やがて妖銃の弾輝《はじき》 (トナカイさん)
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第1章  魔少女襲撃編
異能1 始まりの横須賀《まち》


本当はわかっていたんだ。ずっと。

命にすら関わるほど危険で、やりたくもない―――何かが迫っている事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが居鳳町か……」

 

―――中学までの俺は極端にいえばハ○ヒのエンドレスエイトのようにただ同じことを永遠と繰り返していた。

朝起きて、朝飯食って、洗面と着替えをして学校に行き、学校という閉鎖された社会で夕方まで過ごして帰宅して風呂に入り、夕飯食べて寝る。

特別取り柄もやりたいこともなかった俺は中学3年間を無欠席、無遅刻といった態度で過ごし部活は帰宅部を貫いた。

休日もチャリで夜道を走るか、ガンゲーを一日中やるのが趣味といえば趣味。

それ以外、俺は、特別なことは何もしない。

勉強も遊びも、程々でいい。やる気が出なければ、物事は先送りでいい。

金はあったほうがいいけどな。

それが俺、当導 弾輝(とうどう はじき)の本音だ。

明日は高校の入学式なんだが……。

 

 

 

 

「住む家が無くなるとか、いったいどうなってんだよ⁉︎」

 

俺は今京○線の駅前の不動産屋にいる。

今日からこの町。神奈川県横須賀市、居鳳町に住むことになったからだ。

初めての一人暮らしができると意気揚々に不動産に来た俺だが来てそうそう借りたアパートが火災により消失した事を告げられた。

原因は不審火だとか……。

代えの物件は空きがなく金の余裕もない俺はガックリとその場で大きくうなだれる事しかできなかった。

そんな俺に救いの手を差し出してくれたのは不動産屋の社長だった。

 

「坊主、シェアハウス……っていうほど、立派なもんじゃねぇが、同じ建物に複数人同居でよければ知り合いが貸してる物件を紹介できるぞ?」

 

白く染まった角刈りの頭をかきながらそんな提案をしてくれる。

 

「無理じはし「お願いします」……ハハ、即答か?」

 

そうして俺は社長が連絡してくれるのを待ち、相手の返答を待つことになった。

2時間程してようやく連絡が取れた相手にまずは社長が応対してくれて事の経緯や俺が明日から高校生になるという趣旨、同居の希望を伝えると相手は面を喰らっていたようだが社長と話していくうちに態度を軟化させていき了承をとれた。

 

「ありがとうございました」

 

社長や店員にお礼を言い俺は不動産屋から外に出た。

目的地はJR居鳳駅。

そこで同居人が待っているとか……。

あ~大丈夫かな?

俺、あまり人付き合いよくないんだよな……。

不安を抱えつつ待ち合わせ場所に向かうとそこには俺と同い年くらいの少年がいた。

 

「えっと……はじめまして?」

 

初めて会った相手にする挨拶ではないが、俺は妙な気視感(デジャヴ)を感じていた。

この少年とはどこかで会っている……。

会ったことがある。そんな気がする。

どこだ? どこで、会ったんだ?

……駄目だ、思い出せない。

 

「何で疑問系なんだ?

俺は原田 静刃(せいじ)だ。

よろしく、な‼︎」

 

静刃と名乗った少年は先に歩き出す。

 

「待てよ、俺まだ名乗ってないんだけど……?」

 

俺の声が聞こえてるのか、いないのか。はっきりしないままどんどん進む彼の後をついていった。

しばらく歩くと洋館が見えてきた。

 

「すげぇ……」

 

唖然とする俺に静刃は……。

 

「早く入れよ……すぐ飽きるさ」

 

苦笑いをしながら家の中に入るように言ってきた。

玄関の中に入ると……。

ぱたぱたぱた、とスリッパを鳴らして女の子がやって来た。

 

「お帰りなさい、お兄ちゃん」

 

生っちろい足で立ち、むっちりした臀部にセーラー服の短いスカートを履いている。セーラー服に重ねられた少女のエプロン、その胸の部分が破けそうなくらいぱっつんぱっつんになっている。

慌てて目を逸らしたが少女の顔もちら見した。

ロングの黒髪と童顔で甘ったるい顔つきだが……とんでもなく可愛い。

 

「おい祈、なんて格好してんだよ⁉︎」

 

「?」

 

(いのり)と呼ばれた少女は視線を静刃から自分の服に向けた。

自分がしている格好(エプロン)を確認して、首を傾げる。

 

「何って、お料理してたんだよ?

今日はね、お兄ちゃんが好きなハンバーグだよ‼︎」

 

「またか……」

 

静刃の呟きが聞こえたが……『また』ということは頻繁に出るのか?

ハンバーグ……。

 

「ところでお兄ちゃん、こちらの方はお客さん?」

 

やっと俺に気がついた。

よかった、空気にされてなかったよ……俺。

 

「あ~客ってよりな……」

 

「はじめまして、今日から同居させていただきます。

当導 弾輝です」

 

自己紹介を始めた俺だがなんだろう?

やけに静刃が焦ってるな?

 

「ど、同居人!?

祈、聞いてないよ!?」

 

ぶわっと泣き出してしまった祈さん。

対人関係が苦手な俺は対応がわからず、静刃に視線を向けた。

静刃とアイコンタクトで意思の疎通をはかる。

静刃の目はこういってる『ここは俺にまかせろ!!』と。

俺は静刃に……『後は頼む‼︎』と目力で伝えた。

よし、静刃が伝えやすいようにお膳立てしておこう。

 

「大丈夫だよ祈さん、例え同居人が増えようと静刃が君を守るから」

 

「ちょっ……お前何いっ「お兄ちゃ~~~ん」っ⁉︎」

 

静刃が怒鳴ってきた。

だが胸に祈さんが飛び込んできてそのけしからんボディを抱きかかえていやがる。

ちっ、リア充め……爆発しろ。

 

イチャラブ(俺視点)する二人を残して俺は二階の空き部屋を探す。

 

「日用品や生活雑貨とか買わないとなぁ~」

 

服とかは旅行カバンに詰めれるだけつめてきた。

後は高校生活の間にそろえないと。

荷物の整理をしていると部屋の戸をノックされた。

でると祈さんが立っていた。

 

「ひゃあ、ごめんなさい……。

に、荷物が届いてます……」

 

ビクビクサレテルガオレナニカシタカ?

ショックを受けながらも階下に下りて玄関にある『それ』を手に取る。

 

「す、すごい……力持ちなんですね?」

 

力持ち?

ただのダンボール箱だが……?

重さもほとんど感じない。

虚弱体質なのかな?

祈さんは華奢だからなるべく荷物持ってあげよう。

そんなことを思いながら俺はダンボール箱を抱えて自室に戻った。

 

「さて、誰からだ?」

 

ダンボールに貼られている伝票を見たが差出人は(まゆずみ)と書かれている。

だが黛という知り合いは俺にはいない。

強烈な予感がした。

開けなければいけない。

開けたら戻れない。

だけど開けないと……生き残れない。

そんな予感がしたんだ。

 

迷った挙句、俺は丁寧にダンボール箱を開封して中に入っている物を取り出した。

中に入っていたのは……。

 

 

 

一丁の大型リボルバー式拳銃と赤い弾丸と青い弾丸、通常弾が入ったケースだった。

 

「は?」

 

意味がわからなかった……。



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異能2 出会い

中学時代、俺はその『何か』を避けるため、程々の俺であり続けた。

その『何か』に巻き込まれないために、交友関係もあまり広げなかった。

特に、女は入念に避けたつもりだった。

まあ、従姉妹や幼馴染とは普通に接していたけどな……。

おかげで当時は、根暗、草食系とか言われてたな。

 

 

 

―――だが、入学した高校が悪かった。

俺は……いや、俺達はとうとうその『何か』と対峙し、戦うハメになる。

見つかってしまったんだ。

その『何か』と関わる、よりによって、女達に。

そう、やがて魔剱のアリスベルとやがて魔弾のマリナーぜと呼ばれるようになる―――あの姉妹に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何だよ。

何でこんな物が……」

 

古びた洋館のとある部屋のとある床に『それ』は置かれている。

段ボール箱に入れられていた『それ』は箱から出され床に無造作に置かれている。

漆黒の銃身に金色のラインが3本入っており形は歪でトリガーの先、銃身の先端へと行くにつれ三角形に広がっており金文字でデカデカとX(イクス)の装飾が彫られている。

リボルバーの弾数は8発でグリップの先には伸びる秘匿性のワイヤーアンカーが収納されていた。

銃弾は赤い弾と青い弾、普通の銃弾として.44マグナムが30発同梱されていたケースに入っていた。

赤い弾は紅色でまるで燃えてるかと錯覚させるような輝きを放っている。

青い弾は逆に見る者の心を萎縮させるような濃い青色をしている。

箱から出す時に手に取ったが漆黒の銃からは禍々しい炎が触れた瞬間発生した。

気のせいかと思ったが俺が触れるたびに銃身から黒い炎が出る。

気味が悪くなった俺はすぐさま物を段ボール箱に詰め、書かれていた伝票先の住所を確認した。

何度見ても宛先はこの館で宛名は俺の名前が書かれている。

送り主の欄には名前と住所が書かれていたが……ありえん。

書かれているのは俺の実家の住所だ。

無論、親兄弟、親戚、知人に黛なんて人はいない。

 

「どうなってるんだ?」

 

気持ち悪い。

ストーカーか? 嫌がらせか? 悪戯か? ドッキリか?

誰が何の為に?

どうして俺に送ったんだ?

駄目だ。

考えてもわからない。

気分が悪くなってきた……。

少し外の空気でも吸ってくるか……。

 

 

俺は財布と携帯を持って外出しようと1Fに降りた。

階下に降りると食堂(ダイニング)から原田兄妹の声がした。

覗くと……。

 

「はいお兄ちゃん、どうぞ」

 

静刃の前に祈さんがハンバーグが載っているプレートを寄せていた。

 

「あの、熱かったら言ってね?祈、ふーふーするから」

 

「……そんな事しなくていいって。熱かったら自分で吹く」

 

溜息を吐きながら静刃は食べ始めた。

傍から見てると兄妹というより完璧にバカップルだな……。

女が苦手な俺にはどうでもいい事なんだが……。

だが見てるとイラつくな……。

静刃爆発しろ!!

そんな事を思いながら俺は屋敷を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駅前を歩いているとリサイクルショップが目にとまった。

使えるものが売ってないか冷やかす気持で入ろうとすると入口に置いてあったクロスバイクが目についた。

値段が信じられないくらい安い。

驚きの価格、なんと新品同様で7000円だ!!

これは買うしかない。

店内に入るとすぐに店員を探して購入の意思を示す。

 

「え?

あ、あのクロスバイクをですか!?

お客様、少々お待ちください。

て、店長を呼んできます」

 

何故か慌てた様子で裏の事務スペースに駆け込む店員。

すぐに店長がやってきた。

 

「購入希望者は君か?

