碇シンジは…もういないんだよ (5の名のつくもの)
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エヴァンゲリオン:序
プロローグ


活動報告で告知していた新作です。かなりぶっ飛んだ作品ですので、不安がある方は読むのをお勧めしません。後から言われても対応いたしかねますので、ご了承ください。


絶望に染まった少年が一人いた。小さい頃に最愛の母を不慮の事故で亡くし、妻を失い自棄になった父親から捨てられた。まだ小さいのにも関わらず、度重なる辛い経験で少年の心はズタズタに切り裂かれた。誰かが彼を救えばよかったが、親族のいない彼が救われることは無かった。しかも、誰も彼に見向きしなかった。

 

彼は見捨てられたくなかった。でも、誰も見向きしないし、誰もが彼を見捨てた。

 

だが、『捨てる神あれば拾う神あり』との古人の言葉がある。

 

一人の老人が彼のところへ来た。

 

「君が碇シンジ君か」

 

「え…誰?」

 

「あぁ、これは失礼したね。私は冬月コウゾウと言う。君の両親をよく知るお爺だよ。君に聞きたいことがある。君は幸せを掴みたいかね?自分だけの…幸せを」

 

少年は突如として現れた老人に困惑しつつも、質問には答えた。少年は年齢の割には礼儀はできている。答えたところで事情が変わるかは不明だが、答えないのは失礼にあたる。失礼をするぐらいなら、答えた方がマシだ。

 

「そりゃ…幸せになりたいです。母さんは死んで、父さんは僕を捨てた。こんな僕が幸せになれるなら、なりたいです」

 

「誰かの手で幸せになっても意味はない。自分自身の手で幸せは掴まなければならん。君はまだ小さいが、チャンスはある。どうだね?君の人生は君が決めないか?私ができる限りの手助けをしよう。その代わり、君は君の父を捨てるだけでなく、今までの自分を捨てることになる。さらに、君が君だけの幸せをつかむためには全てを犠牲にすることになる。それでもかね?」

 

少年はハッと顔を上げて、老人に向けた。悩む仕草を見せることすらしなかった。さすがに、これには老人もたじろいだ。たじろぐもその表情を変えることは無かった。黄金仮面と称されてもよい顔を持つ老人は答えを待った。待ったと言っても、数秒の間しかない。

 

「自分は捨てます。失うものはないから、全部を捨てます。僕は全てを捨ててでも、僕の幸せをつかみ取りたい。いいんです。もう、これ以上は…これ以上は!僕は、僕が幸せになりたい!」

 

「そうか…わかった」

 

答えを受け取った老人はニヤリと笑った。その笑みは普通の笑みだったが、冷静にちゃんと見れば不気味に尽きる。少年は不気味な笑みを怖がったり、変に思うことは無く、逆に笑い返した。

 

この時、既に少年は変わってしまっていたのだ。全てをかなぐり捨てて、自分の幸せをつかみ取る。自らの手で自分の幸せを得る。

 

家族はいない、親族もいない。

 

友達もいない。

 

じゃあ、もう、いいや。

 

僕は僕だけの幸せのために生きよう。

 

この人は僕の味方になってくれるようだから、この人と一緒に戦おう。

 

今までの僕とはさようならだ。

 

さようなら…碇シンジ。

 

そして、よろしくね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新しい僕と新しい人生。

 

僕は僕の幸せのためだけに生きる。父さんなんて知らないや。

 

続く




次話から本格的に始まります。また、次話より後書きに次回予告を書いていきます。


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裏切りと逆襲

今回から、無茶苦茶ぶっ飛んだ話になっていきます。「ついていけない」と思われる可能性がございます。予めご承知おきください。

ちょっと、色々と考えていまして。読者の皆様にお聞きしたいことがあります。アンケートを行いますので、ご回答ください。期限は土曜日0時(金曜日の24時)までとします。


~???????????~

 

大きな机と椅子がある空間はとても暗い。最小限の照明しか灯されていないので、目が悪い人には辛いものがある。幸いにも、この空間には椅子に座る少年が1人。その隣には老人が立っている。前者は問題ないだろうが、後者は年齢を重ねている。しかし、後者も問題ない。年齢の割には体は非常に健康で、全ての面で年不相応の力を維持している。

 

そして、両者を囲むように大きなモノリスが浮かんでいる。それぞれには数字が刻まれており、特徴的なマークもある。この空間が異様に尽きることに関しての説明は不要であろう。

 

「まさか、碇の息子が人類補完計画を主導するとはな」

 

「まったくだ…しかし、本当にいいのか?碇、失礼。シンジ副議長」

 

問われた少年は笑って答える。その笑いは愉悦に満ちていて、モノリスで見ている者たちは思わずゾっとした。まだ14歳の少年であるのに、こんな笑いができるのか。そう感じざるを得なかった。

 

「いいんですよ。これでね。僕は僕の人類補完計画を遂行する。全ての人間に安らぎを与えます。そして、僕は僕の世界を創り上げて、そこで選ばれた天使と共に生きます。それを果たすためにはSEELEの皆さんと協力する必要がありましたので」

 

「これに関して、血の繋がりで言えば碇らしいな。だが、碇ゲンドウとは違う。まだ君の方が寛容だ。人間の中から天使を選ぶのだから」

 

「まぁ、永遠を生きるのに少人数では寂しい。それなら、心を通じ合った人間を天使へと昇華させる。そして、神と共に生きるのです。新世紀は僕を中心として回っていきます。あぁ、ご安心ください。人類の強制的な進化と安らぎは確約しますから」

 

「わかっている。我々は君が人類補完計画を完遂してくれれば、一切異論はない。その後がどうなろうと、君の好きなようにすればいい」

 

「感謝します。キール議長。さて、残った課題の碇ゲンドウに関しては、次回話しましょう。では、今回はここまでとします」

 

少年は締めに入った。いつまでも会話を続けるわけにはいかないので、適当なタイミングで切らないといけない。どうも、このモノリス達は長話をする傾向にある。それが本題関係なら良いのだが、話が逸れることが割と多かった。

 

「「「全てはゼーレ・アビスの人類補完計画のために」」」

 

皆がそう言い放つとモノリスは消え、部屋の照明が一気に灯された。これで快適に動くことができる。少年は椅子から立って、横で立っていた老人に話しかけた。この老人は会の中で補助をしてくれている。何かとこの老人には助けられていた。

 

「冬月先生は、当然ですが、天使に入っています。それも天使どころか、大天使です」

 

「気を遣ってくれてありがとう。私も君と共に永遠を生きていいのかね?」

 

「もちろんです。先生がいなければ、僕は生きていけませんでした。恩師を実質的な死に追いやるわけにはいきません。ゼーレ・アビスの副議長の僕の力があれば、そして将来的に人を超えた存在になった僕ならば幾らでも可能です。もっとも、他の天使はこれから次第ですが」

 

この少年はとある組織で副議長を務めている。その組織の名はゼーレ・アビスと言い、英語にするならばSEELE(abyss)とされる。正式な英語の名前にすると長くなり面倒なので、略称でこれまで通りでSEELEとしている。

 

と、気になる点がある。

 

これまで通り?

 

すると、途中で何かあったのか?

 

その通りである。途中で変わっている。元々は秘密組織SEELEであったが、この組織に新たに加わる者がおり、SEELEは変革した。しかも、元SEELEにとっては驚き以外の何物でもない人物だった。

 

その人物こそがシンジ。彼はSEELEとパイプのある冬月コウゾウの推薦を受けて、入ってきたのだ。そのシンジ曰く「碇ゲンドウではなく、自分(シンジ)による人類補完計画を遂行する。遂行の後は、自分の新世紀を創り上げる」と。

 

伝えられたこと全てが驚くべきことであり、SEELEは困惑するしかなかった。しかし、彼から詳細な話を聞けば、「人類補完計画を発動することに変更点は無い。これまでと違うのは、人類補完計画発動後に執行されるはずの碇ゲンドウの『アディショナルインパクト』はシンジの『アディショナルインパクト』に書き換えることである」と。SEELEとしては、人類補完計画が発動されれば、もう何も言うことは無い。その後に何があろうと、どうだっていい。人類補完計画が発動された時点で、彼らの目標が達成されている。

 

これらの提案を受けてSEELEは簡単に承認した。なぜなら、碇ゲンドウはSEELEからすれば不誠実な人物であり、本当に人類補完計画を発動してくれるのか不安が大きかったからだ。しかし、シンジはどうだろうか?人類補完計画の発動を確約して、具体的な方策までもを提示する。しかも、あの冬月コウゾウが推薦した人物なので、相当の傑物なのだろう。なんせ碇ゲンドウを裏切って、その実の息子を推したのだから。そこまでされたら、SEELEはホクホク顔となって認めるしかない。不確定要素たっぷりで不安しかない碇ゲンドウ、確定要素しかなくて誠実なシンジのどちらを取るだろうか?

 

当然、シンジしかない。

 

「それにしても、キール議長を含めたSEELEは上手く碇(ゲンドウ)を躱している。まさか、碇も親玉から切られるとは思わなかっただろうな」

 

「キール議長が全面協力をしてくれるおかげです。あの男は最後まで気付かないかもしれませんね。己の欲望に走るあまり、視野が狭くなっていますから」

 

既にSEELEはシンジへと鞍替えした。となれば、今までの碇ゲンドウはお払い箱なのだが、そのままにしておいた。急に前触れなくゲンドウを切っては怪しさ満点であり、何かしらのしっぺ返しをゲンドウから貰うかもしれない。下手をすればSEELEとシンジの計画及びシナリオが破綻してしまうかもしれない。それは絶対に避けたいので、ゲンドウを泳がせていた。おそらく、碇ゲンドウは全てが自分の手中にあると誤解している。実際はシンジの手中にあるというのに。まったくもって、滑稽に尽きる。

 

その男を泳がせるためにSEELEのメンバーは上手く芝居を演じていた。世界を動かす力のある彼らにとって、1人の矮小な男に虚妄を見させることは何ら雑作もないこと。実の子によって元父親は見事にしてやられていたのである。

 

「次回の定例会で、いい加減に碇ゲンドウの処遇を決めないといけない。どうするべきかなぁ」

 

「君の好きなようにすればいい。向こうとしては、もう不要となった男だ。どう扱っても文句は言わんだろう。無論、私も何も言わんよ」

 

「いいんですか?先生の教え子でも」

 

そう、シンジの元父親の碇ゲンドウは冬月コウゾウの教え子だった。その教育者がシンジの右腕として機能しているのは皮肉だろうか?これの捉え方は人それぞれとなる。

 

では。その冬月コウゾウは何を思う?

 

「構わない。実の息子を捨てたかと思えば、己の私利私欲のために使い捨てようとしているんだ。そんな非情な男を教え子に持った覚えはない。せめて、君も一緒にだったら協力したがね」

 

一応、この冬月コウゾウも碇ゲンドウと近しい者である。だから毎日とまでは行かなくとも、結構な頻度でゲンドウと接しており、彼の人類補完計画に加担してもいる。だが、それは『面従腹背』の四字熟語の象徴たる行動でであった。

 

今更になるが、総合して、碇ゲンドウはSEELEと冬月コウゾウ、シンジから裏切られていたということになる。シンジに関しては『裏切り』と言うより、『逆襲』と表現した方が適当かもしれない。

 

「さすがです。冬月先生は」

 

続く




次回予告

動き出したSEELEとシンジ

裏切りと逆襲が始まり、シナリオは変更される

新たな人生を歩みだすため、第三新東京市へと来たシンジ

しかし、使徒出現の緊急事態に巻き込まれてしまう

「始まった…僕の人類補完計画が」

次回 新世紀エヴァンゲリオン 【始まりの使徒襲来】


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始まりと使徒襲来

お詫び
前話の次回予告でタイトルを「始まりの使徒襲来」としていましたが、混乱を招く可能性のあるものでした。よって、タイトルを修正して「始まりと使徒襲来」といたしました。訂正いたしますこと、お詫び申し上げます。

※サクサク行きたいので毎度毎度の使徒戦闘は重要なものでなければ、軽く流します


~駅~

 

「そろそろ。副司令の迎えが来るはずなのですが」

 

あれから数週間が経って、シンジは案の定で実の父親である碇ゲンドウから呼び出された。その目的はよくわかっている。自分をエヴァ初号機に乗せて、使徒と戦わせるのだ。そして、己の欲望のための犠牲にする。

 

冬月コウゾウがゲンドウを裏切って、ゲンドウの計画及びシナリオがシンジに伝えられていたので、全部少年にお見通しだ。全てを予めに知ったシンジは、先手先手を打つように行動していた。

 

シンジの頭上に広がるは空、嫌なぐらいに晴れた空だ。

 

その空を見上げれば、空を飛ぶ物体がいる。

 

「さすがは副司令…時間ぴったりです」

 

シンジの目の前には汎用性が高く、何にでも使用できる多目的VTOLだった。今回は人員輸送の目的で使用される。このシンジをNERV本部にまで移送するために来ていた。扉が開かれて中を見ると、重武装の兵士が乗っている。ギチギチしているが、ちゃんと中にはシンジが乗るだけのスペースが確保されている。

 

「ご苦労様です。副司令の私兵さん達」

 

シンジがそう言っても、重武装の兵士たちは何も言わない。頷くといった動きだけで反応する。声に出して反応することはない。傍から見れば極めて異常な光景であろうが、シンジは全く意に介しなかった。「もう慣れました」と言わんばかりの対応である。それもまた、異常と言えよう。

 

シンジを回収したVTOLは垂直離陸をして、飛んでいく。

空に舞い上がったVTOLから外を見ていると…巨大な化け物が視界に入った。

 

「使徒か…待っていな。僕が、エヴァ初号機が倒すから」

 

~NERV本部~

 

「使徒、第一防衛ライン突破します!」

 

「戦車隊の攻撃は効いていません!」

 

地下にある施設の中心部は喧噪で支配されている。様々な職員たちが走り回り、オペレーターと思われる人が慌ただしく報告を行っている。それを上段部で見ている者が2人いる。

 

「もう少しで到着するそうだ。第三の少年がな」

 

「あぁ。エヴァ初号機の発進準備をしろ」

 

「早いな。まだパイロットが来てもいないのに。あぁ、無理やりにでも乗せるつもりか」

 

「当たり前だ。シンジは所詮道具に過ぎん。道具は無理やりにでも使うものだ」

 

ある男の隣に立っている人間はポーカーフェイスを貫いていたが、内心は嘲け笑っていた。この男は実の息子を道具扱いしているのだが、現実はその真反対となっている。表面上は男のシナリオ通りに進んでいる。それはそうだ。ただ、表面が良くても中身が違うことはよくある。

 

(そのお前が実の息子に逆利用されるとはな。ユイ君…申し訳ないが、私は願い、望み、運命の全てを少年に託した。シンジ君の願いのままに世は進んで行くのだ。それは理解してくれ)

 

「戦略自衛隊に、特に連絡はとらんでもよい。巻き込まれたら自業自得で片づける。エヴァンゲリオン初号機の発進準備だ。あと数分でパイロットが到着する」

 

「そんな!初号機は起動すら怪しい状態です!」

 

「正規のパイロットなら動いてくれる。それ以前に、エヴァを使わなければ使徒は撃破できん。いいから準備を進めてくれ」

 

冬月コウゾウの指示によってケージではエヴァンゲリオン初号機の発進準備が進められる。パイロットが来ていなくても、やれることはある。やれることを先にやっておけば、後々が楽になる。夏休みの宿題のように後に全部詰め込んでしまうと辛い。先にやっておくことで色々と都合がよくなる。

 

指揮所のメインモニターに目を移すと、巨大なバケモンが地上部隊や航空部隊からの激烈な攻撃を全部無効化しているのが見える。体に直撃しているかと思われたが、よく見れば違う。直撃目前ににして、なぜか爆発して無効化されている。これを鑑みるに、透明な壁があると思われる。

 

そう、これこそがバケモンが誇る絶対の盾だ。

 

「ATフィールド…シンジ君にとっては紙切れだな」

 

暇な時間をメインモニターで映される映像観賞で潰していた。

 

 

~エヴァケージ~

 

「やっと…会えたね。母さん」

 

シンジは護衛の兵に案内されて、広大な格納庫にまで来た。既にシンジの脳内にはNERVの内部構造が保存されているので、始めて来たはずなのに謎の既視感があった。そしてシンジの眼前には巨大なロボット?が鎮座している。全体的に紫色に塗装されていて、不気味さを覚える。と、それは常人にとっての感覚だろう。シンジは違う。予めに全てを知っている彼にとっては安心感を覚える。やっとのことで…母親と間接的にでも再会できたのだから。

 

「あなたが…碇シンジ君ね」

 

「はい、碇シンジです。僕はこれに乗らないといけなんですよね?」

 

「そう…聞いているのね」

 

シンジは先手を打つことを徹底し過ぎるあまりに、対面した女性の仕事を一部奪ってしまったようだ。この女性はシンジを紫色の巨人に乗せる命を受けていた。しかし、シンジがあっさりと言ったので挫かれた。

 

「父さんから事情は聞いています。乗るなら、早い方が良いですよね。僕はこれでしか存在を示せないので」

 

「うっ…じゃ、じゃあ。説明をするから聞いてね」

 

「はい」

 

シンジは役者だった。己の本性を漏れないように心にピタッと蓋をして、虚妄の姿を出した。僅か齢14なのだが、過去の辛い経験と覚悟が彼を良くも悪くも叩きあげた。

 

全てをかなぐり捨てた少年は…変わってしまったのだ。

 

 

~指揮所~

 

「お前の息子は意外と素直なんだな」

 

「そうなるよう、教育しただけだ。道具に手入れは必要だからな」

 

役者と言えば、この冬月コウゾウもそうだ。冬月もまた秘密の計画とシナリオが悟られないために芝居を打っていた。同志であるシンジが少年らしい動きを見せながらも、時間を浪費しないように努めているのをサブモニターで見ている。彼の見事なお芝居で感服する。

 

「手入れか…お前の手入れがか。それで違う未来へと繋がらないといいな」

 

「…」

 

既にケージではNERVにおける幹部クラスの職員の葛城ミサトと赤木リツコ博士の両名がシンジに説明を行っている。緊急時であるからと急げ急げでは破滅を生み出すことになる。最低限でもきちんとした説明を行うのが正解だ。古人は『急がば回れ』とも言ったのだから、それを尊重すべきと思う。

 

別のモニターでは、着実にエヴァ初号機の発進準備が進んでいることがわかる。エヴァの円滑な運用を可能にするべく、NERV本部はマンパワーではなくマシンパワー重視の思想となっている。ありとあらゆる面で機械による自動化、自動化できなくても半自動化、機械による補助がされるようなっている。そのおかげで面倒なエヴァの発進も遅延なく行われていた。

 

「さて、見ていこうか。少年の初陣を」

 

説明が完了したようでシンジはエヴァに乗り込んでいた。時間が惜しいので、専用スーツではなく制服のままでいる。初陣で専用スーツ無しは怖いが、やむを得ない。

 

10分ほど経つと…紫色の巨人は地上に姿を現した。

 

「さぁ、行くがいい。君のシナリオを始めよう」

 

下の方では葛城ミサトがシンジに通信で指示を飛ばしている。今回がガチで初めてだから、こちらから指示を飛ばして従ってもらう必要がある。それ以前にエヴァを動かすシンジが知らないのが大きいが。

 

だが、使徒はそんなに甘いものではない。人類を滅ぼさんとする、神の遣いなのだから。

 

「肉を切らせて骨を断つ。少し、いや、かなりの無茶をするもんだ」

 

冬月の見ている前で、初号機は無謀にも使徒に飛びかかった。ミサトの指示では「まず動くこと」だったが、一種の錯乱と混乱状態に陥ったシンジは操縦を誤ったらしい。そんな安直な動きが通用するはずもなく、使徒は冷静に初号機を掴んだ。掴んだから投げるなどするかと思えば、光の槍を形成して何度も何度も初号機の頭部に突き刺す。

 

エヴァは見た目以上に堅牢な肉体をしているが、攻撃を短い間隔で幾度も貰えばひとたまりもない。事実として初号機は光の槍に耐えきることができずに、貫かれてしまった。そして、そのまま後方にある山に不時着する。

 

その光景にオペレーター達は絶句し、葛城ミサトは絶叫した。

 

だが、老人だけは笑っていた。

 

「勝ったな…暴走で王手だ」

 

程なくして、初号機は再起動を果たした。まさか、あり得ないことだ。初号機は頭部を貫かれたことでパイロットに致命的なダメージが入っている。パイロットがエヴァとシンクロして操縦するのだから当然の結果だ。だったら、パイロットが動かすことは無理の二文字に尽きる。

 

そう、パイロットが動かすことは無理。

 

"パイロットが"である。

 

じゃあ、別の何かが動かせばいい。

 

そう言うことなのだ。

 

(ウォォォォォォォォォォ!!)

 

続く




次回予告

白く清潔感のある天井が視界に広がる

「知らない天井なんて言いませんよ…先生、副司令」

「だろうな…さて、ひとまずはだな」

病室で目覚めたシンジ、隣にいるは冬月

少年のシナリオは始まったばかりだ

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『知っている天井』


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知っている天井

まだ考え中ですが、R18に入らない範囲でムフフ(エチエチ)な展開も書く予定です。


~病室~

 

「まったく。本当に無茶をするな、君は」

 

「ああでもしないと、怪しまれてしまいますから。最初はエヴァに慣れていないふりをして、父や葛城さん達を騙しませんと」

 

「策士だな。私は君が14歳とは思えないよ」

 

「冬月先生に教えてもらったおかげです」

 

既に病室で目覚めていたシンジは、お見舞いで訪れた老人と話していた。言わずもがな冬月だ。病室は意外とプライバシーが守られているので、シンジは冬月と秘密の話をすることができる。一応、監視カメラはある。仮にNERV副司令がチルドレンと話しているところが映されても、それが怪しまれることはない。

 

シンジは先の使徒戦では意識を失い、戦闘不能だった。しかし、結果としてNERVは使徒への逆襲を開始していた。シンジが意識を失った後に、彼が乗っていた初号機は突如として暴走を起こした。パイロットが意識不明であるから、自分でエヴァを動かすことは不可能である。つまり、エヴァ初号機が自らの意思で使徒と戦ったと。その初号機はNERV職員を驚かせるのに十分なほどの圧倒的な力で使徒を撃破し、人類は初めて使徒相手に勝利を収めた。かなり危なっかしい橋を渡ることになったが、結果論で言えば良しだ

 

「君にはこれを渡しておかないとな」

 

冬月は胸ポケットからカードキーと端末用SDメモリーを渡した。前者はNERV内で動くために必要になる、まさに鍵である。これがあれば外から自由にNERVに入れて、内部でも自由に動き回ることができる。正式なエヴァのパイロットになった以上は必須。対して、後者はちょっとした、いや、かなりアウト寄りなブツだ。

 

「これは?」

 

「セントラルドグマを含んだNERV内の全ての機密情報、立ち入り禁止区画等の許可無しでは入れない所へのフリーパスだよ。これがあれば、非正規だが真にNERV内を自由に動き回ることができる。この中にあるシステムを君の端末に入れておきなさい。後は簡単だ。端末を使って、君の好きなようにすればいい。私の公認だ」

 

このメモリーをシンジの持っている端末に差し込み、中のシステムをダウンロードする。端末に完全にシステムが入ったことを確認できれば、あとは自分の好きなように使うだけだ。端末の遠隔操作でNERV内で偉い人の許可が必要な区画・部屋、デジタルスペース等のロックを勝手に解除できる。先のカードキーは、事前の許可が必要な場合において、全く使えないただのカードになってしまう。

 

「ありがとうございます」

 

「伝達事項を言うぞ。君の身柄は葛城君が預かることになった。形だけの保護者は葛城君になるから、諸手続きは葛城君の名を使いなさい。ただ、彼女は私生活は人間らしい暮らしを送っていない。骨が折れるだろうが、自分の身を守るために頑張ってくれ」

 

「はい。わかりました」

 

シンジのことは父親の碇ゲンドウが引き取ることが普通に考えたら順当なのだが、これは絶対にあり得ない。碇ゲンドウは実の息子である碇シンジのことを捨てたのだから、引き取るなんて絶対に無い。断言していいだろう。そこで、葛城ミサトが彼を引き取ることになった。確かにエヴァ運用で彼女が責任者なので、必然的に公私共にでシンジとの交流が多くなる。ならば、最初から2人を一緒に過ごさせておけば都合が良い。

 

とまぁ、これは表向きの理由である。では、裏向きにはどうなるだろうか?

 

「葛城君は自分の復讐のために、彼女の父親と決別するために君を利用する気だ。それに将来的には君と敵対することが決まっている。今の内に彼女を分析しておいた方が後々で役に立つ。まぁ、家族同然で過ごした者が敵となるのは辛いかもしれんが、全ては君の望みのためだ」

 

「構いませんよ。言ったでしょう?碇シンジはもういないんです。自分の望みを果たすためには…全てを犠牲にする覚悟です」

 

「そこは碇(ゲンドウ)と似ている。血は争えんか」

 

これが心優しいシンジだったら違うだろう。しかし、残念ながら傍又は幸運にも、シンジは全てをかなぐり捨てる覚悟であり、既に「碇シンジ」を捨てていた。長い時間を一緒に過ごした人と敵になって、銃の引き金を引き合うことになっても気にしない。自分の願いのためなら、なんだってする。この点は碇ゲンドウと碇シンジはやっぱり親子なんだなと感じられる。だから、2人のことをよく知る冬月は微笑を浮かべて反応した。

 

「さて、ここに長居してもあれだな。あぁ、そうだ。ファーストチルドレンのお見舞いに行っておきなさい。知っていると思うが、彼女は怪我を負っていてね。私が許可する。彼女に関しても、君の思いのままにな」

 

冬月はシンジの病室を後にした。老人はシンジにファーストチルドレンのお見舞いに行くことを勧めた。シンジの身体に異常は確認されておらず、病院内なら自由に動くことが医者と冬月から許されていた。監視カメラで病院内を動き回るシンジが捉えられても、まったく問題ない。医者と副司令から許可されていたら、誰も文句をつけることはできないだろうて。

 

「先生は悪い人だなぁ…綾波レイは新世紀を生きる天使の一人に入っていることを知っているのに。彼女は僕の、僕だけの天使なんですよ」

 

シンジはベッドから立ちあがった。

 

 

~別の病室~

 

ファーストチルドレンこと、綾波レイは病室のベッドで横になっている。シンジが来る前に行われたエヴァの起動実験で事故に巻き込まれ、彼女は大けがを負ってしまった。そのため、入院生活を余儀なくされいる。ただし、幸いにも命に別状はない。意識もハッキリしている。普通に生活することに支障はなかった。

 

「今日は冬月副司令が来ただけ…」

 

その綾波レイ本人はお見舞いに来たのが冬月だけで、それ以外に誰も来なかったことを思い出していた。別に誰も来なくても何とも思わないのだが、ちょっとばかり気にかかっていた。特定の誰かに来てほしいと言うか、"何か"が彼女の中で引っかかっている。

 

すると

 

ガララ…

 

「誰?」

 

知らない誰かが扉を開けて入ってきた。

 

「えっと、サードチルドレンの碇シンジ。エヴァンゲリオン初号機のパイロットだよ」

 

「碇…シンジ」

 

レイにしては珍しく、オドオドした反応をとった。普段の彼女なら適当な反応をして、とても淡白な対応をしただろう。しかし、今回は違う。彼女は少年を凝視して、まるで長年待っていた想い人と再会したかのような感じを出している。対してシンジは表向きでは緊張した姿を見せていたが、内心ではニヤリと笑っていた。

 

「冬月副司令から言われて、お見舞いに来たんだ。その、嫌だったかな?」

 

「いいえ…嬉しい」

 

見事にレイの引っ掛かりは解消された。

 

そう、彼女はこの少年がお見舞いに来ることを待っていたのだ。自分の意思で待っていたわけではない。2人は今のこの瞬間まで面識は一切無かったのだから当たり前だ。

 

では何故か?答えはとても簡単で、「全ては仕組まれていたから」だ。

 

運命を仕組まれた少年と少女なのだから。

 

「酷い怪我だな…事故って聞いたよ。今は傷を治すことに専念してね。僕が言えたことではないけど、もう安心していいよ。使徒は僕がエヴァ初号機で倒すよ」

 

「いいの?あなただけに押し付けて」

 

レイは自分が大けがを負っているばかりに、この少年に使徒を押し付けてしまうことを申し訳なく思った。基本的に無愛想な少女だが、少年には負い目があったようである。

 

「気にしないでいいよ。誰かがやらないといけないことだから」

 

「そう…ありがとう。一人では寂しかったから」

 

仕組まれた運命の歯車は周り始める。その歯車をはめた人物は…この少年だった。全てが自分の思い通りに進んでいる。その歯車の動きを狂わせることのないように動けば、自分の願いは果たされる。多少の狂いが生じても油を差せばいいだけだ。

 

「っ!?」

 

レイがそう言った途端、レイは優しさと愛に包み込まれた。物理的にシンジがレイに覆いかぶさったのだ。もちろんながら、怪我に障らないように配慮している。

 

「いいんだよ。僕がいるからさ…全部僕に委ねて。君は僕の天使だから。僕だけのね」

 

「うん…私は碇君だけのもの」

 

続く




次回予告

葛城ミサトに引き取られて、新しい生活を始めるシンジ

シンジは中学校に転校するのだが、皆からの注目を集める

いとも簡単に、自分はエヴァのパイロットだと明かしたシンジ

すると、同級生2人から呼び出される

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『君のことは僕に関係ない』


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君のことは僕に関係ない ※閲覧注意

本話には強烈な闇シンジ君があり、ゲンドウのように冷酷な描写があります。閲覧は自己責任でお願いします。

※本当は昨日投稿するはずの話です


「僕に用が?」

 

「せや。ちと来てくれや」

 

シンジはちょうど本日、中学校に転校してきた。シンジは裏では年齢不相応の頭脳を持っているが、建前は14歳の少年なのだから、見た目だけでもいいから義務教育は受けなければならない。よって、第三新東京市の中学校に転校となっていた。諸手続きは既に済んでいて、あとは中学校生活をスタートさせるだけ。

 

シンジは軽くあいさつを行い、クラスメイト達との交流も程々にして生活している。授業で習うことは全て冬月やゼーレの老人たちから教わっていたので、軽く流す程度に聞いていた。シンジとしては、自分の望みのために犠牲になるであろうクラスメイト達と関わる気は毛頭なかった。ただ、あまりにも関わらないとなると、それもそれでよろしくない。

 

ほんの少しだけの交流に留めるつもりでいた。将来、間接的に自分の手で死に追いやるクラスメイト達。「良心が痛まないのか!」と言われそうだが、シンジは「良心なんてとっくに捨てた。良心を持つから人間は弱いんだ」と考えており、クラスメイト達の死なんて我関せずである。

 

そんな中で、ある男子一人に呼び出された。やけにイライラしているので少し怪訝に思いつつも、言うことを聞いてついて行くことにした。念のためなのかもう一人男子がいたが、そちらは気にしないことにした。そして、案内された先は狭い広場だった。人通りも少ないような場所である。これらからシンジは頭を回転させ、何かが起こると察したので少し体勢を改めた。

 

「それで、用事って何だい?僕は次の授業の準備をしたいんだけど」

 

「お前、あのロボットのパイロットだって聞いたで?ほんまか?」

 

「あぁ。エヴァのことか。そうだよ、君の言うロボットのパイロットをしている。それがどうかしたのかい?」

 

「せやったら…一発ぶん殴らせろやぁ!」

 

目の前の少年は大きく体を使って、彼の放った言葉通りにぶん殴ろうとしてきた。シンジは相手が妙に脈が早いこと、息が整っていないこと、体の使い方が変になっていること等の相手の状態から何か動いてくると看破していた。結果的にシンジの読みは見事に的中したことになる。

 

(あぁ。やっぱりか。やだなぁ、面倒なことは)

 

「!?」

 

全身を使って殴りかかった少年は綺麗にスカして、地面に倒れることになった。対して、シンジは誰もが褒めちぎりたくなるような滑らか動きでそれを回避した。これにはついて来ていた、もう一人の男子は腰を抜かさざるを得なかった。まさか、14歳の同級生がこんな身のこなしをするなんて考えられるだろうか。いや、無理だ。

 

「危ないなぁ…何をするんだよ」

 

「おい!避けるんじゃねぇ!」

 

「そりゃ、避けるよ。普通に考えてみてよ。殴りかかられたら誰だって避けるでしょ?それより、なぜ僕が君に殴られないといけないのか教えてくれないかな。事情を教えてくれないと、僕は何もできないから」

 

これはシンジが正しい。急に誰かから殴り掛かられたら避けるのが当たり前だ。武術を嗜んでいたら受けをとるかもしれないが、まず中学生では無理だ。となると、必然的に避けるしかない。そして、なぜ殴りかかられたの理由を知りたく思うだろう。相手の少年は土を払いつつ、シンジに向き合った。再び殴る気はないようだが、息は荒くなっている。健全なコミュニケーションを望みたい。

 

「わしの妹が、お前のせいで大けがしたんや!」

 

「それが僕となんの因果関係があるんだい?具体的に教えてくれないと」

 

「まぁ、トウジ落ち着けって。碇って言ったな、俺から説明するよ」

 

どうやら、もう一人の男子は説明をするためについて来たらしい。怒りに身を任せているトウジ少年では、十分な適切な説明ができないとの判断で、彼が説明してくれる。シンジはその男子から詳しい話を聞くことになった。

 

≪説明(中略)≫

 

「なるほど。僕が戦っている間にトウジ君の妹さんが使徒とエヴァ(僕)の戦闘に巻き込まれてしまい、大けがを負ってしまったと。それで、その戦いをした僕の責任なんだ。そう言いたいんだね?」

 

「俺じゃないからな。トウジだ」

 

「せや!お前のせいでサクラは!」

 

まるで大噴火を起こすような勢いのトウジ少年をシンジは哀れな目で見ていた。そして、シンジは己の本性を剥きだすことにした。このまま飄々としても事態は打開できない。ならば、己の本性を見せつけるしかない。もちろ、これはシンジにはかなりの勝機があった上での意思決定だ。

 

「そんなの、僕の知ったことではないね。元はと言えば、君の家族の避難が遅れたせいではないかな。使徒が出現すれば、間髪を入れずに避難命令が出される。早めに避難しておけば、巻き込まれることは絶対にない。それにだよ、僕はこの世界の人々の命と希望をこの一身に背負わされている。君の家族のことを優先したせいで、人類が滅んでしまっては意味が無い。もし、そうなったら君はどう責任を取ってくれるのかな?」

 

「てめぇ!」

 

「君は被害者の家族だから、その怒りの気持ちはよく理解できる。でも、僕は僕で背負っているものがあるんだ。それは理解してほしいね。ま、別に理解してくれなくても構わないや。どうせ、僕が戦わないとみんな死ぬんだから。さて、こんなくだらないことで時間を使うわけにはいかない。僕は失礼するよ。行こうか、綾波」

 

シンジは最後に言えるだけ言っておき、自分も仲間を召還した。

 

(おいおい、困るなぁ。いつから二対一だと錯覚していた?)

 

いつの間にかシンジの真横にはピッタリと綾波レイが引っ付いていた。これには2人の男子は目を引ん剝いて驚く。綾波レイはとても寡黙で挨拶も全くしない。当然ながらクラスメイト達との交流も無いに等しく、他者と関わるところを見たことがある者は誰一人としていなかった。しかし、現実として彼女はシンジにくっつき虫のごとく、物理的についている。

 

「碇君を傷つけようとする。許せない」

 

「いいんだ、綾波。彼に話をしておいたから、これ以上は時間の無駄だよ」

 

「わかった」

 

トウジ少年と同等かそれ以上に怒りを滲ませていた綾波だったが、シンジから宥められて落ち着いた。そして、見せつけるかのように腕を組んで、レイは頭をシンジの肩に乗せて歩き出した。その気になれば、シンジを殴れそうだが、レイからは冷えた空気が放出されている。今襲い掛かったら、逆に返り討ちにされるだろう。

 

シンジは今のことはサッサと忘れて、今日のSEELE定例会議について考えいていた。

 

続く




次回予告

次なる使徒出現に備えて訓練を重ねるシンジ

そのシンジの訓練の様子から、葛城ミサトと赤木リツコは妙な違和感を覚えた

家に帰ったシンジを監視するミサトは、その答えを見いだせない

SEELE定例会議に出席したシンジはこれからを老人と話し合う

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『あなたは何者なの…』


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あなたは何者なの…

本日二話目ですが、投稿の修正をするためです。先に投稿した話は昨日投稿するはずのものでしたが、サーバーダウンにより投稿できませんでした。よって、本日は昨日の分と本日の分で二話を投稿することにしていました。だから、こうなっています。


NERVのエヴァパイロットは学校生活ばかりに集中するわけにはいかない。何時使徒が出現するか全く予測できないので、厳しい訓練をたっぷりと積んでおく必要がある。シンジは学校を早退して、NERV本部にいる。訓練用のシミュレーターで使徒の戦い方を習っているのだ。

 

つい先日まで普通の一般人だった彼に本格的な訓練は「いくら何でも酷」と思われた。しかし、当の本人は乗り気である。それだけに留まらず、彼は非常に吸収が早かった。まだ使徒のデータが足りず、適当なシミュレーションになってしまうのが申し訳なく思う者は少なくない。

 

シミュレーションの監修をしていた赤木リツコ博士と訓練の見学に来ていた葛城ミサトの両名は、その様子を見ている。そんな中で、2人とも違和感を覚えていた。

 

「ねぇ、本当に彼は経験がないの?あの使徒戦だけ?」

 

「えぇ。少なくとも資料ではそうなっているわ。碇司令に呼ばれるまで、NERVもエヴァも何も知らなかった。それは紛れもない事実よ。でも、私も正直信じられない。ミサトの疑問は尤もね」

 

2人が見ている先でシンジはエヴァ初号機を駆り、使徒を撃破していく。前回の使徒戦で不甲斐ない姿を見せたのがウソのようだ。命の危険がある実戦と安全安心なシミュレーションでは緊張感等の環境面が大きく違うので、本来の力を出すことができているからだろう。それは間違っていない。間違っていないのだが、果たして、それだけの理由で片付けてしまってよいのだろうか?

