捨てられた3期生の不思議な復讐の教室へ (仁611)
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魔の4期生…。

 

ホワイトルームの最高傑作であるり、綾小路先生の息子である彼のみを示す言葉だが、そこに辿り着くまでに多くの候補生が殺処分をされて来た。

 

そんな中には、知られざる天才が含まれていたなど綾小路先生と限られた者しか知らないだろうね。3期生に紛れた、凡人を天才にする施設で育った唯一の天才がいた事を…。

 

ホワイトルームは、天才を羨み嫉妬した大人達によって生み出された魔窟であり、蠱毒を再現した現代の狂気だろう。そんな彼等を嘲笑うかのようにそこに居た天才は、嫉妬に身を焼いた大人によって惨たらしく殺害された。

 

 

 

 

 

 

 

 

四法院 美嘉(シホウイン ミカ)

 

生前は、四宝 立夏(シホウ リッカ)と言う名前でホワイトルームの3期生をしていた。絶対記憶と神に愛されたインパルスによって、誰よりも迅速で圧倒的な反射速度を見せていた。

 

男児としては小柄だったが、膨大な情報を処理できた立夏はホワイトルームで負け知らずだったのだが、自身の稀有な才能をバレない様にひた隠しにしていたけれど、とある理由で立夏の反射速度が神に愛された才能だとバレ、結果的に嫉妬に塗れた血みどろの殺し合いとなって、立夏の短い人生は終わりを迎えた。

 

 

 

ブラックアウトした立夏が目覚めたのは、ホワイトルームとは無関係であり、綾小路家が余り気にしてない中立的な政治家の家系に生まれ直していた。

 

時間軸は少しずれ、綾小路清隆と同じ年代として性別が変わって世の中に生まれ落ちてしまった。赤子に戻って初めに行った事は、喉が枯れるほど泣き続けた事で、ホワイトルーム3期生に居た好きだった子の死を嘆き、無力感を感じるには十分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私となってある程度整理は付いたけど、ホワイトルームを創って来た者達への恨みは消える事など無かったのは、彼女が腕の中で死に行く様を見ていた記憶が永遠に残り続けるからなのだろうか…。

 

そんな闇を抱えた私を、家族は大切に育ててくれたし最高の環境も与えてくれた。勉強・運動・財・人間関係など、全てが前世とは違い驚いてはいたけれど、ホワイトルームと比べて良いとこ取りを自身で行い努力を重ねた。

 

何よりも、四法院 美嘉は女性としては高身長な170㎝と言う恵まれた体格や、前世の数倍はある顔面偏差値によって天才値が更にアップしたと言える。

 

長い手脚と粉雪の様な綺麗でシミひとつない肌に、四法院家の隔世遺伝であろう白髪と金色の宝石眼は、親にですら完成された究極の美人だと言われている。

 

 

※本人は一応お世辞だと思っている

 

 

性格は絶世の美女に似合わない、前世を引きずるフランクな性格をしているのだが、それでも天才とは孤独を感じて生きる運命なのか、女友達は嫉妬すら諦めるし、男達は宝くじを買う感覚で犯れたらラッキーと言う扱いで腫れ物だった。

 

復讐を夢見てしまうが、それでも自分と向き合える友達が欲しくて仕方なかった。そんな私は、天才や秀才が集まりやすいと有名な『東京都高度育成高等学校』へと入学する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「席を譲ってあげようって思わないの?」

 

シワの無いレディースーツに身を包んだ女性が、優先座席に座っている人に注意しているようだ。そんな義侠心を持っている様には見えない女性は、真横でポールに捕まったまま困り顔を晒している。

 

「そこの君、お婆さんが困っているのが見えないの?」

 

静かな車内では彼女の声は良く通り、周囲の人たちから自然と注目が集まっていた様で、矢面に立たされている男子高生は溜息混じりで足を組み直し、ゴミを見る様な目で相手を見つめていた。

 

「実にクレイジーな質問だね、レディー」

 

手に持つ小説の方へ意識を戻そうとした矢先、優先座席に座る人物らしき声が聞こえた。何処かで聞いたことがある声だと思ったが、高円寺コンツェルンの跡取り息子の高円寺六助だった。政財界は横の繋がりが大きく、当然だが父と高円寺父は親交があるのでパーティーで何回か見たことがあった。

 

「何故この私が、老婆に席を譲らなければならないんだい? どこにも理由はないが」

 

「君が座っている席は優先席なのよ!お年寄りに譲るのは当然の事でしょ?」

 

「優先席は優先席であって、法的な義務はどこにも存在しない。この場を動くかどうかは、現在この席を有している私が判断することなのだがね。若者だから席を譲る? ははは、実にナンセンスな考え方だよレディー」

 

「あっあの。もう結構ですから…」

 

「どうやら君よりも老婆の方が物わかりが良いようだね。いやはや、理解が早くて助かるよ…是非とも老婆は、残りの余生を存分に謳歌したまえ」

 

 

この場合、本当に老婆が座りたかったかどうかもかも分からないし、次のバス亭で降りるかもしれない。逆に座るとしんどいって人もいる中で、自身の思い込みで強引に話を進めていた。結局、あのお姉さんの義侠心が裏目に出た結果だろうし、パーティーでも個性を振りまく彼には道理と彼の利益を説かないといけない。彼の利益は社会通念では無く、彼自身のルールに則った利益で無ければならないのだから尚更タチが悪い…。

 

「あの。私もお姉さんに賛成だよ」

 

思いがけない方向から狙撃された気分になるが、再度違う人物からの援護射撃が発された。私と同じ制服を着た、自身の可愛さを理解して武器にしてる感がある女の子だった。声を掛けるタイミングなどもっと前から存在したが、これ以降もそれ以前でも無い最適なタイミングで介入する事で、彼女が完全な善意のみで発言した発した様に周りは感じるだろうな。

 

「お婆さん、さっきからずっと辛そうにしているみたいなの。席を譲ってあげてもらえないかな?余計なお世話かもしれないけれど、社会貢献にもなると思うよ」

 

頭は悪くない提案方法だけれど、それが高円寺六助にとっての最適解とは言えない内容で、社会貢献になど興味があるわけがないだろう高円寺は、パチンと指を鳴らして社会貢献に興味無いと言う気なのだろう口を開こうとした。

 

 

正直バカバカしい…。

 