悪いことは言わない……やめときなさい」

 

何故か販売拒否をする店長。

 

「え、あれ売り物ですよね?」

 

「そうだ。しかし、あれはもう売らない。

そう決めたんだ……」

 

売らないってそんな馬鹿な!?

そう思った俺は店長に理由を聞いてみた。

 

「あれは、あの自転車は呪われているんだ。

呪いなんてあるわけない?

私もそう思う。

いや思っていた……。

呪いなんて信じていなかった。

だがあれを買った客は24時間以内に死ぬ……死ぬんだ!」

 

おいおい、突然何言っちゃってるの?

 

「疑うのも無理はないけどな。

あれを売り出してから3か月で8人購入者がいて、8人全員死んだんだ。

だからもう誰にも売らない。

悪いが他の商品にしてくれ……」

 

売らないと言われるとほしくなる。

 

「頼む、売ってくれ!!」

 

店長と店員はなにやらごちょごちょと話し込んでいる。

 

「……条件がある」

 

「何だ?」

 

条件?

 

「そこにある42型のテレビとそこのアイロンも一緒に購入するなら売っ「買った!!」……まいど~♪」

 

なけなしの財産全てはたいて俺は自転車をGETした。

総支払額100000円。

……いい買い物をした。

店を出た俺は早速整備が終わったクロスバイクに乗って夕日が沈む町中を漕ぎだした。

 

 

あれ?

しかし、少し冷静になって考えてみると。

なんか損してないか?

冷静に考えたら……。

自転車に乗っただけで、死ぬなんてことあるわけないしな。

 

 

神奈川県横須賀市、居鳳町。

住宅地、学校、公園、コンビニ、ショッピングセンター―――何でも揃ってるがどこか閉鎖的な町だ。

あまり好きにはなれないな。

自転車で日が落ちて暗くなった街を走っていると俺と同じように自転車で夜道を走っていた静刃がいた。

一緒に夜道を、海辺の国道を走っていると……。

 

・・・・・・フッ、フフッ、フフフフッ・・・・・・

俺達を追い越すように、車道の明かりが次々と消えた。

停電か?

と思った時……

――――バッ、ババババッ―――!

妙な音が聞こえた。

 

岩場の方に誰かいる。

岩場の人影は変な形の物体……メカを身に付けた。

少女だけじゃない。

空中にツインテールの少女がいる。

目の錯覚か?

いや違う、俺だけじゃない。

静刃も同じ方向を見ている。

静刃の視線が国道先のガードレールの脇に向いた。

俺もそちらを見るとツインテールの少女が2人いた。

危ない。

ここから、このあきらかに異常なここから逃がさないと……。

そう思い俺は声をかけてしまった。

 

「「―――おい!!逃げろ!」

 

重なる俺と静刃の声。

声をかけられた彼女達は振り向く。

 

「「……? どうして『絶界』に人が……?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが俺と魔弾のマリナーぜとの運命の出会いで、静刃と魔剱のアリスベルとの衝撃的な出会いだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある商店街のリサイクルショップ(おまけ)

 

「店長やりましたね~」

 

「ああ、いいカモが来てくれたな。

まさか、本当に買うとは思わなかったけどな……」

 

「あのクロスバイクの話ホントなんですか?」

 

「はは……まさかな。

商店街にある自転車屋の親父が商店街の福引で出したんだが、あまりが出たからタダで貰ったんだ。

ぶっちゃけ誰もいらない残り物さ……。

だから7000でも十分元取れるんだよ」

 

「悪っすねぇ~」

 

「誰も損してないからいいだろ」

 

商売人は狡猾だ。



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異能3 あの日

Side マリナーゼ。

 

あの日のことは一生忘れません。

 

遠い香港で起きた『悲劇』を失くす為、私は姉と共に沖縄に眠る妖怪『獏』と『淫夢』を起こし、彼女達の手を借りて生きてきました。

二匹の妖怪には本当に助けられましたが、それでも信じられるのは己と姉だけ。

姉さまには悪いですが妖怪たちは信用できません。

彼女達は『何か』を隠しています。

それも私達の感情にまつわる何かを。

 

 

『悲劇』から救うため私達は伝説の化生、『鳳』を復活させなくてはなりません。

鳳は生と死を繰り返し、死後その身を64の欠片にして東西に散らばせる。

それを再び集めると鳳は甦り、甦らした者の願いをどんな願いでも叶えてくださる―――そう彼女達化生のものはいっていました。

―――未来永劫その死と再生はくりかえされるとも。

 

 

 

私達はなにがなんでも欠片を集めないといけません。

今持っている欠片も様々な異能達や自衛官、DA(武偵)達から奪ってきたものです。

多くの敵対者がいる私達はもう後には引けません。

やらなければやられるのが戦場に立ったものの運命なのですから。

今日、ここ居能町の居能海岸で私達は欠片を持つものたちの存在を感知しました。

敵は『魔法少女(マッキーナー)』と『先端科学兵装(ノイエ・エンジェ)』の鎧を纏った少女。

相手に不足はありません。

私達二人なら勝てる。

二人だけでいい。

そう思っていました。

 

 

 

 

今日この日、彼らと出会うまでは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side アリスベル。

 

まず最初にいっておきます。

私が静刃君と行動を共にするのは、命を救われた恩返しと、彼の異能を見込んでのこと。

断じて、れ、恋愛感情を持ったとかそういう理由ではないのです。

モーレツに違うのです。

 

 

 

Side マリナーゼ。

 

私が彼らに彼と出会ったのもきっと『欠片』を集めていたからでしょう。

もし、欠片を集めてなくて普通の人生……生まれた家が家なので普通かどうかは微妙ですが、もし普通の少女としてあのまま香港で暮らせてられたらおそらくこの出会いはなかったでしょう。

だから不謹慎と知りつつ私は私達を『鳳凰戦役(フェニケ・ロワイロ)』に出るきっかけを作ってくれた宿敵たちに少しだけ感謝をしているのです。

あなた達のおかげで私は心から信用できる人や仲間、そしてなにより彼、当導弾輝君と出会えたのですから。

彼とは(まだ)恋人ではありませんよ。

いずれ、近いうちに恋人以上になりますけど。

ええ、断言します。

彼は私にメロメロです。

私以外の女なんか目もくれません。

当然です。

私以外の女が彼に近づいたら容赦なく刺しますからね。

ええ、刺します。

ザクザクです。

彼は私だけを見ていればいいんです。

浮気はキョ―レツに許しません。

 

 

 

 

……話が逸れましたね。

 

 

あの日私は彼と、姉は静刃君と出会いました。

誰も入れないはずの『絶界』、異能で作り出した異空間に彼らは迷いこんできたのです。

そして見ず知らずの私達に向かっての第一声が……。

 

 

 

『―――おい!逃げろ!』

 

本当におひとよしですよね?

自分がどれだけの危険に陥っているのかわかっていながら……。

あきらかな異常事態に陥っているのに自分のことより私達の心配をするなんて。

でも、だからこそ私達は……。

 

少なくても私はこう思ったのです。

 

 

 

 

 

 

 

『うれしい。

ありがとう、って―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未来からの伝言。(おまけ)

 

Side 弾輝

 

2013年4月。ある休日、俺の元にある奴からメッセージが届いた。

それはブルーレイに入っていた。

セットしてテレビの伝言を入れるとそいつは語りはじめた。

 

 

 

そこには―――――。

 

 

 

『あの時の俺は自分でもどうにかしていたと思う。

危険が身に迫っているのにわざわざ危険の渦中に飛ぶ込むなんて馬鹿まるだしだろう。

普段通りの俺なら決してあんなまねはしなかっただろう。

否、できなかっただろう。

だけど、何でなのかはさっぱりわからないがああ思ってしまったんだ。

『逃げてはだめだ、助ける、女の子を守るのは俺しかいない』ってな。

今思い返すと死にたくなるほど恥ずかしい台詞だが後悔はしていない。

だって、そんなことは気にならなくなるくらい大切なものができたんだから。

あの日、きっと巻き込まれたのだって理由があるんだろう。

最初ははっきりいって嫌だった。

こんな『異能』なんか失くしたい―――そう思った。

だけど時が経つにつれてこう思えるようになったんだ。

この力をつかって身の周りの大切なものを守りたいって。

彼女を守りたい、って、な』

 

 

『おい、弾輝いくぞ?』

 

『あ、先輩が呼んでる。

そろそろいかないと。

 

「先行ってください。

昴先輩」

 

もしこれを昔の俺が見てたら、一つだけ守ってくれ』

 

 

 

 

「女には気をつけろ。背後にも気をつけろ、そして女を、マリナーゼを守れ!

3つになってしまったが気にすんな。

おっと、怖い怖い、0課の先輩が呼んでるからな、またな。

過去の俺……ってなんだよ、これ?」

 

 

そこには少しだけ大人になった俺が映っていた。



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異能4  夢かよ!?

かなり、文字数少ないです。
次回からヒロイン勢でます。


「……? どうして『絶界』に人が……?」

 

二人の少女の内の一人。

驚きに見開かれたその目と、俺の目が―――合う。

―――キレイだ。

こんな状況なのに、そんなことを思ってしまう。

月光が、気品のある顔を白百合のように浮かび上がらせる。

少女の瞳は淡い薄紫色をしている。

その瞳は意思の強さと知的さを感じさせる。

背は高めで身長170cmはありそうだ。

だがその胸元は平らだ。

顔つきは少し丸みを帯びていて、全体的には幼く可憐だ。

(変だ……俺は、この子を知っている。(・・・・・)

一瞬よぎったそんな思いも、俺は中断せざる得ない。

空中で取っ組み合いになった魔法少女とメカ少女が、俺達の方に墜落してきたからだ。

 

「あら、アリスベル、それとマリーも来てたのね!クーデレー獏やヒッキー淫夢と一緒じゃないのー!?」

 

魔法少女が黒髪ツインテ少女二人に叫ぶ。

その隙にメカ少女が水着の股間を丸見せするような側転を空中で切った。

そひて、その隙を逃さず機械の腕で魔法少女の足を掴んだ。

スカートの中身がひっくり返るくらい大きく振り回した。

魔法少女は自分を捕らえた機械の腕をもぎ取って放り投げた。

 

「ほら、あんたたちにも、お裾分けッ!お礼は欠片(カラット)でいいわよ!」

 

その巨大な腕が落ちてくる―――少女達へ向かって!

(まずい、ぶつかるぞ!あのままだと……)

とっさに俺は駆け出した。

静刃もほぼ同時に動いていた。

静刃はアリスベル、俺はマリー、そう呼ばれた少女めがけて。

走れ、走れ!

本気で走れば(・・・・・・)、間に合う。

 

「「危ないだろ!」」

 

俺達は彼女達に飛びかかるようにして、突き飛ばした。

ふわっ、と―――マリーと呼ばれていた彼女から、シャンプーの香りが漂い。

こっちを見たその目が大きく見開かれ。

そして。

俺の背に。

 

「――――――!」

 

 

 

 

 

機械の腕が激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最悪なことにギザギザの刃物が飛び出た金属片から枯葉の束を踏み折った音が俺の体内から(・・・・)聞こえる。

何本の骨が折られ、あるいは切断された音だ。

痛みは無い。

何も感じない。

……ああ、死ぬのか。

何か生暖かい液体の上に転がって、仰向けに倒れている。

この流れている液体。

この色。

この匂い。

これは―――?

