 

《バルに出来るのはここまでバル!その力を解放できるかどうかは2人次第バル!!》

 

 

「バルソレイユ様......ありがとうございます」

 

 

《気にしないで良いバル!じゃあ、バルはピザ食べに行くバル!!》

 

 

バルソレイユはそう言うと、そのまま一気に飛んでいった。

 

 

《...騒がしい奴だ》

 

 

「ハハハ、あれがバルさんだよ」

 

 

バルソレイユが飛んでいった方向を見ながら一夏とオルコスはそう会話する。

そうして、一夏はもう1回白紙のカードに視線を移す。

 

 

「なぁ、オルコス」

 

 

《如何した?》

 

 

「...バディファイトしようぜ。今から連絡つく人達とさ」

 

 

《......良いだろう!なら、ダークコアデッキケースを回収しないとな》

 

 

「ああ!」

 

 

一夏とオスコスはそう会話すると、2人はそのままヒーローWに戻り研究室に行く。

 

 

「博士、戻りました」

 

 

「ん?ああ、一夏君...もう大丈夫そうだね」

 

 

「はい、一応は」

 

 

研究室に入ったとき、メンジョ―はかせは一夏の顔を見てそう呟く。

 

 

「それで博士。バディファイトしたいからダークコアデッキケース返して欲しいんですけど」

 

 

「ああ、ダークコアなら奥だよ」

 

 

「奥...?分かりました」

 

 

メンジョ―はかせに言われ、一夏とSDになったオルコスは研究室の奥の方に向かって歩いて行く。

そうして奥の方に着くと、そこには何か作業をしている1人の男性とその作業を見守る1匹のモンスターがいた。

 

 

「アレ?ジェネシスさんにジェムクローンさん、如何したんですか?」

 

 

《あ、一夏!久しぶり!僕とお父さんは、はかせに呼ばれてきたんだよ!》

 

 

一夏が声を掛けると、モンスター...複製模倣兵器 ジェムクローンのSD体がそう返答してくれる。

ジェムクローンは究極のモンスターを目指して生み出された人造モンスターであり、その生み出した科学者のバディモンスターである。

 

 

《お父さん!一夏達来たよ!》

 

 

「ああ...久しぶりだね、一夏君」

 

 

「はい、お久しぶりです。ジェネシスさん」

 

 

ジェムクローンに声を掛けられ、作業をしていた男性...J・ジェネシスが振り返しながらそう反応する。

ジェネシスは嘗てモンスターの研究を行っていた科学者で、人造モンスターを生み出すために何体ものモンスターを亡骸にしてきた。

今ではバディポリスに捕まって罪を償った後に、ヒーローWで嘗ての研究を応用しモンスターを助けるための研究を行っているのだ。

 

 

「えっと...何をしてるんですか?博士に呼ばれたって事ですけど......」

 

 

「...ハハハハハ!絶対にビックリすると思うよ?」

 

 

「《?》」

 

 

ジェネシスのその言葉に、一夏とオルコスは同時に首を捻る。

 

 

「ジェムクローン」

 

 

《はい、お父さん!一夏達、こっちを見て!》

 

 

ジェムクローンはジェネシスの言葉に頷くと、そのままこの場に置いてある大きめの何かに掛かっている布に近付く。

そして、そのままその布を取る。

その瞬間に、当然ながら布の下にあったものが見れるようになる。

 

それを見た一夏は

 

 

 

 

 

 

「ええええええええええええええ!?!?!?」

 

 

 

 

 

と、絶叫を上げるのだった...

 

 

 

 




バル...解放...
さぁ、何かな!?(もう確定のようなもの)

一夏の体調不良の答え合わせはまた後日。
ですが、一夏本人とオルコス、白式と白騎士は知りました。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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タッグマッチに向けて

前回のIS学園側。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

「...心配だなぁ」

 

 

IS学園の食堂にて。

食後のオレンジジュースを飲みながらマドカがそう呟いた。

マドカの表情は如何見ても曇っている。

だが、表情が曇っているのはマドカだけではない。

シャルロット、セシリア、ラウラ、鈴、簪、楯無、ダリル、フォルテ、サラといった食堂にて共に昼食を食べていた専用機持ちメンバーもまた、同じような表情をしていた。

それはそうだろう。

だって、一夏が発熱をし学園外に...『PurgatoryKnights』に運び込まれた(という事になっている)のだから。

 

 

「心配だね...」

 

 

「心配ね...」

 

 

シャルロットと鈴もマドカの言葉に同調する様にそう呟く。

 

 

「ああ、一夏も心配だし、クラリッサも心配だ」

 

 

「ええ。チェルシーも最近顔色が良くありませんわ」

 

 

ラウラとセシリアは食堂の入り口の方を...いや、学園全体を見ながらそう呟いた。

クラリッサとチェルシーは一夏が発熱をしたその日からかなり表情はかなり曇っていた。

そして日に日に顔色もあまり良いものとは言えない感じになっていて、一夏が『PurgatoryKnights』に搬送されたという事を聞いた日からはもう覇気を感じられない程に気力が無くなっていた。

大切な恋人が発熱して倒れ、しかも学園にいないからお見舞いにもいけない。

その不安が、2人の心に重くのしかかっているのだ。

 

 

「確かにハルフォーフさんとブランケットさんも心配だけど......織斑先生も心配」

 

 

「今日は確か、会社の一夏君のお見舞いに行ってるのよね?」

 

 

簪と楯無は食堂の窓の外を見ながらそう呟いた。

そう、2人の言う通りこの学園に千冬はいない。

『PurgatoryKnights』にいるという一夏の見舞いという名目で学園から離れているのだ。

ダークネスドラゴンWの存在を知らない人達なら普通の事なのだが、知っている人からすると少しおかしいのだ。

ダークネスドラゴンWの存在を知っていればオルコスの遠回しな言い方を聞けば、そっちにいるとは察せられる。

特に千冬はオルコスの説明を直接聞いているのだから察していたはずだ。

だが、そんな疑問を口にするとダークネスドラゴンWの存在を説明しないといけなくなるので、マドカ達は説明できないので黙っているのだ。

 

 

「そうですね...お姉ちゃんは、姉で、担任の教師で、それに社長と開発主任の知り合いなので。お見舞いに行くなら適任ですよ」

 

 

「だが、お前らはやっぱりお見舞いに行きたいんじゃねえのか?」

 

 

マドカにダリルがそう言う。

 

 

「...確かに行きたいですけど......大人数で押しかけるとお兄ちゃんに迷惑になりそうですし」

 

 

(というより、私たちからは多分お兄ちゃんに会いに行けないけど......)

 

 

「私達よりも、ハルフォーフさんとブランケットさんを連れて行ってあげたいですし」

 

 

ダリルの言葉にマドカとシャルロットがそう返答する。

 

 

「...ねぇ、一夏の事で、ずっと気になってる事があるんだけど」

 

 

ここで、唐突に鈴がそう切り出した。

 

 

「どうかしましたの?」

 

 

「一夏のバディとかの、あのドラゴン達ってさ、本当にロボットなの?」

 

 

「「「!!!」」」

 

 

「確かに、ロボットとは思えない程生物的っスね」

 

 

鈴のその言葉を聞いたマドカ、ラウラ、セシリアは緊張の表情を浮かべ、それ以外の面々は鈴の言葉に頷く。

 

 

(ヤバいですよ!?)

 

 

(なんとか話題をそらすぞ!)

 

 

(誤魔化しましょう!)

 

 

マドカ、ラウラ、セシリアの3人はアイコンタクトだけで完璧な会話をするとそのまま誤魔化し始める。

 

 

「まぁ、ISがそもそもオーバーテクノロジーなんだ。あれくらい出来るだろう」

 

 

「ええ、私のビットやラウラさんのAICなども、ISが登場する前には絶対に実現しなかった技術なのですし」

 

 

「それに、『PurgatoryKnights』の開発主任は凄いですから!ね、シャルさん!」

 

 

「ええ!?」

 

 

急に話を振られたシャルロットは驚きの声を発する。

しかし、『PurgatoryKnights』の開発主任は束だと夏休みに知った為、シャルロットは漠然となんか納得していた。

 

 

「確かに、うちの開発主任だったらあれくらいは簡単だね...」

 

 

「...『PurgatoryKnights』の開発主任って、どれだけの人なの?」

 

 

シャルロットの呟いた言葉に、サラが頬に汗をたらしながらそう言った。

マドカとシャルロットは苦笑いを浮かべながら

 

 

「「凄く、凄いです」」

 

 

と、脳死返答をした。

そんな2人の様子に鈴たちも苦笑いを浮かべる。

 

 

「それにしても、タッグマッチってどうなるんですかね?」

 

 

「ああ、一夏君が不参加なら専用機持ちの数は奇数になっちゃうのか」

 

 

「奇数?寧ろ偶数じゃないのか?」

 

 

「橘深夜を忘れてますよ」

 

 

「......忘れてたっス」

 

 

空気がチョッと軽くなったタイミングを見計らいマドカが切り出した言葉で、なんとか話題は逸れた。

マドカ、ラウラ、セシリアは楯無達が話をしている隙にアイコンタクトを取り頷き合う。

そして、この間まで1年生専用機持ち達から忘れ去られていた深夜だったが、ダリルやフォルテからも忘れられていたようだ。

簪に言われ、フォルテが視線をそらしながらそう呟いた。

 

 

「私達で考えても何も分からないんだし、取り敢えず指示を待つしかないんじゃない?」

 

 

サラがそう言った事に、この場にいる全員が頷いた。

その瞬間に

 

キーンコーンカーンコーン

 

と、昼休み終了を知らせるチャイムが鳴り響く。

 

 

「ヤバ!早く戻らないと!」

 

 

鈴のその声と同時に全員がバタバタと後片付けをして自分の教室に帰って行く。

 

 

(お兄ちゃん...お兄ちゃんに何があっても、味方はいっぱいいるからね)

 

 

1年3組の教室に向かっている道中、マドカは優しそうな表情を浮かべながらそう考えるのであった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「...束、来たぞ」

 

 

「やぁちーちゃん。いらっしゃい」

 

 

マドカ達が食堂で会話をしているのとほぼ同時刻、『PurgatoryKnights』開発主任用研究室にて。

千冬と束がそう会話していた。

 

 

「それにしても、かなり立派な研究室だな。こんな普通のオフィス街にいて此処に篠ノ之束がいるとバレないのか?」

 

 

「それは勿論!ここには私とスーちゃんが許可した人しか入れないし、万が一バレそうになったら束さんは消えるからさ!」

 

 

束はドヤ顔を浮かべながらそう言う。

そんな束の様子に千冬は思わず殴りたくなる衝動に駆られるも、なんとか抑え込み別の言葉を発する。

 

 

「...学園には一夏は此処で検査入院していると通達されているが...違うんだろう?」

 

 

千冬のその言葉に、束はさっきまでのあっけらかんとした表情から一気に真面目な表情になる。

 

 

「......なんでそう思ったの?」

 

 

「オルコスソードの説明がやけに遠回しだった。あっちの世界の事を知っていれば、そう思うのは当然だと思うが?オルコスソードの説明時点では、一夏はまだ学園にいるはずなんだからな」

 

 

「う~ん...束さんはその説明を聞いて無いんだけどなぁ~」

 

 

「そんな事どうでもいい。それで、如何なんだ?」

 

 

千冬が改めてそう尋ねると、束は1度息を吐いてから、言葉を発する。

 

 

「そうだよ。いっくんは今『PurgatoryKnights』にはいない。いっくんは、ダークネスドラゴンWにいる」

 

 

「そうか...」

 

 

束からしっかりとその事実を聞かされて、千冬はそう反応する。

万が一、此処にいたのなら顔を見ておきたいと思っていたのだろう。

その表情は少し曇っている。

 

 

「束さんもスーちゃんから話を聞いただけなんだけどねぇ~」

 

 

「なんだ、お前には説明が無かったのか?」

 

 

「多分、私にまで話してる余裕が無かったんじゃないかな?スーちゃんも慌てた様子だって言ってたし」

 

 

「なるほどな...」

 

 

バディであるオルコスが慌てる。

つまりは、それ程までに一夏の容態が深刻だという事だ。

それを聞いた千冬はあからさまに不安そうになっていた。

そんな千冬を見る束の表情も、暗いものに変わっていく。

 

 

「...いっくんは無理し過ぎなんだよ」

 

 

「そうだな...一夏は、無理をし過ぎだ」

 

 

束と千冬は同時にそう呟いた。

 

 

「...あらゆる国や企業が、一夏に書類を送っている。その中でも特に、日本政府、国際IS委員会、女性権利団体からはとびぬけているらしい...」

 

 

「いや、とびぬけてるんなんてレベルじゃない。もういっくんの処理してる仕事の8割はその3つからだよ。まぁ、最近は日本政府からの仕事は減ってるらしいんだけど、逆に残りの2つからは増えてるんだ」

 

 

「そうなのか...その3つが、一夏の負担の原因なのか...」

 

 

「いっくんの負担になるから止めさせたいんだけど...昔からいっくんに迷惑かけてる束さん達が言える事じゃないかもね」

 

 

束のその言葉に、千冬と束は同時に自虐的な笑みを浮かべた。

だが、何時までもそうしている訳にもいかないのでやがて表情を再び真面目なものにする。

 

 

「さて、いっくんに関する話はまた後でするとして...ちーちゃん、覚悟は良い?」

 

 

「無かったら今此処に来ていない」

 

 

「それもそっか」

 

 

束はそう言うと、そのまま研究室の奥の方に歩いて行く。

千冬も無言で束の後を付いて行くように研究室を進んで行く。

そうして、奥の奥の奥...『PurgatoryKnights』のビルの中でも最深部の壁の前に着いた。

束はカードキーを取り出すと、カードシリンダーやタッチパネルも何もない場所にカードキーを当てる。

 

ピ――――

 

そんな電子音が響くと同時に、壁が開き部屋が出て来る。

 

 

「手が込んでるな」

 

 

「これくらいはしないと!」

 

 

千冬が呆気に取られたかのように呟いた言葉に、束は嬉しそうな表情を浮かべながらそう返した。

やはり自分の作ったものを褒められるのが嬉しいんだろう。

特に相手は世界で1人だけの親友なのだから尚更だろう。

そして、束と千冬は並んでその部屋の中に入っていく。

 

 

「これが...」

 

 

部屋の中に入った瞬間、そこにあったものを見た千冬がそう声を漏らした。

そんな千冬の反応を見た束は満面の笑みを浮かべる。

 

 

「んっふっふ~凄いでしょちーちゃん!束さん的には最高傑作に近いよ~!」

 

 

「なんだ、言い切らないのか」

 

 

「それは当然!束さんはこれからも進化するからね!これ以上のものを作るのだ~~!!」

 

 

「これ以上ヤバいものを作ると私まで巻き込まれるから止めろ!!」

 

 

束の言葉に千冬が怒鳴るようにしてそう反応する。

千冬は疲れたようにため息をつき、束はニヤニヤしながら千冬の事を見ている。

 

 

「じゃあちーちゃん。早速始めようか」

 

 

「そうだな。時間は有限だからな」

 

 

そうして、千冬と束は作業を開始する。

とはいっても束が殆どの作業をしており、千冬は置いてあったものに乗り込み立っているだけである。

そうして作業をする事約10分。

 

 

「ちーちゃん、終わったよぉ!」

 

 

「流石、早いな......」

 

 

「当然!だって束さんだよ?寧ろこれくらいじゃないと束さんじゃ無いのさ!!」

 

 

作業が終了し、束と千冬はそう会話する。

束はおちゃらけた雰囲気を出しながらも爆速で作業の片付けをしていく。

そうして片付けが終わると千冬は軽く伸びをする。

 

 

「ふぅ...やはり暫くぶりだと違和感が凄いな」

 

 

「へぇ~、ちーちゃんでも違和感なんて感じるんだ」

 

 

「流石の私も感じるさ」

 

 

束の言葉に千冬は苦笑いを浮かべながらそう返す。

 

 

「......束、アリーナは使えるか?」

 

 

「そう言うと思って、事前に今日は誰も使えないようにしてもらったよ!」

 

 

「そうか...では、早速行くとしよう」

 

 

「そうだね!行こう行こう!」

 

 

そんな会話の後、2人は『PurgatoryKnights』のアリーナに向かって歩いて行く。

その道中で、束が千冬に声を掛ける。

 

 

「ねぇちーちゃん。その子でいっくんの事、守ってあげてね。束さんは、表立っていろいろ出来ないからさ」

 

 

少し悲しそうな表情を浮かべながら言う束に対して、千冬は

 

 

「当然だ!」

 

 

と覚悟を決めた表情を浮かべながらそう返すのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

時刻は14:30。

IS学園教員寮、一夏の部屋。

 

 

「「......」」

 

 

此処ではクラリッサとチェルシーが不安そうな、悲しそうな、そんな感情がごちゃ混ぜになったような表情を浮かべながら座っていた。

一夏の容態が分からず不安な2人は、取り敢えず今は自分たちの心を落ち着かせるために一夏を感じたかった2人は、一夏から渡された合鍵を使用し一夏の部屋に来ていたのだ。

今現在は普通に授業の時間なので、教員寮は静かである。

そのシーンとした様子が、この部屋の空気を重苦しいものにしている要素の1つでもあった。

 

一夏の部屋は発熱し、オルコスによってヒーローWに運び込まれてから誰も入っていないので、発熱当時から何も変わっていないのである。

ベッドの近くの床には秋用の掛け布団が落ちているし、机の上には仕事を直ぐに再開する為かスリープモードのノートPCが放置されている。

キッチンにも朝ご飯の準備をするためなのか鍋等が出しっぱなしになっており、味噌汁が少し腐ったような匂いまでしてしまっている。

つまり、綺麗好きで家事が大得意な一夏の部屋とはあまり似つかない状態になってしまっているのである。

 

 

「...取り敢えず、何時一夏が戻って来ても良いように掃除をしましょうか?」

 

 

「......そうだな。一夏の為にも、綺麗にしておこう」

 

 

チェルシーの提案で、2人は一夏の部屋の掃除をする事になった。

いったん各々の部屋に戻って掃除の為の準備をし、道具を持って一夏の部屋に戻る。

そうして、一夏の部屋の掃除が始まった。

クラリッサはキッチン周りを、チェルシーがリビング部分を掃除し始める。

 

 

「...少し匂うが、やはりまだ1週間も経っていないからそこまででも無いな」

 

 

クラリッサはそう呟き、味噌汁が入った鍋を洗う。

鍋の後はコンロの周りの油汚れ等を掃除し始める。

 

 

「...埃は殆どないし、流石は一夏。普段から掃除もしっかりしてるのね.....」

 

 

リビングで掃除機掛けをしているチェルシーはそう呟いた。

そう、一夏は普段から仕事で忙しくても掃除はしっかりとしているので、少し散らかってはいるものの汚れている訳では無いのである。

折角なので普段の掃除ではスルーしがちな部分も掃除し、約1時間30分。

 

 

「ふぅ...もう大体終わったな」

 

 

「後は、枕と布団を少し干しましょう。天日干しは時間とスペース的に出来ないけど、少しくらいは......」

 

 

クラリッサとチェルシーはそう会話した後、ベッドからそれぞれ枕と掛け布団を手に取る。

その瞬間に、感じる一夏の匂いに思わず身体を止めてしまう。

 

 

「「一夏......」」

 

 

2人は同時に呟くと、そのまま枕と掛け布団を抱きしめながらベッドに座る。

 

 

「...今苦しいのは一夏のはずなのに、なんで私達がこんなに落ち込んでいるのかな?」

 

 

「ああ。私達は、一夏の事を支えないといけないのにな...」

 

 

2人は悔しそうな表情を浮かべながらそう言葉を零す。

恋人の発熱も人から聞いて初めて知ったし、看病も出来ない。

つまりは、一夏が大変な状況なのに、自分たちは何も出来ない。

それが、本当に、本当に悔しいのだ。

そして、本当だったら一夏をサポートしないといけないのに自分たちは一夏がいないというだけで落ち込んでいるのが、これまた嫌なのだ。

 

 

「教官にも、篠ノ之博士にも、一夏を支えるように言われているのに...不甲斐ないな...」

 

 

「一夏の為なら、なんでもしたいけど...一夏に何もしてあげられない...」

 

 

2人はそう呟くと、そのまま顔を俯かせてしまう。

2人の頭の中は一夏の事で埋め尽くされていた。

いろいろな不甲斐なさを感じた2人は、もう目元に少し涙を浮かべてしまっている。

ここで

 

♪~~♪~~

 

と、机の上に放置されていた一夏のスマホから着信音が鳴り響く。

その瞬間に思わず2人は顔を上げ、そのスマホに視線を向ける。

スマホの画面には、メールが来たことを伝えるもの、そしてその背後...ロック画面に設定されている一夏、クラリッサ、チェルシーが笑顔で映っている写真があった。

 

 

「「っ...!!」」

 

 

その写真を見た瞬間に、クラリッサとチェルシーは目を見開いて固まる。

そうして数秒後、2人の口元には微笑が浮かんでいた。

 

 

「...私達がするのは、こうやって落ち込んでいる事では無いな」

 

 

「ええ、分かっていた事ではあるのに......気持ちの面で忘れていた......」

 

 

2人はそう呟くと、そのまま視線を合わせる。

 

 

「私達がする事は」

 

 

「一夏がいつ帰って来ても良いように、私達も、一夏も笑顔でいられる空間を作る事」

 

 

2人はそう言い合うと、そのまましっかりとした笑みを浮かべる。

 

 

「取り敢えず、これを干しましょう」

 

 

「ああ。そうしたら、一夏が帰って来た時に何をするか考えるとしよう」

 

 

「そうしましょう♪」

 

 

2人は楽し気にそう会話をすると、改めて枕と掛け布団を干す。

 

 

((一夏。私達は、何時でも一夏の味方だから))

 

 

そう、心の中で覚悟を決めながら。

 

 

 

 




流石に隠し通せないのか...?
はてさて、如何なる事やら(自分で決めてる)。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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タッグマッチ、開催

前回の続き。
暫く一夏の出番なしです。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

一夏が熱を出し欠席し始めてから、約1週間後。

本日は、急遽開催されることになった専用機持ち限定タッグマッチの開催日である。

ただ、GW明けに行われたトーナメントとは異なり観客はアリーナに入れず、自分の国から中継を見るのである。

学園の生徒も観客席には行かず、各々の教室で見る形になる。

警備の方もかなり厳重になっており、クラリッサとチェルシーに加え、今日はIS学園警備員全員が出勤をしている。

そして、そんな中1人IS学園の屋上にいる人物が1人。

 

 

「......」

 

 

深夜である。

一夏が発熱をし欠場になった為、IS学園の全専用機持ちの合計数が奇数となったのだ。

その為、1人だけペアが作れず欠場する事になったのだ。

そして壮絶なる戦い(ジャンケン)の結果、深夜が欠場となったのだ。

その為深夜は今1人で屋上にいてアリーナの事を見下ろしていたのだ。

 

 

「なんで、俺が...」

 

 

深夜は死んだ魚のような目をしながらそう呟いた。

 

 

「俺は主人公...なんで、なんで、なんで大会に出れないんだよ...」

 

 

もうとっくのとうに聞き飽きたことを深夜は未だに言っている。

まともな思考の持ち主ならば、仮に転生した当初...4月に深夜と同じ事を考えていたとしても、これまでの半年間で原作と違う事を山のように見て来たのだから、考え方は変わる筈だ。

しかし、深夜は未だにずっとその考えを引きずっていた。

 

 

「なんで、俺は...」

 

 

同じ様な事をずっと繰り返す深夜。

もし仮にこの場に深夜以外の人間がいたら、深夜の事を心配し声を掛けるだろう。

しかし、此処は屋上。

そんな気の利く人間はいない。

いや、更に都合よくそんな気の利く人間がいたとして、その掛けられた声を聞いて深夜が変わるとも思えない。

それ程までに、深夜は主人公というものに固執していた。

 

 

「......そう言えば、2回目のタッグマッチなんて原作にあったけ?そもそも、学園祭の後ってどういう流れだったっけ?」

 

 

此処で、深夜は漸く違う事を呟いた。

その内容は、今後の展開に関する事だった。

以前キャノンボールの時に思い出せなかった今後の展開。

それは未だに思い出せていないらしい。

 

 

「えっと......なんか、なんかあったんだよ、事件が。なんかあるんだよ...!!」

 

 

深夜は表情を歪ませ、頭を搔きながらそう呟く。

 

 

「クソ!駄目だ、思い出せない......!!」

 

 

思い出せない事にイライラしているんだろう。

無駄に足踏みをしているし、頭を掻いていない方の手で屋上の柵を殴ろうとしている。

 

 

「なんでだよ...!俺は転生したオリ主だろ...!そういうのはずっと覚えてるんじゃないのかよ...!」

 

 

4月の頃から何も成長していない事がうかがえる事を言いながら、深夜はもっと表情を歪ませていく。

 

 

「クソッ!クソッ!クソォ!!」

 

 

そうして、深夜は、ずっと1人でそう呟くのだった...

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「...この日がやって来ましたね」

 

 

「やって来たね」

 

 

IS学園、第一アリーナの更衣室。

此処では、今日タッグマッチに出場する専用機持ち全員が集まっていた。

もう既に全員がISスーツに着替えており、今は試合前に軽く雑談をしている。

今回のペアは

 

マドカ、シャルペア

セシリア、ラウラペア

簪、鈴ペア

楯無、サラペア

ダリル、フォルテペア

 

である。

そして対戦組み合わせは

 

マドカ、シャルペアVS簪、鈴ペア。

セシリア、ラウラペアVSダリル、フォルテペア。

 

である。

試合の結果に応じてこの中のペアが楯無、サラペアと戦う事になる。

 

 

「......このタッグマッチ、また事件が起きる気がするな」

 

 

「確かに、そうかも...」

 

 

ラウラが呟いた事に、簪がそう反応する。

今年に入って、GW明けのタッグトーナメント以外のIS学園のイベントでは基本的に何かしらの事件が起きているのだ。

特に、2学期になってからは襲撃事件が2回も起こっている。

今回のタッグマッチも何かしら起こると思うのは当然だろう。

 

 

「...みんな、1つ良いかしら?」

 

 

「如何したっスか?」

 

 

此処で、楯無が全員に確認するかのように呟いた事に、フォルテがそう返答する。

それと同時に全員が楯無に視線を向ける。

 

 

「多分、今日も何かは起こるわ。だからみんな、絶対に試合中も気を抜かないで。何かあっても直ぐに反応出来るように。そして、直ぐに私や織斑先生に連絡して頂戴。駆けつけるからね。これは、生徒会長とのお約束よ」

 

 

楯無は全員の顔を見ながらそう言うと、パチリと片目を閉じて見せる。

その楯無の様子に、マドカ達は一瞬呆けてしまう。

 

 

「......超久しぶりにお姉ちゃんの生徒会長らしいところを見たかもしれない」

 

 

「ちょっと簪ちゃん!?それは酷いんじゃない!?」

 

 

しかし、簪が呟いた一言で頼りがいのある生徒会長から妹に弄ばれる姉に変わってしまう。

 

 

「楯無...正直そう思った」

 

 

「えっと...私も...」

 

 

「サラちゃん!?マドカちゃん!?もしかして、他のみんなも!?」

 

 

サラとマドカの言葉を聞いた楯無はがばっと視線をまだ何も発言していない鈴達に視線を向ける。

すると、鈴達は苦笑いを浮かべながら視線を逸らす。

何も言葉を発していないが、その反応で察したのだろう。

楯無はへなへなとその場に崩れ落ちる。

 

 

「お姉ちゃん、ショック受けるならもっと生徒会長感出していかないと」

 

 

「そう言われても!!」

 

 

簪の言葉に若干涙目になりながらそう反論する。

そのコミカルな姉妹漫才に当人達以外は笑みを浮かべる。

 

 

「そろそろ移動しねぇとな」

 

 

「確かに、そろそろ移動の時間ですわ」

 

 

ダリルとセシリアのその声に応じ全員が時間を確認する。

すると、確かに第二アリーナで試合を行うセシリア、ラウラペアとダリル、フォルテペアはもう移動しないといけない時間になっていた。

 

 

「それじゃあ、最後に全員で気合いを入れましょう!」

 

 

サラのその一声で全員が頷き合うと、全員が円状に並び右手を前に出す。

そして、代表して楯無が口を開く。

 

 

「これから戦う相手もいるけど、全員仲間。全員頑張りましょう!!」

 

 

『おお!!』

 

 

そうして、全員が同時に右手を頭上にあげ、笑い合う。

 

 

「セシリア、行くぞ!」

 

 

「ええ!」

 

 

「ダリル、いざっスよ!」

 

 

「おう!」

 

 

その様な会話の後、ラウラ、セシリア、フォルテ、ダリルは更衣室から出て行った。

そんな背中を見て、

 

 

「僕たちも行っておこうか?」

 

 

「そうですね、行きましょう!」

 

 

「簪、私達も行くわよ!」

 

 

「うん、行く」

 

 

シャルロット、マドカ、鈴、簪も各々のピットに向かって行った。

そうして、この場には楯無とサラだけが残る。

 

 

「はぁ...簪ちゅあんにあんなに言われるなんて......」

 

 

「ちょっと、時差ありで落ち込まないでよ。それに、呼び方が...」

 

 

「私の可愛い可愛い簪ちゃんなのよ!そんな簪ちゃんに言われて落ち込まないわけが無い!」

 

 

「...ド級シスコンは面倒くさい......」

 

 

楯無の態度を見て、サラはため息をつきながらそう呟いた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

観客がいないアリーナの中。

それぞれの専用機を身に纏ったマドカ、シャルロットペアと鈴、簪ペアが対峙し合っていた。

 

 

「いざこうやって向かい合うと、やる気がマシマシね!」

 

 

「私も、気合十分...!!」

 

 

鈴と簪は口元に笑みを浮かべながらマドカとシャルロットにそう言う。

それを見て、マドカとシャルロットも口元に笑みを浮かべる。

 

 

「私もです!お兄ちゃんの顔に泥を塗らないように、本気で行きます!」

 

 

「僕もだよ!」

 

 

4人とも気合い十分といった表情でそのままそれぞれの武装を展開する。

先程までは更衣室で和気あいあいとしていたが、アリーナに出る事で意識が切り替わったのであろう。

そしてそれは、第二アリーナの4人も同じ事だった。

 

 

「私とダリルのタッグ、イージスの力、見せてやるっスよ!」

 

 

「イージスは鉄壁だ。お前たち1年坊に突破できるかな?」

 

 

それぞれの専用機であるコールド・ブラッドとヘル・ハウンドver2.5を身に纏い、並んで笑みを浮かべるフォルテとダリル。

その姿からは先輩としての威厳、そしてタッグを組んで来た互いへの信頼が感じ取れた。

対峙するラウラとセシリアは一瞬表情を緊張のものにするも、直ぐに口元に笑みを浮かべる。

 

 

「突破してやる!!」

 

 

「ええ、私たちで突破して見せますわ!!」

 

 

2人はダリルとフォルテの目を見ながらそう言い切る。

それを見て、ダリルとフォルテも笑みを浮かべる。

 

 

『それでは、全員構えてください』

 

 

2つのアリーナに同時にその音声が鳴り響く。

前回のキャノンボールの際の反省を生かし、今回のタッグマッチでのアナウンスは全て事前収録音声である。

 

 

『試合...開始!!』

 

 

「「「「「「「「行くぞ!!」」」」」」」」

 

 

試合開始のアナウンスと同時に、8人全員が同時に気合を入れる声を発した。

 

 

「山嵐、全弾ロックオン......発射!!」

 

 

「わわわ!?」

 

 

「飛ばし過ぎだよ!」

 

 

簪は試合開始と同時に山嵐を全弾マドカとシャルロットに向かって発射する。

マドカとシャルロットは文句を言いながらも冷静に射撃でミサイルを全弾撃ち落とす。

 

ドガァァアアアン!!

 

撃ち落されたミサイルは爆音と共に黒煙を発生させる。

大量のミサイルが一気に爆撃されたことで、発生する黒煙はかなりの量である。

事実、大量の黒煙はアリーナを一瞬で満たし視界を遮る。

 

 

「くっ...!!」

 

 

「面倒だね!!」

 

 

ペアすら確認できない黒煙の中、マドカとシャルロットはハイパーセンサーを使用し周囲の状況を確認する。

 

 

「っ!」

 

 

その瞬間に、シャルロットは接近用のブレードを展開し構える。

それとほぼ同時に黒煙の中から双天牙月を構えた鈴が突っ込んで来た。

 

ガキィィン!!

 

 

金属同士がぶつかり合う音があたりに響く。

 

 

「勢い良すぎだよ!」

 

 

「これが私よ!」

 

 

シャルロットと鈴はそう言い合うとそのまま腕に力を籠める。

だが、此処でシャルロットが急にブレードを横側にずらし、放り捨てる。

 

 

「なっ!?」

 

 

ブレードと鍔迫り合っていた双天牙月を持っていた鈴は引っ張られ少し体勢を崩してしまう。

それと同時にシャルロットはシールドをパージさせその下にあるパイルバンカー、灰色の鱗殻(グレー・スケール)を鈴に向かって打ち込む。

 

 

「ぐぅっ!?...でも!」

 

 

大きくダメージを受けてしまった鈴だが、ただでは終わらない。

パイルバンカーを使用したままの体勢のシャルロットに向かって龍砲を連射する。

 

 

「っ!」

 

 

シャルロットも当然鈴の反撃に気が付くが、やはり近距離での不可視の攻撃を完璧には避けれない。

 

 

「くぅ!?」

 

 

シャルロットは龍砲を受け、シャルロットは吹き飛んでしまう。

鈴とシャルロットが接近戦を繰り広げている中、簪とマドカは

 

 

バキュン!バキュン!

 

 

と銃撃戦を繰り広げていた。

 

 

「マドカ...射撃精度高すぎる!」

 

 

「これくらいは当然です!」

 

 

マドカの専用機、銃騎士。

射撃補助専用機構が備わっており、視線に合わせて態勢の補助を行うのだ。

その結果、かなりの精度での射撃が可能である。

ジリジリと、だが確実に打鉄弐式のSEは削られていく。

 

 

「く、う...!?」

 

 

「このまま押し切ってシャルさんの加勢に行きます!」

 

 

マドカと簪は、マドカの方が若干有利で戦っていった。

 

 

第二アリーナでも、激しい戦闘が行われていた。

 

 

「「はぁぁああ!!」」

 

 

セシリアがビットで、ラウラがレールカノンでダリルとフォルテに向かって攻撃を行う。

しかし、その攻撃は全て防がれてしまっている。

炎を操ることが出来るヘル・ハウンド、冷気を操るコールド・ブラッド。

この2機が揃う事によってはじめてできる熱と冷気による防御結界。

これが、イージスである。

この結界により、先程からセシリアとラウラの攻撃は全てシャットアウト出来るのである。

 

 

「ほらほら、そんなんじゃ効かないぜ!!」

 

 

「こっちからも行くっスよ!!」

 

 

フォルテはそう言うと同時に、氷をセシリアとラウラの頭上に発生させ落とす。

 

 

「ちっ!!」

 

 

「この!!」

 

 

ラウラとセシリアはその氷の結晶を撃ち落とす。

しかし、頭上のものを撃ち落とすために銃口を上にあげてしまったら、再び構えなおすのに時間が掛かってしまう。

 

 

「オラァ!!」

 

 

「ぐぁあ!?」

 

 

「きゃあ!?」

 

 

その隙を付き、今度はダリルがセシリアとラウラに向かって炎を飛ばす。

今度は避けることが出来ずそのまま炎によって炙られてしまう。

 

 

「はぁ、はぁ...強い......」

 

 

「経験が私たちと差があり過ぎますわ......」

 

 

ラウラとセシリアはそう言葉を漏らしてしまう。

ダリルとフォルテはラウラとセシリアよりも圧倒的に強かった。

個々の能力は当然として、タッグとしても経験が違う。

以前から良くタッグを組んでいた2人に対し、セシリアとラウラはあまりタッグで戦わない。

つまりは、タッグそのものの経験、タッグを組む相手との連携の経験、そしてIS戦闘の経験。

全てに置いてが劣っていたのだ。

 

 

「怖気づいたっスか?」

 

 

そんな2人に、フォルテが煽るような笑みを浮かべながらそう言う。

しかし、セシリアとラウラは気合いを入れるように笑みを浮かべると

 

 

「「そんな訳が無い!!」」

 

 

と言い切り、再び攻撃をする。

 

 

「なら、倒してみるんだなぁ!」

 

 

「そう簡単には倒れないっスよ!」

 

 

ダリルとフォルテも笑みを浮かべ返すと、セシリアとラウラの攻撃を防いだ後炎と氷を2人に向かって飛ばす。

 

 

第一、第二どちらのアリーナでも壮絶なバトルが展開されている。

中継された映像を見ている各国家や企業でも大盛り上がりだった。

そうして、その盛り上がりが最大限に達しようとしたその瞬間だった。

 

 

ドガァァァァァアアアアアアン!!!!!!

 

 

悪い予感程良く当たる。

それを体現するかのように、2つのアリーナから同時に爆撃音が鳴り、何かがアリーナのシールドバリアーを突き破って落ちて来た。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「...始まったか」

 

 

時刻は遡り、丁度試合が始まった時刻。

第一アリーナと第二アリーナの中間あたりにいる千冬はそう呟いた。

今の千冬の格好は黒いジャージ姿で、髪を縛っていた。

普段のスーツ姿を見慣れていたら、違和感を覚えるであろう格好である。

 

 

「ふぅ...」

 

 

千冬はそう息を吐くと、手帳を取り出しそこに挟んである1枚の写真を確認する。

その写真には、ランドセルを背負い笑顔を浮かべた小学生の頃の一夏と、高校の制服を着用し鞄、そして竹刀袋を持っている千冬が並んで映っていた。

 

 

「一夏......」

 

 

千冬は悲しそうな顔を浮かべながらそう言葉を零す。

その表情からは、大切な弟である一夏に対する心配や、今行われているタッグマッチに対する不安などが見え隠れしていた。

だが、ブリュンヒルデと呼ばれるだけの実力を有した千冬。

自分の内心を隠すのもお手の物である。

事実、一瞬後には千冬の表情は普段のものに変わっていた。

 

 

「おう、千冬。どうしたこんなところで」

 

 

そんな千冬に、背後からそんな声が掛けられる。

 

 

「オータムか......いやなに、少し考え事をしていただけさ」

 

 

千冬は声を掛けられた方向にいた人物...オータムに視線を向けながらそう返した。

オータムは千冬の隣にまで歩いてくる。

 

 

「そう言うオータムは何で此処に?」

 

 

「仕事に決まってんだろ」

 

 

オータムは自身が身に纏っている警備員制服を見ながらそう言う。

それを見て千冬は

 

 

「確かにな」

 

 

と返した。

暫くの間、無言がこの場を支配する。

その静寂を破ったのは、千冬からだった。

 

 

「オータム、今日、なにか起こる気がするか?」

 

 

千冬はオータムの事を見ずに、空を見上げながらそう言葉を漏らした。

オータムもそんな千冬に合わせ空を見上げながら返答する。

 

 

「まぁ、何かしら起こるだろ...2学期になってからのイベントではどっちでも襲撃されてんだ...今日も襲撃があるって構えておいた方が良いだろ」

 

 

「そうなんだよな...」

 

 

その言葉に同意した千冬の事を、オータムは少し驚いた表情で見る。

 

 

「意外だな。世界最強がそんな事を言うだなんて」

 

 

そんなオータムに、千冬は苦笑いを浮かべながら視線を向ける。

 

 

「私だって人間さ。弱音くらい吐く」

 

 

「...やっぱ、一夏の事もあるか?」

 

 

オータムのその言葉に、ぴくっと反応する。

それだけで、もう答えになる事は千冬自身も理解している。

 

 

「...私の大事な弟なんだ。心配しないわけが無いだろう?」

 

 

「それもそうだな......なら、今一夏がいない今、私達が頑張らねぇとな!!」

 

 

「ふっ...当然だろう!」

 

 

ここまで言って、千冬とオータムは笑い合う。

そして、オータムは仕事の続きを行うため歩いて行った。

そうしてこの場にはまた千冬が1人だけの状況になった。

 

 

「ふぅ...さて、私もどちらかの管制室に...」

 

 

千冬はそう呟き、取り敢えず第一アリーナに向かおうと身体の向きを変えた。

その瞬間

 

 

ドガァァァァァアアアアアアン!!!!!!

 

 

と、2方向から...第一アリーナと第二アリーナから爆発音が聞こえて来た。

それを聞いた千冬は大きく息を吸い、吐いた。

 

 

「さて、久しぶりだな...お前と共に戦うのは......」

 

 

千冬は自身の左腕にある腕輪を見ながらそう呟く。

そして、空を見上げる。

 

 

「行くぞ!!」

 

 

千冬はそう叫ぶと、その場で高く跳躍した。

その、一瞬後

 

ビュン!

 

風を切るかのような音だけがこの場に残り、千冬の姿は無くなっていたのだった。

 

 

 

 




もう深夜のシーンって同じ様な事しか書いて無いから書く意味って無いような気がする。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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世界最強の再誕

さぁ、サブタイから察する通りの人の活躍回です!
いい加減戦闘シーンを分かりやすく書きたいんだけどなぁ...

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

ドガァァァァァアアアアアアン!!!!!!

 

 

IS学園、専用機タッグマッチが行われている最中。

試合が行われている第一アリーナと第二アリーナに同時にそのような爆発音が鳴り響いた。

それと同時にアリーナのシールドバリアーが突き破られ、何かがアリーナに落ちて来て土煙が発生する。

 

 

「くっ!?」

 

 

「試合中断!構えろ!」

 

 

それぞれのアリーナで戦っていたマドカ、シャルロット、鈴、簪の4人とラウラ、セシリア、ダリル、フォルテの4人はすぐさま試合を中断し、すぐさま各々の武装を土煙に向かって構える。

全員、表情を緊張のものにする。

やはり起こったトラブル。

しかも上方から何かが落ちて来るというのは、キャノンボールの時の襲撃と同様のものだ。

この時点で、また襲撃だと全員が察した。

 

 

~第二アリーナ~

 

 

試合をしていたラウラ達4人はジッと土煙の事を見つめていた。

 

ブン!!

 

急にそんな風を切るような音が響き、土煙が一瞬で霧散する。

するとそこには、キャノンボールの時の襲撃者と同じ改造品であろう黒いISを身に纏った4人組がいた。

 

 

「貴様ら!なにが目的だ!」

 

 

ラウラが襲撃者4人に向かってそう声を発する。

すると、襲撃者は視線を上空にいるラウラ達に向ける。

 

 

「織斑一夏の身柄を渡せ!」

 

 

「そんなんさせる訳無いっス!」

 

 

「ならば、お前たちを殺してから無理矢理奪う!」

 

 

襲撃者のリーダーであろう1人がそう言うと、襲撃者全員がアサルトライフルを展開し、ラウラ達に発砲する。

しかし、ラウラがAICで、フォルテが生成した氷で銃弾を全て止めると、セシリアがビットで射撃する。

 

 

「そんなもの効かない!」

 

 

「行くぞ!」

 

 

以前の襲撃者たちとは異なり、淡々と攻撃をしてくる襲撃者たち。

その態度の違い1つでかかるプレッシャーは桁違いになる。

 

 

バァン!バァン!バァン!バァン!

 

ガキィン!ガキィン!

 

 

発砲音や金属同士がぶつかる音があたりに響く。

襲撃者たちのISはかなりのハイスペック。

第三世代型である専用機と同程度のスペックを誇っている。

 

 

「ぐぅ...!?」

 

 

「ダリル先輩!」

 

 

「クソ!」

 

 

「危ないっス!」

 

 

専用機にはそれぞれの専用武装が存在する。

その分機体だけを見れば一見ラウラ達が有利である。

しかし、ラウラ達は4対4の訓練をさほどしていない。

全員が代表候補生なので、現状でもしっかりと連携は取れている。

それでも各々の専用機の特徴を最大限生かせているかというと、否である。

 

それに比べ、襲撃者たちはISが共通。

つまりは全員が全員ポジションを入れ替えながら戦えるのである。

そしてわざわざ4人で襲撃してきたという事は、4人での戦闘訓練を積んでいるという事である。

先程までの試合でダリルとフォルテが有利だったように、戦場においては何よりも経験がものをいう。

それが例え少しの差だったとしても。

差がある時点で戦いに優劣が生まれるのである。

 

 

「ぐは!?」

 

 

「きゃあ!」

 

 

「ぐぅ...!?」

 

 

「うわぁ!?」

 

 

ラウラ達は追い込まれるようにアリーナの中央に固まる。

 

 

「ヤバいっスよ!?」

 

 

「緊急事態は連絡してあるが、間に合うか...」

 

 

「フン!これで終わりよ!」

 

 

「くらいなさい!!」

 

 

襲撃者はそう叫ぶと、ラウラ達を終わらせるために2人は射撃の、もう2人はブレードで突っ込む用意をする。

ラウラ達は撃退しようと武装を構える。

その瞬間

 

 

「お嬢様!!」

 

 

「隊長!!」

 

 

「ぐわっ!?」

 

 

「なんだ!?」

 

 

2つの新しい声がアリーナに響くと同時に、突っ込もうとしていた2人にラウラ達とは別方向から攻撃が行われる。

その瞬間に、全員の視線が攻撃が行われた方向に向けられる。

 

 

「チェルシー!」

 

 

「クラリッサ!」

 

 

「お嬢様、ご無事ですか!?」

 

 

「隊長、現状は?」

 

 

攻撃を行った者...クラリッサとチェルシーはそれぞれの上司にそう声を掛けながらも襲撃者に対しての攻撃を続ける。

先程の奇襲で少し反応が遅れている襲撃者には、ダリルとフォルテも遠距離からの攻撃をする。

 

 

「取り敢えず第二アリーナへの襲撃者はあの4人だけだ!」

 

 

「拘束しますわよ!」

 

 

「「了解!」しました!」

 

 

ラウラ達はそう会話をすると、そのまま襲撃者たちへの攻撃を再開する。

先程は少し不利だったラウラ達だが、戦力が2人も増えた事で戦況は逆転した。

 

 

「これで終わりっス!」

 

 

「寝てろ!!」

 

 

「沈め!」

 

 

「ぐはっ!?」

 

 

「ぐぅ!?」

 

 

先程射撃をしようとしていた2人に向かって、フォルテ、ラウラ、クラリッサがそう声を発しながら攻撃をし、その2人は地面へと落ち機体が強制解除される。

 

 

「ちっ!落ちたか!」

 

 

「アレ、使うわよ!」

 

 

「仕方が無いか...」

 

 

「何もさせませんわ!」

 

 

「てめぇらも落ちやがれ!」

 

 

残った襲撃者2人に対して、セシリアが全ビットでの一斉射撃を、ダリルが炎を飛ばして攻撃する。

しかし、その攻撃が着弾する一瞬前。

襲撃者2人の手元にそれぞれ1本の機械仕掛けの剣が出現する。

 

 

「「「「それはっ...!!」」」」

 

 

その剣に見覚えがあるクラリッサ、ラウラ、チェルシー、セシリアの4人が同時にそう声を発する。

 

 

「はぁ!」

 

 

「フン!」

 

 

襲撃者2人はそう声を発しながらその剣を振るう。

その瞬間に

 

ブン!!

 

空気を切り裂く音を発しながら黒い斬撃が発生し、射撃のレーザーと炎をかき消しそのままフォルテとセシリアに迫る。

 

 

「ヤバいっス!?」

 

 

「く...きゃあ!!」

 

 

反応が遅れたフォルテとセシリアは氷を作る事も避ける事もかなわずそのまま攻撃を受けてしまい地面に落下する。

 

 

「お嬢様ぁあああ!!」

 

 

「フォルテ!!」

 

 

「よそ見なんてしてる暇はないわよ!」

 

 

「あなた達も落ちなさい!」

 

 

チェルシーとダリルが悲鳴のような声を発する。

しかし、そんな2人に対して襲撃者たちは手に持つ剣...アクワルタ・グワルナフ・レプリカを振るう。

 

 

「危ない!」

 

 

「避けろ!」

 

 

ラウラがダリルにワイヤーブレードを絡ませ、クラリッサがツヴァイクでチェルシーの事を押し無理矢理斬撃から避けさせる。

 

 

「助かった...」

 

 

「ぼさっとするな!来るぞ!」

 

 

ラウラのその声と同時に、襲撃者2人がレプリカを振るう。

 

ズガァアアン!!

 

ドガァァアアアン!!

 

襲撃者がレプリカを振るう度、アリーナの壁が崩れ落ち、地面が抉れる。

 

 

「一夏以外だと、誰もあの剣に対応できない!」

 

 

「クソ!どうす...ぐぁああ!?」

 

 

「隊長ぉおおお!!」

 

 

「く、うわぁああああ!?」

 

 

「っ!ケイシー様!」

 

 

遂にはラウラとダリルも地面に落ちて行ってしまう。

 

 

「フン...!!」

 

 

「「「「うわぁああああ!!」」」」

 

 

襲撃者の1人が地面に向かって斬撃を飛ばす。

地面に落ち復帰出来てなかったセシリア、ラウラ、フォルテ、ダリルの4人は斬撃に巻き込まる。

機体はかなりボロボロになっており、見るだけでダメージレベルがCを超えているのは察せられる。

 

 

「後はあの2人だけ!」

 

 

「もう1つのアリーナの方でももう直ぐ終わる!貴様らを潰して織斑一夏を回収する!」

 

 

「回収...だと...?ふざけるな!一夏は物じゃ無いんだぞ!」

 

 

「あなた達なんかに、一夏は渡さない!」

 

 

襲撃者の言い分に、クラリッサとチェルシーは激昂したような表情を浮かべそう叫ぶ。

自身の上司を傷つけただけでなく、大切な恋人に対する今の言い分。

激昂しないわけが無い。

今はIS学園に一夏はいないのだが、此処を突破されるとIS学園に甚大な被害が出るだけでなく、もしかしたら他の場所も襲撃されるかもしれない。

その為、絶対に突破される訳には行かないのだ。

しかし、一夏のいない今現状ではクラリッサとチェルシーだけでは、レプリカを持つ2人の撃破は非常に難しい。

 

 

「フン!そんなの関係ない!」

 

 

「これで終わりよ!」

 

 

そんな2人を嘲笑うかのように襲撃者2人はクラリッサとチェルシーに向かって斬撃を飛ばそうと構える。

結局一夏に頼らないと何も出来ない自分たちに、クラリッサとチェルシーは唇を噛み締める。

そうして、襲撃者が斬撃を飛ばす......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一瞬前。

 

 

「よく時間を稼いでくれた!!」

 

 

そんな声が聞こえたかと思うと、襲撃者2人は地面に落ちた。

 

 

~第一アリーナ~

 

 

ガキィン!ガキィン!

 

 

時刻は少し戻り、第二アリーナにクラリッサとチェルシーが駆け付ける少し前。

第一アリーナでも襲撃者との戦闘が行われていた。

こっちには既に楯無とサラが到着しており、戦闘に加わっていた。

しかし、こちらの状況もあまり良くなかった。

それは何故か。

 

 

「く、くぅ!?」

 

 

「うわぁ!?」

 

 

こっちの襲撃者もレプリカを所有しているからだ。

とっくのとうにアリーナは悲惨な状況になっている。

 

 

「フン!くらいなさい!!」

 

 

「く、きゃあああああ!?」

 

 

「サラ先輩!!」

 

 

襲撃者の1人が放った斬撃にサラが当たってしまい、サラは地面へと落ちていく。

もう既に簪と鈴は落ちてしまっているので、後戦えるのはマドカとシャルロットと楯無の3人である。

そして、襲撃者も1人落としているので3対3。

しかし、襲撃者の1人はレプリカを使用しているため、状況は明らかにマドカ達が不利だった。

それに加え更にマドカ達が戦いにくい理由があった。

それは...

 

 

「く、篠ノ之さん!なんでこんな事するの!?」

 

 

「うるさい!さっさと一夏を差し出せ!」

 

 

そう、襲撃者の中の1人に箒が存在してるからである。

一応顔見知りなのが、やり辛いのである。

 

 

「くっ......クリア・パッション!」

 

 

「ちっ...そんなの効かない!」

 

 

「ぐっ!?」

 

 

「シャルさん!!このぉ!!」

 

 

「がぁ!?」

 

 

バキュン!バキュン!バキュン!

 

ガキィン!ガキィン!ガキィン!

 

ドガァン!ドガァン!ドガァン!

 

 

発砲音が、金属がぶつかり合う音が、アリーナが破壊される音があたりに響く。

 

 

「ぐ、きゃあああああ!!」

 

 

「う、わぁああああ!!」

 

 

「シャルロットちゃん!マドカちゃん!」

 

 

遂にはマドカとシャルロットまで落ちてしまい、残すは楯無1人。

それに対しては、多少のダメージを受けているものの3人。

しかも1人は、レプリカを持っている。

状況は絶望的だった。

 

 

「一夏を差し出せ!」

 

 

「...絶対にさせない!」

 

 

箒の言葉に、楯無はそう返答する。

 

 

「フン!1人で何が出来る!」

 

 

「さっさと落ちろ!」

 

 

残り2人の襲撃者がそう言うと、1人が持っているレプリカを構える。

楯無はなんとか反撃をしようと構える。

その瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく耐えた!あとは任せろ!」

 

 

そんな声が、第一アリーナに響いた。

全員がその声が聞こえて来た方向を向く。

その僅かな時間で

 

 

バシュ!

 

 

そんな音が響くと同時に

 

 

「あ、あああ...」

 

 

ドシャア!!

 

 

襲撃者の1人がそう地面に落ちて行った。

 

 

「「なっ...!?」」

 

 

箒とレプリカを持っている襲撃者がそう驚きの声を発する。

そして、このアリーナの中には先程までいなかった1機のISが存在していた。

スラスターや腕などに桜の花びらが描かれているのが特徴的なIS。

無駄な飾りなどは一切合切ない洗練されたデザイン。

その手に握るのは白い1本の接近ブレード。

今まで見たことが無いISだった。

だが、全員の視線を集めているのはその搭乗者の顔だった。

黒髪を後ろで縛っているその人物の顔は、整っていて、それでいて一夏に似ていた。

 

 

「織斑、千冬...!!」

 

 

「織斑先生!」

 

 

レプリカを持った襲撃者が表情を歪めながらそう言い、楯無は笑顔を浮かべてその名前を呼ぶ。

そう、そのISを身に纏っているのは、千冬だった。

 

 

「更識...後は任せろ。休んでおけ」

 

 

「え、でも...」

 

 

「私を誰だと思っている?問題ない」

 

 

「...分かりました。お気をつけて」

 

 

楯無は最後にその言葉を残すと、アリーナから退避していった。

しかし、箒と襲撃者は楯無を追う事は出来なかった。

千冬から放たれるプレッシャーが、動く事を許さなかった。

 

 

「千冬さん!邪魔をしないで下さい!私は一夏を取り戻したいだけなんです!!」

 

 

「...箒......お前を拘束する」

 

 

箒のその声掛けを無視し、千冬は冷徹な眼で箒と襲撃者の事を見る。

そうして2人に向け接近ブレードを構える。

 

 

「...織斑千冬。専用機、暮桜・明星。武装は雪片弐型。貴様らを拘束する」

 

 

千冬はそう言うと、一気にレプリカを持つ襲撃者に肉薄した。

 

 

「なっ!?」

 

 

「はぁ!!」

 

 

ガキィン!

 

 

千冬の斬撃は、襲撃者の持つレプリカを正確に捉えた。

金属がぶつかり合う音がアリーナに響き渡る。

 

 

「ぐ、ぅううう!?」

 

 

「フン!!」

 

 

バキィン!!

 

 

千冬が腕に力を籠めると、レプリカは折れた。

 

 

「なぁ!?」

 

 

「これで終わりだ!」

 

 

千冬はそう声を発すると雪片弐型を頭上に掲げる。

すると、雪片弐型がスライド展開しエネルギーの刃が出現する。

零落白夜。

言わずと知れた千冬の代名詞。

自身のSEを犠牲に相手のエネルギーを無視して攻撃が出来る諸刃の剣であり、一撃必殺。

 

 

「はぁぁあ!!」

 

 

「ぐぅ、がぁあああああ!!」

 

 

レプリカが折れた事で動揺した襲撃者にその攻撃を避ける事は出来ず、切り裂かれる。

そうして地面に落ちていく。

だが、千冬は襲撃者の事を見ることも無く視線を箒のいた方向に向ける。

しかし、もう既に箒はもう既にアリーナから出て行っていた。

そこそこ遠くの方にまで行っているのを確認した千冬は追うかどうかを一瞬考えたが、追うのを止めた。

アリーナの地面にまで降りてから暮桜・明星を解除しマドカ達に駆け寄る。

 

 

「全員無事か!?怪我は!?」

 

 

「う、くぅ...お、お姉ちゃん...」

 

 

「マドカ!大丈夫か!?」

 

 

「う、うん...身体は痛むし銃騎士もボロボロだけど、骨も内臓も無事」

 

 

「そうか...」

 

 

マドカの返答を聞いた千冬は取り敢えず安心したように息を吐いた。

そうして千冬は他に落ちてしまっていたシャルロット、鈴、簪、サラに声を掛けていく。

全員ISはボロボロになってしまっていたが、骨折などの怪我も無く無事だった。

 

 

「お姉ちゃん、追わなくて良かったの...?」

 

 

「......正直に言うと、追った方が良かったのかもしれない。しかし、篠ノ之はかなり離れていたし、他の人間と合流している可能性もある。なら、私は残らなくてはならない。私は教師だ。生徒であるお前たちを守らないといけないからな」

 

 

「織斑先生...」

 

 

千冬のその言葉に、シャルロットがそう呟く。

今の千冬からは、現役時代と同じような威厳が...世界最強の威厳がありありと感じられた。

 

 

「さて...取り敢えず全員医務室に行くぞ。骨や内臓が大丈夫とは言え、検査をしないといけないからな。救護班を呼ぶから少し待っていろ」

 

 

「だ、第二アリーナはどうなったんですか?」

 

 

「...クラリッサとブランケット以外はお前たちと同じような状態だ。あっちは既に2人が救護班を手配しているからもう既に搬送されているだろう。それと、これは全員に言える事だが明日には事情聴取と事後会議がある。それを覚えておけ」

 

 

『分かりました』

 

 

千冬の言葉に全員がそう返事をする。

そうして暫くしたら担架を5個持って救護班と拘束班がやって来た。

マドカ達が担架によって運ばれ、襲撃者たちが拘束されながら運ばれるのを見届け、半壊したアリーナには千冬1人が残った。

 

 

「...久しぶりに、戦ったな」

 

 

千冬はそう呟くと空を見上げる。

 

 

「まぁ、私にも事情聴取はあるだろう。念の為に束には連絡を入れておくか」

 

 

そのまま暫く空を見上げていた千冬だが、そのままIS学園の校舎に戻っていく。

 

 

「多少の被害はやはり出てしまったな...私も、まだまだだな...それでも、一夏。お前がいなくても、なんとか学園は守れたぞ」

 

 

そういう千冬の表情は、何処か悔しそうなものだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「なっ、えっ?」

 

 

時刻は少し遡り、千冬が第一アリーナで交戦し始めたころ。

IS学園の屋上にいた深夜は呆然とそう呟いていた。

急にアリーナからの戦闘音が変わったし、少し前には爆発音も聞こえている。

何か起こった事は明白だった。

 

 

「い、行くか?」

 

 

深夜は出撃するかどうか悩んでいた。

そもそも出撃命令は出ていないので出撃したらアウトなのだが、深夜が出撃しないのには別の理由があった。

それは、恐怖。

それも戦闘をする事への恐怖じゃない。

戦闘をしても、また活躍が出来ない事への恐怖だった。

なんだかんだいっても、今までの事件で自分が何も出来ていない事は深夜も理解している。

ここで出撃してもまた活躍出来なかったら、今度は如何なってしまうのか分からない。

その事実が、深夜をこの場に留まらせていた。

 

 

「俺に力が、力があれば...もっと、もっと...力があれば...」

 

 

深夜は力を望む。

力があれば、この場で思いとどまる事は無い。

それに、以前の事件でも活躍出来ているだろう。

それは確かにそうかもしれない。

だが、それは危険な思想だ。

力というのは、使う者によってどんなものになるかが変わるというのは、力を得るにはそれ相応の覚悟と責任が必要なのは、もう常識だろう。

力を望むだけでは自分の身を滅ぼす。

それを、深夜は理解していない。

深夜は呆然とした表情でアリーナの事を見つめている。

ここで、1機のISがアリーナから逃げていくのを確認した。

 

 

「あれは...箒!?」

 

 

そのISを身に纏っている箒の顔を見た深夜は驚愕の表情を浮かべながらそういう。

視線の先では、箒が別方向からやって来たIS達と合流して逃げていった。

それを見た深夜は、表情を変える。

それはまるで、迷っている時に看板を見つけた人のようで、水を分け与えられた難民のようだった。

 

 

「箒が襲撃してくるくらいに強くなったのなら...」

 

 

深夜はそう呟きながらフラフラと屋上を歩き、屋上の端にまで来る。

 

 

「俺も、強くなれる.........!!」

 

 

深夜はその呟きを最後に、屋上から姿を消したのだった...

 

 

 

 




雪片弐型...おめぇ、出番あったのか...
因みに暮桜・明星の機能はこれで全部ではありません。
まだ隠れた(使う必要が無かった)機能があります。
そっちが出てから設定集を更新します。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!!


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姿を消した2人目

サブタイのネタ切れを起こしている。
そして、私は会議シーンが戦闘シーンの次に苦手かもしれない。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

千冬の活躍により、襲撃事件が終わってから約30分後。

IS学園の医務室では今回の襲撃事件にてISを破壊されてしまった楯無とクラリッサとチェルシーを除く専用機持ち達が検査を受けた後、安静にしていた。

全員なんとか骨や内臓を始めとした身体に異常や怪我は無く、無事だった。

 

 

「......結局、お姉ちゃんがいないと私達何も出来なかったですね」

 

 

全員がベッド、もしくは椅子に座っている中、マドカがそうポツリと呟いた。

その表情はやはりというか、とても悔しそうなものだった。

マドカの言葉を聞いたシャルロット達も同じ様な表情を浮かべる。

千冬が居なければ、千冬が間に合わなければ、IS学園は甚大な被害を受けていただろう。

それだけじゃない。

もしかしたらIS学園以外にも被害が出てた可能性があるし、もしかしたら自分たちは死亡、もしくは大怪我をしていた可能性だってある。

それを考えると、やはり悔しいのだろう。

自分たちだけで何も出来なかったという事が。

 

 

「この間は一夏が居なかったら実際に死亡していた可能性が高いからな...」

 

 

マドカの言葉に同調する様にラウラがそう呟く。

そのまま暫くの間医務室の中は重苦しい空気が支配する。

そうして大体3分後。

 

コンコンコン

 

と、扉をノックされた音が医務室に響いた。

 

 

『織斑千冬、クラリッサ・ハルフォーフ、チェルシー・ブランケット、更識楯無だ。入って良いか?』

 

 

そうして、扉の向こうからそんな千冬の声が聞こえてくる。

マドカ達は視線を見合わせると、頷き合った。

 

 

「大丈夫ですよ」

 

 

「失礼する」

 

 

シャルロットが返答すると、と扉が開き千冬たち4人が医務室に入って来た。

 

 

「お嬢様!!」

 

 

「隊長!!」

 

 

「簪ちゃぁぁん!!」

 

 

チェルシーがセシリアに、クラリッサがラウラに、楯無が簪に駆け寄る。

 

 

「お嬢様!ご無事ですか!?」

 

 

「チェルシー......はい、大丈夫ですよ」

 

 

「良かったです...」

 

 

「隊長!大丈夫ですか!?」

 

 

「ああ、取り敢えず身体は問題無い。心配させて悪かったな、クラリッサ」

 

 

「隊長がご無事なら、大丈夫です」

 

 

「簪ちゅあん!!簪ちゅあん!!だ、だだだ大丈夫!?痛くない!?」

 

 

「お姉ちゃん...もう少しだけで良いからブランケットさんとハルフォーフさんみたいになって?」

 

 

「チョッと簪ちゃん!?」

 

 

チェルシーとセシリア、クラリッサとラウラの会話は主と従者、部下と上司という関係、そしてそれ以上の絆で結ばれたものだったのだが...

楯無の言葉だけはただの変態シスコンにしか感じなかった。

その為簪は思わず口が滑ってしまい、楯無はその場に倒れ込む。

そんな楯無の様子に、楯無と簪以外のこの場にいる全員がついつい苦笑いを浮かべる。

だが、直ぐに千冬は切り替えると真面目な表情に切り替える。

 

 

「さて、賑やかなところ悪いが......今回の襲撃で発生したお前たちのISの被害状況についてだ」

 

 

その瞬間に、千冬に向かって全員の視線が向けられる。

 

 

「銃騎士、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ、シュヴァルツェア・レーゲン、ブルー・ティアーズ、サイレント・ゼフィルス、甲龍、打鉄弐式、ヘル・ハウンド、コールド・ブラッド計9機。全てのダメージレベルがCを超えている。もう既にそれぞれの国や企業に修理依頼を出している。暫くの間ISは使えないと思え」

 

 

『はい』

 

 

千冬の言葉に、マドカ達が一斉にそう反応する。

それを確認した千冬は軽く息を吐くと全員の顔を見回した。

 

 

「......もしかしたら、マドカ達や、クラリッサ達も考えているのかもしれない。『自分たちだけでは何も出来なかった』と」

 

 

『っ...!!』

 

 

千冬の言葉を聞いた全員が表情を驚いた、それでいて悔しそうなものに変え千冬の顔を見る。

そんな反応を見た千冬は

 

 

「やっぱりな...」

 

 

と呟くと、真剣な表情を浮かべながら言葉を発する。

 

 

「...気に病むな、とは言わない。私がお前たちの立場でも、きっとそう感じていただろうからな。その上で聞いて欲しい事がある」

 

 

『......』

 

 

マドカ達はジッと千冬の言葉を聞いている。

 

 

「...仮に、私だけがいたとしても、この襲撃は終わらなかった。お前たちが戦ってくれたから、お前たちが耐えてくれたから、私は間に合ったんだ。気休めに聞こえるかもしれない。でも、それでも...お前たちがいてくれたから、私は戦えたんだ」

 

 

「お姉ちゃん...」

 

 

「だから、お前たちこそ誇れ。自分たちの功績を。お前たちが居たからこそ、学園は守られた」

 

 

微笑みながら千冬が言ったその言葉は、全員の心に響いた。

それから、と。

千冬は再び語り始める。

 

 

「私も、そして一夏も、1人では何もできない。協力してくれる者たちがいるからこそ、思いっきり戦うことが出来る。お前たちは無理に撃墜しようとしなくて良い。自分のやれる事、やるべき事をしてくれるだけで十分だ。私は教師だからな。生徒を守るのも私の仕事だ」

 

 

千冬は先程までよりも濃く笑みを浮かべる。

その言葉を聞いて、マドカ達は暫くそのままジッと千冬の事を見ていたが、やがて笑みを浮かべる。

 

 

『...はい!!』

 

 

全員のしっかりとした返事を聞いた千冬は部屋を出る旨を伝えるために口を開こうとした。

その瞬間に、廊下から慌ただしい足音が聞こえて来た。

一斉に視線を扉に移すと、

 

 

コンコンコン!

 

 

『や、山田です!織斑先生はいらっしゃいますか!?』

 

 

扉がノックされた後、焦ったような真耶の声が聞こえて来た。

 

 

「はい、居ます。山田先生、どうしましたか?」

 

 

千冬がそれに応対すると、勢いよく扉が開く。

そうして息を切らした真耶が入って来た。

 

 

「た、大変です!た、橘君が行方不明になりました!」

 

 

『なっ...!?』

 

 

真耶の発した衝撃的な言葉に、全員がそう反応する。

 

 

「行方不明って...どういう事ですか!?」

 

 

「そのままです!橘君が、教室を始めとした何処にもいないんです!」

 

 

「...捜索状況は?」

 

 

「半壊したアリーナの状態を確認している教員以外は全員捜索しています!」

 

 

「.......分かりました、私も捜索します」

 

 

「私達も行きます!」

 

 

「ええ!」

 

 

「ああ!」

 

 

真耶の言葉に、千冬、楯無、チェルシー、クラリッサの順でそう返答する。

 

 

「取り敢えず今は安静にしておけ。それから、マドカ達には伝えたが明日には事情聴取か会議がある。覚えておけ」

 

 

『はい』

 

 

千冬はマドカ達にそう声を掛け、マドカ達は一斉にそう返事をする。

それを確認した5人はそのまま医務室から出て深夜を探しに行くのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

襲撃の日の翌日。

今日は昨日の襲撃を受けて臨時休校である。

そして会議室には昨日交戦した専用機持ち全員と、十蔵や千冬を始めとした教員全員が揃っていた。

しかし、この会議室内はとても重苦しいものになっていた。

それは昨日襲撃を受けたからでも、学園のアリーナが半壊したからでもない。

深夜が、行方不明だからである。

 

 

昨日、千冬達も加わり学園中を探したのだが、発見することは出来なかった。

寮の部屋は特に荒らされた形跡は無く、靴も無かったので自分で寮の外に出たのは明らかだった。

その後生徒達への聞き込みで1度も教室には来ていないが、廊下には見かけた事。

そして、屋上に続く階段の方向へと向かって行ったことは分かった。

だが、そこまでだった。

それ以降の深夜の行動は何一つ分からなかった。

 

 

今日も先程まで専用機持ち達も加わり捜索を行ったが、形跡すら見つけられなかった。

その事もあり、会議室内には重苦しい雰囲気が漂っていたのだ。

 

 

「それでは、これより事後報告会を始めます」

 

 

この重苦しい空気を突き破るように、十蔵がそう言葉を発する。

その瞬間に、全員の視線が十蔵に集まる。

 

 

「それでは先ず山田先生、お願いします」

 

 

「はい」

 

 

十蔵に指示を出された真耶が立ち上がり、昨日起きたことを改めて言葉にする。

 

 

「専用機持ち限定タッグマッチが第一、第二アリーナで行われている最中に事件は発生しました。2つのアリーナのシールドエネルギーを突き破り、それぞれのアリーナに襲撃者が4名ずつ侵入しました」

 

 

真耶はしっかりと確認するように言葉を発していく。

 

 

「アリーナにて試合をしていた専用機持ち達と襲撃者は交戦を開始。第一アリーナには更識生徒会長とウェルキンさんが、第二アリーナにはハルフォーフさんとブランケットさんが助けに入りました。しかし、襲撃者が有利な状況は変わらず、更識生徒会長、ハルフォーフさん、ブランケットさん以外の人達はISを破壊されてしまいました。そして、その時...」

 

 

ここまで言って、真耶は視線を千冬の方に向ける。

それにつられ他の人達も千冬に視線を向ける。

 

 

「...織斑先生が専用機を身に纏い、それぞれのアリーナで残っていた襲撃者を撃破しました」

 

 

真耶のその言葉を聞いた千冬は軽く目を閉じる。

 

 

「そしてその一連の出来事の裏で橘君の行方が分からなくなりました。以上です」

 

 

真耶はそう言い、席に座る。

 

 

「山田先生、ありがとうございました。専用機持ちのみなさん、織斑先生、何か違う事はありますか?」

 

 

『ありません』

 

 

十蔵の言葉に全員が一斉にそう返事をする。

その返事を聞いた十蔵は頷くと、次の言葉を発する。

 

 

「それでは質問を開始します。先ず、織斑先生。あの専用機はなんなのですか?」

 

 

余計な言葉などいらないと言わんばかりに、十蔵は千冬にそう切り込む。

その質問と同時に再び千冬に視線が集まる。

千冬は軽く息を吐くと、天井を見上げた。

 

 

「...束、頼む」

 

 

「はいは~い!!呼ばれて飛び出てじゃかじゃかじゃ~~ん!!」

 

 

バァン!!

 

 

千冬の呟きと同時にそんな声が会議室に響いたかと思うと、天井から束が派手に登場した。

地面に着地した束は『キラン』という擬音が似合いそうなポーズを取ってみせる。

急に現れた束に千冬を除く全員が驚きの表情を浮かべる。

 

 

「やぁやぁマドちゃん久しぶり!たっばねさんだぞぉ~~?」

 

 

「...久しぶりです。それで、何で来たんですか?」

 

 

「ん~~?ちーちゃんが昨日『会議で専用機について聞かれるから説明頼む』って言われたから来たんだ!!」

 

 

専用機についての説明。

その言葉を聞いて全員が察した。

この専用機の開発者は...

 

 

「ちーちゃんの専用機、その名も暮桜・明星!!ちーちゃんが現役時代に使っていた暮桜を束さんが改修、そしてアップデートした第五世代型ISだよ!!」

 

 

『第五世代!?!?』

 

 

束の言葉を聞いた千冬以外の全員がそう驚愕の声を発する。

今この世界の最先端のISは第三世代型。

その次の第四世代すら通り越した第五世代型ならば、驚かない訳が無い。

 

 

「第四世代型は展開装甲を用いた全領域・全局面展開運用を目指した世代。そして第五世代はそれすら使わずにありとあらゆる場面での活動が可能な世代。まぁ、ちーちゃんの戦闘スタイルに合わせて暮桜・明星はかなり近接特化にしてるけど」

 

 

束は自分の発明品を自慢するからか、キラッキラした表情でそう語る。

その反面、千冬は頭が痛いと言わんばかりに眉間を押さえ、それ以外の全員は呆気に取られたかのような表情を浮かべる。

 

 

「ああ!それと、暮桜・明星は何処の国にも属して無い機体だよ」

 

 

「...篠ノ之博士、どうい「おっとクラちゃん?この間名前で呼んでって言ったよね?」た、束さん、どういう事ですか?」

 

 

クラリッサが束にそう質問をする。

束は千冬の背後から抱き着きながら声を発する。

 

 

「そもそも、ちーちゃんは日本代表のIS操縦者だったけど暮桜は束さんが直接ちーちゃんに手渡した機体。つまりは暮桜はマドちゃんの銃騎士みたいに個人所有のISなんだ。そんな暮桜を改修した暮桜・明星もちーちゃん個人所有のISって事」

 

 

「鬱陶しい!」

 

 

「アハハ!ごめんごめん~~」

 

 

背中から抱き着かれている千冬は束に向かって裏拳を放ち、束は笑いながらひらりと躱す。

2人のそんな光景を見ても、他の人達の表情は変わらなかった。

 

 

「だから、倉桜・明星を大々的に使っても大丈夫だって事。それに、ブリュンヒルデであるちーちゃんなら良く分かんない奴らからも文句は言われないだろうしね」

 

 

「......ブリュンヒルデに権力は無いんだぞ、束」

 

 

「それはそれだよ。権力は無くても、影響力は随一だよ。そんなちーちゃんに下手に何かしたら世界中から大バッシングだよ」

 

 

二ヒヒ、と笑みを浮かべながら束はそう言い、束の言葉を聞いた千冬はため息をつく。

 

 

「それじゃあ、束さんはそろそろ帰るね!みんな、束さんのお気にのいっくんの事をよろしくね!バイビー!!」

 

 

最後にその言葉を残し、束は一瞬で会議室から消えた。

嵐のように出現し、嵐のように去る。

そして嵐の後には、静けさがやって来るのだ。

事実、会議室は始まる前とは違い何ともいない雰囲気と静けさが支配していた。

 

 

「......取り敢えず、私の専用機に関しては以上です」

 

 

「あ、ありがとうございました」

 

 

そんな空気の中千冬がそう声を発し、十蔵がなんとか絞り出した声で返答する。

そして十蔵は1度大きく咳ばらいをすると次の話題に切り替える。

 

 

「それでは、次にIS学園の被害状況に関してです。榊原先生、お願いします」

 

 

「はい。先ず、第一、第二アリーナは共に半壊。修復には3ヶ月程かかる見通しです。しかし、アリーナ以外には被害は発生しておらず、一般生徒は全員怪我も無く無事なのが確認されています」

 

 

全員が無事。

その事を聞いた交戦した全員が安心したかのような声を発した。

やはり改めてそう言われると、自分たちが交戦した意味があると思えたのだろう。

 

 

「そして、本人達は知っているかと思いますが更識生徒会長、ハルフォーフさん、ブランケットさんの専用機は全てダメージレベルがCを超える損害を受けてしまい暫くの間は使用が出来ない状況です。以上です」

 

 

「榊原先生、ありがとうございました」

 

 

十蔵の言葉を聞いた菜月はそのまま席に座る。

 

 

「それでは次に、橘君の捜索状況についてです。フランシィ先生、お願いします」

 

 

「はい。昨日から行方が分からなくなった橘君ですが、依然として行方どころか形跡すら見つかっていません。日本政府を始めとした世界各国や国際IS委員会にもこの旨を報告しましたが、情報は何一つとして入って来ていません」

 

 

その言葉を聞いた全員が難しそうな表情を浮かべる。

全員で探し回ったのにも関わらず、IS学園からは痕跡すら発見出来ず、世界各国からの情報も何もない。

こうなると、深夜は何処か発見できない所に身を潜めている、もしくは死亡しているとしか考えられない。

前者の場合、1人で隠れるのには限度がある。

つまるところ、何処かの組織と共に居る可能性が高いのだ。

襲撃者に連れ去られたのか、それとも。

自分から付いて行ったのか。

 

 

「これより、全世界での橘君の捜索が始まりました。今後、少しでも情報が発見され次第連絡が入ってきます」

 

 

「分かりました...これで予定していた報告は以上です。他に何かある方はいますか?」

 

 

十蔵のその言葉には誰も反応しなかった。

 

 

「では、以上で報告会を終わります。みなさん、お疲れ様でした」

 

 

十蔵のその一言で、この報告会は終わるのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

世界の何処かにある、名もない...いや、元々はあったが今は『R-44』という識別番号が割り振られているだけの基地。

今此処では、とある実験が行われていた。

 

 

「あ、が、がぁあああああ!!」

 

 

基地内に響く、男の叫び声。

男とは言ってもまだ少し幼さが残る、高校生くらいの少年くらいの声だ。

その声の発生源。

そこは基地の中でもかなり奥の方に存在する研究室。

その研究室の中には、かなり大勢の人間が存在した。

しかし、その姿を全く関係ない第三者が見たら異様に感じる...いや、人によっては恐怖すら抱くだろう。

それは何故か。

 

 

「ぐぅ、がぁあああああ!!」

 

 

先程から声を出している少年には体中に様々なプラグが刺さっており、そのプラグの先には様々な計測機器や薬品の入った点滴袋などが繋がっていた。

そしてその少年を囲むように白衣を身に纏いガスマスクを装着した人物が7人存在した。

 

 

「数値はどうだ?」

 

 

「特にこれといったものは無い。一般的なアジア人の男子と変わらん」

 

 

「それなら、何故コイツは...」

 

 

「現状は分からない」

 

 

「おい、そろそろ耐え切れなくなるんじゃないか?」

 

 

「そうだな...貴重なサンプルだ、つぶれてもらっては困る」

 

 

「良し、出力をゼロにする」

 

 

会話の後、ガスマスクの1人が装置をいじると少年の叫び声は消えて行った。

 

 

「気絶したか?」

 

 

「ああ......点滴以外のプラグは抜いてやるか」

 

 

「なんだ珍しい。お前が実験体に優しいだなんて」

 

 

「コイツがつぶれると俺までつぶされるからな。世界2つしかない実験体の片方だし」

 

 

「確かにな」

 

 

ガスマスク達はそう会話しながら手際よく少年からプラグを抜いて行く。

まるで、何度も同じ事を繰り返しているかのように。

 

 

「しっかし、上は如何やってコイツを?」

 

 

「さぁ?話に聞く限りでは自分から来たらしいぞ」

 

 

「自分からぁ?」

 

 

「ああ。何でも『俺にも力を!!』とかなんとか言っていたみたいだ」

 

 

「ふ~ん...まぁ、俺達には関係ない」

 

 

「そうだな。アイツを研究し、ついでに薬品投与で身体能力を上げればいいだけだからな」

 

 

『ハハハハハ!!』

 

 

ガスマスクの7人はそう笑い合うと少年を放置して研究室から出て行った。

 

 

「あ、が、ぁ...これで、俺も、強く...」

 

 

この場に放置された少年は、虚ろな目をしながらそう呟くのだった。

 

 

 

 




IS学園は戦力が大幅に下がってしまいました。
大変だぁ...!!

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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機械人格の武装騎竜

さて、何のことかサブタイで分かるかな?

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

IS学園が襲撃を受けてから3日がたった。

もう既にIS学園の臨時休校は解除され既に授業が再開している。

3日たった今、世界中が捜索しているのにも関わらず深夜の行方は分かっていないし、深夜がいた痕跡も見つかっていない。

IS学園の生徒達だけでなく、世界各国でこのニュースは報道され、世界を驚愕させた。

まぁ、『これで私達の敵が1人いなくなった!』と騒ぐ女尊男卑主義者もいたりしたのだが。

 

 

そんなこんなで、授業が終わった放課後。

IS学園の校門近くにはクラリッサやチェルシー、千冬を始めとした全専用機持ちが集合していた。

集まっている理由は単純明快。

今日、一夏がIS学園に帰って来るからである。

昨日のうちに『PurgatoryKnights』(に伝言を頼んだオルコス)から一夏が放課後に帰って来ると連絡があったのだ。

その為今こうやって集まり、一夏の事を待っていたのだ。

 

 

「「......」」

 

 

待っているメンバーの中でやはりというかなんというか、クラリッサとチェルシーは物凄くソワソワしていた。

発熱して倒れたのに、看病すら出来なかった大切な恋人が帰って来る。

そんなもの、ソワソワしない方がおかしい。

一夏はしっかりと元気になっているのか、看病が出来なかった事に対してどう思ってるのか。

気になる事を上げて行けばキリがない。

 

 

そうして、そこから大体10分後。

 

 

「う~ん...何処改良した方が良いのかなぁ?」

 

 

《やはり、今日急に団員が増えたからまだ纏まりきってないんだろう。もう少し考えれば良いデッキになる》

 

 

「なるほどなぁ」

 

 

「っ!声が聞こえる!」

 

 

IS学園から続くモノレール駅の方から、話し声が聞こえて来た。

全員は顔を見合わせ会った後、ガバッと校門に視線を向ける。

 

 

《なんか、ごめんなさいマスター》

 

 

「気にすんな。寧ろ、こうやってデッキを考えるのは楽しいからな」

 

 

《生粋のカードゲーマ―ですね》

 

 

「バディファイトは俺の中でISと同じくらいの優先度だ」

 

 

《バディファイトが無いと我らとは共に居れないからな》

 

 

声はドンドンと大きくなってくる。

だが、それと同時に全員が首を傾げた。

何故なら、一夏とオルコス以外の声が聞こえてくるのだ。

一夏とオルコスの声よりも高い、女性的な声。

それも2人分。

疑問を感じるのは当然だろう。

そうして、一夏が校門に姿を現した。

 

 

『えっ?』

 

 

「あっ」

 

 

その瞬間にこの場にいた全員が呆気に取られたような声を浮かべ、一夏もまた同じような表情を浮かべた。

それは何故か。

一夏と共に、一夏以外の人物がその場にいるからだ。

 

 

《フム》

 

 

先ずはオルコス。

これは良い。

オルコスは一夏のバディ、常に一緒に居るのは当然だろう。

だが、問題はここからだ。

 

 

《あ、えっと...アハハ...》

 

 

《...マズかったですかね?》

 

 

一夏の右手を握る白髪で麦わら帽子を被った女の子と、その女の子と似た容姿を持つ白髪の女性。

そんな2人が、居たからである。

 

 

『......誰!?』

 

 

その2人を見て、千冬達はそう声を発するのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

一夏side

 

 

「この瞬間!雷陽団団長 バールバッツ・ドラグロイヤーの効果発動!デッキの上から5枚見て、その中の《雷帝軍》のモンスター2枚をサイズ0扱いでコールする!」

 

 

《さぁ、この剣に集え!!》

 

 

ヒーローWでジェネシスさん達と会ってダークコアデッキケースを回収した後。

俺は今からバディファイト出来る人達と連絡を取り、バディファイトしていた。

そして、今は最後に最強のバディファイター、牙王さんとファイトしているんだが...ピンチ!!

俺のライフはまだ12ある。

だけれども、バッツ様の3回攻撃『バッツの加護 “完全竜化(ドラゴンシフター)” 竜牙王』の6回攻撃を防いだからゲージと手札は0。

それに俺の場には何もいない。

そんな中で、2体の追加が来るのだ。

かなりピンチ!

 

 

「センターにコール、超武装逆天竜 ドラムバンカー・ドラゴン!レフトにコール、逆天太陽竜 バルドラゴン!」

 

 

《しゃあ!派手に、行くぜ!》

 

 

《バル、頑バル!!》

 

 

「マジィ!?」

 

 

おお、スゲェ!

牙王さんの歴代バディが全集合してる!

...じゃなくて!

ピンチ!

 

 

「行くぜドラム!ファイターに、アタック!」

 

 

《雷電の一撃!ドリルラム・インパクト!!》

 

 

「うわぁ!?」

 

 

ライフ12→9

 

 

「次にバルだ!ファイターにアタック!」

 

 

《一夏、覚悟バル!》

 

 

「ぐぅ!?」

 

 

ライフ9→7

 

 

「はぁ、はぁ...」

 

 

耐えはした。

でも...!!

 

 

「ファイナルフェイズ!」

 

 

牙王さんはそう天高く宣言する。

やっぱり...!!

 

 

「このターン俺が4回以上攻撃していて、バッツがいるときに使える、必殺技!!」

 

 

「だが、ゲージはもう1しか...!!」

 

 

「この必殺技は、俺がこのターン攻撃した回数だけ払うゲージが少なくなる!俺が攻撃したのは11回!よってゲージ1で、キャストぉ!!」

 

 

牙王さんはもう宇宙にまで飛び出して巨大な槍の背後に周る。

 

 

「轟天雷槍 ×天、アルティメットぉぉぉ...バスターァァァァァァアアアアア!!!!!」

 

 

そうして、牙王さんはその槍を殴って俺の方に飛ばす。

轟天雷槍 ×天アルティメットバスターのダメージは、バディファイトの中でも最大の20。

つまり...

 

 

 

「うわぁあああああああああああああああ!!!!」

 

 

ライフ→7→0

 

 

『GameEnd Winner,MIKADO GAOU』

 

 

「押忍!ありがとうございました!」

 

 

煉獄騎士の鎧はダークコアデッキケースに戻り、俺と共に転がっていく。

俺の負けだぁ!

 

 

「負けたぁ!!」

 

 

「へへへ、俺の勝ちだ!」

 

 

やっぱり牙王さんは強い...

流石伝説のバディファイター。

約3年前に始めたばっかりの俺とはレベルが違う。

いや、3年でも長い方なんだけどね。

 

 

「2人とも、お疲れ様~~!たこ焼き出来たわよ~~!!」

 

 

「おう!パル子、ありがとうな!」

 

 

「パル子さん、ありがとうございます」

 

 

そんな事を考えていると、ピンク髪の女性...牙王さんの奥さん、未門パル子さんが手にたこ焼きの入ったプラスチック容器6つを持ちながらこちらに駆け寄って来た。

パル子さんは元々バディファイトの実況をしている人だったのだが、結婚と共に引退し、今では未門家を支えている。

 

 

《疲れたぜ》

 

 

「ほら一夏、大丈夫か?」

 

 

「はい...ありがとうございます」

 

 

牙王さんが差し出してくれた手を握り、立ち上がる。

服に付いている土を払ってから隣に落っこちてるダークコアデッキケースを手に取る。

 

 

「オルコス、白式、白騎士、出てきていいぞ」

 

 

《ああ》

 

 

《は~い》

 

 

《分かりました》

 

 

俺がそう声を発すると、ダークコアデッキケースから3つの声が響き、3枚のカードが飛び出て来る。

そして3枚のカードは光るとそれぞれ姿を変える。

オルコスSDと、そして麦わら帽子を被った白髪の少女と、その少女によく似た容姿の女性...そう、白式と、白騎士だ。

先程博士の研究室でジェネシスさんとジェムクローンさんに見せられたもの。

それが、白式と白騎士の身体だったのである。

ジェムクローンさんがジェネシスさんに造られた事から分かるように、ジェネシスさんはモンスターを造ることが出来る。

その技術を応用して、白式と白騎士の身体を造ったらしい。

博士曰く

 

 

「提案したのははかせだけど、しっかりと白式と白騎士が納得し、望んた事だよ。一夏君を支えるためにね」

 

 

との事。

そして、ダークコアデッキケースから2人の意識を身体に移した。

これで、白式と白騎士はそれぞれ『新生煉獄騎士団 ホワイトタイプ・ドラゴン』『新生煉獄騎士団 ホワイトナイト・ドラゴン』として生まれ変わったのだ。

そうして、白式と白騎士はISのコア人格から肉体を持つモンスターとなったのだ。

もう脳内会話は出来なくなってしまったが、これからは直接話せるようになった。

これは素直に嬉しいし、2人が俺を支えてくれるためって言ってくれたのは更に嬉しい。

 

 

「ほら、みんな。たこ焼きよ。」

 

 

「ありがとうな、パル子」

 

 

《フン!受け取っておいてやる》

 

 

「ありがとうございます、パル子さん」

 

 

《受け取っておこう》

 

 

《ありがとうございます!!》

 

 

《料理を食べるのは初めてですね...》

 

 

牙王さん、バッツ様、俺、オルコス、白式、白騎士の順でパル子さんにそうお礼を言う。

 

 

「「いただきま~す!!」」

 

 

パル子さんから受け取ったたこ焼きを食べる。

その瞬間に、俺のたこ焼きの10倍位美味しい。

く、なんでこんなに差が出るんだ...!!

 

 

《なるほど、これは...》

 

 

《初めて料理食べた!美味しい!》

 

 

《なるほど、これはマスターが料理に凝るのが分かる気がします!》

 

 

煉獄騎士団員たちがそう感想を漏らしていく。

そうか、2人は今まで食べ物なんて食べた事無かったな。

 

 

《おい一夏。そろそろ戻るって言ってたんじゃないか?》

 

 

そんな事を考えていると、バッツ様がそう声を発する。

 

 

「確かに、そろそろ戻ろうかな」

 

 

《なら待て。急に戻るとまずいだろう。『PurgatoryKnights』に連絡を入れてから戻る。そのまま学園に連絡を入れてもらうから、学園に帰るなら明日以降だ》

 

 

「確かに」

 

 

オルコスの言う通りだな。

急に帰ると迷惑掛かるから、いったん『PurgatoryKnights』に帰るか。

 

 

「そうだ一夏。帰るんならお土産があるぜ」

 

 

「お土産...ですか?」

 

 

「おう!天武のじっちゃんからだぜ」

 

 

天武様から...?

俺がそう考えていると、牙王さんから1枚のカードを手渡される。

これは...

 

 

「......俺、このカードデッキに入れられないんですけど」

 

 

「まぁまぁ、持ってるだけ持っとけ。デッキには入らなくても、ディザスターフォース使えば一応使えるだろ?」

 

 

「...確かにそうですね。じゃあ貰っておきます」

 

 

そうして、俺はそのカードをポケットを仕舞う。

 

 

「それじゃあ、俺達はそろそろ帰りますね」

 

 

「おう!またバディファイトしようぜ!」

 

 

「一夏君、元気でね!」

 

 

《フン!俺様達に追いつけるよう、精進するんだな》

 

 

「ハハハハ!それじゃあ、失礼します」

 

 

牙王さん、パル子さん、バッツ様にそう言ってから、俺達はいったんダークネスドラゴンWに戻り、煉獄騎士団たちに白式と白騎士の事を説明した後、『PurgatoryKnights』に向かう。

そうして『PurgatoryKnights』で社長と久しぶりに会った。

体調面について根掘り葉掘り聞かれたが、特に問題なく、既に完調していると伝えた。

なんとなく社長はまだ心配そうだったが、俺が大丈夫だと言ったので一応は納得してくれたようだ。

 

そして束さんにも顔を出そうとしたがなんでも今日は用事があって外に出てるから今はいないとの事だった。

あの束さんが用事...

なんなのだろうか?

気になるけど、まぁ女性の用事を詮索する訳にもいかないから特に何も聞かなかったけど。

そして社長とクロエさんに白式と白騎士の事を説明すると、やはりというかなんというか、滅茶苦茶驚いていた。

 

まぁ、そりゃそうだろうな。

急にISがモンスターになりました何て言われたら驚くに決まってる。

俺も驚いたし。

 

 

そんなこんなで翌日の放課後。

俺はオルコス、白式、白騎士の3人と共にIS学園に向かって行った。

 

 

「う~ん...何処改良した方が良いのかなぁ?」

 

 

俺はオルコスにデッキの改良案を尋ねる。

 

 

《やはり、今日急に団員が増えたからまだ纏まりきってないんだろう。もう少し考えれば良いデッキになる》

 

 

「なるほどなぁ」

 

 

確かに、今日急に白式と白騎士をデッキに入れたから纏まりきってない感じは否めない。

 

 

《なんか、ごめんなさいマスター》

 

 

「気にすんな。寧ろ、こうやってデッキを考えるのは楽しいからな」

 

 

《生粋のカードゲーマ―ですね》

 

 

「バディファイトは俺の中でISと同じくらいの優先度だ」

 

 

《バディファイトが無いと我らとは共に居れないからな》

 

 

白式と手を繋ぎ、そんな会話をしながら校門に向かって行く。

さてさて、もうすぐで校門だな。

ああ、早くクラリッサとチェルシーに会いたい...

そんな事を考えながら校門を通る。

 

 

『えっ?」

 

 

「あっ」

 

 

その瞬間に、何故か集まっていたクラリッサにチェルシーに、千冬姉、そして深夜を除く専用機持ち達。

全員が呆気に取られたような声を発し、俺もつられてそんな声を出してしまう。

 

 

《フム》

 

 

《あ、えっと...アハハ...》

 

 

《...マズかったですかね?》

 

 

オルコス、白式、白騎士の順でそう声を発する。

 

 

『......誰!?』

 

 

みんなは一斉にそう声を発する。

まぁ、そりゃあそうだよね。

えっと、どうしようか...

 

 

「い、いいい一夏?そのお2人の女性はいったい?」

 

 

「千冬姉、落ち着け餅つけ」

 

 

「わ、分かった。取り敢えずもち米を...」

 

 

「本気で餅つこうとするな!」

 

 

こういう日本の伝統だろうが!

 

 

「い、一夏?誰なの、その人...」

 

 

「一夏?正直に...」

 

 

「説明する説明する」

 

 

クラリッサとチェルシーは何処か動揺したかのようにそう聞いてくる。

俺はチラッと白式と白騎士に視線を向ける。

 

 

(話に合わせてくれ!!)

 

 

俺のアイコンタクトの意図を察したのか、2人は頷く。

 

 

「俺の新しいサポートロボだよ」

 

 

『サポートロボ?』

 

 

「ああ。今までのロボはドラゴン風だっただろ?そしたら主任が『今度は女の子風にしてきた!!』って事で、この2人が来たんだ。すまないが、自己紹介をしてくれないか?」

 

 

《はい。新生煉獄騎士団 ホワイトタイプ・ドラゴンです。白式と呼んでください》

 

 

《新生煉獄騎士団 ホワイトナイト・ドラゴンです.......白騎士とお呼びください》

 

 

そうして、白式、白騎士の順でそう挨拶をして頭を下げる。

チラッとみんなの事を見ると、やはりというかなんというか驚いた表情をしていた。

まぁ多分、白騎士という名前を聞いたからだろう。

ISに関わるものなら始原のISの名前くらい覚えている。

それと同じ名前を名乗られたら驚くに決まってる。

特に千冬姉は白騎士のパイロットでもあったのだ。

多分1番驚いてる。

 

 

《...お久しぶりです》

 

 

「っ...!!」

 

 

白騎士がボソッと千冬姉に向かってそう呟き、千冬姉は息をのむ。

これでもう、伝わっただろう。

 

 

「戻れ」

 

 

《了解した》

 

 

《分かりました、マスター》

 

 

《はい》

 

 

俺の指示に従いオルコス、白式、白騎士はカードに戻る。

そのカードを仕舞ってから改めてみんなの事を見る。

 

 

「......ただいま!!」

 

 

俺がそう言うと、みんなは一瞬驚いたような表情を浮かべるも直ぐに笑みを浮かべてくれる。

 

 

『お帰りなさい!!』

 

 

そして、そう返してくれるのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

三人称side

 

 

「「一夏ぁ!!」」

 

 

「うぉお!?」

 

 

あの後、一先ず解散し各々の部屋に戻っていった一夏達。

そんな中でクラリッサとチェルシーは一夏の部屋に入り、取り敢えず一夏がダークコアデッキケース等々を机の上に置いた瞬間に抱き着いた。

急に抱き着かれた一夏は変な声を出すも踏みとどまり倒れる事は無かった。

 

 

「一夏、心配した!!」

 

 

「一夏が元気で、本当に良かった!!」

 

 

クラリッサとチェルシーは涙ぐみながらそう声を漏らす。

その言葉を聞いて、一夏は暫く固まるとそのまま2人の事を抱きしめ返す。

 

 

「ごめん、また、心配かけさせちゃったみたいで」

 

 

「...ううん、気にしないで。私達が勝手に心配してだだけだから」

 

 

「それでもだよ......心配かけさせてばっかりで、ごめんね」

 

 

一夏は自嘲する様な笑みを浮かべる。

そんな一夏を見て、クラリッサとチェルシーは腕に籠める力を強くする。

 

 

「一夏、自分を下げないで」

 

 

「確かに私達は心配しちゃうけど、一夏は悪くない」

 

 

「......ありがとう」

 

 

2人の言葉に、一夏は笑みを浮かべながらそう返す。

そうして、一夏も腕に力を籠める。

暫くの間3人はそうして互いの事を抱きしめ合う。

 

 

「...なぁ、2人とも」

 

 

「ん?一夏、どうし」

 

 

ちゅ♡

 

 

一夏がクラリッサとチェルシーに声を掛け、それに反応したクラリッサに一夏がキスをする。

 

 

「ん、んんん...んんん///」

 

 

「んぁ...んちゅ」

 

 

大体1分経った時、一夏はクラリッサの唇から自分の唇を離す。

2人の唇を繋ぐ唾液の糸が空中で切れる。

 

 

「チェルシー...」

 

 

「一夏...」

 

 

クラリッサとのキスを終えた一夏はチェルシーにもキスをする。

 

 

「んぅ...んちゅ...んぁ...///」

 

 

「んぅ...うん......」

 

 

チェルシーとのキスも大体1分くらい続いた。

唇を離すと、唾液の橋が架かり、切れる。

 

 

「...久しぶりだしさ。今日くらいは...良いじゃん?」

 

 

一夏はニヤリと少し子供っぽい...でも、少し大人のような色気を感じさせる笑みを浮かべる。

そんな一夏を見て、クラリッサとチェルシーは顔を真っ赤にしながら、コクリ、と頷いた。

 

 

そうして、3人は朝まで愛しあったのだった...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(...後、どれくらい持つのかな?俺は、この幸せな時間は.......)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




新生煉獄騎士団 ホワイトタイプ・ドラゴン

ダークネスドラゴンW/ヒーローW
サイズ0
攻撃力3000
防御力1000
打撃力1
武装騎竜/白竜/ブレイブマシン/IS

■アタックフェイズ中、このカードがカードの効果で破壊された時、相手のゲージ1枚をドロップゾーンに送るか相手にダメージ2!
■このカードがソウルにあるサイズ2以上の《武装騎竜》は『反撃』を得て、相手の効果でソウルを捨てられない。

フレーバーテキスト
マスターの為に、戦う!

新生煉獄騎士団 ホワイトナイト・ドラゴン

ダークネスドラゴンW/ヒーローW
サイズ1
攻撃力5000
防御力1000
打撃力1
武装騎竜/白竜/ブレイブマシン/IS

■アタックフェイズ中、このカードがカードの効果で破壊された時、デッキからカードを2枚ドローする。
■このカードがソウルにあるサイズ2以上の《武装騎竜》の攻撃力+5000し、1枚で攻撃している攻撃は無効化されない!

フレーバーテキスト
マスターの事は、私達が支えます!


祝!
白式と白騎士のモンスター化!
連載開始当初からずっと考えていたことが漸く出来ました!

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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異常な身体能力

誰の事だ?

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

一夏がIS学園に復帰した翌日。

1週間ぶりに教室に来た一夏はクラスメイト達から心配の声を掛けられた。

 

 

「一夏君、久しぶり!大丈夫なの!?」

 

 

「静寐、久しぶり。見ての通り元気だよ」

 

 

一夏は笑みを浮かべなんとなく力こぶを作りながらそう返事をする。

服の上からなので筋肉をしっかりと確認する事は出来ないが、それでもなお筋肉がある事自体は確認出来る。

その事に静寐は若干顔を赤くする。

そんな静寐の様子に一夏は首を傾げるも自分の机の上に鞄を置く。

 

 

「一夏君、本当に久しぶりだね」

 

 

「ああ、清香。久しぶり」

 

 

SHRが始まるまでの間、一夏は暫くぶりに会う友人達との会話を楽しんでいた。

そして大体10分後SHRの開始時刻になったのでチャイムが鳴る前にクラスメイト達は自分の席に戻っていく。

ここで、一夏は気が付いた。

 

 

(あれ、深夜は...なんだ、風邪か?)

 

 

深夜がまだ来ていない事に。

一夏はまだ襲撃事件があった事を知らない。

その為、深夜が行方不明な事も知らないのだ。

そんなこんなでチャイムが鳴り、教室に千冬と真耶が教室に入って来た。

 

 

「全員席に付いているな、これよりSHRを開始する!」

 

 

千冬が教壇に立ち、そう声を発する。

その瞬間に全員の視線が千冬に集中する。

 

 

「さて...織斑は1週間ぶりだな」

 

 

「はい、お久しぶりです」

 

 

「織斑...2日前の出来事を聞いたか?」

 

 

「聞く...何をです?」

 

 

「聞いて無いのか...良し、それじゃあ説明する」

 

 

そこから、千冬は一夏に対して説明をした。

襲撃事件があり、第一、第二アリーナが半壊した事。

それによりクラリッサ、チェルシー、楯無以外の専用機が破壊された事。

そして、深夜が行方不明になった事を。

 

 

「なるほど...なんか、ごめんなさい。大事な時に居なくて」

 

 

「気にするな。体調不良なら仕方が無い」

 

 

「それと織斑先生...暮桜帰って来たんですか?」

 

 

「...何故分かる?」

 

 

「いやぁ、織斑先生以前はそんな腕輪していなかったですし...それに、心なしか千冬姉現役の時みたいな雰囲気あるからさ」

 

 

途中までは生徒として話していた一夏だったが、微笑を浮かべて弟として話す。

その事に千冬も微笑を浮かべ返すと

 

 

「ああ。私の専用機、暮桜・明星だ」

 

 

と返す。

一夏はなるほどと頷く。

それと同時に、机の下で拳を握りしめ、表情に出さないように奥歯を噛み締める。

 

 

(クソ...俺は...大変な状況で何も出来なかった......!!)

 

 

そして、心の中でそう悔しそうな声を発する。

そんな一夏の内心を察してか否か、千冬が一夏に声を掛ける。

 

 

「織斑。あの2人の紹介をしておけ」

 

 

「あ、はい。そうですね」

 

 

一夏はダークコアデッキケースから2枚のカードを取り出す。

 

 

「白式、白騎士、頼んだ」

 

 

一夏はそう言い千冬の隣に向かってカードを飛ばす。

カードは空中で光るとそのまま人間体の白式と白騎士になる。

 

 

『えっ!?』

 

 

初めて見るクラスメイト達はそう驚愕の声を発する。

 

 

《初めまして!新生煉獄騎士団 ホワイトタイプ・ドラゴンです!白式って呼んでください!》

 

 

《初めまして。新生煉獄騎士団 ホワイトナイト・ドラゴンです。白騎士と呼んでください》

 

 

白式と白騎士は各々自己紹介をすると、ぺこりと頭を下げる。

クラスメイト達は驚きの表情を浮かべたまま固まってしまっている。

そんな様子に一夏は苦笑いを浮かべながら言葉を発する。

 

 

「この2人は俺のサポートロボだ。なんかうちの開発主任が気分でこうしたらしい」

 

 

一夏の説明を受けて、全員は一応納得した。

一夏が戻っていいと2人に伝えると、2人はカードに戻り一夏の手元に戻る。

そしてダークコアデッキケースに仕舞うと視線を千冬に戻す。

 

 

「さて、3時限目の実技授業だが専用機持ちと一般生徒で内容が異なる!一般生徒はグラウンドに、専用機持ちは第四アリーナに向かえ!」

 

 

『はい』

 

 

千冬の指示を聞いた全員がそう一斉に返事をする。

その返事を聞いた千冬は頷く。

 

 

「それでは、以上でSHRを終了する!」

 

 

「1時限目は私の授業なので、しっかり準備をしておいてくださいね」

 

 

千冬と真耶はそう言うと、教室から出て行った。

 

 

「......」

 

 

その背中を見ながら、一夏は再び静かに拳を握りしめるのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

時間は流れ、現在3時限目が始まる前の休み時間。

朝の指示のように一般生徒はグラウンドに、専用機持ちは第四アリーナに集まっていた。

一夏は久しぶりに着用するジャージを懐かしく思いながらオルコスSDと共にアリーナに向かう。

 

 

「さっきチラッと第二アリーナ見て来たけど本当に半壊してたな」

 

 

《ああ。襲撃者の装備等は聞いていないが、恐らくまたアクワルタ・グワルナフのレプリカが使われたと考える方が良いだろう》

 

 

「そうなると、やっぱりアジ・ダハーカ様の細胞は培養されてると考えた方が良いな」

 

 

《そうだな》

 

 

一夏とオルコスはそう会話しながら歩く。

そうして、一夏はアリーナに入ると、その表情を驚きのものに変える。

それは何故か。

 

 

「お、一夏、遅かったな」

 

 

「まぁ、私達が早いだけっス」

 

 

「あれ、ダリル姉にフォルテ姉、なんでいるの?」

 

 

そう、アリーナにダリルとフォルテが居たからだ。

それにサラと楯無も少し離れたところにいるため、上級生の専用機持ちが勢ぞろいしている事になる。

 

 

「私達の専用機もボロボロになったのは知ってるか?」

 

 

「朝織斑先生から聞いたから知ってる」

 

 

「それで、今日の実技は全学年の専用機持ちが集まって、専用機を...というかISを使わない訓練をするみたいっスよ」

 

 

「なるほど......ん?IS使わないのにアリーナ?何するんだ?」

 

 

「さぁ?そこまでは聞いてない」

 

 

「まぁ良いか。説明はあるし」

 

 

一夏がダリルとフォルテと話している間に、マドカ達1年生専用機持ちが続々とやって来た。

 

 

「あ、お兄ちゃん!」

 

 

「ん?おう、マドカ。それにみんなも」

 

 

「なんか、一夏がしっかりと実技参加するのかなり久しぶりな気がするね」

 

 

「実際かなり久しぶりだからな」

 

 

「アンタ、単位大丈夫な訳?」

 

 

「一応は。てか、大丈夫じゃないと理不尽に感じる。だって過労→吐血→海外出張→発熱だぞ」

 

 

《海外出張は自分からだろ》

 

 

「まぁそうともいう」

 

 

一夏とオルコスの会話を聞きながらも、マドカ達は心配そうな表情を浮かべる。

その視線に気付いた一夏は苦笑いを浮かべると

 

 

「気にすんな。今は元気だし」

 

 

手をピラピラさせながらそうマドカ達に言う。

一夏本人が大丈夫だと言っている以上、マドカ達が特に何か言う事は無い。

正直まだ何か言いたそうだったが、この場は引き下がった。

 

 

「フム、全員揃っているな!整列!」

 

 

『はい!』

 

 

その瞬間に、アリーナにジャージ姿の千冬とISスーツ姿の真耶が現れ、千冬の指示を聞いた全員がしっかりと整列する。

 

 

「それでは、これより実技授業を開始する!さて、お前たちの専用機はこの間破壊されてしまった。その為、本日は国連から送られてきたパワードスーツを使用した訓練をしてもらう」

 

 

「国連からのパワードスーツ...ですか?」

 

 

「ああ。山田先生、お願いします」

 

 

「はい!ではみなさん、注目してくださ~い!!」

 

 

真耶の言葉に、全員の視線が真耶に集まる。

アリーナの端に置いてあったコンテナ近くに移動した真耶は

 

 

「オープンセサミ!」

 

 

と言いながらコンテナを開ける。

 

 

「お兄ちゃん、オープンセサミってなに?」

 

 

「知らん。無駄話はするな」

 

 

「いや、でも確かに分からないね」

 

 

「シャルまで...織斑先生がキレるから後でな」

 

 

『PurgatoryKnights』の3人が小声でそう会話してるのを聞いた真耶は若干涙目になる。

そんな何とも締まらない空気の中、コンテナが開き中に入っていたものを視認出来るようになる。

 

 

「...なに、あれ?」

 

 

「さぁ...?」

 

 

鈴と簪が疑問の表情を浮かべながらそう言葉を零す。

2人以外もこの場にいる殆どの人が同じような表情を浮かべていた。

あの楯無でさえも同じ様な表情を浮かべている中、他の人とは違う反応をしている人が2人。

 

 

「「あれは......」」

 

 

「ほう?ボーデヴィッヒは知っているとは思っていたが...織斑兄、お前もか」

 

 

一夏とラウラである。

千冬が意外そうな声を発したので全員の視線が2人に集まる。

 

 

「私は夏休みに基地で見たのだが...一夏、お前は何処で?」

 

 

「何時ぞやの福音と一緒。アレのパーツの7割は『PurgatoryKnights』製だ。仕様書で確認してる。取締役の2人はお披露目会にも呼ばれたらしい」

 

 

「なるほどな...」

 

 

「お前の所はなんでもしてるな?」

 

 

「何でもではない」

 

 

一夏、ラウラ、千冬の3人がそう会話をし、それ以外がポカンとした表情で3人の事を見ている。

その視線に気が付いた千冬が咳ばらいをしてから言葉を発する。

 

 

「んん!これが、今日お前たちに使用してもらうパワードスーツ『EOS』だ」

 

 

「EOS......?」

 

 

「エクステンデッド・オペレーション・シーカーが正式名称だ。それぞれの頭文字をとってEOSって呼ばれている」

 

 

千冬の言葉にセシリアが首を傾げながらそう呟いたので、一夏が補足をする。

 

 

「それでは、これからこのEOSを身に纏い簡単に動作の確認をしてもらう」

 

 

「みなさん、順番にこっちに来てそれぞれ乗り込んでくださ~い!」

 

 

真耶の指示に従い、1年生から順番にEOSに乗り込む。

動きを確認するために簡単に動こうとするのだが

 

 

「う、この...!!」

 

 

「お、重い...!!」

 

 

「思う通りに動きませんわ...!!」

 

 

「ヤバ...!!」

 

 

ほぼ全員が表情を歪めながらなんとか動かそうとするも、中々動かない。

そう、このEOSは欠陥だらけのパワードスーツなのだ。

エネルギー節約の為デフォルトがオフのあって無いようなパワーアシスト。

30キロのバッテリーを背負い、尚且つそれが無くても重すぎる本体。

シールドバリアーが無いのに生身が露出。

そして精々十数分の活動時間。

ISと比べるのがおこがましいくらいの低スペック品なのである。

救助活動等での使用を想定しているのだが、生身の方が身軽なので正直使わない方が効率は良いと現場は思っている。

 

そして、ほぼほぼ全員がなんとかといった感じで動いている中、周りとは違う反応をしているの3人。

 

 

「なるほどね...確かに動きにくいけど、おねーさんに問題は無い...はず...」

 

 

周りよりかは余裕そうな楯無と

 

 

「久しぶりだな...良し...」

 

 

感触を確かめるようにそう呟くラウラと

 

 

「.......」

 

 

(なるほど...これくらいなら、余裕だな)

 

 

眼を閉じ、身体に掛かる負荷を感じている一夏である。

 

 

「それでは、これよりEOSを用いたバトルロワイヤルをしてもらう!既にそれぞれにペイント銃とペイントブレードが装備されている!各々攻撃し合い、インクが付いたら脱落だ!ただし、銃は10発ごとにリロードが必要で、ブレードも定期的に納刀しないとインクが無くなるから注意しろ!」

 

 

『はい!』

 

 

「私達はこれから管制室に移動する。そこで開始の合図を出すのでアリーナの壁際に等間隔で並んで待機しろ」

 

 

『はい!』

 

 

そうして、千冬と真耶は管制室に移動していった。

一夏達も千冬の指示通りそれぞれ等間隔で向かい合うようにアリーナの壁際に移動し、オルコスは開いていたピットに入り観戦する。

 

 

『良し、それでは全員構えろ!試合......開始!』

 

 

千冬のその声で、全員が武装を構える。

しかし、ただ1人。

周りと違う行動をとった者がいた。

 

 

「そこを動くな!」

 

 

「うぇ!?一夏君!?」

 

 

そう、一夏である。

動きずらいEOSを身に纏ったので、他の人達が全員銃撃戦の準備をする中、一夏は1人だけ隣にいた楯無に向かって接近する。

しかも、その動きは何時も通りかなり身軽なものである。

楯無は慌てて一夏に向けて銃口を向けるも

 

 

「無駄だっ!!」

 

 

一夏は発砲される前に接近しきるとブレードを素早く抜刀し楯無の事を切り捨てる。

 

 

「ウソォ!まだ何もしてないのにぃ~!!生徒会長の威厳がぁ~~!!」

 

 

楯無が何か言っている事を聞かずに一夏は視線を他に向ける。

一瞬にして楯無という実力者を切り捨てた一夏に対し、全員が冷や汗を流しながら視線を向ける。

そして、同時にある事を思う。

 

 

(一夏をやらないとマズイ!)

 

 

と。

しかし、一夏はそう考えている隙に既に行動に移している。

マドカとセシリア...普段から遠距離射撃をしている2人に向かって接近していく。

 

 

「ただでは終わらないよ、お兄ちゃん!」

 

 

「く、一夏さん、覚悟!」

 

 

2人は一夏に対して銃口を向けて発砲する。

しかし、

 

 

「そんな攻撃など」

 

 

一夏には簡単に避けられてしまう。

ペイント弾の為、弾丸が確認しやすく速度も少し遅い事。

そして反動が強すぎるせいでブレてしまうためなかなかヒットさせるのは難しい。

 

 

「反動強すぎ!」

 

 

「く、これでは...!!」

 

 

「10万年早いぜ!」

 

 

そうこうしてる間に一夏が接近し、そのまま2人の事を同時に切り捨てる。

 

 

「一夏、覚悟!」

 

 

「アンタやばすぎんのよ!!」

 

 

そんな一夏の背後から、一夏と同じくブレードを構えたシャルロットと鈴がやって来る。

2人の様子を見て、一夏に射撃を当てるのは不可能だと判断したんだろう。

しかし一夏はそれすら嘲笑うかのように

 

 

「効かぬわぁッ!!」

 

 

2人の攻撃をブレードで受け止め、そのまま力をそらし体勢を崩させる。

 

 

「わわわっ!?」

 

 

「ヤバッ!?」

 

 

「ツメが甘いな」

 

 

一夏は素早く納刀してから抜刀し2人の事を切り捨てる。

僅か3分で楯無、マドカ、セシリア、鈴、シャルロットの5人を脱落させた一夏。

そんな一夏に、残っているラウラ、簪、ダリル、フォルテ、サラは緊張した面持ちで視線を向ける。

一夏1人で5人もこんなに素早く脱落させるだなんて思って無かったのだろう。

だが、一夏は笑みを浮かべると千冬や真耶を含めた全員が恐怖する言葉を口にする。

 

 

「そろそろ本気を出すぜ!」

 

 

まさか、今まではウォーニングアップだというのか。

脱落したマドカ達を含め全員の背中に冷や汗が流れる。

 

 

「全員で協力して一夏をやるぞ!」

 

 

「うん!」

 

 

「おう!」

 

 

「分かったっス!」

 

 

「ええ!!」

 

 

そんな会話を聞きながら、一夏はダリルとフォルテに向かって行く。

ラウラ達は一斉に一夏に向かって発砲をする。

それを見た一夏は足に力を籠めると一気に弾丸を避けるために跳躍する。

 

 

「なに!?」

 

 

「なんでこれ纏ってあんな飛べるんだよ!?」

 

 

そんな一夏の行動に驚き全員が思わず射撃を止めてしまう。

 

 

「弾幕展開!」

 

 

一夏は空中で左腕だけで銃を構えると、まるで反動が無いかのようにダリルとフォルテに向かって発砲する。

 

 

「くそぉ!」

 

 

「負けたっス...」

 

 

着地した一夏は残った3人に視線を向ける。

そして右腕を前に出し指をピラピラさせながら

 

 

「本気で来いよ!」

 

 

と笑みを浮かべながらそういう。

 

 

「もう本気だ!」

 

 

「一夏が凄すぎるの!」

 

 

「こんなの、どうすればいいの!?」

 

 

3人がそう声を発すると同時に、一夏は納刀したままのブレードを構えながらサラに接近する。

そんな一夏に対して簪が発砲しようと銃口を向けるが

 

 

「やらせるかよ!」

 

 

それよりも早く一夏が簪に向かって片腕だけで発砲する。

 

 

「きゃあ!?」

 

 

簪を脱落させた一夏は視線をサラに戻すと銃を戻し居合切りの要領で抜刀しサラを切り捨てる。

 

 

「くぅ...!!」

 

 

こうして、残ったのは一夏とラウラのみ。

 

 

「......一夏、行くぞ!」

 

 

ラウラはブレードを抜刀し一夏に向かって行く。

ラウラは一夏に向かってブレードを振るう。

しかし

 

 

「お前の技は見切った!」

 

 

一夏は身体を反らしその斬撃を避ける。

ラウラは反撃をされる前に後ろに退避する。

しかし、一夏とは異なり跳躍する事が出来ないのでそこまで距離は開いていない。

一夏は抜刀の準備をしながらラウラに向かって行く。

 

 

「貰った!!」

 

 

そのタイミングでラウラは一夏に向かって発砲する。

今からでは避けるのは難しいし、避けたとしてら今度はラウラからブレードで攻撃できる。

そんなタイミングで発砲した。

弾丸は一夏に迫っていき、遂に一夏に攻撃が当たる……

 

 

「……という夢を見たのさ」

 

 

一夏は銃を弾丸に向かって投げつける。

 

 

「なっ!?」

 

 

銃は弾丸にジャストヒットし、そのまま銃にインクが付着する。

だが、銃の勢いは止まらずラウラに向かって行く。

 

 

「くっ...!?」

 

 

ラウラは身体を反らしその銃を避ける。

そして視線を元に戻すと、そこにはブレードを構える一夏がいた。

 

 

「これにて仕舞いにございやす。死ヶ峰無限剣(インフィニティ・デスクレスト)!」

 

 

「ぐぁあ!?」

 

 

『そこまで!勝者、織斑一夏!』

 

 

そうして、一夏の斬撃はラウラに当たり、千冬が終了の合図を出す。

 

 

「影に紛れて悪を斬る…アッシら正義の世捨て人!」

 

 

その場の雰囲気で一夏は骸のルミナイズ口上を言う。

一夏がブレードを納刀し、先程投げたインクまみれの銃を回収すると、慌てた様子の千冬と真耶がアリーナにやって来た。

 

 

「はぁ、はぁ...い、一夏!」

 

 

「織斑先生、どうしました?」

 

 

千冬が一夏に声を掛けると、一夏は特に変わった様子もなくそう返答する。

 

 

「どうしたもこうしたもない!なんだ、あの動きは!?」

 

 

千冬のその言葉に、真耶やマドカ達も頷く。

 

 

「あの動きと言われても...普通に戦っただけですが?」

 

 

なんでも無いような様子でそういう一夏に、真耶達は若干の恐怖を覚える。

 

 

「こんなに重たいEOSであんな俊敏に動くのも?」

 

 

「あそこまで跳躍するのも?」

 

 

「こんなに反動が強い銃を片腕で撃つのも?」

 

 

「「「「「「「全部普通だと?」」」」」」」

 

 

「そう」

 

 

《因みに言っておくが我らは何もしていない。純粋な一夏の身体能力だけだ》

 

 

観戦していたオルコスが戻って来ていった一言。

純粋な身体能力だけ。

改めてそれを聞くと、一夏がどれだけ凄いか改めて感じる。

 

 

「お兄ちゃん...どうやって、それだけの身体能力を...?」

 

 

「...みんなを、守りたいからかな」

 

 

マドカの疑問に、一夏は右腕で左胸を押さえながらそう言葉を発する。

そんな一夏の様子に一瞬呆気に取られていたが、

 

 

「それでは、これで実時授業を終了する!EOSは私が戻しておくので、各々その場に置いて戻って結構だ!」

 

 

『はい』

 

 

千冬の指示に従い、全員がその場にEOSを残して更衣室に向かう。

こうして、この時間は終了するのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

ガザッ!ガザザザッ!ザザッ!!

