僕はプレイヤーキャラクター!~オレっ娘が物理的にも精神的にもゼロ距離で、四六時中話しかけてくる~ (をれっと)
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第1話 脳内フレンド

 ちょっとヒロアカのSSとはテイストが違いますが、だんだんコメディになっていきます。


 少年は、いつものように上層から降ってくる廃棄物をあさっていた。下層の住人は、それを恵の雪崩と呼ぶ。

 

 少年も慣れた手つきで今日の食料を確保していた。すると、少年の脳内に、女性の声が響く。

 

 

『まーたこんなもん食べんのかよ、さすがによくねぇって』

 

「うるっさいな。うまいんだからいいんだよ」

 

 

 少年の住む国には、埋めようのない格差がある。その格差の底辺に位置する下層の人間はたいてい「上層に上がりたい、上層にあがりたい」とぼやきながらごみをあさる生活を送っている。

 

 しかし、少年はこの底辺生活を気に入った様子であった。この、食事も住居も法律すらもないようなこの生活を。

 

 少年は知っていたのだ。上層の人間というのは法に縛られることはなく、身分の低いものを癇癪で殺したり犯したりするものであると。

 

 その上層の人間がいない下層での生活というのは、理不尽からかけ離れた生活であったのだ。

 

 少年がその知識を得たのには、きっかけがあった。彼がいつも通り恵の雪崩で食料をあさっていた時、ふと本を手に取る機会があったのだ。その時、彼の脳内に住まう少女が言った。

 

 

『いやいや、別にエロ本は悪いもんじゃねぇって。いいから拾っとけって。それにほら、あー、あれだ!

 

知識は力だぜ?

 

一旦!一旦開いて…』

 

 

 そういわれて初めて、彼女に教えてもらいながら幼児用の本で文字を習得し、九九計算まで習得するに至った。

 

 彼の脳内に語り掛ける少女は、突然やってきたのだ。まったく姿を見ることもなく、突然頭の中から話しかけてくるようになったのだ。今になっても、彼女は少年に自己紹介をせず過ごしてきた。夢に出てくるまで、彼女は姿すら見せることはなかった。

 

 しかし、少年はその少女を信用しているし、信頼している。それはひとえに、彼は女性に甘かった。甘くて弱かったのだ。下層にしては珍しいタイプであった。

 

 その性質は今回はいい方向へ転び、彼は上層で出版されている御霊新聞というものまで読めるようになった。

 

 その新聞で見た事件が、彼を下層で堕落し続ける選択を是とする思考を植え付けたのだ。上層に住む貴族と呼ばれる人間が中層におり、そこに住む平民に対して癇癪を起して殺し、その上賠償請求までするという事件。その事の顛末はまだ確定していないらしい。

 

 それを見て、彼は上層へあがろうという思考を失い、下層で甘く腐って死ぬとう選択をし続けていた。

 

 とはいえ、脳内の少女はその意見に否定的であった。そして、何年も一緒に過ごしてきたため、彼が女好きであることを理解しているらしく、彼がぼーっとしているタイミングを見つけては話しかける。

 

 

『そうだ、俺がいればお前も特殊能力が使えるんだって!やってみようぜ!』

 

「えー、努力とかめんどくさいし~」

 

『なんでお前に宿っちまったかな~』

 

「なに?てか乗り換えとかできないの?」

 

『できないからここにいるんだろうが。でもお前の生活水準が上がんねえと俺も楽しくなんねぇんだよ』

 

「そんなこと言われてもなぁ」

 

『とりあえずさ、モンスター倒してみようぜ?な?』

 

「そんなこと言われてもなぁ。めちゃくちゃあいつら強いんだよ?」

 

『なんか弱いやつとかいねぇのかよ』

 

「そんなのいるわけないじゃん。たまにモンスターがここら辺まで来ることあるからわかるけど1匹に対して9人くらい殺されてたし」

 

『マ?」

 

「ま?なにそれ」

 

『本当?ってことだ』

 

「マ」

 

『どうすりゃいいんだってばよ…』

 

「どうしようもないって。だって僕ら平民は戦力になりえないからこういう扱いされてるんだよ?」

 

『まったく、めんどくせぇな~』

 

「その意見には同意するけどさ。そういうわけで、僕はこのままの生活でいいんじゃないかな」

 

『ダメ。それはダメ。何とかなりあがってもらわないと。どうしたもんかな~』

 

「まぁ、考えといてよ。方法をさ。乗り気になるかどうかは別だけどさ」

 

 

 少年はぼけーっとやる気のない目でさびれた町を眺めていた。

 

 高い昔の建物は壊されて倒れ、低い家ばかりが健在の下層の建物。そのほとんどにコケが生え、その中に何人かが身を寄せ合ったり、ヤクザが住んでいたり。ヤクザの家はロープでつながれており、そこに服がかけられている。体のいい縄張り宣言。

 

 ほかの者はただの物陰を我が家として過ごしている。

 

 

『でもさ、このままじゃお前、大変なことになるぞ』

 

「え?なんで?」

 

『お前も恋愛感情くらいあるだろ?もし好きになって、恋人になったとき、お前はその彼女を守れないんだぜ?』

 

「うーん、確かにつらいのかもしんないけど、そういう経験がないしさ~」

 

『でもさ、そろそろどうにかしてくんないと、俺もうお前と一緒にいられなくなるし…』

 

「は?」

 

 

 一瞬で少年の表情が変わり、今までのすべての考えをかなぐり捨てる準備を始めていた。

 

 

『俺さ、お前とリンクしてるけど、普通に生きてんだよ。言わなかったか?俺は貴族だって』

 

「そんなの初めて聞いたぞ?」

 

『そうか…忘れてたのか……じゃあ、俺の能力を言おう。プレイヤーだ。お前に取り付いてお前をレベルアップさせることができる。そのレベルアップによって自分も強化される』

 

「それでなんでお前が僕といられなくなるの?」

 

『新聞読んで知ってるだろ?貴族がどんなもんなのかを。弱い奴は外出も許されねえんだ。俺はお前がモンスターを狩ったことがないから貴族なのに一般人並みの力しか持たねぇ。しかも侯爵家ときた。恥もいいころだ。戻ったら大変な目に遭うし、このままの食生活じゃ餓死してもおかしくねぇ。逃げ出すにも力のねぇ貴族なんてひでぇめに遭うにきまってる』

 

「お前、そういうことはもっと早く言えよ」

 

『だって……お前の人生をこわしたくなかったから…』

 

「じゃあなんで今言ったんだよ。つらかったからだろ?僕は親しい人間すら助けようとしないクズだと思ってたのか?」

 

『……ごめん』

 

「はぁ。まあ、貴族ってそういうものらしいしな。自分の弱さをさらけ出したくなかったとか、そんなところかな?この話はここで終了。じゃあ、どうやってモンスターを倒すかを考えなくちゃな」

 

『俺も思いつかねぇ』

 

「まずは情報集めからかな。あと武器が必要か。とはいえそんな使えるようなものあるのか?」

 

『あるとするなら近接武器だろうな。できれば金づちがあれば』

 

「金槌くらい恵の雪崩にありそうなもんだけどな」

 

『そうだな。多分あるだろ。探してみてくれ』

 

 

 たった1分の間に、成り上がる決意を固め、行動を開始した。まずは、恵の雪崩で金づちを探し始める。

 

 それから日がずいぶんと落ちたころにようやく金づちが見つかった。少年はいつも寝泊りしている場所に急いで戻る。下層では、暗いと殺人が起こりやすくなるのだ。

 

 少年はいつも寝ている場所に戻ると、金づちを隠しながらすぐに寝た。

 

 

 

 

 

 

 少年の夢の中には少女がいた。

 

 

「まさか貴族だったとはな」

 

 

 少年は恨みがましいような目線を向けて少女に目を合わせる。少女の姿は、黒髪のショートで、幼さを残した顔。服は少年と同じようなくたびれたTシャツを着ている。少年の目は、彼女のせいで下層の人間とは思えないほどに肥えている。

 

 

「お前と会ったときにちゃんといったんだけどな…そういえばあの時は貴族という存在すら知らなかったのか」

 

「いやぁ、ごめんごめん。でも、憑依してるって言ってたけどじゃあ本体はどうなってるんだ?」

 

「ああ、消えてる」

 

「ん?じゃあなんで餓死なんかするんだ?」

 

「そりゃあお前が食ったもんの栄養を俺も分けてもらうていう仕組みになってるからだ。あんな最低限だけの食事じゃ俺に栄養が回ってこねぇ」

 

「ふーん。なんかそういうのがあるわけだ」

 

「そう」

 

「とりあえず、明日の行動を考えないとなぁ。とりあえず銃が欲しいよな」

 

「そうだな。金づちで倒すって結局命がけになるからな。もう少し安全にいきたいところだ」

 

「銃持ってるやつを襲うか?」

 

「それはやめとこうぜ?それやったら目立つだろ」

 

「そうか~。確かにほかの住人が僕を襲うことに躊躇がなくなるか…」

 

「俺たちはとりあえず金を稼ごう」

 

「そんなのどうすればいいんだ?」

 

「まずは一体だけでもいいからモンスターを狩ってくれ。ステータス振ってみないと金策も思い浮かばねぇ」

 

「じゃあ、なんか小さいやつを探しに行くか」




~をれっとのあとがき~

 この作品はカクヨム様にも投稿しております。カクヨムのほうが更新ペースは速くなる予定です。

カクヨム版: https://kakuyomu.jp/works/16816700426617618126

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第2話 決戦!野良犬!