 

お婆さんを置いてけぼりで女の子も、OLの女性も話を進める姿ははっきり言って自己中な言動だ。それに東京都高度育成高等学校は後2つ先だと言うのだ、これ以上見苦しい光景を見て居たくない。

 

 

「お婆さん、私の場所でも良いなら座りますか?」

 

 

私の一言はいたって単純で、自身の座る席を譲るなら誰にも迷惑を掛けないし、これ以上自己満足なやり取りの応報を聞かなくて良い。老婆は私の下までゆっくり来ると、丁寧に御礼を言ってから席に座る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無事では無いが学校前のバス停に辿り着くと、これまた異星人の高円寺六助に話し掛けられた。無駄に彼も記憶力が優れるが故に、私の事も覚えている様なので困りものだ…。

 

 

「これは久しぶりでは無いかね?四法院嬢」

 

 

彼がいくら傍若無人でも、パーティーに参加する相手にまでレディーやガールを使わない。流石にかなり年下には、ガールを使って居たようだが、それ以外の有象無象には使うと彼の父がお父さんに言っていたらしい。

 

 

「お久しぶりです高円寺さん。貴方がこの様な学校に興味があるとは正直意外ですが、冒険心とスカウトですか?」

 

「Exactly!素晴らしい解答だ。私自身この学校の恩恵には興味が無いが、高校に行かねばならないのであればここ程面白い場所は無いからね?」

 

「そうですね。この学校には興味が湧きますね」

 

「君は素晴らしい女性だ…以前の話し、考えて欲しいのだが答えは急がないが、卒業時に是非とも聞かせてくれたまえ」

 

 

何を隠そう、高円寺六助が私を認めたせいで彼の父からお父さん経由で私宛に縁談話しが来た事がある。私は、今では一人称を変えて生活しているが、僕と言って過ごしていた時期もあるし、例え前世で好きだった女の子がいても、それは彼女が女の子だったからと言うより彼女だったから何で、未だに性自認に迷走している人間なのだ。まあそれ以前に、彼はハイスペックだが変人だと言う事が大きく影響していて、一度正式に断りを入れている。

 

 

「一度お断りしていますが、考えさせて頂きます」

 

 

高円寺六助と言う変人と会話していたお陰か、バスに居た計画的偽善者は話し掛けて来れず、一瞬だが忌々しげにこちらを見ていた。クラス表を確認した私は、全ての風景を記憶しながら自分のクラスへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室に向かう中でも多くの情報が散乱していたが、知り得ている情報と照らし合わせたら即座に答えが得られ、私がDクラスな理由に納得するしか無かった。

 

得ていた情報は入学前とこの時までで得られた内容だが、学校の教育方針と箱庭にしてまで情報統制をする訳、生徒の傾向や環境を考えると答えは自ずと分かってくる。

 

学校の教育方針は『社会人として優秀な人材の輩出』なのだけど、社会人として『優秀』とはどんな人か…。人当たりが良いけど無能な人間?学力は有るけど応用力が無い頭デッカチ?行動力はあるけれど知識が足りない無鉄砲?善人だけど搦め手に滅法弱い人間?搦め手が得意だけど敵を多く作る人間?答えは簡単だ。欠点を全て排除した人間がこれに当てはまるのだと…。

 

箱庭にしたのも、学校側は世間的にブラックな内容が普段から含まれているが故に隠している。それらを証明するかの様に大量に設置してある監視カメラと、そんな中でもここは絶対必要だと思った場所が死角になっていると言うチグハグな設置。それらが意図する解答は、悪事を許容している事が誰でも分かるだろう。

 

生徒の傾向は、クラス表を見ている時や廊下ですれ違う人達を見ていたら直ぐに分かった。Aは平均的模範生であり、理知的な生徒が多く見られる様だ。Bクラスは、主体性より協調意識が強いのか模範生ではあるが、受動的な印象を受ける。

 

Cクラスに至っては、2クラスと比べると能動的過ぎる様子で、知性より運動能力に長けたクラス構成な気がする。Dクラスの面々は個性が圧倒的に高く、バラエティーに富んでいるが極端に秀でた者が多い気がする。

 

 

 

これらを考えると、私がDクラスに選ばれたのは高円寺六助と同じような内容で、中学時代は友達がほぼ居ない事や優れ過ぎるが故の周囲を置いてけぼりにしてしまうところだろうな…。

 

 

それにしても……。

 

 

うるさいクラスだな。

 

 

私をエロい目で舐め回す男子達に、羨望の眼差しを向けて来る多くの女子生徒達………。

 

 

クラスの席順には、あり得ない名前があった。

 

 

 

 

『綾小路清隆』

 

 

 

 

何故こんな場所に彼が居るのか?ホワイトルームの上層部が、外部での研修を兼ねる場所が閉鎖的なこの学校を選ぶなどあり得ない。そして最も高い可能性を私は考えた…。

 

 

『彼は逃げ出した』

 

 

当時の彼は、期待が高い4期生の筆頭だった事もあり何度か模擬戦を繰り返していた。彼はホワイトルームの創設者である綾小路先生と呼ばれる奴の息子で、異常な期待から早々に機械的で無機質な少年になってしまっていた年下の少年だった筈で、自身から率先して逃げる算段をする様な者では無かった。

 

恐らく、ホワイトルームに居る割とまともな職員が不憫に思い手助けでもしたのだろうな。

 

 

 

そこで最も効率的な復讐を思い付き、今後の展開を予想して彼には早めに接触する事にした。彼がホワイトルーム生であり、本当に逃げ出したのならば上層部は彼を連れ戻そうと探している筈だから、彼をホワイトルームから生涯逃しきり、もっと人間的に変貌させられたら彼等は悔しい思いをするだろう。

 

最も最高なのは、彼自身がホワイトルームを完全に潰してしまう事が出来たならば、綾小路父は臓物が煮えたぎる思いを味わう事になるだろう。

 

 

 

 

 

 

そんな思考の海で泳いでいると、私の様な特殊な者に声を掛けて来た子が居た。真後ろの座席に座るさっぱりしてそうな子で、見た目はギャル寄りな今時っ子な彼女『松下 千秋』だった。

 

 

「えっと、四法院さんであってるかな?私は松下千秋。これからご近所として宜しくね」

 