 

 

「あ、ぐぅ...がぁ!?」

 

 

《一夏!大丈夫か!?》

 

 

《マスター!しっかりしてください!》

 

 

《マスター!》

 

 

男子更衣室。

此処に来た途端に一夏の視界にノイズが奔り、辺りが赤黒く染まる。

一夏は思わず頭を押さえながら蹲り、その拍子にポケットから落ちたダークコアデッキケースから白式と白騎士が出て来て一夏の側に駆け寄る。

 

 

「はぁ、はぁ、あ、がぁっ!?うぐぅ!!はぁ、はぁ、はぁ......」

 

 

急に大量の汗が出て来た一夏は床に座り込み、背中をロッカーに預ける。

左腕で頭を押さえ、右腕は左胸を...いや、心臓を押さえている。

 

 

《マスター、今日の身体能力、明らかに異常でしたよ!?》

 

 

「ああ...少なくとも、アフリカにいた時の俺には、EOSを纏って跳躍するだけの身体能力は、無かった...」

 

 

《つまり、ここ最近で身体能力が異常なまでに上昇していると?》

 

 

「そういう事に、なる...」

 

 

一夏の言葉を聞いたオルコス達は一斉に表情を難しいものに変える。

 

 

《マスター。もういっそのこと一気に進めちゃえば...》

 

 

「駄目、だ...俺はまだ、俺を捨てれない...!!」

 

 

白式の言葉に、一夏はそう返答する。

 

 

《...あの2人の為、か?》

 

 

「いや、俺の自己満足さ...」

 

 

《ふっ...それでもいい。俺らは一夏の事を支えるさ》

 

 

《そうです!マスターがそうしたいなら、マスターの意思を尊重します!》

 

 

《とにかく、今日は早退しますか?》

 

 

「い、や...暫くすれば、大丈夫...ゴホッ!ゲホッ!」

 

 

急に咳が出て来た。

一夏は右腕で口元を押さえる。

 

 

《マスター!》

 

 

《お水取ってきます!》

 

 

《タオルをもってこよう》

 

 

白式が一夏に駆け寄り、白騎士とオルコスはそれぞれ水とタオルを持ってくるため更衣室から出て行く。

だが、今の一夏にはその事を気にしてる余裕は無かった。

 

 

「やば、い...これ、もう、1年じゃなくて、半年、持つかどうか...」

 

 

そう呟く一夏の瞳は、自分で変えていないのに、黄金に輝いていた...

 

 

 

 




戦闘開始してから終了までの一夏のセリフは全てヒーローW魔法のカード名です。(死ヶ峰無限剣だけ必殺技で、これにて仕舞いにございやすはフレーバーテキストです)
こういうユニークな名前が好き。

それにしても、一夏ダークヒーローも似合うな...
この小説終わったらそっちも書こうかな。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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因縁の再会

前回のあらすじ

一夏「SHRで俺は学園が襲撃にあった事、そしてみんなの専用機が破壊されたり、深夜が行栄不明になった事を知った。何も出来なかったのが、悔しい…!!そして、その後にあったEOSを使った訓練では、何故か俺は身体能力が異常に上昇していた。俺は、何時まで大丈夫なんだ……?オルコス、次回は任せたぜ」


一夏side

 

 

EOSでの訓練があった1週間後。

今日はIS学園にいる専用機持ちの数が極端に少ない。

俺、クラリッサ、チェルシー、楯無さんの4人…いや、織斑先生を含めて5人だけだ。

こんなにも少ないのには勿論理由がある。

他の専用機持ちのみんなが、修理に出していたISを受け取るために一時帰国、並びに出社しているからだ。

軽い故障くらいだったら国から送られてくるのだが、流石にダメージレベルがCを超えていたのでかなりの量のパーツを交換する事になった。

そうして、パーツをほぼ交換する為、各々の最新の身体データをインストールする事になったらしい。

だからこそ、俺達5人以外が帰国したり出社したりしているのだ。

 

しかし、まさか全員のタイミングが重なるとは思わなかった。

勿論それぞれに誤差はある。

学園を出発したのが1番早かったダリル姉と鈴が出発したのはもう4日前だし、1番遅かったマドカ、簪の国内組とラウラは今日、今さっき出発した。

それでも、まさかISが破壊された全員が一斉にいない日があるとは思わなかった。

 

 

そして、今は昼休み。

俺が今何をしているのかというと

 

パチパチパチパチパチ

 

自席で仕事である。

この間の吐血と違い、今回の体調不良は発熱。

働いている人全員が発症する可能性が十分にあるものだ。

そして、良く考えて欲しい。

発熱したからといって、大事を取って仕事を1ヶ月とか休むだろうか?

否、である。

そう、社会人のみなさんだったら発熱レベル、治ったらすぐ出社して仕事だ。

 

(※フィクションだからです。現実では某感染症がありますので会社、学校の指示に従って下さい)

 

その為、俺も前回とは異なり直ぐに仕事を再開しているのだ。

だが、何ていうのだろうか。

最近は仕事で疲労を感じる事が減って来た。

喜ばしい事なのか、それとも…

いや、考えるのは止めよう。

頭が痛くなりそうだ。

 

 

そうして完全栄養食のパンとブラックコーヒーを口にしながら仕事を進めていく事数十分。

 

 

「おわったぁ~~」

 

 

なんとか仕事を終わらせた。

なんだろう。

やっぱり以前までと比べてそこまで疲れていないような気がする。

……取り敢えず片付けよう。

そう思い、PCをスリープさせ机の上からどかして鞄に入れる。

すると、

 

ぎゅ

 

急に後ろから抱きしめられた。

この抱きしめられる感じは……

 

 

「クラリッサ?どうかした?」

 

 

首だけを動かして振り返ってからそう言葉を零す。

そこにいるのは、俺の予想通りクラリッサだった。

やはり俺の愛情から成立するクラリッサとチェルシーの察知能力は完成されている。

 

 

「一夏…身体は大丈夫か?」

 

 

「……ああ、大丈夫だよ」

 

 

クラリッサが心配そうな表情を浮かべてくれたので、笑顔を浮かべながらそう返す。

クソッ……やっぱりまだ心配掛けさせちゃうか……

 

 

「心配性だなぁ。俺は元気だよ」

 

 

「でも、やはり心配なものは心配なんだ…」

 

 

はぁ…

全く、恋人がここまで心配してくれるなんて、俺は幸せ者だな。

でも、流石にもう心配掛けさせたくない。

さてとどうするか…

 

 

「クラリッサ」

 

 

「一夏…っ///」

 

 

俺は椅子に座ったまま少し身体をずらし、背中の方から俺を抱きしめてくれているクラリッサの右頬に左手を添える。

 

 

「心配してくれてありがとう。ここまで想えてもらえて、俺は幸せ者だよ。でも、もう心配しなくて大丈夫だから」

 

 

まだ俺の事を抱きしめるような位置にあるクラリッサの右手を俺の左胸…心臓の部分に当てさせる。

正直やってる方も凄い恥ずかしい。

でも、やっぱり今この場においてクラリッサの不安を取る一番の方法は、これだと思うんだ。

 

 

「……俺は生きてるから。だから大丈夫。ね?」

 

 

()()俺の心臓は正常に動いている。

俺の心臓の鼓動を感じたからか、クラリッサの顔が赤くなっていく。

可愛い。

……『俺の心臓の鼓動を感じたからか』って考えるの滅茶苦茶恥ずかしい……

こりゃあ、多分俺の顔も赤くなってるな……

 

 

「俺は、大丈夫だから」

 

 

「ああ…一夏の鼓動、感じる……」

 

 

クラリッサは若干俯きながら、そうボソッと呟く。

可愛い。

 

ちゅ

 

我慢出来なくなったのでクラリッサの左頬にキスをする。

 

 

「っ~~~/////」

 

 

「…可愛すぎだろ」

 

 

おっと、顔を更に赤くしてもじもじするというクラリッサの反応が可愛すぎるからつい本音が…

 

 

「はぁ……おい、私の弟とその恋人」

 

 

「ん?」

 

 

「え?」

 

 

そんなやり取りをクラリッサとしていると、教室の入り口の方からそんな声が聞こえてきた。

クラリッサと共に同時にそっちの方に視線をむけると、そこには若干呆れたような表情を浮かべる織斑先生が立っていた。

 

 

「織斑先生、どうかしましたか?」

 

 

「どうするもこうするもない……お前ら、いちゃつくのは構わんが場所を考えろ。周りを見ろ」

 

 

「?」

 

 

織斑先生に言われたのでぐるりと教室を見回してみる。

周囲にいるクラスメイト達は、顔を真っ赤にして俯いている。

フム、クラリッサの事しか考えてなかったから周りの事を見ていなかった。

クラリッサも周りに見られていた事を認識したからかあわあわし始める。

可愛い。

 

 

「彼氏いない歴=年齢の千冬姉は分からないような事かもしれないけど、やっぱり恋人に対する愛情ってのは限界が無いんだ」

 

 

「ぐふっ!?」

 

 

千冬姉は胸を押さえてその場に蹲る。

おお…想像以上にダメージが入った。

千冬姉も気にするんだな。

そんな事を思考の片隅で考えながら席から立ち上がり未だあわあわしてるクラリッサの事を後ろから抱きしめる。

クラリッサは少し驚いたようにしたものの、身体の前にある俺の腕に自分の手を軽く掛けてくれる。

可愛い。

 

 

「千冬姉もさ、いい加減彼氏見つけたら?弟として凄い心配だよ」

 

 

「う、うるさいうるさい!私に見合う男がいないんだ!!」

 

 

「……見つけようとしてないだけでは?」

 

 

「グハァ!!」

 

 

千冬姉はかなりの大ダメージを負ったようだ。

心なしかフラフラしてる。

普段の織斑先生とは全く違う千冬姉の様子にクラリッサやクラスメイト達はポカンとしている。

 

 

「クラリッサ。あれが普段は威厳に隠れている織斑千冬の真の姿、駄目駄姉だ。家族の前じゃないと見せない」

 

 

「か、家族の前…教官と私は家族では無いんだが……」

 

 

「いや、ほら、夫婦じゃん?家族家族♪」

 

 

「っ///ま、まだ夫婦じゃない!」

 

 

「『まだ』頂きましたぁ!!ありがとうございまぁす!!」

 

 

「っ~~~~~~//////!?!?」

 

 

俺の言葉に、クラリッサは顔を真っ赤にする。

可愛い。

そうして顔を隠そうとするが、クラリッサは今俺に抱きしめられている。

顔を隠すという行為の阻害は簡単。

 

 

「……まぁ、俺の国籍云々が決まって無いからさ。年齢的にも状況的にも、まだ結婚とか出来る感じじゃないし、重婚出来るようになるかも分からない。だからさ」

 

 

そう言いながらクラリッサの正面に移動し、視線を合わせる。

可愛い。

そして、笑みを浮かべながら耳元で囁く。

 

 

「だからまた、今度話し合おう。チェルシーも含めてさ♪」

 

 

「……ああ。また今度だな♪」

 

 

クラリッサはまだ顔が赤かったけど、笑顔で俺に抱き着き返してくれる。

お、なんだかんだクラリッサも乗り気じゃないか。

そんな事を考えながら暫くクラリッサと抱き合う。

ああ…いい匂い……

なんとなく見えるクラスメイト達の顔が真っ赤だ。

何故俺とクラリッサのイチャイチャを見て顔を赤くするんだろうか。

まぁ、良いか。

 

キーンコーンカーンコーン

 

そう思った瞬間にチャイムが鳴った。

雰囲気が読めないチャイムだなぁ。

何時までもこうしていたいが、チャイムが鳴った以上こうしている訳にはいかない。

名残惜しいけど、クラリッサから手を離す。

それと同時にクラリッサも俺から手を離す。

 

 

「それじゃあ、また後で」

 

 

「ああ。また後で」

 

 

持ち場に戻っていくクラリッサの背中を見届けてから、視線を未だにダメージから回復していない千冬姉に向ける。

 

 

「おい千冬姉。いい加減織斑先生に戻ってくれ。もう昼休み終わったぞ」

 

 

「あ、あ、一夏……」

 

 

「……禁酒」

 

 

「良し!」

 

 

俺が禁酒と呟いただけで千冬姉は立ち上がった。

チョロいな……

こんなんが世界最強で大丈夫なんですか?

まぁ、頼れるときはこの上なく頼りになるんだけれども。

そんな事を考えながら自分の席に座って授業の準備をする。

 

 

(生きてるから、大丈夫……)

 

 

先程のクラリッサとの会話を思い返しながら、俺は左胸を右手で押さえる。

 

 

(嘘はついてない。でも…)

 

 

視線をちらりと窓に…そして、その向こうの空に向ける。

 

 

(俺は何時まで持つんだ………?)

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

三人称side

 

 

昼休みにクラリッサとイチャイチャした一夏。

放課後も仕事をした一夏はクラリッサとチェルシーと共に夕食を食べた後、そのまま再び日付が変わるころまで仕事をしてそのまま泥のように眠った。

 

 

そして翌日。

今日も学園の専用機持ちは5人だけだ。

国内組も昨日出発したばかりなので、新しい身体データをインストールし終わってないし、仮に終わったとしても起動確認や訓練をしてからじゃないと帰ってこれないのでまだ帰ってきていないのである。

だが、明日には1番早くIS学園を出発したダリルと鈴が帰国する事になっているため、明日以降は続々とIS学園の専用機持ちが…戦力が戻って来るだろう。

 

 

そんな日の昼休み。

IS学園の食堂では1つのテーブルに集まっている7人が…正確に言うのなら食事をしている人間4人と、その4人と共に談笑をしているモンスターが3体。

 

 

「チェルシー、ごめん、あれ取って」

 

 

「はい、醤油」

 

 

「ありがとう」

 

 

「一夏、アレは何処だったか?」

 

 

「ナプキンは無い。ほら、ハンカチ」

 

 

「ん、ありがとう」

 

 

もう会話が完全に夫婦のそれになりつつある一夏、クラリッサ、チェルシーと

 

 

《仲睦まじいね~~》

 

 

《そうですね。マスターも嬉しそうです》

 

 

《会話に無駄が無いな。あそこまでの領域に達しているのに、本人達は周りをも赤面させたり、砂糖を吐き出させる程アツアツだ》

 

 

そんな3人の事を優しい表情で見ている白式、白騎士、オルコスと

 

 

「……」

 

 

1人死んだ目で黙々と食べ進める楯無だ。

 

 

「楯無さん、さっきから死んだような目をしてますけどどうしました?」

 

 

《お前たちの甘すぎる空間を創造する攻撃(イチャイチャ)にやられたに決まっているだろう》

 

 

「そうなんですか?」

 

 

一夏はあくまでも純粋にそう楯無に質問する。

だが、その質問が楯無に火をつけた。

 

バァン!

 

と机を叩きガバッと顔を上げると言葉を発する。

 

 

「目の前でそんなイチャイチャを見せられて、平常な心で居れる訳無いじゃない!!」

 

 

楯無のその言葉を聞いた3人は、一瞬顔を見合わせる。

 

 

「見せてる気は無いんですが」

 

 

「うっそ!?それで!?」

 

 

3人は同時に頷き、楯無は恐怖で表情をピクピクさせる。

一夏、クラリッサ、チェルシーはイチャイチャを見せつけている訳では無い。

ただ自然と激甘空間が漏れ出しているだけである。

 

 

《更識楯無、これがこいつらの普段だ》

 

 

《マスターの近くで四六時中この空間に巻き込まれているので、私達は慣れましたね》

 

 

《人目があるからか、部屋でやってるやつよりかは控えめだけどね》

 

 

若干引いている楯無にオルコス、白騎士、白式の順番でそう声を掛ける。

部屋でのイチャイチャよりは控えめだと聞いた楯無は更なる恐怖に襲われる。

そんな楯無を放って一夏達は食事を進めていく。

 

 

「「「ご馳走様でした」」」

 

 

3人は食べ終わると食器を片付ける。

 

 

「さて、そろそろ仕事を始めるかぁ…」

 

 

一夏は軽く背筋を伸ばしながらそう言葉を発する。

 

 

「そう…一夏、頑張ってね」

 

 

「ああ」

 

 

チェルシーとそう会話した一夏は視線をオルコス達に向ける

 

 

「オルコス、白式、白騎士、もど」

 

 

一夏のその言葉はそこで途切れた。

 

ガシャアン!

 

そんな音を立てながら、食堂の窓に対砲撃用シャッターが下りる。

 

 

『緊急事態です。緊急事態です。IS学園に向かってくる未確認のIS部隊を確認しました。専用機持ちは会議室に集合してください。一般生徒のみなさんは避難してください。繰り返します……』

 

 

「仕事なんてしてる訳にはいかなくなったな」

 

 

繰り返す放送を聞きながら一夏はため息をつきながらそう声を発する。

 

 

「オルコス、白式、白騎士、戻れ!クラリッサ、チェルシー、楯無さん、出番だ。行くぞ!」

 

 

《了解した》

 

 

《はい!》

 

 

《分かりました!》

 

 

「ああ!」

 

 

「行きましょう!」

 

 

「お姉さんの出番!!」

 

 

カードに戻ったオルコス達をダークコアデッキケースに仕舞いながら一夏は会議室に向かって走り出す。

そんな一夏を追うようにクラリッサ、チェルシー、楯無も走り出す。

そうして避難をする一般生徒とすれ違いながら会議室にたどり着いた一夏達はノックもせずに入る。

 

 

「どういう状況ですか!?」

 

 

「来たか!良し、説明するぞ!!」

 

 

部屋に入った瞬間に一夏が言った言葉に、会議室の中にいた千冬がそう反応する。

会議室の中には今来た4人と千冬以外には真耶しかおらず、かなりの緊急事態であることが察せられる。

そして、千冬は説明を始める。

先ず第一に、放送にもあった通りIS学園に向かってくる未確認のIS部隊を確認したとの事。

その正確な数は不明だが今までの襲撃よりも更に大勢がいるのは確定しており、更にその大部隊とは別方向からも数人の人間部隊が向かって来ているのが確認されている。

そして、他の教員たちは今は生徒達の避難誘導をしている為、直ぐに交戦は出来ない。

 

 

「なるほど…」

 

 

全ての説明を聞き終えた楯無は顎に手を置きながらそう反応する。

特に声には出していないものの、一夏達も同じ様な表情を浮かべていた。

 

 

「かなり厳しいですね…」

 

 

「ああ。こちらの専用機持ちは5人、そして直ぐに交戦できる教員は真耶だけ…つまり、戦えるのは6人。それに対し向こうの戦力はかなりの規模だ。かなり厳しい」

 

 

「それでも、やるしかない」

 

 

一夏のその言葉に、全員が頷く。

そして、作戦会議が始まった。

 

 

「その2つの部隊の映像は無いのですか?」

 

 

「待って下さい、今探します……ありました!表示します!」

 

 

真耶の言葉と同時に一夏達はモニターに視線を向ける。

すると、2枚のモニターにはそれぞれ別の映像が流れる。

1つは、カメラの方向に向かってくるIS部隊の映像。

その身に纏うISは、今までの襲撃者と共通した改造品の黒いIS。

 

もう1つの映像には、その襲撃者とは全く違う方向から歩行でやってきている集団。

歩行ではあるのだがISスーツを着用している数人を確認でき、つまりはISを所有している事が想像できる。

 

 

「かなりの人数ね……」

 

 

「ああ。この人数を我々6人だけで捌く事になる」

 

 

楯無の言葉に千冬が頷く。

 

 

「……こいつら別だなぁ」

 

 

唐突にそう呟いた一夏に全員の視線が集まる。

 

 

「一夏、どういうことだ?」

 

 

「そのまんまだ。この2つの部隊、所属先が違う」

 

 

一夏のその言葉に全員が驚きの表情を浮かべる。

 

 

「織斑君、何処でそれが!?」

 

 

「先ず動きが違う。この襲撃者たちは確実に戦闘しに来てるが、歩兵は潜入寄りの動き。それだけだったら同組織の別部隊の可能性があるが、それぞれの隊列の取り方、ISスーツ等々違う訓練、違う装備の可能性が高い。無論、それすら作戦の内かもしれないが、別組織の可能性も考慮した方が良い」

 

 

「なるほどな……」

 

 

一夏の言葉に千冬がそう頷く。

 

 

「所属云々はいったん置いておいて、なんでこの潜入部隊は来たのでしょう…」

 

 

チェルシーのその言葉に全員が一瞬考え込むような表情を浮かべる。

 

 

「千冬姉、暮桜・明星の事って世間に公表してるか?」

 

 

「いや、していないが…」

 

 

「なら、『IS学園にはブリュンヒルデの織斑千冬の専用機や、原初のISが封印されている』だののデマで来た可能性がある」

 

 

一夏の推測に全員が納得した。

 

 

「だからこの状況を利用する。千冬姉、山田先生、潜入部隊は任せました。学園の何処かでで待ち伏せしてたら向こうから来ます。そこら辺の位置については教員の方が詳しいでしょう」

 

 

「……了解した」

 

 

「織斑先生!?良いんですか!?」

 

 

一夏の作戦に何の反論もせずに受け入れた千冬に真耶が反応する。

 

 

「時間がない。それに他の案も無いんだ。これで行く」

 

 

「…分かりました!」

 

 

「残った俺達は何時もの襲撃者相手だ。あのゴミ武装に注意すればどうとでもなる」

 

 

「それが出来ないんだけど一夏君?」

 

 

「なら耐えてください。暫くすれば他の教員のみなさんも参加できますし時間稼ぎくらいなら出来ます。その上で俺か終わらせた千冬姉が叩く」

 

 

「…分かったわ」

 

 

楯無が頷いたのを確認した一夏は全員に視線を向ける。

 

 

「…行こう!!」

 

 

「「「「「おお!!」」」」」

 

 

一夏の言葉に全員がそう頷き行動を開始した。

千冬と真耶はアリーナに向かいラファール・リヴァイブを1機取り出し潜入部隊を撃退するための準備に入った。

一夏達4人は別方向からそれぞれ襲撃者に対応するために構える。

 

 

「ディザスターフォース、発動」

 

 

煉獄騎士の鎧を身に纏った一夏は空に浮き、襲撃者たちに向かって行く。

 

 

「オルコス」

 

 

《ああ》

 

 

一夏の声掛けにオルコスがSDで一夏の隣に浮遊する。

 

 

「新体制での初戦だ、行けるか?」

 

 

《当然だ。一夏、アレはどうなってる?》

 

 

「…まだだ」

 

 

《そうか…っ!来るぞ!!》

 

 

オルコスのその声と同時に一夏の姿を視認した襲撃者の内数人が一夏に向かってくる。

 

 

「いたわ!織斑一夏よ!!」

 

 

「ここで捕える!!」

 

 

襲撃者たちは一夏の事を見てそう声を発する。

だが、一夏はその襲撃者の中の1人に視線を向けていた。

真紅のマントをたなびかせ、拳を握り込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ!一夏!遂にお前を取り戻す日が来た!!」

 

 

「……篠ノ之箒ィ!!!!」

 

 

一夏と箒。

因縁の2人が再び戦場で相まみえた。

 

 

 

 




次回予告

オルコス《戦力が大幅に下がった隙を付くかのような大襲撃。一夏達5人はIS学園を守るために交戦する。そしてそんな中で、一夏は因縁の相手である篠ノ之箒と対峙する。
行くぞ一夏!我らの新しい力を見せる時だ!!次回、『解放せよ、竜のチカラ』でお前も、バディーファイ!!》


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解放せよ、竜のチカラ

もうみなさんお分かりかもしれませんがこの襲撃は8巻のワールド・パージの代わりです。
どうしても電脳世界に行く理由が無かったもんで。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

以前の襲撃により専用機を破壊されてしまった専用機持ち全員が修理が完了した各々の専用機を受け取りに行くために学園を離れていたある日。

IS学園はまたも襲撃を受けていた。

しかも、今回は専用機持ちが千冬含め5人だけ。

訓練機を使用して直ぐに交戦できる教員が真耶1人だけというかなりの極限状態での襲撃。

更には、襲撃者は2部隊…改造品である黒いISを身に纏い真正面から突っ込んで来る部隊と、IS学園に侵入する為にひっそりと歩いて来ている部隊がいた。

一夏の見立てでは別組織の可能性もある2部隊。

一先ずは6人でそれを対処しないといけないのだ。

その為、侵入部隊には千冬と真耶が、それ以外の部隊には一夏、クラリッサ、チェルシー、楯無が対応する事になった。

 

 

IS学園、地下。

生徒達はそもそも存在すら知らず、教員のごく一部しか立ち入りを許可されていない場所。

そんな場所を、学園の関係者ではない集団が移動していた。

 

 

「…隊長、気配はありません」

 

 

「良し、行くぞ。ここからはISを使用する」

 

 

『了解』

 

 

その集団はISを展開する。

ステルス仕様が施されたそのISは、アメリカが開発した第三世代型ISのファング・クエイク。

彼女たちの正体は、アメリカ軍特殊部隊名もなき兵たち(アンネイムド)

その部隊名の通り個々の名前を持たず、隊長と呼ばれるリーダー以外は数字で呼ばれている。

 

 

「しかし隊長。本当に此処にチフユ・オリムラの専用機があるのですか?にわかには信じられないのですが…」

 

 

隊員の1人が隊長にそう声を掛ける。

そう、アンネイムド達がIS学園に侵入している理由。

それは一夏の推測通り、この場にあるとされている千冬の専用機…暮桜だった。

 

 

「……それは分からない」

 

 

「ならば隊長、あのIS部隊はなんなのですか?話には聞いていませんでしたが…」

 

 

「少なくともアメリカ軍ではない」

 

 

アンネイムド達は小声でそう会話しながら進む。

侵入しているのにも関わらず会話をしているのは、単純にISを身に纏っているという安心感があるからだろう。

そしてそんな隊長だが、表情は少し曇っていた。

急に指示を出された今回の侵入。

目的の物がそこにあるのかすらはっきりしておらず、しかも謎の部隊が同時に襲撃をしている。

そんな状況での侵入は、疑問を持たざるを得なかった。

 

 

「………話はここまでだ。行くぞ」

 

 

『了解』

 

 

体調が頭を振りながらそう言い、隊員たちはそう返事をする。

いくら疑問を感じていても命令は命令。

国の為にミッションを行う。

アンネイムドはそれだけである。

 

 

そうしてISのハイパーセンサーを使用しながらIS学園の地下を進み続ける。

 

 

「っ!反応あり、構えろ」

 

 

ここで、隊長が進路の先に1つのIS反応を捕捉した。

指示を出し、その指示を聞いた隊員たちは迅速に武装を構える。

そうして慎重に進むと、1機のISを目視出来るようになった。

訓練機であるラファール・リヴァイヴ。

そしてそれを身に纏う緑髪で眼鏡を掛けた女性、真耶。

 

 

「ここから先は通しませんよ」

 

 

何時もの少しドジっ子のような雰囲気はもうない。

そこにいるのは、生徒を、学園を守るために戦う戦士だった。

 

 

「フン、貴様1人で何が出来る」

 

 

隊長は真耶に対してそう声を発する。

アンネイムド達は、真耶の事を知らない訳では無い。

嘗ては千冬の後継者とも言われた実力者で、IS学園の教師。

ISに関わっているのならば名前と顔くらいは知っている人物である。

しかし、アンネイムド達は余裕を崩さない……というより、崩す必要が無い。

いくら真耶が実力者でも向こうは1人に対してこちらは複数人。

身に纏っているISも真耶が第二世代の訓練機であるのに対し、自分たちは第三世代型。

人数においてもスペックにおいても、真耶に負けている所など何一つとしてないのだ。

 

 

「……確かに、私1人であなた達を止める事は不可能ですね」

 

 

真耶は少し自嘲地味な笑みを浮かべながらそう言う。

 

 

「なんだと……」

 

 

そんな真耶の態度に、隊長は怪訝そうな声を発する。

自分でわざわざ止める事は不可能だと言う真耶。

しかし、この場に真耶のラファール以外のIS反応は無い。

ならば何故真耶は自分たちの前に姿を現したというのか。

隊員たちもハイパーセンサーを使用するが、同じく真耶以外にISの反応を確認できない。

 

 

「だって私は」

 

 

真耶はそう言うとその両手ににサブマシンガンを二丁展開する。

その瞬間にアンネイムド達は一斉に周囲を警戒する。

しかし、警戒するのは真耶の方向だけ。

その為気が付かなかった。

自分たちが来た方向から迫ってきている生身の人間の事など。

 

 

「注意をそらすためのおとりなんですから♪」

 

 

「そういう事だ」

 

 

ズバッ!!

 

 

真耶の言葉の後、別の方向から声が聞こえてきた。

そして振り返ろうとしたその一瞬で

 

 

「なっ…!?」

 

 

「なん、で、SEが…!?」

 

 

アンネイムド達が身に纏うファング・クエイクのSEが0になっていた。

機体が強制解除され、地面に落ちる。

そうして衝撃で意識が朦朧とする中、アンネイムド達は見た。

真耶の隣に立つ、こちら側に背を向ける1機のIS。

光り輝くエネルギーブレードを振り抜いた後の体勢だが、こちらに視線を向けている為顔を視認出来た。

 

 

「ブリュン、ヒルデ……」

 

 

「背中がお留守だったな。次からは、ISだけじゃなく生身の人間の反応にも注意する事だ」

 

 

そのISを身に纏っている人物…千冬はアンネイムド達に向かってそう言う。

音もなくアンネイムド達の後ろに生身で周った千冬は、注意が真耶に向いている隙に暮桜・明星を展開。

瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使用し一気に近づき零落白夜を発動。

アンネイムド達の間を通り抜ける瞬間に全員を切り裂きSEを一瞬でゼロにしたのだ。

 

 

「く、そ…」

 

 

千冬の言葉を聞いた隊長は最後にそう呟くと気絶した。

 

 

「……真耶。こいつらの拘束は任せた。私は更識たちの援護に行く」

 

 

「え!?でも先輩、零落白夜を使ったんですからSEを回復させないと…」

 

 

千冬の言葉に真耶はそう驚きの反応を示す。

零落白夜は自身のSEを犠牲にする単一能力。

その為戦闘終了後はSEを補充しないといけなく、連戦出来ない。

少なくとも、改修前の暮桜の時は少しの訓練でもSEを毎回こまめに補充していた。

それなのに千冬は直ぐに連戦しに行こうとしているのだ。

現役時代から千冬の事を見ていた真耶だからこそ、物凄く驚いているのだ。

 

 

「…問題が無い。これがある」

 

 

そんな真耶に対して、千冬は暮桜・明星の両腕に付いている桜色のバンドを見せる。

 

 

「それは……?」

 

 

「第五世代兵器、『暁星の光』。零落白夜と連動した武装で、切り裂いた相手のシールドバリアーを吸収し、自分のSEに変換する武装…簡単に言うと、雪片弐型をRPGゲームの攻撃すれば回復する剣にするものだ」

 

 

「ええ!?」

 

 

千冬の説明を聞いた真耶はそう驚愕の声を発する。

その武装があれば、零落白夜を殆ど制限なく使用することが出来る。

つまり、一撃必殺級の攻撃がデフォルトにする事も出来るのだ。

そんなの驚かないわけが無い。

 

 

「まぁ、100%回復する訳では無いが…残りSE96%…十分だろう?」

 

 

「た、確かに…」

 

 

千冬のにやりとした笑みを見て真耶は呆然とそう返事をした。

目の前で笑みを浮かべる千冬は、まさに現役時代の世界最強そのものだった。

 

 

「それじゃあ先輩、この人達の事は任せてください!」

 

 

「ああ。任せたぞ!!」

 

 

そうしてここで真耶と千冬は分かれ、真耶はアンネイムド達の拘束をはじめ、千冬は地下施設から地上に出る。

 

 

「…一夏はあの武装を如何にかできる。となると、私が行くべきなのは……!!」

 

 

千冬はそう呟くと、楯無達がいる方向に飛んでいった。

そして、楯無、クラリッサ、チェルシー、途中参戦の教員たちが必死に抑えていた襲撃者たちを次々と零落白夜によって切り裂いていくのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「くらいなさい!」

 

 

「ぐぅ…!?」

 

 

千冬がアンネイムド達を切り裂いたのと同時刻。

一夏は箒を含めた襲撃者と交戦を行っていた。

 

 

現在状況

 

一夏

ライフ7

手札4

ゲージ1

ドロップゾーン16枚

アイテム→新生煉獄騎士団の剣 エクスピアソード

設置魔法→死地への誘い

 

残SE9割

 

襲撃者A

残SE7割

 

襲撃者B

残SE4割

 

襲撃者C

残SE5割

 

襲撃者D

残SE6割

 

 

「俺のターン!」

 

一夏

手札4→5

ゲージ1→2

 

 

「キャスト!煉獄騎士よ、永遠なれ!ドロップゾーンのカード名に「煉獄騎士団」を含むモンスターを2枚まで手札に加える!!」

 

 

一夏

ライフ7→6

手札4→3→5

ゲージ2→1

 

 

「そして、今手札に加えた新生煉獄騎士団 ホワイトナイト・ドラゴンをセンターに、新生煉獄騎士団 ホワイトタイプ・ドラゴンをレフトにそれぞれコール!!」

 

 

《行きますよぉ~~!!》

 

 

《私達の出番です!》

 

 

一夏

手札5→3

 

 

一夏のコールと同時に、一夏の正面と左斜め前にモンスターが出現する。

その2体は、ドラゴンではあるのだが、どちらかというと女の子がドラゴン状のパワードスーツを纏っているかのような姿だった。

元々がISである白騎士と白式。

武装騎竜の細胞を使用して肉体を作ったとはいえ、大部分は適合しやすいようにヒーローWのロボットであるブレイブマシンのパーツを使用している。

その為、モンスター形態はかなり機械的なのだ。

 

 

「ドロップゾーンの新生煉獄騎士団 シルバースタッフ・ドラゴンをソウルに入れライフ2を払い、ライトにバディコール!煉獄騎士団の解放者 オルコスソード・ドラゴン!!」

 

 

《ハァ!!》

 

 

一夏

ライフ6→4→5

手札3→2

 

 

「ちっ…また変なのが…!!」

 

 

「さっき倒したのに…!!」

 

 

襲撃者AとBがそう声を漏らす。

 

 

「アタックフェイズ!オルコスソード・ドラゴンでアタック!」

 

 

《ハァア!!》

 

 

「ぐぅ!?」

 

 

襲撃者B

残SE4割→2割

 

 

「ホワイトタイプ・ドラゴンでアタック!」

 

 

《せやぁ!!》

 

 

「ちっ!」

 

 

襲撃者A

残SE7割→6割

 

 

「オルコスソード・ドラゴンの効果発動!」

 

 

《勝利の為に力を重ねよ!カノナス・カサルティリオ!》

 

 

一夏の効果発動宣言と同時にオルコスの身体からエネルギーが出現し、白式の事を包み込み破壊する。

 

 

「オルコスソード・ドラゴンの効果で破壊されたホワイトタイプ・ドラゴンはソウルへ!そして、破壊されたホワイトタイプ・ドラゴンの効果!相手にダメージ2!」

 

 

「へ?ぎゃああああああ!?」

 

 

襲撃者B

残SE2割→0割

 

 

「ちっ!使えない!!」

 

 

「スタンドしたオルコスソード・ドラゴンでアタック!」

 

 

《フン!!》

 

 

「ぐぅ…!!」

 

 

襲撃者C

残SE5割→3割

 

 

「ホワイトナイト・ドラゴンでアタック!」

 

 

《ハァア!!》

 

 

「ぐはっ!?」

 

 

襲撃者C

残SE3割→2割

 

 

「オルコスソード・ドラゴンの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

一夏の効果発動宣言を行い、白騎士が破壊されオルコスのソウルに入る。

 

 

「破壊されたホワイトナイト・ドラゴンの効果!2枚ドロー!!」

 

 

一夏

手札2→4

 

 

「スタンドしたオルコスソード・ドラゴンでアタック!」

 

 

《フンヌァ!》

 

 

「ぐ、ああああああ!?」

 

 

襲撃者C

残SE2割→0

 

 

「ちっ!またか!」

 

 

「エクスピアソード!!」

 

 

「ぐぅ!?」

 

 

襲撃者A

残SE6割→4割。

 

 

現状確認

 

一夏

ライフ5

手札4

ゲージ1

アイテム→新生煉獄騎士団の剣 エクスピアソード

ライト→煉獄騎士団の解放者 オルコスソード・ドラゴン(ソウル3枚)

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ…」

 

 

このターンで襲撃者を2人落とした一夏。

しかし、その表情は疲労が溜まっていた。

そこそこ大量にカードを消費してしまっている。

白騎士のお陰で手札は4枚をキープ出来ているが、ゲージを増やせなかった。

しかもライフは既に5。

相手が1人だったら問題は無いのだが、まだ3人も残っている今の状況だとこのままだとジリ貧である。

 

 

(や、ばい。こんな時に、頭痛が……)

 

 

一夏は左手でヘッドパーツ越しに頭を押さえる。

 

 

「一夏ぁあああ!!」

 

 

「ちょっと!!勝手に動いてるんじゃないわよ!!」

 

 

アタックが終了し、頭痛で無防備な姿をさらしてしまった一夏に箒がブレードを展開し突っ込んで来る。

 

 

「っ!オルコスソード・ドラゴン、移動!」

 

 

《一夏には触れさせん!》

 

 

そんな箒に対して、一夏はオルコスの移動宣言を行い、オルコスはライトからセンターに移動する。

これにより、一夏に攻撃したいのならば先にオルコスを破壊しないといけなくなった。

 

 

「邪魔だぁ!!」

 

 

《ぐ、う…!!》

 

 

「オルコスソード・ドラゴン、ソウルガード!反撃!」

 

 

《はぁあ!!》

 

 

バキィ!!

 

 

「な、なに!?」

 

 

一夏

ドロップゾーン→新生煉獄騎士団 シルバースタッフ・ドラゴン

 

 

反撃。

それは攻撃された後場に残っている場合、その攻撃力以下の防御力を持つモンスターを破壊する能力。

対IS戦の場合、相手の武装を1つ破壊できる。

本来オルコスは反撃を有していないのだが、ソウルの白式のお陰で使用できるのだ。

 

 

「言わんこっちゃない!」

 

 

「引っ込んでなさい!」

 

 

そんな箒に対し襲撃者AとDがそう言い、オルコスに向かってアサルトライフルを発砲する。

 

 

「キャスト!誇りを(むね)に、刃は不滅!《武装騎竜》が場に存在する場合、相手の攻撃を無効!そして、場のエクスピアソードを破壊する事で相手にダメージ2を与え、ライフを2回復する!」

 

 

《はぁあああ…ハァ!!》

 

 

「何!?ぐわぁ!!」

 

 

一夏

ライフ5→7

手札4→3

ドロップゾーン→新生煉獄騎士団の剣 エクスピアソード

 

 

襲撃者D

残SE6→4割。

 

 

「しゃらくさい!!くらいなさい!」

 

 

「ソウルガード!反撃!」

 

 

《はぁあ!》

 

 

バキィ!

 

 

「ちっ!!」

 

 

一夏

ドロップゾーン→新生煉獄騎士団 ホワイトナイト・ドラゴン

 

 

「一夏、一夏ぁああ!!」

 

 

箒は唐突に一夏の名前を叫ぶ。

その瞬間に、箒の手の中に見覚えのある1本の剣が出現した。

 

 

「レプリカ……!!」

 

 

「一夏ぁあああ!!」

 

 

一夏が声を漏らすと同時に箒がオルコスに突っ込んでいく。

 

 

「ソウルガード!反撃!」

 

 

《ぐっ…はぁ!!》

 

 

バキィ!

 

 

一夏

ドロップゾーン→新生煉獄騎士団 ホワイトタイプ・ドラゴン

 

 

オルコスの反撃により、箒の持つレプリカは破壊された。

だが、箒は笑みを浮かべると

 

 

「はぁああ!!」

 

 

更に両手に2本展開し、そのうちの1本でオルコスの事を切り裂く。

 

 

《ぐ、がぁあ!!》

 

 

一夏

ドロップゾーン→煉獄騎士団の解放者 オルコスソード・ドラゴン

 

 

「2本…だと!?」

 

 

「一夏ぁ!!」

 

 

バディファイトでは通常アイテムを1本しか装備出来ない。

その為一夏は一瞬動きを固めてしまう。

 

 

「しまった…」

 

 

「はぁ!!」

 

 

「ぐ、がぁああ!!」

 

 

一夏

ライフ7→2

 

 

ガッシャアアアン!!

 

 

箒の攻撃で鎧のヘッドパーツが外れ、一夏の長髪が風になびき、一夏は地面に落ちる。

 

 

「織斑一夏ぁ!!」

 

 

「キャスト!我らが行くは血濡れの魔道!攻撃を無効にし、ゲージを+1!」

 

 

一夏

手札3→2

ゲージ1→2

 

 

襲撃者Aが一夏に向かって発砲するも、一夏は魔法を使用し攻撃を無効にした。

一夏は未だ痛む頭を無視して跳躍し箒たちから離れる。

 

 

「俺のターン!」

 

 

一夏

手札2→3

ゲージ2→3

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…篠ノ之箒ィ!!」

 

 

一夏は頭を押さえながら箒の名前を呼ぶ。

 

 

「貴様、何が目的だぁ!!」

 

 

「目的?そんなの決まっている!!」

 

 

一夏の言葉に箒は自信満々な表情を浮かべながら言葉を発する。

 

 

「お前を連れ帰って、その上でお前の事を誑かした女を殺すのだ!!」

 

 

「フン!女云々は如何でもいいが、織斑一夏、貴様を連れて帰る!!」

 

 

「その上で、この学園はつぶさせてもらうわ!!」

 

 

箒たちのその言葉を聞いた一夏は

 

 

「あぁ……?」

 

 

と、表情を無くしてそう呟いた。

一夏から放たれるプレッシャーに、箒たちは固まってしまう。

 

 

「そうか、そうかぁ……如何やら……徹底的に潰されたいらしいなぁ!!キャスト!煉獄騎士よ、永遠なれ!ドロップゾーンから煉獄騎士団2枚を手札に加える!」

 

 

一夏

ライフ2→1

手札3→2→4

ゲージ3→2

 

 

「貴様らのような下種に、この学園も!俺の仲間たちも!大切な恋人も!!絶対につぶさせない!!俺が、俺達が絶対に守る!!」

 

 

「な、何を…」

 

 

「センターにコール!ホワイトタイプ・ドラゴン!レフトにコール!ホワイトナイト・ドラゴン!」

 

 

《再登場!》

 

 

《もう1回行きます!!》

 

 

一夏

手札4→2

 

 

「ゲージ1を払いデッキの上から1枚をソウルに入れ、ライトにコール!贖罪の煉獄騎士団団長 オルコスソード・ドラゴン!」

 

 

《今こそ我らの罪を見つめ直し、新たな力にするときだ!!》

 

 

一夏

手札2→1

ゲージ2→1

 

 

一夏の右斜め前に現れたのは、新たな形態のオルコス。

贖罪の煉獄騎士団団長 オルコスソード・ドラゴン。

 

 

《行くぞ一夏!我らの新しい力を見せる時だ!!》

 

 

「ああ!俺達の絆のチカラを見せてやる!!」

 

 

一夏はそう言うと、最後の手札のカードを天に掲げる。

そのカードは、以前バルソレイユから受け取った白紙のカード。

 

 

「俺達の未来を切り開く、フューチャーカード!!」

 

 

一夏のその声と同時に、煉獄騎士の鎧が両肘から先と両膝から先を残して弾け飛ぶ。

その瞬間に、白紙だったカードが変化していく。

 

 

「解放条件は!俺の場にオルコスソードと名のつくモンスターが存在する時!!」

 

 

一夏の身体の鎧が無くなった部分に白いエネルギーが集まり、衣を作っていく。

やがてそのエネルギーは白い羽衣、頭部にはオルコスと同じようなブレードを作っていく。

 

 

「うぉおおおおおおお!!」

 

 

「な、何が起こってるのよ!?」

 

 

「そ、そんなの私が知る訳無いじゃない!!」

 

 

そうして、一夏の長髪も白く輝き、両目が黄金に輝く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドラゴンフォース “煉獄の型”!解、放ぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴンフォース。

それは人と竜の絆のチカラ。

 

 

それを、一夏は解放したのである。

 

 

「な、何よそれ!?」

 

 

「アタックフェイズ!オルコスソード・ドラゴンでアタック!」

 

 

《はぁああ!!》

 

 

「ぐぅ!?」

 

 

襲撃者D

残SE4割→2割

 

 

ドラゴンフォースに驚いている隙に、一夏はアタックを仕掛ける。

 

 

「ホワイトタイプ・ドラゴンでアタック!」

 

 

《ハァ!》

 

 

「ぐわ!?」

 

 

襲撃者A

残SE4割→3割

 

 

「オルコスソード・ドラゴンの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

一夏の効果発動宣言でオルコスが白式の事を破壊し、白式はオルコスのソウルになる。

 

 

「ホワイトタイプ・ドラゴンの効果発動!相手にダメージ2!!」

 

 

「ぐ、あああああ!?」

 

 

襲撃者D

残SE2割→0

 

 

「ホワイトナイト・ドラゴンでアタック!」

 

 

《ハァッ!》

 

 

「ぐぅ…!?」

 

 

襲撃者A

残SE3割→2割

 

 

「オルコスソード・ドラゴンでアタック!」

 

 

《ハァア!!》

 

 

「ぎゃああああ!!」

 

 

襲撃者A

残SE2割→0

 

 

そして、残った襲撃者は箒のみ。

 

 

「オルコスソード・ドラゴンの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

白騎士は破壊され、オルコスのソウルになる。

 

 

「ホワイトナイト・ドラゴンの効果発動!2枚ドロー!!」

 

 

一夏

手札0→2

 

 

「オルコスソード・ドラゴンでアタック!」

 

 

《ハァア!!》

 

 

「ぐぅ!?」

 

 

残SE9割→7割

 

 

「ハァア!!」

 

 

「がぁ!!」

 

 

残SE7割→5割

 

 

ドラゴンフォースを身に纏った一夏も攻撃に参加する。

削れたSEは2割だが、箒は大きく吹き飛んでいく。

 

 

「はぁ、はぁ、一夏…なんで…!!私は、お前を……!!」

 

 

「ファイナルフェイズ!!」

 

 

箒の言葉を無視して、一夏はファイナルフェイズの宣言を行う。

 

 

「この瞬間!ドラゴンフォース “煉獄の型”の効果!オルコスの効果を無効にし、破壊する!」

 

 

《がぁ!!》

 

 

一夏

ドロップゾーン→贖罪の煉獄騎士団団長 オルコスソード・ドラゴン

 

 

「な、何を…!!」

 

 

そんな一夏の行動を見て、箒は驚愕の声を発する。

 

 

「そうする事によって、ドラゴンフォース “煉獄の型”はスタンドする!そしてまだ効果は続く!ドロップゾーンからサイズの異なるカード名に《煉獄騎士団》を含むモンスターをコールコストを払わずコールする!甦れ!!」

 

 

《ハァア!》

 

 

《行きますよぉ!》

 

 

《まだまだです!》

 

 

ドロップゾーンから、ライトにオルコスが、センターに白騎士が、レフトに白式がコールされる。

 

 

「そして、もう1度アタックフェイズを行う!」

 

 

「な、な、な…!!」

 

 

箒の表情はドンドン絶望のものに染まっていく。

目の前には、まだまだ攻撃が出来るモンスター。

それに対し、箒は1人。

もう、なすすべはない。

 

 

「オルコスソード・ドラゴンでアタック!」

 

 

《ハァ!》

 

 

「がぁ!!」

 

 

残SE5割→3割

 

 

「ホワイトナイト・ドラゴンでアタック!」

 

 

《ハァ!》

 

 

「ぐぅ!?」

 

 

残SE3割→2割

 

 

「オルコスソード・ドラゴンの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

オルコスの効果で白騎士が破壊され、オルコスのソウルに入る。

 

 

「はぁ、はぁ、一夏…!私は、お前を…!!」

 

 

「…箒ィ!」

 

 

箒が一夏の名前を呼んだ時、一夏は数年ぶりに箒の事を名前で呼んだ。

その事に、箒の表情は一瞬明るいものになる。

遂に一夏の考えが変わった…

そう思ったのも束の間。

 

 

「俺は、お前が大っ嫌いだ!!とっとと捕まりやがれこの野郎!!」

 

 

「な、い、一夏…」

 

 

一夏から発せられた拒絶の言葉に、表情を再び絶望のものに変える。

 

 

「最後は俺が決めてやろう。ハァア!!」

 

 

「ぐ、あああああ!!!!」

 

 

最後に、一夏が箒の事を蹴り飛ばし地面に落下させる。

 

 

残SE2割→0

 

 

「あ、が、あ……」

 

 

地面に落下した箒は最後にそう唸り声を発生すると気を失った。

 

 

「俺の、勝ちだ!!」

 

 

そういう一夏の表情は、誇らしげで、でも何処か苦しそうだった。

 

 

 

 




ドラゴンフォース “煉獄の型”

ドラゴンW/ダークネスドラゴンW
アイテム
攻撃力7000
打撃力2
武装騎竜/武器

■『解放条件!』(君の場にカード名に「オルコスソード」を含むモンスターがいる)
■【装備コスト】君のデッキの上から5枚をドロップゾーンに送る。
■場のこのカードは破壊されず、場を離れず、能力を無効化されない。
■君の場のカード名に「煉獄」を含むカード全ては相手の効果でレストされず、スタンドできないという効果を受けている場合それを無視する!
■君のファイナルフェイズ開始時、このカードをスタンドし、君の場のモンスターの能力をすべて無効にして破壊しても良い。そうした場合、君のドロップゾーンからサイズの異なるカード名に「煉獄騎士団」を含むモンスターを3体までコールコストを払わず別々のエリアにコールし、もう1度アタックフェイズを行う!このアタックフェイズ中、相手は【対抗】を使用できない!!

フレーバーテキスト
贖罪の竜の誇りが、煉獄の騎士に力を与える!

究極レアver.フレーバーテキスト
「一夏、行くぞ!」「ああ!俺とオルコスの絆で!俺達の守るべきものを守る!!」

見た目のイメージ
ドラゴンフォース “正義の型”を白くした感じ。
ただし、両肘から先と両膝から先は煉獄騎士の鎧のまま(右手のソード部分はある)。
頭部のナイフ部分はオルコスと同じソード形状。
また、一夏はディザスターフォースの影響で長髪である。

祝!
一夏、オリカ初使用!
いやぁ、長かった長かった。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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煉獄騎士の異常

前回の続き
いったいどうなるのか…

今回もお楽しみください!


一夏side

 

 

IS学園を襲った襲撃。

篠ノ之を含めた襲撃者と交戦し、勝利した直後。

俺はドラゴンフォースを解放したまま宙に浮いていた。

 

 

…不思議な感覚だ。

凄い力が漲る。

解放するまで頭も痛かったのに、今は全然痛くない。

でも、それと同時に違和感もある。

なんだこの、胸が締め付けられるような変な感じは。

 

 

「…取り敢えず、襲撃者を拘束するか」

 

 

もうSEは全部0にしたが、万が一があると困るからな。

そう判断し、地面に着地しドラゴンフォースとディザスターフォースを解除する。

 

 

「う、ぐぅ…!!」

 

 

その瞬間に、途轍もない頭痛が襲ってくる。

立っていられず、思わずその場に膝をつき頭を押さえる。

 

痛い。

気持ち悪い。

止めてくれ。

 

 

《一夏!!》

 

 

《マスター!》

 

 

《マスター!大丈夫ですか!?》

 

 

SDになったオルコス、人間体になった白式と白騎士が駆け寄って来る。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ…俺は、大丈夫だ。取り敢えず、襲撃者を拘束してくれ…!」

 

 

《で、でも…!!》

 

 

「いいから!!」

 

 

《……了解した》

 

 

オルコス達はまだ何か言いたそうだったが、取り敢えず襲撃者達を拘束しに行ってくれる。

 

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…

 

ふぅ……少しはマシになってきた。

頭を押さえていた右手を離し、立ち上がる。

軽く伸びをすると、視界にとある人物写り込んだ。

 

 

「篠ノ之…」

 

 

篠ノ之箒。

さっきまで交戦していた襲撃者の1人。

そして、あまり認めたくはない事だが俺の顔見知り。

 

 

「気絶してるか…」

 

 

気絶している篠ノ之から強制解除され待機形態になっているISを取り上げる。

それと同時に、そこら辺に転がっているアクワルタ・グワルナフのレプリカ2本が視界に入る。

それに手を伸ばそうとした時、

 

 

《一夏、動いて大丈夫なのか?》

 

 

とオルコスが声を掛けて来た。

 

 

「ああ。取り敢えずは、な。ロープくれ。こいつも縛る」

 

 

《ほら》

 

 

「サンキュー」

 

 

オルコスからロープを受け取ったのでそのまま篠ノ之の事を拘束する。

この時、出来るだけ雑に扱われないように気を付ける。

 

 

《随分丁重に扱っているな。大嫌いなんじゃないのか?》

 

 

「……ああ、大嫌いだよ。でも、大嫌いだからって雑に扱っていい訳では無いだろ」

 

 

嫌いだからって雑に扱ってたら、それこそ篠ノ之と変わらない。

それに…

 

 

「……この馬鹿が俺に散々迷惑かけたり、テロリストになった事に間違いはない。それはコイツの罪だ。だけれども、この馬鹿が馬鹿のままだった原因は他にある」

 

 

《…ああ。この馬鹿は確かISが発表されてから何度も転校しているんだったか?》

 

 

「そうみたいだ。詳しい事は知らんがな。そんな状況だったら精神的に成長できない。だからコイツは小学生の時のままなんだ」

 

 

《つまるところ、コイツがテロリストになった原因は政府か》

 

 

「そういう事だ」

 

 

でも。

まぁ、でも。

 

 

「だからといってこの馬鹿を可哀想に思ったり嫌いって感情が無くなったり擁護する気は無いがな」

 

 

《ああ。コイツにはしっかりと罪を償ってもらう》

 

 

だってこの馬鹿、クラリッサとチェルシーの事殺すって言ってたんだぞ?

怒ってない訳が無いだろ。

正直言うと殴る蹴るをしてやりたい。

だが、そんな事してる場合じゃない。

俺はもう1回視線をレプリカに向ける。

 

 

「なぁ、オルコス」

 

 

《なんだ?》

 

 

「1本くらいくすねて問題ないと思うか?」

 

 

《…確かに、博士とかにも調べて欲しいな》

 

 

流石我がバディ。

今の質問だけで何がしたいか察してくれたようだ。

 

 

《今までの襲撃者も1本だけしか使わなかった。1本くらいバレないだろう》

 

 

「良し。オープン・ザ・ゲート。ダークネスドラゴンW」

 

 

ゲートを開き、レプリカを持って上半身を突っ込む。

 

 

《…一夏、何をしている?》

 

 

繋がった先は煉獄騎士団本部。

丁度そこにいたデスシックルがジト目で俺の事を見ていた。

 

 

「デスシックル、悪いけどこれ博士の所に持って行ってくれないか?」

 

 

《なんだこれは。アクワルタ・グワルナフに似ているが…》

 

 

「その通り。これはこっちの世界で敵が使ってる武器なんだ。如何見てもアクワルタ・グワルナフのレプリカだろ?だから博士に調べてもらいたいんだ」

 

 

《了解した。任せろ》

 

 

「ああ、よろしく」

 

 

デスシックルとの会話を終了させ、俺はゲートから上半身を抜く。

 

 

「ふぅ…」

 

 

《マスター!拘束終わったよ!》

 

 

《こちらも終わりました!!》

 

 

すると、丁度そのタイミングで白式と白騎士がそう声を発した。

その方向に視線を向けると、確かに2人とも拘束を完了させていた。

 

 

「OK!こっちに持って来てくれ!」

 

 

《 《はい!》 》

 

 

俺の指示に従って、2人はそれぞれが拘束した襲撃者を引きずって来る。

そうして、オルコスが拘束した分も含めて計5人の拘束が完了した。

さて、千冬姉にでも連絡をしよう。

ダークコアデッキケースを取り出し、煉獄騎士の鎧を身に纏う。

そして、千冬姉に向かってプライベートチャネルで連絡する。

 

 

「…千冬姉、聞こえる?」

 

 

『一夏!そっちは無事なのか!?』

 

 

すると、その瞬間に千冬姉の心配したような声が聞こえてくる。

その必死そうな声についつい苦笑いを浮かべてしまう。

 

 

「ああ。交戦した襲撃者5人、全員気絶してはいるが拘束完了した」

 

 

『そうか…こちらも別部隊だと思われる潜入者に、更識達が交戦していた襲撃者も全て拘束してある』

 

 

流石は世界最強。

滅茶苦茶早い。

こっちは漸く自分担当の分終わらせたばっかりなのに。

 

 

「なるほど。それじゃあ、何処に拘束した襲撃者を連れていけばいい?」

 

 

『拘束室だ。場所は分かるか?』

 

 

「ああ。オルコス達と一緒に連れていく」

 

 

『良し。ならその後会議室に来てくれ』

 

 

「了解。それじゃあ」

 

 

『ああ、また後で』

 

 

ここで千冬姉との通話は終了した。

 

 

「オルコス、白式、白騎士、こいつ等を拘束室に連れて行くぞ」

 

 

《分かりました!》

 

 

白式の返事を聞いたので、煉獄騎士の鎧をダークコアデッキケースに戻す。

 

ア、レ?

足に、力が…

 

ドシャア!

 

その瞬間に足が入らなくなり、その場に倒れ込んでしまう。

 

 

「ガハッ!ゴホッ!」

 

 

《っ!マスター!!》

 

 

《マスター!しっかりしてください!》

 

 

《一夏!大丈夫か!?》

 

 

白式と白騎士とオルコスがそう言いながら駆け寄って来る。

あ、駄目だ。

鉄の味が……

 

 

「う、ゲホッ!ゴホッ!うっ!?ゲポッ!!」

 

 

ビチャア!!

 

 

視界に入るのは、赤い水たまり。

でも、この匂いは…血……

ああ、そうか……

俺、また吐血したのか……

 

 

《マスター!しっかりしてください!》

 

 

《くそっ!取り敢えず織斑千冬を…!!》

 

 

「いや、それはしなくて良い……」

 

 

千冬姉を呼びに行こうとするオルコスを止め、俺は上体を起こす。

 

 

《マスター!無理しないで下さい!!》

 

 

《そうですよ!》

 

 

「いや、大丈夫だ……」

 

 

正直足に力が入らん。

でも、それでも大丈夫だ。

 

 

《一夏、無理はしない方が…》

 

 

「そうじゃないんだ。白式と白騎士なら知ってるとは思うけど、前に吐血した時は直ぐに気絶したんだ。でも、今回は違う。確かに苦しいけど、それでも今は普通にしてられるんだ」

 

 

《……つまり、吐血した筈なのに体力とかに問題は無いと?》

 

 

「ああ………そう、なんだ…前までと違って、異常に体力が……」

 

 

俺の言葉を聞いたオルコス、白式、白騎士の3人は難しそうな表情を浮かべる。

 

 

《それもこれも、マスターの身体がドンドンと…》

 

 

「ああ、進行しているからだろうな…」

 

 

白騎士の言葉に応対しながら立ち上がる。

う、少しフラフラする…

 

 

《…マスターの身体に関する事は未知数です。だから、何が正解かは分かりません。なので、マスターが大丈夫だと仰るのなら、もう何も言いません》

 

 

《でも!無理は絶対にしないでね、マスター。何か辛いことがあったらすぐに言ってね!》

 

 

「…ああ、そうさせてもらうよ」

 

 

俺の言葉に、白式と白騎士は満足したように頷いた。

だが、直ぐに白式が首を捻る。

 

 

《血痕はどうするんですか?》

 

 

「確かに…切り傷で誤魔化すかぁ…」

 

 

そう呟き、もう1本のレプリカを手に取る。

そしてそのまま左腕に切り傷を作る。

 

 

「っ!!」

 

 

やっべ、ミスった。

深く切り過ぎた。

 

 

《マスター何で急に!?包帯とか無いんだよ!?》

 

 

《それに深く切り過ぎです!こんなに血が出てるんですよ!?》

 

 

「あ、ああ、ごめん」

 

 

確かに滅茶苦茶深く傷が出来ちまった。

結構な量血がどくどく出てる。

 

 

《す、直ぐに消毒液と包帯持ってきます!!》

 

 

《吐血もして身体の血が減ってるんですから、安静にしててください!》

 

 

白式と白騎士はそう言うと走って行ってしまった。

取り敢えず言われた通り安静にする。

 

 

「なぁ、オルコス」

 

 

《どうした一夏?》

 

 

「……腕からこんなに血が出てるのに、全然痛くねぇや」

 

 

《っ…》

 

 

俺の言葉を聞いたオルコスは、悲しそうな表情を浮かべる。

 

 

《そう、か…》

 

 

「ああ…」

 

 

ここでオルコスとの会話は終わり、辺りに若干重苦しい雰囲気が漂う。

暫くしてから包帯を持ってきた白式と白騎士に腕を治療してもらってから、拘束してある襲撃者達を拘束室に連れて行くのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

三人称side

 

 

襲撃者全員を拘束室に入れた後、一夏達は会議室で事後会議をした。

そこでは、襲撃者達の身柄をどうするか、今後のIS学園の警備をどうするかなどが話し合われた。

 

 

先ず襲撃者に関してだが、今回の襲撃者は今までと異なり所属元の異なる2部隊が襲撃してきていた。

箒を含めた亡国企業からの襲撃者は国際裁判にかけるために身柄を国際IS委員会に引き渡すことが決定している。

それについては問題無いのだが、議論が難航したのはアンネイムド達だ。

アンネイムドはアメリカ軍特殊部隊。

下手に扱うとアメリカから報復として追加の襲撃だったりある事ない事の声明を言われる可能性がある。

その為扱いに悩んだのだ。

 

結局、アンネイムド達は特に何もせずアメリカに返すことにした。

何もせずとは言っても、流石に軍の上層部、並びに政府への伝言はした。

 

「IS学園に潜入しても特にいい事は無い。これ以上の潜入は無駄だ」

 

 

といった内容の伝言を。

そうして、それから暫くもしないうちにアンネイムド達は帰国した。

 

この時アンネイムド達の対応をしたのは千冬だったのだが、千冬は名前が無かった隊員たちにそれぞれ名前を付けた。

その事により、名前を得た元アンネイムド達は千冬に感銘を受け帰国後軍を辞める事になるのだが、それは今は分からない事である。

因みに、帰国する前に『カレン・カレリア』と名付けられた元隊長は千冬と連絡先を交換したのだが本人達の間以外では秘密である。

 

 

そして次に話し合われたのはIS学園の警備面に関して。

前回の襲撃では第一と第二アリーナが半壊したりしたが、今回の襲撃では校舎の破壊等の被害は出なかった。

専用機の数が減っているにも関わらず、だ。

これ以上警備面の充実をする必要は無いと判断された。

 

 

それ以上に大事なのは、もうこれ以上襲撃が来ないようにする事。

先ず第一に、今回の襲撃の原因の半分は千冬が暮桜・明星の事を世界に発表していなかったからだ。

今後同じような事が起きないように千冬は世界に暮桜・明星の事を発表した。

この時女尊男卑主義者が『ブリュンヒルデ様の再誕』と騒いでいたのだが、その事に千冬は難色を示していた。

あまり自分が崇められるのは好きではないし、女尊男卑主義者が暴走する懸念があったからだろう。

 

 

一夏が押収した箒の使用していたISとアクワルタ・グワルナフのレプリカは学園で解析する為地下施設に今は置いてある。

そうしてそれ以外にも様々な話し合いをして会議は終了した。

 

 

会議が終了した後左腕に包帯を巻いている一夏にクラリッサとチェルシーが顔を真っ青にして駆け寄ったのだが、一夏は

 

 

「いやぁ、結構傷口が大きくて…でもこれは正直やり過ぎ感はある。でもせっかく白式と白騎士が治療してくれたから」

 

 

と笑顔を浮かべながらそう言った。

 

 

 

 

 

そうしてそんな会議から約1週間が経った。

各国や各企業に専用機を受け取りに行っていた専用機持ち達は続々とIS学園に戻ってきた。

そうして最後にラウラが帰って来た翌日、一夏、千冬、クラリッサ、チェルシー、楯無は他の専用機持ち達を放課後に会議室に集め襲撃事件の詳細の説明をしていた。

 

 

「そ、そんな事が…」

 

 

「ああ。これが実際にあった出来事だ」

 

 

全ての説明を聞き終えて呆然と呟いたシャルロットに千冬がそう反応する。

そして、声には出していないもののマドカ達もとても悔しそうな表情を浮かべていた。

自分たちがいなかった時にそんな大変な事になっていたのが、自分たちが何も出来なかったのが悔しいんだろう。

そんな表情のマドカ達を見て、一夏は口を開く。

 

 

「悔しく思わなくていい…とは言わない。実際に前回の襲撃時俺は居なかった訳だが、後で聞かされた時俺も悔しく思ったからな」

 

 

一夏のその言葉に、全員が視線を上げる。

 

 

「その上で大事なのは、悔しがることじゃない。次の行動を考える事だ。まぁもう2度と襲撃させるつもりは無いが、恐らくテロリストとの戦闘は避けれないだろう。だから、その時に備えて準備をする。それが今やるべき事さ」

 

 

一夏の言葉を聞いた全員はハッと表情を変えた。

 

 

「そっか…そうだよね、お兄ちゃん!」

 

 

「ああ、そうさ」

 

 

マドカの言葉に一夏は笑みを浮かべてそう返す。

 

 

「それにしても、篠ノ之は漸くまた捕まったんだな」

 

 

「ん、ああ。学園祭の時に脱走が判明してから1ヶ月とちょっと、漸く捕まったな」

 

 

話題を切り替えたラウラに対して、一夏がそう反応する。

箒の再逮捕に対して全員思うところが無いわけではない。

特に1年生達は同学年の生徒だった相手だ。

夏休み前に退学になり、その以前から一夏に迷惑を掛けている所しか見ていないとはいえ、だ。

だからといって箒に対して哀れに思ったりする感情は全員これっぽっちも無いのだが。

そんな中で、千冬だけが少し悲しそうな表情を浮かべていた。

 

 

「それにしても、柳韻さんが気の毒だ」

 

 

「柳韻さん…ああ、確かにそうだ…」

 

 

千冬が呟いた事に一夏がそう反応する。

しかし、柳韻という聞いたことが無い名前を聞いたマドカ達は首を捻る。

 

 

「えっと…その方はいったい?」

 

 

「…篠ノ之柳韻さん。あの馬鹿と束さんの父親で、千冬姉の師匠だ」

 

 

一夏の言葉にマドカ達は驚いた表情を浮かべるも、直ぐに千冬が悲しそうな表情を浮かべた理由を察した。

自分の師に当たる人物の娘で、自分の元教え子が逮捕された。

そりゃあ悲しくもなるだろう。

 

 

「なんとか、身柄送検前に1度面会出来たらな……」

 

 

「それは難しいと思いますけど、確かにそうですね……」

 

 

千冬とクラリッサがそう呟き、少し重たい空気があたりに漂う。

 

 

「んん!それより、もう直ぐ体育祭ね!!」

 

 

そんな空気を振り払うように楯無がそう声を発する。

そんな楯無に視線が集まる。

 

 

「確かにそうだけど、出来るんっスか?こんなに襲撃があって」

 

 

「出来ねぇ可能性の方が高くねぇか?」

 

 

「うっ!?」

 

 

フォルテとダリルの言葉に、楯無が胸を押さえる。

 

 

「……今までの襲撃で、向こうは相当数の人員を失った。その事を加味すれば出来るかもしれない」

 

 

「そう!そうですよね!」

 

 

千冬のその言葉を聞いた楯無が急に元気になった事で全員が

 

(なんか企んでるな…)

 

と察した。

 

 

「まぁ、それよりも前に中間テストが…」

 

 

ビシィ!!

 

 

一夏がそう呟いた瞬間に、会議室内の空気に亀裂が入った。

 

 

『わ、忘れてたぁ!!』

 

 

「おいおい…」

 

 

「隊長…」

 

 

「お嬢様…」

 

 

「お前たち…」

 

 

一夏、クラリッサ、チェルシー、千冬の順でそうジト目でそう呟く。

そうして試験勉強をするために各々解散となったのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

時間は流れ、現在時刻深夜の2:30。

教員寮、チェルシーの部屋。

ここでは、チェルシーと一夏が寄り添って寝ていた。

 

 

「ん、んぅ…」

 

 

唐突にチェルシーが目を覚ました。

チェルシーは眠そうに目を擦る。

 

 

「まだ暗いわね…寝直しましょう」

 

 

チェルシーはそう呟くと、再び枕に頭をのせる。

すると、当然ながらその場で寝ている一夏の事が視界に入る。

夏休みに一夏本人が言っていたように、一夏の寝顔を見る機会というのはかなりレアだ。

そんな一夏の寝顔を至近距離で見れるというのは、恋人であるチェルシーとクラリッサにしか出来ない事だ。

その事を思うと、自然とチェルシーから笑みが漏れる。

 

 

「……」

 

 

チェルシーは寝ている一夏を事をジッと見つめる。

暫くの間その顔を見ていたが、やがて少しだけ身体を一夏の方に近付け

 

ちゅ♡

 

と、一夏の頬にキスをする。

 

 

「おやすみ、一夏」

 

 

チェルシーはそう呟くと、寝るために瞼を閉じる。

その瞬間に、

 

 

「う、はぁ、はぁ、はぁ…」

 

 

と、一夏が荒い息遣いで目を覚ました。

一夏ははぁはぁと息をしながら上体を起こす。

 

 

(一夏?いったいどうし…)

 

 

「くっそ、ヤバいか…?」

 

 

チェルシーはそんな一夏に声を掛けようとした時、一夏は右手で心臓を押さえながらそう呟いた。

そうして、ちらりとチェルシーの方に視線を向ける。

 

 

「寝てる、か…」

 

 

ここで、普通に起きていると言い一夏に今の言葉について質問するという選択肢もあった。

だが、チェルシーは直感で寝たふりをした。

こっちの方が、何か重要な事が聞ける気がしたのだ。

 

 

「俺は、俺は…まだ、恋人で居れるのかなぁ……?」

 

 

「っ……」

 

 

一夏がそう不安そうに呟いた事に、チェルシーは思わず少し反応してしまう。

今の言葉はどういう意味か。

今すぐにでも聞きたかったが、聞いてはいけないような気もした。

 

 

「おやすみ、チェルシー…」

 

 

一夏はそう呟くと、再び横になる。

そこから間もなく、一夏は眠りに付いた。

寝息を聞いたチェルシーは、恐る恐る一夏に声を掛ける。

 

 

「一夏、起きてる?」

 

 

しかし、帰って来るのは穏やかな寝息。

その事にチェルシーは安堵の息を漏らす。

そうして上体を起こし、一夏の事を見つめる。

頭の中には、先程の一夏の言葉がぐるぐるとしていた。

 

 

「これは、後でクラリッサにも伝えておきましょう」

 

 

そう呟くと、チェルシーは横になり寝ている一夏に力強く抱き着く。

絶対に離さないという意思を感じられるほどに。

 

 

「一夏…あなたがどうなっても、私達はあなたの恋人で、あなたの味方だから」

 

 

一夏に、そして自分に言い聞かせるようにそう呟いた後、チェルシーも眠りに付くのだった……

 

 

 

 




もう一夏が完全に末期患者。
ヤバいぞ。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想よろしくお願いします!


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親子の絶縁

昔は一人称の方が書きやすかったけど今は三人称の方が書きやすい。

バディファイトをする機会というものがゼロになってしまった。
お気に入りとガチデッキだけ残してもう売っちゃおうかな?

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

一夏達がマドカ達に襲撃があった事の説明をした日から少し経った。

今日までに職員会議を重ねに重ねた結果、体育大会は開催する方向で決定した。

しかし、例年と比較すると規模の縮小は確実にしなければならない。

それでも体育大会が開催されると分かれば生徒達のやる気とテンションはドンドンと上がっていく。

 

そのテンションのまま全員が挑んだ中間テスト。

吐血や海外出張、発熱(いろいろ大変な事)があったにも関わらず、一夏は全教科で満点をもぎ取り、他の専用機持ち達も高得点を叩き出した。

一般生徒達の点数も1学期期末テストより全体的に上がっており、教員達を驚かせた。

 

 

そのテスト期間の間、チェルシーはクラリッサに一夏が呟いていた事の説明をした。

説明を受けたクラリッサも驚き、少し不安そうな表情を浮かべた。

テストが終わった後、2人はふんわりと一夏にその事を尋ねた。

 

 

「「私達は、一夏とずっと一緒だよね?」」

 

 

といった感じで。

それを聞いた一夏は真剣な表情を浮かべて

 

 

「当然だろ。俺はクラリッサとチェルシーの事を永遠に愛する。ずっと一緒だ」

 

 

と2人に返答した。

その返答を聞いた2人は、いったんは追及するのを止めた。

 

因みに、そんな質問をされたからかどうかは分からないか、一夏の2人に対する積極性が増して、結構四六時中イチャイチャしている。

ここ最近IS学園における缶コーヒーのゴミの量だったり食堂でのコーヒーの注文量が何故か増えているらしい。

 

 

そして中間テストも終わり、あと少しで体育大会本番だというある日。

島根県のとある田舎。

周囲には田畑と森林しかないような場所を、場違いなほどにしっかりとしたスーツに身を包んで歩く集団がいた。

 

 

「ふぅ…穏やかなところだな」

 

 

一夏と

 

 

「ああ、本当に穏やかで、静かだ」

 

 

千冬と

 

 

「こういう場所が、逆に要人保護プログラムに適しているという事でしょう」

 

 

十蔵である。

何故IS学園から遠く離れた此処にいるのには当然のことながら理由がある。

それは……

 

 

「…柳韻さんに会うのも久しぶりだなぁ」

 

 

そう、千冬の師匠にして束と箒の父親である篠ノ之柳韻と会うためである。

箒は未だIS学園の拘束室にて身柄を拘束されているのだが、もう直ぐ国際裁判に掛けられるため他の襲撃者と共に身柄の輸送が決定しているのである。

そして、千冬の根気強い交渉の結果、父親である柳韻と箒の面会の機会をもぎ取ったのである。

要人保護プログラムによって離れ離れになってから篠ノ之家は1回も再会していない。

その為、柳韻は箒がテロリストになった事すら知らない可能性の方が高いのである。

文書での説明でも良かったのだが、ここまで重大な事はしっかりと口頭で説明した方が良いと判断し、こうやって今柳韻が暮らしているところにまで足を運んでいるのだ。

 

 

「しかし、何ともまぁ悲しいですね。家族の再会が、こんな形とは」

 

 

「それもこれも、あの馬鹿が引き起こした事です。あんな事さえしなければこんな形にはならなかった」

 

 

十蔵の悲しそうな言葉を、一夏はそうバッサリと切り捨てる。

一夏と千冬というIS学園最高戦力2人が同時に此処に来るのは不安でもあるが、究極の事態になったらISの使用やオルコスに運搬してもらえば最短20分で帰れるので問題は無い。

それに、この2人以外の専用機持ちは全員揃っているので戻るのに時間は掛かってもある程度は耐えれる。

 

そんなスーツ集団は、実は3人だけではない。

3人の後ろには、スーツこそ身に纏っていない人間が1人と、スーツを物理的に着れないドラゴンが1体。

 

 

「それにしても悪いな、オルコス」

 

 

《気にするな》

 

 

珍しくファイト中じゃないのにSDを解除しているオルコスと

 

 

「ねぇ~~!いっく~ん!オルく~ん!許してぇ~~!!」

 

 

そんなオルコスに引きずられている束である。

そう、折角柳韻に会うのだから束とも再会させようと一夏は考え、千冬と協力し抵抗する束を無理矢理連れて来たのだ。

 

 

「束さん、何をそんなに嫌がるんですか。折角の柳韻さんとの再会ですよ」

 

 

「だ、だって…あの時から1回も会って無いし、生活を滅茶苦茶にしたのは束さんだから…」

 

 

珍しく弱々しい態度の束に、一夏と千冬は意外そうな視線を向ける。

 

 

「なんだ、お前もそんな事を考えるのか」

 

 

「ちーちゃんは束さんを何だと思ってるの!?束さんだって人間なんだから、それくらい考えるよ!あの愚妹じゃあるまいし!!」

 

 

束は結構真面目な表情を浮かべながらそう言っているのだが、オルコスに引きずられているという構図は変わらないのでいまいち格好がつかない。

 

 

「篠ノ之博士、1つ宜しいですか?」

 

 

「……なんだよ」

 

 

そんな束に向かって十蔵が声を掛ける。

若干不機嫌そうな視線を向けて来る束に優しく語り掛けていく。

 

 

「…親というのはですね、子供が第一なんですよ。自分達がどうなっても、先ず考えるのは子供の事なんですよ。無事なのか、元気でやってるのか…だから、心配しなくて大丈夫ですよ。きっと、御父上も篠ノ之博士の事を心配していますから」

 

 

「………ん、そういう事にしておく」

 

 

十蔵の言葉を聞いた束は暫くの間黙っていたが、やがてそう返した。

その表情は少しだけだか、笑みが浮かんでいた。

そんな2人のやり取りを見ていた一夏と千冬は

 

 

((学園長…子供いたの!?))

 

 

と内心驚愕するのだった。

そうして束が自分で歩き始めためオルコスはカードになり一夏のスーツの胸ポケット。

その場から歩き続けて約20分。

一軒の平屋の前に着いた。

そこそこ年季が入っているその平屋。

表札は無く、一見すると空き家にも見える。

しかしこの場にいる全員が察知している。

人の住んでいる気配を。

 

 

「……ごめんくださ~い!!」

 

 

呼び鈴なんてもの存在しないので、一夏がそう大声を発する。

暫くすると、家の中から足音が聞こえてくる。

束は思わず千冬の背中に隠れる。

千冬は一瞬無理矢理引きはがそうとも思ったが、自分からしっかりと出る方が良いと思いそのままにした。

 

 

「こんな田舎の一軒家になんのよ……!!」

 

 

そうして、その一軒家から出て来た男性は言葉を途中で止め、驚きで目を見開く。

 

 

「……一夏君、千冬ちゃん」

 

 

その男性…柳韻はそう一夏と千冬の名前を呼ぶ。

 

 

「はい、お久しぶりです。柳韻さん」

 

 

「お久しぶりです」

 

 

一夏と千冬は笑みを浮かべてそう返事をする。

 

 

「2人とも、なんで此処に…」

 

 

「本当だったら世間話に花を咲かせたいところなんですが、今回はとても重要な事があって尋ねさせて頂きましたので後にさせてください」

 

 

「っ…成長したね、一夏君……」

 

 

一夏の言葉を聞いた柳韻はそう反応する。

幼かったころしか知らなかったら、この成長具合は驚いて当然だろう。

そんな柳韻に、十蔵も声を掛ける。

 

 

「初めまして、篠ノ之柳韻殿。IS学園学園長、轡木十蔵です」

 

 

「あ、ああ。初めまして…」

 

 

IS学園学園長。

その肩書を聞いた柳韻は若干緊張した面持ちになる。

嘗ての教え子2人に、学園長。

そんな人達がわざわざ自分を尋ねて来た事に緊張しているんだろう。

 

 

「さて、じゃあ早速本題に…っていきたいんですけど、その前に1つ」

 

 

一夏はそう言いながら千冬の方に…正確に言うのなら、千冬の背後に視線を向ける。

それにつられ、柳韻もそこに視線を向ける。

 

 

「……束さん、出て来たら如何ですか?」

 

 

「なっ…」

 

 

一夏の言葉を聞いた柳韻は驚きの声を発する。

 

 

「……」

 

 

束は、ひょこっと千冬の背中から顔を出す。

 

 

「束…束なのか…?」

 

 

「う、うん…そうだよ、お、お父さん……」

 

 

柳韻の絞り出すかのような声に、束はそう返答する。

その瞬間に、一夏、千冬、十蔵はスッと離れていく。

 

 

「束…束ぇ!!」

 

 

「っ!」

 

 

柳韻は目元に涙を浮かべながら束に抱き着く。

抱き着かれた束は驚いたような表情を浮かべる。

しかし、感じる柳韻の懐かしい匂いや温かさに束も涙を浮かべながら柳韻に抱き着き返す。

 

 

「束…!お帰りなさい…!!」

 

 

「うん…!ただいま、お父さん……!!」

 

 

そうして暫くの間、篠ノ之親子は泣きながら抱き合い、久しぶりの再会を噛み締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、いったい何の御用ですか?わざわざこんな場所にまで来て…」

 

 

それから暫くして、一夏達は家の中に入れて貰った。

柳韻に案内してもらい机の前に座る。

柳韻はお茶を人数分出しながらそう尋ねた。

 

 

「…先程も軽くお話ししましたが、とても重要な事です。嘘だと思うかもしれませんが、これから話すことは全て真実であることをここに誓います」

 

 

「そこまでの事…分かった。全てを信頼しよう」

 

 

一夏は柳韻の目をしっかりと見ながらそう言い、そんな一夏の様子に少し驚いた柳韻だが一夏の目を見ながらしっかりとそう頷く。

その事を確認してから一夏達は説明をした。

先ず、箒は1回刑務所に入れられたが脱獄した事。

テロ組織に加わり、何度もIS学園を襲撃した事。

そして今回捕まり国際裁判にかけられる事。

その、全てを説明した。

 

 

「…そう、か……」

 

 

説明を聞き終えた柳韻はそう呟いた。

その表情は悲しそうではあったが、驚いている感じも取り乱している感じもしないものだった。

 

 

「その…驚かないんですか?箒が…自分の娘がこんな状況になって……」

 

 

「…驚いていない訳じゃない。でも、何処かあの子は何か重大な事をやらかすんじゃないかと考えていた。あの子は幼い頃から、暴力で解決をするような子だったからな…」

 

 

柳韻はそう呟くと、十蔵達に向かって頭を下げる。

 

 

「私の娘が申し訳ない。幼い頃に、私がもっとしっかり力の使い方について教え切れていれば…!!」

 

 

そうして、後悔の念からか震えている声でそう言葉を発した。

そんな柳韻を見て、一夏達は悲しそうな表情を浮かべる。

 

 

「お父さん…」

 

 

束は心配そうな声色でそう呟く。

 

 

「…顔を上げてください」

 

 

十蔵がそう呟くと同時に、柳韻は顔を上げる。

 

 

「私も親です。あなたの気持ちは理解できます。しかし、今必要なのは後悔ではありません。これから如何していくか。未来が大事なのです」

 

 

「…剣を教えていた私でも、まだまだ学ぶべきものがありますな……」

 

 

柳韻は若干微笑みながらそう呟く。

そんな柳韻に、一夏が声を掛ける。

 

 

「…篠ノ之箒との面会時間は、15分だけ確保出来ます。ですが、会う会わないは柳韻さんの自由です。如何しますか?」

 

 

一夏はじっくりと確かめるようにそう言う。

箒の事が大嫌いな一夏だが、柳韻と会話するという行為にその感情は邪魔なので表に出さないように堪えているのである。

そんな一夏の言葉を聞いた柳韻は覚悟の決まった表情を浮かべる。

 

 

「…会うさ。会って、親としての()()()責務を果たす」

 

 

柳韻の言葉を聞いた千冬は学園へと連絡を入れる。

こうして、柳韻と箒の面会が決定したのであった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「出せぇ!!出せぇ!!私をここから出せぇ!!」

 

 

IS学園、地下拘束室。

他の拘束者の音が聞こえないように各々区切られたこの部屋…というよりも牢屋で、箒はそう叫びながら鉄格子を殴っていた。

 

 

「クソォ!クッソォオ!何故だ!何故私が拘束されないといけないのだ!!」

 

 

箒は未だに自分が拘束されている事に納得していなかった。

あそこまでにいろいろやらかしたのに、事の重大さを理解していない。

そうして暫く喚く事数十分。

箒はそれを止めはぁはぁと肩で息をする。

 

 

「……篠ノ之箒」

 

 

「っ!」

 

 

そのタイミングを見計らったかのように牢屋の外から警備員の1人が箒に声を掛ける。

実を言うと10分ほど前から鉄格子の前にいたのだが、箒は喚いていたため気が付かなかったのだ。

 

 

「お前に客だ」

 

 

警備員はその言葉と同時に牢屋の扉を開け中に入っていく。

そうして箒の腕を身体の後ろにまわさせ手枷を付ける。

 

 

「くっ!?なんだこれは!?離せ!!」

 

 

「黙れテロリスト」

 

 

喚く箒に警備員は拳銃を突き付ける。

流石の箒でも銃を向けられたら黙る。

そうして拳銃を突き付けられたまま箒は警備員によって誘導されていく。

 

 

「入れ」

 

 

そして、とある部屋に入れられる。

部屋の中央が強化ガラスによって区切られた部屋。

その中央には椅子と机が置いてあり、そこだけ強化ガラスに数個の小さい穴がある。

まさに刑務所の面会室といった感じの部屋だ。

そんな部屋の椅子に箒は座らせられ、警備員によって椅子や机の脚とロープで繋がれる。

 

 

「くっ!?離せ!!」

 

 

「離すわけが無いだろう」

 

 

未だに喚く箒に警備員が冷たくそう吐き捨てる。

警備員は入り口近くに移動し箒の事を監視するような鋭い視線を向ける。

 

 

そうして、そこから十数分経った時。

 

ガチャリ

 

と、箒から見てガラスの向こうにある扉が唐突に開き、部屋の中にとある人物が入って来る。

 

 

「なっ!?」

 

 

その人物を見た瞬間、箒はそう驚愕の声を発する。

そうだろう。

何故ならその人物は

 

 

「久しぶりだな…箒…」

 

 

「ち、父上…」

 

 

柳韻だったからだ。

久しぶりの親子の対面。

しかし、柳韻と束の再会の時のような温かさは微塵も感じられなかった。

ただただ重苦しい雰囲気が部屋を支配する。

そんな空気の中、柳韻は箒の向かいの椅子に深く座り、話し始める。

 

 

「箒…お前のしてきたことは全て聞いた。一夏君達に散々迷惑を掛けた事も、テロリストになった事もな…!!」

 

 

柳韻はそう言うと台パンの要領で机の事を殴る。

 

 

バァン!

 

 

「っ!?」

 

 

急な事に驚いたような表情を浮かべる箒。

だが、そんな事気にしないように柳韻は言葉を続ける。

 

 

「一夏君達からその事を聞いたとき、私は今までにないほどの怒りと後悔を覚えたよ!!まさか、自分の娘がこんな重罪を犯すだなんて思いもしなかったからな!!」

 

 

「っ!私は何も悪い事などしてません!私は、ただ一夏を取り戻そうとしただけです!」

 

 

「黙れ!!まだそんな事を言うか!!」

 

 

以前一夏達から聞いていた事と何一つ変わらない事を未だに言う箒に柳韻の堪忍袋の緒が切れた。

 

 

「お前がした事は立派な犯罪行為だ!!それを理解しているのか!!」

 

 

「犯罪?一夏を取り戻そうとする事のどこが犯罪なのですか?」

 

 

箒の言葉を聞いた柳韻は呆気に取られたような表情を浮かべる。

 

 

「…お前、本気で言っているのか……?」

 

 

「本気も何も、私は最初から真剣です」

 

 

柳韻は頭痛を感じ頭を押さえる。

まさか、自分の犯した行動の重さ理解していないとは思わなかったのだろう。

 

 

「…お前には失望した。まさか自分の罪を理解していないとはな…でも、良かったと思ってる自分もいる。もうこれで、罪悪感無く言えるな…」

 

 

そう呟いた柳韻は、懐から1枚の紙を取り出し箒に見せる。

 

 

「なっ!?これは!?父上、これはどういうことですか!?」

 

 

「見て分かるだろう?絶縁状だ」

 

 

その紙…絶縁状を見た箒は慌て始める。

 

 

「もう、お前の事など見てられん!!お前は今日、この瞬間を持って私の娘では無くなる!!」

 

 

「なっ!?何でですか!?」

 

 

「自分で考えろ!この先もう一生、篠ノ之流の事を口にするなよ」

 

 

柳韻がそう言った時、柳韻側に扉が開く。

 

 

「お時間です」

 

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

 

警備員に言われ、柳韻は立ち上がる。

 

 

「ま、待って!待って下さい!!」

 

 

「…罪を償うんだな」

 

 

箒は泣きながら柳韻の事を呼び止めるも、柳韻はそんな箒の事を気にすることなく部屋から出て行った。

そうしてこの場に残った箒も警備員によって牢屋に戻される。

箒は後日他の襲撃者と共に身柄を搬送され裁判に掛けられた。

その結果終身刑が言い渡され、纏めて軍事刑務所に収監されるのであった。

 

 

 

 

 

「ふぅ…これで、終わったな……」

 

 

部屋から出て、警備員に誘導され校舎の外に出た柳韻はそう呟いた。

その表情は少し悲しそうではあったものの、清々しいものだった。

 

 

「さて、もう帰っていいんだったかな?…帰る前に、千冬ちゃん達と話をしておきたいが…」

 

 

「柳韻さん!!」

 

 

辺りを見回しながらそう呟く柳韻にそんな声が掛けられる。

声が聞こえてきた方向に振り返ると、そこには一夏と千冬がいた。

2人はそのまま柳韻の近くに駆け寄る。

 

 

「柳韻さん…お疲れ様でした」

 

 

「千冬ちゃん…ありがとう」

 

 

千冬の言葉に柳韻は笑みを浮かべてそう返す。

弟子と師匠。

この関係には親子とはまた違う、でも深い絆が存在している。

そんな2人を見て一夏もまた笑みを浮かべると言葉を発する。

 

 

「この間お宅にお邪魔させていただいたときは積もる話も出来ませんでしたし、私の部屋でゆっくりと話しませんか?夕ご飯も張り切って作りますよ」

 

 

「一夏君…本当に成長したね…」

 

 

「男子三日会わざれば刮目してみよ…とはよく言います。私が剣道を辞めてからはそれなりの月日が経ってますし、成長しますよ。特に、今は身体的にも成長期なので」

 

 

柳韻の驚いた言葉に、一夏はそう返答する。

それに、と一夏は続ける。

 

 

「……僕の部屋には既に束さんがスタンバイしています。部外者2人と一緒ですが、親子のディナーを楽しんでは?」

 

 

「…部外者とは言わないさ。一夏君や千冬ちゃんともゆっくりと話したいしね」

 

 

「……はい!」

 

 

柳韻の言葉に、一夏はしっかりと返事をする。

そうして3人は一夏の部屋に移動して束と合流し、一夏の手料理で積もりに積もったいろいろな話をするのであった。

 




衝撃の事実。
学園長、子供いる。

そして、箒の事大嫌いだけど柳韻の手前それを表に出さない一夏。
大人。
私だったら嫌いな奴の話題になったら不機嫌になっちゃう。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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開催、体育大会

暫く平和だと願いたい

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

柳韻が箒と絶縁してから約1週間。

今日は待ちに待った?体育大会本番である。

 

 

今日の為に一夏は溜まっていた仕事を2徹して終わらせ1日フリーな日を作った。

そして生徒会…というより楯無が主体となり行う競技を決定した。

この体育大会は外部観客を招待しておらず、また各国家や企業に今日体育大会を行う事の連絡もしていない。

少しでも襲撃が起こらない為の対策である。

 

 

3日前から入念に準備を行い迎えた当日。

朝の8:20。

 

 

「遂にこの日が来たな……」

 

 

《ああ。一夏は出場しないがな》

 

 

「それを言うな。雰囲気を楽しませろ」

 

 

白線で陸上トラックが描かれたグラウンドに『PurgatoryKnights』のジャージを来た一夏と、その隣に浮遊するオルコスSDがいた。

今の2人の会話から分かる通り、一夏は折角1日予定を空けたのに全ての種目で参加をしないのである。

その理由は至って簡単。

一夏が男子だからである。

性別での身体能力の差はどうしようもない事である。

一般的な学校では男女比がちょうどいい感じ、もしくは男女どちらかしかいないので問題無いが、此処IS学園は今は男子が一夏1人なので一夏が出場すると一夏が所属しているチームだけ極端に有利になってしまう。

その為、本日一夏はほぼ教員と同じ立ち位置なのである。

 

 

「まぁ、なんかさっき楯無さんに『一夏君、実況よろしく!』とか言われたから出番が無いわけでは無いだろうし、何よりこの立場だとクラリッサとチェルシーとイチャイチャできる機会が多い」

 

 

《……本人が良いなら我は何も言わん》

 

 

それは如何なのかと思ったオルコスだが、一夏本人が嬉しそうなのでそっとしておくことにした。

そして、一夏とオルコスは他の教員達が集まっている所に移動する。

 

 

「あ、織斑君」

 

 

「榊原先生、どうも。……どうかされました?どこか元気が無いようですが……」

 

 

「いや、その…実家からのお見合い写真の量が……」

 

 

「ああ……頑張って下さい」

 

 

踏み込み過ぎると地雷危険地帯に入ってしまう事を察した一夏は最後にそう声を掛けるとオルコスと共にスッと離れて行った。

そうこうしている間に生徒達も続々と集まり列を作っていく。

時刻は8:40となり、開会式の時間となった。

 

 

『んん!それでは、これよりIS学園体育大会、開会式を開始します。まず初めに、更識生徒会長、よろしくお願いします』

 

 

「はい!」

 

 

真耶がマイクを持ち司会を行い、指示を受けた楯無が列の前に置いてある朝礼台に上りマイクを使用しながら話し始める。

開会式はそのままつつがなく進んで行く。

学園長の話があったり等々一般的な体育大会と何ら変わりない。

 

 

『それでは、続いて選手宣誓です。選手宣誓、織斑一夏!!』

 

 

「……はぁっ!?」

 

 

急に自分の名前を呼ばれた一夏は驚きの声を発する。

しかし、状況を理解すると

 

 

「あんの馬鹿会長がぁ…!!」

 

 

と怒りの表情を浮かべながらドス声でそう呟く。

その威圧感に周囲にいた教員達が若干一夏から離れる。

 

 

《一夏、落ち着け。あそこのビビってる会長が持ってるのが台本だろう。受け取って宣誓してこい》

 

 

オルコスはそう言うとジャージの胸ポケットに入る

一夏は表情を怒りに染めたままズンズンと楯無の方に向かって行きその手から台本をひったくる。

 

 

「後で覚えておいてくださいね……?」

 

 

「ヒィッ!?」

 

 

笑顔なのに恐怖を感じる表情で一夏は楯無に向かってそう言い、楯無は恐怖からか情けない悲鳴を上げる。

一夏は朝礼台の前に向かって歩きながら台本を確認し、自分が言う言葉を頭に叩き込む。

そうしてマイクの前に立った一夏は息を吸い、声を発する。

 

 

『選手宣誓!』

 

 

怒っているとはいえ、与えられた仕事は全うする。

そんな真面目さが垣間見えている。

 

 

『我々は!切磋琢磨し、積み重ねてきた練習の成果を!発揮する事を誓います!』

 

 

「「「誓います!!」」」

 

 

一夏の言葉に続くように、後ろにいた生徒達も声を発する。

選手宣誓を言わらせた一夏はため息を吐きながら元の場所に戻っていく。

 

 

「一夏、お疲れ様」

 

 

「クラリッサぁ~~」

 

 

その場に移動していたクラリッサが一夏に声を掛け、一夏は笑顔を浮かべるとクラリッサに駆け寄る。

 

 

「怒ってるようだったが、もしかしなくても事前説明が無かったのか?」

 

 

「ああ、無かった。あとであの会長は虚さんと一緒に小一時間くらい説教する」

 

 

「…程々にな」

 

 

「あんまりやり過ぎるとクラリッサとイチャイチャできる時間無くなるから程々にするさ」

 

 

さらりと放たれたその言葉にクラリッサは若干頬を赤くする。

その反応を見て一夏の笑みは濃いものになる。

 

 

『それでは、これにて開会式を終了します。最初の種目の準備をしてください』

 

 

アナウンスを聞いた生徒達と教員達は同時に移動を開始する。

 

 

「俺らも行くか」

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

一夏とクラリッサも、言われている場所への移動を開始するのだった。

 

 


 

 

『さぁ!最初の種目は100m走です!実況は私、黛薫子と!』

 

 

『クラリッサ・ハルフォーフと』

 

 

『織斑一夏でお送りします』

 

 

アナウンスから数分後。

会場に備え付けられた実況席には薫子とクラリッサと一夏が座りマイク越しで話していた。

そう、一夏の仕事は楯無から言われていた通り実況であり、クラリッサの仕事も実況だったのである。

恐らく千冬あたりの計らいだと思っている一夏は今度余裕が出来たら何か料理でも作って上げようと考えている。

 

 

『この競技は至ってシンプル。各組の代表者が1人づ並んで100m走るだけです!』

 

 

『組分けは1年生の専用機持ちをリーダーとした6組なので6人が同時に走る感じですね』

 

 

クラリッサと共に居れると分かりテンションが上がっている一夏。

凄い自然に喋っている。

 

 

『各組の代表者は学年で5人づつ、それが6組あるので合計で90人走る事になりますが、ハルフォーフさん、誰か注目している人は居ますか?』

 

 

『そうですね…贔屓に聞こえるかもしれませんが、やはり隊長は速いと思います。現役軍人なので身体能力はかなり高いので』

 

 

『なるほど、確かに現役軍人というのは大きなアドバンテージですね!』

 

 

同じくクラリッサも自然に喋っている。

やはりこの2人は適応能力が高い。

 

 

『この体育大会では、優勝した組には織斑一夏ファンクラブである〈親衛騎士団〉が編集した特別映像を『ちょっと待ったぁ!!』織斑君、どうかした?』

 

 

なにやら放っておけない単語が聞こえたので一夏は声を荒げた。

 

 

『え、俺のファンクラブ?何時そんなん出来たんですか?』

 

 

『1学期の…1年生の臨海学校前だね』

 

 

『知らねぇ!なんだそれ!非公認!!』

 

 

『まぁ、ここ最近はあまり活動出来てなかったからほぼ形だけみたいなもんだよ』

 

 

『だからって…まぁ、俺に危害が無いなら良いや……』

 

 

一夏は面倒くさくなったようにため息をつく。

 

 

『さぁさぁ、準備も終わったようです!』

 

 

『第一走者は各組のリーダーですね』

 

 

クラリッサの言葉の通り、スタート位置には赤い鉢巻きを付けたマドカ、青のセシリア、オレンジのシャルロット、黒のラウラ、桃色の鈴、銀(みたいな白)の簪が並んで立っていた。

全員気合十分といった表情を浮かべている。

 

 

「On your marks,Set」

 

 

スタートラインの横に立っている菜月はそう言いながらスタートピストルを構える。

それと同時にマドカ達は一斉にクラウチングスタートで構える。

 

 

パァン!!

 

 

そのピストルの音と同時にマドカ達は一斉に地面を蹴り走り始める。

 

 

『さぁ!今一斉にスタートしました!』

 

 

『全競技で最初なので、この結果はチーム全体のモチベーションに繋がりますからね。全員頑張って欲しいところです』

 

 

薫子は興奮したように、一夏は何処か実況というより解説者のようにそうコメントする。

 

 

『おおっと!先頭、に立ったのは先程ハルフォーフさんが注目していたボーデヴィッヒさんです!どうですか、ハルフォーフさん!』

 

 

『先程も言いましたが、やはり現役軍人なので身体能力は抜群です。しかし、他の走者も全員専用機持ちなので身体能力にはそこまでの差は無い筈なので、ここからどうなるかはまだ分かりません』

 

 

クラリッサもクラリッサで解説の様である。

そして真面目に語るクラリッサの横顔を一夏は眺めていた。

 

 

(最高)

 

 

100mしか無いのでそうこうしている間にレースは終盤に。

 

 

『もうレースも終盤!100m走とは思えない程白熱したデッドヒートが繰り広げられています!そして!今!ゴォォォオオル!!』

 

 

1位がゴールした瞬間に、薫子がハイテンションに声を発する。

その直後に2位以下が続々とゴールをする。

まさに接戦。

もしもう1回走ったとしても同じ結果にはならないだろう。

そんな中、1位になったのは……

 

 

『初っ端から行われた大混戦の100m走、1位は!凰鈴音さん!!』

 

 

「よっしゃー!!」

 

 

薫子のアナウンスと同時に、1位に輝いた鈴が笑顔を浮かべ右手を突き上げる。

 

 

『序盤リードしていたボーデヴィッヒさんは惜しくも抜かれ2位という結果に!ハルフォーフさん、どうでしょうか!?』

 

 

『恐らく最初からこの逆転を狙っていたんだと思います。隊長の背後にピタリと付いていましたし』

 

 

『なるほど!織斑君は如何見ますか?』

 

 

話題を振られた一夏は数舜考え、笑顔で言葉を発する。

 

 

『真剣な顔で喋ってるクラリッサが可愛かったです』

 

 

『い、一夏!?その、こんな放送で言う事では……!!』

 

 

『だって2人して同じ様な事喋っても面白くないし、事実だし』

 

 

『っ~~//////』

 

 

『照れて赤くなったのも最高なんだよなぁ~~』

 

 

イチャイチャを放送で垂れ流されているので、生徒達や教員達は無性にブラックコーヒーを欲し始める。

 

 

『織斑君、それくらいに……砂糖吐きそうだから……』

 

 

『人間が如何やって砂糖を吐くんです?』

 

 

薫子の言葉に一夏は首を傾げるも、

 

 

『まぁ、そうですね。愛は後でタップリ囁くので今はこれくらいにしておきます』

 

 

最後にクラリッサの顔を真っ赤にさせる言葉を呟いてから、いったんイチャイチャを中断させた。

 

 

『で、では次のレース行きましょう!』

 

 

『各組のリーダーが作った流れをどう生かしていくか、もしくは切り替えるかが大切になって来ますね』

 

 

薫子が半場強引に雰囲気を切り替え、しれっと一夏が解説に戻る。

100m走では各組大した差が生じることなく、次の競技に移る事になった。

 

 


 

 

『さぁ、ここからは実況と解説が2人変わります!薫子ちゃんに変わりまして、私、更識楯無と!!』

 

 

『クラリッサに変わりまして、チェルシー・ブランケットです』

 

 

『織斑一夏は引き続きです』

 

 

3人中2人が変わった実況席。

一夏に未だ若干ビビっている楯無。

一夏の隣に座れて嬉しいチェルシー。

チェルシーとも居れる事に内心テンションが爆上がりしている一夏。

 

 

『さてさて、続いての競技は超障害物競走です!!』

 

 

『超障害物競走?どんな競技なんですか?』

 

 

楯無の言葉に一夏がそう反応する。

その言葉を待っていましたと言わんばかりに目を輝かせながら楯無は説明を開始する。

 

 

『この競技は、まず最初に机の上に分解しておいてあるアサルトライフルを組み立ててもらいます!』

 

 

『弾は当然訓練弾ですよね?』

 

 

『そこは勿論!完成したアサルトライフルを背負いながら平均台、網潜り等々の障害を乗り越えていきます!』

 

 

『なんかそれだけでは終わらなさそうな感じの障害物が見えますが?』

 

 

『今ここで全部説明しちゃうとつまんないので省略!そして最後に、最初から背負い続けてきたアサルトライフルで的を撃ち抜く事でゴールとなります!ただし、弾は1発だけなので外したら取りに行って貰います!』

 

 

『それに加え、途中でアサルトライフルを落としてしまってもゴール出来ないという訳ですね?』

 

 

『そういう事になってます!』

 

 

楯無、チェルシー、一夏がまるで台本でもあるかのような感じで会話をしていく。

そうして全ての説明を聞き終わった一夏は

 

 

『はぁ~~、狂ってますね』

 

 

と正直な感想を漏らした。

 

 

『狂ってるってなによ!』

 

 

『どう考えたっておかしいですよ。なぁ、チェルシー』

 

 

『…まぁ、アサルトライフルの要素はおかしいですね』

 

 

一夏とチェルシーの言葉を聞いた楯無は若干ショックを受ける。

折角いろいろ考えた競技が否定されたからだろう。

 

 

『準備が完了したようですよ。さっさと復帰してください』

 

 

『一夏君!?酷くない!?……んんっ!それでは!切り替えていきましょう!!』

 

 

若干冷たい一夏の態度にショックを受けるも、楯無は持ち前の明るさで直ぐに切り替え元気な声を発する。

 

 

『さぁ、最初の走者たちがスタートラインに立ちました!私が個人的に注目しているのは、鉄組の布仏本音ちゃんです!』

 

 

『ほう、その理由は?』

 

 

『その大きいオッ』

 

 

ブツッ!!

 

 

楯無が何を言おうとしているのかを察した一夏は瞬時に楯無が作っているマイクをOFFにする。

その手際の良さにチェルシーは感嘆したような息を漏らす。

 

 

『こんなんで感嘆の息なんて漏らして欲しく無かったんだけど』

 

 

『そうなの?普通ならそんなに手際よく動けないと思うけど』

 

 

『……いやぁ、やっぱ恋人にはもっと格好いいところ見せたいじゃん』

 

 

『そう言う理由なら問題無いわよ。だって一夏はもう既に格好いいんだから』

 

 

『っ!も~~う可愛いんだからぁ!大好き』

 

 

『///あ、ありがとう……』

 

 

チェルシーは顔を赤くしながらもじもじとお礼を言う。

そんな様子に、一夏は抱きしめたくなる衝動に駆られる。

先程と同じくらいのイチャイチャを再び垂れ流され、生徒達は再び無性にブラックコーヒーを求め、教員達は事前に準備しておいたブラックコーヒーを一気飲みする。

 

 

『……一夏君!そんなにいちゃつかないで!!』

 

 

マイクをONにし直した楯無が半分悲鳴のような声を発する。

 

 

『おっと、全ての準備が完了したようですね』

 

 

『無視!?……おほん、それでは、位置について、よーい……』

 

 

『今回は楯無さんが言うのか…』

 

 

『ドン!!』

 

 

楯無の声に応じて、6人全員が一斉に走り出す。

ただし、本音だけがやけに遅く他の5人とかなり差が出来ていく。

 

 

『さぁさぁ、始まりました!』

 

 

『のほほんさんだけがやけに遅く差が開いていますが、残りの5人に差は無いですね』

 

 

『しかし、一応障害物競走なので足の速さだけでは勝てませんからレースの結果は分からないですよ』

 

 

チェルシーの言葉が終わるころには、5人は分解されたアサルトライフルが置いてある机にたどり着いていた。

テキパキと組み立てていく。

そうして大体5割程が組みあがった時点で漸く本音がたどり着いた。

その事を全員が認識した瞬間

 

 

「てってれ~~」

 

 

本音が完成されたアサルトライフルを掲げた。

 

 

『おおっとぉ!流石は本音ちゃん!一瞬で完成させたぁ!!』

 

 

『あの速度は凄いですね』

 

 

『…手元が見えなかったのですが……』

 

 

『そうか?普通に見れただろ』

 

 

一夏の呟いた一言に、チェルシーや放送を聞いている人全員が驚きの表情を浮かべる。

普段の本音からは考えられない程刹那の瞬間に組みあげられたアサルトライフル。

その組みあがる工程をしっかりと視認出来たのが信じられないからだろう。

 

 

『さっきよりかは格好いいところ見せれた…じゃなくて言えたんじゃない?』

 

 

『……うん、恰好良かったわよ、一夏』

 

 

『そう素直に言ってくれるところが可愛い』

 

 

『っ//////』

 

 

『イチャつかない!!』

 

 

自然な流れでイチャつき始める一夏とチェルシーに楯無がそう反応する。

 

 

『はーい』

 

 

『ほ、程々にします…///』

 

 

一夏は普通に、チェルシーは顔を赤くしたままそう返事をする。

そんなやり取りを放っておいて超障害物競走は進んで行く。

アサルトライフルを瞬間的に組み上げた事で大幅にリードを作った本音だが、その後の障害物で少しずつだが差を詰められてしまっている。

だが

 

 

「これで最後~~!!」

 

 

最後の障害物であるクライミングウォールを本音が乗り越えた。

他の5人はまだ網潜りだったりで苦戦をしている。

 

 

『さぁ、最初にたどり着いたのは本音ちゃん!!』

 

 

『これはもう決まったのでは?』

 

 

『いや、俺の記憶が確かなら…』

 

 

一夏のその言葉と同時に、本音は発砲する。

 

バァン!

 

なかなか様になっている構えで撃たれたその弾丸は、何故か明後日の方向に飛んでいく。

 

 

「あれぇ~~?」

 

 

『のほほんさんって、射撃超苦手だったはず』

 

 

そう、一夏の記憶の通り、本音は射撃が超苦手だ。

何度撃っても掠りもしない。

もたもたしている間に他の生徒達が到達し、射撃を開始する。

 

 

『おおっと!決着!!1位は、赤組の鷹月静寐ちゃん!』

 

 

「やったぁ!」

 

 

結局、本音は最後まで当てることが出来ず6位だった。

 

 

『なんというか…組み立ては見事でしたけど……』

 

 

『まぁ、少し勿体ないですね……』

 

 

「あはは~~今度セッシ―とかに教えてもらお~~~」

 

 

本音はあっけらかんとしながら特に気にしていないようにそう呟いていた。

 

 

『それでは、第二レース行きましょう!!』

 

 

『頑張って欲しいですね』

 

 

そうして、第二レースの準備が始まった。

 

 

そのまま恙無く体育大会は進み、昼休みに突入する……

 

 

 




ファンクラブの存在忘れてた人!
怒らないから手を上げなさい!

はーい!
何処かで使おうと思ってたら出番がなくすっかり忘れちゃいました。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!!