 成りあがる決意を決めた翌日、また恵の雪崩で朝ごはんを見繕い、汚い川で水分補給。

 

 

「さ、行くか」

 

 

 最低限の支度をしてから市街地を出た。下層をモンスターから守るために作られた粗末な壁を出て、廃ビルだらけの乾燥地帯に踏み入れた。ここはもともと人間が生きていたのだろう。

 

 しかし、現在ではその面影はなく、粉塵が舞い、薄着の人間が長時間いられるような環境ではない。中層の人間は、特殊な服で肌や目などを保護して入るのだ。

 

 少年はそんなものを持っていない。素早く行動を終わらせて帰る必要がある。

 

 壁をでてか約70mほど離れた位置で、少女が話しかけてきた。

 

 

『よし、とまれ。そこの野良犬を殺すぞ』

 

 

 指示に従い、少年は物陰に隠れて止まる。

 

 野良犬というのは、最弱のモンスターである。機械が骨格に含まれており、かむ力と連携能力がずば抜けて高い。その代わりに脆いので、単体でいることは少ないが下層の人間でも何人か犠牲になれば倒すことができる相手である。

 

 少年の目の前の野良犬は、毛皮が剥がれ落ちて顎の機械部分が一部むき出しになっていた。どうやら野良犬同士の争いで負けて逃げてきたようだ。

 

 ここまでけがをしている個体であれば、今の少年なら倒すことができるだろう。この野良犬からとれる金属には1kgあたり50タース*1ほどの価値がある。売れば今日の昼食をパンにすることができるはずだ。

 

 

『いいか?しゃべるなよ?俺にはスキルがある。それをお前に使うことができる。スローという技だ。一瞬だけ周りがスローに見えるという技だ。お前が攻撃した瞬間に使う。その間にケリをつけろ』

 

 

 うなずくことすら許されない状況。じっと野良犬を見ている。しばらくしていると、ゆっくりと足を折りたたみ、休もうとし始めた。

 

 

『いまだ!足をつぶせ!』

 

 

 少年はすぐに飛び出し、思いきり大振りで脚の関節部分めがけて金づちをふるった。

 

 するとその瞬間、少年の視界がスローモーションのようにゆっくりと流れ始めた。そして、自分の体もまたゆっくりにしか動かない。

 

 そのゆっくりとした時間の中でゆっくりと狙いを定めながら、脚と垂直になるように殴りつけた。殴ったその瞬間、スロー再生は解除される。

 

 

『頭つぶせ!』

 

 

 スローがなくとも、うまく体を動かせなくなった野良犬の頭を殴るのは難しいことではなかった。

 

 一撃で頭を砕き、初めての戦闘は終了した。

 

 

『おえええぇぇぇぇ!』

 

「え?」

 

『オロロロロロロロロ!』

 

「待って、僕の脳内で吐いてたりする?」

 

『おえっ、あぁ、大丈夫だ…俺は想像上で吐いてるだけだ』

 

「…やめて?僕今こいつの金属部分の採取してるんだからね?一歩間違えたら僕の手切れるからね?」

 

『いやぁ、すまねぇ。まさか俺がゲロインになる日が来るとは…』

 

「げろいん…?」

 

『いや、こっちの話だ』

 

「お前そういうこと多いよな…」

 

『いいんだよ。お前に下手なことされたら面倒になるだろうからな』

 

「信用ねぇな~」

 

 

 少年はあらかた金属部分を回収して、すぐに下層住宅地へと戻った。

 

 

「おっちゃん、野良犬の鉄。買い取ってくんない?」

 

「あぁ?うーん。じゃあこのパンの耳で買い取ってやるよ」

 

「ありがとう」

 

「あ、あぁ」

 

 

 お礼を言いつつも目が鋭い少年に、換金屋のおっちゃんもゾクリとした様子で身をそらしながら見送った。

 

 

『おいおい、いいのかよ』

 

「いいんだって。どうせパンを買えるほどのお金にはならなかっただろうし」

 

『……はぁ、まあいいや。実際誤差だしな』

 

「そんなことよりさ、これからすてーたす?を振るんだろ?」

 

『そうそう。さて、どうするかな~』

 

「なんかできるようになったりするのか?」

 

『いんや、あんな雑魚じゃそんな大した変化はねぇな。どうする?とりあえず索敵能力でも上げとくか?』

 

「へー、そんなことできるのか。じゃあ索敵と速さが欲しいな」

 

『了解。でもしばらくは弱者側だろうから、索敵を鍛えていこうか。逃げは早いに越したことはない』

 

「OK」

 

『ほい、振っといたぜ』

 

 

 少年は試しに耳を澄ませてみた。しばらく目をつむったままだったが、落胆した顔になる。

 

 

「これ本当に強くなってんのか?」

 

『ああ。なってるさ。あと100回くらい頑張れば索敵能力は一流になるはずだぜ』

 

「それはさすがに無理だろ。100回もあんな所に行って生還できる気がしない」

 

『んなこと言われてもなぁ。事実は事実として受け止めろ。それに、だんだん良くなっていくんだ。知らねぇうちに楽にできるようになってる。多分最後まで強くなった実感を得る日は来ねえよ』

 

「そうなのか?」

 

『まぁ、そりゃあ突然格上と当たったりしたら実感を得る日も来るだろうが、まあそんなこと……ごめん忘れてくれ』

 

「なんなんだよ?」

 

『いいから忘れろぉおおおお!』

 

 

 ガシャァアアン

 

 

 遠くで建物が壊れたような音が、かすかに聞こえた。壁のほうからである。

 

 

『うわ!最悪だ!やっちまった!』

 

「ん?どうした?」

 

『なんでもねぇ!走れ!もっと早く!』

 

 

 血相を変えたような声で少女がはしたなく叫び、少年も逃げ始めていた。この下層ではモンスターが入り込んでくるなんてことはたいして珍しいことでもないのだ。いつも通りのスピードで逃げていた。

 

 しかし、しばらくすると、少年も血相を変えて走り始める。いつまでたっても音が途切れることがない。野良犬なんかとは、格が違うモンスターが入り込んできてしまったのだ。

 

 

「はぁ、はぁ…」

 

 

 しばらく走っていると、怖くなってきて後ろを向いた。すると、下層の住民を片っ端から蹂躙していくゴリラが目に映る。しかし、そのゴリラは明らかに機械構造を持っており、蒸気をふかしていた。

 

 

『あれに追いつかれたら死ぬぞ!』

 

「ハーヒーハヒー!!!!!!」

 

 

 汚い息をして走る。

 

 下層のヤクザが住む、中心部に近いところまで来るとその音はほかの方向へ向き、離れていった。

 

 

「はぁ、はぁ、どこまで…来たんだ?」

 

『遅くない程度に歩いて逃げよう。ありゃあ救助が来そうにねぇ』

 

「なんだ、あれ、相当、強い、のか?」

 

『いや、上層では雑魚とされている。だから、ここまでやばいことになってるなんて上は考えないだろうな。しかし、今回はそれがまずい。上層部が動くのはそうとう遅くなってからだ』

 

「まったく、神様とやらも、ひどいこと、するよな」

 