 

「碇シンジ君は第三の少年として選抜されたチルドレン。最初から、生まれた時からエヴァ初号機に乗るためだけに育てられた。適性だけなら誰よりも高いわよ。やる気と適性が上手くかみ合ったと私は自己完結してるけど」

 

「それを差っ引いてもよ…どこかおかしい気が。私はリツコのように自己完結できるほど器用な人間じゃないから。さて、悪いけど、今日は早めに上がらせてもらうわ」

 

「あら、家で彼を誑かす気?」

 

「馬鹿言わないでちょうだい。監視と調査…暴きたいの。謎はね」

 

2人から色々と言われていることを碇シンジ本人は露知らず、淡々とシミュレーターで使徒を撃破していく。つまらない単純作業だが、やらないよりはやる方が遥かにマシである。彼は自分がエヴァに乗るためだけに育てられたのを逆手にとって、とことん適性を逆利用した。NERVに来るまでに、彼は誰よりも高い技術を身に着けていた。しかし、『能ある鷹は爪を隠す』の古人の言葉がある。そう、彼はまだ隠している。その気になれば初号機を意のままに操れるのだ。不甲斐ない戦いをした、あの使徒戦は単に演技をしていただけ。

 

訓練は順調に進み、決められた時間が経過して終わった。疲れたシンジをミサトは労わって、「今日は早上がりだから一緒に帰ろう」と言った。シンジは快諾して、一緒に家に帰ることにした。既にシンジはミサトと同居生活をしている。そして、そのミサトは人間らしい文化的な生活を取り戻していた。

 

 

~ミサトの家~

 

「いや~、シンジ君のおかげで随分とスッキリしたわねぇ」

 

「元がひど過ぎただけです。これでも、まだ足りないですよ」

 

ミサトの家はシンジが来るまで中々の地獄絵図だった。そこら中に物が散乱しており、食生活も荒れに荒れていた。見るに堪えないという言葉が世界で一番適切だろう。しかし、碇シンジ君がやって来たことで革命が起こる。散乱していた物は綺麗に収納され、捨てる物はゴミとして捨てられた。また、食生活も大きく改善される。シンジの真心こもった手料理が食卓に置かれ、ゴミ箱にカップラーメンが積み上がることは、遥か過去のことになった。こうして、ミサトはようやく人間らしい文化的な生活を手に入れたのである。

 

そして、その立役者が碇シンジ君、彼だった。

 

「ごめんなさい。今日は作れなくて」

 

「いいの、いいの。まだ慣れないエヴァの訓練で疲れているんだから。偶には楽をした方がいいわ」

 

今日は学校とNERV本部での訓練漬けでシンジは疲労困憊の状態にあったので、今日は彼に料理をさせなかった。料理をさせては彼の体に障る。体調を崩して、エヴァ運用に支障が出てはいけない。シンジの体調を第一として、ミサトとシンジは帰りにスーパーとコンビニに寄って、買ったものをそのまま夕食に出していた。

 

既に食事は済ませていて、今はダラダラと過ごす時間。

 

「シンジ君、学校はどう?」

 

「まぁ、特に何もないですよ。授業にはついていけているので、勉学に不安はありません。友達は…ボチボチ作ります」

 

「そう、ならよかった。あなたのクラスにファーストチルドレンがいるから仲良くね」

 

「はい、わかっています」

 

表向きでミサト達NERVはシンジの学校生活にはノータッチを貫いている。しかし、実際にはNERV職員が監視を行っている。シンジの一挙手一投足は全部筒抜けだ。何か特別なことがあれば、逐一ミサト達に報告されるシステムが構築されている。だから、ミサトはシンジの学校生活をよく知っている。よく知っているはずだが、レイとシンジが既にカップル的な関係になっていることまでは知らなかった。2人は恐ろしく賢いので、監視の目が届かない所を見つけて、そこでイチャついている。

 

「よいしょっと。僕は宿題をするので、その」

 

「わかっているわよ。あなたの邪魔はしないから。その代わり、ちゃんと宿題と勉強はやるのよ」

 

「はい」

 

シンジは中学校で出された宿題をしに自分の部屋に行った。ミサトだってシンジの勉学を邪魔することは絶対にしないので、釘を刺すだけに留めている。シンジの背中を見ていたミサトは、モヤモヤする気持ちを抑えれないでいる。

 

(やっぱり変ね。人間としては満点に近い子だけど、エヴァに乗った時は人が変わる。プライベートとNERVの差が歴然としているのはおかしい。リツコの言う通りで「エヴァに乗るためだけに設計されたチルドレン」と考えれば、それが一番の正解なんだけど。なんか…こう、彼の本質がにじみ出ている)

 

ミサトは伊達にNERV内で幹部職員を務めているわけではない。彼女の能力は非常に高い。洞察力と観察力、分析能力全てが群を抜いている。彼女の目で見た碇シンジは資料とは違う。多分だが彼の本質が原因と考えていたが、確証が持てない。確証を持てない以上は、それを答えだと断言することはできない。

 

「今日は飲むかな…」

 

これ以上考えるのはやめて、エ〇スの500mL缶を冷蔵庫から取り出した。

 

 

~深夜~

 

「こんな夜遅くだと、君の成長への影響が心配になる」

 

「ご心配には及びませんよ。先生。どうせ、僕は人を超えた存在になる予定ですから。今はドイツからの宅配便を待たないといけませんが」

 

シンジと冬月はSEELEの会議を行う秘密の部屋にいた。時刻は深夜1時を回っており、中学生が起きているような時間ではない。しかし、彼はSEELEの副議長なので、起きて会議に出席しなければならない。彼が監視の目を掻い潜って動けるのは夜遅くしかないので、平日の会議は深夜に開かれている。

 

モノリスが点灯し、定例会議が始まる。

 

「シンジ副議長…使徒の撃滅。ご苦労だったな」

 

「まずは一つです。次からはもっと効率よくやります」

 

SEELEの第一段階は全ての使徒の撃滅だ。使徒を撃破しなければ、人類補完計画の発動はできない。

 

そこで、老人はシンジを労った。

 

「それでだが、君のエヴァ初号機の改造計画を提案したい」

 

「ほう…興味深いですね」

 

モノリスの一人が面白い提案を行った。エヴァ初号機の改造計画たるものとは?使徒を倒すためにはエヴァじゃないといけないは周知の事実だが、そのエヴァには問題が多い。あまりにも多いので書ききることはできない。

 

「北米NERVのS2機関だが、これを我々のほうで君の本部へ輸送させる。ゲンドウの方には予備パーツとして言っておくから、君がすることはない」

 

「エヴァ初号機に限らず、全てのエヴァは外部電源と内部電源に頼っている。どうしても行動に制約が生じるのが現実だが、この制約をS2機関で廃する。君のエヴァだけは縦横無尽に動いてくれないと困るからな」

 

「お心遣い感謝します」

 

「北米NERVは時期が来れば完全に消滅する。証拠は残らんから安心してくれ」

 

シンジは悪い笑顔を浮かべた。モノリス達の顔は見えないが、彼らも悪い顔をしているだろう。

 

まさに、みんな仲良しなSEELEだ。

 

続く




次回予告

僅か一週間と数日で再び使徒が出現する

シミュレーションで戦ったものとは異なる使徒

いつも通りに戦おうとするが、地上にはシンジのクラスメイト達が

シンジはどう戦うのか?

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『その身をもって知れ』


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その身をもって知れ

ランキング56位に入りました。ありがとうございます。

※前もお知らせしましたが、使徒戦は一部を除きサクサク進めます


~指揮所~

 

「あれから一週間と数日か。使徒もタイミングの重要さを理解し始めたと見るべきなのかもしれん」

 

「使徒は飛行型でATフィールドを展開しつつ侵攻してきます!」

 

先の使徒出現から一週間と数日ほどおいて、再び使徒が現れた。十数年ぶりに使徒が現れたかと思えば、今度は短いスパンで来るとは。使徒もタイミングと言うのを理解したらしい。

 

「予め、エヴァ初号機は配置についています」

 

「考案した待ち伏せ戦術が通じるといいけど」

 

使徒出現に合わせて、エヴァ初号機は隠密出撃をしていた。初号機は装甲ビルの陰に隠れており、待ち伏せ戦術を採用している。使徒に真っ正面からぶつかるのは勝算がよろしくないと判断して、不意打ちを狙っているのだ。ただの待ち伏せでは見破られるかもしれないので、別方向から無人砲台が攻撃をしており、使徒の注意を引く。その隙を突いて、一気にケリを付ける。もちろん、肉弾戦をするのではない。ちゃんと、戦争道具としてガトリングガンを持っている。

 

「いいわね、シンジ君。シミュレーション通りよ」

 

(はい、わかっています)

 

エヴァでの銃撃訓練は嫌ほど積んでいるので、シンジは極めて冷静だった。使徒が有効射程距離まで来たら、引き金を引く。もはや、シンジはただの作業と捉えていたのだ。同時に、その冷静な少年は…待ち伏せ戦術が失敗した時のことを考えていた。

 

 

~シンジ視点~

 

「来た…指示に従ってかな」

 

肉眼では確認できないが、NERVから送られるデータで使徒の動きを確認している。有効射程に入り次第にミサトから指示が出される手筈となっており、その指示に従って動くだけだ。両手で持っているガトリングガンには強力な劣化ウラン弾を使用している。これが当たれば、いくら使徒でもひとたまりもないだろうて。

 

そして、時は来た。

 

(今よ!)

 

「ふっ!」

 

シンジは覚悟を決めて使徒の目の前に立ちふさがる。そして持っていたガトリングガンの引き金を引く。圧倒的な連射速度を誇るガトリングは流石だ。たちまち、使徒に数え切れない量の砲弾が直撃して非常に濃い煙が場を支配する。それだけ直撃していることを示しているのだが、視界が著しく悪化した。使徒の状態を確認できないため、かなりリスキーだ。

 

それをいち早く理解したミサト。

 

(馬鹿ッ!見えない!)

 

「おっと」

 

シンジは「やっぱりね」と思いながら、エヴァを後方にジャンプさせた。急な行動に指揮所の人間は頭上にはてなマークを浮かべたが、その理由はすぐに分かった。初号機が立っていた地点周辺の装甲ビルは無残に切り刻まれたからだ。その下手人は、当然ながら使徒さん。使徒からは光の鞭が形成されている。恐ろしく切れ味抜群だ。あれは怖い。

 

(一旦後退して、体勢を立て直すわよ)

 

「はい」

 

言われたとおりに動いて、後ろの山まで下がる。そこでどう戦うかを考えようとしたが、エヴァの内部装置が警報を鳴らした。シンジは何事かと周囲を見回すと、山の中腹あたりに2人の人間が見えた。

 

「あれは…なんだ。あの2人か。どうしようかな、その身をもって知ってもらおうか」

 

(なんで!民間人が!)

 

指揮所でも逃げ遅れか何かで地上に取り残された民間人を確認したようで、大混乱に陥った。まさか地上に民間人が残っているなんて考えていなかったので、動こうにも動けない。避難させようにも使徒は待ってくれない。既に使徒は初号機を倒すために接近してきている。シンジ君はその民間人を庇うためにキツイ状況にある。

 

そこで、ミサトは驚愕の指示を出した。

 

(仕方ないわ…その2人をプラグに保護して。下手に避難させるよりは、プラグ内の方が安全よ)

 

(博打ね。エヴァにとっては不純物が混じるから、シンクロ率が下がるわよ)

 

(やむを得んだろう。許可する)

 

「わかりました…乗って、2人とも」

 

シンジは急いでプラグを排出して、民間人2人を保護する。ただ、この保護に時間を割きすぎてしまった。再シンクロを行う時には、もう既に使徒は眼前に迫っている。そして、その使徒は鞭を振るって来たのだった。民間人を保護した直後で初号機は無理な体勢だったのが災いして、避けきれず腹部を貫かれる。

 

「ぐっ…フィードバックが思ったより強い!」

 

「い、碇」

 

「黙っていて…その身をもって知れ。僕が何をしているかを!」

 

(シンジ君!退きなさい!その状態では満足に戦えない!)

 

ミサトは民間人をプラグ内に乗せていて且つ不利な状況である以上、戦闘の継続は不可能と判断した。このまま戦えと言うのは、あまりにも無茶が過ぎる。民間人がいるのだから、せめて安全なところで下したい。だが、それは指揮所内だからできる判断だ。これは世でよくあることだが、現場と上の判断は食い違う。

 

「お断りします。ここで倒さないと…意味が無いので」

 

(命令よ!シンジ君!)

 

ミサトの絶叫に近い声をシンジは無視して、反撃に移った。シンジの判断としては戦闘継続だ。安全地帯にまで後退して、民間人ことクラスメイト2人を下したいのは彼も同じである。しかし、後退するということは使徒をより引き込むことになってしまう。それだけリスクが増すのは言うまでもないだろう。NERVで満足に動かせるエヴァは初号機一体だけなので、リスク増加はかなり危険だ。多少の馬鹿をしてでも撃破する。

 

「『虎穴に入らずんば虎子を得ず』と習ったんだ!」

 

鞭のリーチの長さを活かして距離をとっている使徒には安易に近づけない。腹を貫かれていると尚更である。使徒も相手が来ると読んで、もう一つの鞭で切り裂こうとする。その使徒の攻撃速度を勝ったのがシンジで、迫りくる鞭を素手で捕まえた。装甲ビルを簡単に溶断してしまう熱々の鞭を素手で掴む。そんなことをするから、手が火傷し始める。手が焦げる強烈な痛みがシンジを襲うが、もう腹を貫かれているから知ったことではない。歯を食いしばって、雄叫びをあげて耐える。

 

それを後ろの方で見ていたクラスメイト2人は絶句するしかなかった。「黙って見ていろ」と言われていなくとも、2人は黙る。それだけ、目の前の光景は壮絶だった。碇シンジは使徒と戦うことで死にかけている。もしも、これが自分だったら?そんなことは考えたくもない。

 

「まずは一発!」

 

初号機は掴んだ鞭を離さないで、一気に自分まで引き寄せる。そして、引き寄せた使徒に渾身の蹴りをおみまいした。使徒は全力の蹴りで吹っ飛ばされ、装甲ビルに叩きつけられる。同時に初号機の腹部に刺さっていた鞭が抜けた。

 

まだ終わらない。

 

(初号機!プログレッシブナイフを装備!)

 

(意地でもやる気みたいよ)

 

(後でキツイ説教ね)

 

初号機は内蔵されている近接武器のプログレッシブナイフを取り出し、右手に装備する。そして、そのまま使徒まで驀進する。初号機に対して、使徒は二本の鞭を返してもらったので存分に戦える。リーチは圧倒的にこちらが長いから、それを活かさないわけがない。再び鞭を舞わせる。

 

「やれるもんならやってみろ!」

 

(アドレナリンの効果は凄まじいな。若いとは良いことだ)

 

シンジは舞う鞭を視認していたが、一切の回避行動をとらなかった。あの鞭を貰った時の痛みは強烈で常人なら耐えられない。しかし、今の彼はエヴァに乗っていることでアドレナリンラッシュとなっていた。

 

真っ正面から使徒に突っ込んだ初号機は二本の鞭で胸部と左目を綺麗に貫かれた。胸はまだしも、左目をやられたのでシンジの左目から血が噴き出してくる。

 

「この程度で!」

 

止まることを知らぬ初号機は使徒にタックルする勢いで突っ込み、右手のナイフを赤い球体にぶっ刺した。その赤い球体には大量の亀裂が入って、その直後に崩壊を引き起こす。

 

使徒は活動を停止し、使徒本体も崩壊を開始した。

 

~指揮所~

 

「パターン青消滅。使徒の撃破確実です」

 

「パイロットの回収を最優先。医療班急いで…ったく、あの子は」

 

誰にも聞こえない声で冬月はつぶやいた。

 

「上手くやれよ、葛城君」

 

続く




次回予告

使徒を撃破したシンジだったが、葛城ミサトからキツイ説教を貰う

シンジはミサトに反発し、2人の関係は劣悪になる

シンジの反発に耐えきれなくなったミサトは彼をを何度も引っ叩く

何度も何度も引っ叩き続ける…

次回 新世紀エヴァンゲリオン 「険悪」



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険悪

昨日だけで120人以上お気に入り登録者数が増えまして、何が起こったのか分かっていない作者です。えっと、とにかく、ありがとうございます。シンジ君の人類補完計画に向けて頑張りますので、お付き合い頂けると幸いです。

調子に乗っているので、今日は二話投稿します。




本部内にあるパイロット用の更衣室でシンジはミサトから呼び出しを受けていた。先の使徒戦で大けがを負っていて、左目に包帯を付けている。目立った外傷はそれ以外には見受けられない。しかし、あれだけの大博打をして戦ったのだ。当然ながら、シンジは疲労困憊の状態にある。彼の本音を探ってみるなら、「早く家に帰りたい」であろうて。そんな中でミサトから呼び出され、更には一切の労いの言葉なく説教をされるなんて。

 

「碇シンジ君…今回は運良くを使徒を撃破できたけど、あなたがしたのは、れっきとした命令違反です。いくらあなたがエヴァ初号機のパイロットでも、私の命令に従わなければなりません。私はあなたに後退を命令しました。でも、あなたは真逆の行動をとった」

 

「あの場で後退していれば、それだけ使徒をここ(本部)に近づかせることになりますよ。まだ初号機しか動かせない状態で、ムザムザと使徒を引き込ませるのはあまりにも危険です」

 

「そんなことをあなたが考える必要はありません。あなたは私の命令に従いなさい。今回、あなたが使徒に勝てたのはあなたの実力じゃない。ただの運よ。しょうもない運勝ちよ」

 

シンジは思わず笑ってしまった。使徒を撃破したのは、誰もケチをつけることができぬ事実だってのに。そして、実際に撃破したのは言うまでもない。エヴァ初号機と自分なのだ。もちろん、命令違反と独断専行をしたのも紛れもない事実であるから、彼女から怒られるのは承知の上だった。それでも、勝ちは勝ちなんだから、何もそこまで怒ることはないだろうに。

 

「運も実力の内ですよ。勝ちは勝ちです。誰が何を言おうと、ミサトさんが何を言おうと僕の勝ちです。こうしてミサトさんが僕に説教できているのが何よりもの証拠です」

 

「あなたねぇ…あなたは私の指揮下にあるんです!ここは学校じゃないのよ!NERV!」

 

「えぇ、指揮には従うのが普通です。でも、あの状況で僕がした判断の方が正しいと思います。それに元はと言えば、絶対にいないはずの民間人が地上に取り残されていることがおかしいでしょう?まさかですが、避難所から脱走したとは思えません。NERVの警備はそんなザルじゃないですよね?」

 

シンジは含みのある言い方をし、それを受けてミサトは頬を引き攣らせる。あの民間人(シンジのクラスメイト)は逃げ遅れではなかったからだ。なんとまぁ、彼らは避難所から脱走したらしい。本人たちがそう言っているのだから、そうなのだろう。しかし、これはとんでもない事件だ。NERVの警備体制が根本から揺らぐ、言い逃れのできない重過失でしかない。

 

「僕が存分に戦うためには、環境を整えてもらわないと困ります。僕だけじゃありません。将来的に戦力に加わる零号機とファーストチルドレンも同じです」

 

「くっ…話をすり替えない!子供が調子にならないで!」

 

バチン!!

 

(はぁ…面倒な仕事だよ。本当に)

 

シンジは極めて殴りに近いビンタ、強烈な引っ叩きをミサトから貰った。受けの体勢をとっていなかったので、大きく体を崩すことになる。更には左目の傷が完全には閉じていないため、左目がズキズキ痛む。けが人にこの仕打ちは酷すぎる。

 

「それで満足ですか…ミサトさん。確かに、僕のしたことは命令違反で背信行為です。しかし、実際に戦っている僕の考えも尊重してほしいですね。何回でも叩いてもらって構いませんが、これだけはミサトさんに要求させてもらいますよ。絶対に譲りません」

 

シンジは妥協した。いくらでも怒っていい。いくらでも殴ればいい。その代わり、ミサトには現地で戦う自分たちパイロットの考えを尊重してくれと。シンジはこれから仲間が増えることを見越して、自分だけでなく仲間も戦いやすくなるように配慮したのだ。

 

したのだが、それは燃え盛る炎に極めて可燃性の高い燃料を投下することになってしまった。ガソリンなんて比ではない。

 

「大人を馬鹿にしないで…これだから子供は!!」

 

バチン!

 

バチン!

 

バチ…

 

バ…

 

 

シンジは再び引っ叩きを貰った。一回だけに収まらず、ミサトは両手で何度も叩きに叩く。シンジには一切の隙を与えない。ミサトの激怒でパワーが倍になっていることも相まって、シンジの両頬は見る見るうちに赤く腫れていく。とてもだが見てられない。

 

「ただのチルドレンが図々しい!素直に言うことを聞きなさい!」

 

延々と続く引っ叩きにシンジは辟易し始めてきた。あれだけ貰えば痛覚が麻痺しているので、もはや体が左右に揺れるぐらいしかない。左目に関しては傷が酷くなっても、将来どうにかなるので気にしていない。碇シンジの魂さえ残っていればどうとでもなる。

 

この更衣室には監視カメラの類は無いので、ミサトの体罰もどきが見られることは無い。体力の続く限り、彼女はシンジのことをぶっ叩き続けることができてしまう。時間がミサトの激怒を解決することを待ち続けるかと思われた。

 

その時、救世主が遅れて登場した。

 

「いい加減にしなさい。葛城ミサト二佐」

 

「冬月…副司令」

 

「ただでさえ左目が失明状態であり、体は疲労困憊にある彼だ。その彼をこれ以上傷つけるのはNERV副司令として許せんよ」

 

「しかし!」

 

ミサトは上官の冬月コウゾウが現れてぶっ叩きを中止したが、シンジのことを離そうとはしなかった。気が済むまで離さないという鉄の意志が感じられる。しかし、そんなことは冬月には関係ない。彼の立場的として、サードチルドレンの碇シンジに対する葛城ミサトの行動は看過できない。

 

「いい加減にしないか。君の叱責は職務として当然のことだが、誰も体罰を与えろとは言っていない。それ以前に誰も君に体罰をする権利を与えていない。もし、それ以上するならばだよ。私は正式に君を罰することになるぞ」

 

冬月は元から低い声を更に低くして、冷酷な空気を纏わせた。さすがにNERVのナンバー2である冬月から言われては、ミサトは引き下がらざるを得なかった。シンジはやっとこさで解放され、背後のロッカーに寄りかかる。頭がグワングワン揺れたので三半規管が狂ってしまい、真っすぐ立つことができなかったのだ。

 

「シンジ君には私からもよく言っておく。今回は大目に見なさい。シンジ君、すまんが私の部屋の前で待っていてくれ。今回のことだけでなく、様々な方面で話さないといけないことがある」

 

「はい。わかりました」

 

シンジは冬月に対しては非常に従順であり、素直に言うことを聞いた。そのまま彼は更衣室を後にした。現場にはミサトと冬月の2人が残る。ミサトは冬月に弁明しようとしたが、冬月の方が早かった。

 

「葛城君、私から君に忠告しておこう。自分の復讐のために彼を利用するんじゃない。くだらないことで、彼を消耗させるな」

 

「…」

 

冬月は最後に言い残して、シンジの後を追うように更衣室から出て行った。最終的に独りぼっちとなったミサトは、真横に置かれているロッカーに思いっきり拳をぶつけた。

 

ジーンとした痛みが彼女の手を支配する。

 

 

~?????????????????~

 

上を見れば延々と広がる青空。その空に向かって紫煙が揺らいで昇っていく。

 

「まさか碇司令の息子が俺の主なんて…思いもしませんでしたよ。仕事はユーロNERVの動向を監視するだけかと思えば、こんなブツを仕入れて来いとは」

 

1人の男が空を仰ぎながらタバコを吸っている。これだけの青空なら、さぞかしうまいタバコを吸えているかと思いきや、肝心の味はまったく分からなかった。

 

「シンジ副議長。アダムはあなたにお届けします」

 

続く




次回予告

あの後、シンジがミサトの家に戻ることは無かった

シンジは恩師の冬月と夕食を共にしていた

食事の場は会議の場でもある

2人が語る人類補完計画

全ては碇シンジの手に

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『恩師と語りや人類補完計画』


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恩師と語りや人類補完計画

2本目の投稿予約をした直後に今日のアクセスを見た作者

(。´・ω・)?
  
( ゚д゚)ハッ!
  
( ;∀;)

(´;ω;`)ウッ…


本当にありがとうございます




あれから数時間後が経ち、夜になってもシンジはミサトの家に戻らなかった。では「シンジは行方不明なのか?」と聞かれれば、答えは「違う」だ。ミサトには事前にメールで連絡が入っていて、シンジ君は冬月コウゾウ副司令の家にいるらしい。どうやら、シンジは今日は家に帰りたくなかったようだ。

 

至極当然の行動だ。

 

あれだけ叩かれて、家に帰りたくないのは誰もが納得できる。

 

~冬月家~

 

「まだ跡が残っている。もう少し早く助けに行けばよかったかな?」

 

「いえ、あのタイミングが最高でした。十分に葛城ミサトの人間を見ることができ、あの人の強みと弱みを知れたので」

 

「そうか、それにしては犠牲が多かったな」

 

シンジの両頬は正常に戻っているが、ほんのり跡が残っている。また、左目の状態が悪化している。傷が開いてしまったようで、包帯に若干ながら血が滲んでいる。彼の左目は失明に近い状態で、全治2週間から3週間だとドクターから言われていた。いくらNERVの医療を以てしても、目を瞬時に治すことは難しい。

 

家のリビングでは大きなテーブルが置かれていて、料理が並んでいる。

 

「一応、私なりに君の身体を気遣ったつもりだが」

 

「先生のお心遣いが身に染みます。すいません、ご迷惑をおかけして」

 

「なに、構わんよ。君の身体が一番だ」

 

シンジは冬月家に身を寄せていて、冬月と夕食を共にしていた。その夕食の内容は彼がいち早く体を治すことを第一として、野菜が中心の栄養満点の食事をなっている。無論、栄養をたくさん摂取したところで治りが早くなるとは限らない。まず、病状が悪くならないのは確実だ。並ぶ野菜料理は近所の総菜屋で買ったものである。まさかだが、視界が狭くなっていて且つひどく疲れているシンジに料理をさせるわけにはいかない。だから、総菜屋を利用した。冬月が作ってもよかったが、料理に年齢が出るのでやめた。

 

「さて、2つほど君に言っておくことがある。NERVでは話せなかったことだよ」

 

「なんとなくの予想はついていますが、何ですか?」

 

彼に話すべきことは、ミサトの説教後に冬月の執務室で既に伝えていた。しかし、NERV本部で話せることに限られていた。世界最高峰の組織の総本山たるNERV本部は諜報対策がバッチリ二重丸のはずなのだが、古人は『壁に耳あり障子に目あり』と残している。古人の言葉は現代にも通ずるので、話したいこと全部はまだ伝えきれていなかった。

 

「まず一つ。キール議長は初号機予備パーツと改造パーツについて正式に承認した。建前としては2度の使徒戦でエヴァンゲリオンの有効性が示されたから、円滑な運用と万が一の事態に対応できるようにする。本音は君も知っている通りで、エヴァ初号機にS2機関を搭載するためだ。北米NERVが研究していた人工のS2機関を初号機へ移植する。彼らには悪いが、全ては君の人類補完計画のためだからな。そのパーツは3日後には到着する予定となっている。移植作業は赤木君と私の兵が行うから安心してくれ」

 

「エヴァの可能性を無限に広げることができるS2機関。これがあれば、理論上は無限にエヴァを動かすことができます。なんせエヴァ自体が無限機関となるから、その気になれば戦略兵器の運用も可能。素晴らしいです。あぁ、データは先生に渡します」

 

「すまんね。量産型エヴァンゲリオンにはS2機関が欠かせん」

 

「えぇ。捨て駒のエヴァとオップファー(犠牲)のエヴァには不可欠となっています。更に言えば、絶望と希望の箱舟の建造にも」

 

S2機関は何にでも使え、最強の汎用性を誇る。使徒だけが有するS2機関を端的に言えば、「無限のエネルギー機関」である。本当に夢のような機関で、エネルギーを無限に生み出すことができる。使徒が見たこともない、冗談のような攻撃をしてくる秘訣はこれに尽きる。莫大なエネルギーを無限生成できるので、戦略兵器をエヴァだけで運用することも可能との触れ込みだ。

 

そんなS2機関をエヴァ初号機に移植することで、一切の制限無く動かせるようにする。将来的にはS2機関の運用を拡大する予定であるから、データ収集のためでも初号機で使わせてもらう。

 

「先生の私兵は働き者ですね。ものを言わず、ただただ働くだけ」

 

「純粋な魂たる器のプロトタイプでも、よくやってくれるよ」

 

冬月は直下の部下だけでなく、彼直属の私兵を所有していた。その私兵はチルドレン達の監視、エヴァの修繕・改造作業などと多方面で活動している。ありとあらゆる面で働いてくれているのだが、その姿は一切が不明となっている。全員が専用装備に身を包んでいて、外見を見知ることはできない。だから詳細はもちろんのこと、大枠ですら明かされていなかった。幹部職員の葛城ミサト、赤木リツコや司令の碇ゲンドウでも知らない。

 

知っているのは冬月コウゾウと碇シンジだけ。2人だけの秘密。

 

「話を戻そうか。2つ目だ。ドイツの諜報員から連絡が来て、アダムの確保に成功したと。ただ、現在は碇の奴から頼まれた仕事もあるから、直ちに帰国することはできないようだ。諸般の事情を考えて、セカンドチルドレンの移送と併せて帰国する予定としている」

 

「順調に鍵が揃いつつありますね。碇ゲンドウのシナリオとは違う。この世界のシナリオで、人を捨てて新世紀の神となるのは僕です」

 

冬月は頷いてから茶を啜った。既にシナリオは書き替えられたどころか、元のシナリオは廃棄された。同時に新しいシナリオがこの世界に適用されていた。道中までは元と似ている点が多い。しかし、ある時点を境にして、元とはかけ離れることになる。その分岐に必要なカギが揃いつつあった。

 

シンジは野菜のゴロ煮を口へ運び、ちゃんと全ての歯を使って咀嚼する。将来、人を捨てるので体を考える必要性は薄いとしても、その時までは長い期間がある。期間内で病気をしては色々とマズイので、しっかりと食べることは重要だ。

 

「それと併せてのセカンドチルドレンの移送だが。君はセカンドとは、どう付き合うつもりだね?」

 

「あぁ。シリーズの内の一体ですか。僕に親和性を感じて、惹かれるように設計されているんでしたっけ?」

 

「そうだよ。今はユーロNERV並びにドイツ空軍に在籍しているから、むしろ逆だろうがな」

 

碇シンジはサードチルドレン、綾波レイはファーストチルドレンと呼ばれている。となれば、中間に当たるセカンドチルドレンがいる。そのセカンドは日本のNERV本部には在籍しておらず、欧州にあるNERV支部の一つのユーロNERVの一員である。チルドレンと言うのであるから、例に漏れずエヴァのパイロットだ。これは言うまでもない。

 

「まぁ、広範な裁量は君にあるんだ。好きにしなさい」

 

「付き合い次第で決めます。僕を拒絶するなら、それでいい。僕を受容するなら、それでいい。どっちにしろ、人類補完計画の発動のカギの一つですので、僕の手にいます」

 

どこかの矮小な男は世界の全てが自分の手中にあると思っているが、実際は違う。皮肉にも、実の息子に自分を含めた全てを握られている。ちなみに、その男は現在も本部で一人寂しく仕事をしている。先の使徒戦での民間人脱走事件が原因で、NERVの怠慢と重過失が発覚した。言い逃れのできぬ責任をSEELEから問われていて、偽りの誠意を見せるべく男は頑張っている。

 

残念ながら、既にSEELEは男を見限っているので、いつでも男を切ることができる。それでも、出汁は出せるだけ出しきっておきたい。搾り取れるだけ搾り取って、ポイする方が無駄がない。もったない精神やエコ精神は何にでも通ずる。

 

「君は悪い男だな」

 

「先生から教わったおかげですよ。先生には感謝してもしきれません。僕の恩師の冬月コウゾウ先生には」

 

続く




次回予告 ※時系列を原作より多少変化させています※

改造が行われるエヴァ初号機

その光景を見守るゲンドウと冬月

明日行われる零号機の起動実験でしきりにレイを心配するゲンドウを冬月はあざ笑う

(お前が実の息子を軽視して、愛することをやめたからだよ)と

そして、零号機の起動実験の日となる

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『既に子は父を超えた』


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既に子は父を超えた

えっとですねぇ。昨日でお気に入り登録者数が240人以上増加しました。驚きすぎて、昨日はあまり寝れませんでした。冗談抜きでビックリしています

※場合によっては、一部のメインの話を2500字ほどにすることがあるかもしれません。また、サブの話で1000字から2000字の話を投稿することがあります。サブは次回予告で告知しませんので、急に出てきます。以上のこと、ご了承ください。


「エヴァ初号機への改造。SEELEは随分と上機嫌なようだな。第三の少年相手だけには」

 

「…」

 

冬月とゲンドウは2人でエヴァ初号機の改造作業を眺めていた。書類上ではエヴァ初号機の内部電源の強化、外部装甲版の増設など全般的な改造となっている。盛り沢山の内容の中で一番重要なコアの強化だけ妙にぼかされているのは怪しいが、元々使徒をコピーしたエヴァ初号機は未だに不明な部分が多い。ぼかしているのではなくて、コアについてわからないのかもしれない。

 

まぁ、この老人は正体を知っていたが。

 

「例の民間人脱走事件にSEELEはお怒りだぞ。エヴァは目立つから仕方ないが、人類補完計画の片鱗でも知られたら堪らん。同じことがないように私も尽力しているが、お前も力を入れてくれ」

 

「あぁ。分かっている。既に職員を倍増させて対応しているところだ」

 

対応としては、避難所等の民間人が出入りする区画の警備体制を数段階引き上げ、警備の職員を爆増させている。職員の増員だけでなく、抜け道となるようなダクトや配管にはセンサーを設置し、人が入れない所で定期的に無人ドローンが巡回を行うようにしている。ここまでやっておけば、脱走は難しいと思われる。

 

「それより、今は明日の零号機の起動実験だ。使徒と戦うにはエヴァ初号機だけでは足りん」

 

「一機でもエヴァが多ければ、それに越したことは無いからな。零号機が初号機のように大人しく言うことを聞いてくれることを祈るばかり。ま、お前は実験の成功よりも、レイ君の無事を願っているだろうがな」

 

「冬月、当たり前のことを言うな。私にとってレイはユイの形見と言える」

 

「あれだけユイ君の遺物を燃やした男が、今さら何を言う。お前はよくわからん」

 

ゲンドウは今行われている改造作業よりも、明日のエヴァ零号機の起動実験のことを心配していた。確かに重要度では後者の方が高いから、まぁ分からなくはない、しかし、心配している対象がパイロットだったのはいただけない。実の息子もパイロットなのに、違うパイロットのことばかりを心配していた。そう、ゲンドウはレイばかりを贔屓していたのだ。彼女が怪我をすれば誰よりも早く駆け付ける。シンジが怪我をしたときはお見舞いには行かず、代わりの品も送らない。何か仕事をすれば、シンジではなく、レイのことを褒める。

 

待遇に差がありすぎて笑うどころか、怒るも泣くも何もできない。非情な男ということは有名だが、ここまでとは。

 

「碇…少しは自分の息子と向き合うことをしたらどうだ。今のままだと、いつか寝首を掻かれるぞ」

 

「掻かれる頃には、私は人を望んで捨てている。高潔な存在となった私に勝てる者は誰一人としていない」

 

「そうか(嘲笑)」

 

(お前のその強みでもあり弱みでもある所が、シンジ君に突かれることになったのだよ。既に子は父を超えている。お前の冷酷さとユイ君の優しさの両方を併せ持ち、私の老獪さを得てしまったシンジ君は誰よりも強くなっている。力ではなく、智で勝つ。ここで碇と差がついたな)

 

今までの行動でシンジはゲンドウ並みに冷酷な人間に思われがちだが、それは半分正解で半分不正解である。無関心な人物に対しては彼は恐ろしく冷酷で、「どうなってもいい」と思っている。しかし、彼が好いている又は恩を感じている人物に対しては温厚で、「この人は救済する」と思っている。イソギンチャクと似ている。外敵の魚には容赦なく棘を刺すが、仲間のクマノミは手厚く保護する。

 

この後、2人は会話を続けることは無かった。

 

ただただ眺めていた。

 

 

~翌日~

 

NERV本部のエヴァ実験施設では零号機が実験のために運び込まれ、シンクロの準備がされていた。装甲ビルを構成する特殊装甲版で零号機を囲んでおり、万が一の事故に備えている。零号機は初号機よりもっと聞かん坊で、これまで幾度となく暴走を起こしている。仮に暴走を起こされても、職員に被害が出ないようにカチカチの部屋に閉じ込めている。もちろん、外から見えなければ意味がないので、超強化透明版で見学できるようにしている。

 

「レイ君には何か言っておいたか?」

 

「気の利いたことは言っていません。ただ、リラックスして落ち着いていれば大丈夫だと伝えました。零号機にも手入れをしてあるので」

 

「暴走事故を起こして、また大けがは笑えん。レイ君は君と幸せに過ごして欲しい。爺としての心さ」

 

今度は冬月とシンジが見学をしていた。昨日と極めて構図が似ているのは面白い。しかも、隣にいるのは昨日の男の息子なのだから、より一層だ。さて、2人が話している内に準備は順調に進んで行く。初号機で実戦経験を積んだ職員たちは、実験程度の準備でも実戦並みに素早く動いていた。

 

既にレイはプラグ内におり、零号機に入っている。あとはシンクロを開始して、それを維持するだけ。起動してからある程度の時間エヴァを安定状態で維持できれば、今回は成功となる。その間は見守っているだけで何もしないなんて話があるわけがなく、赤木博士を中心としたチームがデータ採取を行う手筈となっている。エヴァ零号機は初号機と同じく初期型のエヴァに該当するので、取れるだけのデータは取っておきたい。

 

「お、始まったようだな」

 

「念のために下がっておきましょうか」

 

実験開始のアナウンスが入ったので、意識を集中させる。ただし、やはり事故が怖いので三歩程下がることにした。2人が見学している所は単に見るためだけ。よって、実験が順調なのかを窺い知ることはできない。ここから見た感じで判断する。

 

前回、零号機は盛大な暴走事故を起こしていたので、2人は緊張して見守る。

 

~15分後~

 

(規定時間をクリア。パイロットはシンクロ率20%台を維持し、零号機は安定状態にあります。起動実験は成功です)

 

「ふぅ~。これは老いぼれの心にくる」

 

「なんとかなりましたか」

 

実験の規定時間を超えて、最低限の時間はクリアした。ただ、行けるところまでは行きたいので実験を終わらせないで継続することになる。

 

見ていた2人はアナウンスを受けて、ホッと胸をなでおろした。この実験が成功してくれないと、色々と困ることが多かったからだ。

 

「エヴァ零号機は将来的にアドバンスド・エヴァに改修予定。ここで足止めを喰らうわけにはいかん」

 

「アダムスの器を統率する。零号機は全てのエヴァの母ですね」

 

「そう、全てのエヴァの始祖たるエヴァ初号機と対になる存在。さらに言えば、アダムスの器だけでなく、量産型エヴァをも従えるだろう。君の言う通りだ。ありとあらゆる、まさに全てのエヴァの母となるのが零号機。君の話を聞いたときは、私は驚く以外に反応できなかった。私は君に碇の計画と『表・裏死海文書』を教えただけなのだがな」

 

冬月はとてもとても愉快そうな顔をした。それを見てシンジもまた違う愉快そうな顔をした。2人が話している内容は誰が聞いても愉快には思えないだろう。愉快に思えてしまうのは、この2人だけ。

 

「零号機は次の使徒戦に投入できそうですが、初号機はどうなっていますか?」

 

「君が心配せずともよい。無事に改造作業は終了している。赤城君や葛城君には機能全般の強化としか伝えていない。誰にもS2機関のことは言っていないから、安心してくれて構わない。一応、内部電源は存在しているが非常電源扱いに変えておいた」

 

「作業が早いですね」

 

「もちろんだ。使徒はいつ現れるか読めも出来ん。初号機だけでもいいから、満足に戦えるようにしないといけない。できないと、計画以前の問題になる」

 

「左様で」

 

かくして、零号機の起動実験は完全な成功で完了した。延長を経て実験終了となり、プラグが排出され回収される。そのプラグからレイが出てくる。レイはシンジを目ざとく見つめて、彼に向かいニコリとほほ笑んだ。シンジがレイの笑みを見逃すはずがない。

 

「ちゃんと見ていたよ。僕の可愛い天使」

 

続く




次回予告

零号機の起動実験成功でNERV本部はエヴァ二機体制となる

戦力が格段に向上したNERVだが、使徒も進化を果たしている

海上より侵攻してくる新手の使徒

プリズム状の綺麗な使徒は、裁きの光線を放つ

打つ手なしかと思われたが、ミサトが起死回生の策を出す

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『美しい裁きが下された』


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【サブ】ただいま

今回はサブです。サブなので、文字数は1000字少々となっています。

※試験的にミサトさんだけセリフを極一部を変えています。原作のセリフ寄りにしたつもりです。読み辛い等のお声がありましたら、戻します。


「ただいま戻りました」

 

「おかえりなさい…その」

 

一日ぶりにシンジがミサトの家に帰って来た。シンジは冬月の家に泊まって、朝はそのまま学校に向かった。今日は本部で訓練も何も無いので学校からミサトの家に直帰を果たす。ミサトはシンジが帰ってくるなり、玄関で彼を迎えた。

 

「いいんです。僕は命令違反を犯して、独断専行をしました。それは紛れもない事実です。言い逃れは一切しません。ミサトさんの叱責は尤もな行動です」

 

「そう…でも、私もやり過ぎたわ。あなた達エバーのパイロットの現地判断を尊重すべきだった。ごめんなさい」

 

シンジは笑ってミサトの謝罪を受け取った。受け取らないのは非礼に当たるが、その受け取り方も場合によってはもっと非礼になる。ミサトの真摯な謝罪を真面目に受け取るのは、別に非礼ではなくても後味が悪い。だから、シンジは笑った。シンジの笑顔は純真無垢な少年の顔にしか見えない。彼の中を、笑顔の底を知ることは、到底無理だろう。

 

「まだ使徒はいるんです。これからを考えて、僕たちにも少しでいいので裁量をくれると嬉しいです」

 

「それはもちろんよ。碇司令と冬月副司令の両名から直々の許可をもらったから、エバーのパイロットには戦闘における裁量が認められた。大きな作戦には従ってもらうけど、イレギュラーの事態に対応する場合には、あなた達の判断を優先します。約束する」

 

先の使徒戦の反省点として、「現地判断と指揮所の判断どちらを優先すべきか」があった。その終着点として、「現地で戦うパイロットの判断を限りなく尊重し、イレギュラー発生などの特に緊急を要するの場合にはパイロットに優先権が認める」とされた。指揮所でああだこうだ言っている暇があれば、パイロットが現地判断で動いた方が遥かに良い。このパイロットへ裁量を認めることは葛城ミサトがではなくて、NERV司令の碇ゲンドウと副司令の冬月コウゾウ両者が直々に認めた。さすがに司令と副司令の2人が認めれば、誰も文句を言えない。

 

「夕食はまだ準備すらしてないですよね?あのミサトさんですから」

 

「嫌な言い方だけど、その通りよ。ちなみに、部屋は綺麗に保っていたからね」

 

「そのようで安心しましたよ。割と本当に」

 

シンジの目から見ても、ミサトの家は清潔に保たれている。彼が最初に来た時の彼女の家は、とても文化的とは言えなかった。この碇シンジの手によって、彼女は家共々に人並みの生活を送るようになる。

 

しかし、一日ほどシンジが家から離れていたので、ミサトだけが家にいることになっていた。それが如何に危険かはご理解いただけるはずだ。幸いにも、シンジが離れていたのが一日だけだったため、家は安全なシェルター機能を維持しているようだ。一日だけでも心配になることが変なのだが。

 

これを鑑みるに、あのミサトにしては頑張った方だろう。アルコールの暴飲をしないで、カップラーメン等の不健康な食事をせずにしていたのだから。いや、一般的に考えれば普通の生活だが、彼女を知る者なら驚嘆してもおかしくない。事実として、ミサトの生活が劇的に改善されたことを知った者は一様に「信じられない!」と言ったらしい。これはNERV内ではとても有名な話である。

 

「ほら、いつものようにリビングでテレビでも見ていてください。僕が夕食の準備をしますから」

 

「えぇ。そうするわ。なんて、問屋が卸すわけないでしょ?私が補助ぐらいはするから」

 

2人は切り替えて、いつも日常に戻る。基本的な家事はシンジが請け負っていて、夕食は当然ながら彼が作る。しかし、まだ左目は見えていない。右目しか使えないので、視界はかなり狭まっている。そんな中で刃物を扱うのは危なっかしいとミサトは考えて、【補助】をすることにした。あくまでも【補助】である。料理を最終的に決めるのはシンジなのは変わらない。

 

なぜか?