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穏やかな昼休み

イベントなのに事件が無いと違和感がある。
いや、これが普通なんだけどね。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

IS学園で行われている体育大会も昼休みになった。

昼休みは当然ながら休憩時間であり、昼食の時間でもある。

 

 

「昼休み!」

 

 

「ここでしっかり休憩しないと」

 

 

昼休みになれば敵同士でも何時もの関係性に戻るという事で、1年生専用機持ち6人は集まっていた。

裏庭でベンチや地面に敷いたシートの上に座る。

 

 

「はぁ~~、疲れた」

 

 

「簪、疲れすぎじゃない?」

 

 

「みんなが元気過ぎるんだよ」

 

 

「だが、流石にもう少し体力を付けろ」

 

 

「それは分かってるけど…」

 

 

全員に言われ、簪はため息をつきながらそう言う。

因みに、簪の体力は以前に比べると確実に上昇しているのだが他の専用機持ち達も同じくらい上昇しているので相対的にまだ足りないように見えるだけである。

そんな会話をしながら全員がお弁当を取り出す。

 

 

「ん?シャルロット、マドカ、お弁当どうしたのよ」

 

 

そんな中、シャルロットとマドカだけだ弁当箱を取り出していなかったので鈴がそう尋ねる。

 

 

「ああ、4日前くらいかな?一夏からメールがあって」

 

 

「何でも、『体育大会弁当支給』らしくて…」

 

 

マドカがスマホを操作し一夏とのやり取りを表示させ画面を鈴達に見せながらそう言う。

すると、画面には確かに『体育大会は弁当支給。準備の必要なし』と書いてあった。

 

 

「弁当支給?アンタ達の会社弁当売り出すの?」

 

 

「いや、そんな話は何も…」

 

 

「だから、僕達も良く分からないんだよね。まだそのお弁当受け取ってないし」

 

 

「なるほどですわ」

 

 

シャルロットの説明にセシリアがそう頷く。

折角なので全員一緒に食べたいと、お弁当が来るまで雑談を繰り広げる。

そうして大体2分後。

 

 

「マドカ、シャル、此処にいたか」

 

 

「あ、お兄ちゃん!」

 

 

鞄を持った一夏がやって来た。

 

 

「遅くなってごめん。ちょっと野暮用があって」

 

 

「野暮用?」

 

 

「ああ、馬鹿会長を優秀な会計の人に差し出してきた。これでしっかりと反省してくれる事を願う」

 

 

一夏のその言葉を聞いたマドカ達はポカンとしていたが、簪だけはまるで頭痛がしているかのようにおでこを押さえため息をついていた。

虚に怒られる楯無が簡単に想像できたからだろう。

 

 

「おっといけない、本来の目的を忘れるところだった」

 

 

一夏はそう呟くと鞄を開け中から綺麗にバンダナに包まれたお弁当箱を2つ取り出すとマドカとシャルロットに手渡す。

渡された2人は暫くの間そのままお弁当箱を見つめていたが、やがてこれが意味する事を理解し驚きの表情を浮かべる。

 

 

「え!?一夏、これって!?」

 

 

「手作り弁当だが?」

 

 

その言葉を聞いた他の4人も驚きの表情を浮かべる。

 

 

「弁当支給って、お兄ちゃん手作りのを支給って事だったの!?」

 

 

「逆に俺以外どこから支給が来るんだよ」

 

 

「え、いや~…会社から?」

 

 

「うちの会社弁当作って無いだろ」

 

 

一夏は苦笑いを浮かべながらそう言う。

 

 

「はぁ~、一夏、アンタが他人にご飯作るなんて珍しいわね」

 

 

「他人て…マドカは妹だし、シャルも部下だから身内だろ」

 

 

鈴の言葉に半眼を作りながら反論する。

 

 

「それじゃ、俺はクラリッサとチェルシーと食べる約束だから。弁当箱は後で回収するからその時にでも感想聞かせてくれ。午後も頑張れよ!!」

 

 

一夏はそう言うと手を振りながら走って行った。

表情が若干にやけ此処に来た時より足取りが軽やかなところを見るとかなり楽しみなのが察せられる。

 

 

「…取り敢えず食べるか」

 

 

ラウラのその言葉で取り敢えず全員各々の弁当箱を開ける。

その瞬間に分かる一夏の弁当の完成度。

若干プライドを抉られる。

 

 

「「「「「「いただきます」」」」」」

 

 

そうして全員が食べ始める。

 

 

「「美味し過ぎる!!」」

 

 

一口食べただけでそう叫んだマドカとシャルロット。

美味しいお弁当、そしてその後の談笑で6人全員午後への活力をチャージするのであった。

 

 


 

 

「お待たせ!」

 

 

「待ってないぞ」

 

 

「気にしないで」

 

 

IS学園教員寮の近くのベンチ。

今日は昼食を食べる場所が自由とはいえ生徒達はあまり教員寮に近付かないので、此処にベンチがあるという事すら知らないだろう。

だからこそ、一夏達は此処を昼食の場所に選んだ。

マドカとシャルロットにお弁当を渡した一夏はクラリッサとチェルシーの待つ此処に手に持つ鞄を揺らさないように走りながらやって来た。

 

 

「午後からも仕事あるし、早速食べようか」

 

 

2人の間に座りながら一夏は鞄から自分達用の弁当箱を取り出す。

このお弁当は、今朝一夏が主体となり3人で一緒に作った合作品。

因みに一夏がマドカとシャルロットの分を作っている間、チェルシーはセシリアの分を、クラリッサはラウラの分を作っていた。

 

 

「「「いただきます」」」

 

 

弁当箱を開け、3人で同時にそう言ってから食べ始める。

 

 

「ん…やっぱり一夏の料理は美味しいわ」

 

 

「ありがとう。でも、チェルシーの作った卵焼きも美味しいよ。ああ、勿論クラリッサが作った唐揚げもね」

 

 

「ありがとう。一夏にそう言って貰えると自信が付くな」

 

 

3人でお互いの料理への感想を言い合い、時には一夏がしれっと愛を囁きながら賑やかに昼食を食べていく。

 

 

「「「ご馳走様でした」」」

 

 

食べ終わり、一夏は弁当箱の蓋を閉じクラリッサとチェルシーの分の箸を受け取ってから自分の分も含め鞄に仕舞う。

 

 

「まだ時間はあるな」

 

 

「なら、もう少しゆっくりするとしよう」

 

 

「ここでゆっくりしないと、午後疲れちゃうから」

 

 

チェルシーのその言葉に、一夏とクラリッサは無言で頷く。

 

 

「……平和なのはいい事なのに、なんかソワソワするな」

 

 

「ここ最近はイベントのたびに襲撃があったからだな」

 

 

一夏が呟いた事に、クラリッサがそう反応する。

常に戦いっぱなしと言っても過言では無かったここ最近の反動を感じているようだ。

 

 

「ねぇ、一夏。最近仕事はどう?」

 

 

「ん?仕事?」

 

 

そんな一夏にチェルシーがそう質問する。

クラリッサも気になるといった表情で一夏を見る。

 

 

「あ~~~、まぁ普通…かな?」

 

 

そう言った瞬間、2人は心配そうな表情を浮かべる。

 

 

「一夏、絶対に無理はしないでね」

 

 

「一夏に何かあったら、私達どうなるか分からないからな」

 

 

2人にそう言われ、一夏は1度息を吸って吐いた。

そしてベンチから立ち2人を向き合うような体勢になる。

 

 

「大丈夫。仕事で無茶はしてないし、これから先するつもりもない。これ以上恋人に不安を掛けるなんてことしたくないからな」

 

 

笑顔を浮かべ、2人の事を同時に抱きしめる。

抱きしめられた2人は少しだけ顔を赤くしたものの、直ぐに一夏の事を抱きしめ返す。

互いの鼓動や熱、匂い等々を感じながら暫くの間抱きしめ合う。

 

 

(『仕事で無茶はしてない』…嘘はついてない。不安にさせたくないのも事実だ。でも……)

 

 

2人が胸元に顔を埋めていて表情が見られていない事を確認した一夏は奥歯を噛み締めながらそんな事を考える。

 

 

(俺は、俺は……)

 

 

一夏は思わず腕に力が入る。

 

 

「い、一夏?ちょっと苦し…」

 

 

「っ!?ご、ごめん!」

 

 

チェルシーに言われ、一夏は弾かれるように2人から手を離した。

2人は一瞬悲しそうな表情を浮かべたものの、直ぐに切り替える。

 

 

「一夏、急にどうしたんだ?」

 

 

クラリッサが一夏の顔を覗き込むようにしながらそう尋ねる。

一夏は考えるように視線を泳がせるも、直ぐに笑みを浮かべて言葉を発する。

 

 

「いやぁ、2人が可愛すぎて、つい……」

 

 

その言葉を聞いた瞬間に、クラリッサとチェルシーは顔を赤くする。

 

 

(本当に可愛いんだよなぁ…)

 

 

「そんな反応してくれるところが好き」

 

 

先程まで考えていた事をいったん忘れ、2人に愛を伝える一夏。

その表情は幸せそうな笑顔で、でも少し悲しそうで…なにか辛いものに耐えていると感じる事も出来るものだった。

 

 

「…私達も、一夏の事が大好きだ」

 

 

「これから先も、ずっと愛してる」

 

 

そんな一夏の様子にクラリッサとチェルシーは少し違和感を感じながらも笑顔で愛を伝え返す。

 

 

「っ!も~う、大好き!!」

 

 

良い返事を聞けた一夏は満面の笑みを浮かべると再び2人の事を抱きしめる。

抱きしめられた2人は感じる一夏の存在にやがて感じていた違和感を忘れ、一夏の事を抱きしめ返した。

そうして、3人は時間ギリギリまでイチャついているのだった。

 

 


 

 

『さぁ、体育大会午後の部が始まります!実況は私、黛薫子と!』

 

 

『……更識楯無と……』

 

 

『白式と!』

 

 

『白騎士です』

 

 

昼休みも終わり、午後の部がスタートした。

実況席にいるのは相変わらずの薫子と、ぐったりしながら椅子に座り込んでいる楯無、そして何故か白式と白騎士だった。

 

 

『元気よく始めたは良いものの…いくつか突っ込んでいい?』

 

 

薫子のその言葉に返って来るのは静寂。

生徒達や教員達も状況を理解できてないんだろう。

 

 

『えっと…じゃあたっちゃん、なんでそんなぐったりしてんの?』

 

 

『ちょっと…騎士に捕まって会計に引き渡され、そのままお説教された……』

 

 

楯無の説明の大部分はポカンとしていたが、要は怒られたんだと全員が理解した。

まぁ、なんで怒られたのかは理解出来なかったのだが。

 

 

『じゃあ、次に…織斑君は?』

 

 

『マスターは御手洗いですよ』

 

 

『この学園でマスターが使えるお手洗いは此処から遠い1ヶ所だけで、そこに行ってたら確実に遅れるので私達がお手伝いする事になりました』

 

 

白式と白騎士の説明を聞いた全員が一夏不在の理由を理解した。

それと同時に生活がしにくい一夏を可哀想に思った。

だが、薫子は頭を振って切り替えるとマイクに向かって話し始める。

 

 

『さて、では早速競技を開始しましょう!午後の部第一種目は組対抗変則大玉転がしです!』

 

 

『変則大玉転がし…いったいどんな競技ですか?』

 

 

『説明しましょう!』

 

 

急遽参加の白式と白騎士もかなり馴染んでいる。

そして違和感もなく薫子と未だ活力が復活していない楯無と共に競技の盛り上がりに貢献するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それと同時刻、IS学園で唯一の男子トイレ。

此処には白式と白騎士の説明通り一夏がいた。

 

 

「う、おぇ!ぐぅ…ぐっ!?おぇ!」

 

 

《一夏!しっかりしろ!》

 

 

ただし、一夏は便座に向かって胃の中のものを吐いており、オルコスSDがその背中をさすっていた。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」

 

 

一先ず吐き出すものを全て吐き出した一夏は床に座り込み壁に全体重を預ける。

右手は心臓を、左手は口元を押さえる。

 

 

「頭が、痛い……身体が、ガクガクする……」

 

 

一夏のその言葉通り一夏の手や足、口元は震えており顔も真っ青だ。

 

 

《一夏!大丈夫か!?今水を…!!》

 

 

「ああ、たの…うっ!?」

 

 

オルコスが水を持ってこようとした時、一夏が震える身体を無視して再び便器に顔を近付ける。

 

 

「う、ゲホッ!ゴホッ!ガハッ!!」

 

 

ビチャ!!

 

 

トイレ内に漂う鉄の匂い。

そして、便器に付着する赤。

そう、血である。

 

 

「あ、あ、あ…」

 

 

一夏はそんなか弱い声を漏らすと床に倒れ込む。

汚いとは分かっていても、もう耐えられなかった。

 

 

《一夏!しっかりしろ!おい!》

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

過呼吸になってしまっており、オルコスの言葉に応対が出来ていない。

以前一夏は吐血しても体力に支障がないと話していた。

だが、その時とは明らかに症状が違う。

倒れ込んでいる一夏の身体は震えており、表情は真っ青を通り越して半分死んでしまっているのではないのかと思う程だった。

 

 

《一夏!く、直ぐに人を…》

 

 

「ま、って…」

 

 

《一夏!無茶をするな!》

 

 

オルコスの制止を振り切り一夏は震える手でポケットからダークコアデッキケースを取り出し

 

 

「ディザ、スター、フォース、発動……」

 

 

煉獄騎士の鎧を展開する。

しかし、一夏の体力が限界を優に超えているからか展開されたのは左肘から先だけで、それと同時に一夏の髪が伸びる。

 

 

「キャスト…ダークネス、ヒーリング……」

 

 

一夏は以前エクシアの治療に使用した魔法を自分に使用する。

左腕の鎧の紫の瞳から粒子状のエネルギーが漏れ出し、一夏の全身を包み込む。

傍から見ると幻想的な光景。

 

 

「はぁ、はぁ、スゥー、ハァー」

 

 

その中央にいる一夏は、だんだんと呼吸や表情が穏やかなものになっていく。

 

 

《一夏!大丈夫か!?》

 

 

「ああ、取り敢えずな……」

 

 

オルコスに返答しながら、一夏は身体を起こし壁に身体を預ける。

 

 

「スゥー、ハァー、スゥー、ハァー」

 

 

深呼吸を繰り返し、呼吸を安定させていく。

そんな一夏の様子を見て、オルコスはいったん安堵したものの直ぐに思案を開始する。

 

 

(一先ずは無事で良かった…だが、以前体力に問題が無くなって来たと話し、何回か吐血してしまい良くも悪くも吐血慣れしている一夏があの極限状態の中で『魔法を使用しないとヤバい』と判断した…つまり、それ程までに症状が重いという事…)

 

 

「う、く、よいしょっと…」

 

 

《一夏!立って大丈夫か!?》

 

 

オルコスが思案していると、一夏が背中を壁に付けたまま立ち上がった。

慌ててオルコスが近寄ると、一夏はピラピラと手を振り弱々しい笑顔を浮かべる。

 

 

「まぁ、取り敢えずね」

 

 

《……一夏、魔法を使用しないといけないと判断したという事は》

 

 

「ああ……かなりヤバい。大分症状が進行してる。多分、もう半年も持たない」

 

 

オルコスの質問に、一夏は右手で心臓を押さえながらそう返す。

 

 

「取り敢えず、シャワー浴びよう。トイレに倒れたし、汗かいた。このままじゃ、2人に心配されちゃう…」

 

 

こんな時でも考えるのはクラリッサとチェルシーの事。

そんな、自分を大事にしているのは自分の為ではなく2人の為なんじゃないかと思わせる一夏にオルコスは心配そうな表情を浮かべるが、直ぐに頭を振り切り替えると言葉を発する。

 

 

《今は白式と白騎士が場を繋いでいる。最悪どれだけ遅れても問題ない。だから、先ず自分の体調を整えろ。まぁ、言い訳は考えないといけないがな》

 

 

「ははは…そう、だな。オルコス、悪いけど後始末は……」

 

 

《任せろ。だが、お前が無事に実況席に行けてからだ》

 

 

「ん…任せた」

 

 

そうして、一夏はオルコスに支えられながらフラフラとした足取りで寮の自分の部屋に向かって行く。

シャワーを浴び、身体をしっかり洗ってから予備のジャージに着替える。

前のジャージを洗濯機に放り込んでから、実況席に向かう。

それを確認したオルコスは、先程一夏が吐いた胃液と血の後片付けに向かうのだった。

 

 


 

 

『それでは、結果を発表します!優勝は……』

 

 

あれから時間は流れ閉会式。

今現在は優勝組を発表する時間。

一夏はクラリッサとチェルシーと共に生徒達の列の後ろに立っていた。

 

 

あの後、遅れて実況席に合流した一夏は薫子と楯無にいろいろ言われたが、トイレが1ヶ所しかない辛さを訴える事によりなんとか窮地を脱した。

 

 

「一夏、大丈夫なの?」

 

 

「ああ、大丈夫だよ。それもこれもトイレが遠いのが悪い」

 

 

チェルシーが心配そうに一夏に質問をするも、一夏は笑顔を浮かべてそう返す。

因みに、今一夏のポケットにはオルコスと白式と白騎士はいない。

先程移動するとき一夏の身体の症状を説明する為オルコスが2人を連れ出したからだ。

 

 

『織斑マドカさん率いる、赤組!!』

 

 

『やったぁあああああああ!!』

 

 

薫子がマイクに向かってそう叫び、マドカ達が喜びの雄叫びを発する。

それと同時に他の組の生徒達や教員達が拍手を贈る。

一夏達3人も例にもれず拍手をする。

 

 

『優勝賞品贈呈!代表のマドカさん、前に!』

 

 

「はい!」

 

 

『優勝賞品の織斑君の厳正写真集のマスターデータです!後でコピーしたものを全員に送っておきます』

 

 

マドカは薫子からUSBを受け取る。

その光景を見て、一夏は表情を歪ませる。

 

 

「ったく…許可した覚えは無いんだけどなぁ。コピーが配布される前にチェックするか……」

 

 

「盗撮…ってこと?」

 

 

「可能性はある。はぁ…」

 

 

一夏は思いっ切りため息をつく。

 

 

「俺の写真を許可なくとっていいのはクラリッサとチェルシーだけだっつーのに」

 

 

「私達は良いのか?」

 

 

「2人なら絶対に悪用はしないし、何より恋人だからな」

 

 

一夏は片目を閉じながらそう言う。

その絵になる動作と自分たちは特別扱いされてるという事実に2人はほんのりと頬を赤くする。

 

 

『それでは、これでIS学園体育大会、閉会式を終了します。生徒のみなさんは自分の教室に向かって下さい』

 

 

「それじゃ、俺も一応生徒だし教室行ってくる。晩飯は俺が作るから後で部屋に来てくれ」

 

 

「分かった。一夏、ありがとう」

 

 

「行ってらっしゃい」

 

 

2人の返事を聞いた一夏は笑顔を浮かべると生徒達と共に教室に向かって行った。

そんな一夏を微笑みながら見ていたクラリッサとチェルシーは教員達と共に後片付けを開始した。

 

 

こうして、一夏の身体異常以外は特に大きな問題もなく体育大会は終了するのであった……

 

 

 




昼休み『は』平和でしたね。
さてさて、如何なってしまうのか。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしく願いします!


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警備力強化

遂にやって来た。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

大きなトラブルや襲撃も無く終了した体育大会から少し経った。

あの後一夏はマドカからマスターデータを回収し確認した。

懸念していたように盗撮写真がゴロゴロ出て来たのだが、特に問題が無いような写真しか無かったので、そのままコピーデータの配布を許した。

まぁ正直に言うと仕事があるので削除させるのが面倒くさかっただけではあるのだが。

無論、再発防止の為千冬と虚には連絡を入れて新聞部に説教をしてもらってはいる。

主犯格である薫子は暫くの間

 

 

「もうしません、もうしません…」

 

 

と顔を真っ青にしながら呟いていたとかなんとか。

 

 

ある日の放課後。

IS学園の会議室には千冬を始めとした全教員とオータムを始めとした警備員の代表者、そして一夏と楯無が集合していた。

今日はこれから会議があるのである。

 

 

「それでは、これより亡国企業アジト攻撃作戦会議を開始します」

 

 

部屋の中央に座っている十蔵がそう言葉を発する。

その瞬間に、会議室をピリッとした空気が包み込む。

 

 

「更識会長、お願いします」

 

 

「はい」

 

 

十蔵の指示を受けた楯無は席から立ち上がる。

そうして会議室内にいる人達の表情をぐるりと確認してから言葉を発する。

 

 

「たびたび私達IS学園に襲撃を仕掛けていた亡国企業の日本アジトが判明しました。場所は1年生の修学旅行の行き先でもある、京都」

 

 

その言葉を聞いた瞬間に、その1年生である一夏がピクリと反応する。

自分達の旅行の行き先であるという事以外にも、なんで1年生で修学旅行に行くんだという疑問も感じているような表情だった。

だが、直ぐに真剣な表情に戻り楯無に視線を向ける。

 

 

「そして、私達IS学園は国際IS委員会の協力のもと現地の下見という名目でそのアジトを襲撃します」

 

 

そんな衝撃的な言葉を聞いても、この場にいる全員が驚きの声を発しなかった。

 

 

「襲撃の目標は、亡国企業の戦力低下と情報の入手です。また、今回の襲撃の全責任は国際IS委員会が負う事になっています」

 

 

説明を聞いている一夏はその表情を嫌そうなものに変えていく。

いくら許可されている事であり、相手が国際的なテロリストだったとしても、そのテロリストと同じような行動をするのはあまり気分が乗らないのだろう。

それに、一夏は1学期から国際IS委員会の大量の仕事を処理していたため国際IS委員会に良い印象を抱いていないのだろう。

しかしどれだけ嫌でも与えられた仕事。

最後までこなそうと表情を元に戻す。

 

 

「更識会長、ありがとうございました」

 

 

十蔵のその言葉を聞いた楯無は席に座る。

 

 

「さて、本日話し合う事はこの攻撃作戦に割く人員、そしてその間のIS学園の警備に関してです」

 

 

「目標は分かっているんですし、全専用機持ちで襲撃しては?」

 

 

「それだと、作戦中に入れ違いで襲撃を受けた場合の対処が出来ません。やはり戦力の何割かは残しておかないといけません」

 

 

「ならば、やはり織斑先生と織斑君は別にしないといけないのでは?」

 

 

繰り広げられる壮大な話し合い。

そんな中、一夏は何処か難しそうな表情を浮かべると右手を上げてから話し始める。

 

 

「……今まで襲撃者の目的は私でした。私が学園外に出たとしたら、恐らくこっちに来る可能性が高いと思われます」

 

 

一夏の言葉を聞いた教員達や警備員達は確かにそうだといった表情を浮かべる。

それを確認してから、続きを話し始める。

 

 

「…私は京都に行きます。そして、京都へ行く部隊は学園警備より多くした方が良いと思います」

 

 

「なるほど…織斑君の意見を採用します。反論はありますか?」

 

 

十蔵がぐるりと全員の表情を確認しながらそう確認する。

反対意見は出ず、一夏のこの案をおおもとの方針とする事が決定した。

 

 

「では次に、京都に行くメンバーの話し合いを開始します」

 

 

「1年生専用機持ちと楯無さん、クラリッサとチェルシーと織斑先生と山田先生でどうでしょう?」

 

 

十蔵の言葉の直後に直ぐ一夏が意見を出す。

まさか名前が出るとは思わなかった真耶が少し驚いた表情を浮かべる。

 

 

「私はその意見に賛成です。何しろ目標は亡国企業です。攻める人数が多いに越した事は無いかと」

 

 

「私もです。真耶は連絡要員としても優秀だが、1人のIS操縦者としても優秀だ。連れて行って損はないでしょう」

 

 

一夏のその意見に、楯無と千冬が賛成の意見を述べる。

 

 

「しかし、その場合IS学園の警備はウェルキンさん、サファイアさん、ケイシーさんの3名だけになってしまいます。それでは手薄過ぎになってしまうのでは?」

 

 

今回の作戦、攻める人数が多めに確保しておきたい。

しかし、IS学園の警備が手薄になり過ぎるのは当然看過できない。

 

 

「…せめて専用機持ちがもう1人いれば……」

 

 

教員の1人がそう言葉を漏らす。

それと同時に、この部屋にいる殆どの人間がその教員と同じような表情を浮かべる。

そんな中唯一の例外…一夏は顎に手を置き思案する。

 

 

(『専用機持ちがもう1人』ね…さて、こっちに呼べるかどうかだが…いけるな。この間の報告で少し余裕が出来たと聞いたし、新しい人員も補充できたから2人くらい抜けても問題無いだろう)

 

 

そうして顎に置いていた手を上げて声を発する。

 

 

「学園長、学園が許可をくださるのなら『PurgatoryKnights』から専用機持ちを1名、その専用機持ちと同レベルの腕前のIS操縦者1名、計2名の派遣が出来ますが」

 

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 

一夏の言葉を聞いた十蔵は思わず身を乗り出しながらそう反応する。

他の教員達や警備員達も同じ様な反応をする。

専用機持ちというのは、そう簡単に確保できるものではない。

それなのに専用機持ち、そして同レベルのIS操縦者を派遣できるといわれたらそんな反応をするだろう。

 

 

「はい、1つ問題があるとするのなら…」

 

 

「するのなら?」

 

 

「……今海外にいるのでこっちに来るのに1週間はかかる事ですかね」

 

 

一夏は微笑を浮かべながらそう言葉を発する。

来るのに時間がかかる事を問題として語るという事は、それ以外には問題が無いという事。

 

 

「……では、その方向で決定したいと思います。異論はありますか?」

 

 

十蔵のその言葉に、誰も反論はしなかった。

それを確認した十蔵は軽く息を吐くと

 

 

「それでは、これで決定します。今日はこれで解散です。お疲れ様でした」

 

 

この場を解散させた。

そうして教員達と警備員達は続々と会議室から出て行く。

一夏も会議室から出ると、直ぐに会社との通信端末を取り出し通信を掛ける。

 

 

「…あ、社長。ご無沙汰しております、織斑一夏です。実は、折り入ってお話がありまして……」

 

 

そう話す一夏の表情は、この上なく真剣なものだった。

 

 


 

 

会議からピッタリ1週間後。

日本最大の国際空港には公欠扱いの一夏、マドカ、シャルロット、そして出張扱いの真耶がいた。

 

 

会議で話し合われた内容は、あの後会議に参加していなかった専用機持ちにも伝えられた。

いきなりの事で驚いてはいたものの、全員がしっかりやる気を見せていた。

それと同時に一般生徒達には建前である修学旅行の下見に行くという説明をした。

生徒達は修学旅行が問題なく開催されることに歓喜した。

 

 

そして今、一夏達が空港にいる理由。

それは例の2人を迎えに来たからである。

 

 

「さて、あの2人の乗ってる飛行機は…到着までまだ掛かるか」

 

 

スーツを着用し腕時計で時刻を確認するというどう見ても社会人にしか見えない行動をしながら一夏がそう呟く。

そんな光景を見た3人は思わず感嘆の息を漏らす。

それは当然一夏にも聞こえており、一夏は半眼を浮かべながら3人の事を見る。

 

 

「なんです?」

 

 

教師である真耶がいるため一応敬語を使う一夏。

3人は視線を泳がせながら言葉を発する。

 

 

「い、いやぁ~、その~」

 

 

「お、お兄ちゃんのその仕草があまりにも様になってたから……」

 

 

「一夏があまりにもスーツを着こなしてるからかな?」

 

 

「はぁ…まぁ、良いや」

 

 

ため息をついた一夏はスタスタと歩いて行ってしまう。

3人は慌てて後を付いて行く。

 

 

「お兄ちゃん、何処に行くの?」

 

 

「取り敢えず飯。まだ朝ご飯食べてない」

 

 

「織斑君?もう11時なんですけど…?」

 

 

「まだ朝ご飯食べてない」

 

 

真耶の困惑したような言葉に、一夏は全く同じトーンでそう返す。

 

 

「じゃ、じゃあ私達は早めのお昼ご飯にしましょう!」

 

 

「そ、そうだね!僕達もご飯食べよう!」

 

 

少し重たくなった空気を振り払うようにマドカとシャルロットが無理矢理明るくそう言葉を発する。

そうして4人は空港のちょっとお高いレストランで朝食と昼食を取る。

会計を一夏が全員分払い(3人は自分の分を払おうとしたが、気が付いたら一夏が払ってた)、レストランを出る。

 

 

「まだ時間あるな…」

 

 

「そうなの?もう直ぐ着く予定なんじゃ?」

 

 

「本当はそうだったんだが、さっき確認したら空路の途中の悪天候で飛行機が遅れてる」

 

 

「なるほど。天候ならしょうがないですね」

 

 

「そういう訳で、いったん自由時間なんだが…やる事が無い」

 

 

一夏が呟いた事に、3人は苦笑いを浮かべる。

今日空港に来た目的は2人を迎える事。

自分が飛行機に乗る訳でも無ければ、飛行機マニアという訳でもない。

そして一夏は買い物に楽しさを覚えるタイプではない。

暇を覚えるのも仕方が無いだろう。

 

 

「3人とも、買い物してきていいですよ。30分後にもう1回此処に集合で」

 

 

「え、でも…」

 

 

「いいからいいから。金が無いなら1人2万までは出せるけど…」

 

 

「自分達で払うからそれは大丈夫!じゃあ、お言葉に甘えようかな?」

 

 

「おう、甘えろ甘えろ」

 

 

一夏が最後にそう言うと、3人はお土産等が売っているエリアに歩いて行った。

3人の背中を見ていた一夏は近くにあったベンチに座ると心臓を押さえ込む。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

そうして、顔中に脂汗を浮かべながら荒い呼吸をする。

口元や足元は震えており、一目見て体調が悪いのが分かる。

事実、周囲の一般客はさっきから一夏にチラチラ視線を向けていた。

しかし今の一夏にそれに反応する余裕は残されていない。

 

 

「み、水…」

 

 

そう呟くと、フラフラした足取りで自販機に向かう。

 

 

「なんで水が120円するんだよ…」

 

 

空港の自販機の高めの値段設定に文句を言いながら水を購入し、そのまま500㎖を一気に飲み干す。

 

 

「はぁ、はぁ…」

 

 

ゴミ箱にペットボトルを捨て、元のベンチに戻る。

 

 

「ヤバいな…早く息を整えないと…」

 

 

以前誕生日にサラから貰ったハンカチで汗を拭きながら一夏はそう呟く。

 

 

(くっそ…症状が出る頻度が……半年…いや、4ヶ月、3ヶ月…?分からない…俺は、俺は……)

 

 

表情を歪ませながらそんな事を考える。

そうしてなんとか息を整える事約30分。

 

 

「お兄ちゃ~ん!」

 

 

「ん、おお、マドカ」

 

 

マドカ達3人が戻ってきた。

ベンチから立った一夏は3人の元に駆け寄る。

 

 

「あれ、一夏どうしたの?なんか疲れてるみたいだけど…」

 

 

シャルロットの質問に一夏は一瞬視線を泳がせると言い訳を開始する。

 

 

「いや、ほら、俺は世界で2人しかいない男性IS操縦者だから。いろいろ注目されて視線で疲れた」

 

 

「織斑君も大変ですね…」

 

 

「大変ですよ。それじゃ、そろそろ時間なので行きましょう」

 

 

一夏は真耶との会話を終わらせ到着ロビーに向かって歩き始める。

3人も一夏に続くように歩き始める。

到着ロビーにはもう既に乗客を待つ人達が集まっていた。

 

 

「まだ時間はあるんだが、少し出遅れたか…まぁ仕方が無いか」

 

 

一夏はそう言うと、荷物の中から『PurgatoryKnights』と書かれたプレートを取り出す。

 

 

「準備いいね」

 

 

「当然だろ?」

 

 

身長が1番高い一夏が持つ事で後方にいるこのプレートも見やすくなるだろう。

そんな準備をしていると、到着ロビーに飛行機から降りてきた人達が続々とやって来た。

かなりたくさんの人が居るため、簡単に目的の人物を見つけられない。

しかし、一夏達はかなり簡単に見つけられた。

何故なら目的の人物であるその2人がかなりの美人であり周囲の人物がチラチラ視線を向けていたからだ。

 

 

「ナターシャ!イーリス!」

 

 

一夏のその声掛けにその2人…ナターシャとイーリスも一夏達に気が付いた。

プレートを頼りに2人が一夏達の所にやって来る。

 

 

「2人とも、久しぶりだな。急に呼んで悪かったな」

 

 

「はい、お久しぶりです」

 

 

「気にしないで下さい。これも仕事ですので」

 

 

「そう言ってくれて気が楽だよ。元気してたか?」

 

 

「はい、それはもう元気にやってました」

 

 

「向こうの子供達も元気です」

 

 

業務時間なので仕事モードで話す3人。

それを見て、マドカとシャルロットは気まずそうに視線を泳がせる。

 

 

「どうした?」

 

 

「い、いやぁ~、さっきから普通にプライベートな感じで話しちゃってたから…」

 

 

「僕達も敬語使った方が良いかな?」

 

 

「本当だったら今日は学園だ。学園では敬語使わなくていいって言ってるだろ」

 

 

会話をここで終わらせて、一夏は真耶に視線を向ける。

それに合わせるように、ナターシャとイーリスも真耶に視線を向ける。

 

 

「山田先生、この2人が『PurgatoryKnights』から派遣するIS操縦者、ナターシャ・ファイルスとイーリス・コーリングです。2人とも、この人がIS学園の教員で俺の副担任の山田真耶先生だ」

 

 

「ナターシャ・ファイルスです。この度はよろしくお願いします」

 

 

「イーリス・コーリングです。よろしくお願いします」

 

 

一夏に紹介されたナターシャとイーリスは真耶に向かって頭を下げる。

それを見た真耶も慌てて頭を下げる。

 

 

「あ、山田真耶です!この度は私達へのご協力ありがとうございます!」

 

 

「いえいえ、気にしないで下さい。特に私はあなた達IS学園にも大きな恩がありますので」

 

 

「恩…?」

 

 

「はい、臨海学校の際に私の事を助けて下さったでは無いですか」

 

 

「あ、ああ!あの時の!」

 

 

ナターシャに言われ、彼女の事を思い出した真耶。

両目を見開き驚きの表情を浮かべる。

 

 

「2人とも、それは機密事項だからここで終わりだ」

 

 

「了解です」

 

 

「あ、はい!そうですね!」

 

 

プレートをしまっている一夏に言われ、直ぐに黙る2人。

そんなやり取りの側では、マドカとシャルロットがイーリスと話していた。

 

 

「初めまして、イーリスさん。織斑マドカです」

 

 

「シャルロット・デュノアです」

 

 

「初めまして、先輩方。イーリスです」

 

 

ナターシャをスカウトしたマドカとシャルロットであるが、イーリスの存在は一夏から聞かされるだけだったので初対面なのだ。

 

 

「敬語とか使わないで良いですよ。私達の方が年下ですし」

 

 

「え、ですが…」

 

 

「普通に年上と年下の関係で行きましょうよ」

 

 

「おい待て。その言い方だと俺が権力で言わせてるみたいじゃないか」

 

 

「お兄ちゃんは立場が私達なんかより上じゃん」

 

 

「取締役のみなさんと同じくらいの社内権力なんでしょ?」

 

 

「何故それを!?クラリッサとチェルシー以外には昇格の事言ってないのに!?」

 

 

「普通に社長に聞いたよ」

 

 

「…そりゃそうか」

 

 

一夏、マドカ、シャルロットのコミカルなやり取りに真耶、ナターシャ、イーリスは笑みを浮かべる。

 

 

「……話をそらして悪かったな。だがイーリス、マドカとシャルがこう言ってるんだ。何時も通りで大丈夫だぞ」

 

 

一夏にそう言われ、イーリスは少し考えるように目を伏せる。

全員の視線がイーリスに注がれる中、息を吐いてから言葉を発する。

 

 

「…分かった。そうさせてもらう。よろしくな、マドカ、シャルロット!」

 

 

笑顔を浮かべ2人に突撃する。

 

 

「わっちょ!?」

 

 

「まっ!?」

 

 

「全く…イーリは相変わらずねぇ」

 

 

マドカとシャルロットは短い悲鳴を発し、ナターシャはやれやれといった表情を浮かべる。

そんなやり取りを見て笑みを浮かべていた一夏だったが、パンパンと両手を叩く。

 

 

「移動するぞ。いつまでもこうしている訳にはいかないからな」

 

 

「「分かりました」」

 

 

「そ、そうですね!早く行きましょう!」

 

 

一夏の言葉にナターシャとイーリスが同時に、真耶が1歩遅れてそう反応する。

そうして6人で移動を開始する。

今日一夏達が空港にやって来たのは真耶が運転する6人乗りの車なので、向かうは駐車場である。

 

 

♪~~~♪~~~

 

 

その道中、誰かのスマホが着信音を鳴らしだす。

他の人達の邪魔にならないように壁際により全員足を止める。

 

 

「すまん、俺だ」

 

 

一夏はそう言うとポケットからスマホを取り出し画面を確認する。

 

 

「誰から?」

 

 

「俺の嫁」

 

 

「「嫁っ!?」」

 

 

マドカの質問に特に悩む素振りを見せずに返答した言葉にナターシャとイーリスが驚きの声を発する。

慌てて説明を開始するマドカとシャルロットの事を横目で見ながら一夏は通話に出る。

 

 

「もしもしクラリッサ、どうかしたか?」

 

 

『あ、一夏。実はだな、少しトラブルが…』

 

 

「なっ!?」

 

 

トラブル。

その言葉を聞いた一夏は心臓がキュッと絞られる感覚を覚えた。

クラリッサは、チェルシーは大丈夫なのか。

その事だけが頭を支配する。

クラリッサとチェルシーの2人をそれ程までに大事にしているからこそ、一夏は聞き逃した。

電話の向こうのクラリッサの声色が、どこか困惑したようなものだと。

 

 

『その…教官が、物凄くグロッキーで授業が出来ていないんだ』

 

 

「……………はぁ?」

 

 

一瞬言われた事を理解できず困惑したような声を発する一夏。

しかし、やがて理解をすると

 

 

「あの馬鹿姉がぁ!!」

 

 

と怒りの表情を浮かべドス声を発する。

 

 

「「「「「ヒィッ!?」」」」」

 

 

その時、クラリッサの事を考えスマホから顔を離していたためその場にいた5人が恐怖の声を発する。

だが今の一夏にそんな事を気にしている余裕はない。

直ぐにスマホを耳元に戻す。

 

 

「クラリッサ、あの駄姉は絶対に2日酔いだ。無理矢理にでも授業させろ」

 

 

『だが…それが出来なさそうなほどなんだ』

 

 

「はぁ…すまないが束さんに連絡入れてくれ。2日酔い解消のなんかを持ってるはずだ。お礼をねだられたら俺が飯作るって言っといて」

 

 

実は今までのお礼のご飯作りが溜まってる一夏。

しかし、料理をわざわざ作りに行く余裕が無いのでドンドン溜まってしまうのだ。

冬休みに纏めて作ってやろうと考えているが、果たしてどうなるか。

 

 

『分かった。わざわざありがとう』

 

 

「いや、気にしなくていいよ。あ、そうだ、駄姉に伝えてくれる?『今晩説教』って」

 

 

『ん、分かった。伝えておこう』

 

 

「じゃあまた後で」

 

 

『ああ、また後で』

 

 

通話はここで終了し、一夏はスマホをポケットに仕舞う。

 

 

「行くぞ」

 

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 

一夏の言葉に全員が元気よく返事をする。

今の一夏にはここまでさせる迫力があった。

駐車場に付き、車のトランクにナターシャとイーリスの荷物を乗せる。

運転席に真耶、助手席に一夏、2列目にマドカとシャルロット、3列目にナターシャとイーリスが乗り込む。

 

 

「では、出発しま~す!」

 

 

全員がシートベルトを締めた事を確認したので真耶が車を発進させる。

 

 

「そうだ、ナターシャ、イーリス、時差ボケしてるだろ?向こうに付いたら起こすから寝てていいぞ」

 

 

「そうですか?じゃあお言葉に甘えて…」

 

 

やはり時差ボケが辛かったのか、2人は直ぐに寝息を立て始めた。

2人を起こさないために誰も会話をしない。

マドカとシャルロットはスマホをいじっているし、真耶は運転に集中している。

そんな状況で、一夏は隣の真耶にバレないように心臓を右手で押さえる。

 

 

(まだ、バレては無いっぽいな…くっそ、ずっと心臓に負荷がかかってる気がする)

 

 

少しだけ過呼吸気味になりながら窓から外の景色を眺める。

流れていく景色を何処か呆然と見ながら

 

 

(俺は、俺はまだ、あの2人と一緒に居たいんだよ…)

 

 

辛そうな表情で虚ろな目をし、そんな事をずっと考えているのだった…

 

 

 




実は水を飲んだ後も一夏の不調は改善されておらず、息を整えてなんとか誤魔化していました。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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いざ京都へ行こう

サブタイそのまま。
戦闘前のワンクッションです。

作者の私生活が7月いっぱいまでありえないくらい忙しくなるので、更新頻度が下がったり下がらなかったりします。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

IS学園の警備力強化の目的でナターシャとイーリスがやって来てから少し経った。

とうとう亡国企業へのアジトへの攻撃作戦決行の日がやって来た。

 

 

あの後学園に戻った一夏達6人。

マドカとシャルロットは自分達の部屋に戻り、ナターシャとイーリスは真耶に連れられ職員室に向かって行った。

 

 

そうして残った一夏はクラリッサとチェルシーと合流。

授業が終わり放課後になるのを待ってから千冬を捕え、3時間に及ぶ説教を行った。

二日酔いで授業が出来ないという滑稽すぎる事をしでかしたのだ。

一夏は本当なら後6時間ぐらい説教したい気持ちがあるのだが、流石に自分の仕事もあるため不可能。

その為遂に千冬に1年間の禁酒を言い渡した。

 

 

千冬はなるべく抗おうとしたのだが、怒気と殺気を全開にした一夏の圧力と迫力に勝つことは出来ず、受け入れざるを得なかった。

寮長室の冷蔵庫にギッシリ詰まっていた酒はクラリッサとチェルシーが教員や警備員の人に配っていた。

 

 

そんなこんなで週末には一夏を除く1年生専用機持ちが買い物に行ったり、一夏が必死こいて仕事を前倒しで進め作戦中の予定を完璧にフリーにしたりと準備をしていく。

そうして、今。

時刻は6:10。

IS学園の正門前には大きな荷物を持った12人と、そんな12人を見送るよう為に立っている6人。

 

 

「それでは、行ってきますね」

 

 

これから京都に向かう12人を代表して一夏がそう言う。

その表情は、まさしく戦場に向かう騎士のように覚悟の決まっているものだった。

一夏だけではない。

千冬を始めとした他の11人も、覚悟の決まったような表情を浮かべている。

 

 

「一夏さん、みなさん、行ってらっしゃい」

 

 

「頑張って来い!」

 

 

「結果出して来いよ!」

 

 

「頑張って来るっス!」

 

 

「みんななら大丈夫だから!」

 

 

ナターシャ、イーリス、ダリル、フォルテ、サラの順番で一夏達に声を掛けていく。

1人1人の言葉に、一夏達はしっかりと頷いて行く。

そして6人目…最後に、十蔵が全員の目をジッと見まわしてから言葉を発する。

 

 

「みなさん、今回相当に酷な事をお願いしているのは理解しています。ですが、これはみなさんにしか頼めない事なのです。ですから、みなさんやり遂げてください。そして……」

 

 

十蔵はここでいったん大きく息を吸い、吐く。

 

 

「全員無事で帰って来てください」

 

 

『……はいっ!!』

 

 

一夏達は全員頷く。

そうして、しっかりとした足取りで歩いていきモノレールに乗り込む。

東京駅で新幹線に乗り込み、京都に向かって行くのだった。

 

 


 

 

新幹線に乗り込んでから約1時間。

東京から京都までは約3時間ほどなので約3分の1が過ぎたところである。

一夏達が座っているのはグリーン車。

しかも貸し切りである。

座り方は

 

一夏とマドカ

クラリッサとチェルシー

ラウラとシャルロット

セシリアと鈴

簪と楯無

千冬と真耶

 

である。

 

 

一夏とマドカは座っている席を180度回転させクラリッサとチェルシーと向き合っている。

一夏とクラリッサとチェルシーは普通に会話しているのだが、マドカだけが少し気まずそうに視線を泳がせていた。

 

 

「マドカ、どうかしたか?」

 

 

「えっ?い、いや、あの、その~~」

 

 

一夏に尋ねられ、マドカはしどろもどろになりながら言葉を発する。

 

 

「私ってそこまでハルフォーフさんとブランケットさんと仲良くないから気まずいな~って」

 

 

「なんだ、そんな事か」

 

 

マドカの言葉に思わず苦笑しながら一夏がそう返す。

 

 

「そんな事ってなに!?私結構気にしてたんだよ!?」

 

 

「ごめんごめん。でもさマドカ、将来の義姉さんなんだから仲良くしないと」

 

 

「「っ!?///」」

 

 

サラッと一夏が言った言葉に、クラリッサとチェルシーは同時に顔を真っ赤にする。

マドカにとっての『将来の義姉さん』という事は、まぁつまりそう言う事だ。

 

 

「い、一夏?その、あんまりそういう事を言うのは…」

 

 

チェルシーが恥ずかしさで動揺しながらそう言うと、一夏は不安そうな表情になる。

 

 

「……嫌いになった?」

 

 

性別で決めつけるのはよろしくない事なのだが、古来からのイメージとしてあまり男側が言うものではないセリフ。

それを聞きクラリッサとチェルシーは慌て始める。

 

 

「い、いやいや!そ、そういう訳ではないんだ!ただ、急に言われたから驚いただけで…!!」

 

 

「私達が一夏の事を嫌いになる訳が無いじゃない!私達は、一夏の事をずっと愛し…」

 

 

ここまで言って漸く気が付いた。

一夏の表情がもう既に嬉しそうなものに変わっている事に。

 

 

「良い答えが聞けた♪」

 

 

「「っ~~/////」」

 

 

2人は更に顔を真っ赤にする。

 

 

(本当に可愛いんだから)

 

 

「そういう訳でマドカ、2人もノリノリだから仲良くしてくれ」

 

 

「えっと…どういうところから距離を詰めよう?」

 

 

「呼び方とか?」

 

 

一夏はそう言うと、未だに顔が真っ赤の2人に再び視線を向ける。

 

 

「クラリッサ、チェルシー、マドカと仲良くなってくれないか?」

 

 

「え、ええ!勿論!」

 

 

「ああ、好きに呼んでくれて構わないぞ」

 

 

2人からの許可が出た為、マドカはしばし考えるように顎に手を置く。

そうして大体3分後。

 

 

「…クラ姉さんとチェル姉さんは?」

 

 

「「っ!?!?」」

 

 

「お、いいじゃんいいじゃん」

 

 

好きに呼んでいいとは言ったもののまさかそう呼ばれるとは思っていなかったのだろう。

クラリッサとチェルシーは驚きの表情を浮かべ、反対に一夏はうんうんと頷く。

暫くの間驚いた表情を浮かべていた2人だが、なんだかんだで気に入ったのだろう。

次第に嬉しそうな表情になっていく。

 

 

「改めて、これからよろしくお願いしますね!クラ姉さん!チェル姉さん!」

 

 

「…ああ、よろしく、マドカ」

 

 

「よろしくね、マドカ」

 

 

マドカに合わせるように、クラリッサとチェルシーもマドカの事を呼び捨てで呼ぶ。

そうして3人は笑い合う。

無事自身の恋人と妹の距離が1歩近づいた事を確認した一夏も笑みを浮かべると鞄からさっき駅のコンビニで購入したエナジードリンクを取り出しプルタブを開けようとする。

 

 

「「「ストップ!」」」

 

 

3人に同時にそう言われ、なんならマドカに腕を掴まれその動きを阻害される。

 

 

「なんだよ」

 

 

「お兄ちゃん、最近エナドリ飲み過ぎじゃない?」

 

 

「……確かに」

 

 

「一夏、今は仕事無いんだし普通の飲み物で良いんじゃないか?」

 

 

「確かに!なんで俺さっきわざわざエナドリ買ったんだ?普通に甘い炭酸飲みたかったらコーラとかサイダーで良いじゃん」

 

 

「一夏、自分の身体を大事にしてね」

 

 

「はい」

 

 

3人に注意され、一夏は鞄にエナドリを仕舞う。

賞味期限はまだまだ先なので帰ってから冷やし直して飲もうと一夏は考えている。

そうして、そこから一夏達恋人3人が甘々な会話をし始め、至近距離で聞いているマドカが砂糖を吐きそうになる。

 

 

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 

 

そんな一夏達に、同じ車両内から向けられる8人分の視線。

無論、貸し切りなので他のメンバーである。

全員が全員思っている事。

それは

 

 

(まーたやってるよ…)

 

 

だ。

ここ最近かなりの頻度で人前にも関わらずイチャイチャし周囲の人間に砂糖を吐かしている一夏達。

そんな感情を抱くのも仕方が無い。

だが、それと同時に殆どの人が微笑ましいものを見るような表情を浮かべていた。

それもこれも、会話がそこまで鮮明に聞こえないからだろう。

ガッツリ聞こえていたら、多分マドカのように砂糖を吐き出すだけのマシーンに成り下がっていた。

 

 

しかしそんな中で、唯一違った視線を3人に…もっと言うのならば、一夏に向けている人が1人。

 

 

「一夏…」

 

 

「あれ、織斑先生、どうかしましたか?」

 

 

千冬である。

隣に座っている真耶が思わずそんな声を掛けてしまうくらい、今の千冬の雰囲気は違った。

千冬は真耶に大きな声を出さないように注意をしてから、自身も小声で話し始める。

 

 

「いや、一夏の事なんだがな…」

 

 

「織斑君ですか?」

 

 

「ああ」

 

 

真耶は思わず一夏の事をジッと見る。

しかし、一夏に特に変わった様子は見られず普通にクラリッサとチェルシーと会話していた。

 

 

「変なところでもありますかね?私には特段変わりない織斑君に見えますが…」

 

 

「そうだ、一夏は特に変わりないんだ。今は、な」

 

 

「と言いますと?」

 

 

千冬は一夏に向けていた視線を前に戻し、息を吐く。

それに伴い真耶も視線を元に戻す。

 

 

「正直に言うと、私もふわっとしてるんだが…何というか、あの2人のどちらとも一緒に居ない一夏は、何処か辛そうなんだ」

 

 

「織斑君が…ですか?」

 

 

「ああ。2人のどちらかと一緒に居る時は特に問題が無さそう…というより、楽しそうで幸せそうなんだがな…」

 

 

「辛そう、というのは具体的に言うとどんな感じなんですか?」

 

 

「言葉にしにくいんだが…こう…なにかに耐えているというか…そんな感じがするんだ」

 

 

「何かに耐えている、ですか…」

 

 

真耶は再び一夏に視線を向け、暫く考え込むが昔から一緒に居る千冬でも分からない事を只の副担任である自分が分かる訳無いと思考を止める。

 

 

「やっぱり、心配ですか?」

 

 

「……心配、ですね…一夏は、今までかなりの負担を背負ってきましたから。今は前までみたいに仕事が異常って訳では無いようですが、やっぱり…」

 

 

千冬にしては珍しく心配を隠さなかったので、真耶は意外そうな表情を浮かべる。

以前までの千冬は身内の話を持ち出されるとイライラしていたのだが、今は自分から話しだしているし心配を隠していない。

千冬が現役のころから関わりがある真耶としては、やはり驚くのだろう。

 

 

『まもなく京都に到着いたします。乗り換えのご案内をいたします……』

 

 

ここで到着アナウンスが新幹線内に流れ始める。

千冬と真耶も会話を中断し、降車の準備を始めるのだった。

 

 


 

 

新幹線は無事京都に付き、一夏達は今回宿泊する旅館に向かっていた。

 

 

京都駅では特徴的な長い階段で写真を撮ると綺麗かなという話題から、一夏がかつて千冬に買ってもらったカメラを天武とネグロバルスの喧嘩の衝撃で落としてしまい綺麗にぶっ壊れた事を今更ながら周囲に聞こえないように千冬に報告して千冬がショックを受けたりしてた。

 

 

「さて諸君、此処が本日我々の拠点となる温泉旅館『霞荘』だ」

 

 

そんなこんなで旅館に着いた一夏達。

かなり大きく綺麗で豪華な旅館に楯無と簪以外は思わず感嘆の息を漏らす。

 

 

「かなり大きな旅館ですね」

 

 

「しかも、今回は目的が目的の為貸し切りだ」

 

 

「ただ、働いていらっしゃる方の人数も今日は限りなく少ないですけどね」

 

 

一夏、マドカ、真耶がそう会話すると全員早速旅館の中に入る。

そうして受付で手続きを済ませ使用する部屋に向かって行く。

今回使用させてもらえるのは5部屋。

その内1部屋は作戦会議などを行ったり機材が用意してある指令室になっている為、泊まるのは4部屋。

メンバーは12人なので単純計算一部屋3人、一夏が1人部屋だとしても4人部屋が2つ、3人部屋が1つになるだけである。

従業員の人数が少ない為案内も無しに進むこと数分。

 

 

「此処だな」

 

 

「…なんか、無駄に豪華…」

 

 

部屋の前に付いたマドカが思わずそんな感想を漏らす。

だが、それも仕方が無いだろう。

目の前にある4部屋はそれぞれ『朱雀の間』だったり『玄武の間』だったり…つまり、四聖獣の名前が付いていたのである。

 

 

「四聖獣…ドラグーン、ドライガー、ドラシエル、ドランザー」

 

 

「簪?どうかしたのか?」

 

 

「いや、なんでも」

 

 

簪がなにやら意味深な事を呟いた。

ラウラが首を捻ったが簪は誤魔化す。

 

 

「それで織斑先生、部屋割りはどんな感じなんですか?」

 

 

シャルロットが千冬にそう質問すると、全員の視線が千冬に集まる。

 

 

「決まってない」

 

 

『……はっ?』

 

 

千冬の発した衝撃的な言葉に、一夏達は思わずそんな反応をしてしまう。

しかし、やがて事態を理解した一夏は

 

 

 

「なんで決めてねーんだよ!!」

 

 

キレた。

その怒気にあおられ、マドカ達は若干恐怖を感じる。

 

 

「時間が無かったんだ」

 

 

「でも決めとけこの駄姉!」

 

 

「い、一夏ぁ…」

 

 

一夏に切り捨てられ千冬は涙目に見える表情を浮かべる。

そんな千冬を放っておいて一夏達は話し合いを始める。

 

 

「うちの駄姉がすまん」

 

 

「ごめんなさい」

 

 

「き、気にしないでって言って良いのかなぁ?」

 

 

取り敢えず謝罪から入った一夏とマドカにシャルロットが苦笑いを浮かべながらそう反応する。

 

 

「で、どうする?具体的には俺をどうする?」

 

 

「確かに、この場に男の子は一夏君だけだもんね」

 

 

「まぁ、1人部屋かクラリッサとチェルシーと同部屋かの2択なんだが」

 

 

一夏の言葉と同時に、2人に視線が向けられる。

一夏と同部屋。

その甘美な想像をした2人はほんのりと頬を染めていたところに視線を向けられた為少し動揺する。

 

 

「2人的に、俺と同部屋はOK?俺はそっちの方が嬉しいんだけど…」

 

 

「わ、私もそっちの方が嬉しいな…」

 

 

「私も、一夏と一緒の方が…」

 

 

「可愛い。良し、じゃあ俺達はそんな感じで」

 

 

そうして1番考えなくてはならない一夏の部屋割りがスムーズに決定した。

残りの9人の部屋割りも決定した為、各々が自分の部屋に入っていく。

 

 

朱雀の間 マドカ、千冬、真耶

 

 

「なんで私は少し気まずい人と一緒になるんだろう」

 

 

「なんだ織斑妹、私と一緒が気まずいか?」

 

 

マドカの呟いた言葉に、織斑先生になった千冬がそう反応する。

 

 

「そういう訳では無くてですね、私は3組なので山田先生とほぼ関わりが無いと言っても過言では無いので…」

 

 

「確かに、私は織斑さんとはしっかりと会話した事すらないかもですね」

 

 

荷物を置きながらそう説明をすると、真耶は納得したように頷いた。

 

 

「まだ作戦開始までは時間がありますし、少しお話しましょうか」

 

 

「そうですね!」

 

 

真耶とマドカがたわいもない談笑を始める。

そんな2人の様子を見ながら千冬は

 

 

「…私も会話能力を上げないといけないのか?」

 

 

と1人悩むのだった。

 

 

白虎の間 シャルロット、簪、セシリア

 

 

「なんか、珍しいメンバー?」

 

 

「確かにそうかも」

 

 

「そうですわね」

 

 

荷物から取り敢えず今日使うものを出しながらシャルロットがそう呟く。

 

 

「そもそも、私達は一夏が居なかったら仲良くならなかった。だから、中心に一夏がいないから珍しく感じるのかも」

 

 

「最近は別行動の方が多いような気もしますがね…」

 

 

「最近一夏は基本イチャイチャしかしてないもんね」

 

 

シャルロットが苦笑いしながらそう言うと、セシリアと簪も苦笑いを浮かべる。

 

 

「でもまぁ、学園祭の時は辛そうだったし今が幸せそうで良かった」

 

 

「そうだね」

 

 

「そうですわね」

 

 

3人は時間が来るまで談笑をするのだった。

 

 

玄武の間 楯無、鈴、ラウラ

 

 

「…話題が無い」

 

 

「話題が無いわね」

 

 

「そうね~」

 

 

ラウラ、鈴、楯無の順でそう言う。

何時もは他の人との会話が繰り広げられている時に乱入したりするのでこの3人も普通に会話しているのだが、いざこうやって3人だけになると話題が無いのだ。

 

 

「そう言えば、ラウラちゃんに聞きたいんだけど自分の部下が一夏君とイチャついてるのってどう思う?」

 

 

「あ、それは気になる気になる」

 

 

2人に視線を向けられて、ラウラは少し考えるようなそぶりを見せる。

 

 

「どう思う、か…あの2人は以前から仲はかなり良かったからな。付き合っていると聞いたときは驚いたが、まぁ納得もしたな。だから、末永く幸せにいて欲しいものだ」

 

 

「良い上司じゃない」

 

 

「私は隊長だからな。部下のことくらい考えれるさ」

 

 

(あれ?なんだろう?なんか罪悪感が…もっとお仕事頑張ろう)

 

 

ラウラの言葉を聞いて、もっと仕事を頑張ろうと決意する楯無だった。

 

 

青龍の間 一夏、クラリッサ、チェルシー

 

 

「なんか、これから戦闘だっていうのに随分と気が楽だな」

 

 

「まぁまぁ、最初っからピリピリしているよりはマシなんじゃない?」

 

 

「最初から気を張り詰めすぎると、何時かパンクする。大事な作戦前こそ、気分を落ち着かせる時間が必要だ」

 

 

「確かにな。それに全員別に気が抜けている訳では無いし」

 

 

荷物を置き、一夏を挟む形で床に座っている3人。

3人の距離はかなり近く、ぎゅっとくっ付いていた。

 

 

「チェルシー」

 

 

「どうかし…っ//////」

 

 

一夏の言葉に反応しようとしたチェルシーの言葉は、そこで途切れた。

その唇を、一夏が自分の唇で塞いだからだ。

 

 

「ん、んぁ…ん、んんん……!!」

 

 

その事を認識したチェルシーは急速に顔を真っ赤にするも、一夏の身体を両手で抱きしめる。

一夏の事を離さない。

離したくない。

そんな感情が簡単に分かった。

それに応えるように、一夏もチェルシーの事を抱きしめる。

もう何分経ったか分からないくらい唾液が絡み合う音を発しながらキスをし続ける。

 

 

「んぁ…」

 

 

「んぅ…」

 

 

唇を離すと、唾液と唾液の橋が架かる。

一夏は笑みを浮かべると、チェルシーの頭を撫でた後にクラリッサにキスをする。

 

 

「ん、んぅ…あぁん…ふぁ、んんちゅう…」

 

 

クラリッサとも同じように抱き着き合いながらキスをする。

互いの温かさを感じながら、舌を絡ませ唾液の音を響かせる。

 

 

「ふぅ…」

 

 

「あぁ…」

 

 

クラリッサの唇を離し、唾液の橋が架かる。

それはプツリと空中で途切れると互いの口元に付着する。

 

 

「チェルシー、クラリッサ、無事でいてくれ。これは、俺からのおまじないって事で」

 

 

一夏は片目をパチリと閉じ口元に笑みを浮かべながらそう言う。

2人は顔を赤くするも、直ぐに笑みを浮かべ返す。

 

 

「ありがとう一夏。一夏のおまじないなら絶対に効果があるわ」

 

 

「でも、一夏も無事でいてくれないと、もしかしたら効果が無くなってしまうかもしれないな」

 

 

「それは大変だ。ならば絶対俺も無事に帰って来よう」

 

 

3人はそう言い合うと、再びイチャイチャし始める。

そうして、各々自由な時間を過ごす。

 

 

時間は流れ、とうとう作戦ミーティングの時間がやって来た……

 

 

 




登場する人数が多いと空気になるキャラが多くなってしまう。
空気になると後の出番で

「え、コイツいたのか!?」

ってならないかが心配だ。
今一度確認しますが、メンバーは1年生専用機持ちと楯無とクラリッサとチェルシーと千冬と真耶です。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想、誤字報告もよろしくお願いします!


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戦闘開始

お久しぶりです。
時間を見つけてちまちま書いたので、正直ちゃんとなってるか不安です。
そして戦闘シーンが今まで以上にクソ雑魚になりました。
許してください。


三人称side

 

 

亡国企業攻撃作戦の為に京都にやってきている一夏達。

宿泊する旅館の各々の部屋に荷物を置き暫くの間休憩していた。

そして、作戦ミーティングの時間がやって来た。

全員がISスーツの上にジャージを着用し(一夏のみジャージだけ)指令室に集まっていた。

 

 

「それでは、これより作戦会議を開始する」

 

 

部屋中央のモニター前に立っている千冬がそう声を発する。

2列になり向かい合う形で座っている一夏達の視線が千冬に向けられる。

 

 

「作戦の概要、並びに目標を今一度確認する」

 

 

千冬の言葉に全員が無言で頷く。

それを確認した千冬は口を開き、言葉を発する。

 

 

「今回の作戦は、亡国企業のアジトへの攻撃。目標としては、戦力低下と情報の入手だ。ここまで問題無いな」

 

 

『はい』

 

 

「良し、それでは作戦を立てる。アジトとなっているのはこの場所だ」

 

 

千冬の言葉と同時に、ディスプレイに地図が表示される。

今いる旅館を中心とした真上から見た地図。

その地図のとある地点で赤丸が点滅をしていた。

この赤丸がアジトという事だろう。

地図を見た一夏達は驚きの表情を浮かべる。

 

 

「此処は…」

 

 

「…ホテル?」

 

 

マドカの呟いた言葉に、千冬が頷く。

 

 

「そうだ。このホテルの地下にはかなり大きな研究室などが存在しているようだ。ホテルならば、外部の人間が宿泊客として簡単に違和感なく出入りが可能であり、大きな機材も持ち込みやすい。それに加え、本当に一般客の宿泊も可能な為周囲から不思議がられる事は無いという事だ」

 

 

千冬の解説に、全員が納得したような表情を浮かべる。

 

 

「なるほど、考えてますね」

 

 

「ああ。この情報もなんとか入手したものだ。さて、それではこれより具体的な作戦案を考える」

 

 

ディスプレイに映っている地図が切り替わり、件のホテルの上からの地図と横から見た図。

 

 

「確認したところ、一般客は宿泊していない。思う存分戦える。そして、これが現段階で考えている侵入ルートだ」

 

 

千冬の言葉と同時に、ディスプレイに侵入ルートとして赤い矢印が2本描かれる。

1本はホテルの従業員用扱いになっている裏口に。

もう1本は、ホテルから少し離れたトラック等が入れる地下への道。

 

 

「ホテル裏口からの侵入するチームと、この運搬道から侵入するチーム、そしてここに残って情報整理、並びに連絡をするチームの3チームに分かれて行動する」

 

 

「なるほど。それで、そのメンバー分けは?」

 

 

「先ず、此処に残るのは山田先生と更識妹、私の予定だ」

 

 

「え、私…ですか?」

 

 

急に名前を呼ばれ、そんな反応をしてしまう簪。

そんな簪を見て千冬は頷く。

 

 

「ああ。お前ほどのコンピューター操作技術があれば、情報整理も上手く行くだろう」

 

 

「つまりは、簪の実力を信頼してって事だよ」

 

 

千冬の言葉に一夏が補足を付ける形でそう言う。

簪は驚いたような表情をしていたが、直ぐに覚悟の決まったような表情に変えると、千冬の目を見てしっかりと頷いた。

その動作で千冬も簪の覚悟を察し、頷き返す。

 

 

「それで、山田先生が待機の理由は分かりますけど、何故織斑先生まで?」

 

 

「私が最初から出ると、予備戦力がほぼなくなってしまう。万が一の為に待機は必要だ」

 

 

「なるほど」

 

 

シャルロットの疑問にそう返す千冬。

納得の声が返ってきたことを確認したので次の言葉を発する。

 

 

「それでは、次にホテル裏口から侵入するAチームと運搬道から侵入するBチームにメンバーを分ける。言わなくても理解しているとは思うが、Aチームの場合最初からISを使用できない。その為必然的にBチームの方が人数が多くなる」

 

 

千冬の言葉に全員が頷く。

だがそんな中、

 

 

「織斑先生、よろしいですか?」

 

 

一夏だけが手を上げながらそう言った。

当然ながら一夏に視線が集まる。

 

 

「どうした織斑兄」

 

 

千冬の言葉に、一夏は懐からオルコス、白式、白騎士のカードを取り出す。

 

 

「俺には相棒たちが居るので侵入時は少人数になれますが、頭数としては4人分です。だから、Aに行かせてくれませんか?」

 

 

「…いいだろう。ならばAチームの現場指揮は織斑兄に任せた。Bチームは…ボーデヴィッヒ、いけるな?」

 

 

「はいっ!」

 

 

千冬に言われ、ラウラはしっかりとそう返事をする。

そうして、そこから全員でメンバーの話し合いをしていく。

 

 

「…楯無さんをどうするかが難儀だな……」

 

 

「確かに…楯無さんどうしよう?」

 

 

「ちょっとシャルロットちゃん?その言い方だと私が問題児みたいに聞こえるじゃない」

 

 

「事実でしょう?戦闘力しか評価できないバ会長なんて」

 

 

「一夏君!?」

 

 

「その評価を変えたいんでしたら普段の言動を如何にかする事ですね……楯無さんは生身でも戦闘できるのでAですかね?」

 

 

「そうだな…よし、それで行こう」

 

 

最後に楯無のチームが決まり、これで全員の役割が決定した。

各チームの目的や動きなどを入念に確認していく。

 

 

「Aチームは裏口から侵入した後、このルートを使用し地下へと向かってもらう」

 

 

千冬がそう言うと、ディプレイには侵入ルートが赤い矢印で表示される。

 

 

「Aチームは真っ先に地下室へと向かい情報収集をしてもらう。データをコピーするためのメモリーを渡しておく」

 

 

Aチームである一夏達は真耶からメモリーを手渡される。

 

 

「お前たちはあまり交戦をせず、情報収集を最優先にしてくれ。交戦は最小限に。それが終わったら装置を破壊しつつBチームに合流、交戦を開始してくれ」

 

 

『はい』

 

 

千冬の言葉に、一夏達がしっかりを頷く。

それを確認したので、Bチームに視線を向ける。

 

 

「Bチームは運搬道から侵入し、最初から交戦をしてもらう。Aチームの邪魔をされないように亡国企業の構成員を引き寄せる役割も同時に担ってもらう」

 

 

その言葉を聞き、Bチームであるラウラ達は少し緊張したような表情になる。

 

 

「そして、交戦をしながら奥へと進んでもらう。装備品の破壊、並びに亡国企業の組員を拘束してくれ。完全に破壊や拘束できなくても一通り終わればそこで作戦は終了だ。拘束した構成員を連れて地上に脱出してくれ」

 

 

『はい!』

 

 

千冬の言葉に、ラウラ達がしっかりと返事をする。

そうしてそこから更に細かい部分の詰めを確認していく。

 

 

「最終確認だが、Aチームは裏口からの侵入、目的は情報収集だ。Bチームは運搬口から、目的は戦力低下だ」

 

 

その言葉に全員がしっかりと頷く。

千冬は全員の表情を見回しながら言葉を発する。

 

 

「それでは、これで作戦会議は終了だ。全員作戦開始の準備をしろ!」

 

 

「了解」

 

 

『はい!』

 

 

千冬の言葉に全員がしっかりと頷く。

そうして、指令室から出て各々作戦の準備を開始するのであった。

 

 


 

 

作戦会議から、おおよそ2時間後。

旅館からはもう既に一夏達はホテルに向かっており、現在残っている千冬、真耶、簪は指令室でマイク付きヘッドフォンを着用しディスプレイを見つめていた。

千冬はマイクのスイッチを入れ、声を発する。

 

 

~Aチーム~

 

 

ホテル裏口近く。

此処には物陰に隠れた一夏、クラリッサ、チェルシー、楯無の4人が侵入のタイミングを伺っていた。

 

 

「あそこね…」

 

 

「ああ」

 

 

チェルシーとクラリッサがそう声を漏らす。

一夏と楯無はジッと扉の事を観察している。

普通に見れば、本当にただの勝手口に見える変哲もない扉。

しかし、よく見ると扉の素材は壊れにくいものになっているし、オートロックの鍵が3個も付いている。

飲食店によくあるゴミ箱も無い。

そして何より、警備員が2人。

 

 

「攻撃作戦というより、潜入作戦では?」

 

 

「まぁ、あながち間違っては無いわ。私達の目的は情報収集だし。でも、Bチームは最初っからバチバチ戦闘だと想定されるし、私達も情報収集が完了したら戦闘よ」

 

 

「なるほど」

 

 

一夏と楯無が小声でそう会話する。

すると、そのタイミングで指令室の千冬から通信が入る。

 

 

『織斑兄、更識姉、ハルフォーフ、ブランケット、聞こえるか?』

 

 

その通信と同時に一夏は全員の事を確認する。

全員が頷いている事を確認したので、小声で声を返す。

 

 

「こちら織斑。全員聞こえています」

 

 

『良し。お前たちはBチームの交戦が始まったら侵入をしろ。地下に向かい、重要な情報を入手しろ。交戦を行わないといけない場合、交戦許可の取得は要らない。各自の判断で交戦を開始しろ』

 

 

「「「「了解」」」」

 

 

ここで千冬との通信は終了した。

一夏は通信の為に握りしめていたダークコアデッキケースから白式と白騎士のカードを取り出す。

 

 

「白式、白騎士、突入したら先頭任せられるか?」

 

 

一夏のその言葉に、カードは震える事で返答する。

それで全てを察した一夏は笑みを浮かべる。

視線を扉に戻し、ジッとBチームの交戦開始を待つ。

 

 

ドガァアン!!

 

 

「「っ!?!?」」

 

 

そうしていると遠くの方から爆撃音が鳴り響き、警備員2人は慌てたような表情を浮かべる。

そのまま暫くアワアワしていたが、耳に装着しているインカムを押さえたかと思うと、扉を開けて中に入っていった。

警備員室から緊急集合の要請が入ったのだ。

扉が閉まりかけるその瞬間に、一夏は白式と白騎士のカードを隙間に投げ入れる。

 

バタン!

 

大きな音を立てながら閉まった扉。

オートロックが作動する音も聞こえる。

しかし、オートロックというものは外からの解除は難しくても、内側からは簡単に解除できる(出来ないと困る)。

 

 

カチャ

 

 

人間体になった白式と白騎士が扉を少しだけ開ける。

一夏達はその隙間に身体を滑り込ませる。

 

 

「こちら織斑。全員侵入完了」

 

 

『了解だ。そのまま地下へ向かえ』

 

 

「了解」

 

 

千冬との通信を終わらせた一夏は楯無達に視線を向ける。

そうして頷き合うと、事前の作戦会議で知らされていたルートを使い地下へと向かって行くのであった。

 

 

~Bチーム~

 

 

運搬口近くに身を潜めているラウラ達。

 

 

「なんか、ここからでも物々しい雰囲気がしますね」

 

 

「そうですわね…流石はテロリストのアジト、と言ったところでしょうか?」

 

 

マドカの呟きに、セシリアがそう反応する。

そう、2人の言葉の通り隠れているこの場所からもハッキリと分かる程、厳重な警備が敷かれていた。

しかし、どう見ても生身の人間相手を想定しており、専用機レベルのISが5機も来る事など

 

 

『ボーデヴィッヒ、織斑妹、オルコット、デュノア、凰、聞こえるか?』

 

 

ここで千冬からの通信が入る。

ラウラが全員聞こえている事を確認し、返答する。

 

 

「こちらボーデヴィッヒ、問題ありません」

 

 

『良し。Aチームはお前たちが交戦を開始したら侵入を開始する』

 

 

「はい」

 

 

『作戦通り情報入手はAチームが行う。お前たちは戦闘を行いながら地下へと目指してくれ』

 

 

「はい」

 

 

『交戦開始のタイミングはボーデヴィッヒに任せる。それでは健闘を祈る』

 

 

千冬との通信が終了し、それと同時にタイミングの判断を一任されたラウラに視線が集まる。

ラウラはその責任からか緊張したように息を吸って、吐く。

そうしてジッとタイミングを見計らう。

警備員の交代の時間になったのだろう。

今の今まで立っていた警備員達の近くに別の警備員達が歩いていく。

会話をするために、視線を互いに向ける。

 

 

「今だ!!」

 

 

その瞬間にラウラがそう叫び、それと同時に5人がISを展開。

出来るだけ全速力で入り口へと向かって行く。

 

 

「っ!?な、なんだ!?」

 

 

「て、敵襲!敵襲だ!!」

 

 

警備員達は驚きの声を発するも、生身でISに対応できるわけが無い事は理解している。

慌てて逃げ始める。

ラウラ達も生身の人間と戦うつもりなど毛頭ないのでそのまま押し切り運搬道を進んで行く。

 

 

「こちらボーデヴィッヒ!入り口突破!このまま進みます!」

 

 

『この先では亡国企業のISとの戦闘の可能性がかなり高い。注意しろ』

 

 

「了解!」

 

 

ラウラ達はそのまま奥へ奥へと進んで行く。

 

 

「結構分厚そうな扉よ!」

 

 

「このまま壊していくぞ!」

 

 

「分かった!」

 

 

「行きますわよ!」

 

 

目の前の厚い鉄の扉に向かい、各々の武装を発砲する。

 

 

ドガァアン!!

 

 

大きな爆撃音と共に扉に攻撃が当たり、煙が発生する。

煙が晴れたその先には、完全に破壊された扉があった。

 

 

「このままいくぞ!」

 

 

5人はそのまま破壊された扉を通過し、奥へ奥へと進んで行く。

 

 

「っ!700m先、IS反応あり!」

 

 

マドカの報告と同時に、全員が再び武装を構える。

進んで行くと厳重な鉄の扉、そしてその前でアサルトライフルを構えている亡国企業所属のISが9機視界に入って来た。

 

 

「来た!撃て!!」

 

 

集団のリーダーである女の指示と同時に、ラウラ達に向かってアサルトライフルが発砲される。

 

 

「させるか!」

 

 

「落とすわ!」

 

 

それにラウラと鈴が反応した。

ラウラが迫って来る弾丸に向かってAICを発動し停止させる。

それでもAICでは完全に停止できなかった分を鈴が龍砲を連射し撃ち落としていく。

 

 

「なっ!?」

 

 

「くらいなさい!」

 

 

「いっけぇええ!」

 

 

集団が驚いている隙に、セシリアとマドカが各々の武装をフルに使用し射撃をしていく。

 

 

「ぐ、ぅぅううう!?」

 

 

「こ、のぉ…!」

 

 

なんとか射撃を避けようとしている集団だが、ここが室内である事、そして9人も固まっている事により思う通りに動けずドンドンとダメージを重ねていく。

ビットによる多角の射撃で集団は一か所に集まっていく。

 

 

「それっ!」

 

 

そのタイミングでシャルロットがグレネードを出来る限り大量に投げつける。

 

 

ドガガガガァアアアアアアン!!

 

 

「うがぁああああ!!」

 

 

「ぎゃあああああ!!」

 

 

グレネードは爆発し、集団がそれに巻き込まれる。

黒煙が発生に、狭い室内に充満していく。

 

 

先程からラウラ達が押している理由。

それは全てここが室内…さらには、地下であるからだ。

もし仮に戦場が地上や空中だったとしたらここまで有利に事を進めれていないどころか、かなり不利だっただろう。

なにしろ、亡国企業には一夏か千冬にしか対応できないアクワルタ・グワルナフ・レプリカがあるのだ。

地上戦だった場合、千冬も最初から出撃しないといけなかっただろう。

 

 

しかし、地下という限られた空間の場合レプリカのような武装を使用した場合周囲の仲間を巻き込んでしまい自軍の戦力を低下させてしまうリスクがある。

それだけじゃない。

周囲の天井や壁を破壊してしまう可能性があるのだ。

それでラウラ達を潰す事も可能ではあるのだが、それをした場合自分たちまで巻き込まれるのは火を見るよりも明らかだ。

 

 

それに加え、周囲の巻き込みリスクを無くし単身で対応すると、流石に1対5では対応しきれない。

だからこそこの状況ではレプリカの使用をやめ集団で対応するのが最適解なのだ。

本来ならば。

 

 

「はぁっ!」

 

 

「ぐ、ぅううううう!?」

 

 

「おりゃあ!」

 

 

「ぐふっ!」

 

 

今回攻めているのはラウラ達。

つまりは専用機が5機。

それも入念に作戦を立てて集団戦闘で後れを取らないようにしてきた。

その結果として今ラウラ達が有利に事を運べているのだ。

 

 

「これで最後!!」

 

 

マドカがその言葉と同時にフルチャージして発砲する。

 

 

ドキュウン!

 

 

「うわぁああ!!」

 

 

狙い通りに着弾し、女は地面に倒れ込む。

それと同時に身に纏っているISが強制解除される。

そんな女の周囲には同じくISを強制解除された他の8人が気絶していた。

 

 

「ふぅ、これで、一先ず撃破完了ですね」

 

 

「ああ、拘束をするぞ」

 

 

マドカの言葉にラウラがそう反応する。

そうして全員で集団の事をロープでガッチガチに縛っていく。

 

 

「よっし!終わり!」

 

 

「それでは、この人達を扉から少し離して扉を破壊するといたしましょう」

 

 

鈴とセシリアがそう呟き、その言葉の通り拘束した9人を引きずって爆発に巻き込まないように扉から離す。

 

 

ドガガガァアアアアン!!

 

 

そうしてそのままグレネードなどの武装を使用し扉を破壊する。

 

 

「良し、進むぞ!」

 

 

ラウラの指示に従い、全員が奥へと進んで行く。

そうして大体5分後。

 

 

「此処は…?」

 

 

「一見、研究室…の様だな」

 

 

ラウラ達はとある部屋にたどり着いた。

その部屋には様々なコンピューターが置いてあり、その他にもなにやら色のついた液体が入った試験管やビーカー、注射器等々が散乱しており、まさしく研究室といったような部屋だった。

 

 

「此処ってさ、Aチームが来るところじゃない?」

 

 

「確かにそうだな…私達はメモリーを持っていない。いったん引き返して別のルートを…」

 

 

別の場所に移動しようとしたラウラ達。

だが、ラウラの言葉はここで途切れた。

 

ペタ、ペタ、ペタ

 

そんな裸足で歩くような足音が聞こえて来たからだ。

ラウラ達は一瞬にして警戒心を露わにすると、武装を構える。

 

 

ペタ、ペタ、ペタ

 

 

足音はだんだん大きくなっている。

全員が足音が聞こえてくる方向に視線を向ける。

そうして、研究室の奥の方から1人の人間が現れた。

まるでダイバースーツのような全身の服に、口元には酸素マスク。

チューブは背中に背負っている機械に繋がっており異様な雰囲気を醸し出している。

 

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

 

その人物の顔を見たラウラ達は一斉に驚きの声を発する。

何故なら、その人物は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「があああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガガガガガガァアアン!!!!

 

 

 

 




いやはぁ、なんとまぁ分かりにくいんだ。
元々下手くそだったけど更に下手になったなぁ。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想もよろしくお願いします!


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対峙する騎士と兵器

更に間が空きました。
すみません。
なんかもう間が空き過ぎて若干書き方忘れてる感が否めません。
ご了承ください。


三人称side

 

 

「お、お前らいっ「ふっ!」ぐふぅ!?」

 

 

《ハァ!》

 

 

「あぎゃあ!?」

 

 

ラウラ達がIS集団と戦闘をしているのと同時刻。

Aチームは道中亡国企業の構成員の事を気絶させながら地下室へと向かっている。

ただ、Aチームとは言っても戦闘しているのは全員ではない。

 

 

「ハァ!」

 

 

一夏と

 

 

《ハァア!》

 

 

オルコスSDと

 

 

《おりゃあ!》

 

 

《せいっ!》

 

 

白式と白騎士の煉獄騎士団だけが交戦をしており、クラリッサ、チェルシー、楯無の3人はただ付いて行っているだけだった。

煉獄騎士団だけが交戦しているのにも勿論理由がある。

今いる通路が狭く、ISを展開するとほぼほぼ動けなくなってしまうので基本生身で交戦するしかない。

その為モンスターであり人間よりも高い身体能力を持ちオルコス達と、4人の人間の中で1番身体能力が高い一夏が交戦しているのだ。

 

 

全員が交戦すると疲労をしていない戦力が無くなるし、何よりスペースの問題で上手く交戦出来ない。

だからこそ、今のこの態勢はベストなのだ。

 

 

「「「……」」」

 

 

だからといって、交戦していない3人に思うところが無いわけでは無い。

特にクラリッサとチェルシーは、一夏にまかせっきりなこの状況はとても悔しい。

一夏の事を支えようと思っているのに、結局最後は一夏か千冬が対処しないといけなくなる。

一夏の負担が無くならない。

それが悔しくない訳が無い。

 

 

だからといって2人はこの大事な作戦中に私情を持ち込まない。

一夏達が先頭で進んで交戦するのを、後ろで付いて行きながらしっかりと見る。

 

 

そうしてそこそこな人数を気絶させながら地下へ地下へと進んで行く事数分。

1つの部屋の前についた。

部屋の扉は当然と言わんばかりに電子ロックが掛かっており、ロックを解除したら自動で両側にスライドして開くタイプだ。

 

 

「此処か…」

 

 

《ロックがかかっているな》

 

 

一夏とオルコスが扉を見ながらそう呟く。

 

 

「どうする?ISを使ってクラッキングする?」

 

 

「それが1番確かな方法ですね」

 

 

ロックを解除する方法の案を楯無が呟き、チェルシーがそれに賛同する。

だが、扉を触り思考を巡らせていた一夏が否定の声を発する。

 

 

「いや、それだと時間がかかり過ぎます。今は多少強引でも速い方が良いでしょう」

 

 

「だが一夏、これ以外にどうするというんだ?」

 

 

「まぁ見てな。オルコス」

 

 

《任せろ》

 

 

疑問の声を発したクラリッサ。

一夏はクラリッサに微笑みを向けた後オルコスと共に扉の中央に手を掛ける。

 

 

「「「へっ?」」」

 

 

「《オラァ!!》」

 

 

その行動に3人が同時に声を発した直後、一夏が右側に、オルコスが左側に思いっきり扉を引っ張る。

そう、一夏が思い付いた判断はとてもシンプル。

力で無理矢理こじ開けるだけである。

何時もは冷静に物事を判断し行動する一夏のまさかの脳筋行動に驚きの表情を浮かべる3人。

 

 

ガガガガガ!!

 

 

そうして20秒も経たないうちに扉を開けた一夏とオルコス。

 

 

「行くぞ。白式、白騎士、入り口から監視を頼む」

 

 

《任せてください》

 

 

白式と白騎士に外を含めた入り口付近の監視を任せ一夏とオルコスは部屋の中に存在するPCへと向かって行く。

 

 

《あれ、入らないんですか?》

 

 

「え、ええ!入るわよ」

 

 

暫くの間呆然としていた3人は白式に言われ部屋の中に入っていく。

部屋の中ではもう既にコンピューターに渡されたメモリを接続してデータの移行を開始していた。

 

 

「これ作ったの絶対束さんだな。コンピューター起動してメモリ挿すだけって」

 

 

《逆に他の者が作れるとは思わないがな》

 

 

「まぁ、そうだな」

 

 

オルコスと会話する一夏を見て、3人は

 

 

(((あれ、私達いらなくない?)))

 

 

と同時に思う。

 

 

「クラリッサ、チェルシー、楯無さん、もしかして『自分達いらなくない?』とか考えてるか?」

 

 

「「「っ!?」」」

 

 

まさか今思っている事を指摘されるとは。

3人はそういった驚きの表情を浮かべる。

 

 

「図星か」

 

 

振り返り3人の反応を見て当たった事を察した一夏はそう呟いた。

気まずそうに視線を逸らす3人に、一夏はため息をついてから微笑みを浮かべる。

 

 

「この作戦が仮に俺達だけだったらここまでスムーズに来れてない。俺達が戦闘に集中できたのは、3人が控えにまわっていてくれたからだ。緊急時の本部への対応等を完全に任せられていたから、俺達は全力で戦えた」

 

 

「「一夏…」」

 

 

「安っぽく聞こえるかもしれないが、自信を持ってくれ。この作戦、俺達にはみんなが必要だ」

 

 

その言葉を聞いた3人は少し感動したような表情を浮かべる。

 

 

「特にクラリッサとチェルシーはもう作戦とか関係なしで俺にとって1番大事だ。いなくなったら全てを投げ出す自信がある」

 

 

「「っ!?///」」

 

 

急な一夏の言葉に、クラリッサとチェルシーは顔を真っ赤にする。

そんな2人の反応を見て笑みを浮かべた一夏も直ぐに真面目な表情に戻り、コンピューターに視線を戻す。

 

 

「…あれ、折角感動したのに……」

 

 

楯無の呆然とした呟きは空気に溶けた。

 

 

「良し、終わった」

 

 

《次に急ぐぞ》

 

 

「分かってる」

 

 

データの入手が完了したのでメモリーを抜く。

全員は再び煉獄騎士団が前に出て廊下を移動する。

その道中再び構成員を気絶させているのだが、その数は明らかに先程よりも少なかったし、非常に慌てている様子だった。

 

 

「《ハァ!》」

 

 

一夏とオルコスが次の扉をこじ開ける。

一夏達は部屋の中に入っていき、白式と白騎士は入り口から外の監視を行う。

 

 

「俺の分は多分さっきでいっぱいになったから誰か頼む」

 

 

「じゃあ私が」

 

 

コンピューターを起動しながら言った一夏の言葉にクラリッサがそう反応する。

自分が受け取ったメモリーを一夏に手渡し、一夏はそのままコンピュータに挿しこむ。

 

 

「さっき交戦した構成員の人数が明らかに減っていた。隊長達がISで交戦しているお陰だな」

 

 

「そうね。もしお嬢様方が大々的に交戦していなかったら、構成員も慌てていなかったでしょうし、武装している人もいたかもしれないわね」

 

 

クラリッサとチェルシーがそう会話する。

そう、この2人の言葉の通り一夏達がここまでスムーズにデータ収集を行えているのはラウラ達が大々的に戦闘を行っているという一面が大きい。

 

 

例えテロリストであったとしても、急に攻撃をされたら動揺するに決まっている。

特に現場で実際に対応に当たる構成員は上から指示を出す者に比べて年も若く経験も積んでいないので動揺は大きくなる。

 

 

それに加えラウラ達側はIS、しかも専用機が6機という破格の戦力だ。

そこに全戦力が集まっていると咄嗟に思い込んでしまい、別ルートからの侵入者がいる可能性を排除してしまっても仕方が無い。

結果、一夏達の方にまわってくる武装構成員がいないのだ。

無論道中で出くわすことはあったのだが完全に態勢が整ってないない状態で、煉獄騎士団とまともに戦えるわけが無い。

 

 

そんな様々な要素が重なり合った結果、一夏達は想定よりもスムーズにデータを集められているのだ。

 

 

メモリーにデータが移りきるのを待つ間も一夏達は気を抜かず何時でも戦闘が出来るように構える。

そんな中、オルコスがすっと一夏の側に近寄ると小声で声を掛ける。

 

 

《一夏、身体は大丈夫か?》

 

 

オルコスの言葉を聞いた一夏はふと自分の身体を見下ろし、少し悲しそうな表情を浮かべながら右出て左胸を…心臓を押さえる。

 

 

「今は一応。でも、どうして急に聞いてきたんだ?」

 

 

《一夏、昨日寝れてないだろ》

 

 

「っ……」

 

 

オルコスの指摘を聞き、一夏は思わず息を詰まらせる。

 

 

一夏が先程新幹線でエナジードリンクを購入した理由。

それは常飲しているが故の無意識という訳ではない。

万が一の為に一応カフェインを摂取しておきたかったからだ。

 

 

そう、一夏は昨日から今日に掛けて一睡も出来てない。

寝る前に吐血や過呼吸、身体の痺れなどの症状が出てしまい睡眠を阻害されたのだ。

作戦に支障が無いように必死に魔法を何重にも使用し、今戦場に立っているのだ。

 

 

症状が治まったが、睡眠不足なのだ。

エナジードリンクには医薬品程の眠気覚まし効果は無いがカフェインが含まれているのは事実だし、多少のプラシーボ効果も期待して購入したのだ。

まぁ、結局マドカ達に止められたので飲んではいないのだが。

 

 

「やっぱ、バレてたか」

 

 

《当然だ。勿論我だけではない。白式や白騎士も気が付いている》

 

 

オルコスの言葉を聞き、一夏はチラリと白式と白騎士に視線を向ける。

指示通りに入り口付近から外の監視をしている2人。

だが、ちょくちょく自分の事を見ているので心配を掛けていた事に気が付いた。

一夏ははぁ、と息を吐きオルコスに視線を向ける。

 

 

「オルコス、俺は大丈夫だ。俺は戦える。だから……」

 

 

《…ああ。白式と白騎士には大丈夫だと伝えておこう。そして、お前の恋人や仲間には黙っておこう》

 

 

「悪いな。俺の我儘に付き合わせて」

 

 

《気にするな。我らはバディだろう?》

 

 

「……そっか。ありがとな」

 

 

一夏とオルコスの会話が終わったその瞬間に、メモリーへのデータ移行が完了した。

コンピューターからメモリーを引き抜き、クラリッサに手渡す。

 

 

「よし、じゃあもっと奥に…」

 

 

次の行動についてのその言葉は、途中で途切れた。

途切れざるを得なかった。

 

 

ドガガガガガガァアアン!!!!

 

 

「「「「《 《 《っ!?》 》 》」」」」

 

 

今まで全く聞こえてこなかった戦闘音…というより爆撃音が聞こえて来たからだ。

当然、ラウラ達が戦闘を行っている事は理解しているし、それに伴って戦闘音が聞こえてくる事もきっとあるという事も理解している。

その上で全員が驚いたのには理由がある。

普通に戦闘していたのなら、ここまでの爆撃音になる筈が無いのだ。

 

 

『クラ、リッサ!聞こえ、るか!?』

 

 

「っ!?隊長!?」

 

 

ここで急にクラリッサにラウラからの通信が入って来た。

一夏達がクラリッサに視線を向けるなか、ラウラとの通信を続ける。

 

 

「隊長、どうされましたか!?」

 

 

『緊急、じた…!す、ぐ……おうえ…!うわぁあああああああ!?』

 

 

「隊長!?隊長!応答してください!隊長!」

 

 

クラリッサの様子から、ラウラに何かあったと察した一夏達。

ダークコアデッキケースを握りしめ、一夏はマドカに通信を行う。

 

 

「マドカ!大丈夫か!?応答しろ!!」

 

 

『お、おにいちゃ…!』

 

 

「っ!駄目か…!!」

 

 

一夏と同タイミングでチェルシーもセシリアに通信を入れ、楯無は本部に緊急事態の連絡をする。

 

 

「お嬢様!」

 

 

『ぐ、チェルシー!今、ピンチで…!!』

 

 

「お嬢様!?」

 

 

「簪ちゃん、織斑先生、こちら楯無、緊急事態です!現在、急な爆撃音の後ラウラちゃんからの通信が入りました!詳しい状況は分かりませんが、どうやらまともに話せないようです!」

 

 

『『『なっ!?』』』

 

 

通信の向こうで千冬達が驚きの声を発する。

楯無が本部と通信している事を察した一夏達は各々の通信を終わらせそっちの通信に参加する。

 

 

『お前たちがどういう状況なのかは大体察した。データ収集はいったん中止だ!至急Bチームの所へ向かってくれ!私と更識も至急出撃する!』

 

 

「「「「了解!」」」」

 

 

千冬からの指示に返事をして、通信を終了させる。

 

 

「じゃあ、今すぐ地上に戻ってBチームが入った方から私達も…」

 

 

楯無が次の行動を提案しようとした時、

 

 

ドガァアン!ドガァアン!ドガガァアアン!!

 

 

再び爆撃音が響いてくる。

一夏がバッと廊下から顔を出す。

 

 

「…どうやら、爆撃音の発生源は向こうの方…奥の方だな」

 

 

「奥の方?」

 

 

「ああ、確実に俺達が進もうとしていた方向から聞こえてきた。入り口が何個かあっても同じ施設なんだから中で繋がっていても不思議では無い」

 

 

「確かにそうね。なら、どうするの?」

 

 

「決まってるだろ?」

 

 

そう言った一夏はその身に煉獄騎士の鎧を纏う。

 

 

「このまま行く!」

 

 

「え、で、でも、此処だと私達IS展開できない…」

 

 

「オルコス、白式、白騎士、頼んだ」

 

 

《了解した》

 

 

《はーい!》

 

 

《分かりました》

 

 

一夏の指示を受け、オルコスは楯無に、白式はチェルシーに、白騎士はクラリッサに近寄る。

そして、

 

 

《ほい》

 

 

「わひゃあ!?」

 

 

オルコスがSDのまま楯無の事を掴み空中に浮遊させる。

オルコスはモンスターが故、SDのままでも相当な腕力と握力がある。

だから楯無の事を掴んで浮遊することくらい造作もないのだ。

…まぁ、掴まれている楯無は凄いヒヤヒヤしているのだが。

 

 

《失礼します》

 

 

《しっかり掴まっててください》

 

 

「あ、ああ」

 

 

「え、ええ」

 

 

白式と白騎士はチェルシーとクラリッサの事をしっかりと抱える。

オルコスと同じくモンスターである2人は、その外見からは想像できない程力がある。

その為安定してチェルシーとクラリッサの事を抱えられているのだ。

2人は心の何処かで一夏に抱えられたかったと思っているとかいないとか。

 

 

「バディスキル、インフェルノサークル」

 

 

廊下に出た一夏は仮面の下で進行方向を見つめる。

 

 

「行くぞ!」

 

 

《ああ!》

 

 

《はい!》

 

 

《行きます!》

 

 

一夏は号令と同時に地面を蹴り猛スピードでの飛行を開始する。

それに合わせる形でオルコス、白式、白騎士の順での飛行を開始する。

 

 

「は、速い!」

 

 

「あ、ISじゃない飛行はこんな感じなのか…」

 

 

「新鮮過ぎる…」

 

 

楯無達は今まで感じた事のない飛行の感覚に驚きの声を発する。

だが、何時までも驚いているほど3人は子供ではない。

直ぐに真面目な表情になると進行方向を見つめる。

一夏も仮面の下で同じような表情を浮かべている。

 

 

あのラウラ達がまともに応対出来ない程追い詰められているのだ。

心の中で焦りを覚えていない訳が無い。

 

 

そうして飛び続ける事約2分。

開けた場所へとやって来た。

 

 

「IS展開!」

 

 

一夏の指示を聞いたオルコス達は楯無達の事を空中に放る。

一瞬驚きの表情を浮かべるも3人は直ぐにISを展開、飛行を開始する。

白式と白騎士は一夏が伸ばした左腕の紫の瞳に吸収される。

 

 

そうして広い空間を飛行していく。

周囲には壊れ弾け飛んだ手術台の残骸であろうものやメスや注射器などの器具、薬品であろう液体が散乱しており、何かが暴れた後のような雰囲気を醸し出していた。

そんな空間の最奥には、目測6m程の巨大な扉があった。

 

 

「ゲージ1とライフ1を払い、装備!新生煉獄騎士団の剣 エクスピアソード!」

 

 

一夏

ライフ10→9

ゲージ3→2

手札7→6→7(贖罪の煉獄騎士団団長 オルコスソード・ドラゴンをサーチ)

 

 

その手にエクスピアソードを装備した一夏は加速しながら扉に接近する。

 

 

「ハァア!」

 

 

ガキィン!!

 

 

勢いを利用し扉を切り裂く。

すると扉には大きな切り傷が刻まれるが、まだ破壊はされていない。

 

 

「クラリッサ!チェルシー!」

 

 

「任せろ!」

 

 

「OK!」

 

 

一夏は壁を蹴り急下降をする。

その瞬間に、一夏が作った傷にクラリッサとチェルシーが全力で射撃を行う。

 

 

ドカァアアン!!

 

 

爆音と共に黒煙が発生する。

黒煙が晴れたその先には、無事に破壊された扉が存在した。

 

 

「このまま行くぞ!」

 

 

「「「おお!」」」

 

 

一夏を先頭としてそのまま部屋の中へと入っていく。

その部屋の中には様々なコンピューターが置いてあり、試験管やビーカーが散乱している。

だがその器具全てが破壊されており、戦闘後である事は容易に想像できた。

そんな室内で一夏達の視線を引き付けているのは部屋の物ではない。

 

 

装甲がボロボロになっているISを身に纏っているマドカ達だった。

 

 

「マドカ!シャル!」

 

 

「隊長!」

 

 

「お嬢様!」

 

 

「鈴ちゃん!」

 

 

一夏はマドカとシャルロットに、クラリッサはラウラに、チェルシーはセシリアに、楯無は鈴にそれぞれ近寄る。

 

 

「大丈夫か!?しっかりしろ!」

 

 

「お、お兄ちゃん…に、逃げ……」

 

 

「マドカ!?マドカ!?」

 

 

「い、一夏…あ、あそこ……」

 

 

シャルロットがフラフラと指をある方向に向ける。

一夏達が一斉にその方向に視線を向けると、同時にその表情を怪訝そうなものに変える。

 

 

視線の先には、ダイバースーツのような服を着用し背中に機械を背負い一夏達に背を向け蹲っている1人の人物。

背中の機械からは1本のチューブが口元へと伸びており、異様な雰囲気を醸し出している。

 

 

ピクッ!

 

 

一夏達の視線を受けてか、その人物は身体を震わせると立ち上がり一夏達の方向に身体の向きを変える。

一夏と大体同じくらいの年齢の少年。

その顔に生気は無く、骨格が浮かび上がるくらいに痩せていた。

 

 

「「「「っ!?」」」」

 

 

《馬鹿な、アイツは…!》

 

 

一夏達はその人物の顔を見た途端に驚きの声を発する。

何故なら、その人物は…

 

 

「し、深夜……?」

 

 

現在行方不明のはずの、橘深夜その人だったのだから。

驚きの声を発する一夏を無視して深夜は大きく息を吸う。

 

 

「がぁああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

咆哮と同時に深夜の身体を光が包み込む。

その光が晴れた時、その場所には異様な姿の兵器が存在していた。

 

 

元々のベースは以前まで深夜が使用していた専用機、マスター・コントローラーだと思われるIS。

だが、その全身には滅茶苦茶に銃火器が搭載されており、もはや通常の装甲が見えなくなっている。

銃火器に覆われたそのシルエットは、まるで竜のようであり、禍々しさを醸し出していた。

そして何より目を引くのは、頭部。

3本の機械の竜の頭部が、一夏達に視線を向けていた。

深夜の身体は竜の胸部から頭と肩だけが露出しており、もうもはや操縦者(深夜)がISを操縦しているのではなく、ISが動くために操縦者(深夜)を取り込んでいるかのようである。

 

 

「がぁあああああああ!!!!!!」

 

 

深夜の咆哮と共に竜の口にエネルギーがチャージされていく。

 

 

「っ!全員構えろ!戦闘開始!」

 

 

なんで此処に深夜がいるのか。

その兵器はなんだ。

何故自分達を攻撃しようとするのか。

マドカ達に攻撃したのはお前なのか。

聞きたい事は山のようにあるし、まだ混乱している。

だが、そんな思考を巡らせている時間は無い。

 

 

一夏はエクスピアソードを構え、そう叫ぶ。

クラリッサ、チェルシー、楯無も同じく武装を構える。

 

 

「今一度集え!解き放たれし、煉獄の騎士達!ダークルミナイズ、新生煉獄騎士団!」

 

 

「がぁああああああああああああああああ!!」

 

 

一夏と深夜が同時に声を発する。

そうして、亡国企業の基地にて。

世界で2人しかいない男性IS操縦者同士の戦闘が、開始された…

 

 

 




本編のキリは悪いですが実はしれっと1周年です。
このグダグダ小説をここまで読んでくださってありがとうございます!
投稿を始めた当初はまさか1年続くなんて思っていもいませんでした。
まぁまだまだ下手くそですが、下手くそなりにこれからも自分のペースで頑張って行こうと思いますので、これからもよろしくお願いします!


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決死の戦闘

お待たせしました。
前回の続きです。

最近、またファイトブームが作者と弟の中で起きてます。
まぁ、新規でカードの購入はして無くてほぼ…というか全部プロキシですが。
需要あったら作者と弟の使用デッキレシピちょこちょこ出します。

作者の忙しさが当分変わらなさそうなので投稿ペースを戻すことが不可能だと判明しました。
申し訳ありません。


三人称side

 

 

「がぁあああああああ!!!!」

 

 

ドガガガガアァアアアアアアン!!

 

 

京都、亡国企業のアジト。

ホテルの地下でもあるこの空間では、今激しい戦闘が行われていた。

 

 

「がぁあああああああ!!!」

 

 

見た事も無いようなISを装着している…というよりかは、ISに取り込まれているかのような姿の深夜が咆哮する。

その瞬間に、全身に滅茶苦茶につけられた銃火器から対峙している一夏達に向かって発砲させる。

 

 

「くぅ!?」

 

 

一夏、楯無、クラリッサ、チェルシーの4人はすぐさま反応し、その攻撃を避けようとする。

だが地下室という狭い室内で、しかも背後には戦闘不能状態のマドカ達がいる状況で、通常ではあり得ないほどの弾幕を完全に避けきるのは、いくら一夏達でも困難。

 

 

「うわっ!?」

 

 

「くぅ…!」

 

 

「きゃっ…!」

 

 

「キャスト!『誇りを(むね)に、刃は不滅』!攻撃を無効!ライトのオルコスソード・ドラゴンを破壊しライフを2回復、相手にダメージ2!オルコスソード・ドラゴンはソウルガード!」

 

 

楯無達3人が少し掠りダメージをくらう中、一夏は魔法で回復をしつつ反撃を狙う。

オルコスがレーザー弾を弾き返し、深夜の装甲に着弾する。

しかし、深夜はダメージを受けておらず、深夜の頭部の更に上部にある3本の機械竜の頭部が、表情など変わっていないのに一夏達の事を睨んでいるかのようだった。

 

 

現状確認

 

一夏

ライフ6

手札3

ゲージ4

ドロップゾーン7枚

アイテム→新生煉獄騎士団の剣 エクスピアソード

ライト→贖罪の煉獄騎士団団長 オルコスソード・ドラゴン(ソウル:新生煉獄騎士団 クロスボウ・ドラゴン)

 

 

クラリッサ

残SE7割

 

 

チェルシー

残SE6割

 

 

楯無

残SE5割

 

 

深夜

残SE???

 

 

「くっ!?もう!全くダメージが入らない!!」

 

 

「それでも、このまま戦うしかない!」

 

 

「がぁあああああ!!」

 

 

カツゥゥゥゥン!

 

 

文句を言った楯無の言葉に一夏がエクスピアソードを握る手に再び力を入れながらそう声を発する。

その直後、深夜が咆哮をあげたかと思うと、まるで竜の翼のようになっている部分をはためかせると、この狭い空間に突風が吹く。

その拍子に煉獄騎士の鎧のヘッドパーツが吹き飛び、床に落下し、ディザスターフォースの影響で伸びた髪が真紅のマントと共に舞う。

 

 

そんな一夏は顔中に汗を浮かべており、他3人は流石に一夏も疲れているのかと思い特に気にする事は無かった。

だが、一夏の右斜め前でソードを構えているオルコスは、表情には出していないものの内心では焦っていた。

 

 

(いくら何でも、もう一夏の息が上がるなんて事はありえない……症状はまだ出ていないようだが、何時出てもおかしくないな……)

 

 

「っ!来る!」

 

 

そんなオルコスの思考を遮るように、クラリッサがそう声を発する。

視線の先では、3本ある機械竜の顔の口元が、まるでエネルギーをチャージするかのように発光を始める。

 

 

「全員離れろ!」

 

 

一夏のその指示に、全員がその場から跳躍しそれぞれ離れる。

 

 

「がぁああああああああ!!」

 

 

「「「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」

 

 

その瞬間に、深夜が咆哮し、それに続き機械竜が咆哮をあげる。

そして、チャージされた紫色の巨大なビームが3方向に向かって同時に放たれる。

 

 

「くっ!?」

 

 

「危ない!」

 

 

「ちっ!」

 

 

ドガドガドガァアアアアアアアアアアン!!!!

 

 

一夏、チェルシー、クラリッサがギリギリでそのビームを避ける。

ビームが着弾した壁や天井は、ビームと同じ大きさの穴が開き、パラパラと破片が舞う。

その穴の向こうは当然ながら隣の部屋だ。

だが、その部屋の壁にも穴が開いており、その更に向こうの部屋の壁にも穴が開いている。

 

 

それだけで、あのビームノ威力が桁違いだという事が分かる。

それと同時に、一夏達全員は理解した。

深夜はまだまだ全力を出していない事に。

 

 

(マズイな…あのビームが何発撃てるか分からないが、大量に撃たれると流石に避けきれない…それだけじゃない、最悪天井や壁が崩壊する可能性がある。そうなったら戦闘不能のマドカ達は確実に生き埋めになるし、あの深夜が地上で暴れでもしたら…何としても、早急に片付けないと!)

 

 

「俺のターン!」

 

 

一夏

手札3→4

ゲージ4→5

 

 

このまま時間を稼ぐだけではいけないと判断した一夏。

先程までで崩れてしまった盤面を整えるために動き出す。

 

 

「キャスト!『煉獄魔導 血盟陣』!1枚ドローして、このターン中煉獄騎士団全てが相手の効果で破壊されず、手札に戻せなくなる!」

 

 

一夏

手札4→3→4

 

 

「キャスト、『悪の凶宴』!デッキの上から3枚を見て、その中のモンスターを1枚手札に加え、残りはドロップゾーンに!」

 

 

一夏

サーチ→煉獄騎士団 グラッジアロー・ドラゴン

ドロップ→新生煉獄騎士団 ホーリーグレイブ・ドラゴン 煉獄唱歌 “呪われし永遠なる戦の調べ”

 

 

「センターにコール!『煉獄騎士団 グラッジアロー・ドラゴン』!」

 

 

《ハァッ!》

 

 

一夏

手札4→3

 

 

一夏はセンターにグラッジアローをコールした。

その瞬間に、

 

 

「がぁああああああああ!!」

 

 

再び深夜が咆哮をあげると、全身の銃火器から発砲が始まる。

しかし、それは先程までの無差別的なものではなく、この場に新たに出現したグラッジアローを多少なりとも狙っているかのように発砲される方向が少し定まっていた。

 

 

「っ!おいおい、マジかよ!」

 

 

グラッジアローがセンターにいるという事は、その真後ろに一夏がいるという事だ。

そして、そんなグラッジアローが集中的に攻撃を受けているという事は…

 

 

ドキュウン!!

 

 

「危ねぇ!」

 

 

流れ弾が一夏にもやって来るという事だ。

バディファイトでは、“潜影”といった能力を持っていない限り、センターにモンスターが存在するとファイターへのアタックは出来ない。

しかし、これは現実。

普通に流れ弾が存在する。

それに加え、今の一夏の盤面では効果ダメージは防ぎようが無いのでこの射撃が効果ダメージ扱いだった場合、ライフがガリガリと削られていってしまう。

 

 

一夏、オルコス、グラッジアローは大量の弾幕をかいくぐる。

煉獄魔導 血盟陣の効果でオルコス十グラッジアローは破壊されないものの、深夜のISがどんな能力を持っているのか不明なのだ。

被弾しないに越した事は無い。

 

 

「クラリッサ!チェルシー!楯無さん!今!!」

 

 

「っ!任せろ!」

 

 

一夏が叫び、クラリッサがそれに反応する。

今一夏達が集中して攻撃を受けているという事は、クラリッサ達への攻撃はさっきまでに比べると手薄になっている。

つまり、反撃のチャンスなのだ。

 

 

「くらえぇえ!」

 

 

「はぁあ!」

 

 

「クリア・パッション!」

 

 

3人とも、今出せる最高火力の攻撃を深夜に向けて同時に放った。

だが

 

 

「がぁああああああ!!」

 

 

深夜には全くもってダメージが入っていない。

まるで周囲を飛ぶ虫を鬱陶しく思うかのように身を捩ると、身体の向きを一夏達からクラリッサ達に向ける。

 

 

「「「っ!」」」

 

 

攻撃が始まる前に3人はバラバラに散り、攻撃が集中しないようにする。

 

 

「がぁああああああああああああああ!!!」

 

 

ドガガガァアアアアアアン!!

 

 

「くぅ…!」

 

 

「きゃっ!?」

 

 

「危ない!?」

 

 

深夜の咆哮と同時に、密度の高い弾幕が3人を襲う。

3人はギリギリで避けるも、このまま続くと確実に被弾をしてしまうだろう。

 

 

「レフトにコール!『新生煉獄騎士団 ホワイトタイプ・ドラゴン』!」

 

 

《行きます!》

 

 

視界から外れた一夏はレフトに白式をコール。

煉獄フォーメーションを完成させる。

 

 

「アタックフェイズ!オルコスソード・ドラゴンとグラッジアロー・ドラゴンで連携攻撃!!」

 

 

《行くぞ!》

 

 

《はい!》

 

 

一夏のアタック指示に従い、オルコスが深夜に向かって行き、それを援護するようにグラッジアローが矢を放つ。

背後からの攻撃。

オルコスのソウルにあるクロスボウの効果でオルコスの攻撃力は2000上昇。

それに加え、エクスピアソードによって煉獄騎士団モンスターの攻撃力は3000上昇する為、オルコスの攻撃力は12000、グラッジアローの攻撃力は6000、合計18000。

並大抵のモンスターの防御力ならば突破している攻撃力である。

 

 

《ハァアアア!!》

 

 

オルコスの斬撃と、グラッジアローの矢が深夜の背中側の装甲にヒットする。

 

 

ガキィン!

 

 

凄まじい音が鳴り響く。

だが、それでも深夜にダメージが入った様子は無い。

 

 

「がぁああああああああ……!!!!」

 

 

3人に対する発砲を続けながら、竜の尻尾に該当するような部分をオルコスに向かって振るう。

 

 

《ふっ!》

 

 

オルコスは身体を捻り尻尾での攻撃を避ける。

 

 

「駄目か…!オルコスソード・ドラゴンの効果発動!」

 

 

《勝利の為に力を重ねよ!カノナス・カサルティリオ!》

 

 

攻撃がまだ通らない事に一夏は焦りを覚えながらもオルコスの効果発動宣言を行い、グラッジアローを破壊する。

これにより、オルコスの再攻撃が可能になり、ソウルにグラッジアローが入る。

 

 

「そして、アタックフェイズ中なので1ドロー!破壊されたグラッジアロー・ドラゴンの効果!デッキから、『ドラゴンフォース “煉獄の型”』を手札に!」

 

 

一夏

手札3→5

 

 

「がぁああああああああああああああ!!!」

 

 

深夜は身体の向きを変え、一夏達に向かって咆哮する。

だが、一夏は止まらない。

 

 

「俺とオルコスソード・ドラゴンとホワイトタイプ・ドラゴンで連携攻撃!行くぞ!!」

 

 

《任せろ!》

 

 

《はい!》

 

 

弾幕をかいくぐりながら、深夜に近付く3人。

オルコスの攻撃力は12000、白式の攻撃力は6000、エクスピアソードの攻撃力は7000、合計25000。

さっきのオルコスとグラッジアローの連携攻撃での攻撃力を超えた。

 

 

「がぁあああああああああ!!!!」

 

 

深夜は、向かってくる一夏達を確認すると、大きく咆哮する。

それ以上近付けさせないと更に発砲しようとする。

だが

 

 

「させない!」

 

 

「こっちを見ろ!」

 

 

射撃が止まった事で態勢を立て直した3人が別々の方向から攻撃を行い、一夏達への発砲の妨害をする。

深夜は何処に攻撃するのか一瞬迷ったのか…それとも、IS側が迷ったのか定かではないが、深夜の動きが一瞬固まった。

そして、煉獄騎士団にはその一瞬で十分だった。

 

 

「《 《はぁああああああああ!!!!》 》」

 

 

オルコス、白式、一夏3人の斬撃が同時に深夜の身に纏うISの装甲を切り裂く。

 

 

 

「ぎゃあああああああああああああ!?!?!?」

 

 

装甲に傷をつけられた深夜は、痛みを感じているかのような悲鳴を上げる。

今までの攻撃では全くと言って良いほどダメージが入らなかった深夜に、漸くダメージが入ったのだ。

 

 

「オルコスソード・ドラゴンの効果!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

オルコスの効果が発動し、白式は破壊され、オルコスのソウルに入る。

そしてアタックフェイズなので一夏は1枚ドローする。

 

 

一夏

手札5→6

 

 

「ホワイトタイプ・ドラゴンの破壊時効果!相手にダメージ2!」

 

 

《ふっ!》

 

 

「ぎゃあああ!?!?」

 

 

白式からエネルギーを受け取ったオルコスが、そのエネルギーを斬撃として深夜に飛ばす。

斬撃は先程一夏達が着けた傷へとあたり、再び深夜が声を漏らす。

その巨大な全身がぐらりと傾く。

 

 

「オルコスソード・ドラゴンでアタック!」

 

 

《ハァッ!!》

 

 

オルコスが倒れかけている深夜を蹴り飛ばし、更に体勢を崩させる。

この攻撃では、深夜へのダメージはほぼゼロだろう。

何せ、蹴り飛ばしただけなのだ。

クラリッサ達の銃撃を受けてもノーダメージだった深夜に、これでダメージが入っているとは到底思えない。

 

 

だが、これでいいのだ。

一夏の、オルコスの狙いはこのアタックでダメージを与える事ではない。

 

 

「クラリッサ!チェルシー!楯無さん!傷の所を攻撃ィ!!」

 

 

「「「任せて!」」」

 

 

さっきの連携攻撃で装甲に傷をつけた時から、MAX威力での攻撃用意をしている3人に、傷を攻撃してもらうためだ。

一夏達はこの行動の相談を1度もしてない。

なんなら、オルコスへの指示はただのアタックだけだった。

だけれども、一夏はそれだけで相棒に伝わると信じていたし、オルコスも相棒の真意を受け取った。

そして、3人は一夏とオルコスが自分達の行動を察してくれていると信じていた。

 

 

全員の相手への信頼が、事前相談なしでのこの攻撃につながった。

 

 

「「「はぁああああ!!」」」

 

 

ドガァアアアアン!!

 

 

「がぎゃああああああああああああ!?!?!?!?」

 

 

ガッシャァアアアアアアン!!!

 

 

3人の全力の攻撃が、見事狙い通りの場所にクリーンヒットする。

深夜は絶叫と同時にその巨体を地面に落とす。

 

 

「良し…!!」

 

 

一夏は思わず笑顔を浮かべながらそう言葉を発する。

今まで全くダメージを与えられなかった深夜を、地面に転がせる事に成功したのだ。

そんな反応をしてしまうのも無理はない。

 

 

だが、オルコスはそんな一夏に心配そうな視線を向ける。

一夏本人はアドレナリン等で気が付いていないのか、それとも気付かないふりをして誤魔化しているのか、特に反応をしていないが、呼吸が確実に荒くなっていた。

顔にはびっしりと汗をかいており、伸びた髪も濡れていた。

 

 

《一夏!大丈夫か!?》

 

 

「大丈夫だ!まだ終わってないぞ!」

 

 

「がぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

一夏の言葉の直後に、地面に落ちた深夜が今までで1番大きな咆哮をあげる。

その瞬間に全員が何時でも反応出来るように各々の武装を構える。

 

 

バサァ!!

 

 

まるで翼をはためかせるかのような音を立てながら、深夜が再び浮遊を始める。

その表情はさっきまでのただ目の前の障害を倒そうとしていたものではなく、明確な怒りが現れていた。

 

 

 

「ぐううぅぅぅ……がぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

ドガァアン!ドガァアン!!ドガガガァアアアアン!!!

 

 

咆哮と同時に、今までとは比べ物にならない程の威力、密度の弾幕が周囲に展開される。

 

 

「嘘だろ!?」

 

 

《くっ!これは…!!》

 

 

「危ないっ!?」

 

 

「きゃあっ!?」

 

 

「うひゃあっ!?」

 

 

一夏達はすぐさま回避行動に移る。

さっきまででさえギリギリだったのに、威力も密度も上がったのだ。

集中を切らさないのは当然、どれだけ早く反応出来るかに、生死が掛かっていると言っても過言ではない。

 

 

ドガァアアアン!ドガガガァアアアアン!!ドガガガガガガァアアアアアン!!!

 

 

天井や壁が傷つき、破片が床へと落下していく。

その余りある威力は、ここが地下だというのに天井から京都の空を見上げる事を可能にさせるほどだった。

 

 

「くそ、このままじゃ………っ!!」

 

 

表情を歪めながらそう呟いた一夏は、視線の端であるものを見つけた。

 

 

「マドカァアアアアアアア!!」

 

 

一夏は思わず叫ぶ。

その視線の先では、天井から落下した瓦礫が、身動きの取れないマドカに向かって行っていた。

 

 

《っ!!》

 

 

オルコスが銃弾を避けながら全速力でマドカに向かって行く。

 

 

《ぐぅっ!?》

 

 

避けるのに専念していてやっと避けれていたのだ。

当然、別の事を思考に入れ始めたら、被弾してしまうのも仕方が無い。

 

 

「ソウルガードで復活!」

 

 

一夏

ドロップ→煉獄騎士団 グラッジアロー・ドラゴン

 

 

それを視界の端で視認していた一夏のソウルガード宣言により、オスコスは場に残る。

 

 

《ハァア!!》

 

 

ドガァン!

 

 

なんとか間に合ったオルコスが瓦礫を斬り、粉砕する。

これで、マドカへの危機はいったん去った。

オルコスは直ぐに流れ弾が行かないようにその場から離れ、再び回避に専念しだす。

 

 

「オルコス、ありがとう」

 

 

《気にするな!今はとにかく避けろ!》

 

 

「分かってる!」

 

 

「がぁあああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

一夏とオルコスの会話を遮る形で、深夜が大きく咆哮をあげる。

 

 

「っ!?」

 

 

「楯無さん!」

 

 

「だ、大丈夫大丈夫!!」

 

 

ここで、遂に楯無が砲撃に掠ってしまった。

脚部装甲が抉れ、一瞬表情をしかめる。

絶対防御があるので楯無本人は怪我を負っていないが、衝撃を完全に殺すことが出来い程の威力だった。

 

 

そんな楯無を見て、一夏はより一層緊張感を露わにする。

忘れがちかもしれないが、煉獄騎士の鎧は白式に組み込まれていたコアを宿してはいるものの、ほぼただの鎧と同じなのだ。

最低限の防護機能はあるものの、逆に言えば最低限しか無いのだ。

そんな状態では、あの楯無が掠っただけで顔をしかめるほどの威力の持つ射撃をまともにくらうのはマズイ。

そんなヒリヒリとした危機感が、一夏に緊張感を与えているのだ。

 

 

「がぁあああああああああああああああああ!!!」

 

 

ドキュウン!!

 

 

そんな一夏の事など、どうでもいいかと言うように深夜は咆哮をあげる。

 

 

「ちっ!キャスト!『ドラゴンシールド 黒竜の盾』!ダメージを0にし、ライフを1回復する!」

 

 

一夏

ライフ6→7

手札6→5

 

 

自分に向かってきた銃弾を魔法を使用し防いだ一夏。

だが、このままずっと耐えているだけじゃただ手札を消費するだけ。

何時か手札が無くなったら、もう魔法に頼ることは出来ない。

この状況を打破するには、自分から動くしかない。

 

 

「っ!クラリッサ!チェルシー!反撃は出来そうか!?」

 

 

「む、無理だ!」

 

 

「こっちも、無理!」

 

 

「やっぱりか…!なら、俺達が行くしかない!オルコス、行くぞ!俺のターン!!」

 

 

一夏

手札5→6

ゲージ5→6

 

 

一夏は自分のターン宣言を行い、行動を開始する。

あのオルコスがちょっと別の事を思考に入れただけで被弾をしてしまう状況。

それなのに、ターン進行をするのはとても無謀だ。

だが、だからといってこのまま避け続けるのには限界がある。

無謀だと分かっていても、するしか無いのだ。

 

 

「センターにコール!『新生煉獄騎士団 ホワイトナイト・ドラゴン』!」

 

 

《行きます!》

 

 

センターにコールされた白騎士も、既に状況を把握していたので直ぐに回避行動をとり始める。

 

 

「きゃあっ!?」

 

 

「チェルシー!?」

 

 

「だ、大丈夫よ!」

 

 

「……レフトにコール!『新生煉獄騎士団 クロスボウ・ドラゴン』!」

 

 

《シャアッ!》

 

 

一夏

手札6→4

 

 

恋人の悲鳴に思考が遮られるが、直ぐに切り替えニードルクローをレフトにコールする。

ニードルクローも白騎士のように回避行動をとり始める。

だが、2体のコールをしてからは次の行動をとる事が出来なかった。

全員が暫くの間回避に専念する。

 

 

そうして、何分経ったのか分からない程の激しい時間が過ぎた。

 

 

そんな中、一夏は気が付いた。

 

 

(っ!実弾が切れた!!)

 

 

そう、実弾が切れたことに。

深夜のISは、今まで絶え間なく発砲を続けていた。

だが、当然ながら実弾銃は弾切れというものが存在する。

リロードをしなければ、撃ち続ける事が出来ない。

 

 

さっきまでは、深夜は冷静さを多少なりとも残していたため、リロードを行いながら射撃をしていた。

だが、一夏達にダメージを与えられ、冷静さを失い、リロードを忘れた。

結果として、弾切れを起こした。

 

 

それに気が付いた深夜はレーザー弾の発砲を続けながら直ぐにリロードする。

だが、それでも事実として一瞬だが攻撃が落ち着いた。

 

 

その隙を逃す程一夏は甘くない。

目を見開き、1枚のカードを頭上に掲げる。

 

 

「解放条件は、俺の場にオルコスソードと名のつくモンスターが存在する時!」

 

 

一夏のその言葉と同時に、両肘から先と両膝から先を残し、鎧が弾け飛ぶ。

一夏に向かって来ていたレーザー弾がその余波で消え去る。

 

 

「『ドラゴンフォース “煉獄の型”』!解、放ぉ!!」

 

 

一夏

手札4→3

ドロップ+5

 

 

そうして、一夏はドラゴンフォースを解放。

エクスピアソードがドロップゾーンに送られる。

 

 

「がぁ…?がぁあああああああああああああああああああ!!」

 

 

深夜は突如として姿が変わった一夏を視界に収め、咆哮をあげる。

警戒心が芽生えた為か、射撃がいったん止まる。

砲撃が止まった事で3人も止まり息を整えながらも、何時再開してもいいように態勢を構えている。

 

 

「って、一夏君!?何それ!?」

 

 

「説明は後で覚えてたらします!」

 

 

ドラゴンフォースを初めてみる

 

 

「がぁあああああああああああああああああ!!!」

 

 

「アタックフェイズ!オルコスソード・ドラゴンとニードルクロー・ドラゴンで連携攻撃!!」

 

 

《行くぞ!》

 

 

《はい!》

 

 

深夜が一夏達に向かって咆哮をあげる。

それと同時にアタック指示を受けたオルコスとニードルクローが連携攻撃を仕掛ける。

 

 

ドキュウン!ドキュウン!!