『そうだな』

 

 

 息も絶え絶えの中、しばらく中心部に向かって歩く。20分ほど進んだところで、下層の割には身なりのいい、サングラスをかけた男が話しかけてきた。

 

 

「ああ?お前、どこのもんだよ」

 

 

 少年は考える。このままではモンスターのいる場所に戻されてしまう。今少年が持っているのは金づち。モンスターとは戦うわけにはいかない。

 

 そこで、なんとか無理やりヤクザを押しのけて、一時避難させてもらうことにした。

 

 

「え?あ、今日からお世話になります。たらこ唇と申します」

 

「ああ!?たらこ唇じゃねぇじゃねえか!てかお世話になるだぁ!?」

 

「いやぁ、ボスから聞いてないんですか?」

 

「え?…マジな感じなの?」

 

 

 突然、ヤクザの男がおびえ始めた。少年はニヤリと笑ってから、芝居らしく言い放った。

 

 

「はー、お前、チクっとくか?」

 

「ひ、ひいいいぃぃ!や、やめてくれぇ」

 

「へぇ。じゃあしばらくここらでゆっくりさせてもらうわ。お前、外で情報集めてこい」

 

「は、ハイ!」

 

 

 なぜか立場が逆転した。この男はどうやらボスに対して恐怖心を抱いているらしかった。そのまま部屋に案内されて、一人でくつろぐ。

 

 

『お前、マジで度胸あるよな』

 

「まぁな。てかさ、声出さずに話せるようになるステータスとかねぇの?」ボソボソ

 

『あ、あるぜ?だがレベル5で解放だから無理だな。ちなみにお前のレベルは今1だ。この前ようやく発現したと思ってくれ』

 

 

 少年はしばらく顎に手をやってから、ぼぞぼぞと話す。

 

 

「お前の苗字だけでも教えてもらったりはできないか?」

 

『お前、やっぱ頭悪いだろ。俺がここで名前を言ったらそれであいつら脅すつもりだろ?やめとけ。それが実家にばれたらマジでチンピラどころか貴族に喧嘩売ることになるぜ』

 

「確かにそうか…」

 

『最悪ここでこいつらと殺しあったほうがいい』

 

「あれを雑魚と言ってのけるやつと敵対するくらいなら…か」

 

 

 少年はあきらめた表情でしばらくぐったりと椅子の背もたれにもたれかかってくつろいでいた。

 

 15分ほど経ったとき、みすぼらしいドアについているすりガラスにくろい影が浮かび上がり、バンッと激しい音を立ててドアが開いた。

 

 

「おい!誰だてめぇ!俺にお前みてぇな客が来る予定はねぇんだよ!」

 

「あ?何ふざけたこと言ってんだ?お前、役人の話はちゃんと聞けよ。オイ」

 

「え?……ちょっと待っててくださいね?」

 

 

 少年はひそかにほくそ笑む。

 

 

『お、お前、マジで死ぬぞ』

 

 

 少女はおびえた声で忠告する。

 

 しかし、依然として少年の態度は崩れることはなく、いそいで部屋を出て行ったボスを眺めていた。

 

 しばらく待つこと5分。

 

 

「お前やっぱりただのガキじゃねえか!」

 

「え~、よく探してみろよ」

 

「どうあがいたって違うってんだよ!死ねコラ」

 

 

 キレた男が目をぎゅっとつむってから銃を撃つその直前、スローが発動した。少年は銃口の向いている方向から自分の体を外して交わした。

 

 パンッ!

 

 その銃弾をかわしてすぐに、服の中から金づちを取り出して男の頭を殴った。すると、男の頭がつぶれて絶命した。スローが切れる。

 

 

「よし、お前ら。ここは見逃してくれ。そしたらこいつの持ってたもんお前らが手に入れられるぜ?」

 

「……」

 

 

 少年は取り巻きに対して楽観的な未来を創造させるような提案をした。そしてすぐにさっき殺した男から銃と弾丸を奪い取って、窓から脱出してヤクザの拠点から逃げ去った。ものかげに隠れる。

 

 少年はニヤリとした表情だった。 




~をれっとのあとがき~

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第3話 ひとえに運がよかった。

『マジでうまくいったな』

 

「だろ?割とどうにかなるもんなんだよ」

 

『そうはいってもこれからどうするつもりなんだ?』

 

「さすがにここにいるのはまずいかもな。僕の顔を覚えてるやつが増えるともっと上のやつが出てくるかもしれないし」

 

『でもあのモンスターはどうなったのかわからねぇんだぞ?』

 

「これは経験則だけど、モンスターっていったん自分が通った道はもう2度と通ろうとしないんだ。だから一旦はあいつが通過した場所に行こうと思う」

 

『それ、本当に大丈夫なのか?』

 

「大丈夫だって」

 

 

 少年は少女の問いに心ここにあらずといった様子で返事をする。

 

 ヤクザの拠点から逃げてきた後、奪った銃を見ていた。回転式拳銃。6発装弾可能。リロードの仕方も単純であるため、知識のない少年でもリロードができた。

 

 少年が銃を構えていると、少女が注意してきた。

 

 

『言っておくが、耳栓はちゃんと持っておけよ?じゃないと耳が悪くなっちまう。今の俺達には耳による索敵が一番の生命線なんだからな?』

 

「わかってるって。これから恵の雪崩に探しに行こうとしてるんだよ」

 

『…大丈夫か?ここよりもあそこはモンスターに近いが…』

 

「さぁ?でも銃を使えるようにするのは火急だろう?それに、今ならあいつと戦って勝つ見込みはあるし、戦ってもいいと思ってる」

 

『なぜ?』

 

「あそこまでべらぼうに強そうなやつ初めて見た。そして、今日は遠征の日じゃないから上層の人がたまたま居合わせるなんてこともないだろうさ」

 

『もし戦うならどうするつもりだ?』

 

「目に銃弾をぶち込むしかないな」

 

『そんなこと、できるか?』

 

「できなきゃ逃げるか死ぬかしかないな」

 

『ったく、突然割り切りやがって』

 

「仕方ないだろう?こうしなきゃ強くなれねぇんだ。それに、これはいい機会だ。こんな肉壁が多い場所で銃を持った状態で戦えるなんてまたとないチャンス。

 しかも、さっき言ったように1度調べたところは探そうとしない習性を理解しているから途中逃げもある程度可能だろう。

 野良犬を100体倒し続けるよりも、ここで一発当てて野良犬を安全に狩れるようになったほうがいい」

 

『まぁ、これはお前の体だからお前に任せるが、お前が死んだら俺もどうなるかわかんねぇ。気を付けてくれよ?』

 

「もちろん」

 

 

 少年もまた、下層で生きてきた人間である。楽観的な想像に突き動かされやすいものなのだ。

 

 しかし、ほかの下層の人間と違う部分がある。上層に住んでいた、貴族の少女の存在だ。彼女がその楽観的な行動に対して対策を取らせることで、チャンスを本当の意味でつかみ取りに行くことができるのだ。

 

 少女に注意された通り、恵の雪崩で耳栓の代わりになりそうなものを探していた。

 

 20分後、フード付きのチャックが壊れた前開きのパーカーと、臭いタオル、リュックサックを見つけた。

 

 そのタイミングで、人々の悲鳴が近づいてきていた。

 

 

『オイ!多分来たぞ!』

 

 

 もの探しに少年が集中していても、少女が回りを警戒してくれる。

 

 

「わかった」

 

 

 耳を押さえつけるように臭いタオルを頭に巻き付け、その上からパーカーをはおい、フードを被る。リュックは近くの地面に置いた。

 

 

「RGYAAAAAAAAA!!!」

 

 

 近くの建物が破壊された直後、雄たけびが聞こえた。

 

 

『マジで戦うんだな?』

 

「もちろん」

 

 

 その直後、目の前の家がつぶれ、その奥からモンスターがジャンプして飛び出てきた。ゴリラのようなその巨体は、全長5mほどにもなる。さらに、その速度は時速25kmほど。ぶつかれば少年はひとたまりもない。

 

 そこでとっさにスローが入る。

 

 ゆっくりと突進してくるモンスターをゆっくりと潜り抜け、片手でゆっくりとモンスターの肛門を狙い、撃つ。

 

 

「ッ!」

 

 

 銃を撃ったことがなかったのと、片手で撃ったために、右肩が痛み出した。

 

 

『オイオイオイオイ!どうするんだ!?外したぞ!?』

 

 

 そこでスローが切れる。さらに、撃った弾は大殿筋のような鋼で防がれる。

 

 

「スローは!?」

 

『あと1分は使えねぇ!』

 

 

 スキルのない一般人となってしまった。

 

 

『どうする!?ほかの人間は右側にいたはずだぜ!』

 

 

 モンスターは尻に銃弾を撃たれたことによって少年をターゲットに切り替えた。振り返ってすぐに、少年に飛び込む。

 

 

『かわせぇええええ!!!』

 

 

 少年はとっさに右後ろにバックステップ。すると、紙一重でモンスターの攻撃をかわした。直後、モンスターの顔が目の前にある状態になる。

 

 ダン!