 

答えは簡単。

 

ミサトに料理をさせてはならない。

 




今日中にメインの話を出します。メインの話は次回予告通りです。


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美しい裁きが下された

今回はメインの話ですので、いつも通りです。

※今更なんですが、偶に地元の方言が入ってしまうことがあるので、変な日本語があればご報告してくださると助かります。


「使徒、相模湾から侵攻中!」

 

「沿岸要塞の砲撃は継続していますが、有効打を与えられていません」

 

「美しいな。使徒も見た目を考える生き物なのかもしれんか。生物学者の端くれである私にとっては、とても興味深い」

 

やっとのこさでエヴァが二機体制となったところに、使徒が出現した。今度は海上より侵攻してきている。逐一出現して侵攻するルートを変えてくるのは面倒極まりない。今回の使徒は、中々珍妙な形状をしている。人間の感覚・感性で見れば非常に美しい形状だが、使徒として見れば逆に変だ。使徒はこれまで怪物らしい姿をしていたのだが、急にビジュアルにこだわって来ている。

 

「正八面体をしている。例えるなら、プリズムのような見た目ね。使徒も美を理解したのかも」

 

「もしそうなら…随分と余裕ぶっこいてくれるじゃない」

 

指揮所内のメインモニターに映し出される使徒は綺麗な正八面体をしていて、光を反射するほどに美しい色をしている。これが美術品だと言われても、疑う者は誰一人いないぐらい。もっとも、MAGIはパターン青で「使徒」と断定しているのだが。

 

「水際での防御はまず無理ね。無人砲台で何とか足止めしたいけど、強力なATフィールドで阻まれる。沿岸にエヴァ二機を配置しても、相手が分からない以上は戦いようがない」

 

これまで見て来た二体の使徒とは全く違うので、安易にエヴァの出撃とは言えない。相手がどのように動いてくるのかを知ることができなければ、とてもではないが戦えないだろう。腕も足も顔も何もない、ただの正八面体がどう攻撃してくるのか?攻撃手段も全てが分からない以上、水際での防御は愚か者のする判断だろう。

 

幸いにも沿岸要塞は生きているため、撃てる限り攻撃を行う。無人砲台は文字の通りで無人のため、いくらでも捨て駒にできる。これまでは沿岸要塞の速射砲やロケット砲による攻撃だったが、一秒でも足止めをしたいので一段階ベクトルを上げることにした。内陸部の山に秘匿されている砲台から、ミサイルが数発放たれた。

 

「戦自のNN兵器も少しは役に立ってもらわないとね」

 

使徒に向かってNN巡航ミサイルが向かっていく。通常兵器の中で最強の威力を持つNN兵器は使徒の気を引くには十分すぎる。もちろん、ダメージを与えるには力不足である。しかし、その熱量や威力は使徒だって無視できない。何らかの方法で迎撃するなり、回避するなり、無力化するなりの行動をとる。つまりは、相手を分析するためにNN兵器を贅沢に使用したのだ。

 

飛んでいったミサイルは直撃コースに乗った。このまま行けば直撃してドカンだ。ATフィールドを張ればなんてことはない攻撃だが、一定時間行動はできなくなる。足止め成功となる。

 

さて、使徒はどうするのか?

 

あと少しで直撃。

 

「使徒が変形した!?」

 

「なるほど…コアを中心とし、周囲の外殻となる体を変形させることで柔軟に対応するわけね。進化が甚だしいこと」

 

使徒はずっと正八面体でいることはなかった。体を変形させて内部のコアを露出させる。コアを剥き出しにする代わりに、コアから360度の全方位へエネルギー砲を放ち、飛んでくるNN巡航ミサイルを全て自爆させた。

 

なるほど、これは賢い。

 

「攻撃を集中して。使徒を否が応にでも戦いに引きずり込むわよ」

 

あの使徒は自身を変形することで、攻撃と防御を高いレベルで両立させている。その攻撃も防御も何回も見たい。古人の所には「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と書かれている。NERVは自分達のことはよく熟知&理解はしている。しかし、今は敵を知らぬのだ。敵を知るために相手の動きをよく見て分析する必要がある。よって、無人砲台の総力を以てして攻撃を行う。多種多様な矛が向けられれば、使徒も多種多様な盾を構えざるを得ない。また、ずっとやられっ放しでいるわけにもいかない。必ず攻めの動きをしてくるはずだ。

 

ミサトの指示によって沿岸要塞の砲台は残弾を考えない砲撃にシフトする。さすがの使徒様でも激烈な砲撃には対応せざるを得ず、変幻自在に姿を変えた。時には盾の形となって砲弾を受け止めたり、砲台に向かってエネルギー砲を撃ち放ったりする。その光景は壮観であるのと同時に使徒の恐ろしさを嫌ほど教えてくれる。

 

「市内に引きずり込んでの決戦しかないわね…とりあえず、エヴァ初号機の発進準備を急いで」

 

「エヴァで戦うには早計が過ぎるわよ」

 

「ひとまず、エヴァに対する使徒の動きを見たいだけよ。偵察っていうのかしら、こういうのは」

 

無人砲台相手では七色の行動を見せてくれた使徒だが、エヴァに対しては行動パターンを変えるかもしれない。無人砲台相手だけの動きで相手を知った気になるのはとても危険だ。偵察のためにエヴァ初号機を出撃させることにする。あくまでも、相手を知るための出撃なので、出撃地点は使徒の近くではない。

 

職員は急いでエヴァ初号機の発進準備を進める。もう三度目となれば、発進作業のスピードは素早い以外に表現しようが無い。慌ただしく動く職員たちと逐一指示を飛ばす幹部職員たち。皆が動き回っている。

 

そんな中。

 

一人の老人は何となく嫌な予感がしていた。

 

 

~シンジ視点~

 

「改造されたエヴァ初号機の力を見せたかったけど、偵察じゃ出しようがないなぁ」

 

プラグスーツに着替えて正装のシンジはプラグ内で出撃を待っていた。ミサトの出撃命令から出撃までは、今までに比べれば格段に早くなっている。今回の出撃は使徒の偵察に限られていたので、彼にとっては不満に尽きた。せっかくパワーアップした初号機を全く活かせない。しかし、どんなに不満に思っても命令は変わらないし、それ以前に命令には従うもの。

 

「まぁ、いいや。また痛い思いはしたくない。そして、勝つならスマートに。そのためには情報が必要だからしょうがないか」

 

シンジだって血みどろの肉弾戦はしたくない。勝つならサクッと、できる限りスマートにやりたい。要はいかにして損害を最小限にして最大の勝利を得るかだ。あまりにも酷い戦いをしてしまうと後々の計画にも影響が出かねない。

 

(いい?シンジ君。あくまでも偵察だから。あなたが危険だと感じたら、すぐに退きなさい。撤退はあなたの判断を優先します)

 

「わかっていますよ」

 

初号機の発進準備は完了し、カタパルトまで移送される。山の裏側の区画に射出される手筈なので、仮に攻撃されても山で防げる。あの使徒は浮遊型で足も何もないので山を越えるのには苦労するはずだから、逃げる時間も稼げる。

 

無人砲台の砲撃が完全に終了するまでおよそ5分ほどかかり、終了するのと同時に初号機は射出される。Gが全身にかかるが、もう慣れている。それだけGがかかるのは、超高速で移動しているということ。その証拠に僅か数秒で地上の山の後方に射出された。

 

あとは偵察に入ろうとした時だった。

 

「使徒は…っ!?」

 

初号機のプラグ内でシンジが息に詰まるのと同時に指揮所では今まで以上の緊張が走る。

 

 

~指揮所~

 

「使徒内部に超高エネルギー反応を確認!」

 

「今までの比じゃありません!」

 

「やばい!シンジ君、逃げてっ!」

 

MAGIが使徒内部(コア)にて、とんでもない強さのエネルギーを観測した。その強さはこれまで見て来た使徒の比ではない。巡航ミサイル迎撃のためにエネルギー砲を撃ち放っていた光景がミサトの脳裏に蘇り、使徒は超強力な砲撃を行ってくると予測した。

 

その予想は敵中することになる。初号機が裏にいる山に向かって、無慈悲の咆哮、無慈悲の裁きが使徒から下された。

 

「いかん!固定ボルトを全て爆破しろ!」

 

咄嗟に冬月が機転を利かせ、初号機が乗っているカタパルトを地上で固定するボルトを強制爆破するように指示した。余程の緊急時でなければ、こんな荒々しい手段は取らない。しかし、今回は誰の目から見ても緊張時に該当する。誰も異論を述べない。

 

使徒の裁きが山を焦がし、土砂や岩石を全部溶かしていく。初号機に裁きが下されんとする直前にボルト爆破が間に合い、初号機は一気に地下に戻っていった。まさに間一髪である。仮にコンマ秒ほど遅れていれば、初号機は断罪されていたことだろう。

 

「困ったことになったわね…」

 

NERVは想像以上に使徒が賢くて強いことを思い知らされた。あまりにも隙が無さすぎる。近づこうにも事前に察知されて、無慈悲の裁きが下されてしまう。かと言っても、遠距離からの生半可な攻撃ではATフィールドに阻まれるだけ。

 

本部は重い空気に包まれ、ただ時間が過ぎていくかと思われた。

 

「撤退した初号機はケージまで戻し、初号機パイロットは待機で休ませて。既定の職員は作戦会議室まで集まってちょうだい。策を練るわよ」

 

ミサトは切り替えが誰よりも早く、矢継ぎ早に指示を飛ばした。まずエヴァは現段階では投入できないのは明白だから、いつでも出せるよう待機状態にしておく。そして、起死回生の一手を打つための策を幹部職員とオペレーター達などの既定の職員で考える。

 

とにかく、できることをやるしかない。

 

 

~作戦会議室~

 

「どうしますか?両手を上げて降伏でもします?」

 

「馬鹿言わないで。最後まで戦うわ…玉砕は考えたくないけど」

 

「そうは言っても。完全無欠の使徒をどう攻略する気?エヴァの主たる戦い方は封じられたわよ?」

 

確かに、あの使徒で近接戦は難しい。しかし、それは同時にエヴァの戦い方を捨てることになってしまう。原則は近距離での白兵戦を想定しているからだ。だが、それは「原則」である。何事にも「原則」と並んで「例外」が存在する。

 

「大まかな作戦は考えてある。戦自に協力をお願いするんだけど、なりふり構ってられないから我慢してね。放棄された秘匿兵器。陽電子砲ならエヴァで使えて、安全な地点から必殺の一撃を使徒に撃ち込める。葛城ミサトはヤシマ作戦を提案します。誰か対案ある?」

 

誰も手を上げない。発言もしない。

 

「では、今回の使徒撃滅のためにヤシマ作戦を正式に発動させることで合意とします」

 

続く




次回予告

発動された必殺のヤシマ作戦

零号機も投入されることになり、シンジとレイは共に戦うことになった

2人は月が明るい夜にお互いに抱き合う

人類の希望は2人に託された

そして、必殺の一撃が放たれる

しかし…

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『愛と力』


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愛と力

本話で章「序」が終わりますので、今回は長いです。

また、本作の闇シンジ君の本領発揮は「破」からなので、次章から結構闇度合いが増します。


「陽電子砲による超アウトレンジ攻撃…成功率はどのくらいなんですか?」

 

「MAGIの試算では10%を切って、まぁ、7%ぐらいあれば良い方ね」

 

「…」

 

「これぐらいしか、あの使徒を撃破する術はないのよ。どうか、お願い」

 

ミサトはシンジに作戦を説明していた。説明を受けたシンジは作戦の成功率に絶句するしかない。今までも場当たり的な戦いをして来たから特段驚くことではないと思われる。しかし、常識的に考えて、一ケタの成功率を提示されては驚いてもやむを得ない。

 

「その陽電子砲を戦自から拝借して、エヴァで運用する。誰が撃つんですか?」

 

「実は陽電子砲を含めた狙撃装備を使えるのはエヴァ初号機だけなの。だから、どうしてもシンジ君になる。あなたに任せるしかないわ」

 

NERVのエヴァは初号機と零号機の二機である。しかし、両機は根本的に異なっており、完全に同一の機体ではない。初号機は初期型エヴァに該当するが、とても高い拡張性を有している。エヴァ本体にプラスαの拡張装備を追加できるのだ。今回はアウトレンジの狙撃となるので、専用の狙撃装備を使用することになっている。そんな初号機に対して、やや試作機としての色合いが強く、拡張性が高いとは言えないのが零号機だった。零号機もエヴァであることは紛れもない事実だが、使い勝手が悪い。普通の携行兵装を使用することには全く問題は無いが、特殊な装備になれば難しい。時間が全く足りない現状で、零号機に無理やり狙撃装備を付けるのは困難だ。やるとしても、確実に数日はかかる。それはいただけない。

 

よって、必然的に初号機が陽電子砲を使用することになった。つまり、射手はシンジとなる。訓練では近距離での射撃訓練を積んでいたが、遠距離からの狙撃訓練は触りすらしていなかった。それもあり、シンジが若干不安に思っているのをミサトは感じたので、安心要素を伝える。

 

「大丈夫よ。面倒な演算から照準、射撃のタイミングまで全部コンピュータがやってくれるから。シンジ君は引き金を引くだけでいい。直前まで無人砲台が攻撃を行うから、使徒があなたに砲撃することは無い。仮に使徒が勘付いても、零号機が守る」

 

「わかりました。じゃあ、僕は何をしていれば?」

 

シンジは作戦開始までは「どうしていればいいのか」と聞いた。陽電子砲の用意を含めた狙撃陣地の構築やケーブルの配置等で時間がかかる。作戦発動から即時に動き始めていて、トラックやVTOLが走って飛んで、作業員が駆け回っている。発電所は規定量を超えた発電を開始している。しかし、その間にパイロットがすることは無い。せいぜい覚悟を決めておくぐらい。

 

「レイと話をしてちょうだい。レイにも作戦を伝えてあるけど、戦場に立つのはシンジ君とレイの2人なのよ。後悔をしないように、話せるだけ話してね」

 

「はい」

 

シンジはミサトと別れてトコトコとどこかへ歩いて行った。ミサトは仕事が大量にあるので、走って仕事場に向かって行った。既に陽電子砲の拝借について戦自との話し合いは終わっているが、とにかく早く準備をしなければならない。特に、陽電子砲の運用で必要な莫大な電力を確保する作業などの作業の現地指揮がある。

 

第三新東京市は総力戦の様相を呈している。

 

職員の中で休んでいる者は誰一人としていない。

 

いや、一人の老人は違った。

 

 

「ヤシマ作戦…超長距離での狙撃か。やれそうかね?」

 

「僕は引き金を引くだけですから。仮にイレギュラーが発生して外しても、第二射の再充電にS2機関を使います。初号機と陽電子砲を直結させれば、発射に必要な莫大な電力はS2機関で賄えます。外部電源と同時並行で充電すれば、第二射までの時間は大きく短縮できますし」

 

「君は良いとしても、盾役を零号機が務める。レイ君は?」

 

「この後話します。零号機の仕事はないように努力しますが、万が一がありますので。その時のことは考えてありますよ。ご安心ください」

 

シンジはヤシマ作戦について表面上は不安視しているようにしていたが、実際は余裕である。所詮は自分の書いたシナリオであるから結果は見えている。道中が多少変化するだろうが、結果良ければ全て良し。もちろんだが、シンジとしてはスマートに勝ちたい。

 

何のために初号機はS2機関を有しているのか?

 

使徒撃滅のためだ。

 

「そうだと思ったよ。後始末は私に任せてくれ。君は使徒を撃破するだけに専念すればいい」

 

「えぇ。お願いします。時間はありますし、先のことを確認しておきましょうか」

 

彼ら二人にとって今回の使徒は眼中に無かった。シナリオ通りに世界は進んでいるから、流れに身を任せていればどうにかなる。この使徒の撃破後には面倒な後始末があるし、とある人物たちの本部異動もあるし、SEELEの会議もある。これからの予定はテンコ盛りなので、時間がある限りは自分の側近と話しておきたかったのだ。

 

そうして話していれば、あっという間に時間が過ぎる。

 

気づけば、作戦開始時刻が近い。

 

 

~特設陣地~

 

月が照らしている。

 

誰を?

 

2人をだ。

 

「碇君…あったかい。これが…幸せ」

 

「そうだね。綾波は幸せを感じている。僕と生きることが、君の最高の幸せなんだよ」

 

「うん…私は碇君と生きることが望み」

 

シンジとレイは抱き合って、お互いに愛し合っていた。作戦開始までは1時間を切っていて、最後の挨拶をしていた。ミサトは気を遣って2人には自由で過ごすように配慮した結果である。作戦内容は漏れなく詰め込まれていて、シンジが陽電子砲の射手を務めて、レイがシンジを守る盾役をする。盾役をエヴァ本体だけで務めるのは無理なので、急造の大盾を持っている。何重にも装甲や超セラミックなどを重ねているため、短時間なら超高熱に耐えることができる。

 

「この使徒を撃破して、僕たちの未来を掴む」

 

「未来は自分たちの手で掴むもの」

 

月が照らす先にいるのは碇シンジと綾波レイの2人。

 

2人が掴むは永遠の未来。

 

そのために、あの忌々しい使徒を撃滅するだけ。それが2人のするべきこと。

 

協力者の助けは貰っても、最後は自分達でやる。

 

自分たちの力で掴むのだ。

 

誰にも邪魔されない世界を創るために。

 

話すことを止め、ただただ抱き合う。今生の別れでも何でもないのだが、愛し合う2人は抱き合っていたかった。時間が無限なら、ずっとこうしていたい。誰が2人を邪魔できるであろうか?そう言いたいが、現実は非情なりけり。

 

ピー!ピー!

 

「時間だ…行くよ。綾波」

 

「うん、碇君」

 

2人は月夜の中、エヴァに乗る。美しき夜に戦争なんて…考えもしたくない。でも、戦争は戦争なんだ。

 

これが現実。

 

 

 

初号機は特設陣地で伏せて陽電子砲を構え、専用の狙撃装備を装着している。零号機は初号機を守る役だが、射撃の邪魔になってはならない。いつでも駆けつけて、初号機を守れる位置で潜伏&待機している。二機から遠い前方では使徒が停止しており、ドリルで直下を掘っていた。どうやら攻防に特化させ過ぎた弊害で本部への侵攻は苦手らしい。真下に超高エネルギー砲を撃てれば良かったが、それは不可能なようだ。

 

(改めて言うけど、聞いてね。シンジ君は引き金を引くだけでいい。タイミングも全部コンピュータが自動で割り出してくれるから。レイはイレギュラーが起こった時の切り札よ。なんとしても彼を守って)

 

「はい」

 

「一発で決めれば問題ありません。任せてください」

 

(頼んだわよ)

 

初号機の後方に設置された塔型の装置が唸り始めた。関東中の発電所からかき集める電力はここに集中されて、一気に陽電子砲へ供給される。なんせ莫大で莫大な電力を集中させるので、装置への負荷は計り知れない。特にケーブルにはエゲツナイ負荷がかかる。最悪の場合は爆発することが予想される。そこでケーブルを余裕たっぷりに用意していた。一部が吹っ飛んでも供給に支障が出ないように余裕を持たせていたのだ。

 

「ふぅ…やるか」

 

シンジは意識を研ぎ澄ませて、狙撃用の装置を自分も装着する。それと同時に初号機の目の部分にも装着される。まだ左目が使えないので右目を主にしている。左目が使えないのは不便だが、右目だけに集中できると考えればいい。

 

(砲台の攻撃を開始します。砲台の損害は無視していい。焦らないで)

 

使徒に察知されてはおじゃんである。無人砲台からの集中攻撃で使徒の意識をくぎ付けにする。仮に使徒の攻撃で無人砲台に損害が出ても構わない。損害を気にして焦り外すより、最初から損害度外視でいる方が良いだろう。

 

使徒は無人砲台の攻撃に対応すべく変形しては迎撃、防御、反撃と忙しなく動いている。変形のたびに中央部にある赤い球体ことコアが見えた。あのコアを陽電子砲で撃ち抜く。手がブルブル震えそうになるが、驚異的な自制心で抑え込む。シンジでも緊張するときは緊張する。まだ人間なのだから。

 

(エネルギー供給完了!)

 

(射撃演算に異常無し!)

 

(発射準備、全て完了!)

 

陽電子砲発射のための準備が全て完了した。

 

後は…撃つ。

 

(カウント。10,9,8,7,6,5,4,3,2,1)

 

「行けっ!」

 

(発射!)

 

発射を告げる電子音が鳴るのと同時にシンジは引き金を引いた。銃口から必殺の一撃が飛んで行く。人類が使徒に対する裁き。これがコアに当たれば勝ち。いくら使徒でも陽電子砲の一撃には耐えられないだろうて。

 

その一撃は寸分の狂い無く飛んで行く…かと思われた。

 

(イレギュラー発生!磁気狂いです!)

 

(なんで、こんな時に!レイっ、防御を!)

 

何と言うことだ。こんなタイミングで磁気狂いが発生した。磁気に影響されて陽電子砲の一撃は若干ながら狂ってしまうことになる。使徒に直撃する頃には、ど真ん中ではなく、掠るぐらいに逸れてしまっていた。

 

 

キィィィィィィィィィィ!!

 

 

耳をつんざくような声が場を支配する。やはり、上手く当たらなかった。使徒はすぐさま反撃するために初号機の隠れる山に体を変形させて、己もまた砲撃体勢に入る。前に初号機を焼き尽くそうとした無慈悲の咆哮を放とうとしている。あれをマトモに貰ったらひとたまりもない。

 

先にそれを察したミサトはレイに指示を飛ばす。

 

次なる手を素早く打った甲斐があり、何とか防御は間に合う。

 

「碇君はやらせない!」

 

(第二射まだなの!?)

 

(無茶です!現在エネルギーを供給中ですが、まだ時間がかかります!)

 

一発で決めることを考えていたので第二射のエネルギー供給には時間がかかる。予備も何も無いので一からやり直しとなっているため、どうしてもだ。しかし、当事者のシンジは極めて冷静だった。シナリオ通りに進んでいるのだから。何も問題ない。

 

「さて、S2機関と接続だ」

 

シンジは初号機のS2機関と陽電子砲への接続を開始した。S2機関は発電所なんか比ではない程の電力を無限に生成することができる。長時間を要する通常の充電に対して、S2機関なら急速充電が可能だ。もちろん、急速と言っても必要な電力が馬鹿みたいに多いため、使徒からの反撃には間に合わない。それも全て見越して、シンジはまた違う手を打つ。

 

愛する天使を守るべくして。

 

「盾にATフィールドを纏わせれば、あの砲撃は無効化出来る」

 

「碇君…?」

 

零号機はカチカチの盾を構えて初号機の前に立っていると、なぜか盾が輝き始めた。自分は何もしていない。では盾なのか。違う、盾にも特殊な構造は無い。本当にただの盾である。レイはその輝きが自分も良く知るATフィールドによるものだと勘付いた。自分が展開したのではない。となれば、消去法でシンジによるものと考えられる。

 

「私と碇君なら!」

 

使徒から来た返礼は、豪快に山を消し飛ばしながら零号機に迫る。レイは足を踏ん張り、絶対防御の型をとった。数秒後に盾に返礼が直撃するも、ATフィールドと盾による隙を生じぬ二段構えの防御によって綺麗な火花を散らすだけである。多少盾が溶けるが、それは許容範囲で収まっている。

 

(エネルギー供給90%を超えます!)

 

(一体…何が起こっているの)

 

現地の指揮所では第二射のエネルギー供給が今までの数倍の速度で進んでいることに対して唖然とするしかなかった。発電所や変電所から異常発生の報告は一つも無い。一部のケーブルが負荷に耐えきれず、吹っ飛んだ報告は入っている。しかし、それは全く関係ない。この予想だにしていなかった事態に困惑するが、決して悪いことではない。むしろ、喜ぶべきことだ。

 

早く第二射を撃てるなら、それに越したことは無い。

 

「ミサトさん!こっちの判断でやります!」

 

(許可します!あなたのタイミングでやって!)

 

コンピュータの演算を待っていられない。直接狙いをつけて撃つ。裁量は認められているんだ。気兼ねなく独断専行できる。

 

「さぁ…これで終わりだよ」

 

シンジは照準内で使徒のコアがピッタリ重なるのと第二射を放った。返礼に対する返礼が使徒に向けられた。

 

その一撃は使徒の砲撃を打ち砕き、寸分狂わずにコアを捉えた。今度は完全にコアを貫いたため、コアは崩壊せざるを得ない。そして、使徒は変形から元の正八面体に戻ったかと思えば、コア共々大崩壊を開始した。

 

自分を維持できなくなり、赤い液体を周囲にまき散らしながら四散していく。

 

その光景は良く見えた。壮観だ。

 

(パターン青消滅!使徒の撃破確実です!)

 

(何とかなったわね。それにしても、エヴァンゲリオン。あれは何なの…)

 

使徒撃破が確実であることはシンジ達も確認できた。使徒撃破の立役者である陽電子砲は短時間の連射で熱暴走のような状態にあり、使用不可能になっていた。初号機は陽電子砲を手放して距離を取り、自身を守ってくれた零号機と一緒にいる。

 

「綾波…勝ったよ」

 

「うん、碇君」

 

「これが愛の力さ」

 

シンジとレイは自力でプラグを排出し、外に出る。2人とも緊張で疲れ切っていたが、何とか再会を果たす。そして、そのまま地べたに倒れ込んでしまった。しかし、しっかりと手を握って2人で見つめ合う。

 

「こんな時…どうすればいいの?」

 

「笑えばいいんだよ。特別なことは無い。いつも通りさ」

 

 

やけに明るい月が2人を照らす中で、彼らは飽きずに抱き合った。

 

お互いの温もりを感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~穢れ無き地~

 

「なるほど…君は君の幸せを掴むために、全てを犠牲にした。自分を、碇シンジを捨てたんだね。いいよ、僕も付き合おう。シンジ君…全ては君のものさ。僕は君の味方だ…もう少しで会えるね。シンジ君」

 

続く




次回予告

シンジは父ゲンドウと母の墓参りをしていた

分かり合えるはずがない

帰りの車内で使徒出現の報が入る

本部へと急行するが、空から使徒へ刺客が送り込まれる

鮮やかな赤いエヴァンゲリオン

あれは…

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『セカンドチルドレン』


※アンケート補足※
闇ルートはシンジ君と同じで、自分の幸せを目指します。と言っても、シンジに同調するだけです。要はレイのようにシンジと永遠を生きることを望み、人類補完計画に加担します。そのため、性格は途中で変わります。最初は原作寄りです。

原作ルートは原作と大筋は同じということです。多少の差異はあっても、基本は同じです。


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エヴァンゲリオン:破
セカンドチルドレン


アンケートは金曜日24時(土曜日0時)に締め切りますので、まだ投票していない方はお早めにお願いします。




「碇とは話せたか?」

 

「話はしましたが、大したもんじゃないです。父とはわかり合えません。子を捨てた父とその子が墓参りで和解できると思いますか?」

 

「フフッ…そうだな」

 

シンジは休日に実の母である碇ユイの墓参りに行っていた。ただ、どうせなら父と子で一緒に墓参りをした方が都合が良い。碇ゲンドウと碇シンジの2人は、それぞれ別々の移動方法で墓地まで来ていた。その墓地でシンジは墓に花を手向けて、ゲンドウはただ立っていた。2人の下には何もない。ここに眠っていない。

 

父は妻を子は母を想えばいいのだろうが、この父子のつながりは完全に切れている。普通の父子なら話すこともたくさんあるのだろうが、話すことはなかった。

 

「母の遺品は全部父が燃やしました。僕が母を知れるのは先生の思い出とその写真だけです。本当に先生がいなければ、僕はやっていけませんでしたよ」

 

「君の力だ。全てをかなぐり捨ててまで、自分の幸せを追い求める。その覚悟に伴った力は誰よりも強い。少しは自分を認めなさい。謙虚になりすぎるのも毒だ」

 

墓参りを終えたシンジは墓地でゲンドウと別れ、自分は恩師の車に乗っていた。ゲンドウはいち早く帰らなければならないので、足が速いヘリコプターに乗り込んでいた。対してシンジはそこまで急ぐ必要のないので普通の車に乗っていた。その車は一般道を、ちゃんと法定速度を守って走り続ける。

 

シンジの隣でハンドルを握っているのは、シンジの恩師である冬月コウゾウだ。本来ならシンジの保護者たる葛城ミサトが送迎するべきだろうが、彼女は仕事があって動けない。そこで、ミサト並みかそれ以上にチルドレンと親しい冬月がミサトの代わりを務める。車はミサトの青いルノーではなく、やや古いAE86(トレノ)だった。マニュアル車だから、冬月は逐一ギアチェンジを行っている。

 

「今日はユーロNERVからの増援が来る日だ。このまま直で港まで向かうぞ」

 

「はい。ちょっとしたドライブと思っているので大丈夫です。それに、例のセカンドチルドレンとエヴァ弐号機を見てみたいですから」

 

「『百聞は一見に如かず』ということだね」

 

「えぇ」

 

車はそのまま順調に走るかと思われたが、車内でけたたましい携帯電話の着信音が鳴り響く。冬月は片手でハンドルを操作しつつ、もう片方の手で携帯を耳に当てる。

 

「何?海上から使徒が侵攻中?わかった。サードは…あぁ、例のセカンドを投入するか。承知した。大至急で港まで向かう」

 

「使徒ですか…いいタイミングに来るものです」

 

本来なら運転しながらの電話はよろしくない。しかし、NERV副司令の特権と緊急時であることを併せて考えれば、これはやむを得ない。なんせ人類存続の危機たる使徒出現なのだから。その冬月は一気にギアを変えて、アクセルを踏み込む。エンジンが唸り、スピードをぐんぐんと上げていく。港までは緊急時の輸送等で使えるNERV専用道があるので、その専用道に入る。

 

「窓を開けて空を見ておいてくれ。君に渡したタブレットに資料を表示している。その資料と照らし合わせながら戦闘の様子を見ているといい。若きエースで、一から軍人上がりの彼女の戦いは見ものだ」

 

「言われなくても、派手にエヴァが戦っているので見ています」

 

シンジは窓を開けて体を若干乗り出しつつ、空を眺める。空には超大型輸送機が飛んでいて、たった今、赤いエヴァンゲリオンが投下された。そのエヴァはNERV本部で見たことが無い。となれば、必然的に増援として送られるエヴァとなる。普通に輸送するはずだったが、緊急時なので直接投入することにしたらしい。

 

冬月がシンジに渡したタブレットには「EVA-02」との表題で色々と書かれている。

 

「エヴァンゲリオン弐号機…あれがか」

 

エヴァは華麗な空中機動を見せている。目標の使徒は海を凍結させながら侵攻してくる。海を凍らせてくるとは恐れ入る。使徒は海上の艦隊を超常的な攻撃で次々と爆沈させていく。同時並行して空から迫る刺客に対しては無数の槍を飛ばして迎撃する。

 

対空防御の槍をすれすれで避けるエヴァ。

 

「専門的な訓練を受けているチルドレンは違いますね」

 

シンジもその動きは認めざるを得なかった。いや、違う。シンジは例外あれど、原則として人のことは簡単に認める人間だった。人を見る目は年齢不相応にある。彼が見つめる先では、エヴァが手に持つボウガンを発射して使徒の頭部を見事に撃ち抜いた。

 

「ダミーか、厄介なことをしてくる」

 

「でも、あの調子なら勝てますね」

 

時間が停止したのかピタッと使徒の崩壊は止まった。かと思えば、逆に崩壊から体の再構築を開始した。下部にあった重りのような球体が頭部となり、侵攻を再開する。頭部と思われた部分はダミーで、あれはコアではなかったのだ。しかし、エヴァパイロットは常に冷静であれ。ボウガンを放棄して、全力の蹴りの体勢をとる。そして、そのまま猛烈な速度で使徒の本体部を目指す。

 

ぶつかる直前に、足とATフィールドがぶつかって強烈な音が響く。両者互角かと思われたが、その状態が永遠と続くわけがない。世の中には必ず勝者と敗者が同時に発生する。今回の勝者は赤いエヴァで、蹴りはATフィールドを破り本体部を貫通した。

 

コアは全力の蹴りでヒビが入り、その直後に爆発四散した。同時に使徒も活動を停止して、十字架状に大爆発を起こす。

 

「どうだね?戦いぶりを見てみて」

 

「まだ会ってすらいないので、何とも言えません」

 

2人を乗せた車はあと少しで港へ到着する。

 

~港~

 

港では戦闘の残骸を回収するための船であったり、警備のための巡視船であったりと多種多様な船が出入りしている。その港にNERV関係者が大集合している。メンバーは本来の仕事のために港にいたミサト、墓地から急行して来たシンジと冬月、使徒出現によって緊急出撃したレイとなっている。

 

「ふむ…これがか」

 

「ユーロNERVが建造したエヴァンゲリオン…」

 

関係者の前を巨大なトレーラーがゆっくりと進んでいて、その荷台にはエヴァンゲリオンが横たわっていた。一仕事を終えてお休み中なようだ。そのエヴァはどこか底知れぬ力強さを感じさせる。そんな見た目をしている。赤い塗装のおかげだろうか?