 

 

 

 

血だ。

 

 

俺は俺の血黙りに倒れているんだ。

 

 

 

足音が聞こえてきた。

誰かが近寄ってきた。

誰だ?

 

もう、うっすらとしか、見えない。

 

 

ああ、これはあの4人のうち……マリー……か?

―――が話してる、彼女と。

何を話してるんだろう?

それすらもう、わからない。

唐突な、ものだな。

死ぬって、ことは。

死ぬ前……には……もっ……と……じ……間……が……。

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………

…………

…チュン、チュン…

…す、雀?

 

「って……オイ!」

 

第一声で突っ込んじゃったよ。

(夢かよ⁉︎)



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異能5夢と現実

「夢かよ!

朝からなんちゅう夢を見てんだ……縁起でもねぇ」

 

朝、静寂に包まれた自室の窓から小鳥(雀)の囀ずく鳴き声が聴こえ目を覚ました。

ベッドの上で上半身を起こし、今のが夢オチだった事を悟る。

低血圧気味のせいか頭がぼーっとする。

身体が少し痛むが寝ぼけて何処かにぶつけたりしたんだろう。

 

「夢オチか……」

 

いや、でもまあ。

そりゃあそうだな。

あんな光景、夢以外にありえない。

メカ少女だの、魔法少女だの、俺達が死ぬだのって。

 

「……」

 

一応念の為に、背中をゴソゴソ触ってみるが、もちろん傷なんてない。

あんな夢を見るなんて……ゲームのしすぎか?

 

「……しばらくゲーム時間減らすか」

 

銃ゲーしかほとんどやらないけど。

などと溜息をつきながら、新しい制服に着替えた俺は__

ムダに広い洋館の中を、2階の自室から1階のダイイングへと歩いていく。

 

 

 

 

昨日から住み始めたばかりだが、この館は中途半端に現代的な洋館だ。

静刃の話では、昔は海外から来た貿易業の貴賓客を泊める、隠れ家的なホテルとして使われていたらしい。

なので、裏には小さな教会、の、廃墟やプールなんかもある。

 

「迷った……どこだここ?」

 

朝っぱらから1階のダイイングに行くはずが来たこともない知らない部屋へと来てしまった。

無駄に広くて迷った。

 

「なんだかずいぶんと古い本や時計が置いてあるな……」

 

本棚にある本を手に取って中を開いてみると英文やイタリア語、ギリシャ語なんかで書かれている。

どうやら静刃達の前の住人だかホテルの物品だかがそのまま残されてるようだ。

 

「ん?

なんだこの本……光ってる⁉︎」

 

『それ』を見つけたのは本当に偶然だった。

古本が並ぶ本棚の端で赤い背表紙の古めかしい本が薄っすら緋色に光り輝いていた。

中を開いてみるとギリシャ語かなんかで書かれていた。

 

「読めねぇ……」

 

残念ながら解読不能だ。

本を棚に戻してると俺を探しに来たのか祈さんが来た。

 

「あ、あの……よかった。

こちらにいたんですね?

朝食の支度できてますからダイイングへ来てくだひゃ……はぅ⁉︎」

 

俺を案内しようとして部屋を出る寸前に盛大に前へ転けた。

ぱんちゅが丸見えだ。

 

「大丈夫か?」

 

ゴチッと床に頭を打ちつけたので心配になって声をかけると……。

祈は目に涙を浮かべながら起き上がった。

 

「ほら、痛いの、痛いのとんでけぇ〜」

 

つい子供をあやすような態度で頭を撫でたりして接してしまったが祈は嫌がるどころかむしろ嬉しそうな、けど恥ずかしいようなそんな顔で見つめてきた。

 

「よし、もう大丈夫だ!

ダイイングまで案内頼む」

 

顔を赤く染めた祈の案内で無事にダイイングまでたどり着けた。

案内を頼んだ時祈が小声で『なんだか懐かしい……』とか言ったが意味がわからなかったのでスルーした。

 

 

ダイイングへ入ると静刃がアツアツのハンバーグを食べていた。

朝からハンバーグって……しかも、ハートの形してるし。

 

「おはよう、朝から凄いな」

 

静刃が食べてるハンバーグを指していうと。

 

「ああ……まあな。毎朝のことだ。

それより昨夜はよく眠れたか(・・・・・・・・・)?」

 

静刃が『何かを確認』するようなそんな様子で聞いてきた。

アレはただの夢だから気にする必要はない。

そう思い俺は静刃に問題なく寝れたと返した。

 

 

「お、おまひゃ……お待たせしました」

 

祈が俺の分の朝食が載ったトレーを持ってきてくれた。

トレーに載ってたのはアツアツのハートの形をしたハンバーグだった。

 

朝から、重いな……。

残さず食うけどさぁ。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、行ってくる」

 

「行ってきます」

 

玄関でしゃがみ、新しい学校指定の靴を履きヒモを整えてると__

ぱたぱたぱた、とスリッパを鳴らして祈がやってきた。

そして、きゅっ。静刃の目の前でしゃがんだ。

 

「お兄ちゃん、こ、これ……お弁当。祈が作ったの。た、食べて下さいっ」

 

とランチボックスを静刃に手渡した。

そして、ネクタイが緩んでる静刃に。

 

「あっ、ネ、ネクタイが緩んでるじゃってるよ」

 

などと言って、その白くて小さく綺麗な指で静刃のネクタイを整えはじめた。

 

「静刃、夜道に気をつけろよ?

背中を刺されるかもしれないぜ……俺に」

 

「なんでお前が刺すんだよ⁉︎」

 

ケッ、本当にこれだから天然ジゴロは……。

そんなことを考える俺を静刃は一瞥した後、ネクタイを直してる祈に向かって。

 

「い、いいって別に。俺は自分の見た目とか興味ないから。俺は何事も、大体でいいんだ」

 

なんていう事を言いやがった。

 

「やっぱ刺すか……」

 

イチャついた挙句に美少女の好意を無下にする男なんて刺されても仕方ないよな、な?

俺はカバンからカッターナイフ(護身用)を取り出し静刃の首につきつけた。

 

「待て! 早まるな」

 

静刃をからかい(脅し)つつ、身支度を整えていった。

 

「お兄ちゃん、もったいないよ。お兄ちゃんは、普段もかっこいいけど……ちゃんとすれば、すっごく、もっと、かっこいいんだよ」

 

まるで静刃のそういったところ(かっこいいところ)を見たことがあるような口調で祈は嬉しそうに話しはじめた。

 

「はあ……?」

 

「祈、知ってるよ。お兄ちゃんは本当は、何でも優秀な人なんだよ」

 

かなり静刃を尊敬(美化)してるな。

 

「___祈。俺は優等生のお前と違って、何の能もない人間なんだ。俺が優秀じゃないってことは学校の成績が教えてくれてる」

 

 

「___違うもん。本気(・・)をだせば、お兄ちゃんや弾輝さんは、すごいことができる人なんだもん」

 

本気(・・)なんて___出さないし、出したくない」

 

「右に同じ。

そもそも俺の本気(・・)なんてたかがしれてるし」

 

俺は、あらゆる物事において、必要最低限のこと以上は何もしない(・・・・・)のが、一番賢いと思ってる。

凡人が本気を出して頑張っても、大した見返りはない。それが今の日本だ。

だから、自制しないといけない。

それがとっさのことでも、とっさの判断でも、ちょっとのことでも、衝動的に本気(・・)で動いたら損するんだ。

そう。昨夜(ゆうべ)の夢で、俺達が巻き添えを食って死んだようにな。

 

 

夢、夢の、あの子……。

夢の中で、なぜか、本気で走ってしまったあの瞬間。

それを思い出した瞬間俺は、あの少女の事を思い浮かべてしまった。

____マリナーゼ。

夢に登場した美少女のことを。

 

 

 

「___『魔剱』、『魔弾』___?」

 

その時。

不意に祈が、おっとり顏を真面目にして、シリアスな声を出した。

 

「あっ」

 

俺や静刃と目が会うとすぐ、いつもの表情に戻した。

 

 

 

 

 

なんなんだ、いったい。

 

 

 

 

その後は、いつもの状態(?)に戻った祈が静刃の入学式に出たいと言って駄々を捏ね、静刃はそれを突き放して俺達は家を出た。

 

 

 

 

「入学式、か……」

 

私立・居鳳高。

地方都市横須賀・居鳳町のさらに外れにある私立学園。

初等部から高等部まであり、今まで女子校だったのを今年から共学化した。

周りは女子、女子、女子のオンパレード。

男子は俺や静刃を入れてあと2人しかいない。

 

 

 

 

で、その入学式に臨んだんだが。

どうやら俺はとんでもない過ちを犯していたらしい。

なぜなら。

俺の隣には……。

夢の中で出てきた、とんでもなく可愛い。

黒髪ツインテールの。

美少女。

 

_____『マリナーゼ』さんが座っているからだ。



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異能6X【エックス】

私立・居鳳高。

 

俺がこの高校に入ったのは、高校受験に失敗したからだ。

中学までは普通の成績だったし、高校入試もきちんと受けた。

だけど、俺は本命、対抗、滑り止め、いずれの高校全てに落ちてしまったんだ。

あわや中学浪人か、と思われた俺に……担任教師が推薦入学の話を持ってきた。

俺の中学では俺みたいなケースに備えて、後から推薦入学で入れる提携高校があるという話だった。

で、その中から、俺にはここ、居鳳高が声をかけてくれたというわけだ。

中学の担任から渡された資料によると元お嬢様学校を今年から共学化した学校だと書いてあった。

正直、女子に近づきたくなかったが中学浪人するよりかはマシかと腹を括り入学を決意した……というのがこの高校に来た理由だ。

そんな俺は今、広い教会みたいな講堂で居鳳高の入学式に臨んでいる。

引越しでバタバタしてたから下見はしてなかったが、学園の環境は良さそうだった。

白塗りの校舎はキレイで、敷地内には緑も多い。

裏山には桜が満開に咲いてたし、広場には噴水まであった。

さすがは元お嬢様学校。施設の充実っぷりは凄まじい。

などと思いながら視線を前方へ向けると。

前の方で方陣状に着席している、セーラーブラウスとチェックスカートの女子達に視線がいってしまった。

_____ゾクリ。

前方の女子を見ていたら隣から(・・・)強烈な殺気が向けられてる。

担任っぽい教師に『男子はここにすわってね。あ、でも席一つ足りないからあの女の子が横に座るけど気にしないでね』などと言われたから、なんとなくそんな気はしていたが。……それにしても、やたら胸がデカイ女性だったな。

着席した最後列の長椅子には……俺と静刃と『あの少女』の他に、座る場所を間違えたらしい双子の美少女が座っている。

ふんわりウェーブした髪をツインテールに結った双子は、砂糖菓子みたいに愛おしい。

こんな可愛い子達が男子なわけないだろう。

仮に男子だとしても第三の性別『秀○』として受け入れられそうだ。

などと見てたら、双子も俺や静刃を見て……それから2人で顏を見合わせ、くすくす。笑ってる。

失礼な奴らだな。だが、可愛いから許す。

可愛いは正義。

ていうかこの双子もそうだけど、なぜかツインテールの子がやたらと多い。

流行ってんのかな、ツインテール?