 

 リボルバーを両手で構え、目に向かって打ち込んだ。

 

 

「BWAAAAAAAAAAA!!!」

 

 

 目を抑え込んで叫び始めた。少年は少し離れてから口の中に銃弾をぶち込む。

 

 

「ァ"ァ"ァ"ァ"」

 

 

 モンスターは声帯がわずかに震えるばかりになり、身動きを取らなくなった。白目をむいているモンスターの目に手を突っ込み、脳を外側に引きずり出し、殺しきった。

 

 

「はぁ、はぁ、運が…よかったな」

 

『よく無傷で倒したな……でもマジでもうやめろ』

 

「わかった…」

 

『もうだめかと思ったんだぞ?』

 

「ごめんごめん。でもこれで結構レベル上げられるんじゃない?」

 

『お前なぁ、レベルなんて死んだら意味ねぇんだぞ?』

 

「生きてるじゃんか。もう二度と無茶しないからさ。な?とりあえず今忙しいんだよ」

 

 

 少年はせっせとモンスターを金づちで叩いてモンスターの金属を引きはがしていた。モンスターの部品はかなり高値で取引されている。いくら雑魚と呼ばれているモンスターでも、野良犬とは段違いの収入を得られる。

 

 

 

「ふぅ、すぐに換金に行く。あいつらが殺到する頃にちょうど帰れるようにしたいからさ」

 

『ん?なんでだ?』

 

「こういう風に討伐されることって前にもあったんだよ。その時も住民がみんな群がって奪い合いが始まったんだよ。それからは金を持ってるやつをカツアゲしたり、その金で組織に入れてもらったりもしてたな」

 

『なるほど。カツアゲする奴が増えるから、そこから逃げ出すためにハイエナどもをあえてカモフラージュに使うってわけか』

 

「うん」

 

 

 そそくさとリュックを背負ってその場を去った。

 

 

 

 少年は血だらけになってしまっていたパーカーとタオルを脱ぎ捨て、換金所に来た。

 

 

「おっちゃん!こいつを換金してくんない?」

 

「んん?おお!これすげえな!中層のやつに結構人気なんだよ!そこの料金表にある通り、1kg当たり500タースでどうだ?」

 

「ん?1kgあたり700って書いてますけど?」

 

「おおっと、しまったしまった!間違っちまったわ。700だったな!おまけして710タースにしとくから許してくれ。な?」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「計量するぞ?…7kgだから4770タースだな!」

 

「4970タースですよ」

 

「んん?えーっと、ああ、本当だ。すまんすまん。はい、4970タースだ。数えてみな」

 

「5000タースになってますよ?」

 

「いいんだよ。受け取っとけって」

 

「わかった。ありがとう」

 

「じゃあな」

 

 

 何度も安く買いたたこうとしてくる男の言葉を何度も修正させ、正規価格以上を手に入れた。

 

 

『お前、普段からそうしろよ。これまでも結構ぼったくられてたぞ』

 

「いやだよ。めんどくさい。今はお金が欲しいタイミングだし、今まで手に入るような料金とは桁違いだし。ここでめんどくさがったら逆に面倒になる。そんなことより、この金の使い道を考えようよ」

 

『えーっと、5000タースだったか?そうだな~、銃を買うには少なすぎるし、戦力増強には使えなさそうだな』

 

「そういえば銃ってどこで買ってきてるんだ?下層にそんなもの売ってるところ見たことないんだけど」

 

『中層で買ってきてるんだろうな。あ、そうだ。中層入場資格試験でも受けるか?試験料は丁度5000タース。受けられるはずだぜ?』

 

「え?結構高いな…それ受けたら僕は何にも変えなくなるぞ?大丈夫か?」

 

『大丈夫大丈夫。それがないとどうせ何にもできないし。それに、再発行までお願いできるからな。お金を下層で盗まれたらオワリだが、中層入場資格は盗まれても消えねぇ」

 

「じゃあ、それでいこうか。僕もなんか勉強したほうがいい?」

 

『いや、そこは俺が教える。それにそんなに難しい問題は出ねぇよ。中層でやっちゃいけないことを最低限わかっているどうかの確認のための試験だからな』

 

「わかった」

 

『じゃ、恵の雪崩の左をそうように進んでくれ』

 

「了解」

 

 

 少年は中層に向かって歩き出した。

 




~をレットのあとがき~

 もうそろそろ二人目のヒロインを出したいところ。あと、もうちょっとギャグに寄せたいなぁ。


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第4話 中層と下層

 恵の雪崩にそって歩いていき、中層と下層を隔てる壁に沿って歩いていくと、下層とは思えないほど整備された道路の近くに試験受付があった。

 

 そこにいた受付嬢に話しかける。美人だが、やけに目の隈が濃い。

 

 

「あの、中層入場資格試験を受けたいんですけど…」

 

「…5000タースです」

 

「はい」

 

「こちらが受験票です。よくお読みください…」

 

「はい」

 

「…」

 

 

 明らかに雑な対応。少年は外に出てある程度離れると、少女に話しかける。

 

 

「雑すぎじゃね?」

 

『仕方ねぇだろうな~。ありゃあ若いのにどん底に落とされたっぽいぞ~』

 

「ん?どういうことだ?」

 

『わかるだろ?中層の壁の高さと分厚さでよぉ。下層と中層じゃあ安全度が違う。中層でしか過ごしてこなかった女の子にとっちゃあこんな風景絶望しかねぇんだわ。しかも対応する相手はお前みてぇな下層の人間だ』

 

「僕そんなひどい格好してる?」

 

『してるに決まってんだろ。何ならまだ血なまぐさいだろうさ。しかもルックスだけならまだお前はマシなほうだからな。お前以上に醜いやつとの応対。しんどいに決まってら』

 

「……ひどいこと言うな」

 

『それが現実ってもんだ。あの嬢ちゃんの反応にもちゃんと理由があんだよ』

 

「そうかい…」

 

 

 少年は口をとがらせてふてくされた。

 

 

『そんなことよりもさ、レベル上げしようぜ?』

 

「あ、そうじゃん。レベル上げ。魅力とかそういうステータスはないの?」

 

『ねぇよ。いい加減気分を切り替えろ。命がけで手に入れたもんなんだぞ?』

 

「わかってるって。索敵と速度にお願い」

 

『了解。とりあえず索敵を優先しておいたぜ。しかも!新しいスキルを二つ習得した!』

 

「へぇ、どんな感じなんだ?」

 

『まず1つ目!これは"念話"だ。お前が俺に頭の中で話しかければ俺に伝わる。ちょっとやってみてくれ』

 

『…これで聞こえてる?』

 

『あ、それそれ。これでいつでも俺と相談できるわけだ』

 

『戦闘に役に立つって感じか?』

 

『中層でも役に立つ。下層じゃあお前がいくら一人言を話しても、ヤベェのキメてる中毒者だと思われるだけだったが、中層じゃあ注目の的になるからな。中層では独り言は言うなよ?』

 

『へー、そうなのか。わかった』

 

『さて、次は索敵で手に入れたスキル。エコーシーカーだな。原理を言ってもわからんだろうから割愛するが、一瞬だけ周りの生物の位置がわかるスキルだ』

 

『へー、じゃあ今使ってみてよ』

 

『エコーシーカー!』

 

 

 少女が叫んでからすぐ、少年は喉が動いたような感覚を覚え、周りにいる人間の位置を把握した。

 

 

『…すっげえなこりゃ』

 

『そりゃあそうだ。だが、これは遮蔽物が多すぎると機能しねぇ。性能をこれ以上あげるためにはもっと索敵を鍛える必要がある』

 