 

シンジがエヴァの名を口にしようとすると。

 

「そう!これが私のエヴァンゲリオン弐号機!最新型のエヴァで、諸性能は格段に向上している。もう、初号機も零号機も過去の駄作ね。この一機だけでいい。使徒は敵じゃない」

 

「あちゃ~」とミサトが頭を抱えている。放つ言葉があまりにも強烈過ぎるだろうて。その下手人はトレーラーの荷台からリズムよく地上にまで降りて来た。荷台から地までは結構な高さがあるが、上手く降りて来たのを鑑みるに、叩き上げの軍人なのは間違いない。その動きを見て、レイはソソッとシンジの横に立った。

 

「久しぶりね、ミサト」

 

「えぇ、久しぶり。アスカ。さて、紹介するわ。彼女は式波・アスカ・ラングレー、ドイツ空軍少尉。若き大エースで、見ての通りエヴァンゲリオン弐号機のパイロットをしている。さっきの戦闘を見ていたから分かると思うけど、かなりの腕前を持っているわよ」

 

「当たり前よ。アタシは誰よりもエヴァを動かせるの。それで、誰がファースト、サードなの?」

 

シンジは妙に刺々しいアスカにひるむことなく歩み出た。

 

「僕がサードチルドレンの碇シンジだよ。よろしくね」

 

「アンタがねぇ…こんな緊急時に何をしているんだか」

 

「仕方ない用事があったんだ。でも、ありがとう。君のおかげで助かったよ」

 

「ふん…そう。じゃあ!」

 

アスカは足払いを仕掛ける。シンジの動きと反応を見るためなのだが、予想だにしていない動きを彼は見せた。足を払われて一時的にバランスを崩したが、瞬時に立て直して倒れなかったのだ。シンジは綺麗に体勢を立て直すとニヤリと笑った。

 

(資料と全然違うじゃない…サードチルドレンは貧弱であるはずじゃ)

 

「大丈夫だよ。綾波。あ、彼女が綾波レイでファーストチルドレンだよ」

 

シンジは己を心配してガッチリと腕をホールドするレイを宥める。そして、丁度良いのでレイのことを紹介した。レイが心を開いていない相手に自分から話しかけることは、天変地異が発生するぐらいの確率である。それを理解しているシンジが代わって紹介した。

 

「まとめると、あんた(シンジ)が親の七光りで、横にいるの(レイ)が司令のエコヒイキということね。このアタシだけいれば、アタシだけで使徒と戦うのは十分ね。オンボロの初号機と零号機、戦力外の2人なんてお払い箱よ」

 

「ちょっと!アスカ!あなたね」

 

「別に良いですよ、ミサトさん。確かに僕は民間人だから、碌な訓練も積んでいない。ただ運よく勝ってきただけだ。彼女から言われても仕方ありません」

 

シンジは火消しに動いた。変に対抗するのではなくて、逆に受容することで火をもみ消したのである。ミサトは心の中でシンジに感謝しつつ、己も新たな火が起こらないように動く。彼女はアスカに「まだ手続きがあるから」と移動することを促す。事実として、書類上の処理など終わっていないことが大量にあったから、至極当然と言えば当然だろう。

 

アスカはミサトに連れていかれた。

 

「やれやれ、前途多難だな。あれは苦労するぞ?」

 

「そうですね…まぁ、追々動きます。ひとまず、本部に戻りましょう。あの人から宅配便を受け取らないといけないので」

 

「そうだな」

 

シンジとレイは冬月の運転する車でNERV本部まで戻り行った。

 

続く




次回はサブストーリー2つをまとめて一話とします。また、次回は今日中に出します。


次回 新世紀エヴァンゲリオン 『わんこ君…君は』&『俺からの届け物です』





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【サブ】『わんこ君…君は』&『俺からの届け物です』

『ワンコ君…君は』

 

~穢れなき海の上~

 

赤い海の上にはエヴァのプラグが漂っていた。扉は開かれている。そのプラグの上では器用にバランスをとって立っている少女がいる。少女は頭から血を流していて、片目に血が入ってしまっていた。これでは片目は閉じているしかない。

 

少女が見つめる先では、二つの大きな光の十字架が立っていた。

 

「お勤めご苦労さん。エヴァンゲリオン仮設伍号機。ありがとうね。イッタタ…大分無理しちゃったな」

 

見るからに痛々しい姿をしている少女はその場に座り込んだ。ずっと立っていては疲れてしまうので、座っていたほうが良い。かなり無理をしたので、体は言うことを聞いてくれるのが精一杯の状況にある。下手に動けない。

 

「それにしても…仕組まれたかのように第三の使徒の凍結封印が解かれた。急ごしらえの仮設伍号機は何とか間に合ったからよかったけど。いや、仮設伍号機についても仕組まれたのかな。てか、早く見つけて欲しいにゃね~」

 

ここは海の孤島と言える場所で、周囲に陸地は無い。それも海は全ての生物が息絶えた、穢れなき海であるから泳ぐことはできない。船があればよかったが、そんな贅沢なものはない。この筏もどきのプラグがあるだけマシだろうて。救助が来るとしても地下深くから地上にまで出てくる必要があるから、多少なりとも時間がかかってしまう。まず死ぬことは無いが、助けられるなら早いに越したことは無い。

 

「第三の使徒を殲滅したことで予定が狂ったけど、この後は日本へ密入国して活動を開始する。日本では例のサードチルドレンが使徒を撃破しているんだね。ユイさんの息子と初号機の組み合わせは最強だからかなぁ。それにしても、ゲンドウ君は実の息子をも使ってまで自分の願いを望みを果たそうとしている。すごいねぇ」

 

少女はメガネを取って、そのまま寝転がった。体の至る所が痛み、座るのも若干しんどかったからだ。眼鏡を付け直し、相も変わらず独り言をつぶやくだけ。

 

「しかし、どうもおかしな点が多いんだよねぇ。あのゲンドウ君のシナリオ通りに進んでいるにしては、どこか違和感を覚える。順調に進んでいる、そのシナリオなら実の息子のワンコ君を…これでもかと痛めつけるはず。物理的に身体面で痛めつけるているけど、肝心の心(メンタル)を砕き切れていない。むしろ、メンタルを強めているだよ。あのゲンドウ君にしては不手際が多すぎる。これだと逆だ。ワンコ君にゲンドウ君が利用されてる」

 

少女は疑惑を確信へと変えつつある。得られている情報と元々自分が知っていることを照らし合わせようとしても、上手く照合できない。多少なりとも誤差が生じるだろうが、それにしてはかみ合わなさが異常であった。たとえ一部だけでも、本来のシナリオと現実が盛大にねじ曲がっているのは考えづらい。

 

少女は寝ているかと思えば、勢いよくスタッと立った。そしてメガネの位置を調整して空を見上げる。空には特段見るようなものはないが、彼女には何かが見えていた。

 

「ワンコ君…君は一体。何をする気なんだい?」

 

 

『俺からの届け物です』

 

~冬月の執務室~

 

冬月の執務室には部屋の主である冬月とシンジがいた。通常時は基本的にこの2人がいるが、今日は違う。ユーロNERVで仕事を終え、はるばる日本に帰ってきた男がいた。その男は極めて頑強に作られたアタッシュケースを持っており、大事そうに机の上に置く。

 

「早速見せてくれるかね?」

 

「えぇ。もちろんです。開けますよ」

 

男はロックを解除するためにカギを刺し、既定の方向に回す。「ガチャ」の音と共に、ケースが開かれる。中にはフワフワのクッションに守られた物体がある。人間の体のように見え、物体が異常で異様なのは言うまでもない。

 

「すまんね、宅配業者をしてもらって」

 

「お気になさらず。SEELEとしても、俺ぐらいにしか頼めないでしょうから」

 

「流石は加持さんだね。アダムの役割を果たす『ネブカドネザルの鍵』を持ってこれるなんてね。いくらキール議長が許可した上でも、相当面倒だったでしょ?」

 

シンジは、『ネブカドネザルの鍵』と呼ばれる物体を興味深そうに見つめながら、加持と言う男に話しかけた。

 

「やめてくださいよ。俺とは真の主として接してください。シンジ副議長。それより、お聞きしたいことがあります」

 

「なんだい?」

 

「俺が運んできたのは、あくまでも鍵の予備のものです。別にあなたがこれをどう使うのかを聞きたいわけではありません。本来使われるカギはエヴァンゲリオンMK-6に使用されています。あなたがこれを持っていれば、確実にダブりますよ」

 

「あぁ」とシンジは笑った。冬月もこの男が何を言いたのかを理解して笑い出した。ある意味で蚊帳の外に置かれしまった男は頭をポリポリと掻いてお茶を濁す。シンジは質問に答える。せっかく配達物を届けてくれたのに、質問に答えないのは非常に失礼だ。冷酷なシンジでも、そんなことはしない。

 

「大丈夫だよ。そこも考えてある。エヴァンゲリオンMK-6はSEELEのエヴァだ。SEELEの悲願である、人類補完計画の発動のための触媒とするだけ。これも議決済みさ」

 

「サードインパクト…ですか。それと関係ありますが、俺とのお約束は守っていただけるのでしょうね?」

 

「君の心配には及ばん。種の保存は既に行っている。保護が容易な農作物から順次、箱舟への搭載を始める予定だ」

 

「種の保存に関しては加持リョウジ主席監査官に権限移譲するから。君の好きなようにしていいよ。箱舟は用意するし、フィールドとシェルターはある」

 

加持リョウジは冬月とシンジの返答を受けて大きく息を吸った。予想を上回る答えが返って来たので、頭の中で色々と考えたり、気持ちを落ち着かせるために。冬月とシンジは「どうだ、参ったか」と言わんばかりの顔をしている。逆に加持は「えぇ。参りました」と両手をあげた。

 

「本来使われるはずの鍵はサードインパクトの触媒で、予備は僕が人を捨てることに使う。ただ、これだけだと碇ゲンドウと同じになってしまう。じゃあ、差別化するためのスパイスが欲しいよね」

 

「強欲ですな。これだけでは足りないと」

 

「君も知っているでしょ?僕はゲンドウとは違うんだよ」

 

シンジは誰よりも深く闇に染まった笑顔をした。彼の目を見てしまうと深淵に引きずり込まれそうだ。その目をまともに見れば、一日は恐怖に包まれてしまうだろう。幸いにも、これは恐らく世界でこの2人しか見ていない。2人は異常に強い心身を有しているので、健康面で問題は無い。

 

「おっしゃる通りで。そんじゃ、俺は渡すものは渡しましたよ。これからは好きに生きます」

 

「うん、ご苦労だったね。一応、権限委譲は正式に行うつもりだから、後で書類を受け取ってね」

 

「承知いたしました。それでは」

 

男は部屋を後にした。残った者たちは語る。

 

「まぁ、サードインパクトの前には」

 

「ニアサードインパクトですね」

 

続く




次回予告  

シンジは中学の屋上で一人たたずんでいた

その時、空から一人の少女が舞い降りてきた

まるで己を良く知るかのような少女

シンジは警戒する

「碇シンジ君…君はまだ戻れるよ。本当の君に、もう苦しまなくていい」

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『乱入者』


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乱入者

細かい日時は言えませんが、近くにワクチン接種をします。よって、パタリと更新が止まるかもしれません。もし、更新が止まったら「あ、副反応出たんだな」と思ってください。一応、生存報告はするつもりです。


~中学校の屋上~

 

シンジは中学校の屋上にてS-DATで音楽テープを再生している。当たり前だが、音楽を聞いていた。S-DATは彼と雑音まみれの下界を遮断するための壁として使っている。彼にとって中学校は暇つぶしと天使と過ごすための場である。彼には友と呼べる友はいない。せいぜい、避難所から脱走した、あのクラスメイト2人がほんの少しだけ交流があるだけ。彼の交流関係は極めて狭いと言えるだろう。

 

狭い関係の中でも、特に交流があるのはレイとアスカの両名だ。前者は将来を約束した天使であるから当たり前で、後者は向こうから話しかけてくる。と言うのも、「チルドレン間の交流を深めて、戦闘時の連携を図る」目的でアスカはミサトの家に住んでいる。つまり、シンジとアスカは同じ屋根の下で暮らしているのだ。必然的に2人は交流することが多くなるが、アスカは未だにシンジを認めない節があった。これでは、2人の関係を「良好」と言うことはできない。

 

そんな中で生活していればだ。彼は少しでもいいから、誰にも邪魔されないで1人でいたくなるもの。

 

「どうしようかな…アスカは。分かってはいたけど、中々強情で骨が折れるよ」

 

シンジは物思いに耽るには十分な環境にいるため、今現在で悩んでいることを考えていた。言うまでもなく、アスカの処遇についてだ。この世界はシンジの手中に収められている。だから、幾らでも何でもできてしまう。セカンドチルドレンの彼女だって、もう既に彼の手の平にいる。無論、そんなことを本人が知る由がない。

 

「前も言ったけど、僕を拒絶するならそれでいい。僕を受容するならそれでいい。彼女の自由なんだけど…ん?なんだろう?」

 

寝ころびながら空を見て、独り言をつぶやくことを続けようと思っているた時だった。彼が見上げる空に黒い点が見えたかと思えば、かなりの勢いで大きくなった。まるで、こっちに近づいて来るように。

 

「あれは…人なのか?」

 

肉眼でも見えるようになると、その正体が分かった。大きなパラシュートを展開して、滑空状態でこちらに突っ込んでくる人間だ。もっと早く察知できれば退避が間に合っただろうが、残念ながらシンジは気付くのが遅れた。

 

間に合わない。

 

「どいて、どいて。どいて~!!」

 

「わっぷ!」

 

シンジは見事に直撃を受けた。幸いにも、勢いよく引きずられたりはしなかった。その場で停止したので、軽く体を打ったぐらいで済んでいる。打撲をしたような痛みは無い。

 

「もう~。もっと良い密入国の仕方が無かったのかな~。あっ、ごめんごめん」

 

突っ込んできた人間は、自分が少年を下敷きにしていることにいち早く気づいて立ち上がった。シンジは下敷き状態から解放され、呼吸を再開する。下敷き状態で呼吸が止められていたため、酸素をできる限り得るべく強く呼吸する。

 

息を整えてからその人間を見ると、自分と同じぐらいの少女だった。若干の大人さも有しているが、まぁ少女に入るだろう。その少女は通信機で誰かと会話している。日本語ではなく外国語で話しているため、会話の内容を知ることはできない。それも含めて色々と鑑みて、シンジは少女に警戒している。なんせ、急に現れたのだから。

 

「えっと…あなたは」

 

「その前に!このことは誰にも内緒でお願いね。ね?」

 

「あっ、はい」

 

通信を終えた少女は有無を言わない勢いで、このことを内密にするようにお願いしてきた。勢いに押し込まれたシンジは内密にすることを約束する。押し込まれたように見えるが、今のことを秘密にするのは彼にも利がある。瞬時に計算した上で了承していた。

 

すると、少女はシンジに迫って来た。後ずさる少年を逃さず、少女は首元の匂いを嗅ぐ。傍から見れば間違いなくヤバイ人だが、スンスンする少女と硬直する少年以外に屋上には誰もいない。間接的に見ることができる監視カメラもない。よって、誰もこの光景を見知ることは出来ない。

 

「やっぱり…君は臭いが違うね。碇シンジ君。やっぱり、君はゲンドウ君と違うんだね」

 

「っ!?」

 

全く知らない人に己の名前と父の名を出されたことで、シンジは更に硬直を強めた。碇ゲンドウは権力者であるから、割と有名かもしれない。しかし、その息子である自分を知ることは極めて困難だ。ただでさえNERVに在籍するエヴァパイロットなのだから。機密保持やら諸々の理由で、チルドレンの情報は限りなく漏れが無いようにされているのだが。

 

もちろん、内部のNERV関係者なら知っていて当たり前だろう。では、この少女はNERV関係者?

 

いいや、違う。

 

シンジは真の裏の権力者である。己の傘下のNERVで働く職員について網羅している。特に、幹部職員やオペレーター達、チルドレンについては全てを把握していた。目の前の少女がNERVがいれば、チルドレンに該当するはず。しかし、シンジは彼女を知らない。いったい、彼女は誰なのか?

 

「な、なぜ僕のことを?」

 

内心は極めて冷静に相手を分析していたが、表向きはオドオドする少年を演じている。なぜなら、サードチルドレンの碇シンジは、心身ともに貧弱な少年として知られているからだ。過去の様々な辛い出来事でメンタルはズタボロにされていて、ガラスや豆腐よりも脆い。しかし、思春期のためか反骨精神が時折見られるとされている。

 

「君は、自分が利用されている虚妄を碇ゲンドウや周りの大人たちに見せている。でも、現実は自分が世界を操ろうとしている」

 

「な、何を言っているの?」

 

「辛いよね…分かるよ。その思い」

 

全てを見透かしてしまう目を少女はしている。その目は狂いなくシンジのことを捉えていて、彼女の目から逃げられそうもない。どう逃げようとも、瞬時に捕まってしまうだろう。シンジだって負けていない。老人から叩きこまれた観察力と洞察力を使って相手を分析する。そして、偽りを見せることは通用しないと判断した。ならば、本性を剥き出しにするまで。オロオロする少年の皮を脱いで、冷酷な少年へとシフトチェンジする。

 

「僕の何を知っているんだい?」

 

「君のご両親である碇ゲンドウと碇ユイ。君の全ては知っているよ。だって、君のことは小さいころから見ていたからね」

 

「だからと言って、僕を知った気になっているのかい?僕は僕だ。僕を理解できるのは、たった1人だけだ」

 

「それが冬月コウゾウ先生だね。先生についても知っているよ、とっても」

 

シンジはこの人物が己にとって相当の危険人物だと断定した。自分のことを誰よりも知っているのは間違いない。彼は発言の裏を読むことが得意で、相手は超が付く難敵だと判定せざるを得なかった。

 

「辛いよね。自分の過去を拭い切れず、克服できず、囚われている。本意ではないのに、動かざるを得ない。君は誰よりも苦しんでいるよ。だから、戻ってきな。私は君を助けられる」

 

「何を言うかと思えば…僕を引き戻す気?無駄だよ。僕は振り切ったんだ。うじうじして、中途半端が一番いけないからさ。もう…戻れないんだ。全部これでいいんだよ…これでね」

 

少女は哀しい顔をした。しかし、すぐに切り替えて今度は引き締まった顔をする。その顔には確固たる意志が溢れている。

 

「君は私が救ってみせるよ…シンジ君。待ってな、絶対に迎えに行くから」

 

そう言って少女はどこかへ行ってしまった。最後に残した言葉をシンジは脳内で反芻する。依然として彼女は誰なのか分からない。警戒しなければならないことが増えてしまった。

 

「僕を救うか。救ってくれるなら、もっと早くが良かったかな」

 

続く




次回予告

シンジは急に現れた少女のことを冬月に報告する

報告を受けて思考を巡らせる

その思考の結果、冬月は脳裏に1人の女性を浮かべた

こんなことができるは1人しかいない

懐かしき教え子

「何をしに来たのだね…イスカリオテのマリアよ」

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『教え子と冬月』




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教え子と冬月

アンケートは明日24時(土曜日0時)で締めきりますので、まだの方はお早めにご投票ください。


~冬月の執務室~

 

執務室で冬月は副司令としての仕事をしていた。相次いだ使徒出現、それに伴った戦闘記録が纏められた報告書を読んで、それをまた別の記録としてデータベースに保存する。それだけでなく、破壊された第三新東京市の復旧の指示等で老人はとても多忙だった。しかし、「NERV内で最高峰の頭脳を持つ」と言われる冬月を舐めてはいけない。歩くコンピューターとも称される程の情報処理能力を活かして、次々と仕事を捌いていっている。

 

そんな仕事中にも関わらず、冬月はピタリと手を止めた。仕事に疲れたのではない。何かを感じ取ったのだ。

 

「やれやれ…今更だ。何をしに来たんだね。イスカリオテのマリアよ」

 

「今はマリと言うのですが、先生は随分と懐かしい名前をお覚えで」

 

「なに、私はただの老いぼれではないからな。記憶力には自信がある」

 

冬月は真正面を見た。その先に1人の少女が立っている。今の時間はチルドレンたちが学校に行っているはずだ。この少女は誰だろうか?NERV職員の中でチルドレン以外に少年少女はいない。冬月だって、大抵の職員のことを把握している。だが、彼の脳内でデータと少女を照合できていなかった。かと思いきや、また別で脳内に保管されていた記憶が呼び覚まされた。

 

「どうやって入ったかを聞きたいところだが、まぁ、いいだろう。それにしても、ユイ君に負けず劣らずのキレは健在だな。研究室の頃から変わらん。時を超えてまで来るとは思わなかった。これには彼女も笑うだろう」

 

「それを言うなら、冬月先生もです。年老いてもなお、変わることのない頭脳。いえ、年を経ることで更に切れ味を増している。まったく、本当に先生は底が知れません。それで、私が来た理由です。それは、彼を迎えに行くためですよ」

 

「迎えか…」

 

目の前の少女は顔を引き締めて、冬月と本格的に向き合う。どうやら、この2人は昔ながらの付き合いがあるようだ。年齢の差が著しいのは変な話だ。時空を超越するぐらいしなければ、このような異常な光景は見られないだろう。

 

冬月は少し俯いて考える仕草をする。およそ10秒ほど経って顔を上げた。

 

「一応言っておくが、彼は一筋縄ではいかぬよ。君の尺度からすれば彼を迎えられるのかもしれないが、もう手遅れ。彼は己の進む道を見つけて、その道を驀進している。止まることを知らぬから、止められない。無論、Uターンさせるのも無理だ」

 

「先生がそう言うなら、そうかもしれません。でも、私は負けません。ユイさんから託された彼は…私が迎えに行きます。先生がシンジ君に己の願いを重ねたように、私はユイさんの願いを受け取ったんです。託された以上は、果たすのが礼儀」

 

冬月は薄らと笑みを浮かべた。

 

「それは少し違う。私は彼に願いを重ねたのではない。私は彼に全てを託したんだ。彼にこそ神となる資格がある。碇の奴は自分が神となると野心を滾らせているが、彼の子のシンジ君こそが神になる。そして、私は執政官として神に忠誠を誓うだけだ」

 

「だから…『ネブカドネザルの鍵』を持ってこさせたと」

 

「そういうわけだ」

 

少女は「なるほど」と大きく頷いた。彼女の中でバラバラとなっていたピースが噛み合い始めている。そのピースが全て噛み合って、一つの大きな絵画となるまでに至ろうとしていた。

 

「君がどう動こうと、それは私の意識外となる。君の好きなように動きなさい。あぁ、シンジ君は優しいからな。その気になれば君も新しき世を生きれるだろう。考えてもらえると嬉しいよ」

 

「そうですか。しかしです。私にも、私が望む世界があります。それこそ、ユイさんが望んだ世界がある。それを果たすためには、どこへでも行きます。どんな手を使ってでも、彼を助けます。再び先生と会えるか分かりませんから、ここで断言します」

 

「ほう…」

 

少女は一呼吸おいてから、力強い声で言い放った。

 

「『NEON GENESIS EVANGELION』を起こしてみせます」

 

そのまま少女は、フッと消えるように冬月の執務室を後にした。先まで話していた人物が完全に見えなくなるのを確認してから、老人はボソッと呟いた。その呟きは誰も聞くことができない。

 

呟きをしても一人。

 

「ユイ君…君には悪いが、君の息子の想う世界を実現したいと私は思っている。君は…どうするかね?」

 

 

同日の深夜

 

 

「S2機関を搭載したエヴァ初号機はどうだ?シンジ副議長」

 

「素晴らしい出来ですよ。内部電源のエネルギー切れを気にしないでいいのは最高に尽きる。しかも、かなりの無茶が効くようになったので、儀式の遂行が格段にやり易くなりました」

 

秘匿された部屋でモノリスが少年と老人を囲んでいる。今回は次なる儀式の遂行準備の途中経過を確認することを主としている。ちゃんとSEELE本体、シンジ&冬月と別々でも準備は着々と行われている。連絡も密に取り合っているので、全体として見れば非常にテンポよく準備は進んでいた。

 

「それより、北米NERVはどうしますか?バレていないとは思いますが、万が一があります」

 

「それを副議長が心配する必要はない。既にエヴァンゲリオン肆号機の運用が開始された。後はタイミングを見てだ」

 

「なるほど…偽りのS2機関を搭載したエヴァですか」

 

北米NERV、正式にはNERV第三支部。そこではエヴァンゲリオンに搭載できるS2機関の研究をしている。最近になって、何とか形になった物が完成した。だが、優しいSEELEが手を加えている。とっても、とっても優しい。

 

とまぁ、それは表の話である。実際のSEELEは初号機にS2機関を搭載できたことで、北米NERVの存在意義を失っていた。北米NERVを長々と、永遠と残していては無駄であるので、SEELEは早々に切ることを決めていた。問題はどうやって切るかだが、方法は既に考えてあり、もう実行に移されていたようだ。

 

「話が変わるが、冬月コウゾウ副司令。今度の月面視察のことだ。申し訳ない。碇ゲンドウを穢れなき地に入れるのは難しい。無理だ。あの男は自分を神の祝福を受けた者と考えているかもしれないが、それは真の祝福ではない。それ以前に、我々のエヴァンゲリオンMK-6を視察されては困る。もちろん、遠目から見る分には問題ない」

 

「承知しました。しかし、私だけでも下してもらえなければ困ります。例の少年との接触ができません」

 

「わかっている。副司令とフィフスが接触できるように便宜を図る。それは私に任せてもらおう」

 

冬月は軽くお辞儀してから、少年に話かけた。

 

「聞いての通りだ。近々に、私と碇(ゲンドウ)は月へ視察に行ってくる。NERV本部を空けることになるから、君たちに頼むよ。葛城君を臨時のトップにするから、大枠は彼女に従ってくれ」

 

NERV司令の碇ゲンドウと副司令の冬月コウゾウは月へ飛んで視察をすることが予定されていた。表面上の上っ面だけの視察であり、これに大した意味はない。無いと言えば無いのだが、あくまでも表面に過ぎない。

 

裏では重要な会談が待っている。

 

人間と使徒をつなぐための会談が。

 

「ミサトさんですか、わかりました。まさに、何もなければいいですがね」

 

「それは向こう次第だな」

 

この後も定例会議は行われた。

 

一種のセーブポイントになる2つのインパクト遂行が確認されて、お開きとなった。

 

儀式の時は確実に近くなっている。

 

続く




次回予告

ある日のミサトの家では、ミサトとアスカが話していた

頑なにシンジのことを認めないアスカ

ミサトは強情なアスカをどうにかできないかと苦心する

自分一人だけいればいい…その言葉の裏を気づけないのか

不器用な大人もいるのだ

次回 新世紀エヴァンゲリオン 「私だけを認めなさいよ」



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私だけを認めなさいよ

アンケートは本日24時で締め切りです。まだ投票していない方はお早めに。

※追記※
ミサトさんのセリフは原作寄りにするために、エヴァをエバーに変えています。


ミサトの家では今日も今日とて、悪い空気に支配されていた。中にはミサトとアスカの2人しかいないことを鑑みれば、この両者が原因であることは明白である。本当ならシンジもいるはずだが、彼はNERV本部で冬月のヒアリングを受けているため不在だった。

 

「アスカ、あなたの気持ちは分かるけど。同じエバーのパイロットであるシンジ君のことを少しはね…」

 

「いやよ。いくら司令官の息子だからって、甘やかし過ぎ。あんな技術も何もないパイロット、いるだけ無駄」

 

「あなたの目から見ればそうかもしれないけど、私たちからすればかなりの逸材。これは譲らないわ」

 

火種となっているのはサードチルドレンの碇シンジについてだった。ご存知の通りで、シンジは民間人上がりのエヴァパイロットである。彼に技術なんてものは無いに等しい。ぶっちゃけて言えば、「ど」が付く素人だ。これを受けて、プライド意識の高いアスカからすれば許せない。確かにアスカは軍上がりで、一から叩き上げのパイロットである。ドイツ空軍でエースを務めるだけはあり、身体能力も極めて高い。エヴァはパイロットの意思をダイレクトに伝えて操縦する都合上、パイロットの能力がエヴァの戦闘力につながる。

 

直近の使徒戦で見せた華麗なる空中機動は彼女の技術の高さを象徴しているだろう。それだけの実力者からすれば、ペーペーで碌な動きもできない素人パイロットと一緒に戦えと言われても、とても受け入れられなかった。

 

しかし、シンジは三度も使徒を撃滅している。その内の二度は単身で撃破しているのだ。普通に考えたら、シンジ君は素晴らしいパイロットと称されて良い。どうであろうと、使徒を倒したことに変わりはない。ちゃんと公式な記録としても保存されている。結果は結果だ。それに、時偶に見せる驚異的なエヴァ初号機のパワーがある。これはシンジが力を引き出しているとNERVでは考えられている。いくらシンジが素人とは言え、エヴァ本来の力をフルで引き出せる。三度使徒を撃破して且つ、エヴァ初号機の力を存分に引き出せるシンジはNERV本部の絶対的なエース。

 

ミサトはアスカにそこまでは理解しなくても、少しは彼のことを考えてほしいと頼んでいた。

 

「なんでよ!まぁ、ファーストはいいけど。アイツはいらないでしょ!」

 

「そうはいかない。何時、何処に出現するか分からない使徒に対応するためにはエヴァ3機と3人のパイロットが必須なのよ。使徒は確実に進化している。だから、NERVから1人でも、1機でも欠けたら人類の希望が削がれることになる。仮にパイロットだけ鞍替えするにしても、替えが効かないのはわかるでしょ?」

 

「…」

 

エヴァだけ残してパイロットだけ変えればいいと思われる方がいるかもしれないが、それは極めて難しい。なぜなら、エヴァはただのロボットではないからだ。本当に限られた者の中から、特にエヴァの適性が高いとされる少年少女がチルドレンとなる。そのふるいの目は恐ろしく細かい。シンジの代替となるパイロットを探すとなれば、時間がかかり過ぎてしまう。それでは使徒戦に間に合わない。しかも、エヴァ初号機はエヴァの中でも初期型に該当し、一番特別なエヴァだ。初号機のパイロットに碇シンジ以外はいない。

 

これはエヴァに携わる者なら誰もが理解している。無論、アスカが知らないわけがない。今の彼女は感情論で語っているため、事実を無視する傾向がやや強かったのだ。

 

「なんで…ミサトはあたしを認めないのよ!もういい!」

 

アスカはそのまま自分の部屋に行って、閉じこもってしまった。ミサトはソファーにドカッと座る。そのまま文字通りの頭を抱えた。多感な思春期ど真ん中のチルドレン達だから、多少の衝突が発生することは予見で来ていた。しかし、よもやここまでとは思わなかった。まだ幸いなのはアスカが一方的なだけで、シンジが反撃をせず受容に徹していることだ。もし、これが双方向だったら、地獄絵図であった。

 

「あなたのことは認めているわよ…アスカ。あなたはもう少し、他者を受け入れて」

 

 

 

~翌日のNERV本部~

 

ミサトは昨日のことを包み隠さず、全てをある人物に報告&相談していた。その人物は「やれやれ」と少しばかり面倒そうな反応をした。

 

「アスカ君のことは加持監査官から聞いていたが、そこまでか。まずは、ご苦労だった」

 

「はい。副司令はシンジ君やレイと親しくしていますので、何か分かるのではないかと思い」

 

「まぁ、ここ(本部)では誰よりも彼らと接しているからな」

 

ミサトは冬月副司令に相談していた。直上の上司であるから至極当然と言えるが、また別のアプローチでも至極当然である。実は冬月はNERV職員の中で一番チルドレン達と繋がりが強固で、とても好かれていた。癖のある大人が多い本部の中で、冬月は誠実で優しいお爺さんであるからシンジやレイは冬月が好きだ。部下に対しては非常に厳しい冬月だが、チルドレン達には一転して好々爺となる。時間があれば、ヒアリングの名のチルドレン達との雑談の場を設けていて、誰よりも交流している。

 

まぁ、これは外面を意識した姿だが。

 

「アスカ君とは、そこまで話していない。だから、私の勝手な憶測だよ。おそらく、彼女は自分に寄り添ってくれる人を探している。彼女にとって君はシンジ君の保護者で、彼側の人間と潜在的に思われている。どれだけアスカ君を援護する言葉を送っても、彼女は無意識に突っぱねてしまう。そういうことだろう」

 

「なるほど…」

 

ミサトは冬月の鋭い分析に感嘆していた。「いや、普通に考えれば分かることだろ」と言われるかもしれないが、それは第三者から見ればだ。実際の当事者の立場になってみれば、そう簡単に導き出せるものではない。冬月は比較的第三者の立場にいたから分かった。また、彼の長い人生経験と教育者の力の賜物でもある。

 

「その潜在意識がある限り、君では難しいな。すまなかった。シンジ君だけでなく、アスカ君をも押し付けてしまった私の責任だ。その責任は取ろう。アスカ君は私が引き取るよ」

 

「え?副司令がですか?」

 

「そうだ」

 

冬月から驚愕の提案がなされた。現在、葛城ミサトの家に住んでいる式波・アスカ・ラングレーを彼が引き取るとのことだ。彼女は冬月に相談しただけで、アスカを引き取ってくれとは1ミリも考えていなかった。

 

「別にやましい心はない。君の負担軽減と無駄な衝突を避けるためだ」

 

「はい。わかっています。しかし、副司令。本当にいいんですか?」

 

ミサトとしては色々と難しいアスカに冬月が対応できるのか心配だった。確かに冬月はチルドレン達からの信頼が厚く、アスカからの評価も決して低くはない。

 

え?アスカが冬月を?

 

実は、アスカは冬月のことを「ここの副司令で偉い人」ぐらいにしか考えていない。彼女が嫌なシンジやレイと頻繁に接しているが、それは副司令の業務としての「ヒアリング」となっているので特段気にしてはいなかった。自分も冬月からヒアリングを受けている。チルドレンの中で全く差異が無い。綺麗な平等である。つまり、冬月はチルドレンには平等で特別扱いをすることがない、NERVの中で数少ない大人なのだ。

 

「あぁ、構わん。老人の一人暮らしは案外寂しいものだ。さて、これは君からアスカ君に伝達してくれ。引っ越しの手配は私がしておく」

 

「承知いたしました。お心遣いに感謝します」

 

「うむ」

 

かくして、アスカはミサトの家から冬月の家へと異動となった。

 

これが、どのような効果をもたらすかは、まだわからない。

 

しかし、シナリオ通りに動いているのは確実。

 

続く




作者はワクチン接種をしますので、次話をいつ投稿できるかわかりません。よって、次回予告は無しとさせて頂きます。ご了承ください。


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アスカと老人

土日は微熱でダウンしておりまして投稿出来ませんでした。申し訳ないです。投稿の修正を後日行いますので、一日二話投稿の日があります。ご了承ください。


「え…広い」

 

「あぁ。一人で暮らすには持て余してしまうぐらいに広いだろうね。君が来ても、まだ余裕がたっぷりあるから、私に気を遣わんでいいよ。好きなように、ノビノビと暮らしなさい」

 

アスカはミサトの家から冬月コウゾウ家に引っ越してきていた。何かと衝突が多かったミサトから離れて、副司令の冬月コウゾウに引き取られた形である。あのままミサト家に彼女を置いていても良かったが、軋轢が生じて生じて堪らない。だったら、引き離してしまった方が幾分かマシだろうて。引っ越しにより交流の場が減ると言っても、学校でもNERVでも存分に会えるので問題ない。

 

そうしてアスカは冬月の家に来たのだが、冬月の家の広さに驚いていた。冬月の家は第三新東京市の中でも特に立派なマンションの一室で、老人が一人で暮らすには過剰と言える。大きな玄関にキッチン、リビング、それぞれの部屋もたっぷりある。部屋だけでなく収納も盛り沢山であった。

 

「荷物は予め運ばせてある。君の部屋にもっていく物はリビングに置いてある。細かい物やらは君がセッティングしてくれ」

 

「それぐらい、自分でやるわ。向こうでは一人で生きていたんだから、心配しすぎ」

 

「ユーロNERVか。さぞかし、君には辛い生活だっただろう。もう安心しなさい。ここは老いたお爺さんしかおらん。ゆっくりと過ごせばいい。私に出来ることがあれば、何でもする。君の希望は可能な限り叶える。まぁ、ゆっくりと過ごしてもらいたいのだが。使徒が出現した時は緊急出撃してもらう」

 

アスカは己の過去を見透かされたような発言にビクッと反応した。相手はNERV副司令官だから自分の事を良く知っていても、別に変なことではない。むしろ、当然のことだ。しかし、要点はそこではない。自分の過去に加えて、その過去に基づく己の心を見られた。表面で終わらず、奥深い部分まで全てを見られた。そして、その心を抱きかかえてくれる老人の言葉。

 

この老人は違う。

 

そう思った。

 

「任せなさい。使徒殲滅はあたしの十八番よ」

 

「適度に自信を持つことに関しては何も言わん。しかし、過度な自信は己を亡ぼす。何千年にも渡る人類の歴史が証明していることだよ。使徒はアスカ君とエヴァ弐号機だけで、簡単に撃破できる代物ではない。君にはヒアリングで何度も資料と映像を見せただろう?」

 

「うっ…」

 

これがもしミサトだったら、アスカは噛みついていただろう。しかし、冬月だったので大人しかった。ミサト相手には「碇シンジの保護者」としての先入観やフィルターが付いているので、アスカの受け取りは固くなる。しかし、冬月にはそのような物は無い。彼はアスカ達のチルドレンには業務として且つ平等に接している。そこに一切の個別的な贔屓は無い。よって、アスカは冬月を「ただの偉い人」ぐらいにしか思っていなかった。偉い人こと冬月からの言葉をアスカは柔軟に受け止められた。

 

送られた冬月の言葉は四度の使徒戦で得られた情報や分析を通して導き出されたことであるから、アスカが疑いを挟む余地は無い。アスカ自体も冬月のヒアリングで使徒戦のデータや実際の映像を見せられていて、使徒が生半可に倒されてくれないことを理解している。直近の使徒撃破は、自分の技量にもよるだろうが、やはり運の要素もあるはある。

 

「さて、引っ越し作業の最後に取り掛かろう。段ボールはここに置いておいてくれ。私が縛っておく。段ボールは資源ごみとして出すからな。エコの精神は大事だぞ」

 

「はいはい…副司令?」

 

アスカは言うことに従おうとしたが、この老人をなんと呼べばいいのかわからなかった。ヒアリングで頻繁に接していたが、それはエヴァパイロットとしてである。ここはNERVではなくて、自分の家だ。場所が変わるだけで、途端に接し方が分からなくなる。

 

「あぁ。私のことを呼びづらいか。そうだな…皆から呼ばれるのは『先生』だ。昔は大学で教鞭を取っていてね。こんな老人でも教育者の端くれだから、私は『先生』と呼んでくれ」

 

「冬月先生、これで満足?」

 

「私が満足するか、満足しないかは関係ない。君が良ければ、そう呼んでくれ。さて、作業に取り掛かるぞ」

 

冬月はハサミやカッターを取り出して、段ボールを綺麗に開けていく。さすがに何十年も生きていれば生活の知恵を持っているし、実践してきている。アスカは小さな段ボールは自分の部屋に運んで、大きな段ボールは一度開けて物を個別で運ぶことにした。

 

 

~アスカの部屋~

 

「本当に広い…ミサトの家とは大違いね。ベッドを置いても全然広い」

 

アスカは自分の部屋の広さに驚いていた。前まで住んでいたミサトの家での自分の部屋はお世辞にも広いとは言えない。前の部屋は自分のベッドと収納でほとんどを占めていて、自由に使えるスペースは非常に狭かったのだ。

 

しかし、この部屋はどうだろうか?ベッドとたんす類の収納を実際の部屋の広さから引いてみても、布団を敷けるぐらいの余裕がある。仮にお泊りをすることになっても、全く困らないだろう。こんな広い贅沢な部屋で過ごしたことは無い。彼女には初めてのことだ。

 

「服もたっぷり入るわね。ショッピングでたくさん買っても問題ないかな。お金は…お爺さんから貰えばいいや。それにしても…お爺さんじゃなくて、冬月先生ね。なんか、あの人なら頼れるかも」

 