元お嬢様学校だけあって可愛い子が多いな。

 

などと思っていたら。

 

 

「……そんなに刺されたいんですか?」

低いシリアスな声が聞こえてきた。

 

左隣に座る少女から。

隣に座る黒髪ツインテールの美少女がとびっきりの笑顔でそう声をかけてきた。

思わず身構える。

女子とほとんど会話なんかしたことないこともあって反射的に身構えたがその判断は間違えではなかった。

何故なら、その少女の手に、学校の入学式で(一般的に日本では)普通なら持ってるはずがないスプリングフィールドM1903小銃(ライフル銃)(M1905ナイフ銃剣使用)が握られていたからだ。

 

「ど〜なってるの⁉︎」

 

思わずそう呟いてしまった。

 

スプリングフィールドM1903小銃とは。

1903年にアメリカ軍に正式採用され、.30-03弾という弾丸重量14g、蛋形、銃口初速700m/sを出す銃弾(当時ですでに時代遅れとされた銃弾)を使用するスナイパーライフル銃。

現在でも競技用として使われたりもしている。

 

その銃を持ってるだけならまだいい。

本当はよくねぇけど(銃刀法違反だけど)

だけどなぜ銃口と銃剣をこちらに向けてるんでしょう?

ワ・タ・シ・タ・ダ・ノ・イ・ッ・パ・ン・ジ・ン・デ・ス・ヨ?

入学式が行われている講堂の中でまるで銀行強盗犯に銃を突きつけられている人質の心境で席を立ち一人バンザイしてる俺。

周りから白い目で見られてるよ。

見てんなら誰か助けて下さい。

そんな俺を脅びやかす元凶の少女は。

 

「手短な刃物がありませんでしたので……」

 

などと言ってきた。

手短な刃物があれば銃を持ってこないのかよ⁉︎

そもそも刺したり、撃つ前提で持ってくんなそんなもん。

ツッコミをいれたかったが銃を持つ相手にツッコミを入れる勇気はなかった。

 

「マリナーゼ、気持ちはモーレツにわかりますけど今は我慢してください。

あなたも席に座った方がいいですよ?」

 

前に座る少女(・・・・・・)からそんな言葉をかけられた。

右隣に座る静刃を見るとポカンとした顏をしている。

静刃はあり得ないものを見ているような目で少女を見ている。

 

 

この少女達は昨夜の夢に(・・・・・)出てきた奴らだ。

どうなってんだ?

予知夢か?

黒髪ツインテールの少女達は俺や静刃と目が合うとその頬を赤く染めた。そして、ぷいっ。視線を前に戻した。

助かった。

なんだったんだ。

ツインテールを赤いリボンで結った少女のおかげで窮地から脱したがどうも腑に落ちない。

彼女達の反応は俺や静刃とすでに何処かで出会っているかのようなそんな態度だった。

 

 

 

 

 

入学式が終わり席を立とうとすると左隣に座るマリナーゼとかいう少女が声をかけてきた。

 

「放課後まで話す時間がありませんので、後でこの番号に電話してください」

 

そう言って携帯の番号が書かれているメモを手渡してきた。

女子なのに、初めて会った奴にいきなり番号教えるとか不用心だなと思った俺は注意しようと少女の方を見たがすでに少女はいなくなっていた。

 

 

 

 

「おい、置いていくぞ!」

 

静刃がそう言ってきたので俺は気にすることをやめてメモを制服のポケットにしまい、所属するクラスに向かうことにした。

 

居鳳高のクラスは普通の学校と違い各クラスごとにニックネームみたいなものがついていた。

 

I組(ヤパンセ)II組(シャマン)III組(エスピカ)VI組(マッキ)V組(マッキーナ)というようにな。

で、俺や静刃が所属するはずのクラスを確認したのだが……。

 

「……」

 

「……」

 

静刃と共にもう一度、手元のプリントに目を通す。

X(エックス)

とクラス分けのプリントに書かれているのを再度確認する。

よし、現実逃避は終わりだ。置かれた状況を確認しよう!

他のクラスはピカピカの新校舎なのに対して俺らが所属するX組の校舎は築50年以上経つ木造・一部が煉瓦造りの、古い建物だった。

差別されてんのか、と思わず目を疑いたくなった。

静刃の奴は何かの手違いがあったんだろうと新校舎の方へ向かおうとして、廊下の角でまるでアニメや漫画の展開のように、死角から出てきた誰かとぶつかって押し倒していた。

 

「110番、と。

もしくは写メってネットに流すか……」

 

押し倒した相手は昨夜の、メカを身に纏った少女。(・・・・・・・・・・・・・・)確か、キリコとかいう奴だった。

 

「待て! これは誤解だ!」

 

誤解、ね……。

静刃の奴はまだ気づいてないのか(・・・・・・・・)

自分が少女の身体のある部分を鷲掴みしてることを。

 

「ラッキースケベは漫画の中だけだと思ってました……」

 

toラ○るの主人公みたいな奴だな。静刃は。

俺の言葉でようやく自分が少女の胸を鷲掴みしてることに気がついたのか慌てて手を離した静刃だが。

 

「ご……っ、ゴメン! 俺はその、別に何かするつもりじゃ……!」

 

そりゃそうだ。やましいことをする目的でワザと押し倒したんなら俺が刺してやる。

 

「なんだか、また殺気を感じるな……」

 

静刃がそう呟いたが俺はスルーしてやった。

 

「えーっと……俺、行ってもいいか……?」

 

静刃がそう言うと、こくり。うなずいた。倒れたまま。

静刃が後ずさると……。

キリコの下半身の光景が近くにいた俺にも飛び込んできた。

チェック柄をした居鳳高のスカートが、まるで花開いたように___大きくめくれ上がり、中身が丸見えになっていた。

一瞬白い下着に見えたのは、白い、スクール水着。

それを何故か制服の下に着ている。

キリコは、スカートを手では戻さずに、重力に戻るのを任せて立ち上がった。

そして、とこ、とこ。

歩いて、X組の教室へと入っていった。

 

「あらあら、ごめんなさいね。遅くなっちゃって」

 

キリコの様子をドア越しに覗いていると、担任らしき教師が、廊下の角から、ズルズルと重たそうな台車を引いてやってきた。

台車には包帯でグルグル巻きにされた棒のようなものと同じように包帯でグルグル巻きにされた物が載っており、それはかなりの重量物だったみたいだ。

先生が遅れたのもそのせいらしい。

キリコが教室の真ん中辺りに座っているので俺と静刃は彼女から少し離れた窓際の席に座った。

 

「うふふ。はい、はじめまして。私がX組担任の森セアラです。でも、森という苗字の先生は居鳳高に2人いますので、私は『セアラさん』、と呼ばれているんですよー」

 

にこやかに語る森先生、あらためセアラさんは……。

ゆったりとウェーブした長いプラチナブロンド髪の北欧人を思わせる白さで、そこに紅い唇が薔薇の花びらみつに煌めき、それでいて、穏やかで親しみの持てる日本人らしさもかね備えた顔つきをしている。

もの凄い美人で、背も高く、胸も規格外にデカい。

女が苦手な俺にとっては要注意人物だ。

 

「それでは出席を取りまーす。京菱キリコさーん」

 

「はい」

 

小学生を相手にするような感じで出席を取りはじめたセアラさん。

名前を呼ばれたメカ少女、キリコが返事をした。

次々と名前を呼ばれる生徒達。

といっても、欠席や早退で最初からいない生徒とかもいたけどな。

そして静刃の前に俺の名前が呼ばれた。

 

「では、次からはいよいよ待望の男子達。

当導弾輝くーん。

名は体を表すんですね。射撃を嗜まれてますし」

 

「しゃ……射撃? やったことないですよ。そんなの」

 

「えっ、だってこれ、さっきご親族の方が届けにいらしたんですが」

 

と、セアラさんが台車に載った重量物を指差す。

 

「親族……?」

 

誰だ?

 

「とってもかっこ良くて背の高い女性です。

X組の原田静刃くんと当導弾輝くんに、って」

 

不思議に思った俺と静刃は教壇の前にいき、台車に載った重量物を持ち上げると。

あれ? 軽いぞ。なんで台車なんて必要だったんだ?

 

「まあ、力持ちですね!」

 

先生は重量物を持ち上げた俺と棒のようなものを持った静刃を見て目を大きく見開いている。

昨日、祈にも言われたような気がするがセアラさんも虚弱体質なんじゃないか。

そんなことを思いながら、台車の上に載った重量物の包みを開けると、中からでてきたのは、黒い大型リボルバー拳銃だった。

昨日、俺の元に届けられたあの銃と同じだ。

気味が悪い。

そう思った俺はセアラさんに言った。

 

「「せ、先生。これは俺の物じゃありません。人違いです」」

 

中から日本刀が出てきた静刃とともにそう声を張り上げた。

 

「えっ。でも、ほら。お名前がありますよ」

 

そう言われて確認すると銃身にタグがヒモでつけられていてそこに『当導弾輝』と書かれている。

 

「い、いりません。こんなの。

違法なものだし」

 

「でもこれ、先生の物でもないですし……」

 

涙目で見つめられた。

くっ、ずるい。

女の涙は反則だ。

 

「じゃあ……わかりました。俺が捨てておきます」

 

結局、自分達で捨てることになった。

銃身を隠すように、セアラさんから貰った包帯でグルグル巻きにしていると、キリコが声をかけてきた。

 

「ナンセンス」

 

虚空を見つめたまま、俺と静刃に話しかけてきた。

 

「特別な人間は、凡人として生きようとしても世界がそれを許さない。静刃と弾輝もその一人」

 

なんだ。

何の話だ。

 

「……京菱キリコ。何か言いたいことがあるなら、せめてこっちを向いて言え」

 

静刃がちょっと切れぎみに言ったが、キリコはさっきと同じ姿勢で、ネジの切れたゼンマイ人形のように静止している。

 

「あわわわ、教室でケンカは駄目ですよ、駄目ですからねー?」

 

セアラさんの注意が聞こえ、この欠席者、早退者が多いHRはグダグダな流れで終了してしまった。

俺と静刃の手元に____この不気味な力を残して。

 

 

 

後になって知ることになる。

この居鳳高の中でも異質なX組で過ごすなかで。

新型の異能、未知の異能(・・・・・・・・・・)を集めた特殊なクラス。

居鳳のXは、異能のX。異能達の交差点。

通称育成不能なX(バッテン)組に入れられたのは、決まっていた運命(さだめ)だったということを。



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異能7黛美々

こんばんは。
明日(28日)試験なのに小説書いちゃったこばとんです。
うん、何やってんだろう。
書いてる場合じゃないのに……。


……だ、大丈夫。多分なんとかなるよ……。




なんとかなるといいなー。


という駄目人間ですが、楽しんで下さい。


______ポチャン。

重量物が水の中に落ちる音を鳴らして沈んでいくのを目にしながら俺は考える。

俺の頭の中では彼女達が言っていた発言が脳内に浮かんでは消え、浮かんでは消えている。

『本気を出せばお兄ちゃん達は強いんだもん』

『これ、さっきご親族の方が届けにいらしたんですが』、『まあ!力持ちですね』

『特別な人間は、非凡に生きようとしても世界がそれを許さない』

彼女達は何を知っているんだ?