『いや、これで十分だ。何より後ろもわかるのがすげぇ』

 

『そうだな。野良犬戦もこれで多少安全に行けるだろうな』

 

『で、次は何あげるんだ?とりあえず速度か?』

 

『うん。速度もなんかスキル手に入ったりするんだろ?』

 

『ああ。一応はな』

 

『じゃあ速度で』

 

『わかった。じゃあ、銃の訓練は自分でしろよ?』

 

『え?』

 

『レベルを上げて無理やり実力をつけるってこともできるんだからな?』

 

『……うん。わかった。もう今日は寝る』

 

『ハッハッハ!そんな嫌がるなよ!とことんめんどくさがりだなぁ!』

 

『お休み』

 

『おやすみー』

 

 

 

 

 

 

 翌朝、少年が目を覚ます。

 

 

「んぁあ、よく寝た…」

 

『おいおい、念話を忘れるなよ』

 

『忘れてた。さてと、雪崩に行こうか』

 

『そうだな』

 

 

 少女は昨日、いい食事をさせなくてよかったと思った。恵の雪崩の食べかすと、店で売っている食事とでは味も栄養価も月とすっぽん。恵の雪崩で食事を済ますという行為ができなくなっていたかもしれなかった。

 

 

『受験票を見せてくれ』

 

『ん?わかった』

 

 

 少女に言われ、受験票を視界に入れる。受験の日時と、受験時間、持ち物と持ってきてはいけないものが書いてあった。

 

 

『おいおい、やべえぞ。鉛筆なんて持ってねぇじゃねぇか』

 

『ん?いるの?』

 

『ちゃんと読めよバカ!よし、今から野良犬を狩りに行くぞ。何としても鉛筆を手に入れる!』

 

『そんな高いもんなのか?』

 

『いや、消しゴムに比べればずいぶん安いほうだ。多分換金屋のおっちゃんに言えば使いかけのやつをくれるはずだ』

 

『そうか。野良犬の鉄と交換すればいいわけだな?』

 

『そうだ』

 

『わかった』

 

 

 

 

 それから少年は数日間野良犬を狩り続け、換金屋の店主に鉛筆と消しゴムを交換してもらい、試験に臨むことになった。

 

 会場には5人ほどいて、少年以外は全員中年男性。

 

 

「試験開始」

 

 

 試験の内容は簡単なものばかりである。人に暴力をふるってはならない。路上に寝泊まりしてはならない。ものを盗んではならない。

 

 そういったことを選択問題で出され、マークシートに回答を記入していく。20分ほどたった時、中年の男が騒ぎ出す。

 

 

「おわった!出してくれ!」

 

「了解しました。試験は終了です。お疲れさまでした」

 

 

 この試験、問題の数が少ないのだ。帰って良かったのかと考え、少年も声を上げようかと考えたとき、少女が注意する。

 

 

『試験中は声を出しちゃいけないって受験票に書いてあっただろ?試験終了まで提出は待て』

 

『ん?でもあの人帰ったぞ?』

 

『ああ。不合格だからかえっていいぞってことだ』

 

『げぇ、マジかよ。でもほかの人も帰り始めたぞ?』

 

『だからダメだっつってんだろうが。黙って見直せバカ』

 

『すいません』

 

 

 試験場に残ったのは少年ともう一人のおじさんのみ。おじさんは頭を掻きむしりながら必死に考えており、少年は暇すぎて少女と会話を楽しむ。

 

 そのまま試験が終了した。

 

 

「回答用紙を回収します」

 

 

 試験管が解答用紙を回収し、スキャナーのような見た目の機械に入れてから1分後、合否判定をされた。

 

 

「おめでとうございます。2人とも合格です。許可証の発行手続きをいたしますので、そちらの方から顔写真と指紋、DNAの記録をいたしますのであちらの従業員の案内に従うようにお願いします」

 

 

 淡々と案内され、少年は男性に案内されて部屋を出る。外に出て、中層の町の市役所までくると、男性から指示が出された。

 

 

「えーっと、この中の椅子に座って、画面に向かって真っすぐ見てくれる?あとは機械の音声に従ってね」

 

 

 この男性はほかの職員とは違って元気がある。少年はあっけにとられながら証明写真を撮る。綿棒に口の粘膜をつけたり、指紋をハンコのようにとったりした。

 

 

「はい、お疲れ様。じゃ、これ入場許可証ね。これなくしたらここにきてまた再発行できるから」

 

「あ、はいありがとうございます」

 

 

 20分ほどですぐに終わり、中層の中で解放された。

 

 

『おいおい、突然中層で解散させられたぞ?』

 

『そうだな。とりあえずお金がないし下層に帰るとするかな』

 

 

 少年はしばらく「え?」といった顔を作った後、真面目な顔をして言った。

 

 

『お前、帰り道わかってるってこと?』

 

『え?……あぁ!も、もちろん!なんだ、お前忘れちまってたのかよ!ははは!』

 

『あ、わかってたのか。どっちなんかわかんないからさ、教えてくれ』

 

『お、おう。じゃあまずはあの高い壁のほうに行ってくれ』

 

『どこまで?』

 

『俺がよしと言うまでだ!』

 

 

 少年は若干いやな予感を覚えながら歩いて行った。




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第5話 初恋

 中層入場資格を得てからしばらく歩き回り、少年は迷子になっていた。

 

 

『おいおいおいおい!覚えてないんだったらちゃんと言ってくれ!別に怒らないから!』

 

『はい、すみませんでした』

 

 

 市役所から随分と離れてしまい、もう戻り方もわからなくなってしまった。中層は高い建物が多く、そのほとんどが似たような見た目をしていて、モニターが付いているせいで常に景色が変化してしまうのだ。

 

 

「すみません、下層への行き方ってどう行けばいいかわかりますか?」

 

「下層への行き方?あー、ごめんね。おじさん行ったことないからわかんないわ。そこら辺の人に聞いてもわかんないんじゃない?市役所のほうに行ってみたら?」

 

「市役所もどっちだったかわからなくなってしまいまして…」

 

「市役所はあっちの道にぴゅーって行って、あそこで右にシュっと曲がってからほいほいっと曲がったらいけるよ」

 

「え、あ、はいわかりました。ありがとうございます」

 

 

 祇園精舎の鐘の声。擬音のオンパレードに困惑しつつもとにかく指さされた方向に向かって歩くことにする。

 

 

『下層への入り口わかんないなんてことあるのか?』

 

『ん?ああ。あるぞ。地元の人間は別に地理を理解しているわけじゃないからな。自分の用のないところをわざわざ覚える人は少ない。』

 

『そんなもんなのか。でもさ、俺たちってそんな短い距離しか動いてなかったっけ?」

 

『さあ?あの表現の仕方だからな……』

 

『さあ?とか言える立場じゃないんだよなぁ』

 

『すみませんでした』

 

『まったく……』

 

 

 少年の生活レベルは上がってきていた。中層入場資格試験を受けるということが換金屋の店主に知られたのだ。それから突然店主の対応が変わり、パンのみみではなくパン自体を1枚もらえるようになったのだ。

 

 そのせいで、少年の腹の虫が鳴った。

 

 

『お前も随分贅沢な体になったもんだな』

 

『うるせぇ』

 

 

 少年は現在成長期である。栄養が手に入るようになればいつでも成長するのだ。

 

 そんなとき、一人の女性が少年に話しかけた。

 

 

「僕、大丈夫?少しごはん分けてあげようか?」

 

「え?」

 

 

 20歳くらいの女性。黒い帽子をしていて、茶色の髪をポニーテールにしている。ワイシャツと、黒いチノパン。黒い腰エプロンを着ていた。

 

 

「あ、でもお金がなくて…」

 

「ああ、大丈夫大丈夫。売れ残りだから」

 

 

 売れ残りと聞いて、空を見上げると、もう日が沈んでいた。少年は少女に質問する。

 

 

『なぁ、これついて行っても大丈夫かな?』

 

『うん。大丈夫だ。早く行こう。連絡先聞きに行こうぜ』

 

 

 容量の得ない少女の返答を聞き流して、少年はついていくことに決めた。

 

 

「お願いします。」

 

「ははは、おっけー。じゃあついてきて」

 

 