「名前を知っている様ですが、一応自己紹介しておきます。四法院美嘉です……松下さんから話し掛けられるとは思っていませんでした」

 

 

 

 

 

 

 

 



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2

人は努力をする事に、皆がいくらかの負担を感じながら目標へと邁進して行く。それらのプロセスには、凡人と天才では大きく異なった道のりを行くことで、到達点の違いが顕著に現れる。

 

凡人が10努力して7を得るなら、凡人で才能がある者は10を得るだろうが、天才は12を得てしまい既に次のステップを踏み始めている。言葉にするなら基礎・応用・発展・改革の四つを、凡人は応用まで行くが才能を持った者は発展まで行く、天才はそれらを改革する事で精度を上げて来る。

 

そんな天才が改革図案を持って再度生誕したならば、人類史を塗り替える本当の天才が生まれるだろう。ファンタジーの世界では、急にスキルを得て強くなるなどあるが、ここは現実で肉体や脳の成長は地道な積み重ねだ。

 

そんな積み重ねが、改革後の修正案を取り入れて行われたならば誰も超えることなど出来ないだろう。それが四法院美嘉と言う最高の図案を持った天才なのだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「四法院さんは、今まで出会わなかったタイプの女の子だからかな〜凄く興味が湧いたからかな」

 

「そうですか?私も松下さんの様な方は初めてです」

 

「そう言う事で、これから宜しくね」

 

「ええ、こちらこそ宜しくお願いします」

 

 

会話のキリが良いところで、担任なのだろうかキャリアウーマンの雰囲気を醸した女性が前方の扉から入ってきた。教壇の前まで進む女性は、綺麗な黒髪をポニーテールにしているレディースーツを纏った美人女性だった。

 

 

「先ずは、入学おめでとうと言わせてもらおう。私は君達の担任になった茶柱佐江だ……担当教科は日本史を受け持つ事になる。そしてこの学校では、進級の際にクラス“変更”は無いため君達とは3年間共に頑張る事になるだろう」

 

 

担任を名乗る茶柱先生は、不自然な言い回しをしながらポーカーフェイスを一切崩さずに説明を続けた。彼女が説明する文面には、入学案内に記載されている内容とより詳細な情報が含まれていた。

 

入学案内と携帯端末を各々に手渡され、その端末は学生証としても使用する電話機能とネットワークへのアクセスが可能だとか…。この携帯端末は、外部情報にアクセスが可能だが情報を発信する類のモノはプロテクトされる使用なのだとか。

 

この後に茶柱先生が言った言葉が、現時点で最重要と言える内容が多く述べられた。プライベートポイント(pr)と呼ばれる電子マネーを毎月1日に支給する事と、そして既に1pr=1円の価値があるポイントを10万prが振り込まれており、それらは入学した私達にはそれだけの資格があると判断された。

 

更には、この学校は“実力で評価”すると言う事や“敷地内のモノは全てprで購入出来る”などと、かなりイカれた決まりがある。そんな中で後から文句を言われたくない私は、茶柱先生の「質問が無いか?」と言う言葉に即座に反応して投げかけた。

 

 

「質問は無いか?」

 

「茶柱先生…質問よろしいですか?」

 

「ああ、構わんよ四法院」

 

「では、先ず来月は何ポイント支給でしょうか?」

 

「……それには答えられない」

 

「では、評価をする際に多くの監視カメラが影響しますか?」

 

「それは『する』と断言しよう」

 

「次ですが、評価は連帯責任ですか?」

 

「……人事考課の規約上、その内容は伝えられない」

 

「では最後に、Aクラスへの移動には何pr必要ですか?」

 

「「「「!?」」」」

 

 

教室全体が凍りついたのだが、最も全員が意味を理解している訳では無いが、茶柱先生はポーカーフェイスが若干崩れ落ち、驚愕で目を見開き瞳孔が大きく開いた。

 

 

「……2000万prで可能だ」

 

 

賢い者なら非常識な権利が買える事と、こんな高額なプライベートポイントが必要な権利が意味する訳を理解するだろう。理解している者は少ないが、7割以上がこの学校のシステムに不安を感じている。

 

茶柱先生は、言いたい事を言い終えた事で教室を後にしたが、とある生徒が私の側まで近寄って来た。その女子生徒は、綺麗な黒髪のロングストレートが印象的な美少女で、姿勢が良くて態度がかなり横柄な女の子だ。

 

 

「ねえ、貴女……四法院さんで良かったかしら?」

 

「ええ、そうですよ堀北鈴音さん」

 

「!?何故私の名前を?」

 

「教室前に張り出されてる座席表で知りました。それで、堀北さんは私に何を聞きたいのですか?」

 

「……プライベートポイント・評価・クラスについて聞きたいのだけど、教えてくれないかしら?」

 

「教えるのは構いませんが、堀北さんの中ではどの様に考えられているのですか?」

 

「プライベートポイントのポイント数が来月はまだ未定、そしてAクラスに上がるメリットがある事と、この学校は生徒の授業態度や日常を評価している事かしら?」

 

 

私達の会話はクラスメイト全員が黙って聞いている様で、何度も質問されるのも面倒なので提案する事にした。堀北さんに投げかける様にクラスメイトにも問うてみた。

 

 

「そうですね。では皆さんが、学校運営側だと仮定してお話をしましょうか…。この学校は『社会人として優秀な者を輩出する』事を大きな柱として、そんな生徒を輩出する為には子供達に成長してもらわないといけないですね。でも子供に『頑張れ』と言っても聞く訳ないですよね?それならば、頑張るメリットと頑張らないデメリットを与えたら良い……では答え合わせをしましょうか堀北さん?」

 

「……!?この学校は進学率・就職率100%——Aクラスのみにその権利を与える事や努力がお金に関わる」

 

「そうですね…今現時点では非常に可能性が高く、プライベートポイントと連動した数値が存在するかも知れません。その数値を基にクラス順位があるのかも知れませんが、まだ断言は出来ないですが私自身は確信してます」

 

「……」

 

「仮に私が毎日授業を寝て過ごして、クラスメイトが全員真面目に過ごしていたなら、私のせいでプライベートポイントが全員貰えなくなるでしょうね」

 

「……先生は、連帯責任の件は肯定してないわよ?」

 