何故俺はこの学校に入れられた?

誰があんなモンを送りつけてきた?

 

……わからんねぇ。

 

考えても答えなど出る筈もなく俺はその場で両手で頭を抱え込むようにして項垂れた。

視界の先には俺が不法投棄したブツが暗い暗い底へ向かってゆっくり沈んでいく。

池の底を見ようにも藻や蓮が水面に浮かんでいるせいか沈んでいったアレらを見ることはできなかった。

 

俺らが今いるのは学園の裏庭の池の前。桜の木々に囲まれた場所でさっき、京菱キリコが言っていた発言が気になった俺は隣に立ち、俺と似たような行動をして日本刀を不法投棄した静刃に話しかけた。

 

「なぁ、静刃。自分が特別だって自覚とかあるか?」

 

変な事を聞いてんなーと思いながらキリコが言っていた特別な人間発言について静刃にそう聞くと彼は……。

 

「何言ってんだお前?」

 

などと言って険悪な表情をした。

特別な人間とかに抵抗があるのか、静刃にジト目を向けられて呆れられた。

 

「睨むなよ。例えばの話だ」

 

そう言いつつ、自身が言った言葉を自分自身にあてはめた。

 

特別な人間……か。

今まであまり考えないようにしてたが……。

何故だろう。特別というその言葉が引っかかる。

前にも『誰か』に言われたことがあるような……。

 

 

俺が考え事をしている間に、隣にいた静刃は桜の林の奥にいたとある少女を見ていた。

女が苦手とか話していたわりにフラグ構築させる静刃をどう料理するかを考えていると少女が持つ携帯電話が鳴り出した。

 

「はい、黛よ。あっ、それがね。急用ができちゃったの。たった今。今日も出れないわ」

 

黛……?

宛名に書かれていた名前と同じだ!

 

どういうことだ。

彼女があの銃が入った包みを送ったのだろうか?

 

電話している彼女を警戒しながら隣に立つ静刃に話かけた。

 

「なあ……あいつは知り合いか?」

 

「知らないのか?」

 

何故か知らないことを驚かれたがこんな美少女なんか知らん。

夢の中ならともかく、現実で会うのは始めまして……の筈だ。

俺が静刃に「知らない」と返事する前に黛と言った女が静刃に話かけてきた。

 

「あたしのこと知ってる、って顔してるわね」

 

知らねえよ。

なんて言う前に静刃が答えた。

 

「……知ってる」

 

「見たことある?」

 

「ある。テレビと____」

 

何故か静刃が途中で口を閉ざしたので会話に加わろうとしたが2人の間に入り込める空気じゃなかった。

俺、空気化してる⁉︎

 

「あは。うれしいな」

 

そんな俺に気づくことなく2人の会話は続いた。

 

黛が猫の真似をして静刃に近づき静刃に名を名乗った。

 

「あの〜」

 

「あたし、1年V組。黛美々(まゆずみ びび)。これ芸名と同じだけど、本名よ」

 

「……?」

 

静刃は何で名乗ったんだ、って顔してビビを見ている。

 

「お〜い〜」

 

「お・な・ま・え。女子にだけ名乗らせる気?」

 

俺の事はガン無視で静刃に詰め寄るビビ。

 

「あ、ああ。X組の……原田静刃だ」

 

「俺は「あんたはいいわよ!知ってる(・・・・)から……」……は?」

 

彼女の発言に驚き、素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

「どういう意味だ?」

 

俺は彼女なんか知らない。間違いなく会ったのは今日が初めてだ。

()を除けば……。

 

「言葉通りよ……あたしはあんたを知ってる。

あの日からね……」

 

意味深い発言をして俺の前に立った彼女は今度は俺に抱きついてきた。

 

「会いたかったよ……弾輝」

 

突然の事だった……。

ビビに抱きつかれたせいか、俺の……

 

____ドクン。

 

心臓の鼓動が早くなった。

それとほぼ同時に俺の視界に変化が起きた。

普段は視えないけど、今ははっきりと視える。

いくつかの『表示』が。

まるで3D映像のように、この現実のあちこちに。

ビビの頭の上、そこには『Bibi』という名前が表示されている。

『表示』が示すように左手の掌を池の方に開いて『来い!』と念じると……。

さっき沈めた銃が水面から浮き出て俺の掌の中に飛び出して収まった。

まるで銃のホルスターはここだといわんばかりに。

左手で握りしめた銃身からは真っ黒な炎……いや、焔が発生している。

不思議なことに全然熱さを感じない。

それどころか、どこか懐かしさを感じる。

暖かい。まるで陽にあてられたような心地よさを感じる。

本来あるべく所に収まったかのように……。

 

「……っ⁉︎」

 

俺はビビを放そうとしたが彼女は離れない。

むしろ俺の顔を、頬を両手の掌で包みこむように挟んで顔を動けなくしてから、俺の唇に自身の唇を重ねてきた。

 

「……⁉︎」

 

抵抗できなかった俺は数秒間彼女に唇を吸われてからようやく解放された。

 

産まれて初めて異性との接吻をした俺はその現実を理解するまで、頭の中が真っ白になった。初めて出会った相手と。それもこんな美少女にキスされた。高揚感があるがそんな気分はすぐに吹っ飛んだ。

何故なら彼女に関する記憶が頭の中に戻ってきたからだ。

 

「逃げろ、静刃!」

 

「逃げようとしても無駄よ。もうあんた達はあたしの『魅力』にかかってる。弾輝はともかく、静刃はシロート同然だったわね」

 

状況を理解させる余裕などなかった。

すでに俺と静刃はアイツの張った異空間の中に入れられたからだ。

 

「絶界か……。

懐かしいな……」

 

そう呟きながら彼女に向けてローキックを放った。

俺に攻撃されることを予測していたのか、彼女は俺から素早く離れた。

 

なんで忘れてたんだろう。

ずっと、ずっと知っていたのに……。

アイツとの暮らしじゃあ当たり前だったのに……。

 

 

そんなことを考えていると制服の内ポケットに入れているスマホが鳴り響いた。

スマホからは『夜空ノ○コウ』の着うたが流れたので電話に出ようとしたらすぐ切られた。

悪戯か?と思いながらスマホの液晶画面を見ると不在着信が表示されていた。

それも100通も。

異空間なのに届いていた。

 

「怖っ⁉︎」

 

表示されてるのはどれも非通知だ。

着信履歴に非通知設定で100件来ている。

 

何これ、ホラー?

昨日から俺の周りで超常現象起こりすぎだろ。

見覚えのない着信履歴の相手とオカルト現象にキレてると俺の手の中にあるスマホがまた鳴り出した。

電話に出るべきか、無視すべきか迷ったが後回しにしても何も変わらないと思い、一言電話の相手に文句を言う為に電話に出ると聞き覚えがあるとある少女の声が聞こえてきた。

 

『もしもし? 私、マリーさん。今から貴方を殺しに行きますから……』

 

「都市伝説かよ⁉︎」

 

電話の相手に突っ込んだ。そんな気はなかったが……。

 

呪いの人形とかシャレにならん。

順序いろいろと端折りすぎだし。

もうちょっと段階踏めないのかよ……。

 

「余所見なんて余裕ね。今日は昔みたいに白い『妖刀』使いはいないのよ?」

 

ビビがいつの間にか戦闘服に着替え終わっていた。

近くには日本刀を胸の位置で置かれた静刃が地面に倒されていた。

 

「お前、静刃に何をした⁉︎」

 

「まだ、何もしないわ。これからするのよ……あんたの『異能』を奪ってからね」

 

銃を彼女に向けると身体中の筋肉が膨れあがるのがわかった。

俺はこの銃を知っている。この力を知っていた。

そして目の前の彼女とあの『化生』の事も知っていた。

そして幼馴染の『刹那』の事も……。

 

『もしもし? 私、マリーさん。今貴方達がいた世界にいるの……』

 

 

昨夜、居鳳海岸で出会ったあの少女の声が聞こえた。

返事を返す間もなく、その声は続いて聞こえてきた。

 

「もしもし? 私、マリーさん。今貴方の後ろにいるの……」



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異能8 引きたくない時……

おはようございます。
昨日はちょっとしたアクシデントに見舞われて負傷しちゃった、こばとんです。
たいしたことではなかったので影響はあまりないと思います……多分。
地元の夏祭りにも参加しましたし。
久しぶりにねぶた観れてテンション上がりましたー。
やっぱり祭りはいいですね。
特に浴衣とか……ゲフンゲフン。

では前回の続きをご覧下さい。
ビビ邂逅編中編です。


「もしもし? 私マリーさん。今貴方の後ろにいるの……」

 

突然背後からかけられた低い声に思わず振り返ろうとして、その首を後ろから伸びてきた細い腕に首を掴まれた。

ぐぎっと人間の頸椎に鳴らしてはいけない鈍い音が鳴り、俺の首は強制的に正面を向けられた。

首から肩にかけて激痛がはしった。

今ので僧帽筋を痛めた。

 

「こっち見ないで下さい。見たら殺します……」

 

背後から聞こえてきた声の主は昨夜とさっきの入学式で出会った少女。

マリナーゼだ。

首固めをされたままの状態で背後の彼女に質問をした。

 

「いろいろ聞きたいことがあるんだが、まずこれだけは言わせてくれ……」

 

「なんですか?」

 

「背中に堅い物が当たってるんだが石か岩でも入れてんのか?嫌がら……「キョーレツに死になさい!」ぐがぁ……」

 

嫌がらせか? と抗議しようと続ける前に背中に刃物を突き刺されたかのような痛みが走った。

 

「姉さんみたいな巨乳でなくて悪かったですね!」

 

何故だか怒り出したマリナーゼは俺の背中に次次に何かを突き刺してきた。

 

「痛だだだだだ……」

 

刃物をザクザク刺された感覚と刃物をグリグリ回されたような痛みが走った。

物凄く痛い。死ぬ。死ねる。

 

「(胸)無くて悪かったですね。硬くてごめんなさいね。ちっぱいは正義なんですよー。

全国の貧乳さんに謝罪して下さい。まあ、謝罪しても許しませんけどねっ!」

 

コンプレックスを刺激してしまったようで何かスイッチが入ったようだ。

刃物を刺す時間の間も徐々に速度を上げ連続で突き刺しては抜き刺しては抜くの行為を繰り返している。

 

「ちょっと……」

 

「何ですか? 今いい所なんで待ってて下さい。

後300回は刺しますから……」

 

ビビが俺やマリナーゼのやり取りを邪魔してきた。

邪魔されることは想定済みなのかビビに空いてる手で銃剣を向けながらマリナーゼはそう言って俺を刺す作業を続けた。

自分がスルーされることには免疫はないみたいだ。

 

「まだ刺すのかよ⁉︎」

 

文句をマリナーゼに言ったが彼女か反応するより先にビビの方が質問してきた。

 

「って何でアンタ、そんなに銃剣で刺されて無事なのよ?」

 

俺の背後を見て愕然とした表情をするビビ。

 

 

「知らん」

 

ビビに言われて気づいたが確かにおかしい。

普通ならこんだけ刺されまくってたら出血多量でとっくに昇天していてもおかしくない。

なのに……。

 

「楽になりたいんですか?」

 

マリナーゼが低い声を無理やり高めに上げてそう言ってきた。

何これ、何かこわい。ここで『イエス』とか言ったら確実に死ぬな……。

根拠はないけどそんな予感がする。

 

「いや俺はまだ「私とキスしかしてないからまだ死にたくはないみたいよ?