 少年の中にはまだ疑念の気持ちが残っていた。下層では、食料をわざわざ分けてくれる人間なんていなかったから。

 

 それでも彼がついていくと決めたのは、中層という場所での治安の良さを見たから。そして、話しかけてきてくれた少女に余裕というものがあふれていたからだ。

 

 少し歩くと、パンがたくさん棚に乗っている店に入っていった。

 

 

「てんちょー!この子に売れ残り渡してあげていいですかー?」

 

「ん?」

 

 

 店長と呼ばれた男はしばらく少年を見ている。

 

 

「いいぞ」

 

 

 少し間があった後、了承が得られた。

 

 

「よかったねー?道に迷ってたの?」

 

「はい。実はそうでして」

 

「そっかー、どこ行きたかったの?」

 

「市役所に行きたかったんですけど…」

 

「あー、でも市役所はもうしまっちゃってるよ?」

 

「え…」

 

「はい、これ食べていいよ。でも市役所に行って何しようとしてたの?」

 

「実は帰り道がわからなくなってしまいまして…」

 

「帰り道?どこ行こうとしてたの?」

 

「…下層に」

 

 

 少年は言いにくそうに下層という単語を出した。中層入場資格試験の受付嬢の反応と、その時の少女との会話から、中層の人間からは下層の人間は軽蔑されていると判断したからだ。

 

 せっかくここまで優しくしてくれている女性に、突然対応を変えてほしくなかったのだ。

 

 

「あー、下層かー。それならこの店を出て右側に行って、そのまままっすぐ行ったら大通に出るから、そこから壁に向かってずっと進めば大きな門があるよ。その門の右側のほうに行けば戻れるんじゃないかな?」

 

 

 少年が杞憂していたような反応は全くせず、それどころか丁寧に道順を説明してくれた。

 

 

「あ、ありがとうございます…」

 

 

 少年は呆けた顔をしながらパンの入った袋を両手に抱える。

 

 

「あ、下層まで持ち帰るつもり?やめといたほうがいいんじゃない?ここで食べていきなよ」

 

「そ、そうさせていただきます」

 

 

 あせあせとしながら店の中にあるテーブルに着いた。

 

 女性店員も店の奥に引っ込んでいき、静かな店で一人パンを食べる。

 

 

『あの店員さんめちゃくちゃいい子じゃん。』

 

『そうだな』

 

『なんだぁ?もしかして惚れちまったのかぁ?』

 

『はぁ!?そんなんじゃねぇし!』

 

『びっくりするくらいわかりやすいなお前。でもな、あの子は俺のだ。』

 

『はぁ?』

 

『あの子はこの俺がもらう!』

 

『…まーた意味わかんねぇこと言ってるな』

 

『早くレベル上げしろ!俺も早く自分の体に戻って中層に来る!』

 

『はいはい。頑張りますよー』

 

 

 ゆっくりゆっくりパンを食べ、帰ることにする。

 

 

「ありがとうございましたー!」

 

 

 どこまで入っていいのかわからないので、店の奥に声を投げかけ、そのまま店を出た。

 

 少年はまた来ようと決心した。

 

 

 

 

 

 

 

 パン屋の看板娘から聞いたとおりに進むと、小さな出口が見つかった。なぜあの大きな門というのが使えないのか疑問に思っていたが、門を見て理解した。

 

 そこにあるのは歩道ではなく、溝。線路というものだった。脳内の少女曰く、リニアモーターカーというものが通るための線路だそうだ。

 

 

『今日はいろんなことがあって疲れた』

 

『そうだな~』

 

『次からは、わかんないんならわかんないって言ってくれ』

 

『わかったわかった。でもいい出会いもあったじゃねぇか』

 

『……もう寝る』

 

『はいはい、お休み』

 

 

 

 

 

 翌朝、少年が起きるとすぐに恵の雪崩に向かう。そこでいつものように食料をあさり、食事をとる。

 

 

『お、意外と舌肥えたりしてないのか?』

 

『ん?あぁ。うん。さすがに一回いいもの食べたってすぐ変わんないさ』

 

 

 どこか上の空な様子だが、行動自体は普段と全く変わらない。いつもの調子だが、少年は珍しく少女に提案した。

 

 

『そろそろさ、野良犬以外にもなんか倒しに行かないか?索敵のおかげである程度敵の位置とかもわかるんだろう?』

 

『ん?あぁ。だがお前、自分で自覚してねぇかもしれねぇからいうけどよぉ…』

 

 

 少し間が空き、いつもよりも低めの声で少女は言った。

 

 

『お前は無茶をしようとしている。あの女性のためにな』

 

「え?」

 

『常に冷静に、自分の状況を理解しろ』

 

『…わかった。でもなんで突然こんなことを?』

 

『人間ってのはな、どんなに賢い人でもバカになるタイミングってのがいくつかある。一つ目は、精神的に余裕がなくなったとき。二つ目は、大きな力を手に入れたとき。三つめは、恋をした時だ。

 つまり、お前は今とんでもなくバカになっているってことだ。だから、これからはできるだけ俺がしっかりしてやる。これからは絶対に、俺の言葉に耳を傾けろ』

 

『…わかった』

 

 

 少女は過去に何かあったのか、いつになく緊張感を持たせるような口調だった。

 

 心友《しんゆう》の少女の名前すら知らない少年は、何も質問することができなかった。




~をれっとのあとがき~

 なんかなかなかコメディにならんな…

 主人公、もう少しボケてくれないかなぁ



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第6話 少し背伸びしてみる

 少年は今日、強くなるために新たなモンスターに挑もうとしていた。服装は前回強敵と戦った時と同じ、拾ってきたパーカーとタオル、そしてリュックだ。手には拳銃を持ち、リュックには金づちを入れている。

 

 廃ビルが立ち並ぶモンスターの巣窟に入り込み、今回の目標となっているモンスターを見つけた。

 

 

『野良犬と同じような見た目してますけど?アサルトドッグと戦うって言ってたよね?』

 

『野良犬ってのは指揮下から離れた個体を指す言葉だ。基本的に不良品。こいつらはアサルトドッグの完成形だ。素材は多少高く売れるし、経験値も野良犬とは段違いだ。ま、お前がこの前倒した奴のほうが強いんだけどな』

 

『そうか。じゃあある程度余裕をもてるな』

 

『そうでもないんだよなぁこれが。見ての通りこいつらは群れで行動してる。しかも野良犬よりも強い。だから孤立したやつを見つけるのが難しい。さらに言えばお前の攻撃力はレベル上げを始めた時から全く変わってない』

 

『…え?じゃあなんでこいつらを倒そうって提案したの?無理じゃん』

 

『さっきから言ってることが極端すぎるだろお前』

 

『ごめんごめん。じゃあ比較的孤立している個体を見つけてそいつをおびき出せばいいんだな?』

 

『いやお前もちゃんと考てんのかよ…だが、おびき出すのはよくない。不意打ちして一気に殺せ』

 

『え?なんで?』

 

『こいつらは嗅覚を犠牲に、電波を使ったコミュニケーション能力が搭載されている。お前の存在を仲間に知らされたら逃げるしかない』

 

『そういえばそんなこと言ってたか。わかった。じゃあ建物の二階から奇襲しよう』

 

『いや、今回は銃を使え』

 

『え?それ位置バレないか?』

 

『この乱立されたビルを見ろよ。こんなにいっぱい立ち並んでると、こいつら程度じゃ銃声の鳴った方向を一回で把握するなんて不可能だ』

 

『なるほど…でも弾薬が限られてるぞ?』

 

『こいつらの脳に埋め込まれてる部分は結構高く売れるから、弾薬の補充くらいできるだろうさ』

 

『……わかった』

 

 

 ためらった返事をしてから、少年は近くの風化したビルに侵入し、二階から石を投げて、下で音を鳴らす。

 

 すると、野良犬のもとの形であったアサルトドッグが2匹寄ってきた。

 

 

『撃っていいか?』

 

『待て。さすがにあの状況で撃ったら気づかれる。一旦様子を見よう。もし別々に帰っていくようであれば帰らなかったほうを殺す』

 

『わかった』

 

 

 じーっとアサルトドッグの様子を見る。しばらく監視していても、動きがないのでだんだん周りに意識がとられて行く。

 