「先生の反応で分かりましたが、それが無くとも社会人は会社の同僚達と一緒に仕事をして、給与は大まかに規定が存在するけれど、会社の誰かが仕事を放棄して業績悪化した場合、全体の収益が下がって給与が減るなど良くある話ですよ?」

 

「評価について聞きたいのだけど…」

 

「……今回はお答えしますが、問いを投げかけて帰ってくるのは子供まで、社会人になれば聞けない事も当然増えて行きます。それらを自身である程度考えたり情報を収集したり習慣付けるべきですね…。では問いですが、堀北さん以外に聞きましょうか、二つ前の席の幸村くん…どんな大人が評価されますか?」

 

「おっ俺か?………真面目な者か?」

 

「…真面目と言うのは抽象的ですが、皆さんもこんな言葉をご存知ですよね?『真面目な者ほど損をする』……当然ですが、欠勤しない事や仕事に真剣に取り組むなどは当たり前ですが、世の中には口が上手くて騙す者や、上手に手を抜ける器用な人も居ます。ではそれを踏まえた状態で櫛田さんはどうですか?」

 

「えっと……誠実で器用にこなせて社交的な頭の良い人かな?」

 

「かなり近付いて来てますが、どうしても残業を何日もしなければいけなかったり、人脈を駆使しないといけない状況があったりもしますから、それだけでは足りないですね」

 

「……完璧な人」

 

「正解ですよ堀北さん。学力・運動神経・体力・精神力・社交性・協調性・人脈・カリスマ性・努力家・誠実さ・狡猾さ・交渉力・思考力・行動力・問題解決力……それ以外にも多く存在するでしょうけれども、それら全てを持った者が『社会人として優秀』と定義できますね」

 

「そっそんなの出来る訳ねえよ!」

 

「そっそうだし!大体俺が、じっ自力で進学すれば関係ないだろ」

 

「池くんと山内くんでしたよね?出来ないと言って、駄々を捏ねる事をこの学校が許してくれるでしょうか?それにこの教室内に『進学率と就職率100%』を受ける気でいる人に、自分はどうでも良いから足引っ張るけど文句言うなと言っているのですよ?」

 

「「はぁ!?」」

 

「そっそんなん言ってねえだろ?」

 

「……」

 

「山内くん……この学校は『実力至上主義』と言っても過言では無いでしょうから、努力をしない者に待つのは恐らく退学ですよ?それに連帯責任の質問から、足を引っ張る者が居ればクラスメイトに必ず迷惑を掛ける事になるでしょうね」

 

「そうね……四法院さんが言う内容は、正直否定しようが無いわ」

 

「それとクラス順位があるのなら、これらの情報は武器であり盾でもあると思います。そんな情報を他クラスへと提供したら、自分も含めクラスメイトを裏切る事になるでしょうね」

 

「「「「……」」」」

 

「そうね。そうならない様に願っているわ」

 

 

教室は静寂に包まれているが、茶柱先生が来る前まで話していた者と討論を始めている。不良っぽい須藤くんですら複雑な思いを顔に出している様で、体格や体幹から見てスポーツマンだろう彼にはとって、運動以外も重要だと言われたら不良っぽい彼には苦痛でしか無いだろうな…。

 

山内くんは思考を放棄している様な発言を、仲良くなった池くんに言っているが、池くんは相槌のみで何やら考えている。そんな中でも無表情な綾小路くんと、鼻歌を歌いながら爪を磨く高円寺くんは異彩を放っているが、綾小路くんに関しては誰も気に留めて居ないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入学式が終わり、私はより多くの情報が欲しくて校内の監視カメラをチェックしていたら、部活棟の扉の向こうから「クッソ〜また負けたじゃねえか!15万ポイント持ってけ泥棒!?」と聴こえて来た為、チェス部と書かれた部室をノックした。

 

そこでは多くの生徒がチェス盤を挟み、顧問の先生がいる前で堂々と賭博チェスをしている様だった。そこで直ぐに思ったことは、顧問の眼前でやっていると言うことは、ポイントで部室内の賭博を黙認する権利でも買っているのではと思った。

 

そんな思考を一瞬で終わらせた私は「私も混ぜて下さい」と告げて顧問の先生にも視線を向けたが、頷いて自身も生徒と賭博チェスをしていた。

 

先輩方は私の容姿に驚いたのか、こんなに早く賭けをしに来る1年生に驚いたのかが分からないが、部長を名乗る3Aの女生徒が許可を出して多くの勝負を行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の収穫は、先輩達の総額ポイントが3年生は400〜800pr程あり、2年生は150〜500程持っている事と、500万pr以上のポイントを賭博で得られた事だが、何よりも顧問の先生や先輩から得られたシステム以外の質問だった。

 

 

Q.自販機以外の無料はあるか?

A.食堂・コンビニ・スーパー・ドラッグストアetc

 

Q.お店に無い商品の取り寄せ出来る?

A.基本的には、そのジャンルのお店で取り寄せ

 

Q.部活は個人のみの評価か?

A.基準は各部で違うが、個人以外もある

 

Q.情報収集の簡単な方法は?

A.学校のネット掲示板

 

Q.この学校の有力者は?

A.3-A堀北学・2-A南雲雅・2-B鬼龍院楓花

※ここで分かったチェス部の驚いた理由は、鬼龍院先輩の妹かと思ったらしく、白髪の絶世美女と言う点が同じだと言われたが、私の方がかなり柔らかく常識的な性格と見た目らしい。

 

 

これら以外にも豆知識的な内容を聞いたりしたが、先輩方で男子陣の連絡先をくれはうざかったが、チェス部は割と女性達も多い為に多くの同性(?)連絡先を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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3

翌日の放課後、監視カメラのチェックした場所に小型の監視カメラを設置してもらっている用務員さんと一緒に校内をウロウロしている。小型監視カメラは、ケヤキモールと言う大型ショッピングセンター内にある家電量販店で購入した。

 

監視カメラが無いと言う事は、暴力や脅迫などをするにはもってこいの場所と言える。そう言った情報は、前日にクラスメイトに言った様に武器になるのだから、早めに設置する事で今後の展開を有利に運べるだろうな。

 

用務員さんは、1時間程の作業で3万プライベートポイント払うと言うと喜んで引き受けてくれた。小型監視カメラはウェブカメラの様なので、寮に設置したPCでいつでも閲覧出来る。

 