あ、でもキスしたからもう未練もないんじゃない?」死にたくないです。これは冗談です。ビビの戯言だ。ビビてめぇ……」

 

な、なんつうことを言いやがる。

そんな事を言ったら誤解されるだろうが。

 

「キ……ス……?」

 

背後から聞こえる絶対零度を連想させる低い声。

 

「あ、あれは……だな……」

 

「『欠片(カラット)』を探す忠実な犬になるかわりに私にキスを迫ってきたのよ。まったくいやらしい犬よね……」

 

「一言もそんな事言ってねぇし、迫ってもねぇだろうが! むしろ勝手にされた俺の方が被害者だ‼︎」

 

「でも、し……た……の……ね?」

 

「あ、ハイ……」

 

「後でオシオキ……逃げたら轢きます」

 

背中に刺さる刃物に力を加えながらそう言ってきたマリナーゼ。

気のせいだといいんだがなんか背に刺さる刃物の強さと速さも……グサグサからズサズサ、ザクザクザクからドスドスドスにレベルアップしてる気がする。

 

「それはそうと、私の標的に手を出した報いは受けてもらいますよ……ビビ?」

 

「ハッ……呪われてそれしか今は使えないアンタに負けるわけないでしょ!

『欠片』さえ渡せば命だけは見逃してあげるわよ?」

 

そう言った両者の周りは不可思議な事象が次々と起こった。

まずビビの周りに高濃度の魔力が渦巻いた。

その魔力をビビはスカートから出したフリントロック・グレイブに集めた。

銃口の奥が赤く光ったフリントロック・グレイブを突き出し叫んだ。

 

「あたしの電離弾(プラズマ)は、10式戦車の装甲だってブチ抜くわよ!」

 

________バッ!

 

真紅の光弾が放たれた瞬間、とっさに俺は手に持つ銃を光弾に向けてトリガーを引いていた。

俺が持つ銃の銃口から飛びだした銃弾はビビが放った光弾と当たるやいなや高濃度の魔力を撒き散らしやがて周囲を絶界を形成する魔術の空間半径1km程を冷却させた。

俺が放ったたった一発の銃弾がビビの放った光弾を氷漬けにした。光弾は直径2mはある氷の球形になって俺やマリナーゼの目の前で落下、固定された。

銃弾と光弾の衝突後から周りの気温が急激に低下し、まるで真冬並の寒さとなってしまった。

久しぶりに使ったがやりすぎたかもしれない……。

青い銃弾に籠める魔力の量を多くしすぎた……改良が必要だな。

 

 

「なっ……」

 

「何を……」

 

ビビとマリナーゼは驚きの声を上げた。

 

「「一体貴方(あんた)何をしたのですか?(したのよ?)」」

 

「何をしたのか……か。

そんなの決まってんだろ。

俺はたいしたことは何もしてない。

今この瞬間まで何もしてこなかった。

必要最低限の事以外は何もしない……そうしてきた。

今までずっと、な……。

特別な人間じゃなければ何かをしても報われない。

挑めば傷つく、失う。

だから何もしたくなかった……けどな……」

 

けど……俺にも引きたくない時だってある。

傷ついても、敵わなくても、例え背中を刺されまくってても……やらなければいけない時がある。

 

 

「……男が、女を……見殺しにできるわけないだろ……!」

 

女を守る時。

それが今だ。

 

「もう、やめとけ……動いたら次は眉間にブチ込む」

 

緋色に光る両目で鋭く睨むと黒い焔を纏った左手に持つ銃をビビに向けて警告した。

 

「ふ、ぶさけんじゃないわよー!

電離弾(プラズマ)をたった一回攻略しただけでいい気になってんじゃないわよ‼︎」

 

別にいい気になってはいないが反論するのも面倒だったのでさっさと黙らせることにする。

 

「人の警告は素直に受けとめるもの……だぜ?」

 

『表示』に出てる数字が上がる。上がっていく。

8%……いや、今、10%になった。

これを弱めることは今の俺にはできない。

 

数字は俺の意思では止まらない。

昔はまだ制御できた……刹那との、幼馴染との運動で……。

卑猥な言い方に聞こえるかもしれないがあいつは毎晩激しかったからな。

徹夜で3日続けて戦闘訓練とか2人してしてたし……若かったなーあの頃は……。

従姉妹ともキャッチボールとかしてたし。

実弾で……。

制御できなきゃ、死んでたね。

記憶は封じられる前までの俺はかなりのヤンチャだったからな。

反動で記憶封印された後の俺は無気力な駄目人間になったけど……。

 

「あんたから死になさい!

電離弾(プラズマ)_____‼︎」

 

ビビは再び赤い光弾を放ってきた。

迫り来る真紅の魔法の光。

俺は左手に持つ銃をその光弾に向け、そして……

 

 

 

 



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異能9 伝説の熱光線

お久しぶりです。
かなり間が空きました……すみません。
いや、本当。

アリスベル第5巻出ましたね!
読んだ感想として、妖刀VSエネイブル、妖刀視点の話でなかなか興味深い話でした。
まだの方はぜひそちらをご覧いただくと後々分かりやすくなると思います。

まだ一巻の内容ですが出来るだけ執筆していきますんで……。


手に取る妖銃のトリガーを引いた。

引いた瞬間から俺の瞳では世界の姿が一変する。

まるで超高性能カメラが見せる、スーパースローの世界へと俺の視界が変わった。

 

ドゥギューンッ!

 

妖銃から放たれた赤い弾丸がビビが放った光弾に向けて飛来し、銃弾に刻まれた滞空の式により停止する。それと同時にその弾丸を包むように発生した魔法陣が描かれた凸凹のレンズにより太陽光が一瞬のうちに集まる。

まるで超高速再生をしているかのようなとてつもない速さでスローモーションの世界を太陽光の光が照らす。

やがて弾丸を包むレンズに集まった太陽光が一斉に反射し、その光が増幅して、同時に展開していた別の魔法陣に集まり、その魔法陣から反射された光が一直線に放たれた。

ここでスローモーションの世界から元の視界に戻る。

 

バッ!

 

放たれた光はビビが放つ光弾へとぶつかる。

ビビが放った光弾と俺が放った太陽光の術式がぶつかり攻めぎ合う。

どちらの術式も拮抗していたが、やがてバチバチバチッと、スパークするような音を立て俺が放った弾丸諸共爆発した。

 

ドウッ! という砲弾が破裂したような爆音と共に周囲に土が巻き上がる。

爆音と共に強烈な爆風も襲いかかり、静刃は吹き飛ばされていた。

 

「くッ……ま、まさか……光線(レーザー)の術式を操れるなんて……」

 

爆風を何らかの式で防ぎながらビビが歯ぎしりした。

ビビが悔しがるのも無理はない。

今の一撃で気付いたようだが俺が放ったのはただの弾丸ではないからな。

アルキメデスの熱光線(ソーラーレイ)』の式。

本来は太陽光を凹凸レンズに集めて光を増幅させ焦点を敵に定めてから放つ式で発動までに時間と手間がかかる術式だが、俺が使う妖銃には特殊な式が刻まれており、特殊な弾丸にあらかじめ『アルキメデスの熱光線』の式を込めて放つ事で好きな時に自由自在に放つ事ができる。

太陽光を必要とする為、天候に左右されるという欠点があり屋内では使えないが一度放てば普通の人間には回避出来ない強力な式だ。

 

 

「出力は最弱にしてあるから安心しろ。

おとなしくしてればもう撃たねえからよ」

 

「弾輝君、今のは何ですか⁉︎」

 

マリナーゼが目を大きく見開いて驚きながらも興味津々といったような表情をして聞いてきた。

 

「大昔、ヨーロッパで実用されたと伝わる兵器と現代に伝わる如意棒の式を元に俺の家にいる専門家が改良して発展させたもんだ。

長い間、使い方を忘れていたからちゃんと使えるかは賭けだったけどな」

 

「ありえないわ!

あんたが使った式は、有名な妖が使う術式の一つ、『意の如く、どこまでも伸び、射殺す』と言われるあの如意棒とほぼ同じものなのよ⁉︎

そんな高難易度の式を魔術的な補助も無しに使えるなんて……」

 

「補助ならあるぜ?

妖銃(コイツ)には自動的に式を制御する術式がかけられているからな」

 

「な、そんなものどうやって……」

 

「さあな。お前に答える義務も義理もねえ」

 

「くっ、マリーといい、あんたといい……あたしの邪魔ばかりして……」

 

「『因果応報』だな。お前が俺の前に立ち塞がらなければ俺は何もしないままだったんだぜ?」

 

妖銃という存在になっている今の俺は口調を荒々しくしながらビビを見据える。

妖銃の銃口をビビに向けながら会話を続ける。

 

「思い出したくもなかったのに、ビビ、お前のせいで思い出しちまったよ。

あの日(・・・)の事も……な」

 

「わたしは忘れてほしくなかったわ。

ずっとあんたを探していたんだから」

 

「話がよく分かりませんが2人とも知り合いのようですね……一度休戦としませんか?」

 

「そうだな……ビビもそれでいいか?」

 

「……仕方ないわね」

 

マリナーゼの提案を受け入れようと俺達は手に取っていた武器を納めようとした時。

 

______ガッシャァァァーン

 

周囲全体から、ガラスが割れるような音が響いた。

空間を何かが突き破るような音が聞こえ、視界の中を______シャッ______小さな太陽のようなものが、掠め飛ぶ。

そして______ドゥッ!