こんな部屋を用意してくれた冬月にアスカは好感を抱いていた。大前提として、元々はマイナスではなかったので、加点された結果である。自分の心を見透かすような人間だが、悪い感じはしない。それより、誰よりも自分に寄り添ってくれるように思った。NERVの大人と言うのは、どこか冷たい節が多い。アスカに一番近い葛城ミサトでさえ、前はサードチルドレンを己の復讐のために使役しようとしていた。

 

「なんだろ。あたしが求めていたのは、父親でも母親でも無かったのかもね。やっと、一人じゃなくなるの…かな」

 

アスカは自分が求めていた大人を見つけた気がした。彼女は小さいころから一人ぼっちで、周りに彼女に愛を注ぐものは誰一人としていなかった。愛を注ぐことどころか、彼女を一人の人間として捉えて接してくれる者もいなかった。誰もが彼女を道具のように扱ったのだ。

 

「お爺ちゃんか…悪くないわね」

 

意外とアスカからの評価が高かった冬月コウゾウだった。

 

続く




次回予告

いつも過酷な訓練で娯楽がない子供たち

偶には一日中遊べる日を設けるために、加持がある国立施設に招待した

セカンドインパクト以前に生きていた生き物たちにはしゃぐ子供たち

昼食にはシンジがお手製のお弁当を振る舞う

そんな中で加持と冬月は水門の上で語り合う

これからを…秘密の計画を

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『種の保存』


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種の保存

投稿の修正を図りたいので、体調さえよければです。今日は本話を含めて二話投稿します。ただ、体調次第なので期待しないでください。


「うわ~これが本当の海か」

 

「セカンドインパクト前の命にあふれる海」

 

「見たことが無い生き物がたくさんね」

 

シンジ達は休日にみんなでお出かけしていた。普段の休日では家でゴロゴロするか、買い物をするかで過ごすのだが、偶には遠足チックなことをするのも悪くない。ここは国立海洋研究開発機構のような場所で、セカンドインパクト以前に生息していた生物を保護している。ここが非常に重要な役割を果たしていることは狂いのない事実だ。しかし、傍から見れば超巨大な水族館である。研究ではなく、観光目的で回るには十分すぎる。

 

「本当にありがとうございます。加持さん」

 

「おう、気にするなよ。俺みたいな男ができるのはこれぐらいだからな」

 

この国立施設は当然ながら一般公開されていない。彼らが入ることはできないのだが、多方面にコネがある加持が子供たちを招待したので入れている。子供たちはデッカイ水槽の中で悠々と動き回る魚たちを見て、さっきから大はしゃぎ。そりゃ、誰もがはしゃぐだろう。少年少女はセカンドインパクト後に生まれているのだから。彼らは資料映像等で海の生き物を知っているが、本物を自分の目で見たことは一度も無い。今回初めて見たのであるから、皆が一様に強烈な衝撃を受けていた。

 

「俺は適当に中をぶらついているから、何かあれば呼んでくれ。解説は副司令に頼むよ」

 

「はい」

 

一応の付き添いとして冬月がついて来ていた。本当なら葛城ミサトが付き添いをするはずだったが、彼女は多忙を理由にパスしたので冬月が代わりを務めた。いや、むしろ冬月の方が適任かもしれない。彼は京都大学で教鞭を取っていた過去があり、その専門は生物学だった。少なくとも、普通の人よりかは生き物に詳しい。

 

「どうだね?昔の生き物たちは」

 

「すごいですね。セカンドインパクトの前に、こんな生き物が生きていたなんて…」

 

「太古の生きもの…(碇君カッコいい)」

 

「こんなに沢山の魚がいるのね」

 

シンジ&レイ、アスカの全員が海の生物に目も心も奪われていた。当初は興味なさげのアスカも流石に実際に来てみれば、初めて見る海に圧倒された。彼女は生まれた時から死の赤い海しか知らず、命の青い海を知らぬのだ。青い海、海本来の匂いを知れるだけでも大きい。

 

「セカンドインパクト前の日本は黒潮や親潮などの海流に恵まれており、世界で見ても有数の豊かな海を有していた。更に本土の川から栄養満点の水が流れ、素晴らしい漁場でもあった。セカンドインパクトが起こるまでは…な。本当に素晴らしかったのだが」

 

「そう言えば…先生は昔の海を知っているのよね」

 

「あぁ。知っていると言うか、よく覚えているよ。青い海を前にした埠頭で釣りをしたことがある。懐かしいことだ」

 

この中でセカンドインパクト以前の命の海を知っているのは、冬月と加持の大人2人しかいない。特に冬月は年齢が年齢なので、とてもよく知っている。生物学を専攻していた関係で海洋生物についても調べていたこともある。なるほど、とてもよく海を知っているのは間違いない。

 

しかし、逆に言えばである。冬月が一番海に思い入れがあると言えるのだ。

 

空気がしんみりとしたので、アスカが動く。

 

「これは?魚にしては形状が変ね」

 

アスカは前から少し気になっていた小さな水槽の中の生きものを指した。その水槽では小さな生き物がフヨフヨと浮くようにしている。魚にしては形状も何もかも全てが変だ。この珍妙な姿には、シンジもレイも目をくぎ付けにされる。

 

「それはクラゲと言う生き物だ。面白い姿をしているだろう。その姿より驚きなのは、体のほとんどが水分であることだ。しかも、内部に脳や心臓、血管、血液のような器官が存在しない。我々とは違う進化をしてきた。進化は興味深い」

 

「へぇ~」

 

「なんか…何時までも見ていられるわね。【癒し】ってやつ」

 

「かわいい」

 

初めて見たクラゲにレイとアスカは惹かれた。他の海洋生物と比べて、特にミステリアスな存在となっている。全部が非日常的で面白い。普通の魚も十分に面白いが、クラゲは群を抜いていた。

 

この後、子供たちは冬月のわかりやすい解説を受けながら水族館を周っていった。

 

 

~昼食時~

 

「どう?」

 

「あんた…どんだけ料理できるのよ」

 

「すごい、全部碇君が」

 

広い場所にレジャーシートを敷いて、その上に3人は座っている。3人が囲む先には重箱のお弁当が置かれていた。ぎっしりと隅から隅まで料理が敷き詰められたお弁当は豪華以外の何物でもない。このお弁当を作ったのはシンジで、彼が全部を作った。アスカは短期間だが、シンジと同居していた。彼女は彼の主夫力の高さを十分に理解していたつもりだったが、それが如何に甘かったかを思い知らされた。

 

「加持さんと先生もいないと食べきれないなぁ」

 

「大丈夫よ。2人はちょっとした打ち合わせで抜けているだけ。すぐに戻るわ」

 

大人2人は研究所の偉い人と話さなければならず、一旦抜けていた。軽い打ち合わせであるから、すぐに戻ってくると思われる。先に食べていていいのかと心配になったが、腹ペコ状態を維持するのは辛い。やむを得ない。先に食べてしまおう。

 

「はい、どうぞ。はい、これも」

 

シンジは使い捨ての紙皿に料理を乗せてアスカとレイに配った。そして、持参していた保温水筒からお味噌汁をカップに注いで配る。後は割り箸を各自に渡せば、準備完了だ。

 

「食べようか」

 

「そうね」

 

「うん」

 

3人で仲良く手を合わせて。

 

「「「いただきます」」」

 

では、同時刻に大人2人は何をしていたかと言うと。

 

 

水門の上で煙草を吸う者とピシっと姿勢よく立つ老人。見た目だけでは真反対の両者だが、内側は意外と馬が合っている。煙草を吸う者は紫煙を吐き出しつつ、語りかける。

 

「まさか、ココを全部俺にくれるとは。シンジ副議長には頭が下がります」

 

「彼も君に頭が下がるだろうよ。ネブカドネザルの鍵を持ってくるのは相当大変だっただろうからな。いくら上の了承を得ていても、碇にバレずに動くのは面倒だ。奴にはダミーを渡したのだろう?」

 

「えぇ。鍵の模造品です。万が一の盗難に備えるために作っていたものですから、碇司令が使ったところで意味を為しませんのでご安心ください」

 

一旦、煙草を口から離して遠くを見る。その視線の先では工事車両が動き回っていて、施設の周りに大きな囲いを作っている。一見すれば災害対策の防波堤と思われる。この海洋研究所が海に面していることを考えれば、至極当然の処置だろう。

 

「ここは将来的に生き物たちの楽園にする。そのための補強工事ですよね?」

 

「可能な限り集めた生き物たちが、未曾有の大災害を生き延びられるように作った母たる地、マザーベースだ。その母たる地を守る壁を建設している。壁の中身は封印柱が柵上になっている。仮にサードインパクトで外側が吹き飛んでも、内側の封印柱が機能してL結界を防ぐことができる」

 

「俺の約束を守るにしても、随分と贅沢ですよ。ここ全部、俺が好きにしていいんですね?」

 

「当たり前だ。私も彼も約束は必ず守る。植物の種子保存ユニットとプラント、工場型の永久農園、海洋生物のクローン設備と冬眠保存。何もかも全てが揃っている。これら全ては君が自由に使ってよい。君の希望は私も彼も持っている。無駄に生き物たちを絶やしたくないのは同じだ」

 

男は苦笑いを浮かべた。そして、再び煙草を口へ置く。器用に片手でもう一本煙草を取り出し、それを老人の方に向けた。

 

「どうです?一本」

 

「すまんが、遠慮するよ。私は酒は飲むが、煙草は吸わない主義でね」

 

「そうですか…あなたは後14年は生きなければならないからですね」

 

「長くもあり、短くもあるよ。14年はね」

 

続く




次回予告 ※話数の都合上、一気に時間が飛びます

あれから1週間後、冬月と碇ゲンドウは月の周りを回っていた

SEELEが主導して建造中のエヴァンゲリオンMK-6等を視察するために

着陸許可がおりず、船から見ているだけの2人

船から見えるMK-6は異様としか言いようが無かった

真なる神として作られしエヴァンゲリオン

その手の上には…人が?

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『はじめまして…シンジ君の先生』


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はじめまして…シンジ君の先生

前話で触れましたが、一気に時間が飛びます。予めご了承ください。あんまり沢山書いてしまうと、ストーリーが進まないことを防ぐためです。間の話はサブとして投稿することがありますので、希望があればお申し付けください。




遠足から一週間後、冬月と碇ゲンドウの2人は機上の人だった。空中ではない。無重力空間、宇宙を漂う船の中にいたのである。その船には小さな小さな窓が設けられていて、何とか外を見ることができた。

 

「視察目的でわざわざ地球から飛んできた。こんな近くまで来たのに、月への着陸許可を出さんとは。お前はSEELEに嫌われているのか?」

 

「そんなことは無い。SEELEは穢れなき地である月に、神の洗礼を受けていない我々を入れたくないだけだ。穢れある我々は月の地を踏みしめることを許されていない。月は神々によって浄化された聖地たる」

 

「そんな地で建造しているのが、あのエヴァンゲリオンMK-6か。あのエヴァについて、私は何も知らんぞ。お前は何か知っているのか?碇」

 

「私は少ししか知らない。間違いなく言えることは、エヴァMK-6はNERVのエヴァとは全く違う。建造方式を含めた、何もかも全てが異なる。私には『限りなく神に近い存在』として建造されていることだけが知らされている。あのエヴァを以てして、次の浄化が行われることも」

 

「次の浄化か…お前の計画は進んでいるようで何よりだな」

 

船は月を巡回するように動いている。ゆっくりだが、確実に動いている。地球から見る月と船に乗って超至近距離で見る月は全然違う。表面がデコボコしているとかではない。月には巨大な施設が置かれている。よく見れば、十字架状のものに巨人が打ちつけられている。まるでNERV本部最深部のセントラルドグマに封印されている第二の使徒リリスのようだ。巨人の顔も使徒のようで不気味に尽きる。いくらエヴァが使徒のコピーと言っても、「これは似せ過ぎだ」と言われてもおかしくない。

 

しかし、これが使徒と酷似しているのも納得がいく。ゲンドウが言った通り、このエヴァは既存のエヴァとは違う。NERVの初号機、零号機、弐号機とMK-6は兄弟とは言いがたい特別な存在。

 

しかし、それ以上のことを碇ゲンドウは知らされていなかった。SEELEが秘密に建造しているエヴァだから、少なくとも人類補完計画に関わってくることは確実と言えよう。ならば、そこまでエヴァMK-6のことを気にすることは無い。人類補完計画には碇ゲンドウも噛んでいるので、自分に害為す存在になるとは思えない。

 

「それにしても、エヴァはエヴァであるのだから誰かしらのパイロットが必要だろう?あれに誰が乗るというのだよ。まさかだが、実用に程遠い試験段階にあるダミーシステムを使うとは言うまいな」

 

「それについても知らされていない。だが、SEELEは自分たちのチルドレンを使役するはずだ。MK-6の運用は私の指揮から完全に切り離されている。まず私が把握できるようなチルドレンではない。そうなれば、必然的に例のSEELEの少年となる」

 

「流石に最新鋭機にダミーシステムは積まないか。あのシステムはまだ粗削りでムラが目立つ。まぁ、それ以前の問題がある。お前をMK-6に乗せるわけにはいかんだろう。何かと怪しいお前は」

 

「…」

 

船は浮遊している施設の裏に入ってしまい、一時的に船内が暗くなった。可能な限り月の様子を把握できるような航路を採っているため、どうしても施設に近づくことになる。近づくということは、それだけ施設に視界が遮られることが多くなる。十秒ほど経つと、再び外を見ることができるようになった。

 

話題のエヴァが見えているのだが、冬月の目はあることを逃さなかった。それはエヴァの手の指に何かが見えた。正確には指の先に誰かが乗っている。人らしき姿が座っているように見える。もし、これが作業用員やロボットなら怪しむことはないだろう。

 

「馬鹿な。ここは無酸素で無重力の宇宙空間だぞ。生身の人間がいられるはずがない」

 

「あぁ」

 

そう、そこには宇宙服も何も纏っていない。本当に生身の身体をしている人間がエヴァMK-6の指の上に座っていた。ここは宇宙空間であるから、人間が活動するためには宇宙服を着なければならないことは誰もが理解できる。どれだけ屈強な人間でも何も纏わずでは生きていけない。たちまち酸欠し、内側からの力で爆発してしまう。それなのに、あの人らしき姿はそんな素振りを見せない。マネキンのような創作物だったら無問題かもしれないが、とても人工物には思えない。間違いなく、あれは人間だ。

 

窓越しに見ていた冬月は「まさか」と1人の人物を脳裏に浮かべた。碇ゲンドウでも多くを伝えられていない、SEELEのチルドレンだと。ほぼ確信した老人は目を細めて、顔も思考も鋭くなった。そして、隣にいる碇ゲンドウには聞こえないぐらいの極めて小さい声でつぶやいた。

 

「やはり君がか…第一の使徒タブリスよ。いや、今は渚カヲルと言うのか」

 

その言葉が届くわけがない。声量が極めて小さいし、窓越しでもあるし、無酸素空間を挟んでいるのだから。超高性能な通信機を使えば届くだろうが、冬月はそんな物を持っていない。彼が手に持っているのは宇宙食として作られたドロドロのスープだ。

 

それなのに、人らしき姿はこちらを向いた。しっかりと聞こえているようだ。

 

「あなたとお会いしたかったです。碇シンジ君の恩師にして、全てを仕組んだ者の一人。シンジ君の幸せは僕の望みでもありますから、あなたにも協力しましょう。今度こそは…彼の想う世界を」

 

「今は手を離せん用事がある。後で色々と詰めようか。それに、君の家族も動き出したようだからな」

 

 

 

~NERV本部~

 

「地上からの侵攻は諦めたと見るべきなのかしら」

 

「宇宙に出現し、本部を狙って一直線に落下攻撃。シンプルで芸が無いけど、それが一番効果的ね」

 

NERV本部の指揮所のメインモニターには巨大な使徒が映し出されている。人工衛星からの通信によって本部で使徒を把握しているが、その使徒は非常に厄介だった。戦闘用の人工衛星が攻撃を行っているが、一切通用していない。まぁ、これは想定内だ。

 

「光すら歪ませるATフィールド。NN爆雷を完全に受け付けない。あれでは地上からの迎撃も無理ね」

 

「月を視察している両司令とコンタクトとれる?」

 

本部で代理のトップをしている葛城ミサトが上の判断を仰ぐために外出している2人と連絡を取ろうとした。

 

「無理です。使徒のATフィールドが強すぎて、通信を妨害されています。復旧の見込みはありません」

 

「こっちで勝手に動くしかないか。総員、第一種戦闘配置!私達で使徒を撃滅します」

 

「撃滅するって、どうするの?」

 

ミサトは威勢よく戦うことを宣言したが、どうやって使徒を撃破すると言うのだろうか。あの使徒は今まで見たことが無い強さのATフィールドを持っているのだ。遠距離や中距離での迎撃は意味をなさないのは明白。

 

「それを考えるために集まってもらう。ヤシマ作戦ぶりね」

 

「あなたのことだから、また大博打をする気でしょう。まぁ、いいわ。今のNERVのトップはミサトだから」

 

「ありがとリツコ。さて、やるわよ」

 

幹部級職員とオペレーター達は作戦室に集められて、使徒撃滅の策を練ることになった。練ると言っても、全てが想定外の使徒を相手するには定石は通じない。どうしても、奇策を採らざるを得なかった。そして、奇策を講じるとなれば、葛城ミサトしかいない。

 

今回も、誰もが驚く作戦を彼女は提示した。

 

恐ろしく成功率が低く、極めて危険な作戦だった。誰もが反対の声を上げたが、それに伴う代案は無い。必然的に彼女の作戦が発動されることになる。

 

最後に彼女は、こう言い放った。

 

「私はチルドレンたちを信じます」

 

続く




次回予告

本部に向けて落下してくる使徒

予測のつかない状況に対して、エヴァ三機の同時展開が命じられる

命を落としてもおかしくない作戦にチルドレン達は乗った

全てをチルドレン達に託すミサト

絶望を切り裂き、希望を掴む

奇跡を起こせ

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『奇跡を待つな』


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奇跡を待つな

文字数の関係でサクサク進めています。


「はぁ~!?使徒を手で受け止める?」

 

「そう、あの使徒を地上からの攻撃で迎撃することは極めて困難だから、こうするしかない。使徒直下に入り込むのと同時にATフィールドを展開して、使徒が着弾しないようにする。これ以外に作戦案はない」

 

「だったら、あたし一人で十分よ」

 

「そうもいかないの、アスカ。使徒の動きは今もMAGIで予測しているけど、イレギュラーが予想される。エヴァ1機だけでは対応できないのは明白でしょ?だから、3機すべてを投入することで万全を期す。誰か1人が予測落下地点に入らなければ、終わり。ジエンド」

 

「…」

 

アスカは沈黙するしかなかった。ミサトの言っていることは筋が通っている。使徒はATフィールドを展開しつつ、かなりのスピードで落下してきている。MAGIの予測では本部に直撃コースだが、相手が何をしてくるか分からない。何らかの手段を使ってコースを変えてくることが大いに考えらえる。そう考えれば、エヴァ1機だけでは無茶が過ぎるだろう。

 

「この作戦の成功率は?」

 

「MAGIで演算しなくても、数字として出てる。限りなく0に近い」

 

「はぁ…わかった。やるわよ、アタシに任せてなさい」

 

「それは無理だよ。使徒は1人だけでどうにかなる相手なら、僕たちはここまで苦労してない」

 

「シンジ君の言う通り。これは3人でやる作戦なの。だから、みんなで協力しなさい。これは命令よ」

 

ミサトに言い切られては、いくらアスカでも噛み付けない。それ以前として、これ以上粘っても無駄に時間を費やすだけだ。時間を浪費するだけ使徒を近づけてしまう。さっさとエヴァに乗り込んで作戦開始を待たなければならない。ズルズルしていると、あっという間に人類が滅んでしまう。それでは本末転倒だろうて。

 

渋々ながらアスカは弐号機に乗り込んだ。シンジとレイは覚悟を決めた表情で初号機と零号機に乗り込む。3機のエヴァはMAGIが割り出し、ミサトが勘で選んだ地点にて待機する。仮にイレギュラーが起こっても、誰か一人は使徒の直下に入ることができるようにしている。

 

さぁ、賽は投げられた。

 

その賽が何処へ行くかは、誰も分からない。

 

 

~初号機待機地点~

 

「S2機関をフル稼働させて全力でやるにしても、僕が受け止め役かな。全力のATフィールドなら使徒の着弾を防ぐことができるはず。使徒との我慢比べと考えようか」

 

シンジは初号機のプラグ内で時を待っていた。ミサトの一声で作戦が始動する手筈になっている。既に準備は終わっていて、外部電源からの充電は完了していた。おそらく、弐号機も零号機も完了しているだろう。作戦開始まで、もう秒読み段階にあるのだ。

 

「行こうか初号機。あの使徒は受け取り拒否しよう」

 

シンジは真っすぐ前を見る。そして、待望の声が聞こえた。

 

(作戦開始!)

 

外部電源と接続しているケーブルが切断されて、初号機は思いっきり地面を蹴った。素晴らしいスタートを切り、グングンと加速していく。エヴァはただのロボットではない。ロボットにしては、驚異的な速度で走っている。人造人間の面目躍如と言えよう。

 

シンジは操縦しながら、側面部に表示される使徒の予測落下地点を見て考える。この予測だと、自分が直下に入るのは難しい。

 

「だめだ、僕は間に合わない!」

 

「私も」

 

「あたしが行く!」

 

MAGIやミサト達の尽力の甲斐あり、この調子ならアスカの弐号機が落下地点に入れそうだ。使徒は禍々しい見た目を維持して、一直線に向かってくる。遠近法で小さく見えてしまうが、実際には今までの使徒とは比べ物にならないほど大きい。あんなデッカイのが着弾したら、一面吹っ飛ぶ。全部が吹っ飛ぶだろう。

 

そんな使徒は、やっぱり賢かった。

 

「え、変形した!?」

 

(まずい!コースが狂った!)

 

使徒は禍々しい姿から大きく変わった。体から羽を広げて、スピードも上げてくる。その体はカラフルに鮮やかに発色していて、派手派手しいことこの上ない。それだけなら良かったが、残念なことに予測コースが狂ってしまった。

 

「どこに来るの!」

 

「分からない」

 

(今、最新の予測落下地点を送ったわ)

 

「ここは…僕が近い。ミサトさん!」

 

送られてきた最新の予測を見て、シンジは自分が一番近いことに気づいた。となれば、自分が行くしかない。

 

(修正コース形成、急いで!)

 

第三新東京市はエヴァでの使徒戦を第一に設計されている。都市全体が決戦場となっており、エヴァでの円滑な戦闘ができるようになっている。当然、エヴァの移動についても配慮されていた。ミサトの指示に従って、初号機の進行方向にルート強制変更のための道が形成される。エヴァは急には止まれない。だったら、道を作ってしまえばいい。道を作れば高速移動を保持したまま目的地へと向かうことができる。

 

初号機は作られた道に従って、落下地点まで急ぐ。僚機である弐号機と零号機も向かっているが、初号機より遠い所にいたので到着には時間がかかる。しばらくは自分だけでやるしかなさそうだ。

 

ミサトの的確な指示とシンジの神がかり的な操縦のおかげで、滑り込みのギリギリセーフで使徒の直下に入り込むことができた。時間が無いので考えることをせず、言われたことを実行する。

 

「ATフィールド展開っ!」

 

両手を上げて使徒を受け止める。S2機関を稼働させて通常のエヴァを超えた強さのATフィールドが展開される。使徒は超重量と運動エネルギーを使って初号機を押しつぶさんとする。これは初号機と使徒の真っ向勝負で、まさに我慢比べが行われるかと思われた。

 

しかし、使徒は使徒なのだ。

 

賢さだけでなく、卑しさも有している。

 

「ぐぅぅぅぅぅ!!」

 

(アスカ、レイ、急いで!シンジ君が持たない!)

 

使徒はサッサと終わらせたいので、コアより子使徒を出した。子使徒は初号機の両手に己の両手を合わせてギュッ!とするかと思えば、なんと槍を形成した。そして、初号機の両手を突き刺す。

 

初号機の両手を貫いた槍は膝の部分にまで到達する。フィードバックによって、とても耐え難い激痛がシンジを襲うが、歯を食いしばって我慢する。ここで折れてしまっては、全てが水の泡になってしまうのだ。耐えて、耐えて、耐えた先に栄光ある勝利が待っている。

 

「まだまだ…やれる!」

 

「間に合った!コアは…あれね」

 

シンジが全力のATフィールドで使徒を受け止めていると、弐号機が遅れながらも間に合った。アスカは息継ぎをする暇もなく、使徒の心臓部であるコアを破壊しなければならない。プログレッシブナイフを取り出し、コアを切り刻んでやろうとした。

 

「なっ!」

 

逃げられた。

 

なんと、コアが超高速で回転し始めた。「やられないもんねぇ」と言わんばかりの逃げに、アスカは悪態すら吐けない。当てずっぽうにナイフを刺そうにも無理だ。アスカの目はもちろん、エヴァですらコアを捉えられない。

 

「何なのよ…あれ」

 

アスカは自分の無力さに打ちひしがれそうになった時。

 

あれだけ元気よく動き回っていたコアが急にピタッと止まった。外からの力によって無理やり停止させられている。

 

「えこひいき!」

 

「うっ…早く。碇君が!」

 

「ア、アスカっ!早く!」

 

一番遅刻した零号機が使徒のコアを鷲掴みにしている。あれだけ動こうとするコアを捕まえるのは至難であり、捕縛を維持することも著しく困難だ。それに、シンジもいつまでも持つわけではない。

 

「わかってるっての!」

 

ここまで用意をしてもらっておいて、アスカがミスをするわけがない。思いっきりナイフをコアに突き刺す。コアに大きな亀裂が走るが、まだ足りない。古人は言った、『念には念を入れよ』と。

 

「おまけに!これでも喰らいなさい!」

 

刺さっているナイフに向かって強烈な膝蹴りを行った。ダメ押しの一撃が見事に決まり、コアは爆発四散する。エヴァを含めた周囲に赤い液体をまき散らすのと同時に使徒本体も活動を完全に停止する。そして、崩壊を開始した。

 

パターン青は消滅。使徒の撃破確実である。

 

「はぁはぁ…ありがとう。アスカ…レイ」

 

「…」

 

「一人じゃ…何もできなかった」

 

 

NERV指揮所

 

「通信復旧しました!」

 

使徒を撃破したが、ほっと一息する余裕はない。すぐに状況報告を行う必要があった。通信を妨害していた使徒のATフィールドが消えたので、月面視察中の碇ゲンドウと冬月コウゾウとのコンタクトがとれるようになった。

 

「申し訳ありません。私の独断でエヴァ全機を出撃。使徒を撃破することに成功しましたが、エヴァ1機を破損、パイロット1人を負傷させてしまいました。全て私の責任です」

 

(構わん。あの状況で使徒を撃破したんだ。十分称賛に値する働きだよ。被害も軽微とは言えんが、許容範囲内にある。葛城君、よくやった)

 

冬月は事態を察しており、ミサトの報告を受けて使徒撃破を知った。彼女の独断でエヴァを出撃させ、使徒撃破には成功したものの、初号機は損傷しパイロットが負傷することになった。傍から見れば、この勝利は褒められたものではない。しかし、冬月としては勝ちは勝ちなのだから褒めるしかない。自分達が不在の中で、よくやってくれた。叱るよりは、褒めた方が良いだろう。

 

(初号機パイロットとつないでくれ)

 

「はい」

 

冬月とミサトが話すかと思われたが、急に碇ゲンドウが割り込んでくる。よくわからないが、とりあえず初号機と通信をつなぐ。

 

 

【シンジ視点】

 

「痛いなぁ。手が動かないや」

 

非常電源で暗いプラグ内で痛みに耐えているシンジ。回収を待っていると、急にある人物が入ってきた。

 

(シンジ)

 

「父さん?」

 

(よく頑張ったな。以上だ)

 

ほんの数秒の言葉だったが、シンジの心に…響く。

 

いや、響かない。

 

「そう言って、僕を惑わそうとする。ごめんね、父さん。これからは、僕の時代だ。父さんはもうとっくにね」

 

続く




次回予告

月より帰って来た冬月

我が家ではいつも通りに過ごすのだが、アスカから相談を受ける

アスカは先の使徒戦でシンジとレイを意識するようになっていた

シンジには特別な感情を抱いているようである

冬月はアスカの思いをくみ取って、あることを提案した

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『チルドレンの青春』


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チルドレンの青春

★☆感謝☆★
UAが5万をお気に入り登録者数が1000人を突破いたしました。こんな作品でもお付き合いいただける皆様に、心から感謝申し上げます。本当にありがとうございます。闇に墜ちたシンジ君の戦いを見て頂けると幸いです。


月から帰って来た冬月は職務に復帰し、NERVのブレインの名に恥じぬ働きをしている。能力を遺憾なく発揮している。ただし、先の使徒戦での反省と分析や裏SEELEの仕事もあるので、家に帰っても自室で在宅ワークをしていた。

 

部屋で黙々と仕事をしていると。

 

コンコン♪

 

ドアがノックされる。

 

「入りなさい。カギは開いているよ」

 

「じゃ、遠慮なく入るわ」

 

冬月の私室をアスカが訪れた。彼女が訪れてくるのは極めて珍しい。なんせこんなことは初めてなのだ。彼女のことを考えれば、何か相当のことがあったのかもしれない。冬月は仕事をする手を止めて、部屋に入ってきたアスカと対面する。

 

「どうかしたのか?こんな時間に」

 

「相談がある」

 

「ほう…まぁ、座りなさい」

 

アスカは少し俯いて、うじうじしているような感じだ。いつもの彼女ならハキハキとしていて、悩んだりすることはない。しかし、今の彼女は深刻な悩みがあるように見えている。近場の簡易的な椅子に座ると、意を決して話し始めた。

 

「あの…サードに謝りたい。私はサードのことを悪く言っていた。アイツは技術が無いって」

 

「そうだな。君は彼のことを認めていなかった。だが、君はあの使徒戦で彼の強さを知った。そして、自分の弱さを突きつけられたのだね」

 

アスカは分かりやすく驚いた。この老人は自分が思っていることを全て見透かしている。彼女はサードチルドレンこと碇シンジの本当の強さを知った。同時に自分の無力さを思い知らされた。シンジがいなければ、あの使徒は倒せなかったのは間違いない。一応、ファーストチルドレンの綾波レイも頑張ったおかげでもあるのだが、アスカにとってはシンジの方が大きかった。

 

もっとも、これは誰かにより仕組まれたこと。

 

「だから、私に何かしらの仲介を頼みたいんだね?違うか?」

 

「いいえ、違わない。私が直接シンジに会うにしても、彼から拒絶されてしまうかもしれない。だから、先生に間を取り持ってほしい。それだけでいい。それ以上は私がちゃんとやる」

 

「わかった」

 

アスカの頼みと言うのは、「シンジに謝るための仲介人をしてほしい」とのことだ。普通に考えれば、自分で彼に会えばいいだけの話である。だが、アスカはあれだけ悪く言ってしまったシンジに拒絶されることを恐れていた。心優しいシンジがアスカを拒絶するわけないが、彼女は人から拒絶されることを強烈に恐れる節がある。それも含めた全部を、アスカのことを理解した上で冬月は了承した。

 

「そうなると…ふーむ。君の言い方だと学校やNERVではない、完全なプライベートがいいのだね?」

 

「え、うん。そうよ」

 

「ちょうどいい。お金は私が出すから、2人でデートでもしなさい」

 

カチンコチンと目の前の少女は固まった。そして顔をやや赤らめている。これはあるぞ、あるある。冬月は顔色一つ変えないで淡々と話し始める。

 

「君たちはNERVに身を置いている。青春というものがないだろう。少しぐらいは若い時期を謳歌しなさい。私のように老いてしまうと出来ない。なに、私のくだらない老婆心さ」

 

「…」

 

「嫌か?なら、別の方策を考えるが」

 

「嫌じゃない!そ、それでいい」

 

食い気味なのを鑑みるに、やはり彼女はシンジのことが好きで気になっている。ここまで分かりやすく反応するとは思わなかったが、向こうはとても乗り気なので問題はない。さて、冬月はアスカとシンジ君のデートについて練り始めた。練ると言っても2人のスケジュール調整やお金に関してを考える。NERV副司令の力を使えばパイロット2人のスケジュールを変更したりすることは容易で、お金もたっぷりある。いくらでも出せる。

 

「デートの大枠については私から彼に伝えておく。ただし、詳細なことは君から直接で伝えなさい。私ができることは少ないぞ」

 

「わかってる。それぐらい自分でやるわよ。私は子供じゃないの」

 

「そうだな」

 

かくして、アスカとシンジのデートが決まった。デートと言うと色々と語弊があるだろうが、こう言わざるを得ない。実際にはアスカの謝罪と仲直りの場であるが、第三者から見れば少女と少年が付き合うのだ。これをデートと言わずして、何と言うのだろうか?

 

青春を謳歌せよチルドレン。

 

 

~後日~

 

「アスカがですか、わかりました。今週の水曜日ですね?」

 

「あぁ。そうだ。その日は祝日で学校がない。NERVは主電源と非常電源の総点検があるからエヴァの訓練をしない日でもある。君たち2人には一番都合が良い。しかし、それにしてもだな。まさかアスカ君の方から動くとは。正直、私は予想していなかったよ」

 

「先生の驚きは尤もですね。彼女は素直になることが少ないので」

 

冬月はアスカとシンジの和解(デート)について伝えていた。あくまでも大枠だけを伝えるだけであり、細かい点は彼女が彼に伝えることになっている。おそらくだが、この後に本部で行われるエヴァの訓練で彼女が動くだろう。

 

「アスカ君と言えば…第九の使徒と参号機についてはどうする?シンジ君」

 

「あぁ。それがありましたね。汚染される参号機に誰が乗るかはまだ決まっていませんが、多分アスカですよね。今のところ、その時はその時と考えていますが、もしもの時は僕が救済します。真なる安らぎに追い込んでしまうのは可哀想ですし、僕にとっての天使が多くなっても損はありません」

 

「全くもって、君は罪深い男だ」

 

「フフフ…僕を誰だと思っているんですか?僕は碇ゲンドウの息子なんですよ」

 

「そう言えば、そうだったな。あまりにも似ていないから忘れていたよ」

 

シンジは誰から見ても爽やかな笑顔をしたが、全てを知っている冬月からすれば悪い笑顔でしかない。この少年は自分の願いに微修正を加えることを繰り返している。今回の微修正はシンジの天使が増えることだった。これほどまで己の願望に忠実なのは碇ゲンドウの血が通っていることを証明する要素の一つと言えるのだが、父と子は全然似ていない。人を拒む冷たい空気を漂わせる碇ゲンドウに対して、碇シンジは他者を受容する暖かい人物となっている。真反対と言っても過言ではないだろう。

 

それでも。本質が酷似していることは皮肉かもしれない。

 

「とりあえず、今度のデートは了承しました。救済の前段階とします」

 

続く




次回はサブにするのでタイトルだけ示します。

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『救済のデート』


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【サブ】救済のデート

今回はサブです。


「はっや」

 

「だって、人を待たせたくないじゃん」

 

駅前で待ち合わせをしていたアスカとシンジの2人。今日はめでたいデートの日である。アスカは時間ピッタリに駅前に到着したのだが、シンジが先に待っていた。彼女は「どうせ遅れて来るんだろう」と思っていたが、そんなことはなかった。シンジは本質以前の話として、彼はとても真面目な性格だ。絶対に人を待たせない。

 

「その…」

 

「いいよ、気にしていないから。前も言ったけど、君の思っていることは正しい。何にも悪くない。ただ、使徒がどれだけの強敵か理解してほしいだけだった」

 

シンジは常に先手を打つ男。アスカが彼に謝ろうとする前に、彼女を許した。元々、シンジはアスカの言うことを特段気にしておらず、別に許すも許さないも何もなかったのだ。

 

「本当に…いいの?あれだけ言っておいて私を」

 

「僕は嘘をつかない。はい、これで終わりだよ。さ、ほら行こうか。アスカ」

 

アスカに付け入る隙を与えない。彼は彼女の手を取って引っ張り始めた。彼女にとっては、あまりにも急展開が過ぎて驚いた。この少年は弱弱しい人間であるから、こんな強行的なことができるはずない。ただし、彼女だって負けていない。

 

「ちょっと、待って」

 

「なに?」

 

「今、名前で呼んだでしょ?」

 

「あ、うん。嫌だったかな」

 

一旦ストップをかけ、動きを止めさせる。

 

「ううん。でも、約束しなさい。これからは私のことはアスカって呼んで」

 

「わかった、アスカ。行こうか」

 

今回のデートの目的は謝罪と和解だったのだが、会って10分も経たずにその目的は達成された。一方的に彼の方が受容したのであるから、これを和解と見るかは微妙だ。しかし、両当事者が円満に過ごせそうなら、別にいいのではないかと思われる。

 

改めて、少年は少女の手を引っ張って行く。ここまで彼がグイグイ来るとは思いもしなかった少女は驚きと共に嬉しさを感じていた。今まで自分のことを一人の女性として捉えてくれた人はいなかった。誰もが彼女のことを道具や物のように見て、扱って、使役していた。だから、彼女は一人で生きることを選んだ。誰もいなくていい。周りに誰もいなくても、私は生きていける。認められなくたって構わない。だから、私は他者を拒絶する。私は認めない、他者を。

 

しかし、それは心の最深部にある思いを隠すための防御なのだ。本当の心は、自分の近くに誰かがいてほしかった。誰でもいいとは言わないが、自分に寄り添ってくれる人が欲しかった。更に欲を出すのなら、私を包み込んでくれる人が欲しい。そんな人がいるなら…いいのに。

 

そして、見つけた…この人だ。

 

この少年は私を私として見てくれる。

 

「ん?アスカ?お~い」

 

「な、なんでもないわよ。早くエスコートして」

 

「うん。あ、そう言えば。アスカは自分の部屋に物が(案外)少ないんだよね。じゃ、雑貨屋に行こうか。僕の行きつけがあるんだ」

 

アスカは自分の心と会話している時に話しかけられ、動揺を隠せなかった。彼は触れることなく行先を告げる。まず行くところは雑貨屋となった。彼の言う通りで、彼女の部屋にはそこまで物が無い。生活を豊かにするためには多少の雑貨が必要だろう。エヴァのパイロットでストレスの多い生活をしている彼女には、家で少しでも安らかに過ごしてもらいたい。メンタルをいい状態に保つために、家の環境は非常に重要である。メンタルが安定の良い状態であれば、エヴァの力を引き出すことができる。前も言ったが、パイロットの能力だけでなく、精神状態をもがエヴァの戦闘力に直結する。

 

2人はシンジ行きつけの雑貨屋に入った。多層階の商店でフロアごとに分かれているため、何処に行こうかと迷っていると。

 

「上から見ていけばいいじゃない。お金はたっぷりあるんだし、気になる物をピックするのよ」

 

「あっはい」

 

アスカの気迫に圧されて、シンジは素直に了承した。確かにお金はたっぷりと貰っている。エヴァのパイロットとしてのお給料と冬月からのお小遣いで年齢不相応の予算を有している。雑貨であれば、とてもだが使い切れない金額だ。また、NERV特製のカードもある。2人はお金に関して、隙を生じぬ二段構えをとっていた。

 