 少年の意識が移ったのは、立ち並ぶ廃ビル。そのアスファルトの間から低木が生えていた。イバラと呼ばれる系統の植物だが、少年にはそんな知識はないため何も思うところはない。美しいなどと考えるような感性は育たなかったのだ。

 

 

『おい、集中切れてるぞ』

 

『あ、ごめん』

 

『あいつら俺の予想よりもずいぶん慎重だな』

 

『あぁ。どうする?』

 

『待つしかないな。1匹殺しても仲間に俺たちの居場所を伝えられたら終わりだ』

 

『あれが1匹だけになったらナンチャラシーカー使うんだよな?』

 

『エコーシーカーな。もちろん使うぞ。見られてたら元も子もない』

 

 

 しばらく待つこと10分。ついにそれぞれ別の方向に回り始めた。

 

 

『お、来たぞ。やるか?』

 

『あぁ。右側のを殺すから、ゆっくりとあっちの窓に動いてくれ。決して物音を建てるなよ?』

 

『わかった。』

 

 

 少年はゆっくりと廃ビル内を移動し、アサルトドッグの片割れからは見えない面から顔を出し、リボルバーを構える。

 

 

『ちょっと狙いずれてねぇか?』

 

『うーん、もうちょい上か?』

 

『多分な』

 

 

 ゆっくりと狙いを定める。少年の喉が一瞬動く。近くには知覚している2匹しかいないようだ。

 

 

『今だ!』

 

 

 少年が引き金を引く瞬間、スローが入る。スローな時間の中で、しっかりと目を開き、敵を見据えて銃を放つ。

 

 見事に側頭部に命中した。

 

 

『ナイス!いったん隠れろ。エコーシーカーがまだ使えない』

 

『了解』

 

 

 少年は1階と2階の間の階段の踊り場付近で身を潜め、リボルバーをリロードする。

 

 

『エコーシーカー』

 

 

 少年にもわかりやすいように少女がそうつぶやくと、わらわらとさっき倒したアサルトドッグに群れの仲間が集まってきていることがわかる。

 

 

『あいつらとは反対側には少なそうだ。移動しよう』

 

『了解』

 

 

 銃声の反響しなかった方向からはアサルトドッグの反応が少ないため、少女の指示に従い、アサルトドッグが少ない方向に向かって逃げ始めた。

 

 

『でもさ、あいつの素材はどうやって回収するんだ?』

 

『そりゃあ後日になる。今取りに行ったら殺されるぞ』

 

 

 少年は少し残念そうな顔をしながら、群れからある程度離れたところでスピードを上げ、下層の居住区へと方向転換する。

 

 

『エコーシーカー』

 

 

 しばらく走ったところでもう一度エコーシーカー。前方に1体アサルトドッグを補足した。

 

 

『あれは野良犬か?』

 

『わからん。いったん遮蔽物から確認しろ』

 

『了解』

 

 

 遮蔽物となる崩れたビルの瓦礫に隠れ、モンスターの様子を見てみる。特にけがをしたような跡はなかった。

 

 

『あれ、野良犬じゃなくないか?』

 

『もしかしたらあの銃声でアサルトドッグの人員をあの死体の位置に割いたのかもしれん。こいつは一応のための見張りかもしれんな』

 

『えぇ。じゃあどうする?』

 

『ばれないように一撃で仕留めてくれ。そのあとは全力ダッシュだ』

 

『了解』

 

 

 またスローを使って、ゆっくりとした世界でアサルトドッグの頭を打ち抜く。しかし、当たり所が悪かったらしく、顎のあたりに命中し、殺しきることはできなかった。

 

 

『やべっ』

 

「ゥゥゥゥゥゥゥゥ」

 

 

 口が壊れたせいで声を上げられないらしいアサルトドッグ。少年はその様子を見ることもなく、遮蔽物から飛び出し、アサルトドッグに近づいてから確実に眉間に銃弾を撃ち込み、倒した。

 

 

『逃ぃげろォオオオオオオ!』

 

『わかってる!』

 

 

 少年もすぐに全速力で逃げ始めていた。しかし瓦礫がたくさん転がっているような環境だ。そこまで速度が出ない。そのため、アサルトドッグが援軍がかたき討ちに来てしまった。

 

 振り返って速度が落ちないように、少女に指示を出す。

 

 

『索敵頼む!』

 

『エコーシーカー!』

 

 

 4体ほどが走ってきているようだった。少年は逃げ切ることをあきらめ、近場の廃ビルに逃げ込んだ。

 

 狭い入口があり、その入り口から見える位置に上の階へ上ることができる階段がある。

 

 すぐに少年は階段をできるだけ上り、入り口に向かって銃を構えておく。

 

 すると、アサルトドッグは入り口から廃ビル内に侵入してきた。それを見た瞬間に、少年は発砲。アサルトドッグの首のあたりにあたり、一匹が倒れこんだ。

 

 少年は階段を上がりきり、踊り場で階段の1段目に照準を合わせる。アサルトドッグが上ってきたタイミングですぐに射撃。集まって上ってきていたため、雑なエイムで命中し、また一匹倒れこむ。

 

 また少年が階段を半分ほど登ると、アサルトドッグ二匹が踊り場に到達。振り返り際すぐに発砲し、また一匹ダウン。

 

 1vs1になったとき、ついに追いつかれた。

 

 

『スロー!!!!!』

 

『了解!!!』

 

 

 少年が少女に呼びかけ、スキルを発動。階段の下側から少年めがけてくるアサルトドッグの頭に銃弾を撃ち込んだ。

 

 

「cyann!!」

 

 

 しっかりと眉間に入り、動かなくなった。

 

 

『あ、あっぶねぇ。』

 

『全部とどめさしていくぞ!』

 

『わかってる!今リロード中だ!』

 

 

 薬莢を取り出し、銃弾を1つ1つ詰め込んでいく。その後すぐに金づちを取り出し、アサルトドッグ1匹1匹、とどめを刺していった。

 

 

『速度のレベルを上げるぞ、いいな?』

 

『オッケー』

 

 

 少年はひたすら下層の壁へと走り続ける。

 

 

『エコーシーカー!』

 

 

 少女が叫ぶ。敵の反応はない。

 

 

『お?振り切ったか?』

 

『一応全力疾走だ。ステータスも上げちまったし』

 

『わかった』

 

 

 少年は目に見えて走るスピードが上がり、10分後、下層の低くてもろい壁の中に入った。




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第7話 ステータスオープン!

「つ、つかれた~」

 

 

 それからアサルトドッグと遭遇することもなく下層に戻ってきて、少年は物陰でだらりと寝そべった。

 

 

『しかも収穫はレベルのみだ。弾薬も結構減ってきちまったしな』

 

『はぁ、あそこに素材取りに行っても残ってるかな?』

 

『残ってるんじゃないか?あんな中途半端なところにいるやつをわざわざ狩りに来るようなやついねぇだろうし』

 

『だといいんだけど…』

 

『雪崩に行って食料探しに行こうぜ』

 

『うん』

 

 

 疲れ切っているため、なかなか食料が見つからない。

 

 

『なぁ、お金回収したら耳栓買いに行かない?』

 

『ん?あ、そういえば買い忘れてたな。中層に行けばいいか』

 

 

 少女がそういうと、少年の表情は少し緩む。

 

 

『ただ、どれくらい回収できるかわかんねぇからな~』

 

『え?』

 

『お前みたいなやつが出てくるかもって、今アサルトドッグたちは警戒態勢に入っているだろうからな』

 

『えぇぇ』

 

『てかそんなこと気にしてる場合じゃねぇんじゃねぇか?』

 

『ん?なんで?』

 

『もうすぐヤクザどうしで縄張り争いだぜ?』

 

『まーた縄張り争いか』

 

 

 まるで他人に迷惑かけられた被害者のような返答をする少年に、少女が恨みがましい声色で言う。

 

 

『お前のせいだぞコレ』

 

『え?』

 

『お前、そのリボルバーどうやって手に入れたのか忘れたのか?』

 

『そりゃあヤクザの偉そうなやつを殺して………あ』

 

『そういうこった。お前のせいだからな?ごめんなさいは?』

 

『後先考えずに行動してごめんなさい』

 

『わかればよろしい。まぁ、結構強くなるためのショートカットはできたと思うが、波乱万丈な生活を強いられることになっちまったな』

 

『でもそこはある程度覚悟してるから大丈夫』

 

 