 

 

深夜が射撃を行う。

その射撃は、リロードの事を考える冷静さを取り戻したからか、さっきまでのただ撃ってるだけの滅茶苦茶な射撃ではなく、しっかりと狙いを定めた射撃だ。

とてつもない銃弾量である事に変わりはない。

だが、先程までの無差別的な攻撃に比べたら明らかに弾幕の密度は下がった。

これなら、いける。

 

 

《 《ハァアア!!》》

 

 

「ぎゃああああああ!?」

 

 

先程出来た傷の部分にオルコスの斬撃とニードルクローのクロー着きのパンチがクリーンヒットする。

深夜は再び悲鳴のような咆哮をあげる。

 

 

「効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

一夏

ライフ7→9

手札3→4

ゲージ6→8

 

 

ニードルクローは破壊され、オルコスのソウルへ入る。

一夏はオルコスの効果でドローし、ニードルクローの効果でライフとゲージを回復させる。

 

 

「オルコスソード・ドラゴンとホワイトナイト・ドラゴンで連携攻撃!」

 

 

《ハァア!》

 

 

《せぇい!》

 

 

すぐさまオルコスが再び同じ位置を切り裂き、ワンテンポ遅れて白騎士が切り裂く。

 

 

「ぐぅうううううう!?!?」

 

 

深夜は身体を大きくのけぞらせ、苦悶の声を発する。

 

 

「オルコスソード・ドラゴンの効果発動!」

 

 

《カノナス・カサルティリオ!》

 

 

一夏

手札4→7

 

 

白騎士は破壊され、オルコスのソウルに入る。

一夏はオルコスの効果と白騎士の効果で合計3枚ドローした。

 

 

「オルコスソード・ドラゴンでアタック!」

 

 

《ハァアアアアアア!!》

 

 

「がぁああああああああああああああああああ!!!」

 

 

単身向かってくるオルコスに対し、深夜は咆哮をあげる。

そしてオルコスに向かって発砲しようとするが

 

 

「私達の事を、忘れてもらっては困る!!」

 

 

「邪魔はさせない!」

 

 

「この作戦、勝って簪ちゃんに癒してもらう!」

 

 

「がああああああぁぁぁぁぁ……!!!!」

 

 

クラリッサ、チェルシー、楯無の妨害攻撃によってそれも上手く行かない。

クラリッサとチェルシーが格好いい事を言ったのに、楯無が只の欲望を叫んだことはご愛敬である。

 

 

《ハァア!》

 

 

「ぎゃああああああああああ!?!?」

 

 

3人の助けもあり、オルコスはしっかりと深夜への攻撃を成功させる。

 

 

「俺でアタッ…」

 

 

このままの流れで、一夏も深夜に攻撃をしようとする。

言葉を発しながら、深夜の流れ弾を避けるための動きから接近の為の動きに切り替える。

そしていざ深夜に攻撃をしようとした時。

一夏は動きを止めた。

いや、止めてしまった。

 

 

 

 

 

 

「ガハッ…!?」

 

 

一夏はそんな声を唐突に発する。

両目を見開き、肺の中の空気を吐き出す。

その手や足、口元は震えており、一目見て体調が悪いという事が分かるほどだ。

 

 

《一夏!?》

 

 

アタック後、一夏からは離れた位置にいるオルコスがそう声を発する。

 

 

「あ、あ、あ……」

 

 

一夏にそれに反応する余裕はない。

 

 

戦闘開始前から懸念していた事。

一夏の症状の発症。

それが、遂に起こってしまった。

 

 

そしてここは戦場であり、動きが止まっている人間を見逃す程深夜も甘くはない。

 

 

「がぁああああああああああああああああああ!!!」

 

 

ドキュウン!ドキュウン!!ドドドキュゥウン!!!!

 

 

咆哮をあげて、表情を真っ青にしながら身体を震わせている一夏に向かって発砲をする。

 

 

「うっ…!」

 

 

(や、ば、い…!回、ひを……!)

 

 

一夏はその場から動こうともがくも、身体が言う事を聞いてくれない。

ゲージも手札もさっき回復したので防御魔法も使えるが、そこまで思考が働かないし、働いたとしても直ぐに発動できるくらいに素早く身体を動かせない。

 

 

「「一夏ぁあああ!!」」

 

 

バババババババァアアアン!!

 

 

クラリッサとチェルシーの叫びも虚しく、大量の弾丸が一夏に着弾する。

 

 

ガッシャァアアアン!!

 

 

一夏

ライフ9→0

 

 

声を出すこともかなわなかった一夏のライフは0になった。

地面に落下し、頭を打ち付ける。

ドラゴンフォースが解除され、煉獄騎士の鎧もダークコアデッキケースに戻り一夏の近くに転がる。

一夏は頭から血を流しながら気絶しており、このままでは危険だ。

 

 

クラリッサとチェルシーは、大切な恋人のそんな姿を見て呼吸が荒くなっていく。

今すぐにでも一夏の元に向かいたいがまだ戦闘中。

一夏を巻き込む危険があり、近寄ることが出来ない。

 

 

「がぁああああああああああああ!!」

 

 

一夏が気絶したことはお構いなしに、深夜が咆哮をあげる全方位に向けた発砲を再開する。

 

 

《クソ…》

 

 

ダークコアデッキケースからのコールを受けていたオルコスの肉体が維持できなくなり、消滅する。

 

 

「くぅ!?」

 

 

「このっ…!!」

 

 

「きゃあっ!?」

3人はさっきと全く変わらない弾幕の勢いに必死に避け始める。

 

 

だが、一夏が倒れたという精神的ダメージ、それに加え長引く戦闘の疲労から先程のような動き化が出来ず、徐々に徐々にSEが減っていく。

 

 

「このままじゃ…!」

 

 

「がぁああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

深夜が咆哮をあげ、弾幕が一段と激しくなる。

万事休す。

この場にいる全員が思わずそんな事を考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

そんな時だった。

深夜が開けた地上へ続く穴。

そこから、叫び声が聞こえてきた。

 

 

「「「っ!」」」

 

 

全員が動きを止めないようにしながらも、その方向を見る。

急に聞こえてきた声に、当然ながら深夜も気が付き発砲を止め天井の穴を見上げる。

 

 

その、一瞬後だった。

 

 

ズバァアン!!

 

 

「ぎゃああああああ!?!?」

 

 

輝くエネルギーの刃で、世界最強が深夜の事を切り裂いたのだ。

 

 

「織斑先生!」

 

 

楯無は思わずそんな嬉しそうな声を発する。

声には出していないものの、クラリッサやチェルシーも嬉しそうな表情を浮かべている。

 

 

「今だ!」

 

 

世界最強……千冬はあえて大声を出すことで深夜の注意を惹く。

狙い通り、深夜は千冬に視線を向け、発砲しようとする。

だが、その直前。

 

 

「はいっ!山嵐、全弾発射!」

 

 

千冬がやって来たのと同じ穴から姿を現した簪が、深夜に向けて山嵐のミサイルを全弾発射する。

 

 

「がぁあああああああああああああ!!」

 

 

千冬に気を取られ、反応が遅れた深夜。

それでもミサイルを撃ち落とす為に、大量に発砲する。

 

 

ドガァァァアアアアアン!!

 

 

爆撃音と共に部屋に黒煙が発生、部屋を充満する。

天井や壁に穴が開いているので、ここが地下室ではあるものの時間が経てば確実に煙は晴れる。

だが、たとえ一瞬でも深夜の視界を遮れた事に意味がある。

 

 

「「っ!!」」

 

 

クラリッサとチェルシーは記憶していた一夏が倒れた場所に一直線に向かう。

ハイパーセンサーを使用し、一夏の事を見つけるとそのまま守るように抱きしめる。

 

 

『お前たち、どういう状況だ?』

 

 

そんな中、千冬からプライベートチャネルでの通信がクラリッサに入る。

 

 

「私達がこの部屋に到着した時、隊長達Bチームは気絶していました。その後、現れた橘深夜が見たことも無いISを展開、私達と交戦を開始しました。橘深夜のISは非常に強力で並みの攻撃ではダメージ無し。

一夏やオルコスソードの活躍でダメージを与えられるようになったなか、一夏が被弾、頭から血を流して気絶しています」

 

 

『なるほどな…』

 

 

「がぁああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

クラリッサの報告の後、千冬が状況を把握した声を出し、深夜が咆哮をあげる。

その一瞬後、

 

 

バサァッ!!

 

 

そんな音を立てながら、深夜が背中の翼のような部分を使い、周囲の黒煙を一気に払う。

副産物である強い風圧に意識を保っている全員が顔をしかめる。

そうして煙が晴れた時、

 

 

「がぁあああああああああああああああ!!!」

 

 

深夜が怒りの籠った表情で咆哮をあげた。

今にも飛び掛からないと言わんばかりの体勢をとり、息を吐いている。

 

 

「お前たちは一夏達を守ってくれ!更識姉妹は私のサポートだ!」

 

 

「「「「はい!」」」」

 

 

千冬の登場により、士気を取り戻した3人。

チェルシーがダークコアデッキケースと共に一夏を抱え、他の気絶した人達の元へと連れて行く。

そしてクラリッサと共に戦闘不能メンバーを守る行動を開始する。

 

 

「がぁああああああああああああああ!!」

 

 

ドキュウン!ドキュウン!!

 

 

深夜は急に現れ、自分に大きなダメージを与えた千冬を危険だと判断。

集中的に攻撃をしていく。

 

 

「ふっ!」

 

 

暮桜・明星は束お手製の第五世代のISであり、千冬は現役時よりは身体能力が落ちたものの、この場に置いて屈指のIS操作技術を誇る。

一夏達が必死に避け、攻撃のチャンスで漸く接近出来た深夜の弾幕を難なく避け接近をしていく。

 

 

「ハァッ!」

 

 

「お願い!」

 

 

それに加え、深夜の狙いが千冬に集中している為、楯無と簪はほぼフリー。

よって、アクアナノマシンや大量のミサイルによって千冬への攻撃を妨害していく。

 

 

「ハァア!」

 

 

ズバァン!ズバァン!!

 

 

「ぎゃあああああああああああああああ!?!?」

 

 

零落白夜を発動した千冬の攻撃は一撃必殺級のもの。

いくら防御力が高くても、関係が無い。

そして、深夜が身に纏っているISは通常のものよりも全体が遥かに巨大である。

その為、全方位を向けた射撃以外の攻撃手段では小回りが利かず、当たる可能性が極端に低くなってしまう。

 

 

それでも、深夜が十全な状態だったら千冬も苦戦を強いられていただろう。

だが、一夏達が装甲に傷をつけ、そこに何度も攻撃したことにより深夜にもダメージが蓄積されており、一夏達と戦闘していた時より確実に攻撃のキレが落ちている。

 

 

その結果、深夜は確実にダメージを蓄積されていっていた。

 

 

「ハァアアアアアアア!!」

 

 

「ぎゃあああああああああ!!」

 

 

ズドォォオオオン!!

 

 

深夜は咆哮と共に地面に倒れ込む。

地面が割れ、辺りに衝撃がはしる。

 

 

「がぁあああああああああああ……」

 

 

深夜が唸り声を発しながら地面に手を付き、睨みながら立ち上がろうとする。

それに対し千冬は雪片弐型を構えなおし、簪や楯無も直ぐに遠距離でも近距離でも対応できるように構える。

クラリッサとチェルシーも、気絶している一夏達を守るように、また直ぐに攻撃に移れるようにする。

 

 

深夜が今にも飛び掛からんといった体制で立ち上がろうとした時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そのくらいにしておけ』

 

 

その声は、唐突に部屋に響いた。

 

 

「「「「「っ!?!?」」」」」

 

 

深夜以外の意識を保っている全員が驚きの表情を浮かべ、周囲の警戒を行う。

 

 

『データは揃った。もうこれ以上戦う必要もない』

 

 

その声は、明らかに通信機器越しの声をしており、話している本人がこの場にいない事は全員が察した。

それに加え、男性か女性か、年はどれくらいか。

そう言った情報の検討すらできない。

 

 

「っ!貴様、何者だ!」

 

 

千冬の怒声に対し、通信機の向こうの人物は暫く考えるような間を置いた後、言葉を発する。

 

 

『…化け物の創造主』

 

 

「「「「「なっ!?」」」」

 

 

その声を聞き、全員が驚きの声を発する。

化け物と言われ、全員が深夜の事を想像した。

その創造主と言われたら、驚くに決まっている。

 

 

『橘深夜、エリアR-44に戻れ。ああ、それと君達に伝えておこう。化け物というのは、橘深夜の事じゃないぞ?』

 

 

「「「「「へっ?」」」」」

 

 

今、耳が拾った衝撃な情報。

戦場だというのに、5人は思わず間抜けな声を出して固まってしまう。

だが、それが声の主の狙いだったのだろう。

 

 

「がぁああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

ドガァアアアアアアアアアアアアン!!

 

 

千冬たちが固まっているうちに深夜は咆哮をあげ、天井に穴をあける。

そして、さっきまでフラフラだったとは思えない程のスピードで空の彼方へと飛んでいった。

 

 

「「「「「……」」」」」

 

 

この場に残った千冬たちには、何とも言えない空気が漂っていた。

 

 

深夜が身に纏っていたISはいったいなんだ。

何故自分達を攻撃してきたのか。

そもそも何故、こんな場所にいたのか。

あの声の主は誰だ。

化け物の正体とは。

 

 

疑問を上げればキリがない。

だが、何時もまでもこうしている訳にはいかない。

 

 

「……撤収する!気絶している一夏達を手分けして旅館に連れて帰るぞ!直ぐに検査と治療がいる!」

 

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 

千冬の指示に従い、気絶している一夏とBチームの事を手分けして旅館へと向かう。

特に一夏は頭を打ち付けて流血しており、早急に検査が必要である。

 

 

亡国企業の戦力低下と情報収集という目的の襲撃作戦。

戦力低下は出来たかもしれないが、考えても分からない大量の謎が出て来てしまった。

 

 

そんな後味の悪い結果で、作戦は幕を閉じたのだった。

 

 

 




まだまだ使われる黒竜の盾さん。
作者も昔ガルパ二から助けてもらいました(ダメージは0に出来なくても1回復は出来るのでそれでライフ5にして耐える)。
でもそろそろデッキからいなくなるかもです。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想もよろしくお願いします!


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作戦後、旅館にて

サブタイそのままです。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

京都の亡国企業襲撃作戦終了後。

一夏達の拠点である霞荘。

 

 

一夏、クラリッサ、チェルシーが寝泊まりする部屋である青龍の間。

部屋の中央にポツンと1つだけ布団が敷いてあり、その上に未だ気絶したままで、頭や腕に包帯が巻かれた一夏が横になっていた。

枕の横には、ダークコアデッキケースがどこか寂しそうに置かれていた。

 

 

あの後、意識を保っていた千冬たち5人は抱えてる一夏とBチームに負担がかからない程度での最高速度で霞荘へと帰還した。

移動の途中で真耶に連絡を入れ、検査と治療の準備をしてもらった。

そして帰還して直ぐに全員の検査をした。

 

 

その結果として、全員身体に異常は発見されなかった。

高いところから落ち、頭を打ち付けた一夏も異常がない事を知ったとき、クラリッサとチェルシーが思わず泣きそうになったのは仕方があるまい。

 

 

そうして怪我の治療を全員に施し、一夏は青龍の間に、Bチーム全員が作戦会議室に別れて寝かされた。

今はBチームのメンバーが目を覚ましたとの事で、千冬たち全員が作戦会議室に向かったため、一夏が1人部屋で寝ているのである。

もしもの時はダークコアデッキケースの中のデッキにて休息をとっているオルコス達が知らせてくれる為、いったん全員で作戦会議室に行ったのだ。

 

 

「ん、んんぅ…?」

 

 

Bチームが目を覚ましたとの連絡があってから約20分後。

一夏が意識を取り戻した。

天井にある明かりの刺激から目を守るため咄嗟に枕に顔を埋める。

その時に、自分の頭や腕に包帯が巻かれているのに気が付いた。

 

 

(包帯…?なんで……?)

 

 

長時間気絶していて、起きた直後だからか頭が働いていないのか、自分に包帯が巻かれている理由を思い至っていない一夏。

疑問を抱いたまま再び天井を見上げた時、ここが旅館だという事を思い出した。

それをきっかけに、ジワジワと記憶が蘇ってきた。

 

 

「っ!そうだ、亡国企業襲撃作せっ!?痛たたた!!」

 

 

思い出した内容に思わず身体をガバッと起こした一夏だが、その瞬間に身体に走った激痛に思わず顔をしかめる。

 

 

「そうか…俺、症状が出て、深夜の攻撃で被弾して……そっから先の記憶がない。気絶してたか……」

 

 

思い出したはずなのに、記憶が欠けている事から、自分が気絶していたという事に気が付いた。

部屋をぐるりと見回すと、戦闘前に自分達が置いて行った荷物が視界に入った。

 

 

「俺達の部屋…それに治療がされてるって事は、ちゃんと帰ってこれたって事か……」

 

 

声に出すことで、頭の中での状況整理をよりしやすくする。

状況整理はバディファイターとしての必須スキルが故、一夏もスムーズに出来るのである。

 

 

「他の人は…クラリッサとチェルシーは大丈夫か……?」

 

 

自分の身体よりも心配になるのは自分の恋人の事。

一夏は今すぐにでも部屋から出て行きたかったが、さっき身体を動かした時に走った激痛を再び味わいたくは無い為布団からは出ない。

 

 

「よっと…」

 

 

一夏はなるべく身体を動かさないようにしながらダークコアデッキケースを手に取る。

中からデッキを取り出す。

 

 

「オルコス達も休憩中かな」

 

 

そう呟いた一夏はデッキのカードを確認する。

戦闘前と特にデッキレシピも変わらず、紛失も傷も無い。

安心したような表情を浮かべた一夏はそのままデッキを布団の上に置くと、そのままダークコアデッキケースをマジマジと確認する。

 

 

ダークコアデッキケース、もとい煉獄騎士の鎧は元々IS戦闘用ではなく、バディファイト用である。

つまり、激しい戦闘に耐えられる保証が何処にもないのだ。

臥炎財閥制の正規品ではなく、煉獄騎士団の魔力で再現した代物である点も考慮しないといけない。

再現品であるが故、ISコアが宿る事が出来ている。

だからといって、耐久力が上がっているとも限らない。

 

 

本来交わる事の無かった2つの世界。

それぞれの世界の発明品の融合品であるからこそ、一夏は当然束にもメンジョ―はかせにも未だ分からない事が多いのだ。

 

 

「破損は……無いっぽいな……」

 

 

一先ずの破損は無さそうでほっとした表情を浮かべる一夏。

置いていたデッキをダークコアデッキケースに戻し、枕の横に置く。

 

 

「喉が渇いたな…」

 

 

長らく気絶していて、起きてからも水分をとっていないので流石に喉が渇いてきた。

 

 

「歩けるかな…まぁ、究極の事態になったらエナドリあるし…」

 

 

ちらっと荷物を見ながらそう呟く一夏。

新幹線で恋人と妹に止められている為あまり飲みたくないし、そもそも寝起き一発目の水分がエナドリなのはあまりよろしくないので、普通に水が飲みたいのだ。

 

 

だが、激痛の事を懸念してなかなか行動に移せない。

 

 

「ふぅ…行くか!」

 

 

バディファイターは、時に相手の手札に対抗魔法がある可能性が高くても行動をしないといけない。

それと同じで、激痛が走ると分かっていても水分を取りに行かないといけない。

覚悟を決め、いざ立ち上がろうとした時

 

 

スゥーー

 

 

扉が開いた。

折角決めた覚悟が無駄になり何とも言えない感情を抱きながら、一夏は視線を扉の方に向ける。

 

 

「「……」」

 

 

「あ、クラリッサ!チェルシー!」

 

 

扉の向こうには、大切な恋人であるクラリッサとチェルシー。

一夏は一瞬にして笑顔になり右手を2人に向かって振ると同時に、心の中で安堵の息を漏らす。

自分以外の戦闘メンバーがどうなっているのかは全く分からなかったので、クラリッサとチェルシーの無事が分かったので安心したのだろう。

 

 

そんな一夏の様子を見て、クラリッサとチェルシーは動きを固める。

 

 

「ん?どうした?」

 

 

そんな2人の様子に一夏は首を捻る。

クラリッサとチェルシーは目元に涙をため、口元を震わせながら地面を蹴る。

 

 

「「一夏ぁああああああああ!!」」

 

 

「うおぉ!?」

 

 

そして、そのままの勢いで同時に一夏に抱き着く。

急な事で一夏は驚いた声を発するも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そのまま2人の事を受け止める。

 

 

「一夏ぁ…!一夏ぁ……!!」

 

 

「良かった…良かったぁああああ……!!」

 

 

2人は一夏の胸に顔を埋め、身体を震わせながら泣き始める。

 

 

「っ……」

 

 

大事な恋人のこんな様子を見て、一夏も悲しそうな表情を浮かべ、奥歯を噛み締める。

 

 

(ああ、また俺は…恋人を悲しませてるのか……)

 

 

一夏はクラリッサとチェルシーの背中に手をまわし、思いっきり抱きしめる。

一夏に抱きしめられた事で、2人は強張っていた身体から少しだけ力を抜く。

それから暫くの間3人はそうして抱き合っていた。

 

 

「ん、一夏、そろそろ…」

 

 

「ああ、ずっとこうしていたいけど、そうもいかないからな」

 

 

名残惜しい感じを醸し出しながらもいったん離れる3人。

クラリッサとチェルシーの目元は若干赤くはなっているものの、さっきまでとは違い落ち着いていた。

 

 

「それでさ、俺被弾してからの記憶無いんだけど…あの後、どうなった?」

 

 

一夏は取り敢えず一番気になっている事を2人に聞いた。

クラリッサとチェルシーは頷き合うと、一夏に説明を開始した。

 

 

一夏が気絶した後、千冬と簪が駆け付けた事。

2人のお陰で態勢を立て直し、深夜を追い詰める事に成功した事。

そんな中、何処からともなく謎の声が聞こえてきた。

その謎の声は『化け物の創造主』と名乗り、深夜に帰還命令を出した事。

その際に、化け物とは深夜の事ではないとの事を伝え、驚きで千冬たちが固まっている間に深夜が何処かに飛んでいってしまった事。

 

 

その全てを。

 

 

「そっか…そんな事が…」

 

 

説明を聞き終えた一夏は、若干悔しそうな表情を浮かべる。

そんな大切な時に被弾して、戦力になれなかったのが悔しいんだろう。

 

 

「一夏」

 

 

「チェ、チェルシー?」

 

 

そんな一夏の様子を見て、チェルシーが一夏の名前を呼びながらその頬に両手を添える。

急にそんな行動をされて、一夏は少し動揺しながらチェルシーの名前を呼ぶ。

チェルシーはジッと目を見つめながら優しく言葉を発する。

 

 

「一夏、気にしなくて良いのよ。一夏は私達に言ってくれたでしょ?『みんなが必要だ』って。それは一緒。一夏が居たから、ダメージを与えてくれたから、あの後しっかり戦えた。だから、自身を持って?」

 

 

「チェルシー…」

 

 

チェルシーにそう言われ、一夏は身体から力を抜く。

そんな一夏に、後ろからクラリッサが抱き着いた。

 

 

「クラリッサ!?」

 

 

背中に感じる柔らかい2つの感触に驚きの声を発する一夏。

何時も一夏の方が自分達を慌てさせる側なので、珍しく慌てる様子を見てクラリッサは若干笑みを浮かべると、優しく話し始める。

 

 

「一夏、今は身体をしっかり休ませて。橘深夜の攻撃は、掠っただけで絶対防御が発動するものだったんだ。それをまともに受けたんだから、今は安静に。身体は、一番大事な資本だぞ?」

 

 

「クラリッサ…」

 

 

恋人2人に優しく諭され、一夏は少しの間呆けたような表情を浮かべていたが、やがて微笑を浮かべると降参を示すように両手を上げた。

 

 

「今日はなんか、2人に勝てないな」

 

 

「ふふふ、一夏、忘れているかもしれないが私達の方が年上なんだぞ?」

 

 

「そうよ、偶には私達が主導権を握っても良いじゃない」

 

 

チェルシーは一夏の頬に当てていた両手を離し、クラリッサと同様に一夏に抱き着き、2つの柔らかいものを押し付ける。

 

 

「っ!?////」

 

 

これまた珍しく顔を赤くする一夏。

何時も凛としていて、こっちが恥ずかしくなるような言動をしている一夏が、自分達の行動で動揺し顔を赤くしている。

その事実が、クラリッサとチェルシーの中に悪戯心を芽生えさせた。

視線を合わせ頷き合うともっと身体を密着させ、

 

 

「「ふぅ」」

 

 

同時に左右の耳に息を吹きかける。

 

 

「へぁっ!?」

 

 

一夏にしては間抜けな声を発し、顔を更に真っ赤にする。

 

 

「ちょ、ちょっと…」

 

 

拘束から逃れようとする一夏だが、前後からガッチリ抱き着かれているので動けない。

普段ならば簡単に逃げられる、というよりかはそもそも捕まらないのだが、寝起きであるという事、抱き着かれた際は避ける理由が無かった事、さっき動揺させられた事等々の理由が重なりこのような状況になっているのだ。

 

 

「え、あ、そ、え…」

 

 

一夏はアワアワしながら視線を泳がせる。

何時も通りの思考をしようとしても、動揺と羞恥心で上手く行かない。

そんな様子を見て、クラリッサとチェルシーは微笑ましいものを見る笑みを浮かべる。

キョロキョロしている一夏は、2人の笑顔が視界に入り、恥ずかしい思いが芽生えると同時、何処か安心を覚えた。

 

 

さっき自分のせいで泣いていた大切な恋人が、今は笑顔で自分の事をいじっている。

その事実が、一夏に安心感を与えているのだ。

だが、だからといってずっとこのままでいる訳にもいかない。

まだ正常に機能していない脳を必死に働かせ、この状況を突破する手段を考える。

その間もクラリッサとチェルシーはずっと一夏に抱き着いており、一夏の匂いや熱をしっかりと感じていた。

 

 

そうして大体十数分が経った時。

この状況は唐突に終わりを迎えた。

 

 

「お前たち、大丈夫か?そろそろ晩御飯…」

 

 

「「「へっ?」」」

 

 

一夏の様子を見に行ったクラリッサとチェルシーが帰ってこないのでやって来た千冬が、開けっ放しだった扉から顔を出した。

視線の先で自分の弟を両側から挟み、柔らかいものを押し付けている弟の恋人2人。

そんな光景が急に飛び込んで来て千冬は動きを固める。

そして、千冬に見られた事を知った3人も動きを固める。

暫くの間、この場の空気がガッキガキに凍った。

 

 

「ば、ばばば晩御飯か!クラリッサ、チェルシー、行こう!」

 

 

場の空気が凍った事で漸く脳のリセットがされ、持ち前の冷静さで一番最初に意識を取り戻した一夏が強引に空気を変える。

 

 

「そ、そうね!行きましょう!」

 

 

「きょ、教官!何処に向かえばいいのですか!」

 

 

「え、えええ宴会室だ!私についてこい!」

 

 

全員が慌てながら会話をする。

一夏が着替えるため千冬たち3人が部屋の外に出る。

暫くの間あわあわしていた一夏だが、自分の荷物からタオルを取り出し汗を拭き、『PurgatoryKnights』のジャージに着替える。

 

 

《全く、あんな戦闘の後なのに、なんというか、何時も通りだな》

 

 

《マスターと恋人さんの攻守が逆っていう違いはあるけど》

 

 

《まぁ、元気みたいで良かったです》

 

 

そんな光景を尻目に見ながら、ダークコアデッキケース内でオルコス、白式、白騎士の3人がそんな会話を行う。

3人は随分前から一夏達の会話を聞いていたが、とばっちりが来るのが嫌だったのでダークコアデッキケース内でジッとしていたのだ。

 

 

《元気…か。間違っては無いが…》

 

 

白騎士の言葉を聞いたオルコスは歯切れの悪い感想を漏らす。

そのまま少しの間黙った後、ボソッと言葉を発する。

 

 

《いささか元気過ぎるな…》

 

 

《はい、回復が異常なまでに早いです。掠っただけで絶対防御が発動する攻撃を、ただの鎧…いえ、鎧すらないドラゴンフォースで受け、そのまま地面に頭から落下したんです。もっとダメージが無いとおかしい》

 

 

《それなのにマスターがあれだけ元気って事は…やっぱり……》

 

 

白式のその言葉に、3人の間に重苦しい空気が流れる。

 

 

《かなり進行している事に間違いは無い。博士の見積もりよりもかなり早くな…》

 

 

《はい、もう既にマスターに残された時間は、かなり限られているでしょうね…》

 

 

《それでも、私達はマスターを支えるだけ!》

 

 

《…そうですね。マスターの判断が如何であろうと、私達は共に歩みます》

 

 

《ああ、相棒の事を放っておけるわけが無いからな。我らが共に歩める限り、共に歩み続けるさ》

 

 

一夏が準備を終わらせ、ダークコアデッキケースをポケットに入れたので会話はそこで終了した。

一夏はそのまま廊下に出て、千冬たちと夕食を食べる為に宴会室に向かうのであった。

 

 


 

 

全員で夕食を食べ終え、全員が温泉に入った後。

もう1度全員で宴会室に集まり会話をしていた。

 

 

「お兄ちゃん、本当に大丈夫なの?」

 

 

「大丈夫だ。起きるのがお前たちより遅れただけだって。そっちこそ大丈夫か?」

 

 

「大丈夫だよ一夏。僕達はISが守ってくれたから」

 

 

「帰ったらオーバーホールが必須だろうがな」

 

 

温泉に入った後なので、全員が旅館備え付けの浴衣を着用している。

そして各々好きな飲み物を飲みながら気楽に話していた。

そう、好きな飲み物を飲みながら。

 

 

「一夏ぁ~~!つまみ~~!!」

 

 

「織斑くぅん!お願いしまぁ~す!!」

 

 

「黙れこの酔っ払い共が!!」

 

 

千冬と真耶がビール缶片手に一夏に絡んでいき、一夏は面倒くさそうに2人の事を押し返す。

千冬だけに対してならともかく、一夏が真耶にまでこんな態度を取るのは珍しい。

だが、マドカ達は特に驚いた様子もなくその光景を見ていた。

理由は単純明快、このやり取りが1回目では無いからだ。

 

 

遡る事数分前。

温泉に長く浸かっていて遅れて一夏がやって来た時には、もう千冬と真耶は出来上がっていた。

一夏がマドカ達に声を掛ける前に千冬達が絡んでいった。

当初は戦闘の後という事で優しく応対していた一夏だった。

だが、何度も何度も絡んで来るのでだんだん口調が荒くなっていき、さっきのように真耶に対しても少々雑に接するようになっているのだ。

 

 

「はぁ…全く面倒だな。いろいろあったってのに、よく酒を飲む気になるな」

 

 

一夏は面倒くさそうにそう呟くと、持っていた緑茶のペットボトルの蓋を開け、中身を飲む。

ペットボトルから口を離し、蓋を閉める。

 

 

「あ、すまない一夏、お茶をくれないか?」

 

 

「ん、分かった」

 

 

そんな一夏にクラリッサがそう声を掛け、一夏がそのまま飲みかけのお茶のペットボトルを渡した。

がっつりディープなキスだったり、それ以上の行為をしている恋人間で今更間接キスなど気にならないのである。

 

 

「き、気にしないのね」

 

 

「しないしない。直接した事もあるんだ、今更こんな事で恥ずかしくならん」

 

 

「へぇ~、進んでる…って言って良いのかしら」

 

 

鈴がそんな一夏に声を掛け、一夏が軽くそう返す。

 

 

「それに、さっきもっと恥ずかしい事されたし」

 

 

「「へぇっ!?」」

 

 

その流れで一夏が爆弾を投下し、クラリッサとチェルシーが思わず変な声を発する。

さっき自分でやっていた事なのだが、冷静になって改めて自分達の行動を振り返ると滅茶苦茶に恥ずかしいのだろう。

顔を真っ赤にしてアワアワしている。

 

 

1回ターンを返すと、次のターンが来る前に倒されてしまうというのはバディファイトではよくある事。

それと一緒で、1回主導権を放棄してしまうと一夏がまた攻めて来るのも当然である。

 

 

「まぁ、恥ずかしかったけど、それ以上に良いもの見れたし聞けたし感じれたりだから良いや」

 

 

「「//////」」

 

 

一夏がさらっと言った言葉にクラリッサとチェルシーが顔を真っ赤にする。

そんな3人の様子を見たマドカ達もなんとなく恥ずかしくなり、視線を逸らす。

 

 

「一夏ぁ、つーまーみー」

 

 

「うるっせぇなぁ!コンビニ歩いて5分くらいの所にあるんだから買ってこい!金ねぇなら奢るかよぉ!!」

 

 

そんな雰囲気を全く感じず、千冬がビール瓶片手に一夏の後ろから抱き着いたので、一夏がキレた。

思いっ切り力を籠め、千冬の身体を引っぺがす。

千冬はそのまま仰向けで倒れ、浴衣が少しはだける。

一瞬もしないうちに寝息が聞こえて来たので、酔いが回って寝たのだと一夏は察した。

 

 

「……しょうがねぇなぁ」

 

 

一夏はぶつくさ言いながら千冬の浴衣を直す。

今更姉の下着がチラ見えした程度では全く感情は動かされないのだ。

普段の千冬からは考えられないような醜態を見て、クラリッサ達は少し驚いたような表情を浮かべる。

 

 

「千冬さんはお酒入ると面倒なの、全く変わって無いわね~~」

 

 

「この駄目駄姉は一生変わらん。禁酒って言ってもコイツ飲むからな…」

 

 

一夏を除き、唯一この場で酒が入った千冬の面倒くささを知っている鈴も呆れたようなため息を発してからそう呟く。

一夏は脳内でどうやったら禁酒させることが出来るのかを考えながら千冬を壁際に引っ張っていく。

 

 

「な、慣れてるのですね…」

 

 

「この駄姉が酔って面倒くさくなるのはもはや織斑家名物だからな」

 

 

セシリアが呆然と呟いた言葉に、一夏が半眼を作りながらそう返す。

同じく織斑家ではあるマドカは苦笑いを浮かべている。

 

 

「あ、山田先生も寝てる…」

 

 

簪の言葉を聞き、全員が真耶がいたはずの方向に視線を向ける。

するとそこでは、真耶が酔いつぶれて眠っていた。

持っていたビール缶はそこらへんに転がっていて、中身が漏れてないあたりもう空なのだろう。

 

 

「山田先生もかよ…」

 

 

「あ、一夏、私がやるわ」

 

 

「良いのか?」

 

 

「良いのよ、メイドなんだから酔った人の介抱くらい出来るわ」

 

 

真耶の介抱をしようとした一夏を止め、チェルシーが変わりに真耶の介抱をする。

本人が言っていた通り、メイドであるチェルシーにとってはこれくらい朝飯前なのである。

そうして大体10分後、真耶の介抱を終え真耶を壁際に寝かせた。

本当ならば布団に寝かせてやりたいのだが、ここは宴会室。

そんなものは無い。

そして、今日は亡国企業襲撃作戦の為従業員もほぼいない為、運んでもらうのも何処か忍びない。

その為、いったん此処に寝かせるのである。

 

 

「マドカ、後はよろしくな」

 

 

「え、嫌だ…」

 

 

こんな酔っ払い2人の同室であるマドカに一夏が声を掛けるも、マドカは思わず素直な感想を漏らした。

まぁ、こんな面倒な様子を見たらそんな感想を抱いてしまうのも仕方が無い。

 

 

「あ、あぁぁ…い、一夏…」

 

 

「何だ酔っ払い駄姉。吐くならトイレいけ」

 

 

ここで、さっきまで気絶するように寝ていた千冬が目を覚ました。

一夏が半眼を向けながらそう言うと、首を振りながら伸びをする。

 

 

「いや、さっきの衝撃で酔いがさめた」

 

 

「衝撃…ああ、引っぺがした時か。駄姉、アンタの醜態はこの場にいる全員が見ているからな」

 

 

「えっ……」

 

 

一夏の言葉を聞いた千冬は珍しく呆けたような表情を浮かべる。

そして錆びたからくり人形のようにギギギと顔をマドカ達に向ける。

マドカ達はどう反応したら良いか分からず苦笑を浮かべる。

それだけで全てを察した千冬は膝から崩れ落ちた。

 

 

「これに懲りたら禁酒する事だな」

 

 

「…絶対に禁酒する!」

 

 

「おお、漸く誓ったか」

 

 

一夏に言われ、とうとう禁酒を決心した。

そんな千冬の様子に一夏が驚いたような表情を浮かべた後、感心したように頷いた。

 

 

「取り敢えず自販機で水買って来てやる。それ飲んで大人しくするんだな」

 

 

「ああ、分かった…」

 

 

なんだかんだいって、一夏にとって千冬が大事な姉である事に変わりはない。

一夏は水を買いに行き、千冬はマドカ達の会話に軽く加わる。

そうして数分もしないうちに水を買ってきた一夏が千冬に水を渡し、千冬がそれを一気に飲み干した。

 

 

「そう言えば、こうやってゆっくり全員で話すのって久しぶりだね」

 

 

「確かにそうね。全員が揃う事自体がそもそも久しぶりなのよね」

 

 

シャルロットと楯無がそう言った事で、全員がそう言えばそうだと思い出した。

最近…というよりも夏休みあたりから一夏が仕事の関係であまりこういうところに顔を出せなくなり、2学期になってからは色々と事件が起きすぎて忙しすぎて、中々集まれないし集まっても短時間なので記憶に残らないのである。

 

 

「そうだ一夏、この際だから1つ聞いておきたい事があるんだ」

 

 

「なんです織斑先生」

 

 

そんな中千冬が一夏にそう質問し、千冬の酔いがさめている事を確認したので一夏は一応生徒として接する。

 

 

「今はそれはいい」

 

 

「そうか。それで?聞きたい事ってなんだ?」

 

 

千冬がそれをやめさせた事で、プライベートの弟としての話し方に戻った一夏が改めて聞き直す。

 

 

「一夏、お前は将来何をやりたいんだ?」

 

 

「将来……」

 

 

「あ、それは気になる」

 

 

千冬に言われ、一夏は呆然と呟いた。

マドカ達も興味津々といった表情を浮かべ、一夏に視線を向ける。

 

 

「まぁ、IS学園卒業してもISからは離れられないだろ」

 

 

「それはそれだ。いつかはISを離れられる日が来る。そうなった場合、何をしたいのか聞きたいんだ」

 

 

「そうなってくるとなぁ……」

 

 

一夏は真剣に考えるように顎に手を置き目を伏せる。

何気ない質問でまさかここまで真剣に考えるとは思っていなかった千冬は、若干申し訳なさそうな表情を浮かべる。

そうして大体10分後、目を開けた一夏がボソッと呟いた。

 

 

「喫茶店…」

 

 

「え?」

 

 

シャルロットが聞き返すと、今度はハッキリと言葉を発する。

 

 

「喫茶店、経営したいな…」

 

 

一夏の言葉を聞いた全員がほう、といった感じの表情を浮かべた。

 

 

「一夏なら難なく営業できそうだな…でも、少し意外だった。理由を聞いても良いか?」」

 

 

「まぁ、今が高校生とは思えないくらい忙しいから、ISから離れたらゆっくりしたいっていうのがあるな」

 

 

クラリッサに理由を尋ねられた一夏は、自嘲気味に笑いながらそう言った。

全員から悲しそうな視線を向けられるが、一夏は気にするなと手をピラピラさせながら続きを語る。

 

 

「あとは、俺みたいな人生送ってる奴なんてなかなかいないだろうからな。色んな人と会話して、その人の悩みを聞けたらな…って」

 

 

さっきまでとは違い、優しく笑いながら一夏は言う。

 

 

「一夏…良い夢ね」

 

 

「ま、ISから離れられるのが果たして何十年後か」

 

 

チェルシーの言葉にそう返すが、何とも言えない内容なのでチェルシー達は苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。

 

 

「あ、そうだ!もう1つ大事な事があった」

 

 

「それは何?」

 

 

ここで一夏がとあることを思い出したかのように両手を合わせた。

マドカが興味津々といった表情を浮かべ一夏に尋ねる。

 

 

「国籍の事なんだけど」

 

 

「あ、一夏まだ無国籍状態だったけ?」

 

 

「忘れんな。俺はそのせいで手続きで会社挟まないといろいろ面倒なんだよ」

 

 

「それで、その国籍がどうしたの?」

 

 

「何時か国籍決まるとき、重婚が出来る国にしないと」

 

 

「「……へぇっ!?//////」」

 

 

重婚。

その言葉を聞いたクラリッサとチェルシーが顔を真っ赤にする。

 

 

わざわざそのワードを出したという事は、一夏が結婚する事も考えているという事だ。

それを自覚したクラリッサとチェルシーは顔を真っ赤にしたという訳だ。

3人以外の全員はその甘ったるい空気に砂糖を吐きそうになる。

そんな空気になっている事に当然気が付いている一夏は、少し意地悪な笑みを浮かべると、

 

 

「まぁまぁ、詳しい事は数年後って事で。この場はこれで終わり終わり」

 

 

と、半場無理矢理この会話を終了させた。

そうして、一夏が主体となって新たに会話を生み出し、回転させることでこの場の空気をリセットさせた。

そこからとめどなく会話する事数分。

 

 

ピピピピピ

 

 

そんな電子音があたりに響いた。

 

 

「あ、すまん。俺だ」

 

 

「何処から?」

 

 

「会社から。多分結構無理矢理な日程でナターシャとイーリスこっちに連れて来たからそれ関係な気がする」

 

 

一夏は立ち上がりながらシャルロットと会話する。

 

 

「俺は行くわ。長引けば直帰で部屋行くから」

 

 

高校生のはずなのに、営業のサラリーマンが出先で電話で課長に言いそうなセリフを残し一夏は宴会室から出て行った。

 

 

「こちら織斑一夏です。はい…はい……あー、専務の方に話通ってればそっちに確認してもらった方が早いんだが……」

 

 

「…今専務って聞こえた気が…それに途中から話し方がため口になってたし…」

 

 

チラッと聞こえてきた一夏の言葉に、簪が若干圧倒されながらそう呟いた。

そんな簪にマドカとシャルロットが説明を開始する。

 

 

「あー、お兄ちゃん会社の中でかなり権力あるんだよね…」

 

 

「うん、多分社長の次くらいに社内への影響力ある。まぁ、一夏が権力にものを言わせる訳が無いから普段だとそんな印象抱かないんだけど」

 

 

身内以外で知る訳がない一夏の社内での立ち位置を聞き、以前一夏本人からそれとなく聞いていたクラリッサとチェルシー以外の全員が驚いたような表情を浮かべた。

千冬すらも同じ反応をした事に、マドカも首を傾げた。

 

 

「あれ、お姉ちゃん聞いてなかったの?」

 

 

「…一夏はあまり自分のプライベートの話をしてくれないんだ……」

 

 

「そうなんですか?私達には結構色んな事喋ってくれますが…」

 

 

「だから教官にもある程度は話しているものだと…」

 

 

落ち込んでいる千冬に、無自覚で一夏の恋人2人が傷口に塩を塗り込んだ。

 

 

「うっ!?」

 

 

千冬は胸を押さえ、その場に蹲った。

 

 

「ふん…どうせ私は弟に信頼されて無いんだ…」

 

 

そうしてブツブツと呟き始めた。

普段の様子からは全く想像が出来ない程落ち込んでいる様子を見て、

 

 

「まだお酒抜けてないのかしら?」

 

 

楯無が思わず口を滑らせた。

何時もだったらそんな態度をした生徒を叱る千冬だが、今はそんな余裕はない。

 

 

そんな千冬を放っておいて、マドカ達は暫くの間再び雑談をしたのだが、時間も時間なので解散する事になった。

手分けして真耶と千冬を部屋に戻し、その後各々が自分の部屋に帰って行った。

普段寝る時間からするとかなり早い時間なのだが、いざ布団に横になると今日の疲れがドッと出て来たのか、全員が暫くもしないうちに眠りに付いたのだった。

 

 


 

 

時刻は少し巻き戻り、マドカとシャルロットが社内での一夏の立ち位置を説明しているのと同時刻。

一夏の姿は男湯の更衣室にあった。

今この旅館に一夏以外の男性は居ないので、余程の事が無ければ他の誰かが来る事は無い。

だからこそ、一夏は此処にやって来た。

 

 

そして、今一夏が何をしているのかというと…

 

 

「あ、ぐ、ぅ…はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

地面に仰向けで倒れ込み、虚ろな目で天井を見上げ、右手で心臓を押さえながら荒い呼吸をしていた。

顔中に汗を掻いており、とても辛そうな表情を浮かべていて、その側には『PurgatoryKnights』の通信機器が転がっていた。

 

 

「あ、や、ば、い……」

 

 

《一夏!大丈夫か!?》

 

 

《マスター!》

 

 

《しっかりしてください、マスター!》

 

 

そんな一夏の元に、慌ててオルコス、白式、白騎士が駆け付けた。

白式、白騎士は人間体の見た目は男性のものでは無いのだが今は緊急事態。

そんな事言ってられない。

 

 

白騎士はその手に一夏のスマホを握っていた。

さっきの会社からの連絡はフェイク。

水を購入した時に、そろそろ身体に症状が出る事を察した一夏は自販機の前で白騎士に自分のスマホを渡し、暫くしたら通信機器の方に電話を掛けるように頼んでおいたのだ。

その結果、一夏は千冬達に違和感を与えることも無く退出に成功した。

だが、更衣室にだどりついた時に限界が来てしまい、仰向けに倒れたのである。

 

 

《マスター!しっかりして!》

 

 

《大丈夫ですか!?呼吸は出来ますか!?》

 

 

一夏の身体を起こし、棚に体重を預けれるように態勢を変える。

 

 

《水飲めるか?》

 

 

「う、はぁ、はぁ……あ、ありがとう………」

 

 

オルコスが水の入ったペットボトルを一夏に手渡し、受け取った一夏は500㎖を一気に飲み干す。

口元を左の手の甲で拭い、身体から力を抜く。

一夏はオルコスからタオルを受け取り、顔に掻いた汗を拭いていく。

 

 

「はぁ、はぁ、ヤバい…もう、症状の出るスパンが……早すぎる……」

 

 

一夏は右手で心臓を押さえ、左手で顔を覆いながらそう呟く。

一夏の言う通り、一夏の身体に出る症状のスパンが以前に比べてかなり早くなっているのだ。

以前までだったら1回症状が出て落ち着けば、その日はもう症状が出なかった。

だが、今日は戦闘中に症状が出ているのに、今こうして再び症状が出ている。

1日に2回も症状が出ているのだ。

 

 

《マスター…》

 

 

《マスター、もう無理も無茶もしないで下さい。これ以上は身体だけじゃなく、心も限界になってしまいますよ?》

 

 

「…そういう訳にもいかないのは、分かってるだろ?」

 

 

心配そうな表情を浮かべ、一夏に声を掛ける白式と白騎士。

だが、一夏はそう返すと暫くの間顔を覆いながら俯いていた。

その手や僅かに見ている口元などは震えているが、それは発作で震えているようでは無かった。

 

 

「……怖い」

 

 

《 《 《っ!?》 》 》

 

 

一夏の呟いた言葉に、オルコス達が身体をビクっと震わせた。

だが、それに反応する余裕が無い一夏は続きを呟き始めた。

 

 

「怖い、嫌だ、なんで、俺は…俺は……」

 

 

辛そうな表情を浮かべながらそう呟く一夏。

 

 

《一夏》

 

 

そんな一夏に、オルコスがSDを解除してから話し掛けた。

急にSDを解除したオルコスを見て驚いた表情を浮かべる一夏に、オルコスは優しく話し掛ける。

 

 

《お前が辛いのは分かっている。そして、どうしても譲れないものがあるのもな。その上で言う、我らに頼れ。我らには弱音を吐け。我は、お前のバディだ。そして我ら新生煉獄騎士団は、お前の味方だ》

 

 

「オルコス…」

 

 

一夏がオルコスの事を見上げると、一夏の両側から白式と白騎士も優しく声を掛けていく。

 

 

《マスター、私達はこの先何があってもあなたに仕えるから》

 

 

《はい、マスターのモンスターとして、新生煉獄騎士団の一員として、支えていきますから》

 

 

白式と白騎士の言葉を聞き、一夏は息を大きく吸って、吐いた。

そして苦笑を浮かべると降参を示すように両手を上げた。

 

 

「分かった、頼れるときに頼らせてもらうよ」

 

 

そうして笑顔で立ち上がると、自分の部屋に向かって歩き出す。

だが、少し足取りがフラフラだったのでオルコスに支えられながら戻った。

そしてオルコス達はダークコアデッキケースに戻り、一夏は先に寝ていたクラリッサとチェルシーを起こさないように頬に口づけをしてから自分も眠りに付いた。

 

 

こうして、亡国企業襲撃作戦の日は、終わりを迎えたのだった…

 

 

 




さてさて、一夏はずっと大変だが更に大変な事になってきたなぁ。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想もよろしくお願いします!


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帰還、そして報告

前回の続き。

作者は最近スプライトを擦りまくっているのですが、だんだん飽きて来ました。
でも、使わないとパワーかなり落ちるので抜くに抜けない。
パワカに引っ張られ過ぎず、面白いデッキを作りたいものです。
なにせフリー対戦しかしないので。

あ、バディファイト全く関係ありません。
分かる人には分かる。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

亡国企業襲撃作戦の翌日。

一夏達は京都からIS学園に向かっていた。

 

 

朝、疲れが取れたのか取れてないのか良く分からない状態で起床した一夏達。

簡単に朝食を食べ、そのまままったりと、一夏とクラリッサとチェルシーはイチャイチャしながら10時頃まで過ごした。

従業員がほぼいない状態の為、最後に簡単に掃除をして(各々の部屋を掃除していたが結局仕上げは全て一夏が行い、後日確認に訪れた旅館の主は部屋の綺麗さに度肝も抜いた)、旅館を後にした。

 

 

そうして、今は行きと同じ席順で貸し切りの新幹線のグリーン車に乗車していた。

まだ疲れが抜けきっていないのか、楯無達は出発後まもなく夢の世界へと旅立った。

今起きているのは、一夏とクラリッサとチェルシーとマドカ、それと千冬と真耶である。

これまた行きと同様に一夏とマドカは席を180度回転させ、向かい合っている。

 

 

「キャスト、エタニティ・リング。センターのアルドアトラのソウルに入れ、ゲージプラス1、ワンドロー」

 

 

「うっ…まだ使う!?もう逆天したよね!?」

 

 

「したけど。このターンでケリを付けるんだから」

 

 

「付くの!?」

 

 

「付く付く」

 

 

そうして、一夏はテーブルを広げ隣のマドカとバディファイトをしていた。

普通対戦相手は正面にいる状態で行うのだが、まぁこれは些細な事である。

相手の手札が見えなければ特に問題無い。

そんな兄妹の微笑ましい光景を、2人の正面に座るクラリッサとチェルシーはニコニコしながら見ていた。

 

 

自分達の大事な恋人と、その妹が仲良くしている光景は、ある種のリラックス効果がある。

2人とも思春期なので喧嘩したり、もっと言えば罵倒し合ったりしていてもおかしくない。

そんな事が起こらないのは、マドカがブラコンであり、一夏もマドカの事を大事に思っているからだろう。

 

 

「…良い光景ですね……」

 

 

「ああ、良い光景だ」

 

 

「良い光景なんですか?」

 

 

チェルシーがボソッと呟いた事にクラリッサが同調するように頷き、それを聞いていたマドカが不思議そうに首を傾げた。

そんな反応が帰って来るとは思わなかった2人は頬をポリポリと掻きながら視線を泳がせる。

 

 

「やっぱ、未来のとはいえ義妹の楽しそうな場面だから、姉として嬉しいとかじゃない?」

 

 

「「っ!?/////」」

 

 

真顔でハチャメチャに恥ずかしい事を言う一夏。

その言葉を聞いた2人は顔を真っ赤にする。

 

 

「可愛いなぁ。アルドアトラでアタック」

 

 

「…負けたぁ!」

 

 

一夏はニコニコしながら、まるでついでのようにマドカにとどめをさした。

マドカは悔しそうな表情を浮かべながら自分が使っていたデッキを纏める。

 

 

「お兄ちゃんやっぱり強いね」

 

 

「まぁ、マドカが使ってるのも俺のデッキだし」

 

 

「それを除いてもだよ」

 

 

「そう…なのかなぁ?」

 

 

マドカの言葉に、若干首を傾げながらそう返す一夏。

その脳裏には、牙王やタスク、キョウヤといったバディファイターの姿があった。

自分よりも圧倒的に強く、経験も豊富な人達。

 

 

「いやぁ…俺はまだまだだよ」

 

 

一夏は苦笑を浮かべながら自分のデッキとマドカが使っていたデッキをケースに戻す。

そんな一夏を見て、3人は「俺はまだまだ」という言葉は、バディファイトの事だけでないというのを察した。

 

 

「一夏、その『俺はまだまだ』というのはバディファイトだけじゃなくて、実際の戦闘の事も含んでいるだろう?」

 

 

「……まぁ、そうだな」

 

 

クラリッサの疑問に、一夏は若干の動揺を見せながらそう返す。

一夏がそんな反応をするのは珍しい。

だが、言葉にしていない部分までピッタリ当てられると流石の一夏でも動揺する。

 

 

「一夏は今でも、私達なんかより強いだろう」

 

 

「そうかなぁ?」

 

 

「うん、お兄ちゃんはIS学園で1番強いんじゃないかな?」

 

 

「織斑先生がいるだろ。世界最強が」

 

 

「お姉ちゃんも強いけどさ。今戦ったらどっちが勝つか分からないんじゃない?」

 

 

マドカの言葉に、クラリッサとチェルシーは大きく頷く。

これは、3人の本音だった。

千冬が世界最強で、その実力を今でも発揮できることは勿論理解している。

その上で、一夏ならば千冬にすら勝てると本気で思っていた。

 

 

恋人2人と妹からのその評価に、一夏は少し恥ずかしくなり微笑を浮かべながら頬を掻く。

だが、その評価を闇雲に否定はしない。

折角してもらった評価を否定するのは、評価をしてくれた人に失礼だと考えているからだ。

 

 

(…そう言って貰えるのは嬉しいけど…本当にそれに俺は見合ってるのかな……?)

 

 

だが、心の中では首を傾げていた。

千冬とずっと一緒に過ごしてきた身としては、千冬の凄さは周囲の評価以上のものだと勝手に思っていた。

これで酒癖の悪ささえなければ完璧なんだがなぁ、などと若干的外れな事を考えていた一夏に、チェルシーが大真面目に声を掛ける。

 

 

「答えにくかったら答えなくて良いんだけど……一夏って、何処を目指してるの?」

 

 

「守る」

 

 

その疑問に、間髪入れず、そして簡潔に一夏は返事をする。

だが、簡潔過ぎた為3人には上手く伝わってない。

それを一夏も理解している為、笑みを浮かべながら続きを説明する。

 

 

「大事な恋人を、妹を、姉を、友人を守る。勿論、みんなが戦えるのは分かってる。でも、それでも…俺が、俺達が居たら、絶対に安心だと言って貰えるくらい、俺は強くなりたい」

 

 

一夏はダークコアデッキケースからオルコスと白式と白騎士のカードを取り出し、3人に見せながらそう語る。

その表情は笑顔ではあるのだが……どこか悲しみや痛々しさ、そして触れたら壊れてしまうような脆さがにじみ出ていた。

だが、3人は笑顔に何処か違和感があるという事までは感じ取ったものの、その違和感が何かまでは理解できなかった。

 

 

「「「……」」」

 

 

思わず黙ってしまい、この場に重たい空気が流れる。

 

 

「おいおい、止めてくれよ。俺が重たい話したみたいじゃないか」

 

 

そんな空気を変えようと、一夏がさっきまでとは違う、穏やかな笑みを浮かべる。

一夏の雰囲気が変わり、3人も穏やかな笑みを浮かべる。

 

 

「……今更だけどさ、バディファイトしても良かったのかな?」

 

 

「今更だな。まぁ、良いだろ。俺はこれが無きゃ戦えないんだ!」

 

 

マドカの言葉に、一夏が持ったままだった3枚のカードを強調しながらそう言う。

すると、その内の1枚…オルコスが若干震える。

それだけで、相棒である一夏はオルコスが何を言いたいのかを察した。

 

 

(《スタードラゴンWのカードは使えないがな》)

 

 

「…確かにそうだけどさぁ……」

 

 

ごもっともな意見だった。

一夏はため息をつき、3枚をダークコアデッキケースに戻す。

マドカ達から見ると、一夏が急にため息をついただけにしか見えなかった。

若干驚いた様子で一夏を見る。

 

 

「……引いた?」

 

 

「いやいや、全然!」

 

 

自分が傍から見たら変な行動を取っていたとはいえ、流石にそんな反応をされたら一夏でも傷つく。

マドカが慌ててワチャワチャ身振り手振りしながら誤魔化そうとしている中、クラリッサとチェルシーは頷き合うと席を立ち、マドカに視線を向けたままだった一夏に同時に抱き着いた。

 

 

「うぇっ!?」

 

 

急な事で一夏は動揺しながら視線を2人に向ける。

 

 

「あれくらいで引く訳無いだろう?私達は、お前の恋人だぞ」

 

 

「多分だけど、オルコスソードと会話したんでしょ?それくらい分かってるわよ」

 

 

チェルシーの言葉にマドカが「えっ?」っといった表情を浮かべている中、一夏は苦笑を浮かべると降参を示すように両手を上げようとして……2人にガッチリ掴まれている事でそれが出来ない事を理解した。

 

 

「降参降参。そして、ありがとう。大好き」

 

 

一夏は言葉で降参を伝えると同時、ニコッと笑みを浮かべると感謝と愛を伝え、体勢を変えずに器用に2人の事を抱きしめる。

2人は嬉しそうな表情を浮かべ、更に身体を密着させる。

新幹線の車内で、1人は席に座ったまま3人で抱き合うという、なんでも無いように見えてそこそこ難しい事をしているその横で。

3人だけの世界を構成された事ではみ出たマドカは砂糖を吐き散らしていた。

 

 

そんな光景を見て、行きの時と同じような視線を向けるのは、4人以外で起きている教師2人組だ。

行きの時の新幹線でした会話を思い出した2人。

どうしても一夏の様子が気になってジッと視線を向けているのだ。

 

 

「……私はやっぱり変なところなんて無いように見えます。4人とも、昨日戦闘したとは思えない程元気です」

 

 

「ああ、4人とも元気だ。だが……」

 

 

真耶の言葉に千冬はそう頷くが、視線は4人から逸らされていなかった。

ジッと4人を…その中心ともいえる一夏を見つめていた。

 

 

「何というか、今の一夏はとても脆い気がするんだ」

 

 

「脆い…ですか?」

 

 

千冬の言葉を受け、真耶は再び一夏達に視線を向ける。

そこでは、クラリッサとチェルシーが一夏の頬に同時にキスしていた。

一夏の隣のマドカはもう甘々空間(側にいるだけで精神が削れる攻撃)にやられたようだ。

少し離れた位置にいるのに、キスを見て恥ずかしくなった真耶がいるのだから間違いない。

だが、そんな甘々空間を見ても、千冬は狼狽える事は無い。

一夏の幸せそうな表情のその奥にある、隠している何かを感じ取っていた。

 

 

「一夏……」

 

 

具体的に言葉にすることは出来ない。

それに、見る限りはとても元気。

なのに、何故こんなに不安が拭えないのだろうか。

 

 

「大丈夫だ、一夏なら」

 

 

「…私が簡単に言えることでは無いかもしれませんが、織斑君なら大丈夫だと思います」

 

 

千冬の言葉に真耶が同調する。

 

 

一夏は強い。

それに、何時でも頼れる相棒や恋人がいる。

勿論自分だって助けに行く。

それは理解してるのに、千冬は考えを切り替える事は出来なかった。

 

 

(……千冬姉、そんなあからさまに見られると流石に気付く)

 

 

一方、ずっと視線を向けられている一夏は流石に視線に気が付いた。

クラリッサとチェルシー、マドカには気付かれないように自分の恋人とイチャイチャし、3人の注意を引いていた。

 

 

(多分、千冬姉は俺が隠してる気付いてるな…クラリッサとチェルシーにもバレてないのに。流石は世界最強。でも、俺が隠してるものまでは分かってないな……)

 

 

一夏はそう考えながら、イチャイチャを続ける。

こうして、織斑姉弟がそれぞれ思考を巡らせる中、新幹線は東京へと向かって行く…

 

 


 

 

「みなさん、お帰りなさい」

 

 

新幹線は問題無く東京に着き、一夏達はモノレールに乗り換え、IS学園へと戻ってきた。

敷地内に入り、最初に一夏達を出迎えたのはナターシャだった。

ニコッとした綺麗な笑顔で、一夏達の元に駆け寄ってくる。

 

 

「ああ、ただいま」

 

 

代表して上司である一夏が1歩前に出て挨拶をする。

 

 

「お疲れ様でした。明日の午後3時から、学園会議で報告をして頂きたいのですが…」

 

 

「明日…休み1日も無いんですか?」

 

 

「はい、すみません。ですが、それまでは自由時間なので…」

 

 

「いや、ナターシャが謝る事じゃない。わざわざ教えてくれてありがとう」

 

 

ナターシャ、マドカ、一夏がそう会話する。

鈴達も今日帰って来たばっかりで明日直ぐに会議なのは少し面倒だと思ったが、午後の3時までは自由時間なので、絶対にギリギリまでダラダラしようと誓った。

 

 

「この用紙の指示に従って記入をお願いします。明日提出してもらいます」

 

 

ナターシャは全員に報告用紙を手渡していく。

当日殿ような動きだったか、自分は何をしたのか、発見した事などなど、まぁ一般的な報告用紙に近いものだった。

 

 

「ファイルス、IS学園の警備状態は如何だった?」

 

 

「襲撃や、不審者の侵入等、並びその未遂も無く平和でした」

 

 

千冬が不在の時のIS学園の状況を聞き、ナターシャが問題無しを伝える。

その瞬間に全員がホッと安心の息を吐いた。

自分達の方が大変な状況だったとはいえ、やはり学園には沢山の級友がいるので、心配していたのだ。

安心の息の一つや二つ吐くだろう。

 

 

「それじゃあ、今日は解散!お疲れ様でした!」

 

 

『お疲れ様でした!!』

 

 

「お前が仕切るな!?」

 

 

「もうシャルたち帰り始めてるぞ」

 

 

一夏の解散の合図に、生徒達全員が返事をする。

自分が合図を出そうとしていた千冬が一夏に文句を言うも、もう既に一夏を除く生徒全員が生徒寮の各々の部屋に向かって歩き始めていた。

千冬はなんとなく悲しそうな表情を浮かべ、真耶は隣で苦笑いを浮かべていた。

 

 

「千冬姉、なんか柔らかくなったな」

 

 

「む、そうか?」

 

 

「ああ、前までだったら絶対に表情変えなかったし、俺出席簿で殴ってただろ」

 

 

「……確かにそうかもしれないな」

 

 

「1年1組名物、『一夏が出席簿アタックを避け、織斑先生の暴露をしそれを冗談だと誤魔化す』も無くなったし」

 

 

「名物にするな!」

 

 

「……やっぱ柔らかくなったな」

 

 

教師と生徒ではなく、弟と姉として会話する2人。

その会話内容を聞き、真耶は懐かしいものを思い出す表情を浮かべ、名物が無くなってからIS学園に来たクラリッサとチェルシーは首を傾げる。

 

 

「あ、そっか。2人は知らないのか。あー、1年1組名物というのは…」

 

 

「説明せんで良い!!」

 

 

「……しょうがないなぁ。今回は見逃してやろう。そろそろ俺達も帰ろう、休めるときに休んどきたい」

 

 

「そうだな、疲れが残っていたら会議にも影響は出る」

 

 

「今日もほぼ休憩みたいなものだったけど、新幹線での移動も多少疲労が溜まるしね」

 

 

一夏、クラリッサ、チェルシーの順でそう言い、この場に残った5人も解散となった。

千冬は生徒寮の寮長室に、一夏達は教員寮へと向かい、各々の部屋へと入る。

 

 

「ただいまー」

 

 

バタン!ガチャ

 

 

返事が返ってくるわけが無いのだが、昔からの癖で声を発する一夏。

玄関の扉を閉め、鍵をかける。

そこで、限界に達した。

 

 

「うっ!?げっほ!ごっほ!がほっ!」

 

 

一夏は咳き込み、玄関に座り込む。

その拍子にポケットからダークコアデッキケースが落ちる。

 

 

《マスター!?》

 

 

《マスター、しっかりしてください!》

 

 

白式と白騎士が慌てて人間態になり、一夏の背中をさする。

 

 

「み、水……」

 

 

《水ですね!分かりました!タオルも持ってきます!》

 

 

白騎士がタオルと水を取りに行く。

そうして空いたスペースにオルコスがSDで出現する。

 

 

《荷物が邪魔だろう、我が持っていく。白式、一夏の様子を見ていてくれ》

 

 

《うん!》

 

 

オルコスは一夏からリュック等の荷物を受け取ると、そのまま部屋へ運び込む。

丁度それと入れ替わりで白騎士が水の入ったコップと洗濯済みのタオルを持ってきた。

取り敢えず先にコップを一夏に渡す。

 

 

「あ、ありがとう……」

 

 

水を受け取り、それを一気に飲む一夏。

 

 

《もう1杯持ってきます》

 

 

《マスター、身体拭きましょうか?》

 

 

「あ、顔だけで良いから、お願い……」

 

 

《分かりました》

 

 

一夏からコップを受け取り、白騎士はもう1杯水を注ぎに行き、白式がタオルで一夏の顔を拭く。

そうして大体10分後。

なんとか落ち着いた一夏はフラフラした様子で立ち上がる。

 

 

「ふぅ…はぁ…」

 

 

《一夏、大丈夫か?》

 

 

「……大丈夫じゃ、無い……」

 

 

一夏は弱々しく、悲しそうな表情でそう返答すると、簡単に手洗いうがいをしてから完全栄養食のパンを無理矢理胃の中に押し込む。

 

 

「寝る…明日の昼の12時までには起こしてくれ……」

 

 

フラフラしながらベッドへと行き、そのまま倒れ込むように横になる。

そこから5分もしないうちに、一夏は夢の中の世界へと旅立った。

 

 

《…取り敢えず、荷ほどきをしてやろう》

 

 

《そうだね、私達で出来る事をしてあげよう》

 

 

バディモンスター3人は、手分けして出来る事をしていく。

全てが終わった後は、苦しそうな寝顔を浮かべながら寝る一夏の側に交代で寄り添うのだった。

 

 


 

 

翌日、14:55。

IS学園の会議室には、京都に行っていたメンバー全員、十蔵を含めた教員全員、ナターシャやイーリス、オータムなどの一部警備員が揃っていた。

 

 

「まだ3時にはなっていませんが、会議に出席する全員が揃いましたので、報告会を開始したいと思います」

 

 

十蔵のその言葉に、会議室内の空気が重たいものへと変わる。

 

 

「先ず、代表して織斑先生、報告をお願いします」

 

 

「はい」

 

 

千冬は立ち上がり、全員の顔を1回見回す。

そして、自分で記入した報告書に視線を落とし、読み上げる。

 

 

「亡国企業アジト襲撃作戦当日、織斑一夏、更識楯無、クラリッサ・ハルフォーフ、チェルシー・ブランケットからなるAチーム、ラウラ・ボーデヴィッヒ、織斑マドカ、セシリア・オルコット、シャルロット・デュノア、凰鈴音からなるBチームに分かれて行動を開始。私、山田真耶、更識簪は旅館に待機しました」

 

 

「此処までに間違いはありますか?」

 

 

十蔵のその言葉に、一夏達は首を振る。

それを確認し、十蔵は視線で千冬に続きを促す。

千冬は頷き、報告を再開する。

 

 

Aチームが情報収集、Bチームが正面戦闘を担当し、Bチームが戦闘を行っている隙にAチームが侵入した。

当初は何方のチームも問題無く作戦を進行していたが、Bチームの前に行方不明だった深夜が現れ、交戦を開始。

Aチームがその場に駆け付けた時には、Bチーム全員が気絶しており、深夜はAチームと交戦開始。

途中で一夏が被弾し、気絶。

その直後待機していた千冬と簪が突入。

交戦し、撤退させることに成功する。

その撤退の際、何処からともなく『化け物の創造主』を名乗る人物の声が聞こえ、その声は化け物は深夜のことでは無いと言い、それっきり聞こえなくなった事。

 

 

千冬の報告が終わった後、Bチーム代表としてラウラが、Aチームを代表して一夏、一夏が気絶した後の出来事は楯無がそれぞれ自分達の主観での報告をした。

 

 

「以上です」

 

 

楯無はその言葉を残し、座る。

 

 

『……』

 

 

会議室内には、重苦しい空気が漂っていた。

実際に対峙した千冬たちですら困惑した事を、説明だけ聞いた教員達がすぐさま飲み込めるはずがない。

そんな事、一夏達が想定していない訳が無い。

ISをディスプレイとスピーカーにつなげ、残っている戦闘ログと音声を再生する。

映像を見て、音声を聞いた事で漸く飲み込めたようだ。

教員達は驚きの表情を浮かべている。

 

 

「橘君が……」

 

 

「はい、音声を聞いて頂いたのでお分かりだとは思いますが、声の主は橘深夜に帰還指示を出していました。少なくとも、声の主の部下、あるいは兵器である事は間違いなさそうです。亡国企業所属なのかどうかは、確定しかねますが」

 

 

教員の誰かの呟きに、千冬がそう反応する。

部下、あるいは兵器。

普通だったら人間相手に使う言葉ではない。

だが、映像の深夜の様子を見るに、兵器という言葉はあながち間違っていないので、誰も声を発さない。

 

 

「次に、Aチームが入手した亡国企業アジトのデータです」

 

 

千冬はそう言うと真耶に視線を向ける。

真耶破頷くと、机の上に置いてあるノートパソコンを操作する。

ノートパソコンはもう既にディスプレイと繋がっており、また一夏達がデータを入手する際に使用していたメモリーも刺さっていた。

 

 

一瞬後、ディスプレイには抜き取ったデータの内容が表示される。

入手をした一夏達も内容を確認するのは初めてだ。

 

 

『京都支部人員一覧』

 

『アジト位置一覧』

 

『各施設研究内容』

 

『新兵器開発計画』

 

『没兵器、廃棄兵器一覧』

 

 

などなど、かなり重要そうなデータがゴロゴロと出て来た。

 

 

「このように、入手したデータは多岐にわたり、どれも解析すれば亡国企業の全容を暴く手掛かりになりそうなものばかりです。ですが」

 

 

真耶はそう言うと、『京都支部人員一覧』を開こうとする。

しかし、データは所々が文字化けしていたり、欠けていたりしている為確認することが出来ない。

 

 

「如何やら、正規の手段以外でデータを抜こうとすると、自動で壊れる仕組みの様です。ですが、大部分は無事ですので修復すれば解析可能だと」

 

 

「修復にはどれくらいかかりそうですか?」

 

 

「IS学園でするとなると、1ヶ月ほど…」

 

 

「なるほど」

 

 

真耶と十蔵がそう会話する。

話を聞いている教員達や楯無達も、真剣な表情を浮かべている。

 

 

そんな中、ディスプレイに映っているデータのとあるところをジッと見つめている3人。

千冬と、一夏と、マドカ。

3人は『没兵器、廃棄兵器一覧』の文字から、視線を離せないでいた。

織斑計画によって生み出された千冬と一夏。

そんな千冬のクローンであるマドカ。

自分の生まれと、なんで生み出されたかは分かっているものの、どんな組織が、どんな人間が行ったのかは全く分からない。

だからこそ、気になるのだ。

もしかしたら、自分達を造ったのは亡国企業で、そこに自分達の生まれの起源があるかもしれない。

そう考えると、どうしても気になってしまうのも仕方が無い。

 

 

「「……」」

 

 

「っ!」

 

 

そんな一夏の様子に気が付いた両側に座るクラリッサとチェルシー。

とても自然な動作で一夏の手に自分の手を重ねる。

一夏は少しだけ表情を驚きのものに変え、元に戻る。

元に戻ったとは言っても、若干嬉しそうな雰囲気がにじみ出ていた。

 

 

そんな一夏の雰囲気の変化を察した千冬とマドカだが、口に出すわけにはいかないので視線をジッと向ける。

 

 

「以上が、今回の襲撃事件で分かった事です」

 

 

「ありがとうございました」

 

 

だが何時までもそうしている千冬ではない。

真耶の説明の終わりに、襲撃組としての報告終了を伝え、十蔵がそれに対して礼を言う。

 

 

「今回入手した情報ですが、国際IS委員会に提出する必要があります。ですが、この状態では提出が出来ませんので、山田先生を始めとした解析班でデータの修復をお願いします」

 

 

『分かりました』

 

 

十蔵の言葉に、真耶達が頷く。

だが、ここでいったん空気が固まってしまう。

それも仕方ないのかもしれない。

折角入手したデータは破損していて今すぐに確認できない。

それに加え、分かった事以上に新たに出て来た謎が大きく、分からない事だらけなので下手に考察をして考え方を固定させるのは良くない。

そんな訳で、話し合いをする意味も理由も無くなってしまったのである。

 

 

「……それでは、本日の報告会を終了します。報告書がある人は私に直接提出をお願いします」

 

 

(『これ、自分がこの場にいる意味あったか?』)

 

 

十蔵のその言葉に、この場にいたほぼ全員が同時にそんな事を思った。

自分はほぼ何も喋ってないのだから、そう思うのも仕方が無い。

 

 

教員達や警備員達は続々と会議室から退室し、一夏達は十蔵に報告書を提出しに行く。

その時、一夏は退出するとある人物に視線とハンドサインを送り、その人物は頷く事で応える。

 

 

その後、提出を終えた一夏達も会議室から退出する。

 

 

「終わったぁ!」

 

 

鈴が両手を上げ、身体をググっと伸ばす。

 

 

「この報告会、僕達の出席って必要だったのかな?」

 

 

「形だけでも必要だったんだ。それでは、私達は仕事があるから」

 

 

「はい、頑張って下さい」

 

 

ここで千冬と真耶は別れ職員室に向かう。

残った一夏達はやる事が無いので寮の自室に向かって行く。

 

 

「明日から授業ですわね」

 

 

「そうだね。今日までしっかり休んでおこう」

 

 

「それに、修学旅行本番は2週間後だからね。そこに影響が出たら嫌だし」

 

 

「早く帰ろう」

 

 

そう雑談をしながら歩いていく。

生徒寮組と教員寮組で別れるのだが、校舎内での道のりは一緒なので全員が並んでいる。

 

 

「あー、自販機で飲み物でも買って帰るか…先帰ってていいぞ」

 

 

「ん、分かった」

 

 

「一夏、夕ご飯は私達が作るから部屋に来てね」

 

 

「分かった!ありがとう!」

 

 

チェルシーの言葉を聞いた一夏は笑顔を浮かべると、上機嫌で自動販売機に向かって行った。

ここまで喜んでもらえると、作る側としても嬉しい。

チェルシーとクラリッサも上機嫌になりながら教員寮に向かって行く。

マドカ達は

 

 

(相変わらず甘ったるい……)

 

 

とジト目を向けるも、このバカップルに何を言っても無駄だと分かり切っているので誰も口には出さない。

そしてマドカ達は自分の部屋へと帰って行くのだった。

 

 

 

 

 

それと同時刻。

一夏は自動販売機ではなく、屋上に向かっていた。

誰かに話を聞かれる可能性が少なく、尚且つ誰かの許可もいらず簡単に行ける場所となれば屋上ぐらいしかないからだ。

IS学園の屋上は普段解放されているし、仮に解放されて無くても扉の前ならば滅多に人は来ないだろう。

 

 

「オルコス」

 

 

《どうした一夏》

 

 

その道中、一夏がオルコスに話し掛け、オルコスはSDで姿を現す。

 

 

「もしかしたら、煉獄騎士団にはコールじゃなくてゲートから直接来てもらう場面が来るかもしれない。伝えておいてくれ」

 

 

《了解した。念には念だ、声を掛けられるモンスターには片っ端から声を掛けておく》

 

 

「悪いな」

 

 

《気にするな》

 

 

ここでオルコスと別れ、一夏は引き続き屋上に向かい、オルコスはダークネスドラゴンWに向かう。

そこから暫くもしないうちに屋上に着いた一夏。

鍵が開いている事を確認し、扉を開ける。

こんなにも複雑な状況だというのに、何時もと変わらない清々しい、清々しすぎて逆に憎たらしく思う程の青空が広がっている中、もう既に一夏が呼び出した相手はいたようだ。

 

 

「オータムさん、お待たせしました」

 

 

「おう、一夏」

 

 

その相手…オータムの名前を呼びながら駆け寄ると、オータムも視線を一夏の方に移し、片手を軽く上げる事でそれに応える。

 

 

「なんか話すのも、何なら顔合わせるのも久しぶりですね。学園祭以来ですか?」

 

 

「あー、確かにそんな気がするな…顔を合わせる機会がねぇからな」

 

 

同じ学園にいるのだが、生徒と警備員という関係上頻繁に顔を合わせる事は無い。

それに、仲がいいのは間違い無いのだが、絶対に会いたいという関係でも無いので必然的にこういう時じゃないと会わないのだ。

 

 

「それで、何の用だ?告白じゃないだろ?」

 

 

「当たり前じゃないですか。俺にとってクラリッサとチェルシー以外恋愛対象じゃないですから。そんな事冗談でも言わないで下さい」

 

 

「お、おお…わ、悪かった。謝るからその表情止めてくれ」

 

 

一夏は口元は笑みの形を浮かべているのだが、目が笑っていない。

両目を開き、光の籠っていない目でオータムの事を見つめる。

その威圧感にオータムは1歩後ずさり、顔を引きつらせながらそう声を発する。

暫くの間一夏は微塵も表情を変えなかったが、こんな事をしている場合じゃないと気が付いたため、何時もの表情に戻る。

 

 

「本題に入りますが、オータムさんに聞いておきたい事が2つあるんですよ」

 

 

「聞いておきたい事?」

 

 

一夏は頷くと、早速1つ目の質問をする。

 

 

「オータムさん、あのデータの中で知ってることって無いですか?」

 

 

オータムは元亡国企業所属。

データ内容を知っている可能性がある。

マドカやスコールも同じなのだが、社長であるスコールは自分以上に忙しいのが分かっているのでききづらく、マドカには兄として重たい事を喋らせたくないという思いがあるので、消去法でオータムに聞く事にしたのだ。

 

 

だが、オータムは申し訳なさそうな表情を浮かべ後頭部をポリポリと掻く。

 

 

「わりぃ、全く分からん」

 

 

「あ、そうなんですね」

 

 

「ああ。そもそも俺達は実働部隊だったから、研究結果情報とかはなかなか入って来ねぇんだ」

 

 

「あー、なるほど。すみません、分かんない事聞いて」

 

 

「いやいや、元々入ってた奴に聞くのは当然の事だ。そんで?もう1個は?」

 

 

オータムに尋ねられた一夏は一度大きく息を吸うと、空を見上げる。

それにつられ、オータムも空を見上げる。

 

 

「今は平和ですが、またIS学園を舞台にした戦闘が起こってもおかしくありません。っていうか、起こる可能性の方が高いです」

 

 

「まぁ、そりゃそうだろうな」

 

 

「そうじゃなくても、これ以上戦闘が激しくなるんだったら明らかに戦闘力不足です。なので」

 

 

一夏はそう言うと空から視線をオータムに戻し、にやりと笑みを浮かべる。

 

 

「オータムさんにはもうそろそろ戦場に戻ってもらう必要が出て来そうです。覚悟は出来てますか?」

 

 

その言葉を聞いたオータムは両目を開き少しだけ驚いた表情を浮かべた後、交戦的な笑みを浮かべる。

 

 

「当然。そんな覚悟、とっくのとうに出来てるぜ」

 

 

「それを聞いて安心しました。聞きたかったのはこれだけです。わざわざありがとうございました」

 

 

「気にすんな。じゃあ俺はそろそろ持ち場に戻るぜ」

 

 

「はい、ありがとうございました」

 

 

オータムは若干上機嫌気味でその言葉を残し屋上から出て行った。

元々が戦闘狂気味のオータム。

戦場に戻る機会があるとなると、やはり嬉しいのだろう。

 

 

一夏はオータムの背中が見えなくなると、屋上のベンチに座り、再び空を見上げる。

相変わらず、空は青く、何処までも続いていそうなほど広い。

 

 

「……空が青いなぁ」

 

 

一夏は呆然とした表情でそう呟く。

その右手は心臓を押さえていた。

 

 

「ヤバいなぁ…嫌だなぁ…クラリッサ…チェルシー……」

 

 

一夏のその呟きは、広い空へと消えていくのだった。

 

 

 




そろそろ章が変わるかもしれない。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想もよろしくお願いします!


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一夏の為に動くとき

大変お待たせしました。

今回、なんと古の蛇足設定が漸く活躍します!
最初で最後だと思われる輝き、とくとご覧ください!


三人称side

 

 

京都での亡国企業襲撃作戦から約一週間後。

今日は待ちに待った修学旅行本番である。

朝の7:30という、何時もに比べたらかなり早めの時間帯なのにも関わらず、集まっている生徒達のテンションはとても高い。

 

 

そしてそれは、先週京都で壮絶な戦闘を繰り広げた専用機持ちも同じ事。

クラスでの整列が必要になるまで、専用機持ちで集まって雑談をしていた。

 

 

「こう、ついこの間いったばっかりなのに、なんかワクワクするわね」

 

 

「先週とは京都に行く目的も心構えも違いますから」

 

 

「そうそう、今回は何といっても修学旅行なんだから!楽しまないと!」

 

 

鈴、セシリア、シャルロットの順でそう発言する。

シャルロットの言葉に、他のメンバーも同意するように頷く。

 

 

「先週はやはりちゃんと観光出来る状況じゃ無かったからな。楽しみだ」

 

 

「うん…京都、日本人の心」

 

 

ラウラ、簪はワクワクが抑えられないようで、声が若干弾んでる。

だがそんな楽し気な雰囲気の中、何処かワクワクというより心配でソワソワしている人物が1人。

 

 

「…お兄ちゃん遅いなぁ……」

 

 

そう、マドカである。

マドカが呟いた通り、専用機持ちの中で唯一一夏だけがこの場に来ていなかったのである。

 

 

「そう言えば確かに…」

 

 

「一夏がこういう時に早めに集合していないのは珍しいな」

 

 

1学期の臨海学校や、それこそ先週など、全員で集まって行動する場合、一夏はかなり早めに集合場所にやって来る。

仮に少し遅くなったとしても、遅刻など考えられない。

マドカ達は一夏の姿を探す為あたりに視線を向ける。

周囲は生徒達が集まっているが、一夏は身長が高いし体格も良いのでIS学園の生徒の中にいても、結構目立つので発見しやすいのである。

しかし、その中にも一夏の姿は無かった。

 

 

「居ないわね…」

 

 

「うん、居ない…あ、そろそろクラスごとに並ばないと…」

 

 

簪の言葉で慌てて時刻を確認する。

確かにそろそろクラスごとに整列しなければならない時間になっていた。

周囲の生徒達はもう既に整列を開始していた。

専用機持ち達は急いでクラスごとに別れ、整列する。

 

 

そうして5分もしないうちに完璧に整列を終えた生徒達。

整列した事で、改めて一夏がこの場に居ない事を知る。

唯一の男子生徒という事で、否が応でもこういう場面では目立つ。

そんな状況下において一夏が居ないのだから、他の生徒達も一夏不在という状況に気が付いた。

ザワザワする中、1年生の教員達がやって来た。

 

 

「全員注目!!」

 

 

拡声器など使っていないのに、全員に聞こえる声でそう声を発した千冬に注目が集まる。

 

 

「これから出欠席を確認する!各クラスの担任、副担任は出欠席を確認後、私に伝えてくれ!」

 

 

千冬の指示に従い、教員達は自分のクラスの出欠席を確認する。

その報告を聞いた千冬は、数度頷く。

 

 

「良し、特に情報に差異は無いようだな」

 

 

一夏が居ないこの状況で、情報に差異が無いという事は、千冬は一夏不在の連絡を事前に受けていたという事。

そして、連絡を受けているのなら、不在の理由も聞いているだろう。

 

 

「あ、あの!織斑先生!!」

 

 

シャルロットが右手を精一杯伸ばし、千冬にアピールする。

当然と言えば当然だが、その瞬間にシャルロットにほぼ全員の視線が集中する。

その事に若干恥ずかしさを覚えながらも、千冬に質問する。

 

 

「一夏が居ないんですけど、織斑先生は何か知っているんですか!?」

 

 

「ああ、その事か」

 

 

その発言で、再び視線が千冬に集まる。

だが、先程までと違い何処か食いつくような視線に、流石の千冬でも少したじろぐ。

動揺を見せないために数度咳払いし、言葉を発する。

 

 

「先程連絡があったが、織斑兄は修学旅行欠席だ」

 

 

『…………』

 

 

千冬の言葉を聞いた生徒達は、少しの間衝撃を受けたような表情で固まった。

あまりの静止具合に教師達は心配になり、取り敢えず近くにいる生徒の誰かに声を掛けようと1歩踏み出た時、

 

 

『ええええええええええええええ!?!?』

 

 

生徒達が一斉に叫び声をあげた。

まさか修学旅行という、1年の中でも最大のイベントを欠席するとは思っていもいなかったからだ。

その声量に教員達は驚いたものの、気持ちは理解できるため、特に咎める事はしなかった。

 

 

「お姉ちゃ……じゃない、織斑先生!」

 

 

「どうした、織斑妹」

 

 

「お兄ちゃんの欠席の理由、聞いても良いですか!?」

 

 

「ああ、本人から説明の許可を貰ってる」

 

 

さっきの絶叫が嘘のように、千冬の言葉をしっかり聞くために一瞬にして黙る。

 

 

「今朝、本人から連絡があった。『39度2分の微熱があるので、大事を取って修学旅行は欠席させていただきます』とな」

 

 

「えーっと……39度2分は全然微熱じゃなくて高熱だと思うんですが……」

 

 

「ああ、私もそう思っている。だが、本人が『えっ、熱って40度超えてからじゃないんですか?』と真面目なトーンでふざけた事を言っていたから、本人からすると微熱なんだろう」

 

 

『えええぇぇ……』

 

 

熱を出した人なら全員分かるとは思うが、熱は38度を超えた時点で大分身体が言う事を聞かなくなる。

身体に力が入らなくなるし、咳は出るし、寒いし、だるい。

39度を超えると、それは更に酷くなる。

それなのにも関わらず39度2分を微熱だと真面目に言える一夏。

若干生徒達が引いてしまうのも無理はない。

 

 

「んんっ!それでは、これからモノレールで本土に行き、そこから京都に向かう!」

 

 

『はいっ!』

 

 

多少いざこざはあったものの、時間に余裕は無いのでせかせかと移動を開始する。

生徒の大半は、折角の修学旅行に一夏が参加出来ない事を残念だと思いつつも、ならばこそ精一杯楽しもうと気持ちを切り替えた。

だが、そんな中。

 

 

「お兄ちゃん……」

 

 

『……』

 

 

マドカを始めとした専用機持ちと、

 

 

(一夏…大丈夫だ、オルコスもいるし、最悪あの2人が看病してくれる……)

 

 

千冬だけは一夏への心配を切り替える事が出来なかった。

 

 


 

 

「あー、くっそ…最悪だ……」

 

 

同時刻。

教員寮、一夏の部屋。

 

 

頭に冷えピタを張り、ベッドに横になりながら天井を見上げている一夏はそう呟いた。

 

 

《マスター、お粥出来ました》

 

 

「ありがとう……」

 

 

《マスター!無理しちゃ駄目!》

 

 

《我らが身体を起こす。身体から力を抜け》

 

 

「あ、ああ…」

 

 

白式とオルコスが一夏の身体を起こす。

めまいがしているようで一夏は若干顔をしかめる。

 

 

《マスター!大丈夫!?》

 

 

「大丈夫大丈夫……」

 

 

白式が水が入ったコップを差し出し、一夏がそれを受け取る。

 

 

「んくっ、んくっ、んくっ……はぁ……」

 

 

《マスター、お粥食べられますか?》

 

 

「ああ、頂戴」

 

 

白騎士からお粥の入った茶碗とスプーンが乗ったお盆を受け取る。

 

 

《マスター、自分で食べられますか?》

 

 

「うん、大丈夫。悪いけど、水もう1杯お願いできる?」

 

 

《直ぐに持ってきますね》

 

 

空になったコップを白騎士が受け取り、水を注ぎにキッチンに行く。

それを見送りながら、一夏は両手を合わせる。

 

 

「いただきます…」

 

 

若干頭をふらつかせながらも、一夏はしっかりスプーンを握り、お粥を口に運ぶ。

 

 

「あ、美味しい……」

 

 

オルコスはSDでもそうじゃなくても、体系的にこの部屋での料理は出来ない。

その為必然的に、これを作ったのは白騎士か白式という事になる。

2人が実体化出来るようになってから半年も経っていないし、その間も一夏は料理している場面を見た事は無い。

 

 

それなのに、ここまでの品が出て来たのだ。

多少驚くのも無理はない。

 

 

《フフン!練習したんです!》

 

 

《はい、マスターが何時動けなくなっても良いように、陰ながら。あ、お水です》

 

 

「2人とも…ありがとう、助かったよ」

 

 

一夏は弱々しい笑顔を浮かべ、白騎士と白式にお礼を言う。

白騎士から水を受け取り、そのまま一口飲む。

 

 

「ふぅ…にしても、最悪だな。まさか、こんな日に、熱出すなんて……」

 

 

一夏は頭を若干ふらつかせながらそう呟く。

 

 

《仕方が無いだろう。一夏、お前の身体は……》

 

 

「それもそうなんだけど…多分、これ、普通に、風邪ひいた…ゴホッ!ゲホッ!はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

《マスター!》

 

 

「だいじょ…ゲホッ!」

 

 

《マスター、薬を飲む前には胃に食べ物をしっかり入れておいた方が良いです。無理しない範囲でお粥を食べてください》

 

 

「ああ、折角作ってくれたんだ。出来るだけ食べ…ゴホッ!ゲホッ!」

 

 

咳き込みながらも、お粥を食べ進める一夏。

風邪薬を飲むためというのもあるが、折角の手料理を残すのは一夏のプライドが許さない。

 

 

《して一夏。普通に風邪ひいたとは?》

 

 

「ああ…前に、47度出した時は、アレだったけど、今回は、普通に、寝冷えかなんかした…」

 

 

《一夏、自分の身体をもっと大事にしろ》

 

 

「分かってるさ…ゲホッ!」

 

 

そのまま何度も咳をしながらも、お粥を完食した一夏。

 

 

「ご馳走、様でした」

 

 

《お粗末様でした!》

 

 

《マスター、風邪薬です。飲んでください》

 

 

「ああ、ありがとう…」

 

 

白騎士から市販されている風邪薬を受け取り、そのまま服用する。

 

 

「ふぅ…」

 

 

《一夏、寝ろ。普通の風邪なら寝るのが1番だ》

 

 

「それは、そう、なんだけどさ……最近、無駄にあ、る体力のせい、で寝れるか如何か…ゲホッ!ゴホッ!」

 

 

《心配ないよマスター、この風邪薬、眠くなる成分が入ってるから》

 

 

「それなら安心か…取り敢えず横になる…」

 

 

《はい、寝れなくても横になっているだけで身体は休まりますから。おやすみなさい》

 

 

一夏は再び横になり、布団をしっかりと被る。

一夏が横になったのを確認したオルコス達は、食器の後片付け等の家事を行う。

とはいっても、昨日まで一夏は元気だったので部屋は綺麗だし、特にこれといってしてあげられる事は無い。

 

 

1時間も掛からずに出来る家事という家事を全て終わらせてしまった3人。

 

 

《マスター、寝ましたね》

 

 

《ああ、20分ほど前からな》

 

 

《何だかんだ言って、やっぱり疲労が溜まってたんだね》

 

 

3人で一夏の寝顔を見下ろす。

さっきまで咳き込んで苦しそうな表情を浮かべていたが、今は穏やかな表情でスヤスヤと眠っている。

白騎士は一夏の額に手を当てる。

 

 

《熱い…もしかしたら、朝より体温上がってるかもしれませんね…》

 

 

《そんなにか?》

 

 

《ほんとだ!熱い!》

 

 

寝ている一夏の体温がさっきまでより上がっていると感じた3人。

 

 

《熱測りますか?》

 

 

《いや、この部屋にある体温計は脇に挟むタイプしかない。寝ている一夏を無理に動かすのは憚られる》

 

 

《確かに。じゃあこのままマスターを見守るしかないね》

 

 

白式がそう言い終わったとき、唐突にバディワールドへのゲートが開いた。

3人が同時にゲートに視線を向けると、ゲートの向こうから声が聞こえてくる。

 

 

《団長、少々宜しいですか?》

 

 

《今は大丈夫だ。どうした、シルバースタッフ》

 

 

声の主、シルバースタッフの言葉にオルコスがそう返す。

オルコスの返答を聞いたシルバースタッフは話始める。

 

 

《ヒーローWより、メンジョ―はかせとJ・ジェネシスより連絡がありました。『白騎士と白式の強化パーツを造った。テストがしたいからオルコスも一緒にこっちに来て欲しい』以上です》

 

 

白騎士と白式の強化。

それ自体はとても嬉しいしありがたい。

2人も、一夏の役に立てるなら喜んでヒーローWに行くだろう。

だが、あまりにもタイミングが悪すぎる。

 

 

一夏が風邪をひき、熱を出して寝込んでいるこの状況。

流石に一夏の元を離れることは出来ない。

 

 

《今、一夏が発熱をして寝込んでいる。とてもヒーローWに行く余裕はない》

 

 

《一夏が熱!?大丈夫なのですか?》

 

 

《容態は一応安定しているが、悪化する可能性がある。一夏のそばから誰もいなくなるのは危険だ》

 

 

《ならば仕方無いですね。私から連絡を…》

 

 

ピーンポーン

 

 

シルバースタッフの言葉を遮るように、部屋のチャイムが鳴った。

オルコスが取り込み中なので、白騎士が玄関に向かって行く。

 

 

《待て。丁度今、来たかもしれない》

 

 

《何がですか?》

 

 

《我が相棒の恋人が》

 

 

玄関に着いた白騎士はそのまま玄関の扉を開ける。

そこにいたのは、オルコスの予想通りの人物だった。

 

 

《ようこそ、クラリッサ様、チェルシー様。理由は察しています。どうぞ》

 

 

「ああ、失礼する」

 

 

「わざわざありがとう」

 

 

白騎士に連れられ、とてもソワソワしていて、その手にいろいろな看病の為の用具が入ってビニール袋を持ったクラリッサとチェルシーが部屋に入って来る。

2人がソワソワしているのも仕方が無いだろう。

大切な恋人が、発熱して倒れたのだ。

心配しない訳が無い。

しかも、先週には頭から思いっ切り地面に落下したり、その前にもいろいろ体調崩すどころか体調ぶっ壊していたのだ。

余計に心配は加速する。

 

 

「「一夏っ!」」

 

 

ベッドに横になって寝ている一夏を見るた瞬間、起こしてはいけないと分かっていても、思わずそう声を発してしまった。

慌てて口元を塞ぎ、一夏の反応を伺う。

 

 

「んぅ、うぅぅ…」

 

 

穏やかな表情を浮かべながら寝返りを打つ一夏を見て、2人は取り敢えず安心したような表情を浮かべる。

 

 

《来たか、2人とも》

 

 

「ああ。オルコスソード、一夏の容態は?」

 

 

《さっきの体温が39度2分だった。今はお粥を食べ、風邪薬を飲んで寝ている状態だ》

 

 

「と、言う事は、まだ大事に至っている訳では無いと」

 

 

《ああ》

 

 

オルコスの返答を聞いた2人は、安心したような息を吐いた。

 

 

《だが、コイツは39度2分を微熱だと本気で思ってる》

 

 

「「えっ…?」」

 

 

オルコスの言葉に、2人は思わず固まった。

39度2分は微熱ではないのでそんな反応になるのも仕方が無い。

だが、オルコスの至って真面目な表情で、それが本当だという事を察した。

 

 

「流石一夏というかなんというか…」

 

 

「何時もはしっかりしてるのに、こういうところは偶に抜けてるのよね…」

 

 

「まぁ」

 

 

「「そういうところも好き」」

 

 

《…そうか》

 

 

急に真顔で言い出した2人を見て、オルコスが半眼でそんな反応をする。

本人達が幸せなら自分から特に言わない。

相棒の幸せを側で見守るのも、自分の役目である。

 

 

《ところで、だ》

 

 

オルコスはそう切り出し、自分達がヒーローWに呼ばれている事を説明した。

 

 

《だから、すまないが我々は抜ける。あとは任せて良いか?》

 

 

「任せて。恋人の看病も出来なかったら、メイドとして失格ですので」

 

 

「ああ、私もシュヴァルツェ・ハーゼの副隊長だ。看病は出来る」

 

 

《そうか。なら安心だな》

 

 

《では団長、そういう事で良いですか?》

 

 

《ああ。すまないが、そう伝えておいてくれ》

 

 

《御意》

 

 

シルバースタッフはメンジョ―はかせ達にその旨を伝える為にゲートを閉じる。

そのやり取りを見て、クラリッサとチェルシーは初めてゲートが開いていた事に気が付いた。

スッと視線を逸らす。

そんな反応をした2人にオルコスが半眼を向けるも、特に意味の無い行為だと判断しすぐにやめた。

 

 

《では、こんな時にすまないが、後は任せた》

 

 

《マスターの事、どうかよろしくお願いします》

 

 

《家事とかは全部終わらせてるので、心配ないです!》

 

 

オルコス、白騎士、白式の順でそういい、オルコスがゲートを開く。

 

 

「後は任せてください」

 

 

「ああ、しっかりと看病をする」

 

 

チェルシーとクラリッサの返答を聞き、3人は微笑を浮かべるとゲートを潜り、バディワールドへと向かった。

そうして一夏の部屋に残った2人。

白式の言う通り家事はほぼ終わってしまっているので、2人は今特にする事は無い。

その為、ベッドの側に行き一夏の寝顔を眺める事にした。

 

 

「ん、んんぅ…」

 

 

寝言なのか何なのか良く分からない事を言いながら、穏やかな表情で寝返りを打つ一夏。

最近は諸々の事情で一緒に寝れず、寝れたとしても一夏は自分達より早く起きる為あまり見る事が無い一夏の寝顔。

 

 

「「かわいい……」」

 

 

2人はニヤニヤしながら一夏の事をジッと見る。

暫くの間そうしていたが、ふと時計を見たクラリッサが声を発する。

 

 

「もうこんな時間か。そろそろお昼だな」

 

 

その言葉を聞き、チェルシーも時計を確認する。

11:50。

確かにもうお昼の時間だった。

 

 

「今の一夏、何が食べられるかしら?」

 

 

「朝はお粥という話だったが…分からないな。起きるのを待った方が良いかもしれないな」

 

 

「そうかもね。じゃあ、取り敢えず私達は持ってきたパンでも……」

 

 

チェルシーがそう言いながら、持ってきたビニール袋から自分達の昼食用のパンを取り出す。

クラリッサの分を手渡し、同時に袋を開ける。

 

 

「「いただきます」」

 

 

そうして口を開けた、その瞬間。

 

 

「ん、んんぅ…あ、あああ……?」

 

 

眠そうに目を擦りながら、一夏がむくりと上体を起こした。

 

 

「一夏、起きたか」

 

 

「んぁ…あれ、クラリッサ?チェルシー?何で此処に……?オルコス達は……?」

 

 

寝起き一番で、一夏が発したのは疑問の言葉だった。

寝るときは居なかった筈の人物が起きたら目の前に居たら、誰だってそんな反応になるだろう。

 

 

「一夏のお見舞いに決まってるでしょ?恋人が熱出してるのに、看病に来ない訳が無いわ」

 

 

「オルコスソード達は向こうの世界だ。如何やら呼ばれたらしい」

 

 

「そっか。ありが…ゲホッ!ゴホッ!」

 

 

「一夏!無理はするな!」

 

 

「大丈夫…ちょっと、咳き込んだだけだから…ゴホッ!」

 

 

口元を押さえながら席をする一夏に、チェルシーが体温計とタオルを差し出す。

 

 

「一夏、取り敢えず汗を拭いて熱測って」

 

 

「うん、分かった…」

 

 

大人しくタオルと体温計を受け取った一夏。

そのまま寝汗でびっちょびちょな服を脱ぐ。

熱が出ている為火照ったような表情と、汗に濡れた一夏の身体。

それを見た2人は、思わず赤面し顔を逸らしてしまう。

 

 

何時もだったらそんな反応を可愛がるところだが、生憎今の一夏にそんな余裕はない。

体温計を枕元に置き、若干手を震えさせながら身体を拭いていく。

そんな様子を見て、慌てて2人が身体を拭くのを変わろうと言う。

 

 

「いや、良いよ…自分ででき、ゴホッ!ゲホッ!ゴホッ!!」

 

 

「良いから。自分の身体を大事にしてくれ」

 

 

「こういう時くらい、私達の事を頼って?」

 

 

「ゲホッ!……ああ、お願い」

 

 

2人の真剣な表情を見た一夏は、大人しくタオルを渡す。

クラリッサとチェルシーは手分けして一夏の身体を拭いていく。

高校生ながら、バディワールドでの生活で鍛えられ、引き締まった肉体。

それに触れた2人は再び顔を赤くする。

 

 

「かわいい……」

 

 

さっきは反応する余裕が無かったが、流石にこんな至近距離で、しかも身体拭かれているだけだったら多少の余裕はある。

一夏に言われ恥ずかしくなり、更に顔を赤くしながらも身体を拭いていくクラリッサとチェルシー。

身体を拭き終わり、洗ってある服を一夏に着せる。

 

 

「はい、体温計」

 

 

「ありがとう…」

 

 

クラリッサが枕元の体温計を手渡し、そのまま体温を測る。

 

 

ピピピ、ピピピ、ピピピ

 

 

「38度9分…」

 

 

ほぼほぼ変わっていない体温。

それを見た一夏は疲れたようなため息を吐く。

 

 

「一夏、もうお昼なんだけど、何が食べられる?お粥?リンゴ?」

 

 

「あー……お粥、お願いして良い?」

 

 

「任せろ」

 

 

クラリッサとチェルシーは自分のパンを食べるのを忘れ、直ぐにお粥を調理する。

 

 

「はい、どうぞ」

 

 

「いただきます」

 

 

「自分で食べられるか?」

 

 

「大丈夫大丈夫、朝は自分で食べたし…」

 

 

多少頭をふらつかせながらも、順調に食べ進める一夏。

無事完食し、両手を合わせる。

 

 

「ご馳走様でした」

 

 

「お粗末様でした。一夏、調子はどう?」

 

 

「まだあんまり良くない…薬飲んで、寝る事にするよ」

 

 

「ほら、水だ」

 

 

「ありがと…」

 

 

クラリッサから水を受け取り、風邪薬を服用する。

 

 

「ふぅ…修学旅行、行きたかったなぁ……」

 

 

水の入ったコップを机の上に置き、遠い目をしながらそう呟く一夏。

そんな一夏に何て声を掛けたら良いのか分からず、クラリッサとチェルシーは何とも言えない表情を浮かべる。

2人の表情を見て、一夏は弱々しい笑顔を浮かべる。

 

 

「まぁ、恋人の看病を受けれるなら、それも良いかな?」

 

 

2人の事を見ながら、ウインクする一夏。

顔がほんのり赤いのは、熱があるからか、それとも恥ずかしいからか。

 

 

「おやすみ、クラリッサ、チェルシー」

 

 

「ああ、おやすみ、一夏」

 

 

「いい夢見てね」

 

 

逃げるように横になり、瞼を閉じる一夏。

やはりまだ熱があるからか、そう時間も掛からず一夏は夢の世界へと旅立った。

スヤスヤと眠る一夏。

クラリッサとチェルシーはまだほんのり頬を赤く染めながら、互いに顔を合わせる。

そうして頷き合うと、一夏の両頬に口づけをする。

 

 

「一夏、ゆっくり休んでくれ」

 

 

「私達は、一夏の側にいるからな」

 

 

2人は一夏の手をしっかりと握る。

こうして時間は過ぎてゆく……

 

 


 

 

京都。

修学旅行2日目の夜、就寝時間前。

修学旅行は2泊3日なので、修学旅行最後の夜という事である。

 

 

IS学園生が宿泊している旅館。

その共通スペースの一角に、1年生専用機持ち全員の姿があった。

全員もう部屋に行けば寝られる状態ではあるが、真剣な表情を浮かべており、その表情にあった雰囲気で話し合っている。

 

 

「……修学旅行、楽しかった」

 

 

「楽しかった。それは間違いない」

 

 

「でも、だけど……」

 

 

「……やっぱり、お兄ちゃんがいないから、罪悪感と物足りなさがある」

 

 

『うんうん』

 

 

マドカの言葉に、全員が頷く。

そう、わざわざこんな時間に集まって話している事は、一夏に関する事だ。

 

 

出発の時は気持ちを切り替える事が出来なかったが、そこは青春ど真ん中の女子高生。

京都に来てしまえば、気持ちを切り替え全力で楽しんだ。

だが、もう直ぐで修学旅行が終わりだと思うと、改めて一夏について考えてしまう。

 

 

「一夏の為に何かしてあげたいけど…」

 

 

「私たちだけでは限界がありますわ」

 

 

「せめて人数が居れば、何か出来るような気はするけど…」

 

 

「その人数をどうするかなのよね…」

 

 

鈴のその言葉に、全員が考え込む。

全員、一夏のために何かをしてあげたいと思っている。

だが、セシリアの言う通り自分達だけでは限界がある。

だからといって、大人数を簡単に用意する手段など……

 

 

「あっ!あるじゃん!人集められる方法!!」

 

 

唐突にシャルロットが何かを思い出したかのように表情を明るいものにし、両手をパンと合わせた。

 

 

「そんなもの、ありましたっけ?」

 

 

「みんな忘れてない?僕達、部活とかそう言うのとは違う、ある組織のメンバーじゃん。まぁ、今は事実上空中解散してるけどさ」

 

 

『あっ!!』

 

 

その言葉に、シャルロット以外も思い出した。

かなりの人数がいるにも関わらず、結成されてから特に何の活動もしなかった、事実上の死に組織。

だが、一応連絡手段は確保されている為、色んな人に声を掛ける事は可能。

そして、この手段で連絡できるという事は、協力を得られる可能性は高い。

 

 

専用機持ち達はそこから時間ギリギリまで話し合いを重ね、計画を練った。

そして修学旅行終了後、1年生全員に声を掛け、どうしても参加出来ない生徒を除き、ほぼ全員の賛同を得る事に成功した。

教師の許可ももぎ取り、これで後は自分達で準備をしていくだけ。

一夏に気付かれないように準備を進め、計画実行の時を待つのだった……

 

 


 

 

「なぁ、オルコス」

 

 

《何だ一夏》

 

 

「これ、なんだと思う?」

 

 

《我に聞くな》

 

 

修学旅行の日程3日間思いっ切り寝込んだ一夏。

その甲斐あって修学旅行が終わったときには無事完治しており、週明けには何も問題なく登校出来た。

 

 

そんな修学旅行から1週間とちょっとが経ったある日の放課後。

一夏とオルコスは屋上で時間を潰していた。

そんな一夏の手元には、封筒と1枚の手紙。

これは、朝登校した時にはもう既に一夏の机の上に、手紙が封筒に入った状態で置いてあったものだ。

 

 

封筒にも手紙にも差出人の名前は書かれていない。

そして手紙には

 

『19:00に、食堂に来て下さい。それまでは、絶対に来ないで下さい』

 

とだけ書かれていた。

 

 

正直従う理由は無いが、同じく従わない理由も無い。

しばしの検討の結果、一夏は食堂に行く事にした。

屋上にいる理由は、此処からでは如何あがいても食堂の様子が分からないからである。

 

 

「みんなこれが何か絶対知ってる反応してたよな?」

 

 

《ああ。差出人は誰なのか、そして食堂で何があるのか。確実に知っている》

 

 

「情報アドバンテージ向こうにあるのきちぃー。何があるんだろう?」

 

 

手紙に気が付いたとき、当然ながら一夏はクラスメイト達に手紙に関する質問をした。

だが、全員が全員同じ様な反応ではぐらかすので、その時点で一夏はクラス全員の企みだと察した。

自分以外の全員が知っていて、何かを企んでいるという状況で、楽観視等出来ない。

例えその相手がクラスメイト達だったとしてもだ。

 

 

「どうしよう、食堂行ったら『死ねぇ!』とか襲われたら。あの人数だし、友達だしな…結構面倒くさい」

 

 

《何故そんな発想になる。そして、その状態でも面倒くさいで終わるのか》

 

 

「いや、まぁ、思い付いちゃったもんは仕方が無いじゃん。あと、相手が生身だったら如何にでもなる」

 

 

《生身じゃ無かったら?》

 

 

「流石にしんどいな……」

 

 

少々物騒な会話をしながら2人は暇を潰す。

まだ時刻は16:50。

指定の時間まで、まだまだタップリと暇を潰さないといけない。

 

 

クラリッサとチェルシーは仕事があるのでそう簡単に連絡できない。

そして、白式と白騎士はダークネスドラゴンWにて修行中だ。

メンジョ―はかせとジェネシスが造った2人の強化パーツ。

まだ試作品というのもあって上手く調整が出来なかった。

はかせとジェネシスはこっち側に問題があるから気にしないで、とは言ったものの、そこは真面目な白式と白騎士。

自分達も出来るだけの事はしておこうと、修行を始めたのだ。

 

 

無論、一夏が呼べば直ぐに駆けつけてくれるのだが、頑張っている2人の邪魔をしたくは無いので、究極の事態でない限り呼ぶ事は無い。

 

 

一夏とオルコスは雑談をしたりしながら時間を潰すが、流石にだんだんと話題も無くなり暇になって来る。

 

 

「俺のターン!ドロー!チャージ、アンド、ドロー!!」

 

 

となれば、バディファイトをするしかない。

一夏が使用しているのは《コスモドラグーン》デッキ。

デッキの1番上を公開し、それが《コスモドラグーン》なら固有の効果を発動できるという変わった能力を持つ、スタードラゴンWのデッキ。

オルコスが使用しているのは《七瀬》デッキ。

自分のソウルを抜き、相手のゲージを破壊する《白竜仙人 七瀬》を中心としたカタナWのデッキ。

 

 

「ライトにコール、『RA07:ハインライン』!コール時効果、“ルナ・ゲート”!デッキの1番上を公開し、《コスモドラグーン》なら手札に加え、更におまけに1ドローできる!」

 

 

《さぁ、デッキを捲れ!》

 

 

「オープン!公開するのは、『DGS(ドラグーンスキル) スターダスト・マニューバ!』《コスモドラグーン》なので手札に加え、1ドロー!!」

 

 

《ちっ》

 

 

「キャスト、『スペース・エージェント』!デッキの上から3枚をゲージに置き、その後デッキの上1枚を確認!それをデッキの上か下に置く!ぐっ…下だ」

 

 

《ここで外れを引くか》

 

 

「なんでコスモドラグーンの魔法《コスモドラグーン》持ってねぇんだよ!」

 

 

《設計ミスじゃないか?》

 

 

「まぁ良い!アタックフェイズ!」

 

 

一夏とオルコスのファイトは白熱していく。

当然1回のファイトだけでは時間を潰すことは出来ず、連戦する。

ずっと同じデッキだと飽きるので、デッキを変更しながらファイトを続ける。

 

 

「なんか、屋上でバディファイトやってると、話に聞く相棒学園みたいだな」

 

 

《話に聞く、な》

 

 

「光君元気かなぁ」

 

 

《誰だ?》

 

 

「ん、ああ、オルコスは会ったこと無かったっけ。相棒学園の中等部3年生の子。俺の知り合い」

 

 

《……ああ、夏休みにファイトした》

 

 

「そうそう」

 

 

そんなこんなで時間は過ぎ、途中で時間になり屋上から移動したり等しながら時間を潰したお陰で、漸く時間になった。

一夏はオルコスと共に食堂に向かう。

さっきなんとなくで物騒な話題をしてしまった為、一応直ぐに交戦できるようにしている。

 

 

「なんか変に緊張してきたな」

 

 

《まぁ、気持ちは分からんでもない》

 

 

次の角を曲がれば食堂はすぐそこ。

緊張を感じながらも、足踏みすることなくそのまま角を曲がり……

 

 

「《ん?》」

 

 

一夏とオルコスは同時にそんな疑問の声を発した。

だが、それも仕方があるまい。

 

 

ワイワイガヤガヤ

 

 

そんな擬音がピッタリ当てはまるくらいに、食堂内は盛り上がっていた。

机の上には沢山の料理が並べられており、食堂内には1年生がほぼ全員が集まっていた。

もう既に食事は始まっているのか、全員が食べながらの談笑を楽しんでいた。

 

 

「なんかの記念パーティー?」

 

 

《そんな大人の欲望渦巻く雰囲気ではないがな》

 

 

一夏とオルコスは状況が飲み込めず、そんな呆けた内容の言葉を発する。

そんな呟きで、2人が来た事に数人が気が付いた。

 

 

「織斑君来たよー!!」

 

 

「来たぞー!!」

 

 

1人の大声に、一夏が便乗し声を発する。

すると、食堂の奥の方から専用機持ちが一夏とオルコスの元にやって来た。

 

 

「お兄ちゃん!ようこそ!」

 

 

「マドカ……これはいったいどういう事だ?」

 

 

一夏に1番最初に声を掛けたマドカに、取り敢えずこれがどういう状況なのか聞くことにした。

マドカは自信満々に胸を張ると、同じく自信満々に説明を開始する。

 

 

「今日はなんと、修学旅行後夜祭!!」

 

 

「はぁ?」

 

 

修学旅行という言葉と、後夜祭という言葉の意味は理解している。

だが、それを繋げた単語の意味は理解できない。

珍しく間抜けな表情を浮かべながら疑問の声を発した一夏に、専用機持ち達が説明を開始する。

 

 

「一夏、アンタは修学旅行来れなかったじゃない?」

 

 

「ああ」

 

 

「だから、今日は全力で楽しもうの会を一夏の為に開催する」

 

 

「うん……う~ん?」

 

 

一夏は若干首を捻る。

言っている事は理解できる。

だが、わざわざやる理由が分からない。

そもそも修学旅行に行けなかったのは自分が体調管理を怠ったのが原因なのだから、わざわざフォローされる事でもないと考えている。

 

 

「なんでわざわざ……」

 

 

一夏は思わずそう声を漏らしてしまう。

 

 

「そりゃあ勿論、お兄ちゃんに楽しんで貰いたいから!それだけだよ!!」

 

 

そんな一夏にマドカが笑顔でそう声を掛ける。

それに続けるように、シャルロットも同じく笑顔で一夏に語り掛ける。

 

 

「ねぇ一夏。いっぱい人が集まってるじゃん」

 

 

「そうだな。これ、もしかしなくても1年生全員か?」

 

 

「うん。本当に都合がつかない子以外は全員いるよ。それでね一夏、こんな人数、どうやって声を掛けて、なんでみんな集まってくれたと思う?」

 

 

「え……体調管理を怠った馬鹿を蔑みながら盛り上がるため?」

 

 

《おい》

 

 

「冗談だよ……分かんないな」

 

 

オルコスのツッコミに流れるように返しながら思考を巡らせるも、一夏には理由を思い付く事が出来なかった。

そんな反応に専用機持ち達は苦笑を浮かべるも、シャルロットは優しく説明を開始する。

 

 

「僕達が忘れかけてたから、一夏は忘れてるかもしれないけど、僕達はとある組織のメンバーなんだよ」

 

 

「組織のメンバー…?」

 

 

「うん、織斑一夏ファンクラブなんだけどさ」

 

 

「…………ああ!あったなそんな非公認組織!!」

 

 

存在を思い出すのに10秒以上かかるほどに印象が薄すぎた組織、一夏のファンクラブ。

結成してから特にこれといった活動をせず、一夏がその存在を知ったのも体育大会の時だ。

印象に残らないのも無理はない。

 

 

「それでね、連絡できたのはファンクラブがあったから。そして、みんな集まったのは、一夏の事が好きだからだよ」

 

 

あ、likeの方でね。

と付け加えながら笑顔でシャルロットは言う。

その言葉を聞き、一夏はバッと周囲を確認する。

専用機持ち達を始めとして、さっきまでワイワイ騒いでいた1年生全員が一夏に対して優しい笑顔を浮かべていた。

それを見た一夏は右手で顔を覆い、笑い始める。

 

 

「フフフ…アハハハハ!!楽しんで貰う会にしては、人数が多すぎる気もするが……」

 

 

「あ、あはは……」

 

 

一夏の指摘に数人が苦笑いを浮かべる。

だが、一夏はそんなもの気にならないように右手を顔から離す。

そして、ニコッと良い笑顔を浮かべる。

 

 

「ありがとう。さぁ、時間は有限だぜ?」

 

 

『おおおおおおお!!』

 

 

そうして、一夏も混じって1年生は時間ギリギリまで全力で楽しんだ。

修学旅行とは全く違う雰囲気だが、まぎれもなくこの時間も思い出にしっかりと書き込まれただろう。

 

 

ワイワイガヤガヤ

 

 

再びそんな擬音がピッタリになるほど盛り上がり始めた食堂内。

その中心となった自身の相棒を、オルコスは端の方から眺めていた。

中々いい笑顔を浮かべながら会話を浮かべる一夏。

 

 

(《取り敢えず、今は安定しているようだが……》)

 

 

オルコスは内心ひやひやしていた。

発熱してからの一週間、一夏は特に症状が出たりしなかった。

だからこそ、オルコスは心配しているのだ。

次何時症状が出るのか分からないからだ。

 

 

(《……一夏、無理はするなよ》)

 

 

無理をしがちな相棒へ、心の中で心配の声を送る。

 

 

こうして時間は過ぎていくのだった。

 




現時点での一夏の使用デッキレシピ

デッキ名:新生煉獄騎士団
フラッグ:ダークネスドラゴンW
バディ:贖罪の煉獄騎士団団長 オルコスソード・ドラゴン

モンスター 27枚
贖罪の煉獄騎士団団長 オルコスソード・ドラゴンx4
煉獄騎士団の解放者 オルコスソード・ドラゴンx4
新生煉獄騎士団 ホワイトタイプ・ドラゴンx4
新生煉獄騎士団 ホワイトナイト・ドラゴンx4
新生煉獄騎士団 ホーリーグレイブ・ドラゴンx2
新生煉獄騎士団 ニードルクロー・ドラゴンx2
煉獄騎士団 グラッジアロー・ドラゴンx2
煉獄騎士団 シーフタン・ドラゴンx2
C・ダリルベルクx3

魔法 19枚
誇りを剣に、刃は不滅x3
煉獄騎士よ、永遠なれx3
我らが行くは血濡れの魔道x3
煉獄魔導 血盟陣x3
悪の凶宴x3
死地への誘いx2
煉獄唱歌 “呪われし永遠なる戦の調べ”x2

アイテム 3枚
新生煉獄騎士団の剣 エクスピアソードx2
ドラゴンフォース “煉獄の型”x1

必殺技 1枚
ジェノサイド・パニッシャー!!x1

ドラゴンフォース入手後からの使用デッキ。
オリカを使用しているので現実で再現不可能。


次回から章が変わります。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしておいてください!