最上階までは店内エレベーターで一気に上がる。最上階のフロアは比較的大きめな雑貨を置いており、お値段もそれ相応となってる。物はカジュアルからアンティーク調となっていて、非常に幅が広い。

 

「シンジ…いいお店知っているのね」

 

「この雑貨屋は品揃えがいいんだ。それに、持って行けない大きさでも配送してくれるよ」

 

「へ~。なら存分に見れるわ」

 

椅子や時計、本棚などと多種多様な品物が置かれている。選り取り見取りとはこのことを言うのだろう。アスカは他のお客さんの邪魔にならないように気を付けながら、品物を全て網羅する勢いで見ていく。もちろんだが、彼女の部屋におけるサイズに限定されるので、大きすぎる商品は弾いている。そんなアスカに対してシンジは、彼女のボディーガード的な立ち位置でいる。

 

「あ、これ」

 

「それは…時計か。いいの?大きいのじゃなくて」

 

アスカが見つけたのは猫の形をした時計だった。とても可愛い時計で良さげだが、大きさは比較的小さかった。時計ならもう少し大きめの物があるのだが。

 

「いいの。これぐらいがちょうどいい」

 

「わかった。えっと、持って行くには重そうだね。すいません」

 

店員さんを呼び。この時計を予約しておく。陶器製で持ち運ぶのには苦労しそうだし、何よりも万が一の事故が怖い。店員の人に予約と手配をお願いするのが確実な方法。もう買うことは決まっているので予約をし、他の人に獲られないようにする。そして、家まで持って行けないので配送もお願いする。一通りの買う手続きが終わったので、一個下のフロアに降りることにした。一個下のフロアは、本当に小さな細々とした雑貨が置かれている。

 

そのフロアで、アスカは目についた物を次々と買う。小さな物は自分達で持ち運べるので普通に買うことにした。結果的にシンジは大きな紙袋を手に下げることになる。レディファーストの精神でシンジは荷物持ちを自分から申し出たのである。この後も延々と買い物を行い、およそ2時間ほど、2人はショッピングを楽しんだ。

 

そうしていると、アスカは小腹が空いてしまった。シンジも喉が渇いたので、2人は買い物後に喫茶店へ寄る。近くの喫茶店でアスカはパンケーキとココアのセットを、シンジはワッフルとコーヒーのセットを頼んだ。飲み物を先に出すようにお願いし、2人でちまちまと飲んでいると。

 

「あれ?先生からだ」

 

「どうかしたの?」

 

シンジはテーブルに置いていた自分の携帯端末がビービー鳴っていることに気づいた。マナーモードにしていため、ブルブル振動するだけだ。ロックを解除して見ると冬月からメールが送られてきていた。シンジはメールを見て硬直している。アスカは妙にシンジが画面を注視しているのを怪訝に思い、緊急事態かと予測する。

 

「もしかして、使徒?」

 

「いや、違う。使徒だったら、避難命令のサイレンが鳴っているよ。でも、それぐらい恐ろしいことが起こった」

 

「え、何が起こったの?」

 

「NERV第三支部…北米NERVが完全に消滅した」

 

続く




次回予告

全てはSEELEのシナリオ通り

消滅した北米NERVは仕組まれたことだったのだ

モノリスに囲まれるシンジは不敵に笑う

アメリカから移送される参号機

ひとまずの起動試験が行われることに…

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『魂の救済:前編』


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魂の救済:前編

Qまでサクサクと行くの例として、一話あたりの文字数を増やしています。文字数増加とストーリーをギュッと纏めている都合で、視点変更も多いです。


~???????????????????~

 

「見事なまでに消えている。いい仕事をなさいますな、キール議長」

 

「副議長や君の苦労を考えれば、我々も少しぐらいは働かないといけない。エヴァンゲリオン肆号機の事故でNERV第三支部は完全に消滅した。現地には何も残っていない。もちろん、S2機関や他の貴重なデータは事前に抜き出してある。後で副議長の所へ送っておこう」

 

「ありがとうございます。これで証拠隠滅ですね」

 

モノリスに囲まれているシンジは大いに笑っていた。声を出していないが、恐ろしく不気味だ。いつも隣にいる老人は笑ってこそいないが、かなり上機嫌そうである。どこか、モノリスも笑っているように見える。みんなが笑っていて、アットホームな環境と言えよう。

 

彼らを笑わせている要因は、SEELEが仕組んだNERV第三支部消滅事故だ。NERV第三支部は北アメリカに置かれている関係で北米NERVとも呼ばれている。そこではエヴァンゲリオン参号機と肆号機を実験で運用していた。人類の希望たるS2機関のコピー及び量産をするための研究を行っていて、実験を両機体でしていたのだ。最近は比較的に安定性の高かった肆号機を主として使用しており、S2機関を搭載しての実験を頻繁に行っていた。しかし、それが引き金となってエヴァンゲリオン肆号機は自爆を起こし、第三支部を含めた周囲の全てを消失させた。人工衛星からもよく分かるぐらいの大爆発であり、世界中に置かれている様々な観測所で異常振動等が確認されていた。

 

その報告を受けた本部や他の支部は現在厳戒態勢にある。エヴァが原因であることは間違いないため、慎重になっているのだ。幸い、本部のエヴァは表向きではS2機関を搭載していない。それに初号機と零号機は初期型のため、まず根本的に違う。弐号機は新型は新型でも元はユーロNERVの機体のため違う。ただし、弐号機には秘められたモノがあるが、それは秘匿されている。

 

「さて、残ってしまった参号機だが。そっちに移送する。道中で何かくっ付くかもしれないが、上手く対処してくれ」

 

「大丈夫ですよ。全てはシナリオ通りに進んでいます。多少の誤差がありますが、気にならない範囲で収まっています」

 

「彼のシナリオ通りですから、皆様が心配することはございません。ただ、碇の奴との付き合いを変えていただきたいです。ご存知と思いますが、運命は分岐し始めており、碇(ゲンドウ)が怪訝に思い始めてもおかしくない」

 

モノリス達の顔色を伺うことは一切できない。しかし、何となくの感覚で向こうは顔を引き締めていると思われた。そう、この裏のSEELEは表のSEELEとは違う。後者は碇ゲンドウが従い、前者が碇シンジが動かしている。

 

「なるほど…」

 

「確かに、奴が気づき始めても変ではないな」

 

「どうする?奴を甘く見てはならない。いつでも切る用意はできているが、タイミングを誤れば面倒なことになる」

 

「後釜に据える人選は済んでいる。しかし、今は早すぎるだろう。我々で適当な理由を付け、SEELEがシナリオの修正を図っていることにするのはどうだろうか。我々が認めている節を見せるが、逆に彼(シンジ)のシナリオが適用されていることを悟らせない。それに、碇は自らの手で更なるシナリオの書き換えに動くことになるから、同時に彼へのマークが弱くなるだろう」

 

一体(一人)が提案したことに、他のモノリスと冬月とシンジは納得して了承した。シナリオは大きな分岐点に差し迫っていて、このまま行けばルートは『碇シンジの新世界』へと変わる。それはモノリスの望む人類補完計画の完遂の発展となっており、旧SEELEメンバーが言うことは一切ない。だって、確実性の高いシナリオなのだから。

 

「では、そのようにしてください。参号機とくっ付くかもしれないモノは、こちらで処理して構いませんね?」

 

「もちろんだ。どっちとも、煮ても焼いても構わない。好きにするがよい」

 

「お心遣い感謝します」

 

この後も会議は行われた。

 

儀式の最終確認をして。

 

後日

 

「これが参号機ね」

 

「北米NERVが建造したけど、倉庫で埃を被りかけていたエヴァ。肆号機に仕事を奪われて可哀想だったけど、こうして日本で働くことになるとは」

 

赤木リツコ博士の仕事部屋にはミサトが訪れていて、今度移送されてくる参号機について話していた。完全消滅した北米NERVのエヴァであるから、2人としてはしらみつぶしに情報を知っておきたい。誰もが自爆されては困ると思っている。

 

「本当なら、エヴァどれか1機を封印しなければならない。それがバチカン条約。でも、うちは無視して4機体制を敷いている」

 

「使徒と戦うことを考えれば、エバーが3機では足りなさすぎる。いくらパイロットがいないにしても、使えるエバーが1機増えるのは大きい。副司令には感謝しないとね」

 

世界各国はバチカン条約と言う名の条約を結んでおり、エヴァの軍事転用の禁止などを定めている。その中でも一番厄介なのがエヴァ保有数の制限だ。各国は最大で3機までしかエヴァを持てないとしている。これが邪魔で邪魔で仕方ない。使徒を撃破するには心もとなさすぎる。各NERVがエヴァの性能向上に頑張っているのは、この条約のせいでもある。

 

NERV本部は参号機の受け入れで4機となっているから条約に抵触してしまう。となれば、どれか1機を封印して3機に調整しなければならない。しかし、本部はしなかった。

 

「そうね。あの人は裏の功績者と言える。あ、そうそう。悪いんだけど、試験の日はリツコも地上に出てもらうから」

 

「えぇ。それは分かっているわ。私の心配をするより、彼女の事を気遣ったら?」

 

「そうねぇ。チルドレンの中で一番技術があるアスカにテストパイロットを押し付けちゃった。後で話しておく」

 

移送された参号機は実戦投入に耐えるかどうかを見定めるために幾つかの試験を行うことにしている。初号機の初陣のようにぶっつけ本番での投入は絶対に避けたい。第一段階に起動実験を行う予定で、テストパイロットをアスカにしてもらう。パイロットの中で一番技術があるので、非常時でも冷静に対処できるからの人選となっている。

 

「一応、シンジ君とレイは待機状態でいてもらうから。急に使徒が出現しても参号機を引っ込めて、初号機と零号機で戦闘できる。そう言っておけば、彼女もノビノビできるでしょ」

 

「その方が安全だと思うわ。コーヒーいる?」

 

「悪いわね、もう一杯おねがい」

 

この実験が上手く行けば、NERV本部は戦力の大幅増強が可能となる。パイロットがいなくても、エヴァ本体があればやりようはある。実はパイロットが不在でもエヴァを動かせる研究が既に完了していて、ダミーシステムなる物が実用一歩手前となっている。参号機にダミーシステムを乗っけて、囮役などを務めさせるなど先述の幅が広がる。

 

2人は仕事話をしながら、暖かいコーヒーを嗜んだ。

 

~一週間後~

 

地上ではエヴァンゲリオン参号機の起動実験のために特設の陣地と仮設の指揮所が建設されている。そこで現地指揮を執っているミサトは、ある人物から電話を受けた。表示されている名前はアスカ。

 

「何、どうしたの。あ、まさかだけど。シンちゃんに会いたいとか」

 

(そんなんじゃないわ。ま、確かにシンジとは仲良くしてるけど。なんか、ミサトと話したくて)

 

「そう、私でいいのね。愛しのシンちゃんはレイと待機中だから、終わればすぐに会えるわよ。彼は幸せ者ねぇ、可愛い女の子2人を貰っちゃって」

 

(なにが言いたいのよ)

 

「別に、微笑ましく思っているだけ。本当よ」

 

シンジは前のデートで完全にアスカと和解して、親密な関係にまでなっていた。アスカは彼の優しさや包容力等の人間性に惹かれて、彼を愛することを選んだ。一応、表では単なる友達的な関係を装っているが、そんなのは見え見えの芝居である。実際のところはミサトから見抜かれている。

 

シンジには既に天使として綾波レイがいて、追加でアスカが追加された形となる。普通に考えれば二股をしている最低な男として見られるだろうが、シンジはエヴァのパイロットで、ガールフレンド2人もそうだ。命を捨てて戦う仲間で、共に死地を駆ける。そんな3人が親密になって、誰が文句を言えるだろうか?いや、誰も言えない。大人たち職員は自分たちは安全な本部でやんややんや言うだけなのだから。

 

(それにしても、このプラグスーツ薄すぎない?)

 

「しょうがないわよ。誰も見ないから我慢してちょうだい。その代わりと言ってはなんだけど。これが終われば、みんなで甘いものでも食べに行きましょう。お金は副司令が出してくれる」

 

(言ったわね。駅前の新しいスイーツショップに行くわよ)

 

「約束する。頑張ってきなさい、アスカ」

 

(うん、忙しいのに応えてくれてありがと。それじゃ)

 

ピ!

 

ミサトは電話を切って、自身の仕事に戻る。

 

アスカは参号機に乗り込んで、開始を待つのみ。

 

参号機のプラグは弐号機の物と大差なく、特段の違いは無い。ただし、データ採取のために多少機器が追加されているようだ。シンクロには影響が出ないように配慮されているので、彼女が気にする必要性は皆無。現在はカメラで外の状況を確認することができるぐらいで、まだまだ本格的な起動は先だ。

 

「はぁ~さっさと終わらせてスイーツを食べに行きたい。何にも起こることなく、平穏無事に行ってくれると嬉しい。そう簡単に上手く行くのはそうそうないけど」

 

プラグ内でくつろいでいたアスカは手持ち無沙汰で暇にしていた。早くこれを終わらせて、甘いものを食べに行きたい。自分、レイ、シンジ、ミサトの4人で駅前のお店に行こう。

 

そんな事を思っていたら。

 

「え…何!?」

 

突如としてプラグ内に広がる外の景色が歪み、正体不明の光景に差し替えられる。少し取り乱したが、プラグの不具合だと考えて外の作業員やミサト、赤木博士に連絡を取ろうとした。

 

しかし、繋がらない。通信もいかれているのか。

 

「っ!?」

 

みるみるうちにプラグ内は異空間のようになる。正面には無数の十字架が立っている。そして、子供たちの笑い声が聞こえる。これは…とんでもない異常が発生している。

 

アスカは必死に藻掻くが、事態は好転しなかった。

 

そして、遂には…

 

連れていかれてしまった。

 

深き深き所へ…

 

それと同時に、参号機は叫んだ。

 

続く




次回予告

暴走を始めた参号機

侵蝕型の使徒が参号機に寄生して、第九の使徒となっていたのだ

本部のトップである碇ゲンドウは殲滅命令を出すが

シンジは救済をすることを選んだ

冬月も同調し、ゲンドウは一度シンジにゆだねることにする

初号機と参号機

魂の救済が始まる

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『魂の救済:後編』


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魂の救済:後編

後編です。サクサクと行く関係で数話後はクライマックスとります。


「参号機との信号途絶!」

 

「プラグ強制排出受け付けません!」

 

本部の指揮所は緊迫した空気に包まれていた。地上で試験を行っていた筈の参号機が突如として暴走を開始し、現地指揮所とのコンタクトがとれなくなった。地上の状況は不明となっており、重武装の戦闘員と救護班が向かっている。辛うじて生きていたカメラで状況把握を急ぐ。

 

暴走を開始した参号機に対応するため、予め待機状態でいた初号機を緊急発進させてある。初号機は参号機の侵攻ルート上に配置してある。

 

「やはり侵蝕型の使徒か。おそらく、米国からこちらへの移送中に何らかの方法で参号機に侵入した。暫くの間は潜伏して機会を待っていた。丁度よくパイロットが乗り込んだところを襲ったと見るべきだな。碇、どうする?相手は使徒でも、セカンドチルドレンが搭乗しているぞ」

 

「現時点を以て、エヴァンゲリオン参号機は登録より抹消。あれは第九の使徒と断定し、せん滅する」

 

ゲンドウは早かった。参号機は登録を抹消&放棄して、第九の使徒だと言い切った。MAGIの判断は保留を繰り返しており、判断をすることは難しいがキッパリと決めた。

 

しかし、それでもだ。

 

(そう言っても、あれにはアスカが乗っているんですよ…父さん)

 

「構わん。使徒は人類の敵。滅ぼさなければならない。あれは使徒だ、倒せシンジ」

 

(使徒を倒すことは当たり前のこと。でも、アスカは助けてみせる)

 

「命令に従え。あれは使徒だ。参号機に乗っているパイロットのことは考えるな。命令だ」

 

現場と指揮所での食い違いが発生してしまった。現場の碇シンジとしては仲間であるアスカのことを助けた上で使徒を殲滅することを望んでいる。極めて当然の思考だが、それは同時に恐ろしく困難な戦いになることを表す。まず救助できるのかが怪しいし、下手をすれば自分がやられてしまうだろう。彼に対して、指揮所の碇ゲンドウは参号機パイロットは考えずに使徒殲滅を第一としている。甘ったるい行動はしないで、最重要事項を果たすのみ。ただただ、使徒を倒す。

 

なるほど。両者の考えは正しくて、決して間違っていない。だからこそ、このままでは水掛け合戦である。埒が明かないのは自明の理。

 

そこで、ある人物が動いた。

 

「碇、一旦は彼の好きなようにさせればいい。アスカ君の救助が不可能となれば、すぐさま使徒殲滅にシフトすれば問題ない。彼だけで戦力的に不安なら、零号機を追加投入するのが筋だ。ここでセカンドチルドレンを失うのはかなり痛いぞ」

 

「…わかった。初号機パイロット、許可する」

 

冬月がシンジに同調する発言をしたため、この戦いはシンジ有利となった。さすがに副司令官がパイロットと同じ立場なら、司令官が1人戦うには辛いものがある。その副司令官は折衷案のような考えを出したので、ゲンドウは譲歩の選択をとった。

 

(ありがとう…父さん。冬月副司令)

 

かくして、初号機によるセカンドチルドレン救出作戦が始まった。

 

 

~初号機~

 

「さて…アスカ。君の魂を救済しようか」

 

初号機はズンズンと進んできた参号機と対峙する。参号機は初号機を認識したのか、四つん這いになった。これは戦闘開始直前と見るのが適当だ。それだけに留まらず、背中の上部から新しく2本の腕を生成して4本腕となった。なんということだ。使徒はエヴァを乗っ取っただけでなく、変容させることもできるとは。

 

「悪いけど、僕の天使を返してもらうよ」

 

相手が仕掛けるのと同時にシンジも動いた。飛びついて原始的に攻撃して来る参号機を受け止めたが、山に打ち付けられる。この状態は絶対的に彼が不利なのだが、使徒戦の経験が多いから焦らないし慌てない。攻撃される前にカウンターを決めて、参号機を投げた。

 

今度は参号機が山に磔にされ、シンジの怒りの連撃が始まる。シンジは彼の表裏の姿関係なく使徒に対する怒りが存在する。使徒は何であろうと、誰が何と言おうと敵である。場合によっては使徒を利用することもあるかもしれないが、まず生かしておくことは絶対に無い。無いの無い。いくら予定調和でも、己の天使を蝕む使徒には神の裁きを下さなければならぬ。

 

神たる碇シンジの裁きを。

 

「おそらくシンクロはカットされているはずだから、アスカにダメージは入らない。魂と肉体が浮遊状態にあるのが怖いけど、魂さえ救済できればどうにかなる。器は幾らでも用意できるからね」

 

(シンジ君、後のことを考えてプラグだけを持って帰ればいい。参号機自体は既に登録を抹消しているから、本体は気にせずに戦いなさい。君の手で屠ってもよいし、我々で屠ってもよい。ただし、セカンドチルドレンの救助を狙うのなら、プラグだけでいいから持って来なさい。わかったな)

 

「はい、分かっています」

 

相手を抑え込みつつ、背中から生えている2本腕をプログレッシブナイフで切り裂いた。シンジは豊富な経験と知識、的確な分析でパイロットと参号機の間で感覚の接続はされていないと判断している。現在は使徒が操作を奪っていて、パイロットは何も干渉できていない。

 

「ジタバタしても無駄だよ」

 

使徒は負けじとパワー全開で初号機を引っぺがしに入ったが、S2機関を搭載していて使徒以上のパワーを持つ初号機に勝てるわけがない。完全に抑え込まれた使徒は足掻き続けるが、まさに無駄な足掻きで終わっている。シンジはいい加減面倒くさくなったので、無抵抗に追い込むことにした。思いっきり頭部を殴ることで相手を一時的に意識不明の状態にする。

 

「よし、仕上げだ」

 

プログレッシブナイフを器用に使って参号機の首元の装甲版を切り開いて、腐食されたプラグを発見する。見るからに気持ち悪く、ネバネバしている。これは体に悪そうだ。だからと言って、ここで嫌がって諦める?冗談はやめてくれ。

 

プラグを無理やりに引っこ抜きに入るのと同時に、シンジは少女への干渉を開始した。

 

 

 

~???????????????????~

 

 

「ここが…アスカの精神世界か」

 

シンジは初号機のプラグ内にいたはずだが、雪が降りしきる見知らぬ地で立っている。自身の恰好は上下をスーツでピシッと決めている。おそらくだが、この世界の定理では彼はこの格好をしなければならないらしい。知らない世界は散策したくなるものだが、彼にはこの世界に来た目的がある。それを忘れてはならない。

 

彼の周りは雪を纏った針葉樹で埋められている。歩いて行くと小さな川が流れており、そこには倒木で出来た簡易的な橋が架かっている。その橋の上には、彼がよく知る少女が蹲っていた。少女からはシクシクと泣いているような声が聞こえる。シンジは驚かせぬようにゆっくりと近づいて、隣に座った。

 

「え…なんでいるの。あんたが」

 

「いたら悪かったかい?」

 

「助けに来たっていうの?こんな状態で?こんな私を?」

 

「そうだよ」

 

少女は自身の精神世界に干渉してきた少年に驚いた。今までは自分だけだった世界に他者が入り込んでくるなんて。しかも、入り込んできたのが自身の愛する者とは。自分が一緒に生きたいと願った少年が来てくれて嬉しかった。でも、使徒に蝕まれている私を…受け入れるのか。

 

シンジは少女が次の言葉を放つ前に動く。

 

「もういいんだよ。君が苦しむことは無い。よく頑張ったさ」

 

「えっ…そんなことしたら!」

 

シンジはアスカを後ろから抱きしめた。いくら精神世界と言えど、現在の彼女は第九の使徒に侵蝕されている状態であるから、安易に接触するのは危険。それを理解しているアスカは彼に警告した。

 

カビは周囲に広がるだろう?つまりは、そう言うことだ。

 

だが、世の中には『毒を以て毒を制す』との格言が存在する。彼はただの人間か?

 

違う。

 

神にとって、使徒は敵ではない。

 

「ほら、全部僕に任せればいいんだよ。身も心も僕にゆだねて…君には安らぎを与えよう。神の天使として君は僕と永遠を生きるんだ。綾波もいるから、みんなで仲良く生きようね」

 

「あっ…」

 

シンジは抱きしめを数段階引き上げた。緩すぎず、キツ過ぎずの力加減は絶妙の二文字に尽きる。元々彼の包容力は凄まじく、レイもアスカも彼には抵抗できない。拒むことを許さぬ抱擁にアスカは彼の言うとおりに身を任せた。使徒に蝕まれている自分や苦しみに支配されたこの世界のことがどうでもよくなってくる。

 

しかし、疑問が沸々と湧き上がって来た。

 

なんで、私はこれほどまでに苦しまなければならなかったのか?

 

なんで、私は他者から酷い扱いを受けなければならなかったのか?

 

なんで、この世界は私に冷たいのだろうか?

 

なんで、誰も私を認めないのだろうか?

 

「なんで?」が彼女の中で湧くばかりだ。

 

「この世界は僕たちに残酷だからだよ。そして、この世界を誰も変えようとしない。だったら、僕たちで変えてしまえばいいんだ。この世界を変えて、理想郷を創る。誰も邪魔できない。神と天使が暮らす世界を手に入れる」

 

「みんなで生きる世界…誰にも邪魔されない」

 

「そう。選ばれた者達だけが生きることができる。僕たちの幸せのために創られる新世紀」

 

アスカは泣き止み、穏やかな顔に戻りつつある。もう、心は完全に掌握されている。少なくとも、彼女に拒絶されることはない。

 

「私はシンジと生きる…この世界は私たちだけのもの」

 

「交渉成立…アスカ。ようこそ…神の世界へ」

 

このとき、完全にアスカはシンジに取り込まれた。

 

彼女は後ろを振り向かず、後戻りもしない。

 

もう、今までの式波・アスカ・ラングレーは消え去った。

 

そして、碇・アスカ・ラングレーが誕生したのだった。

 

神を取り囲みし天使が増えた。

 

その証拠としてアスカには光の羽が生え、頭上には光の輪が形成された。

 

「さぁ…式は近いよ。アスカ」

 

精神世界でシンジがアスカを救済するのと同時。

 

初号機は参号機からプラグを引き抜いた。

 

続く




次回予告 ※今更ですが、時系列を変えています

紆余曲折あれど、第九の使徒殲滅には成功した

救助したセカンドチルドレンはNERV本部の深部で隔離される

普段の生活に戻ったシンジは、畑仕事を手伝っていた

スイカを前にして語り合う男と少年

絶望の儀式と種の保存を両立せん

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『引継ぎ』


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引継ぎ

後書きに次章の予告を書いています。ネタバレになるとは思っていませんが、見たくない方は見ないでください。


「わざわざ手伝いに来てくれてありがとうございます。シンジ副議長、副司令」

 

「誰もいないからって、その口調はやめてほしいなぁ。加持さん」

 

「仕方ないでしょう。俺の上司は神様なんですから」

 

シンジと冬月の2人はとある場所に来ていた。そこでは1人の男が作業をしている。彼らの周囲は緑一色となっていて、とても目に優しい。その緑は様々な植物が生きているためであり、気のせいかもしれないが空気が綺麗に思える。そう、ここはちょっとした畑である。この畑をたった1人で管理しているのが加持リョウジ主席監査官だ。ただ、さすがに彼だけでは作業しきれないので、援軍として2人が来ている。

 

これは表向きは畑仕事のお手伝い。しかし、手を動かしつつ彼らはおぞましいことを話していた。

 

「セカンドチルドレンは救済の最終段階として魂と器の定着をするために入院ですか。まったく、シンジ副議長は恐ろしい方ですよ。彼女の精神世界に干渉し、彼女から自発的に魂を変えさせてしまう。人を捨てたあなたには勝てませんね」

 

「別に加持さんとは勝負をしていないよ。彼女を救済したのは、それが彼女にとって一番の希望だから。アスカにとって、この世界は絶望しか存在しない。誰も希望を与えようとも見せようともしなかった。だったら、神を超える存在の僕が与えればいいんだよ」

 

「傍から聞いていれば、ただの狂言にしか聞こえんが。君には出来てしまう。ネブカドネザルの鍵を使ったシンジ君は神と等しい存在になっているからな。そして、この後の儀式で更にな」

 

3人は意味ありげな会話しかしない。会話しながらも、ちゃんと手は動かしている。シンジは珍しく普通の笑みを浮かべている。彼が純粋な笑みを浮かべることは稀有なことである。彼の笑みのほとんどは悪いものばかりなのだ。

 

「アスカは第九の使徒に侵蝕されたから、ちょっと休んでもらわないとね」

 

「肉体に外傷はなく、精神も安定している。ただ、使徒と同化した以上は何らかの手を打たなければならん。小型化に成功した封印柱を埋め込むことで使徒の力を封じることになっている。変に暴走されては困るからね」

 

そんなことを話していると、少年ことシンジは大きな球体を慈しむように眺めていた。シンジが心から楽しそうにしているのを見て、加持は語りかける。なんせ、彼がここまで純粋に反応することは見たことがなかった。

 

「それはスイカですよ。セカンドインパクト以前は広く食べられていた植物です」

 

「スイカは資料で見たことがあるだけだったよ。こうして目で見て、手で持つのは初めて。大きな果物?なんだね」

 

「えぇ。上手く育てば結構な大きさと重さになります。その代わり、運ぶには骨が折れるのが難点です」

 

この畑は普通の畑なのだが、育てられている作物は全てセカンドインパクト以前に広く栽培されていたものである。未曾有の大災厄のセカンドインパクトは人だけでなく、数多もの動植物を根絶やしにした。海は赤き死の海と化して海洋生物は消えた。陸地も例外ではなく、かなりの数の種類の植物が絶えた。スイカは例外ではなく、絶滅したかに思われた。奇跡的に辛うじて残っていた種子を加持が頑張って増やそうとしている。

 

「スイカを含めた植物の種子はシェルターに保存する予定だけど、何か欲しい物や事はあるかね?」

 

「特にありませんよ。あの研究所を貰って、将来的には希望の箱舟を頂戴するんですから。これ以上に何を望むと思いますか、副司令」

 

「そうか、満足してくれているのならよかったよ」

 

「例の研究所の補強工事は完了しているから、儀式を行っても無問題。海の生き物だけでなく、加持さんが心血を注いで守って来た植物を保持するための母たる大地。マザーベース」

 

加持はSEELE副議長でこの世界を己の掌中にしている碇シンジと取引をしていた。元よりSEELEの工作員だった彼はユーロNERVからネブカドネザルの鍵を運び出し、それをシンジに渡している。本来であれば鍵は碇ゲンドウの手に渡るはずだったが、彼には複製品が送られている。これはシンジが加持に『種の保存』を全面的に認めて、彼の希望全てに満額回答をしたためである。碇ゲンドウの人類補完計画では、ありとあらゆる生物が絶えることになっていて、とてもではないが加持には受け入れるものではなかった。本当の主である碇シンジは生物が消えることに対して快く思っておらず、神の世界では生物が自由に生きることを望んでいる。

 

儀式が行われても生き物たちが生きて行けるように、シンジは母たる大地を建設した。それが例の海洋研究所だった。古の海洋生物の保護を行っている施設である。その地下にはシェルターが置かれていて、ここには種子保存ユニットがあり、世界中からかき集めた種子が将来的には保管される予定だ。もちろん、いくら頑丈な構造で、地下にあるとしても未曾有の災害には耐えられないことが十分考えられる。それについての対策はしてある。施設は、冬月が純粋な魂のプロトタイプに研究と生産をさせていた封印柱でシェルターを含めた一帯を囲んである。

 

生物が神の儀式を耐えて生き抜くために設置された母たる大地。それが、マザーベースなのだ。

 

「マザーベースはいいとして、箱舟はどうなっているんですか?副司令」

 

「シンジ君のおかげでS2機関の諸データを収集することができた。あとはアダムスの器の建造に入るだけだが、なんせ物が物だ。すまないが、形になるまでには時間がかかる。他にも量産型エヴァンゲリオンの生産もあるからな。全部を私一人で捌いているから、どうしても手が回らない」

 

「ご苦労様です。冬月先生」

 

3人は作業を進めつつ、もうすぐに迫った世界を変える儀式のことを語り合う。農作業しながら世界の生末を決めることが行われるとは、誰もが考えも思いもしなかっただろう。

 

 

~NERV本部の最深部~

 

本部の中でも特に地下深い地区は職員でも極々僅かな限られた者しか入ることが許されていない。その地区の一角では大量のパイプが繋げられた特殊な装置がある。その装置の中からは人の呼吸音が聞こえる。どうやら、ここは特別な医療設備が置かれる場所らしい。その装置を特殊ガラス越しに見て、その呼吸音を聞いている少年が1人いた。

 

「ごめんね。アスカ。ゆっくりと休んでね。君は働き過ぎたんだよ」

 

本来であれば、この少年が深部まで入ることは許可されていない。いくらNERVにおける最重要人物と言えどもである。しかし、彼はNERV内を自由に動き回ることができてしまうのが現実だった。なぜなら、彼を支える裏の裏の老人がいるから。

 

「段階的に進めていくしかないから、まだ時間はかかるけど…僕たちの世界を創ろう。君がまた頑張るのは僕が目覚めてからだね。それまでは、14年間は休養と先生の手伝いをして欲しい。ちゃんと、ニアサードインパクトは僕が責任をもって遂行するけど、その代償に永い眠りにつかなければならない。当たり前だけど、僕が死ぬわけではないから安心して。それ以前に神である僕が死ぬことが無いんだけどさ」

 

少年はそう言って己の首を摩った。その首をよく見れば注射をした跡がある。インフルエンザなど広く行われている感染症の予防接種で注射を受けた跡にしては少し大きい。そして、跡の周囲が「トクン…トクン」と脈をうっている。じっくりと見てようやく分かるぐらいで、誰かが近くにいても気付くことは至難だ。

 

「まだ完全に順応できないか。流石に人間から一気に神となるのは無理だったということだね。それでも、アダムたる『ネブカドネザルの鍵』を使って、外形に変化なく副反応も一切出ていないのは僕が神となる資格があることを表している。神は碇ゲンドウじゃない…この僕だ」

 

首をゴキゴキと鳴らす勢いで動かす。そして、誰にも見せたことが無いような慈悲深い目をした。

 

「アスカ、約束だ。僕が目覚めたら…ここで式を挙げよう。みんなで一緒に」

 

続く




【次回予告】※今回は無し
私生活の多忙につき、内容が定まっていないので次回予告は無しとさせていただきます。ご了承ください。次回の素案は、ネタバレにならない範囲で言えば、最強の拒絶襲来です。場合によっては、クライマックスを全部入れ込むので一万字を超える長編になるかもしれません。以上のこと、予めご了承ください。

【次章の予告】
本作の骨は新劇場版となっていますので、次章は「Q」に入ります。ただし、本作では原作とガラリと変わります。まだ構想中の所も多いですが、一部を言いますと。エヴァパイロットが増えます。これはオリキャラではありませんので、ご安心ください。何かご質問ありましたら、活動報告又は私へのDMにお願い致します。


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絶望

今回は破のクライマックスで最後の話ですので、めちゃくちゃ長いです。普段の三倍はあると思います。

※文字数が多いので、視点変更がかなり多いです
※もう全部が大きく変わっています


「第二防衛ライン突破されます!」

 

「97,21,67…数え切れない数の砲台が消滅!」

 

NERV本部の指揮所は史上初と言えるぐらいの緊張感に支配されていた。これだけの空気にする要因は使徒出現しかないが、彼らは既に5回以上は経験している。ならば、職員達は良い意味で慣れているはずだ。使徒が現れたら、それにどう対応すればいいのかは実戦で染みついているだろうに。

 

しかし、その染みつきは効果を発揮することができなかった。なぜなら、今回の使徒は全てが規格外だったから。

 

メインモニターに映る使徒は浮遊して移動しており、無人砲台の攻撃をすべてATフィールドで防いでいる。これは何度も見せつけられてきたことだから気にしないでいい。しかし、反撃が凄まじ過ぎた。使徒は目を光らせたかと思えば、砲台ごと要塞や天然の壁の山を消し飛ばした。一度の攻撃で、一発で防衛ラインの殆どが消滅させられている。これほどまでの攻撃力は見たことも聞いたことも無い。

 

「第十の使徒…最強の拒絶タイプか。最終防衛ラインも持たぬだろうな。碇、最終戦闘命令を発出するぞ」

 

「あぁ、わかっている。エヴァンゲリオンは初号機と零号機の発進準備だ」

 

戦闘面の指揮権は葛城ミサトが委任される形で有しているが、彼女を以てしても指揮を執ることが難しい時は冬月が命令を下す。本当なら碇ゲンドウの仕事だろうが、彼は極めて抽象的な指示しか出さない。事実として、戦闘の指揮を表向きの右腕の冬月に任せ、自分はエヴァの発進準備の指示しか出さなかった。

 

「NERVに最終戦闘命令を発出する。今回の使徒は全ての面で過去の使徒を遥に凌駕している。よって、既定の戦闘員以外の非戦闘員は直ちに退避せよ。戦闘員は、最後まで戦ってもらう。エヴァンゲリオン初号機と零号機の発進を急げ」

 

冬月が命令を発出する間にも使徒はズンズン侵攻してくる。無人砲台が弾を撃ち尽くす勢いで射撃しているが、全て虚しく防がれている。そしてカウンターと言わんばかりに攻撃を受けて消し去られる。オペレーター達が注視する各々のモニター画面に表示される防衛ラインには一瞬で穴が開けられた。そして、あっという間に線は消えた。

 

最終防御ラインが食い破られたのだ。

 

「最終防衛ラインが壊滅!」

 

「ダメです!時間稼ぎすらできません!」

 

「MAGIは即刻退避することを推奨しています。三者一様にです」

 

NREVの中でも碇ゲンドウに並んでポーカーフェイスと言われる冬月が表情を崩した。その顔は苦悶に満ちており、誰よりも早く頭を回転させている。暫くして、彼から放たれた言葉は最悪を見越していた。

 

「やむを得んな…NERV本部での決戦に移るしかない。何でも構わん、とにかく早くエヴァを出撃させるんだ」

 

もう、ここまでやられたら死を覚悟しての戦いしかない。まだ使徒は本部まで到達していないから、少し早いのではないかと言われるだろう。職員の一定数は「悲観し過ぎだ」と喉まで言葉が出かけたが、冬月が正しいことを嫌程教えられる出来事が起こった。

 

最終防衛ラインを突破してNERV本部の近辺にまで侵攻した使徒は再び両目を光らせる。既に無人砲台の8割が壊滅しており、辛うじて生きている砲台は攻撃不能ななっている。使徒にとっての障害は何もないのに、なぜ攻撃をするのだ?

 

そんなの無駄だろう。

 

いいや違う。使徒は最後の障害を取り除くために攻撃をした。

 

オペレーターが報告する前に葛城ミサトが状況を把握した。

 

「うそ…でしょ。20層を超える特殊装甲板を全部一撃で焼き切った!?これじゃ、こここまで一直線じゃない!」

 

「使徒、侵入してきます!」

 

やはり、最強の拒絶は格が違った。使徒の中で本部にまで侵入しようとしたのは、プリズム状の使徒だけである。こいつはATフィールドを応用したドリル掘削で器用に穴を開けようとしていた。しかし、今の使徒は通常の攻撃で穴を作ることを選んだ。分厚くて硬い特殊装甲版が何重にもなっているのに、それを全て溶か切ったのである。地上には大穴が開き、使徒が通るには十分すぎる大きさだ。この穴から本部まで、使徒が一直線に降りてくることが予想された。

 

まさに絶望しかない。

 

その時。

 

なんだかよく分からないが、朗報?が飛び込む。

 

「なんで…弐号機が出撃してるの」

 

「弐号機の出撃命令は出ていません…誰が弐号機を」

 

本部内のどこかで作業をしていた職員から「エヴァ弐号機が出撃している」との報告が入った。準備をしている初号機と零号機よりも早く出てくれている。これなら何とか迎撃できる。しかし、いったい誰が乗っている?正規パイロットのアスカは第九の使徒に蝕まれたことで、現在は入院中である。よって、弐号機を操れる者はいない。

 

その答えを誰も見出せないかに思われたが、冬月は分かっていた。

 

「やはり…君が動くか。1人で時間稼ぎを買って出てくれたことには感謝しよう。イスカリオテのマリアよ」

 

 

 

~弐号機~

 

地下格納庫から専用のケーブルカーで本部のある階層に立っているエヴァ弐号機。プラグ内では侵入してきた使徒を睨む少女が1人いた。

 

「さっすが、先生は国際条約を無視して動くだけはある。弐号機を万全な状態で置いてくれるなんてね。そんじゃ、いっちょやりますか」

 

持参してきたサブマシンガンを手に持って動き出す。使徒はこちらを把握しているようで、向こうは戦闘態勢に入っていた。地上にいた時は体を細めていたが、侵入するのと同時に体を大きく広げていたのだ。布のようなものをヒラヒラさせてもいる。そんなことは気にする暇はない。まずは小手調べだ。

 

「ありゃ~全く効かない。近づいて一気に決めるしかなさそうね」

 

予想していたが、射撃は全て無効化される。基本的に使徒は近接で倒す敵だ。早々と手に持っているサブマシンガンを放棄して、また別の武器を取り出す。これもまた、エヴァ用の銃器なのだが、下部に銃剣が備え付けられている。これなら、射撃戦と近接戦を同時並行させることが可能だ。

 

「せめて、彼が来るまでの時間稼ぎはさせてもらいますよっと」

 

勢いよく使徒に向かって走り出した弐号機。使徒だって負けじと多重ATフィールドを展開して近寄らせない。いくら使徒と言えども、人類の技術と底力を舐めないでもらいたい。弐号機は、使徒へ大きく跳ぶ。そして、銃剣を思いっきり突き刺さそうと動いた。

 

「やっば!」

 

多重ATフィールドの何枚かは破ったが、なんせ数が多い。ただでさえ絶対防御の名を誇るATフィールドが重ねられているため、勢いをつけても全部を破ることは叶わなかった。その隙を見逃さずに、使徒は至近距離で超強力な砲撃をしてくる。本能的に危機を察したパイロットは素早く回避行動に移るも、至近弾の衝撃波で吹っ飛ばされた。

 

無抵抗で風に飛ばされる落ち葉のように舞った弐号機は瓦礫の上に叩き付けられる。

 

「いったた…ちょっ!近い!」

 

物理的に叩き付けられた衝撃とフィードバックの痛みに耐えようとしたら、直上に使徒が迫っていた。なんという行動の早さだろうか。使徒は確実に弐号機を屠るためにATフィールドを攻撃に転用して、物理的に押しつぶそうとしてくる。それを間一髪で避けるを繰り返すしかない。笑えないぐらいに、使徒が異常に強すぎる。エヴァでやっと使徒と対等に戦えると思っていたら、使徒はエヴァを圧倒する力を見せつけて来やがった。

 

瓦礫と瓦礫を飛び跳ねての回避に一辺倒の弐号機。誰がどう見ても劣勢だ。何とか起死回生の策を披露したい。まず、一番手っ取り早いのは初号機と零号機を追加投入することだが、使徒が本部へ直接侵入した混乱で作業は遅延している。まだ間に合わない。

 

「しゃーないか。弐号機には申し訳ないけど、無茶するわよ」

 

プラグ内で立った少女は大きく息を吸ってから、力強く言い放った。

 

「モード反転…ザ・ビースト!!