再び砲弾が落ちたような音と共に、土が巻き上がる。

 

「きゃあっ⁉︎」

 

ビビはスカートどころか体ごと、足元からめくり上げられたように吹っ飛び、揉みくちゃになりながら地面に転がった。静刃と共に。

静刃達の、その真横に、ガスッ! 光に続いて上空から落ちてきた『何か』が突き刺さった。

周囲は土煙と______舞い上がった桜の花びらで、メチャクチャだ。

よく見るとそれは……輪っかのようなもので、どこかの美術館にアートとして飾られていそうな、金属製の、穴あき円盤だった。

いや、ただの円盤ではない。

あれは______武器だ。

 

真空を描くドーナツ形の金属は外周が鋭い刃になっていて、見るからに危険なムードがある。

円環状の刀剣として見ると、刃渡は円周の全てになっており、刃の幅は______外径から内径は15センチほどだ。剣身には、ここからではよく分からないがおそらく俺が読めない文字がグルりと彫金されているだろう。

その文字が電光掲示板のようにそれぞれ輝いている事にも驚いたが……さらに驚く事態が上空にいる一人の少女によって起こされた。

 

輪っかの上には女の子が直立して立っていたからだ。

居鳳高の制服を着た、黒髪ツインテールの______

 

「姉さん⁉︎」

 

俺の背後にいるマリナーゼが上空のその少女に向けて声をかけた。

そう、俺達の前に姿を現したのは、今朝マリナーゼの横に座っていた彼女の姉_。

 

_____アリスベルという名の少女がサーカス芸のように直立していた。



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異能10 避けらない、衝突

やがて魔剱のアリスベルと暗殺教室のクロス作品を読んだら。
久しぶりに描きたくなりました。(単純なんです)
やがて魔剱のアリスベル、原作は完結してしまいましたが、緋弾のアリアで静刃は暗躍してるので、アリアでの活躍が楽しみですね!




「真円を描く金属の輪、それが噂の……魔法陣環剱(サークルエッジ)ね。ようやく見れたわ、サムライガール。魔女狩り魔女(マッキハンター・マッキ)の、アリスベル」

 

憎々しげにビビが言い放つ。

円盤上に黒いストラップシューズを履いた踵を揃え、そのほっそりとした美脚を見せ、アリスベルは……チェック柄のスカートを、花びら混じりの風に揺らしながら立っていた。

 

「確かに、過去……道を踏み外れた魔女(マッキ)魔法少女(マッキーナ)を狩るのは私の生業でした」

 

魔女?

魔女って、じゃあ、もしかして……マリナーゼも魔女なのかよ⁉︎

確かに、マリナーゼは魔女っぽい、ミステリアスな雰囲気がするが、その姉のアリスベルは魔女というより、さっきビビが呼んでいたが女侍(サムライ)に近いんだが……まあ、頭にあるのはチョンマゲじゃなくて、ツインテールだけど。

と、ビビやアリスベルが言い放った現実から逃避していると。

俺の視線と、マリナーゼの視線が一瞬、交錯した。

その一瞬で、俺はマリナーゼ達がこれから何をするのか、理解できてしまう。

マリナーゼは一瞬視線を交錯しただけで、確かにその視線はこう言っていた。

『ここは任せて早く逃げなさい』と。

 

「姉さん、ビビさんとは休戦の合意を得られました。だから、ここはお互い退くべきだと思います」

 

「それなら、それで構いません。ですが、ただで退くわけにはいきません。

持っているのでしょう? 『欠片(カラット)』を。出しなさい」

 

アリスベルは女子アナみたいな綺麗な声で言い放ち、豊かな胸元から一つのペンダントを取り出した。

(あれは……色金?

いや、違う。似てるけど、違う。別の何かだ)

そのペンダントは(うずら)の卵みたいな形をした宝石だった。

オパールのような、赤や、橙色をしたもの。

ファイヤーオパールのようだが、それよりももっと光輝く宝石。

まるで本当に炎を閉じ込めているような______輝きが、ひとりでに(・・・・・)蠢いているのだ。

(あの炎の感じ……似ている。似てる……この、俺が持つ妖銃が放つ炎の揺らぎにソックリだ!)

妖銃を持つと発生する黒い炎……その炎と似ている。

これはただの偶然か? それとも……?

 

「いやよ。せっかく、手に入れた『欠片(カラット)』を手放すはずないじゃない。

それに私はあんたほど無用心じゃないわ。体内に隠してる」

 

と答えたビビを見て。

 

「……どこ」

 

何を考えたのか、アリスベルは頬を少し赤らめて問いかけた。

 

「どこだっていいでしょ。欲しけりゃハダカにひんむいて探してみなさいよ」

 

いや、ハダカって……いいのか?

そんなこと言われたら本当にやっちゃうよ? 俺が!

 

「弾輝くん? 本当にやったらキョーレツに許しませんよ?」

 

うおおっと、何やらキョーレツな殺気を感じるのですが、マリナーゼさん。

何を怒っているんですか?

そして、何故俺の考えていること解るんですか?

 

「ホントにやりますよ。私、やるときはモーレツにやる性格ですから」

 

「やれるもんならやってみれば? ______こいつを喰らってからね!」

 

会話で油断させていたビビは、突如______

すでに銃口の奥を赤く光らせていたフリントロック・グレイブを、アリスベルへ向けて突き出した。

 

「あたしの電離弾(プラズマ)は、10式戦車の装甲だってブチ抜くわよ!」

 

その言葉を合図に、始まってしまった。

魔女狩り魔女(マッキーハンター・マッキー)』、アリスベルと『魔法少女(マッキーナ)』、ビビの『欠片(カラット)』と呼ばれる宝石を巡る争いが。

 

ビビが放った光弾は、環剱から飛び降りて後ろに下がっていたアリスベルの環剱の中に浮かぶ、ホログラムみたいな時計の文字盤が並ぶ像を通過し______クンッ______と軌道を変え、あらぬ方向へと飛んでいき霧散した。

 

「くッ……重力レンズの魔法陣とか……!」

 

ビビが、悔しそうに歯ぎしりをした。

対するアリスベルは、クイッ。像の消えた環剱を両手で引き倒しながら、その穴に自分の体を入れた。

まるで浮き輪やフラフープを回すような感じに。

そして、静刃を飛び越えるように着地してから、自身を囲む環剱を傾けて構えた。

その円形の刀身の上を______小さな流れ星のような、砂粒サイズの光が滑るのが見える。

(環剱をフラフープのように回して、加速させて放つ式……まさか!)

俺がその式が何かを思い当たったその時には、すでに。

ぐるりっ、ぐる、ぐる______る、る、るるる______環剱をレールのように周回し、加速した光が増大していた。

 

「______荷電粒子砲(メビウス)______」

 

アリスベルがまるで、呪文のように呟くと、その光の粒はビー玉のような大きさまで増大された。

それはさっき上空から放たれた爆発より、もっと強い、光……!

その光の式をアリスベルはビビへと向けるが、ビビは逆に手に持つ銃、フリントロック・グレイブを静刃の方へ、向けた。

クソッ、人質を捕らえた!

俺ならともかく、今の(・・)静刃じゃ、ビビの攻撃は防げねえ。

どうする? どうしたらいい……クソッ、アレ(・・)をやるしかないのか!

 

「あら誰でしょう。私の知らない人ですね。撃ちたければ撃ちなさい。関係ありませんので」

 

俺が悩んでいると、アリスベルがかなりワザとらしい口調でそんなことを言った。

 

「棒読みにも程があるわよ、アリスベル。コイツを助けようと、乱入してきて、目配せまでしておいて、無関係なんて話は筋が通らないわ。______ほらッ⁉︎ ホントにいいのね⁉︎ 静刃をコゲ肉にしてもッ!」

 

「……このッ……卑怯者……!」

 

ビビの恫喝を受けて、悔しそうに歯ぎしりをしたアリスベルは環剱に溜まっていた光を消そうとした。

 

「……待てよ、ビビ。やれ!」

 

「え?」

 

「やれるもんなら、やってみろ。

ただし、俺に撃たれる覚悟があるんならな?」

 

俺は手に持つ銃をビビに向ける。

ビビは俺が介入してくるとは思っていなかったみたいで。

 

「ちょ、ちょっと……アンタとは休戦したはずよ!」

 

「正解には休戦しようとしていた、だろう? まだ、正式にはしちゃいない。

それに静刃に手出しするなら、俺が許さない。

覚えておけ。俺は友を、仲間を傷つける奴は誰が相手だろうが絶対に許さないッ!」

 

「くっ、そう……そうなんだ。アンタは……私よりも……コイツらを取るのね。なら、いいわ。アンタがそういった態度を取るなら、まずは……弾輝。アンタから死になさい!

______電離弾(プラズマ)!」

 

 

俺に向けて、ビビは光弾を放った。

迫る光弾に向けて、俺は……。

会話で気を逸らして装填を終えた妖銃をビビに向け、いつでも発砲できる構えを取る。

 

「……全てを無に帰せ______消滅弾(メドロア)

 

そしてそう呟いて、トリガーを引く。

まずは、青い弾丸を発射。次に赤い弾丸。

二つの弾丸に同じ量の魔力を込めて、ほとんど同時に放って衝突させる。

先に発射された青い弾丸は、滞空の式がかかり、空中で停止しながら冷気を出し、その式を使うのに必要な『マイナス』のエネルギーを。続けて放たれた赤い弾丸は、発砲直後から太陽光を収束し、熱に変換させ『プラス』のエネルギーを発生し始めた。

そして……弾がぶつかり合った時に、ソレは起きる。

二つの弾丸が衝突した瞬間、黒い炎が生まれ。

その黒い炎は柱のように上空へと広がると。

ビビが放った光弾を、ビビが展開していた『絶界』ですら飲み込んだ。

全てを『無』に帰す禁忌の式。

俺はそれを使ったのだ。



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異能11 消滅弾

どうも久しぶりです。
一年も間を空けて申し訳ありません。
こちらの作品でもまたよろしくお願いします。


黒い光の柱が広がり、全てを飲み込む。

そこに存在するありとあらゆるものを、人も建物も空間も……『絶界』すらも飲み込んでいく。

光はやがて収束し、細くなっていき、そして霧散した。

俺は気付くと、妖銃を捨てた池の側に立っていた。

どうやら、上手くいったみたいだな。

先ほど放った消滅弾(メドロア)の式は、ありとあらゆる物質を消滅、分散させる『打ち消す』式。

術者が込める魔力の量、質によっては空間や時空に干渉できる、世界の理を破壊する式。その危険性故に『禁忌』とされている本来なら使ってはいけない式だ。

だが、俺は使った。使ってしまった。

静刃()を、マリナーゼ()を守る為に。

 

「……3年ぶりだな、これを使ったのは」

 

最期に使ったのはいつだったか。ああ、そっか。

あの時以来だな。幼馴染と幼馴染の両親を守る為に使って……そして、『俺』という記憶がなくなったあの時以来だ。

 

「……なっ、なっ、なっ…なっ⁉︎」

 

誰かが動揺した声が聞こえる。

それと同じタイミングで俺の脳内にとある言葉が浮かんできた。

 

『心配するな、お前は一人じゃない』

 