全てを設置し終わると、17時から講堂で部活の説明会が行われているお陰か廊下には誰も居ない様だ。説明会には恐らく部長クラスだけが参加してるだろうから、今日使い込んだ分をチェス部以外で補う為に部活棟に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

結果だけ言うけれど『将棋部』『遊戯部』で賭けをして来たが、遊戯部では花札とブラックジャックをして来た。将棋はチェス部と同じ様に顧問も巻き込み、と言うより男子しか居ない部だった為にチョロ過ぎた。遊戯部では賭博の額が他より高額で、ギャンブル依存に近いのかゼロになった生徒までいた…。

 

1160万ポイントも稼いだ私は、昨日先輩に聞いたとあるモノを職員室に購入しに来ていた。

 

 

昨日先輩が言っていたのは寮である部屋にはグレードがあり、通常は1Kの6畳でトイレとお風呂別で脱衣所があるだけだが、2倍部屋には2部屋分のスペースがある為、お風呂とトイレを片方無くした感じに一気に大きくなるらしく、1DKの寝室12畳とダイニングキッチンは6畳もあるとかで、最高峰の部屋である3倍部屋は1LDK プラスWIC(ウォークインクローゼット)で、寝室は12畳だがリビングダイニングキッチンは20畳あり、ウォークインクローゼットは2畳もある上、最上階層の部屋になる為部屋数は少ないし、隣が部屋を購入しない限り貸切らしい。

 

2倍部屋は300万で3倍部屋は500万もするらしいが、私は職員室で堂々と500万プライベートポイントを支払い、即日引越しをする事になった。昨日から知っていた為に、荷物も解いていないし購入も一切していない。新品の部屋らしいが放置していた為に30分だけ室内清掃と水質チェックが入った。

 

寮の管理人さんにカードキーを貰い、台車を借りてから自室に戻って行った。因みに元自室も私が所有者になるらしく、扱いは私の裁量に任されるらしい…。

 

 

 

 

 

 

 

 

私の荷物を台車に全て乗せ、玄関から出ようとしたところで松下さんと偶然にも鉢合わせた。彼女は、私と荷物を視線で往き来させている様で、気になったのか質問をして来た。

 

 

「あれ?なんで部屋から荷物出してるの?」

 

「これから新しい部屋に向かうからですよ」

 

「新しい部屋?」

 

「ええ、グレードアップした部屋をポイントで購入しました」

 

「!?……因みにだけど幾らしたのか聞いて良い?」

 

「500万プライベートポイントですね」

 

「……え〜と、見て見たいけど駄目かな?」

 

「構いませんが、家具を業者さんが配送してくれるそうなので、まだ何も無い部屋ですよ?」

 

「うん!それは良いよ。凄く気になるから、見せてもらえるだけでも楽しみだよ」

 

「今から行きますか?」

 

「ちょっとだけ待ってて、買ってきた食材を冷蔵庫にしまって来るから!」

 

 

私は、松下さんと一緒に新しい部屋へと向かっていたら、既に業者さんが多くの家具を15階の廊下へ運び入れている状態だった様で、管理人さんがインターホンを鳴らそうとしていた。

 

扉を開けて私達は先に入ると、松下さんは一番興味があるキッチンの違いに食いついていた。元の部屋ではThe一人暮らしといった感じのキッチンだったが、この部屋のキッチンはアイランドキッチンと呼ばれる壁に面していないオシャレなキッチンだ。

 

そんなキッチンをキラキラした目で見ている松下さんを放置して、業者さんに配置位置を支持していく中で、私はどうしても新しい家具や見知らぬ人の贈り物には敏感になってしまう。

 

 

 

「ねえねえ……四法院さん、何してるの?」

 

「盗撮や盗聴の確認ですよ」

 

「……いやいや、無いでしょ!」

 

 

 

ピーピーピー

 

「「「「!?」」」」

 

「まっマジであった」

 

「私は過去に、私の誕生日を祝う父が開いたパーティーで頂いたテディーベアの瞳がカメラだった事がありました。管理人さんと業者さんもそこを動かないで下さいね」

 

prrrrrr

 

『四法院か…どうした』

 

「茶柱先生、今日家具を購入して業者さんに頼んで運んでもらったのですが、盗撮か盗聴目的の物が取り付けられていた様ですが、この場合警察で良いですか?」

 

『直ぐに私は他にも先生を連れて向かうが、警察にも電話してくれて構わない。業者は帰ったのか?』

 

「いいえ…どなたが仕掛けたのかも分からない為、皆さんには今も待機していただいています。証拠の物にはまだ触れて居ませんから、容疑者は直ぐに分かるでしょう」

 

『分かった。絶対に1対1の状況になるな』

 

「ええ、分かりました。お手数ですがお願いします」

 

 

 

「立ったままは疲れるでしょうから、その場の床に座っていただいて構いませんよ。松下さんも巻き込んでしまってごめんなさい」

 

「ううん!大丈夫だけどさ、綺麗なのを羨ましいと思ってたけどこう言う状況を見ちゃうと一概に言えないよね」

 

「過去にこう言った手口を行われた回数は13回ありますし、学校外では父がボディーガードも付けてくれますから、一応手間はありますが対処には慣れてしまいました」

 

「うへぇ〜そんな慣れ要らないでしょ!」

 

「そうですね。業者さんも管理人さんも恐らく無関係でしょうが、ご協力宜しくお願いします」

 

「「「「ええ(はい)」」」」

 

 

 

 

5分程で、学校内部に設営された警察署から警察の方がやって来て、先生方はその2分後に部屋へとやって来た。私が持っている盗聴・盗撮発見用の機械を使い、警察官にも家具に仕込まれた物を特定してもらったりとバタバタしてしまった。

 

茶柱先生曰く、業者さんは私を目撃したのは部屋前が始めての筈だから可能性は低いと言われ、管理人さんに関してはそもそも家具に触っていない。その為家具を購入した家具屋の店員が一番可能性が高いとかで、警察官にも合わせて対応してくれた店員の見た目を説明した。

 

ついでとばかりにそれ以外の家具も機械で確認したが、寝室に置くデスク・姿見用の鏡・リビング用のテレビ台に盗撮カメラが仕込まれて居た様で、最悪裸を盗撮されていた可能性が大いにあった。

 