 

プラグ内は赤く染まり、何やら、とんでもないことが起こることをひしひしと感じさせる。それを裏付けるように、パイロットはもがき苦しみ始めた。体をねじらせて、歯を食いしばって苦痛に耐えている。少女の目は不気味に光り、表情も鋭くなる。

 

まさに…獰猛な獣だ。

 

「あぁ!ごめんね…でも、ここでやらないと!いけないから!」

 

 

~指揮所~

 

弐号機の異様さは指揮所でも確認出来ていた。

 

「弐号機に何が起こっているの」

 

「噂程度に聞いていたことがある。ユーロNERVの最新型エヴァにはエヴァ本来の姿を引き出す(むき出しにする)システムがあるって。欧州の冗談か何かだと思っていたけど、まさか本当だったとはね」

 

「まったく…本当に無茶をする」

 

弐号機は二足歩行から猛獣と同じ四足歩行となる。両手両足で力強く地面を掴み、跳びかかろうとしている。先までの華麗な動きとは真反対の力によるゴリ押し。獲物を見つけた猛獣はひたすらに食らいくだけだ。飛びかかるのと同時に、片方の手で全力殴りをする。1回殴るだけで、多重ATフィールドが気持ちよく割れていった。なんとまぁ、銃剣の時より素早く且つ多く割っているぞ。エヴァ本来の姿を使うことで、こんな簡単に使徒の防御を崩せるのか。

 

「あれだけの力を引き出す、何らかの代償があるわ。パイロットには、到底耐えることができない苦痛が襲っているはずよ。それを無視できるだけの覚悟と心が無ければ、まぁ無理ね。あのパイロットには敬服しましょう」

 

人を捨てたエヴァ弐号機の戦いに指揮所の職員は圧倒されるしかなかった。そして、皆が一様に弐号機を操る者へ尊敬の念を抱いていた。

 

だが、それも一気に悲嘆に突き落とされることになる。

 

「いかんな…」

 

ATフィールドを叩き割る弐号機に向かって、使徒はヒラヒラさせていた布を変形させて、その先には拳を作り出す。何をするかと思えば、拳を弐号機に飛ばした。力押しをするしかない弐号機は使徒の眼前に立つため、もろに攻撃を受けてしまう。ただ殴られる程度で済めばよかったが、現実は極めて残酷なのが当たり前だ。

 

「うっ…」

 

殴られるのではなく、拳に貫かれた弐号機。左腕を失い頭部の右側を削られる。失って、削られた部分からは赤い液体が噴出している。エヴァが人造人間であることを思い出させてくれる光景。この凄惨な光景には、思わず顔を背けてしまう職員がいた。

 

大ダメージを受けたから、ここで撤退しても誰も文句を言わない。それでも、弐号機は戦闘続行の意思を行動で表す。本部との通信は最初から切られているので、双方での意思伝達ができない。だから、動きで意思を伝えるしかなかった。使徒にリベンジするエヴァ弐号機。いくらなんでも無茶の無茶が過ぎるだろうに。どれだけ強力な攻撃でも、同じことが二度も通じることはあり得ない。むしろ、先と全く同じ方法で返り討ちにされてしまった。

 

「どうして…どうして。なんで、そうまでして戦うの」

 

今度は腹部をえぐられた。まさに、コテンパンにやられてしまっていて、どれだけ戦闘意欲があろうとも、これ以上は無理。戦いたくても、エヴァ自体が動かず、パイロットもボロボロなのだ。あんな怪物を相手して「よくぞここまで持ってくれた」と奮闘を称賛すべきである。

 

その奮闘を無駄にはしない。

 

「エヴァ初号機と零号機が出ます!」

 

発進準備を完了した初号機と零号機を大急ぎで出てきた。使徒と対面するように出撃した初号機と零号機は、使徒の前に満身創痍の弐号機の所へ駆けつける。ここまで時間を稼いでくれた英雄を見捨てるわけがない。

 

 

~シンジ~

 

弐号機の元へ寄ったシンジは優しく弐号機を抱き上げて、綾波の零号機に託す。彼女に託す時に近距離通信で弐号機パイロットへ語りかけた。

 

「ご苦労様…後は僕がやるから休んでね。見ているがいいよ…神の儀式を。綾波、弐号機とパイロットをできる限り遠い所に避難させるんだ。彼女には特等席で見てもらおう」

 

「わかった」

 

(何を…する気なんだい。君は…)

 

「なに、大したことではないよ。僕と綾波で儀式をするだけさ」

 

追及する時間を与えられない。弐号機は零号機によって、まだマシだと言える安全な所まで運ばれていく。これ以上を戦うことはできないから、運ばれてしまっても文句も何も言えない。それでも、彼が何をするのかが気になって仕方がなかった。

 

「『百聞は一見に如かず』ってね」

 

零号機が弐号機を運ぶためには、どうしても初号機が囮となる必要がある。シンジは敢えて目立つように大きく動き回り始めた。この動きには、使徒も初号機に釘付けにならざるを得ず、初号機をロックオンした。ただし、シンジは使徒に近づくことは極めて危険であることを理解しているため、ちゃんと一定の距離を保っている。あの使徒も無制限に腕を飛ばせるわけではないようで、この距離では砲撃で対応してきた。

 

「うわっと。すごい威力だな」

 

シンジは技術で劣っていても、誰にも負けない潤沢な経験がある。経験で培った先読みと分析で砲撃を避けていく。しかし、避けた先での爆発の衝撃波によって、大きく姿勢を崩されてしまった。地面に不時着するも、すぐに体勢を立て直す。そのまま使徒の接近に備えたが、予想よりも使徒が速い。これではいけない。なぜなら、さっきの弐号機と同じような構図となってしまったからだ。

 

この距離では、近距離では、あの悪魔の近距離攻撃が放たれるのだ。

 

「直前の動きを見れば…避けられるはず」

 

シンジは使徒の動きをよく見て攻撃タイミングを予測する。そして、回避行動をとる。あの攻撃はほんの少しだが、一旦貯める動作を挟む。それを見れば、回避すべき瞬間を逃さないことができる。間一髪の文字が不適当に思えるぐらい、ギリギリで攻撃を避ける。その動きは決して華麗とは表現できないが、非常に上手い。指揮所の者たちは先と違う形で驚かされた。素人で技術が無くても、経験があれば戦えるのだと。初号機パイロットはそれを教えてくれる、良い教材と言えよう。この動きを何度も何度も繰り返していれば、あの使徒の攻略の糸口が見えてくる。どんなに強い使徒でも、何かしらの弱点が存在する事実があったんだ。この使徒も例外ではないと信じたい。

 

誰もがシンジの大奮闘に期待していた。

 

それでも、絶望は何度も飽きることなくやって来る。

 

「ぐふっ!」

 

初号機は二本の腕で胸部と腹部を貫かれてしまった。なんと言うことだ。幾度も回避に成功していたシンジが避けられなかった。いや、シンジはちゃんと回避行動をとっていた。そう、とっていたのだが、それを使徒が上回った結界がこれ。奴はATフィールドを初号機前面に押し立て、それを腕で掴んでゼロ距離まで迫る。後は空いていた布で同じ攻撃を行う。いくらなんでも、ゼロ距離のゼロ距離に近づかれてしまうと、回避することは不可能だった。

 

人を捨てた弐号機とは違って初号機は通常のエヴァ。パイロットは致命的な傷を負って動けなくなる。初号機はグッタリとしてしまい、己を貫く腕を引き抜くことすらできない

 

シンジは血を吐き出す。彼は生命の非常に微妙なラインにいる。

 

使徒は初号機が沈黙したのを確認すると、適当にぶん投げた。

 

(シンジ君っ!レイ、急いで!)

 

通信でミサトの絶叫が聞こえるが、肝心のレイは弐号機を安全圏に逃がしていた。どう急いでも、救助も本部防衛も全てに間に合わない。初号機が沈黙し、弐号機は満身創痍。零号機は健在なれど、間に合わない。

 

総じて絶体絶命の状況にあるのは言うまでもない。

 

この機を逃すはずがなく、使徒は指揮所がある本部のピラミッド型の建物に向かって砲撃を行った。NERV本部は地上での迎撃を基本とした思想をしていたため、指揮所が入っている建物を要塞として頑強に作っていない。砲撃の直撃を受け、建物はコンガリと焼かれた。中の指揮所はメインモニター等の主要な設備が使用不可能になる。幸運にも、職員は大なり小なりの傷を負いつつも、なんとか生き残っている。それでも、今が大ピンチであることに変わりはない。使徒は零号機を後で倒せるとでも思っているのか、それとも眼中にないのか。こちらまで迫りくる。

 

残骸と化した指揮所まで、使徒の絶望の宅配がやってくる。

 

「痛いな…でも、これでいい。犠牲なくして僕の完全な覚醒はならない」

 

非常灯だけがプラグ内を支配している。そんな中で胸部と腹部の痛みを耐えながら、少年は口角を大きく上げて笑う。血が出そうになるので安易に声は出さない。

 

「さぁ…始めようか。儀式を!」

 

同時期のミサト達は何をしていたのか。

 

機能を喪失した指揮所から避難し、外に出ていたミサト達は迫る使徒に動けないでいた。恐れの思いはとうに消え去り、各々が絶望を受け入れようとしている。その中、ミサトは常時身に着けている十字架のネックレスを掴んで離さない。

 

「ここで…終わりかな」

 

「万策尽きたわね…レイは間に合いそうもない」

 

誰もが終わりを覚悟した。しかし、携帯式のコンピューターを指揮所から持ち出していた伊吹マヤが驚嘆の声を上げる。その声は使徒に対するものではなくて、誰も予想しなかったイレギュラーに対してであった。

 

「しょ、初号機が動き始めました。その、再起動を…しました。パイロット及び初号機の状況は全部が解析不能です。エラーコードすら出ません」

 

この報告に皆が驚いた。何か鈍い音がしたかと思って、目の前を見れば使徒を鷲掴みにする初号機がいる。その初号機は頭上に光の輪を浮かべ、赤い目をしている。暴走の時にする目でも何でもない。こんな初号機がいるのか。分析しようにも、全てのコンピューターがエラーすら出せない。まさに、これが本当の解析不能と言えようて。

 

完全に油断していた使徒は一切の身動きを取れない。初号機に反撃したくても、対面できない以上は何もできないのだ。この状態がずっと維持されることはなく、初号機は使徒を投げ返した。

 

「シンジ君…あなたは何をしているの!」

 

「何って…僕は僕のするべきことをしているだけですよ。使徒の殲滅です」

 

「それはそうかもしれないけど…おかしいわよ!何が起こっているの!?」

 

「そのご質問に答える余裕はないので、僕は行きますね。ミサトさん…見ていてください。ニアサードインパクトを」

 

シンジが乗る初号機は歩み出す。その先では、弐号機を逃がしていた零号機が使徒を磔にしていた。零号機のレイだって、ATフィールドを展開することができる。展開したATフィールドを応用し、それを磔として使用する。

 

「綾波、少しだけ離れて」

 

零号機は少しだけ自分の位置をずらした。それを確認したのか、初号機は光線を放った。もちろん、これは通常のエヴァではできない攻撃である。放たれた光線は使徒に直撃し、使徒をなぞって切る。綺麗なまでに使徒は真っ二つに割れ、人間の肋骨に似ている部位が粉々になった。この肋骨が砕けることで、使徒の心臓たるコアが明らかになる。完全に沈黙した使徒を零号機は磔にしままで、絶対に逃がさない。この行動を「油断禁物だから」と表現すれば良いのだろうが、真なる目的を鑑みると、恐ろしくダークで笑えない。

 

第十の使徒は…神への生贄となるのだから。

 

「下処理しないと。雑味が出るからね」

 

初号機は使徒と零号機の所へ着くなり、使徒の頭部を殴ってぐちゃぐちゃに潰した。一部を除いて使徒には顔みたいなパーツが存在する。それは無残にも潰されて、見る影もなくなる。この躊躇のない動きには、シンジの覚悟が見えるだろう。さすがに規格外の使徒でも、頭部を破壊されてしまえば、ジ・エンド。使徒の殲滅は決定的となったのだが、ここで問題が生じる。

 

それは、使徒殲滅の方法だ。

 

「さぁ…綾波。契約の時だ」

 

「うん…碇君の天使になるために」

 

零号機は何を思ったのか、口を大きく開ける。そして、身を屈めて第十の使徒に覆い被さった。地上にいた者たちからは、何をしているのかを見知ることができない。辛うじて、何かを食べる動きだと思われるぐらいだ。数秒ほどして、零号機はムクっと起き上がる。その口で…コアを噛み締めていた。ここまで来たら、何をするのかは明白。皆のご想像の通り。口を思いっきり閉じ、第十の使徒のコアを食った。文字通りで、零号機はコアを食ったのである。クドイようだが、エヴァが使徒を食した。エヴァの運用の中に、「使徒を食して撃滅する」は当然ながら入っていない。もちろん、パイロットの現地判断で奇抜な戦いをすることがあるかもしれないが。それでも、こんな戦い方は誰も知らないし、考えたこともない。

 

零号機はコアをこぼさないよう、注意しながら飲みこむ。コア自体は小さいため、数回ほど噛めば簡単に飲み込むことができる。コアが全てを飲み込まれて、零号機に取り込まれた。その直後だった。零号機は全身を白色に輝かせはじめ、初号機と同じく頭上に光の輪を浮かべる。

 

なんだ…これは。

 

この異常事態を正確に理解できている者は誰一人としていない。あの碇ゲンドウでさえ、己のシナリオと全く違う現実に打ちひしがれていた。多少の誤差が生じることで、ある程度シナリオが狂うことは予想できていた。しかし、ここまで、大いに狂いに狂うなんて。ゲンドウは地に膝を立てて崩れるしかなかった。

 

そして、その横には、あの老人がいる。

 

「なぜだ…なぜ私のシナリオ通りにならない!」

 

「碇…お前は既に詰んでいたのだよ。碇シンジ君はお前が思っているような人間ではなかった。脆弱に設計されたはずの心は頑強に、自分の幸せをひたすらに追い求め続けるようになった。この意味では、お前と彼に親子の繋がりが見えるよ。だが、冷酷さと老獪さ、知恵と力、神たる資格など全てを彼は手にしている。お前には足りなかったのだ」

 

「冬月…そうか、最初からか」

 

「悪く思うなよ。本当の私は碇シンジ君の側近として働いている。昔に、この世界のシナリオは彼のものに変わった。まったく、やれやれだよ。なんせお前を欺くために、私は大変な苦労をして来たからな。ま、それも今日で終わる。お前も見ているがいいよ」

 

初号機と零号機はゆっくりと上昇し始める。それを追うようにして、職員は移動する。使徒だった残骸は完全に崩壊して、よく見られる赤い液体となった。しかし、その液体も零号機に取り込まれていった。一切の食べ残しを出さない。レイのもったいない精神には感服したくなる。しかし、実際のところは、おぞましいこの上ない。

 

生存した職員たちは、ボロボロの本部から非常用の避難設備を使って地上にまで上がる。地上は、今は亡き使徒の猛撃によって要塞設備から住居も全部が破壊されていた。それだけなら、別に特段驚くことはない。しかし、地上に這い上がった者達は目の前のことに驚くしかなかった。瓦礫が浮き上がっており、地上の全てが赤く照らされている。仮に今の時間帯が夕方だとしても、この赤い空間は異常に尽きる。

 

この赤色を生み出す下手人は上にある。

 

そう、空が赤くなっていたのだ。ある場所を中心として、周囲を赤く染まらせている。ある場所にはバウムクーヘンのように何重もの円が形成されていて、中心は異空間への門(扉)が開かれていた。この門(扉)がどこに繋がると言うのだろうか。

 

職員はお互いに怪我をした者を庇いながら、何とか安全だと思われる場所で落ち着く。その集団の一員のミサトは、今起こっていることの答えにたどり着いた。

 

「見たことがある…これを。あの日、私は南極で見た。セカンドインパクトを」

 

それを踏まえて、盟友のリツコが解説する。

 

「セカンドインパクトに次いで発生する三番目のインパクト。そう、サードインパクト。まさか、エヴァによって引き起こされるなんて考えなかったわ。人類に下される終末の宣告。世界が終わる…世界が滅ぶ時が来たようね」

 

「父さん…」

 

自分達では何もできない。怪我をした同僚を庇うオペレーター達、へたり込んで動けない伊吹マヤ女史、真っすぐ見ている赤木リツコ博士、十字架のネックレスを力強く掴んで己の父を想う葛城ミサト。各員で十人十色の反応をしていた。これを止めたくても、止めようがない。打つ手なし。

 

「これが…彼の望み。そう言うことだったのね…シンジ君」

 

別の場所では、少女が血だらけながらも冷静に観察していた。使徒にコテンパンにされて重傷を負っていても、絶対に見届けたかった。この喜劇の行く末を。

 

「あっちゃー。まずいことになったにゃ。まっさか、エヴァ初号機と零号機を使ってインパクトを起こすとは。さすがはゲンドウ君の息子だね。これは予想していなかった…今回は負けたよ、シンジ君。でも、私は諦めないから。ユイさんのために、君のために。私は君を救ってみせる。必ずね」

 

負傷と出血で強い倦怠感に襲われ、よろよろと地面に座り込む。

 

「やっぱ、匂いが違うからかなぁ」

 

サードを起こすのが使徒ではなく、エヴァとは。二度とインパクトを起こさせないために、使徒を撃滅する目的で建造されたエヴァ。それが今や、インパクトを起こそうとしている。こんなことが許されていいのだろうか?いや、許されるか許されないかの話ではないのだ。全ては自動的にプログラムされていたことだから。避けようにも、止めようにも何にもできない。太古から仕組まれしことからは逃れられない。この仕組まれたことに贅沢な装飾を追加したのが、老人と少年。

 

その老人は心からの喜びを表す大笑いを見せていた。

 

「これが彼の望んだニアサードインパクトだよ、碇。ネブカドネザルの鍵を使うことで、人を捨てて神となったシンジ君とエヴァ初号機の覚醒。第十の使徒を吸収して、神の側近たる天使となったレイ君とエヴァ零号機の覚醒。初号機と零号機が同時に覚醒することで、起こされるのが、彼のニアサードインパクトだよ!」

 

老人の横に物言わぬ者がいる。傍から見れば、ただの屍のようだ。

 

「シンジ君。君は休みなさい。サードインパクトは私と例の少年で、君を代理して遂行する。気がかりのレイ君とアスカ君も任せてもらう。君が帰ってくるまで預かるよ。だから、しっかりと休む。ちゃんと14年後に、私が迎えに行くからな」

 

2機のエヴァは仲良く向き合いながら昇る。門からは両機を引き上げるようにロープらしきものを垂らしている。

 

このまま引き上げられれば…全てが終わる。

 

世界が滅びる。

 

終末の時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初号機と零号機、両エヴァは赤い槍に貫かれて機能を停止した。

 

同時に、門は急速に閉められる。

 

空より、静かに降りて来る青いエヴァ。

 

「お休みシンジ君。君が目覚めるまでに、僕と先生が契約を進めておくからね。全ては君の幸せを願って」

 

続く




次回予告 ※次回からQです

眠りから目覚めたシンジ

起きたところは、全く自分が知らない所だった

周囲の人間から怨嗟の目で見られるも、シンジはニヒルに笑う

嘗ての保護者であった葛城ミサトと再会する

ミサトに厳しく詰められ、尋問を受ける

その時、迎えが来た

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『遅すぎたんですよ…ミサトさん』


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エヴァンゲリオン:Q
遅すぎたんですよ…ミサトさん 


先に注意点を申し上げておきます。本作の皆大好き碇サクラさんは、原作より大きく変わっています。人間性や性格など、人としては全く変わっていません。立ち位置と言いますか、ヴィレにおけるサクラさんの配置が変わっています。受け入れがたいと感じられるかもしれませんので、不安がある方は読まないことをお勧めします。私は対応いたしませんので、予め承知ください。


「ん…と」

 

少年は目覚めた。

 

「あぁ…長い間を寝ていたな。ここは、医療装置の中か。僕をサルベージし、監視下に置くつもりだね。見え見えだよ、ミサトさん。それより、体が鈍っちゃうなぁ」

 

口をパクパクさせて誰にも聞こえないように、小さな小さな声でつぶやく。もし読唇術の達人がいたら、何を言っているのかバレてしまうかもしれない。まぁ別にバレても特に問題はないだろうし、気にしすぎや考えすぎかもしれない。

 

この少年が目覚めたことは感知され、周囲が慌ただしくなってきた。医療系の職員と思われる白衣姿の者と全身重武装の戦闘員がやって来て、くまなく全身をチェックされる。一方的に診られたかと思えば、今度は移動させられるらしい。特殊なストレッチャーに乗せられ、贅沢にも厳重の厳重にガッチリと拘束される。フル装備をした戦闘員数人に囲まれて移送されるので、これを囚人移送のように感じた。そんな中、自分のことを窺ってくる者に対してはサービスをしてあげる。

 

とても優しい。

 

「!!!」

 

「(笑み)」

 

こちらをチラチラと見てくる者たちに笑顔を返してあげる。その笑顔は少年の純粋なものではなかった。ただの笑みなのに、どこかへ引きずり込まれてしまいそうだ。何もない虚無へと連れていかれるかもしれない。目を合わせることすら怖くなってしまい、職員達はできる限りの平静を装って視線を戻す。

 

(軟弱だなぁ…)

 

両開きの大きなドアにぶつかる。先導の者が何らかの承認を行って扉が開かれる。そこは広い空間で、嘗てのNERV本部指揮所を彷彿とさせてくれる。中には一つ一つが独立した席が用意されている。その椅子には少年が知る者がいるが、知らぬ者もいた。

 

何もしないで無抵抗のだんまりでいると、拘束が解除された。そして、乗っていたストレッチャーが操作され、立つように促される。それに従って立ち、周囲を改めて見回す。すると、とても懐かしい人物が一番上で立っていた。とってもよく知っている。自分の保護者として、直上の上司として、自分と共に使徒と戦ってきた人だ。

 

「ミサトさん。ここはどこなんですか?なんで、僕は怨嗟の目で見られなければならないんですか?」

 

「碇シンジ君…あなたは何をしているの。その質問には、自分がしたことを考えれば、おのずと理由はわかるはずよ。サードインパクトを起こそうとしたあなたが」

 

シンジはニヒルに笑った。その笑顔は主に葛城ミサトに対してだったが、彼を怨嗟の目で見ていた者たちは、皆一様に身震いせざるを得なかった。ただの少年が笑うだけで、いとも簡単に大人を怖がらせた。この事実は後世に語り継がれるだろう。

 

「なんだ、僕のことがわかったんですね。なら、化けの皮を着込む必要性はない。もちろん、理由は自分が一番わかっていますよ。それにしても、ここは本当に居心地が悪い。僕の周りに味方は誰一人としていないのでしょう。あ、どうでした?僕のニアサードインパクトは」

 

「ふざけないでよ!あんたのせいで!」

 

「黙りなさい。今は艦長が彼と話しているのよ」

 

「くっ…」

 

1人乱入者がいたが、すぐさま排除される。乱入者を排除するために動いた人物は、これもまた彼がよく知る人物の赤木リツコ博士だった。彼女の力強さは変わっていないので、少年こと碇シンジは少し安心した。

 

「その感じだと、不評だったんですね。それは申し訳ないことをしました。さて、僕はここで不毛な議論をする気はありません。議論をする必要性をも感じませんし、する暇がないでしょう」

 

シンジが最後に言ったことは誰もが理解できなかった。否、葛城ミサトだけは歴戦の戦士の勘で察知した。ミサトが動く前に、緊急事態が先にやって来る。一秒も遅刻することなく、時間ピッタリだ。

 

状況を把握した者が血相を変えて告げる。

 

「周囲に高エネルギー反応!囲まれました!」

 

「鳥かごと言うわけね」

 

「結界下にパターン青を確認。NERVのエヴァMK-4です」

 

「総員第一種戦闘配置。例の少年は部屋で監視しておいて」

 

ここで少年は退場させられるらしい。すぐさま戦闘員がわらわらと寄ってきて、身柄を拘束される。再びストレッチャーに乗せられ、強制連行される。現時点では情報量が少ないため、シンジは現在進行中の緊急事態を正確に把握することはできない。しかし、彼は全てを仕組んだ張本人である。自分のシナリオを脳内で参照することで容易に予測できた。

 

「さすがだ…冬月先生は」

 

そのまま彼は変な部屋に運ばれた。そこは確かに監視するには適している。死角が生じないように監視カメラが設置され、いかにも頑丈そうな壁が囲んでいる。その壁の一面は何の変哲もないが、一方向から一方的に透視できるマジックな壁だった。シンジがいる方からは外を知ることができないが、逆方向からはシンジのことを見ることができる。つまり、相手に悟られないように監視するのだ。他にも色々と特筆すべき点が多いのだが、量も質もが全部が尋常じゃない。

 

総じて言えば、「プライベートが全くない部屋」となるだろう。

 

そんな部屋の中でシンジは置かれていたベッドでゴロゴロする。何もすることがないから、ゴロゴロする以外にすることが思いつかなかった。時折、部屋ごと空間が揺れても一切意に介さない。おそらく、外では激烈な戦闘が行われているのだろう。

 

 

~約1時間後~

 

またまた呼び出されたシンジは移送されて、今度は面会室に連れていかれた。とっても分厚そうな透明な仕切り越しに葛城ミサト、赤木リツコの両名が見える。追加で見覚えがある少女もいた。

 

「おや、君もいたんだ」

 

「ほ~私にはちゃんと答えてくれるんだ」

 

「まぁ、君には本性を見せているからね」

 

「賢明だねぇ。この私の前に虚妄は通じないよ」

 

この少女は、まだ平和な時の中学校で一度会っている。屋上で黄昏ていたら、急に覆いかぶさって来た彼女だ。事情は未だに不明だが、碇シンジのことを誰よりも知っているらしい。下手な大人より、この少女の方が明らかに恐ろしい。

 

「マリ、そこまでにしてくれる」

 

「はいは~い」

 

2人だけの舞台が演じられることは許されなかった。自分が主役だと言わんばかりにミサトが入ってきて、彼女の舞台が開演となる。建前上として、この部屋は面会室だ。しかし、ここで行われることは「面会」とは程遠い「尋問」だ。10を優に超える数の矢が放たれたが、シンジはそれを飄々と避けていく。見事な避けっぷりであり、ミサトに隙を与えない。本当に彼が14歳の少年なのかと思えてしまう光景である。それだけに収まらず、シンジは並行してミサトから小出しに情報を得ていく。この世界のことは何となくでわかっているが、確信を持ちたかった。

 

「なるほど…この世界は14年も時間が過ぎてしまったと。その間僕はずっと初号機のプラグ内で溶けていたから、正常に年齢を重ねることができていない」

 

「そうよ。あなたは驚異的なシンクロ率を叩き出した代償として、初号機と完全に同化した。あなたと同じ状態だった零号機だけど。残念ながら、レイはいないわ。あなたはサルベージに成功したけど、レイはサルベージするまでもなかった。綾波レイは零号機から消失していた」

 

「レイはもういないのよ。何がシンジ君の目的かは私には理解できないけど、もう終わりよ。だから、私達の言うことを聞きない」

 

前のシンジであれば、かなり衝撃的なことを告げられた。彼が戦友として親しみ、互いに想い合っていた綾波レイはもういないのだと。これが「彼への切り札になる」とミサトは考えていたようだが、シンジにはノーダメージ。

 

「フフフ…だからなんですか。僕のことを見くびらないでください。ミサトさん。綾波は生きています。あなたが僕のことを支配下に置こうとしても無駄です。なぜなら、僕は全てを知っているから。あなたの父親にして、人類補完計画を提唱した葛城博士のことも」

 

バン!!

 

「ミサト!」

 

「おっと」

 

「ありゃ」

 

シンジとミサトを隔てていた板には大きなヒビが入った。かなり頑丈な板にヒビを入れるなんて、ものすごいパワーだ。そのパワーを見せつけたは、葛城ミサト。体を震わせ、顔を険しくしていることを鑑みるに、怒りに身を任せた上の行動だと思われる。

 

「いい加減にしなさい…シンジ君。あなたはまだ、私の保護下にあるのよ」

 

「それは建前に過ぎません。僕はあなたと分かり合えないことを、昔から覚悟していました。さてと、僕の迎えが来たようです」

 

シンジは意味深な発言をした。これで二度目。一度目は見事に的中したため、今回も当たるか?どうだ?

 

答えは…

 

「マズいわ!ミサトっ!NERVの第二派が来たわよ!」

 

「そうか…冬月副司令の狙いはヴンダーの初号機ではなくて、彼か!」

 

面会は中止された。壁の向こう側にいたミサトやリツコ、マリは大急ぎで退室していく。彼女たちを何らかの第二派が襲ってきて、これ対応するべく艦橋に向かったのだ。残されたシンジは移送は飽き飽きだと思っていたが、どうやら待機らしい。ここから変に動かすよりかは、置いていた方が良いとの判断だろう。また、第二派を弾き返した後に面会を円滑に再会するためでもある。

 

ダッシュで艦橋に戻ったミサト達は矢継ぎ早に報告を受ける。艦橋内部は先の戦闘時よりも緊張感に包まれていた。どうやら、今回は相当な襲撃らしい。さっきのはお遊びと表現できてしまうぐらい。

 

「偽装の結界を破って、右舷に超大型艦艇の反応!」

 

「モニターに出します!」

 

艦橋にある立体モニターに外の状況が映し出された。そこには、ハニカムの結界を破り、姿を現す巨大な鳥がいる。彼女たちは、完全に待ち伏せを受けたようだ。

 

「まさか…もう完成していたの。NHG二番艦、Erlösung(エアレーズング)」

 

「冬月副司令。あなたは本当に…恐ろしい方ですね。でも、彼は渡さない」

 

空には一羽の巨大な凶鳥が飛んでおり、ミサト達の巨大戦艦の横にピッタリとくっ付いてきた。両者はほぼ平行に並んでいる。その鳥を操るは、ミサトやリツコの顔を苦渋に満ちさせるのに十分すぎる程の力を有する老人。

 

世界中を見回しても、この老人だけ。

 

その老人の名は冬月コウゾウと言い、NERV本部の副司令を務めていた。そんな彼は、この戦艦に幽閉されている誰かを取り返しに来たようだ。

 

「主砲発射用意!相手は二番艦で、まだ完成していないはず。撃ち合いなら我々に勝機がある!」

 

ミサトは急速にクールダウンして指示を飛ばす。その指示は決して悪いものではなかったが、経験と老獪さで相手が勝っていた。かの老人に、まだ若輩者のミサトが勝てるはずがないのだ。

 

老人は相手がこちらの狙いに乗ってきたことを確認し、勝ちを確信した。

 

「すまんね。この艦は細部が未完成で君たちの箱舟と戦うには心もとない。だから、使節を送らせてもらうよ。卑怯と言うまいね」

 

相手の艦から何かが射出された。それは肉眼で確認できるぐらいに目立っている。背中から大きなブースターを突き出し、羽らしいものを広げている。その姿は、皆がよく知る普通のエヴァンゲリオンだが、なぜが異常に受け入れ難く感じる。意識する前に、本能的に送られて欲しくないと感じてしまう使節だ。

 

「アダムスの器か!」

 

「いや違う!確かに見た目は似ているけど、あれはエヴァ零号機!」

 

「ありえないわ。エヴァ零号機は初号機と共に封印されていたのを私たちが強奪した事実がある」

 

正面切っての殴り合いではなく、エヴァを送り込んでくるとは予想していなかった。ミサトはエヴァMK-4と呼ばれる量産型エヴァを幾度となく経験していたが、ミサト達にとってMK-4はエヴァとしてカウントされていない。

 

「八号機の出撃まだなの!」

 

「補給作業に手間取ってしまい、まだ出せません!」

 

あたふたと慌てている内に、向こうから送り込まれて来た使節が到着した。ダイナミックにダイレクトに艦に着陸し、艦の上を移動し始める。移動する度に艦が揺れ、ギシギシと音を生じさせる。不快なことこの上ない。このエヴァを排除するには、エヴァしかない。怪物には怪物をぶつけるしかないのだ。そこで手駒のエヴァを出そうとしたが、まだ補給作業が終わっていない。

 

「まずい!彼が奪われるわ!」

 

大正解の大正解。

 

ご名答のご名答。

 

「フフッ…この艦は未完成と言えども、迎えのリムジンにするのに適しているだろう。我が主のお迎えに上がったのだよ」

 

~シンジ~

 

(碇君…迎えに来た)

 

「ここだよ。僕の天使」

 

シンジは壁に向かって喋った。彼の心に語りかけてくる声に反応したのだが、普通に考えようではないか。どんなに大きな声でも、分厚くてカチカチの硬い壁に阻まれる。ならば、意志疎通は困難どころか、不可能では?