 少年は脳内で少女と会話しながら下層の人間の様子を見る。ヤクザが所有している住宅に住む人たちの姿が見えないことに気が付いた。

 

 少年はヤクザの幹部を殺してしまったため、その後釜に入ろうといくつかのグループで争っているのだ。少年のいる地域は下層の中でもモンスターがいる方向に近い。この周辺の人間は中心に近いほうの地域を手に入れるために縄張り争いに参加しているようだ。

 

 

『さて、とりあえず俺から言いたいのは、あれを取りに行くのはずいぶんと後になるってことだ。』

 

『そうだな……』

 

 

 ヤクザと少年は一見無関係に見えるが、非常に深くかかわりがある。というのも、その縄張り争いに勝った者は中心部に近い地域へと引っ越すことになるのだ。そしてその引っ越して住む人がいなくなった建物には、またほかの人が住むことになる。

 

 つまり、少年のような何のグループにも属していない人間にも住居を手に入れるチャンスが巡ってくるのだ。

 

 そうなると、その住居をめぐってまた争いがおこる。本当の殺し合いだ。恵の雪崩で拾ったもので武装し、勝った者が住居を手に入れ、いずれ財と立場を手に入れることになる。

 

 その争いの影響は非常に大きく、敗者が元の居場所をほかの者に奪われて放浪し、住居すらなかったもの同士でも物陰を奪いあうことになる。

 

 

 少年が危惧しているのは、モンスターの素材を取りに行っている間にチャンスを逃し、さらに今住んでいる物陰すら失ってしまうという状況になることだ。

 

 

『僕が引き起こしたことだってことはわかってるんだけどさ、迷惑な話だよな…』

 

『そうだな。どうする?今回は狙ってみるか?』

 

『え?』

 

『いや、せっかく転んだんだぜ?なんか拾っていこうって言ってんだ。せっかく面倒ごとに巻き込まれたんだ。ドデカく成果を上げようじゃないか』

 

『うーん、大丈夫かな?だってあれ、ほとんど大人どうしで争ってるんだぞ?銃もってるやつも少なくない』

 

『たしかにそうだな!しかし!忘れちゃならんのが、俺たちは今日!成果なしで帰ってきたわけじゃねぇってことだ!』

 

『成果って、レベルが上がったくらいしか……もしかして!新しいスキル!?』

 

『そう!ちなみにだけど、スローの効果時間も伸びたぞ!』

 

『マジか!で、新しいスキルは!?』

 

『新しいスキル…その名も!ステータスオープン!』

 

『おおおおお!どんな効果なんだ!?』

 

『お前の能力を、数字で表してみることができる!』

 

『…僕のだけ?』

 

『そうだが?』

 

『戦闘に役に立たなくないですか?』

 

『立ちません!』

 

『意味ないじゃん!』

 

『しかし!これを見てみろ!ステータスオ───プン!」

 

 

 しかし、何も起こらなかった。

 

 

『お前の年齢が14歳だということがわかったぞ!』

 

『…なんもわからないんですけど?』

 

『ん?…あ、俺にしか見えてねぇわこれ』

 

『なんじゃそのゴミスキルは───!!!!!!』

 

『待て!待ってくれ!いったん落ち着け!』

 

『僕が確認できなかったら意味ないんだよ!なんであの"おうち戦争"に参加させようとした!?』

 

『お前は夢の中で会えるだろうが!そこで見せてやる!』

 

『…まぁ、僕にも恩恵があることはわかった。でもさ、戦闘中役に立たないよそれ』

 

『そうとも限らないんだよな~これが』

 

『どういうことだ?』

 

『いったん今日は寝てくれ。夢の中で説明しないとわかりにくいはずだ』

 

『わかったけど、しばらく寝れる気がしない』

 

『さっき怒ったせいでな』

 

『誰のせいだと思ってるんだ…』

 

 

 今朝の真剣な態度の彼女はどこへ行ったのかとため息をつきながら、物陰で横になった。

 

 

 

 何度もレム睡眠とノンレム睡眠を繰り返し、最後のレム睡眠のタイミングで少女が夢に出てくる。

 

 

「さて、お待たせ!今回取得したスキル!ステータスオープン!こいつを試すぞ!」

 

「微妙にダサいよなその名前」

 

「うっせぇ!行くぞ!ステータスオープン!」

 

 

 液晶のような画面がホログラムのように現れる。

 

 

=================

 

リュウヤ 男 14歳

 

レベル   10

HP    500

スタミナ  100

許容重量  50kg

記憶力   93

集中力   150

発見力   150

攻撃力   46

適応力   200

 

=================

 

 

 

「ふむ、なるほどわからん」

 

「まぁまぁそんなすぐあきらめなさんな。俺が教えてやる」

 

「お願いします」

 

「まず、HPっていうのはお前の許容ダメージ量だな。ちなみに平均は700くらいだから、かなりもろいぞ」

 

「最悪じゃん」

 

「で、スタミナ。これは疲れにくさを表してる。平均が大体90くらいだから、結構高いほうだと思うぜ」

 

「ほぉ。これが逃げ足の秘訣ってわけか」

 

「で。記憶力だな。これの平均は100だ。若干お前頭わりぃな。でも下層なら結構高いと思うぜ」

 

「そ、そうなのか…正直ショック」

 

「まぁお前がやってきた勉強なんて上層の5歳児レベルだからな。それにしてはいいほうさ」

 

「じょうそうこわい」

 

「でも集中力を見てみろ。これは俺が速度って呼んでたやつのおかげで伸びた数値だ」

 

「なんで集中力で速度が上がるんだよ?」

 

「スローの効果ってあるだろ?あれが常にうすーく発動するようになるんだ」

 

「へー、どういうこと?」

 

「お前が感覚的にいつも通りの走り方をすると、実際にはいつもよりも速く動くことになるってこと」

 

「そりゃすごい!」

 

「さて、発見力ってのが索敵能力だな。平均は100。ステータスを挙げたから結構いいだろ?」

 

「確かに」

 

「攻撃力だな。これは平均50。ステータスを上げてないせいで元から全く変わってねぇ」

 

「そうか……なんで一般人よりも低いんだ?」

 

「お前の食事がひでぇからだよ。恵の雪崩って結局中層の人間の不法投棄だからな?」

 

「食事って大事」

 

「で、適応力だな。これは冷静さを表してる。平均は100。正直お前の適応力は人間じゃねぇ。元からこれって頭おかしいだろ」

 

「ひっでぇ」

 

「まぁ、ヤクザに絡まれたときにとっさに入り込もうとするやつだしな。ここでの異常性がああいう理解できない行動を生むんだろう」

 

「まぁ、そうかもしれんけど……てかさ、スキルとかないけど、どうなってんの?」

 

「スキルは俺にしかねぇ。スローもエコーシーカーも俺が使ってるだろ?俺にしか使えねぇんだ」

 

「そうなのか……じゃあなんの役に立つんだよコレ」

 

「そう!実はこれのすごいところはスキルを使ったときにある!」

 

「でも俺には見えないんですよね?」

 

「いや、俺のステータスを見せてやる」

 

「え?いいのか?」

 

「名前は隠す。お前単純野郎だからな」

 

「…そろそろ教えてくれてもいいと思うんだけど?」

 

「ま、そこはいずれ言わなかった理由を言うつもり。言っておくがお前を信じてないとか、そんなんじゃないからな。俺とお前の友情は本物だ。そうだろ?…な?」

 

「え?うん。もちろん。何年一緒にいると思ってんだ」

 

「ま、数年だけども。その友情のせいで俺はお前に名前を教えるわけにはいかないんだ。お前は結構感情で動くタイプだからな」

 

「えー、そうかな?」

 

「ああ。なんかいろいろ理由付けたり、根拠を持ってくるけど結局全部お前の意思が混ざってる。だからお前ができるだけ冷静でいられるために、名前を教えるわけにはいかない」

 

「…僕がお前の名前を知ったら冷静でいられなくなるのか?」

 

「いられなくなるだろうな。特に中層では」

 

「なんで?」

 

 

 そこで少女はしまった。というように天を仰いでから、

 

 

「…俺の悪口が飛び交っているからだ」

 

「………そっか」

 

「さ!それよりもこのスキルの有用性を説いていこうじゃあないか!」

 

 

 気を取りなおした少女の話を聞き、少年が落胆した瞬間に目が覚めたという。




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