茶柱先生と一緒に来たのは、Bクラス担任の星之宮先生とAクラス担任の真嶋先生だったのだけれど、もしかしたら私以外の生徒も盗撮されているかも知れないと言う事で、茶柱先生だけを残して二人は先に学校へと報告に帰って行った。

 

警察や業者さん達が帰った後も、茶柱先生と松下さんは残ってくれており、茶柱先生からは見えない不安を考慮して1時間半もの時間を、一緒になって機械とは言え万能では無い事を考慮して、見つけられていない可能性を考えて家捜しを手伝ってくれた。

 

茶柱先生からは、生徒全員に告知はするだろうがそれは決まるまで黙っていて欲しいと言われ、私と松下さんは了承した。

 

 

 

 

 

松下さんには迷惑を掛けたので、晩御飯は私の奢りでカウンターのお寿司屋さんに行ったり、迷惑料を私の気持ちで10万プライベートポイントを送金したが、2回返されてしまい妥協して5万ポイントだけ受け取ってもらった。

 

当然だけれど、ポイントを多く持っている理由が気になった様だけども、松下さんは既にある程度予想しているのか一人で納得して質問はしてこなかった。

 

今日は、気持ち的にこの部屋でお風呂に入ろうと思えず、元々宛てがわれた部屋でお風呂に入る事にした。当然元の部屋でも確認は昨日済ませているし、今日の件は経験があるからかなりマシではあるけど、不愉快で嫌悪感は何度あっても減らない…。

 

 

 

 

 

 

 

翌日は普段よりかなり早めに目が覚めたが、携帯端末にメールが入っている事に気付くと、早めに起きて良かったと思った。職員室の方へ朝寄って欲しいと茶柱先生から連絡が来ていた為、普段より早めに朝食を済ませてから登校した。

 

職員室へと辿り着いた私は、ノックを4回してから中へと入って行った。既に先生方は全員が学校へと来ている様で、若い男性教員には不躾な視線を送られて来たが、歯牙にも掛けず茶柱先生の元へと向かって行く。

 

茶柱先生のデスク手前には、星之宮先生のデスクがあるらしく昨日の件で大丈夫かを心配された。確かに元男の子だった私と言えども、初回にやられた時は無意識に不安を感じて、1週間は寝つきが悪くなった記憶がある。

 

星之宮先生には、不愉快で嫌悪感がある事は素直に伝えてから過去にも似た経験があるだけまだましだと説明した。先生は少し苦い顔をしていたが、保健医でもある先生は優しい笑顔で何かあれば頼って欲しいと言われ、感謝を述べてから茶柱先生に話し掛けた。

 

 

 

「おはようございます。茶柱先生」

 

「ああ、おはよう四法院…早く来てもらって悪いが、少し私に付いてきてもらえるか?」

 

「分かりました」

 

 

 

 

 

職員室を二人で出ると、理事長室横にある応接室へと案内される。そこで待ち受けていたのは、教育庁の主席補佐官であり我が家のパーティーで何度かお会いした事のある方だった。

 

簡潔にまとめると、本来であれば大々的に発表するレベルの案件だろうし、政府主導のこの学校敷地内に参入している企業のスタッフ達も審査された者だけが入って来ているが、今回の件でそれすら見通しの甘い結果が今回で露呈している。

 

当然責任は政府側にあり、今後の対応次第では東京都高度育成高等学校は閉校する事になるだろう。

 

 

 

聞かされた内容は、既に女性関係施設を最優先で業者が深夜から招かれて調査しているらしく、校舎や店舗などのトイレや更衣室は全て検査済みだとか、放課後には全ての女性住居の検査を予定していると伝えられ、明日は男性側も行われる予定だと言うことだ。

 

それと、既に指紋などが検出されているらしく被疑者が上がって来ているが、裏どりしているの段階ではあるが逮捕を急ぐとか、捜査情報の為口外を禁止されたが、被害者として教えてくれた。

 

今回の件で精神的に多くのストレスを与えられた事や、最悪トラウマになる案件である為、政府から見舞金と言う名の口止め料と慰謝料が支払われると言われた。

 

それに付随して対策内容も教えてくれたが、全生徒への告知と管理人が各寮にいることから、寮内に持ち込む家電や家具への検査を専門機材を使って調べてくれるとのことだった。勿論不安だった場合は、それ以外の物であっても管理人に伝えたら行なってくれる。

 

そこで、管理人に関しては常にツーマンセルを組ませる事で、彼等がそちら側に回らない様にする徹底ぶりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

全ての案件を話し終わると、プライベートポイントを500万と言う巨額な金額が支払われ、受け取った後に教室へと向かった。既に多くの生徒が登校して来ており、HRが始まると茶柱先生から昨日の事件が伝えられると、教室内では多くの女生徒が動揺の色を見せ、一部男子以外も驚愕の色を見せていた。

 

茶柱先生が全てを説明し終わると、HRが終わって教室から出て行ったのだが、一部の男子が不謹慎で気持ち悪い事を言い出した。

 

 

「マジ居るんだな!俺だったら四法院ちゃんか櫛田ちゃんを間違いなく狙うなぁ〜」

 

「完全に犯罪だけど誰がって言われたら分かるけどな」

 

「山内、池…言っていい事と悪い事の区別ぐらいしろよ?」

 

 

 

かなり意外だったのは、須藤くんが嫌悪感を出して注意したことだ。池くんは一応ギリギリ踏み止まった感はあるけど、山内くんは完全にアウト発言で松下さんは射殺す程に彼を睨み付けていた。櫛田さんですら彼を笑っていない目で冷笑していたし、クラスの男子の多くも庇いようが無かった。

 

彼はいずれ、クラスで切り捨てるなら誰となった場合は最有力候補に選ばれるだろうと、思わず私もそれを望んでいる事を感じていた。

 

 

 

 

 



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4

人は甘言は直ぐに受け付けるけれど、苦言は中々受け入れられない生き物である。

 

青春と言う言葉は、そのまま『青い春』を意味しており熟す前の若さを指しているのだろう。失敗を積み上げて、苦労や経験をして行く事で多くの者は成長して行く。

 

 

 

 

 

入学してから既に3週間は過ぎているのだが、堂々と遅刻や居眠りなどをする者は殆ど居ないけど、バレない様に携帯をいじっていたり漫画を読んでる者がポツポツと現れている。

 