 

しかし、届くものは届く。

 

心と心が通じ合っていれば、どうとでもなる。

 

(シンジ君。こっちへ)

 

盛大に壁に大穴が開き、外の空気が入り込んでくる。目を開ければ、彼もよく知るエヴァがいた。穴から腕をねじ込んで、彼を迎えるために手を広げる。シンジは長居する気はさらさら、毛頭ない。逡巡すらせず、手に乗ろうとした。

 

その時。

 

「待ちなさい!シンジ君!」

 

「なんですか、ミサトさん。迎えが来たから、僕は帰るだけですよ」

 

「いいえ、あなたはここにいなさい。これは、あなたの上官としての命令よ。保護者としてでもあるわ」

 

「詭弁は結構です。そして、僕はもうミサトさんの言うことは聞けません。それでは、失礼します」

 

シンジは完全に手に収まった。手が閉じられる中で、最後にミサトに向かって言い残す。

 

「遅すぎたんですよ…ミサトさん」

 

手は完全に閉じられた。エヴァは腕を引き抜き、彼を潰さないように細心の注意を払いながら体勢を変える。羽を大きく広げ、背中のブースターを点火しようとする。このままでは、アッサリと碇シンジを奪わてしまう。せっかく、やっとのことで、彼を自分の支配下に置くことができたのに。このまま何にもできないで終わるわけにはいかない。

 

私たちのエヴァは残っているぞ。

 

「逃さないで!サクラ!」

 

「頼むわよ」

 

艦の一画が開かれ、外へ出るリフトが起動される。そのリフトには白いエヴァンゲリオンが乗っていた。外部電源と接続する電源ケーブルを外して、見事なスタートを切る。エヴァが人造人間だからこそできる動きだ。なるほど、パイロットは相当の手練れた見える。

 

「碇さんは渡さない。碇さんは…碇さんは…碇さんは!私が支えないんといけないんやぁ!」

 

強力なハンドガンを発射する。弾は寸分狂うことなく、脱出しようとしていたエヴァの頭部に直撃した。高威力の弾を数発貰ったことで、狙われた頭部は吹っ飛ぶ。いくらエヴァでも、頭を持っていかれたら活動できないはず。

 

しかし。

 

「嘘っ!?」

 

なんと、相手のエヴァは頭を再生させた。エヴァが多少の損傷は自己修復できるとしても、これは異常すぎる。本当にアイツはエヴァなのか。いや、今はそんなことはどうだっていい。碇シンジをムザムザと奪われてはならない。絶対に逃がさない。

 

「私の碇さんを返せぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

ブースターを全噴射させることで、とんでもない加速(瞬発力)を見せつける。爆発的な加速で、一気に離脱された。それと時を同じくして、仲良く並んでいた巨大戦艦も反転&離脱に移る。送り込んだ使節が戻ってくるのを待っていてはリスクが大きい。よって、同タイミングの離脱を採択していた。この加速なら、タイミングが同時でも母艦に追いつくことが容易だ。

 

ここまでの逃げに対しては、もうどうしようもない。

 

「サクラっちのエヴァ伍号機じゃ無理だにゃ。と言うか、私達のエヴァは全ての面でNERV謹製に劣っている。でも、悲観することは無い。だって、機会は必ず訪れるから」

 

「碇さん、待っていてくださいね!私が行きますから」

 

空を飛ぶ戦艦の上で、叫ぶ者がいた。

 

続く




次回予告

14年の時を超えてNERV本部へ戻って来たシンジ

ボロボロの廃墟の本部では一機のエヴァが建造されている

愛する天使、頼もしい恩師との再会

そして、新たなる協力者

世界は彼が望んだままになっていた

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『14年越し』



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14年越し

新劇場版はQからエヴァらしいダークさが出てくると個人的には思っているので、本章は長くなる予定です。

空白の14年間について等を書くかどうかは考え中です。そこで、アンケートを行って皆様のご希望を伺いたいと思います。ぜひ、ご回答ください。


「ここまで壊れていると、むしろ居心地が良いな。少なくとも、あそこより遥かにいいや」

 

シンジは懐かしきNERV本部への帰還を果たしていた。14年前は毎日のように通っていた、第二の家と言えてしまう場所。そんな家は廃墟になっていて、ありとあらゆる所が壊れている。かつての本部は、使徒の侵攻を想定した防衛計画で地下深くに置かれていたはず。しかし、現在は地表から丸見えとなっていた。ピラミッド型の建物は消え去り、エヴァのケージが昔の姿のままで残っている。ケーブルカーなどの細かな設備も残骸として残っていた。思い出が湧き上がってくる。

 

懐かしき家の全ては、例外なく赤く染まり、ボロボロのボロ。構成していた鉄骨は剥きだしになり、壁は崩落している。歩く分には困らないが、思いっきり走り回るのは難しいだろう。シンジは脳内にNERV本部の構内が叩き込まれているため、内部の移動ルートを網羅している。誘導が無くても、自分一人で目的の場所まで向かうことが可能。

 

おおよそ10分ほど歩いた先には、特設されたエヴァ建造ケージがあった。

 

そんな場所はかなり暗い。暗闇が苦手な人には相当辛いものがある。幸い、すぐに大きな音と共に頭上の照明装置が起動された。

 

「あぁ、停電が復旧した。やれやれ、既存の発電所は安定しないから、S2電源を増設しよう。さて、長らく待たせてすまなかった。シンジ君。今更だが、久し振りだね」

 

「えぇ。14年振りです。冬月先生」

 

シンジの前方且つ上方には冬月コウゾウが立っていた。彼とは既に間接的に再会していたが、直接的な再会はしていなかった。シンジは自分のシナリオと葛城ミサトから引き出した情報とをすり合わせ、今は第十の使徒戦から14年経っていることを理解している。つまり、かなり長い間を両者は離れていたのである。

 

「君が知らない物や事が、この世界には大量にある。混乱するかもしれないが、後で説明するから安心してくれ。さて、今日の本題に入ろう。天使と14年越しの再会を果たそうではないか」

 

冬月がそう言うと、照明が追加で起動されていく。ご丁寧にも1個ずつ起動されて行き、シンジのよく知る人物の姿が浮かび上がる。もちろん、ホログラムとかではなくて、ちゃんとした実体の人間の全員が登場した。

 

「気が利きますね。先生は」

 

シンジを360度の全方位で囲むようにして、少女と少年が合計3名立っていた。少年1名を除いた少女2名は、彼が心を通わせ会って来た戦友で愛する天使。1名は先までエヴァに乗っていた都合、全身を黒いプラグスーツに身を包んでいる。もう1名は極めてラフな格好をしている。彼女の姿に関して、上は下着無しの肌に直でパーカーを来ており、下は際どい長さのパンツを履いている。うむ、後数ミリで裸と言える。

 

そんな少女2人はシンジの左右を挟んでいる。傍から見れば羨ましい光景だろう。

 

「おかえりなさい。碇君」

 

「14年間も待たせるんじゃないわよ。でも、よく帰ってきた…シンジ」

 

「うん、2人とも待たせてしまってごめん。ニアサーの代償は想像以上に大きかったよ」

 

シンジは14年もの時間を眠り続けていた。いや、その14年を眠ると表現するのは語弊を生じさせてしまう。厳密に言えば、溶けていたと表すのがまだ適当かもしれない。彼の状況を説明することは極めて難しく、シンジ本人も何と言えばいいか分からない。

 

とりあえず、言えることは、「彼はサードインパクトへ繋がるニアサードインパクトを綾波レイと共に引き起こした。それは自身を究極たる神として完成させたが、代償として14年の時間を止めることになった」となる。重要な点を抽出すれば、こうなる。細かいことを全部入れ込むと、とてもだが文字には書き表すことは出来ない。

 

「ま、この埋め合わせはキッチリしてもらうからね。近々、レイと一緒に式を挙げるから。アンタに拒否権はない」

 

「碇君には…ない」

 

「逃げ場はないぞ。シンジ君、素直に受け入れなさい」

 

完全な包囲網が形成されていて、彼が絶対的な信頼を置いている恩師の冬月コウゾウが退路を断った。また、冬月はシンジの実質的な保護者の立場であるから、親が是認しているのと同義となっている。まぁ、冬月の場合はシンジの祖父かもしれないが。

 

「先生までですか。わかった。将来を誓い合った僕達だからね。永遠を生きることを約束する儀式をしよう。あれ、これ僕が計画したはずなんだけど」

 

「細かいことは気にしないのよ。よっし、決まり。悪いけど…」

 

「うむ、私が後見人となろう。残った神父役は彼に頼むかな」

 

シンジは少年の方を見た。両脇はレイとアスカで固められている都合上、体をひねらせることは出来ない。したがって、首を可動範囲内で回した。そこには、かなり中性的な者が立っている。シンジは、その人物の名前および存在については知っているが、実際に会うのは今が初めてだ。

 

「神と天使の結婚式における神父は僕が務めさせてもらう。これからよろしくね。碇シンジ君」

 

「面倒なことをお願いしてごめんね。渚カヲル君」

 

この少年の名前は渚カヲルで、新しい協力者だ。シンジが14年の眠りについている間、冬月と一緒にシンジの契約内容を実行していた。シンジにとって、彼は心からの感謝をしなければならない人物となる。しかし、渚カヲル本人は全く気に留めていなかった。

 

「君が謝ることも、感謝することも無いよ。僕は僕のするべきことをしただけだから。君の幸せが僕の幸せでもあるからね。だから、君は幸せになるんだ」

 

「式については私の方で準備を進めておく。14年ぶりに目覚めて、この世界に完全に順応しきれていないだろう。今日はゆっくりと体を休めなさい。その他のことについても、後日ということでな」

 

「わかりました」

 

確かに、シンジは目覚めてから1日も経過していない。彼の頭は状況を理解していても、身体が世界に順応できていないかもしれない。既に究極たる神になっているから杞憂と思われるが、大事を取って適度に体を休めて悪いことは無い。

 

シンジはレイとアスカの2人に引っ張られて、どこかへ連れていかれる。シンジは拒むことなく、従順な態度をとっていた。そして、それを見届ける少年と老人が1人ずつ。少年は微笑し、老人は無表情を貫いている。もちろん、顔は無表情でも内心では微笑ましく思っていた。

 

「冬月副司令にお願いがあります。それは、僕をNERV司令から降ろさせて欲しいのです。空いた司令の椅子には、シンジ君が座ることで」

 

「あぁ、そういえば。君はSEELEの意思で暫定的なNERV司令だったか。神聖なる儀式で神の帰還を称え、天使たちと永遠を生きることを約する儀式。それと併せて、正式なNERV司令として碇シンジ君が就任することの儀を行おう。それでいいかね?」

 

「えぇ。よろしくお願いします」

 

その頃、シンジたちはどうしていたのか。

 

 

~本部内 居住区~

 

シンジは廃墟の中なのに、綺麗に整備された居住区にある大きな部屋に連れられた。どうやら、ここが彼らチルドレンの暮らす場所らしい。本部にて暮らしている者は少数なれども、快適に過ごすことが出来なければ力を発揮できない。よって、生活面は恐ろしく充実しているようだ。そんな部屋だが、シンジ1人だけで暮らすには過剰が過ぎる。何よりも広いし、設備も豪華だしで、彼では持て余してしまう。しかし、全て色々と織り込み済みでの対応なのだ。

 

「ここで私とレイ、シンジ3人で生活する。先生の厚意だから素直に受け入れなさい。それに、絶対に逃がさないから。どこにも行かせない、絶対に離れない。シンジと永遠を生きるの」

 

「時間は私たちを縛れない。そんなことは許されない」

 

ベッドに座っていたシンジ。アスカが彼の首に両腕を通して後ろから抱きしめる。レイはシンジの両ひざに顔を埋めて膝枕の亜種をしてもらっている。シンジは器用に右手はアスカ、左手はレイの頭を優しく撫でる。彼に撫でられる2人は嬉しそうに顔を緩めた。

 

「誰が僕達を縛れると思う?絶対に誰もいないよ。時間でさえ、僕たちを縛れない。神と天使を邪魔するものには、神の裁きを与えないといけない。特に…学習しない愚かな者達には」

 

3人を邪魔したら、もれなくインパクトが待っている。

 

続く




次回予告

1日体を休めたシンジ

翌日、彼はNERV本部を歩いて回っていた

この世界で何が起こったのかを説明してもらう

全てが赤く染まり、コア化した世界

そんな世界を眺めて、シンジは満足そうに笑った

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『ニアサードインパクト・サードインパクト』


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ニアサードインパクト・サードインパクト

廃墟の本部から外に出て、階段らしからぬ階段を歩く老人と少年がいる。

 

「人間(リリン)を捨て、神となった僕はともかくです。先生はまだ人間の枠に収まっているので、防護服を着用しなければ自分を維持できない。いつもの服装で大丈夫なんですか?」

 

「シンジ君、あんまり老人を揶揄うな。リリンを自己の崩壊へ招くL結界。ここは爆心地だから、特に、尋常ではない強さが観測されるだろうな。だがね、それは私には通じん。もう70年以上も生きていれば、体は固くなるのだよ」

 

「なるほど」

 

全く答えになっていないが、シンジはストンと腑に落ちた。昔からそうだ。この老人は至って普通の人間なのだが、何らかの超常的な力を有している。なるほど、この激動の時代で長生きしているのは驚くべき点だ。そして、世界最高峰の組織であるNERVで副司令の椅子に座り、その能力を遺憾なく発揮して来ている。仮に世界中が相手になっても、この1人で戦えてしまうかもしれない。老人の力の源は『智』である。老いてもなお、切れ味を増す頭脳こそが力なり。

 

世界中を見回して、この老人を超える『智』を持つ者がいるだろうか?いや、いない。

 

「足場が悪いから気を付けなさい」

 

「ご心配には及びません。最悪は飛びますから」

 

「フフッ…そうだな」

 

2人は超簡易的な階段を降りていく。そこら辺に落っこちていた金属の端材を壁にぶっ刺して作られた昇降設備で、転落防止の柵も鎖も何にもない。足場となる金属を支える柱すらない。変に足を踏み外さなくても、足場が崩れて落下が考えられてしまう。一応の安心要素として、2人は重くない。だから、杞憂で終わるだろう。

 

さて、2人がたどり着いたのは休憩所として置かれている広場だった。座り込んで外の景色を眺める分には十分な広さがある。2人が外を眺めることを阻害していた濃い霧が風に吹かれて空に追いやられる。

 

霧が晴れた先には…絶望の光景が広がっていた。

 

「おぉ…いつ見ても荘厳なことだ」

 

「これが『ニアサードインパクト』と『サードインパクト』が起こった結果…想像以上の出来ですね」

 

「君が用意してくれた材料を使うだけでよかったのと第一の使徒が協力してくれたおかげだよ。私は言われた通りに動いただけで、特段驚かれる仕事はしていない。このように謙遜させてもらうが、私としても100点以上だと思うな」

 

2人の前に広がっているのは、全てが消え去った旧第三新東京市だった。地上にはマンショックやアパート、商業施設、新都市交通システム等と大小さまざまな建物や設備があった街は無い。今や、全てが一切がキレイさっぱりに消え去っている。周囲にあるのは砂漠化した土地、辛うじて形を保っている廃墟、瓦礫の山等と生活感は感じられない。

 

シンジはこの景色を見て、大きく大きく口角を吊り上げる。彼の笑いが、狂気的であることは言うまでもない。彼の隣で立っている老人も笑っている。景色等を全て切り離せば、この2人は祖父と孫で互いに笑っている優しい空間になるが、切り離さないと全く違う意味になる。

 

「エヴァ初号機と零号機が同時に覚醒を果たしたことでガフの扉が開かれ、サードインパクトが始まった。しかし、それを中途半端で止めたのが2本の槍だ。槍で貫かれた両機は活動を停止し、この災厄はニアサードインパクトと呼ばれるようになる。決して完全なインパクトではなかったが、かなりの人数の人間が命を失うことになった事実がある。君は、向こうの人間から恨まれて当然だな」

 

「もちろん、全て承知と理解をしています。ニアサーは僕が起こしたんですからね。憎悪をこの一身に受けることになっても、僕は何も言いません。そのニアサー自体は、リリスを目覚めさせ、命の選別を行う第一段階でした。このシナリオで僕が不在だったのはサードですので、その説明をお願いします」

 

「あぁ。分かっている。この景色を主として生み出したのは、第二の使徒リリスによるサードインパクト。ニアサーにより目覚めたリリスは自身ではなくて、周囲の環境を変えることで進化を図った。細かいデータは取れていないが、被害はセカンドを優に超えるかもしれん。見ての通りで、大地は聖なる地としへ浄化された。生きていた人々は甘美たる死を迎えたよ。私のような特異な人間を除けば、この世界で生存している者は僅か一握りしかいない。葛城君達は身を守る手段を有していたから、何とか生き延びたよ。まぁ、サードも不完全燃焼で終わったからでもあるがね。それは、彼の尊き犠牲があって」

 

「やっぱり…あの人は生きることを捨てましたか。自分の願いが果たされたら、潔く退場したと」

 

「彼は残された者達に、彼なりのプレゼントを渡してある。マザーベースは葛城君のヴィレ下部組織に譲渡され、機能を全て保持したままでいる。ただし、数年前にココから遠く離れた土地に移設された。場所は掴んでいるが、手を出す気は無い」

 

シンジは少しだけ寂しそうな顔をしたが、すぐに戻した。いくら彼でも人の心を完全に失っているわけではないのだ。喜怒哀楽は彼が神となっても昔のままである。冬月の言葉は、シンジなりに哀しいことだったが、事前に本人より知らされていた。また、理解もしていたので彼が口を挟むことはできない。

 

「話を戻そうか。リリスがいたセントラルドグマには、リリスの抜け殻と哀れなエヴァMK-6こと第十二の使徒が封印されている。シャフトはリリスの結界で固く封じられ、サード以後に如何なる者の侵入を許していない、まったく、面倒なことをしてくれるよ」

 

「と言うことは、ニアサーとサードも予定通りに進んだんですね。リリスとMK-6によるサードが遂行されて、大地の浄化が果たされた。その浄化がこれと…」

 

シンジは一度俯いたかと思えば、真っすぐ赤い世界を見た。その世界を見て、体の中から沸き上がる力を堪え切れない。

 

「本当に素晴らしい世界が作られましたよ。人間はいとも簡単に人間を傷つけ、悪びれもせず笑う。誰かを傷つけておいて、自分は無関係を装う。人と人との繋がりなんて、まったく下らないことこの上ない。それでいて人間は弱い生き物だから、互いを傷つけて合うしかない。誰かを傷つけるくせに、自分が傷つけられたら泣くんですよ。人間は変わらない生き物で進化をしようとしない。太古から仕組まれていたプログラムには無力。だったら、この世界を変えてしまえばいいんです。そして、苦痛なき、甘美なる死を与える。これが…SEELEと僕が仕組んだ人類補完計画の第一段階です。その第一段階は滞りなく完遂されたようなので、第二段階に入りましょう」

 

こんなに長い言葉を、シンジは一瞬の息継ぎを挟むことなく言い切った。人間離れした肺活量に滑舌の良さである。

 

「うむ。サードに次ぐフォースを発動させるためには、二本の槍が。ロンギヌスとカシウスの槍が必要だ。しかし、この槍を手に入れる以前の問題がある。それは、セントラルドグマを塞ぐリリスの結界を突破しなければならないこと」

 

「そのための、エヴァンゲリオン第壱拾参号機ですね」

 

「そう。結界を突破するために純粋な魂が2つ必要になる以上、エヴァを2名のパイロットで動かすダブルエントリーシステムを採用した新型エヴァがいる。そこで、これまでのエヴァで得られた経験と新機軸を大量に詰め込んだ最新鋭機、エヴァンゲリオン第壱拾参号機を建造する。ただ、全てのエヴァを超越する性能を発揮できるよう私が心血を注いで設計した。だから、完成までには時間がかかる。もうしばらく待っておいてくれ」

 

「大丈夫です。それにしても、全てのエヴァの始祖として父たる初号機、それと対を為し母たる零号機の子として生まれるエヴァですか。冬月先生でなければ、到底できませんね」

 

神たる少年に手放しに誉められた老人はご満悦だった。

 

続く




次回予告

進められるエヴァンゲリオン第壱拾参号機の建造

まだ儀式が残っている

黒いドレスに身を包むレイ

赤いドレスに身を包むアスカ

漆黒のスーツに身を包むシンジ

3人の永遠を誓う

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『結婚式』


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結婚式

皆さまが疑問を持たれていることが多くあると思います。それらについての感想における個別返答は避けさせていただきます。少しずつですが、後の話で明らかとなるためです。申し訳ありませんが、お待ちいただけると助かります。


13と書かれた大きな球体の施設の前では、廃墟のNERV本部にそぐわない格好をしている少年と少女がいた。美麗な少年は神父が着用する服に身を包んで、簡易的な台の上に立っている。その前に、黒いドレスに体を預けている少女と赤いドレスに美を纏わせる少女が2人。その2人を抱き寄せるようにして立つ、タキシード姿の少年がまた1人。

 

「本当なら、厳粛にやらないといけないんだけど。僕たちぐらいしかいないし、時間をかければかけるほど良くなることではない。サッサと手短に済ませよう」

 

「うん、お願い」

 

廃墟の中で行われようとしている式。これを「異様」以外に何と表現すればいいのだろうか。異様であろうが、これは神と天使が愛を誓い合う、聖なる儀式なのだ。異様と言っては裁きが下されよう。

 

「僕たちの神である碇シンジ君の帰還を祝い、喝采を叫び、永遠を生きることを約する。そして、3人の愛の下に世界は新しく創造され、育まれることを願う。碇シンジ君、綾波レイ、碇・アスカ。汝らに問うよ…新世紀で永遠を共に愛を持って生きることを誓うかい?」

 

「誓うわ」

 

「誓います」

 

「誓うよ」

 

1人ずつ、新世紀で愛を持って永遠を生きることを誓った。ただ、これは少しだけ本当と違う。本当なら、新世紀を創造して生きる者は3人だけではない。他にも3人の祖父たる老人、父たる男、子よりも前に全てを仕組んだ母もいる。また、場合によって追加があるかもしれない。

 

あくまでも、この儀式は神の帰還を祝い、少年と少女が互いの愛を確認するためのものだった。

 

そんな愛に支配された場には、簡易的な椅子が置かれている。椅子には成人男性と老紳士が式の出席人のようにして座っていた。この2人は言うまでもなく、少年少女の関係者である。だから、出席する義務があった。

 

「父親としてこの場にいられることについて、碇。お前は何を思う?」

 

「私がこの場にいることについて…親を知らぬ私は何を思っているのだろうか。自分で自分の感情を理解できん。こんなことは初めてだ」

 

なんと、碇ゲンドウが儀式に出席していた。この男は碇シンジの実の父であるが、まだシンジが小さいころに彼を捨てた過去がある。捨てたかと思えば、己の私利私欲のために呼び戻し、使役しようとしていた。そんな男は、全て自分の思い通りに進んでいるかと思っていたが、現実は非情なりけり。実の子に逆襲されることになっていた。そう、全ては我が子の思うが儘だったのだ。父は子に逆手に取られて、逆に利用されていた。

 

「少なくとも、あの時。私はシンジを、全てを受け入れたことについて、あれは正しい選択だったと思っている。私はとうの昔に詰んでいたからこそ、軌道修正を図った。ユイを取り戻せるのなら、贅沢は言えない」

 

「お前にしては珍しいことだったな。ニアサー後のSEELE諮問会議で、第一の使徒からの提案を呑んで、シンジ君に従うことになったことには非常に驚いたよ。お前のことだ。当然のように提案を拒絶して、SEELEと真っ向から対立すると私は読んでいた」

 

老人の隣にいるゲンドウは少し息を吸って、そのまま吐いた。軽い深呼吸をしたようだ。

 

「私は、シンジの親として生きることを選んだだけだ。想像以上の成長をしていた子に負けたことで、私は自分を見つめ直すことが出来た。親の愛を辛うじて残していた私は…ユイを取り戻し、シンジと共に生きることが最大の幸せだと思った。私はシンジに恨まれてもおかしくなかったが、シンジは私を赦した。それを無碍には出来ん」

 

「そうか、それが一番賢明な選択だったよ。碇、お前もれっきとした父親だよ」

 

場面を儀式に戻そう。愛を誓った少年と少女を1人ずつ見た神父は、視線を手元に置いている本に移した。そして、その本に書かれている内容を読み上げる。その内容な儀礼的なものであるから、大して重要度は高くない。サッサと時間をかけないで読んでいく。そして、ひとしきり読み終わったら、再び顔を上げる。

 

最後のフィナーレを迎えよう。

 

「それじゃあ…最後に永遠の誓いを示して。恥ずかしいとは言わせないよ」

 

少年と少女2名は向き合った。

 

「レイ。先は譲るわ。あなたが先だったから」

 

「ありがとう。アスカ」

 

これから何が起こるかを態々言うことは無いだろう。逆に、何が起こることが分からない者がいたら、それはそれで問題だ。あまりにも鈍感が過ぎる。それではこの世界で生きていけない。

 

黒いドレスのレイがシンジの前に立ち、静かに目を閉じる。シンジはレイの片腕を優しく掴み、もう片方の手は頭を支えて離さない。彼女は少し華奢であるから、支えてあげないと怖かった。少年は顔を少女の顔に合わせる。

 

おおよそ1分ほど愛が示され続いた。

 

「さぁ、次はアスカだよ」

 

「先は譲ったから、私は長めにしてよね」

 

「はいはい、わかっているよ」

 

レイは一歩下がり、アスカが一歩前に歩み出た。先と同じくシンジから行こうとしたが、少女の方が素早かった。強引に少年のことを抱き寄せ、優しくも強く顔を合わせる。14年間の空白を埋めるべく、長い間を待たせた少年からの償いを得るために。先が1分ほどだったのに対して、今回は倍の2分となっていた。たっぷりと堪能した少女は頬を赤らめながも、悪い笑みをしながら言った。

 

「これで少しは良しにしてあげる。でも、全然足りない。もっと愛してもらうわよ」

 

「私も」

 

シンジの両脇を2人で詰め寄って抱える。シンジは2人からの圧に負けて、ただ頷くしかなかった。この光景を文字通りの眼前としていた神父は、ニコニコと穏やかに笑う。この神父が望むことは、少年の幸せだ。したがって、彼が幸せであれば、自分も同様に幸せとなる。

 

「今日は寝かさない。ずっと愛して…シンジ」

 

「うん、14年も綾波とアスカを待たせてしまったから。この埋め合わせは必ずする。そうでなければ、碇シンジの名が廃る。今日だけじゃない、何時までも僕は2人の思うが儘になる」

 

左右に美少女を携えるシンジは幸せそうな顔をしていて、左右の美少女たちも同じく幸せそうだ。しかし、2人は共通して闇に染まった悪い顔をしているのは特筆すべき点だろう。レイもアスカもシンジから魂の救済を受けた者だから、シンジと同じ性質を備えている。彼と一緒に生きることを、ただひたすらに、純粋に、心の底から望む。世界がどうなろうと、どれほどの数の命が消えようと、彼女たちの知ったことではない。

 

式の終了を悟った老人は立って拍手をしながら、話しかける。

 

「いい式だったよ。さて、この後は3人で好きに過ごしなさい。ただし、すまないが、渚カヲル君にはSEELEの会議に出てもらう。シンジ君の代理として、君にお願いする」

 

「わかりました。それじゃぁ、シンジ君と美しき天使たち。いい1日をね」

 

神と天使が不朽の愛を誓った聖なる儀式は万事滞りなく完了した。後は、彼らだけの1日を過ごしてもらおうか。

 

他の者には執務がある。

 

~会議室~

 

謎の空間ではモノリスが浮かび、机に渚カヲルがついている。隣には、碇ゲンドウと冬月コウゾウが立っていた。本当なら、机には碇ゲンドウが座るべきだろうが、今はもう彼はNERV司令ではない。「じゃぁ何か」と聞かれたら、これに答えるのは案外難しい。表には出ない、裏の執行役員と言えば分かり易いかもしれない。どちらにしても、表に出る人間ではなくなった。

 

「碇シンジ副議長が戻った。既に我らの悲願たる人類補完計画は完遂された。これからは彼に全てを託そうと思う」

 

「つまり、SEELEは全権を彼に委譲することでよろしいと」

 

「そう言うことだ。時が来れば彼との契約に従い、我らも眠りにつくとしよう」

 

モノリスが心の底から望んでいた人類補完計画は、ニアサー並びにサードの発動によって完遂された。よって、彼らが望むことはもうない。ダラダラと生きながらえることは、彼らにとっては無駄でしかない。ならば、自分たちも眠りにつき、この世界を1人の少年に託すのみ。

 

「フォースインパクトはシンジの思う通りに発動させます。あなた方のご協力に感謝申し上げたいと思います」

 

「実の子にしてやられたが、逆に子に従うことで己の願いを重ねたお前には、私たちからも感謝しよう。あの時、我らの提案をお前が拒否していたら戦争になっていたかもしれないな」

 

「多少変化するかもしれませんが、全てはシンジのシナリオ通りです」

 

「我らが気にすることは無い。よいぞ…全てこれでよい。後は時を待つのみだ」

 

そう、後は待つだけなのだ。

 

続く




次回予告

本部内の司令官室はガラスが破れ、外が良く見えた

その部屋で現司令の碇シンジ、旧司令の碇ゲンドウが語り合う

あの時、ゲンドウは何を思って親の自分を選んだのか

そして、サードの詳細が明かされる

父と子の思い出話

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『父子』


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父子

なぜ、ゲンドウが生きているのか?の簡単な答えです。今回はサクッと読める、短い話です。サードについてはヴィレ側での話で書きますので、次回に回します。


強化ガラスが割れ、横方向への吹き抜けと化している大きな部屋がある。元々、そこまで物を置いていなかったこともあって、ただただ広いだけの空間となっていた。そんな部屋なので、中から外の様子が非常によく分かる。そんな部屋の中で外を見ている、仲がいいのか悪いのか分からない親子がいた。

 

「父さんは、どうして僕に従うことを選んだの?」

 

「前も言ったが、私は自分の願いをシンジに重ねただけだ。これ以上抗っても、私にはどうしようもなかった。SEELEから全てを明かされた時は全ての終わりを悟った」

 

シンジの父にして人類補完計画を主導者として動かしていたのが、この碇ゲンドウだ。彼は人類補完計画を踏み台にし、己の願いを成就させるためには如何なる犠牲を払っても全く厭わない男である。そんな彼は、実の子を利用しようとしたが、子に逆手に取られた哀れな父とも言えるだろう。ニアサー発動後のSEELE諮問会議に呼び出されたゲンドウは、本当の人類補完計画を明かされることになった。そこで真実を知ったことで、ゲンドウは酷く落ち込んだ。今までの使徒殲滅を含めた全ての出来事は子の碇シンジによって仕組まれたことであり、自分はただの役者であることを思い知らされる。

 

その場でゲンドウが完全に沈黙したことを確認してから、SEELEはある提案をした。せっかく、碇ゲンドウ君も一生懸命に頑張って来たのだ。その努力の成果だけを汲み取って、本人を捨ててしまうのは些か勿体ない。また、さすがに可哀想でもある。功労者を簡単にポイしてしまうのも考え物。

 

よって、「シンジの新生NERVで、彼のシナリオ遂行のために働くこと」を提示した。ゲンドウは性格など様々な面で難あれども、割と優秀な人間である。彼の能力は決して無視できない。また、仮にゲンドウが敵対することになった場合も考えられた。その場合は、恐ろしく面倒なことが増える。以上のように変に捨てたり、敵としたりするよりかは、「抱き込んだ方がうま味が大きい」とSEELEは判断したのであった。

 

これを受け、碇ゲンドウは暫く考える。熟考の末に、彼は受諾の意思を表示した。ここまで来てしまえば、シナリオの修正を図ることは難しい。難しいどころか、十中八九で無理だろう。いくら彼でも妥協せざるを得ず、提示された案と真のシナリオを照合して考えることにした。真のシナリオは自分の物とは大きく異なっているが、部分的に重なる点がある。部分と言えど、それは最も重要な『核』だ。

 

そう…ある人を取り戻す。

 

「シンジの母であり、私が愛するユイを取り戻す。それが私の唯一絶対の願いだったが、シンジも同じとは思わなかった。望みが同じであれば、共に歩んでも悪くない。だから、私はシンジと共に新世紀を創ることを選んだ。その方が確実性も高くなる」

 

「そりゃ、僕だって母さんに会いたい。そして、一緒に生きたい。僕の望みは、母さんを取り戻す。そして、格差も争いも何もない新しい世界でレイやアスカ、冬月先生たち皆と生きること」

 

要は、ゲンドウの望みはシンジの望みでもあったのだ。全部がピッタリと重なりはしなくても、中心の核が重なれば無問題。むしろ、ある程度の自由が効いて良いかもしれない。今までは、油と水のように絶対に相容れることが無い存在だった碇ゲンドウと碇シンジ親子は、共通の願いを有していたことで交わることになった。これにより、この親子は最強の親子と言えよう。

 

「新生NERVには父さんが加わった。それから暫く経ってサードが発生する。陸の浄化が為されたことについて、リリスに感謝をしてもいいかもしれないや。まぁ、そのサードは不完全燃焼で終わったんだけどね。フォース遂行に支障をきたす程ではないなから、全然気にしないでいい」

 

「この世界はリリス、エヴァMK-6(第十二の使徒)によるサードインパクトによって形成された。加持主席監査官の尊き儀性によって、ごく僅かな土地が生きているが、大半の土地はリリンが生きることが出来ない赤い土地」

 

2人はどこまでも続く赤い土地を眺めている。全てが赤く染まった大地は陸の浄化と呼ばれる現象の結果で、人間ことリリンが生きることは不可能となっていた。その原因は恐ろしく高いL結界密度とコア化による既存設備の損壊である。前者は、数値が強ければ強い程に人間は体を維持することが出来ずに、身体の崩壊を招いてしまう。つまり、LCLに還ってしまうこと、端的に言えば【死】を意味する。この崩壊によって、サードによって、碇シンジによって、数多もの命が【甘美なる死】を迎えたのであった。

 

後者は電気や水道等の生活インフラを使用不能にした。人間が生きていく上で必須となる設備が壊れてしまい、それを修理しようにもコア化を取り除く方法は一切が不明だ。また、何とか直そうと長時間作業をしていると、前者によって身体が崩壊しかねない。

 

質が悪いとはこのことを言うのだろう。間違いない。

 

「良い世界だね。周囲の雑音が聞こえなくなったから、父さんのS-DATは純粋に音楽を楽しむことに使えるよ」

 

「もう…外の世界と自分を遮断する必要は無くなったか。シンジ、よくやったな」

 

「ニアサーは僕でなければ起こせない。やるなら手は抜かないで、全力でやる。冬月先生の教えを守っただけさ」

 

「冬月がか…私もシンジも良い師をもった」

 

父と子も冬月コウゾウを師に持っている。

 

決して、派手派手しく表舞台に出ることは無い。しかし、老人を侮ることなかれ。

 

新生NERVでも世界最高峰の頭脳は健在なり。

 

続く




次回予告

碇シンジを奪われたヴィレは戦闘の傷を癒すために、母校へ戻る

特徴的な柱に囲まれて、緑と青が残る母たる大地

マザーベース

辛うじて残る命

とある男の遺志が継がれている

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『加持リョウジ』



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加持リョウジ

赤く染まった大地は延々と広がっている。しかし、どんな過酷な環境でもオアシスは存在するものだ。赤い大地でも、砂漠のオアシスと同義と言っていい場所がある。そこは緑の大地が広がっていて、青い海が輝いている。

 

この場の正式名称は無いため、通称で呼んでいる。

 

ありとあらゆる生物が大災厄を逃れて、後世を生きるために建設された母たる大地。

 

マザーベース。

 

この上空で停泊する大型艦艇がいた。

 

「食料や水の補給作業は順調だけど、艦の修復作業は遅延している。暫くは、ここで休息をとった方が色々と良さそうね」

 

「やむを得ない。全ての作業が完了するまで、出撃は自粛する」

 

Willeの司令葛城ミサトと副司令赤木リツコの両名はマザーベースの地上部にある海洋研究所の浄水装置を前にして話していた。元々は第三新東京市にあった海洋研究所は、Willeがサード後に施設を移転させている。元はNERVの管轄下にあったが、サード後の大反乱で、とある男の献身によってWilleが奪取していた。

 

「何を考えているのか当てるわ…リョウちゃんのことでしょ」

 

「流石はリツコね」

 

サングラスを付けて、ポーカーフェイスを貫くミサトの心情は隣にいるリツコに見透かされている。長い間を共に過ごしてきた親友には見え見えだったのだ。ミサトはこの施設やエヴァ、箱舟を調達して、自分たちに渡してくれた男を思い出す以外にすることは無かった。

 

「加持は結局、最後まで碌でもない男だった。加持らしいと言えば、らしいけど。人間としても、男としても最低よ」

 

「でも、私たちがこうして反NERVの御旗を掲げられているのは彼のおかげ。それに、彼はサードを止めた」

 

リツコの言葉を受け、ミサトの脳裏には、過去のある光景が浮かび上がっていた。

 

全てが変わってしまった。

 

あの時

 

サードインパクト

 

 

~回想~

 

空は赤く染まり、大地に立つ者達を包む空間でさえ赤い。度を越した夕方と言えば表現すればいいだろうか。

 

これは…あの時と全く同じ。

 

セカンドインパクト

 

ニアサードインパクト

 

そこに3人の男女がいた。

 

「悪いな、葛城。俺は最後まで、俺でいさせてもらうぞ」

 

「加持…あなた」

 

「それ以上言うな。あの俺でも、これについては悪いと思っている。今まで、俺は好きなように生きて来た。それについて、今更謝っても意味は無いと思う。でも、本当にすまないと思っている。だから、俺なりに遺していくからな。このサードを止めて、後は葛城達に託す」

 

目の前の男は軍用のVTOLに向かって歩みを始めた。

 

「加持!」

 

「…」

 

男は叫びと等しい声に呼ばれ、ピタリと歩みを止める。そして、ゆっくりと振り返った。

 

「あんたは…最低な男よ」

 

「あぁ、そうだ。その通りだ。俺は最低最悪の男さ。別に、否定する気は一切無い。幾らでも言ってくれ。あぁ、葛城、そのハンカチは俺の形見とでも思ってくれ。葛城達に渡したものは、自由に使ってくれて構わない」

 

再びVTOLの方に体を向けたが、可能な限り顔をミサトの方に向け、いつもと変わらぬ笑いをする。そして、右腕を上げて、惜別の挨拶を表す。行動だけではなく、口でも示す。

 

「達者でな…葛城。元気に過ごせよ」

 

「加持っ!」

 

男は止まらなかった。そのままVTOLに乗り込んで、死地へ向かって行く。ミサトは自分の左腕に巻き付けているハンカチを右手で押さえつける。込み上がってくる様々な感情を押し殺すために、あの男を忘れないために。全力で押さえつける。痛みは気にしない。痛みなんて、どうでもよかった。

 

完全にVTOLが見えなくなると、彼女は呟いた。

 

「最低よ…私を連れて行かせないために。私とあなたの子を残して…逝くなんて」

 

 

~現実~

 

「彼の願いは人類補完計画によって無駄な命が絶えることを防ぎ、後世に種を残すこと。そのために、色々と私たちを騙して且つ残していった。まったく言うなら、もっと早く言いなさいよ」

 

そう、加持リョウジの願いは『種の保存』だ。自分の命やこの世界が潰えようとも構わないが、ただ無駄な犠牲を出すのは避けたい。今まで生きながらえて来た植物や動物が後世を生き抜けるように、植物種子の保存、海洋生物の保護、箱舟の奪取などに彼は携わっていた。

 

このことは明かされるのと同時に、NERVに反旗を翻した葛城ミサト率いるWilleに全てを譲渡した。

 

「そうなんだけど、まだ気になる点が残っているのよ。全てが上手く揃いすぎていること。これを、奇跡や偶然と言うべきか、それとも必然か」

 

加持リョウジという男がWilleに譲渡したものは、マザーベースや箱舟だけでない。マザーベースに付随していた封印柱も半ば強奪の形で手に入れて、横流しに近しいことをしている。また、元はユーロNERVに存在していた試作型エヴァである八号機と伍号機をコネで譲り受けて、これもまた流した。現在、Willeの主戦力となっている八号機と伍号機は、サード後に試作型を完成させたものである。葛城ミサトらの母艦となっているヴンダーに関しては、NERV本部で建造されていた移動式箱舟のブーセを加持と特戦隊が強奪したものだ。

 

以上のことを鑑みるに、加持リョウジが素晴らしい功績を残したことは明白。今のWilleがNERVと戦えているのは、彼が働いたからこそと言っていいだろう。

 

しかし、ここで疑問点が残る。それは、あまりにも手際が良すぎることだ。全部予め用意されていて、NERVが全ての行為を黙認しているかのように見えてしまう。マザーベース移譲、ユーロNERVとの繋がり、ヴンダー(ブーセ)強奪等々が最初から決められていたかの如く、とんとん拍子で進んでいった。さすがに、これは訝しむしかない。

 

「元凶はSEELEでも碇ゲンドウでもなかった。碇シンジ君…彼が手を引いていた」

 

「考えたくないけど、リョウちゃんは彼と悪魔の契約を結んだのかも。具体的な内容は読めないけど、何かしらの融通を図ってもらった代わりに、彼に(裏で)譲渡した。嘗ての初号機パイロットが私たちの反乱をも、ありとあらゆる面を考えた上で動いた蓋然性が極めて高い」

 

「まさか…シンジ君にしてやられるとは思いもしなかった。私たちはとんでもない相手を敵にしている。リツコ」

 

「何?」

 

「私たちはチルドレンを殺すことになるかも」

 

赤木リツコは頷くことすらしなかった。

 

2人が真剣に話している頃、母艦への補給作業は急ピッチで進められている。基本的にWilleは、世界中を動き回る戦いをしている。よって、少しでも早く準備は済ませたい。戦闘員をも動員して、やんややんやの大騒ぎとなっている。ただし、全員が作業に参加するわけではない。幹部級職員や一部の人間は休憩することを許されている。前者は階級的にだが、後者は普段から命を捨てる戦いに身を投じているためだ。その1人である女性は、地下に設置されている農園に突っ立っていた。

 

「碇さんを…奪われてしもうた。私が弱いせいで、守れなかった」

 

緑が一面に広がる農園で懺悔をする。そんな女性の下に仲間の少女がやってくる。

少女は力なく項垂れている仲間の肩をポンと叩いて、彼女のことを慰める。互いにエヴァパイロットとして長らくNERVと戦ってきたからこそ、相手の本質が分かるのだ。

 

「くよくよしても、何にもならないよ」

 

「…」

 

「決めたでしょ?絶対に彼を取り戻すって。ただ彼を持って帰るんじゃない。彼の寂しさを受け止めてあげないと。私たちだけだよ。シンジ君を救うことができるのは」

 

「そう…だよね。そう、そうだ!私は碇さんを絶対に取り返して見せる。そして、碇さんと一緒に暮らすんや!」

 

これには、少女が反応することはできなかった。

 

続く




次回予告

廃墟と化したNERV本部

地下深くには純粋な魂が建造されている

アダムスの器と母たる少女

ニアサードインパクトを引き起こした彼女

神の天使の真実が明かされる 

次回 新世紀エヴァンゲリオン 『アダムスの器たち』


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