評価や感想もよろしくお願いします!


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堕チル騎士、進ム魔道
宇宙での作戦


大変お待たせしました!
さて、新章です!

今回もお楽しみください!


???

 

 

宇宙。

 

 

惑星や恒星が浮かぶ、無限に広がる空間。

 

 

そんな漆黒の空間に、一振りの剣が浮かんでいた。

 

 

その剣には、核も無く、もう既に存在する意味も無い。

 

 

このままデブリとなるか、大気圏で燃え、焼失するか1部が星に降り注がれるか。

 

 

そんな未来しかないと、剣の本来の所有者は思っていた。

 

 

 

 

 

 

剣を含む無機物には、本来意思など宿らない。

 

 

だが

 

 

伝説の名を冠する世界では、不滅の剣に意思がある。

 

 

闇竜の名を冠する世界では、終焉の魔竜が死に陥ったとき、その魂は終焉の魔剣へと姿を変える。

 

 

混沌から生み出されし超越者や降魔王剣にも、後に意思が宿った。

 

 

そして、無限の成層圏と呼ばれるパワードスーツのコアにも、意思が生まれた。

 

 

 

 

 

ドクン

 

 

宇宙の剣に、意思が生まれる。

 

 

ドクン

 

 

組み込まれなかった核の代わりに

 

 

ドクン

 

 

細胞を埋め込まれ。

 

 

ドクン

 

 

失ったはずの存在理由は

 

 

ドクン

 

 

別のものによって与えられ。

 

 

ドクン

 

 

剣は輝く。

 

 

ドクン

 

 

与えられた細胞と存在理由に応えるために。

 

 

ドクン

 

 

剣は蠢く。

 

 

ドクン

 

 

芽生えた意思が、望んでいるから。

 

 

ドクン

 

 

剣自身の力を、存分に発揮する事を。

 

 

ドクン

 

 

その切っ先は、宇宙に浮かぶ青に向けられている。

 

 

ドクン

 

 

剣が振り下ろされるまで、猶予は、あとわずか……

 

 


 

 

三人称side

 

 

イギリス、オルコット家の館。

主人の娘であるセシリア、その従者であるチェルシーがIS学園に向かってから、少し寂しくなってしまったこの館。

だが、今現在は貴族家としての長い歴史を見ても1位、2位を争う程に慌ただしかった。

 

 

「ロバート様とロザリー様、随分と忙しそうでしたが、大丈夫でしょうか…?」

 

 

ここ数日の慌ただしさを間近で見ているエクシアは、自分の部屋でボソッとそう呟いた。

夏休みから時間が経ち、チェルシーがIS学園に向かった為抜けた穴を埋められるくらいには、メイドが板についてきたエクシア。

だが、エクシアは今現在屋敷が慌ただしい理由を聞かされてない。

 

 

それは、従者全体に説明をしていないのか、エクシアだけに説明をしていないのか。

エクシアにそれを確かめる術はない。

 

 

主人に直接訪ねる事はメイドとして憚られるし、他の従者に確認したとしても、その答えが真実かどうかは分からない。

遠巻きに聞こえてくる会話から、ロバートとロザリー、そして従者の中でも位が高い数人は知っているという事だけが、今のエクシアが持つ情報の全てだった。

 

 

「お姉様、お兄様…」

 

 

時刻は20時を回っており、空の色は宇宙と同じように暗い。

エクシアは呟きながら窓に近付き、空を見上げる。

右手を窓に、左手を心臓に当てる。

 

 

自身が敬愛する姉、その恋人にして兄のように慕っている人物に治してもらった心臓。

もし、あの時治療をしてもらえなかったら、もし、出会っていなかったら。

自分は、いったいどうなっていたのだろうか。

今幸せそうな姉は、どんな気持ちで生活していたのだろうか。

 

 

ふと1人になるとき、エクシアはそんな事を考える事があった。

そんな答えの無いIFの話を、ずっと繰り返していたからか。

エクシアは1度、ポロッとその疑問をロバートとロザリーの前で零してしまった事がある。

そして、案外おっちょこちょいな一面があるロザリーがそれに反応してしまった。

ロバートが慌てて止めた為、全てを聞く事は出来なかったが、それでもその1部は聞き取ることは出来た。

 

 

「エクス、カリバー……」

 

 

アーサー王伝説に登場する剣と同じ名前のもの。

それがなんなのかは、エクシアには分からない。

だが、このエクスカリバーと呼ばれるものが、一夏に出会わなかったら使用されていたものであり、わざわざ隠さなければいけない程の、何かを秘めたものであるというのは、いくら何でも察せられた。

 

 

「……どうか、全てが無事に終わりますように」

 

 

色んな人の無事を願い、祈る。

エクシアには、これくらいしか出来ない。

だが、その祈りは絶対に届くだろう。

 

 

そうして時間は過ぎていく……

 

 


 

 

修学旅行、そして参加できなかった一夏の為に開催された後夜祭から暫くたった、12月のある日の放課後。

1年生専用機持ち全員が食堂に集まり、飲み物を飲んだりスイーツを食べたりしながら雑談をしていた。

 

 

「こういう場面で一夏いるの珍しくない?」

 

 

「まぁ珍しいな。こういう集まりの時、俺は仕事しているか体調崩してるかのどっちかだし」

 

 

「いやいや、今もパソコン操作しながらなのに何言ってるのお兄ちゃん」

 

 

「これは仕事じゃないから良いの」

 

 

一夏はそう言うと、ブラックコーヒーを一口飲む。

シャルロットとマドカの言う通り、ノートPCを操作しつつではあるが、一夏が珍しくティータイムの時間に参加していた。

仕事をながら作業でするほど一夏は馬鹿では無いので、している作業は仕事ではないというのは本当だ。

だが、そうなってくると一夏が何の作業をしているのか気になって来るという訳で。

 

 

「じゃあ何してんのよ」

 

 

「おいおいおい、ナチュラルに画面を覗こうとするな」

 

 

鈴が画面を覗こうとしたが、一夏の反射神経には勝てなかった。

画面を見られる前に一夏はノートPCの画面を閉じる。

 

 

「あ、ちょっと!良いじゃない、画面見るくらい!」

 

 

「駄目だから今閉じたんだろうが」

 

 

なにを言ってるんだと言わんばかりの表情を浮かべながら鈴の事を見る一夏。

 

 

「じゃあ直接質問する。一夏、何をしているんだ?」

 

 

「んー…今、直ぐに必要なものではないけど、何時か絶対に必要になるものを書いてる」

 

 

ラウラの質問に、ふわっとした返答を返す一夏。

鈴達はまだ聞きたかったが、これ以上質問しても明確な答えが返ってくる事は無いと察したため、それ以上質問する事は無かった。

 

 

そこからまた雑談が再開する。

その内容を聞き流しながら、一夏はもう1度ブラックコーヒーを一口飲む。

再びノートPCを開き、作業を再開しようとする。

その際に、マドカ達に気付かれないように右手を心臓に当てる。

 

 

「すぅー、はぁー、すぅー、はぁー」

 

 

目を閉じ、数度深呼吸する。

 

 

(頼む…今は来ないでくれよ…)

 

 

自分の身体に念押しするように心の中でそう呟いた一夏は、目を開き今度こそ作業を再開する。

そこから10分くらいたった時、

 

 

♪~~♪~~

 

 

唐突に誰かのスマホが連絡が来たことを示すように、音を鳴らす。

 

 

「すまん、俺だ」

 

 

「こういう場面って、大体お兄ちゃんな気がする」

 

 

「それは分かる」

 

 

マドカの言葉に苦笑しながら、一夏はPCを閉じてから食堂から出る。

その間に、画面に映る相手の名前を見て眉を顰める。

 

 

(珍しい…こんな時間に電話してくるのも、そもそも学園にいて電話してくるもの)

 

 

「もしもし?」

 

 

周囲に人が居ない所まで来た一夏は通話に出る。

 

 

『もしもし、すまないな、こんな時間に』

 

 

「別にそれは問題無いですけど、珍しいですね、学園にいるのに電話してくるなんて…織斑先生」

 

 

『ああ、緊急の連絡があってな』

 

 

電話の相手…千冬は一夏の言葉にそう肯定する。

 

 

「何故わざわざ電話を?校内放送なりなんなりで…」

 

 

『緊急の連絡ではあるのだがな。あまり大事だと他生徒に思わせたくないし、そもそも校舎内にいるとは限らないからな』

 

 

「なるほど、それでご用件は?」

 

 

『緊急会議だ。至急会議室まで来て欲しい』

 

 

「分かりました」

 

 

会議で何を話し合うかは、今聞いてもそこまで意味が無いと判断したのか一夏はそのまま肯定する。

 

 

「今、1年生の専用機持ち全員と一緒に食堂にいるんですが、連れて行った方が良いですかね?」

 

 

『それはちょうどいい。ああ、頼む』

 

 

「分かりました。では至急向かいます」

 

 

一夏は電話を切ると、そのまま早足で食堂に戻る。

雑談を続けていたマドカ達は、戻ってきた一夏に視線を向ける。

 

 

「一夏、お帰り」

 

 

「みんな、緊急会議だ。会議室に行くぞ」

 

 

『っ!』

 

 

簪の言葉に、一夏は簡潔にそう返す。

その瞬間に、全員の表情が一気に固いものに変わる。

ノートPCを置いていくわけには行かないので、一夏はブラックコーヒーのペットボトルと共に、回収する。

それを見たマドカ達も、緊急事態だと察し机の上を片付け始める。

片付けが終わり、一夏達は迅速に会議室に向かう。

 

 

(PC持ってって良いのかな?いや、食堂に置いていくわけには行かないから仕方が無いか)

 

 

一夏がそんな事を考えながら移動していると、ほどなく会議室にたどり着いた。

扉を3回ノックする。

 

 

「織斑一夏、織斑マドカ、シャルロット・デュノア、セシリア・オルコット、ラウラ・ボーデヴィッヒ、凰鈴音、更識簪、来ました」

 

 

『入って下さい』

 

 

入室許可を貰ったので、一夏が扉を開け、会議室へと入っていく。

会議室の中には、もう既に教師達や一部警備員、楯無を始めとする上級生の専用機持ちにクラリッサやチェルシーとほぼ全員が揃っていた。

 

 

「遅れて申し訳ありません」

 

 

「いえ、急な呼びかけだったんです。わざわざ来てくれてありがとうございます。席に座って下さい」

 

 

「はい」

 

 

十蔵に言われ、一夏達は開いている席に座る。

会議室での会議の場合、一夏は普段クラリッサとチェルシーに挟まれるように座るので、この席順には若干の違和感がある一夏なのだが、文句言えないのでそのまま大人しく座る。

一夏の隣はマドカ、その反対は千冬という織斑家が集合している席順になっているのは偶然である。

 

 

(本当に偶然か?織斑先生が端に座ってるのかなり珍しい気が…いや、俺に電話してたんだから端になったのか?分からん…まぁ、如何でも良いか……)

 

 

「それでは、緊急会議を開始したいと思います」

 

 

一夏が考えるのをやめたタイミングで、十蔵がそう声を発する。

その瞬間に、会議室内の空気が一瞬にしてピリッとしたものへと変わる。

 

 

「早速ですが、今回の会議の議題を説明させていただきます。みなさん、これをご覧ください」

 

 

(あ、学園長が説明するんだ。これもまた珍しい。今日は珍しい事しか起きないな)

 

 

一夏がそんな事を考えていると、とある映像が流れ始める。

その映像は、技術が進んだ今では少し違和感を覚える荒さだったが、その理由は直ぐに分かった。

 

 

まるで暗黒のような真っ黒な空間に、煌びやかに輝く星々。

そして画面中央に存在する、巨大な羽のようなソーラーパネルを持つ衛星。

そう、宇宙の映像である。

 

 

いくら技術が進んだとはいえ、やはり地上の映像と宇宙の映像では、解像度に差があってもおかしくはない。

それに、この映像が何時撮ったものなのかの説明を受けていないので、もしかしたら古いものなのかもしれない。

その為、全員すぐさま映像の違和感を思考から捨てた。

 

 

「この映像は?」

 

 

「約3ヶ月ほど前に撮影されたものです。そして、そこに映っているのは『エクスカリバー』と呼ばれているものです」

 

 

「「っ!」」

 

 

エクスカリバー。

その単語が出た瞬間にセシリアとチェルシーの表情がこわばるのを、一夏は見逃さなかった。

 

 

(チェルシー…セシリア…なにか知ってるのか?サラさんが反応してないあたり、もし知ってるならイギリス全体というより、オルコット家が関係してるっぽいな……)

 

 

一夏が眼を鋭くしながら考察をしていると、十蔵が続きを話し始める。

 

 

「今から2時間ほど前に、国際連合からこの映像が送られてきました。『IS学園で、エクスカリバーを破壊せよ』という指令付きで」

 

 

『…はぁっ!?』

 

 

十蔵の言葉に、会議中だという事を忘れ思わずそう叫んでしまう一夏達。

だが、それも仕方が無いほどその内容が衝撃的だった。

叫んでいないものなど、事前に知っていたであろう数人だけだった。

 

 

(あ、警備員の人達とか先生たちとかダリル姉とかも知らなかったんだ。まぁ、情報を小出しすると漏洩のリスクも高まるし、纏めて言った方が都合が良いか)

 

 

その中で1番早く冷静に戻った一夏は周囲の反応を見て、そんな事を考えていた。

 

 

宇宙にある衛星を破壊するのは、かなり難しい作業である。

ISがあるとはいえ、それを1つの学園に依頼するなど馬鹿げた話である。

しかも、今は亡国企業との戦闘が頻発しているこの状況で。

 

 

全員が落ち着いたのを確認し、一夏が右手を上げながら口を開く。

 

 

「何故破壊する必要があるのですか?」

 

 

その質問にが出る事は分かり切っていたように十蔵は頷くと、説明を開始する。

 

 

「エクスカリバーは、普通の衛星ではありません。攻撃機能を持っており、仮に地球に着弾した場合、周囲に甚大な被害を及ぼすという予測があります」

 

 

十蔵がそういうと同時に、映像が切り替わり、被害予測図が表示される。

その生々しくも現実的な図に、そこそこな人数が表情を歪める。

 

 

「次に進んで大丈夫ですか?」

 

 

そう尋ねながら、会議室内を見回す十蔵。

反応が無かったため、次に進める。

 

 

「このメイン攻撃ともいえる砲撃だけでなく、接近したものを追尾攻撃する機能もあります」

 

 

「なるほど…だからISを使用しないと破壊が難しく、訓練機も専用機持ちもそこそこ確保されているIS学園が対処を?」

 

 

「そういう事になりますね…」

 

 

一夏の言葉を肯定しながらも、十蔵はため息をつく。

理解は出来るが、納得など出来るはずが無いからだろう。

その感情はこの場に居る全員が、同じものを抱いていた。

 

 

「質問があります」

 

 

「はい、どうぞ」

 

 

クラリッサが右手を上げながら質問があると言い、十蔵が許可を出す。

その瞬間に会議室の中の視線が集まるが、特に気にせずクラリッサは声を発する。

 

 

「何故今になっての破壊なのですか?この映像を撮ったのが3ヶ月前なら、その時点でエクスカリバーへの接触は少なからず出来ていたはず。そこで連絡等はあったのですか?」

 

 

「破壊依頼や、映像、エクスカリバーの情報などはまさしく今日届きました。それ以前には、名前すら出て来ていなかったです。今になっての破壊依頼が来た理由は……申し訳ありませんが、分かりません」

 

 

十蔵は申し訳なさそうに眉をひそめながらそう言葉を発する。

十蔵が知らないとなると、他の誰も知らないだろう。

この場に居るほぼ全員が同じ事を同時に考えた。

このまま考えても仕方が無い、モヤモヤするが次の話題に映らないといけない。

そうして、話題を切り替えようと十蔵が言葉を発しようとした……その直前。

 

 

「1つ、よろしいでしょうか?」

 

 

「オルコットさん?どうかしましたか?」

 

 

セシリアが手を上げた。

全員の視線がセシリアに集まる。

 

 

「お嬢様…」

 

 

「大丈夫です、チェルシー。私たちが説明しなければ」

 

 

チェルシーが心配そうにセシリアに視線を向けるが、セシリアは真剣な表情でそう返す。

 

 

「何か知っているのですか?」

 

 

「はい。エクスカリバーは、元々は私たちオルコット家のものでしたから」

 

 

『えええっ!?』

 

 

セシリアの言葉に、会議室内で本日2度目の絶叫が響く。

先程直ぐに冷静に戻った一夏でさえ、今度はそこそこの間驚いた表情をしていた。

それでも、千冬とほぼ同時に冷静になっていたので、全体から見ると早い方である。

 

 

この会議室にいるメンバーに馬鹿は居ない。

セシリアの発言を、しっかりと聞き、正しく認識していた。

『元々は』『ものでした』

過去形。

つまり、今は違うという事。

 

 

ほどなくして全員が落ち着いた。

しっかりと説明して欲しい事は山のようにある。

だがしかし、何から聞いて良いのか分からない。

ともなれば選択肢は1つ。

 

 

「オルコットさん、続きをお願いしてもよろしいですか?」

 

 

「はい」

 

 

説明者に全投げである。

セシリアもそう来ることは予想していたので、すぐさま切り替え説明を開始する。

 

 

「エクスカリバーには、攻撃機能が搭載されていますが、この機能は自己防衛の為に過ぎないものでした。そして、エクスカリバーが開発されたのは、延命目的でした」

 

 

延命目的。

その言葉は、この場に居る殆どの人間の首を傾げさせるものだった。

そんな中、本人達以外の唯一の例外が声を発する。

 

 

「もしかして……エクシアか?」

 

 

「その通りですわ、一夏さん」

 

 

セシリア達以外にエクシアに会っていて、かつて心臓病を患っていた事を知っている人間は一夏しかいない。

千冬たちが『誰?』といった表情を浮かべるもの仕方が無い。

 

 

そこからセシリア達は説明し始めた。

チェルシーの妹であるエクシアが、かつては心臓病を患っており、エクスカリバーはエクシアを組み込むことで延命させる為の人工衛星だったこと。

その後エクシアの心臓病は完治したが、エクスカリバーはもうエクシアを取り込んだらすぐにでも発射できる状態で、今から中止させることが不可能な状態にまでなっていた為、核となるものを搭載しないまま打ち上げられた。

そこから暫くの間は問題も、存在理由もなく宇宙に佇んでいたのだが、ここ数日で状況は一変する。

 

 

エクスカリバーはオルコット家が何時でも状態等を確認出来、多少の制御が可能であったのだが、それが不可能になってしまったのだ。

制御は完全に操作を受け付けず、状態確認ももう既に行う事は出来ない。

最後に確認できた際には、エクスカリバーのメイン攻撃システムが、地球に向けて発射準備をしているという事が分かったのだが、その直後にアクセスが出来なくなってしまった。

 

 

核が存在していないので、本来起動するはずの無い攻撃能力。

オルコット家は慌ててイギリス政府に連絡を入れた。

 

 

「その後、様々な会議が急ピッチで行われた結果、巡り巡ってIS学園に依頼が来たという事です」

 

 

「なるほど……説明ありがとうございました」

 

 

「この責任は私たちオルコットにあります。処罰は何なりと受ける覚悟です」

 

 

セシリアは覚悟の決まっているといった表情でそう話す。

チェルシーもまた言葉にはしていないものの、セシリアと同じような表情を浮かべている。

 

 

「……いえ、IS学園からは処罰は与えません。責任は確かにオルコットにあるかもしれませんが、IS学園生セシリア・オルコットと、警備員チェルシー・ブランケット個人に責任はありませんから。何か異論は?」

 

 

十蔵のその言葉に反論するものは居なかった。

一夏は使える権力という権力の整理をいったん止め、セシリアに質問する。

 

 

「それで、そうなった原因は分かってるのか?」

 

 

「いえ、ハッキリとは分かってません。ですが、原因と思われるものに1つ、心当たりがあります。アクセスが弾かれる直前に、とあるテキストが表示されていたらしいんです」

 

 

「テキスト?」

 

 

「はい。『PHANTOM』と表示されていたようです」

 

 

『っ!!』

 

 

PHANTOM。

なんの情報も無ければ、更に謎が深まる単語。

だが、会議室にいる人間にとっては、その単語は原因を思い付かせるものだった。

何故なら、IS学園は何度もファントムと名のつく組織と何度も戦っているのだから。

 

 

「亡国企業、か……」

 

 

全員を代表して、一夏がそう呟く。

無論、これだけの情報で判断を確定させるのは危険な思考だが、可能性としては十分に高い。

だが、仮に亡国企業が犯人だったとして、どうやってエクスカリバーを乗っ取り、核が無い状態なのにも関わらず起動出来たのかが分からない。

考えても結論が出るものではないので、考える事を止め次の話題に移動する。

 

 

「それで学園長、エクスカリバーを破壊する理由は分かりましたが、その手段は?まさか、そこまで全部丸投げでは無いでしょう?」

 

 

千冬が手を上げながらそう質問する。

その瞬間に、全員の視線が十蔵に集まる。

 

 

宇宙にある衛星は、当然ながら地上でどうのこうのしたところで破壊出来ない。

破壊する為の特別な手段が必要だ。

 

 

そして、破壊の依頼をしてきたのは国連だ。

千冬の言う通り、何かしらの手段を提案している筈。

 

 

だが、全員の視線を受けた十蔵は気まずそうに視線を逸らす。

その反応を見て、直感的に悟った。

 

 

「まさか…そこも私達で考えろと?」

 

 

「はい……特に具体的な方法が示された訳でも無く、また使える武装等の提供も一切ありませんでした」

 

 

ふざけるな。

この場に居た全員が同時に思った事だろう。

そっちがお願いしてきて、何から何まで丸投げ等通常ありえない。

そのありえない事態が起こっているのだ。

憤りを感じるのも仕方が無い。

まだその依頼を受けると決定した訳でも無いのに。

 

 

そんな中、先程中断した思考を再開し、脳内で数々のシュミレーションを行う人物が1人。

 

 

(そこに行くまでならなんとかなるんだよな…後は……まぁ、()にいるから聞くか。それにしても、牙王さんから貰っておいて助かった…ありがとうございます、牙王さん、天武様)

 

 

「学園長、1つ、考えが」

 

 

右手を上げながらそう言葉を発した一夏に、全員の視線が集まる。

宇宙にあるものを破壊するという難関すぎるミッション。

それに使える考えがあると言われれば、注目してしまうのも仕方が無い。

 

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 

「はい。ですが、今持ってる情報だけだと最後まで行けるか如何か分からないので、取り敢えず詳しい人に聞こうと思います」

 

 

「詳しい人?」

 

 

一夏の言葉に、十蔵が首を捻る。

千冬たちも声には出さないものの、同じような表情を浮かべている。

そんな中、一夏は天井を見上げ声を発する。

 

 

「主任、バレてるんでさっさと降りてください」

 

 

「……アッハハハ!」

 

 

バァン!!

 

 

笑い声の直後、天井から1人の人間が降って来た。

頭に機械のウサミミを着けたその人物、篠ノ之束はニッコニコした笑顔を浮かべながら一夏の目の前に着地した。

 

 

「いやぁいやぁ、まさかバレるとはねぇ。いっくん、何処で分かった?」

 

 

「会議室に入った時からですよ。あんなに気配を駄々洩れにさせておいて、なんで逆に気付かれないと思ったんですか?」

 

 

「いやいやいや!えっ、全力で気配隠してたのに!?ちーちゃんも分からなかったみたいな顔してるよ!?」

 

 

「まさかぁ。織斑先生が分かって無かった訳…」

 

 

「いや、私でも分からなかった」

 

 

「本当ですか?2人とも鈍りましたね」

 

 

「そんな事無いと思うんだけどにゃあ?」

 

 

困惑したように眉を顰める束。

だが、一夏と千冬以外の全員は、もっと困惑したような、それでいて驚いたような表情を浮かべている。

篠ノ之束が急に現れたのなら、驚いて当然だろう。

 

 

会議室にいるほぼ全員から向けられる視線に、一夏は流石に束との会話を中断し、声を発する。

 

 

「この際ですから紹介します。うちの会社の開発担当主任、篠ノ之束です」

 

 

「ハローハロー、ご紹介にあずかりました、『PurgatoryKnights』開発主任の篠ノ之束だよ~!!」

 

 

一夏の言葉に、束はダブルピースをしながら笑顔で肩書を述べる。

その瞬間に会議室内にいるほぼ全員の表情がビシッと固まった。

 

 

「っ!耳塞げ!!」

 

 

この直後に来ると思われる行動を予知して、一夏が耳を塞ぎながらそう叫ぶ。

その声で、前々から束が『PurgatoryKnights』に関わっていると知っていた千冬達、そして当の束本人も耳を塞ぐ。

 

 

『えええええええええ!?!?』

 

 

一夏が杞憂した通り、会議室内に絶叫が響いた。

あの篠ノ之束が、『PurgatoryKnights』の開発主任。

驚かない訳が無い。

クラリッサやチェルシー、シャルロットが自分達もそんな反応したなぁ、となんとなく懐かしい感じになっている中、一夏が口を開く。

 

 

「驚くのは当然だと思いますけど、今はそんな事してる場合じゃ無いのでそうなんだ、と受け入れてください。ああ、それと他言無用でお願いします。いろいろ処理が面倒になるので」

 

 

聞きたい事は色々あるのだが、今は緊急会議中だ。

それに、一夏も詳しい人に聞く、という理由で束の名を呼んだのだ。

妨害をする訳にもいかないので、取り敢えず今は受け入れ、次を促すことにした。

 

 

(『絶対後で根掘り葉掘り聞いてやる』)

 

 

そんな事を考えながらの視線を全身に受けながらも、全く気にならない束が話題を変える。

 

 

「そんでいっくん、束さんに聞きたい事はいったい何だい?いっくんの為なら束さんなんだって答えるぜぃ!!」

 

 

「それじゃあ本題ですけど、主任、今のISって、宇宙に出ればあなたが元々構成していた通りに活動できますか?」

 

 

「え……?」

 

 

自信満々だった束の表情は、一夏の言葉を聞き呆気けに取られたようなものに変わる。

そして、千冬達も同じ様な表情も浮かべている。

一夏の発してる言葉が理解できなかった訳ではない。

それでいてなお、困惑してしまう。

束でさえ理解が追いついていないと察した一夏は、少し言葉を変えもう1度言葉を発する。

 

 

「だ~か~ら~!俺が開発中のアレを使ってみんなを宇宙に打ち上げるから、その先ISを使えばエクスカリバーの破壊は理論上可能か聞いてるんです!」

 

 

『っ!?』

 

 

一夏の言葉を聞いた束以外の全員は驚愕の表情を浮かべる。

人間を宇宙にあげられるものの開発が出来るのか、と。

ただ、マドカとシャルロットは

 

 

((えっ!?うちの会社そんなの造ってたっけ!?))

 

 

といったものだ。

 

 

そう、『PurgatoryKnights』はそんなもの開発していないどころか、企画会議すらされていない。

全て一夏の口から出まかせである。

 

 

(頼む束さん!俺の意図に気付いてくれ!!)

 

 

賭けだった。

でも、一夏は半場確信していた。

この世紀の大天災なら、自分の意図を正確に読み取ってくれると。

 

 

(『PurgatoryKnights』はそんなもの造って無い。でも、いっくんが適当な事をこんな大事な場面で言う訳が無い。つまりは、束さん達が知らないだけで、いっくんは私達を宇宙にあげるだけの何かを持ってるって事……束さんでもそう簡単に出来ない事をやってのける…アハハ、異世界って凄いなぁ!いつか束さんも行ってみたいなぁ~~)

 

 

「うん!アレを使えば行けるねぇ。束さんにISを調整させてもらえれば、宇宙でも活動できちゃうよ~。やっぱり束さんって天才!」

 

 

束はニコッとした笑顔で一夏の言葉を肯定する。

その反応で、一夏も口元に笑みを浮かべる。

 

 

「でもいっくん、いっくんがアレを使うって事は……」

 

 

「はい、俺は制御に全てのリソースを割かないといけないので、言い出しっぺのくせに宇宙には行けません。ですがまぁ、大丈夫でしょう。俺の姉は現役時代より身体能力は多少落ちてるかもしれませんが、専用機は現役時代より格段にハイスペックになった世界最強ですし」

 

 

「……あまり持ち上げるな」

 

 

一夏のその言葉に、件の最強こと千冬が若干気まずそうにそう呟く。

一夏はその呟きをスルーして

 

 

「それに」

 

 

と言葉を続け、視線をマドカ達専用機持ちに向ける。

 

 

「俺以上に優秀な専用機持ちはいっぱいいますから。まぁ、協力が得れればの話ですけど」

 

 

まるで挑発するかのように笑いながらそう言葉を発する一夏。

その視線と言葉が、専用機持ち達に火をつけた。

その雰囲気の変化は、やる気は、周囲の人間全員に伝わっていた。

 

 

「無論、作戦中のIS学園警備もあるので、全員が行けるわけでは無いですが」

 

 

その直後に出鼻を挫くような発言に、ガクッと肩を落とすも、そのやる気は失われていない。

一夏はにやりと口元を歪ませ、十蔵に視線を向け、改めて言葉を発する。

 

 

「以上の事から、織斑一夏が…いや、『PurgatoryKnights』が提案するのは、選出したメンバーを我々が宇宙に上げ、対処するというものです。此方から提供するのは、宇宙に上げる手段と篠ノ之束によるISの整備、あと……」

 

 

一夏は何かを思い出したかのような表情を浮かべると、改めて束に視線を向ける。

 

 

「主任、とっくのとうに社長とオータムさんの分の専用機完成してますよね?」

 

 

「そりゃあもうバッチリ!今までは稼働させるタイミングが無かっただけだからねぇ。夏みたいに強引にやるとまたいっくんぶっ倒れるし」

 

 

「……そこは言及しません」

 

 

束の視線から逸れるように顔をそむける一夏。

だが、会議室中の視線はこの2人ではなく、端の方に座っているオータムに向けられた。

 

 

「ん、ああ、オータムさんはうちの社長や主任の昔からの一緒に居たんで。ほぼ身内みたいなものなんですよ」

 

 

見かねた一夏がとてもザックリ状況説明をし、助け舟を出す。

オータムは視線で感謝を伝え、一夏は軽く手を動かしそれに応えてからさっきの言葉の続きを発する。

 

 

「えー、宇宙に上げる手段と、ISの整備と、追加の戦力の3つです」

 

 

「束さんも今回は協力するよぉ~。流石にね」

 

 

一夏、束は最後にそう締めくくる。

全員の視線は自然と十蔵に集中する。

 

 

「……」

 

 

突拍子もなかった依頼。

それをこなす為の一筋の光が見えた。

だからといって、そうやすやすと掴んでいい光ではない。

専用機持ち達への負担が大きすぎる。

しかも、この間亡国企業と大きくぶつかり合ったばかりなのだ。

IS学園の学園長として、生徒への負担はこれ以上大きくしたくない。

 

 

「学園長、やらせてください!私が行かなければ、誰が行くというのですか!!」

 

 

そんな中、セシリアが気合いの籠った表情をしながら十蔵に訴えかける。

それに続くように、他の専用機持ち達も十蔵に訴える。

 

 

「お嬢様が行くのなら、私も行きます。それがメイドというものです」

 

 

「私達も当然やるわ!セシリアが行くってのに、行かない訳無いじゃない!」

 

 

「お願いです学園長、やらせてください!」

 

 

その訴えを聞き、十蔵は深ぁ~く息を吐いた。

その後、ゆっくりと言葉を発する。

 

 

「……他に意見が無いのなら、織斑君の提案を採用します。意見は?」

 

 

その言葉に、他意見が出る事は無かった。

 

 

「……では、織斑君の提案を採用。作戦を開始します」

 

 

『はいっ!!』

 

 

十蔵の言葉に、全員が気合いに籠った言葉を発する。

 

 

その後、何時間にもわたり綿密な作戦会議を重ねた。

スコールや、傘下企業の面々にも連絡を取り、使用できる武装の調達も行う。

 

 

その結果、デュノア社で出来る限りの弾丸等の調達と束の整備を行い、イギリスにて打ち上げを行う事を決定。

宇宙に行くメンバーの選定も決定し、IS学園から出発するのが2日後に決まった。

 

 

いざ、聖剣を砕く時……

 

 

 




珍しくバディモンスターが出なかった。
まぁ、そんなときもある。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想もよろしくお願いします!


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下準備は大事です

本当にお待たせしました……
まさか約2ヶ月かかるとは……
投稿ペース戻せたらいいんだけどなぁ……

今回もお楽しみください!



三人称side

 

 

エクスカリバー破壊計画の会議から2日後。

今日はIS学園を出発する日である。

流れとしては、IS学園出発後、フランスに寄りデュノア社にてISの最終調整を行う。

その後イギリスへ移動し、宇宙へ打ち上げる、といったものだ。

 

 

そんな日の早朝。

一夏はIS学園の整備室にいた。

整備室には他にも、千冬を始めとした教師数人、警備員であるオータム、そして、『PurgatoryKnights』社長のスコールと、開発主任である束がいた。

 

 

こんなメンバーが集まっている理由は単純明快。

オータムとスコールの専用機の調整である。

 

 

作戦会議の際に、十蔵に提示した条件の1つ。

追加の戦力である。

本当だったらここでついでにマドカ達のISの調整もしたかったのだが、予備の弾薬などはデュノア社の方が潤沢にあるので、宇宙に行く組はそっちで調整した方が良いと判断したのだ。

 

 

「いぇい!これでスーちゃんとオーちゃんの専用機、最終調整完了、そして初期化と最適化完了だぜぃ!」

 

 

束がニッコニコの笑顔で両手でピースを浮かべながら、一夏達に自慢するようにそう言葉を発する。

だが、一夏はそんな束を潜影のようにスルーし、スコールとオータムに話し掛ける。

 

 

「社長、オータムさん、気分は如何ですか?」

 

 

「ちょっといっくん!?無視は酷いんじゃないかな!?」

 

 

「主任に構ってる場合じゃ無いので。どうしても相手して欲しいんだったら、飛行機か列車でしてあげますよ。流石に暇な時間はあるでしょうし」

 

 

実際にそんな時間があったら、クラリッサとチェルシーとイチャイチャしているので、束に構ってる時間が無いという事実は一夏の胸の中に仕舞っておこう。

 

 

「ふふふ、凄く調子が良いわ。心配いらないわよ、一夏」

 

 

「こっちもだ…ああ、テンションが上がって来たぁ!!」

 

 

スコールは妖艶に笑い、オータムは交戦的な笑みを浮かべる。

2人とも、元亡国企業の実働部隊員なのだ。

根幹に戦闘に対する喜びのようなものがあっても不思議では無い。

 

 

「ははは、戦闘は起こらない方が良いんですけどね。それじゃあ、IS解除してください。バイタルチェックなら俺でも出来ますので」

 

 

束に変わって仕切り始めた一夏。

束は何とも言えない表情を浮かべ、両手をわなわなしながら千冬に泣きつく。

 

 

「ちーちゃぁああああん!いっくんが、いっくんがぁああああ!!」

 

 

「一夏が死んだみたいな反応を止めろ」

 

 

「だってぇ!いっくんが無視するし!束さんの仕事取るし!」

 

 

「仕方が無い。束、お前の技術力が凄まじいのは分かっているが、ああやって指示を出したりするのは一夏の方が安心する。バイタルチェックもな」

 

 

「酷い!なんでさぁ!?」

 

 

「今までの自分の言動を思い出せ!そうなって当然だろう!」

 

 

「そうだそうだー」

 

 

千冬の怒声に便乗するように、一夏が遠くからヤジを飛ばす。

その言葉を聞き、束はぶわっと涙を流し始める。

 

 

「ふぇぇええええ!昔はあんなにちっちゃくて、可愛くて、『束お姉ちゃぁ~~ん!!』って感じで後ろをてくてく歩いていたいっくんがぁあああ!」

 

 

「何!?束、貴様一夏に『お姉ちゃん』と呼ばせていたのか!?」

 

 

「そうだよぉ。ちーちゃんは昔っから『千冬姉』だったから、『お姉ちゃん』とは呼ばれてないもんねぇ~」

 

 

「うぐっ!?」

 

 

「その点~?束さんは~?『束お姉ちゃん』と呼ばれていた。つまり~?束さんの方がいっくんのお姉ちゃんに相応しいのだ~~!!」

 

 

「貴様ぁああああ!!」

 

 

束と千冬のなんといったらいいのか良く分からない言い合いに、周囲の教員達は何と言って良いか分からずアワアワしている。

すると。

 

 

「うるせぇえええ!いい加減黙れこの駄姉と駄兎がぁ!!」

 

 

バァン!バァン!

 

 

「「痛っ!?」」

 

 

我慢の限界を迎えた一夏が、2人の頭を思いっ切り叩いた。

あの篠ノ之束と織斑千冬を同時に悶絶させる攻撃を放てるのは、世界広しと言えども一夏だけだろう。

 

 

「んなことしてる場合じゃ無いんだよ!とっとと準備しやがれ!それとも俺に手伝われないと準備すら出来ないのか!?」

 

 

「えっ!?いっくんが準備してくれるの!?」

 

 

「するか馬鹿が!」

 

 

一夏がもう1度攻撃しようとすると、千冬と束はそそくさと移動の準備をし始めた。

その光景を見て、一夏は思いっ切りため息をつく。

 

 

「はぁ…実力は一級品なんだが…こういう部分のだらしなさと、千冬姉は酒癖の悪さ、束さんはしっちゃかめっちゃかな言動さえ如何にかなれば、手放しで尊敬できる人達なんだがなぁ」

 

 

「あ、あはは…凄いですね織斑君。織斑先生と篠ノ之博士にああやっていえるなんて…」

 

 

「これくらいは普通ですよ。あの2人に長年振り回されていたらね」

 

 

呆然とした表情で呟いた教師に、苦笑を交えながらそう返答する。

その後、放置してしまったスコールとオータムの元へと戻る。

 

 

「すみません」

 

 

「気にしなくて良いわよ。それにしても、2人は相変わらずねぇ」

 

 

「そうなんですよ。全く成長が見られない」

 

 

「ははは、手厳しいな」

 

 

「今まで『忙しそうだし』と甘やかしてきたので、厳しくしないと」

 

 

一夏のその言葉に、『どっちが年上か分からない』といった表情を浮かべる2人。

それを無視し、一夏は改めて声を掛ける。

 

 

「それじゃあ、社長、オータムさん、不在の間、学園をよろしくお願いします。まぁ、俺は直ぐに帰って来るんですけど」

 

 

「ええ、任せなさい。一夏、あなたが守って来たものは、私達も守るから」

 

 

「ああ!見くびって貰っちゃ困るぜ!」

 

 

「はい、任せました。まぁ、交戦が起こらない方が良いに決まってるので、イチャイチャでもしておいてください」

 

 

一夏がサラッと言い放った一言に、スコールとオータムは面食らった表情を浮かべる。

 

 

「なっ!?一夏、それ何処で…!!」

 

 

「何処でも何も、IS学園に入学する直前くらいには気付いてましたよ?お2人が恋人同士な事くらい」

 

 

その指摘に、2人は珍しく恥ずかしそうに顔をそむける。

一夏は苦笑をしながら、言葉を続ける。

 

 

「まぁ、昨今同性のカップルなんて珍しく無いんですし、恥ずかしがることじゃないんじゃないですか?俺の方がよっぽど普通ではない恋愛してますし」

 

 

「ああ、そうだったわね。じゃあ、もうクヨクヨするのはやめようかしら。オータム?今夜は寝かせないわよ?」

 

 

「うぇっ!?お、お手柔らかに……」

 

 

何時も強気なオータムの珍しい姿に、一夏はニヤニヤとした笑みを浮かべる。

此処で、漸く千冬と束が準備を終えた。

 

 

「一夏、いってらっしゃい」

 

 

「頑張って来いよ!」

 

 

「はい。いってきます」

 

 

最後に3人は笑顔でそう言い合い、一夏は教師達にも挨拶をしてから、千冬と束を引き連れ外に。

スコールとオータム、そして教師達はアリーナに移動し、早速訓練を開始する。

 

 

「全く、どうして準備も時間がかかるんだ」

 

 

「ごめんごめん。束さんが道具散らかしちゃってたからさ」

 

 

「はぁ…クロエさんの方が絶対に優秀」

 

 

「うっ!?クーちゃんを褒められて嬉しい気持ちと、蔑まれて悔しい気持ちが…!」

 

 

「とっとと行くぞ。時間が無い」

 

 

「いっくんから言っておいてそれは無いんじゃないかな!?」

 

 

まだ校舎内なので、一夏は走ってはいない。

だが、かなりの速度の早歩きで移動していく為、千冬と束も慌てて後を付いて行く。

2人とも身体能力はチートレベルなので、引き離される事は無い。

だが、ある一定の距離を保ち、一夏に聞かれないレベルの小声で会話する。

 

 

「束。さっきの一夏の攻撃、分かったか?」

 

 

「ううん。全く。受けて初めて分かったよ」

 

 

「やはり、か……」

 

 

その反応で、千冬もまた一夏の攻撃を受けるまで、認識する事すら出来なかったと、束は理解した。

 

 

「ちーちゃんはやっぱり現役の時よりは鈍ってるし、束さんも最近身体動かしたりして無かったから、鈍ってる。それは間違いない。でも…」

 

 

「ああ。流石に自分に向けられている攻撃くらいは対応できる。事実として、私もお前も、一夏以外の人間からの攻撃だったら対応くらい出来る」

 

 

「って事は、やっぱり…」

 

 

「ここ最近、一夏の身体能力が更に上昇している、という事だろう」

 

 

2人の間に、沈黙が流れる。

後ろでそんな会話がされていると知らない一夏は、何も気にせずに歩いていく。

一夏が気付いていないのを確認してから、会話を続ける。

 

 

「…あの、学園祭の後から。異常な速度で身体能力が向上している」

 

 

「そうだねぇ。あのEOS…だっけ?欠陥まみれのポンコツを軽々動かしてたしねぇ」

 

 

「…それをどうやって、とは聞かん。だが、事実として、一夏の身体には、明らかに異常が起きてる」

 

 

「それはそうなんだよねぇ。ただ、学園祭の時に身体検査したけど、特に異常は見つからなかった」

 

 

「……束。一夏の事、十分に注意しておいてくれ」

 

 

「もちろん」

 

 

会話が終わったとき、もう既に校舎の外、尚且つマドカ達が集まっている場所の近くまで来ていた。

そこにいるのは、マドカ達フランスに向かう専用機メンバーたちに、一夏の荷物を預かっていたオルコス、そして見送りの十蔵だ。

 

 

「すまん、遅くなった」

 

 

《気にするな。まだ許容範囲内だ》

 

 

オルコスから自分の分の荷物を受け取りながら、会話をする一夏。

 

 

「それでは、全員揃いましたね」

 

 

それを確認してから、十蔵がそう口を開いた。

全員の視線が十蔵に集まり、続きを話し始める。

 

 

「今回のミッションは、かなりの危険が伴います。全員、誰も怪我したりすること無く、無事に帰って来てください」

 

 

『はい!』

 

 

「《了解》」

 

 

「分かっています」

 

 

十蔵のその声に、(正確には)学園関係者出ない束以外が気合いの籠った返事をする。

そうして、エクスカリバーを砕くため、一夏達は1歩踏み出したのだった。

 

 


 

 

時間は経ち、数時間後。

無事にフランスにたどり着いた一夏達は、列車に乗りデュノア社に向かっていた。

一車両を丸々貸し切っており、一夏達以外の乗客はいない。

ついでのように束は変装をしているのは、仕方が無い。

 

 

「…俺らだけしかいないのに、そこそこ人数がいるように感じるな」

 

 

日本で買った500㎖のペットボトルに入った乳酸菌飲料を飲み、PCで作業をしながら一夏が不意にそう呟いた。

だが、そう思ってしまうのも仕方が無い。

 

 

一夏、千冬、束、クラリッサ、チェルシー、マドカ、シャルロット、ラウラ、セシリア、鈴、簪、楯無、ダリル、フォルテ、サラの計15人。

当然修学旅行などよりは人数が少ないが、忘れてはいけないのは束を除く全員が専用機持ちであるという事。

そして、束は束で世界で唯一ISコアを造れる人物である為、この車両にいる全員で、何処かの国と全面戦争して簡単に勝利出来るだけの戦力が集まっているのだ。

 

 

因みに15人の内、起きているのは一夏と千冬と束とクラリッサとダリルの5人であり、残りは時差ボケに耐えられず眠ってしまった。

クラリッサとダリルもついさっき起きたばっかりなので、3人だけがずっと寝ていないのである。

 

 

「こんな重大ミッションなんだ。これくらいは必要だ」

 

 

「何回も話し合いをして決めた事だ。文句を言ってる訳じゃないさ」

 

 

千冬の言葉に、右手で目頭を押さえ、左手で右肩を叩きながら一夏がそう返答する。

 

 

「あははは、いっくんおじさんっぽ~い!」

 

 

「うるせえ黙れ」

 

 

「だからさぁ!何でいっくんは束さんにそんな辛辣なのかな!?」

 

 

「本当に黙って下さい。此処に篠ノ之束がいるってバレたらマズいんですから」

 

 

「……は~い」

 

 

なんとなくまだ納得出来ていなさそうだが、一夏の言う事も最もなので大人しく黙る束。

その光景を見て、ダリルがケラケラと笑い始める。

 

 

「ダッハハハ!スコール叔母さんの会社は面白れぇなぁ!代表になれなかったら、入るのも十分選択肢だな」

 

 

「叔母さん…確かにそうですし、親戚同士の呼び方にいちいちツッコミを入れたくないんですけど、社長が聞いたら怒りますよ?」

 

 

「お前が言わなきゃ問題ねぇよ」

 

 

「確かにそうですけど…ダリル姉はやっぱり大雑把だ」

 

 

一夏ははぁ、とため息をつき、ダリルはにやにやと笑みを浮かべる。

 

 

「それにしてもケイシー嬢、随分とテンションが高いですが、何かありましたか?」

 

 

そんなダリルに、クラリッサがそう声を掛ける。

2人は学園でそこまで関わりがある訳では無い(クラリッサが一夏とイチャイチャしてるのをダリルが見かけるか、ダリルがフォルテとイチャイチャしているのをクラリッサが見かけるかくらいな)のだが、それでも何回か会話をした事はあるので、こういう質問くらいは出来る間柄だ。

 

 

「まぁ、こういう場面、俺とフォルテとサラは居ない事が多かったからな!テンションも上がるってもんだ!」

 

 

「ああ、確かに。ダリル姉達は基本IS学園でお留守番の事の方が多いですもんね」

 

 

ダリルの言葉に一夏はそう返答すると、再び乳酸菌飲料を飲み、PCを操作し始める。

 

 

「ところで一夏、さっきから何をしているんだ?」

 

 

「ん~~?なんだと思う?」

 

 

クラリッサの質問に、一夏ははぐらかすような返答をする。

 

 

「それが分かってたら、こんな質問してないぞ?」

 

 

少しだけ拗ねた様子で、上目遣いになりながら改めて尋ねるクラリッサ。

その攻撃をモロに喰らった一夏は、ダメージを受けたかのように胸に手を上げ、天を仰ぐ。

暫くの間そうしていたが、やがてポリポリと頬を掻きながら苦笑を浮かべる。

 

 

「ごめん、今は喋れない事なんだ。大事な事だから、さ」

 

 

「そうか…すまない、無理に聞こうとして」

 

 

「いいよ、誤魔化そうとした俺も悪いし。だからさ」

 

 

一夏はそこまで言うと身体を前に出し、

 

ちゅっ

 

っと、クラリッサの額にキスを落とす。

 

 

「今日はこれくらいで勘弁してくれ」

 

 

そして、ニコッと笑顔を浮かべる。

それを見たクラリッサは、キスをされた場所を触り一瞬恥ずかしそうな表情を浮かべるも、直ぐに優しく微笑む。

 

 

「ああ、そうしておく」

 

 

「……一夏、クラリッサ、あまり私達の前でイチャイチャするんじゃない」

 

 

「あ、そろそろ着くな。チェルシー達起こさないと」

 

 

「無視をするな!」

 

 

「ちーちゃん、それが束さんの気持ちだよ…」

 

 

「くっ、これが…」

 

 

千冬と束がなんかやってるのを横目に見ながら、一夏とクラリッサとダリルは未だに寝ているメンバーを起こす事にした。

 

 

「マドカ、シャル、起きろ。イギリスついてからも仮眠の時間あるから」

 

 

「隊長、起きてください、隊長」

 

 

「ほら、フォルテ、そろそろ着くぞ。起きろって」

 

 

ゆさゆさと身体をゆすり、時には頬をぺちぺちしながら起こしていく。

そんな中、一夏はチェルシーを起こすことを少し躊躇ってしまった。

理由は単純。

チェルシーの寝顔があまりにも綺麗で、幸せそうだったから起こす気が起きないからだ。

 

 

「んぅ…いち、かぁ…」

 

 

「なんだ、俺の彼女可愛すぎるぞ」

 

 

寝言で自分の名前を呼ばれ、一夏は思わず思った事をそのまま口から出した。

願わくば、ずっとこうして眺めていたいが、そんな訳にもいかないので、覚悟を決め起こす。

 

 

「チェルシー?起きて起きて」

 

 

「ん、うぅ…?一夏…?」

 

 

「うん、おはよう、チェルシー」

 

 

「おはよう…」

 

 

寝起きが故、まだ頭も呂律も回っていないチェルシーに、一夏は優しく微笑む。

 

ちゅっ

 

額にキスをしてから、一夏は自分の席に戻る。

チェルシーは暫くボーッとしていたが、メイド故朝には強く、今しがた一夏にされた行為を直ぐに理解した。

 

 

「っ!?///」

 

 

一瞬にして顔を真っ赤にする。

 

 

「さて、みんな。寝起きの所悪いが、もう直ぐ着く。自分の荷物を纏めてくれ」

 

 

「一夏、それは私の仕事…」

 

 

「どっちでも良いでしょう?それに、俺の事名前で呼んでる時点で」

 

 

「くっ…駄目だ、舌戦では一夏にどうしても勝てない…!昔はよく勝っていたのに……!」

 

 

「人間は成長するんだよ。あんたらもとっとと準備しろ」

 

 

一夏に言われ、千冬と束も大人しく準備を始める。

それを見て、はぁ、とため息をついてから自分も荷物を纏め始める。

 

 

そうして、降車予定でおり、そのままデュノア社へと向かう。

今は『PurgatoryKnights』傘下の企業だが、元はIS世界シェア3位の大手企業。

アクセスは非常にしやすい。

その為、最寄り駅や道中には大量に人が居る。

 

 

「あれ…ブリュンヒルデの千冬様…!?」

 

 

「えっ!?本物!?」

 

 

「それに、あれは織斑一夏!?」

 

 

「なんでフランスに居るの!?」

 

 

などと、周囲が騒ぎ始める。

千冬や一夏がかなりのネームバリューを持っているのは全員理解していた。

だが、まさかここまでとは。

マドカ達は周囲の勢いに若干引き、騒がれている本人である一夏と千冬は若干イライラしたような表情を浮かべる。

 

 

だが、これでいいのだ。

千冬と一夏がここまで注目されれば、変装している束に注目が集まる事は無い。

束が此処にいるとバレた場合、騒がれるだけではすまない。

高確率で作戦が中断される事態になり、最悪『PurgatoryKnights』と束に繋がりがあるという事までバレてしまう。

その為、一夏と千冬に注目を集める為にわざと堂々と歩いているのだ。

 

 

その後、特にトラブルもなくデュノア社に到着した。

 

 

「此処が…」

 

 

「うん、デュノア社。懐かしいな…」

 

 

「ああ、シャルさんは夏に1回帰ってますし、そもそも学園に来る前は此処に居ましたもんね」

 

 

「驚いてる場合でも、思い出を振り返っている場合でも無い。行くぞ」

 

 

一夏がそのまま先頭で社内へ入っていき、それに続きマドカ達も入っていく。

ロビーは広く、綺麗。

だが、マドカ達は少しだけ違和感を感じた。

何故なら、必要最低限の警備員以外、人が1人もいないからだ。

 

 

そんな中、一夏は奥へと続く通路の前に立っている警備員に、自身の『PurgatoryKnights』の社員証を見せ、

 

 

「話は通っているな?」

 

 

その一言だけ伝え、奥へと向かう。

一夏の大物感に、社内での一夏の権力を詳しく知っているマドカとシャルロット以外は面食らった表情を浮かべるも、置いていかれたらマズいので慌てて後を付いて行く。

 

 

「さてシャル」

 

 

「うん?どうしたの一夏」

 

 

「特別整備室は何処だったっけ?」

 

 

『……』

 

 

さっきまで自信満々に歩いていた一夏だが、その実デュノア社に来るのは初めてだ。

待ち合わせの場所の名前は覚えているし、大まかな場所は事前に説明を受けているものの、詳しい場所は知っている人間に聞いた方が早い。

 

 

「えっと…2つ先を左に曲がった後に、3つ先を右に曲がって、後はそのまま真っ直ぐだけど…特別整備室って、僕でも1人じゃ入れないよ?」

 

 

「大丈夫大丈夫。行くぞ」

 

 

再び歩き出す一夏。

シャルロットは首を捻りながらも付いて行く。

 

 

「…なぁ、チェルシー」

 

 

「どうかしたの?」

 

 

そんな2人の後を追う中、不意にクラリッサがチェルシーに話し掛けた。

チェルシーが少しだけ視線をクラリッサの方に向けると、それを確認したクラリッサが続きを話す。

 

 

「一夏、何か隠してるように感じないか?」

 

 

チェルシーは一瞬だけ驚いた表情を浮かべた後、すぐに頷いた。

 

 

「やっぱり、クラリッサも感じてたのね」

 

 

「ああ。本当に何か隠してるのかは分からないし、隠していたとしてもそれがなにかすら検討もつかないがな」

 

 

2人は感じ取っていた。

ここ最近、一夏が自分達に何かを隠しているというを。

 

 

「だけど、一夏が私達に何か不利益な事を考えている訳が無い。だから……」

 

 

「ああ。多分、個人的なものなのだろうな……」

 

 

その言葉の後、2人の表情が少しだけ暗いものになる。

一夏が2人を大事にしているのと同じかそれ以上に、2人は一夏の事を大事にしている。

だからこそ、自分達に何か話してくれないのか不満なのだ。

 

 

「一夏に無理に聞いても、多分話してくれない。だから、一夏に関して気付いた事があったら、報告し合おう」

 

 

「ええ。2人で一夏の事を、支えていきましょう」

 

 

クラリッサとチェルシーがそう頷き合った、丁度そのタイミングで特別整備室へと辿り着いた。

特別整備室の扉は大きく、厳重でそう簡単に開きそうもない。

扉の隣の壁に、セキュリティ解除用の操作盤があり、指紋認証や虹彩認証、セキュリティカードを読み取る場所やマイクがある。

 

 

「やっぱり、此処はセキュリティが厳重…無理矢理開けられる重量じゃないし」

 

 

「そもそも無理矢理開けん」

 

 

シャルロットの呟きに一夏がそう反応すると、そのまま操作盤の前に立つ。

自身の社員証を操作盤に挿入し、指紋読み取り版に左の人差し指を乗せ、顔をカメラに近付けると

 

 

「『PurgatoryKnights』所属IS操縦者纏め役、織斑一夏」

 

 

マイクに向かって自身の役職と名前を述べる。

すると、ピーという電子音の後

 

 

『LOOK OPEN』

 

 

その音声と共に巨大な扉が自動でゆっくりと開き始める。

シャルロットでも1人で入れない場所へ入る権利を一夏が持っているという事に、元々知っていた束を除き、シャルロット達は驚いた表情を浮かべ一夏の事を見る。

 

 

男性IS操縦者()は社内においてそこそこ重要人物らしいからな。『PurgatoryKnights』関連の全施設に入る権利を貰ったんだよ」

 

 

一夏の説明を聞き、納得したと同時

 

(重要度が『そこそこ』な訳無いだろ)

 

と心の中でツッコミを全員がした。

 

 

扉が完全に開き、特別整備室の中が見えるようになる。

 

 

ズラッと並んだ装備に、工具。

普段だったらISの研究や開発の為に沢山の人間が作業しているであろうこの場所は、完全に今日の為に模様替えが行われていた。

 

 

そして、装備の近くに立っている男女。

デュノア社社長のアルベールと社長夫人のロゼンタだ。

 

 

2人は当然扉が開いている事に気付いており、一夏達に向かって軽く手を振る。

 

 

「今日はすまなかったな。詳しい説明もしないで、わざわざ特別整備室を開けさせて」

 

 

「いえいえ、丁度特別整備室を使用していて作っていたものが完成した直後なので、都合が良かったです」

 

 

一夏がため口、アルベールの方が敬語で喋っている事に、周囲は驚きを隠せない。

特に、学園祭では一夏の方が敬語だったのを見ている人達は。

学園祭の時は何方もプライベートだったので、年下の一夏が敬語だったのだが、今回は(一応)仕事。

子会社であるデュノアの社長と親会社で取締役と同じくらいの社内権限を持つ一夏では、一夏の方が立場が上なのだ(少なくとも『PurgatoryKnights』では)。

 

 

「それにしても、本当に誰も整備員を用意しなくて良かったのですか?」

 

 

「ああ、問題無い。寧ろ人が居た方が邪魔だ」

 

 

「ほう、それは何故です?」

 

 

「だって、今日此処を使うのはISの開発者だからな」

 

 

一夏はそう言いながら、変装をし続けている束に視線を向ける。

それに一瞬遅れる形でアルベール達が視線を向けると、束はバサッと音を立て、無駄にポーズを決めながら変装を解いた。

 

 

「そうっ!今日此処で作業をするのは、この篠ノ之束さんなのだ!!」

 

 

急な束の出現に、アルベールとロゼンタが驚いた表情を浮かべる。

 

 

「あんまり格好良くないですよ」

 

 

「えっ!?」

 

 

「ああ、そこまでポーズを取るほどではない」

 

 

「えええええっ!?」

 

 

そのセリフとポーズを一夏と千冬に否定され、どうしたら良いのか分からないと言った表情を浮かべる束。

そんな束をクラリッサとチェルシーが宥めるのを横目に見ながら、一夏とアルベールは会話を再開する。

 

 

「それで、これらが私達が提供できるものです」

 

 

「どれどれ…?」

 

 

一夏はアルベールから書類を受け取る。

それに記載されているのは、今まさに横に置いてある武装の詳細だ。

どんな武装があるのか、弾薬などの量はどれくらいか、など。

一目見ただけでは流石に分からない事が書いてある。

 

 

「う~ん…まだ拡張領域に空きがあるな…」

 

 

そこそこ大量に武装があるが、専用機の数も多い。

全員に均等に配ったら、拡張領域に空きが出る。

とはいえ、これ以上無駄に武装を入れても無駄なので、限界まで入れるとしたら弾丸かエネルギーパックになる。

 

 

「もっと弾丸とエネルギーパックが欲しい。在庫はあるだろ?」

 

 

「あ、あるにはありますけど…しかし……」

 

 

「ああ、分かっている。これ以上無料(タダ)では流石に無理なことくらいはな」

 

 

一夏はそう言うと、左の人差し指、中指、薬指を立てる。

 

 

「3億。3億までだったら出せる。どれくらい弾丸とエネルギーパックを追加できる?」

 

 

『3億ッ!?』

 

 

一夏の発言に、流石の束も含めた全員が驚いた声を発する。

 

 

「…因みに、単位は?」

 

 

「フランスに居るのにユーロ以外で話すことあるか?」

 

 

頬に冷や汗を流しながら尋ねるアルベールに、さも当然と言わんばかりに返す一夏。

1ユーロは(作者執筆時点で)約140円ほど。

つまり、単純計算で3億ユーロは420億円である。

その事実を認識した瞬間、金額の多さに慣れていない学生たちは思わずフラッとなり、その他大人組は苦笑いを浮かべる。

 

 

「……分かりました。その範囲で出せるだけの弾薬とエネルギーパックを追加します。直ぐに貯蔵庫から持ってこさせますので」

 

 

「ああ、頼む」

 

 

アルベールは端末を取り出し、部下に連絡を入れる。

一夏は、未だ驚きで固まっているマドカ達に視線を向け、

 

 

「いいか、マドカにシャル、それにみんなも。権力ってのはな、使う場面で使ってこその権力なんだよ」

 

 

《顔がゲスいぞ、一夏》

 

 

「まぁ、偶にはいいじゃん。っていうか、急に出て来るな」

 

 

急に胸ポケットから出て来たオルコスに突っ込む一夏。

オルコスはそれを無視して束に話し掛ける。

 

 

《時間は有限だ。弾薬の追加が来るまで作業は出来ないが、準備はしろ》

 

 

「分かってるって!それじゃあ、束さんに専用機を渡してちょーだい!」

 

 

束のその言葉に従い、マドカ達は自身の専用機の待機形態を渡していく。

 

 

「あ、そうだ。あなた、シャルロットにアレを……」

 

 

「む、そうだな。確かにタイミング的にはちょうどいいかもしれん」

 

 

『ん?』

 

 

最後にシャルロットが束に渡そうとした直前、ロゼンタとアルベールが突如としてそのような会話をした。

その瞬間に、全員が動きを中断し2人の方向を向く。

 

 

「えっと…お父さん?お母さん?それっていったい…」

 

 

「ああ、先程話したと思うが、此処ではもともととあるものを作っていたんだ。それが…」

 

 

「第三世代型の、ISなんです」

 

 

「ああ、そう言えば確かに研究開発費おろしてたな。資金足りてたか?」

 

 

「それはもう十分に。そして、それがつい最近完成したのです」

 

 

そこまでの説明を聞き、皆が直感的に理解した。

その専用機は、シャルロットを操縦者と想定して造られた事を。

 

 

「まぁ、試験パイロットを選ぶのはこっちに任せてある。選んだら連絡が来るようにはなってるがな。シャルがパイロット想定だったら、まだ碌にデータも取ってないし、だから俺にも完成の連絡が来てなかったのか」

 

 

一夏がうんうんと1人で納得している側で、シャルロットがおずおずと2人に質問をする。

 

 

「えっと…それってつまり…」

 

 

「ああ」

 

 

シャルロットのその言葉に頷いたアルベールは、特別整備室端のコンテナに移動し、そのままパネルを操作。

コンテナを開ける。

 

 

「これが、シャルロットの為の新しい専用機、コスモスだ」

 

 

「コスモス…」

 

 

シャルロットは、呆然とそう呟いた。

世界ISシェア(元)3位で、世界で広く用いられているラファール・リヴァイヴの開発元(現在諸々の権利は『PurgatoryKnights』に移った)が作った第三世代型。

篠ノ之束製の次くらいに信頼に値する枕詞である。

 

 

「カッコイイっスね……」

 

 

「うん。かなり洗礼されてる…」

 

 

フォルテやサラがそう呟く。

マドカ達も声には出していないものの、同じく感心したような表情を浮かべていた。

そんな中、当事者のシャルロットは、コスモスに見入っていた。

こんな大事な作戦前に、不意に与えられた新しい専用機。

しかも、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡは第二世代型なので、これ以上の強化は武装追加くらいしかなかった中で、だ。

見入らないわけが無い。

 

 

だが、その反面シャルロットはこのコスモスを使うつもりにはあまりなれなかった。

ずっとともに戦ってきた、唯一無二の相棒。

それを手放すというのは、そう簡単に出来るものではない。

シャルロットのその表情から、一夏とオルコスはその事を簡単に見抜いていた。

 

 

「フム…新しい戦力は非常に嬉しいが…慣れてないものを使うのは、些か不安だな」

 

 

「はい。慣れてない最新式より、慣れている旧式の方が圧倒的に扱いやすいですし、これからの作戦を考えるとシャルロットちゃんはリヴァイヴを使ってもらった方が確実ですね」

 

 

千冬が顎に手を置きながらそう呟き、楯無もそれに同調する。

その瞬間に、アルベールが年甲斐もなく残念そうな表情を浮かべたのを見て、一夏が苦笑をする。

 

 

「俺としてもそれは同意見だが、貰っておける戦力は貰っておいて損はない。主任も流石にこの数のIS を調整するには1個のISの初期化と最適化と同じくらいは掛かるから…」

 

 

「いや!束さんならもっと早くでき《だとしても、貴様の場合技術力は信じられるが倫理観が信じられん。しっかりと時間を掛けろ》は、は~~い……」

 

 

束の言葉に、オルコスがギロリと視線を向けながらそういう。

一夏としても、束の技術力を疑っている訳では無いが、この後行くのは紛れもなく宇宙なのだ。

そして、向かうのは大切な恋人や家族、友人達。

安全安心を心掛けた作業をして欲しいのだ。

 

 

「話がそれたな。シャル、受け取るだけ受け取っとけ。使うか使わないかはお前次第だ」

 

 

「一夏…うん、そうするよ」

 

 

一夏の言葉に、シャルロットは笑顔でそう返答する。

そして、話が始まってからずっと持っているままだったリヴァイヴの待機形態を握りしめながら、コスモスに近付いていく。

笑顔でピタッとコスモスに触れる。

 

 

その瞬間。

 

 

シィ―――――――ン

 

 

『っ!?!?』

 

 

リヴァイヴとコスモスが、まるで共鳴するように光りだした。

 

 

「これはっ!?」

 

 

「いったい、何が!?」

 

 

「束ぇ!説明しろぉ!!」

 

 

「わ、分かんない!急に、こんな事!束さんも初めて見る!」

 

 

光がドンドンと眩くなっていき、視界が奪われていく。

全員が目を瞑ったり、顔を覆ったりしている。

それにはもれなく一夏も含まれているのだが、一夏は唯一覆った腕の下で、驚きや困惑といった表情を浮かべていなかった。

何故なら。

 

 

[初めまして、先輩。いや、お姉さん?]

 

 

[どっちでも良いでしょ]

 

 

そんな、初めて聞く2人分の声が聞こえて来たからだ。

 

 

(これは…リヴァイヴとコスモスの声?まさか、だってISに触れてないのに聞こえる訳が…いや、現に聞こえている…う、ぐぅっ!?)

 

 

一夏は頭を押さえ、その場に膝をついてしまう。

しかし、すぐそばにいるオルコスでさえ、気が付かない。

 

 

《マスター?マスター!》

 

 

《マスター!しっかりしてください!!》

 

 

すぐさま白式と白騎士がポケットから出て来て、一夏の身体をゆする。

だが、2人の声は一夏に届かない。

一夏に届いているのは、謎の声の方だった。

 

 

[まぁ、それはそうですね。じゃあ先輩、私の考えている事、分かってますよね?]

 

 

[勿論。それで、本当に良いの?私と違って、あなた1回も稼働して無いじゃない]

 

 

[そうですけど。私のマスターとなる人になるためには、こうした方が良いでしょう]

 

 

[いい心掛けね。ただ、私のマスター、大人しそうに見えて結構貪欲よ?]

 

 

[どんとこいです]

 

 

[フフフフ。じゃあ、これからよろしくね]

 

 

[はい、よろしくお願いします]

 

 

その会話の終了後、より一層光が眩くなる。

それは、目を瞑っていたり覆っていたとしても分かるほどの光量だった。

 

 

膝をついていた一夏が倒れ込んだ丁度その時、光が引いていく。

暫くして、漸く視界が晴れると、一夏と白式と白騎士、そして漸く気が付いたオルコス以外の視線は、シャルロットに集まっていた。

シャルロットは、いつの間にかその身にISを展開していたのだ。

だが、そのISは、普段のリヴァイヴでも、ましてやコスモスでも無かった。

 

 

「えっ……」

 

 

「これは……?」

 

 

全員が困惑の表情を浮かべながら、そう言葉を発する。

どことなくリヴァイヴとコスモスを掛け合わせ、進化させたようなデザイン。

シャルロット自身も困惑したよう表情を浮かべさせながらも、目の前にディスプレイに映っている、この機体の名前に視線を釘づけていた。

 

 

「リィン・カーネーション……」

 

 

「……これはいったい、どういう事だ?」

 

 

千冬はそう言いながら、束に視線を向ける。

それに伴い、一夏達以外の他全員の視線も束に向けられるも、束はブンブンと勢いよく首を横に振る。

 

 

「知らない知らない!?えっ!?シャルちゃんそれ何やったの!?」

 

 

「わ、分かんないです!コスモスに触ったら、急にこんな…!」

 

 

ISの開発者、そしてISを展開している本人が混乱しているのだ。

マドカ達は混乱を通り越して思考をいったん停止させてしまっていた。

 

 

「う、ぐぅ…」

 

 

《一夏!無茶するな!》

 

 

《マスター!しっかり!》

 

 

《マスター、大丈夫ですか!?掴まって下さい!》

 

 

『っ!?』

 

 

白騎士とオルコスに支えられ、一夏が苦悶の声を漏らしながらフラフラと立ち上がる。

ここにきて、漸く一夏がぶっ倒れていた事に周囲が気が付いた。

 

 

「「一夏!!」」

 

 

クラリッサとチェルシーが顔面蒼白で慌てて一夏の元に駆け付ける。

オルコスと白騎士よりも体格が一夏に近くよりしっかりと支えられる為、2人と交代する。

 

 

「はぁ、はぁ……如何やら、それは、リヴァイヴとコスモスがくっついたみたい、だな……」

 

 

焦点が定まっていないような目でシャルロットの事を見ながらそう言葉を発する。

 

 

「リヴァイヴとコスモスが…?」

 

 

「確かにな。現にコスモスが無くなっている。そう考えた方が自然だろうな」

 

 

シャルロットが信じられないと言った表情でそう呟き、千冬が一夏の考察を肯定する。

 

 

「いったいなんで、どうやって……」

 

 

「う~ん…それは今は関係ないかな?時間が無いし、こうなっちゃってる訳だし」

 

 

「ああ…しゅ、にん。時間かかって、いいんで、しっかりと、調整、お願いしますよ」

 

 

「勿論!っていうか、そんな場合じゃないって!いっくんどうしたの!?」

 

 

「急に頭痛が……」

 

 

「ロゼンタ!役員用の休憩室に案内をしてくれ!」

 

 

「ええ!付いて来て下さい!」

 

 

「一夏、自分で歩けるか!?」

 

 

「ああ、そこまで問題は…うっ!?」

 

 

「一夏!2人でしっかり支えた方が良い!」

 

 

フラフラと見ててヒヤヒヤする歩き方の一夏を、クラリッサとチェルシーが両脇からがっしりと支え、もはや一夏本人に歩かせないようにしながらロゼンタに誘導され休憩室へと向かう。

オルコス達も心配な為、カードに戻って胸ポケットに入っていく。

 

 

《一夏の事は心配だが、あの甘々カップルの事だ。互いの看病くらい朝飯前だろう。今はこっちだ》

 

 

「うん、そうだね。じゃあ、みんなはいったん休憩!シャルちゃんだけは付き合ってね!」

 

 

「はい!」

 

 

丁度そのタイミングで、追加の弾薬とエネルギーパックが来た。

束は全ての武装の状態を確認した後に、早速行動に移すことにした。

その圧巻の作業スピードに、マドカ達はしばし目を奪われる事になったが、この後の事も考え束の言う通りしっかりと休憩する事にした。

一夏の事を頭の半分ほどで心配しながらも、この後の事を考えると今は身体を休める事こそが一夏の為になるので、社員食堂に移動し、しばしのまったりタイムとなるのだった。

 

 


 

 

3時間後。

束が全ての調整を終えた為、マドカ達は再びアルベール同伴のもと特別整備室へと戻ってきた。

 

 

「確かに、何時ものお前よりも時間を掛けていたな」

 

 

「いっくん達にも釘刺されたし、シャルちゃんのリィン・カーネーションという懸念事項もあったからねぇ。流石の束さんでも時間は掛かっちゃうさ!」

 

 

「それでも十分早いと思うのは私だけか?」

 

 

「いや、この場の束以外の全員がそう思っているぞ」

 

 

『うんうん』

 

 

「たっはー、流石は束さんって感じだねぇ」

 

 

周囲からの反応に、何故か照れたような反応を見せる束。

 

 

「褒めてる訳じゃ無いぞ?」

 

 

「えっ!?そんなぁ!?」

 

 

千冬の言葉に、本気でショックを受けたような表情を浮かべる。

その反応にマドカ達が思わず苦笑を浮かべる。

 

 

「それじゃあ、取り敢えずIS返すね」

 

 

整備が終了したISの待機形態を各々に返していく。

 

 

「あ、そうだ。クラちゃんとチェルちゃん居ないじゃん」

 

 

手元のシュヴァルツェア・ツヴァイクとダイブ・トゥ・ブルーの待機形態を見ながらそう呟いた。

その瞬間に全員の表情が少し暗いものになる。

 

 

「お兄ちゃんがどうなってるのかも、やっぱり気になる。確認するついでに、届けに行こう」

 

 

「そうだね。じゃあマドちゃんついて来て……」

 

 

束がそこまで言ったとき、唐突に整備室の扉が開いた。

全員が一斉に扉の方向に視線を向けると、明るい表情を浮かべている一夏と、心底安心したような表情を浮かべているクラリッサとチェルシーがいた。

 

 

「お兄ちゃん!体は大丈夫なの!?」

 

 

「ああ、もう大丈夫だ。心配かけて悪かったな」

 

 

(俺が大丈夫じゃ無かったら作戦中止だし)

 

 

「良かったぁ。本当に良かったぁ…」

 

 

声色も明るくなっている。

マドカは思わず泣きそうになり、シャルロット達も安心したような表情を浮かべる。

 

 

「泣くなって。よしよし」

 

 

「……お兄ちゃん、やっぱり頭撫でるの上手いねぇ」

 

 

「なんか久々に言われたわ。最近頭撫でる事なんて無かったからな」

 

 

一夏がマドカの頭を撫でている隣で、クラリッサとチェルシーは束から各々の専用機を受け取る。

 

 

「それで主任、シャルの専用機、結局どうなってたんですか?」

 

 

マドカの頭を撫で終えた一夏のその質問と同時に、再び束に視線が集まる。

束は大きく頷いてから、隣に立つシャルロットの肩に手を置きながら説明を開始する。

 

 

「いっくんが言ってた通り、リィン・カーネーションはラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡとコスモスがくっついた…もっと正確に言うのなら、融合した、というのが正しいかな?」

 

 

「融合……?」

 

 

「うん。リィン・カーネーションには、ISコアが2つ使用されている」

 

 

『2つ!?』

 

 

束の言葉に、全員が驚いた表情を浮かべる。

だが、予想できていなかったことでは無いので、変に騒ぎ立てることも無く次第に落ち着いていく。

 

 

「いやぁ、束さんも想定してなかった事が自然に起こってビックリビックリ」

 

 

「言葉と表情が一致して無いぞ」

 

 

千冬の指摘通り、束の表情は困惑や驚きといったものではなく、嬉々とした嬉しそうなものだった。

 

 

「そりゃそうだよ!こんなの興奮するに決まってるって!!だって「はいはい、分かった分かった」

 

 

このまま話させると数時間は掛かりそうなので、一夏が強制的に話を終わらせる。

束はふてくされたような表情を浮かべるものの、意図は分かっているので言葉には出さない。

 

 

「良かったな、シャル」

 

 

「うん!これから、この子と一緒にがんばるよ!」

 

 

シャルロットは満面の笑みを浮かべる。

それを見た千冬が時間を確認する。

 

 

「フム、そろそろ出発しないと列車に遅れてしまう。そろそろ行くぞ」

 

 

「ああ。みんな、出発の準備は出来てるか?」

 

 

一夏の質問に、全員が頷く。

それを確認し、一夏はアルベールがいる方向を向く。

 

 

「いろいろとすまなかったな。急にいろいろと」

 

 

「いえいえ、お役に立てたなら満足です。頑張って下さいね」

 

 

「ああ」

 

 

一夏を皮切りに、マドカ達も武装等々のお礼を言っていく。

そして、最後のシャルロットの番。

 

 

「……行ってきます、お父さん」

 

 

「ああ、行ってらっしゃい」

 

 

笑顔で親子はそう言い合う。

それを周りは温かい視線で見守っていた。

 

 

その後、一夏達はデュノア社を出発し、イギリスへと向かう。

 

 

宇宙へ飛び立つまで、あとわずか……

 

 

 




作者のフェイバリットドリンクはぐ〇ぐ〇グルトです。

一夏は良いなぁ、400億簡単に動かせて。
今作者が自由に出来るの、2万も無いぞ。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想もよろしくお願いします!


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宇宙への旅立ち

前回の続き。

超久々の一夏視点…というより1人称視点が久々。
違和感があるかもしれませんが、許してください。


一夏side

 

 

デュノア社でISの調整だの武装の追加だの、シャルのISがまさかの融合だのした数時間後。

俺達はフランスを出国し、イギリスへと向かっている。

 

 

日本からフランスに比べ、フランスからイギリスへはそんなに時間は掛からない。

物理的に近いからな。

と、いう訳でさっきデュノア社に向かった時とは違い全員が起きて列車に乗っている。

 

 

だが、此処で1つ問題が。

 

 

「……暇だ」

 

 

そう、滅茶苦茶やる事が無い。

寝ようかとも考えたのだが、俺は滅茶苦茶眠くない。

 

他のみんなはさっき寝てたし、起きてた千冬姉と束さんもイギリスに着いてからの仮眠時間で寝れは十分体力を回復出来るだろう。

なんならあの2人の事だ…寝ずにじっとしてるだけで十分かもしれない。

いや、まぁ、万が一という事もあるから無理矢理にでも寝かすけどさ。

 

 

「確かに暇だね…」

 

 

俺のさっきの呟きに同調するかのように、少し遠くからマドカが反応を返してくる。

 

 

「一夏、なんか面白い事しなさいよ」

 

 

「ふざけんな鈴。お前がやれ」

 

 

「はぁっ!?なんでアタシがしないといけないのよ!」

 

 

「てめぇが言い出したからだろうが!」

 

 

たっく、鈴は相変わらずだな。

 

 

……この後宇宙に行って滅茶苦茶危険な事しないといけないのに、なんか緊張感が無い。

俺の暇発言が原因なんだが、まさか鈴がこんなアホな返答がしてくるとは思わなかった。

 

 

「…変に気負いし過ぎてないのは素晴らしいが、流石に多少の緊張感は持っておいてくれ」

 

 

「「すみません」」

 

 

なんかここ最近駄目姉の印象しか無かったのに、急に威厳のある織斑先生の姿を見た気がする。

1学期の始めの方が懐かしい。

なんならダークネスドラゴンWに行く前の織斑教官も懐かしい。

 

あの頃みたいに、常にビシッとしてもらいたいところ……

いや、するか流石に。

 

 

「一夏、最近私に対する評価が下の下過ぎないか?」

 

 

何故考えている事がバレた。

バディファイトを始めてからポーカーフェイスを鍛えたはずだったんだが。

 

 

「そんな事無いですよ。そういった風に感じてるなら、自分の評判が下がる行動をしてるって自覚があるんじゃないですか?」

 

 

取り敢えず反射的に出て来た言葉をそのまま返しながら、思考を再開する。

……いや、よくよく振り返ると考えている事がバレるのはちょこちょこあったな。

それに、この前は可愛すぎる恋人2人に手玉に取られたし…

駄目だな、もっと精進しないと。

 

 

「プークスクス、ちーちゃん適当にあしらわれてるじゃん」

 

 

「黙れ束。それ以上言うのだったら貴様の頭を破裂させる」

 

 

「マジトーンはやめてくれないかな!?流石の束さんでも頭が破裂したら死んじゃうよ!?」

 

 

「えっ、束さん頭が破裂したとしても、飛び散った細胞が蠢いて再生するんじゃないんですか?」

 

 

やっべ、なんかついついツッコミを入れたくなった。

 

 

「しないよ!?いっくんとちーちゃんは束さんの事なんだと思ってるの!?」

 

 

「限りなく人間に近いモンスターじゃないんですか?」

 

 

「エイリアンじゃないのか?」

 

 

「違うよ!ホモ・サピエンスだよ!」

 

 

「……自分で『普通の』とかは付けない感じなんだね」

 

 

お、マドカも我慢できなくなって参戦してきた。

このまま束さんで遊んでれば暇は潰せるだろ。

因みに、束さんと織斑先生がプロレスし始めた時からずっと呆けた表情を浮かべている我が恋人や友人達は気にしない事とする。

 

 

「マドちゃん、束さんが普通な訳無いじゃないか!」

 

 

「それを把握しているのなら修正しろ」

 

 

「普通の言動は難しいと思うので求めません。ですので、出来るだけ滅茶苦茶な言動を控えてください」

 

 

「っていうか、世界各国から逃げ回ってたんだから、表面だけでも大人しくできませんか?」

 

 

久々の織斑姉兄妹の連携攻撃に、束さんは力が抜けたかのように深く椅子に座り込んだ。

 

 

「束さんに舌戦で勝ったぞぉ!!」

 

 

別にこんな喜ぶ事じゃないんだけどね。

 

 

「……多少の緊張感がどうのっていう話から始まったのに、何だか余計緊張感が無くなってません?」

 

 

「「「はっ!?」」」

 

 

やべぇ、今のクラリッサの指摘で気が付いた。

確かにさっきの俺と鈴の会話以上に緊張感というものが無くなっていた。

あ、さっきまで格好良かった織斑先生が、一気に気まずくなったのか千冬姉の顔になると視線を逸らした。

 

 

「なんともしまらない空気ですけど、そろそろ降車する駅です」

 

 

すると、丁度いい(?)事にチェルシーが降車するタイミングだと教えてくれる。

それに従い、全員が降車の準備を始める。

 

 

「ふぁあぁああ……」

 

 

「どうしたシャル、眠いか?」

 

 

「ああ、一夏…うん、この子について、色々と考えちゃって」

 

 

そう言ってシャルは、リィン・カーネーションの待機形態を見せてくれる。

 

 

「ああ、まぁそうだよな」

 

 

今まで自分が使っていた相棒と、新しい自分用の専用機が融合したんだ。

そりゃあいろいろ考えたくもなる。

 

 

……でも、シャルは幸せだよ。

以前からの相棒とも一緒に、戦えるんだからさ。

 

 

って、こんな事考えてちゃオルコスに失礼だ。

オルコスは、こんなに不安定な俺を支えてくれる大事な相棒だ。

今とか前とか、そんなの関係ない。

 

 

「「……」」

 

 

謎に我が恋人からの視線を感じる。

 

 

「クラリッサ、チェルシー、どうかしたか?」

 

 

2人に視線を向けながらそう言うと、少し慌てたような反応をする。

可愛い。

なんて可愛いんだ。

しかも、俺の事をしっかりと想ってくれてるんだ。

俺の恋人は最高だな!

 

 

そんな感じで、大量ドローできた時と同じくらいかそれ以上のテンションで1人エキサイトしていると、2人が若干もごもごしながら言葉を発する。

 

 

「え、いや、その……なにかがあったという訳では無いのだが……」

 

 

「ただちょっと、気になっちゃって」

 

 

「何が?」

 

 

「一夏の様子かな?」

 

 

はて、そんな気にさせちゃうほど変な行動を取っただろうか。

いや、まぁ、そりゃあさっきは織斑と束さんの4人が変なテンションで騒いでいたが…

 

 

そんな事を考えている俺の表情が滑稽だったのだろうか。

2人はクスリと笑みを浮かべると、降車準備をいったん中断して近付いてきた。

 

 

「……?」

 

 

思わず首を傾げると、クラリッサが俺の右頬に手を添えてきて、チェルシーは俺の両手を握って来た。

ああ、2人の綺麗な手が……

やる事やってんのに緊張するのは何故なのだろうか。

 

 

呆然とそんな事を考えていると、2人はそのまま続きを話し始める。

 

 

「一夏、無理してないか?大丈夫か?」

 

 

「え、大丈夫だよ。さっきはヤバかったけど、今はすこぶる快調。どうした?」

 

 

「……今、一夏が辛そうな表情を浮かべてたから」

 

 

「っ……」

 

 

チェルシーのその言葉を聞き、思わず開いている左の頬に自分の手を持っていく。

もしかしなくても、さっきシャルと会話してた時だろう。

自分でも、表情が動いているだなんて分からなかった。

 

 

…いや、実はもっと前からなのかもしれない。

クソ。

もっとちゃんと隠せるようにしないと……

 

 

俺がそのまま黙っていると、2人はより一層笑みを濃いものにする。

綺麗な笑顔だ。

 

 

「一夏、私達にはいつでも頼って良いからな」

 

 

「絶対に、1人で抱え込まないでね」

 

 

「………今は、大丈夫だから。でも、本当にきつかったら、頼らさせてもらおうかな?」

 

 

「ああ、何時でもこい」

 

 

「一夏だったら、絶対に拒まないからね?」

 

 

「ははははは…ありがとう」

 

 

なんて愛おしい恋人なのだろうか。

思わず抱きしめたくなるが、今はそんな場合じゃないのでグッと堪える。

え、なんでそんな場合じゃないのかって?

 

 

『…………』

 

 

俺とクラリッサとチェルシー以外の、この場に居る全員が視線を向けて来ているからさ。

 

 

「何があった?」

 

 

特に深い事も考えず、そう発言する。

 

 

「いや、別に?」

 

 

「相も変わらずラブラブイチャイチャだなって」

 

 

「言葉に棘がある気がするんだが?」

 

 

「気のせいじゃない?一夏君ったら被害妄想が過ぎるわよ」

 

 

「そうですかねぇ……?」

 

 

絶対に気のせいじゃない。

絶対に棘を作って刺しに来てる。

 

そういえばクラリッサとチェルシーは……

 

 

「た、隊長?何か気に障る事がありましたか……?」

 

 

「お嬢様?いったい如何なさいましたか……?」

 

 

ふむ、各々の上司や主人からジト目を向けられているようだ。

そんな感じで降車準備を再開し、丁度終わらせた時に電車が駅に到着した。

みんなで降り、駅の外へと向かう。

 

 

この後向かうのは、オルコット家の屋敷だ。

ぶっちゃけイギリスの土地勘があるのはセシリアとチェルシー、あと一応1回来た俺だけで、3人全員がオルコット付近を1番良く知ってる(というか、俺はそこしか知らない)ので、仮眠を屋敷で取らせてもらう事にしたのだ。

 

 

まぁ、あの城みたいに無茶苦茶広い屋敷ならば、こんだけの人数も簡単に仮眠出来るだろう。

そんな短絡的な思考でアポを取ってみたら、2つ返事でOKが出たのはちょっとビックリしたけど。

 

 

そんな事を考えていると、なにやら周囲がザワザワしている事に気が付いた。

 

 

「セシリア、今日って何かイベントあったっけ?」

 

 

「いえ、そんな事無い筈ですが……」

 

 

フム、ならば何故こんなに騒がしいのだろうか。

元々騒がしい場所って感じじゃないって聞いてたんだけどな……

 

 

そんな事を考えながら駅の外に出る。

すると、その瞬間に少し騒がしい理由が判明した。

 

 

バァアアアアアアン!!

 

 

そんな効果音が自然と脳内再生されてしまうくらいに存在感のある、黒塗りのリムジンがそこにあったからだ。

 

 

「な、長いっスね……」

 

 

「こりゃとんでもねぇ値段するだろうな……」

 

 

そのリムジンを見て、フォルテ姉とダリル姉がそう呟いた。

まぁ、代表候補生ではあってもこんなにスゲェ高級車は見慣れてるって訳じゃ無いのだろう。

 

 

「「……」」

 

 

ん?

なんでセシリアとチェルシーはそこまで絶句してるんだ?

 

 

「なぁ、2人ともどうしt」

 

 

俺のその質問は、そこで途切れた。

何故なら。

 

 

「お嬢様方、お待ちしておりました!」

 

 

リムジンの運転席から降りてきた運転手さんが、俺達に…というより、セシリアに向かって頭を下げて来たからだ。

マドカ達が驚いた表情でセシリアと運転手さんの顔を交互に見ているのを確認しながら、俺も運転手さんの顔をマジマジとみる。

この人、何処かで見たことあるような……

 

 

「あ、夏休みに運転してくれた、オルコット家専属の運転手さんか」

 

 

思い出した思い出した。

あの時も駐車場の中でひときわ目立つ、リムジンのような豪華な車だったが、このリムジンはその比じゃない。

 

 

「はい、左様でございます。お久しぶりです」

 

 

「あ、お久しぶりです」

 

 

さっきの俺の発言に反応してくれたので、俺も反射的に返事をする。

 

 

そして、この場に居る全員が気が付いた。

オルコット家の専属運転手さんが、このリムジンから降りて来たって事は……

 

 

「セシリア!こ、このリムジンアンタのとこのなの!?」

 

 

「え、ええ。このリムジンは、私たちオルコット家のものですわ」

 

 

流石貴族家。

所有しているモノがとても豪華だ。

 

 

「ええ!?セシリア、わざわざ呼んだの!?」

 

 

「だったらこんなに驚いてませんわ!」

 

 

「少し静かにしろ。一般の方の迷惑だ」

 

 

「「ご、ごめんなさい」」

 

 

織斑先生に注意され、2人は大人しく黙る。

まぁ、世界最強を怒らせると怖いっていうのはまだ1年も経ってない学園生活で身に染みてるだろうからな。

そんなセシリアは直ぐに再起動すると、運転手さんに詰め寄っていく。

 

 

「な、なんで此処にいるんですの!?」

 

 

「旦那様に、お嬢様をお迎えするように依頼されましたので。みなさん、どうぞ」

 

 

運転手さんは仰々しい動作で、リムジンの扉を開く。

その瞬間に見える、もう信じられないくらい豪華な車内。

マドカ達が固まってるのが、見なくても分かる。

 

 

「…素直に、ご厚意に甘える事にしよう」

 

 

「ああ、もうこうなったら、甘えない方が手間が掛かってしまうからな」

 

 

俺の言葉に、クラリッサがそう反応する。

それを聞き他の面々も覚悟を決めたようで、荷物を乗せてからリムジンに乗車していく。

うわ、滅茶苦茶柔らかい座席。

これは走ったとしても振動なんて微塵も感じなさそうだ。

 

 

全員が乗車した事を確認した運転手さんは扉を閉めると、運転席に移動し、そのままリムジンを発進させる。

思った通り、全くと言って良いほどに振動を感じない。

そして、俺の両隣は当然だと言わんばかりの表情でクラリッサとチェルシーが座っている。

とても幸せ。

 

 

そんなこんなで、車内に何故かあったお酒を束さんが発見し、マドカとシャルが飲むのを必死に制止するという一幕もあったが、それ以外は特に問題無く時間は過ぎ、オルコット家の屋敷に到着した。

 

 

夏休み以来に来たけど、何度見ても滅茶苦茶豪華。

こんな場所に住んでたら、多分だけど疲れる。

そんな思考になる俺は、やはり庶民なのだろう。

 

 

「はぁ…すっごい…」

 

 

「これは…」

 

 

簪と織斑先生がそう感想を漏らす。

流石の織斑先生でも、こんなに大きくて豪華な屋敷には慣れていないらしい。

 

 

「さぁ、入りましょう」

 

 

セシリアに先導させる形で、屋敷の中に入っていく。

 

 

『お帰りなさいませ、お嬢様』

 

 

その瞬間に、玄関に並んでいた従者のみなさんがセシリアに向かって頭を下げる。

日本ではメイド喫茶でしか聞かないであろうセリフを聞いたマドカ達が本日何度目か分からない驚きの表情を浮かべていると、並んでいる従者の方が1人こっちに近付いてきた。

 

 

「お久しぶりです、お嬢様。奥で旦那様がお待ちです」

 

 

「分かりましたわ、直ぐに向かいます。ですがその前に、みなさんの荷物を仮眠室においてもよろしくて?」

 

 

「それは勿論です。では、私はお客様方をご案内いたします」

 

 

「ええ、よろしくお願いいたします」

 

 

「では、お嬢様は私が…」

 

 

「いえ、私は1人で問題ありません。チェルシー、あなたは自分の部屋に行きなさいな」

 

 

「お嬢様……分かりました。お言葉に甘えさせていただきます」

 

 

そんな会話の後。

セシリアは自分の部屋に向かって歩き出し、マドカ達は従者さんに連れられて仮眠を取らせてもらう部屋に向かって行く。

さて、この場に置いて唯一の男の俺はどないしたものか。

荷物だけでもマドカ達と一緒に置かせてもらおうかな、

そう思い後を付いて行こうとすると……

 

 

「一夏は私達と一緒」

 

 

チェルシーに肩を掴まれた。

 

 

え、マジですか?

どんなご褒美?

それに、『私達』ですと?

って事はつまり……

 

 

振り返ると、そこには俺の肩を掴んだままのチェルシーと、その隣に立つクラリッサ。

 

 

「クラリッサもなんだな」

 

 

「ああ、そうだぞ一夏」

 

 

「さ、早く行きましょう」

 

 

チェルシーに先導される形で、俺達も部屋に向かって行く。

なんだかんだで、IS学園に入学する前と夏休み、2回此処で生活させてもらってる。

模様替えが行われていたら流石に無理だが、そうじゃ無かったら部屋の位置くらいは大体覚えてる。

 

 

「そういえばさ、今はもうチェルシーとエクシアって別部屋なんだっけ?」

 

 

「ええ。だから、少しスペースが空いてるのよ。だから、そこでクラリッサと一夏に寝てもらおうと思って」

 

 

「なるほど」

 

 

そんな訳で、チェルシーの部屋に荷物を置かせてもらう。

その後、セシリアやマドカ達と合流し、改めて屋敷の奥に向かって行く。

相も変わらず大きいこの屋敷。

移動するのもやっぱり少々時間がかかる。

 

 

そんなこんなで数分後。

目的の部屋に到着した。

マドカ達を案内してくれた従者さんは、頭を下げてから何処かへ移動する。

まぁ、多分別の仕事があるんだろう。

 

 

セシリアが扉を3回ノックする。

 

 

「お父様、IS学園作戦班、到着しました」

 

 

『入って来なさい』

 

 

扉の向こうから、そんな返事が返って来た。

それを確認し、セシリアが扉を開く。

 

 

「みなさん、長旅お疲れ様です」

 

 

「セシリア、チェルシー、お帰りなさい。一夏君、お久しぶり。そしてみなさん、初めまして」

 

 

部屋の中にいた、ロバートさんとロザリーさんが立ち上がる。

 

 

「お久しぶりです、ロバートさん、ロザリーさん。おかわり無いようで何よりです」

 

 

「ああ、久しぶりだ一夏君。本当だったら、こういった状況ではなく、もっと穏やかに再会したかったのだが」

 

 

「まぁ、それは仕方が無いですよ」

 

 

俺とロバートさんは取り敢えず握手をする。

さっきおかわり無いとは言ったが、ここまで接近すると以前よりも幾分か痩せたような印象だ。

この間の作戦会議の際にエクスカリバーに関する情報を聞いたが、やはりそれ関連で休めていないのだろうか。

心配になる。

 

 

「織斑千冬殿、この度は我々オルコットの尻ぬぐいを任せてしまって申し訳ない。本来ならば、オルコットで全てを終わらせることが出来るのが1番だったのだが、そこまでの戦力が我々に揃っていなかった」

 

 

「エクスカリバーの暴走の顛末は聞いています。私に言う権利は無いかもしれませんが、そこまで気負わないで下さい。確かに責任は生じますが、それを考えるのは全てが終わってからで問題は無い筈です」

 

 

「……今は、その言葉に甘えさせて頂こう」

 

 

織斑先生の言葉に、ロバートさんは苦笑を浮かべながらそう返す。

さて、一先ずずっと固まっているマドカ達を起こさないと。

 

 

「おい、マドカ、シャル、起きろ」

 

 

「え、だってお兄ちゃん、流石にこんなに豪華な場所緊張しちゃうよ」

 

 

「逆に何で一夏は緊張して無いの?」

 

 

「まぁ、俺は前来たことがあるし、ロバートさんとも会ったことがあるし、目上の人と会話するのは仕事で慣れてるから」

 

 

「「あぁ……」」

 

 

なんだその目は。

学園祭で吐血してからは結構マシになってるんだぞ。

まぁ、それ以外で色々起こり過ぎて全然休めて無いんだけど。

 

 

「みなさん、危険な事を頼んでしまって、申し訳ありません」

 

 

「ですが、みなさんにしか頼めない事なんです。どうか、お力を貸してください」

 

 

ロバートさんとロザリーさんは同時に頭を下げる。

それを見た俺達専用機持ち生徒は一斉に視線を合わせる。

それだけで、全員の考えている事が略一致している事が簡単に分かった。

頷き合い、なんとなく

 

(お前行け!!)

 

との視線を感じたので、俺が1歩前に出る。

 

 

「力を貸す覚悟が無ければ、此処に集まってませんよ。そして、まぁ、高校生のガキですけど、いろいろ戦いだのは潜っては来ているので」

 

 

大変だったなぁ。

臨海学校で深夜に刺されたり。

学園祭で吐血したり。

京都でも倒れたり。

 

 

……なんだろう。

俺基本負傷してない?

やっぱり、俺は、もう……

 

 

って、それは今は関係なくて。

 

 

「だから、俺達に任せてください」

 

 

俺のその言葉と同時に、俺の後ろにいるみんなが一斉に頷く。

それを見て、ロバートさんとロザリーさんは微笑を浮かべる。

 

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

「私達に出来る事ならば、なんでもサポートします。不満があったら、近くにいる従者に言って下さいね」

 

 

『はい!』

 

 

その言葉に全員で頷き、部屋から退室する。

 

 

「じゃあ、仮眠!俺以外は思いっ切り寝ろ!寝飽きるほど寝ろ!!」

 

 

「飽きたら起きちゃうんだけど?」

 

 

「問題無い。最悪無理矢理気絶させてでも寝かせてやる」

 

 

「怖いよお兄ちゃん」

 

 

「そうか?」

 

 

そんなに変な事言ったかなぁ。

と、かなりテキトーな会話の後、別れるタイミングとなった。

そうしてセシリアは自分の部屋に、俺達はチェルシーの部屋に、その他のメンバーがさっき与えられた部屋に向かおうとした時

 

 

「あ、みなさんもう到着されていたのですね。遅れてしまってすみません」

 

 

そんな声が聞こえてきた。

その方向を向くと、そこにいたのはメイド服を着用したエクシアだ。

両手に掃除道具を持っているあたり、今の今まで掃除の業務をしていたんだろう。

 

 

「エクシア、ただいま」

 

 

「エクシア、久しぶりだな。元気にしてたか?体調に問題は?」

 

 

「お姉様、お兄様、お帰りなさい!体調はとても万全です!あの時から、1回も風邪をひいていないくらいにはすこぶる元気です」

 

 

「それは良かった。人間元気が1番だからな」

 

 

取り敢えず反射的にエクシアの頭を撫でる。

エクシアは、本当だったら心臓の病気で、今も入院していたかもしれないんだ。

元気ならとても良かった。

 

 

「ふぁ…お兄様はやっぱり頭を撫でるのが上手ですねぇ」

 

 

「なんだ?褒めてもお小遣いしか出ないぞ」

 

 

「あ、お小遣いは出るんですね……」

 

 

「どれくらい欲しい?5万くらい?」

 

 

「……因みに単位は?」

 

 

「イギリスに居るのにポンドじゃないことある?」

 

 

「そんなにもらえないですよ!?」

 

 

別にそれくらいだったら全然出せるけどな。

社畜なめんな。

あ、まだ高校生だ俺。

それに社長から仕事の制限を受けてるんだった。

 

 

「一夏一夏」

 

 

「ん?どうしたチェルシー」

 

 

そんな事を考えていると、チェルシーに数度肩を叩かれた。

 

 

「みんなが物凄く混乱してるし、マドカに至っては一夏を睨んでる」

 

 

「へ?」

 

 

そんな馬鹿な。

混乱したり睨まれるような会話は絶対にしてない……

 

 

そう思いながら振り返るも、チェルシーの言葉の通りセシリアとクラリッサ、そして織斑先生と束さんを除く全員が混乱しているかのような表情を浮かべており、マドカに至ってはマジで怖い表情を浮かべていた。

 

 

「お兄ちゃん?」

 

 

ゴゴゴゴゴ!!

 

 

そんな効果音が聞こえて来ると錯覚するほどの威圧感を放ち、マドカがズンズンと近付いて来る。

 

 

「その人、誰?」

 

 

「あ、お初にお目にかかります、チェルシー・ブランケットの妹のエクシア・ブランケットです。よろしくお願いいたします」

 

 

両手に掃除道具を持ったまま、ペコリと頭を下げるエクシア。

身体の軸は全くと言って良いほどブレていない。

とても器用だ。

 

 

そして、その自己紹介を聞いた瞬間、マドカは全身から放っていた威圧感を一瞬にして霧散させる。

 

 

「そうなんですね!私は、織斑一夏の妹の織斑マドカです!よろしくお願いします!」

 

 

マドカは笑顔を浮かべると、エクシアにそう自己紹介をする。

 

 

あー、なるほど。

さっき睨まれてた理由が大体わかった。

 

 

大方、会ったことも無い人に、俺が兄と呼ばれていたのが気に食わなかったのだろう。

だけれども、エクシアがチェルシーの妹だと知った事で、エクシアが俺を『お兄様』と呼ぶのが、マドカがチェルシーの事を『チェル姉』と呼ぶようにしたのと一緒の理由だと直感で分かったから、威圧感を無くしたのだろう。

 

 

……なんだろう。

自分で考察してて恥ずかしくなってくる。

止めだ止めだ。

 

 

「さて、そこのきゃいきゃい話している妹2人」

 

 

「どうしました?」

 

 

「どうかした?」

 

 

「その辺で終わらせてくれ。そろそろ簪とかの限界が近い」

 

 

このままだと立ったまま舟をこぎそうだ。

まぁ、結構な弾丸日程で来てるんだ。

俺は全然眠くないが、あの織斑先生でさえも少し眠そうにし始めたのだ。

出来るだけ早くベッドに放り込んだ方が良い。

 

 

「分かりました。では、また後程」

 

 

エクシアはもう1度頭を下げると、そのまま何処かに向かって行った。

掃除道具を持ったままだったが、別の所を掃除するのか、それとも仕舞って別の業務をするのか…まぁ、それは俺達にとってはそこまで重要なことでは無い。

 

 

そんな訳で、今度こそ俺らは別れ、各々の部屋で仮眠を取るのだった。

 

 


 

 

三人称side

 

 

仮眠を初めてから5時間後。

もはや仮眠という時間ではないというツッコミは受け付けない。

 

 

全然眠くなく、尚且つこの後宇宙に行かずにIS学園に帰るつもりである一夏は、クラリッサとチェルシーの寝顔を見ながらデッキの調整でもしようと考えていたのだが、

 

 

「「一夏ぁ……一緒に寝よう……?」」

 

 

と恋人2人に上目遣いで言われたら、断れる訳もなく。

2人に挟まれ、抱き枕にされた。

 

やる事やってるとは言え、やはり一夏も思春期真っただ中の男子高校生。

ただでさえ眠くないのに、こんな状況になって興奮してしまい、余計に寝れず。

結局時間が来るまでずっと抱き枕になったまま、横になっていただけだった。

 

 

そして、仮眠時間の終了後は食事時間だ。

オルコット専属シェフが腕によりをかけて作った料理だ。

因みに、作ったメニューはイギリス料理…ではなく和食が中心である。

 

 

というのも、イギリス料理は正直微妙な物が多いのだ。

その為、以前一夏が滞在していた時に作った野菜炒めに感銘を受け、和食を中心にいろいろと作れる料理を増やしていったのだ。

 

 

そんな訳で全員が料理を食べている中、他とは違う料理を食べている人物が1人。

篠ノ之束である。

 

 

実を言うと、一夏は束に『今度飯作る』という約束を何回かしているが、今の今までタイミングが合わなかったり、一夏が死にかけていたりとその約束を実行できていなかった。

その為、都合が良いとの事で一夏はクラリッサとチェルシーに抱き着かれている状態から、2人を起こさないようになんとか抜け出し、シェフに混ざって自分のまかないを作りつつ、束専用の料理を作ったのだ。

 

 

因みに、滞納していたのは1回分では無かったため、一夏はいろいろな料理を作る事にした。

変なところで律義なのである。

 

 

その結果として、料理国籍バラバラの超フリーダムなコース料理の様になった。

だが、束は何処の国の料理だとかそういったものには全くと言って良いほど興味が無いので、

 

 

「久々のいっくんのご飯うめぇ!!」

 

 

と叫びながら貪り食っていた。

あまりにも勢いが凄かったので、一夏に叱られはしたが久々に一夏の手料理が食べれて束は幸せそうだった。

 

 

そんな愉快な時間を過ごし、とうとう宇宙へと旅立つ時間がやって来た。

屋敷から、事前に決めていた打ち上げポイントに到着した。

 

 

此処が目的地でもない限り、絶対に辿り着かないようなところ。

周囲にはこれと言ってものも無く、つまりは他人が絶対にやってこない場所。

このミッションにうってつけという訳である。

 

 

「……とうとう、この時間が来たな」

 

 

《ああ。このあまりにも危険なミッションがな》

 

 

他のメンバーよりも、一足早くやって来た一夏はオルコスSDとそんな会話をしていた。

一夏はその身に煉獄騎士の鎧を纏っている。

頭の甲冑を外しており、伸びた髪の真紅のマントが風にたなびく。

 

 

「……あの束さんも行くのに、俺だけ何もしないって言うのは……悔しいな」

 

 

《仕方が無いだろう。お前はお前で重要な仕事がある》

 

 

「まぁ、そうだけどさ」

 

 

オルコスの言葉に、一夏はため息をつきながらそう返答する。

その後、一夏は空を見上げ、それにつられてオルコスも見上げる。

 

 

何処までも青く澄んでいる空。

そして、その先に広がっているのは、無限ともいえる宇宙。

 

 

「でもさ、タスクさんは自分も乗り込んでたじゃん」

 

 

《それはそれ、これはこれだ。龍炎寺タスクの時と比べ、運搬する人数はこっちの方が多い。それに、行って帰って来るまで維持する必要がある。お前の消耗はかなり大きい。残る事になるのは当然だ》

 

 

オルコスに諭され、一夏は苦笑を浮かべる。

自分だけが地上に残るというのに負い目を感じない訳では無いが、せめて自分に出来る精一杯の事をしよう。

そう思った一夏だった。

 

 

ちょうどそのタイミングで、ISスーツに着替えた千冬たち、そしていろいろな機材を持った束がやって来た。

 

 

「ん、来たか」

 

 

「ああ、来たぞ」

 

 

「……流石に、緊張してるか?」

 

 

「そりゃあ、流石にね」

 

 

「ちょっとは緊張する」

 

 

「そうか」

 

 

まるで、なんでもない日常化のようなテンションで会話する一夏達。

だが、その表情は全員が固い。

束くらいは何時もと変わらないテンションでもおかしくは無いが、宇宙空間で、ISのみでの活動は流石の束でもやった事が無い。

理論上は完璧なのだが、やはりパイロットが自分が気に入っている人達という事もあり、不安が拭いきれないのだ。

 

 

暫くの間、この場を静寂が支配する。

危険なミッションの直前だから。

言葉が出てこない。

 

 

ビュオオオオオオオオ!!

 

 

「ん?」

 

 

「きゃあ!?」

 

 

すると、まるで空気をリセットするかのような、強烈な風が吹き抜ける。

髪やマントが、バタバタと音を立てる。

風が止み、折角手入れをしている女性陣の髪が少々ぼさぼさになる。

 

 

「はははは……」

 

 

その光景を見て、一夏は思わず苦笑を漏らす。

そして、1度深呼吸をしてから言葉を発する。

 

 

「……みんな、これからISで宇宙に行くとかいう、前人未到の事をしないといけない訳だ。その上で、エクスカリバーを破壊しないといけない……かなり危険なミッションだ」

 

 

一夏のその言葉に、改めて全員が表情を固いものにする。

言われなくても分かっている事ではあったが、やはり他人から言葉をされるとより一層緊張してしまう。

 

 

「だから、難しい事は言わない。全員、無事に帰って来てくれ。特に、束さんは夢が叶う瞬間だから、なんなら楽しんでも良いんじゃない?」

 

 

「あっははは!いっくん言うようになったねぇ?」

 

 

「これくらい言えるようにならないと、社畜なんてやってらんないんですよ」

 

 

「遂に自分で言うようになったんだね……あれ、一夏って高校生だよね?」

 

 

「当たり前だ、俺は高校生で社畜の男性IS操縦者だ」

 

 

肩書が渋滞している。

そして一夏が無表情なのが地味だが面白い。

マドカ達は思わず苦笑を浮かべてしまう。

 

 

「此処で笑えるなら、もう心構えは大丈夫だな」

 

 

一夏も笑みを浮かべると、懐から1枚のカードを横向きで取り出す。

 

 

(あの時、牙王さんに貰っておいて本当に助かった……牙王さん、天武様、ありがとうございます)

 

 

心の中で、牙王と天武への礼を述べた一夏は、改めて視線をマドカ達に向ける。

 

 

「大事な事を何度も確認するのは、カードゲーマ―()の性だからな……みんな、どうか無事に帰って来てくれ」

 

 

そして、一夏は笑顔を浮かべる。

 

 

「いってらっしゃい」

 

 

『いってきます』

 

 

一夏のその言葉に、千冬たちも笑顔でそう返答する。

 

 

それを確認した一夏はカードを天に掲げる。

 

 

「ディザスターフォース、出力全開!!」

 

 

宣言した瞬間に、一夏の身体を紫色のオーラが包み込む。

 

 

「五角竜王から受け継ぎし、この必殺技!!」

 

 

掲げたカードが青白い粒子となり、千冬たちの周りを囲むように漂い始める。

 

 

《我と共に轟け!竜王の雄叫びよ!!》

 

 

オルコスがSDを解除し、一夏の隣に立つ。

その瞬間に千冬たちの周りに漂っていた粒子が、竜の顔のようなグローブを装着した機械仕掛けの巨大な腕に姿を変え、千冬たちを包んでいく。

 

 

「わ、わわわ!」

 

 

「す、すっげぇ……」

 

 

「キャストォオ!!」

 

 

一夏は左の掌を天に向け、右手を握りしめ腰の横に持ってくる。

オルコスも一夏と鏡映しのポーズを取る。

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

 

背面に付いているスラスターが点火する。

 

 

「竜王、直伝! ギガ、ハウリングゥゥゥゥゥ・クラッシャァアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

一夏の咆哮と共に、一夏とオルコスが天に向けていた方の手を腰の横に持っていき、逆に腰の横に置いてあった手を勢いよく突き出す。

 

 

ゴォオオオオオオオオオオオオ!!

 

 

バタバタバタバタバタ!!

 

 

一夏のマントや髪が先程の風とは比べ物にならない暴れっぷりを見せる。

千冬たちが乗り込んでいるギガハウリング・クラッシャーは、遥かな宇宙に向かって飛んでいった。

 

 

「う、ぐぅ……がぁあああああ!!」

 

 

一夏は頭を押さえ、苦悶の声を漏らすと同時にその場に蹲る。

 

 

《一夏!》

 

 

「あ、ああ、大丈夫……うっ!?」

 

 

《無理するな!》

 

 

オルコスに支えられ、一夏は立ち上がる。

視線の先には、空に向かって伸びる1本の煙。

 

 

「みんな……絶対に、無事に帰ってこい。上手い飯でも用意してるからさ」

 

 

《一夏、お前は途中から教員みたいだったな》

 

 

「……かも、な」

 

 

一夏は苦笑を浮かべると、オルコスに支えられながらオルコットの屋敷に向かって歩き出すのだった。

 

 

(…嫌な、予感がするなぁ。理屈はなんもないけど、さ。クラリッサ、チェルシー……)

 

 


 

 

???

 

 

何処かの国の、何処かのホテル。

金さえ払えば匿名で泊まる事も出来る、プライバシーが厳重に確保されている……つまり、反社会組織にとって格好の密会場所となっているこのホテルの、最上階のスイートルーム。

 

 

1泊するのだけでも、とんでもない値段がするこの部屋には、今現在2人の男性がいた。

高級なソファーに座り、机を挟んで向かい合っている。

 

 

1人は、杖を側に置いている、白髪と白髭を蓄えた老人。

目の前にいる、もう1人の事をジッと見ている。

 

 

もう1人は、まだ30代後半といった風貌。

白衣を着用しており、目の前からの視線など気にならないように、足を組み紅茶を飲んでいた。

 

 

「……して、あの2人目はいまどうなっている?」

 

 

暫くの無言の後、老人がそう切り出した。

白衣が紅茶の入ったカップを置く。

 

 

「調整は完了しましたよ。いつでも再出撃は可能です」

 

 

「そうか……あれが、ISを動かせた理由は?」

 

 

「それはもう何も。神があの人物を贔屓したとしか考えられないですね」

 

 

「神か……根っからの科学者である、お前からその言葉を聞くとは、思わなかったな……何処の宗教にも、入っていないのだろう?」

 

 

「そうですよ。ただ、調べても調べても、何も情報が得られないのでね」

 

 

まるでおどけるかのような調子でそう返答する。

以前までと変わらない報告内容に、老人はため息をつく。

 

 

ピピピ!ピピピ!ピピピ!

 

 

「ん?この端末は……」

 

 

目の前に老人がいるのにも関わらず、特に断りをせずに端末を取り出し、通話に出る。

 

 

「私だ。何かあった?」

 

 

『報告です。IS学園の専用機持ちが、イギリスに向かいました』

 

 

「そうかそうか……ハハハハハ!我々の計画通りだ……準備は?」

 

 

『今現在、30部隊分の装備の点検業務が行われています。他準備は完了です』

 

 

「ならば、それが終わり次第作戦を決行する……IS学園を落とす!!」

 

 

『了解しました』

 

 

ここで通話は終了し、白衣は通信端末を仕舞う。

 

 

「そういう事ですので。私はこれで失礼します」

 

 

「ああ。精々しくじるなよ……」

 

 

「私を舐めないでいただきたい。化け物の創造主ですよ?」

 

 

「そうだったな……織斑」

 

 

老人のその言葉を聞き、部屋の外に出た白衣はにやりと口元を歪ませると、扉をパタリと閉じた。

 

 

 




さてさて、大変な事になって来た……
もうとっくのとうに大変な事か。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

評価や感想もよろしくお願いします!


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いざ、聖剣を砕くとき

前回の続き。
いざ、宇宙!!

今回もお楽しみください!!


三人称side

 

 

「竜王、直伝! ギガ、ハウリングゥゥゥゥゥ・クラッシャァアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

ゴォオオオオオオオオオオオオ!!

 

 

イギリス。

エクスカリバーを破壊する為に、宇宙へ向かう千冬たち。

一夏が以前発熱をしてバディワールドに運び込まれた際、牙王経由で天武から受け取っていた必殺技、『竜王直伝 ギガハウリング・クラッシャー!!』を発動(経由なのに直伝?とは言ってはいけない)。

 

 

その昔タスクがした事と同じように、ギガハウリング・クラッシャーをロケット替わりにして、千冬たちを宇宙へと打ち上げた。

 

 

「い、いいいいいい!?」

 

 

「う、うわ、すっご!?」

 

 

宇宙に行けるだけの推進力や威力があるので、当然中に乗っている千冬たちにもその衝撃は来る。

シャルロットや簪達は、その衝撃に驚きの声を出す。

しかし、束や千冬はそこまで驚かない。

今世界で使用されている宇宙進出用のロケットならば、搭乗者に掛かる負荷や衝撃はもっと激しい。

 

 

千冬たちの今の格好は、例外の束を除きISスーツ。

ISを展開していない状態のISスーツは、ぶっちゃけただの水着と大差ない程度の防御力しかない。

しかもシートベルトをしていないのに、特に大きくふっ飛ぶことも無く、振動を感じる程度。

その事実に、束は内心とても興奮していた。

 

 

(凄い…!凄い凄い!!流石異世界!!いいなぁ、いっくんは自由に行き来出来てさ!!今度のIS学園の長期休みの時に絶対に連れて行ってもらおう!!)