私が厳しい言葉を投げ掛けたのは初日だけで、後のことは自主性を尊重して注意すらしていない。知能指数が低そうな男子は、注意点を既に忘れたのか少しずつ悪化して行く中、平田くんや櫛田さんがソフトな注意を何度か行うが、それらも2.3コマ程経つと緩んで行って元に戻ってしまう。

 

 

「それでよ〜あそこのダンジョン難し過ぎだから」

 

「俺も苦戦したぞあそこは」

 

「マジそうだよな〜」

 

 

 

山内くんと池くんは1日に数回は授業中に私語を発し、音量は注意されてる事もあって小さいが、各教科の教師は何度か視線を彼等に向けるが何も言わない。

 

私の座席はかなり後方で、私より後ろの生徒は基本真面目に授業を受ける生徒が殆どで、クラス全体が見渡せる為にクラスメイトの醜態が目に付いてしまう。

 

携帯をいじる生徒は女子の方が多く、私語を発するのは男子が多くいるが、監視カメラの件を教えてあげてるのに何故気にしないのかが私には理解出来なかった。

 

月の最終日である本日最後の授業では、茶柱先生の授業ではない筈だけど、彼女が教室に入って来ると少しだけ騒めく…。

 

 

「急遽、皆には小テストを受けてもらう事が決まった。このテストは成績には一切反映しない、今後の“参考用”に行われるものだ。君達の実力を知ることも含まれているが、気負う必要は無い」

 

「え〜横暴だ〜」

 

「そんなの聞いてないし!」

 

「ブーブー」

 

「悪いがこれは決定事項だ。前の者はこれを1枚取り後ろに回してくれ」

 

 

 

 

始まった小テストは成績に反映しないと言ったが、普通の学校では成績=実力参考になる。それなのにああ言う言い回しをするからには、成績=学力評価と判断出来る上に、参考にするなど言わなくても普通の事なのに言って来た…。

 

初日に茶柱先生が実力=評価の定義があるので、実力を知ると言う言葉は評価をする為と言っているのと同じ、それならば参考と言う言葉は本来学校側に当たるが、参考にするのは我々側なのかも……。

 

テストを解いて行くと、最後の3問が高校1年の後期に該当する問題が1問、2年の後期に該当する問題が1問と3年の後期に該当する問題が1問出題されていた。

 

他の問題は中学生でも解ける内容で、学力が一定値ある生徒にとって85点は確実に取れるテストだ。参考と言う言葉が先程の我々側であると仮定したら、答えは直ぐに出て来た。

 

現状の我々では解けない問題、2.3年を経験していれば解けて当然の問題達…。

 

2.3年から過去問と言う経験を得る事を、参考にさせるヒントが秘められたテストだと私は考え付いた。全ての問題を解答し終わった私は、この後の予定を立て始めていた。

 

 

 

 

この学校は本当に面白い、復讐に囚われるだけでは私の時間を浪費するには勿体無いと感じていたから、こんな面白い学校での経験は二度と送れないだろう。

 

情報ではCクラスは独裁政権を敷かれているが、Bクラスでは崇拝政治が行われている変わった学校だ。Aクラスに至っては2大派閥が睨み合いを続けるなど、社会の縮図が学校に詰め込まれていると感じているのは1年生では私だけだろうか?

 

 

 

 

 

テストが終わって、本日の全ての授業が終わると直ぐに荷物を持って茶柱先生を追い掛けようとした。すると、松下さんが私に話し掛けて来た。

 

 

「四法院さん?珍しく急いでるけどどうしたの?」

 

「茶柱先生に、小テストの正解を確認しに行きます」

 

「正解?最後の3問の解答って事?」

 

「当たらずとも遠からずですね。小テストが参考用と言われた本当の意味を確認に行きますが、松下さんも一緒に来ますか?」

 

「う〜ん…そのいつもみたいにお出掛けしたいし付いてくよ」

 

「では、参りましょうか」

 

 

 

私達は職員室へと赴くと、既に異端児の様な扱いの教員達が一斉に私を見て来たが、それを気にせずに茶柱先生の元へ向かった。毎度の事であるが星之宮先生に絡まれて、松下さんと私に彼氏が出来たかを毎回聞かれてる。

 

 

「どうした。四法院と松下か…今日はどんな要件だ?」

 

「佐江ちゃん!それじゃあ四法院ちゃんと松下ちゃんが迷惑な生徒みたいだよ!」

 

「私はそんな事言っていないぞ知恵…確かに四法院の周りは何かとトラブルが起きそうだが、鬼龍院と比べたら苦でも無いだろ」

 

「そこじゃないでしょ〜!それで四法院ちゃん達はどうしたの?」

 

「小テストの解答に来ました」

 

「「「「!?」」」」

 

「あはは……職員室の空気で四法院さんの発言に真実味が増したよ」

 

「……聞こう」

 

「2.3年が、1年の時に受けた小テストと中間試験の過去問を下さいませんか?」

 

「……何故過去問が必要なのだ?四法院なら満点など余裕だろう」

 

「”参考用“にですよね?」

 

 

再び職員室は凍りつき、多くの先生達に異常者を見るように見られていたが、あれだけヒントが散乱していたら個人差はあれど結構な人が気付くだろうにね。

 

 

「ひと学年2万だ」

 

「“たかが過去問”に2万ですか、プリントしてもらうインクと用紙に機械のメンテを統計しても、良いとこ200円でもぼったくりですよね?要求してるのは今年の中間試験問題ではありませんよ」

 

「「「「!?」」」」

 

「……一つ質問に答えたら、私が融通してやる」

 

「答えられる事なら」

 

「何故先輩では無く、私の元へ来た?四法院の反応から答えが見えているのはわかっている。だからこそ、我々教師に過去問を要求した者は今まで居なかった」

 

「簡単ですよ?先輩達では手間が増えますし、満点解答は小テストで出題した学校側に解答する事です。わざわざ回り道するなど非効率だと思いませんか?」

 

「……そう、だな。少し待て、コピーを渡す」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

職員室から出る瞬間まで静寂が支配していたが、扉を閉めようとしていた時に話し声が聞こえてしまった。あり得ないやとんでもない生徒だのと言いたい放題だが、最強の武器を鞘に収めて回り道するなど酔狂な事を私はするつもりはない。

 

 

 

 

 

 

 