あの時、俺は……そう誰かに言われたんだ。

薄れゆく意識の中で、その声だけはハッキリと覚えている。

 

『お前は今日起きた出来事をしばらく忘れることになるけど__これはだけは忘れずに覚えておけ。

いいか? まず、女に関わるな。ゲームは好きか? よし、なら(ガン)ゲーをやりまくれ! 出来るなら、サバゲーとかもやれ。モデルガンでいい。リボルバー式の銃使え。やるなら電動銃よりガス銃でやれ。サバゲーで得た経験は将来必ず役に立つからな。そして__』

 

何故忘れていたんだろう。何故、今思い出したのだろう。

わからない。わからない。わからない……ただ。

 

「何してんのよ、この変態____エロガッパ!!!」

 

美々の声で思考は現実に戻る。

俺の目の前に広がるその光景を認識した瞬間、俺は自身がやらかしたある重大なことに気付く。

気づいてしまった。

 

「ぶふぅ⁉︎」

 

ヤバい。これはヤバい。

確かにヤルよ。やっちゃうよ、とか言ったが本当にやる気はなかった。

美々の怒りを買う気も、物凄い目つきで睨むアリスベルの怒りを買う気もなかった。

だが、それ以上にヤバいのが。

 

「……弾輝君。裸にしたらキョーレツに許しませんよ、って言いましたよね?」

 

まるで閻魔大王を彷彿させるくらいにその顔を怒りに歪ませたマリナーゼの顔を見た俺は自身がやらかした最大の失敗を激しく後悔することになった。

『消滅弾』を使った結果。こんなことになる可能性は十分あることなど解っていたのに。

俺は目の前に広がるこの光景__アリスベルや美々、そして、マリナーゼが着ていた衣装が跡形もなく、無残にも塵のように霧散していく、つまり、彼女達が身に付けていた衣服が剥ぎ取られ、丸裸になったその光景を目にし。

改めて自身がやらかした最大の過ちに激しく後悔すると共に、同時にとても興奮している自分に気がついて、険悪感や背徳感を感じていた。

 

「え、えっと……こ、これはだな」

 

「弾輝君……エッチなのはいけないと思います」

 

両手で胸を隠しながら恥じらうマリナーゼの姿にドキッとしてしまう。

ああ、チキショウ。可愛いな。

 

「思春期の男子ならこれくら普通にやることだ」

 

なんて言ってみるが、普通の一般的な男子は実銃を持ってたりしないし、物を消滅させたり、女の子の衣服を消滅させたりはしない。そんなことは分かってる。

だが、今の。『妖銃』となってる俺の口から自然とそんなデマカセが出てしまう。

 

「知りませんでした。男の人って皆さんこんなにエッチなんですか?」

 

「異性をハダカにひん剥くのは普通……なるほど。モーレツに勉強になります」

 

「信じてるし⁉︎ ちょっと、弾輝。アンタ、アリスベル達になんてこと教えてんのよー⁉︎」

 

いや、まさか。こんなデマカセを信じるなんて思いもしなかった。どれだけ世間知らずのお嬢様なんだよ。そんなわけないだろう。

 

「あー……その冗談だ。普通は脱がしたりしない。せいぜい、スカートをめくったり、スカートの中をカメラで撮影するくらいだ」

 

「小学生か! いや、アンタそれ普通に犯罪だからね! 分かってる? ねえ、解ってる?」

 

美々から鋭いツッコミをいただきました。

 

「はぁはぁ、なんか疲れたわ。戦うのがバカらしくなってきたわ」

 

「そっか。じゃあ、もうやめにしとこうぜ。お客さんも来てるみたいだしな」

 

俺がそう言った時。

 

「____きゃっ!」

 

アリスベルが悲鳴を上げた。

視線を向けると、アリスベルの足下、地面から何かが溢れ出していた。

地中から出てきた深海生物みたいなものがアリスベルを担ぎ上げる。

(うっ……何だあの気持ち悪い生き物は⁉︎)

イソギンチャクのような形だが、大きさは軽トラックくらいあるぞ。

その謎生物はアリスベルを胴上げするとウネウネ動く何十本もの触手を動かしアリスベルを絡み取る。

 

「あはははは! なーんちゃって」

 

「姉さん⁉︎」

 

「待ってろよ。今、助けてやるからな」

 

「動かないで! 二人とも動かないでそこでじっとしてなさい。動いたらアリスベルを締め上げて、窒息させるわよ? 「くっ……なんて卑怯な。見損ないましたよ、美々」ふん、好きなように言いなさいよ。弾輝みたいな人間辞めてるような奴の邪魔が入らなければ、荷電粒子砲がないアリスベル達なんか、ザコいし!」

 

「やめろ。おい、やめろ!」

 

叫ぶ静刃の声が聞こえてきた。

 

厄水(ゲル)の式を使えるあたしと池の近くで戦ったのは大きなミスだったわねぇ。アリスベル」

 

美々はそう言うと、謎生物がその触手で胴や手首、足首を捕縛されたアリスベルの胸元に____ぬにゅんっ、と水っぽい触手みたいな器官を滑り込ませた。

 

「____ひゃうっ!」

 

「というわけで、欠片(カラット)を取られたのはアリスベルちゃん自身でした。ほら、もっと悔しそうな顔しなさいよ。あたしをヒヤッとさせた罰よ。

ついでに荷電粒子砲(メビウス)の式も教えなさい、アリスベル。そしたら放してあげるわ」

 

「あれは……あなたのような乱暴者が覚えていいものではありませんっ!」

 

「厄水って、遊び過ぎて廃人になっちゃった魔法少女もいるのよねぇ。知ってた?

秘密を喋らせる一番ラクな方法は、壊れるまで快感にさせてから、禁断症状が出るまで墜とす方法なの」

 

アリスベルから奪った環剱を桜の幹に食い込ませるように置いてから、美々はキバのような犬歯を見せるようにして笑う。

 

「さーて、何回失神した辺りで折れるかしら。アリスベルは。20回? 30回くらい?」

 

アリスベルの叫ぶ声が聞こえる。

俺は今すぐ、手に持つ妖銃を美々に向けたくなったが、マリナーゼに止められていた。

 

「放せ、マリナーゼ! 一発あのアホ娘にブチ込んでやる!」

 

「いけません。貴方が動けば姉さんの身が危なくなります。堪えてください」

 

「大丈夫だって。ああいう子はきっと一発ブチ込めばおとなしくなるって」

 

「……ヤリたいだけなのでは?」

 

マリナーゼからジト目を向けられた。

ち、違う。そんなことは思っていないさ……少ししか。

と、そんなコントをしていたその時。

ザザッ。裏庭の空気が変わった。

(この感じ……妖刀か!)

いつの間に妖刀を手にしていたのだろうか。手に持つ妖刀の鞘で謎生物を突き刺そうとしている静刃の姿を確認できた。

叫ぶ静刃の声が聞こえる。

 

「アリスベル。____ちゃんと自分で立てよ」

 

「____きゃあ!」

 

胴上げ状態から落下するアリスベル。

(あの高さから落ちたらいくらアリスベルでも……いや、心配はいらないみたいだな)

俺が動くより早く、静刃が動いていた。アリスベルを空中でキャッチし、お姫様抱っこをした静刃の姿を見た俺は動く動作をキャンセルした。

 

「ちゃんと自分で立てって言ったろ?」

 

キザっぽく言う静刃の姿を見た後。

隣をチラッと見てみると、マリナーゼはなんだか羨ましそうにお姫様抱っこされたアリスベルを見ている。

(静刃に抱かれたいのか。マリナーゼも……)

そう考えた瞬間、何故だかわからないが、気分が悪くなった。

 

「……チッ」

 

一方の静刃はというと、舌打ちをしたかと思ったらアリスベルを乱暴にポイ捨てしていた。

そんな静刃を見たマリナーゼは今度は目つきを険しくさせながら静刃を見ていた。

(好感度ガタ落ちだな。はは、ざまーみろ静刃)

なんて思っていると。

 

「ああ、そうか……逆だったのね。静刃が刀の『鍵』じゃない。刀が静刃の『鍵』……っ! 」

 

「やっぱり貴方も、異能だったのですね……!

ですが、そんな異能があっても今の貴方では美々には敵いません。

逃げてください。その右目があれば逃げ切れるはずです」

 

「右目?」

 

「____それは『バーミリオンの瞳』。貴方の目は黒色ですから分かりにくいですが、今の貴方の瞳は緋色がかってます。それは高位情報式を使っている証。詳しいことは貴方の瞳と同じ目を持っているそこの変態に聞いてください」

 

「待て! 誰が変態だ!」

 

俺がアリスベルに突っ込みを入れたその時。

裏庭の、池の前に何処からともなく現れた。

ひら……ひら……ひらひら……

蝶が……大きなルリタテハが、舞っていた。

その数が、不自然に増えていく。あっという間に。

 

「……絶界……?」

 

アリスベルがそう呟いた次の瞬間。俺達の周りの景色が切り替わっていく。

まるで映像がオーバーラップするかのように。

そして、気づけばそこは裏庭ではなく、深い森の中だった。

(大規模絶界の張り直しかぁ。消滅弾(メドロア)で絶界をブチ壊した後で大量の精神力を使った状態だったとはいえ、まさか俺が気付かないなんてな……)

 

「ほう。私が来てることに気づいていたか……驚いたぞ。弾輝よ。まさか、こんなところでまたお前と出会えるとはな。さすがはこの私を救った男だな」

 

頭上から、声が聞こえてきた。

 

「異能の子らよ。その辺りで水入りにするのだな」

 

しっかりと落ちついた、女の声だ。

 

「……?」

 

「……?」

 

美々が手に持っていたフリントロック・グレイブ(服は消滅できたが、何故か武器は消滅できなかった)を逸らしら肩に担ぎながら、その声の方に視線を向けた。

視線の先、太い木の枝に一人の女が腰を掛けていた。

凛々しい顔立ちの、紺一色のドレスを着た女だ。

(誰だ? 向こうは俺を知っているような言い方だが、俺はあんな美女知らないぞ?)

 

「____(バク)!」

 

アリスベルが叫ぶ。

(バク)? まてよ。確かそんな名の妖がいたような……?)

 

「驚いたぞ。弾輝よ。まさか、かつて私を救ったお前の正体がただの高校生だったとはな……公安0課の勧誘に年齢制限がないという話は昔聞いたが、まさかこんな子供が獅堂や遠山から私を守ってくれていたとはな」

 

「獅堂? 遠山? ……一体なんの話だ?」

 

聞き覚えのない名だ。目の前の女が何を言ってるのか、よくわからない。ただ、気になる名称が出たな。公安0課。それはこの国、日本における、最強の公務員の名称だ。

 

「惚けなくてもいい。だが、話たくないなら無理には聞かないよ。私は、な?

ところで、静刃よ。お前にも驚いたぞ。まさか初めて手にした妖刀とそこまで呼吸が合うとはな」

 

獏がそう言うと、静刃が居合の構えを解きながら呟いた。

 

「……初めてじゃない」



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