 

 

束は言わずと知れたISの開発者で天災科学者。

なかなかイカれた人物である。

そして、バディワールド…というより、向こうの世界にも中々にヤバめの研究をしていた研究者が数人いる。

改心している人もいるが、未だにバディポリスに捕まってたり、バディポリスから逃走を続けている者もいる。

 

 

そんな人達に束が鉢合う可能性がとても僅かながら存在する行動を、果たして一夏がするかどうか。

束の今までの言動が足を引っ張っているのだ。

まぁ、仕方が無いだろう。

 

 

「束、興奮するのは分かるが気を引き締めろ」

 

 

「え?」

 

 

興奮を外に漏らしていないつもりだったが、長年の付き合いがある千冬にはバレた。

珍しく本当に驚いたような表情を浮かべている束に、千冬はため息をついてから言葉を発する。

 

 

「お前、今の状況を理解しているか?この作戦に、地球の命運がかかっているのだぞ。そして、私達の命はサポート役のお前に預けていると言っても過言では無いのだぞ?」

 

 

「うん、分かってるって。心配しなくても、束さんの覚悟は出来てるって。それに、みんなも出来てるでしょ?」

 

 

束のその言葉と同時、2人は周囲にいるマドカ達に視線を向ける。

束は内心興奮しながらも、しっかりと確認していたのだ。

 

 

ギガハウリング・クラッシャー起動時は、身に受ける衝撃に驚いていたマドカ達だが、全員が全員千冬の言っている事を理解しているのだ。

この作戦に…自分達に、地球の命運がかかっている事。

そして、一夏が思いを託してくれた事を。

打ち上がってからそう時間は掛からず、全員が落ち着き覚悟を決めていた。

 

 

「当然です、束さん。そもそも覚悟が無かったら、此処にいません」

 

 

「一夏が私達に託してくれた分もあるんです。最後までやり遂げてみせます」

 

 

代表して、クラリッサとチェルシーが覚悟の決まった表情でそう言い、2人の後ろでマドカ達が頷いている。

それを見て束はニコッと笑顔を浮かべ、千冬もフッと軽く笑顔を浮かべる。

 

 

「それに、束さんだってただ興奮してただけじゃ無いのさ」

 

 

持ち込んだ大量の機材にチラリと視線を向ける。

その1つに束が近付き、ディスプレイの電源を付ける。

すると、そこにはなにやらゲーム等でよく見るパラメーターのようなものが表示された。

 

 

「なんだこれは?」

 

 

「ん~?ちーちゃんと暮桜・明星の状態。しっかりとリアルタイムで反映されるし、ちーちゃんだけじゃなくて他のみんなのも用意してるよ」

 

 

「何時の間にそんなものを…」

 

 

「フランスでISの調整した時に決まってるじゃん!!」

 

 

束はさも当然と言わんばかりの、そして最大級のドヤ顔をしながらそう宣言する。

それを見た千冬は

 

 

「何故だ。何時も以上にイライラする」

 

 

右手で作った拳を左手の掌に数発打ち付けながらそう呟いた。

 

 

「ちーちゃん!?物騒だよ!?」

 

 

「五月蠅い。取り敢えず黙るか私に殴られろ」

 

 

「教師が言う事じゃないよ!?」

 

 

「フン」

 

 

「なんでそこで終わるのかな!?」

 

 

束は逃げようと周囲に視線を向けるも、此処はギガハウリング・クラッシャーの中。

隠れられるスペースなどなく、ISを持たない束には外に出ること等出来ない。

そして、千冬との立ち位置もあまり良くない。

束の背後には大量の機材、そして目の前には千冬。

多少の時間も稼ぐことが出来ない。

 

 

「あはは、あの2人は相変わらずだなぁ」

 

 

「緊張感がどうのこうの言ってた人達の言動とは思えないな」

 

 

「それ言っちゃう?」

 

 

それを見て、マドカ達が思わずそんな言葉を漏らした。

命の危険がある作戦中、しかもこれから宇宙に出るという状態なのにかなりリラックスしている。

だが、これで良いのだ。

変に緊張しすぎると、作戦中に視野が狭くなったり、思いもよらないミスに繋がったりする可能性もある。

だからこそ、適度にリラックス出来ているこの状況の方が、ガチガチに緊張しているよりも好ましい。

 

 

「っ!みんな!そろそろ大気圏!!構えて!!」

 

 

そんな中、千冬にジリジリと迫られていた束が唐突にそう叫んだ。

 

 

『っ!!』

 

 

千冬、それにマドカ達も来る衝撃に備え、身体を伏せたり壁や束の持ち込んだ機材に捕まる。

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

ガタガタガタガタ!!!

 

 

「う、うわっ!?」

 

 

「くぅっ!?」

 

 

「流石に…!キツイ…!!」

 

 

「お前ら!喋るな!舌噛むぞ!!!」

 

 

さっきまでとは比べ物にならない程の衝撃に、マドカ達は思わず驚きの声を発するも、千冬の叱責によってサッと黙る。

千冬の言う通り、こんな激しく揺れている中で喋ったら…と言うより、口を開けたらうっかり舌を嚙み千切りかねない。

すぐさま黙るように千冬が指示を出すのも当然と言ったところだ。

 

 

(おおっとぉ!?く、流石の異世界でも大気圏突入の衝撃は流石にか!!いや、専用の服じゃないし、シートベルトも無くてこの程度で済んでるの凄いんだけどね!?)

 

 

束はやはり興奮しているようだ。

そんなこんなで、数舜後。

激しかった揺れが収まり、全員が同時に息を吐く。

 

 

「……突破したね。宇宙!みんな!宇宙だよ!!」

 

 

一息つく暇もなく、興奮したような…いや、明らか興奮している束が、キラッキラの表情を浮かべながら千冬たちに声を掛けていく。

こんな反応になるのも仕方が無いだろう。

元々、束は宇宙に憧れてISを制作した。

だがあまりにもオーバーテクノロジーだったISは、世界で兵器として見られるようになり、宇宙からは逆に遠のいてしまった。

 

 

そんな状況から巡り巡って、(バディワールドと一夏の力を借りてだが)今宇宙に居るのだ。

興奮しない訳が無い。

その瞬間に、まるで束の興奮に呼応するかの様に、束達の前方…外から見ると、ギガハウリング・クラッシャーの拳にあたる部分に、外の光景の映像が映し出される。

 

 

何処までも続いている、深い闇。

そして、夜でも地上が明るくなったので、見る機会が少なくなった煌めく星々が、様々な場所で輝いていた。

 

 

(凄い…!凄い凄い凄い!!宇宙!束さんは今、宇宙にいる!!いつか、絶対に束さんの大事なISと、束さん達が自力で此処に来るんだ!!)

 

 

束がキラッキラの目でその映像を眺めているその後ろで、千冬たちは軽く準備体操のような動きをして、身体の調子を確認していた。

 

 

「良し、全員特に問題は無いな」

 

 

『はい』

 

 

千冬のその声掛けに、全員が同時に返事をする。

束の体調確認はしていないが、あのはしゃぎっぷりなら問題があるとは思えない為スルーした。

 

 

「それにしても…なんか、宇宙って実感ないね」

 

 

「確かに…今、無重力じゃ無いからかな?」

 

 

「ああ、なるほど」

 

 

マドカがポロッと零した疑問に、シャルロットがそう返答する。

そう、宇宙には重力が無いというのはもはや常識。

宇宙に対する漠然としたイメージの1つに、『身体が浮く』というものは誰でも持っているものだと思う。

だが、今マドカ達の身体は重力から解放されていない。

先程まで立っていたところに、今も立ち続けている。

宇宙に来たという実感が湧かないのも無理は無いかもしれない。

 

 

「まぁ、重力装置働いてる(らしい)からねぇ。なんなら、宇宙に出る前からこの向き…地表と垂直のこの向きだったでしょ?余計にそう感じるかもね」

 

 

そんな会話に、何時の間にやら戻ってきた束が横から割って入った。

 

 

「どうした束、興奮状態のお前は鎮静剤を投与しないと24時間はそのまんまじゃ無かったのか?」

 

 

「そんなこと無いよ!?ちーちゃんは束さんを何だと思ってるのさ!!」

 

 

「ISの開発当時お前がそう言ったんだろ!!」

 

 

「あれぇ?そうだっけ?」

 

 

束はとぼけているのではなく、本当に自分の過去の発言を忘れてしまったようだ。

だが、それは大した問題ではない。

 

 

「って、それはどうでもよくて。みんな、見えたよ」

 

 

『っ!!』

 

 

その言葉を聞くのと同時、全員がさっきまで束がかじりつくように見ていた映像に視線を向ける。

何処までも続いているような闇の空間に、太陽や他の恒星からの光を受け輝いている人口衛星が1機。

作戦目標であるエクスカリバーである。

瞬間、一気に空気がピリッとなる。

 

 

まるで剣のように誇らしげに掲げられている砲台は、地球を向いていた。

マドカ達は、漠然と剣を振り下ろす直前の人間がイメージ出来た。

この時、楯無達は暮桜を纏い雪片を振り下ろす千冬をイメージしたのだが、その千冬本人とマドカ、束、クラリッサ、チェルシーは、煉獄騎士の鎧を身に纏い、エクスピアソードを振り下ろす長髪の一夏をイメージした。

 

 

「良し、それでは作戦の最終確認を行う」

 

 

『はい』

 

 

千冬のその言葉に、束を含めた全員が返事をする。

 

 

「我々の目標は、あのエクスカリバーを破壊する事。今現在エクスカリバーは、地球に向けての攻撃態勢をとっている。だが、それ以上の情報は無く、今現在エクスカリバーがどんな状況になっているのかは誰にも分からない」

 

 

千冬は改めて現状を確認する言葉を述べていく。

 

 

「それでは、配置の確認に移る。エクスカリバーには護衛用の攻撃機能がある。エクスカリバーの現状が不明な為、それが作動しているかも不明だ。その為、交戦を前提として動く」

 

 

『はい』

 

 

「更識姉、凰、ケイシー、サファイア、私が前衛。デュノア、ボーデヴィッヒ、ハルフォーフ、更識妹が中衛。オルコット、ブランケット、ウェルキン、マドカが後衛。束が此処に残ってバックアップだ。異論は?」

 

 

その言葉には、誰も声を出すことは無かった。

そもそも、これは最終確認。

事前に何度も議論を重ね決定した事だ。

今更異論なんてある訳無い。

 

 

「全体指揮は私が持つが、中衛ではボーデヴィッヒに、後衛ではブランケットにも指揮権を渡す。各々の判断で指揮を出して貰って構わない」

 

 

「「はい」」

 

 

「我々前衛は、エクスカリバーに近付き攻撃を行う。前衛がどれほどダメージを与えられるかで、作戦成功率は変わって来る。それに、最後に破壊するのも恐らく我々だ。最初から最後まで気を抜くな!!」

 

 

「「「「はい!!」」」」

 

 

「後衛は、遠距離武器を使用し、前衛のサポートをメインに行動してもらう。攻撃できるチャンスがあれば積極的にエクスカリバーへ攻撃し、エクスカリバーの攻撃機能を引き付けてくれると助かる。離れているからと言って、油断はしないように!!」

 

 

「「「「はい!!」」」」

 

 

「中衛は、前衛と後衛の間の距離で待機しつつ、各々の武装を活用し妨害を行いつつ、状況によって前衛に加勢したり、逆に後衛に加勢したり…まぁ要は、臨機応変に対応して欲しい。キツイとは思うが、最後までやり通せ!!」

 

 

「「「「はい!!」」」」

 

 

「束!お前は此処に残って、情報の収集を行い、我々に伝えろ!どんなに細かい事でも構わん!!」

 

 

「あいあいさー!!」

 

 

千冬が順番に気合を入れるような言葉を掛けていき、全員が気合いの籠った表情でそれに返事をする。

 

 

「良し、行くぞ!!」

 

 

「みんな、頑張って!!」

 

 

『はい!!』

 

 

千冬と束の言葉に、マドカ達が覚悟の籠った表情で返事をし、千冬たちは同時にISを展開。

そのまま宇宙へと繰り出した。

 

 

「おおっと。みんな元気だなぁ」

 

 

一瞬にしてギガハウリング・クラッシャーの外へ繰り出した千冬たち。

残った束は一瞬にして1人になったこの空間で、ポツリとそう呟いた。

 

 

「みんな、絶対に無事でね。誰か1人でも怪我したら、いっくんに怒られちゃうよ」

 

 

そう言う束の表情は、絶対に全員が無事に帰って来る事を確信しているかのような、笑顔だった。

 

 

 

 

 

場面は変わり、ギガハウリング・クラッシャーの外。

前衛、中衛、後衛に別れ、その順番でエクスカリバーへと向かっていた。

 

 

『全員調子はどうだ?』

 

 

オープンチャネルで、千冬が全員に呼びかける。

 

 

『問題無いです!』

 

 

『同じく』

 

 

『全員無事です!!』

 

 

『良し、このまま接近する!』

 

 

問題無しの返答が帰って来た事を確認した千冬は、更に速度を上げながらそう指示を出す。

それに応えるように、前衛のメンバーも同様に速度を上げる。

 

 

中衛のメンバーも加速をしていくが、前衛ともある程度距離は取るために速度上昇率は前衛に比べ少し抑えめだ。

全体の状況を確認出来るように、分散し周囲を探索する。

 

 

後衛のメンバーも当然のように加速はするが、中衛よりも更に抑えめだ。

各々の武装を展開し、狙撃の準備を行う。

 

 

近付くにつれ、エクスカリバーのその巨大さが際立ってくる。

 

 

「やっぱり大きいな……」

 

 

誰かがそうポツリと呟いた。

その声に反応する者はいなかったが、それは全員が感じている事だった。

それと同時、全員の頭に

 

 

(これを破壊するだなんて、自分達に出来るのだろうか?)

 

 

という考えが一瞬浮かんだ。

目の前に存在する、あまりにも巨大な建造物。

しかも、その切っ先たる砲台は、地球に向けての攻撃態勢になっている。

それを自分達で破壊しなければならない。

もう既に覚悟は決まっているとはいえ、目の前にすると少し委縮してしまうのも仕方が無いだろう。

だが、いや、だからこそ。

千冬は口を開いた。

 

 

「不安か?」

 

 

『っ……』

 

 

誰かが、恐らく全員がその言葉に息を詰まらせた。

 

 

「もう既に覚悟は決めていたのに、今更不安になるなんて?とか考えているか?だが、それは正常な反応だ。こんな時に、不安にならない人間など、束か一夏くらいなものだ」

 

 

千冬の冗談をいうテンションでのその言葉、そして脳内で自然と再生された一夏と束の

 

 

「「んな訳あるか!」」

 

 

というツッコミで、マドカ達は思わず口元に微笑を浮かべる。

なんとなくそれを感じ取った千冬も口元に笑みを浮かべると、続きを喋る。

 

 

「だが、大丈夫だ。私達には、この作戦を成功させるだけの力を持っている。今までを思い出せ、私達の戦いを」

 

 

その瞬間に、マドカ達は思い返した。

クラス対抗戦、臨海学校、学園祭、キャノンボール、学園襲撃、京都。

いろいろあった。

戦った。

参加していない戦いもあるが、それでも全員が真剣に、命のやり取りをした。

 

 

「なに、敵はデカいが1つだ。ここ最近は、敵も多かったからな。寧ろ、今回の方が楽な可能性すらある」

 

 

千冬は笑いながらそう言い、それにつられマドカ達も笑う。

だが、直ぐに真面目な表情になると、叫ぶ。

 

 

「行くぞ!!」

 

 

『はいっ!!』

 

 

千冬の言葉に、全員が改めて気合いの籠ったような返事をする。

そうして各々が自分のやれる最適な行動を取る。

 

 

元々の速度が速いIS。

そして、此処は宇宙。

地上で抵抗となる空気や地面などが存在せず、推進力などは落ちない。

数舜もしないうちに、エクスカリバーに肉薄できるという距離にまで前衛が到達した。

 

ここまでエクスカリバーからの音沙汰は無し。

これは、防衛機能が止まっているのではないか。

警戒をしつつも、全員がそう思った。

その瞬間。

 

 

キィ―――――――――ン

 

 

頭の中に直接響くような、思わず耳を塞ぎたくなる甲高い音が響いてきた。

急に響いてきたこの音に、千冬達は顔をしかめるも、直ぐに違和感に気が付いた。

 

 

此処は宇宙。

大気が存在せず、音が伝わらない。

千冬達が会話出来ていたのは、ISのオープンチャネルがあったからだ。

それが無ければ音は一切伝わらない。

 

 

それなのにも関わらず、今こうして詳細不明の音が響いて来る。

それが、違和感なのだ。

 

 

『みんな!大丈夫!?』

 

 

すると束からの通信が入った。

返事をする間も無く、束が早口で喋りだす。

 

 

『束さんにも聞こえた!今の音は、ISの通信に無理矢理割り込んで来たんだ!そして、音の発生源はエクスカリバー!!』

 

 

『っ!!』

 

 

全員がその言葉に息を詰まらせる。

それと同時、今まで音沙汰も無かったエクスカリバーが動きを見せた。

 

 

キィ―――――――――ン!!

 

 

甲高い音の勢いが、更に激しくなった。

すると、エクスカリバー全体の隙間から、紫の光が漏れ出してきた。

 

 

ギャァアアアアアアアアアアアアア!!

 

 

甲高い音は、何処か苦しんでいる声のような音に変わる。

より一層耳障りになった音に、マドカ達は止まってしまう。

宇宙空間では、慣性が抵抗によって遮られないので、それでも前には進み続ける。

しかし、それがいけなかった。

 

 

より一層エクスカリバーに近付いた時、更なる変化が訪れた。

砲台やソーラーパネルの根本などから、まるでタコやイカの触手のような何かが生えてくるように姿を現した。

 

 

『っ!?』

 

 

その異様な光景に、流石の千冬も含めて驚きの表情を浮かべる。

触手のようなものは何本も何本もはい出て来て、まるで意思を持っているかのように蠢く。

パッと見で正確な数が分からない程の触手は、その先端を千冬たちのいる方向に向ける。

 

 

ギャァアアアアアアアアアアアアア!!

 

 

再び絶叫のような音を無理矢理聞かされる。

蠢く触手はその先端に当たる部分を千冬たちに向ける。

すると、その先端が紫に発光する。

その瞬間に先端から何か粒子のようなものが滲み出て来た。

 

 

「あれは……」

 

 

誰かがそう呟いた。

だが、他の全員も心理状況が一緒だった。

 

 

まるで、先端から漏れ出た粒子に命が吹き込まれるように。

そして、意思が芽生えるかのように。

形を形成していく。

 

 

また、誰かが呟いた。

 

 

「ドラゴン……?」

 

 

そう、ドラゴン。

触手の先から漏れ出た粒子が形成したのは、まさにドラゴンの頭部のようなものだった。

 

 

見るだけで人を委縮させてしまうような、鋭い目。

あらゆるものを簡単にかみ砕いてしまうような、鋭い牙。

口の奥では、未だに紫の光が輝いている。

 

 

エクスカリバーから生えてきた触手は、その全てにドラゴンの頭部を生やした。

もはや触手というより、ドラゴンの首だ。

 

 

いろいろな方向を向いていたドラゴンの頭が、物凄い勢いで千冬たちに向けられる。

そして、まるで深呼吸をするかのようにドラゴンの口が開く。

 

 

「っ!攻撃が来る!全員回避!!」

 

 

長年の経験から生まれた直感。

千冬は慌ててそう指示を出す。

その指示に従い、全員が回避行動に移る。

 

 

ギャァアアアアアアア!!

 

 

ギャォオオオオオオオオオオ!!

 

 

それと同時に、まるで悲鳴のような、でも威嚇する様な叫び声が響いて来る。

 

 

ドキュウゥゥゥゥゥン!!

 

 

ドキュウゥゥゥゥゥン!!

 

 

ドキュウゥゥゥゥゥン!!

 

 

直後、全てのドラゴンの口から一斉に千冬たちに向け、光線が放たれた。

その1つ1つの速度や太さ、勢いは、今まで見たどんなレーザーよりも高威力であるという事を、着弾を確認していないのにも関わらず直感的に理解する事が出来た。

 

 

元々個人個人の間隔は開けていた。

それに加え、前衛、中衛、後衛でも距離を取っていた。

しかも、数が多いとはいえ、多人数やビットなどと対峙した時のように囲まれて集中砲火されている訳では無い。

だからこそ、ある程度は余裕がある人と、余裕が無い人に分かれるかと一瞬誰もが思った。

 

 

しかし。

 

 

「うわぁ!?」

 

 

「きゃあ!?」

 

 

「くぅ!?」

 

 

「危なっ!?」

 

 

その1つ1つの威力の高さ、攻撃範囲の広さ。

そして何より、1度での攻撃の多さ。

もはや周囲を囲まれているとか全くと言って良いほど関係ない。

全員が、避けるのにとても必死だ。

 

 

特に必死なのが千冬だ。

零落白夜という癖があり過ぎる単一能力。

文字通り一撃必殺のこの力は、この作戦でも有効な攻撃になるだろう。

だからこそ、千冬は攻撃を受ける訳にはいかない。

 

 

そうじゃなくても、此処は宇宙。

ISの強制解除=死を意味する。

全員が真剣に攻撃を避ける。

 

 

そうこうしている間にも、エクスカリバーからは新たなドラゴンの頭部が大量に生えて来て、元々あった頭部とはまた違ったタイミングでの攻撃を行う。

休む暇もないとは、まさにこの事。

一瞬の気の緩みが命の危険に繋がる。

 

 

だがしかし、ずっとこのままでは駄目だ。

体力と気力、精神力がガリガリと削られていく。

いずれは集中力が無くなり、攻撃を受けてしまい命が散る事となるだろう。

そうなる前にこの状況を打破しないといけない。

 

 

この状況を打破するとなると、やはり一瞬の隙を付いてドラゴンの頭部を破壊し、エクスカリバーに肉薄する事が必要になる。

 

 

(有線で接続されているとはいえ、接近しきると自滅する可能性があるというのは、オルコット達のビットと変わらない筈…となると、私達前衛が出来るだけ前に出なければいけない…だが、そうすると中衛と後衛にさらに負担が…となると、やはりドラゴンの破壊が必須になるな……)

 

 

回避を続けながら千冬は思考を続け、雪片を握りしめる。

出来る限り周囲に視線を向け、状態を確認する。

流石に全員の確認は出来なかったものの、確認できた範囲では全員がもう既に辛そうな表情を浮かべていた。

これではそう長くは持たない。

 

 

(あまり消耗したくなかったが…仕方が無い。私は教員で、一夏とマドカの姉だ)

 

 

頬を汗が流れていくのを感じながら、千冬は細く長く息を吐く。

そして自らを奮い立たせるように口元に笑みを浮かべる。

 

 

「この状況を打破できないで如何する!!」

 

 

そうして叫び、零落白夜を発動。

自身に向かってくる大量のレーザーを一閃。

隙を強引に作り出すと、そのまま予備動作無しで瞬時加速を発動。

今まさに切り裂いたレーザーを発射し終え、次弾のチャージを行っていたドラゴンの頭部を破壊した。

 

 

『っ……!!』

 

 

その光景を見れた後衛と中衛のメンバーたちは集中を切らさないようにしながらも、鮮やかな千冬の突破劇に思わず驚きの表情を浮かべる。

 

 

「っ!お前達!!」

 

 

集中砲火から一転、この戦場で唯一フリーになった千冬は、宇宙空間故放っておいても落ちない速度の上さらに瞬時加速を行い速度を上げる。

 

 

ギャァアアアアアアア!!

 

 

ギャォオオオオオオオオオオ!!

 

 

エクスカリバーも、自身のドラゴンの頭部を破壊されまた叫び声を流すと、楯無達に向けていた分の頭部を千冬に向け直し、攻撃しようとする。

しかし、それよりも早く千冬が、斬撃の瞬間のみ零落白夜を発動。

制御できる最高速度のまま連続して自身に向けられているドラゴンの頭部を全て破壊する。

元々は楯無達に向いていたものを破壊したことで、前衛のメンバーも千冬と同じくフリーになる。

 

 

「このまま中衛と後衛の分も対処する!お前達は新しく出て来る奴を対処してろ!」

 

 

『『『『はい!!』』』』

 

 

前衛に指示を出し、千冬はそのままの勢いで中衛と後衛の元へと向かい、全てのドラゴンの頭部を破壊した。

千冬はエネルギーを消耗してしまったものの、これで状況は大幅にリセットされた。

 

 

「後衛!ドラゴンの頭部になる前に出て来たものを破壊しろ!中衛!間に合わなかったものを数人がかりでもいいから破壊しろ!これ以上アレに攻撃されるとたまったもんじゃない!」

 

 

『『『『『『『『はいっ!!』』』』』』』』

 

 

千冬の言葉に、各々が返事をする。

 

 

「前衛!あとは中衛に任せろ!ここからが本番だ!!行くぞ!!」

 

 

『『『『『『『『『『『はい!!!』』』』』』』』』』』』

 

 

千冬は改めて雪片を握りしめながら、改めてエクスカリバーへと勢いのまま突っ込んでいく。

それに続くように、楯無達も各々の行動を開始する。

 

 

いざ、聖剣を砕くとき……!!

 

 

 




過去一で千冬が格好いい。
普段からこれくらい格好良くしれくれ先生。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにして入れください!

評価や感想もよろしくお願いします!


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宇宙での決戦

宇宙編、ラスト!

「この瞬間」という言葉を聞くと、どうしても宵闇の使者が最初に出て来てしまう。
これが理解できる人とは仲良くなれそうだ。


三人称side

 

 

「ここからが本番だ!!行くぞ!!」

 

 

宇宙。

地球に向けて攻撃態勢をとっている人工衛星、エクスカリバーを破壊する為、一夏が発動したギガハウリング・クラッシャーに乗り込み、千冬たちがやって来た。

エクスカリバーに接近した際に、エクスカリバーから生えてきたドラゴンの頭部のようなものに包囲され、全員が集中砲火を受けるという危機的状況の中、千冬の咄嗟の機転により状況を打破した。

 

 

『『『『『『『『『『『はい!!!』』』』』』』』』』』』

 

 

千冬の号令に、全員が同時に返事をし、各々の行動を開始する。

 

 

ギャァアアアアアアア!!

 

 

ギャォオオオオオオオオオオ!!

 

 

エクスカリバーから絶叫が響くと同時、ドラゴンの頭部へと変わる前の触手のようなものが再び大量に生えてきた。

だが、この触手を放置してはいけない事。

そして、この触手がどのようなプロセスで変化していくのかを、もう把握している。

 

 

「させませんわ!」

 

 

「壊れろ!!」

 

 

後衛のチェルシー、マドカ、セシリア、サラが触手の先端を的確に撃ち抜いていく。

BT機を使用しているイギリスの3人はビットを展開し、フレンドリーファイアをしない程度で大量に狙撃していく。

後衛の中で唯一ビットを使えないが、ライフルの威力は1番高く、射程も1番長いマドカは、チェルシー達が狙撃しにくい位置のものを撃っていく。

 

「後衛が弾いている間に、自滅が狙える位置にまで接近しきる!」

 

 

『『『『はい!!』』』』

 

 

千冬の号令に返事をし、前衛の千冬、鈴、楯無、ダリル、フォルテが接近する。

零落白夜を持つ千冬、そして熱と冷気の合わせ技で内部への攻撃の切っ掛けを生み出せるダリルとフォルテはあまり消耗させたくない。

 

特に千冬は先程の状況打破の為に無理矢理零落白夜を発動させており、多少ではあるが消耗している。

それに加え、零落白夜の弱点を補う武装の暁星の光も、この状況ではあまり効果を発揮できない。

暮桜・明星の残りSEは6割強。

 

その為、前衛の中でも先頭なのが楯無と鈴である。

 

 

ギャァアアアアアアア!!

 

 

ギャォオオオオオオオオオオ!!

 

 

ガァアアアアアアアア!!

 

 

もう装甲まで目と鼻の先というところまで来た時、再びエクスカリバーから絶叫が鳴り響く。

それと同時、今までとは比にならない量の触手のようなものが生えて来る。

 

 

「うげぇ!?」

 

 

「なんで急に!?」

 

 

「お前達、後衛に任せろ!!」

 

 

ダリルとフォルテが素直に面倒くさそうな表情を浮かべながらリアクションを取り、千冬が慌てて指示を出す。

 

 

「くらえっ!!」

 

 

「このぉ!!」

 

 

先頭にいた鈴と楯無は各々の武装である、衝撃砲とアクアナノマシンによって自分達に向けられそうな触手を弾き、後衛が破壊しやすいように調整する。

そのサポートにより、後衛もドンドンと破壊していく。

 

 

「くっ、このっ!」

 

 

「数が多い…!」

 

 

だがしかし、先程に比べ圧倒的に増えた触手に、次第に対応が難しくなってくる。

それに加え、エクスカリバーも学習してきているのか、射撃の回避行動を取るようになってきて、破壊が難しくなってきた。

次第に破壊が追いつかなくなり、遂にドラゴンの頭部が2つ完成してしまった。

 

 

ギャァアアアアアアア!!

 

 

ギャォオオオオオオオオオオ!!

 

 

咆哮と同時、ドラゴンの頭部がレーザーの発射準備態勢に移る。

その発射口たるドラゴンの口が向いているのは、一番エクスカリバーに接近している鈴と楯無だ。

 

 

「「っ!!」」

 

 

2人は迫るレーザー発射に備える為、回避行動の準備をする。

 

 

だが、結果として2人が回避行動を取る必要は無くなった。

何故なら。

 

 

「させん!」

 

 

「何のために、待機していたと思っている!!」

 

 

この時の為に待機していた中衛が動いたからだ。

ラウラとクラリッサがAICを発動。

ドラゴンの頭部の動きを止める。

 

 

「「今!!」」

 

 

「分かってる!」

 

 

「任せて!」

 

 

その瞬間、2人が自身の武装でドラゴンの頭部に攻撃すると同時に放った言葉に、同じく待機していたシャルロットと簪が反応した。

シャルロットの高速切替を多用した大量の一斉射撃、簪による山嵐の48発のミサイル一斉攻撃は、AICによって動けなかったドラゴンの頭部に全てクリーンヒット。

ドラゴンの頭部はバチバチとスパークを散らし、直後に爆発した。

 

 

「前衛!」

 

 

「ああ、任せろ!」

 

 

クラリッサの言葉に、千冬が力強く頷く。

前衛の5人はそのままの勢いで更にエクスカリバーに接近し、第一目標であるエクスカリバーによる攻撃が自滅になる位置にまでやって来た。

 

 

ギャァアアアアアアア!!

 

 

ギャォオオオオオオオオオオ!!

 

 

ガァアアアアアアアア!!

 

 

グォオオオオオオオオオオ!!

 

 

その事に怒ってなのか、それともただただ条件反射なのか、より一層の叫び声を無理矢理聞かせて来るエクスカリバー。

それと同時に大量の触手が再び生えて来る。

 

 

「ふん、何度だっで破壊してやる!!」

 

 

「やってやりますわ!」

 

 

後衛が触手を破壊し、破壊しきれずドラゴンの頭部へと変化したものを中衛が2人以上で破壊をしていく。

仮説通り、自滅の可能性が高い前衛には攻撃が来ない。

これで、エクスカリバー本体への攻撃が可能になった。

 

 

「このぉ!」

 

 

「ハァ!」

 

 

前衛の中でもいち早く到達した鈴と楯無は、各々の武装でエクスカリバーへと斬撃を与える。

だがしかし、その装甲に刃が入るどころか傷一つつかない。

武装を通じ、振るった際の勢いがそのまま衝撃として返って来る。

 

 

「痛っ!?」

 

 

「これは…普通の物理攻撃じゃ通用しないわね。攻め方を変えないと」

 

 

楯無のその言葉の直後、千冬たち3人も到着した。

千冬が零落白夜を発動し切り裂くも、先程の鈴達の攻撃と同様、傷一つ出来なかった。

これで、何かエネルギーシールドの類で防御力を上げているのではなく、ただただ物理的な防御力が高いという事が判明した。

 

 

「俺達の出番だ!行くぜフォルテ!!」

 

 

「分かってるっス!」

 

 

となれば、ここは炎を操るヘル・ハウンドと冷気を操るコールド・ブラッドの出番だ。

 

 

物体を熱すると分子運動の変化によって膨張する。

これを急速に冷やすと、冷やされた部分は急に縮もうとするが、冷やされなかった部分は膨張したままなので歪みが生じ、ものが割れる。

 

 

だがしかし、金属はそう簡単にいかない。

金属は展性(叩くと広がる)や延性(引っ張ると伸びる)という加工がしやすい特性を持つ。

ガラスなどのように温度の差では簡単に割れず、2人がそのまま熱して冷やすだけでは突破は難しい。

 

 

ちょっとやそっとの温度差はでは割れない為、かなりの高温にまで加熱した後、氷点下まで冷やす必要がある。

だここまでしても割れるかどうかは賭けになってしまう。

だが、やるしか無いのだ。

 

 

ダリルがエクスカリバーの装甲を焼き溶かすという手段もあったのだが、そっちの方が時間がかかるだろうと判断し、この作戦で行く事にした。

 

 

「しゃオラァ!」

 

 

独特な叫びと共に、ダリルが過熱を開始する。

何時もの模擬戦や訓練では火球の生成、もしくは双刃剣である『黒への導き(エスコート・ブラック)』の斬撃に炎を纏わせることによって、攻撃にその炎を使用している。

だが、今回はヘル・ハウンドの特徴的な両肩の犬頭から吐かれる炎を、ただ一点に集中させている。

 

 

「今のところどんな感じだ!?」

 

 

「ふつーの金属とかより、熱による変色が全然無い…こりゃあ骨が折れるぞ」

 

 

宇宙空間はそもそも気温が低く、燃焼する為に必要な酸素も無い。

ヘル・ハウンドが発生させる炎だけが、

その為、ただでさえ熱し続け温度を上げるのが

 

 

「出来るだけ早くしてくれ!後衛と中衛の限界が来る前に!」

 

 

「分かってますよ!!俺とヘル・ハウンドに、焼き尽くせないものは無いって事を見せてやりますよぉ!!」

 

 

千冬の言葉に、ダリルは口元にニヤリと笑みを浮かべてそう叫ぶ。

その瞬間、両肩の犬頭が吐く炎の勢いが激しくなる。

 

 

「くっ!このっ!」

 

 

「しまった!?」

 

 

「カバーは任せろ!」

 

 

後衛と中衛が、未だに激しく触手やドラゴンの頭部との交戦をしている。

千冬の言う通り、出来るだけ早くしなければ、いずれ限界が来てしまう。

呼吸を忘れてしまう程に目を見開きながら、炎で熱し続ける。

 

 

徐々に徐々に、温度が高まってきている事を示すように、炎に炙られている箇所の色が変わっていく。

それを確認したダリルは口元に浮かべている笑みを濃いものにし、千冬、鈴、楯無は各々の武装を構えなおす。

 

 

そこから更に熱し続け、遂にそのタイミングがやって来た。

 

 

「フォルテ!!」

 

 

「任せろっス!」

 

 

ダリルと入れ替わり、フォルテが今さっきまで加熱していた箇所を急速に冷やしていく。

 

 

ビシビシビシ!

 

 

大気がある状態だったら、恐らくそんな音が聞こえる感じで、バキバキと罅が入っていく。

ダリルによって熱せられていなかった箇所に冷気が触れると、ドンドンと凍っていく。

変色していた箇所も急速に温度が下がり、表面が凍る。

 

 

ドンドン罅は大きくなっていくも、エクスカリバーの装甲が厚い為、貫通し穴が開く事は無かった。

だが、その装甲に罅が入った。

この事実が大切なのだ。

 

 

「楯無!」

 

 

「任せて!」

 

 

フォルテが横にズレながら楯無の名を呼び、楯無がそれに応えると同時、構えているランスを罅の中心に向かって放つ。

もとより高い楯無の実力は、ISのサポートがあれば宇宙空間でも地上と変わらない。

その切っ先は正確に中心を捉え、急速な加熱と急速な冷却によってボロボロになっていた装甲に穴を穿いた。

 

 

「織斑先生!鈴ちゃん!」

 

 

「任せてください!」

 

 

「行くぞ!」

 

 

楯無と入れ替わる形で、鈴と千冬がその穴に自分の武装を突っ込む。

物理攻撃では傷一つ付かなかったが、切っ掛けが出来れば話は別だ。

感覚としては、包丁でジャガイモの皮をむくとき、半分に切ってからするとやりやすいのと似ているだろうか。

 

 

ともあれ、さっきまでまるで意味が無かった刃での攻撃が、漸く通用するようになった。

熱と冷気とランスによってボロボロになっており、面白いほど斬撃によって崩れていく。

数度斬撃を繰り返す事で、IS1機ならば通れる程度の穴が貫通した。

 

 

「中衛!後衛!聞こえるか!?」

 

 

「聞こえてます!」

 

 

「同じく!」

 

 

「これから前衛は中へと突入する!後は頼んだぞ!」

 

 

「了解しました!」

 

 

「織斑先生たちも、どうかご無事で!」

 

 

中衛と後衛の返答を聞き、千冬たちはエクスカリバーの中へと侵入する。

 

 

電子基板を思わせる特徴的な模様が床や壁や天井に張り巡らされている。

なんとも異質な空間だ。

しかも、その基盤の線の1本1本に光が流れている。

 

 

「もしかして、エクスカリバー全体が何かコンピューターの基盤のような役割を担ってんのか…?」

 

 

ダリルが後頭部を掻くような動作をしながらそう呟いた言葉に、この場に居る全員が険しい表情になる。

 

 

「可能性は多いにあり得るな…まぁ、考察は後で良い。エクスカリバーの核に当たる部分を破壊する。それだけを考えろ」

 

 

「とはいっても織斑先生、右なのか左なのかすら分かんないっスよ。どうやってそんな大事な部分見つけるんスか?」

 

 

フォルテの言い分はもっともだ。

セシリア達も、エクスカリバーの設計などに直接関わっていたわけではないので、内部構造を詳しく把握している訳では無い。

オルコットの屋敷に着いた時も、時間の無さゆえ核を破壊すればエクスカリバーは止まる、と言った情報しか聞けなかった。

虱潰しをするという選択肢が無い訳では無いのだが、時間がかかり過ぎる。

中衛と後衛の事を考えると、無駄な時間を使いたくない。

 

 

すると、床や天井を観察していた楯無がある事を発見した。

 

 

「この模様を流れているような光…もしかして、等間隔で、全てが同じ方向に流れていませんか?」

 

 

「「「「っ!?」」」」

 

 

その指摘を聞き、全員が改めて確認をする。

確かに、床、天井、壁に走る線の光は、一定の間隔で、同じ方向に流れていた。

 

 

「これをたどれば、核に辿り着けるかもしれないって事ですか?」

 

 

「その可能性が高いな」

 

 

「でも、向かって行く先と向かってくるところ、どっちに向かえばいいんスかね?」

 

 

「途中で枝分かれしている可能性もある。根本をたどる方が安易だろう。行くぞ」

 

 

「「「「分かりました」」」」

 

 

この先も、罠のようなものが無いとは言い切れない。

何が来たとしても、取り敢えず対応が可能な千冬が戦闘で奥へ奥へと進んで行く。

重力などは、外と変わらず存在せず、放っておいても慣性の法則で速度は落ちないし停止もしない。

しかし、エクスカリバー内部という事で壁や天井は存在する為、少しでも間違えるといろいろなところに激突し、大変な事になってしまう。

普段以上に慎重になりながら、エクスカリバーの奥の方へと進んで行く。

 

 

移動する事数分。

ついに光が流れて来る根本の場所へと辿り着いた。

そこにあったのは1枚の扉。

 

 

中央に縦線が1本入っており、そこから両側に開くのだろうと言うのが簡単に想像できる。

扉が位置しているのは、エクスカリバーの本当に中央。

今さっき千冬たちが歩いてきた方とは別に、扉の向こう側にも通路がある。

その通路にも電子基板のような模様があり、線に光が流れている。

 

 

だが、扉から千冬たちの方向に向かって光が流れているのに対し、向こう側から扉に向かって光が流れている。

 

 

「どうやら、この扉から光が出て、エクスカリバーを1周した後此処に戻って来るみたいですね」

 

 

「ああ、その用だ」

 

 

「って事は、此処がエクスカリバーの核…!!」

 

 

楯無、千冬、鈴の順番でそう言い、全員の表情が一瞬にして険しいものになる。

 

 

「……お前達、覚悟は良いか?」

 

 

千冬が改めて確認するように4人の表情を見ながらそう質問する。

 

 

「当然です!」

 

 

「勿論です!」

 

 

「良いに決まってるっス!」

 

 

「愚問だな!」

 

 

その問いに、一瞬の迷いもなく返事をする4人。

それを聞き千冬は口元に笑みを浮かべると、大きな扉の前に立ち、雪片を構える。

 

 

「突入する!」

 

 

「「「「はい!」」」」

 

 

その言葉と同時、扉を無理矢理こじ開け、中に突入する。

 

 

扉の中はかなり開けた円柱の内側といった感じの空間。

先程までいた空間と同じく、壁や天井に電子基板のような模様が張り巡らされており、それが全て円柱の中心に向かって伸びている。

 

 

そして、その中央。

そこにあったのは、千冬たちが予想していた、只のコンピューターでは無かった。

 

 

「こ、これは…!!」

 

 

誰かが、()()を見てそう呟いた。

コンピューターの制御用である有線が大量に背中から生えており、床や天井に繋がっている。

まるで岩石のようなごつごつした表面。

 

 

だが、そんな細かな要素など全く気にならないくらいに、()()全体のインパクトが強かった。

そこそこ広い空間の天井まで届く程の大きさ。

巨大な足に尻尾、巨大な翼。

そして、扉の方向を睨んでいるかのような表情を浮かべている頭部が、3つ。

 

 

終焉魔竜 アジ・ダハーカ。

 

 

亡国企業が散々使い回してきたアクワルタ・グワルナフ・レプリカの大元にして、太陽神の片割れ。

世界を滅ぼす程の力を秘めた、破滅の竜。

その、石像だった。

 

 

一夏やオルコス達ならば、一瞬も関わらずにそれが何かを理解しただろう。

だが、この場に居る全員アジ・ダハーカの存在を知らないし、唯一その名を知っている千冬も、臨海学校の際ディミオスからチラッと話を聞いた程度だ。

これが何かなど、直ぐには理解できない。

 

 

「これが、エクスカリバーの核…?」

 

 

「…その様だな……」

 

 

「何というか…かなり独特…」

 

 

ダリル達が思い思いの感想を漏らす中、千冬は思考を巡らせる。

 

 

(わざわざこんなものを核として設計するはずがない…つまり、これは後付け…オルコットのコントロールから外れた後に、造られたもの…恐らく、亡国企業。何故こんなものを…)

 

 

「まぁ良い、考えるのは後だ。取り敢えず、コイツを破壊する!」

 

 

「「「「はい!」」」」

 

 

兎にも角にも、この石像を破壊するしなければ話にならない。

全員が各々の最大出力の攻撃を繰り出す為の構えに入った、その瞬間。

 

 

ゾクッ!!

 

 

何故だか、全員に悪寒が走った。

なにか見落としている。

千冬たちは石像の正面からこの空間に侵入してきた。

だからこそ、千冬たちは見れていない。

石像の向こう側を。

 

 

ISのハイパーセンサーでは特に異常は無い。

だが、それを掻い潜れる何かがあるとするのならば……

単純な死角に潜むのが、なんなら1番効果的だ。

 

 

「全員退避!!」

 

 

千冬の指示と同時、全員が一瞬にしてその場から飛び退く。

その直後、今まで千冬たちが立っていた場所に、石像の向こう側から飛び出て来た()()()の攻撃が着弾し、そして()()()自身が着地した。

 

 

その姿は、IS学園が襲撃を受ける際何度も見た、亡国企業の戦闘員が装着していた黒い改造ISだ。

だがしかし、通常人間が乗っている箇所に人間はおらず、変わりに石像と同じような材質がはめられており、石像の背中と同じようにコードが数本刺さっていた。

そのプラグの反対側は石像に繋がっている。

改造ISは最初に飛び出て来た機体に続くように、同じような改造ISが十数機姿を現した。

 

 

「有線接続の無人機!?」

 

 

鈴が驚きの声をあげると同時、計15機の改造ISが一斉にアサルトライフルを展開。

千冬たちに向かって発砲した。

 

 

「回避!」

 

 

その指令に従い、全員が同時に回避行動を開始する。

回避に成功し、壁に当たった弾丸はそのまま壁にめり込む。

それを見た千冬たちは、自分の頬に冷や汗が流れるのを感じた。

 

この空間の壁の強度が外壁と同じとは限らないが、仮に同じとした場合、傷をつけるのにも一苦労した強度の壁に、ただただ発砲しただけで弾丸がめり込むほどの威力を持つアサルトライフルを、警戒しない訳にはいかない。

 

 

(全く、この改造ISや外のドラゴンを作ったのが同じ組織…同じ人物だと言うんだったら、途轍もない技術者だな…くっ、中々大変だぞ…)

 

 

連続して発砲される弾丸を避けながら、千冬は思考を巡らせる。

恐らく掠った時点でアウトの弾丸の雨を対処しつつ、石像を破壊する事は不可能だ。

だからといって、全員で改造ISに対処していたら時間がかかり過ぎる。

 

 

(理想は誰か1人に石像を対処させ、その他でISの対処だが…誰に石像を頼む?時間を掛けるのは好ましくない…一撃の威力が高い攻撃が出来る者…私は駄目だ。零落白夜が一撃必殺なのは、相手がISだからこそだ。あの体表、恐らく物理的な防御力の高さがまた壁となる…なら……!!)

 

 

千冬は覚悟を決めると、はぁ!と大きな声を出してから(空気が無いから聞こえない)、指示を出す。

 

 

「更識姉!私達で改造ISを引き付ける!その間に、お前があの石像を破壊しろ!」

 

 

「っ!了解です!」

 

 

「ケイシー!サファイア!凰!聞いていたか!?」

 

 

「勿論!」

 

 

「大丈夫っス!」

 

 

「行けます!」

 

 

「良し、行くぞ!!」

 

 

「「「「はい!」」」」

 

 

千冬の指示に、4人同時に返事をし各々のやるべき為の行動をする。

楯無は石像の目の前に着地。

自身の最大の攻撃の為の準備に入る。

 

 

そんな隙だらけの姿を見て、改造ISが何の反応も示さない訳が無く。

楯無に向かって一斉にアサルトライフルを構える。

 

 

「させねぇ!」

 

 

「ほらほら、こっちっスよ!」

 

 

ダリルが約半分程を炎で炙り、残りの手元を凍らせることで、楯無への攻撃を妨害。

同時に注意を自分達に引く。

 

 

「今だ!」

 

 

「はい!」

 

 

その瞬間、処理が追い付かない僅かな隙を狙い千冬と鈴が各々1番近い機体に近付き、攻撃を行う。

今までの戦闘とは違い、今回の改造ISは明確な攻撃目標…つまり、弱点がまるわかりである。

そう、石像と繋がっているコードである。

有線接続の場合、無線と異なり指令のラグや誤動作が少ないという利点があるものの、線が切れたら接続も同じく切れるという欠点がある。

なので、この繋がっているコードさえ切断出来れば、それで改造ISの動きは止まる。

 

 

「ハァアア!」

 

 

「フンッ!!」

 

 

加速した際の威力も乗せられた強力な一撃は、機体から出ている数本のコードを一気に切り裂いた。

 

 

バチバチバチ

 

 

切断面からスパークが散る。

恐らく、このコードも一般的なペンチなどでは切断出来ないような、並大抵の丈夫さでは無いのであろう。

だがしかし、改造ISは限られた空間とはいえ動き回る為、柔軟性も確保しなければならない。

その結果として、威力のある一撃ならばそこそこ簡単に切断出来たのだ。

 

コードを切断された2機のISは、切られる直前の姿勢のまま固まっている。

それを見た千冬は再び指示を出す。

 

 

「このまま残りのコードも破壊する!急げ!」

 

 

「「「はい!」」」

 

 

千冬が頭1つどころか頭3つぐらい飛びぬけてはいるものの、そもそも専用機を持っている時点でかなりの実力者だ。

次々にコードをぶった切っていく。

 

 

そんな中、楯無はずっと構えていた。

ずっと、ずっと。

この一撃に全てを掛けてもいい。

そんな思いで、ずっとスタンバイしていた。

 

 

「っ!今!」

 

 

そんな中、エネルギーチャージが全て完了し、

 

 

「ハァア!」

 

 

千冬が最後の改造ISのコードを切り裂いた。

 

 

「もう大丈夫だ!」

 

 

「行け!」

 

 

「いっちょ決めてやれっス!」

 

 

「やっちゃってください!」

 

 

千冬、ダリル、フォルテ、鈴の激励を受け、楯無は口元にニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

「勿論!ミストルテインの槍、発動!」

 

 

ミステリアス・レイディのアクアナノマシンを一点に集中させる事によって、強力な攻撃となる、零落白夜とはまた違ったアプローチでの一撃必殺の技。

それは適格に石像の中心を捉え、一気に貫いた。

 

 

バキバキバキバキ!!

 

 

ギャァアアアアアアア!!

 

 

崩壊する音と、叫び声が通信に割り込まれる形で聞こえて来る。

 

 

「良し!」

 

 

「やったぜ!」

 

 

「楯無!格好いいっスよ!」

 

 

「凄い!」

 

 

千冬たちが思わずガッツポーズをすると同時、

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

 

石像があった場所を中心として黒煙が発生し、エクスカリバーが揺れ始めた。

 

 

「な、何この揺れ!?」

 

 

鈴が慌てたような声を発する。

 

 

「核の破壊でエクスカリバーが崩壊し始めた!」

 

 

千冬の声と同時、壁や天井が崩落し始める。

このまま此処に居たら、いくらISを身に纏っていても耐えられない。

 

 

「脱出する!」

 

 

「「「「はい!!」」」」

 

 

千冬の指示と同時、5人全員が慌ててエクスカリバーの外部へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面変わって、エクスカリバー外部。

此処では相も変わらず触手とドラゴンの頭部と中衛、後衛が戦闘していた。

すると、

 

 

ギャァアアアアアアア!!

 

 

『っ!?』

 

 

急に通信に割り込んで来た叫び声と共に、今の今までうねうねと蠢いていた触手やドラゴンの頭部が動きを止めた。

 

 

「これは……?」

 

 

「もしかして……!!」

 

 

誰かがそう呟き、全員が一斉にエクスカリバー本体へと視線を向ける。

エクスカリバーからは煙が吹き出しており、前衛が破壊したという事を全員が察した。

 

 

「って、前衛戻ってきてない!?」

 

 

「え、ちょ、え!?」

 

 

「大変じゃん!」

 

 

シャルロット、簪、マドカの順で焦ったようにそう声を出す。

兎に角安否確認をしなくては。

クラリッサが千冬に、チェルシーが束に連絡を入れようとしたその瞬間、

 

 

「あ、鈴さん!」

 

 

「織斑先生たちも全員いる!」

 

 

エクスカリバーから千冬たちが脱出した。

 

 

「全員退避!爆発するぞ!」

 

 

『はい!』

 

 

中衛と後衛が無事な事を知った千冬は指示を出し、それに従い全員が一斉にギガハウリング・クラッシャーの方へと移動を開始する。

 

 

ドガァアン!ドガァアン!!ドガガガガァアアアアアアアアン!!!

 

 

全員がそこそこな距離を取った時、触手やドラゴンの頭部を含め、エクスカリバーが大爆発した。

 

 

「うぉお!?」

 

 

大量の黒煙と共に周囲に残骸が飛び散る。

その勢いは凄まじく、しっかりと距離を取ったのにダリル達の元に到達するくらいだった。

別に避けるのは簡単なのだが、背後に自分達の背後にあるギガハウリング・クラッシャーにぶつける訳にはいかないので、弾いて軌道を変える。

 

 

エクスカリバーの爆発、そして散った残骸が所謂デブリとなり、地球に落下していき大気圏で燃え尽きていく。

そんな光景を、全員が暫く呆然と見ていた。

 

 

「なんだか、綺麗だね」

 

 

「そう、かもな」

 

 

誰かが呟いた言葉に、別の誰かがそう返した。

ずっと見ている訳にもいかないので、千冬を先頭としてギガハウリング・クラッシャーの中へと戻り、ISを解除する。

 

 

「みんな!お帰り!!」

 

 

その瞬間に、待機をしていた束が笑顔で出迎える。

 

 

「ああ、ただいま」

 

 

「作戦成功!おめでとう!!」

 

 

パァン!!

 

 

束の声に応じて、全員が右手を突き出し、打ち合わせた。

これにて、エクスカリバー破壊作戦は成功で幕を閉じた。

そうして、千冬たちは地球へと帰還したのだった。

 

 


 

 

「あああ、急に力が抜けるように疲れが……」

 

 

「本当…疲れた……」

 

 

地球。

イギリスのギガハウリング・クラッシャーを打ち上げた地点。

久しぶりに地表に帰って来たマドカ達が、疲れ果てたようにその場に座り込んだ。

この場に置いて立っているのは千冬と束だけだが、リアルチートな2人でも流石に疲れたらしく、ため息をつき疲労の表情を浮かべていた。

まぁ、実際に戦闘していた千冬に比べ待機していた束は幾分か元気そうではあるが。

 

 

全員が無事に外に出ると、ギガハウリング・クラッシャーは役目を終え、キラキラと輝く粒子に変換され、空気に溶けていった。

 

 

「ありがとう、束さん達を宇宙に連れて行ってくれて」

 

 

その光景を見ながら、宇宙に行くという夢の1つを叶えてもらった束は感謝を述べた。

何時かは絶対、自分の力でそこまで行くと誓いながら。

 

 

「みなさ~ん、お疲れ様で~す!!」

 

 

すると、タイミングを見計らったかのように遠くの方から声が聞こえてきた。

全員が一斉にそっちの方に振り向くと、エクシアがパタパタと走りながら近付いてきた。

何時帰って来るのか不明だったので、近くでずっと待機していたとは思えない元気さである。

 

 

「はぁ、はぁ、ふぅ……改めまして、お疲れ様でした。怪我などをされている方はいらっしゃいませんか?」

 

 

「ええ、全員怪我はしてないわ。ただ、疲労が凄くて……」

 

 

「近くに車を停めさせています。屋敷の方では、入浴の準備やお食事の準備を進めています。歩くのが厳しいようでしたら、ここまで来させますがどういたしましょうか?」

 

 

「私は歩けますわ」

 

 

「私も問題無い」

 

 

「皆様問題無いという事で大丈夫でしょうか?」

 

 

エクシアのその言葉に、全員が一斉に頷く。

 

 

「では、お車までご案内させていただきます」

 

 

ふわりと可愛らしい笑みを浮かべるエクシアに先導され、全員が車に乗り込み、オルコットの屋敷へと向かった。

その車内で千冬が学園に作戦成功の連絡をし、屋敷についてからは入浴をした後に用意してもらったご飯を食べ、ほどなくして全員が夢の世界へと旅立った。

あの千冬でさえも横になってから寝るまで分も掛かっていなかったあたり、相当の疲労だったのだろう。

 

 

そして、寝ている全員の表情は、大きな作戦が終わった安堵感からか、とても穏やかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……安堵するのが間違いだったという事を、直ぐに知る事になる。

 

 

翌日。

少々遅い時間に目を覚ました一行は、同じく少々遅い朝食を食べていた。

 

 

「まだ若干疲れてるね……」

 

 

「仕方が無い。まぁ、数日間は落ち着けるだろう」

 

 

「そうだねぇ…そうだと良いんだけど」

 

 

「お姉ちゃん、なんでフラグ立てたの?」

 

 

「簪ちゃん?今のは言わなかったらフラグじゃ無かったんじゃない?」

 

 

「早くみんなのIS調整するついでに宇宙での活動のデータ取らないと」

 

 

「何故お前は今の流れでそれが言える」

 

 

「それが束さんなのだ~~!」

 

 

この場には、本人達を除けば給仕をしたメイドしかおらず、かなりゆったりとした時間が流れていた。

ただ、チェルシーだけは主であるセシリアと同じ時間、同じ空間で食事して良いのかと内心緊張していたが。

もう少しで全員が食べ終わるといった時、なにやらドタバタと走る音が聞こえてきた。

 

 

『?』

 

 

全員が首を捻ると同時、

 

 

バーン!!

 

 

と、大きな音を立てて扉が開き、はぁはぁと肩で息をしている、とても焦ったようなエクシアが部屋の中に入って来た。

そんなに急いでどうしたのか。

従者が廊下を走ってはいけない。

そんな言葉を発しようとしたが、それよりも前に焦ったままのエクシアが言葉を発した。

 

 

「大変です!IS学園が!!」

 

 

『っ!?』

 

 

その言葉を聞いた瞬間、全員が心臓を鷲掴みされたかのような感覚を覚えた。

 

 

エクシアから聞かされたのは、たった今十蔵からIS学園が襲撃を受けたと連絡が来た事。

その襲撃は今までとは比べ物にならない程の大襲撃で、生徒全員と誘導する為の数人の教員が日本本土の方へ避難した事。

そして、一夏を含めた専用機持ちと、誘導をしなかった教員全員がその襲撃に対応する為に学園島に残り戦闘をしているといった事だった。

 

 

「っ!直ぐに日本に戻る!全員準備を…!」

 

 

「待って!!」

 

 

千冬が立ち上がり、全員に指示を出そうとしたが、束がストップを掛ける。

 

 

「何だ束!学園が、一夏がピンチなんだぞ!」

 

 

「そんなの分かってるよ!でも、みんなはまだ体力が回復して無くて、ISの点検も全くしてない!そんな状態で学園に戻っても、いっくん達の足手纏いになるだけ!だから、今みんながするべき行動は出来るだけ休むこと!束さんは戦えないから、その間にISの整備しとくから!」

 

 

「それは……」

 

 

「そんな判断も出来ないなんて、ちーちゃんらしくないよ!?」

 

 

「……すまなかった。私もまだ疲れているらしい」

 

 

「あはは、そうみたいだね」

 

 

「聞いていたか!?ISを束に渡せ!そして、私達はもう1回寝るぞ!寝れなくても横になっておけ!」

 

 

『は、はい!』

 

 

千冬の指示を聞き、全員がISを束に渡し、先程まで睡眠をとっていた部屋へと逆戻りし、ベッドに入る事になった。

2人の会話から、身体を休めなければいけない事は理解している。

だが、突然の事で心臓はバクバクで、中々寝付けない。

結局、全員がただただ横になっただけで整備が終わり、オルコット夫妻への挨拶もそこそこに日本へと帰国するのだった。

 

 


 

 

日本へと帰国した千冬たち。

束の指導の元時差ボケをしないように半強制的に眠っていたため、活力を取り戻した一行は、避難した生徒達がいるホテルへと向かった。

存在がバレてはいけない束だけは自分のラボへと向かったが。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、学園長!」

 

 

「織斑先生!みなさん!」

 

 

ホテルのロビーに居た十蔵に気が付いた千冬が声を掛けると、十蔵も千冬たちに気が付いた。

 

 

「みなさん、取り敢えず作戦お疲れ様です」

 

 

「そんな事は今は良いです!どんな状況ですか!?」

 

 

「……ここでは話せません、移動しましょう」

 

 

確かに、機密まみれの情報をホテルのロビーなんかで話す訳にはいかない。

ホテルに話しは通してあるので、特に何も言われずとある部屋に入る。

この人数が入ると流石に狭いが、話をするだけなのでこの程度で問題無い。

 

 

「先ず、避難状況ですが、織斑君を除いた生徒全員が避難、このホテルに居ます。大きな怪我をした生徒はおらず、避難する際に転んだ生徒のかすり傷程度です」

 

 

取り敢えず生徒の無事が分かった全員が安堵の息を吐くも、直ぐに続きを催促する様な視線を向ける。

 

 

「そして、私を含めた避難誘導をした教員以外は学園に残り、訓練機を使用して戦闘をしています。それに、織斑君を含めた『PurgatoryKnights』の3人も」

 

 

その言葉を聞いた瞬間に、全員の表情が一気に重いものになる。

一夏達は無事なのか、戦闘は終わったのか、被害状況はどんな感じなのか。

気になるところを上げたらキリがない。

 

 

ガタッ!!

 

 

マドカ達は立ち上がると、千冬が制止をする前にもう駆けだした。

 

 

「待て!くっ……!」

 

 

「織斑先生!行って下さい!」

 

 

「分かりました!」

 

 

千冬も追いかけようとして、一瞬留まるが、十蔵からの許可を得るとすぐさま同じように駆けだした。

これは言う事を聞かなかったマドカ達を捕まえる為というよりも、マドカ達と同じく学園の様子が気になるから、というものだ。

そうしてこの場に残った十蔵は

 

 

「気持ちは分かります…みなさん、お咎めなどしません。でも、どうか無事でいてください」

 

 

開け放たれたままの扉を見つめながら、そう呟くのだった。

 

 

ホテルから飛び出たマドカ達は、千冬と合流し今出せる全速力で学園へと向かう。

道行く人々の通行量が明らかに普段より少ない。

もしや、こんな場所にまで戦闘音が届いたのだろうか。

不安が全員を駆り立て、速度が上がる。

 

 

学園に向かうモノレールの駅までやって来た。

だがしかし、駅は無人状態で、モノレールも動いていない。

 

 

『っ!?』

 

 

だが、それでも見えてしまったのだ。

何時もなら立派に身構えている校舎が、アリーナが、IS学園が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崩れ去り、残骸となって島の上に連なっているのを。

 

 

『っ!!』

 

 

そこから、全員が取った行動は同じで、ほぼほぼ同時だった。

自身の専用機を展開、飛んで学園島へと向かう。

ISを展開したことで、そして近付いていく事で、学園の状態がより鮮明に分かって来る。

 

 

ボコボコになった土地。

なんなら、面積も小さくなっているような気さえする。

 

 

戦闘はもう行われていないらしく、戦闘音は何も聞こえない。

 

 

そして、島の端の方。

残骸が少ない箇所に、ボロボロになったISを身に纏っている真耶を始めとした教員達と、スコールとオータムが居た。

スコール達も、飛んでくる千冬たちに気が付き、なんとか反応を見せようとするも、身体が動かないらしく腕がプルプル動いている。

 

 

「山田先生!」

 

 

「社長!」

 

 

島に着陸し、ISを解除して教員達に駆け寄っていく。

 

 

「ああ、うぅ……織斑先生、みなさん……」

 

 

「あら、お帰り、なさい……」

 

 

声を掛けるも、とても疲労しているようで声すら普段通りに出せない。

なんなら、真耶とスコール、そしてオータム以外は意識すらない。

 

 

「え、ちょ、生きてますよね!?」

 

 

「あ、ああ。いちお、う、全員、生きてるぜ。気絶、して、る、だけだ」

 

 

「みなさん、お帰り、なさ、い。お疲れ、さま、です……すみませ、ん。みなさんは、作戦を、成功させたのに……こん、な、有様で……」

 

 

「山田先生!無理して喋らないで下さい!」

 

 

苦しそうに謝罪をする真耶を楯無が制止する。

 

 

「避難した生徒全員無事だと聞きましたから!誰も死んでない時点で、よくやったと思いましょう!大丈夫ですから!」

 

 

「そうですそうです!全員無事な事を喜びましょう!」

 

 

「は、はい……」

 

 

最後にそう返事をすると、真耶もまた眠るように気絶してしまった。

一先ず呼吸が楽な体勢にさせる。

 

 

「取り敢えず、全員本土に運んで病院ですかね?」

 

 

「そうだな、一先ず学園長と病院に連絡を……」

 

 

そうして、千冬が連絡をしようとした時、クラリッサとチェルシーが気が付いた。

 

 

「「一夏が居ない!?」」

 

 

「なに!?」

 

 

『えっ!?』

 

 

その指摘の声と同時、全員が改めてこの場に居る人間を確認する。

今しがたこの場にやって来た自分達。

ISを身に纏い気絶しているIS学園教員と、気絶はしていないが疲労困憊のスコールとオータム。

十蔵の話から、一夏も学園に残り戦闘をしていた事に間違いは無い。

それなのにも関わらず、一夏が此処に居ない。

 

 

クラリッサとチェルシーは、自分の呼吸が荒くなっていき、顔からも血の気が引いていく感覚を、信じられない程ゆっくりと感じていた。

明らかに体調が悪くなったような様子の自分の部下と従者の様子に、ラウラとセシリアが心配そうに駆け寄る中、シャルロットがスコールの体調を労わりながら質問をする。

 

 

「社長!一夏は、一夏は何処ですか!?」

 

 

「一、夏…?一夏は、此処と真反対の場所で、戦闘をして…私達が、こっち側半分にやって来た、敵を対処して、一夏は、1人でもう半分を……」

 

 

『っ!?』

 

 

スコールのその言葉に、全員が喉元に氷を放り込まれたような感覚を覚えた。

 

 

一夏の実力がかなり高いのは知っている。

でも、いくら何でも1人で半分は流石に敵が多すぎる。

しかも半分を更に分担していたスコール達がここまで消耗しているのだ。

無傷で無事だとは考えにくい。

 

 

そこまで思考が至ったとき、思い出した。

此処に飛んでやって来た時に感じた事。

島の面積が小さくなっている。

削れているのは、此処と真反対だった。

 

 

そしてもう1つ、何時ぞやの襲撃事件の際。

亡国企業の戦闘員が、一夏の身柄を求めていた。

 

 

「「っ!!」

 

 

考えるより先に、身体が動いていた。

クラリッサとチェルシーは立ち上がると、誰かが声を発する前にもう走り出していた。

 

 

「ちょ、待て!危、ねぇぞ!」

 

 

「いや、オータム。ここは行く!」

 

 

オータムが震える声で静止を掛けるも、マドカがそれを振り払い、2人の後を追いかけていく。

その後、続々と3人の後を追いかけ、一夏の事を探しに行く。

そうして、最後に残った千冬も、本土の十蔵に連絡を入れ、病院への準備をお願いしてから後を追いかける。

 

 

「一夏!何処!?」

 

 

「一夏!返事をしてくれ!」

 

 

「お兄ちゃーん!!」

 

 

全員が一夏の名前を叫びながら、残骸だらけの学園の敷地を走る。

地面もかなりボコボコで走りずらいのだが、関係ない。

 

 

「一夏さーん!」

 

 

「一夏ぁ!返事しなさいよぉ!」

 

 

悪路を叫びながら走り続ける事、数分。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……居た?」

 

 

「全然…痕跡すらない…」

 

 

いったん全員で落ち着こうという話になり、ボコボコで残骸まみれの地面で、比較的まともな場所に集まって息を整える。

 

 

「「……」」

 

 

そんな中でも、クラリッサとチェルシーは心ここにあらずといった感じで、キョロキョロと視線をいろいろな方向に向けていた。

普段は冷静な2人の珍しい姿に、誰も何も言えなかった。

2人は一夏の恋人だ。

そんな反応になるのは仕方が無いと、全員が理解しているからだ。

 

 

「…もう暫く探したら、山田先生たちを本土に連れて行く。問題無いな?」

 

 

そんな中で、千冬がそう切り出した。

気絶している真耶達を何時までも放って一夏の捜索をする訳にはいかない。

 

 

「……はい、大丈夫です」

 

 

「分かっています、そんな事」

 

 

クラリッサとチェルシーは、冷静にそう返した。

千冬にとって一夏は、大事な弟だ。

それでも、グッと気持ちを押し殺しているのだから、自分達が我儘をいう訳にはいかないと思ったからだ。

 

 

「さぁ、そろそろ息も整っただろう。捜索の再開を……」

 

 

千冬が立ち上がりながら発した言葉は、途中で途切れた。

 

 

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ

 

 

と、瓦礫の向こう側から、足を引きずりながら歩いて来る音が聞こえて来たからだ。

千冬たちは全員集まってるし、スコール達は歩けない。

そこから導き出される、その足音の主は……

 

 

「「一夏!」」

 

 

クラリッサとチェルシーは名を呼ぶと、その声が聞こえた方向に走り出す。

千冬たちも2人の後を追いかけるように走り出す。

 

 

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ

 

 

瓦礫の向こうからの足音が大きくなってくる。

そして、いろいろな残骸によって生み出された曲がり角から、1人の人物が姿を現した。

クラリッサとチェルシーは笑顔を浮かべ、その人物に向かって行こうとして……

 

 

「「………………え?」」

 

 

思わず足を止め、呆然とした表情でそう呟いてしまった。

一瞬遅れてその人物を見た千冬たちも、同じような表情を浮かべている。

 

 

姿を現したのは一夏だ。

間違いない。

だが、記憶にある一夏と、目の前の一夏の姿が一致しない。

 

 

一夏の髪の色は千冬とマドカと同じ黒で、肌の色はアジア人らしい色だ。

 

 

だけれども、目の前にいる一夏の髪と肌の色は、白かった。

 

 

白、本当に白い。

髪を染めるとか、色を抜くとかそんなレベルじゃない。

元々白という色で存在していたかのように、真っ白だ。

 

 

髪だけだったら、まだ何か声を出せたのかもしれない。

だけれども、肌まで真っ白なのだ。

日本人は、日焼けで黒くなることはあっても、真っ白になる事は無い。

しかも、何かを塗って白くしているのでもない。

 

 

そこまで観察して、気が付いた。

一夏の目の色だ。

 

 

一夏の目の色も、千冬とマドカと同じはず。

だが、今目の前にいる一夏の目は、黄金に輝いていた。

 

 

「い、一夏…?」

 

 

「その、肌と髪は…?」

 

 

「っ……!?」

 

 

フラフラと足を引きずり、俯きながら歩いていた一夏は、クラリッサとチェルシーに声を掛けられた事で、漸く存在に気が付いた。

ビクっと身体を震わせながら、全員がいる方向を見る。

すると、なにやら怯えるような表情を浮かべ、

 

 

「う、あ、うわぁああああああああああああああああああああ!!」

 

 

急に叫びをあげると、煉獄騎士の鎧を身に纏っていないのにも関わらず、その右手にエクスピアソードを出現させ、

 

 

「あああああああああああ!!」

 

 

そのままの勢いで地面に向かって振るった。

 

 

ドガァン!!

 

 

「きゃあ!?」

 

 

「なに!?」

 

 

飛んだ斬撃は地面にぶつかり、土煙が発生する。

だが、急に発生させたものだ。

そう時間を経たず、土煙が晴れていく。

 

 

僅かに目を開けながら、クラリッサとチェルシーが見たのは。

 

 

背後に、バディワールドへのゲートを開き、そこへと逃げるように入ろうとしている一夏だった。

 

 

「一夏!待って!」

 

 

「一夏ぁ!!」

 

 

何時もだったら絶対に反応を示す筈の、大事な恋人2人のその言葉を無視し、一夏はそこに身体を滑り込ませた。

それから1秒も経たずにゲートが閉じ、この場に何も無くなった。

 

 

「「一夏……」」

 

 

クラリッサとチェルシーが、同時にそう呟く。

その呟きには誰も反応を示さず、空気に溶けていった。

 

 

 



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事件の爪痕

前回の続き。
爪痕感は正直無いかもしれませんが、許してください。

今回もお楽しみください!


三人称side

 

 

全壊したIS学園での一夏とのやり取りから、十数時間。

千冬たち一行の姿は、生徒達が避難しているホテルにあった。

 

 

一夏とのやり取りの後、暫く呆然としていたが、ずっとこうしている訳にはいかないと無理矢理切り替え、スコールや真耶達を全員で手分けしながら本土へと運び、十蔵が派遣してくれた救急隊員に託した。

病院に運び込まれ、いろいろと検査をした結果、骨折などの重たい怪我は誰もしていないとの事だった。

今現在、全員大事を取って入院しているが、意識などもハッキリしており、数日したら退院できるとの事だった。

 

 

だが、本来ならば安堵する内容の連絡を聞いても、一行の気持ちは晴れなかった。

原因は、言わなくても察せられる。

一夏だ。

 

 

あの場から、逃げるように姿を消した一夏。

誰が連絡しようとしても繋がらず、メッセージに既読もつかない。

そしてラボに居た束でも追跡は出来ておらず、休憩を挟んで血眼になって世界中を探しても、一夏は一向に見つからなかった。

 

 

ここまで来ると、向こうの世界について知っている人間は、一夏はもうこっちの世界には居ないという事を否が応でも理解する事になる。

向こうの世界に行く手段は一夏達しか持っておらず、流石の束でも世界を超えて一夏にコネクトを取るのは不可能。

これで、一夏と連絡を取るには、一夏からの連絡を待つしかなくなった。

 

 

その事に全員がショックを受けていたが、特に重症なのがクラリッサとチェルシーの恋人2人と、千冬とマドカの(ブラコン)姉妹2人だ。

この4人にとって、一夏はこの上ない程大切な存在だ。

もともと夏休み前からの尋常じゃない程の仕事量から始まり、学園祭での吐血、2度の発熱、京都での作戦中の急な気絶などなど、一夏がどれだけ気を使っても、どうしても心配してしまう要素は沢山あった。

それでも、一夏本人が気絶していても周囲の人間が応対する為、今まで音信不通になる事は無かった。

 

 

だが、今回は以前までの体調不良とは明らかに様子が違う。

一夏本人はかなりフラフラではあったが自分で動けていた。

だけれども、髪や肌、目の色などがこの時間ではあり得ない程変わっていたし、言動も今までの一夏とは違い過ぎた。

 

 

いったいどうしたのか。

今元気なのか。

どうして、あの時自分達から逃げたのか。

いろいろと考え込んでしまい、体調にまで影響が出ていた。

そろそろ本当に如何にかしないといけない。

 

 

一般生徒にこの事を説明し、変に不安にさせるのもいけないと判断したため、一夏も真耶達と同じように検査入院しているという事になっている。

その為、事情を知っているのは十蔵とエクスカリバー討伐組だけといった状態だ。

全員そこそこにショックを受けているが、体調に影響を及ぼすレベルでは無い為、4人の事を励ましていた。

 

 

特にクラリッサにはラウラが、チェルシーにはセシリアがほぼ付きっ切りといった状態だった。

何時も自分を支えてくれる頼もしい存在が、ここまで弱っているのを見て、放っておけるはずが無かったのだ。

 

 

マドカも励ましを受けていたが、千冬は自力で復活した。

教員として、何時までも私情で落ち込んでる訳にはいかないと、気力だけで立ち直ったのだ。

 

 

その後、一般生徒の心のケアもしたり、国際IS委員会に報告したりなどをしながら過ごしていると、真耶達が無事に退院。

これで、IS学園が襲撃した時に何が起こったのかをより把握している人物と会話が出来る事になった。

 

 

教員寮は当然のようにもう存在しない為、ホテルにやって来た真耶達。

その翌日、ホテルの大きな部屋に集まって職員会議をする事になった。

この部屋に居るのは、十蔵とエクスカリバー討伐組全員と、真耶達襲撃時に戦闘をした教員全員と、オータム、そして束だ。

本当だったらスコールにも話を聞きたかったのだが、スコールには『PurgatoryKnights』社長としての仕事がある。

 

 

ただでさここ数日業務から離れていたのに、世界で2人しか確認されていない男性IS操縦者と音信不通になったのだ。

やる事は山積みだ。

IS学園側もやる事が大量にあるので、こっちの会議にも参加していたら過労死ラインに到達してしまうので、会社の方を優先してもらう事にしたのだ。

 

 

「みなさん、急な招集にも関わらず、集まってくれてありがとうございます」

 

 

「いえいえ、これはやらねばならない事ですので」

 

 

「そう言っていただけて嬉しいです。それでは、緊急会議を開始します」

 

 

IS学園の会議室は最高レベルの防音状態の為、外に情報が漏れること等考えずに会議が出来るのだが、此処はホテルの一室、。

プライバシーを保てる範囲の防音はされているが、それでもIS学園の会議室よりかはレベルが低い。

その為、出来る限り声のボリュームを絞って話をする事になる。

 

 

「まず最初に。改めまして、エクスカリバー破壊作戦、お疲れ様でした。みなさんのおかげで、地球の危機は去りました。本当に、ありがとうございます」

 

 

『ありがとうございました』

 

 

議題に入る前に、十蔵の言葉を切っ掛けに真耶達が千冬達に頭を下げる。

だが、当の千冬達はその参事は不要だといった表情を浮かべる。

千冬達がこの会議で何が聞きたいのか、会議前に集まって確認してある。

代表して、千冬が一度深呼吸をしてから口を開く。

 

 

「いえ、当然の事でしたから。それよりも、学園長から軽くは聞いていますが、説明してください。私達が宇宙に行っている間に、IS学園に…一夏に何があったのかを」

 

 

千冬の、そしてマドカ達の表情は全員が固いもので、一刻も早く説明をしろと視線が訴えていた。

特に織斑姉妹と一夏の恋人2人の眼力は凄まじい。

説明を催促しているのに、その圧力で逆に話ずらくなっている。

 

 

だが、その質問が来ることは予想がついていた。

軽く息を吐いてから、言葉を発する。

 

 

「分かりました。ですが、それは私が説明するよりも現場に居た人が説明した方が良いでしょう。山田先生、お願いしても良いですか?」

 

 

「はい、問題ありません」

 

 

十蔵の言葉に真耶が返答すると、十蔵に向けられていた視線が一斉に真耶に向けられる。

その視線の圧に、十蔵と同じように若干話しずらさを感じるも、頭を数度振ってから口を開く。

 

 

「私も、改めて振り返りながら喋るので、言葉に詰まるかもしれませんが」

 

 

真耶はそう前置きしてから、話し始める。

 

 

「イギリスに向かった織斑君が帰って来てからも、大きな問題は生じていませんでした。強いて言うなら、移動の疲れと時差ボケで織斑君がそこそこダウンしてたくらいでしょうか」

 

 

『……?』

 

 

真耶のその言葉に、エクスカリバー討伐組は同時に首を捻った。

普通に考えれば全然ダウンしても問題無い状況なのだが、行きの時は移動疲れも時差ボケも感じさせない程元気だった。

それなのにも関わらず、帰りでそんな傍から見てもダウンしていると分かるほど疲弊するだろうか?といった疑問が浮かんだのだ。

 

 

(まぁ、あのまま休まずにすぐに帰国したら流石に疲れるのか…?いや、今それを考えている暇はないか)

 

 

だが、素早く切り替えると、視線で続きを催促する。

 

 

「ダウンしていた織斑君も、翌日には復活して授業に参加していました。みなさんがIS学園を出発してから、そう言った授業の間ずっと授業の無い教員や警備員、そして『PurgatoryKnights』のミューゼル社長で手分けして安全確認の監視をしていたりしましたが、微塵も異常は無かったんです……あの時までは」

 

 

その言葉と同時に、真耶の表情が少し重たいものになる。

十蔵を含めた他の教員とオータムの表情も、同じようなものだ。

 

 

「その時は、昼休みの時間でした。急に学園を囲むように襲撃者が襲来しました。今までの襲撃とは明らかに物力が違いました。空に隙間が無いほどに集まったIS……いくら亡国企業でも、流石にあそこまでのISを集める事は難しいと思えるくらいに」

 

 

「そ、そんなになんですか?」

 

 

今までの襲撃で、アクワルタ・グワルナフ・レプリカは一夏と千冬にしか対処が出来なかったのは事実だ。

だが、それ以外の襲撃の構成員の数や練度などに関しては、正直学園にある訓練機を使用したとしても、IS学園の教員が束になれば対処できる範囲のものだった。

それに、襲撃者が身に纏っていたISはきっちりと回収している。

脅威と感じるほどの物量があるとは到底思えなかった。

 

 

「ああ、そうだ」

 

 

マドカが零した疑問の声に、苦虫を嚙み潰したような顔をしたオータムが答える。

腕が震えるほど右手に力を入れながら。

 

 

「本当に数が多かった。正確に数える余裕が無かったから大体だが……300は超えてたような気が……」

 

 

『300!?』

 

 

オータムの言葉に、千冬達は思わず両目を見開きながら驚きの声を発する。

世界各国や企業が使えるISの上限は467個だ。

束がマドカに与えた銃騎士や、バディワールドに実験の為に提供したものはその数に含まれないが、それは各国や企業が自由に使えない為結局上限が変わる事が無い。

そして、一夏の煉獄騎士の鎧を含めた専用機や学園の訓練機は、その467個の中に含まれている。

 

 

いくら亡国企業が巨大な組織でも、IS全体の約64%を持っている筈が無い。

しかも、その数は余裕が無い状態のオータムがザッと数えただけなので、それよりも多い可能性がある。

流石にあり得ない。

 

 

「……そのISのコアが正規品なのかどうか調べない事には、束さんも何も言えないから、次に行こう」

 

 

いろいろと考察をしたいところだが、そんな余裕は無い。

ISの開発者が何も言えないと言っているのだから、それ以外の人間がうじうじ考えても時間の無駄だ。

オータムや束に向けられていた視線が、真耶へと戻る。

 

 

「はい、今までより明らかに多い襲撃者の数に直ぐに生徒への避難、そして戦闘員への戦闘開始が呼びかけられました。当初の予定では今までの襲撃と同じ場所に避難しましたが、織斑君が『今までの事件で、避難先は恐らくバレているし、あの数だったら避難所でも耐えきれるか怪しい。移動にはリスクがある事は分かっているが、避難後の事を考えるんだったら本土の方が安全だ』と」

 

 

「なるほど、それで本土に……このホテルへの避難だったんですか」

 

 

「はい。避難誘導の生徒、そして生徒の護衛の為の教員を除き全員で戦闘する事になりました。ですが、専用機持ちのみなさんが出払っていて、流石に専用機3人と訓練機だけでは、この数は流石に厳しい。だから、誰がどう動くかを決めようとしました。でも、その時織斑君が『時間が無い。俺が本土じゃない側半分を引き受けますので、残り半分任せました』と言って、私達が止める暇もなく、廊下の窓からそのまま飛び降りて戦闘しに行っちゃたんです」

 

 

『っ……』

 

 

戦闘直後の満身創痍のスコールから、一夏が敵の半分を引き受けたというのは聞かされていた。

だけれども、詳しい状況を聞いてから改めて言われると、前に聞いた時よりも心に来る。

特にクラリッサとチェルシーとマドカの3人ははぁはぁはぁと過呼吸気味になっている。

ラウラ達が背中をさする。

 

 

明らかに調子の悪くなった3人を見て、真耶は続きを話すかどうか躊躇ったが、その3人が視線で続きを催促してきたので、一度千冬とアイコンタクトを取ってから続きを話す。

 

 

「織斑君を連れ戻そうかと思いましたが、直ぐに戦闘音が鳴り響きそれは無理だと判断し、織斑君の言う通りに半分を担当分けする事になりました。ミューゼル社長とオータムさんは専用機を展開し、そのまま戦闘を開始し、私達は訓練機を取りに行ってから、1歩遅れる形で戦闘に参加しました」

 

 

ここまで来て、真耶の表情が少し重たいものになる。

否、真耶だけではない。

この戦闘に参加した全員が、同じような表情になっている。

 

 

「この時点で、織斑君と連絡が取れなくなりました。これ以降、織斑君に何があったのかは誰も把握してません」

 

 

「連絡が…取れなくなった?オープンチャネルも、プライベートチャネルもですか?」

 

 

「はい、どっちでも取れなくなりました。織斑君が応対できる余裕が無かったのか、わざとしなかったのかは定かではありませんが…」

 

 

困惑したような表情を浮かべながら聞き返したマドカに、真耶が重たい表情のまま返答する。

いくら何でも、連絡に返せる状況で、一夏が返事をしないとは流石に思えない。

ならば、一夏は返事をする事もままならない程、余裕が無かったという事だろう。

 

 

「半分を織斑君が引き受けてくれているとはいえ、それでも私達より数が圧倒的に多く、恥ずかしいんですが最初の方はかなり苦戦しまして……」

 

 

「まぁ、それはそうでしょうね……」

 

 

約300の半分は、約150。

それを1人で引き受けている一夏が異常なだけで、この人数で対峙するにはあまりにも多すぎる。

 

 

「だからといって、本土の方に避難している生徒達に攻撃をさせる訳にはいかないので、積極的に戦闘するしかありませんでした。幸いにも、1人1人の練度は今までの襲撃に比べても低く、織斑君か織斑先生でないと対応が出来ないあの武装も使用される事は無く、時間の経過と共に1機、また1機と戦闘不能へとする事が出来ました」

 

 

ここまでは、一夏が単独行動をしている事、連絡が取れない事以外は至って順調だ。

だが、全員知っている。

IS学園の敷地である島の上に立っている建物全てが崩壊し、面積も小さくなっている事を。

 

 

そして、気が付いた。

戦闘した全員が先程から重たい表情を浮かべていたが、真耶が一区切りしたその瞬間に、更に深刻なものに変わった事を。

 

 

「避難していた生徒の護衛をしていた先生も、避難完了と同時にこっちに戻ってくれて、戦闘効率が上昇しました。ですが、約30程にまで数を減らした時に、それは起こりました。突如として背後から……織斑君が戦闘している方向から、叫び声のようなものが聞こえ、衝撃波と共にアリーナが全て倒壊しました」

 

 

『っ!?』

 

 

中でIS同士が戦闘を行うアリーナの耐久度は、シールドを起動していなくてもかなり高い。

余程の事が無ければ、その全てが同時に倒壊する事なんて考えられない。

しかも、倒壊した要因は爆発や武器による攻撃などではなく、衝撃波ときたものだ。

千冬達が驚きで両目を見開くのも無理は無い。

 

 

「私達の誰もが、直接的な攻撃では無いもので、全てのアリーナが同時に倒壊するだなんて考えもしませんでした。だから、思わず全員が動きを止め、そっちの方向に視線を向けてしまいました。ハイパーセンサーとかがあるって理解してるのに…ははは、私達もまだまだですね……」

 

 

自虐気味に笑みを浮かべる真耶に、誰も言葉を掛けられなかった。

オータムたちは自分達の事だから当然として、千冬達と十蔵までも黙ってしまったのは、自分がそこにいたとしたら、同じような行動をしてしまうだろうと思ったからだ。

 

緊急時こそ冷静に。

言葉にするのは簡単だし、第三者目線からすると「なんでそこで冷静にならない?」などいくらでも言える。

だけれども、やはり当事者になるとそう簡単に冷静になれない。

しかも、大量の敵と戦闘し、精神も疲弊してきた頃だ。

冷静になどとてもなれない。

 

 

「まぁ、一先ずおいておいて。全員がそっちの方向を見たその瞬間、IS学園の校舎の向こう側から、光が見えたんです」

 

 

「光……?」

 

 

「はい、光です。その光は校舎の向こう側からドンドンと放射状に広がっていき、IS学園の敷地全てを、私達も含めて飲み込みました。その瞬間、今まで感じたことも無いような衝撃がありました。具体的に言うと……どんな感じでしたっけ?」

 

 

『……』

 

 

座っているのに物理的にズッコケたくなった。

 

 

「すみません、何だか衝撃が強すぎてよく覚えてなくて……」

 

 

「確かにそうですけど……だったら具体的に言わなきゃいいじゃないですか」

 

 

「ハッ!?」

 

 

普段は親しみやすい雰囲気を出しながらも、かなり優秀な教師である真耶だが、時たまとんでもないポンコツ行動をする。

まぁ、普段だったらそれも真耶の魅力の1つなのだが、流石にこの場面でそれはただただポンコツなだけである。

 

 

「なんとなく覚えてる範囲で具体的に言うとだな……」

 

 

半目になりながら真耶の事を見ていたオータムが、発言を引き継ぐ。

真耶が申し訳なさそうに両手を合わせているのを横目に見ながら、オータムは言葉を発する。

 

 

「腕と足が引きちぎれるんじゃないかっていうくらいの衝撃波。ISを纏っているのに感じるほどの熱。これを認識した直後、視界が暗転して、気が付いたら地面に叩きつけられていて、ISがボロボロになっていた」

 

 

『……』

 

 

あくまでも簡潔に話したオータム。

だが、それだけでもどれだけのものだったのかが簡単に想像できる。

 

 

「はい、その一瞬で私達はほぼ戦闘不能になったと言っても過言ではない状態になりました。みなさんに助け出されたあの時の状態です」

 

 

説明に戻った真耶のその言葉と同時に、千冬達は思い出した。

真耶とスコールとオータム以外全員が気絶しており、意識があった3人も動けない状態だった。

どれだけ激しい戦闘をしたらあれだけボロボロになるのかと思っていたが、まさか一撃で、しかも余波(だと思われるもの)だったとは。

全員が驚きの表情を浮かべる。

 

 

だが、直ぐにその表情は焦りのものに変わる。

真耶の話では、その謎の光の攻撃?は校舎の向こう側からだった。

そして、一夏が戦闘をしている場所も、同じ校舎の向こう側だ。

 

 

余波(だと思われるもの)だけで、真耶達全員が戦闘不能になったのだから、より近くにいた一夏への影響がどれだけあったのか。

いろいろと聞きたかったが、もう既に一夏との連絡が取れなくなったという説明は受けていたので、グッと堪えた。

 

 

「暫くの間、遠くの方で戦闘音だったり、叫び声が聞こえたりしてきました。それに同調するかのように、学園の校舎などが音と土煙を発しながら崩れていきました。十数分後、私達の上に巨大な何かがやって来ました」

 

 

「何か……?」

 

 

「ああ、何かとしか言いようが無い。ギリギリ生きてたハイパーセンサーで確認しても何も無くて、顔も動かなかったから視認も出来なかった。だが、気絶していた奴も含め、地面に横たわっていた全員が入るくらいの巨大な影は、確認できた」

 

 

「なるほど、だから『何か』なんですね」

 

 

「まぁ、そうなるな」

 

 

「そして、その何かが私達と同じように倒れ伏していたであろうボロボロのISを纏っていた襲撃者を回収し、何処かへ去って行きました。そしてそれから暫くした後、織斑先生たちが駆け付けて来てくれました……これが、私達が話せる事全てです」

 

 

真耶はその言葉の後に、ふぅと短く息を吐いた。

 

 

『……』

 

 

その説明を聞き、千冬達は何も言葉を言えなかった。

いろいろ聞きたい事は聞けたが、結局真耶達も詳しい事は分からず、結果として謎や疑問が増えてしまった。

 

 

「…この戦闘で、何が起こったのかは、一夏に聞くしかないようだな……」

 

 

眉間に皺を寄せながら、千冬が言葉を捻る出した。

光の発生源も、巨大な何かがやって来たのも。

全ては校舎の向こう側……一夏が戦闘をしていた場所だ。

一夏ならば、より詳しい情報を持っているかもしれない。

 

 

だがしかし、此処でその話に戻っては意味が無い。

音信不通の一夏に確認を取るなど不可能だ。

だから、一先ずこの話を終わりにして、次の話題に……

 

 

ピピピ、ピピピ、ピピピ

 

 

空気が変わろうとした瞬間に、誰かのスマホが着信音を鳴らした。

 

 

「すまない、私だ」

 

 

千冬が申し訳なさそうな表情を浮かべながら言い、周囲は珍しいものを見るような表情で千冬を見ている。

特に操作せずとも、もう着信音が鳴っていないので、真耶達にも電話ではなく、メッセージアプリかメールの通知だと分かった。

 

電話では無いのなら、会議中である今確認する必要は無い。

だけれども、千冬の勘がガンガンと訴えかけていた。

今此処でこのメッセージを確認しなければ、後々絶対に後悔する。

それ程までに、重要な事であると。

 

 

思案は一瞬。

千冬は流れるような動作でポケットからスマホを取り出すと、メッセージの送信相手を確認する。

 

 

「っ!一夏!?」

 

 

『っ!!』

 

 

その名を呼んだ瞬間、会議室の全員の視線が千冬に向けられる。

そんな視線は気にならないように、千冬は自分の頬に汗が流れるのを感じながら緊張で震える指でスマホをタップし、メッセージを確認する。

 

 

「…『説明をする。3日後の現地時間20時、始まりの場所で待ってる』……」

 

 

「ちーちゃん、それだけ?」

 

 

「ああ、これ以外何も」

 

 

千冬はスマホの画面を全員が見えるようにする。

確かに、千冬が音読したのと同じ内容だけが記されてあった。

 

 

「…いっくんの話を聞かない限り、詳しい状況は分からない。今後の為にも、そしていっくんに何があったのかを確認する為にも、絶対に行かないといけない」

 

 

「でも、何処に?書いてあるのは、『始まりの場所』だけ…どこかさっぱり分からないよ」

 

 

マドカのその言葉を切っ掛けとして、全員で『始まりの場所』について考える。

でも、何処なのかさっぱり分からない。

IS学園の敷地なのか、織斑家なのか。

なんの始まりなのかが不明なので、いろいろと選択肢があるのだ。

 

 

千冬は考える。

なんでわざわざ自分にこのメッセージを送って来たのかを。

 

 

(私に送って来たという事は…私が確実に分かる場所…もっと言うのなら、私しか知らない場所…そして、何かが始まったと言えば……)

 

 

考えて、考えて。

 

 

「っ!」

 

 

ガタッ!!

 

 

千冬は勢いよく立ち上がった。

全員の視線が再び千冬に向けられる。

 

 

「ちーちゃん?どうかしたの?」

 

 

「…直ぐに行く準備をするぞ!」

 

 

「え、何処に!?この場所が分かったの!?」

 

 

「……ああ、恐らく」

 

 

「っ!?何処、何処なんですか!?」

 

 

「早く教えてください!」

 

 

泣きそうな表情のクラリッサとチェルシーを見た千冬は、一度息を吐いてから、言葉を発する。

 

 

「……ドイツ」

 

 

『ドイツ!?』

 

 


 

 

会議をしてから時間は流れ、一夏が指定してきた日。

時刻は19:20。

千冬達一行はドイツの地に降り立ち、予想した場所へと向かっていた。

 

 

あの後。

一夏にメッセージの返信をしたが、それに反応があるどころか既読すらつかなかった。

これ以上は直接会って話すこと以外何もない、という事なのだろう。

 

 

一夏の元へ向かおうと結論が出てからは、本来の会議の目的である今後の対応について話し合った。

 

 

IS学園の校舎やアリーナが丸々なくなるほどの大戦闘。

そしてIS学園の生徒達が日本本土へ避難しているこの状態で、隠し通すのは不可能。

その為国際IS委員会を通じ、今回の襲撃事件で起こった分かっている事全てを説明する事になったのだ。

一夏の事に関しては、詳しい事が何も分かっていないので発表出来なかったのだが。

 

 

IS学園は何故今回の襲撃事件が起こったのかを説明しろと言われているが、一夏に会わない事には何も分からない。

だからこそ、校舎の修復や生徒の心のケアなど山積みの仕事を放り出してまで此処にやって来たのだ。

 

 

ザ――――――――――――――

 

 

数時間前、フライトが終わるまで待っていたかのようなタイミングで振り始めた雨は、時間の経過と共にドンドンと強くなってくる。

それはもう、大粒過ぎて、雨粒以外のものが見えにくくなるほどである。

そして、目的地に進めば進む度に街から外れていき、それに伴って灯りがだんだんと無くなっていき、ただでさえ雨粒で視界が占領されているのに、より一層視界が不鮮明になっていく。

 

 

今日のメンバーは、千冬、束、クラリッサ、チェルシー、マドカ、シャルロット、セシリア、ラウラ、鈴、簪、楯無、サラ、フォルテ、ダリル、スコール、オータム、真耶、十蔵の18人。

そこそこ多い人数が故、最後尾にいる十蔵から先頭にいる千冬の姿が全く見えない程には視界が悪いのだ。

しかも、街から外れ道路の舗装がされてない場所にまでやって来た。

ただでさえ舗装道路に比べれば歩きにくい場所なのに、この大雨で既にぐっちょぐちょになっている。

 

 

「わきゃ!?」

 

 

「マドカ!?」

 

 

その証拠に、マドカがぬかるみに足を滑らせズッコケそうになった。

咄嗟にクラリッサが支える事で事なきを得たが、持っていた傘が遠くの方に飛んでいってしまった。

 

 

「クラ姉さん、ありがとうございます…」

 

 

「気にしなくていい。だけど、もう傘が何処に行ったのか分からないな…」

 

 

「……全員、足元に気を付けて進むんだ。傘とか飛んでいってしまったら、もう回収が出来ないくらいに視界が悪いぞ」

 

 

『は、はい!』

 

 

千冬の指示に、全員が返事をしてから更に慎重に進んで行く。

もはや灯りは持ってきた懐中電灯やスマホくらいしか無いので、慎重にならざるを得ないのだ。

 

 

ザ――――――――――――――

 

 

大粒の雨が未だに降り注ぐ中、かなり見にくいが、進行方向に何かがあるという事が分かる距離までやって来た。

 

 

「織斑先生、この場所が目的地ですか?」

 

 

「ああ、もう殆ど視界が無いに等しいから確信が持てないが、此処だ」

 

 

「此処って…いったいどんな場所なんですか?もう街から外れすぎてて見当もつかないんですけど……」

 

 

シャルロットの言葉に同調する様に、マドカ達がうんうんと頷く。

 

 

「此処は…廃倉庫だ」

 

 

「廃倉庫?廃倉庫って、あの廃倉庫ですか?」

 

 

「ああ、使われなくなって手入れもされず放置されて、朽ち果てた倉庫の事だ」

 

 

「いや、廃倉庫が何か分からない訳じゃ無いんですが……何で此処に?」

 

 

当然の疑問だ。

一夏が指定した場所は『始まりの場所』。

事情を知らなかったら、廃倉庫と結びつかない単語だ。

 

 

だが、一夏の場合この廃倉庫も『始まりの場所』になりえる。

何故ならこの倉庫は……

 

 

「……中学1年生の時、一夏が誘拐され囚われていた場所なんだ」

 

 

『っ!?』

 

 

一夏が誘拐されていた事すら知らなかったシャルロット達が驚きの表情を浮かべる。

 

 

そう、一夏はこの場所に誘拐された。

そして、この場所で向こうの世界のディミオスに発見され、チカラを得た。

一夏にとって…煉獄騎士にとって。

この廃倉庫は間違いなく始まりの場所なのだ。

 

 

そもそも雨のせいで廃倉庫の全体が見えないのだ。

パッと見で一夏の姿など見つける事が出来ない。

千冬が一夏の名を叫ぼうとスゥ、と息を吸った瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、来たんだ。良かった」

 

 

『っ!?』

 

 

大きい雨音の中でも、ハッキリと聞き取れる一夏の声が聞こえてきた。

 

 

「っ!上!」

 

 

チェルシーのその言葉に、全員が反応し視線を少し上げる。

すると、廃倉庫の天井部分に腰を掛け、傘もささず大量の雨で身体を濡らしながら両足をブラブラさせている一夏の姿を発見した。

 

 

視界が悪いのに、チェルシーが直ぐにその姿を見つけられたのには勿論理由がある。

白かったのだ、あまりにも。

 

 

今の一夏の格好はIS学園の制服や、普段着用しているジャージではなく、ボロボロの黒い外套。

だけれども、露出している手首から先の肌と、その顔と髪。

見えている肌の全てが、視界の悪いなかでもハッキリと分かるほど白かったのだ。

 

 

一夏は足をブラブラさせるのを止め、廃倉庫の天井に立ち上がると、そのまま事前動作無しで千冬達のいる場所の近くへと跳躍する。

空中で綺麗に一回転した一夏は、同じく綺麗に先頭に立つ千冬の前に着地する。

 

 

「……全員、怪我は無さそうだな。安心したよ」

 

 

白の中で唯一浮いている黄金の両目を、千冬達全員に向けてから、一夏はそうポツリと呟いた。

 

 

一夏に会ったら、いろいろと聞きたい事だらけだった。

だけれども、いざこうして目の前に一夏が現れると、何から話していいのか分からなくなってくる。

 

 

「一夏!説明してくれ!」

 

 

そんな中で、クラリッサが絞り出すような声で一夏にそう訴えかける。

一夏はゆっくりと視線をクラリッサに向けてから、口を開く。

 

 

「……何を?」

 

 

「全部を!私達が宇宙にいるときのIS学園での戦闘で、何があったのか!何で、髪や肌の色が変わってるのか!」

 

 

「…戦闘に関しては元々説明する気だったが……そんなに、俺の髪と肌も気になるか?」

 

 

一夏はまるで睨むような表情でクラリッサの事を見ている。

何時もの一夏なら、絶対に向けない表情を、何よりも大切な存在にしている。

 

 

「……気にならないと思ってるの!?」

 

 

それに反論したのは、同じく恋人であるチェルシーだ。

 

 

「私達は、一夏の恋人!恋人の変化を、気にしない訳が無い!」

 

 

「そうか……」

 

 

その訴えに、一夏は一度俯いてから、その顔を全員に向ける。

 

 

「分かった。全部を話そう……その前に」

 

 

一夏はその言葉と同時に、ギロっと目線を千冬に向ける。

 

 

「千冬姉、マドカ、社長、オータムさん。過去を話すぞ」

 

 

「「「「っ……」」」」

 

 

その言葉に、4人は息を詰まらせる。

だが、誰も止めはしない。

事情を知らない楯無達が首を捻る中、一夏は語った。

 

 

自分と千冬が、織斑計画で生み出された存在である事。

マドカは千冬のクローンである事。

スコール、オータム、マドカは元々亡国企業所属であった事。

 

 

そして、ディミオスやオルコス達がロボットなどではなく、異世界に生きるモンスターである事。

 

 

今まで隠してきた、一夏を取り巻く本当の状況を。

包み隠さず、その全てを説明した。

 

 

「え、な、え…?」

 

 

「は、え…?」

 

 

「まぁ、気持ちは理解できる。だが、今は受け入れろ。本番は此処からだぞ」

 

 

困惑を隠せない楯無達に向かって、冷たい声色でそう言う。

 

 

ザ――――――――――――――

 

 

 

ゴロゴロゴロゴロ……ドカァアアアアアアアアアアアアアン!!

 

 

雨は一層強くなり、雷も落ちだした。

そんな中で、雨を全身に受けながら一夏は笑みを浮かべる。

 

 

何時もの優しい笑みじゃない。

恐怖を感じる笑みだ。

 

 

「さぁ、話すとしよう。あの時、何があったのかを」

 

 

 



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あの時、何があったのか

最近タイでバディファイトが再開したというのを風の噂で聞きました。
作者は日本語以外の言語能力が著しく低いのでHPのチェックしたりをしていませんが、嬉しい限りです。

インフレが早すぎたんだよぉ!
もうこの際過去のカード使えなくて良いから日本でも再開してくれ~~!!
ブシロードさ~ん!!


三人称side

 

 

「う、く、あ…朝、か……?」

 

 

時刻は朝の7:30。

教員寮の自室のベッドの上で、一夏は目を覚ました。

状態を起こし、時刻を確認してから身体を軽く伸ばし、一気に力を抜く。

フラフラと覚束ない足取りで、洗面所に向かい軽く身だしなみを整える。

その際、鏡で見た自分の顔に生気が無く、一夏はついつい苦笑を浮かべた。

 

 

身だしなみを整え終えたとは、完全栄養食のパンとコップと水を取り出し、水を一口飲んでからもぐもぐと食べ始める。

 

 

「…こんなに、不味かったっけ……」

 

 

一夏はボソッとそう呟くと、何も考えないようにしながらただただパンを口に入れ、水で流し込むという行為を繰り返す。

数回繰り返し、パンを完食。

 

 

「ご馳走様……」

 

 

一夏は気だるげにそう言い、ゴミを捨ててから窓に近付き、空を見上げる。

 

 

「今頃、みんな戦ってるんだろうな……」

 

 

そう呟く一夏の表情は、とても悔しそうだった。

みんなが必死に戦っている中、自分だけ地上に居るというのが許せないんだろう。

 

 

「まぁ、俺には俺で万が一の時の戦闘員という役目があるんだ。大事な事だ」

 

 

《その状態で戦闘だなんてさせる訳無いだろうが》

 

 

一夏の呟きに、背後でカードからSDになったオルコスがそう返答する。

 

 

「そんな状態って、どんな状態だよ」

 

 

《その、あからさまに体調が悪い状態だ。昨日、帰って来たばっかりは流石に疲労だと思ったが、しっかり寝ても全然改善して無いじゃないか》

 

 

「……」

 

 

オルコスのその指摘に、一夏は黙る事しか出来なかった。

 

 

昨日、イギリスでギガハウリング・クラッシャーを宇宙に打ち上げ、そのままオルコットの屋敷で荷物を回収し、軽く挨拶をして出発し、IS学園に帰って来た。

真耶やスコール達が出迎えてくれたのだが、あまりの疲労具合に挨拶もそこそこに、白式と白騎士に支えられながら自分の部屋へと戻り、そのままベッドに直行。

1分かからず寝てしまったのだ。

 

 

着替えもしなかったし、身体も洗わなかったし、なんなら何も飲んでないし食べてない。

寝ている隙にオルコス達が服を脱がせ、身体を拭いて着替えさせたり、身体を起こして水を飲ませたりしたのだが、一夏は一度も起きなかった。

 

 

そして今。

意識を覚醒させたは良いものの、まだフラフラで万全な状態とはとても言えない。

それに、何時もの一夏に比べ明らかに覇気がない。

 

 

何時もの一夏は朝トレーニングをしているし、出来るだけの時間の余裕が無くても朝からハキハキと喋ったり行動したりしていた。

普段通りで体調万全だったらオルコスも何も言わないのだが、こんな状況では戦闘許可は出せない。

 

 

「だが、ナターシャとイーリスの2人がまたアフリカに向かって、千冬姉達が居ない今専用機持ちは社長とオータムさんと俺だけだ。戦わない訳には……」

 

 

《それでもだ。その状態で戦闘をするとかえって足手纏いに……》

 

 

《何でマスターたちは戦闘が起こる前提で話してるのかな?》

 

 

《こんなピンポイントで戦闘が起こる事なんてあまりないと思いますが……》

 

 

このまま話し合っても平行線になる事を理解したので、白式と白騎士がそうツッコミを入れる。

 

 

「いやいや、こういう話し合いでは戦闘しない場合の想定は必要ないんだ。戦闘が起こらなかったら『考えすぎでした、良かった良かった』で終わりだからな」

 

 

《まぁ、そうなってくれるのが1番だが。2番はお前が戦闘に出ない事だ》

 

 

「だから、そういう訳にはいかないんだって!」

 

 

またその言い合いを始めた一夏とオルコスに、白式と白騎士は同時にため息をつく。

 

 

《マスター、そろそろ登校時間では?》

 

 

「えっ?……ヤバい!!」

 

 

白騎士の指摘に、一夏は時計を確認し、慌てて準備を開始する。

昨日疲れ果てていたので授業の準備も、朝ご飯を食べてそのままだったので制服への着替えも、何も終わっていない。

IS学園に入学してどころか、小中を含めた学生生活で初めて登校時間ギリギリに準備をするという経験をした。

 

 

超速で準備を終わらせ、そのままの勢いで部屋を飛び出た一夏。

施錠などはオルコスに任せる事が出来るが、足元がおぼつかず何時もの速度で移動が出来ない。

結果として、朝のSHR30秒前という本当にギリギリの時間に滑り込むことには成功した。

 

 

クラスメイト達は、珍しい事態に驚き半分、エクスカリバーなどの詳しい情報は知らされていないが、一夏達が海外に向かったという事だけは知らされていたので納得半分といった感じだ。

 

 

実技担当の千冬が居ないので、幸いな事にIS実技の授業は無い。

一夏は体調が優れない事をクラスメイトや教員にバレないまま午前中を乗り越える事に成功した。

 

 

そうして昼休み。

一夏は食堂で昼食を食べていた。

昨日も今日の朝も弁当の準備をしている余裕など無かったので、必然的に此処で昼食を食べる事になるのだ。

 

 

まぁ、ここまでだったら特に違和感はない。

一夏は食堂を利用する回数こそ少ないものの、数度は利用したことがあるし何よりIS学園の生徒である為、食堂を利用していて何も問題は無い。

のだが。

違和感があるのはここからで。

 

 

「……なんでいるんですか、社長、オータムさん」

 

 

一夏は昼食に選んだサラダを1口食べ、箸を置いてから目の前に座っているスコールとオータムにジト目を向けながらそう言葉を零す。

そう、目の前には専用機持ちではあるものの、IS学園の生徒では無い2人が、普通に生徒食堂で食事をしているのだ。

しかも、オータムに至っては以前から着用している警備員の制服だ。

ただでさえ生徒以外が此処で食事しているというだけでも違和感なのに、その警備員の制服のせいでその違和感が加速している。

 

 

事実、3人は食堂中の視線を集めていた。

まぁ、一夏は普段から否が応でも視線を集めているし、オータムとスコールは過去の経験から(さらにスコールは社長業もあるので)視線には慣れているので、特に問題は無いのだが。

 

 

「別に良いじゃない、私達が何処でお昼ご飯食べても」

 

 

「そうだそうだー」

 

 

「オータムさんってそんな適当な返事する人でしたっけ」

 

 

「昼飯の時ぐらいだらけさせろ」

 

 

「いや、別に此処で食べるのも、適当な返事をするのも駄目だとは言ってないんですが……」

 

 

一夏のその呟きを聞いた後、2人は手に持っていたフォークを一夏と同じくお盆の上に置く。

そして、急に真面目な表情を浮かべるとジッと一夏の事を見る。

突然の雰囲気の変化に、一夏も必然的に真面目な表情と雰囲気にもなる。

 

 

「一夏、私達が無理を言って此処であなたと一緒にご飯を食べて話してるのは、あなたの事が心配だからよ」

 

 

その瞬間、一夏は喉奥に氷を放り込まれたかのような感覚を覚えた。

まさか、昨日からの体調不良を未だ引きずっている事がバレたのか。

確かに帰って来たばっかりのフラフラな様子は見られている。

もしかしたら……

などと一夏が考えていると、スコールが続きを話す。

 

 

「一夏、あなた最近休めてないんじゃない?」

 

 

「ああ、それですか……」

 

 

思わずそう声を漏らしてしまった。

今まさに体調が悪い事がバレていない事に対する安堵半分、この話題だったら結局辿り着かれるかもしれないという不安半分といった感じだ。

 

 

「それってなんだそれって。なんか別にあるか?」

 

 

「いや、な、無いですけど…」

 

 

オータムからのジト目攻撃に、一夏は露骨に視線を逸らしながらそう言葉を漏らす。

だが、直ぐに咳払いをしてから2人に向き直る。

 

 

「まぁ、確かにここ最近いろいろな事が立て続けに起きすぎて、滅茶苦茶忙しかったですが…まぁ、休めてないって事は無いですよ。ほら、昨日なんか帰って来て直ぐに寝ちゃいましたし。元気ですよ」

 

 

一夏は無理くり笑顔を作り、右肩を回しながらそう言う。

2人を安心させようという意図があったのだが、それに反して2人は笑みを浮かべるでもなく、怪訝そうな表情を浮かべるでもなく。

ただただジッと一夏の事を見ていた。

 

 

(…変にアピールしたから逆に気が付かれたか……?ヤバい、身体に力が入らない…あああ!昼飯食ったんだから力振り絞れ俺の身体!)

 

 

一夏が必死にその動きを維持していると、2人は同時にふぅと息を吐く。

 

 

「まぁ、お前がそう言うなら信じるさ」

 

 

「でも、無理は絶対にしない事。良いわね?」

 

 

「はい」

 

 

2人の言葉に、素直に頷く一夏。

その脳裏では、朝のオルコスとの小競り合いを思い返していた。

 

 

(オルコスも、白式も白騎士も、そして社長とオータムさんも。俺の事を心配していろいろ言ってくれてる…まぁ、今までの怪我とか体調不良のアレを考えれば当然なんだが)

 

 

学園祭での吐血事件から始まった一夏の体調不良。

このエクスカリバー事件を解決すれば、そろそろ冬休みも見えて来る季節だというのに、万全に治ったという事を一夏は一度も言っていないし、定期的に症状が出ている。

周囲が少々過保護になるのも致し方ない。

 

 

そこまで考えて、一夏は別の事を思い浮かべる。

今まさに宇宙で戦ってる大切な人達の事だ。

 

 

大切な友人。

かけがえのない家族。

そして、この上ない程愛おしい恋人。

 

 

オルコス達が心配してくれているのと同様、程度の差はあれど心配してくれているという訳で。

 

 

(何度も思ってる筈なんだけどな。これ以上心配はさせないって。でも…)

 

 

一夏は自然な動作で右手を心臓の前に持ってくる。

 

 

(俺は、もう……だから、せめて、みんなを……)

 

 

「……か!いち…か!一夏!!」

 

 

「はいっ!?」

 

 

ずっと考え込んでいた為、周囲の音を聞いていなかった。

目の前でオータムが数度名前を叫んだことで漸く気が付いた。

スコールとオータムは、再びため息をつく。

 

 

「言ってる側から…本当に大丈夫か?」

 

 

「大丈夫ですって」

 

 

「無理は絶対にしちゃ駄目よ?」

 

 

「はい」

 

 

こればっかりは口酸っぱく言われても仕方が無い。

一夏は素直に返事をする。

 

 

そんなこんなで昼食を食べ終えた。

昼食後に菓子類をつまむ習慣は一夏達にはないので、そのまま食器類を返却しようと席を立つ。

その、瞬間だった。

 

 

ジリリリリリリリリリリリ!!!

 

 

『緊急事態、緊急事態です。至急、全ての教員、並びに専用機持ちは緊急会議室に集合してください。また、一般生徒は直ぐに避難が出来る準備をし、各教室や食堂などに集まって下さい。繰り返します……』

 

 

「「「っ!?」」」

 

 

突如としてけたたましい警告音と、行動指示のアナウンスが流れる。

周囲の生徒がざわざわしながらも避難行動の準備をする中、一夏、スコール、オータムの3人は視線を合わせると、そのまま同時に地面を蹴り全速力で会議室に向かう。

 

 

専用機持ちが3人しかいない。

そして、今までの襲撃とは明らかに違った警告音。

もう、廊下は走ってはいけないとか言ってられなかった。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

(ヤバい、ただ走ってるだけなのに視界が…それに、足も…もっと、もっとだ!もっとしっかりしろ俺!緊急事態なんだぞ!!)

 

 

体調が悪く、ただ走っているだけでも疲労してきた一夏。

もはやこの状況じゃ戦闘なんて出来ないと、一夏本人も痛感してしまったが、それでも向かわない訳にはいかない。

 

 

フラフラなのを隣に居るスコールとオータムにバレないように必死に走り、緊急会議室に到着。

何時もならノック前に軽く身だしなみを整えるのだが、そんな事頭から抜け落ちていた。

そのままの勢いでノックし、中に入っていく。

 

 

「何がありました!?」

 

 

「全員が揃ってから直ぐに説明します!全員直ぐに来るので、今は心構えをしておいてください!」

 

 

「はい!」

 

 

何時もより明らかに焦っている十蔵に対応される。

どんな時でも冷静沈着といったイメージの十蔵がここまで焦っているのは非常に珍しい。

否が応でも気が引き締まる。

 

 

そこから、1分もせずに学園中の教師陣が集まった。

全員焦りながら来たため、髪が髪型が崩れてしまったりしているが、そんなもの関係ない。

 

 

「全員揃いましたね、単調直入に説明をします。襲撃者です」

 

 

『っ!!』

 

 

ただでさえ緊張の表情を浮かべていた全員が、更にピリッとした表情になる。

 

 

「この映像を見てください。今現在IS学園に向かって来ている襲撃者のものです」

 

 

十蔵がそういうと同時、背後のディスプレイに映像が映る。

画面が4分割され、それぞれに北、東、南、西と方角を表す言葉が記されている。

 

 

『……?』

 

 

だが、それを見た一夏とスコールとオータム以外の全員が首を捻った。

何故なら、わざわざ4分割されているのに同じような映像が流れているし、何より空も海も地面も映ってないからだ。

襲撃者の映像だというなら、監視カメラの映像になる。

監視カメラが設置されているのは大体空、海、そして敷地内の地面のいずれかで、背景でそう言ったものが映っているのが普通だろう。

 

 

だが、この映像は4分割された全ての映像に、背景は映っていない。

そして、映っているものは漆黒の物体。

それがビッシリと……

 

 

『えっ!?』

 

 

ここまで来て、先程から呆けていた教員達も気が付いた。

この画面にビッシリ埋め尽くされているのが、全て襲撃者のISだという事を。

 

 

「か、数が多すぎる!こ、こんなの!」

 

 

「い、いくら亡国企業でも、こんな量の用意が出来る訳!」

 

 

「落ち着いて下さい!ありえなくても、今実際に起きてるんです!生徒の安全を確保する教員が焦っていては話になりません!今すぐ行動を開始します!」

 

 

『っ!はいっ!』

 

 

焦っていた教員達だったが、十蔵の叱責で無理矢理冷静さを取り戻した。

 

 

「一先ず、直ぐに生徒の避難誘導をします。避難場所は、以前までと同じ通り「待った!」織斑君?どうかしました?」

 

 

十蔵の指示を遮る形で一夏が右手を上げながら声を発する。

 

 

「今までを思い出してください。悔やむことですが、IS学園は何度も襲撃を受け、その度に一般生徒を同じ場所に避難させてきました。だから、敵に避難所の場所も、どれくらい持ちこたえられるのかも把握されている可能性の方が高いです」

 

 

「それは…確かに…」

 

 

「しかもあの数です。全員が無事に避難したとしても、場所が把握されていたら生徒全員を守り切れるかどうか怪しい。移動の際にリスクがあるのは十分承知していますが、避難後の事を考えると本土の方が安全かと」

 

 

「……」

 

 

思案は一瞬。

十蔵は指示を改めて出す。

 

 

「織斑君の意見を採用します。全生徒を本土に避難させます。警備員と共に誘導、並びにISを使用した警護を行ってください」

 

 

『はい!』

 

 

指示から1分も関わらず、誘導と警護のメンバーを決め、そのメンバーはそのままダッシュで行動を開始する。

 

 

「では、襲撃者にどう対応するかを決めます。正直に言わなくても分かると思いますあ、かなり厳しい状態です。数で圧倒的に敗北しており、尚且つ専用機持ちも3人です」

 

 

「そうなると、やはり専用機持ち中心に作戦を立てるしか…」

 

 

「それしかありません。お三方、問題はありませんか?」

 

 

「私は特に」

 

 

「同じく。いつでも行けるぜ!」

 

 

十蔵の言葉に、スコールとオータムが間髪入れず返答する。

部屋の視線は自然にまだ返事をしていない一夏に集まる。

だが、一夏は何も言わず俯きながら右手で心臓を抑えていた。

 

 

(どうする…?この状態で戦っても…だけど、この状況では戦わざるを得ない……)

 

 

一夏は考えていた。

十蔵や教員の言う通り、自分も戦闘に参加しないと、ただでさえ高い敗北の可能性が更に濃厚になってしまう。

しかし、体調不良である事が足を引っ張る。

ここまで走って来るので、まともな戦闘が出来ない事は痛感した。

普通なら辞退して、一般生徒と共に避難すべきだ。

 

 

だけれども、貴重な専用機持ちであるという事。

そして、男性IS操縦者という明らかに襲撃目標の1つになりそうな自分の立場がそれを拒む。

 

 

一夏はどうすればいいのか分からなくなっていた。

だが、もう悩んでる時間が無い。

その焦りが判断を鈍くさせる。

 

 

……と、この時。

一夏は気が付いた。

 

 

カタカタカタカタ

 

 

胸ポケットに入っているオルコスのバディカードが小刻みに震えている事に。

 

 

「……」

 

 

それだけ。

ただそれだけなのに、一夏はその意図が理解できた。

 

 

「あれこれ考えてると、時間が無いですね。俺が本土じゃない側半分引き受けますので、残り半分任せました」

 

 

『……えっ!?』

 

 

一夏の言葉を一瞬理解が出来ず呆けていたが、理解した瞬間驚きの声を発する。

 

 

「待って下さい織斑君!この数ですよ!?いくら何でも1人で半分は……!!」

 

 

「タッグマッチにソロで出場させた学園がそれ言いますか?」

 

 

一夏は冗談めかすような口調でそう言う。

うっ、と一瞬黙ったその隙を付き、一夏は震える身体を無理矢理奮い立たせ会議室の窓に近付き、勢いのまま開け放つと、ダークコアデッキケースを取り出し煉獄騎士の鎧を身に纏うと、窓から飛び降りた。

 

 

「ちょ、織斑君!?戻って下さい!!」

 

 

真耶が慌ててその窓に駆け寄ろうとするが、スコールとオータムがそれを制止する。

 

 

「心配なのは分かるわ。でも、一夏がやるって言ってるんだから、ここは信用しないと。それに……」

 

 

「一夏が半分引き受けてもなお、この人数はかなりキツイ。やるしかない」

 

 

「でも……」

 

 

ドガァアアアアン!!