過去問を手に入れた私に松下さんは色々質問をして来た。どう言う経緯で過去問に辿り着いのかを知りたがったので、丁寧に説明をしていたらポツリと彼女は小声で「彼女に付いていけば間違い無い」と聞こえたが、聞こえてないふりをして一緒にカフェなどをショッピングを楽しんだ。

 

その途中で、櫛田・山内・池・綾小路・平田・軽井沢と言うかなり違和感を覚えるグループを見かけたけど、私も松下さんも山内くんが嫌いな為、見つかる前に二人で急ぎその場を離れ食材を購入してから私の家で夕食を摂った。

 

因みに私の交友関係はかなり変で、毎日話し掛けられたり話しをする相手は松下・長谷部・佐藤・小野寺さん達で、挨拶や偶に話したりするのは佐倉・堀北・三宅・綾小路・篠原・軽井沢・平田・沖谷くんなどで、明らかに私か相手が避けているのは櫛田・山内・池・須藤と言うメンバーだけど、櫛田さんは私をやたら避けてるけれど、表面的に見たら分かりにくいが、劣等感や嫉妬の眼差しを感じる事がある。

 

長谷部さんと仲が良いのは、私のサバサバした性格を気に入ったらしくて『しーちゃん』と呼ばれてる。佐藤さんはカッコいい女性に憧れがあるらしく、カッコいいを連呼したり惚けた顔で見られる事が偶にある為、彼女は同性愛者では無いかと疑っている。

 

小野寺さんは、水泳の授業で私にぼろ負けしてから仲良くなったけれども、今だに水泳部への勧誘をしてくるのは辞めて欲しい。佐倉さんと堀北さんは、佐倉さんは私の物怖じしないけれど威圧感を出さないからこそ、尊敬してくれた上で会話が出来る。堀北さんは、私を認めている事が大きく影響しているようで、私にだけは毒を吐かないと言う不思議な状況が出来上がった。

 

他のメンバーは、至って単純な理由で接点がある。篠原さんは佐藤さん経由で接点があり、三宅くんは斜め前のは席だからとか、軽井沢さんは平田くんが話し掛けて来るからこうなって、沖谷くんはこのクラスでは、みーちゃんこと『王 美雨』と同じマスコット的存在だからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

5月1日

 

遂に私の予測が明らかになるが、振り込まれたポイントを見ずに学校へと向かって行った。周囲ではポイントの減り具合を話し合ってる者が多く、Dクラスのポイントが明らかとなった。

 

 

61,000pr

 

 

それがDクラス最初の支給額らしいが、注意を受けているのにこのポイント数ははっきり言ってあり得ない事だ。40名分の39,000prを損失させたのだから、月額156万分を身勝手な者によって奪われたのだ。

 

私は何も言わずに席に着いていると、茶柱先生が筒状の大きな紙を手に持って入って来た。

 

 

「おはよう諸君。一部がソワソワしているのは、四法院が言った事が本当かどうかで、自身の罪が暴かれるからか?」

 

 

Aクラス960cp

Bクラス640cp

Cクラス470cp

Dクラス610cp

 

 

「これを見れば一目瞭然だろう……あそこまで的確なアドバイスを貰っておきながら、このポイント数とは情け無いな」

 

「いっいや!俺達が悪いって決まった訳じゃ無いじゃん?」

 

「醜いね…自己中ボーイ」

 

「……」

 

「はっはぁ!?それは俺の事か?」

 

「見てみたまえ、君のフレンズは理解しているようだが…君は自身が悪くないと言うけれど、君は間違い無くダントツでポイントを失わせた張本人だろうに。レッドヘアーボーイですら、頑張って眠らない様にしていたけれど、君はフレンズを巻き込んで授業を大いに妨害していただろう」

 

「……」

 

「そこまでだ。高円寺……次にこれを見たまえ」

 

 

そこには、茶柱先生が持って来ていた筒状の紙がホワイトボードに張り出されており、先生は赤色マーカーを取り出してとある場所に赤線を引いた。

 

茶柱先生は、赤線の意味をクラスメイトに教えた上に、赤点を1教科でも取ったら退学だと説明を行った。

 

 

 

 

その後は酷いものだった……。

 

 

 

「おい!四法院はこうなるって分かってて止めなかったのか!それなら一番悪いのは四法院だろうが!?」

 

 

そう言って怒鳴って来た山内くんは、私が一番悪いと言いどうにか私に罪を着せようとして来た。殆どのクラスメイトは怒りを通り越して呆れた顔で彼を見ていた。

 

 

「何を言っているのですか?」

 

「だってそうだろ!授業態度とかでポイントが変動するって知ってれば俺だってそうしてた!それを教えなかったお前が悪いに決まってんだろうが!?」

 

「1億4千4百万……これが何の数字か分かりますか?このクラスに与えた私の情報の価値ですよ……私の言葉を勝手に無視して非常識な行いをして、殆どの方がSシステムを疑って行動しました。それなのに私を責めるなど、勉強をしろと言った親に勉強せずに遊び呆けて受験失敗を親の責任にしてる方と同じです。私達のお金を返して下さいませんか?勝手にクラスポイントを浪費して失った金額3年分を支払って下さい」

 

「ふっ巫山戯るな!?」

 

「「「キャ——」」」

 

「グフッ」

 

 

私は殴り掛かって来た山内くんの腕を取り、彼の力を利用して身体を浮かせて床に叩きつけた。彼の醜さは最早病気だろうか、彼の手首を背中に回して動けない様にしてから、茶柱先生へと名誉毀損と傷害未遂を訴える電話をした。

 

終いには、殺してやるだの犯してやるだの喚き散らしている始末、茶柱先生も教室へと入って来て苦い顔をしていた。脅迫や殺人予告を堂々として来ている彼は、救いようが無い状況だと言える。

 

授業は私と山内くん抜きで行われ、私は公休扱いをされて事情を聴取される事になった。普段から発言して入る全ても指摘し、彼は始まる前に退学する可能性が濃厚で、更に私が彼を起訴する事も伝えた上で彼は即日拘留される事となった。

 

 

内容だけ言うと、彼の両親が進学積立金120万を私の慰謝料として払ってくれる事になり、両親が自主退学を言い出した事でクラスポイントへの影響は無くなったが、山内くんの爪痕は平田洋介と言う少年の心に闇を落とす事になった。

 

 

 

 

 

 

 



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