 

 

真耶がまだ渋っていると、戦闘音が鳴りだした。

ここまで来たら、もう腹をくくるしかない。

残りの半分を如何担当するかを30秒で決め、スコールとオータムは専用機を展開、真耶達はアリーナに訓練機を取りに行き、一夏に少し遅れる形で戦闘を開始した。

 

 

 

 

時刻は少しだけ遡り、一夏が会議室から飛び降りた直後。

綺麗に地面に着地した煉獄騎士は物陰に身を潜り込ませ、見上げる形で襲撃者の事を見る。

 

 

「多いな……」

 

 

映像では無く、この目で見て改めてそう思う。

一夏はスッと視線を外すと、オルコスのバディカードを取り出す。

 

 

「…オルコス」

 

 

その名を呼ぶと、ボンッという音と共にオルコスがSDで出現する。

 

 

《なんだ?》

 

 

「…本当に、良いのか?」

 

 

先程無言で受け取った意図が、本当に正しいのか。

それを確認するように、一夏は尋ねる。

オルコスはゆっくりと頷いてから、言葉を発する。

 

 

《ああ、此処は我らが戦う。お前は休んでいろ》

 

 

「……」

 

 

オルコスの言葉に、一夏はいったん無言になる。

そこまでは問題無く理解が出来た。

だけれども、この先が問題だ。

 

 

「でも、コールやキャストをするとなると必然的に俺も出る事に……」

 

 

そう、モンスターや魔法の使用には、ファイターである一夏を介す必要がある。

オルコス達だけでの戦闘はほぼ不可能だ。

()()()()()を除けば。

 

 

《コールを介さず、直接戦闘に出れば問題無いだろう》

 

 

「駄目だ!!」

 

 

オルコスの言葉を、脊髄反射レベルの速度で一夏が否定する。

確かに、コールを介さないで、ダークネスドラゴンWへのゲートから直接煉獄騎士団を呼び出せば、一夏は前線に立たなくていいし、何より一度に戦える数も多くなる。

今回の状況なら、寧ろベストな選択であるだろう。

 

 

それなのにも関わらず、一夏が即座に否定したのには…普段からその戦法を取っていないのには勿論理由がある。

脳裏にチラつくのは、学園祭の時。

吐血をし、気絶をしてしまっている中で襲撃を受けた。

その際に当時のバディであったディミオスがコールなしで直接戦闘を行い、ISブレードに貫かれそのまま死んだ。

 

 

その光景が未だに頭にこびりついている一夏。

即座に否定するのも無理は無い。

 

 

「俺は、また大事な相棒を、仲間を!亡くしたくないんだよ!!」

 

 

《…気持ちは分かる。だが、一夏。我らに固執し過ぎて、大事な部分を見失っているな》

 

 

「大事な、部分だって?」

 

 

《この学園を。今宇宙で戦ってる仲間の帰って来る場所を、守るべきものを、守る。今まで、そうして戦ってきたじゃないか》

 

 

「っ…」

 

 

オルコスの優しい口調の言葉に、一夏は息を詰まらせる。

そうだ、確かに今までその想いを胸に戦ってきた。

此処で戦わなければ、今までの戦いを…ディミオスを侮辱する事になる。

 

 

《マスター、私達の事、信じてくれませんか?》

 

 

「何時の間に…」

 

 

何時の間にか立っていた白騎士の言葉に、思わずそう返す。

隣に立つ白式もうんうんと頷いている。

一夏ははぁ、と息を吐いてから言葉を発する。

 

 

「分かった。ここは任せた。だけど、ヤバいって判断したら直ぐに俺も出るからな」

 

 

《ああ、任せろ。お前は休んでいろ》

 

 

一夏はとうとう、自身も戦場に立つ事を諦め、オルコス達に全てを託すことにした。

その場に座り込み、身体から力を抜く。

それを見たオルコス、白騎士、白式はSDと人間態を解除する。

そして、オルコスはその手に持つ剣を地面に突き立て、声を発する。

 

 

《今此処に現れよ、血盟の騎士達よ!!》

 

 

その声と同時、オルコスの背後にダークネスドラゴンWへのゲートが開く。

 

 

 

《おおおおおおおおお!!!!》

 

 

 

雄叫びと共に、煉獄騎士団全竜が、この世界にやって来た。

 

 

《ほぉ、此処が一夏の世界か…》

 

 

《青い空を初めて見たような気がするな…》

 

 

「ああ、そっか…ジャイアントシザーとかブラッドアックスは1回もコールしたこと無かったな」

 

 

(そもそもデッキに入れてないから……すまん、バニラは採用理由が無さすぎるんだ)

 

 

一夏がこっちの世界で今まで1回もコールしなかった団員達が感想を漏らすと同時、一夏が申し訳なさそうな声を出す。

本当は煉獄騎士団全投入デッキを使いたいのだが、そうするとダークネスドラゴンWの汎用札が入れられなくなり、デッキの安定性が落ちる為採用する団員は絞る必要がある。

そうなってくると、バニラと呼ばれる能力を持たないモンスターはデッキスロットの圧迫にしかならないので、採用候補にすら上がらないのだ。

 

 

一夏が煉獄騎士の鎧の下で申し訳なさそうな表情を浮かべるが、仮面の下の詳しい表情など分かりようもないので、オルコス達は特に気にせず空を…襲撃者を見上げている。

 

 

《話は聞いていたな?》

 

 

《はい、あの無粋な襲撃者を削除する。それが我々の任務》

 

 

《そうだ。お前達…行けるか?》

 

 

《無論》

 

 

《いつでも》

 

 

《ハハハハ!!うずうずしてきたぜ!!》

 

 

《昂ってきたぁ!!》

 

 

《早く戦わせてくださいよぉ!!》

 

 

後半に行くにつれドンドン野蛮になっていく声に、オルコスと一夏は苦笑を浮かべる。

 

 

《さぁ、行くぞ!ディミオス様の意思を受け継ぎ、そして、我がバディの大切な居場所を!我らの守るべき場所を守るのだ!!》

 

 

《うぉおおおおおおおおおおお!!》

 

 

オルコスの号令と共に、白騎士と白式も含めた煉獄騎士団全竜が咆哮をあげ、襲撃者に向かって攻撃を開始する。

 

 

「なっ!?」

 

 

「こいつらは、織斑一夏の…!?」

 

 

「迎撃だ!撃てぇ!!」

 

 

勿論襲撃者もそれに気が付き、すぐさま迎撃の態勢を整え、オルコス達に向かって発砲を行う。

 

 

バババババババババババババババババババババァアアアアアン!!

 

 

反応速度、射撃の正確性と統一性。

この一瞬の間だけで、襲撃者がかなりレベルの高い訓練を積んできた事を嫌でも理解させられる。

 

 

《無駄だ!》

 

 

《しゃらくせぇ!!》

 

 

だが、そんなもの煉獄騎士団の前には無意味だ。

向かってくる弾丸を、各々の武装で全て弾き返しながら襲撃者に接近していく。

 

 

襲撃者が訓練を積んでいるように、煉獄騎士団もダークネスドラゴンWで常に鍛錬を積んでいる。

そして、たとえ攻撃力や防御力、打撃力が低かったとしても、バディモンスターという時点で人間にとっては脅威そのもの。

それはISを纏っていたとしても例外ではない。

しかも、オルコス達は1回の攻撃で相手のSEを自身の打撃力分一気に減らすことができ、しかもいつもと違い、能力や魔法を使わなくても連続で攻撃が可能だ。

 

 

ガキガキガキガキィン!!

 

 

ドガァン!ドガァン!

 

 

金属同士がぶつかり合う音、何かが爆発する音と共に、激しい戦闘が繰り広げられる。

次々と襲撃者が身に纏うISのSEが0になり、地面に倒れ伏していく。

煉獄騎士団無双。

そう表すのが最適と言えるほどに、一瞬の危なげも無くドンドンと襲撃者を戦闘不能にしていく。

 

 

「……凄いな」

 

 

先程からずっと物陰から戦闘を眺めている一夏は、呆然とそう呟いた。

ヤバいと判断したら直ぐ出ると言ったが、今のところ全くヤバくない。

エクスピアソードを握りしめながら、煉獄騎士団の戦闘を見ていた。

 

 

(…何故だ、胸騒ぎがする……特に不安要素は無い筈なのに)

 

 

戦場に立っている事によりアドレナリンが大量に分泌されているからか、一夏は自分の体調が悪すぎる事を感じないまま、思考を続ける。

 

 

(『俺が引き受ける』とか言っておきながらオルコス達に任せてる罪悪感…って訳じゃ無いだろうし…なんだ?本当になんだ?)

 

 

一夏が思考を巡らせている隙にも、オルコス達はドンドンと襲撃者を倒していく。

空を覆い尽くさんと言わんばかりの人数が居た襲撃者も、もう既に煉獄騎士団の方が数が多いほど数を減らしている。

もう少しで終わるというのに、一夏の胸騒ぎは大きくなっていく一方だ。

 

 

(何かを見落としてる…そんな気がしてならない……)

 

 

《これで、最後だ!!》

 

 

オルコスが最後の1人に渾身の一撃を叩き込み、SEを0にする。

 

 

《良し、一夏!終わったぞ!》

 

 

「あ、ああ!取り敢えず拘束してから、向こうの増援に…………!?」

 

 

オルコスの報告に、一夏が反応した時。

一夏の胸騒ぎは最高潮に達した。

その瞬間に、何が何処で起こるのか分からないのに一夏の身体は動き出していた。

地面を思いっ切り蹴り、高く跳躍する。

 

 

「キャスト!誇りを(むね)に、刃は不滅!!」

 

 

そして、直ぐに防御魔法を発動する。

 

 

ガキィン!!

 

 

ギリギリ間に合った。

突如として上空から放たれた攻撃を、防ぐことに成功した。

 

 

「ぐぅっ……!?」

 

 

《一夏!?》

 

 

だがしかし、衝撃を完全に殺すことは出来ず、跳躍していた一夏は思いっ切り地面に叩きつけられてしまった。

空中に居るオルコスは、慌てて翼をはためかせ、一夏の側に着地する。

それ以外の団員は、攻撃が飛んできた方向に各々の武装の切っ先を向け、厳戒態勢をとる。

 

 

だがしかし、その方向には誰も何も確認できない。

ワンテンポ遅れる形で一夏とオルコスもそこを見るも、やはり何もない。

防御魔法を使用しても地面に叩きつけられる程の高威力の攻撃。

目視も出来ないほど離れている場所や、小さいものからの攻撃だとは思えない。

そこそこなサイズで、そこそこな距離のはず。

それなのに、目視する事が出来ないとなれば……

 

 

《ステルスだ!狼狽えるな、敵はそこに居る!》

 

 

オルコスの言葉に、クロスボウやグラッジアローといった遠距離武器を持つ団員が、視線の先に向かって攻撃を行う。

空に向かって一直線に放たれたその攻撃は、とある地点に到達すると、

 

 

ガキィン!

 

 

と全てが弾かれた。

 

 

「《っ!!》」

 

 

その光景を見ていた一夏と煉獄騎士団は、改めてその場所に向かって視線の武器を向ける。

すると、何もないように見えたその空間に滲み出るように、とあるものが姿を現した。

 

 

その体表を覆うは、大量の銃火器。

ライフルやマシンガンなどと種類は統一されておらず、実弾銃とエネルギー弾銃も混在している。

そして、大量の銃火器が、3つ首の巨大な竜のような形を作っていた。

 

 

視認した瞬間、一夏やオルコスが驚きの表情を浮かべる。

その銃火器の多さや大きさに驚いた訳では無い。

何故此処に居るのか理解が出来ないといった驚きだ。

 

 

だが、そうなるもの仕方が無い。

以前一夏達がそれを見たのは、IS学園から離れた京都だったのだから。

 

 

「深夜……」

 

 

一夏が呆然とそう呟く。

そう、こちらに向かって来ているのは、京都の亡国企業襲撃作戦にて対峙した、深夜のISだ。

 

 

だが、以前と全く同じという訳では無い。

大きく変わっている所と言えば、そのカラーリングだろうか。

以前は銃火器そのままといった感じだったが、今はまるで酸化し始めた血液のように赤黒くなっていた。

 

 

竜の胸部にあたる部分には、変わらず深夜の頭と肩だけが露出している。

 

 

《アイツは敵だ!攻撃しろ!》

 

 

《了解!》

 

 

一夏にあまり戦闘して欲しくないオルコスが先に指示を出しつつ、自分も地面を蹴り行動を開始。

一気に深夜に接近をする。

 

 

以前の戦闘では、開始直後の攻撃は全くと言って良いほど効かず、クラリッサとチェルシーと楯無のサポートありで何度も何度も攻撃を重ねる事で漸くダメージが通り始めた。

しかも、その後一夏が気絶した代わりに万全の状態の千冬と簪の増援があってやっと撤退にさせられた。

今回も否が応でも苦しい戦いになる。

 

 

だが、煉獄騎士団はある程度消耗しているとは言えまだまだ余裕がある。

長年共に居た為連携も申し分なく、何より前回より戦闘員が多い。

オルコスは撤退させるではなく、自分達で倒し切るという決意と自信があった。

 

 

懸念点と言えば、機体のカラーリングの変更だろう。

外見が変化しているという事は、調整を受けている事。

スペックも変化している可能性がある。

 

 

自信はあるが、過信してはいけない。

常に注意を払って行動する事が必要だ。

 

 

言葉には出してはいないが、オルコスの雰囲気から団員達もその考えを読み取った。

細く息を吐き、集中力を高める。

 

 

《ハァア!》

 

 

《くらいやがれぇ!!》

 

 

先ずは先程攻撃した遠距離武器組が再び攻撃をする。

だが、前の攻撃とは異なり、目標が視認出来る。

狙いを定める事は容易だ。

 

 

ほぼ同時に、そしてほぼ同じ様な場所に攻撃が着弾する。

だが、こちらに向かってくる深夜は何もリアクションをしない。

つまり、ダメージが殆ど入っていない。

 

 

《怯むな!攻撃を続けろ!》

 

 

それを見たオルコスが叫ぶと同時、接近武器所有の団員が深夜に接近しきった。

 

 

《ハァアアアア!》

 

 

《セヤァア!!》

 

 

《オラァア!》

 

 

ガキィン!ガキィン!ガキィン!

 

 

団員が連続して、入れ替わりながら同じ場所へと攻撃を繰り返す。

だがしかし、それでも深夜はリアクションをしない。

 

 

《くっ……!!》

 

 

《全然効かねぇ!》

 

 

《攻撃を続けろ!》

 

 

ガキィン!ガキィン!ガキィン!

 

 

何度攻撃しても、深夜には少しもダメージが入らない。

そして、深夜はドンドンとIS学園に近付いて来る。

 

 

「くそ…やっぱり、アレにはそう簡単にダメージが与えられないか……!!」

 

 

その進行方向に立つ一夏は、仮面の下で苦渋の表情を浮かべ、エクスピアソードを構える。

オルコス達が一斉に攻撃しても殆ど意味なかったのだ。

体調がボロボロの自分が加わった所で、状況が大きく変動するとは思えない。

だけれども、やるしか無かった。

一夏が跳躍しようと足に力を籠めた、その瞬間だった。

 

 

「がぁああああああああああ!!」

 

 

「《っ!?》」

 

 

唐突に深夜が咆哮をあげた。

それと同時、翼のような形を形成している銃火器がはためいたかと思うと、深夜は一気に加速した。

空気が切り裂かれ、その流れが見えると錯覚してしまう程の速度と風。

 

 

一夏は思わず右腕を顔の前に持ってくる。

背中のマントがバタバタとはためく。

 

 

「ギャアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

深夜が咆哮をあげると同時、その巨大な身体がIS学園の敷地に勢いのまま降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!

 

 

 

 

 

 

「う、ぐぅ、わぁあああああ!?!?」

 

 

その瞬間、爆音と共に途轍もない衝撃波が周囲を襲った。

一夏は悲鳴と共に吹き飛び、身に纏っている鎧がガシャンガシャンと音を立てているのを、何故か遠くの方で感じながらゴロゴロと転がっていく。

 

 

着地の際の衝撃で、孤島であるIS学園の敷地の一部が消し飛んだ。

島が震え、衝撃波でアリーナや校舎が倒壊してゆく。

 

 

「う、ぐぅ……!!」

 

 

運よく島から放り出されたり、崩れた瓦礫に埋もれるといった事は無かった。

一夏は頭をフラフラと揺らし、なんとか手放すことの無かったエクスピアソードを杖替わりにしてなんとか立ち上がる。

 

 

「っ……」

 

 

一瞬にして滅茶苦茶に破壊されたIS学園。

それを見て、一夏は言葉を失ってしまう。

避難を本土の方にするという提案をしておいて良かったと思うと同時、

 

 

ドゴォン!

 

 

深夜が着地し、地面が抉れた方向から大きな音が響いて来る。

まだ衝撃が抜けきってない身体を動かし、そちらの方を確認する。

 

 

ズシン!ズシン!ズシン!ズシン!

 

 

その銃火器によって作られている巨大な身体で1歩、1歩と踏みしめて歩く度。

知らなかったら地震かと勘違いしてしまう程の揺れが襲ってくる。

 

 

「深夜……」

 

 

竜の胸部から肩と頭だけが露出している深夜。

その生気の無さすぎて、人形なんじゃないかとも思ってしまう目を見て、一夏は思わず言葉を詰まらせてしまう。

 

 

正直言って、深夜との思い出というものはあまりない。

IS学園に入学したての、本当に最初の方に2人しかいない男子生徒という事で会話をしたり、クラス代表決定戦で試合を行ったくらいだ。

その後は一夏とクラリッサとチェルシーが交際を始めたり、一夏の仕事が忙しくなって来たりして、必然的に深夜と関わる事も、関わろうとする事も無くなっていった。

 

 

深夜が失踪するまでの約半年間。

一夏から見た深夜との思い出は、上記2つの出来事と、臨海学校の際に刺された事。

この3つくらいなものだ。

 

 

「なんで、そんな事になってんだよ…!」

 

 

深夜と深く関わらなかった事を、一夏は悔いた。

もしかしたら、入学してから深夜と関わっていれば、深夜が何故そのような状態になってしまったのか、察せられたかもしれない。

なんなら失踪する前に止められたのかもしれない。

そう考えてしまう。

 

 

……深夜は一夏を蹴落とし、自分が主人公になる事しか考えてなかったので、理解し合うのは不可能だったのだが。

そんな事、他人が知る筈も無い。

 

 

ズシン!ズシン!ズシン!ズシン!

 

 

深夜は変わらず島を震わせながら歩みを進める。

 

 

「っ!オルコス、みんな……」

 

 

ここまで来て、漸く一夏は煉獄騎士団の状態の確認を失念している事を思い出した。

ガバッと視線を周囲に向ける。

 

 

「っ!みんな!!」

 

 

すると、地面に倒れ伏していたり、瓦礫の下敷きになっている煉獄騎士団を発見。

痛む身体を無視して走り出し、慌てて駆け寄っていく。

 

 

《ぐぅ…》

 

 

《が、がぁ…》

 

 

「シーフタン!デスシックル!」

 

 

一番近くに居たシーフタンとデスシックルの側に近寄ると、様子を確認する。

どちらもなんとか生きているものの、この状態では戦闘続行が不可能だと一目見て判断できるほどには、酷い有様だった。

 

 

《ぐぅ…一夏、無事か…?》

 

 

「オルコス!」

 

 

苦悶の声を漏らしながらも、ボロボロの大地を踏みしめながらオルコスが近付いてきた。

マントや身に纏う鎧も、大地と同じようにボロボロで、ある程度の形を保っているのが奇跡だと思えるほどだ。

 

 

「大丈夫なのか!?」

 

 

《ああ、戦闘は、なん、と、か…継続、出来そう、だ…》

 

 

「そう、か…」

 

 

正直、オルコスもかなりのダメージを受けてしまっている。

だけれども、デスシックル達に比べると幾分かマシなようだ。

本当はオルコスも戦闘不可能だと言いたかったのだが、先程自分の我儘を聞いてもらったし、今戦力を大幅に減らす訳にはいかない。

一夏は頷くしかなかった。

 

 

「他に戦えるのは?」

 

 

《…白式と白騎士、シルバースタッフとクロスボウ、ニードルクローとホーリーグレイブだ》

 

 

「俺とオルコス含め、8か…」

 

 

流石に厳しい。

先程ほぼ万全な状態で、煉獄騎士団全員で攻撃しても意味が無かったのだ。

手負いの8人でなんとか出来るとは思えない。

 

 

《マス、ター、ご無事ですか?》

 

 

「白騎士!大丈夫なのか!?」

 

 

《はい、私は、なんとか…》

 

 

《私も、大丈夫だよ、マスター!》

 

 

《俺達も、な》

 

 

「みんな!」

 

 

すると、離れた位置にまで吹き飛ばされていたまだ戦えるメンバーが漸く合流した。

全員鎧などはボロボロだが、周囲に居る他の団員よりかは幾分かマシなようだ。

 

 

ズシン!ズシン!ズシン!ズシン!

 

 

深夜の歩みは止まらない。

ジリジリと距離が縮まっていく。

 

 

「くっ……!!」

 

 

一夏はまだ若干身体に鞭を打ち、エクスピアソードの切っ先を深夜に向ける。

 

 

《無茶だ!》

 

 

「向こう側の状況も、分からないんだ!無茶だったとしても、やるしかない!」

 

 

《…ああ、そうだな……!》

 

 

それに続くように、オルコス達も武装を深夜に向ける。

だが、そんな一夏達の抵抗を嘲笑うかのように、竜の胸元の生気の無い顔の深夜の口元が一瞬歪んだかと思うと、3つ首の竜の眼が全て同時に光り、そこから大量の銃火器で構成された身体が発光を始める。

 

 

「っ――――――!!」

 

 

「がぁああああああああああ!!」

 

 

一夏が何か言葉を発しようと口を開いた瞬間、咆哮が辺りに響く。

光は一瞬にして放射状に広がり、IS学園の敷地全てを飲み込んだ。

 

 

 



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堕チル騎士、進ム魔道

三人称side

 

 

千冬達専用機持ち達が宇宙にてエクスカリバーと戦っているなかで行われたIS学園への襲撃。

人数を考え、襲撃者の半分を引き受けた一夏と煉獄騎士団たち。

順調に撃破をしていったが、最後の1人を倒した時、銃火器で構成された機械竜のような外見のISだと思われる何かを身に纏っている深夜が現れた。

 

 

深夜に対しては攻撃は全くと言って良いほど効かず、煉獄騎士団は一夏、オルコス、白式、白騎士、シルバースタッフ、クロスボウ、ニードルクロー、ホーリーグレイブの8人を除き戦闘が不能になってしまった。

 

 

それでも奮起し、立ち向かおうとする一夏達を嘲笑うかのように。

 

 

「っ――――――!!」

 

 

「がぁああああああああああ!!」

 

 

深夜の咆哮と共に銃火器の機械竜の全身が発光。

その光は放射状に広がり続け、IS学園の敷地全てを飲み込んだ。

 

 

「う、ぐぅ、ぐ、がぁあああああああああああ!?!?」

 

 

その光に飲み込まれた途端、襲ってくる衝撃波。

もう身体の関節が無くなりバラバラになってしまうのではないか。

思わずそう考えてしまう程だ。

 

 

一瞬遅れて襲ってくるのは熱と恐ろしいまでの浮遊感。

深夜に向けて構えていたエクスピアソードを地面に突き刺し耐えようとするも、未だに続く衝撃波、そして熱によって遅れてしまった思考と反応。

抵抗する事もかなわず、煉獄騎士は一度上空まで持ち上げられた後、思いっきり地面に叩きつけられた。

 

 

カツ―――――――――ン

 

 

「カハッ……!?」

 

 

ヘッドパーツが吹き飛び、髪が伸びた一夏の素顔が晒されると同時、肺に残っている空気が一気に漏れる。

物理基礎の授業で使えるんじゃないかというくらいに綺麗に数度地面を跳ねた後、ゴロゴロと転がっていく。

 

 

「う、ぐぅ……っ!!」

 

 

漸く停止し、苦悶を漏らす一夏。

すぐさま上体を起こそうとするも、身体が言う事を聞かない。

 

 

「くっそ…そういう全体を吹っ飛ばす攻撃は1回じゃねぇのかよ…!」

 

 

悪態でも何でもいいから言葉を発しなければ、全身の痛みで意識を失ってしまいそうだった。

 

 

ズシン!ズシン!ズシン!ズシン!

 

 

深夜が再び歩みを進めて来るのが音と振動で分かる。

 

 

(まぁ確かに全体除去を連発する事も出来るっちゃ出来るけどさ…ゲージ消費しろよこの野郎…!)

 

 

心の中で不満を漏らしながら、身体を半回転。

仰向けからうつ伏せになってから、全身の力を振り絞り、なんとか立ち上がる。

 

 

先程はなんとか離さなかったエクスピアソードは、今回の攻撃で紛失してしまった。

アイテムが無ければバディファイターは攻撃に参加出来ない。

つまりは、今の一夏はただ魔法で耐えるだけしか出来ない状況だ。

 

 

それでも。

一夏は立ち上がるしか無かった。

 

 

一夏は誓ったのだ。

嘗ての相棒に、そして、今の相棒に。

守るべきものを、全力で守ると。

ならば、自分が何時までも寝っ転がっている場合ではない。

 

 

自分を守るために散ったディミオスに。

今もなお共に戦ってくれているオルコスに。

この後も、胸を張れるように。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……うぉおおおおおおおおおお!!」

 

 

一夏は雄叫びと共に立ち上がる。

 

 

ズシン!ズシン!ズシン!ズシン!

 

 

その機械竜の巨体は、未だに進行を続けている。

胸部から肩から先だけが露出した深夜は、未だ生気の無い目で破壊されたIS学園を、そして目の前でフラフラになりながらも立っている一夏を見下ろしている。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

立っているだけで息が上がってくる。

エクスピアソードを杖代わりにもできないし、未だに全身が痛い。

それに、煉獄騎士の鎧もボロボロになってしまっている。

それでも、一夏は腕に力を籠め、ファイティングポーズを取る。

普段から考えると何とも締まらない感じになってしまうが、今はこれが限界だった。

 

 

《いち、か…!!》

 

 

「っ!オルコス!」

 

 

一夏と同様、遠くの方にふっ飛ばされていたオルコスがここで合流した。

1回目吹き飛ばされた時、もう既に結構消耗してしまっていたが、もう1回吹っ飛ばされてしまった為、その度合いは更に酷くなってしまっている。

マントはビリビリになっていたり、その身に纏う鎧も罅が入っていたり、所々が欠損してしまっている。

オルコス最大の特徴とも言って良い、頭部のソード部分が欠けていないのがほぼほぼ奇跡だ。

 

 

「…いけるか?」

 

 

《…当然……!!》

 

 

その返答を聞いた一夏は、カードを1枚取り出し天に掲げる。

 

 

「俺とオルコスの絆の力!」

 

 

その瞬間、両肘と両膝から先を残し、ボロボロだった煉獄騎士の鎧が弾け飛び、一夏の周囲に白いエネルギーが集まり衣を作る。

 

 

 

 

 

「ドラゴンフォース“煉獄の型”!解、放ぉ!!」

 

 

 

 

 

ドラゴンフォースを解放し、その黄金に輝く両目を見開き、改めて深夜に視線を向ける。

先程までより格段に身体が軽い。

今ならば、十分に戦える。

 

 

「行くぞオルコス!」

 

 

《おお!》

 

 

2人は同時に地面を蹴り、深夜に接近する。

ほぼほぼ万全の状態の煉獄騎士団の総攻撃で、銃火器で構成されたその身体には傷一つ付かなかったのだ。

いくらドラゴンフォースを解放しているとはいえ、オルコスと2人では普通に攻撃していたのではたちまち返り討ちだ。

となると、狙うは当然。

 

 

唯一露出している深夜の肩から上の部分だ。

もはやその機械竜がISなのかそうじゃ無いのかは一夏に判断は出来ない。

だけれども、この機械竜に取り込まれているような深夜は、核に近いものである可能性が高い。

重要なパーツでなければ、わざわざ搭載しないだろう。

 

 

……まぁ、ならば露出させる訳が無いという考えも当然あったのだが、もう深夜に攻撃するしか手掛かりは無いのだ。

仮に罠だったとしても、そこに攻撃を仕掛けるしか無いのだ。

 

 

ギロリ

 

 

そんな擬音が聞こえて来るんじゃないかと言わんばかりに、表情が動かない筈の3つの竜の顔が一夏とオルコスを睨みつけた。

ように感じた。

 

 

その瞬間に、機械竜を構成している全ての銃火器の銃口が2人に向けられる。

 

 

「《っ!》」

 

 

2人も当然それに気が付き、回避行動に移ろうとした直前に

 

 

ババババババァン!!ババババババババババァアアアン!!!!

 

 

超密度の銃撃が開始された。

 

 

「うぉお!?」

 

 

《くぅ!?》

 

 

当然、回避行動を取ろうとしていたので、そのまま行動に移すが、その濃密な弾丸の雨に進行は妨げられてしまいもうこれ以上深夜に近付けなくなる。

チェルシー達のBT機が有するビットのように、四方八方から射撃してくるわけではない。

問題なのはその密度だ。

 

 

もはや弾幕シューティングのゲーム画面を見ているかのような気持ちになってくる。

しかし、その手のゲームの攻撃は一般的なシューティングゲームの敵の攻撃よりも遅い場合が多いが、この攻撃は普通に超速で弾丸やレーザーが襲ってくるのだ。

更には2次元ではなく3次元で。

 

 

「キャスト!『誇りを(むね)に、刃は不滅』!」

 

 

一夏は防御魔法を発動。

ドラゴンフォースの右腕の刃で弾丸を弾き返す。

 

 

だがしかし、足りない。

1回攻撃を防いだだけでは、状況を打破できない。

 

 

(くぅ…!?考えろ…!考えろ考えろ考えろ!!)

 

 

あの日、ディミオスと出会ってから始まった煉獄騎士として始まった戦いの道。

その中で1番だと言ってもいい程に激しい動きをせざるを得ない。

ドラゴンフォースを解放し、尚且つ大量のアドレナリンが分泌されているのにも関わらず、身体の奥底に眠っている激痛が襲ってくる。

少しでも行動選択を誤れば、即THE ENDだと言っても過言ではない。

 

 

そんな極限状態の中、一夏は状況打破の為に脳のリソースを割かないといけない為、オルコスよりも何度か怪しい場面が多い。

 

 

《一夏!》

 

 

オルコスの呼びかけにも、反応出来ない。

この攻撃の一発の威力がどんなものかは分からない。

それでも、一撃で戦闘不能に…引いては、死亡すると考えなければならない。

よしんば一撃なんとか持ちこたえても、この弾幕密度だ。

すぐさま二撃目三撃目……と、体勢を立て直す前に次々と攻撃ををくらってしまう可能性が高い。

となると、やはり攻撃を受ける訳にはいかない。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!!」

 

 

(くっ…体力が…このままでは思考力が……!!)

 

 

一夏の体力の限界が近付いてきた。

息も上がって来た。

これ以上時間が掛かると、もはや回避など出来ない。

 

 

《一夏!意識をはっきりとさせろ!》

 

 

もはや、オルコスの声は一夏に届いていない。

限界が近い身体、状況打破の為にフル回転させている脳。

もう、駄目だった。

 

 

《っ!一夏!!》

 

 

「しまっ……」

 

 

一夏の身体がぐらっと傾いた。

 

 

「がぁああああああああああ!!」

 

 

その瞬間に深夜が生気の無い表情のまま咆哮をあげ、3つの竜の視線が一夏に向けられる。

 

 

「くぅ…!!」

 

 

(回避…いや、間に合わない…!防御魔法…も、無理か……!?)

 

 

もはやどうすることも出来ない。

一夏はやって来るであろう弾丸の衝撃に耐えようと、残り僅かな力を全身に籠め両目をつぶる。

だが、何時まで経っても深夜の攻撃が行われることは無かった。

 

 

《マスター!忘れてもらっちゃ、困ります!》

 

 

《さっき、あんなに格好良く並んで気合い入れたんですから!》

 

 

《っ!白式!白騎士!》

 

 

絞り出すような声と共に、一夏とオルコスに気を取られ周囲を気にする事など微塵もしなかった深夜の背後から。

一夏がドラゴンフォースを解放した時からずっとタイミングを伺っていた白式と白騎士が、深夜に渾身の一撃を叩き込んだ。

 

 

「がぁああああ……!?!?」

 

 

深夜がもがくような声で身体を180°回転させようとする。

だが、行動に移る前

 

 

《だから、俺らもいるんだよ!!》

 

 

《へっ、団長と一夏だけに銃口を向けたのが間違いだったな!!》

 

 

白式と白騎士と同じように、息をひそめタイミングを見計らっていたシルバースタッフ達も攻撃を仕掛ける。

 

 

 

「がぁああああああ……!!」

 

 

深夜は悶えるような声を漏らす。

今の今まで一夏とオルコスに向かって撃たれていた大量の弾丸の雨が止んだ。

 

 

《一夏ぁ!今だ!》

 

 

「あぁ…!分かってる!!」

 

 

オルコスの3度目の呼びかけに、一夏は漸く反応する事が出来た。

キッと視線を鋭くすると、フラフラだった身体を無理矢理動かし一気に深夜に接近する。

 

 

「深夜ぁああああああ!!」

 

 

一夏が深夜の名を叫ぶ。

白式たちの不意打ちにいちいち反応し、その方向に身体を向けようとしていた。

つまり……

 

 

「がぁあああああ!!」

 

 

深夜は一夏の叫び声に反応。

身体の向きを…その胸部の露出している肩から上も含め、突っ込んで来る一夏に向ける。

 

 

深夜は攻撃の意思を向ける相手には、先ず攻撃の前に身体の全面を向けようとする。

そしてその間は、発砲や尻尾のような部位での殴打など…およその攻撃を一切しない。

機械竜の身体はその大きさからは想像できない程はやく動けるが、それでもやはり通常のISなどと比べると鈍い。

 

 

「おらぁあああああああああ!!」

 

 

バキィ!!

 

 

「ぎゃああああああああ!?!?」

 

 

深夜の身体が向き直ったその瞬間。

一夏渾身のパンチが生身の深夜の顔面に叩き込まれた。

 

 

一夏の素の身体能力は教職員を含めIS学園で1番であり、勿論パンチ力もかなりある。

確かに今は万全の状態とは言えないが、それでもドラゴンフォースという一種のバフ、そして深夜の元まで突っ込んできた際のエネルギー。

その全てをこの一撃に籠めた。

その結果として、必殺技を除いた中では、今までの戦闘の中で1番の威力が出た。

ドラゴンフォースの打撃力はオルコス達と変わらない2だが、今打撃力はそこまで関係が無い。

 

 

ぐらっ……ドガシャァアアアアアアアアン!!!!

 

 

煉獄騎士団の総攻撃を受けてもびくりともしなかった深夜。

それが、生身の部分に一撃パンチをくらっただけで、いともたやすくバランスを崩し、倒れ込んだ。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…う、ぐぅ……!?」

 

 

殴った後の一夏は、苦しそうな表情を浮かべるとそのまま頭から地面に落下していく。

 

 

《一夏!》

 

 

地面すれすれの所で間一髪オルコスがキャッチに成功。

しかし、その瞬間にドラゴンフォースが霧散し、髪や目の色が元の一夏のものに戻る。

煉獄騎士の鎧は再生しないので、今の一夏は体調が滅茶苦茶悪く、しかもほぼ生身の人間である。

このまま戦場に居させるわけには行かない。

 

 

だからといって、そんな避難行為に人員も時間も割いている余裕は無くて。

 

 

「ま、だ、終わって、無いぞ!!しん、やの状況…かく、にん!!かの、う、なら、深夜を、そこから、引きず、り、出せ!無理で、も、無力化!いそ、げ!!」

 

 

オルコスに抱えられたまま、必死に声を絞り出す一夏。

だが、その直後に激しく咳き込んでしまう。

 

 

「ぐぅ…!まだ、だ!まだ、終わって、ない、ん、だ!!」

 

 

《一夏!無茶をするな!》

 

 

無理矢理にでも立ち上がろうとする一夏を、オルコスが宥める。

それでも、一夏はまだ立ち上がろうとする。

それは煉獄騎士としての、バディファイターとしての覚悟の1つだった。

 

 

今回、煉獄騎士団には危険な方法での戦闘をさせてしまった。

それなのにも関わらず、自分だけが逃げるだなんてこと、出来なかった。

 

 

《だが、一夏…!》

 

 

それと同じく、オルコスにもまた譲れないものがあった。

この相棒は、何故こんなにも周囲の事を考えて、周囲の為に行動できるのだ。

 

 

これはもう、ただの自己犠牲…もしくはそれ以上だ。

仲間の為、友人の為、相棒の為、恋人の為。

織斑一夏という人間は。

自分以外の為に精神も命も擦り減らしてきてしまったのだ。

 

 

何時からだろう、一夏がこんなにも自分を後回しにしてしまうようになってしまったのは。

今だに戦場に残り続けようとする一夏を、必死に説得しながら、オルコスは自然と考えてしまっていた。

数舜もしないうちに、その切っ掛けを思い付いたオルコスの表情は少し悲しそうなものになる。

 

 

《一夏!そんなに自分を犠牲にしなくてもいいんだ!》

 

 

「…でも!この、じょうきょう、で!にげらん、ない、んだ、よ!!」

 

 

バディになって、実はまだ半年も経っていない。

それでも、互いの事を信用し、頼りにしているからこそ。

どうしても、この気持ちを押し通さないといけない状況なのだ。

 

 

2人の主張はどちらも正しく、どちらも譲れない。

だからこそこの言い合いは平行線だ。

 

 

まぁ、偶にはいいかもしれない。

どれだけ信頼し合っているバディであったとしても、時には意見をぶつけ合い、一種の喧嘩をしてガス抜きをするのも大事だろう。

ここが戦場の真っただ中で、そして戦闘が終わったという確証が無い状態じゃ無ければ。

 

 

《うわぁああああああ!?!?》

 

 

ドガァン!ガシャ!ガシャ!

 

 

「《っ!?》」

 

 

急に聞こえてきた、団員たちの悲鳴。

なにかが別のなにかにぶつかる音、吹き飛んでいって地面に転がる音。

一夏とオルコスは言い争いから一瞬にして現実に引き戻された。

 

 

「っ!何が…!?」

 

 

《一夏ぁ!!》

 

 

一夏が状況を取り敢えず認識しようとしたその瞬間。

オルコスによって抱えられ、遠くの方に放り飛ばされた。

 

 

「がはっ!?」

 

 

急なオルコスの行動に、一夏は転がりながら苦悶の声を漏らすことしか出来なかった。

何が起こったというのか。

何故オルコスはこんな行動を取ったのか。

一夏は確認する為に慌てて視線を上げ。

 

 

 

 

 

 

 

「え…………」

 

 

 

 

 

 

 

言葉を失った。

目の前の光景が信じられないと言わんばかりに両目を見開き、動きも止まった。

顔から血の気が引いていき、開いた口がふさがらなくなり、身体がガクガクと震えている。

 

 

だって、だって、だって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ガハッ……!》

 

 

「オルコス!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

背後から腹部に突き刺され、貫通している銃火器が集まって構成された尻尾のような何か。

腹部からは青白い液体…ダークネスドラゴンWのモンスター特有の色の血液が、ぼたぼたと零れている。

一夏が涙を浮かべながらその名を叫ぶと同時、尻尾がオルコスから引き抜かれる。

 

 

《ガッ……!?》

 

 

ドシャア!!

 

 

尻尾のような何かが引き抜かれると同時、オルコスが苦悶の声を漏らし、その場に倒れ込む。

栓が無くなった腹部の穴からは、どくどくと青白い血が湧き水のように溢れ出て来る。

 

 

「オルコス!オルコスぅ!!」

 

 

さっきまで無理矢理動かしていた身体。

オルコスに放られさ際に受身を十分に取れなかったのか、それとも単純に身体がついに5回目くらいの限界を迎えたからなのか。

指先を少し動かしただけで、雷に打たれたんじゃないかと言うほどの激痛が襲ってくる。

だが、一夏は身体を必死に動かし、這いずりながらオルコスの元へたどり着く。

 

 

「オルコス!しっかりしろ!オルコス!おい!」

 

 

《いち、か……》

 

 

オルコスの身体はキラキラとした紫の粒子になり空気に溶け始めており、薄くなり始めていた。

その光景は、学園祭の時の記憶を……ディミオスが死んだ時の記憶を否が応でも思い出させる。

 

 

《ああ、これが、死か…なるほど、な……》

 

 

「オルコス!何言ってるんだ!おい!」

 

 

《かつ、て、不死、の呪い、に、掛けられて、いた、我ら、が、こうなる、と、は……》

 

 

何処か焦点のあっていない眼で、息も絶え絶えといった様子で、言葉を紡ぐオルコス。

 

 

「オルコス!まだ、まだ間に合うから!直ぐはかせの所に!!」

 

 

一夏の両眼には涙が浮かんでいるし、声も上ずっている。

 

 

《らし、く、ない、な……》

 

 

そんな一夏を見て、オルコスはフッと笑みを浮かべる。

 

 

《われ、は、ディミオ、ス、様、ほど、お前、と共に、居れた、訳では、無いが……それでも、お前の、その、顔、は似合わん、と、思う、ぞ…》

 

 

「っ…オル、コス……!!」

 

 

その言葉の裏に隠れた思いを、一夏はしかりと受け取った。

『最後なのだから、そんな顔しないでくれ』

最後なんかじゃない、と叫びたくなる気持ちをグッと堪え、なんとか必死に笑顔を作る。

 

 

オルコスの身体はドンドンと薄くなってきており、下半身はもはや無いと言っても過言では無かった。

 

 

《いち、か……お前、とバディに、なれて…良かった。我は、後悔、など……していない……》

 

 

「オルコス…俺もだ。お前と過ごした、数ヶ月、は…苦しい時も、あったけど…その度に励まして、くれて…今の俺があるんだ……」

 

 

ここまで言って、2人とも言葉に詰まった。

だけれども、もう時間が無い。

だから。

 

 

「オルコス、今まで…ありがとう…楽し、かった……!!」

 

 

《こちら、こそ、だ……あり、が、とう……いち、か、守、る、べきもの、を……》

 

 

「ああ……おやすみ、相棒。やすらかに」

 

 

一夏が最後にそう告げると。

オルコスは穏やかな笑顔を浮かべ。

 

 

《おやすみ、相棒》

 

 

その言葉を残し、オルコスの身体は空気へと溶けていった。

そうして、一夏の手に残ったのは、丸型の穴が開いたオルコスのバディカード。

 

 

「う、ぐ、ぁ、あ、あ、ああああああああ」

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

 

一夏は膝を地面につけ、叫んだ。

 

 

「なん、で、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでぇ!!!!!」

 

 

バディカードを左手で持ちながら、右手で頭を掻き毟る。

 

 

「ディミオスもぉ!オルコスもぉ!なんで俺のバディはぁ!こっちで死んじまうんだよぉ!!」

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

 

一夏の叫びは誰にも届かない。

ディミオスも。

オルコスも。

こっちの世界で死んだ。

 

 

こうなる事を承知で戦った。

否、自分が戦わせた。

自分が戦わせ、その結果として相棒は死んだ。

 

 

自分が、殺した。

 

 

 

 

 

ドゴォン!!

 

 

 

 

 

その大きな音で、思考の海から一気に引き戻された。

 

 

先程まで横たわっていた深夜が、その巨体を起こしたのだ。

深夜の拘束をしようとしていた白式たちは、如何やらオルコスが刺される前に吹き飛ばされ、他の団員達と同じように戦闘不能になってしまったようだ。

一夏からだと、横たわって動けなくなっているまでしか分からず、生死は不明だった。

 

 

ズシン!ズシン!ズシン!ズシン!

 

 

その巨体を揺らしながら、深夜が近付いて来る。

生気の無い目と、3つの機械の竜が一夏の事を見下ろしている。

 

 

「そうだ…俺が殺した…でも……」

 

 

一夏はその場に俯いたままそう呟くと、ぐるりんと首を回し、深夜を見る。

 

 

「お前達が悪い」

 

 

もうドラゴンフォースも、煉獄騎士の鎧も無い一夏はただの人間。

もはや出来る事など、無い。

それでも。

一夏は怒りに我を忘れ…………

 

 

 

 

 

 

る寸前。

一夏の視界は瓦礫とあるものを捉えた。

それは吹き飛ばれる前まで持っていたもので、紛失していた……

 

 

動きを止めた隙を付き、一夏の事を踏む潰さんと言わんばかりに深夜が巨大な足を振り上げた。

その瞬間。

一夏が見つけた()()が、勝手に動き出し生身の深夜の部分に向かって飛んでいった。

 

 

「がぁあ!?」

 

 

急な意識外からの攻撃に思わず深夜は中断。

バランスを崩し、転倒しそうになりなんとか堪えようとする。

なんとか一夏は脱出し、出来るだけ深夜から距離を取る。

 

 

はぁはぁと荒れている息を整えようとしていると、深夜に攻撃を仕掛けた()()が一夏の目の前に突き刺さった。

 

 

「エクスピアソード……」

 

 

呆然と呟く一夏。

その脳裏に、自然とある光景が思い起こされた。

それは、あの時……人間ではあり得ない程の発熱を起こしたあの時。

ヒーローWでメンジョーはかせに診察をしてもらった時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、説明しようか…一夏君、君は……」

 

 

一夏の目の前に座るメンジョーはかせ。

固唾を呑んで言葉を待つ一夏。

 

 

そうして、メンジョ―はかせは言葉を発する。

一夏の、身体の事についてを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「徐々にだが、身体が人間のものでは無くなり、バディモンスターのものになっている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…?」

 

 

その言葉を聞いた一夏は、呆然とそう呟いた。

 

 

「は、ははははは…は、博士、冗談が……」

 

 

一夏のその言葉は、途中で途切れた。

メンジョ―はかせの表情から、冗談ではないと分からされたから。

一夏の口元は震えており、表情も良いものとは言えない。

 

 

『マスター…』

 

 

「い、何時から…なんですか?」

 

 

白式の声掛けを無視して。

一夏は震える口でなんとかそう呟いた。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

体調は回復しているのにも関わらず、一夏の呼吸は荒い。

その眼には、驚愕と不安、そして不安が見えていた。

 

 

「やっぱりか…」

 

 

そんな一夏の様子を見たメンジョ―はかせは小声でそう呟くと、説明を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何時から、と言われると、最初から、と言うしかない」

 

 

「最初…から?」

 

 

「ああ。一夏君、君はディミオスと出会ったばかりの頃、ダークネスドラゴンWで生活していた。食事を含め、ね。ダークネスドラゴンWの食事は人間が口にする事を考慮されていない。いわば、モンスター専用なんだ。それを長期間接種し続けた事によって、身体が食事に適応していった。その結果として、身体の細胞が人間のものからモンスターのものに置き換わっていったんだ」

 

 

「そん、な、こと、が……」

 

 

「信じられないが、そうだとしか言いようが無い。君の発熱は、一種の拒絶反応に近い」

 

 

「拒絶、反応……」

 

 

はかせの言葉に、一夏は呆然とした返事をする事しか出来ない。

それを見ながら、はかせは説明を続ける。

 

 

「とはいっても…食事を摂取しただけでは、拒絶反応が出るほどの変化は起こらない…ザックリ言うのなら、変化の為の基盤が出来ていた程度だ。恐らく、拒絶反応が出る前に一夏君が寿命を迎えていたはずだ。」

 

 

「なら、なん、で……」

 

 

「……数か月前、君は刺され意識不明になった。その時、ダークコア内に居る白式と白騎士に…ISコアに身体を治療してもらった。ダークコアのエネルギーを使用して」

 

 

「…はい……」

 

 

「君のダークコアは正規品ではない、煉獄騎士団の魔力で再現された品だ。そんな魔力の塊のエネルギーを利用し、大きく欠損した身体を修復した」

 

 

「っ!つま、り……」

 

 

ここまで言えば、一夏でも分かった。

要は、あの臨海学校で深夜に刺された時に負った傷は。

魔力によって治療されたものだと。

そして。

 

 

「君の身体はその時、大量の魔力を取り込んだ。変化の基盤が出来つつあった所にね。その結果、君の身体は一気にモンスターへと変化してしまい…今こうして拒絶反応が出てしまっている」

 

 

「……」

 

 

その事実が、中々受け入れがたくて。

一夏は暫くの間言葉を発する事が出来なかった。

数舜後、一夏はゆっくりと口を開いた。

 

 

「俺は、今後どうなるんですか……?」

 

 

「モンスター化が進行するのは間違いない。となると恐らく、今後拒絶反応の症状が重くなったり、頻度が多くなったりする可能性が高い。メリット…って言って良いのか分かんないけど、身体能力は上昇すると予想される」

 

 

一夏の顔色は非常に良くない。

それでも、最後まで言わなければならない。

 

 

「……完全にモンスターになってしまえば、拒絶反応は起こらなくなる。ただ、自然進行に任せているとますます苦しくなる。だから…どうにもできない程苦しくなったら、こっちで進行を促進させるって手もある」

 

 

《どうやってだ?》

 

 

ここまでずっと黙っていたオルコスが口を開いた。

はかせはオルコスの方を向きながら説明を続ける。

 

 

「それは簡単。また魔力を身体に取り込めばいい。例えば…エクスピアソードとかをね」

 

 

一夏はそのやり取りを、何故か遠くの方で聞いていた。

 

 

そしてこの後、研究所の外で一夏とオルコスは会話をし、バルソレイユからドラゴンフォースの力を授かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……」

 

 

一夏は無言でエクスピアソードを掴み、それを支えに立ち上がると、音を立てながら引き抜く。

 

 

「がぁあああああ!!」

 

 

バランスを崩していた深夜がなんとか態勢を立て直すと、咆哮をあげる。

それを冷めた目で見ながら、一夏はエクスピアソードを掲げる。

 

 

「もう、良いぜ。お前を…お前ら亡国企業を如何にか出来るんなら……」

 

 

一夏はエクスピアソードを両手で掴み、その切っ先を自分に向ける。

エクスピアソードは、ダークコアデッキケースと同じく煉獄騎士団によって造られたもの。

つまり、魔力の塊だ。

 

 

息を吸い、一気に吐く。

 

 

 

 

 

「人間なんてやめてやらぁあああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

その叫びと共に、一夏は自分にエクスピアソードを突き刺した。

 

 

 

 

 

「ぐぅうううう!?がぁあああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

刺した箇所からは、血が噴き出ない。

その変わり、刺した箇所からはディミオスやオルコスが死んだ時と同じような、紫の粒子が勢いよく噴き出ていた。

 

 

「がぁあ!あああ!!あああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

紫の粒子が一夏の足元に集まり、大きな魔法陣を作っていく。

それと同時、一夏の髪や肌が白く染まっていく。

それは色が抜け落ちたのではなく、元から白であったかのように白くなっていく。

 

 

「がぁあ!?」

 

 

急な一夏の行動に、深夜が驚いたような声を発する。

 

 

一夏はエクスピアソードを更に奥へと差し込む。

背中側に貫通することなく、一夏の身体に取り込まれていく。

 

 

「ああああああ!!!!!」

 

 

最後の一押しで、完全に一夏の身体の中に入った。

足元の魔法陣からバチバチと電撃と火花が散る。

 

 

《がぁあ!がぁあああああああああああああ!!!!!!!!!》

 

 

最後の一番大きな叫び声をあげると、魔法陣からエネルギーが漏れ出す。

エネルギーはドーム状となり、一夏の事を包み込む。

 

 

ザンッ!

 

 

そのドームから翼が出て来る。

一瞬後、剣と尻尾もドームを突き破るように姿を現し、中にいる一夏がドームを払うように身体を動かすと、ドームは霧散した。

 

 

その中から出て来たのは、人間では無かった。

ディミオスやオルコスに似た外見のドラゴン。

身に纏う鎧は、ディミオスの黒でもオルコスの青でもなく、酸化しかけた人間の血液のような暗赤色。

差し色の金もどこかくすんでおり、背中には光を一切反射しない漆黒どころか暗黒のマント。

 

 

「がぁあああああ!!」

 

 

深夜が咆哮をあげ、ドラゴンの事を踏みつぶさんと行動に移す…その直前。

 

 

《……》

 

 

そのドラゴンは無言のまま地面を蹴ると、攻撃モーションに移行する直前の一瞬の隙を付き、胸部の深夜に肉薄する。

 

 

《ハァアアアア!!》

 

 

その手に持つ剣を、深夜と機体の隙間に差し込んだ。

いや、無理矢理ねじ込んだ。

 

 

「ぎゃあ!?」

 

 

深夜が悲鳴を上げるが、ドラゴンにとってはそんなもの微塵も関係ない。

そのまま剣を捻り隙間をこじ開けると、深夜の首根っこを掴み機械の竜から無理矢理引きずり出した。

 

 

バチバチバチバチ!!

 

 

ガッシャアアアアアアアアン!!

 

 

その瞬間に、機械竜が火花を散らしながら地面に倒れ込む。

引きずり出した深夜を地面に寝っ転がしたドラゴンは、そこで違和感に気が付いた。

深夜が露出していたのは、肩から上。

それより下の身体は、失踪する前を除いたら初めて見るのだ。

 

 

《これは……機械……?》

 

 

ドラゴンが呆然とそう呟いた。

そう、深夜の肩から下はどう考えても機械であり、深夜が肉体に改造を受けているのは明らかだった。

 

 

《これはいったい……》

 

 

ドラゴンが思考を巡らせようとしたその瞬間。

悪寒が走った。

バッと地面を蹴りその場から跳躍する。

その瞬間に、さっきまでドラゴンが立っていた箇所に銃弾がめり込んだ。

 

 

遠くに着地したドラゴンは、深夜が倒れていた方向を向く。

するとそこには、先程まで存在していなかった人物が立っていた。

 

 

30代後半といった風貌の男性で、白衣を着用し、その手には拳銃を握っている。

その拳銃で先程の弾丸を撃ち出したのは明らかだが、弾丸の威力と拳銃の大きさがどう考えてもつり合わない。

何かしらの改造を施しているか、1からのハンドメイドなのはほぼ確定だろう。

ISとかいうトンデモ発明が存在しているのだから、そんな事あり得ないと言えないのだ。

 

 

《誰だ、貴様……》

 

 

「ん~~?化け物の生みの親…かな?」

 

 

剣を切っ先を向けられながらも、白衣の男性は飄々とした態度で答える。

「化け物の生みの親」

その言葉に聞き覚えがあった。

 

 

《貴様、京都で……》

 

 

「ああ、そういえば確かにその時にも言った。覚えてたのか、織斑一夏」

 

 

《っ……》

 

 

同じく飄々としながらも、ドラゴンに対しその名を告げると、ドラゴン…一夏は言葉に詰まる。

少なくとも、今の外見からドラゴンが織斑一夏であるという事は分からない筈。

つまり、この白衣の男性は一夏が人間としての姿をしていた頃から見ていたという事になる。

 

 

どんな立場なのかは微塵も分からないが、今は深夜をかばうように立っているあたり、深夜側の人間…引いては襲撃者側の人間だと予想される。

だけれども、何故か一夏が人間の頃から見ていると推測されるのに、深夜が倒されるまでは微塵も姿を現さなかった。

 

 

《貴様…何者だ?》

 

 

改めて問われ、白衣の男性は思考する。

 

 

(フム……予定より少し遅れているな……情報は惜しいが、何よりも確実な帰還の方が最優先か)

 

 

数舜後、しびれを切らした一夏が剣を振るおうとした時、口を開いた。

 

 

「私は、亡国企業の研究者。この2人目の改造をしたのも私だし、とある細胞を培養し、実験中だったISに寄生させたり、そこからブレードを作ったり、なんかの残骸で無理矢理に無人機を作ったのも、エクスカリバーの改造をしたのも、私だ」

 

 

《貴様……!!》

 

 

今年に入ってからの事件。

どう考えてもバディワールドからの流出品が悪用されていたが、それを行っていたのが全て目の前の男だとは。

沸々と湧いてきた怒りに、一夏が今すぐにでも飛び掛からん勢いなのを見て、男は時間を確認しながら次の言葉を発する。

 

 

「……なぁ織斑一夏、私は化け物の生みの親だと言ったな。それはなんの事だと思う?」

 

 

《なに……》

 

 

急な話題転換、そしてずっと気になっている事を言われ、動きを止める一夏。

京都の際、化け物は深夜の事を言っている場合ではないというのは聞いているが、だからといって他の候補が思い浮かぶ訳では無い。

 

 

「時に織斑一夏、君の……いや、君と織斑千冬の出生であるプロジェクト・モザイカ……別名の織斑計画の「織斑」って、何処から来てるんだろうな?」

 

 

プロジェクトと計画は、只の英語と日本語の違いしかないが、モザイカと織斑は=で成立する単語ではない。

だがしかし、今の一夏にとってそんな違和感考えている余裕が無かった。

 

 

《貴様、何故をそれを知っている……!!》

 

 

目の前の男はハッキリといった。

一夏と千冬の出生である織斑計画と。

この計画は束の出現で中断され、記録は末梢されている筈。

外部の人間がそう簡単に認識出来る訳……

 

 

そこまで考えて、一夏はとある考えに思い付いた。

何故化け物の意味を問うてから、その話題を出したのか。

 

 

《もしや、貴様……》

 

 

その呟きを聞き、男はニヤリを口をゆがめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑計画の主任は私……そして、「織斑」は私の苗字だよ、化け物君」

 

 

《な、に…………》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信じられないと言わんばかりの表情でそう呟く一夏。

 

 

《俺が、化け物だと……》

 

 

「ん?何か間違った事を言ったかね?人為的に造られた命で、男なのにISを動かし、今人間じゃなくなったんだから、化け物以外なんと形容すればいいというのだね?」

 

 

《っ……!?》

 

 

その言葉をきいた瞬間、一夏は思わず自分の左手を見つめる。

人間のものでもないその手を。

 

 

「お前は良く分からん奴をバディとかなんとか呼んでたが…果たしてお前以外はどうかな?」

 

 

《何を……言っている……》

 

 

「そのままだが?お前の友人や恋人は、果たしてお前の事を受け入れるかな?人間じゃなくなったお前を。全員が全員、お前と同じ価値観じゃないんだ……拒絶されるかもなぁ、織斑一夏」

 

 

《っ!?それ、は…………》

 

 

その言葉に、一夏は何も返せなかった。

想像してしまった。

友人達に拒絶される光景を。

家族に拒絶される光景を。

何よりも大切な恋人……クラリッサとチェルシーに拒絶される光景を。

 

 

そんな一夏を見て白衣の男……織斑はニヤリを笑みを浮かべる。

 

 

「やっと来たか……コイツは回収させてもらうよ。じゃあね、化け物君、私の子供よ」

 

 

白衣のポケットに手を突っ込み、何かを取り出しながらそう告げる。

一夏が何か反応する前に織斑がその何かを地面に叩きつけると、

 

カッ!!

 

と激しい光が視界を奪う。

 

 

《くぅ……!?》

 

 

思わず視界を覆う一夏。

 

 

「まったく、遅いぞ」

 

 

「申し訳ありませんでした!」

 

 

そんな会話が何処か遠くの方で聞こえる。

光りが止み、漸く視界が確保出来たその時にはもう、織斑も深夜もいなくなっていた。

 

 

《なに!?》

 

 

バッと深夜が抜けた機械竜が横たわっていた場所を見、そこに何もない事を確認。

よくよく周囲を見てみれば、煉獄騎士団が倒し、横たわっていた襲撃者達も姿を消していた。

如何やら先程の織斑じゃない声は、回収班だったようだ。

 

 

こうなってはもう、追う事は出来ない。

 

 

《ぐ、ぅぅううう……」

 

 

体力の限界が来たのと、高まって来た緊張が切れ、一夏はその場に蹲る。

その時、半場無意識にドラゴンだった身体を、角王達のように人間の姿に変える。

 

 

先程ぶりの人間の身体。

だけれども、視界に移る手や髪が明らかに白く、先程まで感じていた苦しさは何もなく、身体の内側に感じる何か大きな力が、自分が人間ではなくモンスターになった事をありありと主張していた。

 

 

「そう、か、俺は、遂に……」

 

 

呆然とした様子でそう呟く一夏。

脳裏に浮かんでいるのは、先程の織斑の言葉と想像してしまった最悪の光景。

 

 

「っ……駄目だ駄目だ、先ずみんなをはかせの所に……」

 

 

気絶してしまっている、煉獄騎士団を1人でヒーローWのはかせの所に運ぶ。

不調の最大の原因だった拒絶反応が無くなったので、体調は万全だ。

そこまで時間を掛けず、しっかりと全員の搬送を終え、いったん学園に戻ってきた。

 

 

穴の開いたオルコスのバディカードを見ながら暫くの間呆然と立っていた。

頭の中でぐるぐると最悪の光景の想像と、亡国企業への怒りが渦巻いている。

 

 

バディカードを仕舞い、頭を押さえ足を引きずり俯きながらふらふらとした足取りで歩き始める。

何故歩き始めたのか、自分でも良く分かってない。

多分、ずっと立っているのが疲れたとか、そんな理由だったと思う。

 

 

暫くフラフラとさまよっていると、不意に人間の声が聞こえた。

 

 

「い、一夏…?」

 

 

「その、肌と髪は…?」

 

 

「っ……!?」

 

 

それは、宇宙で戦っている筈の恋人のもので……

反射的に声の聞こえてきた方向を向くと、そこには恋人の他にも家族や友人達も揃っていて……

 

 

「う、あ、うわぁああああああああああああああああああああ!!」

 

 

拒絶される想像が頭からこびり付いて離れなかった一夏は半狂乱に陥ると、エクスピアソードを出現させ斬撃を地面に叩き付け土煙を発生させた。

みんなが驚いている隙に、ダークネスドラゴンWへのゲートを開くと、聞こえて来る制止を振り切って身を滑り込ませ、急いでゲートを閉じたのだった。

 

 


 

 

「って感じかなぁ」

 

 

『……』

 

 

場面は戻り、現在、ドイツの廃倉庫前。

全てを話し終えた一夏はあっけらかんとしていたが、千冬達は何も言えなかった。

 

 

あまりにも情報密度の高い説明。

そして、嘘だと笑い飛ばしてしまいたくなるほどの情報密度。

言葉を失ってしまうのも、また当然だった。

特に楯無を始めとした一夏の事情を知らなかった組は、先程説明を受けたばっかりだ。

脳の処理が追いついてない。

 

 

ザ――――――――――――――

 

 

話し始めた当初から振っている雨は、今もなお降り続いているどころか、雨脚はドンドン強くなっている。

 

 

「あ、あはは……いっくん、お話、作るの、上手になったね…」

 

 

一夏が話し終えてどれくらいたったのかは分からないが、漸く束が口を開いた。

だがしかし、何時ものハイテンションはなりを潜め、困惑と信じたくないという思いが隠し切れない様子だった。

 

 

「主任、あなたには俺がこんな時に嘘をつくような奴に見えるんですか?」

 

 

そんな束に、何処までも冷めたような目で見る一夏。

 

 

「い、いや、あの、その!」

 

 

「まぁ、分かりますよ。目の前に立って普通に話してる奴が人間じゃないと信じられないことくらい」

 

 

そういが否や、一夏は身に纏っているボロボロの黒い外套の懐を探り、あるものを取り出す。

それは、非常によく手入れされているサバイバルナイフ。

取り出したナイフを一夏は逆手持ちすると、開いた左手に振り下ろす。

 

 

「一夏っ!?」

 

 

「待って!!」

 

 

クラリッサとチェルシーの言葉はもう遅く、サバイバルナイフは一夏の左手を散らぬき、勢いよく血液が吹き出す。

その瞬間、全員の表情が驚きで統一されることになる。

 

 

ドクドクと流れ出て、一夏の手や地面を染める血液。

その色は、みなが想像する赤ではなく、青白いもの。

クラリッサとチェルシーと千冬とマドカには見覚えのあるその色は、一夏が人間でない事の何よりの証明だった。

 

 

「そんな反応になるか…」

 

 

一夏はナイフを引き抜き、そこらへんに捨てる。

 

 

『……』

 

 

そこから暫くの間、また無言が場を支配する。

いろいろ一夏に話したい事があったはずなのに。

何も出てこない。

 

 

「じゃ、俺はそろそろ行くわ」

 

 

唐突にそう呟いた一夏。

言うや否や地面を蹴り跳躍し、先程まで座っていた廃倉庫の天井に着地した。

 

 

「い、一夏!待って!」

 

 

本当にこのまま去ってしまいそうな雰囲気を感じ、チェルシーが慌てて制止する。

迷うようなそぶりを見せた後、立ち止まり、こちらを見下ろす。

 

 

「何か、用か?」

 

 

「い、一夏!そろそろ行くって、何処にだ!?一緒に帰ろう!」

 

 

一夏の何処までも冷たい目に若干恐怖を抱きながらも、クラリッサが必死に訴える。

 

 

「ああ、そうだそうだ、説明が長くてすっかり忘れていた……」

 

 

そんなクラリッサの訴えに反応することなく、一夏は一人でブツブツとそう呟いた後、口を開く。

 

 

「今日をもって、俺はIS学園を抜ける」

 

 

『……え?』

 

 

一夏のその言葉に、全員が同時にそう呟く事しか出来なかった。

そんな千冬達を無視し、一夏は言葉を続ける。

 

 

「ああ、安心して良いですよ…亡国企業と戦う際は手を貸しますから…あと、アンタらの許可取らずに勝手に戦い始めますけど、今言ったから特に問題無いですよね」

 

 

有無を言わさぬ形で言う一夏。

 

 

「え、あ、い、一夏……」

 

 

誰かがそう呟いた。

 

 

「もう、俺は織斑一夏じゃ無い…エクスピアソード・ドラゴンだ」

 

 

もう話す事は無いと言わんばかりに、エクスピアは千冬達に背中を向ける。

そして1歩踏み出した時、

 

 

「一夏!待って!一夏ぁ!!」

 

 

「お願い!もっとちゃんと話をして!一夏ぁ!!」

 

 

クラリッサとチェルシーが泣きながら一夏に訴える。

声色で泣いている事を察したのか、流石にエクスピアは足を止める。

 

 

「クラリッサ…チェルシー…」

 

 

 

 

 

「ごめん」

 

 

その言葉を告げ、こちらを見る事も、こちらが言葉を掛ける間も待たずエクスピアは一気に遠くに跳躍した。

 

 

「「一夏ぁああああああ!!」」

 

 

ザ――――――――――――――

 

 

今だに強い雨が降りしきる中、2人の叫びが辺りに響く。

 

 

こうして、こちらの伝えたい思いも伝えられないまま、そして一夏の胸の内も聞けないまま、織斑一夏は……エクスピアソード・ドラゴンは姿を消したのだった…………

 

 

 

 




煉獄騎士団を継ぎし者 エクスピアソード・ドラゴン

ドラゴンW/ダークネスドラゴンW
サイズ2
攻撃力15000
防御力1000
打撃力2
武装騎竜/白竜

■【コールコスト】ゲージ1を払い、君のデッキの上から1枚をソウルに入れる。
■君の場のカード名に「煉獄騎士団」を含む《武装騎竜》全ては、相手の効果で破壊されず手札に戻されず能力を無効化されずレストされない。
■君の場、手札のサイズ1以下の《武装騎竜》が効果で破壊された場合、1枚ドローする。
■【対抗】【起動】このカード以外の君の場、手札の《武装騎竜》1枚を破壊してよい。破壊したら、次の3つから1つを選んで使う。
・破壊したカードをこのカードのソウルに入れ、このカードをスタンドする。
・このターン、君の場の《武装騎竜》の攻撃は無効化されず、与えるダメージは0にならず減らない。
・このターン、君が次に受けるダメージを0にする。
『移動』『貫通』『2回攻撃』『ソウルガード』

フレーバーテキスト
相棒を失った騎士は、煉獄へとその身を堕とす

イラストイメージ
ディミオスやオルコスとほぼ同じ外見。
人間の血液のような暗赤色に何処かくすんだような金の差し色、光を一切反射しない黒いマント。
「魂の渇きを血で潤して」と似たような荒野の崖に立っており、剣を肩に担いでいて、マントが風になびいている。

究極レアver.フレーバーテキスト
「たとえ人間じゃなくなったとしても……お前を倒す!!ああああああああ!!!!」

究極レアver.イラストイメージ
半分黒髪、半分白髪でオッドアイの一夏が叫びながら自分の胸に剣を突き刺している。
その背後で、紫色のエネルギー体のようなエクスピアソード・ドラゴンが咆哮をあげている。



~~~

はてさて、このあといったいどうなってしまうのやら……


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貫ク魔道、モウ戻レナイ

うぉおお!!
久しぶりの一週間後の投稿だぁ!!
何時もお待たせしてすいませぇぇぇん!!


三人称side

 

 

ドガァアアアアン!!ドガァアアアアアアアアアアアン!!!!

 

 

「ひ、ひぃ!?な、何が起こっているというのよ!?」

 

 

「わ、分かりません!ただ恐らく、何者かによる襲撃だと!!」

 

 

「使えないわね!このっ!」

 

 

女性権利団体の研究施設。

団体のトップが視察に来たタイミングで、急に爆発が起きた。

焦るトップは部下を殴りながら、必死に避難を試みるも、先の爆発で通路が塞がれてしまい脱出は非常に困難だ。

急いで別の脱出ルートに向かう。

 

 

「あ、IS、ISはどうなってるのよ!?」

 

 

女性権利団体は、ISの登場以降発足した団体で、ISを神格化しそれに乗れる女性が乗れない男性よりも上だと主張して今の女尊男卑を作り出した。

世の中の風潮のおおもとだという、よく分からない理由でIS学園に勝るとも劣らない程のISを所有しているのだ。

その為、トップがISを確認するのも当然だろう。

 

 

「それが…その…もう既に出撃しましたが……全部隊と連絡が取れなくなりまして……」

 

 

「は?」

 

 

部下の言った事が信じられず、思わず立ち止まってトップが聞き返す。

 

 

「どういう事!?」

 

 

「そ、そのままです!うちに残っている全ISが戦闘を開始しましたが、全部隊と連絡が取れません!」

 

 

その言葉を聞いたトップは、信じられないと言わんばかりの表情を浮かべた後、プルプルと怒りの表情を浮かべる。

 

 

「何を言ってるの!?神聖なISを使用して、負ける訳が無いじゃない!!」

 

 

女性権利団体にとって、ISは世界の中心でなくてはならず、現存する兵器のトップでなくてはならない。

何故なら、ISが世界の中心で全兵器トップであるからこそ、今自分達はこうして活動出来ていて、女尊男卑の世界を形成出来ているのだから

 

 

たった1度でも負けてしまえば、それは瓦解すると言って良い。

だからこそ、認められないのだ。

ISが負けるという事実を。

 

 

「そ、そうよ!襲撃者もISを使ってたんでしょう!?千冬様のような実力者がそう何人もいるとは思えないけれど、それなら納得がいくわ!!」

 

 

千冬本人が聞いたら、拒絶反応レベルで気分を害するであろう言葉を発する。

だが、その言葉は部下に向かって言ったというよりも、自分に言い聞かせているようだ。

 

 

「い、いえ、それが…その…ISの反応は、検知されませんでした……」

 

 

だがしかし、現実は無常だ。

 

 

「そ、そんなのありえないじゃない!」

 

 

部下の言葉に、トップが取り乱す。

何故なのだろうか、2人の立場が逆に感じるが、取り乱している方がトップなのは間違いない。

 

 

「ISがIS以外に負けるだなんてこと!!」

 

 

「わ、私も信じられないですよ!こんな事!!」

 

 

トップが取り乱しも取り乱しているからか、先程まである程度は冷静だった部下の方も取り乱し始めた。

だが今はとにかく逃げる事を最優先に必死に走る。

 

 

「此処も埋まってる……!?」

 

 

「まだよ!まだルートDがあるわ!そこから脱出を…」

 

 

《脱出?そんなもの、もう出来ないぞ》

 

 

「「っ!?」」

 

 

不意に聞こえてきたその声は、この場に存在しない筈の第三者のもの。

2人がバッと振り返ると、そこに立っていたのは人間じゃ無かった。

人間の血液のような暗赤色にくすんだ金の鎧と、漆黒のマントを装着した、ドラゴンが、右肩に剣を担ぎながら立っていた。

 

 

「「ヒィ!?」」

 

 

ただでさえパニックに陥っていた2人は、目の前に立つ存在の事を信じられず、もはや思考する能力が欠如したと言ってもいいぐらいには混乱に陥っていた。

背後には瓦礫で埋まった脱出ルート。

目の前には剣を持っている得体の知れないドラゴン。

もう何も出来なかった。

 

 

《フン…人身売買、自分達と同じ思想の政治家の汚職の揉み消し、テロリストへの資金や機材の提供…ここまで真っ黒な事をしておいて、自分達が追い込まれると簡単にパニックになるほどの精神力とは…哀れだな》

 

 

「っ!?アンタ、なんでそれを!?何年も指摘される事すらなかったのに!?」

 

 

《少し踏み込めばゴロゴロ出て来たぞ…なぁ、女性権利団体》

 

 

自分達が裏で行ってきた悪事を言い当てられ、トップは更に焦りだす。

その言動が、ドラゴンの指摘した事が事実であるという事を証明する発言なのだ、それにトップは気が付いていない。

 

 

《さぁ、年貢の納め時って奴だ……》

 

 

ドラゴンは肩に担いでいる剣を2人に向ける。

そのプレッシャーに、部下は耐えられず失禁し気絶した。

だが、トップにはもうその事を気にしている余裕は無い。

 

 

「あ、ISは、ISはどうなったのよ!?」

 

 

《ISはどうなった…だと?》

 

 

「うちに残ってた全部隊が出動したのよ!?ISがIS以外に負けるだなんてありえない!!」

 

 

《……パイロットの心配は無しか。とことんクズな人間だな》

 

 

ドラゴンはそう言いながら剣を持っていない左手で懐を探ると、とあるものを数個取り出す。

 

 

「なっ、それは……!!」

 

 

《襲って来た奴らから回収したISコアだ。パイロットの方も怪我はしてないし死んでもいない。まぁ、精神面までは分からんが》

 

 

「か、返しなさい!それはあなたのような汚らわしい存在が持っていいものではありません!!」

 

 

《汚らわしい?ハッ、汚職まみれで不正まみれの貴様らには言われたくないわ!》

 

 

ドラゴンは思わず憤り、バンッ!と左足で床を強く蹴る。

その衝撃でトップはバランスを崩し床に転倒する。

それでもなお、ドラゴンの持つISコアに手を伸ばす。

 

 

「私たちの…!篠ノ之束博士が私達に与えて下さった……!!」

 

 

《何処までも勘違いしている下衆だな……まぁ、良い。とことん下衆な方が、都合が良い》

 

 

ドラゴンがそう言うと、不意にドラゴンの周囲に紫色のエネルギードームが発生。

ドラゴンの事を包み込んだ。

 

 

「な、な、な……?」

 

 

一瞬後、エネルギーのドームが霧散すると、そこに立っていたのはドラゴンでは無かった。

ボロボロの黒い外套に身を包んだ、1人の少年。

露出しているあらゆる部分が白いなかで、唯一浮いている黄金の瞳が、冷たくトップを見下ろしていた。

 

 

「アンタらには、個人的な恨みがあるんでねぇ」

 

 

「なっ!?織斑一夏!?」

 

 

その顔を見て、声を聞いた時。

トップは心底信じられないと言った表情を浮かべる。

 

 

目の前の男は、神聖なISを汚す存在。

許してはいけない。

 

 

言葉にはしていないものの、態度と表情で考えている事はまるわかりだ。

だが、一夏は無表情で右手を握りこむと、顔の前に持ってくる。

 

 

「今まで散々意味のない仕事送って来やがって……」

 

 

「ヒィ!?」

 

 

ISコアを仕舞った左手でトップの胸ぐらを掴み無理矢理立たせると、

 

 

「歯ぁ食いしばれ!!」

 

 

バキィ!!

 

 

「ふべぇ!?」

 

 

今までのうっぷんを晴らすかのように、全力で殴り掛かった。

トップはその衝撃に耐えられず、気絶して倒れ込んだ。

 

 

一夏は暫くの間、自分の右手を見ていたが、やがてイマイチ気持ちが晴れなかったという表情を浮かべ、倒れ込んだトップから情報端末を取り出す。

指紋認証ロックを解除した後、トップの頭を失禁した部下の排泄物の所に乱雑に置いてから、端末の中を調べ始める。

 

 

「……ちっ、女権からテロ組織への資金横流しは分かってたが…やはりその中に亡国企業も入ってたか。いくら亡国企業が大きなテロ組織だとはいえ、流石にISコア持ちすぎだと思っていたら…まさかこんなところからとはな……」

 

 

ま、深夜の前座扱いだったISのコアは、流石に非正規品だとは思うが、と呟いてから一夏はいったんその場から離れる。

理由は単純、そろそろ排泄物の匂いに耐えられなくなったからだ。

 

 

移動をしながら端末を調べると、ゴロゴロと山のように悪事の証拠が出て来た。

 

 

「よくもまぁ、こんな事をやっておきながら、表でも大々的に活動できるもんだ」

 

 

一夏はそう呟きながら、様々なデータを集めて纏める。

そうして完成したファイルを……

 

 

「これで良し、と」

 

 

SNSに流出させた。

それも1つではなく、様々なSNSに、だ。

 

 

「俺はあの人と違って、完全に身分を隠すのも、逆にネームバリューを使って拡散する事も出来ないからな……これが一番確実で効率がいい」

 

 

女性権利団体のトップの端末を使い、女性権利団体のアカウントで、女性権利団体の悪事の証拠の拡散をする。

可能な限りの投稿を終える。

このネット社会、後は放っておくだけで更に拡散されるだろう。

一夏はそのまま端末を地面に捨て、踏み抜いて破壊すると、同じく壁も蹴り穴をあける。

 

 

「じゃあな、このままつぶれろ女性権利団体」

 

 

最後にそう呟いた一夏は、開けた穴から空へと消えていったのだった。

 

 

~~~~~

 

 

流石のIS学園でも、建物全てが瓦礫になり、島の一部が大きく削れるほどの損害を受けてしまってはそう簡単に再建出来ない。

その為、未だに関係者全員がホテル暮らしを余儀なくされている。

授業自体はなんとか再開できる環境は整っているものの、身一つで避難してきたため、教科書や教材などを学園に置いて来てしまったのだ。

 

 

そして寮も校舎も瓦礫に成り果てた事により、その教材の何もかもが吹き飛んでしまったのだ。

なにか使えるものは無いかと探したものの、本当に何も残っていなかった。

無論、発注はもう既にかけているが、数が数なだけにそう直ぐには発送されず。

結果として今は授業が出来ていないのだ。

 

 

まぁ、教材は発注すれば時間は掛かってしまうが揃えられる。

だが、生徒が自分でまとめて来たノートなどは、また各自で頑張るしかない。

そして1年間の間にしなければいけない授業というのは決まっているので、時間が経過すれば経過するだけ、1回の授業内容で色々と詰め込まないといけなくなってしまう。

 

 

学園の施設復旧よりも、教材の準備をどちらかというと優先しているのはこのためだ。

だがしかし、出来るだけ早い施設復旧が求められる。

ISの登場以降、施工完了まで格段に早くなったとはいえ、IS学園規模の大きさとなると、やはりかなりの時間を要さないといけない。

そして、教材が揃った時用に借りられる仮教室の手配もしておかないといけない。

 

 

それに、各国や各企業への説明や、生徒の心のケアもしないといけない。

やる事は山積みだ。

 

 

そんなこんなでホテルの一室。

借りれている部屋の中で一番大きなこの部屋では現在、教員達が集まり仕事をしていた。

一か所で仕事をした方が、他の教員との情報交換もしやすい為効率が良いと判断した。

 

 

「ねぇちーちゃん?ここはIS学園の職員室(仮)だよね?」

 

 

「ああ、そうだな。学園長を含めた全教員がいるだろ?」

 

 

「うんそうだね。さっき1人出て行った気がしないでもないけど」

 

 

「なにやらホテルにいる我々に荷物が届いたらしい」

 

 

「へぇ~、じゃなくて!何で束さんは此処にいて書類仕事をしてるのかな!?」

 

 

「五月蠅いぞ!私たちだけじゃないんだぞ!!」

 

 

「だってぇ!?」

 

 

そんな状況の中、職員室(仮)に何故か居て、何故か書類仕事をしている束が叫んだ。

何故束が此処に居るのかというと、処理しなければいけない書類が多すぎて発狂しそうになった千冬が、単純作業が滅茶苦茶早い束を捕まえたからだ。

いくら束でも身体能力面では千冬には勝てず、連行されたという訳だ。

宇宙に行く前に、束が『PurgatoryKnights』の開発主任だという事はバラしているし、なんなら今年束はちょこちょこ学園に顔を出していたので、もう良いだろうと千冬は判断したのかもしれない。

 

 

「今回に関しては束さん何もやってないよね!?」

 

 

「ああ、だからさっさと手を動かせ」

 

 

「言いたい事が伝わってない!?裏を読んで!?いや、裏という裏じゃ無かったけどね!?」

 

 

「良いから黙って手を動かせ」

 

 

「ひぃん!!」

 

 

さっき千冬が注意したというのに、2人で騒がしくしている。

周囲の教員からすれば、確かにうるさくてあまり集中できないのだが、2人の…否、束の処理速度が、ガンギマリ集中している自分よりも格段に早いので、文句を言いづらい状態だ。

 

 

まぁ、相手が『織斑千冬』と『篠ノ之束』の時点で文句は非常に言いづらいのだが。

 

 

「まったく……この天才に事務作業押し付けるのは、世界広しと言えどちーちゃんだけだよ」

 

 

「なんだ束、お前からすれば世界は小っちゃいんじゃなかったのか」

 

 

「言葉の綾だよ……それに、仕事が多い多い言ってるけど、臨海学校前後あたりから学園祭前までにかけてのいっくんが一日で処理してた仕事は、ここにいる全員分の仕事とほぼ同じくらいだよ?」

 

 

「っ……」

 

 

『え゛ぇ!?!?』

 

 

束の言葉に、千冬は苦しそうな表情を浮かべながら俯き、それ以外の教員は驚愕の声を同時に発する。

今自分達が手分けしてヒィヒィ言ってる量の仕事を、1人で、1日で、しかも学業や訓練と平行しながらやっていたという事実に、ただただ驚くしか出来なかったのだ。

 

 

そんな中、あの時ドイツで一夏の説明を聞いた組の表情は暗い。

それこそ、自分から話題を出した束でさえも、その話題を出した事を後悔するかのような表情を浮かべていた。

 

 

あの日。

ドイツで一夏から全てを聞いたあの後、暫くの間はクラリッサとチェルシーの泣き声と、強い雨音をBGMに、一夏が消えていった方向を見る事しか出来なかった。

 

 

かなり長い間そうしていたが、雨の中ずっと外に居ると身体に悪いとの事で後ろ髪を引かれながらもホテルに行き、しっかりと身体を温めチェックアウトギリギリまで休息を取り、日本に帰って来た。

 

 

だけれども、全員の顔は曇っていた。

与えられた情報量が多すぎて、中々受け入れにくかった。

だけど、一夏が流した青白い血が、話しが嘘偽りのないものであるという何よりの証拠だった。

 

 

返って来てから、クラリッサとチェルシー、ついでにマドカは生気を無くしたように塞ぎ込んでしまった。

他のメンツも、そこまでではないもののやはり何か思うものがあるようで、何処か元気がない。

 

 

一夏に関しての事は、あの時実際に聞いたメンバー以外に関しては知らせていない。

異世界だとか、モンスターだとか、流石に大々的に言えるわけが無い。

その為、一夏は未だに怪我から回復せず、会社の方で集中治療を受けているというふうな説明がされている。

 

 

因みに、一夏が説明をする際に織斑家の秘密や、スコール達の前職など今まで隠していた事も説明せざるを得なかったのだが、それは受け入れられていた。

というよりも、一夏に関する事が衝撃的過ぎてあまり考えられなかったという事が正しいだろうか。

 

 

先程まで騒がしかった束も静かになり、黙々と作業を開始する。

とはいっても、実を言うと束の発言からはまだ数秒しか経っていないので、他の教員達には雰囲気の変化などはあまり気付かれていない様だ。

まぁ、少々真耶は表情に出やすいところがあるが。

 

 

「えっ!?」

 

 

すると唐突に、真耶が驚きの声を発する。

正直に言って真耶が大声を急に上げる事はよくある事なので、無視して作業しようとすると……

 

 

「み、みなさん!大変です!」

 

 

『っ!?』

 

 

真耶が呼びかけて来た。

作業を直ちに中断、真耶がすぐに発するであろう言葉を聞き逃さないようにする。

まぁ、束は如何でもよさげだが。

 

 

「い、今漢字をド忘れしてしまって、それを検索しようとしたら出てきたんですけど……じょ、女性権利団体が!」

 

 

『?』

 

 

女性権利団体が、ISの登場以降立ち上がった今国連などの機関に次ぐ勢いのある団体だとは知っている。

だけれども、IS学園とは『ISに関連している』という一点以外関係性も何も無い筈。

何故真耶がそこまで驚いているのかが分からない。

 

 

すると、真耶の端末から全員に向けて、画面のスクリーンショットが送られる。

なんだなんだと全員が自分の端末を覗き込み……驚愕の表情を浮かべる。

何故ならば、

 

 

女性権利団体の悪事の証拠が、何故か女性権利団体トップのアカウントから流出しているからだ。

 

 

「え、な、え……?」

 

 

「これは、いったい……?」

 

 

正直に言って、IS学園側は女性権利団体に良い思いを持っていない。

だけれども、これは流石に困惑せざるを得ない。

各々が自分の端末を操作し、もっと情報を収集する。

 

 

如何やら色んなSNSでこのような事が起こっているらしい。

この話題で持ちきりだ。

 

 

「なんでこんな事が……」

 

 

誰かがそう呟いた時、またも事態が一変する。

 

 

「た、大変です!」

 

 

さっきの真耶と同じようなテンションで、先程荷物を受け取りに外に出た教員が戻ってきた。

その手には引っ越しに使うような大きいダンボールを抱えている。

 

 

「どうしました!?」

 

 

「それが、その……これが送られてきまして……」

 

 

もう既に中身を確認したため、空いている箱の中身を見やすいようにする。

そこにあったのは……

 

 

丁寧に梱包材にくるまれた、ISコアだ。

しかも1個ではなく、大量に。

 

 

『っ!?』

 

 

「えっ!?何で!?」

 

 

さっきはなんの反応もしなかった束も、これにはさすが反応した。

すぐさま手を伸ばして1つ取ると、マジマジと観察をする。

 

 

「…うん、間違いない。本物だね。結構無理矢理装甲から剝がされた感じだけど、それ以降はかなり丁寧に扱われてる」

 

 

ISに関して、束以上に詳しい人間などいない。

そんな束が間違いない断言するという事は、この大量のISコアは本物だということになる。

 

 

束は流れるような動きで何処からか検査機を取り出すと、ISコアをセットし解析を始める。

 

 

「……ねぇちーちゃん、この番号女権のだよね?」

 

 

「何っ!?……ああ、そうだな。この番号は、女性権利団体に振り分けられているもの……差出人は!?」

 

 

「書いて無いです……というよりも、如何やら宅配便を使わず、自分で持ってきたみたいで、聞いた話によると、黒いボロボロの外套を着てたとか……」

 

 

『……』

 

 

職員室(仮)の中の空気が一気に重たくなる。

 

 

何故か突然SNSで流出した女性権利団体の悪事の証拠。

IS学園に送り付けられた女性権利団体のISコア。

そして、それを持ってきたというボロボロの黒い外套を来た人物。

謎しかない。

 

 

だけれども、千冬達の脳裏にはとある人物が思い浮かんでいた。

ドイツでの説明の際に一夏が着用していたのも、ボロボロの黒い外套だった。

 

 

だが、仮にその人物が一夏だった場合でも、疑問は残る。

何故一夏が女権が持っている筈のISコアを持っていたのか。

今SNSで女権の悪事の証拠が出回っているのと、何か関係があるのか。

 

 

(正直言って、いっくんは異世界に自由に行き来できるっぽいから捜索が難しいけど…やるしかないね)

 

 

覚悟を決めた束は、他に誰にも聞こえないくらいの声量で千冬に話し掛ける。

 

 

「ねぇ、ちーちゃん」

 

 

「なんだ、束」

 

 

「いっくんの事でさ、お願いしたい事があるんだけ「問題ない、やるぞ」わぁお、食い気味ぃ」

 

 

普段だったら、内容も聞かずに束のお願いを了承するなど、普段の千冬だったら考えられない。

いや、内容をしかりと確認しても断る可能性の方が高い。

それでもなお、今千冬は内容を聞く前に即決した。

 

 

千冬にとって一夏は、かけがえのない大切な弟だ。

そして、こんな状況なのだから、一夏に関する事は引き受けよう決めていた。

 

 

なんだかんだいって束はクラリッサとチェルシーの事も気に入っているので、一夏に関して2人の方が適任だと思ったら迷わず2人にお願いをするだろう。

その上でわざわざ自分に頼んで来たのだから、自分にしか出来ない事なのだと、千冬が判断したのもある。

 

 

そうして、送り付けられたISコアの処理までしてたら死んでしまうので束に丸投げをし、各々の作業に戻った。

ただでさえ千冬に無理矢理仕事を手伝わされているのに、ISコアの後処理まで押し付けられた束はぶつくさ文句を言っていたが、誰よりも早く仕事を終わらせるとISコアを持って帰って行った。

 

 

束ならば、上手い事処理して、ISをいい感じに使ってくれる。

普段千冬の言動に関してはあまり信頼をしていない千冬でも、そこだけは信用出来た。

 

 

数日後。

漸く仕事が一段落ついたと思ったら、千冬に束から連絡が来た。

それを確認した千冬は十蔵に許可を取り、束が居る『PurgatoryKnights』に向かったのだった。

 

 

~~~~~

 

 

ドカァアアアアアアン!!ドガドガドガドガァアアアアアアアアアアアアン!!!!

 

 

女性権利団体悪事証拠流出事件から、約一週間後。

とある研究施設。

 

 

この施設の関係者じゃ無かったら、間違ってもたどり着けないであろう場所に、巧妙にカモフラージュされている。

カモフラージュが凄すぎて、どう工夫をしても施設内に太陽光が絶対に入らないであろう事が、外から見ただけで分かる程である。

 

 

そんな厳重なカモフラージュをわざわざしているという事は、外部に漏らしたらマズい内容の研究を行っているという訳で。

ここでは非合法的な研究を数多く行っており、人体実験からIS兵器開発などなど内容は多岐にわたる。

そんな研究施設では今、襲撃を受けてあちらこちらから爆発音が聞こえて来ていた。

 

 

研究データは消去され、非合法な研究をしていたという証拠はネット上に流出した。

 

 

「1個か…まぁ、いい。回収を続ける事が必要だ」

 

 

そんな研究施設の壁に開いた穴から、ボロボロの黒い外套を纏った白髪の人物…一夏が出て来た。

その手には一つISコアを握っている。

 

 

そう、以前女性権利団体相手にやったのと同じ事をしているのだ。

前回と違い、ISコア1個しか無かったものの、この1個が大事なのだ。

 

 

「さて、さっさと行こ」

 

 

一夏がISコアを見ながらつぶやいたその言葉は、途中で止まった。

 

 

「っ……」

 

 

誰かの気配を感じ取ったからだ。

直ぐにISコアを外套に仕舞い、気配の相手が此方に来ても対処できるように構える。

気配の相手は、真っ直ぐこっちに向かって来ている。

迷う素振りも無く、かなり堂々としている。

自らの進む先に何があるのか、しかりと把握しているようだ。

 

 

ここまで考えて、一夏には疑問を感じた。

この研究施設以外何もない場所に、何故こんなにも自信満々に歩いて来ている?

施設の職員かと一瞬考えたが、速攻でその考えを却下した。

 

 

確かに自分達の研究データがどうなったのか気になるだろうから、後で確認には来るだろう。

だがしかし、襲撃にあったその日に、しかも1時間も経っていないのに帰って来る馬鹿は流石にいない。

 

 

(これは直ぐに向こうに行った方が流石に良いか?…そうだな、良し)

 

 

一夏はこの場で迎え撃つよりも、ダークネスドラゴンWへの帰還を急いだほうが良いと判断。

右腕を前に突き出し、ゲートを開こうとする。

その瞬間、

 

 

「随分暴れたようだな、一夏」

 

 

声を掛けられた。

その声は、何度も何度も聞いた事がある声であり、今この場に居るはずの無い人物の声だった。

 

 

「私は、お前をそんな風に育てた覚えは無いぞ」

 

 

「……」

 

 

その人物……千冬は、一夏の前に姿を現す。

ISスーツ姿ではあるが、背中には小さ目のリュックを背負っている。

 

 

「…何の用だ。こんな場所、偶々通りかかったとは言わせないぞ」

 

 

鋭く冷たい目で千冬を見ながら、一夏はそう言葉を発する。

その声は普段の優しい声でも、千冬がだらしなくて怒っている時の声とも違う。

聞くだけで底冷えしてしまうような、恐怖を感じる低い声だった。

 

 

なんだかんだいって、一夏は千冬の事をしっかりと大切な家族として扱ってきた。

だから、怒る事はあっても、殺気だと錯覚するほどの威圧をぶつける事は無かった。

 

 

だけれども、今こうして威圧をぶつけて来ているという事実に。

そして、全身で浴びる威圧感そのものに。

千冬は若干怖気づいてしまうも、直ぐに切り替え細く息を吐く。

 

 

「なぁに、そんなにかっかするな。姉が弟に会いに来て何が悪い」

 

 

千冬は何時もの調子でフッと笑みを漏らす。

 

 

「……IS学園は抜けると伝えたはずだが?」

 

 

「ああ、聞いた。だがな一夏、口頭だけで退学を受理する筈が無いだろう。それにな、仮にお前がIS学園に関係が無くなったとしても…私とマドカがお前の家族だという事には変わりない」

 

 

千冬は一夏の黄金の眼を見ながら、そう宣言する。

 

 

「たとえ、お前が人間じゃ無かったとしても!!」

 

 

それは偽りの無い千冬の本心だった。

一夏がまだ幼い頃から、一夏はずっと自分を支えて来て来てくれた。

人間じゃなくなったからと言って、その心までも変わる訳じゃ無い。

一夏は一夏なのだか、家族なのだ。

 

 

「だから、一夏!帰ろう!まだ、まだ引き返せる!」

 

 

「……」

 

 

千冬の言葉に、一夏は反応しない。

左手で顔の半分を覆いながら、俯いている。

 

 

どれくらいの時が経っただろうか。

少なくとも、5分以上は経ったその時。

 

 

不意に一夏がボソッと呟いた。

 

 

「……れ」

 

 

「ん?」

 

 

あまりにも声量が小さすぎて、千冬は聞き取れなかった。

反射的に聞き返してしまう。

 

 

「黙れぇ!!」

 

 

「っ!?!?」

 

 

一夏は左手の指の隙間から眼を露わにし、千冬の事を睨みながら叫んだ。

その余りに気迫に、千冬は思わず1歩後ずさってしまう。

 

 

「何が、アンタに何が分かる!?」

 

 

「いち、か…?」

 

 

「身体が作り変えられていく経験も!拒絶反応で苦しんだ経験も!周囲の人間から蔑まれた経験も!何もない癖に!!」

 

 

「それ、は……」

 

 

一夏の主張もまた、正しかった。

千冬は今もなお、人間だ。

身体が人間以外に作り変えられる経験と、それに伴う拒絶反応の経験などある筈がない。

 

 

そして、周囲の人間に蔑まれた経験もまた、無かった。

だってそうだろう。

一夏は蔑まれる原因は、他でもない千冬だったのだから。

 

 

一夏は幼少期に、周囲と比べられ蔑まれてきた。

その時の視線が、言葉は。

一夏本人を含めた全員が知らない所で、未だに一夏の胸の奥に絡みついていたのだ。

 

 

仲の良い友人や、大切な恋人と関わった事で、奥深くへと仕舞われ、ガーゼに覆われていた心の傷は。

モンスターになった事、そしてあの時織斑に言われた言葉が突き刺さった事により、再び開いてしまった。

その結果として、あの時ぐるぐると考え込んでしまい、IS学園を離れるという発言に繋がったのだ。

 

 

「もう!放っておいてくれ!!」

 

 

「…それは出来ない」

 

 

それでも、千冬は譲る事が出来ない。

 

 

「お前がどれだけ傷ついてきたのか、私には想像する権利すらないのかもしれない…だが」

 

 

ここで千冬は深呼吸すると、カッと両目を見開く。

 

 

「私はお前の姉だ!!」

 

 

千冬はその発言と同時、背負っていたリュックを放り捨てると暮桜・明星を展開する。

 

 

「一夏!殴り合ってでも、お前を連れて帰る!」

 

 

それを見た一夏は顔を覆ったままだった左手で髪をぐしゃりと握る。

 

 

「受けて立ってやるよ…ブリュンヒルデぇ!!》

 

 

千冬の事を睨みながら叫ぶと、一夏の周囲にエネルギードームが発生。

それが晴れた時、一夏の身体は人間からドラゴンのものに変わっていた。

 

 

「お前と戦うのは、入学前以来だな……あの時つかなかった決着を、今つけてやる!」

 

 

《フン!世界最強に、負け星を付けてやる!!》

 

 

そう叫び合った後、千冬とエクスピアは同時に動き出すと、互いの得物をぶつけ合う。

 

 

ガァアアアアン!!

 

 

周囲に、得物がぶつかり合った音が響く。

こうして世界最強と煉獄の竜の戦いが始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エクスピアは知らなかった。

実は、周囲を視認も出来ないくらい小さい束特性のマイク付き浮遊カメラが囲んでいる事を。

そして、そのカメラで撮られた映像と音声は、束経由でクラリッサとチェルシーを始めとした専用機持ち達に届いている事を。

 

 

 



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世界最強ト煉獄ノ竜ノ戦イ

ま~た間が開きやがったよコイツ…
連載3つの内2つを実質ほぼ更新停止しておきながらこれかよ。
だらしねぇ。

頑張りまぁす!!


三人称side

 

 

「「……」」

 

 

IS学園の生徒や教師が宿泊しているホテルの一室。

昼だというのにカーテンを閉め切り、部屋の電気も付けられていないこの部屋には、2人の人物がいた。

 

 

クラリッサとチェルシーである。

何時もの2人は軍服とメイド服をかっちりと着用し、身だしなみにも気を使っているが、今現在の2人は普段の様子からは想像できない程に荒れていた。

 

 

碌に手入れされずボサボサでバサバサな髪。

何度も泣き、後が残り真っ赤に晴れた両目。

もうメンタルがボロボロなのが一目見て分かるほどだ。

 

 

部屋の中も中々に酷い状態で、衣服などが脱ぎ捨てられていたりする。

軍人やメイドとしての立場に一種の誇りを持っている2人は、普段から私生活でも衛生面などに気を配っているので、かなり異常な事だ。

 

 

2人がこうなってしまった原因はたった1つ。

そう、一夏だ。

 

 

あのドイツで会話した日。

最後まで2人は必死に一夏を説得した。

 

待って。行かないで。もっと話をして。

 

その訴えは確実に一夏に聞こえていたはずなのに、一夏は「ごめん」とだけ言い残し、去ってしまった。

明確に言葉にされた訳では無いのに。

その『拒絶』は2人に深々と突き刺さってしまったのだ。

 

 

無論、2人とてこんなに塞ぎ込んでいる場合じゃ無いのは理解している。

IS学園の教師陣が職員室(仮)に半ば缶詰め状態になりながら仕事をしていたり。

教材が無くなってしまった生徒達は、今ネットを使って出来る範囲の勉強を再開していたり。

各々がやれることをしているのだ。

 

 

そんな状況なのに、こんなメンタル状態になってしまっていると考えると、ますます自分が惨めに感じてしまうという、悪循環に陥っている。

 

 

その悪循環の中で2人が実感したのは、自分達の中で織斑一夏という存在がかなり大きなものになっていた事だ。

 

一夏と恋人になる前ならば。

一夏と触れ合う前ならば。

一夏と出会う前ならば。

 

自分がこんな事になるだなんて、想像すら出来なかった。

 

 

今日、朝起きてからどのくらいが経ったのだろうか。

どんな状態になっても、お腹は空いて来る。

という事は、一応まだ食欲が残っているという事で。

自分達がまだ生きているという事を知らせて来る。

 

 

起きてから水しか口にしていないし、そもそも前回食事を摂ったのが何時だったのかすらも覚えていない。

流石にこれ以上食べなかったら死んでしまう。

そろそろ食事を取りに行こうと、クラリッサが立ち上がった時。

 

 

ドタドタドタドタ!!

 

 

と、部屋の外から走る音が聞こえてきた。

何事だろうと2人が同時に首を傾げると。

 

 

ガチャ

 

バァン!!

 

 

「「たのもぉ!!」

 

 

「「うひゃあ!?」

 

 

何故か鍵が開き、勢いよく扉が開かれた。

それと同時、手に出来合い弁当を2個持ったラウラと、ペットボトルやタオルなどが入った籠を持ったセシリアが部屋の中に突入してきた。

 

 

しかも、何故か背中に赤で「祭」と書いてある青い法被を着用し、頭にはねじり鉢巻きを巻いている。

季節感とか、セリフとか、色々間違っている。

が、様にはなっている。

 

 

クラリッサとチェルシーは突如として2人が部屋にやって来たという事と、上記の事で驚き混乱し、動きを止めてしまう。

 

 

「確保ぉ!」

 

 

「わひゃ!?隊長、何を!?」

 

 

「ムム!如何やら碌にシャワーも浴びてないようですわよ!!」

 

 

「お嬢様!?確かに事実ですけど、そんな大きな声で言わないで下さい!!」

 

 

「それは一大事だ!すぐさま身体を洗うぞ!」

 

 

「了解ですわ!!」

 

 

「「ま、待ってぇ!!」」

 

 

ラウラとセシリアよりも、クラリッサとチェルシーの方が身長も上だし体格も上だ。

その為、普段ならクラリッサとチェルシーがラウラとセシリアに引きずられていくなんてことはありえない。

 

 

だが、今回メンタル面で参っていた事、あの日以来動いていなかった為鈍ってしまっていた事、あまりにも急すぎる行動だった事。

この3つの要因が重なった結果。

部屋備え付けのシャワーにズルズルと引きずられていった。

 

 

約1時間後。

久しぶりにシャワーを浴びてさっぱりした2人は、暫くぶりに開け放たれたカーテンから陽光が照らし、しっかりと掃除された室内で食事を摂り終えた。

 

 

「え、あの、その、隊長?どうなさいましたか?」

 

 

「お、お嬢様?何か言いたい事があったら、遠慮なく…」

 

 

その直後から、ラウラとセシリア2人して仁王立ちしながら無言でクラリッサとチェルシーの事を見ており。

雰囲気にのまれたクラリッサとチェルシーは無意識のうちに正座になり、2人の事を見上げる形になりながら表情を伺っていた。

 

 

「…クラリッサ」

 

 

「はい」

 

 

「チェルシー」

 

 

「はい」

 

 

どれくらいそうしていただろうか。

唐突にラウラがクラリッサを、セシリアがチェルシーの事を呼ぶ。

2人が反射的に返事をすると、語り始める。

 

 

「何時まで、こうしているつもりだ?」

 

 

「こんな事している場合じゃ無いのは、2人とも分かっているのでしょう?」

 

 

「「っ……」」

 

 

ついさっきまでぐるぐると考え込んでいた原因をズバリと言い当てられ、2人は言葉を詰まらせる。

どう返答して良いのか分からずにもごもごしていると、ラウラとセシリアは続きを話す。

 

 

「…やはり一夏さんの事ですよね?『一夏に拒絶された』とか、考えているのではありませんこと?」

 

 

「他には『自分達の中で一夏の存在がこれほどまでに大きい存在だったなんて』とかか?」

 

 

「「っ!?」」

 

 

「なんで、その事が…」

 

 

誰にも話したことが無かったのに、ズバリ心情を言い当てられ驚きで表情が固まる。

チェルシーがなんとか言葉を絞り出すと、ラウラとセシリアはフフッと笑みを漏らす。

 

 

「チェルシー、私が何年貴女と一緒に居ると思ってますの?流石に顔を見れば考えること等分かりますわ」

 

 

「良い上司というのは、部下の事を理解しているものだからな」

 

 

普段、ラウラとセシリアの方が年下なのにも関わらず、クラリッサはよき副隊長として、チェルシーはよき従者として支えてくれていた。

年齢的に経験が足りず、未熟な面も多い自分達の事をサポートしてくれた。

長い間、ずっと。

だから今、ラウラはシュヴァルツェ・ハーゼの隊長として、セシリアはオルコット家のお嬢様として。

堂々と胸を張って生きていけているのだ。

 

 

クラリッサやチェルシーが、サポートの為に常に自分達の近くでいろいろとしてくれて。

自分の考えている事を言わなくても大筋理解できるようになったのと同じように。

ラウラとセシリアも、それぞれの考えている事は大筋分かるようになったのだ。

 

 

メンタルがやられてしまったその瞬間に、ラウラとセシリアはその事をなんとなく察していた。

だが、最初の内はあまり干渉し過ぎると逆効果になると思いそっとしていたのだが、流石に長期化している為相談して部屋に突入する事にしたのだ。

 

 

因みに、法被などの準備をしたのは偶々話を聞いていた簪である。

というものの、会話を断片的にしか聞いておらず、『気分を上げられないか』という情報しかない状態での提案を、ラウラとセシリアは特に疑いもせず受け入れてしまった為、あのような何もかも間違えた突入になってしまったのだ。

 

 

「「「「……」」」」

 

 

数舜の間、部屋を静寂が包み込む。

 

 

「……まぁ、正直に言おう。私達に今まで恋人というのは出来た事が無い。だから、お前達の気持ちは分かる、と言える権利はない」

 

 

「しかも、多くの憶測を含んでしまう、私達の意見ですわ。でも、どうしても言いたい事があるんですの。聞いて下さいます?」

 

 

2人の真剣なまなざしを見て、クラリッサとチェルシーは反射的に頷きを返す。

 

 

「大切な存在に拒絶されたと言っても過言ではない行動をされたんだ。2人とも傷ついているだろう。でも、それはお前達だけでじゃない、一夏もまた、傷ついていると思う」

 

 

「「っ……!?」」

 

 

「自分の身体が人間からモンスターへと置き換わったんだ。一夏からすれば、未知の生物という訳では無いが、それでもかなりの恐怖だろう。見知ったからだが、変わってしまったのだから」

 

 

「それに、普段の様子から一夏さんは2人への愛が限界突破してしまっている状態なのは、見てるだけでうんざりするほど伝わってきますわ。それ程までに大事な存在を拒絶するだなんて、する方も辛い筈ですわ」

 

 

「それ、は……」

 

 

「それともなんだ?それを向けられていた本人なのに、それに気が付かなかったのか?」

 

 

「「それだけは絶対にありえません!!」」

 

 

それまでの言葉には、無言か一言二言しか返答出来なかったのだが、ラウラの煽るような発言だけにはすぐさま、そして力強く返答をした。

 

 

自分達が一夏の事を、これほどまでに想っているのと同じかそれ以上に。

一夏からの愛情は、然りと感じていた。

だからこそ、このラウラの問いに即答する以外の選択肢など存在しなかった。

 

 

その返答を聞いたラウラとセシリアは、あまりの勢いの良さに少しだけ驚いたが、直ぐにフッと微笑みを浮かべる。

 

 

「ならば、やる事はもう決まってますわね」

 

 

「はい。もう1度、一夏としっかり話す」

 

 

「そして、ひっぱたいてでも、私達の想いをしっかりと伝える!!」

 

 

クラリッサとチェルシーは、覚悟を決め立ち直った。

それと同時、自分達よりも年下なのに、自分達を導いてくれる上司/主に心の底から感謝をしていた。

 

 

ラウラとセシリアは、クラリッサとチェルシーが何時も通りの頼れる部下/従者にして、サポートしてくれる年上のお姉さんが帰って来てくれた事ので、笑みを濃くする。

 

 

ピピピ、ピピピ、ピピピ

 

 

ここで、まるでタイミングを見計らったかのように、4人の通信端末が同時に着信音を鳴らす。

如何やらメッセージの一斉送信の様だ。

 

 

「「「「っ!!」」」」

 

 

その内容を見た瞬間、4人の表情は一気に真面目なものになる。

送信者は束。

内容は『見せたいものがある。ホテルのちーちゃんの部屋に来て』だった。

 

 

4人は頷き合った後、すぐさま部屋を飛び出る。

千冬の部屋に辿り着くと、そこには千冬はおらず束しかいなかった。

一言二言会話した直後から、束が同じくメッセージを送信していた楯無達専用機持ちもやって来た。

息が上がっているのを見る限り、同じく慌てて駆け付けたようだ。

 

 

全員の息が整ってから、束は現状を説明する。

曰く、ずっと行方不明だった一夏の足取りを漸く掴み、現場に千冬が急行したとの事。

 

 

どうなったのか掴みかかってでも聞こうとしたその瞬間に、束がモニターとスピーカーを起動。

すると、目に見えない程に小さいマイク付き浮遊カメラからの映像と音声が流れ始めた。

 

 

それで、全員が知る事になる。

千冬の本音と、一夏の本音を。

 

 

~~~~~

 

 

「ハァア!」

 

 

《フン!!》

 

 

ガキィン!!

 

 

互いの得物同士がぶつかり合う。

ここがかなり森の奥の方で周囲を木々が覆っているからか、よく響く。

 

 

エクスピアと千冬がこの場所で戦い始めてから、どれくらいが経過しただろうか。

実は1分も経過してないぐらいかもしれないし、1時間は経過したのかもしれない。

それ程までに時間間隔が麻痺してしまう程、激しい戦いだ。

 

 

ガキィン!ガキィン!ガキィン!

 

 

ただただその場に突っ立って得物をぶつけ合っているのではない。

片やISを身に纏った世界最強。

片や人間の頃でさえ生身なら世界最強を超えていたドラゴン。

 

 

激しく、そして高速で移動をしながら攻撃をしあい、防ぎ合っている為周囲へと衝撃が伝わる。

その度に周囲の木々が、まるで驚いたかのようにざわめき、側にいる施設の壁に罅が入り崩壊する。

 

 

「一夏ぁああああ!!!」

 

 

千冬は叫ぶ。

戦いにおいて、デメリットがある行為だったとしても。

 

 

「お前が、たとえ!どんな存在だろうと!私はお前の姉であり続ける!!絶対に!!」

 

 

言い聞かせるように、そして自分を鼓舞するように。

絶対に、そこだけは譲れないから

 

 

《まだ言うか!黙れぇ!!》

 

 

だが、その想いはエクスピアには響かない。

今のエクスピアには、それだけじゃ駄目なのだ。

深く深く残っていたその傷は、そして新たに刻まれた心の傷は、千冬の想像よりもかなり酷い状態なのだ。

 

 

その傷の原因を受け入れる態度を見せるのは大事だ。

それをしないと始まらない。

だけれども、()()()()()()()では駄目なのだ。

 

 

この心理状態の一夏を受け入れるだけでは、いわば転んでしまって出来たすり傷を水流で流しておしまいの状態なのだ。

その一歩先が必要なのだ。

 

 

すり傷の適切な処置は、きれいな水で洗って汚れを取り、傷口をなるべく乾燥させないように異物が無く菌が繁殖しない状況で湿潤環境を保つ事だ。

千冬によって汚れは取れた。

あとは潤湿環境を作れれば、後は一夏の回復力次第だ。

 

 

ガキィン!!

 

 

もう何度目だろうか。

互いの得物がぶつかり合う。

もはや辺境の地と言っても過言ではないくらいには、森の奥の奥の奥だったとは思えない程、周囲が開けてきた。

 

 

周囲を開拓しようとしてこうなったのではなく、ただただ1人と1竜が戦い合っているだけなのが恐ろしい。

 

 

(くっ、不味いな……)

 

 

拮抗している状況の中で、千冬はそんな事を考えていた。

決め手が存在せず、ただただ体力などが削られているのが現状だからだ。

 

 

千冬にも、ISにも活動限界というものが存在している。

千冬は一般人をゆうに超える身体能力と体力を有し、使用している暮桜・明星もあの束が開発した最新式。

普通に戦う場合は、限界が来る前どころか、エネルギー切れを心配する前に戦闘が終了する。

それに加え、零落白夜という一撃必殺も有している為、仮に劣勢になりかけたとしてもたった1回攻撃を当てれば逆転出来てしまうため、長期戦というものにそもそも発展しないのだ。

 

 

だがしかし、今戦っている相手とは戦況は拮抗している。

そして、一番千冬に不利なのが、エクスピアが何のアシストも無く、純粋な身体能力で暮桜・明星と同等の機動力とパワーを有している点だ。

 

 

身体とISという体力ゲージが2本ある千冬に対して、エクスピアは自身の体力のみの一本。

単純に消耗の差が激しいのだ。

それに加え、エクスピアは生身だ。

零落白夜が通用しない。

暮桜・明星の武装の1つである暁星の光はSEを回復できるが、零落白夜と連動している為、使えない。

 

 

《ハァアア!!》

 

 

ドゴォ!!

 

 

「がぁっ!?」

 

 

ついに千冬の疲労が表に出た。

その瞬間にエクスピアが腹部に強烈な一撃を叩き込んだ。

その衝撃で千冬は思わず苦悶の声を漏らす。

 

 

だが、只では終わる千冬ではない。

表情を歪めながらも、手に持つ雪片弐型の前後を入れ替え、最小限の動きで追撃をしてこようとするエクスピアに向かって反撃を行う。

 

 

《フン!》

 

 

「なっ!?」

 

 

だが、エクスピアはその更に一歩上だった。

完全に千冬の意識外だった尻尾を雪片を握る右腕に絡みつかせ、思いっきり千冬の意識していた方向とは反対の方向に思いっきり引っ張る。

 

 

無論、その程度で雪片を取り落としたり、ましてやバランスを崩す程千冬は弱くない。

それでも完全な意識外からの接触には、完全には対応できず。

結果として少しの間、動きを止めてしまった。

 

 

この少しは、どう考えても1秒も無いくらい短かった。

だけれども、この戦場においては…エクスピアには、それだけで十分だった。

 

 

ガァアアアアアン!!

 

 

「ぐぁああああ!?!?」

 

 

その開いた胴体を、剣で思いっ切り叩き斬る。

千冬は地面に勢いよく叩きつけられ、ゴロゴロと転がっていく。

もう、こうなってしまえばずっとエクスピアのターンだ。

 

 

格闘ゲームだったら復帰モーションの一瞬の無敵時間があるが、ここは現実。

そんなものは無い。

 

 

ドゴ!バキィ!

 

 

《ハァアアアアアア!!》

 

 

蓮撃に次ぐ連撃。

暮桜・明星のSEはガリガリと削れていく。

 

 

「ぬぁあああ!!」

 

 

もう、こうなったら敗北覚悟で反撃をするしかない。

倒れ伏している千冬に上から攻撃してこようとするエクスピアに対し、千冬はスラスターを使用し横移動をしながら身体を起こし、その際同時にエクスピアの脇腹を雪片で切り裂こうとする。

エクスピアはそれにも反応し、地面を蹴り離脱する。

 

 

だが、これで漸く体勢を立て直す事が出来る。

千冬は完全に立ち上がり、改めて構えを取る。

しかし、今の今まで連続して攻撃をくらってしまった為、かなりふらついている。

 

 

《老いたな、ブリュンヒルデ……》

 

 

それに反し、エクスピアはまだまだ余裕といった様子でそう吐き捨てる。

 

 

「確か、に、お前からすれ、ば、私はかなり年上かもしれんが……これでもまだ、24だぞ、一夏」

 

 

《一夏一夏うるさい!!我はエクスピアだと言っただろう!》

 

 

「違う!お前がどんな存在だろうと!お前は私の弟!織斑一夏だ!!」

 

 

千冬の言葉を聞いたエクスピアは、構えていた剣を下した。

言葉が届いたのか。

そう期待した千冬だったが、それは直ぐに崩れ去る事になる。

 

 

《いい加減しつこい……もう、アンタと喋る事は何もない……消えろ》

 

 

そう呟いたエクスピアは剣を地面に突き刺し、空中に浮遊すると、左腕を空中に掲げる。

 

 

《キャスト……》

 

 

そう呟いた瞬間、世界からエクスピア以外の色が消えモノクロになり、千冬や、風によってたなびいていた木々も動きを止める。

 

 

《歪め世界よ…時を巻き戻し、悲しみを消し去れ……》

 

 

エクスピアの掲げた左腕の先に紫色の巨大な魔法陣が出現。

立体的に回転し、銀色で紫の円盤が幾つもはめ込まれている巨大な片刃剣が姿を現す。

 

 

《絶無の剣》

 

 

《ディストーション・パニッシャー》

 

 

呟くと同時、左腕を振り下ろす。

その動作に連動して、片刃剣が千冬に向かって振り下ろされる。

 

 

ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!

 

 

情けなのか、それともダークコアを経由させていないからか、振り下ろされた地点は千冬からほんの僅かだけズレていた。

だがそれでも、かなり近い位置にディストーション・パニッシャーのような巨大なものが勢いよく突き刺さって、何の影響もないはずなく。

世界がモノクロのまま、千冬は遠くに吹き飛んでいった。

 

 

ディストーション・パニッシャーが一瞬オレンジに発光してから弾け、消失する。

その瞬間に世界に色が戻る。

 

 

「ガハッ…!?」

 

 

暮桜・明星が強制解除され、千冬は肺の中の空気を絞り出し気絶した。

両者の実力は拮抗していた。

だが、零落白夜という最大の技が使えず、対話が主な目的だった千冬と、必殺技が使え千冬を倒す気満々だったエクスピア。

この状況の差が露骨に結果に出てしまった。

 

 

《呆気ない…」

 

 

そう呟きながら、エクスピアは人間の姿に戻った。

その後、ボロボロの外套からもう影も形も無くなった研究施設から強奪したISコアを取り出すと、戦闘前に千冬が放り捨てたリュックを探す。

周囲の研究施設や森林が粗方無くなったので、リュックも無くなってしまったのかと思ったが、千冬とは違う方向に大きく吹き飛ばされていて、奇跡的に残っていた。

まぁ、肩ベルトは切れてしまっているので、完全に無事という訳では無いが、十分だろう。

 

 

一夏はISコアをリュックに入れると、気絶している千冬の側に置く。

そして、千冬の体勢を整えてからダークネスドラゴンWへのゲートを開き、身を滑り込ませるとすぐさまゲートは閉じた。

数舜前まで激しい戦闘が嘘のようにあたりに静寂が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘が始まってから遠巻きに見ていた浮遊カメラは、超スピードで束の元に帰還していった。

その後、駆け付けた束によって千冬は回収され治療を受けると同時、暮桜・明星も修理が開始された。

 

 

そして、一夏の叫びを、千冬との戦闘を見守っていたクラリッサとチェルシーは。

覚悟を決めた表情を浮かべていたのだった。

 

 

~~~~~

 

 

「はかせ、みんなの容態は?」

 

 

「う~んとね…良い感じだよ、順調に回復に向かって行ってる」

 

 

ヒーローW。

メンジョ―はかせの研究室。

嘗て一夏が高熱を出した際に寝込んでいたこの部屋は今、ズラッとベットが並べられており、その上にはエクスピアを除く煉獄騎士団団員達が横になっていた。

 

 

IS学園での深夜との交戦で、煉獄騎士団たちは全員大きなダメージを受けてしまった。

戦闘終了後、エクスピア1竜によって此処に運び込まれ、はかせの手による治療を受けているのだ。

 

 

あの時から全員気絶をしてしまっており、一度も目を覚ましていない。

だが、はかせの言葉通りに順調に回復していっており、そう暫くしないうちに目を覚ますだろうというのがはかせの見解だ。

 

 

「そう、ですか」

 

 

一夏は心底安心したような表情を浮かべ、同じく安堵の息を吐く。

バディという訳では無いが、団員たちも共に生活し、共に戦ってきた大事な仲間だ。

安否はとても心配だった。

 

 

そんな一夏の動作を、はかせは無言で見つめていた。

 

 

非常に慌てた様子で団員達を担ぎこんで来て、治療をお願いする旨を伝えた後、碌な説明もないまま一夏はいったんIS学園に戻った。

追いかけたかったが、団員たちの怪我の状態を放っておけず、諦めて治療に専念した。

その後、何かに怯えているような雰囲気を漂わせながら帰って来た一夏から漸く何があったのかの説明を受けた。

 

 

そこで諸々の事情、そして話す様子から一夏のメンタル状態を理解したはかせ。

 

 

身体検査を行い、肉体が完全にモンスターになっている事を改めて確認した。

それと同時、一夏が半場自暴自棄になっているのをなんとかしようとしたが、碌な会話もせず一夏は研究室から出て行ってしまった。

もう既に団員達の治療を受け持ってしまった為、放っておく事も出来ず治療に専念。

 

 

その後、ドイツにて会話をしてきた一夏が帰還。

その時にはもう、はかせでは如何する事も出来ないくらいにメンタルがボロボロになっていた。

自分がどうのこうの言っても無駄だと判断し、一夏のメンタル面は向こうの世界の住人に任せる事にした。

 

 

その後、一夏は3日に1回くらいのペースで顔を出しつつ、向こうの世界で女性権利団体などからISコアを奪う準備をし、実行したのだ。

 

 

「そういえばはかせ、白式と白騎士の強化パーツは……白式のIS装甲はどうなりました?」

 

 

「……そっちも順調だね。2人が目を覚ましたら、直ぐにでも」

 

 

「そうですか……」

 

 

はかせの言葉に、一夏はそれだけ返すと、今一度寝ている煉獄騎士団を見ると、そのまま出入口の方に歩を向ける。

 

 

「ちょっと待って」

 

 

「……なんですか?」

 

 

そんな一夏の事を、はかせが呼び止める。

一夏は一瞬迷う素振りを見せた後、大人しく立ち止まりはかせの方に向き直る。

 

 

「一夏君、君は…何処に向かっている?」

 

 

「……煉獄の果てまで」

 

 

一夏はボソッとそう呟くと、はかせが二の句をつげる前に駆け出してしまった。

はかせは慌てて後を追い、施設の外に出るも、もう既に一夏の姿は無かった。

恐らく外に出た瞬間にモンスターの姿となり一気に離れたか、ゲートを開いたのだろう。

向かう先が幾つか候補があるし、その中に向こうの世界があるので、はかせにはもう追跡は不可能だ。

 

 

「やれやれ…ディミオス、君のバディは精神的に追い込まれなきゃいけないというルールでもあるのかい?」

 

 

はかせはヒーローWの空を見ながら、そう呟く。

その後、別の方向を向き

 

 

「不甲斐なくて申し訳ない…だけれども、こっちの世界からは、もう、どうしようもない。だから、救ってやってくれ、一夏君を」

 

 

あった事も話した事も無い、向こうの世界の住人に想いを託すと。

団員達の治療の為に施設に戻っていったのだった。

 

 

 



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救エ、騎士ノ心ヲ

大変お待たせしました。
最近前書きでこれしか言っていないのは気のせいではない…

本当にすいません…執筆スピードが確実に落ちていて、中々更新が出来ません……
頑張りまぁす!!


三人称side

 

 

はかせとのやり取りの後。

一夏の姿はドラゴンWの旧煉獄騎士団本部にあった。

 

 

ボロボロの黒い外套をたなびかせながら見つめるその先には、ディミオスの墓がある。

だが、墓の様子は以前までと少し様子が異なっていた。

 

 

墓石替わりに突き刺さっているディミオスソード。

その隣に、よく似た剣が同じく突き刺さっていた。

 

 

『贖罪の煉獄騎士団団長 オルコスソード・ドラゴン』が使用していた剣、オルコスソードである。

オルコスソードがディミオスソードと同様に地面に突き刺さっているという事は。

そう、これはオルコスの墓だ。

この下には、学園での戦闘で穴が開いてしまったオルコスのバディカードが埋められている。

 

 

一夏は外套の中から花束を2つ取り出す。

どちらも菊の花束だ。

現在無国籍とはいえ、長らく日本人として生活していた一夏。

お墓参りの花と言って最初に思い付くのが菊の花だったので、それを2つ購入したという訳だ。

 

 

だがしかし、此処でミスに気が付いた。

昨今はローカー墓といった変わった形の墓も増えてきたが、日本人が思い描く墓は寺などで管理されているもの。

そうした墓石には、基本的に花を供える場所を確保してある。

 

 

それに反し、ディミオスとオルコスの墓は地面に埋めたバディカードの上に各々の剣を刺しただけの、言ってしまえばとても簡素なものだ。

花を供える為の設計など何もされていない。

 

 

「別の花の方が良かったな……」

 

 

一夏は頭痛を抑えるように左手で顔を覆ったが、今更買ってきた花を返品など出来る筈も無いので、もうこのまま供える事にした。

花束の状態のまま、ディミオスソードとオルコスソードの前に菊を置き、腰を屈めたまま目を伏せ、両の手を合わせる。

 

 

少々強い風が吹き抜ける。

外套がバタバタと音を立てながらはためき、白い髪が乱れる。

だが、一夏は一切身動きを取らなかった。

 

 

暫くの間そうしていた一夏だが、やがて目を開き黄金の瞳が露わになる。

 

 

「はぁ……」

 

 

一夏はため息をつきながら立ち上がる。

 

 

「っと、お前らの前でため息なんてつくべきじゃ無かったな…」

 

 

一夏は悲しそうな表情を浮かべながら、ディミオスソードとオルコスソードを順番に見る。

 

 

「でも、許してくれ…こうもしないと、やってられないんだ……」

 

 

身体の向きを変えて脱力し、ディミオスソードとオルコスソードの間に倒れ込み、横になる。

何時もいるダークネスドラゴンWや、最近行く事が多くなったヒーローWとは違う、ドラゴンW特有の少し穏やかな空気が優しく包み込んでくれる。

その感覚が心地よくて……でも、何処か「お前は1人だ」と語り掛けられているような気がして。

 

 

ただの気候に対してそんな事を思うようになってしまったという事実に、一夏は苦笑を浮かべる。

 

 

「なぁ、ディミオス…オルコス…俺、何か間違えたかな……?」

 

 

その問いに答える者はいない。

語り掛けている相手がもう既に死んでいるのだから当然だ。

でも、心の何処かで返事が返って来る事を期待してしまっていて……

 

 

あり得ないと自分が1番良く分かってしまうはずの妄想に逃げてしまっている自分に嫌気がさしてくる。

 

 

単独行動を取り始めてから、一夏はずっと同じような事をグルグルと考えている。

ISコアを強奪し学園に送り届けたのも、半憂さ晴らしの面があるのは否定できない。

 

 

幼少期から今に至るまで、一夏は常に心理的に追い込まれていたと言っても過言ではない。

無論、心休まる時間や居場所はあった。

だがそれは、他人が……自分に寄り添ってくれる存在が居てこそだった。

 

 

幼少期からは千冬が。

小学高学年から中学にかけては鈴や弾たちが。

ISを動かせる事が分かってからは、クラリッサやチェルシーを始めとした人々……そして、バディがいた。

 

 

それを一気に失った。

いや、半分は自ら捨てた。

 

 

支えが無くなった。

傷口を塞ぐものが無くなった。

寄り添ってくれる存在を捨てたという事は、一夏の心のまだ塞がり切っていない傷をこじ開け、塩を塗りたくる行為そのものだ。

 

 

「まぁ、自分から捨てておいて、何考えてるんだって感じだよな……」

 

 

一夏は痛々しい、自嘲の笑みを浮かべると懐からダークコアデッキケースを取り出し顔の前に持ってくる。

常日頃から手入れを欠かさなかった、大切なもの。

だが、今はその中心の眼を模した紫色のコア部分に、縦に大きな亀裂が走っていた。

 

 

度重なる連戦。

手入れは欠かさなかったとはいえ、もとよりバディファイト用で戦闘用で無かった煉獄騎士の鎧は、限界を迎えてしまったのだ。

まだ起動は可能だが、恐らくあと1回か2回使用すれば破損するだろう。

 

 

この非正規品は、今の一夏には作れない。

バディが死亡し、団員達が全員ダウンしている状態では、そもそもの作成の仕方が分からないのだ。

作れるわけが無い。

 

 

「まぁ、今の俺には必要ないか……」

 

 

一夏は一度目を閉じて大きく深呼吸をすると、ダークコアデッキケースを懐に仕舞いながら立ち上がる。

 

 

「ディミオス、オルコス、また来るね」

 

 

そう優しく呟き、一夏は歩き始める。

数歩進んだ時、ふと立ち止まり振り返る。

 

 

「今度来るときは…3本目になってるかもな」

 

 

一夏はあまりにも痛々しい笑顔を浮かべると、エクスピアの姿になり空高く飛翔していった。

 

 

後に残った2本の剣は、手入れをしていないとは思えないくらい刃が輝いている。

だが、エクスピアが去った後。

感情など無い筈の剣が、何故だか寂しそうだった。

 

 

~~~~~

 

 

「ふぅ……取り敢えずこんなもんで良いかな……」

 

 

未だに校舎が復旧していないIS学園。

関係者が宿泊しているホテルの一室で、束が珍しくため息をつく。

疲れたように思いっ切り身体を背もたれに預ける。

 

 

「束様、お疲れ様です。珈琲を淹れて来ましたので、よろしければどうぞ」

 

 

「おお、ありがとクーちゃん…」

 

 

クロエから差し出された珈琲を受け取り、グイッと一気に飲み干す。

 

 

「それでは束様、私は社の方に戻りますので」

 

 

「えええっ!?もうちょっと居てよぉ~~!!」

 

 

3歳児のようにクロエの腰に抱きつき引き留める束。

 

 

『PurgatroyKnights』の開発主任である束だが、今は一夏や千冬の事を優先している為、会社の方に居れない事が多い。

社内でも開発主任が篠ノ之束であるという事は極秘中の極秘、一部しか知らない事だったため、元々他人とのやり取りはほぼほぼオンライン書類上だ。

その為仕事に特に影響がある訳では無い。

 

 

だが、ただでさえ私生活が破綻していたのに、ちょこちょこ説教をしてくれていた一夏が居なくなってしまい、自分の目の届かない場所で生活するようになった束が心配で心配でたまらなくなったクロエ。

 

 

その為わざわざ有給を使ってまで束の様子を見に来たのだ。

この後会社に戻る必要は無い。

それなのにも関わらず、クロエが「社に戻る」と言うのは

 

 

「ねぇ~クーちゃんってばぁ~~」

 

 

束が面倒くさいからである。

クロエの事が大好きな束は、クロエを拾った当初から溺愛してきた。

だが、最近互いに別の場所で多忙を極めており、中々顔を合わせる機会が無かった。

その為、束のクロエに対する感情が爆発したらしい。

 

 

クロエとしても、束の事は大好きだが流石に限度がある。

こうまでベッタリさせるとシンプルにウザい。

だが、それを面と向かって束に言える胆力はクロエにはない。

その為、結局ダラダラと残らざるを得なくなってしまった。

 

 

「はぁ……仕方ありません。少し残る事にします」

 

 

「やったぁー!クーちゃん大好き!!」

 

 

精神年齢と実年齢が完全に逆転している。

だが悲しいかな、これに突っ込める人間は存在していなかった。

 

 

暫くの間束が騒いでいると、

 

 

「う、くぅ…うる、さい…」

 

 

一夏との戦いで意識を失って以降、眠ったままだった千冬が目を覚ました。

そう、束がクロエとのやり取りを開始する前にしていたのは、千冬の治療、並びに一夏の捜索だったのだ。

 

 

「千冬様、おはようございます。お身体に障りますので、無理に起こさないで下さい」

 

 

苦悶の表情を浮かべている千冬に、すぐさまかけよるクロエ。

普段どう考えても身体フィジカルは千冬の方が上だが、長い間意識を失っていて、起きた直後では流石に敵わない。

 

 

素早くベッドに寝かされた。

 

 

「プークスクス。ちーちゃんがクーちゃんに負けてる~!」

 

 

「束ぇ…!覚えていろ……!!」

 

 

「ヒィ!?」

 

 

腹の底から冷えるような声。

束は思わず上ずったような悲鳴を上げた。

 

 

「…まぁ、いい。あれから、どうなった…一夏と私が戦ってから、今の間、何があった……?」

 

 

そんな馬鹿馬鹿しい、何時でも出来るようなやり取りよりも大事な事があった。

そう、一夏の動向である。

 

 

そもそもにして、一夏に戦いを挑んだ理由は、一夏を止める為だったのだ。

結果として敗北し、それが叶わなかった。

気にならない方がおかしい。

 

 

先まで何処か温かい雰囲気だった部屋の中が、一気に重たいものになる。

 

 

「まぁ、気になるよね……」

 

 

「束様、包み隠さずに伝えるべきだと」

 

 

「うん、そうだね」

 

 

クロエに言われ、束は決心をつける。

部屋に持ち込んでいたPCを操作してから、寝ている千冬に画面が見える場所に持っていく。

 

 

「まず、いっくんの居場所は特定できていない。多分…いや、ほぼ確実にあっちの世界を拠点として生活してるみたい。そうなると、流石の束さんもお手上げ。違う世界の事なんか、分かる訳がない」

 

 

チートレベルの頭脳と技術を持つ束でも、異世界の事は分からない。

もとより交わる筈が無かったはずの、IS世界のバディ世界である事も、それに拍車をかけている。

 

 

「だけど、ずっと向こうの世界に居る訳じゃ無い。ちょこちょここっちの世界に来てる。これがその証拠」

 

 

束はPCを操作し、映像を見せる。

以前、一夏と千冬が戦ったのと同じような、確実に人目につかない研究施設の映像が流れる。

巧妙にカモフラージュされている筈の施設を、直ぐに施設だと理解できたのには理由がある。

 

 

施設が、半壊しているのだ。

壁や天井が崩れ、黒煙が噴出している施設。

この光景には見覚えがあった。

いや、見覚えがあるどころではない。

ついこの間、実際に見たことがる。

 

 

暫くの間映像に変化はない。

黒煙がもくもくと流れ、周囲への延焼が少々心配になって来たあたりで、変化が訪れた。

 

 

施設のまだ無事だった部分が大きく爆発した。

黒煙の勢いが増す。

 

 

千冬の表情が少し険しくなると同時、束が映像を早送りにする。

数秒後、映像を戻すと同時、崩落している壁がら1人の人物が姿を見せた。

 

 

白い髪に白い肌。

ボロボロの黒い外套を風にたなびかせ、黄金の瞳が何処か遠くを見ている。

 

 

「一夏……」

 

 

千冬が呆然と呟く。

無意識で出て来たものなのか、それとも訴えが届かなかった事の悔しさ等を籠めたものだったのか、束とクロエには判別がつかなかった。

 

 

映像の中の一夏は暫くの間空を見上げていたが、ふと手元に視線を落とす。

束が映像を一時停止し、一夏の手元をズームする。

その手に握られていたのは、2人がよく知るもの。

 

 

「ISコア……」

 

 

それを認識した瞬間、千冬はこの映像がなんかのか完全に理解した。

一夏の行動は、何も変わっていないのだ。

 

 

「その時のコアが、こちらになります」

 

 

クロエが部屋の隅に置かれているケースを1つ手に取り、千冬に中身が見えるように開ける。

そこには確かに、ISコアが入っていた。

以前ホテルに届けられたものと同じように、装甲から無理矢理引きはがされたようだが、それ以外はかなり丁重に扱われている。

 

 

千冬は首を動かし、クロエがケースを取って来た方に視線を向ける。

するとそこには、同じようなケースが何個も積み重なっていた。

その側には、見覚えがあるダンボールが。

 

 

「あれは、全部ISコアか?」

 

 

「うん、そう。全部がISコア」

 

 

「これほどの量が……」

 

 

「はい、かなり大量です。この送られてきたコアだけで、何処かの国を余裕で侵攻できるだけの戦力になりますね」

 

 

「ISコアの登録番号とか、全部調べてみたんだけどさ。結構色んな国とか企業のが混じってたんだけど、その中でも圧倒的に女権に振り分けられてたのが多いね」

 

 

「それと…このコアはホテルのフロントだったり、会社の方に届けられたり、いつの間にか部屋の中にあったりと届けられ方はまちまちですが、どれも関係各所に直接届けられいるようです」

 

 

「うんうん。それに、黒いボロボロの外套の目撃情報がまちまちだったり、後を追ってもまるで瞬間移動でも使えるかのように直ぐに見失っちゃんだってさ」

 

 

「……」

 

 

2人の説明を聞き、千冬はしばし無言になる。

束とクロエも何も言わない。

 

 

話し始める前よりも、はるかに重たい空気が部屋を支配する。

 

 

「随分と、こちらの聞きたい事を分かっていたな」

 

 

「分かるよ。だってちーちゃんはいっくんの事が大大大好きなブラコンだもんね」

 

 

「微妙に理由になってない気がするな……」

 

 

束のおどけたような言葉に、苦笑で返す千冬。

 

 

「なっ!?ちーちゃんが素直に認めた、だと!?」

 

 

「し、信じられません…私は何時の間にか寝ていたとでも言うのでしょうか……」

 

 

「おい」

 

 

本気で驚いたような表情を浮かべる束。

珍しく束のノリに従うクロエ。

半眼で2人を睨む千冬。

緊張した空気が、軽くなった。

気がする。

 

 

「すまないな、気を利かせてしまって」

 

 

「えっ!?いや、全然そんな気はしなかったんだけど」

 

 

「束様、言わなければ良い話で終わりましたよ」

 

 

「はっ!?」

 

 

「お前は天才なのか馬鹿なのか良く分からないな」

 

 

「まぁ、馬鹿と天才は紙一重って言いますからね」

 

 

「クーちゃん!?」

 

 

娘に裏切られ、ショックを受ける束。

如何やらこのままでは、話が逸れに逸れて進まなさそうだ。

千冬はあまりにもわざとらしすぎる咳払いをする。

 

 

一夏の事がどうしても気になってしまうが、もう1つ気がかりな事が千冬にはあるのだ。

 

 

「あいつらは…今、どうしている?」

 

 

あいつら。

具体的ではない4文字。

それだけで、なにを指しているのかは簡単に分かる。

 

 

「そうだね…みんな、自分に出来る事をやろうとしているみたい」

 

 

「みたい…というのは?」

 

 

「ふふふ、何でもかんでも束さんが口出しちゃったら、みんなが自分達でって必死に頑張ってる意味が無くなっちゃうじゃん」

 

 

「お前らしい理由だな…そもそも邪魔になるのか?」

 

 

「束様がそう思っていますので、確かにと、賛同して頂けると」

 

 

「……タシカニタシカニ」

 

 

「クーちゃん!?何時の間にそんないっくんみたいな成長をしたのかな!?」

 

 

「そうですかね?」

 

 

「お前と関わるまともな奴は、みんなそうなっていくんじゃないか?」

 

 

「そんな訳無いじゃん!っていういか、その理論で言ったらこうなってないちーちゃんはまともじゃないって事になるよ!?それで良いの!?」

 

 

「なっ…!?束ぇ!!訂正しろ!!」

 

 

「なら先にちーちゃんが訂正する事だね!」

 

 

「なんだとぉ!!」

 

 

折角真面目な雰囲気になったのに、またおふざけモードになってしまった。

可笑しい。

以前だったら、2人の会話は絶対にシリアスな雰囲気にしかならなかった筈。

 

 

「一夏様が、お2人からシリアス成分を奪ってしまったのかもしれませんね…」

 

 

クロエが何処か遠い目をしながらつぶやいた事は、束には届いていなかった。

ギャーギャーと小学生のように言い合う2人。

 

 

だがまぁ、これも良いかもしれない。

暗い雰囲気で、誰も信じられなくなってしまうより。

 

 

だからこそ、クロエは一夏に伝えたかった。

あなたの居場所は、間違いなくここにありますよと。

 

 

コンコンコン

 

 

唐突に部屋の扉がノックされた。

言い合いをしていた2人も急速に黙り、扉の方を見る。

 

 

「どうぞ」

 

 

ガチャ……

 

 

クロエの返事と共に扉が開き、中に人が入って来る。

 

 

「おお、クラちゃんにチェルちゃん、いらっしゃーい」

 

 

入って来たのは、クラリッサとチェルシーだ。

数日前までとても暗かった顔をしていたとは思えない程に、覚悟の決まった表情を浮かべていた。

 

 

その表情を見て、束と千冬は口元にニヤリと笑みを浮かべる。

どうやら自分達の期待以上に、もう仕上がっているようだ。

 

 

「それで、束さん達に何か用?」

 

 

尋ねて来た理由を、束は把握しているのかもしれない。

それでも、先程千冬に語ったスタンスを崩さないため、束は尋ねる。

 

 

もしかしたら、束は達観しているのかもしれない。

姉である千冬でも駄目だったのだ。

昔から同じような立場で接してきた自分では、何も変わらないと。

 

 

もしくは。

一夏の恋人として選ばれた2人がやらなきゃ、意味が無いと。

 

 

「一夏が居なくなってから、お恥ずかしながらかなり落ち込んでしまいまして」

 

 

「それでも、お嬢様方のお陰で気付けたのです。私達に出来る事を、するしかないって」

 

 

「うんうん、良い心掛けだねぇ♪」

 

 

束が嬉しそうに肯定する。

声には出さないが、千冬とクロエも同じ様な表情を浮かべている。

 

 

「ですが、私達は無力です。ISが無ければ戦う事も出来ないし、主人が居なければ前を向く事すら出来なかった」

 

 

「一夏もよく言ってました。『仲間がいるから強くなれる』って。だから、お願いします」

 

 

「「私達に、力を貸してください」」

 

 

クラリッサとチェルシーは頭を下げる。

束と千冬とクロエは、なんとなく1度視線を合わせる。

だが、そんな事をせずとも3人の答えはとっくのとうに1つだった。

 

 

「もちのろん!束さんに出来る事だったらなんでも手伝うよ!!」

 

 

「微力ながら、私もお手伝いさせていただきます」

 

 

「こんななりだが、無論私も協力は惜しまない。お前達2人も、近い将来私の家族になりそうだしな……」

 

 

「「ふぇっ!?」」

 

 

すぐさま肯定的な返事を聞けた喜びよりも、ボソッと呟いた千冬の一言の方が気になった。

クラリッサとチェルシーは赤面しながら素っ頓狂な声を漏らす。

 

 

そんな反応を見て、3人は首を捻ろうとして、一拍遅れて気が付いた。

 

 

「しまっ……!?」

 

 

「うわぉ、まさかの義姉から……」

 

 

「これはこれは…よりいっそう一夏様には戻ってきていただかないといけませんね」

 

 

暫くアワアワしていた3人を、束とクロエが落ち着かせる。

この時のクロエの内心は

 

 

(束様が此方側とは珍しい……)

 

 

だったとかなんとか。

 

 

その後、なんとか落ち着いた3人。

5人以外の関係者も巻き込んで話し合いを開始。

何度も何度も議論を重ねた。

 

 

全員の想いは、そして行動目標はたった1つ。

 

 

救え、騎士の心を

 

 

~~~~~

 

 

ドガァアン!!

 

 

《はぁ……相も変わらず、至る所で同じような事を……》

 

 

破壊された施設の壁から、ため息をつきながらエクスピアが姿を見せた。

その手には、やはり装甲から引き抜かれたISコアが握られている。

 

 

束の予想通り、エクスピアは基本的にダークネスドラゴンWで生活をしており、IS世界での滞在時間は、徐々に徐々に減って来ていた。

こっちの世界でしている活動は、亡国企業と関係がありそうな施設や団体にゲートから直接侵入し、内部データを確認。

 

 

関係があると判断し次第、施設を攻撃。

施設の破壊をしつつ、他施設の情報を収集し、ISコアがあれば回収する。

 

 

その後、束の関係先でありかなり安全性が確保されている所へISコアを届け、誰にも捕まらないうちにゲートを再び潜りダークネスドラゴンWへと帰って行く。

 

 

そんな感じの生活を、あの時からずっと続けている。

黄金の瞳は、もう全てを諦めているんじゃないかという程に、濁っている。

 

 

エクスピアは一夏の姿に戻ると、黒い外套にISコアを仕舞う。

ふと、ある事を思い出した。

ISコアと入れ替える形で、コアと似た外観の、真っ黒の物体を取り出す。

 

 

この施設の中で見つけたこの物体。

外見がISコアに酷似していなかったら、気にも留めなかっただろう。

だがしかし、今こうしてわざわざ持ち出したのには理由がある。

 

 

IS学園校舎を全壊させてしまった戦い。

深夜が姿を現す前に、空一面を覆うくらいにビッシリと、黒いISが隊列をなして攻めてきた。

 

 

 

いくら亡国企業が大規模なテロリストで、女権のような組織からコアの提供を受けていたとしても、あの数は異常すぎる。

女権のトップを襲撃した時にも思ったが、黒いISのコアは流石に非正規品の可能性が高い。

 

 

その非正規コアも襲撃の際に探していたのだが、それらしいものはこれまで1つも無かった。

もしかして、実は非正規品など無いのか?

そう思っていた矢先、まるで子供のおもちゃ箱のような乱雑さで保管されていた、このISコアに酷似したものを見つけたのだ。

 

 

取り合ず3つほどを拝借し、残りは破壊した。

これが本当に非正規のISコアなのかを、束とはかせに調べてもらうとしたのだ。

 

 

「……声は微塵も聞こえないんだよな……」

 

 

一夏はそうぼそりと呟く。

暫くの間マジマジと観察してたが、こんな事をしている場合ではないと思い出す。

 

 

襲撃を開始してから、そこそこな時間が経過してしまった。

例にもれずこの施設は外部からの発見を遅らせる為に、相当カモフラージュされており、入り組んだところに立っている。

この施設の事を知っていたとしても、別の場所から辿り着くのには時間が掛かる。

 

 

そんな立地の場所しか攻撃していないからこそ、千冬という例外を除いて襲撃後に他者に遭遇した事が無い。

だが、時間が掛かってしまえば何者かが襲撃に気が付き、この場所までやってきてしまうかもしれない。

そうなるといろいろと面倒だ。

 

 

非正規(だと思われる)ISコアを仕舞い、ダークネスドラゴンWへのゲートを開こうとする。

その瞬間。

 

 

「―――っ!?!?」

 

 

唐突に、一夏は何かを感じ取った。

何故それを感じ取れたのかは、本人にも分からない。

モンスターになり、気配の察知や空気の流れに敏感になったからか、経験の積み重ねか。

それとも、攻撃者の雰囲気に、覚えがあったからか。

 

 

バチィ!!

 

 

直後、先程まで一夏が立っていた場所にエネルギー弾が着弾した。

 

 

「チッ……!」

 

 

一夏は強めに舌打ちすると、その手に剣を出現させる。

その次の瞬間、レーザーの発射地点とは別の方向に向かって剣を振りかぶる。

 

 

「わわわっ!?」

 

 

斬撃が飛んでいき、その方向から聞きなれた声がする。

 

 

一夏はそのまま着地すると同時、周囲の木々に向かって斬撃を数発放ち、切り倒す。

綺麗な切り口を見せ、丸太となった木々が周囲に積み重なると、周囲がよく見えるようになる。

 

 

見渡しをよくするという事は、それだけ自分の事を発見されやすいという事。

だが、射撃をされた時点でこちらの位置は筒抜けだと考えた方が良い。

だったら周囲の木々を切り倒してでも、相手の位置を認識できた方が良いと判断した。

 

 

これがもし、襲ってきた相手の正体に心当たりが無ければ、着地した時点でゲートを開き、ダークネスドラゴンWに帰るという選択をしていただろう。

 

 

見覚えがある。

このエネルギー弾は、自分のIS学園での初めての対戦相手が使用するものだ。

 

 

聞き覚えがある。

先程の慌てたような声は、自分が小学生のころからの幼馴染のものだ。

 

 

そして何より、先程の射撃以外の攻撃が一切ない。

普通相手への奇襲攻撃プランが1つな訳がない。

最初の攻撃が避けられた時のための、第2第3の攻撃プランがある筈だ。

だが、それが無い。

 

 

「何時までも見てないで出て来いよ……セシリア、鈴」

 

 

底冷えする様な低い声を出し、開けた空を見上げる一夏。

その声に素直に応じ、2機のISが姿を現す。

 

 

「良く躱しましたわね、一夏さん!」

 

 

「ちょっと!なんで位置が分かったのよ!」

 

 

姿を現した2人は、まるで訓練の後のような軽い雰囲気で一夏に話し掛ける。

だが、一夏は2人の事を睨みながら、変わらない声色で言葉を返す。

 

 

「はっ、良く言う……もともと当てる気も、隠れる気も無かったくせに……」

 

 

「っ!?」

 

 

「気付いてたのね……」

 

 

一夏の指摘に、セシリアが驚いたような表情を浮かべ、鈴は声を絞り出す。

そんな事どうでも良いと言わんばかりに態度を変えず、一夏は言葉を続ける。

 

 

「それで?なんの用だ?」

 

 

剣を肩に担ぎ、より一層視線を鋭くする。

その威圧感は雰囲気だけで人を殺せてしまうんじゃないかと思う程だった。

2人は若干気圧されてしまうものの、此処で引くわけには行かない。

 

 

2人にとっても、一夏は大切な友人だ。

放っておくなんて、出来るはずが無い。

 

 

その想いと共に脳裏に存在しているのは、専用機持ちで集まって、今後について話していた時に協力を頼みに来た、一夏の恋人2人の姿。

あの真摯な姿を見てしまったら、協力をしない訳にはいかないし、一夏を一発ぶん殴らないと気が済まない。

 

 

「もう、ごたごたと言う必要は無いわね……一夏ぁ!!アンタをぶん殴ってでも、連れて帰るわ!!」

 

 

「貴方には、色々言いたい事がありますの!!大人しく倒されていただきますわよ!!」

 

 

2人はそう言うな否や、各々の武装を構える。

だが、それでも一夏の態度は変わらない。

何処までも冷徹な雰囲気を纏わせたまま、肩に担いでいた剣をゆっくりと構える。

 

 

今からダークネスドラゴンWへのゲートを開いたとしても、潜るのを全力で阻止されるだろう。

それに、自分の元に向かってきたのが2人だけだとは到底思えない。

気配を察知されないくらい遠い距離で、準備をしている。

 

 

そんな状況で逃げたって、こっちの世界での活動はもうかなり制限されるだろう。

別にこっちの世界にいる義務はない。

だが、一夏の心に残ったほんの少しのこっちの世界への……大切な人への未練がその選択を奪う。

 

 

となると、取るべき行動は1つ。

 

 

「いいだろう…捻り潰してやる」

 

 

向かってくる相手を全員倒す。

そうでもしない限り、こいつらはきっと何度も自分に絡んでくると、一夏は確信していた。

 

 

一夏から発せられる威圧感は、より一層強くなる。

セシリアと鈴は思わずゴクリと唾をのむ。

その音が合図だった。

 

 

一夏は両足に思いっきり力を籠め、一夏の姿のまま跳躍する。

一夏が飛ばした斬撃と、セシリアの射撃、鈴の衝撃砲が入り乱れる。

 

 

騎士の心を救うための戦いが、始まった……

 

 

 



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届ケ、心ノ叫ビ

大変お待たせしました。
マジで書くための時間が日に日に少なくなっていくし、執筆スピードも何故か落ちていく……
如何にかしなくては……

取り敢えず、どうぞ。
お楽しみいただけたら幸いです。


三人称side

 

 

 ガキィン!!ガキィン!!

 

 

 空で激しくぶつかり合う音が響く。

 先程から幾度となく発生しているこの音は、2機のISと1人の少年によって奏でられているものだ。

 

 

 「う、くぅ!?」

 

 

 「鈴さん!……きゃあ!?」

 

 

 「……」

 

 

 重たい斬撃を受けた鈴を気遣った瞬間、セシリアにも斬撃が飛んでくる。

 セシリアは直ぐに回避行動を取ろうとするも、反応が少し遅れてしまい足先を掠る。

 たったそれだけで、ブルーティアーズのSEが大きく減少する。

 

 

 「どうした?その程度か?」

 

 

 「アンタが強すぎるのよ!ちょっとは加減しなさい!!」

 

 

 「お前達から吹っ掛けて来た戦闘だろうが」

 

 

 「わきゃあ!?」

 

 

 2人と対峙している一夏は、焦った様子も、疲れた様子も見せずに淡々と戦闘を行っている。

 3人の戦闘は、事情を知らぬものが傍から見たらあまりにも異常な光景だろう。

 第三世代の専用機を身に纏った代表候補生2人が、手に持っている剣以外生身の少年と戦闘しているのだから。

 しかも、少年の方は生身で空中に浮いていたり、斬撃を飛ばしていたりするのだから、異常な光景以外に形容する言葉が見つからない。

 

 

 「こんのぉ!!もう怒ったわよ!!」

 

 

 「の割には口調は変わってないようだが?」

 

 

 「常に怒ってる口調だって言いたいわけ!?」

 

 

 一夏の煽るような口調に、鈴は青筋を浮かべながらスラスターを使用し、超スピードで一夏に接近していく。

 口調だけだったら、どう考えても友人達のじゃれ合いに近い。

 だが、実際に行われているのは火花散る激しい戦闘だ。

 一瞬も気を抜けない。

 

 

 言ってしまえば気の抜けるような会話を、一夏がわざわざしているのには理由がある。

 情報を引きずり出したいのだ。

 

 

 昔からつるんで来た鈴の性格は大体わかる。

 良くも悪くも単純で真っ直ぐな鈴は、ちょっと煽れば直ぐに怒る。

 そして、怒り方は感情的で、思った事をなんでも口に出してしまいがちになる。

 

 

 鈴とセシリアが自分に攻撃を仕掛けてきたという事以外何も情報が無い一夏は、鈴のこの性格を利用して情報を引き出そうと画策した訳だ。

 

 

 至近距離での衝撃砲を混ぜた猛ラッシュを、軽い顔でいなしながら口撃を続ける一夏。

 鈴の攻め筋は悪くない。

 

 

 双天牙月の二刀流は、以前までよりも鋭く、早くなり一撃一撃の破壊力がかなり上昇している。

 それに加え、前までは遠距離から乱射するだけの運用だったが、今は近距離で、斬撃の合間合間で撃っている。

 

 

 視線でバレやすいという鈴の個人的な弱点も、双天牙月か龍砲かの2択になる事により、相手を撹乱する事に成功している。

 だが。

 

 

 「くっ!このぉ!!」

 

 

 「遅い」

 

 

 ガァン!!

 

 

 「きゃあ!?」

 

 

 一夏には通用しない。

 蚊でも払うかのような涼しい顔で鈴の攻撃を躱し、逆に剣の攻撃をピンポイントで一番ダメージが入るところに直撃させている。

 

 

 ガキィン!ガキィン!!

 

 

 手数では圧倒的に勝っている鈴がここまで圧倒されているのには理由がある。

 まず第一に、近接戦の技術は一夏の方が上だ。

 ドイツ軍でのやり取りからIS学園に入学するまでの間、イギリスでの一件を除いてバディワールドでしごかれ、こっちに来てからもモンスター達との訓練を重ねた一夏。

 鈴も相当数な訓練を積んでいるが、一夏の方がレベルも量も桁違いだ。

 

 

 そして第二に、鈴が一夏の事をまだ人間だと思っているからだ。

 

 

 一夏の今の姿は、ディミオスやオルコスで言うところのSD形態に等しい。

 つまり、今の姿でも人間を超越した身体能力を有しているという事である。

 

 

 鈴が今まで戦ってきた相手はISだ。

 唯一の例外は、多少のパワーアシストしかついていない煉獄騎士だろうか。

 それでも、ISコアは有していたし絶対防御やハイパーセンサーなどの最低限の生体保護機能はISと同等だった。

 

 

 だが、今の一夏はそう言ったものが一切ない。

 純粋に自分の力のみで宙に浮き、自分の力のみで周囲を探知し、自分の力のみで戦闘を行っている。

 

 

 一夏がコールしたモンスターも同じ様なものだったが、モンスター達は見るからに姿が異なっていた。

 だが、人間態のまま一夏が戦っている事で、意識の切り替えが出来ていないのだ。

 

 

 「この!くそ!!」

 

 

 「ハァ!!」

 

 

 ガキィン!!

 

 

 剣を大きく振るう事で双天牙月を1本吹き飛ばす。

 一夏は振り抜いた剣をそのまま身体の後方に持っていき、幅広の刀身を盾のように構える。

 そこから1秒の間を置かず、剣にエネルギー弾が着弾する。

 

 

 「浅いな」

 

 

 「きゃあっ!」

 

 

 一夏は呟くと同時、射撃された方向とはまた違った方向に剣を振り抜く。

 斬撃が飛んでいき、一瞬の後セシリアの短い悲鳴が聞こえて来る。

 だが、一夏はクリーンヒットしていないと直感で理解していた。

 

 

 一夏と鈴が接近戦を行っている間、セシリアは当然ながら一夏への射撃を試みていた。

 一夏が鈴との対面に集中すればするほど、周囲への警戒が疎かになる。

 ビットとライフルを併用し一夏を囲えば、どれか1つは直撃させれる。

 そうすれば、生まれた隙を鈴が付いてくれる。

 

 

 そう思っていた。

 だが、全く上手く行っていない。

 

 

 「ハッ!このっ!!」

 

 

 「……」

 

 

 鈴が苦悶や苛立ちをのぞかせながら果敢に攻めていくも、一夏は涼しい顔で避けていく。

 この立ち回りが、セシリアの射撃が上手く行っていない原因だった。

 

 

 一夏を囲っている5つの砲門。

 その射線に、鈴が誘導されている。

 

 

 ビットの位置をどう動かそうとも、一夏はその動きを完全に理解しているかのように一夏が動き、また狙撃の邪魔をするように鈴が誘導されている。

 射撃を強行する事も出来るが、フレンドリーファイアをしてしまう可能性が高い。

 そうなれば形勢は一気に一夏有利に傾くだろう。

 

 

 せめてもの救いは、セシリアが睨みを利かせている事で、一夏が完全に攻めの姿勢に出れていない点だろうか。

 

 

 ガキィン!!

 

 

 「っ……!!」

 

 

 「ハァ!!」

 

 

 「きゃあ!!」

 

 

 もう1本の双天牙月も弾かれた。

 その直後、懐に深く潜り込んで振り抜く。

 甲龍のSEが大きく減少し、鈴はバランスを崩してしまう。

 その隙を付き甲龍を蹴り上げ身体を回転させる。

 

 

 「っ!!」

 

 

 セシリアが慌てたように射撃を行うも、遅かった。

 

 

 ドガドガァアン!!

 

 

 甲龍のスラスター全て破壊し、セシリアの射撃の盾にする。

 

 

 「フンッ!!」

 

 

 「なっ!?」

 

 

 セシリア本人が要る方向に鈴ごと甲龍を投げつける。

 本来のISバトルではあり得ない行動に、セシリアは一瞬反応が遅れ、鈴に衝突してしまう。

 生んでしまった隙は大きく、一夏は空中を移動しながら斬撃を飛ばし、自身を囲っていたビットを全て破壊する。

 

 

 ドガドガドガドガァアアアアン!!!!

 

 

 鈴と激突しバランスを崩していたセシリアは、ハイパーセンサーでしかビットの破壊を確認できなかった。

 セシリアと鈴が混乱を脱し、なんとか復帰しようと体勢を整え始めたのはほぼ同時。

 だが、そんな必死の行動を嘲笑うかのように。

 

 

 「ハァア!!」

 

 

 人の姿をしたドラゴンが、団子状態の2人に接近し、出せる瞬間火力で剣を振るった。

 

 

 ズアガァアアアアン!!

 

 

 「「きゃああああ!?!?」」

 

 

 2人は悲鳴を上げ、地面に落下していく。

 地面にはクレーターが生成され、土煙が発生する。

 

 

 「セシリア、ごめん……もう、SEが……」

 

 

 「私は、SEはまだありますけど、駆動系が……」

 

 

 2人はプライベートチャネルで会話をする。

 つい数分前までは一夏と拮抗できていたはず。

 だが、一瞬にして形勢が傾き敗北してしまった。

 

 

 「ねぇ、セシリア。時間、稼げたかな?」

 

 

 「ええ。むしろ、想定よりも少し多く稼げました。みなさん問題無く、準備できている頃かと」

 

 

 セシリアの返答を聞き、鈴はニヤッと口元に笑みを浮かべる。

 その直後、

 

 

 ザッ、ザッ、ザッ

 

 

 土煙の中から、肩に剣を担いだ一夏が姿を現した。

 戦闘中と全く変わらない冷たい瞳で、鈴とセシリアの事を見下ろしていた。

 

 

 「終わりだ……」

 

 

 一夏はそう呟くと、肩に担いでいる剣を頭上に掲げる。

 

 

 「まちな、さいよ……!!」

 

 

 振り下ろされる直前、鈴が叫んだ。

 ピタッと一夏の動きが止まる。

 

 

 「アンタは今、何をしているのよ……!!」

 

 

 「鈴さんの、言う通りですわ。貴方は今、何処に向かっているんですの……!!」

 

 

 「……」

 

 

 2人の言葉を聞いた瞬間、戦闘中微塵も表情を変えなかった一夏の表情が変わった。

 奥歯をギシリと噛み締め、頭上に掲げていた剣を下ろし、左手を顔の前に持ってくる。

 

 

 「黙れぇ……」

 

 

 「「っ!?」」

 

 

 間近で聞いた2人が思わず恐怖を感じるほどに。

 一夏の声はドス声だった。

 

 

 「黙れ……黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇ!!!!」

 

 

 一夏は叫ぶ。

 もう鈴とセシリアは何も言葉を発していないのに。

 

 

 「しつこいんだよ!!」

 

 

 再び頭上に剣を掲げる一夏。

 さっきまでの冷徹な表情と違い、焦って余裕が微塵も感じられない表情だ。

 

 

 その視線は間違いなくセシリアと鈴に向いている。

 だが、見られている当人2人は、自分を見られている感じがしなかった。

 そう、一夏が見てるのは、自分達が身に纏っているものに向けられているような……

 

 

 「あああああ!!」

 

 

 「「きゃあああああ!?!?」」

 

 

 一夏は叫びながら2人の事を斬り付ける。

 甲龍とブルーティアーズのSEは無くなり、2人は遠くの方へ吹っ飛んでいく。

 

 

 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

 一夏は肩で息をしながら、2人が吹っ飛んでいった方向を見る。

 恨みがましい視線を向けていたが、直ぐにハッとして視線の方向を上の方に変える。

 

 

 気配がする。

 よく知っている気配が。

 

 

 「ラウラに、簪……この距離じゃ、もうロックされてるか……」

 

 

 遠くの方を見ながら呟く一夏。

 焦っていたような表情から、驚きと困惑を微かにのぞかせる表情になる。

 

 

 鈴とセシリアの撃破直後。

 タイミングを狙ったかのように現れたラウラと簪。

 

 

 何が目的なのか、何人の規模なのか。

 一夏には微塵も分からない。

 自分が一方的に切り捨てたはずなのに、何故自分に構ってくるのかも。

 

 

 「……」

 

 

 2人がドンドンと近付いて来る。

 だが、一夏は動く事が出来なかった。

 

 

 セシリアと鈴を地面に落とすまでは何も問題は無かったのに。

 とどめをさす直前に言われた言葉だけで、ここまで心を揺さぶられている。

 

 

 だが、それは当然なのかもしれない。

 だって一夏が心の中でずっと自問自答を繰り返してきたものを、他人から叩きつけられたのだから。

 

 

 「……潰す」

 

 

 一夏は短くそう呟くと、向かってくるラウラと簪に向かって跳躍したのだった。

 

 

~~~~~

 

 

 いったいどれくらいの時間が経ったのだろうか。

 

 

 《はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……》

 

 

 肩で息をしながら、エクスピアは呆然とそんな事を考えていた。

 

 

 鈴とセシリアを倒した直後にラウラと簪が姿を見せ、戦闘を開始した。

 AICとマルチロックオンミサイルを身体能力と1回の防御魔法だけでしのぎ、2人を撃破した。

 

 

 だが、それで終わりでは無かった。

 また新しく人がやって来て、同じように戦闘になった。

 

 

 それを倒しても、また新しく戦闘が開始される。

 倒して、戦闘になって。

 倒して、戦闘になって。

 倒して、戦闘になって。

 

 

 その繰り返し。

 人間では無くなり、身体能力と共に体力面でも文字通り人間離れしたものになった一夏。

 それでも、ここまでの連戦となれば流石に消耗は激しい。

 

 

 エクスピアは剣を杖替わりに立ち上がると、フラフラと歩き始める。

 

 

 《はぁ、はぁ、はぁ……》

 

 

 肉体以上に消耗している所が、今のエクスピアにはある。

 精神だ。

 

 

 戦闘を行った相手全員が、エクスピアに言葉を投げて来る。

 もともと単独行動を取り始めてから精神面がボロボロだった。

 

 

 その状態で、セシリアと鈴に言葉で刺された後、繰り返された戦闘でも言葉で刺され続けた。

 ラウラに、簪に。

 マドカに、シャルロットに。

 ダリルに、フォルテに。

 楯無に、サラに。

 スコールに、オータム。

 

 

 織斑一夏と関わった事がある専用機持ち達が、続々と姿を現しているのだ。

 よく知っている、親しい人達から突き出される言葉のナイフは、何よりも鋭い。

 そんなもので連続して弱っている所に刺された。

 そりゃあもうメンタルはボロボロのボロボロになるに決まっている。

 

 

 《う、くぅ……はぁ、はぁ……》

 

 

 数歩歩いただけで、まだまだ消耗していると実感する。

 肉体は疲労しているが、こんなフラフラになるほどではない。

 精神的な疲労が蓄積し過ぎて、身体の疲れへと変わっているようだ。

 

 

 肉体はモンスターに変わっても、精神は変わっていない。

 それが一種の弱点になっているようだ。

 

 

 エクスピアは休憩のために、山の亀裂なのか洞窟なのかの判断が付かない場所に身を滑り込ませると、一夏の姿に戻る。

 そして、背中を岩肌に預けながら、ズルズルと座り込む。

 

 

 「はぁ、はぁ、キッツ……」

 

 

 特徴的な黄金の瞳は、何処か焦点が定まっていない。

 一夏は暫くの間荒い息を繰り返している。

 数分後にある程度は落ち着いたが、やはり疲労感は全然拭えていない。

 

 

 「何処に、進んでるかだって……?」

 

 

 そう呟きながら、一夏は右腕を振るわせながら地面と水平となるように上げる。

 その後、手のひらを自分に向ける。

 

 

 「んなの、俺にも分かんねぇよ……」

 

 

 疲れ切ったような自嘲気味の笑みを浮かべ、手のひらを顔の前に持って来て握りこむ。

 その手を数秒見つめていたが、直ぐに脱力し右腕もダランと地面に置く。

 

 

 その後、少し顔を上の方に向ける。

 未だ微妙に焦点が定まっていない瞳。

 

 

 頭の中で思考が纏まらない。

 ぐるぐると同じ事を考え、放棄し、また考える。

 

 

 もう限界だった。

 思考の放棄と再試行を繰り返すたび、刺された言葉のナイフが、より鋭く、より大きくなる。

 そして、その殺傷力が上がったナイフを刺してくるのは、『織斑一夏』だった。

 

 

 発狂して無いのが不可解に思えるほど、何度も何度も『織斑一夏』が自分を刺してくる。

 耐えて耐えて思考を続ける。

 それでもなお、思考は纏まってくれなくて。

 

 

 「俺って、こんなんだったっけ……」

 

 

 頭をガリガリと掻き毟りながら呟く一夏。

 掻き毟る音が頭に響くが、それでも『織斑一夏』は刺してくる。

 

 

 呼吸はドンドンと荒くなっていく。

 

 

 こんな時、バディがいてくれたら。

 ぶん殴って厳しい言葉を浴びせてでも、一夏を叱咤激励しただろう。

 

 

 そうじゃなくても、団員達の誰かが一夏の事を気遣い、一夏のメンタル面は幾分かマシになり、話し合いなりなんなりが出来る余裕が生まれるだろう。

 

 

 だが悲しいかな。

 一夏がこんな行動をする選択をしたのはバディが死んだからだし、団員たちは未だ目を覚まさない。

 一夏のメンタルを癒すことが出来るのは、もう……

 

 

 ガリガリガリ

 

 

 頭を掻き毟るのが止まらない。

 それと同時、自分を刺してくる『織斑一夏』の手も止まらない。

 もうこのまま血が噴き出て来るんじゃないかという勢いだったが。

 

 

 ふと気が付いた。

 周囲を飛ぶISの気配。

 どう考えても自分を探している。

 

 

 壁に身体を預けたままズルズルと立ち上がる。

 その後、フラフラとした足取りで歩き始める。

 顔を俯かせながらの歩みなため、表情を読み取ることは出来ない。

 

 

 「…………す

 

 

 ボソリと何かを呟くが、それは誰にも届かない。

 それどころか、ちゃんと思った通りに口が動いたのか自分でも理解出来ないくらいの声量だった。

 

 

 空を見上げる。

 長時間の戦闘の末、もう日付を跨ぐか跨がないかの時間。

 都会の喧騒から遠く離れている土地の為、煌びやかに輝く星々がよく見える。

 

 

 その光は幻想的なまでに美しい。

 だが、俯いたままの一夏はそれを認識しない。

 

 

 「見つけましたよ!!」

 

 

 そんな一夏に声が掛けられる。

 一夏を挟むように、2機のISが陣取る。

 顔を見ずとも分かる。

 

 

 「ナターシャさん、イーリスさん……」

 

 

 「はい、そうです」

 

 

 ポツリと発した言葉に、力強い声での肯定が帰って来る。

 京都で亡国企業への攻撃作戦の際に、専用機持ちが抜けた穴を埋めるために、急遽アフリカから来てもらったナターシャとイーリス。

 作戦後、アフリカに戻って作業をしてもらっていたのだが、今回スコールに呼ばれ再び来日したのだ。

 

 

 「一夏さん!なんでこんな事をしてるんですか!!」

 

 

 ナターシャが叫ぶ。

 銀の福音は臨海学校の時とは違い、この暗い時間でも悠々と輝いている。

 

 

 「自分が何やってるのか、分かってるんですか!?」

 

 

 ナターシャの反対側からイーリスが叫ぶ。

 ナターシャとは違い、専用機を支給されている訳では無かったが、今はISを身に纏っている。

 一夏にとっては初めて見る機体だ。

 

 

 どんな設計思考なのか全く分からないが、1つだけ直感で理解したことがある。

 どう考えたって、束のお手製だ。

 

 

 俯いたまま、表情を2人に見せない一夏。

 2人の名前を呟いてから、何も言葉を発さず、身体も動かさない。

 

 

 そんな一夏の様子は、とても不気味で。

 ナターシャとイーリスはどうすればいいのか迷ってしまう。

 今までの戦闘では、この状態の一夏に攻撃しても、結局IS側が敗北してしまっている。

 それを理解していても、やはり生身の人間(の姿の存在)には攻撃しにくい。

 

 

 どうやって牽制しようかと考えていると……

 

 

 「はぁ……」

 

 

 「「っ!?」」

 

 

 一夏が思いっ切りため息をついた。

 ナターシャとイーリスは思わずビクっと身体の動きを止めてしまう。

 時間にしたら、1秒にも満たない隙。

 だが……

 

 

 「どうだっていい……潰す」

 

 

 ぐりん

 

 

 という擬音が聞こえてきそうな動作で顔を上げる。

 その表情はとても痛々しく、そして悲しそうで。

 でもどこか達観していて、絶望している表情だ。

 

 

 顔を上げるのと同時、手に剣を出現させナターシャに向かって思いっ切り振り抜き斬撃を飛ばす。

 それが、戦闘開始の合図だった。

 エネルギーの球体を作り出し、それを突き破る事で姿をエクスピアのものに変える。

 

 

 ナターシャは飛んできた斬撃を回避、イーリスと共に各々の武装を構え、攻撃を開始する。

 エクスピアは一夏の姿の時と変わらない表情のまま、迎撃行動に移るのだった。

 

 

 ~~~~~

 

 

 《う、くぅ……はぁ、はぁ、はぁ……》

 

 

 十数分後。

 エクスピアは荒い呼吸をしながらも立っていた。

 

 

 背中のマントはボロボロになり、全身の鎧もかなり傷んでいる。

 だが、どんな状態であろうと、エクスピアは立っている。

 それは事実だ。

 

 

 「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

 「う、くぅ……」

 

 

 エクスピアと同じような荒い呼吸をしながら、ナターシャとイーリスが横になっていた。

 ISは解除されており、まさに満身創痍だ。

 

 

 全員が全員、会話が出来る状態じゃない。

 暫くの間、荒い呼吸の音だけがその場に響いていた。

 

 

 《何が、目的だ……》

 

 

 戦闘の勝者であるエクスピアの方が、息が整うのが早かった。

 背筋が凍るような低い声での問いに、2人はどういう対応をすればいいのか悩む。

 プライベートチャネルで相談しようにも、如何やら正常に作動していない様だ。

 各個人の判断でなんとかするしかない。

 

 

 「そう、ですね……私たちから言えるのは、1つだけ、です……」

 

 

 まだ完全に息が整っている訳では無いが、イーリスが喋り出した。

 こんな状態でも、素の口調ではなく敬語である。

 今日は最初からずっと敬語だった。

 その事にエクスピアはピクリと反応するも、無言で続きを促す。

 

 

 イーリスの一言で言いたい事全てを察したナターシャが、続きを話す。

 

 

 「次が、最後です……そして、可能、だったら……ここから、北北東に、行って下さい……」

 

 

 《北北東……》

 

 

 エクスピアはそう呟き、一瞬思案する。

 別にナターシャの言葉に従う必要は無い。

 

 

 『次が最後』とわざわざ伝えた。

 それに、今まで戦ってきた専用機持ち達が向こうから向かって来たあたり、放っておいても来るのだろう。

 となると、罠、もしくは戦闘相手に有利な状況になっている可能性がある場所へ行くのは、寧ろ悪手でしか無かった。

 

 

 どこか隠れる場所で体力を回復する。

 いや、もうダークネスドラゴンWに帰ってしまえるだけの隙もある。

 

 

 だがしかし。

 何故かそのような選択をするという思考に至らなかった。

 

 

 次が最後。

 そして、まだ戦ってない、関係者の専用機持ちと言えば……

 

 

 《……いいだろう》

 

 

 エクスピアは短くそう呟くと、北北東に向かって身体を向けると、地面を蹴り真っ直ぐ飛んでいった。

 

 

 その光景を見て、ナターシャとイーリスはふぅ、と安堵したような息を吐いた。

 

 

 「上手く行ったな……」

 

 

 「そうね……あとは、上手く行く事を願うだけね……」

 

 

 「なら、大丈夫だな……」

 

 

 「ええ、一夏さんに一番寄り添えるのは、あの2人……」

 

 

 ナターシャとイーリスは、口元に笑みを浮かべると、体力の限界が来たのか、眠るように気絶した。

 

 

 指定された北北東の方向に向かって飛翔しているエクスピア。

 方角は指定されたが、距離の指定はされなかった。

 つまるところ、何か目につくものがあるという事なのだろうという解釈の元、エクスピアは飛翔を続ける。

 

 

 今までの間に目に入ったのは木以外何もないと言っても過言じゃない。

 もしかしたら通り過ぎているのでは、とも一瞬思ったがそれだったら追いかけて来るだろうと自分の中で結論付ける。

 

 

 そうして暫く飛び続ける。

 方向をミスったかもしれないと不安になっていると、ついに木以外のものが視界に入って来た。

 

 

 《海……》

 

 

 エクスピアは自然とそう呟き、速度と高度を落としていく。

 森との間の道を超え、海岸である砂浜に辿り着いた。

 着地をすると同時、エクスピアの姿から一夏の姿へと戻る。

 

 

 夜の海は季節関係なく冷える。

 冬と言えるこの季節なら尚更だ。

 一夏は外套を身に着けているものの、ただでさえボロボロだったそれは、今日の連戦でもはや原型をとどめていない程に朽ちていた。

 

 

 ビュウ

 

 

 と強めの風が吹く。

 一夏は右手を顔の前に、持っていく。

 髪や、外套のギリギリ残っている部分が風にたなびく。

 

 

 「冷えるな……」

 

 

 「ああ、そうだな。今日は特に寒い」

 

 

 「風邪をひかないように、ちゃんと身体を温めないと」

 

 

 返事を想定していなかった呟きに、2人分の返事がきた。

 その声は、一夏が最も大事にしていた2人の声であり……一夏が、今一番聞きたくない2人の声だった。

 

 

 「っ……!?」

 

 

 一夏は驚き半分、振り向きたくない気持ち半分といった表情を浮かべる。

 暫くの間一夏は身動きすら取れなかった。

 自分の後ろに立っている存在も同じく、何もアクションをしていないのに。

 何故こんなにも、思考力を奪っていくのだろうか。

 

 

 そこまで考えて、一夏は苦笑いを浮かべる。

 その理由はもう分かってるじゃないか。

 最も大事にしていた2人なんだから、思考リソースを占めていくのは当然じゃないか。

 

 

 苦笑いの表情のまま、後ろを振り向く。

 そこに居たのは、予想通りの2人。

 

 

 「なんだか、久しぶり。クラリッサ、チェルシー」

 

 

 一夏の恋人2人だった。

 

 

 一夏は努めて自然に言葉を発した。

 だが、動揺などが透けて見える。

 

 

 「ああ、久しぶりだな」

 

 

 「1ヶ月とかの長期間だった訳じゃ無いのに、なんでこんなにも久しぶり感がするのかしら?」

 

 

 「毎日顔を合わせていたんだ。不思議じゃない」

 

 

 「……」

 

 

 2人の会話を、一夏は無言で聞いていた。

 先程の自分の言葉と同じく、至って普段通りだ。

 だが、隠したはずの動揺が透けていた自分の言葉に対して、2人の言葉は本当の意味で普段通りだった。

 

 

 まぁ、一夏が未だにこの戦闘の意味を理解していないのに対し、クラリッサとチェルシーは戦闘を仕掛けた側という差もある。

 でも、それだけじゃない。

 未だに自分の進むべき場所が見えない、分からない一夏に対し、2人はもう決まっている、というのが大きい違いだろう。

 

 

 「……何の用だ?」

 

 

 先程までの、言ってしまえば朗らかな態度から一変。

 今までの戦闘前と同じように、低く冷たい声色で言葉を発する。

 対峙する者に恐怖を覚えさせる声を、容赦なく恋人にもぶつける。

 

 

 だが、クラリッサとチェルシーは一切恐怖心など持たず……それどころか、優しそうな笑顔を浮かべて一夏の事を見ていた。

 

 

 一夏は未だに自分がどうすればいいのか分かっていない。

 『織斑一夏』は未だにずっとナイフで刺し続けている。

 その上での連戦。

 もう一夏の精神はとっくのとうに発狂していてもおかしくなかった。

 今までの、仲間との、恋人との、バディとの思い出だけが、なんとか一夏を一夏たらしめていた。

 

 

 「何の用だ、か……そんなの、決まってる」

 

 

 優しい雰囲気は保ったまま、でも覚悟や気迫も感じられる表情を浮かべ、チェルシーが言葉を発する。

 それに頷きながら、同じ表情を浮かべているクラリッサが言葉を続ける。

 

 

 「一夏……お前を、助ける!」

 

 

 「……!!」

 

 

 何処までも曇りない、2人の瞳。

 まだ何処に進むべきか分からないのに、取り返しのつかない行動をしてしまった自分とは対照的で。

 『織斑一夏』が刺してくるナイフが、更に鋭利に、更に深くなる。

 

 

 「……ってくれよ」

 

 

 口元を歪め、若干俯きながらボソッと呟く。

 真正面で対峙しているクラリッサとチェルシーでも聞き取れないような小さい声だ。

 

 

 聞き返そうと言葉を発する直前。

 

 

 「もう!放っておいてくれよ!!」

 

 

 ガバッと顔を上げながら一夏が叫ぶ。

 その表情は、今にも泣きだしそうな、痛々しいものだった。

 

 

 「「っ……」」

 

 

 クラリッサとチェルシーは、思わず動きを止めてしまう。

 だが、今の一夏には相手の反応だなんて届いていなかった。

 ただ自分の胸の内を吐き出すので精いっぱいだった。

 

 

 「今の俺は!クラリッサとチェルシーに触れられない!触れられるわけが無い!もう、戻れないんだよ!!だからもう、放っておいてくれ!!!!」

 

 

 はぁはぁはぁと。

 泣き出しそうな表情はそのまま、肩で息をする。

 

 

 「何処か、行ってくれよ……」

 

 

 絞り出すような声で訴える一夏。

 それに対するクラリッサとチェルシーの返答は……

 

 

 「出来ない……出来る訳がない!!」

 

 

 「一夏!あなたに譲れないものがあるのと同時に!私たちにも譲れないものがある!!」

 

 

 「そうかい……なら……」

 

 

 一夏は手に剣を出現させ、構える。

 連戦による疲労などを微塵も感じさせない迫力がある。

 

 

 それと同時、クラリッサとチェルシーも各々のISと武装を展開。

 構えを取る。

 

 

 雰囲気の変化に同調する様に、穏やかだった海も波が立ち、強く冷たい風が吹き抜けていく。

 

 

 「「「っ!!!」」」

 

 

 一夏と2人の視線が交差し、その瞬間に一夏が砂浜を蹴り上げ一気に距離を詰めていく。

 

 

 こうして。

 最愛の恋人同士による、最後の戦いの幕が上がった。

 

 

 戦う一夏の表情は。

 真剣な顔であり……また、()()()に期待する様な、嬉しそうな顔であった……

 

 

 

 

 

 

 

 




バディファイト新規だぁあああああ!!
いやったぁああああ!!


予約できなかったが、再入荷では負けない!!
はぁ、誰か一緒にやってくれる人いないかな。
全部のカードが印刷プロキシでもいいから。


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例エバ、コンナ幸セヲ

お待たせしました。
前回の続きです。
果たしてまだ待ってくれている人は存在するのだろうか……

はい、全部私がさっさと書かないのが悪いんですけどね。
どうぞ、相変わらずのクオリティですが、楽しんでいただけると幸いです。


 三人称side

 

 

 「くっ、ハァ!」

 

 

 「やぁ!」

 

 

 「ぜぁああ!!」

 

 

 ガキィン!ガキィイン!!

 

 

 ドキュウン!ドキュゥウン!!

 

 

 夜の海に激しい戦闘の音が鳴り響く。

 攻撃が起こるたび閃光が走り、砂浜が抉れ、海が荒れる。

 

 

 あと1歩で災害と呼べてしまう程の勢いで戦闘しているのは、2機のISと人の形をした1匹の竜。

 

 

 「ハァア!!」

 

 

 「ふっ!!」

 

 

 クラリッサとチェルシーはAICやビットをフル使用。

 互いが互いのカバーをしあう見事な連携で、遠距離からの攻撃をし続けている。

 

 

 「あああ!!」

 

 

 それに対する一夏は、原形をとどめていないボロボロの外套をたなびかせながら。

 四方八方から迫って来るレーザーを避け、時には剣を盾代わりにして防ぎ。

 生身の状態で空中を飛び回りAICの拘束を回避し続けている。

 

 

 「ゼァア!!」

 

 

 一夏が空中で剣を振るい、2人に向かって斬撃を飛ばす。

 幅広の大剣を片腕で幾度も振り回し、弾丸の雨ならぬ斬撃の雨を浴びせる。

 

 

 「くっ……!!」

 

 

 「ふっ……!」

 

 

 クラリッサとチェルシーは襲い来る斬撃を回避する。

 通常兵器の実弾や、レーザー弾と比べ飛んでくる斬撃が優れている点は、その幅の広さ。

 

 

 当たり前の事だが、生身やISなどで使用できる実弾は精々数センチ。

 レーザー弾の直系も似たようなものだ。

 だからこそ、遠距離武器を扱う者には正確無比な精度が求められるのだ。

 弾丸の物量で押すという戦法もあるはあるが、弾丸の消費量が多く狙撃者も大量に必要になるので現実的ではない。

 

 

 だが、飛んでくる斬撃は、幅も厚さも弾丸とは段違いだ。

 速度としては弾丸やレーザーに劣るものの、範囲の広さは圧倒的に優位。

 それに加え、ドラゴンへとなった一夏の腕力は、人間態の今でも人間とは比べ物にならないものである。

 よって通常ではあり得ない速度で剣を振るい、幾度も斬撃を2人に向かって飛ばす。

 

 

 そもそもの話だが、通常斬撃は飛ばない。

 いったいどのような原理で、目に見える形で斬撃を飛ばしているのかは目の前で対峙しているクラリッサとチェルシーにも分からない。

 

 

 人間で出来るのは千冬や束くらいだろうと、斬撃の雨を掻い潜りながら考える2人。

 そして出来たとしても恐らく一夏程の連撃は出来ないのだろうと考えると、恋人が平然とやっているのを見ると、なんだか笑みが漏れて来る。

 それでも動きが鈍らないのが素晴らしい。

 

 

 「……」

 

 

 一方、今は攻めている側の一夏の表情は徐々に苦しくなっている。

 あまりにも鋭い言葉のナイフで刺していた『織斑一夏』は、未だに暴れている。

 クラリッサとチェルシーと対面し、会話をしてからは。

 得物がナイフから大剣へと変わり、刺してくる頻度も高くなる。

 

 

 何処に向かうのかもわからず、ただただ戦っているだけという事実。

 あんなに守るだのなんだのほざいておいて、捨て、逃げ、敵に向けていた剣を恋人に向けているという事実。

 もはや『織斑一夏』が持つ大剣を構成しているのは、楯無達から掛けられた言葉ではなく、一夏の自問自答による自己嫌悪の言葉だった。

 

 

 圧倒的に有利な戦況を展開しているのにも関わらず、時間が経過していくにつれて、クラリッサとチェルシーよりも疲労の色が濃くなっていく一夏。

 頭の中で暴れている『織斑一夏』もそうだが、連戦に次ぐ連戦で身体的にももう限界が近い。

 それに対し、心も身体も万全な状態の2人。

 どちらが疲労しやすいかなど、火を見るよりも明らかだ。

 

 

 「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」

 

 

 かなり息が荒く、肩で息をしている。

 表情も青白く覇気がない。

 剣を振るい続けている腕も震えてきており、飛んでくる斬撃は勢いも範囲も弱くなってきた。

 

 

 「「っ!!」」

 

 

 その隙を逃すほど、クラリッサとチェルシーは甘くない。

 大きくなった斬撃の隙間を縫うように移動。

 一夏の死角へと潜り込む。

 一夏は現在2人より高い位置におり、今現在煉獄騎士の鎧を身に纏っていない=ハイパーセンサーの使用が出来ない。

 

 

 「チィ!!」

 

 

 つまり、死角を確認するには顔の向きを変える必要がある。

 一夏の反射神経は見事なもので、かなり疲弊しているとは思えない程素早い動きで身体の向きを変える。

 だが、身体の向きを変えたという事は、その間少しだけ、ほんの1秒にも満たない僅かな時間、攻撃も防御も出来ない隙が生まれるという事で。

 

 

 「ふっ……!!」

 

 

 ドキュウン!!

 

 

 カキィン!!

 

 

 「しまっ……!」

 

 

 チェルシーがビットを飛ばし、あらゆる角度から射撃。

 一夏の持つ大剣に直撃させる。

 疲弊し、剣を持つ手が震え始めていたところにこの攻撃だ。

 衝撃に耐えきれず手を開き、剣を弾かれてしまう。

 

 

 「ハァ!!」

 

 

 「ぐぅ!?」

 

 

 的確に剣だけを撃ち抜かれた。

 つまり、チェルシーがしていないだけでもう身体中の全てを撃ち抜ける状態に追い込まれた。

 『織斑一夏』が暴れているのと疲労で碌に働かない頭を回転させようとした瞬間に、クラリッサがAICを発動。

 それによって空中に縛り付けられるように動きを制止させられた。

 

 

 「くっそ……!」

 

 

 なんとかAICから逃れようにも、無理だ。

 今の一夏には、クラリッサの集中力を乱す事も、強引にAICを突破するだけの馬鹿力を発揮することも出来ない。

 

 

 「くっ……!?」

 

 

 しかも、あからさま見せつけるようにビットの銃口が一夏に向く。

 武器もなく、身動きも取れず、更には近距離で武器を突き付けられている。

 もはや成す術無しか。

 

 

 一夏はもがくような表情を止めた。

 クラリッサとチェルシーは警戒と集中を解かないまま一夏に接近する。

 

 

 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

 目の焦点が定まっていない一夏は、荒い呼吸を繰り返す。

 傍から見れば、あまりにも重症。

 さっきまで生身で空中を飛び、剣を片腕で振るって斬撃を飛ばし、戦闘を行っていたとは到底思えない。

 

 

 「一夏……」

 

 

 クラリッサがAICを解除する。

 一夏の身体を縛っていた枷が無くなり自由になる。

 一夏に反撃の意思があればまたとないチャンス。

 だが、一夏は両の足で砂浜を踏みしめることなく、その場にうつ伏せで倒れ込んだ。

 

 

 ドシャ

 

 

 激しい戦闘により、綺麗だった海岸は荒れ果てている。

 が、それでも砂はクッションとなり、一夏の身体を受け止める。

 

 

 「「一夏!!」」

 

 

 クラリッサとチェルシーは慌てて一夏に駆け寄ろうとするが、

 

 

 「あああああ!!」

 

 

 「「っ!?」」

 

 

 AICで囚われていた時、焦点のあってない虚ろな目をしていて、荒い呼吸を繰り返していた人物と同じだとは到底思えないほどの咆哮をあげる。

 クラリッサとチェルシーが近寄るのを止め、警戒し身構える。

 そのさいの一瞬の隙を付き、一夏は全身の力を振り絞り跳躍。

 

 

 2人から距離を取った場所に着地する。

 だが、やはり身体に力が入らないようで右手で頭を、左手で胸を抑えながらその場に蹲る。

 

 

 「ぐぅ……!?」

 

 

 もう先程のような跳躍は絶対に出来ない。

 それどころか、ゲートを開いてダークネスドラゴンWに逃げ込むことも、ましてやこの場から自分の足で動くことも出来ないし、空中に浮遊することも出来ない。

 完全に移動手段が無くなった。

 

 

 「一夏!」

 

 

 「大丈夫か!?」

 

 

 チェルシー、クラリッサの順で叫び、慌てて一夏に駆け寄ろうとする。

 目の前で恋人が苦しそうにしている。

 動き出さない訳がない。

 だが

 

 

 「来るなぁ!!」

 

 

 一夏が、普段よりも低い声でそう叫ぶ。

 もう身体はフラフラなのに、覇気のある声。

 

 

 「「……」」

 

 

 2人は思わず動きを止め、一夏の事をジッと見つめる。

 一夏は身体に力を入れ立ち上がろうとしているが、もはや身体が言う事を聞いてくれない様だ。

 高熱を出した時でも、腕を上げるくらいの事は動かせた。

 だが、今回は全くと言っていいほど動かせないようだ。

 

 

 未だに大剣を振るい続けて来る『織斑一夏』によって精神もガリガリに削られている。

 なんで「来るな」と叫んだんだろう。

 なんで痛む身体で無理に跳躍したんだろう。

 なんで武器を向けて戦闘をしていたんだろう。

 

 

 湧き水のように止まる事が無い思考。

 どうにかまとめて言葉にしようにも、次々と溢れて来るのだから纏まる筈も無い。

 ただただ無言の時間が流れていた。

 

 

 夜風や波は、一夏の心情を表しているかのように激しい。

 ともすれば全員を飲み込んで行きかねない。

 

 

 「一夏、聞いて欲しい」

 

 

 そんな荒れ狂っている空気を切り裂き、声が掛けられる。

 もはや視線を動かすことも、声を出すこともしない。

 リアクションが無いのを、話してもいいと解釈したクラリッサが言葉を続ける。

 

 

 「一夏。もうやめよう」

 

 

 「……やめ、る、か……」

 

 

 ボソッと反応する一夏。

 2人はゴクリと唾を飲み込む。

 1つでも対応を間違えてしまったら、崩壊する。

 そんな危うさを直感的に感じ取っていた。

 

 

 「一夏。この一通りの戦闘で何が行われたのかは把握しているつもりだ。隊長たちとの戦闘ではモンスターの姿になっていたが、私たちとの戦闘ではそんな素振りすら見せなかっただろう」

 

 

 「一夏、もう限界なんでしょう?モンスターの姿になれるほどの体力なんて、残っていないんでしょう?」

 

 

 「……」

 

 

 一夏は無言だ。

 だが、苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 

 

 クラリッサとチェルシーの指摘は事実だ。

 セシリアと鈴との戦闘は、エクスピアの姿で行っていた。

 その後も、休憩などで一夏の姿に戻る事はあれど、戦闘は基本的にエクスピアの姿で行ってきた。

 

 

 だが、連戦に次ぐ連戦で体力が消耗していたうえにナターシャとイーリスとの戦闘地点から少々離れたここまで、自分で飛んできた事によっても体力を消耗していた。

 

 

 (あそこで、この姿にならなければ……)

 

 

 一夏は非常に後悔している。

 一夏の姿とエクスピアの姿を入れ替えるのも体力を使う。

 全く違う姿へと肉体を変化させるので当然と言えば当然だ。

 

 

 だが、その体力消耗具合は平時ならば気にならないくらいの僅かなものだったのだが、この極限状態では話は別。

 もうエクスピアの姿になれない。

 後悔先に立たずを、今までの人生で一番実感していた。

 

 

 「だから、なん、だ……」

 

 

 その声量は小さい。

 荒れている波と風のせいで、目の前にいる2人にも殆ど聞き取れない程の声量の筈だ。

 しかし、何故かクラリッサとチェルシーにはハッキリと聞こえる。

 これが愛のチカラかと2人は何処か遠くの方で考える。

 

 

 「一夏!もう一夏は戦えないし、戦う必要も無いのよ!」

 

 

 「そうだ一夏!だから、帰ろう!私たちと一緒に!」

 

 

 しっかりと一夏に届くように大きく。

 しかし全てを受け入れ、包み込むように優しく一夏に語り掛ける。

 

 

 ただでさえ苦い表情を浮かべていた一夏は、クラリッサの言葉の後更に辛そうな様子に変わる。

 

 

 リアクションがあった。

 少なくともこちらの声は届いている筈。

 だが、様子が変わった以外特に動きも無く、言葉もない。

 

 

 クラリッサとチェルシーは視線を合わせ頷き合う。

 そして一夏に向かって1歩踏み出そうとした時、

 

 

 「―――にな――がわか―る――」

 

 

 一夏がボソッと何かを呟いた。

 波と風に消され、所々しか聞き取ることが出来ない程の声量。

 先程の言葉もかなり小さかったが聞き取れてはいたので、それよりも更に小さいという事。

 

 

 2人は一夏に近付くのを中断する。

 今の一夏は触り方を間違えたら一瞬で壊れてしまう。

 何を言っているのかの把握は優先されるべきだと判断した結果だ。

 

 

 まるで何か大いなる存在の意思が介入しているかのように、中々一夏の近くに行く事が出来ない事に若干の焦りを覚えながら、一夏の口元に集中する。

 

 

 「お前らに!なにがわかるんだ!!」

 

 

 「「っ!?」」

 

 

 出会ってから。

 一夏はクラリッサとチェルシーに向かってこんな乱暴な口調をした事は無かった。

 初対面時は敬語だったし、付き合いだしてからため口になったが、それでも2人に掛ける言葉は優しい言葉だった。

 

 

 そもそもにして、一夏が乱暴な言葉を使う時は内心が穏やかじゃないときだ。

 篠ノ之箒にちょっかいを掛けられていた時など、乱暴になっても致し方ないという時だけだったのに。

 大切だと、守りたいと心から願っている2人に対して使っている。

 それ程までに今の一夏には余裕が無く、追い詰められているという事を意味している。

 

 

 「もう俺は人間じゃない!分かるか!?この意味が!お前らにぃ!!」

 

 

 一夏はクラリッサとチェルシーの事を見ない。

 否、見れない。

 それは顔を上げれない程身体が痛むという意味でもあるし……こんな自分が2人を見る権利が無いと思い込んでいるという意味でもある。

 

 

 「ジワジワと身体が作り変えていかれるのが!吐血とかで常に実感させられる感覚が!お前らに分かるのかよぉ!!」

 

 

 2人の顔を見ないように俯いている一夏。

 クラリッサとチェルシー側からも一夏の表情は見えない。

 だが、上ずり震えている声。

 砂浜にぽたぽたと振って来る水滴によって、一夏が涙を流している事は直ぐに分かった。

 

 

 「「……」」

 

 

 2人はもはや視線を合わせる事も必要とせず、同時に一夏に近付いていく。

 

 

 ザッ、ザッ、ザッ

 

 

 波も風も荒れている中、砂浜を踏みしめる音が何故か鮮明に聞こえる。

 そのため、2人の接近は一夏も気付いた。

 咄嗟に身体を動かして距離を取るとするも、やはり身体は動かない。

 

 

 「来る、なぁ!!」

 

 

 再び来るなと叫んでみる。

 だが、さっきは止まった足音は、今回は止まらない。

 

 

 ザッ、ザッ、ザッ

 

 

 足音は大きくなる。

 距離を取ろうと身体を動かそうとするも、やはり動かない。

 かといって、もう声を発しても意味はないし、顔を上げることは出来ないし……

 

 

 疲労、焦り。

 何処に向かっているのかという問いに対して満足に答えられず、『織斑一夏』が攻撃を繰り返してくる。

 何時も冷静沈着で、直ぐに最適解を出せたのに。

 もう思考は纏まらない。

 

 

 気が付けば、俯いたままの一夏の視界にも、クラリッサとチェルシーの足元が入って来た。

 つまり、それ程の近い距離にいるという事。

 

 

 何かしなくては。

 咄嗟に一夏が口を開き、言葉を発するその直前。

 

 

 「「一夏!!」」

 

 

 「っ!?」

 

 

 クラリッサとチェルシーが同時に一夏の名前を叫びながら、ギュッと一夏に抱き着いた。

 強く、強く。

 今まで生きてきた中で1番力を籠めて、強く抱きしめる。

 

 

 結構痛かったのに、更に強くなった力に一夏は顔をしかめる。

 それでも、拒絶の言葉を発せなかった。

 分かっているから。

 こんなにも力を籠めて抱きしめくれるのは、2人が自分に向けてくれている愛の象徴なんだという事。

 そして、『もう放っておいてくれ』より強い拒絶が出来ないくらいには、自分もまた2人を愛している事を。

 

 

 「私たちは一夏の味方だ。一夏が何者であろうと、未来永劫それは変わる事は無い」

 

 

 「っ!だから、それは……!!」

 

 

 ここまでは千冬も一夏に言った事。

 それだけじゃ足りなかった言葉だ。

 千冬の結果は2人も知っている。

 だから。

 

 

 「一夏。あなたはディミオスソードやオルコスソードと相棒(バディ)を組んだ。人間じゃないモンスター達と絆を結んだ。その事実は、忘れてないよね?」

 

 

 さらに言葉を重ねる。

 受け入れるだけじゃ塞がらない傷を、自分達という存在で埋めるように。

 

 

 「っ……!」

 

 

 他でもない自分の事。

 ディミオスは数年前に、自分に切っ掛けを与えてくれた恩竜で。

 オルコスは、関わっていた期間こそ短かったものの、亡国企業との濃密な戦闘を共にした。

 どちらも大切な相棒との思い出。

 

 

 楽しかったり明るい思い出ばかりじゃない……というか、重たく暗い思いでの方が多いし印象深いけど。

 それは間違いなく人間(一夏)モンスター(ディミオスやオルコス)と歩んできた歴史であり、結んできた絆の象徴だった。

 

 

 「一夏の隣から見てて思ってた。相棒(バディ)って言葉は、まさにこういう関係の為にあるんだって」

 

 

 「それだけじゃない。一夏と共に戦っていた煉獄騎士団のドラゴン達や、元がISの白騎士や白式とだって」

 

 

 「……」

 

 

 大剣を持って暴れていた『織斑一夏』の勢いが無くなっていくのを感じる。

 『織斑一夏』を形成していたのは、他人から投げかけられた言葉と、自責の念だった。

 クラリッサとチェルシーによって傷が埋まって来た事によって、自責の念が消えかかっている。

 だが、まだ完全じゃない。

 

 

 「一夏が人間の時、モンスター達と絆を結んでいた。一夏の立場は逆になってしまったけれど、隊長達とも出来ると思わないか?」

 

 

 「それだけじゃない。友情が、絆が結べるんだったら。愛し合う事も。出来るんじゃないか?」

 

 

 「……けど、俺は……!」

 

 

 「もう、引き返せない所まで来たから、私たちとは一緒に居れない?」

 

 

 「それとも、進むべき方向が分かってなくて暴れてるだけの自分に関わってはいけない?」

 

 

 「っ!?なぜ、それを……」

 

 

 クラリッサとチェルシーから、『織斑一夏』を構成する自責の念の大部分を言い当てられ一夏は目に見えて動揺する。 

 今までの戦闘が見られていたのは分かっている。

 だが、ここまでドンピシャで内心を言い当てられる程の事は口にしていない筈。

 いったいどうやって……

 

 

 「恋人の考えている事なんだ。大体わかる」

 

 

 「愛のチカラってやつ」

 

 

 「ははは……なんだよ、それ……勝てる訳がねぇ……」

 

 

 なんだそれと言っているものの、かつての自分も同じ事を言った気がする。

 言って無くても、心の中では絶対に覚えている

 だって、それくらいに2人の事を愛しているのだから。

 

 

 「もう引き返せない所まで来たって言うんだったら、私たちは同じところまで堕ちる」

 

 

 「進むべき方向が分からないなら、一緒に探す」

 

 

 「っ!?」

 

 

 一夏は思わず表情を固くする。

 クラリッサはシュヴァルツェ・ハーゼの副隊長。

 チェルシーはオルコット家のメイド。

 そう簡単に自らの立場を捨てれる人間じゃないし、ラウラとセシリアを上司/主として信頼し、忠誠を誓っている2人。

 こんな提案をして来るだなんて、思えなかった。

 

 

 「ふふふ、驚いてる。でも、それだけ私達はあなたの事を愛しているの」

 

 

 「ああ、その通りだ。私達は、一夏と共にだったら何処までだって行って良い」

 

 

 「……!!」

 

 

 一夏は目頭が熱くなるのを感じた。

 もう関わるなと突き放したのに、ここまで自分の事を想ってくれる存在がいることが。

 とても嬉しくて。

 『織斑一夏』の勢いは、更に無くなっていく。

 

 

 「「でも」」

 

 

 「……?」

 

 

 「やっぱり、そう簡単にお嬢様方を捨てれる訳じゃ無い」

 

 

 「だから一夏」

 

 

 2人はここで1回言葉を止め、深呼吸する。

 互いを見なくても、タイミングを合わせる事なんて簡単だった。

 まだ直接顔を合わせてから1年も経ってないけど、同じ人物を愛している仲間なのだから。

 

 

 「「一緒に帰ろう!!」」

 

 

 2人の気持ちがこもった渾身の言葉。

 この距離だから、当然一夏にも届く。

 

 

 ポタポタ

 

 

 クラリッサとチェルシーの肩が濡れていく。

 

 

 「しょう、じき、まだ言葉、が、まとまって、ない……」

 

 

 声は上ずり、ハキハキと喋れない。

 何時もなら喋れるのに。

 クラリッサとチェルシーは何も言わずに優しい手つきで背中を摩る。

 

 

 「やっぱり、取り返しのつかない事を、した。何処に、進むべきかも、分からない」

 

 

 ぽつぽつと言葉を吐き出す一夏。

 

 

 「嬉し、かった。こん、なに、ぐちゃぐちゃ、で、感情のまま、てき、とうに、こうど、う、した、俺に、こうして、くれ、て」

 

 

 「「うん」」

 

 

 「やっぱ、り、巻き込み、たく、ない。こん、な、俺に。で、も、離れたく、無い。愛してる……から……」

 

 

 「私もだ」

 

 

 「私も」

 

 

 「だか、ら、もし、2人、と、いる、のが許され、るん、だったら、一緒に、いたい。何処に、進む、か、一緒に、決め、たい」

 

 

 「「うん」」

 

 

 ここで一夏は身体を少しだけ引き、2人の顔を見る。

 何処までも優しい、天使のような微笑みの表情。

 それに対して、恐らく自分はぐっちゃぐちゃの酷い表情。

 

 

 「クラリッサ・ハルフォーフさん」

 

 

 「はい」

 

 

 「チェルシー・ブランケットさん」

 

 

 「はい」

 

 

 2人の名前を呼び、出来るだけ表情を整える一夏。

 深呼吸をし、落ち着かせると、丁寧に言葉を紡いだ。

 

 

 「私、織斑一夏は、2人の事を、愛しています。こんな私ですが、これからも私の側に、居て頂けますか?」

 

 

 一夏からの、愛の告白。

 勿論、答えは1つだけ。

 

 

 「「はい、喜んで!!」」

 

 

 クラリッサとチェルシーは満面の笑みを浮かべると、一夏に思いっきり飛び掛かり抱きしめる。

 

 

 「うわっ!?」

 

 

 ドサッ!!

 

 

 その衝撃に耐えられず、一夏は砂浜に仰向けに、2人がその上に乗る形で倒れ込んだ。

 

 

 「痛っ!?」

 

 

 「一夏、酷いじゃないか。恋人の私達を放って、勝手に行くなんて」

 

 

 「ごめん。あの時、織斑とかいう科学者に言われた言葉と、虐められてた幼少期思い出して、ぐちゃぐちゃになっちゃって。今の今まで、暴走してた」

 

 

 「これからは何があっても絶対、私たちは味方だからね」

 

 

 「うん、大丈夫。中1の頃から、バディたちと一緒に居るのに見失ってたもの、見つけ直したから」

 

 

 3人は笑い合う。

 

 

 暴れていた『織斑一夏』は消えた。

 

 

 何時の間にやら穏やかに落ち着いていた波と風が3人を包み込んで。

 月の光が穏やかに見守っていたのだった。

 

 

 

 




一夏が恋心を自覚した時、自己嫌悪から救ったのはクラリッサとチェルシーでした。
そして今回、姉の千冬や妹のマドカ、そして一緒に戦ってきた戦友でも出来なかった事を、2人はやり遂げられました。

付き合い始めた時、告白はクラリッサとチェルシーからでした。
ですが今回、改めて一夏の方から思いを伝える事が出来ました。

良かった良かった。
まだ全然解決する事山積みだけど。




クラリッサとチェルシーがヒロインの理由。

①ISのカラーリング
 ディミオスの鎧とシュヴァルツェア・ツヴァイクの色→黒
 オルコスの鎧とダイブ・トゥ・ブルーの色→青

②一夏が精神的にダメージを受ける事が多い→隣で支えつつ、でも温かく包み込んでくれる人が良い→同学園よりは上だけど、千冬よりかは低い人が良い。

③臨海学校の事を考えると、学園外に居る人の方が良い。

IS×バディファで書こうと思った時、モンスターの候補はいっぱいいました。(ゾディアックとか)
その中で煉獄騎士団を選んだのは、上記の①、そして煉獄騎士団が白竜だったから。
他にも、戦闘スタイルが剣であるとか、一夏が原作とは違う成長をするとき、原作にいないタイプ立場のモンスターにしたかったとか、バディファアニメであんまり触れられてなかったとかの理由もあります。

最終回で書こうと思ってたけど、折角クラリッサとチェルシーが頑張ってくれたので、ここで書く事にしました。


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煉獄騎士の帰還

 何時もよりは少しだけ早い!
 成長!

 ……前はもっと早かった?
 はい、そうです。
 もっと頑張ります……

 では、どうぞお楽しみください。


 「なんでこうなってんの!?」

 

 

 一夏の叫び声が夜空に響く。

 戦闘中でも無いのに、ここまで焦りながら叫ぶのは珍しい。

 だが、そうなるのも当然なのかもしれない。

 何故なら。

 

 

 「一夏、暴れると落ちるぞ」

 

 

 「別に何かがある訳じゃ無いんだから」

 

 

 「ある!恥ずかしい!クラリッサとチェルシーにこうやって運ばれるの!」

 

 

 一夏は各々のISを展開したクラリッサとチェルシーに2人がかりで担がれ、空中に担がれているのだから。

 こっちの世界でも向こうの世界でも基本的に自分で飛んで移動したため、こうして担がれて運ぶのは非常に恥ずかしい。

 モンスターになってから、バディスキル等の補助が本当に必要無くなった事、担いでいるのが恋人2人なのが、恥ずかしさに拍車をかけているのかもしれない。

 

 

 「はぁ……」

 

 

 だが、頭の回転と切り替えは早い方の一夏。

 ここ最近迷いすぎてくすぶっていたその能力も、落ち着いた今では発揮できる。

 何言っても無意味だし、そもそも運んでもらう以外だと歩くしか移動の選択肢が無いので、大人しくしているしか無いのだ。

 

 

 2人に身体を預け、夜風を全身で受ける。

 連戦に次ぐ連戦で熱が籠っていた身体がゆっくりと冷やされていく。

 風邪をひかないようにしないと、いや、モンスターって風邪ひくのか?とそこそこどうでもいい事を考える。

 

 

 そんな一夏を見て、クラリッサとチェルシーは嬉しそうな表情を浮かべる。

 学園祭後あたりから、一夏は態度にこそ出さないものの、何かを抱え込んでいる気がしてならなかったし、そこまで長い期間という訳では無かったが全く会えなかった。

 だからこそ、この何ともない穏やかな表情を見るだけで嬉しくなる。

 

 

 会話は無いが、穏やかな時間が流れる。

 ボーッと景色を眺めていた一夏が、ある事に気が付いた。

 

 

 「……ん?IS学園ってこっちじゃ無くね?」

 

 

 一夏の言葉の通り、向かっている方向はIS学園の方向じゃない。

 しかし、2人が堂々としているのでルートを間違ったという訳じゃ無さそうだ。

 

 

 (そりゃそうだ。だってIS展開してるんだぞ)

 

 

 じゃあ何故?

 と一夏が口を開く前に、2人が言葉を発する。

 

 

 「そうだ。向かっているのはIS学園じゃ無くて『PurgatoryKnights』だからな」

 

 

 「会社に?」

 

 

 「そう。だって一夏、あれから身体酷使させてるでしょ?だからいろいろ検査してもらわないと」

 

 

 「……もしかして、束さんとかクロエさん会社にいる?」

 

 

 「そう聞いている」

 

 

 「……お説教ルートか……まぁ、仕方が無いか。やらかし過ぎたからな……」

 

 

 「一回しっかりと怒られた方が良い」

 

 

 「家出するか……」

 

 

 「今度は連れて行ってよね?」

 

 

 「止めないのかよ……」

 

 

 口調は呆れているようだったが、表情は嬉しそうだ。

 こんな事でも、連れて行ってくれるよね?が嬉しかったようだ。

 クラリッサとチェルシーも笑顔を浮かべている。

 

 

 なんてことない談笑を繰り返していたら、いつの間にか会社に到着していた。

 会社では当然のようにスコールと束、クロエが待ち構えていた。

 3人がそれぞれ愛のある説教を手短に行った後、一夏を検査室にぶち込んだ。

 

 

 検査の途中で限界が来た一夏は眠りに落ちてしまい、検査は一時中断。

 医務室のベッドへと運ばれた。

 もう遅い時間という事で、クラリッサとチェルシーも会社に泊る事になり、医務室のベッドの上で一夏を中央に3人並んで寝る事にした。

 

 

 医務室のものゆえ多少広いが、

 少々寝苦しかったが、それでも幸せだったと後に2人は語った。

 

 

 ~~~~~

 

 

 翌日。

 一晩恋人にサンドされながら寝た一夏は復活した。

 それはもう、昨日の戦闘時の疲弊が嘘のようで、クラリッサとチェルシーが一夏と同じタイミングで起きなかったら、朝のトレーニングをしていただろうには元気だ。

 

 

 そんなこんなで社員食堂で特別に作ってもらった朝食を食べた後、検査が再開された。

 一夏の調子が良くなったので、本来の予定では無かったところの検査まで一通り行われた。

 そんなこんなで、一夏の検査が終了したのは12時を少し回ってからだった。

 

 

 「あああ……やっと解放された……!」

 

 

 昨晩寝泊まりしたベッドの上で。

 検査が終了した一夏が入院着姿で横になっていた。

 

 

 「あはは、ごめんねいっくん。長くなっちゃった」

 

 

 「全くですよ……」

 

 

 「でも、一夏様が無茶しまくるのが悪いんですからね?」

 

 

 「すみません、クロエさん」

 

 

 「あれぇ?なんだかいっくんが束さんよりもクーちゃんを上の方に見てる気がするぞ~?」

 

 

 「事実ですが」

 

 

 「いっくん!?」

 

 

 「日常が戻ってきた感じがするな」

 

 

 「嬉しい限り♪」

 

 

 「クラちゃんにチェルちゃん!?うぅぅ、いっくんに染まってる……」

 

 

 「「今更ですか?」」

 

 

 「このバカップル~~!!」

 

 

 束の叫び声に、他4人が思わず笑いだす。

 医務室とは思えない程賑やかだが、他に医務室にいる人などいないのでさほど問題じゃない。

 

 

 一夏のベッドの側に置いてある椅子にクラリッサとチェルシーが座っており、書類を持った束とクロエが立っている。

 検査終了後、恋人3人が雑談していたところに、束とクロエが検査結果の報告に来たという訳だ。

 

 

 「んん!じゃあ、改めて。いっくん、検査お疲れ様。早速だけと、結果が出たよ」

 

 

 「早くないですか?血液検査とか、どう考えても半日じゃ結果出ないのとかありましたけど」

 

 

 「ふふん。束さんに不可能など無いのさ!」

 

 

 「相変わらず技術だけはスゲェな……」

 

 

 ドヤ顔の束に対して、一夏は思わずため息を漏らす。

 技術以外は凄くないと暗に言われているのに気が付いていないのか、上機嫌のまま一夏に結果が書いてある書類を手渡す。

 クラリッサとチェルシーにも見えるようにしながら、一夏はパラパラと書類を捲る。

 

 

 ISを動かせる男という特殊な立場故、ちょこちょこ検査を受ける機会が多かった一夏。

 学園祭で吐血してからそれも顕著だったため、検査の結果を確認する事なんて慣れてしまった。

 

 

 (あんまり慣れたくない事だったなぁ……)

 

 

 どこか悲しい表情をしながら確認を進める一夏。

 クラリッサとチェルシーも手際の良さに一夏と同じような表情を浮かべながら、同時に一夏の事を軽く抱きしめる。

 一瞬だけ驚いた表情を浮かべた後、嬉しそうな表情を浮かべながら確認を進める。

 

 

 (なんだが、以前までよりもイチャつき度が上昇した気がします)

 

 

 (甘ったるいなぁ……いや、3人が仲良いのは凄く良い事なんだけどね?……束さん誰に言ってるんだろう?)

 

 

 そんな事を考えながら温かい眼差しで見守っていると、一夏が怪訝そうな表情を浮かべた。

 

 

 「束さん、この空欄はなんです?」

 

 

 一夏が指差す場所は、確かに空欄だった。

 そこ一か所だけではない。

 他にもちょこちょこと空欄の箇所がある。

 以前の検査では確かに何かが記載されていたと記憶しているため、検査していない箇所だという訳では無いだろう。

 

 

 「あー、それはね……」

 

 

 束は分かりやすく動揺している。

 視線は泳いでいるし、声の大きさは小さくなっていく。

 

 

 「束様、素直に説明した方が良いと思われますが」

 

 

 「そうだよねぇ……」

 

 

 「何かがあったという事は分かりました。さっさと説明しやがれこのポンコツ駄兎」

 

 

 「ひぃん!?もはやただの暴言!?」

 

 

 「束さん、早くしてあげた方が良いですよ」

 

 

 「私達としても気になりますし」

 

 

 「クラちゃんとチェルちゃんはまだ良心だよ……いっくんは昔あんなに可愛かったのに……」

 

 

 「……失礼な態度を取った事は謝罪します。それに、ここ最近酷い事言い過ぎましたね。ごめんね、束お姉ちゃん」

 

 

 「「「「!?」」」」

 

 

 「なので説明w「いっくん!!」わっぷ!?」

 

 

 まださっきと言って良い時間まで、別行動だった一夏。

 愛のある説教をしてくれ、更には身体の検査までしてくれた束に今までのような態度で接するのは流石にいかがなものかと思った一夏(束の態度にも問題はある)。

 

 

 昔のいっくんというワードがよく出て来るので、朧気ながら覚えている昔の話し方をしてみた。

 これで機嫌を直して、さっさと説明して欲しい。

 そんな打算も含んでいたのだが、感激した束がベッドの上の一夏に突撃した事で失敗したと理解した。

 

 

 「いっくん!束お姉ちゃんだよぉ!!」

 

 

 「離れろ鬱陶しい!!」

 

 

 折角変えた言葉遣いも、何時も通り毒のあるものに戻ってしまう。

 

 

 「いくら何でも、許されませんよ!?」

 

 

 「一夏から離れてください!」

 

 

 一夏の束お姉ちゃん呼びで思わず動きを止めていたクラリッサとチェルシーが慌てて一夏から束を引き剝がそうとする。

 いくら優しい2人でも、恋人に別の女性が思いっ切り抱き着いて何の感情も抱かない訳が無いのだ。

 

 

 無事引き剥がされた束は医務室の床に倒れる。

 宝物を取られまいとする子供の様に、一夏を抱きしめるクラリッサとチェルシー。

 その強い力が嬉しくて、口元に笑みが浮かぶ一夏。

 

 

 「束様、そろそろ真面目に……」

 

 

 床に突っ伏した束にクロエが声を掛ける。

 束が立ち上がろうと腕に力を入れた時、医務室の外からドタバタと走る音が聞こえて来る。

 

 

 「なんだろう、知ってる人な気がす「誰がお姉ちゃんだって!?」」

 

 

 一夏の言葉を遮る形で扉が開かれ、怒りに満ちた声が飛び込んでくる。

 全員の視線が部屋の扉に向けられる。

 そこに居たのは、怒り心頭といった表情を浮かべている千冬だ。

 その瞬間に束も立ち上がり、千冬に対して挑発的な笑みを浮かべる。

 

 

 「一夏の姉は私だけだ!」

 

 

 「フンだ!いっくんが自分から、()()()()!!束さんの事をお姉ちゃんって呼んだんだ!束さんの方がお姉ちゃんだ!」

 

 

 ぎゃーぎゃーと2人が争い始める。

 なんともどうでもいい事で幼稚に喧嘩する2人を見て、何とも言えない表情を浮かべる一夏達4人。

 すると

 

 

 「お兄ちゃん、大丈夫?」

 

 

 「マドカ!?なんで会社に……」

 

 

 医務室の入り口からひょこッとマドカが顔を見せる。

 

 

 「私だけじゃないよ」

 

 

 「一夏、元気?」

 

 

 「元気そうなんじゃない?」

 

 

 「……どういう状況っスか?」

 

 

 「みんな……」

 

 

 マドカの言葉と同時、シャルロットを始めとした昨日一夏と戦闘を行った面々+真耶が姿を見せる。

 それを認識した時、一夏は背中にダラダラと冷や汗が流れるのを感じた。

 

 

 「えー、そのー」

 

 

 珍しく歯切れの悪い一夏。

 クラリッサとチェルシーの背中をトントンと叩き、いったん放してもらう。

 

 

 「この度はご迷惑をお掛けして、大変申し訳ございませんでした!!」

 

 

 今まで見て来たどんな土下座よりも、完璧できれいな土下座をベッドの上で披露する一夏。

 その側で言い争う世界最強と天才科学者。

 それを見る学友たちという、混沌とした空間を何とも言えない空気が支配する。

 

 

 (ああ、自暴自棄になんてなるんじゃなかった……)

 

 

 クラリッサとチェルシーとの戦闘後からずっと思っていた事だが、改めて思った一夏だった。

 

 

 ~~~~~

 

 

 数十分後。

 医務室にやって来たみんなからも愛のある説教を受けた一夏。

 土下座を止め、喧嘩している千冬と束を叩き伏せてから、クラリッサとチェルシーとの戦闘終了後から今に至るまでに起こった事の大筋を説明した。

 

 

 「まぁ、兎にも角にも。お兄ちゃんが無事に帰って来てくれて本当に良かったよ」

 

 

 笑顔のマドカが、心底安心したような声色で呟く。

 うんうんと頷くみんなを見ると、やはり心配と手間を掛けさせてしまった事が申し訳なくなってくる。

 

 

 「本当に申し訳ございませんでした……」

 

 

 「もう気にしてないって。ねぇ、みんな」

 

 

 「一夏、顔上げてよ。私とお姉ちゃんみたいに、蟠りが出来る事は誰だってあるって」

 

 

 「そうよ。一夏君がしてくれた、蟠りの解消。今度は、私たちがそれをしただけ」

 

 

 「あの時は切っ掛けを作っただけなんですが……まぁ、そう言ってくれるなら、あまり掘り返さない事にします」

 

 

 「その方が良いわよ」

 

 

 更識姉妹を始めとしたみんなからの説得で、一夏の表情は少し明るくなる。

 

 

 「それで、1つ気になっていたんですが」

 

 

 「なんだセシリア」

 

 

 「織斑先生と篠ノ之博士の喧嘩の原因はなんでしょう?」

 

 

 「あー、えー」

 

 

 セシリアの問いに、一夏は明言できなかった。

 直接的な理由を聞いた訳では無いが、医務室に入って来た時の会話から、どうしようもなくしょうもない理由だとは察せれる。

 

 

 身内のしょうもない事を説明するのは気が進まない。

 だが、

 

 

 「僕も気になってたんだよね。なんか織斑先生が急に走り出したと思ったら、医務室で喧嘩してるし」

 

 

 「因みにさ、その前に何か聞こえた?」

 

 

 「え?あ、うん。何処か遠くの方から小さく『…ねお姉ちゃん』って」

 

 

 「聞こえてたのか……」

 

 

 なんと言う事だろうか。

 冷静になってから振り返ると黒歴史レベルのやらかしを、よりによって聞かれていたとは。

 

 

 「お嬢様、実はですね……」

 

 

 「チェルシー!?」

 

 

 なんて誤魔化そうかと思案していると、恋人からの暴露が。

 メイドとして、主からの要求を蔑ろにできないというチェルシーの心情を理解しているが故、強く止める事も憚られる。

 そんなこんなで、チェルシーとクラリッサから推測を含む流れの大筋の説明がされた。

 

 

 「なるほど……」

 

 

 「把握した」

 

 

 「俺らもダリル姉とフォルテ姉って呼ばれてるんだが」

 

 

 「今声を大にすると拗れるから黙った方が良いっス」

 

 

 「うぅ……」

 

 

 友人達に「束お姉ちゃん」呼びがバレてしまった。

 自分以外に4人しかいなかったからやったが、こうなると流石に恥ずかしすぎる。

 

 

 「逃げたい……」

 

 

 思わずそう呟いた一夏。

 一夏に叩き伏せられてからずっと床に突っ伏していた束と千冬を含め、全員の視線が一夏に注がれる。

 クラリッサとチェルシーが一夏に対して口を開こうとした時、

 

 

 「ああ、いや、違うんだ。そう言う事じゃ無くて。ただただ恥ずかしかったからさ」

 

 

 『?』

 

 

 一夏が弁明する様な口調で話しだした。

 誰も何も話してないのに。

 自分の失言に気が付き先んじて言った……という雰囲気ではない。

 

 

 一夏の視線はクラリッサとチェルシーを交互に見ていたが……クラリッサとチェルシーというよりも、2人についている別のものを見ているようだった。

 

 

 「それで、なんかありえないくらい脱線しましたけど、この空欄はなんですか?」

 

 

 一夏に対してもいろいろ聞いたい事はあるが、一先ず優先順位が高いのはこっちだろう。

 視線が注がれる先が束に変わる。

 束は一度深く息を吐くと、説明を始める。

 

 

 「あのさ、その。いっくんってもう人間じゃないじゃん?」

 

 

 「そうですね」

 

 

 言いづらそうにしている束に対し、あっけらかんと答える一夏。

 今回の騒動の発端はまさにソレだったのだが、恋人のお陰で乗り越えたのでもう重たい空気にしたくない。

 なんとなく一夏の考えを理解した束は、同じように明るく喋り出す。

 

 

 「それでね、流石の束さんもドラゴンの身体検査は初めてだったからさ。人間と同じ方法でやったんだけど……」

 

 

 「ああ、なるほど。身体の構成が人間と違い過ぎて、よく分からなくなったと」

 

 

 「正解!」

 

 

 束の言葉を聞き、一夏はこめかみに指を当てる。

 束でも無理となると、もはや頼れるのは1人。

 

 

 「はかせの所に行くか……」

 

 

 そう、ヒーローWのメンジョ―はかせだ。

 向こうの世界にはもともとモンスターが存在しているし、そもそも団員達の治療を請け負ってくれるのだから数値が出ないという事は無いだろう。

 団員達もそろそろ目を覚ましている頃合いだと思うので、確認も兼ねて訪ねて良いだろう。

 

 

 一夏はベッドから降り、身体を伸ばす。 

 

 

 「はかせ……?」

 

 

 「ん?ああ、向こうの世界の人、いや、モンスターだ。団員達の治療もしてくれた人だから、数値が出ないって事は無い」

 

 

 チェルシーの疑問の声に応える一夏。

 一夏の発言と行動から、今からはかせの所に……異世界に行く気だというのは理解した。

 

 

 「一夏、連れて行って」

 

 

 「え?まぁ、良いけど……なんか、別に大それたことはしないぞ?」

 

 

 「さっきの発言」

 

 

 「是非付いて来て下さい!!」

 

 

 「いっくん!いっくん!束さんも行きたい!」

 

 

 「私も!」

 

 

 「僕も!」

 

 

 「分かった、分かったから」

 

 

 異世界。

 一夏以外いった事が無い場所。

 流石に興味が湧く。

 

 

 「では、私は戻りますね。学園長に、織斑君の無事を伝えます」

 

 

 「山田先生、本当にすみません……」

 

 

 「いえいえ、気にしないで下さい。織斑君はまだ学生なんですから。間違えても、別に良いんですよ」

 

 

 「ありがとうございます」

 

 

 一夏は改めて頭を下げる。

 真耶も一礼してから医務室から学園へと戻っていった。

 

 

 「束様、一夏様、私も仕事がありますので」

 

 

 「クーちゃん、頑張ってねぇ~!」

 

 

 「はい、失礼します」

 

 

 クロエも自分の仕事に戻っていく。

 

 

 「さて、後の面々は付いて来るって事で良いのか?本当に面白い事ないぞ?」

 

 

 「大丈夫よ一夏!」

 

 

 「何が大丈夫なんだ鈴」

 

 

 「異世界っていう状況そのものがワクワクするわ!弾も数馬も絶対にそう言う!」

 

 

 「さいですか」

 

 

 一夏の脳裏に浮かぶは、未だ心が14歳の旧友2人。

 あの2人と同列だと自ら宣言している事に鈴は気が付いていない。

 それで良いのだろうか。

 

 

 「じゃあ、行くぞ」

 

 

 一夏は右手を前に掲げる。

 その瞬間に、バディワールドへのゲートが、()()()()()()()()()()()()()()開く。

 

 

 「っ……!?」

 

 

 「一夏?どうかしたか?」

 

 

 「い、いや、何でもない」

 

 

 少々態度に出てしまった。

 これ以上追及されないように身を屈めながらゲートに身体を滑り込ませる。

 

 

 「ちょっと待ってよ!」

 

 

 他の面々も慌てながら、同じくゲートを身体に滑り込ませる。

 一夏以外の、IS世界の人間が。

 バディワールドへと降り立つ瞬間だ。

 

 

 ~~~~~

 

 

 ダークネスドラゴンWの、煉獄騎士団本部。

 団員達のいない少々寂しいその場所が、ゲートの繋がった場所だ。

 

 

 「おぉ……ここが、異世界……」

 

 

 「あんまり異世界感ないね」

 

 

 「扉とか天井がそこそこ高いくらい?」

 

 

 「室内だからな。あまり期待するな」

 

 

 ダークネスドラゴンWは、生身の人間には少々過酷な環境だ。

 死地への誘いを始めとする危険すぎる設置魔法や、凶暴なモンスターが跋扈している。

 初手で外にゲートを繋げて、目の前に命の危険がこんにちは、といった可能性も十分にあったため本部内を選んだ。

 

 

 来るのにも配慮が必要なくらい過酷な環境で修行しつつ3年も過ごせば、一夏も強くなるのだ。

 

 

 「……」

 

 

 一夏は閉じていくゲートを無言で見つめる。

 

 

 (今までよりもゲートが小さい……いや、()()()()()。今だって、俺が閉じようと思って閉じたんじゃなくて、時間経過で勝手に……)

 

 

 「一夏、どうかした?」

 

 

 「ああ、いや、何でもない」

 

 

 ゲートが閉じ切っても動かない一夏にクラリッサが話し掛ける。

 少し動揺しているような様子なので何か聞きたいが、異世界関係のこと等微塵も分からないので引き下がった。

 

 

 「はかせの所にはヒーローWへのゲートに飛んでいく必要がある。ISを展開してくれ。束さんは……千冬姉、頼んだ」

 

 

 「……本音を言うと嫌だが……まぁ致し方ない」

 

 

 「ちょっとちーちゃん?嫌ってどういう事?」

 

 

 「そのままだ」

 

 

 「酷い!」

 

 

 年長者2人が漫才をしている間に、残りのメンバーはさっさとISを展開した。

 人間よりも身長が高いドラゴン達が余裕を持って暮らせるだけの広さがあるので、ISを展開しても特に問題ない。

 

 

 「良し、行くぞ》

 

 

 言いながら一夏は肉体をエクスピアの姿へと変える。

 交戦前などにその光景を見てことはあるが、近くでマジマジと見るのは初めてだった。

 ついつい見入ってしまう。

 

 

 《行くって言ったよな?》

 

 

 「あ、ああ!そうだな!行くぞ!」

 

 

 動きを固めていた全員が、ラウラのその声で行動を開始。

 ダークネスドラゴンWの空へと飛翔した。

 

 

 《……ルート知らないだろ》

 

 

 そう呟いたエクスピアは、ため息をついてから同じく飛翔した。

 

 

 空中を飛び交っている黒炎弾や、ISというこの世界に存在しないものに興味を持った野良モンスター達を避けながら、ヒーローWのゲートへと向かう。

 ただただ飛び続けるのは流石に飽きが来るので、途中から雑談が繰り広げられる。

 

 

 「小学生の時の一夏って、そんな子供だったんですね」

 

 

 「そうよ!今思うと、昔から抱え込みがちな奴だったわね」

 

 

 《何処かの世界最強さんと比べられて、虐められてたからな……》

 

 

 「うぐ……」

 

 

 「ぷぷぷ、ちーちゃんがダメージ受けてる」

 

 

 「黙れぇ!」

 

 

 「うわぁ!?落ちる落ちる!!」

 

 

 「分かるよ一夏。私もそうだったから」

 

 

 「うぐぁ!?」

 

 

 《初対面でそんな会話もしたな》

 

 

 「それでアドバイスしてもらったから」

 

 

 「「ぎゃあ!?!?」」

 

 

 「おお……学園でも上位の2人を一瞬で……」

 

 

 「上位……上位か……」

 

 

 ここで一旦会話は終了する。

 もうそろそろで目的地周辺だ。

 

 

 「いっくんいっくん。言いたい事があるんだけど」

 

 

 束が新たな話題を切り出した。

 エクスピアは無言のまま続きを促す。

 

 

 「いっくんさ、大きな声出したりして明るく振る舞ってるけどさ、会話が無くなったりすると思い詰めた表情してるじゃん?」

 

 

 「あ、束さんも気付いてたんですね……」

 

 

 「気が付いたの、私たちだけだと思っていたんですが」

 

 

 「クラちゃんとチェルちゃんよりも気付くの遅れたと思うけどね。で、してるじゃん?」

 

 

 《そう、ですね……》

 

 

 千冬でさえも驚愕の表情を浮かべている中、4人だけで会話が進んで行く。

 

 

 「その理由ってさ、女権とかを攻撃したから?」

 

 

 《……いろいろと真っ黒でしたけど。施設の襲撃には変わりないので》

 

 

 自暴自棄に近い状態だったから。

 一夏はISの悪用をしている団体の施設を襲撃し、コアを抜き取って束に送り届けていた。

 やってた時は何とも思わなかったが、冷静になって思い返すと、とんでもない事をしでかしてしまった。

 

 

 女権を始めとする真っ黒組織の裏を流出したのは、自暴自棄の中での罪悪感からだったのだろうかと、エクスピアがぼんやりと考えていると。

 束が衝撃的な発言をした。

 

 

 「あの襲撃、国際IS委員会、並びに国際連合に認可されたからもう気にしなくて良いよ」

 

 

 《『……はい!?!?』》

 

 

 今まで言葉を発しなかった千冬達を含め。

 束以外の全員の驚きの声がダークネスドラゴンWに響く。

 

 

 「いやぁさ?あんなに裏でISコアの横流しとか、人身売買をしていた組織がつぶれたんだよ?しかも、勝手に。願ったり叶ったりだよね!特に女権は国際IS委員会にも口出すくらいには力があった訳だし」

 

 

 《は、はぁ》

 

 

 「つまりは、真っ黒な組織を自分達で捜査して解体するよりも、今回の無許可での襲撃を認可した方が良いって判断しただけ」

 

 

 《世界の公的機関がそれで良いのか》

 

 

 「どーしても何か罪滅ぼしがしたいんだったら、亡国企業を倒すこと!みんなで、み!ん!な!で!協力してね!」

 

 

 《……はい》

 

 

 エクスピアの声色は、少しだけ明るいものになっていた。

 束を含め、全員の表情が少しだけ優しいものになる。

 

 

 穏やかな雰囲気のまま、一行はヒーローWに到着したのだった。

 

 

 

 




 同じベッドで寝ていた3人がナニしていたかはご想像にお任せします。


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